極めろ熱界雷!!目指せ一撃逃走 (花河相)
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プロローグ

「よし、絶対生き残ってやる」

 

 俺は今、今世に於いて最初の壁を乗り越えるべく、気合を入れていた。

 

 ここは藤襲山。

 

 鬼殺隊に正式に入隊するための最終選抜の会場。合格条件は藤の花で鬼達が閉じ込められたこの山で七日間生き延びること。鬼殺隊とは読んで字の如く、鬼を殺すことを目的とした組織。

 

 俺は転生してから死に物狂いで鍛錬を積んできたのだ。

 

「先生へ恩を返すため、必ず生き延びてやる!」

 

 俺は……死にたくない。

 

「正面から来たら熱界雷、二体きたら熱界雷二連続で飛ばす」

 

 俺の攻撃手段はただ一つ。斬撃を飛ばし相手を吹き飛ばすことのみ。それも逃げることを目的として鍛えてきた。

 

「極めろ熱界雷、目指せ一撃逃走」

 

 俺は一人呟き自分に言い聞かせる。

 これは俺の目標であり、人生の指針。

 そして、今回の最終選別の合否によって俺の人生が決まる。いわばターニングポイントである。

 

「「では、ご武運をお祈りしております」」

 

 顔が瓜二つの白髪の少女二人が宣言し、ついに始まった。

 震える体に鞭を打ち、戦場、藤襲山へと入り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は将来、クズに成り果て死ぬ運命がある。

 そのことがわかったのは十一歳を迎えたとある日。外で一人で過ごしている時、不覚にも転倒し頭を強打してしまった。

 

 それがきっかけだったのだろう。

 脳内にさまざまな情報が流れ込んできた。

 今現在の大正の世からは想像できないほどの都会の街、便利になった情報社会。

 別世界の人間の記憶が急に流れ込んできたのだ。

 俺は頭痛のせいでその場に座り込んでしまった。

 

 頭を強打したあと、しばらく時間が経ち脳に記憶が定着したのか頭痛は無くなった。

 どれほど時間が経ったのか、気づくと周囲は薄暗くなっていた。

 

 俺は自分に流れ着いた前世の記憶、そして今世の記憶からこの世界についてある一つの推測を導き出す。

 

「もしかしてここは鬼滅の刃の世界?」

 

 これはあくまで憶測だ。

 確かな確証はない。

 俺自身の名前、獪岳といつもお世話になってる寺の主の悲鳴嶼さん。 

 そして、今の境遇からの推測だ。

 

 鬼滅の刃は少年漫画で爆発的な人気を誇り、アニメ化、そして映画化された不朽の名作。

 竈門炭治郎という名の主人公がある日、ラスボスの鬼舞辻無惨に家族を殺され、鬼にされてしまった唯一の生き残り、妹の禰豆子を鬼から人間に戻すため奮闘する、王道の物語だ。

 

 そしてこの俺こと獪岳というキャラは鬼滅の刃の人間サイドに於いて最もカスでクズ。

 自己保身が強すぎで救いようがなく、ファンからも最も嫌われていた人物。

 

 だが、もしかしてたまたま名前だけ同じだけかもしれない。たまたま寺で過ごしているだけ。悲鳴嶼さんの名前もたまたまかもしれない。

 

「おや?こんなところに子供一人か?」

 

 ふと、俺に声をかけてくる人物がいた。

 俺は振り返り声をかけてきた方を向く。

 

「……え?」

 

 現実逃避もいいところだ。

 どうも俺の推測は当たってしまったらしい。

 理由としては目の前にいる生物が物語っていた。

 

 目は赤く、血が滲んだボロボロの着物、特徴的な牙、そしてツノ。そして何より、嗅いだことのないくらいの異臭。

 

 

 推測だけで終わって欲しかった。当たってほしくなかった。

 ここ、間違いなく鬼滅の刃の世界だ。

 目の前の死亡フラグがあるにも関わらず俺は一人納得したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この物語は獪岳に転生してしまった俺がクズにならないため、生き残るために奮闘する王道とはかけ離れた物語。

 



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助けて

花河相です。

獪岳転生もの少ないなーと思い書いてみました。

不定期です。


 

 

 

 獪岳

 

 それは鬼滅の刃で自己保身が強く、自分が生き残るためなら他者すらも見捨ててもしぶとく、そして汚く生きる性格のクズキャラ。

 救いようがなく、最終的に鬼と化し、鬼殺隊の敵となり、倒される当て馬キャラ。

 本当に毎回思う。獪岳はどうしようもないと。

 こんな事は考えていてもしょうがないのに毎回思う。

 その理由は簡単だ。

 俺が獪岳に転生してしまったためだ。

 神様のご都合主義、よくある二次創作。

 

「はぁ」

 

 ため息がとまらない。

 よりにもよって何でこのキャラ?他にもいたでしょ原作キャラ!

 何で死しか見えないお先真っ暗の獪岳なんだよ。

 神様、俺のこと見捨てないでよ。

 せめて不遇クズキャラに転生させるならチートくれよ!

 でも、一応神様に感謝したい事はある。

 俺が獪岳に転生した時系列。それはまだ感謝できる。

 獪岳の主なクズい行動は以下の通りだ。

 

1.寺の子供を見捨てて鬼にその情報を流し自分だけ助かろうとする。そして岩柱さんを罪人に仕立て上げ(これは獪岳のせいじゃないけど、実質こいつのせい)寺の子供達を死に追いやる。

 

2.善逸を虐める。善逸をゴミ扱い。どっちがゴミだよ

 

3.他者を見下し他の隊員に当たる。隊員からすごく嫌われる

 

4.最後にこれが最もクズ行動だが、上弦の壱に命乞いをし、鬼となる。そして先生を見殺しにする。

 

 

 だから俺は誓った。クズにはならないと。

 どんなことがあっても生き残ると。

 そんな決意をした。

 でも、とりあえず現実は見ないといけない。

 まず今の現状だが、ほとんど詰みである。

 目の前には鬼、そして俺は現在十一歳くらいの体。

 どうしてこうなってる?でもこれくらいはわかる。

 今俺の立たされているこのシチュエーション。

 これは俺のクズへの第一の門、人生においてのターニングポイント。

 これでこの鬼に命乞いをし、寺の人たちを売れば命は助かるだろう。

 でも、それをするわけにはいかない。

 人生は積み重ねだ。

 クズへの門を一度でも潜ってしまったら最後、もう手遅れだ。

 

 一度罪を犯してしまったら、甘えが生じる。

 一度現実から逃げてしまっては、楽な方へ行く癖がついてしまう。

 だから何時、一度でもやるわけにいかない。

 まずはどうするか考える。

 よし!話すことから始めよう。

 

「あの「子供の肉は美味いからな、どうしてくれよう?」……」

 

 俺は一目散に逃げた。

 話が通じない。

 原作の獪岳はなんて言って説得とかしたんだろう?

 それも一種の才能だったのかな?

 でも、すぐに逃げたが、寺のことを喋ってはいない。

 寺に迷惑はかけていないはず。

 心配はかけるだろうけど。

 でも、どうせ獪岳、所詮は獪岳

 別にいてもいなくても変わらないだろう。

 獪岳が居ては幸せになれない。むしろ不幸しかない。

 俺は逃げて正解だろう。

 

 

 

 

 

 どのくらい時間が経っただろうか?

 俺は走っても鬼に追い付かれる事はない。

 は!!これが俺だけのチート、高速移動?

 

「早く逃げないと、食われるぞー?」

「いやーーーーー!!」

 

違かった。ただ、遊ばれてるだけだった。

やばい。

 

 

 

 

助けて……

 

 



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よかった!!

 

 

 

 鬼に遊ばれ、逃走し続けどのくらい経っただろう?

 山に入ってどれだけ走っただろう?

 体は限界に達し、ついに立ち止まってしまった。

 

「はっはっは!!ついに限界かガキ。もう少し抵抗したらどうなんだ。つまらないなー」

 

 こいつまじムカつく。なんでこんな性格してんだろう?

 本当に殴りたくなってくる。でも、無理だ。

 俺にそんな力は無いのだから。

 

「た……助け……」

 

 と俺は全て言わずに黙る。

 これでは原作の獪岳と同じだからだ。

 

「なんだ?助けを請うのか?」

 

 鬼が俺が喋ったことに反応し質問してくる。

 

「なら、そうだ「黙れこの野郎」……何?」

 

 鬼が何かを提案してこようとしたところに俺が言葉を挟み、気に入らなかったのか鬼は怒り始めた。

 

「せっかく生かしてやろうとしたのに。もういい」

 

 そう言い、鬼は俺に近づいてくる。

 なんでこんなことになる?俺何かやった?

 転生して気がついたら目の前に鬼がいた。

 クズにならないと思い、決意した。

 少しでも争うために逃走した。

 なんでこんな目に遭わないといけないのだろう?

 でも、絶対に人を売ることだけはしたくない。

 それは俺の倫理に反する。

 もういい。全てを終わらせよう。

 そう思い、鬼を見る。するとこんな提案をしてきた。

 

「心優しい俺様が一つ提案してやろう。お前の家族の場所を言え。そうすればお前を見逃してやろう!!」

 

 こいつはどこまでクズなんだ。

 おそらく原作の獪岳はこの提案を受け入れて家族を売ったんだろう。

 でも俺にはできない。

 記憶がなくても家族を売るなんざことは何があってもしない。

 俺は最後に心からの叫びを鬼に伝える。

 

「殺すなら殺せ!!俺は………俺は死んでも家族は売らねぇ!!」

 

 そう叫ぶと。

 

「はぁ……。残念だ。自ら助かる道を塞ぐとは、時間の無駄だったな」

 

 そう言い、鬼は俺を喰らうために迫ってくる。瞬間!!

 

「雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃」

 

 一筋の雷と共に鬼の首が落ちる。

 俺は助かったとわかった瞬間、意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 起きたら知らない天井だった。

 

「知らない天井だ」

 

 俺はそう呟き、意識が覚醒するのを確認する。

 そして改めて助かったのだと自覚した。

 あたりを見渡すと、和風の部屋で俺の近くに火が焚いてあった。

 すると起きたのに気づいたのか、一人の老人が話しかけてきた。

 

「起きたか?よかったワイ。丸一日寝ておったからな。」

 

そう言い、俺に近づいてきた。

 

「お腹すいたろ?これでも食べろ。うまいぞ!!」

 

 そう言い、老人は俺にお粥が入っている皿を渡してきた。

 俺は無我夢中で食べた。

 死線を潜り、身体中に疲れが溜まっていたからだ。

 おじいさんも笑いながら俺を見ていた。

 

「お主、名前はなんと言う?」

「………獪岳」

「そうか獪岳か」

 

俺はおじいさんの名前を聞かれて答える。

 

「では獪岳、家族はどこにおる?心配しているだろう。送ってあげよう」

「俺に……家族はいない。帰るところもない」

 

 そう。俺は獪岳だ。

 寺に帰ってもどうせ迷惑なだけだ。

 人が良すぎる悲鳴嶼なら受け入れてくれるだろう。

 でも、俺は正直戻りたくない。

 寺のみんなが知ってる獪岳とは別人なのだから。

 俺がそう言うと、おじいさんが少し考え、ある提案をしてくる。

 

「そうか……獪岳、よかったらワシの弟子にならんか?」

 

 俺はおじいさん……桑島慈悟郎の提案を受け入れた。

 こうしておじいさんのおかげで俺は生き残れた。

 

 

 

 

よかった!!

 

 

 

 

 



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………あれ?

 俺が桑島慈悟郎さん………先生の弟子になって三年が経った。

 この三年は充実していた。

 なんたって元柱から直々に指南を受けられたのだ。

 これほど喜ばしいことはない。

 そういえば善逸はまだ来ないのだろうか?

 もう少し経ったらくるのかな?

 

 閑話休題。

 

 俺が先生の弟子になった後、今後の方針を決めた。

 ちなみにクズにならないための方針ではなく、どうやって生き延びるかだ。

 獪岳の一番の壁は上弦の壱、黒死牟だろう。

 でも、正直こいつと会うかは分からん。

 もうすでに多少原作を変えてしまってるし、会うことはないと思う。

 でも、原作の強制力。これの存在は否定できない。

 だから会ったとしても対抗しうるだけの力が欲しい。

 生き延びることができるだけの力が欲しい。

 だから俺はこの三年間、一つの方針を決め、鍛え続けてきた。

 

ーーー極めろ熱界雷!!目指せ一撃逃走である。

 

 この方針からひたすら二つのことを続けている。

 一つ目は熱界雷を極限まで鍛える事。

 雷の呼吸 伍ノ型 熱界雷は下から上に切り上げ、斬撃波を飛ばす型だ。この型を少し改良して如何に威力のある斬撃波を飛ばすかに重点をおき研鑽した。

 もちろん他の型も壱の型以外全てできる。

 でも原作が始まっていないが、こんなクズキャラ獪岳がまともに鍛えて強くなることは無理と判断。

 何より、真っ向から闘い続けたとしても死ぬリスクが上がるだけなので、生き延びるためだけにこの型を鍛え続けた。

 しかし先生から

 

「こら獪岳!!一つの型のみじゃなく他の型も練習せんか!!何にそんな生き急いどる?お前には才能がある!!」

「俺は死にたくないんです先生!!俺みたいなクズなノロマでチキンな人間は一つのことをするしかないんです。それに俺壱の型できないじゃないですか?基本すらできない俺は才能ないんです。だから一つのことをやるしかないんです」

「獪岳……決してお前は自分が思っているような人間じゃない!!もっと自分に自信を持て!!」

「自信を身につけるために一つのことしかしてないんです先生!!それに俺は絶対死にたくない!!俺が死んだら悲しむ人もいる。せっかく先生から助けていただいたんです。俺は先生を悲しませたくないんです」

「獪岳………」

「だから見逃してくれよじいちゃん!!」

「先生と呼べ!!」

 

 とまーこんなやりとりが日常茶飯事にやっている。

 でも、先生も最近認めて……いや、諦めてるのか何も言ってこなくなった。

 先生には悪いが死にたくないのだ。

 だから熱界雷のみを鍛え続けている。

 二つ目は全集中常中を身につけ、ひたすら下半身を鍛え続ける。

 全集中常中は一年くらいかかってしまったが……。

 下半身を鍛える理由は簡単!もしも熱界雷で相手を吹き飛ばした後、相手から距離を空けるため。

 そして圧倒的スピードで相手を翻弄し、朝までの時間を稼ぐため。

 だから俺は山に入り、ひたすら走り続けた。

 重りを背負い、バーピィをし続けた。

 ちなみにバーピィをし続けた理由は鍛えるのに効率がいいからだ。

 鬼を殺すには二つの方法がある。

 一つ目は日輪刀で首を斬る。二つ目は太陽に浴びせる。

 鬼の活動時間は太陽の出てない夜間のみ。

 どんな鬼でも、太陽は恐怖だ。 

 たとえ十二鬼月でもこれには勝てない。

 だから太陽が出てくるまでひたすら避ける、逃げる、熱界雷で相手を吹き飛ばす。

 これを続けようと決めた。

 途中で鬼が諦めるかもしれないし。

 それができれば儲けもんだ。

 だから俺は三年間ひたすら貪欲に己を鍛えまくった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日は先生から呼び出しがかかった。

 ついに善逸が来るのかな!?そう俺は期待した………が、

 

「獪岳……この三年間お前は自分の意思を貫き、己を鍛え続けた」

「ありがとうございます先生」

 

 呼ばれるなり褒められた?

 周りを見ると善逸がいない。あれ?善逸どこ?

 

「………最終選抜に行く許可を出そう。頑張るのじゃぞ!獪岳」

「え?」

 

 あれ?善逸は?

 

 

 

 

………あれ?



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フッ……決まった。

 

 

 

 最終選別当日になった。

 俺は生き残るため、呟きながら脳内シュミレーションをしていた。

 

「正面から来たら熱界雷、2体きたら熱界雷2連続で飛ばす。飛ばしたらすぐ距離を空けてすぐ逃げr「あの……大丈夫ですか?」……え?」

 

 ふと、俺が気がつくと花の良い香りがした。

 そして息を呑む。

 目の前には絶世の黒髪美女がいた。

 俺はつい、釘付けになってしまい見つめてしまった。

 

「あの……何か?」

「あ!すいません急に話しかけられて少し驚いてしまって」

「そうですか、それはすいませんでした。……随分と緊張して居るような雰囲気でしたので心配になって……その……」

 

 黒髪美女はそう言い、周囲を見ながらそう言う。

 なんか意味深な言い方だなぁ?

 俺は気になり周囲を確認すると

 

「あいつ多分すぐ死ぬな」

「1日持つかね?」

「知らん、足引っ張らなきゃいいけど」

 

 周囲はガヤガヤしていた。

 そして着いてからの俺の行いを考えてみる。

 俯きなにかを呟き続ける……うん。ただの変人だね。

 おそらくこの黒髪美女はみんなに代表として声をかけてきたのだろう。

 俺も今思うとやばい人だ。

 とりあえずお礼を言っておく。

 

「ごめん。ありがとう。ちょっと緊張しすぎちゃって!!君を見たら緊張が吹き飛んだよ!」

「うふふふ。それはよかったです。お互い頑張りましょう。……あ、まだ名乗っていませんでしたよね?私は胡蝶カナエと申します」

「これはこれはご丁寧に。俺は獪岳って言います」

「獪岳さんですね。お互い頑張りましょうね」

「はい!!」

 

 へぇ、胡蝶カナエさんって言うのか。いい名前だ!!

 ………え?この人将来の柱の人じゃん。

 俺もしかしてこの人と同期なん?

 やべ、俺こんな美女に名前覚えられた!!

 やべーめっちゃやる気上がってきた。

 絶対生き残ったやる!!

 俺はそう決意し小さくガッツポーズをした。

 

「死ねばいいのに」

「どうせ即死だよ」

 

童貞の僻みかな?

 

「ふっ」

 

 俺は周囲の連中に向けて鼻で笑ってやった

 そしたら周りからの殺気が増しました。

 気のせいかな?背中に気をつけよう!!

 

 

 

 

 

「死ねやーウベッ!」

「見つけグワッ!」

 

 最終選別が始まってからの俺の行動は本当に単純。

 俺が見つけた瞬間熱界雷!来た瞬間熱界雷の繰り返し。

 

 襲ってきても、不意打ちされても、後手に回ったとしても、こいつら如きこの俺のスピードを前にしたらハエが止まる。

 仮に危なくなっても伝家の宝刀、熱界雷を使えばあら簡単!!鬼は彼方へ飛んでいく。

 俺の熱界雷は今では先生にも歴代最高の威力を持っていると保証された。

 まー俺が吹き飛ばすってことは他のやつの負担が増えるってことだけど、そんなの知らん。

  俺は初日の行動でやりすぎたのか偶に他のやつに会うと斬り込まれる。

 その度に熱界雷 弱を使い飛ばす。

 まー他のやつに胡蝶さんは入ってないけど。

 あの人なら平気でしょ。

 将来の柱なんだから。

 俺が考え事をしていると俺の方向に向かって巨大な大木が飛んできた。

 俺は瞬間構える

 

「雷の呼吸 伍ノ型 熱界雷 六連」

 

 俺は一瞬で大木に六回斬撃を飛ばす。

 瞬間大木は逆方向へ戻っていった。

 

 

 

 

フッ……決まった。



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俺のせいじゃん!!

 

 

 

 正直に言おうと思う。

 熱界雷 六連は俺の最大火力の実質必殺技である。

 俺が先生に指南を受けてから三年間ひたすら努力をしたものの、六連までしかできるようにならなかった。

 善逸のように神速とか八連とか新たな型とか無理だった。

 これが俺の限界なのだろう。

 本当に善逸はすごい。限界まで極めた極限まで磨き上げた結果なのだろう。

 こう言ったのはやはり意識の違いなのだろう。

 善逸はクズ(獪岳)とともに隣に並び戦うため、そして何より強くなるために鍛え続けた。

 それに比べて俺はただ死にたくないがため、生きたいがために熱界雷を磨き続けた。 

 それでもやはり足りなかった。

 意識の違い。その壁は考えている以上に高かった。

 でも、これはいまさらだ。

 俺は善逸ではない。ただの獪岳だ。

 俺は物語に関わる気がない。

 原作ではあまり登場がなく、出た場面でもただクズを晒しただけ。

 俺はそんなのごめんだ。

 でも、もしも目の前で何かあった時は出来る限り尽くそう!

 俺はそう決意を固めるとともに今やらなければならないことを考え意識を切り替える。

 生き延びることだ。

 こんなところで死んでたまるか。

 そう思い山道をできる限り気配を消し、移動する。

 

 

 

 

 

 

 

 移動を始めて数分、俺は近くで戦闘をしている事に気づいた。

 気づいた手前放っておくのも悪いかと思い、近くに寄ってみた。

 そこには息を切らしながら4体の鬼に囲まれ戦い続けている胡蝶さんがいた。

 え?なにやってんの?あんなの早く倒せばいいのに。

 いや、無理そうだな。

 俺が観察して居ると胡蝶さんは呼吸が乱れ型が使えておらず右足を庇いながら戦っていた。

 見た限り実戦慣れしてないように見える。

 おそらく焦り、苦痛、そして死の恐怖。

 それらのせいで追い詰められて居る。

 俺はすぐに助けに入る。

 よくある鬼滅の刃二次創作では必ず胡蝶カナエ生存ルートが多くある。

 あんな美少女失ってしまっては世界の損失である。

 俺は戦闘に入るタイミングを測って割り込む。

 

「雷の呼吸 伍ノ型 熱界雷 乱」

 

 俺は一瞬で鬼達と胡蝶さんの間に入る。

 そして鬼4体にそれぞれ一回ずつ斬撃を飛ばす。

 ちなみに熱界雷 乱は周囲に4つの斬撃を飛ばす熱界雷の派生技だ。

 

 熱界雷 六連と同じような型だが、全くの別物。六連は一回一回刀を鞘に戻してそれを連続で放つ。ほぼ同じタイミングで斬撃を飛ばすため、二連は二倍、三連は三倍の様に威力が上がる。

 熱界雷 乱は自分を中心に周囲へ4回斬撃を、回転しながら斬撃を飛ばす。

 一回一回鞘に刀を戻すのではなく、刀の刀身四分の一のみ鞘に入れ周囲に斬撃を一回転に四回斬撃を飛ばす。

 ただ、普通の熱界雷よりも威力は二分の一程度に落ちてしまうが……。

 でも、状況によって一気に形勢逆転出来るなど、使い勝手はいい。

 俺は飛ばした鬼たちを確認。

 運が良かったのか、木にぶつかる、刺さるなど行動不能に持ち込めた。

 そして周囲を確認、鬼がいないことを確認し胡蝶さんの様子を見る。

 着物は着崩れており、身体中泥まみれだ。

 肩を大きく上下に動かし呼吸をしている。

 警戒心を強めていたが、俺を認識するなり強張っていた表情が少し綻びた。

 

「はぁ…はぁ…獪岳さん?」

「大丈夫…ではなさそうだね、間に合って良かったよ」

 

 俺がそう言うと胡蝶さんは落ち着きを取り戻し呼吸を整えた。

 

「助けていただきありがとうございます。獪岳さんが来なかったら今頃私は……」

 

 胡蝶さんはそう言って表情を暗くする。

 確かにそうだ。俺がいなかったら死んでいただろう。

 しかしなんでこんなにボロボロなんだろう?

 そこまで強い鬼はいないはず。

 

「何があったんだ?君ほどの実力者がこんなになるなんて」

「戦闘中にいきなり大木が飛んできまして……直撃はしなかったのですが、避けた際に体勢を崩し、右の足首が折れてしまったんです」

「………大木?」

「はい。私は遭遇しませんでしたが、大木や大岩を投げてくる鬼がいるらしいです。おそらくその鬼が投げたものが飛んできてしまったのかと」

 

 ……俺のせいじゃないよね?

 俺のところにも飛んできたし違うよね。

 

「俺のところにも飛んできた。でも、戦闘中だったとはいえ、そこまで速くなかったし避けられるんじゃない?」

「いえ、私も戦闘中にたまに妨害に遭いましたが、避けられました。しかしその時のは速さがケタ違いだったんです」

「…………」

「どうかしましたか?」

「……ちなみに飛んできた木は近くにあるの?」

「それならすぐそこに刺さってますよ」

 

 俺は胡蝶さんに促されるまま、視線を向ける。

 なんか見覚えあるような……。

 よく見たら六つの切り傷があるような……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺のせいじゃん!!

 



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なんでこうなった?

 

 

 

 胡蝶さん怪我したの俺のせいじゃん!!

 何やってんの俺?何がフッ………決まっただよ。

 人一人殺しかけてんじゃん!妹にトラウマ焼き付けるところだったわ!

 間に合って良かったマジで。

 俺は罪悪感からか体調が悪くなってる気がした。

 

「あの………どうされましたか?」

 

 すると胡蝶さんが俺に心配してか話しかけてきた。

 やばい俺何格好つけてたんだろう。

 俺は恥ずかしさのあまり今すぐ胡蝶さんから離れたい衝動に駆られる。

 

「本当に大丈夫ですから……俺そろそろ行きますね」

「?!待ってください!……お願いです……十分……いや、五分で構いません。怪我した足を固定したいので、少しの間そばにいてください……お願いします…」

 

 俺が離れようとすると胡蝶さんが慌てて止める。

 そして何かに縋るような目で見て言ってきた。

 目からは涙がこぼれていた。

 

「お願いします……ここで死ぬわけにはいかないのです」

 

 そういい、泣きながらお願いしてきた。

 なんかすごい誤解されてるような……。

 死にかけたのは俺のせいでその後ろめたさがあり、顔向けできないと思い離れようとした。

 でも、この状態で放っておく方が人間としてそして原作の獪岳以上にクズになってしまう。

 ここはしっかりと責任を取らなければ。まずは誤魔化そう。

 

「いや、そういう意味で言ったんじゃないよ。自分の現状見てごらん?」

 

俺がそう促すと胡蝶さんは一度自分の着物を見てそして顔を赤くした。

 

「……あの?」

「俺ちょっと離れたところいるから」

 

 俺の言葉に胡蝶さんは頷いた。

 とりあえず俺は最終選別終わるまで一緒に行動しよう!!

 やってしまったものはしょうがない。

 開き直って責任を取ろう!!

 

 

 

 

 

 

 

 それからしばらくして俺は胡蝶さんのところに戻った。

 胡蝶さんはなんだか頬を赤くしていた。

 

「あの……さっきはごめんなさい」

「いやこちらこそごめん」

 

 

 めっちゃ気まずい。どーしよまじで

 とりあえず俺はこの空気は嫌だったので話題を振る。

 

「最終選抜は残り三日、胡蝶さんはその怪我で生き残るのは無理だと思う」

「………はい」

「ここであったのも何かの縁だ。お互い協力して過ごそう」

「?!いいのですか?ご迷惑では?」

 

 いやだって怪我したの俺のせいだし。

 

「これでも困ってる人は見過ごさないタチでね。それに事故とはいえ、残り三日胡蝶さんと過ごせるんだ。役得だね!」

 

 どの口が言ってるんだろう?

 これは無意識とは言え自作自演なのだ。

 これでは俺が普通に良い人ではないか。

 本当に行いがクズすぎて笑えてくる。

 俺がそう言うと、胡蝶さんは顔をさらに紅くしながら言った。

  

「胡蝶ではなく、カナエで構いません。妹もいるので、呼び分けに困りますよ」

「………どういうこと?」

 

 俺がそう問い返すも返事はなかった。

 そして胡蝶さんが満面な笑みを向けてこう言った。

 

「不束者ですが、よろしくお願いします」

 

 何か意味深な言い方をしてくる胡蝶…もといカナエさん。

 俺は聞くのが怖かった為、何もせずに残り三日を過ごした。

 

 

 そして俺とカナエさんは無事に最終選抜を通過。

 終わった後、「機会があったらまたお会いしましょう!」と言われだけど何もせず手を振り解散した。

 帰る道中俺は罪悪感に押し潰されそうだった。

 自作自演でフラグを立て、誤解を解くことなく解散してしまった。

 俺は未来永劫このことを誰にも話さないと決めた。もちろんカナエさん本人にも。

 そしてカナエさんとはもう二度と会わないと誓う。

 手紙も無視、最低男だと思わせよう。 

 もしも知られたらどんなことをされるかわかったもんじゃない。

 俺は獪岳と同レベル。下手したらそれ以上のクズかもしれない。最終選別を通して学んだことは俺も獪岳同様自己保身の強いクズだったということ。

 

 

 

 

 

 この時の俺はこの行動が裏目に出るなんて思わなかった。

 そして過去の俺は未来の俺の姿を見たらこう思うだろう。

 

 なんでこうなった?




ヒロインカナエですね。

あと、展開早すぎかもしれませんがあまり気にしないでください。


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………これ死んだわ

 最終選別が終了し俺は正式な鬼殺隊の隊士となった。

 無事に最終選抜から帰ったので先生は褒めてくれると思った。

 しかし、開口一番に言われた言葉は。

 

「なんじゃ獪岳、帰ったのか?」

 

 心配しないの?

 確か原作主人公の炭治郎が帰った時、鱗滝左近次……炭治郎の師匠は泣きながら抱いていた。

 正直俺も期待していた。

 

「先生、弟子が最終選別から帰って来たんですよ!!その反応はおかしくないですか?もっと感動してくださいよ」

「バカもん!!これは師として弟子を信じていたからだ。心配せんでもお前の最終選別通過は分かっておった」

 

「先生………」

 

 俺をそこまで信用してくれていたとは正直驚いた。 

 そして先生は俺に近づき頭に手を乗せて、

 

「よく頑張ったな獪岳……師として誇りに思うぞ」

「………はい」

 

 先生の言葉に俺はそう返事をした。

 それから数日して日輪刀と隊服が届き、そして先生から黄色い羽織が贈られそれらを着込む。  

 俺は三年間過ごした故郷を離れ、鬼殺隊として活動を始めた。

 

 

 

 

 

 

 俺が鬼殺隊として活動し始めて半年が経った。

 怪我することはなく、安全マージンで活動している。

 討伐数は結構少ない。

 俺に鬼の首は斬れない。

 斬ろうとすれば斬れるけど、怖くて近づけない。

 だから鬼と戦闘が始まったら日の出まで逃げて日光でトドメを刺す。

 ただ、全く戦わなかったわけではない。

 近くに来たら熱界雷で吹っ飛ばし、場所によって壁があったり、鬼が地面に倒れた場合は別。

 熱界雷を連発して修復できないくらいのダメージを与えたりした。

 

 最終的なトドメは日光の光でだが……。

 

 それが理由で鬼の討伐数は現在六体。

 普通の隊士なら早くて二週間で終わる。

 でも、そんなこと知るか!俺は死にたくないんだ。文句の言いたい奴は勝手に言ってろ!

 そんなこんなで俺は方針を変えずに生きていく。

 

 この半年、特に事件らしい事件は起きていない。

 やっていたことと言えば仕事以外は鍛錬。

 あとは一回だけ文通をした。 

 相手はカナエさんだ。

 カラスを通して「文通をしませんか?」と手紙が送られて来たが、俺は「仕事と鍛錬で忙しいしそんなことしてる暇がない。今後送って来ても返信はしない」との旨を返した。

 おそらく勘違いでなければカナエさんは俺に好意を持っている。

 しかしその原因は俺の自作自演。

 もう関わらないと決めているため、わざと嫌われるように仕向けた。

 それ以降手紙は来ないし、連絡は完全に断絶した。

 俺は心から良かったということ。カナエさんはおそらく一時の気の迷いだったのだと分かり安心した。

 でもカナエさんはあと二年と少し、一七歳になったら上弦の弐 童磨に殺されてしまう。

 時期はわからない為、動きようがないが、もしも間に合うなら多少の手助けはしよう。

 そう決意した。

 

 

 

 

 

 その決意からさらに一年と少しが経った。

 ここで鬼殺隊になって大事件に巻き込まれる。

 

 

 

 運がないにも程がある。

 ただ至急任務だと言われ、森林に入った。

 しかし、ついた時には隊士の死体が山のようにあった。

 そのため、鬼の情報を持ち帰り金を貰おう!そう決めて周囲の探索を始めた。

 鬼の情報を持ち帰ればその質や鮮度によって報酬ははずむ。

 俺はこの一年半、戦いたくないなと思ったらすぐに上の階級の人に仕事を振った。もちろんある程度の情報を提供した。

 そして、一度だけその鬼の情報が貴重だったのだろう。すごい大金が手に入った。

 金にして千円。

 まじボロ儲け。リスクを冒すことなく、情報持ち帰るだけでだ。

 俺はその一件から情報を持ち帰るのに目が眩んでしまい、何かやばそうな鬼がいたら出来るだけ情報を持ち帰るようにした。

 

 しかしそれが悪かった。この時の俺は思う。

 なんですぐに逃げなかったのだろう?

 金に目が眩んで情報を集めようとしてしまったのだろう?

 現場についてからしばらく経ち、周囲を探索していると、大きな岩に座っている鬼を見つけた。

 俺は気配を消して、対象を観察。

 流石に血鬼術とかはわからないけど、鬼の特徴はわかった。

 これだけでも十分だ。 

 相手の戦闘力も未知数、そんな状態で戦うなんざ俺のポリシーに反する。 

 そう思い、その鬼から離れようとした。

 ………が

 

「そこにいるのは誰だ?……また増援か。殺しても殺しても次々に湧く、実力もないのに本当に鬼殺隊というのは虫の集まりなのか?」

 

 なぜバレた?

 まさか探知能力に優れているのか?

 これは好都合!!

 さらに情報が増えた。

 俺はそれがわかった瞬間鬼に向かって熱界雷を放ち、即座に撤退。

 まさに一撃逃走!!

 俺はこの戦法に自信がある。

 今までこの戦法を前に対応できた鬼は一体もいない。

 俺は走りながら儲けた金をどうしようか考えていた、が

 

「貴様!!戦おうとすらしないのか!!」

 

 ………あれ?

 なんで俺について来れてるの?

 なんで振り切れないの?

 鬼は俺を追撃している。

 気のせいか距離が詰められてるような……。

 

「おい!!」

 

 気のせいじゃなかった。

 俺は逃げきれないと判断し、再び鬼に向かい、技を放つ。

 

『雷の呼吸 伍ノ型 熱界雷 三連』

 

 二連でも良かったが、念には念を入れて三連にした。

 流石の鬼もこれならと思ったが、

 

『破壊殺 鈴割り』

 

 鬼は正面から容易く無力化した。

 

『破壊殺 空式』

 

『雷の呼吸 伍ノ型 熱界雷 四連』

 

 そして俺に向けて衝撃波を四発放って来た。

 俺は反射的にその衝撃波を型で迎撃した。

 それもそうだ。俺の熱界雷は一撃だけでも人一人を容易く吹き飛ばせる。

 連続で熱界雷を放てば威力はそれだけ倍になる。

 三連とはいえ、渾身の一撃を容易く無力化した奴だ。

 そんな奴の放った衝撃波に当たったらひとたまりも無い。

 その一瞬の駆け引きで鬼は俺に距離を詰めてついに追いつかれてしまった。

 俺は警戒心を高めて奴と向かい合う。

 

「ほう!今のを防ぐか。どうやらお前はただの虫ケラではないようだな」

 

 対峙して気が付いた。

 俺は奴の目を見て一気に緊張感が増した。

 奴の目には「上弦 参」と書かれていた。

 

 

 

 

 

 ………これ死んだわ



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………は?

 

 

 

 俺と上弦の参……猗窩座の戦闘は俺の防戦一方だ。この光景はまさに鬼ごっこ。

 俺は猗窩座から常に逃げ続け、熱界雷で迎撃や攻撃を繰り返す。

 対して猗窩座は追撃、血鬼術を使い攻撃を繰り返す。

 俺自身も驚いたことなのだが、あの猗窩座相手にギリギリ持ち堪えている。

 ただ、現状はジリ貧だ。

 俺と猗窩座は速さだけならほぼ互角。

 しかし、それ以外は雲泥の差。猗窩座は攻撃を受けても即座に完治、血鬼術破壊式による万能すぎる攻撃手段。そして無限の体力。

 それに比べて俺はというと、一撃即死、体力の限界。

 何より唯一の攻撃手段である熱界雷はほぼ無力化されてしまう。

 本当に無理ゲーだ。

 幸か不幸か地は俺が利していた。

 しかし時間が経つにつれてどんどん不利になっていく。

 

「防戦一方では無いか。まだ何か隠しているのだろう?早く見せたらどうだ?」

『破壊殺 空式』

「うるせぇ!」

『雷の呼吸 伍ノ型 熱界雷 三連』

 

 俺はできる限り東の方向へ森林の木々や大岩を伝って高速で移動をしており、その後を猗窩座がついて来ている。

 その過程で猗窩座はそんな俺に対して、遠距離攻撃の衝撃波で攻撃。

 俺はそれを熱界雷で迎撃、躱しひたすら避け、隙さえあれば熱界雷で猗窩座に攻撃をする。

 熱界雷は四連までしか見せていない。

 まだ猗窩座は俺がまだ何か隠していると思っており、完全には攻め込めていない。

 この戦闘で運が良かった点は二つ。

 一つ目は今の森林の地形は俺が三年間修業した地形に似ている。そのおかげで地形を活かして戦えている。

 二つ目は猗窩座自身が森林の地を活かすのが苦手としていたこと。

 本当に運が良かった。

 しかしこの均衡は長くは続かない。 

 猗窩座は拳の衝撃波で次々に木々を薙ぎ倒していく。

 そのせいで俺の足場がどんどんなくなり、行動範囲が狭くなっていく。

 そして次の猗窩座の攻撃で完全に崩れた。 

 

「ちょこまかと!」

『破壊殺 砕式 万葉閃柳』

 

ドゴーン!

 

 猗窩座は大きく振りかぶった腕を地面に叩きつけ、地面を叩き割る。 

 地形が崩れてしまい木々が倒れていく。

 

「?!」

 

 木々が倒れてしまったせいか、足場に使おうとした木が不安定になり体勢を崩してしまった。

 猗窩座はその隙をつき接近し、正拳突きをしようとする

 

「終わりだ!」

「まだだ!!」

『雷の呼吸 伍ノ型 熱界雷 六連』

「何!!」

 

 俺は熱界雷 六連を使って猗窩座を飛ばす。

 俺は着地をできず、体を地面に強打してしまう。

 しかし、上手く受け身を取ったおかげで致命傷は避けた。

 それに対して猗窩座はというと、熱界雷 六連でかなりの威力で飛ばされ、地面に叩きつけられ、止まった時には手足がありえない方向に曲がっていた。

 しかし流石は鬼、即座に完治させてしまった。

 こう言うところは本当に卑怯だ。

 もう終わりだ。

 ついに奥の手を使ってしまい、打つ手がない。

 でもしょうがない。

 それを使わなかったら死んでいた。

 でも、ただ死の時間が延びただけだ。

 無理な体勢から型を使ってしまった為、身体中に激痛が走る。

 そして木々の移動で失敗した時、足首を捻ってしまった。

 多分骨折しているだろう。

 俺はもう戦えない。

 

「やはりまだ上があったか。だが、流石に限界のようだな」

 

 そう言いながら猗窩座が歩いて近づいて来た。

 

「褒めてやろう。よく非才の身でここまでの領域に踏み込んだ。お前の速さ、一つの技のみならば至高の領域に近い」

「……そりゃどうも。まさか上弦の参に褒められるとは思わなかったよ」

 

 限界に達し動けない俺に対して猗窩座が褒めてきた。 

 猗窩座は話を続ける。

 

「お前名前は?」

「………獪岳」

「そうか………」

 

 猗窩座は俺の名を聞くと何故か考え始める。

 そして数秒考え、話しかけてくる。

 

「獪岳、俺は弱い人間は嫌いだ。俺は始めお前をただの雑魚だと思っていた。闘気の練り上げが未熟なお前を。だが、結果は違った。防戦一方ではあったが、柱でも無いのにこの俺相手に善戦した。全てを捨て、速さと一つの技のみを鍛え続けるとは到底正気の沙汰ではない。お前は稀有な存在なのだろう」

「………」

「まだまだ未熟ではあるが獪岳、お前には権利がある」

「……権利?」

 

 猗窩座は俺を称賛し、褒めた。

 そして、俺に対して一つの提案をして来た。

 

「鬼になれ獪岳、未熟だが、永遠の時を鍛えればいずれ本物になる」

  

 

 

 

 

………は?

 

 



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フラグかな?

 俺は猗窩座の提案を聞き、困惑していた。

 それはあの猗窩座が俺を認めた点もそうだが、何より俺を鬼に勧誘したことについてだ。

 

「何を言っている?正気かよ?」

「あぁ、俺は至って真面目だ。鬼はいいぞ?永遠の時を生きられ、怪我をしてもすぐに治る。何より永遠に武を高めることができる」

  

 俺の答えは決まっている。

 

「断る。俺は絶対に鬼にはならない!!」

 

 俺がただの獪岳ならばこの提案を受けていただろう。

 しかし鬼になってしまっては今までの俺の努力が水の泡になる。 

 何より人の思いを踏み躙ることになる。

 俺は自分の待ち受ける運命を変える為、努力をしてきた。上手くいかず挫け、挫折したこともあった。それでも努力を続けてきたんだ。

 もちろん死にたく無い。助かりたい。

 でも、俺はクズに成り果てるくらいなら死を選ぶ。

 

「そうか、残念だ。お前のような人間とは今まで会ったことがなかった。お前となら高め合えると思ったんだがな。今まで俺が誘った奴らはみな断った。何故なんだろうな?理解ができない」

「俺は絶対に鬼にならない。鬼に比べたら人間の一生は短い。だがそんな短い人生こそ人間の美徳だ。人は出会いと別れを繰り返す。その中で悲しみや後悔を繰り返し成長していくんだ。成長し続けられるから人は強くなれる。何度だって言ってやる。俺は鬼にならない」

 

 そう、俺の人生は悲しみや後悔の繰り返しだ。

 前世でも今世でも何も成し遂げられずにいた。

 クズにならないと思っても、罪を犯してしまった。

 せっかく美少女とのフラグを立てたのにそれを自ら手放した。

 前世ではできなかった恋人ゲット、結婚のチャンスすら投げ捨てた。

 やってしまってから後悔し続けた。

 だからこそもう二度とこんなことはしないと思い、次チャンスが来たら絶対にものにしてやると強い決意ができた。

 それを乗り越えたからこそ、次に生かすための成長ができた。

 鬼になってはそんなチャンスすら来なくなってしまう。

 人間に好かれるどころか余計に嫌われてしまう。

 美少女が寄ってくるどころか離れていってしまう。

 俺にだってプライドがある。

 そんなプライドを捨てるくらいなら死んだほうがマシなんだ。

 

「はぁ、なら死ね」

 

 俺の言葉にほんの少しくらい感銘を受けて見逃してくれないかなーとか思ったがダメみたいだ。

 もう少し時間を稼げば生き残れたかなと思ったがやはり足りなかった。

 俺は目を瞑り迫り来る死を覚悟する。

 

「チッ!話しすぎた」

「え?」

 

 しかしいくら待とうが猗窩座から止めを刺されることはなかった。

 ふと、気になり目を開けてみると猗窩座は目の前から消えていた。

 そして後ろを振り返ると日光が地面を差していた。

 

「助かったのか?」

 

 俺は周囲を見渡した。

 戦闘に夢中で気がつかなかったが、木々は全て倒れ、平地になっていた。

 猗窩座の最後に地面に打ち込んだ技が如何に強力であったのかを物語っていて、来た時の豊かな自然がなくなっていた。

 それほどまでに俺と猗窩座の戦闘は熾烈だったのだろう。

 そのおかげで日光が早く差し込んだのだが。

 ふと自分の日輪刀を見たら血が付着していた。

 日光に当たっているため、少しずつだが消えつつあった。

 俺は急いで布を取り出して綺麗に拭き取り、その後、布を保存用の袋に入れた。

 鬼の血は貴重だ。特に上弦の参、この血はかなり貴重だ。 

 今後何かの役に立つと思い大切にしまった。

 

「本当によく無事だったなー」

 

 俺は誰もいないこの大地で一人でつぶやいた。

 俺の体はボロボロだが致命傷はない。

 怪我は足の骨折?と上半身の骨と筋肉がずれてるくらいだ。

 しかしこの程度なら数ヶ月で治るだろう。 

 俺は全集中常中を身につけており、ある程度使いこなせている。

 そのため普通の隊士よりも治りが早いはずだ。

 今後、もう二度とあんな連中とは戦わない。

 死ぬのはごめんだからだ。

 そう決意した。

 そして限界に達した俺は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 フラグかな?



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え!!!!!!!!!

 

 

 

 目覚めると今まで一度も来たことのない場所だった。

 首を動かし周囲をみると白いシーツのベッドが多く並んでいて、まさに病院だった。

 俺は上半身に力を入れ起きあがろうとするが

 

「イテッ!」

 

 体に激痛が走り起き上がれなかった。

 とりあえず現状が全くわからないため、病室に患者がいないことを確認したあと、誰かを呼ぶ。

 

「すいませんどなたかいませんか?」

 

 するとしばらく時間が経ち、俺のいる部屋からピンクの着物を着込んだ少女が顔を出した。

 

「ちょっとそこの君こっちに来て?」

「…………」

 

 俺が声をかけるも少女は何も反応をしなかった。

 そして懐からコインを出してチャリンと上に弾いた。

 そして、落ちてきたコインを受け取り、結果を見たあと、俺を見つめたままになる。

 

「あの〜」

「…………」

「聞こえてる?」

「…………」

 

 この子もしかしてカナヲかな?

 そう考えてみたら全ての言動が当てはまる。 

 てかこの時期にはもういたんだな。 

 でもどうしよう?呼んで来てもらわなければ話が進まない。

 少し申し訳ない気持ちはあるが言い方を変えさせてもらう。

  

「じゃー命令ね。誰か呼んで来てもらっていい」

「………」

 

 俺がそう言うと、彼女は黙ったままその場を去った。

 そして数分後に人を連れて帰ってきた。

 

「なんですかカナヲ。言わなきゃわからないでしょ?」

 

 そう言いながらカナヲが一人の女性を連れてきた。

 俺はちゃんと連れてきたんだなと思いつつ、現状何が起こっているのかわからない彼女に説明をした。

 

「すいません。俺が彼女に人を呼んでくるように言ったんです。すいません」

「え?」

 

 俺がそういうと、彼女が反応した。

 どこか驚いたような、そんな表情だった。

 

「カナヲにお願いしたんですか?どのように?」

「どのようにって……えと、初め話しても銅貨を投げ、その後ただ見られてただけだったんで、少し言い方を変えて言いました」

「……そうですか。それはご迷惑をおかけしました。……ちなみに何て言ったかお聞きししても……」

 

 俺がそう言うと、彼女は少し悩んだあと、どういう言い方をしたのか聞いてきた。

 俺は素直にそのまま伝えた。

 

「命令ねと最初に言ったあと、要件を伝えました。言い方が悪かったのは承知しています。しかし、少しでも早く現状を確認したかったもので。申し訳ありません」

「そうでしたか。いえそういうことでしたら、特に何も言いません。ただ、次回からそのような言い方は控えていただけると」

「わかりました。もう言いません。気をつけます」

「はい。お願いしますね」

 

 俺が初めて答えた瞬間は彼女は少し不機嫌な表情をしたが、素直に謝ったら許してくれた。

 俺は軽いやりとりを済ませて、話をする。

 

「お聞きしたいのですが、俺の怪我はどういった具合なのですか?復帰はできますか?」

 

 そう。俺が聞きたかったのは自分が把握している怪我の具合、復帰の有無だ。

 俺がそう聞くと彼女が質問に答えた。

 

「そんな心配をしなくても、しっかり療養をすれば復帰は可能です。ただ、ひどい状態でした。右足は骨が皮膚から出ているほどの重症。上半身に至ってはほぼ変形していました。もし少しでも怪我の具合が悪かった場合、骨が臓器に刺さる、そんな可能性すらありました」

「そ、そうですか」

 

 思った以上に重症だった!

 生きててよかったまじで!

 俺が思っていると、彼女が少し深刻そうな顔をして質問をしてきた。

 

「元は森林であった場所も木々は全て倒れて。大地は荒れていて、とてもひどい状態でした。一体どんな相手と戦ったんですか?差し支えなければ教えて頂きたいのですが」

 

 彼女にそう聞かれ素直に答える。

 

「十二鬼月は知っていますか?」

「はい。まさか?!」

「はい。そのまさかです。俺が戦ったのは上弦の参、猗窩座という鬼です。ま、戦ったというよりは防戦一方でしたがね」

「……すいません。ちょっと聞き逃してしまって、もう一度お願いしても?今上弦と聞こえましたが」

「上弦の参です。嘘ではありませんよ。カラスからちゃんと情報が届いていると思いますが」

「い、いえ疑っていたわけでは。正直驚いているだけです。……よく無事でしたね」

 

 俺が説明すると彼女は一瞬面食らった。 

 そしてまだはっきりとは信用していないが、俺に激励の言葉をかけてきた。

 

「本当に良かったですよ。でも、さっきも言いましたが、防戦一方でした。地形、相手の特性、不得意分野、そして相性。それらが運がよく一致していたからこそ生き延びられたのです」

「………」

 

 俺がそういうと彼女は何も言わずに考え込んだ。

 そして数秒後、話し始めた。 

 

「これはあなたが思っている以上に深刻な問題かもしれません。十二鬼月、しかも上弦はこの数百年変わっていません。おそらく遭遇して生き延びる。しかも有益な情報を持ち帰ったのはあなたが初めてだと思います。今後、あなたは柱合会議に呼ばれると思います」

「そうですか」

 

 俺ってもしかしてすげーやつ?

 だって誰も成し遂げた事のないことをやり遂げた。これは……特別給与がもらえるのでは?

 俺がそう思っていると彼女が話を続ける。

 

「とりあえず今は体を治すのに専念してくださいね。でも、上弦についての情報提供は至急呼ばれるかもしれません。その際は協力をお願いします」

「はい。何から何までありがとうございます。よろしくお願いします」

「ご丁寧にどうも。何があったら気軽に声をかけてくださいね。……えっと……名前まだお聞きしてませんでしたね。私は胡蝶しのぶと言います。花柱胡蝶カナエの妹です」

「え?胡蝶カナエさんの妹!あ、すいません。俺も名乗ってませんでしたね。俺は獪岳と言います」

「?!、あなたが!!……」

 

 俺が自己紹介をするとしのぶさんは何故か声を上げ、反応をする。

 俺何かした?

 その疑問はしのぶさんの言葉で全てわかった。

 

「あなたが……あなたが姉さんを」

「あの、どうかしました?」

「あなたが姉さんを誑かした男ですか!!」

「いや、意味がわかりません」

「あなたなんかに……あなたのような最低な人間に姉さんは渡しません!!」

 

 

 

 

え!!!!!!!!!



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どうしようまじで……

 

 

 

 しのぶさんにそう言われて俺は戸惑っていた。

 

「姉さんが変わったのは全てあなたのせいなんです。姉さんは最終選抜が終わったあと、いつも以上に笑うようになりました。しかし、ある日を境に姉さんは外ではあまり笑わなくなりました。理由はわかりませんがその原因はあなたのようですね」

「ちょっと待って!話が見えない。確かにカナエさんからの文通の誘いを断ったけど、それだけだよ。特に何もしてないし」

「姉さんを気安く名前で呼ばないでください!!一つ聞きますがなんで姉さんはいつも同じ手紙を見ながら悲しそうにため息をついているんですか?あなたが変な手紙を送ったせいですよね?そうに決まってます!」

「いやそれは……少しきつい書き方だったけど、別に」

「心当たりがあるんじゃないですか!!やっぱりあなたのせいだったんですね!!」

 

 俺はただ断っただけだ。

 特に気になるような内容は送ってないはずだ。

 しかし、そんなことになっていたなんて思わなかった。

 本当にどうしよう?

 

「何黙ってるんですか?何か言ったらどうですか?」

「いや……あの「何をもめているんですか?ここは病室、静かにしてはどうですか?」」

 

 俺としのぶさんが話していると、優しく包まれるような聞き心地の良い声がする。

 そこには約一年半ぶりのカナエさんがいた。

 なんか目のハイライト消えてるような?

 気のせいかな?

 なんかしのぶさんが怯えているのは気のせいだろうか?

 

「姉さん……ごめんなさい」

「いえ、いいのよしのぶ。今後は気をつけてね。そういえば薬の調合終わってないんじゃない?」

「あ!そうだった。すぐ行くわね」

「ちょっと待っt「あらあら、慌てなくていいのに」」

 

 胡蝶姉妹が会話をし、しのぶさんがカナエさんに促され逃げるように仕事に戻ろうとする。

 ここで二人きりになっては何か怖い気がしたため、声をかけるもカナエさんに遮られた。

 しのぶさんが退室したあと、二人きりになってしまった。

 ふと俺はカナエさんと目が合い、恐怖心が増す。

 カナエさんの顔の表情は目のハイライトは消えていて、少し半目にそして口角を上げて笑っていた。

 やべー。笑顔のはずなのに怖い。

 

「お久しぶりですね。獪岳さん」

「あ、あのカナ「お久しぶりですね」…」

「カナエさn「お久しぶりですね」…」

 

 話ができない。

 てか怖い。

 俺がカナエさんに話かけようとすると遮られる。

 とりあえず挨拶しよう。

 

「ひ…久しぶりだねカナエさん」

「はい!551日ぶりですね」

「………う、うん?」

 

 なんで日数わかるの?てか病んでる?そんなはずは……

 

「しのぶと随分仲が良いんですね?」

「いや、そんなこt「私とは文通すらしてくださらないのに、話しすらしてないですのに、しのぶとはあんなにも仲良く。しかもあんなに親しそうに。この手紙が送られてきてから何か理由があるんじゃないかって、そう思い我慢していましたのに。その後は音信不通、何も連絡もなく。どれだけショックを受けたと思ってるんですか?柱になってからあなたのことを探し続けてやっと見つけたら私との関係はなかったかのように生活をしていて、修行が忙しいと書かれていたからどれだけきつい修行をしているのかと思ったら1日寝ていただけ、嘘を書いたのですか?私のこと嫌いなのですか?なら正直に言ってください。どうなんですか?答えてください獪岳さん?」………」

 

 完全に病んでる!なんかすごい最後名前呼ばれたときすごいドス黒い声で言われた。

 てか何?身辺調査されてたの?一日中休んでるってそんな日あるわけ……あ!!

 

「それは戦闘で少し怪我をしてしま「存じています」……え?」

「戦闘で怪我をして十日ほど休んでいたことは調べてあります。ならなんで私のところへ来なかったのですか?」

「いや、行ける距離じゃ「蝶屋敷までの距離は一時間程です。たしかカラスから行くように指示があったはずですよね?なんで来なかったんですか?来れなくてもカラスで手紙を出せば来れたはずでは?そんなに私に会いたくないのですか?何か特別な理由があったんですよね?」………」

 

 どうしよう?

 なんでここまで悪化してるんだろう?

 もしかして俺のこと初恋だったのかな?

 でもどうしたら初恋をここまで拗らせられるんだろう?

 てか俺が送った手紙まだ持ってたのかよ。よく見るとその手紙は折り目がほとんどなく、綺麗になっている。

 それを見るとさらに恐怖が増す。

 てか、十日も休んでいたのって少し長い休みが欲しかったわけでそんなに深い理由はない。

 どうしようなんて言えばいいんだろう?

 こんなことを考えてるとカナエさんから名前を呼ばれる。

 

「獪岳さん?」

「はい!」

 

 正直記憶になかった。

 でも、これを正直に言っても良いのだろうか?

 

「何悩んでるんですか?正直に言ってくださればいいんですよ?」

「わかりました」

 

 もう今更だ。特に理由はない。

 俺はカナエさんに正直に理由を話そうとする。

 

「き「忘れていたなんてことはないですよね?」……」

 

「き……なんですか?」

 

 どうしよう?正直に答えることすらできない。

 もう全てを正直に話そう!ここで引いたらダメだ。

 俺は上弦の参 猗窩座を退けたんだ。

 こんなピンチへでもない。

 もうどう思われようと気にしない。

 クズに思われようが構わない。

 俺はそう思い、カナエさんに話し始める。

 

「獪岳さん?」

「き………君にふさわしい人になるためだ」

「……え?」

 

 ダメだった。

 カナエさん猗窩座より怖い。

 正直に言ったら殺される。

 てかなんだよ君にふさわしい人になるためだよ。 

 気持ち悪いわ!

 この後どうしよう?なんて言おう。

 

「どういうことですか?その……ふさわしいとは?」

 

 俺の言葉に目にハイライトが戻り顔を赤くしているカナエさんが聞いてくる。 

 今更ながら俺は何を言っているんだろう?

 でも、ここで引いたら後が怖い。

 だから俺は言葉を続ける。

 

「君は今となっては柱だ。そんな君に今の俺はふさわしくなかった。君の隣に立つのに全然足りなかった。しかし、今回の一件で俺はある快挙を成し遂げた。これで君の隣にいるのにふさわしいって心から自慢できる」

「獪岳さん……」

 

 俺の言葉にカナエさんは顔を耳まで真っ赤にする。

 言ってて気持ち悪く思う。

 本当に何を言っているんだろう?

 俺はここまで自己保身が強すぎるのか?

 俺は獪岳以上にクズい。

 でも、言ってしまってから後悔した。

 これからどうすればいいんだろう?

 もう後に引けなくなってしまった。

 

 

 

 

 

 どうしようまじで……




主人公の行動、初恋設定をするとカナエちょっと病んでいるヒロインになっちゃうんですよね。
作者の独自解釈です。


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カナエの心境変化

カナエの獪岳への心境変化についてです。

うまく書かているかわかりません。
興味がある方だけお読みください。


 

 

 

 カナエと獪岳は最終選抜では初めて会った。

 

 カナエの獪岳の最初の印象はおかしな人であった。

 緊張のせいか、一人で呟きつづける。

 

 周りの人もそれを気にしていたが話しかけるようなことはせずにいた。

 自分のことだけで手一杯。こんなやつに関わるのは面倒くさい。

 だから、そのままにしていた。

 放っておいた。

 

 だが、カナエはそれができなかった。

 目の前で死ぬかもしれない人物がいて、少しでも緊張をほぐれ、生存率が上がるなら。

 

 そう軽い気持ちで話しかけた。

 だが、思っていた以上に緊張はしていなく、ケロッとしていた。

 

(おかしな人ね……いけない。私も集中しなくちゃね。しのぶにも気を抜かないでと言われたばかりなのに……いけないわね)

 

 カナエは獪岳と会話したあと、すぐに考えを切り替えた。

 

 カナエの実力ならば最終選抜を突破するのは容易い。

 何もイレギュラーのことが起きなければ。

 

 それは突然に起こった。

 最終選別4日目、鬼との戦闘中、突然勢いよく大木が飛ばされてきた。

 カナエは鬼との戦闘に集中しすぎてしまっていたのか、反応が一瞬遅れて直撃は避けたものの、怪我を負ってしまった。

 

 また、大木が落ちた時の音で鬼が集まってきたせいか、4対1。圧倒的に不利な状態にあった。

 

 カナエは焦りや死の恐怖により呼吸が乱れ、技が出せなくなってしまう。

 

(ああ……ごめんねしのぶ。一人にしてしまって)

 

 カナエは死を覚悟した。

 その時であった。

 

『雷の呼吸 伍ノ型 熱界雷 乱』

 

 複数の雷鳴とともに現れた人物によって助けられた。

 その人物は獪岳であった。

 

 その後、獪岳は親切にも残り3日間守ってくれると提案してくれた。

 

(なんて親切な人……自分のことだけで手一杯の人が多いのに)

 

 この時、カナエは胸の内から今まで感じたことのない温もりを感じた。

 どこか心地が良い。

 

 このきっかけがカナエが獪岳に恋心を抱く。

 

 その後無事3日間を過ごし、晴れて二人は鬼殺隊の隊士となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからカナエは積極的に獪岳と交流を持とうと思い文通をやろうとした。

 だが、仕事や修行で忙しいと断られてしまうことになる。

 

(何故かしら?もしかして避けられている?でも、理由がわからない。……最終選別で迷惑をかけてしまったから?……そうか、私が頼りないからね!」

 

 カナエは獪岳の手紙を受け取った日以降、人一倍稽古をするように。

 カナエは努力を重ねた結果、最終選別からわずか二年の月日で柱となった。

 

(これなら獪岳さんも頼りにしてくれるはず)

 

 カナエは自分と再会した時の驚く獪岳を思い、嬉しくなるのだった。

 だが、一度手紙は断られているため、嫌われることを恐れて手紙を出せないでいた。

 

 

 それから数ヶ月後、柱の立場を使って獪岳の動向を調べていたカナエにある報告がくる。

 戦闘で獪岳が怪我をしてしまったという報告。

 しかも、獪岳がいる場所は蝶屋敷からさほど遠くなかった。

 カナエは急ぎカラスを使い蝶屋敷にくるように指示をした……だが、それを拒否された。

 

 理由はわからない。

 別に今いる場所でも治療はできるし、強制でない。

 

(……もしかして獪岳さんは私のこと……何故こんなに苦しいの?)

 

 この一件はカナエにとってショックが大きかった。 

 嫌われてしまっているのかもしれない。

 

 カナエはそう思えてならなかった。

 胸の中でぐちゃぐちゃになる感情に戸惑うようになる。

 

 

 それから約一年と半年が経過した。

 カナエはある緊急の知らせがきて、慌ててしまう。

 それは獪岳が上弦の参に遭遇したという連絡。

 カナエは獪岳が死んでしまう、そう思った時、涙が止まらなかった。

 今まで溜め込んでいた感情が爆発したのもあったのだろう。

 それがきっかけで、自覚した。

 

(私……獪岳さんのこと好きなんだ。……なんでこんなに気づくのが遅くなってしまったのでしょう?)

 

 カナエは急ぎ現場に向かう。

 

(お願い……間に合って)

 

 だが、着いた時には全てが終わっていた。

 元あった草木はなくなり、平地となり、多くの鬼殺隊士の死体が転がっていた。

 

 カナエは絶望した。

 だが、まだ死んだことを確認したわけではない。

 

「生存者がいないか確認してください!早く!」

 

 カナエは獪岳を探し続けた。

 それから10分ほど探すと、獪岳を見つけることができた。

 

「いた!獪岳さん!……しっかりしてください!獪岳さん!」

 

 カナエは慌てて声をかける。

 だが、反応はない。

 体に触れるのが怖かった。

 

 獪岳が死んでいたら今の自分が壊れてしまうと思ったからだ。

 

 だが、獪岳は生き延びていた。

 

「うう……」

「獪岳さん!……生存者を発見しました!応急処置をします。道具を!他の生存者がいたら教えてください!」

(絶対に死なせない。……私の愛しの人)

 

 その後獪岳はカナエにより命を助けられたのだった。

 

 

 上弦の出現から数日が経過し獪岳は目を覚ました。

 その日はカナエは仕事がひと段落つき、一人屋敷の初代花柱が植えたという桜を見ながら獪岳の無事を祈っていた。

 

「何かしら?しのぶ?」

 

 それは突然怒鳴り声。

 カナエは気になり声のする方向へ行く。

 病室から聞こえたので、しのぶに注意しに行こうとして。

 

「?!」

 

 その光景にカナエは目を疑った。

 視線の先には獪岳としのぶが話している姿が映る。

 この時、カナエの何かを抑えていたセーフティが壊れた。

 

(何故私のことは避けてたくせにしのぶと仲良く話しているの?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?私の方が仲がいいはずなのに。なんで?なんで?なんで?あなたは私の物のはずなのに)

 

 それが全ての始まりにして元凶であった。

 もし獪岳が普通に文通をしていたら。もし意地を張らなければ。

 

 未来は変わっていたのかもしれない。

 




最後まで読んでくださりありがとうございました。


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ファック!

最近評価結構伸びてきました。
ありがとうございます。
また誤字報告、作品のおかしな点についてご指摘いただきありがとうございます。




 カナエさんに俺は恐怖し、本当のことを言えないまま少し話が進んだ。

 どうやら上弦の参の情報は柱に流れているらしく、その詳細を至急教えて欲しいとの旨を伝えられた。

 そして一通り要件を伝え終わった後、カナエさんは俺のいるベッドの近くの椅子に座り今まで俺に見せたことのない表情で話し始める。

 

「なんであんな無茶をしたんですか?」

「………」

 

 それは怒りの表情。

 俺は何も言えず黙って俯いてしまう。

 

「どれだけ心配をしたと思ってるんですか?あなたが上弦の鬼と戦っているという知らせを聞いた時私はどんな気持ちでいたと思いますか?」

「それは……」

 

 どうしようもなかった。

 そう言おうとしたが、顔を上げた瞬間続く言葉を話すことができなかった。

 カナエさんの目には涙が溢れていたからだ。

 俺はその表情をしたカナエさんに何も言えず、ただ一言。

 

「心配かけてごめん」

 

 そう言うしかできなかった。

 

「心配をかけないでください」

「?!」

 

 俺が謝罪をした後、カナエさんは泣いてしまった。

 その際、俺の服の裾を引っ張っていた。

 体は震え、溜め込んだ不安を爆発させたように涙を流した。

 俺は頭を優しく撫でた。

 今の彼女にはそれしかすることができなかった。 

 そんな権利俺にはないと分かっている。

 それでも、俺は撫でることをやめず謝罪を続けた。

 

 

 

 

 

 それから一時間ほど時間が経った。

 カナエさんは泣き疲れ、座ったまま頭を俺の膝の上に乗せ寝てしまっていた。

 俺はカナエさんの気持ちにどう向き合えば良いのかわからない。

 気持ちは嬉しい。

 でも、これは俺が自作自演で行った結果だ。

 カナエさんには幸せになってほしい。

 そう心から願っている。

 だから、俺は決めた。カナエさんを童磨から守ると。

 猗窩座を退けた俺だ。速さなら上弦に通じる。

 童磨は猗窩座ほど速くないし、血鬼術に気をつければ勝機はなくとも負けはしない。

 そしてもしも童磨の件が片付いたら正直に全て話そう。

 関係はなくなるだろう。

 それでも俺は彼女のために全力を尽くそう。

 そう決意し、疲労からか眠気が来て逆らうことなく意識を手放した。

 

 

 

 

 

 次の日俺が起きた時にはカナエさんはいなかった。

 周囲を見渡すが誰もいない。

 俺は何もすることができないため、目を瞑ろうとする。

 

「起きてたんですね」

 

 俺に声をかけてくる人がいた。

 ふと、声が聞こえた方に向くと、不機嫌な表情をしたしのぶさんがいた。

 

「昨日は随分と仲睦まじかったですね」

 

 そう言い、ガシャン!と音をさせながら病人食が載せられたプレートを机に置いた。

 機嫌悪すぎだわ。

 

「………」

「………」

 

 お互い無言が辛い。

 どうしよう?

 そういえばカナエさんにすごいこだわってるなー。

 もしかしてしのぶさんって重度の…

 

「シスコン?」

「違います!」

 

 おっと口に出てしまっていたか。

 机をバンと勢いよく叩き、否定するしのぶさん……なんか顔赤くしてるし肯定してるようなものなのだが。

 

「あなたには常識というものがないんですか!姉さんとの事といい、今の言動といい……本当に最低な人間ですね!」

「いや今のはつい口に出てしまって」

「そういうところが常識ないんです!」

「なんかごめん」

「なんかってなんですか!一言余計ですよ!」

 

 本当にしのぶさんはカナエさんのことが好きなんだなぁ。

 完全に敵意向けられてしまってるから多分俺が話しかけても意味がないだろう。 

 これ以上この話題はやめておいた方がいいな。

 話を変えたいしご飯を取り上げず運んできてくれたしお礼いっておこう。

 

「えーと、朝食持ってきてくれたんだよね?」

「……あなたは一応患者ですからね。最低限のことはしなければなりません」

「……」

「これ食べたらここに置いておいてください。あとで取りに来ますから」

「…わかった。ありがとう」

 

 俺はしのぶさんにお礼を言うが、黙って行ってしまった。

 俺嫌われすぎでしょ。

 俺はしのぶさんが退室するまで背中を眺めていたが、急に立ち止まり手紙を渡してきた。

 

「これあなた宛のです」

 

 え?なにこれ先生からかな?

 そう考えていると手紙を差し出したままでいるしのぶさんが怒ってきた。

 

「さっさと受け取ってください!こっちはあなたほど暇じゃないんです!」

「あ!ご…ごめん」

 

 俺本当に嫌われすぎじゃね?まじで。

 俺は慌てて手紙を受け取る

 

「フン!」

 

 手紙を渡したしのぶさんはそう言って退室した。

 

「態度露骨すぎだろ」

 

 俺は誰もいない病室で一人そう呟いた。

 そして渡された手紙を眺めて俺宛の手紙であることを確認。

 俺は誰から来たのかわからない手紙を開き内容を確認した。

 

「あれ……見間違え?」

 

 書かれていた内容に驚き俺はつい独り言を言ってしまう。

 俺は深呼吸をしもう一度確認する。

 

「まじかよ……」

 

 やはり見間違えではなった。

 その手紙の内容には「柱打診」と書かれていた。

 

 

 

 

 

 「ファック!」俺はそれを投げ捨てた。



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心が痛い……

週間ランキング(二次創作 総合)ともに入っていました
ありがとうございます。



 

 

 俺が柱打診の手紙をもらってから次の日、今隠の人たちに担架で運ばれている。

 残念ながら柱の誘い、俺は断るつもりでいる。 

 主な理由は三つ。

 原作改変、死にたくないから、他の隊士に示しが付かないと言う理由だ。

 鬼の首を斬れない柱はしのぶさんがいたがそれとは質が違いすぎる。

 しのぶさんは鬼を殺す毒を開発し、カナエさんの復讐のために執念で柱へとなった。

 でも俺は逃げる、鬼を飛ばす以外できない。

 これではただ恥を晒すだけ。

 そのため断る。

 何より条件を満たしていない。

 討伐数ですら11体、階級「辛」のままだ。

 俺はそんなことを考えながら、お館様と柱達が待つ屋敷へ運ばれて行った。

 

 

 

 

 

 

 俺が屋敷に着くとすでに柱たちが集まっていた。

 

「獪岳さん!お待ちしていました。体の具合はどうですか?」

「お前が!」

「こいつが情報屋か!」

 

 カナエさんが俺の到着を認識すると声をかけてきた。

 あと、なんかカナエさんの後に話した人誰?なんで俺に敵意を向けてきた。

 俺って嫌われてるのかな?

 あと情報屋って何?

 

「待たせてごめん。あと、俺ってどうするの?まさかこのまま担架の上で話すわけじゃないよね?」

「それについては大丈夫です。こちらに準備してありますから。……獪岳さんをあちらのベッドに運んでください」

 

 俺がカナエさんに質問をするとカナエさんが隠の人たちに指示を出す。

 え?ベッド?

 

「悲鳴嶼さん、ご協力お願いできますか?」

「うむ」

「悲鳴嶼さん!?」

 

 俺は悲鳴嶼さんの名前を聞いた瞬間、声を上げてしまった。

 悲鳴嶼さんの鬼殺隊入隊の原因は俺であって、俺が原作と違う行動をしたためフラグを折ってしまったのかと思った。

 カナエさんとしのぶさんがいたが、それは別の誰かが助けたのかと思っていた。

 

「獪岳さん、悲鳴嶼さんとお知り合いなのですか?」

「む……まさか!獪岳なのか?」

 

 カナエさん、悲鳴嶼さんが反応する。

 俺は悲鳴嶼さんに聞きたいことが山ほどある。

 でもまずは謝罪をしなければと思い話し始めた。

 

「はい。昔寺にいた獪岳です!悲鳴嶼さんなんでここにいるんですか?他のみんなは?」

「そうか……。よかった。生きていたのだな」

 

 俺は色々聞きたすぎて一気に質問してしまった。

 すると、悲鳴嶼さんはそう言い泣き始めてしまった。

 

「悲鳴嶼さん?」

 

 俺は急に泣き始めた悲鳴嶼さんに対して理由が分からず名前を呼んだ。

 

「獪岳…守れなくてすまなかった。無事で何よりだ」

「そんな!俺の方こそ勝手にいなくなってしまってすいません。これにはじじょ「知っている」……え?」

「獪岳、君がいなくなったのは鬼から私たちを守るためだったのだろう?」

 

 守るため?もしかして鬼から逃げたことを言っているのだろうか?

 でも、それは自分のためであってそんな大層な理由はない。

 

「君がいなくなった日から数日後、鬼殺隊の隊員が寺に来て、話は全て聞いた。鬼が現れたこと、寺の子供が一名行方不明となってしまったこと」

 

 そうか。

 俺がいなくなってしまった後、そんなことが。

 

「そして全てを聞いた後、君は死んでしまったと思った。そのことを私は後悔した。そしてもうこんな思いは二度としないと、同じ境遇の者たちが現れないようにすると。だから鬼殺隊士となり鬼をこの世から屠り去ると決意した」

「悲鳴嶼さん……」

 

 俺がいなくなった後のことを聞いて、まず思ったことは、獪岳は居ない方がいい存在だと言うことだ。

 形はどうあれ、鬼殺隊最強の岩柱の加入、悲鳴嶼さんが罪に問われることがなく、寺の人たちは皆生存。

 獪岳は不幸の象徴なのかも知らない。

 ただ、一つ気になる点は俺の行動に悲鳴嶼さんが勘違いしていることだ。

 皆を守るためではなく、俺一人生き延びたいがために逃げ出した。

 俺はそのことはすぐに否定するため話す。

 

「悲鳴嶼さん。本当に心配をおかけしてすいません。でも、俺が居なくなったのは自分が助かるためです。寺のことはそこまで考えていませんでした。本当にごめんなさい」

「獪岳……君はどこまで善人なんだ……」

「え?違います。俺は本当に自分のことだけを考えて「大丈夫だ。もう気を遣わなくてもいい。そこまで自分を卑下するものじゃない」………」

 

 俺が真実を伝え、謝罪をすると悲鳴嶼さんは泣きながら話した。

 なんかすごい誤解をされてるんだけど。

 100%の善意ではなく、120%の自己保身での行動だったんだけど。

 誤解を解こうにも、解けない。

 ふと隣にいるカナエさんを見ると感動していた。

 その表情は「獪岳さんはなんていい人なんでしょう」とでも言いたげな表情だった。

 なんで顔赤くしてるのカナエさん?

 確かに原作獪岳と違う行動をした。

 結果、全てハッピーエンドに進んでいた。

 でも、それは自分のための行動なのに他の人はそっちのけ。

 なんかどんどん自己保身の行動が勘違いを生み、俺という存在が美化されていってしまう。

 俺はどうしよう、と思いつつ否定しすぎるのも気が引けた為、そのままにした。

 そして最後に悲鳴嶼さんから

 

「獪岳……本当に無事でよかった。私たちを守ってくれてありがとう」

 

 と感謝された俺はその言葉に心が痛むも、否定をせずに

 

「悲鳴嶼さんも無事でよかったです。また会えてよかったです」

 

 と言った。

 その後は悲鳴嶼さんにベッドに運んでもらった。

 そしてそれから数分後お館様が現れた。

 

「急に集まってもらって悪かったね。そしてよく集まってくれたね私のかわいい子ども達。それでは柱合会議を始めようか」

 

 お館様がそう宣言し、柱合会議が始まった。

 

 

 

 

 

 心が痛い……

 



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クソ!嵌められた!

 

 

 

 お館様の言葉から柱合会議が始まった。

 

「みんなもわかっていると思うけど、今回集まってもらったのは上弦の参についてだ」

 

 お館様がそういうと柱たちの視線が俺に向く。

 それよりも俺ベッドに寝たままでいいのかな?失礼に当たらないかな?

 

「獪岳、別にそのままでいいよ。重症なのに無理に呼んでしまったからね。本当にすまなかった」

「い、いえお気になさらず。私もこのような失礼な体勢で申し訳ありません。上弦の参についてお話しします」

「うん。お願いね」

 

 お館様は俺の反応に気付いたのか、許可と謝罪をしてきた。

 流石に鬼殺隊トップの人に謝罪をされるのは居た堪れない。

 しかもベッドで寝た体勢でずっといるのも嫌だったので即座撤退をするため、お館様と柱たちに猗窩座との戦闘に関することからやりとりまで全て説明した。

 

「獪岳……お前よく無事だったな。まぁ、重症ではあるが、生きて帰るなんてスゲーじゃねーか!」

「どうも」

 

 説明が終わると音柱……宇髄天元に俺は労いの言葉をもらった。

 自分で説明していて本当によく生きてたなーって再度思った。

 そしてお館様が話しかけてきた。

 

「獪岳、本当によく帰還してくれた。君が情報を持ち帰ってきてくれたおかげで貴重な上弦の鬼について知ることができた。本当にありがとう」

「いえ、隊士として当たり前のことをしたまでです。それに俺が生き残れたのは運が良かっただけです」

 

 俺は鬼殺隊の中で一番偉い人にそう言われてしまい、調子に乗ってしまいそう返してしまった。

 そして、お館様は俺の言葉を聞いたあと、上弦の鬼の件は終了させ、次の話に移った。

 

「上弦の鬼の件はここまでにして、次の話に行こうか。獪岳、君の功績は大きい。良かったら柱となって鬼殺隊を支えてくれないだろうか?」

 

 来た。俺はそう思い、あらかじめ考えていた理由を話した。

 

「申し訳ありません。柱の件はお断りさせてください」

「理由を聞いてもいいかな?」

 

 俺が理由を話すと柱の人たちがざわめいたが気にせず、言葉を続ける。

 

「理由はいくつかあります。まず、私は隊士となってから鬼を十一体しか倒しておらず、階級も辛のまま。何より、柱になるための条件をーつも満たしておりません。それでは隊士に示しがつきません。ですので私は柱になるべきではありません」

 

 俺がそういうとお館様は黙り考え込んでしまった。

 お館様も無理強いはしたくないのだろう。

 

「おい、お館様からの願いを断るとは何様だテメェ!」

「?!痛いんだよ何すんだよ!」

 

 すると、風柱…不死川実弥が胸ぐらを掴み俺に怒鳴ってきたため、俺も体の痛みが増してしまい、ついタメ口で返してしまった。

 その態度が気に入らなかったのか不死川実弥は苛立ちを増したが、この件はこれ以上大きくなることはなかった。

 

「実弥」

「……申し訳ありません」

 

 お館様が名前を呼んだ瞬間、不死川は謝罪をしすぐに膝をついた。

 数秒の静寂のあと、お館様は俺に話しかけてきた。

 

「獪岳、柱は今もなお空席がある。本当なら君に柱をやって貰いたいけど、無理強いはしないよ」

「……はい」

 

 よし!!柱フラグ回避!!

 これで死のリスクが減るぜ!!

 俺は有頂天になってしまった。

 そのせいで気を抜いてしまった。

 抜いてしまったのだ。

 

「でも、君の功績は大きい。階級を三つ上げるけどいいかな?」

「はい!」

 

 まじか!!

 これで給料アップじゃん。

 俺のやることは変わらないけど、それを承知で昇格させたのだろう。

 お館様本当にいい人だ。

 

「君は上弦の参相手に立ち回れるほどの実力がある。これから危険な鬼の仕事を振ることもある。すまないが協力してくれるね」

「はい!」

 

 上弦の参を退けたんだ。

 その他の鬼など有象無象に過ぎない。

 

「でもまずは怪我を完治させることに専念してほしい」

「はい!」

「完治し次第任務に戻るように」

「はい!」

「柱達に稽古をつけてあげて欲しい」

「はい!……………え?」

 

 今なんて言った?

 柱に稽古?

 聞き間違えかな?

 

「獪岳、引き受けてくれてありがとう。では怪我が治り次第お願いね」

「え、ちょ「みんなもいいね?」

「「「「御意!」」」」

 

 俺は即座に否定しようとするも、お館様は遮ってきた。

 そして柱もみんなも同意した。

 文句ある奴いんじゃないか?と思い、痛いのを無理に体を動かし、周囲を確認するが不死川ですら嫌な顔せずに従った。

 てか俺を見て殺してやる的な顔をしている。

 こいつ、絶対根に持ってやがる!

 そしてふと、お館様を見たら笑っていた。

 

 

 

 

 

 クソ!嵌められた!



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は?……え!!

誤字報告ありがとうござます。
毎回のように報告をしていただいます。
少しずつ改善したいと思います。




 

 柱合会議が終了後すぐに蝶屋敷に戻り俺は今ベッドで横になって今日の出来事を事を考えていた。

 柱にならなくて済んだのはよかった。

 でもお館様のせいで俺は変な立場になってしまった。

 柱に稽古をつけるってなんだよマジで

 言いたいことは分かる。上弦に対抗するために柱たちの実力向上を図るため。

 それでも言い方ってものがある。

 なにが柱に稽古をつけてくれだよ。

 そのせいで俺は不死川様……いいや不死川でどうせ歳同じだし。

 不死川に敵意を向けられてしまった。

 俺は今まともに動ける状態じゃない。

 殺されなきゃいいけど。

 

「獪岳さん、何かお悩みですか?」

「カナエさん……ちょっと今日のことで」

 

 考え事をしていた俺にカナエさんが心配してか声をかけてきた。

 

「私でよろしければお聞きしますよ……」

 

 カナエさんは本当に良い人だ。

 確かに柱目線からの意見を聞くのもいいかもしれない。 

 俺はそう思うと、カナエさんに質問をした。

 

「じゃー遠慮なく、カナエさんはどう思った?ほら、柱の件とか」

「うーんそうですねぇ……」

 

 カナエさんはそう言い目線を下にし、右手の人差し指を口にあて考え始める。

 何そのポーズ可愛い。

 俺が感想を抱いているとカナエさんが話し始める。

 

「柱としては獪岳さんになってほしかったですね」

「柱として?」

「はい。ご存知の通り柱は現在空席があります。それが原因で柱一人の負担は多くなってしまっています。それに獪岳さんは上弦の参と戦えるだけの実力がありますし、柱になってくだされば心強いなと思います」

「なるほど……」

 

 柱の現状はある程度知っているため本人から聞くと本当に申し訳ない気持ちになってしまう。

  

「でも」

「え?」

 

 俺が考えごとをしていると、カナエさんが話を続けた。

 

「私個人としましてはこれで良かったと思っていますよ!」

 

 カナエさんは笑顔になって俺にそう言ってきた。

 個人として?

 

「カナエさん個人としてってどういうこと?」

「………秘密です!乙女の秘密は詮索するものではありませんよ……私は仕事がありますのでもう行きますね!何かあれば遠慮なく言ってくださいね!」

 

 カナエさんは俺にそう言い、顔を少し赤くして退室してしまった。

 

 俺はまた可愛いと感想を心でしたが、それとは別の考えが浮かんでいた。

 もうすぐカナエさんの死亡フラグが来る。

 それまでに早く療養しなければ。

 焦る気持ちもあったが、それでは余計に治りが遅くなってしまう。

 なので焦らずできるだけ早く完治させようと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 柱の会議から三ヶ月が経ち、俺の体は完治、機能回復訓練を済ませた。

 まだ全盛期の7割しか回復していないが、復帰には十分。

 もう仕事に復帰しようと判断し、準備をしていた。

 

「もう復帰するんですか?」

「まぁね。流石に体鈍るし」

「あまり無理しない方がいいんじゃないですか?姉さんが心配しますよ」

「大丈夫だよ。これでも元とはいえ柱に誘われたんだよ。そう簡単に死なないよ」

「はぁー別にいいですけど」

 

 この三ヶ月でしのぶとは普通に会話をできるようになった。

 これにはあるきっかけがあったのだが、これが大変だった。

 俺は猗窩座の血液を拭き取った布を持っていた為、それを今後の役に立つのではないかと思い、しのぶに渡そうとした。

 でもタイミングが悪かった。

 俺はすでに歩ける状態であったため、カナエさんとしのぶが話している最中に「しのぶさん。よかったら心ばかりのプレゼントです」と言ってそれを渡した。

 そこで言葉足らずなのと間の悪さで事件が発生。

 俺の言葉にカナエさんが反応して

「しのぶと獪岳さんはそう言った関係なのですか?」

 といつもの華やかな声と表情とは真逆、目のハイライトは消え、ドス黒い声で言った。

 俺としのぶさんはやばいと判断し、協力してカナエさんを宥めた。

 一時間後、誤解が解け「もう!ちゃんと説明してくださいよ獪岳さん。でも本当にお優しいんですね」と照れながら言った。

 

 多分それがきっかけだったのだろう。 

 俺としのぶはそこで何かの絆が生まれた。

 そのおかげで今ではタメ口、名前呼びの許可が出た。

 しかし稀に義兄さんと呼ばれることがある。

 何故だろう?

 まぁ、こんな一幕がありしのぶとの関係は修復されたのだった。

 

 あとお館様に頼まれていた柱との稽古はまだ断っている。

 稽古で怪我をしたくないし何よりカナエさん死亡フラグが来るまで時間がなかったためだ。

 

「疲れたー」

 

 俺はそう呟きながら自分の自宅にいた。

 自宅は猗窩座の一件での報酬としてお館様からもらった。

 一人では少し大きいような感じがするが住みやすいし良いと思い、気にしないことにした。

 一つ疑問なのが、何で蝶屋敷から歩いて10分くらいの場所にあるのかだが。

 

「こんなこと気にしたってしょうがないか!」

 

 またも誰もいない部屋の中で話す。

 何か外堀から埋められてる?と思えてきてしまったが気にしないことにした。

 気にしたら負けだ。

 その後は今日は少し疲れたため早く寝ようと思い、布団に入り寝た。

 しかし、今日大事件が発生してしまう。

 それを知ったのは俺が睡眠に入ったあと。

 しのぶが急に家のドアをぶち破って入ってきて、俺の布団にまたがる。

 何か泣いてる?状況は掴めないが取り敢えず一言言っておこう。

 

「おい人の家のドアに何s「お願い!姉さんを助けて!!」……」

 

 

 

 

 は?……え!!



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マジでどうしよう………

すいません千文字と少なめです。


しのぶからカナエさんを助けてと言われてから俺は今全力で走り続けている。

 理由は上弦の弐、童磨とカナエさんが戦っていると聞いたためだ。

 ついに来た、とは思ったものの同時に来てほしくなかったと矛盾したことを考える。

 理由は二つ

 一つ目は俺がまだ全盛期の8割ほどしかスピードを出せない。

 もう一つは童磨の血鬼術とやり合いたくないため。

 でも、ここで止まってはカナエさんを守るという決意がダメになる。

 そう思いながら全力で現場に向かった。

 

 

 

 走り始めて10分が経った。

 そろそろ現場に着く。

 

「間に合ってくれよ」

 

 俺はそう呟きながらカナエさんの無事を祈った。

 そして、ドン!と大きな音がした。

 俺はそれを聞くと嫌な予感が増したため、そこへ急いで向かう。

 音がした方に少し進むと、そこには二つの人影が見えた。

  

「やばい!!」

 

 二つの人影は近づくにつれてはっきりと見え、その光景に俺は焦る。

 童磨がカナエさんに向かって氷柱を撃ちだす寸前だった。

 俺はすぐに一番自信のある技を出す。

 出し惜しみはしない。

 

『雷の呼吸 伍ノ型 熱界雷 六連』

 

 俺が放った六連続の斬撃は童磨が作り出した氷柱を吹き飛ばした。

 そして童磨とカナエさんの間に割り込むように着地した。

 

「はぁ…はぁ…はぁ」

「うん?今のは君がやったのかい?驚いたよ!すごいね!」

「うるせぇよ…はぁ…はぁ」

 

 俺が現場に着くと童磨が緊張感のない、この場に似つかわしくない声で話しかけてきた。

 俺は息を切らしながら返答をする。

 どうにか間に合ったが、疲労が蓄積した。

 正直コンディション最悪だ。

 猗窩座の時とは大違い。

 

「獪岳さん……」

「へぇー君たち知り合いなんだ!もしかして疲れているけど、助けるためにここにきたの?すごいねぇ。これが愛ってやつかな?」

「黙れって言ってんだろ?」

 

 満身創痍のカナエさんが俺の存在に気がつくと弱々しく名前を呼んだ。

 それにしても童磨は人をいらつかせる天才だ。

 こんなに殺意が湧いたのは久々だ。 

 でもこいつの氷を吸ってしまうと呼吸が使えなくなるため、常に警戒をする。

 そして、心配そうな表情をしているカナエさんに声をかける。

 

「大丈夫だよ……」

「う……ん」

 

 俺がそう声をかけると、カナエさんは涙を流しながらそう返答した。 

 相当不安だったのだろう。

 

「氷……すっちゃだめ」

「わかった」

 

 カナエさんは最後にそう言って意識を失ってしまい、俺は丁寧に抱きかかえた。

 そして何も言わずに俺とカナエさんの光景を見ていた童磨に向き合い考える。

 どうしようまじで。

 今の状況はとにかくやばい。

 疲労困憊、全力の8割しか出せない俺、何より気絶したカナエさん。

 どうしよう………。

 

 

 

 マジでどうしよう………

 




すいません。
童磨との展開どうしようと考えてまして、次の投稿は明後日します。


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褒めてよ!

 

 

 

 俺は今目の前の童磨を見て苦悩していた。

 どうやって逃げようと。

 こいつと一対一の戦闘は無理。

 確実に負ける。

 何よりカナエさんがいるから尚更だ。

 

「今の君たちは美しいよ!お互いを想い合うその姿、愛だね!だから安心しなよ。死んでも寂しくないように二人とも俺が食べてあげるから」

「いちいちうるさい!」

 

『雷の呼吸 伍ノ型 熱界雷』

キン!

 

 俺はふざけたこと吐かす童磨に向かって技を放つ。

 しかし童磨は勢いで後退するものの手に持った大きい扇子で容易く受け止める。

 後ろに動いたのは精々1メートルほどだった。

 

 「今のさっき俺の氷柱を飛ばしたのと同じだよね?それにしても威力がないけど……もしかして全力だったのかな?」

「どうだかな?」

 

 ヤベェバレてる。

 こいつこんなくそな性格してるけど分析力は優れていると原作で書かれていた。

 少しやっただけで全てバレるとは。

 ……カナエさんを助けたときに全力見せたの失敗だったか?

 いや!俺の判断は間違っていない。

 結果はどうあれカナエさんを助けられたんだ。

 

「あれ、もしかしてあたりだったかな?」

「いや、まだ上がある」

「へぇ、そうなんだ。じゃー俺に向けて放ってみてよ!もしかしたら俺のこと倒せるかもよ?」

「このやろ……」

 

 俺は童磨の言葉に虚勢を張るが、やっぱり完全にバレてる。

 その後の童磨の俺を舐めた言葉にイラつき言い返そうとするが、そこでふと思いついたことがある。

 童磨は今俺が最初放った熱界雷で後退させたため、少し大きな建物の前にいる。

 そして俺の技を受けてやると言った。

 俺は逃げることが目的、少しでも相手の隙を作れれば良い。

 

「受け切れるんだな?」

「そんなに自慢の技なのかな?良いよ!受けてあげるよ」

 

 俺の言葉に童磨は二本の扇子を左右に広げながら笑いながら言ってくる。 

 なら遠慮なくやらせてもらおう。

 

『雷の呼吸 伍ノ型 熱界雷 六連』

 

 俺は童磨に斬撃を三つ、童磨の後ろの建物に向けて三つそれぞれバラけて放つ。

 

ドン!ガラガラガラガラ!

 

 俺の放った技に童磨は建物の壁をぶち破り、その後建物は崩壊、俺は懐からしのぶお手製、藤の花入りの煙玉を取り出し童磨のいる方向に投げ込む。

  

ドカン!

 

 爆発音と共に紫色の煙が周囲に広がる。

 俺は投げると同時にカナエさんを抱えた。

 

「おい!柱たちはどの方向から向かって来てる!」

「こっちだ!カー、こっちだー」

 

 カラスは柱の応援が来ている方角に飛んでいった。

 俺はまた懐からさっきと同じ煙玉をありったけ出して建物に投げ込む。

 そして爆発する前にカラスが飛んでいった方向に全力で走る。

 もちろんカナエさんの体に負担がかからない程度の速度で。

 

ドドドカーン!ドカーン!

 

 俺の背後から爆発音が聞こえる。

 これで童磨死んでくれないかなーとか思ったが腐っても上弦、それはないだろう。

 その後は追ってくることを想定していたが、童磨は何故か来なかった。

 それからしばらく走り続けると、柱が二人……不死川と宇髄さんが来ていた。

 

「おい、鬼はどこだ!」

 

 不死川が俺を見つけるなり怒鳴って聞いてきた。

 ……カナエさんの心配はしてないのかな?

 でも、今は状況の説明が最優先だな。

 

「鬼は俺が走ってきた方向にいるはず。でも、逃げた後一切追ってこなかった。……理由は分からん」

「逃げてきただぁ?少しは戦って情報集めるくらいしなかったのかよ腰抜け!」

「うるせーよ、こっちは必死だったんだよ!カナエさん助けることに必死だったんだよ!てかここにカナエさんいるの分からないのかよ。お前の目は節穴か?」

「おい、平隊士の分際で柱に何て態度取ってんだゴラァ!」

「そんなこと言うなら柱らし「喧嘩してる場合か!」……」

 

 俺が不死川とやりとりをしてると宇髄さんが止めにかかる。

 俺としたことが冷静さを失ってしまっていた。

 すると宇髄さんが俺と不死川では話は進まないと思ったのかこの場を仕切り始めた。

 

「獪岳、確認するが胡蝶は無事なんだな?そして鬼は追ってきていないと」

「はい。カナエさんは気を失っている為、本人からは確認していませんが、呼吸は安定しています。それと、鬼については少し戦った後、隙を作って逃げましたがその後は追ってくる気配はありませんでした」

「おいてめぇ、何で宇髄には「黙れ不死川、今は状況確認が優先だ!」……チッ!」

 

 俺が宇髄さんに説明した後、不死川は突っ込んでくる。

 でも、流石宇髄さんだ。

 この野郎を止めるとは。

 

「獪岳……それにしてもすごいな、柱を救っただけでなく、上弦の弐相手に隙をついて逃げるとは派手でスゲェじゃねーか!」

「いえ、運が良かっただけです」

 

 宇髄さんが不死川を止めた後、俺を称賛してくれた。

 人に褒められるのは嬉しいな!

 俺がそんなことを思って

 そして、ふと不死川が何か気になったのか聞いてきた。

 

「どうやったんだよ……」

「何が?」

「……チッ!どうやって隙を作ったのか聞いてんだよ」

「お!それは俺も気になるぜ!」

 

 不死川はイラつきながら聞いてきて、宇髄さんがそれに便乗。

 俺は素直に答えることにした。

 

「それはたまたま話の流れで童磨……上弦の弐の鬼が俺の熱界雷を受けるという流れになったから、童磨を熱界雷で後ろに飛ばし建物の内部に入った後、諸共崩壊させました。そのあとしのぶお手製藤の花入り煙玉をありったけ投げ込んで逃げました」

「「………」」

 

 俺の回答に何故か二人は呆れた目線を向けて黙っている。

 何でそんな表情してるの?

 その疑問は次の宇髄さんの話を聞いて納得した。

 

「獪岳……結果だけみたら派手にスゲェが過程は卑怯だな」

 

 と宇髄さんは呆れながらそう話した。

 いや鬼相手に卑怯とか気にしなくて良くない?

 お願いだから二人とも、その視線やめてくれませんかね?

 せっかく快挙成し遂げたのに。

 

 

 

 褒めてよ!




すいません。
今後は更新不定期になります。
でき次第投稿します。
気長にお待ちください。


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どうしてこうなった……

 童磨の一件が終了し一週間ほどが経った。

 終わった後は少々面倒臭さかった。

 それもそうだ。上弦の鬼二体と短期間に遭遇、そして生き延びた。

 これは俺が思っていた以上に大事件らしい。

 ここ数百年、上弦の鬼の顔ぶれは変わってなく、仮に遭遇したとしても全て全滅。

 能力はもちろん、容姿すらも不明。

 そんな上弦の鬼に対して隊士が一度だけでなく二度も生還、しかも有益な情報を持ち帰る。

 これは鬼殺隊全体にとっても利益が大きく、今後の対策、訓練の仕方によっては充分対策が取れる。何より上弦の鬼に匹敵する速さをもつ隊士がいるという基準も分かっている。

 俺は大いに評価された。

 お館様も「獪岳……本当にありがとう」と直接お礼を言われた。

 その時柱たちは動揺し、約一名俺に殺気を向けたのは気のせいだろう。

 それでも、良い話しだけではない。

 それは今の鬼殺隊にとって悲報。

 花柱 胡蝶カナエの戦線離脱。

 ただでさえ柱の空席が空いている状況。これは鬼殺隊にとっても痛手だ。

 事件終了後、三日ほどで目を覚まし、体は大きな怪我もなく今では健康状態。

 でもカナエさんは童磨との戦闘で呼吸が使えなくなってしまったのだ。

 俺はそれを聞いた時、二つ思ったことがあった。

 一つはとりあえず結果はどうあれカナエさんが無事でよかった。

 もう一つは俺また柱に誘われるかなーと思った……最終的に誘われることはなかったが。

 

 今回の件で俺は実績を上げた結果、かなりの報酬をもらった。

 階級も、「戊」からさらに三つ上がり「乙」となった。

 最後にお館様から今後の柱たちの訓練、俺自身の訓練のための土地……というより森をもらった。

 それは大きすぎて流石に断ろうかとも思ったが、もらえるものは貰っておこう。

 そう思い、全て受け賜った。

 

 そして現在俺は蝶屋敷でカナエさんが改めてお礼をしたいとのことでテーブルを挟み食事を取っていた。

 今この場にいるのはカナエさん、俺、しのぶ、カナヲの四人。

 並べられた食事は豪華で、高級旅館で出されるような料理が多い。

 ……一体いくらしたんだろう。

 そんな感想すら出てくるくらいだ。

 

「獪岳さん……改めて、ありがとうございました。私が今この場にいられるのはあなたのおかげです」

「いえ……無事なのはよかったけど、でも……鬼殺隊を引退することになってしまって」

「もうそのことはいいんです。上弦の鬼に遭遇した時点で生き延びられる、それだけでも凄いことなのですから。獪岳さん…もしかして自分に責任があると思ってるんですか?」

「まぁ、そりゃもっと早く着いていれば……」

 

 カナエさんは本当に察しがいい。

 俺は常々もう少し早く着いていれば……そんなことを思っている。

 俺は俯いて考え事をしていたがふと、右手を包むように温もりを感じた。

 俺は右手を確認すると俺の正面に座っていたはずのカナエさんがいた。

 しかも結構真剣な表情。

 雰囲気を気遣ってかしのぶとカナヲが退出した。

 

 ………いらないよそんな気遣い。

 

「獪岳さん……何度も言っていますが、私が助かったのはあなたのお陰です」

 

 そう言ってカナエさんは俺に笑みを向ける。

 

「獪岳さんに命を助けて頂いたのはこれで二度目ですね。……一度目は最終選抜、そして今回。私は返しきれないほどの恩を作ってしまいましたね」

 

 その言葉を聞いた瞬間俺は胸に激しい痛みを感じる。

 二回目は分かる。でも一回目は違う。

 俺は決めた。もう嘘はつかないと。この人には誠実でいなきゃいけないと。

 だから俺は真実を話す。

 

「それは違うよカナエさん」

「何がですか?」

「確かに今回の一件は俺が助けた。でも最終選抜の時は違う。あれば無意識だったとはいえ、俺の自作自演なんだ。あの大木を凄い勢いでカナエさんに飛ばしたのは俺なんだ。それがなければ今この場で俺とカナエさんが一緒にいることはない。……本当にごめん」

 

 俺はそう言ってカナエさんに頭を下げる。

 カナエさんはそれを聞いた後、何も言わずにいた。

 おそらく軽蔑しているのだろう。

 しかし俺の考えは次のカナエさんの話を聞き、驚く。

 

「本当に獪岳さんは誠実な人ですね」

「いや、違う!俺はそんな人「知っていましたよ」……え?」

「最終選抜の件は知っていました……いや分かったと言った方がいいですかね。私もあの後少し考えたんです。少し不自然なところがありましたから、現場、そして何よりあなたの態度、それを考えれば誰でも分かると思います」

「………なら何で?普通なら軽蔑する場面では?」

 

 わかってるんたら何で引き離さなかったのだろう?

 俺の問いにカナエさんは何故か大きな深呼吸をする。

 そして顔を赤くして話し始める。

 

「あなたのことが……好きだからです」

「……え?」

「確かにきっかけは最悪だったのかもしれません。それでも最終選抜残りの数日間。あなたと過ごして、あなたの人柄に触れて気がついたら惹かれていました。……手紙で文通拒否された時なんて凄いショックだったんですよ」

 

 俺はカナエさんの言葉を聞いて何も言えずに黙ってしまう。

 ただどうしよう。

 そんな考えが頭によぎる。

 

「あなたと会えない日々が続いて、貴方への想いは強くなりました。そして、あなたと再会し、しばらく一緒に過ごしてこの気持ちを自覚しました」

 

 俺はカナエさんからの告白を聞いて、俺の答えは決まっている。

 俺は少し考え、話し始める。

 

「カナエさん……ごめん。俺は君の気持ちには応えられない。俺は自己保身の強いクズだ。自分から何もできないヘタレだ。そんな人間と一緒になるべきじゃない」

「………そうですか」

 

 カナエさんは俺の返事に対して一瞬悲しそうな顔をし返事をする。

 しかしすぐにいつものような笑顔になり、話し始めた。

 

「そうですか……それは残念です。…私にここまで想わせた獪岳さんには責任をとって欲しかったんですが……分かりました。でも、これで私も決心がつきました」

「本当にごめん」

 

 カナエさんは俺に告白の一件はなかったかのような表情をする。

 そんなに気にしてないようでよかった。

 でも何の決心がついたのだろう?

 俺との縁を切る決心かな?

 

「大丈夫です……私も薄々こうなることは予想していましたから」

「……そうなんだ」

 

 なんか話の論点がずれているような……気のせいだろうか?

 俺がそんな考え事をしているとカナエさんはパチン!と手を叩いて話し始める。

 

「もう料理も無くなりましたし、終わりにしませんか?」

「そうだね」

 

 そうカナエさんが言って、パーティは終了した。

 俺は終了したことが分かり帰ろうとしたらタイミングよく入ってきたしのぶがお盆に二つのコップを持ってきてカナエさんと俺の前に置いた。

 

「さすがに栄養が偏ると思いまして……姉さんに薬として飲んでもらっている栄養ドリンクです。その……獪岳さんもいかがですか?」

「あらあら、しのぶったら別に気にしなくてもいいのに」

「……ダメよ姉さん!病み上がりなんだから。しっかり栄養は取らないと!」

「分かったわよ、もう!過保護なんだから!」

「……飲んだらさっさと寝てよ!」

「分かったわ」

 

 なんか少しよそよそしい態度で栄養ドリンクを渡してきたしのぶ。

 なんか様子がおかしい?

 てかカナエさん急にご機嫌になった?

 気のせいかな?

 

「獪岳さん、しのぶの折角の厚意ですし、いただきません?」

「……そうだね。なら頂こうかな」

 

 俺はカナエさんの言葉に賛成し、お互い乾杯をした。

 その時しのぶが逃げるようにして部屋を退出した。

 

「しのぶ、どうしたんだろう?」

「あらあらまあまあ、あんなに慌ててどうしたんですかね?」

 

 俺の言葉にカナエさんは栄養ドリンクを飲みながら話す。

 俺は気になりながらも真似るようにして飲み始めた。

 

「ん?結構美味しい。……でも何か変な味がするけど……」

「栄養ドリンクなんてこんな物ですよ。しのぶお手製ですから市販には出てない代物ですよ」

「そうなんだ」

 

 俺はカナエさんの説明を聞き、しのぶは薬学に精通しているんだっけなと思い出しつつ栄養ドリンクを全て飲み干した。

 そこでふと、カナエさんを確認したら何故か顔を真っ赤にしていた。

 そして俺の体の内側から今まで感じたことのない生暖かいような、変な温もりを感じる。

 

「獪岳さん……責任……取ってくださいね」

「え?」

 

 そう言ったカナエさんの表情はどこかおかしかった。

 ただわかることは目のハイライトが消えていたことだけ。

 俺はカナエさんの言葉の意味を理解出来ず、そこで俺の意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 起きると俺はベットに寝ていた。

 昨日何あったんだっけ?

 昨日はカナエさん達とご飯食べてその後は………何だっけ?

 しのぶが持ってきた飲み物を飲んでその後は?

 

「ん……」

 

 俺が考え事をしていると隣から女性の声がした。

 そしてふと確認すると隣には何故か裸のカナエさんがいた。

 ………てか俺も裸の何だけど。

 

「え!」

 

 全てを自覚した瞬間俺は焦った。

 そして俺は掛けてあった掛け布団を引き剥がし中を確認。

 そうしたら何か赤いシミのようなものがあった。

 

「何で……」

 

 俺に記憶はない。

 でも今の状況を整理したら大体予想がついた。

 裸の俺とカナエさん、シーツの赤いシミ。

  

「……ふぁん、あら、起きたんですか獪岳さん」

「え?」

 

 俺が焦っている時、隣からカナエさんの声がした。

 まだ考えがまとまっていなかった。

 考えついていたなかった。

 しかし、カナエさんが俺に言った言葉で全てを自覚した。

 

「獪岳さん……責任……取ってくれますよね?」

 

 カナエさんは完全に目のハイライトが消えていて、笑っている筈なのに今まで感じたことのない恐怖心を感じる。

 

「…………はい」

 

 俺はカナエさんの言葉に対してそう返事するしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 どうしてこうなった……




読んでくださりありがとうございました。

形はどうあれ無事フラグ回収ですね。



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そう決心しました。

 カナエさんと一夜を過ごした後俺の生活風景は随分と変わった。

 今まで溜め込んでいたものから一気に解放されたこと、カナエさんに嘘をつき続け後ろめたい気持ちがあったが、それもカナエさん自身も元から知っていてそれでもなお俺と一緒に居たいと言ってくれた。

 正直言ってしまえば俺はカナエさんが好きだ。

 彼女のかわいい容姿はもちろん、性格、髪型、匂い全てが好きなのだ。

 これは全てから解放されてようやく気づいた。

 鈍感と言われても仕方がないと思う。 

 でも昔ではなく今、それが大切なのだ。

 そんな俺の生活だが、変わった……というよりも恐怖を感じたことがいくつかある。

 まずは一つ目。

 寝て起きたら必ずカナエさんが隣にいる。

 これは今朝のこと。

 

「ふぁー」

 

 俺は朝気持ちよく起きた。

 策略とはいえ童貞を卒業した俺はいつも見える世界が違う。

 なんというか、大人になった?みたいな……。

 そして、美人の恋人もゲット!!

 これは人生勝ち組。

 

「起きてたんですか獪岳さん……おはようございます」

「うんおはよう……なんでカナエさんここに居るの?」

「なんでって、私も獪岳さんと一緒に暮らし始めましたし、居るのは当然ですよ?」

「いや、そう言う意味じゃなくて……」

 

 俺の質問に何変なこと聞いてるの?みたいな雰囲気で返すカナエさん。

 俺が聞きたいのはそこじゃなく、なんで俺の布団に入っているかということ。

 俺とカナエさんは同居を始めた。

 まぁ、必然的だし、そこは別にいい。

 俺が気にしているのはドアに鍵がかかっているはずの部屋にどうやって入ったかということだ。

 俺とカナエさんは二人暮らしを始めたまではいいが、まだデートすらしたことがない。

 色々と段階を越えすぎていたため、どう接すればいいのかわからない。 

 それに俺はカナエさんに喰われた。

 その恐怖からか、せっかく作ってくれた食事にも何か変なものが入っているんじゃないか?また襲われるんじゃないか?

 失礼だが、そんな疑問さえ感じている。

 だから少しずつ距離を詰めるため、心の安寧のためドアに鍵をつけた……はずなのだが。

 

「いや、確かこの部屋鍵が付いていたはずだけど………」

「鍵ですか?ついてなかったです」

「いやそんなはずは……」

 

 カナエさんの言葉に否定をしようとして自室の扉を確認しようとしたら……ドアが破壊されていた。

 

「ねぇ……もしかして無理やり開けた?」

「さぁ…どうでしょうね?ふふふ、入る時少し硬かったような気はしましたね」

「………」

 

 ……どう反応すればいいのだろう。

 本当にこの前の一件から遠慮というものがなくなっている。

 でも、これは今後のためにもちゃんと言っておいた方がいい。

 

「カナエさん……俺は恋人にn「夫婦ですよ」……え?」

「私たちは昨日で夫婦になりましたよ」

「………意味が分からないんだけど」

「あらあらまあまあ、仕方ないですねぇ、獪岳さんは」

 

 カナエさんから分からない単語が聞こえた。

 夫婦?何それ美味しいの?

 するとカナエさんは俺の寝ていた布団から立ち上がり部屋を出て行き、数秒後紙切れを一枚持って帰ってきた。

 

「これは写しですが、役所に提出しておきました」

「ごめん……理解が落ち着かないんだけど……婚姻届って書いてあるの気のせいかな?あと、出したっていつ?俺書いた覚えないんだけど」

「それについてはご安心を……お館様に頼んで獪岳さんの身分や戸籍を作ってもらいました。あと、筆跡は似せて書いていますので安心して下さいね」

「………」

 

 話が噛み合わない。

 ちなみにこれが二つ目の恐怖。

 知らないうちに話が進んでいて、外堀から埋められて逃げ場が完全になくなって行くこと。

 身分、筆跡、戸籍の偽装。

 犯罪のオンパレード。

 俺はもともと決まった戸籍がない。

 そのため作ってくれたのはありがたいと少しは思う。

 でも、作った経緯に素直に喜べない。

 

「確認しますか?」

「………うん」

 

 カナエさんがそう言い、婚姻届を渡してくる。

 俺は中身を確認したら自分の名前の欄に目がいく。

 なぜか胡蝶獪岳と書かれていた。

 

「……なんで俺の苗字胡蝶になってるの?」

「それは獪岳さんが婿入りした形になってるからですよ」

「………でもなんで?」

「胡蝶という苗字はしのぶとのつながりですし、どうしても変えたくなかったんです」

「……そうなんだ」

「ダメでしたか?」

 

 俺の反応に少し不安な表情をしているカナエさん。

 ……今更だ。カナエさんの意向は出来るだけ叶えてあげよう。

 でも、一応俺は元とはいえ桑島獪岳だ。先生からもらった苗字……変わってしまったので報告に行かないとな。

 

「大丈夫だよ……カナエさんの思った通りにしていいから。でも、俺の苗字は先生……師範から桑島の苗字を頂いていたから、そのことを報告しないとな」

「それについては大丈夫です!おじい様の許可はいただいていますので」

「………え?いつの間に……」

 

 もう完全に外堀を埋められているらしい。

 流石に用意周到すぎる。

 でも、カナエさんは勝手に事を進めすぎだ。

 言う時は言わないとだめだ。

 

「カナエさん……俺との関係のことで今度何かするんだったら断りを入れてくれると嬉しいな?」

「え……許可くれましたよね?」

「いや、そんな記憶はないけど」

「言ってくれましたよね?責任とってくれるって……さっきからどうしたんですか?もしかして、私から距離開けようとしてます?」

 

 カナエさんはそう言ってさっきまで心からの笑顔だったはずが、絶対零度の顔へと豹変。

 俺は怖すぎて即時に否定する。

 

「そんなことないよ……嬉しいよ。ただ、俺とカナエさんの二人のことだから今後相談して決めたいなーって思って……」

「そう言うことでしたか」

 

 俺の苦しい言い訳にカナエさんは納得してくれ、表情が戻る。

 よかった本当に。

 俺は心臓バクバクしているのを悟られないようにカナエさんの様子を伺う。

 そしてカナエさんは俺と目を合うなり頬を染めて目を逸らした。

 うん、かわいい。

 俺の立ち位置は手遅れ。

 覚悟を決めてカナエさんを幸せにしよう………

 

 

 

 

 

 

 そう決心しました。



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面白まじで

 俺がカナエさんに無理やり?夫婦にされてから早くも一週間が経った。

 始めは少し緊張していた二人生活も時間が経つにつれて慣れていき、新婚?生活も良いものとなっていった。

 ただ、生活と言ってもそこまで大きく変化したことはない。

 俺はいつも通り鬼殺隊の仕事と最近柱との稽古をして家に帰る。

 カナエさんは以前と同じように蝶屋敷で看護から傷の手当て、薬の調合など幅広く行なっている。

 何が変わったかといえば、二人の生活リズムだ。

 俺は仕事から帰るとカナエさんがいて、カナエさんと家で過ごす。もしも俺がいない場合は蝶屋敷で過ごす。

 これはしのぶの願いであり、鬼と戦えなくなってしまったカナエさんを守るため、安全を配慮してのこと。

 本当にシスコンすぎるなーと思うがそれほど大切なのだろうと思った。

 そしてこれが一番変わったことだが、しのぶが蟲柱となりカナエさんの後を継いだ。

 早すぎるかと思ったが、カナエさんが引退した後、死に物狂いで訓練、毒の研究、鬼の討伐を繰り返した。

 その結果カナエさん引退から約十日で柱になりうる十分な功績を上げた。

 下弦の肆 零余子の討伐。

 これを聞いた時は驚いた。

 しのぶが下弦の肆 零余子に遭遇したと聞いた時は驚き、慌てて現場に向かった。

 しかし向かった時にはすでに終わっていた。

 驚いたことにしのぶは下弦とは言え十二鬼月相手に毒殺したのだ。

 ついた時に「お義兄さんのお陰です」

 とカナエさんの真似をしたのか、笑顔で言ってきたしのぶにドン引きしたのは別の話。

 

 そんなこんなで条件を満たしたしのぶは柱となった。しかも原作通りの。

 一度しのぶに指摘してみたが、「私は姉さんみたいな柱になりたいんです!」と作り笑顔で返答した。

 ただ、猫を被っているだけで家では本音で接しているが………。

 そんなしのぶだが、俺とカナエさんを祝福してくれた。

 少し潔い気がしたが、その理由が後日判明した。

 その日は柱との稽古のしのぶの番だった。

 そして一通りの稽古が終わった後、こう言われた。

 

「お義兄さん……もしも姉さんを泣かしたら毒殺しますからね?」

「はい」

 

 さすがは姉妹だ。似るところは似るのだろう。

 見事なヤンデレになっていた。

 シスコンヤンデレがこれほどまでに怖いとは思わなかった。

 その日俺はカナエさんを絶対に幸せにすると再三誓った。

 

 

 

 

 まぁ、濃い時間を過ごしたが、現在俺は休日をもらい、カナエさんと共に落ち葉が生い茂る綺麗な山道を進んでいた。

 理由は先生への挨拶とカナエさんの紹介。

 なんかもう知られているけど、挨拶はするべきだろう。

 しかも鬼殺隊になってから一度も里帰りしてないし。

 

「ここが獪岳さんが育ったところですか……良いところですね」

「うん。自慢の故郷だよ」

 

 俺は現在カナエさんと腕を絡ませて一緒に歩いている。

 俺は休日ということで全部黒色の着物を着ている。

 対してカナエさんはピンクを基調に白、薄ピンク、などの花柄で紫色の帯をしている。

 髪型はロングヘアを団子を作りまとめている。

 やべーまじで綺麗すぎる。

 俺は綺麗すぎるカナエさんを直視できずにいた。

 

「あの、獪岳さん……どうしたんですか?もしかして……似合ってませんか」

 

 俺の反応を見てカナエさんは組んでいた腕を解いて一度自分の着物を見ながら質問してくる。

 

「違うよ。綺麗すぎて直視できないだけだから。もう少し経てばなれると思うよ……多分」

「そう言うことでしたか。なら安心しました。ふふふ。獪岳さんって結構うぶなんですね」

「否定はしないよ」

 

 俺の返答が良かったのか満面な笑みになりそう言った。

 その後はお互い今のやりとりが恥ずかしかったのかそのまま会話はなく、先生の家へと向かった。

 もちろん腕を組んで。

 それからおそらく三十分ほどが経ち、ついに目的地が見えてきた。

 そこは木造の家が建っている。俺が三年過ごした思い出の地。

 ついに帰ってきたんだなぁ。

 

「いやぁーーーーーーー」

「またんか!善逸!」

 

 俺が思い出に浸っていると悲鳴を発しながら逃げる金髪の少年と我が恩人の先生が追いかけっこをしていた。

 いや、もう終わってるな、

 だって金髪少年はロープで縛られていてそのロープの先を先生が持っていた。

 

「俺死んじゃう!!これ以上やっても強くなれないよ」

「そんなことはない!!善逸…お前には才能がある」

「ないもん!!壱ノ型しかできないもん!!」

「ならばそれを極めればいい!お前の兄弟子も一つのことを極めて今では立派に鬼殺隊をやっておる!」

「俺獪岳じゃないもん!無理だよ!じぃちゃーーん」

「師範と呼べ!」

 

 なんかアニメとか漫画でやってるコントじみた逃走劇やってるわ。

 

「あらあらまあまあ、ふふふ」

 

 あまりの面白さに俺の嫁も笑ってる。

 

 

 

 

 

 

 面白まじで



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なんでこうなった?……Take2

 俺とカナエさんは先生と金髪の少年……善逸のやりとりをしばらく見ていたがそろそろいいかと思い、話しかける。

 

「じいちゃん放してよ!!」

「あの先生………」

「ん? 獪岳帰ったのか」

「え……獪岳?」

 

 とりあえず俺が話しかけることで師弟コントは終了、縛られていた縄が解かれ善逸は解放された。

 それからは俺が来たのをわかってか、先生は話を続け善逸は少し俺に怯えてか、それともカナエさんに照れているのか不明だが、先生の後ろに隠れて様子を伺う。

 

「このバカ弟子が!隊士となってから一度も顔を見せんとは」

「ご……ごめんなさい。色々と……その……」

「事情はそちらのお嬢さんから聞いておる……大変だったな」

「……はい」

「よく無事であった」

 

 どうやらカナエさんが連絡してくれたおかげで話は順調に進んだ。

 その後は上弦遭遇の件や柱打診があったことなど。

  ……すんなり進み過ぎてカナエさんがどこまで話をしていたのかすごい気になるが怖くて聞けないわ。

 そして一通り話が終わり、先生は俺に近づいてきてーー。

 

「獪岳、しゃがみなさい」

 

 と言ってきた。

 俺は先生の言った通りに座ると頭に手を乗せてきてそして、話し始めた。

 

「獪岳、お前は自己評価が低すぎる……お前は立派な隊士だ。そして何よりわしの誇りだ。もっと自分に自信をもて!」

 

 そう言って笑顔を見せた。

 俺は泣きそうになるのを我慢してーー。

 

「はい」

 

 そう返事をした。

 それからどのくらいたっただろうか?

 この場にいる善逸とカナエさんは空気を察してか少し俺と先生を見つめていた。

 そして先生はカナエさんの方を向き、話し始める。

 

「カナエさん」

「はい」

「此奴は一人でことを進めようとしてしまったり、溜め込んでしまうことがある。少し面倒なところがあるがわしの自慢の弟子だ。何かあっても寄り添い、支えてあげてくれんか?」

「お任せくださいおじい様。獪岳さんは私にとって大切な人です。これからも支えていきます」

「頼むぞ」

「はい!」

 

 先生とカナエさんは俺についてのやりとりをした。

 幸せだな………俺はそう思う。

 本当に恵まれている。

 転生後も先生がいなければ死んでいた。

 カナエさんがいなければこんな幸せを知ることはできなかった……幸せ知る前はすごい怖かったけど。

 でも、結果として原作の獪岳のままでは絶対になることはなかったであろう。

 これも努力の結果なのかな……。

 これからもこの幸せを守るために一層努力しよう。

 そう決めた。

 

「それにしても獪岳、良い嫁さんを見つけたな」

「はい……俺にはm「え!獪岳って結婚してんの?」……うん…えーと?」

 

 先生からカナエさんの話題を振られ、素直な気持ちを言おうとしたら、善逸が急に割って入ってきた。

 どったの急に

 

「お!そうじゃった。まだ紹介しとらんかったな……善逸、兄弟子の獪岳だ……ほら挨拶せんか!」

「う……わ、我妻善逸……です」

「よろしく善逸!俺は獪岳だ」

「え?……」

 

 急に思い出したかのように先生から善逸を紹介された。

 その後お互い自己紹介をするも、善逸はどこかよそよそしい態度をされたため、友好の証として握手を求めたが、なんか驚いた反応をした。

 なんでだろう?

 

「獪岳は俺をなんとも思わないの?」

「……何が?」

「だって俺……髪黄色だし……俺……その……気持ち悪いし」

「はぁ、なんだ、そんなことか」

 

 善逸の話でなんで俺にそんな態度をしているのか理解できた。

 俺は善逸を安心させるために頭に手を置き話し始める

 

「え?」

「善逸、そんなに自分を卑下にするものじゃない。髪色似合ってるよ。いい個性じゃん!

それに気持ち悪くなんてないよ全然。……さっき自分で言ってたけど善逸は確か壱ノ型を使えるんだって?すごいよそれ!俺できないもん壱ノ型。お前はすごいやつだよ。だからもっと自分に自信を持つんだ!!」

「獪岳……うん、ありがと。そういえばさっきの結婚してるって話はほんとなの?」

 

 善逸は俺の話に照れながら返答。

 そして結婚しているのかの確認をしてきた。

 何かあったのだろうか?

 少し慌ててる気がするけど。

 とりあえずカナエさんを紹介するか。

 

「紹介するよ、胡蝶カナエさんだ。夫婦と言ってもまだ数日だけどね」

「そ……そうなんだ。すごいね獪岳は…モテるもんね」

「ん?どういうこと」

「獪岳さんはもしかして交際経験があるのですか?」

「カナエさん!」

「ひぇ!」

「若いのう……」

 

 善逸にカナエさんを紹介したら意味深な発言をした。

 俺はすぐにカナエさんの方へ向くも、目のハイライトが消えていた。

 ちなみに今の悲鳴は善逸だ。

 俺にカナエさん以外の女性経験がないことを伝えないと!死んでしまう!

 あと、先生……なんでそんなこと言ってんですか?

 弟子死んでしまうかもしれないんですよ。

 

 

「待って善逸何の話?変な誤解を招く言い方はやめてよ。俺はカナエさん以外に交際とか経験ないから!俺はカナエさん以外の女性眼中にないし、カナエさん一筋だ!!」

「獪岳さん……」

「そ……そうなんだ」

 

 俺の必死の弁明によりカナエさんは頬を赤く染めて名前を言い、善逸は引き攣った顔をしていた。

 誤解が解けたようでよかった。

 

 まぁ、その後は何もなくカナエさん誤解の件は無事に終了。先生の家に移動し、ご飯を食べて少しばかり話をした。

 空は夕暮れになっていたので、今日は先生の家でお世話になり、翌日に帰還した。

 ただ、一つ気掛かりなことがあって、なんか善逸が「どうしよう」とすごい悩んでいたのはなんだったのだろう?

 

 

 

 

 善逸の反応は後日判明した。

 

 今の俺はまさかこんなことになるなんて思わない。

 

 俺は何もしてないし不可抗力。

 

 

 

 

 

 

 なんでこうなった?……Take2



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あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ

活動報告更新しました。

「今後の更新についてとお知らせ」です。


 俺は今玄関前で怒りの沸点が頂点のカナエさんの前で正座をしている。

 目のハイライトは完全に消えて、怒り過ぎているのか真顔になっている。

 そして右手にはピンク色の刀身が輝く日輪刀、左手に紙束を持っている。

 なんでこんな状態になっているのだろう?

 どうしたらいいのだろう?

 俺は死ぬのだろうか?

 では何故このような状態になっているのか。

 それは少し前に時間を遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日はいつも通り仕事をこなしていた。

 どうも厄介な鬼らしい。

 先生に挨拶へ行ったため連休をもらっていた為、その分の量の仕事をさせられた。

 まぁ、俺は階級は乙だが、実力は柱クラス。

 そのため、ちょっと厄介な仕事が回ってくるのだが……。

 

「ひゃひゃひゃ、この木草野(きくの)様の前ではお前如きただの雑魚に過ぎん。食らうがいい我が血鬼術」

 

『血鬼術 森樹操『雷の呼吸 五の型 熱界雷』………』

 

ガン!

 

「き……貴様…空気を読m『雷の呼吸 五の型 熱界雷』』

 

ドタン!

 

「らたすk『雷の呼吸 五の型 熱界雷』

 

バキバキ!

 

『雷の呼吸 五の型 熱界雷』

 

「………」

 

「よしこんなもんかな?」

 

プスリ

 

「な……何で?」

 

 俺は鬼に対して熱界雷で、念には念を入れて徹底的に再起不能にしてからしのぶお手製鬼を殺せる毒を注入し、毒殺。

 毒注入後、鬼は最後に何か言っていたが、まぁ大したことないだろう。

 

 ちなみにこの鬼は木や草を操る血鬼術を使う厄介な存在で普通の隊士では対処不能。

 そのため俺に仕事が回ってきた。

 俺はこいつの大まかな血鬼術のことしか知らなかったが、奴は血鬼術を使おうとし、地面に触れようと腰を落とした。

 なんかまずい!そう思った俺は即座に熱界雷で吹き飛ばした。

 それが功を奏したようで、俺は難なく倒すことができた。

 

「本当にしのぶ様様だなー」

 

 俺はそう呟きながら左手に持つ毒の入った瓶を見つめる。

 毒の研究のため、試作を試してほしいと言っていた為、試してみた。

 結果は成功、注入しただけで鬼は死んだ。

 本当にすごい効果だ。

 いい報告ができそうで何より。

 これも猗窩座の血のおかげなのかな?

 そう思いつつ、毒の瓶と日輪刀を片づける。

 そして俺は今回の戦いで体に違和感を覚えた。

 とは言ってもいい方にだ。

 体が異様に軽く、熱界雷の威力も以前と比べて上がっていた。

 

 まぁ、理由は大体想像できる。

 この半年、俺は強敵と戦い命懸けのやりとりを体験した。

 実戦に勝る経験はない。

 まさにその通りだと思った。

 おそらく戦いの中で技を最短、最速化して進化していったのだろう。現在全盛期の九割ほどの感覚なのに猗窩座と戦う前以上に動ける。

 

「俺も上を目指せるのだろうか?」

 

 技の進化。

 俺はもうこれ以上は限界だと思っていたが、今回の戦いで気付かないうちに成長している事がわかった。

 

「挑戦してみる価値はあるな」

 

 俺はそう口にしながら、自分の殻を破る為一層努力していこうと心に決めた。

 

 そして今日の仕事は終わった為、自宅へと帰ったのだった。

 帰ってしまった……のだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?」

 

 俺は家に帰ると何故か明かりがついていた。

 カナエさんが来ているのかな?

 でも、今日は蝶屋敷で泊まっているはず……。

 なんかあったのだろうか?

 疑問に思いつつも、俺は引き戸を少し開け、中を覗いてみるとーー。

 

「?!」

 

 俺は慌てて引き戸を閉めた。

 ここは俺の家のはず。

 理由はわからない。

 何故か玄関に鬼(嫁)がいた。

 目のハイライトがなくなり、心なしかドス黒いオーラを放っていた。……これが最も疑問なのだが、日輪刀を持っていた。

 え?俺何かした?

 全く心当たりないんだけど。

 生命の危機反応。

 俺はその場から逃げ出そうとする

 が、

 

「どこに行くんですか?……獪岳さん?」

「………」

 

 時すでに遅し、いつの間にか腕を掴まれ、地獄へと誘導されるように玄関に引っ張られた。

 カナエさんの声は今までにないほどにドス黒い声で、そして震えている。

 え?何で?

 

「どこへ行こうとしたんですか?」

「いや、ちょっと用事が「逃げようとしましたね?」……」

「そんな事n「逃げましたよね」……」

 

「逃げたんですね?」

「………ごめんなさい」

 

 俺は何も言えず、その場で土下座をした。

 やばい。何もわからない。

 それでも謝らないといけない。そう思ってならなかった。

 

「何が悪いと思ったんですか?」

「えっと……に、逃げようと…してしまった事」

「そんなに私怖かったんですか?」

 

 はい。怖いです。

 今この場でこのような事を言ってしまっては終わるだーー。

 

「そうですか……怖かったですか?」

「?!いやそんなこと言って……あ!」

「そうですか……思ったんですか」

 

 カマかけられた!

 やばい、今のでさらに怒りが増した。

 もう俺の人生は終わってしまうのだろうか?

 幸せの時は短い……そう思えてしまった。

 

「私が何でこんなに怒ってるか分かりますか?」

 

 いや、知るわけないじゃん。

 もうこれ以上余計な事を言わない方がいいのかもしれない。

 それでも……話さないと逆に命が短くなるような……。

 とりあえず正直に答える。

 

「ごめん……わからない」

「…………そうですか。わからないのですか」

 

 どうしよう。

 

「嘘ついた事です」

「え?」

「私に嘘ついたことを怒ってます」

「いや、心当たり全くないんーーー」

 

 バサ、と音を立てて床に大量の紙束が落とされた。

 俺は気になりカナエさんを見ると……怒りを通り越して真顔になっている。

 

「これ……何ですか?」

「な、なに?これ」

「そこまでして隠したいのですか?」

「い、いや!本当にわからない!」

「そうですか……なら声に出して読んでみてください」

「え?……わかった」

 

 俺は意味が分からず、カナエさんに促されるまま、紙……というよりも手紙の束をから一つ取り音読を開始する。

 

「拝啓 獪岳さん。

 今どのようにお過ごしでしょうか?

 楽しく過ごしていますか?

 楽しく過ごしているでしょうね。

 結婚していると聞きましたから。

 私との約束はどうするんですか?

 私の初めてーーーー」

 

 そこで俺は読むのをやめた。

 え?なにこれ?

 どういうこと?

 

「次」

「え?」

「次」

「………はい」

 

 カナエさんに次の手紙を読むよう強制される。

 俺は次の手紙を取り読み始める。

 

「獪岳さん!私の初体験返しーーーー」

 

 そこで俺は手紙を投げ捨てる。

 読めば読むほど自分を苦しめるだけ、カナエさんの怒りが蓄積していくだけ。

 俺は恐る恐るカナエさんを見る。

 後悔した。

 見なければよかった。

 カナエさんの表情はおかしなことになっていた。

 普段は(何事もなければ)花が咲くような笑みで周りを癒してくれ、(なにもなければ)常に気を配って支えてくれるそんな存在。

 

 今のカナエさんは普段とは考えられない顔をしていた。

 額には血管が現れ、目のハイライトが消え、真顔。

 そして背後からは黒いオーラを放っている。

 何で日輪刀持ってるの?

 

「信じていましたのに……」

「いや、これは何かの間ちg「言ってくれましたよね?私以外眼中にないって。私しか見ていないって。何であんな嘘ついたんですか?私のこと大切じゃないんですか?嫌いなんですか?逃げたくなるほど怖いですか?そうですか?そうなんですね。さっき逃げようとしてましたからね。私のこと幸せにしてくれるんじゃなかったんですか?私とは体だけの関係だったんですか?何人恋人いるんですか?獪岳さんをたぶらかしたのは誰ですか?それとも獪岳が誑かしたんですか?もしかして、私とは遊びだったんですか?」

「いや!本当にわからn「ここまで言ってもダメですか?」……え?」

 

 俺はもうダメかもしれない。

 カナエさんは日輪刀を……峰の方に向けてそして構える。

 え?何やってんの?

 

「嘘つきの獪岳さんには一度お仕置きが必要みたいですね」

「え………まって。それマジでシャレにならない本当やめて!!」

 

 シューーっという音を出しながら構えるカナエさん。

 ……嘘だよね?何で全集中の呼吸使ってんの?使えなくなったはずだよね?

 

『花の呼吸 伍ノ型 徒の芍薬』

 

 俺に向かって九連撃の斬撃が飛んでくる。

 そして静寂の夜に俺の悲鳴が響いた

 

 

 

 

 

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」



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まかせて

この日常の話も後2話くらいです。


もうすぐ原作始まります。


 結論を先に言おう。

 俺は生きている。

 要因としてはカナエさんは峰で攻撃をしてきた……いや、ここはしてくれたと言うべきだろうか?

 そのおかげで全身の骨にヒビが入るだけで済んだ。

 まぁ、これもかなり重症の気もするが、あの過去最高のヤンデレ化したカナエさんの被害がこれで済んだのは奇跡なのかもしれない。

 

「本当に生きててよかった」

 

 俺は死の瀬戸際を彷徨ったかのように心からの叫びがついつい口から出てしまった。

 そして何故か涙が出ていた。

 本当によかったよ……ぐすん。

 

「お義兄さん、起きてたんですね。おはようございます」

 

 そんな死地からの生還に歓喜していると、声をかけてくる女性が一名。

 我が義妹しのぶである。

 

「おはよう」

「体に異常はありませんか?」

「異常というか、全身痛みしかないんだけど」

「………本当に大変でしたね。いや、その程度で済んで良かったと言うべきでしょうか?」

「……うん」

 

 その後は俺としのぶはお互いに遠い目をした。

 理由は俺が蝶屋敷に運ばれた経緯にある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは俺がカナエさんに襲われた直後のこと、しのぶは手紙の束を持って俺の家に全力で向かっていた。

 理由はその手紙にある。

 もともと、カナエさんは蝶屋敷に泊まる予定であった。

 しかし、カナエさんの元にカラスから手紙束が届いた瞬間、しのぶ自身、怯えるような雰囲気をしていたとのこと。

 カナエさんは手紙が届いた後、内容を少し読みたった一言ーー。

 

「しのぶ……少し出かけてきますね」

 

 としのぶに断りを入れて出かけた。

 その時の表情は真顔でハイライトが消えていたため、しのぶは理由を聞かずにーー。

 

「わ、分かった!」

 

 と一言返した。

 そしてそれから一時間ほど経った辺りにカラスから、またも手紙の束が届いた。

 それは俺の弟弟子……善逸からだった。

 しのぶはそれを受け取ると、括り付けていたヒモにメモが挟まっていて、気になりメモ用紙の中身を見た。

 

「え?」

 

ーー獪岳へ。

 送る手紙間違えちゃった。読んでたらごめんね。先に送ったやつ、結婚した獪岳を困らせようとして村の女の子たちに送るように言われたものなんだ。こっちが祝福の内容ね。それにしてもーーー

 

 しのぶはそれを読んだ瞬間、手紙の束を片手に急いで俺の家に向かった。

 理由は死人が出る予感を感じたためだ。

 その予感は的中した。

 しのぶは俺の家に着くと、その光景を見て驚いた。

 日輪刀を片手に倒れている俺を真顔で見下ろすカナエさん。

 

「姉さん!」

「……どうしたのしのぶ?」

「ヒッ!」

 

 しのぶはすぐにカナエさんに声をかけたが、返って来た声に驚き、悲鳴をあげるが、すぐにもち直し、手に持っていた手紙を渡して要点だけまとめて一言ーー。

 

「手紙間違えて送ったものなんだって!!」

「……え?」

 

 そう一言言いながら手紙の束を急いで手渡す。

 カナエさんは渡された手紙をすぐに確認してーー

 

「……どうしようしのぶ」

 

 そう、涙目でしのぶに言った。

 その後は俺は急ぎ蝶屋敷へと運ばれ急ぎ処置が行われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の怪我は骨にヒビが入ってしまったものの、骨折はなし。

 本当によく無事であったと思う。

 でも、カナエさん超ヤンデレ化事件から三日ほど経ったが、彼女とは一度も会っていない。

 俺とカナエさんの間には少しだけ亀裂が入ってしまってる気がする。

 カナエさん自身相当引きずってるのだろう。

 今回はまぁ、カナエさんの早とちりが原因だが、元凶は善逸である。

 善逸が全て悪い。カナエさんは悪くない。

 ………そう俺は思うことにした。

 始めはカナエさん自身で立ち直ることを待ったが、俺も我慢の限界。

 自分から声をかけようと思う。

 

「カナエさんは今どこに?」

「……姉さんなら自室に未だに篭っていますが」

「わかった。ちょっと話してくるよ」

 

 俺はそう言いながら、移動する為ベッドから立ち上がる。

 しかしその行動にしのぶは待ったをかける。

 

「待ってください義兄さん!その体で無理に動かないでください。怪我が悪化します!それに……姉さんは今はそっとしておいた方がいいと思いますが……」

「いや、この問題は早く解決した方が良いよ。俺自身もこのままだと嫌だし。それにカナエさんご飯とかちゃんと食べてるの?」

「………」

 

 やっぱりか。

 カナエさんは相当悩んでる。

 やっぱり俺はカナエさんが心配な為、声をかけに行く。

 体は少し痛みはするものの動けないほどじゃない。

 呼吸を使っているからか、治りが早いのかな?

 少々疑問は残るも、カナエさんの元へ向かったのだった。

 そして部屋を出る時に、

 

「お願いします」

 

 しのぶにそう言われた為、たった一言。

 

「まかせて」

 

 と言って部屋を出た。



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女って怖すぎる。

 お待たせしました。
 今日投稿したシーンって書くの苦手みたいです。
 
 満足していただけるか分かりませんが、最後まで読んでいただければ幸いです。


 しのぶと別れた後、すぐにカナエさんの部屋に向かった。

 カナエさんは相当気にしている。

 でも、この件は善逸が原因であってカナエさんは悪くない……やりすぎだと思ったけど。

 そんなことを考えていると、カナエさんの部屋に着いたため、ノックをして声をかける。

 

「カナエさん……中いる?」

 

 ……返答はなかった。 

 中でガサゴソという音がしたから中にいるようだが……。

 

「カナエさん、みんな心配してるよ」

 

 再びノックをして声をかけるも結果は同じ。

 どうするか……とりあえず俺の意見を言ってみようかな。

 

「カナエさん……出てきて一度話そうよ。心配だし、今回の件は勘違いから始まったことだし、気にすることはないよ」

 

 ……ダメか。

 部屋に篭ってから数日、食事はしているらしいけどあまり食べていないらしい。

 このままの生活をしているといつ体調が崩れるかわからない。

 

「カナエさん一度話を「だめです」……」

「私は獪岳さんに顔向けできません。今回の件、私はあなたに取り返しのつかないことをしてしまいました」

「いや、大丈夫だよ。俺無事だし……」

「私はあの時、獪岳さんの話に耳を傾けることなく、自分の感情のままに行動し傷付けました。私は……」

 

 カナエさんはドア越しだが、泣きそうな……弱々しい声でそう言った。

 ……いや、悩みすぎでしょ。

 今まで何回も感情任せにして来たことあったのに。

 

「俺は気にしてないから……」

 

 先程から同じような言葉しか思い浮かばず、そこで言葉がつまる。

 この後何と言えばいいのだろう?

 思えば俺とカナエさんの関係は少し……いや、色々過程をすっ飛ばしすぎている。かなり特殊だ。

 俺のクズい行動から勘違いが生じ、最終的に喰われて責任を取るという形で夫婦となった。

 だけど、始まりから今に至るまでの過程で、カナエさんのいいところに気づき惹かれていった。

 カナエさん自身に救われたことも多く、彼女は俺にとってかけがえのない存在で大切な人。

 こんなぎこちない関係、あまり好ましくない。

 

「カナエさん……」

 

 ……あまりこの手は使いたくなかったけど、しょうがない。

 俺も一度やられたことだしこれでお相子かな?

 

「入りまーす!」

「え……ちょ、何やってんですか!

 

 俺はカナエさんとの間にある障害……扉を破壊する。

 扉を破壊して部屋に無理やり侵入したせいか、カナエさんは驚き慌てる。

 俺はそんなカナエさんの一面を初めて見れたことで嬉しく思った反面、今の彼女を見て少し焦る。少し薄ピンク色の寝巻きを着ていて、少し髪の毛がボサボサしていた。

 顔を見るも少しだけやつれているように見える。

 早く解決しないとな。

 

「な……何を……」

「何って……ドアを破壊しただけだけど?」

「いや、壊しただけって……」

「カナエさんもやってたよね?これでお互い様だね」

「……」

 

 この状況に似つかないと思いながらも笑いながら戸惑うカナエさんにそう言う。

 カナエさんはどんな反応をすれば良いのか分からず俯いてしまう。

 ……悪いとは思うけど、少し強引なやり方ではあったが、このままじゃ話が進まない。

 俺は部屋の端で座っているカナエさんの近くに腰掛けて話し始める。

 

「カナエさん……この前の件、俺はもう気にしてないよ。しのぶも心配してるし」

「……だめなんです」

「え?」

「それではダメなんです」

 

 カナエさんは俺の言葉に対して弱々しい声でそう返答をする。

 何か様子がおかしい。

 カナエさんが落ち込んでいるのは、俺を怪我させたことだと思うけど、何か違う気がする。

 今はカナエさんの話を聞こう。

 そう思い、続く言葉を聞く。

 

「私は……獪岳さんのことを信用できませんでした。……あの手紙を読んでから……私は嫉妬し、周りが見えなくなっていました。……妻失格です。……本当にごめんなさい」

 

 カナエさんはポツポツと涙を流しながら話し始めた。

 俺は妻という単語を聞いて、カナエさんが気にしていることを理解した。

 直接言われないと気づかないなんて、俺は相当鈍感らしい。

 

「カナエさんは何か誤解をしてるよ」

「え?」

「俺は夫婦ってのは、弱みとか……性格とかさ、そういう全てを曝け出せる関係だと思うんだよ」

「全てを……ですか?」

「そう」

 

 カナエさんは少し俺の言葉を一部復唱。

 俺は一度頷いて、話を続ける。

 

「「結婚」という定義は俺にはわからない。

 結婚ってさ、血のつながりのない赤の他人が交わる事じゃん。

 だからこそ、難しいことも多いと思うんだ。

 性別、性格から育った環境、考え方、方針……その全てが異なる。

 そんな中で何億人といる中で巡りあった男女が結婚し、夫婦となる

 そんな全く違う存在が一つの家族となり、家庭を作る。

 だからこそ一つの亀裂やすれ違いがあった場合、離婚という形でその人との関係が終わることも多々ある。

 だからこそ思うんだよ。

 良好な夫婦関係を築くためには全てを曝け出すことが大切だと思う。

 もちろん遠慮や気遣いは必要な部分もあるけど、それでもお互いの思っていること、意見を交わし合い、そしてそれを受け止め合う。それができて初めて本当の意味での夫婦となれるのだと思う」

「……」

 

 カナエさんは黙って俺の話を聞く。

 

 これは俺個人の考えである。

 でも、そう思うからこそ彼女に伝えなければいけないことがある。

 

「だからさ……俺たちも本当の意味での夫婦になろうよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 カナエ」

 

 俺は初めて彼女を呼び捨てで呼んだ。

 俺自身、彼女に遠慮していた部分があったのだろうし、未だに戸惑っている部分はある。

 でも、カナエと俺の壁を少しでも無くそうと思うと、自然に呼び捨てで呼んだ方がいい気がした。

 さん付けとか少し他人行儀な気がするしね。

 

「……はい」

 

 カナエは目は涙目だが、笑顔で返事をした。

 まだ俺たちは本当の意味で夫婦になれたか分からない。

 でも、本当の夫婦になる、一つのきっかけかもしれないな。

 

 これから待ち構えているであろう未来。

 原作開始から鬼舞辻無惨との最終決戦まで、俺は必ず生き残ってみせる。

 この幸せを……永遠にするために。

 

「獪岳さん……心配をかけてすいませんでした」

「いいよ気にしなくて、元気になってよかったよ。あとさん付けも「それはダメです」……え?」

「それはダメです。私がそう呼びたいので」

「……わかったよ」

 

 呼び方なんて人それぞれだし、別にいいか。

 それにしてもカナエが元気になってよかった。

 ……よし、カナエが元気になったことだし、今日はパーっと豪勢に祝おうか!

 

 そう思いその場から立ち、カナエを連れて部屋を出ようとした、その瞬間

 

「どこに行くんですか?」

「え?どこって、話も終わったし部屋から出ようと「終わってませんよ」……」

 

 そう言って立ち上がる俺の服の裾を掴む。

 ……何故だろう?

 いい感じに話は完結したはず。

 なんで……なんでカナエは笑顔で俺を見ているのだろう?

 なんで目のハイライトがないのだろう?

 

「獪岳さんは昔からモテたんですよね?あんなにも女の子から手紙来てましたし。……この辺のお話……詳しく聞かせてくださいね!」

「……はい」

 

 何か吹っ切れたのだろう。

 先程までのことを気にした場合、良い方面に進んでいるのかもしれないが……その時のカナエは今までで一番怖かった。

 最終的に誤解を解くのに数時間かかってしまった。

 ……そして、何かの枷が外れたのか分からないけど、理由を話す上で今までになかった細かい詮索も入れてきた。

 

 いや、遠慮いらないって言ったけども……。

 

 俺は一生カナエに頭が上がらないのだろう。

 妻に尻に敷かれる。

 これが立場の低い夫なのか……。

 

 話が終わった後、様子を窺っていたらしいしのぶが乱入してきて扉を壊した事についてさらに怒られた。

 

 

 違うわ。

 俺は胡蝶家で立場が一番低いようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 女って怖すぎる。

 




最後まで読んでいただきありがとうござまいます。
 
次の話から原作開始になります。


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食べに来なきゃよかった山かけうどん……。

 最後まで読んでいただけると幸いです。
 


 気づけばカナエとの一件から四年の年月が経った。

 蝶屋敷には神崎アオイをはじめ、きよ、なほ、すみの計四名が加入し、賑やかになった。

 もちろん俺は彼女らと良好な関係を築いている。

 

 

 この四年間、物語が大きく左右する特別なことは起きていない。何をしたか、そう問われれば、一つは聖地巡礼、もう一つは修行と死線を彷徨ったくらいだろう。

 

 一つ目の聖地巡礼と行っても一年ほど前に一度だけ遊郭に行ったくらいだ。遊郭は物語が進むと上弦との鬼の戦闘で跡形もなく無くなってしまう。なくなる前にどんな風景だったのか、店の中には入らず景色だけ見に行った。

 中に入らない理由はお分かりだろう。命を失いたくないからだ。なら行かなければいいじゃんと思うがどうしても見にいきたかったのだ。男の花園を。

 

 

 二つ目の死線を彷徨った主な原因は柱との稽古で、木刀とはいえ攻撃が直撃して怪我したり、訓練中の事故で恋柱の甘露寺蜜璃と思いっきり密着してしまい変な体勢になってしまい、間が悪くカナエに目撃されてしまい、ボコボコにされてしまった。

 

 それらを通して俺は大きく三つの分野が成長することができた。

 回避の技術に熱界雷の威力向上、そして体が丈夫になった。

 最後の体が丈夫になったことに関しては鍛えたのではなく、カナエの攻撃で骨折か骨にヒビが入り続け、それを繰り返した結果、今ではカナエの花の呼吸を食らってもあざくらいで済むようになった。

 ……あまり嬉しいことではないが。

 

 そんな嫉妬心強すぎるカナエだが、この前との一件以降、独占欲は前よりかは落ち着いた。 

 事件発生→カナエ嫉妬→花の呼吸で攻撃される。慣れかそれとも俺の信頼度がましたか不明だがこのサイクルを繰り返した結果、よっぽどのことがない限り怒らなくなった。

 そんなカナエだが、しのぶの努力あって全集中の呼吸を使えるくらいに回復したのだ。そのおかげで呼吸を使えるようになったのだ。

 めでたいことなのだが、これが原因で何回命を奪われそうになったか……。

 

 まぁ、この話は置いておこう。

 

 カナエは童磨戦での症状が回復し、訓練を再開したのだが……鬼殺隊に復帰はしなかった。

 理由は、サポートに徹したいと言う本人の願いから。

  

 しのぶの私邸である蝶屋敷は負傷した隊士の治療所として解放はもちろん、訓練所としての役割を果たしている

 カナエは現在、治療と一緒に復帰前の隊士に稽古をつけている。

 柱たちは皆始めは復帰を望んでいたが、隊士たちの質が年々落ちていて、カナエの功績で多少その質が向上したため、今では何も言ってこなくなった。

 

 

 

 ちなみにそんな柱たちだが、原作通りに九つの柱の席は全て埋まった。

 原作通りに進んでとても嬉しいことだ。二つの意味で。

 理由は柱の空席がなくなり、俺の仕事が減ったこと。もう一つは柱稽古も徐々に減っていき、今定期的にやっている者は甘露寺さん、杏寿郎の元師弟コンビくらい。偶に気が向いた時にやりにきている柱もいるが。

 柱たち曰く、もう慣れたらしい。始めは苦戦していた癖に今となっては俺のスピードについてこれるようになり、今では自分なりの稽古をしている。

 

 

 本当に柱は化け物揃いである。

 天才は1%の才能に99%の努力と言われてるけど、柱はそれに当てはまらない。

 100%の才能に努力だ。

 あいつらは人間じゃない。

 特に霞柱……無一郎とか。

 さすがは剣を持って数ヶ月で柱になったやつだと言えよう。

 

 俺自身、熱界雷と動きの速さだけと偏った鍛え方をしているから柱と互角に戦えるが、全てを鍛えようとしたらツキとスッポンであっただろう。

 

 この四年間も変わらず極めろ熱界雷、目指せ一撃逃走の目標を掲げて訓練を続けた。

 

 この判断は間違っていなかったと思う。

 

 柱たちは原作に比べ強化され、俺自身も大きく成長できた。

 何よりカナエたち家族を守るために強くなれた。

 

 良かったと思っておこう。

 

 

 

 さて、こんなことを語った俺が現在浅草にいる理由だが………

 

 一応先に言っておくが、ラスボスの鬼舞辻無惨と会いたいとか、原作主人公の竈門炭治郎に会いたいとかではない。

 

 山かけうどんを食べにきていたのだ。もちろんカナエには内緒で。だって男一人で過ごす癒しの時間が欲しいんだもん……。それに原作ではあまり描写はないが、鬼滅ファンとしては絶対に食べたいのだ。

 

 俺はこの数年、薄らとした記憶を頼りに探し続けた。

 結果、山かけうどんにありつけた。

 

 俺は見つけた瞬間、歓喜した。山かけうどん食べて感動した。

 

 俺は食レポできないから一言で言うと、めっちゃうまい。

 麺もコシがあり、汁も店主自慢で独自研究して作り出したとのことだ。

 

 炭治郎は原作ではこんなうまいものを地面に落としたのか。そして、店主に謝罪に行った時、一気飲みみたいに二杯も胃に流し込んだのか。

 本当にもったいない。

 

 そんな山かけうどんの出店だが、仕事の合間を見て現在少なくても月一の頻度で来ていた。

 

 本当ならカナヲが鬼殺隊になった後、炭治郎が柱に会うまで行くのをやめたんだが、どうしても食べたくなってしまった。

 まぁ、もう流石に結構時間経ったし大丈夫かなと判断し、今日、休日で時間が有り余っていたので食べに来てしまったのだ。  

 それほど山かけうどんは飽きないし癖になるほどのうまさを誇る。

 

「お……にいちゃんか。久しぶりだなぁ!」

「いやぁ、最近仕事忙しくてね。なかなか来れなかったんだよ。店主のうどん食わんとやっていけないね!」

「嬉しいこと言ってくれるねぇ。いつものでいいかい?」

「それで」

 

 俺に元気よく話しかけてくれたのはスキンヘッドで吊り目の特徴を持つうどん屋の店主。

 前回うどんを食べに来たのはカナヲが隊士になる前だからおよそ一ヶ月ぶりだ。

 

 浅草は炭治郎と鬼舞辻無惨が初対面し、そこから重要人物である珠世 愈史郎と交流を持つ重要イベントがおこる。

 

 だからそれが終わるまでは行かないようにしていた。

 だが、残念ながら我慢ができなかった。

 そろそろ1ヶ月と数日経ったし、流石にイベントは終わってると判断し、今日は訪れた。

 

「山かけうどん。一丁出来上がり」

「さんきゅ。いただきます」

 

 俺は割り箸を割り、食べ始めた。

 

 いやーうまい。

 炭治郎はこんなうまいものをわんこそばのように食べていたのかよ。

 食べるたび思う。

 

「ご馳走様!」

「おぉ!相変わらずうまそうに食べるな!」

「いや、本当に美味いんだって」

「嬉しいねぇ。さっきの兄弟もそうだが、俺の出したうどんを美味しそうに食べてもらうこれ以上に幸せなことはねぇよ!」

「………うん?」

 

 今俺にとって不穏な単語が聞こえた。

 ……兄弟?

 いや、落ち着こう。

 違うかもしれないし。

 

「おいおい!どぅしたんだよ急に黙り込んじまって」

「……いや、なんでもない」

 

 一旦落ち着こう。

 俺は深呼吸をし、店主に確認するため質問しよう。

 

「ちなみにその兄弟って……特徴的な二人だったり?」

「ん?まぁ、そうだったなぁ。妹は竹を口にーーー」

 

 俺はそれを聞いた瞬間焦りが増した。

 竹を銜えた妹。それは炭治郎の妹、竈門禰豆子の特徴である。

 つまり、今この街にはやばい人が集まっている。

 ラスボスの鬼舞辻無惨、主人公とその妹、珠世さんと愈史郎。

 物語の主要人物が揃っている。

 なんだよこの魔境。

 俺はそう思い、すぐに退散することにする。

 

「店主、これお勘定ね。美味しかったわ」

「おい、どうしたんだよににいちゃん。顔色悪いぞ」

「本当に大丈夫。ちょっと急用を思い出してね」

「……そうか?……ならいいが」

「じゃー俺行くわ。また来るから!」

「にいちゃんが平気ならいいや。まいどぉ!」

 

 俺は逃げるようにその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、世の中そんなに甘くない。

 

 鬼殺隊とは鬼を狩るもの。

 

「カー!カー!鬼出現!鬼出現!南南東方面。距離二百!急行セヨ!急行セヨ!」

 

 鬼いるところに鬼殺あり。

 

 

 

 

 

 

 

 食べに来なきゃよかった山かけうどん……。

 




最後まで読んでくださりありがどうございました。


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こんなはずじゃ……こんなはずじゃなかったのに

三人称入れてみました。

最後まで読んでくださると幸いです。


「現在戦闘中。急げー」

「いや……俺今休日でしかも刀も隊服もないんだけど」

 

 俺は今小さな抵抗をしている。

 現在、手元に刀もないし隊服も着ていないのだ。

 

「安心しろー!準備はある!」

「………は?」

 

 え?俺がカラスに相談していると、意味わからんことを言った。

 準備って何?

 

「「ムキッ!ムキッ!」」

「えぇ」

 

 ふと、俺がそんな疑問を持っていると足元に何やら鳴き声が聞こえた。

 足元を確認すると、筋肉がモリモリのネズミ二匹が布に巻かれていた棒のようなものを持ち、待機していた。

 

 ムキムキネズミ

 鬼滅の刃において、音柱 宇髄天元の使いのもので原作では遊郭編にて登場した名前の通り筋肉ムキムキのネズミである。

 では何故このようなネズミがいるかだが……。え、なんでいんの?

 

「ムキッ!」

「なんで天元ところにいるはずのお前らいるんだよ……え?何これ受け取れだって?」

 

 ムキムキネズミは持っていた棒を渡してきたので受け取る。するとそこには何故か日輪刀があった。これ俺愛用のじゃないんだけど。

 

「使えー!」

「いや、使えじゃねーよ!この刀、俺のじゃねーし!……てか、これで戦えってか!嫌に決まってんだろ!」

 

 俺は抵抗を続ける。

 ただでさえまだ炭治郎たちに会いたくないんだ。

 

 

 一応矢印鬼と手毬鬼はこれでも楽に倒せるだろう。

 だが隊服もなし、俺専用の刀でもない。

 こんな状態で戦ってたまるか。

 原作では炭治郎達だけで対処できたんだ。 

 

「ほらいけー!」

「うるせー!クソカラス。他の鬼殺隊行かせろよ。今回は俺は意地でも行かん!」

「お館様の命令!いけー」

 

 ……ぐ。もしかしてこのカラス今お館様と直でパスが繋がってんの?今までこんなにしつこくなかったじゃん。

 一応、このような緊急出動命令は一度や二度じゃなく、何度もある。応援命令が降った。だが、どうしても嫌な時は断ったし、そしたら潔く引いた。だが、今回はどうだ?しつこすぎる。

 だが、今回はお断りだ。もしかしたら、こんなこともあるかもと思ってあえて刀と隊服を置いてきたんだ。

 

「給料ー、減額ー!」

「だからどうした。今回は絶対に行かない!今戦っている隊員で対処可能だろ?今までだってそうだ。俺行かなくても終わってたのあったよな?」

「給料ー、無くすぞー!」

「ならやめてやるよ。もう十分稼いだし、貢献したはずだ」

 

 なおも俺は抵抗を続ける。

 絶対に行きたくない。

 給料減額やってみろよ。給料ゼロ?ならやめてやる。

 俺は装備もまともじゃない。今回は絶対に行かない。

 

 

 だが、その抵抗も長くは続かなかった。

 

「カナエにバラすぞー」

「は?何を?」

 

 カナエにバラす?

 何をだよ。俺はカナエに隠し事なんてしていないし、あってもバレるようなヘマはしない。

 

「遊かk「よし任せろ!出陣だ!」……」

 

 俺は急いで現場へ向かった。

 いや、なんで知ってんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 獪岳が向かうと決意した時、戦闘は終盤を迎えていた。

 

(早く行かなければ。……鬼はまだいる。すぐいく。すぐいくからどうか……どうか無事でいてくれ)

 

 炭治郎は矢印鬼との戦闘、相打ちで終わった。その結果、肋が数本と足の骨が折れてしまった。 

 それに加えて首を切り飛ばした際に矢印鬼の血鬼術 紅潔の矢を複数かけられ、それをいなすために型を連発で使った。

 その結果、立つこともまともに出来無くなってしまった。

 それでも炭治郎は向かう。

 十二鬼月と自ら名乗っていた鬼がまだ残っている。

 炭治郎は日輪刀を銜えて匍匐前進で、禰豆子達のところへと向かった。

 

がその時。

 

ドカーンッ!

 

 空から雷が落ちる大きな音が聞こえた。

 

「な……んだ」

 

 炭治郎は嫌な予感がして急いで向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(やはり私が何とかしなければ)

 

 珠世は目の前の戦闘を見ながらそう考えた。

 現在、手毬鬼と禰豆子、愈史郎が戦っていて、もしも本気で攻め込まれたら……そう考えた珠世は早く決着をつけなければと考えた。

 

 そのためタイミングを測り、自分の血鬼術 惑血 白日の魔香を使おうとしていた。

 鬼を倒すには鬼殺隊の持つ日輪刀、そして日光でしか倒せない。

 だが、もう一つ、珠世、愈史郎、禰豆子のような特殊な鬼を除いて必ず倒す方法がある。

 

 鬼舞辻無惨の鬼達はある絶対ルールが存在する。

 それは鬼舞辻無惨の情報を漏らさないこと。

 もしも名前を言ってしまっただけでも、その鬼は鬼舞辻無惨によって殺されてしまう。

 

 珠世は血鬼術を使い、脳の機能を低下させそれを実行しようとしていたのだ。

 

 珠世は禰豆子と手毬鬼の攻防が落ち着いたのを見計らい、計画を実行しようとしていた。

 目の前にその者が現れるまでは。

 

「おい、まだやり合ってたのかよ」

「あん?誰じゃ貴様」

 

 高身長で黒髪、黒い着物を着込むその強者が現れるまでは。

 

「見て分から……ないか。隊服着てないしな。俺は鬼殺隊のものだ。すまないが一瞬でお前を殺す。恨むなら鬼舞辻を恨むんだな」

 

 鬼殺隊の隊士と名乗る男は落ち着いた表情で近づき持っていた刀に手をかける。

 

「わしを殺す?十二鬼月であるわしをか?やってみぃ」

 

 手毬鬼は目の前の鬼殺隊の男を挑発をした。

 

「は?お前が十二鬼月だぁ?笑わせるなよ」

 

ドカンッ!

 

 それは一瞬であった。

 最後に鬼殺隊の男は笑いながら手毬鬼に言葉をかけた後、技を仕掛けた。

 

 この場にいる珠世、愈史郎、禰豆子の三体の鬼は視認すらできなかった。

 ただ、気づいたら大きな音がして手毬鬼がいた場所にはクレーターができ、手毬鬼は絶命していた。

 

「十二鬼月はこんなに雑魚じゃない。お前じゃ何年経とうが十二鬼月にはなれないよ」

 

 男は笑いながらそう言った。 

 そして、珠世、愈史郎、禰豆子の体は警戒心を目一杯上げる。

 目の前にいる男は強すぎると。

 天地がひっくり返らない限り勝てないような圧倒的すぎる強者に。

 

「鬼が三人か……。珍しいな、基本鬼は群れないはずなんだが……」

「「「?!」」」

 

 男は鬼三体へと、視線を向けて話し始める。

 そして、その反応に珠世は警戒を上げ、愈史郎は珠世を守るように前に立ち、禰豆子はそんな二人を庇うように男に対して威嚇を開始する。

 

「なんだ、俺とやりあう気か?……やめておいた方がいい。あなた方ではどんなことが起きようが、俺には勝てないさ」

 

 男は鬼三体に対して冷静に分析して警告を入れてくる。

 

「どうやらあなた方は他の鬼と違うようだ。どうだろう?話し合いを「信用できるか!」……はい?」

 

 愈史郎は男の提案を即座に否定した。

 男は少し表情が崩れ、困った顔をする。

 

「いや、少し話だけで「その人達に手を出すなー!」……」

 

 愈史郎に否定された後、少し考えた後、鬼三体の元へ向かうため一歩踏み出した瞬間、怒鳴り声が聞こえた。

 

「あん!?」

 

 男は無意識に周囲に殺気を漏らしながら、声のした方向……炭治郎へと視線を向ける。

 その殺気はこの場にいる全員に当てられ、炭治郎を除いて萎縮してしまった。

 それほどまでに目の前の男は強いのだ。

 炭治郎は動けない体に鞭を打って立ち上がった。

 

「はぁ…はぁ…その人達に……その人達に手を出すことはこの俺が絶対に許さない!」

「……」

 

 炭治郎の威勢に男は少し考え始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 男は内心焦っていた。

 (どうすればいいんだよこの状況)

 

 

 

 男……獪岳は原作主要人物達と良好な関係を築くつもりだったが、状況は悪化していってしまった。

 獪岳はこのピンチを乗り越えられるのか。

 

 

 

 

 (こんなはずじゃ……こんなはずじゃなかったのに)

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最後まで読んでくださりありがとうございました。


今後の投稿ですが、できたら毎週木、金曜日に投稿したいと思います。
遅れてしまったらごめんなさい。


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どうにかなってよかった。

 俺はどこで間違えしまったのだろう?

 やはりタイミングだろうか?いや、タイミングは完璧であった。

 カラスとのやり取りのせいで出遅れてしまったが、皆のピンチを救ったという点で大丈夫なはずだ。

 態度?

 それも違う。

 一応丁寧に接したつもりではいたし、話し合いに持って行こうとした。 

 今思うとこの状況……ここにいる皆が俺に対して高い警戒心を持ってしまったのは殺気を放ってしまったのが原因かもしれない。

 だが、言い訳をしたい。

 焦って困っている状況でそれを悪化させるような発言をされたら誰だってそうなる。それなりの達人なら、敵対心を向けられたら条件反射で臨戦体制に入ってしまうのはしょうがないと思うんだ(あくまで俺の感覚だが)

 

 本当にどこで選択肢を間違えたのだか……。

 

 ……もうやってしまったことを振り返ってもしょうがない。時を戻せるなら最初からやり直したいが無理だろう。

 だから、もう切り替えて他の打開策を模索しよう。

 このまま黙っていてもしょうがない。

 俺には原作知識というアドバンテージがあるんだ。それをフル活用すればいける……はず!

 まずは状況整理をすると、この場で唯一俺を敵ではないと思ってくれるのは炭治郎だけである。

 俺は原作知識と今世で生きた経験や人との関わりを活かし打開策を導き出す。

 

 あぁ、本当によかった。冨岡義勇とコミュニケーションしておいて。

 俺は原作知識から義勇の不器用さを知っていた。だから義勇が柱になり、共に訓練をする上で偶に話をするようになった。

 その話の中で兄を守った稀有な鬼のことを二時間かけて長々と一から義勇の話を聞いた。

 義勇は基本話す時、結論しか言わないか、過程だけを長々と説明しかできない。本当に不器用だ。だが、その努力が今、実を結ぶ!

 思考は刹那、流れを組み立て、話し始めた。

 

「そこの少年……鬼殺隊同士での争い、そして何より鬼を守ろうとする。これは重大な隊立違反じゃないか?」

「それは……」

 

 俺の正論を聞き、炭治郎は少し動揺し、周囲の者たちは様子を窺っている。

 本来の鬼殺隊であれば当然の反応だ。禰豆子のような例外を知らなければ当事者にそう質問するのは当然のことだ。

 まぁ、大概の鬼殺隊は話よりも行動で示してしまうが……。

 とにかく俺は炭治郎から珠世さん、愈史郎、禰豆子についての情報を話させなければいけない。頼む!

 これで話をしてくれ炭治郎!

 

「確かにそうかもしれない。でも…妹は……禰豆子は人を傷つけることはしない!禰豆子は今まで人を守るために俺と一緒に戦ったんだ。珠世さんも……愈史郎さんも……医者として今まで沢山の人を助けてきた。この人たちは悪い鬼とは違うんだ!」

 

 やべぇ、自分でやっててまじで悪者にしか見えないわ。例えるなら柱合会議で示した初対面の不死川だ。

 物語では最後まで不死川は炭治郎から嫌われていた……最後の方は知らないけど。

 このままなら俺も同じ扱いになるだろう。

 同じままなら…だ。

 

「つまり君は……この人達は味方だと?そう言いたいのか?」

「そうだ……」

 

 ここまで順調に話が進んでる。炭治郎から聞かなきゃいけない話。珠世さんと愈史郎、この二人のこと、そして妹の禰豆子の名前を直接聞き出すことに成功した。後は、炭治郎自身が鬼殺隊となり、成長したことを示してくれれば解決だ。

 

「一つ聞こう。……君は今、満身創痍だ。そんな状態で俺がこの人達を殺すと言ったら?」

 

 俺はそう言いながら刀に手を乗せ鬼達へと視線を向けた。

 俺が炭治郎から示してもらいたい成長、それは強者に立ち向かう勇気だ。炭治郎は義勇と初対面した時、頭を下げて助けを求めた。義勇はそれを咎め、それから二年ほどが経過した。

 今の炭治郎なら……。

 

「やめろー!」

 

 炭治郎は刀を構え、俺に切り掛かってきた。

 そうだ。それでいい。今、興奮しているからまともな判断はできないだろう。

 それでも不利な状況でも大切な存在を守るために自分よりも強い俺に立ち向かった。

 俺は自分の策が思い通りにいき、ニヤけそうなのを我慢し、向かってくる炭治郎を転ばした。

 

「ぐぁぁ」

 

 炭治郎は転び、うめき声を上げるもすぐに体制を整え、睨んでくる。

 俺はそんな炭治郎に声かける。

 

「試すようなことをして悪かったな……竈門炭治郎」

「……え?」

 

 俺は炭治郎の名前を出した瞬間、警戒の中に少し疑問が生まれるのを確認した。

 俺はその一瞬の揺らぎを見逃さず、何か言われる前に話を続ける。

 

「以前、義勇からお前たち兄弟のことを聞いたんだ。妹を人間に戻すために鬼殺隊になったお前の話をな」

「冨岡さんから……」

「ああ」

 

 今の炭治郎の雰囲気は先ほどに比べ、警戒心は見られず、驚きの表情を見せていた。匂いで嘘をついていないのだと理解したのだろう。

 炭治郎は鼻がいい。真実の匂いとか知らんけども。  

 俺はそんな炭治郎の確認後、視線を珠世さん達へ向ける。

 炭治郎としたやりとりで愈史郎は警戒を解いていないものの、疑問が生まれており、禰豆子は臨戦体制を解いていた。珠世さんは……よくわからないけど、警戒はしてなさそうだ。

 

「勘違いが起こるような行動をして申し訳ありません。しかし、俺は炭治郎、禰豆子の行く末を確かめる必要がありました。どうか矛を収めてはもらえませんか。敵対の意思はありません」

「俺たちの?」

 

 俺は刀を地面へと置きながらそう言った。

 炭治郎は俺の言葉に反応するも、今は時間がないため、無視する。もうすぐ朝だし。消えちゃうよ珠世さんたち。

 これでひと段落済んだと思う。敵ではないと分かってもらえたらいいのだが。

 後は反応次第だが……。どうだろうか?

 俺は皆の反応を待つ。

 

「……わかりました。あなたを信用したいと思います」

「?!珠世様!こいつは「よしなさい愈史郎」しかし!」

 

 珠世さんは俺の提案を受け入れるが、愈史郎はそれを認めようとはしない。

 まぁ、愈史郎は人間を信用していない。今この場で信用しているのは炭治郎くらいだろう。炭治郎の現状と、真っ直ぐすぎる優しい性格。

 これらが起因して、信用を勝ち取った。……まぁ、素直にはなれていないが。

 

「愈史郎……考えてもみなさい。もしも彼が私たちを殺すことが目的なら初めからそうしていたでしょう」

「……く!……わかりました」

 

 言葉ではそう言った愈史郎だが、それは珠世さんを信頼してであって俺に対しては未だに敵対心を隠さないでいる。

 でも、今はいい。最悪の事態にはならなかったのだから。

 だが、今回の一件……珠世さんと達と交流できたのは今後のことを考えると大きい。

 原作では珠世さんの鬼を人間に戻す薬を完成させるのは鬼舞辻無惨の最終決戦前だ。 

 もしも、その薬がもっと早く出来ていたら?もしかしたらもっと効力の高い薬ができるかもしれない。

 そうすれば戦いを有利に進められる。それに現在しのぶは下弦の鬼を殺す毒をも作った。もしも、今のしのぶ、珠世さんが組んだら?……考えるだけでも恐ろしい。

 

 受け入れてもらえるか分からないけど、提案してみるだけしておこう。

 

「えっと……珠世さんでしたっけ「気安く名前を呼ぶな!」……」

「……愈史郎?」

「……はい」

 

 いや、話が進まないんだけど。愈史郎……頼むから黙ってほしい。

 

「ゴホン……珠世さん、信用してくださりありがとうございます」

「いえ、私の方こそ、危ないところを助けていただきありがとうございました」

 

 定型文のような言葉を並べる珠世さん。

 本当に感情が読めない。いや、だからこそ冷静な判断ができるのだろうか?とにかくこの場所から移動しよう。

 

「とりあえず場所を移動しませんか?お話したいことがございます」

 

 俺の提案に珠世さんは黙って頷き、それを見て大きく深呼吸をした。

 

 

 

 

 どうにかなってよかった。



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楽しみだなぁ!

 

 

 敵対フラグを無事に回避した俺は今、珠世さんと愈史郎の二人が隠れ家にしていた場所の地下にいる。

 

 怪我をしている炭治郎の手当て、愈史郎の血鬼術を使い、家を隠す。痕跡を消すための作業には少し時間がかかってしまったため、その間は炭治郎と珠世さんから今回の一件についての話をした。

 珠世さんと愈史郎の存在について。何故鬼舞辻に襲われたのかなど。

 そして、愈史郎の作業が終った頃には時刻にして12時を回ってしまった。

 

 

 現在俺、珠世さん、愈史郎、炭治郎の四人は地下の部屋で談話をしている。

 立ち位置としては俺、炭治郎が隣で真ん中を挟むように愈史郎、珠世さんが座っており、愈史郎は未だに俺への警戒心が解けておらず常に睨みつけられている。

 本当にやめてほしい。

 

「すいません。貴重なお時間をいただいてすいません」

「本当だ!珠世様の貴重なz「愈史郎」……はい!」

「えっと……差し出がましいのです「図々しいぞ!」……」

「……愈史郎」

「はい!」

「……お願いがございま「断る!」…」

「………愈史郎?」

「はい!」

 

 いや、話が進まん!

 わかってんなら返事すなマジで!

 珠世さんは愈史郎に対して逐一注意しているが、懲りずに話に割り込んでくる。

 どうしよう。

 

「愈史郎……少し黙っていなさい」

「しかし!」

「話が進みません」

「……はい」

 

 いや、だからそこまで俺を警戒せんでもいいのに。

 珠世さんに怒られたの自分のせいだろ!だから、俺を睨むのやめてくれ。

 だが、せっかく珠世さんが俺の話を聞いてくれる気になったんだ。

 話を進めよう。

 

「単刀直入に言います。……鬼殺隊に協力してもらえませんか?」

「え?」

 

 珠世さんは少し驚いた表情を見せる。……普段無表情の人が驚くとギャップがすごいなーと感想を抱くも、俺は話を続けようとする。だが、それを愈史郎は待ったをかける……ことはなかった。

 

 反論してくると思ってたけど?

 なんで何も言ってこないんだろう?

 

「……理由をお聞きしてもよろしいですか?」

「……はい」

 

 理由か……原作知識からですと言っても信用してもらえないだろう。

 原作から引っ張るとすれば……。

 

「理由はいくつかありますが、一つはお館様の意思だからです。……以前より、珠世さんにお館様……いや、産屋敷の人間から接触があったのではないですか?」

「?!」

 

 俺の言葉に珠世さんは少し反応を示した。

 ここで珠世さんの年齢を言うと、四百歳以上。今の反応を見る限り、産屋敷の人間が接触を図ったことがあるのだろう。

 そうでなければ、お館様が珠世さんのことを知っているはずがない。

 でも、珠世さんはそれを断り続けた。

 理由は不明だが……。

 

「お館様は自分の代で鬼舞辻無惨との因縁を絶とうとしています。それには珠世さんの協力が不可欠」

「……」

 

 確信をつく言葉。 

 珠世さんは少し考え込むような表情をした。

 少し揺れ始めた。この後の言葉は慎重に選ばなくては。

 俺は少し考え話始める。

 

「炭治郎は鬼殺隊で初めて鬼舞辻無惨に遭遇しました。そして、鬼舞辻は炭治郎、禰豆子の兄弟を狙っている、鬼舞辻から接触を図る、これは鬼殺隊の発足以来初めてのことです」

 

 未だに珠世さん黙って聞き続ける。

 まだ納得している雰囲気はないか。

 なら、追加情報だ。俺は上弦に接触した経験がある。

 

「それと、俺は鬼殺隊になって以来、十二鬼月……上弦の鬼の二体と遭遇、有益な情報を持ち帰り生還しています」

「そ……それは本当なのですか?」

 

 と、ここで俺の功績に黙って話を聞いていた炭治郎が反応を示し、珠世さんが今日一番の驚きの表情をした。

 

「本当です。この二つの事例は鬼殺隊発足以来、はじめてのことです。鬼舞辻は自分から行動を起こすことはなかったとお館様にお聞きしました。鬼舞辻が行動を起こした理由は不明ですが、今現在、均衡が崩れようとしています。お館様はこれを好機と捉え、そのための準備もしてきました。

 珠世さんの経験や知恵……鬼殺隊にお貸ししてはもらえないでしょうか?」

 

 もう、原作でお館様が言っていたことだから嘘ではない。準備に関しても、俺は柱たちと一緒に十ニ鬼月の対策として研鑽を積んだし、戦闘方法も確立したいから嘘はついていない。

 ここまで話したがそれでも未だに首を縦に振る気配がない珠世さん。

 まだ、俺が言っていることを信用するか悩んでいるのだろう。

 正直、理由としては不十分なのは分かっている。だが、ここでどうしても珠世さんの協力を取り付けられれば今後の鬼との戦いを有利に進められる。

 あと、もう一押し。何かないか……。

 

「あの……お話中すいません」

「うん?」

 

 ふと、俺が珠世さんの反応を窺っていると、先ほどから黙っていた炭治郎が話しかけてきてこの場にいる者の視線が集中する。

 

「先ほどから獪岳さんは嘘をついていません」

「え?」

「獪岳さんからは珠世さんと同じように嘘偽りのない……清らかなにおいがしますから」

 

 なんかむず痒い。

 炭治郎はおそらく雰囲気を匂いで感じて、俺を後押しするために言ってくれたのだろう。

 だが、この機を逃すのは惜しい。

 

「少し話はそれますが、実は俺の義妹は上弦の参の鬼から採取した血液から下弦とはいえ、十二鬼月を殺す毒を作った腕利きの薬師なんですよ。知識も技量も随一なんです。珠世さんが作ろうとしている鬼を人間に戻す薬を作るのにお役に立てると思います」

「……はい」

 

 そう返事をした珠世さんからは先ほどから感じていた疑いの雰囲気はなかった。

 本当に炭治郎様様だ。

 よっぽど珠世さんは炭治郎を信用しているのだろうな。

 俺はその場で頭を下げて。

 

「珠世さんと愈史郎の安全は保証します。これはお館様の意地でもあります。どうか鬼舞辻をこの世から消し去るため……協力をお願いします」

 

 いわゆる土下座。誠心誠意込めてする。俺はお願いをする立場だ。

 俺に言葉で人を動かす能力はない。俺の頭なんて何がないかもしれない。それでも、俺にはこれしかできない。だから、せめて誠心誠意を込めてお願いする。

 

「こちらこそよろしくお願いします」

 

 珠世さんにそう言い、迷いがない返答を返してくれた。

 これをしてくれたのは俺の力ではなく炭治郎の人間性が大きい。

 本当に主人公には敵わねーわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無事に珠世さんの協力を取り付けることができたのだが、話が終わってからの愈史郎の対応が少し面倒臭かった。

 愈史郎は珠世さんに注意を受けた後、全く話を聞いていなかったそうだ。

 「注意をする珠世様もお美しいとか、話を聞いている珠世様尊い」とか思っていたのだろうな。

 どれだけ珠世さんを崇拝しているのだろうか?

  

 そんな愈史郎だが、珠世さんから一言説得ですぐ納得していた。

 

 

 

 

 

 話が全て終了した後、炭治郎は次の任務のため旅立ち、夜になるのを待って俺、珠世さん、愈史郎の三人は移動を開始したのだった。

 

 

 もちろん 報、連、相は忘れない。

 このことはカラスを使いあらかじめ今日あった旨を蝶屋敷の人間とお館様宛に手紙にして送った。

 

 カナエにはあらかじめ趣旨を伝えておかないと命に関わるかもしれない。この四年で俺も流石に成長をしたのだ。

 

 珠世さんと愈史郎は蝶屋敷で保護をする予定だ。

 これにはいくつか理由がある。

 

 蝶屋敷には医療器具や薬剤が豊富にあるので、実験には最適のため。

 

 珠世さんと愈史郎の安全を確保するため。

 

 他の柱たちから隠すため。

 一応まだ、他の柱に報告するつもりはない。だって、鬼いるとわかったら絶対襲ってくるし。

 

 

 そして最後にカナエの夢を叶えるため。

 これが一番の理由かもしれない。

 

 絶対カナエ喜ぶだろうなぁ。どんな反応するかな?

 

 

 

 

 

 楽しみだなぁ!

 



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愈史郎許すまじ!

ちょっと早めの投稿です。


「以上が報告になります」

「そうか……ありがとう。獪岳」

「いえ、鬼殺隊として当然のことをしたまでです」

 

 場所はお館様の屋敷。

 日が沈み、あたり一面薄暗くなった現在、お館様から招集を受けたため、参上した。

 俺はことの詳細をお館様に報告をしていた。

 俺が珠世さんに提案した鬼殺隊への協力要請は、見事に引き受けてくれた。ただ、愈史郎は最後まで否定していたが……。

 

 それでも、珠世さん絶対主義の愈史郎は意向に従ったのだ。

 少し騙すようではあったが、お館様の意向、そして安全を保証することを条件にした。

 決め手になったのはお館様の代で

 珠世さんは鬼舞辻無惨を相当恨んでいる。内容としては珠世さんの協力を取り付けたこと。

 

「それにしても、まさかあの場に獪岳がいるとは思わなかったよ。本当に悪かったね。休日だったのに」

「いえ、お館様の意向に沿うのは当たり前のことでございます」

「その割には渋っていたみたいだけど?」

「……」

 

 痛いところを疲れた。

 確かにその通りだ。でも、まさか本当にカラスと直接パスがつながっているとは思わなかった。……いや、まずカラス達の能力や感覚共有は産屋敷家の能力だから、当たり前か?……もう考えても遅いが。

 

「……結果的に珠世さんの協力を取り付けられましたし、過程は良いのでは?」

「たしかにそうだね」

 

 経緯はどうあれ、結果を出せた。その事実だけが大切だ。

 お館様と話すと毎回思うのだが、……この人は苦手だ。

 全てを見透かされているみたいで本当に嫌になる。

 嫌いではない。むしろ尊敬をしている。

 だが、あまり長居はしたくない。

 そのため、要件だけ済ませて早く帰ろう。

 

「お館様……先日カラスを経由して報告した内容についてはご了承していただけますか?血気盛んな柱……特に不死川や伊黒に知らせるのは少し先が良いかと」

「今回の件は獪岳に一任するよ。珠世さんもまだ鬼殺隊を信用している様子じゃないんだよね?」

「……はい。……俺には多少信頼してもらえていると思いますが、完全には……」

「そうか」

 

 お館様は俺の回答にそう返事をした。

 少し心配しているようだけど、俺は大丈夫だと思う。

 

「珠世さんの件はカナエに任せたいと思います。彼女は元々鬼に好意的でしたから」

「カナエは鬼と仲良くすることを夢見ていたからね。今頃喜んでいるかもしれないね」

「そうかもですね」

 

 カナエの鬼と仲良くしたいという夢は柱ならば皆知っている。

 現実を見ろと言うものがほとんどだったが、それでもカナエは諦めることはなかった。

 

「今日は遅い。詳しい内容は後日お願いしようかな。こんな遅くにきてもらって悪かったね、獪岳」

「いえ、お館様直々のご招集。……鬼殺隊として参上するのは至極当然でございます」

「ありがとう。これからも鬼殺隊として支えてほしい」

「承知しました。失礼いたします」

「獪岳」

 

 話が終わったと思い、一礼して帰ろうとしたらお館様に声をかけられた。まだ何かあるのだろうか?

 

「カナエへの隠し事はほどほどにね」

「……別に隠し事なんて!……いえ、なんでもありません」

 

 意表をつくのをやめてほしい。驚いたじゃん。

 そういえば遊郭の件といい、なんで知ってんだよ。

 

「……お館様」

「何かな?」

「遊郭のこと以外どこまで把握しているのですか?」

 

 俺の質問にお館様はふふっと笑いこう答えた。

 

「鬼殺隊の長として、子どもたちのことを知ることは当然だよ」

 

 やっぱりこの人尊敬できないわ。目的のためならなんでも使う腹黒さがある。この人の策略に何度引っかかったことか……。

 俺は失礼しますと言って逃げるように退出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はお館様と別れた後、珠世さんに報告をするために一度蝶屋敷を訪れた。

 玄関まで行くのが面倒臭くなり、塀を飛び越え、玄関に入る。

 

「ごめん、誰かいる?」

 

 玄関に入り、声をかける。

 今日は蝶屋敷の住人は全員いるはずなんだけど。

 人の気配が少ないか?

 

「獪岳さん!いらしてたんですか」

 

 俺が詮索を開始しようとしたら凛とした女性から話しかけられた。

 

「あ、アオイさん。夜分遅くに申し訳ないね」

「い、いえお気になさらず。どうかされたんですか?」

「いや、ちょっと様子を見にきたんだよ。ほら、新しい住民が増えたし」

「…なるほど」

 

 俺に声をかけてきたのは青い蝶の髪飾りで髪をツインテールに結んでいる、隊服に割烹着をきた蝶屋敷の住民の一人……神崎アオイさんが声をかけてきた。

 ただ、彼女は常に凛とした声でハキハキと話すのだが、今日は少しおどおどしている。

 もしかして、珠世さんのことでまだ緊張してるのか?

 

「どうしたのアオイさん……」

「いえ、なんでもありません」

「そう、ならいいんだけど。早速で申し訳ないんだけど、珠世さんってどこにいる?少し話したいことがあって」

「珠世さんならしのぶ様と処置室にいらっしゃいます」

「処置室?……今何かやってるの?」

「はい。……今もなお、薬や医学について討論をしています。急ぎの用ですか?」

 

 お、早速始まってるのか。しのぶは薬のスペシャリストだし、話が合うと思った。

 なら、邪魔するのは悪いかな。

 

「いや、急ぎって訳じゃないけど、結構話し込んでる?」

「はい。もう一時間は話し込んでますね。しのぶ様があんなにも人と熱心に話すのは初めて見ました」

「そうか。なら、邪魔しない方がいいかな。これ、お館様との話し合いで決まった内容のメモなんだけど、後で渡しといてもらえる?あと、内容の質問は明日俺が答えるって伝えておいて」

「承りました」

 

 俺はそう言いながらメモをアオイさんを渡した。

 しのぶと珠世さんの場所はわかったけど、他の人どこだろう。

 珠世さんと愈史郎送ったとき、みんないたからいるはずなんだけど。

 

「愈史郎は処置室いるからいいとしてのみんなの場所ってどこいるの?なんか今日静かじゃない?」

「……何故愈史郎さんだけ場所がわかったんですか?」

「そりゃ、愈史郎は珠世さん信者だからいっときも離れてないでしょ?」

「……なるほど」

 

 それだけでアオイさんは納得してしまった。まだ、数時間しか経ってないのにわからせてしまうなんてすごいな、珠世さん信者は。

 

 変な空気になってしまったが、アオイさんは一人納得したあと、咳払いをして話し始めた。

 

「えーと、皆さんの居場所でしたよね。………カナヲは中庭で素振り、きよたちは疲れて寝ています。カナエ様は先ほど獪岳さんの家に向かいました」

「ああ。行き違いになっちゃったかぁ。それにしてもカナエが途中で帰るなんて思わなかったよ。何かあったの?」

 

 あれ?カナエ交流してると思ってたのになぁ。鬼と仲良くするのが夢だったはずだが……。

 

「カナエ様は……」

 

 俺がカナエのことを考えていると、アオイさんが何かを思い出したのか、

 

「先程まではしのぶ様と珠世さんとお話ししておりましたが、愈史郎さんと少しお話した後、すぐに蝶屋敷から走って獪岳さんの家へ向かいました」

「……ちなみにどんな表情してた?」

 

 まさかね?

 そんなはずはない。

 ただの気のせいだ。

 

「……存じておりません」

 

 アオイさんは目を逸らしてそう言った。

 

「………え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 逝くべきか逝がないべきか。

 人は地獄があると分かっていて、その地獄に向かうのは余程のチャレンジャーまたは変態じゃなければ行かないだろう。

 俺はどちらでもない。

 

 でも、カナエが怒る理由はわからない。カナエから以前自分としのぶ以外の異性にはさん付けで呼ぶように強よ……ゴホン!お願いされていたので、その件ではないはずだ。

 

 まさかお館様が遊郭の件を伝えた?……それだったらかなりやばい。

 でも、今回怒った原因は、アオイさんは愈史郎に何か吹き込まれたと言っていたから、その件だと断定付けた。

 

 だから俺は今日は自宅に帰らず宿に泊まろうと思う。

 数日時間をあければ流石のカナエも、多少は冷静になるだろう。

 

 俺はアオイさんと別れたあと、行動方針を決め、蝶屋敷を出ようとした。

  

 だが、俺の考えは甘かった。

 

「夜分にお出かけですか?」

「………」

 

 振り返るとそこにはハイライトが消えた、おなじみの鬼がいた。

 俺はやっぱり逝くのか。

 

 いや、まだだ。

 まだ、俺の命はつきていない!

 

「いや、今アオイさんから聞いてカナエをお迎えに行くところだっ「我が家とは真逆の方向でしたけど?……」

 

 …………まだ。

 

「いや、実は珠世さんの件でお館様に用があった「確か報告した内容の確認で向かっただけでしたよね?事前に報告書を提出していたと聞いていますが?」……」

 

 ダメかもしれない。

 まさか、事前に報告したのが仇となってしまった。

 ……話をすり替えればいけるか?

 

「カナエ、珠世さん達と会ってどうだった?カナエは鬼と仲良くするのが夢だったみたいだからね!」

「とても嬉しかった……ですよ」

 

 あれ、今過去形だった?いや、聞き間違いかな?

 

「そっか、喜んでくれてよかったよ!よし、早く蝶屋敷に戻ろーー」

「獪岳さん?」

「……はい」

「何故誤魔化そうとしているんですか?」

「いや、そんなひぇ!……なんでもないです」

 

 ……もう手遅れらしい。

 カナエに言い訳をしようにも日輪刀を手にかけ威圧してきた。

 

「愈史郎さんから全て聞きましたよ」

「……愈史郎と何話したの?」

 

 俺は無意識にこの言葉を発していた。

 カナエに対する恐怖のせいである。

  

「珠世さんに見惚れて鼻の下伸ばしていたそうですね?……私というものがありながら……他の女性にうつつを抜かすなんて……。ここへ来るまでの道中、通りかかった女性を見つめていたらしいですね。今思えば、蜜璃さんと初対面の時、少しいやらしい視線を向けていましたね?その時の私は見間違いだと思っていました。……私……知りませんでしたよ。獪岳さんが浮気性だったなんて……。これらのことについて……家で詳しくお聞かせくださいね?」

「いやぐえ!」

 

 全て出鱈目だ!

 そう言おうとした瞬間カナエに手で無理やり口をふらがれた。

 その時のカナエさんは真顔で俺を見ていた。

 そして、引きずられるように死地へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまり、全て愈史郎さんの虚言なのですね?」

「最初からそうって言ってんじゃん!俺はカナエ一筋だよ!他の女にうつつを抜かすとかありえないから!」

「そうでしたか……ごめんなさい」

「大丈夫だよ」

 

 俺は現在自宅に戻ってから一時間にわたる弁解の結果、誤解を解くことに成功した。

 俺は安心し、気を抜いた。

 ……抜いてしまった。

 

「疑ってごめんなさい」

「だからいいって」

 

 よかった誤解が解けて。前までのカナエなら何かあったらすぐに俺に攻撃していた。が、今は少し話を冷静に判断できるようになった。

 

「私の悪い癖ですね」

「大丈夫だって、気にしてないから」

「ありがとうございます……それにしても珠世さんって見惚れるほどの美人ですよね」

「そうそう!すごく綺麗……あ」

「うふふふふふ」

「待って……今のは違う!ーーー」

 

 カマかけられた!

 ………終わった。

 

『花の呼吸 伍ノ型 徒の芍薬』

 

 九つの斬撃がまたも俺を襲った。その日再び静寂の夜に俺の悲鳴が鳴り響いた。

 

「あぁぁぁぉぁぁぁぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうしてこうなってしまった?

 

 考えなくてもわかる。

 

 全て……全てあいつが悪い。

 

 

 

 

 

 愈史郎許すまじ!

 

 

 




最後まで読んでくださりありがとうございました。


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よし!色々と仕込みをしよう

お待たせしました。


 珠世さんと愈史郎が蝶屋敷にきてから数ヶ月が経過した。

 

 そのことを知っているのはごく少数。

 お館様と俺、蝶屋敷の関係者のみ。

 

 今現在もバレることはない。

 それは愈史郎の結鬼術「紙目」のおかげだろう。

 

 柱もたまに訪ねてくることがあるのだが、声や音、匂いも認識されなくなる能力の効果で一切バレることはなかった。

 

 ただ、一度天元が訪れた時には少し警戒はしたが、何も違和感なくことなきを得た。

 

 汎用性が高く使い勝手がいい。

 原作でも愈史郎がいなければ鬼舞辻無惨に勝てなかったであろう。

 それどころか絶対全滅していたと思う。

 

 愈史郎の結鬼術は炭治郎の処遇をあたっての柱合会議で話そうと思う。

 

 愈史郎の能力が有れば柱の実力アップ……特に目がほとんど見えない伊黒の実力は跳ね上がると思う。

 

 まぁ、鬼を嫌う本人がなんというか知らない。それについては策があるので問題ないだろう。

 

 さて、ここ数ヶ月間、ついに原作が開始したわけだが……俺は今は特に行動していない。

 

 

 原作ブレイクはいくつかしているから何か乖離が起こると思っていたのだが、炭治郎はしっかりと原作の流れを守ってくれているようだ。

 

 

 今は鼓屋屋敷の戦闘が終了し、伊之助や善逸と合流し、療養中とのことだ。

 

 なんで知っているのか。

 

 それは善逸と炭治郎からカラスを通して手紙が何通も送られてくるからだ。

 

 炭治郎からはこの前の感謝と善逸との再会で俺が善逸の兄弟子であることが判明、驚いたことについての一通。

 

 善逸からは……まぁ、何通も送られてきている。

 早く会いたいだの、見舞いに来いだの、死にたくないから守ってなどなど。

 同じような内容が送られてきた。

 

 善逸ってブラコンなのかな?

 そう思えてならない。

 

 こちらからしたらかわいいやつだと思うのだが、流石にここまでしつこいと面倒くさい。

 だから、手紙に一応目は通しているものの、炭治郎の返事で返した一通のみだ。

 

 

 ああ、あと伊之助からも手紙が届いていたっけ。

 「しょうぶしろがいこつ」その一言が殴り書きで……しかも解読が困難な文字が書いてあった。

 

 伊之助って人の名前覚えられないんだなと再認識したのだった。

 

 

 まぁ、とりあえずもうすぐ那田蜘蛛山編が始まるわけだが……。

 こればっかりは原作通りになってもらわないと困る。

 

 これは炭治郎の覚醒イベントだと思っている。

 ヒノカミ神楽。

 物語において最も大切なそれは炭治郎が下弦の肆累との戦闘で見た走馬灯がきっかけだ。

 

 俺は任務に召集されるだろう。なんせ、炭治郎のことを知ってる数少ない人物だ。

 柱は忙しいという理由もある。

 自分の担当区域を見るだけでも大変なのだ。担当区域がない俺は使い勝手がいい。

 今や俺の実力は柱クラス。

 普通の隊士では対処できない鬼が現れた場合、俺が行かされる指示は少なくない。

 

「これから忙しくなりそうだ」

 

 俺はため息し、誰もいない病室で一人呟く。

 現在、俺は病室で療養中だ。

 

 カナエから受けた怪我が未だに完治していない。

 

 全身複雑骨折。全治二ヶ月

 骨は完全に治り、今は機能回復訓練をしている真っ最中。

 

 ……本当に生きててよかったと思った。何度も思う。

 

 ちなみにだが、ここまでカナエの嫉妬で大怪我することは2年ぶりだ。

 

 いつもならあざができる程度なのだが。

 ……今回はかなりお怒りだったようだ。

 

 今はいいだろう。

 俺としても機能回復は大変だが、原作に入ったから長期休暇として捉えようと思う。

 

 この後はどうせ上弦やら鬼舞辻無惨との戦闘が続くんだ。

 ちょっとくらい良いだろう。

 

 頭を切り替えてプラス方面に考える。

 

 今は機能回復訓練も大詰め。

 そろそろ戦闘の感覚も戻った。

 

 準備は万端だ。

 

 

 

 もしも炭治郎が死んでしまったら?

 

 日本は……いや、世界の全人類が全滅。

 これはあり得る未来。

 

 だからこそ、俺は全力で運命に抗うんだ。

 大切な人たちを守るために。

 

 全てを守ろうなんて思っていない。

 俺の目の届く範囲でした守れない。

 

 原作で死亡する人たち。

 

 だから、俺は努力を続けたし、柱の実力向上につながるように訓練もした。柱クラスしか使えないが、原作知識から鬼との戦闘で有利になるような秘策も授けた。

 

 ここ数年、俺単独でも鬼舞辻無惨を倒すための奥の手も用意した。上弦に対抗するため、しのぶと珠世さんの協力をしてもらい対抗するための毒の実験にも協力している。

 

 

「絶対に乗り切ってみせる」

 

 俺は決意を改めたのだった。

 

 そして次の日、俺はお館様の指示で任務に復帰した。どうも厄介な血鬼術を使う敵が現れたのだとか。

 

 まぁ、普通の隊士には荷が重いだろう。少し遠出なので数日かかる任務だ。

 

 下弦の肆の前のリハビリがてらいっちょ行きますか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 任務は無事に終了した。

 結果だけ言えばやはり俺の粘り勝ちだった。

 太陽が出るまで一撃逃走を続けた。

 

 復帰後なので疲れもあり、任務が終わってから蝶屋敷に着くのに一週間かかってしまった。

 大きな怪我はなく、ほぼ無傷での帰還。

 

「ただいま〜」

「あら!お帰りなさい獪岳さん!間に合ってよかったです!」

 

 一週間ぶりとなる蝶屋敷。

 出迎えてくれたのは安堵を浮かべていたカナエさん。

 

「……何かあったの?」

「いえ……実は」

 

 カナエは懐から一通の手紙を出し、俺に差し出す。

 

「お館様より柱合会議に参加するよう通達が来ました」

「え?……なんで急に」

「それが、2日前、下弦の肆が現れ、しのぶと冨岡さんが対処をしたのですが」

「……え?」

 

 は?

 下弦の肆?

 どういうこと?

 もしかして炭治郎の件終わっちゃった?

 

「それで、鬼を連れた鬼殺隊士の件で急遽柱合会議が開かれることになりまして。それで獪岳さんにも出席するようにとのことです」

「……マジかよ」

 

 炭治郎の件終わってたわ。でも、丸一日空いてるのは不思議だ。原作だと柱合会議はすぐに開かれていた。

 

 ああ、しのぶは既に珠世さんたちと関係を持ってるからそれが影響してるのか?

 鬼を連れた隊士って炭治郎のことだよな?

 

「ちなみに鬼を連れた隊士って竈門炭治郎のことだよね?」

「はい」

「そっか……ちなみに生きてるよね?」

「大怪我はしていますが、生死に関わるほどではありません。あ!もちろん善逸くんと伊之助くんもです。今は病室で休んでますよ」

 

 安心したわ。

 とりあえず無事なようで何より。

 あとは、柱合会議を乗り越えるだけのようだ。

 

 そして、その日のうちに他の柱たちに緊急の柱合会議についての通達がいったのだった。

 

 

 今回の柱合会議は重要だ。

 

 血が流れることがないように、円滑に進めよう。

 

 そのためには………

 

 

 

 

 

 

 色々と仕込みをしよう

 

 

 




最後まで読んでくださりありがとうございました。


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さあ、決戦のときだ

 お館様と柱の9人が集まるのは基本的に柱合会議だ。

 会議は緊急以外を除いて、半年に一度定期的に行われ、会議の細かい議題はその都度変わる。大まかな内容は各柱達の担当区域の鬼の動向、調査も含めた半年間の報告や方針を決定する。

 

 俺も何回か参加をさせられたことがある。一応は実力は柱クラス。上弦の鬼二体と戦闘経験があり、十二鬼月はもちろん情報が少ない鬼や厄介な血鬼術を使う鬼の仕事が回ってくるのは少なくない。

 

 ついこの前も珠世さんと愈史郎の件でお館様に会ったばかりだ。

 

 俺は一般の隊士でありながらお館様と定期的に会うことのできる異例の存在だ。

 別に俺自身産屋敷邸に行くことは決して嫌ではない。

 ただ、お館様に会いたくないというだけで。

 矛盾していることは自覚している。それでも、聖地巡礼と観光気分で行くと思えば決して嫌ではない。

 

 今回の件を除いて。

 

 今日、俺はいつもとは違う理由で呼ばれた。

 

 柱合裁判。

 議題は鬼を連れている隊士の処遇、及び鬼を匿う柱について。

 そう、竈門炭治郎と禰豆子、珠世さんと愈史郎について。

 

 さぁ、どうなるのか。

 この柱合裁判において俺の役目はお館様が来るまで他の柱たちをどう説得するかだ。

 

 鬼を極端に嫌っている柱、鬼を悪と掲げている柱はまず話し合いにすらならない場合がある。

 原作では不死川は話をせず即禰豆子を殺そうとした。

 杏寿郎、天元、伊黒、悲鳴嶼さんの4人は会議の段階で認めることはなく、即刻首を刎ねた方が良いと思っていた。

 

 

 まぁ、警戒すべきはこの5人だろう。今回の件は原作とはかけ離れている。

 

 しのぶは完全に俺側だし、義勇は当事者。

 甘露寺さんは元々中立を示しており、時透は興味すら持っていない。

 

 まぁ、既にある程度手は回してある。俺は事前に不死川を除いて交渉材料を用意し手紙を出していた。

 

 だって不死川と俺仲悪いし、俺との実践の稽古を除いて関わりはない。

 正直俺あいつ嫌いだ。なんで稽古なのに俺を殺す気でいるんだよ。不慮の事故でも装う気だったのかよ!

 

 閑話休題。

 

 とにかく、できることは全てやった。後は柱合裁判での他の柱の行動次第。

 もしも俺の提案した内容で納得しなかったら終わる。柱を数人敵に回したら勝ち目はない。

 成り行き任せな部分が多いが、まぁなんとかなるだろうと結論づけた。

 

「あの、獪岳さん……俺」

「そんなに不安に思うことはないさ。別に悪いことをしていたわけじゃない。堂々としろ」

「……はい」

 

 柱合裁判が行われる産屋敷邸に向かっている。俺はお館様に指定された時間に今回の当事者である竈門炭治郎、禰豆子を連れ歩いていた。

 

 禰豆子は炭治郎の師である鱗滝さん作の木でできた焦茶色の収納箱に入っている。

 

 炭治郎は事前に今日の件を聞いており、とても不安がっている。

 

 俺はそんな炭治郎を励ます。だが、彼は落ち込んだままでいる。那田蜘蛛山の件で何か思うことがあったのかもしれない。

 とりあえず、話題を少しそらそう。

 

「それにしても、今回は大活躍だったようだな。那田蜘蛛山で先輩隊士を救い、下弦の鬼に一矢報いたらしいじゃないか」

「……はい」

 

 これは俺が帰還した後、しのぶから聞いたことだ。

 本来の原作の流れと大きく変化がある。それはかまぼこ隊の3人が大怪我を負っていないこと。そして、先に那田蜘蛛山にいた先輩隊士を救ったこと。

 死傷者はいるが、生還者がいたのだ。

 賞賛したのにまた俯いてしまった。

 何か悩み事か?

 

「何をそんなに悩んでいるんだ?……俺でよければ話を聞くが?」

「……でも、自分のことですので」

「なら、なんでそんなに悩んでる?話すことで楽になることもある、人の意見を聞くことでわかってくることもある」

「……わかりました」

 

 炭治郎は俺の説得もあり、話始めた。

 

「今回の件で俺は弱いと思い知らされました。守りたいと思っている存在を守り切ることは出来ず、仲間に守ってもらうことが多かった。俺は何もできず、むしろ足を引っ張ってしまいました」

「……炭治郎はすごいな」

「……へ?」

 

 急に誉められたことで炭治郎は戸惑う。

 

「自分は弱い……そう認められる人間はそうはいない」

「……」

「普通の人なら自分の弱さに気付かされたとしても、向き合うのは無理だと思う連中、最初から諦めてしまう人は大勢いる。自分には力がない。これ以上強くなるのは無理。そう決めつけて、突破口を見つけようともせず、足掻こうとしないで考えを放棄してしまう人もしかり」

「……はい」

「だからこそ炭治郎はすごいと言える。自分の弱さを認め、どうすれば良いかと考えた。なら、それは一種の才能だし、伸び代だ」

 

 やはり原作の炭治郎と変わらない。

 自分のことよりも他人を優先する。他人の痛みも分かち合うようよりそう心優しい男の子。

 それが竈門炭治郎という人間なんだ。

 だから、こんなに萎らしいのは似合わない。君には俯いている時間なんてないんだ。今後鬼との戦いは激化する。

 ここで躓いてしまっては困る。

 

「守れないなら次守ればいい。力がないなら訓練をすれば良い。落ち込んでる時間があるなら試行錯誤し行動しろ」

「……はい!」

 

 俺も何偉そうに語ってるのやら。

 まぁ、今言った言葉は俺に当てはまることが多く、内容が違うだけで全て俺自身がやってきたことだ。

 

 死にたくないから受身、避けの技術を身につけ、速さを鍛え、熱界雷を磨き続けた。

 

 途中、守るべき存在ができ、今のままではいけないからと強くなるために試行錯誤をした。

 無理かと諦めようとした時期もあったがそれでも諦めずに自分と向き合った。

 

「強くなりたいなら誰かに師事をお願いすればいい。なんなら俺が紹介することも可能だ!」

「……それでは獪岳さんに迷惑をかけてーー」

「迷惑ならかけていい。むしろ頼ってくれ。後輩を鍛えるのは先輩の役目だしな……。まぁ、考えておいてくれ、とりあえずはまず片付けなきゃいけない問題があるしな」

「え?……はい」

 

 産屋敷邸に到着したため、炭治郎の話を遮るように話を切り上げた。

 まぁ、少し中途半端だが、話すべきことは全ていえたから良しとしよう。

 先ほどの悩み相談とは雰囲気が変わり緊張する炭治郎。

 俺は深呼吸し、屋敷へ入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よぉ、裏切り者。遅い到着だなぁ。どんな神経してんだよ、あん?」

 

 ついた時には既に柱は全員揃っており、俺の到着にいち早く気がついたであろう、不死川が声をかけてくる。

 

 明らかに不機嫌だ。

 まぁ、いつもカリカリしているので平常運転だなぁ。

 

「いや、俺は指定された時間通りに来ただけだ。何も悪いことはない。それと俺は鬼殺隊を裏切る行為などしてないぞ不死川」

「んだと?」

 

 俺の煽りに対し殺気を向けたのは風柱不死川実弥。刀に手をかけるが理性はしっかりとしているようで切り掛かってくることはない。

 当たり前か。

 顔を含め全身傷だらけ、何も知らない奴はヤクザに見間違えるだろうが柱だし。

 

 全体を見渡すとしのぶと義勇が離れた場所にいて、伊黒は松の木の上で俺に視線を向けている。

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 さあ、決戦のときだ。



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あ……あぶねぇ

 まずは現状整理から始めよう。

 

 今回の柱合会議、一番に考えるべきことは炭治郎と禰豆子、珠世さんと愈史郎の処遇を決めること。

 

 決めると言っても保留か罰するかの二択。

 保留にすれば良いし、柱全員を納得させることが必要だ。

 

 まず、話し合いをせずに納得しているのは俺側にいるしのぶと義勇、無関心の時透。

原作でもお館様がくるまで待機すべきとしていた甘露寺さんだけだ。

 

 後は不死川を除いて俺が事前に手紙で伝えた返答次第。

 とりあえず、話を進めてみないことには何も始まらない。

 

「お館様の命により、当事者である竈門炭治郎、竈門禰豆子を連れてきた。……お館様はまだ?」

「ご苦労様ですお義兄さん。……まだお館ーー」

「てめぇの近くにいるのが鬼連れの鬼殺隊で間違いないんだな?」

 

 しのぶが俺の質問の返答をしてくれたのだが、不死川が遮っていた。

 やっぱり絡んできたか。

 何する気だこいつ?

 

「そうだ。……彼がお前の言う鬼連れの鬼殺隊だ」

「そうか……で、鬼はどこにいんだ?まさかおいてきたわけじゃねぇだろうな?」

「……はい、この箱のなかに……?!」

「あぶな!?」

 

 不死川が禰豆子がどこにいるのかわかった途端瞬間的に距離を詰め、炭治郎のもつ箱を奪おうとした。

 

 俺は炭治郎を抱え、最小限の動きで避ける。

 やろう……。

 

「……え?……何が起こって?」

「怪我は無いか」

「……大丈夫です」

 

 やはり絡んできたか。

 炭治郎は何が起こったのか、わかっていなかった。

 まぁ、怪我がないようで何よりだ。

 

「チッ……流石だな。逃げ足だけは」

「褒め言葉と受け取っておこう。……それにしてもなんのつもりだ?」

「何って……鬼殺隊が鬼を殺そうとして何か問題あるか?あん?」

「おまえ……今竈門炭治郎に怪我をさせようとしてたな?立派隊律違反だぞ?」

「はん!そいつは罪人だ。隊律違反もクソもねぇよ!」

 

 あーあ、こわいこわい。

 これだから不死川は嫌いなんだ。

 原作では弟思いとか最終回ではいいやつオーラが出ていたが、実際に関わってくると面倒臭くて嫌になる。

 

「平然としてるが、てめぇは同罪だ。冨岡、テメェもだ!聞いたぞ。お前らは以前から知っていたらしいな」

「不死川さん……それについては説明をしたはずですが?」

「鬼を匿っていた奴は黙ってろよ」

「ですから、それはお館様の命で」

「そんなん関係ねぇよ。鬼は存在自体が悪なんだ。そんな連中を庇うなんざ言語道断。俺らだけで対処可能だよなぁ?」

「待て不死川、他の柱の意見も聞くべきだ。柱合裁判はお前の一個人の決定で決められるものじゃないだろ」

「そうですよ。私も皆さんの意見を聞くべきかと思いますが?」

「……聞くまでもないだろう?」

 

 一人暴走する不死川に俺、しのぶと意見を言う。そして何も言わずにそっぽを向いている義勇……いや、なんで何も言わないんだよ。

 

 不死川は他の柱に意見を求めるようにそう言う。

 

 不死川は俺が柱に勧誘された当初からいた。柱は鬼を絶対の悪としている。そんな人たちが鬼を庇うことを許さないと思っていた。自分の考えに賛同すると思っていた。

 だからこの場で反対意見を募ろうとしたのだろう。

 

 だが、残念ながらそれは叶わない。

 

「うむ……不死川が言いたいことはわかる。だが、我らだけで対処するべきじゃない!お館様を待つべきだ!」

「獪岳が理由もなくこのようなことをするとは思えない。……何か事情があるのだろう?」

「……は?」

 

 安心した。

 杏寿郎、悲鳴嶼さんはどうやら中立になってくれたようだ。

 手紙の内容を読んで考え答えを出してくれたようだ。

 

 でも、何かあった時、味方になってくれは俺贔屓になるので、大体予想できたが、まさか杏寿郎まで認めてくれるとは。

 俺は不死川に意識を向けながら、二人に話しかける。

 

「悲鳴嶼さん、ありがとう俺を信じてくれて。……それにしても杏寿郎まで中立になってくれるとは思わなかった」

「心外だぞ獪岳!竈門少年はお前のような男に命をかけると言わせた男だ。信用をしたまでだ」

「ああ、獪岳よ……お前はどこまでも慈悲深い男なんだ」

 

 杏寿郎といい悲鳴嶼といい。ここまで俺の評価が高い。……下手したらカンストしてるかもしれん。

 作中でも最強の一角の二人に味方をされた。

 ……でも、二人の評価がいい分、不死川の機嫌はさらに悪くなり、炭治郎は俺をみて感動していた。

 

「俺はまだ認めないぞ獪岳」

 

 杏寿郎、悲鳴嶼さんが中立になると宣言したあと、伊黒が松の木から話しかけてくる。

 なんか、不死川が伊黒の言葉を聞き、少し焦りがきえたか?

 まぁ、たしかに自分側だと思っていた二人が中立を示したら急出すに決まっているか。

 

 ……さて、伊黒はどう結論出したんだ?

 

「その小僧を拘束するどころか普通に連れてきた時点で気に入らないんだ。お前の普段の行いから気に入らない。なぜ、鬼を庇う?何故早く連絡を入れなかった?そういうのは事前に報告すべきだろう?貴様は常識もないのか?」

 

 ああ、このネチネチ感、さすがは伊黒だわ。

 だが、今伊黒が言った内容の中には俺への怒りも含まれているだろう。

 

 ここで一つ宣言するとしたら俺と伊黒の仲は、悪くない。

 一応、友人と言える存在だ。

 初対面では何故柱でもないのにここにいるとか、気に入らないとかよく言われたが、甘露寺さんとの仲を取り持ち、話に混ぜたり、甘露寺さんとカナエを含めた4人で飯を食べに行ったりと交流し続けたらなんか仲良くなれた。

 

 ちなみに初めはカナエを抜いた3人でいこうとしたのだが、それがバレてハイライトが休業中のカナエに問い詰められ、行くことになったのはここだけの話。

 

 つまり、伊黒が怒っているのは何故話さなかったのかという点。

 別に信用なかったわけじゃないんだが。

 

「そんなにおこるなよ」

「別に怒ってない」

「いや、決して信用してなかったわけじゃないだ。……お館様から言われてたんだ。怒るな」

「どうだかな?」

 

 ……面倒くせぇ。

 ここまでネチネチしてるのは久々だ。

 まぁ、いい。

 とりあえず手紙で事前に伝えていた物を渡せばこいつも納得するだろう。

 俺は懐から1枚の札とチケットを取り出し投げる。

 

「伊黒、これを」

「……こんなもので本当に」

「とりあえず鏑丸につけてみろ」

「……」

 

 伊黒は黙って札を鏑丸につける。

 すると驚いた表情をした。

 伊黒の右目は弱視でほとんど見えない。戦闘に置いても相棒の鏑丸のサポートありきで戦っていた。

 俺が渡したのは愈史郎に頼んで作ってもらった視界を共有する札。

 そしてもう一つはスイーツ食べ放題のチケットだ……いやぁこれ本当に高かったんだよなぁ。今のこの時代、食べ放題という概念はない。

 知り合いの店に頼んで、大金を払って食べ放題を引き受けてもらったんだ。甘露寺さんと一緒に行ってこいという意味も込めてそれを渡した。

 

「約束は守ったぞ」

「チッ……いいだろう、好きにしろ。俺は何も言わん」

「悪いな」

 

 俺は伊黒に感謝を込めてそう言った。

 今回の件で二つの条件、鬼の件での愈史郎の血鬼術の札と甘露寺とのデートをセッティングすること。

 それを条件に引き受けてもらった。

 一方的に条件を言ったのは俺だし、本当に納得してもらえてよかったわ。

 まぁ、これで伊黒の実力向上が図れるのでよしとしよう。

 

 ……あとは説得が必要なのは一人だけ。

 俺は天元に視線を向ける。

 

「……約束は守ってもらうからな」

「ああ、勿論だ。俺のできる範囲でなんでも一つ言うことを聞く」

「……わかったよ」

 

 天元と約束したのはなんでも一つ言うことを聞く。

 これだけ。まぁ、あいつが言いそうなことはなんとなくわかる。

 多分、遊郭の件の可能性が高い。

 その時になってからじゃないとわからないが。

 

「ふ、不死川これでいいか?」

「てめぇ……何しやがった?」

 

 あ、これまでないほどにブチぎれてるわ。

 

 事前準備が違うんだよ。一か八かの賭け要素があったものの、結果は俺の勝ちだ。

 普段の行いの成果だなぁ。

 

 ま、これを言うと怒られるので心の中に留めておくが

 

「舐めてんのかテメェ!」

「な、なんだよ急に」

「何が普段の行いだ?!ただずる賢いだけじゃねぇか!」

 

 胸ぐらを掴まれ、文句を言ってくる不死川。

 ……やばい、心の声が漏れていたらしい。

 

「そんなに怒るよ。お前以外の柱は反対、または中立を示したんだ。文句はないだろ?」

「大有りだぼけぇ!」

 

 本当に口が悪い。

 唾飛ぶからやめてほしい、ダダでさえ人相悪いのに顔傷だらけで余計怖い。

 できたら離れてほしいな。

 

 ビキ。

 

 突然不死川の額の血管が浮き出てる。

 あ、また心の声が漏れてたか?

 

 どう弁明したものか……。

 だが、その心配は無用であった。

 何故ならば、

 

「よく来たね。私の可愛い子供たち」

 

 俺たちを招集した張本人、産屋敷耀哉が現れたからだ。

 柱たちはその場に跪き、頭を下げた。

 

 

 

 

 

 あ……あぶねぇ。

 




最後まで読んでくださりありがとうございました。


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禰豆子、頑張れよ

 お館様の一声で不死川は落ち着いた。

 

 俺はその場に跪きながらも当初の目的を達成して安心した。

 

 

「お早う皆、今日はいい天気だね。空は青いのかな?」

 

 お館様は挨拶から始める。

 

「顔ぶれが変わらずに半年に一度の柱合会議を迎えられたことを嬉しく思うよ」

 

 相変わらず、お館様の声はよく響く。

 例えるなら慌てている相手でも落ち着きを取り戻す、一種の魔法みたいな。包み込むような声はいつ聞いても慣れない。

 

「お館様におかれましても御壮健で何よりです。益々の御多幸を切にお祈り申し上げます」

 

 お館様の挨拶は早い者勝ちだ。

 今回は不死川のようだ。本当にお館様の前だと理性的に話すその姿はいつも慣れない。

 

 よほどお館様への忠誠心が強いようだが、その気持ちをもう少し他の人に向けられればいいのに。

 

 毎回思うのだが、一度そのことを指摘したら舌打ちされた。

 

「畏れながら、柱合会議の前に柱である胡蝶しのぶが屋敷に鬼を匿っていた件、竈門炭治郎なる鬼を連れた隊士について、ご説明いただきたく存じますがよろしいでしょうか」

 

 先ほどの俺とのやりとりから理性的に話す不死川に炭治郎は驚いている。

 さて、お館様はなんと答えるのだろう?

 原作と違って珠世さんと愈史郎の件もある。

 

「……そうだね、驚かせてしまってすまなかった。実弥が言っていることは全て私が容認していた」

 

 不死川が少し驚いている反応をした。

 そして、お館様は話を続ける。

 

「しのぶから事前に説明を聞いているだろうが、珠世さんとは以前から……私が生まれる前から接触の機会を伺っていたんだ。珠世さんと我々鬼殺隊は利害が一致していたからね。珠世さんの高度な医療知識は勿論、鬼についての研究はどうしても取り入れたいと思っていたんだ。……それが偶然にも獪岳が接触することができてね。獪岳に交渉をしてもらった結果、身の安全を保証することを約束し、協力関係を結んだんだよ」

「……何故それほど重要な件を一部のものにしか情報共有しなかったのでしょう?」

「鬼殺隊の中で鬼に対しても公平に物事を見ることのできる人間は少ないからね。鬼の研究に最適な場所で珠世さん達の安全を守るために蝶屋敷の人間に任せるのが最良だと判断したからだ」

「……お館様の命であるならばそれが最良なのでしょう。しかし、匿っていた鬼たちが裏切らないと言う確証はありません」

「それについては大丈夫だよ。全てを考慮してしのぶにお願いしているのだからね」

「……なるほど。蝶屋敷の鬼については承知しました。では、竈門炭治郎の件はどうお考えなのでしょう?」

 

 ……俺初めてお館様を尊敬したかも。

 蝶屋敷で匿うと提案したのは俺だ。

 ただ、カナエを思って発言しただけなのだが、ここまで理由をでっちあげるのはすごい。そして、少しの説明だけで意図を察した不死川もだが……。

 

 蝶屋敷には柱クラスが4人いる。

 蟲柱のしのぶ、元花柱カナエ、そして俺。それに加えて原作に比べ強化されているカナヲ。

 

 お館様の指示で常に誰か一人は蝶屋敷にいるように指示があったが、このような意図があったとは。

 

 監視をするために指示をする。誰かしらが屋敷にはいるという事実を作る。

 何を言われても対処するためにこのようなことをしている。

 

 ……今度からお館様の命令は素直に聞こう。

 弱みも握られてるし。

 すると、俺のそばにいる炭治郎が不死川とお館様のやりとりを見て発言をしてきた。

 

「禰豆子は人を喰ったことはないんです。今までも、これからも、人を傷つけることは絶対にしません!!」

 

 急な発言にこの場にいる全員の視線が集中する。

 するとお館様が一瞬驚いた。

 

「……手紙を」

「はい」

 

 お館様は柱達の意見を聞くと、手紙を読むように指示をした。

 

「この手紙は元柱である鱗滝左近寺様からいただいたものです。一部抜粋して読み上げます。炭治郎が鬼と共にあることをどうかお許しください。禰豆子は強靭な精神力で人としての理性を保っています。飢餓状態であっても人を食わず、そのまま2年以上の歳月が経ちました。俄には信じられないことですが、紛れもない事実です。もしも禰豆子が人に襲い掛かった場合は、竈門炭治郎及び鱗滝左近次、冨岡義勇が腹を切ってお詫びいたします」

 

 鱗滝さんからの手紙を読み終えた。

 炭治郎は涙を流していた。俺も格好つけて柱の人を説得する時に真似て目の前で腹を切るといった。鱗滝さんの真似をしたが、本物はやはり違うな。

 

「このように、禰豆子は鬼になっても2年以上もの年月の間、人を食らうことなく過ごしている。皆にお願いなのだが、炭治郎と禰豆子のことを認めてはくれないだろうか?」

「嗚呼……私はお館様の願いに承知しても良い」

「俺も派手にOKだ!鬼を連れた鬼殺隊員なんて派手でいいしな!」

「私は全てお館様の望むままに従います」

「僕はどちらでも……すぐに忘れるので……」

「俺も別に……」

「心より尊敬するお館様たっての願いでも賛成しかねる!!しかし友が命をかけると言った!!俺は様子を見るべきだと思う!!」

 

 お館様の願いにそれぞれの意見を言った柱たち。

 ここまで原作と違うと流石に驚く。俺が説得しただけでここまで違うとは。

 

 俺って結構信頼されてるかな?

 だが、反対意見を貫き通す人間が1名いる。

 

「2年間、人を食っていない?……切腹するから何だと言うのです!何の保証にもなりはしません!」

「確かにそうだね。人を襲わないという保証ができない、証明ができない。ただ、人を襲うということもまた証明ができない。禰豆子が二年以上もの間、人を喰わずにいるという事実があり、禰豆子のために6人の者の命が懸けられている」

 

 ……あれ?今何人って言った?

 俺を含めても4人。

 後二人は誰だよ。

 ……ふと、なんとなく思いつきそうな人物……しのぶに視線を向けるが……笑顔でウィンクしてきた。

 

 うん、かわいい。……てか、お前かい!

 しのぶということはあと……カナエか!

 

「これを否定するためには、否定する側もそれ以上のものを差し出さなければならない。それに……炭治郎は鬼舞辻と遭遇している」

 

 お館様が涼しい声でそう言った瞬間、柱たちはざわめきだした。

 それはそうだよな。今まで鬼殺隊で鬼舞辻無惨に接触したのは誰もいないからな。

 

「鬼舞辻はね、炭治郎に向けて追手を放っているんだよ。その理由は単なる口封じかもしれないが、私は初めて鬼舞辻が見せた尻尾を掴んで離したくない。おそらくは、禰豆子にも……鬼舞辻にとって予想外の何かが起きていると思うんだ。わかってくれるかな?」

「分かりません、お館様。人間ならば生かしておいていいが鬼はだめです。承知できない」

 

 ここまで説明してまだ認めないのかよ!

 どこまでお堅いんだよ不死川。

 ……反対意見が不死川しかいないため、引き下がると思ったが、考えが甘かった。

 一応、不死川が納得……はしないだろうが、引き下がる事実を作る方法はある。

 俺は黙って手をあげ、提案をする。

 

「お館様、発言をお許しください」

「なにかな獪岳?」

 

 全員の視線が集まるなか、不死川は舌打ちをした。

 それは余計なことを言うなよ面倒くさいと言う意味が込められているような感じだ。

 

 だが、勘違いしないでほしい。

 俺が今からする提案はお前の為になる提案なんだぞ。

 

「たしかに不死川の言う通り、このままでは禰豆子が人を襲わない証明ができません。中立を示した柱の中には完全に納得したものはいないでしょう。ここで、提案があります。これをすれば不死川も納得することでしょう」

「それはどうやるんだい?」

 

 俺の提案にお館様は興味を示した。

 

「不死川自ら証明してもらうのです。お館様も不死川の稀血の性質はご存知でしょう?」

「は!そりゃ名案だ!お前と初めて意見があったぜ!」

 

 俺の発言にざわめきが現れる。

 炭治郎は意味がわからないまま、俺と不死川を交互に見ており、お館様も少し戸惑っていた。

 

 不死川実弥は稀血だ。

 稀血とは栄養価の高い人間で一人を食べることで普通の人間を50人、100人食べたのと同じ栄養を得られるもの。

 

 さらに不死川の稀血はその中でも「血の匂いを嗅いだ鬼を酔わせる」効果のある希少なもの。

 これで証明するのが最も効果がある。

 

「炭治郎、禰豆子の入った箱を貸してくれ」

「あの……獪岳さん、何をするつもりですか?」

「そうだな。……残念ながら詳細は教えられない。でも、今からやることを禰豆子が耐えられれば人を襲わない証明になるんだ」

 

 炭治郎は箱を守るように抱える。

 信じていた人に裏切られた。少し警戒心を向けられている。

 だが、みんなを納得させる方法はそれしかない。

 だから、俺は炭治郎に言葉をかける。

 

「自分の言ったことに責任を持て。禰豆子は人を襲わない、これからも。それを言ったのは炭治郎だ。それにだ。お前は自分の妹を信用できないのか?……信じてやれよ。自分の妹を」

「……わかりました」

 

 ……俺の説得に炭治郎は素直に箱を預けてきた。

 心配そうに見つめるも、これは俺への信用の表れなのだろう。

 

「お館様……失礼仕る」

 

 そう言って不死川は屋敷の中へと入っていった。

 

「おい、早く鬼を連れて来い!俺が本性を暴いてやるからよ!」

「わかったよ。お館様、失礼致します」

 

 俺は不死川の言う通り箱を背負い、ゆっくりと歩いて向かう。

 

 俺は向かう中、禰豆子にあることを言い聞かせる。

 

「人間は皆お前の家族だ。人間を守れ。人は守り、助けるもの。傷つけてはだめだ。絶対にだ」

 

 それは鱗滝さんが禰豆子に施した暗示の言葉だ。

 そして、最後にこう言った。

 

 

 

 

「禰豆子、頑張れよ」

 



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本当にやめてくれ!

 俺が禰豆子が人を襲わないと言う確証を得る為に行うこと、それは原作と同じやり方だ。

 

 不死川の稀血を嗅がせて人を襲わないことを証明すること。

 

「ほら……これ使えよ」

「んなもん必要ねぇよ!」

 

 俺は不死川に短剣を渡したのだが、拒否する。

 

「いや、まさか自分の日輪刀使うつもりか?」

「答える義理あんのか?……早くしろよ。ここに鬼をおけ」

「人をものみたいに扱うなよ。それに、お前のそばに置いたら危害を加えるだろう?お前の血は匂いだけでも効果が出る。いちいち危害を加える必要はーー」

「あん!ネチネチうるせぇよ!さっさとしろ!」

「いや、危害を加えると言うなら話は別だ」

 

 不死川は禰豆子を日輪刀で刺す気でいた。

 俺は不死川に敵意を向け、箱を守る体制に。 

 

「……チッ。……ならさっさとその箱を開けろ」

 

 不死川の付き合いは長い。俺が一度言ったことは貫き通す面倒臭いやつと不死川もわかっている為、今回は妥協してくれたようだ。

 俺はその場に箱を置き、ゆっくりと箱を開ける。

 

「ムー」

 

 あ、かわいい。

 箱を開け終えるとそこからこの場に似つかない声を出しながら長い黒髪、ピンク色の着物を着た竹を加えた小さい子供が出てきた。

 

 そして、不死川はそれを見ると自ら腕を切り、血を流す。

 

「さーどうした鬼?来いよ?ほしいだろ?」

 

 禰豆子は不死川の流す血を見るや、竹から涎を流し、手を強く握っているせいか、手から血が流れてくる。

 

「ふー…ふー…ふー」

「ふはははは。……さぁ……来いよ」

 

 禰豆子は目の前に血を与えられ、本能で血を欲しているのか?それでも我慢し続ける。

 

「禰豆子……頑張れ」

 

 炭治郎はその場で自分の妹を見つめる。

 原作では食ってかかりそうな炭治郎だったが、俺の説得と不死川が禰豆子に危害を加えていないことから、冷静に待機している。

 

「ふー…ふー………ムン!」

「………」

 

 それから10秒ほどが経過し、ついに禰豆子は自らの欲求を抑え、そっぽを向き、驚く不死川。

 炭治郎はその場で安心し、深呼吸をした。

 

「………どうしたのかな?」

 

 すると、お館様が現状を確認する為、娘に問いかける。

 

「鬼の女の子はそっぽを剥きました」

「不死川様に目の前に血まみれの腕を突き出されても我慢して……噛まなかったです」

「……クッ」

 

 不死川は説明を聞き、舌打ちをした。

 すると、お館様が話始める。

 

「ではこれで、禰豆子が人を襲わない証明になったね」

 

 冷静なこの一言で不死川は苛立ってはいるものの、これ以上は何も口出しをする気はないらしく、禰豆子から離れ、柱たちが集まる場所に移動した。

 俺もそれに習い、禰豆子に箱に入るように言って、不死川に続く。

 

 俺と不死川が元の位置に戻った後、お館様は炭治郎に話しかける。

 

「炭治郎」

「……はい」

「未だに禰豆子のことを快く思わない者も多いだろう。今回は獪岳が説得したから柱たちは妥協しているに過ぎない。証明しなければならない……これから炭治郎と禰豆子が鬼殺隊として戦えること。役に立てること」

 

 お館様の言葉に炭治郎はその場で頭を下げた。

 

 本当に今回は俺が事前に手を回していたから、柱の一人一人が禰豆子という存在がいることを妥協して認めた。

 俺が妥協してくれたらそれだけのメリットがあると証明したからに過ぎない。

 一番反対的だった不死川も証明の方法を用意しておいたから、まぁ、今回はいいだろうと諦めさせたにすぎない。

 

「十二鬼月を倒しておいで。そうしたらみんなに認められる。炭治郎の言葉の重みが変わってくる」

「……は!」

 

 お館様の言葉を聞き、はっとするように炭治郎は声をあげた。

 それは一種の決意の表れに見える。

 

「俺は……俺と禰豆子は…鬼舞辻無惨を倒します。俺と禰豆子が必ず!悲しみの連鎖を断ち切る刃を振るう!」

 

 ああ、かっこいいな主人公。

 こんな大物たちがいる前でよくもまぁ、宣言できたものだ。

 

 だが、今の炭治郎では実力不足。ただのビックマウスに過ぎない。

 お館様は炭治郎の言葉に笑い、話しかける。

 

「今の炭治郎にはできないから……まずは十二鬼月を一人倒そうね?」

 

 ボン!……と、炭治郎はお館様の言葉で顔を真っ赤にする。

 

「はい」

 

 炭治郎はそう返事をした。

 柱はその光景を見てか、くすくすと笑い声が溢れる。

 

「鬼殺隊の柱たちは当然抜きん出た才能がある。血を吐き出すような鍛錬で自らを鍛え上げ、死線をくぐり、十二鬼月をも倒している」

「うむ!!いい心がけだ!!」

 

 だめだ、このまじめな雰囲気なのに笑いが止まらん。

 杏寿郎は笑いながらも炭治郎をほめた。

 

「だがら、柱は優遇され尊敬されるんだよ。炭治郎も口の聞き方には気をつけるようにね」

「は……はい」

 

 炭治郎はお館様の言葉に返事をする。

 お館様は炭治郎の言葉を聞くと、視線を不死川に向ける。

 

「それから実弥、あまり下の子に意地悪をしないこと」

「……御意」

 

 そうだぞ、少しは反省しろよ。

 俺は不死川にざまぁという意味を込めてフッと笑って見せると額に血管が浮き出る。

 

 あーあ怖い怖い。

 

「獪岳、君もだよ」

「……へ?」

 

 え?俺も?俺が何をしたと言うんだ。

 

「今回は獪岳のお陰で丸く収まった。でもね。禰豆子の安全の証明するためとはいえ……やりすぎだよ」

「……申し訳ありません」

 

 何も言い返せねぇ。

 でも、だって不死川に納得させるのあれが一番いいって思ったんだもん!

 

「屋敷も血で汚れてしまったしね……ちょっとした罰を受けてもらうけどいいかな?」

「……御意」

 

 どうせ罰って言ったって仕事押し付けられるとか雑用だろ?

 大したことねぇよそんなこと。

 

「炭治郎の件はこれで終わり」

 

 これでどうにか丸く収まったな。

 後は炭治郎の処遇だが、これはしのぶのところがいいかもな。

 

「炭治郎は私の屋敷でお預かりしましょう」

 

 しのぶは右手を上げて提案する。

 

「うん、それがいいかもね。獪岳がいるし、炭治郎にとって学べることが多いだろう」

「え?」

 

 学べることとは?

 いや、俺見ても何もわからねぇよ。

 

「頼んだよ獪岳。君は鬼殺隊で唯一、上弦の鬼と渡り合うことのできる剣士だからね。炭治郎に色々教えてあげてほしい」

「……御意」

 

 何余計なこと言ってんだよ!たしかに真実だけど!意味が変わってくるよ。

 

 渡り合うと言っても防戦一方で一撃離脱を繰り返すだけ。

 しかも、こっちからはダメージは与えられない。

 その言い方だと……俺がやばいやつに聞こえるじゃん!

 

「炭治郎と獪岳はもう下がっていいよ」

「……はい」

「御意」

 

 俺と炭治郎はお館様にそう言われ、柱を残して退散した。

 

 ただ、今回はうまくいったが、一つ文句が有れば、炭治郎は俺に新たな勘違いを受けたくらいか。

 

 だから、やめて。

 その純粋な瞳で尊敬の意を示すのはやめて!

 

 

 

 

 

 本当にやめてくれ!

 

 



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あ、終わった。

 産屋敷邸から蝶屋敷に向かう道中。

 

「あの、獪岳さん。俺を庇ってくれてありがとうございました」

「どうした急に改まって」

 

 なんのことだなんて聞くまでもなく、俺が炭治郎を庇った件だろう。

 

「いえ、あの場に獪岳さんがいなければ俺も禰豆子もどうなっていたか……」

 

 まぁ、でも俺いなくたってどうにかなってたよ。どうせ不死川が暴走して禰豆子を串刺しにしたくらいだ。

 でも、平和的に解決したかったので、やったまでだ。

 

 主人公に嫌われたくないし、せっかく交流を持つんだ。

 なるべく尊敬される先輩でいたい。

 

「俺が争いごとはあまり好きではないからね。なるべく平和的に解決するに越したことはない。……ただ、禰豆子さんには申し訳ないことをしたね。危険に晒してしまった。本当に申し訳ない」

「いえ!…獪岳さんが謝ることは……」

 

 炭治郎は慌てて止めに入る。

 本当にここまでいい子はそうはいない。

 純粋すぎる。

 

 冗談が通じなそうだな。

 

 すると、ふと炭治郎が何かを思い出したかのように質問をしてきた。

 

「あの……なんで、獪岳さんは俺と禰豆子に良くしてくれるんですか?」

 

 純粋な疑問。

 正直、主人公だからと言う理由もあるが、一番の理由は。

 

「炭治郎がいいやつだから。初対面で俺相手にあそこまで他人のために行動したんだ。そんな善人を見殺しにするほど俺は人でなしじゃないよ」

「あ……あの時はすいません」

「いやいや、別に気にしなくていいよ。まぁ、今言った理由は半分かな」

「え?」

 

 理由の半分はそれだが、やっぱり一番の理由はもっと別だ。

 

「善逸の友人だからだな!兄弟子としてあいつの悲しむ顔は見たくない。せっかく心許せる友ができたのに次あったら死んでいた。その場で崩れて泣き喚いて一生泣き続けるかもな」

「そ……そんなことは?」

「いやいや、女に振られたくらいで3日泣き続けるようなやつだぞ?メンタル豆腐で打たれ弱い。さらに性格面倒臭い」

「それは……なんと言いますか」

「心当たりあるみたいだね」

「えぇ……まぁ」

 

 どこか遠い目をする炭治郎。

 そういえば初対面で求婚して玉砕してたんだっけな?

 それで、原作ではあまり見ることのできない炭治郎のゴミを見る目を披露していたな。

 

「とにかく、色々と面倒臭い弟弟子だが根はいいやつだ。これからも仲良くしてくれ」

「もちろんです!善逸は大切な仲間ですから」

「そうか。なら、これからもよろしく頼む」

「はい!」

 

 炭治郎は元気に返事をする。

 話していると時間は短く感じるもので、蝶屋敷に到着した。

 着くと俺はカナエのところへ炭治郎は病室に向かう。

 

「あ、獪岳さん」

 

 何かを思い出したように炭治郎は俺を呼ぶ。

 

「これからご指導よろしくお願いします!」

 

 あ、そういえばお館様に俺から指導を受けるようにみたいなこと言われたっけなー。

 ここは頼れる先輩としてかっこいいことを言っておこう。

 

「わかった。でも、今は療養に専念した方がいい」

 

 まずは療養に専念させる。

 そして、俺は後ろを向くことなく宣言する。

 

「お館様様からの命があるからね。完治したら俺のところに来るといい。十二鬼月と渡り合う術を教えてあげよう」

「?!……よろしくお願いします!」

 

 ああ、今の俺すげぇかっこいい。

 尊敬できる先輩、威厳のある姿を見せられたと思う。

 

 俺は嬉しさのあまりスキップしたい気持ちを抑え、炭治郎と別れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかえりなさい獪岳さん」

「ただい………ま?」

「なんで疑問系なのですか?」

 

 蝶屋敷にある執務室。

 俺の家にいないとき、基本的にカナエはここの部屋で書類仕事をしている。

 だから、様子見で立ち寄ったんだが……。

 

 なんでだろう?

 なんか怒ってる?

 

 キノセイカナ?

 

「どうでしたか?」

「え?……何が?」

 

 問い詰めるように聞くカナエの姿は目のハイライトがなくなり、怒っていた。

 あれ〜俺何かしたっけなぁ?

 記憶を探り何かミスをしているか確認するも何も思い当たることがない。

 こういう時は堂々とするに限る!

 

「全部無事に済んだよ!」

「そうですか……無事に」

 

 えーと俺は何をすればいいんだろう?

 

「ちょっとこっちに来てください?」

「え?……いやぁ、なんでだろう。ちょっといけないなぁ……なんて」

「……」

「失礼します」

 

 無言の圧力やめてぇ!

 こえーよなんで怒ってんだよ!

 俺はいつもの癖でカナエの前に移動し正座をした。

 何を言われるのだろう?

 

「お館様から今日あったことをお聞きしました。……今日あったこと獪岳さんからご説明お願いしても?」

 

 罰ってそういうことかい!

 

 

 

 あ、終わった。

 

 

 



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頑張ろう

 カナエとのお話は一時間ほどで終わった。

 流れを余すことなく全て自白し、何がいけなかったのか、次はしてはいけないとお叱りを受けた。

 

 まぁ、本人はそこまで?……怒っていなかったそうだが、「次やったらどうなるか分かりますよね?」と近くにある日輪刀を手にかけ脅された。

 

 ……俺はもう二度とやらないと誓った。

 

 それから次の日。

 

「いやぁぁぁぁぁ!お薬いやぁぁぁ!」

 

 俺は内心ため息をしながら今日は見舞いに来ている。

 かまぼこ隊の3人の容体を知っておくべきだと思ったからだ。

 カナエからそこまで重症ではないと聞いていたが、かわいい弟弟子の見舞いをいっておくのも兄弟子の務め。

 そう思って病室に足を運んだのだが……。

 

「おい、お前は何をしてるんだよ」

 

 ついた矢先善逸の悲鳴が聞こえ、何かと思ってみれば神崎さんが善逸にも薬を飲ませようと叱っている。

 

 それを呆れて見ている炭治郎。きよ、なほ、すみの3人は黙って見ている。

 

 一番騒がしそうな猪頭の伊之助なのだが……大人しくベッドで寝ていた。

 

「あ!獪岳!獪岳からも言ってやってくれよ!俺に苦い薬を飲ませようとしてるんだ!炭治郎のは飲みやすい薬あげてるのに俺だけ苦いの……すっごい苦いの飲ませようとしてるんだ!!助けて!!」

「何を言ってるんですか!あなたに渡している薬は鬼の毒の特別性の解毒剤です!それを飲まないと縮んだ手足はそのまま!一生治らないんですよ!!」

「いやぁぁ!なら手足は短くてもいいもん!もっと甘くて美味しい薬でもいいでしょ!」

「だから!それは無理と言っているでしょ!……もう!獪岳さんからも何か言ってあげてください!」

 

 ああ、コントみたいで面白い。このやりとり。

 まぁ、そんなことを言ったら神崎さんの怒りの矛先がこちらに向かうかもしれないので言わないが。

 

 しょうがない。ここは兄弟子として説得してやるか。

 

「善逸、いつまでもわがままを言ってるんじゃない。お前は子供か?もう立派な隊士だろ?少しくらい我慢を覚えなさい」

「え!獪岳ひどいよ!獪岳も俺をいじめるの!ひどいよ!それでも兄弟子か!」

「……えぇ」

 

 ここまで面倒臭いのか。

 神崎さんは今の発言に呆れている。

 

「獪岳さん……どうしましょう?」

 

 そんなことを言われても神崎さんは善逸をどうにかしようとしている。

 神崎さんは常に怒っているように見えるが、病人想いの心優しい人だ。ツンデレと言う感じか?

 

 ここは兄弟子として薬を飲むように言ってやろう。その前に謝罪だな。

 

「神崎さん、バカが迷惑かけて申し訳ない」

「バカってなんだよ!」

「い、いえ。大丈夫です。仕事ですから」

「ちなみに善逸の容体はどうなんだ?すぐ治りそうなの?」

「え!無視?!」

「ええ。そこまで深刻では……ただ薬さえ飲めば治るのですが……薬を飲ませようとしてもわがままを言ってくるので」

「迷惑かけて申し訳ない。体は成長しても心はガキのままで成長してなくて」

「ひどい!それが戦地から戻ってきた俺にかける言葉!?」

 

 うるせぇ。

 少しくらい静かに会話させろよ。

 まぁ、でも、これ以上は迷惑をかけられないな。

 

「ここは俺に任せてくれ。この扱いは熟知している」

「すいません」

「俺は物なの!無視しないでよぉぉぉ!!」

「はぁ」

「ため息!?」

 

 俺はため息をし、善逸に向き直る。

 薬を飲むように促すのは簡単だ。

 ただ、言い方を工夫すればいいのだから。

 俺は真剣な顔をして話しかける。

 

「善逸……」

「な……なんだよ」

「お前は……損をしている」

「は?……何言ってんの?」

 

 拗ねてる善逸を無視して言葉を続ける。

 

「この薬はな……カナエやしのぶ……そしてここにいる神崎さん。美少女が煎じているんだぞ?」

「……意味わかんないんだけど」

「はぁ。ここまで言ってわかんないとは……善逸の馬鹿さ加減には」

「なんでそこでディスってくんだよ!」

 

 俺は善逸の両肩に手を乗せて魔法の言葉を話す。

 

「この薬は美少女がお前を思って……お前のことだけを考えて……お前のためだけに煎じているんだぞ?」

「……は!……つまり!」

「気づいたか!そうだ!そんな薬を……お前は……飲まないと言っていたんだ。せっかく……鬼殺隊の中でも屈指の美人姉妹。しかもファンがいるくらい人気の……いわばアイドル的存在の人たちが……お前ただ一人のことを思って煎じたんだぞ」

「ふふふ……ふふふふ!そうだったんだ。なら早く言ってくれればいいのに!」

 

 あー神崎さんゴミを見てる目で見てるわ。

 炭治郎は……呆れていて、きよたち3人はドン引きしてる。

 そんなことを知らず善逸は神崎さんに向けて顔をキリッとした。

 

「葵ちゃん」

「……なんですか?」

「俺を思って煎じてくれた薬をもらえるかな?」

「……わかりました」

 

 うわぁーうわぁーすげぇドン引きしてるよ。

 善逸はごくごくと美味しそうに薬を飲み始める。

 

「うん。美味しい。少し苦いけど、愛情を感じるよ」

 

 やめてくれ。これ以上身内の恥を晒さないでくれ。

 

「なぁ……善逸……これ言ったの俺なんだけどな」

「なんだよ獪岳!」

「いや……なんでもない」

 

 もう諦めよう。

 ただ、迷惑をかけるであろう人たちには謝罪をしておこう。

 

「神崎さん……善逸が迷惑をかける。……本当にごめん」

「い……いえ。薬を飲んでもらえるなら別に」

 

 もう気にしないでおこう。

 こういう物だと思っておこう。……よしとしよう。考えるのが面倒くさくなってきた。

 

 

 その後、3人の容体を再確認した。

 炭治郎は全治二週間。

 伊之助は喉が潰れたのと、骨が何箇所か折れていて、善逸と同じで治療に一ヶ月半ほどかかるとのこと。

 

 

 

 とりあえず、炭治郎が一番軽傷。機能回復訓練も必要なさそうなので治り次第、俺の訓練を受ける約束をして、今日は鬼殺隊の任務に向かうのだった。

 

 

 それから一週間が経過し、炭治郎強化を開始するのだった。

 

 

 

 頑張ろう

 




怪我についてですが、主人公が関わり影響を及ぼしたと考えていただけると。


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あれ?

「では……よろしくお願いします」

「こい」

 

 ここは俺がお館様からいつかの褒美でもらった森林。

 その場所は柱が俺と修練をするために俺が戦いやすいよう、木々や大岩が多い。また、森林の中心には湖もある。

 

 環境だけでは俺が猗窩座と初めて戦った場所に似ている。

 訓練内容は俺が高速で移動、熱界雷を飛ばすというもの。

 反射神経、回避力を高めるのが訓練の目的だ。はじめは苦戦していた柱たちも訓練をこなせるようになり、今では来るものは少ない。俺自身実力が上がったので良かったのだが。

 

 現在は俺が一人で訓練するための場所と成り果てている。

 

 そんな場所で今俺は炭治郎と二人木刀を持ち向かい合う。

 本来なら炭治郎は蝶屋敷で機能回復訓練するべきなのだが、俺が直接訓練をつけるということでしのぶから許可を得て、今この場で訓練をしている。

 

 まだ、善逸と伊之助は完治していないので、この場にはいない。

 

「……は!」

 

 炭治郎は俺相手に全力で切り掛かってきて俺はかわす、捌くを繰り返す。

 

「もう少し相手の動きをよく見ろ!ただがむしゃらに振るだけじゃ意味がない。相手との間合い、駆け引き、予測。それを意識しろ」

「はい!」

 

 こう言ってアドバイスをしながら稽古を行う。

 俺は人に言えるほど戦い方に優れているわけではないが、客観的に言えることはある。

 実戦ではこう言った高等テクニックは俺にはできない。

 駆け引きとか全くできない。

 だって熱界雷しかできないんだし。

 

「型を使っていい。全力でこい!」

「はい!」

 

 この訓練の目的は2つある。

 一つは実力の差を自覚させること。

 そして、もう一つは全集中常中の存在を教えること。

 

 教えるのは簡単なのだが、意味や必要性を自分で理解するのとただ教えるのでは捉え方や感じ方が変わってくる。

 

 原作ではきよ、すみ、なほたち3人が教えていていたが、それで一ヶ月かかった。

 

 善逸と伊之助は一週間くらいで覚えていたことからやり方を変えればもう少し早く覚えられると考えたので訓練をしている。

 

 『水の呼吸 壱ノ型 水面斬り』

 

 炭治郎は水平に俺に斬りかかる。それを上に飛び避ける。

 

 『水の呼吸 捌ノ型 滝壷』

 

 空中にいる俺に飛び上がりながら上から斬りかかる。

 俺は空中で体を捻り交わす。

 

「く!…はあああ!」

『水の呼吸 漆ノ型 雫波紋突き』

 

 着地した俺にかかるように突きを繰り出す。

 ……この辺が限界かな?

 

「水の呼吸……く……はぁ…はぁ」

「一旦やめよう」

「す……すいません」

 

 型を連発したからか、その場でもがいて苦しむ。

 頭がキーンとなるんだよなぁ。

 

 俺も全集中常中の訓練でよくなってたなあ。

 

「病み上がりもあるだろうけど、3回が限界だな」

「……はい」

 

 俺は炭治郎の隣に座り話しかける。

 

「全集中の呼吸は体にかかる負担がすごいからな。連続で使うと誰でもそうなる」

「はぁ…はぁ…はい」

「それが今の炭治郎の限界だ」

 

 ショックを受ける炭治郎。少し焦りが見えてきたな。

 

「今の俺との訓練の意味……わかるか?」

「いえ……わかりません」

 

 呼吸が落ち着いてきたので話を進める。

 とりあえず、話をわかりやすくしていこう。

 

「炭治郎は戦っていて、型が連続で使えたらと思ったことはないか?」

「はい。あります。でも、無理だと思います。今みたいに連続で呼吸を使えば動けなくなってしまいますので」

「まぁね。それが普通だよな」

 

 うん、頃合いだな。

 

「全集中の呼吸は、増強させた心肺により、一度に大量の酸素を血中に取り込む事で、血管や筋肉を強化・熱化させて瞬間的に身体能力を大幅に上昇させる術だ。それは知っているね」

「はい」

「実は、全集中の呼吸には常中という技術がある」

「常中?」

「そう。今はそのままの意味で全集中の呼吸を24時間常に続けること。これは柱はもちろん、鬼殺隊の上の階級のものなら誰でも習得している基本的な技術だ」

「……くは!……はぁ…はぁ」

 

 俺の説明を聞き、すぐに実行したらしく、呼吸を乱した。

 それほどまでにきついのだろう。一応変な先入観を与えないために基本的な技術と言ったが、本当に習得が難しい。

 

 俺も一年間かかったし。

 

「こ、これをずっとですか?」

「そう。常中を習得できれば基本的な体力をあげることができる。とりあえず、戦う技術を教える前にまずはこれを習得しないことには始まらない」

「……そうですか」

「そんなに難しく考えなくていい。わからなかったらなんでも聞いていいし、アドバイスもしよう。この森林もいつでも使っていいから」

「……頑張ります」

 

 炭治郎は黙々と訓練を開始したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「獪岳さん!できました!」

 

 訓練を始めて一週間が経過した。

 俺はおすすめの訓練方法を教えたり、あとはきよ、なほ、すみの3人に協力をお願いしただけなのだが……へ?この短期間で習得したの?

 たった一週間……へぇ。

 

 あれ?原作だと1月かかってなかった?

 

 ……あれ?

 

 

 

 

 

   

 

 

 

 あれ?



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……マジデスカ

 

「……俺、無理かも」

「俺……やっぱり弱いのかなぁ?」

「伊之助、善逸。そんなことないよ」

 

 炭治郎が全集中常中を習得してから数日が経過した。

 俺は治療を終えた伊之助と善逸の機能回復訓練を見学していた。

 

 二人は機能回復訓練を行い、神崎さん相手には余裕で立ち回ったものの同期のカナヲに圧倒され、しかも同じくらいかと思っていた炭治郎にまで引き離され、ショックを受けてしまった。

 

 あ、やっちまった。

 後悔した時には遅く、二人は相当落ち込んでしまっている。

 

 炭治郎はあたふたしてどうにか立ち直らせようと説得をしているが、逆効果なようだ。

 

 まぁ、焦らせることを目的にやったことなんだけどね。

 原作キャラの強化はしておいた方がいい。

 もう原作乖離は取り返しがつかないから。

 

 もしかしたら、ひょんなことで死んでしまうかもしれない。

 これは取り返しがつかないことだ。

 だから、可能な限り強化する。

 

 炭治郎を最優先で育てたのはこれが目的だ。

 

「ちょっと二人とも!待つんだ!」

 

 炭治郎が声をかけるも、伊之助と善逸は落ち込んで病室に戻ってしまった。

 

「獪岳さん……どうすれば」

「大丈夫、方法は考えてあるよ」

「えーと」

「少し待っててみ、すぐにやる気を出して戻ってくるから」

 

 方法は単純だ。すでに専門家に頼んでおいた。

 あと数分で戻ってくるだろう。

 

 ドタドタ!

 

 ほら戻ってきた。

 

「おい!さっさとやるぞがいこつ!山の王を舐めんな!」

「俺を一番期待してる、俺を一番期待してる。俺を一番期待してる。やるぞぉぉ!」

「ほら帰ってきた」

「……本当ですね」

 

 やる気に満ち溢れる伊之助と善逸。それを呆れて見ている炭治郎。

 

 俺がやったことは単純だ。

 胡蝶姉妹にお願いしただけ。

 

 伊之助には「山の王も大したことありませんね。簡単なこともできないなんて……あ、出来ないんですよね。……ごめんなさいね。誰でもできるような簡単な技術なのに」とカナエがいい、しのぶが「ダメですよねえさん。人には向き不向きがあるんです。幾ら基本とはいえできないことを押し付けるのはよくないですよ。……それにしても基礎もできないなんて山の王は大したことありませんねぇ」と追加で煽る。

 

 そして、善逸は右手にカナエ、左手にしのぶがそれぞれ両手で握り「「一番期待してますよ!!」」と言った。

 

 結果は上場。

 やる気マックスの二人。

 俺はそんな3人を森林に連れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、まずは二人には全集中常中を身につけてもらう。技術はそれからだ」

「おう!んな簡単なこともすぐ身につけてやるよ!この嘴平伊之助様はな!」

「俺が先に身につける!なんたって一番期待されてるんだからな!」

「ああ、うん」

 

 なんか単純な人って扱いやすくていいよなぁ……うん。

 二人は俺と炭治郎を残して訓練に向かう。

 

「それで、炭治郎は俺に聞きたいことがあるんだったな。何かな?」

 

 森林に向かう道中、俺に聞きたいことがあると言ったので、それを聞く。

 

「はい。訓練に夢中で忘れてしまっていたのですが……獪岳さんってヒノカミ神楽ってご存知ですか?」

「ヒノカミ神楽?」

「はい実はーー」

 

 炭治郎は那田蜘蛛山の出来事を説明してくれた。

 下弦の肆との戦いで走馬灯を見て、代々家に伝わるヒノカミ神楽の呼吸で技を出せたらしいのだが、何故それで技を出せたのか不明らしい。

 

 一応原作知識で知っているが、全てを語ることはできない。

 まぁ、それでも言えることはあるが……。

 

「すまないが、そのヒノカミ神楽というのは全くわからない」

「……そうですか」

「でも、そのヒノカミ神楽と直接的に関係あるかはわからないけど……いや、無駄に詮索させてしまうかもしれないな。忘れてくれ」

「それでも、お願いします!」

「それでいいなら」

 

 少し勿体ぶるように前置きをする。

 俺が言えるのは原作ではしのぶが言っていた言葉のみ。

 

「炎の呼吸は火の呼吸と言ってはならない」

「火の呼吸?」

「そう。俺が知ってるのはこのくらいだ。それがなんの意味を指しているのかはわからないけど、火の呼吸とヒノカミ神楽がもしかしたら何か関係しているかもしれないと一瞬思っただけなんだ。杏寿郎……炎柱が何か知ってるかもしれない。今度時間がある時に聞いてみるといい」

「はい。ありがとうございます」

「すまないな。このくらいしか話せなくて」

「いえ!手がかりが見つかっただけでも嬉しいです」

 

 無限列車編に繋がる手がかりはこのくらいでいいだろう。

 今やるべきは炭治郎の強化。

 方法は遊郭編でやっていたことを今の時点で身につけさせること。

 

「それにしてもヒノカミ神楽か……よかったら一度見せてくれないか?」

「……はい。わかりました」

 

 ヒノカミ神楽は威力に比するだけでだいぶ消耗が激しい。

 これを使いこなすには段階を踏む必要がある。

 それを自覚させる。

 

『ヒノカミ神楽 円舞』

 

 ゴオオオオオと息をし音をたて、型を繰り出した炭治郎。

 だが、技を出した途端刀を落とし、倒れてしまう。

 

「おい!大丈夫か?!」

「はあ……はぁ……」

 

 呼吸を整える炭治郎の背中をさする。

 自分でやらせたことだ、なんか申し訳なくなる。

 

「落ち着いたか?」

「はい……ありがとうございます」

 

 とりあえず無事なことを確認してから思い当たる原因を話す。

 

「あくまで俺の見解なんだが」

「はい」

「原因は型が体に合っていないのか、型を使うだけの体が出来ていないのか……今思い当たる原因はその二つだ」

「はい」

 

 炭治郎は黙って相槌をする。俺は話を続ける。

 

「まだ、わかっていることは少ないから少しずつ調べていこう」

「はい」

 

 少しずつ調べていく。

 それが一番伝えたいこと。全てを語ることはできない。

 あとは、方針を決めていこう。

 

「今使った呼吸は見た限りだと威力が高そうだな。使ったところにクレーターできてるし」

「……そうですね。下弦の五の戦いで切れなかった糸を切れたので」

「なるほどな」

 

 今の段階で威力が水の呼吸よりあると言う認識だけは持ってもらえたかな?

 まぁ、原作では後半になってから水の呼吸の足捌きや体の使い方を活かしていく上でヒノカミ神楽を実戦で使えるように習得していた。

 

「とにかく使って慣れる。まずはそれからだな。体に負担がかかるから連発は出来ないから1日1回使う。これから始めていこうか」

「……はい」

 

 先が長そうだ。

 炭治郎はそう見える表情をした。

 まぁ、後はもう一つきっかけを与える。

 

「あとはそうだな……いっそのこと、水の呼吸とヒノカミ神楽の呼吸を混ぜて新しい呼吸にするのも一つの手だな」

「呼吸を混ぜる?」

「ああ」

 

 急に出した提案に炭治郎は興味を示した。

 俺は言葉を続ける。

 

「新しい呼吸というのはそういった発想から生まれるんだ。例えば雷の呼吸から音の呼吸が。水の呼吸から花の呼吸、そしてその花の呼吸から蟲の呼吸が生まれたように、基本の呼吸から自分に合った呼吸を作るという発想から新しい呼吸はどんどん派生していった。呼吸を混ぜるのは一つの手段でしかない」

「……」

「これはあくまで一つのヒントにしかならないよ。呼吸を混ぜて実践で使えるか、新しい呼吸が生まれるのか。それはわからない。それをするのは炭治郎自身なんだから」

「……」

 

 真剣に考える炭治郎から返事はなかった。

 

 ただ、何かのヒントを得たようだ。

 今の炭治郎の表情は落ち込むことはなく、何かに期待を胸に行動を起こすやる気に満ち溢れた。

 

 

 

 

 

 この時の俺は知る由もない。

 

 俺の行動は物語に予想よりも大きな影響をもたらしてしまったことに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから一週間ほどで善逸と伊之助は全集中常中を取得した。

 その後はかまぼこ隊3人と稽古をつづけ、俺は鬼殺の任務をする生活を続けた。

 

 そんなある日、お館様から産屋敷邸に来るように通達があった。

 

「急にきてもらってすまなかったね」

「いえ、お館様がお呼びとあれば参上するのは当たり前のことでございます」

「そう言ってくれると助かるよ。それで、炭治郎たちはどうだい?」

「はい。実力向上していて、前とは比べものにならないほどです」

「そうか……さすが獪岳だね。任せてよかったよ」

「お褒めに預かり光栄です」

 

 まさか、誉めるために呼んだのか?

 そんなことないよな?

 それだけなら帰っていい?

 

「お館様、今日は何用でしょうか?」

「そうだね。経過報告はこれくらいでいいかな。実は今日、獪岳には危険な任務をお願いするために呼んだんだよ」

 

 え?危険な任務?

 まさか直接呼ぶほど危険なものなのか?

 もしかして。

 

「十二鬼月ですか?」

「すまないがわからない。情報が不足していてね」

 

 またかよ。

 基本、十二鬼月の任務は柱が行う。

 

 だが、今回のように情報があやふやで危険な任務は俺が引き受けることになっている。いや、自然にそういった流れになった。

 

 お館様が危険と判断した場合、普通の隊士を向かわせると無駄死にする。隊士の数は不足していて、無駄死にをさせないために怪しい任務は俺に振ってくるのだ。

 

「お受けします」

「いつも悪いね」

「いえ、大丈夫です。……して、その任務はどういった内容でしょう?」

「わかったよ。実は列車に乗った乗客が皆、行方不明になったと情報が入ってね。その調査をお願いしたい」

 

 うん?………列車?

 もしかして……いや、でもそれは杏寿郎が受ける任務であって……。

 でも、待てよ。今の時代列車は多くはないが、無限列車とは他のかもしれないな……うん。

 

「一つお聞きしてもいいですか?」

「ああ、答えられる範囲でならなんでも答えるよ」

「その列車の名前はなんでしょうか?」

 

 頼む。

 違ってくれ。別の名前を言ってくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無限列車だよ」

 

 ……マジデスカ



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Zzzz……Zzzz

 どうしてこうなった?

 

 何がいけなかったのだろう?存在することが悪かったのか?

 いや、そもそも俺をクズキャラに憑依させた神様が悪いのか。

 そうだ。

 神様が悪い。

 俺をもう少し別のキャラにしてくれたり、別の世界線に転生させてくれたらこんなことにはならなかった。

 

 ……考えるのはやめよう。

 考えるだけで虚しくなってくる。

 

 もう受け止めるしかない。

 

 この運命に。

 

 俺は今、お館様に頼まれた任務のため品川駅から出発する無限列車の中にいる。

 

 席には空きがいくつかある。中の乗客は正装の人が多い。

 この時代の列車は気軽に乗れるものではない。今俺が乗ろうとしている無限列車も75銭もする。現代の日本円に換算すると1万円くらいだ。

 

 

 俺も普段ならば乗らない。

 疲れるが走った方が早いし、無駄に金がかかる。今は必要経費としておりる。それがなければ乗る機会はないだろう。

 

「はぁ……」

 

 俺は椅子に座りどうするべきかと考える。

 おそらく今置かれている状況は原作では無限列車編の杏寿郎が向かうきっかけとなった最初の様子の段階だ。

 

 

 向かわせた隊士が全員行方不明になり、被害が拡大した。

 

 

 それがお館様が柱を出動させた理由だ。

 

 

 この原因となるのが下弦の壱 魘夢だ。

 この時の魘夢は無惨に血を与えられ、強化されている。

 那田蜘蛛山編がきっかけで、無惨が下弦の鬼を虐殺した。

 

 その時に魘夢は無惨に気に入られて多くの血を与えられた。

 

 魘夢はその後無限列車と同化し、上弦の鬼になるべく、人間を喰らい始めた。

 

 その初期の段階が今俺が置かれている状況だ。

 まぁ、でも対策さえしっかりしていれば攻略は簡単。

 魘夢の血鬼術 夢操作は厄介な能力であるが、解除方法と発動条件がわかってればいい。

 

 俺は原作知識から情報がある。

 まず、一番初めの駅の切符。

 駅員さん切符を切らせなければまずかからない。

 

「そうだ!」

 

 ……自分で持ってるのも怖い。とりあえずこの場で隠せそうなところは……椅子と椅子の間か。

 

 そこならバレないだろう……多分。

 

 切符無くしたのは全部鬼のせいだ。駅員さんには申し訳ないけど、現金を渡して許してもらおう。賄賂だ。

 

 それで許してもらえればいいし、ダメなら黙っておりればいい。

 駅員さんの反応で鬼がいる云々の確証にも繋がるだろうし。

 

 とりあえず俺は椅子と椅子の間に切符を隠しすぐに現金を渡せるように準備をする。

 

 

 まぁ、こんなことしなくても仮に血鬼術にかかってしまっても夢の中で自害すれば抜け出せる。

 

 夢から抜け出せれば後は楽。

 鬼の首は無限列車の先頭付近にあるのでそれを切れば倒せる。

 

 だが、ここまで知識を引っ張ってきて見たものの、問題があるとすれば首を切れないこと。

 

 流石に俺だけには荷が重い。

 乗客を守りながら、鬼の首を切りに行く。

 列車を停めるため、線路を破壊することも考えたが、乗客が危ない。

 

 俺一人には荷が重い。

 

 今回の目的は調査だけ。

 相手をするのは下弦の壱のみ。……尽力はするが守り切る見込みがない。守れる範囲で尽力するしかない。

 

 とにかく出来る限りのことはする。

 

 

 炭治郎がいなければ猗窩座が来ることはない。しかもまだ原作の無限列車編とは期間がある。

 

「うぉ!!!でけぇ!!勝負だ!!」

「おい!やめろよみっともない!何度言えばわかるんだ。これは生物じゃないんだ!!」

「いやまて。大きいからって敵とは限らない。ここは一度話し合って」

「だから!生物じゃないの!」

 

 ……あれぇ?

 幻聴かな〜。

 よく知ってる……てか昨日聞いたばっかの声がするんだけど。

 

 キノセイカナ?

 

「あそこですお巡りさん!」

 

 ……気のせいではないらしい。

 かまぼこ隊の3人は日輪刀を隠していなかった。そのせいで一般人に通報されていた。

 

 ああ、このまま捕まってくれたらいいのになぁ。

 俺はそんなことを思いながら現実逃避をした。

 その後列車はすぐに出発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ!獪岳さん!よかったです間に合って!」

「すげぇぇ!はえぇぇ!よし!この俺様とどちらが早いか勝負だ!」

「おい、窓から頭出すなよ!死ぬぞ。てか競争しようとすんな!」

 

 

 列車が出発してから5分後、炭治郎、善逸、伊之助の3人は俺の乗っていた車両に乗り込んできた。

 

 炭治郎は俺を見つけるなり話しかけてきて、伊之助は列車が走り出すなり勝負だの言ってそれを善逸が止めていた。

 

 ……乗り遅れなかったようだ。

 来てしまったものはしょうがない。

 

 首を切る手段が増えたと思っておこう。

 

「……なんでここに?」

「はい。今日の朝無限列車で獪岳さんと合流する様に指示が出まして」

「……なるほど。援軍か」

「え!いやいや援軍ってほどでは……むしろ足手纏いにならないかと緊張してますよ」

 

 本当に謙虚だなぁ。

 

「足手纏いなんかじゃないさ。炭治郎は少し自分を過小評価しすぎだ。十分強い」

「獪岳さん……」

「とりあえず座ってくれ」

「はい」

 

 座るように促すも、素直に座ってくれたのは炭治郎だけだ。

 善逸もこれくらい素直ならなぁ……。

 

「切符はちゃんと買えたのか?」

「はい。善逸が教えてくれたので」

「そういえばあいつは都会出身だっけな」

 

 ふと、伊之助と騒ぎ続ける善逸を見る。

 

 かまぼこ隊の3人は意外にバランスがいいといつも思う。

 

 社会常識の面では善逸が優れていて、こういう時に一番役に立つ。

 炭治郎は山育ちのため、一般常識が不足していて、伊之助に限っては常識が全くない。

 

 人間性の部分では炭治郎が優れているが、善逸はズレていて、伊之助は何においても前向き。

 伊之助は誰が落ち込んで心が折れそうな時でも進んで前へ進むことのできる。

 

 原作の無限列車編で心が折れかけている炭治郎と善逸を救ったのは紛れもなく伊之助だ。

 

 長所短所がそれぞれ違った3人だから原作を乗り越えることができた。

 かけがえの無い唯一無二の仲間なのだろう。

 

「どうしたんですか?」

「いや、なんでもない」

 

 少し、ニヤけていたかな。炭治郎に指摘されてしまったな。

 

「実は俺切符が手元になくてね」

「ええ!」

「……いや、そんなに驚かなくても」

「す…すいません」

 

 炭治郎は鼻が効く。嘘をついたら匂いでバレるが嘘はついていない。

 椅子の間に置いて本当に手元にないから。

 

「駅員さんに謝らないといけないから、後で切符を切りにきたら声かけてくれるかな?」

「それはいいですけど……なんでですか?」

「少し、瞑想をして集中力を高めておきたい。まだ日が完全に落ちるまでは時間あるしね。列車が出発してしばらく経たないと来ないし。10分くらいでいいから」

「わかりました」

 

 集中力を高めたいのは本当だ。

 俺は炭治郎たちを守る立場にある。これでもし誰かが欠けてしまってはこの世界は終わるかもしれない。

 

 対策は多分平気だ。後はどう立ち振る舞うかだけ。そのため万全な準備をするに越したことはない。

 

 俺は目を閉じ、頭を真っ白に。ゆっくりと深呼吸を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……い…さん!獪岳さん!」

「……ん?」

 

 ……そろそろ時間か。

 

「すまないな。ありがとう」

「いえ。大丈夫です」

 

 集中力は十分に高まった。

 後は任務に集中するだけだ。

 

 が、その前に駅員さんに謝っておくか。

 お金も用意していたし、渡せば良いだろう。

 

 迷惑乗客だが、こっちは命がかかってるんだ。

 これは必要な行為であって、こっちは悪くない。そう!これは正義のためだ。

 

 だが、俺は目を開けてあたりを見渡すも……誰もいない?

 

「あれ、駅員さんは?」

「ああ、それ何ですが」

 

 もしかして鬼が現れたのか!?

 

「実は獪岳さんが瞑想に入った後に、切符がここの間に入ってるのを見つけまして。もう切っておきました」

 

 ふぇ?

 

 ………ドウイウコト?

 

「……どうやって見つけたんだ?」

「はい。切符の匂いを嗅いだら椅子と椅子の間に落ちてました。声をかけるのも悪いと思いまして……。切符は切っときました!」

 

 その善意……いらない。

 

 え?マジかよ。集中力高めたの意味ないじゃん!

 

 あれ?……なんか眠気が。

 ……だめだ!ここで寝たら……ね…た……ら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「夢を見ながら死ねるなんて……幸せだよね?」

 

 列車の先頭車両。

 車街の天井の上で佇む黒のジャケットに灰色のパンツズボンを着ている男。

 下弦の壱 魘夢。

 

「どんなに強い鬼狩りだって関係ない。人間の原動力は心だ、精神だ。精神の核を破壊すればいいんだよ。そうすれば生きる屍だ。殺すのも簡単。人間の心なんてみーんな同じ。硝子細工みたいに脆くて弱いんだから……うふふふふ」

 

 魘夢は両手をそれに掲げて笑う。

 

 電車の中には魘夢の手駒がいる。病に犯されそのことにつけこまれ幸せな夢を見させて安楽死をさせることを約束に。

 

「さぁ……俺の手駒たち、行っておいで、そして鬼狩りたちの心を壊してくるんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Zzzz……Zzzz



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い  ら  な  い

予約投稿間違いました。

11月1日は投稿分です。


「……あれ?」

 

 気がつくと俺は見慣れない一室にいた。周囲を見渡す。竿緑天井、板作りの床に木の襖。

 天井の端の方には蜘蛛の巣が。壁には所々にシミがある。

 

「どこかの寺か?」

 

 何か懐かしい感覚に少し戸惑ってしまう。

 

「俺は何をしていた?」

 

 記憶が少し飛んでしまっている。

 思い出せない。俺は確か……。

 

「………そうだ」

 

 考え始めて十秒ほど。

 なんとなくだが、抜けていた記憶が蘇り始めた。

 俺は何か大切なことをしていて……は!

 

「早く自決しないと!」

 

 抜けていたパズルのピースが一つ一つあっていくような感覚ですぐに全てを思い出す。

 俺は無限列車で任務をしていた。

 俺のうっかりで鬼の術中にハマってしまったのだ。

 だが、種が割れれば抜け出すのは簡単。

 

 俺は手元にあった俺専用の日輪刀を抜き、先を向ける。

 自決したことないけど、この世界は夢なんだ。

 

 ……でも、刺すの痛そうだなぁ。

 原作の炭治郎は何回も自決した。

 本当に強い精神なきゃ無理だ。

 

「ふぅーーー」

 

 俺は力を入れて自決をーーー。

 

「だめぇぇぇぇぇ!」

「うお?!」

 

 することはなかった。

 俺を止めにかかる人がいたからだ。

 

「獪岳お兄ちゃん!ダメだよ!」

 

 俺は慌てて下を見るとそこには10歳くらいの少女がいた。

 

「……沙代?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ほんとうにお手入れしてただけなの?」

 

 沙代に自決を止められ、その場で大泣きされてしまった。俺は沙代を宥め、その場で言い訳をした。

 理由を聞くと納得してくれ、勘違いだと思ってくれたらしく、縁側に座り話していた。

 

「あれが刀の手入れのやり方でね。刀身が曲がってないか確認してただけなんだよ」

「そうなんだ。ごめんね」

 

 純粋な子供を騙して心が痛い。

 でも、早く自決して現実に戻らないといけないのに、どうしても放っておけない。

 

 後ろめたい気持ちがあったせいで今まで寺の人たちとは会っていなかった。

 悲鳴嶼さんから会ってみないかと屋敷に呼ばれたことはあったが、断っていた。

 どうしても会いたくなかった。あの場でみんなを見捨てて逃げたのだから。

 

 だからだろう。夢とはいえ、どうしても悲しむ顔は見たくなかった。

 

「もう、終わったの?」

「え?……何が?」

「お手入れ」

「あぁ……終わったよ」

「そうなんだ!よかった!」

 

 沙代はパッと笑顔になる。

 え?どうした急に。

 

「久子お姉ちゃんが呼んでたよ?」

「久子が?……なんで?」

「あれ?……なんだっけ?」

 

 えぇ……忘れたのかよ。

 久子は俺と同い年。年が近いこともあってよく遊んでいた……記憶があるなぁ。

 

「えっとね……なんか、すっごく怒ってた」

「理由ーー」

 

 ドン!引き戸が思いっきり引かれたのか大きな音がしたので言葉が途切れる。

 俺は慌てて後ろを振り向くと。

 

「あぁぁ!こんなところにいた!」

 

 そこには黒髪を簪で止め、薄い茶色の着物を着ている久子がいた。

 てか、めっちゃ怒ってるし。

 なんでだよ。

 

「いくら休日だから気が抜けてるからって限度があるわよ!二人で買い物行く約束してたでしょ?なんでこんなところにいるのよ!もう!」

「え……ご、ごめん」

 

 俺はとにかく謝る。

 こういう時は男が謝るのが一番平和だ。これは俺の人生に相手の教訓だ。

 女と男は立場は女の方が上だと俺は思ってる……あれ?なんかこの習慣誰かと一緒に過ごしていた時に学んだはずなんだけど。

 

 俺は薄れる記憶に少し疑問を抱く。

 

「反省してないでしょ?」

「そんなことないよ」

「どうかしらね」

 

 なんだろう?このやりとりはずっと続いていたような。

 

「妻を待たせた罰として、今日は全て荷物を持ってもらうからね」

「………え?」

 

 俺って結婚してたっけ?いや、してた。でも、何か違和感が……。

 

「大丈夫?何か顔色が悪いけど」

 

 久子は心配そうな顔をする。

 

「いや、なんでもない。早く行こうか!」

 

 気のせいかもしれない。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとね!手伝ってもらっちゃって」

「大丈夫!こういうのは男の仕事だから」

「そう言ってくれると助かるわ」

 

 買い物を終え、久子と二人歩いていた。

 買い物は週に1.2回でまとめ買いをしている。だから女一人だと大変なため、今日は二人できた。

 

 なんとなくだが、思い出してきた。

 

 ここは間違いなく鬼滅の刃の世界。だが、鬼は存在せず、鬼殺隊もない。

 

 なぜ、気づけたかと聞かれれば、悲鳴嶼さんの存在や自分の名前でだったか?

 まぁ、今はそんな昔のことどうでもいいかな。

 

 なんせ今ある平凡な幸せがある。

 

 同じ寺で悲鳴嶼さんにずっとお世話になり、物心ついた時から一緒の久子と夫婦となった。

 

 今までお世話になった分、悲鳴嶼さんに恩返しをする。

 

 それが今の俺の幸せ。

 ずっと望んでいた、平凡な幸せ。

 

「なに?そんなににやけて?何かいいことあったの?」

「いや、何にも。ただ」

「ただ?」

 

 もう、いいのかもしれない。ここは夢の世界で、現実ではない。

 

 最初はそう思っていた。

 

 その考えが間違っていたのかもしれない。

 ここには俺が望んでいた。平和な日常がある。平凡な幸せにはここにはある。

 

「幸せだなって思っただけだよ」

 

 そうだよ。俺は何を勘違いしていたんだ。

 

 この世界は本物のはずだ!

 

 なんせ、こんな毎日が幸福に満たされる。

 これが現実なんだ。

 

 この世界が夢でもいい。

 この幸せな日常が死ぬまで続くように。俺努力していこう。

 

「そ……そうなんだ」

 

 久子は顔を赤らめて返事をした。

 

「ならそんなに幸せならそろそろ欲しいな……私たちの……その……ね」

「なんだよそんなにおどおどして」

「だから……私たちもそろそろ大人だし」

「何言ってんだよ。もう少し詳しく」

 

 なんだよ。そんなにモジモジしてどうしたんだ?

 はっきり言ってくれないとわからないっての。

 

「悲鳴嶼さんに……ね。孫を……」

 

 ああ、子供か。

 自分たちの生活で精一杯だが、最年少の沙代が大きくなったし少しだけ生活に余裕ができた。

 

 

 

 これもお世話になった悲鳴嶼さんへの恩返しになるのかな。

 

「……そろそろちょうどいいかもね」

「……うん」

 

 この世界で長く幸せに生きていく。

 俺はそう決意したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 極めろ熱界雷!!目指せ一撃逃走!!

 

 〜完〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あの人誰かしら?」

「……へ?」

 

 会話が終わり、変な雰囲気のまま二人で歩いていると久子が指さす方向に目を向けるとそこには一人の女性がいた。

 

「誰ですか……その女?」

 

 そこには黒い学ランの制服を着て、右手にピンク色の刀をもつ全身血まみれの黒髪の女が一人。

 目のハイライトは消え、真顔で俺を見つめていた。

 動きは挙動不審でどこか壊れたブリキの人形のようであった。

 

「え?……誰?」

 

 何故か頭の片隅に何かが引っかかる。

 

 ………………カナエ?

  

 

 

 は!俺は今まで何をしていた?!

 そうだ。ここは血鬼術による夢の世界なんだ!

 

 確か無限列車にいて、現実に戻るため、自決するんだった。

 

 ……危なかった。

 なんでカナエが夢の世界に現れたのから不明だが、助かった。

 

 ……あれ?今冷静に考えると俺のしてたことやばくない?

 もしかして、会話聞かれてたり……。

 

「その女と子供……作るのですか?」

 

 やばいやばいやばいやばい!

 マジで聞かれてた。

 どうにか説得を!

 

「いや!これは」

「私を幸せにすると言ったのに……本当の意味での夫婦になろうと言ったのも全て嘘だったんですね」

 

 どうしよう?

 もうカナエを説得する手立てはない。

 このままだと殺される!

 

「一度話を「嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき

 

 

 そんな獪岳さんなんて  い  ら  な  い」

 

 俺はその場で自決した。




少し補足です。
今回の主人公が見た夢ですが、本来なら主人公は争いのない生活を心から望んでいました。
寺で過ごした子供たちと貧しいながらも助け合って暮らしていく、これが理想だでした。。それでも、最終的にはカナエが一番大切だと無意識に思ったので、カナエが出てきたという感じです。


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会いたくなかったよクソ野郎

 「あぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 俺は悲鳴と同時に目が覚めた。

 あたりを見渡すと電車内であった。腕には縄が巻かれていて、10代くらいの少年と繋がれていた。

 

 どうやら夢から抜け出せたらしいな。

  ……夢か!いや、よかった夢で!

 

 ブチギレたらカナエ……怖すぎだろ!

 

 あそこまで切れてるカナエはみたことない。

 

「状況は!」

 

 俺はカナエの恐怖にいまだに震えている体にカツを入れ、周囲を見た。

 

「うわぁ」

 

 魘夢ってもうこの段階で列車と同化してたんだ。でも、本当にぎりぎりだ。

 俺の周囲は何かの体内のようだ。赤とピンクが一面に広がり、乗客を食べようとしているのか、何か変な生き物が様子を伺っていた。

 

「ムーー!」

 

 ふと、俺の足元におでこにたん瘤を作り泣いている禰豆子がいた。

 あれ?まだ炭治郎たちは起きていない?

 

 どうやら俺が一番先に起きたようだ。

 まぁ、これなら都合がいい。

 

「禰豆子さん、君の血鬼術でこの縄焼ける?」

「ムーー!」

 

 禰豆子は元気よく縄を燃やし始めた。

 あとは、俺の仕事だが……。

 とりあえず乗客を守ること最優先。

 

 残念ながら俺は何かを切ることはできない。

 だが、方法がないわけではない。

 

 俺は日輪刀を抜き、懐から一つの瓶を取り出した。

 これは珠世さんとしのぶが共同開発した新しい対鬼用毒が入ったもの。これは十二鬼月を想定して作ったものの試作品。

 効果は殺すための毒ではなく、体を痺れさせる痺れ毒。

 

 この毒になんの意味があるのかと聞かれてもわからない。

 

 一応理由を聞いてみたら

 

『鬼舞辻無惨はただ殺すには惜しい。徹底的に苦しめ生きていることを後悔させなくてはいけませんから』

 

 ……この時の珠世さんの目はマジだった。

 どれだけ憎んでるんだよ。毒の研究に熱心になりすぎだろ!

 

 女の恨みは怖いすぎだろ。

 

 そんなこんなで、今回の相手はちょうど良い。相手は下弦の壱。実験には十分。

 

 俺はその毒を刀に垂らす。

 

「なんで邪魔すんだよ!」

「うん?」

 

 作業に集中していたが、急に怒鳴られ、アイスピックのようなもので攻撃をされたので最小限の動きで捌く。

 ……危ねぇ。何すんだよ。

 

 

「お前たちが列車に乗ったせいで、俺たちはいい夢を見られなかったんだぞ!」

「そうよ!」

「余計なことしないでよ!」

 

 俺と縄で繋がれていた少年ともう一人。

 

 縄を焼かれたことで覚醒したものが数人。鬼側の人間だ。

 まだ、炭治郎、善逸、伊之助の3人は寝ていた。

 

「は?そんなの俺には関係ないね。こっちは命がかかってたんだ」

「うるさいうるさい!」

 

 ああ、だめだ。怒りで我を忘れている。

 もう、肉が出始めている。

 原作と違って早く人間を喰らうつもりらしい。

 乗客の被害をなるべく少なくしなければ。

 

「な!」「ふぇ?」「ぐぁ!」

 

 俺は2人の女と男1人を首をトンとして、気絶させる。

 

「君はどうする?」

 

 俺は一人、炭治郎と繋がれていた少年に声をかける。

 その少年は涙を流して、首を横に振っていた。

 敵対意志はなしと。

 

「そうか……強く生きてほしい」

「………はい」

  

 俺は少年に言葉をかける。

 

 これで準備は完了。

 

 あとは雰囲気作りは大切だ。

 無限列車編で杏寿郎が言っていたセリフをパクるようだが、許して欲しい。

 

 一度言ってみたかったんだよこのセリフ!

 

「よもやよもやだ……不甲斐なし。穴があったら入りたい!」

 

 俺は高速で移動を開始し、体内に毒を注入し始めた。

 もちろん、途中熱界雷を放って落雷の音を奏でながら。

 

 さぁ、反撃の開始だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、これかなりきついわ」

 

 

 毒の効き目があり、肉の触手は動きが鈍くなっている。

 俺は何往復かして熱界雷を放っているからある程度ダメージは食らっていると思うが流石に8両を一人で守るのは無理があるな。

 

 杏寿郎も5両守ってたしなぁ。

 俺は鬼を切れない隊士。

 殺す手段は人の作った毒のみのなんちゃって隊士だ。

 

 ……あれ?今落雷の音した?

 やっと起きたか、かまぼこ隊!

 

 俺は毒で鬼の体内に攻撃しながら音のした方向へ向かった。

 

「くっ……どうなってるんだ」

「ごちゃごちゃ言ってねーで鬼探すぞ!この伊之助様に続け子分ども!」

「わかってるよ伊之助!」

 

 お、やっと起きたか。

 いや、一名は寝てる状態か。

 

 やっぱり気を失ってる善逸は頼りになる。

 

 常に寝てればいいのに。

 

「よかった!起きたんだな!」

「獪岳さん!」

「黒髪のっぽ!」

 

 俺の登場に二人は驚くも、どこか安堵の表情をしていた。

 俺を慕ってくれてるのかな?

 

「手短に話す。君たちが起きるまでに全車両に攻撃をした。すぐには再生はしないだろううが、このままでは乗客が危険だ。この列車は全部で8車両。俺が後ろ後方5両を守る。善逸と禰豆子さんで残り3両を守ってくれ。炭治郎と伊之助は前3両を気にしながら鬼の首を探してくれ」

「首?……でもこの鬼は」

 

 この指示内容は最適解だ。

 原作通りだが、鬼の首を斬れない俺ではとどめをさせない。

 適材適所。

 俺は乗客を守るのに専念する。そして、炭治郎たちに実戦経験を積ませる。

 

「どんな鬼だろうと必ず首はある!俺も可能な限りのサポートはする」

「はい!」

 

 炭治郎の気合の入った返事を聞くとその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「す……すげぇ……なんかすげぇ」

「すごい!……見えなかった。さっきから聞こえてた落雷はやはり獪岳さんのだったのか」

 

 

 伊之助はその場で立ち尽くし、炭治郎は驚き思っていたことを呟いてしまう。

 状況の把握と判断が早い。状況を察するに獪岳はいち早く鬼の術を破った。

 

 炭治郎は起きてから状況を見ると焦った。念のため、3人で自分達のいた車両に攻撃をして、その直後に獪岳は現れた。

 

(本当に獪岳さんはすごい)

 

 炭治郎は自分の恩人で、師である獪岳にまたも感心した。

 

「は!」

 

 だが、すぐに意識を切り替える。

 

「3人とも!やるぞ!」

「ああ」

「ムー!」

「俺に指図すんじゃねぇ!」

 

 

 

 

 

 炭治郎の言葉に3人は返事し、行動を開始した。

 その後の決着は早かった。

 

 獪岳による原作改編の影響は大きい。

 

 魘夢は早い段階で炭治郎たちと戦闘したから。

 炭治郎たちは獪岳により原作の無限列車編以上の実力がついていたから。

 獪岳による毒の攻撃で魘夢は弱っていたから。

 

 そう言った理由で魘夢の血鬼術に少しだけ苦労はしたが、早い決着となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うん。無事に任務は達成したな。

 なんか、想像していた以上に決着は早くついた。

 首を切った後、列車は線路から落ちて倒れたものの、魘夢の柔らかい肉のお陰で死傷者はなし。

 

 俺は乗客の安全を確認後、炭治郎、善逸、伊之助、禰豆子の元へ訪れる。

 

「よくやった」

「あ、獪岳さん」

「!獪岳!どうだった俺の活躍!すごかったでしょ!」

「大したことなかったな!この俺様にとってはな!」

 

 三者三様の答えに呆れてしまう。

 何はともあれ死人は一人も出ていない。

 平和に終わらすことができた。

 

 

 ただ、夜明けまであと一時間ほど余っていることから決着も原作よりも早くついた。

 まぁ、気にしなくていい。あとは帰って報告するだけだ。

 

 だが、世の中はそんなにうまくいかないものだ。

 俺は甘くみていた。

 炭治郎という作中での台風の目を。

 

 ドン!

 

 それは突然であった。

 俺を含めた4人で今日の軽い反省会の最中。

 

 突然俺の背後から突然轟音が響き、会話を中断して振り向く。

 

 俺はそいつを見て冷や汗をかく。

 

「?!」

『雷の呼吸 伍ノ型  熱界雷 二連』

 

 その対象は俺たちが認識した瞬間、俺の付近にいるものたちに攻撃をしてきたので、反射的な熱界雷で吹き飛ばす。

 

「ああ……素晴らしいぞ獪岳!たった数年でここまで実力を上げるなんて!」

 

 勢いよく後方へ飛ばした奴は体が有り得ない方向へと曲がっていたが、すぐに再生をして話しかけてきた。

 

「会いたかったぞ獪岳。さぁ、決着をつけようじゃないか!」

 

 はは………。

 まさか、再会するとは思っていたが、原作と同じようなながれになるなんて……。

 

「ああ……猗窩座」

 

 かつて戦って防戦一方であった相手……猗窩座の言葉にこう返したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「会いたくなかったよクソ野郎」

 



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ここが正念場だ。

「会いたくなかったよクソ野郎」

 

 また再会するとは思ってなかった。いや、内心わかっていた自分がいたが、まさか……はぁ。

 

「……知っているんですか?」

 

 背後から炭治郎が聞いてくる。まぁ、知ってるっちゃ知ってる。

 嫌というほどに。

 

「ああ。4年前に一度ね」

 

 的確に短く返答する。

 会話に集中するのはまずい。

 

 今猗窩座に対抗できるのは俺だけだ。

 その証拠に猗窩座が攻撃してきた時3人は反応することができなかった。

 

 いくら強化しているからってやはり一ヶ月で上弦との差は埋められなかったか。

 

「3人とも、待機だ」

 

 声を出していないが、戸惑っている3人。純粋に目の前にいる猗窩座の圧迫されるような闘気に当てられ萎縮してしまっている。

 

「……でも」

「これは命令だ!理由は……わかるな?」

 

 やはり炭治郎は正義感が……いや、精神力が強い。震えて声が出せないでいる伊之助と善逸と違い声を出せただけでもすごい。

 俺の言葉の意味を理解しているのか、それ以上は何も言わなかった。

 

 俺は3人が命令を聞くこと確認すると猗窩座へと歩く。

 

「話は終わったか?」

「待たせて悪いな。まさか、待ってくれていたのか?」

「ああ……俺は本気のお前と戦いたいからな」

「そりゃどうも」

 

 嬉しくねぇよ。

 正直侮ってくれていた方がよかった。

 それにしても猗窩座が言っていることは矛盾している。なら、なんで初手で俺以外を狙ったのだろう?

 

「俺と戦いたいと言うならなぜ先程俺以外を狙った?」

「何……お前を試しただけに過ぎん」

「試す?」

 

 確か原作だと弱いやつが嫌いで話すのに邪魔になるから炭治郎を狙ったとなっていたが。

 

「4年……俺がお前を逃して4年が経った。その年月でお前がどのくらい強くなったか……。慢心せずに鍛錬を怠っていなかったらしいな」

「……それで、俺は強くなっていたのか?」

「ああ!想像以上だ!前とは比べ物にならん!反応速度、技の練度、身体能力……何より、未熟であった闘気の練りが素晴らしい!……見違えたぞ!」

「お褒めに預かり光栄だ」

 

 興奮気味の猗窩座は俺を認めてくれているらしい。4年間の成果は出ていたらしいな。

 

「やはり惜しい。お前は鬼になるべきだ!もう一度問おう……がいかく、鬼になれ!そして、俺と永遠に戦い続けよう!」

「……」

 

 本当に時代が違えば、種族が同じなら気が合っていたのかもしれない。もしも同じ鬼殺隊なら。俺が鬼として転生していたらもっと別の道があったのかもしれない。

 

 だが、残念ながらその誘いには答えられない。今の俺には守るべきものがあり、支えてくれる家族も仲間もいるのだから。

 

「その誘いは4年前にも断ったはずだ。俺は鬼にはならないと」

「……そうか」

 

 これ以上の言葉は入らない。

 そう言わんとばかりに猗窩座は血鬼術を発動させる。

 

『術式展開 破壊殺 羅針』

 

 猗窩座は足場に紋章を出現させる。

 

「残念だが、お別れだ。鬼にならないなら殺す」

 

 猗窩座はお互いに接近してくる。

 

『雷の呼吸 伍ノ型 熱界雷』

 

 正面から左からのストレートの拳を最小限の動きで躱し、近距離から熱界雷で後方へ飛ばす。飛ばした方向は近くの森林。

 俺は倒す気はない。

 夜明けまで残り一時間ほど……。

 時間稼ぎが目的。

 

「お前の狙いは見え透いているぞ!」

『破壊殺 空式』

 

 空中に飛ばされた猗窩座は体勢を整え反撃をしてくる。

 ……チッ!そのまま森林に入ればいいのに。4年前の一件から俺が地の利を生かす戦法が得意なのはバレていて、今の一手だけで狙いもバレる。

 俺はバックステップで、猗窩座の衝撃波を全て躱す。

 

『雷の呼吸 伍ノ型 熱界雷 三連』

 

 猗窩座が空中から着地するタイミングに合わせて迎撃。

 もちろん熱界雷を飛ばした方向は森林だ。今度は三発放つ。少しずつ威力を上げていき、どの程度が通じるのか探らなければいけない。

 

 お互いある程度手の内を知っている状態だ。だから慎重に攻めなければいけない。

 

 そして、なるべく早く俺は森林に移動しなければ詰む。

 俺が真っ向から勝負しても少しは、やりあえるかもしれないが、夜明けまで時間を稼ぐのは不可能だ。

 地の利を活かさなければ。

 

『破壊殺 乱式』

 

 猗窩座は拳打の連打で正面から受け止める。

 

 マジかよ……。三連でもそこそこ威力あるのに。

 いとも容易く。

 

 

 熱界雷はまだ数段上がある。本当ならどのくらいの攻撃が効力があるのか、線引きをしておきたかった。

 だが、今のやりとりだけで、俺と猗窩座には実力差がある。。

 

 ……猗窩座が現れたことはすでに手の空いている他の柱たちにも情報は流れているはず。

 

 だが、いつ到着するかはわからない。

 いつ来るか、わからない援軍を待つよりも、どうやって夜明けまで時間を稼ぐかを考えた方がいい。

 

 さて……どうしたものか。

 ……あれ?

 何故か、猗窩座はその場で自分の両手を見ながら止まったまま。何も仕掛けてこない。

 

 ……どうしたんだ?

 

 

「一つ問いたい」

「……なんだ?」

 

 不思議そうに問いかけてくる猗窩座に俺は戸惑う。 

 だが、話をしてくれるのはありがたい。

 体力の回復は勿論、引き延ばせれば夜明けまでの時間稼ぎにも繋がるしな。

 

「なんだ、お前の刀は……」

 

 ああ、やっぱり気になったか。

 猗窩座は興味から質問をしてきている。

 

「俺専用の刀だが……それがどうした?

「お前専用?……刃のない刀がか?」

「そうだ。……何か悪いことでも?」

 

 日輪刀を自分の戦い方に合わせて作る柱は多い。

 刀の形が特殊なもの。特別な仕掛けをしているもの。

 

 それぞれが鬼殺のため、特殊な形をしている柱の刀は千差万別。

 その本人にしか使いこなすことはできない。

 

 猗窩座が聞いてきた刃がない刀。それが俺の使っている刀の特徴だ。

 

 普通の刀と比べて横幅が少し分厚い。熱界雷を飛ばすのに特化しているその刀は普通の刀に比べて空気抵抗が増す。

 そのおかげで鍛錬によって数年前とは比べ物にならない威力を誇る。

 

 また、俺の刀の特徴は2つ。

 毒を注入するために刀の先は普通の刀と同じ形状で、つかには奥の手として仕掛けがしてある。

 まぁ、しのぶの刀のように鞘の中で毒を調合はできないので、持参している毒を直接塗るしかないが……。

 

 それがこの4年で研究し、最終的にたどり着いた俺だけの専用の刀。

 

 ……少しこの話で時間を稼げるか?

 

「お前も知ってるだろう?俺の戦い方を。……長所を生かすためにこの形状の刀にした」

「なるほどな。……だが、それだと俺を斬ることはできんぞ?」

「いいんだよそれで。……自分の道を追求したまでだ」

「……悪くない。不躾な質問だったな。忘れてくれ」

 

 仕切り直しか。

 会話はこれで終わってしまったが、少し考えをまとめられた。

  

「出し惜しみをしている余裕はあるのか?……本気で来い獪岳。お前の実力はこんなものじゃないはずだ!」

 

 確かにそうだ。出し惜しみしていたらダメだ。どうせまともにやったって勝ち目はない。

 

 もともと出し惜しみできるような相手じゃないんだ。

 

「ふぅ……」

 

 俺は深呼吸し、猗窩座に向かって走る。

 俺の戦い方の理想は一撃逃走。だが、今の数回のやり取りでそれは無理だと判断した。

 

 長い時間戦い続ければ不利になるのは俺だ。

 呼吸を使い続ければ疲労し、動けなくなる。

 

 少しでも生き延びる希望を見出せるならばここで出し惜しみしてはいけない!

 

『雷の呼吸 伍ノ型 熱界雷 六連』

「さぁ!こい!」

『破壊殺 乱式』

 

 4年前までの最高火力、猗窩座に向かって6発放たれた熱界雷を最小限でかわし、拳打で受け止める。

 

 だが、俺の熱界雷は一方向で放った訳ではない。

 猗窩座の足元を囲うように二発、猗窩座自身に残り四発。

 

 猗窩座の周りには土埃ができる。

 それは猗窩座の油断を誘い、一瞬でも視界を奪うことが目的。

 

「はああああ!」

『雷の呼吸 伍ノ型 熱界雷』

 

 出し惜しみはしてはいけない。このチャンスは二度はない。二度は同じ手は通じない。

 

「八連!」

 

 熱界雷を連続で放つ。

 この四年間で俺は限界を超えた。善逸に並ぶことができた。

 

「素晴らしいぞ!獪岳!」

 

 放たれた熱界雷は猗窩座を後方の森へと飛ばした。その時、叫ぶように猗窩座は俺を称賛した。

 俺はせっかくできたチャンスを逃さないため、猗窩座をすぐ追う。

 

 さて、夜明けまでの時間は稼げるだろうか?

 ここで負ければ炭治郎たち、せっかく守った乗客たちが殺されてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここが正念場だ。



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獪岳さぁぁぁぁん!!

 熱界雷で猗窩座を森林に飛ばすことを成功させ、すぐに戦闘は始まった。

 

 後は可能な限り時間を稼ぐために攻撃を仕掛けるだけ。

 俺はこの4年間、ひたすら猗窩座との戦いを想定して訓練を積んだ。

 木から木、岩へ移動する訓練。最小限の動きで行う。

 また、柱との特訓で最適化と遠距離攻撃だけの駆け引きも学び続けた。

 

「くそ!ちょこまかと!」

 

 猗窩座と森林での戦いを続け十分が経過した。

 4年前とは違い、有利に戦いを進められている。4年前は俺は逃げることに精一杯だったが、戦況は大きく変わった。

 

 猗窩座は俺の動きに翻弄され、実力を出せていない。

 

『雷の呼吸 伍ノ型 熱界雷』

 

 

 木から移動をしながら遠距離攻撃を繰り返す。

 

「ふん!」

 

 猗窩座は放たれた熱界雷を拳打で受け止める。

 それにより視界が少しぼやけたので俺は撹乱するため猗窩座に少し接近する。

 

『雷の呼吸 伍ノ型 熱界雷 三連』

 

 接近し、地面に砂埃を広げるために三発放つ。目眩しだがそれでも数秒は稼げる。

 戦いが長引けばそれだけ木々が倒れてしまう。

 環境破壊、植物たちには申し訳ないが、今はそれを気にしている暇はない。

 一秒でも長く時間を稼ぐにはそれしかない。そのためには手段は選んでられない。

 

 俺と猗窩座はこのようなやり取りを繰り返す。

 

「4年前とは比べものにならん!」

『破壊殺 空式』

「そうかよ!」

『雷の呼吸 伍ノ型 熱界雷 四連』

 

 お互いの技がぶつかり爆発が広がる。

 

 猗窩座はとても楽しそうだ。

 真正面から戦うのを好んでいると思ったが、戦闘自体が楽しいらしい。

 

 その反面俺は結構しんどい。

 

 型の連発、高速で移動し続ける。これだけでも辛いのだが、実践の殺し合いで一度のミスも許されない。

 

 いつも以上に注意をしなければいけない。緊張のせいか、精神力、集中力を削られてしまい、いつミスを犯すのかわからない。

 

 それにやはり一度同じシチュエーションで猗窩座とは戦っているため、慣れているのか、対処として猗窩座は『破壊殺 空式』を使い木々をどんどん倒していく。

 

 俺もそれを踏まえて場所を移動しながら戦う。今回の森林は規模が広い。

 木々が倒されようが、移動すればまた仕切り直しができる。

 

 だが、俺有利に戦いをしているのにもう、適応してくる。さすがは数百年鍛えた武闘家と言ったところか。

 もう少し適応するのに時間かかると思ったが、思い通りにはならない。

 

 

 ……そろそろ頃合いか。

 木々が少なくなってきたので移動を開始した方がいいな。

 猗窩座はまだ土埃の中だ。

 様子を見て熱界雷8連を放てば遠くへ飛ばせる。

 ただ、それを読まれないようにしなければいけない。そのためには接近と離脱を繰り返し翻弄し、隙を作り放たないと。

 

 俺は木から木へと移動をし続け、猗窩座に少しずつ近づく。

 だが、おかしい……俺の熱界雷と猗窩座の空式がぶつかり土煙が広がっているのに猗窩座は移動するそぶりを見せない。何故だ?だが、猗窩座の場所は大体把握しているし、なんの問題はないが。

 

「お前は場数を経験すればもっと俺と戦えたかもしれないな」

「は?」

 

 突然土煙の中から猗窩座の話し声が聞こえてきた。

 何を言っている?今有利なのは俺のはずだ。

 

 だが、聞こえた話し声の方向で猗窩座の位置を完全にわかった。

 

「ならば教えてやろう」

 

 だから今のお前に何が……?

 

『破壊殺 終式 青銀乱残光』

「な!?」

『雷の呼吸 伍ノ型 熱界雷 八連』

 

 俺は反射的に技を放った。

 まだ、そんなの隠してたのかよ!

 突然放たれた先程とは比べものにならない速度と威力を誇る拳打を周囲に放ってきた。数にして百発。

 乱れ打ちのように放たれたものは先ほどから猗窩座が応戦していた拳打以上の威力がある。

 

 俺は冷静にそれを避けるため、熱界雷を8発最大火力で応戦するも、全ての威力を受けることはできなかった。

 

「く!」

 

 俺は防ぎきれなかった攻撃を直接日輪刀で受ける。

 直撃するよりかはマシだ!

 

 バキ!バキバキボキ!

 

 俺は大きく後方へと飛ばされてしまう。

 威力をいなすことはできず、何回か木に背中をぶつけてしまう。

 

「かは!」

 

 そして、猗窩座に森林の外へと飛ばされ、どうにか背中の痛みに耐えて受け身をとり、致命傷を避ける。

 

「はぁ……はぁ……はぁ」

 

 体を確認し、動けるかを確認する。肋の骨は何本か折れてしまった。

 打ち付けられた場所を打撲してしまっているが、まだ動ける。戦える。

 

 体は正常に動くかを確認。そして呼吸を整える。

 

「獪岳さん」

 

 ふと、後ろから俺の名を呼ぶ声が聞こえる。

 ……思っていた以上に飛ばされていたらしい。

 後ろには炭治郎たちが心配そうに見ていた。

 見える範囲でだが、猗窩座は歩いて近づいてくる。

 

「獪岳、今助けに」

「来るな!下がってろ!待機してろと命令したはずだ!」

「?!……でも、このままだと獪岳さんは」

「足手纏いだということがわからないのか!」

「?!」

 

 俺は炭治郎と善逸の心配を拒否する。

 今、戦いに参戦されたら俺の苦労が全て水の泡になる。

 

 二人は悔しい表情を見せるが、自分たちが足手纏いなだけだと解っているらしく、それ以上は何も言わない。

 

 

 それでいい……だが、状況は最悪だ。

 油断はしていなかったはずだ。

 

 ……まさか、あのような技を隠していたなんて、知らなかった。

 ……いや、原作知識で知っていたが、あそこまで威力があるとは想定外だ。

 

 だが、まだ戦える。受け身をとった時に何箇所か骨折してしまっているが、致命傷はなく、少し骨にヒビが入っているが呼吸は使える。

 

 ……だが。

 

「……マジかよ」

 

 猗窩座の攻撃を受けた時、何が嫌な音が聞こえた。

 日輪刀を確認すると……ヒビが入っていた。

 ……いや、判断は正しかった。

 

 あの時、直撃していたら即死だった。

 幸いなのは形状が少し特殊だったので、折れることはなかった。

 この壊れかけの刀ではもうあの技は……。

 

「生きていたか……」

 

 俺の内心の焦りとは裏腹に余裕の表情で近づく猗窩座。

 

「だが、もうお前に勝ち目はない。……これ以上は無駄だ。死に急ぐだけだからな」

 

 ち、否定はできない。

 

「お前の戦法は素晴らしいかった。終式を使わせたことは称賛に値する、誇っていい。……だが、詰めが甘かった。無意識だったのかは不明だがお前の動きには規則性があり、なれてしまえば動きをよむのは容易い」

「化け物が」

 

 なるほど。経験が足りないとはこういうことか……それにしても、そんな癖があったなんて自覚できなかったよ。

 いや、もうそのことを考えても仕方がない。

 四年間の鍛錬で、はじめの猗窩座とのやり取りで行けると思ってしまった。

 戦えると思っていた。

 

「ああ……やはり惜しい。獪岳、考え直せ!鬼になるべきだ!」

「はぁ…はぁ……断る」

「何故わからない!鬼は誰でもなれるわけではない!特別な者にしかなれないんだ!獪岳……お前は選ばれた人間なんだぞ!」

「……お前にそこまで評価してもらえるのは素直に嬉しい」

「なら鬼に「だが!」」

 

 俺は猗窩座の言葉を遮り、叫ぶ。

 

「いかなる理由があろうとも!……俺は鬼にはならない」

「……そうか。生身を削って戦ったところで無駄なんだよ獪岳。お前が俺にくらわせた攻撃もすでに完治してしまっている」

「何が言いたい?」

 

 自慢話なら他でやれよ。

 

「俺に比べてお前はどうだ?疲労困憊で所々怪我をしている。……何より壊れかけているその刀。今のお前には何もできない」

 

 状況把握ならばこっちもできてるわ。

 

「どう足掻いたって人間は鬼には勝てないんだよ」

「うるさい!」

 

 俺はその場で日輪刀を地面に叩きつける。

 ヒビが入っていた刀身は折れ、長さは半分ほどになる。

 いつ折れるかわからないならこっちの方が本気で振れる。

 俺は日輪刀を鞘に修め、構える。

 もう、俺には勝ち目はない。

 俺との戦闘で時間は二十分は経っているはず。もともと下弦の壱が出現した時点で柱に声がかかる。

 援軍の柱が近くに来ているはず。

 

 ならば俺は次の柱が戦いやすいように、少しでも猗窩座にダメージを負わせるのが最善の選択。

 俺は今ある最後の力を振り絞る。

 

「獪岳……お前」

「俺は……俺の責務を全うする!……ここにいるものは……俺が守り切る!」

 

 やはり俺は人のカッコいいセリフをパクるのが得意らしい。

 別に意識はしていない。自然と出た言葉だった。

 

 

『雷の呼吸』

 

 

 限界を越えろ。

 全てを出し切れ。ここで俺が負ければ全てが無駄になる。

 だからここで引くわけにはいかない。

 

 俺にできるのはただこれだけ。 

 転生して……これだけをひたすらに鍛え続けた。

 猗窩座は真正面から迎え撃つだろう。

 それが俺の狙い。だが、今からやろうとしている仕込みのため俺は猗窩座の全力の攻撃を相殺しなければいけない。

 そのためには8連よりももっと……。

 

「ああ……素晴らしい闘気だ。……追い詰められてもその気迫……精神力。一分の隙もないその構え。ふはははは!やはりお前は鬼になれ獪岳!永遠の時を戦い続けよう!」

『破壊殺 滅式』

 

 猗窩座は俺に接近してくる。

 

 限界を……越える!全てを出し切れ!

 

『伍ノ型 熱界雷

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 十連』

 

 限界を超えた俺の決死の技と猗窩座の血鬼術がぶつかり合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「獪岳(さん)(ガイコツ!)」」」

 

 

 炭治郎、善逸、伊之助の3人は獪岳と猗窩座の決死の技がぶつかり合う。その時、反射的に獪岳の名を叫ぶ。

 

 自分たちは無力だ。

 それは今の3人の共通認識。

 

 自分たちは強くなった。

 十二鬼月と戦えるくらい強くなった。

 そう思ったのも束の間、上弦の参。

 

 その鬼が自分たちの前に現れた。

 攻撃に反応することができない。

 獪岳と猗窩座の戦いを目で追うことすらできない。

 

 それほどまでに目の前の獪岳と猗窩座の次元は違うということをいやでも思い知らされた。

 

 だが、どこかでこの人なら大丈夫。そう思っていた。

 それは獪岳の過去の実績。

 上弦の鬼二体と遭遇するも生還する。それを知っていたから、今回も大丈夫だと思った。

 

 その証拠に獪岳と猗窩座の戦いは拮抗していた。

 森林に入ってからは見えはしなかったが獪岳が有利に戦っていたと思う。

 

 この人なら大丈夫。絶対に生きて戻ってきてくれる。

 

 だが、その期待は裏切られることになる。

 

 獪岳と猗窩座が森林で戦い始めて十分が経過した時であった。

 大きな爆発音が聞こえた。

 

 その後、一つの人影が勢いよく飛ばされてきた。

 それは大丈夫と信じていた獪岳の姿であった。

 

 立ち上がった時呼吸は荒く、立つのがやっと。よく見れば刀も壊れかけていた。

 

 炭治郎たちはすぐに助太刀に入ろうとするが獪岳により止められた。

 足手纏いだとも言われた。

 

 だが、それをわかってしまっていたため、何もできなかった。

 それがどれだけ悔しかったことか。

 

『破壊殺 滅式』

『雷の呼吸 後の方 熱界雷 十連』

 

 その後、獪岳の決死の覚悟で放たれた限界を超えた一撃と猗窩座の一撃がぶつかり合い、爆風がした。

 

 爆発が収まったのはそれから数十秒後だった。

 土煙が広がり、うっすらであるが、二つの影が見えた。

 

「あ……あああ……あ」

 

 だが、その見えた影に炭治郎は狼狽える。

 

 猗窩座の拳は獪岳の腹を貫通してしまっていた。

 

 

「獪岳さぁぁぁぁん!!」

 




補足です。

猗窩座が終式を使ったのは主人公への賞賛。確実に仕留めるために使ったとお考えください。


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……最後に持ってかれたなぁ

『破壊殺 滅式』

「はああああ!」

『雷の呼吸 伍ノ型 熱界雷 十連』

 

 俺が決死の覚悟で放った熱界雷は猗窩座の血鬼術とぶつかり合う。

 

 猗窩座が使ったのは『破壊殺 滅式』は原作では杏寿郎の限界を超えた奥義をも相殺する威力がある。

 

 結果だけ言ってしまえば俺の熱界雷は猗窩座の攻撃を相殺できた。

 おそらく八連のままだったら押し負けてその時点で死んでいたかもしれない。

 

 少し贅沢を言うなら相殺ではなく、俺の方が少しでも威力が優ってくれていた方が良かった。

 だが、できなかったことを言っても仕方がない。

 今は目的を達成するため、全力を出さなければ!

 

「あはは!」

 

 猗窩座は技が相殺した後、笑いながら右手で俺の顔めがけて拳打をしてくる。

 

「はああああ!」

 

 それに対し俺は素早く刀を鞘に収めてもう一度熱界雷を放つ。

 

『雷の呼吸 伍ノ型 熱界雷』

 

 だが、残念ながら、いつも通りの威力は出せなかった。

 限界を超えた一撃は思っていた以上に負荷が大きかったらしい。

 

 だが、そんなの気にしてられない。

 俺は拳に刀が当たるように抜く。

 

「く!」

 

 猗窩座の拳と俺の刀がぶつかり鈍い音が響く。

 だが、俺の方が押し負けてしまい、後方へ退き、体が崩れてしまう。その隙を見逃す猗窩座ではない。

 

 猗窩座は今度は左の拳で追撃をしてくる。

 今度は鳩尾に放ってくる。

 

 右手をスライドさせ、刀の柄のぎりぎりをもち、左手を柄の鍔近くに持つ。

 左足がつく瞬間俺の体制は右側が前の半身状態で、左足がついた瞬間地面に踏み込む。

 

 足をついた瞬間足に激痛が走るが、今は気にせずに踏ん張る。両手で持つ刀を少し斜めに立てた状態で猗窩座の拳に当てる。

 

 そして、俺の左脇腹付近にくるように急所を外すため、猗窩座の技の軌道を逸らすことのみに集中。

 

 今のこれまでの動き。幸いなことに全て想定内だ。

 狙った場所に拳を逸らすことに成功した。

 

 四年間のうちに俺は天元の指導で薬を服用と筋肉の操作のやり方を学び、内臓の移動方法を学んでいた。

 

 技を放つ前に少しだけ右に動かしておいた。

 

 体に風穴が開くが死ぬことはないだろう……多分。

 

「ふおおおお!」

「あは!」

 

 俺の刀と猗窩座の拳がぶつかる。

 ぶつかった拳と刀は流れるように軌道が外れ、俺の左脇腹に。

 そして、俺の刀の柄の先は猗窩座との距離があと数センチという距離で止まる。

 

 そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 狙い通りに貫通させることができた。

 だが、めちゃくちゃ痛い。

 一瞬気を失うかと思ったわ!

 

 

「あ……あああ……あ……獪岳さぁぁぁぁん!!」

 

 爆風が治まり、姿を見えたのか、炭治郎が俺の名を呼ぶ。

 

 ……まぁ、側からみれば俺の負け決定みたいな感じに見えるしね。

 慌てるのはわかる。

 

「やはり、お前は鬼になるべきだ獪岳」

 

 猗窩座は左手が俺に貫通している状態で話しかけてくる。

 いや、早く抜こうとしろよ。

 

「最後で己の限界を越えた。俺の技を相殺するだけでなく、その後も抗い続けた。最後の一撃は……見事であった」

 

 猗窩座は俺に……おそらく今までで最上位の賞賛をしてくれている。

 

 いや、だから早よ抜けって!

 なんで刺さったまま話してんだよ。

 まぁ、別にいいけど、後は完全に油断しているところに俺の奥の手を放つだけ。

 タイミングを誤るな。

 俺はゆっくりと剣の柄頭を猗窩座の体に近づける。

 

「けほ!……はぁ…はぁ」

 

 俺はその場で血を吐いてしまう。それを見て猗窩座は微笑みながら話を続ける。

 

「鬼になるといえばすぐに鬼にしてやる。お前は……選ばれし数少ない人間なのだから」

 

 あ、完全に油断してるわ。

 チャンスだ!今、ここしかない。

 

 俺はその場で刀の柄にあるボタンを押す。

 

 すると柄頭から2本の細い注射器が発射される。

 その速さは銃弾と同じ速さ。

 刀の構造を工夫してバネを工夫した。

 

 流石の猗窩座もここまでの至近距離。しかも油断している状況だ。

 

 反応するのは難しかっただろう。

 

「……くそ!」

「かは!」

 

 猗窩座は即座に左手を俺の左下脇腹から引き抜き、刺さった注射器を抜き、俺は蹴飛ばされる。そのせいで数メートル飛ばされて転がってしまう。

 いってぇぇぇ!

 

「……貴様……何をした?」

 

 俺は横になったまま動けないが、視線を向ける。

 

 今の猗窩座は苛立ちが抑えられないのか、額に血管が浮き出ている。

 

 ざまぁ。

 油断してるからそうなるんだよ。

 

「……あまり、人間を舐めるなよ猗窩座。俺個人では完敗だ。手も足も出なかった。……だがな、人の強さとは武力だけが全てじゃない。考えることができるのも人間の強さだ。今お前に刺したのはその叡智の結晶だ」

 

 今、俺が刺したのは二つの液体。

 一つは現時点で毒素が最も強い藤の毒、そしてもう一つは不死川の稀血だ。

 

 今、猗窩座はどう思っているだろう?先程まで優勢だったのが、一気に劣勢に。

 

 即死していないが、毒で大分弱らせた。稀血で酔わせて変な感覚だ。

 

「殺してやる!」

 

 ……ああ、このままだと完全に死んでしまう。

 俺はもう動けない。手足に力が入らない。

 

 そう、このままだとだ。

 人は頭に血が上りすぎていると視野が狭くなる。それは生きている生物皆同じだろう。

 

 それは鬼だろうと同じだ。

 その一瞬の動揺が取り返しのつかないことになることもあるのだ。

 

「死ねぇぇぇぇ!!」

 

 猗窩座は俺に夢中で殺しにかかるため、接近してきた。

 

 一瞬の油断、一瞬の意識の外れ。

 

 今猗窩座の視界には俺しか写っていない。

 

 

『壱ノ型 塵旋風・削ぎ』

 

 螺旋状の竜巻が地面を削りながら猗窩座に迫り、猗窩座の頸がスパンと切れたのだった。

 

 

 

 

 

 ……最後に持ってかれたなぁ

 




体内の内臓を移動する方法……そんなものないと思うかもしれませんが、宇髄天元なら知ってそうだな……忍者だしと思っていただければ幸いです。


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……………………は?

 俺は生き残れたのだろうか?

 まぁ、呼吸ができているので、現時点では生きていることはわかる。

 

 

 勝つためとはいえ、無理をしすぎた。

 体を酷使してしまった。手足の間隔(感覚)がなく動かすことができない。

 

「ふぅ……」

 

 俺は呼吸に集中して、傷ついた体の止血にかかる。

 左下脇腹は猗窩座の攻撃で貫通してしまっているが、内臓は事前に移動していたので、傷ついてしまっているが致命傷にはなっていない。

 

「ふぅ……」

 

 よし。

 これで傷ついた内臓の止血は終わった。

 だが、体に空いた穴が大きすぎて、完璧には止血できない。

 誰かに上から止血はしてもらわないと……マジで死ぬ。

 

 

「はぁ…はぁ…はぁ」

 

 先ほどの型は風の呼吸。

 不死川だろう。

 あの威力で技を放てるのは柱のあいつしかいない。

 

 それにしてもあまりにもタイミングが良すぎる。

 不死川のやろう、完全に機会を窺ってやがったな。まぁ、その奇襲が成功して猗窩座の首を斬れたわけだが……。

 

 もう少し早く来てもよかったのではないだろうか。そうすればもっとやりようはあったし、ここまで無理をする必要もなかった。

 ま、仕留めてくれたので文句は言わないでおこう。

 

「チッ!……まだ再生しようとしてやがるのかよ!」

 

 ……うん?

 今不穏な声聞こえたけど、聞き間違いか?

 

 だめだ!指一つ動かせない。

 あいつまさか、俺がここまで体張ったのに。

 

「お前ら!その死に損ないを退けろ!」

『弐ノ型 爪々・科戸風』

「はい!」

 

 え?……何がどうなってんだよ。

 不死川の一声でかまぼこ隊の3人は俺の側に移動し丁寧に抱え、移動させる。

 ……今何が起こってんだよ。

 

「……一体……何…が?」

 

 ゆっくり運んでくれている炭治郎に問いかける。

 

「……わ、わかりません。首がない状態で応戦してます」

「なんで首ないのに動いてんだよ!うわ!斬られてんのにすぐ再生してるし!」

 

 

 首がないと言うことはちゃんと切断したらしい。

 炭治郎と善逸の返答で大体状況はわかった。

 今猗窩座は自身の過去と鬼になった時の回想を見ているのか。

 

 俺の背後から戦いの後が聞こえる。

 内心焦るがとりあえず今やらなきゃいけないことは。

 

「早く止血はしてくれ……マジで死ぬ」

「え?……わかりました」

 

 炭治郎が慌てながら了承し、猗窩座から離れた後、焦りながらも布を取り出し止血を開始してくれた。だが、止血するための布が足りないらしく少し探している。

 

 

「俺の羽織を使ってくれ」

「でも」

「やぶいてくれて構わない。命には変えられない」

「は、はい!」

 

 炭治郎は俺の羽織を破り傷口を抑える。

 

「炭治郎、俺のも使ってよ」

「ありがとう善逸」

 

 善逸は自分が着ていた黄色い羽織を脱いで止血に使うために渡してくれる。

 

「……悪いな」

「いいよ。獪岳の命には変えられない。それにじいちゃんに言えばまたくれるから」

 

 大切な羽織なのに、俺のために使ってくるとは。

 ありがたく使わせてもらうか。

 

 俺は呼吸に集中し、止血を試みる。

 善逸が貸してくれた羽織は止血が必要な腰回りに巻いてある。

 

「ふぅ……これで止血は済んだ。ありがとう」

 

 炭治郎と善逸、伊之助の3人は安堵のため息をする。

 後は、処置だけだが、これはしのぶとカナエに頼めば大丈夫だろう。

 

 これで出血多量で死ぬことは無くなった。

 

 それにしても、猗窩座と不死川の戦闘は続いていた。

 原作でも炭治郎が首を斬ったあともそうであった。猗窩座の過去には同情する。

 

 猗窩座の本名「狛治」。

 狛治は幼い頃、スリの常習犯だ。それは病弱の父親に薬と食べ物を届けるため。だが、その父親は狛治が捕まったことを聞いて自殺をしてしまう。

 

 狛治は親父の遺言「真っ当に生きろ、まだやり直せる。俺は人様から金品を奪ってまで生き永らえたくはない。迷惑をかけて申し訳なかった」

を読み、ショックを受けてしまう。

 

 自暴自棄になってしまった狛治であったが、地方を渡り歩いていたある日、慶蔵と恋雪と出会う。

 

 その出会いが狛治を真っ当にした。恋雪との恋。そして慶蔵の後継になる。

 だが、狛治の幸せは長くは続かない。

 

 ある日、恋雪と祝言を上げることを父親に報告するため、墓参りに行った時のこと。

 狛治が留守にしている時、慶蔵と恋雪は毒殺をされてしまう。

 

 せっかく見つけた幸せを大切な人たちを全て失ってしまうのだ。

 狛治は怒りに任せ毒を流した者たちに復讐をする。その後、無惨と遭遇し、記憶を消されたまま鬼にされてしまった。

 

 狛治は可哀想で悲しい過去を持つのだ。

 

 今猗窩座は自分と戦っている。

 無惨に戦えと強要され、それに抗っている。

 

 だから早く猗窩座を仕留めてあげてほしい。早く自由にしてあげてほしい。

 

 二度戦い、命を取り合った。

 猗窩座がいたから今の俺がある。猗窩座と合わなければここまで強くなれなかったし、カナエとも今の関係になっていたかもわからない。今ある出会いもなかったかもしれない。

 だから、友人として……いや、戦友として感謝している。

 だから呪縛から解放させてあげてほしい。頼むぞ不死川。

 不死川は苦手だが戦いに関しては信用している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「首が生えてきやがった!こっちに来やがるぞ!」

 

 

 

 

 

 

 ………………………は?

 



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最高の気分だよ

 

 炭治郎たちの止血により出血死を免れた直後、伊之助の言葉で俺は焦る。

 首を斬られたはずの猗窩座が俺のいる方向に向かっているそうだった。

 

 ……いや、冷静に分析したけどかなりまずい。

 てか不死川!何してやがる!

 お前柱だろ?ただのおこぼれで首斬っただけだろ!ちゃんと仕留めろよ。

 

 手負の奴くらい早く仕留めろよ!

 俺と違ってお前万全の状態だろ!

 

 文句を言いたいが言えない。大声を出せないのだ。

 

 え、まってせっかく助かったのに俺死ぬの?

 嫌なんだけど。

 どうすれば……どうすればいいんだよ!

 

「獪岳さんはやらせない!」

「いやぁぁぁぁ!来ないでぇぇ!」

「俺が相手してやる!」

 

 かまぼこ隊の3人が俺を庇うように守る。

 

 お……お前たち。

 俺を守るために……。

 善逸、弱気でも体を張ってくれるのか。成長したな。

 

 だが、死ぬなよ。せっかく助けたんだから。

 

 頼む頼む頼む頼む。

 神様!仏様!不死川様!

 

 助けて!

 

 あれ?何も起きない?

 

「あいつ何してやがんだ?」

 

 伊之助の声が聞こえるが、俺もわからない。

 首が動かないし。

 

ドカーン!

 

 すると、猗窩座がいる方向から爆発音が聞こえてくる。

 誰か……誰か説明を!

 

「……え?……な、なんで?」

 

 炭治郎頼むから説明プリーズ。

 

「こっちに来るけど……何が起こってるんだろう?」

 

 何が来るの?猗窩座か?

 なら、なんで道を開けるようにしてるの?

 まさか、俺を見捨てる……ことはないと思うけど。

 

 俺は目を動かし、何が起きているのか周囲を見る。

 

 俺の付近に顔が復活仕掛けている猗窩座がいた。所々に身体中に穴が開いていて、重症であった。まさか、自身で傷つけたのか?

 

 混乱して思考が纏まらない。

 猗窩座は俺の近くまで歩くと、膝をついている。

 炭治郎と善逸が何もせずに止めないってことは俺に害はないってことか?

 

「……え?」

 

 俺は猗窩座と目が合い戸惑う。

 消えかかっている猗窩座は最後に俺を見て微笑んでいた。

 

 確か原作でも同じようなことがあったような。

 

 ……そうか。

 最後の最後で無惨に抗うことができたということか。

 

 きっかけは炭治郎たちかもしれない。

 誰かを守る。

 それは猗窩座にとっては意味の深い言葉。

 

「炭治郎……猗窩座からどんな匂いがした?」

 

 炭治郎は感情の匂いがわかる。

 俺の予測が正しければ……

 

「……はい……感謝の匂いがしました」

「……そうか」

 

 猗窩座……最後に無惨の呪縛を解いたのか。そして、最後に恋雪さんと再会することができたのか?

 

 ……だが、なんで俺に感謝の気持ちを伝えようとしたのだろう?

 

 俺は唯勝つことに精一杯で卑怯な手段を使った。

 猗窩座はそのような人間は弱い人間と同じくらい嫌いなはずだ。

 

 ……わからない。

 

 恨まれることはあっても感謝の要素はない。

 猗窩座はもう成仏した。死人に口なし。確認のしようがない。

 

 猗窩座との因縁は四年前からだ。

 短いようで長かったこの数年。

 やっと断ち切ることができた。

 

 猗窩座……。安らかに眠ってくれ。

 

「炭治郎」

「はい」

「猗窩座の血をとっておいてくれ」

「?!……はい。わかりました」

 

 猗窩座の血は貴重だ。

 四年前に採取したが、とっておくのに越したことはない。

 炭治郎は忘れていたらしく慌てて採取用のナイフを消えかかっている猗窩座から血を抜き出す。

 

 これで珠世さんたちの研究が捗る。

 

「おい、死に損ない、気分はどうだ?」

 

 不死川から急に声がかかる。

 流石に命懸けで弱体化させた俺は対する言葉じゃない。

 もう少し言葉はないのだろうか?

 

「な!……何もしてない人が獪岳さんになんてこと。謝ってください!」

「そうだぞ!何もしてねぇ奴は黙ってろ!」

「そ、そうだぞ。おこぼれで首を斬った癖に「あん!?」……ひぃ!ごめんなさいなんでもないです!」

 

 炭治郎、伊之助、善逸が反論してくれる。

 

 だがなぁ、善逸。

 言ってくれるなら堂々としてろよ。

 炭治郎の背中に隠れながら言うなよ。不死川のガン飛ばされただけでめっちゃビビってんじゃん。

 

 だが、これはあいつなりの心配だ。

 もう、ツンデレかよ。

 

「三人とも、今の言葉は不死川なりに心配してくれてるんだ。そう言ってやるな。……不死川、首を斬ってくれて助かった。タイミングバッチリだな。まさか、待機してたのか?」

「……チッ!ああ、そうだ。鬼を倒すためだ。文句あるかァ?」

 

 やはりか。

 戦うための情報は少しでも多い方がいいのは確かだ。

 鬼を倒すための最善の行動だ。

 俺は死んでないし、これ以上は何も言うまい。

 

「別にいいさ。ただ、奇襲をするならちゃんと仕留めて欲しかったがな?」

「そ、そうだそうだ!「あ?!」……ひぇ!なんでもありまそん」

 

 善逸、頼むからいつなら堂々としろよ。

 最後まで言う気ないなら、黙ってればいいのに。

 

「……チッ。……まぁ、オメェがいなけりゃ上弦の鬼は殺れなかった」

 

 不死川は素直になることは少ない。

 それほど心配していると言うことだろう。

 変な雰囲気になり、耐えきれなくなったのか不死川が話しかけてくる。

 

「……任務はこれで終わりだ。俺は一足先に帰る。後処理はお前たちでやれ」

 

 不死川は俺に最後にその言葉を言い、帰ろうとする。

 俺はまだ不死川に伝えなければいけないことがある。

 俺は不死川を呼び止める。

 

 

「不死川」

「んだよ」

「いや何、…さっき質問の答えをしようと思ってな」

 

 俺は不死川に笑顔でこう言ったのだった。

 

 

「最高の気分だよ」

「……早く」

「は?」

 

  珍しいな。

  間読むなんて?

 

「早く怪我治すんだな」

 

 不死川からの優しい言葉。本当に珍しいな。

 本当に不死川はいいやつだ。

 

 今度些細らで好物持って行ってやろう。



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強くなりなさい

「そうか!倒したか……上弦を。よくやった獪岳、炭治郎、善逸、伊之助、実弥……ゴホッゴホ」

「耀哉様」

 

 産屋敷邸。

 現当主で産屋敷耀哉にある一報が届いた。

 それは産屋敷耀哉にとっては何かの予兆だと言わんばかりの朗報。

 

 上弦の参並びに下弦の壱の撃破。

 

 耀哉は寝起きということもあるが、何より嬉しさのあまり興奮してしまい、吐血をしてしまった。

 天音はそれを支え、心配する。

 

 

「百年……百年もの間……変わらなかった状況が今大きく変わった。……天音」

「はい」

 

 耀哉は自身を支えている天音に声をかける。

 

「ゴホ!……ケホ…ケホ…ケホ……わかるか?……これは兆しだ。運命が大きく変わり始める」

 

 天音の腕を掴み、喜ぶあまり、吐血しながらも話を続ける。

 

「この波紋は広がってゆくだろう。周囲を巻き込んで……大きく揺らし………やがては……あの男の元へ届く」

 

 耀哉自身の拳を強く握り、自分が感じた予感を確信したと思う。

 

「鬼舞辻無惨……お前は必ず私たちの代で倒す……我が一族唯一の汚点であるお前は……ケホ…ケホ…ケホ」

「お前たち、湯を沸かしなさい。それから薬と手拭いを……早く!!

「父上」「父上」

 

 天音は急ぎ耀哉の看病を開始したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「獪岳、不死川により、上弦の参撃破!上弦の参撃破!……獪岳重症!急げー!」

「?!…姉さん!」

「しのぶ早く!」

 

 しのぶとカナエは急いで上弦の参が現れた場所へと向かう。

 

 一時間ほど前までカナエは蝶屋敷で珠世と共に薬の実験をしていた。

 いつも通りの日常。ただ、獪岳が任務で外しているが、内心心配はしているものの、いつもと変わらずに過ごしていた。

 

 突然の一報が来るまでは。

 

 最初は下弦の壱が出現したという連絡。

 その連絡を聞いた瞬間、カナエは持っていた調合器具を床に落とし、動揺をした。

 

 下弦といえど十二鬼月。

 カナエはすぐに数年袖を通していなかった隊服を慌てて着て、日輪刀を持ち、救急の処置のできる道具を持って現場へと走った。

 

 しのぶはその日任務はなく、自身の担当する区域のパトロールをしていた。だが、十二鬼月が現れたことで急いで現場に向かうように指示があった。

 

 しのぶは近くにいたカナヲに引き継ぎをして、現場へと向かった。

 

 途中、偶然にもカナエと合流できた。だが、カナエは呼吸が使えるようになったものの実戦から離れていて心配だったのでしのぶはカナエを行かせないように言ったものの断るの一点張り。

 そのため一緒に向かうことになった。

 

 この時点ではあまり二人は慌てていなかった。

 その任務に当たっているのは獪岳であったから。

 それにその任務には炭治郎、善逸、伊之助の三人も同行していたため。

   

 だが、移動中に新しい一報が届く。

 

 それを聞くなり二人の顔は青ざめ、さらに走る速度を上げる。

 

 上弦の参の出現。

 

 上弦の実力はカナエは一番わかっている。カナエが鬼殺隊引退のきっかけも上弦との遭遇が原因。

 

 上弦の実力は計り知れない。

 柱クラスの実力ですら対処は不可能。

 

 いくら獪岳が強くても一人では対応するのは無理がある。

 

 だから、余計に焦りが増した。

 愛すべき存在が死ぬかもしれない。その不安が頭によぎり、余計に焦りが増していった。

 

 その焦りが和らいだのはそれから二十分ほどが経過した時。

 それは上弦の参が倒されたとカラスから知らせがきてからだ。

 これを聞いた時、カナエとしのぶは安堵した。

 

 だが、獪岳は重症。

 応急処置は終わっているとしても絶対安心ではない。

 二人は急いで現場に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現場に着いた時、隠たちによる後処理が行われてきた。

 列車の乗客から壊れた線路の確認など。

 

 カナエとしのぶはそれらが目に入るものの一番優先しなければいけないこと……獪岳を探した。

 

「姉さんあそこ!」

「わかったわ!」

 

 しのぶがいち早く炭治郎、善逸、伊之助の三人が固まっている場所を見つける。

 三人は倒れている人を囲うように……心配そうに看病をしていた。

 

「……カナエさん、しのぶさん」

「炭治郎くん、義兄さんの容体は?!」

 

 しのぶとカナエに気づいた炭治郎は獪岳の容体の説明を始める。

 

「止血は終わったと獪岳さんが言ってました……あと、左足と肋骨が骨折しています。それ以外は……すいません」

「いいのよ炭治郎くん。今までありがとう。これから緊急処置するから離れてもらえる?」

「は、はい」

 

 カナエは炭治郎からその場で容体を聴くと処置を開始した。

 本当ならば安定している場所に移動すべきだが、緊急を要する。

 

 しのぶとカナエは顔を合わせて互いに頷く。

 二人による処置が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 それから十分ほどで処置は終わった。

 結果は命には別状はない。

 左足が骨折、肋が3本骨折。身体中に打撲。

 左下脇腹に穴が空いていたので接合させた。

 傷ついていた内臓はそこまでひどくはなく、しっかりと治療すれば治る。

 カナエとしのぶは処置が終わると安堵して座り込んでしまっていた。

 

「あ……あの。獪岳さんは」

 

 二人の処置を後ろから見ていない三人のうち、炭治郎が代表して聞いてくる。

 カナエは笑顔で返答する。

 

「命に別状はないからもう大丈夫よ。安心して」

「よかったです……本当によかった」

「あらあらまあまあ。泣かないで。大丈夫だから」

 

 炭治郎はそれを聞くと安心からか泣き始めてしまう。

 カナエは少し困った表情をしてしまう。

 

「俺……何もできなかったんです。上弦が現れた時……体が震えてしまって……動けませんでした。……獪岳さんが負けそうな時も俺は何もできませんでした。……すいませんでした」

「「……」」

 

 炭治郎はカナエに謝罪し、善逸と伊之助は黙って見ている。

 

 それは今回の一件での自分の無力感から。獪岳が安全だと分かると一気に緊張が途切れ、感情が爆発した。

 

「俺は……どうしたらいいんでしょう……何か一つ出来るようになっても……目の前に分厚い壁があって……獪岳さんのようにすごい人はまだまだたくさんいて……俺はその人たち比べて弱すぎる……こんなところで躓いてしまっている俺は……俺は……獪岳さんのようになれるのでしょうか……」

 

 今日の一件を通して、目の前にある分厚すぎる壁に炭治郎はショックを受ける。

 獪岳のアドバイスもあって一ヶ月で大きく成長した。

 だから、自分達は強くなったと思い上がってその直後に分厚い壁が目の前にあることを自覚させられた。

 

 今日あったことは獪岳がいなければ全滅していた。

 大切な仲間も失っていた。那田蜘蛛山の一件で自身の力のなさを思い知らされて……それから努力したがそれでもまだ足りない。

 

 炭治郎の思っていたことと同じなのか、善逸、伊之助は俯いてしまっている。

 

「強くなりなさい」

「……え?」

 

 炭治郎の弱気の言葉。カナエからのその返答はすぐにきた。

 炭治郎は顔を上げてカナエを見る。

 カナエは真剣な表情で言葉を続ける。

 

「大切な人を守れるくらいに。どんな強敵が現れても倒せるくらいに。……炭治郎くん、貴方は今日、獪岳さんから何も学んでないのですか?……俯いている暇があるなら前を向きなさい……強くなれるか、なれないのか……そんなことを言っているようでは貴方は成長できない……努力しなさい。強くなるため追求し続けなさい。模索をしなさい。強くなるための近道はありません。人はそう簡単には強くなれないものです」

 

 カナエの言葉は炭治郎、善逸、伊之助の三人のシンの的を射抜く言葉であった。

 カナエは言葉を言い合えると、シンとしてしまう。

 

「と!……獪岳さんならそう言うと思いますよ。ね!しのぶ!」

「はぁ……ねぇさん、台無しですよ。せっかくかっこよかったのに……」

「もう、ため息なんてついちゃ。そんなんじゃ幸せ逃げちゃうわよ?」

「な!別にそんなことないです!」

 

 さっきまでの真剣なカナエとは雰囲気が変わってしまったことに戸惑ってしまう三人。

 そんな緊張感のない雰囲気のせいか、先ほどまでの雰囲気はなく、自然に笑みが溢れる。

 

「俺……強くなります。獪岳さんみたいに守れるように」

「伊之助様はガイコツより強くなってやるよ!」

「獪岳と一緒に背中合わせて戦うのは俺だからな!」

 

 炭治郎、伊之助、善逸はそれぞれの目標をいう。

 

「うふふふ。それくらい元気があれば大丈夫ですね。……獪岳さんのこの怪我では復帰はしばらくかかるでしょう。……よろしければしばらくは私が稽古の相手をしましょうか?これでも元とはいえ柱。お力になれると思いますよ」

 

 カナエは三人を見て安心し、提案をしたのだった。

 

 




最後まで読んでくださりありがとうございました。

仕事の都合で次の投稿まで少しだけ期間が空くかもしれません。
投稿がスローペースになるかもしれませんがご了承ください。


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次は殺す

短めです




「ああああああ!クソ!……クソ!」

 

 人里離れた山の中、一人の男が怒りに任せて叫ぶ、

 その男……鬼舞辻無惨は今日あった出来事に非常に怒りを覚えた。下弦の壱の魘夢のところへ、ターゲットであった耳飾りを持つ始まりの呼吸の使い手の人間が現れた。

 

 鬼舞辻無惨は用心深い。少しでも危険分子が残っているなら根をつぶす。

 そのため、たまたま無限列車の近くにいた猗窩座に向かわせた。

 

 事前の情報では柱は一人もいなかった。だがら確実に根を潰せるつもりでいた。

 いたのだが。

 

「何故柱にすらなれない男なんかに……クソ!」

 

 その叫びで草木は大きく揺れる。

 無惨は件の男を知っている。

 一度は猗窩座が仕留め損ない、二度目は童磨から逃亡を成功させた。

 逃げるしか出来ず、ただの雑魚の一隊士としか認識していなかった。

 

 障害にはなり得ない。危険分子にはなり得ない。

 

 それが無惨の獪岳に対する評価だった。

 だが、それでも……それでも獪岳は障害になった。

 柱でもない。首すらも斬ることすらできないただの雑魚によって。

 

「猗窩座を追い詰めたあの男……名は獪岳か。……覚えたぞ……危険にはなり得ないと思っていたが……認識を改めなければならない」

 

 散々その場で怒鳴り続け落ち着いたのだろう。

 無惨は警戒を目一杯にあげ、冷静に分析を始める。

 

 おそらく、猗窩座の様子から仕留め損った。奴は必ず生きているだろう。

 

「次はない……私に恥をかかせた……真っ先に殺してやる」

 

 無惨は日光を克服して完全に不死身の鬼になることが目的。

 その目的の危険分子である鬼殺隊は滅ぼす対象。だが、数百年間も経っているのに今だに滅ぼすことができない。

 

 しかも特定の人物にこんなにも警戒をするのは本当に数百年ぶりだ。

 やるなら確実に息の根を止める。

 そのためならば出し惜しみはしない。

 

「油断をしていたとはいえ、童磨も奴を取り逃していた。ならばーーー」

 

 次は確実に仕留める。

 その決意は固く、確実性を優先させるべく思考を始める。

 

 少しでも不安要素があるなら、その思考は切り捨てる。

 

 恥をかかせた。

 

 次は必ず殺す。

 

「黒死牟!」

 

 戦国の時代からの長い付き合いで、最も信頼をおいている鬼。No.2のポジションを一度も変わることなく守り抜いた鬼。

 

 そして、かつて一度だけ無惨を追い詰めた継国縁壱の実の兄。

 

「お呼びでしょうか?」

 

 無惨は黒死牟に一つの指示をだしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

獪岳がもたらした原作の改編は、本人の望む平和とは程遠い未来に進み始める。

 

 無惨は獪岳を危険分子として認識をしてしまった。

 

 いよいよ物語が大きく動き始める。

 だが、そのことを獪岳は知らないでいる。

 

 




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約束守れないかも

日間ランキングに入ってました。

二次創作 8位
総合  14位

ありがとうございます。


「うぅ……」

 

 体の痛みがあり、俺は意識を覚醒させた。

 ……あれ?ここは?

 

 意識が覚醒ばかりか、記憶があやふやだ。

 ……なんで俺は寝ている?なんでこんなにも身体中に激痛があるのだろう。

 

「ここは……病室か?」

 

 動が動かないので周りを見るとそこは見慣れた光景であった。

 カナエにやられて目が覚めた時と同じ。

 

 そうか、ここは蝶屋敷か。

 でも、何故ここに?

 

 またカナエにやられたのか?だが、今まで体が動かせなくなることはなかった。

 

「んん……」

 

 あれ?誰の声だ?

 突然近くから人の声が。一体誰だろう。そう思い、声のした方向を見ると……そこにはカナエがいた。

 椅子に座った状態で寝てしまっている。

 もしかして看病してくれていたのか?

 

「カナエ……」

 

 俺はカナエを呼ぶ。

 

「ううん……あれ?」

 

 それから数秒し、カナエは少し可愛らしい寝ぼけた声を出した後、起きたらしい。

 

「おはよう……でいいのかな?」

「はい、おはようございます獪岳……さ…ん」

 

 カナエは目を見開く。

 そして、目から涙を流す。

 

 

「もう起きないんじゃないかって……心配させないでください」

 

 カナエは俺の手をゆっくりと握り、泣き始めてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから三十分ほどでカナエは落ち着いた。

 泣きじゃくる理由が分からず、そのままだったが、落ち着いてからは一から説明をしてくれた。

 その説明を聞いていくうちに全てを思い出した。

 そうだ……俺は魘夢に遭遇した後、猗窩座との対決したんだ。

 

 命懸けで。

 カナエから話を聞いたあと、思い出したものの、全てではない。

 まだ少しだけ思い出せない部分がある。

 

 それは魘夢の戦闘の記憶。

 少し格好つけたりしたのは覚えてるんだけど、何故か他のことを思い出せない。

 

 俺は何か夢を見せられたと思ったんだけど……なんだっけ?

 

 人は精神に異常をきたす出来事があると精神を守るために、記憶障害が発生することがあると聞いたことあるけどもしかしてそれだろうか?

 

 まぁ、覚えていないことは気にしなくていいか。

 今はカナエとの会話に集中した方がいい。

 

「……なんで無理をしたのですか?」

 

 全てを語り終えたカナエから一番に出てきた言葉。

 

「……乗客を守るため……。大切な後輩を守るため……任務を達成するため。……このどれかに該当すると思う」

 

 原作のため。炭治郎たちには死なれたらまずい……君に悲しい顔をして欲しくなかった。それが理由だ。

 

「死ぬかもしれなかったんですよ?」

「カナエに心配をかけて申し訳ないと思ってる…それでも……どうしても守り抜きたかったんだ。……死なせたくなかった」

 

 炭治郎たちは直接関わった期間は短い。

 だが、かけがえのない存在になりつつある。失うのはどうしても嫌だった。

 

「私が悲しんでもよかったんですか?」

「それは違う!……ヴ……ケホッ…ケホ」

 

 違う。そんなことはない。

 すぐ否定しようとするも、咳き込んでしまう。大声をだそうにも何故かうまく声を出せないし、肺が痛い。

 

「どうぞ」

「……これは?」

「痛み止めです」

「……ありがとう」

 

 カナエに薬の入った瓶を渡されたので、飲む。

 ああ、痛みが引いてきた。

 これなら話せそうだ。

 

「……君に悲しい顔をさせたくなかった。……君は人が死ぬ時とても悲しい顔をする。それは初めて出会った最終選抜の時もそうだった。一緒に最終選別を受けた者の死体を見るだけで悲しい顔をしていた。……鬼の戦闘で弱り、病室で息を引き取った人の時もそうだ。……それは関わりを持った時間が長ければ長いほど悲しい顔をする」

 

 そう。原作を抜きにしても俺が後輩を守った一番の理由はやっぱりカナエだ。

 

「……あなたが死んでしまうことは考えなかったのですか?私にとってあなたは世界で最も大切な人なのですよ?それを理解してますか?あなたなら炭治郎くんたちを置き去りにして逃げる事はできたはずですよ」

 

 何かを試すような……真剣な表情で質問をしてくるカナエ。

 逃げる選択肢はあった。でも、その選択は戦闘が始まった時点で省いていた。

 

「ごめん……それは考えが浅慮だったのかもしれない。だけど、俺は死ぬつもりはなかった。……信用してもらえないかもしれないけど」

 

 カナエは黙って聞く。

 でも、カナエに心配をかけてしまうのは申し訳ないと思う……でも。

 

「たしかに見捨てれば怪我もせず逃げられたかもしれない……でも、俺はどうしても守り抜きたいと思った。無限列車に乗っていた乗客には待っている家族や知人がいるはずだ。その人たちに悲しい顔はさせたくなかった。人が死ぬ事はとても悲しいからね」

 

 全てを守り抜こうとしたわけじゃない。カナエのために炭治郎たちは死なせたくない。だから……。

 

「目の前で救えるかもしれない命がある。………俺はそう思うと居ても立っても居られなかった」

 

 少し大袈裟に言っているが、これは俺の本音だ。猗窩座をどうにかしなければどれだけの被害が出ていたか。

 

「………これ以上獪岳さんに何を言っても無駄みたいですね」

「カナエ?」

 

 一人納得したようだが、わからない。

 今の説明で文句を言われると思っていたのだが。

 

「獪岳さんは頑固ですからね。もうこれ以上は言いません。ただ、ひとつだけ約束してください」

「……何?」

「……どんなことがあっても死なないでください」

 

 もちろん死ぬつもりはない。

 

「わかった。……約束するよ」

「もしも約束破ったら私も後を追いますから」

「……それは、責任重大だな」

 

 おそらく今のは本気だ。

 なら俺も一言だけ。

 

「なら、俺もカナエが死んだら後を追うから」

「え?私もなのですか?」

 

 虚をつかれた様に驚くカナエ。

 当たり前だ。

 

「そう……約束だ」

「……わかりました」

 

 これから今回のとは比べ物にならないくらい戦闘は激化する。

 

 この約束は難しいかもしれない。それでも、俺はこの約束だけは守りきってみせる。

 

 そう決意を改めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃーこの話はもう終わりです!」

 

 手をパンッと叩き、今の雰囲気を断ち切る。

 

「実はもう一つ詳しく聞きたいことがあるんです。……むしろこっちの方が大切かもしれません」

「何かな……あれ?なんで日輪刀持つの?」

 

 あれ?本当になんで……冗談?……冗談にしてはタチが悪い。

 え?……目のハイライトが休業中。

 

 ……あれ?なんか急に頭痛が

 

 何かこの光景……最近見たことある様な。

 

「これは炭治郎くんたちと下弦の壱に協力していた被害者の方から聞いたのですが………獪岳さんと同じ夢を見た人たちから興味深いお話を聞きまして」

「…………え?」

 

 目の前の光景を見て、脳が揺られるようにどんどん記憶が流れ込んでくる。

 

 ……夢?ゆめ?ユメ………。

 

 ……俺は全てを思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 約束守れないかも……。

 



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お願いだ………これ以上は聞かないで

『そんな獪岳さんなんて  い  ら  な  い』

 

 脳を揺らされるような痛みで夢の中で自決する直後の記憶が蘇る。

 あ、俺今日死ぬかも。

 

「どうしたのですか?顔色……悪いですよ?」

「ひぇ!……」

 

 待て待て待て待て待て待て!

 俺にどうしろと!

 あれの弁解なんて無理がある。

 

 だって、子作りとか、他の人と結婚だとか……なんて言おう。

 あ、もう終わった。

 死なかもしれない。

 

「随分と綺麗な女性と暮らしていたそうですね。それと子供も……」

 

 ……あれ?何か微妙にニュアンスが違う。

 久子と沙代の件だろうか?

 

「下弦の壱の見せた夢は本人の無意識下での幸せや空間。……なのに何故か見知らぬ女性と結婚して暮らし……子供まで作っていたのですか?」

 

 ……あれ?何か微妙に俺の見た夢とはずれている。

 子供を作っていた?

 いや、夢ではそういった行為はしていない。

 子供……子供……子供……沙代のことか!

 

 ……もしかして、カナエの聞いた話って俺の夢に入り込んでいた人が見た光景か?

 俺と久子が出かける前の三人の会話している光景を見られたのだろうか?

 

「……何も言ってくれないのですね」

「まって!絶対誤解してる!」

 

 お願いだから、日輪刀を振りかぶるのはやめてほしい。

 待て!まだ弁解できるかもしれない。

 

「カナエが言ってるのは久子と沙代のことだ!二人はただの悲鳴嶼さんと一緒に寺で育った兄弟であってカナエが想像している事は一切ない!」

「久子……沙代?そういえばどこかのお寺だったと言っていたような」

 

 聞き覚えがある名前に一瞬殺気が薄れる。

 お……これはいけるかも。

 このまま……いけるか?

 

「俺が見た夢は寺の人たちと穏やかに生活する。それが俺が見た光景。今の生活の方が大切だけど……貧しいながらも平和に悲鳴嶼さんたちと過ごしたかったなと心のどこかで思っていたのかもしれない。だから、カナエが思っている事は何もない!」

 

 俺は早口になるも全てを説明した。

 これでダメならマジでやばい。

 死ぬかもしれない。

 

「……そうだったのですか」

 

 ……あれ?殺気がなくなった?気のせいじゃなければハイライトも戻ってるような。

 

「聞いていた話と一致していましたし、私の勘違いなのですか」

「そう。俺が見た夢は寺の人たちと過ごしていた夢、それと久子と買い物を行ったってだけ。でも、そのあとすぐにカナエが現れたんだ。それでその場で自決して現実に戻ったんだ」

 

 ふぅ……これでどうにかなった。

 

「なるほど。日輪刀を持った怒っている私が」

「そうそう………あれ?」

「そうでしたか……それで自決を……うふふふふ」

 

 あ……やべ。

 

「いや、そうじゃなくてね……カナエが現れた時、昼間から夜に変わったんだ。それで夢ってことがわかった。……だから……どうすれば抜け出せるか考えて自決をしたんだ」

「うふふふ……」

 

 ………本当に終わった。

 もしかして一言余計だったかもしれない。

 

「誰のものかを一度……教えなきゃダメみたいですね」

「な……何をするおつもりで?」

 

 カナエは日輪刀を置き、動けない俺に近づいてくる。

 

 そして、顔を俺の首元に近づけてきてきた。

 

 

 

 

 

 

 かぷり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、首にある跡はどうしたんですか?」

「なんだ?犬にでも噛まれたか?」

 

 次の日、俺の意識が戻りその連絡を受けた炭治郎と伊之助が見舞いに来てくれた。善逸は今別任務に行っているそうできていない。

 そして、そう質問される。

 

「ああ、気にしないでくれ……そしてもう聞かないでくれ」

「……わかりました」

「なんでだよ!教えろよ!」

 

 お願いだ………これ以上何も聞かないでくれ。

 



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天元……許すまじ

先に謝罪すると、次の遊郭編まで日常パートで物語の進みは遅くなります。

また、伊之助の名前間違い変えました。
ガイコツとなってます。


 カナエに噛まれてからは特に何もない平和な日常を過ごした。

 俺の怪我は重症であったが、あと一週間安静にしていれば、身動きは取れるようになるらしく、素直に療養をしている。

 

 さて、今日だが、2人柱から俺宛に手紙が来た。

 内容は見舞いに行って平気かどうかの確認。

 俺は二つ返事でOKをだした。

 時間をズラしてくるらしい。

 

「随分とハデなことしてんじゃねぇか!俺より目立ってんじゃねぇよ!」

 

 今日は順番で見舞いに来てくれるようだ。

 一人目は派手が大好き音柱、宇髄天元。

 

「お前がこんな様になるとはねぇ」

 

 開口一番で俺への賞賛らしきものからそのあと心配をしてくれた。

 

「お!そうだこれ見舞いだ!俺様が派手に選んで来てやったぜ!最高級の酒だ!心から感謝して飲め!」

「いや、今飲めねぇよ。療養中……わかる?」

 

 わかってんのかよこのやろう。

 まぁ、いい。

 

「んだよ地味につまんねぇな」

「病人をなんだと思ってんだよ」

「まぁ、いい。この俺様が見舞いに来てやっただけでもありがたく思え」

「……はいはい。ありがとう」

 

 天元は言葉は間に受けず流すに限る。

 これがこの四年で学んだことだ。

 あれ?そういえば今日天元の妻来てないのか?

 

「今日すまさんたちは来てないのか?」

「ああ?なんだ?俺だけじゃ不満なのか?」

「いやいや、蝶屋敷に来る時いつも一緒に来てたから、来てるのかと思って」

「ああ、そういうことか。残念だが、今嫁たちは任務中だ」

 

 任務中?

 ……ああ、そういえば今遊郭に潜入してんだっけか?

 

「別行動か……」

 

 大体任務だと一緒に行動しているが。

 

「今回はお前が上弦に遭遇したっつうから忙しい中派手に心配して来てやったんじゃねぇか」

「……そうか。心配かけて悪かったな」

「まぁ、元気そうで何よりだ」

 

 天元は見舞いに来てくれた経緯を話しそれで……と前置きをして話始める。

 

「……どうだったよ……上弦は」

 

 ……上弦かぁ……そりゃ。

 

「……強かったさ。少なくとも現時点で柱一人じゃ相手するのは難しいと思う」

「俺でもか?」

「難しいかもな。……初めから手の内を知っている状態で、俺が得意な地の利を活かせる環境であったのに……それでも勝てなかった。……俺が藤の毒と不死川の稀血を打ち込んで弱らせ、その隙を不死川がついてやっと首を斬れたくらいだ」

「……そうか。それほどまでに上弦は強いのか」

 

 それほどまでに上弦は強い。

 原作でも一人で対処して倒したのはいなかった。

 

 まぁ、善逸が上弦の六となった獪岳を倒してはいたが、それはなったばかりだからと愈史郎も言っていた。

 

 俺が関わり原作よりも強くなっている柱でも一人では難しい。それが俺の見解だ。

 

「なるほどな。地味に参考になった……だが!この祭りの神である俺様は派手に一人で対処してやるがな!」

 

 ……さっきの雰囲気はどこいったよ。ま、本当にその前向きさは羨ましいな。

 

「おーそりゃ頼もしいな」

 

 俺が今言えるのはその一言。

 天元のことだ。

 どうせ訓練の量を増やしたりするのだろうな。

 天元は努力家。鍛錬も基本一人でしている。

 

「あ!そうだ。地味に忘れるところだったぜ!」

「どうした?」

 

 何か忘れ物か?

 

「忘れたとは言わせねぇぜ。俺様の命令に一つ従うと約束したじゃねぇか?上弦との戦闘で頭イカれたか?」

「覚えとるわ!てか、微妙に意味合いが違うし」

「どこも間違ってねぇよ。俺が法だ」

 

 どこの敵役だよそのセリフ。

 

「まぁいいか……で、何を命令する気だ?」

 

 まぁ、心当たりはある。

 

「今俺達が調査している任務を派手に手伝え!」

 

 ……ああ、やっぱり。

 天元は話は続ける。

 

「獪岳……これにはお前も地味に関わっていることだぜ?……なんせ現地に行ったことがあるんだからな」

 

 ……あれ?何か不穏な言葉が聞こえたんだけど。

 キノセイカナ?

 俺、行ったことあるけど、店には入ってないしバレることはないだろう。

 

「……なんのことだ?」

「シラを切っても無駄だぜ?調べはついてる」

 

 落ち着こう。

 ……微妙に会話が成り立ってないだけかもしれない。

 念のため確認を。

 

「それで……場所は?」

 

 ふぅ……落ち着け。

 天元はフッと笑い話し始める。

 

「男と女の見栄と欲……愛憎渦巻く夜の街、吉原遊郭だ!」

 

 カラン!

 

 それは天元の背後から聞こえてきた。

 

「え?……ア……アオイさん?……いや……これは違くて……。多分勘違いを……「カナエ様!大変ですカナエ様!」待って!ちょっと待って!」

 

 やばい。体が動かない。鬼が来る。

 

「じゃ、要件言ったし俺は帰るぜ。嫁たちの調査が一区切りついたらまた誘いにくる」

「おい!待て!」

 

 こいつだけは。

 こいつだけは死守せねば!

 

「んだよ?俺は派手に忙しいんだが?」

「ふざけんな!お前には人の心がないのか!人でなし!エセ神!派手やろう!卑怯者!」

 

 プチ!

 

 あれ?天元から額に血管が浮き出た?

 

「地味に冗談だったんだけどな……達者でな」

「ごめん!謝るから!頼む!まってぇぇぇぇぇ!」

 

 天元は瞬く間にその場を後にした。

 

 あ……終わった。

 

 ドスン…ドスン…ドスンと廊下からの足跡が近づいてくる。

 

「獪岳さん?」

 

 今のカナエを一言で言うならば、般若のようだったと言っておこう。

 

 

 その後、誤解を解くのに二時間ほどかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで……禰豆子ちゃんの件の交換条件の任務の依頼について話していたんですね」

「そ……そうです」

「なるほど。その件はわかりました」

 

 ……うん?今その件って言った?

 あれ?納得したはずでは?

 

「では、宇髄さんから聞いたのですが、一度遊郭に行ったことがあるとは……どう言うことですか?」

 

 ………………おわた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「天元……許すまじ」

 



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まずは文通から

「大丈夫なのか獪岳……やつれているようだが」

「いえ、大丈夫です悲鳴嶼さん」

 

 本日二人目の見舞い。岩柱悲鳴嶼行冥さん。俺の恩人。

 原作最強キャラ。

 カナエとのお話が終わり、午後の3時ごろになりきてくれた。

 来てもらって本当に申し訳ない。

 

「すいません。悲鳴嶼さん。わざわざ来ていただいて」

「気にすることはない。獪岳……お前は俺にとっては息子同然なのだ」

「……悲鳴嶼さん」

 

 嬉しすぎて涙が止まらない。 

 尊敬する悲鳴嶼さんからこのように言ってもらえるなんてどれだけ恵まれているか。

 

「怪我の具合はどうだ?」

「はい。しっかり療養すれば復帰できます。……まぁ、時間はかかるらしいですが」

「そうか、無理はするな」

「はい」

 

 悲鳴嶼さんはそう言いながら頭を撫でてくれる。

 本当にこの人に撫でられると自然と嬉しくなる。

 お父さんって感じで嬉しい。

 そういえば、沙代たちはどうしているだろう?

 

「……沙代たちどうしてますか?」

「元気でやっている……どうした?」

「いえ……夢を見ました」

「夢?」

「はい」

 

 今回の一件を通して向き合おうと決めた。

 

「実は今回、下弦の壱の戦いの時に奴の血鬼術にかかってしまいまして」

 

 俺はゆっくりと説明をする。

 

「簡潔に言ってしまえば、本人が心から望む夢を見させる能力でした」

「心から望む内容か。それで……どういった夢だったんだ?」

 

 俺は悲鳴嶼さんに簡潔に伝える。

 

「寺のみんなと何も起きず過ごしていたら……そういった内容の夢でした。一番末っ子だった沙代が成長して大きくなっていて、俺も寺のみんなのために働いていて……貧しいながらも助け合って生きている……そのような内容でした」

「そうか……みんなと過ごした夢を」

 

 悲鳴嶼さんは相槌をしながら俺の話を聞いてくれる。

 それからしばらくして、質問がきた。

 

「獪岳……お前はどうしたい?」

「どうしたいって?」

「何故お前はその夢のことを俺に話したんだ?何か思うことがあったから話したのではないのか?」

 

 そう、今回悲鳴嶼さんに話した理由は。

 

「一度寺のみんなと……話をしてみたいと思いました。……ここ数年何回も悲鳴嶼さんに声をかけてもらいましたが。それでも、会うのが怖くて……断っていましたが、夢で実際に見て……このままではいけないと思いました」

「……そうか」

 

 急にいなくなったこと。

 どうしても、獪岳として過ごしていた時、ひどいことをしてしまったと記憶がある。食べ物を一人で隠し食いしたり……。

 

 生き延びることで必死になっていてそのようなことをした。

 そのことの謝罪と急に居なくなって心配をかけたこと。

 彼らはあまり心配をしていないかもしれない。

 でも、迷惑をかけたことは変わらない。

 

 だから、一度話をしたいと思った。

 でも、年月が経過するにつれて会うのが怖くなってしまった。

 

 

「あの子たちはお前を責めてはいない」

「え?」

 

 ……俺の内心に確証をつくような一言。

 本当にこの人には敵わない。

 

「だが、まだ会い辛いだろう。お前のこの四年の態度を見る限り」

「えぇ……まぁ」

 

 すると、悲鳴嶼は懐から一通の手紙取り出し俺に手渡してくる。

 

「みんなは今回の件でお前の心配をしていた。これはあの子たちからの手紙だ」

「……え?」

 

 俺は戸惑う。

 俺の反応を見てか、悲鳴嶼さんは微笑みながら提案してくれた。

 

「時間はまだある。時間がかかってもいい。少しずつ距離を詰めていくといい」

 

 まずは文通から。

 悲鳴嶼さんの優しさ。その提案に俺は涙を流した。

 

 



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カナヲの変化

「今日は大変だったなぁ」

 

 今日は天元と悲鳴嶼さんが見舞いに来てくれた。

 療養の中で怪我は順調に治っている。ただ、今日あったことが濃すぎてどっと疲れがきた。

 

 天元の裏切りからのカナエの説得。

 それだけで精神的に疲れた。

 

 まぁ、色々と疲れたものの、収穫はあった。

 まずは遊郭編が原作通りに進んでいること、沙代たちと関係改善に一歩前進したこと。

 

 二つ目については少し不謹慎だけど下弦の壱に感謝している部分もある。

 あの夢を見たのがきっかけで、俺は自分が本当はどう思っていたのかを知れ、一度話してみようと思えた。

 

「結果はどうあれ……無事終わったからいいかなぁ」

 

 俺は夕焼けが映る外を見る。

 一般人からしたら1日の終わり……鬼殺隊からしたら始まりを意味する。

 

 そういえば、俺もここ数年仕事のことを気にしないで休めるのも久しぶりだ。

 

 療養という形なので素直に喜べないが。

 それにしても。

 

「腹減った」

 

 今日色々あって昼を抜いたんだ。

 病人なんだから、しっかりと栄養を取れるものを食べなきゃいけないのだが、一騒動あったせいで食べるの忘れてた。

 

 自分で用意しようにも体が思うように動かせない。

 

 ……怪我人は不自由だなぁ。

 

「うん?……なんかいい匂いが」

 

 病室の入り口から何が良い匂いした。

 こっちに向かってくる気配が一つと少し離れた位置に2つか。

 

「……え?」

 

 俺は戸惑う。そこにいた人物の表情に。

 

「カナヲ?」

 

 両手にトレイをもち、食事を持ってきてくれたその人物はいつもの無表情ではなく、顔を赤らめていて、どこか心配そうな表情をしていた。

 

 ……何かあったのだろうか?

 

「えっと……夜ご飯持ってきてくれたの?」

「……い、いえ……その」

 

 カナヲはソワソワしながら話そうとする。

 ここで一番いい対応の仕方は。

 

「とりあえずこっちきて。ゆっくりでいいから」

「は、はい」

 

 カナヲはハッとしたのか、早歩きで俺に近づき立ち止まる。

 

「深呼吸して……。別に慌てることはないからゆっくり自分のペースで話しな」

 

 カナヲはゆっくり深呼吸をする。

 それから1分ほど経ち話し始める。

 

「これ……どうぞ」

「えっと……アオイさんからかな?」

「い……いえ、違くて……その……」

 

 だいぶ緊張している。

 いつもなら定例文のようにつらつらと命令に従い、それ以外は硬貨を投げて行動を決めていたカナヲ。

 

「これ…………作ってみたの。よければ」

 

 ……これには驚いた。

 彼女が自発的に何かをやろうとするなんて。

 

「その……獪岳にいさんが心配で……何かできないかと思って」

 

 いけない。

 驚いていたせいで黙ってしまった。そのせいで慌ててカナヲは理由を話した。

 

「……いや、ごめん。少し驚いちゃって」

「いけなかった?」

「そんなことないさ。嬉しいよ」

 

 俺は胸の内側が温かくなるのを感じる。

 カナヲは前進した。

 

「カナヲは変わったね。もちろんいい方向に……何かきっかけがあったのかな?」

「それは……」

 

 少しあたふたしている。

 今、炭治郎がきっかけで変化の予兆が出てきている。

 おそらく今自分の抱いている感情までは理解していないだろう。

 

 今思ってみれば今まで少し茶化しても何も反応を見せなかった。

 カナエはカナヲにコインを渡す時、言っていたっけ。

 きっかけさえ有れば人は花開くから大丈夫と。好きな男の子でもできたらカナヲは変わると。

 

「……好きな男の子でもできた?」

「え?」

「危な!」

 

 カナヲは俺の言葉に反応して持っていたトレイを落としてしまう。

 俺は落ちる前に腕を伸ばして間一髪でそれを受け止める。

 ……この動揺はマジだな。

 

「あの……えと」

「………あ、まってどこに……行ってしまった」

 

 少し茶化しても過ぎたか?

 カナヲは顔を赤らめて走り去ってしまった。

 

 まだ、芽生え始めた感情に整理ができていない状態。

 

 後で謝っておこう。

 

「……少し塩の入れすぎかなぁ」

 

 俺はカナヲが作ってくれたお粥を食べる。

 作りはシンプルでお粥に卵が解いてあるもの。

 ただ少ししょっぱかった。

 もしかして、一人で作ったのかな?

 

 俺はゆっくりと食べ始めた。

 

「今、カナヲが顔を真っ赤にして走っていくのを見かけましたが、何か言ったのですか?」

「獪岳さんが余計なことを言ったのではないですか?」

 

 食べ始めて少し時間が経った後、カナエとアオイさんが病室に入ってきた。

 

「カナエとアオイさん……どうした?もしかして入る機会見計ってた?」

「はい。だってカナヲが一人で厨房で何かやっていたので」

「少し気になってしまって」

 

 カナエ、アオイさんが理由を話す。

 やっぱりか。

 そのあと、二人から何を言ったのかを問い詰められ正直に話すと、

 

「獪岳さん、カナヲは今変わっている最中なんですよ。言葉は選んでくださいね。恋する乙女は純粋なのですから」

 

 

 カナエに一言言われた。

 

 

 

 

 

 



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目が怖い

 カナヲが作ってくれた夕食を食べて日が沈み、鬼殺隊の活動時間となった。

 しのぶは柱としての巡回のため、仕事に出ている。

 俺は何もすることがないので一人病室で過ごしていた。

 

「そろそろか」

 

 俺は今日最後の見舞いに来る人を待っていた。

 その知らせは夕食が食べ終えた直後にきた。

 どうしても話しておきたいことがあるので少し時間を作ってほしいと頼まれたのだ。

 その人物というのが。

 

「夜分遅くに申し訳ありません」

「大丈夫ですよ。珠世さん、愈史郎」

 

 蝶屋敷の医療や血鬼術などで鬼殺隊を支えてくれている鬼。

 珠世さんと愈史郎だ。

 

「大丈夫ですよ。……ちょうど俺も聞きたいことがあったので」

「わかりました」

 

 二人は俺のベッドの近くに座り、話し始める。

 

「先日の件……ご無事でよかったです」

「ありがとうございます。……正直運が良かっただけですよ」

「謙遜することはないぞ。同じ日に十ニ鬼月2体……しかも上弦と遭遇したんだ。運だけじゃ生き残れないだろ」

 

 遠回しに心配と称賛をしてくれる愈史郎。

 初対面だとカナエに嘘を言われてひどい目にあったが、それから数ヶ月共に過ごし、俺を認めてくれたのか、あまり警戒はされていない。

 

「どうもご心配をおかけしました」

 

 とりあえず社交辞令でそう言う。

 

「細かい内容は省くとして……本題に入りましょうか」

「わかりました」

 

 本題というのは鬼の毒について。そして、採取した鬼2体の血について。

 

「今回の戦闘で試せた二種類の毒……これは効き目はありました。痺れ毒は下弦の壱にも通用し多少動きを止めることができました」

「そうですか……まだ改良は必要ですが、その成果を試せたのは私たちとしても良かったと思います」

「もう一つの鬼を殺す毒についてですが」

 

 一つは成果が出たが、次のはダメだ。

 

「次に鬼を殺す毒についてですが……残念ながら上弦は殺せませんでした」

「そうですか……上弦には」

 

 だが、珠世さんはガッカリしていなかった。やっぱりそうだったか。元から予想していなようだ。

 

「量の問題もあったかもしれません。俺の日輪刀に仕込んでいた少量であったし、稀血も混ざっていた。もしかしたらそれが原因であった可能性も」

「その可能性はないと思います。一応、不死川さんの血液で実験をしましたが、それが影響することはないでしょう」

「なるほど」

 

 まだ研究が必要なのか。

 そういえば耐性がつくことは大丈夫なのだろうか?

 

「一つ伺いたいですが」

「はい」

「今回使った毒について……おそらく無惨にもその情報がいっている可能性があります。……耐性がつくことは大丈夫でしょうか?」

「その心配はありません。調合を変えれば全く別のものになりますし、より強力な毒を作れば幾ら耐性がある鬼でも殺せるのでご安心を」

 

 そうか、少し気になっていたことだが、これなら大丈夫そうだ。

 

「ああ、炭治郎から採取した上弦の血は受け取りましたか?」

「はい。2日前に」

「よかった」

 

 炭治郎はしっかりと採取してくれていたらしい。

 記憶が少しあやふやだったが、安心した。

 

「今回の採取していただいた上弦の血を元に研究をしていきたいと思います」

「はい」

 

 しのぶといい珠世さんといい研究者は前向きの人が多いな。

 

「あまり長居してはご迷惑になりますね。本日は失礼させていただきます。……愈史郎行きますよ」

「……はい!」

 

 珠世さんは俺を気遣ってくれたらしい。

 話を切り上げ戻るようだ。

 

 ただ、愈史郎は珠世様素敵と思っていたのか、反応が遅れ返事した。

 二人は立ち上がり病室を出ようとして……珠世さんが立ち止まり俺を見てくる。

 

「獪岳さん」

「なんでしょうか?」

「次はご期待ください」

「あ……はい」

 

 

 

 

 

 

 この時の珠世さんの目はマジだったとだけいっておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最後まで読んでくださりありがとうございます。



https://syosetu.org/novel/302139/

ドラゴンボール、ラディッツ憑依もの投稿してみました。
興味がある方はよろしければ。


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久々の休日

投稿再開です。


 猗窩座との一件から4ヶ月が経過した。

 

 怪我は2ヶ月で完治した。俺が言うのもなんだがよくもまぁこんなに早く完治したもんだと思った。

 

 作戦とはいえお腹には風穴が空き、左足は粉砕骨折、肋骨も半分は折れていた。

 

 今思い返すと無茶な戦法であったが結果よければ全てよし。

 

 平和に過ごした4ヶ月であったが何もなかったのか、そう問われればカナエが本格的にかまぼこ隊の3人と訓練を始めたこと。お館様から呼び出しがあったことだろう。

 

 前者は俺が気を失っている時に約束をしたらしい。後者に関しては、ざっくりいえばお礼を言われ、褒美をくれるという内容。

 

 俺は特に欲しいものもないが、天元からお願いされている件に備えたいので修行のためしばらく休暇が欲しいと言った。

 少し渋るかと思ったが、お館様は二つ返事で許可を出してくれた。

 

 よっぽど猗窩座を討伐したことが嬉しかったらしい。

 

 死にかけたが頑張った甲斐があった。

 

「こうやってゆっくりするの……久々ですね」

「ああ」

 

 時刻は正午。蝶屋敷にてカナエとお茶を飲みくつろいでいる。今日、蝶屋敷は俺とカナエの二人だけ。

 

 カナヲとかまぼこ隊は皆仕事に行っており、ほかの蝶屋敷の住民は買い物に出掛けている。

 珠世さんと愈史郎は日が出ているので部屋にこもっていて実質俺とカナエだけ。

 

 この意図して作られたような静かな日常……だが、これでいい。

 

「……いつか……こんな日が毎日続くようになって欲しいです」

「まぁな。……だけど、鬼がいる限りは無理そうだな。俺もこの休暇終われば仕事に駆り出されるし」

「……お館様の提案、承諾していれば仕事に出ることは無くなったのでは?」

「いや……まぁ……そうなんだけど」

 

 お館様に呼ばれた時、一つの提案をされた。

 俺も妻を持つ身。お館様は猗窩座の件を気にしていた。

 それで前線から退き、育手にならないかと提案をされたことがあった。理由はわからないが、カナエを心配したことと俺が達成した功績から言ったのかもしれない。

 

 その提案に賛成したかったが、お断りした。確かに前線を退けば安全に幸せな時を暮らせる。だが、俺が抜けたらその穴は誰にも埋められない。

 簡単に柱は動かせない。十二鬼月の存在が確認されてやっと出動する。

 少し危険なだけでもだめなのだ。

 

 だから少しでも怪しい、危険性がある任務は全て俺に振られ、対処又は情報を仕入れる流れになる。

 その調査の結果により必要な人員をお館様の指示で出動をさせる。

 

 この流れのお陰で最近では殉職率は下がり、隊士の質も上がりつつある。

 もしも俺が辞めてしまっては逆効果。

 

「冗談ですよ。私も辞めてとは言いません」

「……すまん」

「謝らないでいいですよ。わかってますから。ただ、あの時した約束は忘れないでくださいね」

「……わかってるよ」

 

 俺が死んだらカナエも死ぬ。

 4ヶ月前にした約束だが、俺が死んだら本当にカナエは死ぬつもりだろう。

 

「俺は絶対生き延びる」

「わかっているならいいです……それに」

「それに?」

 

 カナエは続けて言葉を話す。

 

「前回は私は何も出来ませんでした。……次は力になります」

「……できたら前線には行かないで欲しいんだけど」

 

 カナエは訓練を始め、現役に近づいている。この時期に柱クラスの復活。それは嬉しいのだが、俺的にはやめて欲しいわけで。

 複雑だ。

 だが、俺もカナエの意志に逆らっているわけで。

 

「好きにしてくれ……現役復帰はしないでよ」

「分かっています。あくまでも獪岳さんのピンチに向かうだけですから」

「なら……いいのか?」

 

 妥協という形にだが……いいのか?

 

「良いんですよ」

 

 カナエは俺に微笑みそう言った。

 心配をかけ続けるだろう。これから上弦の陸と対決する。

 今回は天元もいるしどうにかなりそうだ。

 俺とカナエは二人でゆっくり過ごしたのだった。

 

 

 

 

 

 




最後まで読んでくださりありがとうございました。


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いざ出陣?

 

 次の日、天元が深刻な顔して蝶屋敷に来た。

 

「獪岳、状況が一変した。派手に力を借りるぜ」

「了解した」

 

 ついに来たか。俺は出発の準備をし天元を待たせてある蝶屋敷の門へ向かう。

 

「状況は?」

「嫁たちの定期連絡が途絶えた」

「……そうか。……やはりお前の言っていた十二鬼月の可能性が高いか?」

「おそらくな。……俺の嫁たちは腕のたつクノイチだ。……単なる鬼に地味に遅れを取るとは思えん」

 

 ま、こっちは原作で知っているからこれ以上の詮索はしまい。

 相手は厄介だ。このまま俺と天元で行ってもいいが、対処は難しい。

 

「それで……向かうのは俺とお前か?相手が十二鬼月なら人数を増やすべきでは?」

「必要ねぇ……と言いたいところだが、場所が場所だからな……女の隊員がいる」

「……心当たりあるのか?」

「ここにいるだろ?」

 

 ……まさかこいつ。任務だからってカナエを。

 

「カナエのことか?……殺すぞ?」

「ちげーよバカ!」

「一つ言っておくが、蝶屋敷にいる者たちを連れて行くのは許さないぞ」

「……チッ……ならどうすんだよ!人員足りねーぞ!」

「いや……ふ……来たか」

「なんだよ急に」

 

 やっと来たか。

 仕事帰りの日程的にちょうど良いって思ってたんだ。

 

「男だが腕が立つ隊士だ……俺の教え子だ」

「は?お前継子とってたのか?柱でもないのに?」

 

 気配が2つ。この4ヶ月鍛錬を重ね実力を上げた人物たち。

 

「出てこい二人とも」

「あーなんか地味に俺たちの様子を見てたやつか」

 

 すると、門の入り口の影からかまぼこ隊の2人が出てきた。

 

「……なんでしょう?」

「何?……嫌な予感しかしないんだけど」

 

 炭治郎、善逸が登場した。

 二人は俺と天元が門前で話していたから待ってたのかな?

 

「竈門炭治郎じゃねぇか……もう一人は」

「俺の弟弟子だ……実力は保証する」

「ふーん」

 

 天元は見定めるように二人を見た。……うん、どうやら合格のようだ。

 

「炭治郎、善逸。至急手伝ってもらいたい任務がある」

「わかりました!」

「え?!絶対に嫌だ!この人柱なんでしょ!絶対危険じゃん!」

 

 炭治郎は二つ返事で、善逸は拒否した。

 読み通りだ。善逸の説得は簡単だ。俺はゆっくりと善逸に近づく。

 

「な……なんだよ」

「善逸、今回の任務の場所は遊郭だ」

「な?!」

「ゆうか……く?」

 

 善逸は驚き炭治郎は首を傾げる。

 うん、予想通りだ。……あれ?どうしたんだ?善逸はプルプルと震え出した。

 

「獪岳……お前…お前ってやつは」

「どうした善逸?……大丈夫か?」

「カナエさんというものがいるのにも飽き足らず浮気する気か!」

「ちげーよ!」

 

 なんでそういう発想になるんだよ。

 

「一人いれば十分だろ!遊郭でお気に入りをお持ち帰りするとは最低だ!」

「いや!だから任務だって言ってーー」

「どうしたんですか?うふふふふ」

 

 ……あれ?幻聴かなぁ。背後から冷めた声が。

 俺がゆっくりと後ろを振り向くと……そこにはハイライトが消えているカナエがいた。

 やばい……いや、大丈夫だ。俺が遊郭に行くのは事前に知っている。

 堂々としていよう。

 

「よ!カナエ。ごめんね騒がしくしてしまって。今天元と例の任務に行くところなんだ」

「任務……ですか」

「そそ」

「新しい嫁探しが任務かよ……け!」

 

 善逸のやろう。

 

「お前は余計なことを言うな!」

「イタ!なんで叩くの!ひどい!」

「お前は黙ってろ!」

「獪岳さん?」

「ひぁい!」

 

 カナエがゆっくりと俺に近づいてくる。

 ……あれ?知ってるはずだよね?話たよね、4ヶ月前くらいに。

 

「どこへ……行くつもりなのですか?」

「ほら、この前言ってた遊郭!」

「あ……そういうことですか。すいません勘違いしてしまって。……私は用意がありますので外しますね。あとあまり大声で話すのはやめてくださいね」

「気をつけるよ」

 

 ……ほ。よかった。カナエは振り返り屋敷に入って行った。

 

「え?……もしかして浮気公認なの?」

「だからちげーよ。初めから話通してあんの。言ってるだろ任務だって」

 

 もうキリがないわ。

 善逸が変な勘違いをしたが、予め用意しておいた誘いの言葉をかけよう。

 

「とりあえず、炭治郎は手伝ってくれるってことでいいんだよな?」

「はい。もちろんです」

「そうか……善逸は損したな。ま、いいや。天元、すまないが手伝えるのは俺含め3人だけだ。女の隊員ではないが、腕は立つ」

「はぁ……ま、いいだろう」

「ちょっと待って!」

 

 天元に確認していると急に善逸が割って入ってくる。……本当にこいつは扱いやすい。

 

「俺何に損するの!仲間はずれにしないでよ!」

「別に仲間はずれにはしてないけど……理由は単純だ」

 

 俺は魔法の言葉を話す。

 

「遊郭には鬼が潜んでいるが美女が星の数ほどいる。鬼との戦闘でもしかしたらお前を好きになるやつが現れるかもしれないじゃないか」

「え……えぇでも、そんな……簡単には」

 

 お。揺れてる。後もう一息。

 

「この世には吊り橋効果というものがある。強い男は……モテるぞ」

「本当に」

「ああ。俺を信じろ。騙されたと思ってきてみろ?」

「是非参加させていただきます!」

 

 うん。これでいい。

 

「詐欺師かよてめぇ」

「獪岳さん……」

 

 何か言ったか天元?よく聞こえねぇわ。それと炭治郎、何故俺を呆れた目で見ているのかな?

 

 とにかくこれで戦力は十分。後は伊之助を待つだけ。

 

 伊之助は善逸の説得から数分後に到着。「山の王なら楽勝な任務なんだけど」と言ったら二つ返事でOKした。

 

 その時、天元と炭治郎は呆れて俺を見ていたが……うん、気のせいだ。気にしたら負けだ!

 

 

 こうしてメンバーが揃ったあと、遊郭へ出発した……が、ここで予想外のメンバーがきた。

 

「場所が場所ですから、私も行きます」

 

 ……え、なんで隊服着てるのカナエ?

 その後行かないように説得したが、断固拒否された。

 

 急遽カナエが参戦決定したのだった。

 




最後まで読んでくださりありがとうございました。


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花魁候補、なんのこと?

「花魁花魁!あそぼ、あそぼ」

「はいはい」

「花魁!」

「うん?」

「御本読んで」

「はいよ……どれにするの?」

「うんとねー」

 

 うん、ここは平和だなぁ。

 ここはときと屋。

 天元の妻の一人、須磨さんが潜入していた場所。

 俺はそこで遊女として潜入していた。もう一度言おう。

 遊女として……だ。

 

「鯉夏花魁、失礼します」

「あら、カナコちゃん」

 

 俺は鯉夏花魁から頼まれていたお茶とお菓子を持ち入室した。

 鯉夏花魁は禿の二人と遊んでいた。

 

 

 俺は化粧をし、声も女声に変えている。声変性は天元から教わった。

 

 原作ならばここには炭治郎が潜入するのだが俺がこの場にいる。

 ちなみに京極屋には炭治郎、萩本屋にはカナエが潜入中。

 

 伊之助と善逸は売れ残り、二人は天元と外から探っている。

 

 俺は事前に天元と話し合い、入るところは決めていた。足抜けや行方不明になる花魁や遊女たちの情報から決めた。

 行方不明になる人たちは身請けが決まっている人がほとんど。

 鯉夏花魁は身請け前日に襲われる。その可能性が高いと天元に話し潜入先を決めた。

 

「カナコちゃん、疲れているでしょ?少しここでやすみなさい」

「え?」

「カナコちゃんもあそぼ!」

「一緒に御本読も!」

 

 

 鯉夏花魁から提案され少し休むことにする。カナコというのは俺の遊女としての名前で雑用をやりつつ芸を磨いている。

 

 今この場には鯉夏花魁から4人分のお茶とお菓子を持ってくるように言われたからきたのだが。

 

「無理をするのは良くないわよ」

「……お気遣いありがとうございます」

「はい。よろしい」

 

 鯉夏花魁はもしかして俺に気を遣ってくれたのかな?

 別に疲れることはないけど、そういえば少しオーバーワークだったかもしれない。一日中荷物運びに掃除、洗濯、炊事……うん普通の女性はここまで重労働はできないな。こりゃ心配かけて当然か。

 

 俺はその場に座り人数分のお茶とお菓子が載っているお盆を机に置いた。

 

「どうだい?ここには慣れた?」

「はい。皆さんよくしてくださって……お陰様で」

 

 鯉夏花魁は一言で言えば心優しい。入ったばかりの新人の俺まで気を使ってくれている。

 

「ならよかったよ」

「お心遣いありがとうございます」

 

 ここにきて数日、分かったことは少ない。一応調べて分かったことは須磨さんが足抜けしたという話だけ。日記も見つかり、そこには足抜けしますと書かれていたそうだ。

 なんともまぁわかりやすい偽装工作、原作と同じだ。

 

 やはり調査して足抜けした人は大体同じような形で証拠が残っていることがわかった。

 

「ねぇねぇカナコちゃん!一緒に遊ぼうよ!」

「わっちもわっちも!」

「はい」

 

 この二人の禿たちにも随分と懐かれたものだ。これも鯉夏花魁のおかげかな?もしかして自分がいなくなった後のことも考え俺が心を許せる存在を作ってくれたのかもしれない。

 

 ……その厚意を裏切る形で返してしまうのが申し訳ないな。

 

「なら、カナコちゃんに御本読んでもらったら?」

「「うん!」」

「お願いね」

「はい」

 

 俺はこの後禿の二人の前で本を読んだ。

 もう、明日には出て行く。……本当に申し訳ない。俺は心の中で謝罪するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、俺らは集まり集めた情報の共有のため集まっていた。

 潜入していた俺、外から探りを入れていた天元、サポートに徹していた善逸の3人が集まった

 炭治郎は今、身動きが取れないらしい。おそらく……いや十中八九鬼に目をつけられている。

 

 ここ数日、調べて行くうちに原作とは違い、蕨姫花魁が鬼である可能性が高まった。外から探りを入れていた善逸が耳で聞いたらしい。

 だから炭治郎は身動きが取れないらしく、今は蕨姫花魁……堕姫を警戒しつつも待機している。

 伊之助も何かあったときに対応するため近場で待機している。

 だが、一つ気になるのは。

 

「カナエは?」

 

 ふと、集まっているメンバーが足りないことに気がつく。

 

「あー、カナエさんなら芸を磨いているよ」

「……は?」

 

 え、今善逸なんて言った?

 まだ入って数日だよな?

 

「善逸……ごめん……意味わからないんだけど」

「今や胡蝶姉は派手に吉原一の花魁候補だ」

「……まじなん?天元」

 

 マジですか?

 

「ああ、マジだ。胡蝶姉の容姿は派手に優れてるってのもあるが、地味に努力を怠らねぇ」

「いや、あいつ俺の嫁よ?……何目指してんだよ。え?他の男に何かされてへんよな?」

「おい、落ち着けよ。地味に口調おかしくなってるぞ」

「まさかカナエ……本気で花魁目指してるわけじゃないよな?……やばくね?」

「派手に男のくせに花魁候補になってるお前が言うんじゃねぇよ!」

 

 何やってんだよカナエ。

 いや、それよりも。

 

「なんだよ……その、俺が花魁候補とかって」

「善逸が外からときと屋見てる時に聞いたんだとよ。明日には鯉夏花魁が身請けが決まってんだろ。それで有力候補がお前らしい」

「……え?善逸、嘘だよな?」

 

 本当に悪い冗談だ。俺は唯頼まれたことをやってただけの……はず。あれ?今思えば周りの遊女たちに比べて熱心に指導されてるような。

 

「聞き間違いじゃないよ。俺……耳はいいし、何回も聞いてたから」

「えぇ……」

 

 マジだったわ。

 どうしよう。期待させて最後に裏切るって。

 最悪のやろうじゃん。

 

「そんな些細なこたぁ、どうでもいい。地味に時間がねぇ。早く集めた情報共有をするぞ」

「いや……わかったよ」

 

 俺は納得できないが、切り替え情報共有を開始した。

 



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さぁ、戦闘開始だ。

 天元たちと情報共有してわかったこと。

 

 雛鶴さんの居場所、蕨姫が鬼の可能性……これは確信。遊郭の地面の下に不自然な空洞がある。

 

 最後のは天元、善逸の二人が共通して同意見らしく、おそらくそこに襲われた人たちがいるかもしれないと思ったらしい。

 

 天元は雛鶴さんを早く助け出したいらしいが今助けると鬼がさらに警戒する可能性があると我慢している。

 作戦決行は鯉夏花魁の身請け前夜。その時に助け出す。

 

 作戦の流れはこうだ。

 堕姫が鯉夏花魁を攫おうとした瞬間、作戦開始。

 気になっている空洞の地面を天元が掘る。伊之助がひな鶴さんの救出を同時に行う。

 大雑把だが、シンプルな方がいい。

 

 

 原作でも柱が来ているのにも関わらず堕姫は大胆に行動をした。

 それに調査により身請けが決まっているものは必ず襲っているとわかっている。今夜が決戦だろう。

 

 俺はなるべく気配を消して鯉夏花魁を守りながら交戦をする。

 

 みんなが揃い次第、鯉夏花魁を避難させ戦闘開始。

 

 上弦の六は二体で一体だ。

 同時に首を斬らなければ倒せない。だから妓夫太郎が出てくる前に戻るのが最善だろう。

 

 それぞれの役割確認後、別れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夕方。

 俺は仕事をしながら鯉夏花魁が最後の1日を過ごすのを見ていた。

 

「花魁、お茶をお持ちしました」

「ありがとう。もう支度はいいからご飯を食べておいで」

「はーい!」

「ご飯お先でーす」

「お先でーす!」

 

 鯉夏花魁は禿の二人にそう言うと、部屋を退出した。

 その後禿の二人は襖から顔を出して。

 

「ん?」

「鯉夏花魁大好き!」

「わっちも大好き!」

 

 その二人の行動に鯉夏花魁は微笑んだ。

 

「はいはい。私も大好きよ。わかったから行きなさい!」

「「はーい」」

 

 禿の二人は笑いながら退室していった。俺はタイミングに合わせて入室した。

 

「鯉夏花魁……お話ししたいことがありまして、少しお時間よろしいですか?」

「カナコちゃん?ええ。入って」

 

 俺は鯉夏花魁に許可をもらうと入室した。鯉夏花魁に近くに座るよう促される。

 

「それで、どうかしたの?」

「……単刀直入に言います。私はときと屋を出ます」

「……え?……どうして?」

 

 戸惑う鯉夏花魁。

 俺は正直に全てを話す。

 

「実は私は最近起こっている事件の調査のため潜入していたのです」

「事件……もしかして須磨ちゃんのことを気にしていたのは」

「はい。実は須磨は私の仲間です。音信不通になってしまい、私が急遽調査のためきました。……鯉夏花魁に良くして頂いたのに……恩を仇で返すような形になってしまい申し訳ありません」

「そう……残念ね」

 

 鯉夏花魁は少し俯く。いきなりのことで考えを整理しているのだろう。それから10秒ほどたち話し始める。

 

「私ね……明日にはこの街を出て行くのよ」

「はい」

「最近物騒なことが起こって。だから残して行くみんなのことが心配だったの」

「……私はそれを解決するためにいます。……必ず解決します。私の仲間が準備を整えています。……ですので鯉夏花魁も安心してください」

「そう」

 

 必ず解決する。それは約束したい。だが、完全に被害を抑えられるかと聞かれれば俺は無理と断言できる。

 でも、少しでも被害を少なくする努力はする。

 

「本当はカナコちゃんにはときと屋をお願いしたかったんだけどね。貴方は花魁になる素質があるし、あの子たちも貴方を慕っていたから」

 

 ……俺は鯉夏花魁の言葉になんといえば良いのかわからなかった。だが、あまり長居はできない。

 

「……私はもう行きます。鯉夏花魁……お幸せに」

「ありがとうカナコちゃん。……気をつけてね」

「はい」

 

 俺はその場を後にした。

 その後俺は来ていた袴を脱ぎすて隊服になる。日輪刀を持ちその場を離れる。

 

 もうすぐ堕姫がくるはず。俺が近くに居ては警戒されて近づかないかもしれない。

 俺は近くで気配を沈めて待機する。

 

「……よかった。……現れた」

 

 ごそっと小さい物音と共に強い気配が現れ、俺は高速で鯉夏花魁の部屋へと向かう。ついたそこには周囲に帯が漂う白い肌に露出が多い女の鬼……堕姫、そして怯える鯉夏花魁。

 

「誰よあんた」

『雷の呼吸 五の型 熱界雷』

 

 俺は窓の外に向かい技を放ち堕姫を外へ飛ばす。

 

「何すんのよ!」

 

 外で堕姫は怒り殺気を飛ばしてきた。

 俺は気にせず鯉夏花魁を守るように立つ。

 

「え……貴方は……一体」

 

 ……あ、そういえば俺男って白状してねぇわ。

 なら、ここは正直に言うべき……いや、初対面ってことにしよう。

 

「俺の名は獪岳。……あいつを倒すためにきた」

「もしかしてカナコちゃんの」

「そうだ」

 

 俺は堕姫から目を離さず端的に説明する。

 

「鯉夏花魁、急で申し訳ないがここは危険だ。逃げてくれ」

「……はい」

 

 鯉夏花魁は返事し、逃げていった。

 

「逃すわけないでしょ!」

「どうかな?」

『雷の呼吸 五の呼吸 熱界雷 四連』

 

 堕姫は帯で四方向から攻撃を迎撃。帯は熱界雷の効果で弾き飛ばされ建物は破損する。

 

「……何すんのよ……?!なに!…雛鶴?……萩本屋の方も騒がしいわね」

 

 ドカンッと突然の爆発音に堕姫は驚く。……天元たちが動き始めたか。

 

「ふ、始まったか」

 

 相変わらず派手なやつだ。だが、開戦の合図は派手なくらいがちょうど良い。

 

 




最後まで読んでくださりありがとうございました。




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タイトルは「甘い話には罠がある〜俺の奇行は世界を救う」
オリジナルの短編投稿しました。文字数は二万文字弱、
興味のある方、暇つぶしによろしければお読みください。


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やはり世の中甘くない

 堕姫と対峙して気がついたことといえば猗窩座が消えた影響か、番号が1つ繰り上がっていたくらいだろう。

 だが、上弦が目の前にいるのに自然と恐怖はなかった。以前にはなかった余裕。それが目の前にいる鬼と実力差があるからか、俺も猗窩座との戦闘で成長しているからかはわからないが……。

 とりあえず今は被害を抑えつつ、避難が終わるまでどう立ち振る舞いをするかが重要だ。やはりみんなが来るまで時間を稼いだ方が良いだろうか。

 

「まさか……吉原一美しいと言われた蕨姫花魁が……鬼だったなんて……驚きましたよ」

「へぇ……あんた見る目があるわね。名前は?」

「獪岳……と申します」

「ふーん……不細工な名ね」

 

 こいつ……。だめだ。こいつを怒らせるのは良くない。何百年生きようが堕姫の精神は幼稚なままだ。その傲慢で自分勝手、自分の思い通りにならなければ癇癪を起こす。

 

 ……面倒くさいガキだな……うん。

 

「あんた美形ね。……私の質問に答えてくれたら生かしてあげなくもないわ」

「……内容によりますが?」

「あんたら何人で来たの?柱はあんただけ?額に傷があるやつは鬼狩りよね?」

「他は4人……内柱は一人」

「あはは!……何あんた!本当に答えるとか……そんなに命が欲しいの!」

「……はい」

「あんたのその潔さ……嫌いじゃないわよ。……痛くないようにすぐ殺してあげるわ」

 

 堕姫は上機嫌になりながらそう言う。

 ……鯉夏花魁の逃げる時間、天元たちが行う救出の時間は稼げたかな。正直俺の我慢も限界だ。

 

「そうか……ならせめて最後に質問させてほしい」

「なによ」

「お前……本当に上弦か?」

「……は?……あんた節穴?目を見ればわかるでしょ?」

「いや、お前……弱すぎるから」

「……」

 

 ほらやっぱりガキだよ堕姫は。すぐ機嫌が悪くなる。さて、仕掛けるか。必要ないかもだが、みんなに場所を教える意味も込めて。

 

『雷の呼吸 五の型 熱界雷 2連』

 

 ドカン。

 放った熱界雷。しかし連続で放つことなく、間をあげる。

 一撃目は堕姫を外へ飛ばすため。外へ飛んだ堕姫の先回りをし上空へ打ち上げるため二撃目を放つ。

 

「ぎゃーーー!」

 

 堕姫の悲鳴が空から聞こえた。

 俺はそれを見ながらピッタリのセリフを思いつく。

 

「ふ、汚ねぇ花火だ……爆発しないけど」

 

 それから10秒ほどして堕姫が落下し、地面に小さいクレーターを作り着地した。

 

「許さない」

 

 冷めた声。その声から堕姫の沸点が限界にきたらしい。

 それに後ろから2本の帯が背後から飛んできて、堕姫と合体する。

 

「さっきまでは全然本気じゃなかった……私を怒らせたこと……後悔させてやるわ」

 

 堕姫は自信に満ち溢れていた。

 一つ……伝えておいてやろう。

 

「無惨から聞いてないか?」

「……何をよ」

「上弦の参を倒した鬼狩りの話を」

「……雷の呼吸……黄色の鱗紋模様の羽織に刃のない刀……あんたまさか!」

 

 お、まさか俺、認識されてたとは。

 

「あの方が言っていた……あは!運がいいわ。私があんたを殺せばあの方がお喜びになるわ」

「……できるものならやってみろ」

 

 堕姫は少し冷静になり始めた。逆効果だったかもと思いつつも近づいてくる大きな気配が一つ。

 ふ、どうやら目的は達成したらしい。

 

「こいよ……上弦もどきの雑魚」

「調子に乗るんじゃないわよ!」

 

 6つの帯が迫る。だが俺は何もすることなく、帯は一瞬にして斬られた。

 

「俺を差し置いて随分と派手にやってんじゃねぇか……ええ?」

「よぉ、来たか天元……それで?…須磨さんたちは?カナエは?」

「ふ、俺様を誰だと思ってやがる?音柱宇髄天元様だぞ?全員無事救出した。今は胡蝶姉と避難誘導させてる」

「愚問だったな。忘れてくれ」

 

 そこに現れたのは心強い仲間、天元だ。

 

「柱ね?……まさかそっちから来てくれるなんて……手間が省けたわ」

「おい、まさか地味にこんな奴に手こずってたのか?」

「ちげぇよ。お前くるの待ってたんだよ。相手は上弦だぞ?」

「は?……こいつ上弦じゃねぇだろ。弱すぎだろ」

「何無視してんのよ!……え?」

 

 堕姫は不思議そうな声を出し、膝をつき、首が地面に落ちた。

 流石天元。あの一瞬で斬るとは。

 

「お前弱すぎなんだよ。俺が探っていたのはテメェじゃねぇ」

 

 これから兄の妓夫太郎が出てくるんだよな?できたら出てきた瞬間に斬るのがベスト。

 少しそう促しておくか。

 

「なぁ、天元……おかしくないか?なんでまだ体崩れてないんだ?」

「そのうち消えるんじゃねぇか?」

「どうだかな。……上弦の伍なのに弱すぎる。……下弦の壱はこいつよりも強いし、厄介だった。……天元も探っていた鬼はこいつじゃないって言ってたよな?」

「何が言いたいんだ?」

 

 さて、どういったものか。

 原作知識から知ってるって言っても逆に怪しまれる。

 ……なら。

 

「昔……俺がこの刀にする前、一つの体に首が2つある鬼と対峙したことがあってな。その時、片方の首を斬っても死ななかった」

「ほう、お前、首斬ったことあったのか。……それで?」

「茶化すな。俺も昔は実力差があれば首斬ってたんだよ。……話はそれたが、その鬼はもう一つの首を斬ってやっと体が崩れ始めた。これは予測だが、お前が探っていた鬼は別でいる。上弦の伍なのにそこまで強くないソイツ。……もしかしたら」

「ふーん、なるほどな」

 

 天元はその場で思考した。まぁ、そんな都合のいい鬼と遭遇したのは嘘だが、直接首を斬って倒したことがあるのは嘘ではない。

 とにかく理由付けができればそれでいい。

 

「えええええぇん!」

「うわ、ギャン泣きしやがったよ」

 

 やはり未だに体が崩れることがなく泣いている堕姫に呆れる天元。だが、やはり疑問に思い始めたのだろう。

 天元は真剣な顔をして俺を見る。

 

「確認だが……お前が倒した鬼は2つの首を斬る必要があったんだったな」

「……そうだ」

 

 その後泣き続ける堕姫の体に変化が現れた。

 背中から突然もう一体の鬼が現れた。

 

「はぁ!」

 

 天元はそいつが現れた瞬間、二体目の鬼の首を斬るため接近し、同時に爆音が響く。

 

 ……やったか?

 

「へぇ、やるなぁ…攻撃止めたなぁ。殺す気で斬ったけどなぁ。いーなぁお前いーなぁ」

 

 だが、首は斬られることはなく、

 

 緑髪で白い肌に身体中にシミやアザが多く痩せ細っている鬼……妓夫太郎が現れる。

 

 天元は額に切り傷があった。

 ……仕留め損なったか。

 

 やはり相手は上弦。あわよければ仕留められればと思ってたがそんなに甘くなかったか。




最後まで読んでくださりありがとうございました。


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覚悟しろ

誤字脱字報告ありがとうございます。


 妓夫太郎が現れ緊張感に包まれる。仕留め損なったのはきつい。

 

 だが、何回か大きな音が鳴ったおかげか妓夫太郎が出てくる前に避難したと思う。何人か残っているかもしれないので、本気で戦うのは無理だろう。周りに配慮しなければ。

 

 

 原作では妓夫太郎は天元と相討ちで終わった。

 天元は死ぬことはなかったが、毒に侵され片目と片腕を失い鬼殺隊引退。

 妓夫太郎は接近戦に特化しているが最も厄介なのは血鬼術だろう。

 血の刃を飛ばす、中遠距離からの攻撃もあり、その血には猛毒が含まれている。

 

「なぁ、お前たちよくもまぁ妹をいじめてくれたなぁ。可哀想に、いい大人が寄ってたかっていじめるなんて……最低だなぁ」

「お兄ちゃん!こいつら殺してよ!私の邪魔したのよ!」

「そうだなぁ、そうだなぁ。かわいい妹をいじめるなんざ許せねぇなぁ。取り立てるぜ俺はなぁ。やられた分は必ず取り立てる。死ぬ時ぐるぐる巡らせろ。俺の名は妓夫太郎だからな!」

 

 ……厄介な相手だ。

 今回は天元がいるし、もうすぐかまぼこ隊の3人も来る。

 俺と天元が妓夫太郎、堕姫をかまぼこ隊の相手をすれば勝てる。

 

 原作では勝利したがみんなボロボロになってたが、人員に余裕がある。

 今回の戦闘は天元が妓夫太郎を倒すための譜面を完成させれば勝てる。

 

「妬ましいなぁ。お前ら本当に妬ましいなぁ。肌にシミもアザも傷もない……綺麗な肌をしてやがるなぁ……相当恵まれてんだなぁ」

「まぁ、俺は派手で色男だから当然だろ。女房も3人いるからな」

「……火に油注ぐなよ……怒らせてどうする?」

「お前も綺麗な女房いるだろ?」

「お前ら女房がいるのかよ……しかも一人は3人も……本当に恵まれてんなぁ。ふざけんなよ……なぁ。許せねぇなぁ!」

 

 妓夫太郎は怒り左手で顔に傷を入れ、右手に持つ鎌から血が噴き出る。

 

『血鬼術 飛び血鎌』

 

 妓夫太郎から薄い血の斬撃が大量に飛んでくる。

 ……原作の時より多くないか?ま、別にどうでも良いが。

 

「獪岳!」

「わぁったよ!」

『雷の呼吸 伍の型 熱界雷 三連』

 

 俺は血の刃を熱界雷で相殺、そのまま空中に飛び上がる。

 

 天元は懐から特別性の火薬玉を複数個取り出し、妓夫太郎がいる方向へ投げる。

 

『雷の呼吸 伍の型 熱界雷』

 

 俺はその火薬玉目掛けて斬撃を飛ばす。

 

ドカン!

 

 妓夫太郎と堕姫がいた場所が爆発した。

 俺は着地し、様子を伺うも……爆煙が収まりため息をした。

 堕姫が妓夫太郎の上に乗り合体、爆発は帯で完全に防がれた。

 

「……チッ…一筋縄じゃいかないな」

「あの帯……厄介だな」

「ああ」

 

 簡単に勝てる。その考えを捨てた。こいつは上弦なんだ。猗窩座を倒して少し調子に乗っていた。

 

「お前ら、気にくわねぇな。今まで殺した柱たちと違う。生まれた時から特別だったんだな。選ばれた才能だなぁ。……妬ましいなぁ。一刻も早く死んでもらいてぇなぁ」

「才能?俺に才能なんてあるように見えるか?俺程度でそう見えるならテメェの人生幸せだな」

「は?」

 

 天元が妓夫太郎の言葉に返答する。それにしても俺に才能がある……柱に見えるか。こいつ節穴だわ。

 

「何百年生きていようが、こんなところに閉じこもっていりゃ、世間知らずのままでも仕方ねぇな」

「お前に何がわかる!」

 

 堕姫が反応を示すもの天元は話を続けた。

 

「わかんだよ。しらねぇだろ。この国はな、広いんだぜ?すげぇやつらがウヨウヨしてる。得体の知らねぇ奴もいる。底知れねぇ奴もいる。刀を握って二月で柱になるような奴もいる」

 

 底知れねぇって俺のことか?

 

「俺が選ばれてる?……ふざけんじゃねぇ!俺の掌からどれだけの命がこぼれ落ちたと思ってんだ」

「……天元」

 

 天元は最後の言葉を言い終えると俺を見て何かを心の中で何かを言っているようだった。……気になるし後で聞いておくか。

 

「だったらどう説明する?俺の血鎌には猛毒があるのにいつまでも死なないじゃないか!」

「俺は忍びの家系なんだよ。毒なんて耐性あるから効かねぇ」

「忍びなんて江戸の頃には絶えてるでしょ?嘘つくんじゃないわよ!」

「嘘じゃねぇよ」

 

 天元は少し無理をしている。呼吸も荒くなってきている。

 それに気がついてか、妓夫太郎は笑い始めた。

 

「毒効いてるじゃねぇか。効かねぇなんて虚勢張って……みっともねぇな」

「全然みっともなくねぇよ。虚勢を張って何が悪い?男が大切なもん守るためにやってんだ。むしろ派手でかっこいいと思うが?」

 

 さっきから本当に妓夫太郎はムカつく。

 こいつらが鬼になった経緯には同情するが、妬ましいと言われ続けること、今までやってきた努力そのものが否定されてるようでムカつく。

 

「地味にいいこと言うじゃねぇか!」

「そりゃどう……も!」

「?!……テメェ!何しやがった」

 

 俺は懐から刺せば薬が注入できる簡易の注射を天元の腕に打ち込んだ。

 

「しのぶと珠世さんお手製、解毒剤だ。効くか分からないが、ないよりかマシだろ」

「んなもん必要ねぇんだよ!抜き取れ!」

「無理に決まってんだろ!てか人の厚意に感謝したらどうなんだ!」

「いらんわ、んな気遣い!……だが少し楽になった……感謝しねぇとな!胡蝶妹と珠世っつう鬼にな!」

「俺に言えよバカ!」

「私たちを無視すんな!」

「何仲良く喧嘩してんだよな?舐めてんのか?あん?」

 

 天元との会話中、帯と飛び血鎌が迫る。

 俺はその場で体勢を低くし、天元が投げた火薬玉を避ける。火薬玉が周囲で爆発する中そのまま俺と天元は鬼二人に接近する。

 

『血鬼術 飛び血鎌』

 

 俺と天元を囲うように無数の血の刃が襲ってくる。

 中には火薬玉で防いだはずの血鎌も混ざってる。

 本当に厄介だ。だが、防げる。俺は飛び上がり天元の頭上に。体の捻りを利用し技を出し、天元は妓夫太郎に接近を続ける。

 

『雷の呼吸 五の型 熱界雷 乱 旋回』

 

 俺はその場で旋回し、熱界雷を放ち血の刃を相殺。だが、液体はすぐに形を形成し直し再び迫ってくる。

 

『音の呼吸 伍ノ型 鳴弦奏々』

 

 天元は鬼二人に突進し、刀を高速で旋回させ爆風と斬撃を浴びせる。

 こいつ、完全に攻撃に専念してやがる。

 俺のこと信用しすぎだろ。防げなかったらどうするんだよ。

 

「おらぁぁぁ!」

「うひゃひゃひゃ!」

 

 気にせずに天元は突進し、妓夫太郎と斬り合い無数の火花が飛び散る。

 接近戦は互角か……いや、妓夫太郎が上だ。天元は切り傷ができているし、帯の攻撃も避けながら。

 

 残念ながら俺は接近戦は苦手だ。だから天元と妓夫太郎の戦いに介入できない。前回の猗窩座戦は無理をしていた。

 俺ができるのはアシスト。

 

『雷の呼吸 伍ノ型 熱界雷 六連』

 

 

 一瞬でも隙に繋がれば良い。あわよければ体勢が崩れてしまえば良い。

 だが。さすがは妓夫太郎、全てを受け流してしまう。

 

『跋弧跳梁』

「何!」

 

 妓夫太郎は正面に血の斬撃で天蓋を作り俺の熱界雷を受け切り、天元は瞬間的にバックステップしぎりぎりで躱す。

 

「いい連携してんなぁ。だがこのままじゃ俺らには勝てねぇぞ?どうするんだ?」

 

 だめだ、攻め切れない。俺と天元の連携はほぼ完璧。お互いの長所を生かし、攻めているにも関わらず勝てない。

 やっぱり俺らだけじゃむずい。

 

 だからこそ。

 

「宇髄さん、獪岳さんお待たせしてすいません!」

「俺らを忘れちゃいけねぇぜ!待たせたな!」

「Zzzz…Zzzz」

 

 ふ、ついに来たか。待たせすぎだ。

 

「テメェら……派手な登場じゃねぇか!気に入ったぜ!」

 

 役者は揃った。

 

「戦いはこれからだ。覚悟しろよ鬼ども」




最後まで読んでくださりありがとうございました。


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鬼殺隊を舐めるな。

「はぁ?何かと思ったら、下っ端じゃねぇか?そんな奴らに何ができる?」

「舐めてると足元救われるぞ?」

「やってみろよ」

 

 援軍の登場に一瞬戸惑った妓夫太郎だったが、挑発してきた。

 ならすぐに見せてやるよ。

 

「善逸、俺らであいつら引き離すぞ。……できるな?」

「………ああ。任せろ」

「何する気だ?あん?」

 

 善逸は気絶している時は本当に頼りになる。いつから寝ていたのかはわからないが、これなら問題なく達成できる。

 妓夫太郎は身構えることなく見ている。

 

『雷の呼吸 五の型 熱界雷』

『雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃』

 

 善逸の技は猗窩座の件を糧に進化した。

 こいつは俺以上の逸材だと思う。俺よりも早く訓練していれば、完全に超えていた。

 

 善逸の持つポテンシャルは高すぎる。それを俺はここ四ヶ月で改めて認識することになった。

 

『『八連』』

 

 俺が数年の月日をかけてやっと届き得た境地に四ヶ月と短い期間で踏み込む。。

 

「こんなもの!」

『跋弧跳梁』

 

 妓夫太郎は正面に血の斬撃で天蓋を作り防御しようとした。

 だが甘い。お前は2つのミスを犯した。1つは俺の技はその程度の防御では相殺できない。2つは善逸の速さを見誤った。

 

「なに!」

「うそ!」

 

 そのミスは致命的だ。

 俺の熱界雷により妓夫太郎は体勢を崩し、その隙を善逸が霹靂一閃で周囲の帯を斬り裂き、堕姫と妓夫太郎を引き離した。

 

「炭治郎、伊之助は女の鬼を頼む!この鬼たちは二体同時に首を斬らないと倒せない!」

「まかせろ!」

「は……はい!」

 

 指示すると伊之助は即答し、炭治郎は何故か嬉しそうな表情し返答する。

 

 炭治郎の表情が一瞬気になるも、切り替え妓夫太郎に向き直る。

 

「やってくれたなぁ……お前ら」

「言ったろう?足元救われるって……あまり、あいつらを舐めてんじゃねぇぞ」

「速攻で勝つぞ!」

「行くぞ!」

 

 こうして戦闘が再び始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(俺は獪岳のようにはなれない)

 

 それが天元が妓夫太郎と戦っている中で思ったことだ。

 同日に下弦の壱と上弦の参、2体の十二鬼月に遭遇したのにも関わらず一人の死傷者も出すことなく、全てを守り抜いた。

 

 もしも天元が無限列車の任務をこなしたら守り切る自信がない。

 そう思えてならなかった。

   

 天元は獪岳を尊敬しているし信用している。

 

 柱合会議で初めて会った時、天元にとって獪岳は底知れない存在だった。突出した才能がないのに何故か柱と対等の実力を持つ。上弦二体と遭遇するも生還する。

 

 一つのことを極限まで鍛え続けた一芸特化、進化を続ける。

 「底知れない奴」

 天元にとって獪岳を一言で表すとこれだ。

 

 天元は獪岳を鬼殺隊の中で最も頼りになる存在だと思っている。お互い訓練した仲、妻がいるから交流することも柱の中でしのぶを除けば最も多いだろう。

 だから、妓夫太郎の血鬼術を気にせずに接近戦だけに集中できる。

 

 今も妓夫太郎との戦闘は続く。

  

「負ける気がしねぇ!」

 

 猛毒を喰らい、解毒薬を打っても毒の巡りは止まらず、倒れるのも時間の問題。

 だが、獪岳がいれば負ける気がしない。

 

 妓夫太郎を倒すための譜面がもうすぐ完成する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 炭治郎、善逸、伊之助の3人は目の前の上弦の片割れ相手に戦うも恐怖や萎縮することなく感情は昂っていた。

 

 それは獪岳に任された、というのが一番の理由だろう。

 4ヶ月前、自分達は無力であった。獪岳に守られ自分達の力のなさを味わった。

 

 それでこの4ヶ月、仕事以外は全て訓練に当てた。

 カナエに直接指導をお願いした。

 

 相手は上弦、また待機と言われるかも知れないと不安に思っていた。

 

『善逸、俺らであいつら引き離すぞ。……できるな?』

『炭治郎、伊之助は女の鬼を頼む!この鬼たちは二体同時に首を斬らないと倒せない!』

 

 自分達が尊敬する獪岳が自分達を頼ってくれた。実力を認めてくれた。

 今は目の前の戦闘に集中しなければいけないのに、何故か心から嬉しさが込み上げてニヤケが止まらない。

 

「不細工ども!何ニヤケてんのよ!気持ち悪いわね!」

 

 その表情にイラつく堕姫。だが、それでも収まらない感情の昂り。

 

「譜面が完成した!勝ちに行くぞ!」

 

 天元の突然の知らせ。意味がわからないが、何となく首を斬れと察した。

 

「俺様があの鬼の首を斬る!」

「なら俺と善逸は伊之助の補助を」

「わかった!任せろ!」

 

 伊之助、炭治郎、善逸は瞬時に意見を交わし自分の役割を決めた。それをできたのは3人が築き上げた信用から。

 

「3人なら勝てるぜ!遅れんじゃねぇぞ!子分ども!」

『獣の呼吸 捌ノ型 爆裂猛進』

 

 伊之助は炭治郎と善逸を信じて突っ込む。

 迫りくる無数の帯。

 

『水の呼吸 参ノ型 流流舞い』

『雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃 八連』

 

 炭治郎、善逸は伊之助に迫る帯を捌き続ける。

 

「うぉぉぉぉ!」

 

 伊之助は防御を捨て直進のみに集中、堕姫に接近する。

 

「決めるぜ」

 

 振り上げた二刀の刀を堕姫の左右の首に刃をつける。

 

『獣の呼吸 陸ノ牙 乱杭咬み』

「え?」

 

 伊之助の刃は堕姫の首を切り裂いた。

 

 

 

 




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………終焉?

「譜面が完成した!勝ちに行くぞ!」

「やっとか」

 

 妓夫太郎と戦闘を開始して数分、天元が勝利のための譜面を完成させた。

 俺は天元の戦闘の補助をしていた。熱界雷で血鬼術や帯を弾き接近戦のみに専念できるように。

 

「で、俺は何をすればいい?」

「俺らにそんな地味なことはイラねぇ!派手に行くぞ!」

「おい!」

 

 天元はそう言うと一人特攻を開始した。あの野郎細かい打ち合わせなしで行きやがった。

 

「うぉぉぉぉ!壱…参……六…四』

「こいつ」

 

 天元は妓夫太郎と互角以上に戦っていた。妓夫太郎の不規則な攻撃を先読みし、圧倒している。

 このまま続けば首を斬るのは時間の問題。……俺は何をすればいい?天元の譜面は俺がいること前提で完成させたはず。

 

 天元の動きを頭で考えるな。……感じるんだ。

 

「死ねぇ!」

 

 ……ここだ。

 何故か直感でわかった。

 それは天元に迫る血の刃。……なるほど。天元の譜面は接近のみの譜面。その他は俺の役割か。

 俺は天元に迫り来る血の刃を熱界雷で相殺、そのまま戦闘に乱入。天元の近くに移動した。

 

「俺を忘れるなよ」

「何!……くそぉぉぉ!」

 

 妓夫太郎は焦る。だが、それを気にせずに天元と俺は首を斬るため接近する。

 

「これで終わりだ!」

 

 天元は俺の背中を使い空中に飛び上がり妓夫太郎の隙をつき、首を斬ろうとした。これは避けられない、勝負が決まった。誰でもそう思うだろう。

 

「残念だったなぁ。……お前らの負けだ」

『円斬旋回・飛び血鎌』

 

 それは妓夫太郎にとって奥の手。飛び血鎌を一直線、螺旋状の物を放ってくる。

 ……ふ、こうくるのは知っていた。

 なんせ俺には原作知識があり、こいつの技は熟知している。

 

「それはどうかな」

『雷の呼吸 熱界雷 十連』

 

 俺の最大火力の攻撃で相殺。

 

「派手に最高だぜ!」

『音の呼吸 壱ノ型 轟』

 

 二刀を妓夫太郎の頭上から渾身の一撃を振り下ろす。妓夫太郎の首は胴体と分かれた。

 ……勝負はありだ。

 

「あめぇよ!」

 

 だが、天元の攻撃はそれだけで終わらなかった。二刀が地面につき爆発、その後妓夫太郎の胴体を地面に蹴り上げた。

 

 あ、そうか。そういえば原作でもあたり一面めちゃくちゃにしてたっけ。

 

『雷の呼吸 伍の型 熱界雷』

 

 俺は熱界雷を妓夫太郎の胴体目掛けて放った。

 そして、上空には妓夫太郎の最後の広範囲の血が広がった。

 危なかった。もしも、地上だったと思うとどれだけの被害が出ていたことやら。

 

「……終わったな」

「ああ……これ、もう一本渡しておく」

「そうだな。せっかく無事に終わったのに死んだら意味ねぇからな」

 

 天元は横から話しかけてきて、懐からもう一本の注射器を渡す。

 天元は素直に解毒薬を注入した。

 

 本当に無事に終わった。誰も大きな怪我をすることなく。

 

「獪岳さん!宇髄さん!」

「あいつらもやりやがったか」

 

 炭治郎が少し離れた屋根から手を振ってきた。炭治郎たちも無事に堕姫の首を斬ってくれた。俺たちが斬るところも見ていたのかな。

 

 細かいことはどうでもいい。被害は出てしまったものの原作と比べ遊郭が崩壊することもなかった。天元が重傷を負うこともない。

 

「それにしてもお前は上弦に愛されてんのかよ?前回から一年も経ってねぇぞ」

「……知らん。俺が聞きたい」

 

 本当に俺が聞きたい。柱でも上弦に遭遇することなく引退するものがいる中でこの上弦の遭遇率は異常だ。

 

 まぁ、炭治郎という原作の中心人物と一緒に行動しているからだが、それ以前に鬼殺隊になってから猗窩座と童磨と遭遇した。

 

「……引退するかなぁ。充分貢献したし」

「お前も引退するのか」

「は?……天元は引退すんの?」

「女房たちとそういうけじめをつけてたんだよ」

「ああ。……なるほど」

 

 そういえば、原作でも雛鶴さんが提案していた。

 一戦から退き一般人として生きよう……と。

 

「なら、みんなで酒でも酌み交わすか。飲むか……倒れるまで」

「派手でいいじゃねぇか!乗ったぜ!」

 

 俺が引退するかはわからないが、天元が辞めるならそれを止めることはしない。

 誰だって幸せになる権利があるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほう……上弦の伍相手に無傷とは……さすがはあの方が一目おくほどの存在だ」

 

 だが、その幸せの空気は絶望へ切り替わる。

 

「……はぁ…はぁ…はぁ」

「……な…んで」

 

 そいつが現れた瞬間、呼吸が急に乱れ身体中が震える。

 天元も同じような状態だろう。

 

 体が戦闘を拒否している。

 

 なんで……なんでこいつがここにいる。

 

「天元……大丈夫か?」

「ああ」

 

 どうにか体の震えを抑え目の前のそいつに向き直る。

 

「うむ…一瞬で切り替えたか。精神力も申し分ない」

 

 目の前の圧倒的強者は俺たちを見定める。ああ。なんで俺はこんなにも上弦に愛されているのだろう?

 

「……上弦の……壱」

「カー!カー!上弦の壱、出現!上弦の壱、出現!」

 

 目の前に現れた最大の死亡フラグであった。

 

 




最後まで読んでくださりありがとうございます。

短編投稿しました。
タイトルは「摩擦勇者は平穏を望む」です。
興味のある方、よろしくお願いします。
https://ncode.syosetu.com/n0988hz/

「せっかく、5年かけて準備して美少女奴隷買ったのに、何故か勘違いされて厄介なことに巻き込まれてしまったのだが」
https://ncode.syosetu.com/n1060hz/



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やばい

 上弦の壱、黒死牟は原作において鬼舞辻無惨の部下で最強。他の上弦の鬼たちとは別格の実力を持っている。

 400年以上生きており、鬼でありながら呼吸や型を使用して戦う唯一の鬼。

 

 本名を継国厳勝という名で、始まりの呼吸である日の呼吸の使い手継国縁壱の双子の兄に当たる。

 

 

 そして、原作ではこの獪岳を鬼にした張本人でもある。

 

 ……最悪だ。

 やるしかない。やるしかないのはわかっている。

 だが、打開策が浮かばない。

 

 原作で黒死牟は無一郎、不死川兄弟、悲鳴嶼さんの4人がかりで倒した。

 しかもそのうち弟の不死川玄弥と無一郎は死亡、不死川実弥と悲鳴嶼さんは負傷した。

 

 

 今ここには俺と天元。

 家の屋根の上から俺たちの様子を窺っている炭治郎、禰豆子、伊之助、善逸。

 動けるのは俺と天元だけだ。残りは恐怖からすくんで動けないでいる。

 

 ……やるしかない。

 ここで炭治郎が死ねばこの日本……いや、世界が滅亡する。

 呼吸を整え仕掛ける。

 俺の出来ることは決まっているのだから。

 

 覚悟を決め、天元と視線を合わせること刹那、仕掛ける。

 

「おらぁ!」

『雷の呼吸 伍の型 熱界雷 六連』

 

 天元が足元に二刀を叩きつけて土煙を起こす。透き通る世界を持つ黒死牟には目眩しなんて意味がないだろう。

 それでいい。

 ほんの僅かでも、気がそらせるのなら。

 

 二連の熱界雷を黒死牟に放ち、残り四連は威力を落として炭治郎たちに向かって放ち吹き飛ばす。

 動けない奴は足手纏いだ。

 

「ほう…咄嗟の判断にしては…悪くない」

「な?!」

 

 ……なんで目の前にいたはずの黒死牟が俺たちの背後にいるんだよ。

 警戒は行っていなかったはずなのに。

 気が付けなかった。

 

 ーー死

 

 それが今俺と天元が感じたものであった。

 この場に居てはダメだ。

 俺と天元は反射的に動いていた。

 

『雷の呼吸 伍の型 熱界雷 乱』

 

 無意識に体が動いた。

 黒死牟と対峙し、全身の感覚が研ぎ澄まされていたのだろう。

 俺は咄嗟に振り向き様に周囲四方向に熱界雷を放つ。

 

 それと同時に天元は黒死牟に向かい火薬玉を投げてきた。

 それが幸いした。

 

ーードカン

 

 天元は俺の熱界雷で、俺は刀に当たった火薬玉の爆風により、吹き飛ぶ。

 

「かは!」

 

 吹き飛んだ時に、刀は手放さず受け身を取る。

 火傷を負ってしまったが、こんなの死に比べればマシだ。

 すぐに体勢を整えて黒死牟と向かい合い、天元を確認すると……無事のようだ。

 

「はぁ…はぁ…はぁ」

 

 今のやり取りだけで息が上がってる。

 やはり、さっきの戦闘での毒の影響か。解毒薬だけじゃ、毒の巡りを遅くするだけだったのか。

 

「ふむ……良き連携だ」

  

 くそ……黒死牟のその余裕がムカつく。

 俺は天元に指文字であることを伝え、その後黒死牟に仕掛ける。

 

 

「はぁ!」

『雷の呼吸 五の型 熱界雷 四連』

 

 とにかく天元から意識を逸らしたいので黒死牟に攻撃を仕掛ける。

 

 だが、黒死牟は熱界雷を体の重心移動、最小限の動きだけで避け、そのまま斬りかかってくる。

 

「…こちらも抜かねば…無作法というもの」

『月の呼吸 壱ノ型 闇月・宵の宮』

 

 鞘から抜かれた一閃の斬撃。

 黒死牟の斬撃は特殊だ。

 通常の斬撃に加え独特の刀の刃から繰り出される月輪の不規則な斬撃は変化するので間合いがとりづらい。

 

 だから俺は刀身延長線上に入らないように跳躍する。

 

『雷の呼吸 伍の型 熱界雷 六連』

 

 そのまま黒死牟の足元に向かって放つ。

 少しでもバランスが崩れれば儲けもんだ。

 

『音の呼吸 壱ノ型 轟』

 

 黒死牟は透き通る世界で視覚に入る人物の筋肉、呼吸、内臓の動きから先読みされてしまう。

 だが、視覚外なら先読みはできない。

 俺は天元に先読みされることを端的に伝えた。

 ……意図を読み取ってくれたようで何より。

 だが、こんなことで勝てるほど甘くない。

 

『月の呼吸 伍ノ型 月魄災渦』

 

 黒死牟は刀を全く振らずに竜巻のような斬撃を発生させ、天元に斬撃の刃が迫る。

 天元は毒に侵され動きが少し鈍っている。だから反応も遅れてしまった。  

 

「天元!」

 

 名を咄嗟に叫ぶもすでに手遅れ。

 黒死牟の放った斬撃が天元に迫る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『花の呼吸 陸ノ型 渦桃』

『蛇の呼吸 弐ノ型 狭頭の毒牙』

 

 だが、花の香りと共に二人の隊士が現れ、黒死牟の斬撃を迎撃し、天元を助けられる。

 

「待たせてすまない。獪岳、宇髄」

「遅れてしまい申し訳ありません」

 

 そこには白蛇を首に這わせた白と黒の縞模様の羽織を羽織っている蛇柱の伊黒小芭内。腰まで伸びた美しい黒髪に二つの蝶の髪飾りをつける女性……胡蝶カナエ(俺の嫁)が現れた。

 




最後まで読んでいただきありがとうございました。

最終話まで連日投稿予定です。


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再び戦場へ

「すまねぇ、助かった」

 

 天元、無事でよかったよ。

 黒死牟の一撃から寸前で助かった天元は苦笑いしながらそう言った。

  

 だが、このタイミングでの援軍はありがたいと思う反面、状況はあまり優勢とは言えない。

 

 上弦の鬼一体で最低柱は3人必要だと言われている。

 だが、黒死牟はそれが当てはまらないほど反則級の強さを持つ。

 

 しかもこの中にいるものは俺も含め透き通る世界を使える人(伊黒は現時点で)は誰もいない。

 

 

 幾ら束になってかかったところで勝てるかどうか。正直勝ち筋が見えない。

 生き延びることを主にしたとしてもそれでもできない。

 

 それほどまでに実力差が開いている。

 

 ふと、情報共有をしている天元、カナエ、伊黒に視線を向ける。

 その時カナエと目が合うが……強い眼差しを向け頷いた。

 やはり一緒に戦うらしい。

 『もしも約束破ったら私も後を追いますから』……以前した約束。

 もちろん忘れていない。

 

 相手が悪過ぎるが、贅沢は言っていられない。

 元とはいえカナエは柱。今この場では少しでも戦力がほしい。

 だから、俺はカナエの意志を尊重して一緒に戦ってもらう。

 

 それから天元はカナエにもらったであろう解毒薬を再び打ち込み、体の調子を確かめている。

 

 まだ本調子ではないらしい。それほどまでに鬼の毒は強力らしい。

 だが、本調子じゃないからと戦うなと言えるほど余裕はない。それも本人が一番わかっているらしく、深呼吸後意識を黒死牟に集中させていた。

 

「降って湧いてきたか。……花と蛇か。……蛇は初見だが……悪くない」

 

 これで油断してくれれば良いのだが隙がない。やるしかない。

 ここで死ぬのは嫌だが、やらねば死ぬ。

 

「名を聞きたい。俺は胡蝶獪岳という」

 

 俺は話しながら左手で天元たちに指示をする。

 

「獪岳……意図が見え透いているぞ」

「待ってくれたのか……ありがたい」

 

 指示を出したことはすでにバレているのだが、黒死牟は待ってくれたようだ。

 俺が伝えたのは、黒死牟の血鬼術や動きの先読みができること。

 

 なぜ、そんなことを知っているのか、そのことを聞いてくる人は誰もおらず、皆黙って頷いた。

 それは今まで俺が積み上げてきた信頼から。

 

 この強者と対峙した時点でわかっているだろう。まともに戦っても勝つのは難しいと。

 なら少しでも可能性が見出せるなら。

 

 さあ、始めようか。

 強者狩りを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ダメだ。まだ体が動かない。動け!動け!獪岳さんのところに戻らなきゃ!)

 

 炭治郎は獪岳の熱界雷により飛ばされて強制的に撤退させられた後、いまだに動けない状態にいた。

 上弦の壱が現れ、恐怖で体が動かせなかった。

 上弦の伍を倒すことができたことにより、自分も役に立てると思った矢先に上弦の壱が現れた。

 

「おい!もんじろう何やってんだ!シャキッとしろ!」

「……い…伊之助?」

 

 だが、そんな中同じく強制避難をさせられた伊之助が駆け寄り声をかけてきた。

 その後ろには未だに花提灯を作り寝たまま立っている善逸も一緒にいる。

 伊之助にいつも通り変わらない様子で話しかけられたことに驚く炭治郎。

 

「……伊之助はすごいなぁ。俺、今も震えているーーって!痛い何すんだ伊之助!」

 

 伊之助は炭治郎の言葉を遮るように頭を叩く。

 すると、伊之助は鼻息を荒くして言った。

 

「お前の目は節穴だな!……よく見ろこの俺様の手足を……ブルブルしてやがる!」

「……伊之助」

 

 伊之助は強がっていた。

 あの上弦の壱の化け物を見ただけで。

 

「この山の王の伊之助様をここまで震えさせるなんてあのやろう、大したやつだぜ」

「……ごめんな伊之助、ありがとう」

 

 未だ震えている炭治郎は伊之助の言葉を見ていまだ震える体に鞭を打ち立ち上がる。

 だが、まだ弱気になってる炭治郎を見て伊之助はさらに言葉をかける。

 

「らしくねぇぞ!まだ獪岳の野郎は戦ってるんだ。なら、俺様たちも行くぞ!」

「そうだな……俺たちに出来ることをしよう。役に立つんだ!」

「おうよ!もう昔の伊之助様じゃねぇからな!」

 

 伊之助と炭治郎は互いに見つめ合い、覚悟を決める。

 

 再び戦場へ。

 

 それは足手纏いにしかならないことはわかっている。

 それでも、できることはある。

 

「覚悟は決まったようだな。行こう二人とも」

「ぜ…善逸?」

「こいつ一生寝てりゃいいと思うぜ?」

 

 だが、行こう!と宣言したのは炭治郎でも伊之助でもない、寝息を立てながら獪岳がいる戦場を見ている善逸であった。

 そんな姿に呆れた炭治郎と伊之助であったが、とりあえず、それぞれがコメントを残した。

 

「禰豆子。ここで少し待っててくれるか?」

「ぷいぷい!」

 

 炭治郎は禰豆子にここに待つように優しく頼んだ。

 そして、懐から一つの瓶を取り出して再び話しかける。

 

「ごめんな。この件が終わったら禰豆子を人間に戻してやる約束だったけど……今は少しでも獪岳さんたちの役に立ちたいから」

 

 その瓶は薄紫色の液体の入った小瓶。

 今回の任務で事前に珠世から受け取っていたものであり、今回の任務が終わったら人間に戻すと決めていたものだ。

 

 鬼から人間に戻す薬は物語で終盤に出来上がった薬だ。

 そのため、貴重で製作方法も定まっているものの、抽出に時間がかかり鬼一人人間に戻る量の薬を作るのに時間がかかる。

 今の薬も半年以上かけて作ったものだ。

 

 だが、今は黒死牟を倒すことを優先にした。

 



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まだ、終わらない

『雷の呼吸 伍の型 熱界雷』

 

 先制を仕掛けたのは俺だ。

 だが、残念ながら簡単にいなされる。黒死牟は俺に接近してそのまま一閃の斬撃を喰らわしてくる。

 ……俺ってこんなに動体視力よかったっけ?

 

 色々疑問が出るが、俺はバックステップで紙一重でかわす。

 一度攻撃を受けたので、黒死牟の歪の斬撃も避けられた。

 そのまま俺は刀を抜いたまま撃ち合う。

 このまま何か技を放つべきかもしれないが、俺は熱界雷以外はゴミ同然、未熟な技を仕掛けるほどバカじゃない。

 

「歪な刀だな」

 

 ついついそう呟いてしまう。

 黒死牟の刀は変幻自在に形も変えられる。まじで反則だよ。

 

『蛇の呼吸 壱ノ型 委蛇斬り』

 

 次に伊黒が俺の背後から黒死牟の首目掛けて横薙ぎの一太刀を振るい、俺はそのまま距離を空ける。

 

『雷の呼吸 伍の型 熱界雷 六連』

 

 俺は流れるように五連の熱界雷を黒死牟に一連を伊黒に向けて。

 

「効かぬ」

 

 だが、黒死牟は伊黒の攻撃を何なく受け止め、俺の一撃を横薙ぎの一太刀で薙ぎ払う。

 その刀の延長線には伊黒もいた。

 

「チッ」

 

 だが、伊黒は舌打ちをしながらも俺の放った熱界雷の斬撃を巧く使い、回避。

 飛ばされながらも、受け身を取り体勢を整える。

 

「食らいやがれ!」

『花の呼吸 肆ノ型 紅花衣』

 

 続いて、天元が火薬弾投げながら接近し、カナエが周囲に向けて無数の斬撃を放つ。

 天元の投げた火薬弾が爆発、黒死牟を中心に煙が舞う。

 

『花の呼吸 陸ノ型 渦桃」

 

 視界が塞がった瞬間、黒死牟の真上に飛びカナエは空中に飛びながら斬撃を放つ。

 天元は火薬玉を投げた後黒死牟に切り掛かる。

 

 だが、瞬間俺は危険信号だと判断しカナエに向かい飛び上がり、カナエと黒死牟の間に割り込み技を放つ。

 

『月の呼吸 陸ノ型 常世孤月・無間』

『音の呼吸 肆ノ型 響斬無間』

『雷の呼吸 伍の型 熱界雷 十連』

 

 予感は的中した。

 

 黒死牟は天元とカナエに向け前方に無数の斬撃を放ってきた。

 天元は後ろに後退しながら対抗するため、型を放ち迎撃、俺はカナエと天元を守るために黒死牟に向け十連の熱界雷を放つ。

 

 限られた球数の中、どうすれば致命傷を避けられるかどうか考え、熱界雷を放つ。

 この至近距離では無傷で切り抜けるのは無理だ。

 だから、俺は胴体を避け、利き腕を避け、戦闘を続行できる程度に被害を抑える。

 

 それでも相殺しきれなかった。

 黒死牟の絶技はとてつもない破壊力であった。

 俺と天元、カナエは黒死牟と距離をとり、一箇所に集まる。

 

「カナエ!しっかりしろ!」

「……大丈夫です」

「ち……ちくしょう」

 

 斬撃をくらってしまい、距離を空け、状況確認をする。

 天元は胴体に斬撃をくらい、止血、縫合しなければ内臓が飛び出てしまうほど重症。

 カナエも胴体は異常ないが、両足の付け根で斬撃は骨に達しているほど深い怪我を負う。

 止血しないと戦闘続行は不可能。

 

 俺はある程度相殺できたものの、体中に切り傷ができた。

 だが、骨に達している傷はなく、呼吸や筋肉に力を入れ、止血すれば戦闘は続行可能だ。

 

 ……黒死牟、化け物すぎるだろ。

 

 天元は咄嗟の判断で後退していなかったら、もしも技を放っていなかったら。

 俺も熱界雷の最大火力を放っていなかったら。

 俺を含め細切れになり死んでいた。

 

 

 そんな俺たちを見て、援護のため伊黒が黒死牟が技を放ち終わった直後、背後から蛇行しながら接近する。

 

『蛇の呼吸 伍ノ型 蜿蜿長蛇』

『月の呼吸 弐ノ型 珠華ノ弄月』

 

 黒死牟は伊黒に向け切り上げるようにして正面に三連の斬撃を大きな月型の刃で取り囲むように放つ。

 

『蛇の呼吸 肆ノ型 頸蛇双生』

 

 伊黒は途中で技を切り替え、それを全て躱し切り、首を両側から挟み込むように切り掛かるも、伊黒の攻撃は空を切ってしまい、すぐに体勢を整え、着地する。

 

「……完全に躱したはずなのに」

 

 黒死牟から間合いをとり着地するも隊服から血が滲んでおり、多量の出血が。

 ……今ので斬られたか。

 全てをいなすことはできずに伊黒は斬撃を喰らう。

 

「蛇の呼吸か……見事なり」

 

 黒死牟は感心したのか発言している。

 伊黒はその余裕な姿に舌打ちするも、すぐに間合いを離れる。

 

「違う呼吸の使い手同士……ここほど見事な連携……お前達が初めてだ」

 

 本当に冷静な分析腹立つわ。

 柱クラス4人を相手にして余裕に立ち回るとかどんな化け物だよ。

 

 ……朝までそんなに時間がないはずなのに。1秒がとてつもなく長く感じる。

 

 柱クラスが4人いるからどうにか勝てるかもとか、夜明けまで持たせられるかもとか……考えが甘すぎた。

 

 こいつを倒すための最善を尽くす。

 それしか生き延びる道はないのだから。

 

 

 

「俺が時間を稼ぐ、天元は傷を縫合しろ、カナエもだ」

 

 どこか原作にあったシーンを思い出す。

 物語終盤で黒死牟相手に悲鳴嶼さんが不死川に出した指示と似ている。

 

 天元とカナエにはとりあえず、傷口を縫合してもらう。

 特に天元は毒にも侵されている状況なのに、戦わせて申し訳ないが、許して欲しい。

 それに加えて伊黒も負傷。

 状況は悪化する一方。

 動けるのは俺だけって。

 

「ふぅ」

 

 少しでも時間稼ぎを。天元たちは俺と黒死牟から距離を空け、応急手当てを始める。

 少しでも時間を稼ぐ。そう思い無謀ながらも黒死牟に接近。

 

「愚かなり」

 

 黒死牟は呆れたようにそう呟き、歪な刀で俺を切り裂こうとする。

 ……だが、俺はそれを冷静に対処。

 

 斬撃の延長線を意識、歪な斬撃の軌道を先読み。

 

 ……空中に逃げても殺されるだけ。

 なら、避けるのは後ろでもなく……下。

 

 それは自然な流れであった。

 踏み込もうとした右足をそのままスライドさせ前後に足を目いっぱい広げてスライディングし、黒死牟の足元に体を捩じ込むように間合に入り、やり過ごす。

 通り過ぎる際、右手で鍔付近にある俺の刀のボタンを押して、黒死牟の死角から足物に向かい注射器を2本発射させる。

 

「小賢しい」

 

 だが、その2本の注射器は黒死牟に刀で弾かれてしまう。それでも、割れた注射器から液体が数滴黒死牟の体に付着する。

 

 発射後は刀を持っていない左手を地面につき、それを軸に黒死牟に背後を向けぬように振り向き、体勢を整える。

 

「……この土壇場で踏み入れたか」

「……何を言って」

「自身の体の異変に気が付かぬのか?……見えたのだろう?」

 

 見えている。

 その単語を黒死牟に聞いてあることが思い浮かぶ。

 

 透き通る世界。

 

 

 ……そうか、今まで戦いの中で少し違和感を感じていたが、正体はこれか。

 原作でも炭治郎を含めた一部のキャラしか発現できなかった身技。

 

 その領域の片鱗に足を踏み入れることができたらしい。

 

 

 

 

 

 まだ、終わらない。

 

 



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覚悟しろ

「……なんだ?」

「鬼殺隊には優秀な薬師がいるんだ」

 

 俺が黒死牟に放った注射器の中身は猗窩座に打ったものと変わらない。

 しのぶと珠世さん作の上弦に通用する毒、不死川の稀血。

 体内に打ち込めればよかったものの、やはり小手先は通用しないのか、刀で弾かれてしまう。

 液体が黒死牟に付着し、匂いを嗅いだだけ儲けもん。少し変な感覚になっており、わずかに表情が崩れる。

 

 この隙に付け込まないではない。

 今は少しでも時間を稼ぎ、俺のことを意識集中させる。

 

 透き通る世界の感覚はいつまで続くかわからない。黒死牟も今の俺を嫌でも意識するはずだ。

 

 俺はそのまま接近を続ける。

 透き通る世界は原作知識から知っている。

 だが、今の状態は動きが視界がスローになるのと、感でこう来るなとなんとなくわかる程度。

 

 ……だめだ。雑念がなくならない。

 使いこなすのは一朝一夕でできる物じゃない。

 

「ふぅ…ふぅ…ふぅ」

 

 呼吸を整え、思考を整える。

 

 今思えばなぜ俺はこいつの土俵で戦おうとしたのだろう。

 忘れてはいけない、俺の鬼殺隊としての基盤を。

 

 極めろ熱界雷、目指せ一撃逃走

 

 なら、やることはシンプルでいい。

 今までの俺がおかしかったんだ。

 猗窩座と直接対決したり、妓夫太郎相手に天元と共闘したり。

 さっきだってそうだ。なぜ黒死牟相手に俺は4人で協力の時だってわざわざ接近していたんだ?

 

 

 朝まで粘れたら俺の勝ち、死んだら俺の負けだ。

 その方がシンプルでいいじゃないか。

 

『雷の呼吸 伍の型 熱界雷 十連』

 

 バックステップをしながら熱界雷を黒死牟に向けて放ち、そのまま黒死牟を中心に円を描くように駆け出す。途中反転や蛇行も入れながら。

 

 俺はもともと遠中距離型だし、スピードには自信がある。黒死牟の戦闘ですでに崩壊した建物、うまく高低差を使い、熱界雷に多少の変化を加えながら攻める。

 

「小賢しい真似を」

『月の呼吸 弐ノ型 珠華ノ弄月』

 

 

 それに見かねたのか、黒死牟は俺に接近し、斬撃を三つ放ってくる。

 

『雷の呼吸 伍の型 熱界雷 十連』

 

 あくまで冷静に対処をする。

 迎撃に九連、黒死牟に一連熱界雷を放つ。そのまま、最小限の動きで黒死牟の独特な形の斬撃をかわす。

 透き通る世界を極めた黒死牟にとって俺の攻撃を先読みするのは容易いだろう。

 

 だが、今黒死牟は藤の毒、不死川の稀血、俺の独特な戦法、透き通る世界に踏み込んだこと。

 

 これらが運良く噛み合い、俺が黒死牟と戦えている。

 透き通る世界に俺の体が順応できているからか、スピードも落ちるどころか上がっているのもあるかもしれない。

 

 だが、その戦闘でも黒死牟に通用するのは後数秒だろう。

 まだ、黒死牟は血鬼術を使っていない。

 

 俺は距離を空け過ぎずにヒット&アウェイを繰り返し、熱界雷を放ち、黒死牟の剣筋を避け続ける。

 

「見事だ。私も400年の時を生きるがお前のような剣士はいなかった」

 

 黒死牟はこのままだと埒が明かないと判断したのだろう。

 ついに来たか。

 俺は次に黒死牟の接近に対し俺は必要以上にバックステップで距離を取り。

 

『雷の呼吸 伍の型 熱界雷 十連』

 

 熱界雷を放つ。

 

「ほう……よく反応できたものだ」

「ふぅ…ふぅ。なんだよ……その馬鹿げた刀は」

 

 通常の刀に比べて長さは4倍ほど、刀芯を中心から枝分かれしているように伸びている刃が特徴的な刀。

 

 平然を装っているが正直刃が早過ぎて見えなかった。

 こんなの来ると分かっていても見えなかった。

 

「だが、わからぬ……今のお前には到底反応出来るとは思えん」

「は……どうだかな」

 

 こんな化け物相手だが、十分に時間は稼いだ。

 意識も多少外れているだろう。

 

「まぁ、ここまで戦った仲だ。継国巌勝さん」

「……何故それを」

 

 明らかな動揺を見せる黒死牟、だが、俺はもう一言追加で言う。

 

「鬼になってまで生き恥を晒したのに弟に勝てなかった負け犬野郎……天元!」

「おらぁぉぁ!」

 

 黒死牟を煽った後、俺は天元の名を大声で呼ぶ。

 それが合図となり、天元は黒死牟に向かい、駆け出した。

 

 さぁ、覚悟しろ。

 

 



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逆転の一手

 獪岳が黒死牟と戦っている中、残された伊黒、カナエ、天元は獪岳に言われた通り手当し、すぐに参戦できるようにした。

 だが、その中でも天元と伊黒は自分たちの無力感を感じていた。

 

「ち……惨めな自分に腹が立つ。鬼の分際で呼吸を使うあいつが気に入らない」

「経験の差ってやつなのか?……随分と足を引っ張っちまったな」

 

 伊黒、天元は自分たちの力不足に苦言する。

 柱でもない獪岳に全てを任せて戦わせている状態、自分たちで太刀打ちできなかった黒死牟に今もなお一人で戦っていることへの悔恨。

 

「お二人とも、悔しいのはわかりますが、今はじっとしてください。すぐに手当を終わらせますので」

「分かってるが、胡蝶お前は平気なのかよ。かなり深いだろ?」

「ええ。私は獪岳さんに守ってもらい、足を怪我しただけなので」

 

 二人の反応に未だ応急処置をするカナエを心配して天元は言葉をかける。だが。カナエは返答はするも黙々と手を動かす。

 この中で一番無力に感じているのはカナエだろう。

 力になるために戦場に戻った。だが、結果は何もできず獪岳に守られただけ。

 

「……これで大丈夫です」

 

 カナエは二人の応急処置を終わらせる。

 そのまま、カナエは獪岳が戦っている戦場へ視線を向ける。

 

「今は伊黒さんも宇髄さんも思うところはあると思いますが、今は行きましょう。獪岳さんが待っています」

 

 カナエの言葉に伊黒も天元も特に何も言わず、そのまま立ち上がり準備し、機会を伺い続けた。

 

「天元!」

 

 天元の名を呼ぶ獪岳の合図と共に、3人は仕掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うらぁぁぁ!」

 

 ここで仕留める。

 

 天元の雄叫びと共に接近、火薬玉を黒死牟に投擲する。

 

 このタイミングで俺はすぐに熱界雷を放てるように接近する。

 少しでも注意を引くためだ。

 

「……愚かなり」

『月の呼吸 玖ノ型 降り月・連面』

 

 俺と天元の接近に黒死牟はそのまま反応が遅れるも上空からの斬撃が降ってくる。

 

「上だ!」

『雷の呼吸 伍の型 熱界雷 十連』

 

 俺は天元に攻撃がくる方向を伝え、警戒させる。

 そのまま、少しでも斬撃の威力を抑えるために熱界雷を放ち迎撃。

 

「効かねんだよ!」

『音の呼吸 伍ノ型 鳴弦奏々』

 

 だが、流石は天元ということか、目が慣れたのかわからないが、上からの斬撃を完璧に避け、二刀を回転させ、爆音を発生させながら黒死牟に接近。

 ……俺の援護は必要なかったか。

 そのまま天元が投げた火薬玉が爆発し、爆煙が黒死牟を囲う。

 この煙は藤の毒でできている。吸うだけで効果が出るものだ。

 

「……なんだ?」

 

 その直後、カナエが離れた位置から黒死牟に接近し、自身の刀を胴体に刺す。

 

 体内に直接打ち込んだのは猗窩座に打ち込んだ毒よりもさらに強力になった藤の毒。

 黒死牟は混乱していた。

 自分の体の異変にはもちろんだが、そもそも何故自分が気がつけなかったかだ。

 

 何故こんな芸当ができたのか。カナエがつけている呪符による効果。

 これは愈史郎の血鬼術で作られたものだ。

 効果は「目隠し」つけた対象を周囲から認識されないようにする。

 

 カナエは毒を注入後、バックステップで本気で後ろに飛び距離をあける。

 

 黒死牟にとってこの隙は致命的だ。

 400年以上生きてきて、ここまで追い詰められたのは初めてだろう。

 

 まず、俺の挑発から始まり、カナエがどのように接近したのかわからず、猗窩座の血を元にさらに効果が増した強力な藤の毒を刺された。

 

 混乱したことにより、思考速度が周囲への警戒も低下する。

 

『蛇の呼吸 弐ノ型 狭頭の毒牙』

 

 

 これで終わりだよ黒死牟。

 伊黒は混乱している黒死牟の背後から、完璧なタイミングでの奇襲。

 

 しかも、愈史郎の呪符をつけており、完全に完治することすらできない。

 

 伊黒の放った斬撃は黒死牟の首に迫る。

 

「終わりだ!」

 

 天元は黒死牟が混乱している時にすでに接近していた。

 黒死牟の背後から伊黒が、正面から天元が首を刈り取りにいく。

 

「俺たちの勝ちだ」

 

 首を斬られただけでは死なないかもしれないが、今の黒死牟には最も強力な藤の毒も注入されている。

 

 猗窩座の時に注入した毒よりもさらに強力なやつだ。

 流石の黒死牟にも通用するだろう。

 

「ふぁぁぁぁ!」

 

 だが、黒死牟の叫びと共に全てがひっくり返された。

 黒死牟の身体中から刀身が出ており、その衝撃で斬撃が発生し、迫っていた伊黒と天元は吹き飛ばされてしまう。

 

 伊黒と天元は斬撃を受け、体勢が崩れてしまっている。

 カナエは黒死牟に刀を刺した後、離脱したはずなのだが、足の怪我が原因で近くにいる。

 だが、今の場にいる3人は黒死牟の攻撃範囲内にいる。

 

 どうにかしようと走り出すも間に合わない。

 今の俺には何もできない。

 脳内に走馬灯が流れ始め、どうにか打開できないかと考えるも……だめだ。

 

 そもそも間違っていたんだ。犠牲を出さずに黒死牟を倒そうだなんて。

 

 ああ……もう間に合わない。

 

 黒死牟が刀で伊黒、天元、カナエに迫る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーードカン!

 

 突然落雷が落ちる大きな音が鳴り響き、意識が再び覚醒する。

 黒死牟に視線を向ける。

 

「ぐははは!伊之助様参上!」

 

 そこには黒い刀が黒死牟の身に刺さり、付近に伊之助が天元を抱え、善逸が伊黒とカナエを抱き抱えていた。

 

 

 




最後まで読んでくださりありがとうございました。

トリコのキャラ「ゾンゲ」の憑依もの投稿しました。
よろしくお願いします。

https://syosetu.org/novel/314015/


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終の型

 

「獪岳さん!」

「やっちまえ!」

「獪岳!」

 

 そんな心配そうな顔で見なくても大丈夫だ。

 お前達が作った千載一遇のチャンス……無駄にする気はない。

 ……足手纏いと見限った過去の俺を呪いたい。

 だめだと思っていた局面で逆転の一手をこいつらは作ってくれた。

 ナイスタイミングだよ。

 

 炭治郎は離れた位置から日輪刀を投げた。刺さった直後、黒死牟の動きは止まった。

 

 おそらくただ投擲したわけじゃなく、何かの薬を黒死牟に打ち込んだ。

 黒死牟は苦しんでいるようで、何かに抗っているようだった。姿もみるみる化け物の姿に変わっていく。

 赤いアザのようなものが身体中に広がり、おでこ付近からはツノが2本。

 体の大きさも徐々に大きくなり始める。

 

 このままじゃまずい。

 どんな化け物に成り代わるのか……今は隙だらけだ。

 このチャンスを逃したら今度こそ勝ち目はなくなる。

 

「覚悟を決めろ……リスクを恐れるな」

 

 自分に言い聞かせるように呟きながら、構える。

 鞘から刀を抜き、右脇構えに。右膝は地上スレスレにして重心を下げ、刀身地上と並行に。

 

 普段とは違う呼吸で身体中の血液から筋肉、内臓全てを圧迫する。

 

 急に体に慣れない負荷をかけたことで体内に激痛が、脳内にキーンという音が響いてくる。それでも体を無理に動かす。

 

 以前の猗窩座戦では刀が折れそうで使えなかった。

 

 この技はまだ未完成で雷の呼吸の終の型で、熱界雷の究極技だ。

 

 呼吸の仕方はヒノカミ神楽の呼吸に、善逸の「神速」の技の原理を融合させたもの。

 体に負荷がかかりすぎる故に今の身体で使うと壊れる。

 今の俺が使うと体の強度が足りず二度と刀を握れなくなるかもしれない。

 

 だが、出し惜しみはできない。

 せっかく炭治郎達の決死の覚悟で作ったこのチャンス、無駄にできない。

 こいつはここで仕留める。

 

『雷の呼吸 終の型 天昇鳴龍 樹雷』

「ぐあぁぁぁ!」

「ぬあぁぁぁ!」

 

 低姿勢のまま、左足に本気で力を込める。

 全身の骨が軋み、足がブチブチと引きちぎれるような痛みに耐え、混乱しながらも巨大な刀で俺に斬撃を放とうとする黒死牟に接近する。

 

 本当に黒死牟は化け物だが、正常じゃないお前じゃ、この一撃は避けられない。

 

 黒死牟に接近後、二メートルほど間合いをあけて左足で蹴り上げた勢いを殺すように右足で地面を踏み込み、飛び上がる。

 

「ああぁぁぁぁぁぁあ!」

 

 腰の捻り、脇の閉め、右手で空に押し出すように構えていた刀で渾身の一撃を全身全霊で振り上げる。

 

 振り上げた瞬間、俺の刀は黒死牟に当たることなく空を切り、放たれた斬撃の勢いにより発生した雷撃が黒死牟を捉え、天に昇る雷鳴と共に空へと飛ばした。

 

「ああ……終わった」

 

 体が空中に浮いている中、黒死牟が空へと向かっていったことが薄めに見える。

 ああ……体の感覚ないわ。……意識が……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 ああ、空から日差しさしてるわ。

 

 綺麗だなぁ。

 日が指してるってことはもう鬼は来ないから安全だな。

 ああ……体が落ちていく、地面に向かって……あ……あれ、なんか世界が逆さまに見えるんだけど?

 え?俺落ちてる?……やばい。このまま落ちたら俺……死ぬ?

 

 ……やばくない?

 

 早く着地準備を……て、ああ、そういえば無理に体酷使しすぎて動かないんだった。

 

 あ……しぬ。

 首の骨へし折れて……えぇ。こんな最後でいいのかよ。

 

 いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「獪岳さん。……大丈夫ですか?」

「た……たんじ…ろう」

 

 だが、地面に落ちる寸前に炭治郎がお姫様抱っこで助けてくれる。

 ……爽やかな笑顔で助けてくれた……何このイケメン主人公。

 

 女だったら惚れてるわ。

 

「ごほ!…ごほ!」

「が、獪岳さん!」

 

 やば、身体中が痛い。

 とりあえず抱き抱えられてると余計痛いから降ろしてもらおうか。

 

「炭治郎……下ろしてくれ」

「あ、はい。すいません」

 

 炭治郎はゆっくりと下ろしてくれた。

 よし、これで、少しは痛みが和ら……がないな。

 え?待って体の外と内からすごい痛みあるんだけど。

 

 ……落ち着こう。とりあえず止血しないとな。内臓壊れてないよな?

 

「……ぐ……はぁ……うぐ!……はぁ…はぁ」

 

 ……よし。……内臓はいくつも出血してたけど、どうにか止血はできた。

 いやぁ、よかった。

 まだズキズキ痛むけど、これで出血死は免れた。

 

 ……でも、おかしい。

 動かないが、手の感覚は多少戻ってきたが、足の感覚がまったくないや。

 てか、呼吸で把握できないってどんな怪我したんだか。

 

「あ……あの」

 

 あ、炭治郎いるの忘れてた。

 そんな心配そうに見なくても大丈夫だよ。

 とりあえず安心させなきゃな。

 炭治郎は身内の死を何よりも悲しむし。

 

「止血はできた……安心…しろ」

「……はぁぁ」

 

 安心したのか、緊張、不安その他諸々全て吐き出すようなため息だなぁ。

 よほど心配していたんだな。

 

「生き残れたんですね……俺たち」

「……そう…か」

 

 みんな無事……それだけ聞いて安心した。

 なら、俺は回復に専念するか。

 

「なら、後は……頼む。少し……寝る」

「はい……お疲れ様でした。ゆっくり休んでください」

 

 最後に炭治郎に一言交わし、意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、この時の俺は知らない、終の型を使った代償があまりに大きすぎたことを。

 未完成の技故に体にかかる負担が俺の想像を超えていたことを。

 

 

 

 

 




最後まで読んでくださりありがとうございました。



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どうすりゃいいんだ

「ここは?」

 

 ……見慣れた天井だ。

 ここは蝶屋敷の病室か。

 

 となると、俺は生き延びたらしい。

 

 黒死牟の生死はわからないが、まぁ、生き延びただけよしとするか。

 

「いたたたた」

 

 起き上がろうと力を入れるも激痛が身体中を巡る。

 ああ、やっぱりダメか。

 

 だが、死んでないだけマシとしよう。

 

「それにしても良く生き延びれたよなぁ」

ーーガタン!

「ん?」

 

 なんだ?首を動かせないので、確認できないけど……誰か、きたのか?

 

「……が」

「が?」

 

 なんだよ、はっきりしないなぁ。

 声からして男の声だけど。

 

「獪岳様!目覚めましたぁぁぁぁ!」

 

 あ、教えてくれてありがとう。でも、もう少し声量小さくできなかったのかな?耳がすごく痛いんだけど。

 

 男の声が蝶屋敷内に響いた結果、数人勢いでバタバタと向かってきた。

 ああ、言わんこっちゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 病室に人が押し寄せてしまい、騒がしくなってしまったが、落ち着き次第後日談をしてもらった。

 

 

 とりあえず、死人はいない。皆無事生還したのだった。俺が起きたのはあの時から二週間経ったらしい。

 また、引退すると言っていた天元はいまだに柱として君臨しているらしい。

 一体何があったのやら。

 

 ここには蝶屋敷のメンバー全員(しのぶ以外)と炭治郎。

 善逸と伊之助は任務に出ていて、この場にはいない。

 

 炭治郎は黒死牟戦で刀を失い今だに新しい刀を作ってもらえず、蝶屋敷の手伝いと鍛錬をしているらしい。

 ……らしいのだが。

 

「あの、なんでそんなに暗いんだよ」

 

 これだ。何故か無事に一件落着。

 遊郭は原作通り崩壊したが、妓夫太郎と黒死牟(生死不明)を倒したというのに、なぜか皆俯いている。

 

 代表して俺に説明してくれたカナエも俯いている。

 

「どうしたんだよ?上弦を一度に二体だぞ?それも鬼殺隊の損害はなしでだ。これは快挙だと思うんだけど?」

 

 あれぇ?なんで誰も目を合わせようとしてくれないんだ?

 俺何か、ミスったか?

 

「……そうですね。……いつまでも黙っていることはできないですよね。私から言いますね。獪岳さん、驚かないでください」

「……わかった」

 

 カナエさん……なんで、そんな前置きが必要なんだ?

 カナエは深呼吸をした後、話始める。

 

「先日の遊郭での一件……鬼殺隊士に死人はおらず、全員無事に生還しました」

「それはさっき聞いたけど」

「ですが……あの、獪岳さん、一度ご自身の体を確認ください」

「え……あ、うん」

 

 とりあえず体に力を入れてみる。

 呼吸は問題ないから、内臓は平気。

 右手……左手は…動く。

 

「……あ…あれ?……なんか足が全く動かないんだけど」

 

 違和感……おかしい。

 呼吸で確認するも……わからない。

 

「ごめんなさい。……獪岳さんの足は負傷の影響で血行障害を偶発してしまいました。手を尽くしたのですが……ごめんなさい。壊死が進み、これ以上は命に関わってしまうので、獪岳さんの意思確認する前に、やむなく両足を切断させていただきました」

「……そっか」

 

 ……ただ一言、そう返すことしかできなかった。

 俺の両足は膝から下がなくなっていたのだ。

 

 

 そうか……そう…か。

 

「……しばらく一人になりたい」

 

 考え、絞り出した言葉がこれだった。

 ……ああ、どうすりゃいいんだよ。

 

 

 




最後まで読んでくださりありがとうございました。


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君に捧げる残りの人生

俺の判断は間違っていなかったはずだ。

 黒死牟戦は最善を尽くした。

 

 結果的に俺は雷の呼吸で一番重要な足を失ってしまうものの死人を出さずに守り抜いた。

 

 ……だがこの先俺は何をすれば良いのだろう。

 

 病室でぼーっと考えて時間が過ぎるだけで何も結論に至れない。

 引退せざるを得ない、それはわかっているのにどこか納得ができない。

 

「……カナエか?」

「……すいません、邪魔をするつもりはなかったのですが」

 

 気配を感じて名前を呼ぶとカナエがお盆を持って入ってきた。

 おそらく俺のために持ってきてくれたのだろう。

 別に気にしなくていいのに……いや、一人にしてくれと言ったのは俺だったな。

 

「お白湯、ここに置きますね。冷めないうちに」

 

 そう言ってカナエは持ってきたお盆を机に置くと、出ていこうとする。

 

「カナエ」

「……なんですか?」

 

 俺は気がついたら呼び止めていた。

 カナエは名前を呼ばれた瞬間ピクッと肩が少し上がる。

 

「少しいてほしい」

 

 一人でいてもこれからどうすれば良いのか答えを導き出せない。それにカナエの目元は少し赤くなっていた。

 一人で泣いていたのかもしれない。

 悪いことをした。そもそもカナエの早期決断がなければ悪化していたかもしれないのだ。

 

 カナエは俺のベッド近くの椅子に腰を下ろした。

 

「……俺はこれからどうすればいいのだろう」

 

 自問自答してもわからなかった。カナエに答えを求めるのは酷いことかもしれない。それでもこの人の意見を聞きたかった。

 

「それはあなたが決めることですよ」

「……え?」

「良し悪しを私に聞かれても、わかりません」

 

 カナエは真剣な表情でそう返答した。

 今の俺はどうかしている。こう言われるのはわかっているのに。

 

 それでも話を続けてくれるらしく、カナエは「……でも」と言葉を続けた。

 

「少なくともあなたの行動で芽吹き始めたものもあるのは確かです」

「芽吹き始めた?」

「はい。炭治郎くんたちはより一層任務と訓練に励むようになりました。もうすぐ私の実力を越えてしまうかもしれません」

 

 苦笑いしながらカナエは言った。

 後輩の成長が嬉しい反面、元柱という立場からなんとも言えないといった感じだ。

 

 まぁ、カナエの心理はわからないが。

 

「あなたの行動にどれほど、鬼殺隊に多大な影響を与えているか、わかっていますか?」

「……考えたことなかった」

「そうですね。順に挙げていくなら、柱の方々の基礎能力向上、お館様に珠世さんと愈史郎さんの仲介、上弦に効果のある毒や解毒薬の生成」

「あはは……確かに結構貢献しているな」

「他にも鬼殺隊の被害を最小限に上弦を2体撃破に貢献、2体の情報を得ています……上げたらキリがないですよ」

 

 カナエの言葉に思わず苦笑いしてしまう。

 確かに俺は鬼殺隊に多大なる貢献をしている。

 

「獪岳さんのおかげで救われた人が大勢います……私もその多くの人の一人ですし」

「……カナエ?」

 

 カナエは涙を流していた。

 だが、悲しむそぶりは見せず真剣な眼差しで見つめてくる。

 

「これを言うのは卑怯かもしれません。それを言う権利は私にないのも重々承知してます」

 

 そう前置きを言われ少し戸惑ってしまう。

 カナエは俺に微笑みながら言葉を紡ぐ。

 

「……これから先……ご自身のために人生を歩まれてはいかがですか?」

 

 ……思わず息が詰まる。

 カナエは俺がこれから先、義足を履いてでも鬼殺隊を続けると危惧しているのかもしれない。

 俺もそれを否定できない。

 

「一番辛いのは獪岳さんだということはわかってます」

「……カナエ」

「私はあなたを守るために鬼殺に戻りました……ですが、守るどころか足手纏いになってしまった。幸い死人は出ませんでしたが、私の実力不足でどなたかが死んでいてもおかしくない状況でした」

 

 確かに今回はギリギリだった。

 天元が毒に侵されていたら。

 伊黒が来なかったら。

 カナエがいなかったら。

 炭治郎たちが最後に天元たちを助け、隙を作らなかったら全滅していた。

 

「ですので私はお役に立てることはありません。今後は前線を退き、鬼殺隊を支えることに尽力したいと思います。育手として、蝶屋敷の者として鬼殺隊を支えていきます」

「……俺としてもそうして欲しいと思う。……黒死牟と戦っていてやはり不安だった」

 

 力不足を実感したカナエ。いや、完全に心が折れてしまっている。

 こうなっては再び刀を持つことは無理だろう。

 俺もそのほうが安心する。

 

 沈黙が俺とカナエを支配する。

 それから10秒ほど続いた。

 俺は何を言えば良いのかわからずにいた。目線も合わせることが出来ず。

 その沈黙を破ってくれたのはカナエであった。

 

「ごめんなさい……今からいうことは私の一生に一度の我儘です。……戯言と思い聞き流してもらって構いませんが聞いてください」

「……いいよ。なんでも言って」

 

 突然の前置き、正直どんなことを言われるかわからない。

 だが、一生に一度、今でもカナエが言ったことのない言葉に驚くも聞き手に徹する。

 

「カナエ?」

 

 カナエに優しく抱擁される。

 だが、鼓動が早くなっていて相当緊張している。その緊迫した空気はいつしか俺にも伝わってきた。

 

「これ以上私は……あなたが傷つく姿を見たくありません」

 

 震えるような声……それは心からの叫びであった。

 鼻のすする音。ここまでカナエが泣くのは初めてだ。

 俺はズキリと心が痛む。

 

 ああ……俺はなんと馬鹿なのだろう。

 何回大切な人を泣かせればいいのだ。

 

 転生直後は始めは自分のために頑張ってきた。

 だが、いろんな人と関わりを持つことで人のために努力をするようになった。

 

 守るべき人ができた。

 先生、弟弟子、蝶屋敷のみんな。

 

 人を幸せにするため、守るために研鑽を続けてきた。

 

 だが、その行動はこの世界で一番大切な人を悲しませてしまっていた。

 

 今思えばカナエが訓練を始めたのは猗窩座との戦闘が終わってからだ。

 一度引退したはずなのに、俺を心配してか無理して戦場へ赴いたのかもしれない。

 俺が死んだら心中すると言う約束まで取り付けたのも、全て俺を心配したから。

 

「……もう疲れたよ」

 

 その結論に達したとき、自然と涙が溢れたのだった。

 今までは他人のために努力した。強くなるために研鑽した。

 

 だが、今彼女の本音を聞いて……これからは彼女のために人生を捧げたいと。

 

 

 カナエと話したこの日……俺、胡蝶獪岳は引退を決意し、お館様に一報した。

 

 




最後まで読んでくださりありがとうございました。

追記です。
あと数話あります。


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終止符

 引退決意から次の日。

 

「炭治郎、少し話したいことがある。時間いいか?」

「わかりました」

 

 病室で過ごしていたが、外に出たいと思ったので、炭治郎にお願いして中庭に連れ出してもらった。

 

「……気持ちがいい」

 

 日光に照らされ体がポカポカする。

 やはり室内にいるのではなく外にいた方がいい。日光を浴びるとメラトニンが分泌される。

 メラトニンは睡眠の質を高めてくれるので、なるべく浴びておきたい。

 

 全集中常中により治りが早いが睡眠の質が高まることでさらに早くなる……と思う。

 

 完治させるためにできる限りのことをした方がいいとカナエから言われた。

 これから炭治郎に話すこと……これが俺が原作に関わる最後になる。

 

「……刀、まだ届かないんだって?」

「はい……そうなんですよ。鋼塚さんに手紙を送っているのですが、返信がなくてですね……やっぱり刀を二回も無くしてしまったのは不味かったですよね」

「なんとも言えないな。今回に限っては刀は黒死牟……上弦の壱と一緒に空の彼方へ行ってしまったからな」

「あはは……はぁ」

 

 炭治郎はため息をした。

 多分炭治郎の担当鍛治師の鋼塚さんは怒って無視をしているか、修行をしているかどちらだろう。

 

「刀鍛冶の里に直接赴くのも一つの手だよ」

「そうなんですか」

「ああ。しのぶや悲鳴嶼さんなんかがそうだな。独特の刀を扱う柱は相談しながら作るから刀鍛冶の里に行くことがある」

「なるほど……獪岳さんの刀もですか?」

「ああ。と言っても俺の刀は刃がないのと、少し小細工してあるだけで他の刀と変わらないけどな。とにかく、音信不通なら一度行った方がいいかもな」

「わかりました」

 

 これで炭治郎は刀鍛冶の里に向かうことが決まった。

 黒死牟の生死はわからないが、直接戦ったことで物語にどのような影響が出るかわからない。

 色々と手遅れだろうがなるべく沿わせておこう。

 

「もしかして俺の刀のこと心配してくれたんですか?」

「いや、俺が炭治郎を呼んだのは別の理由だ」

 

 炭治郎と話したのは俺の自己満足。

 もしかしたら炭治郎は俺の引退を重く受け止め過ぎてしまっているかもしれない。

 

「炭治郎……俺が引退することを気にしなくていい。……自分がもっと強かったらって思って気にしてるんじゃないかってな」

「……」

「図星か。そう暗い表情するな。むしろ一日に上弦二体と遭遇して両足失うだけで済んだ。誇るべきだ」

 

 炭治郎は暗い顔をした。

 もっと自分に力があればとか思ってんだろうな。

 

 思いつつ俺は地面に落ちた鍔を拾い炭治郎に話しかける。

 

「俯くな、前を見続けろ。炭治郎、お前が何に対して後ろめたさがあるのかは知らん。そう悩んでいる暇があるなら前を進むことだけを考えろ。人は進もうとしなきゃ成長はしない」

「……獪岳さん」

 

 お前は主人公なのだから。

 俺はもう前に進むことができない。

 だから、炭治郎には歩み続けてほしい。

 

「お前は渦中の中心にいる。これから先、鬼舞辻無惨はお前にさらなる強敵を差し向けてくるかもしれない。……だから、俺のことは気にせずに前に進みなさい」

「……はい」

「お前は伸び代がある。炭治郎は俺よりもずっと強くなるさ。だから、証明してくれ……俺が守ったのはこんなにもすごいやつなんだって」

「……はい」

 

 別にこんなこと言わなくても炭治郎は立ち直るだろう。

 原作でもそうしてきた。

 

「……俺、強くなります。獪岳さんみたいに」

「何故俺を?もっと強い人はいる。目指すなら悲鳴嶼さんの方がいいぞ?」

「いえ、獪岳さんは俺の目標です。獪岳さんのようにみんなを守れる隊士になりたいんです」

 

 この子、純粋にこれを言うから反応に困る。少しむず痒い。

 ま、ここまで宣言してくれるなら今後の成長に期待だな。

 

 その後、炭治郎は刀鍛冶の里へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから一週間後、俺はお館様に呼ばれていた。

 

「お館様、御壮健で何よりです。益々のご多幸をお祈り申し上げます」

「ごめんね病み上がりなのに。よく来てくれたね」

「いえ、お館様が望まれるのならいつでも馳せ参じます」

 

 歩けないので車椅子でカナエに押してもらった。

 俺はお館様と天音様の三人でいる。

 

 どうも三人だけで話したいとのことでカナエには外で待ってもらい、屋敷の室内にいる。

 

「話は聞いているよ」

「はい。私の両足を失ったため、前線を退きたいと思います」

「両足のことは残念だったね。生きててくれて本当によかった」

「もったいなき言葉ありがとうございます。これからは育手として鬼殺隊に尽力して行きたいと思います」

「うん、よろしく頼むよ。上弦の鬼と渡り合った君の経験を子供たちに教えてほしい」

「はい」

 

 これからは俺は育手となる。

 最後まで原作の役に立ちたい。

 

 このまま何もせずに過ごすのは嫌だ。

 

「獪岳、君のおかげで鬼舞辻無惨との因縁に終止符を打つための兆しが見えた。鬼殺隊の長としてお礼を言わせて欲しい。ありがとう」

 

 お館様は俺にお礼を言った。

 感謝され、戸惑ってしまう。

 

 鬼殺隊に多大な貢献をしたと思う。

 可能ならもっと一緒に戦いたかった。

 

「勿体なきお言葉です」

 

 一言そう返した。

 今日この日、俺は鬼殺の育手となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の帰り道。

 お館様の屋敷から俺とカナエはゆっくり帰っていた。

 カナエに車椅子を押してもらいながら。

 

「獪岳さん、お疲れ様でした」

 

 今まで話一つなく帰っていたのだが、カナエが話しかけてくる。

 何か話しづらい空気だったので、ありがたい。

 

「……カナエには色々と迷惑をかけたね」

 

 そう一言返す。

 カナエには全面的に支えてもらった。返しきれない恩がある。

 

「……俺はずっとカナエに支えられて生きてきた。……守られてきたんだなって……引退してから気がついたよ」

 

 引退してから考えるようになった。

 今までの自分を振り返るようになった。

 

 遅すぎる気がつき、いつも俺のそばにはカナエがいた。

 

「遅すぎですよ……そういったことはもっと早く言うべきかと」

「あはは……すまん」

 

 何も言い返せない。

 ……ここはどう返すべきか。

 

「……何か俺に出来ることはある?今までの恩返しと言うか……なんでもいうこと聞くよ」

「……なんでも」

「どうした?」

 

 ふと、車椅子が止まる。

 思いつきで言ったことだが何かまずかっただろうか?

 

「……カナエ?」

 

 振り向いて確認すると……カナエの顔は少し赤くなっていた。

 どうしたんだよ。

 

「なんでもって……言いましたよね?……前言撤回とかしませんよね」

「え……まぁ、うん」

 

 カナエはそう確認を入れるように俺に質問してきた。なんだよ、そんなソワソワして。

 

「私たち……そろそろいいと思うんですよね。お互い引退した身ですし」

「え?……それってどういう……いや、わかった。カナエが望むなら」

 

 俺はそこまで言ってなんとなくでわかった。カナエが望むままに。

 

「……その……獪岳さんの怪我が完治してからにしましょうか。やっぱり無理して怪我悪化させたくありませんし」

「あ……うん」

 

 蝶屋敷への帰り道、俺とカナエは終始無言でお互い真っ赤だったと思う。

 

 こうして俺は鬼殺隊生活に終止符を打ったのだった。

 




最後まで読んでくださりありがとうございました。

次回最終回になります。

https://ncode.syosetu.com/n2596if/
↑「実は僕……耳がすごくいいんです」の改訂版になります。小説家になろうにて先行投稿してます。
よろしければお願いします。


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〜完〜

最終話です。


 その後の話をしようと思う。

 

 引退した後、俺は育手として鬼殺隊を支えた。

 と言っても、両足を無くした俺ができることは少なかったので、刀鍛冶編が終わり次第義足を作ってもらった。

 ちなみに刀鍛冶編というのも、まず鬼たちは襲って来なかった。

 せっかく炭治郎に上弦の鬼の情報、倒し方どんな血鬼術かを教えていたのにカラスからの連絡もなく、何もありませんでしたよと帰ってきた時には驚いた。

 

 その時から鬼たちは活動しなくなった。

 この時の俺は少し焦った。本来刀鍛冶編では上弦の肆と伍の二体が刀鍛冶の里に迫るはずだったからだ。

 どうやら俺がこの世界に関わったことにより刀鍛冶編をすっ飛ばしてしまったようだ。

 

 無一郎の記憶が戻る重大イベントを壊してしまったわけだが、炭治郎と関わった結果、心境変化があったようなので良しとしよう。

 

 

 この期間を好機と考えたお館様の指示で鬼殺隊の中で柱稽古を開催した。

 これも原作通り平隊士たちを柱の元で稽古をさせ底力を向上させたのだ。

 もともと隊士の質が落ちていることが問題視されていることもあり、隊士の中には全集中常中を身につけた人もちらほらいた。

 理由は原作以上に訓練内容が厳しかったから。

 柱全員生存しているんだ。厳しいに決まっている。

 心が折れても再起不能になろうが無理やり立たせて訓練を強要する。

 そんな熱血指導により隊士たちは全員強くなった。

 俺は義足を作ってもらい、リハビリがてら柱稽古に指導側として参加した。内容はお館様からもらった森林での鬼ごっこ。

 もちろん俺が逃げる側。

 素早く逃げさせ、反射神経を底上げする。

 死角から熱界雷を放ち吹き飛ばす。そうすることで瞬間的に受け身を取る訓練、戦いで怪我を最小限に防ぐための訓練を参加した。

 おかげで現役には程遠いものの、柱たちと模擬戦をこなせるようになるまで復活できた。

 

 その間にも俺ができること。簡易的な日輪刀を赤い刀にするための方法、原作知識から上弦の鬼の知りうる限りの情報を共有した。

 どこから仕入れた情報かと聞かれたが、未来で一度戦ったことがあり何故かその記憶があったと適当な理由をでっち上げた。

 信用されるかわからないが、俺の信頼度は思っていたより高かった。

 すぐに情報共有してくれた。

 後は、無惨が迫ってくるかもしれなかったので、常にお館様の近くには常に数人の柱と強力な藤の毒、老化させるための毒、人間に

戻すための薬を注入させるためのの罠を仕掛けた。

 

 結果は言うまでもない。

 無惨は原作通りお館様を襲いにきた。

 

 大量の毒を注入され、返り討ちになった無惨はその場から逃亡し、そのまま最終決戦の無限城編突入。

 猗窩座と黒死牟の不在、事前に俺からの情報から対策を練っていた鬼殺隊が有利に戦いを進めることができ、結果的に勝利を収めた。

 俺との対決で黒死牟は日光を浴びて倒れたのだろうと推察する。

 これにより悲鳴嶼さんと不死川が負傷することなく、無一郎が死亡することがなくなった。

 原作よりも余裕のある立ち回りで勝利を収めた。

 

 ちなみにこのことを知ったのは全てが終わった後。

 俺はカナエと屋敷の中で皆の武運を祈っていた。

 

 知り合いが死ぬことなく無事にことが済んだ。

 何より、この俺が関わったことにより、ハッピーエンドで終わらせられたことができたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから10年が経った。

 

「ーーはい!今日はここまで。続きはまた明日」

「ええ!なんで?!もうちょっとだけ!」

「そうだそうだ!意地悪ぅ」

「ねぇ!その強い鬼さん倒した後どうなったの!」

 

 秋の虫の綺麗な鳴き声に、少し寒い風が戸口から吹き込む。

 薄い掛け布団をかけて寝るのに最も心地の良い秋の夜。 

 屋敷の大広間で俺は子供たち三人を寝かしつけるために昔話をしていた。

 

「ほら、また明日早いんだから」

「「「やだぁ!」」」

 

 と駄々をこねる子供たちを宥める。

 

 俺はカナエと六人の子供を授かることができた。

 ただ、全員女の子なので肩身が狭い。

 今後成長して思春期を迎えたら、洗濯物を一緒にしないでとか、大嫌いとか言われるのだろうか?

 

 今はお父さんと結婚する!とみんな言って俺を取り合いしているのだが……今後どうなることやら。

 

 そんなことを思いつつも時刻はもうすぐ22時になる。カナエから寝かせておくように言われたんだけど寝付くことはない。

 

 今俺が話したことも昔話ではなく実体験を話したら好評だった。

 

 一応、今はクライマックス。

 過去でいうところの黒死牟を俺が倒したことあたりだろう。

 

「ほら、言うこと聞かないと悪い鬼が食べにきちゃうぞぉ」

 

 子供を怖がらせる方法は昔から決まっている。

 お化けとか鬼とかいえば怖がるに決まっている。そう思って言ったのだが。

 

「もう怖い鬼いないから平気だもん!」

「そうだそうだ!」

 

 あ、つい最近鬼がいなくなったこと話したんだった。

 逆効果だったかもしれない。

 ……いや、まだ最強の鬼はいる。

 鬼舞辻無惨ではない、この世の男性が絶対に勝てない最強の鬼が。

 

「そんなこと言ってると……本当に鬼が来ちゃうぞぉ。その鬼は……今だに生き続けているんだ。……雷落としちゃうかもよぉ」

「本当にそんな鬼いるのぉ?」

「なんて鬼なのぉ?」

「それはね……鬼嫁という名の男を尻に引く世の中最強の鬼なんだ」

 

 カナエという名の鬼だ。

 俺はお館様から歴代鬼殺隊最強の称号を承っている。俺は否定したんだが、柱たちみんなが認めた。

 

 そんな鬼殺隊……いや、人類最強の俺でもカナエには頭が上がらない。

 どこかの戦闘民族でも嫁には勝てなかったんだ。

 

「へぇ……そんな鬼がいるんですねぇ……詳しく教えてください」

 

 お、食いついてきた。

 ちょっと話を盛ってやろう。

 

「鬼嫁は最強の剣士でも頭が上がらないんだ。……もしも悪いことしたらその鬼が食べに来ちゃうぞぉ……どうした?」

「パパ……その」

「お父さん……うしろ」

 

 話している途中子供達は俺の後ろを見ながら怯えていた。

 その反応に思わず冷や汗がでる。

 

 ……あれ、そういえば鬼について聞いてきたの子供達じゃなかったような。

 

「あ!鬼嫁だぁぁ!こわーい!」

 

 透き通る声だった。子供は純粋な生き物。

 この後の結末を考えずに思ったことを口にしてしまう。

 

 ギギギッと重たい首を後ろを振り向くとそこには。

 寝ている子供を3人抱えた俺の鬼嫁(カナエ)の姿がいた。

 

「あ……いや……これは」

「うふふふ……面白い話をしてますね。……みんなお父さんに迷惑かけちゃダメですよ。……寝ない悪い子はお仕置きしてしまおうかしら?」

「「「おやすみなさい」」」

 

 ……あ、やっぱり鬼嫁やべぇわ。

 一言で子供を躾けたよ。

 

 あ、俺もそろそろ眠くなってきた。

 

「おやすみお母さん」

「……少しお話ししましょうか……ね?あなた?」

「…あ…はい」

 

 首根っこを掴まれ引きずられ寝室から連れ出された。

 子供達は狸寝入りをしていたらしく、俺を見るなり合掌していた。

 

 それから部屋から連れ出され寝室から少し離れた小部屋に連れ込まれた。

 俺は壁に腰掛けると(足がないため正座ができないため)目のハイライトが完全に消え、両腕を胸下で胸を支えるように組んで見下すカナエ。

 

「それで?」

「……いや、子供たちが寝ないから」

「……で?」

「これには山より高く谷より深い事情が」

「………で?」

「……」

 

 どうやら言い訳を許せないのがカナエらしい。

 この威圧……ふ、さすがは最強の鬼。

 

「さすがは最強の鬼……とか思ってないですよね」

 

 なぜばれた。

 

「……」

「最近あなたの考えることわかるようになったんですよ」

「す……すごいなぁ……愛の力かな?」

「誤魔化しても無駄ですよ?」

「申し訳ありませんでした」

「……」

 

 俺は頭を床に擦り付けて謝った。

 その後はカナエは無言であった。今回はかなりのお怒りのようで。

 

「……鬼嫁は……どんな鬼なんですか?」

「……え?」

「悪い子には……どんなことをするのか聞いているのです」

「……なんだっけなぁ……忘れちゃったなぁ……あはは」

 

 言ったらダメな気がした。

 だが、俺の弁解はもう不可能なわけで。

 

「もしも悪いことしたらその鬼が食べに来ちゃうんでしたよね?」

 

 ……この後の何があったかは想像に任せよう。

 だが、数年後に男児が生まれて肩身がわずかに狭くなくなったと記しておく。

 

 これが俺が勝ち取った平和な日常、あわよければこの幸せな時が続きますように。

 

〜完〜

 

 

 




この物語はこれで完結となります。

最終話宣言から約一月後の投稿となりました。遅くなり申し訳ありません。
やはり、最後はどのようにまとめるべきか悩みました。
考えた結果物語の最後はカナエとの始まりの原点が一番だなと。

誤字脱字が多く、色々と課題が多かった作品でしたが、お付き合い抱きありがとうございます。
読んでくださった方々も物足りない感はあるかもしれませんが、最後は作者がやりたいように完結させて頂きました。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

今後も作品投稿を頑張りたいと思います。応援してくださると幸いです。



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