英雄の箱庭生活 (英雄好きの馬鹿)
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五十六億の世界の英雄

 RE:バカは世界を救えるか? Fate 問題児達が異世界から来るそうですよ?
 
 の二次創作です! 

 この中の話を読んだことがない人はぜひ読んでください!




 ~佐藤光一視点~

 

 昔からの友達はみんな寿命で死んでいった。

 

 しかし寿命のない自分は死ぬことすら出来なかった。

 

 そして自らをこの状態に縛り付けることとなった大元の『木漏れ日現象』。

 

 それを起こした悪魔を、『導きし者(カノン)』と『堕天経典(アポクリファ)』を使って自らが知覚できる範囲で殺し続ける日々。

 

 そして今。

 

 自分が救った少女アルル。

 

 五十六億の平行世界のうちの最後のアルルが死んだ。

 

 死因は老衰でその最後は平行世界での自分、つまり佐藤光一が看取った。

 

 何の悔いもない死だっただろう。

 

 光一は自分が生きる最後の仕事を終えた。

 

 変わらない自分に、変わっていく友達と最愛の少女達。

 

 変わらない自分に、死んでいった友達と最愛の少女達。

 

 実質的に千五百万年以上生きたのだ。もう死んでもかまわないんじゃないかと思う。

 

 

「もう…………いいよな?」

 

 

 小さい子供達がワーワーと遊んでいる平和な公園で誰に聞かせるわけでもなくつぶやく。

 

「ちゃんと……世界もアルルも友達も…………みんな救えたよな?」

 

「はい…………バカは世界を救えていますよ。光一さん」

 

 声の聞こえた方向をみてみると、目の前には契約したときと同じような格好でアルカナが立っていた。

 

「アルカナか。今回死んだ後もまた天使見習いになったのか?」

 

 アルカナはいくつかの平行世界を保護していた元・悪魔の天使で、いろいろ有って天使を辞めさせられて人間界に追放された事がある。

 

 そして人間界で俺たちと寿命を全うするまで生きて死んだ。

 

 

「はい。ですからこれからは、今まで光一さんが守ってきた平和を私が引き継ぎます。安心してください」

 

 えっへん! と胸を張っていう。

 

 アルカナは死んだ後また天使になる試験を受けて天使見習いになったらしい。

 

 それに苦笑しながらも仲間と過ごした過去へと思いをはせる。

 

 

 

 

 

 『木漏れ日現象』によって、自分が生きてると十年後に世界が滅ぶといわれ、自分が死ぬと時が十年前に戻るといわれた少女・アルルとの出会い。

 

 アルルとのアルルと世界を救うという約束。

 

 天使見習いのアルカナに貰ったしょぼい能力の『付け焼刃(イカロスブレイブ)』。

 

 アルカナの頼みの全ての悪魔による異変を直すことが出きて、逆に異変を起こすことも出来る本『導きし者(カノン)』。

 

 がむしゃらに戦ってアルルを守った日々。

 

 自分のせいで守りきれなかった幼馴染。

 

 『木漏れ日現象』を起こして世界を混乱させている張本人が平行世界の佐藤光一だったときの衝撃。

 

 そしてアルルとは『木漏れ日現象』が生んだ鍵で、『木漏れ日現象』を修正するとアルルも消えるといわれた。

 

 約束を守れなくなることに自暴自棄になったときに自分を結う築けてくれた仲間達。

 

 アルカナと『木漏れ日現象』を起こした元凶である平行世界の佐藤光一の戦い。

 

 消えていくアルカナが残していった悪魔が起こすことができる異常を、人が起こせるようになる本『堕天経典(アポクリファ)』。

 

 アルカナとの契約強化によって強くなった異能『蝋の翼の救世主(ボーンヘッドブレイバー)』。

 

 元凶が口にした言葉の、自分の世界のアルルと世界を救うために五十六億の平行世界を『木漏れ日現象』の犠牲にして世界とアルルを救う手段を探したという一言。

 

 長い戦いの果てに倒した元凶の最後の言葉の、”俺の世界とアルルを救ってほしい”という言葉。

 

 元凶が消えていった先に残された『導きし者(カノン)』。

 

 自分の理想のために、元凶が『木漏れ日現象』を起こした五十六億の世界を『導きし者(カノン)』と、『堕天経典(アポクリファ)』と『蝋の翼の救世主(ボーンヘッドブレイバー)』で救いに言ったこと。

 

 それには自分の時間で千五百万年かかってしまい、『堕天経典(アポクリファ)』で悪魔になって不老不死になっていなければ達成できなかったこと。

 

 自分のもといた世界の時間を遅くしたりなんだりで何とか仲間達の元へ帰れたときのこと。

 

 神がアルカナを人間として復活させて罪を償わせるということで再開したアルカナ。

 

 そこからの楽しい日々と、『導きし者(カノン)』と『堕天経典(アポクリファ)』をもちいた悪魔退治。

 

 そして冒頭で語った仲間との死別。

 

 何一つも後悔はない。

 

 今の自分は悪魔なのだから天使に浄化されて消え去るのだろうが何も後悔はない。

 

 

 

 

「お前が俺を殺しに来たのか? アルカナ」

 

 

 

「いいえ。違いますよ。何で私が光一さんを殺さなきゃいけないんですか。私が人間として死んだ後『導きし者(カノン)』と『堕天経典(アポクリファ)』は神様に返してしまったから裁く理由なんてないですし。そう神様も言ってましたしね?」

 

「そうか。じゃあ何でここに?」

 

「光一さんは『導きし者(カノン)』と『堕天経典(アポクリファ)』を手放した時点で精神も体も時を刻み始めています。しかし神様は最後の仕事だといって会ってもらいたい人がいるそうです」

 

「会ってもらいたい人? 何だそれは?」

 

 今の俺は能力こそあるもののその他はただの人間と変わらない。

 

 そんな俺が行っても意味があるのだろうか?

 

「何でも世界の守護者とか言う立場の人で、もう十分に働いたから別の世界にかくまって欲しいんですって」

 

「いや、俺は今『導きし者(カノン)』も『堕天経典(アポクリファ)』もないから並行世界なんて移動できないぞ?」

 

「そこらへんは今は私が出来るので問題ないです。それで行ってもらってもかまわないですか?」

 

 一瞬は迷うもののすぐに答えは出た。光一は昔のように――アルルと約束したときのように笑いながら答えた。

 

「ああ、もちろんだ! 俺は約束を守る男だからな! 世界とアルルを守ったんだ。一人くらい増えてもどうってことないぜ!」

 

 アルカナは少し面食らったように目を開くと笑いながら本を開き始める。

 

「では――さよならです。光一さんが目的の人にあって向こうの了承を取れれば自動で違う世界に飛ばされます。相手の人は行けば分ります」

 

「そうか。じゃあ『またな』!」

 

 もう二度と会えない状況でも佐藤光一は『さよなら』とは言わなかった。

 

 それは彼の仲間達の死に際の最後の言葉が全員ことごとく『さよなら』や『ありがとう』でもなく、またなだったのだ。

 

 それに気づいたアルカナは目に涙を貯めながらも笑顔で言った。

 

「『また今度』お会いしましょう光一さん! 今までありがとうございました!」

 

「ああ、また今度だ! 俺は世界を救ってきた男だぜ? これからもお前が世界を守ってれば会えるさ!」

 

 そういって光一は別の世界へ送られていった。

 

 公園には気づけば遊んでいた子供達以外誰もいない。

 

 

 しかしこの二人の別れを惜しむように空はぽつぽつと涙をこぼし始めていた。

 

 

 ~佐藤光一視点終了~

 

 

 

 

 

 



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錬鉄の英雄との遭遇

 〜エミヤシロウ視点〜

 

 

 あの小僧に答えを貰ったという記憶がこの英霊の座にまで届いた。

 

 

 

 このただ真っ白なだけの空間で変わるものなど、掃除をしに行ったときの記憶と、サーヴァントとして呼び出されたときの記憶くらいしかない。

 

 コレは後者の記憶でしかも生前の知り合いの遠坂に使えていたらしい。

 

 しかし今まではこの英霊の座から消えることだけを考えていたというのに皮肉なことだ。

 

 召喚されて記憶を得てきたエミヤシロウは、この英霊の座から消えることが出来なかったという結末を悔やむだろうと思っていたらしいが思ったよりも後悔や自責の念はない。

 

 全くないといえば嘘になるが気にするほどでもない。

 

 しかしそんなことの数十倍は切羽詰っている状況が飛び込んでくる。

 

「あれ!? なんだここ!?」

 

 なぜだか知らんが人工的に脱色されている髪、カラーコンタクトによる赤と青のオッドアイ、なぜか右手だけの手袋、黒いロングコートを装備し、シルバーアクセサリを両手につけている。

 

 ……………………この私にどうしろというのだ?

 

 誰も出ることも入ることも不可能なはずであろう英霊の座に来ていて、人工的に仕上がった中二病の鏡のような格好をしている男に私はなんと声をかけたらいいのかも分らん。

 

「え〜と。ここどこか分るかあんた?」

 

 …………なんでさ?

 

 おっと。昔の口癖が出てしまった。

 

 いやいやいや、そんなことはどうでもいい。

 

 気づいたらここにいたという事か?

 

 ここは英霊の座で根源に近い場所だぞ? 

 

 そう簡単にこれるものか。

 

「どうやってここに来たのだ?」

 

「あ、ああ。それは元悪魔で天使見習いの奴がいて送ってもらった。こっちは質問に答えたんだからそっちも答えろよ」

 

「ここは英霊の座だ。英雄が死後に世界を守る抑止力として使うために世界に拘束される場所だ。普通なら入れる場所ではない」

 

 普通なら入れるはずなどないのだがな。それになんだ? 奴は武器を持っているわけでもなさそうだし魔力もない。あるのはポケットに入った手紙くらいか。

 

「ああ、そうだ俺はその似非天使から一人救ってきて欲しいとか言われたんだ。多分あんただよな」

 

「しるか! 私が知っているはずがないだろう!」

 

 なんで私はこんなことを聞かれているのだ?

 

「いやでも、俺だって分けがわからないんだ……。あの似非天使に雰囲気でながされたけどさ」

 

「しるかっ!」

 

 久しぶりに全力で叫ぶ。ここまで心の底から叫んだのはいつ振りだ? おそらく覚えていない昔のことだろう。

 

 まあいい。とりあえず話を前に進めたい。

 

「もうこの話は置いておこう…………。とりあえずその手紙はなんなのだ? お前は気づいている様子ではないようなのだが」

 

「手紙? 何だそれは?」

 

「そのポケットに入っている奴だ」

 

 このときやっとポケットを探り始める。皮肉で言ったのだが本気で気づいていなかったようだ。

 

「えーっと。…………開けたら片方をあなたの目の前の赤い人に渡してください。片方は光一さんのです? アルカナが入れたのか」

 

「早くその片方をくれないか? この不思議なことがありすぎる状態から抜け出したいんだ」

 

 そういうと手紙を一つ渡してくる。その中に書いてあったのは目の前のこの男の過去と、ここから去る意思はあるかの確認だった。

 

 向こうの手紙も大体は同じようで読み終わった後大体納得したような顔つきになっていた。

 

「で、あんたはどうしたいんだ? この英霊の座とやらから出たいのか?」

 

 そんなもの答えは決まっている。

 

 イエスだ。

 

 しかしこの手紙に書いてあることが本当であるならばこいつは五十六億の世界を救ったらしい。

 

 正義の味方を目指している身としては理想をかなえたこいつが恨めしいらしい。

 

 ただで救われるのは尺だ。少し苦労してもらおう。

 

「ああ、ついていくのは了承するが、一つ条件がある」

 

「? なんだ? 俺にかなえられる範囲ならやってやらんこともないが…………。あっ! まさか貴様ホモか!」

 

「違うわたわけ!」

 

 見過ごせるはずのない誤解は確実に解いておかなければ。

 

「そんなことは頼まん。ただ実力を見せてもらいたいだけだ。全力でな」

 

「は? なんで?」

 

 この佐藤光一――とかいったか。目をまん丸にしていかにも想定外ですみたいな顔をしている。

 

「その中には私の過去が書いてあったのだろう? だったら私が正義の味方を目指しているのは知っているだろう。だからどれくらい強ければ正義の味方になれるか試してみたくてな」

 

 

 

 〜エミヤシロウ視点終了〜

 

 

 

 



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戦う理由

 〜光一視点〜

 

 

「はあ!? 戦う理由なんてないだろ!?」

 

「ああないな。あるとしたらさっきも言ったとおり五十六億の世界と自分の理想を同時に救った救世主がどれほどの物か知りたくてね」

 

 確かにさっき手紙に書いてあったこの男――エミヤシロウといったか。

 

 正義の味方を目指して頑張ってきたらしい。だから俺と戦いたいのであろう。

 

「私は一を早急に殺すことで九を生かし続けてきた。それを続けてたらいつの間にか英雄なんて呼ばれていてね。私に出来ることなんてせいぜい殺すことしか出来ないんだがな」

 

 なんだろう。何かが引っかかる。

 

 コレでもいくつもの並行世界は見てきたし、数々の悲劇も見てきた。

 

 だけどもしかして――――

 

「――――お前もしかして守る対象まで手にかけたのか?」

 

 コレは感だ。一応いくつか気づいたことから考察している。

 

 例えば『正義の味方』という理想があって、世界も救ってきたのならば、五十六億の世界と自分の理想を同時に救った、という表現を使わないだろう。

 

 それに九を救ってきた、というのはおそらく世界を救ったという意味だろう。

 

 つまりこいつは『正義の味方』のほうをあきらめたということになるのだ。

 

 だとしたら守る対象まで手をかけたのではないか? という今思いついただけのような論理である。

 

 出来れば間違いであって欲しい。出なければ俺は殴りこそすれ救済なんて与えたくはない。

 

 しかし相手の答えは予想を裏切るものだった。

 

「ああ、あるぞ? それがどうかしたのかね?」

 

 平然と、なんの葛藤もなくそいつは答えた。

 

 その答えに俺は臨戦態勢をとる。もちろん目の前の男を殴るためだ。

 

「誤解しないで貰いたいのだが私にだって理由はある」

 

「ああ? …………なんだよ?」

 

 このまま殴ってやりたいが相手が弁明をするのならば聞いておこうと警戒はしたまま臨戦態勢をとく。

 

「例えばだ。もしお前が守ると誓った……アルルだったか」

 

「ああ。アルルだ」

 

「ふむ。アルルの力が十年後に時間が戻るではなく、十年後に全人類が死ぬ。そして手段を探していたら見つから無かったとしよう。

そして世界が滅ぶ日の前日まで来た。だとしたらお前はどうするんだ?」

 

 アルルを殺さなきゃ人類が滅亡する?

 

 だとしたら俺はやることは決まっている。

 

「能力を消して普通の女の子にする」

 

「ふむ。それが出来るのならよかったのだがね。私が知ったのは暴走したら最低でも町一つ分は地図から消えることになるようなものを、暴走する数時間前に言われて、駆けつけたときには最後の言葉を言うのが精一杯だった。さらに彼女は自分を殺してくれと頼んだ。

 

 

 ――それでも私はお前から見る悪か?」

 

 

「確かに悪ではねえよ。でもお前は正しくも無い!」

 

「そうだな。私は正義の味方ではない。ただ目指していた男だよ」

 

「じゃあなんでお前はそんなに後悔してるんだ!」

 

 初めてエミヤシロウの顔に驚きといった表情が生まれる。

 

「お前はさっきの話をしているときに、顔ではポーカーフェイスだったさ。体のどこにも力は入ってなかった。だけどな、さっきの言葉は自分を攻めてるようにしか聞こえねえよ!」

 

 エミヤシロウはもうすでに最初にあったときの余裕を取り戻して言う。

 

「たしかにな。私は後悔している。だが間違ってはいないとも思っている。だって仕方が無いだろう。オレには守るだけの力が無かったんだからな」

 

 何を平然と言ってやがる!

 

「エミヤシロウ。俺にもお前を殴る理由が出来た」

 

「ほう。それは好都合だ。では五十六億の世界と自分の理想を守った男の力を見せてもらうぞ!」

 

「お前は確かに間違っていないだろうよ! だけど気にくわねぇ!」

 

 二人の英雄と呼ばれたものたちは戦いを開始する。

 

 

 

〜光一視点終了〜

 

 

 



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戦力差

 ~第三者視点~

 

 弾丸をカートリッジに入れて打ち出すイメージ。カートリッジに込める弾丸は『蒼き煉獄(ゲヘナ)』だ。

 

 光一の能力はコピー能力だがただのコピー能力とは悪い意味で違っており、コピー元の能力はほとんど発動できない。

 

 そして『蒼き煉獄(ゲヘナ)』とは初めての敵の能力だ。

 

 今使うのはは単純にさっきアルカナから貰った手紙の中の一文に書いておと場を確かめる必要がある。

 

 書いてあったのは、『今までの光一さんの全てのアンチテーゼはなくなります』という一言だった。

 

 アンチテーゼは異能者に対する対価のようなもので、本来なら光一は『蒼き煉獄(ゲヘナ)』を使えなくなっているはずだからだ。。

 

 光一の場合は一度能力が変わっていてアンチテーゼも変質している。

 

 そして最初に手に入れた異能の『付け焼刃(イカロスブレイブ)』はコピー元の性能のほとんどを発揮できない代わりに能力のうち、一つのパラメーターだけ伸ばすことができるという能力だ。

 

 そのアンチテーゼはコピーしている能力のオリジナルを倒してしまうと使えなくなるということと、オリジナルの能力の対価を三日間課せられるというものだ。

 

 とは言うものの、後者にいたってはコピーした能力自体も劣化しているので対価も劣化しているのでたいした苦痛は与えられない。そんなところまで微妙な能力なのだ。 

 

 そして『付け焼刃(イカロスブレイブ)』の上位互換である『蝋の翼の救世主(ボーンヘッドブレイバー)』は悪魔との契約強化で『付け焼刃(イカロスブレイブ)』を強化したものなので『付け焼刃(イカロスブレイブ)』にアンチテーゼと性能が一つずつが加わる形になっている。

 

 加わった性能は劣化を強化できるというものだ。

 

 分りにくいかもしれないので一例を出すとするならば回復させる能力をコピーして『蝋の翼の救世主(ボーンヘッドブレイバー)』を発動させると回復するという性能をマイナスまで劣化させることで性能を反転させることが出来るのだ。

 

 つまり光一の能力はコピー元の性能に縛られない能力を発動できるがよっぽど頭を使えないという能力だ。

 

 そして加わった対価は世界にいる能力者の対価を日ごとに背負うというものだった。

 

 まあコレもだいぶ劣化が激しいものなので大した物ではないようなのだが。

 

 もし、アルカナによってなくなっているアンチテーゼの中に能力の使用ができなくなるというものまで含まれているのならば使えなくなった能力まで使えるようになっているはずなのだ。

 

 そして光一は昔に使えなくなった能力も使えるようになっているかを確かめたかったので『蒼き煉獄(ゲヘナ)』を使うことにしたのだ。

 

 それが使えるのなら戦略の幅は広がるのだ。確認して損は無い。

 

 光一は腕を前に突き出して人差し指と親指をすり合わせる。いわゆる指パッチンをしようとしている。

 

 コレが光一の異能を使うときの体勢だ

 

 対してエミヤシロウはただ両腕をだらんと下げている。

 

 エミヤは無手ではあるがエミヤシロウ自身に許された唯一つの魔術『固有結界』。

 

 それから零れ落ちた『投影』という技術で武器などいくらでも出せる。

 

 伝説の武器だろうがなんだろうが剣であるのならばエミヤシロウに造れない物はない。

 

 いかなる剣であろうと複製してしまうエミヤシロウは間違いなく数いるコピー能力者の中でも上位だろう。

 

 対して佐藤光一はコピー能力者としては落ちこぼれもいいところの能力者だ。

 

 オリジナルの性能なんてほとんど使用することなどできず、ただあいての隙を突くことくらいしか出来ない能力。

 

 今、コピー能力者同士の戦いが幕を開けた――――

 

 

 



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反撃の狼煙

二次ファンのときより文章増えました!


 ~光一視点~

 

 エミヤはいまだにただ手をだらんと下げているだけで動こうとしていない。

 

 カウンターでも狙っているのか?

 

「何だ。まだこないのか? まあもっとも容易に突っ込んでこないところは評価できるがね」

 

 挙句の果てに挑発までしてくるのだ。おそらくカウンター狙いで間違いない。

 

「そっちこそ来ないのか? 見たところ武器もないようだしな」

 

「それはお互い様だ。しかしこのままにらみ合ってもらちが明かんのは確かだ。私から行くとしよう」

 

「っ!」

 

 いきなり踏み込んでくるエミヤ。その手にはどこからか取り出したか分らないが白と黒の二振りの剣が握られている。

 

 武器を手にしたエミヤは反応すら難しいほどの速さで踏み込み、一閃。

 

 それを無様に転ぶようにして何とか避ける。それをみるとエミヤは侮蔑や落胆を含んだ視線と声で言う。

 

「期待はずれだな。そんな無様な様子では一撃も当てることすら出来ない」

 

「無様で悪いか!」

 

 その前に俺に無様じゃなかった時がなかったような気がしてきた。

 

 今から使おうと知っている『蒼き煉獄(ゲヘナ)』の能力者と戦った時は自分は敵を弱らせることくらいしか出来なかったしな。

 

 いや、そんなことはどうでも良い。

 

 あのときの炎の強さを思い浮かべろ。イメージも出来なければ湯たんぽファイアーが出て終わりだぞ! (※注 湯たんぽファイアーとは、数千度の熱を持つ『蒼き煉獄(ゲヘナ)』をコピーして劣化した結果、湯たんぽのようなぬくもりを持つ百円ライターほどの火力を持って出てきたものです)

 

 もう一度距離をつめてきたエミヤを、全力で後ろに下がって服一枚でかわす。

 

 そしてエミヤが攻撃する態勢を整える前に腕を前に出す。

 

 あの時味わった暑さを出来るだけ鮮明に思い出して指を弾く。

 

 ぱちん!

 

 俺が指を鳴らした瞬間に赤い炎が当たり一面を埋め尽くす。

 

 半径十五メートルほどを一気に焼き尽くすほどの勢いだ。

 

 エミヤはいきなり現れた炎に一瞬気をとられるも大きく後ろに跳躍する事によってかわす。

 

 その隙に攻撃の届かないところまで逃げ出して次の能力を込める。

 

 ちゃんと能力が使えたということは他の能力も使えるということか! なかなか嬉しい誤算だな!

 

「ふむ。今のは幻術というところか。一瞬であれだけの火力を出すものだから驚いたがね」

 

 もうすでに余裕たっぷりに立ち直っていやがる。

 

 コレは同じ手はくらいそうにない。

 

 いや、だからこそ意味はある。

 

「はっ! 十秒後に同じセリフが言えるかな?」

 

 ぱちん!

 

 もう一度同じように指を弾いて『蒼き煉獄(ゲヘナ)』を使う。

 

 またさっきと同じように一面を同じように炎が包む。

 

 今度は幻術と思われているのでエミヤは交わすことはせずに突っ込んでくる。

 

 しかし炎の壁は正確に言うと幻術ではなく実際に炎が出ている。ただ、『付け焼刃(イカロスブレイブ)』の特性上一つしか性能を伸ばす事はできないから、温度を犠牲にしているだけだ。

 

 なので幻術等の能力のように見破ったからといって消えるわけでもなく、唯そこに炎の壁があるだけだ。

 

 しかし炎の壁はゆらゆらと燃え盛る人の背丈の二倍ほどもあり、エミヤの視界を上手く防ぐ。

 

 そして炎の壁を維持してエミヤの視界をふさぎながら次の能力を使う。

 

 ぱちん!

 

 手元から一本の細い針が生まれてエミヤのほうに飛んでいく。

 

 視界をふさがれているエミヤは気づくことも出来ないと思ったが指を鳴らしたときの方向だけで攻撃の方向を理解して手に持っている剣で防いだらしい。

 

 針が空中に飛んでいく。

 

「ふむ。確かに驚いたな。幻術の使い方を良く分っているし、針の使い方もいい。期待はずれというのは取り消そう」

 

 エミヤは皮肉な笑みを浮かべながらそんな事を言うがまだ俺の攻撃は終わっていない。

 

「『誘雷針(タケミカヅチ)』ッ!」

 

 ばちばちばち!

 

「っ!」

 

 エミヤは俺の能力を叫んだ声かバチバチとなる音かでとっさに防御体制をとる。

 

 『誘雷針(タケミカヅチ)』とは雷を生み出す針をたくさん生み出す能力だ。

 

 だが、俺の場合は雷の威力を上げるために数を犠牲にして放った。なので針からほとばしる雷の量はオリジナルの能力に近い。

 

 エミヤが弾き飛ばした針から雷が放電される。

 

 そして電気の性質で周辺も最も電気の流れやすい物体に――つまり剣を避雷針に見立てて雷は飛んでいく。

 

 しかし名前から雷を生み出すと予想したのだろうか両手の剣を投げつけるだけで無効化する。

 

 しかし武器が無くなったのは良い。このまま畳み掛けるしかない!

 

「もう一丁だ!」

 

 ぱちん!

 

 指を弾くともう一度『誘雷針(タケミカヅチ)』を射出する。

 

「――――『投影開始(トレースオン)』」

 

 しかし今度はどこからか現れた全く同じ剣で空中にある時点で分断される。

 

 弾き飛ばすわけでもなく、破壊されてしまってはさすがに雷を生み出す事はできない。

 

 空中にあるものを切るなんてどんな剣の腕だよ!

 

「確かに驚いたな。しかし同じ手を二度も使われるとはなめられたものだな」

 

 そうは言うものの全く驚いた様子を見せず余裕ありげにたっている。

 

「へっ! 十秒たったかしらねえけどちゃんと訂正させてやったぜ?」

 

「それはそうだが自分の周囲は気をつけたほうがいいぞ?」

 

 周りを見渡してみるとさっき投げた剣が両方から迫ってきている。

 

 バックステップでよけると二つともぶつかりあって消えてしまった。

 

 引かれあうという性質を持った双剣に、それをいくつも存在させるということは……

 

「互いに引かれある性質の剣を生み出す能力か!」

 

「ふむ。たったコレだけでそこまで見破るとは。見てくれほど頭は悪くないようだな」

 

「見てくれは馬鹿って事か! この俺のかっこいいファッションがわからないとはじじ臭いな!」

 

「私はじじ臭くなんかない! それにさっきの説明だと三十点だ」

 

「じゃあどんな能力なんだ?」

 

「教えるわけがないだろう…………と言いたいところだが興が乗ったのでね。一つヒントをやろう。今生み出したのは干将と莫耶だ。聞いたことくらいあるだろう?」

 

「干将と莫耶? …………それって昔有名な刀鍛冶が作ったといわれる伝説の?」

 

「ああそうだ。ではもうそろそろ反撃して良いかね? いい加減手加減に飽きた」

 

「断らなきゃ攻撃も出来ないのか?」

 

「ふむ。それもそうだな。では行くとしよう!」

 

 エミヤは両手に持った剣を捨ててどこからか弓を取り出す。

 

 そしてまたもやどこからか真っ黒で細長い芯に、螺旋状の刃が巻きついたようないびつな形の矢を取り出す。

 

 そしてその歪な形の矢は赤く煙のような物を出しながら弓に番えられる。

 

 ここまでの動作が恐ろしいまでの完成度――戦っているというのにその動作に見入ってしまうほど綺麗な動作で矢が番えられる。

 

 剣の腕だけじゃなく弓も達人かよ! しかも剣がいくらでも生み出せるという事は、中距離もできる。

 

 遠距離、中距離、近距離全てが対応できるオールレンジの能力。そしてその全てを達人急に扱いきる技術。

 

 これが英雄として世界にすら認められた奴の力か!

 

 それにしてもこいつはどれだけ能力を持っているんだ?

 

 剣の次は弓まで生み出している。

 

 能力を二つ持っているのか?

 

「赤原を行け、緋の猟犬! 『赤原猟犬(フルンディング)』!」

 

 エミヤがおそらくあの矢の名前を言うと同時に矢を渦巻いていた赤い煙が勢いを爆発的に早め始める。

 

 あれはやばい! 何とかして避けなければ!

 

 ただ見ただけで分かるほどの脅威がその矢には込められている。

 

 そんな矢が一寸の狂いも無く俺に向けられている。

 

 唯それだけで心臓が止まってしまいそうだ。

 

「一つ言っておくがかわせると思うなよ? この矢は私が狙い続ける限り追撃し続ける」

 

「この野郎いくつ能力持ってるんだよ!」

 

「それはお互い様ではないのかね? 炎の幻覚に雷を放出する針。他にもまだあるのだろう?」

 

 すでに何か見破られていそうだな。

 

 おそらくあの矢は食らったら矢が刺さるどころか体ごと吹き飛ばされかねない。それだけの脅威が矢には込められている。

 

 そんな馬鹿みたいな威力に追尾され続けるというエミヤの発言。

 

 あんなものを食らったら生き残れる気がしない。

 

 未練は無いがアルカナの依頼が達成できない。

 

 山を張れ。俺が得意なことなんてそれくらいだぞ!

 

 かわせない矢に、互いに引きあう双剣。いくらでも作り出している剣。あれだけの威力を持っていそうなやをどこからか出し、使い捨てようとしている。アルカナの手紙からすると異能のシステム自体違うはずなのに俺のコピーを見破っていそうな態度。

 

 ここから導き出されるのは二つ。

 

 能力を二つ持っていてそれがあの二つだということ。コレだったら二つとも対処すれば良い。

 

 だがもし、もう一つだった場合は最悪だ。しかもこっちのが確率が高い。

 

「なあ。お前の能力もコピー能力か? それもおそらく武器限定のだ」

 

「なぜそう思ったのかね? 聞かせてもらおうか」

 

 よし! 食いついてきた!当たらずとも遠からずというわけか!

 

「まず一つ目にそんな威力を持った能力を二つも所持しているはずがないし、同じ剣が同時に存在していることから、その剣はいくらでも生み出せる能力という珍しいもののはずだ。さらに、さっき言った剣の名前が中国の昔の本に出てくる有名な剣の名前だ。一本だけなら呼び出す能力だともいえるが二対ある時点でおかしい。そして矢のほうも絶対にまともな威力じゃないだろう? そんなことが出来るのは他人の能力をコピーした場合だけだ」

 

 エミヤは少しの間俺をにらむ。

 

 そして数秒後皮肉が込められた笑みと共に肯定する。

 

「ああ確かにそうだが? 私の魔術は刀剣類に限り複製することが出来るものだ。なあコピー能力者?」

 

「やっぱりな。貴様は俺が二つ目の能力を使った時点で見破っていただろう? 普通はコピー能力なんてたどり着けない。そんなもん漫画の中以外では珍しいからな」

 

「ああ、私も自分以外の複製者なんていなかったな」

 

「だから俺たちコピー能力者は他の能力者よりも互いの能力に気づきやすい」

 

「ふむ。すばらしい推理だな。だがそれでは七十点だな。私の能力はどんな異能持っていようが剣なら複製できるというものだ。まあもっとも他のものも複製は出来るがな」

 

「近頃のテストじゃ七十点取ってれば合格だぜ?」

 

「だがテストで点を取っても実技が駄目なら無駄だろう?」

 

 エミヤが喋っている間に俺はあの矢を交わし、そして勝利まで収める策を思いついた。後は実行するだけだ。

 

「行くぞ!」

 

「では実技の試験の開始だな佐藤光一! 行け! 『赤原猟犬(フルンディング)』!』

 

 エミヤが『赤原猟犬(フルンディング)』と叫ぶと同時に俺も能力を使う。

 

 さあ俺の反撃の時間だ。

 

 

~光一視点終了~



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 こんにちわ!

 久しぶりです!

 だいぶ間が空きましたがこれからは前のペースに戻れるといいと思います!

 何が起こったかについては小説家になろうの方の活動報告に書いてあります。

 気になった人はぜひ見てくださいね。


〜エミヤシロウ視点〜

 

「では実技の試験の開始だな佐藤光一! 行け! 『赤原猟犬(フルンディング)』!」

 

 私が『赤原猟犬(フルンディング)』の真名開放をしようとした瞬間から、弓が発射されるまでの間に佐藤光一は指を弾き能力を使用する。

 

「『紫煙地獄(ヘビースモーカー)』!」

 

 いきなり辺り一帯が臭くて黄色い煙が当たり一面を覆いつくして辺りは何も見えなくなる。

 

 しかし何の冗談だ?

 

 なぜその場から動かない? 距離が変わっていないのであればさすがに見続けることくらいは出来る。私は千里眼を持っているしな。

 

 何か防御の手段でも持っているのか? 『熾天覆う七つの円環(ローアイアス)』ならば防ぎきれるだろうがそんな盾を持っている人間が何人もいるとは思えない。

 

 ……まさか生易しい攻撃だとでも思っているのか?

 

 私は若干あきれつつも、気を引き締めて弓に番えた『赤原猟犬(フルンディング)

を人影に向かって放つ。

 

 『赤原猟犬(フルンディング)』は一直線に佐藤幸一の元へ向かっていくと一度も速度

を緩めずにぶち当たる。

 

 体ごと吹き飛ばすと遠くのほうへ消えていった。

 

 あれでは助かりようがあるまい。

 

 あっけない終わりだ。

 

 まあマッハ十を越すような矢だ。十メートルも離れていない距離でかわせるはずがないししょうがないのだろう。

 

 ありえることのないはずだった来客はおそらく助からないだろうがそれは自業自得だろう。

 

 心の中でつぶやいて弓を消す。その瞬間にぱちん! という音がする。

 

 まさかあれを食らって生きているというのか?

 

 そして一瞬の内に白い壁で四方八方を覆われる。半径一メートルも幅がなくて狭い。高さは五メートル程度だろうか?

 

「ようこそ俺の『無能箱庭(アルカトラズ)』へ」

 

 声が聞こえたほうに干将・莫耶を持って構えようとするが出てこない。

 

 気づいたら頭上にだけ穴があり、佐藤光一はそこから私を覗いている。そして自信満々の顔で話し出す。

 

「『無能箱庭(アルカトラズ)』はもともとキャンバスで書いたとおりの異空間を造り出す能力なんだ。そしてその空間ではどんな異能も使うことが出来ない。欠点としては俺が使うと実物の十倍のサイズで書かなければいけないって事だが、そんなことは問題じゃないだろ?」

 

 実物の十倍のサイズで書けば異空間を作ることが出来るのか。便利なのか不便なのか良く分らん。

 

 だが使えることは確かだな。今こうしてつかまっているのがいい証拠だ。

 

「しかしキャンバスがあるようには見えないのだが? しかも書くだけの時間もない」

 

「ああ、だからお前の能力を使わせてもらった。その物体を作り出す能力でな。俺が使えば劣化して能力を持った剣なんて作れなくて日用品が限度だと思ったんだ。でもこの場合は十分だろう?」

 

「しかしどこに書いたのだ? この空間は見たとおりどこまで行っても真っ白なんだ。何か書いたら分ると思うのだが? 何か異能でも使ったのか?」

 

「コピーはしてるが使ってないぜ? …………というかそんな便利に使えないしな。実際は真っ白い物体で真っ白い紙に書けばこの真っ白い空間じゃ見えないだろう?」

 

「はあ……それにしても私の能力のコピーでコレか。その能力は本当にコピー能力か? 劣化がひど過ぎる。剣を作るでもなくやったことがお絵描きとは」

 

「っく! 良いんだよ! どうせそれしか出来ないんだからな!」

 

 劣化がひどいといった瞬間に激しくうろたえる。自分でもひどいと分っているのか。

 

 しかも自分の能力まで教えているようなものだ。私が言えた事じ44

ゃないが。

 

「つまりお前の能力は劣化コピーか。酷い能力も在ったものだな」

 

「俺は頭を使えば勝てるからいいんだよ!」 

 

 精一杯の強がりを言っているようだ。激しくうろたえている。

 

 見ていると少し哀れになってくるな。

 

「一つ聞いても言いかね? 能力を消す能力として発動しているならお前も能力を使えないだろう?」

 

「俺が使った場合は異空間なんて作れないからな。だから能力が使えないのはその白い壁の中だけだ」

 

 ふむ。なかなかいい戦法だな。自分は能力を使える状態にして相手は使えなくする。

 

 弱者にとっては当然の戦略だな。おそらくこの男も一歩間違ったら自分が死ぬ戦いなんてざらなのだろう。

 

「もう一つ聞いて良いかね? 自分の攻撃が防がれた理由が知りたい」

 

「あの視界の悪さなら気配やら音やらを頼るしかないだろう? だから気配だけ伸ばした案山子を作り出す能力で作ったダミーなら騙せると思ったんだ。それで『飛燕(トニー)』で空中に浮かんでいれば俺自身は音を立てないからな」

 

「なるほど。確かにあの視界の悪さでは気配ぐらいしか頼るものがないからな。お前の能力は性能を一つだけオリジナルに近づけるか、または超す性能にまで上げる能力のようだな」

 

「ああそうだぞ。もっとも今はオリジナルにち近づけただけだがな」

 

 『飛燕(トニー)』とはおそらく宙に浮かぶ程度の能力だろう。

 

 そして今度はさらに高い位置までふわりふわりと飛んでいく。

 

 それにしても魔術を使えないことはあったが封じられることは無かったな。

 

 しかし私がこの状況で落ち着いているのは理由が二つある。

 

 一つはおそらくこの空間では佐藤光一も能力を使うことが出来ない。

 

 だから攻撃される心配は少ない。

 

 今佐藤光一が居るのは十メートルほど上の空間だがそのくらいなら受け止めるくらい出来るだろう。

 

 もう一つはさっきからこの男から殺気を感じない。

 

 最初に言ったとおり殴るだけなのだろう。

 

 甘い男だ。

 

 しかしそういう考えも嫌いではない。もともと私もそうだったしな。

 

 まあもっとも手加減する気もないがな。

 

「いくぜ! 『超越者(ギガ)』!」

 

「今度は何かね?ライダーキックでもするのかね?」

 

「ま、まあ似たようなものだがかっこよさが違う! 『滅殺流星脚(メテオブレイクストライカー)』!」

 

 そういいながら右足を突き出しながら普通に落ちてくる。

 

 痛い名前だな。というか普通に落ちてきてるだけじゃないのか?

 

 しかし白い壁の境界線の中に落ちてきたときにいきなり速度が上がりだす。

 

「くっ!」

 

 それを何とか逸らそうとするが失敗して肩に少し食らってしまう。

 

 そして佐藤光一は能力を白い壁を作りだす能力を解除しながら後ろに飛んで私から距離をとる。

 

「……驚いたな。まさか空中で能力を解除されながらも加速するとはな」

 

「簡単な能力の応用だぜ? 今使った『超越者(ギガ)』って言うのは身体能力を三つまで二十倍にする能力なんだが俺の場合体重しか上げられない! しかも十倍まで重くなるから地上では動けないくらいだ」

 

「………………そんな能力に使い道があったとは」

 

「こんな場合でしか使えないけどな」

 

 戦闘に活路を見出す心眼も全く知らないことには対抗できない。

 

 佐藤光一とは相性が悪いようだな。

 

「重くなっていたということは、落ちる速さは重くても変わらないことに加え、いきなり軽くなることによって重かった時のエネルギーが運動量に変わって速くなる、ってとこか?」

 

「そんな硬っ苦しいもんじゃなくて単純に能力が解除されるって事を忘れていただけなのだが…………」

 

「…………」

 

「……考えたことが無駄になってすまん」

 

 まさかあれが偶然の産物とは。私の幸運値が低いせいか? 幸運Eランクはだてじゃない。

 

「ふむ。偶然とはいえ私に一撃入れたのはすばらしいことだな」

 

「ほめられても嬉しくないんだが…………」

 

「で、私としては実力も見れたからもう十分なんだが、まだ戦いたいかね?」

 

「俺も貴様が戦わないなら別にかまわないが。この後三つくらい本気で策を考えていた身としては複雑だな…………」

 

「三つも考えていたのか。見た目の馬鹿さの割りに本気で頭はそこまで馬鹿では無いらしいな」

 

 見た目は足まで覆う長く黒いコート、片方だけの手袋、人工的に脱色した銀髪その他もろもろ何をとっても痛い。

 

「このかっこよさが分らんとは! もっと聖典(ライトノベル・漫画)を読め!」

 

「別に否定しているわけではないのだが……。生前も今もそんな趣味は無くてな」

 

 というか格好の事になったらいきなり怒り出すなあ。

 

 そこでふと思い出す。

 

「お前は私にキレていなかったか?」

 

 佐藤光一は、満足そうにうなずいている。

 

「何がしたかったんだまったく……」

 

「ああ、アルカナからの手紙である程度のことは書いてあったしな。助け方は気に食わないが頑張ったのは事実だ。認めてやらん事もない」

 

 認めてやらん事もない、ってどれだけ上から目線なのだこの男は。

 

 ギルガメッシュと違って高慢なわけではないが崇められるのに憧れているのだろう。

 

 しかしその態度が全て作ったものだから普通に……いや少し痛い奴を相手にするように生きてきたのだろう。

 

「俺もこの後どこに向かうかは分らんがそこではこの五十六億の世界を救った男が手助けをしてやろう」

 

「ほほう。劣化コピーでも役に立てる場所であるといいがな」

 

「俺にだってまだ隠しだまはある! 今の戦いくらいでなめるな!」

 

「そりゃあ私にだってあるさ。こんなところで使うのも馬鹿らしい」

 

「くっ! そ、そういえば俺が蹴った肩は大丈夫なのか? ささやかな効果でよければ回復用の能力でも使うが?」

 

 明らかに話を逸らしているのが丸分りだな。これ以上劣化と言われたくないのだろう。

 

「それは必要ないが……ふむ。自己紹介がまだだったな」

 

「手紙に書いてあるから別に大丈夫だろう?」

 

 少し不思議そうに言う。

 

「いや、私はそういうマナーにうるさくしつけられたのでね。私から名乗っておこう。エミヤシロウだ。出来る事は武器の複製の魔術だ。死んでいる身だがよろしく頼む」

 

「ふっ。エミヤか。俺は佐藤光一だ。光一で良い。異能は劣化コピーだ。よろしく」

 

 少しだらけながらの戦いだったが別に実力も測れたし問題ないだろう。

 

 殺してしまったら守護者もやめられんしな。

 

 この後どこに行くのかは分らないがそこではちゃんと『正義の味方』が出来たらいいと思っている。

 

「出立する事になったらこの手紙を開けてください。という手紙を預かっている。もうあけていいか?」

 

「ああ。別に持ち物も無い。いつでもかまわない」

 

「では行くぞ。――――あれ? 何だこれは。魔方陣?」

 

 不思議そうに首をかしげて私のほうを向く。

 

 そしてその瞬間に爆発的な光が見え始める。

 

 驚いた様子だが問題ないだろう。

 

「出発のようだぞ? 異世界に旅立つ準備は十分か?」

 

「ああ、ここも異世界だしな。いまさらなんとも思わん!」

 

「では行くとするか」

 

 私達はそういって光に包まれて消えた。

 

 〜エミヤシロウ視点終了〜

 

 

 

 



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……周りに木しかないんだが?

 遅くなりました!

 なので続きをすぐ読みたい人がいるようであれば次も今日中に投下します!


~光一視点~

 

「なんだここは? 森? というか何ゆえここに?」

 

「知るか。お前が知らないのであれば私も知らん」

 

 あたり一面が木で構成されている。

 

 どこを見ても木、木、木。

 

 まさに森だ。

 

「とりあえずここの世界で住めという事か?」

 

「この世界に住めという事の方はそうだと思うぞ。 だがこれからどうする? 家でも建てるか?」

 

 エミヤはやれやれといった風に答える。

 

「『無能箱庭(アルカトラズ)』なら作れん事もないがどうする? ガスも水もないぞ?」

 

 というかそんなものがある状況にも思えない。

 

 あったらこのジャングルがとてつもない異常なものだった場合だけだ。

 

「ああ、それくらいならお前の異能やら、私の複製したもので何とかなるだろう。家だって私も作れない事はないしな」

 

「なんか家作りに役に立つ物でも複製しているのか?」

 

「いや、魔術など使わなくても出来るが?」

 

「お前の能力って異能じゃなくて魔術だったのか。いや、って言うか家が作れるって事は正義の味方の副業は大工だったのか!?」

 

「いや、生前にガラクタいじりをやっていた事があってね、大体のものは材料があれば作れるし、最悪魔術で作れば何とかなる」

 

「そんなに長持ちするのか魔術って? RPGとかだと時間とかで消えてしまいそうなものだが」

 

「いや、私だけの物だ。本来魔術で作ったものは世界から修正を受けて消えるが私のは消えないんだ」

 

「とことん反則だなぁ。で、ここに家作るか? 作るんだったマジック・ツ○ーハウスとかみたいのも作れるとも思うぞ?」

 

「別に必要ないが…………ん?」

 

 いきなりエミヤが俺の後ろのほうを見始める。

 

 何も変わったところはないが?

 

「何があるんだ? 木の実か何かか?」

 

「いや、誰かがものすごい速さで近づいてくる」

 

 がさがさがさっ! どす!

 

「ぐえっ!」

 

 何かが飛んできやがった! 腹が痛え! 何だコレ!? 人? 

 

「何だ人か。大丈夫か? 手を貸すぞ?」

 

 俺のほうに倒れこんでいる人に向かってエミヤが手を貸す。

 

 よく見てみるとその人は女性で頭にうさ耳が生えている。

 

「あ、はい。ありがとうございます。って見かけない人ですね?」

 

「ああ、ついさっき送られてきたばっかでね」

 

「ああそうですか。っと世間話に花を咲かせたいところでございますが、ここら辺でヘッドフォンをした少年を見ませんでしたか?」

 

「残念ながらみていない。手伝おうか?」

 

「お願いしたいところですが私は結構足が速いのでついてこれないと思うのですが?」

 

「私もそこそこは自信があるぞ? 君がさっきまで走っていた速度なら追いつけるが」

 

「それはすごいですね。コレでも結構自信があるんですが」

 

「まあ何とかするさ。で、ついていったほうがいいのか?」

 

「お願いします。さっき聞いた話だとこっちだと思うのですが」

 

「ではそちらに向かおう。おい、行くぞ。いつまで悶絶しているつもりだ?」

 

「…………すごい速度で跳ね飛ばされた挙句悶絶してるのにひどくないか! 手を貸すとかしてくれてもいいだろうに!」

 

 何だコレは! 俺は一方的に被害者のはずだろう!

 

 そこでやっと俺のことを思い出したのかあわてて謝りだすうさ耳の人。

 

 というかこの人だいぶ美人だな。顔は童顔なのに出るところは出ている。

 

「やややや、すいませんでした! あわてていて!」

 

 こんな人に謝られれば男の大半は許すだろう。だが。

 

「私に男を甘やかす趣味などないのだが? それに忠告もした」

 

「あんな短時間でよけきれるかッ! さっき会ったばかりとはいえ酷いだろうエミヤ!?」

 

 こいつはひどいと思う。正義の味方を目指している奴の所業ではない。

 

「で、お前は速く走る異能はあるのか?」

 

「無視かよ! …………それと俺は速く走る異能など持っていないぞ?」

 

「なら私が抱えていく。じゃあ行くぞ」

 

「え、ええ。お願いします」

 

 目の前の光景に若干引いているようにうさ耳の人が答えると、俺はいきなりエミヤの肩に担がれる。

 

 そしてそのまま俺を担いだままものすごい速さで走り出す。まるでジェットコースターだ。

 

「うおっう! うわぁ! ま、前から木が迫ってくる! おろせ! 後から追いつくからおろせえええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

 俺の叫びは聞き入られないようだった。

 

 ~光一視点続く~

 



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私も年がいなくはしゃいでしまった。……しかし光一の反応は芸人並みだな。

 〜引き続き光一視点〜

 

 そのまま数キロほどジェット・エミヤ・コースターに揺さぶられていると川が見えた。

 

 そして逆巻く水。

 

 

 

 

 荒れ狂う風。

 

 そびえ立つ木と同等の大きさの大蛇。

 

 大蛇に相対しているヘッドフォンをした少年。

 

 腹の中からこみ上げて来る感覚。

 

 ヘッドフォンをした少年を見つけた瞬間にエミヤは俺を落とす。

 

 何だこのびっくり空間は! ついでに腹の中の物が出そうだ!

 

「俺を殺す気か! もう少し安全運転してくれても良かっただろう!」

 

 途中で跳躍したりジグザグに走ったりはいらなかっただろう!

 

「ああ、生身の肉体も手にいれたようなのでな。重いものもあったからトレーニングをしていた」

 

 エミヤは皮肉げな笑みを浮かべてなんの悪びれもせず言う。

 

 そういえばアルカナの手紙に書いてあったな。確か英霊とかいうやつで体がなかったんだっけ?

 

 それだったら少しくらいテンションが上がって体を動かしてしまっても……いや、俺でやる必要は無いな。

 

「一瞬騙されそうになったけど違うだろッ! とりあえず謝罪の言葉を要求する!」

 

「何に騙されそうになっているかも分らんのだが…………」

 

 エミヤは心底あきれた表情をしている。

 

 なんか空気がかわいそうなものを見る感じになってきた。

 

 ………………話を変えるか。俺はこんな経験何度もあるから耐性がついてるんだ! いやきっとついてるんだ! この空気に耐えられないわけじゃない!

 

「ま、まあ、それは後でいいがこの状況をどうにかすればいいのか?」

 

「何を言ってるんですか! あれは神格持ちの蛇神様ですヨ! そう簡単にどうにかできるものではありません!」

 

 さっき出会ったうさ耳の人がありえない事を聞いたように言う。

 

 おそらくエミヤに抱えられてここまで来たときのことを思い出してあれと戦えないと判断したのだろう。

 

 …………それが容易に分るのが嫌だな。

 

「まあ、あのサイズのものなら私は別に問題ないと思うが? 神格といっても半人半神で十二回殺さないと死なない奴よりはましだろう?」

 

「ヘラクレスとでも戦った事でもあるんですか!」

 

「あるぞ? それがどうかしたか?」

 

「どんな経験ですか!」

 

 本気で頭を抱えているうさ耳の人。

 

 なんかこの人は絶対苦労人だと分るような態度だ。

 

「なあ黒ウサギ。絶対に手出しさせるなよ? お前の手出しもいらん」

 

 ヘッドフォンの少年がうさ耳の人……いや黒ウサギって言う名前なのか? 黒ウサギ(仮)と呼ばれた人に向かって言う。

 

「何を言っているのですか十六夜さん!」

 

『何をなめた事を言っている! 我が貴様なんぞに負けるはずがないだろう!』

 

 黒ウサギ(仮)と大蛇が同時に十六夜(仮)に言う。

 

 大蛇のほうは怒り心頭だ。いや、って言うかあいつ喋れたのか。

 

「しかも蛇神様をこんなに怒らせているし! 何やったんですか十六夜さん!」

 

「なんか『試練を選べ』とかなんとか、上から目線で素敵な事言ってたからよ。俺を試せるのか試させてもらった(・・・・・・・・・・・・・・・)のさ。結果はまあ、残念な奴だったが」

 

『貴様……付け上がるなよ人間! 我がこの程度で倒れるか!!』

 

 その言葉とともに大蛇の甲高い咆哮が響く。

 

 そして大蛇の周りの風が目に見えるほどにうなり、大蛇の下の川から水柱が立ち上り、十六夜(仮)に襲い掛かる。

 

 しかし十六夜(仮)は軽くひょいひょいと避けている。

 

 よく周りを見ればコレまでの戦闘跡なのかねじ切られたような木が散乱している。

 

 おそらくあの水柱と荒れ狂う風によって起こされたものだろう。

 

 そんなものを食らえばひとたまりもない。

 

 流れ弾もくる可能性もあるだろう。

 

 防げるかは分らんがやるしかないか!

 

「流れ弾を防ぐ! 防ぎきれるか分らんが盾を用意する! とりあえず俺の後ろに来い!」

 

 必死になって二人に指示を飛ばす。

 

「ああ、そうさせて貰う。使い手から離れた武器なら防ぎきれる自信はあるが、もともと離れているものは微妙だ。せいぜいお前の作った盾を強化だけする程度にしておこう」

 エミヤはやれやれといいながら俺の後ろに回ってくる。

 

「助かる! そこのうさ耳の人も後ろに! ……まあ二人とも避けられるだけの足がありそうだが」

 

 

「黒ウサギも甘えさせていただきたいんですがいいですか?」

 

「別にかまわんぞ?」

 

 そう言って黒ウサギ(仮)は俺の後ろに来る。

 

 俺は過去に完全にコピーできるコピー能力者だった奴が使っていた盾を思い出す。

 

 出来るだけあの硬さを思い出すようにイメージを固めていく。

 

 鉄をも溶かす炎を出す能力を当たり前のように止めていたライバル(くそヤロウ)のことを思い出せ。

 

 あの何層にも重なっている強固な膜のような盾を! 

 

 おそらく俺がドンだけイメージを固めても一枚しか出ないだろうし、防御力も紙並だろう。さらに全身を覆うようだった膜も半球状ではないだろう。

 

 そんな中で一つだけ性能をあげるとするなら――――

 

 ぱちん!

 

「『不屈の卵殻(ハンプティダンプティ)』!」

 

 イメージを固めて指を弾く。そして能力が発動する。

 

 発動した能力によって俺の前に……いや俺の手のひらの上に現わ

れたのは小さな球状の弾だった。

 

 

 

 〜光一視点続く〜



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これぞ俺の信頼度だ! by光一

 ~光一視点続き~

 

 ぱちん!

 

「『不屈の卵殻(ハンプティダンプティ)』!」

 

 イメージを固めて指を弾く。そして能力が発動する。

 

 発動した能力によって俺の前に……いや俺の手のひらの上に現われたのは小さな球状の弾だった。

 

 盾として使う事も出来ないような小さな球。

 

 強度も身体能力が一般人の俺が全力で殴れば破れる程度。

 

 膜の枚数も一枚きりの物だ。

 

 では何の性能を上げたか――――

 

「そんな小さい玉では何も防げないと思うが?」

 

「まあ見てろって」

 

 そういって俺はその小さな弾を前に出す。

 

 すると弾は二つに増える。

 

 そして次の瞬間には弾は四つに。

 

 そしてまた次の瞬間には八つに。

 

 ものの数秒もしないうちに弾の数は数え切れなくなって俺たちの前に広がる。

 

「ほう。泡状の盾か。それなら威力は分散しやすいし一つの盾を作るよりも長持ちしやすい。一枚だと壊されて終わりだからな。まさに今しか使えないようなものだな」

 

「そりゃそうだろ。今この使い道にしたんだからな。元々は尖ってないたまねぎみたいな膜だったんだ。それで生産速度を上げてこういう感じにした」

 

「思ったよりも使いどころが良ければ使えるようだな。使いようによってはな」

 

「ふ、もっとほめてもいいんだぞ?」

 

「ま、まるで皮肉が通じていませんね…………あ、こっちに十六夜さんが来そうです!」

 

 今ちょうど俺たちの前に十六夜(仮)が水流を巻き上げてくる攻撃をかわしながらこっちにくる。

 

「しかし本当に大丈夫なのか? こんな泡みたいな盾など一瞬で流されそうなのだが? いくら威力が分散するといっても限度はあるぞ?」

 

 エミヤが固目を閉じながら聞いてくる。

 

「思惑がうまくいくかは分らんが上手くいけば十中八九防げる!」

 

「上手くいくといいのだがな」

 

 最後に皮肉のようなものを言って口を出すのをやめる。

 

 一応信じてくれたのであろう。

 

 そしてついに十六夜(仮)は俺たちの前に来て水流を避ける。

 

 そして水流は勢いを緩めることなくこっちに向かってくる。

 

 木など簡単にねじ切るであろう水流が、絶対防御と呼ばれていた『不屈の卵殻(ハンプティダンプティ)』の劣化品である泡で出来た壁のような盾とぶつかる。

 

 瞬く間に泡は吹き飛ばされるよううに減って行く。

 

 例えるならタンポポの種に息を吹きかけるようなものだ。

 

 俺が作った盾を構成する泡が一秒すら持ちこたえる事も出来ずに飛んでいく。

 

 しかし攻撃をくらい始めてから三秒間。

 

 俺の後ろに水滴の一つも通っていない。きっちり守りきれていた。

 

「おい…………ひどくないか? 少しは人のこと信用しろよ」

 

 しかしエミヤと黒ウサギ(仮)は被害を受けないようなところまで逃げている。

 

 俺の『不屈の卵殻(ハンプティダンプティ)』が破られると思ったのだろう。

 

 必死こいて守ったのが馬鹿みたいだ。

 

「えーと……。壁がものすごい勢いで削られていたのでムリかなと思ったんですが……」

 

「右に同じだ。しかし最悪お前を守るだけの手段は取れるようにしておいた。見捨てたわけじゃないから安心しろ」

 

 黒ウサギ(仮)はさっきから目をあわせようとしない。自分でも罪悪感があるのだろう。

 

 エミヤのほうも今までより対応がやわらかい事から黒ウサギ(仮)と同じで罪悪感があるのだろう。ほんの少しだが。

 

「しかしどうやってあんなもので防いだんだ? 普通なら一瞬で押し切られて終わりだろう?」

 

「そうですよ! 黒ウサギもなんであんな盾で防げたのか全く分らないんですが?」

 

 取り繕うように言ってくる黒ウサギ(仮)。

 

「別に気なんて使わなくてもいいんだぜ? こんな対応慣れてるしな……」

 

「本当になれてる奴の反応だな……」

 

 エミヤが可愛そうなものを見るように言ってくる。

 

 まあ、本当にこんな感じの反応ばっかだったしな……。

 

「まあ、今やった事の仕掛けもたいした事じゃなくてただ数で押しきっただけだよ」

 

「数で? お前にそんな便利な能力なんて使えたのか?」

 

「貴様は俺をなめすぎだろう……? まあ実際そんな便利に使うことなんてできないけどな。それでも五秒あれば木をねじ切るくらいの威力なんて防げるぞ」

 

「五秒ってとっさの盾として使えないじゃないですか…………」

 

「ああ、だから今ぐらいにしか使えないが今使えたのなら問題ない」

 

 黒ウサギ(仮)はあきれたように言っている。

 

 見ればエミヤもあきれているようだ。

 

「あ、でもなんで五秒なんですか? 黒ウサギとしてはそこが不思議なんですが」

 

「ああ、単純にあの蛇の攻撃を防ぐのにそんくらい必要かなと思ったんだ。そのために生産速度の性能を上げたんだしな」

 

「強度を上げていないのか。てっきりもともと泡でも作り出す能力で強度を上げたのだと思ったのだが」

 

「ああ、オリジナルは二十枚くらいの膜で出来た盾を作る能力だ。俺の能力で劣化した奴をただ増やすようにしただけだ」

 

「そういうことだったのか。全く意味が分らん。本当に強いのか弱いのか分らない能力だな」

 

「俺は貴様の魔術みたいに使いやすくないだけだ!」

 

「それはまあいいが、向こうではヘッドフォンの少年が逃げるのをやめたみたいだぞ?」

 

『なかなかやるな人間。今までの攻撃をかわせた褒美に、この一撃を凌げば貴様の勝ちを認めてやる』

 

「寝言は寝て言え。決闘は勝者が決まって終わるんじゃない。敗者を決めて終わるんだよ」

 

 大蛇が十六夜(仮)に偉そうに言うが、言われたほうは大胆不敵に言い返す。

 

『ふん――その戯言が貴様の最後だ!』

 

 大蛇は叫ぶように言うとさっきまでとは比べ物にならないほどの水の量を操る。

 

 いや、水だけじゃなく水を巻き上げている風もだ。

 

 風によって巻き上げられた水は数百トンにのぼり、高さも周りの木の高さをゆうに超えている。

 

 周りの木が低いのではなく巻き上げられた高さが高いのだ。すでに十五メートル以上まで上っている。

 

 その様子はすでに嵐も同然で、大蛇はたった一匹で自然災害を作り上げたのだ。

 

「――ハッ――しゃらくせえ!!」

 

 十六夜(仮)が襲いかかる嵐に対してとった行動はシンプルだ。

 

 自分に向かってくる数百トンの水とそれを巻き上げるだけの風に対してただ腕を振り抜いた。

 

 それだけで大蛇が起こした嵐を超えるほどの暴力の渦になり嵐をなぎ払った。

 

「嘘!?」

 

『馬鹿な!?』

 

「なんという力だ。真租の吸血鬼かなんかなのか!?」

 

 三者三様の驚き方をする。俺は驚きすぎて声が出ない。

 

 だってあんな嵐をなぎ払うっておかしいだろッ!

 

 大蛇のほうは混乱から抜け出せず放心している。

 

「ま、中々だったぜオマエ」

 

 しかし十六夜は大地をふみ砕くような爆音を響かせながら大蛇の胴体まで飛び込む。

 

 胸元に飛び込んだ十六夜(仮)は大蛇を蹴りぬく。

 

 蹴られた大蛇は空高く吹き飛ばされている。

 

 十六夜のほうは難なく着地するが、大蛇のほうは吹き飛ばされた後そのまま重力に従って川に落ちる。

 

 その衝撃で川が氾濫して十六夜(仮)を巻き込みびしょ濡れにする。

 

「くそ、今日は良く濡れる日だ。クリーニング代ぐらいは出るんだろうな黒ウサギ?」

 

 決着は誰の目にも明らかだった。

 

 ~光一視点終了~



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ノーネーム

 あけましておめでとうございます!

 今年も不定期更新になると思いますがよろしくお願いします!

 ということで新年開幕投稿です!


~エミヤ視点~

 

 まさかあんな激流から身を守るような盾を光一が用意できるとも思わなかったし、さらに言うと泡の盾が削られていったときに明らかに防げないとも思った。

 

 それがどうだ。

 

 攻撃が始まってから止むまでの三秒間きっちり守りきったのだ。

 

 それはなかなかの衝撃だった。

 

 そしてそれ以上に衝撃を受けたのはさっき十六夜と呼ばれた少年の事だ。

 

 数百トンの水を持ち上げるほどの嵐を片腕をなぎ払うだけで防いだのだ。真租の吸血鬼でも出来るか怪しい。

 

 さらには仮にとはいえ錬鉄の英霊とまで言われた私に迫るか、または越すほどの速さで走っていた黒ウサギと呼ばれた少女もいる。

 

 この世界にはそんな埒外の猛者がごろごろいるのかと思うと辟易する。

 

「おい、どうした? ボーっとしてると胸とか脚とか揉むぞ?」

 

 そういいながら十六夜と呼ばれた少年は黒ウサギと呼ばれた少女へ近づき手を伸ばす。

 

「な、ば、おば、貴方は馬鹿です!? 二百年守ってきた黒ウサギの貞操に傷をつけるつもりですか!?」

 

「二百年守ってきた貞操? うわ、超傷つけたい」

 

「お馬鹿!? いいえ、お馬鹿!!!」

 

 黒ウサギと呼ばれた少女は最初は疑問形で言っていたのを確定形に直して言っている。

 

 それにしてもこの黒ウサギと呼ばれた少女は二百年も生きているのか。

 

 体は出るところは出ているし腰まで伸びた藍に近い黒髪。肌に張りはあるし、しわの一つも見えない。

 

 まったく二百年も生きているように見えない。

 

「で、そこの観客二人は誰だ? 黒ウサギのコミュニティの仲間か?」

 

 十六夜と呼ばれた少年は黒ウサギと呼ばれた少女に質問をする。

 

「いいえ、この人たちは黒ウサギの入っているコミュニティの仲間ではありません。さっき道でぶつかってしまったので十六夜さんを探すのを手伝ってもらってたんですよ」

 

「へえ。俺は逆廻(さかまき) 十六夜(いざよい)だ。お前らは?」

 

「私はエミヤシロウ。エミヤでもシロウでもかまわない。そこの痛い中二病の奴は佐藤 光一だ」

 

「俺は別に痛くない! このかっこよさが分らないのか!」

 

「「ああ、わからん」」

 

 光一の反論に十六夜と被りながら答える。

 

 黒ウサギと呼ばれた少女は光一から目をそらしている。

 

「私のことは黒ウサギと呼んでください。どこのコミュニティに所属しているんですか?」

 

「コミュニティ? 何だそれは? 俺もエミヤもここに来たばかりなんだ。全く分らん」

 

 

「来たばかりで何も知らないとなるとコミュニティを説明前に、まずこの世界から説明しなきゃいけません」

 

 説明してくれるとは。幸運値がEのわりにいい人と最初に出会えたのは幸運だな。

 

「この世界は『ギフトゲーム』と呼ばれる神魔の遊戯をするための場所です! そしてこの世界にいる者はみんな特異な力を持っています! その特異な力は修羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えられた恩恵でございます。『ギフトゲーム』はその“恩恵”を用いて競い合う為のゲーム。ここではギフトというと修羅神仏等から与えられた恩恵の事を指します。そしてこの世界――箱庭の世界は強大な力を持つギフト保持者がオモシロオカシク生活できるために作られたステージなのでございますよ!」

 

「おい、黒ウサギ。さっき俺たちに説明したのとほとんど同じ内容じゃねえか」

 

「それは呼ぶ前に練習しましたから。だからここでも使えるかと思ったんデスヨ」

 

 ふむ、つまりここは特別な力を持ったものが集まった遊び場で私達はそこに呼ばれた客という事か。

 

 さらに十六夜は先ほどこの世界に黒ウサギに呼ばれたのか。

 

 しかし最初の問題は分らない。

 

「それでコミュニティとは何だ? 箱庭とやらに呼ばれたという事は分ったが最初のコミュニティというのは分らなかったのだが」

 

「コミュニティというのはこの箱庭で生活するにあたって入らなければいけないでもので、ともにギフトゲームに挑む仲間達です!」

 

「つまりこの世界はギフトゲームと呼ばれるゲームをする場所で、コミュニティとやらはゲームをやる仲間か。そして俺たちはプレイヤーという事か」

 

「YES! もっともこの世界では自分がギフトゲームの主催者(ホスト)になる事も可能です! この機会にお二人とも黒ウサギのいるコミュニティに入りますか?」

 

 なかなかいい提案だな。人柄は悪くはなさそうだし面倒見も良いのであればずぶの素人の私たちにとって都合がいい。

 

「いや、ちょっと待ったほうがいいと思うぜ? 黒ウサギ、オマエ、何か決定的なこと隠しているよな?」

 

 一気に場が剣呑としたものに変わる。

 

 さっきまで軽薄そうに笑っていた十六夜の顔から表情が消えている。

 

 それを見てか黒ウサギの表情は固まっている。

 

「…………なんのことです? 箱庭の話ならお答えすると約束しましたし、ゲームの事も」

 

「違うな。俺が聞いているのはオマエ達の事――――いや、核心的な聞き方するぜ。黒ウサギ達はどうして俺たちを呼び出す必要があったんだ?」

 

 置いてけぼり感は否めないがそれは光一もだろう。

 

 しかし黒ウサギも今の質問は意図的に隠していたのか動揺を必死に隠している様子がうかがえる。

 

「それは…………言ったとおりです。十六夜さんたちにオモシロオカシク過ごしてもらおうと」

 

 他にもすでに数人別の世界から呼んでいるらしい。

 

 そして黒ウサギは隠しておくべく事があったと。そういうことらしい。

 

「ああ、そうだな。俺も初めは純粋な好意か、もしくはあずかり知れぬ誰かの遊び心で呼び出されたんだと思っていた。俺は大絶賛“暇”の大安売りをしていたわけだし、他の二人も異論が上がらなかったってことは、この箱庭にくるだけの理由があったんだろうよ。だからオマエの事情なんて気にかからなかったんだが――――なんだかな。俺には、黒ウサギが必死に見える」

 

 このとき黒ウサギの動揺はついに表情に出てしまう。

 

 ちなみに私と光一は何が起こっているかすら分らない。

 

「これは俺の感だが。黒ウサギのコミュニティは弱小のチームか、もしくは訳あって衰退しているチームか何かじゃねえのか? だから俺たちはコミュニティを強化するために呼び出された。そう考えるといろいろな事に納得がいく。――――どうよ? 一〇〇点満点だろ?」

 

「えーっと、つまりそこの黒ウサギの所属しているコミュニティとやらは今ぼろぼろの状態なのか。そして今の状態を隠して呼び出した三人を自分のコミュニティに入れようとしていたと。そういうことか?」

 

 ここで光一が口を挟む。ここで口を挟めるだけの勇気は私にはなかったのだが五十六億も世界を救った英雄様は関係ないようだ。

 

「んで、この事実を隠してたって事はだ。俺たちや、さっきこの世界に来たばっかのそこの二人は別のコミュニティに入る事が出来ると判断できるんだが、その辺どうよ?」

 

 黒ウサギは何も答えない。判断に困っているようだ。

 

「沈黙は是也、だぜ? この状況で黙り込んでも状況は悪化するだけだぞ。それとも他のコミュニティに行っていいのか?」

 

「…………話せば協力してくれますか?」

 

 黒ウサギが沈んだ声で言う。

 

「俺は内容によるが協力してもいい。どうせ右も左も分らないしな。エミヤはどうする?」

 

「私も同じだな。だが現在の状態は聞いておきたい」

 

 私は光一に賛同する。

 

 困ってる人を見捨てては置けないしな。

 

「俺は楽しそうであれば協力してやる。さっさと話せ」

 

 十六夜が言うと同時に全員の目線が黒ウサギに集まる。

 

 そこで語られたのはこういうことだ。

 

 まず、黒ウサギの所属しているコミュニティにはまず名前、そしてコミュニティを表す旗印、戦力、金。

 

 その全てがないそうだ。

 

 今はその他大勢――“ノーネーム”という蔑称で呼ばれているそうだ。

 

 昔は相当大きいコミュニティだったそうだが、魔王と呼ばれる存在によって全てを失ったらしい。

 

 現在戦える戦力は二名。

 

 現在十一歳のコミュニティのリーダージン=ラッセル。ギフトもあまり強くないらしい。

 

 そして黒ウサギ。しかしいろいろな制限があるらしい。これは後述する。

 

 なのでリーダーの座はジンに譲っているらしい。

 

 そして魔王とは、主催者権限と呼ばれる権利をもつものが誰かに挑んだ場合必ず戦わなければいけなくなる権利を持ち、その権限を用いて自分のために力を振るう者達のことを指すらしい。

 

 黒ウサギのコミュニティに残されたのは魔王に奪われた仲間達の残した子供達百二十二人と黒ウサギ。

 

 そして莫大な広さを持つ居住区。そしていくつかの武具類だけらしい。

 

 しかし黒ウサギは仲間達の帰ってくる場所を守りたい一身で今の状態を保っているらしい。

 

 その後ひと悶着あって十六夜も「魔王? 何その全力で倒しても誰にも攻められなさそうな素敵ネーミングの奴がいんの? 倒したい!」といった事で十六夜もこのコミュニティに入るようだ。

 

 元気を取り戻した黒ウサギは十六夜に言う。

 

「ではそこの蛇神様にギフトを貰いましょう。十六夜さんは勝者です。文句はないでしょう!」

 

「そうだな。ほれ、あの蛇起こしてさっさとギフト貰って来い。その後は川の終端にある滝と“世界の果て”見に行くぞ」

 

「は、はい!」

 

「なに!? 世界の果てだと! 俺も見に行きたいぞ!」

 

「どうせ遠いのだろう。ほら担いでやる」

 

「え、ちょっ! せめて安全運転で頼む!」

 

 肩に光一を担ぐと文句の声が上がる。

 

 そんなに怖がられるとさっき以上に筋トレに励みたくなるものだな。

 

 こうして私達はノーネームというコミュニティに所属する事になった。

 

 ~エミヤ視点終了~



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ドナられた(。_。)q

~光一視点~

 

 うぷっ!

 

 吐きそう。

 

 というか吐く!

 

 俺が世界の果てを見に来て一番の感想は“気持ち悪い”だった。

 

 景色はもちろん綺麗だったがここに来るまでの道のりでエミヤがジグザグ走りや大跳躍、挙句の果てには十六夜がエミヤに「空中で十回転くらいしたらそこの中二病の奴面白い反応するんじゃね?」の一言で俺は空中に放り投げられた。

 

 そこらのジェットコースターなんてぬるいどころか一週回って冷たいくらいの激しさだったぜ……

 

「どうです? 横幅の全長は2800mもあるトリトニスの大滝でございます。こんな滝は皆さんの故郷にもないのでは?」

 

 黒ウサギが嬉しそうに解説をする。

 

 俺もそのときになってようやく周りを見渡す事ができるようになったが――――

 

 あまりの壮大な景色に一瞬思考が追いつかない。

 

 風流だとか水の勢いがすごいとか言うちゃっちいもんじゃない。

 

 あたり一面を覆い隠すほどの水。

 

 莫大な量の水が滝となって流れ落ち、跳ね返った水が数多の虹を作っている。

 

 横幅が広すぎて滝の河口が楕円形に見えるほどの滝。

 

 そこから落ちた水の終着駅は遥か彼方まで続いていて、そして最後には“世界の果て”の境界を越えて空中に投げ出されている。

 

 これが神様達が遊んですごすような場所の果ての場所か。

 

 周りを見渡してみるとエミヤも十六夜も目をまん丸に開いて滝を見ている。

 

 唯一余裕がありそうに楽しげな笑顔で見渡しているのは黒ウサギだ。

 

「本当にすげえな。それにしてもこの“世界の果て”の下はどんな感じになってるんだ? やっぱり大亀が世界を支えているのか?」

 

 十六夜が独り言のようにつぶやく。

 

 ん? 亀? 何だそれは? 

 

「ふむ。地動説か。あれの内の一つに亀が世界を支えているという奴があったな。この世界は球状じゃなく平面のようだから亀が支えている可能性もあるのか」

 

 地動説って確かガリレオ・ガリレイが否定した奴だっけ?

 

 確かにこの世界は“世界の果て”が存在しているから球じゃないって事だし、神様達の遊び場だそうから亀が世界を支えててもなんら不思議はないのか。

 

「すみません。その質問は残念ながらNOですね。この世界を支えているのは“世界軸”と呼ばれる柱でございます。何本あるのかは定かではありませんが、一本は箱庭を貫通しているあの巨大な主軸です。この箱庭が球状ではなく平面という不完全な形をしているのはどこかの誰かが“世界軸”を一本引き抜いて持ち帰ったから、という伝説もあるくらいです!」

 

「はは、それはすげえな。ならその大馬鹿野郎に感謝しねえと」

 

「いや、世界を支えるような主軸をもって帰れるような人間がいるのかとか言う事を突っ込めよッ!」

 

 十六夜がさも当たり前のようにスルーしているが大変な事だろう。

 

「それにしてもここは綺麗だな。私も世界各地を回っていたがこんな景色は見たことがない。もっとも私がいたのは主に戦場だがね」

 

「そういえばエミヤさんはヘラクレスと戦った事があるとおっしゃっていましたし、戦場にも居たって事はがどこかの英雄なんですか?」

 

「ああ、英雄と言っていいのかは分らんが、一応“錬鉄の英霊”と呼ばれた事はある。まあ英霊といってもやってた事はただの掃除屋だったがな」

 

「錬鉄の英霊? 聞いた事がありませんねヘラクレスの出てくる神話でそんな人はいなかったはずなのですが……」

 

「ああ、私が戦ったのはとある魔術儀式のときだからな。とある理由があって三回ほど出会ったが戦ったのは一回だ。……最も殺せた回数なんてたったの六回だがな」

 

「あの大英雄を呼び出す魔術儀式にヘラクレスを六回殺すってどんだけですか!? それにそんな働きをしたら神話になっててもおかしくないレベルの働きですよ!」

 

 理解の範疇を超えたのか黒ウサギは頭を抱えている。

 

「こちらからも聞きたいんだが、この世界の人間達は皆あの大蛇を簡単に打ち払えるほど強いのか?」

 

「もしそうだったらこの箱庭はもう終わってますよ。十六夜さんが規格外なだけです!」

 

 俺も、もし十六夜みたいなのばっかだったら裸足で逃げ出すぞ。

 

 しばらくトリトニスの大滝の景色を見続けていると日がだんだん落ち始めてきた。

 

 そしてもうそろそろ黒ウサギのコミュニティに行こうかという空気になったときに十六夜が口を開く。

 

「ま、こんなデタラメで面白い世界に呼び出してくれたんだ。その分の働きはしてやる。けど他の二人の説得には協力しないからな。騙すもたぶらかすも構わないが、後腐れないように頼むぜ。同じチームでやっていくなら尚更な」

 

「…………はい」

 

 十六夜は黒ウサギが騙して自分のコミュニティに入れようとしていたときの事を言っているのだろう。

 

 このことに関しては黒ウサギは反論する事は出来ない。

 

 十六夜に対する後ろめたさからか目を合わせないようにしたまま答えていた。深く反省しているようだ。

 

「よし、これ以上残っていてもしようがあるまい。黒ウサギのコミュニティに行ってしまおう」

 

 エミヤが号令をかけて出発し始める。

 

 そして当たり前のようにエミヤの肩に担がれていく俺。

 

 情けない事この上ない。

 

 そして俺はそのままドナドナされていった。

 

 ~光一視点終了~



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事実を言っただけなんだが…… by光一

 ~エミヤ視点~

 

 私達が世界の果てから黒ウサギのコミュニティに戻ると悲嘆にくれている少年と高校生くらいの少女が二人待っていた。

 

 そのうち一人の膝の上には三毛猫が座っており、少女とさも話しているかのようにニャーニャー言っている。

 

「あら黒ウサギ。思ったよりお仲間がいるのね? ジン君に崩壊寸前のコミュニティだと効いたんだけど?」

 

「すいません黒ウサギ。隠してた事を気づかれてはかされました…………」

 

 どうやら十六夜と一緒にこの箱庭に来た二人のようだ。

 

 おそらくジン君というのはうなだれていた少年だろう。少年はまだ十歳くらいの子供に見える。

 

「そうですか……実は黒ウサギも隠し通す事が出来なかったんですよ。ですが協力してくれる事になりました」

 

「それは良かった。こちらも飛鳥さんと耀さんの二人とも協力してくれるそうです。それでそちらの二人はどなたですか?」

 

 少年が私と光一をさして言う。光一がかっこつけるためか服装を気にしだすが、すでに嘔吐した形跡が口周りに見えるのでかっこよくはならないだろう。

 

「私の名前はエミヤシロウだ。ついさっきこの箱庭にやってきたばっかだが黒ウサギに誘われたのでこのコミュニティに入る事にした。これからよろしく頼む」

 

「俺の名前は佐藤光一だ。俺の事は光一って呼んでくれ!」

 

 私と光一が挨拶をする。光一はサムズアップしながら言っていて少女二人が少し引いていた。

 

「…………春日部(かすかべ) 耀(よう)よろしく」

 

「私は久遠(くどう) 飛鳥(あすか)これからよろしくお願いするわ」

 

「ぼ、僕はジン=ラッセルです。一応コミュニティのリーダーです。齢十一になったばかりですがよろしくお願いします」

 

 一通りの自己紹介がすむ。

 

 春日部嬢はおとなしそうな服装をしている。行動自体もおとなしいようだ。

 

 ジン君のほうは身長は小さいが十一歳にしてはなかなか賢そうだ。

 

 そして久遠嬢は長髪だがもさもさせず、さっぱりしている。だいぶ勝気なようで口調からそれを伺える。

 

 だがなんだろう。

 

 そこはかとなく服装が赤いという点といい、勝気な性格といい、赤い悪魔を思い出す。うっかり癖がない事を期待したいと切に願うところだ。

 

 十六夜は静かにしていると思ったら何かを考え込んでいる。

 

「俺がどうかしたか? 何か質問があるならいいが?」

 

「オマエ日本人だよな?」

 

「そうだが? それがどうかしたのか?」

 

「じゃあやっぱりカラーコンタクトと脱色か。その格好ってなんか特別な意味でもあるのかと思ったんだがどうなんだ?」

 

 なんだかんだで気になっているらしい。

 

 足元まで届く黒いコート。髪は銀髪に脱色していて、手には片方だけの手袋、カラーコンタクトで作り上げたオッドアイという奇抜な格好。

 

 目を引かないはずがない。

 

 ここにいる全員もそう思ったようで光一に注目している。

 

 それに光一はなんでもないように答える。

 

「これは俺の正装だが? 特に意味はないがかっこいいだろう?」

 

「かっこ悪りぃわけじゃないんだが、オタクっぽい」

 

「というかオタク」

 

 十六夜と春日部嬢が答える。

 

 ジン君と久遠嬢は何のことかわからないようで首をかしげている。おそらくオタクという意味が分らないのだろう。

 

 黒ウサギは何かを思い出すようにははは……と乾いた笑いをしていた。

 

 何か思い出しているのであろう。

 

「まあ、確かにそういわれてもおかしくない格好なんだが……」

 

 光一はうなだれ始める。

 

「それで、この後どうするつもりなんだ黒ウサギ? さっき聞いた様子だとこのコミュニティは崖っぷちらしいじゃねぇか。速めに何とかしようぜ?」

 

「本当は十六夜さんがたの協力を経て水源を確保しようとしたんですが、それは先ほど十六夜さんが蛇神様を倒してくれたおかげで手に入った『水樹の苗』のギフトで水源が確保できるので何とかなったんです」

 

「ですので皆さんには居住区の案内をこれからしましょう。お疲れでしょうしギフトゲームの参加は明日からにしましょう」

 

 黒ウサギとジン君が言う。私も疲れているし久しぶりに布団で寝るのもいいな。……布団で寝るのなんて体感時間的に数万年ぶりくらいではないか?

 

「それでいいわ。私は異論はないわ。春日部さんは?」

 

「うん。私もそれでいい」

 

「俺もそれでいい。だけど案内が終わったら明日どのゲームに参加するかだけ決めようぜ。そこの二人もそれでいいよな?」

 

 今日召喚されたらしい久遠嬢と春日部嬢と十六夜の三人も同じ意見のようだ。

 

「私も今日はこれ以上動きたくはないな。ところで晩飯の材料はあるかね? もし良かったら私が作るが」

 

「YES! 助かります! では黒ウサギと他の料理担当の子供達の手伝いをして下さい」

 

「俺も疲れた。最近あんま動いてなかったから疲れて疲れて。速く休みたいぐらいだ。こんな動いたのなんて何十年ぶりだか……」

 

 光一が愚痴のように言う。確かに私との戦いから、私に抱えられての箱庭観光。疲れるのも当たり前だろう。

 

「しかし、何十年は大げさすぎるだろう? せいぜい二十年も生きてないだろう」

 

 その言葉でみんなの緊張がほぐれてこれから居住区に向かおうとする。

 

 しかし思いがけない一言が私達を襲う。誰一人として予想していなかった方向で。

 

 

 

「いや、俺って精神年齢だけで数えたら千五百万年と少し生きてるぞ?」

 

 

 

「「「「「は?」」」」」

 

 私以外の声が重なる。みんな光一のほうを向いて口をあけている。

 

 私は光一が運んできた手紙の内容を思い出して納得する。

 

「ああそうだ。言ってなかったっけ。俺は世界を救ったときに時間がかかっちまって千五百万年くらいかかっちまったんだよ。その間年は取らなかったけどな」

 

「千五百万年!? 光一さんは神霊の類なんですか!? それによくよく見てみたら光一さん霊格の高さが異常ですし」

 

 黒ウサギの言葉につられて私も解析の魔術を光一にかける。

 

 ………………これはすごい。

 

 もともと英霊であった私でさえ遥かに凌ぐほどの霊格。かの英雄王にすら勝るとも劣らないほどの霊格の高さだった。

 

「神霊だかへんなものになった覚えは…………な……い?」

 

 途中までは自信ありげに言っていたのに最後のほうになってくると怪しくなっていく。

 

 私も驚いて光一を問い詰めようとする。

 

「心当たりがあるのか? 世界を救ったといってもこの霊格の高さは異常だぞ!」

 

「……なあ一度悪魔と天使に同時になった事があるんだが、それがきっかけでその霊格だかが高くなったりすることってある……か?」

 

「少しの間でしたら問題はないと思いますが…………どれくらいの時間ですか?」

 

「…………約千五百万年」

 

「…………アウトです。おそらく光一さんの魂も天使と悪魔になっているときに自身の霊格も高まったのでしょう。まさか今日であった方がこんなに異常な方だったなんて……」

 

「しょうがないだろう! 五十六億も世界を救うにはそれしかなかったんだから!」

 

「「「「「は?」」」」」

 

 今まで話についていけないと踏んでこの話を傍観していた四人もこれは驚いている。

 

 黒ウサギは言わずもがなだ。

 

 かく言う私は英雄の座に居る時に光一に預けられていた手紙の中に書いてあったので驚きはしないが、初めて知ったときには驚きを隠すのが大変だった。

 

「…………ちょっと待て。なんで五十六億も世界を救った奴があんくらいの速度で走る事も出来ないんだよ!」

 

「俺は頭脳派なんだ! そこまで体使うタイプじゃないんだよ!」

 

 十六夜の言葉に光一がへこみ始める。しかし十六夜の言うこともわかる。

 

 十六夜が言っている『あんくらいの速度』とは世界の果てに向かったときの事だろう。

 

 光一の移動方法は基本私がドナドナしてたからな。

 

 そこでふと横を見てみると黒ウサギはもう言葉にも出来ないくらい驚いているようだった。

 

「もうその話はコミュニティに帰ってから聞きます……。皆さん僕についてきてください……」

 

 ジン君がみんなを促す。

 

 なぜだろう。十一歳とか言っていたはずなのにその姿はまさに中間管理職のお父さんのような悲しさを帯びた背中だった。

 

 …………衛宮邸での私のようだ。手が空いているときに私も彼を手伝おうと決めた瞬間だった。

 

 ~エミヤ視点終了~



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爪痕

 ~エミヤ視点~

 

 黒ウサギのコミュニティに向かうまでの間、もう光一に対する質問はされなかった。

 

 おそらくこの後何度も驚かされる事になるという事を本能的に察知したのだろう。

 

 肩を落としながら歩く黒ウサギにそれを支える十一歳の少年ジン君。

 

 ヤハハと笑いながら黒ウサギをからかう十六夜に、それに便乗して黒ウサギをからかう久遠嬢。

 

 我関せずと黙りながらも、要所要所で口を開く春日部嬢。

 

 歩きながら決め顔の練習をする光一。

 

 そのメンバーに後ろから付いていって思う。

 

 濃い。

 

 キャラが濃い。それも特濃だ。

 

 他人に合わせようとしている奴なんて黒ウサギとジン君くらいしか居ないんじゃないかと思う。

 

 それでも黒ウサギはまだ自分の意見を言えるだけの強さがあるが、ジン君はこの濃いメンバーの中でどう育つのだろう。

 

 少なくとも道端で決め顔の練習をするような男にはならないで欲しいと切実に感じる。

 

 そんな事を思いながら黒ウサギの後を付いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 噴水が綺麗に彩る広場を抜けて半刻――つまり約一時間ほど歩くと黒ウサギのコミュニティ“ノーネーム”の居住区画の門前に着いた。

 

 見上げてみると旗掛けみたいな物があり、旗が存在した事を匂わせていた。

 

「この中が我等のコミュニティでございます。生かし本拠の館は入り口から更に歩かねばならないのでご容赦ください。この辺はまだ戦いの名残がありますので…………」

 

「戦いの名残? 噂の魔王って素敵ネーミングの奴との戦いか?」

 

「は、はい」

 

「ちょうどいいわ。箱庭最悪の天災が残した傷跡、見せてもらおうかしら」

 

 十六夜はジン君に聞き返す。

 

 先ほどの話に出た黒ウサギのコミュニティを“ノーネーム”に変えた魔王との戦いの傷跡。

 

 おそらく生半可なものではない。

 

 久遠嬢は怯むことなく言っていたがおそらくその想像を絶するほどの傷跡なのだろう。

 

 私もこの箱庭に来るまで才無き身とはいえ、そこそこ強い自信はあった。

 

 サーヴァントと戦ってもやり方によってはほとんどの者に勝てるだろうし、生涯で一度も戦場を敗走はしたことが無い。

 

 その私に優に追いつくほどの速さで走る事が出来、なおかつまだまだ力を隠していそうな黒ウサギ。

 

 その黒ウサギが入っていたコミュニティが解散の寸前まで追い込まれるような戦いの傷跡だ。

 

 生半可なものではないだろう。

 

 私のその予想は当たっていた。

 

 しかし私自身の想像すら絶する形で(・・・・・・・・・・・・・)

 

 黒ウサギが躊躇いつつも門を開けると、私達の間に乾ききった風が吹きぬける。

 

 吹き荒れる砂埃から顔を隠して、砂埃を回避して目の前の光景を見ると視界には廃墟が広がっていた。

 

 しかし人が住んでいないという意味での廃墟では意味が違う。

 

 十六夜はその光景(・・・・)に目を細めた後、木造の家だったものに近づく。

 

 そしてその残骸を手にする。

 

 その残骸は少し手に力を入れただけで砂のように、乾いた音を立てて崩れていってしまった。

 

「…………おい、黒ウサギ。魔王とのギフトゲームがあったのは――――今から何百年前の話だ?」

 

 そう。

 

 この廃墟は、人が居なくなって数百年もしたかのような風体をようしていたのだ。

 

 美しく整備されていたであろう白い石が敷き詰められた道は、風化して砂になった家の残骸で覆い隠されている。

 

 家だと分るのは主な柱や、土台などの強化に使われていたであろう鉄筋や針金がいたるところから覗いているからだ。

 

 最もその全てが腐食し、自重や支えていた建築物の重さに耐え切れず折れ曲がっているが。

 

 更に木も植えていたのか街路樹まで見える。

 

 しかし、もうすっかり枯れ果てて、真っ白になっていた。

 

「魔王とのギフトゲームがあったのはわずか三年前でございます」

 

 さっきまで明るかった黒ウサギもすっかり沈んだ声音で言う。

 

 しかし、この惨劇がたった三年前に起こされたものだと?

 

 それは何の冗談だ?

 

 どこをどう見たって三年前まで賑わっていた寂れ具合ではない。

 

「ハッ、そりゃ面白いな。いやマジで面白いぞ。この風化しきった町並みが三年前だと?」

 

 十六夜もさっきまでの余裕が無くなっている。

 

 久遠嬢や春日部嬢はもう言葉も出ないのか目を丸くしている。

 

「俺も世界が滅びかけていた姿は何度も見たが、たった三年じゃ、ここまで崩れるはずが無い。五十六億の平行世界でもこんな光景見たことがない!」

 

 光一が取り乱しながら言う。

 

 光一は世界が滅びかける瞬間を何度もみてきたのだろう。

 

 その光一が言うのだから間違いはないのだろう。

 

 かく言う私も三年前の戦いと聞いている筈なのに臨戦態勢を取って止められない。

 

 体中の魔術回路がいつでも起動できる状況になっていて、頭の中は設計図で一杯だ。

 

「ベランダにティーセットがそのまま出ているわ。これじゃまるで、生活していた人間がふっと消えたみたいじゃない」

 

 やっと口を開け利くらいまで落ち着きを取戻せたであろう久遠嬢がそう言う。

 

「…………生き物の気配も全く無い。整備されなくなった人家なのに獣が寄ってこないなんて」

 

 久遠嬢と同じく話せるようになった春日部嬢がそう言う。

 

 最も春日部嬢はただ喋っていなかった可能性も有るには有るが。

 

 しかし二人とも十六夜のように平静を保つだけの余裕が無いようで声が沈んでいる。

 

「…………魔王とのゲームはそれほど未知の戦いだったのでございます。彼等がこの土地を取り上げなかったのは魔王としての力の誇示と、一種の見せしめでしょう。彼等は力を持つ人間が現れると遊び心でゲームを挑み、二度と逆らえないように屈服させます。僅かに残った仲間達もみんな心を折られ…………コミュニティから、箱庭から去っていきました」

 

 力あるものたちが戦うとどうしても周りに被害が出る。

 

 それを魔王は見せしめにしたのだろう。

 

 黒ウサギは表情を無くしながら廃墟の道を進んでいく。

 

 その後を久遠嬢と春日部嬢とジン君が続く。

 

「魔王――――か。ハッいいぜいいぜいいなオイ。想像以上に面白そうじゃねえか…………!」

 

 十六夜は不敵な笑みを浮かべながらつぶやく。新しいおもちゃを見つけたかのようだ。

 

 私も……いやオレもこの箱庭でやる事が出来た。

 

 このやる事を光一に話せば協力してくれるだろう。もしかしたら黒ウサギや、他のコミュニティのメンバーが聞いたら反対するかも知れないがその時はその時だ。

 

 ただの余生を過ごす場所としてやって来たつもりだったがそうも言ってられん。

 

 凜と約束した事を果たすにもいい機会だ。

 

『魔王の根絶』

 

 それがオレの今心に決めた新しい目標だ。

 

 正義の味方を諦めるつもりは毛頭ない。

 

 ならばどちらもこなすだけだ。

 

 いろいろなものにチャンスを貰ってここに立っている。

 

 だとするならば今度はオレはそのチャンスを掴み取ろう!

 

 

 〜エミヤ視点終了〜




 エミヤさんの箱庭での目的が決定しました!

 まあ、いろいろいじくってやるつもりでもあるんですけどね!

 まあ、そんなことは置いといてアニメ開始おめでとうございます!

 もう来週も楽しみでヤヴァイです!

 これはもうクラス中に布教する必要がありますね!

 あ、それとギフトゲームのネタがあれば送ってもらえるとうれしいです。

 ネタが詰まったとき等に使わしてもらうので!

 まあ、まだ一度もギフトゲームしてない気もしますが……
 
 二次ファン時代には一度だけやれたんですがその時も読者様の意見で決まっていたりもしますしね!

 そんな感じでネタお願いします!


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一日目終了!

すいません!

実生活が忙しくて更新できませんでした。

それと久しぶりにお気に入りの数を見てみたらすごいことになっていて吃驚しましたよ。

いつの間にか百二十件まで行ってますし。

まあ、そんなこんなで二週間分ということで今日はもう一話乗っけようと思います!




〜光一視点〜

 

 廃墟を見た後俺たちは居住区に向かった。

 

 その後十六夜が蛇を倒して手に入れた水樹とか言う水を生み出す木を、さびれかけた水路に設置したり。

 

 親を失った“ノーネーム”の百二十二人の子供達の内二十人から挨拶されたり。

 

 馬鹿でかい建物から自分の部屋を選んだりいろいろあったがみんな夜ご飯を食べ終わりミーティングの時間になった。

 

「で、明日はどんなギフトゲームをやるんだ黒ウサギ? コレまでの会話から春日部が動物の言葉を理解できるギフトってのは知ってるけど他の奴のは知らないし、小手調べから始めるんだろ?」

 

 十六夜たちは春日部の能力が動物と話す事だと俺とエミヤと出会う前に知っていたらしい。

 

 それにしても明日が俺の初ギフトゲームか。

 

「いえ、明日はとりあえず“サウザンドアイズ”でギフトの鑑定をしてもらいましょう」

 

「えーっと。“サウザンドアイズ”ってなんだ?」

 

 千の目? 何かの能力……いや、ここではギフトか。

 

 とりあえず何かのギフトなのか?

 

「YES。“サウザンドアイズ”は特殊な瞳のギフトを持つ者達の群体コミュニティ。箱庭の東西南北、上層下層の全てに精通する超巨大商業コミュニティです。幸いこの近くに支店がありますし」

 

「ギフトの鑑定というのは?」

 

 久遠が黒ウサギに聞き返す。

 

 それに説明するのが好きな性分なのか嬉しそうに返す。

 

「勿論、ギフトの秘めた力や起源を鑑定する事デス。自分の正しい力を把握していた方が、引き出せる力はより大きくなります。皆さんも力の出所は気になるでしょう?」

 

「いや、俺はアルカナって悪魔と契約の関係で手に入れた方法から能力から全部知ってるぞ」

 

「私も遠慮させて貰おう。自分の出来る事を把握でもしておかないとまずい事情があったのと、私自身の起源など当に分っているのでな」

 

 俺に続いてエミヤもギフト鑑定を辞退する。

 

「では、光一さんとエミヤさんは挨拶をしに行きましょう。十六夜さんと久遠さんと耀さんの御三方はそこでギフトの鑑定をしてもらいましょう。“サウザンドアイズ”には懇意にしてくれている方が居られるので」

 

「別に鑑定なんていらねえよ。俺は人に値札を張られるのは趣味じゃない」

 

「右に同じ」

 

「以下同文」

 

「何でそんなに息が合ってるのですか!? 今日会ったばかりでしょう! 光一さんやエミヤさんみたいに分っているんならまだしも分らないんだったら鑑定してください!」

 

 今日召喚されたという初対面のはずの三人はぴったりと息を合わせていっている。

 

 それに突っ込む黒ウサギも息が合っている。

 

 人間関係面では一般人の俺や、おそらく俺と同じように一般的な初対面の人との付き合い方を知っているであろうエミヤは付いて行けていない。

 

「とりあえず明日“サウザンドアイズ”でギフト鑑定してもらいますからね!」

 

 黒ウサギがそういうと三人はしぶしぶ了承したようだ。

 

「まあ、ギフトゲームは明日誰がどんなギフトを持ってるか、分ってからにして今日は寝ないか? 私は少し疲れたのでね」

 

 エミヤの提案に誰も異論はないようだ。

 

 さて、俺も今日は寝るか。エミヤコースターで首が痛いしな。

 

 〜光一視点終了〜



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エミヤの新しい朝

二話目投降完了!

今日は風邪気味という免罪符でもってベットの上に一日いられる!

執筆場所が主にベットの上の私としてはありがたい限りです!

明後日からテストだろうが風邪気味という最強のカードでねじ伏せるのみ!

あぁ体長は悪くても気分は最高です!


 ~エミヤ視点~

 

 穏やかな朝だ。

 

 ふかふかのベットに朝特有の穏やかな空気。

 

 私が衛宮邸を出るまでは当たり前のように持っていた幸せだ。

 

 英霊の座には朝も昼も布団も無い。

 

 そのせいだろうか。

 

 生前は六時には自然に起きているという特技があったのだが、今は布団から出るなんて考えられない。

 

 私は私の幸せを天秤にかけられない欠陥品だ。

 

 だから再び肉体を得て変わる事の出来る今は、そのリハビリをしても良いのではないのか?

 

 手始めにこの羽毛布団という私の幸せを逃さないところから始めよう。

 

 そう思い私はまた布団の中に入る。

 

 ああ、平和な朝に、暖かい布団。

 

 春先の朝の少し涼しい時の布団は戦争を終わらせる事が出来る気がする。

 

 ん?

 

 外から音がするな。

 

 小さい子達の声のようだ。朝ごはんを作ろうとしているらしい。

 

 どれ、私も手伝うか。

 

 布団の中に居るのもいいが、人助けも悪くないだろう。

 

 だから別に料理が好きなわけではないからな。

 

 ただ、子供達が可哀想って言うのと、私の料理を食べて笑顔になってくれたときの顔が好きなだけだ。

 

 ふむ。否定できていない気がするが、それはまだ寝ぼけているのだろうという事にしておく。

 

 

 

 

 私が炊事場まで来ると子供達が大きな給食を作るような鍋や、たくさんの具材を使ってっ頑張って調理をしていた。その指揮を執っているのは黒ウサギだ。

 

「ああ、そっちの野菜はもう少し薄く切ってください! それとこっちのきり方の方が美味しく見えますよ。…………あ、スープはたまにかき混ぜてください。焦げてしまうので。……うーん。初めての朝なのですから、もう少し豪華にしましょうか。じゃあ、もう一品追加を…………」

 

「おはよう。大変そうに見えるが手伝うか? 私はコレでも料理はそこそこ出来る自負があるんだが」

 

 せわしなく動いている黒ウサギに声をかける。

 

「おはようございますエミヤさん。まだ寝て無くてもよろしいのですか?」

 

「目が覚めてしまってな」

 

「では一品お任せしてもらってもよろしいでしょうか? 備蓄庫にある材料は使っていいので」

 

「了解した。任されよう」

 

 そういって黒ウサギはまたせわしなく動き出す。

 

 私も何か作り始めるか。

 

 えーっと。

 

 おそらくコミュニティ存続の危機になっていたくらいだ。安く済ませるに越した事はないだろう。

 

 黒ウサギが作ろうとしているのは…………

 

 そうして私も調理に没頭して言った。

 

 

 

「「「「「「「いただきます!!」」」」」」」」

 

「あ、これ美味いな。黒ウサギが作ったのか?」

 

「YES! そうですよ! あ、そのおかずはエミヤさんが作ったんですよ!」

 

「そうなの? あなた見た目より器用なのね」

 

「む、久遠城その言い分は少し酷いのではないかね?」

 

「……でもその体格で料理上手というのは意外」

 

「春日部もそう思うよな? 俺もエミヤがこんなに料理上手いとは思わなかったしな」

 

「ほう。なら食わなくてもいいんだぞ光一?」

 

「なんか俺だけ酷くないか?」

 

「気のせいだ」

 

 

 思い思いに会話をしながら朝ごはんを食べる。

 

 これが衛宮邸での日常的な光景だった。

 

 しかしこの“ノーネーム”のコミュニティではみんなで食事を取るわけではなく、各々の部屋に食事を運ぶつもりだったらしいのだが、それでは私は味気がないように感じる。

 

 衛宮邸での誰一人血の繋がっていない一家団欒はいつも楽しかった。

 

 それが無いのは少し寂しい。

 

 なので私は投影で机と椅子を全員がまとめて座れるように作り上げた。

 

 百人を裕に超す人数の座れる場所が懸念されたが、もともとかなり大きい組織だった“ノーネーム”には心配は要らないようだった。

 

 しかし、そのせいで私の魔力はすっからかんだ。

 

 魔力を込めていないものとはいえ、剣ならまだしも長い机と、椅子を人数分作ったのだ。

 

 敵に備えて魔力を貯めておく事と、この椅子と机を作る事の二択で迷わなかったといえば嘘になる。

 

 今の私に投影出来る宝具など、使い慣れた干将・莫耶位の物だろう。

 

 それでも後悔はない。生前なら考えられない事だ。

 

 精神が磨耗したおかげなのか、遠坂との約束のおかげなのか。

 

 どちらによってもたらされたものかは分らない。

 

 まあ、そのどちらでも構わない。

 

 どちらの結果が正しいかは、一目瞭然だからな。

 

 ~エミヤ視点終了~



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サウザンドアイズ

 空いた時間で何とか投稿しました!

 車の合宿で死にかけてます。マジでやばいです。

 どれくらいやばいかというと教習の時間の前になると腹が死ぬくらいやばいです。

 もうこの週の間ずっと腹壊してます。

 ノンフィクションで一作書くことができるくらいには死にかけてます。

 まあ、何が言いたいかというと昔投降したまんまなので一切手直ししてないですが許してくださいということです。

 ではどうぞ!


~光一視点~

 

「では、朝ごはんも食べ終わりましたしギフトの鑑定に向かいましょう!」

 

「断る」

 

「何で断ってるんですか! 抵抗は認めません! いきますよ!」

 

 黒ウサギが言った事に即座に返す十六夜。

 

 つくづく思う。本当にこいつ等昨日会ったばっかなのか?

 

「とりあえず行きますよ! もう連絡を入れてしまってるんですからね!」

 

「へいへい」

 

 十六夜がめんどくさそうに答える。

 

 久遠と春日部の二人は異論が無いようでおとなしく付いていく。

 

 さて、俺も向かうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺たちは“サウザンドアイズ”にやってきたのだがおかしな事態になった。

 

 サウザンドアイズの店員に鑑定に来たと言ったら“ノーネーム”お断りだと難癖をつけられた。

 

 “サウザンドアイズ”では規定で“ノーネーム”お断りらしい。

 

 そこで少しもめていると、なぞのどたばたという足音が聞こえてくる。

 

 その声は店の中から響いておりなぞの声まで聞こえてくる。

 

「いぃぃぃやほおぉぉぉぉぉぉ! 久しぶりだ黒ウサギイィィィィ!」

 

「きゃあーーーーー…………!」

 

 その声の主は黒ウサギに襲い掛かり、そのまま黒ウサギもろとも水路に落ちていった。

 

「……何だあれ?」

 

 そうつぶやくが誰も反応しない。

 

 いや、俺たちを追い返そうとした店員は気づいているだろうが右手で頭を抑えている。

 

「……おい定員。この店にはドッキリサービスがあるのか? なら俺も別バージョンで是非」

 

「ありません」

 

「なんなら有料でも」

 

「やりません」

 

 店員と十六夜がわりと真剣な表情で話している。

 

 何をやっているんだこの問題児?

 

「し、白夜叉様! ちょ、ちょっと離れてください!」

 

 白夜叉と呼ばれた着物風の服を着た真っ白い髪の少女を引き剥がして投げつける。

 

「てい」

 

 十六夜のほうに向かったそれは十六夜に足で受け止められる。

 

「ゴバァ!お、おんし、飛んできた初対面の美少女を足で受け止めるとは何様だ!」

 

「十六夜様だぜ。以後よろしく和装ロリ」

 

 ヤハハと笑いながら自己紹介をする十六夜。

 

「初対面の人間にむかってそれは無いだろう十六夜」

 

 そういってエミヤが十六夜の頭をはたく。

 

「あなたはこの店の人?」

 

 久遠が正気に戻って白夜叉と呼ばれた少女に話しかける。

 

「おお、そうだとも。この“サウザンドアイズ”の幹部で白夜叉様だよご令嬢。仕事の依頼ならおんしのその年齢のわりに発育がいい胸をワンタッチ生揉みで引き受けるぞ」

 

「オーナー。それでは売り上げが伸びません。ボスが怒ります」

 

 店員が白夜叉と呼ばれた少女(へんたい)を冷静にいさめる。

 

「うう…………まさか私まで濡れる事になるなんて」

 

 ざぱっ、と水から上がりながら黒ウサギがつぶやく。

 

「因果応報……かな」

 

「にゃーーおん」

 

 春日部が相変わらず淡々とした声で言う。

 

 そして抱えている猫もなにを言っているかは分らないが春日部に賛同しているように聞こえる。

 

「ふふん。お前達が黒ウサギの新しい同士か。異世界の人間が私の前に来たという事は……ついに黒ウサギが私のペットに」

 

「なりません! どういう起承転結があってそんな事になるんですか!」

 

 ふざけるように言う白夜叉に黒ウサギが怒る。

 

「まあいい。話があるなら中で聞こう。まあ、準備の真っ最中なのでな。私の私室で我慢してもらおう」

 

 そういって白夜叉が俺たちを店の中に招く。

 

 外に居た店員が何かをいいたそうにこっちを見ていたが諦めて店の準備に戻ったようだ。

 

 まあ、俺たちを入れないようにしていた店員は規則を守っていただけなので腹が立つのも仕方が無いのだろう。

 

 しかしオーナーの私室に招くだけなので文句は言えないようだ。

 

 

 

 通された部屋は純和風で着物姿の少女は上座に座る。

 

 俺たちも座って良いと言われて腰を下ろす。

 

「では、改めて自己紹介をしておこうかの。私は四桁の門、三三四五外門に本拠を構えている“サウザンドアイズ”幹部の白夜叉だ。この黒ウサギとは少々縁があってな。コミュニティが崩壊してからもちょくちょく手を貸してやっている器の大きな美少女だと認識しておいてくれ」

 

「はいはい、お世話になっております本当に」

 

 胸を張る白夜叉に投げやりに答える黒ウサギ。

 

 仲は悪くないのだろう。

 

 節々から信頼が見て取れる。

 

「その外門、って何?」

 

 春日部が白夜叉の言葉に対して質問をする。

 

「箱庭の階層を示す外壁にある門ですよ数字が若いほど都市の中心部に近く、同時に強大な力を持つ者たちが住んでいるのです」

 

 

 この箱庭は外門の数字の若さがおおよその強さを表しているのだろう。

 

「…………超巨大たまねぎ?」

 

「いえ、超巨大バームクーヘンではないかしら?」

 

「そうだな。どちらかといえばバームクーヘンだ」

 

 春日部、久遠、十六夜の順で口をそろえて言っている。

 

 そして三人は息を合わせてうん、とうなずく。

 

 それを見て黒ウサギは肩をおろすが、反対に白夜叉は呵呵と哄笑を挙げて二度三度うなずいた。

 

 ちなみにただいま空気のエミヤは外の準備を手伝いたいのか外をちらちら見ている。

 

 完全に上の空だ。

 

 そんなエミヤをよそに白夜叉は話し始める。

 

「ふふ、上手い事例える。その例えなら今居る七桁の外門はバームクーヘンの一番薄い皮の部分に当たるな。更に説明するならなら東西南北の四つの区切りの東側にあたり、外門のすぐ外は“世界の果て”と向かい合う場所になる。あそこにはコミュニティに所属していないものの強力なギフトを持ったもの達が棲んでおるぞ――昨日小僧が倒した蛇神のようなの」

 

 白夜叉は薄く笑って十六夜のほうを見る。

 

「まさか神格持ちの蛇神を素手で叩きのめすとはの。昨日聞いたときは心底驚いたぞ。して小僧。お主は神格もちか?」

 

「いえ、黒ウサギはそうは思いません。神格なら一目見れば分るはずですし」

 

「で黒ウサギ、神格ってなんなんだ?」

 

 俺は黒ウサギに聞く。

 

 神格とは生物としてのランクを最大まであげるギフトらしい。

 

 蛇が神格を持つと昨日の蛇神のようになり、人が持つと現人神や神童になるらしい。

 

 そして所有しているギフトの格もあがるらしい。

 

 なので神格を手に入れることをとりあえずの目標にしているコミュニティもあるらしい。

 

「まさかあやつが簡単にあしらわれるとはのう」

 

 白夜叉が何かを思い出すようにつぶやく。

 

「白夜叉様はあの蛇神様とお知り合いなのですか?」

 

「知り合いも何も、アレに神格を与えたのはこの私だぞ。もう何百年も前の話だがの」

 

 思ったよりこの世界も狭いみたいだな。

 

 まさか(十六夜が)昨日倒したやつの親分に会うなんてな。

 

 ~光一視点終了~



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白き夜の魔王

 今日はハイスクールD×Dのほうも投下する予定です!
 
 あと小説家になろうの方でオリジナルを投下してるので暇な方は見てください!

 二月中はできるだけがんばって毎日投下する予定です!


~エミヤ視点~

 

 昨日の蛇に力を与えた人物か。

 

 という事は相当の実力者か。

 

 昨日の蛇は威力こそ人体を軽く引きちぎれるくらいはあったが、勝てないわけではない。

 

 ではこの白夜叉という少女はどうだろう?

 

 私にどうにかできるような強さではあるまい。

 

 少なくとも魔力が空っ欠でまともに戦えない状態で戦うものではない。

 

「へえ? じゃあオマエはあのヘビより強いのか?」

 

「ちょっと待て! お前は何しようとしてるんだよ!」

 

 光一が珍しく止めに入る。

 

 何気にこいつはただの馬鹿にしか見えなくても敵の強さを測ったりする事は出来るらしい。

 

 まあ、他の異能の劣化コピーくらいしか出来ない光一が生き残るためには必要だったのだろう。

 

 しかし十六夜は大胆不敵な笑みを崩さずに白夜叉を見ている。

 

 よくよく見てみると久遠嬢も少し興味がありそうな目で見ている。

 

 春日部嬢があまり興味が無さそうにしているのは正直嬉しい。

 

「勿論喧嘩売ろうとしてるんだが? でオマエは強いのか?」

 

 十六夜はもう止まる気が無いように思える。

 

「ふふ当然だ。私は東側の“階層支配者(フロアマスター)”だぞ。この東側の四桁以下にあるコミュニティでは並ぶものが居ない、最強の主催者(ホスト)なのだからの」

 

 四桁以下のコミュニティ。

 

 つまり“ノーネーム”が二百十万五千三百八十外門に本拠を構えているという事は

 

 最低でもその数の――いやその数倍のコミュニティがこの箱庭には存在する。

 

 その中で三千三百四十五外門に本拠を構えられるだけの実力を持っている。

 

 神々が当たり前のように集って競い合っている中でそれだけの強さだ。

 

 どれだけ異常な力を持っていても十六夜にかなう相手ではない。

 

 「そう…………ふふ。ではつまり、貴女のゲームをクリアできれば、私達のコミュニティは東側で最強のコミュニティということになるのかしら?」

 

「無論、そうなるのう」

 

 久遠嬢が上手い具合に話をコントロールしている。

 

 十六夜が喧嘩を売ってそのままやられるということが無いように、喧嘩からゲームへと話を摩り替えている。

 

 コレには白夜叉も気づいていていそうだから、まだ若干経験が浅そうなところがあるもののたいした話術だ。

 

 ただ光一も気づいたのか首を縦に何度も振っているのがうざい。

 

「抜け目ない童達だ。依頼しておきながら、私にギフトゲームで挑むと?」

 

「え? ちょ、ちょっと御三人様!?」

 

 慌てる黒ウサギを白夜叉は右手で制す。

 

「良いよ黒ウサギ。私も遊び相手には常に餓えている」

 

 確か可能聞いた話だと強大な修羅神仏たちが力を持て余して始めたのがギフトゲームだったんだか。

 

 白夜叉もその例に漏れないらしい。

 

「ノリがいいわね。そういうの好きよ」

 

「ふふ、そうか。――――しかし、ゲームの前に一つ確認しておく事がある」

 

「なんだ?」

 

 少し楽しそうに話す白夜叉に対し、十六夜は大胆不敵な笑みでもって応対する。

 

 久遠嬢も似たようにうすく笑っている。

 

 しかし光一は自分の世界に入っているようだし、春日部嬢は無表情から変わらない。

 

 十六夜と久遠嬢は言わずもがな。

 

 この場で慌てているのは黒ウサギだけだ。

 

 慌てる黒ウサギをよそに白夜叉は懐から着物の裾から一枚のカードを取り出す。

 

 そのカードにはには“サウザンドアイズ”の旗印、向かい合う双女神の紋が入っている。

 

 そして壮絶な笑みを浮かべて言う。

 

 

 

「おんしらが望むのは“挑戦”か――――もしくは“決闘”か?」

 

 

 

 その瞬間。

 

 私の知っているものとは少しだけ(・・・・)違ったものが現れる。

 

 視覚が意味をなくし、脳をさまざまな場所が頭の中で回りだす。

 

 その中に見覚えがあるものとは少し違っているが、黄金色の穂波が揺れる草原があった。

 

 さまざまな場所の流転が終わり、一番最後に投げ出されたのは白い雪原と凍る湖畔――――そして太陽が水平に廻る世界だった。

 

「……なっ」

 

 その場の全員が言葉も無く驚愕する。

 

 固有結界(リアリティ・マーブル)のような物ではなく、別のところから空間を持ってきたような感じだろうか。

 

「今一度名乗りなおし、問おうかの。私は“白き夜の魔王”――――太陽と白夜の星霊・白夜叉。おんしらが望むのは、試練への挑戦か? それとも対等な決闘か?」

 

 白夜叉の言う“星霊”とは惑星より大きい星の主精霊だ。

 

 妖精、鬼、悪魔などの概念の最上位でほとんど神みたいなものだ。

 

 そしてさまざまな伝記などに残るように力を――――ギフトを与える側の存在だ。

 

 ならば昨日の蛇についても納得できる。

 

 十六夜は驚愕に目を開きながらもつぶやく。

 

「水平に廻る太陽と…………そうか、白夜と夜叉。あの水平に廻る太陽やこの土地は、オマエを表現してるって事か」

 

「如何にも。この白夜の湖畔と雪原。永遠に世界を薄明に照らす太陽こそ、私が持つゲーム盤の一つだ」

 

 白夜叉が両手を広げると、遥か遠くのほうまで雲が裂け、太陽を浮かび上がらせる。

 

 白夜とは北欧のほうで見られる太陽が沈まない現象。

 

 更に夜叉とは人を殺す鬼のイメージが強いが、水と大地の神霊の事でもある。

 

 そしてこの箱庭で最強種と名高い、

 

 生来の神霊、

 

 星霊。

 

 龍の純血。

 

 この内の二つの属性である白夜叉は間違いなく強大な力を持った者だ。

 

 間違っても十六夜たちでかなう相手ではない。

 

「これだけ莫大な土地が、ただのゲーム盤…………!?」

 

「如何にも。して、おんしらの返答は? “挑戦”であるならば、手慰み程度に遊んでやる。――だがしかし“決闘”を望むのなら話は別。魔王として、命と誇りの限り戦おうではないか」

 

 春日部嬢は勿論、さっきまで威勢の良かった久遠嬢や、大胆不敵な笑みをこの光景を見るまで崩していなかった十六夜たちが返答に詰まる。

 

 しかし、自分達が売った喧嘩を簡単に取り下げたくなくて悩んでいるようだな。

 

 まあ、ここで決闘だ何ぞほざいたら拳骨を落とす事は間違い無しだがな。

 

 静寂がこの場を支配して、その終わりを告げたのは十六夜だった。

 

 十六夜は両手を挙げながら諦めたように言った。

 

「参った。やられたよ。降参だ、白夜叉」

 

「ふむ? それは決闘ではなく、試験を受けるという事かの?」

 

「ああ。これだけのゲーム盤を用意できるんだからな。アンタには資格がある。――いいぜ。今回は黙って試されてやるよ、魔王様」

 

 白夜叉は十六夜の“試されてやる”などというささやかな意地の張り方を高らかに笑い飛ばした。

 

 そしてひとしきり笑いきるとこっちを向く。

 

「く、くく……して、他の者達も同様か?」

 

 春日部嬢も久遠嬢も十六夜に習って“試されてやる”といってうなずいた。

 

「して、そこの白髪の二人はどうする?」

 

「私は別に何でも構わないが?」

 

 それよりさりげなくこの人工白髪と一緒にされた事のほうが遺憾だ。

 

 というかもうすでに人の話を聞いていない。

 

 この場所に来たときから目をらんらんと輝かせてあたりを見つめる事に必死だ。

 

 偶に考えるような仕草を取っている事から、おそらく自分でもこの世界を作れないか悩んでいるのだろう。

 

 先ほどまでの非常に緊迫した中ですらこいつの態度は微塵もゆれていなかった。

 

 一週回ってすごいと思える度胸だ。

 

 それを見た白夜叉は目をまん丸に開いた後また笑い出した。

 

 そこでようやく自分が周囲の視線を集めていると知ったのかこっちを見渡して言う。

 

「フッ。ようやく俺のかっこよさに気づいたか」

 

 ドヤ顔でそんな事をのたまったこいつを反射的に殴った私は間違っていない。

 

 ~エミヤ視点終了~




光一「何だここ? いつの間にこんなところに?」

エミヤ「分らんが、またお前のポケットの中に手紙が入っているようだぞ? そこに何か書いてるのではないか?」

光一「あ、ほんとだ。なになに? 『舞台裏的なのやってみたくなっちゃったから任せた! あ、評判悪かったら次回からはなくなるんで安心してくださいね~ by英雄好きの馬鹿』だって?」

エミヤ「どうせ思い付きだろう。続かないに決まっている。それに私に贈られた手紙には違うことが書いてあるようだ」

光一「? なんて書いてあるんだ?」

エミヤ「ああ、今読む。ふむ。『よくよく思い返してみたら原作一巻の最後で外でご飯食べてるんだから長机くらいあるよね? 十五話でエミヤさんわざわざ机が作る必要なかったんじゃね? by英雄好きの馬鹿』」

光一「……確かにな。なんで机くらいあるかどうか確かめなかったんだ?」

エミヤ「……思い立ったら吉日と言わんばかりに各部屋に運ぶと聞いた瞬間から作り始めてしまったのだ。それで黒ウサギの表情が微妙だったのか……はは」

光一「お、おーいエミヤー! 駄目だ、遠い眼をしてやがるッ! と、とりあえずこのコーナーは終わりだ! おーい! しっかりしろエミヤ! 無駄だったからってそんな落ち込むなー!」


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中二病の一念

 ~光一視点~

 

 なんだここは!

 

 まさにすごいという言葉しか出てこない!

 

 一瞬で世界を展開できるんだぞ!

 

 これは驚くしかないだろう!

 

 俺も『付け焼刃(イカロスブレイブ)』を使えば出来るのか?

 

 出来るとしても相当なイメージを固めなければならないな。

 

 後で聞けるのならここがどういう風に作ってるのかを白夜叉に聞いてみて、足りない部分を他の能力で補ってやれば…………。

 

 ん? 

 

 そこまで考えてからようやく周りのやつらの顔を見てみる。

 

 なぜだかは知らないがなんか注目されている。

 

「フッ。ようやく俺のかっこよさに気づいたか」

 

 決め顔で言ってみたらエミヤに拳骨を落とされる。なんなんだ一体。

 

 なぜか白夜叉は爆笑している。

 

 黒ウサギですらあきれた表情をしている。十六夜、久遠の二人も同様の様子であきれているようだ。まあその中でも春日部だけは無表情でいるが。

 

 良く状況が読み込めないが、取りあえずは白夜叉が笑い終えるまで待てば答えは出るだろう。

 

 三分くらい待った後、白夜叉が笑い終えたのかこっちを見て言う。

 

「そこのおぬし名前はなんという?」

 

「フッ。俺の名前は佐藤光一だ。よろしく頼む」

 

 ニヒルな笑みを作って返す。

 

「うむ。覚えておこう。おぬしのようなのはなかなかおるまい」

 

 白夜叉はまだ笑い足りない様子だが、取りあえず俺のことを悪くは思っていないと思われる。

 

「で、元魔王様はどうやって俺たちを試すんだ?」

 

 十六夜が待ちきれなくなったのか、いまだに笑いが収まりきっていない白夜叉を催促するようにいう。

 

 白夜叉はあごに手を当てて考え込んでいるようだ。なかなか良い試練が思いつかないのだろう。

 

 そのとき遠くのほうにある山から甲高い声が聞こえてくる。なんかの動物のようだ。

 

 春日部はその謎の声にいち早く反応して、声が聞こえたほうに素早く振り向く。

 

「何、今の鳴き声。初めて聞いた」

 

 春日部が不思議そうに声のしたほうを眺めているると、白夜叉が何かを思いついたように言う。

 

「ふむ…………あやつか。おんしら五人を試すのには打って付けかもしれんの」

 

 白夜叉はそうつぶやいて甲高い声が聞こえてきたほうに手招きする。

 

 すると遠くのほうから何かがやってきた。だんだんと近づいてくる影は、相当な遠くにいるのに、鳥ではないということだけはわかる。羽は確かにあるが、それでも鳥では無いと断言できる。

 

 それは俺たちの近くまでやってくると羽をたたんだ。

 

 そいつは体長五メーターはある巨体で、鷲の上半身と獅子の下半身の生物だった。

 

「グリフォン…………嘘、本物!?」

 

 これまでほとんど感情をあらわにしていなかった春日部がとても驚きながら口を押さえる。

 

「フフン、如何にも。あやつこそ鳥の王にして獣の王。“力”“知恵”“勇気”の全てを備えた、ギフトゲームを代表する獣だ」

 

 白夜叉が胸を張りながら自慢するように言う。

 

 それにしてもまさかグリフォンと会える日が来ると思わなかった。鳥と獣の王か。後は空と大地の生物の王ってことは、後は海の生物も足したら生物の王になるんじゃね?

 

「さて、肝心の試練だがの。おんしら五人とこのグリフォンで鬼ごっこをしてもらう。そして王の背中にまたがって湖畔を一周できたらクリアだ」

 

「へ? 鬼ごっこ? あのタッチしたら鬼になるやつ?」

 

 俺は白夜叉の言葉にまぬけな声を上げてしまう。鬼ごっこだぜ?

 

 白夜叉は俺に向かってちっちっちと指を振ると俺の考えを引きしめるように説明をしてくれる。

 

「鬼ごっこといっても“力”“知恵”“勇気”の全てを使うようになっておる。おぬし等でも簡単にはクリアできんぞ?」

 

 白夜叉はそういうとパンパンと拍手を打つと虚空からいちまいの羊皮紙が現れる。

 

 

 

『ギフトゲーム名 “王の捕縛”

 

 ・プレイヤー一覧

  ・逆廻 十六夜

  ・久遠 飛鳥

  ・春日部 耀

  ・佐藤 光一

  ・エミヤ シロウ

 

 ・ゲームルール 

  ・右手のひらで触れると捕縛する事が出来る。

  ・一度右手で触れて捕縛した場合、ゲームをリタイアとする。

  ・捕縛後、王の背中に乗り湖畔を一周する事によりゲームクリア。

 

 ・クリア条件

  ・王を捕まえて湖畔を一周する。

  ・敗北条件に引っかからないこと。

 ・敗北条件

  ・王を捕まえられなかったとき。

  ・プレイヤーが全員捕縛できなくなったとき。

  ・降参したとき。

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

“サウザンドアイズ”印』

 

 

「私がグリフォンに乗る」

 

 ルール(『契約書類(ギアスロール)』というらしい)を読み終えるやいなやピシ! っと指先まで綺麗に挙手したのは春日部だ。

 

「私はかまわないわ。どうせ落ちてしまうでしょうしね」

 

「俺もかまわない。捕まえるほうが面白そうだ」

 

「私もだ。乗りたいというなら乗ればいい」

 

 久遠、十六夜、エミヤの順に春日部に許可を出す。その次に春日部の視線は俺のほうにも向いてくる。

 

「俺もいいぞ。別に乗りたいとも思ってないしな」

 

 俺も少し考えてみたが、春日部に譲る。特に乗りたい訳ではないからな。乗りたい人が乗ればいい。……それにもうドナられるのは嫌だ。

 

 全員から承諾されると春日部は小さくガッツポーズをしていた。グリフォンに凄い乗ってみたかったのだろう。

 

「おし。じゃあ俺たちはあのグリフォンを捕まえればいいんだろ?」

 

 みんなに問いかける。

 

「らしいな。確か久遠嬢は相手を支配することが出来るのだったな? それで動かないようにしてもらえるかな? その間に十六夜と私が捕まえよう」

 

 エミヤは十六夜と久遠に作戦を伝え始める。俺も穴がないようには思える。

 

「分ったわ。取り逃すことなんて無い様にしなさいよ?」

 

「誰が取り逃がすかよ。ま、お嬢様が捕まえ損ねたとしてもなんとかしてやるよ」

 

 上から目線でツンデレな事を言う久遠に十六夜が突っかかる。

 

 しかしそれ以上発展することなく春日部が言う。

 

「それじゃあ初めでいいのかな? そっちも準備できてる?」

 

 春日部がグリフォンに向かって至って普通に準備ができてるかを聞いている。

 

 するとグリフォンが驚いた様子で春日部を見る。……俺には言葉はわからないがな。

 

 春日部は猫だけじゃなくてグリフォンとも話せるのか。…………使い勝手のよさそうな能力でいいな。

 

 俺の『付け焼刃(イカロスブレイブ)』なんて虚仮脅しにくらいしか使えなかったのになあ。

 

 それを見て白夜叉は驚いていた。

 

 やはりこの幻獣や神獣がたくさん居るらしい、この箱庭では春日部のギフトは使い勝手がいいのだろう。

 

 本当に俺の『付け焼刃(イカロスブレイブ)』はどんだけだったんだよ……。

 

「もう初めてもいいって」

 

 春日部がグリフォンのほうも準備が整っていることを教えてくれる。

 

「そうか。行くぞ!」

 

 春日部の言葉を聞くなり、十六夜が一気にグリフォンの元まで踏み込む。

 

 速すぎるだろう! せめて合図くらいしてから行けよ!

 

 白夜叉もエミヤも感心した様子で見ている。……なぜだ? これが普通なのか?

 

 十六夜の反則にも思えるほどのスタートの速さに対し、グリフォンのほうも幻獣としての意地からか初撃は空を飛んで回避する。

 

 しかし十六夜は羨ましすぎる反射神経で切り替えして空に跳躍し、グリフォンの腹に右手で触れた。

 

 その瞬間にグリフォンの両手両足は縛られて落ちてくる。

 

 捕縛は成功したようだ。

 

 そしてグリフォンが地面に落ちると同時に十六夜は白夜叉や黒ウサギの居るところまで転送されていった。

 

 ルールにのっとってリタイアしたのだろう。

 

「初めまして春日部 耀です。えーっと。ゲームのルールだから貴女の背中に乗せてもらうね?」

 

 春日部は捕まえたグリフォンの元へ行き話しかける。グリフォンと対話しているようでグリフォンの鳴き声も聞こえてくる。

 

 しかし春日部の顔が見る見るうちに青ざめていく。

 

「みんな! まだゲームは終わってないよ! 向こうのほうからもっといっぱいグリフォンが来るって!」

 

「何!? 一匹だけではなかったのか!」

 

 エミヤが苦虫を噛み潰したようにいう。

 

 グリフォンはいっぱいいたという事は王が別に居るという事か!

 

 見れば向かってくるグリフォンの数は二百体は居るだろう。

 

「なら今度はあいつ等の中から王を見つけないと!」

 

「いや、それでは駄目だろう。敗北条件に王を捕まえられなかったときと書いてある。つまり鳥と獣の王であるグリフォンは全て捕まえなければならない。右手で捕まえられるという事はブラフだ!」

 

「という事は右手で捕まえるのではなく自分達のギフトで捕まえなければならないという事かしら?」

 

「おそらくそうだろう。そしてすでにリタイアになった十六夜は参加できない」

 

 エミヤが顔をしかめながら言う。久遠もエミヤの言葉で気付いたようだが、既に状況は悪くなり始めている。

 

 つまり、まとめると。

 

 ルールで指定されている右手で捕まえられるのは一体までで、自分たちの力で捕まえなければならなくて。

 

 なのに敵の数は二百は居て。

 

 春日部はルール上リタイアになったらだめだから捕縛に加われなくて。

 

 絶大な戦力であった十六夜は既にリタイアしている状況で。

 

 その次に身体能力が高いエミヤは朝の時点で魔力がほとんど切れている状態。

 

 満足に運用できる戦力は、久遠と俺のみだ。

 

 既に詰みかけている気もするが何とかするしかない。

 

「捕まえるって事は動けなくすればいいんだろう?」

 

「……おそらくそうだ。何か思いついたのか?」

 

「私達だけでグリフォンを捕まえる方法を?」

 

「……しかも二百匹も?」

 

 エミヤと久遠と春日部が聞いてくる。

 

「ああ、エミヤも久遠も協力してくれ」

 

 それに俺は一切の迷いなく答える。そしてすぐに作戦を伝える。

 

 一応は分ってもらえたようなのですぐにでも準備を始める。

 

 俺達の初ギフトゲームなんだ。

 

 絶対に負けたくない。

 

 ~光一視点終了~

 




光一「はい。今回で舞台裏コーナーの二回目だ! よろしく頼む! 俺、佐藤光一とエミヤことエミヤシロウがこの話の説明不足なところや質問などをやる場所だ! 質問どしどし送ってくれ!」

エミヤ「なんかもうお前二回目にして慣れてないか? 一回目と二回目の間に何があったんだ……」

光一「ああ、なんと俺の出ているドラマCDを作者がようやく手に入れられたらしい!そのおかげで今日更新ということになったらしい!」

エミヤ「ああ、それでか。どこかの馬鹿のテンションが上がり、それにつられてこっちの馬鹿もさらにテンションが上がっていると。納得だ」

光一「ああ、近場には一切なかったのが秋葉原に行ったらあったらしいぞ!」

エミヤ「ふむ。相当中の人が豪華らしいな。……一巻の時点でどれだけ期待されていたんだ」

光一「そりゃあ、最終的には他では類をみないほどの規模で世界を救った英雄だからな!」

エミヤ「……だんだんいらついてくるな」

光一「さあ、褒めろ! もっと俺を褒めるんだ! ふっははあっはははは!」

エミヤ「……すまんな手が滑るようだ」

光一「そげぶっ!」

エミヤ「うるさいのが沈黙したところでここからは宣伝だ。
    RE:バカは世界を救えるか? のドラマCDとライトノベルは好評発売中だ。気になった方はぜひ購入してくれ。私からは以上だ。




……しかしどちらかが黙らないとこのコーナーは終わらないなんていう呪いでもかかっているのか? 今回と言い前回といい。……偶然だといいんだがな」


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勝つための作戦

 ~エミヤ視点~

 

 光一から聞かされた作戦は別に特別なものではなかった。

 

 大体の人が捕まえると聞いたら想像できる事だろう。

 

 しかしそれを実行できるだけの作戦のつめ方が出来る奴はそう居ない。

 

 敵は数多くの本に出てきている幻獣。

 

 それも二百匹以上だ。

 

 更に言うとルール上右手を使えば一人は捕まえる事が出来るが、こちらの人数は三人。

 

 到底足りない数だ。

 

 つまり右手で相手に触れる事をせずに、空からやってくるグリフォンを飛ぶ事の出来ない私達が倒さなければならない。

 

 それを光一は、作戦を思い付いてからみんなに伝えるまでにかかった時間十秒。作戦をつめるのに要した時間五秒。

 

 たったこれだけの時間で思いつけるのは感心する。

 

 こいつがサーヴァントになったら心眼でも持っている事だろう。

 

 私も持っているがこいつの場合は、私の固有結界よりも遥かに使い勝手が悪い力、いやここではギフトか。使い勝手の悪いギフトだが応用の幅はいくらでもある。

 

 その分奇をてらう事が私よりも容易であろう。

 

 そして奇をてらうという事は予想し得ない別の勝利の可能性を生み出すことでもある。

 

 それが光一の強さなのだろう。

 

 

 

 

 

「よし。準備が出来たぞ!」

 

 そういって光一は立ち上がる。準備が出来たようだ。

 

「ねえ、本当にこれで出来るのかしら?」

 

 久遠嬢が不安そうに言う。

 

 まあ、それもしょうがない。光一がやっていた準備とは――――

 

「うむ! なかなか上手く描けた」

 

 ――――お絵描きだ。それも特大の。大きさは五百メートル四方くらい。

 

 紙を作ったのは私で、書いたのは光一だ。これを書くのに要した時間は二十秒。

 

 出来るだけ急いだがこれでも頑張ったほうだろう。

 

 しかし作戦を立てる時間のほうが短い位だな。

 

 このグリフォンが今の速度のままだと十秒後には私達が攻撃できる範囲くらいまで到着するだろう。

 

 はあ、私も初めて見た時にはものの見事にはまったからな。

 

 そこそこ良いの力なんだろうが、準備が必要な分すぐに使う事は難しいだろう。

 

「じゃあ久遠。俺が合図したらギフトを使ってくれ」

 

「命令されるのは尺だけど我慢してあげるわ。でも、失敗したら何をしてもらいましょうかね?」

 

「ああ、なんでも一つ言うことを聞いてやるよ。――――良し! 今だっ!」

 

「グリフォン達! 近くの物を捕らえて牢屋に入れなさい!!」

 

 久遠はグリフォンに命令(・・)する。

 

 その言葉はグリフォンに届くと同時に、何十体かのグリフォンは久遠嬢が命令したとおりのことをやり始める。

 

 すごいギフトだ。

 

 昨日聞いた時も凄いとは思ったが、まさか命令するだけで一度に複数体の幻獣を支配下に置くとはな。

 

 久遠嬢のギフトは聞いたところによると、何かを操るものらしい。

 

 彼女は生まれつきこの力を持っていて、命令すれば何でも言うとおりになってしまう世界で生きてきたらしい。

 

 そしてそんなときに黒ウサギからの箱庭への招待状が届いてこの箱庭にやって来たと言っていた。

 

 その結果はたった一言でグリフォンの群れを一網打尽にする。

 

 久遠嬢の命令を聞いたグリフォン達は命令の通りに久遠嬢が操りきれなかった者たちを捕まえる。

 

 そしてその様子を見た光一は右手を無駄に掲げて格好つけながら指を弾く。

 

「――ようこそ『無能箱庭(アルカトラズ)』へ」

 

 瞬間。

 

 さっきまで書いていた絵は見事に具現化する。絵といっても唯四角いだけの枠なのだが。

 

 それに従って具現化するのは五十メートル四方くらいの絵を描いた十分の一ほどのサイズの壁。

 

 久遠嬢の命令でグリフォン達は味方を捕まえて光一が作った檻の中へと連れて行く。

 

 それでも久遠嬢が操りきれなかった分のグリフォンはまだ五十は居るだろう。

 

 その残ったグリフォン達を殲滅するのが私の役目だ。

 

 朝から少しずつ貯めていた魔力を使って弓と矢を作り上げる。

 

 私が矢を出せるということは光一と出会ったときにフルンティング使った事で分っていたらしい。

 

 更に朝みんなでご飯を食べるために机を作った時に日用品も作れるのでは?

 

 といった疑問から紙を作れるだろうという事で私に墨の滲みやすい障子と墨汁のセットを作る事を依頼してきた。

 

 しかもその形状は何重にも折りたたまれている状態で投影しろとまで注文してくる。

 

 光一が墨で書くと網目状の模様ができる。これは一つ一つにグリフォンを容れる事が出来るのだろう。

 

 着実にやってきていたグリフォン達の中でも久遠嬢が打ち漏らしたのを矢で射り、壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)で矢を爆発させれば一撃で落とす事も可能だろう。

 

 更に言うと光一に言われて確信が持てたがグリフォンは翼を使って飛んでいるのではなく風を踏みしめるようにして飛んでいる。

 

 だから足を狙えば落とす事も可能そうだ。

 

 簡単な役割を決めるだけのような作戦だが必要なものは全て揃っている。

 

 捕まえるための檻。

 

 大多数を減らせる力。

 

 打ち漏らしをカバーできる技術。

 

 そしてクリア条件の捕まえた後にグリフォンに乗って湖畔を一周できる人。

 

 全てが揃っているのならグリフォンだろうと最後の一匹になるのに時間はかからなかった。

 

 

 

 

 

 しかし予想外の事がおきる。

 

 最後の一匹だけは他のグリフォンの数倍は速く動いているのだ。

 

 あまつさえ風を踏みしめているときに使っているギフトなのか風を使って反撃までしてきている。

 

 それにまず久遠嬢がやられる。

 

 久遠嬢のギフトは体は強化されないので風に当たって吹き飛んだ後気を失ってしまった。

 

 春日部嬢は私が庇っていたので問題は無いが矢を射ったせいで魔力が空っぽだ。

 

 そして春日部嬢はやられるわけに行かず、私はもう魔力切れでここで春日部嬢を守っている事くらいしか出来ないだろう。

 

「光一。行けるか?」

 

「ああ、任せておけ。そっちも春日部を頼んだ」

 

 なので光一に全て投げる。

 

 大分記憶は擦れてはいるが、彼女の事は思い出せる。

 

 その記憶の中で遠坂に言われた事がある。

 

 “もっと自分を大事にしなさい!”

 

 とか

 

 “もっと仲間を頼りなさい!”

 

 とかだ。

 

 という事で光一にまるな……いや、光一を頼ろう。

 

 だから文句を言われても遠坂のせいだからな?

 

 ~エミヤ視点終了~




光一「第三回舞台裏コーナーだ! 質問とかあったらどんどん送ってくれ!」

エミヤ「ところでだが、私がドラ○もんのような扱いを受けているような気がするのだが気のせいか? 当たり前のように作戦の中で紙を出せとは……」

光一「べ、便利なんだから仕方がないだろう! ……それに俺がコピーした『投影』だと二百匹以上もいるグリフォンを覆えるサイズのさらに十倍なんて紙出せないしな」

エミヤ「それはそうだが、最近まともに出したものがただの矢だけだぞ? 少し前のイスと机は自分の判断だが、椅子に机に墨に……。私は雑貨屋か!」

光一「自分で突っ込むな! というかおまえは元からドラ○もんみたいな扱いだから心配するな! 他の二次創作でも魔術消すために『破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)』。出したりしてるだろ。というか本家本元より使ってるんじゃないのか?」

エミヤ「……確かにな。原作でも最初にやったのは家を直すことだったな」

光一「つまりお前の待遇はほとんど変わっていないということだ!」

エミヤ「…………いっそエミえもんにでも改名するか」

光一「……炊事洗濯から日曜大工、しかも雑貨まで出せるし、不思議な宝具も出せるし戦闘力は言うまでもない万能ロボットだな」

エミヤ「私は機械ではないがな」

光一「でもお前って体は剣で出来てるんだから無機ぶっ!」

エミヤ「おやおや。余計なことに気付きそうになった愚か者は疲れているらしいな。では今回はこれで閉めとさせてもらおう」


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決着

なんかエミヤさん活躍会は一巻の内には来なさそうですね……

まあ、あせらずじっくりとやっていきます!

……そういえばきんようびに更新できたのなんて久しぶりの気がしますね。


 〜光一視点〜

 

 さてと。

 

 ノリで任せろなんていっちまったけどどうするか。

 

 俺が今使える能力の中で遠距離まで攻撃できるものは驚くほど少ない。

 

 ただ遠くまで届くというだけならある。

 

 だが、グリフォンを倒せるほどの威力の高さの能力なんて持っていない。というか持っていたら苦労していない。

 

 だからまず俺がやらなければいけないことはグリフォンの制空権を奪う事だ。

 

 今グリフォンが優位な点は空を飛んでいるという点だけ。

 

 もし地上に落ちればエミヤが肉弾戦で片付ける事も出来る。

 

 更に春日部の動物と話す事が出来、なおかつ友達になった動物の性能を手に入れるギフトは、虎の身体能力とゴリラの腕力を同時に振るう事も出来る。

 

 確実に勝てるとは言わないが善戦できる。

 

 それに俺だって少しは役に立てる。…………多分。

 

 だから俺がやらなければならないことはグリフォンを落とす事だ。

 

 他のグリフォンは『無能箱庭(アルカトラズ)』で作った異能無効化空間で捕らえているから平気だ。

 

 だから今はあいつの事だけを倒せばいい。

 

「なあ、エミヤ。後何発矢を打てる?」

 

「ん? ああ。あと一発くらいならぎりぎりだな。しかしあれを倒す事は不可能なくらいだがな」

 

 やれやれと肩をすぼめるエミヤ。しかしエミヤは簡単にいうものの額に汗が浮かんでいるので間違いはないだろう。

 

 額の汗には気づかないふりをしながら話を先に進める。

 

 エミヤはおそらく俺が気づいたことに気付いているだろうが、それでも春日部や久遠に不信感を与えるよりはいい。

 

「それでいい。試したい事があるんだ」

 

「何をすればいい?」

 

 エミヤがこっちを見据えて聞いてくる。久遠もこっちに注目しているし、春日部もいつもの我関せずといったものではなく、聞き入るようにこっちを見ている。

 

「あのグリフォンの足にへろへろの矢を一発打ってくれ」

 

「了解した。――投影開始(トレース・オン)

 

 エミヤは一切の躊躇をすることなく矢を作り出して注文どおりの一撃を放つ。

 

 こいつもそれなりに信用してくれているようで少し嬉しい。

 

 へろへろの矢はグリフォンに飛んでいって足元で軌道を変えて見当違いの方向へ飛んでいく。

 

 ――思ったとおりだ。

 

 やっぱり『空気を固定してそこを翔けて飛ぶ』というギフトではなく『風を操る』というギフトで飛んでいる。

 

 だったら手の打ちようはある。

 

「春日部。そのギフト貰うぞ?」

 

 春日部は口を開かずにうなずく。

 

 それを確認して指を弾く。

 

 ぱちん! という音と共に春日部のギフトを発動する。

 

 春日部は先ほどギフトを使ってグリフォンと会話をしていた。

 

 それをコピーしたのだ。

 

 まあもっとも全ての動物と話せるであろう春日部のギフトだが、俺はそんな事はできない。

 

 だから『付け焼刃(イカロスブレイブ)』のコピーした異能の性能をひとつだけ伸ばすという性能を使って、グリフォンとだけ話せるようにした。

 

 その代わり他の動物との意思の疎通は出来ないが今は十分だ。

 

『なあ、そこの飛んでるグリフォン。お前は逃げ回ってるだけだが鷲と獅子の王として恥ずかしくないのか?』

 

『何! そこの小娘だけでなく小僧までわし等と言葉を交わすか!』

 

 グリフォンが激高しながら暴風を放ってくる。それを隠れて発動させ、体重を十倍にする劣化版『超越者(ギガ)』を使ってなんでもないように振る舞う。

 

『フッ、当たり前だ。この俺を誰だと思っている。動物とぐらい会話出来るに決まっているだろう? まあ、それに比べて鷲と獅子の王の割に空を逃げまわることと、俺一人吹き飛ばせないくらいの微風しか起こせない奴ができないのか…… 王なんて言葉が聞いてあきれるぜ』

 

『はっ! 私を空から引きおろそうとしているようだが無駄だぞ! そんな手には乗るか!』

 

 その言葉と共にさっきより強い爆風が襲い掛かってくる。

 

 それをかがんで耐える。

 

 グリフォンは飛び続けることを選んだようだ。ならもう遠慮はしない。

 

『ならせいぜい落ちたときの事でも考えときな!』

 

 そう言って会話は終わる。警告の期間はとうに過ぎた。

 

 ここからは俺の独壇場。

 

 鷲獅子なんかに負けはしないと確信する。

 

「こんなに早く使う予定は無かったんだけどなぁ」

 

 俺は一人ぼやくように言う。

 

 そこに居る全員が何の事か分らない、みたいな表情をしている。だが、俺に期待の視線は向けてきてくれている。

 

 さあ。

 

 想像するのは空を翔け、風を操るグリフォンの姿。

 

 先ほどの攻撃で攻撃範囲も五百メートルはあることが分った。

 

 なら後は使うだけだ。

 

 指を弾く体制を整え、腕を高く上げ、グリフォン()を右目でにらみつける。

 

 左目は自分の想像を強く思い描く。

 

 強く強く。

 

 決してイメージだけは劣化させないように。

 

 全てをの想像を能力に込めてして指を弾く。

 

 ぱちんっ!

 

 

 

 

「――五十六億の救いをここに『蝋の翼の救世主(ボーンヘッドブレイバー)』」

 

 

 

 

 俺が指を弾いても何も変わらない。

 

 俺が何をするか注目をしていた全員が俺の周りの変化を捉えようとするがそんなものは無い。

 

「何も起こらないじゃないですか! こんなときに冗談は――――」

 

 黒ウサギが焦ったように叫ぶ。

 

 だけどその場の全員が気づいたのだろう。

 

 ――――グリフォンの動きがおかしい事に。

 

 嵐に舞う大木のように。

 

 海流にのまれるボートのように。

 

 大地震に翻弄される家具のように。

 

 グリフォンは空中で暴れていた。

 

 何もコントロールできないまま墜落していく。

 

「な、何が起きたの?」

 

 いつの間にか目を覚ましていた久遠がお嬢様らしい態度をほうけるような顔で上書きして聞いてくる。

 

「ああ、風を操れなくしただけだ」

 

「劣化コピーの能力ではあのグリフォンの風を操る力を押さえつけるほど風を操れるものでは無いはずだが?」

 

 エミヤも不思議そうに眉をひそめながら聞いてくる。

 

「ああ、そうだな。俺の『付け焼刃(イカロスブレイブ)』じゃあんな遠くまで届かないし、風の制御なんて出来てお祭りで売ってる扇風機より弱いだろうな」

 

「じゃあ、何をしたの?」

 

 今度は春日部が目を大きく開きながら聞いてくる。

 

「性能を反転させたんだ。風を操る異能の反対は風を暴走させる異能になるからな」

 

「もったいぶらずに教えろよ。オマエは一体そんなことをどんな手段でやったんだ?」

 

 今度は十六夜がなぞなぞの答えがたわからずにやきもきする純粋な少年のように聞いてくる。

 

 俺はそれらに向かってニヒルな笑みを向けて答える。

 

「フッ。男には秘密の一つ二つあるものさ」

 

 そう言った瞬間に青筋を浮かべた久遠とエミヤの強力プレイでシャイニングウィザードをくらった。

 

~光一視点続く~




光一「見たか俺の活躍を! かっこよかっただろ!」

エミヤ「……その自画自賛がなければ少しは恰好も付いたものだがな。もはや一種の才能かと思えてしまうほどだな」

光一「あと、少し前の感想で喜助伊洋さんが言ってた『蝋の翼の救世主(ボーンヘッドブレイバー)』が使えるかってのは本編の通り使えるぜ! ……ただ、もう少しだけ隠しておきたかったんだが、白夜叉とグリフォン達以外は仲間しかいないから大丈夫かと思ってな」

エミヤ「つまり隠し玉をもうすでに使ってしまって光一に隠された能力なんてもうほとんどない状態なわけか」

光一「仕方がないだろ! ……この中で俺だけ基本スペックが低いんだぞ! 異世界からやってきた三人なんて支配能力、動物の能力を手に入れる能力、挙句の果てにはチートみたいな馬鹿力だぞ! 他にもエミヤなんてドラ○もんだし、黒ウサギもさらっと強そうだし! ま、俺の隠し玉はこれで全部じゃないけどな。千五百万年生きてれば少しくらい裏技も出来るが、まあ、それは追々出ていくと思うぞ」

エミヤ「さすがに全能力はさらして無い様で安心したが、今までのとは違ってやたらと使い勝手のいい能力だな」

光一「まあな。『付け焼刃(イカロスブレイブ)』は『蝋の翼の救世主(ボーンヘッドブレイバー)』の下位互換みたいなもんだし、今はなくなったけどその分代償も少ない低燃費、最低性能のギフトだからな」

エミヤ「性能はどのくらいまで上がっているんだ? この話では分らないのだが」

光一「ああ、それは次の話で話す予定だ」

エミヤ「ちなみに今光一は鼻を押さえて悶絶している原因のシャイニングウィザードとは、相手が片膝を立てた状態の時に、相手の膝を駆け上がりながら顔面にひざ蹴りを放つという大変危険な技だ。まあ、相手が片膝をついてなくても駆け上がりながら使える技でもあるから、今回私と久遠嬢が使ったのはそちらだな。大変危険なので光一以外にはやらないように」

光一「俺相手にもやるなよ! マジで痛いんだぞ!」

エミヤ「ということで今回は長くなったが、これで絞めとしよう」

光一「あれ? 閉めの字が間違ってないか?」

エミヤ「いや、これから絞め落とす予定だから問題はない。このコーナーは誰かがしゃべれなくならないと終わらないみたいなのでな。こんなに長く続いてしまっているしな」

光一「た、確かに、本編の三分の一を、超えてるがッ! っというか別に俺を絞める必要は……ない……」

エミヤ「ようやく落ちたか。それでは次の投稿の時にまた会おう!」


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ギフトカード

~光一視点続き~

 

 墜落したグリフォンはかなりの高度から落ちたのに、まだ生きているようだったが、さすがに動くことはできないようで、エミヤに担がれて檻に入れられていた。

 

 その隙に春日部は最初に十六夜が捕まえたグリフォンに乗って湖畔を一周してきていた。

 

 最後春日部はグリフォンから落ちてしまったが、春日部の生物の特性を手に入れるギフトでグリフォンの風を操るギフトを手に入れて見事に着地していて事なきを得ていた。

 

「それで。結局あなたのギフトは何?」

 

 久遠が聞いてくる。なぜかいつでも襲いかかれる体勢で。

 

「俺の『蝋の翼の救世主(ボーンヘッドブレイバー)』は劣化の強化が出来るんだ」

 

「劣化の強化ですか? それってどういう意味だかわからないのデスヨ?」

 

「黒ウサギでも分らないか……。んじゃあ、風を操るギフトが劣化すると何になる?」

 

「微風を操る能力とかですかね?」

 

「ならもっと劣化したら?」

 

「何も動かせないくらい弱くなる……ですか?」

 

「そうだな。そこからもっと劣化したらどうなる?」

 

「うーん。分りません……。答えはなんですか?」

 

 黒ウサギは俺が質問するたびに頭を抱えていく。

 

 その姿はなかなか面白かった。

 

「おい黒ウサギ。分らないなら懇切丁寧に箱庭に後から来た俺様が答えを言っちまうぜ?」

 

 十六夜がにやりと笑いながら言う。黒ウサギは少し悔しそうに耳をしおらせている。

 

 本当に分ってるっぽいな。

 

「で、答えはどう推理したんだ十六夜?」

 

「風を操る能力がどんどん劣化して行くって言うことは、最終的には動かせないというところまで行くだろ? だからあのグリフォンが操っていた風を操れないようにしたっんだろ? だからあのグリフォンが飛ぼうとすれば飛ぼうとするほど風は操れなくなって落ちていった、って事だと思ったんだが正解か?」

 

 おお。十六夜って結構頭良いんだな。まさかここまで完璧に当てられるなんて思わなかった。

 

「正解だ。じゃあ、俺のさっき使った『蝋の翼の救世主(ボーンヘッドブレイバー)』の性能は?」

 

「さっきの奴だと劣化コピーしたギフトの性能をを反転する能力だろ?」

 

「惜しい。もともとの『付け焼刃(イカロスブレイブ)』の劣化コピーした能力の性能の内一つだけ伸ばせる能力も残ってる。じゃなきゃあの距離まで俺の能力は届かない」

 

「そうか。それはミスったな。んで? 白夜叉。俺たちはオマエの眼鏡にかなったのか? もっとも、俺は何も出来ていないけどな」

 

 十六夜は自嘲するように言う。というより本当に自嘲しているのだろう。

 

 今回のギフトゲームでは春日が右腕で触れても大丈夫なように一頭は少なくとも契約書類(ギアスロール)に書かれているように右腕で捕縛しなければならなかったので全く役に立っていないわけではなかった。

 

 しかし、初撃決着を望んでしまったためか十六夜はリタイアとなってしまった。

 

 もしも最後まで十六夜が残っていたら大活躍していた事は間違いなしだろう。

 

 その十六夜の心境を知ってか知らずか白夜叉はさっきの十六夜の質問に答える。

 

「勿論。十六夜の身体能力はもちろん凄かったが、他の四人のチームワークや機転は凄いものじゃったの」

 

「フッ。つまり俺のおかげと言ったところだな」

 

「ところでおんしのギフトだが。それは先天性か?」

 

 白夜叉が俺をナチュラルにスル―して春日部に話しかけている。

 

 ……酷くないか?

 

「ううん。父さんに貰った木彫りのおかげで使えるようになった」

 

「木彫り?」

 

 白夜叉が春日部に聞いたあと猫がニャーニャー鳴いていたので何か話していたのだろう。

 

 おそらくだが木彫りに対する説明なのだろう。その後白夜叉は春日部から木彫りのペンダントを見せてもらっていた。

 

 そして興奮して買いといたいとまで言っていたが春日部は即答で断っていた。

 

 本当にあれは元魔王様なのか?

 

 まあそれを言ったら俺なんて元天使で悪魔か。

 

「で、これはどんな力を持ったギフトなんだ?」

 

 十六夜が白夜叉にペンダントについて聞く。

 

「それは分からん。今分かっとるのは異種族と会話が出来るのと、友になった種から特有のギフトをもらえるという事ぐらいだ。これ以上詳しく知りたいのなら店の鑑定士に頼むしかない。それも上層に住むものでなければ鑑定は不可能だろう」

 

「え? 白夜叉様でも鑑定出来ないのですか? 今日は鑑定をお願いしたかったのですけど」

 

 ゲッ、と気まずそうな顔になる白夜叉。あえて言っておくが白夜叉の格好は和装ロリだ。

 

 想像してほしい。

 

 和服を着た老人のような喋り方をするロリ。それが驚きながら気まずそうな顔になっている。

 

 とてつもなくシュールだ。

 

 

 いやまあ、それはいいとして白夜叉は気まずそうなまま答える。ギフトの鑑定が出来ないらしく困っているようだ。

 

「よ、よりにもよってギフト鑑定か。専門外もいいところなのだがの」

 

 白夜叉が考えていたギフトゲームの商品は依頼を無償で受ける事だったのだろう。

 

 さらにばつが悪そうに頭をかき始める。

 

「どれどれ…………ふむふむ…………うむ、五人ともに素養が高いのは分かる。しかしこれではなんとも言えんな。おんしらは自分のギフトの力をどの程度に把握している?」

 

 白夜叉が問いかけてくる。

 

「企業秘密」

 

「右に同じ」

 

「以下同文」

 

 と、問題児三人が続き。

 

「私は自分で把握できている。それにあまり見せびらかすものではないからな」

 

 とエミヤが続く。こいつは自分で鍛え上げて強くなったタイプに見えるからな。

 

 自分の力を完全に把握し、効率よく運用し、そして勝ち目がないように見えてもそれを努力と根性で活路を生みだす戦い方だ。

 

 能力を把握できてないほうがおかしい。

 

 それを察したのか白夜叉も特に何も言わないようだ。

 

「まあ俺もエミヤと一緒だ。もっとも俺の場合は見せびらかして噂が広がっても、劣化コピーなんて対処なんて取られないから別に見せてもかまわないけどな」

 

 と言っても俺もそうなんだが、俺の場合は自分にも分らないほどの能力がもともと備わっていないだけなのだが……。

 

「うおおおおい? 白髪の二人はともかくとして。まあ、仮にも対戦相手だったものにギフトを教えるのが怖いのは分かるが、それじゃ話が進まないだろうに」

 

 さりげなく俺の髪を白髪扱いしてやがる!

 

 いつか反撃してやる!

 

「別に鑑定なんていらねえよ。人に値札張られるのは趣味じゃない」

 

 はっきりと言い切る十六夜に、それに同意する二人。

 

 白夜叉はとても困ったように頭をかいている。

 

 と、そこでいい案が浮かんだらしく顔をにやりと笑って言う。

 

「ふむ、なんにせよ“主催者(ホスト)”として、星霊の端くれとして、試練をクリアしたおんしらには“恩恵(ギフト)”を与えねばならん。ちょいと贅沢な代物だが、コミュニティ再興の前祝としては丁度良かろう」

 

 白夜叉がパンパンと拍手を打つ。すると俺たちの前には一人一つずつカードが現れた。

 

 カードにはそれぞれの名前と、体に宿るギフトの名称が書かれている。

 

 カードは一人一人色が違っていてかっこいい。

 

 十六夜の前にはコバルトブルーのカードで十六夜の名前と“正体不明(コード・アンノウン)”。

 

 久遠の前にはワインレッドのカードで久遠の名前と“威光”。

 

 春日部の前にはパールエメラルドのカードで春日部の名前と“生命の目録(ゲノム・ツリー)”と“ノーフォーマー”。

 

 エミヤの前には赤く煤けた色のカードで衛宮 士郎と書いてあり、“固有結界(リアリティ・マーブル )無限の剣製(アンリミテッド・ブレイド・ワークス)”。

 

 そして俺の前にはスカイブルーに黒い斜線が入ったカードに名前と“付け焼刃(イカロスブレイブ)”と“蝋の翼の救世主(ボーンヘッドブレイバー)”。

 

 それを各自受け取る。

 

 それを見て黒ウサギは目をまん丸にして驚いて言う。

 

「ギフトカード!」

 

「お中元?」

 

「お歳暮?」

 

「お年玉?」

 

「ち、違います! というか何で皆さんそんなに息が合っているのです!? このギフトカードは顕現しているギフトを収納できる超高価なカードですよ! 耀さんの“生命の目録(ゲノム・ツリー)”だって収納で、それも好きな時に顕現できるのですよ

!」

 

 こいつらほんとに出会って二日目なのに凄い息合ってんな。もちろん黒ウサギ含め。

 

 もう既に漫才コンビ並みだ。どんな人間関係の築き方をすれば二日でここまで打ち解け? られるのだろう。

 

「つまり素敵アイテムって事でオッケーか?」

 

「だからなんで適当に聞き流すんですか! あーもうそうです、超素敵アイテムなんです!」

 

 黒ウサギがやけくそになりながら教えている。頑張ってほしいところだと少しだけ思う。

 

 エミヤもやれやれと言った風体で手出しをしないようだ。

 

 少しは助けてやろうという気にはならないのかよ正義の味方。

 

 そのあとしばらく黒ウサギがSAN値を取戻すまで俺とエミヤは黙って黒ウサギを観察していた。

 

 〜光一視点終了〜

 




光一「……」

エミヤ「……どうしたのかね?」

光一「臨戦態勢でいうせりふじゃないよなエミヤ?」

エミヤ「人聞きが悪いことを言うな。私はただ攻撃を仕掛けてきそうなのが前にいるから私もそうしているだけなのだが?」

光一「……前回俺の意識を刈り取ったことは忘れないぞ?」

エミヤ「さあ。覚えていないな。夢でも見ていたのではないか?」

光一「すっとぼけてんじゃねえ! 正義の味方のくせに平気で人を攻撃しやがって」

エミヤ「前回のはさすがに長過ぎたのでな。どちらかが意識を失えばこのコーナーが終わると分ったんだからいいと思わないか?」

光一「ならお前が意識失えばよかっただろう! 俺を巻き込むな! あの後首が寝違えたみたいになったんだぞ!」

エミヤ「それは失礼した。まあ、今回も眠るつもりなどないがね」

光一「ふざけやがって! 今回こそ貴様を倒す! 人型万能家事ロボットが!」

エミヤ「私をドラ○もんのように呼ぶな! そういえば昔と名前を変えたのか? 佐藤ライト君?」

光一「どうしてその名前を! ……あ、アルカナの手紙か!」

エミヤ「今はもうやめたということは痛さに気付いたのかね?」

光一「……………………違う。あれは昔幼馴染にライトと呼べと言ってみたらあいつらが『よし! 髪の毛をそったらライトになるんじゃね?』とか言って俺の髪の毛を…………」

エミヤ「……トラウマを引いたか。まあいい。このまま意識を奪わせてもらおう――」

光一「その隙もらった! 『幸福夢幻(ドリーマーズハイ)』これで貴様は眠りに落ちる!」

エミヤ「なっ!? いきなり眠気が! ……だがただでは!」

光一「お、おい! 俺の髪の毛をつかむな! あ、なんで眠りに落ちてんのに手は握ったままなんだよ! それよりいきなり倒れるな俺の髪が抜け、や、やめろおおおおおおおお――――――!!」




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予想外

 すいません!

 どうしてもこの話を入れたくなってしまったのでタグを変えさせてもらいました。

 そして新しい生活に慣れておらず遅れてしまいました。

 これからはもう少し早いペースで書き上げるよう努力しますが、なかなか難しいかも知れません。

 完結だけは絶対する予定です。

 それでは本編をよろしくお願いします!


~エミヤ視点~

 

「取りあえずこのギフトカードはギフトをいくらでも収納出来てなおかつ名称も見れるからギフトの正体を知るのにも有効だと?」

 

「……そうデス。正式名称は“ラプラスの紙片”と言って全知の悪魔の力の一端ですからとても凄いものなのですよ」

 

 光一が黒ウサギに聞いている。

 

 黒ウサギはとてもぐったりしているが光一の質問に答える。

 

 黒ウサギというより苦労ウサ――いや、言わないでおこう。

 

 コホン。取りあえず全知の一端などというとてつもない物を貰ったということは分ったが、それによって分らない事が一つある。

 

「何故十六夜のギフトカードは“正体不明(コード・アンノウン)”になっている? 全知にしてはおざなりではないか?」

 

「“正体不明(コード・アンノウン)”だと…………? いいやありえん。全知である“ラプラスの紙片”がエラーを起こすはずなど」

 

 白夜叉がありえないものを見たように驚く。

 

 確かに全知の悪魔が知らない事があっては驚くのも無理がないだろう。

 

 十六夜は鑑定何ざされないほうがいいと言ってギフトカードをしまう。

 

 白夜叉はずいぶんと考えているようだが首を振って考えるのをやめる。

 

 もうそろそろお暇しようかと思った時に白夜叉が話しかけてくる。

 

「今さらじゃがおんしらはそのコミュニティが魔王に狙われていることを知って加入するのじゃな?」

 

「もちろん」

 

 久遠嬢が当たり前とでも言わんばかりに答える。

 

 ……やはり紅い悪魔に似ていて、自分の意志を曲げない強さを持っている。

 

「昨日であったばかりのおんしらに助ける義理はないと思うのじゃが?」

 

 白夜叉が少し目を細めて聞く。

 

 それに対して久遠嬢と白夜叉の話を聞いて何を思ったか光一がさも当たり前のように言う。

 

「「そっちの方がカッコイイじゃない(だろう)」」

 

「あら、五十六億もの世界を救った英雄様と意見が同じだなんて光栄ね?」

 

「俺も仲間がいて良かったぜ。何せ前に言った時には大笑いされたからな」

 

「……それは災難だったわね。同情するわ」

 

 久遠嬢と光一が楽しげに会話している。

 

 しかし言われた当人の白夜叉はぽかんとしている。

 

 それもそうだ。

 

 昨日の枯れた町並みを見た後で、いまだ魔王に立ち向かうと迷いなく言えるほどの精神を久遠嬢はこの年でもう持っているのだ。

 

「……全弾矢を命中させた弓の名手に、神格を倒す小僧に、グリフォンと言葉を交わす娘に、グリフォンを支配して見せた娘に、五十六億の世界を救った英雄までいるとは。く、くく。面白い仲間を手に入れたな黒ウサギ。一人位うちに欲しいくらいだ」

 

「だ、駄目です! もう皆さんは黒ウサギたちの仲間です!」

 

 白夜叉がにやりと笑いながら軽口を言って黒ウサギが慌ててそれを拒否している。

 

 黒ウサギが慌てている姿を見て満足したのか白夜叉は久遠嬢のほうを見て少しゆるんだ顔を引きしめて言う。

 

「まあ、一つ忠告じゃ。他の三人は分らんが、そこの娘二人は間違いなく死ぬぞ?」

 

 圧倒的強者であり、沢山の経験を積んだであろう者からの死ぬという宣告。

 

 それを聞いて久遠嬢と春日部嬢は少し考えて口を開こうした。

 

「ふん! そんなもの俺がいれば平気だ! ……まあ、十六夜とエミヤにも手伝っては貰うけどな」

 

 しかし光一の言葉によって遮られる。

 

「……はあ。途中までかっこよかったのだがな。何故最後までかっこつけ通さないんだ」

 

 私はため息を吐く。

 

 十六夜も見てみると半分笑って半分あきれているようだ。無理もない。

 

 取りあえずこの場に居る全員が思ったことは光一は残念な奴ということだった。

 

 

 

 

 

 

 

「クソ。なんだかんだで午前中いっぱい使っちまったじゃねえかオイ」

 

 十六夜が毒づく。

 

 確かに私もここまで時間がかかると思わなかったが。

 

 まあ、そのおかげで便利そうなものも手に入ったことだしどちらかと言えばプラスに成っているだろう。

 

 ただ、昨日のうちに組んでいた予定が狂ってしまったのも事実で、少し予定を変えなければならない。

 

「おい。今日はゲームに参加しなくていいのか? じゃねえと今日はこのまま日が暮れちまうぞ?」

 

 黒ウサギも十六夜のギフトカードの特異性で思考が停止していたようだが、十六夜の言葉で我に帰る。

 

「き、今日からゲームで稼いでいただけるととても助かります」

 

 黒ウサギが慌てながら答えている。

 

 もう少し落ち着いて居てもいいと思うのだが。

 

「それじゃあ、速く才能溢れる俺達に相応しい敵を教えろ」

 

「ん? おんしら今日の予定は開いておるのか。……ふむ、丁度いい。私の依頼を受けんか?」

 

 白夜叉が私たちに向かって聞いてくる。別にあいている訳ではないのだが……。確かに確定した予定はない。

 

 これから何処に行くかを決めるくらいだ。

 

「依頼だと?」

 

 十六夜が白夜叉に対して聞き返す。

 

 そして白夜叉もはきはきと答えを返す。

 

「そうじゃ。最近この周辺で良くない噂を聞いておる輩がおってな。その調査を頼みたい」

 

「……調査か。確かに春日部の動物と会話出来るギフトと久遠の命令する力があれば大抵の調査は出来そうだな。……まあ、俺は意味無いが」

 

 光一が独り言のように呟いて勝手に落ち込んでいる。

 

 まあそれはどうでもいいが、確かに調査なら簡単だな。今の話をまとめてみんなに伝える。

 

「それではこういうのはどうかね? 私と十六夜と光一で予定していたゲームの内のいくつかをやって、残りの久遠嬢と春日部嬢と道案内でジン君がついて行くということでどうかな? これだと黒ウサギは“ノーネーム”の中の整理が出来るのではないかね?」

 

「それは助かります。みなさんそれでよろしいですか?」

 

「ああ。俺もかまわない。良いところを一つくらい作らないといけないしな」

 

 十六夜が少し照れくさそうに言う。強大な力を持ちながらまんまと策にはまってしまったのが悔しいのだろう。

 

 他に意見がないかを黒ウサギが周りを見渡して確認をとる。

 

 そしていないことを確認した後号令をかける。

 

「それじゃあ、反対意見もないようなので出発しましょう!」

 

 黒ウサギの言葉を皮切りに全員が動きだす。

 

「それでは出発しよう。時間も押しているしな」

 

「そうだな。早く行かないと日が暮れちまう」

 

 十六夜と光一が先頭に立って歩き出し、私もそれについて行く。

 

 これから行く予定のギフトゲームは力比べのギフトゲームなので十六夜がいれば大丈夫だと思うが私と光一はそのゲームの次のゲームに参加することになっている。

 

 そう思って“サウザンドアイズ”を出る。

 

 

 

 

「――――」

 

 

 

 

 そこにはとても懐かしい人物が居た。

 

 

 

 目が合って互いに動きを止める。

 

 

 

 等に周りの音など聞こえない。

 

 

 

 彼の隣には女性が一人。

 

 

 

 彼も少しの間驚いて固まっている。

 

 

 

 誰も想像なんてしていなかった邂逅。

 

 

 

 黒く短い短髪に度は入っていない眼鏡をかけている。

 

 

 

 目を大きく見開いていたがすぐに落ち着いて口を開いた。

 

 

 

 そして私もすぐに答える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――やあ、士郎君」

 

「――こんにちは。志貴さん」

 

 

 

 

 

~エミヤ視点続く~

 

 

 

 




エミヤ「……まさかここであなたが出てくるとは。今回は少しこのコーナーは休ませていただく。今は何も答えられないのでな」

光一「へえ、何かあったのか。昔の知り合いなのか?」

エミヤ「……ああ。知り合いと言えば知り合いだ」

光一「まあ、しょうがないからこれで終りにしてやるよ。眠らせるぞ?」

エミヤ「しかたあるまい。早くやれ」

光一「了解。――眠りに落ちろ『幸福夢幻(ドリーマーズハイ)』」





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理想

志貴さんをちゃんと書けてるか不安ですが、カーニバルファンタズムと新月譚のイメージで書いています!


~エミヤ視点続き~

 

 あの後、十六夜にはギフトゲーム参加のために先に行ってもらい、光一と志貴さんと一緒に近くの喫茶店で話をしているところだ。

 

 志貴さんと一緒に居た真祖の姫君は“サウザンドアイズ”に用事があるようで私たちとは別行動をしている。

 

「それにしてもこんなところで会うとは奇遇だね。士郎君はどうやってこんなところまで? 君は処刑されたはずだろう?」

 

「ああ、私は死後英霊の座に招かれて抑止の守護者になっていた。その後光一に助けてもらったがな」

 

「……へえ。ずいぶんハードな死後だったんだね。君が死ぬまでもハードだとは思ったがそれは自業自得だったしね。まあ、お疲れ様と言っておくよ」

 

 志貴さんが私にねぎらいの言葉を賭けてくる。

 

 しかし棘が多分に含まれているのは気のせいでは無いだろう。

 

 もともとの出会いからして殺し合いだったのだからな。

 

 昔私が正義の味方を目指して世界を巡っていた時に人が帰ってこない城として有名だったとある城に向かった時に、殺し合い、相打ちになり、そして互いに理想を語って自分たちから関わらないことを決めた人間。

 

 なぜならその理想は互いに正義と思えるだけの何かをはらみながら、それでいて決して相容れないモノ。

 

 どれだけ大事な一だろうと九を生かすために殺せる欠陥品(エミヤシロウ)

 

 どれだけ沢山の九だろうと一を生かすために殺せる殺人貴(トオノシキ)

 

 私も曲がりなりにも、あの愚か者が言っていたように何かを守るために戦っていたし、志貴さんも自分にとって切り捨てる事の出来ない一のために戦った。

 

 互いに決して譲ることのできないすれ違った正義。

 

 滑稽なくらいに噛み合わない理想は、戦いを止めることによって互いの理想を存続させた。

 

 それが志貴さんとの戦いの顛末だ。

 

 あのまま続けていたら間違いなくどちらかが、または双方が致命傷を負ってどちらの理想も叶うことはなかっただろう。

 

 少し前までの私なら――過去の改変を諦めてもう一度正義の味方を目指すと誓うまでの私なら志貴さんの言葉には少し違ったのかもしれない。

 

 それでも現に私の理想はすり減っていても確かに取り戻した。

 

 だから志貴さんの言葉はいまだに棘が含まれているのだろう。

 

 今私は互いの理想にとって大きな意味を持つ、本題を話すことにしたい。

 

「その前に一つ聞いておきたいのだが、光一。お前私の記憶に何かしただろう?」

 

「ナ、ナンノコトカナ?」

 

 私は光一の頭を思いっきりわしづかみにする。

 

 明らかにおかしいことが起きているし、そんな奇跡を起こせる可能性がある人間なんて一人しか思い当たらない。

 

 というか本来エミヤシロウは記憶など等にすり減っていて、私が箱庭に来る前に行った聖杯戦争では生前の事なんてほんの少ししか覚えていなかったのだぞ?

 

 いかに記憶に残るような戦いだからと言って志貴さんの事を覚えていることなど出来ているはずがあるか。

 

「さあ、言ってみろ光一。私の記憶に何をした?」

 

「いや、アルカナの手紙に記憶が摩耗しているとか書いてあったから俺の異能を改造して人生を追体験させて記憶を完全に取り戻させただけだ! 何も悪いことはしていない!」

 

「そんな意味のわからない高等技術は何なんだ!? というか一言くらい私に相談してからやれ! 何故そんな重要なことを私に黙ってやっている!」

 

「き、記憶がなかったら困るだろうと思ってだなあ。お、俺が一肌脱いでやったんだ!」

 

 私は光一の体をがくがくと揺さぶる。

 

 何故こいつはそんな高等技術をポンポン使っているのだろう。

 

「ま、まあ。おろしてあげなよ。君のことを思ってやったんだし」

 

 光一の哀れな姿を見て志貴さんが止めに入る。

 

 私は光一を椅子の上に落とすともう一度頭を握る。

 

「次。私に確認を取らずに変なことをしたら握りつぶすからな?」

 

「い、痛い! わ、分ったから離せ! いや、離して下さい!」

 

 私は一応その言葉を聞いて頭から手を離す。

 

「ははは。士郎君はずいぶんと感情豊かになったじゃないか。俺と戦ったときとは大違いだな」

 

 志貴さんが私が光一を叱りつけているところを見て言う。

 

 確かに志貴さんと戦ったころには封印指定間際のことだったからな。私は余裕がなかったのだろう。

 

「ところでだが、志貴さんは何故箱庭に来たんだ?」

 

「ああ、アルクェイドの吸血衝動を無くすのにどうしたらいいかを先生に相談したら、この世界に移る手はずを整えてくれたんだ。それで今はここにね」

 

 少し驚いたかのような曖昧な笑みで志貴さんは答える。

 

「もしかしてあの宝石翁の仕業なのか?」

 

 私も何度も巻き込まれた。……遠坂のせいで。

 

「ああ、その通りだよ。まさか自分で魔法を食らうと思わなかった」

 

 志貴さんは嘆息して言う。

 

 そしてコーヒーで喉を潤した後私のほうを向く。

 

「俺からも質問を一つ。なんでわざわざ光一……君を連れてきたんだい?」

 

 志貴さんは光一の名前に自信なさそうにしていたが、間違えずに質問をしてくる。

 

「ふむ。そのことだが、このバ――いや光一の事が私の本題だ。私達の昔話した理想についての話だ」

 

「お前今自然に俺の事バカって言おうとしてたよな?」

 

 少し声が聞こえた気もするが気のせいだろう。

 

 私は志貴さんとの話を進める。

 

「へえ、なんでまた? 士郎くんとは意見が間逆だって事で落ち着いたんじゃなかったっけ?」

 

「ああ、昔話したときは確かに意見は割れて戦いになったのだがな。もう一つ聞いてもらいたい意見が出来た」

 

「――へえ。君の言う一を切り捨てるって言う考え方と、俺の自分の守りたいものを守るって言う意見以外のものが?」

 

「ああ、こいつはバカだがそれをちゃんと完遂させてきているからな。ぞんざいに扱う事もできない」

 

「ほう。貴様らはそういう理由でギスギスしていたのか。ならばこの俺は神のようなものだろう」

 

 光一が格好付けて言う。

 

 その言いぐさに普段温厚な志貴さんでさえ少しイラッとしたのがわかった。

 

「なら、君の考えを聞かせてもらおうか?」

 

 志貴さんは生半可な答えでは許さないという意思を瞳に込めて光一を睨む。

 

「あ、ああ。お、俺の答えはだなあ」

 

 その視線に射すくめられて光一がしどろもどろになる。

 

 せめてそこくらい格好つけろ。

 

 志貴さんの威圧に怯えていた光一は少し考えたあと、いきなり肩の力が抜けて、フッっと笑みを浮かべた。

 

 その笑みはいつもの格好つけた上っ面の笑みではなく、自然にわき出てきた笑みだった。

 

「俺の理想は結局一つだけだ。――ただ約束を破らない男になるって言う理想。世界を救ったのだってアルルを――お前らの言う大切な一を救ったのだって約束したからだよ。アルルと約束したからアルルを救ったし、アルカナとか薫とか沢山のやつと約束したから救った。俺は約束を守る男だからな」

 

 そう言った光一は、先程志貴さんに怯えていた姿も、いつもの中二病全開のバカでもなく、大切な一を諦めずに五十六億の世界を救った英雄のように見えた。

 

「……そうか。士郎くんがつれてきた意味がわかった。君は守ろうと思ったもののためなら何であろうと敵対して、守ってきたんだな。俺と似ているけれど違うなそれは。――俺は一以外は切り捨ててきたから。心配してくれた人も、笑いあった友達も置き去りにしてアルクェイドを守ってたからなあ」

 

「それでも後悔はしていないだろう? お互いにだが」

 

 私は志貴さんの言葉に同意するように言う。

 

 私も切り捨ててきたものなどとうに数えきれない。

 

 救いきれないと感じたものならば出来るだけ被害が拡大しないように速やかに切り捨てた。

 

 切り捨ててきた中には大事な人も含まれていた。

 

 それでも切り捨てて何倍もの人を救った。

 

 殺して殺して殺して殺して殺して。

 

 救って、救って、救って、救って、救って、救って、救って、救って、救って、救って。

 

 結果的に救った人に裏切られても後悔はしていない。

 

 後悔しているのは助けられなかった人がいる事だけ。

 

 自分が歩んできた道にはもう後悔はない。

 

「――一つお願いがある」

 

 志貴さんが光一に向かって話しかける。

 

「ああ、ドンと来い。俺が大抵のことは叶えてやるよ!」

 

 光一が志貴さんに向かって胸を張る。

 

 その光景を見た志貴さんは眼鏡を――魔眼殺しを外して強く光一を見て言う。

 

「俺と戦って欲しい」

 

 それは奇しくも私と光一が出会ったときと同じような行動だった。

 

 

~エミヤ視点終了~




光一「どうしてお前らは戦うのが好きなんだよ!」

エミヤ「それに関しては仕方がないとは思うがね」

光一「なんでわざわざ戦闘力で図ろうとしてるんだよ! そんなんだからお前らは一を切り捨てるとか言い出すんだ!」

エミヤ「……それは本編で言うようなセリフだろう。なんでこんなところで言っているんだ」

光一「殺す力だって治療に使えるんだろう!? そっちの方面で鍛えれば救えたものはあるんじゃないのかよ!」

エミヤ「どこからそんな知識を手に入れた!? お前電波を受信していないか!?」

光一「それにエミヤも剣なんか作ってないで医者とか目指せよ! それも立派な正義の味方だろうが!」

エミヤ「そ、それでは救われないものが……」

光一「確かにそうだがやり方を考えろ! なんで一人でやろうとしてんだ! 少しくらい仲間を頼れ!」

エミヤ「私はだれも巻き込みたくな」

光一「黙らっしゃい! それで救えない人がいるんだったら本末転倒だろうが!」

エミヤ「あ、ああ。それはそうなのだが……」

光一「グッ! ごくごくごくごくごくごくごく……ぷはあ!」

エミヤ「いつの間に酒を飲んでいた!?」

光一「俺はお前らみたいな人外どもと違ってそこまで強くないんだよ! 俺を巻き込むな! フゴッ!」

エミヤ「……とりあえず光一には眠っていてもらおう。私の精神的に厳しい。このセリフを本編で言える日が来るといいのだがな」


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バカの黒光

少し遅れました。

そして志貴さんの口調むずいっす……


~光一視点~

 

『ギフトゲーム名 “理想の証明”

 

 ・プレイヤー一覧

  ・佐藤 光一

  ・遠野 志貴

 

 ・ゲームルール 

  ・相手に敗北を認めさせれば勝利となる。

 

 宣誓 上記のルールに則り“遠野 志貴”と“佐藤 光一”の両名はギフトゲームを行います。』

 

「俺は君を殺せる。だから手加減なんかしないほうがいい」

 

 遠野は眼鏡をはずした両目で俺を睨むように見て言う。

 

 右手には短いナイフ。

 

 そのナイフにはエミヤの剣のような肌をちりちりと焼くような恐ろしさはない。

 

 なのにどんなものでも殺せるような自信を持った眼をしている。

 

「俺はお前を殺さない。殺すことだけが誰かを守る方法じゃないと証明してやる」

 

 俺は遠野にそう返す。

 

 どいつもこいつも守る手段と言ったら最終的には敵を殺すと言い始める。

 

 それに少しばかり頭に来なくもないが、エミヤから聞いた話だと俺の世界よりも厳しい世界で生きていたらしい。

 

 その世界では俺のような理想は貫けなかったのかもしれない。

 

 俺がいても何も出来ないような所だったのかもしれない。

 

 それでも俺は自信を持って理想を語る。

 

 約束を守るという理想を。

 

 世界を救うという理想を。

 

 少女を救うという理想を。

 

 俺と遠野は無言で構えをとる。

 

 俺は体を少しずらして右手を前に出す構え。

 

 遠野はあえて言うなら相撲の構えだろうか。

 

 ただし相撲よりももっと頭の位置が低く、正直いってまともに動けるのかもわからない構えだ。

 

 戦いの始まりは無音だった。

 

 俺が下がろうと足に力を入れた瞬間を見計らったのか遠野は真正面から突っ込んでくる。

 

 パチン!

 

 俺が指をはじく音に警戒してか遠野は少しだけ右にずれる。

 

 ただし、速度は変わることなく俺に向かって進んでくる。

 

 そして俺が使用した能力は範囲を伸ばした劣化『紫煙地獄《ヘビースモーカー》』。

 

 これで視界をふさげば、明らかに近接型の遠野では戦いにくくなるはずだ。

 

 そもそもが距離を保って戦う俺と、距離を詰めて戦う遠野の戦いは鬼ごっこのようなものだ。

 

 俺は近づかれたら間違いなく負けるだろうし、遠野は距離があると攻撃できない。

 

 だからまず視界をふさぐのは間違った判断ではないはず。

 

 そう思って使用した能力は辺り一面を黄色く染める。

 

 しかし予想外のことが起きる。

 

「なっ!」

 

 遠野は発生中の煙に向かってナイフを一閃させると、能力が一切の力を失って消える。

 

 だが、一番おかしいのはそんなことではない。

 

 遠野が驚くような声を上げた後、目を押さえながら後ろに下がったからだ。

 

「な、何が起きたんだ?」

 

 あのまま突っ込んでくれば間違いなく俺は遠野に倒されていた。

 

 俺は今までコピーした強化系の能力は全て動体視力と右手首より先に使用している。

 

 これは俺が初めに『紫煙地獄《ヘビースモーカー》』を発動した時に煙の中で気づかれない時に使用していた異能。

 

 このいくつかの異能が五十六億の並行世界を巡る中で手に入れた力の一つであり、エミヤの攻撃を当たり前のように目視で来た理由だ。

 

 俺はというより、普通の人間は音速を優に超す攻撃を人間の目では認識できない。

 

 それに聞いた話だとエミヤと戦ったときに放たれた矢はマッハ十を越していたらしい。

 

 そんなものは軌道上にあったっ物が壊されたということしかわからない世界。

 

 この速度に対して戦おうというのならそれなりの速度は必要になってくるが、俺には強化する能力の効果を高めるか範囲を広げるかしか出来ない。

 

 なら必要な部分にだけ効果を高めて強化する。そこまでやってエミヤの速度と戦うに最低限の速さだ。

 

 もともとチャリンコ程度の速さの人間が戦闘機と戦おうとするにはせめて新幹線くらいの速さにはしないと何もせずにやられる。

 

 遠野はそんなエミヤと相打ちになったということはそれだけの身体能力を持っていることは確実だ。

 

 そんな奴が無防備だった俺に攻撃することもなく唯後ろに下がって目を押さえていた。

 

 唯の臭くて黄色いだけの俺の『紫煙地獄《ヘビースモーカー》』そんな効果はない。

 

 それに俺の発動した『紫煙地獄《ヘビースモーカー》』はおそらく遠野自身の異能によって破壊された。

 

 そして一番考えられる可能性は遠野の異能の暴走。

 

 それもおそらく目だ。

 

 ナイフに触れた異能を無効化する魔法とかならおそらくナイフにはそれなりの恐ろしさを感じることになる。

 

 だけどそんなものは一切感じないし、遠野は目を押さえて飛んで逃げた。

 

 そんな遠野に右手を向けたままで見ていると遠野がこっちを見ながら言ってくる。

 

「……君の能力……いくらなんでも死に安すぎじゃないか? 頭が痛くなってくるほどだよ」

 

 ぼやきながらこっちを見るその眼はいつの間にか蒼い色になっていた。

 

 ちなみに青ではなく蒼というのは間違えるなよ?

 

「うるさい! しょうががないだろう! 俺の能力は劣化コピーなんだから」

 

「いいのか? そんなに簡単に能力をばらして」

 

「別に問題はないだろ? あらゆるものを無効化、または破壊することが出来るようになる魔眼の能力者?」

 

 俺は今までの会話の中で見破ったピースをくみ上げて遠野の奴につき付ける。

 

「へえ、案外早く見破られたな。ただ、一つ間違ってる。俺の目は無効化でも破壊でもなく死を見る事が出来るだけだよ」

 

「死を――だと?」

 

「ああ、俺はどんなものだって殺すことが出来る。それこそなんだって。物事だろうが、人だろうが吸血鬼だろうがなんだって」

 

 遠野は自嘲するように言うが俺の関心はそんなところにはない。

 

「使うたびに死ぬような思いをする上に殺すことしかできないようなものだ。早く無くしたいくらいだな」

 

 その言葉を聞いて俺は一つ聞きたいことが出来た。

 

 本人が軽口で行ったのかは分らないが、俺が見逃せない琴線の一つ。

 

 譲るわけにはいかない絶対のボーダーライン。

 

「…………か?」

 

「ん? もう一度言ってくれ」

 

 遠野が聞き返してくる。

 

「お前……その能力が要らないのか?」

 

 それに対して遠野をしっかりと見つめて言う。

 

「あ、ああ。もしもアルクェイドと一緒に居れるのならこんな目は無い方がいい」

 

 その言葉を聞いて俺は指をはじく。

 

 遠野は指をはじいた音に警戒するがそんなものはしなくても大丈夫だ。

 

 俺はそのあともいくつかの能力を発動する。

 

「光一、お前は何がしたいんだ……」

 

 エミヤが深い溜息を吐きながらつぶやく。

 

 エミヤは解析の魔術も使えたから解析してみたのだろう。

 

 だがそんなものは必要すらない。

 

「お前は人間じゃないのか?」

 

 遠野が俺の姿を見て言う。

 

 それもそうだろう。

 

 今俺は背中にろうそくの翼を生やし、地面から微妙に浮いて、後光がさすように調整して光を出して、髪の毛の色を常闇よりも暗い黒に染めているまさに堕天使のような格好をしていたからだ!

 

「遠野。俺の姿がカッコイイか?」

 

「は?」

 

「俺の姿がカッコイイかと聞いている!」

 

 突然の質問に口をポカンと開けて絶句している。

 

 そりゃそうだろう。

 

 それでも遠野はうろたえながらも口を開く。

 

「ま、まあ。かっこいいんじゃないか? マンガとかに出てきそうな感じだけど」

 

「ああ、これは俺が五十六億の並行世界をめぐるなかで自分の異能だけで神々しさを出せないものかと考えた末に出来たものだ。効果は一切無い!」

 

「そ、そうなのか。ならなんで今使ったんだ?」

 

 もはや遠野は理解できないものを見るように俺を見るが、構わずに俺は続ける。

 

「かっこいいからだ。この姿にたどりつくために使用した時間は七百万年。この劣化コピーというスタイリッシュでクールな異能を欲しがっていた挙句に手に入れた弱小能力で作り上げるのにそれだけの時間がかかったのだ。といっても他にやることがあったからそっち優先ではあったがな」

 

「お前はそんなバカなことをしていたのか……」

 

 エミヤのいるほうから声が聞こえたがスル―しておく。

 

 そんなものは自分の世界に戻った時にほぼ全員から言われたことだ!

 

「取りあえず君が相当な馬鹿だということが分かった。それで何が言いたいんだ?」

 

 遠野はもはや完全に馬鹿を見る目で俺を見てくる。

 

「その眼格好良すぎるだろう! それがあればあの世界じゃだれにも負けない自信があるぞ! 羨ましすぎる! ……まあ、アルルを救えたから結果的にこの能力のほうが良かったがな」

 

 遠野は俺の言ったことに対して眉をしかめる。

 

「この眼が羨ましい? この眼のことを知らないから言えるんだ。……物事の『死』が視えるという事は、この世界すべてがあやふやで脆いと言う事実に投げ込まれることだ。地面なんて無いに等しいし、空なんて今にも落ちてきそう。……一秒先にも世界すべてが滅んでしまいそうな錯覚を、おまえは知らない。――それが、死を視るという事なんだ。この目はさ、おまえみたいに得意げに語れる力なんかじゃない。命と死は背中合わせでいるだけで、永遠に、顔を合わせることはないものだろ。それも知らないで勝手なことを言うな」

 

 そう言った遠野の眼は本当に疲れたような眼をしていた。

 

 こいつも異能の被害者か。

 

「確かに悪かった。もしお前が今本当にその眼が要らなくなったのなら助けてやる。なんならエミヤの力で作った剣でも持っておけばそれなりの自衛手段にはなるだろ?」

 

「……残念ながらこの眼を無くすことは不可能だ。魔法使いの“先生”でも駄目だったんだ」

 

「ああ、お前は本当にその眼を無くしたいのかと聞いている。それに、アルクェイドとやらを救いたいのだろう? 困っておるのなら助けてやるから話せ」

 

 俺が空中に浮かんだまま遠野のほうを見て言うが遠野は諦めたように首を振る。

 

 その諦めきった仕草が無性に腹が立つ。

 

 ああ、もういい。

 

 普通の手段で外せないようなものなんだ。最悪俺があとで何とかできる。

 

 もう俺はこいつに対して許可を取ることなんてしない。

 

 俺は黙って右手を上に向けて指をはじく体制をとる。

「? 何をするんだ?」

 

 遠野が俺の方を見ていぶかしげに言ってくる。

 

 それを無視して俺は呟くように何度も発した言葉を言った。

 

 

「――『      』」

 

 パチン。

 

 そして俺の視界は黒く染まった。

 

~光一視点終了~




エミヤ「……暗くて何も見えないな」

光一「俺の能力はここにも影響するのかよ!」

エミヤ「まあ、この場所の描写は一切なかったから今のうちにしておくことにしよう」

光一「ここは俺達がコミュニティで使っている部屋の隣の部屋で、エミヤの作品でなおかつあまりにもおしゃれ勝つ、丈夫に、軽く、魔術まで少しかけた軽い黒歴史のイスと机がしまってある部屋だ」

エミヤ「ちなみに私が消さなかった理由はせっかく作ったのに消したらもったいないからと黒ウサギに押し切られたからだ。英霊の本体というサーヴァントの時よりも多いい魔力のほとんどを使って作りだしたものを私も消すには惜しかったし、普段からこれを使っておけば敵襲があったときに軽い罠になるしな」

光一「まあ、黒ウサギたちが今まで使っていたイスと机はすでに子供たちによって売りに出されているところで、本格的に作り始めるらしい」

エミヤ「……私はこれから毎日のように自分の失態を思い出しながら過ごすのか」

光一「……ぷっ」

エミヤ「(にやり)」

光一「お、おい! 笑ったのは悪かったから剣をしまえ!」

エミヤ「問答無用!」



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バカと殺人鬼と正義の味方

すいません予定通りできませんでした!

戦闘パートが時間食いました……

書くはずじゃなかったのに……

いつもの倍の量の気がするよ。

まあ、そんなこんなでよろしくお願いします。



一部修正いたしました。遅くなってすいません!


~エミヤ視点~

 

 黒い光が辺り一面を埋め尽くす。

 

 いくら身体能力が高かろうと光をかわすことなどできない。

 

 それが音速の世界の住人だろうと。

 

 そもそも速度が違う。一秒間に約三百四十メートルと約三十万キロ。

 

 もし感知できたとしても体は動かない。

 

 黒い光が放たれて三秒も経っただろうか、しだいに収束して、消えた。

 

 志貴さんは体のどこにも怪我を負っていない、何が起きたんだ?

 

 私は解析の魔術を志貴さんにかける。

 

 そこで初めて私は状況を理解した。

 

 ……ああ、なるほどこれが本物の英雄。本物の馬鹿の力なのか。 

 

 この現象を表す言葉など一言で十分なほどだ。

 

 まさに『規格外』だ。

 

 これほどこいつに似合う言葉はないだろう。

 

 そもそも複製という異能のはずが、本来の性能を発揮することすらできない。

 

 しかもそれだけでは無く本来の性能と真逆のことすら可能にする応用性の広さ。

 

 ただし、応用性の広さという佐藤光一という異能の劣化複製の能力者の良い面のみを抜き出した結果に過ぎない。

 

 光一には挙げればきりがないほどの弱点が存在し、それをどうにか頭を使ってカバーしてぎりぎり何とかしている状態だ。

 

 鉄をも溶かす炎が人肌の温度程度に落ちるほどの劣化。

 

 広域攻撃用の雷の異能を針一本とそれに触れた者のみにしか攻撃できない所まで落ちる劣化。

 

 あまり理解していない異能の場合などはそもそもの能力すら間違った形で発現されることもあり、コントロールすることにもバカみたいな集中力を使用してようやくだ。

 

 身体能力を上げる能力で体重のみが上がってしまい、身体能力自体は上昇させることが出来なかった事からも利便性の悪さが理解できるだろう。

 

 しかし、今目の前に起きている現象は本当に劣化しているのかも分らないような代物。

 

 光一が馬鹿な行動の後に行った能力。

 

 指をはじいた――それだけの事でどんな魔法使いでも苦労するような。いや、不可能だと言う方が多いほどのことを簡単に行ったのだ。

 

 こんな力があるのならこのギフト――異能が支配している箱庭という世界において敗北することなどおおよそ考えもつかない。

 

「――な」

 

 その驚きの声は志貴さんで、黒い光というよくわからない物を当てられた事に対する疑問で満ちている。

 

 もはや続きの言葉すらいえないほどの驚愕。

 

 何かの劣化どころか劣化の反転だとしても人間に出来る領分を大きく逸脱した行為。

 

 超能力の一種であり、死を見る瞳という遠野志貴という存在の根源に関わっている異能である直死の魔眼。

 

 それをたった一工程。

 

 たった一度指を弾いただけで光一は直死の魔眼を消失させた(・・・・・・・・・・・)

 

 ……馬鹿げているとしか言えないな。

 

「さてと。お前が嫌っていた力は無くなったぜ? さあ、これでも殺す方法以外で人が救えないというのか?」

 

「……こ、こんなに簡単に俺の眼が封じられ――いや消されたのか!?」

 

 もはや志貴さんは驚愕して攻撃するということを忘れている。

 

「ああ、綺麗サッパリお前の嫌いな能力は奪ってやったぜ? 仮にも世界を滅ぼすだけの奇跡のコピーで、さらに世界を救いまくった能力なんだ。個人の能力くらい消せる。不死身だろうと、なんだろうとな。――だからてめえも、もうちょっと周りを見てみろよ! 無理だ? 知るか! 守りたいもんがあるんだったらそっちに力を使えよ! 自分の能力を嫌うことなんかにエネルギー使ってんじゃねえ!」

 

 光一は志貴さんに向かって吠えるように言う。

 

「――――地面が……黒くない」

 

「あ?」

 

 志貴さんがぽつりとつぶやく。

 

「どんなに目を凝らしても線なんて見えない。人だって脆くなんてとても見えない。――ああ、こんな世界は久しぶりに見た。もう見れないと思っていたのに」

 

「……志貴さん。もしや、魔眼殺しでも押さえられていないのか?」

 

 私は驚愕しながら志貴さんに聞く。

 

「ああ、少し前からね。まだ、そこまで負担じゃないから魔眼で押さえてたけど、もう少ししたら別のものを探さなくちゃいけないところだったよ」

 

 その答えはある意味予想通りで、理に反することなど一切ないような当然の事。

 

 見て、線をなぞるだけで殺せる目を持っているのに、代償がないなんてバカなことはない。

 

 だがまさか、ライダーのキュベレイすらも抑え込んでいたものですら押さえられないとは。

 

 まあ、ライダーの場合はそれなりに制御した結果なのだろうが、それでも規格外の目だ。

 

 私と志貴さんがさまざまな驚愕に包まれている中、光一が戦闘態勢を解いてなんでもないように言った。

 

「さて、俺もやりたい事はやったな。と、いうことで俺はリタイアする。勝者は遠野志貴だ」

 

「「は?」」

 

 光一がそういった瞬間にゲームが終了したことを示すように契約書類(ギアスロール)が消える。

 

「は? じゃなくてだな。俺はリタイアしただけだぞ。こいつの悩みっぽいものは解決したし、俺は信念を曲げない。遠野志貴とやらも信念は曲げないだろ? だから無駄になるだろうと思ってリタイアしただけだ」

 

「……理屈は通っているな。だが、信念をかけた戦いだったはずだろう? 負けを認めるということは信念を曲げたということだろう」

 

 私は光一に向かって問いただす。

 

「なんで戦いでしか証明できないみたいに思ってるんだ? それだったらお前らで戦えよ」

 

 そう言われて少し黙ることしかできない。だが、正直言って直死の魔眼を無くした志貴さんは私の敵ではない。

 

 仮にも英霊の本体。仮にも人間。

 

 その差は歴然だ。

 

「いくら志貴さんとはいえ流石に戦いにならないだろう。だから無理だな」

 

 この言葉には志貴さんも反論できないらしく、黙っているが少しいらついているのがわかる。

 

 それに対して光一は悪戯をする子供のような笑みを浮かべて言う。

 

「まあ、そこら辺は俺が解決してやるから。あ、エミヤ。一番お気に入りの剣を出せ」

 

「ふむ。干将と獏耶でいいか?」

 

「問題ないな。――直させろ俺の『切り裂きジャック』(カマイタチ)

 

 光一は能力を私の干将と獏耶に向かってかける。

 

「よし。その状態の剣をコピーできるか?」

 

「ん? ああ、そういうことか」

 

 私は剣の情報を読み取ったことですべてを理解した。

 

 なので速やかに剣を消したあと、先ほどコピーした干将と獏耶を取り出す。

 

「さて、遠野。お前もナイフを出せ」

 

「あ、ああ。何をするんだ?」

 

「見てればわかる」

 

 そう言って私のときと同じことをやる。

 

 ちなみに私が一度剣を消したのは光一では能力をすべての剣にかける事は不可能だと判断したからだ。

 

 光一は志貴さんの武器であるナイフ、七つ夜にも能力をかけると自分の腕にあてがう。

 

「二人とも見てろよ?」

 

 そう言って光一は自分の指の第一関節のあたりを切り落とす。

 

 もちろん光一の指は大出血する。

 

「いきなり何を……えっ?」

 

 志貴さんはその光景を見て目をまん丸にする。

 

 一瞬で発動した光一の能力が信じられないのだろう。

 

「怪我がなおったのか!? 血だって出てたのに!」

 

 志貴さんはまた驚く。

 

 光一と会ってから驚いてばかりだな。私も志貴さんも。

 

 まあ、それは置いておくとしても先ほど剣に付加された能力は切断したものをすべて治す能力。

 

 もともとの能力は予想もできないが、この剣ならば互いに死ぬことはないだろう。

 

 この剣で切ったものはすべて治るというよくわからないが、戦うのには最適だろう。

 

「取りあえず、これなら二人とも死にはしないし、存分に戦えるだろう? それに二人ともほぼ純粋な肉弾戦になるだろうから戦力的にはトントンだろう。あ、エミヤは新しく剣作ったらだめだからな?」

 

 そういって光一は一歩下がる。

 

 まあ、光一にいわれずとも私はもう魔力切れだがな。

 

「ということらしいがどうするのかね?」

 

「……全く。規格外としか言いようがないね世界を救った英雄様は」

 

「私もこころの底から思うよ。ふむ、先ほどの答えは聞くまでも無いな」

 

「ああ、せっかくここまでお膳立てしてくれたんだ。やるしかないだろう?」

 

「同感だ。――来い!」

 

「――いくぞ!」

 

 そう言って二十七祖にすら肉体だけで立ち向かってきた男が突っ込んでくる。

 

 低位置から繰り出される鋭い斬撃を一歩下がることによってかわす。

 

 そして続けざまに繰り出される一太刀をナイフよりも間合いの長い獏耶で牽制し、相手に間合いを取らせることによって防ぐ。

 

 しかし志貴さんは斬撃に合わせて私の横に回り込むことによって攻撃と回避を同時に行おうとする。

 

 横側に回り込まれた私は干将でナイフを防ぎながら獏耶に勢いをつけて志貴さんに攻撃を加える。

 

 しかし干将に攻撃を防がれたことを知るや否や私の死角に潜り込んでいた志貴さんは獏耶による攻撃すらも回避する。

 

 死角に潜り込まれた私には現在志貴さんの正確な位置を捉えることはできない。

 

 だが、位置を絞り込むことはできる。

 

 視覚でとらえられる前面にはいない。

 

 一歩を踏み出すような音もない。

 

 つまりいるのは頭上に限られる。

 

 この時点でとる対処法は二つ。

 

 防ぐか回避するか。

 

 ただ防ぐのは愚策だが回避するのも攻撃の位置がわからない状態では愚策になる。

 

 ――だから私は二つ同時に行おう。

 

 頭上に向けて干将と獏耶を振り上げて攻撃の来る箇所を制限する。

 

 前面からは来ないことはわかっている。

 

 両横は干将と獏耶で防いだ。

 

 残る死角は背面。

 

 背面に制限した攻撃を斜めに踏み出すことによって回避。

 

 そしてわずかに生まれた横向きの力を回転力に変換し、背後に落ちてくるであろう志貴さんに向かって干将と獏耶を振るう。

 

 回転した結果志貴さんは地面に着地した瞬間の隙が出来ている状態だった。

 

 しかし着地した瞬間のエネルギーを全て私に向かって駆け出す力に変換、そのままナイフをふるう。

 

 既に攻撃の態勢をとっていた両者の結果はもう見えている。

 

 互いに全力で行った攻撃によって吹き飛ばされる。

 

 

 

 七夜という対魔も一族の技を受け継ぎ、常人には理解できないほどの戦力差の中で戦ってきたという戦闘経験を手にいれた殺人貴。

 

 私が話している最中から構えていた志貴さんは視線の動きや筋肉の動きで動きの予測を難しくさせている。

 

 そして私が一瞬でもその動きにつられれば死角に回り込まれる。

 

 私とは違い、完成された武術によってもたらされた技能。

 

 それに対して私は戦闘の中から手に入れた隙を操るという技能で相手の攻撃を制限する。

 

 驚くほど俊敏に振るわれるナイフを私は両手に持った干将と獏耶でさばいて行く。

 

 私も相手に隙が出来た瞬間に攻撃を仕掛けようとするが、志貴さんはヒットアンドアウェイで私に攻撃を許さない。

 

 だが、私とて英霊の端くれ。

 

 志貴さんは極限まで低くした体制からナイフを振るわれる。その軌道に合わせて干将振るい後方に受け流す。

 

 受け流した勢いを殺さないように、前のめりになった志貴さんの方に向けて獏耶を振るう。

 

 しかし殺人貴の異名を持つ男はこの程度では倒すことはできない。

 

 私が振るう獏耶を、志貴さんは前のめりになった体制から更に沈みこむようにしてかわす。

 

 常人にはありえない回避。

 

 唯でさえ低い頭の位置がさらに一段階低くなり、地面にかすれそうなほどになる。

 

 こんなものありえない。

 

 普通なら手をついてしまい、速度を殺した揚句に転ぶ。

 

 そうでなかったとしたら体操選手のようにハンドスプリングでもして距離をとる。

 

 この殺人貴はそのどちらでもない。

 

 体制を低くすることによってさらに速く加速して私の死角に潜るのだ。

 

 普段から低い体勢に慣れ親しんだ者でないと出来ないような挙動。

 

 確かに態勢を低くして走ることは速力の増加につながるが、ある一点を過ぎると逆に速度は落ちる。

 

 そもそも足を使って走るのに、膝よりも低い位置に頭が来るなど馬鹿げている。

 

 しかし、その馬鹿げている方法は私の構えとは正反対の利点を持っている。

 

 私の構えは我流ではあるが無の構え。

 

 体の関節を柔らかく保ち、どの方向から攻撃が来ても対処できるようにした構え。

 

 これは唯関節を柔らかくするだけでは意味がない。

 

 頭の防御が出来ずに死ぬだけだ。

 

 なのでほんの少し、剣が動き出さない程度でありながら他の方向にもいけるような、絶妙な力加減で保つ。

 

 これを全関節で行う。

 

 そうすることによって隙を自由自在に操り、そこを狙わせることが出来るようになるという寸法だ。

 

 達人ともなれば私がどこに力を入れているかなどすぐにわかる。

 

 経験則から来る隙とわなを見破る能力。

 

 これをわざと騙して格上の人間に対しての防御を成立させている。

 

 私は他にも色々な小手先の技を使って相手の攻撃に対する防御を成立させている。

 

 しかし志貴さんは違う。

 

 頭を極限まで下げて、足を大きく広げている。

 

 これは真っ直ぐ走る気などないような構えだ。

 

 それに防御もする気がないようにも思える。

 

 こんな体勢から防御をするなら上半身を起こさなければならない。

 

 だから攻撃を防ぐことなど度外視。真っ直ぐ進むことも拒否。

 

 この構えに残された移動は斜めに進むか、ジグザグに進むか、飛ぶか。

 

 真っ直ぐ進む事を捨てるメリットは何か。

 

 それは攻撃をさせ難くすること。

 

 と言ってもほとんど意味ないような些細な障害に過ぎない。

 

 サッカーボールでだって、走っている相手に対して今相手がいるところにパスをすることなどしない。

 

 斜めに来たのならその先に攻撃をするだけだ。

 

 ではデメリットは何か。

 

 ――実は殆どない。

 

 相手が真っ直ぐ走ってきたらどうするか。

 

 簡単だ。前に向かって万全の態勢で攻撃をする。

 

 正面に向かって攻撃をすることによって自分の武器や攻撃の距離感を誤魔化すと言う技術は存在する。

 

 剣道の構えなどまさにそれだ。

 

 相手の目線に合わせて構える事により何処までが攻撃範囲なのか分かりにくくする。

 

 しかしこの男の場合意味がない。

 

 理由はナイフを使って戦うという点からだ。

 

 そん小さなものの長さを誤魔化したって意味なんかない。

 

 せいぜい持っていることを悟らせないというくらいだ。

 

 他にも助走がつけやすくて威力が高くなるなどの利点もあるがナイフに威力を求めるのは間違っている。

 

 ナイフを持って戦うという限り真っ直ぐ進む理由は殆どないのだ。

 

 さらに殺人鬼の構えの優れていることは左右の移動の効率化。

 

 大抵の人は反復横とびをするときに足を大きく広げるだろう。

 

 足を閉じている状態で横移動は案外難しい。

 

 そして重心を極限まで低くすることによりさらなる効率化を図っている。

 

 これでジグザグに、不規則に動けば攻撃する場所を決めることは難しい。

 

 そして一番恐ろしいのは飛ぶということだ。

 

 地面を這うように移動する志貴さんを捉えるために地面に視線を向けて集中する。

 

 すると自然と体制も下方に対する構えに代わる。

 

 そこを逆手にとって視線が一瞬でも切れた瞬間に飛ぶのだ。

 

 常に曲げられていて、解放されることを今か今かと待ち望んでいる状態の膝を、一瞬で真っ直ぐにする。

 

 それにプラスして背筋の動きも追加して振り子のように重心を動かし、体の力を上方向に修正する。

 

 これにより常人には不可能なほどの跳躍力を引きだしているのだろう。

 

 ……まあ、元から身体能力はおかしいとは思うがな。

 

 それは置いておいても、馬鹿げているほど低くなった体勢からの人間の頭上を容易に攻撃できる高さまでの跳躍。

 

 人間の構造上、上下の視点移動は困難を極める。

 

 左右に対してはそれなりの速度で反応できても上下に対しては反応できないなどざらだ。

 

 それなのに人間に出来る最大限低い体勢から人間の頭上を越える跳躍。

 

 それも視線を読み取って、見る場所のの位置が変わるほんの一瞬の空白にその行動を行うのだ。

 

 まさしく人の裏をかくことに徹底している動き。

 

 普段生活する分にはほとんど要らない個所をひたすら鍛えたような肉体を持っている志貴さんでないとこの動きは出来ないだろう。

 

 全ての攻撃に対応できるようにした私の無の構え。

 

 相手の行動を自分の動きによって制限し、そこに生まれた一点の隙を尽くだけの特化型の構え。

 

 まさしく対極だ。

 

 そんな思考を続けながら志貴さんの攻撃を防いでいく。

 

 頭部に疑似的な死角を作り、攻撃を誘導する。

 

 狙い通りに私の頭上から振り落とされる攻撃を体を捻る事によってかわし、その勢いで志貴さんの足元に向けて獏耶を振るう。

 

 捻りながら振るったは良い物の、既にそこに志貴さんはいない。

 

 私が剣を振るったことにより出来た隙をついて私の死角にもぐったのだろう。

 

 しかし、これもまだ予想通り。

 

 あの体勢から繰り出せるのは跳躍による頭上狙いの攻撃か、私が体を捻るのに合わせて私の背後に回り込むことのみ。

 

 だとするのならば、片方の選択肢をつぶしてやれば次の行動の予測は簡単だ。

 

 先ほど振るった獏耶は足元を狙っていた。

 

 つまり、低姿勢で動いている志貴さんにとっては体ごと切られる可能性を帯びた一撃。

 

 それ故に志貴さんのとれる行動は跳躍のみ。私が振るう剣よりも早く動けるのなら別なのだがな。

 

 防がれた感触もなし、つまりは私の頭上めがけて攻撃を行おうとしているはずだ。

 

 私は頭上にから繰り出される攻撃を、目線を動かすことはしないで一歩下がり、ぼんやりと視界全体の動きに注目する。

 

 そして視界の隅でちらちらと映る動きに対して干将で防ぎ志貴さんを空中に打ち上げる。

 

 空中に弾き飛ばされた志貴さんは天井もないこの場所では身動きなど取れない。

 

 それに対して私は獏耶を志貴さんに向かって投げつける。

 

 かわすことが出来ない中でナイフで何とか干将を防ぐ志貴さんに対して、見よう見まねで模倣している出来そこないの鉄鋼作用を効かせたので態勢を大きく崩す。

 

 空中の志貴さんは上半身を空の方向に打ち上げられもはや防御もできない。

 

 そんな隙を逃す私ではない。

 

 私は残った獏耶で落ちてくる志貴さんを切りつける。

 

 ――これで私の勝ちだ。

 

 

 

 しかし、予想外のことが起きる。

 

 志貴さんは上半身を獏耶を受け止めた流れに身を任せて一回転。

 

 足に頭がつきそうな態勢で私を睨む。

 

 その手に握られたナイフは私に向かって既に振るわれている。

 

 しかし私の振るった獏耶も動きを止めることはできない。

 

 私が振るう獏耶の方が先か。

 

 遠野志貴の振るう七つ夜が先か。

 

 より早く。

 

 より鋭く。

 

 より重く獲物をふるったほうが勝ち。

 

「「おおおおお!」」

 

 刃物がぶつかり合う音と、移動する音。

 

 それ以外は一切の無音で繰り広げられていた戦いに、私と志貴さんの声が響く。

 

 一瞬の交差。

 

 一瞬の静寂。

 

 トスッ。

 

 そして片腕が地面に落ちた。

 

「腕を貰った。これで勝ちだな――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                  ――エミヤ!」

 

 

 

 そう腕を落とされたのは私だった。

 

「ああ、手痛いな。と言っても片方は無くなったが。だが、私の負けではない」

 

「何?」

 

 腕を落とされたまま、武器をすべて失いながら私は不敵に笑う。

 

 腕を落とされた時、私は獏耶を握っていた。

 

 そしてその獏耶は今志貴さんが立っているところに突き刺さっている。

 

 そして、夫婦剣のうちの一本――干将は空中に投げられている。

 

 そう。

 

 ――つまり干将と獏耶の性質が発動する!

 

 状況をつかめないまま志貴さんは後ろを見る。

 

 トスッ。キンッ!

 

 しかしそんな行動など後の祭り、既に三十センチも離れていなかった干将は避けそこなった志貴さんの右腕を落とす。

 

 腕を切り落とす軽い音と、金属が衝突する甲高い音が響き、戦いの終わりを告げる。

 

「――これで相子だと思うがどうかね?」

 

「……はあ、もう少しだったんだけどな」

 

 そうつぶやいた時には腕はもう元通りになっている。

 

 私達のなんの被害もない再戦はまたも引き分けに終わった。

 

 

 ~エミヤ視点終了~




エミヤ「……もうそろそろ寝るか」

光一「……そうだな。さりげなく二連戦だったし、エミヤなんかいまだに魔力からっからで、回復したそばから使ってるもんな」

エミヤ「まったく。今日は疲れたな」

光一「……残念ながらまだ一日は終わらないようだぞ?」

エミヤ「まだ寝れないのか……。というか問題児シリーズのssの中で一番早く始めたはずなのに一番進行遅くないか?」

光一「それはタブーだ」

エミヤ「しかし、このま

光一「それはタブーだ」

エミヤ「……私は疲れているみたいだな。光一出ないように感じるな」

光一「ああ、疲れているんだ俺達。寝よう」

エミヤ「なら、ここで仮眠だな。お休みだ」

光一「ああ、お休み」




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リア十爆発しろ

訂正行いました!


~光一視点~

 

 ……うん。

 

 早すぎて能力使わないと目に映らなかった。

 

 それどころか二人とも最後の一撃以外かすり傷さえ無い。

 

 ……俺の使った能力で治ったんじゃなく、一撃も食らってない。

 

 バケモノすぎるだろう。

 

「相子か。勝ちたかったんだけどね」

 

「それはお互い様だ。まあ、戦闘技術のみを比べた戦いだったが、良い戦いだった。あれだけやって怪我の一つもないのが良かったな」

 

「確かにね」

 

 エミヤと遠野はすっきりした顔で歩いてくる。

 

 まあ、気が晴れたならいいけどな。

 

「ところで、お前にはまだ直死は必要なのか?」

 

 エミヤは遠野に向かって質問をする。

 

 遠野もそれに対して覚悟を決めたような表情で答える。

 

「ああ、あれがないとじゃアルクェイドを守れるかどうかが変わってくるだろうしね。それに、これだけ完全に封じれたんだから、この箱庭には吸血衝動を抑えるのも、魔眼殺しの上位もあるだろうからね」

 

 ん?

 

 ちょっと待てよ。

 

「ということらしい。光一、『直死の魔眼』を戻してやってくれないか?」

 

 困ったことが起きた。

 

 いらなそうだから確実に戻るとは限らないけど消してみたとは言えない雰囲気になってきたぞ。

 

 ……いや、言い訳をさせてもらうとだな。

 

 あいつの魔眼は対価も大きいんだろうなあと考えていたら、ちょっと気になってカマかけてみたら凄い要らなそうだったからっていう理由があってだな。

 

 ほら、なあ?

 

「ん? どうかしたのか光一? まさか――」

 

「いや、戻せるぜ? むしろ強化すら出来るっ!」

 

「そ、そうか。ならいいんだが」

 

 エミヤが余計なことに気付きそうになっているので遮っておく。

 

 これで一安心か。

 

 ばれるかと思った。

 

「――とまあ、そんな言葉で騙せると思うなよ光一?」

 

「ひっ!」

 

 騙せてなかったのか!

 

「志貴さん。光一は『直死の魔眼』を戻せなさそうだ。私の剣でも持っていくか?」

 

「いや、戻せるっちゃ戻せるが、もしかしたら失敗するだけで……」

 

「失敗!? 何が起きるんだ!?」

 

 遠野が目を丸くして驚く。

 

「あ、ああ。もしかしたら戻らなくなるだけで……。誰かからもらった能力と言う訳でもないんだよな?」

 

「そうだな。死にかけたら手に入れたものだ」

 

「はあ、良かった。戻せそうだな」

 

 師匠の形見の能力を貰ったとかだったら死刑ものだったな。

 

「んじゃ、――『木漏れ日現象』」

 

 俺は指先に光をともす。

 

 世界を覆うほどの範囲を持っていた光は指先から一センチ程度しかなく、眠らせる効果も、悲劇の引き金を生み出す効果もない。

 

 ただ、本人に合った能力を引きだすだけの能力。

 

 本人は魔眼を嫌っていたみたいだし、対価もちゃんとある。

 

 だから失敗するはずなどない。

 

 俺はその光を遠野の両目と頭に当てた。

 

「どうだ?」

 

 俺は遠野に聞く。

 

「…………ああ、ちゃんと見える(・・・)よ。ありがとう」

 

「あ、そうだ。ちょっと不安にさせた詫びにちょっとだけいいものをやろう。ずっと持ち歩くなら眼鏡と指輪とその他どれがいい?」

 

「ん? なら、眼鏡なら今まで付けてたし、眼鏡で。でも何をするんだ?」

 

「ああ、付けてる間だけ、能力を消すアイテムを作ろうとな」

 

「「は?」」

 

 エミヤと遠野が二人同時に驚く。

 

 そんなおかしなこと言ったか?

 

「ああ、その能力は嫌いみたいだし、その手助けをしてやろうとな。ほら、眼鏡をかせ。流石に手元にないと出来ないからな」

 

「あ、ああ。頼んだ」

 

 遠野は驚気ながらも眼鏡を渡す。

 

 ………………………………ふむ。魔眼殺しの能力はこうなっているのか。

 

 それにしても並行世界で手に入れた解析の異能は便利だな。手元に一分あれば解析できるんだからな。

 

 そんじゃあ、これに、回復能力のネメシスを入れて脳みそを修復し続けるようにして、……。後は魔眼殺しの能力を強化して異能殺しになるレベルまで久遠の能力で強化して。

 

 あ、永久化は出来なさそうだから、コピーした能力を埋め込んで自分で発動できるようにしてやろう。

 

 それとエミヤの物出す能力で首にかけられるひもが出るようにして戦闘中でも脳みその回復が出来るようにしておこう。

 

「なあ、光一ってもしかしてものすごい奴なのか?」

 

「……私にも分らん。そもそもあんな簡単にできる事じゃないはずなのだがな」

 

「……これからアレと仲間になって一緒に生活していくんだよな?」

 

「ああ、もうしているがな」

 

「……頑張れ」

 

「……ああ」

 

 二人が何か話していたが聞かなかったことにしよう。

 

「よしできた! 全部の能力の説明は……かくかくしかじかだ!」

 

「なるほどわからん。三行で頼む」

 

「能力追加。

 スイッチ付加。

 魔眼対策ばっちり。

これでいいか?」

 

「分ったことにしておく」

 

 遠野は何やら頭を抱えはじめたが、気にしないことにしよう。

 

「さて。私達は用事も果たした。退散することにしよう」

 

 エミヤがそう言って遠野に別れを告げる。

 

「志貴ー! おまたせー!」

 

 向こうも連れが戻ってきたようだ。

 

 ここらでお別れとしよう。

 

「お帰りアルクェイド。吸血衝動抑える事が出来そうなものはあったか?」

 

 遠野が金髪の女性の声にこたえて、その後質問する。

 

 その質問は後ろからついてきた白夜叉が答えた。

 

「その事じゃが、うちの店にも抑えられそうなのはない。力になれなくて済まんの」

 

「“サウザンドアイズ”でも無理だったのか? それではこの箱庭でも難しいのだろうな」

 

 エミヤがそう呟く。

 

 そして空気が少し重くなる。

 

「それなら、俺の血を吸って生きてくれ」

 

「やっぱりそうなっちゃうか……。それならやっぱり眠りに入るしか……」

 

「それは駄目だ! 俺は一生お前のそばに居るぞ!」

 

 遠野と金髪の女性が口論になる。

 

 その中でエミヤは俺の方を見てきた。

 

「光一。事情を説明してやろう。あの金髪の女性は吸血鬼でな、吸血衝動に悩まされている。それは力づくで押さえている今は良いものの限界が来ると眠りにつくか、血を吸う魔王になるしかないようなものだ」

 

「なるほど。分り易かった。流石エミえもん」

 

「お前のほうがなんでもできるだろう。ハゲえもん」

 

「禿げてねえ! 俺は断じて禿げてねえ! 能力使って生やしたりとかもしてねえ!」

 

「そうか能力を使ったことがあるんだな? まあ、取りあえずどうにかならんか?」

 

「まあ、どうにかするのは良いんだが、こいつらはカップルか?」

 

「カップルかは知らないが、相思相愛なのは間違いなさそうだな。プロポーズのようなものもしていたしな」

 

「ならエミヤは、さっき作った眼鏡の能力はそのままで指輪型の奴を作ってくれ。変化も使えるんだろう? それと同じ形の指輪をもう一つ」

 

「了解した。しかし、指輪型のだと目が覆えないから能力を封じれないが?」

 

「なかなかセンスがいい指輪だな。よし――『魔女(ハロウィン)』。これで指の部分に関する効果を生贄に目に対して同じ効果を得る能力に変えた。場所が違うだけで効果は同じだからな」

 

「ほう。便利だな」

 

「次は吸血衝動のほう、と。………………――『怪物(ジャガーノート)』」

 

「今のはなんだ?」

 

「ああ、使えば使うほど理性を失う能力の反転で使えば使うほど理性的になる能力だな。これを日常的に使えば吸血衝動なんて大丈夫だ。テンションが上がりにくくなるのは吸血衝動とで中和する感じで調整するように言っとけばいいしな」

 

「これで二つ指輪が出来たな。エミヤ。二人に渡してこい。ごねる様なら魔眼殺しでも対価にもらっておいてくれ。もういらないだろうからな」

 

「了解した。――ところでだが」

 

「なんだ?」

 

「血が吹き出そうな程唇をかみしめるな。いくらいちゃついているからってみじめだぞ」

 

 

 

 

 後日、ウェディングドレスを着た金髪の女性と眼鏡を外してタキシードを着た遠野の写真が送られてきた。二人とも指輪を薬指に付けて幸せそうだったのが印象的だ。

 

 …………リア充爆発しろ。

 

 

~光一視点終了~




光一「最後のほう地の文が少ない理由は、いちゃいちゃしているカップルがうらや……恨めしすぎて思考が停止したからだ。作者の手抜きではないと思う」

エミヤ「落ち着け」


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急変

すいません」大分遅くなりました。

次はせめて一月以内に投下できるようにします。


~エミヤ視点~

 

「さて。説明してもらおうか」

 

「「外道がいたからケンカを売った」」

 

 私は今久遠嬢と春日部嬢を正座させて今日起こったことについて問いただしているところだ。

 

 二人は今日、ガルドという敵のコミュニティの子供たちをさらっては不正なゲームを仕掛け、自分のコミュニティを拡大させているという魔王の配下とゲームをすることになったというのだ。

 

 そのことを知った私と光一はすぐに”ノーネーム”の本拠地に戻り久遠嬢と春日部嬢に問いただしているところだ

 

「確かに動機は認めよう。だが、仮にも魔王の配下に殺されるという心配はしていないのか?」

 

 そう。理由としては悪いことなどない。

 

 だが、いかにも小物そうだといえ、ただ才能があるだけの子供二人に魔王の配下の相手は厳しいと思う。

 

 よくて怪我。最悪は死だ。

 

「あんな小物に負けるはずがないわ」

 

 久遠嬢は当たり前のように言う。

 

「ほう。大した自身だな。――ならば君たちの首にあるものは何だね?」

 

 私は久遠嬢が言ったと同時に干将と獏耶を投影して二人の首下に突きつける。

 

 久遠嬢はピクリとも動くことができず、春日部嬢は反応しようとして後ろに下がろうとしていたが、間に合わずに少し動いただけだった。

 

「これでもまだ自分が強いといえるのかね?」

 

「いんじゃねえか? 本人がやりたいっていってんだし。――それに、こいつらが買った喧嘩だ。お前がでしゃばることじゃない」

 

「十六夜。お前のような例外の様な力の持ち主などそうはいない。春日部の身体能力は確かに強いだろう。だが、私如きの剣に反応できないようでは前衛としてもまだまだ。久遠嬢も今のを見ることもできていないのでは命令などできない。いくら後衛向きの力だとて遅すぎる」

 

「確かにな。だが、今回に限っては心配要らないんじゃないか? ガルドは今まで女子供を人質にとって無理やり勝っていただけだからそうは強くないだろうし、今、風呂に侵入してきたやつらの証言だと虎が人になるギフトを手に入れただけの奴で、虎の身体能力持ってる上にいろいろ使い分けられる春日部なら対処できる。そこにお嬢様のギフトは効いたんだろ? ならそう負けることはない」

 

 確かに十六夜の言うことももっともだ。

 

 しかし一つ気になることがある。

 

「――風呂のやつらとは誰だ?」

 

「ああ、さっきジン坊っちゃんと風呂入ってるときに子供拐いにきた奴ら」

 

 俺は一切悪くないとでも言いたげに十六夜は言う。

 

「……なぜそんな重要なことを言わなかった?」

 

「聞かれなかったから?」

 

 ヤハハと笑いながらさも楽しそうに言う。

 

「それにお前は過保護過ぎる。お嬢様も春日部も安定した日常捨ててまでこの箱庭に来たんだ。危険を少し位求めたっていいだろう?」

 

「……ふざけるな。正真正銘の殺し合だぞ。勝てるとしても殺すことになる」

 

「ええ、もちろん。あの外道を生かしておく意味はないわ」

 

 なるほど……こいつらは私が欲しかったものを退屈と言う理由で捨ててきたのか。

 

 そして正義感で殺しを選ぶか。

 

「……良く分かった。黒ウサギには悪いが、私にこのコミュニティは合わない。抜けさせてもらおう」

 

 少しだけ全員が目を見開く。

 

「……エミヤ、本気か?」

 

 先ほどから黒ウサギと共に私の怒る姿を見ていた光一は、心配そうな顔私に聞いてくる。

 

 しかし、もう私には無理だ。

 

 自分勝手で子供じみた我が儘だと言うことはじぶんでもわかる。

 

 しかし私の答えはもう決まっている。

 

「ああ、命を無駄にする人間と共に戦うことはできない」

 

「そ、それは困ります! どうか考え直していただけませんか?」

 

 黒ウサギはあわてて私を引き留める。

 

「すまない黒ウサギ。私は殺すのも殺されるのもごめんだ」

 

「なら、こういうのはどうだ?」

 

 十六夜が軽薄そうな笑みを崩さないまま言ってくる。

 

「明日のゲーム、お嬢様と春日部は誰一人として殺さない。そして傷一つでも負ったら二度と戦いに出れない。今回の相手ならそれくらいで妥当だろう」

 

 つまり今回の敵は実験台と言うわけか。

 

 ――まあ、しかしこれで二人が誰も殺さないようになるのなら悪くはない。

 

 それに黒ウサギにしか使えないらしいが回復系のギフトもあるらしい。

 

「エミヤ。悪くない案だと思う。もしもこの条件で戦わないようなら俺が三人とも戦えないようにする」

 

 光一は真剣な眼差しで言う。

 

 こいつは少なくとも約束だけは守るだろう。

 

 更に言うと光一は間違いなくあの(・・)光を使うだろう。

 

 直死ですら消し去ったあの異能を。

 

 それに、私にも奥の手はある。

 

 二人が死にそうになったときには確率は低いとしても助けられる。

 

「……分かった。その条件を飲もう。負けたら戦闘系のゲームには三人とも出れないようにするからな」

 

 私はそう言って部屋を去った。

 

 

 

     ※※※

 

 

 

 私が去ったことによって部屋に集まっていた人は全員各々の場所に戻り始めているようだ。

 

 しかし、私の背後に着いてくる奴が一人。

 

 まあ、言うまでもなく光一なのだが。

 

 光一は何を話すでもなく私の後ろに着いてくる。

 

 そして“ノーネーム”の本拠地の入り口に来たときに私は光一に話しかけた。

 

「……はあ、お前はどこまで着いてくるつもりだ?」

 

「ああ、お前の最終目的地と一緒だよ。お前も頭を冷やすついでに来たんだろ?」

 

 ついでに。が何のついでかは聞かなくてもわかる。

 

 もはや私の思考も読まれているようだ。……少し不愉快だがな。

 

「なに、イレギュラーな事態が起こらないか見に行くだけだ。相手が実は強かったなんて笑い話にもならん」

 

 光一は「まあな」と呟いてまた会話が途切れる。

 

 そして完全に“ノーネーム”の敷地を出た時光一がもう一度口を開く。

 

 

「なあ、お前はもう相手の強さ位分かっているんだろう?」

 

 

 ……はあ。そんな素振りは見せた覚えがないのだがね。

 

「まあ、俺も喫茶店まで一緒に行った訳だし、武器の過去まで複製するお前なら、相手の虎が久遠の呪縛に耐えようとしてひび割れた机の跡に残っていた爪かなんかである程度の強さは分かるはずだ」

 

「それがどうかしたのか?」

 

「ああ、お前は久遠と春日部の心配はしていない。心配しているのはガルドの命。またはガルドを殺すことによって起こる殺人に対するショック反応だ」

 

「……あんな子供たちに人の死の重みなど耐え切れるものではないからな」

 

 私は歩く速度を早める。

 

「ん?」

 

「何だエミヤ? 変なものでも――」

 

 驚いて声も出なくなる光一。

 

 私立ちの目の前にあったのはまがまがしく変貌した森だった。

 

~エミヤ視点終了~




光一「お前過保護なお父さんみたいだな」

エミヤ「知るか。それに私に子供などいない」

光一「もし子供ができてたら『パパうるさい』とかいわれるタイプの」

エミヤ「……危険だったら止めるだろう仲間なんだしな」

光一「クサッ!」

エミヤ「(ぐさ)! 私はもう眠る。……朝まで起こさないでくれ」


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吸血鬼

はっはー。

久しぶりにこんな早く投下できました!


~光一視点~

 

「くそっ! 何が起きているんだよ!」

 

 俺は誰に言うわけでもなく口に出す。

 

「私にもすべてはわからん。ただ、ここをこんな姿に変えたのは吸血鬼――それも高位の存在だ」

 

「ガルドとか言う奴はそんなに強いのかよ! 早く久遠たちに伝えてやめさせないと!」

 

「ああ、どんな手を使ったかは知らんがここまで強化されてるとなると久遠嬢の能力も効かない可能性がある。それに、春日部もただの虎に毛が生えた程度ならまだしも吸血鬼の力まで加わったのでは地球上の生命体の性能の一つや二つじゃ厳しいだろう」

 

 エミヤと一緒にこれからどうするかを探る。

 

 おそらくこの状況になっているからといって久遠と春日部の二人は戦いを止めるなどということはしない。

 

 ならばやる事は一つ。

 

 この異常事態の対処だ。

 

「エミヤ、木を全て切り倒すのと、焼き払うのはどっちがいいと思う?」

 

「焼き払ったりなどしたら周りが危ないだろう。ここは私が全て切り払ってやる。なんだかんだで箱庭に来てから見せ場が無いからな」

 

 エミヤはやれやれと言わんばかりにつぶやく。

 

「そうか、任せたぞ。俺は――」

 

「分かっている。ガルドの強化元を潰しに行くのだろう?」

 

「ああ」

 

 エミヤも俺も話さなくても分かっている事実。

 

 この森の状態はガルドではない。

 

 つまり吸血鬼がガルドに手を貸しているということだ。

 

 正直に言えば吸血鬼を相手にするのならエミヤのほうが断然いい。

 

 だが、いまだにエミヤは魔力が十分では無い。

 

 今日はほとんど何もしていないから半分ほどまで魔力が溜まったらしいが、元々エミヤの魔力は少ないらしい。

 

 エミヤから聞いた話だが、元々投影には世界の修正力というものに対抗するだけの力をこめて行っていたらしいが、箱庭においては修正力が極端に低いらしい。

 

 それを加味しても俺に放った『赤原猟犬(フルンディング)』のような真名開放は一日に十回が限度らしい。物にもよるとは言っていたがそれを基準にしてもいいだろう。

 

 それでも十分に思えるが、殲滅戦においてはそれは大きなハンデだ。

 

 雑魚が多いだけなら剣軍を呼び出して一網打尽にできるが、もしも敵がある程度強い奴らが大量に出ていた場合には厳しい戦いにならざるを得ないだろう。

 

 その点に関しては俺なら問題ない。

 

 理由としては一対他だとしても一対一でも持久戦でも短期決戦でも戦闘力があまり変わらない。

 

 劣化とつくもののコピー能力者の面目躍如といったところだ。

 

 まあ一番の問題としては基準となる戦闘力が圧倒的に低いということだけだがな!

 

 まあ、最悪はあれ(・・)を使えば一網打尽に出来る。から問題ないか。

 

 エミヤと共に森の中に向かおうとした時にがさがさと音が聞こえてきた。

 

「ふむ。まさかこの状態の森に入ってくるとはな。私は明日の準備で忙しい。ここから立ち去ってもらおう」

 

 そいつは俺達に向かってそんなことを言い始める。

 

「なあ、エミヤ。こいつを倒せばあの森って治るか?」

 

「それは分からんが、試してみてもよさそうだな」

 

 俺達はそう言って一歩踏み出し、森から出てきた金髪の女性に向かっていく。

 

「ふむ。子供でも取り返しに来たコミュニティか? 残念ながら人質なら全員殺したと本人から聞いた。ここで無駄に死ぬ必要はあるまい」

 

 金髪の女性は淡々とそんなことを言っている。

 

 こいつがガルドの部下だと?

 

 明らかに強そうじゃねえか。久遠達から聞いた話とぜんぜん違うな。

 

 こんな戦力を持っているのなら人質なんて必要ないだろう。

 

「一つ聞かせてもらおう。――貴様は何が目的だ?」

 

 エミヤが金髪の女性に向かって聞く。

 

「ああ、明日ガルドとやらが戦うコミュニティには少し因縁があってな。力試しでもしてやろうとしているだけだよ」

 

 エミヤが驚きを押し隠しながらもう位置度問い詰める。

 

「何? “ノーネーム”にか?」

 

「ああ、まさか復興させようなどと思っているとは思わなくてな。手ごろな当て馬でもあてがってやろうと思ったんだ。まあ、お前たちには関係ないことだがな」

 

 つまりうちのコミュニティが気に食わないということか。

 

「つまり君をここで止めれば明日の戦いは楽になるということか」

 

 エミヤはそういっていつも通に陰陽の壮健をかまえる。

 

「……ほう。まさかそっちから飛び込んでくるとはな。ちょうどいい、ここで実力を見てやろう」

 

 そう言って金髪の女性も槍を取り出して構える。

 

「私の名前はレティシア=ドラクレア。吸血鬼だ。さあかかって来い」

 

「私は敵に名乗るほどの名前など持っていない。まあ、ここではアーチャーとでも名乗っておこう」

 

「俺の名前は佐藤光一。ダークヒーローだ」

 

 全員が名乗りを上げる。

 

 しかしレティシアはあきれたような声でつぶやく。

 

「……ずいぶんと個性的だな。それにアーチャー。先ほど佐藤がエミヤと呼んでいるのが聞こえたぞ?」

 

 ……ああ、聞こえてたのか。

 

「……敵に呼ばれるる呼び名などアーチャーで十分だからだ」

 

「フフ。そういうことにしておいてやろう。――さあ行くぞ!」

 

「ああ、光一は後ろに下がっとけ」

 

「おう!」

 

 エミヤが言うと同時に全力で後ろに向かって逃げる。

 

「ずいぶんと臆病なようだな。それに逃げ方も下手だ」

 

 レティシアが槍を投擲してくる。

 

 音速を優に超える一撃は俺の背中に向かってまっすぐに飛んでいく。

 

「まあ、ヘタレなのは否定しないが、あれでも中々に骨があるやつだぞ?」

 

 しかし槍はエミヤが双剣で弾き飛ばす。

 

 ……やっぱりあいつ等おかしいだろ。

 

 悩んでいてもしょうがない。

 

 エミヤとレティシアの槍と剣の押収は既に俺の対処できる域を超えている。

 

 ひたすらに力任せに振るわれる槍を、エミヤは体全体の動きを使っていなし続ける。

 

 エミヤ自身も反応できる速度では有るのだろうが、膂力の圧倒的な違いのせいか、体を大きく動かして受けなければならないようで、結果的に動きが大きくなり速度についていけなくなって来ている様だ。

 

 しかし、圧倒的に性能の違う身体能力にて繰り出される連撃ですら、エミヤは一切の怪我すらなく防ぎきる。

 

 しかも俺に対する攻撃を警戒しているのかレティシアが距離をとろうとすると一気に距離をつめて攻撃を加える。

 

 俺はエミヤのサポートをする気ではいるが、もはや二人の戦闘に手を出せるほどに優れた能力は少ない。

 

 せいぜい攻撃をくらいそうな瞬間に補助するくらいだ。

 

「光一! 今だ!」

 

 エミヤが俺に向かって叫ぶ。

 

 それと同時に双剣を同時に槍に叩きつけてレティシアの体制を崩す。

 

「くっ!」

 

 レティシアはエミヤの技後硬直に追撃を与えることもせずに俺を警戒して一歩下がる。

 

 しかし俺は何もしない。

 

 盾を敷こうにも攻撃など無いし、崩れた体制のまま弓を構えているエミヤの邪魔にしかならない。

 

 先ほど投影していた双剣のうち一本をレティシアの頭部に向けて放つ。

 

 レティシアは俺に意識を向けていたせいで回避が一瞬遅れる。

 

 それでも頭部という小さい的に対して放たれた矢に対しては回避が間に合ったらしく髪の毛を切っただけで終わる。

 

 しかし今の攻防で距離をとることが出来たレティシアは槍を二本取出して俺とエミヤに投げつける。

 

 エミヤはその槍を難なくかわすが、そのせいで俺に対する防御は間に合わない。

 

 だからここでようやく俺が能力を発動する。

 

 能力という弾丸をカートリッジに入れて打ち出すイメージ。

 

 そして込めた力は――

 

「『不屈の卵殻(ハンプティダンプティ)』!」

 

 俺が知る限り最も硬い防御。

 

 サイズは前に使ったときと同じだが、今回は生産性能ではなく強度を高める。

 

 それでも大気の壁を簡単に越えるものに対して耐え切れることなど無い。

 

 それを槍の穂先に対して少しだけずらして配置する。

 

 突き出した左腕の手のひらから一メートルほど離れた場所に出てきたそれは、飛来してきた槍の軌道をほんの少しだけ捻じ曲げてはじけ飛ぶ。

 

 しかしそのほんの少しの軌道の歪みで、槍は体のすれすれの所を通って夜闇の中に消えていく。

 

「曲芸じみた真似を!」

 

 そうつぶやきながらレティシアは後ろに下がる。

 

 そしてもうエミヤは追いかけることはしない。

 

 唯、弓に残った双剣の一本を番えるのみ。

 

 レティシアは、ジグザグに動くことによって的を絞らせないようにしているが、アーチャーと名乗れるだけの技量を持つエミヤが外すはずが4無い。

 

 レティシアは何とか打ち落とそうとまた槍を取出して構える。

 

 そして飛来してきた矢を打ち落とすことに成功する。

 

 ――と同時に、レティシアの胸から黒い刃物が飛び出てくる。

 

「カッハッ!」

 

 レティシアは大量の血反吐を吐く。

 

「今使っていた剣、干将と獏耶は化け物に対して効果がある剣でな。君にはさぞ効くと思ってね」

 

 エミヤは得意げな笑みでそう呟いてレティシアの元へ近づく。

 

「……フフフ。驚いたな。こんなに簡単に負けるとは」

 

 レティシアはもはや逃げる気も無いのか自嘲げな笑みを浮かべながら近くの木にうずくまる。

 

「出来れば……、教えてもらいたいのだが、どうやって私の胸を打ち抜いた?」

 

「ああ、干将と獏耶は互いに引き合う性質を持つ剣でね。干将が戻って来るのを見計らって獏耶を放っただけだよ」

 

「私がこうも簡単にしてやられるとは。末恐ろしいな」

 

「光栄だな。ではこちらの質問にも答えてもらおうか」

 

 エミヤは質問をして、俺とエミヤは何が起こっているのかを把握し、敵が誰なのかを思い知った。

 

 

~光一視点終了~




光一「えーっと。また手紙が届いたんだが、コレはどうしたらいいんだ?」

エミヤ「知らん。読まないほうがいいだろう」

光一「確かに今までろくな目にあってないしな」

エミヤ「よし。私はいい加減魔力を回復させたいのでな寝る事にする」

光一「ああ、お休み。……エミヤの魔力不足は一年くらい続いているのかね」


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最悪のゲーム

遅くなってすいません……

現実の忙しさと辛さと楽しさに挟まれておりました。

つまり自分のせいです。

今回は短めなのでご了承ください。

久しぶりの三人称。


~第三者視点~

 

「エミヤさん達は帰ってこなかったのですか。このまま姿をくらますということが無いといいんですが」

 

 黒ウサギは呟いて朝の準備をする。

 

 現状、一番困っているのは黒ウサギだ。

 

 この世界においても命の駆け引きはそう多いものではないが命のを賭けるゲームも多数存在する。

 

 その中で命を奪うことが出来ないとなると相当なハンデだ。

 

 確かにエミヤの子供たちに命を奪わせたくないという判断は分かるが、魔王とのゲームの際にはその制約は相当大きな縛りとなるだろう。

 

 そして今日の試合で負けてしまえば相当な痛手でもあり、命を奪って勝ってしまえばとてつもない戦力を二つも失ってしまう。

 

 既に昨日の時点で”ノーネーム”にとって全てがプラスの状況はなくなってしまっている。

 

 これも黒ウサギたちの同士を謀って手に入れようとした罰といわれてしまえば何も言い逃れは出来ないのだが。

 

 そして一番の不安要素はエミヤと光一がここにいないということだ。

 

 最悪の場合、敵に囚われている可能性すらあり、その場合ギフトゲームの経験が少なく、まだ幼い二人の少女には勝ち目など無くなってしまう。

 

 そんなことを考えつつもギフトゲームの準備を終えて”フォレス・ガロ”のもとへ向かったのだった。

 

 

 

 

 

   ※※※

 

 

 

 

 

「――鬼化してる? いや、まさか」

 

 “ノーネーム”のリーダーのジンが驚いたように声を上げる。

 

 ”フォレス・ガロ”の領地は見事なまでにジャングルと化し、鬼種の霊核を植え付けられることによって強制的に成長させられていた。

 

 そしてもしも『彼女』が係わっていて、かつエミヤと光一に出会って居ればあの二人はやられてしまっているのかもしれない。

 

 さらに神格と鬼種の純血という魔王に相応しいだけの性能を秘めていて、森を一晩で変貌させることが出来る『彼女』が敵として現れたとしたら、あの二人でも対抗できないかもしれない。

 

 黒ウサギがその考えにいたるのは不自然ではないし、順当な結果だ。

 

「ジン君。ここに“契約書類(ギアスロール)”が貼ってあるわよ」

 

 飛鳥が指した先には確かに“契約書類”があって、読んでみるとますます最悪としか呼べないようなことが書いてあった。

『ギフトゲーム名 “ハンティング”

 

・プレイヤー一覧  久遠 飛鳥

          春日部 耀

          ジン=ラッセル

 

・クリア条件 ホストの本拠内に潜むガルド=ガスパーの討伐。

・クリア方法 ホスト側が指定した特定の武具でのみ討伐可能。指定武具以外は“契約ギアス”によってガルド=ガスパーを傷つける事は不可能。

 

・敗北条件  降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

・指定武具  ゲームテリトリーにて配置。

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、“ノーネーム”はギフトゲームに参加します。

                     “フォレス・ガロ”印』

 既に“ノーネーム”側の完全な勝利は無くなってしまった。

 

 

 

 

~第三者視点終了~




『本日は閉店させていただきます』


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小さな世界は回りだす

長くなりました!

今回は毛色を変えてジン坊ちゃん視点!

問題児シリーズの薄くなった影を濃くするんだ!


~ジン視点~

 

 どうすればいいのでしょうか。

 昨日の夜、十六夜さんに言われたよう、僕にはリーダーとしての覚悟が足りなかったんだと思う。

 

 いや、思うではなく実際に足りていなかった。

 

 以前は箱庭中に響いていたこのコミュニティですら届かなかった相手から名前と旗印を取り返さなければならなかったのに、力が足りない人が足りないお金が足りないと何かのせいにして努力なんかしていなかった。

 

 

 やろうと思えば膨大な経験が書き記された本が本拠に眠っていて、それで知識を蓄えてギフトゲームに参加することもできたのだろう。

 

 だけど僕はそれをやらずにのうのうと過ごして黒ウサギに迷惑をかけただけだった。

 

 僕の持つギフトについても光一さんは新しい使い方をいくつも考えてくれた。

 

 僕は何年もこの力と向き合ってきたのに見つけられなかったことを。

 

 いくら感謝してもしきれない。

 

 だから今日のギフトゲームで少しでも役に立とう。

 

 ……そう思っていた矢先に、ギフトゲームの内容がガルドの討伐だった。

 

 飛鳥さんや耀さんのギフトでは殺さずに討伐することは不可能だ。

 

 光一さんやエミヤさんなら何とか出来たのかもしれないが、全ての者に命令する能力と、動物の性能を手に入れる能力では討伐を行うことはできても殺さないことが難しい。

 

 だから僕は策を練る。

 

 最初は(つたな)くてもいい。(まず)くくてもいい。

 

 十六夜さんに――いや、コミュニティ全員にリーダーと呼ばれるだけのことをしてやろう。

 

 光一さんは僕くらいの異能で敵を倒して行き、最後には嘘みたいな量の平行世界の救いをもたらした。

 

 だったら僕にもできるはずだ。

 

 今日この戦いのために、できる限りの準備はしてた。

 

 さあ、僕の戦いの開始だ。

 

 

 

 

 

     ※※※

 

 

 

 

 

 ゲームが始まり、森の中に飛鳥さんと耀さんと踏み入れました。

 

 まずは、勝利条件たる武具を探し出さなければいけません。

 

 しかしそれは僕の役目ではありません。

 

 もうすでにある場所の予測は付いているのだから、そこの付近になったら五感の優れる耀さんに任せるということになった。

 

 そのことはもう二人には話してあります。

 

 だから僕は歩きながら待ちます。

 

 それが来るまでは僕はまだ足りない頭で考え続けておこう。

 

「もう館は目と鼻の先まで来たけれど、何か思いついたのかしら?」

 

 飛鳥さんが足を止めて聞いてきます。

 

 その言葉とともに耀さんも足を止めて僕の方を見る。

 

「作戦というほどではありませんが、武器を手に入れるのが先だと思います。エミヤさんの言葉がどうであれ、武具を持って戦わなければ負けてしまうと思ったので」

 

「それは賛成なのだけれど、どうやって殺さないで討伐するのかしら? 私には一切思いつかないわ」

 

 僕の自信を込めた言葉を疑うように飛鳥さんは聞いてきます。

 

 確かにすべてを捨てて箱庭にやってきたのに自由にゲームができなくなる瀬戸際なのだ。

 

 疑ってかかるのも無理はないと思います。

 

「すいませんが、それはまだ思いついてはいません。ですが、ある程度のことは見切りをつけています」

 

「つまり、明確な手段は思いついていなくても、勝利する方法はあるということね?」

 

 有無を言わせぬ圧力を視線に宿しながら飛鳥さんは聞いてきます。

 

 これが以前の僕なら、普段の僕なら萎縮しているところなのでしょうが、今の僕は向上心という活力に満ちていると、自分でもわかります。

 

 だから、しっかりと飛鳥さんを見据えて答えます。

 

「ええ、絶対に殺さずに討伐することは可能です」

 

 飛鳥さんは僕の答えに満足したのか、ならいいわと答え、敵の本拠地の方を見ます。

 

「……ならジンは、何がダメで作戦が立てられないの?」

 

 今度は耀さんが聞いてきます。 

 

 僕は、敵の本拠地に近いのに攻撃が来ないことを確認してから全員に話しかけます。

 

 

「まず、一番最初の問題は殺さずに討伐を行うことがネックでした」

 

「ええ、そうね。私も思いつかないし、難しいところよね」

 

「はい、そこは昨日書庫に籠って十六夜さんと読んだ本の中にヒントがあったので何とかなりました」

 

「それで目の周りにものすごいくまができてるのね」

 

 昨日から始めた努力は早くもここで実を結んだことに、すでに喜びを感じているのだけど、次の問題でその喜びは消えてしまった。

 

「ええ、僕のくまができた原因の本の中に、日本の歴史書があったんです。日本には地形や、作戦で少数で大人数を倒した例が豊富でした」

 

「それはどうでもいいから早く話しなさい。徹夜明けでテンションでもおかしくなっているのかしら?」

 

 飛鳥さんの言葉の毒は割りと僕の心に刺さった。

 

 ……いたい。

 

「それでですね、本の中に後鳥羽上皇を討伐(・・)した承久の乱という物があったんです」

 

 その言葉に飛鳥さんと耀さんが二人共目を見開く。

 

「後鳥羽上皇は……幕府に討伐されたあとは島流しになっているのよね? つまり討伐後も生きている」

 

「そうです。後鳥羽上皇の場合は、反逆を起こせるだけの力を失い、その後別の島に流されています。つまり力をそぎ落として反撃することさえできなくさせれば僕達の勝ちです」

 

「そうね、それで二つ目の問題は何かしら?」

 

 僕は興奮しすぎないように深呼吸をしてから二人を見て答えます。

 

「二つ目の問題は、二人とも怪我をしてはいけないということです」

 

「……それなら私がやれば大丈夫。あんなでかいだけの虎には負けない」

 

 そこには怪我を負わせられるということを遠回しに言われた耀が力強く反論する。

 

 ここで言い負けてしまえばこのゲームには勝つことはできないというのを察して耀さんに言い返します。

 

「耀さんの身体能力は今のガルドにも対抗出来るだけの力がある事ま間違いありません」

 

「……ならどうしてだめなの?」

 

「ガルドには元々の虎として築き上げてきた霊格と、この森の様に吸血鬼の霊格を持っていると思います。代わりに理性とかは失っているとは思うのですが、それでも戦闘経験の少ない耀さんと戦うのでしたら勝率は五分五分だと思います」

 

「飛鳥もジンもいるなら大丈夫じゃないの?」

 

「ええ、僕達も戦うことを前提にしないと無傷で倒すことはできないと思います」

 

 ここまで話した時に、飛鳥さんが少し慌てたように口を挟みます。

 

「私は春日部さんみたく早く動くことは出来ないわ。……悔しいのだけれど」

 

「私もこのペンダントをもらうまで出来なかったから飛鳥も頑張ればできる」

 

「無茶言わないで!」

 

 この二人はもうすでに結構打ち明けてますね。

 

 それはいいことですが、敵陣の前で覚醒しろとは少し難しいのではないでしょうか耀さん。

 

 まあ、そのことは置いといて。

 

「とりあえず、ガルドなら耀さん二人分の戦力があれば無傷で倒せます」

 

「あまり否定は出来ないのだけど、ギフトとしての性能なら春日部さんには負けないわよ?」

 

「ええ、僕はお二人に負けてますが、できることはあります。つまり出来ることと出来ないことの差がこの勝負を握っているんです」

 

「ということは、武具ということは、実際に動くのは春日部さん。私とジンくんはサポートということかしら?」

 

「ええ。そのサポートなのですが、このゲームの場合、飛鳥さんのギフトはガルドには効きません」

 

「ええ、ルールで身を守っているのよね?」

 

 飛鳥さんはガルドの策に少し関心しているようにいいます。

 

「なので、飛鳥さんの戦力は普段より少ない状態ですよね。それに僕のギフトもあまり強力な効果は今は出すことは出来ません。ここが問題なのです」

 

「……つまり、あまり認めたくはないのだけれど、ジンくんの作戦の中では二人とも役に立たないということね」

 

 少し目を細めながら飛鳥さんは僕の方をにらみます。

 

 ……ものすごく逃げたいです。

 

 こんにちは昨日までの僕。もう君とは出会いたくないから帰ってくれないかな?

 

 僕の心の中で葛藤をしていると、飛鳥さんが僕の肩に手を置きます。

 

 そして僕の両肩をぎりぎりと握りつぶそうとしながら言います。

 

「こんなに舐められたのは人生で初めてよ。体験したいことではなかったけれど。……ねぇジンくん」

 

 僕は飛鳥さんから感じられる修羅のような圧力に昨日までの僕が出てきてしまい、まともに答えることが出来ません。

 

「あまり私を舐めないで頂戴! さあ、春日部さん歩いてるだけでも怪我をしない様にしてやろうじゃないの!」

 

「は、はい!」

 

 僕は反射的に返事をします。

 

「さあ、見てなさい! 私の力を『バッチリ目に焼き付けなさい!』」

 

 その言葉に僕は逆らうことが出来ないどころか、ギフトまで無意識に使われていたらしく指一本満足に動かせません……。

 

 そうして、僕の二つ目の不安はばっちりと取り除かれたとだけ言っておこう。

 

 

 

 

 

     ※※※

 

 

 

 

 

「それじゃあ、僕が合図をしたら二人共よろしくお願いします」

 

「ええ。わかっているわ」

 

「右に同じ」

 

 僕は乾いてしまった目に潤いを取り戻させようとしぱしぱさせながら言います。

 

 ……ここが森で、湿気がそれなりになかったらもっと酷かったんだろうなぁ。

 

「それじゃあ、行きます。

 

 一

 

 二の

 

 三っ!」

 

 その声とともに飛鳥さんの声が森中に響きます。

 

「『吹き飛ばしなさい(・・・・・・・・)!』」

 

 その言葉とともにガルドの本拠点であった屋敷は、吸血鬼化した木々のフルスイングによって粉々になって空へと吹き飛ぶ。

 

 ……まあ、少しだけ種はあるんですが、それを抜きにしてもこれは酷い。

 

 ガルド自身は全くの無傷でも、屋敷の中に居たがために木々の異変を察知したとしても吹き飛ばされることは避けられない。

 

 つまり、どれだけ強化されていようと虎か吸血鬼でしかないガルドにはどうすることも出来ず空に舞うことしか出来ません。

 

 そして更に、こちらは三人。

 

 僕の戦力の低さを考慮しても途轍もない戦力である耀さんがいる。

 

 そして、耀さんのギフトは動物の性能を手に入れること。

 

 耀さんのギフトなら、グリフォンの様に空を駆けることすら出来る!

 

 身体能力の一点だけなら負けるかもしれないとしても、多用性という点ではガルドでは遠く及ばない。

 

 相手が強いならその土俵で戦わなければいい。昨日光一さんとエミヤさんが言っていたことだ。

 

 だから僕は、いや飛鳥さんはガルドの土俵を粉々に吹き飛ばす策を伝えてきた。

 

 ……まだまだ作戦を建てるのが下手だなぁ。もっと精進しなきゃ。

 

 そう思いつつも、こんなスケールで考えることが出来なかった時点で僕にはこの作戦はたてられなかったのだろう、とも思ってしまう。

 

 しかし耀さんがいくら空を飛べるとしてもまだ飛行技術はそこまででもないのとで真直ぐにしか飛べない。

 

 だから、瓦礫の中にある剣を拾うことは出来ない。

 

 ――だからこれは僕の役目だ。

 

「精霊たちお願いします!」

 

 その言葉とともに、白銀の剣が浮かんでいく。

 

 速度こそ遅いが、持ち上げられているところを見ると失敗とまでは行かないようだ。

 

「剣が来ないならもう一度!」

 

 耀さんが剣が来ないために瓦礫を盾にしてガルドを吹き飛ばそうとする。

 

 しかし、ガルドは瓦礫が飛んでくるのを、爪を振り上げて待ち構えている。

 

 粉砕する気なのか!

 

 そのガルドの反撃を、春日部さんは自身が盾にした瓦礫で見ることが出来ていない!

 

 不味い!

 

 これでは耀さんがやられてしまう!

 

 今にも瓦礫が接触しそうになる時、もう一度声が響いた。

 

「ダメよ春日部さん! 『下がりなさい!』」

 

 それを飛鳥さんは春日部さんに言葉で強制的に後ろに下げられる。

 

 唐突に後ろに下げられた春日部さんは驚愕したようにこちらを見る。

 

 春日部さんが離れても慣性でそのまま飛んでいく瓦礫はガルドによって粉々に砕かれるのをみて飛鳥さんにペコリと頭を下げたのが見えた。

 

 もしも春日部さんがあのまま向かっていたら炸裂する瓦礫の威力に加え、高所からの落下ということで相当な重症を負っていたということがわかります。

 

「まったく。……間一髪ね」

 

「ありがとうございます、飛鳥さん」

 

「それよりもあなたが剣を渡せなかったのが原因でしょう! 『さっさと剣を運びなさい!』」

 

 飛鳥さんが僕に命令をする。

 

 その瞬間、今までも全力で運んでいたであろう森や風や大地の精霊が急激に速度を早めて春日部さんに剣をとどける。

 

「っよし。これなら!」

 

 耀さんは見晴らしの良くなったガルドに向けてきらりと陽光を弾き返しながら剣を振るう。

 

 しかしガルドも猫科特有のしなやかさで体勢を空中で整える。

 

 その万全の状態からものすごい速度で前脚が振るわれる。

 

 剣と腕。

 

 普通なら圧倒的攻撃範囲の違いによって叩きのめされてしまうものだが、今の巨大な虎と化したガルドならほとんどその差を無くすことが出来る。

 

 この空中での耀さんとガルドの差は空中での移動のみ。

 

 しかし、耀さんの飛行能力はまだ自由自在とは行かず、空中で大まかに動けるというくらいの物です。

 

 万全の状態で迎え撃つことが出来るガルドならそのアドバンテージはゼロ二近いのです。

 

 つまり耀さんとガルドでは条件がほとんど同じです。

 

 ここまで策を凝らしても僕の(つたな)い物じゃ良くて六分四分くらいにしかもっていけていません。

 

 このとてつもない戦力である二人を使って、最大限頭を働かせても、ゴロツキ一人満足に倒せない。

 

 己の不甲斐無さを感じながらも耀さんとガルドが交差するのを、祈るように、願うように見守る。

 

 そして二人が空中で交差する。

 

 一瞬の交差の中おびただしい量の鮮血が舞う。

 

 剣によって切り裂かれても、腕によって叩きつけられても血飛沫は舞う。

 

 だから一瞬判断に迷いました。

 

「これで私たちの勝ちだわ!」

 

 僕が判断に迷っている横で、飛鳥さんが喜びの声を上げる。

 

 そう。

 

 血しぶきは、同じく自由落下する肉体と共に地面に向かって落ちていく。

 

 

 この戦いの敗者は――ガルドだった。

 

 

 

 この一瞬の交差の中で明暗を分けたのはおそらく狙う場所の決定的な差異だったんでしょう。

 

 ガルドは言うまでも無く春日部さん自身を打ち砕こうとし、春日部さんは振るわれたガルドの腕を攻撃しようとした。

 

 だとするのならリーチの問題で、耀さんの剣はガルドの腕にいち早く届きました。

 

 これが僕の策で唯一勝率を上げられたもの。

 

 もし、ガルドが吸血鬼の回復力を過信して攻撃を受けてから反撃をされたら負けていた。

 

 もし、ガルドが剣をもっとも危険なものと見なして剣のほうへ攻撃をしていたら負けていた。

 

 もし、ガルドが今まで理性を保っていないフリをしているだけで理性があり、腕の攻撃に見せかけて体を回転させて蹴りを放ってきていたら負けていた。

 

 もし、ガルドが外の変化に気づき、屋敷の外へ飛び出していたら負けていた。

 

 もし、白銀の剣が、指定された武具ではなく囮なら負けていた。

 

 それぞれに理由をつけて、ほんの少しずつ裏を取っていってこれらの選択肢を選びにくくした上でようやく手に入れた十分の一の勝率。

 

 飛鳥さんと耀さんと『精霊使役者(ジーニアー)』によって契約した精霊たちにさまざまな実験やさまざまな情報集めをやってもらって無ければ別の結果だった。

 

 たったの十分の一しか上がらなかった勝率がこの勝負を左右したんです!

 

 腕を聖なる剣で切られて苦痛にもだえ苦しみながらガルドは地面に落ちました。

 

 ルールで守られていなかったら間違いなく死んでいた高さです。

 

 ガルドはすでにもだえ苦しむことしか出来ず、耀さんが近づいても反応することも出来ません。

 

 そして地面でもだえ苦しむガルドに耀さんは白銀の剣を突きつけて言います。

 

「これで――ガルド討伐完了」

 

 

 耀さんの宣言の跡に、ゲームクリアを告げると共に、鬼化した木々が一斉に消滅した。

 

 ――ああ、僕たちの勝ちだ!

 

 

~ジン視点終了~




エミヤ「さて、まず初めにお知らせを一つしておこう。次回からはこのコーナーでは寄せられた質問を答えるコーナーにして行こうかと思う」

光一「まあ、作者自身のネタが切れたというのが理由だ。ということで、よろしく」

エミヤ「それにしても今回はジン君が成長しすぎじゃないかね? どう見ても一日徹夜しただけの少年じゃないだろ」

光一「いやー。十六夜と一緒に風呂に入った後、覚悟を決めたような顔で書庫に入っていくから、何かなーと思って見に行ったんだよ」

エミヤ「ほう。あのガルドと戦うということが発覚する前のことか。それでどうしたんだ?」

光一「それで、自分のギフトが弱いこととか、知識が足りないこととか、覚悟が足りないとか言ってたから、軽く能力の使い方を考えてあげて、ジーニアーを少し使えるようにしたんだ」

エミヤ「さすが元弱小能力者だな」

光一「誰が元弱小能力者だ! 俺は初めから最強だったんだよ! ……確かにイカロスブイレイブを手に入れたときがっかりしたけどな」

エミヤ「ああ、すまない今も弱小能力者か」

光一「いや違う! 俺は今や時すら操れる男だぞ! 昨日だってジンが勉強した言って言うから書庫を異界化させて時間を三倍くらい延ばしたんだぞ!」

エミヤ「……ほう。さすがに一晩徹夜しただけでものすごいくまが出来るわけないとは思ったが、その三倍もやらせていたのか」

 光一「い、いや。ちゃんと体力回復とか、睡眠欲緩和とかもかけてやったし、あんだけ長い時間を頑張ったのはジンの努力の賜物だ! お、俺はわるくねぇ!」

エミヤ「別の作品のネタを使うな!」

光一「ほ、ほら、知識を蓄えたことでこんだけ戦えただろう! だからその剣をしま――」

エミヤ「貴様は限度を知れ! 勝手に魔法の領域に手を出すな! もう少し物理法測を守れ!」

光一「ぐはぁ! ……最、後のは、おま、えに言われたく、ねえ――」






※ちなみに光一君が時間を操れるのはちゃんと準備をしてから能力を使わなければいけないのでぽんぽんは使えません。ご了承ください。


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本拠にて

~ジン視点~

 

 あたりの木々が消失したことで、僕の初めての戦いは勝利で終わったことを実感しました。

 

 僕たちは箱庭の平和を守ることに成功し、ガルド一人になった“フォレス・ガロ”は瓦解していくのでしょう。

 

 “フォレス・ガロ”とのゲーム終了後、ガルドは箱庭の法によって裁かれることになりました。

 

 そして、ガルドたちが今まで奪ってきた名前や旗は全て僕たちのもとえやってきたのです。

 

 この旗を返却すること、それが僕の“打倒魔王”のコミュニティのリーダーであることの証明になる。

 

 十六夜さんが考えた作戦のとおりに僕は全てのコミュニティに旗と名前を帰し終えコミュニティに帰宅すると、そこには一人の女性が立っていました。

 

 腰まである金髪、整えられた美貌。

 

 ――三年前に分かれることになってしまった僕たちの仲間が居ました。

 

「久しぶりだな黒ウサギ、ジン。ガルドとのゲームに無事勝利したようで何よりだ」

 

「レティシア様!? どうしてここに!」

 

 黒ウサギが嬉しさを多分に含んだ声色で驚きます。

 

 僕も疲れていなければ叫びだしていたのかもしれません。

 

「ああ、ちょっとしたチャンスを手に入れてな。少しだけ出してもらえたんだ。今はまだ他人に所有される程度のものだよ」

 

「そうなんですか……。それでなぜ来て下さったのですか?」

 

「ああ、今のコミュニティがどれだけ力があるかを見たくてな。結果は無傷で殺めず勝利。疑う余地が無いほどには強い同士を得たな。ああ、ジンも良くあそこまで作戦を立てられるようになった。これからもがんばってくれ」

 

 その言葉に僕は喜びがこみ上げてきます。

 

 手を伸ばしても届かないほど遠くに居たコミュニティの先輩からほめられたのですから。

 

「ただ、今はそれよりも大事な用がある。元々の出てきた理由はそれだったんだが、ここにお前たちを呼びにきたのはお前の同士二人がどこに居るのかを伝えるためだ」

 

「エミヤさんと光一さんの居場所を知っているのですか?」

 

「ああ、知っている」

 

 あの二人が一日居場所をくらますほどのことに巻き込まれているということをあらわしているといっても過言ではない発言に、ここに居る全員が驚きます。

 

 出会ってから日は浅くても、二人の実力は桁違いだったと分かるくらいなのですから。

 

 

「何から話すべきか迷うが、黒ウサギは、私が今ゲームの商品になっていることは知っているか?」

 

「知っています。もちろんゲームに参加する予定でしたから」

 

「そのゲームがなくなりそうなんだ」

 

「本当ですか!? それじゃあ――」

 

「ああ、私にはもう値段がついて買われそうになっているんだ。ゲームを中止しても儲けになるほどの額でな。その金額に対抗できるほどの金など無いだろう?」

 

「はい……暮らしていくだけでも精一杯だったので」

 

 僕も黒ウサギもどうしようもなくなったことを察してうなだれます。

 

「そこで、あの二人は私を現在所有しているコミュニティの“ペルセウス”に喧嘩を売るために、ギフトゲームをクリアしに行った」

 

「「はい?」」

 

 唐突に告げられた言葉に僕と黒ウサギは心のそこから驚きます。

 

「エミヤと光一はクラーケンとグライアイを倒しに行っている真っ最中だ」

 

 レティシア様の発言に黒ウサギが固まってしまいました。

 

 僕も固まってしまいたかったとだけ行っておきます。

 

~ジン視点終了~




光一「また出てこなかったな」

エミヤ「そうだな。だが、次回は活躍させてやる」

光一「よし、とりあえずそこのばかうけとって」

エミヤ「それくらい自分でとれ」

光一「(さくさく)うまい。ところで質問コーナーとしての栄えある一つ目の質問がきたんだが」

エミヤ「ん? どんな質問だったんだ?」

光一「『2013年に使った胃薬の本数は?』というものだが、一年以上かけてまだ二日しかたて以内状況で、胃薬を使う機会などあるわけが……」

エミヤ「私は三回つかったぞ?」

光一「えっ?」


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一つ目の三姉妹

〜光一視点〜

 

 俺は廃れた廃墟のような僻地に来ている。

 

 ここまでくるのが面倒臭いくらいだ。

 

 久遠にギフトゲームの条件を出して本拠から出た後すぐにここに向かっても、辿り着いたのは次の日の昼だ。

 

 この時間なら、もう既に“フォレス・ガロ”とのゲームは終了しているのだろう。

 

 あれだけの才能を持った奴らなんだから、虎が鬼になった程度で負けるわけがないだろう。

 

 まあ、負けてても勝ってても俺たちはレティシアを助け出さなければならないというのは変わらない。

 

 そのためには、エミヤは海にいるクラーケンのゲームを、俺は僻地にいるグライアイのゲームをそれぞれクリアしなければならない。

 

 エミヤならたかが魚介類に負けることはないだろうが、さすがに少ない時間でクラーケンとグライアイのゲームをクリアするのは厳しそうだったため“ペルセウス”のゲームに挑むためのギフトを集めるのは二手に分かれている。

 

 しかしなあ……。

 

 伝説上の魔女たちがこんな所に住んでいていいのか?

 

 なんかガッカリだ。

 

 ほら……魔女と言ったら廃屋寸前のボロい家とか、またはとてつもなく巨大な城とか、お菓子の家とかさぁ。不思議な建物に住んでて欲しいだろう。

 

 それがどうして……。

 

「どうして魔女がアパートに住んでんだよ!」

 

 2階建てかつ、新築のように綺麗なアパートで更に水道まで通ってやがる。

 

「人の家に文句をつけるものでもないじゃろうが。ルイオス並に失礼なやつじゃのう」

 

「いや、自分たちのボスを失礼とか言っていいのかよ」

 

「ふぉっふぉっふぉ。あんなガキなぞに敬意など払っては自分の価値を下げるだけじゃな」

 

 俺と自然に会話をしているのは両目のあるべき場所が凹んでいる老婆だった。

 

 畜生。

 

 こっちの姿は伝説の存在感バッチリの姿なのに!

 

 むしろ若返っててもいいのに!

 

「魔女なんだからもっと雰囲気があって入りづらい外観にしておけよ!」

 

「いや、このアパートを舐めてはイカンぞ? 五年前に立て替えてからギフトゲームを挑んでくるものが三十分の一にまで減ったんじゃぞ?」

 

「そりゃ、こんな一般家庭みたいな所に魔女がいるとは思えねえだろ! もし知ってても、『あれ? 来る場所間違えたか?』ってなっちまうだろうが!」

 

 なんか口調ははっきりしててもボケ老人と話しているような気がしてくる!

 

「ちなみにじゃが、今の所属は商業コミュニティの“サウザンドアイズ”じゃからギフトゲームの参加料で金をとっておって、収入が減ってしまったんじゃ」

 

「ダメだろそれ!」

 

「だって、昔の家だと暮らしにくかったんじゃもん」

 

「だってとか言うな! もんとか言うな! 年を考えてくれ!」

 

 老婆のぶりっ子は致死級すぎる! 

 

「そんで? お主はここにギフトゲームをしに来たんじゃろう?」

 

「ああ、そうだが? ここでやるのか?」

 

「そうじゃな。正確にはわし等の家に踏み入れた瞬間じゃがな」

 

「それじゃあよろしく頼む」

 

 さて伝説の魔女を三人とゲームをして勝たなければいけないのか。どうなるんだろうな。

 

「さて、この扉をくぐったらお主はゲームに参加することとなる。その前にルールを確認しておくがよいじゃろ」

 

 グライアーはそう言って契約書類(ギアスロール)を出現させる。

 

『ギフトゲーム名“魔女達からの簒奪”

 

 ・プレイヤー一覧

  ・佐藤 光一

 

 ・ゲームルール

  ・魔女を殺害することは出来ない。

  ・プレイヤーのギフトは使用出来ない。

  ・魔女に質問できるのは三回のみ。

 

 ・クリア条件

  ・宝玉を手に入れる。

 

 ・敗北条件

  ・上記のクリア条件を満たせなくなった場合。

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、“佐藤 光一”はギフトゲームに参加します。

 

               “ペルセウス”印』

 

 



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クラーケン

どっちが本編かはわからない!


~エミヤ視点~

 

 今頃光一はグライアイと戦っている頃か?

 

 まあ、あいつのことだからそれなりに苦戦はするだろうが負けることはあるまい。グライアイの撃破ならともかく、頭を使ったゲームと聞いている。

 

 頭は良いほうとはいえないだろうが、機転は利くようだから問題なさそうだ。

 

 それよりも問題は私のほうか。

 

 今回私が戦うことになっているのはクラーケン。

 

 海に住む怪物で、馬鹿でかい頭足類という伝承が残っている。

 

 その大きさは島にも匹敵するといわれていて、船を海に引きずり込むそうだ。

 

 ペルセウスの物語の中では、なんやかんやあって生贄に捧げられそうになった姫がクラーケンに食べられそうになっているところを、メデューサ討伐帰りのペルセウスがクラーケンを石にして倒した。

 

 といった感じだったと思う。

 

 正直よく覚えていないが、確かこんな感じだったと思う。

 

 なので、今回の戦いはクラーケンの討伐。それも水上でだ。

 

 もしかしたら姫を助けろというのも含まれるかもしれないが、そんなことではさすがに負けていられない。

 

 さて、いつのまにか観客も増えていることだし、私ももうそろそろ戦い始めるとしよう。

 

「さて、君たちの領地に無断で入って来たのは悪かったが、尾行するのは趣味が悪いとは思わんかね?」

 

「わお。まさか気づいているとは思わなかったよ。これでも伝説の怪物のさらにコミュニティの叡知まで組み合わせたものだったんだけどね?」

 

「まあ、透明になっているのは面白いとは思うが、元々そっちを見ていない。それに歩くことにはなれていないのだろう? 足音を消しているにはうるさすぎだ」

 

「まあ、無事に僕までたどり着けたプレイヤーは今まででも、三人だけだったんだけどね? 君は相当強いようだね。こっちも相応の対応をするよ」

 

 そういうと私の後ろから足音が聞こえて、ちょうど私の前に立つ。

 

 そして、衣擦れの音が少ししたかと思うと、兜をはずした

青と白の髪の少年が現れた。

 

 なかなか、優しそうな顔立ちで、常に笑顔を浮かべている。

 

「ボクの名前は、ご察しの通りクラーケン。まあ、まだ百年も生きていない若輩者だけれどね」

 

「人間なら八十年もいけばいい方だよ」

 

「それもそうだね。じゃあ、人間なのに人間とは思えない中身の君は誰なんだい?」

 

 驚いたな。すぐに私が異常なことを察するとは。この少年も伝説の怪物として、一筋縄ではいかなそうだな。

 

「私の名前はエミヤ・シロウ。最近この世界に来たばかりの元掃除屋だよ」

 

「へえ、掃除屋さんが来たのははじめてだなぁ」

 

「そうか、それはよかった。まあ、これでも少しばかし急いでいてね、できるだけ早くゲームを初めてもらいたいのだが」

 

「そうだね。まあ、君もご察しの通り、僕等“ペルセウス”の用意したゲーム。『島足類との戦い』のゲームマスターです」

 

 相違って少年は......クラーケンは掲げた右腕から一枚の紙切れを取り出した。

 

『ギフトゲーム名“島足類との戦い”

 

 ・プレイヤー一覧

  ・エミヤ・シロウ

 

 ・ゲームルール

  ・クラーケンから海辺の町を守る。

 

 ・クリア条件

  ・クラーケンが街に危害を加えられないようにする。

 

 ・敗北条件

  ・プレイヤーの戦闘不能。

  ・街が三分の一以上破壊される。

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、“エミヤ・シロウ”はギフトゲームに参加します。

 

               “ペルセウス”印』

 




「なあ、アルクェイド。いいのかこれで?」

 俺は妻ーーアルクェイドに聞く。

 宝石翁につれてきてもらった異界、箱庭。

 そこでは人外魔境というしかないところで、俺たちは各々の問題を解決するためにここまできたのだ。

「うん。これで一緒にいられるし、志貴ももう一度目指してみたいんでしょ?」

 あのまま過ごしていれば永遠の眠りにつくしかなかったアルクェイドだが、その問題が解決し、謎のよく分からないアホみたいな人物によって俺の眼も大分楽になった。

 拍子抜けするほどバカらしく、魔法使いでも無理なことをサックリとやってのけられてしまった俺たちは、すでにこの世界にとどまる意味も無くなってしまったのだ。

 ついでに言うと、これからアルクェイドとずっと一緒にいるという目標も、二人以上で暮らすためのお金の稼ぎ口も、やりたいこともなかった。

 そして昨日俺とアルクェイドで話し合った結果、三咲町に戻って秋葉達の手伝いをしながら生きていくことにした。

「それじゃあ、もう心残りはないよな?」

「うん。いこっか」

 そういって俺はギフトと呼ばれる力を使う。

 とてつもなく高価なものだが、ゲームして勝ったらもらえたものだ。

 何でも、使用者がふれているものに縁のある場所に返してくれるらしい。

 死亡した人間が帰還するなどと言う因果率に干渉することはできないらしいが、生きていた人間なら戻ることができるらしい。

 そのギフトを起動し、アルクェイドと手を繋ぐ。右手に感じられる体温と、硬質な銀の指輪がこれからもずっと一緒にいられると言う喜びを与えてくれる。

「ーーこれからもよろしくな?」

「もちろん。離してなんてあげないんだから」

 二人で同時に笑いあう。

 さあ帰ろう。

 俺たちの町に。

 結婚指輪をはめた左手でにぎっているギフトは、時がたつごとにどんどん眩しく輝いている。

 そしてひときわ大きな光を放ったあと、浮遊感が襲った。

 この光が収まって、眼を開けたらそこは......

























「あれ? 三咲町じゃない?」

 つづく!


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心はいつか

~エミヤ視点~

 

 契約書類(ギアスロール)を読んだ瞬間、私の体はいつの間にか海辺の町に移動していた。

 

 これは私の固有結界に似た物のようだ。

 

 白家叉のように別の世界に連れていくと言うよりは、自分を表す世界を作り出すような物。

 

 だが、おそらくこの世界は自分だけでは展開する事など出来ていないだろう。

 

 まず、これは私の固有結界と違い、実在し滅ぼされた者と、それを残した者からの、滅ぼした頭足類への畏怖……つまり信仰を具現化した物。

 

 しかし、英雄ペルセウスよる討伐の逸話、現在普及してしまった高機能な船への信頼等から信仰は薄れていき、現在では何かから力を借りなければ全力になれないほどに弱体化してしまった伝承(もの)

 

 ペルセウスと言う己を滅ぼした物に頼らなければならないとは皮肉なものだ。

 

 しかし、この世界においては怪物・クラーケンが猛威を振るっていた時代、信仰がもっとも厚かった時のようだ。

 

 それ故に少年の姿だったクラーケンが島ほどもある怪物になれているのだろう。

 

 もしも私がまとも(・・・)に戦おうとするのならば、それなりに苦戦を強いられただろうな。

 

「別に、一瞬でも危害が加えられなければ私の勝ちなのだろう? ならば君のゲームにとって私は天敵のようなものだ」

 

 すでにクラーケンは町に向けて移動を開始している。

 

 武力で対抗するのならば、既に始めていなければ遅い。

 

 ただ、私には武力で戦わなくてもいい手段がある。

 

 ならばそれを使えばいい。

 

 消費が激しいから、戦術として可笑しいから、使用しなくても勝てるから。

 

 そんな自分への甘えのような理由で出し惜しみをして、誰かを傷つけるのはやめだ。

 

 二度目の人生くらいバカになってみようではないか。

 

「まあ、少々見苦しいかも知れんが許せ」

 

 そういってオレは自己に埋没する呪文を唱える。

 

 

 

 

 

 

 ――体は剣で出来ている(I am the bone of my sword.)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで私の勝ちでいいな?」

 

 既に少年サイズに戻ったクラーケンに問いかける。

 

「あんなの反則だよ! ズルイ!」

 

「しかし、君のゲームは解除されてしまっているということは、私の勝ちで間違いないと思うが?」

 

 クラーケンは駄々をこねるように言う。やはり、クラーケンにとっては、百歳など子供のようなものなのだろう。

 

「……まあ、確かに僕の負けだけれど。ゲーム版の町を守る戦いで、ゲーム版の世界を塗りつぶすっておかしいでしょ!」

 

「まあ、普通にやってクリアできないことも無かったのだが、急いでいてな。奥の手をさっさと使わせてもらった」

 

「ゲーム版から別のゲーム版に移ったら反則なんて書いてないのがいけなかったのかな……」

 

「それだと私や君の場合また勝てるゲームになってしまうな。もし転移を封じたいなら、『街に危害を加えられないようにする。』というルールではなく、『クラーケンの撃破』というルールにして、『このゲームによる死は、死ぬ代わりにゲームからの除外』というようなルールにすれば全て丸く収まらないか?」

 

 こうすれば死人は出ないし、挑みやすいゲームとしてお金も稼げる。なかなかいい案だと思う。

 

「次来たときはそっちのルールでやるからもう一回ちゃんと戦おうね」

 

「ああ、心得た。では、商品を渡してもらえるかな?」

 

 私はクラーケンに目当てのものを催促する。

 

「ああ、これがペルセウスのギフトゲームの挑戦権の片割れだよ」

 

 そういってクラーケンは蒼い宝玉を渡してくれる。

 

 それをギフトカードの中にしまう。手で持っていたらかさばりすぎる。

 

「それでは急いでいるのでな、これで失礼する。次のゲームの時には楽しませてもらうとしよう」

 

 そう言って後ろを振り返り、走り出そうとする。

 

「――あの世界が君の世界なら、君は仲間に頼ることを覚えたほうが良いよ」

 

 去り際に、クラーケンの少年の言葉が聞こえてくる。

 

 私は振り返ることもせずに答えた。

 

「――私は既に仲間を頼れるさ。性根までは直には変わらないだけだよ」

 

 それに対する返答は聞こえず、私も既に走り出している為聞こえることは無いのだろうが、少しだけ誰かが笑った気がした。

 

 

~エミヤ視点終了~

 

 




 俺達は頭えを抱えることになった。

 情報を整理するとだ。

 美咲町という町はこの世界に存在しない。

 魔術も超能力も空想の産物。

 人外と呼ばれるようなものも居ない。

 そして最後に、唯一の世界の異常な点。

「あの黒い光って間違いなく光一君の異能だよなあ」

 そう。

 俺とアルクェイドがやってきたこの町は、毎月十三日に黒い光が降り注ぐ世界の、――雨鶴木市という町だった。

 つまりここは完全無欠に異世界。

 それも、元に戻れるかも分からないような場所。

 そして、この世界に飛ばされた原因であるギフトは、エネルギー切れなのかうんともすんとも言わない。

「これも、俺が指輪をつけたままギフトを使ったからか……。自分の服ででもくるんどけば良かった」

 あの時、触れていた物に縁がある世界に転移すると言うギフトは、俺と指輪に触れていた。

 つまりだ。

 あのギフトは、俺を物と判断せず、指輪を物と判断した。

 つまり誰かが触れているだけでは駄目だったのだ。

 そして衛宮作の指輪は、何かを元にしたわけではなく、自作のもの。つまりその指輪自体が作られた縁は箱庭に当たるということだろう。

 しかし、その指輪の中にこめられた力は、コピー能力者である光一君の世界でコピーしたものなのだ。

 つまり、世界を横断するギフトが選べたのはこの世界だけだったのだ。

「まあ、くよくよしてもしょうがない! 行きましょう志貴。光一が能力をコピーした元の人物が居るはずだから」

「そうだな。よし! 光一君について知っていそうな人を片っ端から当たっていこう」

 そういって歩き出そうとした時、唐突に声をかけられる。

「君たちはコーイチ君の知り合いか?」

 振り返ってみると、赤い髪の女性が、鋭いまなざしでこっちを見ていた。


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戦い=説教?

~光一視点~

 

「……よし! これで大丈夫だ!」

 

 よし! 目的の宝玉をゲットしてやった。

 

「のう。どちらもウィンウィンじゃったの」

 

 グライアイ三姉妹と同時に笑い合う。

 

 このゲームは、英雄ペルセウスがグライアイの三人で一つしかない目玉を奪って脅し、情報と宝を問答無用でうばったという逸話からきているらしく、三姉妹の仲で目玉を交換しようとした隙に目玉を奪い、宝の場所を聞き出すのが正しいクリア方法のようだった。

 

 つまりだ。

 

『目玉と歯が一つしかないのって、生活で不便じゃないのか?』

 

 という感想を口にしたところ『当たり前じゃろ』と勝ちの説教を食らいました。

 

 そして最終的に、入れ歯と義眼を作り、義眼には『幸福夢幻(ドリーマーズハイ)』の劣化である現実を見せる能力を使用することによって実際に見えるようにすることに成功した。

 

 その説教三時間、製作五分の合計三時間五分で俺のゲームは終了した。

 

 いや、この義眼セットを渡す代わりに宝玉をくれと言ったら貰えてしまったのだ……。

 

 い、いや、変な事したとは自覚はあるが……。

 

「まあ、誰も傷つかず、皆がハッピーになったんだ。悪くない、悪くない。こんなゲームになったのも俺のせいじゃない。俺は悪くない。敵に説教されるとは思わなかったけど悪くないんだ」

 

「何言ってるんじゃ。おぬし」

 

 グライアイのうち一人が突っ込みを入れてくる。

 

 いやまあ、悪いことはないんだが、ゲームってこんなので良いのかわからなくなったんだよ!

 

「まあ、とりあえず、これでコミュニティの仲間を取り返しに行くことが出来る。ありがとうな」

 

「なあに。礼を言うのはわしらの方じゃ。見えなくて一人が動いて後二人は動けないということも無くなったしの」

 

「目が二つあるから目測を誤ってコップをとり損ねることもないしの」

 

「それに、目にごみが入ったときに片目は見えるのじゃ」

 

 グライアイ三姉妹が変わりばんこにしゃべる。当然歯の入れ替えもない。

 

 その光景に満足して俺は宝玉をギフトカードの中にしまう。

 

「そんじゃあ、ちょっとばかし、ルイオス坊ちゃんの鼻でも折ってくるぜ」

 

「がんばっての。ああそうじゃ、ルイオス坊ちゃんは唯の雑魚じゃが、アルゴールにだけは気をつけるのじゃぞ?」

 

「アルゴール? あの悪魔のか?」

 

「そうじゃ。ペルセウスのリーダは星霊・アルゴールをギフトとして所持しておる。身体能力も、怪物を生み出す能力も厄介じゃが、一番厄介なのは石化じゃな」

 

「石化の能力か。確かにそれは厄介だな」

 

 石化。

 

 人体を石に変え、身動きすることすら出来なくし、解除する方法すあら限られる。

 

 俺ですら能力を解除するには意識だけでも残っていなければいけないのだから、俺が石化した場合はエミヤに頼るしかないだろう。

 

「それじゃあの、うちの坊ちゃんに存分に痛い目を見せてやるのじゃぞ」

 

「ああ、もちろん。この俺が居るんだ、星霊くらいなんとも無いぜ」

 

 そして、右手をひらひらと動かしながら振り返ることなく去る。

 

 さあ、世間知らずの坊ちゃんに痛い目を見せてやろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そっちは来た方向と逆じゃがいいのかの?」

 

 

 

 ……間違えた。

 

 

~光一視点終了~

 

 




「さて、君達の境遇はなんとなくは分かった。そのネメシス……いや、ギフトとやらは平行世界、異世界かまわず移動できるもの。つまりは君達は異世界人ということだ。ネメシスが無くなってから一月ちょっとしかたっていないのに、こんなファンタジーな事が起きるとはね」

 目の前の赤髪の女性、能登原 明日菜さんに、シェードという組織のある場所につれてきてもらってる。

 たまたま、呟いたときに通りがかってくれてよかった。

 この人は世界を滅びから救うための組織だったシェードの司令で、自身もとてつもない強力な異能であり、アルクェイドの指輪に組み込まれた異能である『怪物(ジャガーノート)』の持ち主だった女性だ。

 今は過剰な戦力となりすぎて政府や軍から目をつけられてしまうため、大急ぎで解体しているところだそうだ。

 ……黒い光。佐藤 光一君が起こした異能を失わせる異能によって能力者の数は着実に減り続けているが、斑 坂介さんのように対価が問題にならなくなった人で、政府の管理下にある人はいまだに能力をも膣図家手居る人も居る。

 危険な人たちは全て能力を消していくそうだ。

 そして、能力を消していないものの中に『他力本願(ノット・トルク)』という、腕力を別の力に変換して溜める異能があり、それによってギフトに必要な力を溜めてくれるらしい。

 これで、帰る算段がついた。良かった。

「ところで、力が溜まるまで時間もあることだし、君達の話を聞かせてくれないか?」

「俺の話なんて聞いたところで面白く無いですよ?」

「まあ、少し興味があってね。異世界の話なんだから気になるだろう?」

「じゃあ、少しだけ」

 そうして俺は自分の過去と、箱庭の事を含めて話し始めた。

 帰りの駄賃として聞いてもらおう。


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参加権獲得

長らくお待たせして申し訳ありませんでした!

次回は再来週くらいにはしたいですね……

まあ、何はともあれ、本編がどっちだか分からなくなるのはこれでしばらくありません!



~エミヤ視点~

 

「そんで? 目的のモンはとってきたみたいだがレティシアはどうするんだ?」

 

 本拠地に帰り、光一と待ち合わせてから中に入る。

 

 街頭も無く暗い本拠地の中を進むと、そこに二人ほど立っているのが見えた。

 

 そこには腕を組んで待っている十六夜の姿があった。

 

 そう。

 

 レティシアが、黒ウサギとジンに俺達がギフトゲームをクリアしに行ったと伝えられたとき十六夜が驚かなかったのは知っていたからだ。

 

 俺達はレティシアから全てを聞きだした後一度だけ本拠地に戻ってきている。

 

 それは十六夜に他の見事を一つだけするためだ。

 

 十六夜はレティシアにまつわる状況を全て話すと自分がゲームをクリアしてくるといっていたが、その代わりに十六夜には仕事を頼んだのだ。

 

 もちろん最初は渋っていたが最後には星霊アルゴールとの戦闘を全て十六夜に任せるということで落ち着いた。

 

 そして十六夜に任せたことは三つ。

 

 ノーネームの誰かが俺とエミヤを探しに来ないように妨害すること。

 

 レティシアを買おうとした人物を調べ妨害すること。

 

 そして最後に、レティシアを匿うことだ。

 

 現状レティシアを匿うことが出来るのは十六夜以外居なかった。

 

 黒ウサギは本拠地から動くことは出来ず、久遠嬢と春日部嬢はゲームで急がしかった。

 

 そこで十六夜に頼んでレティシアを匿ってもらっていたのだ。

 

 それに、本拠地に居る人だとレティシアを匿っていることがばれる可能性が高い。

 

 そのため十六夜には世界の果ての近くでレティシアを匿いつつ、日ごとにノーネームの本拠地に顔を見せて私達を追わないようにしてもらった。

 

「ああ、二つとも無事とってこれた。これでペルセウスに喧嘩が売れるぜ!」

 

 光一が十六夜に向かって言う。

 

「ヤハハ、もし取ってこれて無かったら説教もんだけどな。まあ、これで少しはましな奴と戦えそうだ」

 

 十六夜は本当に嬉しそうに嘯く。

 

 私はその感情に拒否反応が出る。

 

 しかし十六夜の場合は殺害することは無いとあらかじめ確認してある。

 

 それ故に見過ごすつもりだ。

 

「ヤハハ、そんな心配そうな顔しなくても誰も殺さねえし、殺させない。むやみに殺してお前と戦うのはまだ早そうだ」

 

 顔にでも出ていたのだろうか。

 

 十六夜にすぐさま見破られる。

 

「まあ、分かっているのならそれでいいが。……春日部嬢と久遠嬢はどうしている?」

 

「無事ガルドを無傷で撃破。誰も殺してねえし、死んでもない。上々だろ?」

 

「おお、あいつ等勝ったのか! 流石だな」

 

 光一が感嘆の声を上げる。

 

「まあ、何はともあれ宣戦布告を明日して明後日にはゲームだな」

 

 光一がなんでもないことの用に呟く。

 

 私もそのことに同意して久しぶりのベットに体を預けたいので先を歩く。

 

「ん? もう宣戦布告は済ませてきたぞ?」

 

 後ろからそんなセリフが唐突に聞こえ、光一とともに足を止めた。

 

 言葉を無くした私達に十六夜が今の言葉の注釈をする。

 

「ああ、ルイオス坊ちゃんの部下が吸血鬼はどこだー! って感じで乗り込んできたから返り討ちにしたら次の日に白夜叉立会いの下、ルイオス坊ちゃんとの会談が行われて、その場で黒ウサギ怒らせたからゲームで決めることになった」

 

 ヤハハと楽しそうに笑う十六夜。

 

 何も考えられずぽかんとする。

 

「そ、それって玉いらなかったんじゃ無いのか?」

 

 私より先に唖然とした状態から戻った光一が十六夜に聞く。

 

「まあ、正直いらなかったな」

 

「そんな策があるんなら出る前に言えよ!」

 

 光一が全力で玉を地面に投げつける。

 

 ……流石がギフトだな、地面に投げつけても壊れないなんて。

 

「無くても戦いに挑めたってだけだ。正直あんま使いたい手じゃねえし、サウザンドアイズ自体がクラーケンちグライアイが倒されたことを知ってなきゃ無理だった。だから無駄じゃなかったぜ?」

 

 そおういって十六夜はヤハハと笑う。

 

「それを先に言えよ……。無駄だったかとおもったぜ」

 

 その言葉を聴いて私と光一は肩を下ろす。

 

「ま、とりあえず最初の約束通りルイオス坊ちゃんは俺に任せてもらうぜ?」

 

「ああ、分かった。私はサポートに徹するとしよう」

 

 こうして逆廻 十六夜のお披露目のゲームを明日開催することになった。

 

 

 

 ……それにしてもまた数時間で魔力をためなきゃいけないのか。

 

 私の魔力はいつになったら回復するのだろう?

 

 

 ~エミヤ視点終了~




「とまあ、こんな感じに、私は世界をやり直してもアルルだけを守るためだけにしか動けなかったのだよ」

 異能力者集団シェードの元司令 明日菜さんの話を聞き終わり、その流れでで俺の話もした。

『この人は俺に似ている』

 それが俺の抱いた感想だった。

 一を犠牲に十を救ったエミヤとは真逆で、

 一も十も救った佐藤 光一とも違うもの。

 十がどうなろうと知ったことではなく、一を守るもの。

 そして、今は守りたい一が救われたもの。

 まあ、救ってもらった人が同じなのにも皮肉が利いているが。

「私達はいろんなものを犠牲にしてきたのだろうな。だが、そのことに後悔はあるか?」

「――いえ、俺は後悔するには犠牲を出しすぎました」

「……そうか」

 明日菜さんも思う事があるのか、目を閉じて呟いた。

「……ただ、これから先は蝋の翼で全てを救った救世主みたいに、切り捨てないでいけたらなとはおもうんですけどね」

 そして、馬鹿な救世主と出会った箱庭で得た願いを告げる。

 俺の言葉に明日菜さんは少しだけ笑ってから、席を立つ。

「なら、私も、もう少しだけ守りたいものを増やすとしよう。これでもまだそれなりのところでは発言力は高いんだ。もう少し位なら守れるだろう」

 そういい残したあとまっすぐ台所に向かい聞いてくる。

「もうそろそろ晩御飯の時間だろう。あの子にもご飯を作ってあげなければならないし、きみたちもたべるかい?」

 俺とアルクェイドは同時に元気よく返事を返した。









「今度こそは間違えない様にしようね、志貴」

「分かってるよ。今度は失敗しないさ」

 アルクェイドに言われてもう一度注意を払う。

 今回は俺のナイフにギフトを触れさせて使う。

 これで間違いないはずだ。

 そして、目の前に居る明日菜さんに視線を向ける。

「いろいろと面倒を見てもらってありがとうございました」

「ああ、大丈夫だ。気にしなくて良いよ」

「では、これで行きます」

 そういって俺はギフトを起動する。

 昨日も味わった感覚をもう一度味わう。

 そして、いざ発動するといったタイミングで、明日菜さんが口を開く。

「君のその能力なら、処分される動物にも、食用の生き物にも安らかに殺すことが出来るのではないか?」

「それは確かにそうかもしれないですね」

「なら、食品加工会社にでも勤めてみたらどうだい? まあ、今思いついただけのことだから聞き流してくれてもいい」

「いえ、参考にさせてもらいます。小さな救いだとしても、この能力で安らかに出来そうというだけで嬉しいですから」

 そろそろ転移しそうだ。

 これでお別れだろう。

「では、また会いましょう」

「ああ、また」

 俺と明日菜さんが挨拶をする。

「またね、志貴と似た人」

 そしてアルクェイドが最後に微笑みながらいう。

 その言葉とともに光があふれていく。

 決意を新たに、町に戻り、未来を歩んでいこう。

 俺達には未来があるのだから。


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御伽噺の中のペルセウス

遅れてすいません!

唯その代わりに中身は二倍近く増量してます!



~光一視点~

 

 ねむい。

 

 帰ってきた後も少しだけ今日のギフトゲームの準備をしてから寝たせいでねむい。

 

 正直、聞いた話だとペルセウスの現頭首のルイオスは親の七光りと、さらに親から譲り受けただけの強力なギフトでトップに居座っているだけの七光り坊ちゃんのようだ。

 

 つまり十六夜たち三人と、エミヤが居れば余裕じゃね?

 

 俺はこのまま布団の中で寝ててもいい気がするんだ。

 

 ほら、俺もう一週間くらいは休日的なものも無いんだぜ?

 

 まあ、エミヤも休みは無いんだが、ほら、あいつ超人だろ?

 

 鍛えただけで音速で動いてるし。そのくせ傷一つないし。魔力が無い、魔力が無い言いながら伝説に出てくるような、というか伝説に出てくる武器ぽんぽん出してるし。吸血鬼とかあっさり倒してるし。俺がばあさん達に説教されてる間にクラーケン倒してるし。

 

 ……よくよく考えたらあいつって伝説って名のつくもの冒涜しすぎだろう?

 

 まあ、今日のゲームはそんな超人と問題児達だけでがんばってもらおう。

 

「ということでおやすみ」

 

「寝るな馬鹿!」

 

 すぱーん!

 

 と竹刀で叩かれる。

 

「って、竹刀で叩くって可笑しいだろうが! どこの熱血教師だ! 普通竹刀で叩いたら大惨事だ!」

 

「ふむ、目覚めたな。アホな事言っていないで、さっさと起きて来い。もう朝飯が出来ている」

 

 それだけ言い残してすたすたとエミヤは去っていく。

 

 ……目も覚めたし、起きるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ※※※

 

 

 

 

『ギフトゲーム名 “FAIRYTAIL in PERSEUS ”

 

・プレイヤー 一覧

 ・逆廻 十六夜

 ・久遠 飛鳥

 ・春日部 耀

 ・エミヤ シロウ

 ・佐藤 光一

 

・“ノーネーム”ゲームマスター

 ・ジン=ラッセル

 

・“ペルセウス”ゲームマスター

 ・ルイオス=ペルセウス

 

・クリア条件

 ・ホスト側のゲームマスターを打倒。

 

・敗北条件

 ・プレイヤー側ゲームマスターによる降伏。

 ・プレイヤー側のゲームマスターの失格。

 ・プレイヤー側が上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 

・舞台詳細&ルール

 ・ホスト側ゲームマスターは本拠【白亜の宮殿】の最奥から出てはならない。

 ・ホスト側の参加者は最奥に入ってはならない。 プレイヤー達はホスト側の(ゲームマスターを除く)人間に姿を見られてはいけない。

 ・失格となったプレイヤーは【挑戦資格】を失うだけでゲームを続行できる。

 

宣誓 上記を尊重して、誇りと御旗の下、“ノーネーム”はギフトゲームに参加します。“ペルセウス”印』

 

 

 

 

 

 

 

     ※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギアスロールを読んだ俺達は、詳細は省くが、俺達は無事に宮殿の中に居る。

 

 いや、最初の一人さえ倒せば後はエミヤが複製すれば言いだけだったし。

 

 ペルセウスの最高難易度のゲームなんだよなこれ?

 

 ちょっと不憫だ。

 

 いや、大分不憫かもしれない。

 

「ただ、まあ、何が不憫って外の大多数の部隊すらエミヤが殲滅したことだよな」

 

「失礼ね。私も手伝ったわよ。……確かに大多数はエミヤさんが倒したのだけれど」

 

「む? 確かに私が大多数を倒したのは事実なのだろうが、久遠嬢のようなまだ若い女性に負けたら私の立つ瀬が無いので頑張っただけだよ。君が落ち込む必要は無い」

 

 確かにそうなのかもしれないんだが、それで片付けられるような戦果じゃないだろ。

 

 仮にも五桁のコミュニティの兵士達をばっさばっさとなぎ倒せる女が居ても怖いが、剣だけで大多数をなぎ倒していく姿は凄まじかったとしか言いようが無い。

 

まあ、そのおかげで全員そろってここで進めているわけだが。

 

 といってもエミヤと久遠は、敵に見つかってるからルイオスとは戦えない。

 

 戦力が減ることは残念だが、十六夜と春日部がいればほとんどのことに対応できるということもあるから問題は無い。

 

 ドン!

 

「ぐっ!」

 

 隣の十六夜がいきなり後ろに吹き飛ぶ。

 

「敵襲か!」

 

 まさか十六夜が反応できなかったのか!?

 

 それどころか俺の感知系のネメシスも反応していない。

 

「何の音も気配もしてない!」

 

「ああ、俺にも聞こえてない。しかも春日部の耳でも聞こえないし、光一のギフトでも感知できてないってことはオリジナルのハデスの兜か!」

 

 つまり、見えず、聞こえず、感知の能力も効かない三拍子そろった暗殺ギフトがこの場にあるということか。

 

 しかしだ。

 

「厄介だな。だが、あれは透明化するギフトじゃないんだろ? 十六夜」

 

 俺がそういうと十六夜はその一言だけで理解したようだ。

 

「指をはじいたら突っ込め!」

 

「了解だ! 一発分しっかり返してやる!」

 

 ぱちん!

 

 俺は一度指をはじく。

 

 俺が指をはじくと同時に一面が火の海に変わる。

 

 これくらいの通路ならすべて『蒼き煉獄(ゲヘナ)』で覆える!

 

「カ、よく見えるぜ暗殺者!」

 

 炎の揺らぎが歪になっている箇所、そこが敵のいる場所だ。

 

 十六夜はまっすぐに右足を引くと、地面に振り下ろして地面をえぐり。

 

 ――第三宇宙速度で広範囲爆撃を行った。

 

 ……。

 

 …………。

 

「いやそれなら俺いらねえだろ!」

 

「ヤハハ! 本来なら直接殴りにいこうかと思ったんだが、光一の炎もかわせないようなら俺が石を蹴ってもあたると思ってな」

 

「それはそうなんだがな……」

 

「まあ、それはともかくとして本物のハデスの兜も手に入ったことだし良いんじゃないかしら?」

 

 久遠がそういって足を止めた。

 

 目の前にはそれなりに豪華な扉があった。

 

 ――そう。

 

 『あった』だ。

 

 久遠が足を止め、十六夜がノブに手をかけ、瓦礫にした。

 

 あー。

 

 確かに好きなコミュニティじゃないけど、ほとんどルイオス坊ちゃんのせいだし、他の人たちの罪はあんまなさそうなのに。

 

 心からご冥福を祈ってます。

 

「ふん。――ホントに使えない奴ら。今回の一件でまとめて粛清しないと」

 

 ルイオスはもっと慌てているのかと思ったが、思ったより冷静だ。

 

 よっぽど自分のギフトに自信があるようだな。

 

 

 「まあでも、これでこのコミュニティが誰のおかげで存続できているか分かっただろうね。自分達の無能っぷりを省みてもらうにはいい切っ掛けだったかな」

 

「いや? お前のが無能だぜ? エミヤと久遠が戦えなかったとしても、余裕で潰せるんだからな」

 

「ノーネームごときがほざきやがって。……まあいい。取り敢えず、ようこそ白亜の宮殿の最上階へ。ゲームマスターとしてお会いしましょう。……あれ? そういえばこの台詞言うのも始めてかな?」

 

 こいつの部下は優秀だったみたいだな。

 

 こいつ一人だったら結構なコミュニティでも倒せるだろう。

 

 まともに戦えるギフトが一つしかないんだからな。

 

 三人のばあさんに聞いたところ、主に使うギフトは四つ。

 

 ヘルメスの靴。

 

 ハルパー。

 

 ハデスの兜。

 

 この三つを使いこなすにはそれなりの修練が必要だが、ルイオスにはそれがないと聞いている。

 

 つまりここまでは何もしなくても十六夜が対処できるものだ。

 

 ただ、唯一の敵であるのは、星霊・アルゴールだ。

 

 見たもの全てを石化することが出来る上に、身体能力も星霊だけあって高い。

 

 まあ、身体能力も高いんだが、十六夜には異能無効化能力に『僕の考えた最強キャラ』みたいな身体能力まである。

 

 まず負けることはない。

 

「ま、不意を打っての決闘だからな。勘弁してやれよ」

 

「フン。名無し風情を僕前に来させた時点で重罪さ」

 

 そうしてルイオスは俺には出せない速さで上昇し、炎の弓を取出す。

 

 情報に無かったギフトだな。

 

 しかし、制空権を持てるヘルメスの靴との相性は素晴らしい物があるだろう。

 

「へえ、親の七光りだけのお坊ちゃんだと聞いてた割には少しくらいは考えてたんだな」

 

「名無し風情が上から物を言いやがって。……まあいい。このギフトがあるんだ、空から狙うのは卑怯とは言わないよな?」

 

 空を飛び、見下しながらルイオスは言う。

 

 そう。この中に空を飛ぶことが可能なギフトは一つだけ。

 

 春日部なら空を飛ぶことは可能だろう。

 

 しかしハルパーなら怪我すら治せない状態に出来る。

 

 おいそれと飛び込める敵ではない。

 

「ハッ! もちろん。飛べないのは飛べないほうが悪い。そういうもんだろ?」

 

 そんなこっちに状態になっても十六夜は鼻で笑う。

 

「分かってるじゃないか。それに、わざわざ僕が突っ込んでまぐれ当たりの一撃でももらえば危ない。僕はゲームマスターだ。僕の敗北はそのまま“ペルセウス”の敗北になる。そこまでリスクを負うような決闘じゃないだろ?」

 

「それもそうだな。んで、出さないのか? “ペルセウス”のお坊ちゃまお得意の星霊さまを」

 

「お望みどおり出してやるさ。目覚めろ――“アルゴールの魔王”!」

 

 褐色の光が宮殿を覆い、甲高い絶叫が響き渡る。

 

「ra、GYAAAAAAAAAAAaaaaaaaa!」

 

「な、なんて絶叫を」

 

「よけろ黒ウサギ!」

 

「久遠嬢と春日部嬢は私が拾う! 光一はジンを頼む!」

 

「いやいやいや、お前らほど早く動けねえから!」

 

 十六夜は黒ウサギを抱きかかえて飛びのき、エミヤは久遠と春日部を抱えて飛びのき、俺はジンを範囲外にはじき出して、そのまま巨大な石が落ちてきた。

 

 

~光一視点終了~

 

 

 

 




エミヤ「まさかあのままつぶれるとは思わなかった……!」


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ワンサイドゲーム

今回はそれなりに投稿できた気がします!

そして光一がつぶされても何も言われないあたりがすこし驚きましたw


~エミヤ視点~

 

 まさか光一がやられるとは。

 

 確かに光一の弱点は身体能力とはいえ、あいつなら避けられるといつのまにか盲信してしまったのだろう。

 

 だが、話に聞いていた坊っちゃんとしてのルイオスという人物からは到底かけ離れているほどの霊格に、戦闘能力だ。

 

 どういう手品なんだ?

 

 ここまで高い霊格なら、久遠嬢のギフトではなんの影響も与えられないだろう。

 

「お、一人潰れたか。名無しの癖にでしゃばるからこうなるんだ。ま、今さら降参したところで許さないからがんばれよ?」

 

「もとより貴様を逃がす気はない。そこで死んでいろ。――I am the bone of my sword」

 

 自己に埋没する呪文を唱え、私は片手に弓を生み出し、もう一方の手で剣を造り出す。

 

 「――偽・螺旋剣Ⅱ(カラドボルグ)

 

 真名を以って放たれた矢は、空間ごと抉りながら突き進み、ルイオスに直進する。

 

 彼の大英雄ヘラクレスですら打ち抜く矢だ。並大抵のことでは防げない。

 

 しかし、ルイオスに直撃するはずに矢は、何事もなかったかのように石化し、地に落ちた。

 

「……まさか宝具すらも石化することが出来るとは。読み違えたか」

 

「いや違う。あいつはそんなことは出来るはずがないんだ」

 

 十六夜は唇をかみ締めながら呟く。

 

 おそらく現在の状態を完全に把握したような口調で言った。

 

「光一が岩の下敷きになったのと、お前の攻撃が効かなかったこと。そしてあの坊ちゃんの霊格が高くなっているのは、――お前とお嬢様が居るからだ」

 

 十六夜は私と久遠嬢を糾弾するように言う。

 

 いや、自身にも後悔をにじませているのが見て取れる。

 

「クソ。余裕がある戦いだと思ってたが、英雄様が作ったゲームはそんなに甘くなかったか。箱庭に来てからミスばっかりだぜ」

 

「い、十六夜さん。どういうことなんですか? エミヤさんと飛鳥さんが居ると何が」

 

「ゲームのルールに則っての霊格の強化は反則か? 黒ウサギ」

 

 十六夜は黒ウサギの言葉を遮るように言った。

 

 そしてその言葉は、『ルイオス自身に攻撃をしなければ挑んだことにならない』という勝手な解釈の元ここに来てしまった私と久遠嬢を糾弾するものであり、ルイオスを見誤っていたことによる私達“ノーネーム”のミスなのだ。

 

 さらに私の場合は無意識に攻撃まで加えてしまい、弁明の余地すらない。

 

「ガングロ白髪。お前はお嬢様を連れて外に行け。あいつは俺が倒す」

 

「すまない。借りは返す」

 

 私はそれだけ言って久遠嬢を担ぎ部屋の外に向かった。

 

 そして部屋の外から状況を見守る。

 

 ルイオスと相対する十六夜には、この部屋に入った当初の軽薄さは一切見られない。

 

「作戦会議は終わったのかい名無し共。ま、ルールもろくに考えないで楯突いてきたんだ。一人だけで済んでよかったね?」

 

「ハッ。今にその顔ゆがめてやる」

 

 

 十六夜はその一言とともに駆け出す。

 

 その速度は私でも反応が難しいほどの速度だ。七光りでリーダーをやっているような者には到底かわせまい。

 

 しかしその拳はアルゴールによって妨害される。

 

「ハッ、いいぜいいぜいいなオイ! いい感じに盛り上がってきたぞ!」

 

 自らの拳を受け止められるものが存在したことが嬉しいのか、十六夜は笑顔を浮かべる。

 

 そしてそのままアルゴールをねじ伏せて、ルイオスに一撃を加える。

 

 ルイオスもとっさに手にしていたハルパーで防ぐが、大きく吹き飛ばされる。

 

「くそ! これだけ霊格があがっても吹き飛ばされるのか!? どんな化け物だ!」

 

 ルイオスが余裕をなくしたように喚く。

 

 その隙にもアルゴールは褐色の光を放って十六夜を牽制し、その豪腕で以ってなぎ払う。

 

 しかし、空の雲をも落とす光は十六夜の腕の一振りでくだかれ、豪腕はそれ以上の膂力で持って迎撃される。

 

 ルイオスにも、もう既に余裕は皆無だ。

 

 霊格のあがった影響で強化された炎の弓をひたすらに引いてアルゴールの手助けをしている。

 

「何故、ギフトを砕ける! いや、ギフトを砕く力とその身体能力を得るギフトを両立させている!」

 

 ルイオスは十六夜の矛盾を見抜き、叫ぶ。

 

 その言葉に十六夜は懐からギフトカードを取出して見せ付けながら言う。

 

「ギフトネーム・『正体不明(コード・アンノウン)』――ん、悪いな。これじゃ分からないか」

 

「なんだと!? まさかラプラスが……!? クソ、アルゴール! 宮殿の悪魔化を許可する! 奴を殺せ!」

 

「RAaaaaaaaa! LAaaaaaaaa!」

 

 ルイオスに呼応し、アルゴールが謳う(さけぶ)

 

 そして静謐さを備えていた宮殿は黒く染まりさまざまな魔獣が噴出す。

 

「カッ! しゃらくせえ!」

 

 十六夜はアルゴールをつかみ魔獣に振り下ろす。

 

 それだけで付近の魔獣は打ち砕かれる。

 

 光一のつぶされた場所には危害は加わらないように配慮してはいるのだろうが、それでもなお苛烈すぎる攻撃に石化した雲が砕けた。

 

 祖r手を知ってか知らずか、ルイオス、アルゴールと十六夜の戦いは激しくなっていく。

 

「くそ、終わらせろ! アルゴール!」

 

 ルイオスはこのままじゃ勝ち目がないことを悟り、ゲームマスターとしての教示すら捨てて最終手段を使った。

 

 それは、アルゴールを制御するのに使われていた霊格に、ゲームのペナルティとして上がっていた霊格、さらにアルゴール自身の例格まで含めて行使された石化。

 

 悪魔の星といわれ、全てを席かさせるとされた伝承の再現。

 

 そのまま終わりを体現し、停止した世界に置き去りにする星霊・アルゴールの石化のギフト。

 

 それを一切の手加減をせずに放った。

 

 こんなもの、私の所持している宝具の中のものなら防ぐことは可能だろう。

 

 だが私はこのゲームのルールによって手が出せない。

 

 つまりこのギフトを防げるのは一人だけ。

 

「ゲームマスターが、いまさら狡いことしてんじゃねえ!!」

 

 その声ともに十六夜が光を砕く。

 

「星霊の全力のギフトを砕くだと!? そんなギフトがある訳が!」

 

「知るか。在るもんは在るんだろ?」

 

 慌てるルイオスに、驚くほど冷静な十六夜。

 

 もはやここに勝負は決した。

 

「ああ、そうだ。もしこのままゲームに負けたら……お前らの旗印。どうなるか分かっているんだろうな?」

 

「な、何? こ、このゲームは吸血鬼を取り戻すためじゃないのか?」

 

「ハッ! そんなの後でも出来るだろ? そんなことより、旗印を盾にしてもう一度ゲームを申し込む。――――そうだなあ。次はお前らの名前を戴こうか」

 

 そう。

 

 なめてかかっていたのは、私達だけではなくルイオスもだったのだ。

 

 このゲーム。

 

 商品が決められていない(・・・・・・・・・・・)

 

 つまりルイオスは自身のコミュニティが危機に瀕していることも知らずに戦っていたのだ。

 

 その代償はでかい。

 

「俺はお前らの名と旗を手に入れた後“ペルセウス”が箱庭で活動できないように徹底的に貶めてやる。たとえお前達が泣こうが喚こうが、コミュニティの存続が出来ないぐらい徹底的にだ。仮にもお前は俺達の仲間を一人殺したんだ、それぐらい覚悟しているよな?」

 

 十六夜はそういって一歩前にでる。

 

「や、やめろ……!」

 

 もはや敗北を認めていたルイオスにとってそれは死神の行進にほかならず、情けない声しか出ない。

 

「そうか、嫌か。――ならもう方法は一つしかないよな?」

 

 獰猛で怒れる快楽主義者は、指先で誘うように挑発する。

 

「来いよ。ペルセウス。命がけで俺を楽しませろ」

 

 十六夜はゲームの続行を促す。

 

 仲間を殺したルイオスをこのまま許すことは出来なかったし、自分の力を震える機会を逃すわけがなかった。

 

 完全に十六夜を楽しませる玩具として覚悟したルイオスは全身全霊を持ち、命を懸けて立ち向かう。

 

「負けない……負けられない、負けてたまるか! 奴を倒すぞ、アルゴォォォォォル!」

 

 ここにきてルイオスは負けると知っていながらもコミュニティを守るリーダーとしてのどを震わせて、立ち向かう。

 

 しかし、強力なギフトにかまけてろくに鍛錬をしてこなかったルイオスに勝ち目などなく、ぼろ雑巾のようになる。

 

 そしてついには立ち上がる野もやっとな状態にまでなってしまう。

 

 これは明らかにやりすぎな状況だ。

 

「おいおい。これでお終いか?」

 

 そういって十六夜は近くにあった石を投げる。

 

 ルイオスは何とかハルパーでそれを防ぐが、その衝撃だけで尻餅をつく。

 

 それでもめげずに立ち上がる。

 

「それじゃあ、お開きにしてやる。――吹き飛べや!」

 

 十六夜はもはやかわすだけの体力がないルイオスに向かって拳を振りかぶった。

 

 しかし、その拳はなぞの障壁に阻まれ、その障壁が砕けるだけに止まる。

 

「――やりすぎだバカヤロウ」

 

 いぶかしげに声のほうを見る十六夜に、声の主が言った。

 

「これ以上やるのなら、この佐藤 光一が相手をする!」

 

 凄惨な戦場に馬鹿の声が響いた。

 

~エミヤ視点終了~

 

 




エミヤ「もはや光一が死んだと思っている人が居る気がしないのだが」

光一「それが俺だからな」

エミヤ「何はともあれ元気そうで何よりだ。――死ね」

光一「え? 復活したばかりなのに!?」


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馬鹿VS正体不明

~光一視点~

 

「やっぱり生きてたか」

 

 俺が姿を見せると同時に十六夜が言った。

 

 何もなければ俺は岩の下から出ないでもよかったが、そういう事態ではなくなった。

 

 もともとはルイオスに対する伏兵として隠れていたが、その心配がなくなった代わりに十六夜の暴走を止めるために出てきた。

 

「なあ、光一。オマエは俺を止めるために出てきたんだよな?」

 

「ああ、そのつもりだ」

 

ちゃんと状況を理解して(・・・・・・・・・・)やっているのか?」

 

「当たり前だ」

 

「そうか。それならここで寝ておけ!」

 

 十六夜はそう言ってから踏み込む。

 

 俺ではとてもじゃないが反応できない速度だ。

 

 俺が認識したときはすでに距離を数メートルのところまで詰められている。

 

 俺が後ろに引こうとした時には、十六夜との距離は拳が届く範囲まで来ている。

 

 俺はなすすべなくそのまま殴られてたたらを踏む。

 

 もともとこんな状況になった時点で俺には勝ち目がない。

 

 俺は遠距離から中距離で戦うしか能がない。

 

 身体能力強化系の能力とは相性が悪い。

 

 反応できない速度で動かれれば手札のほとんどが使えない上に、敵の能力をコピーしたところで能力の劣化のせいで効果は薄い。

 

 もともとの効果が単純すぎるのだ。

 

 大概の場合は強化の倍率が低い上に、効果範囲が狭い。

 

 つまりどんなに強く念じても一つの性能しか強化出来ない『付け焼刃(イカロスブレイブ)』では性能を越すことは出来ない。

 

 それは劣化を反転できるようになっても同じで、身体能力の劣化くらいしかできず、意味がない。

 

 俺は応用力こそ使える能力ではあるとは思っているが、一点特化にはどうしても弱い。

 

 どう頑張ったところで十六夜と近距離では戦えない。

 

 これは間違い無く――前提条件だ。

 

「良く耐えたじゃねえか! 耐久力でも強化したのか?」

 

「お、お前のパンチが……軽いんだよ!」

 

 十六夜を睨みつけて言う。

 

 もちろんやせ我慢でしかないし、それは十六夜にも伝わっているだろう。

 

 そんなことは先刻承知だ。

 

 だが、勝たなければならない。

 

 でなければ十六夜がこのまま力をもて余してしまう。

 

 強さで全てを解決出来ると思ってしまう。

 

 だからここからはそれをどうするかだけ考えなければならない。

 

「俺は、お前の天狗の鼻を折ってやる。満足させてやる。限界を教えてやる。――そして、対等な仲間にしてやる!」

 

「ハ! オマエがか! そいつは楽しみだ! せいぜい俺を楽しませてみろ!」

 

 そう言ってもう一度十六夜は俺に殴りかかってくる。

 

 小手調べのつもりなのか先程と全く同じ軌道、速さだ。

 

 そして俺は身構えることすら必要がない。

 

 腕を盾にしようが、体を盾にしようが、能力で耐久力をあげようが関係ない。

 

 そんなものは十六夜の身体能力とギフトを砕くギフトの前には無意味。

 

 ならば俺のできることは一つだけ。

 

 パチン!

 

 いつもどうりに能力を使うことだけだ。

 

 しかし俺の能力はギフトを砕くギフトの前では無意味。

 

 つまりその結果は簡単だ。

 

 ズドン!

 

 大気が震える音がして、十六夜が何かにぶつかった音とともに尻餅をつく。

 

 そして十六夜を俺は見下ろす。

 

「テメエ……!」

 

「一発お返しだぜ、問題児君?」

 

「……面白くなって来たじゃねえか!」

 

「どうだ? これでお前は満足できそうか?」

 

「無理に決まってんだろ! もっと楽しませろ!」

 

 

 予想どうりに十六夜は突っ込んでくる。

 

 もともと反応できない速度の上、本気のようで、二度……いや三度フェイントを入れて俺の視界から消えた。

 

 一瞬遅れて後ろから爆音が聞こえたあと、拳を振りきる音と共に俺の能力が解除された。

 

 能力が解除されたのを見計らって『紫煙地獄(ヘビースモーカー)』を発動して黄色い煙を生み出す。

 

 一瞬で辺り一面を覆い尽くす煙に乗じて俺は『飛燕(トニー)』を発動して空に浮く。

 

「オラァ!」

 

「げっ! マジかよ!」

 

 思っていたよりも早く『紫煙地獄(ヘビースモーカー)』を解除される。

 

 そのせいで『身代わり(ドッペルゲンガー)』まで繋げられなかった。

 

 目くらましがなくなったのなら俺の姿が見えるのも道理だ。

 

「ハッ! 遅え!」

 

「くそっ」

 

 十六夜が『飛燕《トニー》』で浮いている俺の元にまっすぐ飛んでくる。

 

 それにあわせて俺はもう一度指をはじく。

 

 パチン!

 

 俺は『無能箱庭(アルカトラズ)』を使って空中に足場を作る。

 

 そして『飛燕(トニー)』で軽くなっている体で思いっきり飛び上がる。

 

 これにより十六夜の攻撃を回避することが出来て、なおかつ十六夜を能力が使えない空間に追いやることが――

 

「ヤハハ! こんなもんで捕らえられるか!」

 

「能力無効化の能力すら壊すのかよ!」

 

 十六夜の能力破壊のほうが『無能箱庭(アルカトラズ)』の能力が使えない空間よりも効果が高いのか!

 

 だが、一切の効果が無いわけじゃなさそうだ。

 

 あの一瞬確かに十六夜の身体能力は下がっていた。

 

 つまり『無能箱庭(アルカトラズ)』では足止めにしかならないのか。

 

 思ったより悪い状況だ。

 

 まだ空中に居る間に、もう少し作戦を立てなければ。

 

 少なくとも十六夜にダメージを与えることに成功した不意打ちは『無能箱庭(アルカトラズ)』の反転させた能力だ。

 

絵に描いた空間を作る性能は劣化したままで、絵に描いたものを具現化する能力に。

 

 能力を使用できなくする性能は劣化したままで、使いにくくなる程度。

 

 伸ばした性能は無い。

 

 ただし、反転は一つだけ。

 

 入ることは自由だが出るときは使用者の許可が必要な性能。

 

 これを反転すれば入ることは使用者の許可が必要で、出るのは簡単な結界のようなものになる。

 

 これを意識の薄そうな腹の位置に展開することで、高速で走る十六夜は腹だけ壁に突っ込んだようになり尻餅をついたのだ。

 

 その後にも何回か使ったが全て十六夜に気づかれて壊された。

 

 ネックだった馬鹿でかい紙が必要だったという弱点は、ギフトカードの中に収納するという手段で解決したが、それでも絵のストックがなさ過ぎておいそれと使えない状況だ。

 

 そして俺に撃てる『無能箱庭(アルカトラズ)』残数は後三回。

 

 正直な話、俺の能力には破壊力が欠けている。

 

 だから十六夜に少しでもダメージを与えることが出来た『無能箱庭(アルカトラズ)』はとっておきたい。

 

 他の能力で十六夜に効くくらい破壊力が高い能力は良くて二個。

 

 しかもそれすらも能力な以上砕かれる可能性のが高い。

 

 ああ、くそ。

 

 いくらなんでも準備不足過ぎだ!

 

「そんなにゆっくりと考える暇があるなんてずいぶんと余裕そうじゃねえか?」

 

 空中に居る俺の後ろから軽薄そうな声が聞こえる。

 

 俺は少なくとも二十メートルは飛んでいるのにだ。

 

「……どんな脚力してんだよてめえ」

 

「ハハハ! 限界を教えてくれるって言ったのはオマエじゃねえか。――んじゃ、落ちろ!」

 

 そのまま十六夜に蹴られて地面に真っ逆さまに落ちる。

 

「ぐああっ! あがっ!」

 

「おいおい、普通の人間は今のでも死ねるんだぜ? オマエも人間じゃないだろ?」

 

「ゲホッ! ゲホッ!」

 

 くそ! とっさに『不屈の卵殻(ハンプティダンプティ)』を使ってなかったら間違いなく死んでた。

 

そして一泊遅れて十六夜が俺のそばに降り立つ。

 

「大口叩いてた割にはずいぶんな様じゃねえか。救世主様?」

 

「う……るさい」

 

「その調子じゃあ俺が何故ルイオス坊ちゃんをここまで徹底的に攻撃したかも分かってないんだろう?」

 

「……レティシアを奪われた損失を取り返すべくリベンジマッチを仕掛けてくるのを防ぐため、だろ?」

 

「おお、それぐらいは分かってたか。じゃあ何で止めたんだ? てっきり何も考えない行動かとも思ったが、ちゃんと内情を理解してやがる。オマエの行動がちぐはぐにしか見えない」

 

「別の方法でもリベンジマッチなら防げただろう! あそこまでぼろぼろにする必要はないだろうが!」

 

「防げなかったときはどうするつもりだったんだ? オマエは同士が敵の人質になって死んででも見ろ! そいつらにオマエは何かを出来るのか!」

 

 十六夜は倒れている俺の首元をつかんで持ち上げて言う。

 

「そのために俺もエミヤも黒ウサギも久遠も春日部もジンもいる! 仲間のことを信用できない自分の弱点を敵に押し付けるな!」

 

「エミヤみてえに強い奴ばっかならそういえるだろう。だがお嬢様も春日部もまだまだ発展途上だ。俺ですらも白夜叉クラスにもなれば対処は難しい。そしてルイオス坊ちゃんの持ってるギフトは本来白夜叉と同格クラスの魔王のギフトだ。何人かが殺される可能性がある。そのときにお前の言う仲間は対処できる奴らばかりなのか?」

 

 十六夜の言っていることはコミュニティの安全を考える上で正しい判断だろう。

 

 完全に正論だ。

 

「だからといってお前が悪役ぶって敵をいたぶっていい理由にはならねえ」

 

「なら、オマエが俺以上に強いという所を見せ付けてくれれば納得してやる。かかって来いよ」

 

「ああ、分かってる! ­――『無能箱庭(アルカトラズ)』!」

 

 パチン!

 

「おいおい芸がねえな! コピー能力者なんだからもっとバリエーション増やせよ」

 

 そういって十六夜は俺の展開した『無能箱庭《アルカトラズ》』を破壊する。

 

 そしてその隙に二回指をはじく。

 

 パチン、パチン!

 

 俺は一つ目に発動したある能力によって魔方陣を展開する。

 

 そして俺のほうに向かってくる十六夜に向けて殴りかかる。

 

 圧倒的に速度が違う中でも、十六夜は俺の拳ごと砕くべく、俺の殴りかかっている手を狙ってきた。

 

 一瞬にも満たない抵抗の後、俺の手は弾かれる。

 

 しかし弾かれた後にもう一度掴む。

 

「これで寝とけ!」

 

 十六夜が俺が掴んでいるほうとは逆の腕で殴りかかってくる。

 

「いや、オマエの負けだ十六夜」

 

 十六夜が殴りかかる瞬間、俺は指を弾いた。

 

 

 

 

 

「――五十六億の救いをここに『木漏れ日現象』」

 

 

 

 

 

 一瞬で、十六夜の体は黒い光に包まれる。しかし十六夜の拳は止まることなく俺に当たる。

 

 そのまま俺は二、三歩たたらを踏んで立ちどまる。

 

 十六夜の攻撃でたたらを踏むだけなのだ。

       

「な……に? 俺のギフトが消されただと(・・・・・・・・・・・・)!?」

 

 能力を消す能力。

 

 俺が五十六億の世界を救った黒光。

 

 そして俺の理想全てを叶えた能力劣化反転『木漏れ日現象』。

 

 これが俺の最強だ。

 

 だがもちろん種はある。

 

 そうでもなければ十六夜の能力は消せない。

 

「ああ、お前のギフトを消すなんて普通なら無理だろうな。だが、もしも俺の『無能箱庭(アルカトラズ)』を食らった上に、自分のギフト無効化能力まで食らったらどうやって俺の『木漏れ日現象』を防ぐんだ?」

 

「確かにそれなら効くかもしれない。だがどうして能力のコピーが出来るんだ? 読み取ることすらも出来ないからこそ俺のギフトネームは“正体不明(コード・アンノウン)”だったはずだ」

 

 全てを見通す大悪魔ラプラスですら理解できなかった能力だからこそ“正体不明(コード・アンノウン)”の名だった。

 

 それをコピーするためにはどうするか。

 

「だから俺はお前の能力をコピーするために、一撃目を食らったときから試していた。そもそも最初に殴ったときに可笑しいと思わなかったのか? お前みたいな怪力に殴られて俺がたたらを踏む程度で済むと?」

 

「まさか、最初から俺の能力を封じるつもりで挑んできてやがったのか!」

 

 そう一撃目十六夜に食らったときには事前に『無能箱庭(アルカトラズ)』を引いて十六夜の攻撃力をそいだ上で攻撃を食らった。

 

 ただ、ここでは能力がコピーできるほど無効化の力が弱体化していなかったため何かに力を使った瞬間ならばコピーできると踏んだのだ。

 

 十六夜はいつもギフトに対する耐性に関しては常に発動しているが、能力を破壊する際には絶対に拳を振るう、蹴るなどの動作をしてきた。

 

 つまりそのときにはそっちのほうにエネルギーが回っているはずなのだ。

 

 だから十六夜は二度目の『無能箱庭(アルカトラズ)』を破壊した瞬間に俺に能力をコピーされたのだ。

 

 さすがに能力を制限されている状態で能力破壊を行うのなら結構な力を使うだろう。

 

 そして力を使った一瞬の隙に膨大な霊格を持つ俺が力技で能力をコピーしたのだ。

 

「……オマエは俺の能力がもっと問答無用で全てのギフトを破壊するものだとしたらどうしていたんだ?」

 

「ああ、その可能性はない。もしもそんな能力者なら、この箱庭に来るときの召還のギフトすら破壊しているだろうからな」

 

「……そういうことかよ。納得したぜこのやろう。そしてお前は最後に二つ能力を使った。一つは俺の“正体不明(コード・アンノウン)”の無効化能力だけを伸ばしたもの。そしてもう一つは能力の無効化の反転、能力の有効化をする空間として使われた『無能箱庭(アルカトラズ)』だ。それで能力を破壊するという能力が有効になるように後押しされた上に、強化された能力消去だ」

 

 十六夜のいうとおり、二つとも正解だ。

 

 さすがに頭いいなコイツ。

 

「ああ、無効化の能力同士で戦えばオリジナルが勝つだろう。だが、俺の『無能箱庭(アルカトラズ)』の無効化能力分の能力有効化能力があれば補える。俺がお前を捕まえた瞬間、お前の能力は封じられていた。そしてその瞬間なら俺の『木漏れ日現象』が効く。これでお前のが分かったか敗因が分かったか?」

 

十六夜は拳を数回動かした後、両手を挙げる。

 

「――完敗だぜ。お前の好きにしろ」

 

 そして十六夜に俺は勝利した。

 

 

~光一視点終了~

 




エミヤ「ふむ。前回いただいた感想を見る限り、光一を心配する声がゼロなのはまあ予想道理か」

光一「ああ、信用されてるのかもしれないが、ちょっと複雑だよな……」

エミヤ「お前などいいほうだ。私など一話分丸々一箇所も出てないがな」

光一「頑張れ」


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戦いの終わりと、その後

 ~エミヤ視点~

 

 ペルセウスとの戦いから一日後。

 

 逆廻 十六夜は佐藤 光一に敗北し、正体不明のギフト『正体不明(コード・アンノウン)』を失い、敗北を認めた。

 

 そして自体は収束を見せた。

 

 だが。忘れてはいないだろうか。

 

 

 

 

 一対誰がペルセウスに敗北を認めさせたのだ?

 

 

 

 

 十六夜が敗北を認めた瞬間、ルールに抵触せずに戦える人間は満身創痍の光一と春日部嬢、そしてジン君だけだ。

 

 経験の足りない春日部嬢とジン君では満身創痍とはいえ、星霊・アルゴールと、英雄の末裔ルイオスを倒すにはいたらないだろう。

 

 将来的には分からないが、現状では難しいだろう。

 

 そこで十六夜は光一に聞いた。

 

「俺は倒せる気がしないんだが、オマエに何か考えはあるんだろうな?」

 

「あ」

 

 この問答だけで光一の判決は決まった。

 

 ……お前仲間の邪魔をしただけだろう?

 

 

 

 

 

     ※※※

 

 

 

 

 光一の失態は思ったより簡単に終結を迎えることができた。

 

 十六夜と光一の戦いの後、ルイオスが降参したのだ。

 

 ルイオスは強がるように、

 

「敵に守られるってだけでも屈辱的なのに、これ以上屈辱的なことが出来るか」

 

 といって、そのままたたきの後処理をしていた。

 

 今後、ペルセウスは五桁の階層から、六桁にまで落ちることになりそうだと白夜叉が行っていたが、この敗北を機により良い組織になってもらいたいものだな。

 

 まあ、だからといって、光一が何も考えずに十六夜からギフトを奪ったことは許されることではないという結論が出た。

 

 罪状 馬鹿。

 

 刑罰 十六夜の能力の復元。

    及びにノーネームの子供達の教育係。

    及びに拳骨だ。

 

 わたしの拳骨によって、光一は三日間ほど頭を抑えていたがな。

 

 こうして自体は完全に収束した。

 

 

 

 

 

     ※※※

 

 

 

 

 

「十六夜、いるか?」

 

 私は書斎にこもっている十六夜を呼びに来ていた。

 

 やはり、光一に負けたのが悔しいのか、前にも増して伝書についての書物をあさる様になった。

 

 だが、それは成長しなければ倒せない敵を見つけることが出来たということだ。

 

 目標を持つ成長ほど早いものはない。今回のことは十六夜にとってもいい薬だったのだろう。

 

「十六夜。お前が最後だ。さっさと外にでて来い」

 

「ん? もう準備終わってんのか。これはすぐに逃げださねえと」

 

 ふむ。減らず口を叩くのは変わらずだな。

 

「私が逃がすと思えるのなら試してみてもいいんじゃないか?」

 

 だからといって、逃がすわけではないがな。

 

「いや、流石に今の状態でオマエと打ち合うには無理そうだな」

 

 まあ、十六夜も冗談のようで、肩をすくめながら言った。

 

「そうか。なら降りて来い。主賓がいなきゃ始まらないだろう」

 

「ヤハハ! 了解」

 

 こうは言ったものの、十六夜の立場は現在少し微妙だ。

 

 本来、コミュニティを存続させるための働き手として呼ばれたが、現在の十六夜は、少々運動神経がよくて、頭が良くて、才能あふれるだけの一般人だ。

 

 正直どこら辺が一般人かは分からなくなるが、現実世界にいても優秀な奴としか思われないようなレベルだ。

 

 嵐は払えないし、山河は砕けないし、恩恵の破壊などできない。

 

 “正体不明(コード・アンノウン)”は消失しているのだ。

 

 つまり働き手が働けなくなったらどうなるか。

 

 そう――NEETだ。

 

 というのは置いといてだ。

 

 十六夜は今、働き手にも属さず、支える側にも属していない。

 

 微妙な立場でしかないのである。

 

 この現状に対して光一はこういった。

 

『お前にゲームを仕掛ける。ルールは簡単だ。お前には必要なギフトを手に入れてきてもらうことだ。報酬はお前のギフト。期限は無しだ。お前なら出来るだろう?』

 

 つまり光一は十六夜自身の性能の底上げを図っているのだろう。

 

「おい、エミヤ。あんまりぼさっとしてると置いてくぞ?」

 

「ああ、すまない。すぐに行く」

 

 十六夜は私を催促しながら言う。

 

 そして私の近くまで来るとこういった。

 

「あー。お前が考えてることは分かるが、少し待ってろ。これは俺のゲームだ。すぐにクリアしてやるから心配すんな」

 

 とだけ言って二階の窓から飛び降りた。

 

 見透かされていたか。

 

 でもまあ、あの調子ならすぐにクリアしそうだな。

 

 私はそう思いながら、問題児三人が騒いでいる会場に向かうのだった。

 

 

~エミヤ視点終了~

 

 

 





光一「なあ、誰も突っ込んでないけど十六夜一般人の身体能力だからな? よい子は飛び出しちゃいけません!」

エミヤ「まあいいんじゃないか? 無傷だしな」

光一「まあ、確かに二階くらいなら無傷かもしれないが……。普通はもう少しなんか……なあ?」

エミヤ「気にするな。まあ、そんなことは置いておいてだ」

光一「おう。おいといてだ」

エミヤ・光一「「ようやく一巻の内容が終わったな!」」

光一「いや時間かけすぎだろこれ! 何年かけてんだよ!」

エミヤ「知らん。だが、問題児シリーズの小説の二巻が出るか出ないカだろう。少なくとも二年だ」

光一「おせえ! いや、マジでおせえ!」

エミヤ「まあ、今後も遅いだろうが、読んでくれると助かる」

光一「ああ、俺たちの冒険はまだまだこれからだ!」

エミヤ「それは違う」


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便利屋としての一月

あけましておめでとうございます!

今年もよろしくお願いします!

今回文章が短いですが、これはすべて壊れたパソコンがいけないのです!


 ~エミヤ視点~

 

 私たちノーネームが、ペルセウスと戦い一月。

 

 その間はあまり特筆すべきことはないのだろう。

 

 せいぜい、つい昨日に私の魔力が平常ぐらいに戻ったことだろう。

 

 いや、三年間も建屋が修理出来ないほどに財産が無かったのだ。

 

 修理すべきところなどいくらでもあり、なおかつ私の能力は最適過ぎた。

 

 この一月の間、稼ぎ手としてコミュニティに招かれた私は、建屋の修理に奔走していたのだ。

 

 そのおかげで本拠地が魔術的な防御能力を跳ね上げてみたり、光一と協力して図書室をさらに住みやすい空間に出来たのだ。

 

 ついに図書室が精神と時の部屋のようになったのだ。

 

 通常の三分の一ほどにしか時が進まない部屋にこもり続けているせいか、ジン君はなぜか一月前よりも身長が三センチも高いという結果となっている。

 

 もともと成長期なのもあるのだろうが、全員の身体測定を行ったときに随分と驚いたものだ。

 

 そして久遠嬢と春日部嬢と十六夜は各地のゲームで圧勝し続けてノーネームの財産を潤わせているし、光一と私と黒ウサギとレティシア監修の元、百人以上いる子供たちの教育は順調だ。

 

 まさに順風満帆となっている。

 

 ただ、十六夜は現在水樹の苗しかギフトを持っていなかったのにもかかわらず、各地のゲームで勝ち続けているのはとても彼らしい。

 

 現在は水樹の苗は本拠地に置いて生活用水として用いられ、十六夜は自分で勝ち取った脚力増強のギフトだけを使っている。

 

 そして今日からは私と光一はギフトゲームに参加しだして稼ぎを得る予定だったのだが。

 

「な、――――――……何をいっちゃってんですかあの問題児様方ああああ――――――!」

 

 ……まだ遠くなりそうだな。

 

 かわいらしい狐耳の少女のリリが持ってきた手紙を呼んで黒ウサギが叫ぶ。

 

 叫んだ瞬間に手元から落ちた手紙を拾って読むと、叫ぶのもわからなくは無い内容が書いてあった。

 

「【黒ウサギへ

北側の四〇〇〇〇〇〇外門と東側の三九九九九九九外門で開催する祭典に参加してきます。

貴方も後から必ず来ること。あ、あとジン君と光一とエミヤさんもね。

私達に祭りの事を意図的に黙っていた罰として、今日中に私達を捕まえられなかった場合三人ともコミュニティを脱退します。死ぬ気で探してね。応援しているわ。

P/S レティシアは道案内で連れて行きます】」

 

 確かにこれは黒ウサギなら発狂する。

 

 せっかく手に入れた同士をこんなことで失ってしまうのは馬鹿らしい。

 

 まあとりあえず私は光一を探してくることにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光一はいつもどおり図書室で子供たちに常識的な小学校で習うようなことを教えるために図書室にいた。

 

 そこでは案外まじめに授業をする光一と、いつもどおりくたくたのローブを着て、それ以上にくたくたになっているジン君を発見する。

 

「ん? エミヤか。何のようだ?」

 

「十六夜と久遠嬢と春日部嬢が北の外門まで遊びに行ったらしい。それにレティシアも案内役としてもっていかれたらしい」

 

「は? 何やってんだ! あいつら!」

 

 心底驚いたように口をあけながら光一が言った。

 

 まあ、問題児三人はともかく、レティシアもついていったのは意外だったが、おそらく問題児の手綱をとるために自ら同行したのだろう。

 

「まあ、とりあえず、俺たちも準備するか」

 

「そうだな。ジン君も用意するといい」

 

「はい? では最近精霊たちで蒸留した三重水素を瓶につめないと」

 

「「それはいらない!」」

 

 ……ジン君は大丈夫なのか?

 

 

 

~エミヤ視点終了~

 

 

 

 

 




エミヤ「あけましておめでとう。今年もよろしく頼む」

光一「あけおめ! それと更新遅くなってすまん。クリスマスイブに更新しようとしたらパソコンごとデータが吹き飛んだらしい。」

エミヤ「まさか壊れるとは思わず、バックアップも取れてなかったんだ。しかも修理に十万かかった。という言い訳が届いている。自業自得だな」

光一「それにしてもあの英雄好きの馬鹿のパソコンは年一で壊れてるな。どんな使いかたしてるんだ」

エミヤ「まったくだ。しかも新しいパソコンになってからどれだけ私の名前意を間違えられたか」

光一「ん? 何でだ?」

エミヤ「私の名前を打ち込むときにはな、F7を使えばいいものの、変換キーで変えてるんだあいつ。そのせいで何度も私の名前が『笑みや』になっていたんだ。何なんだ冒頭から『~笑みや支店~』とは! 何の店だ私は!」

光一「プッ! 本人こんなに愛想ねーのに!」

笑みや「最近あまりどちらかが意識を失ってコーナーが終わるということが無かったしな。ここら辺で寝ておくか?」

光一「いやいやいや! そんな物騒なことはヨクナイデスヨ! って、お前の名前また『笑みや』になってるぞ!」

笑みや「ふむ。よほど死にたいらしいな。少し地獄を見てもらおう」

幸一「こわっ! こんどは俺まで!」

笑みや「偽名を抱いて溺死しろ!」


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火龍誕生祭の準備

~光一視点~

 

 あいつらは問題を起こすとは思っていたが、まさかコミュニティを辞めるなんてことを言いだすとは思わなかった。

 

 つまりあいつらは、冗談だったとしてもお前らなんか仲間じゃねえと言ったような物だ。

 

 黒ウサギへの信頼の証と言えばそれまでなのだろうが、少しやりすぎている。

 

 しかし俺がここで激怒するのは筋違いだ。

 

 ここで怒る資格があるのはジンと黒ウサギと子供たちだ。

 

 所詮俺もエミヤも最近やってきただけの新参者でこのコミュニティに対する思い入れというものでは遥かに負ける。

 

 だから俺があいつらを追い詰める手伝いをするのは遺憾なく全力を出すが、あいつ等を叱るのは黒ウサギたちの役目だ。

 

 ということだが、問題が一つある。

 

「なあ、エミヤ。俺たちが転移門を使うだけの金ってあるのか?」

 

「知らん。黒ウサギ……は無理だろうから最近帳簿をつけているジン君に聞こう」

 

「了解だ」

 

 俺とエミヤの話が終わり、本とにらめっこし続けていたジンに話しかけようとしていたのだが、さっきまでの場所にジンはいなかった。

 

「あれ? さっきまでそこに居なかったか?」

 

「私も居たような気がしていたが……」

 

「ここにいますよ?」

 

「「!?」」

 

 気が付くとジンは俺とエミヤの話しているすぐ傍で、いたずらが成功したかのような笑みを浮かべて立っていた。

 

「良かった。二人とも気を抜いてたし、ギフトも使ってなかったけど、騙すことができたんだ。やっぱり知識って大事だったね」

 

 ジンは、さも当然のようにギフトで姿を隠していたようなのだが……。

 

 って、え?

 

 え?

 

 エミヤにすら気づかれないってどんだけだよ!

 

「……今のは光の微精霊と風の微精霊と土の微精霊の合わせ技なのか? いや、ハデスの兜並の効果を出すとは……。これは驚いた」

 

「いえ、五行思想も取り入れた上に、熱源の操作と光の屈折の補助にも微精霊を使っているので五属性は全て使っています。ただ、未だに展開するまでの時間がかかるのと、僕がしている動きを別のところに映し出すことしかできないので悪戯にしか使えないですけれどね」

 

「そ、そうか。でも十分使えるだろう……?」

 

 ジン君のあまりの成長具合に俺はそう返すことしかできなかった」

 

 

 

 

     ※※※

 

 

 

 

「では、光一さん、エミヤさん。黒ウサギは箱庭の貴族として、別の道があります。なのでそちらから北に向かうと思います」

 

 ジン君は旅支度を続けながらそう言っている。

 

 その間にエミヤと俺は本拠地の罠を起動させる。

 

 主力が全員この場所からいなくなる以上、危険度のレベルを上げなきゃいけないからな。

 

「それでですね。今回耀さんと飛鳥さんが北側の祭を知った原因の手紙はサウザンドアイズから届いたものでした」

 

「ほう。ということは白夜叉に頼るということか?」

 

 エミヤはジン君に質問する。

 

「はい。ただ、今まで祭りがあったとしても誘いの手紙とかは来なかったんです。それが今回来たと言おうことになると、僕達に用事がある可能性が高いです」

 

「ほう。ということは、『打倒魔王』を掲げるコミュニティとしての依頼か。それならなんで先に十六夜たちに伝えなかったんだ?」

 

 もしもちゃんと依頼があるのなら白夜叉から交通費は払われるだろうし、報酬も出るのだろう。

 

 それなのに十六夜たち三人の主力にそれを伝えないのはおかしいと思う。

 

 だがその答えはジンがすぐに答えてくれた。

 

「子供たちがここで暮らしていく上の生活費などの計算がまだでしたし、最悪の場合だれか残って貰わなければいけませんでした。なので色々考えなければいけないことが多かったのですよ」

 

「そうだったのか。了解だ。――ところでジン君」

 

「はい。何でしょうか?」

 

「今鞄に詰めているものは対魔王用の武器だよな?」

 

「…………」

 

「……殺すなよ?」

 

「もちろんですよ。別に、今回のことで帳簿をつけるのが大変だったりとか、食費とかの計算をやり直さなきゃいけなくなったこととか、一切怒ってないですからね」

 

 なにはともあれ俺たちノーネームは北側の祭に参加することが決まったのだ。

 

~光一視点終了~

 




エミヤ「ジン君は……三か月分の成長具合なのかわからなくなってしまったんだが」

光一「音は風で目は光と水と火で、足音は土の精霊で消すのか……。そんだけの力のあるギフトだったのかよ」

エミヤ「いや、五行思想とつぶやいていたからな。おそらく陰陽道の技術を使って精霊を強化していたのだろうな」

光一「……俺はすぐにジン君に抜かされる気がしたぜ」

エミヤ「……私もだ」

光一「……少し鍛えなおそう」


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もう少しだけ休みをください by光一

~エミヤ視点~

 

 さて、少し予想外のこともあったが、北側に向かう策は手に入りそうだ。

 

 そして何より、何時の間にか驕っていた自分に気づくことができたのが大きいだろう。

 

 少年たちの成長が早いのは喜ばしいことだが、しばらくは抜かされないようにしたいものだからな。

 

 まあ、そんな葛藤は光一も抱いたらしく、こっそりと修行のようなものをするという話にもなった。

 

 そんなことを考えているうちに、サウザンドアイズについた。

 

 ジン君は手紙を握ってサウザンドアイズの扉を叩く。

 

「また貴方達ですか。うちはノーネームお断りだと何度言ったらわかるんですか」

 

「いや、今回の場合はサウザンドアイズのほうから招待状が届きましてね。地域で一番のコミュニティからの招待状をノーネーム如きが無下にしたとなると同志達に反乱を起こされてしまいますから」

 

 店員は考えごとをするようにジン君とにらみ合うと、少し経つと白夜叉が送ったのだろうと当たりをつけて口を開く。

 

 

「わかりました。今回は特例です。それに、どうせ白夜叉様からのものですし、先ほど四人ほど通していますしね」

 

「ん? ていうことはあの三人とレティシアが来たのか」

 

 光一がそうつぶやくと、店員は口を開く。

 

「そうです。残念ながら入られてしまいましたが」

 

「そうか。ありがとう」

 

 私はそう言って中に入ろうとする。

 

「……礼を言うくらいならこの店に入らないほうがありがたいです」

 

 店員の捨て台詞は嫌悪感に彩られながらも礼に対して無視することはしない。

 

 やはり良く出来た店員だな。

 

「ところで白夜叉はどこにいるんだ?」

 

 光一が入れてもらった店内でつぶやく。

 

 そうすると奥の部屋からガタゴトと五月蠅く聞こえた後、探し人達の声が聞こえ、柏手の音と共に静かになる。

 

 呆然としながら一分ほど立って居ると、もう一度部屋に柏手の音が響く。

 

 すー、という音と共にふすまが開くと、少し眉に皺を寄せた白夜叉と、白夜叉に捕らえられている春日部嬢を発見した。

 

「全く。黒ウサギも元気になったのはいいが、礼を欠き過ぎておる」

 

 白夜叉が少しだけ眉を寄せながらつぶやく。

 

「すまない。同志の私から謝罪しよう」

 

 言葉と共に頭を下げる。

 

 白夜叉には世話になっているからな。

 

「いや、よい。一時の黒ウサギよりはマシじゃからのう」

 

 白夜叉は大して気にした様子もなく謝罪を受け入れる。

 

 これで問題はないだろう。

 

「そうか。まあ、釘は刺しておこう」

 

「お主が釘を刺すというと、ずいぶんと物騒な釘が出てきそうじゃな」

 

 白夜叉が何気なく口にする。

 

 しかし私にとっては大問題だ。

 

 なぜなら未だに白夜叉の前では宝具の投影はしていないはずなのだ。

 

 そして、私が多数の宝具を持つと知っているものも極一部に限られる。

 

 

 ノーネームの同士ですら私の魔術を詳しく知っているものはいないはずなのだ。

 

 つまり、白夜叉に情報を与えたものが誰かは限られる。

 

「……クラーケンからか?」

 

「そうじゃ。あの時はまだペルセウスはサウザンドアイズの一員だったからのう」

 

「なるほど。私について知っているものはどれほどいる?」

 

「クラーケンと私ぐらいじゃな。だが、お主は一度英霊となった身じゃろう。そうやすやすと手札を見せれば正体はすぐに割れよう」

 

 白夜叉が今度は私に釘をさすように言う。

 

 確かに英霊となってしまった以上、どこかに伝承が残る。つまりは、私だけはノーネームの中でも手札が割れやすいメンバーということになる。

 

「気を付けよう。誰かの命が失われない限りな」

 

「それでよい。またクラーケンと戦ってやれ。普通に戦えばお主でも苦戦するじゃろ」

 

「ああ。今度も負ける気はないと伝えておいてくれ」

 

「うむ。それじゃあ、北側に行くことにしよう」

 

 そういってパン、と柏手を打つ。

 

「それで北側にはどうやって向かえばいいんだ?」

 

 光一が当初の予定通りの質問を白夜叉にする。

 

 そして白夜叉は少しだけ口角を上げた。

 

「すでにここは北側じゃ」

 

「「はい?」」

 

 柏手一つで空間転移だと?

 

 どうなっているんだこの世界は!

 

 もしや誰かしらの固有結界か何かなのか!?

 

 そもそも魔力の移動なぞほとんど感じないのになぜこんな大魔術を?

 

 疑問は尽きないがその言葉を飲み込む。

 

 信じられないことがあったところで、神だからな。

 

 これで大体のことが解決できそうな気がするのが少し悲しく感じる。

 

 こんな世界で私はまともに戦えるのか?

 

 そんな疑問はもはや尽きないが、とりあえず一つだけ言っておこう。

 

「光一。お前はこんな非常識な存在になるなよ?」

 

「ああ、原理を聞いても出力が足りなそうだから無理な気がする」

 

「お主ら、私を非常識な奴扱いするでない!」

 

 白夜叉の抗議はそっとスルーする。

 

「で、どうしてこんな簡単にバカみたいな距離を移動できたんだ?」

 

 光一が白夜叉に聞く。

 

「ああ。サウザンドアイズの支店が至る所にあるのは知ってるな?」

 

「もちろん」

 

「その支店は繋がっておるんじゃ。故に繋がっている場所なら移動は楽じゃろ?」

 

「なるほど。指定した区間を繋げることによる簡易的な瞬間移動なのか」

 

 光一と白夜叉の会話を聞く限りこういうことだろう。

 

 真っ白い紙に二つの場所を書いて、重なるように折りたたむ。

 

 そうするとその二つの場所は繋がることになる。

 

 つまりは紙を折りたたむ動作のみで二つの場所をつなげられるのだ。

 

 おそらくこの原理で移動が楽になるということなのだ。

 

「ふむ。それなら似たようなもので応用できそうだ」

 

 この説明を聞いて光一が呟く。

 

「なに!? たったこれだけの説明でできるというのか!」

 

「ああ、似たようなのはできるな」

 

 光一がさも当たり前のことのように言うが、白夜叉は言葉にならなそうだ。

 

「おぬしは本当に人間か?」

 

「ああ、普通の人間だぜ? 元天使で元悪魔のな」

 

「どこら辺が普通なんじゃ! ……まあ、よい。だが、くれぐれもその力で境界門を移動させる商売などするなよ?」

 

「ああ、光一に限っては大丈夫だろう。こいつにそんな長距離を移動させる出力はないだろうからな」

 

「ぐっ! てめぇ! 本当のこととはいえ言うことはないだろう!」

 

 光一が悔しそうに歯噛みする。

 

「ああ、済まない。口が滑ってしまった」

 

「心にも思ってないことを言いやがって!」

 

 光一が憤慨しながら配膳されたお茶を飲む。

 

 その姿を見て少し満足してから気になっていたことを聞く。

 

「ところで白夜叉。黒ウサギとレティシアと十六夜はどこにいるんだ?」

 

「ああ、あいつらなら今頃追いかけっこの真っ最中じゃないかのう」

 

 ズドドドドドドン。

 

 白夜叉がそう言った瞬間に、外から爆音が聞こえてくる。

 

「もう魔王が来おったのか! ずいぶんと速いお出ましじゃのう!」

 

「魔王ですって?」

 

「ああ、此度の祭には魔王が来ることがわかっておる。そういえばお主らには話していなかったな。少し待て」

 

 そして少し目を閉じる。

 

 誰かと念話でもしているのだろう。

 

 そして目を開くと、先ほどよりも落ち着いた表情の代わりに、青筋をこしらえて口を開いた。

 

「悪い話が二つあるんじゃがどちらから聞きたい?」

 

「どっちも悪い話かよ! 選びようがねえ! せめて一つくらいいい話を混ぜてくれ!」

 

「ん? ああ、今朝茶を飲んだら茶柱が立った」

 

「確かにいい話だけどどうでもいい!」

 

「なんじゃ、せっかくいい話をしてやったというのに。……まあいい。まず一つ目の悪い話じゃが、この爆音は魔王襲来の音ではない」

 

 この破壊音が魔王からのものではないのが悪いことだと?

 

 その言葉に何故だかわからないがあかいあくまの姿がちらつく。

 

「それのどこが悪い話なん……まさか!」

 

 そして光一も悟ったようだ。

 

「ああ、この音の原因はお主らの仲間が起こしたもんじゃよ! せっかく用意した飾りが丸々壊されたぞ!」

 

 ――十六夜と黒ウサギか(あのバカども)か。

 

「ギフトも封じてるのに派手なことをしてくれやがって!」

 

 光一が憤慨している。春日部ですら苦笑いだ。

 

「その代金は全て耳をそろえて払ってもらうからの!」

 

「ああ、承知した」

 

 後で働ける場所でも教えてもらおう。

 

「それで二つ目じゃが、こっちのほうが悪い話かもしれん」

 

「なんなんだ? いまとんだ生活費のことを考えればこれより悪い話は中々ないように思えるが」

 

 光一が訪ねる。

 

 そしてその質問の答えは予想以上に阿保らしかった、と同時に悪い状況だった。

 

「魔王が来るという話はしたじゃろう? それでお主らノーネームは、対魔王の戦力の一員となってもらうことが決まった。というよりもお主らよりも先に来た四人が決めた」

 

 この言葉と共に、にこやかな笑顔のままのジン君と、固まった表情の光一と、眉に皺を寄せる私が流れるようなコンビネーションで行動した。

 

 つまり、私が竹刀を投影し、光一が春日部を強制的に正座させ、ジン君がきれいな面を春日部嬢にはなった。

 

「いたっ!!」

 

 これに関しては完全に自業自得だろう。

 

~エミヤ視点終了~




エミヤ「ついに魔王との戦いか。今の私たちで戦力になるのかね?」

光一「何とかなることを祈るしかないだろうなぁ」

エミヤ「祈ると言ってもだれに祈るんだ。少し歩けば神様がセクハラしてる世界だぞ」

光一「……神様って煩悩にまみれてるんだな」

エミヤ「煩悩がない神など極少数だろう。だからと言ってやってることがセクハラなのは微妙だがな」

光一「じゃあ、だれに祈ればいいんだよ?」

エミヤ「さあな。とりあえず私たちは魔王との戦いよりも、家計簿との戦いのが忙しいんだからな。これ以上赤い字をつけるなと問題児どもに祈るしかないだろう」

光一「……ああ、そうだな」


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この時、被害の大きさを知っていればな……byエミヤ

~エミヤ視点~

 

「さて。春日部嬢。三人揃ったらまとめて説教をするので覚悟するように」

 

 春日部嬢は頭を押さえながらうなずいた。

 

 それなりに力のある私と光一がやるよりはましと思い、ジン君に春日部嬢への制裁を任したが、それでも痛いらしい。

 

「まあいまそれはいいとしてだ。飛鳥と十六夜と黒ウサギの捜索が先だな」

 

「ああ。だが、とりあえずは壊したもので何とかなりそうなものだけは直しておきたい。私が事後処理に向かうから光一とジン君は三人を探してきてくれ」

 

「了解」

 

「わかりました」

 

 ジン君と光一がうなずいて行動を開始する。

 

「じゃあ、私はどうするの?」

 

「ああ、君には仕事をしてもらうつもりだ」

 

「仕事?」

 

 春日部嬢は心当たりがないようで首をかしげている。

 

「ああ、仕事だ。拒否権はないがね。白夜叉、店に入るときに見えたのだが、北側の祭の中に『造物主達の決闘』というギフトゲームで参加者を求めているというものが見えたのだが、春日部嬢を参加者にできないか?」

 

「それは可能じゃし、むしろこっちから頼みたいことじゃが、あの書類は別の部屋に置いてあったはずなんじゃがのう」

 

「ああ、通りがかった時に見えてしまってな。パートナーは私が立候補しよう」

 

 隣の部屋の隅のほうに積まれていた書類を見たことが不思議なようだが、人外魔鏡である箱庭では珍しくないはずだ。

 

 白夜叉もそう思ったのか特に何も言っては来なかった。

 

「お主は参加条件も満たしておるのじゃが、参加しないのかのう?」

 

「私のギフトは広まると手札をさらし過ぎてしまうのでな。遠慮しておこう」

 

「うむ。了解した。ほかに何かあるかの?」

 

 白夜叉は祭りに向けての仕事があるのだろう。

 

 引き留めては悪いのかもしれないのだが、言わなければならないことがある。

 

「ああ、もう一つだけお願いしたい事があるのだが……」

 

「なんじゃ?」

 

「私の同志たちが壊したものの賠償額なのだが、私ができる限り補修して、残りは魔王討伐の手伝いということはそれなりの依頼料がもらえるはずだ。その中から引いてほしい」

 

「ああ。わかった。だが魔王が来るまで金を払わないと言っているような物ということは分かっておるのだろう。それに関してはどうするつもりじゃ?」

 

「そこで、かの有名な『箱庭の貴族』がうちの同志にいるのだが、祭りの司会進行審判見世物として雇ってはもらえないだろうか? それなりに名を馳せている黒ウサギがいればゲームとしても箔がつくと思うのだが?」

 

「『見世物として』の。つまりは最低限の良識を持てば色々な服を着せてもよいと?」

 

 白夜叉の目が光る。

 

 犠牲者が出たことは間違いがないな。

 

 いい罰になるだろう。

 

「ああ。私が許可しよう。何ならサウザンドアイズで扱っている商品でも着せてみたらどうかね? なかなかの広告効果も見込めると思うのだが」

 

「いい提案じゃな。それなら少し高めに給金を払おう。賠償金も待ってやってよい」

 

「助かる。では依頼料は――」

 

 私と白夜叉で、春日部嬢と私のゲームの参加書類と、黒ウサギの司会進行審判見世物の仕事の書類を作っていく。

 

「ふむ。これで話を通しておこう。では町の補修は頼んだ」

 

「ああ、ほとんど完璧に直そう。春日部嬢も来てくれ。瓦礫を片付けるのを手伝ってもらいたい」

 

「わかった」

 

「私は少し仕事があるのでな。祭りで会おう」

 

 そういって私と春日部嬢で片付けに向かう。

 

 まあ、これで魔王から町を守れれば結構な儲けにはなるのだがな。

 

~エミヤ視点終了~




光一「春日部と黒ウサギは仕事か。後の二人の罰は何にするんだ?」

エミヤ「酷に考えてはいないな。何か案があったらいただけると助かる」

光一「丸投げかよ! まったく」

エミヤ「ならお前が考えろ光一」

光一「……飛鳥と十六夜に対する罰があったら感想にお願いします!」

エミヤ「結局お前も丸投げか」


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布石

感想の返信は少し遅れそうですが返します!

少々お待ちください!


~光一視点~

 

 音やら人だかりやらで黒ウサギと十六夜を見つけることは出来た。

 

 正直ここまでで壊したのは予想外だったけどな……。

 

 塔が丸々一つ吹き飛んでるじゃねえか。

 

「というか十六夜。お前どうやってこんなに壊したんだ?」

 

「黒ウサギがいきなり暴走して壊した」

 

「ち、違います! あ、いや、黒ウサギが壊したんですけど……!」

 

 黒ウサギが壊したのかよ……。

 

 十六夜が使っているギフトは韋駄天のギフトのレプリカだ。

 

 十秒間の間に三百メートル動くことができ、一秒の間に三百メートル動いてもいいし、十秒かけて三百メートル動いてもいいという使い勝手のいいギフトだ。

 

 しかし、『正体不明(コードアンノウン)』には程遠い。

 

 今の十六夜はレティシアよりも弱い。

 

 それでも黒ウサギを誘導する事によってゲーム自体に勝利することが出来るまでに知能を磨いているようだ。

 

 もともと高かった知能がさらに磨かれ、その上勝利への執念が今までの何十倍にもなった。

 

 ……しかしなぁ。

 

「建物を壊したら駄目だろう」

 

「ヤハハ、それはそうだな。エミヤにも迷惑をかける」

 

 俺がそう言うと、十六夜はまるで悪びれずに言った。

 

「お前少しは」

 

「だが――」

 

 俺が話そうとした所で十六夜の声が重なった。

 

「これで魔王対策への布石が打てるぜ?」

 

「「はい?」」

 

 俺と黒ウサギが同時に驚く。

 

 コイツまさか、何か考えがあってこの行動に出たのか?

 

「この後魔王が来て、それを倒す契約結んだのは白夜叉から聞いただろう?」

 

「ああ、そうだな」

 

「黒ウサギはのお耳には入ってませんでしたが!?」

 

 隣で黒ウサギが喚いている。

 

 塔を壊した張本人だろうという意味を込めて視線を送ると静かになった。

 

「だから俺は魔王討伐メンバーに”ノーネーム”がはいっても問題ないように手を打ったのさ」

 

 十六夜はにやりと笑いながら言った。

 

「白夜叉からの依頼なんだから心配しなくてもいいだろう?」

 

「体面上はな。だが、これは敗北すれば全てを奪われるゲームに参加する上で、無能な味方に足を引張られるのは誰だって嫌だろう?」

 

 つまり十六夜は自分たち“ノーネーム”が戦いに参加しても足を引張らないという証明のためにこんなパフォーマンスをしたのか。

 

「ああ、それは理解した」

 

「それだけじゃない。この騒ぎの結果、黒ウサギは明日からのギフトゲームの審判に選ばれるように誰かしらが手を打つだろう。それは白夜叉かエミヤか俺だろう。むしろ黒ウサギが審判をやれるように動く」

 

「ギフトゲーム中に魔王がきても対応出来るようにだろう?」

 

「それだと五十点だな」

 

 俺が言ったこと意外に黒ウサギを審判にする利点があるのか?

 

「明日の箱庭の貴族として黒ウサギが司会をやれば、俺と黒ウサギの戦いを見た誰かが勝手に俺の強さを広めてくれる」

 

「同じコミュニティ何だから八百長を疑う人間が出てくるんじゃないか?」

 

「それも心配ない。これを見ろ」

 

 十六夜が差し出してきたのは一枚の契約書類(ギアスロール)だ。

 

『ギフトゲーム名 “月のウサギと十六夜の月”

 

・ルール説明

      ・ゲーム開始の合図はコイントス。

      ・参加者がもう一人の参加者を“手の平”で捕まえたら決着。

      ・敗者は勝者の命令を一度だけ強制される。

      ・全身全霊でもって戦うこと。

宣誓 上記を尊重し、“黒ウサギ”“十六夜”両名はギフトゲームを行います。』

 

 つまり十六夜と黒ウサギが全力で戦った上で十六夜が勝利したと。

 

「そしてこの契約書類(ギアスロール)は戦闘開始地点に置いておいた。だからそれなりの人数の目に入ってるはずだ」

 

「だからお前は派手なゲームメイクにした上で勝利したと」

 

「正直オマエ並のこすい技だけどな」

 

「俺の戦い方をこすいと言うな!」

 

「事実だろうが」

 

「確かに決まり手は光一さんが十六夜さんに貸与している身代わり(ドッペルゲンガー)でした……」

 

 さらに余計なことを言った黒ウサギに大して俺は崩れた塔を見るという行為で返事をする。

 

 ちなみに黒ウサギは怒りに囚われた結果、何も考えずに疑似神格・金剛杵(ヴァジュラ・レプリカ)を使ったらしい。

 

「十六夜さんのゲームメイクのせいというわけにわ……」

 

「行くわけがないだろう」

 

「ヤハハ! 動かされたお前が悪い」

 

「むしろ黒ウサギは止める側でしょう」

 

「……そうですよねー」

 

 俺と十六夜とジンくんからの口撃であえなく黒ウサギは撃沈する。

 

「では、十六夜さん。今の言い訳を含めた上で、“ノーネーム”のリーダーであり金庫番である僕に言うことはありますか?」

 

 ジン君はニッコリと笑いながら言っているが目は笑っていない。

 

 それに対して十六夜も少しまじめな顔になって言った。

 

「魔王を倒せたらそれで手打ちにはならないか?」

 

「では十六夜さんにもペナルティを用意しておきますね」

 

 ……ジン君が少し怖くなったようだ。

 

 

~光一視点終了~

 




光一「ジン君は怒らせないようにしよう」

エミヤ「同感だ。まあ、十六夜がやり過ぎというのもあるがな」

光一「確かに三人ともやりすぎだ」

エミヤ「ああ、ジン君が三人にペナルティをつけるのも無理はない」

光一「今のところ、春日部は塔の修理手伝いとゲーム参加。十六夜は塔の修理手伝いは当たり前として後何をやるんだろうな」

エミヤ「知らん。……だが、今のところはギフトゲーム中お留守番か、シュールストレミング・デスソースの案が出ているな。正直な話シュールストレミングもデスソースも耐え切りそうだ」

光一「確かに。お留守番がやっぱりつらそうだ」

エミヤ「久遠嬢に関しては虫風呂(マキリ)とかもあるが……」

光一「さすがにアレはちょっと……な」

エミヤ「まあ、後はジン君に任せよう」

光一「だな」


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なぜこうなったのだろう

 

 

~エミヤ視点~

 

 ちょうどいい木陰を見つけたので、座って休憩をとる。

 

 塔を壊したのは知っていたが、まさかあそこまで破壊されているとは思わなかった。

 

 今も十六夜と黒ウサギと春日部嬢は補修するときに余った瓦礫を運び出している。

 

 私はというと塔の修復で一部に投影を使った影響で魔力を回復しているのだ。

 

 それなりの量の魔力を使ってしまったからな。

 

 ひとまずは補修は終わったから白夜叉からの仕事の一つは片付いただろう。

 

 ふむ。

 

 私が春日部嬢と出場するギフトゲームまで少しあるな。

 

 あともう少しで片づけも終わる。

 

 何か作っておいてやろう。

 

 私はそう思い、立ち上がって買い物に出かけた。

 

 

 

 

     ※※※

 

 

 

 

 

 どうしてこうなった。

 

 私は一心不乱に肉を焼き、野菜と一緒にパンで挟み、紙で包む。

 

 それを黒ウサギが売りさばく。

 

 肉を焼くスペースが足りなくて投影したコンロと鉄板は既に一つの屋台で使う量ではない。

 

 気づけばジン君は近くでフライドポテトを打っていた出店と飲み物を打っていた出店を味方につけて一つのハンバーガー屋のようにしてしまっている。

 

 十六夜はギフトを用いて全員のサポートを高速で行っている。

 

 儲けなど考えていなかったがすさまじい勢いで小銭の山が築かれる。

 

 何故だ。 

 

 調子に乗って屋台の形で作ってしまったのがいけなかったのか?

 

 それとも手軽に食べれるハンバーガーが受けてしまったのだろうか?

 

 いや、出店の許可をとってきたジン君と、食材を次々買ってきた十六夜と、その素晴らしい容姿で客引きをしている黒ウサギ達がいけないはずだ。

 

 そうに違いない。

 

 自分に言い聞かせながらひたすらにハンバーガーを量産していった。

 

 私がふと周りを見渡すと。

 

 ちなみに光一は小さい子に『不屈の卵殻(ハンプティダンプティ)』と『破壊神の現身』と『飛燕(トニー)』とグリフォンの風を操るギフトを豪華に組み合わせることで、シャボン玉のようなものに乗って空の旅が楽しめるというアトラクションで子供たちを魅了していた。

 

 これぞ才能(ギフト)の無駄使いの極みだが、子供たちの楽しそうな顔と、大人たちの羨望のまなざしを見るとあながち間違いではなかったとは思う。

 

 屋台をやっている最中に見つけた久遠嬢とレティシアにひとしきり説教をした後は久遠嬢の従える能力とレティシアの補助もあってさらに客足を伸ばした。

 

 そのころには一分間にハンバーガーを三十二個まで作ることができ、バリエーションは十を超え、行列は三十メートル先まで続くようになっていた。

 

 そしてふとノーネームのメンバーを見渡すと、

 

 黒ウサギの目は金の亡者のそれになり、

 十六夜は伝説のパシリと呼ばれ始め、

 久遠嬢は女王様と呼ばれ、

 春日部嬢は大食い選手権を勝手に初めて連勝し、

 ジン君は金勘定とサポートでおかしなテンションでになり、

 レティシアはその全員をなだめつつサポートし、

 光一はヒーローショウを始めていた。

 

 

 

 もう私は何も言わん。

 

 

~エミヤ視点終了~

 

 





エミヤ「ちなみに私たちは原作よりも一日早く町に乗り込んでいる。そこは間違えないように」

光一「だれに対する説明だ! というか一日ハンバーガー売る羽目になったのはお前のせいだ」

エミヤ「!」

光一「驚くとこじゃねぇ!」


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俺が問題児と言うのは違うだろう!

いつか救われたかった英雄譚というREの二次創作投下してました!

もう少ししたらあとがきで続きをやるかもです


~光一視点~

 

 最近、思っていることがある。

 

 俺達五人がノーネームというコミュニティに入ってから、それなりの日が立ちなれてきたのだが。

 

 そのときの評価は問題児三人と二人と言うものだった。

 

 それが今では違うものになってしまっている。

 

 ――問題児五人、と。

 

 そう。

 

 精神的には人間の何十倍も生きている俺とエミヤまでも問題児扱いされているのだ。

 

 昨日黒ウサギとレティシアの会話の中で聞こえてしまったものではあるが、ふに落ちない。

 

 俺は、特に何もやっていないはずだ。

 

 十六夜と久遠と春日部のように勝手気ままに動いてもないし、エミヤのようにコミュニティを巻き込んでハンバーガー屋にもしてない。

 

 確かに各個人のギフトゲームで稼いで来る収入はとてつもなく高く、エミヤも高い家事スキルで貢献している。

 

 だが、それを打ち消すほどの迷惑を黒ウサギにかけているからこその問題児だ。

 

 俺は、いたって普通にコミュニティの防備を固め、ジン君を鍛え上げていただけだ。

 

 そこまで考えていたところでエミヤと春日部のギフトゲームの試合が始まりそうな時間になっている。

 

 そろそろ出掛けよう。

 

 レティシアも子供達へ指示を出し終わったようだしな。

 

 俺は、散らかしていた『無能箱庭(アルカトラズ)』発動のための紙をギフトカードのなかにしまう。

 

 そしてノーネームの本拠地にある、時間を歪めてある図書館と北側のホテルを、昨日白夜叉がやっていたように繋げる。

 

 ふむ。

 

 俺は、問題児ではないはずだな。

 

 

 

 

 

 

      ※※※

 

 

 

 

 

 

「そんな感じで俺まで問題児扱いされてるのはおかしいと思う。レティシアとしては何か俺はおかしいことはしてるか?」

 

「……ふむ。つまり光一は特に問題を起こしていないから問題児扱いは不満と言うことか?」

 

 観客席に着き、隣に座っているレティシアに聞いてみた。

 

 彼女は少し考えたあと、こう言ってきた。

 

「いや、なかなかに規格外だと思うのだが……」

 

「ん? 特におかしいことはしてないぞ」

 

「では、昨日帰ってからやった行動を思い出してくれ」

 

 昨日のことか。

 

「あー。ハンバーガーの片付けをしたあと、魔王との戦いに向けて『無能箱庭(アルカトラズ)』の量産をしに本拠地に帰って、図書館で絵を描いて、寝てこっちに戻って来たくらいだろう」

 

 むしろ魔王との戦いに向けて戦闘準備を整えると言う模範的な行動のはずだ。

 

「そうだな。私も同行していたから分かる」

 

「もしかしてその間に何かやらかしていたか!?」

 

「いや、誰にも迷惑はかけていないだろう。……迷惑は」

 

「ふぅ。気づかないうちに何かやってるかと思ったぜ」

 

 気づかないうちに嫌われてたら嫌だからな。

 

「同士たちが光一を嫌うことなどないだろう。それは私が保証しよう」

 

「そればかりかよかったが、十六夜とかに恨まれそうなことはやってるからなぁ」

 

「確かにギフトを消すなど、他の者にやったらとてつもなく恨まれるだろうが、十六夜ならそれはあるまい」

 

 そういわれて十六夜の最近の動向を思い出す。

 

 ギフトが消えた次の日にしたことは失踪。

 

 一週間後に帰ってきたと思ったら韋駄天に連なるギフトを得てくる。

 

 そして超人的な身体能力など無いのにギフトゲームで連戦連勝。

 

 ついに参加拒否され始める。

 

 参加拒否され次の日には不貞腐れながら参加拒否したコミュニティの前で、野良のギフトゲームを開催。

 

 相当な人数の参加者を集め、大盛況のゲームだったが、参加拒否したコミュニティを参加拒否。

 

 そんな感じのことをほぼ毎日やり続けていた。

 

「そうだな。十六夜は確かに相当いろいろやっているが、全て楽しそうにやっていただろう?」

 

「ああ。多分箱庭に来て一番楽しんでいるんじゃないか?」

 

「私もそう思う。それに、光一は十六夜のギフトを戻せるのだろう?」

 

 レティシアはほとんど断定するように言ってくる。

 

 戻せることを知っているのは今のところエミヤだけだと思っていたんだけどな。

 

 俺の沈黙を肯定ととったのかレティシアは言葉を続ける。

 

「十六夜はそれを分かっていて、なおかつ今度はお前に負けないように修行しているのだろう。次も全力で戦ってやってくれ」

 

「そもそも今のあいつにも正面から勝つのは難しそうなんだが……」

 

「フフ。正面から戦うタイプでも無いだろう?」

 

「確かにそうなんだけどなぁ……」

 

 確かに正面から戦うような能力じゃないが、認めがたいと言うかなぁ。

 

「私から言えることは、光一はそのままで大丈夫ということくらいだな」

 

「問題児なのにか?」

 

「ああ。そもそも直るものでもないだろう」

 

「……確かにな」

 

 ずいぶんと長い間生きて来たが治らなかったのだ。

 

 そもそも薫とかには普通に問題児扱いされてた気がしてきたしな。

 

「話聞いてくれてありがとうな」

 

「気にすることはない。また聞かせてくれ」

 

「今度はレティシアの話もだな」

 

「あまり、楽しいものではないのだがな」

 

「楽しくなくてもいいだろ?」

 

「では今度語ることにしよう。今は二人のギフトゲームが優先だ」

 

「まあ、あの二人なら問題ないだろう」

 

「うちの最高戦力二人だぜ?」

 

「違いない」

 

 二人して安心しきりながら笑う。

 

 エミヤと春日部なら大丈夫だという確信があったからだ。

 

 そう思いながら俺たちは二人の戦う場所に目を移した。

 

~光一視点終了~

 




エミヤ「フン。お前が問題児出はなかったら誰が問題児なのだ」

光一「ハンバーガーやに言われたくない! というか十六夜たちほど問題は起こしてない!」

エミヤ「……問題は、な」

光一「何か含みがある言い方をするな」

エミヤ「お前は他人の価値観とか常識とか砕きすぎという話さ」


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アンダーウッドの迷宮

「月の兎が来たぞぉぉぉおおおおお!!」

「噂は本当だったんだ! ラピュタは本当にあったんだ!」

「ふ、ふつくしぃでごさるぅ~」

「はぁ、はぁ、可愛いよ黒ウサギたん! ぶしゅるぅ。部屋に飾りたい、料理つくってもらいたい、一緒に寝てもらいたい! あぁ可愛いよ黒ウサギたん!」

「おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい!」


光一「こいつらは月の兎のファンの癖に黒ウサギの耳のよさ知らないのか?」

レティシア「黒ウサギは可愛いから多少は仕方ないだろう。それに黒ウサギはあまりゲームに出ていないからな」

光一「お前も十分可愛いんだけどな」

レティシア「急に誉めるな。照れるだろう」

光一「というかうちのコミュニティは可愛いやつしかいないけどな!」

レティシア「……誉めるなら最後まで誉めてくれ」



~エミヤ視点~

 

『それでは入場していただきましょう! 第一ゲームのプレイヤー・“ノーネーム”の春日部 耀と、“ウィル・オ・ウィスプ”のアーシャ=イグニファトゥスです!』

 

 黒ウサギが大声で紹介している。

 

 普段の姿からはあまり想像出来ないが、なかなかの盛り上げ上手のようだな。

 

「……エミヤまで参加することなかったのに」

 

 春日部嬢が頬を膨らませながら言う。

 

 このゲームに参加してから毎回言われているから、私の返す言葉も同じ言葉で返す、

 

「このゲームには補助が一名許されているし、春日部嬢が強いとしてもそれだけで勝てるのならゲームなど成り立たないだろう?」

 

 まったく同じ答えにさらに不機嫌になりながらそっぽを向く。

 

「……ピンチになるまで手を出さないでね?」

 

「了解した」

 

 もとより、ピンチになるまでは手を出すつもりはないが、その答えに満足したようで入場口に行く。

 

 入場ゲートをくぐり抜け、これまでとは桁の違うほどの観客の人数に圧倒される。

 

 会場では黒ウサギがこちらに向かって歓迎のポーズを取っている。

 

 ――そして一瞬目が険しくなった。

 

 黒ウサギの視線は背後に向かい、後ろからは音が聞こえる。

 

「……ずいぶんと礼の欠いた登場だね。」

 

 迫ってくる火の玉と春日部嬢の間に立って火の粉を払って春日部嬢が言う。

 

「あたしたちは普通に入場しただけだぜ? もっともあんたらがのろかったから追い越しはしたけどな!」

 

 火の玉の上の少女は挑発的な態度だが、アレもまたゲームメイクの一つだろうな。

 

 入場から既に戦いは始まっているというやつか。

 

「その火の玉ってもしかして……」

 

「はあ? 何言ってんのオマエ。アーシャ様の作品を火の玉なんかと一緒に寸なし。コイツは我らが“ウィル・オ・ウィスプ”の名物幽鬼! ジャック・オー・ランタンさ!」

 

「YAッFUUUUUUUuuuuuuuuu!」

 

 アーシャと呼ばれた少女が火の玉に合図を送る。

 

 すると火の玉の中から、馬鹿でかいかぼちゃ頭とランタンが特徴的なお化け。ジャック・オー・ランタンが現れた。

 

 生と死の狭間の幽鬼を作り出すとは恐れ入ったな。

 

 聖人ペテロに烙印を押された悪魔が敵か。

 

 これはなかなか骨が折れそうだな。

 

『せ、正位置に戻りなさいアーシャ=イグニファトゥス! あと、』コール前の挑発は控えるように!』

 

「はいはーい」

 

 まったく反省をしていない姿を見せ付けることによって、さらに煽っているのか。

 

 だがしかし、春日部嬢もさる者で、その挑発を無視して観客に手を振っている。

 

 今度はアーシャが顔を曇らせた。

 

『参加者は両名とも落ち着くがよい。その鬱憤はゲームで晴らせ』

 

 白夜叉からの静止が入り、流石に両名ともおとなしくなる。

 

『では、招待状に書かれている番号が三三四五番の者はおるかの?』

 

「こ、ここにあります! “アンダーウッド”のコミュニティ三三四五番の招待状を持っています!」

 

 観客席のほうから少年の声が聞こえる。

 

『ふふ。おめでとう。“アンダーウッド”のコミュニティには後に記念品を送らせてもらおうかの。よろしければおぬしの旗印を見せてもらってもよろしいかな?』

 

 少年が緊張した様子でコミュニティの旗を掲げる。

 

 それを見た白夜叉が満足そうに頷く。

 

『今しがた、決勝の舞台が決定した。それでは皆の者。お手を拝借』

 

 白夜叉が手を前に出し一呼吸おいた。

 

 その間に観客も手を前に出す。

 

 そして白夜叉の動きに合わせて手を鳴らした。

 

 パン!

 

 会場から鳴らされる音と共に世界が一変した。

 

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 

 『ギフトゲーム名“アンダーウッドの迷路”

 ・勝利条件 一、プレイヤーが大樹の根の迷路より野外に出る。

       二、対戦プレイヤーのギフトを破壊。

       三、対戦プレイヤーが勝利条件を満たせなくなった場合(降参含む)

 

 ・敗北条件 一、対戦プレイヤーが勝利条件を一つ満たした場合。

       二、上記の勝利条件を満たせなくなった場合。    』

 

「___“審判権限”の名において。以上が両者不可侵で有ることを、御旗の下に契ります。御二人とも、どうか誇りある戦いを。此処に、ゲームの開始を宣言します」

 

 大樹の中のようなステージに世界はいっぺんし、黒ウサギの宣誓が終わる。

 

 それが合図だった。

 

 春日部嬢はアーシャに向けてグリフォンの力で風を飛ばす。

 

 それに負けじとアーシャもジャックに指示を出して炎を噴出させる。

 

 両者の中間地点でぶつかる風と炎は、徐々に炎をそらして消える。

 

 本来なら風では炎に飲まれるだけだと思うのだがな。

 

 つまりそこに種がある。

 

 春日部嬢もそれに気づいたようでもはや敵ではないとばかりに背を向けて走り出す。

 

 おそらく強化された五感で臭い、空気の流れなどから出口を見つけてあり、そちらに向かっているのだろう。

 

「くそ! 今度は囲んでやる!」

 

 風で流せる炎ということは、おそらくはアーシャは可燃物を放出し、ジャックの炎で起爆させている。

 

 つまりガスを充満させてから火をつけなければいけない。

 

 ならば風を操れる春日部嬢に負けはない。

 

 案の定、春日部嬢はガスを一箇所に集めて炎を誘導する。

 

「……くそったれ。悔しいが後はアンタに任せるよ本気でやっちゃて、ジャックさん」

 

わかりました(・・・・・・)

 

「え……!?」

 

 春日部嬢が驚きの声を上げる。

 

 無理もない。

 

 背後に存在していたはずのジャック・オー・ランタンが正面に存在していたのだ。

 

「さ、早く行きなさいアーシャ。このお嬢さんは私が足止めします」

 

「悪いねジャックさん。本当は私の力で優勝したかったけど……」

 

「それは貴女の怠慢と油断が原因です。猛省し、このお嬢さんのゲームメイクを少しは見習いなさい」

 

「う~……了解しました」

 

 そういってアーシャは先に駆け出す。

 

 ジャックに阻まれ、アーシャを追いかけられない春日部嬢は悔しげにジャックに聞く。

 

「……貴方は、」

 

「はい。貴女の御想像はきっと正しい。私はアーシャ=イグニファトゥス作のジャック・オー・ランタンではありません。貴女が警戒していた存在――生と死の境界に顕現せし大悪魔! ウィラ=ザ=イグニファトゥス製作の大傑作! それが私、世界最古のカボチャお化け……ジャック・オー・ランタンでございます♪」

 

 ヤホホ~♪と笑うジャックだが、カボチャの奥の瞳には先ほどまでとは違う炎が灯っている。明確な意思と魂。そして威圧感。ふざけたその口調と仕草はしかし、一分の隙もない。

 

 

 

 だが(・・)それは私が(・・・・・)この場にいなければ(・・・・・・・・・)の話だ(・・・)

 

 

 

 

 私は空中から鎖を射出させ、ジャックに絡ませる。

 

「……部外者はがさんかしてはいけないのではないのですか?」

 

 ギチギチと鎖の音を鳴らしながら私のほうをむくジャックだが、鎖は解ける気配はない。

 

「いやいや。私はずっとついてきていたのだがなぁ。まったく影が薄いのも考え物だな」

 

 私が大げさなポーズをとりながらそういうと、何かに気づいたような声をあげていった。

 

「……まさか! ゲーム開始前からずっと姿を消していたんですか!? われわれに一切気づかれずに!」

 

「ああ、最近手に入れた兜は優秀でね。ちょっと複製してみたのだがなかなか使い勝手がいい。君のようなものにも姿を捉えられないのだから」

 

「ヤホホ! これは完敗ですね。ですが、われわれはまだ負けたわけでは」

 

「ああ、春日部嬢ならもう走り出している。彼女の身体能力なら追いつくかどうかは五分五分と言った所かね。もっとも、君の仲間が道を完全に把握できていればだが」

 

 まあ、ここから先は春日部嬢のがんばり次第といったところか。

 

 まあ、流石に私もジャックを抑えておくだけで精一杯だろうからな。

 

 

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

「くそっ。まさかジャックさんがやられたのか?」

 

 アーシャは叫びながら疾走を続けている。

 

 大地の精霊としての力で出口を目ざしているが、後ろから聞こえてくる足音は出口まで逃げ切れるか不安にさせてくる。

 

 いくつかの、ガスを使った罠などを仕掛けているがどうにも足止めにすらなっていない。

 

 もはや距離は二十メーターも離れてはいまい。

 

 出口まではあと二十メートル。五秒もあればたどり着けるだろうが、それまでに追いつかれるのなら意味がない。

 

 だから策を一つ。

 

 

 急ブレーキをかけておってくる“ノーネーム”の少女に向けて走りながら溜め込み続けてきたガスを曲がり角に配置する。

 

 そこを曲がれば勝利だが、手の届く距離にいられる以上勝ち目はない。

 

 悔しいが本当に速さでは勝負にもならない。

 

 アーシャはそれが分かっているからこそ立ち止まった。

 

 すぐさま追い抜かそうとしてくる耀に対して、とった行動は。

 

「さぁ! 食らえ! 最後の攻撃だ!」

 

 そういって溜めに溜めたガスに向かって火種を落とす。

 

 その結果など分かりきっている。

 

 耀自身もガスを操る精霊が火種を持てば何が起こるかなど考えるまでもない。

 

 故に、全身に風をまとい、獣の如き速さで走り抜ける。

 

 だがタイミングに関してはアーシャに分があった。

 

 ガスのたまり場のちょうど中心。

 

 風で威力を殺しようもない場所で爆発が起きる。

 

「っ!」

 

 耀は出口間際で倒れこむがゴールではなく、直撃ではなくとも間近で爆発を食らったアーシャは地上に向けて開いた風穴の外に吹き飛ばされていた。

 

『勝者・アーシャ=イグニファトゥス!』

 

 静まっていた会場に黒ウサギの声が響き、ステージであった大樹の迷宮は姿を消した。

 

 

 

~エミヤ視点終了~




光一「ちなみにエミヤはハデスの兜の複製を使ってた影響で、ジャックに一撃与えるまでは春日部と審判意外誰も知らなかったりする」

エミヤ「そういう作戦だからな。まあ、あそこまで強いギフトが手に入ったのはうれしいな」

光一「でもオマエの場合、兜かぶってなくても何も行動起こしてないことに気づかれなさそうだけどな」

エミヤ「いや、春日部嬢とは話していたのだが」

光一「それすらも春日部の耳のよさと読唇術での会話じゃねえか」

エミヤ「会話が通じてるんだからいいだろう?」

光一「ちなみにだが、プレイヤーの中にジャックとエミヤがいなかったのはジャックは製作されたギフトだと思われてたからで、エミヤは黒ウサギが忘れてたからだ。だからエミヤが出てきた瞬間黒ウサギがちょっとあせってた」

エミヤ「……忘れられていたのか」


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グリムグリモワール・ハーメルンの襲来

遅くなってしまい申し訳ありません!

少し仕事が忙しかったのと、FF14が面白くなってきたので書く時間がとれませんでした。

全くいいわけにもらないですけれどね!


~エミヤ視点~

 

「おい! オマエの所属と名前は!?」

 

 待合室に戻ると、先程のウィル・オー・ウィスプのコミュニティの少女が春日部嬢に詰め寄っていた。

 

「さっきの戦いは悔しいけど、あたしだけじゃ勝てなかったのは認めてやる!」

 

「うん。ジャックに足止めされてなければ負けなかったし」

 

「んぐぐっ! くそっ。ちったぁ敗者らしくしろっての。だけど次は私だけで勝ってやるからな!」

 

興奮しながら詰め寄る少女に、思いの外負けず嫌いな春日部嬢。

 

 案外負けず嫌い同士気が合いそうなコンビだ。

 

 そしてその後も言葉を交わした後、少女が右手を差し出しながら春日部嬢に近づく。

 

「次はこの、ウィル・オー・ウィスプのアーシャ・イグニファトゥスが完膚なきまでに勝つ!」

 

「上等。次は負けない」

 

 春日部嬢もそれに応じて右腕を出して握手をした。

 

 うむ。

 

 切磋琢磨するライバルがいることは素晴らしい事だろう。

 

 この戦いは双方の成長に繋がるだろう。

 

 ……だけどな。

 

 どうして二人とも男同士の友情みたいになっているんだろうな?

 

 そんなことを考えながら待合室の外に出ようとしたときだった。

 

 とてつもない存在感を持った存在が四人分。

 

 そのうち一人は明らかに住む領域が違う。

 

 つまり。

 

 ――これが魔王か。

 

 その事を理解した瞬間私は赤原礼装を投影し、春日部嬢に渡す。

 

「魔王が来た。春日部嬢は出来るだけ一般人をつれて避難してくれ」

 

「私も行く」

 

「今の君たちでは少し危うい。それに、一般人がいる以上被害が広がりすぎる。避難誘導が終わったら来てくれ」

 

 それ以上の言葉は交わさず、私は闘技場の方に走る。

 

 散りばめられた黒い羊皮紙に空中に浮く四人。

 

 踊り子のような女。

 

 巨大な笛を持った男。

 

 明らかに人ではない巨人。

 

 ――そして圧倒的な霊格の少女。

 

 そこに一筋の風と共に十六夜が現れる。

 

「おい! エミヤはでかいやつ! レティシアとお嬢様は白いやつ! 光一は小さいやつ! 黒いのは俺が行く!」

 

 それはそんなことを言い残して巨大な笛を持った男を壁に叩きつける。

 

 叩きつけられた男は、巨大な笛でガードをしているせいで大したダメージは与えられていないようだが、完全に敵が来たと認識したようだ。

 

「坊主。名前は?」

 

「ヤハハ! 名前を聞くんなら自分からだぜ?」

 

「そうかい。そいつは悪かった、なっ!」

 

 男は言い終わる前に十六夜を笛で弾きとばす。

 

 あいつは楽器そのものを武器にするタイプか。

 

「“グリムグリモワール・ハーメルン”のヴェーザー」

 

「こっちは名乗るコミュニティの名前はないが、“ノーネーム”の逆廻十六夜だ」

 

 十六夜は、初手から完璧に相手を一人封じた。

 

 それを見た瞬間に、私を含めた四人も動きだした。

 

 一番最初に接敵したのはレティシア嬢だ。

 

 ギフトカードから取り出した槍で踊り子のような女に飛びかかる。

 

 初撃をかわし、笛を吹く。

 

 その瞬間にレティシアの動きが止まる。

 

 つまり、音を媒介にした行動支配。

 

 ハーメルンの笛吹道化に最も即したギフトだろう。

 

「動きなさいレティシア!」

 

 そこに響いたのは久遠嬢の一喝。

 

 しかし支配力に差があまりないのか、完全な解除とはいかずにレティシアが力ずくで距離をとった。

 

「気に入ったわ。そこの赤い服のあなた。名前は?」

 

「全く。私のことは無私か?」

 

「あなたは有名だもの。同族殺しの魔王様?」

 

「……確かに名乗る必要はなさそうだな」

 

「大分弱くなっている見たいだけどね? 私はラッテン。あなたは?」

 

「“ノーネーム“久遠飛鳥よ。レティシアに土下座させてあげるから覚悟しなさい?」

 

 久遠嬢も観客席からリングに降りてきて言う。

 

 あの二人なら相性もいい。

 

 前衛と後衛どちらも一定の水準にある以上問題はない。

 

 さて、私ももうそろそろ片付けるとしよう。

 

投影開始(トレース・オン)

 

 ズガガガガガガガガガガガ!

 

 呪文を唱えると共に計二十七本の剣が陶器の人形に降り注ぎ、破壊する。

 

「シュトロムをこんなに早く倒すなんて!」

 

 ラッテンが驚いたように言う。

 

 シュトロム――つまり嵐か。

 

 ギフトゲームの謎が見えてきたな。

 

「ただの陶器に手加減する意味もないのでね」

 

 シュトロムを倒したところで何処に加勢に入ろうかと周りを見渡すと、光一が黒い風から無様に逃げ回っていた。

 

「うわ! あぶねぇ! 死ぬ! 死ねる

! 見るからにあぶねぇじゃねえか! というか俺のお子さま騎士が即死するとか普通じゃねえだろ!」

 

「……うるさいわね。魔王と戦ってるのにこんなに緊張感が無いなんて、嘗められているのかしら?」

 

「そんな余裕あるわけないだろう!? と言うかいくら劣化してるとはいえ、グリフィンのギフトで操れない風ってなんだよ!」

 

「それは病を運ぶ風だからそもそも風じゃないしね」

 

「そうかいいこと聞いた! と言うか一瞬で殺せる流行り病ってなんだよ! 黒死病かなんかかよ!」

 

「あら、もうわかったの? すごいじゃない。誉めてあげる。じゃ、死んで」

 

「嫌に決まっているだろう!?」

 

 そんなやり取りをしながら、止まない黒い風を避け続ける馬鹿がいた。

 

「十六夜。手助けは要るか?」

 

「オマエもいい性格してるな! 春日部はどうなってる?」

 

「観客の避難をしてもらってるが?」

 

「なら、丈夫な剣を一本置いてそっち行け!」

 

 十六夜も、光一を助ける気は無さそうだ。

 

 まあ、仮にも十六夜を倒した“ノーネーム”の切り札だからな。

 

 こんなところで負けないだろう。

 

~エミヤ視点終了~



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馬鹿対魔王

~光一視点~

 

 ズガガガガガガガガ!

 

 エミヤの相手していた陶器のでかい人形が一瞬で粉砕される。

 

 もはやそこには大量の剣が突き刺さって砕かれた破片しか残っていない。

 

 そして周囲をくるりと見合わせたエミヤと目が合う。

 

 ――ニヤリ。

 

「くそっ! あいつ見捨てやがった!?」

 

 エミヤはそのまま控室のほうに走っていった。

 

 おそらく春日部を助けに行ったのだろうが、直接的な戦闘能力の低い味方がここにいるというのに。

 

 今度あいつに全力でいたずらしてやろう。

 

「仲間にも見捨てられたところだし、もうそろそろ死んでもいいのよ?」

 

「断る! というかなんで俺の相手が魔王なんだよ! こういうのはエミヤの担当だろう!」

 

 うちのコミュニティで一番戦闘力の奴がなんで戦ってないんだよ。

 

「確かにさっきの男もなかなか霊格が高かったけど、貴方と変わらずにあそんであげていたわ」

 

「遊んでくれてありがとうって言えばいいのか!? それだったらちゃんとみんなが楽しめるようなゲームにしろよ!」

 

「それは無理ね。私は魔王だもの」

 

 やっぱり会話だけじゃ止まってくれないみたいだな。

 

「ならここで足止めはもうやめて倒してやる! ――こい! 俺の『矛盾騎士(ランスロット)』!」

 

 パチン!

 

「ぷおー!」

 

 いつも通りの姿のお子様騎士が現れる。

 

 しかし今度のお子様騎士は一味違う。

 

「いけ! あいつをぶっ飛ばしてやれ!」

 

「ぷお!」

 

 了解とばかりに走り出す。

 

 その速度は薫が使っていた時と遜色がない。

 

 今回俺が伸ばした性能は運動能力。

 

 剣は相変わらずおもちゃだし、盾も樹脂製の安っぽい。

 

 ただし、その激しく二頭身の体には考えられないほどの運動能力が込められている。

 

 お子様騎士は全力で走って魔王のもとへたどり着く。

 

 そこで気付いた。

 

「……何がしたいの?」

 

 お子様騎士は魔王のすぐ下に行ってピョンピョン跳ねている。

 

 運動能力は高く、三メーターくらいは余裕で飛んでいるのだが、相手が悪い。

 

 魔王が飛んでいるのを全く考慮してなかった結果。

 

 お子様騎士の攻撃は届きようがなかった。

 

「ぷおっ!?」

 

 そして、何度目かのジャンプで着地に失敗してしまい、声を上げて消えていった。

 

「……何この茶番。死にたいのかしら?」

 

「えーっと。ほら。……可愛かっただろう?」

 

「可愛すぎて死にましたみたいなことでも狙ってたの? 馬鹿じゃないの?」

 

「すまん。なにもいいわけできん」

 

 無性に恥ずかしくなってきた。

 

 それを隠すために手で顔を覆う。

 

「まあいいわ。私だけ遊んでられないしね。――潰してあげる」

 

「それは遠慮しておこう。まだもう少し位やることがあるんでな」

 

 さて、どうしようか。

 

 触れれば黒死病にかかるらしい風を操る魔王。

 

 最悪の事態を考えると、相手のギフトを攻撃に使うことは出来ないだろう。

 

 もし、俺があの風を操ることが出来るようになったとしても、限界までイメージを強く持たない限り制御能力で負ける。

 

 なら、初めから『黒死病を与える』ギフトを反転させた『黒死病を奪う』ギフトとして使った方がいい。

 

 恐らく効果範囲はほとんど触れなきゃいけない範囲だろうが、ないよりましだ。

 

 とりあえずは、黒死病は即死する病気じゃない。

 

 このギフトさえあれば恐れるに足りない。

 

 今は他の観客に被害が行かないようにするしかないか。

 

 魔王が俺に狙いをつけるために少し降りてきたところを狙って、『飛燕(トニー)』で魔王の上に行き、『至福千年(フォトン)』の劣化コピーをつかい、荷電粒子砲で地面に叩きつける。

 

 少しくらいダメージが入ってくれてたらいいんだが……。

 

 魔王は土煙の中から何事もなかったかのように立ち上がって服を払う。

 

「風で防御してなかったら服くらい破けたかもね?」

 

「直撃でも無傷化かよ……」

 

「魔王を倒したいなら星を砕く一撃でも用意してきなさい。今のじゃ力不足ね」

 

 全く。

 

 魔王は本当に理不尽だな!

 

 まあ、とりあえずの目的は果たした。

 

 もともと飛んでいた魔王を地面に下ろすことだけが目的だ。

 

 ダメージはついでに過ぎない。 

 

 イメージを込めて指を弾く。

 

 パチン!

 

「――ようこそ。俺の箱庭へ」

 

「っ! 隔離型のギフト?」

 

「そんな上等なもんじゃないけどな」

 

 俺の切り札の一枚。

 

 『無能箱庭(アルカトラズ)』。

 

 今回の能力はシンプルだ。

 

 ギフトを封じることは出来ないが、その分、許可がないと出ることが出来ないという性能だけ伸ばした。

 

 魔王との距離は五メートル。

 

 今までの攻撃を見る限り、三秒以内に俺を殺せる距離だ。

 

「呆れた。まさか、近づいただけで勝てると思ったの?」

 

 魔王は手の上で黒い風を遊ばせながら言う。

 

「いやいや、まさか」

 

「あんまりもったいぶるなら、あなたを殺してあなたの仲間全員殺すわ」

 

 その両手の風の量が爆発的に増大する。

 

 恐らくあれの制御をやめるだけで俺は死ねる。

 

 だが、俺は一つの確信をもって言う。

 

「それじゃあお前の目的は叶わないんじゃないか?」

 

 魔王の表情が動く。

 

 当たり、か。

 

「お前の目的は無差別な殺人ではなく、何かしらの目的があって行動を起こしている」

 

「続けなさい。聞いてあげる」

 

「上から目線過ぎるだろう!?」

 

 俺があまりの傍若無人な態度に突っ込むが、帰ってきたのは黒い風が収束していく両手と、冷たい目と、一言。

 

「死にたいの?」

 

「まあまて。話す。話すからその両手のを納めろ」

 

 突っ込みの一つで死にかけた気がするがとりあえず目の前の驚異を取り除いて貰おう。

 

「嫌よ。下らない話だった時に直ぐに殺せないじゃない。まあ、少し遅いか早いかだけどね」

 

「殺す前提かよ!」

 

 無理だった。

 

 内心結構びびってることを隠しながら続ける。

 

 話が進まない。

 

「それはおいとくとしてだ。何でお前は観客全員に初めから黒死病を与えなかったのか。これがその疑問の切っ掛けだ」

 

「別に、気まぐれよ」

 

「そんなはずはない。さっき、白夜叉がこのゲームにとらえられているらしい声が聞こえた。つまり実力者を排除した上で何かをする。答えが見えてこないか?」

 

「……さあね」

 

「それはほとんど当たりみたいなものだろう。だから俺も今生きて話していられる」

 

 魔王は両手の風を書き消して肩をすくめた。

 

 そして溜め息を一つ吐いた後言う。

 

「一つだけ答えてあげる。私たちの目的は怠惰な太陽に復讐することよ。あなた、名前は?」

 

 俺はニヤリと笑い、ポーズを決めて言う。

 

「『全ての式を模する者』佐藤 光一」

 

 言った瞬間に風が吹き荒れる。

 

 気に入らなかったみたいだ。

 

 俺はとっさに魔王のギフトの劣化コピーでなんとかそらす。

 

 ただ風を解放しただけのようで、制御してなかったらしくそらせたようだ。

 

「次は殺すわ。あなたは白夜叉の仲間みたいだから躊躇う必要もない」 

 

「白夜叉の味方のプレイヤーですら奪う方法が有るとしてもか?」

 

「……悔しいけれど完璧ね。貴方、私の同士にならない?」

 

 魔王はパチパチと手を叩きながら言う。

 

「遠慮する。お前が誰かを殺すのを止めて神魔の遊戯を楽しむだけならまだしもな」

 

「残念ね。それで? その方法を教える代わりに何を要求するのかしら?」

 

「時間だ。ギフトゲームの猶予期間を五日間」

 

「却下。そんなものは取引にすらならないわ」

 

「観客の何人かには既に黒死病を感染させているから時間を掛ければ掛けるほど有利になるから、だろう?」

 

「ならわかるでしょう?」

 

「『箱庭の貴族』、『箱庭の騎士』、元『守護者』。お前の目的に欲しくないのか?」

 

「私がこのまま戦わなければ上位のプレイヤーに対してその交渉を吹っ掛けられることに気づいてる?」

 

「もちろん。ただし、その交渉の場合は裏切るかもしれない駒でしかない。ギフトゲームでのルールなら自由に出来るぜ?」

 

「なるほどね。じゃあ日数はそれでいいわ。ただしこっちからも条件を二つ」

 

「なんだ?」

 

「ゲームの参加者以外の参戦があった場合。この会場の全てのコミュニティの服従」

 

 つまり、サウザンドアイズですら手中に納めようとしている。

 

「審判である黒ウサギにいっておく。もう一つはなんだ?」

 

「貴方が人質になること」

 

「わかった。その代わりに黒ウサギには伝えといてくれ」

 

「もちろん」

 

 風が吹く。

 

 数秒と持たずに俺は倒れる。

 

 俺は一度だけ指を弾いて意識を失った。

 

~光一視点終了~




エミヤ「お前は馬鹿か?」

光一「えーっと。ほら。原作のタイトルから来た宿命といいますか。うん。しょうがない」

エミヤ「魔王と戦っているときくらいシリアスになれ」

光一「いや、どちらにしても多分傷つけられるギフトがいくつあるか……」

エミヤ「星を砕くとか私でも無理だ」

光一「よし! 諦めよう!」

エミヤ「星を砕けないのなら砕ける人を連れてくるか、覚醒でもしろ」

光一「覚……醒だと!」

エミヤ「お前はそういうの得意だろう?」

光一「そうか。俺の付け焼刃の第三段階についに目覚めるのか! 今度は伸ばせる性能が二つになったりするのかなあ?」

エミヤ「再現度はもうあきらめているんだな……」

光一「ああ。なんかもう、な。うん」

エミヤ「なんかすまん」


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交渉

一日間に合わなかった……。


~ジン視点~

 

 五日。

 

 魔王から僕たちへの猶予であり、それと同時に敗北と同時に箱庭の秩序がまるごと揺らいでしまうほどの条件をもって手に入れた時間だ。

 

 魔王の要求は纏めると二つ。

 

・ゲーム開催期間を五日後の正午から六日後の正午までに限定すること。

 

・このゲームをクリアできなかった場合、魔王襲来時にゲームの範囲内にいたコミュニティの強制隷属。

 

 これの不味いところは白夜叉様にある。

 

 魔王襲来の時、白夜叉様はルールに書かれていないルールでもって完全に封じられているにも関わらず参加者となっている。

 

 それを黒ウサギが『審判権限(ジャッジマスター)』を用いて反則にしようとし――失敗した。

 

 これが話し合いに至るまでの切欠であり、問題点だ。

 

 白夜叉様の戦力もさることながら、所属コミュニティのサウザンドアイズは通貨の流通すら行える大規模コミュニティだ。

 

 つまり、箱庭全てに魔王のてが届いてしまう。

 

 この条件を本来なら受けたくはなかったが、受けざるを得ない理由が二つ。

 

 黒ウサギの『審判権限(ジャッジマスター)』で違反が無かったのにゲームを停止させたペナルティで、魔王がゲームの開催日を決めれるようになってしまった事。

 

 そして非戦闘員の中に黒死病にかかった人がいるということが一つ目。

 

 もしも五日の猶予がなければ、例え魔王に勝ったとしても被害が出てしまう。

 

 この五日は僕達参加者側にとっては喉から手が出るほど欲しい時間だった。

 

 本来、『魔王』が交渉の場につくことなど無いのだろうが、この黒死病の魔王――ペストは太陽に復讐するための戦力を集めるために交渉の場に着いた。

 

 この、魔王に有利過ぎる盤面をもって、交渉に望んだのだ。

 

 選択肢等既に無い。

 

 五日以内にゲームを解き明かして魔王を打倒しなければ死人が出る。

 

 その中には人質としてとられている光一さんも含まれている。

 

 さて。

 

 選択肢が無いのなら迷う必要がない。

 

 その後何をどうするかだ。

 

 僕は会わなければならない人が出来たので行くことにしよう。

 

 

 

 

 

     ※※※

 

 

 

 

 

「昔あなたたちが助けてくれなかったコミュニティのリーダーですが、貴方たちを助けに来ました。なので貴方方も協力してください」

 

「……お前は喧嘩を売りに来たのか?」

 

 僕は北の『階層支配者(フロアマスター)』の在籍するコミュニティ“サラマンドラ”の参謀に位置する火龍・マンドラさんに会いに来ていた。

 

 マンドラさんは最初に僕を追い返そうと部下を使わせてきたので、少し交渉しやすいようにしてみた。

 

 案の定マンドラさんは出てきてくれて交渉の場に着いてくれている。

 

「お前は何をしに来た。この非才の身なれど、お前の首を跳ねることなど容易いのだぞ?」

 

 マンドラさんは腰に提げている剣に手をかけながら睨む。

 

「そうですね。こんな簡単なゲームに手をこまねいている振りをしているほど余裕のあるんですから、協力関係を結びに来た使者の首を跳ねるのも簡単ですよね?」

 

 それでも僕は挑発を止めない。

 

「貴様ッ! それ以上下らない口を聞くようなら――」

 

「『真相』をサンドラに伝えますよ?」

 

 そう。

 

 だって、真相の九割以上はもう解けているのだから。

 

 “サラマンドラ”に対して負い目はなく、貸しは既にある。

 

 更にこのゲームの参加者となっている以上さらに貸しを作ることになる。

 

 そもそも。

 

 このコミュニティは北側の魔王に対応する義務があるのに、何の対処もしていない時点で理解した。

 

 僕達ですら魔王襲来の情報を貰っていたのに、北の『階層支配者(フロアマスター)』にその情報が回っていないはずがない。

 

「つまり貴方達は、いえ。“サウザンドアイズ”はなにか目的があって魔王を見逃している。そして、最近党首に成ったのはまだ若いサンドラ。まだ若いのに魔王を押さえられるのかと言う不安が下層のコミュニティから出ているはずですよね?」

 

 サンドラとは、僕は幼い頃から面識がある。

 

 三年前に会ったきりだが、余程の事がない限り魔王を見逃して死者が出るような策を立てるはずがない。

 

「つまり何が言いたい。お前が俺に切れている理由は分かった。俺がこれからするお前の要求を断れないのも分かった。まあ、俺達だけでは勝てない戦力であるのは元から分かっていたがな」

 

 マンドラさんは観念したように刀から手を離し、椅子に座る。

 

 その様子を見て、僕はこの策の立案者が誰かを完全に理解した。

 

「自分達では勝てないことを知って、最近調子を取り戻したかつてのコミュニティに力を借りれるよう手配して、東側の『階層支配者(フロアマスター)』の白夜叉様まで呼んだと」

 

「そうだ。お前の読んだ通り、俺の(・・)目的はサンドラの成長と、実績。今回の魔王は生まれたてのルーキーだからちょうどよかった」

 

「その結果うちの同士が黒死病にかかって動けずに敵に捕らわれているんです。その対価――覚悟してください」

 

 僕は全力で睨み付けながら言う。

 

「分かっている。この一連の事が終われば俺は自ら首を切ろう」

 

「そんな価値の無いものは要らないです」

 

 その言葉にマンドラさんが目を見開いて言葉を吐こうとし、口をつぐむ。

 

 当然だ。

 

 マンドラさんは、コミュニティのために命を賭けることに躊躇いはない。

 

 だが、この戦いがコミュニティにとってマイナスになることならばこの場で僕の首を跳ねなければいけない。

 

 そんな考えがあるのだろう。

 

 マンドラさんの手が微妙に剣に近づいて止まる。

 

 あの位置から抜刀まで一瞬で行うことが出来るのだろう。

 

 でも駄目だ。

 

「――勘違いしないで下さい。この場で命を握っているのは貴方じゃない。この僕だ」

 

 僕はマンドラさんの首に、エミヤさんからいただいて、光一さんに能力を付与してもらったナイフを突きつける。

 

 そして薄皮一枚傷つけたところでマンドラさんがようやく気づく。

 

「っく! ……遠隔操作のギフトか?」

 

「答えを敵に求めてどうするんですか。」

 

 未だに僕の存在を視認できていないマンドラさんの勘違いは放置しておこう。

 

「残念ながら、僕は貴方とは対等な協力関係は築けない」

 

「つまり、北側のコミュニティ全てを見捨てて逃げるのか?」

 

「そんな後味悪いことはしないですよ」

 

 心外だなあ。

 

 僕はため息を一つ吐く。

 

 そして、マンドラさんの反論を許さずに言う。

 

「――唯、サラマンドラが主力となって戦うでしょうから、サンドラ以外の戦力が十分の一位になったらゲームクリアするくらいですかね」

 

「貴方の魔王を招き入れると言う打算によって僕らのコミュニティの同士が人質に取られているんですから」

 

「――貴方が選んだことだ(・・・・・・・・・)

 

「まあ、ほら。僕の同士が黒死病にかかってまで稼いだ五日間で、サラマンドラが魔王を倒せるかも知れないじゃないですか」

 

「だからそんな絶望した表情をしないで下さいよ」

 

「まあ、クリア条件がわからないゲームで、ゲーム開催時の範囲の参加者の中には魔王を倒せる人間は少ないですけれどね?」

 

「頼みの綱の白夜叉様も相手のルールによって封じられていますし?」

 

「他にはウィル・オ・ウィスプのリーダーとかはとても強いらしいですけどいないそうですが、カボチャのお化けのジャックさんとかは手伝ってくれそうですかね?」

 

「まあ、僕の計算だと、ジャックさんは子供を守護するウィル・オ・ウィスプのコミュニティの主力です。誰か子供が死にそうになった位に助けに来てくれると思います」

 

「だから――」

 

「貴方達サラマンドラの主力で魔王と戦って生き残れるのは十分の一位ですかね。そして恐らくですが、サンドラにはその状況に耐えることができずに誰かをかばって倒れることとなるでしょう」

 

「冷静に状況をみることができ、なおかつ生き残ることが出来そうなのはマンドラさんしかいません。つまり、貴方は僕たちにとっての黒ウサギとなればいい」

 

「コミュニティが壊滅状態になっても、名と旗、財産は残るんですからましでしょうね」

 

「ただ、辛いのは生活とかそんなものじゃない。共に支え会おうと誓った仲間が現状に絶望してコミュニティを抜けていくんですよ」

 

「一人」

 

「また一人」

 

「今度は二人」

 

「その次は五人」

 

「そこからはもう止まらない」

 

「――残されたのは、百を超す子供と黒ウサギだけ」

 

「貴方はそれでも死ぬことは赦されない」

 

「自分の責任で喪われていく栄光を見ながら、自分の責任で飢える子供達を見ながら、自分の責任で滅びゆくコミュニティを見ながら――貴方は最後までその場に立ち続けなければならない」

 

「それが貴方の三年前にした選択の結果であり、始めは協力関係を結びにこの場に来ていた僕を侮った事の結果だ」

 

 僕はその言葉と共に扉を開ける。

 

 サラマンドラは恐らく二年以内に消滅するだろう。

 

 僕が既に解き明かしたゲームに勝利できる可能性は無くはないが、ゲームクリアを阻むことが容易すぎるのだ。

 

 そもそも敵の主力三人を押さえられるだけの戦力はない。

 

 恐らく魔王だけなら全員でかかれば押さえることはできるだろう。

 

 しかし残りの二人のうち、ラッテンと名乗る悪魔は軍勢との相性は最悪だ。

 

 笛の音色で集団を操る悪魔。

 

 ゲームの鍵である悪魔のうちの一人である彼女は、一定以下の霊格のものを封殺するだろう。

 

 そこに加わるのがヴェーザーと名乗る悪魔と、黒死病を操る魔王であるペストだ。

 

 それに、今はないがシュトロムと呼ばれた陶器人形もいた。

 

 三人の構成としては恐らく、ラッテンが軍勢を潰し、ペストが主力陣の殲滅、ヴェーザーが近寄るものを阻み、シュトロムという捨て石の人形で場を荒らす。

 

 シンプルかつ強力だ。

 

 そのときは知らなかっただろうが、十六夜さんの采配で敵を分散させたことはまさしく幸運だったのだろう。

 

 でなければ僕達ですら全滅していた。

 

 これは確定事項だ。

 

 僕の微精霊だけしか使っていない穏業すら見破れないものがコミュニティのNo.2という時点で二人目以降の敵を押さえることが出来ない。

 

 つまり、サラマンドラの未来はないのだ。

 

 僕はこれから滅びることがほぼ確定であろうサラマンドラに、サンドラという幼馴染みを残しておくのは心残りだが、それはゲーム中に少しだけ手助けをすることで何とかしよう。

 

「貴方は残念ながら『不合格』だ」

 

 

 

 

 

     ※※※

 

 

 

 

 

 

 違和感があった。

 

 マンドラさんに言葉をぶつけると共に、扉を開けて外に出た筈なのだ。

 

 しかし扉を出た先にあったのはマンドラさんと会話していた執務室。

 

 

 ――嵌められた。

 

 

 僕がそう認識してから、初めてマンドラさんは口角を上げて言った。

 

「――取引だ。ここは俺の許可が無い限り永遠に閉ざされ続ける空間だ。なに、時間は二日は有るんだ。ゆっくりと話を聞いてくれたまえ」

 

 余裕たっぷりの表情でマンドラさんは僕を見ている。

 

 それを見て察した。

 

「……始めから自分の命をチップにしてたんですね?」

 

「私はお前の言う通り、自分のコミュニティが一番大事だ。なら掛け金は決まっているだろう?」

 

 ――我が身全てをコミュニティの礎に。

 

 この人は、そのたった一つの行動理念だけを胸に動いている。

 

「さあ、お前の要求を言え。それがコミュニティの利益となるのなら、相応の何かを差し出そう」

 

 僕を一度追い返したのはこの部屋の準備のため。

 

 挑発し続けたのはこの仕掛けを相手に感知されない状態で使用するため。

 

 僕が言いたい放題になっていたのは相手の人となりを判断するため。

 

 マンドラさんは僕を侮らなかった訳ではない。

 

 ただ、侮った訳でもない。

 

 いつも通りの、話し合いに来ていた人間への対応のように振る舞っただけ。

 

 僕で無くても相手が未知数だったならこの対応なのだろう。

 

「どうした? 私と取引をしに来たのではなかったのか?」

 

 そう言いながらマンドラさんは、これでも『不合格』かと言わんばかりに僕を見る。

 

「……そうですね。『不合格』は取り消しましょう」

 

「それは良かった。俺がした選択に後悔は無いが、お前に言われた事は耳が痛くてな。勿論先の一方的な同盟破棄は今後償うことを約束しよう」

 

「わかりました。僕達を見捨てて生き残ったコミュニティですからね。生き残ったなりの保証をしていただきましょう」

 

「我が旗と名に誓おう」

 

 マンドラさんは、先程の仕返しとばかりに嫌味を言う。

 

 その言葉を聞き届け、僕は本題に話を戻す。

 

「僕からの要求は三つ」

 

「一つは互いの目的の直線上にあるだろう? この不出来な私でも理解している」

 

「そうですね。貴方のにらんでいる通り、魔王のゲームクリアの手伝いです。僕はもうこのゲームは解けています。ですが、クリア方法が二つあるんですよ」

 

「ふむ。つまり、二つの内の一つは魔王の撃破だろう? それは理解している。二つ目は?」

 

「教えません。それは取引が終わってからだ」

 

 牽制のように僕の引き出しを覗こうとしているのが分かる。

 

 下手を踏めば今度は僕達のコミュニティが滅ぼされるだろう。

 

「なら、後で教えてもらうとしよう。二つ目は?」

 

「ある、ギフトの捜索と入手をお願いします」

 

「どんなものだ? 余りに希少な恩恵は不可能だぞ」

 

「どうかは分からないですが、欲しいものは五つ。二つはまた今度欲しい物を見つけて言います。残りの三つは純粋な強化系のギフト。防御系のギフト。最後に、人を星の眷属にするギフト」

 

「強化のギフトと防御のギフトは確実に入手しよう。だが、最後の一つは期待はするな。少しばかり手に余る」

 

 予想はしていたが少し残念だ。

 

「分かりました。期待しないで待ちましょう」

 

「三つ目はなんだ?」

 

「これは純粋な支援要求です。東側にある、僕のコミュニティのボディーガードお願いします」

 

「大きな戦力は割けないが良いのか?」

 

「はい。あそこは要塞と化しているので大きな戦力は要らないですが、心もとない部分かあるので」

 

 ノーネームと嘗めてかかる敵がやけくそになった時が一番恐ろしい。

 

 最悪人質を取られて詰んでしまう。

 

「では、こちらからの要求を二つばかり。一つ目は今回の魔王討伐の手伝いだ」

 

「わかっています。もう一つは?」

 

「これも恐らく気づいている事だろうが、今回の魔王は私達が『階層支配者(フロアマスター)』としてふさわしいことを証明する儀式だった。その事はサンドラ以外のコミュニティ主力は全員知っている」

 

「なるほど。このまちに異様に配置されたサラマンドラの人達は魔王を監視するための物で、北側のコミュニティを魔王から捨て身ででも守るための配置だったんですか」 

 

「ああ。招き入れた以上責任は持つ。だが、一つ問題がある」

 

「自分達だけでは倒すことが出来ない、でしょう?」

 

「耳が痛い話だがな」

 

 北側の秩序を守るためなのなら最善手だろう。

 

 『階層支配者(フロアマスター)』の交代には魔王襲来の危険がある。

 

 それを利用して幼いサンドラに箔をつけさせるのは良い手だと思うし、今後の事を考えるなら必要な事だ。

 

 しかし、サンドラ一人で魔王を相手取るのは恐らく無理だ。

 

 三年前に見た姿や、聞こえてくる評価を考えるとその結論に至る。

 

 そんな時に、サウザンドアイズの予知が来て対策まで教えてくれたのだ。

 

 “ノーネーム”を利用すれば勝てる、と。

 

 だから白夜叉様から僕達への依頼が来る手筈になっていたのだ。

 

 つまりここまでの流れはおおよそサラマンドラの掌の上だった。

 

「正直に言おう。一方的な同盟破棄をした上に助けて欲しいなどとは、恥知らずにも程があると思ってはいる」

 

 苦虫を噛み潰したような顔でマンドラさんは呟く。

 

「そうでしょうね。だからこそ、僕の要求は難しいものにしておきましたから」

 

「心配しなくても、生半可なものなど用意せん。サラマンドラの名にかけてな」

 

「それで、恥にまみれにまみれている貴方が要求したいのは何ですか」

 

 皮肉はさらりと流される。

 

 コミュニティ第一でしか考えない男に皮肉が聞かないことは理解してはいたけれど。

 

 そしてマンドラさんは要求を口にすした。

 

「俺の要求の二つ目は、サンドラが魔王を倒すこと、だ」

 

「サンドラは星を砕ける位の攻撃力があるとでも?」

 

「残念ながら、現状存在しない」

 

「それでしたら不可能です。うちのコミュニティには不殺を決めている人がいるんですよ。なので僕達が手を貸す最低条件がゲームの完全クリアだ」

 

「勿論知っているとも。召喚されて一月にも関わらず有名だからな」

 

「でしたら分かるでしょう?」

 

 無茶苦茶だ。

 

 といってもゲームのクリア条件は二つある。

 

 必ずしも魔王を倒さなくても良いのだ。

 

 しかし、サンドラが魔王に対抗できることを証明するならば魔王は倒さなければならない。

 

 しかしエミヤさんは殺害を好まない。

 

 この矛盾を解消するには一つだけ。

 

 ゲームクリア条件を全て達成するしかないのだ。

 

 ならば一番の安牌は時間を稼いでいる間にゲームをクリアする事。

 

 今回はこの作戦でいこうとしていたのだが、サンドラに魔王を倒させなければならないとまた話が変わる。

 

 サラマンドラは自分達の力で魔王を倒したい。

 

 ノーネームはサラマンドラの人海戦術によってもう一つのクリア条件を見たしたい。

 

 条件は一致するものの、一つ目が不可能な時点で破綻している。

 

「出来ない条件でこの交渉を無かったことにでもしようとしているんですか?」

 

「いや、完全クリアの目はまだある。サンドラの攻撃が星を砕けるまでに強化すれば良い。それが“ノーネーム”に頼みたいことだ」

 

 確信めいた口調で言う。

 

 つまり飛鳥さんの、ギフトを支配するギフトに育てようとしている、言霊による命令及び命令動作履行中の強化。

 

 ノーネームでもまだ謎が多く、他のコミュニティには漏らさないようにしている機密だ。

 

 それすらつかんでいると言うことか。

 

 なら隠さなくても良いか。

 

「飛鳥さんのギフトによる強化ですか?」

 

「それだけでは不安が残る」

 

 しかし、予想は外れる。

 

「失礼ですが、他に星を砕けるまでに強化出来る同士はいません」

 

同士(・・)はな」

 

 同士でなければ、つまり、人脈か?

 

 サウザンドアイズの伝を頼ろうとしているのか?

 

「……残念ながら僕達のコミュニティに人脈はないですよ」

 

「違う。彼の、人間による魔王最多討伐数を誇ったコミュニティの蔵書の知識を十全に活用して、微精霊だけで戦闘を成し遂げたものがいるらしいのでな」

 

 ……。

 

 …………。

 

 ………………?

 

 僕?

 

「随……分と、高く買っていただけていたんですね。驚きました」

 

「ここ一月でそこまで強くなったのだ。耳にはいるさ。お荷物党首が化けた、とな」

 

 ふむ。

 

 確かに、行けるかな?

 

 サンドラに魔王を倒させる策が一つ出てきた。

 

「分かりました。貴方の要求をの飲みましょう」

 

「ああ、よろしく頼む」

 

「但し、魔王討伐まで僕の言うことは絶対です」

 

「分かっている。最高指揮官はジン=ラッセルに委任する」

 

「慎んで受けましょう」

 

 交渉成立。

 

 ほっと一息つく。

 

 そこで思いつく。

 

「あと、今寝込んでいる僕の同士が目覚めたらその同士の願いを叶えられる範囲で叶えてください。これは僕のお願い(・・・)です」

 

「慰謝料分くらいなら支払おう」

 

 こうして“ノーネーム”と“サラマンドラ”の交渉は終了したのだった。

 

~ジン視点終了~




光一「俺がサンタだ!」

エミヤ「私がトナカイだ!」

光一「いや、ちょま! 早い早い! スピード落とせええええぇ!」







エミヤ「ふむ。仕切り直しとしよう。私がトナカイだ」

光一「おい! 流すな! サンタ雪車から亜音速位で落ちたからな? 普通大惨事だぞ?」

エミヤ「普通、か。お前は普通ではないと思うがね」

光一「……まあ生きてるけどよ」

エミヤ「勿論信じていた」

光一「まあ、それはともかくとしてだ。今日はクリスマス! 町は賑やか、お祭り騒ぎ!」

エミヤ「七面鳥なら既に下ごしらえは十分だ!」

光一「全員で食べきれるサイズのケーキも用意済だぜ!」

エミヤ「後は分かるな?」

光一「おうとも!」

エミヤ・光一「プレゼント!」

光一「既に全員分のプレゼントを作り出す用意は出来ている!」

エミヤ「子供達には配り終えているし、残りの五人も準備万端だ」

光一「とりあえず一人目に行こう」

エミヤ「ふむ。春日部嬢の部屋からにしよう」

光一「一番離れてる部屋からだな」



エミヤ「もうぐっすりと寝ているようだな」

光一「ああ。それじゃあ幸福夢幻!」

エミヤ「夢の中なら欲しいものはごまかせないからしっかり分かるからな」

光一「よし、分かった! 春日部の欲しいものは……」

エミヤ「なんたったんだ?」

光一「……友達、か」

エミヤ「凄い微笑ましくて良いのだが、プレゼントを渡す側とすると、な」

光一「ふむ。なら春日部には、元の世界の友達と会える夢を見てもらおう」

エミヤ「夢だけなのか?」

光一「一瞬でも春日部の世界に行ければ全員共通の夢に出来るんだかなぁ」

エミヤ「ちなみに光一はサンタクロースとのゲームでクリスマスに関わるものにだけギフトが超強化されるギフトを使っている。つまりオリジナルの能力レベルで使えるようになっている」

光一「あ、そういえばあれも使えるのな。カノン! あ、出来た」

エミヤ「聖夜に天使になるとは……。クリスマスのために生まれたような男だな」

光一「うるさい! だがまあ行ってくる」

エミヤ「こんなにサックりと転移するとは思わなかったな」

光一「ただいま。全員で共通の夢で遊んでるぜ」

エミヤ「了解した。では次に行こう」










十六夜「随分と面白そうなことをしてるじゃないか」

光一「やっぱり気づかれたか」

十六夜「当たり前だろう。というかお前らがサンタクロースのゲームに参加してたのを見た時点で気づいてたぞ」

エミヤ「そこまで見られていたのか」

十六夜「たまたまだけどな」

光一「それじゃあ単刀直入に聴くが、欲しいものはあるか?」

十六夜「箱庭が俺にとってはまさに理想だったから特に無い、といいたいところなんだが」

エミヤ「何でも言って良いぞ」

十六夜「ならこのヘッドフォンとプレーヤー直せるか?」

エミヤ「ああ、簡単だ」

光一「それくらいならいつでも出来たと思うんだが、何でだ?」

十六夜「別に急ぎじゃあ無かったからな」

エミヤ「よし、治ったぞ。後、ついでに防水と耐久の強化もつけといた」

十六夜「おっサンキュー」

光一「それは助かったと思ったら助かって無いときの言葉だぞ?」

十六夜「それは意識してなかったんだがな。まあ、ありがとうな」

エミヤ「どういたしまして。並の宝具くらいなら耐えられるようになっているからな」

光一「それは凄いな。それじゃあ次いくか」











光一「子供は早く寝なさい!」

ジン「あ、もうさっき寝ましたよ。三時間位」

エミヤ「この時間の歪んだ図書館を凄い使いこなしているな」

ジン「それで、何のようですか?」

光一「今サンタやってるんだ。何でも欲しいものがあれば言ってくれ!」

ジン「ふむふむ。そういうことですか。では、この図書館の強化をお願いします」

光一「ああ、二十倍くらいにしておくか」

ジン「お願いします」

エミヤ「ついでに図書館で使えるベッドと布団も作ったからギフトカードにでも入れておいてくれ」

ジン「ありがとうございます」

光一「よし、こっちも強化終了だ。二十四倍まで強化しといたから」

ジン「一時間で一日ですか。ありがとうございます」

光一「おう。俺も眠いときに使うからな!」

エミヤ「確かに便利だな。私も利用しよう」

光一「なんかサクサク行ける気がするな」

エミヤ「本人に直接聞いているからな」

光一「それじゃあ、最後に黒ウサギのところにいこう」











エミヤ「……なんか魘されているな」 

光一「そうだな。ちょっと覗いてくる幸福夢幻!」

エミヤ「便利な能力だなそれ」

光一「……なんか俺達が、問題起こしては後始末をしていたんだが」

エミヤ「よし。黒ウサギへの贈り物も決まった」

光一「ああ、俺は楽しい夢を見させるからエミヤは身体の疲れを取ってやってくれ」

エミヤ「了解した。身体の凝っているところを、解析してと。それをほぐせば……」

光一「…たった五分で黒ウサギの睡眠の質がかなり変わったな」

エミヤ「こう言うのは得意なんだ」














光一「飛鳥の部屋か。随分とかたづいているな」

エミヤ「春日部嬢の部屋が汚いようではないか」

光一「そういうわけではないけどな。なんかこう、物が少ない感じだな」

エミヤ「そうか? ベッドに本棚にタンスに鏡に机に椅子。ティーセットまである。沢山ある気がするのだが」

光一「お前はどうだったんだ?」

エミヤ「私がこれくらいの年齢の時は、机と座布団と本棚があったな」

光一「すくなっ! 授業中の坊さんかよ」

エミヤ「くっ! なぜか敗北感がする気がするのだが
!」

光一「まあ、それはおいといて、飛鳥の欲しいものはなんだろうなっと」

エミヤ「久遠嬢の欲しいものか。あまり想像出来ないな」

光一「…………これは無理だろ」

エミヤ「なんだったんだ?」

光一「これは俺達男が関わると間違いなく不幸になるやつだ」

エミヤ「……まさか、あれか?」

光一「流石エロゲの主人公。思い至ったか」

エミヤ「お前こそハーレムを築いただけある」

光一「……牛乳でも置いとくか?」

エミヤ「それはなんか違うだろう? 朝目覚めて牛乳が置いてあったら私なら片付けろと言ってしまうと思う」

光一「確かにな。というか飛鳥もこの年齢にしてはある方なんだがな」

エミヤ「恐らく黒ウサギの事を見て意識してしまったんだろう」

光一「確かに今の俺なら出来ないことも無いんだ。だけどなぁ」

エミヤ「何かあったのか?」

光一「一度薫っていう訳あって身体の成長が小学生で止まっちまった女の子がいてな。ギガって言う能力とかもろもろ使って頑張って大きくしたことがあるんだよ」

エミヤ「一度に大きくなったらパットを疑われるのではないか?」

光一「そこは成長速度を10倍にすることで解決したんだが……」

エミヤ「何かあったのか?」

光一「一月くらいたってから、変化が出てきて喜んでた薫が、仕事をしてたときに俺がもう大丈夫だろうと思って、ギガを解除したら元に戻っちまって」

エミヤ「……同僚にでもそれを見られたのか?」

光一「お客さんとかがいる前でブラを落としたらしい……」

エミヤ「……戻ったのか」

光一「ああ。補佐で使ってた能力が原因だと思うんだが薫にはものすごく怒られた」

エミヤ「やめておこう」

光一「ああ。んじゃあ何を送ろうか?」

エミヤ「他には何か無かったのか?」

光一「もう一度見てみるか幸福夢幻!」

エミヤ「次は用意できるものだったら良いな」

光一「お、これはなかなか良いな。化粧品だ」

エミヤ「十分かわいいのだがなぁ」

光一「それを維持するためだろう?」

エミヤ「それもそうか。投影開始!」

光一「テレビで見るような高級化粧品がこんなに沢山」

エミヤ「執事をやっていたときに買ってきた事があるやつを投影した物だ。私も強化されているから浸かってもきえないし、破壊されても残るようになっているぞ?」

光一「まあ、一見落着か」

エミヤ「ふう。少し遅くなってしまったが、これでクリスマスも終わりだな」

光一「ああ、俺達も寝るとしよう。では、よいお年を!」

エミヤ「もう更新できなさそうだからな。ということで、よいお年を」


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決戦開始

~ジン視点~

 

「予定通り配置は完了した。これで戦いが始まったらすぐにでもお目当てのものは探せるだろう」

 

「ありがとうございます。運び込まれた全てのステンドグラスのほとんどはダミーですが、一枚だけ壊してはいけないものがあることを徹底して注意しておいてください」

 

「分かっている」

 

 ゲーム開始の時間まで後僅か。

 

 全員に作戦は伝えてある。

 

 サラマンドラに頼んでいたギフトも一つはもう既に届いている。

 

 それは既に最も使いこなせるであろう人に渡してある。

 

 用意は全て整った。

 

「御チビ様。あんまり緊張してたんじゃあ、いざって時に失敗するぜ? もっと力抜いとけ」

 

 ポン、と頭に優しく手を置きながら十六夜さんが話しかけてくる。

 

 僕の顔は、緊張で相当酷い事にたのだろう。

 

「……分かってはいるんですけれどね。魔王と戦うのも、誰かの指揮を執るのも初めてですから」

 

 他の人には聞こえないよう弱音を漏らす。

 

 本当なら行っていい言葉でもないのだけれど、十六夜さんに言いたくなったのだ。

 

 十六夜さんは乱暴に頭をなでた後、手を離して肩をすくめた。

 

「どうせもう昨日の時点であーでもないこーでもないって考え続けてたんだろう? だったら後は行動あるのみだ」

 

「……はい。もうやることも決まってますからね」

 

「そうだそうだ。今回は俺が頭ひねって偽りの伝承を探してた時点でオマエはゲームを解いていたんだ。誇っていい」

 

「正直僕も、十六夜さんと話し合わなければ核心は得られませんでしたから、あまり誇れることではないんですがね」

 

 ゲーム休止から一日後。

 

 そのとき集まれた、飛鳥さんと光一さんの二人以外のノーネームのメンバーで話し合いをしたときにゲームは解けたのだが、十六夜さんの話がなければ恐らく僕も解けなかったのだ。

 

「でもま、気楽にやれ。最悪ステンドグラスは敵を全員無力化してからでいい」

 

「……そうですね。恐らくステンドグラスの本物とダミー二つの近くに相手も現れますから、結局は戦いが終わってからになると思いますから」

 

「そんで俺たちは負けると思うか?」

 

「それは無いですね。前回の襲撃のときに見た戦力でしたら、各個撃破が出来る時点で僕たちの敵ではないでしょう」

 

 十六夜さんはそれを聞いて満足そうに口元を緩め、その後に真剣な表情をする。

 

「そうだな。だが、向こうは恐らく切り札を隠してる」

 

「唯五日間の猶予を与えただけで満足するようならこの町に攻め込んでくることも無かったでしょうからね」

 

 それは僕も予想はしていたことだ。

 

「五日間俺たちも準備したが向こうもそれなりに準備してるはずだからな」

 

「ええ。気をつけましょう」

 

 十六夜さんは時計を見たあと屈伸をする。

 

「さて、開始の時間だ。しっかりしがみついとけよ?」

 

「十六夜さんも姿勢の制御を気をつけてください。――もうそろそろ行くよ、みんな」

 

 僕も微精霊たちに声をかけて用意をする。

 

『開始時刻になりました。唯今の時間を持ちまして、ゲームの再開を宣言します! 初めてください!』

 

 黒ウサギは今回プレイヤーの為、恐らくサラマンドラのメンバーの誰かが戦いを宣言する。

 

 それと同時に僕は十六夜さんの背中に乗せてもらう。

 

「行くぞ、御チビ! 初めての空を満喫させてやる!」

 

「はい! 楽しませてください!」

 

 ダンッ!

 

 僕が返事をすると十六夜さんがギフトを使用して空中に躍り出る。

 

 一瞬で二百メートルほど移動し、慣性で飛んでいる間に僕が風の美精霊の力と五行相乗の力を借りて風の力でさらに加速させる。

 

 元々結構高い建物の上にいた僕たちは目的地まで一直線に飛んで行く。

 

「見いいいいいいいいいつけたああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「!?」

 

 そして目低地に待ち構えていたヴェーザーに十六夜さんが拳で一撃加える、

 

 予想外の攻撃にヴェーザーは何とかといった様子で防ごうとして吹き飛ばされる。

 

「ひっでえな坊主。空から飛んできて殴りかかるたぁ、悪魔かオマエは」

 

「ヤハハ! 悪魔はオマエだろうヴェーザー川の化身にして、本物のハーメルン」

 

「……はぁ。やっぱりゲームはもう解けてんのか。だがまぁ俺もこの前の俺と同じだと思うなよ?」

 

 そういいながらヴェーザーが踏み込んでくる。

 

 っ! はやい!

 

 目で追うこともやっとの速度で、ヴェーザーが迫る。

 

 地面に放り出された僕は、後方を振り返ると壁に叩きつけられながらヴェーザーの笛を受け止めている十六夜さんの姿が見えた。

 

 恐らく十六夜さんが僕を放り出してくれなければ僕は戦闘続行は不可能だっただろう。

 

「いけ、御チビ! 本物のステンドグラスはこいつの周辺にあるはずだ!」

 

「やりにきいなぁ坊主。だがそんな簡単にやらせると思うか?」

 

 その言葉とともにヴェーザーが僕のほうに向かってくる。

 

「俺がそんな簡単に逃がすと思うか? 木っ端悪魔が」

 

 十六夜さんがヴェーザーに攻撃を加えて止める。

 

 その間に僕は微精霊たちの力を借りて姿をくらまし、手の空いている微精霊たちに頼んでステンドグラスの捜索を頼む。

 

「というわけでオマエの相手は俺だ。せいぜい楽しませてくれよ?」

 

「言ってくれるな。だがまあ、こっちもよそ見して戦えるわけじゃなさそうだしな。問答無用で行かせてもらう」

 

 言葉が発されたとともに爆音が聞こえる。

 

 もはや目で追うのもやっとの戦いだが、そもそも見ていられるだけの時間も無い以上先に進む。

 

 幸いもう微精霊が目当てのステンドグラスを探し出してくれている。

 

 僕は急いでその場所に向かう。

 

『耀と飛鳥がラッテンとシュトロム二体と戦闘開始。エミヤと黒ウサギとサンドラがペストと戦闘開始した。そちらはどうだ?』

 

 僕があらかじめつけておいた風の微精霊達が、レティシアさんからの通信を伝えてくれる。

 

「こちらも十六夜さんとヴェーザーが戦闘開始しました。レティシアさんはそのままステンドグラス収集部隊の護衛をしてください!』

 

『了解した』

 

 僕も急ごう。

 

 本物の回収さえ出来てしまえば後はステンドグラスを壊すだけだ。

 

 僕は水の微精霊によって血流を上げ、風の微精霊によって音を消しながら酸素を効率よく摂取し、普通の人より少しだけ早い速度で走る。

 

 僕に出来ることはこれしかないけれどできる限りのことをやろう。

 

 そう思いながら捜索を続けた。

 

 

~ジン視点終了~

 




エミヤ「クリスマスの結果、何故かレティシアにものすごく怒られたのだが」

光一「レティシアは正直かき忘れてたが、渡したものがまずかったか」

エミヤ「ああ、三流のギフトしかないとぼやいていたからといって槍を渡すべきではなかったな」

光一「冷静になって考えればロマンチックな行事で自分だけ思いっきり戦う武具を貰ったら嫌だろうからなあ」

エミヤ「来年はかわいい服でも縫ってみるか」

光一「レティシアって身長変わるだろう?」

エミヤ「万策尽きたか」
光一「早い上にまだ一つだったんだが?」

エミヤ「そういうオマエは何か無いのか?」

光一「……吸血鬼だし、血とか?」

エミヤ「確かに栄養源として吸血しているシーンを見たこと無いからな」

光一「よし。来年は――」

レティシア「女心を理解してくれとはいわないから私の部屋を事件現場のようにするような計画を立てないでくれ!」

光一・エミヤ「すいません」


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ネズミ捕り道化

グランドオーダーやっている方いたらうれしいです!

ぜひフレンドになりましょう!

唯一の自慢は六十レベオーバーの限突ヘブンズフィールです!

IDは537,360,795です!


~飛鳥視点~

 

 黒死病の魔王が襲撃してくる前日。

 

 十六夜君と黒ウサギがギフトゲームをしていたころ。

 

 私はレティシアと一緒に北側の出店を見て回っていた。

 

 そこでクレープと呼ばれる洋菓子を食べたり、いろいろなコミュニティの出品したギフトの展示を見ていた。

 

 どれも日本にいたころには見たことがなかったし、新鮮なものだらけっだったからとても楽しかったのだけれど、一つ大きな借りを作ってしまったの。

 

 ギフトを見て回っていたとき、ネズミの大群がギフトの展示場を襲撃して来たの。

 

 私はその場にいた観客たちをギフトで支配して安全なところまで逃がして、次にネズミたちを支配して倒してやろうとした。

 

 だけど実際にネズミを倒したのはレティシアだった。

 

 そう。

 

 私はネズミを支配できなかった。

 

 私は言葉で命令すれば、私より霊核が低い相手を支配できる。

 

 しかし会場を襲撃したネズミは支配できなかった。

 

 ネズミ自体はただのネズミだったし、ネズミに霊核が劣ることはない。

 

 だけど支配出来なかったという事は。

 

 私よりも上位のギフトで支配されている可能性が高かった。

 

 冗談じゃない。

 

 確かに簡単に支配できるモノしかない世界は退屈だ。

 

 だけどそれとこれとは別。

 

 支配出来すぎるのも面白みがないけれど、出来ないのは腹立たしい。

 

 自分でもどうかとは思うけれど、偶の我がまま位良いでしょう?

 

「まあ、そういうことだから戦いましょう。笛吹きの悪魔さん?」

 

「どういうことかは分からないけれど、私の観客は貴方のようね? 私の笛の音を存分に堪能させてあげるわ」

 

 ラッテンはにこやかに笑いながら笛に口を近づけ、とても透き通った綺麗な音色を奏でる。

 

 ここが戦場じゃなく、奏者が魔王の配下でなければ、音楽を楽しむことが出来たのでしょうね。

 

 だけれども私には貸しがある。

 

 あのときと同じようにどこからともなくネズミの大群が現れる。

 

 通り過ぎた後には草木の一つも残っていないのを見ると、酷い雑食みたいね。

 

 私もアレに飲まれれば食べられてしまうでしょうね。

 

 ただまあ。

 

 

 

「『森に帰りなさい』」

 

 

 

 今の私なら支配力で負けることはないのだから恐れることはないのだけれど。

 

「残念ながら貴方の笛の音色よりも、私の声のほうが良いらしいわね?」

 

「……ずいぶんと自信家のお嬢さんねぇ。いいわ。片付けなさいシュトロム」

 

 ネズミを奪われたラッテンがこれまでと違う旋律を奏でると倒されたはずの陶器の巨人シュトロムが現れる。

 

 それも二十体。

 

「ネズミの次の観客は(シュトロム)。貴方の声では風に呑まれるわよ?」

 

「あら、ステージに入りきらなそうな客は少し、優雅さにかけるわね」

 

 私はギフトカードを掲げて、最新のギフトを顕現させる。

 

「来なさいディーン」

 

 私の傍らに赤い巨人が現れる。

 

 シュトロムと同サイズの巨人で、ラッテンフェンガーというハーメルンの伝承の別の解釈の一つの功績をもつもの。

 

「さあ、チェスには駒が足りないけれど、ハンデを上げるわ。かかってきなさい」

 

「クイーン一体だけで勝てるほど甘くはないわ」

 

「キングもいるもの。楽勝だわ」

 

 私はそう言いながらガルド戦で手に入れた白銀の剣を取り出して二・三回ほど素振りをする。

 

 ラッテンはそれを見てなめられていると感じたのか、不敵な笑みを浮かべて笛を構えて言う。

 

「……いいわ。このネズミ捕り道化(ラッテンフェンガー)に喧嘩を売ったのだもの。楽しませてあげる」

 

「ええ。世界一有名なネズミ取り業者と戦えるのだものね」

 

「それでは私の演奏をせいぜい楽しでね♪」

 

 そう言ってラッテンは笛を吹いて二十の巨兵を動かす。

 

「やっぱり綺麗な旋律ね。惚れ惚れするわ。でも――」

 

 ディーンは私の指示を待つことなく巨大化し、一番近くにいたシュトロムを打ち砕く。

 

「ディーンを楽しませるには足りないみたいね」

 

「伸縮自在の巨人!?」

 

「ええ、ディーンは如意棒と同じ金属で出来てるらしいわよ?」

 

 西遊記で出てくる孫悟空の武器で知られる伸縮自在のこん棒・『如意棒』。

 

 その材料と呼ばれる神珍鉄は、丈夫で、重くて、何より伸縮自在の夢の金属。

 

 それで移動人形でも作れば最高でしょう? 

 

「神珍鉄の巨人なんて、なんでこんな下層のコミュニティが持ってるなんて!」

 

「最近できたお友達がくれたのよ。こんなに重いのに持って振るわなくてもいいのよ?」

 

 孫悟空みたいに馬鹿力じゃないからとても助かっているわ。

 

 そう会話しているうちにもシュトロムは数を減らしていく。

 

 戦力がそのそも違うもの。

 

 二十程度の数を減らすのにそう時間はかからず、そこには無傷のディーンと、兵隊を失ったラッテンしか残っていない。

 

「これでチェックね。いえ、チェスだったらチェックメイトかしら?」

 

「これはこれは、いい人材ね。食べちゃいたい」

 

「すごいでしょう? だけどあなたにチャンスをあげる」

 

 私はラッテンに提案をする。

 

「実は、私はあなたに一度負けているの。ほら、貴女ギフトの展示場をネズミで襲ったでしょう?」

 

「ええ。私以外のラッテンフェンガーがいたんだもの。それがどうかしたの?」

 

「ええ。あの時、私はネズミを支配しようとして失敗してるの。だからこれで一勝一敗」

 

 傍らに戻ってきたディーンをギフトカードの中にしまってからラッテンのほうを向いて告げる。

 

「部下にだけ任せてたら他力本願みたいでしょう? だから、一曲所望するわ。私を支配して御覧なさい」

 

「これは傑作ねぇ! 人心を惑わす悪魔にそんなこというなんて! いいわ……貴女のゲームに乗って、一曲奏でましょう!」

 

 そう言って道化の笑顔を浮かべながらウインクし。

 

「幻想曲・『ハーメルンの笛吹き』どうかご清聴のほどを!」

 

 私の意識は、これまで聞いたことのあるどんな旋律よりも綺麗で、美しかった。

 

 そして私は幻想世界に取り込まれた。

 

~飛鳥視点終了~




エミヤ「さて。対して文才もないのに女性口調に手を出して挫折しかけた戯けがいるみたいだな」

光一「ある程度は大目に見てやってくれ。それはともかく、お前の宝具微妙なんだが。もう少し何とかならないのか?」

エミヤ「……あれでも強化されているんだがな。しかし腕程度一撃で倒したいものだ」

光一「宝具レベル三だと微妙なんだよなー。あと二枚出でてほしいんだが全然来ないしなあ」

エミヤ「そこら辺はマスタースキルで補ってくれ。そもそもなぜ私の宝具はバスターなのだ。バスター以外ならまだよかったものを」

光一「クイックなら三十ヒットで千里眼で、アーツならNP回収しながら魔術で威力も上がるのに」

エミヤ「しかも完全に宝具なしにするほど弱くもない。英雄王の宝具よりはましだ」

光一「あれは宝具強化クエ待ちだからな。それでも一万代しか出ないんだもんなあ」

エミヤ「そもそもステラが可笑し過ぎて比べられているのもあるしな」

光一「弓は高レベルで強いのがアルジュナだけという感じだしなあ」

エミヤ「高レベルだとどうしても弱くなく強くないみたいな扱いなんだアーチャーは」

光一「なのに敵で出てくると三ターンで宝具で全体持ちが多いという難敵仕様だしな」

エミヤ「聖杯を使ったら強くなれるのかね?」

光一「ジキルとハイドみたいに宝具を使うとその後ずっとそのままみたいにしてモーションが変わるとかならいいのにな」

エミヤ「ああ。まったくだ。投影しているのが干将・莫耶と、申し訳程度の螺旋剣Ⅱだけだしな。私の持ち味の様々な宝具の投影がもはや設定だけではないか」

光一「しかも魔術のスキル上げの塵が四十の時点で全然たまらないしな」

エミヤ「ああ。元からそこまで強くないスキルなのに、あげるのも面倒くさいなんてな」

光一「聖杯が来るまでの辛抱だな」

エミヤ「ああ。ところでお前がもしあのゲームに来たらどうなるんだろうな?」

光一「星1セイヴァーかキャスターで、
スキルはイカロスブレイブ(相手のスキルランダム発動、ただしランクが落ちる)と
直感(偽)と
不屈の意思。
宝具がボーンヘッドブレイバーで木漏れ日現象をして、相手の宝具・スキル封印ダメージなし。ステータス低めアーツ三枚だな」

エミヤ「せめてお子様騎士のアロンダイトくらい妄想しないのか……」

光一「いや、貧弱ステータスだと敵が倒せないしな……」

エミヤ「確かにな。しかもキャスターのわりに道具作成も陣地作成もなさそうだな」

光一「さらに通常攻撃が特殊モーションで劣化異能連射でスター発生率はいいけどNP溜まらず、アーツだからそもそもあまり出ないとかな」

エミヤ「どこまでも残念だな」


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黙りなさいロリコン

~エミヤ視点~

 

 黒い風が吹きすさび、私の命を奪いにかかる。

 

 その度に私は剣を振るって風の方向を替える。

 

 そこで出来た隙を突こうにも宙に浮いている以上取れる手段は弓があげられる。

 

 しかし剣を手放す訳にいかない以上攻撃手段が限られる。

 

 既に戦いは三十分はたっているのだろうが、千日手になっている以上簡単には決着が着かない。

 

「まったく……面倒くさい剣ねぇ!」

 

「そちらこそ、当たり前のように浮いているがそれだけで近距離型の戦闘スタイルのものならば詰んでいるだろうに」

 

 実際にノーネームで遠距離の専門は居ないのだから難しい部分があるだろう。

 

 ギフトを奪われる前の十六夜なら、ジャンプで襲いかかってギフトを破壊しながら殴りかかるくらいしそうなものだが。

 

「私は見ての通り可憐な少女の魔王よ? 熱っくるしい殴りあいならヴェーザーかシュトロムに任せるわ」

 

 たしかに可憐ではあるのだろうが、自分で言うのはどうなのだろうか。

 

「まぁ君のようなのが殴りかかってきたら度肝を抜かれるのは間違いないな」

 

「それは同意するわ」

 

「だが、空を飛ぶならスカートをやめるか、黒ウサギみたいに中が見えないギフトをつけてくれると助かる」

 

「黙りなさい変態(ロリコン)!」

 

 怒りと共に今まで以上の黒い暴風が吹き荒れる。

 

「くっ! その不名誉な呼び名を訂正するんだ!」

 

「嫌!」

 

「くっ。不味いな、味方を待つ作戦が使えなくなるとは。さすが魔王!」

 

「そんなことで魔王と呼ばれるのはすごい不本意なんだけど!?」

 

「……仕方がない。ここから先は私に攻撃が当たるとは思わないことだ」

 

 手に握っている剣をギフトカードのなかにしまい、一振りの聖剣をイメージする。

 

投影開始(トレース オン)

 

 あまり派手ではないが、黄銅色の柄に剣先の膨らんだ少し幅の広い聖剣ーーアスカロン。

 

「あら、竜殺しじゃない。私は見ての通り竜種じゃないわよ?」

 

「いやまあ、癖っ毛があるだけとか、角が生えてるからとか、竜の血を浴びたとかで竜種の能力を獲得したものもいる。見た目だけでは判断できんよ」

 

 これを彼女に聞かれたらきついお仕置きが待っていそうなことを考えるとぞっとするが。

 

「まあ、この剣は確かに竜殺しだろうが、それ以外にも能力がある」

 

「へぇ、知らなかったわね。どんな能力なの?」

 

「言うわけがないだろう? だがまあすぐに分かる」

 

 私は宙にいる魔王に向けて跳躍する。

 

 そして空中に剣を投影して足場にしながらペストに肉薄する。

 

 それをペストは黒い暴風で迎撃する。

 

 しかし黒い風はもはや私に触れることはない。

 

 そしてそのままペストを袈裟斬りにする。

 

 この戦いが始まって以来の有効な攻撃だが、魔王は一瞬で復元する。

 

「なかなかに驚かせてもらったけれど、

次は星を砕く一撃を用意して来なさい!」

 

 ドゴッ!

 

 剣を振り抜いた私は、ペストの無造作に振るわれた腕を躱すことができずに地面に叩き落とされる。

 

「ゴホッ! まったく手厳しいものだ」

 

「随分と頑丈じゃない。私みたいな少女に強引に近づいてくるロリコンの癖に」

 

 パチパチとペストがてを叩く。

 

 確かに常人なら重症だっただろう。

 

「これでも英霊の末席を汚していたのでね。……あと、ロリコンはやめてくれ」

 

「へぇ、貴方一足先に同士にならない? そしたら待遇も変えてあげるわ」

 

「魅力的な誘いだが、私達を負かしてからにしてもらいたいな」

 

「あら残念」

 

 もとから期待はしていなかったのかあまり残念では無さそうに言う。

 

「そちらの誘いを断っておいてなんだが、一つ契約をしたい」

 

「随分と無礼ね。でもまぁいいわ」

 

「このゲーム、私達が勝利した場合は間違いなく君は私達かサウザンドアイズに隷属することになるだろう」

 

「別に、それがどうかしたの?」

 

「その場合には、条件付きとして君の同士も呼び出せるように掛け合う代わりに、君達が勝利した場合でも、太陽神とその同士以外の者はそちらから襲わないという契約はどうかね?」

 

「随分と優しいじゃない。もしかしてヒーロー気取り? 割りに合わないわよ?」

 

「クク。それは身に染みて知ってはいるが、性分でね」

 

 肩を上げておどけながら言う。

 

「それに、ここは暇をもて余した強者の遊技場だ。生前の分まで遊ぶ方が楽しいだろう?」

 

「ふふふ。魔王相手にそんな取引をするなんて馬鹿ね」

 

 ペストはよほど面白かったのか、黒い風は自身の周りに纏うだけに止まっている。

 

「いいわ。約束しましょう。私の敵は怠惰な太陽とその仲間。代わりに私の仲間は私のものね」

 

「ああ。これでも交渉材料なら事欠かない体質でね」

 

 贋作だとしても買い手にはことかかない。

 

 その金を取引にでも使えば良いだろう。

 

「さて。貴方も英雄の末席なのだから、強力な奥の手(ギフト)も持っているでしょうし、私も少し本気を出すわ」

 

 その言葉と共にペストの神霊としての霊核が解放される。

 

 

 

「私は“グリムグリモワール・ハーメルン”黒死病の魔王ーーペスト! さぁ、存分に苦しませてあげるわ!」

 

 

 

 

 

~エミヤ視点終了~




エミヤ「アスカロンは竜殺しの逸話が有名だが、危険を持ち主から遠ざける無敵の剣でもある。実に強力な聖剣だ」

光一「真面目な話をしても無駄だロリコン」

エミヤ「くっ! 貴様こそ小学生並みの外見の妻に、精神年齢十歳以下の妻に、もう一人いるハーレムを築いた変態だろう!」

光一「それがどうした! 俺はそんな事言われなれている!」

エミヤ「くそっ! 開き直った馬鹿を言い負かすことは出来ないのか!」

光一「それに、お前の義姉も幼女だろうが」

エミヤ「イリヤを相手に恋愛感情は……」

光一「異性として見たことがないとでも?」

エミヤ「それは女性だから、ないとは言い切れないが」

光一「『可愛い女の子なら誰でも好きだよ、オレは』とか、言い出してるのにか?」

エミヤ「くっ! ならばいっそ開き直ってロリロリハンターズでも立ち上げてやる!」

レティシア「……エミヤには近寄らないよう子供達に伝えなければな。いや、私も常に大人の姿でいるようにするか」

エミヤ「弁解をさせてくれないか?」

レティシア「ロリロリハンターズやらだろう? しばらく話しかけないでくれ」

エミヤ「ぐはっ!」

光一「哀れだ。身から出た錆と言えばそうなんだがな」


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起きて見る夢と寝て見る夢

文章が可笑しいところなどは、少しだけ勘弁してください!

やっぱり女の子の口調ムズいっす……


~飛鳥視点~

 

「自分のギフトを早く使いこなせるようになりたい?」

 

 ペルセウス戦の後、私は十六夜君と光一の戦いを見て自分の実力不足を知った。

 

「ええ。一緒に呼ばれたのに、落ちこぼれるなんて私のプライドが許さないわ」

 

「……俺からしたら久遠のギフトは十分強いんだけどな」

 

 光一は頭をかきながらそうは言ったけど、私じゃ十六夜君やエミヤさんは倒せない。

 

 正直自信を無くしてしまったものだわ。

 

「霊格が自分より低い相手を封殺できて、ギフトを言葉で操作する異能だろ? 俺の劣化コピーをいくら渡しても効果が薄い気がするんだよなぁ」

 

「なら、私と戦いましょう?」

 

「へ?」

 

 私が名案とばかりに言うと、予想外だったのか間抜けな声をあげる。

 

「簡単じゃない。光一はギフトを使いこなしているから戦えるのでしょう? 戦えば何かつかめるかもしれないわ」

 

「まあそうだが」

 

「なら、いくわよ!」

 

「ちょ、はや!」

 

「問答無用!」

 

 私はギフトカードから白銀の剣を出して振るう。

 

 それを光一は右手の親指と人差し指だけで止める。

 

 止められたことは不思議ではなかったから剣を離す。

 

「『押し流しなさい!』」

 

 私は指パッチンができないようにーーギフトが使えないように剣で手を塞ぐ。

 

 そして水樹の苗の力を使って防ぎにくい水の攻撃をする。

 

「甘い! 『超越者(ギガ)』!」

 

 光一は押し流されることなくその場に立っている。

 

 おそらく体重増加のギフトだと思うけれど、聞いてた話だと十倍程度にしかならないはずじゃなかったの?

 

 でもここまではほとんど予想通り。

 

 耐えることまでは予想していた以上、次の手は考えてある。

 

「頼んだわよ! 『矛盾騎士(ランスロット)』『理想騎士(ガウェイン)』」

 

 現れたのは光一にもらった二つのギフト。

 

 ランスロットは自分しか守れないが防御力の性能を上げてもらい、ガウェインは他人しか守れない性能を反転して他人しか攻撃できない性能にしてもらってる。

 

 これで準備は整った!

 

「『私を守りなさいランスロット! そして薙ぎ払いなさいガウェイン!』」

 

「「ぷおー!!」」

 

 私の前に立ちはだかる純白のお子さま騎士に、弾丸のような速度で飛びかかる漆黒のお子さま騎士。

 

 これで勝てるはず!

 

「しょうがない。『直死の魔眼』『千里眼』『ヘルメスの靴』『飛燕(トニー)』」

 

 パチン! パチン! パチン! パチン!

 

 光一は四つのギフトを連続して使う。

 

 そして、反応できない速度でガウェインに飛びかかる。

 

「これで俺の勝ちだ!」

 

 ひゅん!

 

 さくっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……。

 

 あれ?

 

 攻撃が来ないことに驚きながら目を開けると、光一はガウェインの剣に刺されていた。

 

 ……。

 

 あれ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「弁明させてくれ」

 

「いいわ。ほとんど分かったから」

 

「まさか、軽く撫でるだけで倒せると踏んでたのに、返り討ちにされるとは思わなかったんだ」

 

「だと思ったわ」

 

 そう。

 

 続けざまに二人の騎士をなぎ払われるかと思ったのだけれど、光一が一撃でやられてた。

 

「成長したな」

 

「あなたが退化したんじゃないの?」

 

「うぐっ! 何も言いかえせねぇ……」

 

 本当に十六夜君を倒したのかしら。

 

「確かにお前は怠けすぎだ。全く」

 

 私があの戦いが夢だったんじゃないかと疑っていると、後ろからエミヤさんが現れる。

 

「お前、いつからそこに!?」

 

 光一がエミヤさんの登場に驚く。

 

「最初からだ。なにやら神妙な顔で久遠嬢が歩いていたのでな。何かあるかと思ってたら戦い出したんだよ」

 

「覗き見なんて趣味が悪いわね」

 

「まぁ。言い趣味とは言えないがね。ただ、春日部嬢にも似たような事を相談されたからな。何か手助けできるかと思ったんだ」

 

「春日部さんも?」

 

「ああ。春日部嬢は君とは違って近接型だろう? だから私のところに来たんだ」

 

 春日部さんも強くなろうとしているのね。

 

 私も負けてられないわ。

 

「ところで君は一つ勘違いをしている。光一も気づいただろう?」

 

「勘違い?」

 

「ああ。君はギフトの性能をそもそも勘違いしているんだ」

 

 黒ウサギにはまだ原石のギフトと呼ばれたこの『威光』だけれど、効果は支配じゃないのかしら。

 

「ああ。俺の劣化コピーを反転させようとしても、あそこまで完成度は高くならないはずだ」

 

「あなたがくれたギフトでしょう?」

 

「そうなんだが、俺の渡した劣化コピーのランスロットは防御範囲が広くなると防御力が落ちるのが弱点だし、ガウェインは少し殴れば倒せるくらいの強度のはずだ」

 

 確かにもらったときにそう聞いた気がするけど、それが何か関係あるのかしら。

 

「だけど、どっちの騎士にも死の線が見えにくいくらいになってた」

 

「私の見立てだと、君の力は神格の擬似的な付与及びに、与えられる神格以下の霊格のものへの命令権ではないか?」

 

 つまり私は言葉によって神の神託の如く操り、力を貸す力なのかしら。

 

 それを知ると同時に頭のなかでいくつもの案が浮かぶ。

 

「ちょっと急用が出来たわ!」

 

 私は二人を置いて走り出す。

 

 春日部さんと十六夜君より強くなってやりましょう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場面が切り替わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「飛鳥は箱庭に来て楽しい?」

 

 黒ウサギたちから逃げているときに春日部さんがそう話を切り出してきた。

 

「あら。とっても楽しいわよ。毎日お祭り騒ぎみたいじゃない」

 

「飛鳥は不自由無い暮らしができたんでしょう?」

 

「あんな上っ面と礼儀作法だけで会話して、近所のお祭りにもいけない生活に興味はないわ」

 

 本当にうんざりするほどだったわ。

 

「金持ち特有の感覚だな」

 

「あら、そんなつもりはなかったのだけれど」

 

「ヤハハ。だがまぁ息苦しそうなのは同感だ。だが、向こうでやりたいことはなかったのか?」

 

「あったわよ? お祭りには行ってみたかったし、外国人にも会ってみたかったわ」

 

「飛鳥は世界大戦の後くらいに生まれたんだっけ」

 

「そうよ。あなたたちよりも結構前の時代ね」

 

「そしたらその時代にはハロウィンもクリスマスもなかったのか?」

 

「名前だけは知っているけれど、どんなものかは知らないわ」

 

「孤児院の奴らにクリスマスプレゼント上げるのは楽しかったな。誰にも見つからないように忍び込んで枕元にプレゼントを置くんだ。スリリングで楽しめた」

 

「へえ。うちも今度やりたいわね。ハロウィンのほうは?」

 

「みんなお化けの格好してお菓子くれなきゃいたずらするぞ! って言って回るんだ。みんな特殊なギフト持ってたからな。いたずらですむのかが心配だったぜ」

 

 十六夜君が、いつもは見せないような穏やかな笑みで話す。

 

 そんな楽しそうな行事が未来にはあるのね。

 

「良いこと思い付いたわ! 時期になったら、こっそり準備して黒ウサギ達を驚かせましょう」

 

「お! いいな。俺は乗った」

 

「私も賛成」

 

「三人で驚かせてあげましょう」

 

「ああ、もうそろそろハロウィンの時期だし、ちょうどいいからこの祭りが終わったらやろう」

 

「張り切りましょう」

 

「ああ。俺たちでハロウィンをやるんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場面が切り替わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 家のなかで暑さにうんざりしながら準備をしている。

 

 お父様とお母様と双子の妹と一緒に近所でハロウィンの準備をしている最中だった。

 

 どんな仮装をするかをみんなで話し合っている。

 

 こんなに楽しいのだったらーーに行かなかったのに。

 

 準備が終わってハロウィンの日。

 

 そこで大食いの少女と、目付きの悪い少年。

 

 苦労性の女性と大人びた金髪の少女。

 

 楽しそうに屋台をやっている白髪の男性二人。

 

 全員と楽しそうに話している。

 

 こんな日が続けばいいのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジジ。

 

 

 本当に?

 

 

 ジジ。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ああ。俺たちでハロウィンをやるんだ』

 

 

 

 

 

 ……ああ。まだハロウィンもクリスマスもやってないものね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……随分と、楽しい夢だったわ」

 

 目を覚ますと、そこはレンガで作られた町のなかで、目の前にはラッテンがいる。

 

 まさしく悪魔的な演奏だったのだけれど、少し卑怯だわ。

 

「楽しんでいただけて何よりね」

 

「また、別の機会に演奏してもらおうかしら?」

 

「それは光栄だけど無理ね。もう霊格が保てないわ」

 

 よくみるとラッテンの体は少し透けている。

 

「人を堕落に陥れる悪魔が、一人も堕とせなければ霊格が保てないもの」

 

「残念ね……。でも、悪魔なのだからまた、呼び出せるでしょう? そのときはまたお願いね」

 

「随分と、魅力的なお誘いね。……じゃあこれをあげるわ♪」

 

 そういってラッテンはてに持っていた笛を手渡してくれる。

 

「貴女がいつか呼び出せたら、今の私の主と一緒に呼んでね♪」

 

 そういって悪魔は消えていった。

 

「……さあ、行きましょう。夢を夢で終わらせないために」

 

 私は夢を叶えるために、魔王の元へ向かおう。

 

~飛鳥視点終了~

 




飛鳥が走り去った後の会話

「行ったか。これで魔王が来ても戦えるだろう、エミヤ」

「まだまだ不安ではあるのだがな。……まったく。彼女もこういう気持ちだったのかね」

「ん? 彼女って誰だ?」

「気にしないでくれ。ところで手を抜いてまで勝たせる必要は無かったのではないか?」

「えっ?」

「うん?」

 


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大河の化身

~十六夜視点~

 

 笛が、ミサイルのような威力で突き出される。

 

 それを『韋駄天の下駄』のギフトを使って回避する。

 

 十秒間に三百メートル動けるギフトだが、そのペース配分は自由というオモシロイ性能をしている。

 

 だが、相手の攻撃が連続して来る以上、あまりに距離を取りすぎるとギフトが数秒間使えない。

 

 ヴェーザーが振るってるのが穴の空いてる笛なお陰で、空気圧で吹き飛ばされることは今のところ無いのが救いだ。

 

 光一に『正体不明(コードアンノウン)』を消されて以来、俺の戦闘能力は恐らく二十分の一未満と言ったところだろう。

 

 だがーー今までより楽しめる。

 

 誰も反応出来ない速度で圧倒するのは飽きた。

 

 誰も防御出来ない攻撃で唯勝つだけなのはつまらない。

 

 今後、ペストより強い魔王が現れたときには困るだろうが、この程度の相手ならハンデにもなりはしない。

 

 ちょうどとんとんと言ったところだろう。

 

 俺が持つギフトは五つで、『韋駄天の下駄』とエミヤからもらった剣のデュランダル、光一から奪った超越者(ギガ)の劣化コピー二種と、まだこの戦いでは使っていない一つ。

 

 それでも戦闘が続いているのが証拠だ。

 

 まぁ、奴もいくらか奥の手を残しているのは分かっているがな。

 

「まぁ、最近は俺についてこれる奴も増えてきたんだが、お前はそのなかでも中々楽しめるな」

 

「人間風情がでかい口を叩きやがる。親の教育がなってねぇんだな」

 

「生憎と育ての親は随分とはっちゃけた奴でな。俺も苦労したもんだ」

 

「ハッ! お前を育てる方が圧倒的に疲れるだろうよ」

 

「ヤハハ! それは否定しない」

 

 会話で時間を稼いだお陰でギフトの再使用までの時間が経ち、余裕ができる。

 

 それを確認してからギフトを用意する。

 

「お前との殴り合いはそこそこ楽しめたが、本気だして無いんだろ? ウォーミングアップは終わりだぜ」

 

「ろくなギフトも持ってないガキに本気出すことは無いと思ってたんだがな」

 

 ヴェーザーが呟くと同時に霊格が今までの比じゃない位に膨張する。

 

「ハッ! やっと本気でやりあうつもりになったか」

 

「俺が本気出すんだ。あんまり余裕ぶっこいてると死ぬぞ?」

 

「ほざけガキッ!」

 

 笛を全身で回転させながら、風圧によって音楽を奏で初める。

 

「この一撃でくたばりな。『舞闘曲・道化の誘い』!」

 

 瞬間。

 

 目の前にヴェーザーが現れて、巨大な笛による突きを放つ。

 

 それを回避しようと『韋駄天の下駄』を発動させ――

 

 そのまま吹き飛ばされる。

 

「ガハッ!」

 

 くそっ……五百メートルは吹き飛ばされたか。

 

「剣で防いでなきゃ死んでるぞ!」

 

「いや、むしろなんで生きてんだよ」

 

「ハッ。普段の行いのお陰だろうな」

 

 なんとか毒づくが、状況は笑えない。

 

 下駄がキャンセルされたか?

 

 いや、少し違うか。

 

「やってくれたな木っ端悪魔が。お前をヴェーザー川そのものと見立てた、川に飲み込まれたという伝承の具現、か」

 

「やっぱり見破るか。お前、こっちのコミュニティにこねぇか?」

 

「残念ながら既に心に決めた場所があってな」

 

「そりゃ残念。なら終いだ」

 

 ヴェーザーはもう一度笛を回し初める。

 

 今あの曲を止めれば回避することは容易い。

 

 更に言うなればヴェーザーから離れることが出来ないだろうが近づくことはできるだろう。

 

 つまり正面にはかわせる。

 

 そこまで考えて、止めた。

 

 なぜ俺はいつの間にかこんなに弱気になってたんだかなぁ。

 

「つまんねぇ事は辞めだ! 全力で来い!」

 

「その自信ごと砕けろ! 『マグダネーレ』!」

 

「『超越者(ギガ)』!」

 

 ゴッッ!!

 

 剣と笛が衝突し、互いに弾かれる。

 

 ヴェーザーは神格を預かる悪魔の膂力で。

 

 俺は『韋駄天の下駄』により上がった速度に、光一から貰った『超越者(ギガ)』によって二十倍に増加した体重を乗せた剣撃で。

 

 共に山河を容易に砕く攻撃を持って放った攻撃は相討ちで終わった。

 

「惜しい、笛ごと砕くつもりだったんだがな」

 

「……本当に変なガキだ」

 

「個性を大事にしてるんでな」

 

「それよりお前の望み通り、川まで来てやったんだ。今度こそ全力出しやがれ」

 

 俺が吹き飛んだ先にあったのはハーメルンの町並みから抜け、川のほとりだ。

 

 さっきからこっちに誘導しようとしてる節があったから乗ってやった。

 

「そこまでバレてんのかよ。ったくやりずれぇ」

 

「川の悪魔ってだけで分かるんだ、簡単だぜ?」

 

「普通そこまで分かってんなら川から離れようとするはずなんだがな。ーーまあいい。覚悟はいいんだな?」

 

「今さら聞くことじゃ無いぜ」

 

「そりゃ重畳」

 

 ヴェーザーは爆音を響かせながら笛を大地に突き刺す。

 

 その瞬間に川は流れを変えてヴェーザーに飲み込まれる。

 

「ヴェーザー川の化身にして真のハーメルンの笛吹道化! 覚悟しろ。人類の歴史とは災害と戦争の歴史。今の俺はその災害そのものと思え!」

 

「ハッ! 災害も戦争も乗り越えて来たからこその人類だってことを教えてやるッ!」

 

 数えるのもバカらしいほどの激突。

 

 瞬間的に近づいてきて、巨大な笛による横凪ぎが来る。

 

 それを後ろに下がって回避するが、笛から膨大な量の水が放出され吹き飛ばされる。

 

「くっ! 『韋駄天の足枷』」

 

 吹き飛ばされている最中に『韋駄天の下駄』の劣化反転コピーによる停止のギフトを使う。

 

 吹き飛ばされなくはなったが、足を止める結果になる。

 

 不味いな。

 

 笛の軌道上は殆ど範囲内か。

 

「ボケッとしてると終わるぞ?」

 

 ヴェーザーが追撃をかけてきて更に笛を振るう。

 

 それを『韋駄天の下駄』で回避しつつ剣を振るう。

 

 だがまあ、駄目だな。

 

 足回りと頑丈さはなんとかマシ程度に出来たが、このレベルだと体重増やして下駄で突進でもしないと決め手に成らない。

 

 剣と防御力上昇と体重増加と移動不可と瞬間移動。

 

 しかも元が同じ超越者(ギガ)というギフトな以上、防御力上昇と体重増加は同時に使えない。

 

 そして同じ理由で韋駄天の下駄というギフトが元である以上移動不可と瞬間移動も同時には使えない。

 

 さてどうするか。

 

「よし。決めた」

 

「あん? 何をだよ?」

 

「いや二、三個ほど作戦を考えてたんだが、止めようと思って」

 

 俺は剣を正面に突き出しながら構える。

 

「さっきから足が止まった瞬間に殺してやるって目が気に入らねぇから、正面から潰してやる」

 

「ハッハッハ! 随分とでかい口を叩きやがる! 本当に惜しいやつだったが、いいぜ」

 

 ヴェーザーは馬鹿でかい笛を地面に突き刺して、大地を砕く。

 

「ーーこの一撃、大河のエネルギーそのものと思え」

 

 呟いた後、ヴェーザーは大地を蹴り、肉薄してくる。

 

「舞闘曲・『ハーメルンの笛吹』!」

 

 とんでもない速さでヴェーザーは突撃してくる。

 

 恐らくアレは子供たちを飲み込んだ伝承の再現。

 

 回避はおろか、飲み込まれた瞬間に問答無用に溺れ死ぬという結果を突きつけてくるものだろう。

 

 だがそもそも逃げる気は無い。

 

 さあ、正念場だ。

 

 今もてる全力を出す。

 

 下駄と体重増加を使った突撃。

 

 そして、足枷を使って衝突地点の手前で急停止。

 

 そこで生まれる慣性のエネルギーを全て(・・)剣に乗せて投げる。

 

 一条の剣は真っ直ぐに、笛から放出される大河を裂く。

 

 しかしそこで勢いに負けて急激に失速する。

 

 ――当たり前だ。

 

 拳銃から放たれた銃弾ですら水の中で五メートルも進まない。

 

 剣は笛まであと一メートルといったところで止まるだろう。

 

「剣が弾かれるのなら、もう一度加速させればいいだろうが!」

 

 俺は放たれた剣の後を追うように下駄を使って加速し、剣の柄を殴りつける。

 

「なっ!」

 

 今度こそ剣は笛に吸い込まれて行き、竹を割るように綺麗に笛を断った。

 

「テメエ、まさかあそこからギフトを切り替えるとか正気かよ」

 

「ヤハハ、さすがに肝が冷えたぜ。しかも、全部うまく行ってもご覧の有様だ」

 

 俺はそういいながら笛を砕いた衝撃でお釈迦になった右腕を見せる。

 

 箱庭の治療能力なら何とかなるだろうが、この戦いでは使えないだろう。

 

 というか痛い。

 

 額から油汗が吹き出るくらい痛い。

 

 頭が回んなくなるくらい痛い。

 

 怪我してるのは腕だけのはずなのに全身が痛いと錯覚するほどだ。

 

 だがまあ、目の前の敵は笛を壊されただけ。

 

 まだ戦える。

 

「くそ。神格貰ったからって、テメエの様なガキを相手にするんじゃなかったぜ」

 

「そんな寂しいことを言うな。俺と真正面から殴りあえるやつがどれだけ希少だと思ってるんだ。誇っていいぜ?」

 

「そりゃ、ありがとよ。だがまあ時間だ」

 

「あん? 逃げるのか?」

 

「違えよ。悪魔が触媒壊されたんだ。いつまでも限界できるわけ無いだろう」

 

「は? それなのに触媒振り回して戦うとか馬鹿じゃねえのか?」

 

「悪魔なりのポリシーってやつがあんのさ」

 

「んで? オマエは魔王に対する忠誠も果たせないまま消えると?」

 

「よし。テメエ一人道ずれにしてやる」

 

「そうこなくっちゃな!」

 

 今度は純粋に殴りあう。

 

 ヴェーザーは笛が無い以上消え行く体で殴りかかる。

 

 俺も剣と下駄は使わず、満足に動く右腕以外で殴りあう。

 

 消え行く悪魔と、利き腕の潰れたとはいえ戦える俺じゃあ、結果は見えていた。

 

「ハハハハハハッ!」

 

「かっかっかっか!」

 

 それでも最後の最後まで笑いながら殴り合い、三十秒もたたないうちにヴェーザーは消えた。

 

「悪くない戦いだったぜ?」

 

 ふと声が聞こえた気がしたが、随分と都合のいい空耳だ。

 

『今度召還()ばれたら、次こそ沈めてやる』

 

 華々しい悪魔からのデートの約束を果たす時が楽しみだ。

 

 

~十六夜視点終了~




エミヤ「前回質問があったんだが、光一が直死の魔眼を使って死を見えるのかという質問だ」

光一「結論から言うと見えない! せいぜい上っ面の部分だけコピーしたらなんかぼんやりとしたすっごい細い光の線が見えるから、それをなぞると少しの抵抗で物が切れるだけ。特に死ぬわけでもない」

エミヤ「既に直死でもなんでもないな。物の壊れやすい線を見るだけだろう」

光一「さらに言うと物の壊れやすい線も見えない。見えるのは壊れやすすぎると能力者本人からお墨付きを貰った俺の劣化コピーだけ。しかも昼間だと見えないから千里眼で少し視力を強化しなくちゃいけないというおまけつき」

エミヤ「もはや意味があるのかどうかすらも怪しいな」

光一「いやでも、俺だって使ってみたかったんだよ! こんな劣化コピーじゃなくて本物の魔眼とか欲しい!」

エミヤ「確か原作でもそんなことを言っていたな」

光一「だから本人が来て、劣化とはいえ使えたら使うだろう!」

エミヤ「その気持ちは分からなくはないが、その結果なんでもなく負けるのはかっこ悪いな」

光一「くそっ! 言い返せない!」

エミヤ「それにお前の物語の次の物語も本編は終わったんだ。一言あるだろう?」

光一「ああ、35試験小隊のみんなお疲れ様! 今後とも全員でがんばってくれ!」

馬鹿「柳実冬貴先生、本編執筆お疲れ様です! 35試験小隊の面々もお疲れ様でです! 作中で劣化コピーという単語が出てきただけでまだえ転げました! 次の短編集も楽しみにしてます! 面白い物語をありがとうございました!」


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黄昏と龍殺しの魔剣

 

~エミヤ視点~

 

 

 

「死になさい!」

 

 黒い風は既に黒死病を操るものではなく、死を与える神の裁定となっている。

 

 触れればその場で死という、神からの恩恵(ギフト)が与えられてしまうだろう。

 

 それは既に巻き込まれた木々が証明している。

 

 黒い風にほんの少しかすっただけで木々は萎れて腐り落ちていった。

 

 恐ろしいものだ。

 

 ーーだが。

 

「残念ながらまだ死ねないな」

 

 私が剣を握っている限り死ぬことはない。

 

 それは全て聖剣アスカロンの効果だ。

 

 使用者を危険から遠ざける剣。

 

 故に無敵。

 

 使用者の敗北を無くす無敵の聖剣である以上、劣化していたとしてもこの程度の風を逸らすことなど容易い。

 

 そして私とて唯剣を握って立っているだけではない。

 

「ーー停止解凍(フリーズアウト)全投影連続層写(ソードバレルフルオープン)

 

 投影したのは、宝具には届かなくとも鉄くらいなら容易く切り裂けるほどの名剣。

 

 ペストを傷つけることが出来るのは既に証明済だ。

 

 異常な回復能力があるだけで強度はそこまでではないのだ。

 

 二十七の剣群はペストに向かって飛んでいく。

 

 その軌道は回避出来る箇所も潰してある。

 

 防ぐか、剣を食らわないことを諦めて特効するかの二択を強制的に突きつける。

 

「ちっ! 面倒くさいわね!」

 

 ペストが選んだのは前者だ。

 

 防風を操り剣の軌道をずらす。

 

「ーー壊れた幻想(ブロークンファンタズム)

 

 射出された二十七の剣群は全て内包された神秘をまき散らしながら自壊した。

 

「くっ!」

 

 爆発によりペストの体が一瞬見えなくなる。

 

 しかし、あれほどの霊格を隠しきることはできない。

 

 これで終わりではない。

 

 私は追撃としてハルぺーを五本投影し射出する。

 

 ペストは何かを察知したのか、追撃が来るのか予測したのか爆風の中から飛び出すように回避する。

 

 しかし一歩遅い。

 

 ハルペーはペストの体を傷つけることに成功している。

 

「傷が治らない!?」

 

「あまり呆けていると終わってしまうぞ?」

 

 そういってから自らの内に埋没する呪文を唱える。

 

「――|我が骨子は捻じれ狂う。《I am the bone of my sword》」

 

 投影したのは愛用の弓と剣。

 

「――偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)

 

「あれは――!」

 

 ペストはとっさに大量の死の風を圧縮して前面に展開しながらよけようとする。

 

 あれは防げないことを理解しているのだろう。

 

 そして両者が回避することも、防げないことも理解している以上、その結果もまた予測できていることだ。

 

 当たる。

 

 偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)はペストの体を過剰なまでに破壊していった。

 

 そのままペストは地面に落下する。

 

「私としてはこれで君が降参してくれると嬉しいのだが」

 

「……馬鹿なことを言わないでくれる? 私はまだ怠惰な太陽に復讐していない!」

 

 ふらふらとよろけながらもペストは立ち上がる。

 

 治癒できない攻撃はハルペ―がかすった場所だけのはずだが、ダメージが大きすぎたのだろう。

 

 いまだにペストはふらついている。

 

「復讐を悪いとは言わんが、君の場合は八つ当たりに近い。君を殺したのは君の司る黒死病だろう?」

 

「そうよ。それがどうしたの? 私は何人もの命を奪ったこの力

で、私たちを助けようともしなかった太陽に復讐する」

 

「確かに黒死病が猛威を振るった時代は太陽の寒冷期と重なっているし、それが原因で黒死病がはやったことも事実だろう。

 しかし黒死病の感染する距離にありながらも死者を少なくした国もある。

 その国は十四世紀にありながら、アルコールなどで除菌を日常的に行っていたり、食べ物は熱を通してから食べる習慣があった。

 さらに黒死病の主な感染経路はネズミが挙げられるが、その国には原始林が多く残されており、ネズミを捕食する生物がたくさんいたため、感染が抑えられていた」

 

「へぇ、よく知ってるじゃない。確かにそういうことがあったのは事実よ。だけど許せるはずがないじゃない」

 

「確かに、理不尽に奪われる辛さは理解できるがね」

 

「英雄になるほどですもの。貴方にも似たようなことはあるのでしょうね。だけど私達は何も悪くなかったのに!」

 

 

 

 

 

 

 

 風を切る()と、死を運ぶ風。

 

 その目的は互いに一つ。

 

 だが過程には大きな差がある。

 

 つまり、人の業で殺すか、神の裁定によって死を与えるか。

 

 人の身で神を殺すことなど出来るはずもなく、矢はことごとく逸らされる。

 

 しかし、この身は人なれど、この魂は英霊だ。

 

 人類を滅びから救うために集められた守護者に過ぎないが。

 

 いや、むしろ守護者であるからこそ不出来な神などいくらでも片付けて来たのだ。

 

 神の裁定を超す神秘などそうそう無いが、乗り越えることが出来る物は幾らでもある。

 

 例えば――

 

「――幻想大剣(バル)天魔失墜(ムンク)

 

 吹き荒れる黄昏の波は暴風となって、死の風を追い返す。

 

 しかしこちらは唯一度攻撃を凌いだだけに過ぎない。

 

 故に追撃がくる。

 

「はぁ! 」

 

 龍殺しの英雄の持つ魔剣は即座に二撃目を放つ。

 

 幻想大剣(バル)天魔失墜(ムンク)は真エーテルを内包しており、それを放つという性質上、消費が少なく、なおかつ速射可能という規格外な性能だ。

 

 最も解放には魔力が必要だが、他の対軍宝具よりも圧倒的に消耗は少ない。

 

 更に私の場合は剣に内包されている真エーテルが尽きようとも。

 

「――投影開始(トレースオン)

 

 もう一度作り直せばいい。

 

「く、反則じゃない!」

 

「それを言ってしまえば死を与える恩恵(ギフト)などまさに反則ではないかね?」

 

「ほら、あたしは魔王だから問題ないでしょう?」

 

主催者(ホスト)がそれでは参加者に恨まれるぞ?」

 

「お互いさまでしょう! 参加者に貴方みたいなのがいたらゲームバランスが崩れるでしょう!」

 

「まったくだ。と言っても私はそこまで反則じみた恩恵(ギフト)は所持していないのだがね」

 

「十分反則よ」

 

 会話を交わしながら合間合間に死と黄昏の衝突による暴風が吹き荒れる。

 

 しかし困った。

 

 いくら魔力の消耗が少ないといっても宝具なのだ。

 

 このままでは後五分もしないうちに魔力が尽きてしまうな。

 

 さてどうするか。

 

 

 

 

 

~エミヤ視点終了~

 




光一「更新が遅くなって申し訳ありませんでした!」

エミヤ「グランドオーダーが楽しかったのが敗因だと思うが、仕方がないだろう」

光一「お前はネタにしたと思ったら超強化が来たんだもんな」

エミヤ「一周年イベントのおかげで宝具レベルが五になり、聖杯によるレベルキャップ開放によりレベル百になり、おまけにスキルは全カードバフにまでなったのだからな」

光一「宝具で等倍四万近く出る全体宝具に早変わりしたおかげで今じゃどこに行くのにも使ってるからな」

エミヤ「絆レベル上げに強制的に一枠取られていたのが戦力になったのだ、ベンチからスタメンに早変わりして最近は忙しい」

光一「まあ、性能だけで見たらアーラシュさんを百にしてたほうが強かっただろうけどな」

エミヤ「かの大英雄と比べないでくれ。彼は強化前から既に全パーティに入っていた英雄だぞ」

光一「ああ、いつも感謝しているくらいだ」

エミヤ「というわけでこれからもステラァァァよろしく頼む!」


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さあ――魔王を倒そう。

~ジン視点~

 

「ふう。これで全てのステンドグラスは集まったわけですね?」

 

「ああ、間違いない。 この街に運び込まれた全てのステンドグラスが集まっている」

 

「ありがとうございます。――では、始めましょう」

 

「はたして本当に意味があるのかは分からんがな」

 

「それは僕もわかりません。ただ、偽りの伝承でもって存在しているのなら、このステンドグラスは幾ばくかの霊格があるのでしょう」

 

 僕はステンドグラスを前にそういう。

 

 マンドラさんは半信半疑だがやるだけなら損はない。

 

 せいぜい持ち運びが大変なことではあるが、力自慢の火龍が何人も在籍しているサラマンドラなら難しくはない。

 

 敵勢力は全て僕の同志が足止めしているのだから。

 

 いや、魔王以外は倒しているかもしれないけれど。

 

「――では始めます」

 

 契約している微精霊達に心の中で呼びかける。

 

 みんな用意できているみたいだ。

 

 五行の力を最大にまで高める。

 

 一人一人は小さな力でも、集まれば別だ。

 

 水行起動。

 

 ――完了。

 

 火行起動。

 

 ――完了。

 

 木行起動。

 

 ――完了。

 

 金行起動。

 

 ――完了。

 

 土行起動。

 

 ――完了。

 

 相生開始。

 

 水生木。木生火。火生土。土生金。金生水。

 

 よし。相生の循環は良好。このまま陣を安定させる。

 

 水剋火。火剋金。金剋木。木剋土。土剋水。

 

 制御できない力は全て相剋により消していく。 

 

 陣の構成。

 

 ――完了。

 

「五行転輪、太極に至れ。 

 

 其は一。其は全。其は世界。

 

 一つの世界をここに表せ、顕現せよ!」

 

 膨大な力としか言えないものを陰と陽の二つだけにまとめ上げる。

 

 僕にはもう制御できるものではないが制御が必要なものではない。

 

 唯、存在し。唯消えゆく力の塊だ。

 

 三百六十度どこから見てもなぜか同じ図形にしか見えない太極図。

 

 全てを内包しているけれど、今のままでは何にもなることはない。

 

 だから方向が必要だ。

 

 全てを自らの糧として動き、一つの伝承とするものが。

 

 さあ、始めよう。

 

 

 

「伝承顕現――笛吹き道化と幼子達の死(ハーメルン)

 

  

 

 瞬間。

 

 集められたステンドグラスに膨大な力が注ぎ込まれる。

 

 そして一つの形に収束した。

 

 ステンドグラスがあった場所にあったのは一つの笛。

 

 ソレに触れた瞬間に理解した。

 

 偽物の伝承全てをごちゃまぜにした物語を。

 

 その偽物に向けられていた信仰全てを。

 

 そして、全てを理解しているものなど当事者しかいない。

 

「ほう。成功するとは思わなかった」

 

「ええ、僕もそう思います。ただ、これはあまり長く持たない」

 

「それはそうだ。疑似的なギフトの創造など、人の身には余るものだからな。正直事前に聞いてなかったら随分と驚いていただろうな」

 

 そんなことを平然と言うマンドラさんだが、確信を持って言えます。

 

「あなたは絶対驚かないですよ」

 

「……そんなことはないと思うのだがな。まあいい。では決めてくるがいい。”ノーネーム“の党首殿」

 

 それだけ言ってマンドラさんは火龍を率いて、唯一残った本物のステンドグラスを持って去っていった。

 

「本当に……マンドラさんはぶれない人ですね」

 

 そう呟いてからエミヤさん達の下へ向かうために走る。

 

 吹き飛んでいくように景色が流れて行き、十秒も走ったころには元居た地点は見えなくなっている。

 

 これが神格を――一つの物語を我が物にした力ですか。

 

 今までの自分がどれだけ劣っていたか分かるくらいですが、余りいい気分ではないですね。

 

 自分が自分の物ではない奇妙な感覚に、町一つ分の大気を体内に無理やり押し込めたような酷い圧迫感。

 

 これが無理やりに神格を得た代償なのでしょう。

 

 神格に自らのみで至るなど、凡人に許可された領分ではないのですから。

 

 精霊たちもしばらくは休憩をさせてあげないと駄目でしょうし、僕もそう何度も使いたくはないですね。

 

 さて、戦闘音は今まで最大三箇所響いていたが、今ではもう一箇所しかない。

 

 つまり十六夜さんと久遠さんはやってくれたみたいですね。

 

 黒ウサギ達は既に所定の場所で待機してくれている。

 

 

 

 

 

 

 

 これで全て揃った。

 

 さあ――魔王を倒そう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ジン視点終了~

 

 

 

 




光一「ん? あれ? もうかよ!」

エミヤ「本当に久しぶりに二日連続だな。夏風邪でも引いたのかも知れんな」

光一「さすがに一夏で三回も風引く馬鹿はいないだろう。二週連続で風引いてただけでも馬鹿なのに」

エミヤ「全くだ。普段の生活から見直すことをお勧めしよう」

光一「まあ、正直ここで書くことがないんだが、どうする?」

エミヤ「知るか、と言いたいところだが、一つだけある」

光一「? なんだ?」

エミヤ「私の力を体内に降ろしているらしい少女が、カルデアにやってきたようなのだがね」

光一「そうだな。うん。なんとなく分かった」

エミヤ「私の知り合いが平行世界から形を変えてやってくるのは良いとしよう。正直言いたいことは山ほどあるが。――だが、なぜ私の力を利用しているはずなのに、私よりも多彩な攻撃が出来るのかが不思議でならないんだ」

光一「まあ、それはいつか来るとして、俺からも一つ言いたいこと思い出した」

エミヤ「なにかね?」

光一「いくら知り合いに似ているからといって、小学生をストーカーするのはやめておけよロリコン」

エミヤ「私はしてなどいな――」

光一「白い少女から、視線を感じることがあって振り向くと紅い外套が見えるって報告があるんだが、お前だろう?」

エミヤ「キリツグも紅い外套を着てるはずだが?」

光一「言い訳は見苦しいぞ。ロリコン」

エミヤ「認めるからとりあえずロリコンと呼ぶのだけは勘弁してくれないか……?」



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魔王

 

 

八回目の真名開放を行ったとき、有り得ない程の霊格の膨張を感知した。

 

 私が振るい続けていた幻想大剣(バル)天魔失墜(ムンク)にそんな効果はない。もちろんペストにもないだろう。

 

 まるで、唯の人間が唐突に神霊に成ったかのような現象など起こせるはずがない。

 

 しかし、私はそれ(・・)を感知した瞬間をもって、勝利を確信した。

 

 ――良くやった。

 

 ほんの数ヶ月前まで唯の少年だったと思っていたが、随分と化けたものだ。

 

「何よコレ(・・)! こんなの有り得ない! 私の神格が半分持って行かれた!」

 

 ペストは驚きを隠すことすら出来ずに狼狽する。

 

 当たり前だ。同じ信仰対象が二柱いれば向けられる信仰は二等分になるだろう。

 

 ジン君は自らが偽の神となることで、もう一人の偽の神の力を削ぎ落とした。

 

 つまりは神の分割。日本神話のカグツチの伝承と同じ、大きすぎる力は分割してしまえばいいのだ。

 

「さて、随分と驚いているようなのだが、まだ終わりではないぞ?」

 

「何を――」

 

 ペストが反応するよりも前に、胸に風穴が開く。

 

 それに反応してペストは後ろに向けて拳を放つ。

 

 金属を打つような音が響くと同時に、私の良く知る少女が虚空から姿を現す。

 

「……いてて。ちょっと油断しすぎたかな?」

 

「攻撃をしたのなら、反撃を予想しておいたほうがいい。もしも死を与えるギフトがまだ使えていたら危なかったのだぞ?」

 

「……次は当たらないよ。それに、風だったら私と相性いいし」

 

「……この戦いが終わったら、少しキツメの特訓メニューを用意しておくぞ、春日部嬢」

 

 虚空から風を纏って現れたのは薄い剣を持っている春日部嬢だ。

 

 先程までは、ハデスの兜の劣化品を被って隠れてもらっていた。

 

 空中に浮いているペストは、今は特に何もなさそうな様子で、二人に増えた敵を見ている。

 

「お嬢ちゃんが何をしたかは分からないけれど、もうゲームは終わり」

 

 ペストが残された霊格を開放する。

 

「葬送曲・『ハーメルンの笛吹き』!」

 

 黒い風が瞬く間にハーメルンの町並みを覆い尽くし、美しかった町並みは人の住むことの出来ない魔都となる。

 

 黒死病の風が私達を犯したのなら助かる度折などない。

 

 更に、この風は恐らく発症と同時に急速に病状を悪化させる類の呪いだろう。

 

「無駄だよ。黒死病の時代は、特効薬の開発によって終わったんだから」

 

 その一言と同時に黒い霧は晴れ、影が差していた町並みは元の美しさを取り戻す。

 

「まさか、さっき胸に挿した剣には!」

 

 手に持っている剣には透明な液体が滴っており、それがペストの血でないことは明白だ。

 

「うん。私が作った特攻薬を塗っておいた。だからもう、貴女の力は恐ろしくない」

 

 黒死病の力を操る魔王。

 

 それが黒死病を克服されてしまっては、もはや霊格は保てない。

 

 ペストの霊格はもはや、最初に現れたときの数十分の一だろう。

 

「……私達には与えられなかったのに! なのになんでこんなときに!」

 

 ペストの慟哭が空に広がる。

 

「その言葉は君が唯の被害者の少女なのなら良かったな。君はもう既に魔王なのだ」

 

「……そうね。私は魔王なのだもの。勇者に倒されるそのときまで太陽に復讐し続けましょう」

 

「だが、申し訳ないことに私は勇者ではないんだ」

 

「ええ、知ってるわ。貴方とてもそんな風に見えないもの」

 

「随分と手厳しいな」

 

「さあ、いつでもやりなさい。“サラマンドラ”の党首サマ」

 

「気づいていたのですね」

 

「私を誰だと思っているの? 道化の悪魔を従えて、太陽神すら封じ込めた魔王よ? 当たり前じゃない」

 

「そうですね。では貴方に応えるために、私の最強の技で応えます!」

 

 神格を削られ、霊格の殆どが消滅し、仲間も失った魔王。

 

 それでも彼女は命乞いはしない。

 

 『私は魔王だ』と、毅然とした態度で死を迎えようとしている。

 

「四代精霊にして、火を司るものよ! 我が内に顕現せよ! 邪を滅せよ! 『精霊龍の聖炎』」

 

 サンドラの手から美しい炎が立ち上り、近くにいたペストを飲み込む。

 

「……ああ、次は必ず太陽を落としましょう。ラッテン、ヴェーザー」

 

 こうしてペストは魔王として幕を下ろした。

 

 

~エミヤ視点終了~

 

 




光一「お前、異常な今日か貰ったからって調子乗りすぎだろ。完全にこっちが悪役みたいになってるぞ」

エミヤ「フッ。今は何をいわれてもいいぐらいだ。後一月も経たないうちに、モーションまで変更が来るのだぞ?」

光一「……大のおっさんがこんなにテンション上がっていると逆にこっちはテンション下がるな」

エミヤ「私はお前ほど生きていない。私がおっさんならお前は爺さんだろう」

光一「俺を爺さんと呼ぶんじゃねえ!」

エミヤ「まあ、守護者としての年月を含めたら、私も人の事はいえないのだがね」



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復興とメイド

~光一視点~

 

 黒死病から回復したと思ったら、もう町は復興を始めていた。

 

 ペストはサンドラに倒され、残りの二人の悪魔は久遠と十六夜が倒した。

 

 戦闘はハーメルンの街を丸々召喚して戦っていたため、大きな被害は出ていない。

 

 しかしその中で、最も修繕に時間がかかっているものは、十六夜と黒ウサギが破壊した時計塔だったりする。

 

 そう。

 

 時計塔の修繕費の問題は片付いていないのだ。

 

 黒ウサギが審判を務めたのは一戦。

 

 その後の魔王討伐の依頼料は全て修繕費に充てられたが、まだ返済しきれていない。

 

 ジンが結んでいたらしいサラマンドラとの取引には金銭面的なものは無かった。

 

 さらに言えば魔王を撃破したのはサラマンドラで、それに共力しただけの立場だと依頼料も少なかった。

 

 これでも作戦の立案・側近の撃破・魔王の足止め・黒死病から住民の保護・サンドラの強化までやったんだけどなぁ!  

 

 つまりだ。

 

 

 

 お金が……ありません。

 

 

 

 ここに戻ってきた時のギフトは、俺がカーボン紙を用いて同じ絵を書き、『無能箱庭(アルカトラズ)』を同時に発動していなければならない。

 

 しかしカーボン紙を使う以上、その上に乗ることは不可能で、浮いている状態だと絵がかきづらく何回も失敗したのもあり、飲み屋のトイレくらいの大きさにしかできない。

 

 同じ空間を繫げる異能としてサウザンドアイズの支店同士の移動方法をコピーしたが、二人までしか無理なのと、書くのに一時間以上かかる。

 

 つまりむちゃくちゃ大変だ。

 

 それを修繕費の返済の為に何往復もしていられない。

 

 さらに言うと、俺が黒死病で倒れた瞬間に本拠地で発動していた『無能箱庭(アルカトラズ)』は解除された。

 

 つまり帰れないのだ。

 

 何で黒ウサギは十六夜を止めなかったんだ――というか何で挑発に乗って建物を一つおじゃんにしてるんだ!

 

「ということで黒ウサギ? お金を稼ぎに行こうか」

 

「ややや、目が笑っていないですよ光一サン?」

 

 少し怯えながら後退る黒ウサギを捕まえる。

 

「なあ、黒ウサギ」

 

「な、なんでしょうか?」

 

「今は北側のコミュニティのお祭りで、みんな楽しそうにゲームに興じ、お店の売り上げやらコミュニティが開催したゲームやらで盛り上がっている」

 

「そうデスネ。とても活気があっていいと思います」

 

「さて、俺たちの同志はどこにいるんだろうなぁ?」

 

「YES! エミヤさんとレティシア様ならここから少し離れたところで飲食店の屋台を、耀さんと十六夜さんと飛鳥さんはお金のかかったギフトゲームを、ジン坊ちゃんはサラマンドラとサウザンドアイズと会議をしておりま、っあう!」

 

 黒ウサギを無言でチョップする。

 

「何故みんな祭りを楽しむことが出来ていないんだろうな?」

 

「黒ウサギが十六夜さんとのゲームで発生した修繕費を稼ぐためです……」

 

「ああ、さらに言えば俺と黒ウサギがここに残っている理由が、俺は病み上がりで、黒ウサギは『審判権限(ジャッジマスター)』なんてもののせいでゲームに参加できないからだな」

 

「YES……」

 

 うさ耳をしおらせてうつむく黒ウサギ。かわいい。

 

 じゃなくてだ。

 

「考えがある」

 

「何でしょうか?」

 

「それはな――」

 

 

 

 

 

     ※※※

 

 

 

 

「あ、あのーコウイチサン? やっぱりこの格好は……」

 

「おう似合っているぞ?」

 

「ありがとう……ございます。いえ、そういうことではなくてですね」

 

「ん? メニューの用意もできたし。マンドラさんに頼んだらなんか開店資金と場所と食材と調理できる人員は融通してもらえたし、店自体は『無能箱庭(アルカトラズ)』でちょちょいのちょいだったし、何も問題はないはずだ」

 

「いえ、黒ウサギはそういうことを心配しているのではなくてですね……」

 

 黒ウサギは恥ずかしそうにもじもじしながらも、ミニスカのメイド服を着こなしている。

 

 うさ耳メイド服の美少女にウェイターをやってもらえるなら男としては最高だろう。

 

「さあ、ここから一週間で本拠地に帰るお金と修繕費を手に入れる! 行くぞ!」

 

「ううう。……はい」

 

 『うさ耳メイド喫茶 黒ウサギ』開店だ!

 

 

 

 

 

     ※※※

 

 

 

 

「おかえりなさいませご主人様! こちらのソファーで寛いでくださいぴょん!」

 

「は、はい!」

 

 店に入ってきた客は、一人残らず黒ウサギの美貌に驚き、にやにやした顔で席に座り、メニューを見るふりをして働き続ける黒ウサギを眺める。

 

 注文が遅いお客様がいれば、黒ウサギがさりげなく一番高いメニュー(黒ウサギの手書き文字付オムライス~笑顔を添えて~)を頼むよう誘導し、恥ずかしがりながらもニコニコで文字を書いてくる。

 

 さらに一時間ごとに黒ウサギとのジャンケンタイムがあり、それに勝つと黒ウサギと写真が撮れるサービスを有料で行う。

 

 高めの席料を取ってもまだ満席状態が続くほどの大盛況だった。

 

 もはや開店して三時間で一日の目標金額を殆ど達成するほどだ。

 

 ちなみにカメラは原理を知っていたので俺がギフトを駆使して似たようなものを作った。

 

 さらに、黒ウサギには『裏腹海月(トランスペアレント)』の劣化強化でさらに目立つようにしてある。

 

 帰り際に書いてもらったアンケートでは顧客満足度が驚異の百パーセントだ。

 

 ちなみに俺はその間、ギフトを用いて新しいイベントを考え続けている。

 

 これで売り上げが伸びないわけがない!

 

「おかえりなさいませご主人……さ……ま」

 

 ん?

 

 黒ウサギのさっきまでの威勢がなくなったぞ?

 

 ふと入口のほうに目を向けると、そこには。

 

「ま、マンドラ様! 何でこここここ此方に!?」

 

「自分の同志が働いているうえに、資金提供その他もろもろまで手を貸した店だ。見に来るのに何か問題があるか?」

 

「いえいえいえその節はありがとうございマス」

 

「ふむ、大盛況のようだな。私もここで休憩していくとしよう」

 

「え、と。こちらでお寛ぎくださいませご主人様」

 

 マンドラさんが来たのか。

 

 くくくっ。

 

 黒ウサギは忘れかけていた羞恥心がぶり返してきたみたいだ。

 

「ご注文は何にするぴょん?」

 

「ふむ。黒ウサギの手書き文字付オムライス~笑顔を添えて~と黒ウサギのラテアート付きカフェラテ。後はこの黒ウサギの元気注入シュークリームを頼む」

 

「分かりましたぴょん!」

 

 なかなかやり手だなマンドラさん!

 

 黒ウサギが最も振付をつけなければいけないやつを上から三つか。

 

 普通の客ならまだしも、知人に見られるのは相当恥ずかしいだろう。

 

 黒ウサギが注文を火龍さんたちに伝えると、火龍さんたちは今までにない速度で調理を終えた。

 

 そりゃあ、自分たちのコミュニティの幹部が来てるんだもんな。

 

 黒ウサギは厨房で少し縮こまって逃げていたが、注文が出来てしまえば逃げられない。

 

 カフェラテを受け取って、営業スマイルを張り付けてマンドラさんの元へ行った。

 

「黒ウサギのエネルギ―注入するぴょん!」

 

 そういって黒ウサギはマンドラさんの前でラテアートを全力でやった。

 

 

「ふむ。うまいな」 

 

 しかしマンドラさんの反応は実に淡白だった。

 

 あれはつらい。

 

 あれならいっそ大爆笑とかドン引きしてもらったほうがましだ。

 

「ううう。黒ウサギ、もう休憩していいですか?」

 

「がんばれ。後二品あるぞ」

 

「ううう~」

 

「オムライス出来ました!」

 

 うなだれる黒ウサギに火龍さんからの完成報告(死刑宣告)黒ウサギはもう一度マンドラさんの元へ行く。

 

「黒ウサギの手書き文字付オムライス~笑顔を添えて~お持ちしました! 文字は何にしますか?」

 

「マンドラ様大好き、で頼む」

 

「ぶっ!」

 

 くそ、吹き出しちまった。

 

 なんであの厳ついおっさんは黒ウサギの扱い方をマスターしているんだ!

 

 

「は、はい! マンドラ様、だーいすきぴょん♡」

 

 黒ウサギは笑顔を張り付けながらも完全に目が死んでる。

 

 しかしオムライスの文字は完璧だ。

 

 職人技を感じるな。

 

「ふむ。なかなかうまいな」

 

 笑顔の黒ウサギを横目にマンドラさんは無表情を保っている。

 

 それを見届けて黒ウサギは厨房に帰ってくる。

 

「コウイチサン。ツカレマシタ。黒ウサギを帰してください」

 

「ああ、閉店時間はあと一時間だ」

 

 黒ウサギは厨房の椅子に座って完全に沈黙。

 

 さすがに少し休ませてあげよう。

 

 黒ウサギがいない間の注文は俺が取る代わりに、じゃんけん大会のシード権を一枚ずつ渡す。

 

 そして十分後にマンドラさんからオーダーが届いたので向かった。

 

「貴殿はなかなか愉快な同志を持っているな」

 

「あ、ああ。そうだな」

 

 口いっぱいにオムライスを詰め込まないでほしい。

 

「一つ貴殿に聞きたいことがある」

 

「ん? なんだ?」

 

「ペストのことだが、何故貴殿は最初にあったときにペストを撃破しなかったのだ?」

 

 マンドラさんはオムライスを頬張りながらも当たり前のように質問する。

 

 確かに俺はやろうと思えばペストを撃破することはできただろう。

 

 しかしやらなかったのには理由がある。

 

「俺かエミヤが倒すのは確かに簡単だったろうが、それじゃあ魔王と戦うことを明言しているコミュニティなのに、俺たち以外戦えなくなっちまうだろう?」

 

「そういうことか。納得がいった。うちのコミュニティにも利益があったから助かった」

 

「そりゃよかった。あ、あとここの開店資金とか人とかありがとうな」

 

「礼には及ばん。既にノーネームのリーダーから貴殿の手伝いをするように頼まれていたからな」

 

「そうだったのか。でもまあ、それとは別にありがとう。助かった」

 

「ん? 何のことだ」

 

「わざわざ高いメニューを頼んでくれて」

 

 そういうとマンドラさんは少しだけ目を開いたのちに、食器を置いた。

 

「なに。美しい女性のメイド服を見に来ただけだ」

 

 そう言って残りのオムライスを食べ始める。

 

 そうか。

 

 この人はメイドスキーだったのか。

 

 さすがに気づかいだけであのオムライスの文字はないもんなあ。

 

「さあ、シュークリームを頼む。元気いっぱいでな」

 

「ああ、もうそろそろ回復しただろうし、全力でやるように言っておく」

 

「頼んだ」

 

 そう言って俺は厨房に戻り黒ウサギにシュークリームを持っていくように頼んだ。

 

 黒ウサギにこの後じゃんけん大会をやればそれで店を閉めるというと、元気になったので大丈夫だろう。

 

 ちなみにじゃんけん大会の優勝者はマンドラさんだった。

 

 

~光一視点終了~

 





光一「ふう。ようやくに二巻終了だな。と言いたいところだが、この後ももしかしたらグダグダと幕間を挟むかもしれないといっておく」

エミヤ「そうだな。正直もともとの構想だと三巻目で終わる予定ですらあったからな」

光一「ああ、でも一応今は一部は最低でもやる気でいるぜ」

エミヤ「そうだな。小説を書き始めてからこれほど長い間書き始めるとは思っていなかったらしいしな」

光一「まあ、とりあえずペスト戦で原作と違うのは死者ゼロ人というところが大きいだろう」

エミヤ「サラマンドラとしては渡りに船だな」

光一「まあ、俺が体を張ったかいがあったぜ」

エミヤ「そういえばサラマンドラで思い出したんだが、光一のお願いを使えば全員帰れた上に修繕費も出してもらえたのでは?」

光一「あっ!」


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打ち合い

光一「FGO第一部完!」

エミヤ「ああ、なかなかに大変だった」

光一「お前黒くなって思わせぶりなこと言ってただけで、後はイベントに出てただけだろう」

エミヤ「それは言うな」

光一「いや、でも確かにお前の活躍は凄かった。剣と狂の魔神柱はワンターンキルだっしな」

エミヤ「フッ。黒聖杯九十七レベが強かっただけさ」

光一「ああ。ぶっちゃけヘラクレスでもワンキル出来たから特にお前じゃなくて良かったし、孔明さんの戦果のが多かったし、アーラシュでも余裕だったからな」

エミヤ「全員規格外なだけだ!」

光一「ああ、そういえば、後書きではクリスマスの出来事について報告しようと思うから、是非見てくれ」

エミヤ「遅れたのは一重に終章が面白かったからとだけ言っておく」

光一「ていうか、何で本編の倍の分量になったんだろうな」

エミヤ「バカだからだろう?」


~エミヤ視点~

 

「では、始めるとしよう」

 

「ああ、久々に本気で鍛錬ができる。ありがたく胸を借りよう」

 

 私は“サラマンドラ”の本拠地にてマンドラと剣を向けあう。

 

 といっても、二人とも刃をつぶした剣なのだが。

 

 何でも、高位の霊格を持つ者は、慢心して修行を怠る傾向にあるらしい。

 

 それは火龍の末裔たるサラマンドラの同志にも言えることで、マンドラが実権を握るまでは修行など碌にしたことのないものばかりで、マンドラの相手をするには役不足らしい。

 

 マンドラは火龍の象徴たる角が生えてこない病に罹った結果、武術に傾倒して強さを獲得した男だ。

 

 種族の強さに甘んじて鍛錬を怠っていたっものでは役不足だろう。

 

「では行くぞ?」

 

 マンドラはそういうとともに上段からの打ち下ろしを放つ。

 

 ――鋭い。

 

 角がなかろうと、火龍は火龍らしい。

 

 しかしまだ足りない。

 

 私は半歩横に動くことで剣を躱し、その勢いで右手の剣を振るう。

 

 マンドラもそれは十分読めていたのか素早く剣を引き戻すことにより柄で防ぎ、引いた勢いと私の剣の衝撃を使い突きを放つ。

 

 突きを左手の剣で突きをそらして相手の真下から振り上げ、その勢いで剣を上空に放り投げる。

 

 獲物一つ失った私に、喜々として突っ込んでくるわけでもなく、一歩下がって剣を正眼に構え直す。

 

 ふむ。この程度の罠ではかからないか。

 

 あのまま突っ込んできていれば、マンドラが三度剣を振るうまでの間に落ちてきた剣で不意を撃てたのだが。

 

 私は落ちてきた剣を掴み、開始時と同じ距離を保ったままマンドラと対峙する。

 

「さすがは魔王を倒すと豪語するコミュニティの主力だな」

 

「私はそこまで強くはないからとめたのだがね。――まあ、問題児たちが成長するまでは、死ぬつもりはないが」

 

「私もこのコミュニティが繁栄を極めるまでは死ぬつもりはない。続きを頼もう」

 

「了解した」

 

 私はマンドラとさらに打ち合う。

 

 火龍の膂力を活かした剣術に、頭の回転が速く、用心深い。

 

 攻めづらい戦い方をしているな。

 

 しかし、まだ力に頼り過ぎている。

 

 剣に振り回されることはないが、攻められるところで攻めず、かわせるところで防いでいる。

 

 ここが弱点か。

 

 私はマンドラとの打ち合いの最中に両手の剣を放し、一歩下がる。

 

 流石にそれを好機と見たかマンドラは今までで最速の突きを放つ。

 

 まともに食らえば、刃を潰していても死は免れまい。

 

 私は手の甲で少しだけ剣の腹を叩き、突きを反らす。

 

 剣が泳ぎ、重心が崩れたことにより生まれた隙を突き、背後に回ることで剣を回収しながら胴を薙ぎ払う。

 

「ぐっ!」

 

「君はもう少し力を抜くといい。そうすれば見えてくるものもあるだろう」

 

「ああ、ご忠告痛み入る」

 

 マンドラは両手を上げて降参のポーズをとる。

 

 私は剣を下して一歩離れる。

 

 立ち上がったマンドラは私のほうを向いて剣を構える。

 

「では次だ」

 

「ああ。次も期待に応えるとしよう」

 

 そう言ってマンドラと再び打ち合う。

 

 剣を打ち合わすごとに、マンドラは私の攻撃を的確に防ぎはじめ、三時間も戦う頃には十分以上打ち合うことも少なくなくなってきていた。

 

「随分と体力があるようだな」

 

「角に行く分の力が、体力にでもなっているのだろうよ」

 

「ならばこれを使うといい」

 

 私は一振りの剣を投影して渡す。

 

「私からの選別だ。“ノーネーム”との友好の証しだと思ってくれ」

 

「聖なる力を感じるな。それに、見たことがある。……これはデュランダルか。ありがたい。しかしいいのか?」

 

「ああ、存分に使ってくれ。その剣があれば大概の攻撃なら防げるだろう」

 

 マンドラはにやりと笑いながら剣を三回ほど振って、デュランダルを近くの岩にたたきつける。

 

 しかし曲がることもなく、逆に岩を砕く結果に終わる。

「いい剣だ。だが、いいのか?」

 

「ああ、もしも君たちが裏切るようなら爆発するようになっている。用心して使うといい」

 

「フッ! こんな素晴らしい首輪をもらったのは初めてだ」

 

 そう言いながら、マンドラは剣をしまう。

 

「礼に一つ情報をやろう。君と同じ、英雄たちが最近良く召喚されているらしい」

 

「英雄たち?」

 

「ああ、なんでも、召喚されるはずのない者たちだそうだ」

 

「ああ、生存した可能性がないと召喚されないのだったな」

 

「そうだ。確認できているのは三人。クランの猛犬と、裏切りの魔女と、形のない島の怪物だそうだ」

 

 なに?

 

 冬木の聖杯戦争に参加したことがあるものばかりが呼ばれている?

 

 原因は恐らく私がここにいることと関係あるのだろうが、何故だ?

 

 私の動揺を感じ取ったのか、マンドラはさらに情報を付け加える。

 

「ありえないはずの者だが、伝説と違わぬ力を振るうらしいな。ああ、そういえば北側にはもう一人、不思議な少女がいたな。先ほどの召喚の件とかかわっているかはわからんが」

 

「不思議な少女だと?」

 

「聖剣エクスカリバーを持つ者らしい。しかし伝承とは違い女性のようだ。おそらくは聖剣を何らかの理由で手に入れた誰かだろう」

 

「いや、それはアーサー王だ」

 

「何?」

 

 今度はマンドラが動きを止める。

 

「いや、今名が挙がったものには縁があってね。それに、エクスカリバーを振るうものなど一人しかいまい」

 

 脳裏にふと、思い出す。

 

 初めて召喚されたときの記憶が。

 

 それを大事にしまい込みながらも剣をしまう。

 

「急用が出来た。本拠地に帰るとしよう」

 

「随分と急だな……ん?」

 

 サラマンドラの同志と思われるものが走ってくる。

 

「なんだ?」

 

「マンドラ様に客人が来ています! 最近噂になっていた聖剣を携えた少女が!」

 

「では、私はここで退散するとしよう」

 

「会っては行かないのか? 知り合いなのだろう?」

 

「少し事情があってね」

 

 そう言って私は去ろうとする。

 

「ほう。ではその事情を聞かせてもらおうか。アーチャー」

 

 後ろを振り返ると忘れもしない金髪の少女が立っていた。

 

「……久しぶりだな。元気そうで何より」

 

「貴方も変わりが無いようで」

 

 アルトリア・ペンドラゴンがそこに立っていた。

 

~エミヤ視点終了~




「さあ、ついにこの日が来た。去年の雪辱を果たし、不名誉な称号を取っ払おう」

 ホワイトボードに作戦の案を十二通りほど書き連ね、既にサンタクロースの服に着替えた馬鹿がそこにいた。

 しかも何故か私の席の前には某激安量販店で売っていそうな、茶色い全身タイツと角。

 クーフーリンのマネでもしろというのか?

「お前にはトナカイになってもらう。更に今回は強力な助っ人を頼んだ」

「助っ人だと?」

「ああ、もうすぐ来るはずだ」

 光一は時間を確認しながら言う。

 時刻は午前九時。

 この時間というと彼女か。

「お待たせしました! 少々手間取っておりまして」

 やってきたのは黒ウサギだ。

 しかも何故か彼女もサンタの服を着ている。

 彼女も光一(バカ)に当てられたか。

「……まだ朝だぞ? 誰かに見つかってしまっては、水の泡だと思うのだが?」

「いえ、今回はこの三人を筆頭に、問題児様方や、子供たちにも手伝ってもらいます!」

「なるほど。今回はレティシアへのサプライズというわけか」

「YES! なので今日は白夜叉様からの仕事の依頼があったのでそちらに行って貰っています!」

「そうか。では、部隊分けをしよう。黒ウサギと私と子供たちは用意をして、問題児三人はレティシアを一番喜ばせたほうが勝ちというゲームを光一が仕掛けるという案はどうだ?」

「いや、俺とエミヤは別働隊だ。後は全員囮になってもらう。クリスマスに何も無いほうが不自然だからな」

「つまり、私たちが去年手に入れたギフトで、今度こそレティシアを喜ばせてやろうという話か」

「そうだ。だからエミヤも基本は黒ウサギの手伝いをしてやってくれ。俺は少しやることがある」

「ああ、分かった変なことはするなよ?」

「ああ、黒ウサギも料理のセッティングは頼んだ。会場は俺に任せてくれ」

「お任せください! 黒ウサギが手によりをかけて作りますとも!」

「それは楽しみだ!じゃあ、俺も張り切ろう」

「是非期待していてください」

 そういって私と黒ウサギはいくつかの段取りを決めて夕食の用意を始めた。





~レティシア~視点~



 白夜叉からの依頼を追え、本拠地に帰ってみれば明かりが一切付いていない。

 コレは光一か?

 すぐにこんなことをしそうな同士を思い浮かべる。

 恐らくは彼が多用するギフトの無能箱庭(アルカトラズ)だろう。

 つまり本拠地に入れば奴の領域に入り、クリスマスパーティが始まっていることだろう。

 私はいつも通りに本拠地の扉を開き、中に入る。

「? 無能箱庭(アルカトラズ)ではないのか?」

 扉をあけて入っても誰もいないままで、明かりもついていなかった。

「コレは、私を残して外食にでも行ってしまったのか? ……それは少し寂しいな」

 私はどこか食べに行った場所でもメモで残っていないか確認するため、リビングのテーブルへ向かう。

「ああ、ちゃんとあった。しかもご丁寧に封筒に入っているとはな」

 封筒の中身を確認する。

『レティシアへ。

 参加者『ギフトゲーム名 “CHRISTMAS CAROL ”

・プレイヤー 一覧
 ・レティシア
 
・ゲームマスター
 ・佐藤 光一
 ・エミヤ シロウ
 ・黒ウサギ
 ・逆巻 十六夜 
 ・久遠 飛鳥
 ・春日部 耀
 ・ジン=ラッセル

・クリア条件
 ・全力で楽しんだ時

・敗北条件
 ・感謝の言葉を伝えた時

宣誓 上記を尊重して、誇りと御旗の下、“ノーネーム”はギフトゲームに参加します。“ノーネーム”印』

「なるほど。主たちらしいな」

 私を楽しませることに全力であるのが分かる。

 つまり主たちからのゲームということは、恐らくこの後向かう場所は決まっている。

「まずはジンの元から向かおうか」

 そういってジンの部屋にたどり着く。

「ジン。レティシアだ。入っていいか?」

「いいですよ。どうぞお入りください」

「失礼する」

 ジンの部屋はいつもどおり変わらず、本に囲まれている。

「では僕からのプレゼントです。開けてみてください」

「ああ、いただこう」

 ジンから渡されたのは細長い包みで、そこまで重くはなかった。

 去年のことを考えると、ナイフでも入っているのかと思ったが、違うようだ。

 箱を開けると、そこには結構な大きさのルビーがはめ込まれたペンダントが入っていた。

「ほう。コレはなかなかのものではないか。高かったのではないか?」

「大丈夫です。少し疲れましたけどね」

「どこか働いてきたのか?」

 わざわざコレを渡すために働いてきたと思うと申し訳なくなるのだが。

「いえ、作りました」

「なんだと?」

「ちょっと精霊たちの力を借りて、宝石を精製して、ペンダントの部分はエミヤさんに作ってもらいました」

「なるほど。……いやいや、宝石を作ったとはどういうことだ!?」

「つまりは必要な材料を圧縮すればよかったので、大地の精霊の力を借りれば出来ましたね」

「そんな簡単なものではないだろう!?」

「ははは。確かに少し疲れましたね」

 彼は光一の悪? 影響を受けすぎているのかもしれない。


「レティシアさんは余り着飾らないので、付けてくれたら嬉しいなと思います」

「ああ、では付けてくれ」

「ええっ?」

 成長したとは思っていたが、こっちの方面にはまだ弱いらしいな。

「ふふ。冗談だ。では次の部屋に行くぞ」

「うう。からかわないでくださいよぅ。メリークリスマス、レティシアさん」

「ああ、メリークリスマス」

 そういってジンの部屋を後にする。

 ふふ。

 今貰った首飾りをつけると、少し自分が綺麗になったのではないかと錯覚しそうだ。

 それくらい私のために作られたものだった。

 そんなことを考えながら歩いていると、次ぎは黒ウサギの部屋についていた。

「失礼する」

 黒ウサギの部屋に確認も取らずにはいる。

「お帰りなさい、レティシア様! もうジンくんのところに行って来たのデスネ! とても良く似合っていますよ!」

「ああ、いいものを貰ったよ」

「ふふふ、では黒ウサギからのプレゼントはコレです!」

 黒ウサギは後ろ手に隠していた箱を手渡してくる。

「あけるぞ、黒ウサギ」

「どうぞご遠慮なく!」

 黒ウサギはこちらから視線をはずすことなく、私の反応に注目している。

 そして丁寧に包装紙をはがした後、箱の中に入っていたのは真っ赤なドレスだった。

「ほう、ドレスか。随分といい生地を使っているな」

「YES! 十六夜さんたちが随分と稼いで来てくれているおかげで、買う事が出来たのですよ。サウザンドアイズ一押しの一品です!」

「ああ、それはいいな。着てみるとしよう」

「では手伝いますね」

 そういってドレスに着替える。

 先ほどの真っ赤なルビーと相まって随分とお洒落なように見えるな。

「思わず感謝の言葉を述べてしまいそうだ」

「ふふふ、別に言ってくれてもかまわないんですよ?」

「全部見ずに言ってしまってはもったいないだろう?」

「それもそうですね。メリークリスマスです!」

「ああ、メリークリスマス」

 そういって黒ウサギの部屋を出る。

 しかし、ここまでくれば、このゲームの意図も分かってくるな。

 恐らくこの後も私のための服飾品だろうな。

 私を着飾らせたいのだろう。

 次ぎは十六夜の部屋か。

 コンコン。

「十六夜。入るぞ?」

「おう。待ってたぜ。入りな」

「失礼する」

 十六夜の部屋は思ったより小奇麗だ。

「さて、その服装を見る限り、御チビと黒ウサギの部屋に行ったみたいだな」

「ああ、似合っているか?」

「もちろん。このままベットの上でじゃれ合いたいくらいだ」

「主殿が望むのならかまわないが?」

「ヤハハ。今はゲームの最中だからやめておこう」

「残念だ」

「さて、気づいてるとは思うが、俺からもプレゼントだ」

 そういって十六夜は手の平サイズの包みを手渡す。

 その中には金で出来たイヤリングが入っている。

 それをその場でつける。

「コレで更に綺麗になっただろうか?」

「ああ、この場にいられると襲ってしまいそうだ」

「ふふ。それではゲームに支障が出てしまうから、退散するとしよう」

 先ほどの十六夜の台詞を真似していう。

「ああ、そうだ。エミヤと、光一の分は取りに行かなくていいから、春日部と、お嬢様のを受け取ったら一階に行くといい」

「了解した。では先に行こう」

「ああ、メリークリスマス」

「メリークリスマス。主殿」

 十六夜の部屋を出て歩く

 後二つということは、靴と指輪かな?

 そう思いながら耀の部屋に着いた。

 コンコン。

「レティシアだ」

「入って」

「失礼する」

 耀の部屋に入ると、直ぐに包みを渡してくる。

「私はこういうの経験したことないから苦手なんだ。だからちょっと早いかもしれないけれど受け取ってほしい」

「ああ、開けるぞ?」

「うん」
 そこに入っていたのは赤いハイヒールで予想を裏切らないものだった。

 それに足を通すと目線が少し高くなるのを感じる。

「ふふ。こうしていると、自分がお姫様みたいに思えてくるな」

「うん。凄く綺麗だよ」

「嬉しいな」

「じゃあ、次ぎは飛鳥の部屋に行ってね」

「ああ、分かっている。メリークリスマス」

「メリークリスマス」

 私は耀の部屋を出て飛鳥の部屋に向かう。

「次で最後か。しかし、エミヤと光一は何を仕掛けてくるのだろうか?」

 あの二人もゲームマスターとして書かれている以上、何かしてくるのだろう。

 しかし、同時に楽しみでもあるな。

 いや、逆に凝りすぎて変な方向に突っ走っている可能性もある。

 どちらなのだろうな?

 飛鳥の部屋に着き、扉をノックする。

「レティシアだ。飛鳥いるか?」

「ええ、入っていいわよ」

「失礼する」

 飛鳥の部屋に入る。

「あら、私で最後みたいね。随分とお洒落になったじゃない」

「ふふ。嬉しいな。これもみんなのおかげだな」

「ええ、みんな頑張ったもの」

 年頃の少女のような笑顔で飛鳥が言う。

 普段はお嬢様然してているが、なかなか可愛いところもある。

「私からのプレゼントをあげましょう」

「ほう。何をくれるんだ?」

「開けてみてからのお楽しみよ」

 そう言って飛鳥から二十センチ四方くらいの箱を渡される。

 箱を開けるとそこにはプラチナで出来た王冠が入っていた。

「コレでは本当にお姫様みたいだな」

「ええ、そういう風にみんなでデザインしたんだもの。当然でしょう?」

 やはりそういう意図があったのか。

 まさしく吸血姫としてデザインされていたわけだ。

「似合っているわ。では準備も整ったわけだし、会場にご案内しましょう」

「会場? どこから行くんだ?」

「こっちよ。ついて着なさい」

 飛鳥に手を引かれて部屋を出る。

「さあ、手をとってくれ、レティシア姫」

 部屋を出た瞬間、別の世界に迷い込んだかのように視界が切変わる。

 お城のパーティー会場のような場所に、クリスマスの飾り付けをこれでもかというほどしたような場所だった。

 そこにいたのはタキシード服に身を包んだガングロ白髪の男だった。

「随分と手馴れているようだが、王子様には見えないな」

「私も、この配役が決まったとき耳を疑ったよ」

「しかし、光一が王子様でなくて良かった。それに比べたらだいぶ似合っているぞ?」

「それは比べる対象が悪いな。奴が王子様をやっていたら、間違いなく奇抜な格好をしていただろう」

「それは嫌だな。お前でよかった」

 想像してみると、あの銀髪に白いタキシードは似合いそうだが、いかんせん本人の性格が向いてない。

 というよりも、普段やっていることを考えると、童話のいい魔女みたいなことをしているからな。

「ではレティシア姫。一曲踊っていただけませんか?」

「喜んで」

 唐突に始まったが、互いにダンスは経験しているようだ。

 滞りなくダンスは続く。

「しかし意外だな。エミヤがダンスを踊れるとは」

「昔、いろいろあってね。あかいあくまときんのけものの戦争に巻き込まれた際に覚えてしまった」

「詳しく聞くのはやめておこう」

 その後も他愛のないことを話しながらダンスは進む。

 そして三曲ほど踊った後、曲が止まった。

「もう終わりか。名残惜しいな」

「そう思っていただけて何よりだ」

 エミヤは恭しく一礼しながら言う。

「では私からのプレゼントだ。受け取ってほしい」

 どこから取り出したかは分からないが、一輪の花がエミヤの手には握られていた。

 どこまでも気障な男だ。

「ふふ。いただこう。ああ、でもこんなパーティーは初めてだ。黒ウサギたちが服をプレゼントしてくれて、光一が素敵な舞台を整えてくれて、エミヤは楽しい時間をくれた。これではゲームに負けてもいいとすら思える」

 本当にすがすがしい気持ちだ。

 だから今は心から思う。

「みんな、ありがとう!」

 その言葉を言うとともに契約書類(ギアスロール)が飛んでくる。

「こんなにすがすがしい敗北は初めてだ」

「何を言っているんだ? よく読むといい」

「なに?」

 私は先ほどの契約書類(ギアスロール)に目を通すと、そこにはホスト側とプレイヤーの両方の勝ちと書かれていた。

「これはどういうことだ? 全員勝ちなどとは……」

「フッ。聖なる夜なんだ。これくらいの奇跡があってもいいだろう? 君は全力で楽しむことが出来て、私たちも感謝の言葉をもらえた。ならば全員幸せになれるだろう?」

 それではもはやゲームの体などなしていない。

 そういうのは簡単だろう。

 しかし、そんな現実では太刀打ちできないほどの夢が込められた言葉だった。

 聞いたことがあった。

 エミヤは犠牲になる人数をゼロにするという理想のために、犠牲者を出し続けた。

 しかし、そんな諦めを一切することなく走り続けたバカがいるということを。

 どちらかを救えばどちらかが消える。

 しかし両方救わなければクリアできないパラドクスゲームをクリアした男。

 挙句の果てには、千五百万年もの月日を重ねて全てを救った大ばか者のことを。

 確かに、奴ならば互いに勝利する結末を迎えようとするのだろうな。

「さて。互いに勝利を勝ち取ったのだ。景品を受け取らねばな」

「景品?」

「ああ。この空間を消していいぞ、光一」

 その瞬間に、本拠地の中庭に出る。

 そこにはコミュニティの全員が楽しそうに笑ってこっちを見ている。

「さて。俺が最後を勤めさせてもらうが、是非楽しんでくれ」

 いつもどおりの格好をしたバカが自信満々の顔で歩いてくる。

 そして右手を高々と上げると、指を弾きながらこういった。

「――いい夢をここに。俺の煉獄(ゲヘナ)

 パチン。

 瞬間的に世界が変わる。

 見渡す限りの一面の蒼。

 空に浮かぶ雲が、湖の水面に移り、鏡のようになっている。

 どこまでも透明で、どこまでも美しい一つの風景がそこにあった。

「…………」

 言葉を失う。

 それほどの衝撃的な光景だった。

 だって、私は吸血鬼なのだぞ?

 これほど美しい空を見ることが出来る時が来るなんて思ってもいなかったのだ。

「ああ、その服なんだけどな、俺たち全員で作ったんだが、今日が終わるまでの間は、太陽の光の影響を受けないようになっているんだ。だから安心して楽しんでくれ」

 光一がいつの間にか隣に来てそう言う。

 それでも私は。

 言葉にすることが出来ない。

 気づけば私は何故か涙を流していた。

「……ああ。嬉しすぎると涙が出てくるのだな」

 それに対して何も言わずにみんなで空を眺める。

 どれくらいの時間がたったかは分からないが、長い間景色を眺めていた。

 ふと後ろを振り向くと、黒ウサギたちが料理を用意して後ろで待っていた。

「さあ、黒ウサギが手によりをかけて作りましたので、どんどん食べてください♪」

 黒ウサギはそういって笑っている。

 その後も、光一は世界中の美しい景色を作り上げながらパーティーは進み、惜しまれながらも終わってしまった。

 しかし、この日のことは忘れることはないのだろうな。


~レティシア視点終了~


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愚者

おくれてすいませんっ!


~光一視点~

 

 昨日の収益はすばらしかった!

 

 まさか、本拠地に帰る分のお金だけじゃなくて、向こう一月分の生活費まで確保できたんだからな!

 

 まあ、黒ウサギの知り合いが次から次へと来たせいで、黒ウサギがダウンしたから昨日で店を閉めることになったんだけどな。

 

 まあ、他の奴もある程度稼いでくるだろうし、黒ウサギに何かプレゼントするのも悪くない。

 

 そんなことを考えながら、祭りで賑わう大通りを歩く。

 

「ん? 手紙か」

 

 ふと上を見ると、白い手紙が降りてくる。

 

 それを右手を払うように振いキャッチする。

 

 フフ、決まったな。だが、まだ終わりじゃない。

 

 パチン!

 

 肩の高さで指を弾くと、右手にお洒落なペーパーナイフガ握られている。

 

 言うまでもなく、エミヤの投影魔術の劣化コピーで作り出した物だが、ダークでクールなデザインではなく、落ち着いてシックなデザインのものだ。

 

 手紙の封を、作り出したペーパーナイフで開けて手紙を取り出す。

 

 

『 佐藤 光一殿へ。

 

  おぬしに頼みたいことがある。

 

  “サウザンドアイズ”の支店に来て欲しい。

 

  P.S. 格好付けているところ悪いが、その

 

  通りに人はいないぞ?

 

        “サウザンドアイズ”白夜叉より』 

 

 辺りを見渡すと、手紙が降って来る前にはそれなりにいた人達も、全員いつの間にか消えている。

 

 あの人数が一度に別の用事でいなくなるとは思えない。

 

 つまりは何らかのギフトだろう。

 

 そして、それをやって得するのは一人。

 

「……ふむ。太陽神に効くギフトってあったかなあ、近くに丹弓でもあれば見に行ってから向かうとするんだが」

 

 丹弓とは中国神話で九つの太陽を落とした弓だ。劣化コピーだとしても白夜叉にとても良いお灸をすえてくれるだろう。

 

 

 

 

 

     ※※※

 

 

 

 

 

 

「ぜー、流石に、対太陽の、ギフト、まで使って、ぜー、くるのは反則だろう!」

 

 畳の部屋に倒れ伏しながらきっとにらみつけながら言う。

 

 やはり、シェイクスピアのの原稿の一部のギフトがあってよかった。

 

 『明けない夜はない』というギフトの反転コピーで白夜叉をここまで弱らせることが出来るなんて。

 

 白夜叉にかけたギフトの効果が切れて少し経ち、息を整える。

 

 

 やっぱり凄い体力だな。

 

「全く! 白夜の星霊なのだぞ私は! 少し間違っておれば霊核ごと破壊されていたわ!」

 

「予想外に酷いダメージだったんだな」

 

「当たり前だ! 存在の全否定されたレベルのギフトなんだぞ!?」

 

「俺の格好付け(アイデンティティ)を奪っておいて何を言っている!」

 

「馬鹿か? 馬鹿なのかおぬし!」

 

「フッ! 馬鹿は俺にとって褒め言葉だ!」

 

「もはやおんしには何が効くのじゃろうな!」

 

「俺を倒せるのは愛だけさ……」

 

「なるほど、つまりペストに倒れたおぬしにとってペストとは愛だったのじゃな?」

 

「ウィルスが愛って、俺はどんな化け物だよ!?」

 

「化け物ではなく馬鹿者だろうに!」

 

 

 

 

 

 

 

     ※※※

 

 

 

 

「依頼に入るとしよう。馬鹿者」

 

「そうだな白夜の星霊(笑)」

 

 互いに青筋を浮かべながら返事をする。

 

 まさか三十分も言い争うとは思わなかった。

 

「……依頼の内容は、千三百年前の幽霊を見つけることの出来るギフトの作成および譲渡だ」

 

「ん? 何だそれは?」

 

「そこから先は私からお話します」

 

 襖を開けて入ってきたのは銀髪の片腕が義手の男だった。

 

「呼びつけてしまい申し訳ありません。私の名前はベディヴィエール。どうぞよろしくお願いします」

 

 恭しく頭を下げてくる。

 

「ああ、ここに来たのはいいんだが、俺の間違いじゃなければ、ベディヴィエールと言ったら円卓の騎士のうち一人なのか?」

 

「はい。円卓の騎士の末席に身を置いています」

 

 ああ、まさか円卓の騎士と話すことが出来るとは思わなかった。

 

「それが何でまた幽霊を見つけるギフトなんてものを?」

 

 ベディヴィエールは少し目を伏せた。

 

「言いにくいことか。言いたくないなら言わなくていい」

 

「いえ、これは私の罪ですから……。目を逸らしてはいけないのですから」

 

 きつく握り締めた右手が目にはいる。

 

 もはや何も言えることはないだろう。

 

「これを見てください」

 

 ベディヴィエールはそう言って鞘から剣を抜く。

 

 とても青い柄と、黄金の意匠の美しい西洋剣だ。

 

「銘を約束された勝利の剣(エクスカリバー)と言います」

 

「エクスカリバー!? 聖剣といったら一番最初に出てくるような剣だろう!」

 

「ええ、アーサー王の愛剣にして最強の聖剣です」

 

「なんでこんなものを? 湖に投げ込んでなくなったはず……」

 

 ふとそこで気づいた。

 

 エクスカリバーを、湖に投げ込んだのは誰だったのか。

 

「まさか、隠れてその剣を持っていたのか? いや違う。それならばアーサー王を探す意味がない」

 

「つまり、お前は」

 

 俺はもう気づいてしまった。

 

 この、優しそうな男が何を考えてこの剣を所持していたのかを。

 

 円卓の騎士の中でも最古参にして、アーサー王の世話役。

 

「貴方の予想通りだと思います。私は王に死んで欲しくなど無かった。自分のために生きて欲しかった。民を守り続けたあの方だけが笑うことなく死に絶えることなど許せないと浅はかにも思ってしまったのです」

 

「ふざけるな」

 

 この男に怒りしかわかなかった。

 

 強く睨み付けたまま近づく。

 

「そう……ですよね。余りにも愚かな間違いでした。王の考えを疑い、あまつさえその命に、浅ましい考えで背くなど」

 

 拳を振りかぶって殴り、よけるそぶりも無く当った。

 

 吹き飛ぶ気配さえないのは俺が貧弱なのと、コイツが重ねてきた研鑽の証だろう。

 

「誰かに生きて欲しいと言う願い浅ましい! がんばった奴が笑えない未来なんてくそだと思ってやったんだろう! それのどこを恥じているんだ!」

 

「私のせいで王は死ぬ事も出来ずに千三百年以上も彷徨うことに……」

 

「それは確かに間違いだったんだろう! 貴様のせいなのは間違いでは無いだろう! だが、誰かに死んで欲しくないと言う願いが浅はかなどと口が裂けてでも言うなと言っている!」

 

 ベディヴィエールは目を見開く。

 

 そして、ふっと笑みをこぼして言った。

 

「そうですね。私の間違えでした。私は……王にご自分のために生きていて欲しかった。その願いが間違いだったとは言えませんね」

 

「そうだ」 

 

「では依頼の話をしましょう、王に聖剣を返すための手伝いを依頼したいのです」

 

「ではアーサー王を探すとしよう。一つだけ心当たりがあるから、探しに行こう」

 

「やはりおんしなら知っておるか。正直脱帽物だな」

 

 白夜叉があきれたように言う。

 

「まあ、俺だけじゃ無理だから一人探しに行く」

 

「それは誰なのだ?」

 

「エミヤシロウだ」

 

~光一視点終了~




エミヤ「我がカルデアに新しい仲間がやってきたぞ」

光一「脱獄をがんばったら最終的に時間からも脱獄してしまった、頑張り過ぎ系復習者! 巌窟王だ!」

エミヤ「まさか、彼もこんな紹介をされるとは思ってもいなかっただろうに。しかもその為に予備で来るとは」

光一「しかも伝承結晶が四個しかない状況で一つ持っていったからな」

エミヤ「ああ、残りの結晶はマーリンが持っていきそうなんだ」

光一「だからスキルマまでは次のイベントが来るまで」

エミヤ・光一「「待て、しかして希望せよ」」


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アルトリア・ペンドラゴン

~エミヤ視点~

 

 忘れたことのないほどに、今でもはっきりと記憶に残っている女性。

 

 未熟な私と共に戦い続けてくれた元相棒がそこにいた。

 

「さて、もう一度問いましょう。貴方はなぜ私から逃げようとしていたのですか?」

 

「コミュニティの参謀に客人が来ていたのだ。どこの馬の骨とも知れない者がいたら邪魔だろう?」

 

「では、そういうことにしておきましょう」

 

 セイバーは取り乱すことすらなく答える。

 

 ……まいったな。やはり彼女の直感は脅威だな。

 

「それに、客人というのは問題ありません。私は貴方に用があって呼び出してもらったのですから」

 

「それは私個人への依頼ということでいいのか?」

 

「ええ。貴方にしか頼めないことだ。エクスカリバーすら複製する貴方にしか」

 

 瞬間。

 

 度し難いほどの苛立ちに襲われる。

 

 彼女の願い――選定のやり直し。

 

 約束された勝利の剣(エクスカリバー)――彼女にしか抜けぬ聖剣。

 

 ならば、彼女の依頼とは、

 

「君はまだ下らない願いを叶えようとしているのか?」

 

「下らないとはほざいたな、アーチャー」

 

「事実だろう、セイバー。選定のやり直しなどという、全てを救おうとして、全てを蔑ろにしている願いか下らなくてなんだという」

 

 その言葉に対してセイバーは予想外の反応を見せる。

 

 ふっと、怒気を緩めて微笑んだのだ。

 

「貴方は勘違いをしているようだ。聖杯戦争の時の貴方であればその様な勘違いはしなかっただろうに」

 

「何?」

 

「貴方は随分と環境に恵まれているようだ。それでは英霊エミヤと言うより、シロウに近い」

 

「……今の環境に恵まれていることには同意しよう。だが、あの小僧に近いとは心外だな」

 

「事実、貴方は私の現状に気づけなかったでしょう? その戦術眼が曇っている貴方ならば、私は苦もなく打倒出来たはずだ」

 

「…………」

 

 確かにそれを言われると言い返すことはできないな。

 

「考えてみるといい。私は選定をやり直すために世界と契約したと言うことは、聖杯を手に入れる可能性の有る戦いにしか呼ばれない」

 

「ーーつまり願いを捨て去りアヴァロンに到達することでしか今の状態はあり得なと言うことか」

 

 間抜けかオレは。正しく彼女の言う通り。

 

 彼女は願いを叶えなければ世界との契約のもと、永遠に聖杯を巡る戦いに駆り出される。

 

 しかし、それならばおかしいはずだ。

 

「君は何故聖剣を持っている?」

 

 彼女がアヴァロンに至ったのであれば、その最後にベディヴィエール卿によって聖剣エクスカリバーは湖の乙女に返還されていなければならない。

 

「これはいたずら好きの老人が、武器も持たずに来るのは危ないとのことで、そこら辺の聖剣に幻術をかけているだけです」

 

「成る程。花の魔術師による幻覚か。しかし、そこら辺の聖剣とは、随分と恐ろしい話だな」

 

「それをあなたが言いますか」

 

 じとー、とアルトリアが見てくる。

 

 確かに私は聖剣だろうが魔剣だろうが作り出して見せるが……。

 

「いや、その前に一つ問おう」

 

「何故、わざわざ聖剣を模した剣なぞ持ってくる? 自衛手段程度ならば聖剣を模す必要など無いだろう」

 

 私は未だに聖剣にかけられた幻術を見破れないでいるが、それでも彼女の腕ならば並の剣ではあるまい。

 

 そもそも並の剣でもそんじょそこらの者に敗北はあるまい。

 

「ええ。疑問に答えましょう」

 

 一つ頷いてアルトリアは剣の幻術を解いた。

 

 しかしそこに入っていたのは、なんともちぐはぐな剣だった。

 

 柄は拵えたてかのように綺麗だ。これでは百も振るってはいまい。

 

 しかし、刀身は致命的だ。

 

 刃こぼれしすぎてノコギリのようになった刀身に、大きなヒビが走っている。

 

 これでは持っても一撃。

 

「これはとある聖人が所持していた剣なのですが、ここに来てから二週間と経たないうちにここまでやられてしまいました」

 

「随分と強敵だったのだな」

 

「……いえ、私の腕が落ちたのでしょう。強力な聖剣にかまけて腕を磨かなかったツケのようなものです」

 

 彼女は嘆息しながら言う。

 

それに、ここにくるまでに千三百年ほどアヴァロンで過ごしていたので、戦うのも久しぶりだったのですから。もしも私が全盛期ならば一刀の下に切り捨てていた」

 

「まったく。負けず嫌いなところは相変わらずか。だが、聖剣などなおさら必要あるまい。君のことだ、もう既に敵などいないだろう?」

 

「情けない話ですが、今の私とこの剣では太刀打ちできませんでした」

 

 負けず嫌いの彼女が太刀打ちできない者。

 

「ならば期待には答えられんな。確かに聖剣を複製することは出来るだろう。それを君が使いこなすことも出来るだろうし、並大抵の者ならば型落ちした剣でも薙ぎ払えるだろう」

 

 だが、期待には答えられない。

 

「以下に全力を尽くしたところで私は聖剣を複製する負荷に耐えられない。耐えられるほどに格を落とせば今度は君の力に耐えることなど出来まいよ」

 

「ならばその負荷さえ軽減できれば良いのですね?」

 

「そんなことは不可能だ。星の鍛えた聖剣など身に余る。君の鞘を埋め込まれていたのであれば、君の魔力で直す事は出来るだろう。しかし、君はそれをしてしまえばアヴァロンに戻ることは出来まい?」

 

「ええ、そもそも私は鞘を手にしていませんから。ですがこの世界は正しく人外魔境だ。鍛冶の神から恩恵を受ければいい」

 

「ほう。確かにそれならば可能だろう。だが、鍛冶の神に合うなど並大抵のことではあるまい?」

 

「それならば問題ない。私は今、ヘパイストスの代理とゲームをしている。それも、互いにヘパイストスから恩恵が与えられると言うゲームです」

 

「どういうことだ? 神からの恩恵が約束されたゲームだと?」

 

 ギリシャ神話の武具をいくつも作り上げた神の代理人とだと?

 

 有り得ない。

 

 ならば何かを作成するゲームではないのだろうか?

 

「私が参加しているゲームは、彼の神が創り出した盾の破壊です。敵対している相手は壊せる武具の作成を、私は壊せるだけの力を持って叩くというゲームです」

 

「なるほどな。確かに君の聖剣ならば大抵のものは破壊できる。しかし、盾を壊せる武具が壊した後に手に入ったのでは意味が無いだろう?」

 

「なので貴方の力が必要なのです。破壊する盾は妖精卿の壁のレプリカ。盾に固有の世界を内包し、世界ごと引き裂く力でもないと破壊できない盾です」

 

「なるほどな。――私なら可能だ。仮初の世界を展開する宝具なのならば塗りつぶしてし合えばいい。更に、その本体たる盾があったとて、君の力なら容易に破壊できるだろう」

 

「ええ。なので協力をお願いします」

 

「お断りだ」

 

 私は断言する。

 

「君の戦いは君のものだ。いくら部外者に手を借りるのが前提のゲームとはいえ、私がいなければ成り立たぬ戦いに参加するほうが悪い」

 

 空を翔るゲームで空を飛べなくて悪いのは参加者だ。

 

 ならばクリアできないことを嘆くのは筋違いだろう。

 

 

 

「戦いが私のものだと言うことは分かっています。ですが引けないのです。私はヘパイストスから鞘を取り返さなければならないのですから」

 

 

 

 思考が塗りつぶされる。

 

「私がこの世界に来た当日にゲームを申し込まれて、奪われました。|主催者権限を使われてしまえばゲームから逃げる事も出来ませんから」

 

 鞘も無く、生前手に入れた数多の武具は無く、最強の聖剣も無い。

 

 そんな状態で神と戦うことのなんと恐ろしいことか。

 

 私のように自らの心が武器ではなく、自らの研鑽が武器ではなく、あくまでも強力な武具を極めたが故の弊害。

 

 もしも極めたものを奪われてしまえばその戦闘力は見る影も無くなってしまう。

 

 究極の一を極めたが故の欠落だ。

 

「では問おう。君はなぜこの世界にやってきた? アヴァロンにいるのならば、自らの意思や世界からの干渉でもなければ来れないはずだ」

 

「ええ、それは正しい。ですが、かつての部下がこの世界に迷い込んだと聞きました。ならばこなければならないでしょう?」

 

 それは、かつての誰かが言った言葉を真っ向から否定する言葉だったのだろう。

 

 ――王は人の心が分からない。

 

 それがどれだけ的外れだったのか。

 

 彼女はこんなにも人間らしいのに。

 

「ゲームの協力の件、了解しよう。報酬も一つだけというのならば君の鞘を取り返せばいい。だが、ゲームをクリアしたそのあかつきには私と契約を結んでもらおう」

 

「契約とは?」

 

「私とパスを繋いで貰おう」

 

 瞬間。

 

 アルトリアの顔が朱色に染まる。

 

「あ、あのですね、待ってください。パスを繋ぐと言うことは、そういうこと(・・・・・・)でしょう? そ、それでは不貞関係のようなものに……。いや、元は同一人物なので不貞ではない……?」

 

「契約を繋ぐ方法はそれだけではないぞ、たわけ!」

 

 真っ赤になっているむっつり騎士王(アルトリア)をしかりつける。

 

 やれやれ。一つ確実に分かったのは、アルトリアが開放された戦いにおいて、彼女は衛宮士郎と恋仲になり、特殊な魔力供給を行ったということだった。

 

~エミヤ視点終了~

 




光一「ここしばらく更新できず申し訳ない。最近どうにもやる気が出なくてな」

エミヤ「ああ、バカは世界を救えるかなど何年前だと言う話だ」

光一「お前なんか2004年だろう! 十年以上前の奴に言われたくねえよ!」

エミヤ「私は何度もアニメや漫画で再登場しているからな。最近ではスマホのゲームでも大活躍だ」

光一「確かにそうだから言い返せねえ!」

エミヤ「だが、もうそろそろ限界なのだろうな。一つの作品は完璧に終わっているし、もう一つは何度も復活しているとはいえ終わっている作品。最後の一つは二部に移ってから急に刊行が遅くなった作品だ筆が進まなくなったのも分からなくは無い」

光一「……ああ。思えば長く走り続けたような気がするな。気づけば五年。そろそろ足を止めてもいいころなのかもな」

エミヤ「ああ。また書く気力が戻ってきたときに帰ってくればいいさ」

光一「不定期更新なのか、これで終わりなのかは分からないが、本編だけはいつでも続きを始められるようになっているけれど、前と同じにはならないだろうな」

エミヤ「ああ。では、続きはまた出会えた時にしようか。生きているかどうかはFGOでフレンドになった人は分かるだろうからな」

光一「ああ。この作品のことは覚えていなくてもいい。だけど、こんなのもあったと思い出してくれれば幸いだ」

エミヤ「では、また幕が上がる日に会おう!」







































































光一「ちなみに今日は何月何日でしょうか? まだまだ続くぜ!」


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あいつはどこに行ったんだろうなあ

~光一視点~

 

「全く。あいつはどこに行ったんだかなあ」

 

「すみません。面倒なことを頼んでしまって」

 

 エミヤを探し始めたはいいものの、見つからずに既に二時間。

 

 携帯電話の便利さを改めて実感していた。

 

「サラマンドラからも出てったって言われたし、黒ウサギたちに聞いてみても知らならしいしなあ」

 

「ですが、気になることが一つありましたね。金髪の聖剣を持った少女とはどなただったのでしょうか?」

 

「レティシアも金髪だけど、聖剣なんて持ったら自滅しちまうしなあ」

 

「魔に属する方が身内におられるのですか?」

 

「ああ。それも元魔王で、今はメイドやってくれてる」

 

「元魔王を家令にしておられるのですか!?」

 

 ベディヴィエールは素直に驚いている。

 

 確かによくよく考えたらおかしな状況だよなぁ。

 

「ああ、吸血鬼なんだが、子供たちの面倒をよく見てくれている」

 

「……あなたたちはいったい何者なのでしょうか?」

 

「フッ! 俺は五十六億の世界と少女を救ったクールでダークにして、天使と悪魔の力を操った大英雄だ!」

 

「いえ、貴方だけでなく……って、五十六億の世界ってどういうことですか!?」

 

「フッ、並行世界を飛び回って、世界を滅ぼす奇跡の修復と、その奇跡の引き金のために生まれた少女を、指ぱっちん一つで解決してきたのさ!」

 

「それは凄い! 大英雄に恥じない活躍ですね!」

 

「そうだろう。そうだろう」

 

 なぜだろう。

 

 すごい、子分ができたような感覚だ。

 

 いつもなら貶されるような状況で素直に称賛してくれるのは嬉しい。嬉しいのだが。

 

 何かが物足りない。

 

 そこまで考えて理解した。

 

 「突込みって大事だなあ」

 

 そうしみじみと思っていると、ふと見覚えのある人影を見つける。

 

 不機嫌そうな顔で部下に指示を出して素材を取りにいかせたり、資材の買い出しと整理を頼んでいるのを見ると、以前までとは大分変っているのが分かる。

 

「おーい。久しぶりだな」

 

「なんだこの忙しい時に……ってお前はノーネームの!」

 

「おお、久しぶり。随分とリーダーっぽくなっているじゃないか」

 

「僕は元からペルセウスのリーダーだ!」

 

 そう言ってさらに不機嫌そうになるルイオス。

 

 しかし、今の格好を見ると、以前までとは打って変わって真面目に働いているようだ。

 

 自分のコミュニティの解散の危機に瀕しているということも分からずにちゃらちゃらしていた奴にはとても見えない。

 

 そう。例えるのならば。

 

「高校までやんちゃしていたヤンキーが、社会に出てガテン系の仕事についているみたいだな」

 

「喧嘩を売っているんだよな? 安く買ってやるからかかってこい!」

 

 さらにキレていた。

 

「いやあ、喧嘩なんて売らねえよ。ただ、つなぎを着ている姿がどうにもそう見えてなあ」

 

「それで本当に喧嘩を売っていないというのかお前は!?」

 

 あまりにもキレすぎてハルペーを取り出した時点で、側近の部下に止められてようやく止まる。

 

「で、何の用できた? 僕はこれでも忙しいんだけど?」

 

「ああ、うちのガングロ白髪見なかったか?」

 

「ああ、ゲームに参加していた彼か……なるほど」

 

 ルイオスは数秒考えたのちに今までと打って変わって満面の笑みになる。

 

「条件次第ではうちの人員を割いて探してやってもいい」

 

「条件? なんだそれは」

 

「僕たちは今、へパイストスのゲームに参加していてね。そのゲームのクリアに協力してもらいたい」

 

「えーっと。へパイストスというと、ギリシャ神話の鍛冶神だっけか。俺は剣は打てないぞ。それこそエミヤに頼んだほうがいいだろう」

 

「いや、何かを作るだけのゲームではないんだ。これは暴走して壊せなくなった盾を壊すゲームだ。だからそれに力を貸してもらうだけでいい」

 

「嫌だ。自分達で探す」

 

「そうかそうかじゃあ、この剣にギフトを……って断るのか!」

 

「おお、綺麗なノリ突込み」

 

「うるさい! 君のあのわけの分からないギフトなら簡単だろう!?」

 

「六十年前ならともかく今はそんな強い攻撃できないんだよ!」

 

「六十年!? お前は人間じゃないのかよ!」

 

「今はクールでダークな人間さ」

 

「お前のどこがクールだ!」

 

 いい反応を返してくるな。

 

「じゃあ、そこの銀髪のお前はどうだ? 相当強い霊格のギフトを持っているじゃないか」

 

「俺か?」

 

「黙れ若白髪。そこの義手つけてるやつだよ」

 

「これは白髪じゃ「私ですか?」

 

 俺のの言葉をナチュラルに遮ってベディヴィエールが言う

 

「ああ、そうだよ。その聖剣なら壊せるかもしれないからな」

 

「確かにこの剣ならば断てぬ物など無いでしょうが……」

 

 ベディヴィエールは目を伏せて黙り込む。

 

 確かにエクスカリバーだからなあ。

 

 大概のものは切り裂けるだろうが、何か嫌なことでもあるのか?

 

 そこでふと思い至る。

 

「なあ、ペルセウスって箱庭の外の世界で千三百年間彷徨っている幽霊を見つけることはできるか?」

 

「はあ? 不可能に決まっているだろう。この世界から出入りするだけでも大変なのに、そこからさらにそんな居るかも分からないような幽霊を探すなんて雲を掴むような物だろう」

 

「居ます。我が王が消えているなど有り得ない」

 

 ベディヴィエールが睨みつけるように言う。

 

 ルイオスはそれに一瞬のまれて身動きが出来なくなる。

 

 流石は名高き円卓の騎士といったところだな。

 

「はぁ。二人とも戦闘態勢を解け。ベディヴィエールもルイオスもそれ以上やるなら別の場所に移せ」

 

 俺がそういうと二人とも戦闘態勢を解く。

 

「……すみません。熱くなってしまいました」

 

「ちゃんと手綱を握っておいてくれ。ひやひやしたじゃないか」

 

 ベディヴィエールが誤り、ルイオスが不満げな声尾を漏らす。

 

「……一つ忠告をしておくと、さっきの願いをかなえたいのならばクイーン・ハロウィンにでも会いに行くんだな。ああ、今、白夜叉のところにその縁者が居るはずだ」

 

 ベディヴィエールが目を見開く。

 

「ありがとうございます。ですが何故、貴方を殺しかけた私にそれを教えていただけたのでしょうか?」

 

「そこの馬鹿白髪に借りがあったからな。それを返してやっただけだ」

 

「誰が馬鹿白髪だ! せめて馬鹿シルバーと言え!」

 

「髪の色の前に馬鹿を訂正しろ! ……全く。僕も焼きが回ったもんだ」

 

 ボリボリと頭を掻きながらルイオスは、無駄な時間を過ごしたと呟いている。

 

「お前の昔の伝手でサウザンドアイズに話をつけられないか?」

 

「ハッ! お断りだね。リスクとリターンが見合わない。大赤字だ。それこそ、そいつの聖剣でも貰わなきゃ割に合わない」

 

「なら、俺がギフトをやろう。ゲームもクリアしてやる。それでどうだ?」

 

「ふうん。なんのギフトだ?」

 

「条件次第では役に立つというものしか作れないが、対・風、対・炎、対・太陽なんかのギフトを一つでどうだ?」

 

「対・太陽だと?」

 

「ああ、さっき白夜叉に試したが結構効いてはいたぞ? まあ、それだけで倒せるほどじゃなかったんだが……」

 

「それで手を打とう」

 

 ルイオスが即答する。

 

「そんな簡単に決めていいのかよ?」

 

「当たり前だ。主神の殆どが太陽神のこの世界で、太陽に対抗するギフトだと? それさえあれば取引としては悪くない。こっちもクイーンハロウィン相手に支払う対価を渡してもおつりがくるくらいだ」

 

「そんなもんなのか。だが、これで商談成立だ」

 

 俺がそういうと、ベディヴィエールが口を開く。

 

「そんな強力なものを渡してもいいのですか?」

 

「ああ、効果が限定的で、俺たちの仲間に太陽に関する者はいないし、白夜叉なら一時的に弱体化する程度だ。それに、太陽神が暴れた時に止められる奴もいたほうがいいだろう?」

 

「それはそうですが……。私がそれに見合うだけのものを返せない」

 

「そんなもん知るか。俺が助けるといったら助けるんだ。――俺は約束を守る男だからな」

 

「話は纏まったみたいだね。それじゃあ、ゲームを始めよう。ついてきてくれ」

 

 俺とベディヴィエールはルイオスの後についていった。

 

 

~光一視点終了~





エミヤ「エイプリルフールで更新が不定期になると言った影響で読者がいなくなるかもと思って連続投降した馬鹿がいるぞ」

光一「そのために書き溜めるとか本当に馬鹿だよな」

エミヤ「まあ、それはそうとしてだ。しばらくはこのコーナーは休みだな。佐藤光一」

光一「ああ、互いに譲れないのだから遠慮する必要はないだろう?」

エミヤ「府抜けたた結末にならんようにせいぜい頑張るといい」

光一「おまえこそ瞬殺されないようにな」

エミヤ「それでは戦う時を楽しみにしておこう」


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無限の剣製

~エミヤ視点~

 

「なっ! 何でお前がここにいるんだ!」

 

 件の盾が置いてある場所に向かうと、そこには、光一とルイオスと後の一人は銀色の騎士だった。

 

「いや、お前こそなぜここにいる」

 

「俺は、ベディヴィエールがアーサー王を探す手伝いをする為に、ペルセウスのゲームに参加することになってな」

 

「ほう。ならばちょうどいい。ゲームを降りろ」

 

「何?」

 

「アーサー王はここにいる」

 

「呼びましたか? アーチャー。っ!」

 

「我が……王?」

 

「久しぶりですね、ベディヴィエール卿」

 

 アルトリアがそう呼びかけると、ベディヴィエールは片膝を着き、頭を垂れた。

 

「……長らく、お待たせしました」

 

「何を言っている、ベディヴィエール卿。貴方が私を待たせることなど有っただろうか?」

 

「千三百年もの間、私は貴方の命を果たせなかった。貴方の信頼を裏切り、聖剣を返すことが出来なかったのですから」

 

「何を言っているのだ。聖剣はそなたが泉に返してくれたではないか」

 

 どうにも噛み合わない会話を続ける主従に、私だけが状況を理解していた。

 

「ベディヴィエール卿。そこにいるアーサー王は君の王ではない」

 

「どういうことですか?」

 

 顔を上げて即座に聞き返す。

 

「ああ、ここにいるアーサー王は平行世界のアーサー王だ。君が聖剣を返せなかったことで死にきる事が出来なかったアーサー王ではない」

 

「つまり、私はまだ旅を続けるしかないのですね……」

 

 ベディヴィエールは目に見えて落胆する。

 

「しかも、ここで二人に抜けられたら、僕の都合はどうなる。君たちに負けたおかげで、こっちはいろいろ大変なんだ」

 

「お前のは自業自得だろう」

 

「余計な茶々を入れるなルイオス、光一」

 

「はっ、この箱庭について随分と素人のようだから教えてあげようとしている僕に、随分と辛辣だね」

 

「なんだと? 君にそんな知識があるとは思えないのだが」

 

「どれだけ馬鹿にしているんだ! ……まあいい。アーサー王は聖剣を湖に返した後の世界から召還され、ベディヴィエールは聖剣を返すことが出来ずに終えた世界なのだろう。それなのに、君はいつまでも別の王に頭を垂れ続けるのかい?」

 

「それは……」

 

「随分な挑発ではないか、ペルセウス。流石、私の鞘を盗んだ神に使えているだけある」

 

「へえ、聖剣も鞘も他の武器も何一つ持たない王に何を言われても怖くは無いな」

 

「やめろルイオス。それにアーサー王も。落ち着け」

 

 今にもここで戦いに発展しそうな場を、光一がとっさに止めに入る。

 

「とりあえず、そっちの目的は何だ? こっちは、ベディヴィエールの探してるほうのアーサー王にコイツを合わせるために、ペルセウスからサウザンドアイズに頼んでもらおうと思ってな。その代わりにこのギフトゲームに協力している」

 

「なるほど。こっちはヘパイストスに奪われた聖剣の鞘を、このゲームに買ったら返してもらえるらしいのでな。アーサー王に協力している」

 

「譲る気は?」

 

「無い」

 

「そうか」

 

 そう言って私と光一は同時に踵を返して、仲間の元に向かう。

 

 そして、私はアルトリアに、光一はルイオスとベディヴィエールに話しかける。

 

「かつての仲間と、元は同じ存在だがやってくれるか?」

 

「ええ。こちらからお願いしたことですから。貴方のほうこそ、彼は仲間なのでしょう?」

 

「このゲームでは命まではかけまい。せいぜい動けなくでもしてやるさ」

 

 そう言ってから光一のほうを見る。

 

 すると、向こうも作戦でも組んだのか、全員臨戦態勢だ。

 

「では、全霊でお相手しよう」

 

「ああ、かかって来い。俺は約束を守る男だから、俺達はお前に負けない」

 

「ほざけ!」

 

 私の掛け声と共に私は弓を投影し、三連射する。

 

 狙うのは光一の眉間、心臓、右手だ。

 

 それを弾いたのはルイオス。

 

 取り出していた炎の弓でこちらと同じく三連射することで打ち落とす。

 

「ほう、随分と錬度を上げたではないか」

 

「僕も、この前みたいな醜態は晒すわけには行かなくてね!」

 

 そう言いながら更に八連射。

 

 ルイオスがとっさに反応して五連射し、見事に矢を弾くが、三つは光一の下へ走る。

 

「頼んだ、ベディヴィエール!」

 

「分かりました」

 

 早い。

 

 私の矢に神速の体捌きで持って踏み込み、矢を弾く。

 

 しかし私も一人ではない。

 

 私の矢に追従する形で飛び出していたアルトリアが、矢を弾くことで無防備になっていたベディヴィエールにむけ剣を振りかぶる。

 

「甘い! 天空隆起!」

 

 パチン!

 

 光一が指を弾くと同時にアルトリアがいる地面が消失する。

 

「こんなもので私を止められるか!」

 

 アルトリアは剣から、膨大な魔力を放出することにより、足場が無い状態でなお踏み込む。

 

 しかし、速度ではベディヴィエールのほうが上だ。

 

 アルトリアの攻撃に対して一歩下がることにより、剣戟をやり過ごす。

 

 更にその隙に私はベディヴィエールの死角から矢を放っている。

 

 直感によりアルトリアは、ベディヴィエールの前から体を逸らして回避、残されたベディヴィエールは突如として現れた矢に反応することが出来ない。

 

「僕のことをもう忘れたのかい?」

 

 すると、どこからか声が聞こえ、飛翔していた矢が全て叩き落とされる。

 

 ハデスの兜のオリジナルか。

 

 厄介な。

 

 サーヴァントとして召還されたのならば、その兜だけでアサシンのクラスに適正を得られるのだろう。

 

 しかし、アルトリアの前では意味をなさない。

 

 並外れた直感を持って、不可視のルイオスに対して突撃し剣を振るう。

 

「残念、外れだ。それは僕じゃない!」

 

 声は既に上空から聞こえる。

 

 その声に反応して上空を見ると、既に空は炎の矢で埋め尽くされている。

 

裏腹海月(トランスペアレント)身代わり(ドッペルゲンガー)だ。さらに全方位射撃(アハトアハト)!」

 

 光一は、BB弾ほどの玉が現れてアルトリアに向かって放つ。

 

「君たちは分かっていないな。アーサー王はそんな程度では止まらない」

 

 大量の炎の矢も、光一のBB弾もアルトリアの対魔力を突き破ることは出来ずに霧散した。

 

「ええ、知っています!」

 

 しかしそれを理解しているのが一人。

 

 ベディヴィエールがアルトリアに剣を振るい打ち合う。

 

「後ろががら空きだ!」

 

「攻撃する前に声をかける馬鹿がどこにいる」

 

 私の後ろから切りかかって来ていたであろうルイオスには、あらかじめ空に放っていた矢が降り注いだことにより撃退する。

 

(シュトロム)!」

 

 パチン!

 

 光一が指を弾くと同時に、風が吹き荒れて空に放っていた矢の起動が変わり、アルトリアとベディヴィエールが打ち合っている空間に逸れる。

 

 それを見たベディヴィエールとアルトリアが弾かれるようにして距離をとり、矢をかわす。

 

 そして、ルイオスが光一のそばで姿を現して、全員が始まった時の位置に戻った。

 

 全員無傷だ。

 

 しかし、消耗が激しいのは向こうだ。

 

 ルイオスは今の打ち合いで相当縦横無尽に動き回り、ベディヴィエールは格上の相手に、僅かに勝る速度で以て食らいついている状況だ。

 

 対してこちらは私が魔力を少しだけ消耗し、アルトリアなどは竜の心臓によって魔力は完全回復し、体力に底など見えない。

 

 ふむ。

 

 戦力的にはこちらが優勢。

 

 アルトリアを十とすると、私が八で、ベディヴィエールが七、ルイオスが六、光一が三だろう。

 

 しかし光一が上手くサポートに回ることで厄介さが増すことにより殆ど互角の状況まで持って来ている。

 

「アルトリア。やはり光一から倒そう」

 

「銀髪の少年ですね。分かりました」

 

「ああ、最も光一は君より遥かに長生きだがな」

 

「随分と可笑しな人みたいですね」

 

「ああ、全くだ」

 

 軽口を叩きながら作戦を組み立てる。

 

 恐らく向こうは光一が要だ。

 

 光一がいなければ順当にこちらが勝つ。

 

 作戦が思いつく。

 

「アルトリア、私が世界を展開する。その後は手はず通りだ」

 

「分かりました。私が時間を稼ぎましょう」

 

「ああ。――体は剣で出来ている(I am the bone of my sword. )

 

 私は世界に埋没する。

 

 私が詠唱を始めたのを聞いて、ルイオスがまた姿を消し、ベディヴィエールがアルトリアに向かい疾走し、光一が指を弾く。

 

 まずベディヴィエールが魔力放出により、膂力の上がった剣に弾き飛ばされる。

 

血潮は鉄で、心は硝子(Steel is my body, and fire is my blood. )

 

 姿を消したルイオスだがアルトリアの直感によって振るわれた剣で以て地面に叩きつけられる音が聞こえる。

 

幾たびの戦場を越えて不敗(I have created over a thousand blades. )

 

 劣化異能の連打を私に放っていた光一が、出来損ないもろとも弾き飛ばされる。

 

ただの一度も敗走はなく(Unknown to Death. )

 

 その間に吹き飛ばされていたベディヴィエールとルイオスが同時にアルトリアへ突撃したのが聞こえる。

 

ただの一度も理解されない(Nor known to Life. )

 

 威力に負けて何度も体を流されているようだが、今度は二人で協力することにより隙を消している。

 

彼の者は常に独り剣の丘で勝利に酔う(Have withstood pain to create many weapons. )

 

 しかし、拮抗では私を止められない。

 

 二人が時間を稼いでいる隙に光一が指を弾く。

 

 それを、アルトリアが足元の小石を蹴り飛ばすことで弾く。

 

故に、その生涯に意味はなく(Yet, those hands will never hold anything. )

 

 異能が弾かれたのを見て、光一は褐色の錆びた液体を手から滴らせながらアルトリアに突っ込む。

 

 それを察して騎士二人が全力で剣を振るい、アルトリアの剣を弾く。

 

 アルトリアは追撃がこないように一歩後退するが、何かのギフトを使ったのだろうか、光一のほうが早く、その剣に触れる。

 

「腐り落ちろ! 腐食神話(ナイタール)!」

 

 光一の発動した能力が、元々壊れかけていたアルトリアの剣を破壊する。

 

 無機物を腐らせ破壊する能力と言ったところか。

 

 武器を失ったアルトリアの横をすり抜けて来ていたベディヴィエールに対してアルトリアが体ごと突撃して吹き飛ばし、その硬直にルイオスが攻撃を加えたのだろう。

 

 アルトリアの小手が高い金属音を立てる。

 

「間、に、合えぇぇぇぇっーーーー!」

 

 光一が私の上に跳躍して指を弾k、そこからビームのようなものが放たれる。

 

 ――しかしこちらが先だ。

 

 

 

 

 

その体は、きっと剣で出来ていた(So as I pray, UNLIMITED BLADE WORKS. )

 

 

 

 

 

 走る炎。

 

 そこは既に異界。

 

 私の世界。

 

「さあ、投降するのなら今のうちだぞ?」

 

 そう言って私は、彼女とパスを繋いだ事により投影できるようになった、聖剣の型落ち品をアルトリアに渡す。

 

「究極の一を振るう彼女に、無限の剣の世界があるのだ。もはやお前たちに勝ち目など無い」

 

~エミヤ視点終了~

 

 




『後書きコーナー 臨時休業中』


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剣の丘と馬鹿

~光一視点~

 

「コレがお前のギフト……。お前の魔術か!」

 

 赤く染まった、生命の気配など無い剣の丘。

 

 こんなものがこいつの心なのか。

 

 前にエミヤは俺達に自らの魔術について説明してくれたことがある。

 

 固有結界(リアリティ・マーブル)と呼ばれる、自らの心を形にして世界を塗りつぶし、世界を自らの色で塗りつぶす魔術。

 

 実際に見るのは初めてだが、一目見ただけで分かる。

 

 ――こいつは馬鹿だ。

 

「見栄えのいいものではないが、今回のゲームには適している。世界を内包した盾であろうとも、塗りつぶしてしまえば頑丈なだけの盾だ。彼女に壊せないはずなど無い」

 

 エミヤは平然と言う。

 

 俺にはそれが我慢ならない。

 

「ベディヴィエール、ルイオス。少し無茶をする。手を貸してくれ」

 

「何か策でもあるのか? 正直、こんなものを見せられて勝ちを拾えるとは思えないぞ?」

 

「無い」

 

 ルイオスは即答する俺に、少しだけ驚きながらも不適な笑みをした。

 

「じゃあ、頑張るしかないか。ほら、ベディヴィエール卿だっけ? 呆けてないで剣を構えろよ」

 

「え、えっと。アーサー王一人に手も足も出なかった私達だけで倒すというのですか?」

 

「くっくっく。何を言っているんだ。君はこの程度のことも乗り越えられないで、幽霊になった王と会いたいと言うのかい? そんなへたれが願いを叶えるなんて、何べん人生をやり直しても無理さ、諦めたほうが良い」

 

 そういってルイオスは兜を被りなおして、姿を消す。

 

『ああ、君達には言っていなかったがアルゴールはもう使えないから、僕は前よりも戦力が落ちている。それでも勝てると言うのなら覆して見せろ、円卓の騎士、佐藤光一!』

 

 もはやどこから声が聞こえてくるかも分からないほど完璧に消えたルイオスが言う。

 

 前に比べて随分と逞しくなったもんだ。

 

 何があったのかは分からないが、前よりも手ごわくなったのは間違いなさそうだ。

 

「ベディヴィエール。アーサー王を完全に封じ込めてくれ。俺じゃあ話にならないからな。頼んだぞ」

 

「待ってください! 固有結界は魔術師の最奥の一つ! それに最強の聖剣使いまでいるのですよ! どうして会って一日も経っていない人の為に仲間割れまでして戦うんですか! それにルイオスさんなんてゲームをあきらめれば良いだけじゃないですか!」

 

「ルイオスがああなった原因なんて欠片も知らん。だが、俺の理由は唯一つ! 俺が約束を守る男だからだ!」

 

 それだけ言って、俺はエミヤの元へ走る。

 

「やはりお前が来たか。確かに戦力差的には間違っていない」

 

 エミヤは不敵な笑みを浮かべながら片手を上げる。

 

「――だが、相手が悪い」

 

 その瞬間に、剣の丘のいたる所から剣が持ち上がり、俺を囲む。

 

 ああ、相手が悪いのは分かってる。

 

 俺じゃエミヤと真っ向勝負して勝てる可能性など無いだろう。

 

 純粋に技量も出力も負けているのだから。

 

 だからと言ってアーサー王相手に、俺たちの中の一人だけを向かわせるのも論外だ。

 

 これまでの戦いで分かる。

 

 

 アーサー王はぼろぼろの剣を振るい続けていたが故に全力を出せず、それ故に拮抗できていたことなんて分かっているからだ。

 

 元々相手が一人だとしても三人でかからねば勝ちなど拾えないような戦力差をどうやって覆せばいいのかなんてわからない。

 

 それでも俺は走る。

 

 ガキンッ! ガキンッ!

 

 後ろでは既にルイオスがアーサー王と打ち合っている。

 

「では少しの間寝ていてもらおう!」

 

 エミヤが上げていた手を振り下ろす。

 

 その瞬間に数えるのも億劫になるほどの剣が俺に降り注ぐ。

 

 パチン!

 

「お菓子を寄越せ! 『魔女(ハロウィン)』」

 

 その瞬間に俺の左腕が爆散する。

 

 しかし、効果は絶大だ。

 

 異常なまでに強化された身体能力で降り注ぐ剣を全て回避しきる。

 

「お前の能力に代償は要らないはずではなかったのか!」

 

「何事にも例外があるんだよ! もともと、天使もどきの奴がくれたのは、『蝋の翼の救世主(ボーンヘッドブレイバー)』の代償用のものだから、余りにもでかい代償が来ると、一時的に追いつかなくなるんだよ!」

 

 エミヤの剣を避けきりながら、左腕の止血を終わらせる。

 

 実際、代償が大きすぎて追いつかなくなるのは、もともと代償が大きい能力を、更に超えるほどに性能を伸ばしたときだけだ。

 

 箱庭に来てからどこまで大丈夫かを探っていたから間違いない。

 

 その中でも『魔女(ハロウィン)』だけは格別だ。

 

 俺の能力で性能を伸ばそうとするのなら代償はとてつもなく大きくなる。

 

 分相応を超えるものを使うに足りる代償なんて、俺は自分の体しか持っていないんだから。

 

「更にもう一つ! 『怪物(ジャガーノート)』!」

 

 パチンッ!

 

 自らを不滅の怪物に変えるギフトの、今回伸ばしたのは力。

 

 何度滅ぼされようとも回復する力は無く、触椀を増やすことも出来ないが、唯単純な力を伸ばした。

 

 これが今の俺に出来る最大出力の肉体強化だ!

 

「ふキとべェェェぇ!」

 

 瞬時に距離をつめて、残っている右手を振りかぶる。

 

「戯けが。全て終わった後に起こしてやる」

 

 エミヤがそういった後、馬鹿でかい岩のような剣を振るった姿だけ目に捉えて、俺は意識を失った。

 

~光一視点終了~




 ルイオスは十六夜に負けて光一に助けられた後、真面目に修行して強くなり、部下のまとめ方を学ぶなど、今ではコミュニティの同士からわりと慕われていたりとかします。


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ルイオス・ペルセウス

~ルイオス視点~

 

「君達の負けだと思うのだが、まだ続けるかね?」

 

 ある程度拮抗していたはずの状況はもう既に崩れた。

 

 ベディヴィエールじゃあ、アーサー王には勝てないし、認めたくは無いが僕ではエミヤには勝てない。

 

 しかし戦う相手を逆にしたところで、勝敗なんて決まってる。

 

 ハデスの兜はアーサー王には通じないし、ベディヴィエールではエミヤの遠距離攻撃に耐えられない。

 

「まあ、勝敗は決しただろうさ。だけど、これでもリーダーなんてやってるんだから負けられないんだよ!」

 

 姿を隠したままヘルメスの靴で空を翔る。

 

 そのとき見たのは、無限とも思える剣がひとりでに浮き上がってくる光景。

 

「まずい! さっさと避けろ馬鹿!」

 

 無差別に降り注ぐ剣の雨にを避けながらベディヴィエールの本へ向かう。

 

 しかし、とっさに声を出してしまったせいで、おおよその位置がつかまれてしまい集中砲火を受ける。

 

 それを何とか弾きながらベディヴィエールをつかんで空を飛ぶ。

 

「くそ、部外者には渡したくは無かったけどしょうがない。これを被れ!」

 

 そう言って兜無理やり被らせる。

 

「いいか? 僕たちじゃあこのままだと勝ち目が無い。だけど馬鹿白髪が起きてくれればまだ分からない」

 

「ええ、三人いても正直足りない気はしますが、今よりも状況が好転することは間違いないでしょう」

 

「違う! 勝利条件としてはお前と光一が起きていれば勝ち目はあるが、僕がいたところで勝利条件は満たせない。だから、お前はハデスの兜を持って光一を回収しろ。あいつが目覚めるまで僕が時間を稼ぐ」

 

「それでは貴方が!」

 

「うるさい。お前はまず王様とやらと全力で戦えるようになってから言え!」

 

 それだけ言って、光一の近くにベディヴィエールを落として、兜を外す。

 

「なんだ鬼ごっこはもう終わりか?」

 

「子供の遊びはもう飽きてね」

 

「では神魔の遊戯(大人の遊び)をするとしよう」

 

「うわ、変態だな」

 

「目隠しプレイ好きよりはマシだろう?」

 

「どちらも大差ないですよ。それと――」

 

 アーサー王がそういうと同時に全身から力が吹き出ているのが見える。

 

「この私を相手にして勝てるとでも?」

 

 他の奴が言ったんならばかな奴だと笑うだろうセリフも、アーサー王なら良く映える。

 

「ハッ! 戦いに勝つのは確かにそっちだろう。だが、ゲームに勝つのはこっちだ!」

 

 そう良いながら僕はこの世界に飲み込まれた盾に炎の矢を連続で放つ。

 

 しかし、その全てがこの世界の剣軍に阻まれて霧散する。

 

「狙いが甘い!」

 

 その声に振り向くと目の前には既にアーサー王。

 

 

 とっさにハルペーでガードするがこんなものでは足りない。

 

 かわいらしい見た目とは裏腹に、龍に薙ぎ払われたかのような錯覚を受ける一撃に僕の体はたやすく吹き飛んでいく。

 

 さらに、吹き飛んだ先にあるのは突き立てられた剣、剣、剣。

 

 触れれば両断されるであろう障害物をヘルメスの靴で方向を変えることによって回避する。

 

「ああ、下だけでなく上も見るといい」

 

 吹き飛ばされている最中にもかかわらず何故か明瞭に聞こえる声につられて上を見れば、僕が姿を現した時に止んでいたはずの剣の雨。

 

 吹き飛ばされることへの抵抗は既に止めて、剣に当たらない位置をスレスレで吹き飛ばされるように集中して制御し、その隙に炎の矢で出来うる限り剣を打ち落とす。

 

 うちもらしはギフトカードにしまってあった鏡の盾によって防ぐ。

 

「くそ! お返しだ!」

 

 僕は兜を被り、姿を消した上で空中から近づき矢を放つ。

 

「温い!」

 

 剣の雨が矢を打ち落とし、僕の逃げ道をなくす。

 

 ハデスの兜の正攻法はこれだ。

 

 ノーネームとの戦いで使われたと言う音響探知機(ソナー)

 

 つまるところ、透明になり、無音になり、あらゆるギフトによる探知を無効化したところで、物質は透過できない。

 

 つまり、回避できないくらいの範囲と密度で攻撃すれば落ちるのだ。

 

 しかし対策は有る。

 

 僕は降り注ぐ剣に合わせて急降下して地面を叩き砂埃を上げる。

 

 これならおおよその位置は分かっても一瞬だけ姿を眩ませる事が出来る。

 

 その一瞬の隙にかつてならアルゴールを召還して終わりだったが、今出来ることは炎の屋を連続で放ち、牽制する。

 

「それは無駄な足掻きだ、ルイオス!」

 

 炎の矢を物ともせずにアーサー王の突撃が来る。

 

「ああ、知ってたさ!」

 

 地上にいるのならそこは騎士王とまで呼ばれた彼女の領域。

 

 なればこそ僕は罠を仕掛けた。

 

 逆袈裟に振るわれる剣に対して、前に出ながら身スリルの盾で防ぎ、そのまま上空に吹き飛ばされながらハルペーでアーサー王の腋の下に刃を入れる。

 

 しかしそれは完全に回避される。

 

「はあ、はあ、くそ。未来視のギフトとか反則だろう!」

 

「いえ、私はそんなものは持っていないですが、感が良いんです。しかし、これからベディヴィエール卿とも戦わなければいけない。ここで終わりにさせてもらおう」

 

「ああ、君が消えれば嫌がおうにも出てこなければならないだろうからな。――ではさらばだ」

 

 剣を構える騎士王、浮かぶ剣軍。

 

 はあ、はあ、はあ、ふー。

 

 息を整えて脅威を全て目視する。

 

 ……これは流石に無理か。

 

 それでも挫けそうになる足に力を込める。

 

「ま、け、る、かぁー!!」

 

 全力で吼えながら騎士王に突撃してハルペーを振るう。

 

「その気概、お見事でした」

 

 全力の一撃を容易く防がれながら剣軍が降り注ぐのをみて、僕の意識は途切れた。

 

~ルイオス視点~

 



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まあ、慣れているがね

~エミヤ視点~

 

「ベディヴィエール卿。貴方はいつまで逃げ回るつもりですか?」

 

 ルイオスを撃破して、残るはベディヴィエールだけとなった時に、セイバーが口を開いた。

 

 正直な話、私もセイバーもこのゲームの勝利条件は既に満たしているのだ。

 

 故に、本来ならば出てこないと言うのならそれまでなのだ。

 

 それでもセイバーがベディヴィエールに呼びかけたのは、平行世界の存在とはいえども、最後まで共に戦場を駆け抜けたか部下でもあるのもあるだろうし、そもそもこんな戦いで彼女は彼らに勝利したく無かったからだろう。

 

 光一のことだ、このゲームの謎にすら既に気づいた上でこの戦いを仕組んだことも間違いない。

 

 つまるところ、この戦いにおいて主役は私ではないし、ルイオスでも光一でもない。

 

 唯二人だけの主役の為に、鍛冶の神が作り上げたゲームを利用しているのだ。

 

 そのはずが、主役の一人はこの戦いにおいて一度たりともセイバーを本気で攻撃していない。

 

 余り強力な逸話の無いベディヴィエールという騎士が、どれだけ全力を振り絞ろうと、アーサー王が自らの剣すら持っていなかろうとも、アーサー王に勝利することは出来ないにも関わらずだ。

 

「余り嘗めないでいただこう、ベディヴィエール卿。貴方がその剣を持っていると言うことは、貴方の世界の私はまだ死んでいないのでしょう? 自惚れかも知れませんが、貴方はそれをどうにかしたいのでしょう? ならば何故姿形が似ているだけの他人に遠慮しているのですか! 私の世界の貴方ならばそんな不忠などしない!」

 

「王よ、気づいておられたのですね。私の罪を」

 

 そう言いながら、ベディヴィエール卿が姿を見せる。その背中には倒れていた光一が背負われている。

 

「その腕をみれば分かります。いえ、正確にはその剣をですが」

 

「ならば王よ、気づいておられるはずだ。私は最後の最後で私は貴方を裏切ったのだと。――貴方の最後の命を果たさなかったことを!」

 

 ベディヴィエールが、その端整な顔に後悔を滲ませながら言う。

 

 伝承の彼は間違いなく忠臣だった。

 

 古参の騎士でありながら、一度として王を裏切ることなく使え続けた騎士。

 

 その命に背いたのは二度、王が死に際に剣を湖に投げ入れよと言った時のみ。つまり、王が自ら死を選んだ時だけなのだ。

 

 そして目の前にいる彼は、それでも王に死んでほしくなかったのだろう。

 

 彼の後悔は恐らくそれだ。

 

 全く。光一の気持ちも分かるという物だ。

 

 だから初見殺しの能力に近い自分を私にぶつけ、ルイオスの持ち味である、ハデスの兜を碌に生かさないゲームメイクを行ったのだろう。

 

 ならば私から言えることは一つだけだ。

 

「ベディヴィエール。君は忠臣だと聞いていたが、とんだ浮気者のようだな。それでは君が後悔を振り切る日などこないだろうな。――ああ、拍子抜けだ」

 

「貴方になにが――」

 

「口を慎め、アーチャー!」

 

 ベディヴィエールが口を開いた瞬間、それを遮ったのはセイバーだった。

 

「貴方が彼の何をわかるというのですか! 確かに彼は並行世界の私の命を果たせなかったのでしょう! ですが、貴方にそれを言われる覚えはない! そのそも彼ほどの忠義は誉れ高き円卓の中でもそうはいない! 私の部下を愚弄するなッ!」

 

 紛れもない殺気を私に向けながら、 セイバーは私に剣を向ける。

 

「それは君の世界の彼のことだろう。私の目の前にいる騎士は、命も中も果たせなかったボンクラだ。それに、私は間違ったことを言っていないはずだぞ、セイバー。彼はどれだけ姿形が似通っていようと、君をいまだに王と呼んでいる。ならば二君に仕える不忠物だろう?」

 

「よく言った。ならば私達の同盟は破棄だ。まずは貴方を切る」

 

「よく言っただと? それは私の台詞だ。君の持っている剣も私の作り出したものだと忘れたか? 剣も鞘もを持たぬ君など脅威でも何でもない」

 

 そう言うとともに、私は剣群を背後に待機させる。

 

「では、私の一人勝ちということでこのゲームを終わらせよう。さらばだ」

 

 剣群を射出すると同時に、聖剣の型落ち品の内部をいじり、暴走させる。

 

 それをセイバーは剣群に向けて投げ捨てることで剣群と爆発を同時に対処する。

 

 しかし、私が持つのは無限の剣、剣劇の極致。その程度では全てを対処することなどできない。

 

 先ほどの更に倍の剣群を射出。今度はこの世界に刺さっている宝具すらも混ぜて、途切れさせることなく射出。

 

 セイバーは魔力放出を使うことで吹き飛ばせる限り吹き飛ばし、それ以外は小手の甲冑で防ぐ。

 

 ジグザグにこちらに向かってくるセイバーに対して私は、直剣を一本引き抜いて迎え撃つ。

 

 流石はサーヴァントの型に嵌められていないアーサー王だ。

 

 その魔力量、身体能力。どれも並みのサーヴァントでは対処できないだろう。

 

 剣を使わずとも、魔力で出来た鎧を魔力放出で補強するだけでよく防ぐ。

 

 私は距離ができた瞬間に直剣を投擲して新しくシャムシールを引き抜く。

 

 先程とリズムを変えて切りかかるが、それも不発。

 

 剣群を射出、そのうちの一本を掴みとり切りかかる。

 

 それを小手の甲冑に受け流され、そのまま踏み込まれる。

 

「ハッ!」

 

「甘い!」

 

 私は瞬時に投影したデュランダルで打撃をガードし、そのまま吹き飛ばされることで距離をとる。

 

 それと同時に剣群を射出することによって足止めする。

 

「ではさらばだ。壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)

 

 ドドドドドドドドドドドッ!

 

 盛大に爆発する。

 

 これで、さすがの彼女も耐えられるはずがない。

 

「さて、腰抜けを探すとしようか」

 

「エミヤさん。腰抜けはもうここにはいない!」

 

 晴れた煙の向こうには、いまだ健在のセイバーを抱えたベディビエールがそこにいた。

 

「ほう。高々一撃から守っただけで大きな口を叩いたな」

 

「ええ、確かに、貴女にそう言われても否定できません。今目の前にいる王も私の王ではない。それでも私はアーサー・ペンドラゴンの騎士だ」

 

 後悔に足を引っ張られ、うじうじしていた青年はそこにはもう居ない。

 

 そこにいたのは騎士たちの憧れ、円卓の騎士が一人。ベディビエール卿だった。

 

「ならば私を打倒してみろ!」

 

「倒すのは私ではありません。私と、王だ」

 

 そう言って、ベディヴィエール卿はセイバーの前に跪く。

 

「王よ、聖剣をお取り下さい」

 

「ええ、貴方の世界の聖剣を借り受けましょう」

 

 セイバーが聖剣を上段に構えながら、容易く可視化できるほどの魔力を放出する。

 

約束された(エクス)――」

 

熾天覆う(ロー)――」

 

 あれを防げる可能性のある盾など一つしか思いつかない。

 

 故に私は魔力を集中させる。

 

 そして、セイバーが――アルトリア・ペンドラゴンが聖剣を振るう。

 

「――勝利の剣(カリバー)!」

 

「――七つの円環(アイアス)!」

 

 ゴウッ!

 

 衝撃。

 

 パリン、パリン、パリン。

 

 アイアスが砕ける音が連続して聞こえる。

 

 世界の展開を止めれば外界に影響が出かねない。

 

 故に策を弄する。

 

 しかし魔力を割く余裕などありはしない。

 

 パリン、パリン、パリン。

 

 さらに三枚。

 

 残された花弁は既に一枚のみ。

 

 しかし、まだ破られてはいない。

 

 だから――

 

「投げろ、光一!」

 

「了解だ!」

 

 気絶していたはずの光一が起き上がって、件の盾を投げて究極の斬撃に割り込ませる。

 

 ピシ。

 

 ピシ。

 

 私の世界に浸食されかけた上に、究極の斬撃を食らった盾が悲鳴を上げる。

 

 その光景を見てセイバーとベディヴィエールが、察したのか更に魔力を強める。

 

 アイアスにかかる負担が増える。

 

 全く、こっちのことも少しは考えてほしいのだがね。

 

 ピシ。

 

 ピシシ。

 

 件の盾とアイアスが同時に悲鳴をあげる。

 

 まずいな、これは持たないか。

 

九十八式(アンチマテリアル)!」

 

 そこに飛び込んで来たのは光一だ。

 

 能力を発動したのか右手の手首から上だけ、駄菓子の付録でついて来そうな小手をつけている。

 

 聖剣の余波に当たらないギリギリの場所からその小手で触れる。

 

 

「「「うをおおおおおおっ!」」」

 

 

 ピシ。

 

 ピシシ。

 

 パリン!

 

 盾が割れた音を聞き届けたのちに、魔力を使い果たして世界が閉じた。

 

 全く。

 

 聖剣の余波で私の世界もめちゃくちゃだ。

 

 やれやれ。

 

 そんな役割りだ。

 

 まあ、慣れているがね。

 

~エミヤ視点終了~




光一「久しぶりにここで話す気がするなあ」

エミヤ「前にこのコーナーをやったのが四月だからな。五か月も空いていれば忘れ去られているのではないのかね?」

光一「そもそも、八月中に更新ないってどういうことだよなあ」

エミヤ「全くだ。毎月更新とは何だったのか」

光一「でもまあ、その分今月中にもう一話更新予定だとさ」

エミヤ「ああ。まったく。高校時代の友人は小説家件エロゲのシナリオライター目指してひと月で二冊分も書いたというのに」

光一「ああ、小説家になろうのほうで毎日何話か更新してるから是非見てやってくれ」

エミヤ「習作だが、私は面白いと思う。タイトルが『プラヴィータ!―魔術と魔法の飛行船―』という研工亭 スバルというやつが書いた奴だな。
http://ncode.syosetu.com/n9402ef/
このリンクから行けると思う」

光一「じゃあ、また次回もよろしく!」


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円卓との別離

あとがきに情報を乗っけているのでぜひ読んでいってください!


~光一視点~

 

 剣が突き刺さった荒野が、元の景色に戻った。

 

 ベディビエールとアーサー王は毅然と立っているが、エミヤは満身創痍のようで片膝をついて油汗を大量に流している。

 

 俺はハロウィンにささげた代償が戻ってきてはいるが、あばらが何本も折れている。

 

 全員無事なようだ。

 

「とりあえずみんな無事にゲームクリアできたな。エミヤも俺も大した怪我はないし、そこの二人も平気そうだ」

 

 うん。

 

 なかなかいい結果に終わったと思う。

 

「ちょっとまてええええ!」

 

 少しうるさい声が聞こえてくる。

 

「完全に僕のことは勘定に入ってなかったよな!? オマエ!」

 

「あ、元気そうだな」

 

「元気そうだなじゃない! 大口叩いてた割に序盤で潰れて寝こけてた奴が言うな!」

 

 うん。やっぱり元気そうだ。

 

「とりあえずこれで両チームゲームクリアだろう?」

 

「無視するなよ。あと説明をしろ。僕はどうなったのか未だに分からないぞ!」

 

「おいおい、ちゃんと見とけよ。それでもリーダーか?」

 

「ああ、もうお前には何を言っても無駄なんだな!? オーケー次はお前を倒してやる!」

 

「あー、聖者の墓」

 

 パチン。

 

 劣化した悪魔の奇跡を使い、ルイオスの足だけを動かせなくする。

 

 こいつが満身創痍でなかったら簡単に振り払えただろうが、今のルイオスは悲しいかな、顔面から落ちることになった。

 

「殺す! ころしてやるう!」

 

 鬼の形相にゆがむルイオスの前に言って説明をする。

 

「とりあえず、盾はエミヤが世界を整えて、ベディヴィエールが武器を提供して、俺とアーサー王で壊したから全員でゲームをクリアしたわけだ。つまり全員勝ち。ほら」

 

 ちょうどいいタイミングで降ってきた契約書類(ギアススクロール)をルイオスに見せる。

 

 そこにはちゃんと全員の名前が入って勝利となっている。

 

「くそっ! 無駄に結果だけ出してくる……!」

 

「だからまあ、全員勝ちだ。鞘はアーサー王の手に戻るし、お前はゲームに勝つことでヘパイストスの恩恵をもらえる。さらにベディヴィエールはクイーン・ハロウィンに紹介してもらえる。いいだろ?」

 

「くそ、好きにしろよもう」

 

 そう言ってルイオスは黙った。

 

 完全にふてくされてるなこいつ。

 

 いじり過ぎたか。

 

 視界の端ではアーサー王がベディヴィエールに聖剣を返していて、エミヤも立ち上がっていた。

 

「光一、魔力切れで少しふらつくから肩を貸してくれ」

 

「おう」

 

 返事を返してからエミヤのもとに向かって肩を貸した。

 

 瞬間。

 

 俺は何故か空を舞っていた。

 

 どしゃり。

 

「おい! なにすんだよ!」

 

「こっちの台詞だ戯け! またお前は独断で動きおって! 今回はうまくいったからいいものを……」

 

 その後三十分くらいかけてエミヤに説教される。

 

 まあ、確かに何も伝えずに動いていたからしょうがないなあ、と思いつつ怒られ続けていた。

 

 

 

 

   ※※※

 

 

 

 

 

 

「あんたも行くのか?」

 

「ええ、私の目的は果たされましたから」

 

 ゲームが終わって三日後、元の世界に戻るらしいアーサー王に声をかける。

 

 見送りに来たのはエミヤと俺だけだが、数が居れば良いというものではないと思う。

 

「ところで君の目的はなんだったんだ? 唯の酔狂で鞘をかけるなどとは思えないのだが」

 

「ええ、悪戯好きな老人に少しだけ手を貸して欲しいと頼まれましてね。それに、私も無関係の事では無かったですから」

 

「ほう。やはり君は初めから彼のために動いていたのか。それにしては敵対するとは少々回りくどくは無いか?」

 

 エミヤの言葉に、アーサー王は図星を疲れたように目を背ける。

 

 怪しい。

 

 俺もエミヤもジト目で見つめる。

 

「それがですね。この世界に来てみたは良いものの、ベディヴィエール卿がどこに居るのか分からなかったんです。そこでとりあえずゲームに参加していたところ、ヘパイストスに敗れてしまい……」

 

「聖剣の鞘を賭けてゲームに参加し続けていたのか? それは間抜けすぎるだろう」

 

「いえ、ヘパイストスとの三回目の勝負までは賭けてはいません!」

 

「負けず嫌いも程ほどにしろ、セイバー」

 

 なんか、ギャンブルに負け続けてる人みたいだな、アーサー王。

 

「なんですか、その呆れ果てたような顔は!」

 

「実際しょうもないし、途中から目的忘れてるしなあ」

 

「ほう、私と戦いたいということですか? コーイチ」

 

「いえ、なんでもないです」

 

 笑顔で首に剣を突きつけられて黙らされる。

 

 そんな姿を見てエミヤがやれやれといわんばかりに肩を落とす。

 

 そしてギフトカードから大きな包みを取り出す。

 

「はあ。君はこの後にまだ待ち続けるのだろう? ならばこれをもっていけ」

 

 それをアーサー王に手渡す。

 

「日持ちのするものを入れておいたが、今日中に食べるといい。君ならば二食で丁度良いだろう?」

 

「アーチャー! 私を食いしん坊みたいにいわないで下さい!」

 

「ではいらないかね? 重箱三段分なのだが」

 

「それはいただきます」

 

 真顔で即答するアーサー王。

 

 十分腹ペコキャラな気がするが、首が飛ばされては叶わないので黙っておく。

 

 そんなやり取りをしているうちにアーサー王が出発しようとしていた時間になる。

 

「では、これで私は行きます。お元気で」

 

「ああ、正直何と送り出せばいいのかは分からないが、達者でな」

 

「ああ、また縁が有ったら会おう」

 

「ええ、その時は士郎も連れてきましょう」

 

「それは止めてくれ」

 

「ふふ。それでは」

 

 そう言って騎士王はアヴァロンへと帰還した。

 

 そして彼女は思い人を待ち続けるのだろう。

 

 

~光一視点終了~ 

 




光一「二巻と三巻の幕間もこれでようやく終わりだな」

エミヤ「ああ、長かったような短かったような、不思議な感じだな」

光一「でもまあ、ベディヴィエールを書きたいと思ったから書いてたのに、気が付いたら影が薄くなってたんだと。実力不足過ぎるよなあ」

エミヤ「全くだ。そんなこんなしているうちにクロスしている作品が全部終わってしまうんじゃないか?」

光一「それは目も当てられないな」

エミヤ「それはそうと、バカの友人からプレゼントが届いている。小説のあらすじのところに乗せておくから気が向いたらぜひ見てくれ」

光一「活動報告にも書いておくから、気が向いたら絵を描く依頼でも出してやってくれ」



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春日部嬢の願い?

エミヤのHP ATK があと星四フォウくん十五枚ずつでマックスになります!

今年中に行けたらいいなあ。


~エミヤ視点~

 

「収穫祭なんですが、二十日間ほど開催される予定で、前夜祭を入れれば二十五日間。約一か月にもなります。この規模のゲームはそう無いですし最後まで参加したいのですが、長期間コミュニティに主力が居ないのは良くありません。そこでレティシアさんと共に一人残って欲し

 

「「「「嫌だ」」」」

 

 問題児四人が声を揃えて拒否する。

 

 十六夜、久遠嬢、春日部嬢は分からなくもないが、お前はどうなんだ、光一。

 

「そうしたらエミヤさんお願いできますか?」

 

「まあ、別に構わないのだがね、聞いた話だと南側の祭りでは様々な料理がふるまわれるらしい。もうそろそろレシピを増やそうと思っていたのだがな」

 

「それはまずいな。それなら光一が残った方がいい気はするが、光一は襲撃されると弱いから残っても意味はない。しかもいろんなギフト見させた方がちょうどいいだろう」

 

「おお! いいこというな十六夜! というわけで俺はメンバー決定」

 

「ダメに決まっているでしょう。それを言うのなら私もディーンとレティシアしかいないのだから戦力不足よ」

 

「私も南側の幻獣たちと友達になれればいろんなこと出来るようになるよ」

 

「そんで俺はそんな面白そうなこと見逃すくらいならこのコミュニティ抜けて行っちまうぜ?」

 

 ふむ。

 

 十六夜を除いたら全員行く理由がある。

 

「むしろレティシアは行かなくていいのか?」

 

「私は何度か参加したことがあるからな。今回は遠慮しておこう」

 

 なんとも大人な対応に、少しだけ肩身が狭くなる。

 

「では、せめて日数を絞らせてくれませんか?」

 

「というと?」

 

「五日間ごとに留守番を一人出し続けるというのはどうでしょう」

 

「悪くないが面白くもないな。俺なら7・6・6・6の日程で割って一人だけ全部出れるようにして、一人は留守番が長めにする」

 

「へぇ、面白そうじゃない。でも誰が何日残るの?」

 

「ヤハハ! ここは箱庭だぞ?」

 

「そうだね。前夜祭までの間にどれだけコミュニティに貢献できたかでゲームしよう」

 

 春日部嬢が珍しく好戦的な面を表に出している。

 

 普段ならば自分の意見をあまり出さずにいるのに、今日は自分から意見を言っている。

 

 言いたいことを言える関係というのは素晴らしいな。

 

「じゃあ、ゲーム開始だ」

 

 十六夜がそう言った瞬間に契約書類が降ってくる。

 

 それを全員が読んだ後にそれぞれ動き始める。

 

 さて、何をしようか。

 

 

 

 

 

 

「エミヤ手伝って欲しい」

 

 私が部屋から出てすぐ、春日部嬢に声をかけられる。

 

 そのままついていくと、光一と久遠嬢も一緒に呼ばれたようだ。

 

「春日部さんは何を手伝って欲しいの?」

 

「うん。私は飛鳥と十六夜みたいにゲームで活躍できてないから少しでも多くの幻獣と友達になりたい。だから功績を稼ぐのを手伝って欲しい」

 

「つまりあなたは私に生誕祭に行く日数を減らせと言っているのね」

 

「うん」

 

 春日部嬢は久遠嬢から視線を逸らすことなく答える。

 

 三秒間ほどにらみ合いが続いたのちに、久遠城はあきらめたように肩を落とす。

 

「いいわ。友達の頼みだもの。でも一つ」

 

「うん。何でも言って」

 

「私とゲームをしましょう。いえ、私達とといった方がいいかしら」

 

「俺たちもか? 俺は別に譲ってもいいんだが」

 

「ええ、せっかくの生誕祭に行く日数を減らすのだもの。それなりに楽しませて貰ってもいいでしょう?」

 

 久遠嬢がいたずらっぽい笑みを浮かべながら言う。

 

「ゲームは簡単。かくれんぼよ」

 

「分かった。エミヤと光一もそれでいい?」

 

「俺は良いぜ」

 

「私も問題ない」

 

 そういうと同時に契約書類が降ってくる。

 

『ギフトゲーム名 “ハイドアンドシーク”

 

・ルール説明

      ・本拠地内から出てはいけない。

      ・視認して名前を呼べば発見となる。

      ・エミヤ シロウ、佐藤 光一、久遠 飛鳥を発見し、名前を呼んだら春日部 耀の勝利とする。

      ・日没までエミヤ シロウ、佐藤 光一、久遠 飛鳥全員が逃げ切れば春日部 耀の敗北とする。

宣誓 上記を尊重し、“エミヤ シロウ”“佐藤 光一”“久遠 飛鳥”“春日部 耀”全員はギフトゲームを行います。』

 

 それを読み終わると同時に私はハデスの兜を三つ投影し被せる。

 

 各々が走り出しているようだ。

 

 私は――ふむ。

 

 あそこに隠れよう。

 

 こうして春日部嬢とのギフトゲームは始まったのだ。

 

~エミヤ視点終了~




光一「お前大人げないな。初手でハデスの兜かよ」

エミヤ「五感に優れる春日部嬢が相手でなければ使わなかったさ」

光一「いや、ハデスの兜使ってたら視認できないから負けることがないんだが……」

エミヤ「忘れてた」


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かくれんぼ1

すみませんが、感想は時間が空いたときに返信いたします。


~光一視点~

 

「なあ、エミヤ。三つもいきなりハデスの兜を投影して大丈夫なのか?」

 

 ゲーム開始直後にエミヤから貰った兜を装備して逃げ出してから十分。

 

 エミヤと会話が出来るところまで逃げ切った後に聞いた。

 

「何であれゲームだ。手を抜ける状況じゃないからな。人数差の代わりに春日部嬢に有利になるゲームだ。あそこでハデスの兜を投影しなければ負けていた」

 

「確かになあ。でもまあ、春日部はオリジナルの兜を攻略したんだぞ? 無駄だったんじゃないか?」

 

「春日部嬢がオリジナルの攻略を出来たとしても、このゲームは視認されなければ敗北にはならない。つまり彼女はゲーム開始と同時に名前を呼ばなければならなかった」

 

「だけど今のままじゃ春日部の願いはどうする?」

 

「お前はわざと負けるつもりなのか?」

 

「そういう訳でもないんだけどな……」

 

 正直なところ決めかねている部分もあるんだがなあ。

 

 しかも十六夜だけハブにする意味が分からない。

 

「春日部嬢は功績を誰にも上回られたくない。しかし、負けたくない。そして、功績を稼がないということはコミュニティの成長に繋がらない。故に最も功績を稼ぎそうなものを仮想的として置いておく事にしたのだろう」

 

「そうか。もしも十六夜まで巻き込んだのならお前とかに反対されるからか」

 

「そうだな。つまり、彼女は自分なりに考えてこの戦いを挑んでいるということだ。ならばこちらも答えてやらねばなるまい」

 

「そうだな。――よし決めた。俺は春日部の側につくことにしよう」

 

 パチン。

 

 エミヤに触れて指を弾く。

 

「――ああ、お前ならばそうすると思ったよ」

 

 いや、正確に言うのなら触れようとした。

 

 俺の左腕は空を切ってエミヤが走って消えようとする音が聞こえる。

 

 俺は兜をギフトカードの中にしまって追いかける。

 

 パチン。

 

「特大のだ!」

 

 天空隆起の劣化コピー。

 

 今回は範囲をオリジナルに近く、そして地面を盛り上げるという性能をそのままひっくり返す。

 

「食らえ!」

 

 更に二回指を弾く。

 

 紫煙地獄(ヘビースモーカー)の劣化コピーを量だけ増やして右手から放射。

 

 超越者(ギガ)の体重増加の劣化コピーで体を軽く。

 

 空中移動手段のないエミヤにかわすことは出来ない!

「馬鹿が……」

 

 ドゴン!

 

 エミヤは呆れたように呟いて軽くなった俺を殴り飛ばした。

 

 くそ、顎に綺麗に入っちまった。

 

「ああ、俺はこれでお前を追いかけることは出来ない。――だが、発動させてもらったぜ?」

 

「何?」

 

裏腹海月(トランスペアレント)!」

 

 瞬間。

 

 エミヤの髪が腰まで伸びて金髪になり、灰色の瞳は金色になった。

 

 つまり。

 

 つまりだ!

 

「このギフトゲーム! 春日部の勝ちだ!」

 

 俺は高らかに宣言する。

 

 ――もしもこの世に透明になる能力があったのなら。

 

 そしてそれがマイナスにまで劣化したら。

 

 さらに、その能力をセイギノミカタを目指していたものが使ったのなら。

 

 俺がもしこの能力の対象になったのなら趣味が違うといっていたはずだろう。

 

 しかしこいつならば、いける。

 

「ここがエミヤシロウの理想の果てだ!」

 

 

 

 

 

 

 俺の目の前には、ゼット戦士が存在していた。

 

 

 

 

 

 

 エミヤはそっと鏡を創り出して自分の姿を見る。

 

 そしてたっぷり三秒間ほど鏡を見つめた後に、無言で俺に鈍器を振りかざした。

 

 ドゴッ!

 

「戻せ」

 

「ふっ。例え俺が気絶したとしても能力は消えない。いや、消させなどしない! ククク。ハハハハ。はーっはっはっは!」

 

 俺はひとしきり笑った後意識を失う。

 

 さあ、春日部に見つかって辱めを受けるがいい!

 

~光一視点終了~




光一「いてっ、いって! 無言で殴るんじゃねえ! うわっ、っちょ。んま・・・つぁ・・・ちょぎっ!」


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劣化反転――裏腹海月

ついにエミヤが完全体になりました!


~エミヤ視点~

 

 足を踏み出す度に、自らの居る周りで音が発生する。

 

 ハデスの兜を被っているにもかかわらず金色のオーラが周囲を染め上げる。

 

 体に残っている異能を魔力で流そうとしても、何故か金色のオーラが膨れ上がるばかり。

 

 契約破りの短剣を使用するしかないか。

 

 そう思い、自らの内に潜ろうとしていると、風を切る音が聞こえてくる。

 

 まずい。

 

 早くこの効果を切らなければ!

 

「あれは、光一?」

 

 まだばれていない。

 

 春日部嬢はオーラだけしか見えていないようで、私か光一か判別できていない。

 

 逃げたのちに光一を伸した場所に向かって証拠隠滅を図らなければ。

 

 兜などはがされてしまえば、私が光一ではないことがばれてしまう。

 

 それだけは避けなければならない。

 

 四肢に力を込めて全力で駆け出す。

 

 バシュン!

 

 謎の音と共に音速に達して春日部嬢の視界から消える。

 

 光一を倒したところまでこの速度なら二秒もかからない!

 

「ちょっと反則臭いけど仕方ない……えい!」

 

 聞こえるはずのない距離だ。

 

 いや、春日部嬢の速度なら引きはがすことは難しいのかもしれない。

 

 さらに言えば動物たちの五感をもってすれば今の私のいる場所などGPSをつけているより分かりやすい。

 

 故に取るべき行動は隠れる場所を無くす範囲攻撃だろう。

 

 一瞬の内に私が身を隠していた木々が薙ぎ払われる。

 

 私が音速だとしても、周囲に存在していた風が猛威を振るえば影響から逃れることなどできない。

 

 さらに、台風などを超す速度――秒速百メートルの風ならば、この程度の敷地など全て吹き飛ばせる。

 

 局地的に吹き荒れる風を防ぐ手段が私には存在しない。

 

 アイアスなど投影してしまえば一瞬で私だとばれる。

 

 限りなく異能に近く、尚且つ武具の投影をほとんど必要としないもの。

 

 くっ。

 

 風除けの加護が欲しい!

 

 砂漠の民にでもなっておくのだったか!

 

 劣化したバルムンク――ばれる。

 

 霊体化――受肉した今は不可能。

 

 螺旋剣――ばれる。

 

 鎧――恐らくばれる。

 

 飛来矢――風は防げない。

 

 単純な壁――防げない。

 

 風王結界――あれは魔術だ、不可能。

 

 魔術――とっさに発動することは出来ない。

 

 あとは、あとは――後は――

 

 

 

 風が周囲の木々をすべて攫った。

 

 

 

 

 私に出来たのは対爆防御の体勢を取ることだけだった。

 

 地面に這いつくばる私に出来たのは死んだフリ。

 

 この体勢のまま春日部嬢が知被いていたところを眠らせれば!

 

「何やってるの? エミヤ」

 

 ばれた……か。

 

 私は兜を外さぬままに立ち上がる。

 

 そして、契約破りの短剣を投影して突き刺す用意をする。

 

「えい!」

 

 春日部嬢が私の手から短剣を蹴り落とす。

 

 それを読んでいた私は逆の手に投影していた短剣を体に刺そうとする。

 

 読まれていたのか、獅子のような柔軟な動きで短剣をけり落とす。

 

 まずい。このまま行くとあと八手で魔力が尽きる。

 

 私は両手に短剣を投影して右手に隙を作る。

 

 これで――。

 

 短剣が刺さるより早く真上から飛来した石が兜を破壊した。

 

 その衝撃であおむけに倒れこんでしまい、刺そうとしていた短剣が間に合わない。

 

 出来てしまった隙に春日部嬢が両手を取り押さえる。

 

「エミヤ? 見つけた」

 

 シュインシュインシュイン。

 

 完全に露わになった金髪碧眼ガングロの()

 

「何してるの?」

 

「……私にもわからん」

 

「何があったの?」

 

「光一が私に異能を使った」

 

「何で味方のはずの光一が?」

 

「君の見方をすることに決めたみたいでな、私と戦った」

 

「なるほど」

 

「もうそろそろ英霊の座に戻りたくなってきたので、解釈を頼みたい」

 

「だめ」

 

「あと、私の負けは認めるから、この体勢をやめてくれると嬉しい」

 

 私に馬乗りになっている春日部嬢に言う。

 

 そう言うと少し頬を赤くして離れる。

 

「スーパー変態人えみや」

 

「やめてくれ!」

 

 春日部嬢はそのまま歩き去ってしまった。

 

 三十近くの男がコスプレ……か。

 

 普段の装備は戦闘用といえば分からなくもないが、スーパーサイヤ人はきつい。

 

 見る方も、見られる方も。

 

 私はそっと契約破りの短剣を使用して金色の気を消す。

 

 しかし、しばらくの間は立ち上がることはできそうにない。

 

~すーぱーさいやじんエミヤ視点終了~

 

 

 




光一「どうだった?」

エミヤ「死んでくれ」


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