コントラクト・スプラウト ~ おじさんでしたが実在合法美少女エルフになったので配信者やりながら世界救うことにしました ~ (縁樹)
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00【情報記録】ある日の副業 ◇

はじめまして。
TSロリエルフが配信者やりながらニチアサヒーローやるお話(になる見込み)です。

よろしくお願いします。



 粘度の高い体液にまみれた肉の蔓が醜く(うごめ)き、にちゃにちゃとかぬちゅぬちゅとか粘着質で生理的に不快な水音を響かせる。

 生物の内臓のような色彩をもち、()()()とした質感を纏う、()()。この世のモノとは思えぬほどに醜悪かつ不気味で名状しがたい物体が、おれの目の前で今なおぐにゅぐにゅと蠢いており……ぶっちゃけ非常にキモい。

 

 現在の時刻は……恐らくは、真夜中。場所は浪越(なみこ)市中央区繁華街の裏通りから更に路地を入った、二棟の薄汚れたテナントビルの隙間。

 

 この場に居合わせた登場人物は――()()に気付いていない人々と、気付かせないよう奮闘してくれてるキリちゃんを除けば――四名。

 ()()と、おれの相棒と、あのキモい肉蔓を操る触手男と……制服を乱され随所に粘液を塗りたくられ――しかし幸いなことに()()()()()()()()()――小柄で可愛らしい女の子。

 

 眼前の男は憎々しげに、背後の少女は戸惑いと安堵を浮かべ、異様極まりない()()と相棒の姿を凝視している。

 

 

 

 「……良かっ、た……なんとか間に合って」

 

 「そうだね、よく頑張った。……ボクとしては、彼女が引きずり込まれる前に抑えたかったけど……」

 

 「解ってるけど……しょうがないだろ、おれもキリちゃんも幼女なんだから」

 

 

 冷静かつ的確な()の指摘に、おれは思わず唇を尖らせる。

 今でこそあんな姿――蜻蛉(とんぼ)のような四枚羽根を背から生やした手のひらサイズの小さな少女――ではあるが……()の性格そのものは以前と変わらない。平穏に暮らす一般人に被害が出ることを良しとしない、厳しくも優しい少女なのだ。

 

 それは解っている。おれだって充分理解しているのだが……それでもやっぱり誉めてもらった方が嬉しいし、やる気も出るに決まっている。

 

 

 

 『グ……ゥ、グゥゥウ! …………な、何しヤガる……! 何なんだオマエら!!』

 

 「……()()、来るよ。構えて」

 

 「大丈夫だよ()()。おれは絶対触手なんかに負けたりしない」

 

 『っ、クソッ!! ナメやがッて!!』

 

 

 微塵も怖がらないおれの発言が気に障ったのだろうか……あっさりと激昂する男の怒気に呼応するように、男の周囲に蠢く肉蔓が暴れ回る。それぞれが弓を引き絞るようにその身をたわまわせ筋肉に力を溜め、直後その力を解放して一直線に伸びてくる。

 速度はそれこそ放たれた矢のごとく、先端は尖りつつも太さは()()()()()手首くらいはある。

 

 おれを殺さず()()()つもりなのだろう、狙いは急所こそ外しているようだが……そんな肉矢に襲われ穿たれれば、普通の人間は当然只じゃ済まない。人知を越えた非常識な脅威の前には、ただの人間など成す術なく打ち倒されることだろう。

 

 

 

 「()()()()()、だったらね」

 

 『な……ッ!!?』

 

 

 高速で視線を巡らせ排除すべきモノを認識すると、小さく柔らかな指を『ぱちん』と鳴らす。

 おれに襲い掛かってきた触手は当然として。どさくさ紛れに女の子へ伸ばされていた触手までもが、指弾とともにひとつ残らず斬り飛ばされる。

 

 

 『なア゛……ッ!? 痛ェェ!! 畜生ォォオオオ!!』

 

 「うわまだ動いてる……キショ……見事なまでにソレする気満々な異能じゃんね」

 

 「そうだね。恐らく()()が彼の『願い』だったんだろう」

 

 

 潤沢な魔力にモノを言わせた【切断(シュナイデ)】の多重発現であったが、この程度では相棒曰く『非常識』なおれの魔力量は微塵も揺るがない。

 

 せっかくの隙なので、お返しとばかりにこちらも動く。踊るように手指を運び、式を選び魔力を練り……今回は【草木(ヴァグナシオ)】に【拘束(ツァルカル)】を付与して、発現。

 コンクリートの地面やテナントビルの外壁から深緑の蔦が勢い良く飛び出し、アイデンティティかつ頼みの綱である触手を惨めに斬り飛ばされた『()・触手男』の身体を捉える。手首や足首に絡みついた蔦はおれの命令に忠実に従い、男の身体を這い上がり雁字絡めに縛り上げる。

 

 

 『グぁ……っ!? なんっ……クソッ!! 離せ! 畜生!!』

 

 「いや普通離さんでしょ。仮に立場逆だったらアンタも離さんでしょ」

 

 「いいからノワ、早く『(スプラウト)』を」

 

 「はいはい解ってるって」

 

 「『はい』は一回」

 

 「はぁーい」

 

 

 

 最後の()()を行おうと振り向いたところで……なんと、これにはちょっとばかり驚いた。触手を失ったはずの『元・触手男』が新たに触手を纏い『触手男』に返り咲き、こともあろうにおれの蔦を引きちぎっていくではないか。

 なるほど、見た目はあんなにグロくて気色悪くても、さすがは筋肉の塊である。男の身体と蔦との間に無理矢理その身を捩じ込ませ、力任せに蔦の拘束を押し広げ……顔を真赤に染めて歯を食いしばる男の唸り声とともに膨張する赤黒い肉蔓によって、ついには青々とした蔦がぶちぶちと引きちぎられてしまった。

 

 

 『……はっ、……はぁッ、クソっ、クソッ!! 許さねぇぞナメやがっテ! まずはテメェからブチオカしてヤル!!』

 

 「ほら見なよ急がないから。貞操の危機だよ、ノワ」

 

 「ヤダわたしこわーい」

 

 「遊んでないで。でないとキリエがへそ曲げるよ」

 

 「はいはい」

 

 「『はい』は一回」

 

 「はぁーい」

 

 『ッッ!! クソガァァァァァ!!!』

 

 

 おれ達の気の抜けたやり取りが、どうやら更に気に障ってしまったらしい。粘液に濡れ光るイヤらしい触手を次々に伸ばし、それらの鎌首は揃いも揃って迷いなくおれを指向している。……完全におれを()()()()として認識したようだ。

 まあ尤も……この場合の捕食とは生命維持のためにムシャムシャするやつではなく、間違いなく身体中の穴という穴をグショグショにされるほうのヤツだろうが。

 

 冗談じゃない。この身体が極めて愛らしいことは承知の上だが、人間年齢で換算すればまだ10歳の年端も行かぬ少女なのだ。そんなに小さい女の子に()()()()()()考えるのは……本当よくないと思う。ロリにすら至らぬ幼子(アリス)だぞ。

 要するに『ごめんなさい』『生理的に無理』ってやつだ。おれ自身()()()()()()されたい趣味なんか無いし、そもそもビジュアルからしてお近づきになりたくない。

 

 それに……ほら見ろ。せっかく平静を取り戻した背後の女の子も、かわいそうに再び怯え始めてしまった。

 

 

 「それは良くないな。怖がらせるのは。……さっさと終わらせよう」

 

 『クッッソガキがァァァァアアアア!!!』

 

 

 華奢で小柄で可愛らしいおれの身体目掛けて、卑猥な触手の群れが雪崩のごとく押し寄せる。足元のアスファルトを蹴り軽くニメートルほど飛び上がったおれの足元へ、粘着質な水音を立てて触手の群れが殺到する。

 その衝撃で粘液が飛び散り、その不気味な雫の一つが女の子の方へと飛んで行くが……相棒の発現させた光の防壁によって弾かれ、跡形もなく消滅する。ナイスフォロー。

 

 などと余所見(よそみ)している暇は無さそう……というわけでも無いようだ。【浮遊(シュイルベ)】を発現させて空中で体勢を整え、この身体よりも背の高い触手男を余裕綽々と見下す。

 なかなか落下してこないおれに痺れを切らしたのか、触手の群れは進路修正を計り上方へと飛んできた。

 

 上方。つまり……おれの方へ。

 暗がりの中で男が嫌らしい笑みを浮かべるのが解るが、生憎とこの子の身体はそんなに安くない。

 

 

 「……【氷結(ツフルリーゼ)】」

 

 

 宙に揺蕩うおれの爪先まで『あと一歩』というところまで迫った肉蔓が、ほんの一瞬で動きを止めて表面の粘液ごとカッチコチに凍結する。

 明確に卑猥な目的で放たれた触手の群れは全ての動きを強制的に停止させられ、その『停止』の侵食は触手の先端から始まり……ピキピキと音を立てながらみるみるうちに進んでいく。

 

 

 『な……グ、ギ、なん……ッ!?』

 

 「さすがにもう動けないよね?」

 

 

 触手の全てを氷結させられ、接点である腰後ろのあたりから徐々に凍り始める触手男の背後へ、宙をふわりとひとっ飛びして飛んでいく。今や腹から下の動きを封じられた男は充分に振り向くことも出来ず、おれの目の前で無防備に首筋を晒している。

 

 両の肩甲骨のちょうど間あたり。背骨のある一部分から生えた、不気味な黒い『(スプラウト)』が……為す術なく晒されている。

 

 

 「ちょっとごめんね……よいしょっと」

 

 『グギャあああああああアアアアアあ゛あ゛!!!?!』

 

 

 むんずと掴んで、ブチッと引き抜く。身体の半分以上を凍らせた男が断末魔のような悲鳴を上げ、見開かれた瞳はぐるんと上を向き、唯一動かせる上半身はビクンビクンと何度も跳ねる。

 『(スプラウト)』の伸ばした根と、そこから滲み出た魔力によって改竄されていた身体が急速に『巻き戻り』始め、恐らくは身体中を蚯蚓(ミミズ)が這い回るような不快感に苛まれているのだろうが……こればっかりはどうしようもない。死ぬよりはマシだろうと我慢してもらうしか無い。

 

 

 「いや、早く解凍してあげないと……死んじゃうよ? 彼……」

 

 「あっ」

 

 

 相棒の助言に助けられた。『(スプラウト)』を引っこ抜いても【氷結】の侵食は止まらない。なにせ他ならぬおれ自身が掛けた魔法だからだ。

 危なかった。さすがに肺や心臓が凍ったら死んでしまう。いくら現行犯とはいえ、彼には情状酌量の余地がある。命を奪われる程の()われは無いはずだ。

 とりあえず……これで今度こそ、もう大丈夫だろう。『(スプラウト)』は引っこ抜いて処分したし、ちぎれて残った『根』もすぐに消える。アフターフォローに【回復(クリーレン)】も掛けておいたので、しばらく放っておけば目を覚ますハズだ。

 

 彼は、もう大丈夫。

 あとは……あの子だ。

 

 

 「よし。じゃあ……ごめんね。おまたせ」

 

 「……っ、あっ、……あの」

 

 「【診断(ディアグノース)】……ふぃぃ、よかった。【回復(クリーレン)】、【浄化(リキュイニーア)】、【美容(シュルヘニア)】、【鎮静(ルーフィア)】……あっ、服も直さないと。【修繕(リペアーレ)】」

 

 「ふわ…………魔法……ほんとに……」

 

 「ごめんね、怖い思いさせて。もう大丈夫だから」

 

 

 ()たところ、身体の()()にケガは無かった。どうやら触手に絡みつかれてこの暗がりに引きずり込まれたところで、ようやくギリギリ割り込めたようだ。

 怖い思いをさせてしまったが……()()()にならなくて、本当に良かった。身体の傷は治せても、精神的な傷は治せない。嫌な記憶を選別して消去する、なんてことも出来ない。

 

 ……厳密に言うと『できなくはない』のだが……他人の精神に介入して意のままに弄り回すのは、それはある種の()()に近い。

 鼓舞や鎮静といった表層の扇動だけならともかく……深層まで侵入して弄り回すは、その人の人格に対する冒涜だ。

 

 ……それは……それだけは、だめだ。

 

 

 まあ、傷を治して『はい元通り』で済むとは思っていないが……とにかく大事に至らなくて、本当に良かった。

 あとは……混乱しているであろうこの子に事情を説明し、どうにか心を落ち着けてもらえるように頑張るしか無い。信じられないような非常識な事態に巻き込まれたのだ、一筋縄では行かないだろうが……巻き込んでしまった以上は、気長に誠実に対応していくしかない。

 

 ……と、思っていたのだが。

 

 

 

 「あのっ、あの! 『わかめちゃん』ですよね!?」

 

 「ふぁっ!?!?」

 

 「おお? やったねノワ」

 

 

 おれの身元……というか()()を知っている、目の前の彼女。

 いきなり告げられた()()()()()。予想だにしていなかった事態に、我ながら面白い声が出るとともに一瞬で()()()()()()()()()()

 処理せねばならぬものを処理し終え、やらねばならぬことを片付け終え、余裕の生じていた()()の心。そこに生じた隙を見逃すこと無く、この身体に込められた『呪い(設定)』は律儀にその効能を現していく。

 敵性存在相手に立ち回っていたときのような落ち着きはどこかへと姿を消し、顔に血流が集中するのを抑えることが出来ない。

 

 思いもしなかった()()()……しかも恐らくは()()()との邂逅。普通に考えれば当然、喜ぶべきことなのだろう。いや実際嬉しいことは間違いない。何せおれの()()は言うまでもなく、多くの人々に見てもらってナンボのお仕事なのだ。

 喜ぶべき……なの……だが。

 

 人に知られたい()()と異なり……この()()は、なるべく人に知られたくないのが本音なのだ。

 

 

 

 「凄い! 本物(ホンモノ)だ! 先週の『踊ってみた』良かったよぉ! わかめちゃんすっごく可愛かった! でも実物も可愛い! もっと可愛い!! …………えっ? 実、物……? えっ!? えっ、待って、待って……ホンモノだ! 凄い! リアルエルフ! 実在美少女エルフだ!! なにこれ可愛い!!」

 

 「ひゅぇ……えっと、えっと、えっと……あ、あり、がとう?」

 

 「きゃあああああ可愛い!! 一緒に写真撮って良い!? ……あっ、ごめんなさい、良いですか!? お願い!!」

 

 「あっ、えっと、あの……は、はい」

 

 「やった!! ありがとう!! わかめちゃん最高!!」

 

 「あー…………まぁ……時間の問題だったし、ね……」

 

 

 何かを諦めたような相棒の声が虚しく響くが……その声を完璧に掻き消すほどに、女の子のテンションはものすごかった。

 信じてもらうとか、心のケアだとか、そんなことを考える余裕も無かった。気がついたら女の子と隣り合って肩を並べ、自撮りツーショットをばしばし撮られていた。目を白黒させている間に女の子はものすごい幸せそうな表情になっており、もはやおれが何かを試みるまでも無かった。

 

 今どきの女の子は……つよかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 非実在の容姿を纏い、電脳(ネット)の世界から夢と希望を与える職業。ナウなヤングにバカウケのホットでイマドキなエンターテイナー。

 人呼んで……仮想配信者(UR-キャスター)

 

 そんな『UR-キャスター(ユアキャス)』ブームが到来し、ネット上で多くの配信者(キャスター)達が日々己の腕を磨き、互いに切磋琢磨していく時代。

 

 

 

 これは……表では人々に夢と希望を与えながら、裏では人知れず蔓延(はびこ)る絶望と怨恨を取り除くべく活躍する、とある一人の新人仮想配信者(UR-キャスター)の……

 

 ……いや、新人仮想配信者(UR-キャスター)木乃若芽(きのわかめ)』ちゃん()()()()となってしまった()()の、努力と涙と奮闘と騒動と……そして涙と涙と涙の記録なのである。

 

 

 





【挿絵表示】


19時くらいにもう1回更新します


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01【事前準備】仮想配信者計画_01


細かなところ確認不足でした
大変お騒がせしました


『モニターの前のみなさん。はじめまして、こんばんわ。仮想(UnReal)配信者(キャスター)見習いの『木乃(きの)若芽(わかめ)』です! ……あっ、仮名ですよ?』

 

 

 

 さらさらと流れ、きらきらと煌めく若葉色の髪を揺らしながら……右頬に呪学的な紋様を刻み、やや下方向へと伸びる長い耳を持った神秘的な少女が、はにかみながら可愛らしく自己紹介文を読み上げている。

 背丈はさほど高くない。というかぶっちゃけ小さく、幼い。肉付きもそこまで良いわけではない。身に纏うのは丈の長い、しかし身体のラインにフィットするローブ。胸の膨らみも腰のくびれも尻の大きさも控え目なのが着衣の上からでも見て取れ、『華奢で儚げで神秘的なエルフの少女』というキャラクターを解りやすく表現している。……と思う。

 

 

 

『来週金曜日、よるの九時……二十一時、ですね。魔法情報局『のわめでぃあ』、満を持して放送開始です!』

 

 

 

 彼女が身振り手振りを交え、踊るように体を動かすにつれて、要点を纏めた字幕や情報バルーンがぽこぽこと飛び出し、ふわふわと浮かび踊る。

 意のままに『魔法』を操る、幼げな容姿に反した超熟練の魔法使い。見た目と内面のギャップがまた、『木乃・若芽』というキャラクターを魅力的に彩っている、……と思う。

 

 

 

『このわたし、若芽(わかめ)ちゃんが直々に集めたさまざまな情報を、みなさんに特別にお教えしていきます! たのしみにしていてくださいね!』

 

 

 

 やや高い位置に設定されたカメラへと目線を向け、若干の上目遣いであざとくも可愛らしくアピールを行う『若芽(わかめ)』ちゃん。

 その名前はこの世界にありふれた海藻の名前であるとか、国民的アニメーションには同じ名前の女の子が存在するだとか、しかもその子は頻繁に下着が見えてしまうとか、今後視聴者からそういった情報を与えられて赤面するという……大変あざとい設定・予定が仕込まれた、この段階ではまだ随所に『粗さ』が見られる、未完成のキャラクター。

 

 

 数週間前に作った告知動画は、入念な広報活動と『神』の人脈のおかげで順調に拡散されており、幼げでありながら超熟練、あざとくも可愛らしい『木乃・若芽』ちゃんの知名度も、そしてそれに伴う期待値も、どんどんと上がっていった。

 

 

 

 そして……今日がその、告知動画内で告げられた『来週の金曜日』に当たる。

 

 本放送の開始を間近に控え、魔法情報局『のわめでぃあ』の看板娘(メインパーソナリティ)は…………

 

 

 

 

 …………錯乱、していた。

 

 

 

 

 

 

(む……無理っ! 絶対! 絶対無理!!)

 

 

 

 緊張に震える視界が時計の針を捉え、現在時刻が二十時四十五分を回ったことと……()()()()まで残り十五分を切ったことを、無慈悲に告げる。

 

 二枚あるディスプレイのうち一枚が映し出すのは、『神』の厚意で用意されたポップでキャッチーな広告イラスト。パーソナリティを務める(という設定の)可愛らしい女の子が可愛らしい笑みを浮かべ、彼女の名前を(もじ)った架空の放送局名が記された看板をこれまた可愛らしく抱いている。

 彼女の頭上にふわふわと浮かべられたフキダシには……『本日二十一時、ついに開局!』との文字。

 

 

(なにが『ついに開局!』だ……! 畜生! ふざけやがって……!)

 

 

 忌々しげに唇を噛み、大喜びでテキストを挿入した先週の自分に対し吐き捨てる。そんなことをしたところで状況は何一つとして好転しないのだが……そんなことは理解していながらも、この状況を憂いずには居られない。

 

 カメラもマイクも音源素材も画像素材も、何から何まで準備万端。今更技術的な懸念などあるわけでも無く、台本だって手前味噌だが完璧に仕上がっている。

 なにせ今日に至るまで、動画配信なんて数え切れぬ程にこなしてきたのだ。再生数やチャンネル登録者数はお世辞にも多いとは言い難いが、場数だけはそれなりに踏んでいる。リアルタイムでの生放送は初めてとはいえ、やること自体は身体に染み付いているのだ。問題無い。

 

 問題無い……筈だった。

 

 

 

(でもっ……! でも!! これは無理……! 絶対無理!!)

 

 

 

 ディスプレイの中……配信準備の整ったPC画面には、この部屋の内装を背景に可愛らしい女の子の姿が――頭を抱えてうずくまって悲壮な表情を浮かべている様子が――リアルタイムで映し出されている。

 

 まるでこの世の終わりとでも言わんばかりの、絶望に染まり切った表情の女の子。銀と見紛うほどに艶やかな、長く奇麗な若葉色の髪。右側のみ神秘的な紋様の描かれた、丸みを帯びた柔らかそうな頬。やや下向きに伸びる尖った耳とぷっくりとした唇が愛らしい……記念すべき第一回目の配信を間近に控えた、このチャンネルの『看板娘(メインパーソナリティ)』という設定の、女の子。

 

 

 画面へと視線を向けると、モニター上部に設置したカメラを介して女の子と目が合う。

 

 両手で頭を抱え首を振ると、ディスプレイに映るその子もまた……同様にいやいやと頭を振る。

 

 

 情報変換を噛ませていない分、ほぼリアルタイムで自分と全く同じ挙動を取る『看板娘ちゃん』。

 この子はここ数日に渡り徹夜に徹夜を重ねて今日の昼過ぎにやっとのことで完成した渾身の3Dモデル……()()()()

 

 

 

 

 

「なんでっ、……なんで()()が……っ!」

 

 

 

 カメラ越しでは無くとも、視界の端にさらさらと映り込む若葉色の髪は。

 無残な程に変わり果て、憎たらしい程に可愛らしく変貌してしまった声は。

 

 

 この数週間で全面リファインが行われた、自身の技術の粋を注ぎ込んだ渾身のアバター……なんかでは無く。

 

 

 

 

 紛れも無い、()()()()()だった。

 

 

 




20時くらいにも更新します


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02【事前準備】仮想配信者計画_02

 今から(さかのぼ)ること……ほんの十時間ほど前。

 明け方から続く豪雨の雨音と、遠く雷鳴の轟く中。

 

 ここ数週間の集大成とも言える、渾身の3Dアバターが……消えた。

 

 

 

 

「……は? ……え、…………は? …………はぁぁあ!??」

 

 

 

 落雷によるものと思われる停電から復旧し、嫌な予感を押し殺しながらパソコンを立ち上げ、血眼でモデルエディタを開き……ここ数週間絶えず顔を突き合わせていたモデルデータが奇麗さっぱり消え失せているのを認識し、素っ頓狂な声が上がった。

 

 今日の夜九時からの配信に向け、最終確認とばかりに細部の造り込みを進めていた3Dアバターモデル……チャンネル開設の(かなめ)とも言えるそのキャラクターが、跡形もなく消えていたのだ。

 

 

 

「嘘、だろ……? え……ど……どう、すん……だよ…………どうすんだよぉ!!?」

 

 

 

 動画配信者として一通りのことはこなせるが、しかしぶっちゃけ大した実績も残せていなかった俺は……心機一転、昨今の仮想配信者ブームに乗っかろうと画策した。

 幸か不幸か時間だけは山ほどあった。これまで何かにつけて連敗続きの人生だったが、これを切っ掛けに盛り返し、輝かしい成果を残せる……根拠は無かったが、何故かそんな気がしていた。

 

 主役となる看板娘の設定を練りに練ってラフを書き上げ、数少ない得意分野であったモデリング技術を用いて3Dアバターを造り始め、『神』と謳われるイラストレーター氏になけなしの貯金を叩いて立ち絵やキャラクター設定画を発注し、ネット上で出資者を募ったり無人融資契約機に頼ったりと東奔西走し少なくない資金を集め、高精度(ハイエンド)な変声ソフトを調達して完璧に調律を済ませ、超一級品とまではいかずとも不自由することは無いであろう配信器材を揃え……

 

 

 とうとう配信当日を迎え、要であるアバターもつい先程やっと完成したかと思ったら……その()が消えていたのだ。

 

 

 

 既に告知イラストは拡散してしまっている。

 やはり『神』の影響力は凄まじく、決して少なくない注目と関心を集めてしまっている。

 出資者達にも今晩が第一回の配信だと伝えてしまっている。

 今更配信予定を変更することなど……出来ない訳ではないだろうが、肝心の初動で(つまず)いたらその後の伸びは怪しいだろう。

 

 

 いやむしろ、各方面に()()を作りまくっている自分の場合……その遅れは()()()だ。

 

 今晩の配信予定を変更することは、実質不可能。しかしながらアバターが存在しなければ、(おっさん)が顔出し配信したところで意味も無い。

 愛らしい美少女目当てに配信を見に行ってみれば演者は御歳三十余りのおっさん(無職)だった……なんてことにでもなれば、もはや詐欺である。どう考えても炎上は免れられず、仮想配信者計画は一瞬で消し飛ぶだろう。

 

 

 ここへ至るまでに費やした努力が水泡と化し、おまけに各方面から受けた恩と抱え込んだ借金も返せず……日に日に膨れていく利子に脅え、緩やかに滅ぶのを待つしか無い。

 

 

 ……救いは、無い。

 

 

 

 

 

(………………)

 

 

 窓の外は相変わらずの雷雨だったが……その音さえろくに耳に届かない。

 薄暗い窓の外、窓ガラスに映る自分の顔。表情が抜け落ちたその顔は、まるで死人のように虚ろだった。

 

 

 

 死人。既に死んだヒト。……ははっ。

 

 

(…………死ぬか)

 

 

 ふと、唐突にそう思った。

 

 幸いなことに(?)このマンションはそれなりの高層建築物なのだ。窓を開け、柵を乗り越え、淀んだ空に身を投げれば……それは文字通り空を飛ぶような爽快感だろう。もう絶望とはおさらばだ。

 各方面から搔き集めた恩も、町金融から搔き集めた金も、返す心配なんてしなくて済むのだ。

 

 ゆっくりと掃き出し窓を開け、裸足のままベランダへ出る。

 全身に滲み出ていた冷や汗に強風と横殴りの雨が加わり、一瞬で体温が下がる。

 ベランダの柵に両手を掛け、遠慮無く吹き付ける豪雨を意に介さず……ぼんやりと遥か下を眺める。

 

 

 

 

(…………ちくしょう)

 

 

 

 今更死ぬこと自体は怖くない。自殺を試みたことだって何度もある。

 実際に身を投げたことも……ある。

 

 だが…………()()()

 

 

 

(……ちくしょう)

 

 

 

 自分でも間違い無く会心の出来だった。

 誰からも愛されると思える程に可愛らしい子だった。

 もし実在するのであれば、それこそ目に入れても痛くない程に……愛しい存在だった。

 

 そんな可愛い我が子が……日の目を見ることなく、闇に葬られる。

 そのことだけが、ただただ悔しかった。

 

 

 

(畜生……!!)

 

 

 

 本気で打ち込んだ創作物さえ、満足に作り上げることが出来なかった。

 

 ほんのデータに過ぎない我が子に、命を吹き込むことが出来なかった。

 

 声を、動きを、表情を、歴史を与えてやることが出来なかった。

 

 皆に愛されるキャラクターとして、生を与えてやることが出来なかった。

 

 

 

 ……『()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 そのことだけが……ただひたすらに悔しかった。

 

 

 

 

 

 何度目かも解らぬ轟音……腹の底に響くような雷鳴が、脳を揺さぶる。

 ぼんやりと霞む視界に雷光が幾度となく飛び込んでくるが……微塵も恐怖は浮かばない。

 どうせもうすぐ消える命だ。今更怖いものなんてあるものか。

 そうとも、何一つとして眩い成果を生み出せなかった俺なんか……生きていたって仕方が無いじゃないか。

 

 只一つ心残りなことは……『あの子』が生まれることさえ出来ずに消えていくこと。それだけだ。

 ああ、全く。なんで俺はこんなにも無駄に生きているのだろう。

 

 

 

()()()()()()……()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 何一つとして違和感を感じることも無く……自然とそう思えた。

 

 

 

 

 強まっていく雨と風、この世の終わりのように荒ぶる雷。

 そこかしこに立て続けに雷が落ち、轟音に頭を揺さぶられる中。

 

 

 

 

 ――――空が、割れた気がした。

 

 

 

 




21時くらいにも更新します


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03【事前準備】仮想配信者計画_03

 一体どれだけの時間、呆然としていたのだろうか。

 気付いたときには……雨も風も雷も、まるでそんな荒天なんか無かったとばかりに消え去っていた。

 

 なんだか意識が朦朧とするような、寝起き直後のような……なんともいえないふわふわとした感覚。

 ……まさかベランダで立ったまま寝ていたとでも言うのだろうか。

 

 

 ぼうっと見上げていた空はいつの間にか曇天のものとは違う理由で暗く染まり、見下ろす家々の窓からが電灯の灯りが漏れる。どこからともなく美味しそうな匂いが漂い始め、どうやら夕食の支度の時間のようだ。

 ……というか、日も落ちたのに部屋着のままだったか。雨によるものとは違う理由で肌寒さを覚えた。

 

 

 ぶるりと身を震わせ、とりあえず部屋に戻ろうと踵を返す。

 一歩目を踏み出そうとしたところで足に引っ掛かる()()に足を取られ、明けっ放しだった掃き出し窓から跳び込むように……顔面から倒れ込んだ。

 

 

 

 

「おブェっ!」

 

 

 

 我ながら甲高い……どこかおもしろい悲鳴に笑いそうになるが、座布団越しとはいえ強かに打ちつけた(デコ)と首が非常に痛む。

 脳を揺さ振られたのかぐわんぐわんと揺れる視界の中……下手をすれば死んでいたかもしれない転倒事故の原因を探るべく、足に絡まる()()へ意識を向ける。

 

 

 めまいが治まっていく中、日も沈み薄暗いベランダと部屋との境目で見つけた原因(それ)は……非常に見覚えのあるもののように見えた。

 

 

 部屋着の下と……下着。

 スウェットのズボンと、ボクサータイプのパンツだ。

 

 

 

「……あ? 何だこ…………ん??」

 

 

 

 

 いや待て。待て待て待て。

 

 

 他人のお下がりでも無い、自分の体格に丁度合っていた筈の部屋着ズボンが……すとんと足元に落ちていた。

 それはまだ良い。訳解らない謎だらけでちっとも良くないが……まだ良い。

 

 

 ……問題はそこじゃない。

 もっともっとヤバい問題が……()()にある。

 

 

 

「あ…………ぁあ……? え、ちょ……!? は!?」

 

 

 

 やっぱり聞き間違いでは無かった。気のせいでは無かった。慣れ親しんだ野太い声の代わりに俺の意思を代弁するのは……柔らかく、可愛らしく、幼げな――変声ソフトの調律でこれでもかと、しかし一向に飽きることなく耳にしていた――『看板娘』たる仮想配信者ちゃんの声。

 

 3Dモデル製作の傍ら、気分転換と自身の鼓舞のために幾度となく聞いた声だ。……聞き間違える筈が無い。

 

 

 

「!! そうだ!! モデルは!?」

 

 

 

 尚も足に絡まろうとする――ぴったりなサイズの筈なのに何故かぶかぶかに見える――部屋着と下着を纏めて脱ぎ捨て、ばたばたと部屋の中へと飛び込む。なんだか視点の高さがおかしい気がするがとりあえず無理やり無視する。何よりも大切な『看板娘』の3Dアバターを確認すべく、スタンバイ状態の愛機(PC)を叩き起こそうとキーボードに手を伸ばし…………

 

 真っ黒なままの画面を一瞥し、()()()()()()()に顔が引き攣り、すぐさま手を引っ込め愛機(PC)を素通りする。

 

 

 ドアを開け、廊下を進み、目指す場所は洗面所。

 もう一枚ドアを開けて洗面台、そこにあるモノへ……自らの姿を寸分の狂いなく映す鏡へと、一も二も無くかじりつく。

 

 

 

 

 

 

「な……なんじゃこれェェェエ!?!?」

 

 

 

 

 情け容赦無く真実を映し出す鏡に、()()()()見ても小柄で可愛らしい女の子でしかない()()()姿()に……決して少なくない時間、呆然と佇んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 ………………………………

 

 

 ………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 どれくらいの時間、呆然としていたのだろうか。

 

 ……ふと。

 可愛らしく尖った耳に、小さな電子音が届いた。

 

 

 

「……ッッ!!? やっべ!」

 

 

 

 今日の……()()()()()()()に鳴るようセットしておいた、りんご印タブレットのアラーム。それが示すものに思い至り、色白の肌から『さーっ』と血の気が引いていく。

 頭では何も考えられないまま、それでも初配信を成功させるため……危機感を覚えた身体は()()()()()、機材を次々立ち上げていく。

 自分の身体が半ば自動で動くような得体の知れない感覚にありながら、あまりにも理解し難い現実に思考が追いつかない。柔らかそうな小さな手が大きなマウスを握りしめ、渾身の3Dアバターモデルが消失した以外は準備万端な愛機(PC)をてきぱきと操作し、混乱する頭を置き去りに着々と準備が整えられていく。

 

 

 あれよあれよという間に全ての準備が整ってしまい、現在時刻は二十時を少し回ったところだ。

 『やるべきこと』を忠実に片付けている()()()なこの身体は、未だに事態を受け入れられていない思考を完全に放置し、ご丁寧にSNS(つぶやいたー)での配信告知まで済ませている始末。

 

 既にネットの波に乗り世界中を駆け巡っているその『つぶやき』は、先週投稿された告知動画と同様のテンション。あざとくも可愛らしい仮想配信者(UR-キャスター)見習い『木乃・若芽ちゃん』の言葉として紡がれ、見た者の何人かは今夜この後の配信を心待ちにしてくれることだろう。

 まさか『木乃・若芽ちゃん』の身に想像を絶するトラブルが舞い込んでいようとは……他でもない『若芽ちゃん』本人が絶望に囚われ現実逃避に走っていようなどとは、思ってもみないだろう。

 

 

 

 

(……あっ、『神』RT。……もうだめだ)

 

 

 

 他でもない『若芽ちゃん』の生みの親、自分はもとより数多の民から『神』と崇められる絵師(イラストレーター)先生が、告知のつぶやきを手ずから拡散(RT)してくれた。それを皮切りに告知は加速度的に拡散していき、みるみるうちに後に引けなくなってしまった。

 ……いや、それは違うだろう。紛れもない善意をもって接してくれる『神』の所為にするなんて、恥知らずにも程がある。

 

 それに。この『仮想配信者(UR-キャスター)』計画に乗り出した時点で、もとより退路など無い。告知通りに今日配信を始められなければ……逃れられやしない()()の目処は、どんどん薄れていくのだ。

 今でこそ神絵師(イラストレーター)様効果で注目を集めているが、この注目は長続きしない。風化する前に次の起爆剤を投下出来なければ、このご時世数多(あまた)溢れる仮想配信者達に埋もれて沈んでいくばかりだろう。

 

 

 初期投資を回収する目処も立たないまま……観客(ギャラリー)のまばらな生放送枠で、失意とともに『引退』を表明する。

 数週間、数カ月後には話題にさえ上らなくなり、一年も経てば『若芽ちゃん』が存在した痕跡さえ……殆ど残らず消え失せるだろう。

 

 

 

 

 

(……それは……()()

 

 

 

 

 

 嫌だ。()()()()()

 

 

 

 本気で打ち込んだ創作物さえ、世に送り出せずに消え失せてしまうことが。

 今はまだデータの塊に過ぎない我が子に、命を吹き込んでやれないことが。

 声を、動きを、表情を、歴史を、喜びを与えてやることが出来ないことが。

 皆に愛されるキャラクターとして、生を与えてやることが出来ないことが。

 

 

 『木乃・若芽』という可愛い我が娘を、このまま死なせてしまうことが。

 それは……()()()()()

 

 

 

 

 

 運命の金曜日。デジタル時計の表記は、二十時二十分。

 

 未だ後ろ向きだったおれの思考と意思は……覚悟を決めた。

 

 

 





22時くらいにも更新します


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04【初回配信】はじめまして、わたし

 

ヘィリィ(こんにちは)! 親愛なる人間種の皆さん! ……こほん。はじめまして、魔法情報局『のわめでぃあ』局長の『木乃(きの)若芽(わかめ)』です! ……あっ、仮名ですよ?」

 

 

 

 賽は投げられた。……いや。

 自分の手で、自分の意志で、思いっきり投げてやった。

 

 二十一時〇〇分……記念すべき第一回の生放送、晴れやかなその幕がついに上がる。

 

 

 先週の試験放送とは異なり……演者は3Dキャラクターアバターではなく、『木乃・若芽ちゃん』と成り果ててしまった俺自身。ソフトの中で表現されたフルデジタルな電子スタジオではなく、背景は自室の()

 白の壁紙がぴしっと張られた部屋の壁以外、一切の生活感(オブジェクト)が映り込まないようにカメラの位置と角度を調整し、白一色の背景に魔法を使ってスタジオ背景を投影して電子スタジオを再現していく。

 

 可愛らしい身振りとともに名乗りを上げ、可愛らしいフォントで『木乃(きの)若芽(わかめ)』という名前が書かれた風船(バルーン)状の看板が、これまた魔法によって『ぽこん』と姿を表す。

 細長い板状の具現化魔力塊に『周波数(チャンネル)登録お願いします♪』と書かれた看板をふわふわと浮かべ、宣伝も忘れない。

 

 

「はいどーも。どーもどーも。んふふ。ありがとうございます。……えへへ、ニホン国語上手でしょう? わたしいっぱい勉強しましたので。こう見えて頭は良いんですよ?」

 

 

 聞こえもしない観客(ギャラリー)の声援に応えるように、わざとらしくあざとい挙動(モーション)で愛想を振り撒く俺の身体。両腰に手を当てて胸を張り、いわゆる自慢(ドヤ)顔で言外に『ほめてほしい』をアピールしてみせる。

 配信ページのコメント欄は少しずつ勢いを伸ばし始め、スクロールされる速度も視聴者数もじわりじわりと上がっていく。

 

 看板娘(メインパーソナリティー)の可愛らしさを湛えるコメント、演出の賑やかさに感嘆の声を漏らすコメント、()()()()()()()()()綺麗でリアルな演者にただただ驚愕するコメント。

 (神絵師)の七光りだけではない『何か』を感じ取った視聴者が、次から次から驚きのコメントを寄せていく。

 

 

 ほんの数分前までは出口の見えない真っ暗な洞窟に迷い込んだような心境だったのが嘘のように……この初めての配信を()()()()()()()()()()()()()()()()に、ほんの微かな違和感を抱く。

 

 

 だが……今は()()()()()()()()()()()()

 この初めての放送、初めての舞台。俺の愛する娘『木乃・若芽』という少女の、はじめましての誕生日。

 一生に一度、晴れの門出を成功させること……今はただそれだけを考え、最善を尽くす。

 

 ()()()な身体は準備のときと同様、次に何をすべきかをしっかりと記憶してくれている。何百・何千もの練習(リハ)を経たように正確な動きを辿り、ぎこちなさや覚束(おぼつか)なさを感じさせない。足運びは滑らかで手指の動きは美しく、やや幼げな風貌にもかかわらず決して未熟さを垣間見せない。

 我が身に降りかかったあまりにもあんまりな事態に頭の中から吹き飛んだはずの台本は、PDF(ドキュメント)データのようにはっきりと記憶されている。ご丁寧に今どのあたりを進行しているのか、この次はどういう流れになるのか……それこそ台本そのものを携えて読み上げているかのごとく、ひたすらスムーズに口上は続いていく。

 

 

 

「この番組、魔法情報局『のわめでぃあ』では、このわたしが集めた様々な耳寄り情報を、人間種の皆さんにお届けします! グルメ、芸能、サブカル、旅行、他にもさまざま! 皆さんの生活がより豊かに、より楽しくなるように、『のわめでぃあ』局長であるこのわたしが! 精一杯お手伝いさせて頂きます!」

 

 

 先程の名前の看板同様、ジャンルごと色分けされた風船(バルーン)を口上と共にぽこぽこ浮かべながら、それらを背景に愛らしい笑顔と可愛らしい踊りで、この『番組』基本方針の訴求を行う。

 勿論、いわゆるネットニュースやワイドショーのようなリアルタイムの時事ネタを組み込むほどの処理能力(キャパ)は無い。『放送局』と謳っていながらも、所詮はいち個人の動画配信に過ぎないのだ。

 

 だからといって指を咥えて見ているような真似も、手を抜くようなこともしない。頻度と鮮度で勝てないのなら、よりニーズに合致した番組を提供する。視聴者の『観たいもの』を動画サイトのアンケートやSNS(つぶやいたー)で仕入れ、また日頃よりSNS(つぶやいたー)を積極的に利用し、『趣味に身近な放送局』を目指してファンを獲得していく。

 ……それが、とりあえず当面の目標である。

 

 

「今回の放送は『はじめまして』のご挨拶も兼ねていますので、皆さんのお声も頂戴したいと思います! 当放送局に取り上げてほしいこと、やってみてほしいこと。そんなのがあったら、ぜひぜひコメント下さいね! ……そうですね。せっかくですし……このわたし『若芽ちゃん』に対するご質問も……ちょっとだけなら、答えちゃいますよ?」

 

 

 若干前かがみで上目遣いにカメラを覗き込み、可愛らしく小首を傾げて片目を瞑り、控えめながら美しい胸元をアピールし、桜色の唇をカメラと同軸のマイクに近付け、これまたあざとさ溢れる誘い文句を台本通りに小声で(ささや)き……一連の流れを自然体で完璧に演じてみせる身体に、我が身ながら惚れ惚れする。

 

 ……と同時。

 配信サイトのコメント欄とリンクするスマホが物凄い速度でスクロールし始め、新着コメントの通知(アラート)が壮絶な勢いでカウントを重ねていく。

 さりげない動作で異常を告げるスマホを手に取り、そこに示される若干とはいえ予想外の展開に、完璧に看板娘(メインパーソナリティ)を演じている(ハズ)のこの身体があからさまにビクつく。

 

 

 その微細な心境の変化を敏感に察知し、()()()なこの身体は()()()()に……無慈悲に()()()()を切り替える。

 

 

 

「ふぇっ!? え……ふゃっ!? ひょ、ちょっと!? 『そういうの』はまだ早いです! ……じゃなくって! ()()とかそういうお話じゃなくて!!」

 

 

 手に取ったスマホ、そこに表示されるコメントの一つに途端に顔を赤らめ……控えめな胸と下腹部を隠すように己を抱き、後ずさるように距離を取る。カメラから離れたことで上半身だけでなく足元までもが映り込み、長い髪と背丈の小柄さが明らかになる。

 未発達な少女でありながら女性らしさを垣間見せるローブは、明らかに鼓動を増したこの身体をしっかりと隠しているようで……しかしながら身体のラインに沿って立体縫製されたこの衣装は、見ようによっては下手な水着よりも艶めかしい。

 

 

「ち、違いまひゅ! 赤くないですし! ……は、恥ずかしがってなんかいませんし? わたしはこれでもひゃく…………えっと……いっぱい、いっぱい歳を重ねた大人(オトナ)ですし? 人間種の皆さんとは違いますし? 人生経験豊富ですし?」

 

 

 更に加速していくコメントの濁流を一つ残らず目を通しながら、どう考えても経験豊富には映らぬであろう初心(ウブ)な言動を――演技四割本心六割で――可愛らしく完璧に演じていく。

 コメント閲覧用スマホから手を離し宙に浮かべ、耳の先まで真っ赤に染まった顔を手で覆うように隠し、狙い通り初々しさ溢れる『恥じらい』を表現する看板娘(メインパーソナリティ)

 その可愛らしい姿を称えるコメント、健気な姿を応援するコメント、単純な言葉で好意を表現してくれるコメント……それらの音無き声援を受けて確かな手応えを感じるとともに、『この配信を何としても成功させなければ』という確固たる意志が、改めて大きく育ち始める。

 

 

「も……もう! 大人(オトナ)をからかわないの! ……えっと、あの、つまり……ほ、ほら、配信サイト(ユースク)さんの規約とかあるので! あんまりえっ……ち、なのは……ほら! 追放(BAN)される危険が危ないので! 初日に追放(BAN)とか洒落にならないので! ゆるしてください! 何とかしますから!!」

 

 

 今の俺が抱く、確たる『願い』――皆に愛される我が娘をこの世界に誕生させる――それを叶えるために気合を入れ直し、取り乱していた思考を落ち着かせ、意識して()()()()()()()()()()

 若干の顔の火照りは残しながらも……熱に浮かされていた思考は落ち着きを取り戻し、進捗度と注釈入りの台本が再び頭の中に浮かんでくる。魔法放送局の看板娘(メインパーソナリティ)となるべくして設定されたこの身体は、自らに課せられた役割を果たすべくその思考と技能を働かせていく。

 

 先程から……それこそこの放送が始まる前から、この身体に抱いていた()()()()()()。それが気にならないといえば嘘になるが、今はそんな()()()などどうだって良い。

 大切なことは、ただ一つ。

 今日のこの放送を成功させる……それだけだ。

 

 

「……こほん。お見苦しいところをお見せしました。わたしもちょっとびっくりです。……こんなに、こんなにたくさんのコメント……皆さん本当にありがとうございます! ……そうですねー……それでは、せっかくなので……追放(BAN)されない範囲で、皆さんの質問コメントにお答えしようと思います! いわゆる『雑談枠』ってやつですね! おしゃべりです!」

 

 

 堂々としたポーズで指をひとつぱちんと鳴らし、可愛らしい筆跡で『ざつだんコーナー』と書き記された看板(バルーン)を背後に浮かべ、宙に浮かべたスマホを小さな(てのひら)で指し示す。壮絶な速さでスクロールする画面を流し見たことで記憶したコメントのうち、答えられそうな質問を抜粋する。

 せっかく少なくない視聴者が興味を持ってくれた、この『木乃・若芽』ちゃん……練りに練った()()を活かすも殺すも、これからの一挙手一投足に懸かっているのだ。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「質問は随時受け付けてますので、どしどし送って下さいね! わたしはとても賢いので、皆さんのコメントこのように……()()()()()()()()()()()()()()! では張り切っていきましょう! 最初の質問…………えいっ!」

 

 

 

 配信サイト(YouScreen)の規約には抵触しなさそうな、それでいて『木乃・若芽』ちゃんの魅力をアピールできる質問を選びぬき、その質問を読み上げながら文字の書かれた風船(テロップ)を浮かべる。

 『木乃若芽』ちゃんを詳しく知って貰う絶好の機会。是が非でも成功させたいし……何よりも本心から『この子をもっと知ってほしい』と思っている。絶対に失敗するわけにはいかない。

 

 

「『何歳ですか』、って……初対面の女の子に年齢聞くとかちょっとどうなんですか人間種諸君……これ普通なの? えーそうなんだ……ちょっと衝撃的……えっと、こほん。うーん……まあ良いか。ひゃく……違った。えっと……はい。『人間種換算で一〇歳』です」

 

 

「『本当に仮想配信者(ユアキャス)なんですか』…………え、と、当然ですよ? 新人仮想配信者(UR-キャスター)、日本国では珍しいエルフ種の『木乃若芽(きのわかめ)』です! 仮名ですが! 本名公開はちょっと呪術的によろしくないので! 勘弁してください!」

 

 

「『演出すごいですね、魔法みたい』。ンフフフ……あなた見どころありますね! そうでしょうそうでしょう! このわたし若芽ちゃんは超超超熟練の魔法使いですので! 華麗な魔法さばきに見惚れるが良いですよ!」

 

 

「『好きなものは何ですか』。いいですね! 雑談枠って感じします! えっと……わたしはこの世界に来て日が浅いのですが……あれはおいしかったですね! 『カツドン』! 好きです! あとは『ヤキニク』とか『ハンバーグ』とか! 『ヤキトリ』もいいですね!」

 

 

「『娘さんを僕に下さい』……って! 何ですかこれ! 居るわけ無いでしょう! わたしまだ百歳ですよ!? …………? ……間違えた!! 一〇歳ですよ!!?」

 

 

「『わかめちゃんめっちゃかわいい』。ほんとですか! ありがとうございます! お名前覚えました!!」

 

 

「『わかめちゃんパンツ見えないよ』当たり前でしょう!? 何『見えて当然』みたいな言い方してるんですか!?」

 

 

「『一〇才児なのにお姉さんぶるの可愛い』。わたしのほうが歳上なので当たり前です! ちゃんとお姉さんです!」

 

 

「『ちっちゃいマッマ』ママ(母親)ではないです! お姉さんです! …………何かコレちょっと流れおかしくないですか!?」

 

 

 

 

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

 

 

……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 充分な機材と自由自在の魔法を駆使し、リアルタイムで演出を加えながら配信は続いていく。

 

 ときに落ち着いて、ときに取り乱し、何度かの小休止を挟みながらの生放送は……

 

 

 

 放送開始から丁度百二十分後……二十三時。

 見事な定刻通り(オンタイム)、かつ大盛況のうちに……後に一部界隈では『伝説』と呼ばれる(らしい)初回放送、その幕を閉じた。

 

 

 






23時くらいにも更新します


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05【初回配信】おつかれさま、わたし

 

 

 

(……なんだ、これは)

 

 

 

 

 ここ数時間の出来事……ここ半日の出来事を、力の入らない身体で改めて思い返す。

 まるで夢や幻でも見ていたような感覚だが……疑いようのない現実であることは、配信ページのアーカイブを見るまでもなく明らかだろう。

 

 

 現在時刻は二十三時十五分。

 まる二時間ぶっ通し、百二十分に及ぶ初回生放送をおおよそ完璧に乗り切り、放送終了後の『ありがとうございました!』のお礼をSNS(つぶやいたー)につぶやき終え……本番にかかわる全ての付帯作業が完了するや否や、まるで()()()()()()()()()()()全身から力が抜け落ちる。

 

 頭のてっぺんから足の爪先まで全身余すところ無く疲労が貯まり、じっとりと滲んだ汗でローブがぴったりと肌に張り付いている。

 椅子に座る気力さえ今は沸かず、床に仰向け大の字に倒れ込み、ひんやりとした床の温度を背中と尻に感じながら、身体の熱を排すべく荒い息を整える。

 

 

 

(なんだ……これは……!)

 

 

 

 まる二時間動き続け喋り続けた疲労よりも、汗をかき着衣が張り付く不快感よりも……

 初放送をやり遂げた達成感が。我が愛娘の生誕を祝福出来たことが。

 

 多くの人々に『木乃若芽ちゃん』を受け入れてもらえたことが……何よりも嬉しい。

 

 

 硬い床に寝そべりながら寝返りを打ち、汗ばんだ腕を伸ばしスマホを手に取り、震える指で『木乃』『若芽』と検索(エゴサ)すると、そこには望んだ光景が…………いや、望んだ以上の光景が広がっていた。

 配信サービス(ユースクリーン)の配信アーカイブから放送中に寄せられたコメントを引っ張り出しても、これまた同様。ファイルを開けば画面を埋め尽くす程に涌き出る数え切れないほどのテキスト……なんと驚くことに、そのほぼ全てが好意的なコメントなのだ。

 

 

 キャラクターの構想を練り、イラストを発注し、多くの人々の助けを得て、ついに陽の目を浴びることが出来た。

 

 他でもない自分達が生きるこの世界に、『木乃若芽ちゃん』というキャラクターを送り出すことが出来た。

 

 計画を立ち上げてから一時も欠かさず切望していた通り……多くの人々に愛され、とても多くの好意を賜ることが出来た。

 

 

 

 

 …………の、だが。

 

 

 

 

 

「なんなんだ……!! これは!!!」

 

 

 

 

 ひと山越えて()()()()()()()()、冷静さを取り戻したところで……自分の身体に生じた異変を、改めて認識せざるを得なくなる。

 

 

 汗を含み首筋に張り付く、滑らかで長い翡翠色の髪は。

 

 横向きに寝そべる今、違和感を感じずに居られない長い耳は。

 

 僅かとはいえ重力の影響を感じる、妙な存在感を伴う脂肪の重みは。

 

 逆に……大切な息子を喪った脚の間の、この筆舌尽くし難い喪失感は。

 

 そして何よりも……呼吸を行うがごとく、言葉を紡ぐがごとく、手足を運ぶがごとく……()()()()()()()()()()、『()()()()使()()()()()()()()は。

 

 

 気の迷いでも妄想でもない。単なる思い違いでも勘違いでもない。

 さも当然と言わんばかりに。至極真っ当な常識だとばかりに。()()()()()()使()()()のだということが、本能的に理解できる。

 使い方も。効果も。その魔法の長所も短所も。何十何百という膨大な『魔法』の全ての情報が、常識外れの『魔法』の知識が……さも当然のように頭の中に入っているのだ。

 

 

 

「えーっと……こほん。……【浮遊(シュイルベ)】ぇええ嘘ぉおお……」

 

 

 ()()()()()()手法(プロセス)に則り、魔力を練って式を整え発現条文(スペルコード)を唱えれば……さも当然とばかりに効果を表す。

 横向きに寝そべった体勢のまま身体はふわりと浮かび上がり、長い髪が重力に反して靡く感触が何ともこそばゆい。

 寝そべったままあれこれ試し、この【浮遊(シュイルベ)】の効果のほどを確認する。GL(高度基準)からの垂直距離を自在に変更したり、浮上したまま今度は水平移動してみたり……これらの応用知識を含む『魔法』の知識が、ただ一つの例外無く『正確な情報である』ということを、改めて実感してしまう。

 

 それにしても……ぷかぷか浮かぶのって気持ちいいな。首や腰はもちろん、身体のどこにも負荷が掛からない。マットレス要らずか。これは癖になりそうだ。

 

 

 

 

 

「……じゃなくって!!」

 

 

 がばっと起き上がり、頭をぶんぶんと振る。長い髪がさらさらふわふわと舞い……日本人離れした容姿となってしまったことを、改めて実感させられる。

 

 

 もう……どうしようもない。現実逃避のしようもない。()()()()から目を背けることなど、そもそも出来るわけがない。

 

 

 ああ……そうとも。もう認めよう。

 

 おれは……俺の身体は。

 仮想配信者(URーキャスター)活動における『肉体』として、キャラクター設定を詳細に作り込み()()していたアバターへと……

 

 

 

 幼いエルフの少女『木乃(きの)若芽(わかめ)ちゃん』そのものへと、変貌してしまっていたのだ。

 

 

 

 





24時くらいにもう1回更新します


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06【現状確認】わーたすけてほしいー

 現状を認識してしまったとはいえ……それが納得できるか、受け入れられるかどうかとは、また別問題なわけで。

 未だ戸惑いを払拭しきれず、我ながらのろのろとした動きでスマホを操作しREIN(メッセージツール)を立ち上げる。溜まっている未読メッセージを一旦無視し、とある一つの連絡先を表示させる。

 

 今のおれじゃ、ろくに考えることさえ出来やしない。

 おれ以外の他の誰かの、第三者の意見を聞きたい。

 

 この状況を相談できるとしたら……あいつしか居ない。

 

 

 表示された連絡先と、そこに連なるこれまでの送受信履歴……その一番下に新たに追加されていた一文『初体験お疲れ様っす! 凄かったすよ! 色々と!!』が目に入り……自然と頬が緩む。

 

 ……やっぱり。彼はちゃんと見ていてくれたんだ。

 あの子の晴れ舞台を……記念すべき初めての配信を。

 

 

 表示された連絡先……あいつの名は、烏森(かすもり)(あきら)

 

 大学時代の後輩にして、前職時代の後輩にして……

 

 仮想配信者(URーキャスター)『木乃若芽ちゃん』のキャラクターデザイン及び立ち絵及び各種宣伝絵を手掛けた、『神』の呼び声も名高い絵師(イラストレーター)様にして……

 

 

 この『木乃若芽ちゃん』計画における……頼れる同志なのだ。

 

 

(あいつなら……きっと…………笑わないで聞いてくれる)

 

 

 彼にならば、おれの置かれたこの状況を打ち明けられる。期待と願望を胸に抱き、『相談したいことがある』『今から会えないか?』とメッセージを入力、送信する。

 とはいえ既に真夜中も真夜中、時刻は零時も程近い。いくら今日が金曜日であり、世間的に明日は休日であるとはいえ、常識的に考えればこんな時間から会おうだなんて、失礼にも程がある。

 やっぱり明日にすべきだろう……などと考えていたらものの数秒で既読表示が付き、極めて軽いノリで『オッケー』の絵文字(スタンプ)が返って来る。

 

 

(……『ツマミ用意して待ってますよ』『代わりに酒はお願いしますね』、か)

 

 

 どうやら……記念すべき初配信を成功させた祝杯を上げたがってると思われたらしい。

 それ自体はあながち間違いでもないので、特に訂正しなくても良いか。……むしろ、悪くない。酒でも入れなきゃやってられない。

 幸いに先方の許可を得られたので、そうと決まれば善は急げだ。すぐにでも家を出よう。彼の家は隣の区なのでそんなに時間は掛からないだろうが、そもそも既に夜遅くである。あまり彼を待たせるのも良くないだろうし……何より今一人で居ると、おれ自身がどうにかなってしまいそうだった。

 

 体を起こして床に着地し、【浮遊(シュイルベ)】を解除。クローゼットを開き濃灰色(ダークグレー)のフード付ダッフルコートを引っ張り出してローブの上から羽織り……改めてこの身体の小ささに絶句する。

 以前は膝上くらいだったコートの丈は、今となっては辛うじて足首が出ている程度。袖に関しては完全に手遅れだろう、真っすぐ伸ばしても指先さえ外に出ない。

 

 だがしかし他に手段が無いのでどうしようもない。今着ている正装(ローブ)以外にこの身体に合う服なんて持っているはずも無く、着替えることも出来ない以上は上から何か羽織るしか無い。

 現代日本の町中にはまずそぐわないであろう……魔法使いのローブと、この長髪。この両方を同時に隠すために、このダッフルコートは都合が良いのだ。多少のサイズオーバーには目を瞑るしかない。

 

 

 とりあえずスマホと財布を引っ掴んでポケットに入れ、鍵束を手に取り玄関へと向かう。

 玄関土間には男物の……というかおれの靴が散乱しているが、残念なことにそれらの全てがサイズ違いだ。若芽ちゃんの正装として設えられた(出現した)、どこかファンタジーチックな軽革(ソフトレザー)長靴(ブーツ)以外に選択肢は無い。というか今の今まで室内で靴を履きっぱなしだったのか。……まぁ配信中も履いてただろうし当然か。仕方ないか。

 二時間動き回って解ったことだが……革のブーツは擦れると痛いし、汗をかくと当然蒸れる。御洒落だからとはいえ革ブーツを涼しい顔で着こなす(履きこなす?)方々は、本当にすごいと思う。

 履き慣れない靴での外出は気が引けるが、他に履ける靴が無いので仕方ない。どうせ烏森(後輩)の家まで歩くわけでもないので、今回は我慢する。歩きやすい靴を早急に調達しなければならないだろう。

 

 

 

 

 

(…………いい加減出よう)

 

 

 考えるべきことが多すぎるので、一旦全ての思考を保留する。

 随分と目線に近くなったドアノブを捻ってドアを押し開け、小さくなった身体を隙間に滑り込ませて扉を閉める。なにぶん深夜なので音を立てないように慎重に扉を閉じて鍵を掛け、フードを被り外廊下をエレベーター目指し進んでいく。

 

 

(…………さっぶ)

 

 

 季節は既に秋から冬へ、気温は日に日に下がっている。そんなに北国でも豪雪地帯でもないが、夜ともなると冷え込みは無視できない。

 どう考えてもサイズ違いの防寒着では首もとから入り込む冷気を防ぐことが出来ず、また大きな空洞となっている胴回りも空気が通り抜け、汗をかいた身体から確実に体温を奪っていく。

 

 どう対策すべきか、引き返すべきかを悩んでいるうちにエレベーターが到着してしまい、開いた扉からつい反射的に乗り込んでしまう。三方を壁で囲まれた小空間では風の流れも止み、おかげで肌寒さも幾分か和らいだ。

 これならまぁ大丈夫かと深く考えずに『1』のボタンを押し、籠内カメラ越しにモニターに映る自分の姿をぼうっと眺める。片開きの扉が閉まるとエレベーターはゆっくり下降し始める。

 

 

(…………おれ、だよな)

 

 

 階層表示が順番に数を減じていく間、解像度の低いモニター越しに自分の顔と見つめ合う。

 フードの合間から覗く翡翠色の綺麗な髪も、丸みを帯びた頬から顎も、そもそも背丈からして大きく違うこの身体も……まごうことなき自分の身体だ。

 

 ほんの僅かな時間で『1』階に到着し、がたがたと音を立てて片開きの扉が開かれる。

 扉の外は静まり返り、最低限の灯りが申し訳なさげに玄関ホールを照らしている。

 

 視点が大きく下がったからだろうか。今まで当然のように通ってきた筈の空間が、薄暗く照らし出された冷たい石貼りの壁が、壁面にずらりと並んだ無機質な郵便受けが……全てが変わってしまったように感じられる。

 

 

 頭を振って不安を押し出し、意を決して外へと踏み出したが……なぜだか震えは止まらなかった。

 

 

 きっと寒いからだ。そうに決まっている。

 

 ……そうに、決まっている。

 

 

 





また7時頃に更新します

おやすみなさい


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07【緊急避難】それでもおれは悪くない

 

 突然だが、日本国における道路交通法についてご存知だろうか。

 

 道路交通法において定められる排気量五〇cc以下の原動機付き自転車……いわゆる『原付き』と呼ばれる自動二輪車がある。

 普通自動車免許を取得している日本国民であればオマケ的に運転資格が付与され、そうでなくても十六歳以上であれば比較的容易・安価に運転免許を取得できることから……多くの人々の『足』として利用されている交通手段と言える。

 

 十六歳をとっくの昔に通り過ぎ、そもそも普通自動車免許を所持している()()こと安城(あんじょう)雅基(まさき)も、そんな()()()()()のうちの一人なわけだが……

 

 

 

 

「…………これ……おれ乗っていいのか?」

 

 

 日々の生活を共にしてきた愛車の前で、誰にともなく呟きが漏れ出た。

 

 

 

 確かに……確かに、日本国における原付き免許の制限は緩い。

 十六歳以上であるか。両眼視力が(矯正込みでも)〇.五以上あるか。赤青黄の三原色を判断できる色彩感覚があるか。その他ごく普通の運動能力や聴力が備わっているか。……確か、だいたいこの程度だったように思う。

 これらの条件を満たし、交通ルールなどなどに関する筆記試験に合格できれば、誰にでも――それこそ高校入学したての未成年の少年少女であろうとも――原付バイクを運転する免許が与えられる。

 

 原付バイクを運転するための条件……そこには『身長』に関する記載は、無い。

 テーマパークの絶叫マシンのように、『身長○○センチ以下は安全のため搭乗できません』なんてことは、無い。

 要は……原付を運転できる免許さえ所持していれば、たとえ()()()()()()()()()()であろうとも運転できる()()なのだ。

 

 

 その一方、()()は安城雅基。今年で三十ニだ。

 運転免許証の交付は十二年前、普通自動車(MT(マニュアル))一種、中型自動車、普通二輪車、小型特殊の免許を取得し……堂々の金枠(ゴールド)である。

 

 つまり法規的には……何も、何一つ、微塵も、これっぽちも、何の問題も無い()()なのだ。

 

 

 だが……実際に乗ったとして。

 万が一警邏(けいら)中の警察官に職務質問を受けたとして。

 ()()()()であると、安城雅基(三十二歳)であると証明できる()()は……一体何があるというのだ。

 

 

 

「無いよなぁ……顔写真もなぁ……」

 

 

 自動車運転中の検問や職務質問の際、身分証明書として運転免許証を使用する際……間違いなく右端の顔写真部分と本人の容貌との照会を行う。

 容貌どころか性別どころか、それどころか見た目の年齢さえ大きく異る免許証を所持していたところで……『本人である』と認識してもらえるはずも無いだろう。

 無免許運転と判断されるのはほぼ間違いないだろうし、おまけにこの原付バイクが『安城雅基(おれ)』のものである以上、別人と判断せざるを得ない少女が乗っていたとあれば……そうなれば車両盗難の疑いを掛けられる恐れもある。

 

 

 しかしながら……気がついた。

 身支度にもたついていたせいで、現在時刻は既に午前〇時十五分。

 ここからの最寄り駅、烏森(後輩)宅方面への終電は……調べたところ、〇時〇二分。

 

 電車は、無い。

 バスも当然、こんな時間に走っているはず無い。

 こんな真夜中に動きづらい格好で『歩いていく』なんていう選択肢も――およそ八キロ二時間の行程をふまえると――ちょっと考えたくない。

 

 

「……どうか……バレませんように」

 

 

 自分自身は別段、違反行為を働いているわけでは無いのだ。恥じ入る必要も怯える必要も、何一つとして無いのだ。むしろ誉れある金枠(ゴールド)優良ドライバー様の運転が違反であるハズが無いのだ。罪深い犯罪を防ぐための労力を無罪な優良ドライバー様の邪魔に充てようだなんて、むしろそちらのほうが許されざることなのだ。全くもってその通りなのだ。

 

 

 頭の中に盛大に声援を送ってくれる齧歯類(ハムスター)を思い浮かべ、おれは迷いを振り払うようにヘルメットを被ったのだ。へけ。

 

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

(…………あっ、酒)

 

 

 静まり返った幹線道路をひた進み、そういえば酒類の調達を頼まれていたことを思い出す。

 

 進行方向に青色看板のコンビニエンスストアを見つけ、交通ルールを遵守して自動車のほぼ無い駐車場に入り……いちおう他のお客さんの迷惑にならないよう、いつものように隅っこで原付を降りる。

 ヘルメットを脱いで代わりにフードを被り、ハンドルにヘルメットを引っ掛け、コートのポケットからスマホを取り出し、自分の現状に関して特に疑問に感じること無く、いつものように自動ドアを潜る。

 

 

(お酒、お酒……)

 

 

 入店を知らせる電子音を背に、深夜でも明るい――しかし(ひと)けの無い――店内に足を踏み入れ、いつものように冷蔵ケースへと足を運ぶ。どうやら自分以外にお客さんは居ないようで、店員さんも事務所に引っ込んでしまっているようだ。

 こんな夜遅くに申し訳ないなと思いつつ、おれと後輩がよく飲む銘柄の缶ビールと缶チューハイを二本ずつ、計四本を抱きかかえてレジへと向かう。

 

 

「いらっしゃいま…………せ……?」

 

「あっ、すみま…………せ…………あっ」

 

 

 

 事務所のドアを開け出てきてくれた店員のおじさんの、驚き目を見開いた顔を見て。

 

 自分の口から自分の言葉として発せられた、耳心地よく爽やかな……しかしながら絶望的に幼気(おさなげ)な声を耳にして。

 

 

 おれは、今のおれの状況を、今になってやっと思い出した。

 

 

 

「すみません、それはお酒なので……二十歳(ハタチ)以上のお客様にしか、お売りできないんですよ……」

 

「えっと……えっと、あの…………そ、そうですよね! すみません!」

 

 

 店員さんの指摘に我に返り、身を翻して来た道を引き返す。

 

 要は……出発前にさんざん悩んだ、身分証明の手段だ。

 おれは間違いなく三十二歳だし、とっくの昔に成人済みだし、なんならこのコンビニで酒を買ったこともある。勿論エロ本だって買える。

 

 ……だが、いざ身分証明書の提示を求められた場合。

 ()()と安城雅基(三十二歳)が同一人物であると証明出来ない以上……残念だが、お酒を買うことは出来ないだろう。

 今でこそ――前髪はある程度仕方無いとはいえ――()()()()()()をわざわざフードで隠し、こそこそと買い物を試みているのだ。ヘタに事態(コト)を面倒にして()()()を晒すことになれば……非情に厄介なことになるのは間違い無い。

 

 この世界、様々な技術が発展を遂げたこの現代日本には……当然『魔法』も無ければ『エルフ』も存在しないのだ。

 

 

 ボロが出る前に、一刻も早く退散すべきだろう。ビールとチューハイを元の冷蔵ケースへと押し込み、しかし烏森(後輩)に頼まれた手前何も飲料を用意しないわけにも行かず……苦渋の決断としてペットボトルのりんごジュースと烏龍茶を手に取り、抱きかかえてレジへ向かう。

 明らかにこちらを注視している店員さんの顔を見ないように意識して、二本のペットボトルをカウンターへ置く。

 

 

 

 

「……お願いします。れいペイで」

 

「あっ、ハイ。持ち帰りですね。二点で三百六十六円です」

 

「はい。お願いします。レシートいいです」

 

 

 スマホの画面を読み取ってもらい支払いを済ませ、店員さんが袋詰を行ってくれている間……気のせいでは無いだろう視線をつむじのあたりに感じる。全力でそれを無視して(かたく)なにうつむき続け、袋詰めが終わった気配を感じたところでようやく顔を上げる。

 

 

「こっ、……こちら商品、ありがとうございました」

 

「はい。ありがとうございます」

 

 

 さすがに不気味な客すぎたのだろう。一瞬引きつったような顔をした店員さんに、申し訳無さが更に一段階つのる。

 レジ袋に納められた二本の飲料を受け取り、失礼にならないように軽く会釈。顔を見られないように身を翻し、逃げるようにコンビニを去る。

 そのまま駆け足で原付まで戻り、シート下の収納庫に飲料を投げ込み、急いでヘルメットを被りセルを回しスタンドを戻し発進する。ここまでなんとか平静を保てていたと思う。

 

 ちらりとコンビニの自動ドアを見やると……幸いにも店員さんが出てくる気配も、こちらを伺っている姿も無い。

 かといって安心できるわけでもない。レジ付近に姿が無いということは、事務所に戻り電話を掛けているのかも知れない。

 

 

 どこへ。決まっている。交番だ。警察へだ。

 

 なぜ。決まっている。通報するためだ。

 

 誰を。…………決まっている。

 深夜に徘徊し酒を買おうとする……似合わない男物のコートを着た、怪しい子どもを……だ。

 

 

 

(やばいやばいやばいやばい……!!)

 

 

 左に曲がって道路に出てスロットルを思いっきり捻り、すぐにでもおれを追ってくるかも知れない『何か』から逃げるように……安全地帯である烏森(後輩)宅目指して全速力でかっ飛ばす。

 

 

 車両の姿がほぼ無い片側三車線の幹線道路を、おれは無我夢中で走り抜けた。

 

 

 

 

 

 




19時頃に更新します
おしごとがんばってね


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08【安全地帯】おれおれ!おれだって!

 今さらだが……本当に今さらだが、原付をかっ飛ばしてきたのは少々まずかったかもしれない。

 他に選択肢が浮かばなかったとはいえ、時刻はそろそろ深夜一時になろうとしている。こんな真夜中に住宅地にエンジン音を響かせるのは……根が小市民であるおれは、少々いたたまれない気持ちになってしまう。

 

 しかし、使ってしまったものは仕方ない。何度か停めたことのある駐輪場に原付を停め、コンビニで買った飲料ペットボトルの袋を提げてエントランスを進む。

 一・二階部分に都市銀行の支店が入ったこのマンションのエントランス近辺は、深夜でも安心できる光量で満たされていた。

 

 

 

(つ、い、た、よ……っと)

 

 

 REIN(メッセージツール)に短文を入力し、すぐに既読がついたことを確認。自動ドアの隣の文字盤に部屋番号を入力して『呼出』を押す。

 

 

 ――――ぴーんぽーん。

 

『ういーっすお疲れーっす! 開けまーす!』

 

「………………ぁ」

 

『どぞぉー! 玄関カギ開けとくんでぇー!』

 

 

 後輩にして同志である烏森(かすもり)の声とともに、すぐにエントランスの自動ドアが開かれる。

 幸いというかなんというか、この呼出しインターホンにはカメラ機能がついていない。そのため明らかに背格好のおかしい今のおれでも、REIN(メッセージツール)での到着報告との合わせ技で迎え入れてもらうことが出来た。……運が良かった。

 

 

 おれの通過を感知して、背後で自動ドアが再び道を閉ざす。空気の流れさえも止まり、静まり返った真夜中のエントランスにはおれ以外に動くものが無い。

 迎え入れてもらった安心感が浮かび上がると同時……彼との対面が刻一刻と迫ってくる事実に、次第に恐ろしさも浮かんでくる。

 

 

 おれだということを信じてもらえなかったらどうしよう。

 

 おれの身に起こったことを信じてもらえなかったらどうしよう。

 

 相談に乗ってもらえなかったらどうしよう。

 

 頭のおかしい奴だと取り合ってもらえなかったらどうしよう。

 

 

 

 ……追い出されたら、どうしよう。

 

 

 

 答えの出ない問いに堂々巡りを繰り返しながら……おれの内心に反して明るい廊下を、とぼとぼと進んでいく。

 ペットボトル二本を入れたビニール袋が柔い手の指に食い込み、じんじんと痛み始める。何度か持ち直しながら重い足を懸命に運ぶ。

 

 一歩一歩階段を上がり、解決しない不安が延々と頭の中を巡回し続け、疲労と心労とが積み重なる中……いつのまにか辿り着いていた終着地点。

 目の前には一枚の玄関ドアと、『三〇五』と書かれた表札プレート。玄関脇の換気ダクトからは換気扇からの排気が吐き出され、甘辛く香ばしい香りが辺りに漂っている。

 

 

(……大丈夫。……大丈夫。……きっと、大丈夫)

 

 

 何回か深く深く深呼吸し、おいしそうな香りを腹腔いっぱいに吸い込み、心を落ち着ける。

 大丈夫だ。いつも通り気楽に押し入り、軽く『おいーっす』とか挨拶するだけだ。いつも通りやればいい。何も恐れることは無いし、何も恥じる必要は無い。……よし。

 

 

 床に置いてあったビニール袋を右手で持ち上げ、左手を玄関ドアへ伸ばしドアノブに手を掛ける。エントランスのインターホンで言っていたように鍵は開いていたらしく、大した抵抗もなくスムーズに……いともあっさりと扉は開く。

 

 

 烏森の家には、何度か遊びに訪ねたことがある。一階と二階部分に都市銀行の支店が収まった、鉄筋コンクリート造マンション七階建ての三階、2LDKバストイレ別の築浅物件。

 入居テナントの都合上なのか地域の治安も良く、対面式キッチンと広めのリビングに独立洋間が二部屋と……独り暮らしで使うとあっては、とにかく非常に羨ましい物件だ。

 玄関ドアから入ったらまず左手に折れ、そのすぐ正面には水回りスペースの扉。その扉を開かずに右を向くともう一枚ドアがあり、更にそのドアの向こうがわ右手にキッチンスペースがあり……恐らく彼はそこに居るのだろう、フライパンで何かを炒める美味しそうな音と香りが漂ってくる。

 

 

(……あっ、靴脱がなきゃ)

 

 

 よそ様のお家に土足で上がり込むなど、現代日本では有り得ない。履き慣れてもいなければ当然脱ぎ慣れてもいない革長靴(レザーブーツ)を何とか脱ぎ捨て、ちいさな足でフローリングに降り立つ。火照った足裏にひんやりと冷たさを感じ、その刺激のおかげで幾らか気が引き締まる。

 大丈夫。やることは単純だ。廊下を進んで扉を開け、キッチンに居る彼に『よっ、お疲れ。いやーまいったよ何かいきなりこんなんなっちゃってさーハハハ』と自嘲すれば良いだけだ。

 

 何度目かわからぬ気合いを入れ直し、一歩一歩足を進めていく。

 ドアに手を掛け、ノブを捻る。ゆっくりと引けばドアは滑らかに開き……すぐそこの角の向こう側には、てきぱきと動きまわる男の気配を感じる。

 

 

 いつのまにか唾液は干上がり、喉はからからだ。ごくりと生唾を呑み込み、無意識に足音を忍ばせながら歩みを進めていく。

 

 後ろ手にドアを閉めるも慣れない身体で手元が狂い、ぱたんと小さな――しかし想定していたよりは大きな――想定外の音が、2LDKに響き渡る。

 

 

 その音は当然……すぐそこで腕を振るっている彼にも届き。

 来客を察知した彼が振り向くのも……まぁ、当然のことで。

 

 

「あっ、先輩お疲れーっす。もうすぐ……出来…………ま…………」

 

 

 おれの姿を見た彼が、こういう反応を返すだろうということも…………まぁ、当然なわけで。

 

 

 

「…………」

 

「……お、おっす」

 

「………………」

 

 

 左手にじゅうじゅうと音を立てるフライパンと、右手に菜箸を握ったまま、ぽかんという擬音が非常によく合う表情で……この家の主は完全に硬直している。

 こんな夜更けの闖入者に対し、彼は『誰だ』などと口にすることは無い。

 

 今のおれは不似合いな男物のコートを着込んだまま、しかしながらだぼだぼのフードを脱ぎ、特徴的な髪と耳と頬の紋様をさらけ出している。

 突如現れた闖入者が何者なのか……現代日本において有り得ない風体の少女が何者なのかは、彼だって充分よく知っている。

 知ってるが……よく知っているからこそ、ありえないことだと解るからこそ……だからこそこうして、思考が追い付かずに硬直しているのであろう。

 

 

「…………」

 

「…………えっと……」

 

「………………」

 

「……………………()()()()

 

「!? え……は、ハイッ!?」

 

 

 だからこそおれは……いつも呼んでる呼び方で彼の名を呼び。

 

 

 

「フライパン。……コゲるぞ」

 

「……………………あっ!?」

 

 

 

 悲劇を未然に防ぐことに……無事成功したのだった。

 

 

 

 

 




明日朝7時頃また更新します
よい週末を


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09【安全地帯】ここならきっと大丈夫

 

 時刻は既に深夜、一時を大きく回っている。

 そんな真夜中にあってなお明るく、かつ温かく、かつ安らぐ後輩宅のリビングにて……おれは()()()()とお行儀よくソファに()()()している。

 

 浪越(なみこ)神宮(かみや)区の某所、フリーの神絵師(イラストレーター)『モリアキ』こと烏森(かすもり)(あきら)の自宅マンションのリビングにて……深夜にもかかわらず随分と手の込んだ晩餐の用意が、無様にも酒の調達に失敗したおれを優しく出迎えてくれていた。

 

 

「先に飲み始めちゃって良いすよ先輩。…………先輩……いや、ブフォッ、先輩が……ちっちゃ、かわい……わかめちゃブフッ、りんごジュース……」

 

「畜生カスモリてめえ! 笑うなら堂々と笑えよ!! クッソ腹立つ!!」

 

「ブッフォはははははははははは!!」

 

「ああもう【静寂(シュウィーゲ)】! 笑い過ぎだろ畜生!! 声デケェよ夜中だぞバカ!!」

 

 

 一体何がそこまでツボに入ったのか……涙さえ滲ませながらも、その手はてきぱきと動き続ける。

 何やら炒めていたフライパンを火から下ろしてガス火を止め、フライパンの中身を皿に空ける。そこから更に何度か噴き出し(わらい)ながらもフライパンを軽く水で(すす)ぎシンクに沈め……出来上がった料理の皿を携え、烏森が食卓へと現れる。

 意識せずとも睨むような視線になったおれを微塵も気にせず、苦笑しながら料理をテーブル中央に置き、彼は『どっこいしょ』とオジさん臭い掛け声と共に腰を下ろす。

 

 

「ブフッ…………いや……()しましょう。スミマセン先輩、お疲れ様です。……()()()

 

「…………悪い。お前以外に相談出来そうに無くて」

 

「そりゃそうでしょうね。オレも配信見てましたよ……最初こそポリ数スッゲェなーとは思ってたんすけど…………いや……まさかこんなコトになってたなんて」

 

「……実際何ポリくらい必要だろうな」

 

「作るとしたら『シンゴジ』くらい要るんじゃないすかね? アカリちゃんの比じゃないっすよ多分。髪だって一本一本サラッサラ靡いてましたし。……コメ欄の反応やばかったすよ」

 

「あぁ。見てた……気にして貰えたこと自体は、普通に嬉しいんだけどな……」

 

 

 実際、このクオリティの……ほぼ実写レベルの精度を誇る3Dモデルを作成するとして。リアルタイムで演者の挙動を反映させるレベルの代物は、この時勢でも殆ど存在しないだろう。

 視聴者はまず何よりも、()()()()()()()()()振る舞う仮想配信者(UR-キャスター)に対し、ある疑問を抱いたことだろう。

 

 ()()は、本当に仮想配信者(UR-キャスター)なのか……と。

 

 

「…………取り敢えず食べましょ。先輩酒は……飲めます?」

 

「当然飲めるに決まってんだろ。こちとらアラサーやぞ」

 

「ウ―――ン……じゃあちなみに明日……てか今日か。何か予定あります?」

 

「ない。あっても行かない」

 

「何()ねてんすか。笑かせないで下さいよ。……『ゆる酔い』で良いすか? 白ぶどう」

 

「おう。くれくれ。……悪いな」

 

「なんのなんの。ではまぁ……初放送お疲れ様です」

 

「ん。乾杯」

 

 

 コツン、と缶どうしをぶつけ、真夜中の宴が幕を開ける。思えば配信が終わってから何も口にしていなかったし……更に(さかのぼ)ってみれば、夕方頃にこの身体で目が覚めてから、何も食べていなかったように思う。

 やや強めに焦げ目がついた鶏モモの照り焼きを、付け合わせのマッシュポテトと一緒に口に運ぶ。塩気の中の微かな甘味と、大蒜や黒胡椒の刺激が丁度良い。相変わらずの結構な腕前だが……これはツマミというよりも立派な主菜だな、米が欲しくなる。

 

 缶酎ハイをぐびっと煽ると濃いめの味がさっぱりと流され、爽やかな甘味と炭酸の刺激がスーっと入っていく。

 一山越えたあとの解放感と、美味い飯とアルコール。やはり実に気持ちがいい。

 経緯はどうであれ、長年の悲願であった『あの子』のお披露目に成功したことは間違い無い。今後色々と考えなければいけないことも多いだろうが、とりあえず今はそれを喜ぶことにしよう。

 

 

「あ―――(トリ)美味(うめ)ぇ――……」

 

「先輩言動がめっちゃおっさんっすね」

 

「当たり前だろおっさんなんだから」

 

「いやー……説得力無いっすよ」

 

「…………そっか。……そうだな。…………ていうか今更だけど、よく『おれ』だって信じてくれたよな」

 

「そりゃーだって『若芽ちゃん』の容姿そのまんまですもん。他の容姿ならともかく……オレ以外に『若芽ちゃん』を知ってる人は先輩だけですし。……あ、いや…………()()()し」

 

「……そうだよな。…………やっと、始まったんだよな」

 

 

 計画を立てて後輩(モリアキ)に持ち掛け、設定にデザインに試行錯誤を繰り返した日々。ほんの一週間と少し前までは『木乃若芽ちゃん』の詳細データを知る者など……おれ達二人を除いて存在しなかったのだ。

 出資者の方々には幾らか情報を渡しているとはいえ、本公開まではそれでも殆どを伏せてある。おれたち二人以外の人間が得られる情報は限られており、完璧な『木乃若芽ちゃん』を再現するなど不可能なのだ。

 

 だが……昨日。というか、ほんの数時間前。

 恐らく『大成功』と言っても差し支えない初回放送を経て、その知名度は爆発的に上がった筈だ。

 

 

SNS(つぶやいたー)の方でも盛り上がってましたよ。後でハッシュタグ覗いてみて下さいよ。……あ、そうだホラ! 見て下さいこれ! 記念すべき若芽ちゃんFA(ファンアート)第一号ですよ!!」

 

「お……? おお―――!! ……ってコレ描いたの公式(モリアキ)じゃねえか!!」

 

「いやーバレちゃいましたか! ……しょうがないじゃないすか。オレだってファンなんすから」

 

 

 微塵も悪びれず、屈託のない笑顔を見せる烏森。……思えば彼には色々と助けて貰ってきた。

 キャラクターデザインの監修も、立ち絵や設定画や広告用イラストの作成、さっきのような応援イラスト(ファンアート)の作成も。

 またそれ以前にも……計画段階だった頃には、夜通しの作戦会議に付き合ってくれたり。今日のように手料理を振る舞ってくれたり。本業を横に置いてまで議論に応じてくれたり。

 

 本当に……彼が居てくれて、良かった。

 

 

「……ありがとな、モリアキ。あと……これからも、よろしく」

 

「うっす。…………それはそうと、先輩」

 

 

 見れば……烏森は先程から、何やら様子がおかしい。缶ビールを片手に視線をあちこち彷徨わせ、いかにも何か言いたげな様子だ。

 言いにくいことでもあるのだろうか。とはいえ、これまでは彼の助言に助けられたことも数多い。おれの考えの及ばぬところを的確にフォローしてくれる彼には……言葉にこそ気恥ずかしくて出さないが、全幅の信頼を置いていると言っても過言じゃない。

 つまるところ……彼の指摘は正直、非常にありがたいのだ。思うことがあるのなら、何なりと言ってほしい。

 

 ……そんな想いが通じたのだろうか。

 彼はやがてチラチラとこちらを伺いながら、おずおずと口を開いた。

 

 

「先輩。………………見えてます。パンツ」

 

「は? あっ」

 

 

 気心の知れた相手との酒の席だ。腹も満たされ酒も回り、ついつい()()()()()()()気が緩んでしまったことは確かだろう。

 気がつけば裾の長いローブとスカートを太腿まで捲り上げ、ソファの上で片胡座(あぐら)をかき酒とつまみをかっ喰らっていたようだ。

 

 …………どうやら気を抜きすぎるのは……()()()()()()()言動を取るのは、色々と宜しくないらしい。

 

 ……けども。

 

 

「……まいっかパンツくらい」

 

「エッ!!? 良いんすか!?」

 

「まぁ良いけどよ……でもお前、二次専じゃなかった?」

 

「だって『若芽ちゃん』のパンツっすよ! 別腹ですって!」

 

「……気持ちは解らんでも無いな」

 

 

 もしこれが正真正銘の『若芽ちゃん』だったら……あの初回配信であったように可愛らしく恥じらってくれるのだろう。

 しかし残念なことに、おれは三十二(アラサー)のおっさんなのだ。烏森(コイツ)とは夏場エアコンの壊れた部屋でパンイチ原稿合宿を戦い抜いた間柄であるし、何なら創作仲間何人かで温泉旅行に行ったことだってあるし……そうなるともはやパンイチどころの話ではない。大事なところまで曝け出した間柄なのだ。

 というか……そもそもが気心知れた仲間同志、しかも同年代の男性どうしとあっては――それこそ全裸でもない限り――恥じらいなどそうそう感じるものでもない。

 

 おれにとっては特に被害を被るわけでもなく、むしろ普段どおりの体勢でくつろいでいるだけ。

 それで烏森(恩人)が喜んでくれるというのなら……恩返しというわけでもないが、まぁいいだろう。

 

 

「じゃあいいよ。パンツ見せたるからFA(ファンア)また宜しく。何ならモデルでもやるか?」

 

「ゥエッッ!? マジっすかヨッシャ!! ……えっと、ちなみにレーティングは?」

 

「当面はパンツまでだな。……っていうか公式が発禁(R-18)描いちゃマズいだろ」

 

「ダメかァ――――!!」

 

 

 オーバーリアクションで天井を仰ぎ、背もたれに体重を掛け脱力する神絵師(イラストレーター)、モリアキ氏……そんなにもショックだったのかと若干いたたまれない気持ちになるが。さすがにまだそういう時機では無いだろう。

 尤も……需要があるようならば、そっち方面でのアピールも吝かでは無い(あり得なくは無い)が。

 

 可笑(おか)しくも賑やかな『親』どうしの語らいは尚も続き……温かな夜はゆっくりと更けていった。

 

 

 彼が受け入れてくれて……本当に良かった。

 

 

 





また19時頃更新するかもしれません
よろしければ宜しくお願いします


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10【作戦会議】どうしたらいい?

 

「それはそうと……これからどうすんですか? ……先輩」

 

「んも?」

 

 

 二本目の缶酎ハイを空けた上で料理をあらかた堪能し、(シメ)の玉子雑炊をはふはふと掻き込んでいたおれに、どこか神妙な顔で同志烏森(かすもり)が切り出した。

 ちなみにこの玉子雑炊はおれの要望(わがまま)を聞いた彼が、卵とレトルトごはんと中華スープペーストを駆使してほんの五分で仕上げてくれた一品だ。超早いくせにふつうにうまい。すき。

 

 

 それはそうと……どうするのか、か。

 『出来ればシャワー借りて、あわよくば泊めてほしい』……とかそういう回答を想定しているんじゃ無いってことくらいは、酔いの回ったおれの頭でもさすがに想像がつく。

 『引き続き配信を続けていきたい、収益化目指したい』とか、そういう回答を求めてるんじゃないことも解る。そもそもこれは根幹の行動指針であり、おざなりにするという選択肢は最初から無い。

 

 それら以外が示す『これから』。

 彼の性格を鑑みるに……おれの身の上を心配してくれてるというのが、気恥ずかしいが正解だろう。

 

 

「ぶっちゃけ……原因が解んねえからな。元に戻る方法を探そうにも、前例無いだろこんなの」

 

「まぁ、聞いたこと無いすね……おじさんが美少女になるとか、それこそ創作(ファンタジー)のお話っすよ。てか原因解んないんすか? どうしてこうなったか」

 

「解んねんだよな。死のうとしてベランダに出たまでは覚えてるんだけど……気がついたらこう」

 

「え、ちょ、ちょ、ちょ!? 死……えっ!?」

 

 

 

 そういえば……あの大事件のことを彼に伝えていなかった。

 ここ半年の仕込みが一瞬で消し飛んだ、あの悪夢のような事件。嵐によるものか落雷によるものか解らないが、突然の停電に端を発する『木乃若芽』消失事件。

 

 その前後関係を改めて……当時のおれの心境を可能な限り思い起こしつつ、同志でありもう一人の『産みの親』であるモリアキに伝える。

 

 

 

「……ってな感じで。もう本当、気が付いたらこうなってたとしか言いようが無くて。何が起こったのかとか全く解んなくて」

 

「ええと、つまり…………その……『願いが叶っちゃった』ってコト……っすか?」

 

「…………そう、いう、コト……なのか?」

 

「さぁ…………」

 

 

 他に心当たりが浮かばない以上、そう考えるのが一番しっくり来るような気がする。どういう因果かおれの願いを……『俺の代わりに()()()が生きていれば良いのに』という嘆きを、何者かが聞き届けてくれたらしい。

 

 そこまで考えて……ふと疑問が浮かぶ。

 よくわからない超常の力によって深層心理の望みを叶える、謎の存在……そいつによって願いを叶えられた者は、果たしておれだけなのだろうか。

 

 

「モリアキは……何が変化っていうか、『願いが叶った』みたいなのあるか? 昨日の夕方、何か無かったか?」

 

「やー特に無いと思います。昨日の夕方は…………()()ですね。納品近い案件あったんで」

 

「……誰でも『叶った』って訳じゃ無いのか…………って、締切大丈夫なのか!? ……わるい、そんな忙しいのに」

 

「大丈夫っすよ、もうほぼ完っす」

 

「ほんとごめん。埋め合わせすっから。おれに出来ることあったら何でも言ってくれ」

 

「先輩今何でもって言いましたよね?」

 

「常識の範囲内で何でも言ってくれ」

 

「ですよねぇー!!」

 

 

 とりあえず解ったことは……到底理解が及ばない現象であるということだけ。対処法はおろか原因さえも不明、元の身体に戻れるのかどうかも不明。しかし『願いを叶えてもらう』プロセスが不明である以上……まぁ、正直望み薄だろう。

 

 幸いというべきか、日常生活を送る分には問題無さそうだった。この身体でもいつも通りの行動を――運動も呼吸も食事も会話も――何不自由無く行うことができる。

 最大の懸念であった『配信』を行うためのアバターに関しても……3Dモデルではなく()のおれだったとしても、『木乃若芽ちゃん(このキャラクター)』の()()のお陰だろうか、問題なくやっていけそうだと思う。

 

 

 

 というのも……仮に、仮に謎の存在によって、おれの願いが叶えられたのだとして。

 おれが願ったことは要するに、おれ自身が『若芽ちゃん』というキャラクターになる……ということ。

 

 つまりは……この『若芽ちゃん』と成り果てたおれには……『若芽ちゃん』のキャラ作りとして設定してあった情報が、すべて反映されているのではないだろうか。

 

 

 『様々な魔法を容易く操る、幼げな見た目に反して超熟練の魔法使い』『魔法情報局の局長として番組を完璧に仕上げ、放送をスムーズに完遂させる技量を持つ』『総じて極めて器用な反面、ふとしたことで心の平静を欠くと途端にポンコツと化す』『実年齢百歳だからとお姉さんぶってるが、人間年齢換算ではまだ十歳相当』等々々(などなどなど)……『若芽ちゃん』を魅力的なキャラクターとするために仕込んだそれらの設定ごと、おれの身体にフィードバックされたのだとしたら。

 

 放送開始直前になって急に心が落ち着いてきたのも、完全に忘れてしまったはずの台本がはっきり頭の中に浮かび上がったのも、放送に必要な吹出(バルーン)看板(テロップ)を『魔法』を駆使して意のままに操れたのも、器用な性格とポンコツな性格の二面性を垣間見せたのも……全てそれらの『設定』ごとキャラクターを引き継いだからだ、ということなのであれば…………

 

 

 計画を進めていくにあたって、非常に大きなアドバンテージとなるであろうことは……想像に難くない。

 

 

 

「…………モリアキ」

 

「はい?」

 

「……おれの配信、さ? その…………お、おもしろかっ」

 

「おもしろかったです!!!」

 

「おおう!?」

 

 

 若干食い気味に告げられた感想に少々面食らうも……そのまっすぐな感想は間違いなく嬉しかった。

 神絵師(イラストレーター)として生計を立てている彼は、こと創作に関しては非常にシビアかつストイックだ。仲間内での合宿や披露会でも――遠慮の不要な間柄の者には――遠慮無く意見や指摘をぶち込んでくる。しかも彼自身の技量自体は『神』と呼ばれ敬われる程……指摘された箇所は実際じつに理に適っている上に理解しやすく、指摘される側にとっては非常にありがたい指導なのだ。

 

 ついた愛称は……モリペン先生。

 そんなモリペン先生が太鼓判を押してくれたのだ。これは小さくない自信の源となるだろう。

 

 

 この身体(アバター)の性能であれば……モリペン先生お墨付きの『おもしろい』配信を続けていくことも、恐らくはそう難しく無いのだろう。

 

 

 

 ……まぁ、それはそうとして。

 

 当面の行動方針と現状把握を済ませ、以前と変わらず頼れる同志を再認識し、とりあえずひと安心するとともに……激動の一日を乗り切った身体が、ついに限界を迎えたようだ。

 

 

 

「ぐ…………モリアキ、ごめん。……どっか寝るとこ借りていい?」

 

「あらら……先輩、おネムっすか?」

 

「もうらめぇ、(眠気)しゅごいよぉ、もぉわらひ(意識)とんじゃうのぉ」

 

「今その身体で言われると割とシャレになんないですって。……いつもの客間使っていいすよ。布団も確かちょっと前に干したばっかなんで」

 

「……や、汗かいてるから……汚すと悪いって。バスタオル貸してくれ、それ敷いて床で寝る」

 

「何言ってんすかそんな……疲れ果てて玄関で寝るオッサンじゃないんすから」

 

「ばか野郎おれはおっさんやぞ。なめんなよおれ床でだって余裕で寝るし。なんならパンいちで寝るし」

 

「何の張り合いしてんすか……後生っすから服は着ててくださいよ……」

 

 

 何だかんだ言いながら彼は洗面所へ消え、すぐに戻ってくるとその手には大判のバスタオルを抱えている。以前のおれならばともかく、今のおれならば充分に敷布(シーツ)代わりに使えるサイズだ。

  モリアキはそれを二枚重ねて広げ、ソファとローテーブルの間、毛足の長い絨毯の上に敷く。

 

 

「はいはい寝床の準備が整いましたよー」

 

「うむ、くるしゅうない」

 

 

 お言葉に甘えてもぞもぞと横になり、ここまで着てきたダッフルコートを掛け布団代わりに被る。

 絨毯の恩恵か二枚重ねの賜物か、意外なほどに心地よい。どんどん身体と瞼が重くなり、あとほんの数瞬で眠りに沈むことを本能が察する。

 

 ……そういえば、食いっぱなしの飲みっぱなしだ。準備から後片付けまで、結局全て丸投げしてしまった。

 

 

「もり…………わり、かたづけ……」

 

「いいすから。……疲れたでしょう、休んで下さい。もう夜遅いです」

 

「んん…………あり……がと」

 

 

 結局お礼さえまともに告げられないまま……おれの意識は深い眠りに沈んでいった。

 

 

 ……起きたら、がんばろう。

 あと……いっぱいお礼言おう。

 

 

 





明朝7時に更新します
しばらくはこんな感じのパティーンになると思います
よろしければ宜しくお願いします


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11【作戦会議】…………どうしよう

 

 

 

 ―――種が、ある。

 

 

 ひとつやふたつではない。……いっぱい。ぱっと見数えきれないほどの種が、真っ暗な空間に浮かんでいる。

 

 まぎれもない種だ。種だと思う。つやつやした黒い表皮に覆われた、アボカドの種のように真ん丸の……得体の知れない何かの植物の、種。

 ぱっと見は卓球(ピンポン)玉のように見えなくもないが……何故かは解らないが、()()が植物の特性を秘めているということを直感的に悟った。

 

 それらは……真っ暗なだだっ広い空間のあちこちに、ふわふわと緩やかな上下運動を続けている。

 流されるでもなく。飛び散るでもなく。ただ同じ地点……高度以外の座標を維持するように、じっと浮遊している。

 

 

 …………ふと。

 それまでは上下移動しかしていなかった種が……いきなり一つだけ、水平方向にも移動するようになった。

 いや……続いて、もう一つ。さらに続いて、もう一つ。それら以外のほとんどの種は、相変わらずその場にふわふわと浮かび続けるだけ。

 

 

 どういうことだろう、何が起こったんだろうと……動き出した三つの種を、注意深く観察してみる。

 艶やかだった黒一色の種には縦一文字に亀裂が走り、その隙間からは赤々とした根っこが少しずつ少しずつ伸びている。

 

 つまりは……どうやらこの種は、根っこを張り巡らせようとしているらしい。

 

 

 真っ黒な種が、その根っこを張り巡らせようとしている()()。突然動き出した種が取り付いた、自在に動き回るその培地。

 

 おれは…………()()を、()()()()を……嫌というほどよく知っている。

 

 

 血のように赤い根を伸ばす、炭のように黒い種の……寄生先。

 

 それは……紛れもない、人間(ニンゲン)だった。

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

「…………………あれ」

 

 

 嗅覚に飛び込んできた刺激によって、急速に意識が引き上げられる。

 うっすらと開いたまぶたの隙間からは、カーテン越しの控え目な光が飛び込む。もぞりと身じろぎ思いっきり伸びをすると……背中と尻の下に、何やら柔らかい敷物の反発力を感じる。

 

 

「…………あれ? おれ…………床で……」

 

 

 目覚めた場所は……今やおれの身体となっている『木乃若芽ちゃん』産みの親の一人、神絵師モリアキ氏の自宅マンション。

 身体の下に敷くバスタオルを借り、リビングの床で眠りについたはずの身体は……いつの間にかソファ(を変形させたベッド)の上に。しかも駄目押しとばかりにふわふわの毛布まで掛かっている。

 

 疲れていたとはいえ。酒が入っていたとはいえ。おれの身体が以前より軽くなったとはいえ。

 眠っているおれに一切気取らせずに()()()()()をやってのける紳士(あいつ)に、どこか末恐ろしいものを感じてしまった。

 

 

「あらら…………おはようございます、先輩。……すみません、ちょっとうるさかったすかね?」

 

「んや……音じゃなくて……うまそうなにおいが」

 

「今の(サバ)はウマいっすからねー! 身体は休まりました?」

 

「……わるぃな、ソファ。……ありがと」

 

「いえいえ。まぁお客様ですんで。そのためのソファベッドですし」

 

 

 本当に……こいつは気配りとおもてなしの鬼か。彼女の一人でも居たっておかしくないハズなのに。こいつの性格と収入なら女の子だってよりどりみどりだろうに。……二次専なんだよなぁ勿体無い。

 まぁ『至近距離で堪能させてもらいましたんで』との発言は……頂いた快眠に免じて、この際聞かなかったことにしてやろう。

 眠りを妨げられたわけでもなし、寝顔を見られるくらい三十二(アラサー)のおっさんにとっては何ともない。原稿合宿の再来だ。()()だ。

 

 

「すんません、朝メシもうちょっと掛かります。……あと三十分もあれば米炊けるんで」

 

「あんら、そうかい……いつもすまないねぇ……」

 

「……まったく、お爺さんや。それは言わない約束でしょう」

 

「ところで婆さんや……シャワーを借りてもよいかのう」

 

「ええ、ええ、良いですとも。……あ、バスタオル適当に使っていいすよ」

 

「助かる。正直止めどころに悩んでた」

 

「終わりが無いっすもんね、爺婆(じじばば)RP(ロープレ)は」

 

 

 

 他愛の無い朝の会話に小芝居を挟みつつ、浴室使用の許可をあっさりと得る。本当に何から何まで世話になりっぱなしだ。

 

 水回りスペースの引き戸を開けて、洗面脱衣室へとたどり着く。入って正面の洗面台には曇りの無い鏡が据え付けられ、改めて自分の身体が変わり果ててしまったことを思い知らされる。

 

 

 何よりも、視点の高さからしてまず違う……ぱっと見たところ百三十前後だろうか。……いや、()()では百三十四㎝だったハズだ。仮に『若芽ちゃん』の設定が反映されているとすれば、恐らく今のおれの身長も百三十四㎝なのだろう。

 

 背丈は当然として……もっと問題なのは、こっちだ。

 つやつやと光り輝く若葉色の長い髪、人間には有り得ない程に長く尖った耳、右頬にちょこんと刻まれた神秘的な呪紋、きらきらと深い輝きを湛える翡翠色の瞳。

 誰がどう見ても人間離れした……しかし非常に可愛らしい、幼いエルフの少女が()()に居た。

 

 ……自信を持って、断言する。

 今のおれは……非常に、目立つ。

 

 

 いつまでも静止(フリーズ)してはいられない。米が炊き上がるまでにシャワーを済ませなければ、せっかくの朝御飯を台無しにしてしまう。

 ローブ各所の締め紐をほどき、身体のラインに沿ったそれを()()()と脱ぎ去る。その下から姿を現したのは、どことなくファンタジーテイスト溢れる菫色の半袖シャツ。……やはりこれも()()()()だった。

 であれば……ほぼ間違いないだろう。シャツの裾から顔を出している濃茶色のタイトスカートの下には、かざりけの無い単純な(子供っぽい)デザインの下着(パンツ)が装備されているハズであり……一方それとペアであるべき上半身の肌着は、この子には実装されていない。無慈悲である。

 

 自らの設定を確認しながら、真っ赤になる顔を無理矢理意識の外に追いやりつつ……鏡を見ないように気を配りながら脱衣を続けていく。

 若芽ちゃんの裸身なんてまじまじと見つめてしまった日には……たぶん、おそらく、まちがいなく、おれはおかしくなってしまうことだろう。

 だから……見ない。視界に入るのは仕方ないが、凝視せずに無理矢理流すことにする。幸いなことに起伏があまり無いこの身体は、さしたる苦労もなく着衣を脱ぎ去ることに成功した。

 

 

 しかしながら……改めて思うと、おれの仕出かした粗相と家主(モリアキ)の寛大さが際立つようだ。

 

 昨晩はかなりばたばたしていたこともあり、初配信の際にかいた汗がそのままだったので……もしかしなくても結構湿っていたし、少なからずにおっていたと思う。

 本当なら礼儀として、眠りに落ちる前に身を清めるべきだったのに……眠気にあっさりと負けてしまったのだから始末に負えない。ぶっちゃけ非常に情けない。汗くさい身体のまま絨毯の上で眠るとか、冷静に考えればちょっとヒトとしてヤバいと思う。酒が入っていたとはいえ非常識なおれの要望に、それでも嫌な顔ひとつしなかった烏森(かすもり)は……本当に菩薩か仏かそれ系の何かだと思う。

 

 まぁ、何らかの形でお詫びとお礼はするとして……今はとりあえず身体を綺麗にしなければ。

 というか、泊まりに来た際は度々使わせて貰っている浴室だが、いつ借りても綺麗に掃除されているのは本当にすごいと思う。隅々まで掃除が行き届いており、整理整頓定置管理もキチッと行われている。

 

 

 新築物件のようにきれいな浴室に足を踏み入れ、幼いエルフの裸身を写し出す鏡が視界に入り…………おれは身体ごと真横を向き、全力で鏡を見ないように身体を洗い始めるのだった。

 

 焦がれ続けた可愛い女の子の全裸である。

 直視するにはあまりにも……あまりにも、刺激が強すぎた。

 

 

 

 

 …………中略。

 

 

 

 

 具体的な描写は割愛するが……決して少なくない苦労と葛藤との末、おれは目をつぶりながらもシャワーと洗髪を済ませることに成功する。

 

 ここまで体感時間で……たぶん二十五分ほど。なかなかいい時間というべきかギリギリというか。

 ここまで来ればあとはもう一息だ。烏森(かすもり)の善意に甘んじてバスタオルを借り、身体の水けを拭き取って…………

 

 

 …………拭き、取って…………?

 

 

 

「…………やっっっっば」

 

 

 綺麗に整えられた、烏森(かすもり)宅の脱衣場。

 

 衣類籠に入っているのは……先ほど脱ぎ散らかした、汗まみれの衣類と下着。……それだけだ。当たり前だ。

 

 

 シャワーを浴びたことでようやく活性化し始めたおれの頭が、危機的状況を無慈悲に告げる。

 周囲の全ての状況から判断される結論が、どうあがいても絶望的であると……何度思考を試みても無駄であると、賢いこの頭は無慈悲に告げる。

 

 落ち着いて考えれば……当たり前だろう。当然だろう。

 見渡しても、考えても、現実は何一つとして変わらない。

 

 

 

 ()()()()が無いという事実は……残念ながら、(くつがえ)りそうに無かった。

 

 

 



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12【非常事態】パンツが無いから

 

 

 考えるまでもなく当然だろう。未就学の子どもでも常識として弁えているだろう。むしろ何故()()()()に思い至らなかったのか、我ながら疑問だ。もはや抜けているとかそんな次元じゃないと思う。

 

 ()()()()()()前にも烏森(かすもり)宅の風呂場を借りたことはあるが、そのときはちゃんと替えの下着を持参していた。当然だ。

 原稿合宿のときも当然、数日分の下着とタオルと洗面用具は持参していた。週末の宅飲みからの寝落ちからの翌朝シャワー拝借の際も、最低限替えの下着類は持ってきていた。当然だ。

 『お泊りセット』などと言うほど大それたものでもないが……丸めて纏めてポーチの一つに収め、ついでに髭剃りと洗顔フォームをねじ込んだ『お泊りポーチ』とでも呼ぶべきものを、浴室を借りる際にはいつも持ち込んでいた。……当然だ。

 

 

 だが……今回は。昨晩は。

 夢うつつの状態で配信を終え、縋るような気持ちで烏森(かすもり)に連絡を取り、コートを羽織り財布とスマホと鍵のみを引っ掴み、原付に飛び乗って飛び出してきた。

 

 お泊り定番の『お泊りポーチ』を持ってきた記憶は無いし……そもそも頼みの綱の『お泊りポーチ』に収まっている下着は、当然()()()()()()()()なわけで。

 

 

「サイズ合うパンツ……持ってるわけ無えじゃん……」

 

 

 いや、それどころじゃない。パンツどころじゃない。そもそもが……この身体に合う着替えなんて『配信』用衣装以外に持っているハズが無い。

 そしてその、現状持ち合わせている唯一の服は――昨晩まる二時間に渡る全身運動の際、おれの身体から排された老廃物をふんだんに含んだ、紛うことなき『汚れもの』は――脱衣場の片隅の床に、ごちゃっと纏められ鎮座している。

 

 ……百歩、いや千歩譲って。()()に再び袖を通さなければならないとして。

 ローブはまだしも……あそこまで盛大によごれて汗で湿ったパンツとシャツを再び身につけるのは、ヒトとしてちょっと抵抗がある。

 

 

 ……なので。

 

 

「……バレへんバレへん」

 

 

 気持ち()()()とする気がしなくも無いが……背に腹は代えられない。肌着代わりの半袖シャツに袖を通さず、素肌に直接魔術師風のローブを身につける。

 

 しかしながら……ここでひとつ問題が。

 この魔術師のローブだが……脇の下から脇腹部分と裾の一部は、紐を絞ることである程度サイズを調整できる作りになっている。スニーカーの靴紐部分のような感じ、と表現すれば伝えやすいだろうか、二枚の布地を紐で継ぎ合わせる構造となっているので…………つまり、その、あれだ。脇の下から脇腹部分は、現在素肌が覗いているわけだ。

 

 ……見られて恥ずかしい部分が直接見られる訳じゃないので、とりあえずは我慢するしか無い。まるだしよりは圧倒的にマシである。

 とはいえ、勿論あくまで繋ぎにすぎない。実際このローブだってすぐにでも洗濯したい程なのだ。なるべく早く衣類を確保しなければならないだろう。

 

 

 しかしまあ……先の展望は置いておいて。

 下着肌着無し(ノーパンノーブラ)という極めて危うい状況だが……とりあえずシャワーを借りたことでスッキリすることが出来た。時間もそろそろ三十分経ってしまった頃だろう、よごれものを一纏めにして脱衣室を後にする。

 むき出しの脇腹と股間部に触れる冷たい空気が、妙に気になって仕方ない。

 

 

「ごめん、お待たせ」

 

「あっ…………先輩」

 

 

 リビングスペースに繋がる扉を開けると、そこには炊きたてのご飯をよそっている烏森(かすもり)の姿。

 こちらの姿を認めた彼は動きを止め、何か言いたげに思案している様子。

 

 

「んえ……な、何? どうした?」

 

「……いえ、先輩……余計なお世話だったらすみません」

 

「……お、おう」

 

「着替え、持ってますか?」

 

「………………………」

 

 

 持ってません。持ってないのにシャワーを借りました。なので今はノーパンノーブラローブです。恥ずかしいです。……と事実をありのまま伝えることは憚られ、曖昧な笑みを浮かべて力無く首を左右に振る。

 だがそれでも彼は、どうやら今のおれの装いと手に抱えている()()()()を見て全てを察してくれたらしく……

 

 あっけらかんと、言ってのけた。

 

 

「パンツ、使います?」

 

「は?」

 

「若芽ちゃんはまだ小さいすから……子供用で大丈夫っすよね」

 

「は?」

 

「あ、当然ながらちゃんと新品未開封っすよ。安心して下さい」

 

「は?」

 

 

 ちょっと何言ってるのか解らないですね……。

 

 



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13【非常事態】やっぱ恥ずいわ!


無罪!無罪です!



 

 ……なんということはない。どうやらトルソーに着せる用に調達した、資料用のパンツだったらしい。

 

 

 彼に導かれるまま仕事部屋に足を踏み入れ、クロゼットを開ける。

 するとそこにはプラスチック六段の衣装ケースと、その隣に鎮座するトルソー――ヒラッヒラのロングワンピースをお仕着せさせられた胴体部分のみのマネキン人形――が収められていた。

 

 おもむろに烏森(かすもり)がロングワンピのスカートをめくると……なるほど確かに。つやつやしたプラスチックの白い素肌を覆うように、薄ピンクのパンツが履かされている。

 

 

 

「いやーその……このトル子ちゃんに着せる用にパンツもですね、デザイン別で何枚か買っといたんすけどね。…………ぶっちゃけ皺の入り方とか影の付き方を見る分には、履かせる一枚だけあれば充分だったっていう……」

 

「まぁ……柄とか質感とかは履かせなくても解るからな。カタログとかでも良いわけだし。…………なるほど納得した。おれはてっきりモリアキが女装に目覚めたのかと」

 

「いやーオレは見る専描く専っすわ。ああいうのは向いてる子がやるべきなんすよ。オレは違うっす」

 

 

 などと宣いながら衣装ケースの引き出しを開け、大手通販サイトのロゴが押されたメール便の封筒を引っ張り出す。その中に収められていたのは……確かに未開封らしい女性用下着。

 広がった状態で一枚一枚フィルムで梱包されており、大きさと柄がよくわかる。確かにこのサイズなら丁度良いだろう。……ほんの少しだけ大きいかもしれないが。

 

 いや、それにしても……作画用の資料と言われればそれまでなんだが……なんというか、予想外というか。

 

 

「……いや、まぁ…………そういう反応される気もしてたんで、なるべくなら身内にも隠したかったんすよね。……ただ、落ち着いて考えたら先輩着替え持ってるわけ無いし……着替えたいでしょうし…………オレも知っちゃった以上、見て見ぬふりは出来ませんし。今先輩の助けになれるのは、オレだけな訳ですし」

 

「おま…………神か……」

 

 

 困ったように笑みを浮かべながら女児用下着(パンツ)を差し出す、三十代の独身男性。

 世間的に見れば明らかにアウトな光景だろうが……今のおれにとっては間違いなく、この上なく神々しい存在だった。

 

 あぁ……わが神はここに居た。

 

 

 

…………………………………………

 

 

 

 無事に下着(パンツ)を手に入れ、下半身の安寧を享受することが出来た。上半身は地肌にローブなので万全とは言い難いが、下着(パンツ)一枚身に付けただけでも安心感は桁違いだった。

 まぁ確かに、上半身裸には慣れているがノーパンFullChinには抵抗があるし……そういうことなのだろうか。まぁもう俺にChinChinは無いんだが。ハハッ。

 

 

 

「いただきます」

 

「はい。どうぞ」

 

 

 気を取り直して、念願の朝ごはんに取りかかる。

 誰が見ても完璧であろう、抜かりの無い朝食メニューに……深い深い感謝を捧げながら箸を伸ばす。

 

 この品々を用意してくれた烏森(かすもり)本人はしきりに謙遜していたが、独り暮らしの男性がここまで用意できる時点でまず尊敬に値する。

 おれ自身も料理は好きなほうだが、あくまで趣味として嗜む程度。凝り性だが手際は悪く、日常的な食事の支度はどちらかというと苦手なほうだ。

 だが一方、烏森(かすもり)はひたすらに手際が良い。一汁三菜プラスアルファを僅かな時間で揃えるなど、独り身にしておくのが惜しい逸材だろう。

 

 曰く『米研いでスイッチ押すだけっすよ』という白米はまだ良いとして……曰く『塩振っといたのをロースター並べてタイマー捻るだけっすよ』らしい鯖の塩焼き、曰く『測って混ぜて焼くだけ、だしの素サマサマっすよ』らしい出汁(だし)巻き玉子、『刻んで()えて味整えるだけっすよ』らしい胡瓜とワカメの酢の物、『これなんかお湯で溶くだけ、楽々っすね』らしいお味噌汁。

 おまけにおかわり用のごはんと生卵が添えられ……ぶっちゃけお金払うレベルの見事な朝定食なのである。

 

 

「しあわせ。おれモリアキのお嫁さんになる」

 

「先輩それマジ洒落になんないんで! 自分が今バチクソ可愛いロリエルフだっていう自覚を持って! ちょっと女の子ムーブ(つつし)んで下さい!」

 

「お、おう。悪い」

 

「……はぁ。……ハチャメチャに可愛いロリエルフなのに言動が先輩なんすもん。思考がバグるんすよ」

 

「ホントすんません。気をつけます」

 

「ほら、冷めますよ。早く食べちゃって下さい。食べ終えたら色々と考えなきゃならんでしょ」

 

「ウッス。了解ッス」

 

 

 

 内面だけならおれよりも遥かに女の子ムーブだよな……とは思ってても言わない。そもそも仮想配信者(わかめちゃん)公式絵師(ママ)なことは周知の事実だし。

 

 やさしいママのご機嫌を損ねないためにも、俺は朝ごはんを残さずおいしく頂くことに集中するのだった。

 

 

 

 

 ……それが、この後の悲劇を後押しすることになろうなど、考えてもみなかった。

 

 



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14【緊急事態】自然の摂理だもの

 

 質量保存の法則、というものがありまして。

 

 かいつまんで説明しますと……こと物理法則に従う限り、変化する『前』と『後』では総重量が変わらない、というものでして。

 

 

 身近な例で例えると、たとえば鉄が錆びる現象。あれは『鉄』が空気中の『酸素』と反応して『三酸化二鉄』という物質になるという変化であり……

 式で表すと『4Fe+3O2→2Fe2O3』、つまり『四つの鉄』と『三つの酸素』が合わさり『二つの三酸化二鉄』になる反応……らしいです。

 このとき鉄は空気中の酸素と結び付いているので、つまり錆びた鉄は結び付いた酸素の分だけ重量が増えているらしいです。……尤も、三酸化二鉄……つまり錆びた鉄はボロッボロ崩れやすいため、重さの変化を体感することは少ないらしいのですが。

 

 

 ……まぁ、()()に比べるほど難解なことでは無いと思うのですが……要するにですね。

 

 何がとは言いませんが……『入れた』その分だけ『出よう』とするのは……つまるところ自然の摂理なわけですね。

 

 

 

 昨夜遅く……いや今朝未明に急遽執り行われた宴会と、あの完璧な朝定食。あの量を身体に入れれば――多少は消化・吸収されるとはいえ――少なく無い量が『出よう』とするのも、まぁ当然なわけでして。

 

 

 

 

『先輩ーーーまだっすかーーー』

 

「ま、まだ!! 悪ぃ、もうちょっと……!!」

 

 

 

 わたくしは現在、先ほど烏森(かすもり)氏より譲り受け身に付けたばかりの下着(パンツ)を再び自らの手で下ろし、便座に腰掛け排泄を行うという……いわば一大イベントに直面しているわけでございます。

 

 

 ……こほん。

 

 排泄を行うこと自体は、生物である以上当然の行為である。別段特に問題があるわけでもなく……かくいうおれも生まれてからこれまで三十二年あまり、お手洗いとは(幼少期を除き)一日も欠かさずお付き合いしてきた。

 しかしながら……股間部に()()ということを認識してしまうと、一気に気恥ずかしさがこみ上げてくる。

 

 なにしろ『若芽ちゃん』の……小さな女の子の、股間部なのだ。

 

 

 

(出し終わったら……拭か、なきゃ……いけないんだよな……)

 

 

 ()()は当然として、()もきちんと拭かなきゃいけないという点……これは油断するとおざなりになってしまいそうだ。何しろ全く経験の無いプロセスなのだ。

 彼女いない歴イコール年齢であるおれにとって、触れたことはおろか見たことさえない乙女の聖域なのだ。そこに堂々と触れ、撫でまわすなど……女性経験のないおれにとっては、並大抵のことではなかった。

 ……かといって、ちゃんと拭かないと不衛生だということは知っている。男とは違い女の子はひときわデリケートなのだと、そっち方向に詳しい薄い書籍等で学んでいる。

 

 

 

(そーっと……そーっと…………んっ)

 

 

 おっかなびっくり丸めたペーパーを近付け、おそるおそる水けを拭う。ペーパーの触れた箇所から脊髄を駆け上がる未知の感覚を意識しないように気を強く持ち、下唇を軽く噛みながら強引にケアを終える。

 本当ならば、ペーパーで軽く拭う程度では不充分なのだろう。入浴の際にも丁寧に洗い上げなければならないだろう。烏森(かすもり)宅のお手洗いには暖房便座とウォシュレットがばっちり備わっており、その気になればボタン一つで今から洗うことも出来るのだろう。

 

 だが……さすがにまだ()()は怖い。

 敏感な()()に一方的に温水を吹き掛けられるのは……それによってもたらされる刺激は、やっぱり怖い。

 

 

 

『せーーんぱーーーーい……』

 

「ああっ!! 悪い! もう出るから!!」

 

 

 前と後ろを拭き上げ、洗浄レバーを下げる。急いで(ちょっとだけ大きい気がする)下着(パンツ)を引き上げ、ローブのスカート部分を下ろし、軽く自身を見下ろして服装に問題ないことを確認する。

 

 据え付けてあった消臭スプレーを軽く噴射し、いやなにおいを消し飛ばす。……これでよし。

 

 

 

「ごめんお待たせ……大丈夫か?」

 

「なんとかセーフっす。……むしろ先輩こそ大丈夫でした? 拭いたりとか」

 

「ははははは(目そらし)」

 

「ッッ、ゥオオオすみません失礼します!」

 

 

 

 曖昧に笑ってごまかすおれの横をすり抜け、烏森(かすもり)がお手洗いに飛び込む。……まぁ、俺とほぼ同じ量……いや、大きく胃の縮んだおれよりは明らかに多く飲み食いしておいて……()()()わけが無いよな。

 もたもたしていたおれが長時間個室を占有していたせいで、彼の尊厳はどうやら決壊する寸前だったらしい。

 

 ……本当に、間に合ってよかった。

 

 



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15【緊急事態】だんだん雲行きが

 

 さてさて。

 

 ゆっくりと休息を取り、シャワーを浴びてさっぱりして、美味しい朝ごはんをばっちり頂き…………お手洗いもきちんと済ませて。

 時刻はざっくり十時半、ゆったりとした土曜日のお昼前である。

 

 

 

 

(そだ、エゴサしよエゴサ)

 

 

 昨晩の放送から一夜明けて、果たして話題のほどはどんなもんだろうか。SNS(つぶやいたー)で昨晩と同様『木乃』『若芽』で検索を掛けてみる。

 すると……出るわ出るわ盛り沢山。『かわいい』『髪きれい』『次の放送楽しみ』『チョロそう』『妹にほしい』『ぱんつみせて』等々。

 

 加えて、直接送られる返信(リプライ)のほうは……通知件数が何やらとんでもないことになっている。

 所々に欲望に忠実なお下品な返信(リプライ)も見られるが、それらも含めてその殆どが好意のコメントだった。

 中には初回放送で告知したように、『何か歌って踊ってほしい』『カツ丼ならここがオススメ』『エフエフやりませんか』『すこやかハンバーグのレポを』『沖縄のビーチで海水浴を』『ファッションショーを』等々(などなど)興味のあるジャンルを添えて送ってくれる返信(リプライ)も多く、次回以降の配信のネタが色々と浮かんでくる。

 

 

 心の保養にもなるし、ネタ作りの助けにもなる。やっぱり視聴者からの声は、嘘偽り無く非常に嬉しい。

 若芽ちゃんを見守ってくれている彼ら彼女らの期待に添えるように、もっともっとがんばらないと。

 

 

 

 しばらくの間ニヨニヨだらしない顔でSNS(つぶやいたー)を眺めていたが……やはりというか何というか、()()()()()()がやたらと目につく。

 

 

「『魔法ホンモノですか』……か。…………ホンモノなんだけどなぁ……説明したところでなぁ」

 

 

 若芽ちゃんのアカウントに直接送られる返信(リプライ)以外にも、そこかしこに見られる『魔法』の文字。

 以前から使っていた私用(しよう)の、『安城正基』のアカウントに切り替えてタイムラインを流し見してみても、今日はやたらと目につく気がする。

 

 

 若芽ちゃんの演出を誉める言葉かと、文字通り『魔法』のように鮮やかな演出を讃える表現かと、しばしの間鼻高々でいたのだが…………それにしては何やら、少々様子がおかしいことに気付く。

 

 

 

 

「……銀行……強盗? え、ちょ、は!? 魔法使いが!?」

 

 

 驚くべき記事が……SNS(つぶやいたー)のトップニュースに躍り出ていた。

 慌ててテレビを点けてみると、たちまち緊迫したレポーターの声が響いてくる。くだんの銀行強盗事件は今まさにニュース番組で取り上げられている真っ最中らしく、放送局(チャンネル)を回してみればどの局もその話題一色だった。

 

 それによると犯人はまだ銀行内部に立てこもっているらしく……しかも犯人は摩訶不思議なチカラ、それこそ『魔法』としか言いようがない異能を行使していたという。

 民間警備会社の警備員も、警察の機動隊も、正体不明の異能に為す術なく返り討ちに遭い……襲撃を受けてからこちら、未だに状況は何一つとして進展していないのだという。

 

 

 

 ……そういうことも『あるかもしれない』とは思っていた。

 おれ以外にも、非現実的な能力を授かった者が居るかもしれないということは、確かに考えていた。

 

 

 だが……よりにもよって、こんなド派手なことをやらかすとは。

 おれと同類でありながら、犯罪行為に手を染める輩が現れようとは。

 

 

 これでは……下手をすると()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 上手く釈明しなければ……それこそ演出ではなくホンモノの『魔法』を使っていると知られれば、今テレビに取り上げられている銀行強盗犯の同類と見なされ、社会全体から敵対認識を受けてしまう恐れだってある。

 

 

 

 

『こちら現場上空のアツタです! 今朝未明より続いている浪越(なみこし)銀行神宮(じんぐう)支店の立て籠り事件ですが、状況は依然膠着したままです! 警官隊も更に増員して周辺封鎖を継続していますが、未だ犯人の規模も目的もその一切が不明! 周辺住民には避難が呼び掛けられ、何とも言えない物々しさを醸し出しています!』

 

(うーわ……神宮支店ってこのへんじゃね? そんな大騒ぎになってたんか……)

 

『アツタさんこちらスタジオです。周辺住民に避難の指示が出たとのことですが、映像を見る限りではマンションが立ち並ぶ区画のようなのですが……その、逃げ遅れた人とかは居ないのでしょうか? 住民の方の安全とかは、その』

 

(うへぇ……近くに住んでる人は不安だろうなぁ……)

 

『……………………はい! 県警が主導となって周辺のお宅一戸一戸訪ね、一軒家マンション問わず避難を呼び掛けたとのことです! …………えー……ご覧のように封鎖区画の外側では、住民の方と思しき人々が、現在も不安そうに行く末を見守っています!』

 

(そんな大掛かりに避難呼び掛けてたんか……あれ、このへん何も聞こえないけど遠いんかな……? いやでも神宮支店って近くのハズだし……あっ、あのファミレス見覚え……ある…………し?)

 

 

 

「ああ!!?」『はああああ!!?』

 

 

 後方、ドア二枚を隔てたお手洗いから、烏森(かすもり)の悲鳴が聞こえる。どたんばたんと騒音を立てながら洗浄の水音が響き、さも慌てた様子でドアが開かれたことを聴覚が察知する。

 

 一方、おれの手もとのスマホからはREIN(メッセージツール)の着信音が響き、()()()()()()共通の知人からの新着メッセージ受信を知らせる。

 

 

「…………おェあ!? ウチの一階じゃないすかコレ!! ナンデ!? ニュースナンデ!!?」

 

「………………ご、めん……おれだ」

 

「は!? え、ちょ!? 銀行強盗!? ……え、だって、こんな静か……は!?」

 

 

 スマホに表示された新着メッセージ、何度か原稿合宿を共にした身内からのメッセージには……『マサキ起きろwwwwモリアキ氏宅がニュース出てるwwww』との一文。

 テレビからの情報と、身内からのタレコミ……これらの情報を統合することで浮かび上がる事実は、もはや一つしか考えられないだろう。

 

 

「えっと、えっと……ごめん。謝る。ごめん。……【静寂(シュウィーゲ)解除(エンデ)】」

 

「ウェワアアアア!?」

 

 

 先程まで堪能していた『のんびりゆったりした土曜の朝』は跡形もなく消し飛び……静寂を押し退け飛び込んで来るのは、消防車輌のサイレン音と報道ヘリのローター音、そして犯人に呼び掛けているとおぼしき拡声器越しの大声などといった……紛れもない()()()()()()()

 

 

 誰がどう見ても『逃げ遅れた』としか思えない状況に……おれたちは呆然と顔を見合わせるのだった。

 

 



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16【緊急事態】どうしたらいい!?

 ゆっくりと起き、たっぷりと朝ごはんを頂き、やむにやまれぬ事情によって女体の神秘の一端を垣間見たりしながらも、有意義な休日が始まろうとしていた……まさにそのとき。

 

 床二枚隔てた地上階では……世間を揺るがす前代未聞の大事件が勃発していたらしい。

 

 

 このマンションを中心とする直径百メートル程の家々へは、ニュースレポーター(いわ)く避難の指示が下されていたとのこと。

 ()()()()()により内外の音の伝播を遮断された――避難を告げるべく訪ねてきた警官のノックの音にも無反応、かつ室内の生活音が微塵も外部に漏れなかったため留守と判断された――三〇五号室の住民を除いて、近隣住民は皆避難してしまったらしい。

 

 

 今や、この部屋と事件現場を中心とする直径百メートル圏内に存在する人間は……くだんの銀行強盗犯と、おれたち二人……それだけらしい。

 

 

 

「どどどどどうするんすか先輩……! ヤバくないっすか!?」

 

「ヤバいヤバくないで言えばどう考えてもヤバいよな……!」

 

「大体何なんすか銀行強盗って! 今日土曜っすよ!?」

 

「むしろ人がいないから狙ったとか……? 魔法が使えるなら警備とかセキュリティとか無視できてもおかしくないし……その気になれば金庫だって抉じ開けられそうだし」

 

「ちょ、ま…………魔法、って……犯人が!?」

 

「そうみたいだ……って、ホラ! 見てみろテレビ」

 

 

 上空から俯瞰するカメラが拡大率を増し、警官隊の動きが恐らくリアルタイムでテレビの画面に映し出される。

 フル装備の警官四名がひと塊になり、前列二名は透明なポリカーボネートのライオットシールドを隙間なく構え、銀行入り口脇の死角からじりじりと近寄っていく。

 

 恐らくは、気配を消してにじり寄る彼らから注意を逸らそうとしているのだろうか……窓の外、拡声器越しの訴えがあからさまに低姿勢に、譲歩の気配を見せ始める。

 犯人の反応を引き出そうと試みている様子が伝わって来ており、それに呼応するようにテレビに映る重装警官が少しずつ歩を進めていく。

 

 作戦としては悪くないと思う。交渉の余地があると見せて犯人を釘付けにし、その隙に別方向から制圧部隊を送り込む。極限状態に陥っているはずの犯人は視野が狭まっているハズであり、死角から近づく別動隊まで気を回すことは難しいハズだ。

 

 

 作戦としては……悪くないと思うのだが。

 

 

 

「せっかくの二面作戦を実況中継してどうすんだよ……!」

 

「銀行って普通にテレビ置いてますよね……犯人がテレビ点けてたら筒抜けじゃないっすか…………ってうおおおお!?」

 

「……吹き、飛んだ……?」

 

 

 窓の外から何かが破裂するような音と悲鳴と衝突音が立て続けに響き、それに連動するようにテレビ越しの映像が大きく動く。

 重装警官のスクラムが何の前触れもなく数メートルは後方に吹き飛ばされ、上空のヘリから俯瞰するレポーターが悲鳴に近い声を上げる。

 

 映像を見ている限り……なるほど確かに、常識に反した怪現象『魔法』としか表現しようが無い。

 じりじりと歩を進めていた重装成人男性四名、装備も含め総重量四〇〇㎏は下らないだろう一団が、まるで不可視の車に正面から突っ込まれたかの如く軽々と吹っ飛ばされ、ほんの一瞬で無力化されてしまったのだ。

 

 

 ――――『俺に近付くな』。

 

 恐らくは()()である()()使()()……その()()()()()()()

 

 

 ローターの騒音に蝕まれている上空のレポーターも、おれと同じ距離に居る烏森(かすもり)も、どうやら聞こえた様子は無いようだったが……おれ(エルフ)の耳には重装警官が吹き飛ぶ直前の()()が、確かに聞こえていた。

 

 底知れぬ怒りを含み、憤怒に震える声で紡がれた……若くはないだろう男の声。

 恐らく中継を視聴し情報を仕入れながら立て籠り続けている、真下に居座る犯人の声を。

 

 

 

「え、ちょ!? 何!? 何してんすかあのオッサン!? ちょっ、危ないですって!!」

 

「…………いや、引っ張られて……? …………!! まさか……! 犯人に!?」

 

 

 窓の外で新たな悲鳴が上がり、中継画面にもその様子が映し出される。警察車輌によって築かれた簡易バリケードの影から、一人の初老男性がふらふらと歩み出ていた。

 制止しようとする警官を力ずくで振り払い、微塵も躊躇せず顔面を殴り付けながら、夢遊病のような足取りで包囲の中心へ……犯人の居座る銀行へと進んでいく。

 

 何が起こっているのか理解の追い付かない人々を嘲笑うかのように……事態は一気に凄惨さを増していく。

 

 

「うわ……!? う、わっ、ちょっ、止めっ……! ちょっ、さすがにエグいっすよ!? 待って! ヤバいですってこれ!!」

 

「……殴ってる、のか? ……『魔法』で…………一方的に」

 

 

 まともに抵抗出来ない壮年男性が突如、まるで殴られるかのように体勢を崩し、その場に(うずくま)る。かと思えば横方向からの殴打を受けたかのように吹き飛ばされ、べしゃりとアスファルトの路面に叩き付けられる。

 

 不可視の暴力、一方的に痛め付けられる男性の姿に周囲からは悲鳴が上がり、男性を保護しようと試みる警官は先程同様あっさりと吹き飛ばされる。

 

 

 そうして聞こえてくる……犯人の高笑いと、途切れぬ憤怒と、止めどなく溢れる怨嗟の声。

 

 

 

 

(…………そういう……ことか)

 

 

 人並み外れた感度をもつ耳のおかげもあり……犯人の動機も、目的も、恐らくおれだけが理解した。

 

 孤立無援の状態でいたぶられ続ける男性を、その後に続くであろう被害者達を、助けることが出来るのは自分だけなのだろうと……理解してしまった。

 

 

 

 

「…………いか……ないと」

 

 

 頭の中、思考の奥底。この身体に生まれながらにして刻み込まれた設定(呪い)が、おれの意思とは無関係に目を覚ます。

 

 元の身体を喪ったおれは、今や『木乃若芽(きのわかめ)』という一つの創作人格(キャラクター)に過ぎず…………彼女を作成する際に数多組み込まれた設定(呪い)の通りに『木乃若芽(この子)』を演じ、振舞い、動くしかない。

 

 

 幼げな見た目と実年齢に反し、その実態は超熟練の魔法使い。

 

 魔法情報局の局長として、番組を完璧に取り仕切る腕を持ち。

 

 精霊の愛し子、神秘の民、幼くも高潔な心を抱いた長命種。

 

 平和と静穏を愛し、不幸を見て見ぬ振りなど出来やしない。

 

 全ての人々に夢と希望を与える。そのための苦労は厭わない。

 

 

 正しく、温かく、清い心を持ったエルフの少女……その身に籠められた優しい(まじな)いに、おれは抗うことなど出来ない。

 

 

 

「ちょっ!? せん……先輩!! 何しようとしてんすか!?」

 

「……いや、ダメだおれ。止まんね。行かないとダメだわ」

 

「な…………何言ってんすか! 危ないに決まってるじゃないすか!!」

 

「それでも……おれが止めないと。じゃないと……あのおっさん殺される。そしたらもう……手遅れになる」

 

「得体の知れない……魔法? だって使って来るんすよ!? おん…………今の先輩じゃ危ないですって!!」

 

「いや、でも……おれだって魔法使えるし。立場的にはイーブンやぞ」

 

「………………そういえばそうでしたっけ。……あー何だかイケそうな気がして来ましたわ」

 

「いきなり醒めたな。嫌いじゃないぞ」

 

 

 おれの身を案じてくれたらしい烏森(かすもり)に引き留められ……たかと思ったら鮮やかに(てのひら)を返され、苦笑しながら準備を整える。

 このくっっそ目立つ容姿はどう足掻いてもどうしようもないので、せめてフード付きダッフルコートで身体を包んで髪と耳を極力隠す。

 圧倒的に動きにくくなってしまったが……特に問題ないだろう。

 

 

「ほいじゃ、そろそろ行ってくる」

 

「ちょちょちょちょっ! 先輩!!」

 

「な、なに……?」

 

「……まさか窓開けて出てこうとしてませんよね?」

 

「えっ…………ダメ?」

 

 

 してました。だってそのほうが手っ取り早いじゃん。急がないとおっさん死んじゃうかもしれないもん。

 

 

「何こてんと首傾げて可愛いムーブしてんすか。騙されませんよ。……先輩がウチの窓から出てったら、オレが関係者って即バレするじゃないっすか。中継してるんすよ。しかもギャラリーだって滅茶苦茶いるんすよ。特定余裕ってレベルじゃないと思うんですが、この後ウチどうなると思います?」

 

「……………………ごめん」

 

「解って戴けたなら幸いです……」

 

「出るときは(おもて)から見えないようにする。……あとヘリも」

 

「そうして下さい。……先輩も『魔法』使えるんでしょう? なんとか良い感じに欺いて下さい」

 

「わかった。任せろ」

 

「先輩!!」

 

「えっ、なに!?」

 

 

 おれ……また何かやっちゃいました?

 突如声を張った烏森(かすもり)に不安を禁じ得ず、びくりと跳ね上がり振り返ると…………いつになく真面目な表情の彼と目が合った。

 

 

「若芽ちゃんのFA(ファンア)……カッコいいのも可愛いのもえっちなのも、いくらでも描きます。あとオレ若芽ちゃんの次回放送も今後の展開も、めっっちゃ楽しみにしてますから。…………解りましたね?」

 

「………………ああ。任せとけよ」

 

「信じてますから。……行ってらっしゃい」

 

「おう。行ってきます」

 

 

 

 

 内々から沸き上がる衝動に突き動かされるように。理不尽に踏みにじられる目の前の被害者を救うために。

 

 

 おれはひっそりと玄関を開け……こっそりと行動を開始した。

 

 

 



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17【緊急事態】肩慣らしといこうか

 

 被害者を助けるとはいっても……こと今回に限っては、留意しておかなければならないことが幾つかある。

 それは……単純におれの安全のためだったり、烏森(かすもり)に迷惑を掛けないようにするためだったり……あるいは、世間に無用な恐怖と混乱をばら蒔かないためだったり。

 

 単純に事態を上手く収束させるだけでは、満点とは言いがたい。隠すべきことをうまく隠さなければ、()()()()()()()()と知られてしまうどころか……異能を操る()()()()()が他にも存在するということを、リアルタイムで全国中継することになってしまう。

 

 ……いや、しかし……やっぱり難しい。ある程度は仕方ないと割り切るしかないと思う。

 恐らく『彼』に対抗するにあたって、『魔法』を使わずに鎮圧するのは極めて困難だろう。おれの『異能』がバレるのは間違いない。

 しかし他に手段は無い。急がなければおっさんが死んでしまうし、犠牲者はどんどん増えてしまう。かといってこの建物配置では――上空からカメラで監視され、周囲を人垣に囲まれた往来においては――死角などあるハズがない。

 

 多くの人に見られるのは……カメラに映されるのは、諦めるしかないだろう。

 

 

「見られるのは仕方ないけど……要するにおれだってバレなきゃ……個人特定されなければ良いわけだろ」

 

 

 上空のカメラとて……あれだけ距離と振動があれば、詳細な画は撮れないだろう。フードを深く被っていれば顔も髪も映らないハズだ。

 周囲の人たちも同様、ざっと見た感じ軽く五〇メートルは離れているのだ。人間の視覚では、この距離を隔てた人物を観察するのは困難だろう。

 

 つまりは、()()()

 そう自らに言い聞かせ……おれは一人行動を開始する。

 

 

 

 

 先ずはエレベーターを呼び寄せ、最上階へ向かう。目指すはその更に上の屋上、魔法で浮かび上がれば問題なく侵入できるだろう。

 

 当然といえば当然だが、現在地であるマンション部分から直接銀行へと入ることは出来ない。

 マンションの一階エントランスと銀行とは完全に壁で仕切られており、エントランスの扉から一旦外に出ないことには、銀行の玄関に辿り着けないのだ。

 

 ……やだよおれ。衆目環視の中でおれ一人だけひょっこり顔出すの。めっちゃ注目されるじゃん。

 それに……マンションのエントランスから出てくれば、このマンションの住人と関係があるって暴露してるようなものだし。烏森(かすもり)に迷惑をかけないためにも、ここの住民では無いと思わせなければならない。

 

 

 そう考えを纏めているうちに、最上階である七階へとエレベーターが到着する。

 エレベーター出口から真っ直ぐ、東西に伸びる共用廊下を挟んで南北両側に玄関ドアがずらりと並ぶ。真っ正面東側の行き当たりとエレベーター脇の西側階段ホールには、採光と通風のための引き違い窓がそれぞれ設けられており……身体の小さな今のおれであれば思った通り、余裕で通り抜けられそうだった。

 

 

「……よっし、行くか。【浮遊(シュイルベ)】」

 

 

 息をするように、身体を動かすように、さも当然とばかりに呪文を紡ぎ、魔法を行使する。

 重苦しいダッフルコートに包まれた小さな身体が床から離れ、身体はどこにも触れぬまま、上下前後左右へと意のままに動けることを確認する。

 

 階段の踊り場の窓からひょっこり顔を出して上方を窺い、聴覚と併用して報道ヘリの現在位置を探る。

 銀行の正面入り口を撮ろうとしているのだろうか。幸いなことにこの建物の南東側へ回り込んでいるらしく、この窓の外はヘリから見ればちょうど死角になっている。

 

 

「今のうちだな。えっと……【陽炎(ミルエルジュ)】」

 

 

 姿を消す……というほど大それたものでは無いが、ほんの一瞬姿をぼかす程度は出来るだろう。階段ホールの引き違い窓を目の前に、おぼろげになった輪郭を再度確認する。

 ここから先はノンストップ、もう隠れることは出来ない。小さく深呼吸して気持ちを落ち着ける。……よし。行ける。

 

 光のいたずらを纏ったまま勢いよく窓から飛び出し、急上昇。ほんの一瞬で屋上へと到達すると……貯水タンクの上に着地する。

 足元の安定を確認して【浮遊(シュイルベ)】を解除、しかし【陽炎(ミルエルジュ)】は纏ったまま。……恐らく、出現の瞬間を捉えられてはいないはずだ。聴覚を研ぎ澄ませながら少し様子を窺う。

 

 

 ほんの数十秒の後、ポケットから着信音。慌ててスマホを取り出すと、新着アラートに烏森(かすもり)からのメッセージが映る。

 その内容は……『カメラ気付きました。映ってます』。

 

 フードを目深に被ったまま、今度は視覚に補正を込めて視線のみをちらりと向けると……確かにヘリの横っ腹がこちらに晒され、カメラのレンズも向けられている。

 あちらからはフードの影に隠れて、おれの視線は見えないはず。真正面を見据えて悠然と佇む、輪郭の霞む謎の人影に見えることだろう。

 

 

(……落ち着け。大丈夫。……()()()()()()()

 

 

 自己暗示を済ませ、意識のスイッチが切り替わるのを認識し、おれは行動を開始する。

 貯水タンクから飛び降り、一足飛びで南側の縁まで走る。

 

 遥か眼下を見下ろせば車通りの全く無い交差点と、アスファルトの上に力無く倒れ込んだ男性と……それなりの距離を隔てて包囲する警官と、その背後に隙間無く詰め寄せる人、人、人、そして人。

 地上の人々は上空のカメラとは異なり、まだおれに気づいた人はほとんど居ないようだが……まぁ、そこは別にどうでも良い。

 カメラに姿を晒した。つまりは犯人に存在を晒した。……今はこれで充分。

 

 

 

「…………【浮遊(シュイルベ)】」

 

 

 一瞬だけ意識を掠める恐怖心を使命感で押し潰し、屋上の縁を軽く蹴る。

 ちらりと窺ったヘリのレポーターが悲鳴を上げる様子を意識の端に捉えながら、自由落下よりかは幾らか緩い速度で地表へと降下する。

 

 目指すは一点。そこを目掛けて降下コースを調整し、僅かな着地音のみを響かせ地に降りる。

 一体どれだけ(なぶ)られたのか……顔が腫れ上がり、着衣を血で汚し、擦り傷と切り傷に埋め尽くされ、喘ぐような呼気を溢す……息も絶え絶えな、この支店の支店長のもとへ。

 

 

 突然降ってきたおれに騒ぎ始める警官と、その後ろの人々に背を向け……ぼろぼろに痛め付けられた支店長を、そっと抱え起こす。

 思わず目を覆いたくなるような大怪我だか、おれが目を逸らすわけにはいかない。

 ……大丈夫。ちゃんと助ける。

 

 

「【診断(ディアグノース)】…………んん……えっと、【回復(クリーレン)】【造血(ヴルナーシュ)】【鎮痛(シュラトフィル)】……あと、【鎮静(ルーフィア)】」

 

「……ぁ…………う、っ……? ……な、ん……」

 

「…………あの……大丈夫、ですか?」

 

「………………ぁ……?」

 

「あ? え、あの…………あのー……?」

 

 

 全身の傷が綺麗に消え去り、見た目は何も問題無く元通りの支店長が……目を覚ますなり、完全に固まってしまった。

 

 何でだ……どうしてだ。傷は全て塞いだはずだ。失った血液も補填したし、痛みを伝える信号も止めた。恐怖を忘れさせるために心も落ち着けたはずだ。

 今や彼の身体を蝕むモノは何も無いはずなのに。何も問題無いはずなのに。……しかし現実として、彼の身体は動きを止めている。

 

 

「あ、あの……大丈夫ですか!? どこか痛いところありますか!? ()()()の声は届いてますか!?」

 

「……っ、ぁ、…………あぁ、大丈夫……だ」

 

「!? …………よかっ、たぁ……!」

 

「っ、…………申し訳ない。少し呆けていたようだ」

 

 

 びっくりした。良かった。意識も口調もしっかりしている。……どうやら心配はなさそうだ。

 支店長の身柄が確保できたのなら、すぐにでも次の工程へ進まなければならない。

 

 犯人のみならず、背中の後ろの人々までもが何やら不穏な動きをしようとしており……早く済ませなければ色々とまずいことになりそうだ。

 

 

「【介入(インターヴ)】【改竄(フェイズオン)】……やらせませんよ」

 

「……な、何? 何だ……!?」

 

「大丈夫です。()()()()()()()()。……そのまま後ろへ……お巡りさんの方へ。……行けますか?」

 

 

 がくがくと首を高速で縦に振り、支店長は慌てて立ち上がると後ずさるように下がっていく。

 逃げようとする彼目掛けて()()()()が放たれるが……それに干渉してその効力を書き換えて無力化し、支店長の離脱を援護する。

 

 特定条件を満たす相手に対して、絶対的とも言える支配力を誇る……敵の魔法。

 少しでも油断すれば……せっかく助け出した支店長も、幾度となく突入を試みている警官隊も、恐らくただでは済まないだろう。

 

 

「……あとは…………あなたです。……今から行きますので」

 

 

 おれの呟きを遮るように放たれた()()()()を撃ち落とし、ため息を一つこぼす。……おれの介入は全く予想外だったのだろう。あからさまに()()が見てとれる。

 

 ここからでは遮蔽物に隠れている犯人を真っ直ぐ見据え――大勢の観覧者達に頑なに背を向け――ゆっくりと歩き出す。

 

 

「…………今から行きますので……出来れば静かに待っていて下さい」

 

 

 おれと同類の『魔法使い』。

 銀行強盗事件の主犯である、()()()()()()()()

 

 世界に絶望し、嘆き苦しんでいる彼とて……無下にはできない。

 

 

 

 可能な限り多くの……手の届く範囲の人々を幸せにするために、最善を尽くす。

 

 ()()()()()()()()()()()()

 

 

 



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18【事件現場】心優しい魔法使い

 

 翡翠玉のようなおれの眼は薄暗闇でもきらきらと煌めき、光を受けると殊更(ことさら)に綺麗に輝く。つい先程烏森(かすもり)宅の浴室の鏡で()()()()と観察したこの眼は、我ながら惚れ惚れするほどにただただ綺麗だ。

 しかしただ単純に綺麗に輝くだけではなく、魔法の扱いに秀でたエルフ種ならではの特殊な性能も秘めている。この世ならざる異能の力を――『魔力』とでも呼ぶべき()()の流れを――はっきりと知覚することができるのだ。

 

 

 そんなおれの視覚には……銀行襲撃事件の犯人が、自身の身を削りながら魔力を捻出する様子が、強化補正越しに映っていた。

 

 大気中に漂う魔力が希薄なこの世界、この国では……()()()()()とて魔法を行使することは簡単ではない。

 ()()となる魔力が()に存在しないなら……()から取り出し、絞り出すしか無いからだ。

 

 

 

 

「まったく…………無茶する、なぁっ」

 

 

 おれ目掛けて飛んできた魔法を的確に撃ち落としながら、彼の潜む銀行へ向かって一歩一歩ゆっくりと進んでいく

 

 先程まで支店長を甚振(いたぶ)り続けていたことで、()の魔力をかなり消耗してしまったのだろう。今や彼は息も絶え絶えといった様子で、絞り出すように必死に『魔法』を放ってきている。

 

 

 だが……それは全くもって()()

 そもそもが彼に勝ち目など無いのだ。

 

 

 彼の振るう異能の力は……その前提からして、見ず知らずの他人に向けるべきものでは無いのだから。

 

 

 

『……あなたのチカラでは、わたしに勝てません。……抵抗は止めて、大人しくして……わたしの話を、聞いてくれませんか?』

 

 

 ゆっくりと一定のペースで歩み続け、今や彼との距離は当初のおよそ半分ほど。【拡声(ヴィバツィオ)】を用い、更に指向性を持たせたわたしの声を彼に届けるが……返礼は声ではなく、()()()()()()()()()()攻撃魔法によるもの。

 

 万が一にもわたしの後ろに零れないようキチンと迎撃しているが、そもそもわたしは()()を食らったところで痛くも痒くもない。……いや嘘ついた。ちょっとは痛いだろうし、痒いかもしれないが、その程度だ。

 

 明確に形を与えられた現象――火炎や石弾や氷器など――ですら無く、恨みや怨念を直接ぶつけているに近い彼の魔法……要するにそれは、()()()()()()()()()を攻撃するための魔法なのだ。

 彼が恨みを抱く存在……彼の()()()()や、彼の()()()()()()()()()()でなければ、彼の魔法はその真価を発揮できない。

 

 

 職場を……いや、理不尽に解雇された『元・職場』を襲撃して騒動を起こし、テレビやメディアで報道されることを見越した上で、()()()()をおびき寄せる。

 見せつけるように派手に破壊された職場の様子にまんまと釣られてきた()()達を、授かった『魔法』で徹底的に甚振(いたぶ)り、鬱憤を晴らす。

 それが……現時点で得られた情報をもとに推測された、彼の目的。

 

 銀行に詰めていた警備員や突入しようとしてきた警官隊は、『復讐計画をジャマする者』として敵対認定されたのだろう。

 そのため彼の魔法の特効対象として見なされてしまい、赤子の手を捻るように翻弄され……未知の力に手こずり、未だに彼を制圧するに至っていないのだろう。…………たぶん。

 

 

 

「……わたしには、効かない。…………わかりますよね?」

 

 

 ゆっくりと、更に歩を進める。既に砕かれた窓ガラスが散らばる地帯にまで接近しており、ここまで近付けば【拡声(ヴィバツィオ)】を用いずとも声を送れるだろう。

 平静を欠き混乱する様子の彼の様子も、その独白も、人間の数倍敏感なこの聴覚であれば聞き取れる。

 

 あくまで優しく声を掛けながら、割れ砕けた玄関ガラスを踏みしめ支店の入り口を潜る。

 ついでに……後方でなにやら画策している連中に釘を刺すため、指令役とおぼしきおっさんに狙いを合わせて【伝声(コムカツィオ)】を送り込む。

 

 

『余計な真似しないで。終わるまで大人しくしてて。……ジャマするなら車ぜんぶブッ壊す』

 

 

 おまわりさんに対して、こんな偉そうな物言いなんて……本来なら褒められたものではないのだろう。

 しかし今の()()()は『正体不明の謎の人物』だ。これくらいの無礼は……まぁ、たぶん許されるだろう。……たぶん。

 

 ともあれ、果たしてそのおっさんはちゃんと指令役だったらしく、期待通りにその効果は覿面(てきめん)

 前進しようとしていた警官隊の動きが止まり、戸惑いの空気を漂わせながらも元の包囲陣形へと引き返していく。

 幸いなことに『話が解る』人物のようだ。おかげで無駄な労力を使わなくて済む。

 

 

 

 仕事だからとはいえ……警備員も警官隊も()()()()()()に過ぎない。

 この世の平穏を脅かすモノを始末するのは、()()()()()()だ。……わたしは彼らに被害が生じないよう、最善を尽くさねばならないのだ。

 

 

 

 

 照明もほとんど点いていない店内へと踏み込み、書類や書籍だったものが散らばるロビーの奥に気配を感じる。横に長い窓口カウンターの向こう側で、荒い息遣いが感じ取れる。

 

 奥底から止めどなく涌き出る使命感(呪い)に突き動かされるように……高性能で()()()なこの身体(アバター)は、最適な行動を選択し続ける。

 

 

「……もうやめましょう。……これ以上は、無意味です」

 

「…………ッ!! (クソ)ォォオオオ!!」

 

 

 カウンターの向こうに勢いよく立ち上がった彼の……絞り出すようにして放たれた、全身全霊の攻撃魔法。

 ()()()()()()()を害することに特化した悪意の塊、彼が恨みを募らせる者達へ復讐するための、まがまがしいそのチカラは。

 

 

「【防壁(グランツァ)】。…………ほら、無意味です。……諦めましょう?」

 

「ぐ…………!?」

 

 

 効かないのだということを思い知らせるため……可視化された防壁をあえて顕現させ、彼の魔法を粉々に打ち消す。

 彼の渾身の『害意』の魔法は光の薄板のような防護結界に阻まれ、けたたましい音とともに周囲へと飛び散り霧消する。

 待ち合いロビーの長椅子を、住宅ローンのポスターが貼られた掲示板を、観葉植物の植木鉢を粉々に砕き……しかしわたしには何の被害も生じていない。

 

 ……恐らくはこの支店自体も、彼にとっては忌むべき復讐対象なのだろう。【防壁(グランツァ)】に散らされた欠片が触れただけでも盛大に破壊され、見るも無惨な様子となり果てている。

 しかしそれでも、わたしには通用しない。そもそも魔法への抵抗力が桁違いであるし……なによりわたしは、彼への敵意など微塵も持ち合わせていないのだ。

 

 

 

「……何、なんだ…………キミは……」

 

「あなたを……止める者、です」

 

「ッッ!! 生意気な……!!」

 

「あなたの『魔法』は効かない。解ったでしょう? …………それに、そろそろ()()なんじゃないですか?」

 

「な…………ッ、んで……」

 

「そんなの見れば……いえ、見なくてもわかります。普通の人間(ヒト)は、魔法が使えるようには出来てません。…………だから、もう()めてください。それ以上は命が危ないです」

 

「…………ウソ、だ。……デタラメだ!!」

 

 

 彼の心はもう限界なのだろう。ここを襲撃してから短くない間、ずっと一人で籠城を続けていたのだ。

 それに加えて恐らくは……理不尽な事件に巻き込まれ、絶望に打ちひしがれ、今日この犯行を決意するに至るまでも。彼はずっと、ずっと一人で苦しんできたのだろう。

 

 

 血走った目の彼が手を伸ばし、喚きながら硬質プラのレターケースを引っ掴む。カウンターの向こうからわたし目掛け、それを全力で投げつけてくる。

 それは……魔法が通じないと知って衝動的に放った、ほんの苦し紛れの抵抗にすぎない。

 

 わたしの身体(アバター)は極めて優秀だ。避けることは勿論、先程同様【防壁(グランツァ)】で防ぐことだって可能だろう。

 だが……避けない。防がない。わたしの頭目掛けて飛来するレターケースを前に、そのままじっと立ち竦む。

 

 

 

「あ()っ」

 

「…………ッ!!?」

 

 

 彼の狙いは正確だった。コースそのままレターケースはわたしの頭を捉え、額に刺さるとともにコートのフードが背後に落ちる。

 

 これまで顔を隠していたフードを除かれ……日本人離れした髪と瞳、人間離れした長い耳、そして赤く雫を垂らす額の傷が露になる。

 

 

「…………ぁ、……な、そん…………な」

 

「落ち着いてください。……わたしは、あなたを害するつもりはありません」

 

「血…………血が……」

 

「わたしは大丈夫です。ですから、落ち着いて。……お話を、させてください。そっち行きますけど、良いですか?」

 

「……ぇ……あ、…………あぁ」

 

 

 

 さすがに……見ず知らずの子どもに怪我をさせたことに対しては、思うことがあったのだろう。彼に残っていた良心のお陰もあり、幾らか冷静さを取り戻してくれたらしい。

 

 この身体であれば、ケガを薄皮一枚に留めることなど雑作もない。防御強化の魔法だってあるし、傷だって跡形もなく消し去れる。

 だからこそ『(見た目)幼げな女の子にケガをさせたショックで落ち着かせる』なんていう無茶ができるわけだ。

 

 

 完璧なおれの作戦は、やはり計画通り成功したようだ。彼は明らかに消沈して結果的に落ち着きを取り戻し、話を聞いてくれる状況になったようだ。

 

 ここからが本番。なんとか彼をフォローし、彼の傷も最小に抑えなければならない。このままだと彼は間違いなく大罪人として、一方的に裁かれてしまう。

 

 

 

 それは……いやだ。

 わたしが、なんとかしなければ。

 

 

 

 彼はこの事件の加害者なのだろうが……別の事件の被害者なのだから。

 

 

 



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19【事件現場】芽吹く災いの種

 ……なんのことはない。このご時世いつどこででも起こりうる、()()()()不幸な冤罪事件……そのひとつだった。

 

 

 

 彼はこの浪越(なみこし)銀行に長らく勤めていた、遣り手の営業担当だった。

 

 一般的に『難関』に分類される四年制大学を卒業し、新卒でこの浪越銀行へ就職。今年三十五を迎えるまで、順調に勤勉に勤め上げてきた。

 趣味はドライブと車中泊、そしてスキー。休暇を利用した一人スキー旅行の最中、とある女性と出会い意気投合。一年ほどお付き合いした末、三年ほど前にめでたくゴールイン。

 念願のマイホームを手に入れ、幸運なことに娘さんも授かり、幸せな人生を歩んでいたそうだ。

 

 

 

 …………ほんの数ヵ月前までは。

 

 

 

 銀行職員であれば、当然身なりにも気を配っているだろう。腕時計や靴やスーツなんかは、きっといいものを身に付けていたのだろう。

 

 高級そうな品々に身を包んだ、優しそうな風体の既婚男性。怖いもの知らずで常識知らずなクセに悪知恵の働く子らにとっては……さぞいい金蔓(カネヅル)に映ったのだろう。

 

 

 出張先の地下鉄で運悪く目を付けられ、恥知らずな悪童に痴漢冤罪を吹っ掛けられ、抗議の声を上げる間も無く男に殴られ、地下鉄車輌の冷たい床に抑え付けられ、財布やスマホや機密書類の詰まった営業鞄を取り上げられた。

 そのまま次の駅に着くまで数分間、背中の上にのし掛かられたまま。彼の訴えは誰にも聞き届けられず、全く身に覚えの無い罵詈雑言を浴びせられ続けた。

 

 駅に着くなり引き摺られるように事務所へと連行され、鞄はずっと『犯行の証拠品だから』と取り上げられたまま。

 駆けつけた警備員によって、事情聴取と言う名の吊し上げが行われる。さめざめと泣いてみせる『被害者』とその彼氏は、生々しい犯行の様子を異様なほど詳細に語ってみせ、彼の自前のスマートフォンより『彼が撮ったにしては明らかにアングルがおかしい盗撮写真のようなもの』が発見されたことで…………彼の破滅が確定した。

 

 

 そこからは……ひどいと言うしかなかった。

 

 『被害者』どもは『示談にしてあげるから』と、決して安くない金額を彼に吹っ掛けた。

 スマホも鞄も客先の個人情報も社内機密も人質に取られた彼は抵抗を試みたが……長時間の拘束の末、その要求を呑むしかなかった。

 

 ずっと鞄とスマホを取り上げられていた彼は、職場へも家族へも連絡出来ず、結果として客先との約束(アポ)を無断ですっぽかした形となってしまった。

 職場には決して少なくない迷惑と明らかに大きな損失が生じた上、事実と異なる『痴漢者』のレッテルを貼られた彼は……以前の『次期有望株』との評価から一転、支店長を始めとする職場の全員から白い目で見られるようになった。

 

 その後名指しで呼び出され、自己都合による退職を迫られ、事実上のクビ宣告を受け……長年尽くしてきた職場から、一方的にあっさりと追放された。

 

 

 職を失い、更に性犯罪者の烙印を押された彼を見限り、妻は離婚届を残し娘と共に出ていった。

 離婚は妻の精神的苦痛の原因を作った彼の責任とされ、貯金のほとんど全ては慰謝料および養育費として持っていかれた。

 

 

 たった数ヵ月で、仕事も、愛する家族も、全ての幸せを失った彼。

 ただただ不幸な彼に残されたものといえば……一人っきりで暮らすには広すぎる二階建ての戸建て住宅と、『性欲を抑えきれずに職と家族を失った男』という汚名と、今の彼には到底返済しきれない月々のローン支払いだけだった。

 

 ……以上が、改めて詳しく聞いた彼の身の上話である。

 

 

 いくらなんでも、悲惨すぎる。

 そもそもが、発端はただの冤罪。彼には咎など一切在りはしなのだ。

 こんなの……絶望するな、ってほうが無理な話だろう。

 

 

 

 

「……本当に…………ひどい話ですね」

 

「…………信じて……くれる、のか……?」

 

「信じますよ。……あなたの『恨み』は本物ですもん」

 

 

 カウンターの裏側に二人ならんで体育座りで座り込み、約束通りに彼の話を聞く。

 おれの血を見て頭を冷やしてくれたのか、意外なほど彼は理性的に犯行の動機を……ここ最近彼の身の上に起こった転落劇を、淡々と語ってくれた。

 

 支店長を痛め付けているときの慟哭からなんとなく想像はついていたが、それよりも遥かにエグい内容だった。

 不幸に不幸が重なった結果なのかもしれないが……順風満帆で幸せだった日々から絶望のドン底へ、一気に叩き落とされたようなものだ。……そりゃ復讐を考えたくもなるわな。

 あの悪童共とて、さすがにここまで人一人の人生を破壊するとは思っていなかったのだろう。若さとは怖いもの知らずで、ときに無知で、そして残酷だ。

 

 

 

「……ところで……君はさっきから……何をしてるんだ?」

 

「演出ってやつです。時間稼ぎというか、アリバイ工作というか」

 

「…………そうか」

 

 

 実は先程から――彼の話をちゃんと聞きながら――意識の一部を分割し、先行定型入力(ショートカット)登録されている魔法を何度かひっそりと発現させていたのだ。彼の話を邪魔しないように、呪文詠唱ではなく手指の呪印で。

 それなりに危機感を煽る騒音と地響きを演出していたので、外の面々もしばらくは近付いて来ないだろう。

 

 ……なので、その間にコッチを片付けなきゃならない。

 

 

 

「あなたの恨みを……『全部理解できる』なんて傲慢なことは、とても言えません。わたしは所詮他人なので、どれだけ『知ろう』としても……あなたの恨みの全てを理解することは、出来ません。……思考を繋ぐわけにも行かないですし」

 

「はは…………良かったよ。……ここで『気持ちは解るけど()めてください』『復讐は何も生みません』なんて言われたら…………私は君の首を絞めていたかもしれない」

 

「…………やっぱり、あなたの『恨み』は収まりませんか? ……()()()()()()()()()ですか?」

 

「ああ。それこそが……()()()()()()()()()()()()()()()()ことが…………()()()()だ」

 

「……………………そっ、か」

 

 

 瞳の奥底にどんよりとした闇を湛え、彼が再び理性を失おうとしている。

 彼の願いを叶えるために取り憑いた『種』……募りに募った彼の恨みを糧にして発芽した『苗』が、不気味に蠕動しながら着実に育っていく。

 

 根を張られている彼自身に気付かれること無く――いや、『魔力』に類するものを知覚できない人間の誰にも、一切気取られること無く――この世ならざる漆黒の『苗』は、ゆっくりと成長を続けていく。

 

 

 『(それ)』を放っておくと何が起こるのか。『(それ)』は何のために人間に根を張り、成長を試みるのか。

 実際そんなこと解るわけ無いが……この身体(アバター)に籠められた設定(呪い)が――平和を愛し、人々の平穏を願う優しい心が――()()()()()()()()()()()()と、最上級の警鐘を鳴らす。

 

 何が起こってしまったのか。何が起こっているのか。何が起ころうとしているのか。残念ながら、何一つとして明瞭な答えは持ち合わせていないが……あの『苗』を放置すると大変なことになるということを、この身体(アバター)の本能が告げている。

 

 

 ……見過ごすことは、出来ない。

 

 …………だから、わたしは。

 

 

 

 

 

 

「えいっ」

 

「ギャアアアアアアアアアアアアアや゛め゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!?」

 

「えっ? ウソ、まじ? ちよっ、やば、取れちゃった」

 

「ぐヌウ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!? な゛んっ………グぇ゛ッ、…………グギ、ャア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」

 

「待って、ごめん。取れちゃ……今のナシ……えぇ、こんな簡単に」

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!! ごぽっ、ゴぎャア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!?」

 

 

 どろりとした怨恨を湛えていた彼の延髄から伸びていた、不気味な黒さを纏う不可視の『苗』を引っ付かんで引っ張ると……根っこの末端が千切れるような『ぶちぶち』とした感触を残し、あっさりと引っこ抜けてしまった。

 

 

 突如ぐるんと白目を剥き、海老反りになりながらビクンビクンと痙攣し始めた彼。

 右手の上には、みるみるうちに萎れて小さくなっていく黒い『苗』だったもの。

 目の前には…………ちょっとヤバそうなモノが乗り移ってしまったような挙動を取る、纏っていた邪気が消え失せた彼の姿。

 

 あまりにも予想外、そしてかなり衝撃的な事態に……いかに高性能なおれの身体とて、まるで理解が追い付かなかった。

 

 

 

 呆然とすること……しばし。

 

 いつしか彼の絶叫は止み、今や彼は白目を剥いたまま涎を垂らし、時折ぴくり、ぴくりと痙攣するばかりとなり…………

 

 

 見た感じ明らかにヤバそうな風体で、完全に気絶していた。

 

 

 





〜 COMPLETE! 〜


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20【事件現場】解決!解決です!

 

 

 とりあえず解ったことは……強い『願い』を含んだ感情に反応し、あの『種』は根を拡げるらしいということ。

 

 『種』そのものは自ら移動することが出来ず、宿主に寄生することで活動範囲を広げるらしいということ。

 

 そして……『種』が発芽すると宿主の『願い』を助長するため、この世ならざる能力(チカラ)を授ける反面、理性が薄れ欲望に忠実になるらしいということと……

 

 

 

 宿主の欲望(願い)に呼応する『種』が成長を続けて『苗』となり、更に成長が進むと…………とてつもなく()()()()()()が起こるのだという……まぁ、これは予感だった。

 

 

 

 

 

「…………先輩のリ美肉(リアル美少女受肉)も、その『種』のせい……ってことっすか?」

 

「解んないんだよなぁ……とりあえず『苗』みたいなのは生えて無さそうだし、寄生されちゃいないみたいだけど……」

 

「でも…………関係無くはない……っすよね、多分」

 

「やっぱそう思うよなー。何かしら関係ありそうだよなー。……タイミング的にもな」

 

 

 

 煎餅をこりこりと齧りながら現状把握のすり合わせを行いつつ、なんとはなしに大きめの液晶テレビをぽーっと眺める。

 

 やっぱりというべきか何というか、どの局も銀行襲撃事件の続報一色だった。犯人の動機や得体の知れない力の謎について論議が交わされ……併せて『現場に突如現れ事件を解決に導いた謎の魔法使い』の正体についても、様々な推測と持論を展開していっている。

 

 

 

『ご覧いただけますか? ここでカメラが一旦銀行の入り口に向いてですね…………再び遠景に戻ったときには、ほら! さっきまで誰も居なかった屋上にですよ守山さん! いきなり現れましたよ!』

 

『ええ、驚きですね。……しかしやはりというか、この人物なのですが……明らかに輪郭がぼやけているんですよね。周りのこの、給水タンクですか? それとか配管類なんかはハッキリと映ってるのに……この人物だけ明らかに霞んでるんですよね』

 

『その後この謎の人影は…………軽い足取りで給水タンクから飛び降りてですね。…………ここです。何の躊躇いもなくビルから飛び降りたんですよね』

 

『七階建てでしたっけ。……ちょっと僕には無理ですね』

 

『当っったり前でしょう! 誰だって無理ですよ!』

 

『一方でこの謎の人物は…………全く危なげなく着地しましたね。すぐさま被害者男性を抱え起こし――――』

 

 

 さっきから繰り返し繰り返し映し出されるのは、上空をホバリングしていた報道カメラによって捉えられた一部始終……おれが姿を表し、ボコられる支店長を庇って警官に預け、単身銀行内部へと歩を進めるところまでの、一連の映像。

 思っていたほど映像のブレは少なく、鮮明な映像にヒヤッとしたのだが……展開してあった【陽炎(ミルエルジュ)】のお陰で、細部は全くわからない。

 

 顔も背丈も、身に纏っていたコートの柄さえも満足に見て取れず、せいぜいが『人間の形をしている』程度の情報しか得られないだろう。

 思っていた通り……この映像からおれの正体に辿り着かれることは無さそうだ。

 

 

 

「そっすね。バレるとしたら先輩が助けたっていう、その支店長さん……それと例の『宿主』さんあたりっすかね? バッチリお顔見られちゃったんでしょ?」

 

「ウ゛ッ…………」

 

 

 ……そうだ。そうなのだ。

 瀕死の重症を負っていた支店長を治す際に、タスクに余裕を持たせるため【陽炎(ミルエルジュ)】の魔法を解除してしまっていた。

 そのため怪我が完治して目を覚ました支店長には、介抱するおれの顔をバッチリ見られてしまったし……更に極めつけは『苗』の宿主にされていた、彼だ。

 

 レターケースの直撃を受けてフードを下ろしていたのに加え、カウンターの下で身の上話を聞かせてもらったときなんかは……二人ならんで体育座りだったのだ。

 すぐ隣にいたおれの顔はバッチリ見られていたことだろうし、なんと耳まで晒してしまっている。

 

 おれの容姿に関する情報が流れ出るとしたら……その二人からだろう。

 

 

 

「ところで先輩、その『宿主』さんは大丈夫だったんすか?」

 

「ああそう。なんかさ、警官隊の人が何人かで銀行に来てなかった?」

 

「あー見ました見ました。責任者っぽい人と何人かで」

 

「そうそれ、その責任者っぽい人。春日井(かすがい)さんって言うらしんだけどさ。ちゃんと彼の事情も説明して()()()しといたから、多分いい感じに取り計らってくれると思う。情報収集は彼が目を覚ましたらで良いかなって」

 

「ちょ、先輩……まじすか」

 

 

 

 あの後……気絶してしまった彼は、結局のところ警官隊に預けることにした。

 世間的に見れば、世紀を揺るがす『悪の魔法使い』なのだ。まさかおれがこっそり連れて帰るわけにもいかないし、かといってそのまま知らんぷりで放置するのも後味が悪い。

 

 

「あの、先輩」

 

 

 この店舗に踏み込む直前お願い(脅し)に使用した【伝声(コムカツィオ)】を再び、先程と同様責任者っぽい人間に繋いだ。なかなか話のわかりそうな彼に『犯人が気絶したので拾いに来い、ただし何者かに操られていた被害者だから丁重に』と伝えた(お願いした)ところ…………何人かの重装警官に守られるように、責任者氏が到着した。

 

 

「えっと、先輩?」

 

 

 複数人の接近を感じ取り、このときはちゃんと【陽炎(ミルエルジュ)】も【変声(シュトムエンダ)】も使っていた。だから当然、警官隊にもおれの姿は知られていない。

 気絶した彼が担架に載せられている間に責任者氏を取っ捕まえ、冤罪からここに至るまでの経緯を簡単に説明し……くれぐれも酌量の余地を設けることと、彼が目を覚ました暁には彼と話をさせることとを、半ば頼み(脅し)込んで無理やり承認させた。

 

 

「…………ちょっとあの、先輩?」

 

 

 その後は……犯人の彼が載せられた担架にカメラが向いた隙に、【陽炎(ミルエルジュ)】を纏ったまま西側出口からこっそり抜け出し、【加速(リシュトルグ)】を使ってマンションの裏手に引っ込み、そのまま【浮遊(シュイルベ)】で三階まで浮かび上がり、再び玄関から烏森(かすもり)宅に転がり込んで……ほっと一息ついたところだ。

 

 思わぬ遭遇ではあったが、他にもおれの()()が居たということを思い知らされた。経緯を知るにしても対策を立てるにしても、実際に『苗』に寄生された当事者である彼の情報は、間違いなく非常に重要なものだろう。

 あの『種』の情報を得るためにも、早く彼に目覚めて貰いたいものだ…………って。

 

 

「どした? モリアキ」

 

「いや……どうしたじゃなくって…………情報収集? 会いに行くんすか? ……警察署に?」

 

「うん。あっ」

 

「………………何のために姿隠してたんすか……そもそもどうやってアポ取るつもりだったんすか……」

 

「えっと、えっと、あの」

 

「その格好で警察署行くつもりっすか? 何て言うんです? 『浪銀(なみぎん)襲撃事件の犯人に会いに来ました』とか名乗り出るつもりっすか? 即拘束されますよ」

 

「で、ですよね……」

 

「自覚してないようなのでお教えしますけど、世間は犯人以上に『事件を解決に導いた謎の魔法使い』に夢中なんすよ。ホイホイ名乗り出てってどうするんすか……」

 

「……深く考えてませんでした」

 

 

 ……仕方がないじゃないか。貴重な情報源だったんだもの。

 

 



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21【事件現場】解決だってば!!

 

 

 いくら烏森の自宅直下が現場だったからとはいえ……普段悲しいほどに小市民なおれが、銀行強盗犯の前にしゃしゃり出るような無謀を晒すはずがない。

 

 事件現場に乗り込んで騒動を沈静化したのは……いうなれば、()()()()()()()に引きずられたせいだ。

 あのときは……さも当然とばかりに介入する気満々だったが、今にして思えば明らかに違和感が勝る。本来おれはそんなに正義感溢れる人間では無かったハズだし、あんな緊迫した場に注目を浴びに行くような度胸も無かったハズなのだ。

 

 だが……襲撃犯の彼が支店長をボコり始めたときの怨嗟の声を聞き『このままではヤバイ』と()()()()()()()

 支店長だけに留まらず、彼が『復讐対象』と定めた多くの人々――浪銀(なみぎん)の元同僚達、出張先の都鉄(都心鉄道)駅員、鉄道警備隊の面々、離縁した元妻……それから、彼に憐憫や侮蔑や嘲笑の視線を向けた(と彼が思い込んでいた)数えきれない道行く人々――それら全てに対して害意を抱いているということを……()()()()()()()()()()()()()()()ということを認識し…………気が付いたら謎の義務感に突き動かされ、結局()()()()()を晒すに至ってしまった。

 

 ……そう、醜態。

 スイッチが切り替わり、普段の小市民なおれに戻ってきた今との感覚では……まごうことなき醜態である。

 

 

 

『謎の力……『魔法』とでも呼ぶのが相応しいのでしょうか。その『魔法』を駆使して被害者を救い、事件を解決に導いた謎の人物に関して、警察は広く情報提供を呼び掛けています』

 

『いわば『正義の魔法使い』ですか……こんなお伽噺(とぎばなし)のような展開ですが、是非とも詳しいお話お伺いしてみたいところですね』

 

『しかしですよ守山さん……警察が情報提供を呼び掛けるって、彼らは犯人捕縛の際に直接会ってたんじゃないんですかねぇ? その噂の『魔法使い』さんに』

 

『それなんですが……警察からは『魔法使い』について、何も公表されていません。情報が伏せられているのか、はたまた本当に情報が無いのか、現段階では何とも――――』

 

 

 

 ……確かに、こんな状況でホイホイ警察に出頭すればどんな目に遭うか。少なくとも数日か数週間は自由を失うだろうし、そもそも自由な生活に戻って来れる保障も無い。

 

 『魔法』を扱える者なんて、おれ自身見たことも聞いたことも無い。パチモンなら何度かあるが、今回のように目に見て明らかな『魔法』を放つ存在なんて……この技術と学問の時代には存在していなかったのだ。

 そんな時代に突如表れた『魔法使い』である。……本や映画の観すぎかもしれないが、こういう場合って取っ捕まったら『魔法』の知識を奪うために取り調べとか脅迫とか拷問とか人体実験とかを仕掛けられるのが()()()なのでは無かろうか。

 あの襲撃犯の彼も……目が覚めたら、きっと拷問とかされるのでは無かろうか。恐ろしいったらありゃしない。

 

 

 

「モリアキ」

 

「はい何でしょう」

 

「おれ……大人しくしてる」

 

「……それが良いと思います。綺麗さっぱり忘れちまいましょう。先輩これから忙しくなるわけですし」

 

「うん……そうする。わたし動画つくる」

 

「ほんと何なんすかその可愛いムーヴ……」

 

 

 そうだ。今のおれにはやるべきことがあるのだ。『種』に関する情報は正直欲しいが、拘束される可能性を考えてしまうと断固として否である。

 

 

 おれは……新人仮想配信者(UR―キャスター)『木乃若芽』ちゃんであるからして。

 

 おもしろい動画をコンスタントに撮影し、編集し、投稿し……合間合間にストリーミング配信だってしていかなければならないのだ。

 

 

「それはそうと……モリアキ」

 

「へ? 何すか?」

 

「言ったよな。FA(ファンア)頼むぞ。R-16(ちょっとえっち)な感じでヨロ」

 

「…………ッフヘ。まーかせて下さいよ!」

 

「今度飲み行こう。奢るわ」

 

「せめてメシで。今の先輩が酒飲める居酒屋とか存在しねっすよ……」

 

「…………畜生!!」

 

 

 

 

 世間は週末の二連休……ちょっとした大事件があったとはいえ、まだお昼過ぎ。家に帰っても充分作業時間を取ることが可能だし、そもそもが今となっては自営業。出勤も退勤も業務時間も自分で決めればいい。

 ……最悪寝なければ、時間はどれだけでも取れるのだ。

 

 とりあえず……素材ともども幾つかストックしてある企画から、ひとつ。帰宅したら即撮影に移ろう。目標は……明日日曜日のできれば夕方までに、一本投稿する。

 

 

 ここががんばりどころだ。……気合いを入れろよ、局長(おれ)

 

 



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22【日常風景】オウチへ帰ろう

 銀行襲撃事件もとりあえずの収束を見せ、加えてよく晴れた週末とあってか、昼頃にしてはなかなかの交通量を誇る神宮(かみや)区の幹線道路。

 そこを一台の軽自動車が順調に、法令遵守で走っていく。

 

 後部座席を倒せば完全フルフラットの荷台が出現するこの車種は、アウトドアや車内泊ユーザーをメインターゲットに据えているのだろう。

 角張った車体は広い室内スペースを提供し、荷室や後席の随所に据え付けられた各種収納は良好な使い勝手をもたらしている。

 

 

 実際に車内泊キャンプへと同行させて貰ったこともあるが……どちらかといえば段ボールと折りコン(折り畳みコンテナ)と台車と長筒を積み込み、首都東京の某港湾エリアの展示場へと遠征したときの印象の方が、遥かに強い。

 

 

 そのときと全く同じように、今回も助手席に収まるおれだったが……やはり視点の高さがかなり違うからだろうか。見慣れたはずの道なのに、窓から見える印象はだいぶ異なるように思えた。

 

 

 

「あっ……この時間は多分国道使わん方が良いわ。週末だからシオン軍に巻き込まれる」

 

「あー了解っす。それじゃあ花園町で折れます。環状線で」

 

「うっす。おなしゃす」

 

 

 愛車の原付は烏森(かすもり)宅に置きっぱなしにして、帰りは彼の車で送って貰うことになった。真っ暗で人っけの少ない夜間ならまだしも、日中におれみたいな幼女が原付かっ飛ばしていたら……確実に職質されるだろう。

 まだ多くの報道カメラや野次馬の残る現場から離脱するのは少々面倒だったが……駐車場が少し離れていたことが不幸中の幸いだった。烏森(かすもり)独りだったら何もやましいことは無いし、おれ独りだったら物影を飛び回りながらこっそり車まで辿り着くことも可能なのだ。

 

 

 週末特有の道路状況……大型複合商業モールへ殺到する車の流れを避けるべく、やや遠回りだが安全な道を選択する。この県の人々はシオンモールが大好きなので、週末ともなればとりあえず県内あちこちから集まってくるのだ。

 各モールの最寄りインターチェンジはほぼ麻痺しており、モール近くは駐車場待ちの車が一般道にまで長々と連なり、とにかく動きづらい。

 モールそのものかその近隣に用が無いのであれば、多少膨らんででも迂回するのが賢い選択だろう。

 

 ルート変更が功を奏したのか、順調に車は走行を続け……いい天気と相俟って段々とご機嫌になってくる。

 車載テレビから流れるワイドショーは相変わらず例の事件を取り上げているが、新たに得られる情報も無さそうだ。耳を傾ける必要性は薄いといえる。

 

 勝手知ったる様子でカーオーディオをポチポチと操作、スマホと無線接続して動画サイト(YouScreen)のプレイリストを選択。

 最近よく聞いているゲームのサウンドトラックがランダム再生され……弦楽器の重低音がもの悲しげなコードを響かせ、終盤イベントの特殊戦闘BGMが流れ出す。

 

 

 

「おお一曲目から神引きだわ。『故代の唄』。未だにめっちゃテンション上がるよな」

 

「あの展開はやべーっすよね……まさかあの局面でデボポポ出てくるとは思わねーっすよ……しかも『故代の唄』流れるとか……」

 

「確実にプレイヤーの情緒殺しに来てるだろ……」

 

 

 神秘的でどこかもの悲しげな、絡み合う二人の女声コーラスが特徴的なこの曲……主旋律はシリーズを通して代表的なフレーズであり、シリーズ一作目の公開以降何度かアレンジバージョンが公開されていた。

 そんな中で……シリーズ最新作にて新作アレンジBGMである()()()が流れた際には、懐かしさとトラウマと涙なしには見られぬ台詞回しで多くのプレイヤーの心を掻き乱した、いわくつきの神曲なのだ。

 

 おれもモリアキも文句なしお気に入りの一曲、以前から度々口ずさんでいたこの曲であるが……前奏が終わり問題の女声コーラスパートに差し掛かったとき、ふと()()()()が脳裏をよぎった。

 

 

(…………もしかして……『若芽ちゃん』なら歌えるんじゃね?)

 

 

 サビの高音部がギリギリで出せなかった以前とは異なり、今は女声フレーズだって問題なく出すことが出来るだろう。なにせ今やれっきとした女性……いやもとい、女児なのだ。

 音域が及ばないということは無いはずだし、肝心の音楽的技能に関しても……この身体(アバター)の、この子の設定であれば……あるいは。

 

 ……あの神曲を、歌えるかもしれない。

 

 

 

「―――集え―――縒りませ―――御手へ―――いざや―――声を―――祈りを―――来遣れ―――

 

 ―――捧げ―――今此処へ在れ―――願い―――声を―――祷りを―――とわに―――嗚呼―――」

 

 

 …………歌える。……いける。

 

 自分でもびっくりするほどあっさりと……透き通るようになめらかな歌声が、おれの口からこぼれ出る。一番音階の高いサビ部分を一巡させただけだが……思った通り、この身体の歌唱適正は非常に高いことが解った。

 

 エルフ種は作品によっては、長命種ならではの知識と音感を活かした『吟遊詩人』としての側面を持つこともある。

 ご多分に漏れずこの『若芽ちゃん』においても、こと芸術分野……特に音楽分野に関していえば、確か『極めて高レベルの技量を備え、普段から歌を口ずさむほどの音楽好き』という設定だったハズだ。

 

 

 ……あれこれと(もっと)もらしいことを理由付けしてみたが、要するにキャラクター設定の段階で『歌ってみた』系もこなせるようにキャラ付けしていただけのことだ。

 当時の計画では……変声ソフトの使用を前提にした強行策を用意していた。ソフトを通して変声させたおれが実際に歌ってみて、それを知人の編集者(チューナー)に依頼して魔改造して貰い、何重にも調整が加えられた歌声で『歌が得意』と言い張るつもりだったのだが…………今のおれであれば、生の歌声でも充分いけそうな気がする。

 

 

「なぁなぁモリアキ、おれもしかして『歌ってみた』できるんじゃね? 次の動画手っ取り早く()()にす…………モリアキ? 前! モリアキ前! 進んでる! 青!!」

 

「っは!? 危ねぇ! ちょっと先輩勘弁して下さいって! 何してくれてんすか本当にもう!!」

 

「ぇええええおれが悪いの!!?」

 

 

 いきなり罵声を浴びせるなんてひどい。いったいおれが何をしたというのだ。

 おれはただ……神曲を上機嫌で歌っていただけなのに。

 

 





歌詞は当然、アンオフィシャルです


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23【日常風景】寄り道をしよう

 

 神曲として名高い、某有名ゲームの代表的BGM……ちょっと気分が乗ったので口ずさんでみたら、なぜだか理不尽に怒鳴られることとなった。

 

 なにやらこっち向いてぼーっとしていたモリアキに前方注意を促したら、どういう因果かいきなり叱られた。青信号に気づいていなかった彼にそのことを知らせてあげただけなのに……感謝されるならまだしも、一体どうして怒鳴られなければならないのか。

 内心の不満を隠そうともせず、抗議の意味も込めて不満と不快感を露にする。具体的には……頬を膨らめ、睨みつける。

 

 

「……だから、そういうとこですって先輩」

 

「なにがよ。おれがどうして怒られなきゃならないってのよ」

 

「何の前触れも無くいきなり神曲に神ボーカル生えてきたんすよ。鳥肌めっちゃヤバイし心臓止まるかと思いましたもん」

 

「おお、やっぱ良さげだった? 動画としてイケそう?」

 

「歌は文句無し、武器として戦えると思います。あとは音源というか演出というか…………あれ、そもそもゲームミュージックって包括権利契約に含まれてるんでしたっけ?」

 

「歌ってみた動画が既に出てるってことは、一応何とかなってるんじゃね? その投稿者が直接スエクニ社と契約交わしたわけじゃないだろうし」

 

「じゃあまあ……権利関係はとりあえずクリア、と」

 

 

 いちおう、以前底辺配信者(キャスター)として活動していた際に、楽曲権利管理団体との包括契約に関しては目を通してある。

 以前使っていた『旧アカウント』と現在進行形の『のわめでぃあ』では配信サイト(YouScreen)のアカウントこそ別名だが、利用者として刻まれているのはおれの名前だ。

 後ろめたい点もほぼ無いことだし、あとは音源さえ確保できれば『歌ってみた』デビューも可能だろう。

 

 最後の問題は……その音源をどこから持ってくるのか、といったところだ。

 ゲームのサウンドトラックを背後で流す、という手は……ほぼ黒よりのグレー……というか、ぶっちゃけ黒だろう。カラオケトラック以外のカラオケ利用はNGだと聞いたことがあるし、そもそも原曲にもコーラスが入っている以上、歌声を魅せてこそである『歌ってみた』の音源としては適さない。

 かといって、原曲のコーラスパートを編集で取り除く……なんていうのは言語道断だ。他者の権利物を無許可で勝手に改変し用いるのは一発アウト、罪の認識があろうと無かろうと明確な犯罪行為となる。

 

 となると……オフボーカルの音源を一から作るか、もしくは直接演奏するしか道は無い。

 前者は一朝一夕で出来るとは思えないし……ならば、後者か。

 

 

「モリアキ……おまえアコギ(ギター)とか持ってないよな?」

 

「ぅえ!? 先輩ギター()けるんすか!?」

 

「わからん」

 

「………………はぁ?」

 

「い、いや、ごめんて。……その、だっておれ、エルフだし……」

 

「…………あぁ……なるほど。でもすみません、持ってないんすよ。自分オタマジャクシ適性は全くからっきしで」

 

「いやいいよ、無理言った。すまん」

 

 

 しかし……幸いなことに、ここ浪越(なみこ)市は日本有数の大都市だ。おれの住んでいる南区や烏森(かすもり)の住んでいる神宮(かみや)区は比較的静かな方だが……中央区や栄衛(さかえ)区や浪駅(ローエキ)の方は、これはもうまさに大都会なのである。

 これはもしかするかもしれない、と……裏で神曲を流し続けるスマホを操作し情報を探す。検索エンジンにキーワードを入力し、ヒットしたページを開き、営業時間や料金や備品や設備を確認し……そして立地を確認する。

 重ねて幸運なことに……神宮(かみや)区の東隣、浪東(ろうとう)区に、その店舗は見つかった。おれの家とは方向がやや異なるが、シオンモールを迂回したことが吉と出たらしい。現在位置からはそれほど離れていない。

 

 

「モリアキ、その……頼みがあるんだけどさ。……今日このあと、用事って立て込んでる?」

 

「急ぎの納品も無いので大丈夫っすよ。先輩今色々と大変そうですし、今日一日お手伝いします。良いように使って貰って構いませんよ。車だとこっそり移動するのも楽でしょう」

 

「ありがとうモリアキ好き。後でパンツ見ていいよ」

 

「軽率に『好き』とか言うんじゃありません!! ……あっ、パンツは興味あります。何なりとお申し付け下さい先輩」

 

「お前のそういう正直なとこ好きだよ」

 

 

 助手席にてスマホを操作し、件の店舗へと電話を掛けて色々聞いてみる。どうやら今日は()()があるらしく、事前予約無しでも大丈夫とのこと。

 設備と機材の確認を済ませ、部屋の予約とレンタルの申し込みを済ませて電話を切る。

 

 前提条件は……これで全てクリアだ。あとはおれ自身の技量、果たしてギターが弾けるようになっているのかという一点に、全てが懸かっている。

 不安ももちろん、無いわけではないのだが。

 

 

「楽しみだな!」

 

「そっすね!」

 

 

 新たな動画をつくることが……若芽ちゃんの魅力を広める算段を立てることが、今は何よりも楽しみだった。

 

 神曲の弾き語り……やってやろうじゃん!

 

 



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24【収録風景】妹と言い張りました

 

 

「おお――――…………」

 

 

 防音仕様のやや厚い扉をくぐり、おれが立ち入ったその小部屋。()()()()()()を目的として貸し出されているだけのことはあり……およそ充分と思える設備が整えられていた。

 

 

 何本もの集音マイクと、それぞれの音量バランスを調整するためのミキサー、そして音声をデータとして出力するためのパソコン。

 加えて……恐らくは演劇等の自主確認にも利用できるように、といった配慮によるものなのだろう。動画データを撮影できるよう、各マイクと連動したビデオカメラまで備わっていた。

 

 音声の録音と、動画の撮影……つまりはこの部屋の設備だけで、動画一本仕上げるための材料を集めることが可能なのだ。

 

 

 

「……あぁ良かった、部屋合ってた。先輩ーーお待たせしましたーー」

 

「おー、あんがとー」

 

 

 おまけに――今回に限ってはどちらかというと()()が主目的だったのだが――楽器類のレンタルさえも行っているという。

 高価な楽器を借りるためには会員登録する必要があるのだが……登録しておけば若干安く部屋を借りられる上、お得なパックプランも用意されている。

 身分証の提示を求められたら即()()なので若干身構えたが、スマホを利用してフォームに入力していくだけで会員登録作業はつつがなく完了した。……ああ、備品の破損とか問題あったときに連絡するためか。恐らくスマホに直接連絡が飛ぶようになっているのだろう。

 ともあれ、普通に使わせていただく分には何も問題ない。要は借りたものを丁寧に扱い、壊さなければ良いだけなのだ。

 

 

 様々な楽器を安価で借りることが出来、防音のしっかりした部屋と録音設備が整い、更に時間内であればドリンクバーの利用も可能。

 そんな至れり尽くせりの施設……烏森(かすもり)に連れてきて貰ったここは、浪東(ろうとう)区某所の貸しスタジオ。

 空いていたのはさほど広さが無く、バンドなどのグループで利用するには少々手狭であろう個室だったが……一人で練習、あわよくば撮影を行うつもりであるおれにとっては、何の問題もない。

 高価な設備が揃っていることもあり、部屋の片隅にひっそりと監視カメラが睨みを利かせているが、それ以外は自由そのものだ。どれだけ音を出しても、歌っても、騒いでも、叫んでも、部屋の外にそれら騒音が漏れることは無い。

 

 この中であれば……どれほど下手っぴな演奏を繰り広げようと、誰にも聞かれることは無いのだ!

 

 

「んっしっし! なんかテンション上がるよなぁ!」

 

「いちいち言動可愛らしいの何とかなりません? てか調律できるんすか? やったことあります?」

 

「たぶんできると思うぞ。おれ音楽の授業で三味線やったことあるし」

 

「三味線」

 

 

 烏森(かすもり)が借りてきてくれたアコースティックギターをケースから取り出し、取り扱い方法を記した覚書に(のっと)り、いそいそと調律を始める。

 モコモコした袋に小分けされている音叉を取り出し、膝の骨に軽くぶつけて音を響かせ、感度のいい耳で基準となる音を覚え、その音に合わせるように弦の張りを調整する。

 

 『三味線』と聞いた烏森(かすもり)は何やら残念なものを見るような目でおれを見ているが……そもそも發弦(はつげん)楽器の仕組みなんかは、だいたい共通しているものだ。

 ギターの柄の先端に備わるネジのようなものを巻けば、弦が張られたり緩んだりする構造となっている。つまりは音叉が発する音と弦を(はじ)いた音が同じ高さになるように、このネジをひねっていけば良いだけなのだ。

 

 

「んーんーんー…………ふーんふぅーんふーん……ふふふーんふーんふーんふぅーん……ふーんーんーんー」

 

「……何だこの可愛い生物」

 

 

 烏森(かすもり)の呟きをあえて無視しながら、おれは弦の調律を一本一本進めていく。

 べつに伊達や酔狂でフンフン言っているわけじゃない。耳で聞いた音を忘れないように、目指すべき音を口ずさんでいるだけだ。だんだん上機嫌になってきた気もしなくは無いが、これはおれが調律を進めていく上で必要なことなのだ。ふんふふーん。

 

 そんなおれの作戦は、やはり間違っていなかったらしい。順調に調律は進んでいき、六本目の音叉と六本目の弦が同じ音を響かせてくれるようになり……つまりは、これで六本全ての調律が完了した。

 見よう見まねでギターを膝にのせ、左手でギターの首を支えながら適当な位置で弦を押さえる。ドキドキしながら右手で弦をまとめて(はじ)くと……まぎれもない、アコースティックギターの音色が響き渡った。

 

 

「ふぉぉおぉ……すげぇ、ギターだ! おれギター()いてる!」

 

「何なんすかこの可愛い生物」

 

 

 何か聞こえた気がするが、今はいちいち構っていられない。感覚を確かめるように左手を色々動かし、弦を押さえる位置を変えながら繰り返し繰り返し音を響かせ、音の高さと弦それぞれの音域を確認していく。

 以前よりも小さくなってしまったおれの指では、六本全ての任意の場所を押さえるのは少し難しいが……世界には十一歳や八歳のギタリストも居るらしいのだ。つまり、ものは遣りようだろう。諦める必要は少しも無い。

 

 ふと、ケースの中に冊子が収められていたことに今更ながら気がついた。手にとって広げてみると、どうやら初心者用の教本らしい。

 基本姿勢や楽器の持ち方・扱い方は勿論のこと……和音(コード)ごとの手の形や運指などなど、今まさに必要としている情報が綴られていた。

 

 

 それらの情報を……おれがギターを弾くために必要な情報を、紙面に穴が空くほど凝視して必死に頭に詰め込む。

 見ながら、読み上げながら、弦を弾きながら……おれはしばらくの間上機嫌に、ギターとのつきあい方を吸収していった。

 

 ……ふんふん唄いながら。

 

 

………………

 

 

………………………………

 

 

 

 ―――グギュルググググゴゴゴゴ……

 

「んぐぉぉぉぉ……」

 

 

 拙いギターの音色が鳴り響いていた小部屋に、ギター以外の音が突如として響き渡った。

 それに伴う聞くに耐えない呻き声の出所は、まぎれもなくおれの口であり……つまりは響き渡った音というのも、またおれから生じたものである。

 

 一心不乱にギターと教本に打ち込んでいたおれだったが、その音によって現実に引き戻されるや否や……到底耐えがたい苦痛に苛まれることとなった。

 

 

「はら…………へった…………」

 

「失礼しまー……あれ、先輩戻って来ました?」

 

「あえ? 戻ってきた……って、おま」

 

「とりあえずおにぎりとサンドイッチ、先輩がトリップしてる間に買って来たっすよ。返事無かったんでオレの勝手チョイスっすけど……塩サバ好きでしたよね?」

 

 

 がちゃりと扉を開けて、コンビニ袋を両手に提げた烏森(かすもり)が入室してきた。彼の言葉に慌てて時計を確認すると……なんと、軽く二時間弱経過していたらしい。

 遅めの朝ごはんだったとはいえ、もうオヤツどきの時間も幾らか過ぎてしまっている。抗えぬ苦痛に……空腹に苛まれるのも、これは仕方がないことだろう。……というか。

 

 

「モリアキ……ごはん……買ってきてくれたの?」

 

「ええ、まぁ。ぶっちゃけオレも腹減ってきたんで。先輩めっちゃ集中してたっぽいですし、あんま邪魔すんのもなーって」

 

「ご、ごめん……! ほんとごめん!!」

 

「どっこいしょ。……いえいえ、オレとしても先輩の語り弾き楽しみですし。さっきも言ったすけど、ほら。塩サバおにぎりと……ポテサラサンド。好きっすよね? 先輩」

 

 

 年齢を感じさせる掛け声と共に椅子に腰掛け、烏森はテーブルの上におにぎりとサンドイッチ、更にはチーズ味の『唐揚げサン』まで……たいへん魅力的な品々を次々と並べていく。

 その中には確かに……鯖のほぐし身が包まれたおにぎりと、ポテトサラダがぎっしり挟まれたサンドイッチ……まぎれもないおれの好物が、きちんと含まれていた。

 

 

「も、モリアキ…………おれ、どうしたらいい? どうやって返そう……身体で返す? 脱ぐ?」

 

「シャレにならないんでやめて下さい」

 

「で、でも……さすがに『申し訳無い』が過ぎるんだけど」

 

「そーっすねー…………じゃあ……食べてからで良いんで、練習の成果聴かせてくださいよ。この『ファン一号』に」

 

「!! …………まかせとけ!」

 

「ふへへ……楽しみっす! あ、飲みもん取ってきますね。ウーロンで良いっすか?」

 

「あ、ドリンクバー? おれも行く!」

 

 

 そういえば……レンタル時間中はソフトドリンク飲み放題と言っていた。どんなものがあるのかも確認していなかったので、とりあえず取りに行ってみようと思う。

 いそいそとギターを置き、いちおうフード付コートを着込む。大人用で男物のコートはどう考えても似合っていないのだろうが、耳と髪を隠せるものがこれしかないのだから仕方ない。

 

 受付のときも……正直危なかった。今回は烏森が付いていてくれたから何とかなったが、説明のお兄さんも明らかにこちらを気にしていたようだった。

 当然だろう、フードで顔を隠しただぼだぼコートの幼女とか、どう考えても怪しい。入店を拒まれなかっただけありがたいと思わなければ。

 

 

 しかし、外出するにあたっての対策は考えなければならない。今後ずっと部屋に引きこもっている、というわけにもいかないので……そう、せめてこの身体に似合ったフード付コートを見繕う必要がありそうだ。

 

 烏森の後に続いて扉をくぐり、鍵を閉めながら……おれはそんなことを漠然と考えていた。

 

 

 



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25【収録風景】決意も新たに

 

 防音完備、楽器レンタル完備、ドリンクバー完備、録音設備完備と至れり尽くせりなこの貸スタジオは、とあるビルの地下部分にて営業を行っている。

 防音設備を整えるにあたり、地下のほうが遮音性とか良いとか……そんな感じの理由なんだろう。たぶん。

 

 ちなみにそのビルの一階および二階部分には系列の楽器店が入っており、音楽に携わる人々が初心者からプロまで数多く訪れるスポットであるらしい。

 さらに三階と四階部分にはクラシックから洋楽から邦楽からサブカルから幅広く取り揃えた、CDやDVD等のオーディオメディア専門店となっており……五階部分には各種音楽教本や、多種多様の楽譜で埋め尽くされた書店が入っている。

 

 それ以上の高層階……六階および七階は『一般のお客様は立ち入りを御遠慮ください』フロア……とのことだ。

 エレベーター横の階層別案内看板を見る限りでは……運営会社の事務スペースであったり、完全会員制音楽教室用の教室だったり、その先生達用のパーソナルオフィスだったり……つまりは主に音楽教室フロアってことだろう。

 ちなみに更に上がって最上階には、音楽系のイベントに利用できる多目的ルームまで備わっているようだ。

 掲示板に張られている張り紙を見たところ、ピアノコンサートやら音楽教室の発表会やら著名な作曲家の講演会やら大学生サークルの演奏会やら……かなり頻繁に催し物が開催されているらしい。

 張り紙の写真を見る限り、どうやらツーフロアぶち抜いたかなりの大空間のようだ。……ぱねぇ。

 

 

 まあ、なんというか、つまるところ……このビル一棟まるまる全部が『音楽』関係の入居テナントで埋まっているらしい。

 ……というかぶっちゃけ、全部まとめて一つの企業が広げた風呂敷らしい。

 

 実際、レンタル用の楽器も――店舗からか音楽教室からかは解らないが――上のほうの階から持ってこられたようだった。

 エレベーターなんかも一般的なビル用よりは明らかに広く、これを使えば地下一階から最上階まで、楽器を担いだままでも楽々アクセスできることだろう。

 

 

 少し話が逸れたが、とりあえずここは地下一階。このフロアの作りとしては、繁華街なんかによくあるカラオケボックスが近いだろう。

 階段およびエレベーターホールに面して受付カウンターが設けられ、その隣でドリンクスタンドが稼働している。トイレなんかも同様に入り口付近に設置され、ホールから枝分かれしていった通路沿いには貸スタジオブースの防音扉がずらりと並んでいる。

 

 ……まぁ、要するに。

 必然的に人の流れが多くなるであろう受付方面へ向かわないと、目的地であるドリンクバーまでたどり着けないということだ。

 

 加えて……本日は土曜日であり、かつよく晴れたお出掛け日和だったことも、記憶しておくべきだっただろう。

 

 

 

 

「ミッチーさぁー、ぶっちゃけ何か良いコトあったん? なんか今日さー、ミッチーなんか超イケイケな感じじゃねぇ?」

 

「あーわかっちまう? わかっちまっちゃう系? まじかーオレのドキドキわかっちまっちゃったった系かァー?」

 

「ぶッヒェハハハハハハ何だよソレ! やっべぇコイツウゼェ! マジデキアガっちゃってるわコイツ!」

 

「おいミッチーお前ドコ人だよウケるんですけどー! ニホン人ならニホン語喋れってェの!」

 

「うるせーって! しゃーねーだろオレ今めっちゃ興奮収まんねんだから! 伝説の幕開け見ちまったんだからよ!」

 

「ウケるー! やっべぇ興奮してるってよコイツ! 何? サカっちゃってる系? おサカりパークタワーオープンしちゃう感じ?」

 

「はー…………クッソワロ。()ァんだよ伝説って。またそんな大げさな」

 

 

 

 ……まぁ、Sサイズルーム以外埋まってるって言ってたもんな。

 大学生か……下手をすると高校生くらいだろうか。そんな若い子たちがバンドの練習に利用中でも、何もおかしいことは無い。

 

 ……無いの、だが。

 

 ドリンクバーのあるホールまで、あと曲がり角を一つというところで……非常に、非常に若者らしい喋り口の会話が聞こえてきた。

 偏見かもしれないが会話を聞く限りでは、どちらかというと理性的な性格では無さそうな気がする。いや本当ただの思い込みかもしれないんだけど。

 ただ実際なんというか、その……知的な喋り方では無さそうなので……つまるところドリンクバー目当てで出ていったらチャラチャラとした感じに絡まれやしないか、そこんところが不安なのだ。

 

 

「……どうします? 先輩。……ちょっと待ちますか?」

 

「…………ごめ、そうしたい……かも」

 

「了解っす。……まぁ、不安に感じてもしゃーないっすよ」

 

「ヤな奴だよなぁおれ……会話を盗み聞きして、しかもそれだけで『苦手な人』認定するとかさ……」

 

「まあまあ。べつに全人類好き(ちゅき)好き(ちゅき)する必要無いですし、」

 

『ギャハハハハハハ!!』

 

「……うん、オレもちょっと苦手っすもん。ああいう笑い方する陽キャ」

 

「おれら完全に陰キャの部類だもんな」

 

 

 

 こそこそと立ち話に興じている間にも、陽キャの彼らの会話は進んでいった。話はどうやら『ミッチー』が上機嫌である理由について――彼が目撃したという『伝説の幕開け』について――いかにも得意気に語り始めたところのようだ。

 

 ああ、もう……そういうお話はお部屋で存分に続けてくださいませんかね。公共スペースでの大声は御遠慮頂きたいのですが、どうやらその認識が薄い御様子。お客様お客様あーっ困りますお客様困ります、早くお退き頂けないとおれはいつまで経ってもオレンジジュースが飲めませんあーっ困ります困りますあーっあーっ。

 

 知らず知らずのうちに陽キャ集団へのイライラが募っていき、それが恐らく顔に出ていたのだろう。どこか困ったような表情を浮かべた烏森(かすもり)が、何か言葉を発しようと口を開き……しかし直後、その口は閉じられることとなる。

 

 

 

「だぁからお前らも『若芽ちゃん』見てみろって! めっっちゃカワイイから! アレもうユアキャス(UR―キャスター)って次元じゃ無ぇって!」

 

「まーじ? うーん……俺ユアキャス興味無ぇんだけどさ……そんなヤベェの? その『わかめちゃん』って」

 

「でもよ珍しくね? アイドルオタのミッチーがユアキャスって。どんな心変わりよ。その『若芽ちゃん』もアイドルなん?」

 

「いーや? つい最近デビューしたばっかの新人配信者(キャスター)だぞ」

 

「ギャハハハなんだそれ! やたら推すから何かと思えばド新人なのかよ! カワイイだけじゃ長続きしねーだろ!」

 

「いいやでもオレ解るもんね! あの子は絶対ぇ歌うまいって! 顔も声も可愛いし……何てぇの? 動き? とにかく……あの一生懸命さがまた可愛いのなんの! とにかく見せたるから見てみろって! 絶対ぇ次楽しみになっから!」

 

「…………へぇーマジかよ。そこまで言っちまうか。……どこで見れる? ちょっと興味出てきた」

 

「まかせとけオレが見せたる! ユースク(YouScreen)プレミアム会員の実力を見せてやる! とりまそろそろ部屋戻るぞ、あんま外で騒ぐと他の人の迷惑だし」

 

「まぁ……ちょっとなら見てみっか」

 

「そーだな。休憩にゃちょうど良いし」

 

 

 

 

 幸いなことにこちら側とは別方向の通路方面……彼らの部屋(ブース)の方向へ、『ミッチー』とその仲間達はじゃれ合いながら去っていった。

 

 騒々しくも楽しげな一団が去り、静けさを取り戻したホール入り口にて……おれ達はしばらくの間呆然と佇み、たった今の出来事を思い返す。

 それと同時……先程は烏森(かすもり)のフォローによって散らされた自己嫌悪が、再び燃え上がってくるのを感じていた。

 

 

「……普通に良い子だったな」

 

「まぁ、そっか……オレら隠れてましたもんね。彼ら以外に人居なけりゃ賑やかにもなりますか」

 

「それに…………()()くれてた。めっちゃ褒めてくれてた。……なのに、おれは」

 

「ストップ! ストップっす先輩! そういうときはヘコむよりも創作意欲に回した方が有意義っす! 逆にファンの人に……ミッチーに楽しんで貰えるような動画を作るために頑張るべきっすよ!! ちょうど歌声、期待してくれてましたし!」

 

「…………そう、だな。……せっかく楽しみにしてくれてるんだもんな」

 

 

 烏森(かすもり)の言う通りだろう。適度な反省はもちろん必要だろうが……度が過ぎたネガティブ思考は、抱えたところで何も改善しない。

 同じように思考の沼に沈むのだとしたら、どうせならプラスの思考を試みるべきだろう。

 『おれはなんて嫌なやつなんだ』ではなく……『応援してくれる人を喜ばせるにはどうすれば良いのか』へと思考をシフトさせる。考えても無駄なことは考えず、考えれば考えるだけ有意義になることに思考リソースを使うべきだ。

 

 動画配信者であるおれにとって……応援してくれる視聴者に喜んでもらう方法とは、一にも二にも『動画を投稿する』ことだろう。

 ならば答えは至極簡単。そもそもおれは今日、なんのためにここに来た。

 

 

 ()()()()()()()()()()()

 

 

「……ヨッシャ! 部屋戻ってごはん食べて練習すっか!」

 

「先輩! 待って! ドリンクバー! オレンジジュースいらないんすか!?」

 

「あっ!! いる!!」

 

 

 ジュース持って部屋戻ってごはん食べて……とりあえずは烏森(かすもり)に――いつだっておれを応援してくれる『ファン一号』に――練習の成果を披露しなければ。

 

 気合いをいれろ……おれ(若芽ちゃん)

 

 

 



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26【投稿準備】机仕事も必要なのだ

 

 リアルタイムで動画と音声を収録し、チェックや修正や大掛かりな編集を施さずに直接放送を行う、いわゆる『ライブ放送』とは異なり……楽器演奏や歌を録音ないしは録画して一本の動画に仕上げて投稿するまでには、幾つかの手間を要する。

 

 

 まず何よりも肝心なのは、メインとなる『演奏音声』データの録音。

 視聴者に聞かせたいがために演奏したのだから、ここをおざなりにすることは有り得ないだろう。

 幸いなことに件の貸しスタジオにおいては、録音用の高級コンデンサーマイクを使わせて貰うことが出来た。……別途料金が発生するオプションプランではあったが、後悔はしていない。

 

 それに加えて、演奏・歌唱しているおれの『映像』データの撮影。

 音声のみで真っ暗画面の動画は殺風景過ぎるし、どういう形でその音が奏でられているのかさえも解らない。

 せっかく弾きながら歌えるようになるまで練習したのだから、どうせなら是が非でも見て貰いたい。

 

 最低限、この二つのデータを入手さえすれば、あとは自宅で作業に取り掛かればいい。

 

 

 土曜日の夜九時……二十一時ころまで掛かって、とりあえず満足行くレベルの音声と動画を録ることができた。……まぁ、途中何度か横道に逸れたりもしたのだが。

 録れたてぴちぴちの生データを持ち帰り、烏森(かすもり)の軽自動車で自宅まで送ってもらう。それにしても思っていたよりも遅くなってしまい、こんな時間まで彼を付き合わせる形となってしまったことに、ぶっちゃけかなり申し訳なさを禁じ得ないのだが……

 

 『いやー、タブとオレンジペンシルがあれば何処ででも絵ぇ描けますし。実際めっちゃ筆進んだんすよ、たまには違う環境で仕事するのも良いっすね! ……まぁこれ趣味の絵なんすけどね』

 

 などとまぁ、これまた大変なことを仰っておられました。モリアキ神まじぱねぇっす。 

 本当おれは彼に頭が上がらない。冗談じゃなくそろそろ借りを返しきれなくなってしまいそうで、恐怖すら感じ始める始末である。

 

 

 しかし……そんな彼の期待に応えるためにも、気合いをいれて作業に取り組まなければならない。

 

 玄関エントランス前まで乗り付けてくれた救いの神(モリアキ)に別れを告げ、自室に帰ってきたのが二十二時頃だっただろうか。

 愛機(PC)の電源を立ち上げ、密閉式大型ヘッドフォンを――長い耳を圧し潰される感覚を我慢しながら――すっぽり被り、久しぶりの作業に際して手順を思い起こしながら……一番上まで上げてもやや低いチェアに腰掛けて、ディスプレイと対面する。

 

 投稿するにあたっては……やはり休日である週末、日曜日は狙い目だと思っている。金曜夜の初回放送から日が空くことは避けておきたい。何とか明日の日曜中に間に合わせるべく、気合いを入れて作業を開始しなければ。

 

 

 

 作業手順としては……先程録った音声データを洗いだし、適切な長さで切り取ったり音量を調節したり、気になるノイズや雑音を取り除いたりエコーや効果を調整したりして『動画の音声』を作り出す。

 用意したその『音声』にぴったり合うように録画された映像を紐付けし、また随所にテロップや画像を配置したりアイキャッチを挿入したりして『動画の音声』と『動画の映像』を合わせていく。

 曲というか歌によっては歌詞なんかを入れてもいいのかもしれないが……今回は入れない方が良いだろう。

 最後に動画の表紙ともいえるサムネイルを用意して、投稿準備は完了する。

 

 

 動画を仕立て上げる作業そのものは、以前から度々行っていたことだ。……といっても再生回数なんかせいぜい三桁が関の山、四桁行くことなんか(まれ)である。

 無名の動画投稿者であれば、やっぱりそんなものなんだろう。個人製作動画の黎明期はもはや過ぎ去り、動画も投稿者も供給過多な現状だ。飛び抜けた個性や強みでもなければ、生き残ることは困難極まりない。

 

 だからこそ、(いち)(ばち)かの仮想配信者(ユアキャス)計画なのだ。見映えしない中年男性なんかではなく可愛らしい美少女のガワを纏っていれば、それだけでもひとつの強みとなる。

 直接カメラの前に姿を表してもそれなりに画になるだろうし、動画のサムネイルは勿論、SNS(つぶやいたー)に画像を投稿して宣伝に使うこともできる。

 

 『カワイイ』というだけでも価値があるし、それだけ人目につきやすい。このご時世『カワイイ』は万能の武器であり、この時代を配信者(キャスター)として戦い抜くためには、強力な武器が必要不可欠なのだ。

 

 

 未だ謎だらけの出来事により『木乃・若芽ちゃん』となってしまったおれの身体だったが……『幼いエルフの女の子』の姿という()()()()()()()()が手に入ったことは、紛れもない事実。

 ……しかもこの身体は容姿が整っているだけでなく、様々な能力が非常に高性能なのだ。

 

 ほんの僅かなノイズさえ聞き取り、微かな音の歪みも見つけ出す聴覚。多数のタスクを同時に抱え込める並列処理能力。人間より明らかに広い範囲を精度を落とさず俯瞰できる視野の広さ等々……お陰で動画の編集作業も、あからさまに進みが早い。

 ぶっ通しで八時間程度は掛かるものだと覚悟していたが……思っていた以上に早く仕上がりそうだ。

 

 

 

「んん――――――っ、首が……腰が…………んへぇ、つかれた……今何時だ? …………げ」

 

 

 予想以上のペースで作業は進み、それに調子を良くしたおれは非常に深く集中できていたらしい。

 作業が一段落したところで身体の凝りをほぐし、伸びをしながら時計を見ると……時刻は深夜の二時を示していた。

 編集作業の方は順調、音声の調整と動画との紐付けはほぼ完了した。あとは画像や文字を挿入していけば良いので、なんとか終わりが見えてきた。

 

 だが…………ねむい。

 朝というか午前中の出来事により、少なからず疲労が溜まっていたのだろうか……いや、溜まってなかったとしても深夜二時なのだ。眠気に襲われるのも当然か。

 目標としている投稿時刻は……日曜の朝、六時。タイムリミットまであと四時間に迫ったこのタイミングで、のんびり仮眠を取るわけにはいかない。間違いなく寝過ぎる。

 いわば自由業となった今のおれは、昼夜逆転しようとただちに大きな問題は(たぶん)生じない。ならば今は眠いのを我慢して、完成まで作業を進めるべきだ。

 

 

(…………っし、風呂はいろ)

 

 

 さっぱりして目を醒ますとともに、気合いを入れ直すために。

 

 おれは自分の部屋着とモリアキ先生に授かったパンツを手に取り、我が家の風呂場へと向かった。

 

 

 



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27【投稿準備】気付けは重要なのだ

 

 作業も大詰めとなった、真夜中。

 おれは迫る睡魔を追い払い、また気合を入れ直すために……ひとっ風呂浴びる作戦を決行する決断を下した。

 

 

 身体を暖め、血流を良くして、頭により多くの酸素が送られるように。ついでに顔も洗ってさっぱりすることで、多少なりと目が覚めることだろう。

 作業途中のデータを上書き保存し、バックアップデータを外付けHDDにも保存し、どっこいしょと声を上げながら椅子から降りて立ち上がる。

 

 バスタオルと着替えを引っ掴んでバスルームへ移動し、結局ずっと着ていたファンタジーテイスト溢れるローブと、烏森(かすもり)に貰った女児用下着(パンツ)を脱ぎ去って洗濯機へ投げ込む。

 様変わりしてしまった女の子の身体は正直まだ見慣れないが、着替えのほうは抜かり無い。なんといっても帰り際に、烏森(かすもり)先生からパンツの支給を受けていたのだ。パンツさえあればあとは自前のTシャツとズボンで何とかなるだろう。サイズは大きいだろうが、べつに出掛けるわけでもないし問題ない。

 

 鏡に映る素っ裸の美少女エルフにどきどきしながら、シャワーヘッドを手に取りお湯を出す。適温になったことを確認してから身体もろとも湯船の中へ……今回は時間が押しているため、シャワーを浴びながらお湯を張る作戦である。

 

 

(おれ……この動画投稿し終わったら、風呂桶にお湯張って肩まで浸かるんだ。……ふふ……温泉の(もと)も買ってあったりして……)

 

 

 世間はソレを死亡フラグと言うらしいが、今のおれには通用しない。……今日一日で何となくだが理解し始めてきた。今のおれは容姿だけでなく、()()に関しても『若芽ちゃん』そのものなのだ。

 

 魔法情報局『のわめでぃあ』の局長であるおれ(わたし)は、番組の放送を成功させるにあたり『絶対』といえる自信がある。

 生まれもった『魔法』の才能に胡座をかかず、勉強し学習し身につけた『技術』を駆使し、視聴者を楽しませる番組を提供し続ける。

 これは『若芽ちゃん』の根幹を成す()()であり、()()でもあり、()()であり……そしておれの()()でもある。

 

 この身体(アバター)()()におれの()()が合わされば……やれないことなんて、あんまり無い。

 

 

「……っし! あと一息!」

 

 

 わしゃわしゃと荒っぽく顔を洗い、『この髪をちゃんと洗えるシャンプーも買わないとなぁ……』などと考えながらシャワーで全身を洗い流し、お湯を止めてシャワーヘッドを壁に掛ける。

 

 未発達な女の子の身体を撫で回すことに羞恥心を感じながら、バスタオルで水滴をしっかりと拭き上げ……ふとそこでスマホのお知らせランプが点滅していることに気付き、裸のままスマホを手に取りロックを解除する。

 

 淡い緑色の光をぴかぴかと点滅させるパターンは、REIN(メッセージツール)の新着受信のシグナルだ。

 こんな夜中に送ってくる人物の心当たりなんて数えるほどしか居やしないが……やはり送信者は予想通り、神絵師モリアキ大先生か。

 

 

 送られてきたのは……全くもって飾り気の無い六文字ぽっきりのメッセージと、一枚の画像データ。

 そこには……若葉色の髪と翡翠色の瞳を持った耳の長い少女が……慈しみの笑みと共に、愛しげに弦楽器を抱き抱え微笑む『若芽ちゃん』を描いた一枚絵が。

 

 直後には、取って付けたように添えられた『応援してます』のメッセージ。

 

 

「…………ばかやろう」

 

 

 こんな応援を貰ってしまったら……尚更頑張るしかないじゃないか。

 

 まるで誂えたように――というか、やはりそのつもりで描いてくれたのだろう――動画の『顔』ともいえるサムネイルとして持ってこいな、この上ない神作品である。

 あとは演奏曲タイトル等の情報を配置すれば、懸念の一つであったサムネイルの作成はあっというまに完了だ。

 それはつまり、動画の完成そのものが秒読み段階であり……ゴールまであと一息ということを表している。

 

 

 こんな遅い時間まで……場所は違えど、おれの作業に付き合ってくれた。

 『日曜の朝には投稿したいなぁ』と溢したおれのつぶやきを、律儀にも覚えていてくれたのだろう。

 

 なんて……なんて()()()やつなんだ。

 これはやはり……徹底的に気合いを入れて()()をしなければならない。

 

 

 

 

「…………えいっ」

 

 

 スマホのインナーカメラが小さくシャッター音を響かせ、撮影されたばかりの写真データが送信プレビューとして表示される。

 

 そこには……『若葉色の髪と翡翠色の瞳を持った幼い少女が、ほんのり濡れた素肌にバスタオルを一枚纏ったのみの大変あられもない姿で、ほんのり微笑みながらピースサインを見せ付ける』という……大切な部分こそ見えていないが大変扇情的な一枚が表示されていた。

 

 

 それをお礼の言葉と一緒に、容赦なく神絵師モリアキへと送信する。

 

 あっ既読がついた。

 

 ……えっ、音声着信?

 

 

「…………はい、こんば」

 

『先輩ちょっといい加減にしてくれませんかねぇ!?』

 

「ヒェッ」

 

『勘弁してくださいよもう! 今日一日オレがどんだけ我慢したと思ってんすか!? こんなん送られて我慢出来ると思ってんすか!?』

 

「た、溜まってる、ってやつ……かな?」

 

『……ッ、ああもう! そうっすよ! こんなエッッッな写真送ってきて! いいんすかもう! 見抜きますよ!?』

 

「…………しょうがないにゃぁ」

 

『………………え、マジすか』

 

「まぁ、写真なら別に。正直モリアキにはめっちゃ助けられてるし。…………おれ一人だったら……たぶん、折れてたから」

 

『…………本当に、良いんすか?』

 

「さすがに『相手しろ』とか言われたらちょっと引くけど……まぁ写真使うくらいならな、減るもんじゃないし。……モリアキは産みの親の一人だし、恩人だし。温泉旅行で全裸見せ合った仲だし」

 

『…………全、裸』

 

 

 おっと、これはガチのトーンだ。どうやら想像力を発揮してしまったらしい。

 ……まぁ無理もないだろう、何といってもおれとモリアキが『好き』を詰め込みまくった、理想ともいえるエルフの少女、その柔肌なのだ。アラサーおっさん同士の素っ裸とは比べるだけ失礼だろう。

 

 実際問題、この身体をモリアキに見られたとして……おれが失うものは特に無い。行為の相手になるのはさすがにご遠慮願いたいが、さっきのバスタオル一枚とかパンツくらいなら、別に見られても構わないと思っている。

 何しろ……おれだって実際のところ、目で堪能させてもらっているのだ。ともするとおれ以上の功労者である彼に何の旨味も無いのは……それはさすがにあんまりだろう。

 

 なので……彼なら、良い。そういうことにする。

 

 

「まぁ、とにかく…………本当にありがとうな。色々と」

 

『……いえ。オレが描きたくて描いただけですし。……まぁとりあえず、無理はしないでくださいね』

 

「大丈夫。お陰様でほぼ出来上がりよ。……六時な。楽しみにしててくれ」

 

『ご武運を。そしたら今度オレが酒持ってきますよ』

 

 

 決意も新たに気合を入れ、音声通話を切断する。

 パンツをはいてTシャツに袖を遠し、ズボンの裾を何重にも折り上げて無理矢理合わせる。

 

 神絵師モリアキより賜ったイラストを愛機(PC)で読み込み、サムネイルの作成と動画の最終仕上げに取りかかる。

 

 

(おれは本当に……本当に、恵まれてる)

 

 

 彼と出会えたことに、誰へともなく感謝しながら……てきぱきと成すべきことを成していった。

 

 

 



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28【投稿完了】はじめてのけいけん

 

 ―――誰か。―――だれか。

 

 

 ―――誰も居ないのか。

 

 ―――何も、出来ないのか。

 

 

 

 

 

 声が……聞こえる気がする。

 

 

 全く聞いたことの無い言語、全く聞いたことの無い声。

 恐らく……というか間違いなく、おれが会ったことも見掛けたことも無いひとの……ともするとこの国(日本)のひとでは無いかもしれない、誰かの声。

 

 

 血を吐かんばかりの必死さを滲ませる……救いを求める者の、声なき声。

 

 それが……聞こえた気がする。

 

 

 

(えっ、と…………あなたは……どなた様、でしょうか?)

 

 ―――!! 

 

 ―――聞こえるのか。―――僕の声が。

 

(ええ、まぁ……)

 

 

 こちらの思念に反応し、謎の声はその声色を驚愕に染める。

 どうやら……意思の疎通は可能なようだ。

 

 見渡す限りの真っ暗闇の中、謎の声の主は姿も形も見当たらないが……ほんの少しだけ安堵したような気配を伴いながら、しかし彼(?)は切々と訴えてくる。

 

 

 ―――恥であることは重々承知の上。

 

 ―――しかし、其方にしか頼めない。

 

 ―――其方以外に、居ない。

 

 ―――どうか、どうか助けてほしい。

 

 

 苦渋の決断、とでもいうのだろうか。

 助けを求めるべきではないと理解していながらも、助けを求めることしかできない……自分ではどうすることもできない状況に陥ってしまった、何処の誰とも知られない『誰か』。

 得体の知れない相手の、救いを求める声を聞き……

 

 

(えっ、わかった。何とかする)

 

 ―――えっ?

 

(えっ? ……助けてほしいんでしょ? おれにできることなら何とかするよ。どうすればいい?)

 

 

 おれは(いち)()もなく、承諾した。

 

 ()()()()()()()()()()であるおれは……おれに助けを求める声を、無下になんて出来やしない。

 助けることができるならば、自分にそれが可能ならば……それをすべきだと、この魂が告げているのだ。

 

 

 

 

 

…………………………

 

 

…………………………

 

 

 

 

 

(…………んんー……?)

 

 

 ふとももの上に置かれていたスマホが断続的に震え、その動きと音で意識を呼び起こされる。

 

 誰だこんな朝っぱらから……と億劫な気持ちになるのを堪えきれないまま、眠い目をこすりながらのっそりと身を起こす。

 

 

 あれ……いつのまにか眠ってたんだろ……ああ、そうか。

 

 例の『歌ってみた』動画を完成させて、配信サイト(YouScreen)に投稿して、SNS(つぶやいたー)で宣伝したところで……どうやらそこで力尽きたようだ。

 パソコン机のゆったりチェアに腰かけたまま、リクライニングした背もたれに深くもたれて寝落ちしていたようで……なにやら身体の節々が凝ってる気がする。

 

 

 未だにしぱしぱする目を凝らしてスマホを手に取り、新着アラートへ視線を向け……

 

 差出人の名と文面を認識するや否や、一瞬で覚醒し跳ね起きる。

 

 

 慌ててスマホを操作し配信サイト(ユースク)の管理ページへ飛び、目に飛び込んできた数字にまず唖然とする。

 

 大急ぎでSNS(つぶやいたー)の『若芽ちゃん』アカウントを開いてみても同様……そこに広がっていた光景に、今度は開いた口が塞がらない。

 

 

「………………え、うそ」

 

 

 仮想配信者(UR―キャスター)『木乃・若芽ちゃん』のアカウントには、なんと夥しい数の通知が……感想や意見や宣伝ツイートの拡散通知やブックマーク通知や新規フォロー通知等々が、これでもかと寄せられていた。

 

 それらの反応(リアクション)の数……じつに四桁。

 さらに大元、配信サイト(YouScreen)の再生数に至っては、十三時の時点で――投稿からおよそ七時間で――なんと間もなく五桁に届かんばかり。

 ろくな経歴もない産まれたててホヤホヤの新人配信者(キャスター)にしては、贔屓目に見てもなかなかの滑り出しなのではないだろうか。……というかこの時点で既に、自分の過去作をぶっちぎりで突き放している。割と泣ける。

 

 

 

 

「えっ、と…………どうしよ……」

 

 

 予想以上の反響を目の当たりにし、思考停止に陥っていたところに、スマホの振動が新たなる方針を告げる。

 

 もとい……既読マークが付いたことで、おれの起床を察してくれたのだろう。

 後輩にして同胞である烏森(かすもり)より、次なる作戦を立てるための作戦会議(という(てい)の『お疲れさま会』の開催)を持ちかけられた。

 

 

 日時は今日の十三時半。

 開催場所は『若芽ちゃん』の収録スタジオ。

 

 ……つまりは、おれの自宅。

 

 

(そういえば『酒持ってく』って言ってたっけ。……あれ本気(マジ)だったんか……)

 

 

 ……というか、どうやら既にウチの近くに到着しているらしく……更に言うとおれのリアクションが無いことから『寝落ち』を察してくれていた上、おれが自然と起きるまで待っていてくれたらしい。

 

 もうやめてくれ、申し訳なさがオーバーフローしてしまう。もはや手遅れだろうが、精一杯のおもてなしをさせて頂かなければ。

 REIN(メッセージツール)に『いいよ』の絵文字(スタンプ)を打ち込み送信しながら、とりあえずお飲み物だけでも用意しようと動き出したのだった。

 

 



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29【投稿完了】緊急作戦会議

 

「おおー! ここが『若芽ちゃん』のお部屋っすか!」

 

「おれの部屋だよ。前来たときと大して変わって無ぇだろ」

 

「現実を突きつけないで下さい。せっかく(ひた)ってたんすから」

 

「おれだってこんな(美少女受肉した)現実を突きつけられたか無かったよ!!」

 

 

 浪越(なみこ)市南区の某所に借りたおれの部屋は、RC(鉄筋コンクリート)造1LDKの物件……まぁ、飛び降り自殺を考えるくらいには高層階に位置している。

 

 その居住部分のほとんどを占める『LD(リビングダイニング)』の部分は、真っ白な壁に向けられたカメラやらタワー型ハイスペPCやら小型ウェブカメラやらオーディオミキサーやらが常に展開されている撮影用セッティングが施されており……ぶっちゃけるまでもなく、リビングだとかダイニングの機能はゼロである。

 そのためおれの私室、スタジオから扉一枚を隔てた洋間のこたつ兼用ローテーブルの上には……『作戦会議』という名目で持ち込まれたスナック菓子とソフトドリンクのペットボトルと缶チューハイが、所狭しと並んでいた。

 

 

 

「まぁまぁ機嫌直して。先輩の好きなおむすび煎餅も米田のタマゴサンドもありますよ。チューハイも残ったら置いてきますから。……先輩その身体じゃお酒買えないでしょ」

 

「おれは絶対ぇ部屋の趣味変えないからな。……煎餅とサンドと酒は遠慮なく貰うけど」

 

「どうぞどうぞ。先輩に貢ぐために買って来たんすから」

 

 

 気持ち悪いほどのニコニコ顔で、菓子やら酒やらをおれに貢ぐ烏森(かすもり)。正直いって嬉しいのは認めるが……そのきらきらとした笑顔がなんだか妙にこそばゆい。

 こうなった理由として、あるひとつの可能性がひっそり脳裏をよぎるが……全力で気にしないことにする。

 

 気を取り直すように……あるいは場の空気を誤魔化すために、今日来て貰った目的のもう半分、本題である『作戦会議』の火蓋を切る。

 

 

「それで、その…………どうしようね?」

 

「どうしましょうね。やっぱ出来れば今晩あたり、何かしらで配信してみた方が良いと思うっすよ。『歌ってみた』の宣伝とお礼も兼ねて」

 

「あ、やっぱ? よかった。おれもそう思ってた。……んだけど……」

 

「何をするか、っすよね。もうじき昼二時ですし、準備するにしても告知するにしてもそろそろ限界かと」

 

「ご、こめん、おれが寝過ごしたばっかりに……」

 

「いえ、しょうがないっすよ。大捕物(おおとりもの)したその晩に徹夜でしょう?」

 

 

 彼の言うとおり『仕方がない』ことだったのかもしれないが……それでも、貴重な日曜日の時間を浪費してしまったことに変わりはないのだ。少なからず後悔の念が浮かんでくるが、今はそんなネガティブな思考を浮かべる時間さえ惜しい。

 目標としては……今晩二十一時を目処に、二回目となる配信を試みる。そのために前もってSNS(つぶやいたー)で告知をしておく必要もあるし、このタイミングとなってしまっては時間が押せば押すほど、広告の効果は薄まってしまう。

 ……いやむしろ、前日に告知できなかった時点で手遅れなのかもしれないが。

 

 だがしかし、過ぎたことは変えられない以上はどうしようもない。大切なのは『今何をすべきか』であり、こと今回に限っては『今夜の第二回配信の内容をどうするべきか』を考えるべきだろう。

 

 

「定番のゲーム配信とかっすか? 最近ですとフロゲーとかデュエルとか、もしくはFPSとか」

 

「確かに定番だと思うけど……逆に新鮮味が薄いっていうか」

 

「逆にちょいと前のゲームならまだ配信数も少ないっすかね? ……あー、あれとかどうすか? フィットネスのやつ。輪っかの」

 

「…………あー、1カメでゲームプレイするおれを撮って、ゲーム画面にワイプで入れりゃ成り立つか」

 

「でっしょー! あのテのゲームは疲れ果てるプレイヤー眺めて愉悦(ゆえつ)るのが一番楽しいっすからね! 先輩フィッチ持ってましたよね?」

 

 

 なるほど確かに……それであればたとえ結果が芳しくなくても、それはそれで美味しいだろう。ゲームの腕前に関係なく、とりあえずプレイヤーが身体を張っている様子を眺められば『見るがわ』としては楽しめる。

 フィッチ(例のゲーム機)は操作方法が明瞭な傾向が強いし、加えてあのゲームは事前の練習が不要なのもありがたい。…………が。

 

 

「ま、待て待て待て、おれはまだやるとは言ってねえ! ……ていうかソフト持ってねえし!」

 

「いやでも良い考えだと重うんすよ。若芽ちゃんは他の仮想配信者(ユアキャス)に無い強みがあるわけですし。表情どころか顔色や汗まで表現できる仮想配信者(ユアキャス)なんてそうそう居ないっすよ」

 

「てかおれ仮想配信者(UR―キャスター)名乗ってて良いのかな。今さらだけど」

 

「エルフバレしたく無きゃ言い張るしかないとは思いますが……正直いってバレんのは時間の問題っすかね。何せ3Dアバターと言い張るにはリアル過ぎますし、先輩のその容姿ならちょっと出歩きゃ噂になりますよ。ソフト買ってきますわ。そこは割り切りましょう」

 

「まぁそだよな……何か言い訳も考えとかな…………えっ? ご、ごめん。何か言った?」

 

「じゃあそういうことで。オレ少し出掛けてきます。三十分かそこらで戻るんで、先食べてて良いっすよ。……お酒は告知終わるまで我慢してくださいね」

 

「えっ? えっ? ……お、おう。わかった。ていうか酒は配信終わるまで我慢すべきだろ。……まぁよくわかんないけど……行ってら?」

 

「うっす。行ってきまっす」

 

 

 

 

 なんだか釈然としないが……烏森(かすもり)は慌ただしく出ていってしまったので、とりあえずその間今夜の配信の内容を考えておかないといけない。

 

 安定感があり、かといってありきたり過ぎず、定番からほんの少し方針を逸らした程度の企画。

 数多の先輩配信者(キャスター)の影に埋もれることがない、若芽ちゃん(おれ)の長所を活かすことが出来る企画。

 

 やっぱ……歌だろうか。タイミング的にも違和感ないと思うが……オリジナル楽曲なんて持ってないし、即興で演奏するのもたぶん無理だろう。ていうかそもそも楽器が此処に無い。

 ……カラオケ生配信でも出来れば楽しそうなんだけど……権利関係とか難しそうだよなぁ。

 

 

(……とりあえず予告だけでもしておくか。詳細はまた後ほどって感じで。最悪身内をサクラ(盛り上げ役)にして雑談枠でも……)

 

 

 もうすぐ十五時……日曜日の昼三時になるところだ。詳細はこの期に及んで未定だが、そのことをうまくぼかしてでも『やる』ということをまず告知しておくべきだろう。

 烏森(かすもり)も何やら考えがあったみたいだし、戻ってきたら詳しい話を聞いてみよう。いよいよ何も考えつかなかったら雑談に逃げるとして。

 

 ……よし。それでいこう。

 大丈夫、今は波に乗ってる。きっとなんとかなる。……多分。

 

 

 

…………………………

 

 

 

 今夜二十一時からの配信予告の投稿は、今まで以上の勢いで拡散されていった。

 勿論、第一線で活躍している仮想配信者(UR―キャスター)に比べたら……吹けば飛ぶような規模なのだろうが。

 

 だがそれでも、おれはおれだ。この『木乃若芽ちゃん』を支持し、興味を持ってくれる人々のため……やると決めたからには()()()()()()

 わたし(おれ)は木乃若芽ちゃん、魔法情報局の局長なのだ。

 

 

 

 

 その気合いの入った意気込みが元で、くだんの配信において大層悲惨な事件に見舞われる羽目になるのだが……

 

 このときのおれは勿論、そんなことなど知る由もなかった。

 

 

 



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30【御礼配信】この身体の実力を

 

 

ヘィリィ(こんにちは)! 親愛なる人間種の皆さん! 魔法情報局『のわめでぃあ』局長、(グルーエ)エルフの『木乃・若芽』です!」

 

 

 日曜日の夜九時。殆どの人々が休日の終わりを嘆き、また翌日から始まる一週間を憂いている時間帯。

 配信者にとってのゴールデンタイムである二十一時に、第二回目の配信をぶち当てる。

 

 第一回目のお披露目配信、ならびについ今朝方投稿した演奏動画の恩恵だろうか。配信開始時刻前から、なかなかの人数が配信ページで待機していてくれた。

 まだまだ二回目、吹けば飛ぶような弱小配信者(キャスター)の身の上だが……和気藹々(わきあいあい)と繰り広げられるコメント欄でのチャットを眺めているだけでも、なかなかこみ上げてくるものがあった。

 

 

 楽しみに、してくれていたのだ。

 おれの……若芽ちゃんの、配信を。

 

 

 

「まずですね、ご存知のかたも居られるかもしれませんが…………今朝ですね! じつは動画をひとつ投稿しています! 『歌ってみた』動画ですね!」

 

 

 この身体(アバター)の能力を把握するために、やや見切り発車で企画した『歌ってみた』動画だが……曲自体のもともと知名度に加え、最近話題が再燃した曲であるということが幸いし、今日一日だけでも結構な注目を得ることが出来た。

 

 ……ので、まずはお礼。

 見てくれて、聞いてくれてありがとう。

 

 そして……わたしに興味を持ってくれて、ありがとう。

 

 

「演奏もお歌も、わたし一人で頑張りました! 既に再生数が初めての領域でドキドキしてるんですが……見たよー聞いたよー、っていう(かた)…………居ます、か? ……わっ! いる! ほんとですか! ありがとうございます! うれしい! ありがとうございます! ……そうですよー演奏もわたしです! 頑張りました! ありがとうございます!」

 

 

 アクションが一方通行になりがちな動画投稿とは異なり、視聴者に来て貰っての配信ではリアルタイムでコメントが寄せられる。

 視聴者の方々の反応が……興味が、喜びが、関心が、好意が、ダイレクトに伝わってくる。

 

 生み出した創作物を褒めてもらって、うれしくないわけがない。

 喜んでもらえて……嬉しくないはずがない。

 

 

「あんまり難しいのは……その、弾けるかどうかわかりませんが……もしリクエストとかありましたら、SNS(つぶやいたー)とかウェブコメ(かすてら)のほうにメッセージお願いします! 権利的に平気そうだったら……ここ大事(だいじ)ですよ! 権利的に大丈夫そうでしたら! 練習して動画撮ってこうと思いますので! なにとぞよろしくお願いします! がんばります! ありがとうございます!」

 

 

 リアルタイムでウィンドウに反映され流れていく、この配信を見てくれている視聴者からのコメントの数々。その中には件の『歌ってみた』を既に視聴してくれていた人たちのコメントも少なく無く……おれの歌声を褒めてくれる人の声も、ちらほらと見ることが出来た。

 

 嬉しい。嬉しい。……めっちゃ嬉しい。

 動画を褒めてもらえた。ギターすごいって褒めてもらえた。歌声が好きだと言ってもらえた。

 

 嬉しい。……とても、嬉しい。

 

 

「お礼に一曲、とかも思ったのですが……あの、正直とくに決めてなかったので、音源がですね……その…………無くて、ですね? だから……またのお楽しみってこウェッ!? アカペラ!? えっ、ちょ……でも…………そんなに、聴きたい、です……か? あの、今日は輪っかのやつやる予定が……」

 

 

 口調と表情は完璧に『困惑』を表現していながら、一方おれの本心は極めて冷静だ。少々台本から逸れたことは間違いない が、この事態は若芽ちゃん(おれ)の歌唱力をアピールする絶好のチャンスでもある。

 確かに無伴奏声楽(アカペラ)ならば音源を用意する必要も、特に音質を調整する必要も無い。ぶっちゃけ非常にお手軽だ。

 コメントにも歌声の披露を後押しする声が、多く流れてきている。歌うことを望まれているというのは非常にありがたいし、正直なところ非常に嬉しくもある。

 視聴者との距離が近いことをアピールするためにも……やってみるのは、充分にアリだと思う。

 

 

「…………わかりました。一曲だけですよ? 無難に民謡いきますね。……今日はリクエストは無しです。もしリクエストがあるならさっき言ったようにですね、メッセージでお願いします。……こほん」

 

 

 わざとらしく咳払いをひとつ。BGMのボリュームを落とし、音声をマイク入力のみに切り替える。

 

 まぶたを閉じて深呼吸し、心を落ち着ける(ように見せる)。……実際のところは言うほど緊張していない。それほどまでに、この身体の歌唱能力と音感と肺活量と記憶力はずば抜けているのだ。

 

 その能力を見せつける絶好の機会である。正直いって……楽しみで楽しみで、どきどきが止まらない。

 

 

 「それでは。僭越ながら、皆さんのお耳を拝借します。……聞いてください。『素晴らしき(amazing)恩寵(grace)』」

 

 

 

 

 無音となった配信ページで、のびのびと澄んだ歌声が流れ始める。

 

 歌声を紡ぐと共にまぶたを閉じ、手を軽く握り合わせて胸に当て……見ようによっては『祈り』のようにも見えることだろう。

 

 細かな表情、まぶたや唇の形、指の一本一本に至るまでの挙動を表現できるのは……怪我の功名ではあるが、若芽ちゃん(おれ)ならではの長所である。活かさない手は無い。

 

 歌う曲目として選んだのは、世界中で親しまれている讃美歌のひとつ。小学校や中学校の音楽科で履修することも多く、テレビ番組やコマーシャル等でも度々用いられる名曲であり……知名度はかなり高いだろう。

 敬虔な教徒である牧師が、若き日の自身の行いに対する悔恨と、自身を死の危機から救ってくれた神に対する深い感謝を込めた、世界中で愛されている歌。

 

 

 ゆるやかでのびのびとした、どちらかというと音域の高い曲ではあるが……歌唱に際しての不安を全く感じることもなく、しっとりと丸々一曲歌い上げる。

 

 

 歌い出しと共にコメントが溢れ、途中はまるで聞き入っているかのように流れが緩やかになり……四節目の最後の音を止めると同時に、再び怒濤のようなコメントの濁流が押し寄せる。

 

 実のところはこっそり薄目を開けてその様子を把握しておきながらも、さも『今初めて目を開けてコメントを見ました』と言わんばかりの表情と声色を身に纏う。

 

 

 

「……ふぅ。……どうでしュヒゃぁ!? うわ!? わ、わ、わわ!? あ、あ、あり、ありがとうございます! えっ? ど、どうでした? わたしの歌……よかった? えっ、よかった!? えっ!? すごかった!? ほんと!? ありがとうございます! んえへへ!」

 

 

 正直、自分でもなかなかよく歌えたと思っている。様々な知識を修めている若芽ちゃんは当然語学も堪能(という設定)であり、英語の発音に関しても拙さは欠片も見られない。

 そのまま音楽科や……ともすると英語の教材に使えそうなほど、ケチのつけようのない堂々たる歌唱……まさに『会心の出来』と言っても過言ではなかっただろう。我ながら良い仕事をしたと思う。

 

 ……さて、無事に一仕事終えたので台本に戻りたいところだけど……もう少しアフターサービスしておこうか。

 おれはまだまだ駆け出しだからな。売れるところで売れるだけ媚を売っておかないと。拾える()は全部拾っとかないと。

 

 

「さてさて……皆さんどこかで聞いたことがあったかもしれません。有名ですよね、この曲。物知りな人間種の皆さんはご存じかもしれませんが……この『素晴らしき恩寵』はですね、イギリスのニュートン牧師によって作詞された讃美歌です。……はい、讃美歌。教会での集会やお祈りのときに、神さまに捧げるお歌なんですね」

 

 

 BGMのボリューム上げながら、トーク時の動画設定を呼び出して『語り(トーク)』を始める。

 カメラに映る若芽ちゃんの後ろがわ……部屋の白壁へと、クロマキー合成のように仮想スタジオを魔法で投影。同じく魔法で曲目を記した看板バルーンと、重要そうなキーワードを書き記したボードをふわふわと浮かべる。

 

 

 口頭で説明しながらリアルタイムで板書やテロップを入れていくというのは、収録即放映が普通である『生放送』においては極めて面倒だと思う。

 勿論、前もって入念に打ち合わせを行い、台本通りタイムスケジュール通りに生放送を進行し、次に何を喋るのかが解っているのならば、タイミングを合わせてテロップを表示することは可能だろう。

 

 だが……今回の生放送においては、このアカペラ披露は急遽決まった……ということになっている。つまりは、予定外だ。

 そんな予定外(に見せかけた予定通りなのだが)のトークにおいてもテロップとバルーンを活用して見せるというのは、これも『若芽ちゃん』ひいては『のわめでぃあ(魔法情報局)』の技術力をアピールする一端となってくれることだろう。

 

 

「…………と、まあ、わたしが覚えてることはこんな感じです。だいぶ横道に逸れちゃいましたね……オハナシつまんなかったですよねえ……だいぶ時間経っちゃいましたね…………ごめんなさい……えっ? おもしろかった? ほんと!? つまんなく無かった? ほんとに!? ありがとうございます!」

 

 

 台本から外れた演目は期待通り、視聴者の関心を鷲掴み出来たようだ。

 滝のように流れるコメントを、並外れた動体視力と瞬間記憶力でつぶさに把握していき、そのほとんど全てが好意的なコメントであることに()()と胸を撫で下ろす。

 

 ()()()は大成功を納めた。朝に投稿した動画の宣伝も出来た。

 そろそろ……本編に行ってみようか。

 

 ただの仮想配信者には真似出来ない、若芽ちゃん(おれ)にしか出来ない配信を。

 演者の顔色や表情や汗や涙なんかもばっちり捉えられてしまう配信環境での……身体いじめ(運動ゲーム)を。

 

 

 やるからには……本気だす。

 天才エルフ少女『若芽ちゃん』の()()を……盛大に見せつけてやろうではないか。

 

 

 



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31【御礼配信】よーく見ておけ!!

 

 

 まるで自分のモノでは無くなったかのように、自分の身体が思い通りに動かせない。

 全身が悲鳴を上げているのに、周囲の声はそんなことを微塵も配慮してくれやしない。

 

 

「ごべっ、……ごめ、ご……ごめ……なさっ、あっ、も………ちょ、待っ」

 

 

 息も絶え絶えに謝罪を口にし、慈悲にすがろうとするおれに向けられるのは……一欠片の憐憫と、数多の嘲笑。

 この『生き地獄』から逃れる手段を……今のおれは、持ち合わせていなかった。

 

 

 

 

 

 幼げな容姿に反して、数多の魔法を自由自在に操る魔法使い。

 

 この世界においては存在そのものが極めて珍しい、エルフ族の女の子。

 

 心優しく、知的で、負けず嫌い。魔法放送局『のわめでぃあ』の運営を一手に手掛ける、遣り手の新人配信者(ニュービーキャスター)

 

 ……などなど、いわゆる『長所』に分類される設定だけではなく……これらの他に勿論『短所』とされる設定も、この子(若芽ちゃん)には籠められている。

 

 

 

 というのも……創作活動における登場人物の作成において、欠点と言える欠点のひとつもない長所だらけのキャラクターなんていうものは……おれ(と神絵師(モリアキ))は下策中の下策だと思っている(※個人的な意見です)。

 

 

 確かに、非の打ち所の無いキャラクターを作るのは……強靭で無敵で最強なキャラクターを活躍させるのは、とても気持ちが良いだろう。

 

 一切のストレス無く物語を進行させ、何らかのトラブルに見舞われようとも危機的状況に陥ることが一切無く……数行に渡っていちいち読む気も失せる程羅列された技能(スキル)のうちのほんの数個を使って、あっさりと事態を解決する。

 虐げられている奴隷を見掛けたらとりあえず解放し、実力を隠したいのか目立ちたいのか謎な言動で都市に蔓延る不正を正し、冒険者ギルドのランクだって異例の速度で駆け上がる。

 最強キャラクターは国家や世界の思惑に左右されずに、ただ自分の判断基準に則り、取り巻きを引き連れ自由気ままに冒険の旅を続ける。

 

 全くのノーストレス、痛快極まりないそんな物語が好きだという層も……そりゃあ存在して然るべきだろう。

 

 

 

 ……だが。

 そんな『無敵』ともいえるキャラクターは、物語を展開させていく上で()()()()()に直面するだろうと、おれたちは常々思っている。

 

 どんな問題が起ころうとも、どんな危機が迫ろうとも、無敵キャラクターが危機的状況に陥ることはあり得ないのだろう。

 であれば、そこに無敵キャラクターを心配する余地など生じるハズもなく……『この先どうなるんだろう?』『どうなってしまうんだろう?』といったドキドキとかワクワク感も、鳴りを潜めてしまうことだろう(※個人的な意見です)。

 

 勿論、圧倒的な実力差で完膚なきまでに勝利することは……大きな爽快感を与えるという意味では、決して間違いではない。

 しかしながら、弱点の存在しない無敵キャラクターともなってしまうと……どんな強敵が現れても『敵が出てきた時点で勝敗が決してしまう』状態となりかねない。

 

 何の危()()さぬ()……それはもう、ロマン溢れる()()()とは言い難い。

 勝つか負けるかのドキドキハラハラが楽しめないというのは……それは作品としては、非常に勿体無いことだと思う(※個人的な意見です)。

 

 

 

 ……ちょっと話が迷走したが……要するに、キャラクターを作るときには『強み』は勿論として『弱点』もきちんと設定すべきだと、おれ(と神絵師(モリアキ))は常々思っている。

 

 それは勿論、この『木乃若芽ちゃん』においても同様。先述のように『魔法』と『知識』と『技量』等々を『強み』としてステータスを割り振った反面、それ以外の()()()()()においては……なんというか、致命的とも言える程に能力値が低く設定されている。

 

 

 

 ええ、まぁ、つまり……もうお解りだろう。

 

 木乃若芽ちゃん……もとい()()は今や……そんじょそこらの十歳児よりも運動能力が低いという呪い(設定)に、身体を蝕まれているのだ。

 

 

 

 

「待、まっ……あっ……ま、だ、だめ、これ……ちょっ、と……待っ……」

 

 

 国内最大手メーカー謹製の最新鋭ゲーム機は、複数備えた高精度センサーにより、使用者の身体機能を容赦無く算定する。

 かつてのおれが調子づいて加えた設定の通り……この身体(若芽ちゃん)の運動能力は、もののみごとに人間種の十歳児相当。まったくもって憎々しいくらい見事な再現度である。

 

 

 運動が苦手で、魔法を併用しない身体能力は、見たままの幼い女の子相応。

 しかしながら負けず嫌いで自身の弱点を認めようとせず、ひとたび煽られれば売り言葉に買い言葉で、どんどんドツボにハマっていく。

 

 設定を練り込んでいた当時は『そんなポンコツっぷりもまた可愛いだろう』と、どちらかといえばノリノリで弱点をあれこれ付与していたが……こう(おれがこの子に)なってしまった今となっては、かつての自分自身を殴り倒してやりたいくらいだった。

 

 

 

「あ゛ッ!!? 待って! 痛い痛いふともも痛いまって! 待って痛いおまた痛いおまた……えっガード? あっ出来てない!? ちょっ、あっ! 待って!! あっ……」

 

 

 カメラの前で腿上げ運動を続けるおれの動きを、脚に取り付けたコントローラーの加速度センサーがしっかりと読み取り、ゲーム画面の中のキャラクターがぎこちない動きでステージを駆け抜けていく。

 この時点での所要時間は、既に平均タイムの倍近く掛かっているらしい。風前の灯である()としての意識が見栄を張って『三十代男性』の負荷設定にしたわけだが……結果がコレである。

 

 待ち構えていた敵キャラクターの攻撃に対し、プレイヤーは適切な動作を行うことで切り抜けることが出来るのだが……ひ弱な女の子そのものと成り果てたおれの筋力では、その動作さえ行うことが出来ない。

 延々続いた腿上げ運動によって乳酸漬けとなっていたおれの筋肉は、今や鉛に入れ換えられたかのように重く、固い。

 

 

 

「……はっ、……はっ、……はっ、…………これ、難易度……高すぎくない……? 無理じゃない? …………難易度下げていい? わたし十歳ぞ……女の子ぞ……」

 

 

 見事に敗退したリザルト画面を睨み付けながら、フルマラソンを走りきったかのような満身創痍の汗だくで訴える。

 喉を鳴らしてスポーツドリンクを盛大に流し込み、この(勿論悪い意味で)一方的過ぎる惨状を見ていただろう視聴者に判断を委ねるが……ひたすらに調子に乗って(イキり散らして)いた導入部分のせいか、はたまた苦痛に喘ぐ美少女を堪能したいからなのか……寄せられるコメントの八割程は『そのままで頑張れ』との無慈悲なる指示。

 おれの訴えは聞き入れられることは無く、引き続き三十代男性向けのトレーニングメニューを味わう羽目になった。

 

 

 だが……比喩じゃなく生きるか死ぬかの瀬戸際を味わっているおれとは異なり、視聴者にとってみれば良い()が録れているのではないかと、我ながら思っている。

 

 何しろ――中身は一旦置いておくとして――演者は三十代男性ではなく、見た目十歳そこらの美少女エルフなのだ。

 実際として……過酷な運動によって紅潮した肌と滲み出る汗、身体の動きに伴いなびく長い髪は、見ようによってはなかなかに……こう、クるものがあるのでは無いだろうか。

 

 それに加えて、今の服装だ。ジャージや体操服のような運動に適した服装ではなく、相変わらず魔法使いふうのローブを着たまま。汗を吸えば肌に纏わりつき重苦しいし、脚を上げれば捲り上がってしまう。

 さすがにパンツが見えるような事態には(多分)なっていないが……側面に入ったスリットのお陰もあり、ぶっちゃけなかなか際どい位置までチラチラしてる気がする。

 

 白熱するコメント欄を拡張された意識の端で確認し、予想以上の効果にひっそりとほくそ笑みながら……さも気づいていない風を装ったまま『健全なサービス』を提供し続ける。

 

 

 ゲームプレイの技術で沸かせることができない以上、こういう姑息な手段で満足度を高めるしかない。クソザコである以上は仕方ないのだ。

 おれの涙ぐましい頑張りによって、視聴者に喜んで貰うという目的はどうやら達せられているようだが……さすがにそろそろ許してほしい。このままではおれの身体が持たない。ぶっちゃけ既になかなかヤバい。

 

 

 

「ちくしょう! やっ……て、やろうじゃ……ないですか、ええ……! もう一回……つぎこそは、クリアして……見せ、ます、とも……っ!」

 

 

 産まれたての小鹿のようにプルプル震える下半身に鞭打ち、水分補給を済ませて流れる汗をタオルで拭う。

 前半のアカペラ披露のお陰もあり、大してプレイ出来ていないにもかかわらず既に結構良い時間である。そろそろ締めに向かうべきだろう。

 ……逆に言えば、配信まるまる一本分はどう足掻いても体力が持たないことを証明してしまったわけだ。さすがに悲しくなるな。

 

 負荷設定を強め(三十代男性)にしたとはいえ、体力(フィジカル)ザコっぷりは既に遺憾なく発揮され(てしまっ)た。若芽ちゃんのキャラを解りやすく知らしめるには持って来いの企画だっただろう。

 ソフトをダッシュで調達して来てくれた(来やがった)モリアキには、やはり感謝してやらなければならない。ただ次は運動着も買ってこさせよう。畜生あの鬼畜野郎め。お風呂入りたい。

 

 

「も一回(いっかい)……! も一回さっきのステージいきますよ! 今度こそクリアしてやりますとも! エルフの実力見せてやりますよ! 首洗って待ってろよコンチクショーが!!」

 

 

 このままでは引き下がれない……何としてもこいつを倒し、めでたしめでたしで配信を終えるのだ。

 おれは呼吸を整え、気力を充填して、気合いも新たに勝負に臨む。

 

 

 

 一つめのマップの第二ステージ……チュートリアルを兼ねた導入ステージの次の、序盤中の序盤ステージへと。

 

 

 

 



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32【御礼配信】なんでや!!!

 

 

 画面の中のキャラクターが軽やかなステップでコースを駆け抜け、軽快な動きで障害物を飛び越えていく。

 ほんの数分前のクソザコプレイとは打って変わってスムーズな進行に、寄せられるコメントの大半は当然のように疑問符を伴い、あるいは疑問の文字が乱舞していた。

 

 

 

「『難易度変えたの?』いえいえ変えてませんよ。ずーっと画面つけっぱだったじゃないですか。んふふふ……あっ、ジャンプはーい。もいっちょはーい。余裕ですね」

 

 

 ゲームの難易度は三十代男性基準(ハードモード)のまま、代わりのピンチヒッターを用意していたわけでもない。プレイヤーは相変わらず、美少女エルフ魔法使い『木乃・若芽ちゃん』である。

 息も絶え絶えだった先程とはまるで真逆、澄ました顔でステージを進んでいくその様子は違和感でしかなく……物的証拠がないとはいえ、不正を疑われるには充分だっただろう。

 

 ……実際のところ、ちょっと小細工をしているのは確かなので……そこに関しては、指摘されるまでしらばっくれていようとは思っていた。

 

 

「はっはー! どーですか! これが若芽ちゃんの実力ですよ! 容姿端麗、文武両道、出前迅速、光の天使、泣く子も黙る木乃若芽ちゃんのお通りですよー!」

 

 

 さっきとは打って変わって余裕たっぷり、無駄口を叩きながらプレイを続ける様子は……まさに『調子に乗っている』という表現が非常によく合うと思う。

 もちろんこれも演出のひとつであり、コメントの流れがおれの意図している方向に向かいつつあることを認識しながら、満足げな心持ちで()()()()を待つ。

 

 そしてついに、待ちに待った(と言うほど大袈裟なことでもないが)視聴者からのコメントが届きはじめ……それを受けて()()を次の段階へと進行させる。

 

 

 『username:バフ魔法はドーピングでは?』

 『mob-user:変な魔法使ってない???』

 『morikas:リアルチートやめーや!!』

 

「ふォっ!? そ、そ、そ、そんな!? 失礼な、違反じゃありませんよ!? ……ありませんよね!?」

 

 

 目に見えて分かりやすく取り乱して見せ、否定するどころか一部内容を肯定して見せる。

 指摘された通り(というよりは指摘されることを心待ちにしていたのだが)……現在おれはいわゆる『自己強化(バフ)魔法』の(たぐい)を使用した上で、堂々とゲームを進めている。

 持久力(スタミナ)を補填する【体力(アウスダグル)】と、最大筋力に補正を掛ける【筋力(ブライダグル)】……この二つの強化(バフ)魔法を密かに使用することで、やっと常人レベルの(とはいっても相変わらず三十代男性基準(高難度設定)だが)プレイを可能としていたのだ。

 

 状況は再び真逆に変わり、涼しい顔から一転して挙動不審となるプレイヤー……ほんのさっきまでは難なく踏破していた落とし穴に引っ掛かり、障害物に蹴躓(けつまず)き、良好であったスコアはどんどん下がっていく。

 ポンコツスイッチが入った若芽ちゃんは見ていて可哀想になる程に取り乱し、視聴者の取り調べに対して辿々しく抗弁し始める。

 

 

「で、で、でも! 補助魔法使っちゃダメってルールに無いですし! 補助魔法も含めてわたしの実力ですし! 実力を測定するなら使っても問題ないはずですし!」

 

 『randamid:体力測定ゲームなので……』

 『ippanjin:ルールには無いけどさぁ』

 『gaya:リアルチート公言しちゃったかー』

 『morikas:そもそもそういうゲームじゃねぇからこれ!!』

 

「そ、そんな…………」

 

 

 『禁止事項に書かれていないのだから不正ではない!』と訴える若芽ちゃんの持論はしかし……視聴者より寄せられる数多くの至極真っ当な正論により、あっという間に勢いを失っていく。

 この世界、この時代、この国の常識において、『魔法』の使用に関する規約(ルール)など存在しないとはいえ……トレーニングのためのゲームで(ラク)をしようなど、それはさすがに本末転倒なのだろう。

 

 若芽ちゃんには可哀想、かつおれにとっては体力的に非常にしんどいのだが……この一連の流れは正直言って、非常に『おいしい』と思っている。さりげなく誘導コメントを入れてくれたモリアキにも感謝せねば。

 

 

 ……と、いうわけで。

 

 世間の常識と世論の圧力により……若芽ちゃんは自身に掛けられていた強化(バフ)魔法を不承不承(を装い)ながら解除し、引き続きステージに臨む。

 化けの皮を剥がれたエルフの少女は先程に引き続き、その設定され(生まれ)ながらのクソザコフィジカルを遺憾無く発揮していった。

 

 

 

「たすけて…………だめ……やめて、やだ…………まっ、まって、まっ…………あっ」

 

 

 途中の仕掛けを突破するためのノルマを――三十代男性基準(ハードモード)設定のままの筋トレを――制限時間内に達成することが出来ず、必死の命乞いも虚しく最序盤のザコ敵にあっさりと敗北する。

 ゲーム画面の中では『チャレンジ失敗』の文字と共に……いかにもザコ敵といった様相の可愛らしい生物と、その足元で無様に伸されたプレイヤーキャラクターが虚しく映し出されている。

 

 画面の中で倒れ伏すキャラクターを、身をもって操作していたプレイヤー……身体年齢十歳相応なのに調子に乗って三十代男性基準(ハードモード)に挑み、完膚なきまでに玉砕し尽くしたエルフの少女、配信を一手に取り仕切る魔法情報局のやり手の局長様は。

 

 

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……ンっ、はぁっ、はぁっ…………オェッ、ッグんっ、っはぁ……っ、……ごめん、だざ…………ゆるぢで…………ゆるして…………ごべんな、さい…………たすけて……ゆるして…………たすけて……」

 

 

 配信画面の片隅、スタジオ(おれの部屋)の壁に背中を預けてへたり込み……恥も外聞もなくうわ言じみた命乞いをこぼし続けるのだった。

 

 

 

 

 ちなみにその間の視聴者数ならびにコメント数は……前代未聞のものすごい勢いで伸びていった。

 

 



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33【事態究明】かわいいお客さん

 

 ―――ボクの根底に繋がるチカラが……あからさまに儚く、弱々しいものへ変わった。

 

 ―――まさか()()()の……『命』の、危機だとでも。

 

 ―――何故今になって……いや、ことここに至っては理由などどうでも良い。

 

 ―――今はただ……急がねばならない。

 

 

 

 ―――()()()の恩に……酬いるためにも。

 

 ―――心命を賭して……守らねばならない。

 

 

 

 ―――護らねば。恩を返さねば。

 

 ―――今度はボクが……心優しき()()()の、(チカラ)とならねば。

 

 ―――()()()()には。大恩ある()()()の住まう世界には。

 

 

 

 ―――愚かな我らの二の轍を……絶対に踏ませやしない。

 

 

 

 

 

 …………………………

 

 

 

 

 

 …………………………

 

 

 

 

 

 

 配信画面に映し出される、ファンタジックで可愛らしいアイキャッチ……『本日の放送は終了しました』『またみてね!』と記された()()がきちんと表示され、設定したポップで軽快なBGMがちゃんと流れ、マイクおよびカメラからの入力信号が全てオフになっていることをしっかり指差し確認し…………

 

 

 

 「あ゛あ゛――――――――!!!!」

 

 

 おれは仰向け大の字に、火照りきって汗だくとなった身体を投げ出した。

 

 

 精も根も尽き果てた。もう動けない。配信終了まで二本の足で立っていたのがまさに奇跡。

 途中何度かへたり込んだり倒れ込んだりした気もするけど、エンディングはちゃんと二本足でやってのけたから問題ない。若芽ちゃんの設定(プロ技量)のお陰でつつがなく終了したものの、ぶっちゃけ自分でも何を話してどうやって締めたのか覚えていない。

 それほどまでにボロッボロだったということなのだが、取り返しのつかない大失敗を犯すようなヘマはしなかった。とりあえずなんとか無事に終えることが出来たので、それだけで良しとする。

 

 終わりよければ全てヨシ、なんて良い言葉なんだ。

 

 

 

 

 「お疲れ様っす、先輩。……溶けてますね」

 

 「も――――だめだァ――――――」

 

 「いやホント……よく頑張ったと思いますよ、マジで……」

 

 「ア゛――――――――――」

 

 「はよ生き返ってください。十秒チャージいります?」

 

 「い゛る゛――――――――――」

 

 

 

 収録スタジオ(リビングダイニング)の一角に備わるドアが開き、隣室(おれの私室)からひょっこりモリアキが顔を出す。

 床にぐでーっと伸びたおれの醜態に苦笑を浮かべつつも、疲れた身体に良さそうなエネルギーゼリーを差し出してくれた。

 

 おれの身体はまさに今カロリーを欲しているハズであり、しかしながら咀嚼および嚥下するための体力さえ使い果たした今となっては……じゅるじゅると(すす)るだけで摂取できるドリンクゼリーは非常にありがたい。

 それに何より……起き上がる必要がない。寝そべったままでもこぼさずに飲めるというのが、とても良い。

 

 

 「本っ当『疲れ果てた』って感じっすね……」

 

 「……………………」

 

 「あっダメだ。死んでる。……死にながら(すす)ってる」

 

 「…………………………」

 

 「返事する余力も無い、って感じっすね……パンツ見ちゃいますよ? 脚閉じて下さい、はしたない……」

 

 

 冷たい床に大の字で横たわり、喉と頬の筋肉だけを動かして流動食を摂取する。耳から入ってくる信号を頑なにスルーし続けたせいで、モリアキが浮かべる表情が『苦笑』から『呆れ』に変わったような気がするが、だって動けないんだから仕方ない。そもそもおれがこんな目に遭っている直接的な原因は彼なので、本来ならば彼は文句を言える立場ではないのだ。

 

 いや、でも、まぁ……実際のところ、配信が大成功に終わったのも彼のおかげではあるので……だからといっておれがワガママを言える立場じゃないっていうのも、よくよく理解しているつもりだ。

 

 ……難しい。

 恨み言をぶつけるべきなのか、それとも感謝の意を表すべきなのか。

 

 

 「あ…………だめ。これは寝る。このまま寝落ちするやつだこれ」

 

 「ちょちょちょい、風邪引いちゃいますって。ちゃんとお風呂入って着替えて歯ぁ磨いてオフトンに行きなさい」

 

 「やぁだぁ……もうつかれたぁ……わたしもぉうごけないのぉ……もぉらめらのぉぉ」

 

 「可愛(カワ)()ぶらないで下さいただでさえ可愛いんですから!! まったくこの幼女は本当にもう!!」

 

 「おかぁ――――さぁ―――んお風呂いれてェ―――――」

 

 「自分で入りなさい!! あとお母さんじゃありません!!!」

 

 

 

 いや……やはり感謝せずには居られない。彼にはしっかりとはっきりと、礼を述べておくべきだろう。

 今日の配信が大成功を収める切っ掛けを作ってくれたのが彼ならば、配信をやろうと思った理由でもある『歌ってみた』動画の(サムネ)を手掛けてくれたのも彼なのだ。

 いやいや、それだけじゃない。そもそもおれが()()()()()になってしまってから、彼には本当に本当に世話になりっぱなしなのだ。

 

 

 

 

 「…………ごめん、モリアキ」

 

 「え? どうしたんすか唐突に。お漏らしっすか?」

 

 「するぞ? 今のおれならすぐに出るぞ?」

 

 「馬鹿言ってないでおトイレ行きなさい早く! 言い出したのオレっすけど!」

 

 

 こんな馬鹿話が出来る相手だって、今となってはもはや彼しか居ないだろう。

 若芽ちゃんのことをよく知る、それこそ『親』と呼べる立場の人間は彼以外に存在せず、ましてや()()()()()になってしまった()()を以前の()と同等に扱ってくれる、非常に稀有かつありがたい存在なのだ。

 

 ……そんな、かけがえのない恩義を抱く彼に対して……ほんの冗談だったとはいえ『恨み』をぶつけようだなどと。

 まったく。お門違(かどちが)いも甚だしい。

 

 

 「ほんとごめんな……色々と」

 

 「…………先輩」

 

 

 肘をつっぱってゆっくりと上体を起こし、ぺたんと床に座り込む。……本当なら立ち上がって頭を下げるべきなのだろうが、恥ずかしながらまだ下半身が言うことを聞きそうにない。

 

 顔をしかめたおれの内心を読んだわけでは無いだろうが……みっともなく座り込んだおれに目線を会わせるように、彼はわざわざ腰を落としてみせる。

 やれやれとでも言いたげな、苦笑気味に口角の上がった表情から察するに……柄にもなくショゲて見えるおれを見かねて、この期に及んでおれを慰めようとしてくれてるのだろう。

 

 

 ……本当にいいやつだ、こいつは。

 風呂上がり自撮りの一件じゃないが……やはり彼には、()()を支払って(しか)るべきなのかもしれない。

 

 

 

 ()()()()でも支払うことが出来る、()()()()()()()した、とっておきの報酬。

 

 ()()に思い至り、その()()()を切るべきときかもしれないと……柄にもなく表情が引き締まる。

 

 声には出さずとも、おれの考えていることが何となく想像できてしまったのだろうか。

 彼の表情も珍しく真剣なものとなっていき……真顔で見つめ合ったまま、気まずい沈黙が周囲に積もっていく。

 

 

 

 「………な、なぁ、モリアキ」

 

 「な…………何、すか? 先輩」

 

 

 …………いや、待て。

 おかしい。明らかにおかしい。

 

 何故突然こんなことを考えるようになったのか、正直なところよく解らない。普段のおれの思考パターンとは明らかに異なる思考である、という認識はあるのだが……それを違和感と認識することが出来ず、明後日の方向に加速していく思考を宥めることが出来ない。

 

 もしかしなくても、また呪い(設定)のせいなのか。そういえば確かに惚れた腫れたに関する呪い(設定)も幾つか盛り込んだ記憶はあるが、それが何であるのか思い出すことが出来ない。

 

 このままでは……ほんのひと欠片残された『冷静なおれ』さえもが、暴走し濁流のように押し寄せる若芽ちゃんの思考に流されてしまいかねない。

 

 

 

 「………………」

 

 「………………」

 

 

 

 

 

 「お邪魔だった……かな?」

 

 「「ウワァァァァァァ!?!!?」」

 

 「お、おぉ…………元気そうだね?」

 

 

 

 危ういところで一線を越えるところだった、謎な雰囲気に支配されていたおれ(若芽ちゃん)の思考は。

 

 いつの間にかおれとモリアキの間に佇んでいた闖入者の茶々入れにより、なんとか全年齢の域を保つことが出来た。

 

 

 

 「やっと……やっと会えた。……キミが……ボクの」

 

 「え? え? えっ? えっ!?」

 

 「いや、あの、ちょっ、これ」

 

 

 目を見開いたおれたち二人が揃って凝視する、そいつ。

 思わず悲鳴を堪えきれなかった、存在するはずの無かった第三者。

 

 

 

 困ったような……しかしどこか『ほっ』としたような表情を浮かべる……どう見ても()()()()()()彼女。

 

 一目見ただけでもすぐさま判る、人間離れした容姿をもつ彼女。

 

 

 

 その佇まいを一言で言い表すならば…………『妖精』だった。

 

 

 

 ちなみに二言、いや三言で言い表すのならば……『とてもかわいい妖精』、だった。

 

 

 





やっっっと『妖精』タグが仕事しましたわ!!


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34【事態究明】かわいい亡命者

やっっと『妖精』タグが営業開始しました。


【挿絵表示】

表紙のこの子です。
わかめちゃん共々、よろしくお願いします。


 配信や動画内の進行をスムーズに行うため。

 あるいは『ファンタジーな世界の出身』であるということを、より解り易く表現するため。

 あるいは……見目麗しい少女二人の尊い(てぇてぇ)掛け(ジャレ)合いを、存分に堪能していただくため。

 

 等々、理由こそいろいろと繕っていたものの……ボツとまでは行かずとも結局保留となってしまった、とある『若芽ちゃん』の設定が存在する。

 ボツ……もとい、保留の理由こそ幾つかあったが、要するに『おれ一人のキャパシティでは到底有効活用しきれない』という点に集約されていたわけだ。

 

 同胞でありこの計画の同志でもある彼は()()()に立候補してくれていたのだが……いくらなんでも際限無く()()()()させることなんて出来やしない。

 それこそ『若芽ちゃん』の活動が軌道に乗り、収益化の目処が立ち、多忙を極める自営業の某人気神絵師(イラストレーター)氏を雇うにあたって正当な報酬を支払えるようになるまでは『お預け』だろうと……おれはその()()を封印していた。

 

 

 看板娘である『若芽ちゃん』と出身を近しくし、同様に幅広い知識と魔法の技術を使いこなし、愛らしい声と姿を備えるお手伝い(アシスタント)

 

 穢れなき新雪のような白銀の髪と、澄み渡る空のような天色の瞳を持ち、その背には薄っすらと虹色に輝く四枚の(はね)をもつ、手のひらサイズの高位魔法種族……フェアリー種の女の子。

 

 採用自体の保留により性格設定はまだだったが……そんな『ファンタジー』を絵に描いたような、おれにとっては非常に見覚えのある彼女の……そのお名前は。

 

 

 

「し、…………『白谷(しらたに)、さん』……?」

 

「…………うん。そういう名だと認識しているよ。()()()()()、かな? ボクの『恩人』」

 

「ちょ、ちょ、ちょ、あの、あの、あの、…………マジっすか」

 

 

 

 ―――アシスタント妖精『白谷さん』。

 運用コンセプトや採用を保留した経緯は先述の通りの、しかしながらおれが()()()()()()()()()()()()()()()()()()、このおれ(若芽ちゃん)の頼れる相棒役。

 

 

「やっぱり生命力を消耗……衰弱しているようだね。それも相当。……よし、ちょっと待ってて。『我は紡ぐ(メイプライグス)……【回復・特(レザリシュオ)】』」

 

「……? お……おお…………おおおおお!?」

 

「ん……もう平気そうだね。安心すると良い。ボクが来たからには……もう大丈夫だよ」

 

「おぉ…………」

 

 

 

 おれが初めて遭遇した、仲間と言える『魔法使い』であり……

 

 ()()()()()()()()()()から来た……恐らく世界で最初に確認された、生粋の幻想(ファンタジー)的存在だった。

 

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

「………………え? 遊戯(ゲーム)ってその、つまり……娯楽というか、仲間内で楽しむやつ、っていうか……その遊戯(ゲーム)?」

 

「えっと…………はい……」

 

「つまりその…………その遊戯(ゲーム)に夢中になった挙句、生命力が危険域(デッドリー)に達するまでのめり込んだ、と」

 

「う、ぐ………………はい」

 

「端的に聞くとめっちゃアホっすよね」

 

「だって誰も止めてくれなかったじゃん!!」

 

 

 施された特級の回復魔法により、幸いにして体力と気力が満たされたおれの身体は……生命の危機を脱したということなのだろうか、先程のような暴走(桃色)思考は跡形もなく消え去っていた。

 思考力を取り戻した頭で落ち着いて考えてみれば、先の暴走はどうやら『危機から救ってくれた相手に対して惚れっぽ(チョロ)くなる』という……オトメチックかつポンコッツな設定が悪い方向に働いたということらしい。なるほど呪いだ。ていうかあれ生命の危機だったのかよ。

 

 歩けるほどに回復したおれを含めた三人は、安らぎとはほど遠い収録スタジオ(リビングダイニング)を後にし、扉一枚隔てたおれの私室へと場所を移していた。

 ……色々と話したいこともあるし、聞きたいこともあるし。腰を落ち着けて話せる場所に移っておきたかったのだ。

 

 

「……まぁ、でも……だからこそ、『君の命が危機に瀕していた』からこそ、僕は君の場所を知ることが出来たわけだ。……その点には、感謝しないといけないのかもしれないね」

 

「あの、ひとつ良いっすか? えっと…………白谷、さん?」

 

「ははっ。……呼びにくいかな? ()()()()ではよく有る人名……というか姓、という認識なのだけど?」

 

「えっと……ご、ゴメン……そもそも仮称だったっていうか…………()()()()()になるならもっと可愛い名前にすべきだったっていうか……」

 

「そうなんすよね…………まあ良いや、そこは取り敢えず置いといて」

 

 

 そこで一旦言葉を切り、それどころか姿勢を直し、改まった様子でモリアキは切り出す。

 他ならぬおれ自身も気になっていた、そのことに関して。正座したおれたち二人の前で悠然と脚を組み、虹色の燐光を振り撒きながらふわふわと漂う、どこからどう見ても幻想的きわまりない彼女に対して。

 

 

「……実際のところ、先輩とはどういうご関係なんすか? 相当気に掛けてくれてるみたいっすけど……」

 

「ははっ。……大したことじゃないよ。ただの命の恩人……いや『存在』の恩人、ってところかな?」

 

「「…………えっ?」」

 

「おや……忘れてしまったのかな? ……ひどいなぁ、()()()()()()()をシた相手を忘れてしまうなんて……」

 

「「えっ!!?!?」」

 

 

 神秘的で幻想的な佇まいのまま、いたずらっぽく笑う彼女は……やはり非常に可愛らしく、愛らしい。

 そんな彼女と()()()()()()()()をシたというのなら絶対に忘れるハズがないと思うのだが、しかしながらそういうコトをシた記憶はやっぱりどう頑張っても浮かんでこない。

 畜生なんてこった、どうしてそんな素晴らしい記憶がおれには無いんだ。いったい何があったんだ!!

 

 

「いやぁ、からかい甲斐がある子だねぇ」

 

「からかってたの!!? ひどい!!」

 

「ははっ。ごめんごめん。君があまりにも可愛いものだから……つい、ね」

 

(お前のほうが可愛いよ!!)

 

(ぶっちゃけどっちもクソ可愛いんすよ!!)

 

「悪かった。悪かったって。そうだね、今さらだけど自己紹介といこう。……尤も、今のボクは『白谷さん』以上の何者でもないからね。()()()()()()のボクの……いわば()()()()、ってところかな?」

 

 

 

 内心のおれの葛藤と慟哭を、朗らかな笑みで笑い飛ばし。

 しかし直後……小さな顔をほんの少し物憂げに染め。

 

 幻想世界の住人、おれの附帯設定に引き摺られフェアリー種の女の子と化してしまったその子は……その信じがたい経緯を口にした。

 

 

 

「ボクは……特第三種『勇者』。所属はベルノラーク特歩第一分科、出身はネルヴァロー、年齢は二十と四、性別は男。賜りし識別呼称(タグ)は、【天幻】……【天幻】のニコラ・ニューポート。それが、ボクの名前……()()()()()

 

「勇、っ……!?」「へぁ!?」

 

「ははっ。まぁ尤も……そんな名を名乗っていた人々も、国も、世界さえも…………既に存在しないんだけどね」

 

「「…………は?」」

 

 

 

 

 おれたちには現実味の無さすぎる話、幻想世界からやって来たという『元・勇者』。

 

 彼からもたらされた情報は……神秘が消え失せて久しい世界の住人たるおれたち二人にとって、にわかには受け入れがたいものだった。

 

 

 



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35【事態究明】迫っていた脅威

 

 

「まぁ、かいつまんで説明するとね。ボクの世界……ボクが居た世界は、『魔王』によって滅ぼされたんだ」

 

「「(ほろ)、っ…………」」

 

「『魔王』の策……それによってばら蒔かれた『種』によって人々は狂い、誰も彼もが理性を失い、さんざん破壊と混乱と混沌をばら蒔いた末に…………まぁ、()()()()()()んだ。周囲に被害を拡大させながら、ね」

 

「それ…………治せなかった、の……?」

 

「………………」

 

 

 おれたちの眼前に佇む虹翼の妖精――今は無き世界から、たった一人落ち延びた『勇者』――彼女は困ったような表情を浮かべ、ふるふると顔を横に振る。

 数多の人々が()()()()()()……しかも放置すれば加速度的に被害が拡大する非常事態だったのだ。当然()()は被害を食い止めようと、あらゆる手段を尽くしたのだろう。

 

 

 だが……その結果はといえば。

 

 かの世界の『勇者』であった彼が、()の世界を救うことが出来ず……おれのオマケなんかに成り下がり、()()となってここに居る、ということは。

 

 

「あ、あのときの…………夢? で聞こえた『助けてほしい』って……」

 

「……思い出してくれたかい? いやぁ、『魔王』を追って世界の壁を越えたは良いんだけど……この世界の大気は異常なほどに魔素(イーサ)が稀薄でね。前の……『ニコラ』の身体が適応できなかった上に、魔法も使えず傷も塞げず、危うく死に掛けちゃって……ね」

 

「そんな大変な状況だったの……って!?」

 

「あの!? ちょっとあの……今!?」

 

 

 可愛らしく舌をペロッっと出して、テヘッとでも言わんばかりの表情で恥じらう彼女。その様子は非常に可愛らしく、彼女が『死に掛けた』という点で大いに驚愕を禁じ得なかったのだが……

 

 今なにか、なにか聞き捨てならない発言が聞こえた気がする。

 

 

「もしかして、その……白谷さ、えっと…………ニコラ、さん……?」

 

「ははっ。『白谷さん』で良いよ。以前のボクはもう……影も形も存在しない。キミの存在の()()()()(あずか)っているに過ぎない」

 

「えっと……うん。…………それで、もしかしてなんだけど……その、白谷さんの世界を滅ぼしたっていう『魔王』が」

 

「うん。…………()()()()よ。この世界に」

 

「「………………」」

 

 

 

 別の世界にて多くの人々を……その、()()()()()()、最終的にはその世界を滅ぼしたという『魔王』。

 

 そいつが……この世界に、居る。

 

 

 …………それは。

 

 この、タイミングは。……まさか。

 

 

 

「あいつの仕業だろうね。人族(ヒト)の秘めたる欲望・本性を具現具象化する『種』……宿主の望みを叶えるための奇跡を起こし、肥大化させた宿主の感情を糧に成長し、それに伴い宿主に更なる『奇跡の力』を授けると共に理性を崩し……ゆくゆくは、己の欲望を満たすことしか考えられない魔物(マモノ)へと変貌させる。……それを、ばら蒔いたのだろう」

 

「ひっ…………」

 

「ちょ、ちょっ……!? 先輩! し、白谷さん! 何か対処、方法……対処方法は! 何か無いんすか!?」

 

「寄生されたらもう止められない。この次元とは位相を別とする『種』には、物理的に干渉することが出来ない。……魔法で『種』と、そこから伸びる『根』そのものを消し飛ばすことしか……宿主ごと滅ぼすしか、止める手立ては無い。…………()()()()()

 

「は…………だっ、た?」

 

 

 

 にわかに変わった彼女……白谷さんの声色に、固まりつつあった思考が動き始める。

 どう考えても絶望的、()()したらまず助からないようにしか思えなかった、謎の奇跡。我が身に起こった非現実的な出来事と、その結末を暗示されて戦慄していたおれにもたらされた、微かな光明。……それは。

 

 

「ほかでもない、()()()()()だよ」

 

「………………え?」

 

「これでも『勇者』だったからね、ある程度の観察力は備えているつもりだ。……さっきも言ったように、この世界は極めて魔素(イーサ)が……大気も土壌も、生命も含めて希薄なんだ。……『種』の成長も……その影響だろうね、極めて遅い」

 

 

 魔素(イーサ)が薄い、というのは……この世界の人々が、つまりは魔法を扱えないこととほぼイコールなのだろう。

 ニコラ……白谷さんが居た世界は魔素(イーサ)が豊富で、つまりは恐らく多くの人々が魔法を使うことが出来ていた。ファンタジー度が高かったということなのだろう。

 

 

「そこへ来ての、キミだ。ボクがこれまで観てきた人族(ヒト)達……まぁほんの一握りに過ぎないだろうけど、彼らはほとんど魔素(イーサ)を持ち合わせていなかった。……そんな中で()()()()が、有り得ないほどに膨大な魔素(イーサ)を備えている」

 

「でも……それは、つまり『種』が」

 

()()なんだけどね。確かに『種』は、宿主の望みを叶える奇跡を起こすんだけど……キミの身体には、さっぱり見当たらないんだよ。『種』」

 

「……え? でもそれ……おかしいんじゃ」

 

「そう。おかしいんだ。この世界のヒトがこんなに非常識な……それこそボクのいた世界でも稀に見るほどの魔素(イーサ)を備えているのは、明らかにおかしい。どう考えても『種』の影響を受けていることは間違いないんだ。……なのに、『種』が見当たらない」

 

「…………つま、り……おれ、しなない?」

 

「『種』の悪影響に起因する死亡の心配は……無さそうだね。理由は謎だけど、とりあえず安心して良さそうだ」

 

「……!! …………よかっ、たぁ!!」

 

 

 

 感染者に異能を授ける代わりに、培地と化した存在の理性と人間性、最終的に命をも奪う『種』。

 その末恐ろしさを改めて実感すると共に……少なくとも自分の身体は()()()()()を孕んでいないことを知り、とりあえずはほっとひと安心することができた。

 

 

 しかしながら……状況が謎であることは変わりない。

 白谷さんことニコラさんの持っていた知識のお陰で事態の全貌が少しずつ見えてきた気もするのだが……おれの身体がこうなってしまった由来、そしておれの身体に『種』が根を張っていない理由が解らない。

 これに関してばかりは、頼みの綱である白谷さんも『解らない』という。

 

 安堵半分、不安半分なおれの心境。

 雨こそ降らないまでも曇り空の広がるおれの心、その分厚い雲を祓ってくれたのは……

 

 

 

「あの、多分なんすけど……先輩の身体の件、オレなんとなく解った気がします」

 

「「……えっ?」」

 

 

 

 おれが全幅の信頼を寄せる『(モリアキ)』だった。

 

 

 



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36【事態究明】理解は幸せ

 異世界の『勇者』、ニコラさんがもたらした情報を整理すると……まず、この世界は魔素(イーサ)というものが(少なくとも現代においては)極めて薄い。

 そのためおれたちがこれまで常識として(わきま)えていたように、『魔法』なるものはこの世界では存在していなかった。

 

 だがしかし……そんな環境であっても『魔法』等の異能を存在させる()()とでも言うべきものが、くだんの『種』の存在であるという。

 いわく『魔王』の策によってバラ蒔かれた、この世界にありながら位相を別とする『種』。存在はするが触れることが出来ず、普通の人間には見ることはおろか感付くことさえ不可能だという。

 人間の黒い感情……特にひときわ深い『絶望』に反応する()()()()し、根を張られれば……『種』は培地と化した人間に願いを叶えさせようと()()()()()()()()()し始める。

 

 その過程において、感染者の願望を叶えやすい能力を……『魔法』を始めとする異能を授けることもあるという。

 

 

 この部分だけを切り取って見てみれば――『深い絶望の感情に反応して発芽・寄生する』という不穏な一点を除けば――人々の可能性を拡げる、それこそ福音のようにも感じられる。……だが。

 

 その『種』はあくまで自分本意な存在であり……全ては自分が成長し『苗』となり、最終的には『花』をつけて『実』を成し『種』を飛ばすためである……という。

 

 

 『種』が育つためには、水と養分が必要不可欠だ。……ここは異世界でも同じことらしい。

 そしてこの『種』が、ただの植物のそれとは特徴を大きく異とするように……この『種』が求めるものもまた、ただの水や養分である筈がない。

 

 

 ……このあたりの説明を受けた時点で、おれはなんとなく予想がついた。

 奇しくもつい先日……自分と同様、この世界に出現した『魔法使い』のひとり――理不尽な悪意と不幸な事件に巻き込まれ、全ての幸せを喪った男――彼がその願望(復讐)を叶えるため、その身を削りながら魔法を行使していたところを目にしていたのだ。

 

 そしてそれはどうやら正解だったらしく……つまりは『種』に根を張られた恩恵である異能を行使すればするほど、いわゆる『魔力』を捻出するために生命力を切り崩し……宿主の身体は蝕まれていくという。

 さらにタチの悪いことに、人間に寄生した『種』は効率良く養分(魔力)吸収する(消費させる)ため、魔力消費に高揚感を与えると共に理性を融かしていくという――つまりは魔力を消費すればするほど気持ち良くなっていき、おまけに冷静な思考をも失っていくという――危険な(マのつく)(ヤク)もドン引きするほどに悪辣な性質を秘めているという。

 

 

 ほんの一時(いっとき)は、魔法を行使できる全能感に満たされるかもしれない。

 

 だが……旨味を覚えてしまった生物は、その誘惑から逃れることなど出来やしない。ましてや理性を融かされていくとあっては尚のこと……意思の疎通が不可能な『獣』に成り果てるのは、時間の問題だろう。

 

 

 

 

 …………さて。

 

 人智を越えた異能……『魔法』に類する力を授ける代わりに、いずれはその身を喰らい尽くす悪意の『種』。

 

 それによる改竄の影響を受けていながら……先述のデメリットを抱えていない、規格外の存在。

 

 

 それが……何を隠そう、()()こと木乃若芽ちゃんなのである。

 

 

 

「……ボクは聞いたことがないよ。あの悪趣味な『種』を喰らいながら、ここまで人間性を保っていられるだなんて」

 

「いやー、その……オレも正直解ってないことの方が多いっすけど、それでも結構説得力ある仮説が立ったんすよ」

 

 

 おれ同様にニコラさんの情報開示を受けていながら、おれとは別の視点から現状を把握しようとしていた烏森は……なにやら勿体ぶったような、しかし珍しく真面目な表情で『先輩の身体の件、なんとなく解った気がする』などと切り出した。

 とにもかくにも、おれは自分の身に起こった事態を正確に把握したいのだ。たとえ仮説であろうとも当然気になるし、実際おれが手がかりを見落としていただけかもしれない。……とにかく些細なことでも教えてほしい。

 

 

「仮説でも何でも良いから教えてくれ、頼む! 正直このままじゃおれがおれ自身に安心できない!」

 

「えっ!? 今なんでもするって言いました!?」

 

「言ってねぇけどおっぱい揉ませてやるから早く!!」

 

「ははは揉むほど無いじゃな」

 

「【氷槍(アイザーフ)】【待機(ウェルト)】」

 

「ホントスンマセン許してください何でもしますから」

 

「早く言え」

 

「イェスマム」

 

「滅茶苦茶使いこなしてるね……」

 

 

 どこからともなく出現した氷の槍を突きつけられ、烏森はにやにや顔を即座に引っ込める。……若芽ちゃんが()()()()()()のはおれもよく知ってるし、そもそも服の上からでも一目瞭然なのだが……いまのは何故か非常にカチンときた。

 

 感心したような呆れたような、複雑な声色のニコラさんのつぶやきを聞き流しつつ……おれは烏森へと無言の圧力を送り、続きを促す。

 

 

 

「ええっと……確認なんすけど、まず『種』が絶望したヒトに取り憑くじゃないっすか。そのヒトの望みを叶えるために根っこ伸ばして魔改造するんすよね? そのヒトの望みを叶えるために……魔法とか使えるように」

 

「うん。そうだね、その認識で良いよ」

 

「魔改造、って…………」

 

「続けますよ。根っこ張られて魔改造されたヒトが魔法とか使うと、生命力を削られたり理性を溶かされたりするんすよね。順番的には『種』による存在改竄が先で、デメリットは要するに魔力を使わなければ発生しない……」

 

「……そう、だね。存在を改竄されても最初の一歩目を踏み出さなければ……踏みとどまって時間を稼ぐこと自体は、可能なんだ。……ただし、あくまで『時間稼ぎ』にしかならない。『種』が存在して根を張っている以上、少しずつとはいえ吸われ続ける。……止められないんだ」

 

「…………仮に。仮にっすよ、ニコラさん。……仮に、存在を改編された直後に……何らかの形で『種』が消えれば」

 

「……っ!! …………キノワちゃん、だったかな」

 

 

 

 可愛らしい小さな身体が、淡い虹色の燐光を散らしながらこちらへ向き直る。

 澄んだ青空色の相貌が真剣な光を湛え、真正面からじっとこちらを見つめている。

 

 

 いや、キノワちゃんじゃなくてキノないしワカメちゃんなんだけど……などと口を挟む余地が無さそうなくらいには、真剣そのものの表情を湛えて。

 

 異世界の知識を持つフェアリーの少女、元勇者ニコラ・ニューポートさんは、やがて意を決したようにその小さな口を開き……その問いを発した。

 

 

 

「キミは…………何を『種』に食われた? 一体キミは、()()()()()?」

 

「え? え、と……えっと………………()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……って」

 

「………………そういう、ことか」

 

「え? 何、どういうこと?」

 

「あの、ニコラさん……その『種』が根を張るのがヒトの身体である以上、根を張ったらその『種』はもう動けなくなりますよね」

 

「ああ! そうだろうね……そういうことか! ははっ! ()()()()、か! …………そういうことか!」

 

「え? なになになに待って待って待って」

 

 

 なにやら合点がいった様子で、互いに頷きあっている二人……神絵師モリアキと元勇者ニコラさん。二人はどうやら原因というか真相にたどり着きつつあるようで、それは喜ばしくはあるものの正直ちょっと待ってほしいしもう少しわかりやすく説明してほしい!

 

 当事者であるおれ一人だけ置いてけぼりなのは、ちょっとおもしろくない。

 

 

 そんな思いが通じたのだろうか。……いやそうではなく、どうやら顔に出ていたらしい。烏森がおれの顔を見て苦笑いを浮かべている。ひとの顔を見て笑うなんてひどい。

 

 

 ともあれ……おれが説明を欲していることは、幸いにして伝わったらしい。

 白谷(ニコラ)さんはおれと再び視線を合わせ、神妙な面持ちでひとつ頷き……

 

 

 

「キノワちゃん、……落ち着いて、聞いてほしい」

 

 

 そんな改まった前置きと共に。

 

 

 

 

「キミは…………()()()()は、恐らくもう()()()()()()()。……『種』に感染した前のキミの身体は、()()()()と存在が()()()()()()()()()んだ」

 

「………………………………ぇ?」

 

 

 

「恐らくだが…………キミは、もう二度と、以前の身体には戻れない」

 

 

 ほんの数日前、おれの身体に起こった経緯が――仮説にして、恐らく事実が――あっさりと告げられた。

 

 

 



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37【事態究明】目を瞑れるわけがない ◇

 異界からの来訪者ニコラさんと、おれの身体(若芽ちゃん)の産みの親である神絵師モリアキ……おれに近しいながらもおれではない、第三者の視点からの考察の末に導き出された……極めて正解に近いであろう、推測。

 

 それは――奇しくも最初にモリアキに言われた通り――()()()()()()()()()()()()()、ということらしい。

 

 

 

 あの日、あのとき。ニコラさん曰くの『魔王』が、世界の壁を抉じ開けて()()()()に降り立った……あの運命の金曜日。

 『魔王』による次元跳躍の副作用によって一帯の電場や磁場が荒れ狂い、恐らくはそれによって命よりも大切な(データ)が消滅し、おれが絶望のドン底に叩き落とされた……あの大嵐の日。

 

 おれは……いや、以前の()の身体は、恐らくそのとき『種』に寄生されたのだろう。

 

 

 絶望の淵に佇む俺の、心のそこからの強い願いに反応し……『種』はその本能に従って、俺の身体を改竄し始めた。

 

 

 俺の身体の存在()()を代償として、()()()()()()()()()()()()()()()ために。

 俺が思い描いていた『木乃若芽ちゃん』を、俺の身体の代わりに具現化させるために。

 

 

 だが……ここで『種』にとっては想定外だったであろう事態、ニコラさんやおれ達にとっては予想外の幸運が生じる。

 寄生されれば異能の行使と共に身体は蝕まれ、人間性を喪失するという『種』……しかしそれ()()()()は、思考する力を備えている訳では無い。

 根を張り寄生していた人間の願いのままに……新たに作り出された身体の()()()()この世から消滅する見込みであったとしても、ひと度根を張った身体から離れることは出来ない。

 

 結果として……『種』に寄生された()の願いによって()()の身体が作り替えられ、その最中に俺の身体ごと『種』はこの世から消滅し……その末に残ったものが、『種』に由来するものではない天性の魔力(イーサ)を備えた――練りに練って詰めに詰め込んだ多種多様な設定がそのまま()()された――新人仮想配信者(UR―キャスター)『木乃若芽ちゃん』の身体だった。

 …………ということらしい。

 

 

 

 

 

「ボクの居た世界でも、あの『種』に頼らず魔力(イーサ)を操れる人々は居たんだ。……この世界には居るはずがないと思っていたけど……この仮説が正しいのならば、キミが『種』に侵されずに魔法を紡げるのも納得できる」

 

「…………つまりは今後も先輩が魔法を使っても、先輩の身に何か良くないことは起こらない……ってことっすよね?」

 

「あくまで仮説の域を出ないけど、ね。まぁでも……これまで何ともなかったなら、この仮説も信憑性が高いと思う。……大丈夫だと思うよ」

 

「良かっ、た…………良かったっすね先輩! …………先輩?」

 

「あ? ……あぁ、ごめん。……そうだな」

 

「先輩……? ……パンツのサイズやっぱり合いませんでした?」

 

「あぁ…………そうだな」

 

「………………若芽ちゃんの発禁(R-18)絵描いて良いっすか?」

 

「…………そうだな」

 

「………………」

 

 

 

 

 おれの身体がこうなった理屈は、なんとなく理解できた。

 

 おれの身から『種』の脅威が取り除かれていることも、なんとなく理解できた。

 

 勿論、『木乃若芽ちゃん』はおれにとって……非常に大切な存在()だ。この身体が嫌いかと言われれば別にそんなことは無いし、単純にこの身体の高性能っぷりは仮想配信者(ユアキャス)計画を進めるにあたって非常に有用だろう。

 

 

 ……だが。

 

 元に戻れる可能性が完全に潰えた、という事実を突きつけられて…………それにここまで打ちひしがれるとは、正直思ってもみなかった。

 

 

 

「おれは……『若芽ちゃん』になる前の()は…………()()()のか」

 

「っ、…………先輩」

 

「……そうだね。何を(もっ)て『死亡』と見なすかは、クツカの学者達でも判断が分かれるところだろうけど……少なくとも『もう存在しない』という一点においては、間違いないだろう」

 

「……そっか。はは……死んじゃったか」

 

「…………」「先輩……」

 

「いや……確かに死のうとは思ってたけどさ? 実際にもう、前みたい、には……戻れなくっ、なった……って……っ、思っちゃっ、たら…………さ」

 

 

 

 柄にもなく言葉を詰まらせ……情けなくも視界が滲み、目尻が熱を帯び始める。

 

 暗いものに覆われそうになってきた、人間年齢換算ではまだまだ幼い女の子となってしまったおれの心は……その歪な出生を認識したことで、無様に軋みを上げようとする。

 

 

 

 恐怖に、混乱に、不安に……良くない感情に今にも塗りつぶされそうな、おれの心。

 

 

 ふと唐突に……そこに暖かな光が射したように感じた。

 

 

 

「…………え?」

 

「……すまない、ノワ」

 

 

 

 声のする方へと視線を向け、滲む視界を手で拭うと……虹色の燐光を散らす小さな少女が、おれの胸元にすり寄っていた。

 

 彼女が何かしらの……精神を落ち着ける魔法を使っているのかは解らないが……冷たく凍えきったおれの心がじわじわと暖められていくような、そんな不思議な――けれど決して不快ではない――なんとも言いがたいこそばゆい感覚が広がっていく。

 

 

 

「今のボクでは……キミを慰めることも、抱き締めることも出来ない。キミの心を満たすことも、安らぎを与えることも……今のボクには満足に出来ないかもしれない。……でも」

 

 

 ひらりと舞い上がり、おれの目の前に。視線の高さを合わせ。

 手のひらサイズの『元・勇者』は……びっくりするほど優しげに微笑んだ。

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

「あの『魔王』を捕り逃し、この世界を巻き込んだ者の責任として。キミを悲しませた者の責任として。……ボクの全てをキミに捧げよう」

 

「…………………ふぁ!?」

 

「ボクはこれより……キミの絶対の味方となろう。キミの望みとあらば、何だってこなしてみせよう。キミがボクに『死ね』と望むならば……全てが終わった暁には、キミの望むままに喜んで命を絶とう。…………だから」

 

 

 見るもの全てを包み込むような、優しげな視線から一転。

 幼げな表情を引き締め、愛らしくも深刻な顔で……彼女は懇願する。

 

 

 

「頼む、ノワ。顔を上げて……前を向いて。……そして……情けないボクに、どうかキミの力を貸してくれ。この世界に、この国に、()()の道を歩ませないために」

 

(ほろ)っ……!?」

 

「今このとき。この世界において。……あの『種』に抗えるのは……恐らく、キミだけだ」

 

 

 

 女の子になったかと思えば……今度はいきなり『世界を救え』などと。ファンタジー小説のほうが、幾分か解りやすい展開だろう。以前のおれであったなら、一も二もなくお引き取り願っていただろう。

 

 

 だが……()()()は。デビューしたての新人仮想配信者、心優しいエルフの少女は。

 数多の人々の不幸を、危機を、悲劇を……黙って見ていることなんて出来やしない。

 

 

 ……やるしかない。

 おれにしか出来ないというのなら……おれがやるしかない。

 

 

 

「……やるよ。おれにできることなら」

 

「………………ありがとう」

 

 

 仮想配信者(UR―キャスター)と、この世界を滅びの運命から救う『勇者』。

 

 非常識きわまりないダブルワークが、人知れず決定した瞬間だった。

 

 




雲耀昇 様より挿絵を頂きました!
この場をお借りしまして、重ねてお礼申し上げます!


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38【状況開始】お買い物事件(大げさ)

 

 おれの心強い相棒(パートナー)、フェアリーの白谷さんとの出会いと、それに端を発する衝撃的な出来事を経た……その翌日。

 

 月曜日ともあって世間は慌ただしい朝を迎え、しかし通勤・通学のピークを少し過ぎた現在。出歩く人も出掛ける人も、この時間帯にはもうほとんど見かけない。

 おれの暮らす浪越(なみこ)市南区は、それほど人に満ち溢れているわけではない。中央区や栄衛(さかえ)区や浪駅(ローエキ)のほうは百貨店やらオフィスビルやらが建ち並び、平日の真っ昼間でも多くの人々でごった返しているが……このあたりはどちらかというと住宅地だ。

 

 人々が会社や学校に流れていった今の時間……開店直後を狙って突撃を仕掛けたスーパーマーケットは、狙い通り買い物客はほとんど見られない。

 

 

 

「えっと……精肉コーナー、精肉コーナー……コロッケうまそうだなぁ」

 

『………………いや、凄いね。画期的だ』

 

「んえ? 何が?」

 

『この店舗だよ。一つの店舗で青果から食肉から穀物から……果ては雑貨まで。(およ)そ食材が何でも揃うんだろう? ……凄いよ、これは』

 

「何でも……まぁ、そうだね。不自由しない分には選べると思う。……けど…………これ、本当に大丈夫なの?」

 

 

 

 無線接続式(bluetooth)の片耳ヘッドセット――を目眩ましに、すぐ傍らで姿を消して追従する白谷さん――へ向け、若干声量を落としてヒソヒソと問いかける。

 魂の繋がったおれにしか姿を認識させず、また同様におれにしか聞こえない声で語り掛けながら、自らに隠蔽魔法を掛けたフェアリーの女の子は悠々と周囲を観察している。

 

 そうこうしている間にも、数少ないおれ以外の買い物客の視線がおれを捉え――独り言をつぶやく不審な子どもかと思ったらヘッドセットで通話中だった、というふうに認識したのだろう――納得した様子で一度は外された視線が再度、今度は驚愕を伴って再び向けられる。

 

 顔を向けずとも()()()()をしっかりちゃっかりと把握し、明らかに普通ではない他者の反応に不安を拭いきれず……やたらと自信満々に『大丈夫だよ』を連呼していた白谷さんへ、辛抱たまらず問い掛ける。

 

 

『まったく……心配性だね、ノワは。そんな不安げな表情もまた可愛いんだけどね』

 

「いや割とガチで不安なので……だってほら、後ろのおばちゃんめっちゃ見てるよ? 本当に大丈夫? ちゃんと魔法掛かってる?」

 

『大丈夫だよ。今はこんなナリだけど、魔法の腕は変わらない。【天幻】の名は伊達じゃないさ。幻想魔法と空間魔法はお手のものだよ』

 

「いやその『天幻』が何なのかは、おれにはよく解んないけど……じゃああのおばちゃんの反応は何? ちゃんと()()()()()してくれたんでしょ?」

 

『そりゃあだって…………こんな非現実的に可愛い女の子が全く似合わない男物のコート着て買い物してれば』

 

「どう見ても不審人物だね!! 本当にありがとうございました!! チクショウ服届いてからにすりゃあ良かった!!」

 

『何いきなり逆ギレしてるのさ。おばちゃんビックリしてるじゃん』

 

 

 

 

 

 ―――昨晩。

 

 結局のところおれは、『この世界を滅亡の危機から救う』という重要任務を引き受けることに決めた。

 

 まず第一に、この世界が滅ぶとあってはさすがに他人事じゃ居られないこと。

 第二に、対処できる手段を持つ人物が(おそらく)おれしか居ないということ。

 そして第三に……この身体の本能(若芽ちゃんの設定)が、どうやら極めて積極的だということ。

 

 以上の理由に突き動かされ、おれは世界救済のために動くことを決めた。かといって具体的にどうすれば良いのか、正直いまいちピンと来なかったのだが……そんなおれの葛藤はしかし、白谷さんの一声でキレイさっぱり霧消することとなった。

 

 

『ノワの仕事は『人々を楽しませること』なんだろう? なら()()を続け、もっと研鑽してくれれば、とりあえずそれで良い。……勿論、ボクも手伝おう。そのためにボクは存在するんだからね』

 

 

 何でも……くだんの『種』が発芽する切っ掛けとなるのは、それこそ自らを殺し得るほどの『絶望』の感情。

 それを纏った人間に、別位相に姿を隠した『種』が接触することで発芽し、その宿主を喰い荒らし始める。

 

 その『発芽した種』をどうにかするのも当然なのだが……つまりは、人々に深い絶望の感情を抱かせなければ良い。生きていることの楽しみを見つけさせ、ほんの小さな期待を抱かせ、来週を楽しみに生を繋ぐ気を沸かせれば良い。……ということらしい。

 

 

 要するに…………おれが動画配信者(キャスター)として人々を楽しませれば楽しませるほど、『種』の発芽条件である『絶望』は鳴りを潜めるはずであり――仮に『種』が発芽したとしても、その生育規模はたかが知れており――つまりは『種』の被害も減らせるはずだという。

 

 たとえおれが非常識な魔力を備えていて、『種』によって狂わされた者を打倒しうる力を持っているとしても……危険は避けるに越したことはないし、余計な労力を費やさずに済むならそれがいい。

 

 

 そんなこんなで、おれはこの世界を救うためにも、次なる動画を作らなければならないのだ。

 

 

 

 

 

「次なる動画……それは他でもない。お料理動画だ!」

 

『…………いや、いきなりどうしたのさ? 現実逃避?』

 

「ちがうよ。状況確認だよ。……あと他に要るものある?」

 

『んー……ウサギ肉はトリ肉で代用するとして……『リズの種』って聞いたことある?』

 

「えっ、無い。……種食べるの? アーモンドとかそういう感じ?」

 

『食べるというよりは、下ごしらえかな。細かく挽いて肉にすり込むんだ。ウサギ肉は処理が下手だと臭みが出易いからね……挽いたリズの風味で誤魔化すというか。別に無くても良いんだけど、ピリッと痺れるような刺激がまたクセになるんだ』

 

「あーー…………黒胡椒かな? 確かウチにあったような……いいやミルつきの買っちゃえ」

 

 

 白谷さんからもたらされた情報をもとにアタリをつけ、黒胡椒の実が詰まった小瓶をカゴに放り込む。キャップ部分に小型の挽臼(ミル)が備わったこれならば、黒胡椒の風味を存分に楽しめる上……ガリガリやればなんというか、動画映えしそうである。

 

 ともあれ、これで材料は一通り揃ったらしい。オマケに紙パックのいちごオレを二つとコロッケ二つをカゴに投げ込み、鼻唄を響かせながらレジへと向かう。

 来客の少ないこの時間、レジはどうやらひとつしか稼働しておらず、その唯一のレジを任されているおばちゃんは…………あっれ、何故かこちらをガン見していますね。

 

 

「ねぇ、白谷さん……本っっ当に()()()()()効いてるんだよね? おれ変じゃないよね?」

 

『それは勿論。どこからどう見ても人族(ヒト)の美少女にしか見えないよ』

 

「本当の本当? おかしいとこ無い?」

 

『本当本当。ちゃーんと()()()()()も掛かっているし、耳だって……まぁ触れられれば気付くだろうけど、眺める分には人族(ヒト)そのものだ。どこからどう見ても人族(ヒト)の女の子……()()()()()()()()()()()()()()()()が印象的な美少女』

 

「それだァ――――――――――!!!!」

 

 

 

 どうやら……白谷(ニコラ)さんの世界には、緑髪翠眼は珍しく無かったらしい。

 『他人に見られて変じゃないように、この長い耳とか()()()()()隠して……エルフってバレないようにしたい』というおれの願いを聞き届け、エルフ隠しの魔法を掛けて()()()()()()()()()くれた白谷さん。

 

 この国ではほとんどの人々が黒髪黒眼であり、そも外国であっても緑髪はほぼ存在しない、ということを知らなかった白谷(ニコラ)さんにとっては……おれの髪色と瞳の色は、別に隠す程()なものでは無いという認識だったらしい。

 

 

 

 気づいたときには、とき既に遅し。

 

 何事も確認と、認識の共有は重要であると……おれは改めて実感したのだった。

 

 

 

 レジのおばちゃんに話し掛けられたときは『かつらです』って言い張って突破した。恥ずかしい。

 もう顔真っ赤だよ。おばちゃんが何か暖かい視線で見てた。めっちゃ恥ずかしい。

 

 

 



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39【状況開始】危うく手遅れになるかと

 

「もおおおおお!! そりゃおばちゃんだってビビるって! いくら国際色豊かになったからって! 緑髪はそうそう居ないもの!!」

 

「いやー……すまない。こればっかりはボクの落ち度だ」

 

『でもエルフバレはしなかったんでしょ? なら良いじゃないっすか。先輩どっちみち目立ちますよ、あり得んほど可愛いですし』

 

「じゃあ顔ごと隠蔽してもらえば」

 

「『それは駄目だよ(っす)』」

 

「なんでよ!! もおおおお!!」

 

 

 なんとか無事に買い物を済ませ、おれはフードを目深に被りながら自宅へ逃げ込んだ。

 愛機(PC)を立ち上げて音声通話ソフトを起動し、同志烏森へとことの顛末を愚痴ったところ……返ってきたのはあっけらかんとした彼の声。

 おれの容姿の露見が危ないところだった点も笑って流していたし、『ならいっそ顔ごと平凡な感じに』という提案には白谷さんと二人して即却下の流れだ。

 

 おれがこの……非常に目立つ若芽ちゃんの容姿でさんざん悩んでいるというのに、この仕打ちはあまりにもひどいのではないだろうか。

 

 

「あー不貞腐れちゃった。どうしよう、ムスッとした顔も凄く可愛いよモリアキ氏」

 

『ぅえ!? マジっすか……畜生オレも見たかった…………先輩また今度ムスッとして貰えます?』

 

「理不尽な要求だな!! ……まぁ、仕事がんばれよ」

 

『まーかせて下さい! 若芽ちゃんのためにも速攻(ソッコー)終わらせます!』

 

 

 

 昨晩の情報開示の後。

 そのままおれの家に住むことになった白谷(ニコラ)さんとは異なり、烏森(かすもり)は自宅へと帰ってしまった。

 帰り際はとても名残惜しそうにしていたが……それでもまずは現在抱えている仕事を優先すると決めたらしい。

 

 なんでも『納期が迫りつつある案件、先に片付けちまいたいんすよ』とのこと。

 締切までまだ若干余裕はあるが、それを巻きで納めてオッケーを貰い、憂い無く『若芽ちゃん』に密着しよう……という企てらしい。

 

 おれとしては非常に嬉しいのだが……彼の()()の機会を奪ってしまっているようで、なんだか少しだけいたたまれない。

 

 ……と、まぁそれは別にいい。神絵師との呼び声高いモリアキのことだ、いい感じに片付けてくれることだろう。べつにそれはいい。問題はこっちだ。

 

 

 

『でもでもですよ。耳はさすがに危ないっすけど、それ以外……髪とか目とかは、少しずつバラしてっても良いと思うんすよ』

 

「なんで? 白谷さんに頼んで髪とか眼とか色変えてもらって誤魔化すんじゃダメなの?」

 

『いやー、多分なんすけど……先輩、フェイスカメラ出せます?』

 

「んん? ちょい待って……………ん、出た……と思う。おお映った」

 

『おーオッケーっす。白谷さんもこんにちわ、昨夜ぶりっす。バッチリ映ってますね』

 

「おお……声だけでなく姿も飛ばせるとは。……凄いね、これ」

 

 

 画面を覗き込み、そこに映し出されるモリアキの顔を眺め、しきりに感嘆の声を漏らす白谷さん。その様子を微笑ましく感じながらも、おれは肝心なところをまだ聞き出していなかったことに思い至る。

 白谷さんに隠蔽魔法を掛けてもらうことと、回線越しの映像通話。この二つの間に、いったい何の関係があるというのだろうか。

 

 

『実験というか、ですね……白谷さん、ちょーっとばかしお願いが。先輩に隠蔽魔法掛けてみて貰えますか? とりあえず髪色変えてみる感じで。割とガチなやつ』

 

「? …………まぁ、良いけど……ノワの髪色を誤魔化せば良いわけだね? 我は紡ぐ(メイプライグス)……【幻惑(ハルツィナシオ)】」

 

「お……おお?? …………掛かった?」

 

「掛かった掛かった。まぁ幻惑を纏ってる本人は変化無いだろうけど」

 

『……なるほど、今魔法掛かってるわけっすね。やっぱダメみたいす』

 

「「えっ!?」」

 

 

 魔法を施された張本人であるおれ自身は、誤魔化された自分の容姿を認識できないものの……今は白谷さんの手によって、おれの髪色を変える感じの幻惑魔法が施されているらしい。

 

 本人いわく『天幻』の称号を誇る白谷さんは、空間魔法と幻想魔法のエキスパートであるという。

 実際、何かしらの魔法が行使された形跡はおれの目にも見えたし、彼女が得意分野の魔法を失敗したということは無いだろう。

 

 だというのに。幻惑魔法を掛けられたおれを第三者視点から眺めていたモリアキは……どうやら幻惑を看破してしまっている様子。

 彼自身は――人並外れた描画スキルと家事スキルは備わっているものの――ごくごく普通の一般人である。魔法抵抗力や幻想看破の能力が備わっているわけ無いし、白谷さん渾身の幻想魔法の影響を受けないはずがない。

 

 …………そのはずなのに。

 

 

『やっぱ思った通りっす。カメラ通すと幻惑の効果が失われるみたいっすね』

 

「えっマジで!?」「…………カメラ?」

 

『多分っすけど白谷さんの幻惑魔法って……先日先輩が使ったボヤけさせるのとは違って、視た人の『視覚』に作用する系の魔法なんでしょう。物事そのままを映し出す電子機器には効果が及ばず()()()()()を記録され、そしてそれを視る人間は単なる映像データを見るだけ……そこに幻惑魔法の介入する余地は無い、ってことだと思うす』

 

「……そういうことか、理解した。なるほど、非生物かつ非魔術機構の視覚再現装置か。…………なんてことだ、確かに相性最悪だね。モリアキ氏の指摘通りだよ」

 

「よく解んないけど要するにカメラがダメなんだな! ……っていっても、別にそんな普段出掛けたり買い物する分には…………あー……そっか、防犯カメラ」

 

『そう、そうなんすよ。今日日(きょうび)この日本ではそこかしこに防犯カメラが睨み利かせてますし、コンビニとかスーパーとかデパートとかだと尚のこと多いです。たとえやましいことが何も無いとはいえ、カメラに映った人物と実際の人物の髪色が違えば……』

 

「ツッコまれたら釈明のしようが無いよなぁ……魔法を説明せざるを得なくなる」

 

「……魔法を行使できる、っていう点は……(おおやけ)にしない方が良いわけだ」

 

『ある意味お尋ね者っすからね、『正義の魔法使い』さんは』

 

「あっぶね……【陽炎(ミルエルジュ)】が光学系の魔法で良かった……」

 

 

 

 まずなによりも大前提として……おれが『魔法を使える』ということがバレるわけにはいかない。おれ同様に魔法を使いこなす白谷さんの存在がバレることも、これまた同様。バレないように立ち回らなければならない。

 

 一方で……この長く尖ったチャーミングな耳さえ隠しきれば、髪色や瞳の色も『ウィッグです!』『カラコンです!』と押し切ることは――ぶっちゃけ多少なりとも怪しまれる恐れは充分にあるし、特に瞳に関しては正直ムリがある気がしなくもないが――いちおう不可能ではないだろう。……多分。

 

 街中に溢れる監視カメラや、ふとした拍子に向けられるスマホのカメラ等の電子機器を欺くことが出来ない以上、大規模な幻惑魔法での変装は危険を伴う。

 使うにしてもピンポイントで……それこそ監視カメラでは捉えられない程にひっそりと、耳の長さをちょこっと誤魔化す程度ならば、常用しても問題無さそうではある。……まぁ尤も、解像度の高いカメラで撮られたりしたらアウトなのだろうが。

 

 

 

「…………ハードモードすぎね?」

 

『耳当てとか、もしくは髪型で隠すって手もあるっすよ』

 

「まぁ、ボクが言えた義理じゃないけど……事前に対策が出来て良かったよ」

 

「そだなぁ……知らずに魔法で変装してスーパー行ってたら危なかった……超絶お手柄じゃんモリアキ」

 

『フヘヘヘ。空想解釈読本が役に立って良かったっすよ』

 

「ご褒美におれの手料理振る舞ったげるから、はやく仕事片付けておいで。今夜はごちそうよ」

 

『マジすか絶対ぇ行きます』

 

 

 とりあえず、取り返しのつかない失敗はしていなかったのでヨシとしよう。

 お料理動画作成のための材料も手に入ったし、今後外出する際の注意事項も確認することができた。

 

 この作戦会議によって、今後のおれの活躍の幅は大きく拡がったといっても過言ではあるまい。

 

 

 ……まぁ、だがそれはまた今度だ。

 とりあえず今日のところは…………

 

 

「じゃあ……白谷さん。指導おねがいね」

 

「任せてくれ。ナイフを握ることは出来ずとも、手順を(そら)んじるくらいは出来るからね」

 

 

 そう。料理動画は料理動画でも、白谷(ニコラ)さん監修・指導によるファンタジー料理なのだ。

 エルフ種を名乗る以上、お料理動画にしてもちょっと一手間加えたいところだ……と思っていたところへの、生粋の異世界住人の協力である。これは心強い。

 

 単純に視聴者を楽しませるため――そして一人でも多くの人に見て貰い、()を楽しみにしてもらうため――なんとしても成功させなければならない。

 

 

 そして……料理を楽しみにしてくれているモリアキのためにも。

 絶対におもしろい動画と……おいしい料理をつくってやる。

 

 



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40【調理収録】若芽のおしゃべりクッ(自粛)

ヘィリィ(こんにちは)、親愛なる人間種の皆さん! 初めましての(かた)は初めまして、魔法情報局『のわめでぃあ』局長の『木乃若芽(きのわかめ)』です! ……寒い日が続きますが、皆さん風邪引いてませんか?」

 

 

 

 いつもどおりの挨拶とともに、いつもとはひと味違う若芽ちゃんがお出迎え。……我ながら、今のおれは非常に可愛らしいと思う。

 

 いよいよ始まったお料理動画、なんといっても()()()からしていつもと違う。普段の配信や動画撮影時の衣装……魔法使いふうの新緑色のローブの上から、淡いイエローと小鳥ちゃんのワンポイントが可愛らしい(子ども用サイズの)真新しいエプロンを纏い、長い髪もゆるく三つ編みにしてくるりと纏めてピンで止めている。

 可愛らしい尖った耳と幼いながらも艶かしい首筋が露になり、鏡越しの我が身には我が身ながらドキッとしてしまった。

 

 ……お料理は清潔感が大切なのだ。エプロンや三角巾を身に付けずに『不衛生だ!!』と叩かれるのは嫌なので、きっちりかっちり正装を身に付けておく。

 通販で見繕い、ついさっき届いたばかりの新品だ。……ナイスタイミングと言わざるを得ない。

 

 

「寒い寒ぅい毎日、皆さんが身体の中から温まれるように。()()()()()の故郷で定番のお料理をですね、今日はすこーしアレンジして作ってみようと思います! ……ツノウサギの肉とか、こちらでは調達出来ませんし」

 

「残念だよねぇ……」

 

「残念でしたねぇ……でも大丈夫、きっとおいしくできますよ! 題して……ツノウサギ改め『若鶏の墓』です!」

 

 

 可愛らしい効果音と共に、可愛らしいフォントで料理名のテロップが出現し……ファンシーな演出とは真逆に物騒な料理名が表示される。ギャップもえってやつだ。

 

 ()()()()()、と言ったのは他でもない。わたし(おれ)は厳密に言えば……いや言うまでもなく、まごうことなくこの世界の出身である。

 しかしながらこの()()()()()には、ちゃっかりと白谷(ニコラ)さんを含んでいる。ニコラさんに教えてもらった、今や彼女となった彼の出身地の定番料理なのだ。何も嘘は言っていない。

 

 ……しかし、その『白谷さん』のお披露目はもう少し後。週末の配信で大々的に行う予定だ。

 なので今現在この動画では、時おり的確な助言をいれてくれる『謎の声』として出演(?)を果たして貰っている。きっと視聴者の人たちは『いま何か聞こえたぞ!?』『いったいこの可愛い声は誰なんだ!?』と()()()()すること間違いなしだ。

 

 

 と、いうわけで。

 

 一通りの手順を教わったわたし(おれ)が実際に調理を行い、白谷さんには声だけで助言や指示やお喋りをしてもらう予定となっている。若芽(わかめ)のお喋りクッキングである。……大丈夫かなこれ。

 

 

 

「材料はこちら。どれもお近くのスーパーで調達できるものでアレンジしてあるので、大丈夫ですよ。こっちから順に……鶏モモ肉(四百グラム程度)、玉ねぎ((ひと)玉)、大蒜(ニンニク)(ひと)欠片)、赤ワイン((いち)カップ)、お水((いち)カップ)、オリーブ油(大さじ(いち))、塩・黒胡椒(少々)。あとはタイムとローズマリー。これは粉末で大丈夫です。あとあと、あれば生のセージを二本ほど……以上です。普通でしょう?」

 

 

 

 綺麗に掃除された自宅キッチンの調理台、そこに小皿に分けられた各材料がずらりと並んでいる。地上波放送局のお料理番組で割とよく見るアングルである。

 

 今更だが……この動画を撮るにあたって、カメラは二台稼働している。

 キッチン全景を斜め上方から抑える固定カメラと、ハンディタイプの防水耐衝撃小型カメラ。アウトドアアクティビティなんかを撮影できるゴーでプロ級なアレである。

 例によって後で継ぎ接ぎの編集作業が待っているのだが……今回は日程に余裕もあるので、割と楽観視していたりする。

 

 ともあれ今は、()を撮らないことには始まらない。

 小さなエルフの女の子が一生懸命お料理する映像を、ばっちりカメラに収めなければならない。……ちょっと集中しよう。

 

 

 

「まず始めに……鍋にオリーブ油を熱して、軽く温めておきます。温めすぎないように弱火で、ですよ! 煙が出たら明らかに熱しすぎです! こげちゃいますので!」

 

「油を温める間に、お肉を食べやすい大きさに……まぁ、ふつうは一口(ひとくち)大ですかね。切ったお肉と潰した大蒜(ニンニク)、それに塩と胡椒をまんべんなく揉み込んでおきます。わたしは挽きたての胡椒が好きなので、ガリガリと。……うふふ、もみもみ。もみもみ」

 

 

 軽快なフリーBGMを思い描きながら、白く滑らかな……しかし子どものような小さな手が、つやつやの生肉を執拗に揉みしだいていく。

 肉のピンク色と指の白肌色が(つや)を帯び、生肉をこねる粘質な音と合間って少々背徳的な雰囲気を醸し出す……気がしなくもない。しかしおれは無実である。

 ……こほん。お料理を続けましょう。

 

 

「オリーブ油がほどよく温まったら、もみもみしたお肉の表面を軽く焼いていきます。こーしてお肉の表面に軽く焼き目を付けることで、お肉のうまみを閉じ込めるんですね。あとで煮込むので、軽くでいいですよ!」

 

「次に野菜も同様に、玉ねぎは上下をすこし落として八等分の(くし)形に。お肉を焼いているお鍋にゴロゴロと投入していきます。……玉ねぎおいしいですし、お好みでもう(ひと)玉入れてもいいかもしれませんね。加熱すると(かさ)が減るので。……お料理の分量とかフィーリングで、臨機応変でいいんですよ。ふんふふーん」

 

 

 手もとを映す角度にセットしたホルダーにハンディカメラを固定し、口頭で手順や注意事項を伝えながら、また上機嫌に鼻唄を口ずさみながら、手元はてきぱきと淀みなく工程を進めていく。

 

 お料理番組でよくある演出であり、『今はいったい何をしているのか』が非常にわかりやすい。レシピ本を見るのとはまた違い、どこをどういう手順でこなすのかが一目瞭然である。やはり動画の力はすごい。

 

 

「焼き色がついてきたら、粉末ハーブを……タイムとローズマリーを全体に振り入れます。でもこの世界の鶏肉は臭みが少ないので、分量は鶏肉に合わせてありますが、好みによってはもっと減らしたり無くしても大丈夫かもです。エスビーさんのをパパッと振り入れれば大丈夫です。……便利ですよねぇ」

 

「便利だね……いちいち香草挽かなくても良いわけだ」

 

「二百円しないんですよ。本当半端無いですって」

 

 

 はっきりと画面には映らないが、()()()()()()()ことをしきりに匂わせておく。とうの白谷さん本人も興が乗って来たのか、自身の姿を完全に消しながら虹色の燐粉だけをちらつかせる……なんて器用な真似までし始める始末。

 おれは白谷さんの位置を認識できるが……光の偏向を操り完全に姿を隠す光学魔法は、現代の光学機器(カメラ)をも欺いてのけるらしい。

 

 

「ではでは、いよいよここで……じゃーん! 赤ワイン~!」

 

「露骨にテンション上がったね。まだ子どもなのに」

 

「子どもじゃありませんし? お姉さんですし? ……はい、というわけで、ここで赤ワインを飲みま…………入れます」

 

「いま明らかに飲もうとしたよね?」

 

「赤ワインを入れたらゆっくりかき混ぜ、次にお水を入れます。かき混ぜはゆっくり、具を崩さないように。やさしく、やさしく、ですよ」

 

「いま明らかに誤魔化したよね?」

 

 

 声だけの白谷さんが良い働きをしてくれる。本当にお喋りクッキングって感じだ。大丈夫かなこのワード。

 そうこうしている間にもお料理はいよいよ大詰め、『煮込み』の段階に入った。こうなったらあとは時々かき混ぜながら待つしかないので……のんびりとお話に興じようかと思う。

 

 

 CMのあともまだまだ続きます!

 チャンネルはそのまま!!

 

 ……なんちゃって。

 

 



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41【調理収録】続・若芽のおしゃべり(自粛)

「…………はい! というわけで、今回挑戦している『若鶏の墓』ですが……もともとこのお料理は『角兎の墓(エンキッド・グリーフ)』と呼ばれるお料理を、この世界の皆さん向けにアレンジしたものなんですね」

 

 

 ゆっくりと鍋をかき回す絵面()()……というのはあまりにも酷なので、お喋りをして時間を潰そうと画策してみる。

 ……ぶっちゃけトークの出来がいまいちだったら、そのときは編集の際に何とかすれば良い。いっそのこと丸々カットして『出来上がったものがこちらになります』とかでも良いのだ。

 今回はライブ配信ではなく、動画の素材を集めている段階なのだ。割と自由にやってみても、それこそ割とどうにでもなるだろう。

 

 せっかくカメラを回しているのだ。素材が足りなくなって構成に困るよりは、『やっぱ要らなかったか』と笑って削除する方がいい。

 ……いや削除しなくてもいいか。とりあえずいっぱい撮って取っとこう。撮っておいて取っておこう。

 

 

「『角兎の墓(エンキッド・グリーフ)』……物騒な名前だと思ったでしょう? 何でそんなおどろおどろしい名前が付いたのか、というとですね……このお料理の()()()に由来するんですね。もう一度お鍋をちょっと見てみましょう」

 

「まだ煮詰まってないけど……」

 

「はい、まだみたいですね。じゃあもう少しお楽しみということで。……ええと、このお料理は端的にいうと『葡萄酒煮込み』なわけですね。葡萄酒……特に赤ワインを使って煮込んで、じっくりと煮込んでいくと……煮汁がどんどんと煮詰まってですね、赤黒く粘りけを帯びてくるんです」

 

「葡萄酒が空気に触れると、黒く濁る……火に掛けられ熱されて、それが早まった感じだね」

 

「そうですね。赤黒いドロドロしたものに沈む、バラバラにされた角兎(エンキッド)……まぁ今回は鶏肉なんですけど。ともあれ、なるほど確かに『(グリーフ)』と呼びたくなるのも仕方無いかもしれませんね」

 

「その『墓』ごと食べちゃうってんだから……びっくりだねぇ」

 

「お肉になっちゃった……今日は鳥さんですね。この鳥さんに感謝して、無駄にしないようおいしく仕上げていきましょうね」

 

 

 会話の合間もちょくちょく鍋をかき混ぜ、火の通りと煮詰まり具合を確認していく。……やはりというか水気が飛ぶにはなかなか時間が掛かるらしく、まだまだ小ネタを挟み込む余裕はありそうだ。

 あまり火を強めすぎて焦がしてしまっては、せっかくの手料理が台無しである。若芽ちゃんとして初めて作った料理は……やはりきちんと完成させてあげたいのだ。

 

 ……というわけで。またしてもフリーな時間が出来てしまった。

 時間魔法を使う(編集でトバす)ことも出来なくは無いのだが……せっかくなのでちょっと悪ノリしてみようと思う。

 

 

 

「煮汁が煮詰まっていくまで、すこし時間がありそうなので……先日の『はじめまして』放送で頂いていた質問にですね、遅ればせながら幾つかお答えしていこうと思います!」

 

「おぉー。じゃあまぁ……鍋見ておくから、安心してやっておいで」

 

「ありがとうございます! ……こほん、それではひとつめ!」

 

 

 時間潰しといえば……定番だが、質疑応答コーナーだろう。こんなこともあろうかと、SNS(つぶやいたー)に寄せられた質問にもバッチリ目を通しておいたのだ。

 姿無き謎の声こと白谷さんのフォローに感謝しつつ、質問に答えながらお喋りで時間を潰す。

 愛用のスマホを手に取り、リストアップしておいた質問一覧のテキストファイルを呼び出し、目を通す。

 

 

 

「『趣味や特技はありますか』。あるよあるよーあるあるですよー! 趣味はですね……旅をすることです! 一人旅! 最近は放送局の立ち上げでご無沙汰ですが、またあちこち行ってみたいですねー……この国は温泉とかいっぱいあるって聞きますし。特技はですね、先日ちょこっとやってみましたが……お歌ですかね! 幸運にもお褒めいただいたので、またやってみようと思います!」

 

「『出身はどこですか。日本ですか』。日本じゃないですね……ここではない別の世界です。こう……『えいっ』て感じで、世界の壁を越えてきました。うふふ……超熟練の魔法使いであるわたしにしか出来ない芸当でしょう……さっすがわたしですね! 褒めてもいいんですよ!」

 

「『お友達や親しい人や他のエルフはいるんですか』。……んんー……わたしと同郷のエルフは、どうやら居ないみたいですね。別の異世界から来た子はちらほら見かけますので、いつか会ってみたいです。親しい人は……絵描きの『モリアキ』さんですかね! わたしがこの世界に来たばっかりのとき助けて貰いました!」

 

「『お兄ちゃん、って言ってください』。質問なんですかこれ!? ……まぁいっか…………こほん。……おにぃ、さん」

 

「『甘えさせてください』。質問じゃねえですねこれ!? いや採用リストに上げたのわたしなんですけど! ……こほん。…………しょうがないなぁ……おいで? よし、よし。いいこいいこ。……こんな感じですか?」

 

「『スリーサイズを教えて下さい』。ちょっと正気ですか人間種諸君!? 会って間もない女の子ですよ!? …………まぁリストに上げたのわたしなんですけどね。もぉ……一度だけ、ですよ? …………684966」

 

 

 

「ノワーー、いい感じだよーー」

 

「ああっ! ありがとうございます! ……というわけで、今回の質問コーナーは以上です! またの機会をおたのしみに!」

 

 

 

 しばらく寄せられていた質問に答えていた間に、どうやら良い感じに煮詰まったようだ。ほかでもない白谷さんが判断を下したのだから、恐らく間違いないだろう。

 質問コーナーのために移設していたハンディカメラを手に取り、ぱたぱたと鍋の前に戻って覗き込むと……なるほど確かに、赤黒く粘度を増した汁がふつふつと煮立っている。

 

 これまでは白谷さんの説明を聞いただけで、正直に言うと想像するしかなかった見てくれだったが……実際に見てみるとなるほど確かに、『墓』という表現も当てはまりそうな様相だった。

 

 

 

「……はい! それではお料理を再開していきましょう! ここまで来ればあともう一息、焦がさないように注意しながら水けを更に飛ばし……ここからは『煮る』というよりも『炒める』になるくらいまで、更に火を入れていきます」

 

「『火を強くして一気に加熱したい』という気持ちもわかりますが……ここで焦がしちゃったら苦味が出てしまうので、もうすこしの我慢です。我慢……まだだめですよ、もうちょっとだけ我慢しましょう」

 

 

 などと口では言っておきながら……このお料理に限っては、我慢する必要はなさそうだ。

 どうやら白谷さんが魔法を使って時短してくれていたらしく……【熱】と【風】に類する魔法を器用に使い、食材を余計に刺激することなく水けのみを飛ばしてくれたようだ。

 

 こっそりと白谷さんへ視線を向けると、口元に人差し指をあててイタズラっぽく微笑んで見せた。何この子めっちゃ可愛いんだけど。まだお披露目できないのがもったいないわ。

 

 

「…………そろそろ、ですかね?」

 

「んー……そうだね、良い感じだ」

 

「それでは。……こんな感じに、お鍋の底が見えるくらいになったら……ついに火から下ろします!!」

 

「はい。お疲れ様」

 

「んふふ、お疲れ様です。それでは、お皿に盛り付けて……ここにセージの葉っぱを彩りに載っけます。ちょっとで大丈夫ですよ」

 

「生の香草の過剰摂取は毒になる……こともあるからね」

 

「そんなモリモリムシャムシャ食べなきゃ大丈夫ですので、心配しないでくださいね! 適量を摂取する分には、非常に優秀な良い子なので! ……それでは、最初の材料には入れてませんでしたが……生クリームをですね、こう……たーってやると……ほら良い感じでしょう? 無くてももちろん美味しいですが、コントラストがまた美味しそうでしょう!」

 

「おおー……良いね。上手だよ、ノワ」

 

「えへへへ。……というわけで、角兎の墓(エンキッド・グリーフ)改め『若鶏の墓』完成! です! いぇーい!」

 

「い……いぇーい」

 

 

 



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42【調理収録】続続・若芽のおしゃべ(自粛)

 

 収録スタジオを兼ねたおれの自宅、そのリビングダイニング部分は……撮影区画と収録機器によって、そのほとんどを埋め尽くされている。

 そのためいわゆる『食卓』と呼べる家具は、残念なことにこの空間には配置されていない。

 

 普段の生活においてその役割を全うしているのは自室に設置されたコタツテーブルであり……しかしながら、だからといってカメラを自室に持っていくのは(はばか)られる。映したくないものだっていっぱいあるし。

 

 しかし……この身体であればお料理動画も臨場感たっぷりに撮ることが出来る。これは同業他者には真似できない、おれ(若芽ちゃん)ならではの大きな強みだ。今後も引き続きお料理動画を続けていくためにも、小さめの食卓を設置するスペースを捻出すべきかもしれない。

 いくら収録機材に埋め尽くされているとはいえ……足の踏み場もないほどギッチギチ、というわけでも無いのだ。

 

 

 まぁ、それはおいおい詰めていくとして。

 今日はどう足掻いても食卓の用意が不可能なので……お行儀悪いとは重々承知だが、キッチンの作業台でいただこうと思う。

 せっかくのお料理動画だ。おいしく実食するところまで撮っておきたいし……美味しそうに料理を食べるおれ(若芽ちゃん)の顔は、きっとなかなか良い()になることだろう。

 

 汚れた食器や調理器具に纏めて【洗浄(ワーグシェル)】【清掃(リュニーグル)】【乾燥(トローシュル)】をぶっ放し、綺麗になったそれらを綺麗に片付け、作業台(食卓)にも【洗浄(ワーグシェル)】と【浄化(リキュイニーア)】を掛けて準備万端。ぴかぴかに輝きを放つ作業台(食卓)にランチョンマットを敷き、料理(若鶏の墓)を盛った器とカトラリーと……買い出しの際にパンやさんで買っておいたバゲットを、見映えよく並べていく。

 

 

「んんー…………角度こんなもんかな。白谷さんどーお? 周りの変なの映り込んでない?」

 

「大丈夫そうだよノワ。背景の……レーゾゥコとデンシレンディは仕方無いとして……というか、お得意の映像投射魔法で隠せるんじゃないの?」

 

「いやーあれね、真っ白な壁だからなんとかなってるんだよね。……まぁそんなに汚くないだろうし、多少の生活感は()っかなって。キッチン映してる時点で生活感マシマシだし」

 

「まぁそれもそうだね。隠すほどでもない、か」

 

「…………ん。固定カメラはこの角度で……ハンディカメラも別角度で固定しとこう。下手に動かして変なもん映ると嫌だし。……まぁ編集でカットすれば良いんだけど」

 

「変なのって……ノワの下着とか? それともベッドの下の書」

 

「なんで知ってるの!!!?」

 

「まぁまぁ。ほら、準備できたなら始めちゃおうよ。冷めちゃうよ?」

 

「白谷さんあとでお説教だからね!!?」

 

「ははは。いやーノワは可愛いね」

 

 

 

 あっけらかんとした白谷さんに驚愕を禁じ得ないが……しかし確かに、冷めてしまってはせっかくの出来立て料理がもったいない。

 ほかほかと湯気を上げる様子もカメラに収めたいし、白谷さんへの追及は後回しにするしかないだろう。

 

 非常に釈然としない面持ちを浮かべたまま、おれは迷いを振りきるようにカメラの録画ボタンを押していった。

 

 

 

 

……………………………………

 

 

 

 

「ちょっ……いや、マジすかこれ。ウッマ……えっ、めっちゃウマイっす」

 

「ほ、本当!? マジ!?」

 

「マジマジ、本当っすよ。肉も柔らかいし、しっかり味染みてますし……バゲット? ていうんすか、このパン。米とはまた違って……ファンタジー(メシ)っぽくて良いっすね」

 

「大絶賛じゃないか。良かったね、ノワ」

 

「…………良かっ、たぁ」

 

 

 

 結局のところ……仕事を片付けたモリアキが駆け付けたのは、夕方の十六時を回った頃だった。

 それくらいの時間になるだろうということは事前に聞いていたので、ラップを掛けて冷蔵庫で保管していたのだが……バゲットともどもレンチンして出したところ、先のようにお褒めのお言葉を賜ったのだ。

 

 実際に料理が完成したのは、昼の十二時くらいだったはずだ。それから実食パートを撮って、モリアキのぶんを冷蔵庫にしまって、後片付けをして、とりあえずいそいそと作業に取りかかり始めたのだが……以前『歌ってみた』動画を編集していたときとは異なり、作業はなぜか遅々として進まなかった。

 

 

 

「心ここにあらず、って感じで……気が気じゃなかったもんね、ノワは。初めての手料理、モリアキ氏に『おいしい』って言って貰えるか不安だったのかな?」

 

「えっ!?」

 

「そうなんすか?」

 

「えっ!?!??」

 

 

 ……そうだったのか?

 

 …………そうだったのかもしれない。

 

 

 なるほど確かに、さっきまでのようにどこかそわそわしていた感じとは異なり……今は肩の荷が下りた気分というか、安心しているのが自分でもわかる。

 その切っ掛けとなったのは白谷さんの言うとおり、若芽ちゃんとしての初めての手料理を烏森(かすもり)に食べてもらい……『おいしい』と言って貰えたことなのだろう。

 

 今のおれであれば、以前のように最高のパフォーマンスで編集作業を進められそうだ。

 

 

「いやー、オレも仕事ダッシュで終わらせて良かったっすよ。ご褒美がこんな豪勢なディナーだなんて……ぶっちゃけめっちゃ嬉しいす。ありがとうございます、先輩」

 

「んふ……んふふ。やーそれほどでも……んへへへ……あるかもね? んふふ……どういたしまして。遠慮しないで、たーんとお食べ」

 

「いただきますいただきます。ひあー(いやー)……ふまいっふよ(うまいっふよ)まひれ(まじで)

 

「えへっ、えへへへ。……よっし! ちょっとオシゴト進めてくる!」

 

「……まったく、幸せそうな顔しちゃって。ちょっと妬けるね」

 

 

 

 心の奥のつっかえが取れたかのように、今はとても気分が良い。

 なんという全能感。今のおれであれば以前の『歌ってみた』動画と同様……いや、それ以上の手際で編集作業を進められるだろう。

 食事中のモリアキを眺めていたい気持ちを振りきり、隣室スタジオスペースの作業用パソコンへと場を移す。

 

 果たして期待した通り……作業は極めて順調に進み、夜の二十一時を回った頃には動画の大筋が仕上がっていた。

 

 

 

 その間客人である烏森を完全にほったらかしにする形となってしまったのだが……どうやら白谷さんがお話し相手になってくれていたらしい。

 またやらかしてしまった、彼には非常に申し訳ない。

 

 ……スイッチが入ると周りが見えなくなるというのは、少々よろしくないだろう。

 烏森にも悪いことをしてしまった。これっきりにしたい。

 

 

 



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43【調理動画】完成と次なる方針

 

『――――ではでは、年の瀬のお忙しい時期ですが……体調を崩さないよう、皆さんくれぐれも気をつけて下さいね! ご覧の放送は魔法情報局『のわめでぃあ』、お相手はわたくし木乃若芽(きのわかめ)がお送りしました! またねっ!』

 

「「またねー!」」

 

「…………何この公開処刑」

 

 

 

 

 月曜日の夜も更け……とりあえずの作業を終えたおれは、半ば放置プレイをかましてしまった烏森に詫びをいれつつも、その一方で確かな達成感に浸っていた。

 烏森と白谷さんの二人、彼らは話し込むうちになにやら意気投合したらしく……『作業にのめり込むおれを刺激しないように』という気遣いからか隣室に殆んど引っ込んだまま、辛抱強くおれのことを待ってくれていた。

 

 しかし、まぁ……その代償というか条件というか……『出来たばかりのお料理動画を見せてくれ』という要求つきではあったのだが……まぁそれ自体は別に良い。どのみち披露するつもりだったのだ。

 長時間待たせたことに対して重ね重ね詫びながら、出来立てほやほやの動画を再生する。……ここまでは別に良い。どうってことない。問題はそこからだ。

 

 

 動画が流れ始めると……烏森と白谷さんはまるで示し合わせたかのように、二人揃って執拗にベタ褒めし始めたのだ。

 

 

 

「何度見ても可愛いっすね……エプロン姿めっちゃ似合ってるっすよ」

 

「指がまた綺麗だね。小さい手で頑張るのがまた愛らしい……まぁボクより幾分大きいけど」

 

「あー声すき。めっちゃ声可愛い。喋り口も穏やかだし本当なごむ」

 

「首筋がまた良いと思わない? 普段髪で隠れてるだけに」

 

「良いっすね……若芽ちゃんの貴重なうなじ御馳走様です有難うございます」

 

「まーた美味しそうに食べるね。いい笑顔だ。……可愛いなぁ」

 

 

 

 ……等々などなど。

 

 SNS(つぶやいたー)や配信中のコメントで寄せられるのとは訳が違う、見知った人から手放しで贈られる賛辞に……まぁ、気恥ずかしくなってくるのは当然なわけで。

 しかもそれらがお世辞やおべっかではなく、一切の嘘偽りを含まない本心からの賛辞とあっては……彼らを怒ることも出来やしない。

 

 結果として……おれがなんとも微妙な表情を浮かべる中、試写会はしめやかに幕を閉じ……二人の審査員による批評(という名のベタ褒め)が再び始まった。

 

 

 

「……ごめん。わかった。待って。わかった。わかんないけど、わかった。……何で? 何でそんなヨイショヨイショされてるのおれ」

 

「いやぁ、九割は本音っすよ。オレも白谷さんも」

 

「そうだね。実際に……シューロク? に居合わせた身としては、なおのこと感慨深いよ。良く纏まっている」

 

「えっと……それは、まぁ嬉しいんだけど…………うん。単刀直入に訊くね。()()()()()()?」

 

 

 さっきまでの作業中……おれが烏森をほったらかしにしていた間。白谷さんと烏森が何やら話し合っていたというのは、さすがに解る。

 べつにそれが悪いことだと言うつもりは、当然まったく無い。元はといえばおれが彼らを憚らず作業に没頭し始めたのが悪いんだし、烏森も白谷さんもおれにとっては大切な仲間……身内なのだ。

 彼らが何を話していようと、彼らの自由だ。本来おれに詮索・介入する権利なんて、無いのかもしれない。

 

 ……だが。

 こうもあからさまにヨイショされると……なんというか、ちょっとこそばゆい。

 烏森はことあるごとにおれを――というか他人を――褒めてくれる神なのだけど……それにしても、いつも以上に熱が入っている気がする。

 

 その理由を……違和感の理由を、おれだけが知らないというのは……ちょっとだけ、寂しい。

 

 

 

「……シュンとした表情もまた可愛いね、ノワ」

 

「そうっすね……じゃなくて。えっとまぁ、秘密にしようと思ってた訳じゃないんすけどね」

 

「えっと……おれが集中してたから、だよな。……ごめん」

 

「いえ、お気になさらず。……ええと、じゃあまぁ……オレらが何を話してたか、っすけど……」

 

 

 烏森と白谷さんは視線を交わし、互いに頷く。

 その雰囲気に一瞬気圧されそうになるが……しかし『彼らがおれに理不尽なことを言うはずがない』という安心感はあったため、大して気構えることもなかった。

 

 事実として、彼らの表情は別段深刻そうには見えず。

 どちからといえば……『良いことを思い付いた』とでも言わんばかりの、ひどく朗らかな表情で。

 

 

 

「先輩をですね、外に連れ出してみようと思いまして」

 

「は?」

 

「こんなにも可愛いんだからさ。もっと多くのヒトにノワの可愛さを知って貰いたいねって」

 

「は??」

 

「公園デビューじゃないっすけど……そろそろ衆目に慣れるべきなんじゃないかな、って」

 

「は????」

 

 

 

 言葉は通じるのに、何を言っているのか解らない。

 

 そんな稀有な経験をすることになるとは……思っても見なかった。

 

 

 



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44【表現秘策】どうも!エルフです!!

 

 

 ここ数日のおれは、『いかに人目を掻い潜るか』を念頭に置いて生活してきた。

 

 買い物も可能な限りネット通販と宅配ボックスを利用し、移動は烏森の車で送って貰い……髪色も誤魔化せていると思い込んでいたスーパーの一件を除き、外出の際はフードつきコートを手放せず、隠れるように生活を送ってきた。

 

 何しろ……この現代・この日本においては、おれのような容姿の者は他に存在し得ない。緑色の瞳はまだしも、緑髪の人間なんてほぼほぼ存在しないだろう。ヘアカラーやウィッグでのコーディネートも有り得なくは無いが、天然の緑髪なんていうものは……恐らく存在しない。緑色の頭髪という時点で、衆目を引くことは明らかだろう。

 それに加えて……言い逃れが出来ない唯一無二の特徴が、この耳だ。百歩……いや千を飛び越して万歩譲って、緑髪の人間がこの国この都市に存在したとして。彼ないしは彼女が人間である以上、その耳の形も当然人間のものだろう。当たり前だ。

 

 

 しかしながら。

 おれは人間に近い容姿でありながら……耳という一点においては、明らかに人間とは異なる。

 

 人間にはあり得ないほど長く、尖った耳。

 色素の薄い肌と稀少な色彩の髪と併せて、とあるひとつの幻想種族の想起に行き着くのは……そう難くないだろう。

 

 

 妖精族。耳長族。小神族。媒体によってその表現こそ幾つかあれど……総じて共通する種族名。

 特にこの国では、ゲームや小説・漫画作品等でお馴染みの、現実には()()()()()空想上の種族。

 

 

 それが…………エルフ。

 

 今現在の、おれの種族。

 

 

 

「エルフが街中闊歩してたら……大騒ぎになるじゃん。捕まって実験台にされちゃうじゃん」

 

「実験台、ってそんな極端な……でも先輩、これからずーっと人目につかず生きてくつもりっすか?」

 

「…………ずーっと……?」

 

「買い物は……まぁ、アポロン使えば良いにしても。たとえば病院掛かるときとか」

 

「魔法で治療できるし……」

 

「うぐッ……ぎ、銀行使いたいときとか」

 

「ネットバンキングあるし……」

 

「…………旅行とかお出掛けとか、行きたくなったら」

 

「それも魔法で。姿隠してこっそり。ぶっちゃけおれ空飛べるし」

 

「………………ワガママ言うんじゃありません!!」

 

「えええええ!?」

 

 

 

 突如声を荒立て、烏森は押しきるように持論を展開する。

 ……恐らくは白谷さんと話し合った上での、おれの今後についての提言を。

 

 

「先輩がエルフバレ気にしてるのは、よーくわかります。……でもですよ先輩、確かにこの国この世界には魔法もエルフも存在しなかったっすけど……代わりに色んな『技術』が進歩してるじゃないっすか」

 

「カメラとか電化製品とかネットとか? いや、だからこそバレたらヤバイんじゃ」

 

「それもあるっすけど…………例えば、コレ。コレなんかスゴいと思うんすよ」

 

「ふあ…………すげえ、酒呑童子……まるでホンモノじゃん」

 

 

 烏森が手元のタブレットで見せてきたのは、近々執り行われるサブカルの祭典……通称『冬の陣』へ向けて活動している、とあるレイヤーさんのSNS(つぶやいたー)アカウント。

 彼女のプロフィールページには過去イベントの参加経歴と、その際の作品が――日本の伝承上の存在『鬼』をモチーフにしたキャラクターの、ぱっと見ホンモノにしか見えないクオリティのコスプレ写真が――様々なアングルから何枚も掲載されていた。

 衣装や化粧の再現度もさることながら、特筆すべきはその()()。どちらも人間のものとは異なる造形ながら、大きな齟齬もなく現実に落とし込んでいる。

 

 当然、この時代この国に『鬼』なんて存在しない。そもそも彼女が表現したものはその『鬼』をモチーフとした某ゲームのキャラクターであり、なおのこと実在するハズが無い。

 であるにもかかわらず……特徴的な二本の(つの)の造形や生え際に『作り物』っぽさは無く、先端の尖った耳においても同様に『被せもの』っぽさは見られない。このクオリティはまるでホンモノだが……当然、ホンモノであるわけがない。

 

 

「この『vゆりおv』さんは当然、人間っす。中国在住の女の子っすね。ですがご覧のように……ぶっちゃけホンモノでしょう。酒呑童子が実在するわけ無いのに」

 

「…………つまり、おれのコレも……コスプレとか、特殊メイクって言い張れば」

 

「別段問題は無さそうだと思うんすよ。……そりゃあ、イベント会場と街中じゃあ周りの雰囲気も違うでしょうけど、最近はゴシックドレスを普段着にする子も居るらしいですし」

 

「言い逃れの余地がある分、幾らか安心だろうね。ノワの耳を見られても『エルフを真似ている』で押し通せるわけだ」

 

「理屈はわかったけど…………うーん、押し通せるかなぁ」

 

 

 

 日常生活を送る中で、おれの容姿(というか特に耳)が露見してしまっても何とかなりそうだ……という目処が立ちつつあるのは、確かに少なからず嬉しい。

 嬉しいのだが……つまりは、今後ずっと『日常的にエルフのコスプレをしている娘』を装う必要があるわけで。

 

 根がド平民のおれにとっては……それはやっぱりちょっと、敷居が高い。ご近所さんに『痛い子』扱いされないか、それが不安でならないのだ。

 

 

「別に四六時中エルフRP(ロールプレイ)しろってわけじゃ無いっす。あくまで出先で、髪や耳について指摘されたときだけ応えれば良いんすよ」

 

「で、でも……そもそもだよ? 実際にエルフが街中にいたらさ、それはそれで問題なような……」

 

「まぁ、それに関しては……()(なら)う感じで良いんじゃないかと」

 

「え……閣下? 閣下がどうし…………あー」

 

「重ねて言いますが、この時代に()()は実在しませ……()()存在しません。閣下はその数少ない悪魔の一人であり、それはこの国の大多数の人々が知るところです。ぶっちゃけメイクした人間に見えますけど、彼はれっきとした悪魔閣下であらせられるわけです。……言ってる意味、解りますね?」

 

「うん、まぁ……解るけど……おれ、別に芸能人じゃないし……」

 

 

 

 へヴィメタルやハードロックと日本国技をこよなく愛する悪魔閣下を引き合いに出され、おれは少なからず『なるほど』と感心する。

 要するに『そういうキャラクターである』と頑なに主張し続ければ良いのだ。

 

 仮に、あくまでも仮に、実際には人間だったとして。

 普段から言動や外見にこだわり、決してブレることなくそのキャラクターを演じ続け、『そういうものである』と周囲が受け入れるようになるまで主張し続ければ……やがて『そういう人物(キャラ)なんだ』と納得されるようになる。……まぁ閣下は悪魔なんだけど。

 

 

 この『木乃若芽ちゃん』においても同様、実際の『世を忍ぶ仮の姿』は置いておいて、普段からキャラクターである『木乃若芽ちゃん』を演じ続ければ……いずれはおれも『そういう設定(キャラ)なんだ』と気にされなくなる、と。

 ……そういうことを言いたいのだろう。

 

 理屈としては、わかる。いちおう理解はできる。だが……

 

 

「いや、先輩」「えっと……ノワ」

 

「え? な、何?」

 

「確かに『芸能人』では無いっすけど……配信者(キャスター)っすよね?」

 

「ノワの姿……『ネット』とやらで、全世界に公開されてるんだよね?」

 

「…………………………そうじゃん」

 

 

 

 媒体がネットであり、個人的に細々とやっているというだけ、とはいえ……ネットとは公開規模で言えば一般メディアと同等、全世界へ向けてのチャンネルである。

 

 つい今しがたまで『おれ別に芸能人とか有名人じゃないしw』などと高を括っていたが……そもそも、おれ(木乃若芽ちゃん)の目的は何だ。

 この身体(アバター)を用意し、このチャンネル『のわめでぃあ』を立ち上げ、配信者(キャスター)として活動し始めた……その目的は、何だ。

 

 

「大変言い難いんすけど…………先輩が『()()配信者』じゃ無いってことは、既にバレ始めてます。検証サイト兼ファンサイトも立ち上がってます。……潮時です」

 

「……………………だめかー」

 

 

 待ち受ける前途は、多難。

 しかし、だからといって……大切な愛娘(若芽ちゃん)を諦めるハズがない。

 

 烏森の主張するように、もう隠れてばかりは居られないのだろう。

 

 

 

 

 

 …………はぁ。

 

 

 外、出てみるか。

 

 



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【百歳児】木乃若芽ちゃんを語るスレ【自称お姉さん】

なんだかどうやらランキングに載っていたらしいです!!
うれしい!!ありがとうございます!!!



0001:名無しのリスナー

 

※※※わかめちゃんまとめ※※※

 

名前:木乃 若芽(きの わかめ)

年齢:自称・百歳↑(人間換算十歳程度)

所属:なし(個人勢)

主な活動場所:YouScreen

 

備考:かわいい

 

 

0002:名無しのリスナー

 

※※※わかめちゃんまとめ※※※

 

・魔法情報局局長

・合法ロリエルフ

・魔法が使える

・肉料理が好き

・別の世界出身

・チョロそう

・「~~ですし?」

・とてもかしこい

 

(※随時追加予定)

 

 

0003:名無しのリスナー

 

>>1

記事立て乙

俺ロリコンだったわ……

 

 

0004:名無しのリスナー

 

可愛い

 

 

0005:名無しのリスナー

 

ヤバすぎだろ実写か?

 

 

0006:名無しのリスナー

 

>>1-2

記事乙

>>3

百歳は立派なオトナなのでセーフ

 

それにしても髪の動きヤバイ

 

 

0007:名無しのリスナー

 

モデルヤバすぎわかる

リアル過ぎてヤバイ

 

 

0008:名無しのリスナー

 

耳しゃぶりてぇ

 

 

0009:名無しのリスナー

 

おk俺ロリコンだわ

 

 

0010:名無しのリスナー

 

抱っこしてぇ

 

 

0011:名無しのリスナー

 

ワカメちゃん言うたらそりゃあ、ね……

見えるべきだろ。見せるべきだろ。おうパンツだよあくしろよ

 

 

0012:<削除されました>

 

<削除されました>

 

 

0013:名無しのリスナー

 

こんなリアルなのに不気味の谷落ちてないのスゲェ

普通にすこれる

 

 

0014:名無しのリスナー

 

>>8-12

通報しました

 

 

0015:名無しのリスナー

 

>>13

わかる。ガチ恋余裕でした

 

 

0016:名無しのリスナー

 

ガチ恋レンジとささやきヴォイスたすかる

 

 

0017:名無しのリスナー

 

モリアキの隠し子

 

 

0018:名無しのリスナー

 

>>1

記事乙

 

良かった……道踏み外しそうなの俺だけじゃなかった……

 

 

0019:名無しのリスナー

 

非実在合法幼女わかめちゃん

パンツ見せてはやく

 

>>15

越えちゃいけないライン考えろよ

気持ちは解らんでもないが

 

 

0020:名無しのリスナー

 

>>17

百歳児の娘がいるとか歳ヤバすぎだろwwww人間やめてるwwww神絵師はマジモンの神だったかwwwwwww

 

 

0021:名無しのリスナー

 

顔ヨシ。声ヨシ。性格ヨシ。これは推しですわ

次の放送はやくして

 

 

0022:名無しのリスナー

 

>>19

通報しました

 

 

0023:名無しのリスナー

 

>>19

通報

 

 

0024:名無しのリスナー

 

>>19

いつかやると思ってました

 

 

0025:名無しのリスナー

 

>>22-24

なんでや!ワイはまだセーフやろ!

 

 

 

……………

 

 

…………………………

 

 

 

0174:名無しのリスナー

 

>>165

いうてノクトもこんな次元だったやろ。高度に発展したCGは実写と見分けがつかないとかなんとか

 

可愛いから良いんだよ!!(威圧

 

 

0175:名無しのリスナー

 

>>165

先週の予告配信見る限りでは3Dだと思うぞ

まぁ今回ワケわかめちゃんな程クオリティ跳ね上がってるのは同意だけど

 

 

0176:名無しのリスナー

 

>>174

個人レベルでノクト級の3Dモデルとかヤバすぎるんですがそれは……

 

 

0177:名無しのリスナー

 

ノクト級ってカッコ良いな。お船みたいやな

QA級みたいな

 

 

0178:名無しのリスナー

 

王族の名前つけるのはありそう

 

 

0179:名無しのリスナー

 

待って

 

 

0180:名無しのリスナー

 

>>177

クィーンエリザベスはQEなんだよなぁ……

 

 

0181:名無しのリスナー

 

今まで見返してたけど待って、何これスマホ?

何でスマホ?これ本当にCGか??

 

 

0182:名無しのリスナー

 

待つゾ。どうした

 

 

0183:名無しのリスナー

 

>>181

しつもんこーなーの所だろ。俺も疑問だった。

小道具まで3Dモデル用意してるのかとも思ったけど、正直そんな目立たないし必要性感じられないアイテムだし

あとコメント閲覧してるときの視線、明らかにPC画面じゃなくてスマホ(?)向いてるんだよね。ていうかPC画面を見ていない。

 

つまりはあのスマホのCGモデルにわざわざコメントを表示させているってことなのか

もしくはあのスマホが本物のスマホであり、つまりはそれを扱うわかめちゃんもホンモ…………誰だこんな時間に

 

 

0184:名無しのリスナー

 

イチャモンGo乙。

スマホ本物ならどうやって浮いてんだよ。

あんなファンシーな空間がそうそう実在してたまるか

 

 

0185:名無しのリスナー

 

本物にしか見えないってのは同意だけど

なら逆に生放送のリアルタイムであの演出は無理だろ。テキストいつ打ってんだよ

 

 

0186:名無しのリスナー

 

>>183

お前は知りすぎた

 

 

0187:名無しのリスナー

 

われ可愛いからいいと思う

 

 

0188:名無しのリスナー

 

べつにどっちでもよくね?てかまだ初回放送やぞ

 

 

0189:名無しのリスナー

 

つまりこれは次回以降も気になってしまって見ざるを得ない状況に陥らせるエルフの罠

きたないなさすがエルフきたない

 

 

0190:名無しのリスナー

 

とりあえず追加情報ほしいゾ

次回配信いつだ?

 

 

0191:名無しのリスナー

 

>>189

わかめちゃんに汚いところなんてあるわけないだろ。どこだろうとペロペロ出来るぞ俺は

 

 

0192:名無しのリスナー

 

>>191

うわ……

 

 

0193:名無しのリスナー

 

>>191

気持ち悪い

 

 

0194:名無しのリスナー

 

>>191

控え目に言って最低だな

最も低い

 

 

0195:名無しのリスナー

 

>>191

人気過ぎだろwwww

これは気持ち悪い。○んだ方が良いのでは?

>>190

次回予告無かったな。仕様なのかうっかりなのか

SNSこまめに確認してね、ってか

 

 

0196:名無しのリスナー

 

しかし待たれよ。

非実在なのか実在なのかは可愛いの前には些細な問題とはいえ……触れるか触れないか、吸えるか吸えないかは極めて重要な問題なのでは??

 

 

0197:名無しのリスナー

 

>>196

おまわりさんこいつです

 

 

0198:名無しのリスナー

 

>>196

真面目くさってる変態で草

 

 

0199:名無しのリスナー

 

>>196

ひっでえwwwwwwドコ吸う気だよwwwwww

 

 

俺はおへそな

 

 

0200:名無しのリスナー

 

おっp

 

 

0201:名無しのリスナー

 

最低だなお前ら!!!!最高!!!!

 

俺はやっぱ耳で

 

 

 

……………

 

 

…………………………

 

 

………………………………………

 

 

 

0540:名無しのリスナー

 

ヤバすぎだろ……何だこれ

 

 

何だよこれ

 

 

0541:名無しのリスナー

 

非実在主張ニキ息してる~~~~???

 

 

0542:名無しのリスナー

 

なーーにが新人ユアキャスだよ!!!!どう見ても実写じゃねーか!!!!!

 

ありがとうございます!!!!!!!

 

 

0543:名無しのリスナー

 

よりによって故代の唄って……何なんその…………何なん……

 

 

0544:名無しのリスナー

 

アニメ製作発表記念じゃね?

 

本当に、

本当にありがとうございました。

 

 

0545:名無しのリスナー

 

歌うますぎワロタ……

 

 

0546:名無しのリスナー

 

歌うますぎナイタ……

 

 

0547:名無しのリスナー

 

もうやだ、情緒が  しぬ

 

 

0548:名無しのリスナー

 

ヨナは俺の娘

 

 

0549:名無しのリスナー

 

畜生どういうことだ。どう見ても実写だぞ。

じゃああの演出はなんなんだ……生放送やぞ……ありえん……

 

 

0550:名無しのリスナー

 

本当この子何者だ?何語か知らんけど発音ヤバすぎ

非実在言語のはずなのに発音が完璧(謎

 

 

0551:名無しのリスナー

 

可愛いくてお歌が上手。

(自称)お姉ちゃん。

実年齢百歳オーバーなので合法。

 

完璧か?すこるぞ

 

 

0552:名無しのリスナー

 

もう少しお披露目が早ければな……薄い本めっちゃ出ただろうに

 

 

0553:名無しのリスナー

 

やめてくれわかめ……その歌は俺に効く(やめないで)

 

 

0554:名無しのリスナー

 

俺は信じるぞ。今からでもわかめちゃんのコピ本が出る

 

 

0555:名無しのリスナー

 

モリアキマッマは冬不参加なんだっけ……

参加してたら間違いなく本になってたんだろうな

 

 

0556:名無しのリスナー

 

>>555

逆だろ、出産で忙しいから見送ったんだろ

 

 

0557:名無しのリスナー

 

>>556

出産w

 

 

0558:名無しのリスナー

 

出産wwwwwwwww

 

おめでとう!!!元気で可愛い女の子です!!!!

 

 

0559:名無しのリスナー

 

もっとおうたの動画いっぱいほしい……

ママ……おうたもっとほしいよママ……

 

 

0560:名無しのリスナー

 

わかめちゃんフィッチ持ってないのかな

ジョイカラは配信できるんか?

 

 

0561:名無しのリスナー

 

干し芋のリスト公開はよ

フィッチくらいなら貢ぐぞ俺は

 

 

0562:名無しのリスナー

 

どう見ても見た目幼女なのに

ふとしたところで見せる知的な一面がめっちゃ大人びてて思考がバグる

 

 

0563:<削除されました>

 

<削除されました>

 

 

0564:<削除されました>

 

<削除されました>

 

 

0565:名無しのリスナー

 

堂々とすこっても合法!!百歳だから!!!素晴らしい!!!!

 

 

0566:名無しのリスナー

 

若芽ちゃん身長いくつ?情報出てた?

幼女なのは確定的に明かなんだけど

 

 

0567:名無しのリスナー

 

故代の唄のサムネ画像本当すき……心が洗われるようだ……

モリアキママありがとう……もっとちょうだい……

 

 

0568:名無しのリスナー

 

お披露目配信の翌日にもう動画投稿か……がんばるなぁ

 

 

0569:名無しのリスナー

 

>>566

134cmだゾ

 

 

0570:名無しのリスナー

 

この時勢に無所属ソロ勢とか気合い入ってんなぁ

どっか箱に所属しといた方が活動しやすいだろうに

 

 

0580:名無しのリスナー

 

おうた動画聞いたあとにはじめまして動画のトーク聞いて脳が溶けてる

しあわせ……しあわせ……

 

 

0581:名無しのリスナー

 

>>569

ありがとおおおおおおお10歳児平均よりも小さいお姉ちゃんカワエエエエエエエエエ!!!!!

身長ってどこ情報?つぶやいたー?てか他に情報持ってる??

 

 

0582:名無しのリスナー

 

『お姉さんですし?』すこ

 

 

0583:名無しのリスナー

 

ちっちゃいお姉ちゃんKAWAIIかよ……

というか>>569 何者?どっから情報拾ってきたんだ?

 

 

0584:名無しのリスナー

 

>>581 >>583

パトロン特権ってやつよ

投資の見返りに設定画や設定資料やラフイラストを賜っているのだ。めっちゃかわいいぞ

 

 

0585:名無しのリスナー

 

なんだそれ裏山!!!俺も投資すんぞ振り込ませろマジで!!!収益化はよ!!!!!

 

 

0586:名無しのリスナー

 

企画立ち上げ当初からの支援者ってことか

スゲェな……俺も一枚噛んどきたかったわ

 

 

0587:名無しのリスナー

 

つまり結局非実在ってこと?

実在エルフなのに設定画があるってこと???

どういうことだマジでわけわかめちゃんやぞ

 

 

0588:名無しのリスナー

 

>>587

エルフの時点で非実在に決まってんだろ異世界脳乙

 

 

0589:名無しのリスナー

 

わけわかめちゃんワロタ。これは流行る

 

 

0590:名無しのリスナー

 

考えれば考えるほど混乱するので俺はもう考えるのをやめた

実在でも非実在でもどっちでもいいよ、パンツさえ拝めれば

 

 

 

 

 

……………

 

 

…………………………

 

 

………………………………………

 

 

 

 

 

0988:名無しのリスナー

 

次スレ

【人生経験】木乃若芽ちゃんを語るスレ_第二夜【豊富ですし?】

htfps://ch_fiction/indextop/qawsedrftg201912xx/yo315/

 

 

0989:名無しのリスナー

 

次スレが立たないぞォー!

はやくー!立ててくれぇー!

 

 

0990:名無しのリスナー

 

予想以上に流れ加速したもんな……配信予告いきなり過ぎたし

 

 

0991:名無しのリスナー

 

>>988

乙!!!!ギリギリじゃねえか助かった

 

 

0992:名無しのリスナー

 

配信予定日当日午後に配信予告ワロタ

やっぱ若芽ちゃん所々ポンコツだよな

かわいいかよ

 

 

0993:名無しのリスナー

 

1000ならパンツ

 

 

0994:名無しのリスナー

 

>>988

スレ乙。ありがとう助かった

 

って第二夜wwwwどうでしょうかよwwww

 

 

0995:名無しのリスナー

 

あっち流れ始めたな?

埋め

 

 

0996:名無しのリスナー

 

埋め

1000ならわかめちゃんのパンツ公開

 

 

0997:名無しのリスナー

 

1000ならパンツ

 

 

0998:名無しのリスナー

 

1000ならマイクロビキニ

 

 

0999:名無しのリスナー

 

1000なら絆創膏

 

 

1000:名無しのリスナー

 

お前ら欲望駄々漏れ過ぎだろw

 

 

1001:

 

このスレッドは1000を越えました。

次回の放送をお楽しみに!

 

 

 



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45【街頭収録】新企画始動!!!

 

 「いいっすか先輩、先輩のソレはエルフのコスプレです。コスプレっすけど先輩は百歳を越えるエルフのお姉さんです。……オレも自分で何言ってんのか解んなくなってきたっすけど、とにかく先輩は気を強く持って下さい」

 

 「わ、わかっ……わかった」

 

 「演じ続けるんだよ、ノワ。(キミ)なら出来る。局長の底力を見せ付けてやるんだ!」

 

 「お……おう、ま……まかせ、まっ、ままっ……まませりょ」

 

 (あっ噛んだ。可愛い)

 

 (噛んだね。可愛い)

 

 

 

 昨日の夜に行われた、おれの今後の進路を決めるための三者面談を経て……おれはこの日本で生活するにあたって、とりあえずの指針を得ることが出来た。

 大筋でいえば、某悪魔閣下をまるっとパ…………リスペクトする形となる。つまりはこの耳も、髪も、瞳も、とあるキャラクターを演じるための特殊メイクなのだ。まあ閣下は生粋の悪魔なんだけど!

 

 その肝心なキャラクター『日本へやって来たエルフの女の子』を演じるにあたっての、我が魔法情報局が誇る敏腕演出家(抱えていた仕事を一掃し、全リソースを今後の活動計画立案へ回した神絵師(モリアキ))の立てた作戦(企画)が……今まさに始まろうとしているところなのである。

 

 

 

 「じゃ……じゃあ…………いってきます」

 

 「「いってらっしゃーい」」

 

 

 妙に上機嫌な笑顔でおれを送り出す二人をせいいっぱいのジト目で睨み付けながら……おれはモリアキの愛車から降り立ち、スライドドアを力いっぱい閉める。

 うちの演出家が提案した、街中で行うはじめての収録。おれは正直いって不安でしかないのだが……おれの絶対の味方が二人揃って『先輩(ノワ)なら絶対大丈夫っす(だよ)!!』と太鼓判を押すのだから、きっと大丈夫なのだろう。

 軽く身体をほぐし、装備品を確かめ、視界に入った若草色の髪に溜息をこぼし……頬をぺしんと叩いて気合い(スイッチ)を入れ、おれ(わたし)は作戦を開始する。

 

 仮想()()()()実在する配信者(キャスター)として、おれがどこまで戦えるのか。仮想配信者(アンリアルキャスター)として生を受けたこの身体の、魔法放送局局長としての技術は……生身の人間を相手に、果たしてどこまで通用するのか。

 

 

 (街中でゴップロ(カメラ)回すの初めてだわ……使える()が撮れりゃいいけど)

 

 

 全ては……おれがどれ程『若芽ちゃん』というキャラクターを演じられるかに懸かっている。下手に恥ずかしがったり素を出したりすれば、完成度は目に見えて下がるだろう。

 そうなればおれはただの痛々しい子か、単純に不審者である。

 

 …………それは嫌だ。絶対に嫌だ。

 この程度の演技をこなせないようじゃ……魔法情報局『のわめでぃあ』局長、天才美少女エルフ配信者若芽ちゃんの名が(すた)る。

 

 

 

 「大丈夫、大丈夫。()()()は、大丈夫。…………よっし、行きますか」

 

 

 無事にスイッチが切り替わったのか、はたまた心強い理解者の後押しがあるからか。

 心の暗雲をなんとか追い払うことに成功したおれは……平日の午前中とはいえ多くの人々が行き交う年の瀬ムードなアーケード街へ向けて、堂々と歩みを進めていった。

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 『居た! 赤い看板の店の前! 良い感じの雰囲気だよモリアキ氏!』

 

 「うーわ、初手JKとか度胸あるなぁ先輩。警戒されるかもと思ってたっすけど……おお、打ち解けてるっぽいっすね。パネェ」

 

 『すごいなぁ……まぁ多分自棄(ヤケ)っぱちだろうけど』

 

 「白谷さんもそう思います? でもまぁあの度胸はすげーっすよ。三十路のオッサンがJKに声掛けようもんなら普通は即通報っすもん」

 

 

 既に師走も終盤、年末年始休暇に突入している時季とあってか……この伊養町(いようちょう)商店街は多くの人々で賑わっている。

 この商店街は、ど真ん中に位置する伊養(いよう)観音の門前町として栄え、このご時世にしては珍しく発展を続けている全国でも稀有な商店街である。

 

 なんでも……営業が困難となった店舗を自治体が借り上げ、店を持ちたい若者達に斡旋して開店を後押ししているんだとか。

 その甲斐あってか空き店舗はほとんど見かけず、またそんな元気な商店街の集客効果を見込んでか、周囲では商業ビルの建設や再開発が行われ……今となっては新旧も規模も品目も国籍も入り乱れる混沌とした――それでいて活気溢れる――一種の観光名所となるに至っている。

 

 

 そんな賑やかな商店街、アーケード通りに面した喫茶店の二階客席。

 オレは折畳式オペラグラス越しに、姿を隠した白谷さんは『望遠』の魔法越しに。窓の外およそ三十メートル程向こうの路上で女子高生二人組と会話しているエルフの少女を、ワイヤレス(bluetooth)ヘッドセットを着けつつ()()と観察する。

 先輩を下ろした我々は近くのコインパーキングに愛車を押し込み、眺望良好なこの席を陣取ってインタビュアーを見守っているのだ。

 

 先程までの『不承不承』とした雰囲気はどこへやら。その所作は誰がどう見ても背伸びをする女の子そのもの、控えめに言って非常に微笑ましい。

 相手の女の子二人は既に警戒を解いているらしく、言動を見るにマイナスイメージを抱いていないようだ。

 

 それにしても……どんな話してるんすかね。ちょっと気になるんすけど。

 

 

 「っていうか……先輩あれ気づいてるんすかね? 周りめっちゃ写真撮られてますよ」

 

 『うーん…………気づいてるのかな……さすがに気づいてるよね……あんなに人目集めてれば』

 

 「めっちゃファンタジー美少女っすからねぇ……伊養町(いようちょう)だから忌避感も少ないんすかね?」

 

 『……っていうか、これ一組目だよね? 凄い盛り上がってるし……なんかいきなり()繋げちゃいそうだよ?』

 

 「マジっすか!? っ、と…………どんだけ(ベシャ)り上手なんすかあの(先輩)

 

 『ほら女の子たちも……なんだっけ、えっと……スマホ? 見てるよ。多分ノワが……チャン、ネル? 宣伝してるんだと思う。この企画趣旨も説明してるんじゃない?』

 

 「手際良すぎないっすかあの幼女(先輩)……」

 

 

 思わず声を荒立ててしまい……周囲の視線を浴びて我に返る。先輩に借りたワイヤレス(bluetooth)ヘッドセットのお陰で『通話中にいきなりテンション上がった痛い奴』と思われるだけで済んだハズだ。

 あの幼女(先輩)が次の段階に進むまではこの店に居座ろうかと、つい先程ブレンドコーヒーとピザトーストを注文してしまったのだが……これは早くも移動の必要が生じてしまうかもしれない。

 

 

 『あっ……御愁傷様、モリアキ氏。移動するよ移動』

 

 「ぐおおお……コーヒーまだ半分も飲めてないっすよ……オレ猫舌なんすよ……まだピザトースト来てないのに……」

 

 『……まぁ、せっかく作って貰ったんだもんね。コーヒーは何とか頑張って。ボクも手伝うから』

 

 「く、っ……アイスコーヒーにしておけば!」

 

 

 視線の先、和気あいあいとした雰囲気で移動する女の子三人組を見送りながら、香り豊かな熱いコーヒーをちびちびと啜る。先輩から移動先の連絡が来るまで、もう少しくらい時間があるだろう。

 せっかくのできたて届きたてのピザトースト……溶けたチーズが非常に(うま)そうである。せめて半分、できれば七割くらいは頂きたい。

 

 

 そんな希望的観測も虚しく……直後スマホが着信音を響かせ、女児(先輩)からのメッセージの受信を告げた。

 白谷さんは『仕方無いね』とか言いながら……ピザトーストを一瞬で片付けてしまった。

 

 なにこの子すごい。

 

 



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46【街頭収録】※スタッフは腕章と身分証を提示しています

 

 「えー、でも本当私ら顔出しでも大丈夫だよ?」

 

 「そうそう。ケイちゃんアキちゃんにも自慢してやりたいしー」

 

 「お……お気持ちだけで大丈夫ですよ! わたしなんかまだまだ得体の知れない個人配信者(ユーキャスター)ですし、もしわたしが悪い人だったらどうするんですか! これ以上ご迷惑は掛けられません!」

 

 「いい子だねぇ~~のわちゃんは~~」

 

 「可愛いなぁ……ウチの子にならない?」

 

 「ふあ!? すす、すみません……お気持ちだけ頂きます!」

 

 「「可愛い~~~~」」

 

 

 

 伊養町商店街での街頭インタビューで声を掛けた(実際にはおれが声を掛けられたのだが……)お年頃の女の子二人組。

 聞くところによると伊養町にはよく遊びに来るらしく、まずは行きつけのお店でランチを堪能しようとしている道中、何やら人だかりを発見。いったい何事かと見に行ってみると、ひときわ異彩を放つ女の子がカメラ片手にキョロキョロしていたので、好奇心が勝り声を掛けた……という経緯らしい。

 

 不審・不安に感じなかったのか、という問いには『だって小さくて可愛かったから』との返答。……微塵も警戒されないくらい可愛いのか、おれ……

 そんなにか……これでも元・男なんですが……もうかなり自信無くしたわ…………泣いてねえし。

 

 

 ……と、まぁ、とにかく。

 二、三お話を聞いたところによると、なんでもこれからランチの予定だとか。おれとしてはまさにちょうど探していた相手だったので、『わたくし、こういう活動をしている者です』と自分の身元を明かして『この度はこういう企画を行っていまして』と事情を説明し、企画への協力と『絶対首から下しか映しませんし、お顔もお名前も出しません! 身元がわからないようにしますので!』と条件を提示した上での撮影許可を求めたところ…………二人とも二つ返事で受け入れてくれたのだった。即答だった。

 

 

 それからおれたち三人は、良い意味で混沌とした伊養町商店街を目的地へ向かって歩いていった。

 さっきの応対中や今このときも、道行く人々から度々カメラを向けられている。おれの内心としては他人のカメラで撮られることに未だに抵抗が大きいのだが……一方の身体は平然としたものだ。

 

 

 「わかめちゃんはどこの出身なの? 日本人じゃないよね絶対!」

 

 「そうそう! ずっと気になってたんだけど……その耳! どうなってるの!?」

 

 「んふふ……珍しいでしょう? 何を隠そうエルフですよエルフ! 聞いたことありますか?」

 

 「えースゴい! スゴい! 可愛い! ホンモノみたい……触って良い?」

 

 「だ、だめ! だめです!! 耳は、その、えっと……敏感なので!!」

 

 「それ髪の毛……まさか地毛? ウィッグじゃないよね?」

 

 「地毛です! どうです、きれいでしょう?」

 

 

 女の子達との世間話に花を咲かせながらも悠然と振るまい、『日本を訪れたエルフの少女』というキャラクターを堂々と演じる。

 周りの人々にもその会話は無事に届いたらしく、おれに対する興味を煽って多くのカメラにその身(と背中に取り付けた『放送局』の宣伝と二次元コード)を晒すことに成功した。計画通り。

 

 立地柄サブカルに対しても寛容であろう人々が、これだけ居るのだ。この中の何人かでも『放送局』に興味を持ってくれれば、御の字である。

 

 

 

 「もうちょっとで着くよー。わかめちゃんは『ばびこ』初めて?」

 

 「初めてです。……というか、わたしはこの世界に来て日が浅いので……」

 

 「そうなんだぁー。でもきっと気に入ると思うな、内装もおしゃれだし……ランチもおトクだし」

 

 「日替わりカレーランチがまた美味しいんだよね……」

 

 「そうなんですね! 楽しみです!」

 

 

 さて。おれがエルフの女の子RP(ロールプレイ)と『歩く看板』に興じている間に……目的地である『ばびこ』へと近づいていたらしい。

 というわけで、そろそろ今回の企画をちゃんと説明しておくべきだろうと思う。……もっと早くに説明すべきだったかもしれないけど、そこは……えっと、まぁ……本当にすまないと思っている。

 

 今回の企画は、第三者を巻き込んでのアンケート企画である。

 お昼ごはんどきを狙い、これから昼食を摂ろうとしている人を探し出し、まず『何を食べようとしているのか』を聞き出し……そのメニューが予算内に収まりそうだったら『ごちそうするので、お昼ごはん同席させて貰えませんか?』と切り出す。

 そうすることで実際に人々が好き好んで食べているメニューを明らかにし、そのお店やそのメニューの『好きなところ』を根掘り葉掘り聞き出し、ついでとばかりに新人配信者(ユーキャスター)わかめちゃんの売名を行おうという……どこかで見たような内容の企画なのである。

 

 

 題して……『昼飯(メシ)、ご一緒してもイイですか?』。

 ……いや、でも大丈夫かなこれ。多分大丈夫だと思うけど……後日修正していたら察して下さい。

 

 



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47【街頭収録】※金銭や報酬を要求することはありません


今更ですが1,000pt達成してました!!
(わりとまえに)

本当に、
本当にありがとうございます!



 

 お昼どきを見計らい、道行く人に声を掛け、今日のお昼に何を食べようとしているかを聞き出し、『それご馳走しますので、ごはん御一緒してもイイですか?』と訊ねるという……どこかで見たような気がする企画。

 そんな企画の初回、どう転ぶのか全く予想がつかない第一回目の収録となる今回。本来ならばおれが道行く人に話し掛けなければならなかったのだが……今回はなんと、彼女たちから話し掛けてきてくれた。

 

 奇抜な装いのおれにわざわざ話し掛けてきてくれたんだし、おれの『放送局』と企画内容を説明したところ非常に好意的に捉えてくれたし……せっかくの厚意を無下にするのも申し訳ないので、今回は彼女達にお願いすることにした。

 まだどう転ぶかわからない手探り状態なので、優しそうな彼女達にはじめての相手をお願いしたい……こう書くとなにやら良くない雰囲気ですね、なんでだろうおかしいな。ふしぎ。わたしわかんない。

 

 

 

 というわけで。

 本日の目的地は、彼女達のおすすめのお店……この伊養町の片隅に店を構える喫茶店『ばびこ』さんである。

 

 彼女たちからの前情報によると、このお店のイチ推しは『五色の和パフェ』を筆頭とする和スイーツだという。

 玄米フレークやバニラアイスのベースに五色のトッピング……黒ごまプリン、紫いもアイス、安納芋ソフト、ほうじ茶ゼリー、抹茶くずきり等をバランスよく鮮やかにあしらった、たいへん『映える』メニューらしいが……残念ながらこちらはお預けになりそうだ。ちくしょう、なんで『お昼ごはん』って縛りをつけてしまったんだ。

 しかしながら……心配はご無用。ランチメニューにおいても丁寧な仕事が為されているらしく……季節のお野菜たっぷりのカレープレートや、これまた鮮やかなお野菜が美味しそうなヘルシーなせいろ蒸しランチ等々、見た目も鮮やかで健康的、おまけにお手頃プライスと……これまた非常に芸が細かいらしい。

 

 

 そんな彼女達イチオシの、伊養町『ばびこ』さん。

 喫茶店と聞いて勝手なイメージを抱いていたおれを良い意味で裏切り、その佇まいは歴史を感じさせる落ち着いた和の雰囲気。なんでも実際に築百年以上経った古民家を改築しているらしく、この雰囲気は決して『ガワ』だけではない……らしい。

 わくわくしながらも不安半分でお店のスタッフさんに目的をお話しし、店内での撮影許可を求め交渉を行ったところ……『他のお客様の肖像権に配慮する、迷惑とならない声量にとどめる、トラブルは各自で対応して頂く』との()()()()な条件こそ出されたものの、割と好意的に受け入れてくれた。

 

 このお店の常連らしい女の子二人の後押しも項を奏したのかもしれない。……この子らパネェ。

 

 

 

 「いやー、でも実際わかめちゃんが可愛いからだと思うよ」

 

 「そうそう、上目遣いで申し訳なさそうにお願いされちゃったらね……」

 

 「反則だよ反則。この魔性の女め!」

 

 「ええ……!? そ、そんなつもりじゃ……ごめんなさい」

 

 「じょ、冗談だって!」

 

 「そ、そうそう! そんな泣きそうな顔しなくたって! ああもう可愛いんだから……」

 

 「ええっと……あ、ありがとうございます?」

 

 

 

 幸いなことに店内撮影許可を得られたおれは……現在『ばびこ』さん店内にて隅っこのボックス席を借り受け、彼女達ともども注文したお料理が届くのを待っている状況である。

 

 この企画のレギュレーションとして『案内してくれたひとと同じものを食べる』という縛りが存在するため、おれが注文したのは女の子A……サキちゃん(仮名)と同じココナッツカレープレート。ほどよい辛さとココナッツミルクのコクがクセになるんだとか。正直とてもおいしそう。

 一方の女の子B……メグちゃん(仮名)が注文したのは、蒸し鶏とミニ生春巻のランチプレート。ボリューム満点なのにヘルシーだという……こっちもおいしそうだ。

 

 

 いやー……それにしてもこの身体のコミュニケーション能力ですが、思っていた以上に半端無いわ。

 彼女達の言っていたように、撮影許可を取り付ける際の上目遣い……あれは我ながら反則だと思っている。モリアキと白谷さんの二人も揃って『それは反則っす(だよ)!』と声を上げる程の必殺兵器に加え、そもそも年齢の大きく離れた女の子と平然とお喋りができる時点でスゴいことだと思う。

 この身体の対人コミュニケーションスキルは、恐らく非常に高水準なのだろう。すごいぞ若芽ちゃん。ぱないぞ若芽ちゃん。さすがはおれたちのかわいい娘だ。

 ……そういえばモリアキ達は大丈夫だろうか。ちゃんと追従できているんだろうか。まぁいいか。

 

 

 「お二人は、どんな経緯でこのお店を知ったんですか?」

 

 「え~……どうだったっけ……結構前だからなあ」

 

 「ちー先輩じゃない? えっと……部活の先輩と遊びに来たときに」

 

 「あーそうそう! ちー先輩とパフェ食べに来たのが最初で、そのときにランチもあるって知って」

 

 「んで確か……その週末だったよね。二日か三日後くらいじゃない?」

 

 「そうだったそうだった! 割とすぐ『行こう!』ってなって」

 

 「そのときはケイちゃんアキちゃんも一緒だったんだよね。……惜しいことしたなーあの二人」

 

 「ね~。こんな可愛い子とランチするチャンスだったのにね~」

 

 「えっと……そのお二人もお友達ですか?」

 

 「そうそう。友達であり部活仲間であり」

 

 「私ら四人、みんな吹部なのね。吹奏楽部」

 

 「おおー……すごいですね! 吹奏楽!」

 

 

 さすがはイマドキの女の子……なんというか、おしゃべりが得意だ。本来であればおれがインタビュアーとして、色々と質問を投げ掛けなければならない立場なのだが……彼女達はわずかな切っ掛けを足掛かりに、次から次へと饒舌におしゃべりを続けてくれている。

 おれとしては随所でやんわりと軌道修正を図れば良いだけなので、正直いって非常に助かるのだが……まぁ、今のところは恐らく愛称だから良いとして、個人情報が飛び出すようなら後で修正(ピー)音を入れなければならないだろう。

 

 重ねてになるが……冷静な第三者から見れば、おれはあくまで『自称・動画配信者(ユーキャスター)』であり、早い話が得体の知れない不審人物である。

 社会的信用が薄いおれが全世界に情報をばら蒔いてしまう恐れだってあるので、個人情報の取り扱いと周囲の方々への迷惑は人一倍に気を配らなければならない。

 ちゃんとしたテレビ局の撮影であれば、彼女達の顔を映してお名前と年齢を添えても許されるのだろうが……おれと『のわめでぃあ』にはそこまでやれる度胸は無い。そのためゴップロ(カメラ)も基本的にはおれに向いているし、彼女達を映すときも首から下に留めている。もちろん本名だって聞き出さない。

 

 彼女達は、その辺りを了承した上で撮影に乗ってくれたのだ。不馴れなおれに付き合ってくれるというのは、非常にありがたい。

 

 

 「わたしも楽器、つい最近始めてみたんです。アコースティックギターですけど」

 

 「えっ!? ウソわかめちゃんギター弾けるの!? 凄い!」

 

 「えっと……わたしの『チャンネル』にあると思います。『故代の唄、歌ってみた』って」

 

 「待って待って、今聞く。私もアコギやってみたいんだけど……楽器高くて」

 

 「あ、浪東(ろうとう)区のユニオンスタジオ良いですよ。いろんな楽器レンタルできるので」

 

 「ユニオン……ああ! ちー先輩たちが個パ練で使ってるって所じゃない!?」

 

 「ちょっと待って今読み込みが……来た! ちょっと静かに!」

 

 

 楽器演奏という大まかな括りではあるが、共通の趣味を見いだしたことで彼女達も前のめり気味である。

 

 それにしても……吹奏楽かぁ、文化部の中の運動部って聞くよなぁ。

 おれが高校生だったときは野球部がなかなかの強豪だったので、夏の選抜本選に彼らは度々出場していた。のだが……野球部は当然として、巻き添えを食らうようにいっつも同行させられていたのが吹奏楽部の面々……というイメージだ。

 野球部の少年達が炎天下のなかで戦い続ける……それはもちろん大変なのだろうが、吹奏楽部の面々も負けず劣らず大変そうだった。攻撃ターンの間は絶え間なく演奏を響かせ続けなければならないし、真っ黒なセーラー服と学ランは太陽熱をこれでもかと吸収するし。楽器だって金属の塊なので、もしかしなくても熱を溜め込みそうだ。光を反射して眩しそうでもある。

 それでいて選手達を鼓舞するために勇壮な曲を奏で続けなければならないのだから……それはもう、大変だ。

 

 ……などとおれが意識を飛ばしている間、サキちゃん(仮名)メグちゃん(仮名)はおれの『歌ってみた』動画を視聴してくれているようだ。再生回数貢献ありがとう。

 それに何やら……先程からおれたちの様子を遠巻きに観察している人たちも、どうやらおれの背中に貼り付いている『放送局』の広告から動画に行き着いたらしく、こちらも『歌ってみた』を再生してくれているらしい。

 おれの耳じゃなきゃ聞き逃しちゃうね。顔も名前も知らない彼らも、視聴ありがとう。

 

 

 しかし……最初はどう考えてもダサくて恥ずかしいだけだと思っていた背中ポスターも、やっぱり効果は抜群だったらしい。

 古くから存在する『ちんどん屋』ではあるが……その効果は現代においても有用なようだ。まぁもっとも今のおれは『ちんどん』していないのだが。……というか、そうか。伊養町で『ちんどん』するのもありかもしれない。今度調べてみよう。

 

 情報局局長としての意識の高さを垣間見せながら……おれはサキちゃん(仮名)メグちゃん(仮名)が視聴から戻ってくるのと、おいしそうなランチメニューが届くのを……独り大人しく待ちわびるのだった。

 

 

 



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48【街頭収録】伊養町でJK二人の昼食についていったら

 

 どうやら……サキちゃん(仮名)メグちゃん(仮名)は『歌ってみた』だけでなく、その後の『ありがとう配信』のアーカイブもちらっと見てくれたらしい。

 ……いや、ちがうか。どうやら有志の(なにがし)が切り抜いてくれた『素晴らしき(amazing)恩寵(grace)』のアカペラ部分のみの動画のようだ。

 まぁ元の配信は一時間半くらいあるし、お歌の部分のみはちょっと探しづらいもんな。

 

 結局彼女達は『素晴らしき(amazing)恩寵(grace)』の後も関連の切り抜き動画を辿っていたようで、しばらく戻ってくることは無かった。

 注文したランチメニューを持ってきてくれた店員さんの声でようやく現実に引き戻されたらしく、しかし戻ってくるなり前にも増してキラキラした視線を向けてくるようになり……え、ちょっと待ってどういう状況だこれ。

 

 

 「ええっと……カメラ、回して良い?」

 

 「あっ!? は、はい!」「大丈夫です!」

 

 

 …………敬語?

 

 待って、いったい何があったんだ。ついさっきまでは和気あいあいとタメ(ぐち)で会話をしていたハズなのに。この僅かな間で心の距離を置かれてしまったということなのか。やっぱり打ち解けていたように思えたのはおれの気のせいだったのだろうか、おれの動画のどこかに気分を害してしまう部分があったのだろうか。

 

 

 「ま、待って! 違うの! べつにわかめちゃんがキライとかそういうのじゃなくて!」

 

 「そうそう! いきなり敬語出ちゃったのは謝るけど……これは単純に『すごいな』って思ったから!」

 

 「そ……そう、なの? …………って! なんでわかったの!? 心読んだ!?」

 

 「いや、だって……めっちゃ悲しそうな顔してたから……」

 

 「わかめちゃん、考えてること顔に出やすいって言われない?」

 

 「…………………………いわれる」

 

 「あぁ……」「やっぱり……」

 

 

 またしても一転……今度はどこかかわいそうな子を見るような生暖かい視線で見つめられ、気恥ずかしさで顔に熱が集まるのを感じる。

 しかし、嫌われていないということが解った。ならば予定通り進めても大丈夫だろう。気を取り直して、収録と彼女達へのインタビュー再開と行こうじゃないか。

 

 ……と、でもその前に。

 

 

 「えっと、じゃあ冷めないうちに。……いただきます」

 

 「「いただきます!」」

 

 

 べつにインタビューなんか、食後でも取れる。温かいごはんを温かいうちに……おいしいうちに頂くことは、作ってくれたひとへの礼儀だと個人的に思っている。

 一部のお料理を除き、冷めてしまえば多少なりおいしさは低下してしまう。可能な限り出来たてを頂くべきだ。今現在の優先順位としては、これが最優先だろう。

 

 

 と、いうわけで。

 恥ずかしながらカレーと言えばジャパニーズスタイルカレーライス(バー○ント等)しか食べたことの無いおれにとって、ココナッツカレーというのは初体験だったりする。

 名前からココナッツ……椰子の実の何かを使っているんだろうし、カレーライスの分類なのだろう。ハチミツを入れるような感じでココナッツの甘いなにかが入っているのかもしれない。

 とりあえずカレーである時点で美味しくないわけが無いので、期待に胸を膨らませながら一さじ目を口に運び…………

 

 

 (………………あっ、うま)

 

 

 おいしい。おいしすぎて大石内蔵助(おおいしくらのすけ)になったわ。

 

 カレーだからやっぱピリッと辛いんだけど、ココナッツ風味の……ミルクかな。ココナッツミルクで辛さが程よく緩和されていて、非常に食べやすい。舌や口内が痛みを感じるような辛さじゃなくて、じんわりと刺激されるような……なんていうか、全然不快じゃない辛さだ。

 ルウというかスパイスの風味も普段食べ慣れたバーモ○トとは大幅に違い、やっぱりココナッツミルクの甘さが加わる前提でバランスよく纏められてるように感じる。多分バ○モントにココナッツミルクを加えただけのものとは根本的に違う味なんだなと思う。

 カレーの中にはほろほろに柔らかい鶏肉も入っており、鶏肉そのものにもしっかり味が沁みていてこれまた非常においしい。ライスに乗っかった彩り野菜も、濃厚なカレーにも負けないくらい野菜の味が濃い。

 

 ものにもよるけど、葉もの以外の野菜は低温の油でサッと揚げると色と味が濃くなるらしいわよ。

 理由は知らないけどね。

 

 

 とりあえず、期待通り……いや、期待以上に満足感のあるランチだった。

 こんな良いお店を教えてくれた上に企画に付き合ってくれて……サキちゃん(仮名)メグちゃん(仮名)には、重ね重ね感謝しないといけない。

 

 そう、企画。

 二人が食べ終わったら、ちゃんとやることをやらなければ。

 

 それにしても……あー、うますぎ。うますぎて……はい。たいへんおいしいです。

 

 

 



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49【街頭収録】久しぶりに自業自得の窮地に陥りました

 

 非常に満足感の高いランチを堪能し、おれたち三人は少しお腹を落ち着ける。

 そのまま数分おいしい食事の余韻に浸った後……なけなしのプロ意識がファインプレーを見せ、すべきことをなんとか思い出した。

 

 

 「……こほん。ええと、では……今回のお昼ごはん、『ばびこ』さんのココナッツカレープレートです。このメニューのおすすめポイントを教えていただけますか?」

 

 「あっ、えっと……そうですね。幾つかあるんですが……やっぱりまずはこの内容に対してメチャクチャお手頃な値段ですね。私達学生にとってはすっごくありがたいです」

 

 「そう! 六八〇円ですよこれ! 六八〇円なんですよこれ! ごはんにカラフルな素揚げ野菜があんないっぱい載っかって、ココナッツカレーとスープがついて六八〇円ですよ……すごい。……やっぱり学生さんはなかなか贅沢に使えませんからね」

 

 「そうなんですよ……でもここならお店の雰囲気も良いし、六八〇円とは思えない豪華さだし、正直普通にメッチャ美味しいから……毎日は来れないけど、たまに遊びに来たときくらいは……って」

 

 「今日はわたしがご馳走するから! お姉さんがご馳走してあげるから! 安心して!」

 

 

 そう、ランチメニューを見て思ったのだが……まずなによりも全体的に価格がお手頃。ココナッツカレープレート(六八〇円)と蒸し鶏と生春巻プレート(七四〇円)を筆頭に、だいたい六百から九百円台の価格帯で揃っている。

 ここのようなお洒落なお店は四桁に届く価格設定でもおかしくないと思っていたので、これには少なからず驚いた。

 

 勿論、価格設定が高いなら高いなりの理由があるのだろう。安いなら安いなりの理由もあるはずなのだが……見た限りではいわゆる『手抜き』『妥協』といった部分は見られず、結果として価格に反して非常に満足度の高い品に仕上がってる。

 

 

 「ちょっとごめんなさいね。……ちなみに、蒸し鶏と生春巻プレート。こっちも驚きの七四〇円です。蒸し鶏と生春巻と小鉢とスープ、この品数でですよ? ……聞くまでもないような気もしますが、このメニューがお気に入りの理由って、教えていただけますか?」

 

 「そうですね、私もまず値段がそんな高くないっていうのと……私エビと鶏肉が好きなんです。ここの蒸し鶏すっごくしっとりしてるし、生春巻もエビちゃんと入ってるし。お母さんなかなか作ってくれないから……」

 

 「家庭じゃあんまり作りませんよね、生春巻。蒸し鶏も意外と奥が深いって聞きますし、美味しく作るのは大変そうです」

 

 「そうなんですよ……一回お母さんに蒸し鶏作ってみてもらったんですけど……ホント『鶏肉をそのまま蒸した』って感じで……」

 

 「普段なかなか食べないお料理が気軽に食べられる……なるほど、魅力的ですね。好きなものなら尚のこと……」

 

 「そう~ここの蒸し鶏めっちゃ好きなの~~」

 

 「よしよし、いいのよ、ご馳走するから」

 

 

 ココナッツカレーはおいしかったし、蒸し鶏と生春巻もおいしそうだった。

 それぞれのメニューのイチオシポイントも教えて貰えたし……何よりもお話好きな彼女達のお陰で、トークの部分もなかなかの収穫だったのだ。和スイーツのおすすめとか、季節限定変わり種メニューの存在とか。このへんの会話も多分動画に活かせるだろう。メグちゃん(仮名)ナイス。

 撮影する分はほぼオッケーだと思うので、あとは帰って編集して投稿するだけ。いつもよりも難易度の高い編集作業だけど……金曜まで時間はたっぷりあるのだ。まぁなんとかなるだろう。

 

 ともあれ、非実在(アンリアル)ではない実在の配信者(ユーキャスター)として初めての企画。このお店は内容的にも価格的にも申し分なく、これは間違いなく初回から『当たり』を引いた。

 いや、元はといえば彼女達がおれに声を掛けてくれたからこそ、得ることが出来た『当たり』だった。彼女達にも改めてお礼を言わなければならない。

 

 

 

 「えっと……じゃあ、このあたりで。お会計はわたしがお支払するので……いや、本当にありがとうね。助かった。いろいろと」

 

 

 ……そう、名残惜しいがそろそろお別れなのだ。

 何しろ冬季休暇中のお昼時、こんなにサービス満点低価格なお店で閑古鳥が鳴いているハズが無く……お店の入り口付近とお店の外には、ランチを楽しみに待っているお客さん達の気配を感じる。

 ただでさえ『撮影させてほしい』などとワガママを言っているのだ、これ以上お店の迷惑となる長居は慎まなければならない。

 

 そろそろお(いとま)しようと身支度を始めると……なにやら彼女達からちらちらと注がれる、どこか期待するような視線。

 な、何だろう。お会計はおれ持ちって言ってあるよな。支払いを期待されてるわけじゃないだろうし……じゃあこの、()()を期待されているようなそわそわした雰囲気は、いったい……

 

 

 「えっと……」「わかめちゃん!」

 

 「は、はひッ!!」

 

 「「REIN(メッセージアプリ)!! 交換して!!」」

 

 「はい!! え? ちょ」

 

 「ほんと!?」「やったー!!」

 

 「っと待っ、…………えっ? ちょっ、待っ」

 

 「わかめちゃんフレフレしよフレフレ! フレフレーって……あっ来た来た! ……ん?」

 

 「私も! わかめちゃん私もフレフレ! 来た来た…………ん?」

 

 (…………っ!! やっば!?)

 

 

 つい勢いに流されて友達登録されてしまったREIN(メッセージツール)だが……おれは普段使いのアカウントしか持っておらず、つまりは彼女達とID交換したアカウントは俺こと安城正基(あんじょうまさき)のアカウントなわけで。

 この『のわめでぃあ』を立ち上げる際に関係者各位と連絡を行うにあたって、アイコンやプロフィール背景やヘッダーや公開設定は『若芽ちゃん』のものに染めてあるとはいえ。

 

 肝心のユーザーIDそのものは、本名由来の……本名ほぼそのままのIDなのだ!!

 

 

 (やばい!! 待ってこれヤバイ! どうしようヤバイ!!)

 

 「わかめ、ちゃん……?」

 

 「これ…………名前」

 

 「えっと、えっと、えっと、えっとえっとえっと……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さきちゃん、っていうの? ウソ、同じ名前!?」

 

 「わかめちゃんじゃなかったんだ。でもやっぱ可愛い」

 

 「……………………? …………??? …………はい???」

 

 

 

 

 「でも……『ジョウマ』って珍しい名字だね」

 

 「ジョウマ……(しろ)(あいだ)かな? それとも(うえ)に……って、詮索するの良くないね、ごめんね?」

 

 「…………あっ! い、いえ!! 大丈夫…………です」

 

 

 

 納得した。危なかった。助かった。そうだった。

 

 おれのIDは確かに本名由来であり……前半部分に英数字を無秩序に並べ、後半に本名の一部をアルファベット表記したものが続いている。後半部分は読みもスペルもほぼそのままだけど、本名すべてではなく一部のみ。『(an)(jo)(masa)(ki)』の後ろ四分の三文字『(jo)(masa)(ki)』部分のみ。

 烏森(かすもり)(あきら)氏が本名の一部を抜粋してペンネーム『モリアキ』を作ったように、それを勝手にリスペクトして設定したIDだったが……『jomasaki』部分だけだとなるほど確かに『ジョウマ・サキ』とも読めるだろう。

 

 サキという名前であれば……今のおれの性別であっても、とりあえず不審に思われることは無いはずだ。多分。

 

 

 「えっと、えっと…………で、できれば……『木乃若芽(きのわかめ)』のほうで呼んでいただけると……」

 

 「あっ、そうだね! 芸名ってやつだよね!」

 

 「さすがにちょーっとデリカシー無かったね……ごめん」

 

 「い、いえ……大丈夫、です」

 

 

 

 ……助かった。

 非常に、非常に、あぶなかった。

 

 モリアキ本当にありがとう。今度パンツ見せてあげるね。

 

 

 



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50【街頭収録】次回をお楽しみにね!!

 

 

 非実在ではない個人配信者として初めてとなる、喫茶店『ばびこ』さんでの収録を終え……ボックス席の周囲のお客さん達に『すみません、お騒がせしました』『ご迷惑お掛けしました』と頭を下げ続け、お会計する際にも同様に店員さんに重ね重ねお詫びと感謝の言葉を告げ、さあお店を後にしようというところで。

 

 何故か。……なぜか。

 ほかでもないこのお店の、喫茶店『ばびこ』のオーナーさんに……おれは記念撮影を求められた。

 

 

 

 「?? ……え? えっ? 何で……えっ? …………いえ、迷惑とかでは無いんですけど……その、わたし、ですか? …………えっと、わたし別にそんな、記念撮影されるような………………いえ、迷惑じゃないです。大丈夫です。大丈夫なんですが…………わたしなんかで、良いんですか? …………えっと、そうですか。じゃあ、はい。僭越(せんえつ)ながら」

 

 

 やや小柄ながらも落ち着いた、『お上品な奥さま』といった雰囲気のオーナーさんに頼まれ、おれはレジの前で店員さん何名かと記念写真を撮って貰った。混乱のあまり『何に使うんですか?』なんてアホ丸出しな質問をしてしまったが、やはりというか店内に掲示するのだという。

 当たり前だろう。写真なんてモノに他の用途があるわけ無い。しいて言えば、呪いでも掛けるときくらいだろうか。……それはさすがに無いだろう。

 

 しかし……おれの写真なんか貼ったところで、正直ご利益があるとは思えない。おれ自身は当然、芸能人や有名人なんかでは無いし……いちおう個人配信者(ユーキャスター)を名乗ってはいるが、放送局だって立ち上がったばかりだ。まだまだ無名も無名のド底辺でしかない。

 とてもメリットがあるようには思えないけど……おれは今回『ばびこ』さんに、非常にお世話になった立場である。恩返しと言えるほど大それたことじゃないが、望まれるなら記念撮影くらい応じようじゃないか。

 

 ついでとばかりに、おれのゴップロ(カメラ)でも撮って貰った。動画に使う許可も貰ったので、エンドクレジット画面候補の()が撮れたのは正直嬉しかった。

 いつのまにかサキちゃん(仮名)メグちゃん(仮名)も横に並び、自分達のスマホで撮って貰っていた。……まぁいいけど、そろそろ周りのお客さんの迷惑になるからね。っていうか周りのお客さんもチラホラスマホ向けてるね。いえ、実際ご迷惑お掛けしてる自覚はあるんですが……できればSNS(つぶやいたー)とかに晒して叩くのは勘弁して欲しい。というか実際これって無断撮影なのでは…………まぁいいけど。

 

 

 

 「なんか……めっちゃ盛大なお見送りだったね」

 

 「こんなん初めてだよ。わかめちゃん効果かな」

 

 「や、やっぱ普通はこうじゃないん……です、ね……」

 

 

 ……というわけで、入り口付近ですったもんだあった末にやっと退店。

 何人かの店員(スタッフ)さんが表まで見送ってくれ、『ぜひまた来てくださいね!!』とのお言葉をいただいた。明らかに他のお客さんと待遇違くないですか。

 しかしまぁ……実際のところ和パフェも気になっているので、正直また来たいとは思う。思っては、いる。……のだが。

 

 釈然としない部分が無いわけでもないが、かといって取り立てて不都合や問題があるわけでもない。

 総合的に見れば非常に有意義な時間を過ごすことが出来たし、肝心の映像データもばっちり残せていた。とりあえずは撮影ノルマを達成できたということで間違いないだろう。

 

 なので……つまりは、彼女達とはここまで。

 

 

 「あの、本当にありがとうございました。……正直不安だったので、声掛けて貰えて……ほんと助かりました」

 

 「いやそんな! 私達こそご馳走して貰っちゃったし正直いい思いさせて貰ったし!」

 

 「そうそう! こっちこそありがとうね! 動画できるの楽しみにしてるから!」

 

 「……はい! 頑張ります!」

 

 「じゃあ私達はこれで! わかめちゃんばいばい!」

 

 「ばいばーい! 作業がんばってね!」

 

 「はい! ありがとうございました!」

 

 「また今度パフェ食べ行こうね!!!」

 

 「お買い物も行こうね!!!」

 

 「はい! ………………はいぃ!?!?」

 

 

 掛けられた言葉を理解する間も無く、発言の意図を問いただすまでもなく……かしましくも心地よいサキちゃん(仮名)メグちゃん(仮名)の二人組は、ひらひらと手を振りながら伊養町の雑踏の中へと消えていった。

 この後は当初の予定通り、書店と雑貨屋を巡るのだろう。彼女達にも予定があるのにわざわざ時間を取ってくれて……本当に感謝している。

 

 彼女達の、そして喫茶店『ばびこ』さんの協力を無駄にしないためにも……素敵な動画を作らないと。

 

 

 ……と。意気込みも新たに足を進めるおれの鞄から、スマホが着信音を響かせる。

 発信元に心当たりがあるので、たすき掛けにしている鞄をいそいそと漁り、画面に表示されている名前を認識して頬が緩むのを自覚しつつ、スワイプして応答する。

 

 

 「やっほ。お疲れ」

 

 『お疲れ様っす先輩。撮影のほうはどうでした?』

 

 「タイミング良いな。見てたの? つつがなく完了したよ、多分」

 

 『それは何よりっす。……いやー、先輩達が入店した直後からめっちゃ混んだんすよ。店の前で並んでました』

 

 「ぅえ!? マジかよ声掛けてくれりゃ良かったのに……」

 

 『そりゃあ、だって…………えっと、あの……先輩。現在進行形のリアルタイム情報なんすけど……先輩めっっちゃ注目されてますからね?』

 

 「………………現在進行形?」

 

 『そうっすよ。今まさに。なので合流しづらいというか……それと、口調とか声のトーン。気を付けた方が良いと思うっす』

 

 「……わかっ、……り、ました。…………ありがとうございます」

 

 

 スマホを耳に当て、モリアキと通話を繋いだまま、周囲を何気なくキョロキョロと見回してみる。

 すると……わぁ……ほんとだ。そこそこの距離を開けてそっぽ向いて通話中のモリアキは良いとして……決して少なくない数の人がこちらへと意識を向け、うち何人かはスマホのカメラを向けているようだった。

 

 なるほど把握した。確かにこの状況では、何事もなく合流するのは難しいだろう。

 考え過ぎかもしれないが……烏森の車まで尾行されて、そのまま彼の自宅が特定されて、無いこと無いこと騒ぎ立てられて迷惑が掛かったりするのは……やっぱりよくない。

 

 

 『車は西町二丁目のなかよしパーキングに入れてあるんで、なんとか尾行撒いて来て下さい。先に行って直ぐ出せるように用意しとくんで』

 

 「……わかりました。ありがとうございます。()()()()()()()()()()()ですね?」

 

 『あぁ……そうっすね、またREIN送っときます。くれぐれも騒動は起こさないで下さいね? 先輩めっちゃ目立つんすから。……ご武運を』

 

 「はい。おつかれさまです」

 

 

 おれの口からこぼれる発言に(フェイク)を混ぜ込み、おれはモリアキに聞いた通りの駐車場へと歩を進める。この若芽ちゃんの記憶力をもってすれば、集中してさえいれば一度見聞きした内容を忘れることは(あんまり)無いのだ。

 

 角を曲がって狭い路地に入り、尾行しようとする人物が後を追い路地に入るよりも早くもう一本角を曲がる。念には念をと見咎められる前にもう一丁曲がり……これで周囲には誰も居ない。

 近くには窓も無いし、見られる範囲にこちらへ意識を向けている生命反応は見られない。

 

 今が好機(チャンス)と【浮遊(シュイルベ)】を発現、軽く地を蹴り無音で屋上まで急上昇を掛ける。……これで完全に追っ手を撒いたハズだ。

 おれの姿を見失った追跡者は、事前に得られた情報から()()()()()()()()()()()方面へ向かったと判断することだろう。真逆方向のなかよしパーキングに追跡の目が向くことは無い。

 

 

 空中で体勢を整え、魔法で姿を眩ませながら、おれは集合場所へと急いだ。

 

 もう少し。あと少しで……やっと落ち着いて『()』が出せる。……つかれた。

 

 

 



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【人生経験】木乃若芽ちゃんを語るスレ_第二夜【豊富ですし?】

 

 

 

0001:名無しのリスナー

 

※※※わかめちゃんまとめ※※※

 

名前:木乃 若芽(きの わかめ)

年齢:自称・百歳↑(人間換算十歳程度)

所属:なし(個人勢)

身長:134㎝(平均やや下)

主な活動場所:YouScreen

 

備考:かわいい

 

 

0002:名無しのリスナー

 

※※※わかめちゃんまとめ※※※

 

・魔法情報局局長

・合法ロリエルフ

・魔法が使える(マジ説)

・肉料理が好き

・別の世界出身

・チョロい

・「~~ですし?」

・とてもかしこい

・おうたがじょうず

・実在ロリエルフ説

・非実在創作キャラ説

 

(※随時追加予定)

 

 

0003:名無しのリスナー

 

>>1

記事立て乙

情報追記たすかる

 

 

0004:名無しのリスナー

 

>>1 乙

しかし本当どういうことだってばよ

 

 

0005:名無しのリスナー

 

>>1

記事乙

今夜の予定が決まってしまったか。残業ほっぽって帰るわ

休出残業とかやってらんねぇわ

 

 

0006:名無しのリスナー

 

前スレwwwwちくしょう1000てめぇwwww

 

 

0007:名無しのリスナー

 

ぐあああああ絆創膏がアアアアアア!!!!

 

 

0008:名無しのリスナー

 

これは有能

 

 

0009:名無しのリスナー

 

しかし今夜の配信見逃せねえ

場合によってはいよいよ実在ロリエルフ説が説得力増してしまう

 

 

0010:名無しのリスナー

 

わかめちゃんのパンツまだですか

 

 

0011:名無しのリスナー

 

ロリエルフの貴重なスク水ニーソはやく

 

 

0012:名無しのリスナー

 

えっちなのはいけないと思います!!

 

 

0013:名無しのリスナー

 

えちち用ハッシュタグはやくして

ママえちち用タグはやくして

 

0014:名無しのリスナー

 

>>9

いうて手品みたいなもんやろ、即座にエルフ実在説に繋げるとか短絡的すぎね?

 

 

0015:名無しのリスナー

 

モリアキママの公式支援たすかる

もっとたのむ……金なら払うぞ……振込先はやくして……

 

 

0016:名無しのリスナー

 

>>9

魔法とかエルフとかまーだ言ってんのか

時すでに21世紀ぞ

 

 

0017:名無しのリスナー

 

マイクロビキニとか絆創膏とか本気で言ってんのかwwwww

そんなものを着せて喜ぶかwwwww変態共がwwwwwww

 

 

0018:名無しのリスナー

 

>>15

俺も一昔前だったら一笑して済ませてただろうけどな

浪銀爆破事件見たら笑ってられなくなったわ

眉唾だけど魔法が実在すんじゃねえかってな

 

 

0019:名無しのリスナー

 

スク水が普段着のロリ魔王が許されるくらいやぞ

ロリエルフがたまにマイクロビキニ着るくらい許されるやろ

 

 

0020:名無しのリスナー

 

浪越市いうたらなかなかの都会やんけ

こんなオカルトじみたことになっとったんか

 

 

0021:名無しのリスナー

 

浪銀爆破事件はヤバイわ

確かにあれは魔法って言われても納得しそう

爆破そのものはガス爆発とかヘヤシュ使ったとか何とでも言い訳できるかもしれんが、

少なくとも屋上から飛び降りた魔法使いは人間じゃない

 

あの飛び降りだけは言い訳出来ないだろ

 

 

0022:名無しのリスナー

 

浪銀爆破って何それそんな世紀末じみたことになってたんか

 

 

0023:名無しのリスナー

 

いくらなんでも早計だろ、あの魔法使い氏とわかめちゃん結びつけるのはエアプ過ぎ

 

 

0024:名無しのリスナー

 

テレビとか最近てんで見てなかったから知らんかった

何これヤバイじゃん何が起こったんだよこれ

 

 

0025:名無しのリスナー

 

>>23

テメェこそ文盲のクセにいちいち脊髄反射で噛みついてんじゃねえよ糞雑魚弩低能雲湖珍珍がよ

誰もあの魔法使い=わかめちゃんとは言ってねぇだろ

あくまで「魔法の存在自体があり得る」ってだけの話だ

 

 

0026:名無しのリスナー

 

不穏すぎだろ、やはり平和な世界にはエロが必要

えちちちはやく

 

 

0027:名無しのリスナー

 

雲湖珍珍は草

 

 

0028:名無しのリスナー

 

雲湖珍珍wwwwwwwwそういうことかwwwwwww

知的な煽りかとおもったらただの小学生男子じゃねえかwwwwwww

 

 

0029:名無しのリスナー

 

>>25

23だが正直すまんかった……言われた通りだわ……

確かに25の言うとおりわかめちゃんが魔法使える説の裏付けにはなるわ……

ごめんな……俺ただの雲湖珍珍だったわ……珍珍切って詫びるわ……

 

 

0030:名無しのリスナー

 

なんで珍珍の話になってんだよwwwwwwwここは若芽ちゃんスレぞwwwwwww

 

 

0031:名無しのリスナー

 

美少女に珍宝授ける性癖もわからんではないがわかめちゃんに珍宝つけたら絶対許さない

 

 

0032:名無しのリスナー

 

>>29

切るなwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

 

 

0033:名無しのリスナー

 

>>29

待てよ……そんな殊勝になるなよ……俺一人悪者みたいじゃねえかよ……

俺は何も気にしてないからおまえも珍珍ゆるしてやれよ……

珍珍は二度と帰って来ないんやぞ……

 

 

0034:名無しのリスナー

 

わかめちゃんスレを珍珍で埋めるんじゃねえよwwwwwwww

 

待てよ…………埋め尽くさんばかりの珍珍に囲まれるわかめちゃん……アリだな

 

 

0035:名無しのリスナー

 

>>29,33

仲直りおめ

 

 

0036:名無しのリスナー

 

>>29

>>33

和平おめでとう

家でわかめちゃん配信を視聴する権利をやろう

 

 

0037:名無しのリスナー

 

>>34

通報しま……ちょっと詳しく聞かせてもらおうか

 

 

0038:名無しのリスナー

 

>>34

おまわりさんこいつです

 

 

0039:名無しのリスナー

 

>>34,38

おまわりさんこいつらです

 

 

0040:名無しのリスナー

 

ヒョエエエエ安価ミスったンゴwwwwwwww

 

 

0041:名無しのリスナー

 

つまり浪銀に魔法使いが現れている以上、わかめちゃんも魔法使いである可能性があるのか

 

 

0042:名無しのリスナー

 

浪越県警本当無能だな。何で実際に対応してるのになにもわかんねえんだよ

あの距離で話して相手の正体わかんねえハズがねえだろ

 

 

0043:名無しのリスナー

 

>>39

なんでや!!!ワイは善良な一般市民やろ!!!!

 

 

0044:名無しのリスナー

 

世間では世紀の大事件が起こったというのに

このスレは相変わらずこのザマである

 

 

0045:名無しのリスナー

 

>>42

浪越県警いうなwwwwwwww

横浜県警じゃねんだぞwwwwwww

 

 

0046:名無しのリスナー

 

>>42

浪越県警言うなし

横浜県警と同じにすんなし

 

 

0047:名無しのリスナー

 

魔法うんぬん以前にエルフなんですけお!!!!

あの耳が作り物なんて信じねえぞ!!!

 

 

0048:名無しのリスナー

 

>>45-46

結婚おめ

 

 

0049:名無しのリスナー

 

>>45-46

これは結婚ですわ

 

 

 

 

 

………………

 

 

………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

 

 

 

 

0678:名無しのリスナー

 

放送一時間前きったぞ……めっちゃドキドキしてきた

 

 

0679:名無しのリスナー

 

>>613

誰かが言ってたけどスク水ロリ魔王が許されるくらいだからな

絆創膏ロリエルフも許されるやろ

 

 

0680:名無しのリスナー

 

観客席コメントカオス過ぎワロタwwww

欲望に忠実すぎやろwwwwwwww

 

 

0681:名無しのリスナー

 

>>613

グラビア動画配信……胸とナニがアツくなるな……

 

 

0682:名無しのリスナー

 

>>613

神絵師魔王おじさんだってスケベDVD出したもんな、ワンチャンあるで

 

 

0683:名無しのリスナー

 

配信内容まだ未公開なん?

わかめちゃん本当そういうとこやぞ……すき

 

 

0684:名無しのリスナー

 

客席入った。ロリコン多すぎワロ

 

 

0685:名無しのリスナー

 

わかめちゃんが見たらどう感じるんだろうな……この世の地獄かな

 

 

0686:名無しのリスナー

 

演目何だろうな

おうたの動画のお礼も兼ねて、って本当にお礼だけして終わるわけ無いだろうし

 

…………無いよな?他にも何かあるよな?

 

 

0687:名無しのリスナー

 

今北

晩飯のわかめサラダに下半身が反応するようになってしまった……

濃ゆい味の白濁した液体をわかめにドロッとぶっかけるんやで……

二本の棒で白濁濡れのわかめを摘まんでおいしく食べてしまうんやで……

 

 

0688:名無しのリスナー

 

これ多分配信の終わり待たずして次スレ行くんじゃねえか?

流れ抑えるか?

 

 

0689:名無しのリスナー

 

>>687

病院行け。頭のだぞ

 

 

0690:名無しのリスナー

 

>>687

救急車呼ぼうか。黄色のだが

 

 

0691:名無しのリスナー

 

>>688

逆に放送前に次スレ飛ぶ説

 

 

0692:名無しのリスナー

 

>>687

ちょっと興味が湧きましたが何言ってるかわからないので図示してもらえますか

 

 

0693:<削除されました>

 

<削除されました>

 

 

0694:名無しのリスナー

 

配信一時間切ってるのに何やるのか誰も知らない説

 

 

0695:0687

 

>>692

予め用意しておいたお料理がこちらです

htfps://vvvvvv.uploader/domein/meccha_ecchinano.fc.jp/201912xx2024xxxx/

 

 

0696:名無しのリスナー

 

やいたー張り付いてるけどこっちも更新無いな

このまま前情報無く配信始まるんじゃね?

 

 

0697:名無しのリスナー

 

ていうか一時間前も特に通知とか無かったな……単純に手が回ってないのか所々抜けてるポンコツなのか

 

 

0698:名無しのリスナー

 

おまえ!!!!! >>695おまえ!!!!!

 

 

 

よくやった

 

 

0699:名無しのリスナー

 

>>695

これは釈放

 

 

0700:名無しのリスナー

 

>>695

私は彼は無罪だって最初から信じていました

冤罪で軽率に逮捕させようとする輩はこれを機に認識を改めてほしいですね(掌返し

 

 

0701:名無しのリスナー

 

>>695

もうわかめ料理をマトモな目で見られなくなったじゃないか……どうしてくれるだふざけやがって……てめえいっしょうゆるさねえからな…………gj

 

 

0702:名無しのリスナー

 

>>696

わかめ料理……これは流行る。流行れ。

 

というかえちち絵タグもう #わかめ料理 で良いんじゃね

 

 

0703:0687

 

お客様に少しでも喜んでいただけたのなら幸いです

絵描きの端くれとして絵描き冥利に尽きますな

 

 

0704:名無しのリスナー

 

#わかめ料理 wwwww言い得て妙

 

 

0705:名無しのリスナー

 

おいやめろもうわかめ(食材)をマトモな目で見られなくなるだろ

 

 

0706:名無しのリスナー

 

青少年の性癖が破壊される恐れ。いいぞもっとやれ

 

 

0707:名無しのリスナー

 

いや、でもさ、食材の名前つけちゃった時点でおいしくたべられちゃう(意味深)のは折り込み済みでしょ

おまけにワカメちゃんなわけだからパンツパンツされるのも折り込み済みな訳でしょう

つまりはわかめちゃんは性的。QED

 

 

0708:名無しのリスナー

 

>>702

個人勢ってことはタグまわりのルールとか決めてない説あるしな

かすてら(ウェブコメ)とかで提案してみるか

 

 

0709:<削除されました>

 

<削除されました>

 

 

0710:名無しのリスナー

 

なんや本当21時待たずに次スレ必要な流れか?

 

 

0711:名無しのリスナー

 

家庭科の授業で「わかめ料理」とか課題出るじゃろ?

健全キッズが「わかめ料理」で検索するじゃろ?

 

性紀のわかめ料理カーニバル開催って寸法よ。この国の未来は明るいな……

 

 

0712:名無しのリスナー

 

>>707

ひどすぎる暴論を見たwwwwwwww

 

 

0713:名無しのリスナー

 

折り込み済みってなんだwwwww今朝の新聞広告かよwwwwwwww

 

 

0714:<削除されました>

 

<削除されました>

 

 

0715:名無しのリスナー

 

>>711

学校のパソコン室で調べないことを祈るしかないな……

 

 

 

 

………………

 

 

………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

 

 

 

0963:名無しのリスナー

 

【私の方が】木乃若芽ちゃんを語るスレ_第三夜【歳上なので】

htfps://ch_fiction/indextop/qawsedrftg201912xz/yo1147/

立ちそうな気配無いから立ててみた。

入れ違いでスレ重複したようならソッチ使ってくれ

 

 

0964:<削除されました>

 

<削除されました>

 

 

0965:名無しのリスナー

 

すみません、950を書いたのはぼくです。

スレ立てのしかたわかりません

スレ立てってゆうのはどうやってスレ立てするといいですか?

 

 

0966:名無しのリスナー

 

>>945

だいたいシェフ >>687のせいだな!!

しかし結局みんな喜んでたから共犯やな!!!

つまりは仕方ないってことなんやな!!!!

 

 

0967:名無しのリスナー

 

>>963

thx。たすかる

 

歳上アピールに余念がないロリお姉ちゃんすき

 

 

0968:名無しのリスナー

 

>>963

記事立て多謝

「BANされる危険が危ない」も好きだな

 

 

0969:名無しのリスナー

 

しかし本当に配信前に次スレ移動することになるとは

 

 

0970:名無しのリスナー

 

>>963

記事立てアザーーース

>>965

ええんやで、ゆっくり覚えてこうな

 

 

0971:名無しのリスナー

 

>>963

次記事たすかる

 

 

0972:名無しのリスナー

 

>>963

記事乙なのだわ

>>965

中学生かな???

ここまで来るとは前途有望だな

将来が楽しみだ

 

 

0973:名無しのリスナー

 

1000なら若芽ちゃんのパンツ公開

 

 

0974:名無しのリスナー

 

かしこいアピールしてくるけど果たして本当にかしこいんだろうか

 

 

0975:名無しのリスナー

 

実在ロリエルフだとしたら本当正体は何者なんだってばよ?

どう見ても幼女やろ。控えめに言って義務教育中やろ

 

 

0976:名無しのリスナー

 

音楽の成績は100やろなぁ……

他の教科の成績いくつなんだろ。通信簿気になる

 

 

0977:名無しのリスナー

 

もっとかしこさをアピールできる場面があればな……

今のままだと背伸びしたがりポンコツ幼女感が否めない

 

 

0978:名無しのリスナー

 

かしこさはまだ解らないけどシコさならなかなかのものだと思うゾ★

 

 

0979:名無しのリスナー

 

次スレ流れ始めた?まだこっち残ってんよ~~頼むよ~~

 

 

0980:名無しのリスナー

 

21時まであと5分

それまでにこっち埋めて配信には次スレで過ごしたいな

 

 

0981:名無しのリスナー

 

わかめちゃんとお勉強できるならワイもおべんきょ頑張れると思う

 

 

0982:名無しのリスナー

 

>>976の学校はどんな通信簿使ってたんや……

 

 

0983:名無しのリスナー

 

>>976

評価100の通知表wwwwwwww

 

 

0984:名無しのリスナー

 

>>976ニキ……学校って行ったことある????

 

 

0985:名無しのリスナー

 

>>976

ワイのガッコは5段階評価やったが……

あれガッコによって表記違うんか?

 

 

0986:0976

 

>>982-985

……シテ…………コロシテ…………

 

 

0987:名無しのリスナー

 

本当謎だよな、わかめちゃん……

URの者なら魂ってか中の人いるんだろうけど……これどう見ても実在だよな、URの者じゃないよな?

 

 

0988:名無しのリスナー

 

1000ならいちごぱんつ

 

 

0989:名無しのリスナー

 

言動があざとすぎるやろ

チヤホヤされたがるネカマのソレだわ

演じてる感ハンパない

 

 

0990:名無しのリスナー

 

配信始まるまでに埋まるか?

 

 

0991:名無しのリスナー

 

しかし実際こんな美少女なら今まで何の音沙汰も無かったのは謎でしかない

モデル雑誌も芸能事務所もスカウト無能すぎだろ

 

 

0992:名無しのリスナー

 

>>989

わかめちゃんの中身がおっさんなわけないだろ起きろ

 

 

0993:名無しのリスナー

 

1000ならわかめちゃんは俺の姉

 

 

0994:名無しのリスナー

 

1000なら耳かきCD

 

 

0995:名無しのリスナー

 

埼玉県和光市

 

 

0996:名無しのリスナー

 

今度こそ!!!

1000ならマイクロビキニ

 

 

0997:名無しのリスナー

 

1000ならパンツ

 

 

0998:名無しのリスナー

 

1000ならスク水ニーソ

 

 

0999:名無しのリスナー

 

1000なら絆創膏

 

 

1000:名無しのリスナー

 

あと1分!!!

もう一息だぞお前ら!!!

 

 

1001:

 

 

 

このスレッドは1000を越えました。

 

次回の放送をお楽しみに!

 

 



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51【一旦休憩】追っ手は撒いたぞ

 

 浪越市中央区伊養町、その西町地区の二丁目に位置する『なかよしパーキング』は……商店街の只中に位置する、七層からなる鉄筋コンクリート造の大型立体駐車場である。

 

 駐車料金は三〇分三〇〇円(十二時間で二四〇〇円上限)と、パッと見た限りはあんまり安くない駐車場なのだが……なんとこの駐車場、伊養町商店街のほぼ全ての店舗でサービスが受けられるという、知る人にとっては文句なしで『ぶっこわれ』な大型パーキングなのだ。

 そのサービス額や驚くなかれ、商店街での利用金額千円ごとに一時間分……つまりは六〇〇円分のサービス券(当日利用に限る)が貰えてしまう。飲食店だろうと書店だろうとホビーショップだろうと殆どのお店がサービスに加盟しており、つまりはこの伊養町商店街でお買い物ならびにご飲食をしていれば、駐車料金は実質無料となるに等しい。

 

 そんなんで営業やっていけるのかと不安でしかなかったのだが……要するに半公営の駐車場であり、商店街および市から手厚い補助が出ているのだという。ですよね。

 

 

 そんな『なかよしパーキング』の六層部。REIN(メッセージアプリ)の指示に従い屋上から侵入すると……最上階から一層下の閑散とした駐車エリアに、見覚えのある軽自動車を見つけた。

 車の中の人物もこちらを認識したらしく、前照灯(ヘッドライト)がパシパシと点滅する。

 

 ……あの車の中以外、現在このフロアには人の反応は感じ取れない。今なら誰にも見咎められること無く合流できるだろう。

 

 

 「よいしょっと……ただいま、二人とも」

 

 「うっす。先輩お疲れさまです。……あ、後部の方が良いっすよ。助手席は外から見られやすいっす」

 

 「ノワお疲れ様。そうだね、ボクが偏光魔法で隠せば見つかることも無いだろう」

 

 「ほんと? わかった、そうする。白谷さんありがとう」

 

 「何の何の。ボクとしても自分の有用性をアピールしておきたいからね」

 

 

 助手席のドアを開けたおれに告げられた言葉に従い、助手席ドアを一旦閉めて後部のスライドドアを引き開ける。

 普段は畳まれフルフラットな荷台スペースとなっているそこには珍しく座席が姿を表し、虹色に煌めく(はね)を持った手のひらサイズの少女(かわいい)がにこやかに出迎えてくれた。

 

 胸の底がじんわりと温かくなるような、うれしさとも安心感とも取れる感覚に頬が緩むのを感じながら……後部座席に尻を落ちつけ、スライドドアをばたんと閉める。

 同時に白谷さんがなにやらぶつぶつと呪文を唱え、一瞬窓ガラスが魔力を纏ったかと思うと……おれの目から見た限りでは何事もなく、元通りに外の景色を映し出した。

 

 

 「スモークフィルム? とかいうのを参考にね。外から内側の様子を覗くことは出来ないけど、内側からは問題なく景色が見える。たとえこの中で着替えていようとも、外から見られる心配は無いよ」

 

 「おおすごい!! じゃあ動きやすい服に着替えても……あ、すごい。座面上げるとおれ多分室内で立てる! ……ええ……やべえ、普通に着替えられるじゃん」

 

 「先輩先輩。オレとしてはサービスシーン嬉しいんすけど、あくまでフロントと前席の窓はそのままだってこと忘れないで下さいね?」

 

 「!!!! っぶねえ!! 何させようとしてんのさ!! 変態!!」

 

 「オレ今の無実っすよねェ!!?」

 

 「いやー本当仲良いね」

 

 

 とりあえず着替えは保留として、背中にぶら下げていたミニポスターだけ外しておく。

 今日一日伊養町を歩き回った限りだったが……このポスターのお陰で少なからず、おれとおれの放送局(チャンネル)の存在を周知できたと思う。

 古くは広告人夫、あるいはサンドイッチマンなどとも呼ばれる広告手法ではあるが……シンプルながらも効果は高く、特に容姿からしてカメラを向けられやすいおれにとっては尚のこと高い効果が見込めるのだ。

 

 題して『ふふふ……タダで撮ろうたぁフテぇヤロウだ。おれの宣伝も一緒に写してもらおうじゃねえか。嫌とは言わせねえぜ』作戦である。センス無さすぎだろ。

 

 

 「でもさ、実際『ちんどん屋』ってあったじゃん。ちんどんちんどんしながら練り歩くやつ。あれやったら良いんじゃない? おれ多分練習すれば演奏できるぞ」

 

 「今の先輩の口から『ちん』とか飛び出るとちょっとギョッとするっすね。……いやあ、良い考えだとは思うんすけど……でも難しいんじゃないっすかね。騒音とかクレーム入れられそうで」

 

 「…………身元を大々的に宣伝してるもんな」

 

 「悪質クレーマーにバッド評価粘着される恐れも……」

 

 「ぅえ……それはやだなぁ……」

 

 

 せっかくの良い考えだと思ったのだが……このご時世、気づかないところでもいろんな制約があるらしい。なかなか簡単にはいかなさそうだ。

 まぁ……そのへんは無理なら無理で仕方がない。あくまでついでに過ぎないのだ。

 

 

 「とりあえず、一本分は問題なく撮れたと思う。出演者の子たちにも公開許可貰ったし……まぁお顔と名前は伏せるけど」

 

 「それが良いと思います。首から下でも伝わるには伝わるでしょうし……危ない橋を渡るよりかは」

 

 「ノワのお顔はちゃんと映るんだろ? なら見ごたえは十分だと思うよ」

 

 「そんな価値あるかなぁおれの顔…………そういえばさ」

 

 「あるに決まって……え? 何すか?」

 

 

 宣伝と聞いて……ふと思い出した。

 お会計の後『ばびこ』さんのオーナーさんに声を掛けられ、写真を撮って貰ったこと。おれのような無名な人を撮ったにしては、オーナーさんをはじめ店員(スタッフ)さんの反応が妙に……えっと、その……嬉しそうに見えたこと。

 ついでに言うと……撮影に協力してくれたJK二人組も、スマホに保存されたおれとのスリーショットを眺め、とても嬉しそうな顔をしていたこと。

 

 

 「もしかしてなんだけどさ。単なるうぬぼれのなのかもしれないんだけど……おれってもしかして、けっこう一般の方ウケ狙えてたりす…………え、な、なに? どうしたの二人とも……待って、なに? なに!? ちょ、何!?」

 

 「モリアキ氏……どうするよ?」

 

 「そっすね……やっちまいましょうか」

 

 「待って!? 何その顔! こわい! 待って!!」

 

 

 

 思っていたことを口にしたら……何だかスゴい目で見られた。

 なんなの。ちょっと。その可哀想なものを見るような目をやめてくれませんか。

 

 二人して見つめ合ったと思えば盛大に溜め息ついちゃってるし。本当なんなの。

 

 

 



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52【一旦休憩】とてもすごいやつ

 

 

 結局あのあとおれは……おれのよき理解者二人に懇々と諭されながら、しょんぼりしながら帰路についた。といってもモリアキの車でだけど。

 二人から同時にお説教を受けたのは初めてだったけど……うん、ちょっとこわかった。すみませんでした。

 

 モリアキの運転する車は実質無料のパーキングを後にし、多くの人通りで賑わう伊養町商店街を脱し、おれの自宅方向へと順調に走っていく。

 時刻はまだお昼過ぎ、お出掛けを終了にするには少々早めでもったいない時間ではあるけど……おれはこの格好でお買い物とか出歩く気にはなれないので、まだ明るいけどおうちに帰って作業に取りかかろうと思った。

 

 

 

 ………………はず、なのだけど。

 

 

 「ね、ねぇ……ねえ、モリアキ」

 

 「どうかしました? 何かおかしいところでもありましたか? 先輩」

 

 「えっと…………いえ、なんでもない……です」

 

 「そうですか。目的地までもう少し掛かるんで、今のうちに仮眠でも取っといて下さい」

 

 「エッ!? えっと…………は、はい」

 

 

 

 ……おかしい。何かが、おかしい。

 

 伊養町のある中央区からおれの住む南区へは、大雑把に言えば南方向へと向かうはずである。

 この浪越市は割とキッチリした都市計画のもとで開発が行われており、主要な幹線道路は京都のような升目状になっている。時刻はお昼をちょっと回ったくらいであり、まだまだ太陽は高い位置からおれたちを見下ろしているはずなので……つまりは、大雑把に太陽の方向へと向かっているはずなのだが…………

 

 …………なぜだろう。

 いったい何故、太陽がおれの横顔を照らしているのだろうか。

 何故正面方向にあって然るべきの太陽が、おれの左頬を温めているのだろうか。

 

 

 「ね……ねえ、白谷さん……」

 

 「ん? どうしたんだい? ノワ」

 

 「えっと…………どこ、向かってるのか……わかる?」

 

 「この地に来たばかりだし、地理にも疎いから……ボクは解らないなぁ。ごめんね、ノワ」

 

 「えっと、えっと……う、うん。気にしないで」

 

 

 小声で白谷さんに助けを求めると……妙にニコニコと可愛らしい笑顔を浮かべたまま、しかし何の解決にもならなかった。

 無理もないだろう、別世界の住人であった白谷さんがこの浪越市の地理に精通しているはずがない。

 

 で、あれば……行き先を知っているのは、この車を運転するモリアキただ一人なのだが……さっきのやり取りを思い起こす限り、彼には行き先を教えるつもりは無さそうである。ちくしょう、なんでさっき引っ込んでしまったんだ。

 

 ルームミラー越しに盗み見る彼の顔は……特に見た感じ怒っているようには見えない。

 ……しかしそうは言ってもついさっきお説教を受けたばかりなので、おれに対して何かしら思うことがあるのは恐らく間違いないのだろうが……それがこの現在の状況に繋がっているのだと考えると、途端になにやら怖くなってくる。

 

 

 「まぁまぁノワ。そんな不安そうな顔しないで。ピザトースト食べる?」

 

 「えっ? だ、大丈夫、お昼さっき食べたからあんまお腹()いてな…………? !? ちょっ!? どっから出したの白谷さん!?」

 

 「はっはっは。【天幻】の名は伊達じゃ無いってことさ」

 

 「ねえモリアキ!! 白谷さんが!! 白谷さんがピザトースト!! モリアキ!!」

 

 「ぅえ!? ちょっと待って下さい今運転中…………っと、えー……ちょっ、って……待って!? まさかあのときのっすか!?」

 

 「そうそう。ノワはお腹()いてないっぽいから、モリアキ氏お腹()いたら声掛けてね。ちゃんと熱々(アツアツ)のまま仕舞ってあるから」

 

 「ねえ!! あのときのって何!! 何があったの!! ねえ!!」

 

 

 二人の間に交わされたやり取りから、モリアキはどういうことなのか把握したようだが……おれにとってはわけわかめだ。……若芽(わかめ)ちゃんだけに。

 いや、冗談言っている場合じゃない。突如として現れたアツアツのピザトースト(すごいおいしそう)、そこに秘められた謎を解くまでは……とかいうほど深刻な話でもないが、単純に気になる。

 モリアキもあまりにもの事態に驚いたらしく、急遽近くのコンビニ駐車場へと待避する。事故の心配は無さそうだ。

 

 というわけで、こちらが問題の品。どう考えても白谷さんの懐には収まりそうもない、というか白谷さんの身体よりも大きそうなピザトーストである。

 しかも溶けたチーズの艶も、ふわりと漂うおいしそうな香りも、まるで出来立てであるかのように……非常に美味しそうだ。満腹でなければ卑しくもおねだりしていたかもしれない。

 

 

 ……しかし、何もない空間に突如として出現したピザトースト。

 自分の身体よりも大きなピザトーストを、ふわふわ漂わせている白谷さん。

 とうのピザトーストは、出来立てのようなアツアツを保ったまま。

 そして……白谷さんが自慢げに発した『【天幻】の名は伊達じゃ無いさ』という言葉。

 

 これは…………もしかして、もしかすると!!

 

 

 「し、白谷さん! もしかして…………【収納】的な魔法が使えるとか!? アイテムボックスとかストレージとか!!」

 

 「【蔵守(ラーガホルター)】……とボクらは呼んでいるけどね。ニュアンスとしては同じだと思うよ」

 

 「ちょちょちょちょい! マジっすか! アイテムボックスって()()()じゃないっすか! ちょっとさすがにテンション上がるっすよこれは!!」

 

 「時間経過止まるの!? 容量(キャパ)はどれくらい!? 収納物の重量は!? えっと、あと……えっと!!」

 

 「ま、待って、落ち着いて二人とも。とりあえず時間経過は投入時点のままで、収納物の重量は生じない。容量は……ごめん、単位が解らない。とりあえず家財一式は余裕で収まるくらい……『それなりに多い』としか」

 

 「「ス…………スゲエエエエ!!!」」

 

 「お、おぉ……」

 

 

 あまりにもの剣幕に、軽くたじろいでる白谷さん。おれはモリアキと二人顔を見合わせ、まるで中学生男子のようにハシャいでしまったが……だって仕方ないだろう。

 だって……だって、()()『アイテムボックス』である。

 妄想膨らむ健全な男子であれば追い求めて止まない、異世界を旅するエピソードであればほぼほぼ必須とも言える……反則(チート)と名高い技能(スキル)なのである。

 

 しかし……さすがは【天幻】の称号、ということなのだろう。白谷さん本人は『幻想魔法』と『空間魔法』が得意だと言っていた。

 光の屈折を操ったり、幻を見せたり纏わせたりといった『幻想魔法』と、このアイテムボックスのように空間そのものに作用する『空間魔法』。それこそ白谷さん……もとい、ニコラさんが世界の壁を越えられたのも、この『空間魔法』の恩恵なのかもしれない。

 

 

 …………いや、まって。

 まって。空間魔法。まさか。

 

 

 「白谷さん、あの…………まさかとは思うんだけどさ? …………転移魔法、みたいなのって……使えないよね? ほらあの、行ったことある場所にワープ……その、一瞬で移動する、みたいな」

 

 「そこまで自由自在じゃないけど……【繋門(フラグスディル)】がソレに当たるかな? (あらかじ)め目的地を記録しておく必要があるけど」

 

 「「あるの…………」」

 

 

 おれたち健全な少年(の心を未だに持った大人たち)が求めてやまない、代表的な二つの反則(チート)技能(スキル)

 今後の配信や撮影が楽になりそうだとか、使い方によっては色々と便利かつ画期的な運用が出来そうだとか……そんな論理的な思考が出来るようになったのは、もう少し後のことで。

 

 

 このときの……子どもの心を忘れていなかったおれたち二人が感じたことは……

 

 

 「やべえ」「すげえ」

 

 

 とても幼い、このたった二言の感想に集約されていた。

 

 

 



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53【一旦休憩】で……できらァ!!

 

 

 「…………んで? そろそろ教えてくれても良いんじゃない??」

 

 「ホヘ? 何がっすか?」

 

 「な…………何がっておま……!! ちょ、おま!! トボけんなよてめぇ!! 確かにおれは送って貰ってる立場だけどさぁ!! おまっ…………行き先告げずに運ぶんじゃ無ぇよ!! お前これ拉致だぞ拉致!! 通報すんぞ!?」

 

 (やべぇ。おキレになられた)

 

 (どうしよう。可愛い)

 

 

 思ってもみなかった白谷さんの技能(スキル)に面食らっていたこともあり、現在車はコンビニの駐車場で停車中である。

 今ならゆっくり()()()()ができそうだと、おれは運転手へ現状における疑問点を問い掛けたのだが……その返答というか反応は、さすがにちょっとひどいと思った。

 

 少し口調が荒くなってしまったのは……正直申し訳ないと思う。加えてさっき言ったように、おれはあくまでモリアキの厚意で送迎していただいている立場だ。

 少なくない手間と時間と燃料代を負担させている以上、本来ならばおれが彼の予定に合わせるべきなのだろう。

 

 

 ……が。

 だからといって、行き先くらい教えてくれても良いのではないか。

 これから悪いことをしようってわけでもあるまいに、何をしに行くのかくらい教えてくれても良いのではないか。

 それとも……目的地はおれに言いたくないような所だとでもいうのだろうか。

 

 それらの不満と不安が爆発し、気づいたときにはもう止まらない。少しずつ慣れてきたと思っていたこの身体だったが……情緒的な部分においては、まだまだおれには制御しきれないらしい。

 

 

 

 「…………ごめん。いきなり怒鳴って」

 

 「い、いえ……オレの方こそスミマセン。……ちょっとドッキリ的なこと仕掛けたかったんすけど……確かに、ちゃんと言うべきは言っておくべきでした。スミマセン、先輩」

 

 「いやいや……! おれの方こそ! ……何度も言うけど、おれは助けられてばっかりだから。今回の送迎も、おれが一方的に迷惑掛けてるんだし……だからおれ、モリアキの決めたことには従うから。()()()()()()()()()()()()()()()から」

 

 「今文句言わないって言いましたよね?」

 

 「うん…………えっ??」

 

 「……ふふ。良かったね、モリアキ氏。本人が乗り気になってくれたみたいだよ」

 

 「えっ??」

 

 

 目の前で何やら意味ありげに視線を交わす二人……頼れる仲間である()()の二人を交互に見やり、おれは……なぜだろうか。背筋にうすら寒いものを感じてしまう。

 しかし……しかし。二人はおれの仲間のはずだ。味方のはずなのだ。おれの立場が悪くなるようなことはしないだろうし、おれのためにならないようなことはさせないはずだ。

 

 大丈夫、きっと大丈夫。モリアキ本人も言っていたではないか。ただのドッキリ、ちょっとしたドッキリだ。しかし『ドッキリがある』と言うことを聞き出してしまったので、つまりは恐れることなど……不安なことなど、もう何も無い。

 

 そうとも。何も怖くないのだ。

 

 

 そう思った。

 そう考えてしまった。

 

 つまりは……おれはまだまだ、未熟者だったってことなのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「つきましたよ。覚悟は良いっすね? せんぱ…………()()()()()?」

 

 「……して…………ころして……」

 

 「どうしようモリアキ氏、目が虚ろだよ」

 

 「オオゥ…………そこまで嫌っすか」

 

 

 やがて……とある駐車場で車が止まり、モリアキが後部座席を覗き込む。

 文句を言わないと言ってしまった上、モリアキと白谷さんの意図していることを聞かされた以上……おれはこの仕打ちを拒否することなど出来ない。

 

 彼らはなにも、おれが憎くてこんなことを企てたわけでは無いのだ。おれが今後、非実在(アンリアル)ではない個人配信者(ユーキャスター)としてやっていくにあたり……活躍の幅を少しでも広める一端になればと、善意で計画してくれていることなのだ。

 それはわかる。わかっている。理解している。

 

 ……だが。……だからといって。

 

 

 「正気に戻って下さい、先輩。大丈夫、死にはしませんって。ちょーっとオメカシして可愛らしい衣装着てプロに写真撮ってもらうだけですって」

 

 「殺傷力抜群やろ!! おれアラサーのオッサンやぞ!!!」

 

 「大丈夫だよノワ。どこからどう見ても(とお)そこらの女の子にしか見えないから」

 

 「見た目の問題じゃなくってですねェ!!!」

 

 

 わかってる。彼らのこれが嫌がらせじゃないことは解っている。

 先日のクリスマス突発ミニ動画で軽く触れたように……スポンサーの方々への特典のこともあり、今後若芽ちゃんはいろんな衣装を試すべきだということも認識している。

 どうせならいろんな衣装が揃えられているフォトスタジオで色々試した方が良い、なんなら画素数がエグいプロ仕様のハイスペックなカメラで撮って貰った方が良い……となったのも、まぁ理解できる。

 

 

 だからって。

 

 だからって!!

 

 おれの中身()は……三十を越えた成人男性なのだ!!

 

 

 

 「腹くくって下さい。せっかく予約取ったんすから。先輩も『おめかしした若芽ちゃん』見たくないんすか?」

 

 「うぐ…………正直……見たい」

 

 「そうでしょう。何てったって可愛い子を可愛く撮るプロっすからね、何も心配は要りませんって。全部プロが何とかしてくれます。何も気にせず力を抜いて……雰囲気に流されちゃって良いすから」

 

 「…………なにも……なにも気にしなくていい? ほんと?」

 

 「本当(ホント)っすよ。不安なんて何も無いんです」

 

 「じ、じゃあ…………わかった」

 

 「いやぁ……だんだん手慣れて来てるよね」

 

 

 そうとも、おれ自身が『若芽ちゃん』になってしまったとはいえ……そもそもおれ自身『若芽ちゃん』のことが大好きなのだ。

 おれとモリアキの『好き』をこれでもかと注ぎ込んだ、おれたちが自信を持って『かわいい』と言えるキャラクターが……他でもないこの『木乃若芽ちゃん』なのである。

 

 彼女の可愛らしい姿や可愛らしい格好、長年夢見続けていたそれらが拝めるというのなら……おれが()()()()我慢すれば、プロがなんとかしてくれるというのなら。

 ならば……ちょっとくらい、我慢してみせる。

 

 

 他ならぬ愛娘……『若芽ちゃん』の晴れ姿のためならば。

 

 おれは……何だってしてみせる。

 

 

 



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54 コネとツテは大切っすよ

 

 自覚あってのことなのか、はたまた恐ろしいことに無自覚なのか……最近の先輩のカワイイムーブは、さすがに少々目に余る。

 

 というよりも……普段あんなにも『若芽ちゃん』をかわいいかわいい言っている癖に、肝心の本人が『自分(若芽ちゃん)が周囲からどう見られているのか』という点を、いまいち理解していない。

 その点に少々の不満と不安を予感した、若芽ちゃんの保護者を自認するオレ達は……せっかく街中に出てきた今日を利用し、急遽とある作戦を計画・実行するに至った。

 

 

 

 

 「…………はい、女の子ひとり。十歳くらいです。三十分から一時間以内には着くと思うんすけど…………はは、違うっすよ。知人の愛娘です。今ちょっとオレが預かってて。可愛い子っすよ」

 

 

 古くからの知人の一人に連絡を取り、彼が勤めているフォトスタジオの空きを確認して貰う。

 年末の慌ただしい時期とあって、枠を押さえられるか不安ではあったが……どうやら無事に予約をねじ込むことに成功したらしい。持つべきものは知人(コネ)である。

 

 

 「…………はい。…………はい。本人は日本人なんすけど、容姿はバリバリの西洋寄りっす。……ええ、ちょっとだけ大っぴらにしたくない事情がありまして。トミーさんにしか頼めないんすよ。…………はは、そういうんじゃ無いす。ちょっと容姿のことで。……ええ、あんま吹聴しないでほしい、ってくらいなので。…………スミマセン、ありがとうございます。……はい、宜しくお願いします。では」

 

 「おお? どうだった? 先方の反応は。良さそうな感じ?」

 

 「何とかなりそうっすね。鳥神(とりがみ)氏はオレらと同年代の若手っすけど、プロ意識しっかりしたヤツなんで。顧客情報ペラペラ喋るようなヤツじゃないっすよ」

 

 「ほぉぉぉ……すごいなモリアキ氏。本当顔が広いよね」

 

 「フヘ。役に立って良かったっす」

 

 

 昨今の先輩のカワイイムーブ……その原因の一端となっているのは、まさに『自分が周囲からどう見えているのかをイマイチ理解していない』という点だろう。

 

 白谷(ニコラ)さんに聞くところによれば……先輩は家で鏡を眺めることはあっても、それはあくまで他人が見て不快とならないように身支度を整えるためであったり……また配信のアーカイブや過去動画を見直すことこそあっても、それはあくまで問題点や改善点を洗い出すための職務行為であったり。

 いわゆる『ナルシストさ』のようなものが微塵も見られず……要するに、自分がどう見られているかに対して無頓着なのだ。あの幼女は。

 

 若芽ちゃんが可愛い娘であることは認識しておきながらも、今や()()である若芽ちゃんが他人からどう見られているのかには無頓着。

 さっきの商店街での収録の際も――特徴的な髪色と服装によるところも幾らかはあっただろうが――実際に彼女へ寄せられていた周囲の視線の殆どは、まさに()()()()()()に対する……そう、魅了された者の視線だった。

 

 とうの本人は『動画配信者としてはまだまだ底辺、自分なんかに知名度があるハズがない。きっとこの髪と耳が不審だから見てるだけだ』などと考えているのだろうが……オレも白谷さんも、それは全く『否』であるという認識を持っている。

 今の先輩(若芽ちゃん)は、男だったら誰だろうと(=病気じゃない人でも)見惚れてしまうような……ともすると女性さえも魅了してしまうほどに、愛らしい容姿なのだ。

 

 

 そのことを……なんとしても、本人に自覚させる。

 

 そのために建てた、極秘計画。

 

 

 フォトスタジオに拉致り、プロの技術の粋を注ぎ込んだ『これでもか』というほど可愛い若芽ちゃんの写真を撮り、それを本人(先輩)に突き付け、客観的に視認させる。

 ……そして折角なのでそのデータを購入しておき、今後の展開にも利用する。あと眺めて堪能する。

 それが今回の……若芽ちゃん誘拐計画(語弊あり)の全貌である。

 

 合流するや否や『なんでかわかんないんだけど、記念撮影頼まれた。本当なんでだろうな(小首かしげ)』とか言っちゃうような悪女(先輩)には……本人の可愛さを嫌というほど教えてやらねばなるまい。

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

 「というわけでやって来ました! 浪越市(なみこし)港区(みなとく)の『スタジオえびす』さんです!」

 

 「ぇえ……どしたのモリアキ……変なもん食った?」

 

 「お黙りなさいこの悪女め」

 

 「あだっ! ……え!? なんでおれ怒られたの!?」

 

 

 ちょっと調子に乗った感は否めないが……とりあえず目的地であるフォトスタジオへと到着した。

 フォトスタジオとはいうものの驚くなかれ、その所在はなんとホテルの一階部分テナント内である。地下の駐車場に車を入れる際、この建物がホテルだと認識したときの先輩のあの顔は……ちょっと録画しときたかったっすね。

 引きつった顔を赤く染めたり青く染めたり、なかなか器用な百面相でした。いったい何を想像してたんすかね本当。

 

 そんな()()()を想像してしまっている耳年増な悪女(先輩)に今回の目的ならびに目的地を伝え、渋る先輩を宥めすかして車から下ろしたのが……ついさっき。

 館内エレベーターで一階へと上がり、豪奢ながらも落ち着いた雰囲気の廊下をキョロキョロ見回す幼女(先輩)の姿に苦笑を溢しながら、やっとのことで到着したのが、たった今。

 移動(拉致)するだけでもなかなかに疲れたんすもん、ちょっとくらいはっちゃけたくもなりますって。

 

 

 「……というわけで。ここから先は先輩じゃなく『さきちゃん』ですんで。白谷さんの声にもお返事しづらくなると思います。そこんとこ宜しくお願いしますね」

 

 「了解。ボクも極力大人しくしてるさ」

 

 「ぇええ…………マジでその仮名使うの……」

 

 「べつに『木乃若芽』って名乗っても良いんすけど……どうします?」

 

 「…………いや、やめとく。オンオフの区別はつけときたい」

 

 「了解っす。じゃあ『親御さんの仕事中ちょっとオレが預かってる』って設定で。宜しくお願いしますね」

 

 「普通写真撮るのにそんな設定盛らねえよ……ああもう、了解! やってやろうじゃねえかよ!!」

 

 

 良い感じに自棄(ヤケ)っぱちになりましたね。こうなった先輩は色々と強いので、きっと良い感じにこなしてくれることでしょう。

 

 半ば勝利を確信しながら透明なガラス扉を押し開け、フォトスタジオ店内へ。入り口のセンサーがオレ達二人を捉え、来客を知らせる電子音が鳴り響く。

 やがて正面受付カウンター横の控え室から一人の男性が姿を現し、来客がオレだと認識するなりその笑みを深める。

 

 

 「なんだ、早かったな。馬っ鹿野郎おめーまだ準備終わって無ぇよ」

 

 「いやースマンスマン。整うまで待ってるんで、まぁ宜しく頼んます」

 

 「ウィッス。任されよ。……んで? その子か?」

 

 「は、はひゃィっ! よりょ……ろろしくお願いします!!」

 

 「ガッチガチだな。そんな固くならなくて良いよ、どうせ今日は他に誰も居ねー」

 

 「へ? どうしたん、大丈夫なん?」

 

 「やー別会場で披露宴入っててさ。他もみんな出張中で。今日明日明後日と俺一人で留守番なワケよ。どうせ一人寂しく編集してるだけだし、なら小遣い稼ぎでもすっかなって」

 

 「ほへぇ……ま大丈夫なら宜しく頼むわ」

 

 「オッケオッケ。まぁ上がったって。スリッパそこね」

 

 「ウーッス。お世話んなりまース」

 

 「お……おじゃまします……」

 

 (おじゃましまーす)

 

 

 スタッフの男性はにこやかな笑みを浮かべたまま、スリッパに履き替えたオレ達を先導していく。

 久しぶりの再会を密かに喜ぶオレとは裏腹に……先輩(さきちゃん)は表情を強ばらせ、あからさまに緊張している様子。……話好きでお調子者の良いヤツなんすけどね。

 

 歳はオレと同じ、三十一。先輩と直接の面識は無く、オレの大学時代の同級生。

 癖っ毛気味のアップショートヘアを明るめのブラウンに染め、角張ったデザインの眼鏡を掛けた顔に人懐っこそうな笑みを浮かべた好青年。

 このフォトスタジオでの写真撮影およびホテル内式場でのビデオ撮影、ならびに動画編集や静止画レタッチや各種メディアファイル作成等々を手掛ける、将来有望なカメラマン。

 

 彼の名は……鳥神(とりがみ)竜慈(りゅうじ)。今回の計画における心強い協力者にして…………

 

 

 

 「それにしても、訳アリって聞いたから何かと思ったらさ。……まっさか()()()とはね」

 

 「………………ほへ? ちょ、ちょ、ちょ……どういうことっすかトミーさん」

 

 「どうもこうも……『わかめちゃん』だろ? 新人仮想配信者(ユアキャス)の」

 

 「「……へ?」」(おぉー)

 

 「いや……『仮想(アンリアル)じゃないやん』とか突っ込んだ方が良いのかもしれんけどさ。まぁどうでも良いや」

 

 「良いんかい」

 

 「おう。ただ、まぁ……そうだな。…………撮影料金割り引きするんで、記念にサイン貰えませんか」

 

 「「…………へ??」」(ほぉー)

 

 「……ファンです、っつったんだよ言わせんな恥ずかしい」

 

 

 

 先輩こと『木乃若芽ちゃん』および『のわめでぃあ』の、親愛なる視聴者(リスナー)の一人だった。

 

 

 

 

 …………いや、これはオレも知らんかったっすわ。マジでマジで。

 

 

 



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【私の方が】木乃若芽ちゃんを語るスレ_第三夜【歳上なので】


本編の進展とは無関係の回なので
すっ飛ばしても何も問題ありません



 

0001:名無しのリスナー

 

※※※わかめちゃんまとめ※※※

 

名前:木乃 若芽(きの わかめ)

年齢:自称・百歳↑(人間換算十歳程度)

所属:なし(個人勢)

身長:134㎝(平均やや下)

主な活動場所:YouScreen

 

備考:かわいい

 

 

0002:名無しのリスナー

 

※※※わかめちゃんまとめ※※※

 

・魔法情報局局長

・合法ロリエルフ

・魔法が使える(マジ説)

・肉料理が好き

・別の世界出身

・チョロそう

・「~~ですし?」

・とてもかしこい

・おうたがじょうず

・実在ロリエルフ説

・非実在創作キャラ説

・じつはポンコツ説

・わかめ料理(意味深)

 

(※随時追加予定)

 

 

0003:名無しのリスナー

 

>>1

スレ立て小津

 

わかめ料理wwwwwwwww

 

 

0004:名無しのリスナー

 

>>1

記事乙

しかしあの厨房ニキ前途有望だわ

 

 

0005:名無しのリスナー

 

>>1-2

記事乙thx

まとめ徐々に発展してんのウケる

あとわかめ料理www

 

 

0006:名無しのリスナー

 

あと5分

お前ら先トイレ済ませとけよ

 

 

0007:名無しのリスナー

 

俺も中学生のときにわかめちゃんと出会いたかった

 

 

0008:名無しのリスナー

 

若芽ちゃんの着替え中の教室に突入したかった

 

 

0009:名無しのリスナー

 

わかめちゃんと水泳の授業以下同文

 

 

0010:名無しのリスナー

 

お前ら目を覚ませ。相手は10歳やぞ。

 

 

0011:名無しのリスナー

 

第二夜生放送楽しみ……

ぱんつみせて……

 

 

0012:名無しのリスナー

 

>>10

10歳児が何じゃ。こちとら10歳児が怖くてロリコンなんざやってねんじゃ

 

 

0013:名無しのリスナー

 

土器がむねむねするんじゃぁー……

 

 

0014:名無しのリスナー

 

レス消費しすぎやろ

ここは実況スレじゃ無ぇんだぞ

 

 

0015:名無しのリスナー

 

>>12

気持ちは解るが落ち着け同志

10歳児は残念だが……中学生じゃない

 

 

0016:名無しのリスナー

 

その熱意をもっと他のことに活かせなかったのか

 

 

0017:名無しのリスナー

 

プロ幼女

ガチ幼女

 

 

0018:名無しのリスナー

 

>>15

小学生wwwwwwwwwwwww

 

 

0019:名無しのリスナー

 

>>15

わ、わかめちゃんは大人だから……(ふるえ

 

 

0020:名無しのリスナー

 

前スレ1000wwwwwwwwwwwwwwwww

まーたやりやがったなお前wwwwwwwwwwwww

 

 

0021:名無しのリスナー

 

前スレ1000お前って奴は!!!!!

お前にはがっかりだよ!!!!!

 

 

0022:名無しのリスナー

 

21時だぞお前ら!!!!!!!

 

 

0023:名無しのリスナー

 

前1000何しゃしゃり出てるの???生きてて恥ずかしくない???悔い改めて??????

 

 

0024:名無しのリスナー

 

21時!!!!

はじまた!!!!!!!

 

 

0025:名無しのリスナー

 

ヘイリィ!!!!!!

 

 

0025:名無しのリスナー

 

へいり!!!!!(かわいい

 

 

0026:名無しのリスナー

 

ヘイシリィ!!!!!!!!

 

 

0027:名無しのリスナー

 

ここは実況スレじゃねえぞ!!!

 

ヘイリー!!!!!!

 

 

0028:名無しのリスナー

 

待ってた

 

 

0029:名無しのリスナー

 

おうたの動画見てないリスナーおる????

 

 

0030:名無しのリスナー

 

おうた投稿たすかる

 

 

0031:名無しのリスナー

 

当たり前だよなぁ??

 

 

0032:名無しのリスナー

 

アンコール!!!!

アンコール!!!!!!

あとぱんつ!!!!!!!!!

 

 

0033:名無しのリスナー

 

 お ま 

 か さ 

 わ か 

 り の 

 

 

0034:名無しのリスナー

 

追加だ!!!

おうたの追加だ!!!!!!

 

 

0035:名無しのリスナー

 

わかめちゃんやさしい……ちゅき……

 

 

0036:名無しのリスナー

 

アカペラまじか

 

 

0037:名無しのリスナー

 

本気かwwww生放送でアカペラ披露とかどんだけ自信あるのwwwwwww

 

 

0038:名無しのリスナー

 

マジかよつええ……生放送とか一発勝負じゃん……

 

 

0039:名無しのリスナー

 

聞きます

 

 

0040:名無しのリスナー

 

おま

 

 

0041:名無しのリスナー

 

は????

 

は??????????  すき

 

 

0042:名無しのリスナー

 

まって鳥肌

 

 

0043:名無しのリスナー

 

やば

 

 

0044:名無しのリスナー

 

うそでしょ

 

 

0045:名無しのリスナー

 

声きれい(小並感

 

 

 

 

………………

 

 

………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

 

 

 

0120:名無しのリスナー

 

みんな語彙力死んでてワロタwwwwww

 

笑えねえよ何だアレ…………なんだあれ…………

 

 

0121:名無しのリスナー

 

おうたガチ勢

 

 

0122:名無しのリスナー

 

生放送でコレは強い。つよすぎ

調整一切入れてない生の声でコレってことでしょ?やばくね??

 

 

0123:名無しのリスナー

 

ワイ音楽専攻現役大学生しめやかに大量失禁

 

 

0124:名無しのリスナー

 

マジで何者だわかめちゃん……

音程や歌声は当然ヤバイけどその上で

英語の発音がマジありえん綺麗

 

 

0125:名無しのリスナー

 

世界的著名な歌姫と比べても遜色無いと思うマジでマジマジで

 

 

0126:名無しのリスナー

 

声の伸びと通りと安定感と透明感と柔らかさやばい

マジ何なんだこの声。溶ける

 

 

0127:名無しのリスナー

 

割とガチで誇張じゃなくプロ級なのでは

 

 

0128:名無しのリスナー

 

ワイ国際関係学部現役すこやかに大量失禁

 

 

0129:名無しのリスナー

 

そう、音楽的ヤバさに加えて語学的ヤバさも兼ね備えてるんだよな

ヤバさにヤバさが加わることで非常にヤバイ

おまけに可愛いさがまたヤバイので更にヤバイ。つまりヤバイ

 

 

0130:名無しのリスナー

 

声すき……バイノーラルささやきCDほしい……

 

 

0131:名無しのリスナー

 

かわいいだけのロリかと思いきや大人びた歌声とのギャップに死んだ

マジで何者だこの10才児

 

 

0132:名無しのリスナー

 

これはスタンでィん具オペレーションだわ

 

 

0133:名無しのリスナー

 

煩悩が浄化されるようだ……ぱんつみせて

 

 

0134:名無しのリスナー

 

唐突なブロ語が見えて何事かと思った

 

 

0135:名無しのリスナー

 

雑学たすかる

……まって、普通にかしこいのわかめちゃん

誰だよ『とてもかしこい(笑)』とか言ってた奴

 

 

0136:名無しのリスナー

 

>>133

浄化されてねえじゃん!!!!!

 

わかめちゃんぱんつみせて

 

 

0137:名無しのリスナー

 

他のおうた得意URの者とおうたコラボしてほしい……

URの者でライブとかやってほしい……

 

 

0138:名無しのリスナー

 

とりあえずもうURじゃねえな…………ねえよな????

どうみても実在だよな?????

 

 

0139:名無しのリスナー

 

わかめちゃん先生の講義もっと聞きたいです!!!!

おみみが寂しがっているんだ!!!!!

 

 

0140:名無しのリスナー

 

俺わかめちゃんの授業ならちゃんと真面目に受ける

 

 

0141:名無しのリスナー

 

ワイにも特別講義(実技)施してほしい

 

 

0142:名無しのリスナー

 

わかめちゃんに保健体育教えてほしい

 

 

0143:名無しのリスナー

 

知的な側面……実在していたのか……

 

 

0144:名無しのリスナー

 

>>141

>>142

(´・ω・`)お前ら……死ぬのか……

 

 

0145:名無しのリスナー

 

(幼)女教師わかめちゃん……アリだな

 

 

0146:名無しのリスナー

 

ロリエルフの養護教諭ですって!!?!?

 

 

0147:名無しのリスナー

 

恐らく世界トップレベルに尊い讃美歌を聞かされたというのにこのスレは相変わらず煩悩まみれである

 

 

 

 

………………

 

 

………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

 

 

 

0350:名無しのリスナー

 

本編はじまるよ

 

 

0351:名無しのリスナー

 

おいおいおいおいおいおい

アレが前フリかよwwwwwwwwwww

 

 

0352:名無しのリスナー

 

本編…………だと……!?

 

 

0353:名無しのリスナー

 

なにが始まるんです?

追加情報はやく

 

 

0354:名無しのリスナー

 

なんでもいい、もうわかめちゃんがかわいいからなんでもいい

 

 

0355:名無しのリスナー

 

ファーーーーーwwwwwwwwwwww

 

 

0356:名無しのリスナー

 

まさかの

 

 

0357:名無しのリスナー

 

輪っかのやつwwwwwwwwwwwww

 

 

0358:名無しのリスナー

 

わかめちゃん大丈夫?運動できる?

 

 

0359:名無しのリスナー

 

待って、まさかこのままやるのか

 

 

0360:名無しのリスナー

 

おいおいマジか、そうか若芽ちゃんってこの若芽ちゃんが運動するってア!!!!!

 

 

0361:名無しのリスナー

 

おみあしキタァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!

 

 

0362:名無しのリスナー

 

エッッッッッッッ!!!!!!!!!

 

 

0363:名無しのリスナー

 

見えっ…………見えそ………………見えた!!!!!(幻覚

 

 

0364:名無しのリスナー

 

@morikasxxxx:私が貢ぎましたd(^ω^)b

 

モリアキマッママジGJ!!!!!!!!!

 

 

0365:名無しのリスナー

 

ふとももチラ拝めただけで神回間違い無しだわ

永久保存版だわ

 

 

0366:名無しのリスナー

 

ロリエルフのおみあしチラえちちちちすぎて越後屋がんばっちゃうわ

 

 

0367:名無しのリスナー

 

>>364

モリアキ神ならやってくれると信じてました

マジわかってる……マジ神……

 

 

0368:名無しのリスナー

 

>>364

悪びれた様子の無いモリアキママに対してわかめちゃんのこのジト目よ

正直たまらん……

 

 

0369:名無しのリスナー

 

ももチラといいジト目といい撮れ高多いな!!!!神か!!!!

 

 

0370:名無しのリスナー

 

わかめちゃんの運動神経たのしみ

 

 

0371:名無しのリスナー

 

わかめちゃんの軽蔑の眼差しすこ

 

 

0372:名無しのリスナー

 

待って、その格好のまま運動すんの?

 

 

0373:名無しのリスナー

 

お着替えは!?!??

体操服は!!!!!!!

 

 

0374:名無しのリスナー

 

どう見ても運動に不向きな格好なんですが大丈夫なんですか

 

 

0375:名無しのリスナー

 

わかめちゃん大丈夫?ローブ脱がなくていいの?

 

 

0376:名無しのリスナー

 

輪っかのやつwwwwwwwwwww

正直今更感あるけどわかめちゃんなら楽しみ

 

 

0377:名無しのリスナー

 

実在ロリエルフは果たして万能なのか

かしこいだけじゃなく運動もつよつよなのか

 

 

0378:名無しのリスナー

 

あのアバターってか衣装のままやるつもりかwwwwww

URならまだしも実在だったら苦行やぞwwwwwwwww

 

 

0379:名無しのリスナー

 

>>377

エルフったら弓持って機敏なイメージあるしつよつよわかめちゃんなのでは(期待

 

 

0380:名無しのリスナー

 

提供wwwwwwwwwwww

 

 

0381:名無しのリスナー

 

アイキャッチが提供wwwwww

徹底してんなぁwwwwwwwwwwww

 

 

0382:名無しのリスナー

 

ご覧の諸悪の根元(スポンサー)の提供でお送りします

これは草wwwwww

めっちゃ棘棘しい声すき

 

 

0383:名無しのリスナー

 

そこはかとなく不機嫌なのかわいいかよ

 

 

0384:名無しのリスナー

 

@morikasxxxx:筆頭株主ウェーーーイ(((^ω^)))

 

楽しんでんなぁこの諸悪の根源(スポンサー)wwwwww

 

 

0385:名無しのリスナー

 

放送局だもんなwwwwww

不機嫌声すき

 

 

0386:名無しのリスナー

 

さすがにCMは無いか

あったら怖いわ

 

 

0387:名無しのリスナー

 

アイキャッチ画のわかめちゃんかわいいかよ

 

 

0388:名無しのリスナー

 

この表情すき

超えもすき

 

 

0389:名無しのリスナー

 

壁紙にしたい

 

 

0390:名無しのリスナー

 

例のスポンサー特権って他に何貰えてるんだろうな……生写真とか?

まさか使用済みパ

 

 

0391:名無しのリスナー

 

わかめちゃんの激しい運動シーンと聞いて飛んできました

間に合った!!!

 

 

0392:名無しのリスナー

 

はやくして

ちんち冷えちゃう

 

 

0394:名無しのリスナー

 

実質実況スレと化してる件

 

 

0395:名無しのリスナー

 

スポンサー契約って受付してないのかな……我も貢ぎたいゾ

 

 

0396:名無しのリスナー

 

はじまた

 

 

0397:名無しのリスナー

 

きちゃ

 

 

0398:名無しのリスナー

 

まってた

 

 

0399:名無しのリスナー

 

着替えてない!!!だと!!!!!

 

 

0400:名無しのリスナー

 

本編はっじまっるよーーーーー!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

………………

 

 

………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

 

 

 

0559:名無しのリスナー

 

華麗な自爆wwwwwwwww

 

 

0560:名無しのリスナー

 

無茶な設定するからだよぉ!!!!

 

 

0561:名無しのリスナー

 

どおしてそんな変なところで強情になるのwwwwwwかわいいかよwwwwwwwww

 

 

0562:名無しのリスナー

 

案の定ヘナチョコじゃねえか!!おもったとおりだよわかめちゃん!!視聴者みんな予想できてたぞこの展開!!!!

 

 

0563:名無しのリスナー

 

なんで三十代男性なんだ……

 

 

0564:名無しのリスナー

 

どうして10歳幼女にしなかったんだ

 

 

0565:名無しのリスナー

 

あーあーあーあー…………

そんなにお顔赤らめちゃって……いけない子ですね……

 

 

0566:名無しのリスナー

 

おれこのゲーム初見なんだけどさ……これボスじゃないんだよね???

 

 

0567:名無しのリスナー

 

言わんこっちゃない

 

 

0568:名無しのリスナー

 

荒い息づかいのわかめちゃんえちちすぎやろ

 

 

0569:名無しのリスナー

 

すごいことに気づいた

耳閉じてわかめちゃんの声に専念するとこれもう全年齢じゃない

 

 

0570:名無しのリスナー

 

ガードできてねえwwwwwwwww

おまたいたいwwwwwwこっちはおなかいたいわwwwwww

 

 

0571:名無しのリスナー

 

あーあーあー直撃だよ……

悲鳴かわいい……おまたいたい連呼えちちえち……

 

 

0572:名無しのリスナー

 

「ぬ゛ュヤーー!!?」

なんだこのおもしろい悲鳴

 

 

0573:名無しのリスナー

 

どうしよう……むらむらしてきた

おまた連呼はだめですって……

 

 

0574:名無しのリスナー

 

>>566

ドラ◯エでいうところのスライムやぞ

 

 

0575:名無しのリスナー

 

顔真っ赤だし汗だくだし涙にじんでるし

やべーぞ!ちょっといやらしい雰囲気だ!!

 

 

0576:名無しのリスナー

 

悲鳴と喘ぎ声と荒い息づかい…………ウッ

 

 

0577:名無しのリスナー

 

素直に10yoの負荷設定にしないから……

 

 

0578:名無しのリスナー

 

三十代男性ってモリアキマッマか?

 

 

0579:名無しのリスナー

 

がんばえー!

わかめてゃー!がんばえーー!!

 

 

0580:名無しのリスナー

 

ローブがまくれ上がるたびにふとももがチラチラしてるのがとても下半身にわるいですね!!!!

 

 

0581:名無しのリスナー

 

難易度下げてもいいのよ……?

 

 

0582:名無しのリスナー

 

>>578

マッマにつよつよをアピールしたかったのかな……

結果はこのざまだけど……

 

 

0583:名無しのリスナー

 

あーあ……

的確にガード失敗するの草も生えない

喘ぎ声たすかるけど

 

 

0584:名無しのリスナー

 

ここまで苦戦する子初めて見たわ……

表情と顔色と汗を見る限り……コレで本気なんだろうなぁ

 

 

0585:名無しのリスナー

 

だんだんかわいそうになってきたんだが……

 

 

0586:名無しのリスナー

 

これ負けるんじゃ

 

 

0587:名無しのリスナー

 

あっ

 

 

0588:名無しのリスナー

 

あっ……

 

 

0589:名無しのリスナー

 

 

 

0590:名無しのリスナー

 

イチのイチでしぬやつおりゅ……???

 

 

0591:名無しのリスナー

 

し、しんでる……

 

 

0592:名無しのリスナー

 

崩れ落ちたwwwwww

 

 

0593:名無しのリスナー

 

キツそう……

 

わかめちゃんキツそう……(意味深

 

 

0594:名無しのリスナー

 

荒い息づかいたすかる……

ていうか無言www単純にしゃべる気力もないんかwwwwww

 

 

0595:名無しのリスナー

 

みんな止めたじゃん……なんでハードモードにしたの……

難易度下げてええんやで……

 

 

0596:名無しのリスナー

 

撤退は許可出来ない

 

繰り返す。撤退は許可出来ない

 

 

0597:名無しのリスナー

 

※欄のおまえら鬼畜wwwwww

わかめちゃんは今泣いてるんだぞwwwwww

 

 

0598:名無しのリスナー

 

視聴者ニキの非道っぷりわらうでしょwww

 

 

0599:名無しのリスナー

 

無理しないでね……喘ぎ声たすかるけど……

 

 

0600:名無しのリスナー

 

キレたwwwwww

 

 

0601:名無しのリスナー

 

おくちがわるくてよ

 

 

0602:名無しのリスナー

 

コンチキショーwwwwww

 

 

0603:名無しのリスナー

 

何なんその逆ギレwww

 

 

0604:名無しのリスナー

 

もっとののしって

 

 

0605:名無しのリスナー

 

気を取り直して

 

 

0606:名無しのリスナー

 

わかめてゃー!がんばえーー!!

 

 

0607:名無しのリスナー

 

休憩しないで大丈夫か???

 

 

0608:名無しのリスナー

 

なんで即再開したのwwwwww

 

 

0609:名無しのリスナー

 

しにそうなのにwwwwww

さすがにリアル休憩挟んだ方がいいのでは

 

 

0610:名無しのリスナー

 

は???

 

 

0611:名無しのリスナー

 

は?

 

……………………は?

 

 

0612:名無しのリスナー

 

は????

どゆこと?????

 

 

0613:名無しのリスナー

 

は??????????

 

 

0614:名無しのリスナー

 

ここもコメ欄も『は?』乱舞でワロタ

 

 

0615:名無しのリスナー

 

は????

 

なに????え????

 

 

0616:名無しのリスナー

 

代打?

 

 

0617:名無しのリスナー

 

え、なんで?は??

 

 

0618:名無しのリスナー

 

めっちゃスムーズじゃん

 

 

0619:名無しのリスナー

 

人が変わったかのように静かなんですが

 

 

0620:名無しのリスナー

 

鼻唄混じりじゃん

わかめちゃんどうしたの???マジで何があったの????

 

 

0621:名無しのリスナー

 

設定変更してないよな……

する隙無かったよな……

 

 

0622:名無しのリスナー

 

にゃーん……

 

 

0623:名無しのリスナー

 

これが本気……なのか……?

いや、でもな……さっきまでのあの事後わかめちゃんが演技なわけないよな……

 

 

0624:名無しのリスナー

 

どういうことだよ!?!?!?

マジわけわかめちゃんなんだが!?!!!?

 

 

0625:名無しのリスナー

 

クソザコ体力がいきなり素敵に……

バフ魔法とか???

 

 

0626:名無しのリスナー

 

同一人物だもんな、入れ替わる隙なんて無かったぞ

ずっと見てたぞ

 

 

0627:名無しのリスナー

 

やはりわかめちゃんはつよつよだった??

 

 

0628:名無しのリスナー

 

バフ魔法wwwwww

 

 

0629:名無しのリスナー

 

は??バフ魔法??

 

 

0630:名無しのリスナー

 

魔法て

 

マジかよ

 

 

0631:名無しのリスナー

 

リアルチートwwwwww

 

 

0632:名無しのリスナー

 

わけわかめちゃんなんだが!!!!

 

 

0633:名無しのリスナー

 

禁止じゃないですし、って……

魔法って公言しちゃったんじゃ……

 

 

0634:名無しのリスナー

 

あのさぁ……

 

 

0635:名無しのリスナー

 

いや、あの……普通魔法ってもっと秘匿しようとするもんなんじゃない?何あっさりゲロっちゃってるわけ……??ぽんこつかな???

 

 

0636:名無しのリスナー

 

バフ魔法って何かの比喩だろ

 

 

0637:名無しのリスナー

 

バフ魔法ってなんのこと

 

 

0638:名無しのリスナー

 

でも他にプレイ楽になる要素無ぇーもんな……

 

 

0639:名無しのリスナー

 

あっ

 

 

0640:名無しのリスナー

 

ちょwwwwww

 

 

0641:名無しのリスナー

 

ポンコツふたたび

 

 

0642:名無しのリスナー

 

うわうわうわ、一気に瓦解したぞwwwwwwwww

 

 

0643:名無しのリスナー

 

どうしたわかめちゃんwwwさっきまでの鼻唄混じり楽勝ムーブはどうしたわかめちゃんwwwwww

 

 

0644:名無しのリスナー

 

「これが実力ってやつですよ」

 

 

0645:名無しのリスナー

 

おかえり

いつもの

実家のような安心感

 

 

0646:名無しのリスナー

 

宿命の対決(最序盤クソザコエネミー)

 

 

0647:名無しのリスナー

 

これは負けですわ

 

 

0678:名無しのリスナー

 

勝てる要素が何もないwwwwww

 

 

0649:名無しのリスナー

 

さっき見たやつだこれ

 

 

0650:名無しのリスナー

 

が、、、がんばえー……

 

 

0651:名無しのリスナー

 

バフ魔法とは一体

 

 

0652:名無しのリスナー

 

わかめちゃん……もうだめみたいですね……

 

 

0653:名無しのリスナー

 

命乞いwwwwww

 

 

0654:名無しのリスナー

 

必死の命乞い草生える

 

 

0655:名無しのリスナー

 

あーーっいけませんこれは!これはいけません!!けしからんですよこれは!!あーーっ!いけませんこれは!!あーーっ!!あーーっ!!けしからんですよ!!あーーっ!!

 

 

0656:名無しのリスナー

 

しwwwんwwwだwwwwww

 

 

0657:名無しのリスナー

 

なぁおれこのゲーム初見なんだけどさ……ボスじゃないんだよね???

 

 

0658:名無しのリスナー

 

わかめちゃん……

 

 

0659:名無しのリスナー

 

崩れ落ちたwwwwww

 

 

0660:名無しのリスナー

 

大の字で伸びてるわかめちゃんかわいいかよ

もうちょっと足開いて

 

 

0661:名無しのリスナー

 

ぱんつみえそ

 

 

0662:名無しのリスナー

 

もう許したげてよぉ!!!

 

 

0663:名無しのリスナー

 

ウーーーンさすがにかわいそうになってきたぞ……

 

 

0664:名無しのリスナー

 

やっべ……完全に事後じゃんこれ……エッッッッッ

 

 

0665:名無しのリスナー

 

もう……難易度下げても良いんやで……

 

 

0666:名無しのリスナー

 

ジョグコンになってわかめちゃんのスカートの中で深呼吸したい

わかめちゃんのふとももにしがみついて暮らしたい

 

 

0667:名無しのリスナー

 

目つぶって音だけ聞いてると完全に事後

 

目開いても絵面が完全に事後

 

 

0668:名無しのリスナー

 

かわいそうはかわいい

 

 

 

 

………………

 

 

………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

 

 

0943:名無しのリスナー

 

まさかステージ1でこんなに感動するとは思わなかった

 

 

0944:名無しのリスナー

 

めっちゃ脚プルプルしてるwww

生まれたての小鹿かよwwwwww

 

 

0945:名無しのリスナー

 

ウーーーン見上げたプロ根性よ……

 

 

0946:名無しのリスナー

 

笑顔めっちゃ引きつってるwwwwww

無茶な設定するからだよぉ!!!

 

 

0947:名無しのリスナー

 

よくがんばった……

進捗はクソザコだけど……

 

 

0948:名無しのリスナー

 

次回は普通の10yo設定で良いんやで……

 

 

0949:名無しのリスナー

 

負けず嫌いかわいい

あとえちちえち

 

 

0950:名無しのリスナー

 

結局えちえちとバフ魔法の謎が残されたな

 

 

0951:名無しのリスナー

 

今夜のオカズはこれにしような……

 

 

0952:名無しのリスナー

 

脚めっちゃシコだった

いろんな衣装着てほしい……

おみあしもっと披露してほしい……

 

 

0953:名無しのリスナー

 

いかないで

 

 

0954:名無しのリスナー

 

魔法実在説

もはや実写を疑う余地無いのでは

 

 

0955:名無しのリスナー

 

次回予告は……無いかぁ、またやいたー(SNS)張り付いとかんとな

 

 

0956:名無しのリスナー

 

おk950俺だったわ。立ててくる

 

 

0957:名無しのリスナー

 

『バフ魔法』という通り名の……何か補助器具?

 

 

0958:名無しのリスナー

 

でもあのバフ魔法のときだけあからさまに動き良いんだよな、じっさい。

わかめちゃんも息荒くなかったし

 

 

0959:名無しのリスナー

 

まさか本当に魔法使えるわけでも…………いや、どうだろな……

 

 

0960:名無しのリスナー

 

正直わかめちゃんならマジもんの魔法使えててもおかしく無いと思うぞ。

だって実際のとこエルフだもんな、それだけでもうファンタジーよ

 

 

0961:名無しのリスナー

 

>>950

thx、スレ頼む

 

それはそうとわかめちゃんの命乞いめっちゃ興奮した

めっちゃ濃いの出た

 

 

0962:名無しのリスナー

 

またねー!

 

 

0963:名無しのリスナー

 

またねーー!!!

濃いの出た

 

 

0964:名無しのリスナー

 

次はもっとはやく予告を

 

 

0965:名無しのリスナー

 

またね!!!

 

 

0966:名無しのリスナー

 

ヘィリィ!って挨拶すきだな

何語なんだろ……エルフ語?

 

 

0967:名無しのリスナー

 

ばいばーい!!

 

 

0968:名無しのリスナー

 

わかめちゃのえちちが捗る回でしたね……

 

 

0969:名無しのリスナー

 

またね!!!!

 

 

0970:名無しのリスナー

 

流れ早いぞ、次スレ間に合うんか?

 

 

0971:名無しのリスナー

 

【ちょっとだけ】木乃若芽ちゃんを語るスレ_第四夜【ですよ?】

htfps://ch_fiction/indextop/qawsedrftg201912aw/yo4514/

待たせたなロリコンどもめ

 

 

0972:名無しのリスナー

 

いやーー良い一日だった

 

 

0973:名無しのリスナー

 

わかめちゃんの魅力となぞが深まった

疑惑は深まった!!疑惑は深まった!!

 

 

0974:名無しのリスナー

 

>>971

間に合ったか!!あざーーす!!

ちょっとだけといわずに見せてほしいな

 

 

0975:名無しのリスナー

 

ママ……いかないでママ……

 

 

0976:名無しのリスナー

 

明日から月曜憂鬱だけどがんばれる

わかめちゃんありがとう

 

 

0977:名無しのリスナー

 

>>971

スレ立て乙

なかなか良いピックアップだと感心するが別におかしいところは無い

 

 

0978:名無しのリスナー

 

>>971

乙あり

 

わかめを見る会発足しようぜ

わかめ料理頂きながらわかめちゃんを眺める会だよ

 

 

0979:名無しのリスナー

 

1000ならわかめちゃんは俺の姉

 

 

0980:名無しのリスナー

 

>>971

たすかる

それ埋めろ埋めろ

脱がせ脱がせ

 

 

0981:名無しのリスナー

 

はー……明日からがんばろ……

 

 

0982:名無しのリスナー

 

前スレのシェフ再臨しねーかな

ちょっと今回のはえっちすぎでしたわ

 

 

0983:名無しのリスナー

 

情報出るの遅いよな

個人勢ならこんなもんか?ぷちさんち勢が手厚すぎんのか?

 

 

0984:名無しのリスナー

 

いやーー切り抜き動画楽しみだわ

エコーかけるなよ、絶対喘ぎ声にエコーかけるなよ(ぱんつぬぎながら

 

 

0985:名無しのリスナー

 

わかめちゃんに抜きゲーの声やってほしい

 

 

0986:名無しのリスナー

 

1000なら絆創膏

 

 

0987:名無しのリスナー

 

わかめちゃんなら俺の上でコシフリしてるぜ

 

 

0988:名無しのリスナー

 

性欲に忠実だ……

 

 

0989:名無しのリスナー

 

1000ならこどもブラとこどもパンツ

 

 

0990:名無しのリスナー

 

1000なら紐ぱん

 

 

0991:名無しのリスナー

 

1000なら絆創膏

 

 

0992:名無しのリスナー

 

1000ならロリエルフセミヌーd

 

 

0993:名無しのリスナー

 

1000ならスパッツ接写

 

 

0994:名無しのリスナー

 

クソザコ1000踏み潰しニキが沸く前に埋まれ埋まれ

1000ならメイド服

 

0995:名無しのリスナー

 

1000ならスク水!!!

 

 

0996:名無しのリスナー

 

1000ならくまさんぱんつ

 

 

0997:名無しのリスナー

 

相変わらず煩悩まみれwwwwww

1000ならぱんつ解禁

 

 

0998:名無しのリスナー

 

1000なら絆創膏支援

 

 

0999:名無しのリスナー

 

1000ならマイクロビキニ!!!

 

 

1000:名無しのリスナー

 

>>994

失礼だなwwwwww

おれだってさすがにそろそろ空気読むわ

もう出しゃばんねえよwww

 

 

1001:

 

このスレッドは1000を越えました。

次回の放送をお楽しみに!

 

 

 



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55【写真撮影】馬子にも衣装ってやつ

 

 

 あれよあれよと衣装部屋に通され、何点かの衣装(というか子ども用の冬物衣料)を手渡されたおれは、男性二人と別れ更衣スペースでもそもそと着替えを行っていた。

 タートルネックのモコモコした白のセーターと、淡いベージュのカーディガン。スカートは膝丈で、色は洋栗色(チェスナットブラウン)をチョイス。キャラメルカラーのショールも併せ、全体的に落ち着いたアースカラーの冬コーデだ。

 

 なるほど……さすが数多くの女の子を相手してきた(※語弊あり)だけあって、鳥神(とりがみ)さんのセンスはなかなかのように思えた。

 緑色という奇特なおれの髪色を鑑みて、色が真正面からぶつかり合わないように相性の良い色系統で纏められている。

 加えて、全体的に暖かいのがありがたい。館内は空調が効いているとはいえ、上着(ローブ)を脱ぐときの『ひやっ』と感はやっぱり慣れない。

 

 ……と、あまりのんびりしてもいられない。三人を待たせるわけにもいかないだろう。

 おれが服を脱ぐところまで一緒にいた白谷さんは、『お目当てのシーンは堪能したから』『楽しみは取っておきたいから』とか何とか言ってモリアキ達の方に飛んでいってしまった。

 楽しみはまあ……コーデの仕上がりって解るけど、お目当てのシーンって何のことやろ。堪能って……はて。

 

 まぁ細かいことはどうでもいい。仕上げに栗色のキャスケット帽をちょこんと頭に乗せ、最近少しずつ履き慣れてきているレザーブーツを履いて、おれは更衣室を後にした。

 

 

 

 

 「(おぉ~~~~)」

 

 「……何なんですか二人し……こほん」

 

 「やっぱ可愛いな。思ってた以上に可愛い。……ぶっちぎりだ」

 

 「そ、それは……どうも?」

 

 

 

 モリアキの紹介で、彼の知人が勤めるフォトスタジオに拐っ……連れて来て貰ったところ……どうやらカメラマンを務めてくれるらしい鳥神(とりがみ)さんは、なんとおれの動画を見ていてくれている視聴者さんだった。

 そのことを知ったときに思わずモリアキに視線を飛ばしたら、どうやら彼も知らなかったらしい。彼にしては珍しく驚いた顔で、おれに向けて首を横に振っていたっけ。

 

 しかし……鳥神さんはフォトスタジオの留守番を任されているだけあって、なんでも一通りこなせる万能選手のようだ。

 撮影や編集は当然のこととして、衣装や小物のセッティングやコーディネートまでやってのけるとは。出来る男、って感じで非常にかっこいい。神の名は伊達じゃないってことか。ちがうか。

 

 それにしても……(バード)(ゴッド)(ドラゴン)を慈しむって。名前カッコ良すぎでしょ。

 

 

 

 「よしじゃあ早速だけど、何枚か撮ってみっか」

 

 「ヨッシャ(たの)んますトミさん! とびっきりの美少女に撮ったって(くだ)せぇ!」

 

 「何があなたをそこまで駆り立てるんですか!?」

 

 「若芽ちゃんの可愛さを世に知らしめるためっすから!!」

 

 「そういうことならまぁ任せとけ。……つっても素材が…………あぁ、悪い。……本人がもう既に…………コレだからなぁ」

 

 「そうなんすよね。そこを更にコレする感じで」

 

 「何の話をしてるんですか!? コレって何!?」

 

 

 不安でしかないおれの……()()()の内心をよそに、二人はアレとかコレとか謎多き会話を繰り広げている。

 しかしこの場においてはわたし自身に自由などあるハズもなく……幸か不幸か『若芽ちゃん』を知っている第三者の手前、キャラクター(若芽ちゃん)を前面に押し出して『聞き分けの良い子』を演じるしかない。

 

 そうだ……思い出せ。どうせ最初からわたしに選択肢なんて無いのだ。

 ただ流されるがまま、プロに全てを任せれば良いだけなのだ。

 

 

 「じゃあそこの幕の前に立って……前の画面見えるかな? そこに女の子の写真が映るから、とりあえずはその真似してくれれば良いから」

 

 「わかりました。……お手本、みたいな感じですか?」

 

 「そそそそ。まぁお手本ってか……参考かな? そんなに難しくないし、あくまで参考だから。正確さを求めてるワケじゃないし、なんだったら写真を参考にオリジナルのポーズでも良いよ」

 

 「そこまで出来る自信は無いですが……! えっと……まぁ、宜しくお願いします」

 

 「はい、宜しくね。まぁ気楽に行こう」

 

 

 人当たりの良さそうな鳥神さんの笑みを受け、緊張がスーっと消えていくのを感じる。

 顔を出した放送局局長の意地がそうさせているのか、はたまた鳥神さんに……そういう緊張をほぐす何かがあるのか。

 

 恐らくは前者だが……鳥神さんと言葉を交わすうちに、気持ちがどんどんオープンになっていくような感じを受けたのも、また事実。

 今日のお昼を一緒したサキちゃん(仮名)メグちゃん(仮名)もそうなのだが……モリアキや白谷さん以外の人と会って話をするのも、思っていたほど悪くはないと気づいた。

 

 

 そのことに気づかせてくれたことは、ありがたいと思うんだけど。

 果たして……この撮影はどれくらい続くんだろうか。

 まぁ……こうなったらとことんやってやりますよ。ポーズ決めるのもだんだん楽しくなってきたし。

 

 

 

 ……えっ、チェンジ?

 何……あぁ、別の衣装に着替えてこいってことね。了解です、わかりました。

 

 つぎの衣装は……えっと、テーブルの上?

 

 あ、はい。わかりました。じゃあ更衣室いってきますね。

 

 

 おや、どうやら白谷さんも付いてきてくれるらしい。面倒見が良い子だ、ありがたい。

 

 

 さーて。つぎのコーデはどんなんだろうな!

 

 

 



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56【写真撮影】いろんな装備揃ってます

どうやら昨日夜の更新が出来ていなかったようです。
こちらの予約投稿漏れによるものでした。大変失礼致しました。
お詫びに局長が



 「…………なぁ、おいカスモリさんよ。あの子ヤベェぞ」

 

 「やっぱヤベェっすか、トリガミさん」

 

 

 先輩(と姿を隠したままの白谷(ニコラ)さん)が消えていった更衣室のドアへ目を向け、カメラマンを務める鳥神(とりがみ)氏がポツリと呟く。

 彼はこの『スタジオえびす』にて、老若男女問わず多くのお客さんを写真(と動画)に収めてきた人物である。それこそ母親に抱き抱えられる乳幼児から、立っているのもやっとなお年寄りまで。年齢も性別も家族構成も世帯収入も、ときには国籍さえも異なる様々な人たちと向かい合ってきた。

 

 どちらかというと人との触れ合いが皆無な……引きこもり気味なオレの仕事と異なり、バリバリの対人スキルが必要とされる職業だ。どんな人にも対応できる接客技能に加え、多岐に及ぶ専門技能と専門知識を兼ね備えた彼、鳥神(とりがみ)竜慈(りゅうじ)をもってして『ヤベェ』と言わしめる少女。

 

 それが、木乃若芽ちゃん。

 ……つまりは先輩だ。

 

 

 

 「あんまプライバシー掘り出すんも良くないって解ってっけどさ……あんな人目引く上に可愛い子がまだ手付かずだったってのがまず信じらんねぇ。十歳とは思えねーくらい落ち着いてるし、聞き分けは良いし物わかりも良いし物覚えも良いし……劇団から事務所から引く手数多だろ、普通」

 

 「それは……えっと…………スゴイッスネ」

 

 「そう、スゲーんだわ。まさにジュニアモデルとして必要な要素、片っ端から全部兼ね備えてんだぞ。オマケに度胸も中々だ。……気付いてっか? 途中からのポーズな、画面指示じゃなくあの子のオリジナルだったぞ」

 

 「そらまた場慣れしてるっていうか……撮られ慣れてるんすかね?」

 

 「……まぁ……そうかもな。そっか配信者(ユーキャスター)だもんな。…………いや、そうだ。そうだよ。さっきは流したけどよ……仮想(アンリアル)って話じゃ無ェの? お前SNS(やいたー)でキャラデザ携わってた云々(うんぬん)言ってたのって……あの子だろ?」

 

 「えっと、まぁ……なんてぇか…………色々ありまして。ちょっとオレの口から勝手に言える事じゃ無いっす、スマセン」

 

 「あー…………悪ぃ。……ってお前に詫びてもしゃーねーよな」

 

 「そっすね。とりあえず若芽ちゃん待ちますか。……そいえばトミーさん塔イベどこまで消化しました?」

 

 「とりあえず百階辿り着いた。もう二度とやりたく無ぇ」

 

 「ええスゲェ、オレまだ全然っすわ……無敵貫通マジ無理っす……てかゲージ割る毎に理不尽デバフばら撒いてくんのホント嫌……」

 

 「どんな編成? ちょい見せてみ?」

 

 「えーっと…………こんな感じす」

 

 「おけ、ちょい借りる」

 

 

 

 

 女の子の着替えがそう簡単に終わらないことくらい、オレ達だって認識している。今日は専門のスタイリストさんが居るわけでもないので、慣れない洋服とあっては尚更手間取ることだろう。

 

 先輩(若芽ちゃん)が衣装替えを終えるまで暇を持て余したオレ達は……しばし共通の時間潰しに興じるのだった。

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 更衣室へと移動したおれと白谷さんは、とりあえず言われた通りにテーブルの上を物色してみる。

 するとそこには『烏森用』と走り書かれた付箋が貼られたプラスチック(カゴ)が幾つか並び、それぞれに子ども用の衣類一式が仕舞われていた。

 おそらくは篭ひとつひとつで予めセット組みがなされており、数多あるそれらの中から数セットをピックアップしてくれたのだろう……スタイリスト的な人が不在でもある程度のコーディネートが行えるよう、業務効率化が図られた形跡が見てとれる。

 

 

 「ほへー、参考になる……おれ女の子の服装とかわかんないからなぁ」

 

 「なるほど、興味深いね。どれもこれも造りが繊細だ。……耐久性をあまり視野に入れていないのか」

 

 「白谷さんのいう『耐久性』って……もしかしなくても……」

 

 「うん、実戦に耐えうるかどうか」

 

 「そりゃあ視野に入れてないと思うよ……」

 

 

 とりあえず篭の中からひとつ、色合いが気に入った衣類を広げてしげしげと眺めてみる。せっかく更衣室を独り占めできるのでテーブルに並べてみて、ほうほうふむふむとコーディネートを目に焼き付けてみる。

 

 今回も全体的に秋冬コーデ、寒色系に寄せた落ち着いた色使いが特徴の組み合わせのようだ。

 黒の長袖インナーにごくごく淡いピンク(ほぼ白)のカーディガンを合わせ、下はカーキ色のミニスカート。貼り付けられていた写真を見る限りは、黒色のタイツと合わせると良い感じになるらしい。

 

 

 「タイツなぁ……買おっかなぁ、あったかそうだし」

 

 「この黒い脚衣? タイツっていうのか。……あるけど、出す?」

 

 「は?」

 

 「ちょっと待ってね。……すー……はー。……『我は紡ぐ(メイプライグス)……【蔵守(ラーガホルター)】』」

 

 「は!?!!!?」

 

 

 すごい、これが魔法か。他人が使っているのを客観的に見たのは初めてだ。

 

 白谷さんの目の前の空間が『うにょん』って歪んだかと思うと、その歪みがあっという間に拡がっていく。やがてその歪みが()()の形を(かたど)ったかと思えば……次の瞬間には歪みは消え失せ、黒い布状の()()が宙に浮いていた。

 

 得意気な笑みをうかべる白谷さんの、無言の(あつ)()されるように手を伸ばすと……どことなくひんやりとした、しかしデタラメに滑らかな布の感触が指に伝わってきた。

 

 

 「ぇえ…………すごい、何これ……」

 

 「『影飛鼬(シャルフプータ)』の特異個体、その腹の柔らかな毛を丁寧に紡いで、霊銀蟲糸(アストセイレク)と織り上げた脚衣だよ。【敏捷(シュブルク)】と【隠密(ファニシュテル)】がウリだけど【適化(オプニュフラ)】も当然刻んであるから、ノワの小さなお尻でも問題無いと思うよ」

 

 「待って待って待って、わかんない。単語の意味がなんとなく理解できちゃってる現状もワケわかんないけど……待って、白谷さん。もしかしてなんだけど……」

 

 「うん。考えてみたら、ボクは『全てを君に捧げる』って言ったもんね」

 

 「えっと、えっと、えっと…………待って、じゃあ……もしかしなくても……」

 

 「うん。まぁ……そうだね」

 

 

 虚空から白谷さんが取り出した、『影飛鼬(シャルフプータ)の脚衣』――間違いなく()()()()()()()()()()()()()()――それが意味するところに思い当たり……ファンタジーに染まり始めてきたおれの思考が、その結論にあっさりと辿り着く。

 

 今の白谷(ニコラ)さんの行動、発言。そして彼女()の符号【天幻】と、その得意とする分野。……それは、まさか。

 

 

 

 「見た感じ……きっちり()()残ってそうだね。【蔵守(ラーガホルター)】の()()

 

 「ちょっ」

 

 「さっきも言ったけど、ボクの全てはキミのモノ。つまりはこれらも全て……キミのモノだよ、ノワ」

 

 「おま」

 

 

 どこぞのガキ大将理論を魔改造したような、方向性は真逆ながら理不尽さではひけをとらない謎の理屈を告げられ……その言葉の意味をやっと理解することができたおれの口から絞り出されたのは……

 

 

 「…………すごいね」

 

 「ふふ。そうだろう?」

 

 

 小学生並みの、ひどく陳腐な一言感想……俗にいう『小並感』というやつだった。

 

 

 



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57【途中退出】撮影の途中ですが

なんとオリジナル日刊5位に入ってたらしいです!!まじか!!!
平素よりわかめちゃんと『のわめでぃあ』を応援していただき、本当にありがとうございます!!



 浪越(なみこ)市中央区の繁華街……位置的にはお昼に訪れた伊養町(いようちょう)の北方向、高層ビルや大型商業施設が建ち並ぶエリアの一画。

 だだっ広い片側四車線の道路に面した、老舗(しにせ)百貨店の一階部分。

 新年を迎えるにあたって、あるいは年の瀬に贅沢するため……各地の名店の品々を求める多くの人々で賑わっている()()の、ここは大紋百貨店の名品館。

 

 果物ゼリーの詰め合わせや、和洋の各種生菓子や、老舗の煎餅を扱うお店等々、目移りしてしまうような品揃えをのんびり眺め……る余裕なんかあるはずも無く。

 

 

 

 「おれFPS苦手なんだけど!!」

 

 『大丈夫なんとかなってる! スゴいよノワ!』

 

 「アッ本当だ! チクショウまじかよスゲェなおれの身体!!」

 

 『落ち着いてやれば大丈夫! ボクが守るから!!』

 

 「ありがと白谷さん! 好き!!」

 

 

 

 現代日本においてはあり得ない光景……全ての人が逃げ去り無人と化した百貨店内にて徘徊する異形の敵を片っ端から射抜き続ける、エルフの狩人の大立回りが繰り広げられていた。

 

 

 「動き遅いのがせめてもの救いだけど!」

 

 『ヒトを襲う気も薄いみたい……不気味だね』

 

 「不気味なのは格好だけにしてほしい……」

 

 

 そいつらを言葉で表現するのは……少々骨が折れそうだ。何せ今まで見たこともないような、それこそゲームやアニメの中でしか有り得ないような存在なのだ。

 それでも、どうにか端的に表すとするならば……『葉っぱが集まって出来たアンバランスなマネキン人形』だろうか。

 

 しかし『葉っぱ』とは言ったものの、質感や一枚一枚の形状こそ確かに葉っぱなのだが……ふつうの葉っぱが緑色から黄緑色なのに対し、どす黒い赤やらくすんだ赤やら濁った赤やら……言い方は悪いが、とても汚ならしい赤色をした葉っぱなのだ。

 加えて『マネキン人形』とは言ったものの……個体によってまちまちだが、両手が異様に大きいヤツやら頭部が異様に肥大化したヤツやら腕が気持ち悪いくらい長いヤツやら……なんていうかもう、色味と相まってとても気持ち悪い。

 

 

 「本当こいつら何なの……? 人を襲うでも略奪するでもなく、ただ徘徊してるだけ?」

 

 『コイツらは『葉』だよ。本体から分離した異形の一部。つまり』

 

 「主である『苗』の保持者が近くにいる、ってことか」

 

 『まぁそうだけど……目視できる範囲には居ないみたいだね』

 

 「面倒だ……なッ!」

 

 『同意だよッ!』

 

 

 おれの射った矢が『葉』の頭に突き立ち、硬直した『葉』を白谷さんの魔法がバラバラに切り刻む。

 こいつら『葉』は見た目こそややグロテスクだが、実際のところほぼ無抵抗なので一方的に攻撃できるようだ。

 あまりにもひどい見た目に遠距離攻撃を選択したけど、あいつらの緩慢さなら近接攻撃でも良かったかもしれない。……まぁやったこと無いんだけど。

 

 

 『それはそうと……弓の扱い(うま)いねノワ。弓術の心得でも?』

 

 「あるわけ無いけどそこはホラ、キャラ設定っていうか?」

 

 『なるほど。初めて触る武器でこれだけ()れれば大したものだよ』

 

 「あんまりうれしくないなぁ!」

 

 

 先程からおれが振り回している短弓は、この騒動の中に乗り込むにあたって白谷さんから提供され(借り受け)た『聖命樹の(リグナムバイタ)霊象弓(ショートボウ)』。だいたい察しがつくと思うけど、白谷さんの【蔵守(ラーガホルター)】の中に眠っていた装備品のひとつである。

 魔力を一時的に具象化・矢として放つことができるというこの弓は、白谷さん(いわ)く膨大な魔力量を秘めるおれにとって実質無料で()ちまくれるに等しい。おまけに証拠品を現場に残すことがない優れものだ。気に入った。

 これまで三十年余りを平和な国ニッポンで過ごしてきたおれにとって、武器の扱いが(うま)いというのは喜ぶべきではないのかもしれないが……しかし今回に限って言えば幸運(ラッキー)だったのは確かだろう。初めて『エルフでよかった』と思えたかもしれない。

 

 

 しかし……手早く済ませなければならないのに、肝心の『苗』の所在がわからない。

 白谷さんは先日『魔素(イーサ)の薄いこの世界では生育が遅い』と言っていたが、しかし現実として『葉』を落とす程までに生育してしまっているのだ。

 

 急がなければ、このままでは遠くないうちに『花』を付けてしまう恐れがあるし…………

 

 

 『あんまり時間掛けると……さすがに不審がられるだろうからね』

 

 「何十分もトイレってさすがに不審だよなぁ!」

 

 

 抜け出してきたフォトスタジオにいる面々、特に鳥神(とりがみ)さんに……感付かれてしまう恐れがあるのだ。

 

 

 

 

………………………………

 

 

 

 切っ掛けは……国営放送局の教育番組を垂れ流していた更衣室のテレビが、唐突に臨時ニュースへと切り替わったことだった。

 

 軽快な歌声がいきなり止み、緊迫したニュースキャスターの声色が流れ始め、『影飛鼬(シャルフプータ)脚衣(タイツ)』へ脚を通していたおれは何事かと振り向き……そこで見聞きしたものによって()()()()()()()()

 白谷さんがすぐ傍に居てくれて非常に助かった。なんでも【繋門(フラグスディル)】の登録座標(マーカー)が『喫茶ばびこ』さんの近くに刻印済だったらしく、いつでも()()()とのこと。

 『また来たいって聞こえたからね』とか苦笑してるこの子本当かわいいマジ天使だと思う。

 すぐさまモリアキに現状と希望を伝えるREIN(メッセージ)を送り、返事を待つ間もなく白谷さんに【繋門(フラグスディル)】を繋いでもらい……

 

 

 「待って待ってノワ、服。上すっぽんぽんだよ」

 

 「あっ!!」

 

 

 とりあえず黒の長袖インナーだけ袖を通し、白谷さんに手渡された装備を言われるがままに身に付け、いそいそと『門』へと飛び込んだのだった。

 

 

 伊養町の片隅に出現したおれは、幸いなことに誰にも見咎められることなく北進し、事件現場である中央区繁華街に到着した。

 騒動の中心地はすぐにわかった。この時期このタイミングでシャッターを全て下ろした百貨店、多くの警備員達が厳戒体制で取り囲んでいるので間違いないだろう。

 そんな警戒体制は『中から出ようとしているもの』に向けられており、おれのような『外から入ろうとしているもの』しかも空から侵入を企てる存在に対しては、てんで意味を成さない。

 

 屋上庭園から余裕綽々と侵入を果たし、店内コマーシャル放送のみが不気味に響き続ける無人の百貨店を捜索し始め……一階部分で奴らと対面した、というわけだ。

 

 

 

 あらかたの『葉』は殲滅できただろうが……あまり時間は掛けられない。

 事態を収拾させる方法、つまりは『苗』保持者を探しだす方法を探すべく……おれたちは必死に思考を巡らせ始めた。

 

 



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58【途中退出】狩り物競争だオラァ!

 

 

 大紋百貨店、歳末グランドバザール開催中。日頃より大紋百貨店をご愛顧頂いている皆様に、感謝の気持ちを込めたスペシャルプライスでご案内。気になるあの商品も、欲しかったあの商品も。あれもこれも、この機会に是非お買い求めください。

 

 ……何度目かわからないのんびりとした宣伝文句に、貯まる一方だったフラストレーションがついに限界を迎えてしまう。

 

 

 

 「『苗』の保持者を探せる探知機が欲しいんですが売ってますかね。お買い求めしたいです。ド◯ゴンレーダーみたいなやつ」

 

 『龍種探知機(ドラ◯ンレーダー)? すごいね、そんな代物があるの?』

 

 「え、えっと……いや……無いから…………欲しいな、って……」

 

 『あぁ…………気持ちは解るけど現実を見て』

 

 「さっきから必死に見てるよう!」

 

 

 

 幾度となく耳に入ってくる店内放送にみっともなく当たり散らしながら、魔素由来の現象を知覚できる固有視覚(エルヴン・アイ)を四方八方へ巡らせる。

 更には視覚だけでなく鋭敏な固有聴覚(エルヴン・イヤー)も並行して活用し、館内に残っている人間――恐らくは『苗』の保持者――を探すべく一階から上へと駆け上がっているのだが……何にせよこの大紋百貨店、百年以上の歴史があるだけあってか建物そのものが超巨大なのだ。

 

 地上七階地下二階建ての本館のほかに、お隣と道向うにはそれぞれ渡り廊下で繋がる別館がある。火災対策用の防火扉のお陰もあって『葉』は本館エリアに留められているようだが……そもそも『苗』をどうにかしないと根本的な解決にはならない。

 魔素(イーサ)を吸わせて新たな『葉』をばら蒔かれんとも限らないし、それほどまでに魔素(イーサ)を使わせればさらに生育を促してしまい……『花』を咲かせてしまう恐れがある。

 

 そうなれば勿論、宿主にされた人とて只では済まないだろう。

 

 

 

 「最初の『葉』はほぼ駆逐したから……新しく沸いたところがあれば『苗』の場所も推測できるんだけど……」

 

 『ここまで探したのに見つからないとはね……もっと上なのか、立ち入れない場所に隠れているのか……あるいは既に逃げ仰せたのか』

 

 「バックヤードもしっかり探してるのに! これ正体バレたら不法侵入でお縄(タイーホ)だよ!」

 

 『お(あつら)え向きの衣装があって良かったね。ほら、盗賊(シーフ)的な』

 

 「嬉しいような嬉しくないような!!」

 

 

 今現在おれが纏っている装備の数々は、フォトスタジオの更衣室で借りた『影飛鼬(シャルフプータ)脚衣(タイツ)』を始め、白谷さんの私物――つまりは異世界産の戦闘用装備――がその殆んどを占めている。

 敏捷性を優先した靴と、隠密性を優先したフード付外套、極めつけは銃刀法に抵触しそうな『聖命樹の(リグナムバイタ)霊象弓(ショートボウ)』。これらの非常識な装備と『若芽ちゃん』の性能(設定)により、姿を陽炎で隠したまま常人とは比較にならない俊敏さで駆けずり回っているのだが……その成果は芳しくない。

 

 自分自身の視覚と聴覚だけでなく、ちゃんと白谷さんの生体感知魔法でも探ってもらっているので見落としは無いはず。本館は今や屋上以外の出入りを完全に遮断されており、しかしながらこの逃げ場の無い館内において三階以下は空振りだったのだ。

 連絡通路や一階の出入口は防火シャッターで閉ざされているはずだし、もっと上層階に隠れているのだろうか。でもなければそれこそ窓ガラスでもブチ破るか、屋上から飛び降りでもしない限りは逃れようがないハズだが……百貨店の周囲全方向を警備員に囲まれている状況で、そんな派手なことが出来るハズがない。一瞬で見咎められて拘束されるだろう。

 

 

 

 

 (………………ん? 周囲?)

 

 

 ちょっと待って。何か引っ掛かる。落ち着いて考えてみよう。

 

 まず、一階部分でたむろしていた『葉』。これらは恐らく全部駆逐した。

 出入口は連絡通路も含めて全て封鎖済、一階から外へ出ることは不可能。

 本館館内の一階から三階。売り場にもバックヤードにも、誰もいなかった。

 つまりは……居るとしたら四階より上か。

 

 …………それとも。

 

 

 「白谷さん!!」

 

 『おっとぉ!? びっくりした……どうしたのノワ』

 

 「白谷さんは……『苗』の保持者、遠くからでも見ればわかる?」

 

 『……うん。感知することは出来る』

 

 「わかった。ちょっと頼みがある」

 

 『了解、何でも言ってくれ』

 

 

 焦りのあまり視野狭窄に陥っていたのだろうか。ちょっと落ち着けば解ることだ。

 エレベーターホール兼階段ホールに辿り着き、『上』ボタンを押し込んでエレベーターを呼び寄せる。……しかし自分で階段を上がった方が早いことに気づき、階段の吹き抜けを【浮遊(シュイルベ)】でかっ飛んでいく。

 

 目標は最上階、つい先程侵入してきたその出入り口。緑化が進められた屋上庭園へと飛び出し、改めて自分の身体全身に【陽炎(ミルエルジュ)】を纏っておく。

 ……案の定というか、聞き覚えのあるローター音。そりゃあそうだろう、全国規模で臨時ニュースが組まれるような出来事だ。報道ヘリの一機や二機飛んでこないハズがない。……気を付けないと。

 

 

 「白谷さんも探すの手伝って! たぶん回りの野次馬の中に()()!」

 

 『なるほど……これだけ高ければ一目瞭然だね』

 

 「でしょ。見てほら人がゴ……あっ居た!! 白谷さん!!」

 

 『…………うん、間違い無さそうだ』

 

 

 そもそもが、この世界の人間は魔素(イーサ)を殆んど持っていないのだ。そこへひときわ禍々しい魔素(イーサ)の反応があれば……これはもう間違えようがないだろう。

 予想通り……というか今更ながら本当に当たり前のことだが、あの『葉』を産み落とした『苗』の保持者は百貨店の外へ誘導された……館内から避難してきた人々の中。完膚なきまでに雑踏のど真ん中である。

 

 館内の『葉』が駆逐されたことを知っているのかいないのか、ここからだとさすがに表情を窺うことは出来ない。

 このまま大人しく『苗』を刈り取らせてくれれば良いのだけど、万が一あの密集地点で『葉』をばら蒔かれたり、それこそ実力行使に出られでもしたら……さすがに怪我人や大混乱は避けられないだろうう。

 

 

 「どうやって対処すれば良い……人の数が多すぎる、実力行使して大丈夫なの?」

 

 『いや危ないね、ノワの流れ弾が飛んでかないとも限らないし、『苗』本体の戦闘力が未知数だ。どうにかして人払いが出来れば良いけど……』

 

 「火魔法で爆発でも出して(かる)ぅく脅かすか……ん?」

 

 

 陽炎を纏ったままとはいえ……屋上の縁に立ち眼下を凝視する人影に、報道ヘリの一機が気づいたらしい。しきりにおれを探るように周囲を飛び回り、そのローター音が長い耳を刺激するが……その騒音とは別の()が、今まさに高速で近付いてきてることに気づく。

 

 その音の正体に思い当たり周囲に視線を巡らせると……赤い回転灯を(とも)した白黒の車両は既に何台か見られるが、その近くにお目当ての人物は見当たらない。

 先遣隊とは別に十全な準備とともに送り出された、今まさに現場へ到着しようとしている実働部隊……おれの勘が正しければ、その中に()()()が居るハズだ。

 

 多少は話が解る()()()の思考であれば、強引に協力を取り付け……良いように使うことも可能かもしれない。

 

 

 「……白谷さん」

 

 『何だい?』

 

 「苗の保持者を孤立させて、おれが対処するとして……周りの人を守る防壁とか結界とかって、張れる? 周りに被害が出ないようにしたい」

 

 『キミの希望と在らば……任されよう』

 

 「ありがとう。好き」

 

 『ボクもだよ、ノワ』

 

 

 ……本当に頼りになる。

 おれ以上に修羅場慣れしている白谷さんのおかげで、おれは落ち着いていられる。やっぱり一人じゃないっていうのは、それだけで安心感が桁違いだ。

 

 しかし……報道カメラに、周りの人たちの携帯カメラ。濃いめに【陽炎(ミルエルジュ)】を纏うつもりだが、ある程度姿を撮られるのは仕方ないだろう。

 だが、それさえ我慢すればなんとかなりそうだ。あとはあの警察車両が到着し、話がわかるあの人が姿を現すのを待つばかりだ。

 

 

 さあ、場面は整った。手早く済ませよう。

 大丈夫……おれは一人じゃない。

 

 



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59【途中退出】撲殺無双系魔法使い

 

 

 『そのまま左……ちがう、電波塔方向に。あと三十メートルくらい先』

 

 「……すーごいね。人垣が綺麗に割れてくよ」

 

 『あと十メートル…………そこ! 左側の金髪の兄ちゃん! そうその人! そこで()()()()()()!』

 

 

 眼下……大勢の人々でごった返し、今や自動車道路としての機能を喪失している大通り。

 俯瞰するおれの【伝声(コムカツィオ)】による誘導で人波を掻き分け進んでいた重装警官隊は……百貨店内へ向かわずに、とある一人の男性の前へと到達した。

 

 にわかに顔をひきつらせる男性を、重装警官隊の指揮官であろう男性――たしか春日井さん――が引っ掴み、同時に周囲に対して警告とも威嚇とも取れる大声を張り上げる。

 シールドを構え声を張り上げる警官隊に押されるがまま、じりじりと後退していく周囲の人々。なにせ下がろうにも後ろにみっちり人が詰まっているのだ、お世辞にも迅速とは言いがたかったが……やがて春日井さんと彼に確保された男性を中心として、人垣の只中に半径十メートル程度の空間がぽっかりと口を開けた。

 

 あれくらいの空間があれば……あの『葉』程度の運動能力であれば、白谷さんに助けてもらえば何とかなるだろう。

 警官隊だって盾を構えているのだ、周囲の人々の安全は守られる……と思いたい。

 

 

 

 「さて……ボクらの出番かな」

 

 「そだね。……あー緊張する」

 

 「大丈夫落ちついて。ノワは演者なんだろう? 人前で演じるのは慣れてるじゃないか」

 

 「そ、う、かも……? うう、がんばろう。【陽炎(ミルエルジュ)】」

 

 「了解。じゃあボクは隠れて……補助に徹するよ。自由にやってくれ」

 

 「……うん。お願い」

 

 

 頬を両手でぺしんと張り、萎えそうな身体を奮い起こして気合いを入れる。これは()()()の仕事……()()()にしかできない仕事なんだ。

 ……やるしか、ない。

 

 覚悟を決めたわたしは、心強い相棒とともに宙に身を投げ……眼下の包囲網へと落下していった。

 

 

 

 

 既に何人か、わたしを仰ぎ見て指差している人が散見される。身を投げた際はそれこそ悲鳴もちらほら上がっていたようだったが……そんな異変を『苗』の保持者は察知してしまったようだ。

 警官隊に確保されたことで、精神的にも追い詰められていたのだろうか……わたし達が恐れていたことが、どうやら現実となってしまったらしい。

 

 

 「下がって!!」

 

 「ッ!?」

 

 「離れて! 早く!!」

 

 

 おれがアスファルトに着地するのとほぼ同時、保持者の周囲の地面から赤黒い芽が急速に生えてくる。それらはみるみるうちに大人ほどの丈まで生育すると、不格好なヒトの形を模した葉っぱの塊へと変貌する。

 その数……じつに七体。おれにとってはまるで脅威にならなかった『葉』だが、生身の人間相手ではどうなることか。咄嗟に春日井さんに声を飛ばして下がらせ、彼に身の安全を確保させる。

 

 あいつらの……『葉』ならびに『苗』の行動原理は、外部の魔素(イーサ)を吸収して自身を生育させることだ。つまり目の前に上質な魔素(イーサ)の持ち主が居ればそれを狙ってくるハズであり、つまりはわたしを狙ってくるハズなので、一般人の方々は距離さえ取っておけばとりあえず安全のハズ。……そのハズ。

 とはいえ不意打ちで片を付けた浪越銀行の一件とは……保持者に意思の疎通が図れるほどの自我が残っていた前回とは異なり、今回は完全に()り合うしかない。本格的に事を構えるのは初めてなのだ、正直どう転ぶか全くわからない。

 

 とりあえず確かなことは、勝利条件と敗北条件。

 勝利条件は、保持者の延髄から延びる『苗』を除去すること。

 そして敗北条件は……保持者を含め、人的被害が生じてしまうこと。

 

 

 

 「【加速(アルケート)】【防壁(グランツァ)(アルス)】」

 

 

 何はともあれ、これ以上『葉』を産み出させるわけにはいかない。時間は有限、一時停止は不可能。行動は迅速に行うべきだ。

 そこらの十歳児以下の体力しかない身体を強化(バフ)魔法で補強し、光の防盾を従えて『葉』の一体へ肉薄する。

 

 

 さっきまで振り回していた聖命樹の(リグナムバイタ)霊象弓(ショートボウ)は白谷さんに返却してしまった。小型軽量で取り回しに優れる上、実質無料で遠距離攻撃が出来る優れものだが……周囲全てに保護対象が存在するこんな場所で使えるわけがない。万が一にでも的を外せば確実に怪我人が出る。百発百中を気取るほど自惚れているつもりは無い。

 

 代わりに借り受けたのは、これまた小型軽量な近接用武器。分類としては鈍器になるのだろうか、緩くうねった直線状の硬木製で、長さは六十センチ程度。形状としてはチアリーダーが使うようなバトン……トワリングバトンが近いだろう、細い軸の両端には綺麗な装飾の施された一回(ひとまわ)り太い球状の部分があり……なんだろうこれ。水晶のような、綺麗な石のようなものが固定されている。

 

 銘は『銀檀の(サンタルム)片手短杖(フォロウロッド)』。殆んどが木製なだけあって非常に軽い上に、全体に緻密な魔法紋様が刻まれているお陰なのか、非常に手と身体に馴染む。

 使い方は極めて単純……長めに持って、魔力を込めて、殴る。それだけ。打撃の瞬間に一種の炸裂魔法が展開され、打撃対象へ一方的に衝撃をブチ撒ける。使いこなせばそれこそトワリングのようにくるくる回し乱打したりそのまま投擲したり、投擲後の軌道さえも意のままに操れるらしいが……とりあえずは鈍器でいいと思う。

 白谷さんの触れ込み通り、実際腹部に打撃を受けた『葉』はものの一撃で爆散していった。

 

 ……なんだこれ。つよいぞ。

 

 

 「おお、いける……!」

 

 (そりゃそうだろうね)

 

 

 真っ二つというか粉々になった一体目の『葉』が風化していくのを視界の端に捉えながら、そのまますぐ近くに呆立(ぼった)ちしていた二体目の『葉』に殴り掛かる。これまた打撃の瞬間に魔紋と水晶が淡く光り、頭部どころか上半身を消し飛ばされた『葉』がゆっくりと崩れていく。

 三体目がわたしに手を伸ばしてくるのが見えたので、ゆっくりと迫るその両腕を下から短杖(ロッド)で跳ね上げ……るつもりが勢い余って消し飛ばし、両腕を失い体制を崩した三体目のガラ空きの胴体に遠慮なく突き込んで爆散させる。

 勢いそのまま三体目の後方に突き抜け、四体目の目の前へ着地。どこを見ているのか対処らしい対処の出来ない四体目の脚を蹴り払い、倒れようとしているそいつへと短杖(ロッド)を振り上げる。ヒトでいうところの腰後ろに痛烈な打撃を受けた四体目は、腹の中身(詰め込まれた蔓や茎や葉)を撒き散らしながら四散する。

 

 

 「……なんか解ってきた気がする」

 

 (さっすが! やっぱ学習が早いね)

 

 

 振り回すうちに短杖(ロッド)と波長が合ってきた気がしたので、次の標的の後方に白谷さんが待機している(万が一の際はフォローして貰える)のを確認した上で、ひとつ試してみる。短杖(ロッド)の中央付近を摘まむように保持し、指を動かし短杖(ロッド)をくるくると高速回転させて遠心力を稼ぎ出し……それを投げる。

 

 円盤のように飛翔する短杖(ロッド)は狙い通りに五体目へと向かっていき、その胸部から上を容易に斬り飛ばす。その後はわたしがイメージした通りの、ブーメランのように弧を描いた軌道を飛翔し……『ぱしっ』と小気味の良い音と共に、わたしの手のひらに帰還する。

 ……なんだこれ、めっちゃ良い子じゃん。

 

 

 とりあえずこれで五体……保持者の彼よりも前方に展開されていた『葉』は駆除し終えた。接敵からここまで僅か五秒程度……十秒には満たない短期間での殲滅。ここまではなかなか良い手際だったと思う。

 

 今のところ残る『葉』は、あと二体。彼がこれ以上『葉』を広げる前に制圧し、苗を引っこ抜く。

 そうすれば……わたしたちの勝ちだ。

 

 

 



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60【途中退出】やっぱりそうなるのね

 

 

 保持者を守るように立ち上がった七体の『葉』のうち、既に五体は塵と化して消滅している。

 残るはやや後方に控えている二体と『苗』の保持者本人だけ。

 

 日本人離れした……恐らくは西洋系の容姿をもった、この百貨店内テナントの店員。染められたものではなさそうな金髪と、カラコンの類いではなさそうな青の瞳でありながら……その胸元に留められた名札には日本人然とした姓名が記されている。

 既に相当の魔素(イーサ)を搾り取られているのだろう、その顔色はお世辞にも良いとは言えない。

 これ以上無理をすれば『花』を付けてしまうことは勿論だが……それ以前に彼の命に関わるだろう。

 

 

 「……わたしは、あなたに危害を加えるつもりはありません。……話を、聞いて貰えませんか?」

 

 『……………………ゥ……』

 

 

 投げ掛けた言葉に対する反応は薄い。既に本人の意識があやふやなのか、蒼白な顔に浮かぶ表情はどこか虚ろだ。

 ……これは、ちょっとやばいかもしれない。今の彼と意思の疎通を図ることは難しそうだ。まずは『苗』を除去するのが先決か。

 

 強化(バフ)魔法を纏って前傾姿勢を取り、思いっきりアスファルトを蹴る。とりあえず彼の左後方に佇む『葉』の頭を殴り飛ばし、残された胴体の胸部分を右足で蹴り飛ばしつつ左足を踏ん張って強引に方向転換を図る。

 つい咄嗟に大開脚してしまったけど、今はいつものローブじゃなくて影飛鼬(シャルフプータ)脚衣(タイツ)を穿いている。わかめちゃんのパンツがチラする危険は無いので、思いっきり脚を上げられる。……っていうかそもそも【陽炎(ミルエルジュ)】纏ってたわ。どっちみちチラしないか。

 

 ともあれ、これで保持者の彼に肉薄できた。あとは無防備な襟足に手を伸ばして『苗』を引っ掴ん…………えっ? ……あれ?

 

 

 (ノワ!!)

 

 「っっ!!? ……っぶな!」

 

 『…………ヴ、ゥ……』

 

 

 ほんの一瞬気を散らしたとはいえ……【加速(アルケート)】の強化(バフ)魔法を纏ったわたしの動きに、彼は対処してきた。

 よくよく見れば蒼白の顔には毛細血管のような……赤い根のような線が張り巡らされ、同様の血管のような根のような線は手の甲にも浮き出ている。……恐らくは全身に広がっているんだろう。

 

 あの血管のような線から感じる魔素(イーサ)の気配は、延髄に生える『苗』と同一。恐らく見たまま『苗』から伸ばされた『根』なのだろう、彼の全身へと効率よく支配を行き渡らせるための末端器官。

 全身に『根』を伸ばされた彼の挙動は、今や常人とは比較にならないほどに……速い。それでもわたしのほうがやや速いとはいえ、『苗』を引き抜く際は精緻な挙動を求められる。

 茎が途中でちぎれたり、根が丸々残ってしまっては意味が無いのだ。

 

 とりあえず苦し紛れに七体目の『葉』を思いっきり蹴り飛ばしたが……保持者の彼の背後に回り込もうにも、的確にこちらを捉え正面を向けてくる。

 場合によってはさっきと同様、逆にこちらを捕らえようと手を伸ばしてくる。

 

 

 対処する方法が……無い訳じゃない。現在【陽炎(ミルエルジュ)】を纏うため多めに割いているリソースを戻し、一部あるいは全部【加速(アルケート)】へと注ぎ込む。保持者の彼を圧倒する速度で背後を取って除去に臨むか……もしくは同様にリソースを空け、拘束魔法の行使を試みるか。

 前者はまだしも、後者は誰の目に見ても明らかに『魔法』だ。本当に今更かもしれないが、多くのカメラが睨みを利かせるこんな場所で大々的に行使すると後が怖い。

 

 それにそもそも、わたしはまだ人に向けて魔法を使ったことが無い。……いや厳密には無い訳じゃ無い。回復(ヒール)走査(スキャン)の類いは経験があるけど、攻撃や拘束の類いはまだ経験がないのだ。モリアキに威嚇で向けたやつはノーカンで。

 拘束するつもりが加減を誤って、他ならぬわたし自身の(魔法)で捻じ切ってしまったら……そうなると、この状況では言い逃れなんて出来ない。現行犯だ。

 

 

 もっと目立たず、地味で……安全第一な手段は無いものか。

 彼の対処行動を封じ、かつこちらのリソースを圧迫せず、それでいて一方的にこちらが優位に立てる手段は。

 

 

 

 「…………あった」

 

 (へ? なにが?)

 

 「白谷さん! 彼の感覚器官、全部潰せる!?」

 

 (感覚器官……あぁ、なるほど。行くよ?)

 

 「お願い!!」

 

 

 幻想と空間を司る【天幻】の号を誇る白谷(ニコラ)さんは……他人の感覚器官に介入し、認識をねじ曲げて幻覚や幻視を誘引する『幻想魔法』の使い手である。

 かつて勇者だった頃には既に極められていたその腕前は……わたしの設定に巻き込まれてフェアリー種の女の子となった現在でも健在。むしろ(まぼろし)と親和性の高いフェアリー種の種族特性なのか、より精度が上がっている様子らしい。

 

 そんな彼女にとっては……『苗』保持者の感覚器に介入し、わたしに対する認識をねじ曲げることなど造作も無いことなのだろう。

 手加減も出し惜しみも無し、対象を単体に絞り込んだ全力の幻惑魔法。普段は人に向けることを憚るそれを、ここぞとばかりに行使する。

 

 

 『我は紡ぐ(メイプライグス)……【幻弄・極(セルブストラング)】』

 

 『…………? ヴ……ゥゥ……』

 

 (動きが止まった……! 今なら!)

 

 

 真っ赤に光る瞳をきょろきょろと周囲に巡らせ、完全に動きを止めた保持者の背後へこっそりと回る。脚衣(タイツ)に付与された【敏捷(シュブルク)】と外套にも備わる【隠密(ファニシュテル)】の恩恵もあってか、視覚を始め幾つかの感知能力を喪失している保持者は忍び寄るわたしに感付いた様子もなく……

 

 

 

 

 「えいっ」

 

 『!!? ッ、、ギャアアアアアアアアアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!?!??!』

 

 「あー……やっぱ叫ぶのか」

 

 

 茎の根本付近を掴み、まっすぐ上へ。根っこの末端部位こそぶちぶちと千切れてしまったようだが、主根および側根の殆んどは茎と共に除去できた。

 残された末梢のみでは、さすがに組織を再生させることは不可能なようだ。みるみるうちに禍々しい魔素(イーサ)の気配が薄れていき、後には身体中を掻きむしりながらのたうち回る『二梃木』さんのみが残された。

 

 尋常ならざる様子に、周囲の人々から戸惑いの気配が上がるが……とりあえず元凶は取り除いたのだ。分離した『葉』も全て殲滅したことだし、あとは警官隊に任せてしまっても大丈夫だろう。

 

 

 

 『ノワ、ノワ。それ頂戴』

 

 「え? ……ああ、『苗』?」

 

 『そう。こんな完全な形で確保出来たのは初めてだからね、ちょっと調べてみたい』

 

 「わかった。大丈夫だとは思うけど……気を付けてね」

 

 『ははは。ボクは今やキミの一部だよ。心配には及ばないさ。……でも、ありがとね』

 

 「……ん」

 

 

 培地から引き抜かれ、魔素(イーサ)の供給を絶たれたことで、『苗』はみるみるうちに萎んでいく。それを白谷さんの【蔵守(ラーガホルター)】に仕舞い込み、時間停止の影響下に置くことで保存する。

 どうやら……わたしと魂の繋がりを得たことで、白谷さんも『苗』に干渉することが出来るようになっていたらしい。かつての世界では殆んど解明できなかった『苗』の性質が少しでも解析できるかも……と、非常に可愛らしい笑顔で喜んでいた。

 

 ……というわけで、もうここに用は無い。

 

 

 「彼は…………彼も、良くないモノに操られ、利用されていただけです。この騒動は彼の本意じゃない。寛大な配慮をお願いします」

 

 「…………同行を、願えませんか」

 

 「嫌だ、と言ったら……どうしますか?」

 

 「…………どうも出来んでしょうなぁ。我々が『魔法使い』殿に敵うとは到底思えません」

 

 「そうですか。……では」

 

 (お? 帰るかい?)

 

 (うん。白谷さん『門』おねがい。モリアキのとこ)

 

 (任された。……我は紡ぐ(メイプライグス)、【繋門(フラグスティル)】)

 

 「彼を、お願いします。……ご機嫌よう」

 

 「!? 待っ――――」

 

 

 

 驚愕に目を見開き、こちらを引き留めようと手を伸ばす春日井さんに背を向け……おれと白谷さんは門へと飛び込んだ。

 

 刻んでおいた登録座標(マーカー)……門の出口は、浪越市港区のフォトスタジオ内女子トイレの個室、そのひとつ。

 内側から鍵を掛けておいたし、そもそも女子トイレなので……間違いなく誰も入って来ないだろう。()()達の出現を見られる危険も無い。

 

 しかし……他に手段が浮かばなかったとはいえ、転移の瞬間を撮られたのはマズったかもしれない。あの場が現在どうなっているのか、加えて今後どう広がっていくのか……正直いって気が重いが、

 

 

 「おわったぁー…………」

 

 「ふふ。……お疲れ様」

 

 

 とりあえず、やっと肩の荷が下りた。あとは早くモリアキと合流しないと。

 お願いしたこと……ちゃんとこなしてくれてると良いんだけど。

 

 

 



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61【写真撮影】ただ今戻りましたー

 

 

 

 「あっ、お帰りなさいセン…………若芽ちゃん。どうすか? ()()()()()()()()()()()?」

 

 「おうお帰り。大丈夫? 体調悪かったら無理しなくて良いんだぞ?」

 

 「えーっと……はい、大丈夫です。ご心配おかけしました」

 

 

 女子トイレからこそこそと抜け出して更衣室へ戻り、途中だった着替えを済ませてスタジオへと戻る。

 出迎えてくれたモリアキは意味ありげにおれを慮ってくれたし、鳥神さんに隠れてこっそりサムズアップして見せる。……どうやら頼んでいたことはバッチリこなしてくれたらしい。さすモリ(さすがモリアキ先生の略)。

 

 衣装替えを経た今現在は、黒のインナーの上に淡い桃色のカーディガンを羽織り、下は黒のタイツの上にカーキ色のミニスカートを合わせたコーディネート。たぶんマフラーとか、厚手のコートなんかを加えてもよく似合うと思う。

 せっかく用意してもらった衣装なので、どうせなら撮って貰いたい。鳥神さんの表情は『続きはまたの機会にした方が良いのでは』と言いたげなので、大丈夫だと行動で示すことにする。

 

 そんなに長い時間お散歩していたわけじゃないハズだが、一旦中座してしまったことで集中力が途切れてしまった可能性もある。もう一回初心に戻って取り組まなければならないだろう。

 さっきと同様、幕の前に移動して軽く身体をほぐす。……多少魔力を消費したせいでほんの僅かに気だるいけれど、その程度だ。ぶっちゃけ体調には何も問題ない。

 

 

 「おねがいします、鳥神さん」

 

 「……わかった。無理だけはしないように」

 

 「はい!」

 

 「おーいいお返事。行くぞー、はい笑顔ー」

 

 

 

 

 「…………で、結局のとこ何があったんすか?」

 

 『えっとね……チューオーク? ってとこに『苗』の保持者が出てね。結構進行してて危なかったから、ノワと対処してきた』

 

 「オーク……!? あぁ、中央区……そんなことになってたんすか……」

 

 『ノワは……テレビ? にまた映っちゃうだろうなぁって嘆いてたよ。もしかしたら面倒なことになるかもー、って』

 

 「あー、そういうこと……アリバイ作りだったんすね」

 

 『ア……アリ? バイ?』

 

 

 スタジオの隅っこのほうで、スマホ片手に白谷さんと会話しているモリアキ。おれは写真を撮ってもらいながらも彼の発言に耳を傾け、彼が頼みごとをちゃんと片付けてくれたことを認識し……ほっと一安心する。

 

 彼にお願いしていたことは、以前編集してあったお料理動画――白谷さんが控えめに出演している『若鶏の墓』回――それの投稿、ならびにSNS(つぶやいたー)を用いての動画投稿アピールである。

 おれが『苗』の対処に奔走しているまさにそのタイミングで、モリアキにはおれの自室PCを遠隔(リモート)で操作して貰い、予め投稿スタンバイしておいた動画を一般公開して貰う。先行予約による自動投稿では、細かな分や秒単位での時刻指定は対応していない。ざっくり『何時』あるいは『何時(三十分)』程度での予約しか受け付けていないため、中途半端な時間での投稿であれば手動と判断されることだろう。

 また同時に、SNS(つぶやいたー)にて告知メッセージを発信。さも『その日その時間わたしは動画投稿をするためにオウチにいました!!』と装えるようなアリバイ作りを依頼しておいたのだ。

 

 これで後日、大紋百貨店に関して問い質されたとしても、自宅で作業中だったと言い張ることで追求を逃れることが可能なのだ。

 どっちみち今日明日中に公開するつもりだったので、スケジュール的には何も問題ない。

 

 

 しかし……今回はアリバイ作成のためのネタがあったから良かったものの、そう毎回毎回都合よく誤魔化せるとも限らない。ほとんどの人にとって未知の事象、『悪の魔法使い』による破壊工作……その現場には恐らく、かなりの高確率で報道カメラがやって来るだろう。

 

 どうにかしてこっそり事を済ませるか、あるいは何か別の手段で誤魔化すか。本業である動画配信者(ユーキャスター)活動が圧迫されないよう、早めに何かしらの手を打たなければならない。

 

 もしくは……単純に動画のストックを大量に確保しなければならない。

 

 

 「……がんばんないとなぁ」

 

 「? ……まぁ、あれだ。あんま気負いしすぎないよにな?」

 

 「あっ、えっと……はい! ありがとうございます!」

 

 「おう。……良い子だよなぁ若芽ちゃん。ウチのモデルとして雇いたいわ」

 

 「あははは……嬉しいですけど、しばらくは本業に力を入れたいので……」

 

 「そうそう、配信者(キャスター)だもんな。烏森(かすもり)が嬉しそうに話すんだよ……『オレが手掛けてる子めっちゃ可愛いんすよ!』ってな! 実際こんな良い子だもんな……そりゃ自慢したくもならぁな」

 

 「も、もう……! からかわないで下さいよぉ!」

 

 「ごめんごめん。でも本当応援してるから。烏森(アイツ)の担当ってこと抜きにしても応援してっから。頑張ってね」

 

 「あ……ありがとうございます!!」

 

 

 自然とこぼれた笑みにシャッターが切られ、鳥神さんは満足そうに頷く。

 そういえば鳥神さんとの会話に夢中になるあまり、途中からお手本モニター見てなかった。大丈夫だろうか。……大丈夫そうだ。

 

 

 「よしじゃあ、ここまでにしようか。……まだ衣装何パターンかあるけど、今日はもうお開きにすっか? あんま暗くならないうちに帰りたいだろ」

 

 「……えっと…………そう、ですね」

 

 「もし気が向くようなら、明日でも明後日でも……それ以降でも、また来てくれりゃあいつでも相手しよう。他の奴らにも回しとくから、俺が不在でも対応してくれるハズだ」

 

 「えっ……? 良いんですか?」

 

 「おう。浪駅(ローエキ)からホテル行きの送迎も出てるし、お代は気にしなくていい。全額烏森(かすもり)に請求回すから」

 

 「ちょっと!? 聞き捨てならない発言が聞こえましたよ!?」

 

 「わかりました! そのときはよろしくお願いします!」

 

 「ちょっと!!?」

 

 

 モリアキと白谷さんの情報共有も、どうやら終わったらしい。

 

 せっかく衣装をいっぱい用意してくれた鳥神さんには申し訳ないが、お言葉に甘えて今日はそろそろお(いとま)しようかと思う。

 やっぱり少なからず疲労が蓄積しているっぽいのと、少しでも次作の構想を練っておきたい。

 

 プロの手による女児服コーデも気になるけど……またの機会のお楽しみにしておこう。

 

 

 「それじゃあ……撮った分はメディアに焼いとくから、着替えておいで。脱いだ服は纏めて(カゴ)に入れといてくれりゃ良いから。お疲れ様」

 

 「はい、おつかれさまです。ありがとうございます」

 

 

 ぺこりとお辞儀し、自分の着てきた服に着替えるべく更衣スペースへ移動する。

 当然のように白谷さんが着いてくるのを認識しながら扉を開け、自分と白谷さんを扉に(くぐ)らせ……

 

 

 

 「なぁ烏森(かすもり)、俺やっぱロリコンで良いわ。若芽ちゃんウチでモデルやってくれるよう頼んでくれね?」

 

 「オレにそんな決定権無いっすよ! ……ああでも、いろんな衣装取っ替え引っ替えするのは良さそうっすね……メイド服とかありません?」

 

 「あるぞ。女の子向けのドレスも浴衣も振袖も緋袴もあるぞ」

 

 「あー緋袴いいっすね……」

 

 

 常人レベルの聴覚だったら聞き取れなかったであろう……しかしおれ(若芽ちゃん)の耳にはバッチリ届いてしまった男二人のひそひそ会話を全力で聞かなかったことにしながら、おれはスタジオ出口の扉を閉めた。

 

 …………よし!!早く着替えよう!!!

 

 

 



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62【在宅勤務】やっぱりこうなるのね

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

作中の人名・名称・地名・サービス等は架空のものです。

実在するそれらとは一切関係はございません。

 

今更ですが、予め御了承ください。

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

 

 ところで。

 おれが『のわめでぃあ』を立ち上げるにあたって、はじめまして放送でアピールした放送ジャンル……そこでは『グルメ、芸能、サブカル、旅行、他にもさまざま!』と述べてある。

 先日投稿した『歌ってみた』は、この中で言えば『サブカル』が該当するだろうし、つい先程投稿した『おはなしクッキング』は『グルメ』の部分に該当するだろう。

 

 

 

 『カメラが捉えた、この騒動の元凶と(もく)される『悪の魔法使い』……そしてこれを相手取る、もう一人の『魔法使い』。この常識はずれの立ち回りを繰り広げる彼らは、果たして何者なのでしょうか』

 

 

 

 いや、別に無理して『グルメ、芸能、サブカル、旅行、他にもさまざま!』に当てはめる必要は無いのかもしれない。しかし多くの人に興味をもって貰うためには、様々なジャンルに挑戦すること自体は悪くない。

 数字が取れるとかじゃなく、一人でも多くの人々に『次回をおたのしみに』して貰うためには、例え反応が今一つだろうと新たな層に訴求し続ける必要があるだろう。

 

 

 

 『前回の銀行襲撃事件の際と同様、どこからともなく現れた謎の『魔法使い』……その正体、そしてその目的は、依然として謎に包まれたままです』

 

 

 

 どうせやるなら、当初打ち出した宣伝文句に従い……つぎは『旅行』だろうか。

 いいかもしれない。旅番組は老若男女問わず需要が見込めるし、旅先で『グルメ』要素を盛り込むことも難しくない。旅行番組であれば少なくとも『嫌い』という人は居ないはずだし、見たことの無い景色を見るのは誰だってワクワクするハズだ。

 

 

 

 『いやー、前回のときも僕ぁ言いましたけどね? 何で警察はこんなにチンタラしてんのかって話ですよ。ああして実際に、当事者である『魔法使い』と相対してるのにですよ? 実際にお話ししておきながら『ぼくたち何もわかりませーん調べてまーす』なんて、そんなバカな話あります? この未曾有の事態に役に立たないなんて、税金泥棒って言われても仕方無いと思いますよ僕は』

 

 『池上さんそのあたりで…………えー、番組では視聴者の皆様からの情報、ならびに映像の提供をお待ちしております。些細な内容でも結構です。情報をお持ちの方は――――』

 

 

 

 …………しかし、一方で。

 撮影のためとはいえ『旅行』ともなると、予算的にも日程的にもなかなかに圧迫されてしまう。

 

 生配信は出来ることなら定番化したいし、金曜か土曜の夜は空けておきたい。おまけに動画を撮ったら撮ったで編集する時間も確保しなければならないし、数日掛かりのロケともなると編集に丸一日は確保しておきたい。

 まず週末を除いて……ロケに二日か三日、そして編集に一日以上必要と。その間他の動画はもちろん撮影できない。

 

 ……ええ……時間と人手が足りなさすぎじゃね?

 コンスタントに動画投稿してる世の配信者(キャスター)っていったいどういう生活してるの……ヒカ(King)とか(〇じめ)社長とかマジスゲェじゃん……

 

 

 

 

 『そもそもですよ? あの『魔法使い』だか何だか知りませんけど、アイツがあんなにお高くとまってるところも僕ぁ気に入りませんね。何もやましいところが無いなら警察に協力でも何でもすりゃあ良いでしょうに。逃げるように姿を眩ましたって、実際に逃げる必要があったんじゃないですかぁ? 実はぜーんぶ彼の自作自演とか』

 

 「ねぇノワ、こいつ殴って良い?」

 

 「それ(テレビ)殴ると壊れちゃうからやめてね」

 

 

 

 やっぱり……駆け出しのうちは長期日程を組むのは控えておこう。予算的にも。

 手近なところで『旅行』とまでは行かずともお出掛け要素を消化して、ついでに『グルメ』要素も取り込んで……うん、近郊に日帰りなら何とかなるかもしれない。

 最悪の最悪、三十秒程度の撮りっぱなし一発ネタ動画で場を繋ぐか。チックタックみたいな。魔法をこっそり使った『種も仕掛けも無い手品』みたいな。……でもまぁ、それはあくまで最後の手段だ。

 

 

 

 『警察も警察ですよ。あんだけ大人数で囲ってるんだから、実力行使で取っ捕まえちゃえば良かったじゃないですかね? そうすりゃぁ重要参考人も捕まえられて一気に解決じゃないですか』

 

 『……ええと、彼は犯人ではなくてですね、どちらかといえば事態の解決に協力してくれたとの見方が強く』

 

 『じゃあなんで逃げたんだって話ですよ。おかしいじゃないですか。僕がその場に居たら取っ捕まえて警察に突き出してやりますよ。アイツも日本人なら日本の国家権力に協力すべきでしょうに。奉仕精神が足りないんじゃないですか?』

 

 「ぐあー腹立つ!! こいっつ……その縦長の顔を横長にしてやろうか!? 貴様ごときがボクのノワに触れようなんざ一万年と二千年早いんだよ!!」

 

 「どうどう白谷さん。…………でもいい加減ムカつくな。チャンネル変えよっか」

 

 「コイツの所在さえ判ればなぁ……廃人にしてやるのに」

 

 「やめようね? おれは大丈夫だから」

 

 「ぐぬぬ……」

 

 

 しかしまぁ……まるで自分のことのように怒ってくれる白谷さんを微笑ましく思いながらも、回せど回せど似たり寄ったりな報道が垂れ流されているニュース番組には辟易してきた。

 どの局も同じような映像を流し、同じようなどころか全く同じインタビュー音声を流し、顔も名前もいまいちピンと来ないコメンテーターが勝手知ったる顔で、勝手気ままな憶測をドヤ顔で吐き出している。

 

 幸いなことに、どの局も『魔法使い』の正体に辿り着いていないから良かったものの……あのとき【陽炎(ミルエルジュ)】を纏っていなかったら、リソース確保のために解除してしまっていたらと思うと、ぞっとする。

 

 

 「今回はノワの優しさに免じて諦めるけど……仮にボクの目の前でノワを(けな)す馬鹿が現れたら、そのときは然るべき対処を行うので」

 

 「うーん……怪我とかさせないようにお願いね。今度こそほんとに捕まっちゃうから」

 

 「…………………………わかった」

 

 「んふふ。……白谷さんは優しいね」

 

 

 

 まぁとりあえず、何はともあれ今日を無事に乗り切ったのだ。途中までとはいえ写真だってちゃんと撮影して貰ったし、大きめサイズで現像して貰った一枚はお買い上げさせて貰い、記念に壁に飾ってある。……我ながらちょっと、可愛いぞこれは。

 鳥神さんとの繋がりもできたし、サキちゃん(仮名)メグちゃん(仮名)とREIN交換もできた。少しずつだが、おれはちゃんと前へ進んでる。勝手に騒ぎ立てる彼らは置いておいて、おれは自分の仕事に専念しよう。

 

 火曜日がもうすぐ終わり、週末の金曜日は生配信を行いたい。今度は『告知がギリギリすぎる!』と怒られないように、早め早めで準備を行っていかなければ。明日明後日の水曜木曜は次の仕込みと、生配信の準備に追われそうだ。

 それと、日帰りミニ旅行の行き先選定も行っておかないと。バイクの車載動画でも使えれば良かったんだけど、無理なものは仕方ない。

 

 

 新人動画配信者(ユーキャスター)にとっては……一日一日が今後の伸びを左右する大切な時期だ。貴重な時間を無駄には出来ない。

 

 やることはいっぱいだが……がんばろう。

 エイオー!

 

 



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63【在宅勤務】遅くまでお疲れさま

 

 

 てらろん てれれん ぽぺぽんぴん

 てれれん てぺれん れん れん

 

 お風呂が沸きました。お風呂が沸きました。

 

 

 

 「…………んえ?」

 

 

 

 唐突に鳴り響いた電子音声に、ふと我に返って時計を確認すると……なんと、もう日付が変わってしまっている。

 

 モリアキに送ってもらって帰宅した後、写真を壁に飾ってテレビをつけて、案の定ニュース番組をお騒がせしているのを遠い目で眺めながら今後の予定を漠然と立てて、とりあえず昼間に撮った『ランチついていってもイイですか』動画の編集に取り掛かったのが……たぶん十八時頃だろうか。

 

 かれこれ六時間くらいぶっ通しでPCにかじりついていたらしく……こうして我に返ったことで、これまで抑えつけられていた生理現象が一気に主張し始めたらしい。

 要するに、おなか減ったしおしっこしたい。

 

 しかし……お風呂が沸きました、か。

 おれはずーっと作業に専念していたので、湯沸かしスイッチを入れた記憶はない。いったい誰が……とはいっても、思い当たる選択肢は一人しかいない。

 

 

 「おや、帰ってきた? ノワ」

 

 「んう……白谷さん?」

 

 「集中するのは良いことかもしれないけど……ちょっとは身体休めないと。お腹も空いてるだろう? 何度も鳴ってたよ」

 

 「えっ!? マジで……はずかしい」

 

 

 若芽ちゃんボディの集中スキルのお陰で、編集作業は極めてハイスピードに行えるのだが……代償というべきかなんというか、その他のことに対して非常に無頓着になってしまうようだ。

 おなかが鳴るくらいならまぁ、まだいいけど……作業に集中しすぎておしっこ漏らしたとかなったら、さすがに笑えない。我ながら引く。

 

 

 「ふふ……はい。夜食どうぞ」

 

 「ふわ……!? おいしそ……いいの?」

 

 「モリアキ氏が食いっぱぐれたやつだから、彼に感謝して食べてね。あと、戻ってきたついでにお風呂も入っちゃって。少し肩の力抜いた方がいい」

 

 「…………おかあさん」

 

 「??? ふふ……変な子だなぁ、ノワは」

 

 

 脇目も振らずに机にかじりつくおれを見かねて、白谷さんがお湯張りのスイッチを入れてくれていたらしい。家の中の設備やタブレットの使い方は一通り教えたけど……早くもモノにしているようだ。さすが元勇者、とても順応力が高い。

 ……しかし、こうしておれの身を心配してくれる子がすぐ傍に居るというのは、とても助かる。見目麗しく可愛らしい女の子であればなおさらだ。

 精神的に安らぐのもあるし、おれの手の回らない点をフォローしてくれるのも非常にありがたい。

 

 心優しく、器用、そして可愛い。

 こんな良い子と縁を結べたことを、おれは非常に誇りに思う。

 

 

 「んんー…………っ。……じゃあ、半分だけたべて……そしたらお風呂入ろう。食べた直後にお風呂入ると、本当はよくないらしいけど」

 

 「え? そうなの?」

 

 「んう。なんかねー消化器の働きが下がるから、三十分か一時間は空けたほうがいい……らしい」

 

 「な、ん……だって…………? ……そうなのか……ごめんノワ。配慮が足りなかった。……すまない」

 

 「いや、そんな。元はといえばおれが時間見なかったのが悪いんだし」

 

 「だとしても……そもそもボクという存在は、キミの手助け(アシスタント)をするために在る。キミが何不自由無く過ごせるよう補助するのが、ボクの存在する理由だっていうのに……それなのに……」

 

 「そんな思い詰めなくても……じゃあ、食べ終わったらちょっと……三十分くらいお散歩しよっか。夜の一人歩きは不安だから、白谷さんに付いてきて貰えると嬉しいなぁーって」

 

 「…………わかった。そういうことなら……お安いご用だ」

 

 「ふふ。ありがと、白谷さん」

 

 

 異世界の勇者だったときの癖なんだろうか……白谷さんはどうにも職業意識が高いというか、妙なところで責任感が強すぎるところがある。

 おれに対して気を遣いすぎがちなところもそうだし、おれに恩義を感じてくれているからこそなんだろうけど……ちょっと真面目すぎるというか、『一瞬の油断が命取り』だと考えてしまいがちというか。

 

 少なくとも、この世界はそこまで危険に溢れているわけではないのだけど……白谷さんの常識がまだ異世界を参考にして居る以上、ある程度は仕方ないのかもしれない。

 まぁ、そこは少しずつ諭していけばいいだろう。おれとしても白谷さんと一緒に居ることは嫌いじゃないし、白谷さんにこの世界の常識を教えていくのは……ちょっと、たのしい。

 

 

 とりあえず、せっかくの白谷さんの気配りだ。その厚意に甘えるとしよう。

 夜食を頂いたらちょっと夜風に当たって、すっきり気分転換。その後はお風呂に入って身体をほぐそう。……完璧だ。

 

 

 

 

 まぁ……食後すぐの運動も本当は身体に良くないと知ったのは、残念ながら数日は後のことだった。

 

 

 そもそも夜更かしすること自体あんまり身体に良くないんだけどね!

 それを言っちゃあおしまいだよ!

 

 

 



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64【在宅勤務】なやめるこひつじよ

 

 十二月末の、某火曜日。……いや、日付変わって水曜日。

 普段の水曜日深夜零時過ぎともなれば、出歩いている人などほぼほぼ居ないのだろうが……数日後に大晦日を控えた今日は、ちらほらと出歩く人影を感じ取れる。

 

 おれの部屋は浪越市南区の住宅地、電車の駅からは徒歩約二十分とやや離れているため利便性は並とのことだが……近くにコンビニがあり、小ホールを備えた図書館があり、そこそこ大きな公園もあり、やや近くにはホームセンターがあり、生鮮食品を扱うスーパーがあるので……つまり周辺生活環境自体は悪くない。

 懸念されていた交通の便に関しても、すぐ隣の国道には繁華街行き路線のバス停があるので、不動産屋さんが言うほど悪くはなかった。むしろ良い方だろう。

 

 

 深夜でも明るいコンビニのイートインスペースには、にこやかに談笑する若者の集団が見える。店内にも立ち読みコーナーほか各所に買い物客の姿が見られ……ちょっと立ち入るのは避けた方が良さそうだ。

 おれが()()なる前は毎日のようにお世話になっていたコンビニだが……()()なってしまってからは、未だに一度も利用できていない。……仕方ないか。

 おれは未練を振り払うように頭を振り、何事かと見上げてくる白谷さんに『なんでもないよ』と言葉を掛け、コンビニの前を素通りした。

 

 国道から一本入ったこの辺りは、もう完全に家ばっかりの住宅地だ。規則正しい升目状の道路に面して等間隔に家々が立ち並び現在位置を把握しづらく、その上で一方通行が交互に並んでいるので……自動車での初見通過はそれなりに難易度が高い。

 初めてモリアキが遊びに来たときも、そういえば半泣きでキレ散らかしていたっけ。

 

 

 一方通行の細い道を真東に進んでいけば、やがて南北に別れる丁字路にぶつかる。突き当たりは車両侵入不可能の階段になっており、そこから先はそれなりに大きな公園『緑池公園』の敷地内となる。

 広大な()地と大きな()からなる、市民の憩いの場となる()()というのが由来らしいが、近隣の人からは『池の水が緑色だからだろ』などとひどい言われようだ。まぁ、実際その通りなのだが……おれはこうして夜の散歩に訪れるくらいには、この公園が嫌いじゃない。

 

 

 

 「さすがに静かだね。……寒くないかい?」

 

 「大丈夫だよ。白谷さんこそ寒くない? 上着とか着れないし、大丈夫?」

 

 「ボクも平気だよ。フェアリー種は魔法制御の技能に秀でてるし、気温操作なんかもお手のものだから」

 

 「へぇーすごい。器用だなぁ」

 

 「ふふ、ありがとう。まぁノワも大概だけどね。今度教えてあげよう、すぐ使いこなせるようになるよ。とりあえず……はいっ」

 

 「ほわわわわ、あったか……ありがとう! たのしみ!」

 

 

 

 年末の長休みの夜とはいえ……深夜に薄暗い公園をぶらつく人は、さすがにそうそう居ないらしい。

 少し前はモンスター捕獲ゲームで昼夜を問わず大賑わいだったけど、最近はめっきり熱も冷めてしまったらしい。なんでも家庭用ゲーム機で新作が出たんだとか。

 他にもいろいろ理由はあるだろうが……まぁ、そもそも冬の深夜だもんな。魔法であったか~いできる我々でもないと、とてもゆっくりのんびりなんてできないか。

 

 かく言うおれも、こんな真夜中にこんなのんびりしたのは初めてだ。それこそ仮想配信者(ユアキャス)計画が動き出してからはせかせか動き回っていたし、その前は夜勤で起きていたことは在れども当然のんびりなんてしていられない。

 

 

 星空なんて……それこそ誰かと一緒に見たのは、いったいいつ以来だろうか。

 

 

 

 

 「ねぇ…………ノワ」

 

 「ん? どしたの白谷さん」

 

 「………………ボクは」

 

 

 多くの人々が暮らす住宅地にありながら、まるでこの世界におれ達二人しか居ないかのように静まり返った公園で。

 高台の展望台に据え付けられたベンチに座って、ぼーっと空を眺めていたおれの……その正面に。

 

 小さく弱々しい女の子が、ぼんやりと頼りない光を放っていた。

 

 

 

 顔を伏せたその姿は……その優しい光は、とても儚くて。

 

 まるで……今にも消えてしまいそうで。

 

 

 

 

 「ボクは……キミの傍に、居てもいいのかな……」

 

 「白谷さん?」

 

 

 小さな小さな女の子は……弱々しい灯りを明滅させながら、その心情をぽつりぽつりとこぼし始めた。

 

 

 

 「ボクはあのとき……魔王を仕留め損ね、この世界に流れ着いて、行き倒れて死にそうになって……キミの存在の()()()()に与かって。こうして生き長らえている今この瞬間だって、キミの魔力を食い潰して……キミに()()しているに過ぎないんだよ」

 

 「…………白谷さん」

 

 「それだけじゃない。今日遭遇したあの『苗』、あれに関わる面倒事を持ち込んだのも……他でもないボクだ。災いばかりを持ち込んで、それでいて恩もロクに返せやしない。自分では気を利かせたつもりでも、肝心なところで詰めが甘い。……ははっ、笑えるね。詰めの甘さは治ってない。こんなんだから魔王を取り逃がすんだ」

 

 「……………………」

 

 

 

 おれ達は……白谷さんのことを、少し勘違いしていたのかもしれない。

 百戦錬磨の『勇者』。幻想と空間魔法のエキスパート。いついかなるときも冷静で取り乱すことなく、ニコニコ顔(ときにはいたずらっぽいニヤニヤ顔)でおれ達を導いてくれる、頼りになるアシスタント。

 

 …………そう、勝手に思い込んでいた。

 

 

 

 「『勇者』なんて栄誉ある名を賜っておきながら、その栄誉を授けた世界さえ守れない。駆け込んだ先に不幸を撒き散らす…………『疫病神』のほうが、ボクにはお似合いだ」

 

 「っ、……おれは!」

 

 

 この世界に流れ着いて、死にかけて。一人ぼっち残されて。

 顔を伏せているせいでその表情は伺えないけど、きっと泣きそうな顔をしているんだろう。

 当たり前だ。冷静に考えてみれば……彼女()だって心細くないわけがない。

 

 気が利いて気配り上手で完全無欠の反則(チート)キャラだとばかり思っていたけど……今にして思えば、おれ達に気に入られようと必死に気を回してくれていたのかもしれない。

 今までずっと……こんなに泣きそうになるまで自分の本心を押し殺して、せいいっぱい取り繕っていたのかもしれない。

 

 

 こんなに小さく、儚く、弱々しい女の子が……たった一人で。

 

 ……そんなこと。

 そんなこと!!!!

 

 

 

 「おれ達は! そんな!! 思ってないから!!!」

 

 「お……おぉ?」

 

 

 

 迷惑だなんて……思っているわけがない。

 まったくもう。この子はいきなり何を言い出すんだか!!

 

 これはちょっとばかし『お説教』が必要なようですね!

 

 



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65【在宅勤務】ラニ

 

 たった一人生き残って、たった一人で異世界にたどり着いて、危うく一人だけで寂しく死んでいくところだった……異世界の勇者、ニコラ・ニューポート。

 

 かつての姿や存在や居場所を奪われ、今や儚く弱々しいフェアリー種の少女と成り果ててしまった……おれの大切なアシスタント。

 

 そんな彼女はこともあろうに、自分のせいでおれを危険に晒してしまったのだと……自分はおれ達に迷惑を与えている『疫病神』だ、などと言い始める始末。

 

 

 それは……違う。

 絶対、絶対に……違うのだ!!

 

 

 

 「絶対違うし!! おれもモリアキも、ニコラさんが疫病神だなんて、これっっっぽっちも思ってないし!!」

 

 「しかし……ボクが現れたせいで、キミの人生は大きく歪んでしまっ」

 

 「そこ!! まず何よりもそこ!! そこからして違う!!」

 

 「お、おぅ……??」

 

 

 

 まぁ……『勇者』なんてものを世界が滅ぶまで務め上げるくらいだ。ニコラさんは元々、責任感も半端ない人だったんだろう。

 だが、しかし。

 自分の落ち度ならまだしも……自分が何も悪くない事象まで責任を感じ、背負い込む必要なんか何処にも無い。

 

 そうとも。そもそも『苗』の出現も、おれが()()なったことも、それこそ『魔王』がこの世界に現れたことだって……ニコラさんは()()()()()()()()

 

 

 「じゃあ仮に……仮に、ニコラさんが何もしなかったとしよう」

 

 「う、うん……」

 

 「仮に、ニコラさんが何もしなかったら。ニコラさんが居た世界は『魔王』に滅ぼされて、そして『魔王』は新しい獲物を求めて次元の壁を越えて、やっぱり結局この世界にやって来る。おれも結局『若芽ちゃん』のデータを亡くして、そこを『種』につけ込まれて()()なって…………そりゃ浪銀(なみぎん)のときみたいに場当たり的に『苗』をどうにか出来たかもしれないけど、おれ一人だと『魔王』の存在なんかわかるハズもない。おれは魔力が豊富みたいだし、いつか他の『苗』か、あるいは『魔王』本人に喰われて……おしまいだよ。確実に死ぬ」

 

 「…………それは」

 

 「間違いなく死ぬ。もしニコラさんが来てくれなかったら、おれは近いうちに死んでた。……恐らく、若芽ちゃんの成功と大成を見届けることなく。失意と絶望と恐怖のうちに、間違いなく死んでた」

 

 「………………」

 

 

 そう、これは間違いない。

 そもそもおれとモリアキだけでは、この『苗』の出自も黒幕も何もかもが一切わからないままだった。ニコラさんに提供して貰った情報は重要なものばかりで、これがあったのと無かったのとでは状況が大きく異なる。

 押し寄せるバケモノを場当たり的に迎え撃ち続けるのと、事態の全貌を把握しながら対処を図るのとでは……難易度は全くもって別物だ。

 

 平和ボケした現代人だけで、世界をひとつ滅ぼした親玉を倒せるはずがない。

 

 

 「それに! ニコラさんはこんなにも……こんなにも、手を尽くしてくれてる! 『全てを捧げる』なんて言葉、滅多なことで言えるもんじゃない! おれには……ほかでもない、ニコラさんと魂で繋がってるおれには! ニコラさんが軽い気持ちで言ったんじゃ無いってことくらい……本心からの言葉だってことくらい、おれは知ってる!!」

 

 「…………だって、それは……責任を」

 

 「だから! その前提がおかしい!!」

 

 「えっ…………」

 

 

 ただの他人ではなく、演者とアシスタントとしての関係でもなく、魂の奥深くで繋がったおれには……嘘は通じない。

 ニコラさんの発した『喜んで命を捧げよう』というあの発言だって、その真偽はもちろん手に取るようにわかる。恐ろしいことにニコラさんは、全くの本心から言っていたのだ。

 

 

 だが……しかし。重ねてになるが、彼女はそこまでする責任なんて、本来であれば()()

 

 わざわざおれに『死ね』と命ぜられなくとも……わざわざ世界を飛び越えて『魔王』を追うまでもなく、自ら命を断とうと思えば断てただろうに。

 全てを投げ捨てて、後のことなど知らぬとばかりに逃げることだって……出来ただろうに。

 

 

 「おれたちは…………助けてもらったんだ。ニコラさんに。……いや、今日だっていっぱい助けてもらった」

 

 「ボクは…………助けることが、出来ているんだろうか」

 

 「当っったり前だよ! モリアキをフォローして、一緒におれの撮影を見守ってくれていた! 幻想魔法と空間魔法、おれには到底真似できない魔法を使って助けてくれた! 大紋百貨店に急行できたのだって、ニコラさんの空間魔法のおかげだし! あの『葉』の大群や『苗』と戦う装備だって貸してくれたし! もしニコラさんに助けて貰えなかったら、きっと手遅れになってただろうし! …………それに!」

 

 

 ……それに。

 ニコラさんには、色んなところで助けてもらっているが……それ以上に。

 

 

 

 

 「…………同居人が居るって……すごく、嬉しいんだよ」

 

 「……………………」

 

 

 おはよう。おかえり。お疲れさま。

 頑張って。無理しないで。気を付けて。

 

 自分じゃない誰かが、ことあるごとに何気ない言葉を掛けてくれる。

 それだけで、充分すぎるほどにありがたい。

 充分すぎるほどに、温かい。

 

 

 

 「おれは…………おれは、ニコラさんが好き。一緒に居たい。……だから、お願い。迷惑なんかじゃないから…………おれと、一緒に居て。『何でも言うことを聞く』っていうのがホントなら……これが、おれの答えだから」

 

 「…………ノワ」

 

 

 

 おれ一人だけだったら、間違いなくあっさりと折れていた。

 

 モリアキを巻き込んだところで、非常識(ファンタジー)には敵うはずがない。

 

 ほら、昔の偉い人だって言っていたじゃないか。三人集まればなんとかなるって。

 

 

 だから、ね。ほら。笑おうよ。きっとなんとかなるから。

 せっかくそんなに可愛いんだからさ。笑わないと損だよ。

 

 

 「ふふっ。…………そっか。まいったな」

 

 「んえ? なにが?」

 

 「いやぁ、ね。あんなに熱烈な告白されちゃったから……ね」

 

 「……えっと、それは……ごめん、ちょっと調子のった」

 

 「ボクは構わない、というか…………嬉しかったよ」

 

 「…………えへへ」

 

 

 やっぱり……可愛いなぁ。

 こんな可愛い子が疫病神だなんて、おれは絶対に信じない。

 前々から思っていることだけど……この子はやっぱり『天使』と呼ぶにふさわしい。

 

 冬の空気は冷たいけれど透き通ってるから、星がこんなに綺麗に見える。

 曇りがちだった白谷(ニコラ)さんの表情も、すっかりすっきりと透き通ったみたいだった。

 

 

 

 「それはそうと……ノワ?」

 

 「んう? どしたの白谷さ…………うん、えっと、……()()?」

 

 

 ちょっと照れながらも口にした呼び名は……果たして白谷(ニコラ)さんは、どうやらお気に召してくれたようだった。

 彼女()はし()()さんであり、ニコ()()ューポートさんでもあり……おれのアシスタントとしても、頼れる先輩勇者としても、おれにとってはどちらも大切な存在なのだ。

 無かったことになんて、したくない。

 

 綺麗な天色の瞳を真ん丸に見開いて、それからにっこりと弓なりに。頬を朱に染めて口角をほんのりと上げ……おれの相棒『ラニ』は、とても暖かな表情を形作る。

 

 

 「ふふっ。いやぁ、ね? ノワは女の子だし、ボクはこんな身体だから…………赤ちゃん、ちゃんと授かるのかなって」

 

 「な……!? ちょっ……な、な、なななななばばばばば」

 

 「ノワの子だから、きっと可愛い子だと思うんだ。何とかして授かりたいんだけど……良い考え、無いかな?」

 

 「ひょっ!? ひょうゆうのはわたしちょとはやいとおもう!!」

 

 「ははっ! ……ごめんごめん、冗談だよ」

 

 「もおおお! もおおおおお!!!!」

 

 

 

 ……澄み渡りすぎて、掴み所がないのも……それはそれで問題かもしれないけれど。

 

 でもまぁ……心地良いから、それで良いか。

 

 

 おほしさまきれい。

 

 





ラニちゃんの設定できたのは一年以上前なんです
パクリじゃないんです、ほんとです、お願いですしんじてください局長がなん


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66【在宅勤務】薔薇で作った百合の造花

 

 

 地球人類が誇る技術の結晶、インターネット通販の恩恵により……この時代においてはいつでもどこでも、それこそ在宅したままでも『お買い物』に興じることが出来る。

 

 こんな非常識な容姿となり果てたおれであってもそれは勿論同様であり……この物件に備わっている宅配ボックスに配送先を指定することで、おれは『完全に人目に触れないお買い物』術を会得したのだった。

 

 そのお陰もあり……特に『衣』の分野において、事件直後よりかは大幅な文明レベルの上昇を果たすことが出来た。

 おれが配信時に着用する『正装』も、白谷さ…………もとい、()()の持っている装備の数々も、いわゆる中世・近世を基調としたファンタジーな衣装である。現代日本にはどうしたってそぐわないし、そもそも着心地も肌触りも動きやすさも優れているとは言い難い。

 

 そういった点で、可及的速やかに衣類を購入できたのは非常に助かった。……特に下着の類においては…………通販以外で購入する度胸は、おれには無い。

 ともあれ、そんな便利な技術の発展により必要充分な下着と着替えを手に入れることができたおれは……集中作業によって凝り固まった身体を解すべく、温かいお風呂を堪能しているのだった。

 

 

 

 「前世のボクは男だったからね、女の子の下着なんて持ってないし。まぁ仮に持ってたとしても……さすがに他人の使用済みなんて嫌だろう?」

 

 「ラニのならべつ…………い、いや! なんでも無い! そう! そうね! 下着はね! あははは!!」

 

 「ははは。ノワって可愛い顔して割と……変態だよね」

 

 「うぐ…………だ、だって……おれも一応、元男ですし」

 

 「ほぉーう……ふぅーん……へぇーぇ……」

 

 

 

 ……そう、おれだって元は男。いや『元』というか……身体はもとより精神的には今だって、三十二歳の健全な男性なのだ。

 

 なので、つまり、その……いわゆる『女体』に対して、そこまで免疫があるわけでもなく。

 これまでは脱衣所や浴室の鏡を極力見ないことで、可能な限り目を(そむ)け続けてきたのだが……

 

 …………の、だが……

 

 

 

 

 「ら……ラニ、さん? ……その…………見え、ちゃってるんだけど……色々と」

 

 「色々、って……そんな『見えちゃいけないもの』なんて、ある? 同性同士だろう?」

 

 「っ、…………そ、その…………おれ、元は男だし……」

 

 「安心すると良い。ボクも同じだ」

 

 「で……でも! ラニは今可愛(かわ)っ、……お、女の子、なんだし……」

 

 「安心すると良い。キミも同じだ」

 

 「えっと、えっと…………で、でも!」

 

 

 

 小さなその身に纏っていた服を……果たして『服』と呼べるのか疑問が残る、布を被って紐で止めただけの簡素な衣さえも脱ぎ去って。

 いたずらっぽい笑みを浮かべたおれの相棒は、一糸纏わぬその身を堂々と晒している。

 ……のみならず。

 先程からおれの視界に映ろうと執拗に、この狭い浴室内を縦横無尽に飛び回っている。

 

 

 「良いじゃないか。元男同士、現美少女同士。おまけに魂だってほぼ同じと来たもんだ。実質自分の裸を眺めてるようなものだよ」

 

 「おれは自分の裸だって満足に見れないもん!」

 

 「『もん』じゃないよ、何でそんなふとした挙動が一々(いちいち)可愛らしいのさ。それにそんな堂々と宣言することでもないし」

 

 「し……しょうがないじゃん! 恥ずかしいんだから!」

 

 「ふぅん……ボクの下着は想像して欲情しちゃうのに?」

 

 「っ!! っ、っっ!!」

 

 「ぷっ…………あはははは! もう……本当に可愛いなぁ、ノワは」

 

 (それはこっちのセリフだってば……全くもう!!)

 

 

 今のラニの姿はつまり……フェアリー種の小さ