【本編完結】コントラクト・スプラウト ~ おじさんでしたが実在合法美少女エルフになったので配信者やりながら世界救うことにしました ~ (縁樹)
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00【情報記録】ある日の副業 ◇

はじめまして。
TSロリエルフが配信者やりながらニチアサヒーローやるお話(になる見込み)です。

よろしくお願いします。



 粘度の高い体液にまみれた肉の蔓が醜く(うごめ)き、にちゃにちゃとかぬちゅぬちゅとか粘着質で生理的に不快な水音を響かせる。

 生物の内臓のような色彩をもち、()()()とした質感を纏う、()()。この世のモノとは思えぬほどに醜悪かつ不気味で名状しがたい物体が、おれの目の前で今なおぐにゅぐにゅと蠢いており……ぶっちゃけ非常にキモい。

 

 現在の時刻は……恐らくは、真夜中。場所は浪越(なみこ)市中央区繁華街の裏通りから更に路地を入った、二棟の薄汚れたテナントビルの隙間。

 

 この場に居合わせた登場人物は――()()に気付いていない人々と、気付かせないよう奮闘してくれてるキリちゃんを除けば――四名。

 ()()と、おれの相棒と、あのキモい肉蔓を操る触手男と……制服を乱され随所に粘液を塗りたくられ――しかし幸いなことに()()()()()()()()()――小柄で可愛らしい女の子。

 

 眼前の男は憎々しげに、背後の少女は戸惑いと安堵を浮かべ、異様極まりない()()と相棒の姿を凝視している。

 

 

 

 「……良かっ、た……なんとか間に合って」

 

 「そうだね、よく頑張った。……ボクとしては、彼女が引きずり込まれる前に抑えたかったけど……」

 

 「解ってるけど……しょうがないだろ、おれもキリちゃんも幼女なんだから」

 

 

 冷静かつ的確な()の指摘に、おれは思わず唇を尖らせる。

 今でこそあんな姿――蜻蛉(とんぼ)のような四枚羽根を背から生やした手のひらサイズの小さな少女――ではあるが……()の性格そのものは以前と変わらない。平穏に暮らす一般人に被害が出ることを良しとしない、厳しくも優しい少女なのだ。

 

 それは解っている。おれだって充分理解しているのだが……それでもやっぱり誉めてもらった方が嬉しいし、やる気も出るに決まっている。

 

 

 

 『グ……ゥ、グゥゥウ! …………な、何しヤガる……! 何なんだオマエら!!』

 

 「……()()、来るよ。構えて」

 

 「大丈夫だよ()()。おれは絶対触手なんかに負けたりしない」

 

 『っ、クソッ!! ナメやがッて!!』

 

 

 微塵も怖がらないおれの発言が気に障ったのだろうか……あっさりと激昂する男の怒気に呼応するように、男の周囲に蠢く肉蔓が暴れ回る。それぞれが弓を引き絞るようにその身をたわまわせ筋肉に力を溜め、直後その力を解放して一直線に伸びてくる。

 速度はそれこそ放たれた矢のごとく、先端は尖りつつも太さは()()()()()手首くらいはある。

 

 おれを殺さず()()()つもりなのだろう、狙いは急所こそ外しているようだが……そんな肉矢に襲われ穿たれれば、普通の人間は当然只じゃ済まない。人知を越えた非常識な脅威の前には、ただの人間など成す術なく打ち倒されることだろう。

 

 

 

 「()()()()()、だったらね」

 

 『な……ッ!!?』

 

 

 高速で視線を巡らせ排除すべきモノを認識すると、小さく柔らかな指を『ぱちん』と鳴らす。

 おれに襲い掛かってきた触手は当然として。どさくさ紛れに女の子へ伸ばされていた触手までもが、指弾とともにひとつ残らず斬り飛ばされる。

 

 

 『なア゛……ッ!? 痛ェェ!! 畜生ォォオオオ!!』

 

 「うわまだ動いてる……キショ……見事なまでにソレする気満々な異能じゃんね」

 

 「そうだね。恐らく()()が彼の『願い』だったんだろう」

 

 

 潤沢な魔力にモノを言わせた【切断(シュナイデ)】の多重発現であったが、この程度では相棒曰く『非常識』なおれの魔力量は微塵も揺るがない。

 

 せっかくの隙なので、お返しとばかりにこちらも動く。踊るように手指を運び、式を選び魔力を練り……今回は【草木(ヴァグナシオ)】に【拘束(ツァルカル)】を付与して、発現。

 コンクリートの地面やテナントビルの外壁から深緑の蔦が勢い良く飛び出し、アイデンティティかつ頼みの綱である触手を惨めに斬り飛ばされた『()・触手男』の身体を捉える。手首や足首に絡みついた蔦はおれの命令に忠実に従い、男の身体を這い上がり雁字絡めに縛り上げる。

 

 

 『グぁ……っ!? なんっ……クソッ!! 離せ! 畜生!!』

 

 「いや普通離さんでしょ。仮に立場逆だったらアンタも離さんでしょ」

 

 「いいからノワ、早く『(スプラウト)』を」

 

 「はいはい解ってるって」

 

 「『はい』は一回」

 

 「はぁーい」

 

 

 

 最後の()()を行おうと振り向いたところで……なんと、これにはちょっとばかり驚いた。触手を失ったはずの『元・触手男』が新たに触手を纏い『触手男』に返り咲き、こともあろうにおれの蔦を引きちぎっていくではないか。

 なるほど、見た目はあんなにグロくて気色悪くても、さすがは筋肉の塊である。男の身体と蔦との間に無理矢理その身を捩じ込ませ、力任せに蔦の拘束を押し広げ……顔を真赤に染めて歯を食いしばる男の唸り声とともに膨張する赤黒い肉蔓によって、ついには青々とした蔦がぶちぶちと引きちぎられてしまった。

 

 

 『……はっ、……はぁッ、クソっ、クソッ!! 許さねぇぞナメやがっテ! まずはテメェからブチオカしてヤル!!』

 

 「ほら見なよ急がないから。貞操の危機だよ、ノワ」

 

 「ヤダわたしこわーい」

 

 「遊んでないで。でないとキリエがへそ曲げるよ」

 

 「はいはい」

 

 「『はい』は一回」

 

 「はぁーい」

 

 『ッッ!! クソガァァァァァ!!!』

 

 

 おれ達の気の抜けたやり取りが、どうやら更に気に障ってしまったらしい。粘液に濡れ光るイヤらしい触手を次々に伸ばし、それらの鎌首は揃いも揃って迷いなくおれを指向している。……完全におれを()()()()として認識したようだ。

 まあ尤も……この場合の捕食とは生命維持のためにムシャムシャするやつではなく、間違いなく身体中の穴という穴をグショグショにされるほうのヤツだろうが。

 

 冗談じゃない。この身体が極めて愛らしいことは承知の上だが、人間年齢で換算すればまだ10歳の年端も行かぬ少女なのだ。そんなに小さい女の子に()()()()()()考えるのは……本当よくないと思う。ロリにすら至らぬ幼子(アリス)だぞ。

 要するに『ごめんなさい』『生理的に無理』ってやつだ。おれ自身()()()()()()されたい趣味なんか無いし、そもそもビジュアルからしてお近づきになりたくない。

 

 それに……ほら見ろ。せっかく平静を取り戻した背後の女の子も、かわいそうに再び怯え始めてしまった。

 

 

 「それは良くないな。怖がらせるのは。……さっさと終わらせよう」

 

 『クッッソガキがァァァァアアアア!!!』

 

 

 華奢で小柄で可愛らしいおれの身体目掛けて、卑猥な触手の群れが雪崩のごとく押し寄せる。足元のアスファルトを蹴り軽くニメートルほど飛び上がったおれの足元へ、粘着質な水音を立てて触手の群れが殺到する。

 その衝撃で粘液が飛び散り、その不気味な雫の一つが女の子の方へと飛んで行くが……相棒の発現させた光の防壁によって弾かれ、跡形もなく消滅する。ナイスフォロー。

 

 などと余所見(よそみ)している暇は無さそう……というわけでも無いようだ。【浮遊(シュイルベ)】を発現させて空中で体勢を整え、この身体よりも背の高い触手男を余裕綽々と見下す。

 なかなか落下してこないおれに痺れを切らしたのか、触手の群れは進路修正を計り上方へと飛んできた。

 

 上方。つまり……おれの方へ。

 暗がりの中で男が嫌らしい笑みを浮かべるのが解るが、生憎とこの子の身体はそんなに安くない。

 

 

 「……【氷結(ツフルリーゼ)】」

 

 

 宙に揺蕩うおれの爪先まで『あと一歩』というところまで迫った肉蔓が、ほんの一瞬で動きを止めて表面の粘液ごとカッチコチに凍結する。

 明確に卑猥な目的で放たれた触手の群れは全ての動きを強制的に停止させられ、その『停止』の侵食は触手の先端から始まり……ピキピキと音を立てながらみるみるうちに進んでいく。

 

 

 『な……グ、ギ、なん……ッ!?』

 

 「さすがにもう動けないよね?」

 

 

 触手の全てを氷結させられ、接点である腰後ろのあたりから徐々に凍り始める触手男の背後へ、宙をふわりとひとっ飛びして飛んでいく。今や腹から下の動きを封じられた男は充分に振り向くことも出来ず、おれの目の前で無防備に首筋を晒している。

 

 両の肩甲骨のちょうど間あたり。背骨のある一部分から生えた、不気味な黒い『(スプラウト)』が……為す術なく晒されている。

 

 

 「ちょっとごめんね……よいしょっと」

 

 『グギャあああああああアアアアアあ゛あ゛!!!?!』

 

 

 むんずと掴んで、ブチッと引き抜く。身体の半分以上を凍らせた男が断末魔のような悲鳴を上げ、見開かれた瞳はぐるんと上を向き、唯一動かせる上半身はビクンビクンと何度も跳ねる。

 『(スプラウト)』の伸ばした根と、そこから滲み出た魔力によって改竄されていた身体が急速に『巻き戻り』始め、恐らくは身体中を蚯蚓(ミミズ)が這い回るような不快感に苛まれているのだろうが……こればっかりはどうしようもない。死ぬよりはマシだろうと我慢してもらうしか無い。

 

 

 「いや、早く解凍してあげないと……死んじゃうよ? 彼……」

 

 「あっ」

 

 

 相棒の助言に助けられた。『(スプラウト)』を引っこ抜いても【氷結】の侵食は止まらない。なにせ他ならぬおれ自身が掛けた魔法だからだ。

 危なかった。さすがに肺や心臓が凍ったら死んでしまう。いくら現行犯とはいえ、彼には情状酌量の余地がある。命を奪われる程の()われは無いはずだ。

 とりあえず……これで今度こそ、もう大丈夫だろう。『(スプラウト)』は引っこ抜いて処分したし、ちぎれて残った『根』もすぐに消える。アフターフォローに【回復(クリーレン)】も掛けておいたので、しばらく放っておけば目を覚ますハズだ。

 

 彼は、もう大丈夫。

 あとは……あの子だ。

 

 

 「よし。じゃあ……ごめんね。おまたせ」

 

 「……っ、あっ、……あの」

 

 「【診断(ディアグノース)】……ふぃぃ、よかった。【回復(クリーレン)】、【浄化(リキュイニーア)】、【美容(シュルヘニア)】、【鎮静(ルーフィア)】……あっ、服も直さないと。【修繕(リペアーレ)】」

 

 「ふわ…………魔法……ほんとに……」

 

 「ごめんね、怖い思いさせて。もう大丈夫だから」

 

 

 ()たところ、身体の()()にケガは無かった。どうやら触手に絡みつかれてこの暗がりに引きずり込まれたところで、ようやくギリギリ割り込めたようだ。

 怖い思いをさせてしまったが……()()()にならなくて、本当に良かった。身体の傷は治せても、精神的な傷は治せない。嫌な記憶を選別して消去する、なんてことも出来ない。

 

 ……厳密に言うと『できなくはない』のだが……他人の精神に介入して意のままに弄り回すのは、それはある種の()()に近い。

 鼓舞や鎮静といった表層の扇動だけならともかく……深層まで侵入して弄り回すは、その人の人格に対する冒涜だ。

 

 ……それは……それだけは、だめだ。

 

 

 まあ、傷を治して『はい元通り』で済むとは思っていないが……とにかく大事に至らなくて、本当に良かった。

 あとは……混乱しているであろうこの子に事情を説明し、どうにか心を落ち着けてもらえるように頑張るしか無い。信じられないような非常識な事態に巻き込まれたのだ、一筋縄では行かないだろうが……巻き込んでしまった以上は、気長に誠実に対応していくしかない。

 

 ……と、思っていたのだが。

 

 

 

 「あのっ、あの! 『わかめちゃん』ですよね!?」

 

 「ふぁっ!?!?」

 

 「おお? やったねノワ」

 

 

 おれの身元……というか()()を知っている、目の前の彼女。

 いきなり告げられた()()()()()。予想だにしていなかった事態に、我ながら面白い声が出るとともに一瞬で()()()()()()()()()()

 処理せねばならぬものを処理し終え、やらねばならぬことを片付け終え、余裕の生じていた()()の心。そこに生じた隙を見逃すこと無く、この身体に込められた『呪い(設定)』は律儀にその効能を現していく。

 敵性存在相手に立ち回っていたときのような落ち着きはどこかへと姿を消し、顔に血流が集中するのを抑えることが出来ない。

 

 思いもしなかった()()()……しかも恐らくは()()()との邂逅。普通に考えれば当然、喜ぶべきことなのだろう。いや実際嬉しいことは間違いない。何せおれの()()は言うまでもなく、多くの人々に見てもらってナンボのお仕事なのだ。

 喜ぶべき……なの……だが。

 

 人に知られたい()()と異なり……この()()は、なるべく人に知られたくないのが本音なのだ。

 

 

 

 「凄い! 本物(ホンモノ)だ! 先週の『踊ってみた』良かったよぉ! わかめちゃんすっごく可愛かった! でも実物も可愛い! もっと可愛い!! …………えっ? 実、物……? えっ!? えっ、待って、待って……ホンモノだ! 凄い! リアルエルフ! 実在美少女エルフだ!! なにこれ可愛い!!」

 

 「ひゅぇ……えっと、えっと、えっと……あ、あり、がとう?」

 

 「きゃあああああ可愛い!! 一緒に写真撮って良い!? ……あっ、ごめんなさい、良いですか!? お願い!!」

 

 「あっ、えっと、あの……は、はい」

 

 「やった!! ありがとう!! わかめちゃん最高!!」

 

 「あー…………まぁ……時間の問題だったし、ね……」

 

 

 何かを諦めたような相棒の声が虚しく響くが……その声を完璧に掻き消すほどに、女の子のテンションはものすごかった。

 信じてもらうとか、心のケアだとか、そんなことを考える余裕も無かった。気がついたら女の子と隣り合って肩を並べ、自撮りツーショットをばしばし撮られていた。目を白黒させている間に女の子はものすごい幸せそうな表情になっており、もはやおれが何かを試みるまでも無かった。

 

 今どきの女の子は……つよかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 非実在の容姿を纏い、電脳(ネット)の世界から夢と希望を与える職業。ナウなヤングにバカウケのホットでイマドキなエンターテイナー。

 人呼んで……仮想配信者(UR-キャスター)

 

 そんな『UR-キャスター(ユアキャス)』ブームが到来し、ネット上で多くの配信者(キャスター)達が日々己の腕を磨き、互いに切磋琢磨していく時代。

 

 

 

 これは……表では人々に夢と希望を与えながら、裏では人知れず蔓延(はびこ)る絶望と怨恨を取り除くべく活躍する、とある一人の新人仮想配信者(UR-キャスター)の……

 

 ……いや、新人仮想配信者(UR-キャスター)木乃若芽(きのわかめ)』ちゃん()()()()となってしまった()()の、努力と涙と奮闘と騒動と……そして涙と涙と涙の記録なのである。

 

 

 





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19時くらいにもう1回更新します


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01【事前準備】仮想配信者計画_01


細かなところ確認不足でした
大変お騒がせしました


『モニターの前のみなさん。はじめまして、こんばんわ。仮想(UnReal)配信者(キャスター)見習いの『木乃(きの)若芽(わかめ)』です! ……あっ、仮名ですよ?』

 

 

 

 さらさらと流れ、きらきらと煌めく若葉色の髪を揺らしながら……右頬に呪学的な紋様を刻み、やや下方向へと伸びる長い耳を持った神秘的な少女が、はにかみながら可愛らしく自己紹介文を読み上げている。

 背丈はさほど高くない。というかぶっちゃけ小さく、幼い。肉付きもそこまで良いわけではない。身に纏うのは丈の長い、しかし身体のラインにフィットするローブ。胸の膨らみも腰のくびれも尻の大きさも控え目なのが着衣の上からでも見て取れ、『華奢で儚げで神秘的なエルフの少女』というキャラクターを解りやすく表現している。……と思う。

 

 

 

『来週金曜日、よるの九時……二十一時、ですね。魔法情報局『のわめでぃあ』、満を持して放送開始です!』

 

 

 

 彼女が身振り手振りを交え、踊るように体を動かすにつれて、要点を纏めた字幕や情報バルーンがぽこぽこと飛び出し、ふわふわと浮かび踊る。

 意のままに『魔法』を操る、幼げな容姿に反した超熟練の魔法使い。見た目と内面のギャップがまた、『木乃・若芽』というキャラクターを魅力的に彩っている、……と思う。

 

 

 

『このわたし、若芽(わかめ)ちゃんが直々に集めたさまざまな情報を、みなさんに特別にお教えしていきます! たのしみにしていてくださいね!』

 

 

 

 やや高い位置に設定されたカメラへと目線を向け、若干の上目遣いであざとくも可愛らしくアピールを行う『若芽(わかめ)』ちゃん。

 その名前はこの世界にありふれた海藻の名前であるとか、国民的アニメーションには同じ名前の女の子が存在するだとか、しかもその子は頻繁に下着が見えてしまうとか、今後視聴者からそういった情報を与えられて赤面するという……大変あざとい設定・予定が仕込まれた、この段階ではまだ随所に『粗さ』が見られる、未完成のキャラクター。

 

 

 数週間前に作った告知動画は、入念な広報活動と『神』の人脈のおかげで順調に拡散されており、幼げでありながら超熟練、あざとくも可愛らしい『木乃・若芽』ちゃんの知名度も、そしてそれに伴う期待値も、どんどんと上がっていった。

 

 

 

 そして……今日がその、告知動画内で告げられた『来週の金曜日』に当たる。

 

 本放送の開始を間近に控え、魔法情報局『のわめでぃあ』の看板娘(メインパーソナリティ)は…………

 

 

 

 

 …………錯乱、していた。

 

 

 

 

 

 

(む……無理っ! 絶対! 絶対無理!!)

 

 

 

 緊張に震える視界が時計の針を捉え、現在時刻が二十時四十五分を回ったことと……()()()()まで残り十五分を切ったことを、無慈悲に告げる。

 

 二枚あるディスプレイのうち一枚が映し出すのは、『神』の厚意で用意されたポップでキャッチーな広告イラスト。パーソナリティを務める(という設定の)可愛らしい女の子が可愛らしい笑みを浮かべ、彼女の名前を(もじ)った架空の放送局名が記された看板をこれまた可愛らしく抱いている。

 彼女の頭上にふわふわと浮かべられたフキダシには……『本日二十一時、ついに開局!』との文字。

 

 

(なにが『ついに開局!』だ……! 畜生! ふざけやがって……!)

 

 

 忌々しげに唇を噛み、大喜びでテキストを挿入した先週の自分に対し吐き捨てる。そんなことをしたところで状況は何一つとして好転しないのだが……そんなことは理解していながらも、この状況を憂いずには居られない。

 

 カメラもマイクも音源素材も画像素材も、何から何まで準備万端。今更技術的な懸念などあるわけでも無く、台本だって手前味噌だが完璧に仕上がっている。

 なにせ今日に至るまで、動画配信なんて数え切れぬ程にこなしてきたのだ。再生数やチャンネル登録者数はお世辞にも多いとは言い難いが、場数だけはそれなりに踏んでいる。リアルタイムでの生放送は初めてとはいえ、やること自体は身体に染み付いているのだ。問題無い。

 

 問題無い……筈だった。

 

 

 

(でもっ……! でも!! これは無理……! 絶対無理!!)

 

 

 

 ディスプレイの中……配信準備の整ったPC画面には、この部屋の内装を背景に可愛らしい女の子の姿が――頭を抱えてうずくまって悲壮な表情を浮かべている様子が――リアルタイムで映し出されている。

 

 まるでこの世の終わりとでも言わんばかりの、絶望に染まり切った表情の女の子。銀と見紛うほどに艶やかな、長く奇麗な若葉色の髪。右側のみ神秘的な紋様の描かれた、丸みを帯びた柔らかそうな頬。やや下向きに伸びる尖った耳とぷっくりとした唇が愛らしい……記念すべき第一回目の配信を間近に控えた、このチャンネルの『看板娘(メインパーソナリティ)』という設定の、女の子。

 

 

 画面へと視線を向けると、モニター上部に設置したカメラを介して女の子と目が合う。

 

 両手で頭を抱え首を振ると、ディスプレイに映るその子もまた……同様にいやいやと頭を振る。

 

 

 情報変換を噛ませていない分、ほぼリアルタイムで自分と全く同じ挙動を取る『看板娘ちゃん』。

 この子はここ数日に渡り徹夜に徹夜を重ねて今日の昼過ぎにやっとのことで完成した渾身の3Dモデル……()()()()

 

 

 

 

 

「なんでっ、……なんで()()が……っ!」

 

 

 

 カメラ越しでは無くとも、視界の端にさらさらと映り込む若葉色の髪は。

 無残な程に変わり果て、憎たらしい程に可愛らしく変貌してしまった声は。

 

 

 この数週間で全面リファインが行われた、自身の技術の粋を注ぎ込んだ渾身のアバター……なんかでは無く。

 

 

 

 

 紛れも無い、()()()()()だった。

 

 

 




20時くらいにも更新します


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02【事前準備】仮想配信者計画_02

 今から(さかのぼ)ること……ほんの十時間ほど前。

 明け方から続く豪雨の雨音と、遠く雷鳴の轟く中。

 

 ここ数週間の集大成とも言える、渾身の3Dアバターが……消えた。

 

 

 

 

「……は? ……え、…………は? …………はぁぁあ!??」

 

 

 

 落雷によるものと思われる停電から復旧し、嫌な予感を押し殺しながらパソコンを立ち上げ、血眼でモデルエディタを開き……ここ数週間絶えず顔を突き合わせていたモデルデータが奇麗さっぱり消え失せているのを認識し、素っ頓狂な声が上がった。

 

 今日の夜九時からの配信に向け、最終確認とばかりに細部の造り込みを進めていた3Dアバターモデル……チャンネル開設の(かなめ)とも言えるそのキャラクターが、跡形もなく消えていたのだ。

 

 

 

「嘘、だろ……? え……ど……どう、すん……だよ…………どうすんだよぉ!!?」

 

 

 

 動画配信者として一通りのことはこなせるが、しかしぶっちゃけ大した実績も残せていなかった俺は……心機一転、昨今の仮想配信者ブームに乗っかろうと画策した。

 幸か不幸か時間だけは山ほどあった。これまで何かにつけて連敗続きの人生だったが、これを切っ掛けに盛り返し、輝かしい成果を残せる……根拠は無かったが、何故かそんな気がしていた。

 

 主役となる看板娘の設定を練りに練ってラフを書き上げ、数少ない得意分野であったモデリング技術を用いて3Dアバターを造り始め、『神』と謳われるイラストレーター氏になけなしの貯金を叩いて立ち絵やキャラクター設定画を発注し、ネット上で出資者を募ったり無人融資契約機に頼ったりと東奔西走し少なくない資金を集め、高精度(ハイエンド)な変声ソフトを調達して完璧に調律を済ませ、超一級品とまではいかずとも不自由することは無いであろう配信器材を揃え……

 

 

 とうとう配信当日を迎え、要であるアバターもつい先程やっと完成したかと思ったら……その()が消えていたのだ。

 

 

 

 既に告知イラストは拡散してしまっている。

 やはり『神』の影響力は凄まじく、決して少なくない注目と関心を集めてしまっている。

 出資者達にも今晩が第一回の配信だと伝えてしまっている。

 今更配信予定を変更することなど……出来ない訳ではないだろうが、肝心の初動で(つまず)いたらその後の伸びは怪しいだろう。

 

 

 いやむしろ、各方面に()()を作りまくっている自分の場合……その遅れは()()()だ。

 

 今晩の配信予定を変更することは、実質不可能。しかしながらアバターが存在しなければ、(おっさん)が顔出し配信したところで意味も無い。

 愛らしい美少女目当てに配信を見に行ってみれば演者は御歳三十余りのおっさん(無職)だった……なんてことにでもなれば、もはや詐欺である。どう考えても炎上は免れられず、仮想配信者計画は一瞬で消し飛ぶだろう。

 

 

 ここへ至るまでに費やした努力が水泡に帰し、おまけに各方面から受けた恩と抱え込んだ借金も返せず……日に日に膨れていく利子に脅え、緩やかに滅ぶのを待つしか無い。

 

 

 ……救いは、無い。

 

 

 

 

 

(………………)

 

 

 窓の外は相変わらずの雷雨だったが……その音さえろくに耳に届かない。

 薄暗い窓の外、窓ガラスに映る自分の顔。表情が抜け落ちたその顔は、まるで死人のように虚ろだった。

 

 

 

 死人。既に死んだヒト。……ははっ。

 

 

(…………死ぬか)

 

 

 ふと、唐突にそう思った。

 

 幸いなことに(?)このマンションはそれなりの高層建築物なのだ。窓を開け、柵を乗り越え、淀んだ空に身を投げれば……それは文字通り空を飛ぶような爽快感だろう。もう絶望とはおさらばだ。

 各方面から搔き集めた恩も、町金融から搔き集めた金も、返す心配なんてしなくて済むのだ。

 

 ゆっくりと掃き出し窓を開け、裸足のままベランダへ出る。

 全身に滲み出ていた冷や汗に強風と横殴りの雨が加わり、一瞬で体温が下がる。

 ベランダの柵に両手を掛け、遠慮無く吹き付ける豪雨を意に介さず……ぼんやりと遥か下を眺める。

 

 

 

 

(…………ちくしょう)

 

 

 

 今更死ぬこと自体は怖くない。自殺を試みたことだって何度もある。

 実際に身を投げたことも……ある。

 

 だが…………()()()

 

 

 

(……ちくしょう)

 

 

 

 自分でも間違い無く会心の出来だった。

 誰からも愛されると思える程に可愛らしい子だった。

 もし実在するのであれば、それこそ目に入れても痛くない程に……愛しい存在だった。

 

 そんな可愛い我が子が……日の目を見ることなく、闇に葬られる。

 そのことだけが、ただただ悔しかった。

 

 

 

(畜生……!!)

 

 

 

 本気で打ち込んだ創作物さえ、満足に作り上げることが出来なかった。

 

 ほんのデータに過ぎない我が子に、命を吹き込むことが出来なかった。

 

 声を、動きを、表情を、歴史を与えてやることが出来なかった。

 

 皆に愛されるキャラクターとして、生を与えてやることが出来なかった。

 

 

 

 ……『()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 そのことだけが……ただひたすらに悔しかった。

 

 

 

 

 

 何度目かも解らぬ轟音……腹の底に響くような雷鳴が、脳を揺さぶる。

 ぼんやりと霞む視界に雷光が幾度となく飛び込んでくるが……微塵も恐怖は浮かばない。

 どうせもうすぐ消える命だ。今更怖いものなんてあるものか。

 そうとも、何一つとして眩い成果を生み出せなかった俺なんか……生きていたって仕方が無いじゃないか。

 

 只一つ心残りなことは……『あの子』が生まれることさえ出来ずに消えていくこと。それだけだ。

 ああ、全く。なんで俺はこんなにも無駄に生きているのだろう。

 

 

 

()()()()()()……()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 何一つとして違和感を感じることも無く……自然とそう思えた。

 

 

 

 

 強まっていく雨と風、この世の終わりのように荒ぶる雷。

 そこかしこに立て続けに雷が落ち、轟音に頭を揺さぶられる中。

 

 

 

 

 ――――空が、割れた気がした。

 

 

 

 




21時くらいにも更新します


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03【事前準備】仮想配信者計画_03

 一体どれだけの時間、呆然としていたのだろうか。

 気付いたときには……雨も風も雷も、まるでそんな荒天なんか無かったとばかりに消え去っていた。

 

 なんだか意識が朦朧とするような、寝起き直後のような……なんともいえないふわふわとした感覚。

 ……まさかベランダで立ったまま寝ていたとでも言うのだろうか。

 

 

 ぼうっと見上げていた空はいつの間にか曇天のものとは違う理由で暗く染まり、見下ろす家々の窓からが電灯の灯りが漏れる。どこからともなく美味しそうな匂いが漂い始め、どうやら夕食の支度の時間のようだ。

 ……というか、日も落ちたのに部屋着のままだったか。雨によるものとは違う理由で肌寒さを覚えた。

 

 

 ぶるりと身を震わせ、とりあえず部屋に戻ろうと踵を返す。

 一歩目を踏み出そうとしたところで足に引っ掛かる()()に足を取られ、明けっ放しだった掃き出し窓から跳び込むように……顔面から倒れ込んだ。

 

 

 

 

「おブェっ!」

 

 

 

 我ながら甲高い……どこかおもしろい悲鳴に笑いそうになるが、座布団越しとはいえ強かに打ちつけた(デコ)と首が非常に痛む。

 脳を揺さ振られたのかぐわんぐわんと揺れる視界の中……下手をすれば死んでいたかもしれない転倒事故の原因を探るべく、足に絡まる()()へ意識を向ける。

 

 

 めまいが治まっていく中、日も沈み薄暗いベランダと部屋との境目で見つけた原因(それ)は……非常に見覚えのあるもののように見えた。

 

 

 部屋着の下と……下着。

 スウェットのズボンと、ボクサータイプのパンツだ。

 

 

 

「……あ? 何だこ…………ん??」

 

 

 

 

 いや待て。待て待て待て。

 

 

 他人のお下がりでも無い、自分の体格に丁度合っていた筈の部屋着ズボンが……すとんと足元に落ちていた。

 それはまだ良い。訳解らない謎だらけでちっとも良くないが……まだ良い。

 

 

 ……問題はそこじゃない。

 もっともっとヤバい問題が……()()にある。

 

 

 

「あ…………ぁあ……? え、ちょ……!? は!?」

 

 

 

 やっぱり聞き間違いでは無かった。気のせいでは無かった。慣れ親しんだ野太い声の代わりに俺の意思を代弁するのは……柔らかく、可愛らしく、幼げな――変声ソフトの調律でこれでもかと、しかし一向に飽きることなく耳にしていた――『看板娘』たる仮想配信者ちゃんの声。

 

 3Dモデル製作の傍ら、気分転換と自身の鼓舞のために幾度となく聞いた声だ。……聞き間違える筈が無い。

 

 

 

「!! そうだ!! モデルは!?」

 

 

 

 尚も足に絡まろうとする――ぴったりなサイズの筈なのに何故かぶかぶかに見える――部屋着と下着を纏めて脱ぎ捨て、ばたばたと部屋の中へと飛び込む。なんだか視点の高さがおかしい気がするがとりあえず無理やり無視する。何よりも大切な『看板娘』の3Dアバターを確認すべく、スタンバイ状態の愛機(PC)を叩き起こそうとキーボードに手を伸ばし…………

 

 真っ黒なままの画面を一瞥し、()()()()()()()に顔が引き攣り、すぐさま手を引っ込め愛機(PC)を素通りする。

 

 

 ドアを開け、廊下を進み、目指す場所は洗面所。

 もう一枚ドアを開けて洗面台、そこにあるモノへ……自らの姿を寸分の狂いなく映す鏡へと、一も二も無くかじりつく。

 

 

 

 

 

 

「な……なんじゃこれェェェエ!?!?」

 

 

 

 

 情け容赦無く真実を映し出す鏡に、()()()()見ても小柄で可愛らしい女の子でしかない()()()姿()に……決して少なくない時間、呆然と佇んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 ………………………………

 

 

 ………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 どれくらいの時間、呆然としていたのだろうか。

 

 ……ふと。

 可愛らしく尖った耳に、小さな電子音が届いた。

 

 

 

「……ッッ!!? やっべ!」

 

 

 

 今日の……()()()()()()()に鳴るようセットしておいた、りんご印タブレットのアラーム。それが示すものに思い至り、色白の肌から『さーっ』と血の気が引いていく。

 頭では何も考えられないまま、それでも初配信を成功させるため……危機感を覚えた身体は()()()()()、機材を次々立ち上げていく。

 自分の身体が半ば自動で動くような得体の知れない感覚にありながら、あまりにも理解し難い現実に思考が追いつかない。柔らかそうな小さな手が大きなマウスを握りしめ、渾身の3Dアバターモデルが消失した以外は準備万端な愛機(PC)をてきぱきと操作し、混乱する頭を置き去りに着々と準備が整えられていく。

 

 

 あれよあれよという間に全ての準備が整ってしまい、現在時刻は二十時を少し回ったところだ。

 『やるべきこと』を忠実に片付けている()()()なこの身体は、未だに事態を受け入れられていない思考を完全に放置し、ご丁寧にSNS(つぶやいたー)での配信告知まで済ませている始末。

 

 既にネットの波に乗り世界中を駆け巡っているその『つぶやき』は、先週投稿された告知動画と同様のテンション。あざとくも可愛らしい仮想配信者(UR-キャスター)見習い『木乃・若芽ちゃん』の言葉として紡がれ、見た者の何人かは今夜この後の配信を心待ちにしてくれることだろう。

 まさか『木乃・若芽ちゃん』の身に想像を絶するトラブルが舞い込んでいようとは……他でもない『若芽ちゃん』本人が絶望に囚われ現実逃避に走っていようなどとは、思ってもみないだろう。

 

 

 

 

(……あっ、『神』RT。……もうだめだ)

 

 

 

 他でもない『若芽ちゃん』の生みの親、自分はもとより数多の民から『神』と崇められる絵師(イラストレーター)先生が、告知のつぶやきを手ずから拡散(RT)してくれた。それを皮切りに告知は加速度的に拡散していき、みるみるうちに後に引けなくなってしまった。

 ……いや、それは違うだろう。紛れもない善意をもって接してくれる『神』の所為にするなんて、恥知らずにも程がある。

 

 それに。この『仮想配信者(UR-キャスター)』計画に乗り出した時点で、もとより退路など無い。告知通りに今日配信を始められなければ……逃れられやしない()()の目処は、どんどん薄れていくのだ。

 今でこそ神絵師(イラストレーター)様効果で注目を集めているが、この注目は長続きしない。風化する前に次の起爆剤を投下出来なければ、このご時世数多(あまた)溢れる仮想配信者達に埋もれて沈んでいくばかりだろう。

 

 

 初期投資を回収する目処も立たないまま……観客(ギャラリー)のまばらな生放送枠で、失意とともに『引退』を表明する。

 数週間、数カ月後には話題にさえ上らなくなり、一年も経てば『若芽ちゃん』が存在した痕跡さえ……殆ど残らず消え失せるだろう。

 

 

 

 

 

(……それは……()()

 

 

 

 

 

 嫌だ。()()()()()

 

 

 

 本気で打ち込んだ創作物さえ、世に送り出せずに消え失せてしまうことが。

 今はまだデータの塊に過ぎない我が子に、命を吹き込んでやれないことが。

 声を、動きを、表情を、歴史を、喜びを与えてやることが出来ないことが。

 皆に愛されるキャラクターとして、生を与えてやることが出来ないことが。

 

 

 『木乃・若芽』という可愛い我が娘を、このまま死なせてしまうことが。

 それは……()()()()()

 

 

 

 

 

 運命の金曜日。デジタル時計の表記は、二十時二十分。

 

 未だ後ろ向きだったおれの思考と意思は……覚悟を決めた。

 

 

 





22時くらいにも更新します


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04【初回配信】はじめまして、わたし

 

ヘィリィ(こんにちは)! 親愛なる人間種の皆さん! ……こほん。はじめまして、魔法情報局『のわめでぃあ』局長の『木乃(きの)若芽(わかめ)』です! ……あっ、仮名ですよ?」

 

 

 

 賽は投げられた。……いや。

 自分の手で、自分の意志で、思いっきり投げてやった。

 

 二十一時〇〇分……記念すべき第一回の生放送、晴れやかなその幕がついに上がる。

 

 

 先週の試験放送とは異なり……演者は3Dキャラクターアバターではなく、『木乃・若芽ちゃん』と成り果ててしまった俺自身。ソフトの中で表現されたフルデジタルな電子スタジオではなく、背景は自室の()

 白の壁紙がぴしっと張られた部屋の壁以外、一切の生活感(オブジェクト)が映り込まないようにカメラの位置と角度を調整し、白一色の背景に魔法を使ってスタジオ背景を投影して電子スタジオを再現していく。

 

 可愛らしい身振りとともに名乗りを上げ、可愛らしいフォントで『木乃(きの)若芽(わかめ)』という名前が書かれた風船(バルーン)状の看板が、これまた魔法によって『ぽこん』と姿を表す。

 細長い板状の具現化魔力塊に『周波数(チャンネル)登録お願いします♪』と書かれた看板をふわふわと浮かべ、宣伝も忘れない。

 

 

「はいどーも。どーもどーも。んふふ。ありがとうございます。……えへへ、ニホン国語上手でしょう? わたしいっぱい勉強しましたので。こう見えて頭は良いんですよ?」

 

 

 聞こえもしない観客(ギャラリー)の声援に応えるように、わざとらしくあざとい挙動(モーション)で愛想を振り撒く俺の身体。両腰に手を当てて胸を張り、いわゆる自慢(ドヤ)顔で言外に『ほめてほしい』をアピールしてみせる。

 配信ページのコメント欄は少しずつ勢いを伸ばし始め、スクロールされる速度も視聴者数もじわりじわりと上がっていく。

 

 看板娘(メインパーソナリティー)の可愛らしさを湛えるコメント、演出の賑やかさに感嘆の声を漏らすコメント、()()()()()()()()()綺麗でリアルな演者にただただ驚愕するコメント。

 (神絵師)の七光りだけではない『何か』を感じ取った視聴者が、次から次から驚きのコメントを寄せていく。

 

 

 ほんの数分前までは出口の見えない真っ暗な洞窟に迷い込んだような心境だったのが嘘のように……この初めての配信を()()()()()()()()()()()()()()()()に、ほんの微かな違和感を抱く。

 

 

 だが……今は()()()()()()()()()()()()

 この初めての放送、初めての舞台。俺の愛する娘『木乃・若芽』という少女の、はじめましての誕生日。

 一生に一度、晴れの門出を成功させること……今はただそれだけを考え、最善を尽くす。

 

 ()()()な身体は準備のときと同様、次に何をすべきかをしっかりと記憶してくれている。何百・何千もの練習(リハ)を経たように正確な動きを辿り、ぎこちなさや覚束(おぼつか)なさを感じさせない。足運びは滑らかで手指の動きは美しく、やや幼げな風貌にもかかわらず決して未熟さを垣間見せない。

 我が身に降りかかったあまりにもあんまりな事態に頭の中から吹き飛んだはずの台本は、PDF(ドキュメント)データのようにはっきりと記憶されている。ご丁寧に今どのあたりを進行しているのか、この次はどういう流れになるのか……それこそ台本そのものを携えて読み上げているかのごとく、ひたすらスムーズに口上は続いていく。

 

 

 

「この番組、魔法情報局『のわめでぃあ』では、このわたしが集めた様々な耳寄り情報を、人間種の皆さんにお届けします! グルメ、芸能、サブカル、旅行、他にもさまざま! 皆さんの生活がより豊かに、より楽しくなるように、『のわめでぃあ』局長であるこのわたしが! 精一杯お手伝いさせて頂きます!」

 

 

 先程の名前の看板同様、ジャンルごと色分けされた風船(バルーン)を口上と共にぽこぽこ浮かべながら、それらを背景に愛らしい笑顔と可愛らしい踊りで、この『番組』基本方針の訴求を行う。

 勿論、いわゆるネットニュースやワイドショーのようなリアルタイムの時事ネタを組み込むほどの処理能力(キャパ)は無い。『放送局』と謳っていながらも、所詮はいち個人の動画配信に過ぎないのだ。

 

 だからといって指を咥えて見ているような真似も、手を抜くようなこともしない。頻度と鮮度で勝てないのなら、よりニーズに合致した番組を提供する。視聴者の『観たいもの』を動画サイトのアンケートやSNS(つぶやいたー)で仕入れ、また日頃よりSNS(つぶやいたー)を積極的に利用し、『趣味に身近な放送局』を目指してファンを獲得していく。

 ……それが、とりあえず当面の目標である。

 

 

「今回の放送は『はじめまして』のご挨拶も兼ねていますので、皆さんのお声も頂戴したいと思います! 当放送局に取り上げてほしいこと、やってみてほしいこと。そんなのがあったら、ぜひぜひコメント下さいね! ……そうですね。せっかくですし……このわたし『若芽ちゃん』に対するご質問も……ちょっとだけなら、答えちゃいますよ?」

 

 

 若干前かがみで上目遣いにカメラを覗き込み、可愛らしく小首を傾げて片目を瞑り、控えめながら美しい胸元をアピールし、桜色の唇をカメラと同軸のマイクに近付け、これまたあざとさ溢れる誘い文句を台本通りに小声で(ささや)き……一連の流れを自然体で完璧に演じてみせる身体に、我が身ながら惚れ惚れする。

 

 ……と同時。

 配信サイトのコメント欄とリンクするスマホが物凄い速度でスクロールし始め、新着コメントの通知(アラート)が壮絶な勢いでカウントを重ねていく。

 さりげない動作で異常を告げるスマホを手に取り、そこに示される若干とはいえ予想外の展開に、完璧に看板娘(メインパーソナリティ)を演じている(ハズ)のこの身体があからさまにビクつく。

 

 

 その微細な心境の変化を敏感に察知し、()()()なこの身体は()()()()に……無慈悲に()()()()を切り替える。

 

 

 

「ふぇっ!? え……ふゃっ!? ひょ、ちょっと!? 『そういうの』はまだ早いです! ……じゃなくって! ()()とかそういうお話じゃなくて!!」

 

 

 手に取ったスマホ、そこに表示されるコメントの一つに途端に顔を赤らめ……控えめな胸と下腹部を隠すように己を抱き、後ずさるように距離を取る。カメラから離れたことで上半身だけでなく足元までもが映り込み、長い髪と背丈の小柄さが明らかになる。

 未発達な少女でありながら女性らしさを垣間見せるローブは、明らかに鼓動を増したこの身体をしっかりと隠しているようで……しかしながら身体のラインに沿って立体縫製されたこの衣装は、見ようによっては下手な水着よりも艶めかしい。

 

 

「ち、違いまひゅ! 赤くないですし! ……は、恥ずかしがってなんかいませんし? わたしはこれでもひゃく…………えっと……いっぱい、いっぱい歳を重ねた大人(オトナ)ですし? 人間種の皆さんとは違いますし? 人生経験豊富ですし?」

 

 

 更に加速していくコメントの濁流を一つ残らず目を通しながら、どう考えても経験豊富には映らぬであろう初心(ウブ)な言動を――演技四割本心六割で――可愛らしく完璧に演じていく。

 コメント閲覧用スマホから手を離し宙に浮かべ、耳の先まで真っ赤に染まった顔を手で覆うように隠し、狙い通り初々しさ溢れる『恥じらい』を表現する看板娘(メインパーソナリティ)

 その可愛らしい姿を称えるコメント、健気な姿を応援するコメント、単純な言葉で好意を表現してくれるコメント……それらの音無き声援を受けて確かな手応えを感じるとともに、『この配信を何としても成功させなければ』という確固たる意志が、改めて大きく育ち始める。

 

 

「も……もう! 大人(オトナ)をからかわないの! ……えっと、あの、つまり……ほ、ほら、配信サイト(ユースク)さんの規約とかあるので! あんまりえっ……ち、なのは……ほら! 追放(BAN)される危険が危ないので! 初日に追放(BAN)とか洒落にならないので! ゆるしてください! 何とかしますから!!」

 

 

 今の俺が抱く、確たる『願い』――皆に愛される我が娘をこの世界に誕生させる――それを叶えるために気合を入れ直し、取り乱していた思考を落ち着かせ、意識して()()()()()()()()()()

 若干の顔の火照りは残しながらも……熱に浮かされていた思考は落ち着きを取り戻し、進捗度と注釈入りの台本が再び頭の中に浮かんでくる。魔法放送局の看板娘(メインパーソナリティ)となるべくして設定されたこの身体は、自らに課せられた役割を果たすべくその思考と技能を働かせていく。

 

 先程から……それこそこの放送が始まる前から、この身体に抱いていた()()()()()()。それが気にならないといえば嘘になるが、今はそんな()()()などどうだって良い。

 大切なことは、ただ一つ。

 今日のこの放送を成功させる……それだけだ。

 

 

「……こほん。お見苦しいところをお見せしました。わたしもちょっとびっくりです。……こんなに、こんなにたくさんのコメント……皆さん本当にありがとうございます! ……そうですねー……それでは、せっかくなので……追放(BAN)されない範囲で、皆さんの質問コメントにお答えしようと思います! いわゆる『雑談枠』ってやつですね! おしゃべりです!」

 

 

 堂々としたポーズで指をひとつぱちんと鳴らし、可愛らしい筆跡で『ざつだんコーナー』と書き記された看板(バルーン)を背後に浮かべ、宙に浮かべたスマホを小さな(てのひら)で指し示す。壮絶な速さでスクロールする画面を流し見たことで記憶したコメントのうち、答えられそうな質問を抜粋する。

 せっかく少なくない視聴者が興味を持ってくれた、この『木乃・若芽』ちゃん……練りに練った()()を活かすも殺すも、これからの一挙手一投足に懸かっているのだ。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「質問は随時受け付けてますので、どしどし送って下さいね! わたしはとても賢いので、皆さんのコメントこのように……()()()()()()()()()()()()()()! では張り切っていきましょう! 最初の質問…………えいっ!」

 

 

 

 配信サイト(YouScreen)の規約には抵触しなさそうな、それでいて『木乃・若芽』ちゃんの魅力をアピールできる質問を選びぬき、その質問を読み上げながら文字の書かれた風船(テロップ)を浮かべる。

 『木乃若芽』ちゃんを詳しく知って貰う絶好の機会。是が非でも成功させたいし……何よりも本心から『この子をもっと知ってほしい』と思っている。絶対に失敗するわけにはいかない。

 

 

「『何歳ですか』、って……初対面の女の子に年齢聞くとかちょっとどうなんですか人間種諸君……これ普通なの? えーそうなんだ……ちょっと衝撃的……えっと、こほん。うーん……まあ良いか。ひゃく……違った。えっと……はい。『人間種換算で一〇歳』です」

 

 

「『本当に仮想配信者(ユアキャス)なんですか』…………え、と、当然ですよ? 新人仮想配信者(UR-キャスター)、日本国では珍しいエルフ種の『木乃若芽(きのわかめ)』です! 仮名ですが! 本名公開はちょっと呪術的によろしくないので! 勘弁してください!」

 

 

「『演出すごいですね、魔法みたい』。ンフフフ……あなた見どころありますね! そうでしょうそうでしょう! このわたし若芽ちゃんは超超超熟練の魔法使いですので! 華麗な魔法さばきに見惚れるが良いですよ!」

 

 

「『好きなものは何ですか』。いいですね! 雑談枠って感じします! えっと……わたしはこの世界に来て日が浅いのですが……あれはおいしかったですね! 『カツドン』! 好きです! あとは『ヤキニク』とか『ハンバーグ』とか! 『ヤキトリ』もいいですね!」

 

 

「『娘さんを僕に下さい』……って! 何ですかこれ! 居るわけ無いでしょう! わたしまだ百歳ですよ!? …………? ……間違えた!! 一〇歳ですよ!!?」

 

 

「『わかめちゃんめっちゃかわいい』。ほんとですか! ありがとうございます! お名前覚えました!!」

 

 

「『わかめちゃんパンツ見えないよ』当たり前でしょう!? 何『見えて当然』みたいな言い方してるんですか!?」

 

 

「『一〇才児なのにお姉さんぶるの可愛い』。わたしのほうが歳上なので当たり前です! ちゃんとお姉さんです!」

 

 

「『ちっちゃいマッマ』ママ(母親)ではないです! お姉さんです! …………何かコレちょっと流れおかしくないですか!?」

 

 

 

 

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

 

 

……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 充分な機材と自由自在の魔法を駆使し、リアルタイムで演出を加えながら配信は続いていく。

 

 ときに落ち着いて、ときに取り乱し、何度かの小休止を挟みながらの生放送は……

 

 

 

 放送開始から丁度百二十分後……二十三時。

 見事な定刻通り(オンタイム)、かつ大盛況のうちに……後に一部界隈では『伝説』と呼ばれる(らしい)初回放送、その幕を閉じた。

 

 

 






23時くらいにも更新します


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05【初回配信】おつかれさま、わたし

 

 

 

(……なんだ、これは)

 

 

 

 

 ここ数時間の出来事……ここ半日の出来事を、力の入らない身体で改めて思い返す。

 まるで夢や幻でも見ていたような感覚だが……疑いようのない現実であることは、配信ページのアーカイブを見るまでもなく明らかだろう。

 

 

 現在時刻は二十三時十五分。

 まる二時間ぶっ通し、百二十分に及ぶ初回生放送をおおよそ完璧に乗り切り、放送終了後の『ありがとうございました!』のお礼をSNS(つぶやいたー)につぶやき終え……本番にかかわる全ての付帯作業が完了するや否や、まるで()()()()()()()()()()()全身から力が抜け落ちる。

 

 頭のてっぺんから足の爪先まで全身余すところ無く疲労が貯まり、じっとりと滲んだ汗でローブがぴったりと肌に張り付いている。

 椅子に座る気力さえ今は湧かず、床に仰向け大の字に倒れ込み、ひんやりとした床の温度を背中と尻に感じながら、身体の熱を排すべく荒い息を整える。

 

 

 

(なんだ……これは……!)

 

 

 

 まる二時間動き続け喋り続けた疲労よりも、汗をかき着衣が張り付く不快感よりも……

 初放送をやり遂げた達成感が。我が愛娘の生誕を祝福出来たことが。

 

 多くの人々に『木乃若芽ちゃん』を受け入れてもらえたことが……何よりも嬉しい。

 

 

 硬い床に寝そべりながら寝返りを打ち、汗ばんだ腕を伸ばしスマホを手に取り、震える指で『木乃』『若芽』と検索(エゴサ)すると、そこには望んだ光景が…………いや、望んだ以上の光景が広がっていた。

 配信サービス(ユースクリーン)の配信アーカイブから放送中に寄せられたコメントを引っ張り出しても、これまた同様。ファイルを開けば画面を埋め尽くす程に涌き出る数え切れないほどのテキスト……なんと驚くことに、そのほぼ全てが好意的なコメントなのだ。

 

 

 キャラクターの構想を練り、イラストを発注し、多くの人々の助けを得て、ついに陽の目を見ることが出来た。

 

 他でもない自分達が生きるこの世界に、『木乃若芽ちゃん』というキャラクターを送り出すことが出来た。

 

 計画を立ち上げてから一時も欠かさず切望していた通り……多くの人々に愛され、とても多くの好意を賜ることが出来た。

 

 

 

 

 …………の、だが。

 

 

 

 

 

「なんなんだ……!! これは!!!」

 

 

 

 

 ひと山越えて()()()()()()()()、冷静さを取り戻したところで……自分の身体に生じた異変を、改めて認識せざるを得なくなる。

 

 

 汗を含み首筋に張り付く、滑らかで長い翡翠色の髪は。

 

 横向きに寝そべる今、違和感を感じずに居られない長い耳は。

 

 僅かとはいえ重力の影響を感じる、妙な存在感を伴う脂肪の重みは。

 

 逆に……大切な息子を喪った脚の間の、この筆舌尽くし難い喪失感は。

 

 そして何よりも……呼吸を行うがごとく、言葉を紡ぐがごとく、手足を運ぶがごとく……()()()()()()()()()()、『()()()()使()()()()()()()()は。

 

 

 気の迷いでも妄想でもない。単なる思い違いでも勘違いでもない。

 さも当然と言わんばかりに。至極真っ当な常識だとばかりに。()()()()()()使()()()のだということが、本能的に理解できる。

 使い方も。効果も。その魔法の長所も短所も。何十何百という膨大な『魔法』の全ての情報が、常識外れの『魔法』の知識が……さも当然のように頭の中に入っているのだ。

 

 

 

「えーっと……こほん。……【浮遊(シュイルベ)】ぇええ嘘ぉおお……」

 

 

 ()()()()()()手法(プロセス)に則り、魔力を練って式を整え発現条文(スペルコード)を唱えれば……さも当然とばかりに効果を表す。

 横向きに寝そべった体勢のまま身体はふわりと浮かび上がり、長い髪が重力に反して靡く感触が何ともこそばゆい。

 寝そべったままあれこれ試し、この【浮遊(シュイルベ)】の効果のほどを確認する。GL(高度基準)からの垂直距離を自在に変更したり、浮上したまま今度は水平移動してみたり……これらの応用知識を含む『魔法』の知識が、ただ一つの例外無く『正確な情報である』ということを、改めて実感してしまう。

 

 それにしても……ぷかぷか浮かぶのって気持ちいいな。首や腰はもちろん、身体のどこにも負荷が掛からない。マットレス要らずか。これは癖になりそうだ。

 

 

 

 

 

「……じゃなくって!!」

 

 

 がばっと起き上がり、頭をぶんぶんと振る。長い髪がさらさらふわふわと舞い……日本人離れした容姿となってしまったことを、改めて実感させられる。

 

 

 もう……どうしようもない。現実逃避のしようもない。()()()()から目を背けることなど、そもそも出来るわけがない。

 

 

 ああ……そうとも。もう認めよう。

 

 おれは……俺の身体は。

 仮想配信者(URーキャスター)活動における『肉体』として、キャラクター設定を詳細に作り込み()()していたアバターへと……

 

 

 

 幼いエルフの少女『木乃(きの)若芽(わかめ)ちゃん』そのものへと、変貌してしまっていたのだ。

 

 

 

 





24時くらいにもう1回更新します


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06【現状確認】わーたすけてほしいー

 現状を認識してしまったとはいえ……それが納得できるか、受け入れられるかどうかとは、また別問題なわけで。

 未だ戸惑いを払拭しきれず、我ながらのろのろとした動きでスマホを操作しREIN(メッセージツール)を立ち上げる。溜まっている未読メッセージを一旦無視し、とある一つの連絡先を表示させる。

 

 今のおれじゃ、ろくに考えることさえ出来やしない。

 おれ以外の他の誰かの、第三者の意見を聞きたい。

 

 この状況を相談できるとしたら……あいつしか居ない。

 

 

 表示された連絡先と、そこに連なるこれまでの送受信履歴……その一番下に新たに追加されていた一文『初体験お疲れ様っす! 凄かったすよ! 色々と!!』が目に入り……自然と頬が緩む。

 

 ……やっぱり。彼はちゃんと見ていてくれたんだ。

 あの子の晴れ舞台を……記念すべき初めての配信を。

 

 

 表示された連絡先……あいつの名は、烏森(かすもり)(あきら)

 

 大学時代の後輩にして、前職時代の後輩にして……

 

 仮想配信者(URーキャスター)『木乃若芽ちゃん』のキャラクターデザイン及び立ち絵及び各種宣伝絵を手掛けた、『神』の呼び声も名高い絵師(イラストレーター)様にして……

 

 

 この『木乃若芽ちゃん』計画における……頼れる同志なのだ。

 

 

(あいつなら……きっと…………笑わないで聞いてくれる)

 

 

 彼にならば、おれの置かれたこの状況を打ち明けられる。期待と願望を胸に抱き、『相談したいことがある』『今から会えないか?』とメッセージを入力、送信する。

 とはいえ既に真夜中も真夜中、時刻は零時も程近い。いくら今日が金曜日であり、世間的に明日は休日であるとはいえ、常識的に考えればこんな時間から会おうだなんて、失礼にも程がある。

 やっぱり明日にすべきだろう……などと考えていたらものの数秒で既読表示が付き、極めて軽いノリで『オッケー』の絵文字(スタンプ)が返って来る。

 

 

(……『ツマミ用意して待ってますよ』『代わりに酒はお願いしますね』、か)

 

 

 どうやら……記念すべき初配信を成功させた祝杯を上げたがってると思われたらしい。

 それ自体はあながち間違いでもないので、特に訂正しなくても良いか。……むしろ、悪くない。酒でも入れなきゃやってられない。

 幸いに先方の許可を得られたので、そうと決まれば善は急げだ。すぐにでも家を出よう。彼の家は隣の区なのでそんなに時間は掛からないだろうが、そもそも既に夜遅くである。あまり彼を待たせるのも良くないだろうし……何より今一人で居ると、おれ自身がどうにかなってしまいそうだった。

 

 体を起こして床に着地し、【浮遊(シュイルベ)】を解除。クローゼットを開き濃灰色(ダークグレー)のフード付ダッフルコートを引っ張り出してローブの上から羽織り……改めてこの身体の小ささに絶句する。

 以前は膝上くらいだったコートの丈は、今となっては辛うじて足首が出ている程度。袖に関しては完全に手遅れだろう、真っすぐ伸ばしても指先さえ外に出ない。

 

 だがしかし他に手段が無いのでどうしようもない。今着ている正装(ローブ)以外にこの身体に合う服なんて持っているはずも無く、着替えることも出来ない以上は上から何か羽織るしか無い。

 現代日本の町中にはまずそぐわないであろう……魔法使いのローブと、この長髪。この両方を同時に隠すために、このダッフルコートは都合が良いのだ。多少のサイズオーバーには目を瞑るしかない。

 

 

 とりあえずスマホと財布を引っ掴んでポケットに入れ、鍵束を手に取り玄関へと向かう。

 玄関土間には男物の……というかおれの靴が散乱しているが、残念なことにそれらの全てがサイズ違いだ。若芽ちゃんの正装として設えられた(出現した)、どこかファンタジーチックな軽革(ソフトレザー)長靴(ブーツ)以外に選択肢は無い。というか今の今まで室内で靴を履きっぱなしだったのか。……まぁ配信中も履いてただろうし当然か。仕方ないか。

 二時間動き回って解ったことだが……革のブーツは擦れると痛いし、汗をかくと当然蒸れる。御洒落だからとはいえ革ブーツを涼しい顔で着こなす(履きこなす?)方々は、本当にすごいと思う。

 履き慣れない靴での外出は気が引けるが、他に履ける靴が無いので仕方ない。どうせ烏森(後輩)の家まで歩くわけでもないので、今回は我慢する。歩きやすい靴を早急に調達しなければならないだろう。

 

 

 

 

 

(…………いい加減出よう)

 

 

 考えるべきことが多すぎるので、一旦全ての思考を保留する。

 随分と目線に近くなったドアノブを捻ってドアを押し開け、小さくなった身体を隙間に滑り込ませて扉を閉める。なにぶん深夜なので音を立てないように慎重に扉を閉じて鍵を掛け、フードを被り外廊下をエレベーター目指し進んでいく。

 

 

(…………さっぶ)

 

 

 季節は既に秋から冬へ、気温は日に日に下がっている。そんなに北国でも豪雪地帯でもないが、夜ともなると冷え込みは無視できない。

 どう考えてもサイズ違いの防寒着では首もとから入り込む冷気を防ぐことが出来ず、また大きな空洞となっている胴回りも空気が通り抜け、汗をかいた身体から確実に体温を奪っていく。

 

 どう対策すべきか、引き返すべきかを悩んでいるうちにエレベーターが到着してしまい、開いた扉からつい反射的に乗り込んでしまう。三方を壁で囲まれた小空間では風の流れも止み、おかげで肌寒さも幾分か和らいだ。

 これならまぁ大丈夫かと深く考えずに『1』のボタンを押し、籠内カメラ越しにモニターに映る自分の姿をぼうっと眺める。片開きの扉が閉まるとエレベーターはゆっくり下降し始める。

 

 

(…………おれ、だよな)

 

 

 階層表示が順番に数を減じていく間、解像度の低いモニター越しに自分の顔と見つめ合う。

 フードの合間から覗く翡翠色の綺麗な髪も、丸みを帯びた頬から顎も、そもそも背丈からして大きく違うこの身体も……まごうことなき自分の身体だ。

 

 ほんの僅かな時間で『1』階に到着し、がたがたと音を立てて片開きの扉が開かれる。

 扉の外は静まり返り、最低限の灯りが申し訳なさげに玄関ホールを照らしている。

 

 視点が大きく下がったからだろうか。今まで当然のように通ってきた筈の空間が、薄暗く照らし出された冷たい石貼りの壁が、壁面にずらりと並んだ無機質な郵便受けが……全てが変わってしまったように感じられる。

 

 

 頭を振って不安を押し出し、意を決して外へと踏み出したが……なぜだか震えは止まらなかった。

 

 

 きっと寒いからだ。そうに決まっている。

 

 ……そうに、決まっている。

 

 

 





また7時頃に更新します

おやすみなさい


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07【緊急避難】それでもおれは悪くない

 

 突然だが、日本国における道路交通法についてご存知だろうか。

 

 道路交通法において定められる排気量五〇cc以下の原動機付き自転車……いわゆる『原付き』と呼ばれる自動二輪車がある。

 普通自動車免許を取得している日本国民であればオマケ的に運転資格が付与され、そうでなくても十六歳以上であれば比較的容易・安価に運転免許を取得できることから……多くの人々の『足』として利用されている交通手段と言える。

 

 十六歳をとっくの昔に通り過ぎ、そもそも普通自動車免許を所持している()()こと安城(あんじょう)雅基(まさき)も、そんな()()()()()のうちの一人なわけだが……

 

 

 

 

「…………これ……おれ乗っていいのか?」

 

 

 日々の生活を共にしてきた愛車の前で、誰にともなく呟きが漏れ出た。

 

 

 

 確かに……確かに、日本国における原付き免許の制限は緩い。

 十六歳以上であるか。両眼視力が(矯正込みでも)〇.五以上あるか。赤青黄の三原色を判断できる色彩感覚があるか。その他ごく普通の運動能力や聴力が備わっているか。……確か、だいたいこの程度だったように思う。

 これらの条件を満たし、交通ルールなどなどに関する筆記試験に合格できれば、誰にでも――それこそ高校入学したての未成年の少年少女であろうとも――原付バイクを運転する免許が与えられる。

 

 原付バイクを運転するための条件……そこには『身長』に関する記載は、無い。

 テーマパークの絶叫マシンのように、『身長○○センチ以下は安全のため搭乗できません』なんてことは、無い。

 要は……原付を運転できる免許さえ所持していれば、たとえ()()()()()()()()()()であろうとも運転できる()()なのだ。

 

 

 その一方、()()は安城雅基。今年で三十ニだ。

 運転免許証の交付は十二年前、普通自動車(MT(マニュアル))一種、中型自動車、普通二輪車、小型特殊の免許を取得し……堂々の金枠(ゴールド)である。

 

 つまり法規的には……何も、何一つ、微塵も、これっぽちも、何の問題も無い()()なのだ。

 

 

 だが……実際に乗ったとして。

 万が一警邏(けいら)中の警察官に職務質問を受けたとして。

 ()()()()であると、安城雅基(三十二歳)であると証明できる()()は……一体何があるというのだ。

 

 

 

「無いよなぁ……顔写真もなぁ……」

 

 

 自動車運転中の検問や職務質問の際、身分証明書として運転免許証を使用する際……間違いなく右端の顔写真部分と本人の容貌との照会を行う。

 容貌どころか性別どころか、それどころか見た目の年齢さえ大きく異る免許証を所持していたところで……『本人である』と認識してもらえるはずも無いだろう。

 無免許運転と判断されるのはほぼ間違いないだろうし、おまけにこの原付バイクが『安城雅基(おれ)』のものである以上、別人と判断せざるを得ない少女が乗っていたとあれば……そうなれば車両盗難の疑いを掛けられる恐れもある。

 

 

 しかしながら……気がついた。

 身支度にもたついていたせいで、現在時刻は既に午前〇時十五分。

 ここからの最寄り駅、烏森(後輩)宅方面への終電は……調べたところ、〇時〇二分。

 

 電車は、無い。

 バスも当然、こんな時間に走っているはず無い。

 こんな真夜中に動きづらい格好で『歩いていく』なんていう選択肢も――およそ八キロ二時間の行程をふまえると――ちょっと考えたくない。

 

 

「……どうか……バレませんように」

 

 

 自分自身は別段、違反行為を働いているわけでは無いのだ。恥じ入る必要も怯える必要も、何一つとして無いのだ。むしろ誉れある金枠(ゴールド)優良ドライバー様の運転が違反であるハズが無いのだ。罪深い犯罪を防ぐための労力を無罪な優良ドライバー様の邪魔に充てようだなんて、むしろそちらのほうが許されざることなのだ。全くもってその通りなのだ。

 

 

 頭の中に盛大に声援を送ってくれる齧歯類(ハムスター)を思い浮かべ、おれは迷いを振り払うようにヘルメットを被ったのだ。へけ。

 

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

(…………あっ、酒)

 

 

 静まり返った幹線道路をひた進み、そういえば酒類の調達を頼まれていたことを思い出す。

 

 進行方向に青色看板のコンビニエンスストアを見つけ、交通ルールを遵守して自動車のほぼ無い駐車場に入り……いちおう他のお客さんの迷惑にならないよう、いつものように隅っこで原付を降りる。

 ヘルメットを脱いで代わりにフードを被り、ハンドルにヘルメットを引っ掛け、コートのポケットからスマホを取り出し、自分の現状に関して特に疑問に感じること無く、いつものように自動ドアを潜る。

 

 

(お酒、お酒……)

 

 

 入店を知らせる電子音を背に、深夜でも明るい――しかし(ひと)けの無い――店内に足を踏み入れ、いつものように冷蔵ケースへと足を運ぶ。どうやら自分以外にお客さんは居ないようで、店員さんも事務所に引っ込んでしまっているようだ。

 こんな夜遅くに申し訳ないなと思いつつ、おれと後輩がよく飲む銘柄の缶ビールと缶チューハイを二本ずつ、計四本を抱きかかえてレジへと向かう。

 

 

「いらっしゃいま…………せ……?」

 

「あっ、すみま…………せ…………あっ」

 

 

 

 事務所のドアを開け出てきてくれた店員のおじさんの、驚き目を見開いた顔を見て。

 

 自分の口から自分の言葉として発せられた、耳心地よく爽やかな……しかしながら絶望的に幼気(おさなげ)な声を耳にして。

 

 

 おれは、今のおれの状況を、今になってやっと思い出した。

 

 

 

「すみません、それはお酒なので……二十歳(ハタチ)以上のお客様にしか、お売りできないんですよ……」

 

「えっと……えっと、あの…………そ、そうですよね! すみません!」

 

 

 店員さんの指摘に我に返り、身を翻して来た道を引き返す。

 

 要は……出発前にさんざん悩んだ、身分証明の手段だ。

 おれは間違いなく三十二歳だし、とっくの昔に成人済みだし、なんならこのコンビニで酒を買ったこともある。勿論エロ本だって買える。

 

 ……だが、いざ身分証明書の提示を求められた場合。

 ()()と安城雅基(三十二歳)が同一人物であると証明出来ない以上……残念だが、お酒を買うことは出来ないだろう。

 今でこそ――前髪はある程度仕方無いとはいえ――()()()()()()をわざわざフードで隠し、こそこそと買い物を試みているのだ。ヘタに事態(コト)を面倒にして()()()を晒すことになれば……非情に厄介なことになるのは間違い無い。

 

 この世界、様々な技術が発展を遂げたこの現代日本には……当然『魔法』も無ければ『エルフ』も存在しないのだ。

 

 

 ボロが出る前に、一刻も早く退散すべきだろう。ビールとチューハイを元の冷蔵ケースへと押し込み、しかし烏森(後輩)に頼まれた手前何も飲料を用意しないわけにも行かず……苦渋の決断としてペットボトルのりんごジュースと烏龍茶を手に取り、抱きかかえてレジへ向かう。

 明らかにこちらを注視している店員さんの顔を見ないように意識して、二本のペットボトルをカウンターへ置く。

 

 

 

 

「……お願いします。れいペイで」

 

「あっ、ハイ。持ち帰りですね。二点で三百六十六円です」

 

「はい。お願いします。レシートいいです」

 

 

 スマホの画面を読み取ってもらい支払いを済ませ、店員さんが袋詰を行ってくれている間……気のせいでは無いだろう視線をつむじのあたりに感じる。全力でそれを無視して(かたく)なにうつむき続け、袋詰めが終わった気配を感じたところでようやく顔を上げる。

 

 

「こっ、……こちら商品、ありがとうございました」

 

「はい。ありがとうございます」

 

 

 さすがに不気味な客すぎたのだろう。一瞬引きつったような顔をした店員さんに、申し訳無さが更に一段階つのる。

 レジ袋に納められた二本の飲料を受け取り、失礼にならないように軽く会釈。顔を見られないように身を翻し、逃げるようにコンビニを去る。

 そのまま駆け足で原付まで戻り、シート下の収納庫に飲料を投げ込み、急いでヘルメットを被りセルを回しスタンドを戻し発進する。ここまでなんとか平静を保てていたと思う。

 

 ちらりとコンビニの自動ドアを見やると……幸いにも店員さんが出てくる気配も、こちらを伺っている姿も無い。

 かといって安心できるわけでもない。レジ付近に姿が無いということは、事務所に戻り電話を掛けているのかも知れない。

 

 

 どこへ。決まっている。交番だ。警察へだ。

 

 なぜ。決まっている。通報するためだ。

 

 誰を。…………決まっている。

 深夜に徘徊し酒を買おうとする……似合わない男物のコートを着た、怪しい子どもを……だ。

 

 

 

(やばいやばいやばいやばい……!!)

 

 

 左に曲がって道路に出てスロットルを思いっきり捻り、すぐにでもおれを追ってくるかも知れない『何か』から逃げるように……安全地帯である烏森(後輩)宅目指して全速力でかっ飛ばす。

 

 

 車両の姿がほぼ無い片側三車線の幹線道路を、おれは無我夢中で走り抜けた。

 

 

 

 

 

 




19時頃に更新します
おしごとがんばってね


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08【安全地帯】おれおれ!おれだって!

 今さらだが……本当に今さらだが、原付をかっ飛ばしてきたのは少々まずかったかもしれない。

 他に選択肢が浮かばなかったとはいえ、時刻はそろそろ深夜一時になろうとしている。こんな真夜中に住宅地にエンジン音を響かせるのは……根が小市民であるおれは、少々いたたまれない気持ちになってしまう。

 

 しかし、使ってしまったものは仕方ない。何度か停めたことのある駐輪場に原付を停め、コンビニで買った飲料ペットボトルの袋を提げてエントランスを進む。

 一・二階部分に都市銀行の支店が入ったこのマンションのエントランス近辺は、深夜でも安心できる光量で満たされていた。

 

 

 

(つ、い、た、よ……っと)

 

 

 REIN(メッセージツール)に短文を入力し、すぐに既読がついたことを確認。自動ドアの隣の文字盤に部屋番号を入力して『呼出』を押す。

 

 

 ――――ぴーんぽーん。

 

『ういーっすお疲れーっす! 開けまーす!』

 

「………………ぁ」

 

『どぞぉー! 玄関カギ開けとくんでぇー!』

 

 

 後輩にして同志である烏森(かすもり)の声とともに、すぐにエントランスの自動ドアが開かれる。

 幸いというかなんというか、この呼出しインターホンにはカメラ機能がついていない。そのため明らかに背格好のおかしい今のおれでも、REIN(メッセージツール)での到着報告との合わせ技で迎え入れてもらうことが出来た。……運が良かった。

 

 

 おれの通過を感知して、背後で自動ドアが再び道を閉ざす。空気の流れさえも止まり、静まり返った真夜中のエントランスにはおれ以外に動くものが無い。

 迎え入れてもらった安心感が浮かび上がると同時……彼との対面が刻一刻と迫ってくる事実に、次第に恐ろしさも浮かんでくる。

 

 

 おれだということを信じてもらえなかったらどうしよう。

 

 おれの身に起こったことを信じてもらえなかったらどうしよう。

 

 相談に乗ってもらえなかったらどうしよう。

 

 頭のおかしい奴だと取り合ってもらえなかったらどうしよう。

 

 

 

 ……追い出されたら、どうしよう。

 

 

 

 答えの出ない問いに堂々巡りを繰り返しながら……おれの内心に反して明るい廊下を、とぼとぼと進んでいく。

 ペットボトル二本を入れたビニール袋が柔い手の指に食い込み、じんじんと痛み始める。何度か持ち直しながら重い足を懸命に運ぶ。

 

 一歩一歩階段を上がり、解決しない不安が延々と頭の中を巡回し続け、疲労と心労とが積み重なる中……いつのまにか辿り着いていた終着地点。

 目の前には一枚の玄関ドアと、『三〇五』と書かれた表札プレート。玄関脇の換気ダクトからは換気扇からの排気が吐き出され、甘辛く香ばしい香りが辺りに漂っている。

 

 

(……大丈夫。……大丈夫。……きっと、大丈夫)

 

 

 何回か深く深く深呼吸し、おいしそうな香りを腹腔いっぱいに吸い込み、心を落ち着ける。

 大丈夫だ。いつも通り気楽に押し入り、軽く『おいーっす』とか挨拶するだけだ。いつも通りやればいい。何も恐れることは無いし、何も恥じる必要は無い。……よし。

 

 

 床に置いてあったビニール袋を右手で持ち上げ、左手を玄関ドアへ伸ばしドアノブに手を掛ける。エントランスのインターホンで言っていたように鍵は開いていたらしく、大した抵抗もなくスムーズに……いともあっさりと扉は開く。

 

 

 烏森の家には、何度か遊びに訪ねたことがある。一階と二階部分に都市銀行の支店が収まった、鉄筋コンクリート造マンション七階建ての三階、2LDKバストイレ別の築浅物件。

 入居テナントの都合上なのか地域の治安も良く、対面式キッチンと広めのリビングに独立洋間が二部屋と……独り暮らしで使うとあっては、とにかく非常に羨ましい物件だ。

 玄関ドアから入ったらまず左手に折れ、そのすぐ正面には水回りスペースの扉。その扉を開かずに右を向くともう一枚ドアがあり、更にそのドアの向こうがわ右手にキッチンスペースがあり……恐らく彼はそこに居るのだろう、フライパンで何かを炒める美味しそうな音と香りが漂ってくる。

 

 

(……あっ、靴脱がなきゃ)

 

 

 よそ様のお家に土足で上がり込むなど、現代日本では有り得ない。履き慣れてもいなければ当然脱ぎ慣れてもいない革長靴(レザーブーツ)を何とか脱ぎ捨て、ちいさな足でフローリングに降り立つ。火照った足裏にひんやりと冷たさを感じ、その刺激のおかげで幾らか気が引き締まる。

 大丈夫。やることは単純だ。廊下を進んで扉を開け、キッチンに居る彼に『よっ、お疲れ。いやーまいったよ何かいきなりこんなんなっちゃってさーハハハ』と自嘲すれば良いだけだ。

 

 何度目かわからぬ気合いを入れ直し、一歩一歩足を進めていく。

 ドアに手を掛け、ノブを捻る。ゆっくりと引けばドアは滑らかに開き……すぐそこの角の向こう側には、てきぱきと動きまわる男の気配を感じる。

 

 

 いつのまにか唾液は干上がり、喉はからからだ。ごくりと生唾を呑み込み、無意識に足音を忍ばせながら歩みを進めていく。

 

 後ろ手にドアを閉めるも慣れない身体で手元が狂い、ぱたんと小さな――しかし想定していたよりは大きな――想定外の音が、2LDKに響き渡る。

 

 

 その音は当然……すぐそこで腕を振るっている彼にも届き。

 来客を察知した彼が振り向くのも……まぁ、当然のことで。

 

 

「あっ、先輩お疲れーっす。もうすぐ……出来…………ま…………」

 

 

 おれの姿を見た彼が、こういう反応を返すだろうということも…………まぁ、当然なわけで。

 

 

 

「…………」

 

「……お、おっす」

 

「………………」

 

 

 左手にじゅうじゅうと音を立てるフライパンと、右手に菜箸を握ったまま、ぽかんという擬音が非常によく合う表情で……この家の主は完全に硬直している。

 こんな夜更けの闖入者に対し、彼は『誰だ』などと口にすることは無い。

 

 今のおれは不似合いな男物のコートを着込んだまま、しかしながらだぼだぼのフードを脱ぎ、特徴的な髪と耳と頬の紋様をさらけ出している。

 突如現れた闖入者が何者なのか……現代日本において有り得ない風体の少女が何者なのかは、彼だって充分よく知っている。

 知ってるが……よく知っているからこそ、ありえないことだと解るからこそ……だからこそこうして、思考が追い付かずに硬直しているのであろう。

 

 

「…………」

 

「…………えっと……」

 

「………………」

 

「……………………()()()()

 

「!? え……は、ハイッ!?」

 

 

 だからこそおれは……いつも呼んでる呼び方で彼の名を呼び。

 

 

 

「フライパン。……コゲるぞ」

 

「……………………あっ!?」

 

 

 

 悲劇を未然に防ぐことに……無事成功したのだった。

 

 

 

 

 




明日朝7時頃また更新します
よい週末を


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09【安全地帯】ここならきっと大丈夫

 

 時刻は既に深夜、一時を大きく回っている。

 そんな真夜中にあってなお明るく、かつ温かく、かつ安らぐ後輩宅のリビングにて……おれは()()()()とお行儀よくソファに()()()している。

 

 浪越(なみこ)神宮(かみや)区の某所、フリーの神絵師(イラストレーター)『モリアキ』こと烏森(かすもり)(あきら)の自宅マンションのリビングにて……深夜にもかかわらず随分と手の込んだ晩餐の用意が、無様にも酒の調達に失敗したおれを優しく出迎えてくれていた。

 

 

「先に飲み始めちゃって良いすよ先輩。…………先輩……いや、ブフォッ、先輩が……ちっちゃ、かわい……わかめちゃブフッ、りんごジュース……」

 

「畜生カスモリてめえ! 笑うなら堂々と笑えよ!! クッソ腹立つ!!」

 

「ブッフォはははははははははは!!」

 

「ああもう【静寂(シュウィーゲ)】! 笑い過ぎだろ畜生!! 声デケェよ夜中だぞバカ!!」

 

 

 一体何がそこまでツボに入ったのか……涙さえ滲ませながらも、その手はてきぱきと動き続ける。

 何やら炒めていたフライパンを火から下ろしてガス火を止め、フライパンの中身を皿に空ける。そこから更に何度か噴き出し(わらい)ながらもフライパンを軽く水で(すす)ぎシンクに沈め……出来上がった料理の皿を携え、烏森が食卓へと現れる。

 意識せずとも睨むような視線になったおれを微塵も気にせず、苦笑しながら料理をテーブル中央に置き、彼は『どっこいしょ』とオジさん臭い掛け声と共に腰を下ろす。

 

 

「ブフッ…………いや……()しましょう。スミマセン先輩、お疲れ様です。……()()()

 

「…………悪い。お前以外に相談出来そうに無くて」

 

「そりゃそうでしょうね。オレも配信見てましたよ……最初こそポリ数スッゲェなーとは思ってたんすけど…………いや……まさかこんなコトになってたなんて」

 

「……実際何ポリくらい必要だろうな」

 

「作るとしたら『シンゴジ』くらい要るんじゃないすかね? アカリちゃんの比じゃないっすよ多分。髪だって一本一本サラッサラ靡いてましたし。……コメ欄の反応やばかったすよ」

 

「あぁ。見てた……気にして貰えたこと自体は、普通に嬉しいんだけどな……」

 

 

 実際、このクオリティの……ほぼ実写レベルの精度を誇る3Dモデルを作成するとして。リアルタイムで演者の挙動を反映させるレベルの代物は、この時勢でも殆ど存在しないだろう。

 視聴者はまず何よりも、()()()()()()()()()振る舞う仮想配信者(UR-キャスター)に対し、ある疑問を抱いたことだろう。

 

 ()()は、本当に仮想配信者(UR-キャスター)なのか……と。

 

 

「…………取り敢えず食べましょ。先輩酒は……飲めます?」

 

「当然飲めるに決まってんだろ。こちとらアラサーやぞ」

 

「ウ―――ン……じゃあちなみに明日……てか今日か。何か予定あります?」

 

「ない。あっても行かない」

 

「何()ねてんすか。笑かせないで下さいよ。……『ゆる酔い』で良いすか? 白ぶどう」

 

「おう。くれくれ。……悪いな」

 

「なんのなんの。ではまぁ……初放送お疲れ様です」

 

「ん。乾杯」

 

 

 コツン、と缶どうしをぶつけ、真夜中の宴が幕を開ける。思えば配信が終わってから何も口にしていなかったし……更に(さかのぼ)ってみれば、夕方頃にこの身体で目が覚めてから、何も食べていなかったように思う。

 やや強めに焦げ目がついた鶏モモの照り焼きを、付け合わせのマッシュポテトと一緒に口に運ぶ。塩気の中の微かな甘味と、大蒜や黒胡椒の刺激が丁度良い。相変わらずの結構な腕前だが……これはツマミというよりも立派な主菜だな、米が欲しくなる。

 

 缶酎ハイをぐびっと煽ると濃いめの味がさっぱりと流され、爽やかな甘味と炭酸の刺激がスーっと入っていく。

 一山越えたあとの解放感と、美味い飯とアルコール。やはり実に気持ちがいい。

 経緯はどうであれ、長年の悲願であった『あの子』のお披露目に成功したことは間違い無い。今後色々と考えなければいけないことも多いだろうが、とりあえず今はそれを喜ぶことにしよう。

 

 

「あ―――(トリ)美味(うめ)ぇ――……」

 

「先輩言動がめっちゃおっさんっすね」

 

「当たり前だろおっさんなんだから」

 

「いやー……説得力無いっすよ」

 

「…………そっか。……そうだな。…………ていうか今更だけど、よく『おれ』だって信じてくれたよな」

 

「そりゃーだって『若芽ちゃん』の容姿そのまんまですもん。他の容姿ならともかく……オレ以外に『若芽ちゃん』を知ってる人は先輩だけですし。……あ、いや…………()()()し」

 

「……そうだよな。…………やっと、始まったんだよな」

 

 

 計画を立てて後輩(モリアキ)に持ち掛け、設定にデザインに試行錯誤を繰り返した日々。ほんの一週間と少し前までは『木乃若芽ちゃん』の詳細データを知る者など……おれ達二人を除いて存在しなかったのだ。

 出資者の方々には幾らか情報を渡しているとはいえ、本公開まではそれでも殆どを伏せてある。おれたち二人以外の人間が得られる情報は限られており、完璧な『木乃若芽ちゃん』を再現するなど不可能なのだ。

 

 だが……昨日。というか、ほんの数時間前。

 恐らく『大成功』と言っても差し支えない初回放送を経て、その知名度は爆発的に上がった筈だ。

 

 

SNS(つぶやいたー)の方でも盛り上がってましたよ。後でハッシュタグ覗いてみて下さいよ。……あ、そうだホラ! 見て下さいこれ! 記念すべき若芽ちゃんFA(ファンアート)第一号ですよ!!」

 

「お……? おお―――!! ……ってコレ描いたの公式(モリアキ)じゃねえか!!」

 

「いやーバレちゃいましたか! ……しょうがないじゃないすか。オレだってファンなんすから」

 

 

 微塵も悪びれず、屈託のない笑顔を見せる烏森。……思えば彼には色々と助けて貰ってきた。

 キャラクターデザインの監修も、立ち絵や設定画や広告用イラストの作成、さっきのような応援イラスト(ファンアート)の作成も。

 またそれ以前にも……計画段階だった頃には、夜通しの作戦会議に付き合ってくれたり。今日のように手料理を振る舞ってくれたり。本業を横に置いてまで議論に応じてくれたり。

 

 本当に……彼が居てくれて、良かった。

 

 

「……ありがとな、モリアキ。あと……これからも、よろしく」

 

「うっす。…………それはそうと、先輩」

 

 

 見れば……烏森は先程から、何やら様子がおかしい。缶ビールを片手に視線をあちこち彷徨わせ、いかにも何か言いたげな様子だ。

 言いにくいことでもあるのだろうか。とはいえ、これまでは彼の助言に助けられたことも数多い。おれの考えの及ばぬところを的確にフォローしてくれる彼には……言葉にこそ気恥ずかしくて出さないが、全幅の信頼を置いていると言っても過言じゃない。

 つまるところ……彼の指摘は正直、非常にありがたいのだ。思うことがあるのなら、何なりと言ってほしい。

 

 ……そんな想いが通じたのだろうか。

 彼はやがてチラチラとこちらを伺いながら、おずおずと口を開いた。

 

 

「先輩。………………見えてます。パンツ」

 

「は? あっ」

 

 

 気心の知れた相手との酒の席だ。腹も満たされ酒も回り、ついつい()()()()()()()気が緩んでしまったことは確かだろう。

 気がつけば裾の長いローブとスカートを太腿まで捲り上げ、ソファの上で片胡座(あぐら)をかき酒とつまみをかっ喰らっていたようだ。

 

 …………どうやら気を抜きすぎるのは……()()()()()()()言動を取るのは、色々と宜しくないらしい。

 

 ……けども。

 

 

「……まいっかパンツくらい」

 

「エッ!!? 良いんすか!?」

 

「まぁ良いけどよ……でもお前、二次専じゃなかった?」

 

「だって『若芽ちゃん』のパンツっすよ! 別腹ですって!」

 

「……気持ちは解らんでも無いな」

 

 

 もしこれが正真正銘の『若芽ちゃん』だったら……あの初回配信であったように可愛らしく恥じらってくれるのだろう。

 しかし残念なことに、おれは三十二(アラサー)のおっさんなのだ。烏森(コイツ)とは夏場エアコンの壊れた部屋でパンイチ原稿合宿を戦い抜いた間柄であるし、何なら創作仲間何人かで温泉旅行に行ったことだってあるし……そうなるともはやパンイチどころの話ではない。大事なところまで曝け出した間柄なのだ。

 というか……そもそもが気心知れた仲間同志、しかも同年代の男性どうしとあっては――それこそ全裸でもない限り――恥じらいなどそうそう感じるものでもない。

 

 おれにとっては特に被害を被るわけでもなく、むしろ普段どおりの体勢でくつろいでいるだけ。

 それで烏森(恩人)が喜んでくれるというのなら……恩返しというわけでもないが、まぁいいだろう。

 

 

「じゃあいいよ。パンツ見せたるからFA(ファンア)また宜しく。何ならモデルでもやるか?」

 

「ゥエッッ!? マジっすかヨッシャ!! ……えっと、ちなみにレーティングは?」

 

「当面はパンツまでだな。……っていうか公式が発禁(R-18)描いちゃマズいだろ」

 

「ダメかァ――――!!」

 

 

 オーバーリアクションで天井を仰ぎ、背もたれに体重を掛け脱力する神絵師(イラストレーター)、モリアキ氏……そんなにもショックだったのかと若干いたたまれない気持ちになるが。さすがにまだそういう時機では無いだろう。

 尤も……需要があるようならば、そっち方面でのアピールも吝かでは無い(あり得なくは無い)が。

 

 可笑(おか)しくも賑やかな『親』どうしの語らいは尚も続き……温かな夜はゆっくりと更けていった。

 

 

 彼が受け入れてくれて……本当に良かった。

 

 

 





また19時頃更新するかもしれません
よろしければ宜しくお願いします


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10【作戦会議】どうしたらいい?

 

「それはそうと……これからどうすんですか? ……先輩」

 

「んも?」

 

 

 二本目の缶酎ハイを空けた上で料理をあらかた堪能し、(シメ)の玉子雑炊をはふはふと掻き込んでいたおれに、どこか神妙な顔で同志烏森(かすもり)が切り出した。

 ちなみにこの玉子雑炊はおれの要望(わがまま)を聞いた彼が、卵とレトルトごはんと中華スープペーストを駆使してほんの五分で仕上げてくれた一品だ。超早いくせにふつうにうまい。すき。

 

 

 それはそうと……どうするのか、か。

 『出来ればシャワー借りて、あわよくば泊めてほしい』……とかそういう回答を想定しているんじゃ無いってことくらいは、酔いの回ったおれの頭でもさすがに想像がつく。

 『引き続き配信を続けていきたい、収益化目指したい』とか、そういう回答を求めてるんじゃないことも解る。そもそもこれは根幹の行動指針であり、おざなりにするという選択肢は最初から無い。

 

 それら以外が示す『これから』。

 彼の性格を鑑みるに……おれの身の上を心配してくれてるというのが、気恥ずかしいが正解だろう。

 

 

「ぶっちゃけ……原因が解んねえからな。元に戻る方法を探そうにも、前例無いだろこんなの」

 

「まぁ、聞いたこと無いすね……おじさんが美少女になるとか、それこそ創作(ファンタジー)のお話っすよ。てか原因解んないんすか? どうしてこうなったか」

 

「解んねんだよな。死のうとしてベランダに出たまでは覚えてるんだけど……気がついたらこう」

 

「え、ちょ、ちょ、ちょ!? 死……えっ!?」

 

 

 

 そういえば……あの大事件のことを彼に伝えていなかった。

 ここ半年の仕込みが一瞬で消し飛んだ、あの悪夢のような事件。嵐によるものか落雷によるものか解らないが、突然の停電に端を発する『木乃若芽』消失事件。

 

 その前後関係を改めて……当時のおれの心境を可能な限り思い起こしつつ、同志でありもう一人の『産みの親』であるモリアキに伝える。

 

 

 

「……ってな感じで。もう本当、気が付いたらこうなってたとしか言いようが無くて。何が起こったのかとか全く解んなくて」

 

「ええと、つまり…………その……『願いが叶っちゃった』ってコト……っすか?」

 

「…………そう、いう、コト……なのか?」

 

「さぁ…………」

 

 

 他に心当たりが浮かばない以上、そう考えるのが一番しっくり来るような気がする。どういう因果かおれの願いを……『俺の代わりに()()()が生きていれば良いのに』という嘆きを、何者かが聞き届けてくれたらしい。

 

 そこまで考えて……ふと疑問が浮かぶ。

 よくわからない超常の力によって深層心理の望みを叶える、謎の存在……そいつによって願いを叶えられた者は、果たしておれだけなのだろうか。

 

 

「モリアキは……何が変化っていうか、『願いが叶った』みたいなのあるか? 昨日の夕方、何か無かったか?」

 

「やー特に無いと思います。昨日の夕方は…………()()ですね。納品近い案件あったんで」

 

「……誰でも『叶った』って訳じゃ無いのか…………って、締切大丈夫なのか!? ……わるい、そんな忙しいのに」

 

「大丈夫っすよ、もうほぼ完っす」

 

「ほんとごめん。埋め合わせすっから。おれに出来ることあったら何でも言ってくれ」

 

「先輩今何でもって言いましたよね?」

 

「常識の範囲内で何でも言ってくれ」

 

「ですよねぇー!!」

 

 

 とりあえず解ったことは……到底理解が及ばない現象であるということだけ。対処法はおろか原因さえも不明、元の身体に戻れるのかどうかも不明。しかし『願いを叶えてもらう』プロセスが不明である以上……まぁ、正直望み薄だろう。

 

 幸いというべきか、日常生活を送る分には問題無さそうだった。この身体でもいつも通りの行動を――運動も呼吸も食事も会話も――何不自由無く行うことができる。

 最大の懸念であった『配信』を行うためのアバターに関しても……3Dモデルではなく()のおれだったとしても、『木乃若芽ちゃん(このキャラクター)』の()()のお陰だろうか、問題なくやっていけそうだと思う。

 

 

 

 というのも……仮に、仮に謎の存在によって、おれの願いが叶えられたのだとして。

 おれが願ったことは要するに、おれ自身が『若芽ちゃん』というキャラクターになる……ということ。

 

 つまりは……この『若芽ちゃん』と成り果てたおれには……『若芽ちゃん』のキャラ作りとして設定してあった情報が、すべて反映されているのではないだろうか。

 

 

 『様々な魔法を容易く操る、幼げな見た目に反して超熟練の魔法使い』『魔法情報局の局長として番組を完璧に仕上げ、放送をスムーズに完遂させる技量を持つ』『総じて極めて器用な反面、ふとしたことで心の平静を欠くと途端にポンコツと化す』『実年齢百歳だからとお姉さんぶってるが、人間年齢換算ではまだ十歳相当』等々々(などなどなど)……『若芽ちゃん』を魅力的なキャラクターとするために仕込んだそれらの設定ごと、おれの身体にフィードバックされたのだとしたら。

 

 放送開始直前になって急に心が落ち着いてきたのも、完全に忘れてしまったはずの台本がはっきり頭の中に浮かび上がったのも、放送に必要な吹出(バルーン)看板(テロップ)を『魔法』を駆使して意のままに操れたのも、器用な性格とポンコツな性格の二面性を垣間見せたのも……全てそれらの『設定』ごとキャラクターを引き継いだからだ、ということなのであれば…………

 

 

 計画を進めていくにあたって、非常に大きなアドバンテージとなるであろうことは……想像に難くない。

 

 

 

「…………モリアキ」

 

「はい?」

 

「……おれの配信、さ? その…………お、おもしろかっ」

 

「おもしろかったです!!!」

 

「おおう!?」

 

 

 若干食い気味に告げられた感想に少々面食らうも……そのまっすぐな感想は間違いなく嬉しかった。

 神絵師(イラストレーター)として生計を立てている彼は、こと創作に関しては非常にシビアかつストイックだ。仲間内での合宿や披露会でも――遠慮の不要な間柄の者には――遠慮無く意見や指摘をぶち込んでくる。しかも彼自身の技量自体は『神』と呼ばれ敬われる程……指摘された箇所は実際じつに理に適っている上に理解しやすく、指摘される側にとっては非常にありがたい指導なのだ。

 

 ついた愛称は……モリペン先生。

 そんなモリペン先生が太鼓判を押してくれたのだ。これは小さくない自信の源となるだろう。

 

 

 この身体(アバター)の性能であれば……モリペン先生お墨付きの『おもしろい』配信を続けていくことも、恐らくはそう難しく無いのだろう。

 

 

 

 ……まぁ、それはそうとして。

 

 当面の行動方針と現状把握を済ませ、以前と変わらず頼れる同志を再認識し、とりあえずひと安心するとともに……激動の一日を乗り切った身体が、ついに限界を迎えたようだ。

 

 

 

「ぐ…………モリアキ、ごめん。……どっか寝るとこ借りていい?」

 

「あらら……先輩、おネムっすか?」

 

「もうらめぇ、(眠気)しゅごいよぉ、もぉわらひ(意識)とんじゃうのぉ」

 

「今その身体で言われると割とシャレになんないですって。……いつもの客間使っていいすよ。布団も確かちょっと前に干したばっかなんで」

 

「……や、汗かいてるから……汚すと悪いって。バスタオル貸してくれ、それ敷いて床で寝る」

 

「何言ってんすかそんな……疲れ果てて玄関で寝るオッサンじゃないんすから」

 

「ばか野郎おれはおっさんやぞ。なめんなよおれ床でだって余裕で寝るし。なんならパンいちで寝るし」

 

「何の張り合いしてんすか……後生っすから服は着ててくださいよ……」

 

 

 何だかんだ言いながら彼は洗面所へ消え、すぐに戻ってくるとその手には大判のバスタオルを抱えている。以前のおれならばともかく、今のおれならば充分に敷布(シーツ)代わりに使えるサイズだ。

  モリアキはそれを二枚重ねて広げ、ソファとローテーブルの間、毛足の長い絨毯の上に敷く。

 

 

「はいはい寝床の準備が整いましたよー」

 

「うむ、くるしゅうない」

 

 

 お言葉に甘えてもぞもぞと横になり、ここまで着てきたダッフルコートを掛け布団代わりに被る。

 絨毯の恩恵か二枚重ねの賜物か、意外なほどに心地よい。どんどん身体と瞼が重くなり、あとほんの数瞬で眠りに沈むことを本能が察する。

 

 ……そういえば、食いっぱなしの飲みっぱなしだ。準備から後片付けまで、結局全て丸投げしてしまった。

 

 

「もり…………わり、かたづけ……」

 

「いいすから。……疲れたでしょう、休んで下さい。もう夜遅いです」

 

「んん…………あり……がと」

 

 

 結局お礼さえまともに告げられないまま……おれの意識は深い眠りに沈んでいった。

 

 

 ……起きたら、がんばろう。

 あと……いっぱいお礼言おう。

 

 

 





明朝7時に更新します
しばらくはこんな感じのパティーンになると思います
よろしければ宜しくお願いします


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11【作戦会議】…………どうしよう

 

 

 

 ―――種が、ある。

 

 

 ひとつやふたつではない。……いっぱい。ぱっと見数えきれないほどの種が、真っ暗な空間に浮かんでいる。

 

 まぎれもない種だ。種だと思う。つやつやした黒い表皮に覆われた、アボカドの種のように真ん丸の……得体の知れない何かの植物の、種。

 ぱっと見は卓球(ピンポン)玉のように見えなくもないが……何故かは解らないが、()()が植物の特性を秘めているということを直感的に悟った。

 

 それらは……真っ暗なだだっ広い空間のあちこちに、ふわふわと緩やかな上下運動を続けている。

 流されるでもなく。飛び散るでもなく。ただ同じ地点……高度以外の座標を維持するように、じっと浮遊している。

 

 

 …………ふと。

 それまでは上下移動しかしていなかった種が……いきなり一つだけ、水平方向にも移動するようになった。

 いや……続いて、もう一つ。さらに続いて、もう一つ。それら以外のほとんどの種は、相変わらずその場にふわふわと浮かび続けるだけ。

 

 

 どういうことだろう、何が起こったんだろうと……動き出した三つの種を、注意深く観察してみる。

 艶やかだった黒一色の種には縦一文字に亀裂が走り、その隙間からは赤々とした根っこが少しずつ少しずつ伸びている。

 

 つまりは……どうやらこの種は、根っこを張り巡らせようとしているらしい。

 

 

 真っ黒な種が、その根っこを張り巡らせようとしている()()。突然動き出した種が取り付いた、自在に動き回るその培地。

 

 おれは…………()()を、()()()()を……嫌というほどよく知っている。

 

 

 血のように赤い根を伸ばす、炭のように黒い種の……寄生先。

 

 それは……紛れもない、人間(ニンゲン)だった。

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

「…………………あれ」

 

 

 嗅覚に飛び込んできた刺激によって、急速に意識が引き上げられる。

 うっすらと開いたまぶたの隙間からは、カーテン越しの控え目な光が飛び込む。もぞりと身じろぎ思いっきり伸びをすると……背中と尻の下に、何やら柔らかい敷物の反発力を感じる。

 

 

「…………あれ? おれ…………床で……」

 

 

 目覚めた場所は……今やおれの身体となっている『木乃若芽ちゃん』産みの親の一人、神絵師モリアキ氏の自宅マンション。

 身体の下に敷くバスタオルを借り、リビングの床で眠りについたはずの身体は……いつの間にかソファ(を変形させたベッド)の上に。しかも駄目押しとばかりにふわふわの毛布まで掛かっている。

 

 疲れていたとはいえ。酒が入っていたとはいえ。おれの身体が以前より軽くなったとはいえ。

 眠っているおれに一切気取らせずに()()()()()をやってのける紳士(あいつ)に、どこか末恐ろしいものを感じてしまった。

 

 

「あらら…………おはようございます、先輩。……すみません、ちょっとうるさかったすかね?」

 

「んや……音じゃなくて……うまそうなにおいが」

 

「今の(サバ)はウマいっすからねー! 身体は休まりました?」

 

「……わるぃな、ソファ。……ありがと」

 

「いえいえ。まぁお客様ですんで。そのためのソファベッドですし」

 

 

 本当に……こいつは気配りとおもてなしの鬼か。彼女の一人でも居たっておかしくないハズなのに。こいつの性格と収入なら女の子だってよりどりみどりだろうに。……二次専なんだよなぁ勿体無い。

 まぁ『至近距離で堪能させてもらいましたんで』との発言は……頂いた快眠に免じて、この際聞かなかったことにしてやろう。

 眠りを妨げられたわけでもなし、寝顔を見られるくらい三十二(アラサー)のおっさんにとっては何ともない。原稿合宿の再来だ。()()だ。

 

 

「すんません、朝メシもうちょっと掛かります。……あと三十分もあれば米炊けるんで」

 

「あんら、そうかい……いつもすまないねぇ……」

 

「……まったく、お爺さんや。それは言わない約束でしょう」

 

「ところで婆さんや……シャワーを借りてもよいかのう」

 

「ええ、ええ、良いですとも。……あ、バスタオル適当に使っていいすよ」

 

「助かる。正直止めどころに悩んでた」

 

「終わりが無いっすもんね、爺婆(じじばば)RP(ロープレ)は」

 

 

 

 他愛の無い朝の会話に小芝居を挟みつつ、浴室使用の許可をあっさりと得る。本当に何から何まで世話になりっぱなしだ。

 

 水回りスペースの引き戸を開けて、洗面脱衣室へとたどり着く。入って正面の洗面台には曇りの無い鏡が据え付けられ、改めて自分の身体が変わり果ててしまったことを思い知らされる。

 

 

 何よりも、視点の高さからしてまず違う……ぱっと見たところ百三十前後だろうか。……いや、()()では百三十四㎝だったハズだ。仮に『若芽ちゃん』の設定が反映されているとすれば、恐らく今のおれの身長も百三十四㎝なのだろう。

 

 背丈は当然として……もっと問題なのは、こっちだ。

 つやつやと光り輝く若葉色の長い髪、人間には有り得ない程に長く尖った耳、右頬にちょこんと刻まれた神秘的な呪紋、きらきらと深い輝きを湛える翡翠色の瞳。

 誰がどう見ても人間離れした……しかし非常に可愛らしい、幼いエルフの少女が()()に居た。

 

 ……自信を持って、断言する。

 今のおれは……非常に、目立つ。

 

 

 いつまでも静止(フリーズ)してはいられない。米が炊き上がるまでにシャワーを済ませなければ、せっかくの朝御飯を台無しにしてしまう。

 ローブ各所の締め紐をほどき、身体のラインに沿ったそれを()()()と脱ぎ去る。その下から姿を現したのは、どことなくファンタジーテイスト溢れる菫色の半袖シャツ。……やはりこれも()()()()だった。

 であれば……ほぼ間違いないだろう。シャツの裾から顔を出している濃茶色のタイトスカートの下には、かざりけの無い単純な(子供っぽい)デザインの下着(パンツ)が装備されているハズであり……一方それとペアであるべき上半身の肌着は、この子には実装されていない。無慈悲である。

 

 自らの設定を確認しながら、真っ赤になる顔を無理矢理意識の外に追いやりつつ……鏡を見ないように気を配りながら脱衣を続けていく。

 若芽ちゃんの裸身なんてまじまじと見つめてしまった日には……たぶん、おそらく、まちがいなく、おれはおかしくなってしまうことだろう。

 だから……見ない。視界に入るのは仕方ないが、凝視せずに無理矢理流すことにする。幸いなことに起伏があまり無いこの身体は、さしたる苦労もなく着衣を脱ぎ去ることに成功した。

 

 

 しかしながら……改めて思うと、おれの仕出かした粗相と家主(モリアキ)の寛大さが際立つようだ。

 

 昨晩はかなりばたばたしていたこともあり、初配信の際にかいた汗がそのままだったので……もしかしなくても結構湿っていたし、少なからずにおっていたと思う。

 本当なら礼儀として、眠りに落ちる前に身を清めるべきだったのに……眠気にあっさりと負けてしまったのだから始末に負えない。ぶっちゃけ非常に情けない。汗くさい身体のまま絨毯の上で眠るとか、冷静に考えればちょっとヒトとしてヤバいと思う。酒が入っていたとはいえ非常識なおれの要望に、それでも嫌な顔ひとつしなかった烏森(かすもり)は……本当に菩薩か仏かそれ系の何かだと思う。

 

 まぁ、何らかの形でお詫びとお礼はするとして……今はとりあえず身体を綺麗にしなければ。

 というか、泊まりに来た際は度々使わせて貰っている浴室だが、いつ借りても綺麗に掃除されているのは本当にすごいと思う。隅々まで掃除が行き届いており、整理整頓定置管理もキチッと行われている。

 

 

 新築物件のようにきれいな浴室に足を踏み入れ、幼いエルフの裸身を写し出す鏡が視界に入り…………おれは身体ごと真横を向き、全力で鏡を見ないように身体を洗い始めるのだった。

 

 焦がれ続けた可愛い女の子の全裸である。

 直視するにはあまりにも……あまりにも、刺激が強すぎた。

 

 

 

 

 …………中略。

 

 

 

 

 具体的な描写は割愛するが……決して少なくない苦労と葛藤との末、おれは目をつぶりながらもシャワーと洗髪を済ませることに成功する。

 

 ここまで体感時間で……たぶん二十五分ほど。なかなかいい時間というべきかギリギリというか。

 ここまで来ればあとはもう一息だ。烏森(かすもり)の善意に甘んじてバスタオルを借り、身体の水けを拭き取って…………

 

 

 …………拭き、取って…………?

 

 

 

「…………やっっっっば」

 

 

 綺麗に整えられた、烏森(かすもり)宅の脱衣場。

 

 衣類籠に入っているのは……先ほど脱ぎ散らかした、汗まみれの衣類と下着。……それだけだ。当たり前だ。

 

 

 シャワーを浴びたことでようやく活性化し始めたおれの頭が、危機的状況を無慈悲に告げる。

 周囲の全ての状況から判断される結論が、どうあがいても絶望的であると……何度思考を試みても無駄であると、賢いこの頭は無慈悲に告げる。

 

 落ち着いて考えれば……当たり前だろう。当然だろう。

 見渡しても、考えても、現実は何一つとして変わらない。

 

 

 

 ()()()()が無いという事実は……残念ながら、(くつがえ)りそうに無かった。

 

 

 



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12【非常事態】パンツが無いから

 

 

 考えるまでもなく当然だろう。未就学の子どもでも常識として弁えているだろう。むしろ何故()()()()に思い至らなかったのか、我ながら疑問だ。もはや抜けているとかそんな次元じゃないと思う。

 

 ()()()()()()前にも烏森(かすもり)宅の風呂場を借りたことはあるが、そのときはちゃんと替えの下着を持参していた。当然だ。

 原稿合宿のときも当然、数日分の下着とタオルと洗面用具は持参していた。週末の宅飲みからの寝落ちからの翌朝シャワー拝借の際も、最低限替えの下着類は持ってきていた。当然だ。

 『お泊りセット』などと言うほど大それたものでもないが……丸めて纏めてポーチの一つに収め、ついでに髭剃りと洗顔フォームをねじ込んだ『お泊りポーチ』とでも呼ぶべきものを、浴室を借りる際にはいつも持ち込んでいた。……当然だ。

 

 

 だが……今回は。昨晩は。

 夢うつつの状態で配信を終え、縋るような気持ちで烏森(かすもり)に連絡を取り、コートを羽織り財布とスマホと鍵のみを引っ掴み、原付に飛び乗って飛び出してきた。

 

 お泊り定番の『お泊りポーチ』を持ってきた記憶は無いし……そもそも頼みの綱の『お泊りポーチ』に収まっている下着は、当然()()()()()()()()なわけで。

 

 

「サイズ合うパンツ……持ってるわけ無えじゃん……」

 

 

 いや、それどころじゃない。パンツどころじゃない。そもそもが……この身体に合う着替えなんて『配信』用衣装以外に持っているハズが無い。

 そしてその、現状持ち合わせている唯一の服は――昨晩まる二時間に渡る全身運動の際、おれの身体から排された老廃物をふんだんに含んだ、紛うことなき『汚れもの』は――脱衣場の片隅の床に、ごちゃっと纏められ鎮座している。

 

 ……百歩、いや千歩譲って。()()に再び袖を通さなければならないとして。

 ローブはまだしも……あそこまで盛大によごれて汗で湿ったパンツとシャツを再び身につけるのは、ヒトとしてちょっと抵抗がある。

 

 

 ……なので。

 

 

「……バレへんバレへん」

 

 

 気持ち()()()とする気がしなくも無いが……背に腹は代えられない。肌着代わりの半袖シャツに袖を通さず、素肌に直接魔術師風のローブを身につける。

 

 しかしながら……ここでひとつ問題が。

 この魔術師のローブだが……脇の下から脇腹部分と裾の一部は、紐を絞ることである程度サイズを調整できる作りになっている。スニーカーの靴紐部分のような感じ、と表現すれば伝えやすいだろうか、二枚の布地を紐で継ぎ合わせる構造となっているので…………つまり、その、あれだ。脇の下から脇腹部分は、現在素肌が覗いているわけだ。

 

 ……見られて恥ずかしい部分が直接見られる訳じゃないので、とりあえずは我慢するしか無い。まるだしよりは圧倒的にマシである。

 とはいえ、勿論あくまで繋ぎにすぎない。実際このローブだってすぐにでも洗濯したい程なのだ。なるべく早く衣類を確保しなければならないだろう。

 

 

 しかしまあ……先の展望は置いておいて。

 下着肌着無し(ノーパンノーブラ)という極めて危うい状況だが……とりあえずシャワーを借りたことでスッキリすることが出来た。時間もそろそろ三十分経ってしまった頃だろう、よごれものを一纏めにして脱衣室を後にする。

 むき出しの脇腹と股間部に触れる冷たい空気が、妙に気になって仕方ない。

 

 

「ごめん、お待たせ」

 

「あっ…………先輩」

 

 

 リビングスペースに繋がる扉を開けると、そこには炊きたてのご飯をよそっている烏森(かすもり)の姿。

 こちらの姿を認めた彼は動きを止め、何か言いたげに思案している様子。

 

 

「んえ……な、何? どうした?」

 

「……いえ、先輩……余計なお世話だったらすみません」

 

「……お、おう」

 

「着替え、持ってますか?」

 

「………………………」

 

 

 持ってません。持ってないのにシャワーを借りました。なので今はノーパンノーブラローブです。恥ずかしいです。……と事実をありのまま伝えることは憚られ、曖昧な笑みを浮かべて力無く首を左右に振る。

 だがそれでも彼は、どうやら今のおれの装いと手に抱えている()()()()を見て全てを察してくれたらしく……

 

 あっけらかんと、言ってのけた。

 

 

「パンツ、使います?」

 

「は?」

 

「若芽ちゃんはまだ小さいすから……子供用で大丈夫っすよね」

 

「は?」

 

「あ、当然ながらちゃんと新品未開封っすよ。安心して下さい」

 

「は?」

 

 

 ちょっと何言ってるのか解らないですね……。

 

 



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13【非常事態】やっぱ恥ずいわ!


無罪!無罪です!



 

 ……なんということはない。どうやらトルソーに着せる用に調達した、資料用のパンツだったらしい。

 

 

 彼に導かれるまま仕事部屋に足を踏み入れ、クロゼットを開ける。

 するとそこにはプラスチック六段の衣装ケースと、その隣に鎮座するトルソー――ヒラッヒラのロングワンピースをお仕着せさせられた胴体部分のみのマネキン人形――が収められていた。

 

 おもむろに烏森(かすもり)がロングワンピのスカートをめくると……なるほど確かに。つやつやしたプラスチックの白い素肌を覆うように、薄ピンクのパンツが履かされている。

 

 

 

「いやーその……このトル子ちゃんに着せる用にパンツもですね、デザイン別で何枚か買っといたんすけどね。…………ぶっちゃけ皺の入り方とか影の付き方を見る分には、履かせる一枚だけあれば充分だったっていう……」

 

「まぁ……柄とか質感とかは履かせなくても解るからな。カタログとかでも良いわけだし。…………なるほど納得した。おれはてっきりモリアキが女装に目覚めたのかと」

 

「いやーオレは見る専描く専っすわ。ああいうのは向いてる子がやるべきなんすよ。オレは違うっす」

 

 

 などと宣いながら衣装ケースの引き出しを開け、大手通販サイトのロゴが押されたメール便の封筒を引っ張り出す。その中に収められていたのは……確かに未開封らしい女性用下着。

 広がった状態で一枚一枚フィルムで梱包されており、大きさと柄がよくわかる。確かにこのサイズなら丁度良いだろう。……ほんの少しだけ大きいかもしれないが。

 

 いや、それにしても……作画用の資料と言われればそれまでなんだが……なんというか、予想外というか。

 

 

「……いや、まぁ…………そういう反応される気もしてたんで、なるべくなら身内にも隠したかったんすよね。……ただ、落ち着いて考えたら先輩着替え持ってるわけ無いし……着替えたいでしょうし…………オレも知っちゃった以上、見て見ぬふりは出来ませんし。今先輩の助けになれるのは、オレだけな訳ですし」

 

「おま…………神か……」

 

 

 困ったように笑みを浮かべながら女児用下着(パンツ)を差し出す、三十代の独身男性。

 世間的に見れば明らかにアウトな光景だろうが……今のおれにとっては間違いなく、この上なく神々しい存在だった。

 

 あぁ……わが神はここに居た。

 

 

 

…………………………………………

 

 

 

 無事に下着(パンツ)を手に入れ、下半身の安寧を享受することが出来た。上半身は地肌にローブなので万全とは言い難いが、下着(パンツ)一枚身に付けただけでも安心感は桁違いだった。

 まぁ確かに、上半身裸には慣れているがノーパンFullChinには抵抗があるし……そういうことなのだろうか。まぁもう俺にChinChinは無いんだが。ハハッ。

 

 

 

「いただきます」

 

「はい。どうぞ」

 

 

 気を取り直して、念願の朝ごはんに取りかかる。

 誰が見ても完璧であろう、抜かりの無い朝食メニューに……深い深い感謝を捧げながら箸を伸ばす。

 

 この品々を用意してくれた烏森(かすもり)本人はしきりに謙遜していたが、独り暮らしの男性がここまで用意できる時点でまず尊敬に値する。

 おれ自身も料理は好きなほうだが、あくまで趣味として嗜む程度。凝り性だが手際は悪く、日常的な食事の支度はどちらかというと苦手なほうだ。

 だが一方、烏森(かすもり)はひたすらに手際が良い。一汁三菜プラスアルファを僅かな時間で揃えるなど、独り身にしておくのが惜しい逸材だろう。

 

 曰く『米研いでスイッチ押すだけっすよ』という白米はまだ良いとして……曰く『塩振っといたのをロースター並べてタイマー捻るだけっすよ』らしい鯖の塩焼き、曰く『測って混ぜて焼くだけ、だしの素サマサマっすよ』らしい出汁(だし)巻き玉子、『刻んで()えて味整えるだけっすよ』らしい胡瓜とワカメの酢の物、『これなんかお湯で溶くだけ、楽々っすね』らしいお味噌汁。

 おまけにおかわり用のごはんと生卵が添えられ……ぶっちゃけお金払うレベルの見事な朝定食なのである。

 

 

「しあわせ。おれモリアキのお嫁さんになる」

 

「先輩それマジ洒落になんないんで! 自分が今バチクソ可愛いロリエルフだっていう自覚を持って! ちょっと女の子ムーブ(つつし)んで下さい!」

 

「お、おう。悪い」

 

「……はぁ。……ハチャメチャに可愛いロリエルフなのに言動が先輩なんすもん。思考がバグるんすよ」

 

「ホントすんません。気をつけます」

 

「ほら、冷めますよ。早く食べちゃって下さい。食べ終えたら色々と考えなきゃならんでしょ」

 

「ウッス。了解ッス」

 

 

 

 内面だけならおれよりも遥かに女の子ムーブだよな……とは思ってても言わない。そもそも仮想配信者(わかめちゃん)公式絵師(ママ)なことは周知の事実だし。

 

 やさしいママのご機嫌を損ねないためにも、俺は朝ごはんを残さずおいしく頂くことに集中するのだった。

 

 

 

 

 ……それが、この後の悲劇を後押しすることになろうなど、考えてもみなかった。

 

 



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14【緊急事態】自然の摂理だもの

 

 質量保存の法則、というものがありまして。

 

 かいつまんで説明しますと……こと物理法則に従う限り、変化する『前』と『後』では総重量が変わらない、というものでして。

 

 

 身近な例で例えると、たとえば鉄が錆びる現象。あれは『鉄』が空気中の『酸素』と反応して『三酸化二鉄』という物質になるという変化であり……

 式で表すと『4Fe+3O2→2Fe2O3』、つまり『四つの鉄』と『三つの酸素』が合わさり『二つの三酸化二鉄』になる反応……らしいです。

 このとき鉄は空気中の酸素と結び付いているので、つまり錆びた鉄は結び付いた酸素の分だけ重量が増えているらしいです。……尤も、三酸化二鉄……つまり錆びた鉄はボロッボロ崩れやすいため、重さの変化を体感することは少ないらしいのですが。

 

 

 ……まぁ、()()に比べるほど難解なことでは無いと思うのですが……要するにですね。

 

 何がとは言いませんが……『入れた』その分だけ『出よう』とするのは……つまるところ自然の摂理なわけですね。

 

 

 

 昨夜遅く……いや今朝未明に急遽執り行われた宴会と、あの完璧な朝定食。あの量を身体に入れれば――多少は消化・吸収されるとはいえ――少なく無い量が『出よう』とするのも、まぁ当然なわけでして。

 

 

 

 

『先輩ーーーまだっすかーーー』

 

「ま、まだ!! 悪ぃ、もうちょっと……!!」

 

 

 

 わたくしは現在、先ほど烏森(かすもり)氏より譲り受け身に付けたばかりの下着(パンツ)を再び自らの手で下ろし、便座に腰掛け排泄を行うという……いわば一大イベントに直面しているわけでございます。

 

 

 ……こほん。

 

 排泄を行うこと自体は、生物である以上当然の行為である。別段特に問題があるわけでもなく……かくいうおれも生まれてからこれまで三十二年あまり、お手洗いとは(幼少期を除き)一日も欠かさずお付き合いしてきた。

 しかしながら……股間部に()()ということを認識してしまうと、一気に気恥ずかしさがこみ上げてくる。

 

 なにしろ『若芽ちゃん』の……小さな女の子の、股間部なのだ。

 

 

 

(出し終わったら……拭か、なきゃ……いけないんだよな……)

 

 

 ()()は当然として、()もきちんと拭かなきゃいけないという点……これは油断するとおざなりになってしまいそうだ。何しろ全く経験の無いプロセスなのだ。

 彼女いない歴イコール年齢であるおれにとって、触れたことはおろか見たことさえない乙女の聖域なのだ。そこに堂々と触れ、撫でまわすなど……女性経験のないおれにとっては、並大抵のことではなかった。

 ……かといって、ちゃんと拭かないと不衛生だということは知っている。男とは違い女の子はひときわデリケートなのだと、そっち方向に詳しい薄い書籍等で学んでいる。

 

 

 

(そーっと……そーっと…………んっ)

 

 

 おっかなびっくり丸めたペーパーを近付け、おそるおそる水けを拭う。ペーパーの触れた箇所から脊髄を駆け上がる未知の感覚を意識しないように気を強く持ち、下唇を軽く噛みながら強引にケアを終える。

 本当ならば、ペーパーで軽く拭う程度では不充分なのだろう。入浴の際にも丁寧に洗い上げなければならないだろう。烏森(かすもり)宅のお手洗いには暖房便座とウォシュレットがばっちり備わっており、その気になればボタン一つで今から洗うことも出来るのだろう。

 

 だが……さすがにまだ()()は怖い。

 敏感な()()に一方的に温水を吹き掛けられるのは……それによってもたらされる刺激は、やっぱり怖い。

 

 

 

『せーーんぱーーーーい……』

 

「ああっ!! 悪い! もう出るから!!」

 

 

 前と後ろを拭き上げ、洗浄レバーを下げる。急いで(ちょっとだけ大きい気がする)下着(パンツ)を引き上げ、ローブのスカート部分を下ろし、軽く自身を見下ろして服装に問題ないことを確認する。

 

 据え付けてあった消臭スプレーを軽く噴射し、いやなにおいを消し飛ばす。……これでよし。

 

 

 

「ごめんお待たせ……大丈夫か?」

 

「なんとかセーフっす。……むしろ先輩こそ大丈夫でした? 拭いたりとか」

 

「ははははは(目そらし)」

 

「ッッ、ゥオオオすみません失礼します!」

 

 

 

 曖昧に笑ってごまかすおれの横をすり抜け、烏森(かすもり)がお手洗いに飛び込む。……まぁ、俺とほぼ同じ量……いや、大きく胃の縮んだおれよりは明らかに多く飲み食いしておいて……()()()わけが無いよな。

 もたもたしていたおれが長時間個室を占有していたせいで、彼の尊厳はどうやら決壊する寸前だったらしい。

 

 ……本当に、間に合ってよかった。

 

 



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15【緊急事態】だんだん雲行きが

 

 さてさて。

 

 ゆっくりと休息を取り、シャワーを浴びてさっぱりして、美味しい朝ごはんをばっちり頂き…………お手洗いもきちんと済ませて。

 時刻はざっくり十時半、ゆったりとした土曜日のお昼前である。

 

 

 

 

(そだ、エゴサしよエゴサ)

 

 

 昨晩の放送から一夜明けて、果たして話題のほどはどんなもんだろうか。SNS(つぶやいたー)で昨晩と同様『木乃』『若芽』で検索を掛けてみる。

 すると……出るわ出るわ盛り沢山。『かわいい』『髪きれい』『次の放送楽しみ』『チョロそう』『妹にほしい』『ぱんつみせて』等々。

 

 加えて、直接送られる返信(リプライ)のほうは……通知件数が何やらとんでもないことになっている。

 所々に欲望に忠実なお下品な返信(リプライ)も見られるが、それらも含めてその殆どが好意のコメントだった。

 中には初回放送で告知したように、『何か歌って踊ってほしい』『カツ丼ならここがオススメ』『エフエフやりませんか』『すこやかハンバーグのレポを』『沖縄のビーチで海水浴を』『ファッションショーを』等々(などなど)興味のあるジャンルを添えて送ってくれる返信(リプライ)も多く、次回以降の配信のネタが色々と浮かんでくる。

 

 

 心の保養にもなるし、ネタ作りの助けにもなる。やっぱり視聴者からの声は、嘘偽り無く非常に嬉しい。

 若芽ちゃんを見守ってくれている彼ら彼女らの期待に添えるように、もっともっとがんばらないと。

 

 

 

 しばらくの間ニヨニヨだらしない顔でSNS(つぶやいたー)を眺めていたが……やはりというか何というか、()()()()()()がやたらと目につく。

 

 

「『魔法ホンモノですか』……か。…………ホンモノなんだけどなぁ……説明したところでなぁ」

 

 

 若芽ちゃんのアカウントに直接送られる返信(リプライ)以外にも、そこかしこに見られる『魔法』の文字。

 以前から使っていた私用(しよう)の、『安城正基』のアカウントに切り替えてタイムラインを流し見してみても、今日はやたらと目につく気がする。

 

 

 若芽ちゃんの演出を誉める言葉かと、文字通り『魔法』のように鮮やかな演出を讃える表現かと、しばしの間鼻高々でいたのだが…………それにしては何やら、少々様子がおかしいことに気付く。

 

 

 

 

「……銀行……強盗? え、ちょ、は!? 魔法使いが!?」

 

 

 驚くべき記事が……SNS(つぶやいたー)のトップニュースに躍り出ていた。

 慌ててテレビを点けてみると、たちまち緊迫したレポーターの声が響いてくる。くだんの銀行強盗事件は今まさにニュース番組で取り上げられている真っ最中らしく、放送局(チャンネル)を回してみればどの局もその話題一色だった。

 

 それによると犯人はまだ銀行内部に立てこもっているらしく……しかも犯人は摩訶不思議なチカラ、それこそ『魔法』としか言いようがない異能を行使していたという。

 民間警備会社の警備員も、警察の機動隊も、正体不明の異能に為す術なく返り討ちに遭い……襲撃を受けてからこちら、未だに状況は何一つとして進展していないのだという。

 

 

 

 ……そういうことも『あるかもしれない』とは思っていた。

 おれ以外にも、非現実的な能力を授かった者が居るかもしれないということは、確かに考えていた。

 

 

 だが……よりにもよって、こんなド派手なことをやらかすとは。

 おれと同類でありながら、犯罪行為に手を染める輩が現れようとは。

 

 

 これでは……下手をすると()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 上手く釈明しなければ……それこそ演出ではなくホンモノの『魔法』を使っていると知られれば、今テレビに取り上げられている銀行強盗犯の同類と見なされ、社会全体から敵対認識を受けてしまう恐れだってある。

 

 

 

 

『こちら現場上空のアツタです! 今朝未明より続いている浪越(なみこし)銀行神宮(じんぐう)支店の立て籠り事件ですが、状況は依然膠着したままです! 警官隊も更に増員して周辺封鎖を継続していますが、未だ犯人の規模も目的もその一切が不明! 周辺住民には避難が呼び掛けられ、何とも言えない物々しさを醸し出しています!』

 

(うーわ……神宮支店ってこのへんじゃね? そんな大騒ぎになってたんか……)

 

『アツタさんこちらスタジオです。周辺住民に避難の指示が出たとのことですが、映像を見る限りではマンションが立ち並ぶ区画のようなのですが……その、逃げ遅れた人とかは居ないのでしょうか? 住民の方の安全とかは、その』

 

(うへぇ……近くに住んでる人は不安だろうなぁ……)

 

『……………………はい! 県警が主導となって周辺のお宅一戸一戸訪ね、一軒家マンション問わず避難を呼び掛けたとのことです! …………えー……ご覧のように封鎖区画の外側では、住民の方と思しき人々が、現在も不安そうに行く末を見守っています!』

 

(そんな大掛かりに避難呼び掛けてたんか……あれ、このへん何も聞こえないけど遠いんかな……? いやでも神宮支店って近くのハズだし……あっ、あのファミレス見覚え……ある…………し?)

 

 

 

「ああ!!?」『はああああ!!?』

 

 

 後方、ドア二枚を隔てたお手洗いから、烏森(かすもり)の悲鳴が聞こえる。どたんばたんと騒音を立てながら洗浄の水音が響き、さも慌てた様子でドアが開かれたことを聴覚が察知する。

 

 一方、おれの手もとのスマホからはREIN(メッセージツール)の着信音が響き、()()()()()()共通の知人からの新着メッセージ受信を知らせる。

 

 

「…………おェあ!? ウチの一階じゃないすかコレ!! ナンデ!? ニュースナンデ!!?」

 

「………………ご、めん……おれだ」

 

「は!? え、ちょ!? 銀行強盗!? ……え、だって、こんな静か……は!?」

 

 

 スマホに表示された新着メッセージ、何度か原稿合宿を共にした身内からのメッセージには……『マサキ起きろwwwwモリアキ氏宅がニュース出てるwwww』との一文。

 テレビからの情報と、身内からのタレコミ……これらの情報を統合することで浮かび上がる事実は、もはや一つしか考えられないだろう。

 

 

「えっと、えっと……ごめん。謝る。ごめん。……【静寂(シュウィーゲ)解除(エンデ)】」

 

「ウェワアアアア!?」

 

 

 先程まで堪能していた『のんびりゆったりした土曜の朝』は跡形もなく消し飛び……静寂を押し退け飛び込んで来るのは、消防車輌のサイレン音と報道ヘリのローター音、そして犯人に呼び掛けているとおぼしき拡声器越しの大声などといった……紛れもない()()()()()()()

 

 

 誰がどう見ても『逃げ遅れた』としか思えない状況に……おれたちは呆然と顔を見合わせるのだった。

 

 



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16【緊急事態】どうしたらいい!?

 ゆっくりと起き、たっぷりと朝ごはんを頂き、やむにやまれぬ事情によって女体の神秘の一端を垣間見たりしながらも、有意義な休日が始まろうとしていた……まさにそのとき。

 

 床二枚隔てた地上階では……世間を揺るがす前代未聞の大事件が勃発していたらしい。

 

 

 このマンションを中心とする直径百メートル程の家々へは、ニュースレポーター(いわ)く避難の指示が下されていたとのこと。

 ()()()()()により内外の音の伝播を遮断された――避難を告げるべく訪ねてきた警官のノックの音にも無反応、かつ室内の生活音が微塵も外部に漏れなかったため留守と判断された――三〇五号室の住民を除いて、近隣住民は皆避難してしまったらしい。

 

 

 今や、この部屋と事件現場を中心とする直径百メートル圏内に存在する人間は……くだんの銀行強盗犯と、おれたち二人……それだけらしい。

 

 

 

「どどどどどうするんすか先輩……! ヤバくないっすか!?」

 

「ヤバいヤバくないで言えばどう考えてもヤバいよな……!」

 

「大体何なんすか銀行強盗って! 今日土曜っすよ!?」

 

「むしろ人がいないから狙ったとか……? 魔法が使えるなら警備とかセキュリティとか無視できてもおかしくないし……その気になれば金庫だって抉じ開けられそうだし」

 

「ちょ、ま…………魔法、って……犯人が!?」

 

「そうみたいだ……って、ホラ! 見てみろテレビ」

 

 

 上空から俯瞰するカメラが拡大率を増し、警官隊の動きが恐らくリアルタイムでテレビの画面に映し出される。

 フル装備の警官四名がひと塊になり、前列二名は透明なポリカーボネートのライオットシールドを隙間なく構え、銀行入り口脇の死角からじりじりと近寄っていく。

 

 恐らくは、気配を消してにじり寄る彼らから注意を逸らそうとしているのだろうか……窓の外、拡声器越しの訴えがあからさまに低姿勢に、譲歩の気配を見せ始める。

 犯人の反応を引き出そうと試みている様子が伝わって来ており、それに呼応するようにテレビに映る重装警官が少しずつ歩を進めていく。

 

 作戦としては悪くないと思う。交渉の余地があると見せて犯人を釘付けにし、その隙に別方向から制圧部隊を送り込む。極限状態に陥っているはずの犯人は視野が狭まっているハズであり、死角から近づく別動隊まで気を回すことは難しいハズだ。

 

 

 作戦としては……悪くないと思うのだが。

 

 

 

「せっかくの二面作戦を実況中継してどうすんだよ……!」

 

「銀行って普通にテレビ置いてますよね……犯人がテレビ点けてたら筒抜けじゃないっすか…………ってうおおおお!?」

 

「……吹き、飛んだ……?」

 

 

 窓の外から何かが破裂するような音と悲鳴と衝突音が立て続けに響き、それに連動するようにテレビ越しの映像が大きく動く。

 重装警官のスクラムが何の前触れもなく数メートルは後方に吹き飛ばされ、上空のヘリから俯瞰するレポーターが悲鳴に近い声を上げる。

 

 映像を見ている限り……なるほど確かに、常識に反した怪現象『魔法』としか表現しようが無い。

 じりじりと歩を進めていた重装成人男性四名、装備も含め総重量四〇〇㎏は下らないだろう一団が、まるで不可視の車に正面から突っ込まれたかの如く軽々と吹っ飛ばされ、ほんの一瞬で無力化されてしまったのだ。

 

 

 ――――『俺に近付くな』。

 

 恐らくは()()である()()使()()……その()()()()()()()

 

 

 ローターの騒音に蝕まれている上空のレポーターも、おれと同じ距離に居る烏森(かすもり)も、どうやら聞こえた様子は無いようだったが……おれ(エルフ)の耳には重装警官が吹き飛ぶ直前の()()が、確かに聞こえていた。

 

 底知れぬ怒りを含み、憤怒に震える声で紡がれた……若くはないだろう男の声。

 恐らく中継を視聴し情報を仕入れながら立て籠り続けている、真下に居座る犯人の声を。

 

 

 

「え、ちょ!? 何!? 何してんすかあのオッサン!? ちょっ、危ないですって!!」

 

「…………いや、引っ張られて……? …………!! まさか……! 犯人に!?」

 

 

 窓の外で新たな悲鳴が上がり、中継画面にもその様子が映し出される。警察車輌によって築かれた簡易バリケードの影から、一人の初老男性がふらふらと歩み出ていた。

 制止しようとする警官を力ずくで振り払い、微塵も躊躇せず顔面を殴り付けながら、夢遊病のような足取りで包囲の中心へ……犯人の居座る銀行へと進んでいく。

 

 何が起こっているのか理解の追い付かない人々を嘲笑うかのように……事態は一気に凄惨さを増していく。

 

 

「うわ……!? う、わっ、ちょっ、止めっ……! ちょっ、さすがにエグいっすよ!? 待って! ヤバいですってこれ!!」

 

「……殴ってる、のか? ……『魔法』で…………一方的に」

 

 

 まともに抵抗出来ない壮年男性が突如、まるで殴られるかのように体勢を崩し、その場に(うずくま)る。かと思えば横方向からの殴打を受けたかのように吹き飛ばされ、べしゃりとアスファルトの路面に叩き付けられる。

 

 不可視の暴力、一方的に痛め付けられる男性の姿に周囲からは悲鳴が上がり、男性を保護しようと試みる警官は先程同様あっさりと吹き飛ばされる。

 

 

 そうして聞こえてくる……犯人の高笑いと、途切れぬ憤怒と、止めどなく溢れる怨嗟の声。

 

 

 

 

(…………そういう……ことか)

 

 

 人並み外れた感度をもつ耳のおかげもあり……犯人の動機も、目的も、恐らくおれだけが理解した。

 

 孤立無援の状態でいたぶられ続ける男性を、その後に続くであろう被害者達を、助けることが出来るのは自分だけなのだろうと……理解してしまった。

 

 

 

 

「…………いか……ないと」

 

 

 頭の中、思考の奥底。この身体に生まれながらにして刻み込まれた設定(呪い)が、おれの意思とは無関係に目を覚ます。

 

 元の身体を喪ったおれは、今や『木乃若芽(きのわかめ)』という一つの創作人格(キャラクター)に過ぎず…………彼女を作成する際に数多組み込まれた設定(呪い)の通りに『木乃若芽(この子)』を演じ、振舞い、動くしかない。

 

 

 幼げな見た目と実年齢に反し、その実態は超熟練の魔法使い。

 

 魔法情報局の局長として、番組を完璧に取り仕切る腕を持ち。

 

 精霊の愛し子、神秘の民、幼くも高潔な心を抱いた長命種。

 

 平和と静穏を愛し、不幸を見て見ぬ振りなど出来やしない。

 

 全ての人々に夢と希望を与える。そのための苦労は厭わない。

 

 

 正しく、温かく、清い心を持ったエルフの少女……その身に籠められた優しい(まじな)いに、おれは抗うことなど出来ない。

 

 

 

「ちょっ!? せん……先輩!! 何しようとしてんすか!?」

 

「……いや、ダメだおれ。止まんね。行かないとダメだわ」

 

「な…………何言ってんすか! 危ないに決まってるじゃないすか!!」

 

「それでも……おれが止めないと。じゃないと……あのおっさん殺される。そしたらもう……手遅れになる」

 

「得体の知れない……魔法? だって使って来るんすよ!? おん…………今の先輩じゃ危ないですって!!」

 

「いや、でも……おれだって魔法使えるし。立場的にはイーブンやぞ」

 

「………………そういえばそうでしたっけ。……あー何だかイケそうな気がして来ましたわ」

 

「いきなり醒めたな。嫌いじゃないぞ」

 

 

 おれの身を案じてくれたらしい烏森(かすもり)に引き留められ……たかと思ったら鮮やかに(てのひら)を返され、苦笑しながら準備を整える。

 このくっっそ目立つ容姿はどう足掻いてもどうしようもないので、せめてフード付きダッフルコートで身体を包んで髪と耳を極力隠す。

 圧倒的に動きにくくなってしまったが……特に問題ないだろう。

 

 

「ほいじゃ、そろそろ行ってくる」

 

「ちょちょちょちょっ! 先輩!!」

 

「な、なに……?」

 

「……まさか窓開けて出てこうとしてませんよね?」

 

「えっ…………ダメ?」

 

 

 してました。だってそのほうが手っ取り早いじゃん。急がないとおっさん死んじゃうかもしれないもん。

 

 

「何こてんと首傾げて可愛いムーブしてんすか。騙されませんよ。……先輩がウチの窓から出てったら、オレが関係者って即バレするじゃないっすか。中継してるんすよ。しかもギャラリーだって滅茶苦茶いるんすよ。特定余裕ってレベルじゃないと思うんですが、この後ウチどうなると思います?」

 

「……………………ごめん」

 

「解って戴けたなら幸いです……」

 

「出るときは(おもて)から見えないようにする。……あとヘリも」

 

「そうして下さい。……先輩も『魔法』使えるんでしょう? なんとか良い感じに欺いて下さい」

 

「わかった。任せろ」

 

「先輩!!」

 

「えっ、なに!?」

 

 

 おれ……また何かやっちゃいました?

 突如声を張った烏森(かすもり)に不安を禁じ得ず、びくりと跳ね上がり振り返ると…………いつになく真面目な表情の彼と目が合った。

 

 

「若芽ちゃんのFA(ファンア)……カッコいいのも可愛いのもえっちなのも、いくらでも描きます。あとオレ若芽ちゃんの次回放送も今後の展開も、めっっちゃ楽しみにしてますから。…………解りましたね?」

 

「………………ああ。任せとけよ」

 

「信じてますから。……行ってらっしゃい」

 

「おう。行ってきます」

 

 

 

 

 内々から沸き上がる衝動に突き動かされるように。理不尽に踏みにじられる目の前の被害者を救うために。

 

 

 おれはひっそりと玄関を開け……こっそりと行動を開始した。

 

 

 



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17【緊急事態】肩慣らしといこうか

 

 被害者を助けるとはいっても……こと今回に限っては、留意しておかなければならないことが幾つかある。

 それは……単純におれの安全のためだったり、烏森(かすもり)に迷惑を掛けないようにするためだったり……あるいは、世間に無用な恐怖と混乱をばら蒔かないためだったり。

 

 単純に事態を上手く収束させるだけでは、満点とは言いがたい。隠すべきことをうまく隠さなければ、()()()()()()()()と知られてしまうどころか……異能を操る()()()()()が他にも存在するということを、リアルタイムで全国中継することになってしまう。

 

 ……いや、しかし……やっぱり難しい。ある程度は仕方ないと割り切るしかないと思う。

 恐らく『彼』に対抗するにあたって、『魔法』を使わずに鎮圧するのは極めて困難だろう。おれの『異能』がバレるのは間違いない。

 しかし他に手段は無い。急がなければおっさんが死んでしまうし、犠牲者はどんどん増えてしまう。かといってこの建物配置では――上空からカメラで監視され、周囲を人垣に囲まれた往来においては――死角などあるハズがない。

 

 多くの人に見られるのは……カメラに映されるのは、諦めるしかないだろう。

 

 

「見られるのは仕方ないけど……要するにおれだってバレなきゃ……個人特定されなければ良いわけだろ」

 

 

 上空のカメラとて……あれだけ距離と振動があれば、詳細な画は撮れないだろう。フードを深く被っていれば顔も髪も映らないハズだ。

 周囲の人たちも同様、ざっと見た感じ軽く五〇メートルは離れているのだ。人間の視覚では、この距離を隔てた人物を観察するのは困難だろう。

 

 つまりは、()()()

 そう自らに言い聞かせ……おれは一人行動を開始する。

 

 

 

 

 先ずはエレベーターを呼び寄せ、最上階へ向かう。目指すはその更に上の屋上、魔法で浮かび上がれば問題なく侵入できるだろう。

 

 当然といえば当然だが、現在地であるマンション部分から直接銀行へと入ることは出来ない。

 マンションの一階エントランスと銀行とは完全に壁で仕切られており、エントランスの扉から一旦外に出ないことには、銀行の玄関に辿り着けないのだ。

 

 ……やだよおれ。衆目環視の中でおれ一人だけひょっこり顔出すの。めっちゃ注目されるじゃん。

 それに……マンションのエントランスから出てくれば、このマンションの住人と関係があるって暴露してるようなものだし。烏森(かすもり)に迷惑をかけないためにも、ここの住民では無いと思わせなければならない。

 

 

 そう考えを纏めているうちに、最上階である七階へとエレベーターが到着する。

 エレベーター出口から真っ直ぐ、東西に伸びる共用廊下を挟んで南北両側に玄関ドアがずらりと並ぶ。真っ正面東側の行き当たりとエレベーター脇の西側階段ホールには、採光と通風のための引き違い窓がそれぞれ設けられており……身体の小さな今のおれであれば思った通り、余裕で通り抜けられそうだった。

 

 

「……よっし、行くか。【浮遊(シュイルベ)】」

 

 

 息をするように、身体を動かすように、さも当然とばかりに呪文を紡ぎ、魔法を行使する。

 重苦しいダッフルコートに包まれた小さな身体が床から離れ、身体はどこにも触れぬまま、上下前後左右へと意のままに動けることを確認する。

 

 階段の踊り場の窓からひょっこり顔を出して上方を窺い、聴覚と併用して報道ヘリの現在位置を探る。

 銀行の正面入り口を撮ろうとしているのだろうか。幸いなことにこの建物の南東側へ回り込んでいるらしく、この窓の外はヘリから見ればちょうど死角になっている。

 

 

「今のうちだな。えっと……【陽炎(ミルエルジュ)】」

 

 

 姿を消す……というほど大それたものでは無いが、ほんの一瞬姿をぼかす程度は出来るだろう。階段ホールの引き違い窓を目の前に、おぼろげになった輪郭を再度確認する。

 ここから先はノンストップ、もう隠れることは出来ない。小さく深呼吸して気持ちを落ち着ける。……よし。行ける。

 

 光のいたずらを纏ったまま勢いよく窓から飛び出し、急上昇。ほんの一瞬で屋上へと到達すると……貯水タンクの上に着地する。

 足元の安定を確認して【浮遊(シュイルベ)】を解除、しかし【陽炎(ミルエルジュ)】は纏ったまま。……恐らく、出現の瞬間を捉えられてはいないはずだ。聴覚を研ぎ澄ませながら少し様子を窺う。

 

 

 ほんの数十秒の後、ポケットから着信音。慌ててスマホを取り出すと、新着アラートに烏森(かすもり)からのメッセージが映る。

 その内容は……『カメラ気付きました。映ってます』。

 

 フードを目深に被ったまま、今度は視覚に補正を込めて視線のみをちらりと向けると……確かにヘリの横っ腹がこちらに晒され、カメラのレンズも向けられている。

 あちらからはフードの影に隠れて、おれの視線は見えないはず。真正面を見据えて悠然と佇む、輪郭の霞む謎の人影に見えることだろう。

 

 

(……落ち着け。大丈夫。……()()()()()()()

 

 

 自己暗示を済ませ、意識のスイッチが切り替わるのを認識し、おれは行動を開始する。

 貯水タンクから飛び降り、一足飛びで南側の縁まで走る。

 

 遥か眼下を見下ろせば車通りの全く無い交差点と、アスファルトの上に力無く倒れ込んだ男性と……それなりの距離を隔てて包囲する警官と、その背後に隙間無く詰め寄せる人、人、人、そして人。

 地上の人々は上空のカメラとは異なり、まだおれに気づいた人はほとんど居ないようだが……まぁ、そこは別にどうでも良い。

 カメラに姿を晒した。つまりは犯人に存在を晒した。……今はこれで充分。

 

 

 

「…………【浮遊(シュイルベ)】」

 

 

 一瞬だけ意識を掠める恐怖心を使命感で押し潰し、屋上の縁を軽く蹴る。

 ちらりと窺ったヘリのレポーターが悲鳴を上げる様子を意識の端に捉えながら、自由落下よりかは幾らか緩い速度で地表へと降下する。

 

 目指すは一点。そこを目掛けて降下コースを調整し、僅かな着地音のみを響かせ地に降りる。

 一体どれだけ(なぶ)られたのか……顔が腫れ上がり、着衣を血で汚し、擦り傷と切り傷に埋め尽くされ、喘ぐような呼気を溢す……息も絶え絶えな、この支店の支店長のもとへ。

 

 

 突然降ってきたおれに騒ぎ始める警官と、その後ろの人々に背を向け……ぼろぼろに痛め付けられた支店長を、そっと抱え起こす。

 思わず目を覆いたくなるような大怪我だか、おれが目を逸らすわけにはいかない。

 ……大丈夫。ちゃんと助ける。

 

 

「【診断(ディアグノース)】…………んん……えっと、【回復(クリーレン)】【造血(ヴルナーシュ)】【鎮痛(シュラトフィル)】……あと、【鎮静(ルーフィア)】」

 

「……ぁ…………う、っ……? ……な、ん……」

 

「…………あの……大丈夫、ですか?」

 

「………………ぁ……?」

 

「あ? え、あの…………あのー……?」

 

 

 全身の傷が綺麗に消え去り、見た目は何も問題無く元通りの支店長が……目を覚ますなり、完全に固まってしまった。

 

 何でだ……どうしてだ。傷は全て塞いだはずだ。失った血液も補填したし、痛みを伝える信号も止めた。恐怖を忘れさせるために心も落ち着けたはずだ。

 今や彼の身体を蝕むモノは何も無いはずなのに。何も問題無いはずなのに。……しかし現実として、彼の身体は動きを止めている。

 

 

「あ、あの……大丈夫ですか!? どこか痛いところありますか!? ()()()の声は届いてますか!?」

 

「……っ、ぁ、…………あぁ、大丈夫……だ」

 

「!? …………よかっ、たぁ……!」

 

「っ、…………申し訳ない。少し呆けていたようだ」

 

 

 びっくりした。良かった。意識も口調もしっかりしている。……どうやら心配はなさそうだ。

 支店長の身柄が確保できたのなら、すぐにでも次の工程へ進まなければならない。

 

 犯人のみならず、背中の後ろの人々までもが何やら不穏な動きをしようとしており……早く済ませなければ色々とまずいことになりそうだ。

 

 

「【介入(インターヴ)】【改竄(フェイズオン)】……やらせませんよ」

 

「……な、何? 何だ……!?」

 

「大丈夫です。()()()()()()()()。……そのまま後ろへ……お巡りさんの方へ。……行けますか?」

 

 

 がくがくと首を高速で縦に振り、支店長は慌てて立ち上がると後ずさるように下がっていく。

 逃げようとする彼目掛けて()()()()が放たれるが……それに干渉してその効力を書き換えて無力化し、支店長の離脱を援護する。

 

 特定条件を満たす相手に対して、絶対的とも言える支配力を誇る……敵の魔法。

 少しでも油断すれば……せっかく助け出した支店長も、幾度となく突入を試みている警官隊も、恐らくただでは済まないだろう。

 

 

「……あとは…………あなたです。……今から行きますので」

 

 

 おれの呟きを遮るように放たれた()()()()を撃ち落とし、ため息を一つこぼす。……おれの介入は全く予想外だったのだろう。あからさまに()()が見てとれる。

 

 ここからでは遮蔽物に隠れている犯人を真っ直ぐ見据え――大勢の観覧者達に頑なに背を向け――ゆっくりと歩き出す。

 

 

「…………今から行きますので……出来れば静かに待っていて下さい」

 

 

 おれと同類の『魔法使い』。

 銀行強盗事件の主犯である、()()()()()()()()

 

 世界に絶望し、嘆き苦しんでいる彼とて……無下にはできない。

 

 

 

 可能な限り多くの……手の届く範囲の人々を幸せにするために、最善を尽くす。

 

 ()()()()()()()()()()()()

 

 

 



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18【事件現場】心優しい魔法使い

 

 翡翠玉のようなおれの眼は薄暗闇でもきらきらと煌めき、光を受けると殊更(ことさら)に綺麗に輝く。つい先程烏森(かすもり)宅の浴室の鏡で()()()()と観察したこの眼は、我ながら惚れ惚れするほどにただただ綺麗だ。

 しかしただ単純に綺麗に輝くだけではなく、魔法の扱いに秀でたエルフ種ならではの特殊な性能も秘めている。この世ならざる異能の力を――『魔力』とでも呼ぶべき()()の流れを――はっきりと知覚することができるのだ。

 

 

 そんなおれの視覚には……銀行襲撃事件の犯人が、自身の身を削りながら魔力を捻出する様子が、強化補正越しに映っていた。

 

 大気中に漂う魔力が希薄なこの世界、この国では……()()()()()とて魔法を行使することは簡単ではない。

 ()()となる魔力が()に存在しないなら……()から取り出し、絞り出すしか無いからだ。

 

 

 

 

「まったく…………無茶する、なぁっ」

 

 

 おれ目掛けて飛んできた魔法を的確に撃ち落としながら、彼の潜む銀行へ向かって一歩一歩ゆっくりと進んでいく

 

 先程まで支店長を甚振(いたぶ)り続けていたことで、()の魔力をかなり消耗してしまったのだろう。今や彼は息も絶え絶えといった様子で、絞り出すように必死に『魔法』を放ってきている。

 

 

 だが……それは全くもって()()

 そもそもが彼に勝ち目など無いのだ。

 

 

 彼の振るう異能の力は……その前提からして、見ず知らずの他人に向けるべきものでは無いのだから。

 

 

 

『……あなたのチカラでは、わたしに勝てません。……抵抗は止めて、大人しくして……わたしの話を、聞いてくれませんか?』

 

 

 ゆっくりと一定のペースで歩み続け、今や彼との距離は当初のおよそ半分ほど。【拡声(ヴィバツィオ)】を用い、更に指向性を持たせたわたしの声を彼に届けるが……返礼は声ではなく、()()()()()()()()()()攻撃魔法によるもの。

 

 万が一にもわたしの後ろに零れないようキチンと迎撃しているが、そもそもわたしは()()を食らったところで痛くも痒くもない。……いや嘘ついた。ちょっとは痛いだろうし、痒いかもしれないが、その程度だ。

 

 明確に形を与えられた現象――火炎や石弾や氷器など――ですら無く、恨みや怨念を直接ぶつけているに近い彼の魔法……要するにそれは、()()()()()()()()()を攻撃するための魔法なのだ。

 彼が恨みを抱く存在……彼の()()()()や、彼の()()()()()()()()()()でなければ、彼の魔法はその真価を発揮できない。

 

 

 職場を……いや、理不尽に解雇された『元・職場』を襲撃して騒動を起こし、テレビやメディアで報道されることを見越した上で、()()()()をおびき寄せる。

 見せつけるように派手に破壊された職場の様子にまんまと釣られてきた()()達を、授かった『魔法』で徹底的に甚振(いたぶ)り、鬱憤を晴らす。

 それが……現時点で得られた情報をもとに推測された、彼の目的。

 

 銀行に詰めていた警備員や突入しようとしてきた警官隊は、『復讐計画をジャマする者』として敵対認定されたのだろう。

 そのため彼の魔法の特効対象として見なされてしまい、赤子の手を捻るように翻弄され……未知の力に手こずり、未だに彼を制圧するに至っていないのだろう。…………たぶん。

 

 

 

「……わたしには、効かない。…………わかりますよね?」

 

 

 ゆっくりと、更に歩を進める。既に砕かれた窓ガラスが散らばる地帯にまで接近しており、ここまで近付けば【拡声(ヴィバツィオ)】を用いずとも声を送れるだろう。

 平静を欠き混乱する様子の彼の様子も、その独白も、人間の数倍敏感なこの聴覚であれば聞き取れる。

 

 あくまで優しく声を掛けながら、割れ砕けた玄関ガラスを踏みしめ支店の入り口を潜る。

 ついでに……後方でなにやら画策している連中に釘を刺すため、指令役とおぼしきおっさんに狙いを合わせて【伝声(コムカツィオ)】を送り込む。

 

 

『余計な真似しないで。終わるまで大人しくしてて。……ジャマするなら車ぜんぶブッ壊す』

 

 

 おまわりさんに対して、こんな偉そうな物言いなんて……本来なら褒められたものではないのだろう。

 しかし今の()()()は『正体不明の謎の人物』だ。これくらいの無礼は……まぁ、たぶん許されるだろう。……たぶん。

 

 ともあれ、果たしてそのおっさんはちゃんと指令役だったらしく、期待通りにその効果は覿面(てきめん)

 前進しようとしていた警官隊の動きが止まり、戸惑いの空気を漂わせながらも元の包囲陣形へと引き返していく。

 幸いなことに『話が解る』人物のようだ。おかげで無駄な労力を使わなくて済む。

 

 

 

 仕事だからとはいえ……警備員も警官隊も()()()()()()に過ぎない。

 この世の平穏を脅かすモノを始末するのは、()()()()()()だ。……わたしは彼らに被害が生じないよう、最善を尽くさねばならないのだ。

 

 

 

 

 照明もほとんど点いていない店内へと踏み込み、書類や書籍だったものが散らばるロビーの奥に気配を感じる。横に長い窓口カウンターの向こう側で、荒い息遣いが感じ取れる。

 

 奥底から止めどなく涌き出る使命感(呪い)に突き動かされるように……高性能で()()()なこの身体(アバター)は、最適な行動を選択し続ける。

 

 

「……もうやめましょう。……これ以上は、無意味です」

 

「…………ッ!! (クソ)ォォオオオ!!」

 

 

 カウンターの向こうに勢いよく立ち上がった彼の……絞り出すようにして放たれた、全身全霊の攻撃魔法。

 ()()()()()()()を害することに特化した悪意の塊、彼が恨みを募らせる者達へ復讐するための、まがまがしいそのチカラは。

 

 

「【防壁(グランツァ)】。…………ほら、無意味です。……諦めましょう?」

 

「ぐ…………!?」

 

 

 効かないのだということを思い知らせるため……可視化された防壁をあえて顕現させ、彼の魔法を粉々に打ち消す。

 彼の渾身の『害意』の魔法は光の薄板のような防護結界に阻まれ、けたたましい音とともに周囲へと飛び散り霧消する。

 待ち合いロビーの長椅子を、住宅ローンのポスターが貼られた掲示板を、観葉植物の植木鉢を粉々に砕き……しかしわたしには何の被害も生じていない。

 

 ……恐らくはこの支店自体も、彼にとっては忌むべき復讐対象なのだろう。【防壁(グランツァ)】に散らされた欠片が触れただけでも盛大に破壊され、見るも無惨な様子となり果てている。

 しかしそれでも、わたしには通用しない。そもそも魔法への抵抗力が桁違いであるし……なによりわたしは、彼への敵意など微塵も持ち合わせていないのだ。

 

 

 

「……何、なんだ…………キミは……」

 

「あなたを……止める者、です」

 

「ッッ!! 生意気な……!!」

 

「あなたの『魔法』は効かない。解ったでしょう? …………それに、そろそろ()()なんじゃないですか?」

 

「な…………ッ、んで……」

 

「そんなの見れば……いえ、見なくてもわかります。普通の人間(ヒト)は、魔法が使えるようには出来てません。…………だから、もう()めてください。それ以上は命が危ないです」

 

「…………ウソ、だ。……デタラメだ!!」

 

 

 彼の心はもう限界なのだろう。ここを襲撃してから短くない間、ずっと一人で籠城を続けていたのだ。

 それに加えて恐らくは……理不尽な事件に巻き込まれ、絶望に打ちひしがれ、今日この犯行を決意するに至るまでも。彼はずっと、ずっと一人で苦しんできたのだろう。

 

 

 血走った目の彼が手を伸ばし、喚きながら硬質プラのレターケースを引っ掴む。カウンターの向こうからわたし目掛け、それを全力で投げつけてくる。

 それは……魔法が通じないと知って衝動的に放った、ほんの苦し紛れの抵抗にすぎない。

 

 わたしの身体(アバター)は極めて優秀だ。避けることは勿論、先程同様【防壁(グランツァ)】で防ぐことだって可能だろう。

 だが……避けない。防がない。わたしの頭目掛けて飛来するレターケースを前に、そのままじっと立ち竦む。

 

 

 

「あ()っ」

 

「…………ッ!!?」

 

 

 彼の狙いは正確だった。コースそのままレターケースはわたしの頭を捉え、額に刺さるとともにコートのフードが背後に落ちる。

 

 これまで顔を隠していたフードを除かれ……日本人離れした髪と瞳、人間離れした長い耳、そして赤く雫を垂らす額の傷が露になる。

 

 

「…………ぁ、……な、そん…………な」

 

「落ち着いてください。……わたしは、あなたを害するつもりはありません」

 

「血…………血が……」

 

「わたしは大丈夫です。ですから、落ち着いて。……お話を、させてください。そっち行きますけど、良いですか?」

 

「……ぇ……あ、…………あぁ」

 

 

 

 さすがに……見ず知らずの子どもに怪我をさせたことに対しては、思うことがあったのだろう。彼に残っていた良心のお陰もあり、幾らか冷静さを取り戻してくれたらしい。

 

 この身体であれば、ケガを薄皮一枚に留めることなど雑作もない。防御強化の魔法だってあるし、傷だって跡形もなく消し去れる。

 だからこそ『(見た目)幼げな女の子にケガをさせたショックで落ち着かせる』なんていう無茶ができるわけだ。

 

 

 完璧なおれの作戦は、やはり計画通り成功したようだ。彼は明らかに消沈して結果的に落ち着きを取り戻し、話を聞いてくれる状況になったようだ。

 

 ここからが本番。なんとか彼をフォローし、彼の傷も最小に抑えなければならない。このままだと彼は間違いなく大罪人として、一方的に裁かれてしまう。

 

 

 

 それは……いやだ。

 わたしが、なんとかしなければ。

 

 

 

 彼はこの事件の加害者なのだろうが……別の事件の被害者なのだから。

 

 

 



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19【事件現場】芽吹く災いの種

 ……なんのことはない。このご時世いつどこででも起こりうる、()()()()不幸な冤罪事件……そのひとつだった。

 

 

 

 彼はこの浪越(なみこし)銀行に長らく勤めていた、遣り手の営業担当だった。

 

 一般的に『難関』に分類される四年制大学を卒業し、新卒でこの浪越銀行へ就職。今年三十五を迎えるまで、順調に勤勉に勤め上げてきた。

 趣味はドライブと車中泊、そしてスキー。休暇を利用した一人スキー旅行の最中、とある女性と出会い意気投合。一年ほどお付き合いした末、三年ほど前にめでたくゴールイン。

 念願のマイホームを手に入れ、幸運なことに娘さんも授かり、幸せな人生を歩んでいたそうだ。

 

 

 

 …………ほんの数ヵ月前までは。

 

 

 

 銀行員であれば、当然身なりにも気を配っているだろう。腕時計や靴やスーツなんかは、きっといいものを身に付けていたのだろう。

 

 高級そうな品々に身を包んだ、優しそうな風体の既婚男性。怖いもの知らずで常識知らずなクセに悪知恵の働く子らにとっては……さぞいい金蔓(カネヅル)に映ったのだろう。

 

 

 出張先の地下鉄で運悪く目を付けられ、恥知らずな悪童に痴漢冤罪を吹っ掛けられ、抗議の声を上げる間も無く男に殴られ、地下鉄車輌の冷たい床に抑え付けられ、財布やスマホや機密書類の詰まった営業鞄を取り上げられた。

 そのまま次の駅に着くまで数分間、背中の上にのし掛かられたまま。彼の訴えは誰にも聞き届けられず、全く身に覚えの無い罵詈雑言を浴びせられ続けた。

 

 駅に着くなり引き摺られるように事務所へと連行され、鞄はずっと『犯行の証拠品だから』と取り上げられたまま。

 駆けつけた警備員によって、事情聴取と言う名の吊し上げが行われる。さめざめと泣いてみせる『被害者』とその彼氏は、生々しい犯行の様子を異様なほど詳細に語ってみせ、彼の自前のスマートフォンより『彼が撮ったにしては明らかにアングルがおかしい盗撮写真のようなもの』が発見されたことで…………彼の破滅が確定した。

 

 

 そこからは……ひどいと言うしかなかった。

 

 『被害者』どもは『示談にしてあげるから』と、決して安くない金額を彼に吹っ掛けた。

 スマホも鞄も客先の個人情報も社内機密も人質に取られた彼は抵抗を試みたが……長時間の拘束の末、その要求を呑むしかなかった。

 

 ずっと鞄とスマホを取り上げられていた彼は、職場へも家族へも連絡出来ず、結果として客先との約束(アポ)を無断ですっぽかした形となってしまった。

 職場には決して少なくない迷惑と明らかに大きな損失が生じた上、事実と異なる『痴漢者』のレッテルを貼られた彼は……以前の『次期有望株』との評価から一転、支店長を始めとする職場の全員から白い目で見られるようになった。

 

 その後名指しで呼び出され、自己都合による退職を迫られ、事実上のクビ宣告を受け……長年尽くしてきた職場から、一方的にあっさりと追放された。

 

 

 職を失い、更に性犯罪者の烙印を押された彼を見限り、妻は離婚届を残し娘と共に出ていった。

 離婚は妻の精神的苦痛の原因を作った彼の責任とされ、貯金のほとんど全ては慰謝料および養育費として持っていかれた。

 

 

 たった数ヵ月で、仕事も、愛する家族も、全ての幸せを失った彼。

 ただただ不幸な彼に残されたものといえば……一人っきりで暮らすには広すぎる二階建ての戸建て住宅と、『性欲を抑えきれずに職と家族を失った男』という汚名と、今の彼には到底返済しきれない月々のローン支払いだけだった。

 

 ……以上が、改めて詳しく聞いた彼の身の上話である。

 

 

 いくらなんでも、悲惨すぎる。

 そもそもが、発端はただの冤罪。彼には咎など一切在りはしなのだ。

 こんなの……絶望するな、ってほうが無理な話だろう。

 

 

 

 

「……本当に…………ひどい話ですね」

 

「…………信じて……くれる、のか……?」

 

「信じますよ。……あなたの『恨み』は本物ですもん」

 

 

 カウンターの裏側に二人ならんで体育座りで座り込み、約束通りに彼の話を聞く。

 おれの血を見て頭を冷やしてくれたのか、意外なほど彼は理性的に犯行の動機を……ここ最近彼の身の上に起こった転落劇を、淡々と語ってくれた。

 

 支店長を痛め付けているときの慟哭からなんとなく想像はついていたが、それよりも遥かにエグい内容だった。

 不幸に不幸が重なった結果なのかもしれないが……順風満帆で幸せだった日々から絶望のドン底へ、一気に叩き落とされたようなものだ。……そりゃ復讐を考えたくもなるわな。

 あの悪童共とて、さすがにここまで人一人の人生を破壊するとは思っていなかったのだろう。若さとは怖いもの知らずで、ときに無知で、そして残酷だ。

 

 

 

「……ところで……君はさっきから……何をしてるんだ?」

 

「演出ってやつです。時間稼ぎというか、アリバイ工作というか」

 

「…………そうか」

 

 

 実は先程から――彼の話をちゃんと聞きながら――意識の一部を分割し、先行定型入力(ショートカット)登録されている魔法を何度かひっそりと発現させていたのだ。彼の話を邪魔しないように、呪文詠唱ではなく手指の呪印で。

 それなりに危機感を煽る騒音と地響きを演出していたので、外の面々もしばらくは近付いて来ないだろう。

 

 ……なので、その間にコッチを片付けなきゃならない。

 

 

 

「あなたの恨みを……『全部理解できる』なんて傲慢なことは、とても言えません。わたしは所詮他人なので、どれだけ『知ろう』としても……あなたの恨みの全てを理解することは、出来ません。……思考を繋ぐわけにも行かないですし」

 

「はは…………良かったよ。……ここで『気持ちは解るけど()めてください』『復讐は何も生みません』なんて言われたら…………私は君の首を絞めていたかもしれない」

 

「…………やっぱり、あなたの『恨み』は収まりませんか? ……()()()()()()()()()ですか?」

 

「ああ。それこそが……()()()()()()()()()()()()()()()()ことが…………()()()()だ」

 

「……………………そっ、か」

 

 

 瞳の奥底にどんよりとした闇を湛え、彼が再び理性を失おうとしている。

 彼の願いを叶えるために取り憑いた『種』……募りに募った彼の恨みを糧にして発芽した『苗』が、不気味に蠕動しながら着実に育っていく。

 

 根を張られている彼自身に気付かれること無く――いや、『魔力』に類するものを知覚できない人間の誰にも、一切気取られること無く――この世ならざる漆黒の『苗』は、ゆっくりと成長を続けていく。

 

 

 『(それ)』を放っておくと何が起こるのか。『(それ)』は何のために人間に根を張り、成長を試みるのか。

 実際そんなこと解るわけ無いが……この身体(アバター)に籠められた設定(呪い)が――平和を愛し、人々の平穏を願う優しい心が――()()()()()()()()()()()()と、最上級の警鐘を鳴らす。

 

 何が起こってしまったのか。何が起こっているのか。何が起ころうとしているのか。残念ながら、何一つとして明瞭な答えは持ち合わせていないが……あの『苗』を放置すると大変なことになるということを、この身体(アバター)の本能が告げている。

 

 

 ……見過ごすことは、出来ない。

 

 …………だから、わたしは。

 

 

 

 

 

 

「えいっ」

 

「ギャアアアアアアアアアアアアアや゛め゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!?」

 

「えっ? ウソ、まじ? ちよっ、やば、取れちゃった」

 

「ぐヌウ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!? な゛んっ………グぇ゛ッ、…………グギ、ャア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」

 

「待って、ごめん。取れちゃ……今のナシ……えぇ、こんな簡単に」

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!! ごぽっ、ゴぎャア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!?」

 

 

 どろりとした怨恨を湛えていた彼の延髄から伸びていた、不気味な黒さを纏う不可視の『苗』を引っ付かんで引っ張ると……根っこの末端が千切れるような『ぶちぶち』とした感触を残し、あっさりと引っこ抜けてしまった。

 

 

 突如ぐるんと白目を剥き、海老反りになりながらビクンビクンと痙攣し始めた彼。

 右手の上には、みるみるうちに萎れて小さくなっていく黒い『苗』だったもの。

 目の前には…………ちょっとヤバそうなモノが乗り移ってしまったような挙動を取る、纏っていた邪気が消え失せた彼の姿。

 

 あまりにも予想外、そしてかなり衝撃的な事態に……いかに高性能なおれの身体とて、まるで理解が追い付かなかった。

 

 

 

 呆然とすること……しばし。

 

 いつしか彼の絶叫は止み、今や彼は白目を剥いたまま涎を垂らし、時折ぴくり、ぴくりと痙攣するばかりとなり…………

 

 

 見た感じ明らかにヤバそうな風体で、完全に気絶していた。

 

 

 





〜 COMPLETE! 〜


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20【事件現場】解決!解決です!

 

 

 とりあえず解ったことは……強い『願い』を含んだ感情に反応し、あの『種』は根を拡げるらしいということ。

 

 『種』そのものは自ら移動することが出来ず、宿主に寄生することで活動範囲を広げるらしいということ。

 

 そして……『種』が発芽すると宿主の『願い』を助長するため、この世ならざる能力(チカラ)を授ける反面、理性が薄れ欲望に忠実になるらしいということと……

 

 

 

 宿主の欲望(願い)に呼応する『種』が成長を続けて『苗』となり、更に成長が進むと…………とてつもなく()()()()()()が起こるのだという……まぁ、これは予感だった。

 

 

 

 

 

「…………先輩のリ美肉(リアル美少女受肉)も、その『種』のせい……ってことっすか?」

 

「解んないんだよなぁ……とりあえず『苗』みたいなのは生えて無さそうだし、寄生されちゃいないみたいだけど……」

 

「でも…………関係無くはない……っすよね、多分」

 

「やっぱそう思うよなー。何かしら関係ありそうだよなー。……タイミング的にもな」

 

 

 

 煎餅をこりこりと齧りながら現状把握のすり合わせを行いつつ、なんとはなしに大きめの液晶テレビをぽーっと眺める。

 

 やっぱりというべきか何というか、どの局も銀行襲撃事件の続報一色だった。犯人の動機や得体の知れない力の謎について論議が交わされ……併せて『現場に突如現れ事件を解決に導いた謎の魔法使い』の正体についても、様々な推測と持論を展開していっている。

 

 

 

『ご覧いただけますか? ここでカメラが一旦銀行の入り口に向いてですね…………再び遠景に戻ったときには、ほら! さっきまで誰も居なかった屋上にですよ守山さん! いきなり現れましたよ!』

 

『ええ、驚きですね。……しかしやはりというか、この人物なのですが……明らかに輪郭がぼやけているんですよね。周りのこの、給水タンクですか? それとか配管類なんかはハッキリと映ってるのに……この人物だけ明らかに霞んでるんですよね』

 

『その後この謎の人影は…………軽い足取りで給水タンクから飛び降りてですね。…………ここです。何の躊躇いもなくビルから飛び降りたんですよね』

 

『七階建てでしたっけ。……ちょっと僕には無理ですね』

 

『当っったり前でしょう! 誰だって無理ですよ!』

 

『一方でこの謎の人物は…………全く危なげなく着地しましたね。すぐさま被害者男性を抱え起こし――――』

 

 

 さっきから繰り返し繰り返し映し出されるのは、上空をホバリングしていた報道カメラによって捉えられた一部始終……おれが姿を表し、ボコられる支店長を庇って警官に預け、単身銀行内部へと歩を進めるところまでの、一連の映像。

 思っていたほど映像のブレは少なく、鮮明な映像にヒヤッとしたのだが……展開してあった【陽炎(ミルエルジュ)】のお陰で、細部は全くわからない。

 

 顔も背丈も、身に纏っていたコートの柄さえも満足に見て取れず、せいぜいが『人間の形をしている』程度の情報しか得られないだろう。

 思っていた通り……この映像からおれの正体に辿り着かれることは無さそうだ。

 

 

 

「そっすね。バレるとしたら先輩が助けたっていう、その支店長さん……それと例の『宿主』さんあたりっすかね? バッチリお顔見られちゃったんでしょ?」

 

「ウ゛ッ…………」

 

 

 ……そうだ。そうなのだ。

 瀕死の重症を負っていた支店長を治す際に、タスクに余裕を持たせるため【陽炎(ミルエルジュ)】の魔法を解除してしまっていた。

 そのため怪我が完治して目を覚ました支店長には、介抱するおれの顔をバッチリ見られてしまったし……更に極めつけは『苗』の宿主にされていた、彼だ。

 

 レターケースの直撃を受けてフードを下ろしていたのに加え、カウンターの下で身の上話を聞かせてもらったときなんかは……二人ならんで体育座りだったのだ。

 すぐ隣にいたおれの顔はバッチリ見られていたことだろうし、なんと耳まで晒してしまっている。

 

 おれの容姿に関する情報が流れ出るとしたら……その二人からだろう。

 

 

 

「ところで先輩、その『宿主』さんは大丈夫だったんすか?」

 

「ああそう。なんかさ、警官隊の人が何人かで銀行に来てなかった?」

 

「あー見ました見ました。責任者っぽい人と何人かで」

 

「そうそれ、その責任者っぽい人。春日井(かすがい)さんって言うらしんだけどさ。ちゃんと彼の事情も説明して()()()しといたから、多分いい感じに取り計らってくれると思う。情報収集は彼が目を覚ましたらで良いかなって」

 

「ちょ、先輩……まじすか」

 

 

 

 あの後……気絶してしまった彼は、結局のところ警官隊に預けることにした。

 世間的に見れば、世紀を揺るがす『悪の魔法使い』なのだ。まさかおれがこっそり連れて帰るわけにもいかないし、かといってそのまま知らんぷりで放置するのも後味が悪い。

 

 

「あの、先輩」

 

 

 この店舗に踏み込む直前お願い(脅し)に使用した【伝声(コムカツィオ)】を再び、先程と同様責任者っぽい人間に繋いだ。なかなか話のわかりそうな彼に『犯人が気絶したので拾いに来い、ただし何者かに操られていた被害者だから丁重に』と伝えた(お願いした)ところ…………何人かの重装警官に守られるように、責任者氏が到着した。

 

 

「えっと、先輩?」

 

 

 複数人の接近を感じ取り、このときはちゃんと【陽炎(ミルエルジュ)】も【変声(シュトムエンダ)】も使っていた。だから当然、警官隊にもおれの姿は知られていない。

 気絶した彼が担架に載せられている間に責任者氏を取っ捕まえ、冤罪からここに至るまでの経緯を簡単に説明し……くれぐれも酌量の余地を設けることと、彼が目を覚ました暁には彼と話をさせることとを、半ば頼み(脅し)込んで無理やり承認させた。

 

 

「…………ちょっとあの、先輩?」

 

 

 その後は……犯人の彼が載せられた担架にカメラが向いた隙に、【陽炎(ミルエルジュ)】を纏ったまま西側出口からこっそり抜け出し、【加速(リシュトルグ)】を使ってマンションの裏手に引っ込み、そのまま【浮遊(シュイルベ)】で三階まで浮かび上がり、再び玄関から烏森(かすもり)宅に転がり込んで……ほっと一息ついたところだ。

 

 思わぬ遭遇ではあったが、他にもおれの()()が居たということを思い知らされた。経緯を知るにしても対策を立てるにしても、実際に『苗』に寄生された当事者である彼の情報は、間違いなく非常に重要なものだろう。

 あの『種』の情報を得るためにも、早く彼に目覚めて貰いたいものだ…………って。

 

 

「どした? モリアキ」

 

「いや……どうしたじゃなくって…………情報収集? 会いに行くんすか? ……警察署に?」

 

「うん。あっ」

 

「………………何のために姿隠してたんすか……そもそもどうやってアポ取るつもりだったんすか……」

 

「えっと、えっと、あの」

 

「その格好で警察署行くつもりっすか? 何て言うんです? 『浪銀(なみぎん)襲撃事件の犯人に会いに来ました』とか名乗り出るつもりっすか? 即拘束されますよ」

 

「で、ですよね……」

 

「自覚してないようなのでお教えしますけど、世間は犯人以上に『事件を解決に導いた謎の魔法使い』に夢中なんすよ。ホイホイ名乗り出てってどうするんすか……」

 

「……深く考えてませんでした」

 

 

 ……仕方がないじゃないか。貴重な情報源だったんだもの。

 

 



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21【事件現場】解決だってば!!

 

 

 いくら烏森の自宅直下が現場だったからとはいえ……普段悲しいほどに小市民なおれが、銀行強盗犯の前にしゃしゃり出るような無謀を晒すはずがない。

 

 事件現場に乗り込んで騒動を沈静化したのは……いうなれば、()()()()()()()に引きずられたせいだ。

 あのときは……さも当然とばかりに介入する気満々だったが、今にして思えば明らかに違和感が勝る。本来おれはそんなに正義感溢れる人間では無かったハズだし、あんな緊迫した場に注目を浴びに行くような度胸も無かったハズなのだ。

 

 だが……襲撃犯の彼が支店長をボコり始めたときの怨嗟の声を聞き『このままではヤバイ』と()()()()()()()

 支店長だけに留まらず、彼が『復讐対象』と定めた多くの人々――浪銀(なみぎん)の元同僚達、出張先の都鉄(都心鉄道)駅員、鉄道警備隊の面々、離縁した元妻……それから、彼に憐憫や侮蔑や嘲笑の視線を向けた(と彼が思い込んでいた)数えきれない道行く人々――それら全てに対して害意を抱いているということを……()()()()()()()()()()()()()()()ということを認識し…………気が付いたら謎の義務感に突き動かされ、結局()()()()()を晒すに至ってしまった。

 

 ……そう、醜態。

 スイッチが切り替わり、普段の小市民なおれに戻ってきた今との感覚では……まごうことなき醜態である。

 

 

 

『謎の力……『魔法』とでも呼ぶのが相応しいのでしょうか。その『魔法』を駆使して被害者を救い、事件を解決に導いた謎の人物に関して、警察は広く情報提供を呼び掛けています』

 

『いわば『正義の魔法使い』ですか……こんなお伽噺(とぎばなし)のような展開ですが、是非とも詳しいお話お伺いしてみたいところですね』

 

『しかしですよ守山さん……警察が情報提供を呼び掛けるって、彼らは犯人捕縛の際に直接会ってたんじゃないんですかねぇ? その噂の『魔法使い』さんに』

 

『それなんですが……警察からは『魔法使い』について、何も公表されていません。情報が伏せられているのか、はたまた本当に情報が無いのか、現段階では何とも――――』

 

 

 

 ……確かに、こんな状況でホイホイ警察に出頭すればどんな目に遭うか。少なくとも数日か数週間は自由を失うだろうし、そもそも自由な生活に戻って来れる保障も無い。

 

 『魔法』を扱える者なんて、おれ自身見たことも聞いたことも無い。パチモンなら何度かあるが、今回のように目に見て明らかな『魔法』を放つ存在なんて……この技術と学問の時代には存在していなかったのだ。

 そんな時代に突如表れた『魔法使い』である。……本や映画の観すぎかもしれないが、こういう場合って取っ捕まったら『魔法』の知識を奪うために取り調べとか脅迫とか拷問とか人体実験とかを仕掛けられるのが()()()なのでは無かろうか。

 あの襲撃犯の彼も……目が覚めたら、きっと拷問とかされるのでは無かろうか。恐ろしいったらありゃしない。

 

 

 

「モリアキ」

 

「はい何でしょう」

 

「おれ……大人しくしてる」

 

「……それが良いと思います。綺麗さっぱり忘れちまいましょう。先輩これから忙しくなるわけですし」

 

「うん……そうする。わたし動画つくる」

 

「ほんと何なんすかその可愛いムーヴ……」

 

 

 そうだ。今のおれにはやるべきことがあるのだ。『種』に関する情報は正直欲しいが、拘束される可能性を考えてしまうと断固として否である。

 

 

 おれは……新人仮想配信者(UR―キャスター)『木乃若芽』ちゃんであるからして。

 

 おもしろい動画をコンスタントに撮影し、編集し、投稿し……合間合間にストリーミング配信だってしていかなければならないのだ。

 

 

「それはそうと……モリアキ」

 

「へ? 何すか?」

 

「言ったよな。FA(ファンア)頼むぞ。R-16(ちょっとえっち)な感じでヨロ」

 

「…………ッフヘ。まーかせて下さいよ!」

 

「今度飲み行こう。奢るわ」

 

「せめてメシで。今の先輩が酒飲める居酒屋とか存在しねっすよ……」

 

「…………畜生!!」

 

 

 

 

 世間は週末の二連休……ちょっとした大事件があったとはいえ、まだお昼過ぎ。家に帰っても充分作業時間を取ることが可能だし、そもそもが今となっては自営業。出勤も退勤も業務時間も自分で決めればいい。

 ……最悪寝なければ、時間はどれだけでも取れるのだ。

 

 とりあえず……素材ともども幾つかストックしてある企画から、ひとつ。帰宅したら即撮影に移ろう。目標は……明日日曜日のできれば夕方までに、一本投稿する。

 

 

 ここががんばりどころだ。……気合いを入れろよ、局長(おれ)

 

 



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22【日常風景】オウチへ帰ろう

 銀行襲撃事件もとりあえずの収束を見せ、加えてよく晴れた週末とあってか、昼頃にしてはなかなかの交通量を誇る神宮(かみや)区の幹線道路。

 そこを一台の軽自動車が順調に、法令遵守で走っていく。

 

 後部座席を倒せば完全フルフラットの荷台が出現するこの車種は、アウトドアや車内泊ユーザーをメインターゲットに据えているのだろう。

 角張った車体は広い室内スペースを提供し、荷室や後席の随所に据え付けられた各種収納は良好な使い勝手をもたらしている。

 

 

 実際に車内泊キャンプへと同行させて貰ったこともあるが……どちらかといえば段ボールと折りコン(折り畳みコンテナ)と台車と長筒を積み込み、首都東京の某港湾エリアの展示場へと遠征したときの印象の方が、遥かに強い。

 

 

 そのときと全く同じように、今回も助手席に収まるおれだったが……やはり視点の高さがかなり違うからだろうか。見慣れたはずの道なのに、窓から見える印象はだいぶ異なるように思えた。

 

 

 

「あっ……この時間は多分国道使わん方が良いわ。週末だからシオン軍に巻き込まれる」

 

「あー了解っす。それじゃあ花園町で折れます。環状線で」

 

「うっす。おなしゃす」

 

 

 愛車の原付は烏森(かすもり)宅に置きっぱなしにして、帰りは彼の車で送って貰うことになった。真っ暗で人っけの少ない夜間ならまだしも、日中におれみたいな幼女が原付かっ飛ばしていたら……確実に職質されるだろう。

 まだ多くの報道カメラや野次馬の残る現場から離脱するのは少々面倒だったが……駐車場が少し離れていたことが不幸中の幸いだった。烏森(かすもり)独りだったら何もやましいことは無いし、おれ独りだったら物影を飛び回りながらこっそり車まで辿り着くことも可能なのだ。

 

 

 週末特有の道路状況……大型複合商業モールへ殺到する車の流れを避けるべく、やや遠回りだが安全な道を選択する。この県の人々はシオンモールが大好きなので、週末ともなればとりあえず県内あちこちから集まってくるのだ。

 各モールの最寄りインターチェンジはほぼ麻痺しており、モール近くは駐車場待ちの車が一般道にまで長々と連なり、とにかく動きづらい。

 モールそのものかその近隣に用が無いのであれば、多少膨らんででも迂回するのが賢い選択だろう。

 

 ルート変更が功を奏したのか、順調に車は走行を続け……いい天気と相俟って段々とご機嫌になってくる。

 車載テレビから流れるワイドショーは相変わらず例の事件を取り上げているが、新たに得られる情報も無さそうだ。耳を傾ける必要性は薄いといえる。

 

 勝手知ったる様子でカーオーディオをポチポチと操作、スマホと無線接続して動画サイト(YouScreen)のプレイリストを選択。

 最近よく聞いているゲームのサウンドトラックがランダム再生され……弦楽器の重低音がもの悲しげなコードを響かせ、終盤イベントの特殊戦闘BGMが流れ出す。

 

 

 

「おお一曲目から神引きだわ。『故代の唄』。未だにめっちゃテンション上がるよな」

 

「あの展開はやべーっすよね……まさかあの局面でデボポポ出てくるとは思わねーっすよ……しかも『故代の唄』流れるとか……」

 

「確実にプレイヤーの情緒殺しに来てるだろ……」

 

 

 神秘的でどこかもの悲しげな、絡み合う二人の女声コーラスが特徴的なこの曲……主旋律はシリーズを通して代表的なフレーズであり、シリーズ一作目の公開以降何度かアレンジバージョンが公開されていた。

 そんな中で……シリーズ最新作にて新作アレンジBGMである()()()が流れた際には、懐かしさとトラウマと涙なしには見られぬ台詞回しで多くのプレイヤーの心を掻き乱した、いわくつきの神曲なのだ。

 

 おれもモリアキも文句なしお気に入りの一曲、以前から度々口ずさんでいたこの曲であるが……前奏が終わり問題の女声コーラスパートに差し掛かったとき、ふと()()()()が脳裏をよぎった。

 

 

(…………もしかして……『若芽ちゃん』なら歌えるんじゃね?)

 

 

 サビの高音部がギリギリで出せなかった以前とは異なり、今は女声フレーズだって問題なく出すことが出来るだろう。なにせ今やれっきとした女性……いやもとい、女児なのだ。

 音域が及ばないということは無いはずだし、肝心の音楽的技能に関しても……この身体(アバター)の、この子の設定であれば……あるいは。

 

 ……あの神曲を、歌えるかもしれない。

 

 

 

「―――集え―――縒りませ―――御手へ―――いざや―――声を―――祈りを―――来遣れ―――

 

 ―――捧げ―――今此処へ在れ―――願い―――声を―――祷りを―――とわに―――嗚呼―――」

 

 

 …………歌える。……いける。

 

 自分でもびっくりするほどあっさりと……透き通るようになめらかな歌声が、おれの口からこぼれ出る。一番音階の高いサビ部分を一巡させただけだが……思った通り、この身体の歌唱適正は非常に高いことが解った。

 

 エルフ種は作品によっては、長命種ならではの知識と音感を活かした『吟遊詩人』としての側面を持つこともある。

 ご多分に漏れずこの『若芽ちゃん』においても、こと芸術分野……特に音楽分野に関していえば、確か『極めて高レベルの技量を備え、普段から歌を口ずさむほどの音楽好き』という設定だったハズだ。

 

 

 ……あれこれと(もっと)もらしいことを理由付けしてみたが、要するにキャラクター設定の段階で『歌ってみた』系もこなせるようにキャラ付けしていただけのことだ。

 当時の計画では……変声ソフトの使用を前提にした強行策を用意していた。ソフトを通して変声させたおれが実際に歌ってみて、それを知人の編集者(チューナー)に依頼して魔改造して貰い、何重にも調整が加えられた歌声で『歌が得意』と言い張るつもりだったのだが…………今のおれであれば、生の歌声でも充分いけそうな気がする。

 

 

「なぁなぁモリアキ、おれもしかして『歌ってみた』できるんじゃね? 次の動画手っ取り早く()()にす…………モリアキ? 前! モリアキ前! 進んでる! 青!!」

 

「っは!? 危ねぇ! ちょっと先輩勘弁して下さいって! 何してくれてんすか本当にもう!!」

 

「ぇええええおれが悪いの!!?」

 

 

 いきなり罵声を浴びせるなんてひどい。いったいおれが何をしたというのだ。

 おれはただ……神曲を上機嫌で歌っていただけなのに。

 

 





歌詞は当然、アンオフィシャルです


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23【日常風景】寄り道をしよう

 

 神曲として名高い、某有名ゲームの代表的BGM……ちょっと気分が乗ったので口ずさんでみたら、なぜだか理不尽に怒鳴られることとなった。

 

 なにやらこっち向いてぼーっとしていたモリアキに前方注意を促したら、どういう因果かいきなり叱られた。青信号に気づいていなかった彼にそのことを知らせてあげただけなのに……感謝されるならまだしも、一体どうして怒鳴られなければならないのか。

 内心の不満を隠そうともせず、抗議の意味も込めて不満と不快感を露にする。具体的には……頬を膨らめ、睨みつける。

 

 

「……だから、そういうとこですって先輩」

 

「なにがよ。おれがどうして怒られなきゃならないってのよ」

 

「何の前触れも無くいきなり神曲に神ボーカル生えてきたんすよ。鳥肌めっちゃヤバイし心臓止まるかと思いましたもん」

 

「おお、やっぱ良さげだった? 動画としてイケそう?」

 

「歌は文句無し、武器として戦えると思います。あとは音源というか演出というか…………あれ、そもそもゲームミュージックって包括権利契約に含まれてるんでしたっけ?」

 

「歌ってみた動画が既に出てるってことは、一応何とかなってるんじゃね? その投稿者が直接スエクニ社と契約交わしたわけじゃないだろうし」

 

「じゃあまあ……権利関係はとりあえずクリア、と」

 

 

 いちおう、以前底辺配信者(キャスター)として活動していた際に、楽曲権利管理団体との包括契約に関しては目を通してある。

 以前使っていた『旧アカウント』と現在進行形の『のわめでぃあ』では配信サイト(YouScreen)のアカウントこそ別名だが、利用者として刻まれているのはおれの名前だ。

 後ろめたい点もほぼ無いことだし、あとは音源さえ確保できれば『歌ってみた』デビューも可能だろう。

 

 最後の問題は……その音源をどこから持ってくるのか、といったところだ。

 ゲームのサウンドトラックを背後で流す、という手は……ほぼ黒よりのグレー……というか、ぶっちゃけ黒だろう。カラオケトラック以外のカラオケ利用はNGだと聞いたことがあるし、そもそも原曲にもコーラスが入っている以上、歌声を魅せてこそである『歌ってみた』の音源としては適さない。

 かといって、原曲のコーラスパートを編集で取り除く……なんていうのは言語道断だ。他者の権利物を無許可で勝手に改変し用いるのは一発アウト、罪の認識があろうと無かろうと明確な犯罪行為となる。

 

 となると……オフボーカルの音源を一から作るか、もしくは直接演奏するしか道は無い。

 前者は一朝一夕で出来るとは思えないし……ならば、後者か。

 

 

「モリアキ……おまえアコギ(ギター)とか持ってないよな?」

 

「ぅえ!? 先輩ギター()けるんすか!?」

 

「わからん」

 

「………………はぁ?」

 

「い、いや、ごめんて。……その、だっておれ、エルフだし……」

 

「…………あぁ……なるほど。でもすみません、持ってないんすよ。自分オタマジャクシ適性は全くからっきしで」

 

「いやいいよ、無理言った。すまん」

 

 

 しかし……幸いなことに、ここ浪越(なみこ)市は日本有数の大都市だ。おれの住んでいる南区や烏森(かすもり)の住んでいる神宮(かみや)区は比較的静かな方だが……中央区や栄衛(さかえ)区や浪駅(ローエキ)の方は、これはもうまさに大都会なのである。

 これはもしかするかもしれない、と……裏で神曲を流し続けるスマホを操作し情報を探す。検索エンジンにキーワードを入力し、ヒットしたページを開き、営業時間や料金や備品や設備を確認し……そして立地を確認する。

 重ねて幸運なことに……神宮(かみや)区の東隣、浪東(ろうとう)区に、その店舗は見つかった。おれの家とは方向がやや異なるが、シオンモールを迂回したことが吉と出たらしい。現在位置からはそれほど離れていない。

 

 

「モリアキ、その……頼みがあるんだけどさ。……今日このあと、用事って立て込んでる?」

 

「急ぎの納品も無いので大丈夫っすよ。先輩今色々と大変そうですし、今日一日お手伝いします。良いように使って貰って構いませんよ。車だとこっそり移動するのも楽でしょう」

 

「ありがとうモリアキ好き。後でパンツ見ていいよ」

 

「軽率に『好き』とか言うんじゃありません!! ……あっ、パンツは興味あります。何なりとお申し付け下さい先輩」

 

「お前のそういう正直なとこ好きだよ」

 

 

 助手席にてスマホを操作し、件の店舗へと電話を掛けて色々聞いてみる。どうやら今日は()()があるらしく、事前予約無しでも大丈夫とのこと。

 設備と機材の確認を済ませ、部屋の予約とレンタルの申し込みを済ませて電話を切る。

 

 前提条件は……これで全てクリアだ。あとはおれ自身の技量、果たしてギターが弾けるようになっているのかという一点に、全てが懸かっている。

 不安ももちろん、無いわけではないのだが。

 

 

「楽しみだな!」

 

「そっすね!」

 

 

 新たな動画をつくることが……若芽ちゃんの魅力を広める算段を立てることが、今は何よりも楽しみだった。

 

 神曲の弾き語り……やってやろうじゃん!

 

 



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24【収録風景】妹と言い張りました

 

 

「おお――――…………」

 

 

 防音仕様のやや厚い扉をくぐり、おれが立ち入ったその小部屋。()()()()()()を目的として貸し出されているだけのことはあり……およそ充分と思える設備が整えられていた。

 

 

 何本もの集音マイクと、それぞれの音量バランスを調整するためのミキサー、そして音声をデータとして出力するためのパソコン。

 加えて……恐らくは演劇等の自主確認にも利用できるように、といった配慮によるものなのだろう。動画データを撮影できるよう、各マイクと連動したビデオカメラまで備わっていた。

 

 音声の録音と、動画の撮影……つまりはこの部屋の設備だけで、動画一本仕上げるための材料を集めることが可能なのだ。

 

 

 

「……あぁ良かった、部屋合ってた。先輩ーーお待たせしましたーー」

 

「おー、あんがとー」

 

 

 おまけに――今回に限ってはどちらかというと()()が主目的だったのだが――楽器類のレンタルさえも行っているという。

 高価な楽器を借りるためには会員登録する必要があるのだが……登録しておけば若干安く部屋を借りられる上、お得なパックプランも用意されている。

 身分証の提示を求められたら即()()なので若干身構えたが、スマホを利用してフォームに入力していくだけで会員登録作業はつつがなく完了した。……ああ、備品の破損とか問題あったときに連絡するためか。恐らくスマホに直接連絡が飛ぶようになっているのだろう。

 ともあれ、普通に使わせていただく分には何も問題ない。要は借りたものを丁寧に扱い、壊さなければ良いだけなのだ。

 

 

 様々な楽器を安価で借りることが出来、防音のしっかりした部屋と録音設備が整い、更に時間内であればドリンクバーの利用も可能。

 そんな至れり尽くせりの施設……烏森(かすもり)に連れてきて貰ったここは、浪東(ろうとう)区某所の貸しスタジオ。

 空いていたのはさほど広さが無く、バンドなどのグループで利用するには少々手狭であろう個室だったが……一人で練習、あわよくば撮影を行うつもりであるおれにとっては、何の問題もない。

 高価な設備が揃っていることもあり、部屋の片隅にひっそりと監視カメラが睨みを利かせているが、それ以外は自由そのものだ。どれだけ音を出しても、歌っても、騒いでも、叫んでも、部屋の外にそれら騒音が漏れることは無い。

 

 この中であれば……どれほど下手っぴな演奏を繰り広げようと、誰にも聞かれることは無いのだ!

 

 

「んっしっし! なんかテンション上がるよなぁ!」

 

「いちいち言動可愛らしいの何とかなりません? てか調律できるんすか? やったことあります?」

 

「たぶんできると思うぞ。おれ音楽の授業で三味線やったことあるし」

 

「三味線」

 

 

 烏森(かすもり)が借りてきてくれたアコースティックギターをケースから取り出し、取り扱い方法を記した覚書に(のっと)り、いそいそと調律を始める。

 モコモコした袋に小分けされている音叉を取り出し、膝の骨に軽くぶつけて音を響かせ、感度のいい耳で基準となる音を覚え、その音に合わせるように弦の張りを調整する。

 

 『三味線』と聞いた烏森(かすもり)は何やら残念なものを見るような目でおれを見ているが……そもそも發弦(はつげん)楽器の仕組みなんかは、だいたい共通しているものだ。

 ギターの柄の先端に備わるネジのようなものを巻けば、弦が張られたり緩んだりする構造となっている。つまりは音叉が発する音と弦を(はじ)いた音が同じ高さになるように、このネジをひねっていけば良いだけなのだ。

 

 

「んーんーんー…………ふーんふぅーんふーん……ふふふーんふーんふーんふぅーん……ふーんーんーんー」

 

「……何だこの可愛い生物」

 

 

 烏森(かすもり)の呟きをあえて無視しながら、おれは弦の調律を一本一本進めていく。

 べつに伊達や酔狂でフンフン言っているわけじゃない。耳で聞いた音を忘れないように、目指すべき音を口ずさんでいるだけだ。だんだん上機嫌になってきた気もしなくは無いが、これはおれが調律を進めていく上で必要なことなのだ。ふんふふーん。

 

 そんなおれの作戦は、やはり間違っていなかったらしい。順調に調律は進んでいき、六本目の音叉と六本目の弦が同じ音を響かせてくれるようになり……つまりは、これで六本全ての調律が完了した。

 見よう見まねでギターを膝にのせ、左手でギターの首を支えながら適当な位置で弦を押さえる。ドキドキしながら右手で弦をまとめて(はじ)くと……まぎれもない、アコースティックギターの音色が響き渡った。

 

 

「ふぉぉおぉ……すげぇ、ギターだ! おれギター()いてる!」

 

「何なんすかこの可愛い生物」

 

 

 何か聞こえた気がするが、今はいちいち構っていられない。感覚を確かめるように左手を色々動かし、弦を押さえる位置を変えながら繰り返し繰り返し音を響かせ、音の高さと弦それぞれの音域を確認していく。

 以前よりも小さくなってしまったおれの指では、六本全ての任意の場所を押さえるのは少し難しいが……世界には十一歳や八歳のギタリストも居るらしいのだ。つまり、ものは遣りようだろう。諦める必要は少しも無い。

 

 ふと、ケースの中に冊子が収められていたことに今更ながら気がついた。手にとって広げてみると、どうやら初心者用の教本らしい。

 基本姿勢や楽器の持ち方・扱い方は勿論のこと……和音(コード)ごとの手の形や運指などなど、今まさに必要としている情報が綴られていた。

 

 

 それらの情報を……おれがギターを弾くために必要な情報を、紙面に穴が空くほど凝視して必死に頭に詰め込む。

 見ながら、読み上げながら、弦を弾きながら……おれはしばらくの間上機嫌に、ギターとのつきあい方を吸収していった。

 

 ……ふんふん唄いながら。

 

 

………………

 

 

………………………………

 

 

 

 ―――グギュルググググゴゴゴゴ……

 

「んぐぉぉぉぉ……」

 

 

 拙いギターの音色が鳴り響いていた小部屋に、ギター以外の音が突如として響き渡った。

 それに伴う聞くに耐えない呻き声の出所は、まぎれもなくおれの口であり……つまりは響き渡った音というのも、またおれから生じたものである。

 

 一心不乱にギターと教本に打ち込んでいたおれだったが、その音によって現実に引き戻されるや否や……到底耐えがたい苦痛に苛まれることとなった。

 

 

「はら…………へった…………」

 

「失礼しまー……あれ、先輩戻って来ました?」

 

「あえ? 戻ってきた……って、おま」

 

「とりあえずおにぎりとサンドイッチ、先輩がトリップしてる間に買って来たっすよ。返事無かったんでオレの勝手チョイスっすけど……塩サバ好きでしたよね?」

 

 

 がちゃりと扉を開けて、コンビニ袋を両手に提げた烏森(かすもり)が入室してきた。彼の言葉に慌てて時計を確認すると……なんと、軽く二時間弱経過していたらしい。

 遅めの朝ごはんだったとはいえ、もうオヤツどきの時間も幾らか過ぎてしまっている。抗えぬ苦痛に……空腹に苛まれるのも、これは仕方がないことだろう。……というか。

 

 

「モリアキ……ごはん……買ってきてくれたの?」

 

「ええ、まぁ。ぶっちゃけオレも腹減ってきたんで。先輩めっちゃ集中してたっぽいですし、あんま邪魔すんのもなーって」

 

「ご、ごめん……! ほんとごめん!!」

 

「どっこいしょ。……いえいえ、オレとしても先輩の語り弾き楽しみですし。さっきも言ったすけど、ほら。塩サバおにぎりと……ポテサラサンド。好きっすよね? 先輩」

 

 

 年齢を感じさせる掛け声と共に椅子に腰掛け、烏森はテーブルの上におにぎりとサンドイッチ、更にはチーズ味の『唐揚げサン』まで……たいへん魅力的な品々を次々と並べていく。

 その中には確かに……鯖のほぐし身が包まれたおにぎりと、ポテトサラダがぎっしり挟まれたサンドイッチ……まぎれもないおれの好物が、きちんと含まれていた。

 

 

「も、モリアキ…………おれ、どうしたらいい? どうやって返そう……身体で返す? 脱ぐ?」

 

「シャレにならないんでやめて下さい」

 

「で、でも……さすがに『申し訳無い』が過ぎるんだけど」

 

「そーっすねー…………じゃあ……食べてからで良いんで、練習の成果聴かせてくださいよ。この『ファン一号』に」

 

「!! …………まかせとけ!」

 

「ふへへ……楽しみっす! あ、飲みもん取ってきますね。ウーロンで良いっすか?」

 

「あ、ドリンクバー? おれも行く!」

 

 

 そういえば……レンタル時間中はソフトドリンク飲み放題と言っていた。どんなものがあるのかも確認していなかったので、とりあえず取りに行ってみようと思う。

 いそいそとギターを置き、いちおうフード付コートを着込む。大人用で男物のコートはどう考えても似合っていないのだろうが、耳と髪を隠せるものがこれしかないのだから仕方ない。

 

 受付のときも……正直危なかった。今回は烏森が付いていてくれたから何とかなったが、説明のお兄さんも明らかにこちらを気にしていたようだった。

 当然だろう、フードで顔を隠しただぼだぼコートの幼女とか、どう考えても怪しい。入店を拒まれなかっただけありがたいと思わなければ。

 

 

 しかし、外出するにあたっての対策は考えなければならない。今後ずっと部屋に引きこもっている、というわけにもいかないので……そう、せめてこの身体に似合ったフード付コートを見繕う必要がありそうだ。

 

 烏森の後に続いて扉をくぐり、鍵を閉めながら……おれはそんなことを漠然と考えていた。

 

 

 



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25【収録風景】決意も新たに

 

 防音完備、楽器レンタル完備、ドリンクバー完備、録音設備完備と至れり尽くせりなこの貸スタジオは、とあるビルの地下部分にて営業を行っている。

 防音設備を整えるにあたり、地下のほうが遮音性とか良いとか……そんな感じの理由なんだろう。たぶん。

 

 ちなみにそのビルの一階および二階部分には系列の楽器店が入っており、音楽に携わる人々が初心者からプロまで数多く訪れるスポットであるらしい。

 さらに三階と四階部分にはクラシックから洋楽から邦楽からサブカルから幅広く取り揃えた、CDやDVD等のオーディオメディア専門店となっており……五階部分には各種音楽教本や、多種多様の楽譜で埋め尽くされた書店が入っている。

 

 それ以上の高層階……六階および七階は『一般のお客様は立ち入りを御遠慮ください』フロア……とのことだ。

 エレベーター横の階層別案内看板を見る限りでは……運営会社の事務スペースであったり、完全会員制音楽教室用の教室だったり、その先生達用のパーソナルオフィスだったり……つまりは主に音楽教室フロアってことだろう。

 ちなみに更に上がって最上階には、音楽系のイベントに利用できる多目的ルームまで備わっているようだ。

 掲示板に張られている張り紙を見たところ、ピアノコンサートやら音楽教室の発表会やら著名な作曲家の講演会やら大学生サークルの演奏会やら……かなり頻繁に催し物が開催されているらしい。

 張り紙の写真を見る限り、どうやらツーフロアぶち抜いたかなりの大空間のようだ。……ぱねぇ。

 

 

 まあ、なんというか、つまるところ……このビル一棟まるまる全部が『音楽』関係の入居テナントで埋まっているらしい。

 ……というかぶっちゃけ、全部まとめて一つの企業が広げた風呂敷らしい。

 

 実際、レンタル用の楽器も――店舗からか音楽教室からかは解らないが――上のほうの階から持ってこられたようだった。

 エレベーターなんかも一般的なビル用よりは明らかに広く、これを使えば地下一階から最上階まで、楽器を担いだままでも楽々アクセスできることだろう。

 

 

 少し話が逸れたが、とりあえずここは地下一階。このフロアの作りとしては、繁華街なんかによくあるカラオケボックスが近いだろう。

 階段およびエレベーターホールに面して受付カウンターが設けられ、その隣でドリンクスタンドが稼働している。トイレなんかも同様に入り口付近に設置され、ホールから枝分かれしていった通路沿いには貸スタジオブースの防音扉がずらりと並んでいる。

 

 ……まぁ、要するに。

 必然的に人の流れが多くなるであろう受付方面へ向かわないと、目的地であるドリンクバーまでたどり着けないということだ。

 

 加えて……本日は土曜日であり、かつよく晴れたお出掛け日和だったことも、記憶しておくべきだっただろう。

 

 

 

 

「ミッチーさぁー、ぶっちゃけ何か良いコトあったん? なんか今日さー、ミッチーなんか超イケイケな感じじゃねぇ?」

 

「あーわかっちまう? わかっちまっちゃう系? まじかーオレのドキドキわかっちまっちゃったった系かァー?」

 

「ぶッヒェハハハハハハ何だよソレ! やっべぇコイツウゼェ! マジデキアガっちゃってるわコイツ!」

 

「おいミッチーお前ドコ人だよウケるんですけどー! ニホン人ならニホン語喋れってェの!」

 

「うるせーって! しゃーねーだろオレ今めっちゃ興奮収まんねんだから! 伝説の幕開け見ちまったんだからよ!」

 

「ウケるー! やっべぇ興奮してるってよコイツ! 何? サカっちゃってる系? おサカりパークタワーオープンしちゃう感じ?」

 

「はー…………クッソワロ。()ァんだよ伝説って。またそんな大げさな」

 

 

 

 ……まぁ、Sサイズルーム以外埋まってるって言ってたもんな。

 大学生か……下手をすると高校生くらいだろうか。そんな若い子たちがバンドの練習に利用中でも、何もおかしいことは無い。

 

 ……無いの、だが。

 

 ドリンクバーのあるホールまで、あと曲がり角を一つというところで……非常に、非常に若者らしい喋り口の会話が聞こえてきた。

 偏見かもしれないが会話を聞く限りでは、どちらかというと理性的な性格では無さそうな気がする。いや本当ただの思い込みかもしれないんだけど。

 ただ実際なんというか、その……知的な喋り方では無さそうなので……つまるところドリンクバー目当てで出ていったらチャラチャラとした感じに絡まれやしないか、そこんところが不安なのだ。

 

 

「……どうします? 先輩。……ちょっと待ちますか?」

 

「…………ごめ、そうしたい……かも」

 

「了解っす。……まぁ、不安に感じてもしゃーないっすよ」

 

「ヤな奴だよなぁおれ……会話を盗み聞きして、しかもそれだけで『苦手な人』認定するとかさ……」

 

「まあまあ。べつに全人類好き(ちゅき)好き(ちゅき)する必要無いですし、」

 

『ギャハハハハハハ!!』

 

「……うん、オレもちょっと苦手っすもん。ああいう笑い方する陽キャ」

 

「おれら完全に陰キャの部類だもんな」

 

 

 

 こそこそと立ち話に興じている間にも、陽キャの彼らの会話は進んでいった。話はどうやら『ミッチー』が上機嫌である理由について――彼が目撃したという『伝説の幕開け』について――いかにも得意気に語り始めたところのようだ。

 

 ああ、もう……そういうお話はお部屋で存分に続けてくださいませんかね。公共スペースでの大声は御遠慮頂きたいのですが、どうやらその認識が薄い御様子。お客様お客様あーっ困りますお客様困ります、早くお退き頂けないとおれはいつまで経ってもオレンジジュースが飲めませんあーっ困ります困りますあーっあーっ。

 

 知らず知らずのうちに陽キャ集団へのイライラが募っていき、それが恐らく顔に出ていたのだろう。どこか困ったような表情を浮かべた烏森(かすもり)が、何か言葉を発しようと口を開き……しかし直後、その口は閉じられることとなる。

 

 

 

「だぁからお前らも『若芽ちゃん』見てみろって! めっっちゃカワイイから! アレもうユアキャス(UR―キャスター)って次元じゃ無ぇって!」

 

「まーじ? うーん……俺ユアキャス興味無ぇんだけどさ……そんなヤベェの? その『わかめちゃん』って」

 

「でもよ珍しくね? アイドルオタのミッチーがユアキャスって。どんな心変わりよ。その『若芽ちゃん』もアイドルなん?」

 

「いーや? つい最近デビューしたばっかの新人配信者(キャスター)だぞ」

 

「ギャハハハなんだそれ! やたら推すから何かと思えばド新人なのかよ! カワイイだけじゃ長続きしねーだろ!」

 

「いいやでもオレ解るもんね! あの子は絶対ぇ歌うまいって! 顔も声も可愛いし……何てぇの? 動き? とにかく……あの一生懸命さがまた可愛いのなんの! とにかく見せたるから見てみろって! 絶対ぇ次楽しみになっから!」

 

「…………へぇーマジかよ。そこまで言っちまうか。……どこで見れる? ちょっと興味出てきた」

 

「まかせとけオレが見せたる! ユースク(YouScreen)プレミアム会員の実力を見せてやる! とりまそろそろ部屋戻るぞ、あんま外で騒ぐと他の人の迷惑だし」

 

「まぁ……ちょっとなら見てみっか」

 

「そーだな。休憩にゃちょうど良いし」

 

 

 

 

 幸いなことにこちら側とは別方向の通路方面……彼らの部屋(ブース)の方向へ、『ミッチー』とその仲間達はじゃれ合いながら去っていった。

 

 騒々しくも楽しげな一団が去り、静けさを取り戻したホール入り口にて……おれ達はしばらくの間呆然と佇み、たった今の出来事を思い返す。

 それと同時……先程は烏森(かすもり)のフォローによって散らされた自己嫌悪が、再び燃え上がってくるのを感じていた。

 

 

「……普通に良い子だったな」

 

「まぁ、そっか……オレら隠れてましたもんね。彼ら以外に人居なけりゃ賑やかにもなりますか」

 

「それに…………()()くれてた。めっちゃ褒めてくれてた。……なのに、おれは」

 

「ストップ! ストップっす先輩! そういうときはヘコむよりも創作意欲に回した方が有意義っす! 逆にファンの人に……ミッチーに楽しんで貰えるような動画を作るために頑張るべきっすよ!! ちょうど歌声、期待してくれてましたし!」

 

「…………そう、だな。……せっかく楽しみにしてくれてるんだもんな」

 

 

 烏森(かすもり)の言う通りだろう。適度な反省はもちろん必要だろうが……度が過ぎたネガティブ思考は、抱えたところで何も改善しない。

 同じように思考の沼に沈むのだとしたら、どうせならプラスの思考を試みるべきだろう。

 『おれはなんて嫌なやつなんだ』ではなく……『応援してくれる人を喜ばせるにはどうすれば良いのか』へと思考をシフトさせる。考えても無駄なことは考えず、考えれば考えるだけ有意義になることに思考リソースを使うべきだ。

 

 動画配信者であるおれにとって……応援してくれる視聴者に喜んでもらう方法とは、一にも二にも『動画を投稿する』ことだろう。

 ならば答えは至極簡単。そもそもおれは今日、なんのためにここに来た。

 

 

 ()()()()()()()()()()()

 

 

「……ヨッシャ! 部屋戻ってごはん食べて練習すっか!」

 

「先輩! 待って! ドリンクバー! オレンジジュースいらないんすか!?」

 

「あっ!! いる!!」

 

 

 ジュース持って部屋戻ってごはん食べて……とりあえずは烏森(かすもり)に――いつだっておれを応援してくれる『ファン一号』に――練習の成果を披露しなければ。

 

 気合いをいれろ……おれ(若芽ちゃん)

 

 

 



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26【投稿準備】机仕事も必要なのだ

 

 リアルタイムで動画と音声を収録し、チェックや修正や大掛かりな編集を施さずに直接放送を行う、いわゆる『ライブ放送』とは異なり……楽器演奏や歌を録音ないしは録画して一本の動画に仕上げて投稿するまでには、幾つかの手間を要する。

 

 

 まず何よりも肝心なのは、メインとなる『演奏音声』データの録音。

 視聴者に聞かせたいがために演奏したのだから、ここをおざなりにすることは有り得ないだろう。

 幸いなことに件の貸しスタジオにおいては、録音用の高級コンデンサーマイクを使わせて貰うことが出来た。……別途料金が発生するオプションプランではあったが、後悔はしていない。

 

 それに加えて、演奏・歌唱しているおれの『映像』データの撮影。

 音声のみで真っ暗画面の動画は殺風景過ぎるし、どういう形でその音が奏でられているのかさえも解らない。

 せっかく弾きながら歌えるようになるまで練習したのだから、どうせなら是が非でも見て貰いたい。

 

 最低限、この二つのデータを入手さえすれば、あとは自宅で作業に取り掛かればいい。

 

 

 土曜日の夜九時……二十一時ころまで掛かって、とりあえず満足行くレベルの音声と動画を録ることができた。……まぁ、途中何度か横道に逸れたりもしたのだが。

 録れたてぴちぴちの生データを持ち帰り、烏森(かすもり)の軽自動車で自宅まで送ってもらう。それにしても思っていたよりも遅くなってしまい、こんな時間まで彼を付き合わせる形となってしまったことに、ぶっちゃけかなり申し訳なさを禁じ得ないのだが……

 

 『いやー、タブとオレンジペンシルがあれば何処ででも絵ぇ描けますし。実際めっちゃ筆進んだんすよ、たまには違う環境で仕事するのも良いっすね! ……まぁこれ趣味の絵なんすけどね』

 

 などとまぁ、これまた大変なことを仰っておられました。モリアキ神まじぱねぇっす。 

 本当おれは彼に頭が上がらない。冗談じゃなくそろそろ借りを返しきれなくなってしまいそうで、恐怖すら感じ始める始末である。

 

 

 しかし……そんな彼の期待に応えるためにも、気合いをいれて作業に取り組まなければならない。

 

 玄関エントランス前まで乗り付けてくれた救いの神(モリアキ)に別れを告げ、自室に帰ってきたのが二十二時頃だっただろうか。

 愛機(PC)の電源を立ち上げ、密閉式大型ヘッドフォンを――長い耳を圧し潰される感覚を我慢しながら――すっぽり被り、久しぶりの作業に際して手順を思い起こしながら……一番上まで上げてもやや低いチェアに腰掛けて、ディスプレイと対面する。

 

 投稿するにあたっては……やはり休日である週末、日曜日は狙い目だと思っている。金曜夜の初回放送から日が空くことは避けておきたい。何とか明日の日曜中に間に合わせるべく、気合いを入れて作業を開始しなければ。

 

 

 

 作業手順としては……先程録った音声データを洗いだし、適切な長さで切り取ったり音量を調節したり、気になるノイズや雑音を取り除いたりエコーや効果を調整したりして『動画の音声』を作り出す。

 用意したその『音声』にぴったり合うように録画された映像を紐付けし、また随所にテロップや画像を配置したりアイキャッチを挿入したりして『動画の音声』と『動画の映像』を合わせていく。

 曲というか歌によっては歌詞なんかを入れてもいいのかもしれないが……今回は入れない方が良いだろう。

 最後に動画の表紙ともいえるサムネイルを用意して、投稿準備は完了する。

 

 

 動画を仕立て上げる作業そのものは、以前から度々行っていたことだ。……といっても再生回数なんかせいぜい三桁が関の山、四桁行くことなんか(まれ)である。

 無名の動画投稿者であれば、やっぱりそんなものなんだろう。個人製作動画の黎明期はもはや過ぎ去り、動画も投稿者も供給過多な現状だ。飛び抜けた個性や強みでもなければ、生き残ることは困難極まりない。

 

 だからこそ、(いち)(ばち)かの仮想配信者(ユアキャス)計画なのだ。見映えしない中年男性なんかではなく可愛らしい美少女のガワを纏っていれば、それだけでもひとつの強みとなる。

 直接カメラの前に姿を表してもそれなりに画になるだろうし、動画のサムネイルは勿論、SNS(つぶやいたー)に画像を投稿して宣伝に使うこともできる。

 

 『カワイイ』というだけでも価値があるし、それだけ人目につきやすい。このご時世『カワイイ』は万能の武器であり、この時代を配信者(キャスター)として戦い抜くためには、強力な武器が必要不可欠なのだ。

 

 

 未だ謎だらけの出来事により『木乃・若芽ちゃん』となってしまったおれの身体だったが……『幼いエルフの女の子』の姿という()()()()()()()()が手に入ったことは、紛れもない事実。

 ……しかもこの身体は容姿が整っているだけでなく、様々な能力が非常に高性能なのだ。

 

 ほんの僅かなノイズさえ聞き取り、微かな音の歪みも見つけ出す聴覚。多数のタスクを同時に抱え込める並列処理能力。人間より明らかに広い範囲を精度を落とさず俯瞰できる視野の広さ等々……お陰で動画の編集作業も、あからさまに進みが早い。

 ぶっ通しで八時間程度は掛かるものだと覚悟していたが……思っていた以上に早く仕上がりそうだ。

 

 

 

「んん――――――っ、首が……腰が…………んへぇ、つかれた……今何時だ? …………げ」

 

 

 予想以上のペースで作業は進み、それに調子を良くしたおれは非常に深く集中できていたらしい。

 作業が一段落したところで身体の凝りをほぐし、伸びをしながら時計を見ると……時刻は深夜の二時を示していた。

 編集作業の方は順調、音声の調整と動画との紐付けはほぼ完了した。あとは画像や文字を挿入していけば良いので、なんとか終わりが見えてきた。

 

 だが…………ねむい。

 朝というか午前中の出来事により、少なからず疲労が溜まっていたのだろうか……いや、溜まってなかったとしても深夜二時なのだ。眠気に襲われるのも当然か。

 目標としている投稿時刻は……日曜の朝、六時。タイムリミットまであと四時間に迫ったこのタイミングで、のんびり仮眠を取るわけにはいかない。間違いなく寝過ぎる。

 いわば自由業となった今のおれは、昼夜逆転しようとただちに大きな問題は(たぶん)生じない。ならば今は眠いのを我慢して、完成まで作業を進めるべきだ。

 

 

(…………っし、風呂はいろ)

 

 

 さっぱりして目を醒ますとともに、気合いを入れ直すために。

 

 おれは自分の部屋着とモリアキ先生に授かったパンツを手に取り、我が家の風呂場へと向かった。

 

 

 



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27【投稿準備】気付けは重要なのだ

 

 作業も大詰めとなった、真夜中。

 おれは迫る睡魔を追い払い、また気合を入れ直すために……ひとっ風呂浴びる作戦を決行する決断を下した。

 

 

 身体を暖め、血流を良くして、頭により多くの酸素が送られるように。ついでに顔も洗ってさっぱりすることで、多少なりと目が覚めることだろう。

 作業途中のデータを上書き保存し、バックアップデータを外付けHDDにも保存し、どっこいしょと声を上げながら椅子から降りて立ち上がる。

 

 バスタオルと着替えを引っ掴んでバスルームへ移動し、結局ずっと着ていたファンタジーテイスト溢れるローブと、烏森(かすもり)に貰った女児用下着(パンツ)を脱ぎ去って洗濯機へ投げ込む。

 様変わりしてしまった女の子の身体は正直まだ見慣れないが、着替えのほうは抜かり無い。なんといっても帰り際に、烏森(かすもり)先生からパンツの支給を受けていたのだ。パンツさえあればあとは自前のTシャツとズボンで何とかなるだろう。サイズは大きいだろうが、べつに出掛けるわけでもないし問題ない。

 

 鏡に映る素っ裸の美少女エルフにどきどきしながら、シャワーヘッドを手に取りお湯を出す。適温になったことを確認してから身体もろとも湯船の中へ……今回は時間が押しているため、シャワーを浴びながらお湯を張る作戦である。

 

 

(おれ……この動画投稿し終わったら、風呂桶にお湯張って肩まで浸かるんだ。……ふふ……温泉の(もと)も買ってあったりして……)

 

 

 世間はソレを死亡フラグと言うらしいが、今のおれには通用しない。……今日一日で何となくだが理解し始めてきた。今のおれは容姿だけでなく、()()に関しても『若芽ちゃん』そのものなのだ。

 

 魔法情報局『のわめでぃあ』の局長であるおれ(わたし)は、番組の放送を成功させるにあたり『絶対』といえる自信がある。

 生まれもった『魔法』の才能に胡座をかかず、勉強し学習し身につけた『技術』を駆使し、視聴者を楽しませる番組を提供し続ける。

 これは『若芽ちゃん』の根幹を成す()()であり、()()でもあり、()()であり……そしておれの()()でもある。

 

 この身体(アバター)()()におれの()()が合わされば……やれないことなんて、あんまり無い。

 

 

「……っし! あと一息!」

 

 

 わしゃわしゃと荒っぽく顔を洗い、『この髪をちゃんと洗えるシャンプーも買わないとなぁ……』などと考えながらシャワーで全身を洗い流し、お湯を止めてシャワーヘッドを壁に掛ける。

 

 未発達な女の子の身体を撫で回すことに羞恥心を感じながら、バスタオルで水滴をしっかりと拭き上げ……ふとそこでスマホのお知らせランプが点滅していることに気付き、裸のままスマホを手に取りロックを解除する。

 

 淡い緑色の光をぴかぴかと点滅させるパターンは、REIN(メッセージツール)の新着受信のシグナルだ。

 こんな夜中に送ってくる人物の心当たりなんて数えるほどしか居やしないが……やはり送信者は予想通り、神絵師モリアキ大先生か。

 

 

 送られてきたのは……全くもって飾り気の無い六文字ぽっきりのメッセージと、一枚の画像データ。

 そこには……若葉色の髪と翡翠色の瞳を持った耳の長い少女が……慈しみの笑みと共に、愛しげに弦楽器を抱き抱え微笑む『若芽ちゃん』を描いた一枚絵が。

 

 直後には、取って付けたように添えられた『応援してます』のメッセージ。

 

 

「…………ばかやろう」

 

 

 こんな応援を貰ってしまったら……尚更頑張るしかないじゃないか。

 

 まるで誂えたように――というか、やはりそのつもりで描いてくれたのだろう――動画の『顔』ともいえるサムネイルとして持ってこいな、この上ない神作品である。

 あとは演奏曲タイトル等の情報を配置すれば、懸念の一つであったサムネイルの作成はあっというまに完了だ。

 それはつまり、動画の完成そのものが秒読み段階であり……ゴールまであと一息ということを表している。

 

 

 こんな遅い時間まで……場所は違えど、おれの作業に付き合ってくれた。

 『日曜の朝には投稿したいなぁ』と溢したおれのつぶやきを、律儀にも覚えていてくれたのだろう。

 

 なんて……なんて()()()やつなんだ。

 これはやはり……徹底的に気合いを入れて()()をしなければならない。

 

 

 

 

「…………えいっ」

 

 

 スマホのインナーカメラが小さくシャッター音を響かせ、撮影されたばかりの写真データが送信プレビューとして表示される。

 

 そこには……『若葉色の髪と翡翠色の瞳を持った幼い少女が、ほんのり濡れた素肌にバスタオルを一枚纏ったのみの大変あられもない姿で、ほんのり微笑みながらピースサインを見せ付ける』という……大切な部分こそ見えていないが大変扇情的な一枚が表示されていた。

 

 

 それをお礼の言葉と一緒に、容赦なく神絵師モリアキへと送信する。

 

 あっ既読がついた。

 

 ……えっ、音声着信?

 

 

「…………はい、こんば」

 

『先輩ちょっといい加減にしてくれませんかねぇ!?』

 

「ヒェッ」

 

『勘弁してくださいよもう! 今日一日オレがどんだけ我慢したと思ってんすか!? こんなん送られて我慢出来ると思ってんすか!?』

 

「た、溜まってる、ってやつ……かな?」

 

『……ッ、ああもう! そうっすよ! こんなエッッッな写真送ってきて! いいんすかもう! 見抜きますよ!?』

 

「…………しょうがないにゃぁ」

 

『………………え、マジすか』

 

「まぁ、写真なら別に。正直モリアキにはめっちゃ助けられてるし。…………おれ一人だったら……たぶん、折れてたから」

 

『…………本当に、良いんすか?』

 

「さすがに『相手しろ』とか言われたらちょっと引くけど……まぁ写真使うくらいならな、減るもんじゃないし。……モリアキは産みの親の一人だし、恩人だし。温泉旅行で全裸見せ合った仲だし」

 

『…………全、裸』

 

 

 おっと、これはガチのトーンだ。どうやら想像力を発揮してしまったらしい。

 ……まぁ無理もないだろう、何といってもおれとモリアキが『好き』を詰め込みまくった、理想ともいえるエルフの少女、その柔肌なのだ。アラサーおっさん同士の素っ裸とは比べるだけ失礼だろう。

 

 実際問題、この身体をモリアキに見られたとして……おれが失うものは特に無い。行為の相手になるのはさすがにご遠慮願いたいが、さっきのバスタオル一枚とかパンツくらいなら、別に見られても構わないと思っている。

 何しろ……おれだって実際のところ、目で堪能させてもらっているのだ。ともするとおれ以上の功労者である彼に何の旨味も無いのは……それはさすがにあんまりだろう。

 

 なので……彼なら、良い。そういうことにする。

 

 

「まぁ、とにかく…………本当にありがとうな。色々と」

 

『……いえ。オレが描きたくて描いただけですし。……まぁとりあえず、無理はしないでくださいね』

 

「大丈夫。お陰様でほぼ出来上がりよ。……六時な。楽しみにしててくれ」

 

『ご武運を。そしたら今度オレが酒持ってきますよ』

 

 

 決意も新たに気合を入れ、音声通話を切断する。

 パンツをはいてTシャツに袖を遠し、ズボンの裾を何重にも折り上げて無理矢理合わせる。

 

 神絵師モリアキより賜ったイラストを愛機(PC)で読み込み、サムネイルの作成と動画の最終仕上げに取りかかる。

 

 

(おれは本当に……本当に、恵まれてる)

 

 

 彼と出会えたことに、誰へともなく感謝しながら……てきぱきと成すべきことを成していった。

 

 

 



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28【投稿完了】はじめてのけいけん

 

 ―――誰か。―――だれか。

 

 

 ―――誰も居ないのか。

 

 ―――何も、出来ないのか。

 

 

 

 

 

 声が……聞こえる気がする。

 

 

 全く聞いたことの無い言語、全く聞いたことの無い声。

 恐らく……というか間違いなく、おれが会ったことも見掛けたことも無いひとの……ともするとこの国(日本)のひとでは無いかもしれない、誰かの声。

 

 

 血を吐かんばかりの必死さを滲ませる……救いを求める者の、声なき声。

 

 それが……聞こえた気がする。

 

 

 

(えっ、と…………あなたは……どなた様、でしょうか?)

 

 ―――!! 

 

 ―――聞こえるのか。―――僕の声が。

 

(ええ、まぁ……)

 

 

 こちらの思念に反応し、謎の声はその声色を驚愕に染める。

 どうやら……意思の疎通は可能なようだ。

 

 見渡す限りの真っ暗闇の中、謎の声の主は姿も形も見当たらないが……ほんの少しだけ安堵したような気配を伴いながら、しかし彼(?)は切々と訴えてくる。

 

 

 ―――恥であることは重々承知の上。

 

 ―――しかし、其方にしか頼めない。

 

 ―――其方以外に、居ない。

 

 ―――どうか、どうか助けてほしい。

 

 

 苦渋の決断、とでもいうのだろうか。

 助けを求めるべきではないと理解していながらも、助けを求めることしかできない……自分ではどうすることもできない状況に陥ってしまった、何処の誰とも知られない『誰か』。

 得体の知れない相手の、救いを求める声を聞き……

 

 

(えっ、わかった。何とかする)

 

 ―――えっ?

 

(えっ? ……助けてほしいんでしょ? おれにできることなら何とかするよ。どうすればいい?)

 

 

 おれは(いち)()もなく、承諾した。

 

 ()()()()()()()()()()であるおれは……おれに助けを求める声を、無下になんて出来やしない。

 助けることができるならば、自分にそれが可能ならば……それをすべきだと、この魂が告げているのだ。

 

 

 

 

 

…………………………

 

 

…………………………

 

 

 

 

 

(…………んんー……?)

 

 

 ふとももの上に置かれていたスマホが断続的に震え、その動きと音で意識を呼び起こされる。

 

 誰だこんな朝っぱらから……と億劫な気持ちになるのを堪えきれないまま、眠い目をこすりながらのっそりと身を起こす。

 

 

 あれ……いつのまにか眠ってたんだろ……ああ、そうか。

 

 例の『歌ってみた』動画を完成させて、配信サイト(YouScreen)に投稿して、SNS(つぶやいたー)で宣伝したところで……どうやらそこで力尽きたようだ。

 パソコン机のゆったりチェアに腰かけたまま、リクライニングした背もたれに深くもたれて寝落ちしていたようで……なにやら身体の節々が凝ってる気がする。

 

 

 未だにしぱしぱする目を凝らしてスマホを手に取り、新着アラートへ視線を向け……

 

 差出人の名と文面を認識するや否や、一瞬で覚醒し跳ね起きる。

 

 

 慌ててスマホを操作し配信サイト(ユースク)の管理ページへ飛び、目に飛び込んできた数字にまず唖然とする。

 

 大急ぎでSNS(つぶやいたー)の『若芽ちゃん』アカウントを開いてみても同様……そこに広がっていた光景に、今度は開いた口が塞がらない。

 

 

「………………え、うそ」

 

 

 仮想配信者(UR―キャスター)『木乃・若芽ちゃん』のアカウントには、なんと夥しい数の通知が……感想や意見や宣伝ツイートの拡散通知やブックマーク通知や新規フォロー通知等々が、これでもかと寄せられていた。

 

 それらの反応(リアクション)の数……じつに四桁。

 さらに大元、配信サイト(YouScreen)の再生数に至っては、十三時の時点で――投稿からおよそ七時間で――なんと間もなく五桁に届かんばかり。

 ろくな経歴もない産まれたててホヤホヤの新人配信者(キャスター)にしては、贔屓目に見てもなかなかの滑り出しなのではないだろうか。……というかこの時点で既に、自分の過去作をぶっちぎりで突き放している。割と泣ける。

 

 

 

 

「えっ、と…………どうしよ……」

 

 

 予想以上の反響を目の当たりにし、思考停止に陥っていたところに、スマホの振動が新たなる方針を告げる。

 

 もとい……既読マークが付いたことで、おれの起床を察してくれたのだろう。

 後輩にして同胞である烏森(かすもり)より、次なる作戦を立てるための作戦会議(という(てい)の『お疲れさま会』の開催)を持ちかけられた。

 

 

 日時は今日の十三時半。

 開催場所は『若芽ちゃん』の収録スタジオ。

 

 ……つまりは、おれの自宅。

 

 

(そういえば『酒持ってく』って言ってたっけ。……あれ本気(マジ)だったんか……)

 

 

 ……というか、どうやら既にウチの近くに到着しているらしく……更に言うとおれのリアクションが無いことから『寝落ち』を察してくれていた上、おれが自然と起きるまで待っていてくれたらしい。

 

 もうやめてくれ、申し訳なさがオーバーフローしてしまう。もはや手遅れだろうが、精一杯のおもてなしをさせて頂かなければ。

 REIN(メッセージツール)に『いいよ』の絵文字(スタンプ)を打ち込み送信しながら、とりあえずお飲み物だけでも用意しようと動き出したのだった。

 

 



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29【投稿完了】緊急作戦会議

 

「おおー! ここが『若芽ちゃん』のお部屋っすか!」

 

「おれの部屋だよ。前来たときと大して変わって無ぇだろ」

 

「現実を突きつけないで下さい。せっかく(ひた)ってたんすから」

 

「おれだってこんな(美少女受肉した)現実を突きつけられたか無かったよ!!」

 

 

 浪越(なみこ)市南区の某所に借りたおれの部屋は、RC(鉄筋コンクリート)造1LDKの物件……まぁ、飛び降り自殺を考えるくらいには高層階に位置している。

 

 その居住部分のほとんどを占める『LD(リビングダイニング)』の部分は、真っ白な壁に向けられたカメラやらタワー型ハイスペPCやら小型ウェブカメラやらオーディオミキサーやらが常に展開されている撮影用セッティングが施されており……ぶっちゃけるまでもなく、リビングだとかダイニングの機能はゼロである。

 そのためおれの私室、スタジオから扉一枚を隔てた洋間のこたつ兼用ローテーブルの上には……『作戦会議』という名目で持ち込まれたスナック菓子とソフトドリンクのペットボトルと缶チューハイが、所狭しと並んでいた。

 

 

 

「まぁまぁ機嫌直して。先輩の好きなおむすび煎餅も米田のタマゴサンドもありますよ。チューハイも残ったら置いてきますから。……先輩その身体じゃお酒買えないでしょ」

 

「おれは絶対ぇ部屋の趣味変えないからな。……煎餅とサンドと酒は遠慮なく貰うけど」

 

「どうぞどうぞ。先輩に貢ぐために買って来たんすから」

 

 

 気持ち悪いほどのニコニコ顔で、菓子やら酒やらをおれに貢ぐ烏森(かすもり)。正直いって嬉しいのは認めるが……そのきらきらとした笑顔がなんだか妙にこそばゆい。

 こうなった理由として、あるひとつの可能性がひっそり脳裏をよぎるが……全力で気にしないことにする。

 

 気を取り直すように……あるいは場の空気を誤魔化すために、今日来て貰った目的のもう半分、本題である『作戦会議』の火蓋を切る。

 

 

「それで、その…………どうしようね?」

 

「どうしましょうね。やっぱ出来れば今晩あたり、何かしらで配信してみた方が良いと思うっすよ。『歌ってみた』の宣伝とお礼も兼ねて」

 

「あ、やっぱ? よかった。おれもそう思ってた。……んだけど……」

 

「何をするか、っすよね。もうじき昼二時ですし、準備するにしても告知するにしてもそろそろ限界かと」

 

「ご、こめん、おれが寝過ごしたばっかりに……」

 

「いえ、しょうがないっすよ。大捕物(おおとりもの)したその晩に徹夜でしょう?」

 

 

 彼の言うとおり『仕方がない』ことだったのかもしれないが……それでも、貴重な日曜日の時間を浪費してしまったことに変わりはないのだ。少なからず後悔の念が浮かんでくるが、今はそんなネガティブな思考を浮かべる時間さえ惜しい。

 目標としては……今晩二十一時を目処に、二回目となる配信を試みる。そのために前もってSNS(つぶやいたー)で告知をしておく必要もあるし、このタイミングとなってしまっては時間が押せば押すほど、広告の効果は薄まってしまう。

 ……いやむしろ、前日に告知できなかった時点で手遅れなのかもしれないが。

 

 だがしかし、過ぎたことは変えられない以上はどうしようもない。大切なのは『今何をすべきか』であり、こと今回に限っては『今夜の第二回配信の内容をどうするべきか』を考えるべきだろう。

 

 

「定番のゲーム配信とかっすか? 最近ですとフロゲーとかデュエルとか、もしくはFPSとか」

 

「確かに定番だと思うけど……逆に新鮮味が薄いっていうか」

 

「逆にちょいと前のゲームならまだ配信数も少ないっすかね? ……あー、あれとかどうすか? フィットネスのやつ。輪っかの」

 

「…………あー、1カメでゲームプレイするおれを撮って、ゲーム画面にワイプで入れりゃ成り立つか」

 

「でっしょー! あのテのゲームは疲れ果てるプレイヤー眺めて愉悦(ゆえつ)るのが一番楽しいっすからね! 先輩フィッチ持ってましたよね?」

 

 

 なるほど確かに……それであればたとえ結果が芳しくなくても、それはそれで美味しいだろう。ゲームの腕前に関係なく、とりあえずプレイヤーが身体を張っている様子を眺められば『見るがわ』としては楽しめる。

 フィッチ(例のゲーム機)は操作方法が明瞭な傾向が強いし、加えてあのゲームは事前の練習が不要なのもありがたい。…………が。

 

 

「ま、待て待て待て、おれはまだやるとは言ってねえ! ……ていうかソフト持ってねえし!」

 

「いやでも良い考えだと重うんすよ。若芽ちゃんは他の仮想配信者(ユアキャス)に無い強みがあるわけですし。表情どころか顔色や汗まで表現できる仮想配信者(ユアキャス)なんてそうそう居ないっすよ」

 

「てかおれ仮想配信者(UR―キャスター)名乗ってて良いのかな。今さらだけど」

 

「エルフバレしたく無きゃ言い張るしかないとは思いますが……正直いってバレんのは時間の問題っすかね。何せ3Dアバターと言い張るにはリアル過ぎますし、先輩のその容姿ならちょっと出歩きゃ噂になりますよ。ソフト買ってきますわ。そこは割り切りましょう」

 

「まぁそだよな……何か言い訳も考えとかな…………えっ? ご、ごめん。何か言った?」

 

「じゃあそういうことで。オレ少し出掛けてきます。三十分かそこらで戻るんで、先食べてて良いっすよ。……お酒は告知終わるまで我慢してくださいね」

 

「えっ? えっ? ……お、おう。わかった。ていうか酒は配信終わるまで我慢すべきだろ。……まぁよくわかんないけど……行ってら?」

 

「うっす。行ってきまっす」

 

 

 

 

 なんだか釈然としないが……烏森(かすもり)は慌ただしく出ていってしまったので、とりあえずその間今夜の配信の内容を考えておかないといけない。

 

 安定感があり、かといってありきたり過ぎず、定番からほんの少し方針を逸らした程度の企画。

 数多の先輩配信者(キャスター)の影に埋もれることがない、若芽ちゃん(おれ)の長所を活かすことが出来る企画。

 

 やっぱ……歌だろうか。タイミング的にも違和感ないと思うが……オリジナル楽曲なんて持ってないし、即興で演奏するのもたぶん無理だろう。ていうかそもそも楽器が此処に無い。

 ……カラオケ生配信でも出来れば楽しそうなんだけど……権利関係とか難しそうだよなぁ。

 

 

(……とりあえず予告だけでもしておくか。詳細はまた後ほどって感じで。最悪身内をサクラ(盛り上げ役)にして雑談枠でも……)

 

 

 もうすぐ十五時……日曜日の昼三時になるところだ。詳細はこの期に及んで未定だが、そのことをうまくぼかしてでも『やる』ということをまず告知しておくべきだろう。

 烏森(かすもり)も何やら考えがあったみたいだし、戻ってきたら詳しい話を聞いてみよう。いよいよ何も考えつかなかったら雑談に逃げるとして。

 

 ……よし。それでいこう。

 大丈夫、今は波に乗ってる。きっとなんとかなる。……多分。

 

 

 

…………………………

 

 

 

 今夜二十一時からの配信予告の投稿は、今まで以上の勢いで拡散されていった。

 勿論、第一線で活躍している仮想配信者(UR―キャスター)に比べたら……吹けば飛ぶような規模なのだろうが。

 

 だがそれでも、おれはおれだ。この『木乃若芽ちゃん』を支持し、興味を持ってくれる人々のため……やると決めたからには()()()()()()

 わたし(おれ)は木乃若芽ちゃん、魔法情報局の局長なのだ。

 

 

 

 

 その気合いの入った意気込みが元で、くだんの配信において大層悲惨な事件に見舞われる羽目になるのだが……

 

 このときのおれは勿論、そんなことなど知る由もなかった。

 

 

 



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30【御礼配信】この身体の実力を

 

 

ヘィリィ(こんにちは)! 親愛なる人間種の皆さん! 魔法情報局『のわめでぃあ』局長、(グルーエ)エルフの『木乃・若芽』です!」

 

 

 日曜日の夜九時。殆どの人々が休日の終わりを嘆き、また翌日から始まる一週間を憂いている時間帯。

 配信者にとってのゴールデンタイムである二十一時に、第二回目の配信をぶち当てる。

 

 第一回目のお披露目配信、ならびについ今朝方投稿した演奏動画の恩恵だろうか。配信開始時刻前から、なかなかの人数が配信ページで待機していてくれた。

 まだまだ二回目、吹けば飛ぶような弱小配信者(キャスター)の身の上だが……和気藹々(わきあいあい)と繰り広げられるコメント欄でのチャットを眺めているだけでも、なかなかこみ上げてくるものがあった。

 

 

 楽しみに、してくれていたのだ。

 おれの……若芽ちゃんの、配信を。

 

 

 

「まずですね、ご存知のかたも居られるかもしれませんが…………今朝ですね! じつは動画をひとつ投稿しています! 『歌ってみた』動画ですね!」

 

 

 この身体(アバター)の能力を把握するために、やや見切り発車で企画した『歌ってみた』動画だが……曲自体のもともと知名度に加え、最近話題が再燃した曲であるということが幸いし、今日一日だけでも結構な注目を得ることが出来た。

 

 ……ので、まずはお礼。

 見てくれて、聞いてくれてありがとう。

 

 そして……わたしに興味を持ってくれて、ありがとう。

 

 

「演奏もお歌も、わたし一人で頑張りました! 既に再生数が初めての領域でドキドキしてるんですが……見たよー聞いたよー、っていう(かた)…………居ます、か? ……わっ! いる! ほんとですか! ありがとうございます! うれしい! ありがとうございます! ……そうですよー演奏もわたしです! 頑張りました! ありがとうございます!」

 

 

 アクションが一方通行になりがちな動画投稿とは異なり、視聴者に来て貰っての配信ではリアルタイムでコメントが寄せられる。

 視聴者の方々の反応が……興味が、喜びが、関心が、好意が、ダイレクトに伝わってくる。

 

 生み出した創作物を褒めてもらって、うれしくないわけがない。

 喜んでもらえて……嬉しくないはずがない。

 

 

「あんまり難しいのは……その、弾けるかどうかわかりませんが……もしリクエストとかありましたら、SNS(つぶやいたー)とかウェブコメ(かすてら)のほうにメッセージお願いします! 権利的に平気そうだったら……ここ大事(だいじ)ですよ! 権利的に大丈夫そうでしたら! 練習して動画撮ってこうと思いますので! なにとぞよろしくお願いします! がんばります! ありがとうございます!」

 

 

 リアルタイムでウィンドウに反映され流れていく、この配信を見てくれている視聴者からのコメントの数々。その中には件の『歌ってみた』を既に視聴してくれていた人たちのコメントも少なく無く……おれの歌声を褒めてくれる人の声も、ちらほらと見ることが出来た。

 

 嬉しい。嬉しい。……めっちゃ嬉しい。

 動画を褒めてもらえた。ギターすごいって褒めてもらえた。歌声が好きだと言ってもらえた。

 

 嬉しい。……とても、嬉しい。

 

 

「お礼に一曲、とかも思ったのですが……あの、正直とくに決めてなかったので、音源がですね……その…………無くて、ですね? だから……またのお楽しみってこウェッ!? アカペラ!? えっ、ちょ……でも…………そんなに、聴きたい、です……か? あの、今日は輪っかのやつやる予定が……」

 

 

 口調と表情は完璧に『困惑』を表現していながら、一方おれの本心は極めて冷静だ。少々台本から逸れたことは間違いない が、この事態は若芽ちゃん(おれ)の歌唱力をアピールする絶好のチャンスでもある。

 確かに無伴奏声楽(アカペラ)ならば音源を用意する必要も、特に音質を調整する必要も無い。ぶっちゃけ非常にお手軽だ。

 コメントにも歌声の披露を後押しする声が、多く流れてきている。歌うことを望まれているというのは非常にありがたいし、正直なところ非常に嬉しくもある。

 視聴者との距離が近いことをアピールするためにも……やってみるのは、充分にアリだと思う。

 

 

「…………わかりました。一曲だけですよ? 無難に民謡いきますね。……今日はリクエストは無しです。もしリクエストがあるならさっき言ったようにですね、メッセージでお願いします。……こほん」

 

 

 わざとらしく咳払いをひとつ。BGMのボリュームを落とし、音声をマイク入力のみに切り替える。

 

 まぶたを閉じて深呼吸し、心を落ち着ける(ように見せる)。……実際のところは言うほど緊張していない。それほどまでに、この身体の歌唱能力と音感と肺活量と記憶力はずば抜けているのだ。

 

 その能力を見せつける絶好の機会である。正直いって……楽しみで楽しみで、どきどきが止まらない。

 

 

 「それでは。僭越ながら、皆さんのお耳を拝借します。……聞いてください。『素晴らしき(amazing)恩寵(grace)』」

 

 

 

 

 無音となった配信ページで、のびのびと澄んだ歌声が流れ始める。

 

 歌声を紡ぐと共にまぶたを閉じ、手を軽く握り合わせて胸に当て……見ようによっては『祈り』のようにも見えることだろう。

 

 細かな表情、まぶたや唇の形、指の一本一本に至るまでの挙動を表現できるのは……怪我の功名ではあるが、若芽ちゃん(おれ)ならではの長所である。活かさない手は無い。

 

 歌う曲目として選んだのは、世界中で親しまれている讃美歌のひとつ。小学校や中学校の音楽科で履修することも多く、テレビ番組やコマーシャル等でも度々用いられる名曲であり……知名度はかなり高いだろう。

 敬虔な教徒である牧師が、若き日の自身の行いに対する悔恨と、自身を死の危機から救ってくれた神に対する深い感謝を込めた、世界中で愛されている歌。

 

 

 ゆるやかでのびのびとした、どちらかというと音域の高い曲ではあるが……歌唱に際しての不安を全く感じることもなく、しっとりと丸々一曲歌い上げる。

 

 

 歌い出しと共にコメントが溢れ、途中はまるで聞き入っているかのように流れが緩やかになり……四節目の最後の音を止めると同時に、再び怒濤のようなコメントの濁流が押し寄せる。

 

 実のところはこっそり薄目を開けてその様子を把握しておきながらも、さも『今初めて目を開けてコメントを見ました』と言わんばかりの表情と声色を身に纏う。

 

 

 

「……ふぅ。……どうでしュヒゃぁ!? うわ!? わ、わ、わわ!? あ、あ、あり、ありがとうございます! えっ? ど、どうでした? わたしの歌……よかった? えっ、よかった!? えっ!? すごかった!? ほんと!? ありがとうございます! んえへへ!」

 

 

 正直、自分でもなかなかよく歌えたと思っている。様々な知識を修めている若芽ちゃんは当然語学も堪能(という設定)であり、英語の発音に関しても拙さは欠片も見られない。

 そのまま音楽科や……ともすると英語の教材に使えそうなほど、ケチのつけようのない堂々たる歌唱……まさに『会心の出来』と言っても過言ではなかっただろう。我ながら良い仕事をしたと思う。

 

 ……さて、無事に一仕事終えたので台本に戻りたいところだけど……もう少しアフターサービスしておこうか。

 おれはまだまだ駆け出しだからな。売れるところで売れるだけ媚を売っておかないと。拾える()は全部拾っとかないと。

 

 

「さてさて……皆さんどこかで聞いたことがあったかもしれません。有名ですよね、この曲。物知りな人間種の皆さんはご存じかもしれませんが……この『素晴らしき恩寵』はですね、イギリスのニュートン牧師によって作詞された讃美歌です。……はい、讃美歌。教会での集会やお祈りのときに、神さまに捧げるお歌なんですね」

 

 

 BGMのボリューム上げながら、トーク時の動画設定を呼び出して『語り(トーク)』を始める。

 カメラに映る若芽ちゃんの後ろがわ……部屋の白壁へと、クロマキー合成のように仮想スタジオを魔法で投影。同じく魔法で曲目を記した看板バルーンと、重要そうなキーワードを書き記したボードをふわふわと浮かべる。

 

 

 口頭で説明しながらリアルタイムで板書やテロップを入れていくというのは、収録即放映が普通である『生放送』においては極めて面倒だと思う。

 勿論、前もって入念に打ち合わせを行い、台本通りタイムスケジュール通りに生放送を進行し、次に何を喋るのかが解っているのならば、タイミングを合わせてテロップを表示することは可能だろう。

 

 だが……今回の生放送においては、このアカペラ披露は急遽決まった……ということになっている。つまりは、予定外だ。

 そんな予定外(に見せかけた予定通りなのだが)のトークにおいてもテロップとバルーンを活用して見せるというのは、これも『若芽ちゃん』ひいては『のわめでぃあ(魔法情報局)』の技術力をアピールする一端となってくれることだろう。

 

 

「…………と、まあ、わたしが覚えてることはこんな感じです。だいぶ横道に逸れちゃいましたね……オハナシつまんなかったですよねえ……だいぶ時間経っちゃいましたね…………ごめんなさい……えっ? おもしろかった? ほんと!? つまんなく無かった? ほんとに!? ありがとうございます!」

 

 

 台本から外れた演目は期待通り、視聴者の関心を鷲掴み出来たようだ。

 滝のように流れるコメントを、並外れた動体視力と瞬間記憶力でつぶさに把握していき、そのほとんど全てが好意的なコメントであることに()()と胸を撫で下ろす。

 

 ()()()は大成功を納めた。朝に投稿した動画の宣伝も出来た。

 そろそろ……本編に行ってみようか。

 

 ただの仮想配信者には真似出来ない、若芽ちゃん(おれ)にしか出来ない配信を。

 演者の顔色や表情や汗や涙なんかもばっちり捉えられてしまう配信環境での……身体いじめ(運動ゲーム)を。

 

 

 やるからには……本気だす。

 天才エルフ少女『若芽ちゃん』の()()を……盛大に見せつけてやろうではないか。

 

 

 



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31【御礼配信】よーく見ておけ!!

 

 

 まるで自分のモノでは無くなったかのように、自分の身体が思い通りに動かせない。

 全身が悲鳴を上げているのに、周囲の声はそんなことを微塵も配慮してくれやしない。

 

 

「ごべっ、……ごめ、ご……ごめ……なさっ、あっ、も………ちょ、待っ」

 

 

 息も絶え絶えに謝罪を口にし、慈悲にすがろうとするおれに向けられるのは……一欠片の憐憫と、数多の嘲笑。

 この『生き地獄』から逃れる手段を……今のおれは、持ち合わせていなかった。

 

 

 

 

 

 幼げな容姿に反して、数多の魔法を自由自在に操る魔法使い。

 

 この世界においては存在そのものが極めて珍しい、エルフ族の女の子。

 

 心優しく、知的で、負けず嫌い。魔法放送局『のわめでぃあ』の運営を一手に手掛ける、遣り手の新人配信者(ニュービーキャスター)

 

 ……などなど、いわゆる『長所』に分類される設定だけではなく……これらの他に勿論『短所』とされる設定も、この子(若芽ちゃん)には籠められている。

 

 

 

 というのも……創作活動における登場人物の作成において、欠点と言える欠点のひとつもない長所だらけのキャラクターなんていうものは……おれ(と神絵師(モリアキ))は下策中の下策だと思っている(※個人的な意見です)。

 

 

 確かに、非の打ち所の無いキャラクターを作るのは……強靭で無敵で最強なキャラクターを活躍させるのは、とても気持ちが良いだろう。

 

 一切のストレス無く物語を進行させ、何らかのトラブルに見舞われようとも危機的状況に陥ることが一切無く……数行に渡っていちいち読む気も失せる程羅列された技能(スキル)のうちのほんの数個を使って、あっさりと事態を解決する。

 虐げられている奴隷を見掛けたらとりあえず解放し、実力を隠したいのか目立ちたいのか謎な言動で都市に蔓延る不正を正し、冒険者ギルドのランクだって異例の速度で駆け上がる。

 最強キャラクターは国家や世界の思惑に左右されずに、ただ自分の判断基準に則り、取り巻きを引き連れ自由気ままに冒険の旅を続ける。

 

 全くのノーストレス、痛快極まりないそんな物語が好きだという層も……そりゃあ存在して然るべきだろう。

 

 

 

 ……だが。

 そんな『無敵』ともいえるキャラクターは、物語を展開させていく上で()()()()()に直面するだろうと、おれたちは常々思っている。

 

 どんな問題が起ころうとも、どんな危機が迫ろうとも、無敵キャラクターが危機的状況に陥ることはあり得ないのだろう。

 であれば、そこに無敵キャラクターを心配する余地など生じるハズもなく……『この先どうなるんだろう?』『どうなってしまうんだろう?』といったドキドキとかワクワク感も、鳴りを潜めてしまうことだろう(※個人的な意見です)。

 

 勿論、圧倒的な実力差で完膚なきまでに勝利することは……大きな爽快感を与えるという意味では、決して間違いではない。

 しかしながら、弱点の存在しない無敵キャラクターともなってしまうと……どんな強敵が現れても『敵が出てきた時点で勝敗が決してしまう』状態となりかねない。

 

 何の危()()さぬ()……それはもう、ロマン溢れる()()()とは言い難い。

 勝つか負けるかのドキドキハラハラが楽しめないというのは……それは作品としては、非常に勿体無いことだと思う(※個人的な意見です)。

 

 

 

 ……ちょっと話が迷走したが……要するに、キャラクターを作るときには『強み』は勿論として『弱点』もきちんと設定すべきだと、おれ(と神絵師(モリアキ))は常々思っている。

 

 それは勿論、この『木乃若芽ちゃん』においても同様。先述のように『魔法』と『知識』と『技量』等々を『強み』としてステータスを割り振った反面、それ以外の()()()()()においては……なんというか、致命的とも言える程に能力値が低く設定されている。

 

 

 

 ええ、まぁ、つまり……もうお解りだろう。

 

 木乃若芽ちゃん……もとい()()は今や……そんじょそこらの十歳児よりも運動能力が低いという呪い(設定)に、身体を蝕まれているのだ。

 

 

 

 

「待、まっ……あっ……ま、だ、だめ、これ……ちょっ、と……待っ……」

 

 

 国内最大手メーカー謹製の最新鋭ゲーム機は、複数備えた高精度センサーにより、使用者の身体機能を容赦無く算定する。

 かつてのおれが調子づいて加えた設定の通り……この身体(若芽ちゃん)の運動能力は、もののみごとに人間種の十歳児相当。まったくもって憎々しいくらい見事な再現度である。

 

 

 運動が苦手で、魔法を併用しない身体能力は、見たままの幼い女の子相応。

 しかしながら負けず嫌いで自身の弱点を認めようとせず、ひとたび煽られれば売り言葉に買い言葉で、どんどんドツボにハマっていく。

 

 設定を練り込んでいた当時は『そんなポンコツっぷりもまた可愛いだろう』と、どちらかといえばノリノリで弱点をあれこれ付与していたが……こう(おれがこの子に)なってしまった今となっては、かつての自分自身を殴り倒してやりたいくらいだった。

 

 

 

「あ゛ッ!!? 待って! 痛い痛いふともも痛いまって! 待って痛いおまた痛いおまた……えっガード? あっ出来てない!? ちょっ、あっ! 待って!! あっ……」

 

 

 カメラの前で腿上げ運動を続けるおれの動きを、脚に取り付けたコントローラーの加速度センサーがしっかりと読み取り、ゲーム画面の中のキャラクターがぎこちない動きでステージを駆け抜けていく。

 この時点での所要時間は、既に平均タイムの倍近く掛かっているらしい。風前の灯である()としての意識が見栄を張って『三十代男性』の負荷設定にしたわけだが……結果がコレである。

 

 待ち構えていた敵キャラクターの攻撃に対し、プレイヤーは適切な動作を行うことで切り抜けることが出来るのだが……ひ弱な女の子そのものと成り果てたおれの筋力では、その動作さえ行うことが出来ない。

 延々続いた腿上げ運動によって乳酸漬けとなっていたおれの筋肉は、今や鉛に入れ換えられたかのように重く、固い。

 

 

 

「……はっ、……はっ、……はっ、…………これ、難易度……高すぎくない……? 無理じゃない? …………難易度下げていい? わたし十歳ぞ……女の子ぞ……」

 

 

 見事に敗退したリザルト画面を睨み付けながら、フルマラソンを走りきったかのような満身創痍の汗だくで訴える。

 喉を鳴らしてスポーツドリンクを盛大に流し込み、この(勿論悪い意味で)一方的過ぎる惨状を見ていただろう視聴者に判断を委ねるが……ひたすらに調子に乗って(イキり散らして)いた導入部分のせいか、はたまた苦痛に喘ぐ美少女を堪能したいからなのか……寄せられるコメントの八割程は『そのままで頑張れ』との無慈悲なる指示。

 おれの訴えは聞き入れられることは無く、引き続き三十代男性向けのトレーニングメニューを味わう羽目になった。

 

 

 だが……比喩じゃなく生きるか死ぬかの瀬戸際を味わっているおれとは異なり、視聴者にとってみれば良い()が録れているのではないかと、我ながら思っている。

 

 何しろ――中身は一旦置いておくとして――演者は三十代男性ではなく、見た目十歳そこらの美少女エルフなのだ。

 実際として……過酷な運動によって紅潮した肌と滲み出る汗、身体の動きに伴いなびく長い髪は、見ようによってはなかなかに……こう、クるものがあるのでは無いだろうか。

 

 それに加えて、今の服装だ。ジャージや体操服のような運動に適した服装ではなく、相変わらず魔法使いふうのローブを着たまま。汗を吸えば肌に纏わりつき重苦しいし、脚を上げれば捲り上がってしまう。

 さすがにパンツが見えるような事態には(多分)なっていないが……側面に入ったスリットのお陰もあり、ぶっちゃけなかなか際どい位置までチラチラしてる気がする。

 

 白熱するコメント欄を拡張された意識の端で確認し、予想以上の効果にひっそりとほくそ笑みながら……さも気づいていない風を装ったまま『健全なサービス』を提供し続ける。

 

 

 ゲームプレイの技術で沸かせることができない以上、こういう姑息な手段で満足度を高めるしかない。クソザコである以上は仕方ないのだ。

 おれの涙ぐましい頑張りによって、視聴者に喜んで貰うという目的はどうやら達せられているようだが……さすがにそろそろ許してほしい。このままではおれの身体が持たない。ぶっちゃけ既になかなかヤバい。

 

 

 

「ちくしょう! やっ……て、やろうじゃ……ないですか、ええ……! もう一回……つぎこそは、クリアして……見せ、ます、とも……っ!」

 

 

 産まれたての小鹿のようにプルプル震える下半身に鞭打ち、水分補給を済ませて流れる汗をタオルで拭う。

 前半のアカペラ披露のお陰もあり、大してプレイ出来ていないにもかかわらず既に結構良い時間である。そろそろ締めに向かうべきだろう。

 ……逆に言えば、配信まるまる一本分はどう足掻いても体力が持たないことを証明してしまったわけだ。さすがに悲しくなるな。

 

 負荷設定を強め(三十代男性)にしたとはいえ、体力(フィジカル)ザコっぷりは既に遺憾なく発揮され(てしまっ)た。若芽ちゃんのキャラを解りやすく知らしめるには持って来いの企画だっただろう。

 ソフトをダッシュで調達して来てくれた(来やがった)モリアキには、やはり感謝してやらなければならない。ただ次は運動着も買ってこさせよう。畜生あの鬼畜野郎め。お風呂入りたい。

 

 

「も一回(いっかい)……! も一回さっきのステージいきますよ! 今度こそクリアしてやりますとも! エルフの実力見せてやりますよ! 首洗って待ってろよコンチクショーが!!」

 

 

 このままでは引き下がれない……何としてもこいつを倒し、めでたしめでたしで配信を終えるのだ。

 おれは呼吸を整え、気力を充填して、気合いも新たに勝負に臨む。

 

 

 

 一つめのマップの第二ステージ……チュートリアルを兼ねた導入ステージの次の、序盤中の序盤ステージへと。

 

 

 

 



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32【御礼配信】なんでや!!!

 

 

 画面の中のキャラクターが軽やかなステップでコースを駆け抜け、軽快な動きで障害物を飛び越えていく。

 ほんの数分前のクソザコプレイとは打って変わってスムーズな進行に、寄せられるコメントの大半は当然のように疑問符を伴い、あるいは疑問の文字が乱舞していた。

 

 

 

「『難易度変えたの?』いえいえ変えてませんよ。ずーっと画面つけっぱだったじゃないですか。んふふふ……あっ、ジャンプはーい。もいっちょはーい。余裕ですね」

 

 

 ゲームの難易度は三十代男性基準(ハードモード)のまま、代わりのピンチヒッターを用意していたわけでもない。プレイヤーは相変わらず、美少女エルフ魔法使い『木乃・若芽ちゃん』である。

 息も絶え絶えだった先程とはまるで真逆、澄ました顔でステージを進んでいくその様子は違和感でしかなく……物的証拠がないとはいえ、不正を疑われるには充分だっただろう。

 

 ……実際のところ、ちょっと小細工をしているのは確かなので……そこに関しては、指摘されるまでしらばっくれていようとは思っていた。

 

 

「はっはー! どーですか! これが若芽ちゃんの実力ですよ! 容姿端麗、文武両道、出前迅速、光の天使、泣く子も黙る木乃若芽ちゃんのお通りですよー!」

 

 

 さっきとは打って変わって余裕たっぷり、無駄口を叩きながらプレイを続ける様子は……まさに『調子に乗っている』という表現が非常によく合うと思う。

 もちろんこれも演出のひとつであり、コメントの流れがおれの意図している方向に向かいつつあることを認識しながら、満足げな心持ちで()()()()を待つ。

 

 そしてついに、待ちに待った(と言うほど大袈裟なことでもないが)視聴者からのコメントが届きはじめ……それを受けて()()を次の段階へと進行させる。

 

 

 『username:バフ魔法はドーピングでは?』

 『mob-user:変な魔法使ってない???』

 『morikas:リアルチートやめーや!!』

 

「ふォっ!? そ、そ、そ、そんな!? 失礼な、違反じゃありませんよ!? ……ありませんよね!?」

 

 

 目に見えて分かりやすく取り乱して見せ、否定するどころか一部内容を肯定して見せる。

 指摘された通り(というよりは指摘されることを心待ちにしていたのだが)……現在おれはいわゆる『自己強化(バフ)魔法』の(たぐい)を使用した上で、堂々とゲームを進めている。

 持久力(スタミナ)を補填する【体力(アウスダグル)】と、最大筋力に補正を掛ける【筋力(ブライダグル)】……この二つの強化(バフ)魔法を密かに使用することで、やっと常人レベルの(とはいっても相変わらず三十代男性基準(高難度設定)だが)プレイを可能としていたのだ。

 

 状況は再び真逆に変わり、涼しい顔から一転して挙動不審となるプレイヤー……ほんのさっきまでは難なく踏破していた落とし穴に引っ掛かり、障害物に蹴躓(けつまず)き、良好であったスコアはどんどん下がっていく。

 ポンコツスイッチが入った若芽ちゃんは見ていて可哀想になる程に取り乱し、視聴者の取り調べに対して辿々しく抗弁し始める。

 

 

「で、で、でも! 補助魔法使っちゃダメってルールに無いですし! 補助魔法も含めてわたしの実力ですし! 実力を測定するなら使っても問題ないはずですし!」

 

 『randamid:体力測定ゲームなので……』

 『ippanjin:ルールには無いけどさぁ』

 『gaya:リアルチート公言しちゃったかー』

 『morikas:そもそもそういうゲームじゃねぇからこれ!!』

 

「そ、そんな…………」

 

 

 『禁止事項に書かれていないのだから不正ではない!』と訴える若芽ちゃんの持論はしかし……視聴者より寄せられる数多くの至極真っ当な正論により、あっという間に勢いを失っていく。

 この世界、この時代、この国の常識において、『魔法』の使用に関する規約(ルール)など存在しないとはいえ……トレーニングのためのゲームで(ラク)をしようなど、それはさすがに本末転倒なのだろう。

 

 若芽ちゃんには可哀想、かつおれにとっては体力的に非常にしんどいのだが……この一連の流れは正直言って、非常に『おいしい』と思っている。さりげなく誘導コメントを入れてくれたモリアキにも感謝せねば。

 

 

 ……と、いうわけで。

 

 世間の常識と世論の圧力により……若芽ちゃんは自身に掛けられていた強化(バフ)魔法を不承不承(を装い)ながら解除し、引き続きステージに臨む。

 化けの皮を剥がれたエルフの少女は先程に引き続き、その設定され(生まれ)ながらのクソザコフィジカルを遺憾無く発揮していった。

 

 

 

「たすけて…………だめ……やめて、やだ…………まっ、まって、まっ…………あっ」

 

 

 途中の仕掛けを突破するためのノルマを――三十代男性基準(ハードモード)設定のままの筋トレを――制限時間内に達成することが出来ず、必死の命乞いも虚しく最序盤のザコ敵にあっさりと敗北する。

 ゲーム画面の中では『チャレンジ失敗』の文字と共に……いかにもザコ敵といった様相の可愛らしい生物と、その足元で無様に伸されたプレイヤーキャラクターが虚しく映し出されている。

 

 画面の中で倒れ伏すキャラクターを、身をもって操作していたプレイヤー……身体年齢十歳相応なのに調子に乗って三十代男性基準(ハードモード)に挑み、完膚なきまでに玉砕し尽くしたエルフの少女、配信を一手に取り仕切る魔法情報局のやり手の局長様は。

 

 

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……ンっ、はぁっ、はぁっ…………オェッ、ッグんっ、っはぁ……っ、……ごめん、だざ…………ゆるぢで…………ゆるして…………ごべんな、さい…………たすけて……ゆるして…………たすけて……」

 

 

 配信画面の片隅、スタジオ(おれの部屋)の壁に背中を預けてへたり込み……恥も外聞もなくうわ言じみた命乞いをこぼし続けるのだった。

 

 

 

 

 ちなみにその間の視聴者数ならびにコメント数は……前代未聞のものすごい勢いで伸びていった。

 

 



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33【事態究明】かわいいお客さん

 

 ―――ボクの根底に繋がるチカラが……あからさまに儚く、弱々しいものへ変わった。

 

 ―――まさか()()()の……『命』の、危機だとでも。

 

 ―――何故今になって……いや、ことここに至っては理由などどうでも良い。

 

 ―――今はただ……急がねばならない。

 

 

 

 ―――()()()の恩に……酬いるためにも。

 

 ―――心命を賭して……守らねばならない。

 

 

 

 ―――護らねば。恩を返さねば。

 

 ―――今度はボクが……心優しき()()()の、(チカラ)とならねば。

 

 ―――()()()()には。大恩ある()()()の住まう世界には。

 

 

 

 ―――愚かな我らの二の轍を……絶対に踏ませやしない。

 

 

 

 

 

 …………………………

 

 

 

 

 

 …………………………

 

 

 

 

 

 

 配信画面に映し出される、ファンタジックで可愛らしいアイキャッチ……『本日の放送は終了しました』『またみてね!』と記された()()がきちんと表示され、設定したポップで軽快なBGMがちゃんと流れ、マイクおよびカメラからの入力信号が全てオフになっていることをしっかり指差し確認し…………

 

 

 

 「あ゛あ゛――――――――!!!!」

 

 

 おれは仰向け大の字に、火照りきって汗だくとなった身体を投げ出した。

 

 

 精も根も尽き果てた。もう動けない。配信終了まで二本の足で立っていたのがまさに奇跡。

 途中何度かへたり込んだり倒れ込んだりした気もするけど、エンディングはちゃんと二本足でやってのけたから問題ない。若芽ちゃんの設定(プロ技量)のお陰でつつがなく終了したものの、ぶっちゃけ自分でも何を話してどうやって締めたのか覚えていない。

 それほどまでにボロッボロだったということなのだが、取り返しのつかない大失敗を犯すようなヘマはしなかった。とりあえずなんとか無事に終えることが出来たので、それだけで良しとする。

 

 終わりよければ全てヨシ、なんて良い言葉なんだ。

 

 

 

 

 「お疲れ様っす、先輩。……溶けてますね」

 

 「も――――だめだァ――――――」

 

 「いやホント……よく頑張ったと思いますよ、マジで……」

 

 「ア゛――――――――――」

 

 「はよ生き返ってください。十秒チャージいります?」

 

 「い゛る゛――――――――――」

 

 

 

 収録スタジオ(リビングダイニング)の一角に備わるドアが開き、隣室(おれの私室)からひょっこりモリアキが顔を出す。

 床にぐでーっと伸びたおれの醜態に苦笑を浮かべつつも、疲れた身体に良さそうなエネルギーゼリーを差し出してくれた。

 

 おれの身体はまさに今カロリーを欲しているハズであり、しかしながら咀嚼および嚥下するための体力さえ使い果たした今となっては……じゅるじゅると(すす)るだけで摂取できるドリンクゼリーは非常にありがたい。

 それに何より……起き上がる必要がない。寝そべったままでもこぼさずに飲めるというのが、とても良い。

 

 

 「本っ当『疲れ果てた』って感じっすね……」

 

 「……………………」

 

 「あっダメだ。死んでる。……死にながら(すす)ってる」

 

 「…………………………」

 

 「返事する余力も無い、って感じっすね……パンツ見ちゃいますよ? 脚閉じて下さい、はしたない……」

 

 

 冷たい床に大の字で横たわり、喉と頬の筋肉だけを動かして流動食を摂取する。耳から入ってくる信号を頑なにスルーし続けたせいで、モリアキが浮かべる表情が『苦笑』から『呆れ』に変わったような気がするが、だって動けないんだから仕方ない。そもそもおれがこんな目に遭っている直接的な原因は彼なので、本来ならば彼は文句を言える立場ではないのだ。

 

 いや、でも、まぁ……実際のところ、配信が大成功に終わったのも彼のおかげではあるので……だからといっておれがワガママを言える立場じゃないっていうのも、よくよく理解しているつもりだ。

 

 ……難しい。

 恨み言をぶつけるべきなのか、それとも感謝の意を表すべきなのか。

 

 

 「あ…………だめ。これは寝る。このまま寝落ちするやつだこれ」

 

 「ちょちょちょい、風邪引いちゃいますって。ちゃんとお風呂入って着替えて歯ぁ磨いてオフトンに行きなさい」

 

 「やぁだぁ……もうつかれたぁ……わたしもぉうごけないのぉ……もぉらめらのぉぉ」

 

 「可愛(カワ)()ぶらないで下さいただでさえ可愛いんですから!! まったくこの幼女は本当にもう!!」

 

 「おかぁ――――さぁ―――んお風呂いれてェ―――――」

 

 「自分で入りなさい!! あとお母さんじゃありません!!!」

 

 

 

 いや……やはり感謝せずには居られない。彼にはしっかりとはっきりと、礼を述べておくべきだろう。

 今日の配信が大成功を収める切っ掛けを作ってくれたのが彼ならば、配信をやろうと思った理由でもある『歌ってみた』動画の(サムネ)を手掛けてくれたのも彼なのだ。

 いやいや、それだけじゃない。そもそもおれが()()()()()になってしまってから、彼には本当に本当に世話になりっぱなしなのだ。

 

 

 

 

 「…………ごめん、モリアキ」

 

 「え? どうしたんすか唐突に。お漏らしっすか?」

 

 「するぞ? 今のおれならすぐに出るぞ?」

 

 「馬鹿言ってないでおトイレ行きなさい早く! 言い出したのオレっすけど!」

 

 

 こんな馬鹿話が出来る相手だって、今となってはもはや彼しか居ないだろう。

 若芽ちゃんのことをよく知る、それこそ『親』と呼べる立場の人間は彼以外に存在せず、ましてや()()()()()になってしまった()()を以前の()と同等に扱ってくれる、非常に稀有かつありがたい存在なのだ。

 

 ……そんな、かけがえのない恩義を抱く彼に対して……ほんの冗談だったとはいえ『恨み』をぶつけようだなどと。

 まったく。お門違(かどちが)いも甚だしい。

 

 

 「ほんとごめんな……色々と」

 

 「…………先輩」

 

 

 肘をつっぱってゆっくりと上体を起こし、ぺたんと床に座り込む。……本当なら立ち上がって頭を下げるべきなのだろうが、恥ずかしながらまだ下半身が言うことを聞きそうにない。

 

 顔をしかめたおれの内心を読んだわけでは無いだろうが……みっともなく座り込んだおれに目線を会わせるように、彼はわざわざ腰を落としてみせる。

 やれやれとでも言いたげな、苦笑気味に口角の上がった表情から察するに……柄にもなくショゲて見えるおれを見かねて、この期に及んでおれを慰めようとしてくれてるのだろう。

 

 

 ……本当にいいやつだ、こいつは。

 風呂上がり自撮りの一件じゃないが……やはり彼には、()()を支払って(しか)るべきなのかもしれない。

 

 

 

 ()()()()でも支払うことが出来る、()()()()()()()した、とっておきの報酬。

 

 ()()に思い至り、その()()()を切るべきときかもしれないと……柄にもなく表情が引き締まる。

 

 声には出さずとも、おれの考えていることが何となく想像できてしまったのだろうか。

 彼の表情も珍しく真剣なものとなっていき……真顔で見つめ合ったまま、気まずい沈黙が周囲に積もっていく。

 

 

 

 「………な、なぁ、モリアキ」

 

 「な…………何、すか? 先輩」

 

 

 …………いや、待て。

 おかしい。明らかにおかしい。

 

 何故突然こんなことを考えるようになったのか、正直なところよく解らない。普段のおれの思考パターンとは明らかに異なる思考である、という認識はあるのだが……それを違和感と認識することが出来ず、明後日の方向に加速していく思考を宥めることが出来ない。

 

 もしかしなくても、また呪い(設定)のせいなのか。そういえば確かに惚れた腫れたに関する呪い(設定)も幾つか盛り込んだ記憶はあるが、それが何であるのか思い出すことが出来ない。

 

 このままでは……ほんのひと欠片残された『冷静なおれ』さえもが、暴走し濁流のように押し寄せる若芽ちゃんの思考に流されてしまいかねない。

 

 

 

 「………………」

 

 「………………」

 

 

 

 

 

 「お邪魔だった……かな?」

 

 「「ウワァァァァァァ!?!!?」」

 

 「お、おぉ…………元気そうだね?」

 

 

 

 危ういところで一線を越えるところだった、謎な雰囲気に支配されていたおれ(若芽ちゃん)の思考は。

 

 いつの間にかおれとモリアキの間に佇んでいた闖入者の茶々入れにより、なんとか全年齢の域を保つことが出来た。

 

 

 

 「やっと……やっと会えた。……キミが……ボクの」

 

 「え? え? えっ? えっ!?」

 

 「いや、あの、ちょっ、これ」

 

 

 目を見開いたおれたち二人が揃って凝視する、そいつ。

 思わず悲鳴を堪えきれなかった、存在するはずの無かった第三者。

 

 

 

 困ったような……しかしどこか『ほっ』としたような表情を浮かべる……どう見ても()()()()()()彼女。

 

 一目見ただけでもすぐさま判る、人間離れした容姿をもつ彼女。

 

 

 

 その佇まいを一言で言い表すならば…………『妖精』だった。

 

 

 

 ちなみに二言、いや三言で言い表すのならば……『とてもかわいい妖精』、だった。

 

 

 





やっっっと『妖精』タグが仕事しましたわ!!


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34【事態究明】かわいい亡命者

やっっと『妖精』タグが営業開始しました。


【挿絵表示】

表紙のこの子です。
わかめちゃん共々、よろしくお願いします。


 配信や動画内の進行をスムーズに行うため。

 あるいは『ファンタジーな世界の出身』であるということを、より解り易く表現するため。

 あるいは……見目麗しい少女二人の尊い(てぇてぇ)掛け(ジャレ)合いを、存分に堪能していただくため。

 

 等々、理由こそいろいろと繕っていたものの……ボツとまでは行かずとも結局保留となってしまった、とある『若芽ちゃん』の設定が存在する。

 ボツ……もとい、保留の理由こそ幾つかあったが、要するに『おれ一人のキャパシティでは到底有効活用しきれない』という点に集約されていたわけだ。

 

 同胞でありこの計画の同志でもある彼は()()()に立候補してくれていたのだが……いくらなんでも際限無く()()()()させることなんて出来やしない。

 それこそ『若芽ちゃん』の活動が軌道に乗り、収益化の目処が立ち、多忙を極める自営業の某人気神絵師(イラストレーター)氏を雇うにあたって正当な報酬を支払えるようになるまでは『お預け』だろうと……おれはその()()を封印していた。

 

 

 看板娘である『若芽ちゃん』と出身を近しくし、同様に幅広い知識と魔法の技術を使いこなし、愛らしい声と姿を備えるお手伝い(アシスタント)

 

 穢れなき新雪のような白銀の髪と、澄み渡る空のような天色の瞳を持ち、その背には薄っすらと虹色に輝く四枚の(はね)をもつ、手のひらサイズの高位魔法種族……フェアリー種の女の子。

 

 採用自体の保留により性格設定はまだだったが……そんな『ファンタジー』を絵に描いたような、おれにとっては非常に見覚えのある彼女の……そのお名前は。

 

 

 

「し、…………『白谷(しらたに)、さん』……?」

 

「…………うん。そういう名だと認識しているよ。()()()()()、かな? ボクの『恩人』」

 

「ちょ、ちょ、ちょ、あの、あの、あの、…………マジっすか」

 

 

 

 ―――アシスタント妖精『白谷さん』。

 運用コンセプトや採用を保留した経緯は先述の通りの、しかしながらおれが()()()()()()()()()()()()()()()()()()、このおれ(若芽ちゃん)の頼れる相棒役。

 

 

「やっぱり生命力を消耗……衰弱しているようだね。それも相当。……よし、ちょっと待ってて。『我は紡ぐ(メイプライグス)……【回復・特(レザリシュオ)】』」

 

「……? お……おお…………おおおおお!?」

 

「ん……もう平気そうだね。安心すると良い。ボクが来たからには……もう大丈夫だよ」

 

「おぉ…………」

 

 

 

 おれが初めて遭遇した、仲間と言える『魔法使い』であり……

 

 ()()()()()()()()()()から来た……恐らく世界で最初に確認された、生粋の幻想(ファンタジー)的存在だった。

 

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

「………………え? 遊戯(ゲーム)ってその、つまり……娯楽というか、仲間内で楽しむやつ、っていうか……その遊戯(ゲーム)?」

 

「えっと…………はい……」

 

「つまりその…………その遊戯(ゲーム)に夢中になった挙句、生命力が危険域(デッドリー)に達するまでのめり込んだ、と」

 

「う、ぐ………………はい」

 

「端的に聞くとめっちゃアホっすよね」

 

「だって誰も止めてくれなかったじゃん!!」

 

 

 施された特級の回復魔法により、幸いにして体力と気力が満たされたおれの身体は……生命の危機を脱したということなのだろうか、先程のような暴走(桃色)思考は跡形もなく消え去っていた。

 思考力を取り戻した頭で落ち着いて考えてみれば、先の暴走はどうやら『危機から救ってくれた相手に対して惚れっぽ(チョロ)くなる』という……オトメチックかつポンコッツな設定が悪い方向に働いたということらしい。なるほど呪いだ。ていうかあれ生命の危機だったのかよ。

 

 歩けるほどに回復したおれを含めた三人は、安らぎとはほど遠い収録スタジオ(リビングダイニング)を後にし、扉一枚隔てたおれの私室へと場所を移していた。

 ……色々と話したいこともあるし、聞きたいこともあるし。腰を落ち着けて話せる場所に移っておきたかったのだ。

 

 

「……まぁ、でも……だからこそ、『君の命が危機に瀕していた』からこそ、僕は君の場所を知ることが出来たわけだ。……その点には、感謝しないといけないのかもしれないね」

 

「あの、ひとつ良いっすか? えっと…………白谷、さん?」

 

「ははっ。……呼びにくいかな? ()()()()ではよく有る人名……というか姓、という認識なのだけど?」

 

「えっと……ご、ゴメン……そもそも仮称だったっていうか…………()()()()()になるならもっと可愛い名前にすべきだったっていうか……」

 

「そうなんすよね…………まあ良いや、そこは取り敢えず置いといて」

 

 

 そこで一旦言葉を切り、それどころか姿勢を直し、改まった様子でモリアキは切り出す。

 他ならぬおれ自身も気になっていた、そのことに関して。正座したおれたち二人の前で悠然と脚を組み、虹色の燐光を振り撒きながらふわふわと漂う、どこからどう見ても幻想的きわまりない彼女に対して。

 

 

「……実際のところ、先輩とはどういうご関係なんすか? 相当気に掛けてくれてるみたいっすけど……」

 

「ははっ。……大したことじゃないよ。ただの命の恩人……いや『存在』の恩人、ってところかな?」

 

「「…………えっ?」」

 

「おや……忘れてしまったのかな? ……ひどいなぁ、()()()()()()()をシた相手を忘れてしまうなんて……」

 

「「えっ!!?!?」」

 

 

 神秘的で幻想的な佇まいのまま、いたずらっぽく笑う彼女は……やはり非常に可愛らしく、愛らしい。

 そんな彼女と()()()()()()()()をシたというのなら絶対に忘れるハズがないと思うのだが、しかしながらそういうコトをシた記憶はやっぱりどう頑張っても浮かんでこない。

 畜生なんてこった、どうしてそんな素晴らしい記憶がおれには無いんだ。いったい何があったんだ!!

 

 

「いやぁ、からかい甲斐がある子だねぇ」

 

「からかってたの!!? ひどい!!」

 

「ははっ。ごめんごめん。君があまりにも可愛いものだから……つい、ね」

 

(お前のほうが可愛いよ!!)

 

(ぶっちゃけどっちもクソ可愛いんすよ!!)

 

「悪かった。悪かったって。そうだね、今さらだけど自己紹介といこう。……尤も、今のボクは『白谷さん』以上の何者でもないからね。()()()()()()のボクの……いわば()()()()、ってところかな?」

 

 

 

 内心のおれの葛藤と慟哭を、朗らかな笑みで笑い飛ばし。

 しかし直後……小さな顔をほんの少し物憂げに染め。

 

 幻想世界の住人、おれの附帯設定に引き摺られフェアリー種の女の子と化してしまったその子は……その信じがたい経緯を口にした。

 

 

 

「ボクは……特第三種『勇者』。所属はベルノラーク特歩第一分科、出身はネルヴァロー、年齢は二十と四、性別は男。賜りし識別呼称(タグ)は、【天幻】……【天幻】のニコラ・ニューポート。それが、ボクの名前……()()()()()

 

「勇、っ……!?」「へぁ!?」

 

「ははっ。まぁ尤も……そんな名を名乗っていた人々も、国も、世界さえも…………既に存在しないんだけどね」

 

「「…………は?」」

 

 

 

 

 おれたちには現実味の無さすぎる話、幻想世界からやって来たという『元・勇者』。

 

 彼からもたらされた情報は……神秘が消え失せて久しい世界の住人たるおれたち二人にとって、にわかには受け入れがたいものだった。

 

 

 



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35【事態究明】迫っていた脅威

 

 

「まぁ、かいつまんで説明するとね。ボクの世界……ボクが居た世界は、『魔王』によって滅ぼされたんだ」

 

「「(ほろ)、っ…………」」

 

「『魔王』の策……それによってばら蒔かれた『種』によって人々は狂い、誰も彼もが理性を失い、さんざん破壊と混乱と混沌をばら蒔いた末に…………まぁ、()()()()()()んだ。周囲に被害を拡大させながら、ね」

 

「それ…………治せなかった、の……?」

 

「………………」

 

 

 おれたちの眼前に佇む虹翼の妖精――今は無き世界から、たった一人落ち延びた『勇者』――彼女は困ったような表情を浮かべ、ふるふると顔を横に振る。

 数多の人々が()()()()()()……しかも放置すれば加速度的に被害が拡大する非常事態だったのだ。当然()()は被害を食い止めようと、あらゆる手段を尽くしたのだろう。

 

 

 だが……その結果はといえば。

 

 かの世界の『勇者』であった彼が、()の世界を救うことが出来ず……おれのオマケなんかに成り下がり、()()となってここに居る、ということは。

 

 

「あ、あのときの…………夢? で聞こえた『助けてほしい』って……」

 

「……思い出してくれたかい? いやぁ、『魔王』を追って世界の壁を越えたは良いんだけど……この世界の大気は異常なほどに魔素(イーサ)が稀薄でね。前の……『ニコラ』の身体が適応できなかった上に、魔法も使えず傷も塞げず、危うく死に掛けちゃって……ね」

 

「そんな大変な状況だったの……って!?」

 

「あの!? ちょっとあの……今!?」

 

 

 可愛らしく舌をペロッっと出して、テヘッとでも言わんばかりの表情で恥じらう彼女。その様子は非常に可愛らしく、彼女が『死に掛けた』という点で大いに驚愕を禁じ得なかったのだが……

 

 今なにか、なにか聞き捨てならない発言が聞こえた気がする。

 

 

「もしかして、その……白谷さ、えっと…………ニコラ、さん……?」

 

「ははっ。『白谷さん』で良いよ。以前のボクはもう……影も形も存在しない。キミの存在の()()()()(あずか)っているに過ぎない」

 

「えっと……うん。…………それで、もしかしてなんだけど……その、白谷さんの世界を滅ぼしたっていう『魔王』が」

 

「うん。…………()()()()よ。この世界に」

 

「「………………」」

 

 

 

 別の世界にて多くの人々を……その、()()()()()()、最終的にはその世界を滅ぼしたという『魔王』。

 

 そいつが……この世界に、居る。

 

 

 …………それは。

 

 この、タイミングは。……まさか。

 

 

 

「あいつの仕業だろうね。人族(ヒト)の秘めたる欲望・本性を具現具象化する『種』……宿主の望みを叶えるための奇跡を起こし、肥大化させた宿主の感情を糧に成長し、それに伴い宿主に更なる『奇跡の力』を授けると共に理性を崩し……ゆくゆくは、己の欲望を満たすことしか考えられない魔物(マモノ)へと変貌させる。……それを、ばら蒔いたのだろう」

 

「ひっ…………」

 

「ちょ、ちょっ……!? 先輩! し、白谷さん! 何か対処、方法……対処方法は! 何か無いんすか!?」

 

「寄生されたらもう止められない。この次元とは位相を別とする『種』には、物理的に干渉することが出来ない。……魔法で『種』と、そこから伸びる『根』そのものを消し飛ばすことしか……宿主ごと滅ぼすしか、止める手立ては無い。…………()()()()()

 

「は…………だっ、た?」

 

 

 

 にわかに変わった彼女……白谷さんの声色に、固まりつつあった思考が動き始める。

 どう考えても絶望的、()()したらまず助からないようにしか思えなかった、謎の奇跡。我が身に起こった非現実的な出来事と、その結末を暗示されて戦慄していたおれにもたらされた、微かな光明。……それは。

 

 

「ほかでもない、()()()()()だよ」

 

「………………え?」

 

「これでも『勇者』だったからね、ある程度の観察力は備えているつもりだ。……さっきも言ったように、この世界は極めて魔素(イーサ)が……大気も土壌も、生命も含めて希薄なんだ。……『種』の成長も……その影響だろうね、極めて遅い」

 

 

 魔素(イーサ)が薄い、というのは……この世界の人々が、つまりは魔法を扱えないこととほぼイコールなのだろう。

 ニコラ……白谷さんが居た世界は魔素(イーサ)が豊富で、つまりは恐らく多くの人々が魔法を使うことが出来ていた。ファンタジー度が高かったということなのだろう。

 

 

「そこへ来ての、キミだ。ボクがこれまで観てきた人族(ヒト)達……まぁほんの一握りに過ぎないだろうけど、彼らはほとんど魔素(イーサ)を持ち合わせていなかった。……そんな中で()()()()が、有り得ないほどに膨大な魔素(イーサ)を備えている」

 

「でも……それは、つまり『種』が」

 

()()なんだけどね。確かに『種』は、宿主の望みを叶える奇跡を起こすんだけど……キミの身体には、さっぱり見当たらないんだよ。『種』」

 

「……え? でもそれ……おかしいんじゃ」

 

「そう。おかしいんだ。この世界のヒトがこんなに非常識な……それこそボクのいた世界でも稀に見るほどの魔素(イーサ)を備えているのは、明らかにおかしい。どう考えても『種』の影響を受けていることは間違いないんだ。……なのに、『種』が見当たらない」

 

「…………つま、り……おれ、しなない?」

 

「『種』の悪影響に起因する死亡の心配は……無さそうだね。理由は謎だけど、とりあえず安心して良さそうだ」

 

「……!! …………よかっ、たぁ!!」

 

 

 

 感染者に異能を授ける代わりに、培地と化した存在の理性と人間性、最終的に命をも奪う『種』。

 その末恐ろしさを改めて実感すると共に……少なくとも自分の身体は()()()()()を孕んでいないことを知り、とりあえずはほっとひと安心することができた。

 

 

 しかしながら……状況が謎であることは変わりない。

 白谷さんことニコラさんの持っていた知識のお陰で事態の全貌が少しずつ見えてきた気もするのだが……おれの身体がこうなってしまった由来、そしておれの身体に『種』が根を張っていない理由が解らない。

 これに関してばかりは、頼みの綱である白谷さんも『解らない』という。

 

 安堵半分、不安半分なおれの心境。

 雨こそ降らないまでも曇り空の広がるおれの心、その分厚い雲を祓ってくれたのは……

 

 

 

「あの、多分なんすけど……先輩の身体の件、オレなんとなく解った気がします」

 

「「……えっ?」」

 

 

 

 おれが全幅の信頼を寄せる『(モリアキ)』だった。

 

 

 



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36【事態究明】理解は幸せ

 異世界の『勇者』、ニコラさんがもたらした情報を整理すると……まず、この世界は魔素(イーサ)というものが(少なくとも現代においては)極めて薄い。

 そのためおれたちがこれまで常識として(わきま)えていたように、『魔法』なるものはこの世界では存在していなかった。

 

 だがしかし……そんな環境であっても『魔法』等の異能を存在させる()()とでも言うべきものが、くだんの『種』の存在であるという。

 いわく『魔王』の策によってバラ蒔かれた、この世界にありながら位相を別とする『種』。存在はするが触れることが出来ず、普通の人間には見ることはおろか感付くことさえ不可能だという。

 人間の黒い感情……特にひときわ深い『絶望』に反応する()()()()し、根を張られれば……『種』は培地と化した人間に願いを叶えさせようと()()()()()()()()()し始める。

 

 その過程において、感染者の願望を叶えやすい能力を……『魔法』を始めとする異能を授けることもあるという。

 

 

 この部分だけを切り取って見てみれば――『深い絶望の感情に反応して発芽・寄生する』という不穏な一点を除けば――人々の可能性を拡げる、それこそ福音のようにも感じられる。……だが。

 

 その『種』はあくまで自分本意な存在であり……全ては自分が成長し『苗』となり、最終的には『花』をつけて『実』を成し『種』を飛ばすためである……という。

 

 

 『種』が育つためには、水と養分が必要不可欠だ。……ここは異世界でも同じことらしい。

 そしてこの『種』が、ただの植物のそれとは特徴を大きく異とするように……この『種』が求めるものもまた、ただの水や養分である筈がない。

 

 

 ……このあたりの説明を受けた時点で、おれはなんとなく予想がついた。

 奇しくもつい先日……自分と同様、この世界に出現した『魔法使い』のひとり――理不尽な悪意と不幸な事件に巻き込まれ、全ての幸せを喪った男――彼がその願望(復讐)を叶えるため、その身を削りながら魔法を行使していたところを目にしていたのだ。

 

 そしてそれはどうやら正解だったらしく……つまりは『種』に根を張られた恩恵である異能を行使すればするほど、いわゆる『魔力』を捻出するために生命力を切り崩し……宿主の身体は蝕まれていくという。

 さらにタチの悪いことに、人間に寄生した『種』は効率良く養分(魔力)吸収する(消費させる)ため、魔力消費に高揚感を与えると共に理性を融かしていくという――つまりは魔力を消費すればするほど気持ち良くなっていき、おまけに冷静な思考をも失っていくという――危険な(マのつく)(ヤク)もドン引きするほどに悪辣な性質を秘めているという。

 

 

 ほんの一時(いっとき)は、魔法を行使できる全能感に満たされるかもしれない。

 

 だが……旨味を覚えてしまった生物は、その誘惑から逃れることなど出来やしない。ましてや理性を融かされていくとあっては尚のこと……意思の疎通が不可能な『獣』に成り果てるのは、時間の問題だろう。

 

 

 

 

 …………さて。

 

 人智を越えた異能……『魔法』に類する力を授ける代わりに、いずれはその身を喰らい尽くす悪意の『種』。

 

 それによる改竄の影響を受けていながら……先述のデメリットを抱えていない、規格外の存在。

 

 

 それが……何を隠そう、()()こと木乃若芽ちゃんなのである。

 

 

 

「……ボクは聞いたことがないよ。あの悪趣味な『種』を喰らいながら、ここまで人間性を保っていられるだなんて」

 

「いやー、その……オレも正直解ってないことの方が多いっすけど、それでも結構説得力ある仮説が立ったんすよ」

 

 

 おれ同様にニコラさんの情報開示を受けていながら、おれとは別の視点から現状を把握しようとしていた烏森は……なにやら勿体ぶったような、しかし珍しく真面目な表情で『先輩の身体の件、なんとなく解った気がする』などと切り出した。

 とにもかくにも、おれは自分の身に起こった事態を正確に把握したいのだ。たとえ仮説であろうとも当然気になるし、実際おれが手がかりを見落としていただけかもしれない。……とにかく些細なことでも教えてほしい。

 

 

「仮説でも何でも良いから教えてくれ、頼む! 正直このままじゃおれがおれ自身に安心できない!」

 

「えっ!? 今なんでもするって言いました!?」

 

「言ってねぇけどおっぱい揉ませてやるから早く!!」

 

「ははは揉むほど無いじゃな」

 

「【氷槍(アイザーフ)】【待機(ウェルト)】」

 

「ホントスンマセン許してください何でもしますから」

 

「早く言え」

 

「イェスマム」

 

「滅茶苦茶使いこなしてるね……」

 

 

 どこからともなく出現した氷の槍を突きつけられ、烏森はにやにや顔を即座に引っ込める。……若芽ちゃんが()()()()()()のはおれもよく知ってるし、そもそも服の上からでも一目瞭然なのだが……いまのは何故か非常にカチンときた。

 

 感心したような呆れたような、複雑な声色のニコラさんのつぶやきを聞き流しつつ……おれは烏森へと無言の圧力を送り、続きを促す。

 

 

 

「ええっと……確認なんすけど、まず『種』が絶望したヒトに取り憑くじゃないっすか。そのヒトの望みを叶えるために根っこ伸ばして魔改造するんすよね? そのヒトの望みを叶えるために……魔法とか使えるように」

 

「うん。そうだね、その認識で良いよ」

 

「魔改造、って…………」

 

「続けますよ。根っこ張られて魔改造されたヒトが魔法とか使うと、生命力を削られたり理性を溶かされたりするんすよね。順番的には『種』による存在改竄が先で、デメリットは要するに魔力を使わなければ発生しない……」

 

「……そう、だね。存在を改竄されても最初の一歩目を踏み出さなければ……踏みとどまって時間を稼ぐこと自体は、可能なんだ。……ただし、あくまで『時間稼ぎ』にしかならない。『種』が存在して根を張っている以上、少しずつとはいえ吸われ続ける。……止められないんだ」

 

「…………仮に。仮にっすよ、ニコラさん。……仮に、存在を改編された直後に……何らかの形で『種』が消えれば」

 

「……っ!! …………キノワちゃん、だったかな」

 

 

 

 可愛らしい小さな身体が、淡い虹色の燐光を散らしながらこちらへ向き直る。

 澄んだ青空色の相貌が真剣な光を湛え、真正面からじっとこちらを見つめている。

 

 

 いや、キノワちゃんじゃなくてキノないしワカメちゃんなんだけど……などと口を挟む余地が無さそうなくらいには、真剣そのものの表情を湛えて。

 

 異世界の知識を持つフェアリーの少女、元勇者ニコラ・ニューポートさんは、やがて意を決したようにその小さな口を開き……その問いを発した。

 

 

 

「キミは…………何を『種』に食われた? 一体キミは、()()()()()?」

 

「え? え、と……えっと………………()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……って」

 

「………………そういう、ことか」

 

「え? 何、どういうこと?」

 

「あの、ニコラさん……その『種』が根を張るのがヒトの身体である以上、根を張ったらその『種』はもう動けなくなりますよね」

 

「ああ! そうだろうね……そういうことか! ははっ! ()()()()、か! …………そういうことか!」

 

「え? なになになに待って待って待って」

 

 

 なにやら合点がいった様子で、互いに頷きあっている二人……神絵師モリアキと元勇者ニコラさん。二人はどうやら原因というか真相にたどり着きつつあるようで、それは喜ばしくはあるものの正直ちょっと待ってほしいしもう少しわかりやすく説明してほしい!

 

 当事者であるおれ一人だけ置いてけぼりなのは、ちょっとおもしろくない。

 

 

 そんな思いが通じたのだろうか。……いやそうではなく、どうやら顔に出ていたらしい。烏森がおれの顔を見て苦笑いを浮かべている。ひとの顔を見て笑うなんてひどい。

 

 

 ともあれ……おれが説明を欲していることは、幸いにして伝わったらしい。

 白谷(ニコラ)さんはおれと再び視線を合わせ、神妙な面持ちでひとつ頷き……

 

 

 

「キノワちゃん、……落ち着いて、聞いてほしい」

 

 

 そんな改まった前置きと共に。

 

 

 

 

「キミは…………()()()()は、恐らくもう()()()()()()()。……『種』に感染した前のキミの身体は、()()()()と存在が()()()()()()()()()んだ」

 

「………………………………ぇ?」

 

 

 

「恐らくだが…………キミは、もう二度と、以前の身体には戻れない」

 

 

 ほんの数日前、おれの身体に起こった経緯が――仮説にして、恐らく事実が――あっさりと告げられた。

 

 

 



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37【事態究明】目を瞑れるわけがない ◇

 異界からの来訪者ニコラさんと、おれの身体(若芽ちゃん)の産みの親である神絵師モリアキ……おれに近しいながらもおれではない、第三者の視点からの考察の末に導き出された……極めて正解に近いであろう、推測。

 

 それは――奇しくも最初にモリアキに言われた通り――()()()()()()()()()()()()()、ということらしい。

 

 

 

 あの日、あのとき。ニコラさん曰くの『魔王』が、世界の壁を抉じ開けて()()()()に降り立った……あの運命の金曜日。

 『魔王』による次元跳躍の副作用によって一帯の電場や磁場が荒れ狂い、恐らくはそれによって命よりも大切な(データ)が消滅し、おれが絶望のドン底に叩き落とされた……あの大嵐の日。

 

 おれは……いや、以前の()の身体は、恐らくそのとき『種』に寄生されたのだろう。

 

 

 絶望の淵に佇む俺の、心のそこからの強い願いに反応し……『種』はその本能に従って、俺の身体を改竄し始めた。

 

 

 俺の身体の存在()()を代償として、()()()()()()()()()()()()()()()ために。

 俺が思い描いていた『木乃若芽ちゃん』を、俺の身体の代わりに具現化させるために。

 

 

 だが……ここで『種』にとっては想定外だったであろう事態、ニコラさんやおれ達にとっては予想外の幸運が生じる。

 寄生されれば異能の行使と共に身体は蝕まれ、人間性を喪失するという『種』……しかしそれ()()()()は、思考する力を備えている訳では無い。

 根を張り寄生していた人間の願いのままに……新たに作り出された身体の()()()()この世から消滅する見込みであったとしても、ひと度根を張った身体から離れることは出来ない。

 

 結果として……『種』に寄生された()の願いによって()()の身体が作り替えられ、その最中に俺の身体ごと『種』はこの世から消滅し……その末に残ったものが、『種』に由来するものではない天性の魔力(イーサ)を備えた――練りに練って詰めに詰め込んだ多種多様な設定がそのまま()()された――新人仮想配信者(UR―キャスター)『木乃若芽ちゃん』の身体だった。

 …………ということらしい。

 

 

 

 

 

「ボクの居た世界でも、あの『種』に頼らず魔力(イーサ)を操れる人々は居たんだ。……この世界には居るはずがないと思っていたけど……この仮説が正しいのならば、キミが『種』に侵されずに魔法を紡げるのも納得できる」

 

「…………つまりは今後も先輩が魔法を使っても、先輩の身に何か良くないことは起こらない……ってことっすよね?」

 

「あくまで仮説の域を出ないけど、ね。まぁでも……これまで何ともなかったなら、この仮説も信憑性が高いと思う。……大丈夫だと思うよ」

 

「良かっ、た…………良かったっすね先輩! …………先輩?」

 

「あ? ……あぁ、ごめん。……そうだな」

 

「先輩……? ……パンツのサイズやっぱり合いませんでした?」

 

「あぁ…………そうだな」

 

「………………若芽ちゃんの発禁(R-18)絵描いて良いっすか?」

 

「…………そうだな」

 

「………………」

 

 

 

 

 おれの身体がこうなった理屈は、なんとなく理解できた。

 

 おれの身から『種』の脅威が取り除かれていることも、なんとなく理解できた。

 

 勿論、『木乃若芽ちゃん』はおれにとって……非常に大切な存在()だ。この身体が嫌いかと言われれば別にそんなことは無いし、単純にこの身体の高性能っぷりは仮想配信者(ユアキャス)計画を進めるにあたって非常に有用だろう。

 

 

 ……だが。

 

 元に戻れる可能性が完全に潰えた、という事実を突きつけられて…………それにここまで打ちひしがれるとは、正直思ってもみなかった。

 

 

 

「おれは……『若芽ちゃん』になる前の()は…………()()()のか」

 

「っ、…………先輩」

 

「……そうだね。何を(もっ)て『死亡』と見なすかは、クツカの学者達でも判断が分かれるところだろうけど……少なくとも『もう存在しない』という一点においては、間違いないだろう」

 

「……そっか。はは……死んじゃったか」

 

「…………」「先輩……」

 

「いや……確かに死のうとは思ってたけどさ? 実際にもう、前みたい、には……戻れなくっ、なった……って……っ、思っちゃっ、たら…………さ」

 

 

 

 柄にもなく言葉を詰まらせ……情けなくも視界が滲み、目尻が熱を帯び始める。

 

 暗いものに覆われそうになってきた、人間年齢換算ではまだまだ幼い女の子となってしまったおれの心は……その歪な出生を認識したことで、無様に軋みを上げようとする。

 

 

 

 恐怖に、混乱に、不安に……良くない感情に今にも塗りつぶされそうな、おれの心。

 

 

 ふと唐突に……そこに暖かな光が射したように感じた。

 

 

 

「…………え?」

 

「……すまない、ノワ」

 

 

 

 声のする方へと視線を向け、滲む視界を手で拭うと……虹色の燐光を散らす小さな少女が、おれの胸元にすり寄っていた。

 

 彼女が何かしらの……精神を落ち着ける魔法を使っているのかは解らないが……冷たく凍えきったおれの心がじわじわと暖められていくような、そんな不思議な――けれど決して不快ではない――なんとも言いがたいこそばゆい感覚が広がっていく。

 

 

 

「今のボクでは……キミを慰めることも、抱き締めることも出来ない。キミの心を満たすことも、安らぎを与えることも……今のボクには満足に出来ないかもしれない。……でも」

 

 

 ひらりと舞い上がり、おれの目の前に。視線の高さを合わせ。

 手のひらサイズの『元・勇者』は……びっくりするほど優しげに微笑んだ。

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

「あの『魔王』を捕り逃し、この世界を巻き込んだ者の責任として。キミを悲しませた者の責任として。……ボクの全てをキミに捧げよう」

 

「…………………ふぁ!?」

 

「ボクはこれより……キミの絶対の味方となろう。キミの望みとあらば、何だってこなしてみせよう。キミがボクに『死ね』と望むならば……全てが終わった暁には、キミの望むままに喜んで命を絶とう。…………だから」

 

 

 見るもの全てを包み込むような、優しげな視線から一転。

 幼げな表情を引き締め、愛らしくも深刻な顔で……彼女は懇願する。

 

 

 

「頼む、ノワ。顔を上げて……前を向いて。……そして……情けないボクに、どうかキミの力を貸してくれ。この世界に、この国に、()()の道を歩ませないために」

 

(ほろ)っ……!?」

 

「今このとき。この世界において。……あの『種』に抗えるのは……恐らく、キミだけだ」

 

 

 

 女の子になったかと思えば……今度はいきなり『世界を救え』などと。ファンタジー小説のほうが、幾分か解りやすい展開だろう。以前のおれであったなら、一も二もなくお引き取り願っていただろう。

 

 

 だが……()()()は。デビューしたての新人仮想配信者、心優しいエルフの少女は。

 数多の人々の不幸を、危機を、悲劇を……黙って見ていることなんて出来やしない。

 

 

 ……やるしかない。

 おれにしか出来ないというのなら……おれがやるしかない。

 

 

 

「……やるよ。おれにできることなら」

 

「………………ありがとう」

 

 

 仮想配信者(UR―キャスター)と、この世界を滅びの運命から救う『勇者』。

 

 非常識きわまりないダブルワークが、人知れず決定した瞬間だった。

 

 




雲耀昇 様より挿絵を頂きました!
この場をお借りしまして、重ねてお礼申し上げます!


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38【状況開始】お買い物事件(大げさ)

 

 おれの心強い相棒(パートナー)、フェアリーの白谷さんとの出会いと、それに端を発する衝撃的な出来事を経た……その翌日。

 

 月曜日ともあって世間は慌ただしい朝を迎え、しかし通勤・通学のピークを少し過ぎた現在。出歩く人も出掛ける人も、この時間帯にはもうほとんど見かけない。

 おれの暮らす浪越(なみこ)市南区は、それほど人に満ち溢れているわけではない。中央区や栄衛(さかえ)区や浪駅(ローエキ)のほうは百貨店やらオフィスビルやらが建ち並び、平日の真っ昼間でも多くの人々でごった返しているが……このあたりはどちらかというと住宅地だ。

 

 人々が会社や学校に流れていった今の時間……開店直後を狙って突撃を仕掛けたスーパーマーケットは、狙い通り買い物客はほとんど見られない。

 

 

 

「えっと……精肉コーナー、精肉コーナー……コロッケうまそうだなぁ」

 

『………………いや、凄いね。画期的だ』

 

「んえ? 何が?」

 

『この店舗だよ。一つの店舗で青果から食肉から穀物から……果ては雑貨まで。(およ)そ食材が何でも揃うんだろう? ……凄いよ、これは』

 

「何でも……まぁ、そうだね。不自由しない分には選べると思う。……けど…………これ、本当に大丈夫なの?」

 

 

 

 無線接続式(bluetooth)の片耳ヘッドセット――を目眩ましに、すぐ傍らで姿を消して追従する白谷さん――へ向け、若干声量を落としてヒソヒソと問いかける。

 魂の繋がったおれにしか姿を認識させず、また同様におれにしか聞こえない声で語り掛けながら、自らに隠蔽魔法を掛けたフェアリーの女の子は悠々と周囲を観察している。

 

 そうこうしている間にも、数少ないおれ以外の買い物客の視線がおれを捉え――独り言をつぶやく不審な子どもかと思ったらヘッドセットで通話中だった、というふうに認識したのだろう――納得した様子で一度は外された視線が再度、今度は驚愕を伴って再び向けられる。

 

 顔を向けずとも()()()()をしっかりちゃっかりと把握し、明らかに普通ではない他者の反応に不安を拭いきれず……やたらと自信満々に『大丈夫だよ』を連呼していた白谷さんへ、辛抱たまらず問い掛ける。

 

 

『まったく……心配性だね、ノワは。そんな不安げな表情もまた可愛いんだけどね』

 

「いや割とガチで不安なので……だってほら、後ろのおばちゃんめっちゃ見てるよ? 本当に大丈夫? ちゃんと魔法掛かってる?」

 

『大丈夫だよ。今はこんなナリだけど、魔法の腕は変わらない。【天幻】の名は伊達じゃないさ。幻想魔法と空間魔法はお手のものだよ』

 

「いやその『天幻』が何なのかは、おれにはよく解んないけど……じゃああのおばちゃんの反応は何? ちゃんと()()()()()してくれたんでしょ?」

 

『そりゃあだって…………こんな非現実的に可愛い女の子が全く似合わない男物のコート着て買い物してれば』

 

「どう見ても不審人物だね!! 本当にありがとうございました!! チクショウ服届いてからにすりゃあ良かった!!」

 

『何いきなり逆ギレしてるのさ。おばちゃんビックリしてるじゃん』

 

 

 

 

 

 ―――昨晩。

 

 結局のところおれは、『この世界を滅亡の危機から救う』という重要任務を引き受けることに決めた。

 

 まず第一に、この世界が滅ぶとあってはさすがに他人事じゃ居られないこと。

 第二に、対処できる手段を持つ人物が(おそらく)おれしか居ないということ。

 そして第三に……この身体の本能(若芽ちゃんの設定)が、どうやら極めて積極的だということ。

 

 以上の理由に突き動かされ、おれは世界救済のために動くことを決めた。かといって具体的にどうすれば良いのか、正直いまいちピンと来なかったのだが……そんなおれの葛藤はしかし、白谷さんの一声でキレイさっぱり霧消することとなった。

 

 

『ノワの仕事は『人々を楽しませること』なんだろう? なら()()を続け、もっと研鑽してくれれば、とりあえずそれで良い。……勿論、ボクも手伝おう。そのためにボクは存在するんだからね』

 

 

 何でも……くだんの『種』が発芽する切っ掛けとなるのは、それこそ自らを殺し得るほどの『絶望』の感情。

 それを纏った人間に、別位相に姿を隠した『種』が接触することで発芽し、その宿主を喰い荒らし始める。

 

 その『発芽した種』をどうにかするのも当然なのだが……つまりは、人々に深い絶望の感情を抱かせなければ良い。生きていることの楽しみを見つけさせ、ほんの小さな期待を抱かせ、来週を楽しみに生を繋ぐ気を沸かせれば良い。……ということらしい。

 

 

 要するに…………おれが動画配信者(キャスター)として人々を楽しませれば楽しませるほど、『種』の発芽条件である『絶望』は鳴りを潜めるはずであり――仮に『種』が発芽したとしても、その生育規模はたかが知れており――つまりは『種』の被害も減らせるはずだという。

 

 たとえおれが非常識な魔力を備えていて、『種』によって狂わされた者を打倒しうる力を持っているとしても……危険は避けるに越したことはないし、余計な労力を費やさずに済むならそれがいい。

 

 

 そんなこんなで、おれはこの世界を救うためにも、次なる動画を作らなければならないのだ。

 

 

 

 

 

「次なる動画……それは他でもない。お料理動画だ!」

 

『…………いや、いきなりどうしたのさ? 現実逃避?』

 

「ちがうよ。状況確認だよ。……あと他に要るものある?」

 

『んー……ウサギ肉はトリ肉で代用するとして……『リズの種』って聞いたことある?』

 

「えっ、無い。……種食べるの? アーモンドとかそういう感じ?」

 

『食べるというよりは、下ごしらえかな。細かく挽いて肉にすり込むんだ。ウサギ肉は処理が下手だと臭みが出易いからね……挽いたリズの風味で誤魔化すというか。別に無くても良いんだけど、ピリッと痺れるような刺激がまたクセになるんだ』

 

「あーー…………黒胡椒かな? 確かウチにあったような……いいやミルつきの買っちゃえ」

 

 

 白谷さんからもたらされた情報をもとにアタリをつけ、黒胡椒の実が詰まった小瓶をカゴに放り込む。キャップ部分に小型の挽臼(ミル)が備わったこれならば、黒胡椒の風味を存分に楽しめる上……ガリガリやればなんというか、動画映えしそうである。

 

 ともあれ、これで材料は一通り揃ったらしい。オマケに紙パックのいちごオレを二つとコロッケ二つをカゴに投げ込み、鼻唄を響かせながらレジへと向かう。

 来客の少ないこの時間、レジはどうやらひとつしか稼働しておらず、その唯一のレジを任されているおばちゃんは…………あっれ、何故かこちらをガン見していますね。

 

 

「ねぇ、白谷さん……本っっ当に()()()()()効いてるんだよね? おれ変じゃないよね?」

 

『それは勿論。どこからどう見ても人族(ヒト)の美少女にしか見えないよ』

 

「本当の本当? おかしいとこ無い?」

 

『本当本当。ちゃーんと()()()()()も掛かっているし、耳だって……まぁ触れられれば気付くだろうけど、眺める分には人族(ヒト)そのものだ。どこからどう見ても人族(ヒト)の女の子……()()()()()()()()()()()()()()()()が印象的な美少女』

 

「それだァ――――――――――!!!!」

 

 

 

 どうやら……白谷(ニコラ)さんの世界には、緑髪翠眼は珍しく無かったらしい。

 『他人に見られて変じゃないように、この長い耳とか()()()()()隠して……エルフってバレないようにしたい』というおれの願いを聞き届け、エルフ隠しの魔法を掛けて()()()()()()()()()くれた白谷さん。

 

 この国ではほとんどの人々が黒髪黒眼であり、そも外国であっても緑髪はほぼ存在しない、ということを知らなかった白谷(ニコラ)さんにとっては……おれの髪色と瞳の色は、別に隠す程()なものでは無いという認識だったらしい。

 

 

 

 気づいたときには、とき既に遅し。

 

 何事も確認と、認識の共有は重要であると……おれは改めて実感したのだった。

 

 

 

 レジのおばちゃんに話し掛けられたときは『かつらです』って言い張って突破した。恥ずかしい。

 もう顔真っ赤だよ。おばちゃんが何か暖かい視線で見てた。めっちゃ恥ずかしい。

 

 

 



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39【状況開始】危うく手遅れになるかと

 

「もおおおおお!! そりゃおばちゃんだってビビるって! いくら国際色豊かになったからって! 緑髪はそうそう居ないもの!!」

 

「いやー……すまない。こればっかりはボクの落ち度だ」

 

『でもエルフバレはしなかったんでしょ? なら良いじゃないっすか。先輩どっちみち目立ちますよ、あり得んほど可愛いですし』

 

「じゃあ顔ごと隠蔽してもらえば」

 

「『それは駄目だよ(っす)』」

 

「なんでよ!! もおおおお!!」

 

 

 なんとか無事に買い物を済ませ、おれはフードを目深に被りながら自宅へ逃げ込んだ。

 愛機(PC)を立ち上げて音声通話ソフトを起動し、同志烏森へとことの顛末を愚痴ったところ……返ってきたのはあっけらかんとした彼の声。

 おれの容姿の露見が危ないところだった点も笑って流していたし、『ならいっそ顔ごと平凡な感じに』という提案には白谷さんと二人して即却下の流れだ。

 

 おれがこの……非常に目立つ若芽ちゃんの容姿でさんざん悩んでいるというのに、この仕打ちはあまりにもひどいのではないだろうか。

 

 

「あー不貞腐れちゃった。どうしよう、ムスッとした顔も凄く可愛いよモリアキ氏」

 

『ぅえ!? マジっすか……畜生オレも見たかった…………先輩また今度ムスッとして貰えます?』

 

「理不尽な要求だな!! ……まぁ、仕事がんばれよ」

 

『まーかせて下さい! 若芽ちゃんのためにも速攻(ソッコー)終わらせます!』

 

 

 

 昨晩の情報開示の後。

 そのままおれの家に住むことになった白谷(ニコラ)さんとは異なり、烏森(かすもり)は自宅へと帰ってしまった。

 帰り際はとても名残惜しそうにしていたが……それでもまずは現在抱えている仕事を優先すると決めたらしい。

 

 なんでも『納期が迫りつつある案件、先に片付けちまいたいんすよ』とのこと。

 締切までまだ若干余裕はあるが、それを巻きで納めてオッケーを貰い、憂い無く『若芽ちゃん』に密着しよう……という企てらしい。

 

 おれとしては非常に嬉しいのだが……彼の()()の機会を奪ってしまっているようで、なんだか少しだけいたたまれない。

 

 ……と、まぁそれは別にいい。神絵師との呼び声高いモリアキのことだ、いい感じに片付けてくれることだろう。べつにそれはいい。問題はこっちだ。

 

 

 

『でもでもですよ。耳はさすがに危ないっすけど、それ以外……髪とか目とかは、少しずつバラしてっても良いと思うんすよ』

 

「なんで? 白谷さんに頼んで髪とか眼とか色変えてもらって誤魔化すんじゃダメなの?」

 

『いやー、多分なんすけど……先輩、フェイスカメラ出せます?』

 

「んん? ちょい待って……………ん、出た……と思う。おお映った」

 

『おーオッケーっす。白谷さんもこんにちわ、昨夜ぶりっす。バッチリ映ってますね』

 

「おお……声だけでなく姿も飛ばせるとは。……凄いね、これ」

 

 

 画面を覗き込み、そこに映し出されるモリアキの顔を眺め、しきりに感嘆の声を漏らす白谷さん。その様子を微笑ましく感じながらも、おれは肝心なところをまだ聞き出していなかったことに思い至る。

 白谷さんに隠蔽魔法を掛けてもらうことと、回線越しの映像通話。この二つの間に、いったい何の関係があるというのだろうか。

 

 

『実験というか、ですね……白谷さん、ちょーっとばかしお願いが。先輩に隠蔽魔法掛けてみて貰えますか? とりあえず髪色変えてみる感じで。割とガチなやつ』

 

「? …………まぁ、良いけど……ノワの髪色を誤魔化せば良いわけだね? 我は紡ぐ(メイプライグス)……【幻惑(ハルツィナシオ)】」

 

「お……おお?? …………掛かった?」

 

「掛かった掛かった。まぁ幻惑を纏ってる本人は変化無いだろうけど」

 

『……なるほど、今魔法掛かってるわけっすね。やっぱダメみたいす』

 

「「えっ!?」」

 

 

 魔法を施された張本人であるおれ自身は、誤魔化された自分の容姿を認識できないものの……今は白谷さんの手によって、おれの髪色を変える感じの幻惑魔法が施されているらしい。

 

 本人いわく『天幻』の称号を誇る白谷さんは、空間魔法と幻想魔法のエキスパートであるという。

 実際、何かしらの魔法が行使された形跡はおれの目にも見えたし、彼女が得意分野の魔法を失敗したということは無いだろう。

 

 だというのに。幻惑魔法を掛けられたおれを第三者視点から眺めていたモリアキは……どうやら幻惑を看破してしまっている様子。

 彼自身は――人並外れた描画スキルと家事スキルは備わっているものの――ごくごく普通の一般人である。魔法抵抗力や幻想看破の能力が備わっているわけ無いし、白谷さん渾身の幻想魔法の影響を受けないはずがない。

 

 …………そのはずなのに。

 

 

『やっぱ思った通りっす。カメラ通すと幻惑の効果が失われるみたいっすね』

 

「えっマジで!?」「…………カメラ?」

 

『多分っすけど白谷さんの幻惑魔法って……先日先輩が使ったボヤけさせるのとは違って、視た人の『視覚』に作用する系の魔法なんでしょう。物事そのままを映し出す電子機器には効果が及ばず()()()()()を記録され、そしてそれを視る人間は単なる映像データを見るだけ……そこに幻惑魔法の介入する余地は無い、ってことだと思うす』

 

「……そういうことか、理解した。なるほど、非生物かつ非魔術機構の視覚再現装置か。…………なんてことだ、確かに相性最悪だね。モリアキ氏の指摘通りだよ」

 

「よく解んないけど要するにカメラがダメなんだな! ……っていっても、別にそんな普段出掛けたり買い物する分には…………あー……そっか、防犯カメラ」

 

『そう、そうなんすよ。今日日(きょうび)この日本ではそこかしこに防犯カメラが睨み利かせてますし、コンビニとかスーパーとかデパートとかだと尚のこと多いです。たとえやましいことが何も無いとはいえ、カメラに映った人物と実際の人物の髪色が違えば……』

 

「ツッコまれたら釈明のしようが無いよなぁ……魔法を説明せざるを得なくなる」

 

「……魔法を行使できる、っていう点は……(おおやけ)にしない方が良いわけだ」

 

『ある意味お尋ね者っすからね、『正義の魔法使い』さんは』

 

「あっぶね……【陽炎(ミルエルジュ)】が光学系の魔法で良かった……」

 

 

 

 まずなによりも大前提として……おれが『魔法を使える』ということがバレるわけにはいかない。おれ同様に魔法を使いこなす白谷さんの存在がバレることも、これまた同様。バレないように立ち回らなければならない。

 

 一方で……この長く尖ったチャーミングな耳さえ隠しきれば、髪色や瞳の色も『ウィッグです!』『カラコンです!』と押し切ることは――ぶっちゃけ多少なりとも怪しまれる恐れは充分にあるし、特に瞳に関しては正直ムリがある気がしなくもないが――いちおう不可能ではないだろう。……多分。

 

 街中に溢れる監視カメラや、ふとした拍子に向けられるスマホのカメラ等の電子機器を欺くことが出来ない以上、大規模な幻惑魔法での変装は危険を伴う。

 使うにしてもピンポイントで……それこそ監視カメラでは捉えられない程にひっそりと、耳の長さをちょこっと誤魔化す程度ならば、常用しても問題無さそうではある。……まぁ尤も、解像度の高いカメラで撮られたりしたらアウトなのだろうが。

 

 

 

「…………ハードモードすぎね?」

 

『耳当てとか、もしくは髪型で隠すって手もあるっすよ』

 

「まぁ、ボクが言えた義理じゃないけど……事前に対策が出来て良かったよ」

 

「そだなぁ……知らずに魔法で変装してスーパー行ってたら危なかった……超絶お手柄じゃんモリアキ」

 

『フヘヘヘ。空想解釈読本が役に立って良かったっすよ』

 

「ご褒美におれの手料理振る舞ったげるから、はやく仕事片付けておいで。今夜はごちそうよ」

 

『マジすか絶対ぇ行きます』

 

 

 とりあえず、取り返しのつかない失敗はしていなかったのでヨシとしよう。

 お料理動画作成のための材料も手に入ったし、今後外出する際の注意事項も確認することができた。

 

 この作戦会議によって、今後のおれの活躍の幅は大きく拡がったといっても過言ではあるまい。

 

 

 ……まぁ、だがそれはまた今度だ。

 とりあえず今日のところは…………

 

 

「じゃあ……白谷さん。指導おねがいね」

 

「任せてくれ。ナイフを握ることは出来ずとも、手順を(そら)んじるくらいは出来るからね」

 

 

 そう。料理動画は料理動画でも、白谷(ニコラ)さん監修・指導によるファンタジー料理なのだ。

 エルフ種を名乗る以上、お料理動画にしてもちょっと一手間加えたいところだ……と思っていたところへの、生粋の異世界住人の協力である。これは心強い。

 

 単純に視聴者を楽しませるため――そして一人でも多くの人に見て貰い、()を楽しみにしてもらうため――なんとしても成功させなければならない。

 

 

 そして……料理を楽しみにしてくれているモリアキのためにも。

 絶対におもしろい動画と……おいしい料理をつくってやる。

 

 



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40【調理収録】若芽のおしゃべりクッ(自粛)

ヘィリィ(こんにちは)、親愛なる人間種の皆さん! 初めましての(かた)は初めまして、魔法情報局『のわめでぃあ』局長の『木乃若芽(きのわかめ)』です! ……寒い日が続きますが、皆さん風邪引いてませんか?」

 

 

 

 いつもどおりの挨拶とともに、いつもとはひと味違う若芽ちゃんがお出迎え。……我ながら、今のおれは非常に可愛らしいと思う。

 

 いよいよ始まったお料理動画、なんといっても()()()からしていつもと違う。普段の配信や動画撮影時の衣装……魔法使いふうの新緑色のローブの上から、淡いイエローと小鳥ちゃんのワンポイントが可愛らしい(子ども用サイズの)真新しいエプロンを纏い、長い髪もゆるく三つ編みにしてくるりと纏めてピンで止めている。

 可愛らしい尖った耳と幼いながらも艶かしい首筋が露になり、鏡越しの我が身には我が身ながらドキッとしてしまった。

 

 ……お料理は清潔感が大切なのだ。エプロンや三角巾を身に付けずに『不衛生だ!!』と叩かれるのは嫌なので、きっちりかっちり正装を身に付けておく。

 通販で見繕い、ついさっき届いたばかりの新品だ。……ナイスタイミングと言わざるを得ない。

 

 

「寒い寒ぅい毎日、皆さんが身体の中から温まれるように。()()()()()の故郷で定番のお料理をですね、今日はすこーしアレンジして作ってみようと思います! ……ツノウサギの肉とか、こちらでは調達出来ませんし」

 

「残念だよねぇ……」

 

「残念でしたねぇ……でも大丈夫、きっとおいしくできますよ! 題して……ツノウサギ改め『若鶏の墓』です!」

 

 

 可愛らしい効果音と共に、可愛らしいフォントで料理名のテロップが出現し……ファンシーな演出とは真逆に物騒な料理名が表示される。ギャップもえってやつだ。

 

 ()()()()()、と言ったのは他でもない。わたし(おれ)は厳密に言えば……いや言うまでもなく、まごうことなくこの世界の出身である。

 しかしながらこの()()()()()には、ちゃっかりと白谷(ニコラ)さんを含んでいる。ニコラさんに教えてもらった、今や彼女となった彼の出身地の定番料理なのだ。何も嘘は言っていない。

 

 ……しかし、その『白谷さん』のお披露目はもう少し後。週末の配信で大々的に行う予定だ。

 なので今現在この動画では、時おり的確な助言をいれてくれる『謎の声』として出演(?)を果たして貰っている。きっと視聴者の人たちは『いま何か聞こえたぞ!?』『いったいこの可愛い声は誰なんだ!?』と()()()()すること間違いなしだ。

 

 

 と、いうわけで。

 

 一通りの手順を教わったわたし(おれ)が実際に調理を行い、白谷さんには声だけで助言や指示やお喋りをしてもらう予定となっている。若芽(わかめ)のお喋りクッキングである。……大丈夫かなこれ。

 

 

 

「材料はこちら。どれもお近くのスーパーで調達できるものでアレンジしてあるので、大丈夫ですよ。こっちから順に……鶏モモ肉(四百グラム程度)、玉ねぎ((ひと)玉)、大蒜(ニンニク)(ひと)欠片)、赤ワイン((いち)カップ)、お水((いち)カップ)、オリーブ油(大さじ(いち))、塩・黒胡椒(少々)。あとはタイムとローズマリー。これは粉末で大丈夫です。あとあと、あれば生のセージを二本ほど……以上です。普通でしょう?」

 

 

 

 綺麗に掃除された自宅キッチンの調理台、そこに小皿に分けられた各材料がずらりと並んでいる。地上波放送局のお料理番組で割とよく見るアングルである。

 

 今更だが……この動画を撮るにあたって、カメラは二台稼働している。

 キッチン全景を斜め上方から抑える固定カメラと、ハンディタイプの防水耐衝撃小型カメラ。アウトドアアクティビティなんかを撮影できるゴーでプロ級なアレである。

 例によって後で継ぎ接ぎの編集作業が待っているのだが……今回は日程に余裕もあるので、割と楽観視していたりする。

 

 ともあれ今は、()を撮らないことには始まらない。

 小さなエルフの女の子が一生懸命お料理する映像を、ばっちりカメラに収めなければならない。……ちょっと集中しよう。

 

 

 

「まず始めに……鍋にオリーブ油を熱して、軽く温めておきます。温めすぎないように弱火で、ですよ! 煙が出たら明らかに熱しすぎです! こげちゃいますので!」

 

「油を温める間に、お肉を食べやすい大きさに……まぁ、ふつうは一口(ひとくち)大ですかね。切ったお肉と潰した大蒜(ニンニク)、それに塩と胡椒をまんべんなく揉み込んでおきます。わたしは挽きたての胡椒が好きなので、ガリガリと。……うふふ、もみもみ。もみもみ」

 

 

 軽快なフリーBGMを思い描きながら、白く滑らかな……しかし子どものような小さな手が、つやつやの生肉を執拗に揉みしだいていく。

 肉のピンク色と指の白肌色が(つや)を帯び、生肉をこねる粘質な音と合間って少々背徳的な雰囲気を醸し出す……気がしなくもない。しかしおれは無実である。

 ……こほん。お料理を続けましょう。

 

 

「オリーブ油がほどよく温まったら、もみもみしたお肉の表面を軽く焼いていきます。こーしてお肉の表面に軽く焼き目を付けることで、お肉のうまみを閉じ込めるんですね。あとで煮込むので、軽くでいいですよ!」

 

「次に野菜も同様に、玉ねぎは上下をすこし落として八等分の(くし)形に。お肉を焼いているお鍋にゴロゴロと投入していきます。……玉ねぎおいしいですし、お好みでもう(ひと)玉入れてもいいかもしれませんね。加熱すると(かさ)が減るので。……お料理の分量とかフィーリングで、臨機応変でいいんですよ。ふんふふーん」

 

 

 手もとを映す角度にセットしたホルダーにハンディカメラを固定し、口頭で手順や注意事項を伝えながら、また上機嫌に鼻唄を口ずさみながら、手元はてきぱきと淀みなく工程を進めていく。

 

 お料理番組でよくある演出であり、『今はいったい何をしているのか』が非常にわかりやすい。レシピ本を見るのとはまた違い、どこをどういう手順でこなすのかが一目瞭然である。やはり動画の力はすごい。

 

 

「焼き色がついてきたら、粉末ハーブを……タイムとローズマリーを全体に振り入れます。でもこの世界の鶏肉は臭みが少ないので、分量は鶏肉に合わせてありますが、好みによってはもっと減らしたり無くしても大丈夫かもです。エスビーさんのをパパッと振り入れれば大丈夫です。……便利ですよねぇ」

 

「便利だね……いちいち香草挽かなくても良いわけだ」

 

「二百円しないんですよ。本当半端無いですって」

 

 

 はっきりと画面には映らないが、()()()()()()()ことをしきりに匂わせておく。とうの白谷さん本人も興が乗って来たのか、自身の姿を完全に消しながら虹色の燐粉だけをちらつかせる……なんて器用な真似までし始める始末。

 おれは白谷さんの位置を認識できるが……光の偏向を操り完全に姿を隠す光学魔法は、現代の光学機器(カメラ)をも欺いてのけるらしい。

 

 

「ではでは、いよいよここで……じゃーん! 赤ワイン~!」

 

「露骨にテンション上がったね。まだ子どもなのに」

 

「子どもじゃありませんし? お姉さんですし? ……はい、というわけで、ここで赤ワインを飲みま…………入れます」

 

「いま明らかに飲もうとしたよね?」

 

「赤ワインを入れたらゆっくりかき混ぜ、次にお水を入れます。かき混ぜはゆっくり、具を崩さないように。やさしく、やさしく、ですよ」

 

「いま明らかに誤魔化したよね?」

 

 

 声だけの白谷さんが良い働きをしてくれる。本当にお喋りクッキングって感じだ。大丈夫かなこのワード。

 そうこうしている間にもお料理はいよいよ大詰め、『煮込み』の段階に入った。こうなったらあとは時々かき混ぜながら待つしかないので……のんびりとお話に興じようかと思う。

 

 

 CMのあともまだまだ続きます!

 チャンネルはそのまま!!

 

 ……なんちゃって。

 

 



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41【調理収録】続・若芽のおしゃべり(自粛)

「…………はい! というわけで、今回挑戦している『若鶏の墓』ですが……もともとこのお料理は『角兎の墓(エンキッド・グリーフ)』と呼ばれるお料理を、この世界の皆さん向けにアレンジしたものなんですね」

 

 

 ゆっくりと鍋をかき回す絵面()()……というのはあまりにも酷なので、お喋りをして時間を潰そうと画策してみる。

 ……ぶっちゃけトークの出来がいまいちだったら、そのときは編集の際に何とかすれば良い。いっそのこと丸々カットして『出来上がったものがこちらになります』とかでも良いのだ。

 今回はライブ配信ではなく、動画の素材を集めている段階なのだ。割と自由にやってみても、それこそ割とどうにでもなるだろう。

 

 せっかくカメラを回しているのだ。素材が足りなくなって構成に困るよりは、『やっぱ要らなかったか』と笑って削除する方がいい。

 ……いや削除しなくてもいいか。とりあえずいっぱい撮って取っとこう。撮っておいて取っておこう。

 

 

「『角兎の墓(エンキッド・グリーフ)』……物騒な名前だと思ったでしょう? 何でそんなおどろおどろしい名前が付いたのか、というとですね……このお料理の()()()に由来するんですね。もう一度お鍋をちょっと見てみましょう」

 

「まだ煮詰まってないけど……」

 

「はい、まだみたいですね。じゃあもう少しお楽しみということで。……ええと、このお料理は端的にいうと『葡萄酒煮込み』なわけですね。葡萄酒……特に赤ワインを使って煮込んで、じっくりと煮込んでいくと……煮汁がどんどんと煮詰まってですね、赤黒く粘りけを帯びてくるんです」

 

「葡萄酒が空気に触れると、黒く濁る……火に掛けられ熱されて、それが早まった感じだね」

 

「そうですね。赤黒いドロドロしたものに沈む、バラバラにされた角兎(エンキッド)……まぁ今回は鶏肉なんですけど。ともあれ、なるほど確かに『(グリーフ)』と呼びたくなるのも仕方無いかもしれませんね」

 

「その『墓』ごと食べちゃうってんだから……びっくりだねぇ」

 

「お肉になっちゃった……今日は鳥さんですね。この鳥さんに感謝して、無駄にしないようおいしく仕上げていきましょうね」

 

 

 会話の合間もちょくちょく鍋をかき混ぜ、火の通りと煮詰まり具合を確認していく。……やはりというか水気が飛ぶにはなかなか時間が掛かるらしく、まだまだ小ネタを挟み込む余裕はありそうだ。

 あまり火を強めすぎて焦がしてしまっては、せっかくの手料理が台無しである。若芽ちゃんとして初めて作った料理は……やはりきちんと完成させてあげたいのだ。

 

 ……というわけで。またしてもフリーな時間が出来てしまった。

 時間魔法を使う(編集でトバす)ことも出来なくは無いのだが……せっかくなのでちょっと悪ノリしてみようと思う。

 

 

 

「煮汁が煮詰まっていくまで、すこし時間がありそうなので……先日の『はじめまして』放送で頂いていた質問にですね、遅ればせながら幾つかお答えしていこうと思います!」

 

「おぉー。じゃあまぁ……鍋見ておくから、安心してやっておいで」

 

「ありがとうございます! ……こほん、それではひとつめ!」

 

 

 時間潰しといえば……定番だが、質疑応答コーナーだろう。こんなこともあろうかと、SNS(つぶやいたー)に寄せられた質問にもバッチリ目を通しておいたのだ。

 姿無き謎の声こと白谷さんのフォローに感謝しつつ、質問に答えながらお喋りで時間を潰す。

 愛用のスマホを手に取り、リストアップしておいた質問一覧のテキストファイルを呼び出し、目を通す。

 

 

 

「『趣味や特技はありますか』。あるよあるよーあるあるですよー! 趣味はですね……旅をすることです! 一人旅! 最近は放送局の立ち上げでご無沙汰ですが、またあちこち行ってみたいですねー……この国は温泉とかいっぱいあるって聞きますし。特技はですね、先日ちょこっとやってみましたが……お歌ですかね! 幸運にもお褒めいただいたので、またやってみようと思います!」

 

「『出身はどこですか。日本ですか』。日本じゃないですね……ここではない別の世界です。こう……『えいっ』て感じで、世界の壁を越えてきました。うふふ……超熟練の魔法使いであるわたしにしか出来ない芸当でしょう……さっすがわたしですね! 褒めてもいいんですよ!」

 

「『お友達や親しい人や他のエルフはいるんですか』。……んんー……わたしと同郷のエルフは、どうやら居ないみたいですね。別の異世界から来た子はちらほら見かけますので、いつか会ってみたいです。親しい人は……絵描きの『モリアキ』さんですかね! わたしがこの世界に来たばっかりのとき助けて貰いました!」

 

「『お兄ちゃん、って言ってください』。質問なんですかこれ!? ……まぁいっか…………こほん。……おにぃ、さん」

 

「『甘えさせてください』。質問じゃねえですねこれ!? いや採用リストに上げたのわたしなんですけど! ……こほん。…………しょうがないなぁ……おいで? よし、よし。いいこいいこ。……こんな感じですか?」

 

「『スリーサイズを教えて下さい』。ちょっと正気ですか人間種諸君!? 会って間もない女の子ですよ!? …………まぁリストに上げたのわたしなんですけどね。もぉ……一度だけ、ですよ? …………684966」

 

 

 

「ノワーー、いい感じだよーー」

 

「ああっ! ありがとうございます! ……というわけで、今回の質問コーナーは以上です! またの機会をおたのしみに!」

 

 

 

 しばらく寄せられていた質問に答えていた間に、どうやら良い感じに煮詰まったようだ。ほかでもない白谷さんが判断を下したのだから、恐らく間違いないだろう。

 質問コーナーのために移設していたハンディカメラを手に取り、ぱたぱたと鍋の前に戻って覗き込むと……なるほど確かに、赤黒く粘度を増した汁がふつふつと煮立っている。

 

 これまでは白谷さんの説明を聞いただけで、正直に言うと想像するしかなかった見てくれだったが……実際に見てみるとなるほど確かに、『墓』という表現も当てはまりそうな様相だった。

 

 

 

「……はい! それではお料理を再開していきましょう! ここまで来ればあともう一息、焦がさないように注意しながら水けを更に飛ばし……ここからは『煮る』というよりも『炒める』になるくらいまで、更に火を入れていきます」

 

「『火を強くして一気に加熱したい』という気持ちもわかりますが……ここで焦がしちゃったら苦味が出てしまうので、もうすこしの我慢です。我慢……まだだめですよ、もうちょっとだけ我慢しましょう」

 

 

 などと口では言っておきながら……このお料理に限っては、我慢する必要はなさそうだ。

 どうやら白谷さんが魔法を使って時短してくれていたらしく……【熱】と【風】に類する魔法を器用に使い、食材を余計に刺激することなく水けのみを飛ばしてくれたようだ。

 

 こっそりと白谷さんへ視線を向けると、口元に人差し指をあててイタズラっぽく微笑んで見せた。何この子めっちゃ可愛いんだけど。まだお披露目できないのがもったいないわ。

 

 

「…………そろそろ、ですかね?」

 

「んー……そうだね、良い感じだ」

 

「それでは。……こんな感じに、お鍋の底が見えるくらいになったら……ついに火から下ろします!!」

 

「はい。お疲れ様」

 

「んふふ、お疲れ様です。それでは、お皿に盛り付けて……ここにセージの葉っぱを彩りに載っけます。ちょっとで大丈夫ですよ」

 

「生の香草の過剰摂取は毒になる……こともあるからね」

 

「そんなモリモリムシャムシャ食べなきゃ大丈夫ですので、心配しないでくださいね! 適量を摂取する分には、非常に優秀な良い子なので! ……それでは、最初の材料には入れてませんでしたが……生クリームをですね、こう……たーってやると……ほら良い感じでしょう? 無くてももちろん美味しいですが、コントラストがまた美味しそうでしょう!」

 

「おおー……良いね。上手だよ、ノワ」

 

「えへへへ。……というわけで、角兎の墓(エンキッド・グリーフ)改め『若鶏の墓』完成! です! いぇーい!」

 

「い……いぇーい」

 

 

 



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42【調理収録】続続・若芽のおしゃべ(自粛)

 

 収録スタジオを兼ねたおれの自宅、そのリビングダイニング部分は……撮影区画と収録機器によって、そのほとんどを埋め尽くされている。

 そのためいわゆる『食卓』と呼べる家具は、残念なことにこの空間には配置されていない。

 

 普段の生活においてその役割を全うしているのは自室に設置されたコタツテーブルであり……しかしながら、だからといってカメラを自室に持っていくのは(はばか)られる。映したくないものだっていっぱいあるし。

 

 しかし……この身体であればお料理動画も臨場感たっぷりに撮ることが出来る。これは同業他者には真似できない、おれ(若芽ちゃん)ならではの大きな強みだ。今後も引き続きお料理動画を続けていくためにも、小さめの食卓を設置するスペースを捻出すべきかもしれない。

 いくら収録機材に埋め尽くされているとはいえ……足の踏み場もないほどギッチギチ、というわけでも無いのだ。

 

 

 まぁ、それはおいおい詰めていくとして。

 今日はどう足掻いても食卓の用意が不可能なので……お行儀悪いとは重々承知だが、キッチンの作業台でいただこうと思う。

 せっかくのお料理動画だ。おいしく実食するところまで撮っておきたいし……美味しそうに料理を食べるおれ(若芽ちゃん)の顔は、きっとなかなか良い()になることだろう。

 

 汚れた食器や調理器具に纏めて【洗浄(ワーグシェル)】【清掃(リュニーグル)】【乾燥(トローシュル)】をぶっ放し、綺麗になったそれらを綺麗に片付け、作業台(食卓)にも【洗浄(ワーグシェル)】と【浄化(リキュイニーア)】を掛けて準備万端。ぴかぴかに輝きを放つ作業台(食卓)にランチョンマットを敷き、料理(若鶏の墓)を盛った器とカトラリーと……買い出しの際にパンやさんで買っておいたバゲットを、見映えよく並べていく。

 

 

「んんー…………角度こんなもんかな。白谷さんどーお? 周りの変なの映り込んでない?」

 

「大丈夫そうだよノワ。背景の……レーゾゥコとデンシレンディは仕方無いとして……というか、お得意の映像投射魔法で隠せるんじゃないの?」

 

「いやーあれね、真っ白な壁だからなんとかなってるんだよね。……まぁそんなに汚くないだろうし、多少の生活感は()っかなって。キッチン映してる時点で生活感マシマシだし」

 

「まぁそれもそうだね。隠すほどでもない、か」

 

「…………ん。固定カメラはこの角度で……ハンディカメラも別角度で固定しとこう。下手に動かして変なもん映ると嫌だし。……まぁ編集でカットすれば良いんだけど」

 

「変なのって……ノワの下着とか? それともベッドの下の書」

 

「なんで知ってるの!!!?」

 

「まぁまぁ。ほら、準備できたなら始めちゃおうよ。冷めちゃうよ?」

 

「白谷さんあとでお説教だからね!!?」

 

「ははは。いやーノワは可愛いね」

 

 

 

 あっけらかんとした白谷さんに驚愕を禁じ得ないが……しかし確かに、冷めてしまってはせっかくの出来立て料理がもったいない。

 ほかほかと湯気を上げる様子もカメラに収めたいし、白谷さんへの追及は後回しにするしかないだろう。

 

 非常に釈然としない面持ちを浮かべたまま、おれは迷いを振りきるようにカメラの録画ボタンを押していった。

 

 

 

 

……………………………………

 

 

 

 

「ちょっ……いや、マジすかこれ。ウッマ……えっ、めっちゃウマイっす」

 

「ほ、本当!? マジ!?」

 

「マジマジ、本当っすよ。肉も柔らかいし、しっかり味染みてますし……バゲット? ていうんすか、このパン。米とはまた違って……ファンタジー(メシ)っぽくて良いっすね」

 

「大絶賛じゃないか。良かったね、ノワ」

 

「…………良かっ、たぁ」

 

 

 

 結局のところ……仕事を片付けたモリアキが駆け付けたのは、夕方の十六時を回った頃だった。

 それくらいの時間になるだろうということは事前に聞いていたので、ラップを掛けて冷蔵庫で保管していたのだが……バゲットともどもレンチンして出したところ、先のようにお褒めのお言葉を賜ったのだ。

 

 実際に料理が完成したのは、昼の十二時くらいだったはずだ。それから実食パートを撮って、モリアキのぶんを冷蔵庫にしまって、後片付けをして、とりあえずいそいそと作業に取りかかり始めたのだが……以前『歌ってみた』動画を編集していたときとは異なり、作業はなぜか遅々として進まなかった。

 

 

 

「心ここにあらず、って感じで……気が気じゃなかったもんね、ノワは。初めての手料理、モリアキ氏に『おいしい』って言って貰えるか不安だったのかな?」

 

「えっ!?」

 

「そうなんすか?」

 

「えっ!?!??」

 

 

 ……そうだったのか?

 

 …………そうだったのかもしれない。

 

 

 なるほど確かに、さっきまでのようにどこかそわそわしていた感じとは異なり……今は肩の荷が下りた気分というか、安心しているのが自分でもわかる。

 その切っ掛けとなったのは白谷さんの言うとおり、若芽ちゃんとしての初めての手料理を烏森(かすもり)に食べてもらい……『おいしい』と言って貰えたことなのだろう。

 

 今のおれであれば、以前のように最高のパフォーマンスで編集作業を進められそうだ。

 

 

「いやー、オレも仕事ダッシュで終わらせて良かったっすよ。ご褒美がこんな豪勢なディナーだなんて……ぶっちゃけめっちゃ嬉しいす。ありがとうございます、先輩」

 

「んふ……んふふ。やーそれほどでも……んへへへ……あるかもね? んふふ……どういたしまして。遠慮しないで、たーんとお食べ」

 

「いただきますいただきます。ひあー(いやー)……ふまいっふよ(うまいっふよ)まひれ(まじで)

 

「えへっ、えへへへ。……よっし! ちょっとオシゴト進めてくる!」

 

「……まったく、幸せそうな顔しちゃって。ちょっと妬けるね」

 

 

 

 心の奥のつっかえが取れたかのように、今はとても気分が良い。

 なんという全能感。今のおれであれば以前の『歌ってみた』動画と同様……いや、それ以上の手際で編集作業を進められるだろう。

 食事中のモリアキを眺めていたい気持ちを振りきり、隣室スタジオスペースの作業用パソコンへと場を移す。

 

 果たして期待した通り……作業は極めて順調に進み、夜の二十一時を回った頃には動画の大筋が仕上がっていた。

 

 

 

 その間客人である烏森を完全にほったらかしにする形となってしまったのだが……どうやら白谷さんがお話し相手になってくれていたらしい。

 またやらかしてしまった、彼には非常に申し訳ない。

 

 ……スイッチが入ると周りが見えなくなるというのは、少々よろしくないだろう。

 烏森にも悪いことをしてしまった。これっきりにしたい。

 

 

 



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43【調理動画】完成と次なる方針

 

『――――ではでは、年の瀬のお忙しい時期ですが……体調を崩さないよう、皆さんくれぐれも気をつけて下さいね! ご覧の放送は魔法情報局『のわめでぃあ』、お相手はわたくし木乃若芽(きのわかめ)がお送りしました! またねっ!』

 

「「またねー!」」

 

「…………何この公開処刑」

 

 

 

 

 月曜日の夜も更け……とりあえずの作業を終えたおれは、半ば放置プレイをかましてしまった烏森に詫びをいれつつも、その一方で確かな達成感に浸っていた。

 烏森と白谷さんの二人、彼らは話し込むうちになにやら意気投合したらしく……『作業にのめり込むおれを刺激しないように』という気遣いからか隣室に殆んど引っ込んだまま、辛抱強くおれのことを待ってくれていた。

 

 しかし、まぁ……その代償というか条件というか……『出来たばかりのお料理動画を見せてくれ』という要求つきではあったのだが……まぁそれ自体は別に良い。どのみち披露するつもりだったのだ。

 長時間待たせたことに対して重ね重ね詫びながら、出来立てほやほやの動画を再生する。……ここまでは別に良い。どうってことない。問題はそこからだ。

 

 

 動画が流れ始めると……烏森と白谷さんはまるで示し合わせたかのように、二人揃って執拗にベタ褒めし始めたのだ。

 

 

 

「何度見ても可愛いっすね……エプロン姿めっちゃ似合ってるっすよ」

 

「指がまた綺麗だね。小さい手で頑張るのがまた愛らしい……まぁボクより幾分大きいけど」

 

「あー声すき。めっちゃ声可愛い。喋り口も穏やかだし本当なごむ」

 

「首筋がまた良いと思わない? 普段髪で隠れてるだけに」

 

「良いっすね……若芽ちゃんの貴重なうなじ御馳走様です有難うございます」

 

「まーた美味しそうに食べるね。いい笑顔だ。……可愛いなぁ」

 

 

 

 ……等々などなど。

 

 SNS(つぶやいたー)や配信中のコメントで寄せられるのとは訳が違う、見知った人から手放しで贈られる賛辞に……まぁ、気恥ずかしくなってくるのは当然なわけで。

 しかもそれらがお世辞やおべっかではなく、一切の嘘偽りを含まない本心からの賛辞とあっては……彼らを怒ることも出来やしない。

 

 結果として……おれがなんとも微妙な表情を浮かべる中、試写会はしめやかに幕を閉じ……二人の審査員による批評(という名のベタ褒め)が再び始まった。

 

 

 

「……ごめん。わかった。待って。わかった。わかんないけど、わかった。……何で? 何でそんなヨイショヨイショされてるのおれ」

 

「いやぁ、九割は本音っすよ。オレも白谷さんも」

 

「そうだね。実際に……シューロク? に居合わせた身としては、なおのこと感慨深いよ。良く纏まっている」

 

「えっと……それは、まぁ嬉しいんだけど…………うん。単刀直入に訊くね。()()()()()()?」

 

 

 さっきまでの作業中……おれが烏森をほったらかしにしていた間。白谷さんと烏森が何やら話し合っていたというのは、さすがに解る。

 べつにそれが悪いことだと言うつもりは、当然まったく無い。元はといえばおれが彼らを憚らず作業に没頭し始めたのが悪いんだし、烏森も白谷さんもおれにとっては大切な仲間……身内なのだ。

 彼らが何を話していようと、彼らの自由だ。本来おれに詮索・介入する権利なんて、無いのかもしれない。

 

 ……だが。

 こうもあからさまにヨイショされると……なんというか、ちょっとこそばゆい。

 烏森はことあるごとにおれを――というか他人を――褒めてくれる神なのだけど……それにしても、いつも以上に熱が入っている気がする。

 

 その理由を……違和感の理由を、おれだけが知らないというのは……ちょっとだけ、寂しい。

 

 

 

「……シュンとした表情もまた可愛いね、ノワ」

 

「そうっすね……じゃなくて。えっとまぁ、秘密にしようと思ってた訳じゃないんすけどね」

 

「えっと……おれが集中してたから、だよな。……ごめん」

 

「いえ、お気になさらず。……ええと、じゃあまぁ……オレらが何を話してたか、っすけど……」

 

 

 烏森と白谷さんは視線を交わし、互いに頷く。

 その雰囲気に一瞬気圧されそうになるが……しかし『彼らがおれに理不尽なことを言うはずがない』という安心感はあったため、大して気構えることもなかった。

 

 事実として、彼らの表情は別段深刻そうには見えず。

 どちからといえば……『良いことを思い付いた』とでも言わんばかりの、ひどく朗らかな表情で。

 

 

 

「先輩をですね、外に連れ出してみようと思いまして」

 

「は?」

 

「こんなにも可愛いんだからさ。もっと多くのヒトにノワの可愛さを知って貰いたいねって」

 

「は??」

 

「公園デビューじゃないっすけど……そろそろ衆目に慣れるべきなんじゃないかな、って」

 

「は????」

 

 

 

 言葉は通じるのに、何を言っているのか解らない。

 

 そんな稀有な経験をすることになるとは……思っても見なかった。

 

 

 



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44【表現秘策】どうも!エルフです!!

 

 

 ここ数日のおれは、『いかに人目を掻い潜るか』を念頭に置いて生活してきた。

 

 買い物も可能な限りネット通販と宅配ボックスを利用し、移動は烏森の車で送って貰い……髪色も誤魔化せていると思い込んでいたスーパーの一件を除き、外出の際はフードつきコートを手放せず、隠れるように生活を送ってきた。

 

 何しろ……この現代・この日本においては、おれのような容姿の者は他に存在し得ない。緑色の瞳はまだしも、緑髪の人間なんてほぼほぼ存在しないだろう。ヘアカラーやウィッグでのコーディネートも有り得なくは無いが、天然の緑髪なんていうものは……恐らく存在しない。緑色の頭髪という時点で、衆目を引くことは明らかだろう。

 それに加えて……言い逃れが出来ない唯一無二の特徴が、この耳だ。百歩……いや千を飛び越して万歩譲って、緑髪の人間がこの国この都市に存在したとして。彼ないしは彼女が人間である以上、その耳の形も当然人間のものだろう。当たり前だ。

 

 

 しかしながら。

 おれは人間に近い容姿でありながら……耳という一点においては、明らかに人間とは異なる。

 

 人間にはあり得ないほど長く、尖った耳。

 色素の薄い肌と稀少な色彩の髪と併せて、とあるひとつの幻想種族の想起に行き着くのは……そう難くないだろう。

 

 

 妖精族。耳長族。小神族。媒体によってその表現こそ幾つかあれど……総じて共通する種族名。

 特にこの国では、ゲームや小説・漫画作品等でお馴染みの、現実には()()()()()空想上の種族。

 

 

 それが…………エルフ。

 

 今現在の、おれの種族。

 

 

 

「エルフが街中闊歩してたら……大騒ぎになるじゃん。捕まって実験台にされちゃうじゃん」

 

「実験台、ってそんな極端な……でも先輩、これからずーっと人目につかず生きてくつもりっすか?」

 

「…………ずーっと……?」

 

「買い物は……まぁ、アポロン使えば良いにしても。たとえば病院掛かるときとか」

 

「魔法で治療できるし……」

 

「うぐッ……ぎ、銀行使いたいときとか」

 

「ネットバンキングあるし……」

 

「…………旅行とかお出掛けとか、行きたくなったら」

 

「それも魔法で。姿隠してこっそり。ぶっちゃけおれ空飛べるし」

 

「………………ワガママ言うんじゃありません!!」

 

「えええええ!?」

 

 

 

 突如声を荒立て、烏森は押しきるように持論を展開する。

 ……恐らくは白谷さんと話し合った上での、おれの今後についての提言を。

 

 

「先輩がエルフバレ気にしてるのは、よーくわかります。……でもですよ先輩、確かにこの国この世界には魔法もエルフも存在しなかったっすけど……代わりに色んな『技術』が進歩してるじゃないっすか」

 

「カメラとか電化製品とかネットとか? いや、だからこそバレたらヤバイんじゃ」

 

「それもあるっすけど…………例えば、コレ。コレなんかスゴいと思うんすよ」

 

「ふあ…………すげえ、酒呑童子……まるでホンモノじゃん」

 

 

 烏森が手元のタブレットで見せてきたのは、近々執り行われるサブカルの祭典……通称『冬の陣』へ向けて活動している、とあるレイヤーさんのSNS(つぶやいたー)アカウント。

 彼女のプロフィールページには過去イベントの参加経歴と、その際の作品が――日本の伝承上の存在『鬼』をモチーフにしたキャラクターの、ぱっと見ホンモノにしか見えないクオリティのコスプレ写真が――様々なアングルから何枚も掲載されていた。

 衣装や化粧の再現度もさることながら、特筆すべきはその()()。どちらも人間のものとは異なる造形ながら、大きな齟齬もなく現実に落とし込んでいる。

 

 当然、この時代この国に『鬼』なんて存在しない。そもそも彼女が表現したものはその『鬼』をモチーフとした某ゲームのキャラクターであり、なおのこと実在するハズが無い。

 であるにもかかわらず……特徴的な二本の(つの)の造形や生え際に『作り物』っぽさは無く、先端の尖った耳においても同様に『被せもの』っぽさは見られない。このクオリティはまるでホンモノだが……当然、ホンモノであるわけがない。

 

 

「この『vゆりおv』さんは当然、人間っす。中国在住の女の子っすね。ですがご覧のように……ぶっちゃけホンモノでしょう。酒呑童子が実在するわけ無いのに」

 

「…………つまり、おれのコレも……コスプレとか、特殊メイクって言い張れば」

 

「別段問題は無さそうだと思うんすよ。……そりゃあ、イベント会場と街中じゃあ周りの雰囲気も違うでしょうけど、最近はゴシックドレスを普段着にする子も居るらしいですし」

 

「言い逃れの余地がある分、幾らか安心だろうね。ノワの耳を見られても『エルフを真似ている』で押し通せるわけだ」

 

「理屈はわかったけど…………うーん、押し通せるかなぁ」

 

 

 

 日常生活を送る中で、おれの容姿(というか特に耳)が露見してしまっても何とかなりそうだ……という目処が立ちつつあるのは、確かに少なからず嬉しい。

 嬉しいのだが……つまりは、今後ずっと『日常的にエルフのコスプレをしている娘』を装う必要があるわけで。

 

 根がド平民のおれにとっては……それはやっぱりちょっと、敷居が高い。ご近所さんに『痛い子』扱いされないか、それが不安でならないのだ。

 

 

「別に四六時中エルフRP(ロールプレイ)しろってわけじゃ無いっす。あくまで出先で、髪や耳について指摘されたときだけ応えれば良いんすよ」

 

「で、でも……そもそもだよ? 実際にエルフが街中にいたらさ、それはそれで問題なような……」

 

「まぁ、それに関しては……()(なら)う感じで良いんじゃないかと」

 

「え……閣下? 閣下がどうし…………あー」

 

「重ねて言いますが、この時代に()()は実在しませ……()()存在しません。閣下はその数少ない悪魔の一人であり、それはこの国の大多数の人々が知るところです。ぶっちゃけメイクした人間に見えますけど、彼はれっきとした悪魔閣下であらせられるわけです。……言ってる意味、解りますね?」

 

「うん、まぁ……解るけど……おれ、別に芸能人じゃないし……」

 

 

 

 へヴィメタルやハードロックと日本国技をこよなく愛する悪魔閣下を引き合いに出され、おれは少なからず『なるほど』と感心する。

 要するに『そういうキャラクターである』と頑なに主張し続ければ良いのだ。

 

 仮に、あくまでも仮に、実際には人間だったとして。

 普段から言動や外見にこだわり、決してブレることなくそのキャラクターを演じ続け、『そういうものである』と周囲が受け入れるようになるまで主張し続ければ……やがて『そういう人物(キャラ)なんだ』と納得されるようになる。……まぁ閣下は悪魔なんだけど。

 

 

 この『木乃若芽ちゃん』においても同様、実際の『世を忍ぶ仮の姿』は置いておいて、普段からキャラクターである『木乃若芽ちゃん』を演じ続ければ……いずれはおれも『そういう設定(キャラ)なんだ』と気にされなくなる、と。

 ……そういうことを言いたいのだろう。

 

 理屈としては、わかる。いちおう理解はできる。だが……

 

 

「いや、先輩」「えっと……ノワ」

 

「え? な、何?」

 

「確かに『芸能人』では無いっすけど……配信者(キャスター)っすよね?」

 

「ノワの姿……『ネット』とやらで、全世界に公開されてるんだよね?」

 

「…………………………そうじゃん」

 

 

 

 媒体がネットであり、個人的に細々とやっているというだけ、とはいえ……ネットとは公開規模で言えば一般メディアと同等、全世界へ向けてのチャンネルである。

 

 つい今しがたまで『おれ別に芸能人とか有名人じゃないしw』などと高を括っていたが……そもそも、おれ(木乃若芽ちゃん)の目的は何だ。

 この身体(アバター)を用意し、このチャンネル『のわめでぃあ』を立ち上げ、配信者(キャスター)として活動し始めた……その目的は、何だ。

 

 

「大変言い難いんすけど…………先輩が『()()配信者』じゃ無いってことは、既にバレ始めてます。検証サイト兼ファンサイトも立ち上がってます。……潮時です」

 

「……………………だめかー」

 

 

 待ち受ける前途は、多難。

 しかし、だからといって……大切な愛娘(若芽ちゃん)を諦めるハズがない。

 

 烏森の主張するように、もう隠れてばかりは居られないのだろう。

 

 

 

 

 

 …………はぁ。

 

 

 外、出てみるか。

 

 



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【百歳児】木乃若芽ちゃんを語るスレ【自称お姉さん】

なんだかどうやらランキングに載っていたらしいです!!
うれしい!!ありがとうございます!!!



0001:名無しのリスナー

 

※※※わかめちゃんまとめ※※※

 

名前:木乃 若芽(きの わかめ)

年齢:自称・百歳↑(人間換算十歳程度)

所属:なし(個人勢)

主な活動場所:YouScreen

 

備考:かわいい

 

 

0002:名無しのリスナー

 

※※※わかめちゃんまとめ※※※

 

・魔法情報局局長

・合法ロリエルフ

・魔法が使える

・肉料理が好き

・別の世界出身

・チョロそう

・「~~ですし?」

・とてもかしこい

 

(※随時追加予定)

 

 

0003:名無しのリスナー

 

>>1

記事立て乙

俺ロリコンだったわ……

 

 

0004:名無しのリスナー

 

可愛い

 

 

0005:名無しのリスナー

 

ヤバすぎだろ実写か?

 

 

0006:名無しのリスナー

 

>>1-2

記事乙

>>3

百歳は立派なオトナなのでセーフ

 

それにしても髪の動きヤバイ

 

 

0007:名無しのリスナー

 

モデルヤバすぎわかる

リアル過ぎてヤバイ

 

 

0008:名無しのリスナー

 

耳しゃぶりてぇ

 

 

0009:名無しのリスナー

 

おk俺ロリコンだわ

 

 

0010:名無しのリスナー

 

抱っこしてぇ

 

 

0011:名無しのリスナー

 

ワカメちゃん言うたらそりゃあ、ね……

見えるべきだろ。見せるべきだろ。おうパンツだよあくしろよ

 

 

0012:<削除されました>

 

<削除されました>

 

 

0013:名無しのリスナー

 

こんなリアルなのに不気味の谷落ちてないのスゲェ

普通にすこれる

 

 

0014:名無しのリスナー

 

>>8-12

通報しました

 

 

0015:名無しのリスナー

 

>>13

わかる。ガチ恋余裕でした

 

 

0016:名無しのリスナー

 

ガチ恋レンジとささやきヴォイスたすかる

 

 

0017:名無しのリスナー

 

モリアキの隠し子

 

 

0018:名無しのリスナー

 

>>1

記事乙

 

良かった……道踏み外しそうなの俺だけじゃなかった……

 

 

0019:名無しのリスナー

 

非実在合法幼女わかめちゃん

パンツ見せてはやく

 

>>15

越えちゃいけないライン考えろよ

気持ちは解らんでもないが

 

 

0020:名無しのリスナー

 

>>17

百歳児の娘がいるとか歳ヤバすぎだろwwww人間やめてるwwww神絵師はマジモンの神だったかwwwwwww

 

 

0021:名無しのリスナー

 

顔ヨシ。声ヨシ。性格ヨシ。これは推しですわ

次の放送はやくして

 

 

0022:名無しのリスナー

 

>>19

通報しました

 

 

0023:名無しのリスナー

 

>>19

通報

 

 

0024:名無しのリスナー

 

>>19

いつかやると思ってました

 

 

0025:名無しのリスナー

 

>>22-24

なんでや!ワイはまだセーフやろ!

 

 

 

……………

 

 

…………………………

 

 

 

0174:名無しのリスナー

 

>>165

いうてノクトもこんな次元だったやろ。高度に発展したCGは実写と見分けがつかないとかなんとか

 

可愛いから良いんだよ!!(威圧

 

 

0175:名無しのリスナー

 

>>165

先週の予告配信見る限りでは3Dだと思うぞ

まぁ今回ワケわかめちゃんな程クオリティ跳ね上がってるのは同意だけど

 

 

0176:名無しのリスナー

 

>>174

個人レベルでノクト級の3Dモデルとかヤバすぎるんですがそれは……

 

 

0177:名無しのリスナー

 

ノクト級ってカッコ良いな。お船みたいやな

QA級みたいな

 

 

0178:名無しのリスナー

 

王族の名前つけるのはありそう

 

 

0179:名無しのリスナー

 

待って

 

 

0180:名無しのリスナー

 

>>177

クィーンエリザベスはQEなんだよなぁ……

 

 

0181:名無しのリスナー

 

今まで見返してたけど待って、何これスマホ?

何でスマホ?これ本当にCGか??

 

 

0182:名無しのリスナー

 

待つゾ。どうした

 

 

0183:名無しのリスナー

 

>>181

しつもんこーなーの所だろ。俺も疑問だった。

小道具まで3Dモデル用意してるのかとも思ったけど、正直そんな目立たないし必要性感じられないアイテムだし

あとコメント閲覧してるときの視線、明らかにPC画面じゃなくてスマホ(?)向いてるんだよね。ていうかPC画面を見ていない。

 

つまりはあのスマホのCGモデルにわざわざコメントを表示させているってことなのか

もしくはあのスマホが本物のスマホであり、つまりはそれを扱うわかめちゃんもホンモ…………誰だこんな時間に

 

 

0184:名無しのリスナー

 

イチャモンGo乙。

スマホ本物ならどうやって浮いてんだよ。

あんなファンシーな空間がそうそう実在してたまるか

 

 

0185:名無しのリスナー

 

本物にしか見えないってのは同意だけど

なら逆に生放送のリアルタイムであの演出は無理だろ。テキストいつ打ってんだよ

 

 

0186:名無しのリスナー

 

>>183

お前は知りすぎた

 

 

0187:名無しのリスナー

 

われ可愛いからいいと思う

 

 

0188:名無しのリスナー

 

べつにどっちでもよくね?てかまだ初回放送やぞ

 

 

0189:名無しのリスナー

 

つまりこれは次回以降も気になってしまって見ざるを得ない状況に陥らせるエルフの罠

きたないなさすがエルフきたない

 

 

0190:名無しのリスナー

 

とりあえず追加情報ほしいゾ

次回配信いつだ?

 

 

0191:名無しのリスナー

 

>>189

わかめちゃんに汚いところなんてあるわけないだろ。どこだろうとペロペロ出来るぞ俺は

 

 

0192:名無しのリスナー

 

>>191

うわ……

 

 

0193:名無しのリスナー

 

>>191

気持ち悪い

 

 

0194:名無しのリスナー

 

>>191

控え目に言って最低だな

最も低い

 

 

0195:名無しのリスナー

 

>>191

人気過ぎだろwwww

これは気持ち悪い。○んだ方が良いのでは?

>>190

次回予告無かったな。仕様なのかうっかりなのか

SNSこまめに確認してね、ってか

 

 

0196:名無しのリスナー

 

しかし待たれよ。

非実在なのか実在なのかは可愛いの前には些細な問題とはいえ……触れるか触れないか、吸えるか吸えないかは極めて重要な問題なのでは??

 

 

0197:名無しのリスナー

 

>>196

おまわりさんこいつです

 

 

0198:名無しのリスナー

 

>>196

真面目くさってる変態で草

 

 

0199:名無しのリスナー

 

>>196

ひっでえwwwwwwドコ吸う気だよwwwwww

 

 

俺はおへそな

 

 

0200:名無しのリスナー

 

おっp

 

 

0201:名無しのリスナー

 

最低だなお前ら!!!!最高!!!!

 

俺はやっぱ耳で

 

 

 

……………

 

 

…………………………

 

 

………………………………………

 

 

 

0540:名無しのリスナー

 

ヤバすぎだろ……何だこれ

 

 

何だよこれ

 

 

0541:名無しのリスナー

 

非実在主張ニキ息してる~~~~???

 

 

0542:名無しのリスナー

 

なーーにが新人ユアキャスだよ!!!!どう見ても実写じゃねーか!!!!!

 

ありがとうございます!!!!!!!

 

 

0543:名無しのリスナー

 

よりによって故代の唄って……何なんその…………何なん……

 

 

0544:名無しのリスナー

 

アニメ製作発表記念じゃね?

 

本当に、

本当にありがとうございました。

 

 

0545:名無しのリスナー

 

歌うますぎワロタ……

 

 

0546:名無しのリスナー

 

歌うますぎナイタ……

 

 

0547:名無しのリスナー

 

もうやだ、情緒が  しぬ

 

 

0548:名無しのリスナー

 

ヨナは俺の娘

 

 

0549:名無しのリスナー

 

畜生どういうことだ。どう見ても実写だぞ。

じゃああの演出はなんなんだ……生放送やぞ……ありえん……

 

 

0550:名無しのリスナー

 

本当この子何者だ?何語か知らんけど発音ヤバすぎ

非実在言語のはずなのに発音が完璧(謎

 

 

0551:名無しのリスナー

 

可愛いくてお歌が上手。

(自称)お姉ちゃん。

実年齢百歳オーバーなので合法。

 

完璧か?すこるぞ

 

 

0552:名無しのリスナー

 

もう少しお披露目が早ければな……薄い本めっちゃ出ただろうに

 

 

0553:名無しのリスナー

 

やめてくれわかめ……その歌は俺に効く(やめないで)

 

 

0554:名無しのリスナー

 

俺は信じるぞ。今からでもわかめちゃんのコピ本が出る

 

 

0555:名無しのリスナー

 

モリアキマッマは冬不参加なんだっけ……

参加してたら間違いなく本になってたんだろうな

 

 

0556:名無しのリスナー

 

>>555

逆だろ、出産で忙しいから見送ったんだろ

 

 

0557:名無しのリスナー

 

>>556

出産w

 

 

0558:名無しのリスナー

 

出産wwwwwwwww

 

おめでとう!!!元気で可愛い女の子です!!!!

 

 

0559:名無しのリスナー

 

もっとおうたの動画いっぱいほしい……

ママ……おうたもっとほしいよママ……

 

 

0560:名無しのリスナー

 

わかめちゃんフィッチ持ってないのかな

ジョイカラは配信できるんか?

 

 

0561:名無しのリスナー

 

干し芋のリスト公開はよ

フィッチくらいなら貢ぐぞ俺は

 

 

0562:名無しのリスナー

 

どう見ても見た目幼女なのに

ふとしたところで見せる知的な一面がめっちゃ大人びてて思考がバグる

 

 

0563:<削除されました>

 

<削除されました>

 

 

0564:<削除されました>

 

<削除されました>

 

 

0565:名無しのリスナー

 

堂々とすこっても合法!!百歳だから!!!素晴らしい!!!!

 

 

0566:名無しのリスナー

 

若芽ちゃん身長いくつ?情報出てた?

幼女なのは確定的に明かなんだけど

 

 

0567:名無しのリスナー

 

故代の唄のサムネ画像本当すき……心が洗われるようだ……

モリアキママありがとう……もっとちょうだい……

 

 

0568:名無しのリスナー

 

お披露目配信の翌日にもう動画投稿か……がんばるなぁ

 

 

0569:名無しのリスナー

 

>>566

134cmだゾ

 

 

0570:名無しのリスナー

 

この時勢に無所属ソロ勢とか気合い入ってんなぁ

どっか箱に所属しといた方が活動しやすいだろうに

 

 

0580:名無しのリスナー

 

おうた動画聞いたあとにはじめまして動画のトーク聞いて脳が溶けてる

しあわせ……しあわせ……

 

 

0581:名無しのリスナー

 

>>569

ありがとおおおおおおお10歳児平均よりも小さいお姉ちゃんカワエエエエエエエエエ!!!!!

身長ってどこ情報?つぶやいたー?てか他に情報持ってる??

 

 

0582:名無しのリスナー

 

『お姉さんですし?』すこ

 

 

0583:名無しのリスナー

 

ちっちゃいお姉ちゃんKAWAIIかよ……

というか>>569 何者?どっから情報拾ってきたんだ?

 

 

0584:名無しのリスナー

 

>>581 >>583

パトロン特権ってやつよ

投資の見返りに設定画や設定資料やラフイラストを賜っているのだ。めっちゃかわいいぞ

 

 

0585:名無しのリスナー

 

なんだそれ裏山!!!俺も投資すんぞ振り込ませろマジで!!!収益化はよ!!!!!

 

 

0586:名無しのリスナー

 

企画立ち上げ当初からの支援者ってことか

スゲェな……俺も一枚噛んどきたかったわ

 

 

0587:名無しのリスナー

 

つまり結局非実在ってこと?

実在エルフなのに設定画があるってこと???

どういうことだマジでわけわかめちゃんやぞ

 

 

0588:名無しのリスナー

 

>>587

エルフの時点で非実在に決まってんだろ異世界脳乙

 

 

0589:名無しのリスナー

 

わけわかめちゃんワロタ。これは流行る

 

 

0590:名無しのリスナー

 

考えれば考えるほど混乱するので俺はもう考えるのをやめた

実在でも非実在でもどっちでもいいよ、パンツさえ拝めれば

 

 

 

 

 

……………

 

 

…………………………

 

 

………………………………………

 

 

 

 

 

0988:名無しのリスナー

 

次スレ

【人生経験】木乃若芽ちゃんを語るスレ_第二夜【豊富ですし?】

htfps://ch_fiction/indextop/qawsedrftg201912xx/yo315/

 

 

0989:名無しのリスナー

 

次スレが立たないぞォー!

はやくー!立ててくれぇー!

 

 

0990:名無しのリスナー

 

予想以上に流れ加速したもんな……配信予告いきなり過ぎたし

 

 

0991:名無しのリスナー

 

>>988

乙!!!!ギリギリじゃねえか助かった

 

 

0992:名無しのリスナー

 

配信予定日当日午後に配信予告ワロタ

やっぱ若芽ちゃん所々ポンコツだよな

かわいいかよ

 

 

0993:名無しのリスナー

 

1000ならパンツ

 

 

0994:名無しのリスナー

 

>>988

スレ乙。ありがとう助かった

 

って第二夜wwwwどうでしょうかよwwww

 

 

0995:名無しのリスナー

 

あっち流れ始めたな?

埋め

 

 

0996:名無しのリスナー

 

埋め

1000ならわかめちゃんのパンツ公開

 

 

0997:名無しのリスナー

 

1000ならパンツ

 

 

0998:名無しのリスナー

 

1000ならマイクロビキニ

 

 

0999:名無しのリスナー

 

1000なら絆創膏

 

 

1000:名無しのリスナー

 

お前ら欲望駄々漏れ過ぎだろw

 

 

1001:

 

このスレッドは1000を越えました。

次回の放送をお楽しみに!

 

 

 



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45【街頭収録】新企画始動!!!

 

 「いいっすか先輩、先輩のソレはエルフのコスプレです。コスプレっすけど先輩は百歳を越えるエルフのお姉さんです。……オレも自分で何言ってんのか解んなくなってきたっすけど、とにかく先輩は気を強く持って下さい」

 

 「わ、わかっ……わかった」

 

 「演じ続けるんだよ、ノワ。(キミ)なら出来る。局長の底力を見せ付けてやるんだ!」

 

 「お……おう、ま……まかせ、まっ、ままっ……まませりょ」

 

 (あっ噛んだ。可愛い)

 

 (噛んだね。可愛い)

 

 

 

 昨日の夜に行われた、おれの今後の進路を決めるための三者面談を経て……おれはこの日本で生活するにあたって、とりあえずの指針を得ることが出来た。

 大筋でいえば、某悪魔閣下をまるっとパ…………リスペクトする形となる。つまりはこの耳も、髪も、瞳も、とあるキャラクターを演じるための特殊メイクなのだ。まあ閣下は生粋の悪魔なんだけど!

 

 その肝心なキャラクター『日本へやって来たエルフの女の子』を演じるにあたっての、我が魔法情報局が誇る敏腕演出家(抱えていた仕事を一掃し、全リソースを今後の活動計画立案へ回した神絵師(モリアキ))の立てた作戦(企画)が……今まさに始まろうとしているところなのである。

 

 

 

 「じゃ……じゃあ…………いってきます」

 

 「「いってらっしゃーい」」

 

 

 妙に上機嫌な笑顔でおれを送り出す二人をせいいっぱいのジト目で睨み付けながら……おれはモリアキの愛車から降り立ち、スライドドアを力いっぱい閉める。

 うちの演出家が提案した、街中で行うはじめての収録。おれは正直いって不安でしかないのだが……おれの絶対の味方が二人揃って『先輩(ノワ)なら絶対大丈夫っす(だよ)!!』と太鼓判を押すのだから、きっと大丈夫なのだろう。

 軽く身体をほぐし、装備品を確かめ、視界に入った若草色の髪に溜息をこぼし……頬をぺしんと叩いて気合い(スイッチ)を入れ、おれ(わたし)は作戦を開始する。

 

 仮想()()()()実在する配信者(キャスター)として、おれがどこまで戦えるのか。仮想配信者(アンリアルキャスター)として生を受けたこの身体の、魔法放送局局長としての技術は……生身の人間を相手に、果たしてどこまで通用するのか。

 

 

 (街中でゴップロ(カメラ)回すの初めてだわ……使える()が撮れりゃいいけど)

 

 

 全ては……おれがどれ程『若芽ちゃん』というキャラクターを演じられるかに懸かっている。下手に恥ずかしがったり素を出したりすれば、完成度は目に見えて下がるだろう。

 そうなればおれはただの痛々しい子か、単純に不審者である。

 

 …………それは嫌だ。絶対に嫌だ。

 この程度の演技をこなせないようじゃ……魔法情報局『のわめでぃあ』局長、天才美少女エルフ配信者若芽ちゃんの名が(すた)る。

 

 

 

 「大丈夫、大丈夫。()()()は、大丈夫。…………よっし、行きますか」

 

 

 無事にスイッチが切り替わったのか、はたまた心強い理解者の後押しがあるからか。

 心の暗雲をなんとか追い払うことに成功したおれは……平日の午前中とはいえ多くの人々が行き交う年の瀬ムードなアーケード街へ向けて、堂々と歩みを進めていった。

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 『居た! 赤い看板の店の前! 良い感じの雰囲気だよモリアキ氏!』

 

 「うーわ、初手JKとか度胸あるなぁ先輩。警戒されるかもと思ってたっすけど……おお、打ち解けてるっぽいっすね。パネェ」

 

 『すごいなぁ……まぁ多分自棄(ヤケ)っぱちだろうけど』

 

 「白谷さんもそう思います? でもまぁあの度胸はすげーっすよ。三十路のオッサンがJKに声掛けようもんなら普通は即通報っすもん」

 

 

 既に師走も終盤、年末年始休暇に突入している時季とあってか……この伊養町(いようちょう)商店街は多くの人々で賑わっている。

 この商店街は、ど真ん中に位置する伊養(いよう)観音の門前町として栄え、このご時世にしては珍しく発展を続けている全国でも稀有な商店街である。

 

 なんでも……営業が困難となった店舗を自治体が借り上げ、店を持ちたい若者達に斡旋して開店を後押ししているんだとか。

 その甲斐あってか空き店舗はほとんど見かけず、またそんな元気な商店街の集客効果を見込んでか、周囲では商業ビルの建設や再開発が行われ……今となっては新旧も規模も品目も国籍も入り乱れる混沌とした――それでいて活気溢れる――一種の観光名所となるに至っている。

 

 

 そんな賑やかな商店街、アーケード通りに面した喫茶店の二階客席。

 オレは折畳式オペラグラス越しに、姿を隠した白谷さんは『望遠』の魔法越しに。窓の外およそ三十メートル程向こうの路上で女子高生二人組と会話しているエルフの少女を、ワイヤレス(bluetooth)ヘッドセットを着けつつ()()と観察する。

 先輩を下ろした我々は近くのコインパーキングに愛車を押し込み、眺望良好なこの席を陣取ってインタビュアーを見守っているのだ。

 

 先程までの『不承不承』とした雰囲気はどこへやら。その所作は誰がどう見ても背伸びをする女の子そのもの、控えめに言って非常に微笑ましい。

 相手の女の子二人は既に警戒を解いているらしく、言動を見るにマイナスイメージを抱いていないようだ。

 

 それにしても……どんな話してるんすかね。ちょっと気になるんすけど。

 

 

 「っていうか……先輩あれ気づいてるんすかね? 周りめっちゃ写真撮られてますよ」

 

 『うーん…………気づいてるのかな……さすがに気づいてるよね……あんなに人目集めてれば』

 

 「めっちゃファンタジー美少女っすからねぇ……伊養町(いようちょう)だから忌避感も少ないんすかね?」

 

 『……っていうか、これ一組目だよね? 凄い盛り上がってるし……なんかいきなり()繋げちゃいそうだよ?』

 

 「マジっすか!? っ、と…………どんだけ(ベシャ)り上手なんすかあの(先輩)

 

 『ほら女の子たちも……なんだっけ、えっと……スマホ? 見てるよ。多分ノワが……チャン、ネル? 宣伝してるんだと思う。この企画趣旨も説明してるんじゃない?』

 

 「手際良すぎないっすかあの幼女(先輩)……」

 

 

 思わず声を荒立ててしまい……周囲の視線を浴びて我に返る。先輩に借りたワイヤレス(bluetooth)ヘッドセットのお陰で『通話中にいきなりテンション上がった痛い奴』と思われるだけで済んだハズだ。

 あの幼女(先輩)が次の段階に進むまではこの店に居座ろうかと、つい先程ブレンドコーヒーとピザトーストを注文してしまったのだが……これは早くも移動の必要が生じてしまうかもしれない。

 

 

 『あっ……御愁傷様、モリアキ氏。移動するよ移動』

 

 「ぐおおお……コーヒーまだ半分も飲めてないっすよ……オレ猫舌なんすよ……まだピザトースト来てないのに……」

 

 『……まぁ、せっかく作って貰ったんだもんね。コーヒーは何とか頑張って。ボクも手伝うから』

 

 「く、っ……アイスコーヒーにしておけば!」

 

 

 視線の先、和気あいあいとした雰囲気で移動する女の子三人組を見送りながら、香り豊かな熱いコーヒーをちびちびと啜る。先輩から移動先の連絡が来るまで、もう少しくらい時間があるだろう。

 せっかくのできたて届きたてのピザトースト……溶けたチーズが非常に(うま)そうである。せめて半分、できれば七割くらいは頂きたい。

 

 

 そんな希望的観測も虚しく……直後スマホが着信音を響かせ、女児(先輩)からのメッセージの受信を告げた。

 白谷さんは『仕方無いね』とか言いながら……ピザトーストを一瞬で片付けてしまった。

 

 なにこの子すごい。

 

 



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46【街頭収録】※スタッフは腕章と身分証を提示しています

 

 「えー、でも本当私ら顔出しでも大丈夫だよ?」

 

 「そうそう。ケイちゃんアキちゃんにも自慢してやりたいしー」

 

 「お……お気持ちだけで大丈夫ですよ! わたしなんかまだまだ得体の知れない個人配信者(ユーキャスター)ですし、もしわたしが悪い人だったらどうするんですか! これ以上ご迷惑は掛けられません!」

 

 「いい子だねぇ~~のわちゃんは~~」

 

 「可愛いなぁ……ウチの子にならない?」

 

 「ふあ!? すす、すみません……お気持ちだけ頂きます!」

 

 「「可愛い~~~~」」

 

 

 

 伊養町商店街での街頭インタビューで声を掛けた(実際にはおれが声を掛けられたのだが……)お年頃の女の子二人組。

 聞くところによると伊養町にはよく遊びに来るらしく、まずは行きつけのお店でランチを堪能しようとしている道中、何やら人だかりを発見。いったい何事かと見に行ってみると、ひときわ異彩を放つ女の子がカメラ片手にキョロキョロしていたので、好奇心が勝り声を掛けた……という経緯らしい。

 

 不審・不安に感じなかったのか、という問いには『だって小さくて可愛かったから』との返答。……微塵も警戒されないくらい可愛いのか、おれ……

 そんなにか……これでも元・男なんですが……もうかなり自信無くしたわ…………泣いてねえし。

 

 

 ……と、まぁ、とにかく。

 二、三お話を聞いたところによると、なんでもこれからランチの予定だとか。おれとしてはまさにちょうど探していた相手だったので、『わたくし、こういう活動をしている者です』と自分の身元を明かして『この度はこういう企画を行っていまして』と事情を説明し、企画への協力と『絶対首から下しか映しませんし、お顔もお名前も出しません! 身元がわからないようにしますので!』と条件を提示した上での撮影許可を求めたところ…………二人とも二つ返事で受け入れてくれたのだった。即答だった。

 

 

 それからおれたち三人は、良い意味で混沌とした伊養町商店街を目的地へ向かって歩いていった。

 さっきの応対中や今このときも、道行く人々から度々カメラを向けられている。おれの内心としては他人のカメラで撮られることに未だに抵抗が大きいのだが……一方の身体は平然としたものだ。

 

 

 「わかめちゃんはどこの出身なの? 日本人じゃないよね絶対!」

 

 「そうそう! ずっと気になってたんだけど……その耳! どうなってるの!?」

 

 「んふふ……珍しいでしょう? 何を隠そうエルフですよエルフ! 聞いたことありますか?」

 

 「えースゴい! スゴい! 可愛い! ホンモノみたい……触って良い?」

 

 「だ、だめ! だめです!! 耳は、その、えっと……敏感なので!!」

 

 「それ髪の毛……まさか地毛? ウィッグじゃないよね?」

 

 「地毛です! どうです、きれいでしょう?」

 

 

 女の子達との世間話に花を咲かせながらも悠然と振るまい、『日本を訪れたエルフの少女』というキャラクターを堂々と演じる。

 周りの人々にもその会話は無事に届いたらしく、おれに対する興味を煽って多くのカメラにその身(と背中に取り付けた『放送局』の宣伝と二次元コード)を晒すことに成功した。計画通り。

 

 立地柄サブカルに対しても寛容であろう人々が、これだけ居るのだ。この中の何人かでも『放送局』に興味を持ってくれれば、御の字である。

 

 

 

 「もうちょっとで着くよー。わかめちゃんは『ばびこ』初めて?」

 

 「初めてです。……というか、わたしはこの世界に来て日が浅いので……」

 

 「そうなんだぁー。でもきっと気に入ると思うな、内装もおしゃれだし……ランチもおトクだし」

 

 「日替わりカレーランチがまた美味しいんだよね……」

 

 「そうなんですね! 楽しみです!」

 

 

 さて。おれがエルフの女の子RP(ロールプレイ)と『歩く看板』に興じている間に……目的地である『ばびこ』へと近づいていたらしい。

 というわけで、そろそろ今回の企画をちゃんと説明しておくべきだろうと思う。……もっと早くに説明すべきだったかもしれないけど、そこは……えっと、まぁ……本当にすまないと思っている。

 

 今回の企画は、第三者を巻き込んでのアンケート企画である。

 お昼ごはんどきを狙い、これから昼食を摂ろうとしている人を探し出し、まず『何を食べようとしているのか』を聞き出し……そのメニューが予算内に収まりそうだったら『ごちそうするので、お昼ごはん同席させて貰えませんか?』と切り出す。

 そうすることで実際に人々が好き好んで食べているメニューを明らかにし、そのお店やそのメニューの『好きなところ』を根掘り葉掘り聞き出し、ついでとばかりに新人配信者(ユーキャスター)わかめちゃんの売名を行おうという……どこかで見たような内容の企画なのである。

 

 

 題して……『昼飯(メシ)、ご一緒してもイイですか?』。

 ……いや、でも大丈夫かなこれ。多分大丈夫だと思うけど……後日修正していたら察して下さい。

 

 



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47【街頭収録】※金銭や報酬を要求することはありません


今更ですが1,000pt達成してました!!
(わりとまえに)

本当に、
本当にありがとうございます!



 

 お昼どきを見計らい、道行く人に声を掛け、今日のお昼に何を食べようとしているかを聞き出し、『それご馳走しますので、ごはん御一緒してもイイですか?』と訊ねるという……どこかで見たような気がする企画。

 そんな企画の初回、どう転ぶのか全く予想がつかない第一回目の収録となる今回。本来ならばおれが道行く人に話し掛けなければならなかったのだが……今回はなんと、彼女たちから話し掛けてきてくれた。

 

 奇抜な装いのおれにわざわざ話し掛けてきてくれたんだし、おれの『放送局』と企画内容を説明したところ非常に好意的に捉えてくれたし……せっかくの厚意を無下にするのも申し訳ないので、今回は彼女達にお願いすることにした。

 まだどう転ぶかわからない手探り状態なので、優しそうな彼女達にはじめての相手をお願いしたい……こう書くとなにやら良くない雰囲気ですね、なんでだろうおかしいな。ふしぎ。わたしわかんない。

 

 

 

 というわけで。

 本日の目的地は、彼女達のおすすめのお店……この伊養町の片隅に店を構える喫茶店『ばびこ』さんである。

 

 彼女たちからの前情報によると、このお店のイチ推しは『五色の和パフェ』を筆頭とする和スイーツだという。

 玄米フレークやバニラアイスのベースに五色のトッピング……黒ごまプリン、紫いもアイス、安納芋ソフト、ほうじ茶ゼリー、抹茶くずきり等をバランスよく鮮やかにあしらった、たいへん『映える』メニューらしいが……残念ながらこちらはお預けになりそうだ。ちくしょう、なんで『お昼ごはん』って縛りをつけてしまったんだ。

 しかしながら……心配はご無用。ランチメニューにおいても丁寧な仕事が為されているらしく……季節のお野菜たっぷりのカレープレートや、これまた鮮やかなお野菜が美味しそうなヘルシーなせいろ蒸しランチ等々、見た目も鮮やかで健康的、おまけにお手頃プライスと……これまた非常に芸が細かいらしい。

 

 

 そんな彼女達イチオシの、伊養町『ばびこ』さん。

 喫茶店と聞いて勝手なイメージを抱いていたおれを良い意味で裏切り、その佇まいは歴史を感じさせる落ち着いた和の雰囲気。なんでも実際に築百年以上経った古民家を改築しているらしく、この雰囲気は決して『ガワ』だけではない……らしい。

 わくわくしながらも不安半分でお店のスタッフさんに目的をお話しし、店内での撮影許可を求め交渉を行ったところ……『他のお客様の肖像権に配慮する、迷惑とならない声量にとどめる、トラブルは各自で対応して頂く』との()()()()な条件こそ出されたものの、割と好意的に受け入れてくれた。

 

 このお店の常連らしい女の子二人の後押しも項を奏したのかもしれない。……この子らパネェ。

 

 

 

 「いやー、でも実際わかめちゃんが可愛いからだと思うよ」

 

 「そうそう、上目遣いで申し訳なさそうにお願いされちゃったらね……」

 

 「反則だよ反則。この魔性の女め!」

 

 「ええ……!? そ、そんなつもりじゃ……ごめんなさい」

 

 「じょ、冗談だって!」

 

 「そ、そうそう! そんな泣きそうな顔しなくたって! ああもう可愛いんだから……」

 

 「ええっと……あ、ありがとうございます?」

 

 

 

 幸いなことに店内撮影許可を得られたおれは……現在『ばびこ』さん店内にて隅っこのボックス席を借り受け、彼女達ともども注文したお料理が届くのを待っている状況である。

 

 この企画のレギュレーションとして『案内してくれたひとと同じものを食べる』という縛りが存在するため、おれが注文したのは女の子A……サキちゃん(仮名)と同じココナッツカレープレート。ほどよい辛さとココナッツミルクのコクがクセになるんだとか。正直とてもおいしそう。

 一方の女の子B……メグちゃん(仮名)が注文したのは、蒸し鶏とミニ生春巻のランチプレート。ボリューム満点なのにヘルシーだという……こっちもおいしそうだ。

 

 

 いやー……それにしてもこの身体のコミュニケーション能力ですが、思っていた以上に半端無いわ。

 彼女達の言っていたように、撮影許可を取り付ける際の上目遣い……あれは我ながら反則だと思っている。モリアキと白谷さんの二人も揃って『それは反則っす(だよ)!』と声を上げる程の必殺兵器に加え、そもそも年齢の大きく離れた女の子と平然とお喋りができる時点でスゴいことだと思う。

 この身体の対人コミュニケーションスキルは、恐らく非常に高水準なのだろう。すごいぞ若芽ちゃん。ぱないぞ若芽ちゃん。さすがはおれたちのかわいい娘だ。

 ……そういえばモリアキ達は大丈夫だろうか。ちゃんと追従できているんだろうか。まぁいいか。

 

 

 「お二人は、どんな経緯でこのお店を知ったんですか?」

 

 「え~……どうだったっけ……結構前だからなあ」

 

 「ちー先輩じゃない? えっと……部活の先輩と遊びに来たときに」

 

 「あーそうそう! ちー先輩とパフェ食べに来たのが最初で、そのときにランチもあるって知って」

 

 「んで確か……その週末だったよね。二日か三日後くらいじゃない?」

 

 「そうだったそうだった! 割とすぐ『行こう!』ってなって」

 

 「そのときはケイちゃんアキちゃんも一緒だったんだよね。……惜しいことしたなーあの二人」

 

 「ね~。こんな可愛い子とランチするチャンスだったのにね~」

 

 「えっと……そのお二人もお友達ですか?」

 

 「そうそう。友達であり部活仲間であり」

 

 「私ら四人、みんな吹部なのね。吹奏楽部」

 

 「おおー……すごいですね! 吹奏楽!」

 

 

 さすがはイマドキの女の子……なんというか、おしゃべりが得意だ。本来であればおれがインタビュアーとして、色々と質問を投げ掛けなければならない立場なのだが……彼女達はわずかな切っ掛けを足掛かりに、次から次へと饒舌におしゃべりを続けてくれている。

 おれとしては随所でやんわりと軌道修正を図れば良いだけなので、正直いって非常に助かるのだが……まぁ、今のところは恐らく愛称だから良いとして、個人情報が飛び出すようなら後で修正(ピー)音を入れなければならないだろう。

 

 重ねてになるが……冷静な第三者から見れば、おれはあくまで『自称・動画配信者(ユーキャスター)』であり、早い話が得体の知れない不審人物である。

 社会的信用が薄いおれが全世界に情報をばら蒔いてしまう恐れだってあるので、個人情報の取り扱いと周囲の方々への迷惑は人一倍に気を配らなければならない。

 ちゃんとしたテレビ局の撮影であれば、彼女達の顔を映してお名前と年齢を添えても許されるのだろうが……おれと『のわめでぃあ』にはそこまでやれる度胸は無い。そのためゴップロ(カメラ)も基本的にはおれに向いているし、彼女達を映すときも首から下に留めている。もちろん本名だって聞き出さない。

 

 彼女達は、その辺りを了承した上で撮影に乗ってくれたのだ。不馴れなおれに付き合ってくれるというのは、非常にありがたい。

 

 

 「わたしも楽器、つい最近始めてみたんです。アコースティックギターですけど」

 

 「えっ!? ウソわかめちゃんギター弾けるの!? 凄い!」

 

 「えっと……わたしの『チャンネル』にあると思います。『故代の唄、歌ってみた』って」

 

 「待って待って、今聞く。私もアコギやってみたいんだけど……楽器高くて」

 

 「あ、浪東(ろうとう)区のユニオンスタジオ良いですよ。いろんな楽器レンタルできるので」

 

 「ユニオン……ああ! ちー先輩たちが個パ練で使ってるって所じゃない!?」

 

 「ちょっと待って今読み込みが……来た! ちょっと静かに!」

 

 

 楽器演奏という大まかな括りではあるが、共通の趣味を見いだしたことで彼女達も前のめり気味である。

 

 それにしても……吹奏楽かぁ、文化部の中の運動部って聞くよなぁ。

 おれが高校生だったときは野球部がなかなかの強豪だったので、夏の選抜本選に彼らは度々出場していた。のだが……野球部は当然として、巻き添えを食らうようにいっつも同行させられていたのが吹奏楽部の面々……というイメージだ。

 野球部の少年達が炎天下のなかで戦い続ける……それはもちろん大変なのだろうが、吹奏楽部の面々も負けず劣らず大変そうだった。攻撃ターンの間は絶え間なく演奏を響かせ続けなければならないし、真っ黒なセーラー服と学ランは太陽熱をこれでもかと吸収するし。楽器だって金属の塊なので、もしかしなくても熱を溜め込みそうだ。光を反射して眩しそうでもある。

 それでいて選手達を鼓舞するために勇壮な曲を奏で続けなければならないのだから……それはもう、大変だ。

 

 ……などとおれが意識を飛ばしている間、サキちゃん(仮名)メグちゃん(仮名)はおれの『歌ってみた』動画を視聴してくれているようだ。再生回数貢献ありがとう。

 それに何やら……先程からおれたちの様子を遠巻きに観察している人たちも、どうやらおれの背中に貼り付いている『放送局』の広告から動画に行き着いたらしく、こちらも『歌ってみた』を再生してくれているらしい。

 おれの耳じゃなきゃ聞き逃しちゃうね。顔も名前も知らない彼らも、視聴ありがとう。

 

 

 しかし……最初はどう考えてもダサくて恥ずかしいだけだと思っていた背中ポスターも、やっぱり効果は抜群だったらしい。

 古くから存在する『ちんどん屋』ではあるが……その効果は現代においても有用なようだ。まぁもっとも今のおれは『ちんどん』していないのだが。……というか、そうか。伊養町で『ちんどん』するのもありかもしれない。今度調べてみよう。

 

 情報局局長としての意識の高さを垣間見せながら……おれはサキちゃん(仮名)メグちゃん(仮名)が視聴から戻ってくるのと、おいしそうなランチメニューが届くのを……独り大人しく待ちわびるのだった。

 

 

 



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48【街頭収録】伊養町でJK二人の昼食についていったら

 

 どうやら……サキちゃん(仮名)メグちゃん(仮名)は『歌ってみた』だけでなく、その後の『ありがとう配信』のアーカイブもちらっと見てくれたらしい。

 ……いや、ちがうか。どうやら有志の(なにがし)が切り抜いてくれた『素晴らしき(amazing)恩寵(grace)』のアカペラ部分のみの動画のようだ。

 まぁ元の配信は一時間半くらいあるし、お歌の部分のみはちょっと探しづらいもんな。

 

 結局彼女達は『素晴らしき(amazing)恩寵(grace)』の後も関連の切り抜き動画を辿っていたようで、しばらく戻ってくることは無かった。

 注文したランチメニューを持ってきてくれた店員さんの声でようやく現実に引き戻されたらしく、しかし戻ってくるなり前にも増してキラキラした視線を向けてくるようになり……え、ちょっと待ってどういう状況だこれ。

 

 

 「ええっと……カメラ、回して良い?」

 

 「あっ!? は、はい!」「大丈夫です!」

 

 

 …………敬語?

 

 待って、いったい何があったんだ。ついさっきまでは和気あいあいとタメ(ぐち)で会話をしていたハズなのに。この僅かな間で心の距離を置かれてしまったということなのか。やっぱり打ち解けていたように思えたのはおれの気のせいだったのだろうか、おれの動画のどこかに気分を害してしまう部分があったのだろうか。

 

 

 「ま、待って! 違うの! べつにわかめちゃんがキライとかそういうのじゃなくて!」

 

 「そうそう! いきなり敬語出ちゃったのは謝るけど……これは単純に『すごいな』って思ったから!」

 

 「そ……そう、なの? …………って! なんでわかったの!? 心読んだ!?」

 

 「いや、だって……めっちゃ悲しそうな顔してたから……」

 

 「わかめちゃん、考えてること顔に出やすいって言われない?」

 

 「…………………………いわれる」

 

 「あぁ……」「やっぱり……」

 

 

 またしても一転……今度はどこかかわいそうな子を見るような生暖かい視線で見つめられ、気恥ずかしさで顔に熱が集まるのを感じる。

 しかし、嫌われていないということが解った。ならば予定通り進めても大丈夫だろう。気を取り直して、収録と彼女達へのインタビュー再開と行こうじゃないか。

 

 ……と、でもその前に。

 

 

 「えっと、じゃあ冷めないうちに。……いただきます」

 

 「「いただきます!」」

 

 

 べつにインタビューなんか、食後でも取れる。温かいごはんを温かいうちに……おいしいうちに頂くことは、作ってくれたひとへの礼儀だと個人的に思っている。

 一部のお料理を除き、冷めてしまえば多少なりおいしさは低下してしまう。可能な限り出来たてを頂くべきだ。今現在の優先順位としては、これが最優先だろう。

 

 

 と、いうわけで。

 恥ずかしながらカレーと言えばジャパニーズスタイルカレーライス(バー○ント等)しか食べたことの無いおれにとって、ココナッツカレーというのは初体験だったりする。

 名前からココナッツ……椰子の実の何かを使っているんだろうし、カレーライスの分類なのだろう。ハチミツを入れるような感じでココナッツの甘いなにかが入っているのかもしれない。

 とりあえずカレーである時点で美味しくないわけが無いので、期待に胸を膨らませながら一さじ目を口に運び…………

 

 

 (………………あっ、うま)

 

 

 おいしい。おいしすぎて大石内蔵助(おおいしくらのすけ)になったわ。

 

 カレーだからやっぱピリッと辛いんだけど、ココナッツ風味の……ミルクかな。ココナッツミルクで辛さが程よく緩和されていて、非常に食べやすい。舌や口内が痛みを感じるような辛さじゃなくて、じんわりと刺激されるような……なんていうか、全然不快じゃない辛さだ。

 ルウというかスパイスの風味も普段食べ慣れたバーモ○トとは大幅に違い、やっぱりココナッツミルクの甘さが加わる前提でバランスよく纏められてるように感じる。多分バ○モントにココナッツミルクを加えただけのものとは根本的に違う味なんだなと思う。

 カレーの中にはほろほろに柔らかい鶏肉も入っており、鶏肉そのものにもしっかり味が沁みていてこれまた非常においしい。ライスに乗っかった彩り野菜も、濃厚なカレーにも負けないくらい野菜の味が濃い。

 

 ものにもよるけど、葉もの以外の野菜は低温の油でサッと揚げると色と味が濃くなるらしいわよ。

 理由は知らないけどね。

 

 

 とりあえず、期待通り……いや、期待以上に満足感のあるランチだった。

 こんな良いお店を教えてくれた上に企画に付き合ってくれて……サキちゃん(仮名)メグちゃん(仮名)には、重ね重ね感謝しないといけない。

 

 そう、企画。

 二人が食べ終わったら、ちゃんとやることをやらなければ。

 

 それにしても……あー、うますぎ。うますぎて……はい。たいへんおいしいです。

 

 

 



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49【街頭収録】久しぶりに自業自得の窮地に陥りました

 

 非常に満足感の高いランチを堪能し、おれたち三人は少しお腹を落ち着ける。

 そのまま数分おいしい食事の余韻に浸った後……なけなしのプロ意識がファインプレーを見せ、すべきことをなんとか思い出した。

 

 

 「……こほん。ええと、では……今回のお昼ごはん、『ばびこ』さんのココナッツカレープレートです。このメニューのおすすめポイントを教えていただけますか?」

 

 「あっ、えっと……そうですね。幾つかあるんですが……やっぱりまずはこの内容に対してメチャクチャお手頃な値段ですね。私達学生にとってはすっごくありがたいです」

 

 「そう! 六八〇円ですよこれ! 六八〇円なんですよこれ! ごはんにカラフルな素揚げ野菜があんないっぱい載っかって、ココナッツカレーとスープがついて六八〇円ですよ……すごい。……やっぱり学生さんはなかなか贅沢に使えませんからね」

 

 「そうなんですよ……でもここならお店の雰囲気も良いし、六八〇円とは思えない豪華さだし、正直普通にメッチャ美味しいから……毎日は来れないけど、たまに遊びに来たときくらいは……って」

 

 「今日はわたしがご馳走するから! お姉さんがご馳走してあげるから! 安心して!」

 

 

 そう、ランチメニューを見て思ったのだが……まずなによりも全体的に価格がお手頃。ココナッツカレープレート(六八〇円)と蒸し鶏と生春巻プレート(七四〇円)を筆頭に、だいたい六百から九百円台の価格帯で揃っている。

 ここのようなお洒落なお店は四桁に届く価格設定でもおかしくないと思っていたので、これには少なからず驚いた。

 

 勿論、価格設定が高いなら高いなりの理由があるのだろう。安いなら安いなりの理由もあるはずなのだが……見た限りではいわゆる『手抜き』『妥協』といった部分は見られず、結果として価格に反して非常に満足度の高い品に仕上がってる。

 

 

 「ちょっとごめんなさいね。……ちなみに、蒸し鶏と生春巻プレート。こっちも驚きの七四〇円です。蒸し鶏と生春巻と小鉢とスープ、この品数でですよ? ……聞くまでもないような気もしますが、このメニューがお気に入りの理由って、教えていただけますか?」

 

 「そうですね、私もまず値段がそんな高くないっていうのと……私エビと鶏肉が好きなんです。ここの蒸し鶏すっごくしっとりしてるし、生春巻もエビちゃんと入ってるし。お母さんなかなか作ってくれないから……」

 

 「家庭じゃあんまり作りませんよね、生春巻。蒸し鶏も意外と奥が深いって聞きますし、美味しく作るのは大変そうです」

 

 「そうなんですよ……一回お母さんに蒸し鶏作ってみてもらったんですけど……ホント『鶏肉をそのまま蒸した』って感じで……」

 

 「普段なかなか食べないお料理が気軽に食べられる……なるほど、魅力的ですね。好きなものなら尚のこと……」

 

 「そう~ここの蒸し鶏めっちゃ好きなの~~」

 

 「よしよし、いいのよ、ご馳走するから」

 

 

 ココナッツカレーはおいしかったし、蒸し鶏と生春巻もおいしそうだった。

 それぞれのメニューのイチオシポイントも教えて貰えたし……何よりもお話好きな彼女達のお陰で、トークの部分もなかなかの収穫だったのだ。和スイーツのおすすめとか、季節限定変わり種メニューの存在とか。このへんの会話も多分動画に活かせるだろう。メグちゃん(仮名)ナイス。

 撮影する分はほぼオッケーだと思うので、あとは帰って編集して投稿するだけ。いつもよりも難易度の高い編集作業だけど……金曜まで時間はたっぷりあるのだ。まぁなんとかなるだろう。

 

 ともあれ、非実在(アンリアル)ではない実在の配信者(ユーキャスター)として初めての企画。このお店は内容的にも価格的にも申し分なく、これは間違いなく初回から『当たり』を引いた。

 いや、元はといえば彼女達がおれに声を掛けてくれたからこそ、得ることが出来た『当たり』だった。彼女達にも改めてお礼を言わなければならない。

 

 

 

 「えっと……じゃあ、このあたりで。お会計はわたしがお支払するので……いや、本当にありがとうね。助かった。いろいろと」

 

 

 ……そう、名残惜しいがそろそろお別れなのだ。

 何しろ冬季休暇中のお昼時、こんなにサービス満点低価格なお店で閑古鳥が鳴いているハズが無く……お店の入り口付近とお店の外には、ランチを楽しみに待っているお客さん達の気配を感じる。

 ただでさえ『撮影させてほしい』などとワガママを言っているのだ、これ以上お店の迷惑となる長居は慎まなければならない。

 

 そろそろお(いとま)しようと身支度を始めると……なにやら彼女達からちらちらと注がれる、どこか期待するような視線。

 な、何だろう。お会計はおれ持ちって言ってあるよな。支払いを期待されてるわけじゃないだろうし……じゃあこの、()()を期待されているようなそわそわした雰囲気は、いったい……

 

 

 「えっと……」「わかめちゃん!」

 

 「は、はひッ!!」

 

 「「REIN(メッセージアプリ)!! 交換して!!」」

 

 「はい!! え? ちょ」

 

 「ほんと!?」「やったー!!」

 

 「っと待っ、…………えっ? ちょっ、待っ」

 

 「わかめちゃんフレフレしよフレフレ! フレフレーって……あっ来た来た! ……ん?」

 

 「私も! わかめちゃん私もフレフレ! 来た来た…………ん?」

 

 (…………っ!! やっば!?)

 

 

 つい勢いに流されて友達登録されてしまったREIN(メッセージツール)だが……おれは普段使いのアカウントしか持っておらず、つまりは彼女達とID交換したアカウントは俺こと安城正基(あんじょうまさき)のアカウントなわけで。

 この『のわめでぃあ』を立ち上げる際に関係者各位と連絡を行うにあたって、アイコンやプロフィール背景やヘッダーや公開設定は『若芽ちゃん』のものに染めてあるとはいえ。

 

 肝心のユーザーIDそのものは、本名由来の……本名ほぼそのままのIDなのだ!!

 

 

 (やばい!! 待ってこれヤバイ! どうしようヤバイ!!)

 

 「わかめ、ちゃん……?」

 

 「これ…………名前」

 

 「えっと、えっと、えっと、えっとえっとえっと……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さきちゃん、っていうの? ウソ、同じ名前!?」

 

 「わかめちゃんじゃなかったんだ。でもやっぱ可愛い」

 

 「……………………? …………??? …………はい???」

 

 

 

 

 「でも……『ジョウマ』って珍しい名字だね」

 

 「ジョウマ……(しろ)(あいだ)かな? それとも(うえ)に……って、詮索するの良くないね、ごめんね?」

 

 「…………あっ! い、いえ!! 大丈夫…………です」

 

 

 

 納得した。危なかった。助かった。そうだった。

 

 おれのIDは確かに本名由来であり……前半部分に英数字を無秩序に並べ、後半に本名の一部をアルファベット表記したものが続いている。後半部分は読みもスペルもほぼそのままだけど、本名すべてではなく一部のみ。『(an)(jo)(masa)(ki)』の後ろ四分の三文字『(jo)(masa)(ki)』部分のみ。

 烏森(かすもり)(あきら)氏が本名の一部を抜粋してペンネーム『モリアキ』を作ったように、それを勝手にリスペクトして設定したIDだったが……『jomasaki』部分だけだとなるほど確かに『ジョウマ・サキ』とも読めるだろう。

 

 サキという名前であれば……今のおれの性別であっても、とりあえず不審に思われることは無いはずだ。多分。

 

 

 「えっと、えっと…………で、できれば……『木乃若芽(きのわかめ)』のほうで呼んでいただけると……」

 

 「あっ、そうだね! 芸名ってやつだよね!」

 

 「さすがにちょーっとデリカシー無かったね……ごめん」

 

 「い、いえ……大丈夫、です」

 

 

 

 ……助かった。

 非常に、非常に、あぶなかった。

 

 モリアキ本当にありがとう。今度パンツ見せてあげるね。

 

 

 



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50【街頭収録】次回をお楽しみにね!!

 

 

 非実在ではない個人配信者として初めてとなる、喫茶店『ばびこ』さんでの収録を終え……ボックス席の周囲のお客さん達に『すみません、お騒がせしました』『ご迷惑お掛けしました』と頭を下げ続け、お会計する際にも同様に店員さんに重ね重ねお詫びと感謝の言葉を告げ、さあお店を後にしようというところで。

 

 何故か。……なぜか。

 ほかでもないこのお店の、喫茶店『ばびこ』のオーナーさんに……おれは記念撮影を求められた。

 

 

 

 「?? ……え? えっ? 何で……えっ? …………いえ、迷惑とかでは無いんですけど……その、わたし、ですか? …………えっと、わたし別にそんな、記念撮影されるような………………いえ、迷惑じゃないです。大丈夫です。大丈夫なんですが…………わたしなんかで、良いんですか? …………えっと、そうですか。じゃあ、はい。僭越(せんえつ)ながら」

 

 

 やや小柄ながらも落ち着いた、『お上品な奥さま』といった雰囲気のオーナーさんに頼まれ、おれはレジの前で店員さん何名かと記念写真を撮って貰った。混乱のあまり『何に使うんですか?』なんてアホ丸出しな質問をしてしまったが、やはりというか店内に掲示するのだという。

 当たり前だろう。写真なんてモノに他の用途があるわけ無い。しいて言えば、呪いでも掛けるときくらいだろうか。……それはさすがに無いだろう。

 

 しかし……おれの写真なんか貼ったところで、正直ご利益があるとは思えない。おれ自身は当然、芸能人や有名人なんかでは無いし……いちおう個人配信者(ユーキャスター)を名乗ってはいるが、放送局だって立ち上がったばかりだ。まだまだ無名も無名のド底辺でしかない。

 とてもメリットがあるようには思えないけど……おれは今回『ばびこ』さんに、非常にお世話になった立場である。恩返しと言えるほど大それたことじゃないが、望まれるなら記念撮影くらい応じようじゃないか。

 

 ついでとばかりに、おれのゴップロ(カメラ)でも撮って貰った。動画に使う許可も貰ったので、エンドクレジット画面候補の()が撮れたのは正直嬉しかった。

 いつのまにかサキちゃん(仮名)メグちゃん(仮名)も横に並び、自分達のスマホで撮って貰っていた。……まぁいいけど、そろそろ周りのお客さんの迷惑になるからね。っていうか周りのお客さんもチラホラスマホ向けてるね。いえ、実際ご迷惑お掛けしてる自覚はあるんですが……できればSNS(つぶやいたー)とかに晒して叩くのは勘弁して欲しい。というか実際これって無断撮影なのでは…………まぁいいけど。

 

 

 

 「なんか……めっちゃ盛大なお見送りだったね」

 

 「こんなん初めてだよ。わかめちゃん効果かな」

 

 「や、やっぱ普通はこうじゃないん……です、ね……」

 

 

 ……というわけで、入り口付近ですったもんだあった末にやっと退店。

 何人かの店員(スタッフ)さんが表まで見送ってくれ、『ぜひまた来てくださいね!!』とのお言葉をいただいた。明らかに他のお客さんと待遇違くないですか。

 しかしまぁ……実際のところ和パフェも気になっているので、正直また来たいとは思う。思っては、いる。……のだが。

 

 釈然としない部分が無いわけでもないが、かといって取り立てて不都合や問題があるわけでもない。

 総合的に見れば非常に有意義な時間を過ごすことが出来たし、肝心の映像データもばっちり残せていた。とりあえずは撮影ノルマを達成できたということで間違いないだろう。

 

 なので……つまりは、彼女達とはここまで。

 

 

 「あの、本当にありがとうございました。……正直不安だったので、声掛けて貰えて……ほんと助かりました」

 

 「いやそんな! 私達こそご馳走して貰っちゃったし正直いい思いさせて貰ったし!」

 

 「そうそう! こっちこそありがとうね! 動画できるの楽しみにしてるから!」

 

 「……はい! 頑張ります!」

 

 「じゃあ私達はこれで! わかめちゃんばいばい!」

 

 「ばいばーい! 作業がんばってね!」

 

 「はい! ありがとうございました!」

 

 「また今度パフェ食べ行こうね!!!」

 

 「お買い物も行こうね!!!」

 

 「はい! ………………はいぃ!?!?」

 

 

 掛けられた言葉を理解する間も無く、発言の意図を問いただすまでもなく……かしましくも心地よいサキちゃん(仮名)メグちゃん(仮名)の二人組は、ひらひらと手を振りながら伊養町の雑踏の中へと消えていった。

 この後は当初の予定通り、書店と雑貨屋を巡るのだろう。彼女達にも予定があるのにわざわざ時間を取ってくれて……本当に感謝している。

 

 彼女達の、そして喫茶店『ばびこ』さんの協力を無駄にしないためにも……素敵な動画を作らないと。

 

 

 ……と。意気込みも新たに足を進めるおれの鞄から、スマホが着信音を響かせる。

 発信元に心当たりがあるので、たすき掛けにしている鞄をいそいそと漁り、画面に表示されている名前を認識して頬が緩むのを自覚しつつ、スワイプして応答する。

 

 

 「やっほ。お疲れ」

 

 『お疲れ様っす先輩。撮影のほうはどうでした?』

 

 「タイミング良いな。見てたの? つつがなく完了したよ、多分」

 

 『それは何よりっす。……いやー、先輩達が入店した直後からめっちゃ混んだんすよ。店の前で並んでました』

 

 「ぅえ!? マジかよ声掛けてくれりゃ良かったのに……」

 

 『そりゃあ、だって…………えっと、あの……先輩。現在進行形のリアルタイム情報なんすけど……先輩めっっちゃ注目されてますからね?』

 

 「………………現在進行形?」

 

 『そうっすよ。今まさに。なので合流しづらいというか……それと、口調とか声のトーン。気を付けた方が良いと思うっす』

 

 「……わかっ、……り、ました。…………ありがとうございます」

 

 

 スマホを耳に当て、モリアキと通話を繋いだまま、周囲を何気なくキョロキョロと見回してみる。

 すると……わぁ……ほんとだ。そこそこの距離を開けてそっぽ向いて通話中のモリアキは良いとして……決して少なくない数の人がこちらへと意識を向け、うち何人かはスマホのカメラを向けているようだった。

 

 なるほど把握した。確かにこの状況では、何事もなく合流するのは難しいだろう。

 考え過ぎかもしれないが……烏森の車まで尾行されて、そのまま彼の自宅が特定されて、無いこと無いこと騒ぎ立てられて迷惑が掛かったりするのは……やっぱりよくない。

 

 

 『車は西町二丁目のなかよしパーキングに入れてあるんで、なんとか尾行撒いて来て下さい。先に行って直ぐ出せるように用意しとくんで』

 

 「……わかりました。ありがとうございます。()()()()()()()()()()()ですね?」

 

 『あぁ……そうっすね、またREIN送っときます。くれぐれも騒動は起こさないで下さいね? 先輩めっちゃ目立つんすから。……ご武運を』

 

 「はい。おつかれさまです」

 

 

 おれの口からこぼれる発言に(フェイク)を混ぜ込み、おれはモリアキに聞いた通りの駐車場へと歩を進める。この若芽ちゃんの記憶力をもってすれば、集中してさえいれば一度見聞きした内容を忘れることは(あんまり)無いのだ。

 

 角を曲がって狭い路地に入り、尾行しようとする人物が後を追い路地に入るよりも早くもう一本角を曲がる。念には念をと見咎められる前にもう一丁曲がり……これで周囲には誰も居ない。

 近くには窓も無いし、見られる範囲にこちらへ意識を向けている生命反応は見られない。

 

 今が好機(チャンス)と【浮遊(シュイルベ)】を発現、軽く地を蹴り無音で屋上まで急上昇を掛ける。……これで完全に追っ手を撒いたハズだ。

 おれの姿を見失った追跡者は、事前に得られた情報から()()()()()()()()()()()方面へ向かったと判断することだろう。真逆方向のなかよしパーキングに追跡の目が向くことは無い。

 

 

 空中で体勢を整え、魔法で姿を眩ませながら、おれは集合場所へと急いだ。

 

 もう少し。あと少しで……やっと落ち着いて『()』が出せる。……つかれた。

 

 

 



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【人生経験】木乃若芽ちゃんを語るスレ_第二夜【豊富ですし?】

 

 

 

0001:名無しのリスナー

 

※※※わかめちゃんまとめ※※※

 

名前:木乃 若芽(きの わかめ)

年齢:自称・百歳↑(人間換算十歳程度)

所属:なし(個人勢)

身長:134㎝(平均やや下)

主な活動場所:YouScreen

 

備考:かわいい

 

 

0002:名無しのリスナー

 

※※※わかめちゃんまとめ※※※

 

・魔法情報局局長

・合法ロリエルフ

・魔法が使える(マジ説)

・肉料理が好き

・別の世界出身

・チョロい

・「~~ですし?」

・とてもかしこい

・おうたがじょうず

・実在ロリエルフ説

・非実在創作キャラ説

 

(※随時追加予定)

 

 

0003:名無しのリスナー

 

>>1

記事立て乙

情報追記たすかる

 

 

0004:名無しのリスナー

 

>>1 乙

しかし本当どういうことだってばよ

 

 

0005:名無しのリスナー

 

>>1

記事乙

今夜の予定が決まってしまったか。残業ほっぽって帰るわ

休出残業とかやってらんねぇわ

 

 

0006:名無しのリスナー

 

前スレwwwwちくしょう1000てめぇwwww

 

 

0007:名無しのリスナー

 

ぐあああああ絆創膏がアアアアアア!!!!

 

 

0008:名無しのリスナー

 

これは有能

 

 

0009:名無しのリスナー

 

しかし今夜の配信見逃せねえ

場合によってはいよいよ実在ロリエルフ説が説得力増してしまう

 

 

0010:名無しのリスナー

 

わかめちゃんのパンツまだですか

 

 

0011:名無しのリスナー

 

ロリエルフの貴重なスク水ニーソはやく

 

 

0012:名無しのリスナー

 

えっちなのはいけないと思います!!

 

 

0013:名無しのリスナー

 

えちち用ハッシュタグはやくして

ママえちち用タグはやくして

 

0014:名無しのリスナー

 

>>9

いうて手品みたいなもんやろ、即座にエルフ実在説に繋げるとか短絡的すぎね?

 

 

0015:名無しのリスナー

 

モリアキママの公式支援たすかる

もっとたのむ……金なら払うぞ……振込先はやくして……

 

 

0016:名無しのリスナー

 

>>9

魔法とかエルフとかまーだ言ってんのか

時すでに21世紀ぞ

 

 

0017:名無しのリスナー

 

マイクロビキニとか絆創膏とか本気で言ってんのかwwwww

そんなものを着せて喜ぶかwwwww変態共がwwwwwww

 

 

0018:名無しのリスナー

 

>>15

俺も一昔前だったら一笑して済ませてただろうけどな

浪銀爆破事件見たら笑ってられなくなったわ

眉唾だけど魔法が実在すんじゃねえかってな

 

 

0019:名無しのリスナー

 

スク水が普段着のロリ魔王が許されるくらいやぞ

ロリエルフがたまにマイクロビキニ着るくらい許されるやろ

 

 

0020:名無しのリスナー

 

浪越市いうたらなかなかの都会やんけ

こんなオカルトじみたことになっとったんか

 

 

0021:名無しのリスナー

 

浪銀爆破事件はヤバイわ

確かにあれは魔法って言われても納得しそう

爆破そのものはガス爆発とかヘヤシュ使ったとか何とでも言い訳できるかもしれんが、

少なくとも屋上から飛び降りた魔法使いは人間じゃない

 

あの飛び降りだけは言い訳出来ないだろ

 

 

0022:名無しのリスナー

 

浪銀爆破って何それそんな世紀末じみたことになってたんか

 

 

0023:名無しのリスナー

 

いくらなんでも早計だろ、あの魔法使い氏とわかめちゃん結びつけるのはエアプ過ぎ

 

 

0024:名無しのリスナー

 

テレビとか最近てんで見てなかったから知らんかった

何これヤバイじゃん何が起こったんだよこれ

 

 

0025:名無しのリスナー

 

>>23

テメェこそ文盲のクセにいちいち脊髄反射で噛みついてんじゃねえよ糞雑魚弩低能雲湖珍珍がよ

誰もあの魔法使い=わかめちゃんとは言ってねぇだろ

あくまで「魔法の存在自体があり得る」ってだけの話だ

 

 

0026:名無しのリスナー

 

不穏すぎだろ、やはり平和な世界にはエロが必要

えちちちはやく

 

 

0027:名無しのリスナー

 

雲湖珍珍は草

 

 

0028:名無しのリスナー

 

雲湖珍珍wwwwwwwwそういうことかwwwwwww

知的な煽りかとおもったらただの小学生男子じゃねえかwwwwwww

 

 

0029:名無しのリスナー

 

>>25

23だが正直すまんかった……言われた通りだわ……

確かに25の言うとおりわかめちゃんが魔法使える説の裏付けにはなるわ……

ごめんな……俺ただの雲湖珍珍だったわ……珍珍切って詫びるわ……

 

 

0030:名無しのリスナー

 

なんで珍珍の話になってんだよwwwwwwwここは若芽ちゃんスレぞwwwwwww

 

 

0031:名無しのリスナー

 

美少女に珍宝授ける性癖もわからんではないがわかめちゃんに珍宝つけたら絶対許さない

 

 

0032:名無しのリスナー

 

>>29

切るなwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

 

 

0033:名無しのリスナー

 

>>29

待てよ……そんな殊勝になるなよ……俺一人悪者みたいじゃねえかよ……

俺は何も気にしてないからおまえも珍珍ゆるしてやれよ……

珍珍は二度と帰って来ないんやぞ……

 

 

0034:名無しのリスナー

 

わかめちゃんスレを珍珍で埋めるんじゃねえよwwwwwwww

 

待てよ…………埋め尽くさんばかりの珍珍に囲まれるわかめちゃん……アリだな

 

 

0035:名無しのリスナー

 

>>29,33

仲直りおめ

 

 

0036:名無しのリスナー

 

>>29

>>33

和平おめでとう

家でわかめちゃん配信を視聴する権利をやろう

 

 

0037:名無しのリスナー

 

>>34

通報しま……ちょっと詳しく聞かせてもらおうか

 

 

0038:名無しのリスナー

 

>>34

おまわりさんこいつです

 

 

0039:名無しのリスナー

 

>>34,38

おまわりさんこいつらです

 

 

0040:名無しのリスナー

 

ヒョエエエエ安価ミスったンゴwwwwwwww

 

 

0041:名無しのリスナー

 

つまり浪銀に魔法使いが現れている以上、わかめちゃんも魔法使いである可能性があるのか

 

 

0042:名無しのリスナー

 

浪越県警本当無能だな。何で実際に対応してるのになにもわかんねえんだよ

あの距離で話して相手の正体わかんねえハズがねえだろ

 

 

0043:名無しのリスナー

 

>>39

なんでや!!!ワイは善良な一般市民やろ!!!!

 

 

0044:名無しのリスナー

 

世間では世紀の大事件が起こったというのに

このスレは相変わらずこのザマである

 

 

0045:名無しのリスナー

 

>>42

浪越県警いうなwwwwwwww

横浜県警じゃねんだぞwwwwwww

 

 

0046:名無しのリスナー

 

>>42

浪越県警言うなし

横浜県警と同じにすんなし

 

 

0047:名無しのリスナー

 

魔法うんぬん以前にエルフなんですけお!!!!

あの耳が作り物なんて信じねえぞ!!!

 

 

0048:名無しのリスナー

 

>>45-46

結婚おめ

 

 

0049:名無しのリスナー

 

>>45-46

これは結婚ですわ

 

 

 

 

 

………………

 

 

………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

 

 

 

 

0678:名無しのリスナー

 

放送一時間前きったぞ……めっちゃドキドキしてきた

 

 

0679:名無しのリスナー

 

>>613

誰かが言ってたけどスク水ロリ魔王が許されるくらいだからな

絆創膏ロリエルフも許されるやろ

 

 

0680:名無しのリスナー

 

観客席コメントカオス過ぎワロタwwww

欲望に忠実すぎやろwwwwwwww

 

 

0681:名無しのリスナー

 

>>613

グラビア動画配信……胸とナニがアツくなるな……

 

 

0682:名無しのリスナー

 

>>613

神絵師魔王おじさんだってスケベDVD出したもんな、ワンチャンあるで

 

 

0683:名無しのリスナー

 

配信内容まだ未公開なん?

わかめちゃん本当そういうとこやぞ……すき

 

 

0684:名無しのリスナー

 

客席入った。ロリコン多すぎワロ

 

 

0685:名無しのリスナー

 

わかめちゃんが見たらどう感じるんだろうな……この世の地獄かな

 

 

0686:名無しのリスナー

 

演目何だろうな

おうたの動画のお礼も兼ねて、って本当にお礼だけして終わるわけ無いだろうし

 

…………無いよな?他にも何かあるよな?

 

 

0687:名無しのリスナー

 

今北

晩飯のわかめサラダに下半身が反応するようになってしまった……

濃ゆい味の白濁した液体をわかめにドロッとぶっかけるんやで……

二本の棒で白濁濡れのわかめを摘まんでおいしく食べてしまうんやで……

 

 

0688:名無しのリスナー

 

これ多分配信の終わり待たずして次スレ行くんじゃねえか?

流れ抑えるか?

 

 

0689:名無しのリスナー

 

>>687

病院行け。頭のだぞ

 

 

0690:名無しのリスナー

 

>>687

救急車呼ぼうか。黄色のだが

 

 

0691:名無しのリスナー

 

>>688

逆に放送前に次スレ飛ぶ説

 

 

0692:名無しのリスナー

 

>>687

ちょっと興味が湧きましたが何言ってるかわからないので図示してもらえますか

 

 

0693:<削除されました>

 

<削除されました>

 

 

0694:名無しのリスナー

 

配信一時間切ってるのに何やるのか誰も知らない説

 

 

0695:0687

 

>>692

予め用意しておいたお料理がこちらです

htfps://vvvvvv.uploader/domein/meccha_ecchinano.fc.jp/201912xx2024xxxx/

 

 

0696:名無しのリスナー

 

やいたー張り付いてるけどこっちも更新無いな

このまま前情報無く配信始まるんじゃね?

 

 

0697:名無しのリスナー

 

ていうか一時間前も特に通知とか無かったな……単純に手が回ってないのか所々抜けてるポンコツなのか

 

 

0698:名無しのリスナー

 

おまえ!!!!! >>695おまえ!!!!!

 

 

 

よくやった

 

 

0699:名無しのリスナー

 

>>695

これは釈放

 

 

0700:名無しのリスナー

 

>>695

私は彼は無罪だって最初から信じていました

冤罪で軽率に逮捕させようとする輩はこれを機に認識を改めてほしいですね(掌返し

 

 

0701:名無しのリスナー

 

>>695

もうわかめ料理をマトモな目で見られなくなったじゃないか……どうしてくれるだふざけやがって……てめえいっしょうゆるさねえからな…………gj

 

 

0702:名無しのリスナー

 

>>696

わかめ料理……これは流行る。流行れ。

 

というかえちち絵タグもう #わかめ料理 で良いんじゃね

 

 

0703:0687

 

お客様に少しでも喜んでいただけたのなら幸いです

絵描きの端くれとして絵描き冥利に尽きますな

 

 

0704:名無しのリスナー

 

#わかめ料理 wwwww言い得て妙

 

 

0705:名無しのリスナー

 

おいやめろもうわかめ(食材)をマトモな目で見られなくなるだろ

 

 

0706:名無しのリスナー

 

青少年の性癖が破壊される恐れ。いいぞもっとやれ

 

 

0707:名無しのリスナー

 

いや、でもさ、食材の名前つけちゃった時点でおいしくたべられちゃう(意味深)のは折り込み済みでしょ

おまけにワカメちゃんなわけだからパンツパンツされるのも折り込み済みな訳でしょう

つまりはわかめちゃんは性的。QED

 

 

0708:名無しのリスナー

 

>>702

個人勢ってことはタグまわりのルールとか決めてない説あるしな

かすてら(ウェブコメ)とかで提案してみるか

 

 

0709:<削除されました>

 

<削除されました>

 

 

0710:名無しのリスナー

 

なんや本当21時待たずに次スレ必要な流れか?

 

 

0711:名無しのリスナー

 

家庭科の授業で「わかめ料理」とか課題出るじゃろ?

健全キッズが「わかめ料理」で検索するじゃろ?

 

性紀のわかめ料理カーニバル開催って寸法よ。この国の未来は明るいな……

 

 

0712:名無しのリスナー

 

>>707

ひどすぎる暴論を見たwwwwwwww

 

 

0713:名無しのリスナー

 

折り込み済みってなんだwwwww今朝の新聞広告かよwwwwwwww

 

 

0714:<削除されました>

 

<削除されました>

 

 

0715:名無しのリスナー

 

>>711

学校のパソコン室で調べないことを祈るしかないな……

 

 

 

 

………………

 

 

………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

 

 

 

0963:名無しのリスナー

 

【私の方が】木乃若芽ちゃんを語るスレ_第三夜【歳上なので】

htfps://ch_fiction/indextop/qawsedrftg201912xz/yo1147/

立ちそうな気配無いから立ててみた。

入れ違いでスレ重複したようならソッチ使ってくれ

 

 

0964:<削除されました>

 

<削除されました>

 

 

0965:名無しのリスナー

 

すみません、950を書いたのはぼくです。

スレ立てのしかたわかりません

スレ立てってゆうのはどうやってスレ立てするといいですか?

 

 

0966:名無しのリスナー

 

>>945

だいたいシェフ >>687のせいだな!!

しかし結局みんな喜んでたから共犯やな!!!

つまりは仕方ないってことなんやな!!!!

 

 

0967:名無しのリスナー

 

>>963

thx。たすかる

 

歳上アピールに余念がないロリお姉ちゃんすき

 

 

0968:名無しのリスナー

 

>>963

記事立て多謝

「BANされる危険が危ない」も好きだな

 

 

0969:名無しのリスナー

 

しかし本当に配信前に次スレ移動することになるとは

 

 

0970:名無しのリスナー

 

>>963

記事立てアザーーース

>>965

ええんやで、ゆっくり覚えてこうな

 

 

0971:名無しのリスナー

 

>>963

次記事たすかる

 

 

0972:名無しのリスナー

 

>>963

記事乙なのだわ

>>965

中学生かな???

ここまで来るとは前途有望だな

将来が楽しみだ

 

 

0973:名無しのリスナー

 

1000なら若芽ちゃんのパンツ公開

 

 

0974:名無しのリスナー

 

かしこいアピールしてくるけど果たして本当にかしこいんだろうか

 

 

0975:名無しのリスナー

 

実在ロリエルフだとしたら本当正体は何者なんだってばよ?

どう見ても幼女やろ。控えめに言って義務教育中やろ

 

 

0976:名無しのリスナー

 

音楽の成績は100やろなぁ……

他の教科の成績いくつなんだろ。通信簿気になる

 

 

0977:名無しのリスナー

 

もっとかしこさをアピールできる場面があればな……

今のままだと背伸びしたがりポンコツ幼女感が否めない

 

 

0978:名無しのリスナー

 

かしこさはまだ解らないけどシコさならなかなかのものだと思うゾ★

 

 

0979:名無しのリスナー

 

次スレ流れ始めた?まだこっち残ってんよ~~頼むよ~~

 

 

0980:名無しのリスナー

 

21時まであと5分

それまでにこっち埋めて配信には次スレで過ごしたいな

 

 

0981:名無しのリスナー

 

わかめちゃんとお勉強できるならワイもおべんきょ頑張れると思う

 

 

0982:名無しのリスナー

 

>>976の学校はどんな通信簿使ってたんや……

 

 

0983:名無しのリスナー

 

>>976

評価100の通知表wwwwwwww

 

 

0984:名無しのリスナー

 

>>976ニキ……学校って行ったことある????

 

 

0985:名無しのリスナー

 

>>976

ワイのガッコは5段階評価やったが……

あれガッコによって表記違うんか?

 

 

0986:0976

 

>>982-985

……シテ…………コロシテ…………

 

 

0987:名無しのリスナー

 

本当謎だよな、わかめちゃん……

URの者なら魂ってか中の人いるんだろうけど……これどう見ても実在だよな、URの者じゃないよな?

 

 

0988:名無しのリスナー

 

1000ならいちごぱんつ

 

 

0989:名無しのリスナー

 

言動があざとすぎるやろ

チヤホヤされたがるネカマのソレだわ

演じてる感ハンパない

 

 

0990:名無しのリスナー

 

配信始まるまでに埋まるか?

 

 

0991:名無しのリスナー

 

しかし実際こんな美少女なら今まで何の音沙汰も無かったのは謎でしかない

モデル雑誌も芸能事務所もスカウト無能すぎだろ

 

 

0992:名無しのリスナー

 

>>989

わかめちゃんの中身がおっさんなわけないだろ起きろ

 

 

0993:名無しのリスナー

 

1000ならわかめちゃんは俺の姉

 

 

0994:名無しのリスナー

 

1000なら耳かきCD

 

 

0995:名無しのリスナー

 

埼玉県和光市

 

 

0996:名無しのリスナー

 

今度こそ!!!

1000ならマイクロビキニ

 

 

0997:名無しのリスナー

 

1000ならパンツ

 

 

0998:名無しのリスナー

 

1000ならスク水ニーソ

 

 

0999:名無しのリスナー

 

1000なら絆創膏

 

 

1000:名無しのリスナー

 

あと1分!!!

もう一息だぞお前ら!!!

 

 

1001:

 

 

 

このスレッドは1000を越えました。

 

次回の放送をお楽しみに!

 

 



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51【一旦休憩】追っ手は撒いたぞ

 

 浪越市中央区伊養町、その西町地区の二丁目に位置する『なかよしパーキング』は……商店街の只中に位置する、七層からなる鉄筋コンクリート造の大型立体駐車場である。

 

 駐車料金は三〇分三〇〇円(十二時間で二四〇〇円上限)と、パッと見た限りはあんまり安くない駐車場なのだが……なんとこの駐車場、伊養町商店街のほぼ全ての店舗でサービスが受けられるという、知る人にとっては文句なしで『ぶっこわれ』な大型パーキングなのだ。

 そのサービス額や驚くなかれ、商店街での利用金額千円ごとに一時間分……つまりは六〇〇円分のサービス券(当日利用に限る)が貰えてしまう。飲食店だろうと書店だろうとホビーショップだろうと殆どのお店がサービスに加盟しており、つまりはこの伊養町商店街でお買い物ならびにご飲食をしていれば、駐車料金は実質無料となるに等しい。

 

 そんなんで営業やっていけるのかと不安でしかなかったのだが……要するに半公営の駐車場であり、商店街および市から手厚い補助が出ているのだという。ですよね。

 

 

 そんな『なかよしパーキング』の六層部。REIN(メッセージアプリ)の指示に従い屋上から侵入すると……最上階から一層下の閑散とした駐車エリアに、見覚えのある軽自動車を見つけた。

 車の中の人物もこちらを認識したらしく、前照灯(ヘッドライト)がパシパシと点滅する。

 

 ……あの車の中以外、現在このフロアには人の反応は感じ取れない。今なら誰にも見咎められること無く合流できるだろう。

 

 

 「よいしょっと……ただいま、二人とも」

 

 「うっす。先輩お疲れさまです。……あ、後部の方が良いっすよ。助手席は外から見られやすいっす」

 

 「ノワお疲れ様。そうだね、ボクが偏光魔法で隠せば見つかることも無いだろう」

 

 「ほんと? わかった、そうする。白谷さんありがとう」

 

 「何の何の。ボクとしても自分の有用性をアピールしておきたいからね」

 

 

 助手席のドアを開けたおれに告げられた言葉に従い、助手席ドアを一旦閉めて後部のスライドドアを引き開ける。

 普段は畳まれフルフラットな荷台スペースとなっているそこには珍しく座席が姿を表し、虹色に煌めく(はね)を持った手のひらサイズの少女(かわいい)がにこやかに出迎えてくれた。

 

 胸の底がじんわりと温かくなるような、うれしさとも安心感とも取れる感覚に頬が緩むのを感じながら……後部座席に尻を落ちつけ、スライドドアをばたんと閉める。

 同時に白谷さんがなにやらぶつぶつと呪文を唱え、一瞬窓ガラスが魔力を纏ったかと思うと……おれの目から見た限りでは何事もなく、元通りに外の景色を映し出した。

 

 

 「スモークフィルム? とかいうのを参考にね。外から内側の様子を覗くことは出来ないけど、内側からは問題なく景色が見える。たとえこの中で着替えていようとも、外から見られる心配は無いよ」

 

 「おおすごい!! じゃあ動きやすい服に着替えても……あ、すごい。座面上げるとおれ多分室内で立てる! ……ええ……やべえ、普通に着替えられるじゃん」

 

 「先輩先輩。オレとしてはサービスシーン嬉しいんすけど、あくまでフロントと前席の窓はそのままだってこと忘れないで下さいね?」

 

 「!!!! っぶねえ!! 何させようとしてんのさ!! 変態!!」

 

 「オレ今の無実っすよねェ!!?」

 

 「いやー本当仲良いね」

 

 

 とりあえず着替えは保留として、背中にぶら下げていたミニポスターだけ外しておく。

 今日一日伊養町を歩き回った限りだったが……このポスターのお陰で少なからず、おれとおれの放送局(チャンネル)の存在を周知できたと思う。

 古くは広告人夫、あるいはサンドイッチマンなどとも呼ばれる広告手法ではあるが……シンプルながらも効果は高く、特に容姿からしてカメラを向けられやすいおれにとっては尚のこと高い効果が見込めるのだ。

 

 題して『ふふふ……タダで撮ろうたぁフテぇヤロウだ。おれの宣伝も一緒に写してもらおうじゃねえか。嫌とは言わせねえぜ』作戦である。センス無さすぎだろ。

 

 

 「でもさ、実際『ちんどん屋』ってあったじゃん。ちんどんちんどんしながら練り歩くやつ。あれやったら良いんじゃない? おれ多分練習すれば演奏できるぞ」

 

 「今の先輩の口から『ちん』とか飛び出るとちょっとギョッとするっすね。……いやあ、良い考えだとは思うんすけど……でも難しいんじゃないっすかね。騒音とかクレーム入れられそうで」

 

 「…………身元を大々的に宣伝してるもんな」

 

 「悪質クレーマーにバッド評価粘着される恐れも……」

 

 「ぅえ……それはやだなぁ……」

 

 

 せっかくの良い考えだと思ったのだが……このご時世、気づかないところでもいろんな制約があるらしい。なかなか簡単にはいかなさそうだ。

 まぁ……そのへんは無理なら無理で仕方がない。あくまでついでに過ぎないのだ。

 

 

 「とりあえず、一本分は問題なく撮れたと思う。出演者の子たちにも公開許可貰ったし……まぁお顔と名前は伏せるけど」

 

 「それが良いと思います。首から下でも伝わるには伝わるでしょうし……危ない橋を渡るよりかは」

 

 「ノワのお顔はちゃんと映るんだろ? なら見ごたえは十分だと思うよ」

 

 「そんな価値あるかなぁおれの顔…………そういえばさ」

 

 「あるに決まって……え? 何すか?」

 

 

 宣伝と聞いて……ふと思い出した。

 お会計の後『ばびこ』さんのオーナーさんに声を掛けられ、写真を撮って貰ったこと。おれのような無名な人を撮ったにしては、オーナーさんをはじめ店員(スタッフ)さんの反応が妙に……えっと、その……嬉しそうに見えたこと。

 ついでに言うと……撮影に協力してくれたJK二人組も、スマホに保存されたおれとのスリーショットを眺め、とても嬉しそうな顔をしていたこと。

 

 

 「もしかしてなんだけどさ。単なるうぬぼれのなのかもしれないんだけど……おれってもしかして、けっこう一般の方ウケ狙えてたりす…………え、な、なに? どうしたの二人とも……待って、なに? なに!? ちょ、何!?」

 

 「モリアキ氏……どうするよ?」

 

 「そっすね……やっちまいましょうか」

 

 「待って!? 何その顔! こわい! 待って!!」

 

 

 

 思っていたことを口にしたら……何だかスゴい目で見られた。

 なんなの。ちょっと。その可哀想なものを見るような目をやめてくれませんか。

 

 二人して見つめ合ったと思えば盛大に溜め息ついちゃってるし。本当なんなの。

 

 

 



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52【一旦休憩】とてもすごいやつ

 

 

 結局あのあとおれは……おれのよき理解者二人に懇々と諭されながら、しょんぼりしながら帰路についた。といってもモリアキの車でだけど。

 二人から同時にお説教を受けたのは初めてだったけど……うん、ちょっとこわかった。すみませんでした。

 

 モリアキの運転する車は実質無料のパーキングを後にし、多くの人通りで賑わう伊養町商店街を脱し、おれの自宅方向へと順調に走っていく。

 時刻はまだお昼過ぎ、お出掛けを終了にするには少々早めでもったいない時間ではあるけど……おれはこの格好でお買い物とか出歩く気にはなれないので、まだ明るいけどおうちに帰って作業に取りかかろうと思った。

 

 

 

 ………………はず、なのだけど。

 

 

 「ね、ねぇ……ねえ、モリアキ」

 

 「どうかしました? 何かおかしいところでもありましたか? 先輩」

 

 「えっと…………いえ、なんでもない……です」

 

 「そうですか。目的地までもう少し掛かるんで、今のうちに仮眠でも取っといて下さい」

 

 「エッ!? えっと…………は、はい」

 

 

 

 ……おかしい。何かが、おかしい。

 

 伊養町のある中央区からおれの住む南区へは、大雑把に言えば南方向へと向かうはずである。

 この浪越市は割とキッチリした都市計画のもとで開発が行われており、主要な幹線道路は京都のような升目状になっている。時刻はお昼をちょっと回ったくらいであり、まだまだ太陽は高い位置からおれたちを見下ろしているはずなので……つまりは、大雑把に太陽の方向へと向かっているはずなのだが…………

 

 …………なぜだろう。

 いったい何故、太陽がおれの横顔を照らしているのだろうか。

 何故正面方向にあって然るべきの太陽が、おれの左頬を温めているのだろうか。

 

 

 「ね……ねえ、白谷さん……」

 

 「ん? どうしたんだい? ノワ」

 

 「えっと…………どこ、向かってるのか……わかる?」

 

 「この地に来たばかりだし、地理にも疎いから……ボクは解らないなぁ。ごめんね、ノワ」

 

 「えっと、えっと……う、うん。気にしないで」

 

 

 小声で白谷さんに助けを求めると……妙にニコニコと可愛らしい笑顔を浮かべたまま、しかし何の解決にもならなかった。

 無理もないだろう、別世界の住人であった白谷さんがこの浪越市の地理に精通しているはずがない。

 

 で、あれば……行き先を知っているのは、この車を運転するモリアキただ一人なのだが……さっきのやり取りを思い起こす限り、彼には行き先を教えるつもりは無さそうである。ちくしょう、なんでさっき引っ込んでしまったんだ。

 

 ルームミラー越しに盗み見る彼の顔は……特に見た感じ怒っているようには見えない。

 ……しかしそうは言ってもついさっきお説教を受けたばかりなので、おれに対して何かしら思うことがあるのは恐らく間違いないのだろうが……それがこの現在の状況に繋がっているのだと考えると、途端になにやら怖くなってくる。

 

 

 「まぁまぁノワ。そんな不安そうな顔しないで。ピザトースト食べる?」

 

 「えっ? だ、大丈夫、お昼さっき食べたからあんまお腹()いてな…………? !? ちょっ!? どっから出したの白谷さん!?」

 

 「はっはっは。【天幻】の名は伊達じゃ無いってことさ」

 

 「ねえモリアキ!! 白谷さんが!! 白谷さんがピザトースト!! モリアキ!!」

 

 「ぅえ!? ちょっと待って下さい今運転中…………っと、えー……ちょっ、って……待って!? まさかあのときのっすか!?」

 

 「そうそう。ノワはお腹()いてないっぽいから、モリアキ氏お腹()いたら声掛けてね。ちゃんと熱々(アツアツ)のまま仕舞ってあるから」

 

 「ねえ!! あのときのって何!! 何があったの!! ねえ!!」

 

 

 二人の間に交わされたやり取りから、モリアキはどういうことなのか把握したようだが……おれにとってはわけわかめだ。……若芽(わかめ)ちゃんだけに。

 いや、冗談言っている場合じゃない。突如として現れたアツアツのピザトースト(すごいおいしそう)、そこに秘められた謎を解くまでは……とかいうほど深刻な話でもないが、単純に気になる。

 モリアキもあまりにもの事態に驚いたらしく、急遽近くのコンビニ駐車場へと待避する。事故の心配は無さそうだ。

 

 というわけで、こちらが問題の品。どう考えても白谷さんの懐には収まりそうもない、というか白谷さんの身体よりも大きそうなピザトーストである。

 しかも溶けたチーズの艶も、ふわりと漂うおいしそうな香りも、まるで出来立てであるかのように……非常に美味しそうだ。満腹でなければ卑しくもおねだりしていたかもしれない。

 

 

 ……しかし、何もない空間に突如として出現したピザトースト。

 自分の身体よりも大きなピザトーストを、ふわふわ漂わせている白谷さん。

 とうのピザトーストは、出来立てのようなアツアツを保ったまま。

 そして……白谷さんが自慢げに発した『【天幻】の名は伊達じゃ無いさ』という言葉。

 

 これは…………もしかして、もしかすると!!

 

 

 「し、白谷さん! もしかして…………【収納】的な魔法が使えるとか!? アイテムボックスとかストレージとか!!」

 

 「【蔵守(ラーガホルター)】……とボクらは呼んでいるけどね。ニュアンスとしては同じだと思うよ」

 

 「ちょちょちょちょい! マジっすか! アイテムボックスって()()()じゃないっすか! ちょっとさすがにテンション上がるっすよこれは!!」

 

 「時間経過止まるの!? 容量(キャパ)はどれくらい!? 収納物の重量は!? えっと、あと……えっと!!」

 

 「ま、待って、落ち着いて二人とも。とりあえず時間経過は投入時点のままで、収納物の重量は生じない。容量は……ごめん、単位が解らない。とりあえず家財一式は余裕で収まるくらい……『それなりに多い』としか」

 

 「「ス…………スゲエエエエ!!!」」

 

 「お、おぉ……」

 

 

 あまりにもの剣幕に、軽くたじろいでる白谷さん。おれはモリアキと二人顔を見合わせ、まるで中学生男子のようにハシャいでしまったが……だって仕方ないだろう。

 だって……だって、()()『アイテムボックス』である。

 妄想膨らむ健全な男子であれば追い求めて止まない、異世界を旅するエピソードであればほぼほぼ必須とも言える……反則(チート)と名高い技能(スキル)なのである。

 

 しかし……さすがは【天幻】の称号、ということなのだろう。白谷さん本人は『幻想魔法』と『空間魔法』が得意だと言っていた。

 光の屈折を操ったり、幻を見せたり纏わせたりといった『幻想魔法』と、このアイテムボックスのように空間そのものに作用する『空間魔法』。それこそ白谷さん……もとい、ニコラさんが世界の壁を越えられたのも、この『空間魔法』の恩恵なのかもしれない。

 

 

 …………いや、まって。

 まって。空間魔法。まさか。

 

 

 「白谷さん、あの…………まさかとは思うんだけどさ? …………転移魔法、みたいなのって……使えないよね? ほらあの、行ったことある場所にワープ……その、一瞬で移動する、みたいな」

 

 「そこまで自由自在じゃないけど……【繋門(フラグスディル)】がソレに当たるかな? (あらかじ)め目的地を記録しておく必要があるけど」

 

 「「あるの…………」」

 

 

 おれたち健全な少年(の心を未だに持った大人たち)が求めてやまない、代表的な二つの反則(チート)技能(スキル)

 今後の配信や撮影が楽になりそうだとか、使い方によっては色々と便利かつ画期的な運用が出来そうだとか……そんな論理的な思考が出来るようになったのは、もう少し後のことで。

 

 

 このときの……子どもの心を忘れていなかったおれたち二人が感じたことは……

 

 

 「やべえ」「すげえ」

 

 

 とても幼い、このたった二言の感想に集約されていた。

 

 

 



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53【一旦休憩】で……できらァ!!

 

 

 「…………んで? そろそろ教えてくれても良いんじゃない??」

 

 「ホヘ? 何がっすか?」

 

 「な…………何がっておま……!! ちょ、おま!! トボけんなよてめぇ!! 確かにおれは送って貰ってる立場だけどさぁ!! おまっ…………行き先告げずに運ぶんじゃ無ぇよ!! お前これ拉致だぞ拉致!! 通報すんぞ!?」

 

 (やべぇ。おキレになられた)

 

 (どうしよう。可愛い)

 

 

 思ってもみなかった白谷さんの技能(スキル)に面食らっていたこともあり、現在車はコンビニの駐車場で停車中である。

 今ならゆっくり()()()()ができそうだと、おれは運転手へ現状における疑問点を問い掛けたのだが……その返答というか反応は、さすがにちょっとひどいと思った。

 

 少し口調が荒くなってしまったのは……正直申し訳ないと思う。加えてさっき言ったように、おれはあくまでモリアキの厚意で送迎していただいている立場だ。

 少なくない手間と時間と燃料代を負担させている以上、本来ならばおれが彼の予定に合わせるべきなのだろう。

 

 

 ……が。

 だからといって、行き先くらい教えてくれても良いのではないか。

 これから悪いことをしようってわけでもあるまいに、何をしに行くのかくらい教えてくれても良いのではないか。

 それとも……目的地はおれに言いたくないような所だとでもいうのだろうか。

 

 それらの不満と不安が爆発し、気づいたときにはもう止まらない。少しずつ慣れてきたと思っていたこの身体だったが……情緒的な部分においては、まだまだおれには制御しきれないらしい。

 

 

 

 「…………ごめん。いきなり怒鳴って」

 

 「い、いえ……オレの方こそスミマセン。……ちょっとドッキリ的なこと仕掛けたかったんすけど……確かに、ちゃんと言うべきは言っておくべきでした。スミマセン、先輩」

 

 「いやいや……! おれの方こそ! ……何度も言うけど、おれは助けられてばっかりだから。今回の送迎も、おれが一方的に迷惑掛けてるんだし……だからおれ、モリアキの決めたことには従うから。()()()()()()()()()()()()()()()から」

 

 「今文句言わないって言いましたよね?」

 

 「うん…………えっ??」

 

 「……ふふ。良かったね、モリアキ氏。本人が乗り気になってくれたみたいだよ」

 

 「えっ??」

 

 

 目の前で何やら意味ありげに視線を交わす二人……頼れる仲間である()()の二人を交互に見やり、おれは……なぜだろうか。背筋にうすら寒いものを感じてしまう。

 しかし……しかし。二人はおれの仲間のはずだ。味方のはずなのだ。おれの立場が悪くなるようなことはしないだろうし、おれのためにならないようなことはさせないはずだ。

 

 大丈夫、きっと大丈夫。モリアキ本人も言っていたではないか。ただのドッキリ、ちょっとしたドッキリだ。しかし『ドッキリがある』と言うことを聞き出してしまったので、つまりは恐れることなど……不安なことなど、もう何も無い。

 

 そうとも。何も怖くないのだ。

 

 

 そう思った。

 そう考えてしまった。

 

 つまりは……おれはまだまだ、未熟者だったってことなのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「つきましたよ。覚悟は良いっすね? せんぱ…………()()()()()?」

 

 「……して…………ころして……」

 

 「どうしようモリアキ氏、目が虚ろだよ」

 

 「オオゥ…………そこまで嫌っすか」

 

 

 やがて……とある駐車場で車が止まり、モリアキが後部座席を覗き込む。

 文句を言わないと言ってしまった上、モリアキと白谷さんの意図していることを聞かされた以上……おれはこの仕打ちを拒否することなど出来ない。

 

 彼らはなにも、おれが憎くてこんなことを企てたわけでは無いのだ。おれが今後、非実在(アンリアル)ではない個人配信者(ユーキャスター)としてやっていくにあたり……活躍の幅を少しでも広める一端になればと、善意で計画してくれていることなのだ。

 それはわかる。わかっている。理解している。

 

 ……だが。……だからといって。

 

 

 「正気に戻って下さい、先輩。大丈夫、死にはしませんって。ちょーっとオメカシして可愛らしい衣装着てプロに写真撮ってもらうだけですって」

 

 「殺傷力抜群やろ!! おれアラサーのオッサンやぞ!!!」

 

 「大丈夫だよノワ。どこからどう見ても(とお)そこらの女の子にしか見えないから」

 

 「見た目の問題じゃなくってですねェ!!!」

 

 

 わかってる。彼らのこれが嫌がらせじゃないことは解っている。

 先日のクリスマス突発ミニ動画で軽く触れたように……スポンサーの方々への特典のこともあり、今後若芽ちゃんはいろんな衣装を試すべきだということも認識している。

 どうせならいろんな衣装が揃えられているフォトスタジオで色々試した方が良い、なんなら画素数がエグいプロ仕様のハイスペックなカメラで撮って貰った方が良い……となったのも、まぁ理解できる。

 

 

 だからって。

 

 だからって!!

 

 おれの中身()は……三十を越えた成人男性なのだ!!

 

 

 

 「腹くくって下さい。せっかく予約取ったんすから。先輩も『おめかしした若芽ちゃん』見たくないんすか?」

 

 「うぐ…………正直……見たい」

 

 「そうでしょう。何てったって可愛い子を可愛く撮るプロっすからね、何も心配は要りませんって。全部プロが何とかしてくれます。何も気にせず力を抜いて……雰囲気に流されちゃって良いすから」

 

 「…………なにも……なにも気にしなくていい? ほんと?」

 

 「本当(ホント)っすよ。不安なんて何も無いんです」

 

 「じ、じゃあ…………わかった」

 

 「いやぁ……だんだん手慣れて来てるよね」

 

 

 そうとも、おれ自身が『若芽ちゃん』になってしまったとはいえ……そもそもおれ自身『若芽ちゃん』のことが大好きなのだ。

 おれとモリアキの『好き』をこれでもかと注ぎ込んだ、おれたちが自信を持って『かわいい』と言えるキャラクターが……他でもないこの『木乃若芽ちゃん』なのである。

 

 彼女の可愛らしい姿や可愛らしい格好、長年夢見続けていたそれらが拝めるというのなら……おれが()()()()我慢すれば、プロがなんとかしてくれるというのなら。

 ならば……ちょっとくらい、我慢してみせる。

 

 

 他ならぬ愛娘……『若芽ちゃん』の晴れ姿のためならば。

 

 おれは……何だってしてみせる。

 

 

 



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54 コネとツテは大切っすよ

 

 自覚あってのことなのか、はたまた恐ろしいことに無自覚なのか……最近の先輩のカワイイムーブは、さすがに少々目に余る。

 

 というよりも……普段あんなにも『若芽ちゃん』をかわいいかわいい言っている癖に、肝心の本人が『自分(若芽ちゃん)が周囲からどう見られているのか』という点を、いまいち理解していない。

 その点に少々の不満と不安を予感した、若芽ちゃんの保護者を自認するオレ達は……せっかく街中に出てきた今日を利用し、急遽とある作戦を計画・実行するに至った。

 

 

 

 

 「…………はい、女の子ひとり。十歳くらいです。三十分から一時間以内には着くと思うんすけど…………はは、違うっすよ。知人の愛娘です。今ちょっとオレが預かってて。可愛い子っすよ」

 

 

 古くからの知人の一人に連絡を取り、彼が勤めているフォトスタジオの空きを確認して貰う。

 年末の慌ただしい時期とあって、枠を押さえられるか不安ではあったが……どうやら無事に予約をねじ込むことに成功したらしい。持つべきものは知人(コネ)である。

 

 

 「…………はい。…………はい。本人は日本人なんすけど、容姿はバリバリの西洋寄りっす。……ええ、ちょっとだけ大っぴらにしたくない事情がありまして。トミーさんにしか頼めないんすよ。…………はは、そういうんじゃ無いす。ちょっと容姿のことで。……ええ、あんま吹聴しないでほしい、ってくらいなので。…………スミマセン、ありがとうございます。……はい、宜しくお願いします。では」

 

 「おお? どうだった? 先方の反応は。良さそうな感じ?」

 

 「何とかなりそうっすね。鳥神(とりがみ)氏はオレらと同年代の若手っすけど、プロ意識しっかりしたヤツなんで。顧客情報ペラペラ喋るようなヤツじゃないっすよ」

 

 「ほぉぉぉ……すごいなモリアキ氏。本当顔が広いよね」

 

 「フヘ。役に立って良かったっす」

 

 

 昨今の先輩のカワイイムーブ……その原因の一端となっているのは、まさに『自分が周囲からどう見えているのかをイマイチ理解していない』という点だろう。

 

 白谷(ニコラ)さんに聞くところによれば……先輩は家で鏡を眺めることはあっても、それはあくまで他人が見て不快とならないように身支度を整えるためであったり……また配信のアーカイブや過去動画を見直すことこそあっても、それはあくまで問題点や改善点を洗い出すための職務行為であったり。

 いわゆる『ナルシストさ』のようなものが微塵も見られず……要するに、自分がどう見られているかに対して無頓着なのだ。あの幼女は。

 

 若芽ちゃんが可愛い娘であることは認識しておきながらも、今や()()である若芽ちゃんが他人からどう見られているのかには無頓着。

 さっきの商店街での収録の際も――特徴的な髪色と服装によるところも幾らかはあっただろうが――実際に彼女へ寄せられていた周囲の視線の殆どは、まさに()()()()()()に対する……そう、魅了された者の視線だった。

 

 とうの本人は『動画配信者としてはまだまだ底辺、自分なんかに知名度があるハズがない。きっとこの髪と耳が不審だから見てるだけだ』などと考えているのだろうが……オレも白谷さんも、それは全く『否』であるという認識を持っている。

 今の先輩(若芽ちゃん)は、男だったら誰だろうと(=病気じゃない人でも)見惚れてしまうような……ともすると女性さえも魅了してしまうほどに、愛らしい容姿なのだ。

 

 

 そのことを……なんとしても、本人に自覚させる。

 

 そのために建てた、極秘計画。

 

 

 フォトスタジオに拉致り、プロの技術の粋を注ぎ込んだ『これでもか』というほど可愛い若芽ちゃんの写真を撮り、それを本人(先輩)に突き付け、客観的に視認させる。

 ……そして折角なのでそのデータを購入しておき、今後の展開にも利用する。あと眺めて堪能する。

 それが今回の……若芽ちゃん誘拐計画(語弊あり)の全貌である。

 

 合流するや否や『なんでかわかんないんだけど、記念撮影頼まれた。本当なんでだろうな(小首かしげ)』とか言っちゃうような悪女(先輩)には……本人の可愛さを嫌というほど教えてやらねばなるまい。

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

 「というわけでやって来ました! 浪越市(なみこし)港区(みなとく)の『スタジオえびす』さんです!」

 

 「ぇえ……どしたのモリアキ……変なもん食った?」

 

 「お黙りなさいこの悪女め」

 

 「あだっ! ……え!? なんでおれ怒られたの!?」

 

 

 ちょっと調子に乗った感は否めないが……とりあえず目的地であるフォトスタジオへと到着した。

 フォトスタジオとはいうものの驚くなかれ、その所在はなんとホテルの一階部分テナント内である。地下の駐車場に車を入れる際、この建物がホテルだと認識したときの先輩のあの顔は……ちょっと録画しときたかったっすね。

 引きつった顔を赤く染めたり青く染めたり、なかなか器用な百面相でした。いったい何を想像してたんすかね本当。

 

 そんな()()()を想像してしまっている耳年増な悪女(先輩)に今回の目的ならびに目的地を伝え、渋る先輩を宥めすかして車から下ろしたのが……ついさっき。

 館内エレベーターで一階へと上がり、豪奢ながらも落ち着いた雰囲気の廊下をキョロキョロ見回す幼女(先輩)の姿に苦笑を溢しながら、やっとのことで到着したのが、たった今。

 移動(拉致)するだけでもなかなかに疲れたんすもん、ちょっとくらいはっちゃけたくもなりますって。

 

 

 「……というわけで。ここから先は先輩じゃなく『さきちゃん』ですんで。白谷さんの声にもお返事しづらくなると思います。そこんとこ宜しくお願いしますね」

 

 「了解。ボクも極力大人しくしてるさ」

 

 「ぇええ…………マジでその仮名使うの……」

 

 「べつに『木乃若芽』って名乗っても良いんすけど……どうします?」

 

 「…………いや、やめとく。オンオフの区別はつけときたい」

 

 「了解っす。じゃあ『親御さんの仕事中ちょっとオレが預かってる』って設定で。宜しくお願いしますね」

 

 「普通写真撮るのにそんな設定盛らねえよ……ああもう、了解! やってやろうじゃねえかよ!!」

 

 

 良い感じに自棄(ヤケ)っぱちになりましたね。こうなった先輩は色々と強いので、きっと良い感じにこなしてくれることでしょう。

 

 半ば勝利を確信しながら透明なガラス扉を押し開け、フォトスタジオ店内へ。入り口のセンサーがオレ達二人を捉え、来客を知らせる電子音が鳴り響く。

 やがて正面受付カウンター横の控え室から一人の男性が姿を現し、来客がオレだと認識するなりその笑みを深める。

 

 

 「なんだ、早かったな。馬っ鹿野郎おめーまだ準備終わって無ぇよ」

 

 「いやースマンスマン。整うまで待ってるんで、まぁ宜しく頼んます」

 

 「ウィッス。任されよ。……んで? その子か?」

 

 「は、はひゃィっ! よりょ……ろろしくお願いします!!」

 

 「ガッチガチだな。そんな固くならなくて良いよ、どうせ今日は他に誰も居ねー」

 

 「へ? どうしたん、大丈夫なん?」

 

 「やー別会場で披露宴入っててさ。他もみんな出張中で。今日明日明後日と俺一人で留守番なワケよ。どうせ一人寂しく編集してるだけだし、なら小遣い稼ぎでもすっかなって」

 

 「ほへぇ……ま大丈夫なら宜しく頼むわ」

 

 「オッケオッケ。まぁ上がったって。スリッパそこね」

 

 「ウーッス。お世話んなりまース」

 

 「お……おじゃまします……」

 

 (おじゃましまーす)

 

 

 スタッフの男性はにこやかな笑みを浮かべたまま、スリッパに履き替えたオレ達を先導していく。

 久しぶりの再会を密かに喜ぶオレとは裏腹に……先輩(さきちゃん)は表情を強ばらせ、あからさまに緊張している様子。……話好きでお調子者の良いヤツなんすけどね。

 

 歳はオレと同じ、三十一。先輩と直接の面識は無く、オレの大学時代の同級生。

 癖っ毛気味のアップショートヘアを明るめのブラウンに染め、角張ったデザインの眼鏡を掛けた顔に人懐っこそうな笑みを浮かべた好青年。

 このフォトスタジオでの写真撮影およびホテル内式場でのビデオ撮影、ならびに動画編集や静止画レタッチや各種メディアファイル作成等々を手掛ける、将来有望なカメラマン。

 

 彼の名は……鳥神(とりがみ)竜慈(りゅうじ)。今回の計画における心強い協力者にして…………

 

 

 

 「それにしても、訳アリって聞いたから何かと思ったらさ。……まっさか()()()とはね」

 

 「………………ほへ? ちょ、ちょ、ちょ……どういうことっすかトミーさん」

 

 「どうもこうも……『わかめちゃん』だろ? 新人仮想配信者(ユアキャス)の」

 

 「「……へ?」」(おぉー)

 

 「いや……『仮想(アンリアル)じゃないやん』とか突っ込んだ方が良いのかもしれんけどさ。まぁどうでも良いや」

 

 「良いんかい」

 

 「おう。ただ、まぁ……そうだな。…………撮影料金割り引きするんで、記念にサイン貰えませんか」

 

 「「…………へ??」」(ほぉー)

 

 「……ファンです、っつったんだよ言わせんな恥ずかしい」

 

 

 

 先輩こと『木乃若芽ちゃん』および『のわめでぃあ』の、親愛なる視聴者(リスナー)の一人だった。

 

 

 

 

 …………いや、これはオレも知らんかったっすわ。マジでマジで。

 

 

 



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【私の方が】木乃若芽ちゃんを語るスレ_第三夜【歳上なので】


本編の進展とは無関係の回なので
すっ飛ばしても何も問題ありません



 

0001:名無しのリスナー

 

※※※わかめちゃんまとめ※※※

 

名前:木乃 若芽(きの わかめ)

年齢:自称・百歳↑(人間換算十歳程度)

所属:なし(個人勢)

身長:134㎝(平均やや下)

主な活動場所:YouScreen

 

備考:かわいい

 

 

0002:名無しのリスナー

 

※※※わかめちゃんまとめ※※※

 

・魔法情報局局長

・合法ロリエルフ

・魔法が使える(マジ説)

・肉料理が好き

・別の世界出身

・チョロそう

・「~~ですし?」

・とてもかしこい

・おうたがじょうず

・実在ロリエルフ説

・非実在創作キャラ説

・じつはポンコツ説

・わかめ料理(意味深)

 

(※随時追加予定)

 

 

0003:名無しのリスナー

 

>>1

スレ立て小津

 

わかめ料理wwwwwwwww

 

 

0004:名無しのリスナー

 

>>1

記事乙

しかしあの厨房ニキ前途有望だわ

 

 

0005:名無しのリスナー

 

>>1-2

記事乙thx

まとめ徐々に発展してんのウケる

あとわかめ料理www

 

 

0006:名無しのリスナー

 

あと5分

お前ら先トイレ済ませとけよ

 

 

0007:名無しのリスナー

 

俺も中学生のときにわかめちゃんと出会いたかった

 

 

0008:名無しのリスナー

 

若芽ちゃんの着替え中の教室に突入したかった

 

 

0009:名無しのリスナー

 

わかめちゃんと水泳の授業以下同文

 

 

0010:名無しのリスナー

 

お前ら目を覚ませ。相手は10歳やぞ。

 

 

0011:名無しのリスナー

 

第二夜生放送楽しみ……

ぱんつみせて……

 

 

0012:名無しのリスナー

 

>>10

10歳児が何じゃ。こちとら10歳児が怖くてロリコンなんざやってねんじゃ

 

 

0013:名無しのリスナー

 

土器がむねむねするんじゃぁー……

 

 

0014:名無しのリスナー

 

レス消費しすぎやろ

ここは実況スレじゃ無ぇんだぞ

 

 

0015:名無しのリスナー

 

>>12

気持ちは解るが落ち着け同志

10歳児は残念だが……中学生じゃない

 

 

0016:名無しのリスナー

 

その熱意をもっと他のことに活かせなかったのか

 

 

0017:名無しのリスナー

 

プロ幼女

ガチ幼女

 

 

0018:名無しのリスナー

 

>>15

小学生wwwwwwwwwwwww

 

 

0019:名無しのリスナー

 

>>15

わ、わかめちゃんは大人だから……(ふるえ

 

 

0020:名無しのリスナー

 

前スレ1000wwwwwwwwwwwwwwwww

まーたやりやがったなお前wwwwwwwwwwwww

 

 

0021:名無しのリスナー

 

前スレ1000お前って奴は!!!!!

お前にはがっかりだよ!!!!!

 

 

0022:名無しのリスナー

 

21時だぞお前ら!!!!!!!

 

 

0023:名無しのリスナー

 

前1000何しゃしゃり出てるの???生きてて恥ずかしくない???悔い改めて??????

 

 

0024:名無しのリスナー

 

21時!!!!

はじまた!!!!!!!

 

 

0025:名無しのリスナー

 

ヘイリィ!!!!!!

 

 

0025:名無しのリスナー

 

へいり!!!!!(かわいい

 

 

0026:名無しのリスナー

 

ヘイシリィ!!!!!!!!

 

 

0027:名無しのリスナー

 

ここは実況スレじゃねえぞ!!!

 

ヘイリー!!!!!!

 

 

0028:名無しのリスナー

 

待ってた

 

 

0029:名無しのリスナー

 

おうたの動画見てないリスナーおる????

 

 

0030:名無しのリスナー

 

おうた投稿たすかる

 

 

0031:名無しのリスナー

 

当たり前だよなぁ??

 

 

0032:名無しのリスナー

 

アンコール!!!!

アンコール!!!!!!

あとぱんつ!!!!!!!!!

 

 

0033:名無しのリスナー

 

 お ま 

 か さ 

 わ か 

 り の 

 

 

0034:名無しのリスナー

 

追加だ!!!

おうたの追加だ!!!!!!

 

 

0035:名無しのリスナー

 

わかめちゃんやさしい……ちゅき……

 

 

0036:名無しのリスナー

 

アカペラまじか

 

 

0037:名無しのリスナー

 

本気かwwww生放送でアカペラ披露とかどんだけ自信あるのwwwwwww

 

 

0038:名無しのリスナー

 

マジかよつええ……生放送とか一発勝負じゃん……

 

 

0039:名無しのリスナー

 

聞きます

 

 

0040:名無しのリスナー

 

おま

 

 

0041:名無しのリスナー

 

は????

 

は??????????  すき

 

 

0042:名無しのリスナー

 

まって鳥肌

 

 

0043:名無しのリスナー

 

やば

 

 

0044:名無しのリスナー

 

うそでしょ

 

 

0045:名無しのリスナー

 

声きれい(小並感

 

 

 

 

………………

 

 

………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

 

 

 

0120:名無しのリスナー

 

みんな語彙力死んでてワロタwwwwww

 

笑えねえよ何だアレ…………なんだあれ…………

 

 

0121:名無しのリスナー

 

おうたガチ勢

 

 

0122:名無しのリスナー

 

生放送でコレは強い。つよすぎ

調整一切入れてない生の声でコレってことでしょ?やばくね??

 

 

0123:名無しのリスナー

 

ワイ音楽専攻現役大学生しめやかに大量失禁

 

 

0124:名無しのリスナー

 

マジで何者だわかめちゃん……

音程や歌声は当然ヤバイけどその上で

英語の発音がマジありえん綺麗

 

 

0125:名無しのリスナー

 

世界的著名な歌姫と比べても遜色無いと思うマジでマジマジで

 

 

0126:名無しのリスナー

 

声の伸びと通りと安定感と透明感と柔らかさやばい

マジ何なんだこの声。溶ける

 

 

0127:名無しのリスナー

 

割とガチで誇張じゃなくプロ級なのでは

 

 

0128:名無しのリスナー

 

ワイ国際関係学部現役すこやかに大量失禁

 

 

0129:名無しのリスナー

 

そう、音楽的ヤバさに加えて語学的ヤバさも兼ね備えてるんだよな

ヤバさにヤバさが加わることで非常にヤバイ

おまけに可愛いさがまたヤバイので更にヤバイ。つまりヤバイ

 

 

0130:名無しのリスナー

 

声すき……バイノーラルささやきCDほしい……

 

 

0131:名無しのリスナー

 

かわいいだけのロリかと思いきや大人びた歌声とのギャップに死んだ

マジで何者だこの10才児

 

 

0132:名無しのリスナー

 

これはスタンでィん具オペレーションだわ

 

 

0133:名無しのリスナー

 

煩悩が浄化されるようだ……ぱんつみせて

 

 

0134:名無しのリスナー

 

唐突なブロ語が見えて何事かと思った

 

 

0135:名無しのリスナー

 

雑学たすかる

……まって、普通にかしこいのわかめちゃん

誰だよ『とてもかしこい(笑)』とか言ってた奴

 

 

0136:名無しのリスナー

 

>>133

浄化されてねえじゃん!!!!!

 

わかめちゃんぱんつみせて

 

 

0137:名無しのリスナー

 

他のおうた得意URの者とおうたコラボしてほしい……

URの者でライブとかやってほしい……

 

 

0138:名無しのリスナー

 

とりあえずもうURじゃねえな…………ねえよな????

どうみても実在だよな?????

 

 

0139:名無しのリスナー

 

わかめちゃん先生の講義もっと聞きたいです!!!!

おみみが寂しがっているんだ!!!!!

 

 

0140:名無しのリスナー

 

俺わかめちゃんの授業ならちゃんと真面目に受ける

 

 

0141:名無しのリスナー

 

ワイにも特別講義(実技)施してほしい

 

 

0142:名無しのリスナー

 

わかめちゃんに保健体育教えてほしい

 

 

0143:名無しのリスナー

 

知的な側面……実在していたのか……

 

 

0144:名無しのリスナー

 

>>141

>>142

(´・ω・`)お前ら……死ぬのか……

 

 

0145:名無しのリスナー

 

(幼)女教師わかめちゃん……アリだな

 

 

0146:名無しのリスナー

 

ロリエルフの養護教諭ですって!!?!?

 

 

0147:名無しのリスナー

 

恐らく世界トップレベルに尊い讃美歌を聞かされたというのにこのスレは相変わらず煩悩まみれである

 

 

 

 

………………

 

 

………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

 

 

 

0350:名無しのリスナー

 

本編はじまるよ

 

 

0351:名無しのリスナー

 

おいおいおいおいおいおい

アレが前フリかよwwwwwwwwwww

 

 

0352:名無しのリスナー

 

本編…………だと……!?

 

 

0353:名無しのリスナー

 

なにが始まるんです?

追加情報はやく

 

 

0354:名無しのリスナー

 

なんでもいい、もうわかめちゃんがかわいいからなんでもいい

 

 

0355:名無しのリスナー

 

ファーーーーーwwwwwwwwwwww

 

 

0356:名無しのリスナー

 

まさかの

 

 

0357:名無しのリスナー

 

輪っかのやつwwwwwwwwwwwww

 

 

0358:名無しのリスナー

 

わかめちゃん大丈夫?運動できる?

 

 

0359:名無しのリスナー

 

待って、まさかこのままやるのか

 

 

0360:名無しのリスナー

 

おいおいマジか、そうか若芽ちゃんってこの若芽ちゃんが運動するってア!!!!!

 

 

0361:名無しのリスナー

 

おみあしキタァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!

 

 

0362:名無しのリスナー

 

エッッッッッッッ!!!!!!!!!

 

 

0363:名無しのリスナー

 

見えっ…………見えそ………………見えた!!!!!(幻覚

 

 

0364:名無しのリスナー

 

@morikasxxxx:私が貢ぎましたd(^ω^)b

 

モリアキマッママジGJ!!!!!!!!!

 

 

0365:名無しのリスナー

 

ふとももチラ拝めただけで神回間違い無しだわ

永久保存版だわ

 

 

0366:名無しのリスナー

 

ロリエルフのおみあしチラえちちちちすぎて越後屋がんばっちゃうわ

 

 

0367:名無しのリスナー

 

>>364

モリアキ神ならやってくれると信じてました

マジわかってる……マジ神……

 

 

0368:名無しのリスナー

 

>>364

悪びれた様子の無いモリアキママに対してわかめちゃんのこのジト目よ

正直たまらん……

 

 

0369:名無しのリスナー

 

ももチラといいジト目といい撮れ高多いな!!!!神か!!!!

 

 

0370:名無しのリスナー

 

わかめちゃんの運動神経たのしみ

 

 

0371:名無しのリスナー

 

わかめちゃんの軽蔑の眼差しすこ

 

 

0372:名無しのリスナー

 

待って、その格好のまま運動すんの?

 

 

0373:名無しのリスナー

 

お着替えは!?!??

体操服は!!!!!!!

 

 

0374:名無しのリスナー

 

どう見ても運動に不向きな格好なんですが大丈夫なんですか

 

 

0375:名無しのリスナー

 

わかめちゃん大丈夫?ローブ脱がなくていいの?

 

 

0376:名無しのリスナー

 

輪っかのやつwwwwwwwwwww

正直今更感あるけどわかめちゃんなら楽しみ

 

 

0377:名無しのリスナー

 

実在ロリエルフは果たして万能なのか

かしこいだけじゃなく運動もつよつよなのか

 

 

0378:名無しのリスナー

 

あのアバターってか衣装のままやるつもりかwwwwww

URならまだしも実在だったら苦行やぞwwwwwwwww

 

 

0379:名無しのリスナー

 

>>377

エルフったら弓持って機敏なイメージあるしつよつよわかめちゃんなのでは(期待

 

 

0380:名無しのリスナー

 

提供wwwwwwwwwwww

 

 

0381:名無しのリスナー

 

アイキャッチが提供wwwwww

徹底してんなぁwwwwwwwwwwww

 

 

0382:名無しのリスナー

 

ご覧の諸悪の根元(スポンサー)の提供でお送りします

これは草wwwwww

めっちゃ棘棘しい声すき

 

 

0383:名無しのリスナー

 

そこはかとなく不機嫌なのかわいいかよ

 

 

0384:名無しのリスナー

 

@morikasxxxx:筆頭株主ウェーーーイ(((^ω^)))

 

楽しんでんなぁこの諸悪の根源(スポンサー)wwwwww

 

 

0385:名無しのリスナー

 

放送局だもんなwwwwww

不機嫌声すき

 

 

0386:名無しのリスナー

 

さすがにCMは無いか

あったら怖いわ

 

 

0387:名無しのリスナー

 

アイキャッチ画のわかめちゃんかわいいかよ

 

 

0388:名無しのリスナー

 

この表情すき

超えもすき

 

 

0389:名無しのリスナー

 

壁紙にしたい

 

 

0390:名無しのリスナー

 

例のスポンサー特権って他に何貰えてるんだろうな……生写真とか?

まさか使用済みパ

 

 

0391:名無しのリスナー

 

わかめちゃんの激しい運動シーンと聞いて飛んできました

間に合った!!!

 

 

0392:名無しのリスナー

 

はやくして

ちんち冷えちゃう

 

 

0394:名無しのリスナー

 

実質実況スレと化してる件

 

 

0395:名無しのリスナー

 

スポンサー契約って受付してないのかな……我も貢ぎたいゾ

 

 

0396:名無しのリスナー

 

はじまた

 

 

0397:名無しのリスナー

 

きちゃ

 

 

0398:名無しのリスナー

 

まってた

 

 

0399:名無しのリスナー

 

着替えてない!!!だと!!!!!

 

 

0400:名無しのリスナー

 

本編はっじまっるよーーーーー!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

………………

 

 

………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

 

 

 

0559:名無しのリスナー

 

華麗な自爆wwwwwwwww

 

 

0560:名無しのリスナー

 

無茶な設定するからだよぉ!!!!

 

 

0561:名無しのリスナー

 

どおしてそんな変なところで強情になるのwwwwwwかわいいかよwwwwwwwww

 

 

0562:名無しのリスナー

 

案の定ヘナチョコじゃねえか!!おもったとおりだよわかめちゃん!!視聴者みんな予想できてたぞこの展開!!!!

 

 

0563:名無しのリスナー

 

なんで三十代男性なんだ……

 

 

0564:名無しのリスナー

 

どうして10歳幼女にしなかったんだ

 

 

0565:名無しのリスナー

 

あーあーあーあー…………

そんなにお顔赤らめちゃって……いけない子ですね……

 

 

0566:名無しのリスナー

 

おれこのゲーム初見なんだけどさ……これボスじゃないんだよね???

 

 

0567:名無しのリスナー

 

言わんこっちゃない

 

 

0568:名無しのリスナー

 

荒い息づかいのわかめちゃんえちちすぎやろ

 

 

0569:名無しのリスナー

 

すごいことに気づいた

耳閉じてわかめちゃんの声に専念するとこれもう全年齢じゃない

 

 

0570:名無しのリスナー

 

ガードできてねえwwwwwwwww

おまたいたいwwwwwwこっちはおなかいたいわwwwwww

 

 

0571:名無しのリスナー

 

あーあーあー直撃だよ……

悲鳴かわいい……おまたいたい連呼えちちえち……

 

 

0572:名無しのリスナー

 

「ぬ゛ュヤーー!!?」

なんだこのおもしろい悲鳴

 

 

0573:名無しのリスナー

 

どうしよう……むらむらしてきた

おまた連呼はだめですって……

 

 

0574:名無しのリスナー

 

>>566

ドラ◯エでいうところのスライムやぞ

 

 

0575:名無しのリスナー

 

顔真っ赤だし汗だくだし涙にじんでるし

やべーぞ!ちょっといやらしい雰囲気だ!!

 

 

0576:名無しのリスナー

 

悲鳴と喘ぎ声と荒い息づかい…………ウッ

 

 

0577:名無しのリスナー

 

素直に10yoの負荷設定にしないから……

 

 

0578:名無しのリスナー

 

三十代男性ってモリアキマッマか?

 

 

0579:名無しのリスナー

 

がんばえー!

わかめてゃー!がんばえーー!!

 

 

0580:名無しのリスナー

 

ローブがまくれ上がるたびにふとももがチラチラしてるのがとても下半身にわるいですね!!!!

 

 

0581:名無しのリスナー

 

難易度下げてもいいのよ……?

 

 

0582:名無しのリスナー

 

>>578

マッマにつよつよをアピールしたかったのかな……

結果はこのざまだけど……

 

 

0583:名無しのリスナー

 

あーあ……

的確にガード失敗するの草も生えない

喘ぎ声たすかるけど

 

 

0584:名無しのリスナー

 

ここまで苦戦する子初めて見たわ……

表情と顔色と汗を見る限り……コレで本気なんだろうなぁ

 

 

0585:名無しのリスナー

 

だんだんかわいそうになってきたんだが……

 

 

0586:名無しのリスナー

 

これ負けるんじゃ

 

 

0587:名無しのリスナー

 

あっ

 

 

0588:名無しのリスナー

 

あっ……

 

 

0589:名無しのリスナー

 

 

 

0590:名無しのリスナー

 

イチのイチでしぬやつおりゅ……???

 

 

0591:名無しのリスナー

 

し、しんでる……

 

 

0592:名無しのリスナー

 

崩れ落ちたwwwwww

 

 

0593:名無しのリスナー

 

キツそう……

 

わかめちゃんキツそう……(意味深

 

 

0594:名無しのリスナー

 

荒い息づかいたすかる……

ていうか無言www単純にしゃべる気力もないんかwwwwww

 

 

0595:名無しのリスナー

 

みんな止めたじゃん……なんでハードモードにしたの……

難易度下げてええんやで……

 

 

0596:名無しのリスナー

 

撤退は許可出来ない

 

繰り返す。撤退は許可出来ない

 

 

0597:名無しのリスナー

 

※欄のおまえら鬼畜wwwwww

わかめちゃんは今泣いてるんだぞwwwwww

 

 

0598:名無しのリスナー

 

視聴者ニキの非道っぷりわらうでしょwww

 

 

0599:名無しのリスナー

 

無理しないでね……喘ぎ声たすかるけど……

 

 

0600:名無しのリスナー

 

キレたwwwwww

 

 

0601:名無しのリスナー

 

おくちがわるくてよ

 

 

0602:名無しのリスナー

 

コンチキショーwwwwww

 

 

0603:名無しのリスナー

 

何なんその逆ギレwww

 

 

0604:名無しのリスナー

 

もっとののしって

 

 

0605:名無しのリスナー

 

気を取り直して

 

 

0606:名無しのリスナー

 

わかめてゃー!がんばえーー!!

 

 

0607:名無しのリスナー

 

休憩しないで大丈夫か???

 

 

0608:名無しのリスナー

 

なんで即再開したのwwwwww

 

 

0609:名無しのリスナー

 

しにそうなのにwwwwww

さすがにリアル休憩挟んだ方がいいのでは

 

 

0610:名無しのリスナー

 

は???

 

 

0611:名無しのリスナー

 

は?

 

……………………は?

 

 

0612:名無しのリスナー

 

は????

どゆこと?????

 

 

0613:名無しのリスナー

 

は??????????

 

 

0614:名無しのリスナー

 

ここもコメ欄も『は?』乱舞でワロタ

 

 

0615:名無しのリスナー

 

は????

 

なに????え????

 

 

0616:名無しのリスナー

 

代打?

 

 

0617:名無しのリスナー

 

え、なんで?は??

 

 

0618:名無しのリスナー

 

めっちゃスムーズじゃん

 

 

0619:名無しのリスナー

 

人が変わったかのように静かなんですが

 

 

0620:名無しのリスナー

 

鼻唄混じりじゃん

わかめちゃんどうしたの???マジで何があったの????

 

 

0621:名無しのリスナー

 

設定変更してないよな……

する隙無かったよな……

 

 

0622:名無しのリスナー

 

にゃーん……

 

 

0623:名無しのリスナー

 

これが本気……なのか……?

いや、でもな……さっきまでのあの事後わかめちゃんが演技なわけないよな……

 

 

0624:名無しのリスナー

 

どういうことだよ!?!?!?

マジわけわかめちゃんなんだが!?!!!?

 

 

0625:名無しのリスナー

 

クソザコ体力がいきなり素敵に……

バフ魔法とか???

 

 

0626:名無しのリスナー

 

同一人物だもんな、入れ替わる隙なんて無かったぞ

ずっと見てたぞ

 

 

0627:名無しのリスナー

 

やはりわかめちゃんはつよつよだった??

 

 

0628:名無しのリスナー

 

バフ魔法wwwwww

 

 

0629:名無しのリスナー

 

は??バフ魔法??

 

 

0630:名無しのリスナー

 

魔法て

 

マジかよ

 

 

0631:名無しのリスナー

 

リアルチートwwwwww

 

 

0632:名無しのリスナー

 

わけわかめちゃんなんだが!!!!

 

 

0633:名無しのリスナー

 

禁止じゃないですし、って……

魔法って公言しちゃったんじゃ……

 

 

0634:名無しのリスナー

 

あのさぁ……

 

 

0635:名無しのリスナー

 

いや、あの……普通魔法ってもっと秘匿しようとするもんなんじゃない?何あっさりゲロっちゃってるわけ……??ぽんこつかな???

 

 

0636:名無しのリスナー

 

バフ魔法って何かの比喩だろ

 

 

0637:名無しのリスナー

 

バフ魔法ってなんのこと

 

 

0638:名無しのリスナー

 

でも他にプレイ楽になる要素無ぇーもんな……

 

 

0639:名無しのリスナー

 

あっ

 

 

0640:名無しのリスナー

 

ちょwwwwww

 

 

0641:名無しのリスナー

 

ポンコツふたたび

 

 

0642:名無しのリスナー

 

うわうわうわ、一気に瓦解したぞwwwwwwwww

 

 

0643:名無しのリスナー

 

どうしたわかめちゃんwwwさっきまでの鼻唄混じり楽勝ムーブはどうしたわかめちゃんwwwwww

 

 

0644:名無しのリスナー

 

「これが実力ってやつですよ」

 

 

0645:名無しのリスナー

 

おかえり

いつもの

実家のような安心感

 

 

0646:名無しのリスナー

 

宿命の対決(最序盤クソザコエネミー)

 

 

0647:名無しのリスナー

 

これは負けですわ

 

 

0678:名無しのリスナー

 

勝てる要素が何もないwwwwww

 

 

0649:名無しのリスナー

 

さっき見たやつだこれ

 

 

0650:名無しのリスナー

 

が、、、がんばえー……

 

 

0651:名無しのリスナー

 

バフ魔法とは一体

 

 

0652:名無しのリスナー

 

わかめちゃん……もうだめみたいですね……

 

 

0653:名無しのリスナー

 

命乞いwwwwww

 

 

0654:名無しのリスナー

 

必死の命乞い草生える

 

 

0655:名無しのリスナー

 

あーーっいけませんこれは!これはいけません!!けしからんですよこれは!!あーーっ!いけませんこれは!!あーーっ!!あーーっ!!けしからんですよ!!あーーっ!!

 

 

0656:名無しのリスナー

 

しwwwんwwwだwwwwww

 

 

0657:名無しのリスナー

 

なぁおれこのゲーム初見なんだけどさ……ボスじゃないんだよね???

 

 

0658:名無しのリスナー

 

わかめちゃん……

 

 

0659:名無しのリスナー

 

崩れ落ちたwwwwww

 

 

0660:名無しのリスナー

 

大の字で伸びてるわかめちゃんかわいいかよ

もうちょっと足開いて

 

 

0661:名無しのリスナー

 

ぱんつみえそ

 

 

0662:名無しのリスナー

 

もう許したげてよぉ!!!

 

 

0663:名無しのリスナー

 

ウーーーンさすがにかわいそうになってきたぞ……

 

 

0664:名無しのリスナー

 

やっべ……完全に事後じゃんこれ……エッッッッッ

 

 

0665:名無しのリスナー

 

もう……難易度下げても良いんやで……

 

 

0666:名無しのリスナー

 

ジョグコンになってわかめちゃんのスカートの中で深呼吸したい

わかめちゃんのふとももにしがみついて暮らしたい

 

 

0667:名無しのリスナー

 

目つぶって音だけ聞いてると完全に事後

 

目開いても絵面が完全に事後

 

 

0668:名無しのリスナー

 

かわいそうはかわいい

 

 

 

 

………………

 

 

………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

 

 

0943:名無しのリスナー

 

まさかステージ1でこんなに感動するとは思わなかった

 

 

0944:名無しのリスナー

 

めっちゃ脚プルプルしてるwww

生まれたての小鹿かよwwwwww

 

 

0945:名無しのリスナー

 

ウーーーン見上げたプロ根性よ……

 

 

0946:名無しのリスナー

 

笑顔めっちゃ引きつってるwwwwww

無茶な設定するからだよぉ!!!

 

 

0947:名無しのリスナー

 

よくがんばった……

進捗はクソザコだけど……

 

 

0948:名無しのリスナー

 

次回は普通の10yo設定で良いんやで……

 

 

0949:名無しのリスナー

 

負けず嫌いかわいい

あとえちちえち

 

 

0950:名無しのリスナー

 

結局えちえちとバフ魔法の謎が残されたな

 

 

0951:名無しのリスナー

 

今夜のオカズはこれにしような……

 

 

0952:名無しのリスナー

 

脚めっちゃシコだった

いろんな衣装着てほしい……

おみあしもっと披露してほしい……

 

 

0953:名無しのリスナー

 

いかないで

 

 

0954:名無しのリスナー

 

魔法実在説

もはや実写を疑う余地無いのでは

 

 

0955:名無しのリスナー

 

次回予告は……無いかぁ、またやいたー(SNS)張り付いとかんとな

 

 

0956:名無しのリスナー

 

おk950俺だったわ。立ててくる

 

 

0957:名無しのリスナー

 

『バフ魔法』という通り名の……何か補助器具?

 

 

0958:名無しのリスナー

 

でもあのバフ魔法のときだけあからさまに動き良いんだよな、じっさい。

わかめちゃんも息荒くなかったし

 

 

0959:名無しのリスナー

 

まさか本当に魔法使えるわけでも…………いや、どうだろな……

 

 

0960:名無しのリスナー

 

正直わかめちゃんならマジもんの魔法使えててもおかしく無いと思うぞ。

だって実際のとこエルフだもんな、それだけでもうファンタジーよ

 

 

0961:名無しのリスナー

 

>>950

thx、スレ頼む

 

それはそうとわかめちゃんの命乞いめっちゃ興奮した

めっちゃ濃いの出た

 

 

0962:名無しのリスナー

 

またねー!

 

 

0963:名無しのリスナー

 

またねーー!!!

濃いの出た

 

 

0964:名無しのリスナー

 

次はもっとはやく予告を

 

 

0965:名無しのリスナー

 

またね!!!

 

 

0966:名無しのリスナー

 

ヘィリィ!って挨拶すきだな

何語なんだろ……エルフ語?

 

 

0967:名無しのリスナー

 

ばいばーい!!

 

 

0968:名無しのリスナー

 

わかめちゃのえちちが捗る回でしたね……

 

 

0969:名無しのリスナー

 

またね!!!!

 

 

0970:名無しのリスナー

 

流れ早いぞ、次スレ間に合うんか?

 

 

0971:名無しのリスナー

 

【ちょっとだけ】木乃若芽ちゃんを語るスレ_第四夜【ですよ?】

htfps://ch_fiction/indextop/qawsedrftg201912aw/yo4514/

待たせたなロリコンどもめ

 

 

0972:名無しのリスナー

 

いやーー良い一日だった

 

 

0973:名無しのリスナー

 

わかめちゃんの魅力となぞが深まった

疑惑は深まった!!疑惑は深まった!!

 

 

0974:名無しのリスナー

 

>>971

間に合ったか!!あざーーす!!

ちょっとだけといわずに見せてほしいな

 

 

0975:名無しのリスナー

 

ママ……いかないでママ……

 

 

0976:名無しのリスナー

 

明日から月曜憂鬱だけどがんばれる

わかめちゃんありがとう

 

 

0977:名無しのリスナー

 

>>971

スレ立て乙

なかなか良いピックアップだと感心するが別におかしいところは無い

 

 

0978:名無しのリスナー

 

>>971

乙あり

 

わかめを見る会発足しようぜ

わかめ料理頂きながらわかめちゃんを眺める会だよ

 

 

0979:名無しのリスナー

 

1000ならわかめちゃんは俺の姉

 

 

0980:名無しのリスナー

 

>>971

たすかる

それ埋めろ埋めろ

脱がせ脱がせ

 

 

0981:名無しのリスナー

 

はー……明日からがんばろ……

 

 

0982:名無しのリスナー

 

前スレのシェフ再臨しねーかな

ちょっと今回のはえっちすぎでしたわ

 

 

0983:名無しのリスナー

 

情報出るの遅いよな

個人勢ならこんなもんか?ぷちさんち勢が手厚すぎんのか?

 

 

0984:名無しのリスナー

 

いやーー切り抜き動画楽しみだわ

エコーかけるなよ、絶対喘ぎ声にエコーかけるなよ(ぱんつぬぎながら

 

 

0985:名無しのリスナー

 

わかめちゃんに抜きゲーの声やってほしい

 

 

0986:名無しのリスナー

 

1000なら絆創膏

 

 

0987:名無しのリスナー

 

わかめちゃんなら俺の上でコシフリしてるぜ

 

 

0988:名無しのリスナー

 

性欲に忠実だ……

 

 

0989:名無しのリスナー

 

1000ならこどもブラとこどもパンツ

 

 

0990:名無しのリスナー

 

1000なら紐ぱん

 

 

0991:名無しのリスナー

 

1000なら絆創膏

 

 

0992:名無しのリスナー

 

1000ならロリエルフセミヌーd

 

 

0993:名無しのリスナー

 

1000ならスパッツ接写

 

 

0994:名無しのリスナー

 

クソザコ1000踏み潰しニキが沸く前に埋まれ埋まれ

1000ならメイド服

 

0995:名無しのリスナー

 

1000ならスク水!!!

 

 

0996:名無しのリスナー

 

1000ならくまさんぱんつ

 

 

0997:名無しのリスナー

 

相変わらず煩悩まみれwwwwww

1000ならぱんつ解禁

 

 

0998:名無しのリスナー

 

1000なら絆創膏支援

 

 

0999:名無しのリスナー

 

1000ならマイクロビキニ!!!

 

 

1000:名無しのリスナー

 

>>994

失礼だなwwwwww

おれだってさすがにそろそろ空気読むわ

もう出しゃばんねえよwww

 

 

1001:

 

このスレッドは1000を越えました。

次回の放送をお楽しみに!

 

 

 



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55【写真撮影】馬子にも衣装ってやつ

 

 

 あれよあれよと衣装部屋に通され、何点かの衣装(というか子ども用の冬物衣料)を手渡されたおれは、男性二人と別れ更衣スペースでもそもそと着替えを行っていた。

 タートルネックのモコモコした白のセーターと、淡いベージュのカーディガン。スカートは膝丈で、色は洋栗色(チェスナットブラウン)をチョイス。キャラメルカラーのショールも併せ、全体的に落ち着いたアースカラーの冬コーデだ。

 

 なるほど……さすが数多くの女の子を相手してきた(※語弊あり)だけあって、鳥神(とりがみ)さんのセンスはなかなかのように思えた。

 緑色という奇特なおれの髪色を鑑みて、色が真正面からぶつかり合わないように相性の良い色系統で纏められている。

 加えて、全体的に暖かいのがありがたい。館内は空調が効いているとはいえ、上着(ローブ)を脱ぐときの『ひやっ』と感はやっぱり慣れない。

 

 ……と、あまりのんびりしてもいられない。三人を待たせるわけにもいかないだろう。

 おれが服を脱ぐところまで一緒にいた白谷さんは、『お目当てのシーンは堪能したから』『楽しみは取っておきたいから』とか何とか言ってモリアキ達の方に飛んでいってしまった。

 楽しみはまあ……コーデの仕上がりって解るけど、お目当てのシーンって何のことやろ。堪能って……はて。

 

 まぁ細かいことはどうでもいい。仕上げに栗色のキャスケット帽をちょこんと頭に乗せ、最近少しずつ履き慣れてきているレザーブーツを履いて、おれは更衣室を後にした。

 

 

 

 

 「(おぉ~~~~)」

 

 「……何なんですか二人し……こほん」

 

 「やっぱ可愛いな。思ってた以上に可愛い。……ぶっちぎりだ」

 

 「そ、それは……どうも?」

 

 

 

 モリアキの紹介で、彼の知人が勤めるフォトスタジオに拐っ……連れて来て貰ったところ……どうやらカメラマンを務めてくれるらしい鳥神(とりがみ)さんは、なんとおれの動画を見ていてくれている視聴者さんだった。

 そのことを知ったときに思わずモリアキに視線を飛ばしたら、どうやら彼も知らなかったらしい。彼にしては珍しく驚いた顔で、おれに向けて首を横に振っていたっけ。

 

 しかし……鳥神さんはフォトスタジオの留守番を任されているだけあって、なんでも一通りこなせる万能選手のようだ。

 撮影や編集は当然のこととして、衣装や小物のセッティングやコーディネートまでやってのけるとは。出来る男、って感じで非常にかっこいい。神の名は伊達じゃないってことか。ちがうか。

 

 それにしても……(バード)(ゴッド)(ドラゴン)を慈しむって。名前カッコ良すぎでしょ。

 

 

 

 「よしじゃあ早速だけど、何枚か撮ってみっか」

 

 「ヨッシャ(たの)んますトミさん! とびっきりの美少女に撮ったって(くだ)せぇ!」

 

 「何があなたをそこまで駆り立てるんですか!?」

 

 「若芽ちゃんの可愛さを世に知らしめるためっすから!!」

 

 「そういうことならまぁ任せとけ。……つっても素材が…………あぁ、悪い。……本人がもう既に…………コレだからなぁ」

 

 「そうなんすよね。そこを更にコレする感じで」

 

 「何の話をしてるんですか!? コレって何!?」

 

 

 不安でしかないおれの……()()()の内心をよそに、二人はアレとかコレとか謎多き会話を繰り広げている。

 しかしこの場においてはわたし自身に自由などあるハズもなく……幸か不幸か『若芽ちゃん』を知っている第三者の手前、キャラクター(若芽ちゃん)を前面に押し出して『聞き分けの良い子』を演じるしかない。

 

 そうだ……思い出せ。どうせ最初からわたしに選択肢なんて無いのだ。

 ただ流されるがまま、プロに全てを任せれば良いだけなのだ。

 

 

 「じゃあそこの幕の前に立って……前の画面見えるかな? そこに女の子の写真が映るから、とりあえずはその真似してくれれば良いから」

 

 「わかりました。……お手本、みたいな感じですか?」

 

 「そそそそ。まぁお手本ってか……参考かな? そんなに難しくないし、あくまで参考だから。正確さを求めてるワケじゃないし、なんだったら写真を参考にオリジナルのポーズでも良いよ」

 

 「そこまで出来る自信は無いですが……! えっと……まぁ、宜しくお願いします」

 

 「はい、宜しくね。まぁ気楽に行こう」

 

 

 人当たりの良さそうな鳥神さんの笑みを受け、緊張がスーっと消えていくのを感じる。

 顔を出した放送局局長の意地がそうさせているのか、はたまた鳥神さんに……そういう緊張をほぐす何かがあるのか。

 

 恐らくは前者だが……鳥神さんと言葉を交わすうちに、気持ちがどんどんオープンになっていくような感じを受けたのも、また事実。

 今日のお昼を一緒したサキちゃん(仮名)メグちゃん(仮名)もそうなのだが……モリアキや白谷さん以外の人と会って話をするのも、思っていたほど悪くはないと気づいた。

 

 

 そのことに気づかせてくれたことは、ありがたいと思うんだけど。

 果たして……この撮影はどれくらい続くんだろうか。

 まぁ……こうなったらとことんやってやりますよ。ポーズ決めるのもだんだん楽しくなってきたし。

 

 

 

 ……えっ、チェンジ?

 何……あぁ、別の衣装に着替えてこいってことね。了解です、わかりました。

 

 つぎの衣装は……えっと、テーブルの上?

 

 あ、はい。わかりました。じゃあ更衣室いってきますね。

 

 

 おや、どうやら白谷さんも付いてきてくれるらしい。面倒見が良い子だ、ありがたい。

 

 

 さーて。つぎのコーデはどんなんだろうな!

 

 

 



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56【写真撮影】いろんな装備揃ってます

どうやら昨日夜の更新が出来ていなかったようです。
こちらの予約投稿漏れによるものでした。大変失礼致しました。
お詫びに局長が



 「…………なぁ、おいカスモリさんよ。あの子ヤベェぞ」

 

 「やっぱヤベェっすか、トリガミさん」

 

 

 先輩(と姿を隠したままの白谷(ニコラ)さん)が消えていった更衣室のドアへ目を向け、カメラマンを務める鳥神(とりがみ)氏がポツリと呟く。

 彼はこの『スタジオえびす』にて、老若男女問わず多くのお客さんを写真(と動画)に収めてきた人物である。それこそ母親に抱き抱えられる乳幼児から、立っているのもやっとなお年寄りまで。年齢も性別も家族構成も世帯収入も、ときには国籍さえも異なる様々な人たちと向かい合ってきた。

 

 どちらかというと人との触れ合いが皆無な……引きこもり気味なオレの仕事と異なり、バリバリの対人スキルが必要とされる職業だ。どんな人にも対応できる接客技能に加え、多岐に及ぶ専門技能と専門知識を兼ね備えた彼、鳥神(とりがみ)竜慈(りゅうじ)をもってして『ヤベェ』と言わしめる少女。

 

 それが、木乃若芽ちゃん。

 ……つまりは先輩だ。

 

 

 

 「あんまプライバシー掘り出すんも良くないって解ってっけどさ……あんな人目引く上に可愛い子がまだ手付かずだったってのがまず信じらんねぇ。十歳とは思えねーくらい落ち着いてるし、聞き分けは良いし物わかりも良いし物覚えも良いし……劇団から事務所から引く手数多だろ、普通」

 

 「それは……えっと…………スゴイッスネ」

 

 「そう、スゲーんだわ。まさにジュニアモデルとして必要な要素、片っ端から全部兼ね備えてんだぞ。オマケに度胸も中々だ。……気付いてっか? 途中からのポーズな、画面指示じゃなくあの子のオリジナルだったぞ」

 

 「そらまた場慣れしてるっていうか……撮られ慣れてるんすかね?」

 

 「……まぁ……そうかもな。そっか配信者(ユーキャスター)だもんな。…………いや、そうだ。そうだよ。さっきは流したけどよ……仮想(アンリアル)って話じゃ無ェの? お前SNS(やいたー)でキャラデザ携わってた云々(うんぬん)言ってたのって……あの子だろ?」

 

 「えっと、まぁ……なんてぇか…………色々ありまして。ちょっとオレの口から勝手に言える事じゃ無いっす、スマセン」

 

 「あー…………悪ぃ。……ってお前に詫びてもしゃーねーよな」

 

 「そっすね。とりあえず若芽ちゃん待ちますか。……そいえばトミーさん塔イベどこまで消化しました?」

 

 「とりあえず百階辿り着いた。もう二度とやりたく無ぇ」

 

 「ええスゲェ、オレまだ全然っすわ……無敵貫通マジ無理っす……てかゲージ割る毎に理不尽デバフばら撒いてくんのホント嫌……」

 

 「どんな編成? ちょい見せてみ?」

 

 「えーっと…………こんな感じす」

 

 「おけ、ちょい借りる」

 

 

 

 

 女の子の着替えがそう簡単に終わらないことくらい、オレ達だって認識している。今日は専門のスタイリストさんが居るわけでもないので、慣れない洋服とあっては尚更手間取ることだろう。

 

 先輩(若芽ちゃん)が衣装替えを終えるまで暇を持て余したオレ達は……しばし共通の時間潰しに興じるのだった。

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 更衣室へと移動したおれと白谷さんは、とりあえず言われた通りにテーブルの上を物色してみる。

 するとそこには『烏森用』と走り書かれた付箋が貼られたプラスチック(カゴ)が幾つか並び、それぞれに子ども用の衣類一式が仕舞われていた。

 おそらくは篭ひとつひとつで予めセット組みがなされており、数多あるそれらの中から数セットをピックアップしてくれたのだろう……スタイリスト的な人が不在でもある程度のコーディネートが行えるよう、業務効率化が図られた形跡が見てとれる。

 

 

 「ほへー、参考になる……おれ女の子の服装とかわかんないからなぁ」

 

 「なるほど、興味深いね。どれもこれも造りが繊細だ。……耐久性をあまり視野に入れていないのか」

 

 「白谷さんのいう『耐久性』って……もしかしなくても……」

 

 「うん、実戦に耐えうるかどうか」

 

 「そりゃあ視野に入れてないと思うよ……」

 

 

 とりあえず篭の中からひとつ、色合いが気に入った衣類を広げてしげしげと眺めてみる。せっかく更衣室を独り占めできるのでテーブルに並べてみて、ほうほうふむふむとコーディネートを目に焼き付けてみる。

 

 今回も全体的に秋冬コーデ、寒色系に寄せた落ち着いた色使いが特徴の組み合わせのようだ。

 黒の長袖インナーにごくごく淡いピンク(ほぼ白)のカーディガンを合わせ、下はカーキ色のミニスカート。貼り付けられていた写真を見る限りは、黒色のタイツと合わせると良い感じになるらしい。

 

 

 「タイツなぁ……買おっかなぁ、あったかそうだし」

 

 「この黒い脚衣? タイツっていうのか。……あるけど、出す?」

 

 「は?」

 

 「ちょっと待ってね。……すー……はー。……『我は紡ぐ(メイプライグス)……【蔵守(ラーガホルター)】』」

 

 「は!?!!!?」

 

 

 すごい、これが魔法か。他人が使っているのを客観的に見たのは初めてだ。

 

 白谷さんの目の前の空間が『うにょん』って歪んだかと思うと、その歪みがあっという間に拡がっていく。やがてその歪みが()()の形を(かたど)ったかと思えば……次の瞬間には歪みは消え失せ、黒い布状の()()が宙に浮いていた。

 

 得意気な笑みをうかべる白谷さんの、無言の(あつ)()されるように手を伸ばすと……どことなくひんやりとした、しかしデタラメに滑らかな布の感触が指に伝わってきた。

 

 

 「ぇえ…………すごい、何これ……」

 

 「『影飛鼬(シャルフプータ)』の特異個体、その腹の柔らかな毛を丁寧に紡いで、霊銀蟲糸(アストセイレク)と織り上げた脚衣だよ。【敏捷(シュブルク)】と【隠密(ファニシュテル)】がウリだけど【適化(オプニュフラ)】も当然刻んであるから、ノワの小さなお尻でも問題無いと思うよ」

 

 「待って待って待って、わかんない。単語の意味がなんとなく理解できちゃってる現状もワケわかんないけど……待って、白谷さん。もしかしてなんだけど……」

 

 「うん。考えてみたら、ボクは『全てを君に捧げる』って言ったもんね」

 

 「えっと、えっと、えっと…………待って、じゃあ……もしかしなくても……」

 

 「うん。まぁ……そうだね」

 

 

 虚空から白谷さんが取り出した、『影飛鼬(シャルフプータ)の脚衣』――間違いなく()()()()()()()()()()()()()()――それが意味するところに思い当たり……ファンタジーに染まり始めてきたおれの思考が、その結論にあっさりと辿り着く。

 

 今の白谷(ニコラ)さんの行動、発言。そして彼女()の符号【天幻】と、その得意とする分野。……それは、まさか。

 

 

 

 「見た感じ……きっちり()()残ってそうだね。【蔵守(ラーガホルター)】の()()

 

 「ちょっ」

 

 「さっきも言ったけど、ボクの全てはキミのモノ。つまりはこれらも全て……キミのモノだよ、ノワ」

 

 「おま」

 

 

 どこぞのガキ大将理論を魔改造したような、方向性は真逆ながら理不尽さではひけをとらない謎の理屈を告げられ……その言葉の意味をやっと理解することができたおれの口から絞り出されたのは……

 

 

 「…………すごいね」

 

 「ふふ。そうだろう?」

 

 

 小学生並みの、ひどく陳腐な一言感想……俗にいう『小並感』というやつだった。

 

 

 



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57【途中退出】撮影の途中ですが

なんとオリジナル日刊5位に入ってたらしいです!!まじか!!!
平素よりわかめちゃんと『のわめでぃあ』を応援していただき、本当にありがとうございます!!



 浪越(なみこ)市中央区の繁華街……位置的にはお昼に訪れた伊養町(いようちょう)の北方向、高層ビルや大型商業施設が建ち並ぶエリアの一画。

 だだっ広い片側四車線の道路に面した、老舗(しにせ)百貨店の一階部分。

 新年を迎えるにあたって、あるいは年の瀬に贅沢するため……各地の名店の品々を求める多くの人々で賑わっている()()の、ここは大紋百貨店の名品館。

 

 果物ゼリーの詰め合わせや、和洋の各種生菓子や、老舗の煎餅を扱うお店等々、目移りしてしまうような品揃えをのんびり眺め……る余裕なんかあるはずも無く。

 

 

 

 「おれFPS苦手なんだけど!!」

 

 『大丈夫なんとかなってる! スゴいよノワ!』

 

 「アッ本当だ! チクショウまじかよスゲェなおれの身体!!」

 

 『落ち着いてやれば大丈夫! ボクが守るから!!』

 

 「ありがと白谷さん! 好き!!」

 

 

 

 現代日本においてはあり得ない光景……全ての人が逃げ去り無人と化した百貨店内にて徘徊する異形の敵を片っ端から射抜き続ける、エルフの狩人の大立回りが繰り広げられていた。

 

 

 「動き遅いのがせめてもの救いだけど!」

 

 『ヒトを襲う気も薄いみたい……不気味だね』

 

 「不気味なのは格好だけにしてほしい……」

 

 

 そいつらを言葉で表現するのは……少々骨が折れそうだ。何せ今まで見たこともないような、それこそゲームやアニメの中でしか有り得ないような存在なのだ。

 それでも、どうにか端的に表すとするならば……『葉っぱが集まって出来たアンバランスなマネキン人形』だろうか。

 

 しかし『葉っぱ』とは言ったものの、質感や一枚一枚の形状こそ確かに葉っぱなのだが……ふつうの葉っぱが緑色から黄緑色なのに対し、どす黒い赤やらくすんだ赤やら濁った赤やら……言い方は悪いが、とても汚ならしい赤色をした葉っぱなのだ。

 加えて『マネキン人形』とは言ったものの……個体によってまちまちだが、両手が異様に大きいヤツやら頭部が異様に肥大化したヤツやら腕が気持ち悪いくらい長いヤツやら……なんていうかもう、色味と相まってとても気持ち悪い。

 

 

 「本当こいつら何なの……? 人を襲うでも略奪するでもなく、ただ徘徊してるだけ?」

 

 『コイツらは『葉』だよ。本体から分離した異形の一部。つまり』

 

 「主である『苗』の保持者が近くにいる、ってことか」

 

 『まぁそうだけど……目視できる範囲には居ないみたいだね』

 

 「面倒だ……なッ!」

 

 『同意だよッ!』

 

 

 おれの射った矢が『葉』の頭に突き立ち、硬直した『葉』を白谷さんの魔法がバラバラに切り刻む。

 こいつら『葉』は見た目こそややグロテスクだが、実際のところほぼ無抵抗なので一方的に攻撃できるようだ。

 あまりにもひどい見た目に遠距離攻撃を選択したけど、あいつらの緩慢さなら近接攻撃でも良かったかもしれない。……まぁやったこと無いんだけど。

 

 

 『それはそうと……弓の扱い(うま)いねノワ。弓術の心得でも?』

 

 「あるわけ無いけどそこはホラ、キャラ設定っていうか?」

 

 『なるほど。初めて触る武器でこれだけ()れれば大したものだよ』

 

 「あんまりうれしくないなぁ!」

 

 

 先程からおれが振り回している短弓は、この騒動の中に乗り込むにあたって白谷さんから提供され(借り受け)た『聖命樹の(リグナムバイタ)霊象弓(ショートボウ)』。だいたい察しがつくと思うけど、白谷さんの【蔵守(ラーガホルター)】の中に眠っていた装備品のひとつである。

 魔力を一時的に具象化・矢として放つことができるというこの弓は、白谷さん(いわ)く膨大な魔力量を秘めるおれにとって実質無料で()ちまくれるに等しい。おまけに証拠品を現場に残すことがない優れものだ。気に入った。

 これまで三十年余りを平和な国ニッポンで過ごしてきたおれにとって、武器の扱いが(うま)いというのは喜ぶべきではないのかもしれないが……しかし今回に限って言えば幸運(ラッキー)だったのは確かだろう。初めて『エルフでよかった』と思えたかもしれない。

 

 

 しかし……手早く済ませなければならないのに、肝心の『苗』の所在がわからない。

 白谷さんは先日『魔素(イーサ)の薄いこの世界では生育が遅い』と言っていたが、しかし現実として『葉』を落とす程までに生育してしまっているのだ。

 

 急がなければ、このままでは遠くないうちに『花』を付けてしまう恐れがあるし…………

 

 

 『あんまり時間掛けると……さすがに不審がられるだろうからね』

 

 「何十分もトイレってさすがに不審だよなぁ!」

 

 

 抜け出してきたフォトスタジオにいる面々、特に鳥神(とりがみ)さんに……感付かれてしまう恐れがあるのだ。

 

 

 

 

………………………………

 

 

 

 切っ掛けは……国営放送局の教育番組を垂れ流していた更衣室のテレビが、唐突に臨時ニュースへと切り替わったことだった。

 

 軽快な歌声がいきなり止み、緊迫したニュースキャスターの声色が流れ始め、『影飛鼬(シャルフプータ)脚衣(タイツ)』へ脚を通していたおれは何事かと振り向き……そこで見聞きしたものによって()()()()()()()()

 白谷さんがすぐ傍に居てくれて非常に助かった。なんでも【繋門(フラグスディル)】の登録座標(マーカー)が『喫茶ばびこ』さんの近くに刻印済だったらしく、いつでも()()()とのこと。

 『また来たいって聞こえたからね』とか苦笑してるこの子本当かわいいマジ天使だと思う。

 すぐさまモリアキに現状と希望を伝えるREIN(メッセージ)を送り、返事を待つ間もなく白谷さんに【繋門(フラグスディル)】を繋いでもらい……

 

 

 「待って待ってノワ、服。上すっぽんぽんだよ」

 

 「あっ!!」

 

 

 とりあえず黒の長袖インナーだけ袖を通し、白谷さんに手渡された装備を言われるがままに身に付け、いそいそと『門』へと飛び込んだのだった。

 

 

 伊養町の片隅に出現したおれは、幸いなことに誰にも見咎められることなく北進し、事件現場である中央区繁華街に到着した。

 騒動の中心地はすぐにわかった。この時期このタイミングでシャッターを全て下ろした百貨店、多くの警備員達が厳戒体制で取り囲んでいるので間違いないだろう。

 そんな警戒体制は『中から出ようとしているもの』に向けられており、おれのような『外から入ろうとしているもの』しかも空から侵入を企てる存在に対しては、てんで意味を成さない。

 

 屋上庭園から余裕綽々と侵入を果たし、店内コマーシャル放送のみが不気味に響き続ける無人の百貨店を捜索し始め……一階部分で奴らと対面した、というわけだ。

 

 

 

 あらかたの『葉』は殲滅できただろうが……あまり時間は掛けられない。

 事態を収拾させる方法、つまりは『苗』保持者を探しだす方法を探すべく……おれたちは必死に思考を巡らせ始めた。

 

 



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58【途中退出】狩り物競争だオラァ!

 

 

 大紋百貨店、歳末グランドバザール開催中。日頃より大紋百貨店をご愛顧頂いている皆様に、感謝の気持ちを込めたスペシャルプライスでご案内。気になるあの商品も、欲しかったあの商品も。あれもこれも、この機会に是非お買い求めください。

 

 ……何度目かわからないのんびりとした宣伝文句に、貯まる一方だったフラストレーションがついに限界を迎えてしまう。

 

 

 

 「『苗』の保持者を探せる探知機が欲しいんですが売ってますかね。お買い求めしたいです。ド◯ゴンレーダーみたいなやつ」

 

 『龍種探知機(ドラ◯ンレーダー)? すごいね、そんな代物があるの?』

 

 「え、えっと……いや……無いから…………欲しいな、って……」

 

 『あぁ…………気持ちは解るけど現実を見て』

 

 「さっきから必死に見てるよう!」

 

 

 

 幾度となく耳に入ってくる店内放送にみっともなく当たり散らしながら、魔素由来の現象を知覚できる固有視覚(エルヴン・アイ)を四方八方へ巡らせる。

 更には視覚だけでなく鋭敏な固有聴覚(エルヴン・イヤー)も並行して活用し、館内に残っている人間――恐らくは『苗』の保持者――を探すべく一階から上へと駆け上がっているのだが……何にせよこの大紋百貨店、百年以上の歴史があるだけあってか建物そのものが超巨大なのだ。

 

 地上七階地下二階建ての本館のほかに、お隣と道向うにはそれぞれ渡り廊下で繋がる別館がある。火災対策用の防火扉のお陰もあって『葉』は本館エリアに留められているようだが……そもそも『苗』をどうにかしないと根本的な解決にはならない。

 魔素(イーサ)を吸わせて新たな『葉』をばら蒔かれんとも限らないし、それほどまでに魔素(イーサ)を使わせればさらに生育を促してしまい……『花』を咲かせてしまう恐れがある。

 

 そうなれば勿論、宿主にされた人とて只では済まないだろう。

 

 

 

 「最初の『葉』はほぼ駆逐したから……新しく沸いたところがあれば『苗』の場所も推測できるんだけど……」

 

 『ここまで探したのに見つからないとはね……もっと上なのか、立ち入れない場所に隠れているのか……あるいは既に逃げ仰せたのか』

 

 「バックヤードもしっかり探してるのに! これ正体バレたら不法侵入でお縄(タイーホ)だよ!」

 

 『お(あつら)え向きの衣装があって良かったね。ほら、盗賊(シーフ)的な』

 

 「嬉しいような嬉しくないような!!」

 

 

 今現在おれが纏っている装備の数々は、フォトスタジオの更衣室で借りた『影飛鼬(シャルフプータ)脚衣(タイツ)』を始め、白谷さんの私物――つまりは異世界産の戦闘用装備――がその殆んどを占めている。

 敏捷性を優先した靴と、隠密性を優先したフード付外套、極めつけは銃刀法に抵触しそうな『聖命樹の(リグナムバイタ)霊象弓(ショートボウ)』。これらの非常識な装備と『若芽ちゃん』の性能(設定)により、姿を陽炎で隠したまま常人とは比較にならない俊敏さで駆けずり回っているのだが……その成果は芳しくない。

 

 自分自身の視覚と聴覚だけでなく、ちゃんと白谷さんの生体感知魔法でも探ってもらっているので見落としは無いはず。本館は今や屋上以外の出入りを完全に遮断されており、しかしながらこの逃げ場の無い館内において三階以下は空振りだったのだ。

 連絡通路や一階の出入口は防火シャッターで閉ざされているはずだし、もっと上層階に隠れているのだろうか。でもなければそれこそ窓ガラスでもブチ破るか、屋上から飛び降りでもしない限りは逃れようがないハズだが……百貨店の周囲全方向を警備員に囲まれている状況で、そんな派手なことが出来るハズがない。一瞬で見咎められて拘束されるだろう。

 

 

 

 

 (………………ん? 周囲?)

 

 

 ちょっと待って。何か引っ掛かる。落ち着いて考えてみよう。

 

 まず、一階部分でたむろしていた『葉』。これらは恐らく全部駆逐した。

 出入口は連絡通路も含めて全て封鎖済、一階から外へ出ることは不可能。

 本館館内の一階から三階。売り場にもバックヤードにも、誰もいなかった。

 つまりは……居るとしたら四階より上か。

 

 …………それとも。

 

 

 「白谷さん!!」

 

 『おっとぉ!? びっくりした……どうしたのノワ』

 

 「白谷さんは……『苗』の保持者、遠くからでも見ればわかる?」

 

 『……うん。感知することは出来る』

 

 「わかった。ちょっと頼みがある」

 

 『了解、何でも言ってくれ』

 

 

 焦りのあまり視野狭窄に陥っていたのだろうか。ちょっと落ち着けば解ることだ。

 エレベーターホール兼階段ホールに辿り着き、『上』ボタンを押し込んでエレベーターを呼び寄せる。……しかし自分で階段を上がった方が早いことに気づき、階段の吹き抜けを【浮遊(シュイルベ)】でかっ飛んでいく。

 

 目標は最上階、つい先程侵入してきたその出入り口。緑化が進められた屋上庭園へと飛び出し、改めて自分の身体全身に【陽炎(ミルエルジュ)】を纏っておく。

 ……案の定というか、聞き覚えのあるローター音。そりゃあそうだろう、全国規模で臨時ニュースが組まれるような出来事だ。報道ヘリの一機や二機飛んでこないハズがない。……気を付けないと。

 

 

 「白谷さんも探すの手伝って! たぶん回りの野次馬の中に()()!」

 

 『なるほど……これだけ高ければ一目瞭然だね』

 

 「でしょ。見てほら人がゴ……あっ居た!! 白谷さん!!」

 

 『…………うん、間違い無さそうだ』

 

 

 そもそもが、この世界の人間は魔素(イーサ)を殆んど持っていないのだ。そこへひときわ禍々しい魔素(イーサ)の反応があれば……これはもう間違えようがないだろう。

 予想通り……というか今更ながら本当に当たり前のことだが、あの『葉』を産み落とした『苗』の保持者は百貨店の外へ誘導された……館内から避難してきた人々の中。完膚なきまでに雑踏のど真ん中である。

 

 館内の『葉』が駆逐されたことを知っているのかいないのか、ここからだとさすがに表情を窺うことは出来ない。

 このまま大人しく『苗』を刈り取らせてくれれば良いのだけど、万が一あの密集地点で『葉』をばら蒔かれたり、それこそ実力行使に出られでもしたら……さすがに怪我人や大混乱は避けられないだろうう。

 

 

 「どうやって対処すれば良い……人の数が多すぎる、実力行使して大丈夫なの?」

 

 『いや危ないね、ノワの流れ弾が飛んでかないとも限らないし、『苗』本体の戦闘力が未知数だ。どうにかして人払いが出来れば良いけど……』

 

 「火魔法で爆発でも出して(かる)ぅく脅かすか……ん?」

 

 

 陽炎を纏ったままとはいえ……屋上の縁に立ち眼下を凝視する人影に、報道ヘリの一機が気づいたらしい。しきりにおれを探るように周囲を飛び回り、そのローター音が長い耳を刺激するが……その騒音とは別の()が、今まさに高速で近付いてきてることに気づく。

 

 その音の正体に思い当たり周囲に視線を巡らせると……赤い回転灯を(とも)した白黒の車両は既に何台か見られるが、その近くにお目当ての人物は見当たらない。

 先遣隊とは別に十全な準備とともに送り出された、今まさに現場へ到着しようとしている実働部隊……おれの勘が正しければ、その中に()()()が居るハズだ。

 

 多少は話が解る()()()の思考であれば、強引に協力を取り付け……良いように使うことも可能かもしれない。

 

 

 「……白谷さん」

 

 『何だい?』

 

 「苗の保持者を孤立させて、おれが対処するとして……周りの人を守る防壁とか結界とかって、張れる? 周りに被害が出ないようにしたい」

 

 『キミの希望と在らば……任されよう』

 

 「ありがとう。好き」

 

 『ボクもだよ、ノワ』

 

 

 ……本当に頼りになる。

 おれ以上に修羅場慣れしている白谷さんのおかげで、おれは落ち着いていられる。やっぱり一人じゃないっていうのは、それだけで安心感が桁違いだ。

 

 しかし……報道カメラに、周りの人たちの携帯カメラ。濃いめに【陽炎(ミルエルジュ)】を纏うつもりだが、ある程度姿を撮られるのは仕方ないだろう。

 だが、それさえ我慢すればなんとかなりそうだ。あとはあの警察車両が到着し、話がわかるあの人が姿を現すのを待つばかりだ。

 

 

 さあ、場面は整った。手早く済ませよう。

 大丈夫……おれは一人じゃない。

 

 



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59【途中退出】撲殺無双系魔法使い

 

 

 『そのまま左……ちがう、電波塔方向に。あと三十メートルくらい先』

 

 「……すーごいね。人垣が綺麗に割れてくよ」

 

 『あと十メートル…………そこ! 左側の金髪の兄ちゃん! そうその人! そこで()()()()()()!』

 

 

 眼下……大勢の人々でごった返し、今や自動車道路としての機能を喪失している大通り。

 俯瞰するおれの【伝声(コムカツィオ)】による誘導で人波を掻き分け進んでいた重装警官隊は……百貨店内へ向かわずに、とある一人の男性の前へと到達した。

 

 にわかに顔をひきつらせる男性を、重装警官隊の指揮官であろう男性――たしか春日井さん――が引っ掴み、同時に周囲に対して警告とも威嚇とも取れる大声を張り上げる。

 シールドを構え声を張り上げる警官隊に押されるがまま、じりじりと後退していく周囲の人々。なにせ下がろうにも後ろにみっちり人が詰まっているのだ、お世辞にも迅速とは言いがたかったが……やがて春日井さんと彼に確保された男性を中心として、人垣の只中に半径十メートル程度の空間がぽっかりと口を開けた。

 

 あれくらいの空間があれば……あの『葉』程度の運動能力であれば、白谷さんに助けてもらえば何とかなるだろう。

 警官隊だって盾を構えているのだ、周囲の人々の安全は守られる……と思いたい。

 

 

 

 「さて……ボクらの出番かな」

 

 「そだね。……あー緊張する」

 

 「大丈夫落ちついて。ノワは演者なんだろう? 人前で演じるのは慣れてるじゃないか」

 

 「そ、う、かも……? うう、がんばろう。【陽炎(ミルエルジュ)】」

 

 「了解。じゃあボクは隠れて……補助に徹するよ。自由にやってくれ」

 

 「……うん。お願い」

 

 

 頬を両手でぺしんと張り、萎えそうな身体を奮い起こして気合いを入れる。これは()()()の仕事……()()()にしかできない仕事なんだ。

 ……やるしか、ない。

 

 覚悟を決めたわたしは、心強い相棒とともに宙に身を投げ……眼下の包囲網へと落下していった。

 

 

 

 

 既に何人か、わたしを仰ぎ見て指差している人が散見される。身を投げた際はそれこそ悲鳴もちらほら上がっていたようだったが……そんな異変を『苗』の保持者は察知してしまったようだ。

 警官隊に確保されたことで、精神的にも追い詰められていたのだろうか……わたし達が恐れていたことが、どうやら現実となってしまったらしい。

 

 

 「下がって!!」

 

 「ッ!?」

 

 「離れて! 早く!!」

 

 

 おれがアスファルトに着地するのとほぼ同時、保持者の周囲の地面から赤黒い芽が急速に生えてくる。それらはみるみるうちに大人ほどの丈まで生育すると、不格好なヒトの形を模した葉っぱの塊へと変貌する。

 その数……じつに七体。おれにとってはまるで脅威にならなかった『葉』だが、生身の人間相手ではどうなることか。咄嗟に春日井さんに声を飛ばして下がらせ、彼に身の安全を確保させる。

 

 あいつらの……『葉』ならびに『苗』の行動原理は、外部の魔素(イーサ)を吸収して自身を生育させることだ。つまり目の前に上質な魔素(イーサ)の持ち主が居ればそれを狙ってくるハズであり、つまりはわたしを狙ってくるハズなので、一般人の方々は距離さえ取っておけばとりあえず安全のハズ。……そのハズ。

 とはいえ不意打ちで片を付けた浪越銀行の一件とは……保持者に意思の疎通が図れるほどの自我が残っていた前回とは異なり、今回は完全に()り合うしかない。本格的に事を構えるのは初めてなのだ、正直どう転ぶか全くわからない。

 

 とりあえず確かなことは、勝利条件と敗北条件。

 勝利条件は、保持者の延髄から延びる『苗』を除去すること。

 そして敗北条件は……保持者を含め、人的被害が生じてしまうこと。

 

 

 

 「【加速(アルケート)】【防壁(グランツァ)(アルス)】」

 

 

 何はともあれ、これ以上『葉』を産み出させるわけにはいかない。時間は有限、一時停止は不可能。行動は迅速に行うべきだ。

 そこらの十歳児以下の体力しかない身体を強化(バフ)魔法で補強し、光の防盾を従えて『葉』の一体へ肉薄する。

 

 

 さっきまで振り回していた聖命樹の(リグナムバイタ)霊象弓(ショートボウ)は白谷さんに返却してしまった。小型軽量で取り回しに優れる上、実質無料で遠距離攻撃が出来る優れものだが……周囲全てに保護対象が存在するこんな場所で使えるわけがない。万が一にでも的を外せば確実に怪我人が出る。百発百中を気取るほど自惚れているつもりは無い。

 

 代わりに借り受けたのは、これまた小型軽量な近接用武器。分類としては鈍器になるのだろうか、緩くうねった直線状の硬木製で、長さは六十センチ程度。形状としてはチアリーダーが使うようなバトン……トワリングバトンが近いだろう、細い軸の両端には綺麗な装飾の施された一回(ひとまわ)り太い球状の部分があり……なんだろうこれ。水晶のような、綺麗な石のようなものが固定されている。

 

 銘は『銀檀の(サンタルム)片手短杖(フォロウロッド)』。殆んどが木製なだけあって非常に軽い上に、全体に緻密な魔法紋様が刻まれているお陰なのか、非常に手と身体に馴染む。

 使い方は極めて単純……長めに持って、魔力を込めて、殴る。それだけ。打撃の瞬間に一種の炸裂魔法が展開され、打撃対象へ一方的に衝撃をブチ撒ける。使いこなせばそれこそトワリングのようにくるくる回し乱打したりそのまま投擲したり、投擲後の軌道さえも意のままに操れるらしいが……とりあえずは鈍器でいいと思う。

 白谷さんの触れ込み通り、実際腹部に打撃を受けた『葉』はものの一撃で爆散していった。

 

 ……なんだこれ。つよいぞ。

 

 

 「おお、いける……!」

 

 (そりゃそうだろうね)

 

 

 真っ二つというか粉々になった一体目の『葉』が風化していくのを視界の端に捉えながら、そのまますぐ近くに呆立(ぼった)ちしていた二体目の『葉』に殴り掛かる。これまた打撃の瞬間に魔紋と水晶が淡く光り、頭部どころか上半身を消し飛ばされた『葉』がゆっくりと崩れていく。

 三体目がわたしに手を伸ばしてくるのが見えたので、ゆっくりと迫るその両腕を下から短杖(ロッド)で跳ね上げ……るつもりが勢い余って消し飛ばし、両腕を失い体制を崩した三体目のガラ空きの胴体に遠慮なく突き込んで爆散させる。

 勢いそのまま三体目の後方に突き抜け、四体目の目の前へ着地。どこを見ているのか対処らしい対処の出来ない四体目の脚を蹴り払い、倒れようとしているそいつへと短杖(ロッド)を振り上げる。ヒトでいうところの腰後ろに痛烈な打撃を受けた四体目は、腹の中身(詰め込まれた蔓や茎や葉)を撒き散らしながら四散する。

 

 

 「……なんか解ってきた気がする」

 

 (さっすが! やっぱ学習が早いね)

 

 

 振り回すうちに短杖(ロッド)と波長が合ってきた気がしたので、次の標的の後方に白谷さんが待機している(万が一の際はフォローして貰える)のを確認した上で、ひとつ試してみる。短杖(ロッド)の中央付近を摘まむように保持し、指を動かし短杖(ロッド)をくるくると高速回転させて遠心力を稼ぎ出し……それを投げる。

 

 円盤のように飛翔する短杖(ロッド)は狙い通りに五体目へと向かっていき、その胸部から上を容易に斬り飛ばす。その後はわたしがイメージした通りの、ブーメランのように弧を描いた軌道を飛翔し……『ぱしっ』と小気味の良い音と共に、わたしの手のひらに帰還する。

 ……なんだこれ、めっちゃ良い子じゃん。

 

 

 とりあえずこれで五体……保持者の彼よりも前方に展開されていた『葉』は駆除し終えた。接敵からここまで僅か五秒程度……十秒には満たない短期間での殲滅。ここまではなかなか良い手際だったと思う。

 

 今のところ残る『葉』は、あと二体。彼がこれ以上『葉』を広げる前に制圧し、苗を引っこ抜く。

 そうすれば……わたしたちの勝ちだ。

 

 

 



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60【途中退出】やっぱりそうなるのね

 

 

 保持者を守るように立ち上がった七体の『葉』のうち、既に五体は塵と化して消滅している。

 残るはやや後方に控えている二体と『苗』の保持者本人だけ。

 

 日本人離れした……恐らくは西洋系の容姿をもった、この百貨店内テナントの店員。染められたものではなさそうな金髪と、カラコンの類いではなさそうな青の瞳でありながら……その胸元に留められた名札には日本人然とした姓名が記されている。

 既に相当の魔素(イーサ)を搾り取られているのだろう、その顔色はお世辞にも良いとは言えない。

 これ以上無理をすれば『花』を付けてしまうことは勿論だが……それ以前に彼の命に関わるだろう。

 

 

 「……わたしは、あなたに危害を加えるつもりはありません。……話を、聞いて貰えませんか?」

 

 『……………………ゥ……』

 

 

 投げ掛けた言葉に対する反応は薄い。既に本人の意識があやふやなのか、蒼白な顔に浮かぶ表情はどこか虚ろだ。

 ……これは、ちょっとやばいかもしれない。今の彼と意思の疎通を図ることは難しそうだ。まずは『苗』を除去するのが先決か。

 

 強化(バフ)魔法を纏って前傾姿勢を取り、思いっきりアスファルトを蹴る。とりあえず彼の左後方に佇む『葉』の頭を殴り飛ばし、残された胴体の胸部分を右足で蹴り飛ばしつつ左足を踏ん張って強引に方向転換を図る。

 つい咄嗟に大開脚してしまったけど、今はいつものローブじゃなくて影飛鼬(シャルフプータ)脚衣(タイツ)を穿いている。わかめちゃんのパンツがチラする危険は無いので、思いっきり脚を上げられる。……っていうかそもそも【陽炎(ミルエルジュ)】纏ってたわ。どっちみちチラしないか。

 

 ともあれ、これで保持者の彼に肉薄できた。あとは無防備な襟足に手を伸ばして『苗』を引っ掴ん…………えっ? ……あれ?

 

 

 (ノワ!!)

 

 「っっ!!? ……っぶな!」

 

 『…………ヴ、ゥ……』

 

 

 ほんの一瞬気を散らしたとはいえ……【加速(アルケート)】の強化(バフ)魔法を纏ったわたしの動きに、彼は対処してきた。

 よくよく見れば蒼白の顔には毛細血管のような……赤い根のような線が張り巡らされ、同様の血管のような根のような線は手の甲にも浮き出ている。……恐らくは全身に広がっているんだろう。

 

 あの血管のような線から感じる魔素(イーサ)の気配は、延髄に生える『苗』と同一。恐らく見たまま『苗』から伸ばされた『根』なのだろう、彼の全身へと効率よく支配を行き渡らせるための末端器官。

 全身に『根』を伸ばされた彼の挙動は、今や常人とは比較にならないほどに……速い。それでもわたしのほうがやや速いとはいえ、『苗』を引き抜く際は精緻な挙動を求められる。

 茎が途中でちぎれたり、根が丸々残ってしまっては意味が無いのだ。

 

 とりあえず苦し紛れに七体目の『葉』を思いっきり蹴り飛ばしたが……保持者の彼の背後に回り込もうにも、的確にこちらを捉え正面を向けてくる。

 場合によってはさっきと同様、逆にこちらを捕らえようと手を伸ばしてくる。

 

 

 対処する方法が……無い訳じゃない。現在【陽炎(ミルエルジュ)】を纏うため多めに割いているリソースを戻し、一部あるいは全部【加速(アルケート)】へと注ぎ込む。保持者の彼を圧倒する速度で背後を取って除去に臨むか……もしくは同様にリソースを空け、拘束魔法の行使を試みるか。

 前者はまだしも、後者は誰の目に見ても明らかに『魔法』だ。本当に今更かもしれないが、多くのカメラが睨みを利かせるこんな場所で大々的に行使すると後が怖い。

 

 それにそもそも、わたしはまだ人に向けて魔法を使ったことが無い。……いや厳密には無い訳じゃ無い。回復(ヒール)走査(スキャン)の類いは経験があるけど、攻撃や拘束の類いはまだ経験がないのだ。モリアキに威嚇で向けたやつはノーカンで。

 拘束するつもりが加減を誤って、他ならぬわたし自身の(魔法)で捻じ切ってしまったら……そうなると、この状況では言い逃れなんて出来ない。現行犯だ。

 

 

 もっと目立たず、地味で……安全第一な手段は無いものか。

 彼の対処行動を封じ、かつこちらのリソースを圧迫せず、それでいて一方的にこちらが優位に立てる手段は。

 

 

 

 「…………あった」

 

 (へ? なにが?)

 

 「白谷さん! 彼の感覚器官、全部潰せる!?」

 

 (感覚器官……あぁ、なるほど。行くよ?)

 

 「お願い!!」

 

 

 幻想と空間を司る【天幻】の号を誇る白谷(ニコラ)さんは……他人の感覚器官に介入し、認識をねじ曲げて幻覚や幻視を誘引する『幻想魔法』の使い手である。

 かつて勇者だった頃には既に極められていたその腕前は……わたしの設定に巻き込まれてフェアリー種の女の子となった現在でも健在。むしろ(まぼろし)と親和性の高いフェアリー種の種族特性なのか、より精度が上がっている様子らしい。

 

 そんな彼女にとっては……『苗』保持者の感覚器に介入し、わたしに対する認識をねじ曲げることなど造作も無いことなのだろう。

 手加減も出し惜しみも無し、対象を単体に絞り込んだ全力の幻惑魔法。普段は人に向けることを憚るそれを、ここぞとばかりに行使する。

 

 

 『我は紡ぐ(メイプライグス)……【幻弄・極(セルブストラング)】』

 

 『…………? ヴ……ゥゥ……』

 

 (動きが止まった……! 今なら!)

 

 

 真っ赤に光る瞳をきょろきょろと周囲に巡らせ、完全に動きを止めた保持者の背後へこっそりと回る。脚衣(タイツ)に付与された【敏捷(シュブルク)】と外套にも備わる【隠密(ファニシュテル)】の恩恵もあってか、視覚を始め幾つかの感知能力を喪失している保持者は忍び寄るわたしに感付いた様子もなく……

 

 

 

 

 「えいっ」

 

 『!!? ッ、、ギャアアアアアアアアアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!?!??!』

 

 「あー……やっぱ叫ぶのか」

 

 

 茎の根本付近を掴み、まっすぐ上へ。根っこの末端部位こそぶちぶちと千切れてしまったようだが、主根および側根の殆んどは茎と共に除去できた。

 残された末梢のみでは、さすがに組織を再生させることは不可能なようだ。みるみるうちに禍々しい魔素(イーサ)の気配が薄れていき、後には身体中を掻きむしりながらのたうち回る『二梃木』さんのみが残された。

 

 尋常ならざる様子に、周囲の人々から戸惑いの気配が上がるが……とりあえず元凶は取り除いたのだ。分離した『葉』も全て殲滅したことだし、あとは警官隊に任せてしまっても大丈夫だろう。

 

 

 

 『ノワ、ノワ。それ頂戴』

 

 「え? ……ああ、『苗』?」

 

 『そう。こんな完全な形で確保出来たのは初めてだからね、ちょっと調べてみたい』

 

 「わかった。大丈夫だとは思うけど……気を付けてね」

 

 『ははは。ボクは今やキミの一部だよ。心配には及ばないさ。……でも、ありがとね』

 

 「……ん」

 

 

 培地から引き抜かれ、魔素(イーサ)の供給を絶たれたことで、『苗』はみるみるうちに萎んでいく。それを白谷さんの【蔵守(ラーガホルター)】に仕舞い込み、時間停止の影響下に置くことで保存する。

 どうやら……わたしと魂の繋がりを得たことで、白谷さんも『苗』に干渉することが出来るようになっていたらしい。かつての世界では殆んど解明できなかった『苗』の性質が少しでも解析できるかも……と、非常に可愛らしい笑顔で喜んでいた。

 

 ……というわけで、もうここに用は無い。

 

 

 「彼は…………彼も、良くないモノに操られ、利用されていただけです。この騒動は彼の本意じゃない。寛大な配慮をお願いします」

 

 「…………同行を、願えませんか」

 

 「嫌だ、と言ったら……どうしますか?」

 

 「…………どうも出来んでしょうなぁ。我々が『魔法使い』殿に敵うとは到底思えません」

 

 「そうですか。……では」

 

 (お? 帰るかい?)

 

 (うん。白谷さん『門』おねがい。モリアキのとこ)

 

 (任された。……我は紡ぐ(メイプライグス)、【繋門(フラグスティル)】)

 

 「彼を、お願いします。……ご機嫌よう」

 

 「!? 待っ――――」

 

 

 

 驚愕に目を見開き、こちらを引き留めようと手を伸ばす春日井さんに背を向け……おれと白谷さんは門へと飛び込んだ。

 

 刻んでおいた登録座標(マーカー)……門の出口は、浪越市港区のフォトスタジオ内女子トイレの個室、そのひとつ。

 内側から鍵を掛けておいたし、そもそも女子トイレなので……間違いなく誰も入って来ないだろう。()()達の出現を見られる危険も無い。

 

 しかし……他に手段が浮かばなかったとはいえ、転移の瞬間を撮られたのはマズったかもしれない。あの場が現在どうなっているのか、加えて今後どう広がっていくのか……正直いって気が重いが、

 

 

 「おわったぁー…………」

 

 「ふふ。……お疲れ様」

 

 

 とりあえず、やっと肩の荷が下りた。あとは早くモリアキと合流しないと。

 お願いしたこと……ちゃんとこなしてくれてると良いんだけど。

 

 

 



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61【写真撮影】ただ今戻りましたー

 

 

 

 「あっ、お帰りなさいセン…………若芽ちゃん。どうすか? ()()()()()()()()()()()?」

 

 「おうお帰り。大丈夫? 体調悪かったら無理しなくて良いんだぞ?」

 

 「えーっと……はい、大丈夫です。ご心配おかけしました」

 

 

 女子トイレからこそこそと抜け出して更衣室へ戻り、途中だった着替えを済ませてスタジオへと戻る。

 出迎えてくれたモリアキは意味ありげにおれを慮ってくれたし、鳥神さんに隠れてこっそりサムズアップして見せる。……どうやら頼んでいたことはバッチリこなしてくれたらしい。さすモリ(さすがモリアキ先生の略)。

 

 衣装替えを経た今現在は、黒のインナーの上に淡い桃色のカーディガンを羽織り、下は黒のタイツの上にカーキ色のミニスカートを合わせたコーディネート。たぶんマフラーとか、厚手のコートなんかを加えてもよく似合うと思う。

 せっかく用意してもらった衣装なので、どうせなら撮って貰いたい。鳥神さんの表情は『続きはまたの機会にした方が良いのでは』と言いたげなので、大丈夫だと行動で示すことにする。

 

 そんなに長い時間お散歩していたわけじゃないハズだが、一旦中座してしまったことで集中力が途切れてしまった可能性もある。もう一回初心に戻って取り組まなければならないだろう。

 さっきと同様、幕の前に移動して軽く身体をほぐす。……多少魔力を消費したせいでほんの僅かに気だるいけれど、その程度だ。ぶっちゃけ体調には何も問題ない。

 

 

 「おねがいします、鳥神さん」

 

 「……わかった。無理だけはしないように」

 

 「はい!」

 

 「おーいいお返事。行くぞー、はい笑顔ー」

 

 

 

 

 「…………で、結局のとこ何があったんすか?」

 

 『えっとね……チューオーク? ってとこに『苗』の保持者が出てね。結構進行してて危なかったから、ノワと対処してきた』

 

 「オーク……!? あぁ、中央区……そんなことになってたんすか……」

 

 『ノワは……テレビ? にまた映っちゃうだろうなぁって嘆いてたよ。もしかしたら面倒なことになるかもー、って』

 

 「あー、そういうこと……アリバイ作りだったんすね」

 

 『ア……アリ? バイ?』

 

 

 スタジオの隅っこのほうで、スマホ片手に白谷さんと会話しているモリアキ。おれは写真を撮ってもらいながらも彼の発言に耳を傾け、彼が頼みごとをちゃんと片付けてくれたことを認識し……ほっと一安心する。

 

 彼にお願いしていたことは、以前編集してあったお料理動画――白谷さんが控えめに出演している『若鶏の墓』回――それの投稿、ならびにSNS(つぶやいたー)を用いての動画投稿アピールである。

 おれが『苗』の対処に奔走しているまさにそのタイミングで、モリアキにはおれの自室PCを遠隔(リモート)で操作して貰い、予め投稿スタンバイしておいた動画を一般公開して貰う。先行予約による自動投稿では、細かな分や秒単位での時刻指定は対応していない。ざっくり『何時』あるいは『何時(三十分)』程度での予約しか受け付けていないため、中途半端な時間での投稿であれば手動と判断されることだろう。

 また同時に、SNS(つぶやいたー)にて告知メッセージを発信。さも『その日その時間わたしは動画投稿をするためにオウチにいました!!』と装えるようなアリバイ作りを依頼しておいたのだ。

 

 これで後日、大紋百貨店に関して問い質されたとしても、自宅で作業中だったと言い張ることで追求を逃れることが可能なのだ。

 どっちみち今日明日中に公開するつもりだったので、スケジュール的には何も問題ない。

 

 

 しかし……今回はアリバイ作成のためのネタがあったから良かったものの、そう毎回毎回都合よく誤魔化せるとも限らない。ほとんどの人にとって未知の事象、『悪の魔法使い』による破壊工作……その現場には恐らく、かなりの高確率で報道カメラがやって来るだろう。

 

 どうにかしてこっそり事を済ませるか、あるいは何か別の手段で誤魔化すか。本業である動画配信者(ユーキャスター)活動が圧迫されないよう、早めに何かしらの手を打たなければならない。

 

 もしくは……単純に動画のストックを大量に確保しなければならない。

 

 

 「……がんばんないとなぁ」

 

 「? ……まぁ、あれだ。あんま気負いしすぎないよにな?」

 

 「あっ、えっと……はい! ありがとうございます!」

 

 「おう。……良い子だよなぁ若芽ちゃん。ウチのモデルとして雇いたいわ」

 

 「あははは……嬉しいですけど、しばらくは本業に力を入れたいので……」

 

 「そうそう、配信者(キャスター)だもんな。烏森(かすもり)が嬉しそうに話すんだよ……『オレが手掛けてる子めっちゃ可愛いんすよ!』ってな! 実際こんな良い子だもんな……そりゃ自慢したくもならぁな」

 

 「も、もう……! からかわないで下さいよぉ!」

 

 「ごめんごめん。でも本当応援してるから。烏森(アイツ)の担当ってこと抜きにしても応援してっから。頑張ってね」

 

 「あ……ありがとうございます!!」

 

 

 自然とこぼれた笑みにシャッターが切られ、鳥神さんは満足そうに頷く。

 そういえば鳥神さんとの会話に夢中になるあまり、途中からお手本モニター見てなかった。大丈夫だろうか。……大丈夫そうだ。

 

 

 「よしじゃあ、ここまでにしようか。……まだ衣装何パターンかあるけど、今日はもうお開きにすっか? あんま暗くならないうちに帰りたいだろ」

 

 「……えっと…………そう、ですね」

 

 「もし気が向くようなら、明日でも明後日でも……それ以降でも、また来てくれりゃあいつでも相手しよう。他の奴らにも回しとくから、俺が不在でも対応してくれるハズだ」

 

 「えっ……? 良いんですか?」

 

 「おう。浪駅(ローエキ)からホテル行きの送迎も出てるし、お代は気にしなくていい。全額烏森(かすもり)に請求回すから」

 

 「ちょっと!? 聞き捨てならない発言が聞こえましたよ!?」

 

 「わかりました! そのときはよろしくお願いします!」

 

 「ちょっと!!?」

 

 

 モリアキと白谷さんの情報共有も、どうやら終わったらしい。

 

 せっかく衣装をいっぱい用意してくれた鳥神さんには申し訳ないが、お言葉に甘えて今日はそろそろお(いとま)しようかと思う。

 やっぱり少なからず疲労が蓄積しているっぽいのと、少しでも次作の構想を練っておきたい。

 

 プロの手による女児服コーデも気になるけど……またの機会のお楽しみにしておこう。

 

 

 「それじゃあ……撮った分はメディアに焼いとくから、着替えておいで。脱いだ服は纏めて(カゴ)に入れといてくれりゃ良いから。お疲れ様」

 

 「はい、おつかれさまです。ありがとうございます」

 

 

 ぺこりとお辞儀し、自分の着てきた服に着替えるべく更衣スペースへ移動する。

 当然のように白谷さんが着いてくるのを認識しながら扉を開け、自分と白谷さんを扉に(くぐ)らせ……

 

 

 

 「なぁ烏森(かすもり)、俺やっぱロリコンで良いわ。若芽ちゃんウチでモデルやってくれるよう頼んでくれね?」

 

 「オレにそんな決定権無いっすよ! ……ああでも、いろんな衣装取っ替え引っ替えするのは良さそうっすね……メイド服とかありません?」

 

 「あるぞ。女の子向けのドレスも浴衣も振袖も緋袴もあるぞ」

 

 「あー緋袴いいっすね……」

 

 

 常人レベルの聴覚だったら聞き取れなかったであろう……しかしおれ(若芽ちゃん)の耳にはバッチリ届いてしまった男二人のひそひそ会話を全力で聞かなかったことにしながら、おれはスタジオ出口の扉を閉めた。

 

 …………よし!!早く着替えよう!!!

 

 

 



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62【在宅勤務】やっぱりこうなるのね

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

作中の人名・名称・地名・サービス等は架空のものです。

実在するそれらとは一切関係はございません。

 

今更ですが、予め御了承ください。

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

 

 ところで。

 おれが『のわめでぃあ』を立ち上げるにあたって、はじめまして放送でアピールした放送ジャンル……そこでは『グルメ、芸能、サブカル、旅行、他にもさまざま!』と述べてある。

 先日投稿した『歌ってみた』は、この中で言えば『サブカル』が該当するだろうし、つい先程投稿した『おはなしクッキング』は『グルメ』の部分に該当するだろう。

 

 

 

『カメラが捉えた、この騒動の元凶と(もく)される『悪の魔法使い』……そしてこれを相手取る、もう一人の『魔法使い』。この常識はずれの立ち回りを繰り広げる彼らは、果たして何者なのでしょうか』

 

 

 

 いや、別に無理して『グルメ、芸能、サブカル、旅行、他にもさまざま!』に当てはめる必要は無いのかもしれない。しかし多くの人に興味をもって貰うためには、様々なジャンルに挑戦すること自体は悪くない。

 数字が取れるとかじゃなく、一人でも多くの人々に『次回をおたのしみに』して貰うためには、例え反応が今一つだろうと新たな層に訴求し続ける必要があるだろう。

 

 

 

『前回の銀行襲撃事件の際と同様、どこからともなく現れた謎の『魔法使い』……その正体、そしてその目的は、依然として謎に包まれたままです』

 

 

 

 どうせやるなら、当初打ち出した宣伝文句に従い……つぎは『旅行』だろうか。

 いいかもしれない。旅番組は老若男女問わず需要が見込めるし、旅先で『グルメ』要素を盛り込むことも難しくない。旅行番組であれば少なくとも『嫌い』という人は居ないはずだし、見たことの無い景色を見るのは誰だってワクワクするハズだ。

 

 

 

『いやー、前回のときも僕ぁ言いましたけどね? 何で警察はこんなにチンタラしてんのかって話ですよ。ああして実際に、当事者である『魔法使い』と相対してるのにですよ? 実際にお話ししておきながら『ぼくたち何もわかりませーん調べてまーす』なんて、そんなバカな話あります? この未曾有の事態に役に立たないなんて、税金泥棒って言われても仕方無いと思いますよ僕は』

 

『池上さんそのあたりで…………えー、番組では視聴者の皆様からの情報、ならびに映像の提供をお待ちしております。些細な内容でも結構です。情報をお持ちの方は――――』

 

 

 

 …………しかし、一方で。

 撮影のためとはいえ『旅行』ともなると、予算的にも日程的にもなかなかに圧迫されてしまう。

 

 生配信は出来ることなら定番化したいし、金曜か土曜の夜は空けておきたい。おまけに動画を撮ったら撮ったで編集する時間も確保しなければならないし、数日掛かりのロケともなると編集に丸一日は確保しておきたい。

 まず週末を除いて……ロケに二日か三日、そして編集に一日以上必要と。その間他の動画はもちろん撮影できない。

 

 ……ええ……時間と人手が足りなさすぎじゃね?

 コンスタントに動画投稿してる世の配信者(キャスター)っていったいどういう生活してるの……ヒカ〇ンとか東〇オンエアとかマジスゲェじゃん……

 

 

 

 

『そもそもですよ? あの『魔法使い』だか何だか知りませんけど、アイツがあんなにお高くとまってるところも僕ぁ気に入りませんね。何もやましいところが無いなら警察に協力でも何でもすりゃあ良いでしょうに。逃げるように姿を眩ましたって、実際に逃げる必要があったんじゃないですかぁ? 実はぜーんぶ彼の自作自演とか』

 

「ねぇノワ、こいつ殴って良い?」

 

それ(テレビ)殴ると壊れちゃうからやめてね」

 

 

 

 やっぱり……駆け出しのうちは長期日程を組むのは控えておこう。予算的にも。

 手近なところで『旅行』とまでは行かずともお出掛け要素を消化して、ついでに『グルメ』要素も取り込んで……うん、近郊に日帰りなら何とかなるかもしれない。

 最悪の最悪、三十秒程度の撮りっぱなし一発ネタ動画で場を繋ぐか。チックタックみたいな。魔法をこっそり使った『種も仕掛けも無い手品』みたいな。……でもまぁ、それはあくまで最後の手段だ。

 

 

 

『警察も警察ですよ。あんだけ大人数で囲ってるんだから、実力行使で取っ捕まえちゃえば良かったじゃないですかね? そうすりゃぁ重要参考人も捕まえられて一気に解決じゃないですか』

 

『……ええと、彼は犯人ではなくてですね、どちらかといえば事態の解決に協力してくれたとの見方が強く』

 

『じゃあなんで逃げたんだって話ですよ。おかしいじゃないですか。僕がその場に居たら取っ捕まえて警察に突き出してやりますよ。アイツも日本人なら日本の国家権力に協力すべきでしょうに。奉仕精神が足りないんじゃないですか?』

 

「ぐあー腹立つ!! こいっつ……その縦長の顔を横長にしてやろうか!? 貴様ごときがボクのノワに触れようなんざ一万年と二千年早いんだよ!!」

 

「どうどう白谷さん。…………でもいい加減ムカつくな。チャンネル変えよっか」

 

「コイツの所在さえ判ればなぁ……廃人にしてやるのに」

 

「やめようね? おれは大丈夫だから」

 

「ぐぬぬ……」

 

 

 しかしまぁ……まるで自分のことのように怒ってくれる白谷さんを微笑ましく思いながらも、回せど回せど似たり寄ったりな報道が垂れ流されているニュース番組には辟易してきた。

 どの局も同じような映像を流し、同じようなどころか全く同じインタビュー音声を流し、顔も名前もいまいちピンと来ないコメンテーターが勝手知ったる顔で、勝手気ままな憶測をドヤ顔で吐き出している。

 

 幸いなことに、どの局も『魔法使い』の正体に辿り着いていないから良かったものの……あのとき【陽炎(ミルエルジュ)】を纏っていなかったら、リソース確保のために解除してしまっていたらと思うと、ぞっとする。

 

 

「今回はノワの優しさに免じて諦めるけど……仮にボクの目の前でノワを(けな)す馬鹿が現れたら、そのときは然るべき対処を行うので」

 

「うーん……怪我とかさせないようにお願いね。今度こそほんとに捕まっちゃうから」

 

「…………………………わかった」

 

「んふふ。……白谷さんは優しいね」

 

 

 

 まぁとりあえず、何はともあれ今日を無事に乗り切ったのだ。途中までとはいえ写真だってちゃんと撮影して貰ったし、大きめサイズで現像して貰った一枚はお買い上げさせて貰い、記念に壁に飾ってある。……我ながらちょっと、可愛いぞこれは。

 鳥神さんとの繋がりもできたし、サキちゃん(仮名)メグちゃん(仮名)とREIN交換もできた。少しずつだが、おれはちゃんと前へ進んでる。勝手に騒ぎ立てる彼らは置いておいて、おれは自分の仕事に専念しよう。

 

 火曜日がもうすぐ終わり、週末の金曜日は生配信を行いたい。今度は『告知がギリギリすぎる!』と怒られないように、早め早めで準備を行っていかなければ。明日明後日の水曜木曜は次の仕込みと、生配信の準備に追われそうだ。

 それと、日帰りミニ旅行の行き先選定も行っておかないと。バイクの車載動画でも使えれば良かったんだけど、無理なものは仕方ない。

 

 

 新人動画配信者(ユーキャスター)にとっては……一日一日が今後の伸びを左右する大切な時期だ。貴重な時間を無駄には出来ない。

 

 やることはいっぱいだが……がんばろう。

 エイオー!

 

 



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63【在宅勤務】遅くまでお疲れさま

 

 

 てらろん てれれん ぽぺぽんぴん

 てれれん てぺれん れん れん

 

 お風呂が沸きました。お風呂が沸きました。

 

 

 

 「…………んえ?」

 

 

 

 唐突に鳴り響いた電子音声に、ふと我に返って時計を確認すると……なんと、もう日付が変わってしまっている。

 

 モリアキに送ってもらって帰宅した後、写真を壁に飾ってテレビをつけて、案の定ニュース番組をお騒がせしているのを遠い目で眺めながら今後の予定を漠然と立てて、とりあえず昼間に撮った『ランチついていってもイイですか』動画の編集に取り掛かったのが……たぶん十八時頃だろうか。

 

 かれこれ六時間くらいぶっ通しでPCにかじりついていたらしく……こうして我に返ったことで、これまで抑えつけられていた生理現象が一気に主張し始めたらしい。

 要するに、おなか減ったしおしっこしたい。

 

 しかし……お風呂が沸きました、か。

 おれはずーっと作業に専念していたので、湯沸かしスイッチを入れた記憶はない。いったい誰が……とはいっても、思い当たる選択肢は一人しかいない。

 

 

 「おや、帰ってきた? ノワ」

 

 「んう……白谷さん?」

 

 「集中するのは良いことかもしれないけど……ちょっとは身体休めないと。お腹も空いてるだろう? 何度も鳴ってたよ」

 

 「えっ!? マジで……はずかしい」

 

 

 若芽ちゃんボディの集中スキルのお陰で、編集作業は極めてハイスピードに行えるのだが……代償というべきかなんというか、その他のことに対して非常に無頓着になってしまうようだ。

 おなかが鳴るくらいならまぁ、まだいいけど……作業に集中しすぎておしっこ漏らしたとかなったら、さすがに笑えない。我ながら引く。

 

 

 「ふふ……はい。夜食どうぞ」

 

 「ふわ……!? おいしそ……いいの?」

 

 「モリアキ氏が食いっぱぐれたやつだから、彼に感謝して食べてね。あと、戻ってきたついでにお風呂も入っちゃって。少し肩の力抜いた方がいい」

 

 「…………おかあさん」

 

 「??? ふふ……変な子だなぁ、ノワは」

 

 

 脇目も振らずに机にかじりつくおれを見かねて、白谷さんがお湯張りのスイッチを入れてくれていたらしい。家の中の設備やタブレットの使い方は一通り教えたけど……早くもモノにしているようだ。さすが元勇者、とても順応力が高い。

 ……しかし、こうしておれの身を心配してくれる子がすぐ傍に居るというのは、とても助かる。見目麗しく可愛らしい女の子であればなおさらだ。

 精神的に安らぐのもあるし、おれの手の回らない点をフォローしてくれるのも非常にありがたい。

 

 心優しく、器用、そして可愛い。

 こんな良い子と縁を結べたことを、おれは非常に誇りに思う。

 

 

 「んんー…………っ。……じゃあ、半分だけたべて……そしたらお風呂入ろう。食べた直後にお風呂入ると、本当はよくないらしいけど」

 

 「え? そうなの?」

 

 「んう。なんかねー消化器の働きが下がるから、三十分か一時間は空けたほうがいい……らしい」

 

 「な、ん……だって…………? ……そうなのか……ごめんノワ。配慮が足りなかった。……すまない」

 

 「いや、そんな。元はといえばおれが時間見なかったのが悪いんだし」

 

 「だとしても……そもそもボクという存在は、キミの手助け(アシスタント)をするために在る。キミが何不自由無く過ごせるよう補助するのが、ボクの存在する理由だっていうのに……それなのに……」

 

 「そんな思い詰めなくても……じゃあ、食べ終わったらちょっと……三十分くらいお散歩しよっか。夜の一人歩きは不安だから、白谷さんに付いてきて貰えると嬉しいなぁーって」

 

 「…………わかった。そういうことなら……お安いご用だ」

 

 「ふふ。ありがと、白谷さん」

 

 

 異世界の勇者だったときの癖なんだろうか……白谷さんはどうにも職業意識が高いというか、妙なところで責任感が強すぎるところがある。

 おれに対して気を遣いすぎがちなところもそうだし、おれに恩義を感じてくれているからこそなんだろうけど……ちょっと真面目すぎるというか、『一瞬の油断が命取り』だと考えてしまいがちというか。

 

 少なくとも、この世界はそこまで危険に溢れているわけではないのだけど……白谷さんの常識がまだ異世界を参考にして居る以上、ある程度は仕方ないのかもしれない。

 まぁ、そこは少しずつ諭していけばいいだろう。おれとしても白谷さんと一緒に居ることは嫌いじゃないし、白谷さんにこの世界の常識を教えていくのは……ちょっと、たのしい。

 

 

 とりあえず、せっかくの白谷さんの気配りだ。その厚意に甘えるとしよう。

 夜食を頂いたらちょっと夜風に当たって、すっきり気分転換。その後はお風呂に入って身体をほぐそう。……完璧だ。

 

 

 

 

 まぁ……食後すぐの運動も本当は身体に良くないと知ったのは、残念ながら数日は後のことだった。

 

 

 そもそも夜更かしすること自体あんまり身体に良くないんだけどね!

 それを言っちゃあおしまいだよ!

 

 

 



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64【在宅勤務】なやめるこひつじよ

 

 十二月末の、某火曜日。……いや、日付変わって水曜日。

 普段の水曜日深夜零時過ぎともなれば、出歩いている人などほぼほぼ居ないのだろうが……数日後に大晦日を控えた今日は、ちらほらと出歩く人影を感じ取れる。

 

 おれの部屋は浪越市南区の住宅地、電車の駅からは徒歩約二十分とやや離れているため利便性は並とのことだが……近くにコンビニがあり、小ホールを備えた図書館があり、そこそこ大きな公園もあり、やや近くにはホームセンターがあり、生鮮食品を扱うスーパーがあるので……つまり周辺生活環境自体は悪くない。

 懸念されていた交通の便に関しても、すぐ隣の国道には繁華街行き路線のバス停があるので、不動産屋さんが言うほど悪くはなかった。むしろ良い方だろう。

 

 

 深夜でも明るいコンビニのイートインスペースには、にこやかに談笑する若者の集団が見える。店内にも立ち読みコーナーほか各所に買い物客の姿が見られ……ちょっと立ち入るのは避けた方が良さそうだ。

 おれが()()なる前は毎日のようにお世話になっていたコンビニだが……()()なってしまってからは、未だに一度も利用できていない。……仕方ないか。

 おれは未練を振り払うように頭を振り、何事かと見上げてくる白谷さんに『なんでもないよ』と言葉を掛け、コンビニの前を素通りした。

 

 国道から一本入ったこの辺りは、もう完全に家ばっかりの住宅地だ。規則正しい升目状の道路に面して等間隔に家々が立ち並び現在位置を把握しづらく、その上で一方通行が交互に並んでいるので……自動車での初見通過はそれなりに難易度が高い。

 初めてモリアキが遊びに来たときも、そういえば半泣きでキレ散らかしていたっけ。

 

 

 一方通行の細い道を真東に進んでいけば、やがて南北に別れる丁字路にぶつかる。突き当たりは車両侵入不可能の階段になっており、そこから先はそれなりに大きな公園『緑池公園』の敷地内となる。

 広大な()地と大きな()からなる、市民の憩いの場となる()()というのが由来らしいが、近隣の人からは『池の水が緑色だからだろ』などとひどい言われようだ。まぁ、実際その通りなのだが……おれはこうして夜の散歩に訪れるくらいには、この公園が嫌いじゃない。

 

 

 

 「さすがに静かだね。……寒くないかい?」

 

 「大丈夫だよ。白谷さんこそ寒くない? 上着とか着れないし、大丈夫?」

 

 「ボクも平気だよ。フェアリー種は魔法制御の技能に秀でてるし、気温操作なんかもお手のものだから」

 

 「へぇーすごい。器用だなぁ」

 

 「ふふ、ありがとう。まぁノワも大概だけどね。今度教えてあげよう、すぐ使いこなせるようになるよ。とりあえず……はいっ」

 

 「ほわわわわ、あったか……ありがとう! たのしみ!」

 

 

 

 年末の長休みの夜とはいえ……深夜に薄暗い公園をぶらつく人は、さすがにそうそう居ないらしい。

 少し前はモンスター捕獲ゲームで昼夜を問わず大賑わいだったけど、最近はめっきり熱も冷めてしまったらしい。なんでも家庭用ゲーム機で新作が出たんだとか。

 他にもいろいろ理由はあるだろうが……まぁ、そもそも冬の深夜だもんな。魔法であったか~いできる我々でもないと、とてもゆっくりのんびりなんてできないか。

 

 かく言うおれも、こんな真夜中にこんなのんびりしたのは初めてだ。それこそ仮想配信者(ユアキャス)計画が動き出してからはせかせか動き回っていたし、その前は夜勤で起きていたことは在れども当然のんびりなんてしていられない。

 

 

 星空なんて……それこそ誰かと一緒に見たのは、いったいいつ以来だろうか。

 

 

 

 

 「ねぇ…………ノワ」

 

 「ん? どしたの白谷さん」

 

 「………………ボクは」

 

 

 多くの人々が暮らす住宅地にありながら、まるでこの世界におれ達二人しか居ないかのように静まり返った公園で。

 高台の展望台に据え付けられたベンチに座って、ぼーっと空を眺めていたおれの……その正面に。

 

 小さく弱々しい女の子が、ぼんやりと頼りない光を放っていた。

 

 

 

 顔を伏せたその姿は……その優しい光は、とても儚くて。

 

 まるで……今にも消えてしまいそうで。

 

 

 

 

 「ボクは……キミの傍に、居てもいいのかな……」

 

 「白谷さん?」

 

 

 小さな小さな女の子は……弱々しい灯りを明滅させながら、その心情をぽつりぽつりとこぼし始めた。

 

 

 

 「ボクはあのとき……魔王を仕留め損ね、この世界に流れ着いて、行き倒れて死にそうになって……キミの存在の()()()()に与かって。こうして生き長らえている今この瞬間だって、キミの魔力を食い潰して……キミに()()しているに過ぎないんだよ」

 

 「…………白谷さん」

 

 「それだけじゃない。今日遭遇したあの『苗』、あれに関わる面倒事を持ち込んだのも……他でもないボクだ。災いばかりを持ち込んで、それでいて恩もロクに返せやしない。自分では気を利かせたつもりでも、肝心なところで詰めが甘い。……ははっ、笑えるね。詰めの甘さは治ってない。こんなんだから魔王を取り逃がすんだ」

 

 「……………………」

 

 

 

 おれ達は……白谷さんのことを、少し勘違いしていたのかもしれない。

 百戦錬磨の『勇者』。幻想と空間魔法のエキスパート。いついかなるときも冷静で取り乱すことなく、ニコニコ顔(ときにはいたずらっぽいニヤニヤ顔)でおれ達を導いてくれる、頼りになるアシスタント。

 

 …………そう、勝手に思い込んでいた。

 

 

 

 「『勇者』なんて栄誉ある名を賜っておきながら、その栄誉を授けた世界さえ守れない。駆け込んだ先に不幸を撒き散らす…………『疫病神』のほうが、ボクにはお似合いだ」

 

 「っ、……おれは!」

 

 

 この世界に流れ着いて、死にかけて。一人ぼっち残されて。

 顔を伏せているせいでその表情は伺えないけど、きっと泣きそうな顔をしているんだろう。

 当たり前だ。冷静に考えてみれば……彼女()だって心細くないわけがない。

 

 気が利いて気配り上手で完全無欠の反則(チート)キャラだとばかり思っていたけど……今にして思えば、おれ達に気に入られようと必死に気を回してくれていたのかもしれない。

 今までずっと……こんなに泣きそうになるまで自分の本心を押し殺して、せいいっぱい取り繕っていたのかもしれない。

 

 

 こんなに小さく、儚く、弱々しい女の子が……たった一人で。

 

 ……そんなこと。

 そんなこと!!!!

 

 

 

 「おれ達は! そんな!! 思ってないから!!!」

 

 「お……おぉ?」

 

 

 

 迷惑だなんて……思っているわけがない。

 まったくもう。この子はいきなり何を言い出すんだか!!

 

 これはちょっとばかし『お説教』が必要なようですね!

 

 



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65【在宅勤務】ラニ

 

 たった一人生き残って、たった一人で異世界にたどり着いて、危うく一人だけで寂しく死んでいくところだった……異世界の勇者、ニコラ・ニューポート。

 

 かつての姿や存在や居場所を奪われ、今や儚く弱々しいフェアリー種の少女と成り果ててしまった……おれの大切なアシスタント。

 

 そんな彼女はこともあろうに、自分のせいでおれを危険に晒してしまったのだと……自分はおれ達に迷惑を与えている『疫病神』だ、などと言い始める始末。

 

 

 それは……違う。

 絶対、絶対に……違うのだ!!

 

 

 

 「絶対違うし!! おれもモリアキも、ニコラさんが疫病神だなんて、これっっっぽっちも思ってないし!!」

 

 「しかし……ボクが現れたせいで、キミの人生は大きく歪んでしまっ」

 

 「そこ!! まず何よりもそこ!! そこからして違う!!」

 

 「お、おぅ……??」

 

 

 

 まぁ……『勇者』なんてものを世界が滅ぶまで務め上げるくらいだ。ニコラさんは元々、責任感も半端ない人だったんだろう。

 だが、しかし。

 自分の落ち度ならまだしも……自分が何も悪くない事象まで責任を感じ、背負い込む必要なんか何処にも無い。

 

 そうとも。そもそも『苗』の出現も、おれが()()なったことも、それこそ『魔王』がこの世界に現れたことだって……ニコラさんは()()()()()()()()

 

 

 「じゃあ仮に……仮に、ニコラさんが何もしなかったとしよう」

 

 「う、うん……」

 

 「仮に、ニコラさんが何もしなかったら。ニコラさんが居た世界は『魔王』に滅ぼされて、そして『魔王』は新しい獲物を求めて次元の壁を越えて、やっぱり結局この世界にやって来る。おれも結局『若芽ちゃん』のデータを亡くして、そこを『種』につけ込まれて()()なって…………そりゃ浪銀(なみぎん)のときみたいに場当たり的に『苗』をどうにか出来たかもしれないけど、おれ一人だと『魔王』の存在なんかわかるハズもない。おれは魔力が豊富みたいだし、いつか他の『苗』か、あるいは『魔王』本人に喰われて……おしまいだよ。確実に死ぬ」

 

 「…………それは」

 

 「間違いなく死ぬ。もしニコラさんが来てくれなかったら、おれは近いうちに死んでた。……恐らく、若芽ちゃんの成功と大成を見届けることなく。失意と絶望と恐怖のうちに、間違いなく死んでた」

 

 「………………」

 

 

 そう、これは間違いない。

 そもそもおれとモリアキだけでは、この『苗』の出自も黒幕も何もかもが一切わからないままだった。ニコラさんに提供して貰った情報は重要なものばかりで、これがあったのと無かったのとでは状況が大きく異なる。

 押し寄せるバケモノを場当たり的に迎え撃ち続けるのと、事態の全貌を把握しながら対処を図るのとでは……難易度は全くもって別物だ。

 

 平和ボケした現代人だけで、世界をひとつ滅ぼした親玉を倒せるはずがない。

 

 

 「それに! ニコラさんはこんなにも……こんなにも、手を尽くしてくれてる! 『全てを捧げる』なんて言葉、滅多なことで言えるもんじゃない! おれには……ほかでもない、ニコラさんと魂で繋がってるおれには! ニコラさんが軽い気持ちで言ったんじゃ無いってことくらい……本心からの言葉だってことくらい、おれは知ってる!!」

 

 「…………だって、それは……責任を」

 

 「だから! その前提がおかしい!!」

 

 「えっ…………」

 

 

 ただの他人ではなく、演者とアシスタントとしての関係でもなく、魂の奥深くで繋がったおれには……嘘は通じない。

 ニコラさんの発した『喜んで命を捧げよう』というあの発言だって、その真偽はもちろん手に取るようにわかる。恐ろしいことにニコラさんは、全くの本心から言っていたのだ。

 

 

 だが……しかし。重ねてになるが、彼女はそこまでする責任なんて、本来であれば()()

 

 わざわざおれに『死ね』と命ぜられなくとも……わざわざ世界を飛び越えて『魔王』を追うまでもなく、自ら命を断とうと思えば断てただろうに。

 全てを投げ捨てて、後のことなど知らぬとばかりに逃げることだって……出来ただろうに。

 

 

 「おれたちは…………助けてもらったんだ。ニコラさんに。……いや、今日だっていっぱい助けてもらった」

 

 「ボクは…………助けることが、出来ているんだろうか」

 

 「当っったり前だよ! モリアキをフォローして、一緒におれの撮影を見守ってくれていた! 幻想魔法と空間魔法、おれには到底真似できない魔法を使って助けてくれた! 大紋百貨店に急行できたのだって、ニコラさんの空間魔法のおかげだし! あの『葉』の大群や『苗』と戦う装備だって貸してくれたし! もしニコラさんに助けて貰えなかったら、きっと手遅れになってただろうし! …………それに!」

 

 

 ……それに。

 ニコラさんには、色んなところで助けてもらっているが……それ以上に。

 

 

 

 

 「…………同居人が居るって……すごく、嬉しいんだよ」

 

 「……………………」

 

 

 おはよう。おかえり。お疲れさま。

 頑張って。無理しないで。気を付けて。

 

 自分じゃない誰かが、ことあるごとに何気ない言葉を掛けてくれる。

 それだけで、充分すぎるほどにありがたい。

 充分すぎるほどに、温かい。

 

 

 

 「おれは…………おれは、ニコラさんが好き。一緒に居たい。……だから、お願い。迷惑なんかじゃないから…………おれと、一緒に居て。『何でも言うことを聞く』っていうのがホントなら……これが、おれの答えだから」

 

 「…………ノワ」

 

 

 

 おれ一人だけだったら、間違いなくあっさりと折れていた。

 

 モリアキを巻き込んだところで、非常識(ファンタジー)には敵うはずがない。

 

 ほら、昔の偉い人だって言っていたじゃないか。三人集まればなんとかなるって。

 

 

 だから、ね。ほら。笑おうよ。きっとなんとかなるから。

 せっかくそんなに可愛いんだからさ。笑わないと損だよ。

 

 

 「ふふっ。…………そっか。まいったな」

 

 「んえ? なにが?」

 

 「いやぁ、ね。あんなに熱烈な告白されちゃったから……ね」

 

 「……えっと、それは……ごめん、ちょっと調子のった」

 

 「ボクは構わない、というか…………嬉しかったよ」

 

 「…………えへへ」

 

 

 やっぱり……可愛いなぁ。

 こんな可愛い子が疫病神だなんて、おれは絶対に信じない。

 前々から思っていることだけど……この子はやっぱり『天使』と呼ぶにふさわしい。

 

 冬の空気は冷たいけれど透き通ってるから、星がこんなに綺麗に見える。

 曇りがちだった白谷(ニコラ)さんの表情も、すっかりすっきりと透き通ったみたいだった。

 

 

 

 「それはそうと……ノワ?」

 

 「んう? どしたの白谷さ…………うん、えっと、……()()?」

 

 

 ちょっと照れながらも口にした呼び名は……果たして白谷(ニコラ)さんは、どうやらお気に召してくれたようだった。

 彼女()はし()()さんであり、ニコ()()ューポートさんでもあり……おれのアシスタントとしても、頼れる先輩勇者としても、おれにとってはどちらも大切な存在なのだ。

 無かったことになんて、したくない。

 

 綺麗な天色の瞳を真ん丸に見開いて、それからにっこりと弓なりに。頬を朱に染めて口角をほんのりと上げ……おれの相棒『ラニ』は、とても暖かな表情を形作る。

 

 

 「ふふっ。いやぁ、ね? ノワは女の子だし、ボクはこんな身体だから…………赤ちゃん、ちゃんと授かるのかなって」

 

 「な……!? ちょっ……な、な、なななななばばばばば」

 

 「ノワの子だから、きっと可愛い子だと思うんだ。何とかして授かりたいんだけど……良い考え、無いかな?」

 

 「ひょっ!? ひょうゆうのはわたしちょとはやいとおもう!!」

 

 「ははっ! ……ごめんごめん、冗談だよ」

 

 「もおおお! もおおおおお!!!!」

 

 

 

 ……澄み渡りすぎて、掴み所がないのも……それはそれで問題かもしれないけれど。

 

 でもまぁ……心地良いから、それで良いか。

 

 

 おほしさまきれい。

 

 





ラニちゃんの設定できたのは一年以上前なんです
パクリじゃないんです、ほんとです、お願いですしんじてください局長がなん


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66【在宅勤務】薔薇で作った百合の造花

 

 

 地球人類が誇る技術の結晶、インターネット通販の恩恵により……この時代においてはいつでもどこでも、それこそ在宅したままでも『お買い物』に興じることが出来る。

 

 こんな非常識な容姿となり果てたおれであってもそれは勿論同様であり……この物件に備わっている宅配ボックスに配送先を指定することで、おれは『完全に人目に触れないお買い物』術を会得したのだった。

 

 そのお陰もあり……特に『衣』の分野において、事件直後よりかは大幅な文明レベルの上昇を果たすことが出来た。

 おれが配信時に着用する『正装』も、白谷さ…………もとい、()()の持っている装備の数々も、いわゆる中世・近世を基調としたファンタジーな衣装である。現代日本にはどうしたってそぐわないし、そもそも着心地も肌触りも動きやすさも優れているとは言い難い。

 

 そういった点で、可及的速やかに衣類を購入できたのは非常に助かった。……特に下着の類においては…………通販以外で購入する度胸は、おれには無い。

 ともあれ、そんな便利な技術の発展により必要充分な下着と着替えを手に入れることができたおれは……集中作業によって凝り固まった身体を解すべく、温かいお風呂を堪能しているのだった。

 

 

 

 「前世のボクは男だったからね、女の子の下着なんて持ってないし。まぁ仮に持ってたとしても……さすがに他人の使用済みなんて嫌だろう?」

 

 「ラニのならべつ…………い、いや! なんでも無い! そう! そうね! 下着はね! あははは!!」

 

 「ははは。ノワって可愛い顔して割と……変態だよね」

 

 「うぐ…………だ、だって……おれも一応、元男ですし」

 

 「ほぉーう……ふぅーん……へぇーぇ……」

 

 

 

 ……そう、おれだって元は男。いや『元』というか……身体はもとより精神的には今だって、三十二歳の健全な男性なのだ。

 

 なので、つまり、その……いわゆる『女体』に対して、そこまで免疫があるわけでもなく。

 これまでは脱衣所や浴室の鏡を極力見ないことで、可能な限り目を(そむ)け続けてきたのだが……

 

 …………の、だが……

 

 

 

 

 「ら……ラニ、さん? ……その…………見え、ちゃってるんだけど……色々と」

 

 「色々、って……そんな『見えちゃいけないもの』なんて、ある? 同性同士だろう?」

 

 「っ、…………そ、その…………おれ、元は男だし……」

 

 「安心すると良い。ボクも同じだ」

 

 「で……でも! ラニは今可愛(かわ)っ、……お、女の子、なんだし……」

 

 「安心すると良い。キミも同じだ」

 

 「えっと、えっと…………で、でも!」

 

 

 

 小さなその身に纏っていた服を……果たして『服』と呼べるのか疑問が残る、布を被って紐で止めただけの簡素な衣さえも脱ぎ去って。

 いたずらっぽい笑みを浮かべたおれの相棒は、一糸纏わぬその身を堂々と晒している。

 ……のみならず。

 先程からおれの視界に映ろうと執拗に、この狭い浴室内を縦横無尽に飛び回っている。

 

 

 「良いじゃないか。元男同士、現美少女同士。おまけに魂だってほぼ同じと来たもんだ。実質自分の裸を眺めてるようなものだよ」

 

 「おれは自分の裸だって満足に見れないもん!」

 

 「『もん』じゃないよ、何でそんなふとした挙動が一々(いちいち)可愛らしいのさ。それにそんな堂々と宣言することでもないし」

 

 「し……しょうがないじゃん! 恥ずかしいんだから!」

 

 「ふぅん……ボクの下着は想像して欲情しちゃうのに?」

 

 「っ!! っ、っっ!!」

 

 「ぷっ…………あはははは! もう……本当に可愛いなぁ、ノワは」

 

 (それはこっちのセリフだってば……全くもう!!)

 

 

 今のラニの姿はつまり……フェアリー種の小さな女の子(かわいい)である。

 頭身は普通サイズの人間よりもやや低く、普通に幼い外見のおれよりも更にデフォルメ感が強い。百三十四のおれが五から六頭身くらいなのに対して、ラニはなんと四頭身程度。

 ただでさえ小さい姿かたちなのと相俟(あいま)って……すごく、ひたすらに、可愛らしい。

 

 さらさらと流れて煌めく白銀色の髪と、ひらひらとはためく虹色の翅翼(はね)。踊るように身を(ひるがえ)すたびにそれらもまた舞い踊り、可愛らしくもたいへん神秘的。

 お湯から立ち上る湯気と相俟って、非常に幻想的な光景なのだ。実態は単身者向け賃貸物件のお風呂場(ユニットバス)だけど。

 

 

 「……ごめん。やっぱり少し浮かれてるみたいだ。…………本当に、嬉しかったから。ボクを認めてもらって」

 

 「認めるって……当たり前じゃん。おれがラニを嫌うなんて、ありえないよ」

 

 「ふふ……嬉しいなぁ。……じゃあじゃあ、ほら! ボクのこの身体も! 勿論(もちろん)好いてくれるよね?」

 

 「ぐぎぎぎ……! 正直に言って滅茶苦茶好みなのですが…………!!」

 

 「んふふ。さっきも言ったけど、ほぼ『キミのもの』の身体だからね。存分に欲情しちゃっても……好きにしても、良いんだよ?」

 

 (くっっっそエッッッ!!!!)

 

 

 いや落ち着こう。大丈夫。冷静になれ。

 実際……ラニのことは、はっきり言って好きだ。そこは揺るがない。恋愛とか結婚とかにまで発展するような『好き』なのかどうかは正直わからないけど、一緒に居たいと思っていることは間違いない。

 おれに好意を持ってくれているのも嬉しいし、こんな可愛い子にこんなに無防備に誘われたら……そりゃあもう男冥利に尽きる。

 

 だけど……だけどさすがに、()()()()()()をする度胸は……まだ、無い。

 

 

 「えっと…………ラニ?」

 

 「んふふ。なんだい? ノワ」

 

 「そういうのは…………すこしずつ、ね? ()()ちょっと早いと思うし……それに」

 

 

 もしかしなくても、おれはヘタレなのかもしれない。気を奮い立たせて求めてくれたラニに対して、失礼なことをしているのかもしれない。

 ……でも。

 

 

 「今はまだ、ただ一緒にいるだけで……こうして一緒にお風呂入ったり、一緒に生活したり……それだけで、おれは嬉しいから。……幸せだから」

 

 「!! ……ああ、もう! 可愛いなぁ!!」

 

 「うわァー!?」

 

 

 

 (だから……! それはおれのセリフだって!!)

 

 

 喜色満面の笑みを浮かべて、湯に浸かったおれの身体にすり寄ってくる小さな美少女。

 意気地無しのおれが、彼女の真っ直ぐな気持ち全てを受け止められる日は……いったいいつになるんだろうか。

 

 とりあえずは、まぁ。

 このお風呂のように暖かく、幸せな生活に……しばらくは浸ってみようと思う。

 

 

 

 

 「でも実際、見たくなったらいつでも言ってね。好きなだけ使っていいからね」

 

 「つつつつつ『使う』って!? 何に!!?」

 

 「何に、ってそりゃぁ…………オカ」

 

 「わああああああ!! わあああああああああああ!!!!! ちょっ……どこで覚えてきたのそんな言葉!!?」

 

 「ノワのベッド下の薄い書」

 

 「わあああああああああああ!!!!!」

 

 

 

 この妖精……おイタが過ぎる……!!

 

 

 



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67【在宅勤務】もうダメしぬマジやばい

 

 

 一般的な社会人とは大きく異なる仕事に就いているおれ達は、生活リズムにおいても一般的な人々とは大きく異なる。

 出勤時間や休憩時間や退勤時間に縛られることもなく、そもそも平日や休日・祝祭日という概念さえも曖昧だ。

 

 仕事したいときに仕事に取り組み、休みたいときに休む。これだけ聞くと自由気ままで羨ましいと感じる人も居るかもしれないが……休みたいだけ休んだら当然、その分の皺寄せは丸々自分へ返ってくる。

 当たり前だが、仕事をしなければ収入は得られない。休みたいから休むというのは間違いなく自分の意思なので、収入が無くなるのも当然自分の意思によるものだ。

 

 いつ働くか、いつ休むか。なまじ自由であるだけに、そこは誰の庇護も受けられない。一定の収入を得て一定水準の生活を送るためには、並々ならぬ自制心が求められる。

 要するに……おれ達のような業態の人間は、怠け癖がついてしまったらオシマイなのだ。

 

 

 

 

 (おはよぉーございまぁーす)

 

 

 ……そんな中。

 エルフの少女としてデザインされた()()こと木乃若芽ちゃんは、大自然と寄り添って生活を送っていた種族(という設定)である。

 朝陽と共に目が覚め、起床と共に活動を開始し、働くべきときは働き休むべきときは休む。森の木々と共に生きてきたエルフ族は、生活習慣も極めて健康的(という設定)なのだ。

 

 健康的な時間に起床し、一日を有意義に過ごすことは、おれにとってはお手のものと言っても良い。

 

 

 (ただいまの時刻……七時半を回っておりまぁす。今日は水曜日、平日ですね。平日なのにこんな朝寝坊しちゃう子は……ちょーっとけしからんですよねぇー)

 

 

 いっぽう……ラニこと白谷さんの種族である、フェアリー種。

 もちろん作品や媒体によってその扱われ方は様々、その上で個体差ももちろん在って然るべきだが……イタズラ好きであったり、子どもっぽい性格であったり、自分本位(マイペース)でお昼寝が好きだったり……おれやモリアキも含め、こういったイメージを抱く者が多いのではないか。

 

 そんなおれ達のイメージに引きずられたからなのか、それとも昨晩思いの丈をぶち撒けてくれたからなのか。

 今朝に限っては、この時間になっても白谷さんが目覚める様子も無く……そのためこうして、襲撃を企てる余裕も出てきているわけだ。

 

 

 (……というわけで。ねぼすけさんの可愛らしい寝顔をですね、じーっくりと堪能してしまおうと思いまぁす。……ふふふ、おれは一回起こしたもん。ちゃんと起きないのが悪いんだよ……)

 

 『いや先輩……スゲェ顔してますよ今……』

 

 (静かに。ラニ起きちゃうでしょ)

 

 『ラニ? あぁ…………あー、えっと……スマセン』

 

 (よろしい)

 

 

 朝の身支度を終えたおれは、先程自室に戻ってきて枕元に何気なく目線を遣り……そこで見かけた光景に言葉を失った。

 すぐさまモリアキに映像通話を発信し、可愛らしさマックスな我らが天使ラニちゃんの無垢な寝顔を自慢すべく『お目覚めドッキリ』じみたレポートを入れている……というわけである。

 

 というわけで……映像通話の設定を切り替え、インナーカメラからアウターカメラへ。右下にワイプで映る映像が、おれの顔からおれの部屋へと切り替わる。

 スマホを握りしめたまま音を立てないようにゆっくりと歩を進め……カメラはついに目的地点へと到達する。

 

 A5サイズのレタートレイと今治タオルで作られたラニ専用ベッドと、そこで膝を抱えるように丸まり眠っている妖精の姿を捉え……通話の向こう側からは声にならない感嘆の吐息が聞こえてくる。

 

 

 

 「やだ……可愛い…………どうしよ、クッソ可愛い……どうしよう……しんじゃう……」

 

 『いや死なないで下さいよ。……いや、でも…………確かに、ヤバいっすねこれ』

 

 「ヤバい。マジヤバい。もうだめ無理マジ無理……あかん尊い……ラニちゃん尊い……涙出てきた……」

 

 『もう完璧に限界オタクっすね先輩……』

 

 

 いや、だって……だって、これはやばいよ。やばいよ。大事なことなのでもう一度言うけど……やばいよ。

 薄くて綺麗な翅翼(はね)を潰さないようにするためだろうか。ラニはふわふわタオルのベッドでお行儀よく、横向きに丸まってすやすやと眠っている。

 サイズは人間のものより圧倒的に小さいけれど、その造形は下手な人間よりも整っているだろう。絹糸のように細く滑らかな髪で彩られた幼げな顔は……快晴の空のように綺麗な瞳こそ拝めないが、ほんのり赤らんだ頬もすっきり立った鼻筋も、彼女の愛らしさを引き立ててやまない。

 

 昨晩はあんなに不安げだった小さな顔は、今や一切の不安が無いと言わんばかりに健やかな呼吸を繰り返している。

 

 

 

 「…………この愛らしさを全世界と共有できないのが悔やまれる。このKAWAIIは世界取れるぞ」

 

 『さすがに妖精はねぇ……特殊メイクって言い張るのは無理があるっすよ』

 

 「動画の中だったらまぁ、CGとか合成とかクロマキーとか、それっぽい単語で押しきれるんだけどな……」

 

 『生活感が映り込んじゃうと現実(リアル)だってバレちゃいますし…………あれ、じゃあつまり生活感が映り込まない写真ならセーフってことっすか?』

 

 「……!! そ、そっか……タオルのテクスチャくらいあるもんな! 写真を『CGです』って言い張れば良いのか!!」

 

 『せ、先輩ちょっ、落ち着いて……声が大きいっすよ』

 

 「モリアキごめん一旦通話切るぞ! 後で写真送ったるから!」

 

 『え!? あのちょっと、先輩待っ』

 

 

 映像通話を一方的に終了し、ホーム画面に戻ってカメラアプリをいそいそと起動する。

 おれ達の声が耳障りだったのだろうか。ラニは少し顔をしかめておくちをむにゅむにゅと動かしたものの、結局そのまま目を覚ますことなく眠り続けている。……クッソ可愛い。

 

 比べるのも失礼な話かもしれないけど……ふわふわの子猫とか、ころころの子犬とか、そういう可愛い生き物を愛でるときのような……どうしようもなくたまらない、『かわいい』に満ちたこの気持ち。たまらない。

 おれはこれ幸いと超接写で、この『かわいい』が振りきれた天使を撮りまくる。画面上のボタンをタップするどころか長押しして、バシャシャシャシャシャシャっと盛大にシャッターを切りまくる。

 

 

 可愛い。かわいい。どうしよう、めっちゃ可愛い。

 ラニがいけないんだよ、ちゃんと早起きしないから。おれの目の前で無防備に眠ってるから。そんなあざと可愛い格好ですやすや寝息立てておれのこと誘惑したでしょ。ラニ子がわるいんだよ。

 

 ふふふ。

 

 ……うふふふふ。

 

 

 

 

 

 

 尊み溢れる寝顔へ、至近距離に顔とスマホを近づけての一方的な撮影会は……

 

 響き続けるシャッター音によって眠りから引き起こされた白谷さんに、ドン引きした顔を向けられるまで続いた。

 

 



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68【在宅勤務】するはずでしたが

 

 

 さて……本日は水曜日。師走下旬の、とある平穏な平日である。

 週末の生配信は金曜の夜を想定し、とりあえずはそのつもりで動こうと思う。今日と明日はそれに向けた準備を進める日となるだろう。

 

 天使のように可愛らしい白谷さんの寝顔と、これまた非常に可愛らしい白谷さんのジト目を存分に堪能したおれは、軽く腹ごしらえを済ませてパソコン机へと向かう。

 昨日進めていた編集作業は完成こそしていないが、あと一息というところまでは漕ぎ着けているのだ。できれば今日中に投稿できるよう、引き続き仕上げに取り掛かる。

 

 白谷さんのおかげで、かわいい成分の補充もバッチリ。今のおれはやる気に満ちている。

 

 

 

 「ねぇねぇノワ、ちょっといい?」

 

 「んー? どしたのラニ。おいでおいで」

 

 「んふふ。……じゃあお言葉に甘えて」

 

 

 今まさに作業を始めようとしていたおれだったが、他でもない白谷さんの求めとあったら聞かないわけにはいかない。

 虹色の(はね)をはためかせてふわふわと翔んできた白谷さんは……『えへへ』と可愛らしい笑みを浮かべておれの目の前、モニターの天辺(てっぺん)に腰掛ける。かわいい。

 

 

 「ごめんね、忙しいとこ。ちょっとノワの知識を借りたくて」

 

 「いいよいいよ。おれに答えられることなら。どしたの?」

 

 「えっと……何て言ったら良いんだろうな。…………この世界で……魔素(イーサ)が潤沢な場所って、心当たりある?」

 

 「………………はい?」

 

 「ええっと、ね…………何て表現すれば良いんだろ、『何かの力が溢れてくる感じがする場所』っていうか、『奇跡が起こりやすい場所』っていうか……」

 

 「……パワースポット? 願いが叶いやすい場所、みたいな?」

 

 「そう! そんな感…………パワースポット?」

 

 

 魔素(イーサ)の濃い薄いは関係あるのか判らないけど……力が満ちてくるような場所といえば、一般的に『パワースポット』と呼ばれる場所がそれに当たるだろうか。

 大自然のスピリチュアルなエネルギーを全身で受け止めることで、運気向上とか体調改善とか商売繁盛とか落書無用とか、よくわかんないけど色んな効果があるとかないとか。

 正直おれは眉唾物だと思っていたのだが……白谷さんが興味をもったということは、少なからず御利益(ごりやく)があるのだろうか。

 

 …………うん? 御利益(ごりやく)

 

 

 「……ていうか、神社とか? あっこも一種のパワースポットだし、実際みんな神様にお願いしてるし」

 

 「ジン、ジャー……ね。なるほど、神様への祈りを捧げる……教会とか、神殿のような位置付けの施設って感じかな?」

 

 「んー……たぶんね。なあに白谷さん、神社興味あるの?」

 

 「興味あるかと聞かれると……そうだね。非常に興味が沸いた」

 

 「じゃあ行ってみる? ちょうど浪越市(なみこし)にも大きいのあるし」

 

 「行ってみたいけど……大丈夫? ノワの予定圧迫しちゃうんじゃ……」

 

 「編集は……あともう一息だし、すぐ近くだから大丈夫だよ。モリアキのオウチの近くだから。鶴城(つるぎ)さん」

 

 

 そう……なんとこんな都会のど真ん中に、由緒正しい(やしろ)がどっしり居を構えているのだ。

 

 神話にも登場する霊験あらたかな神剣をご神体とする、中部日本の信仰における中枢を担うお宮さん。

 浪越市(なみこし)神宮区(かみやく)の象徴的存在……その名もずばり『鶴城(つるぎ)神宮』。

 

 ご神体である神剣が納められている本殿の他にも、相殿神(あいどのしん)としてこれまた神話にも登場する有名な神々が多数祀られているので、パワースポットとしてのレベルも相当なものだと思う。

 それこそ数日後に控えた初詣では、例年数百万人の人々が日本全国から押し寄せ……

 

 

 「ちょっ、待って! ノワ待って!」

 

 「え? なになに?」

 

 「神々……多数、って……え? 待って、そんなに神様いっぱい居るの? この世界」

 

 「んー、世界っていうか……この国独特の感性かなぁ。ヤオヨロズの神々って言ってね、八百万って書くんだよねヤオヨロズ。て言ってもまぁ正確な数字じゃなくて、それくらい多くの……つまり身の回りのほぼ全てのモノに神様が宿ってる、っていう信仰なんだけどね」

 

 「はっ……ぴゃく……まん……」

 

 「ああ、もちろん強い力を持った神様はほんの一握りだよ。でも鶴城(つるぎ)神宮の主神は最高神の一人だし、相殿(あいどの)の神様もそれに連なる有力者揃いだから安心し」

 

 「待って……『最高神の一人』ってどういうこと……? なんで最高神なのに何人も居るような言い方されてるの?」

 

 「えーっと確か……最高神の持ってる側面のひとつが、またひとつの神格として別扱いされたって感じだったと思う。鶴城(つるぎ)のご神体は剣だから、『剣神』とも呼ばれてる。勝負事を司る面が強いとかなんとか」

 

 「…………最高神様が得意分野ごとに分身してあちこち担当してるけど、信仰される神様そのものは最高神様のまま、ってこと?」

 

 「そうそう、たぶんそんな感じ。とりあえず神社の格でいうとかなり上位のはずだよ、鶴城(つるぎ)さん」

 

 「……おっけー。解った。とりあえず、そこなら期待が持てそうだってことと……この国の信仰が、すごく、すごーく複雑だってことが」

 

 「そうかなあ……じゃあま、とりあえず動画ぱっぱか仕上げちゃうね。片付いたら鶴城(つるぎ)神宮行ってみよっか」

 

 「うん。お願い」

 

 

 金曜夜の生配信の準備をすると言ったな。アレは予定だ。

 べつに今日お出掛けしても、明日まる一日あるからなんとかなるだろう。他でもない白谷さんの、めずらしい『お願い』なのだ。聞いてやらなければ男が(すた)るというものだろう。

 

 急遽決定したお出掛けを楽しむためにも……とりあえず目の前のノルマを片付けるべく、おれはちょっと本気を出した。

 

 

 

 結局、作業そのものはあっさりと……十時頃には概ね完成した。

 この身体の性能を使っての編集作業に、だんだん慣れてきたのもあるのだろうけど……何よりも白谷さんの応援効果が半端無かった。

 

 あの容姿で『頑張れっ』は……ちょっと反則だと思う。

 

 



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69【参拝計画】そしておれに出来ること

 

 

 『ほえー、鶴城(つるぎ)さんっすか?』

 

 「うんそう。モリアキも一緒にいく?」

 

 

 水曜日の朝、現在のお時間は……まだ十時といったところだ。

 

 作業を手早く終わらせたおれは、現在小休憩のため脱力タイムなのだ。こういうときは大抵PCの通話アプリケーションにて、モリアキとネット越しコミュニケーションの最中である。アプリケーションでコミュニケーション……フフッ。

 白谷さんにお願いされた『パワースポット的なところに行きたい』との要望に応えるべく、手近かつ霊験あらたかな鶴城(つるぎ)神宮へのお参りを計画。そこへ『どうせ近場に住んでるんだから』と、モリアキも一緒にどうだろうかと誘ってみたというわけだ。

 

 とうの白谷さん本人は……今現在はテーブルにちょこんと腰掛け、興味深そうにテレビを眺めている。かわいい。

 

 

 

 『あー…………若芽ちゃんとのデートは結構心惹かれるんすけど、何か撮影するとかじゃないんすよね?』

 

 「そだな、あくまで白谷さんを案内するの優先って感じになると思う。いちおうゴップロ(カメラ)持ってこうかなとは思うけど、特に撮るもん決まってるわけじゃないし。漠然と境内案内動画撮るのも良いかもしれないけどな」

 

 『なるほど……ウーン申し訳ないっすけど、ちょっと見送らせて貰います。鳥神氏に貰ったデータ吟味したいのと…………まぁ言っても()っか。若芽ちゃんのですね、FA(ファンア)仕込んでまして』

 

 「マ!? うおおおすごい! 楽しみにしてる!! ……でもどうしたん? いきなり」

 

 『いやーそれがですね……お料理動画投稿したじゃないっすか』

 

 「うん。若芽のおはなしクッキングな」

 

 『それ指摘されたらマジでタイトル変えましょうね? まぁその様子だと先輩気づいてないみたいすけど…………あれね、バズりました』

 

 「……………………マ?」

 

 

 PCで通話アプリケーションを繋いだまま、配信サイト(YouScreen)にアクセスし管理者ページへとログインする。

 そこにはこれまでに行ったリアルタイム配信のアーカイブ動画(今のところ二本)と、これまでに投稿した動画(今のところ三本)のサムネイルが表示されており…………昨日の午後投稿したばかりの動画『若芽のおはなしクッキング・ファンタジー料理【若鶏の墓】作ってみた』の再生回数が半日そこらで五桁に到達、コメント欄も大にぎわいとなっていた。

 

 いつもと違うエプロン姿の愛らしいわかめちゃんを褒め称えるコメントももちろんのことながら……彼らの興味の大半は、予想通りというべきか『謎の声』こと白谷さんに向かっているようだ。

 これは……週末のお披露目配信が楽しみだ。

 

 

 『ユースクのチャンネルクラスも、あっという間にクォーツ卒業してます。晴れてオブシディアンの仲間入り……出自がちょっと反則的だったとはいえ、僅か一週間足らずでこの速度は圧倒的っすよ』

 

 「ほ、ほ、ほ、ほ、ほ、ホントだ!! すごい!! 黒バッチだ!! 見てみて白谷さん黒バッチだよ黒バッチ!! おれオブシディアンはじめて!!」

 

 『先輩……ちゃんとこまめに管理者画面ログインしてます? コメントに全レス返せとは言わないっすけど、SNS(つぶやいたー)とかキチンと『見てます』アピールした方がいいっすよ?』

 

 「…………はい……すみません。肝に銘じます」

 

 『まぁ、そんなわけで。お料理動画で興味持たれて、歌ってみた動画でハートをガッチリ掴んだっぽいすね。良い流れなんで、も一丁起爆剤でも投下できればなって。白谷さんの『お披露目』も迫ってることですし』

 

 「モリアキ……ごめん。おれちょっと腑抜けてた。気合い入れ直すわ」

 

 

 

 おれは自分の不甲斐なさを恥じると共に……おれ以上におれたちのことを考えてくれているモリアキの存在に、改めて『彼が味方で良かった』との思いを新たにした。

 そうだ……本来であれば視聴者からのアクションに対するリアクションを返すのも、配信者ランクアップのアピールを行うのも、配信者本人であるおれが率先して気づき行わなければならないはずだった。

 

 

 『いやいやいや、先輩だってべつに遊んでたわけでも怠けてたわけでも無いでしょう。オレだってそれくらい解りますって。実際今さっきだって編集頑張ってくれてたんでしょう?』

 

 「そうだよモリアキ氏。ノワ昨日は飲まず食わずで深夜まで頑張ってたんだよ。おしっこ我慢しながら」

 

 「ちょっ!!?」

 

 『ブフッ…………まぁ、そんなわけで。先輩にしか出来ないことだってあるんすから、その他のことはあんまり気にしないで下さい。そういう所のフォローするためにオレが居るんすから』

 

 「ボクも早く……マネジ、メント? こなせるようにならないとね。ノワ(ひと)りに重責背負(せお)わせやしないよ」

 

 「モリアキ……白谷さん…………」

 

 

 彼らの力添えは、正直とてもありがたい。

 この身体は動画撮影や配信に関する技量こそ抜きん出ているが、とはいえあくまでも一人の人間でしかないのだ。抱え込めるタスクの量には当然限度があるし、昨晩のように集中して作業していればその他のことがおざなりになってしまう。

 

 おれにしか出来ないことは……責任もっておれが対処するにしても、おれが見落としがちなことに注意喚起をしてくれる仲間がいるというのは、とても心強い。

 

 

 『……ま、そんなわけで。オレは自宅待機してますが、何かあれば力になるんで呼んで下さい。……あ、車出した方がいいっすか?』

 

 「いや大丈夫。浪鉄(ろうてつ)使うわ。……いつまでも烏森(ママ)に甘えっぱなしは、ね」

 

 『そっすか? まぁオレは先輩に頼られて悪い気はしないんで、あんま無理しないで……あと住所バレには気を付けて下さいね。白谷さん、フォローお願いします』

 

 「……ふむ。ノワのお家がバレないようにすれば良いんだね。わかった、何とかして見せよう」

 

 「…………ありがとね、二人とも」

 

 『「エッヘヘ………」』

 

 

 とりあえずは取り急ぎ、SNS(つぶやいたー)でランクアップのご報告と日頃のお礼メッセージを投稿し……お出掛けの準備に取りかかる。

 思えば保護者(モリアキ)無しで初となるお出掛けだが……以前の引っ込み思案なおれとは違うのだ。伊養町での撮影およびJK二人との交流を経て、おれは精神的に逞しくなった。きっと大丈夫だろう。

 

 照れたようにはにかみつつも、どこかそわそわした様子の白谷さんを微笑ましく思いながら……おれはモリアキに『いってくるね』と残し、音声通話を切断した。

 

 



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70【参拝計画】お出かけ秘策

 

 

 おれの家から最寄りとなる駅は、浪越鉄道中央線の(けやき)駅。西行き下りの一番線と東行き上りの二番線しかない、こぢんまりとした無人駅だ。

 駅前ロータリーも、バスやタクシーの乗り場も無い。コンビニさえも少し離れたところにしか無く、飲み物とたばこの自販機が並ぶだけ。利用者以外は訪れる人など皆無な、大変寂しげな駅である。

 

 ここまでの道のりは白谷さんに【エルフ隠しver2.0(瞳・髪色対応版)】を掛けてもらい、正体の露見に対する対処は万全……のはず。

 特徴的な長い耳と、髪(と瞳)の色さえ誤魔化せば、スマホなどのカメラに撮られない限りは黒髪さらさらストレートのただの美幼女にしか見えない。……はず。

 生命探知魔法を駆使して人目を避け、記憶を頼りに街頭や店舗の防犯カメラを避けてきたので、おれの正体が露見した可能性は無いだろう。

 

 最寄りといっても、(以前の)おれの足で徒歩二十分。緩やかに登り続ける住宅地を歩くこと……この身体では、およそ三十分。

 おれは屈折魔法でその身を隠した白谷さんと共に、浪鉄線(けやき)駅に到着した。

 

 

 

 「じゃあ……()()で良いかい?」

 

 「うん。お願いね、白谷さん」

 

 「まーかせて。『我が意を繋げ(メイウィリアス)……【座標指針(マーカ)】』、っと……よし。これでノワの部屋からいつでも()()へ跳んでこれる。出たり入ったりを見られる心配も無いわけだ」

 

 「ありがとう白谷さん。……しっかし、めっちゃ便利だね。ものすっごい助かる……」

 

 「ふふ、そうだろう。ボクも(おさ)めた甲斐があるってもんだよ」

 

 

 白谷さんの空間魔法【繋門(フラグスディル)】は、『(あらかじ)め地点登録しておいた場所へと跳ぶ門を開く』という形式の転移魔法らしい。出口にある程度の制約が掛かるとはいえ、術者以外の(モノ)(モノ)を運ぶことも可能な優れものだ。

 

 しかし実は『一度記録した座標指針(マーカ)は保持し続けるだけで少量ずつ魔力を消耗していく』『複数箇所を記録すればその分保持に要する魔力は増える』といったデメリットが存在するため、前世のニコラさんにとっては今イチ使い勝手が宜しくなかったらしいが……フェアリー種となっ(てしまっ)たことで魔力の容量が爆発的に増え、しかもその魔力もおれから供給され続ける状況とあっては評価が一転。

 実質無料で好きなときに指定座標へ跳躍できる、非常に有用なお助け魔法となっている。

 

 ふふ…………実質無料。良い言葉だ。

 

 

 「でもさ例えば……ここに『門』繋げようとしたときに先客が居た場合って、どうなっちゃうの?」

 

 「繋ごうとした時点で、座標指針(マーカ)の周囲状況は感知できるんだ。座標の安全を確保してから『門』を開けるようにね」

 

 「あーなるほど。先客……っていうか近くに人が居たら、ちょっと待って誰も居なくなってから『門』を繋いでもらえば良いと」

 

 「そういうこと。……まぁ、()()だったら大丈夫そうだけどね」

 

 「でっしょー」

 

 

 二台ならんだ券売機と、これまた二台ならんだ自動改札機しか無い、非常に控えめな(けやき)駅の駅舎。……その裏手。建物の角に隠れた、駅の利用者からは死角になっている位置へと、座標指針(マーカ)を打ち込んで貰う。

 先の説明を聞いた限りでは『門』から出てくる瞬間を見られる危険は無さそうだし、万が一にでもこの死角から出てくるところを駅利用者に見られた際は……まぁ『かくれんぼ』してましたとでも言えば良いだろう。

 

 帰宅の際は、おれの部屋に打ち込んだ座標指針(マーカ)に向けて『門』を開いて貰い。

 外出の際は、この駅舎の死角へと繋いで貰った『門』を利用させて貰う。

 おれは自宅マンションの玄関を出入りする必要がなくなるので、帰宅時に尾行されたり自宅を特定されたり……といった危険を回避することができるのだ。

 

 白谷さんのお陰で……これでお出掛けにまつわる心配事の半分は解決したと見て良いだろう。

 

 

 「ふっふっふ。何だかおれも楽しみになってきた……久しぶりだなぁ鶴城(つるぎ)さん。初詣以来か」

 

 「良いじゃないか。せっかくのお出掛けなんだ、一緒に楽しもう」

 

 「おっけー! ……でもとりあえずは、ちゃーんと白谷さん案内するからね。そこは任せといて!」

 

 「期待してるよ。宜しくね、ノワ」

 

 

 おれは少し大きめのキャスケット帽に長い髪を丸めて押し込み、(つば)を下げて目深に被る。こちらを睨む監視カメラにささやかな抵抗を見せ、自前の交通ICカードを自動改札機にタッチして(けやき)駅のホームへ。目当ての電車は下り方向なので、こっち側のホームで問題ない。

 鶴城(つるぎ)神宮の最寄り駅はその名もずばり神宮東門(じんぐうひがしもん)駅であり、浪越(なみこし)市街の方面ではあるものの東京駅とは逆方面なので『下り』になるのだ。浪越市の基幹駅方向なのに『下り』……少し解りづらいな。

 一方の白谷さんはというと……自動改札機を興味深げに眺めているけど、結局ゲートの上をふわふわと飛び越えて来てしまった。少し思うところはあったけどカメラには何も写っていないだろうし、お一人様に見えるおれが二人分『ピッ』てするのは逆に不審なので……申し訳ないけどお目こぼししてもらおう。メンゴメンゴ。

 

 そうこうしている間にも、東方向から接近してくる電車の姿。少しレトロな形状に青一色のカラーが特徴的な、浪越(なみこし)鉄道の普通電車がホームへと入ってきた。

 この(けやき)駅から乗車する乗客はおれ(と白谷さん)だけのようで、車内も人の姿は(まば)らのようだ。立ちっぱを強いられることは無さそうで、安心した。

 

 

 「乗るよ白谷さん。肩座って良いよ。声気を付けてね」

 

 『了解。お邪魔するね、ノワ。……ふふっ、楽しみだなぁ』

 

 「ああもう、かわいいなぁ……」

 

 『そっくりそのままお返しするね?』

 

 

 両側引き込みの扉がガタガタと開き、おれたちは冬でもほんのり暖かい車内へと乗り込んだ。

 

 

 



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71【参拝計画】今二人電車に乗ったの

※ あの人のママに会いには行きません



 

 自宅から(けやき)駅までの道中は、万が一ご通行中の皆さまに見られてしまった際に備えて【エルフ隠しVer2.0】を掛けて貰っていたのだが……監視カメラが据え付けられている改札をくぐるにあたって、それは解除して貰っている。

 つまり今のおれは長耳と緑髪と翠眼の幼女であり、身に纏う衣類こそこの時代・この国において違和感の無い装いとなっているが……まぁ、つまりは控えめに言って『とても目立つ』容姿なのだろう。

 乗客の数自体はそう多くないとはいえ、先程から少なくない周囲の視線がチラチラこちらへ向けられているのを感じる。

 

 ここからは【エルフ隠しVer2.0】を纏うことは出来ないので、外出中はこの状況に慣れる必要がある。今でこそまだカメラを向けられてはいないが、これまでの経験から言って時間の問題だろう。

 ちくしょう、背中ポスター付けてくれば良かったか。でもあれちょっとダサいんだよな、あれ着けたまま電車とかやっぱ嫌だ。……いや、歩く看板だもんな。ちょっとどころじゃないか。めっちゃダサい。

 

 

 「写真……諦めなきゃダメだよなぁ」

 

 『ノワの写真を無料(タダ)で撮ってかれるなんて……ちょっと良い気分はしないけどね』

 

 「んー……でもま、仕方ないよ。ルールだマナーだモラルだ言ったところで、ほとんどの人はそんなの気にしないもん。明確な罰則とかあるわけでもないし、全員が全員罪に問われるわけでもないし」

 

 『やったもん勝ち、ってやつか。……嫌だなあ』

 

 「……そう、だね。……だからこそ、ちゃんと礼を尽くしてくれる視聴者さんは大切にしないと。……あっそだ、SNS(やいたー)やんないと。コメント返しコメント返し」

 

 『大変だねぇ、あれやったりこれやったり』

 

 「んへへ、そうでもないよ? やっぱ何だかんだ言って、見てもらえるのって嬉しいし。話題に上げて貰えるのはもっと嬉しい。……あのニュースみたいな言い方する人は……さすがにちょっと嫌だけど」

 

 『アイツね、縦長顔で偉そうなダミ声の。……名前覚えたよ。あとはアイツの毛の一本でも引っこ抜ければ』

 

 「呪ったりしないでよね!?」

 

 

 各駅停車の浪鉄線はのんびりと進み、神宮東門駅までは……残すところ、およそ十分。

 おれのSNS(つぶやいたー)アカウントへ寄せられた膨大なコメントの中から、ほんの僅か一部。申し訳程度ではあるが、おれは真摯にお返事を返していった。

 

 

 

 『歌声めっちゃ綺麗!! またおうたお願いします!!』

 『ありがとうございます! 権利的に大丈夫そうな楽曲があれば、積極的に歌ってみたいと思います!』

 

 『髪アップわかめちゃんかわいい……エプロン姿すき……』

 『ありがとうございます! 正装以外にも状況が許せば、いろんな服に挑戦してみたいと思っています! 待っていてください!』

 

 『仮想(アンリアル)って嘘でしょ? どう見ても実在ですよね?』

 『コメントありがとうございます! アンリアル出身ですが、頑張って色々できるようになりました! エルフなので!!』

 

 『モリアキ神の公式エッッッ見ました。かわいいぱんつはいてるんですね』

 『タレコミありがとうございます!! ちょっと文句言ってきますね!! 出来れば記憶を失くして頂けると助かります!!』

 

 『サンタコス可愛かったです。また季節のコスプレ動画お願いします』

 『ありがとうございます! モデル用意の兼合とか色々あるので軽率にお約束はできませんが、可能な範囲で前向きに頑張ります!』

 

 『後発組ですがお布施したいです。どうすれば良いですか?』

 『ご声援ありがとうございます! 現在ユースクさんへ収益支援プログラムの申請中です。もう少々お待ちいただくか……フォロウボックスの月額コースもご検討いただけると泣いて喜びます!』

 

 『お料理動画見ました! 若鶏の墓っておどろおどろしいネーミングわらう。ところで時々入り込んでる声、誰ですか?』

 『コメントありがとうございます! 少しでも楽しんで貰えたなら幸いです! 謎の声に関してはもう少々お待ちください!』

 

 『若芽のおはなしクッキング拝見しました。若芽ちゃんではない声が随所に入り込んでいるのですが、誰の声ですか? ママですか?』

 『コメントありがとうございます! 謎の声に関しましては、すみませんもう少しだけお待ち下さい! モリアキさんではないです!』

 

 

 

 「白谷さんほらほら。白谷さんの声めっちゃ反応来てるよ。かわいいって」

 

 『…………へぇ、これは……ふぅん』

 

 「んふふ……嬉しい? かわいい、って」

 

 『そうだね。……せっかくノワがくれたこの身体だ。早くお披露目して……たくさん称えて貰いたいね。ノワを』

 

 「え!? おれ!? …………っと……わ、わたし?」

 

 『そりゃあ勿論。ボクの身体に対する称賛は、この身体の作り手に向けられるべきだろう? 楽しみだよ』

 

 「うーん…………まぁ、お……わたしも楽しみ。早く共演したいねぇ」

 

 『そうだね。精一杯お手伝いさせて貰うよ、色々と』

 

 「うん。……よろしくね」

 

 

 

 和やかな雰囲気のまま車輌はがたごとと進んでいき……やがて線路は大きくカーブを描いたかと思うと、そのままゆるゆると速度を落として停車する。

 車内アナウンスが目的地であることを告げ、おれは肩掛け鞄と肩の上の人物を確かめ、忘れ物がないことも確認し……神宮東門駅へと降り立った。

 

 鬱蒼と繁る木々の姿が、このホームからもはっきりと見てとれる。あの森の中に佇む社が、中部日本有数のパワースポット……三大神器のひとつを祀る鶴城(つるぎ)神宮。

 白谷さんたっての希望により足を運んだ、本日の目的地である。

 

 

 



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72【参拝計画】神の宮

 

 

 (けやき)駅とは比べ物にならないほどの規模と利用者数を誇る、ここは浪越鉄道神宮東門(じんぐうひがしもん)駅。

 改札口は地上二階部分に位置し、四階建ての駅ビルには数多くの土産物店や飲食店、果ては生鮮食料品を扱うスーパーマーケット『なみてつストア』までもが入っている。

 随所の汚れや造りの古さなど年季を感じさせる建物ではあるが、鉄筋コンクリート造の駅舎は何だかんだ言ってやっぱりタフだ。まだまだ現役で働いてくれることだろう。

 

 

 電車から降り、登り階段を登り、自動改札機を通過し、鶴城(つるぎ)神宮方面の出口に向かっている間――そう、今まさにこの瞬間も――周囲四方八方より人々の視線が向けられているのを、おれの知覚はしっかりと捉えている。

 やはりというか……黒髪黒眼が大多数を占める日本人の波の中において、緑髪翠眼のおれは非常に目立つようだ。

 長い髪のほとんどを帽子の中に仕舞い込んだとはいえ、前髪やうなじのあたりは髪が露出している。その派手な髪色で集められた周囲の視線は、長く尖ったおれの()を認識したことで……すぐ逸らされることはなく、ガッチリと固定されてしまっているようだ。

 

 

 『めっちゃ見られてるね。……大丈夫? ノワ』

 

 「ん……へいき。視聴者さんだって思い込んでればイケそう」

 

 『無理しないでね。……きつかったら、ボクが傍に居るから』

 

 「うん。だから安心だよ。……大丈夫」

 

 

 おれ本人の知名度なんて、有って無きが如しだろう。モリアキ繋がりで知ってくれていた鳥神(とりがみ)さんは例外として……動画配信者(ユーキャスター)としてはオブシディアンランクに上がったばかりの、有象無象のなかの一人にすぎない。

 なので、今現在向けられている視線は単純に『なぁにあの子、ずいぶんヤンチャな髪の毛しちゃって……』の類いの視線だろう。好奇の視線ってやつだ。

 

 すみません。白昼堂々と()()()()()()()()してます。ほんとすみません。迷惑かけないのでゆるして。

 着ている服も普通の(子ども)服だし、ファンタジーな正装で徘徊していた伊養町のときよりかは違和感も迷惑も少ないはずなんです。

 

 

 「……まぁでも実際、思ってたほどじゃないな。まわりの視線全部『視聴者』だって思うの、結構イケるわ」

 

 『それはよかった。あ、信号青だよ。足元段差気を付けてね』

 

 「んう。……っと、そうそうあれ。正面のあれが鶴城(つるぎ)さんだよ」

 

 『へぇ……まぁ木々の枝振りも立派だし、枝葉の勢いも良い。確かに魔素が…………まぁ、うん。他の地点よりは豊富なようだね』

 

 

 鳥の鳴き声を模した電子音声に導かれるように、おれ達はいそいそと横断歩道を渡る。おれの暮らすこの県はお世辞にも交通マナーが良いとは言えないので、横断歩行者が居ようとお構いなしに車が曲がってくる可能性も大いにあるのだ。

 お社の森とその入り口を守る大鳥居がどんどん近づくが……肩の上の白谷さんの言葉は、なんだか少しばかり歯切れが悪い。

 

 

 「えーっと……足りなそうな感じ?」

 

 『……いや。時間を掛けるか、何度かに分けるかすれば大丈夫そうだ。せっかくノワが案内してくれたんだ、無駄にはしないさ』

 

 「うーん……なんか、ごめんね?」

 

 『ノワが謝ることじゃないよ。……ここの『神様』とやらには、ちょっとばかり思うところあるけど』

 

 「ははは…………あんま悪く言わないであげてね」

 

 

 横断歩道を渡りきって、社の森の入り口である大鳥居の前に辿り着く。コンクリート製ではあるものの高さは十五メートルにも達し、存在感はかなり大きい。

 作法に(のっと)って鳥居の手前で会釈をし、見よう見まねで可愛らしく会釈をする白谷さんを見て和みながらも、おれ達は大鳥居を潜り抜けて鶴城(つるぎ)神宮の境内に足を踏み入れ、

 

 

 

 

 

 

 『――――ッ!!?』

 

 「……え?」

 

 『なん、ッ……だ? …………何だ、これ……!?』

 

 「し……白谷さん? 顔色悪いよ? 大丈夫!?」

 

 

 大鳥居の内側に……鶴城(つるぎ)神宮の境内へと足を踏み入れた途端、突如白谷さんはその眼を大きく見開き、せわしなく周囲を見回し始めた。

 いったい何があったのか。おれ自身には感じ取れない『何か』を、白谷さんは感じ取ったのだろうか。思わず周囲を見回すものの……いきなり大きな声を出したおれを何事かと凝視する、一般の参拝客の方々がいるばかり。

 

 ……危ない、通話してるフリしないと。

 耳につけた無線ヘッドセットをやんわりとアピールしながら、不審にならないよう気を付けつつ白谷さんの様子を窺う。

 

 

 「白谷さん……?」

 

 『…………ははっ。……誰だよ、『他の地点よりは豊富なようだね』とか偉そうなこと言ったヤツは。……ボクだよ』

 

 「ちょ、ちょっと……白谷さん? 大丈夫? おっぱい揉む?」

 

 『揉む揉む。……じゃなくて。ごめんノワ。……そして、ありがとう。この地を紹介してくれて』

 

 「………………えっ? それって……魔素が?」

 

 『うん。凄いよ、これは。この森全体が一種の結界だ。魔素の密度も質も半端ない。この……()がそのまま、ツルギの結界の出入り口になってるわけだ』

 

 「あーそういえばなんか聞いたことあるような……じゃあさっきまでの『よそよりはマシだね』みたいなのは」

 

 『そうだね。この結界から外へと漏れ出た……ほんのひと欠片に過ぎなかったんだろう。この()はまるで格が違う』

 

 「え…………そんなに?」

 

 『そんなに、だよ。外周部でさえ()()なんだ。結界の中心なんかは……すごいね、文字通りの『神域』と化してる。これはもう……神様の住処だよ』

 

 「……………………わあ」

 

 

 

 浪越市民憩いの場である、神宮(かみや)区の鶴城(つるぎ)神宮。

 

 その森の奥、中心は……神様の領域だったようです。

 

 

 



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73【鶴城神域】神隠し

 

 

 これまでのあらすじ!

 白谷さんたっての希望で、この世界この国のパワースポットを訪ねることを決めたおれ達。

 電車に乗って到着した鶴城(つるぎ)神宮は、ぱっと見た感じでは『そこまででもないかな……』レベルのスポットだったらしい。

 

 ……が!

 鳥居をくぐった途端に白谷さんの顔色が変わり、さっきまでとはうって変わって豊富な魔素に驚いている様子!

 

 いったい白谷さんの目的とは!

 この豊富な魔素を、いったい何に用いようとしているのか!

 

 

 

 

 「……とか脳内ナレーション入れちゃうくらい知りたいんだけど、そろそろ教えて? まだ揉み足りない?」

 

 『そうだね、そろそろ話しておこうか。…………こっちはゆっくり育てていこうね』

 

 「ギ…………ッ!!」

 

 

 どこか憐れむような笑みを残し、おれの胸元からひらりと離れていった白谷さん。……その微笑の意味するところを理解してしまい、なんだかとっても複雑な心境である。

 まぁ、それはべつにどうでもいい。おれは別に育たなくても気にしないいし、なんならこのまま育たないでいてくれた方が動きやすくていいし。

 ……また話が逸れた。おっぱいはもうどうでもいい。

 

 

 『えーっとね、どこから話そうか……まず昨日ノワが言ってた、竜種探知機(ド○ゴンレーダー)。どんなモノなのか、ちょっと調べてみたんだよね』

 

 「あ、調べてたんだ……あれ白谷さん、文字わかるようになったの?」

 

 『…………便利だよね、音声入力』

 

 「あぁ……………」

 

 

 どこか遠くを見つめるように視線を逸らし、今度はどちらかというと死んだような目の白谷さん……まぁ、外国人が日本語を勉強する上でぶつかる巨大な壁が、平仮名・片仮名・漢字の入り交じる超絶複雑な『文字』だというのもよく聞く話なので……さもありなん。

 

 おれと魂の底で繋がった際にこの世界の基本的な情報は流れ込んできたらしく、お陰でこうして白谷さんと日本語で会話すること自体は問題なく行える。

 また知識として文字の『読み』も心得ているので、日本語を読むことまでは出来るのだが……膨大な数の『文字』を操って文章を記述するまでには、まだ至っていないらしい。

 まぁそもそも、白谷さんの今の身体じゃペンを持つのも一苦労だろう。りんごタブレットの音声認識入力が()()()()で助かった。

 

 

 『まぁ……概念は理解したけど、当然あんな摩訶不思議大冒険(アドベンチャー)なキカイを作るなんて無理な話だ。技術的にも材料的にも知識的にも、何もかも足りない』

 

 「……あくまで創作物の中の機械だもんね」

 

 『そう、再現するのはさすがに無理がある。……そこで、なにもあの形状にこだわる必要は無いと考えた。要するに『苗』の場所と出現を、大雑把にでも掴めればそれで良いわけだ』

 

 「そだね、それだけでも全然違う。白谷さんも平打麺たべる?」

 

 『たべるたべる。それで……まぁ、要するにだね。……もぐもぐもぐ』

 

 「その……レーダー? を作るための……材料と関係がある、とか?」

 

 『もきゅ。……んぐ。そう。この世界でちゃんと動くように調整するには、この世界由来の魔素を動力にしなきゃいけない。四六時中探知し続けてくれるようにね』

 

 「……この世界に存在する魔素を使えば、動きっぱなしの装置が作れる……?」

 

 『うまく行けばね。……まぁ、そういうわけで。だからボクの『蔵』に眠ってる魔道具なんかじゃ、まるで役に立たない。もちろん『ボクやノワが魔力を注いだ瞬間だけ探査を行う』みたいな魔道具は使えるけど、求めてるのはそれじゃない』

 

 

 境内の茶屋で平打うどんをすすりながら、小皿の麺にかぶりつく白谷さんの話に耳を傾ける。

 大紋百貨店内を駆けずり回っていたときの、苛立ち混じりに放ったおれの愚痴……それを白谷さんが覚えてくれていたのにも驚いたし、おれの負担を減らせるようにとあれこれ考えてくれているのにもまた驚いた。

 ドラ○ンレーダー程ではないにしろ、『苗』の所在を探知できるのは非常に魅力的だ。常時稼働式であれば尚のこと。

 

 

 「……それで、その……えーっと、実用化? の目処はついてるの?」

 

 『もく、もく……こくん。……まぁ、多分ね。正直現状ではうまくいく保証は無いけど、失敗するなら失敗するで原因を探れば良いし』

 

 「その材料がそんな高価なもんじゃなきゃ良いけど……っていうか、肝心の材料ってなに? ここにありそう?」

 

 『うん。大丈夫そう。あとでノワにも伐採手伝って貰いたいんだけど、良い?』

 

 「わかっ………………なんて? え、ちょ」

 

 『伐採。斧ならバッチリ持ってるから、ノワにはちょーっと肉体労働をお願いしたい。体力回復の魔法はちゃんと』

 

 「ま、待って待って待って……!? さすがにダメだってそれは!!」

 

 『そうさな。さすがに看過する事叶わぬ』

 

 『ほらやっぱそうだって! お兄さんだってこう言っ…………!?』

 

 

 

 おれと白谷さんが平打うどんをすすっていた、茶屋の四人掛けテーブル。

 白谷さんとのお話にのめり込んでいたせいか全く気づかなかったが……いつのまにか周囲見える範囲からは、おれ達以外の人の姿が綺麗さっぱり消えてしまっている。

 

 食事中のお客さんも、参道を歩いている参拝客も、この茶屋で料理を作ったり給仕に勤しんでいるはずの店員さんさえも……人という人の全てが、あからさまに不自然に姿を消している。

 

 おまけに……おれのすぐ背後に。

 明らかに一目見て『ヤバイ』とわかるモノが、これまたいつのまにか座っていた。

 

 

 

 『…………何者かな? ボクのノワから離れてもらおうか』

 

 『呵々(かか)! ……矮小なる羽蟲風情が。(のたま)いおるか』

 

 

 鋳鉄のように冷たい光を湛える黒鉄色と、月光のように冷たく煌めく白鉄色。抜き身の刀のように美しい毛並みを持つその姿は……狼。

 見上げるほどに巨大な身体が、人語を発するその(ノド)が、挑発気味に歪められたその口許が、彼がただの狼などとは根本的に異なる存在であることを言外に示している。

 

 白谷さんは今や警戒心を隠そうともせず、突如として現れた狼を真正面から睨み付ける。

 一方おれは呆然と、間抜けそのものの表情で……明らかに格の違う彼を眺めることしか出来ない。

 

 

 

 「…………かみ、さま……?」

 

 

 威圧的ながらもどこか神々しい、尋常ならざるその姿。この場が鶴城(つるぎ)神宮の境内であることから、自然と出てきた推測ではあったが……鋼色の大狼はその耳をぱたりと動かすと、不機嫌そうに眉根を寄せる。

 ……意外と表情豊かだな。狼なのに。

 

 

 『――否。吾輩如きが、あの御方を騙るなど烏滸(おこ)がましい。吾輩は只の『与力』、この神域を護る廻り方に過ぎぬ』

 

 「…………えっと?」

 

 『……ム? 与力(ヨリキ)……伝わらぬか? 奉行殿に仕え神域の治安を担う…………あぁ、アザマル殿は『ケイサツ』と云っていたか』

 

 「あー……把握。…………アッ、えっと……わかりました」

 

 『ウム。何よりである。……御神前を穢さんとの愚考、万死に価しよう。貴様らの生殺与奪は吾輩が預かった。奉行殿の御前にて然るべき沙汰を受けるが良い』

 

 「…………あーぅ……」

 

 

 

 

 ――前略。浪越市の烏森氏(お母様)

 

 私たちは予定通り鶴城(つるぎ)さんへとお参りしたの次第なのですが……どうやらケイサツに捕まったらしいです。

 ……不出来な娘で、ごめんなさい。

 

 




※ シリアスにはならないです


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74【鶴城神域】神は正直の頭に宿る

 

 

 鶴城(つるぎ)神宮の大結界内、()()の言うところの『神域』。

 普通の人たちが参拝したり、茶屋で平打うどんをすすったりしている……いわゆる『現世』から半分だけ位相をズラした、ここは並列時空のようなもの……であるらしい。

 

 

 ごく稀に存在を知覚できたり、覗き込めたりするような……一般的に『霊感が強い』と言われる人が現れることもあるらしいけど、基本的には『この世』の者たちが干渉することが出来ない領域であるという。

 

 本っっ当に身も蓋もない言い方をすると……要するに『この世ならざる者』の住まう世界であるらしい。

 

 

 神格の高さで言えば日本屈指の、つまりはそれだけ位の高いお社の、あろうことかそこに根を張る霊験あらかたな木を『切ろう』とした罪によって……おれと白谷さんは『コッチ側』の神宮へと連行され、現在護送されている最中なのである。

 重要文化財破壊未遂の現行犯、ってところか。日本国の法律でそんなのあるのか解らないけど……少なくとも()()()の法ではバッチリアウトらしい。

 

 おれ達を確保した『与力(ヨリキ)』の大狼(マガラさんというらしい)に見張られながら、人っけの無くなった鶴城(つるぎ)神宮境内を進んでいく。

 人の姿が見られなくなった以外はいつもの鶴城(つるぎ)さんなので、観光するぶんにはコッチの方がゆっくり見て回れるかも……などと場違いなことを考えながら、目の前でゆっくり揺られる巨大なしっぽにトボトボと続いていった。

 

 ……ちなみに。

 確保の直接的な決め手となる発言をしてしまった白谷さんは、現在おれの肩の上で可哀想なくらいヘコんでいる。

 この世界この国の常識を知らなかったからとはいえ、今回のことに関しては残念なことに非を認めるしかない。あとでいっぱい慰めてあげないと。

 

 

 

 『此の場にて(しば)し待たれよ。……逃げよう等とは(くわだ)てるで無いぞ』

 

 「はは……さすがに解ってますよ……」

 

 

 

 本殿に程近い……社務所だろうか。()()()()ではお守りとか売ってそうな建物の前で、マガラさんはおれ達を置いて姿を消してしまった。

 とはいえ彼の言ったように、逃げようなどと考える気にもなれない。姿は見られないとはいえ、この『神域』を護る存在がマガラさんだけであるはずが無い。彼が口にしたアザマルさんを始め、同僚が恐らくそこかしこに潜んでいるのだろう。

 怪しい行動を取ればたちまち顕現して取り押さえられるだろうことは想像に難くない。……大人しくしてよう。

 

 とりあえず、白谷さんがマジ凹みしてしまっている以上、おれがなんとかするしかない。ちょっと世間知らずだったとはいえ、本来白谷さんは根っからの善人なのだ。

 ここの木々が大切なものだと知っていれば『切ろう』などということは無かっただろうし……幸いというか未遂なので、誠心誠意謝れば許してもらえると思いたい。

 

 

 

 「おや、珍しい。随分と可愛らしい容疑者じゃないか」

 

 「……(しか)龍影(リョウエイ)殿、此奴等は霊木を伐ろうと画策し」

 

 「其れは其れは。幼気な女子が二人で? 一体どう()って伐る心算(つもり)なのやら」

 

 「い、いや……(しか)し……」

 

 

 本殿を眺めながら決意を新たにしていると、マガラさんと誰かの話し声が近づいてくる。振り向いたおれの目の前、社務所(仮)の引き戸がガラリと開かれ……中から姿を表した二人の男性と、完全に目が合った。

 

 狩衣姿の男性……見た目からしてばっちり人間の、大人の男性二人組である。

 長い黒髪を背後で一つに括った柔和な笑みの男性と、黒と灰色の短髪を流したワイルドな感じの男性。あっれ……言い合ってる声の一人はマガラさんだと思ったんだけど……

 

 しかし、この黒髪のお兄さん……纏う気配が半端じゃない。大狼のマガラさんも……存在感というか、プレッシャーがかなりのものだったけど、この『リョウエイ殿』と呼ばれたお兄さんはさらにその数段上を行く。

 やっぱりこの鶴城神宮の()()()()を護る警察、その偉い人ということなのだろう。おれも含め、オイタをした子や化生の類いなんか一息で消し飛ばせそうだ。

 おれ同様、黒髪お兄さんの気配を察したんだろう。白谷さんなんて……完全に顔がひきつっている。

 

 ま、まぁ良い。開幕ぶっ飛ばされなかったってことは、まだ対話の余地がある。聞こえてきた会話から察するに、やはりこの黒髪お兄さん(リョウエイ殿)が決定権を持っているのだろう。

 

 ……であれば。

 おれがやるべきは、ただひとつ。

 

 

 「あ、あのっ! えっと…………この度はわたしの監督不行き届きの致すところにより」

 

 「あぁ大丈夫大丈夫。謝らなくて良いから」

 

 「ひっ……!?」

 

 「しゃ、謝罪を! ボク達に謝罪の機会を! どうか!!」

 

 「はっはっは。要らない要らない」

 

 

 

 

 し、謝罪を……()()()()()()()()()()()()()

 

 これはやばい。あかんやつだ。完全に取り返しのつかないやつだ。

 いや……無理もない。考えてみればおれたちは、最高神様のお膝元を汚そうとしたのだ。

 

 なんとかしないと。おれがなんとかしないと。でないと……白谷さんが裁かれてしまう。

 それはだめだ。絶対に回避しなければならない。白谷さんはおれにとって……おれの心の安寧のためにも、おれがこの世界を守るためにも、絶対に必要な存在なのだ。

 

 

 「ど、どうか! 謝罪の機会を!!」

 

 「え? あ、あれ? いいってば。そんな謝罪なんてしなくて良いから。木を伐ろうとしただけなんだろ?」

 

 「はひっ!! 畏れ多くも鶴城神宮の木を頂戴しようと画策しました!!」

 

 「だ、だよね? でもまぁ考えるだけなら」

 

 「原因はボクです! ボクが余計なことを仕出かそうと!! 彼女は悪く無いんです!!」

 

 「大変申し訳ございません!! 謝って許されることではないと存じておりますが……どうか、どうか命だけは!!」

 

 「ボクが悪いんです! ボクが愚かなことを口走ったからで!!」

 

 「いや、待っ……待って!? ちょっとマガラ!? お前この子らに何言った!?」

 

 「……その……『生殺与奪は吾輩が預かった』と」

 

 「お前…………こんな小さな女の子だぞ? そんなガチで脅して可哀想とか思わないのか?」

 

 「ごめんなさい!! ゆるしてください!! 申し訳ございません!! 命だけは!!」

 

 「ノワは悪くないんです!! どうか逃がしてあげてください!! どうか!!」

 

 「…………面目次第も……御座いませぬ」

 

 「謝る相手違うよな?」

 

 「…………はっ」

 

 

 

 

 とりあえず謝罪することでいっぱいいっぱいで、何があったかよく覚えていないけど……

 ワイルドな感じのお兄さん(どうやらマガラさんらしい)のほうから、何故かおれ達が謝られました。

 

 どうやら、許されたらしいです。

 

 

 ……ちょっと漏れた。

 

 





【神は正直の頭に宿る】
神は正直な人を守り助けてくれるということ。正直の頭《こうべ》に神宿る。


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75【鶴城神域】神狼の主

 

 

 

 「いやー済まない、怖がらせてしまったね。……えっとまぁ、最近ちょっと立て込んでてさ。与力(ヨリキ)達に『警戒を強めろ』って指示した矢先だったんだよね」

 

 「は、はひ……」

 

 

 先程狩衣姿の男性二人が出てきた、鶴城(つるぎ)神宮本殿近くの社務所……のような建物の中。

 人間的な感覚に基づいて判断するとすれば……座卓と座布団が設えられた客間のような部屋にて、おれ達はなんとお茶を振る舞われていた。

 

 座布団はワケわかんないほど座り心地が良いし、出されたお茶は意味不明なほど美味しい。

 ついさっきまでは冗談じゃなく死ぬんじゃないかと思っていただけに、状況のギャップに思考が追い付いていない。

 

 

 「改めまして。僕はこの鶴城(ツルギ)の神域奉行……ええと、治安維持担当の元締を拝命している。名を龍影(リョウエイ)と謂う。まぁつまり……なんだ。具体的な指示を出さなかった、僕の落ち度という訳だ。申し訳無い」

 

 「いやそんな!! 元はといえばボクが伐採とか言い出したのが悪いのであって……」

 

 「まぁ、そうだとしてもね。我等はホラ、神使だから。俗界の者に干渉するには、本来最大限の注意が必要なんだけど…………」

 

 「…………けど?」

 

 

 ()()()項垂(うなだ)れているマガラさんとは対照的に、困ったような苦笑のような複雑な顔で……あろうことか、おれ達に謝罪を述べている黒髪のお兄さん。もとい、リョウエイさん。

 そのリョウエイさんは何やら言いたげにこちらへと視線を寄越し、おれの肩の上で正座している白谷さんへ視線を向け、再度おれに視線を戻すと……しばしの思考の末、絞り出すように口を開いた。

 

 

 「君達の纏う『気』がね。……俗界のヒトのものには、とても見えないんだ。マガラ達『与力(ヨリキ)』が騒ぐのも解る。そりゃもう大騒ぎだったんだよ? 『なんかヤベェのが侵入し(はいっ)てきた』って」

 

 「は……入ったときから…………目ぇ付けられてたんですね……」

 

 「まぁ、それだけ奇特な気を漂わせて居ればね。此処(ここ)鶴城(ツルギ)の『与力(ヨリキ)』は、皆総じて鼻が利く。直ぐに嗅ぎ付けたさ」

 

 「全然気づきませんでした……」

 

 

 そんな奇妙なにおいを漂わせていたんだろうか。思わず袖口を鼻に近づけ、すんすんと嗅いでみる。

 肩の上の白谷さんも鼻をひくひくさせ、におっていないか確かめているようだ。かわいい。

 

 しかし……そんなにも多くのヨリキの方々に見張られていたなんて。おれ達はちっとも気づかなかったし、そんな状況下で呑気に平打うどんをすすってたんだなぁと思うと……我ながら間抜けな絵面だ。

 

 

 「まぁ()(かく)。君達の出生に関して気になる処は在るが……自責の念が()()()()しまうような幼子だ、神域を穢すような禍つ者とはとても思えない」

 

 「っもょ!!? えっ!? な……っ!?」

 

 「済まないね。鼻が利く者ばかりだから。……御詫びじゃないけど、替えの着物は此方(コチラ)で用意しようか」

 

 「……え? 何ノワ、もしかしておし」

 

 「ちちちちちがいます!! ひょんなことあにませんので!! ちがうですので!!」

 

 

 エルフやフェアリー……ファンタジーな種族とはいえ、所詮は人間に過ぎない。人間の百万倍ともいわれる感度を誇る狼の嗅覚を誤魔化すことは……さすがに無理だったようだ。

 ちくしょう。理不尽だ。一方的に脅された上に漏らしたこと共有されるなんて。報連相だかなんだか知らないが花も恥じらう乙女を辱しめるなんて、さすがに万死に値する。

 ……おれは中身は男だけど、配信者としての()()()は乙女なのだ。というか事実この身体はまごうことなき乙女なのだ。だからこの怒りは正当なものなのだ。

 

 到底手の届かない格上とはいえ、せいいっぱいの怒りを込めてマガラさんを睨み付ける。顔真っ赤で涙が滲んでる情けない顔なのは自分でもわかるが……その甲斐あってかマガラさんは複雑な表情を浮かべて、ばつの悪そうな顔で視線を逸らした。

 ふふん、勝った。

 

 

 

 「まぁ、御咎め無しとは謂ったが……少しばかり話を聞かせて貰いたいんだけど、良いね? 霊木を伐ろうとした目的もだけど……君や、君の従者の事について」

 

 「……えっと、それは…………はい」

 

 「念の為もう一度明言しておくけど、我等には君達に(バチ)を与える心算(つもり)は無い。返答によって君達の立場が危うくなる事は無いので、包み隠さず教えて欲しいかな。…………何か知っているんだろう? ()()(わざわい)の事」

 

 「………………わかり、ました」

 

 

 柔和な笑みを浮かべたまま、しかし穏和そうな目をほんの少し鋭く(ひそ)めて……リョウエイさんの金色の瞳が、真正面からおれを見据える。

 本能、とでも言うのだろうか。理屈ではない理由によって、隠し事や嘘など無駄であるということを直感的に悟ったおれは……観念して、ここに至るまでの経緯を話し始めた。

 

 

 おれ達が今日、霊験あらかたなパワースポットであるこの鶴城(つるぎ)神宮へと足を運んだ、その理由まで。

 

 始まりの金曜日。()が死んだあの日から始まった……おれの常識を軽々とぶち壊していった、その全てを。

 

 



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76【鶴城神域】神使のおしごと

 

 

 リョウエイさん率いる与力(ヨリキ)の方々のお仕事は、この境内の巡回警備および不審者の捕縛を主としているらしい。

 おれ達が捕まる原因となったような罪状……物理的手段によってこの鶴城(つるぎ)神宮を穢そうとする者は、()()()()()()直接干渉せず、間接的に――転ばせたり手元を狂わせたり鳥のふんを直撃させたりして――警告を加えることで対処していたらしい。

 

 ……その一方で。

 今回のこうしておれ達が連れて来られたように、与力(ヨリキ)本人が直接干渉するケースも、度々生じているのだという。

 

 

 その基準。直接干渉するか、間接的な警告にとどめるかを判断する、基準。

 それはずばり、その容疑者が『神域』に干渉し得る者であるかどうか。

 

 普段のおれ達に認識しやすいように言い換えると……悪霊や呪い等を始めとする霊的な要因、要するに()()()()()()()()()の仕業であるかどうか。

 まぁ、つまりは……白谷さんいわくの『魔力』が現代人には有り得ない規模だったため、マガラさんが接触してきたということらしい。

 

 

 そして……彼らがここまで異常に対して目を光らせていたのは、他でもない。

 ここ数日、この鶴城(つるぎ)神宮を訪れる参拝客の中に……(わざわい)の『()()()()()()()()()が、度々見受けられたのだという。

 

 

 

 

 「…………成る程ね。異なる世界からの御客様、しかもこの世を滅ぼす可能性さえ秘めた『種』か。……道理で此迄(これまで)に前例の無い()だった訳だ」

 

 「た、『種』……取り除けた……んです、か?」

 

 「載っかってるだけだったし、ね。僕は此でもそれなりに歳を重ね、場数もそれなりに踏んでいる。造作も無いさ」

 

 「す、すごい! なんだ、リョウエイさん達がいてくれれば安心じゃん! ……良かったぁ」

 

 「…………発芽してない『種』を感知……しかも除去も出来るなんて」

 

 

 

 さすがは神様の遣い、おれ達に出来ないことを平然とやってのける。

 そこに惚れる。あこがれる。

 

 なにせ、おれ一人で全ての『種』を探し出すのは、不可能に近い。目の前に現れてくれれば知覚することも出来るだろうが、現状では問題の『種』がどこにあるのかが解らないのだ。

 白谷さんが作ろうとしてくれている、頼みの綱の探知機だって……口ぶりからすると、根を張って行動を開始した『苗』にならないと感知できない様子。

 ……まぁ、素材の入手方法は改める必要があるだろうけど。

 

 しかし、そんな中で。

 リョウエイさん達の手に掛かれば、おれ達が知覚できない『種』の段階で――まだ宿主に何の害も加えていない状態で――その種を取り除けるのだという。

 無理ゲーだと思っていたところに、思わぬ強力な協力者の登場だ。これは助かる。……きょうりょくなきょうりょくしゃ。んフフッ。

 

 

 

 

 「いやぁー……喜んでくれてる(ところ)申し訳無いんだけどね」

 

 

 ……しかし。

 

 心強い味方の出現に心踊らせるおれに向かって。

 他でもないリョウエイさん本人から……非情な現実が突きつけられる。

 

 

 

 

 「この鶴城(ツルギ)の境内ならまだしも……僕達は『外』に干渉する事は出来ない。赦されて居ないんだ」

 

 「……………………つまり、」

 

 「『外』に於けるあの(わざわい)に対しては、如何(どう)することも出来ない。君達に頼る他無いだろう」

 

 「………………あおーん……」

 

 

 (いわ)く……そもそもが鶴城(つるぎ)神宮の治安維持担当である彼らは、基本的にこの鶴城神宮境内から出ることが赦されていない。

 よしんば許可を取り付け『外』に出たとして。彼らの……そのままの意味で神憑(かみがか)り的な力の源となるのは、ほかでもない『鶴城神宮』そのものである。

 

 

 神様の力が桁違いに強かった大昔ならば、神様の部下であるリョウエイさん達が神域から出張することも出来ただろうが……技術と理論と学問が発達した現代においては神様の持つ神秘もすっかり剥がされ、いかな最高神様といえど信仰も影響力も薄れる一方。

 その力を十全に扱えるのは、僅かに残された神宮境内のみ。その神宮自体も時代とともに地域の開発が進み、敷地を少しずつ削り取られ……かつての敷地よりも大幅に減じてしまっているらしい。

 

 

 『他でもない俗界のヒトビトがそう望んだのだから、我々には如何(どう)することも出来ない』と自嘲気味なリョウエイさんの言葉に、傍で大人しくしているマガラさんも苦々しげに頷いた。

 

 やはり神宮の治安維持を担うだけあって、かなりの良心を持ち合わせた方々なのだろう。あの『種』が悪しきモノだと、対処せねばならぬ(わざわい)であると理解しているが……現状では手の届く範囲――鶴城神宮に参拝に訪れた人々――に対しての対処しか出来ない。

 表情の優れない彼らの、そんな葛藤が見て取れる。

 

 どうやら本当に……彼らの力添えを得ることは、不可能のようだ。

 

 

 

 ……だが。

 確かに、神宮の外での対処は不可能だとはいえ。

 

 

 「あの……相談なんですけど」

 

 「……ふむ。良いだろう、僕達に出来る事ならば」

 

 

 逆説的に考えれば、神宮境内であればリョウエイさん達も『種』に対処することが出来るのだ。

 むしろ……こと鶴城(つるぎ)神宮の境内においては、彼らはおれ達なんかよりも圧倒的に格上なのだ。鶴城(つるぎ)の神様直々の遣いであり、おまけに頭数も指揮系統も備わった組織体制である。その処理能力は疑うべくもないだろう。

 

 

 「『種』に憑かれた人が、鶴城神宮に参拝してさえくれれば……リョウエイさん達は動けるんですよね?」

 

 「……そう、だね。『種』の(わざわい)そのものは、実際何度か討ち取っている。手の届く範囲であればマガラ達与力(ヨリキ)も……勿論僕も、対処に出ることは可能だ」

 

 「じゃあ…………なるべく多くの人が鶴城(つるぎ)さんに来てくれるよう、そういう告知をすれば……少しは効果が見込めるんですよね?」

 

 

 つまりは。

 可能な限り多くの人々を『鶴城神宮』へと誘うことが出来れば……それだけ多くの『種』を、未然に処理することが出来るハズ。

 (わざわい)が『根』を張り巡らせ『苗』となる前に。宿主に悪影響や被害を生じさせる、その前に。

 

 

 「勿論(もちろん)。……現状鶴城(つるぎ)の宮司や禰宜(ネギ)に指示を出したり、彼らを通して神社庁や文化大臣にも要請を出そうと試みて居るが……何せ『種』の(わざわい)此迄(これまで)に経験の無い事案だ。俗界の者達に詳細を説明し難い上に、この国の者達は……ほら。……前例の無い出来事には、異様に腰が重いだろ?」

 

 「じゃじゃじゃ……じゃあ! おれが呼び掛けてみる…………みます! 鶴城(つるぎ)さんに足を運ぶように、なるべく多くの人々に!!」

 

 「ははは。……君みたいな可愛らしい子に頼まれれば、確かに足を運んでくれるかもね」

 

 「アッこれは解る! 信じてくれてないやつだ……!」

 

 「ノワ、スマホスマホ。ノワのチャンネルを……動画の再生数見せてみれば? あとSNS(つぶやいたー)のフォロワー数」

 

 「なるほど、ってかココって電波届く……アッ問題ない! てかWi-Fi飛んでるし!!」

 

 

 ネットに繋げるならこっちのもんだ。おれ自身の活動内容をアピールするにあたって、スマホがあれば何の問題もない。

 立ち上げたばっかりでまだまだ駆け出し、吹けば飛ぶような初心者(オブシディアン)ではあるが……これでも動画作成と公開と生配信を心得た動画配信者(ユーキャスター)の端くれだ。

 

 流動的きわまりないし、状況的に報酬は期待できないだろうが……はじめての案件営業、掛けてみようじゃないか!

 

 

 



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77【鶴城神域】神使とゆかいな仲間たち

 

 おれの身元――パソコンやスマホなどインターネットを通じて、不特定多数の人々に情報を伝える動画配信者(ユーキャスター)であること――を伝え……とりあえず活動実績として、これまでに公開してきた動画を見て貰うことにした。

 音量ボリュームを上げたスマホをリョウエイさんに渡し、再生ボタンをタップする。とりあえず投稿し(でき)たてほやほやの『おはなしクッキング』を再生し…………アレ、なんか部屋の空気重くなってません?

 

 リョウエイさんはマガラさんにも見えるように画面を傾け、自身もくいいるように画面を見つめている。……どうやらスマホやネットの扱いは心得があるようだが、動画視聴サイト(YouScreen)は見たこと無かったようだ。

 ていうか、気のせいかな。いや気のせいじゃなくない?

 

 しかし……朝モリアキに教えて貰ったときよりも、再生数カウンターが更に増し増しになっていた。ここまでの速さは未経験なので、内心の動揺を()し殺すのに必死だ。

 今は大事な案件の交渉中なのだ、おれに余裕が無いなんて思われたくない。

 

 それと……どういうことだ。この部屋の空気の重さというか、威圧感というか……だんだん増してきているような気さえするんですが。

 

 

 

 「……(これ)は」

 

 「えっ? あ、はい!」

 

 

 思考に沈みそうになっていたおれの意識が、リョウエイさんの言葉によって引き戻される。

 コチラに向けられた画面の中では、エプロン姿のおれが楽しそうに……ぶつ切りにされた鶏肉を揉みしだいている。……マガラさん、よだれ。生肉でもイケる(かた)ですか。

 

 

 「見た(ところ)、屋内での……スタジオ、とやらでの撮影だろう? それに僕も『テレビ』の撮影は、何度か見たことがある。撮影を行うには大掛かりな準備と、大柄で重い撮影機材……それに少なくない費用を要する筈だ。君一人で、どうやって()鶴城(つるぎ)の撮影を行う心算(つもり)だ?」

 

 「えーっと、それに関しましてはですね。……ちょっと失礼します」

 

 「「あっ……」」

 

 

 つやつやとした生肉の映像が消え、残念そうな声が聞こえる。……狩衣姿のイケメンが二人揃ってそんな顔するなよ。かわいいかよ。

 

 にやけそうになる顔を必死で自制し、おれはプレイヤーを畳んで別のアプリケーションを呼び起こす。

 起動させたのは、おれの自宅PCと紐付けされた遠隔制御アプリケーション。これによって外出先でも(それなりの速度の通信環境さえあれば)自宅PCに収められた各種データを閲覧したり、ある程度の操作を行うことが可能なのだ。

 

 そして……自宅PCから呼び出したのは、これまた完成し(でき)たてほやほやの動画ファイル。

 そのタイトルこそ、『昼飯(メシ)ついていってもイイですか?【伊養町商店街編】』。屋外でも撮影が行え、おれ一人で成立させられることを示すには丁度良い……まだ未公開の動画である。

 あっ、これがいわゆる『本邦初公開』ってやつか。ちょっとかっこいいぞ。……違うか。

 

 

 『ヘィリィ! 親愛なる人間種諸君。魔法情報局のわめでぃあ、局長兼リポーターの木乃若芽です! 本日はですね……ここ! 伊養町商店街からお送りしています!』

 

 「えっと、まぁ……こんな感じで。街中でおれ一人でも、問題なく撮影することが出来ます。撮影機材もですね、テレビ用の高価なカメラじゃありませんけど……()()です」

 

 「「えっ?」」

 

 

 肩掛け鞄から引っ張り出した不織布(フェルト)の巾着袋、そこに納められていた小型軽量の電子機器に……動画用のカメラと聞いてテレビ局のスタッフが扱うような、ロケットランチャーみたいな機材を想像していたのだろう二人が、揃って『ぽかん』とした表情を見せる。かわいいかよ。

 まぁ……それも無理もないだろう。おれが愛用するゴップロ(カメラ)は本体の操作性を犠牲に、取り回しの良さと耐候性にステータスを割り振ったアウトドアカメラなのだ。

 低下した操作性も、片手で操作できる別売の無線コントローラーと併用することで解決できる。安い買い物ではなかったが。

 ともあれ、その小ささはある種の感動モノなのだ。ロケラン(テレビカメラ)とサイズを比べたら……笑うしかない。

 

 

 「これです。これがカメラ本体で、これが無線コントローラー。この動画でもおれは、このカメラに(グリップ)を付けたものをずっと構えて撮影してます」

 

 「……待って。待ってくれ。……この映像は、君が、独りで、自分だけで撮影して居るのか?」

 

 「はい。そうです」

 

 「……他の人員とか、撮影内容の調整なんかは」

 

 「居ないですね。いちおうラニ……この子も出演者ではありますが、撮影スタッフはおれだけなので。なので面倒な企画会議とか、予算折衝とか一切無いです。おれが撮ろうと思ったものを撮って、すぐにでも公開することが出来ます。……まぁ、テロップ……文字いれたり、音を調整したりしたいので、厳密には『すぐ』じゃないですけど」

 

 「…………必要となる資金……掛かる費用なんかは」

 

 「ほぼ無いですね。……強いて言えば、おれの家からここまでの電車代くらいで」

 

 「………………成程、非常に手軽な訳か」

 

 「はい。非常に簡単に公開できるんです。……というか、あの」

 

 

 さすがに……気のせいだと言い聞かせ続けるには、無理がある。

 困惑気味に周囲を見回すおれの姿を見て、だいたい察してくれたのだろう。リョウエイさんは苦笑すると、()()()()声を掛ける。

 

 

 「……お前達、警邏は如何(どう)した。持ち場へ戻れ」

 

 「…………おおぅ……やはり……」

 

 「(いや)……待て。シロは此所(ここ)に残れ」

 

 『ヒッ!?』

 

 

 姿は見えずとも、びくりと肩を(すく)ませる様子が目に浮かぶような……そんな悲鳴じみた呼気が、どこからともなく耳に届く。

 先程から感じていた、空気の重苦しさ。……もしかしなくても、()()()()いたのだろう。この部屋に。

 

 リョウエイさんの言いつけ通りに警邏へ戻ったのだろうか、部屋の空気が幾分か軽くなる。

 するとリョウエイさんは瞳を閉じて思案顔で、顎に手を当て何事か考えていた様子だったが……暫しの後に瞼と、そして口を開く。

 

 

 「シロ。知我麻(チカマ)を呼べ。『(わざわい)に関して』と伝えよ」

 

 『は……はっ! 御意に!』

 

 

 チカマって誰よ、とか考える間もなく……どこか幼げな声のみを残し、姿を消したままの何者かは足早に去っていった……みたいだ。

 恐らくはリョウエイさんの指示通り、チカマさんとやらを呼びに行ったのだろう。リョウエイさんは『(わざわい)に関して』と言っていたが、これはもしかして。

 

 もしかすると……期待して良いのだろうか。

 

 

 「……さて、ワカメ殿。先程の件だが……是非前向きに検討願いたい」

 

 「は……はひっ! ありがとうございます!」

 

 「ついては……此方としても可能な限り、力添えをさせよう。宮司を呼びに行かせた、暫し待ってくれ」

 

 「いえ、境内撮影の許可が頂け…………なんて?」

 

 「鶴城(つるぎ)()()を……知我麻(チカマ)を呼びに行かせた。僕が取り次ごう、暫し待ってくれ」

 

 「………………ふュっ」

 

 

 

 

 

 ――拝啓、浪越(なみこ)神宮(かみや)区の烏森(お母)様。お元気でしょうか。

 

 わたし達はというと、当初の予定通り白谷さんと鶴城(つるぎ)さんに参拝したところ……なんと、鶴城(つるぎ)神宮神職のトップと、いきなり面会させて頂く機会を賜りました。

 

 

 さすがにここまでは想定してませんでした。

 

 …………どうしよう。たすけて。

 

 

 



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78【鶴城神域】神使のおもてなし

 

 

 シロと呼ばれた使いが出され、一方で『宮司に会わせる』とのお達しを受けたおれ達。

 さっきまでリョウエイさん達と対面していた客間(?)を後にし、靴に履き替えて別の場所へと誘導されていった。

 

 社務所のような建物から表に出て、玉砂利の敷き詰められた境内をじゃっほじゃっほと歩んでいく。おれの先を行くリョウエイさんと、おれの後ろに続くマガラさん……背が高くて脚の長い二人だったが、おれの小さな歩幅に合わせてくれているようだ。そんなに焦らずとも問題なく追従できる。

 

 しかしながら、何度見ても不思議な感覚だ。

 ここ鶴城(つるぎ)神宮はその神格とその立地から、真夜中等を除けば誰かしら人が訪れている。参拝客だけならばまだしも、神職の方々や巫女さん達までもが居なくなることなんて無いだろうし……まだこんなにお陽様が高いのに完全な無人になることなど、まず有り得ない。

 どこかに異常や異変があるわけでもなく、平日とはいえ年の瀬の真っ昼間。無人の境内はしかしながら相変わらず、その静謐で神秘的な空気を漂わせている。

 

 毎年年始の初詣ともなると大量の屋台がひしめく参道も、お守りや縁起物を求める参拝客を捌くための仮設社務所も、ちょっとしたプールほどの広さにもなる特設の賽銭箱も……全く無人のそれらを尻目に歩を進めていると、なにやら大きく立派な建物が近づいてくる。

 ……待って。ここって。

 

 

 「さて……ワカメ殿。神楽殿に立ち入った事は?」

 

 「は、はひっ! 無いでしゅ!」

 

 「はははっ。そう固くならないで大丈夫だよ。知我麻と会うにはいつも此処を使って居るからね、少し歩かせてしまったが……あぁ、下足は其のままで大丈夫だよ」

 

 「はい! ありがとうございます!」

 

 

 神楽舞の奉納や各種祈祷を行う、神楽殿。普段は初穂料を納めなければ立ち入れない、恥ずかしながらおれは未だ立ち入ったことの無いそこへと、人生初めて足を踏み入れる。

 これまた無人の――しかし見惚れるほどに美しい――木の香溢れる館内を進み、さも当然のように関係者専用エリアへ足を踏み入れ……やがて明らかに格式高い設えの一室へと、場違いも甚だしい格好のおれ達は通されたのだった。

 

 石張りの廊下を進んだ先の、その部屋は……なんというか、まるで温泉旅館の客室のような造りだと感じた。

 木の木目が綺麗な引き戸を開けると、まずは玄関土間のようなスペースと上がり框が出迎える。側面には棚状の下駄箱が据え付けられ、履き物を納めるスペースとともに……実際に下駄も何足か収まっている。文字通りの下駄箱ですね、わかります。

 リョウエイさんに続き靴を脱いで上がると、板張りの廊下が三メートル程続く。その右手にはお手洗いがあり、左側は少し入ったところにミニキッチン……というか、給湯スペースがあるようだ。

 

 そのまま直進し、真正面の(ふすま)を開くと……なんということでしょう。目に飛び込んできたのは、真正面に坪庭を望む上品な畳の座敷。

 右手には立派な床の間と掛軸が飾られた畳の間は、広さはおよそ……えーっと、ひいふうみい…………三十畳ほど。一枚板の天板が存在感を放つ座卓がぽつんと一つと、その周囲に艶やかな光沢を湛える座布団が六枚。これ絶対(ぜって)ぇ超重要な会議とかに使う部屋ですよね?

 おれはあまりにも場違いな空気を感じ取ってしまい、開いた口が塞がらない。肩の上の白谷さんも同様に動揺を隠しきれず、興奮げにぱたぱたと羽をはためかせている。

 

 

 

 「…………さて、此処まで入れば大丈夫だろう。其れではワカメ殿、そろそろ()()()。気を楽に」

 

 「へ? 戻す、って何…………っ!?」

 

 

 リョウエイさんの視線を受けたマガラさんが、柏手を一つ打ち鳴らした……その瞬間。

 この部屋の外に、この神楽殿に、この鶴城(つるぎ)神宮に……突如として多くの人達の反応が、全く同時に姿を表した。

 

 ……いや、ちがうか。リョウエイさんは『戻す』と言った。

 どちらかといえば……今まで異界に居たおれ達が、おれ達の世界に――リョウエイさん達が言うところの『俗界』に――()()()()()と表現した方が正しいのだろう。

 人の目の無い部屋に着くまで、おれ達を『戻す』のを待ってくれていたのだ。本当にイケメンかよ。すき。

 

 

 「あの、そういえば…………おれ達さっきまで……その、()()()()に居たんです……よね?」

 

 「そうだね。俗界の茶屋で平打を啜っていたワカメ殿を、マガラが此方(コチラ)へと引き込んだ形になる」

 

 「ああやっぱり。……えっと、その場合なんですけど……その瞬間のおれ達って、はたから見るとどういう感じなんですか? いきなり消えたりしたら大騒ぎになるんじゃ……」

 

 「其処(そこ)は大丈夫。周囲の人々には認識阻害と、緩やかな人払いを敷いて居てね。あの場に居た人々は少しずつ君達を認識から外していき、認識にも記憶にも残らなくなる。そうして完全に認識が外れきった処で、此方側に引き込んだ。引き込む瞬間を認識される事は無い。身内ならばともかく……赤の他人の女の子だろう、直ぐ其処(そこ)に居た事さえも覚えて居ないだろうね」

 

 「ほへぇ……すごい」

 

 「……すごいなんてもんじゃないね。……凄まじい技量だよ」

 

 「ははは。お褒めに(あずか)り光栄だよ。……さて、座ってくれ。(じき)に知我麻も来るだろう」

 

 「えっと……ええっと…………し、失礼します」

 

 

 恐る恐る、きめ細やかで異常に肌触りが良い座布団にお尻を落とし……座卓を挟んでリョウエイさんの向かい側へと腰を落ち着ける。

 すると直ぐにリョウエイさんの前に、ついでおれの前に、暖かそうな湯気を昇らせる(ほうじ)茶の湯呑が出される。その後ちょっと躊躇ったような動きを見せながらも、三つ目の湯呑が同じくおれの目の前へ。ぎょっとして伸ばされた手の方を向くと……丸盆を携えたマガラさんと目が合った。…………白谷さん用のお茶か!

 現場担当一辺倒かと思いきやお茶も淹れられ、それでいて気配りもできるとか……なかなかどうして器用なお兄さんだ。

 

 

 「まあまあ。少なくとも今は、君達は御客様だ。自宅の様に……とは往かないだろうが、肩の力を抜いて構わないよ」

 

 「アッ、えっと、その…………お、おっ、……お気遣い、感謝します」

 

 「御馳走様です。……ノワめっちゃ挙動不審だよ」

 

 「しししし仕方ないでしょ! すごいお部屋だもん!!」

 

 

 知る人ぞ知る鶴城(つるぎ)神宮の、なかなか立ち入る機会も少ないだろう神楽殿の、一般人は立ち入れないだろう関係者専用区画の…………日本国内でもほんの一握りの者しか入ることを許されなさそうな、格式高いお座敷にて。

 神様の遣いが直々に煎れてくれたお茶を目の前に……根が小市民のおれは全身を強張らせ、(ほうじ)茶を頂くのだった。

 

 …………あっ、めっちゃおいしい。

 

 



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79【鶴城神域】神使のお人柄

 

 

 そもそもが、メチャクチャに良いお茶っ葉を使っているのだろうか。それとも頂いている場所が場所だからだろうか。はたまた煎れた(神使)の技量がすばらしいのだろうか。

 ぬるすぎず、かといって熱くない絶妙な温度で供された(ほうじ)茶は……おれが今までの人生で飲んだお茶の中でも間違いなく、トップクラスにおいしいお茶だった。

 

 

 「ほふぅー………………」

 

 「……まーた艷な声出しちゃってこの子は」

 

 

 喉の奥と食道を通り、そのまま胸の奥へと降りてくる熱を感じ……思わず口から溜息が溢れる。白谷さんのかわいい声が聞こえたような気もするけど、なんだか頭がぽわぽわしていてよくわからない。

 たかがお茶だと甘く見ていた。人はたった一杯のお茶でも、こんなにも幸せを感じることができるのだ。やはり大昔の人々は偉大だ、こんなにも幸せになれる葉っぱの栽培法方を確立して受け継いでくれたんだから。おかげでぼくはとてもハッピーな気分だ。

 

 

 「ノワ? なんか顔ヤバイよ? 大丈夫?」

 

 「んうー…………お茶がね、おいしいの……」

 

 「…………御代わり、煎れさせようか?」

 

 「んー! おねがいしまぁす!」

 

 (あの……リョウエイ、様? これ普通のお茶ですよね? 何かヤバイもん入ってませんよね?)

 

 (()の筈だよ。氏子の茶屋が奉納してくれた一級品だ……彼処(あそこ)の家とは長い付き合いだからね、変な代物(モノ)を納めるとは考えられない)

 

 (…………ただのお茶を飲んだ反応にはとても見えないんですが)

 

 (…………普段からこう、じゃ……無いみたいだね、うん)

 

 

 おれの肩の上に座っていた白谷さんが、いつのまにかリョウエイさんの側に居る。ひそひそ内緒話をするくらいまで仲良くなってくれたみたいで、おれとしても嬉しい。

 白谷さんはただでさえ……その神秘的きわまりない格好のせいで、おれとモリアキ以外の人と会話することが出来ないのだ。いくらなんでもそれは可哀想すぎるので、白谷さんの出自を知っても接してくれるリョウエイさんは――もちろんマガラさんも――正直、とても得難い存在だと思っている。

 

 それにしても……このお茶は、すごい。

 煎れてくれた(神使)の技量もさることながら、お茶の葉っぱに籠められた()()が非常に上質なのだ。

 お茶を育てた農家のひとが、茶葉を焙煎し包装した加工業者さんが、そしてそれを仕入れて奉納してくれたお茶屋さんが、どれだけこのお茶っ葉に想いを込めてきたのかが解る。『その気になれば植物と意思の疎通が行える』なんていうエルフっぽい設定を盛り込んでいたとはいえ……まさかこんな、お茶に籠められた想いまで受け取れるなんて、さすがに思っていなかった。

 

 ここ数日何気なく摂取してきた野菜なんかは特にそんなことも無かったので……多分だが、よっぽどこの葉への想いが強かったか、もしくはこの場所的な理由なのか。要するに、鶴城(つるぎ)さんの神力あってこその現象だったのだろう。

 

 

 「……失礼」

 

 「んー。ありがとうー」

 

 

 お茶のお代わりを煎れてくれたマガラさんも、さすがに戸惑ったような顔をしているが……そんな彼の想いも、僅かとはいえこのお茶に溶け込んでいた。

 第一印象こそちょっと怖かったけど……それはそれだけ彼が真摯に職務を全うしているかの現れなのだ。……真摯な神使。フフッ。

 

 幸せに満たされた頭でそんなことを考え、それが思わず顔に出ていたのだろう。

 リョウエイさんの『大丈夫かなぁ』という顔と、白谷さんの『ダメっぽいかもなぁ』という顔が向けられる。

 

 いやぁ、さすがにそこまで心配されると……おれだって少しは思うところがあるよ。

 この部屋に近づいてきている人たちの気配も捉えたし、おれは気合いをいれて集中して……ついでに自身に【集中(コンゼンタル)】を掛けて、しあわせに染まっていた頭をきっちり覚醒させる。

 

 

 「……ほふぅ。マガラさん、お茶おいしかったです。ありがとうございます」

 

 「…………恐縮、です」

 

 「おおー、戻ってきた? ノワ」

 

 「戻ってきた? って……何なのさ、その『どっか行っちゃってた』みたいな言い方……」

 

 「いや、だって……ねぇ? ボクがカメラ扱えないのが悔やまれるよ、本当」

 

 「ははは。まぁ丁度良かった。……来たみたいだよ」

 

 

 リョウエイさんに示されるまま、入り口の方へと視線を向けると……小さく頷いたマガラさんが襖を開け、その向こうから三人の男女――男性が一人と女性が二人――が姿を表した。

 

 見るからに人の良さそうな、穏やかそうな表情を湛えた壮年の男性……この方が恐らく宮司さん、知我麻(ちかま)宮司なのだろう。場違いも甚だしいおれの姿を認識しても、見た感じ動揺した様子は見られない。……胆も据わっているらしい。

 その前後に控えるのは、目にも鮮やかな緋袴の女性。知我麻宮司の後ろに控えるのは落ち着いた佇まいのベテランっぽい巫女さんで、恐らくはこっちの方が宮司さんの補佐的な立場のお方なのだろう。……そこまでは良い。

 

 ……で。

 問題はもう一方……知我麻(ちかま)宮司の前で佇んでいた、もう一人の年若い巫女さん。

 

 

 「っ、っ……龍影(リョウエイ)様、……知我麻(チカマ)様を、お連れ致しました」

 

 「うん。ありがとうシロ。マガラと共に壁際で待て」

 

 「は、はいっ。では私はこれ……ええっ!?」

 

 

 シロという呼び名と、自信無さげなその口調には……聞き覚えがある。

 白の小袖と朱色の袴を纏った、小柄で見るからに初々しい巫女さん。学生バイトと言われても通用しそうな振舞いだが……()()()()の社務所に出入りしていたことと、その頭髪に備わる特徴から……彼女が宮司さんたちと同じ人間であるとは、これっぽっちも思えなかった。

 

 そんなシロちゃんの姿に見惚れているおれを知ってか知らずか、リョウエイさんは話を進めていく。

 

 

 「さて……年始の備えで忙しい処、悪かったね。知我麻(チカマ)殿」

 

 「いえいえ。龍影(リョウエイ)様の御声、しかもあの(わざわい)に関してとあらば……今は何よりも重きを置くべきでしょう。……して、そちらのお嬢様方が?」

 

 「えっ、えっと、えっと、えっと、あの、えっと」

 

 「まぁまぁ落ち着いて、ワカメ殿。知我麻(チカマ)殿も座るが良い。……あぁ、此方(コッチ)だ。ワカメ殿が御客様だよ」

 

 「なんと。……成る程、失礼致します」

 

 「あっ、あの!? あの、えっと、えっと、あひ」

 

 「……我は紡ぐ(メイプライグス)、【鎮静(ルーフィア)】」

 

 「…………あの、お初にお目に掛かります。木乃若芽と申します」

 

 「「ブフッ」」「「!?」」

 

 「これはご丁寧に。当鶴城(つるぎ)の宮にて宮司を預かる……姓を知我麻(ちかま)、名を(とおす)と申します。ご承知置き下さいませ」

 

 

 白谷さんの鎮静魔法のお陰で一瞬で平静を取り戻したおれの変わり身に、狩衣姿の神使お二方がたまらず吹き出し……その様子を見ていた巫女服姿のお二人が目を見開き、明らかな戸惑いを見せる中。

 藤色の紋入り袴をその身に纏うチカマさんは、さすがというべきか動じた素振りを見せず……見る者全てを安心させるような穏やかな笑みを深め、おれに向かって会釈を寄越してくれる。

 

 なんか、すごい。この人の前に居るだけで……視線を交わし言葉を交わすだけで、ものすごい心が落ち着く。

 これが鶴城(つるぎ)の宮司さんの……チカマさんの力なのか。

 

 リョウエイさんの言うとおり……この年の瀬のクッソ忙しいだろう時期に、せっかく時間を取ってくれたのだ。失望させるわけにはいかない。

 チカマ宮司もリョウエイさんも、小市民であるおれなんかとは比べ物にならないほど、ものすごくえらいひとなのだ。マガラさんやシロちゃんやお付きの巫女さん達だって、通常業務の最中に付き合わせてしまっている。

 

 彼らには、なんとしても良い報せをもたらさなければならない。

 この席を設けてくれたリョウエイさんの配慮を無駄にしないためにも、魔法情報局局長として全力でプレゼンテーションに臨まなければならない。

 

 

 情報局(のわめでぃあ)の興廃、この一席に在り。

 わたしも……いっそう奮励努力しなければ。

 

 



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80【鶴城神域】神前問答

 

 

 まず……おれ達と鶴城(つるぎ)神宮の方々との間で、あの『種』の(わざわい)を放置しておくことは出来ないという一点に関しては、幸いなことに共通認識とすることが出来た。

 

 もともとこの地・この国に根差した神様である『鶴城(つるぎ)』の神様は、ご自身を信奉する氏子達を、基本的には守ろうとしてくださるという。

 すぐ近くで生活を営み、度々参拝に訪れる氏子に『変なもの』がちょっかいを掛けてくるのは、さすがに赦しがたいらしい。

 

 

 しかしいくら赦しがたいとはいっても、その力を振るうことが出来るのは……実質的に、この神宮の境内のみ。

 このことは、この国の人々が神頼みを止め、自らの力で歩むことを決めた以上……どうしても覆せないらしい。鶴城(つるぎ)の神様以外も、この一点に関しては同様のようだ。

 

 覆すとすれば……それこそ大昔のように、大多数の人々が神託と占術を重んじるようになってから。

 国家の運営が神職によって行われる程までに神様が影響力を持つようになれば、ワンチャンあるかもしれない。……らしい。

 まあ要するに、ほぼ無理ってことだな。

 

 

 ……さて。

 氏子を……人々を助け、(わざわい)の『種』を祓いたいのはやまやまであり、実際その力もある鶴城(つるぎ)さん。

 そんな御社にわたしどもが提供させていただけるお力添えとしましては……ずばり、インターネットを通じての『鶴城(つるぎ)神宮』の(パブリック)(リレーション)、ならびに参拝の呼び掛けである。

 

 

 おじいちゃんおばあちゃんと同居していたり、元々信心深かったり、そもそも神社仏閣が好きだったりする人を除いて。

 特定の神社に参拝してもらうためには、やはり動機付けが必要だと思う。

 わたしが『鶴城(つるぎ)さんに来てね!』と言うだけなら容易いが……それだと説得力も、そして効果もほとんど無いだろう。

 そんないきなり言われたところで『なんで?』という疑問がまず浮かぶだろうし……近場の視聴者さんならまだしも、遠くからだと少なくない時間と費用が掛かってしまうからだ。

 

 

 だからこそ、本腰を入れてこの『鶴城(つるぎ)神宮』そのもののPRを行う。

 わたしが動画を通して狙うのは……視聴者の方々に『よくわかんないけど行ってみようか』ではなく、『そんなに魅力的なところなら行ってみたい』という感想を抱かせることである。

 

 幸いというべきか、今は師走も後半。もう幾つ寝ると……そう、お正月だ。

 お正月には神社へと初詣に赴くことは、何も不思議なことではない。そこへわたしがこの鶴城(つるぎ)さんのPR動画をぶつけることで、『そういえば鶴城(つるぎ)さんの動画見たな』『せっかくだし今年の初詣は鶴城(つるぎ)さん行ってみるか』『いつもは行かないけど今年は初詣行くか』といった層を、ほんの少しでも増やすことを目的とする。

 

 

 

 「この計画の大きなメリットは、動画の撮影や編集その他もろもろに関して『わたし独りで行える』という一点にあります。鶴城(つるぎ)神宮の皆様に何かしらのお手間を頂戴する必要も無く、広告費用など何かしらの金銭的負担が発生することもありません」

 

 「……私どもは、何もする必要は無い……と?」

 

 「はい。言い出した以上、わたしが単独で事に当たります。ですので、お願いがあるとすれば……境内の、一般公開が許されているエリアにおける撮影の……カメラを回し、声を出しながら徘徊することの許可が頂ければ……」

 

 「とても魅力的に聞こえる御提案ですが……貴女(あなた)にとっての利点は? 私どもは何も失わず利点のみを得られ、その一方で貴女(あなた)には小さくない負担が掛かる。……奉仕精神と捉えれば聞こえが良いのでしょうが……何も利点が無いというのは、有り体に言いまして」

 

 「信じ難い。……何か裏があるんじゃないか、と?」

 

 「左様。……()れでも下手を打てぬ立場なもので」

 

 

 若干すまなさそうに俯くチカマさんだが……言わんとしていることは解る。わたしが何故そこまでするのか、そこのところを彼は気にしているのだ。

 

 そもそも、鶴城神宮にとってのデメリットは特に無い。懸念されるとしたら境内の撮影に関してだが……一般参拝客はスマホでバシャバシャ撮ってるし、祭事の際なんかはテレビ局の取材だって入っている。

 非公開の区画でもなければ、今さら『撮影はご遠慮頂きたい』なんて言われることは無いだろう。鶴城神宮がわが気にするような要素は皆無であり……ぶっちゃけ、わざわざ許可を得ずともやってしまえば良いのだ。

 

 

 だが……チカマ宮司はわざわざ『貴女(わたし)にメリットはあるのか』などと聞いてきた。

 その後に続けられた言葉こそ、『怪しい、いまいち信用できない』といったニュアンスを含ませているが……()()()()()を気にしているんじゃ無いってことくらい、彼の顔を見ればわかる。

 

 優しく、柔和で、見る者全てを安心させるような雰囲気。

 それこそ神か仏かのように優しい彼は……わたしにメリットを見いださせようと、なにかしら(トク)をさせようと考えてくれているのだろう。

 

 隣で腕を組んでうんうん首肯しているリョウエイさん(笑顔)を見る限り……この推測は恐らく正解だろう。

 

 

 

 「わたしにとっても、勿論メリットはあります。まず何よりも、(わざわい)の『種』を撲滅できること。わたし達は目視以外で『種』や『苗』を探すことが出来ないので、『種』の段階であれらを祓ってもらえるのは、非常に助かります。……『苗』の除去はとても面倒なので、あんまり増えると動画投稿に支障を(きた)す恐れがあるので……」

 

 「そういえばマガラが言っていたね。その『苗』を探す装置を作るために、境内の霊木を伐ろうとしたのだとか」

 

 「それは本当に申し訳ない……」

 

 「わたしの方からも。……ごめんなさい」

 

 「ははは、だから気にしなくて良いって。実際に伐り傷を付けられたならまだしも、ね」

 

 

 ぎょっとする顔でこちらを見る、巫女服姿の女性二人。……はい。ごめんなさい。反省してます。

 からからと笑って許してくれるリョウエイさんに『遮ってごめん。続けて』と続きを促され、おれは一つ頷いて言葉を重ねる。

 鶴城(つるぎ)神宮PR動画を作成することによる、わたしにとってのメリット。その二つ目。

 

 

 「もう一点。こっちは非常に、恥ずかしいくらい単純なのですが…………わたしのチャンネルの評価、上がるかな……って」

 

 「……評価、とは?」

 

 「えっと、実はですね……わたしのチャンネルは『放送局』っていう体裁を模してまして、いろんなジャンルの番組……もとい、動画を作りたいんですね。幅広いジャンルを揃えられれば、有言実行なところ見せられるかな、って。……それでですね、ちょうど『旅番組』みたいなの撮りたいなって思ってたところで……それで…………鶴城(つるぎ)さんなら取材対象として申し分無いっていうか、実際かなり有名な観光名所だし……紹介動画作れれば登録者増えるかなって……」

 

 

 ……はい。すみません。滅茶苦茶私的な理由です。

 

 全ては、チャンネル登録者数を増やすため。

 旅番組は老若男女に人気(のはず)なので、それを作って公開できれば当然、老若男女数多くの人々にウケること請け合いなのだ。

 

 わたしの行動原理は非常にわかりやすいぞ!

 

 

 



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81【鶴城神域】神前問答・其の二

 

 

 鶴城(つるぎ)神宮にとってのメリットに続け、わたしにとってのメリットふたつを提示し……これは双方にとって利のある話だということをアピールしたつもりだった……のだが。

 

 

 「弱いね」

 

 「……えっ?」

 

 「そうですなぁ。……もう一声、欲しいところです」

 

 「えっ!?」

 

 

 正直予想だにしていなかったことに……リョウエイさんと、続いてチカマさんに『それじゃ足りない』との指摘を受けてしまった。

 双方のメリットとデメリットを提示した上で、互いに得るものの多い取引だとアピールできたハズだったのだが……しかしながら先方、鶴城(つるぎ)神宮の表と裏の重役二人は、おれの提示した内容では不釣り合いだという認識らしい。

 

 しかし……現状特に鶴城神宮がわに求めていることは、ほぼ無いはずだ。だというのにまだ『釣り合わない』となると……やはり社会的信用があるテレビ局なんかとは違い、おれのような身元不明な者は撮影する際の手数料をお納めする必要があったということなのだろうか。

 

 

 

 「……あの、リョウエイさん? ノワめっちゃ怯えちゃってるから……そろそろ教えてあげてほしいのですが……」

 

 「あぁ、うん。そうだね。……というか、真っ先にそっち方向に考えちゃうかぁ…………良い子なんだね」

 

 「うん……えっと、良い子なんですけどね…………自意識に欠けるというか」

 

 「な、なに!? なんのこと!! なんの話してるの白谷さん!?」

 

 

 おれとは異なり、リョウエイさんたちの意図するところを察したらしい白谷さん。こんなに賢い子がおれに良くしてくれている現状をありがたいなと思いつつも、しかしながらときどき意地悪になるのは……ちょっとだけひどいと思う。

 それこそ今みたいに、まるでおれのことを小さい子どもを見守るような目で眺めていることが良くあるのだ。おれがかしこくないのは自己責任だと思うけど……でもやっぱり、おれ一人だけ置いてけぼりなのはおもしろくない。

 

 

 「そうだね。(これ)以上ワカメ殿の機嫌を損ねるのも賢く無いだろう。……つまりはね、先程の『足りない』と云うのは何も『ワカメ殿の負担が足りない』と云う事では無い。……(むし)ろ、逆だ」

 

 「…………え? 逆?」

 

 「そう、逆。我等の手の届かぬ領域で孤軍奮闘する協力者に、我等が何も施さぬと云うのは……我等が『主』の名に傷が付こう。如何に温厚な上様とて黙って居るまいよ」

 

 「そうですなぁ……鶴城(つるぎ)の神様は、良い意味で傲慢なところもございますので。御自らが庇護すべきである相手と同格、ないし一方的に得をする取引となると……お臍を曲げてしまわれるかもしれませんなぁ」

 

 「ノワ、思うこともあるだろうけど……ツルギさん程のお相手に一方的に尽くし、一方なんの見返りも求めないっていうのは……ちょっと失礼に当たっちゃうらしい」

 

 

 ……えーっと……つまり。

 リョウエイさんとチカマさんが懸念していたことは、あまりにもおれが色々提示しすぎたという点……ということなのか。

 二人して言っていた『足りない』というのは……おれの提示に対する『鶴城さんがわの提示』の内容がまだ足りない、ということだったのか。

 

 ……交渉が決裂しそうってわけじゃなくて、よかった。

 

 

 

 「其処(そこ)で。モノは相談なんだが……シラタニ殿、で良かったかな?」

 

 「え? あ、はい。ボクですか?」

 

 「そうそう。君君。確か、材料として『霊木』が要るって言ってたよね。……それ、生木(ナマキ)じゃなきゃ駄目かい?」

 

 「えーっと……この世界の魔素を帯びていれば大丈夫だと思われるのと、取り敢えずは試作の段階なので……別に生木に(こだわ)る必要は無い……です」

 

 「うん。なら何とかなるかな? 一応祝詞も上げてあるし。……なぁ知我麻(チカマ)、縁起物の()材やら破魔矢の規格落ちやら……あれまだ焚き上げてなかったよな?」

 

 「年明けの焚上神事でお送りするつもりでございましたが……あぁ、なるほど」

 

 「そう云うことだ。可能か?」

 

 「龍影(リョウエイ)殿が是と仰るのであれば、問題無いでしょう。……望月さん」

 

 「マガラ、彼女の補助を」

 

 

 

 おれたちの目の前で、とんとん拍子に話を進めていくリョウエイさんとチカマさん。待機していた巫女服姿の女性はチカマさんに呼び寄せられ幾つかの指示を受けた様子で、補助の指示を受けたマガラさん共々退出してしまった。

 どうやら生木(ナマキ)……生きている木を切り出すことは不可能だけど、お正月の縁起物や破魔矢の材料として確保していた木材(の切れ端や不良品など)を譲ってくれるということらしい。

 

 白谷さんが狙っていたのは、この鶴城(つるぎ)の魔素を豊富に含んだ木材だ。さすがにここに根差す生きた樹を渡すわけにはいかないのだろう、それはわかるしむしろ当たり前だ。

 縁起物の材料ということは……採取地こそこの鶴城(つるぎ)の森じゃないだろうけど、この世界に根差し育った木である。おまけにリョウエイさんの口ぶりから察するに、縁起物として用いるにあたっての祈祷的なことも済ませてあるらしい。

 

 つまりは……この世界由来の素材で、この鶴城(つるぎ)さんの魔素(神力)を注がれ、人々に幸運を授ける願いも込められた、自由に加工できる木材(というよりかは端材)である。

 

 

 「まぁ、さすがに霊木の生木(ナマキ)には遠く及ばないだろうが……実際試してみて、駄目だったらまた教えてくれ。神力が足りぬのであれば、また改めて祈祷させよう」

 

 「心得ました。禰宜(ねぎ)衆にも通しておきましょう」

 

 「…………いいん、ですか? そんな何から何まで」

 

 「良いも何も……我等は『外』に出られないからね。実際、我等の代わりに働かせてしまっている様なものだ。当然、此方も可能な範囲で協力しよう」

 

 「あ……ありがとうございます! やったねノワ!」

 

 「んふふ……よかったね白谷さん」

 

 「ははは。……さて、シラタニ殿への返礼は一先(ひとま)(これ)で進めるとして……ワカメ殿」

 

 「えひゃい!?」

 

 

 まるで子どものように喜ぶ白谷さんに気をとられ、いきなり名前を呼ばれたことで変な声が出てしまった。

 それに……リョウエイさんの、あの口ぶり。あれはまるで……白谷さんへの報酬とは別に、おれ宛の報酬でもあるかのような言い口に聞こえるのだが……

 

 

 「次は貴女の番だよ。覚悟してくれ」

 

 「ふュ」

 

 

 にっこりと笑みを深めるリョウエイさん……その表情が今は逆に、なんか怖い。いったいおれは何を施されるのだろう。

 白谷さんは……あっ、だめだ。めっちゃニコニコウキウキ顔だ。かわいいけど今はちょっと頼れそうにない。

 

 し……しかたない。魔法情報局の局長として、受けて立とうではありませんか。

 何を言われようとも大人の余裕でバッチリ受け止めて、オトナの対応させていただきますとも。

 

 

 ……とか考えちゃうあたり、おれはまだまだ危機予測が足りないんだろうなって。

 

 

 



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82【鶴城神域】神前問答・其の三

 

 

 「ワカメ殿は何か、望むものはあるかな? 我々が用意出来る範囲で、用立てて欲しい物とか」

 

 「えっと、えっと……お、お言葉ですが! 白谷さんへの対価だけでとても助かりますので、わたしのことはお気になさらず大丈夫です!!」

 

 「いやぁそんなこと言わずに。僕もマガラも、身内以外と久し振りに話が出来たからね。その御礼と……マガラの掛けた迷惑料も兼ねて。祭具の一つでも持たせられればと」

 

 「そそそそそんな!? 畏れ多いですって! おれなんかが!! こんな……おれごときが!!」

 

 「はっはっは。自分の事を『ごとき』等と……そんな卑下するものじゃ無いよ? 君の秘める素質は中々(なかなか)……いや、かなり上々だ。(かんなぎ)の役も充分こなせよう」

 

 「かんなぎ……そんなに……」

 

 

 ……おれなんかよりも遥かに格上である鶴城(ツルギ)の、その中でもかなりの有力者であるリョウエイさん。彼がどうしてここまでおれを買ってくれているのかは解らないが……このまま断り続けるのも、逆に失礼に当たるのだろう。

 リョウエイさんに引くつもりがない以上、おれが拒み続けることは意味がない。鶴城(つるぎ)の神様のご機嫌を損ねるのも、得策とは言いがたい。

 

 祭具が何なのかわからないけど、多分たいへんなものなのだろう。おれはあくまで部外者なので、そんなたいへんなものを受け取るわけにはいかない。

 代わりに当たり障りの無いところで、そんなに迷惑じゃなさそうな要望を……在庫がそれなりにありそうなものをさりげなーくねだって、それでお茶を濁すか。……それがいい。

 

 ……などと考えていたところ、同様の結論に至ったのだろう。可愛らしい相棒の助言が差し込まれた。

 

 

 「ねぇノワ、ボクに任せてもらって良い?」

 

 「白谷さん? 何か良い考えあるの?」

 

 「うん。とっておきのね。ツルギさんにもあまり迷惑じゃなく、それでいてボクたちの今後の役に立つ……良い考えが」

 

 「おおー……すごい。じゃあ任せる」

 

 「んふふ。ありがとノワ」

 

 

 おれ達の作戦会議をニコニコ顔で見守る二人の大人に、ちょっとむず痒いような気恥ずかしさを感じながら、おれは全権を委ねた白谷さんの発言を待つ。

 彼女()のいうところの……先方にあんまり迷惑じゃなく、こちらの利にもなるという、その要望とは。おれが全幅の信頼を置く相棒の、とっておきの良い考えとは。

 

 

 「それじゃ、ノワの代わりにボクが。……そこの、シロちゃんだったよね」

 

 「ふゃはい!?」

 

 

 おぉ、めっちゃ可愛らしくもちょっとおもしろい悲鳴……ちょっと親近感が沸いた。

 

 しかしながら……シロちゃん。マガラさんと同様()()()()の人員であり、控え目に言って非常に好みな容姿と外見的特徴を備えた……小さくて可愛らしい白髪狗耳ロリ巫女ちゃんだ。

 本音を言うと連れて帰りたいくらいだが、さすがにそれを要望として言えば激怒されるってことくらいは解る。まさか白谷さんもそんなことは言わないだろう。

 

 であれば、いったい何なのだろう。

 シロちゃんに声を掛けたその理由は。まさか服を脱げというわけでもあるまいに。

 

 

 「シロちゃんの着ている、その衣服。『ヒバカマ』っていうやつでしょう? ……ちょっと一着、工面して貰えません?」

 

 「待ってなに言ってんの白谷さん!?」

 

 「ほう? まぁ確かに数はまだあるし、その反面廻り方には女子が少ないし……使う者は多く無いんだよね。……あぁ、そっか。結局着替えられて無いものな。解った、良いだろう」

 

 「待ってなに言ってんのリョウエイさん!?」

 

 「なるほど……ならば隣の間をお使い下され。介添えに巫女衆を何名か付けましょう」

 

 「待ってなに言ってんのチカマさん!?」

 

 「で、では私は……取り急ぎ衣一式を取って参ります。ワカメ様の御要望とあらば」

 

 「待ってなに言ってんのシロちゃん!?」

 

 

 

 シロちゃんはリョウエイさんに何事か確認すると、恭しく一礼してそそくさと退室していってしまった。思ってもみなかった素早さに結局制止は間に合わず、そうしている間にもチカマさんは人を呼んでしまったらしい。宮司さんなのにスマホ使うとかずるい(ずるくない)。

 

 あっという間に物凄い速度で外堀全てを埋め立てられたおれは……純度百パーセント好意の笑顔を向けてくる悪気ゼロパーセントな白谷さんに、しかし後できっちりお灸を据えてあげようと決意した。ラニ子が悪いんだよ。

 

 

 そう決意を新たにすることでしか、心の平静を保つことができなかった。

 

 

 



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【お勉強】木乃若芽ちゃんを語るスレ_第五夜【一緒にシましょ】


中だるみしそうなので急遽ねじ込みます。
目を通さなくても特に問題無い内容となっているはずです。
内容は無いよう。……んフフッ。



 

 

 

0001:名無しのリスナー

 

※※※わかめちゃんまとめ※※※

 

名前:木乃 若芽|(きの わかめ)

年齢:自称・百歳↑(人間換算十歳程度)

所属:なし(個人勢)

身長:134㎝(平均やや下)

スリーサイズ(自称):68/49/66

愛称:のわ

主な活動場所:YouScreen

 

備考:かわいい

※実在ほぼ確定

 

 

0002:名無しのリスナー

 

※※※わかめちゃんまとめ※※※

 

・魔法情報局局長

・合法実在ロリエルフ

・魔法が使える?(検証中)

・肉料理が好き

・別の世界出身

・チョロそう

・「~~ですし?」

・とてもかしこい

・おうたがじょうず

・非実在創作キャラ説(虫の息)

・じつはポンコツ説

・わかめ料理(意味深)

・お料理上手(腕前ガチ)

・なぞのおともだち(霊感少女説?)

 

(※随時追加予定)

 

 

0003:名無しのリスナー

 

>>1

スレ乙

 

まさかの早さだわ

 

 

0004:名無しのリスナー

 

>>1

記事乙

まさか動画一本で1スレ消し飛ぶとは

 

 

0005:名無しのリスナー

 

>>1-2

新スレあざす

わかめちゃんマジで料理上手だった・・・・・

 

これはわかめ料理()不可避ですわ

 

 

0006:名無しのリスナー

 

>>1-2

スレあざす

わかめちゃの手料理食べたい・・・・・・おいしくいただくスタッフになりたい・・・・・

 

 

0007:名無しのリスナー

 

ママーー!!おなかちゅいたよママーー!!

 

 

0008:名無しのリスナー

 

あんな料理知らんかったわ

どんな視野してんのこの幼女

 

 

0009:名無しのリスナー

 

わかめちゃんの新妻姿はすはす

 

 

0010:名無しのリスナー

 

はだかえぷろんはやく

 

 

0011:名無しのリスナー

 

謎の声・・・・・・いったい誰スタッフなんだ

 

 

0012:名無しのリスナー

 

>>7

さすがに気持ち悪いはお前・・・・

 

ママには指一本触れさせねえぞ

 

 

0013:名無しのリスナー

 

雑談スレと実況スレが別れてねーからな

いい加減実況スレ分離すっか、効果あるかは解んないけど

 

 

0014:名無しのリスナー

 

アシスタント謎の声ちゃん……

かわいい、聞いてて心地いい声。すき

 

 

0015:名無しのリスナー

 

>>12

同類かよこわ

 

 

0016:名無しのリスナー

 

まっさか開設一週間そこらでこんな流れ加速するとは思わねえよwww

 

 

0017:名無しのリスナー

 

いいこいいこしたい

抱っこしたい

 

 

0018:名無しのリスナー

 

それよかエルフが実在したってことに驚くべきだと思うんだけど……このスレの民はいつも通りやな

 

 

0019:名無しのリスナー

 

おれもわかめちゃんと一緒の墓に入りたい

 

 

0020:名無しのリスナー

 

前スレ1000wwwwwwwwwwwwwwwww

 

 

0021:名無しのリスナー

 

前スレ1000・・・・・・・

 

 

0022:名無しのリスナー

 

>>19

その気持ち悪さなかなか出来るもんじゃないよ

 

 

0023:名無しのリスナー

 

前スレ1000くんさぁ

 

 

0024:名無しのリスナー

 

おれの緋袴が・・・・・・・・

巫女服わかめちゃんの夢が・・・・・・・・・・・・・・

 

 

0025:名無しのリスナー

 

1000ゲットくんこれガチやろ……実は凄腕スナイパーってオチやろ

そうだといってくれ。言えよ。ただの偶然でここまで絆創膏邪魔され続けるとか納得いかねぇ!、!!

 

 

0026:名無しのリスナー

 

家庭的なわかめちゃんかわいい……おっぱいはちっちゃいけど

 

 

0027:名無しのリスナー

 

考察スレの方盛り上がってますね?

盛り上がってるっていうか阿鼻叫喚っていうか

 

 

0028:名無しのリスナー

 

みそ汁も作れるのかな……

なんかレシピは謎の声ちゃんのレパートリーだったみたいだけど

 

 

0029:名無しのリスナー

 

つぎのどうがはやく

マッマ……はやくあいたいよマッマ……

 

 

0030:名無しのリスナー

 

わかめちゃんの笑顔でおれも息子も元気百倍だわ

 

 

0031:名無しのリスナー

 

>>25

何て格好させようとしてんだよ!!!

わかめちゃんは清純なんだぞ!!エッチな目で見ないでください!!!

 

 

0032:名無しのリスナー

 

>>28

手際はめっちゃ良かったよな

キッチンも綺麗だったけどなかなかモノが多かったし、日常的にお料理してると思うぞ

 

 

0033:名無しのリスナー

 

髪アップわかめちゃんかわいかった

これからは色んな髪型期待してもいいんだよな??

 

 

0034:名無しのリスナー

 

>>27

まぁーどう見ても実在の撮影だったからね、仕方無いね、、、

おみみの付きかたが自然だもんなぁ、ほんとすげーや

 

 

0035:名無しのリスナー

 

わかめちゃんちゅき

いっぱいちゅき

 

 

0036:名無しのリスナー

 

>>30

最低だなお前・・・・あんな小さい子のいたいけな笑顔に暴れん棒将軍するとか生きてて恥ずかしくないの?

 

 

0037:名無しのリスナー

 

ンーーーwww考察民じゃないけどさすがに混乱を禁じ得ませんぞーーーーーーーwwwwwww

 

 

0038:名無しのリスナー

 

髪型もそうだけどやっぱエプロン姿っしょ

袖まくりわかめちゃんかわいかった

 

実在認定ってことは軽率にお着替えしてくれるってことでしょ?楽しみだわ

 

 

0039:名無しのリスナー

 

>>36

30だが現在4つになる長男と仲良く見てるんだが……いかんのか?

 

 

0040:名無しのリスナー

 

スク水とか着てくれねーかな・・・

無理だろうな・・・キャスターで水着動画上げてくれてる子とか見ねえし・・・

 

 

0041:名無しのリスナー

 

あーそうか、サンタコスも完全にコスプレだったってことか!

これ着てほしい服送ったらワンチャンあるんじゃね!!?

ヨッシャさっそく送、、、、送り先どこよ、、

 

 

0042:名無しのリスナー

 

着てもいい衣装加えたほしいものリスト公開してもらえば、あるいは……

 

 

0043:名無しのリスナー

 

>>39

リアル息子が羨ましい

初恋不可避でしょそれ

 

 

0044:名無しのリスナー

 

>>39

私が愚かでした。ごめんなさい

家庭を支てる大役ご立派です……

 

 

0045:名無しのリスナー

 

>>42

かすてら(ウェブコメ)に送ってみるわ。

応援したいのでほしいものリスト公開してください、って感じで

 

 

 

 

………………

 

 

………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

 

 

 

0120:名無しのリスナー

 

目撃情報ってマジ?

 

 

0121:名無しのリスナー

 

いや、実在してるってことは目撃情報あってもおかしくないんだけどさ…………

まさかずっと家から出ない生活してるワケじゃあるまいし

 

 

0122:名無しのリスナー

 

ウッッソだろわかめちゃん会ったヤツいんの!?

裏山

 

 

0123:名無しのリスナー

 

htfps://vvvvvv.uploader/domein/meccha_ecchinano.fc.jp/201912xx2024xxxx/0001

 

 

0124:名無しのリスナー

 

耳は特殊メイクだとしても、あの髪は纏めたとこ見た感じウィッグとかじゃなさそうだし

町歩いてたら人目引きそうではある

 

 

0125:名無しのリスナー

 

緑髪なんか染めてるヤツほぼいないしな

実際いたらかなりパンクな子だわ

 

でもわかめちゃんだとそんな印象無いんだよな、、ふしぎ

 

 

0126:名無しのリスナー

 

>>123

うわマジカよ

 

まじかよ・・・・・・・・・・・・

 

 

0127:名無しのリスナー

 

>>123

ピンボケwww盗撮かよwwwwww

なんで800単持ち歩いてねえのwww

 

 

0128:名無しのリスナー

 

>>123

地元やんけここ!!!!!!!草ァ!!!!!

 

 

0129:名無しのリスナー

 

どうしておれの近くじゃ緑髪美少女エルフの目撃情報がないのは何故?

 

 

0130:名無しのリスナー

 

>>123

背中のなんだこれwww看板かwwww

盗撮されることお見通しかwww抜け目がないなぁ、すき

 

 

0131:名無しのリスナー

 

>>123

ほんまやリアルわかめちゃんやん

緑髪さらさらストレートとかわかめちゃん特定余裕やん・・・・・

こんな人通り多いとこで何やってんだ?収録?

 

 

0132:名無しのリスナー

 

完全にアンリアルじゃないじゃん

街頭撮影とか普通にユーキャスターしてるじゃん

 

ヨッッシャ!!!

 

 

0133:名無しのリスナー

 

わかめちゃんにパンツ贈りたい

 

 

0134:名無しのリスナー

 

実在エルフ・・・・実在美少女ロリエルフだ・・・・

 

 

0135:名無しのリスナー

 

これ商店街?伊養町じゃね?

意外と近くだったわ

 

 

0136:名無しのリスナー

 

>>123

神待ちしてる家出少女っぽい

このシチュエーションで3発はイケる

 

 

0137:名無しのリスナー

 

htfps://vvvvvv.uploader/domein/meccha_ecchinano.fc.jp/201912xx2024xxxx/0006

 

 

0138:名無しのリスナー

 

別の写真無いの?

一枚だけだとなんとも

 

いや決してやましいきもちはなくって

 

 

0139:名無しのリスナー

 

>>137

有能

 

 

0140:名無しのリスナー

 

>>137

gj!!!!

うわわかめちゃんちっさ……かわ……

 

 

0141:名無しのリスナー

 

相手jkっぽいな、大人じゃないよな?

わかめちゃんほんとどんだけちっちゃいの

 

 

0142:名無しのリスナー

 

わかめちゃん小さすぎwwwこれはオトナのお姉さんですわwww

 

 

0143:名無しのリスナー

 

オトナぶる緑髪10歳児・・・・みどちゃんとあわせたい

 

 

0144:名無しのリスナー

 

かわえええええええ!!!!!

ウワアアアアアアアアアア!!!!!

 

 

0145:名無しのリスナー

 

カメラ持ってるな、やっぱ収録か?

 

 

0146:名無しのリスナー

 

インタビューしてんのかな?

伊養町ふらついてりゃわかめちゃんにインタビューしてもらえんのか???

 

 

0147:名無しのリスナー

 

以前なら合成かと勘繰っただろうけど、あのお料理動画見た後だとな……

美少女ロリエルフわかめちゃんは実在します

 

 

 

 

………………

 

 

………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

 

 

 

0350:名無しのリスナー

 

>>298

この笑顔すき

 

 

0351:名無しのリスナー

 

まーーた一気に加速したな

わかめちゃん盗撮画像効果か

 

 

0352:名無しのリスナー

 

今もっともホットで話題性高いキャスターだからね、仕方無いね

みんなわかめちゃんの情報に餓えてるのよ

 

 

0353:名無しのリスナー

 

何かの撮影だろうけど情報ってまだ出てない?

やいたー更新速度いまいちなんだよな

 

 

0354:名無しのリスナー

 

店内での盗撮とかさすがにアウトだと思うんですが

 

 

0355:名無しのリスナー

 

店舗特定班はやく

 

 

0356:名無しのリスナー

 

しかし盗撮されること見越してチャンネル広告用意しとくとか

かわいいのにしたたかだわ

 

 

0357:名無しのリスナー

 

jk二人とデートしてるだけ?

あのjkは何者なん?身内?

 

 

0358:名無しのリスナー

 

わかめちゃんが座ってる椅子になりたい

もしくはフォークでもいい

 

 

0359:名無しのリスナー

 

>>357

俺その場に居合わせたけど身内っぽくはなかったぞ

jk二人が興味持って話しかけてた感じ

 

>>355

特定してどうすんだ、もうわかめちゃん居ねえぞ

 

 

0360:名無しのリスナー

 

まてまて俺この店知ってるわ

伊養町の喫茶店って間違いねえわ

 

 

0361:名無しのリスナー

 

パパラッチニキおるやんけ!!!!

 

 

0362:名無しのリスナー

 

>>359

よう犯罪者。まだ生きてるか?

 

 

0363:名無しのリスナー

 

盗撮野郎おるやんけ!!!

ちょお前詳しく聞かせなさいよ

 

 

0364:名無しのパパラ

 

htfps://vvvvvv.uploader/domein/meccha_ecchinano.fc.jp/201912xx2024xxxx/0015

 

 

0365:名無しのパパラ

 

わかってる範囲で情報書く

 

 

0366:名無しのリスナー

 

ロリエルフと同じ空間に居合わせたとかご利益ありそう

 

 

0367:名無しのリスナー

 

>>359

わかめちゃん一人だったん?

スタッフさんは近くにいなかった?

 

 

0368:名無しのリスナー

 

>>359

わかめちゃんが話し掛けられてた感じなん?

まじかよ本当に神待ちだったか?

 

 

0369:名無しのリスナー

 

>>365

これいつの写真だ?

 

 

0370:名無しのリスナー

 

>>365

何か話してる内容聞こえた?

 

 

0371:名無しのリスナー

 

>>365

メシ食った後わかめちゃんどこ行った?

まさかホテル?

 

 

0372:名無しのリスナー

 

>>365

結局伊養町で間違いないん?

てかわかめちゃん実在の人物で間違いない?

 

 

0373:名無しのパパラ

 

>>367

現場には一人だった

電話で指示受けてたっぽいけど

 

>>368

jkが話し掛けてた

まぁわかめちゃんが誰かにインタビューしようとしてて、そこにjkが襲いかかった感じやな、

 

 

0374:名無しのパパラ

 

htfps://vvvvvv.uploader/domein/meccha_ecchinano.fc.jp/201912xx2024xxxx/0021

 

 

0375:名無しのリスナー

 

>>365

犯罪者ニキから見てリアルわかめちゃんどんな印象だった?

かわいかった?いい匂いした?

 

 

0376:名無しのリスナー

 

さすがにどうなん、盗撮からの晒しとか

一応わかめちゃん一般人やぞ

 

 

0377:名無しのリスナー

 

>>365

わかめちゃん何頼んでた?

 

 

0378:名無しのリスナー

 

>>365

当然おうち突き止めたんだよな???

 

 

0379:名無しのパパラ

 

>>369

昨日だとだけ言っとく

 

>>370

幾つか聞こえたけど、企画内容バラすつもりは無いわ。もうちょい我慢しとけ

それ以外は……女の子らしい会話だった

 

 

0380:名無しのリスナー

 

>>374

アッ、この店構え見覚えありますわ

ていうか本当有名人みたいな記念撮影・・・・

お店がわも嬉しかったんやろなぁ

 

 

0381:名無しのパパラ

 

>>371

お店出て記念撮影した後はjkと別れた

その後はわからん、見失った

仮に見失ってなくても探偵でもないし、尾行できるとは思えんかった

 

>>372

実在するやろなぁ、昼間だし幽霊とかでもない

ちゃんと見たし、声も聞いた。間違いない

俺以外にもスマホ向けてた通行人いたし、証拠はどんどん出てくると思う

 

 

0382:名無しのリスナー

 

>>374

タレントの旅番組でお食事した後によく見るやつや・・・・角度は控えめに言って盗撮だが

 

わかめちゃん芸能人やったか・・・・やっぱなーー

 

 

0383:名無しのリスナー

 

>>374

目線隠しが全くプライバシー保護の用を為してない子がひとりいますね……

 

 

0384:名無しのパパラ

 

>>375

めっちゃ感じ良かったぞ。匂いはわかんね、そんなに近づいてない

自分が人目引く格好してる自覚があるんだろうな、まわりにめっちゃ謝ってた

お食事中お騒がせします、大変恐れ入ります、お騒がせして申し訳ありません、私こういう者で、こういう企画でカメラ使わせていただいてます、ご迷惑にならないよう万全を期します、とかそんな感じ。とりあえず腰が低かった

見た目の割に中身しっかりしてるっていうか、社会人経験者っぽいというか

 

>>377

カレーっぽかった

顔真っ赤にしてがんばって食ってた

 

>>378

さすがにお前ないわ

 

 

0385:名無しのリスナー

 

とりあえず近日公開予定の動画ってことだよな?

楽しみが増えたってことじゃね?、?

 

 

0386:名無しのリスナー

 

本当わかめちゃんは話題に事欠かないな

そろそろリアルメディアが食いつく頃か?

 

 

0387:名無しのリスナー

 

>>374

この写真お店に飾られるんかな

いいなぁ、聖地巡礼したい

 

 

0388:名無しのリスナー

 

番組はやく

 

 

0389:名無しのリスナー

 

パパラッチニキ変なところで良識備えてるのわらう

 

 

0390:名無しのリスナー

 

確かにあんまり暴いてもな

待てば公式から発表あるだろうし

少しゆっくりだけど……手が回ってないんだろうな……

 

 

0391:名無しのパパラ

 

俺も盗撮しといてなんだけど、さすがに公序良俗に反する追求はどうかと思う

まぁとりあえず伝えたかったのはわかめちゃん可愛かったってことと、良い子そうだったってこと

 

 

0392:名無しのリスナー

 

情報公開はやくして

 

 

0394:名無しのリスナー

 

ちくしょう結局は自慢かよwwwwww

 

 

0395:名無しのリスナー

 

おでかけ衣装わかめちゃんかわいかった

 

 

0396:名無しのリスナー

 

それな

 

 

0397:名無しのリスナー

 

かわいいは正義

 

 

0398:名無しのリスナー

 

わかめちゃんと同じ空気吸いたい

 

 

 

 

………………………………………………

 

 

………………………………

 

 

………………

 

 

 





※※※ 無許可盗撮は犯罪です。※※※
見知らぬ人の写真を撮ってネットに上げる等の行為は、絶対にやめてください。



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83【鶴城神域】神職の身繕い

 

 いやまさか。いくらなんでもそこまでは。

 巫女服だけって、言ったじゃないか。

 

 ……わかめちゃん心の俳句をお送りいたしました。短歌か。いやどっちでもいいわちくしょう。

 はいどうもこんにちはへぃりぃ。エルフ種の仮想(アンリアル)改め動画配信者(ユーキャスター)、木乃若芽です。まぁ今はべつに配信してるわけでも、撮影してるわけでもないんですけどね。……してたまるかこんなトコ。

 

 

 

 『ワカメ様、大丈夫ですか? やはりお手伝い致しましょうか?』

 

 「いえ大丈夫です! おかまいなく!」

 

 『そ、そうでございますか……何かございましたら、何なりとお声かけ下さいませ』

 

 「ありがとう……! もうちょっと時間下さい!!」

 

 

 

 思わず心の俳句を詠み上げるくらいには、なかなか精神的にクる状況。そんなおれの現在地は鶴城(つるぎ)神宮のほぼ中心部、神楽殿の関係者専用エリアの一画。

 その中でも、本来であれば位の高い方々が使うような個室――控え室というか休憩室というか、広さは喫煙室ほどのこぢんまりとした板の間――を貸し与えられたおれは……つい先程シロちゃんに手渡された木盆と()()()()()()()()()()を、茫然と見下ろしていた。

 

 

 きっちりと畳まれ、ぱりっと糊が利いた、朱襟の入った純白の小袖。

 小袖と同様に真っ白の、しかしこちらは肌触りの良さそうな長襦袢。

 巫女装束の代名詞とも言える、鮮やかな朱色に染められたスカート状の長袴。

 ……ここまでは良い。受け入れるまでには覚悟が要ったが、事前に犯行を予告されていた分まだ備えようがあった。

 

 問題は……これだ。今まさにおれの手で摘ままれている、()()

 三角形の布ふたつを頂点の一つで繋ぎ、繋がれた部分付近は布地が二重に補強されており、三角形のその他四つの頂点からはそれぞれ紐が生えた構造の……言葉で説明するのはやや難解だが、かといって()()の名を口に出すのは(はばか)られる。

 敢えて云うとすれば……長襦袢の更に下に身に付けるもの。またおれの身に起こった事態を察したリョウエイさんが、シロちゃんを通しておれに渡るよう手配したもの。……とだけ言っておく。

 

 

 …………いや、無理だろ。何が悲しくて日本有数のお(やしろ)さまの中枢でパンツ脱がなきゃなんないの。無理だろ。

 渡されたってことは履き替えろってことなんだろうけど……いや、でも、だって……そりゃあちょっと()()()のは事実だけど、それだって【消臭(デオフィラー)】と【洗浄(ヴァッシュラー)】で証拠隠滅……もとい、ちゃんとキレイにしてあるのだ。

 だから…………べつに、べつに大丈夫……なハズなのだ。

 

 

 

 (………………。………………)

 

 「なあに白谷さん。なんなの」

 

 (…………、……………。…………)

 

 「………………はぁ。……ごめんね。もういいよ、喋っても」

 

 「っぷはっ! ……はふぅ…………ありがとうノワ」

 

 「まぁ……元はといえばおれが禁じたわけだし。……で、何? 何か言いたいことあるんでしょ?」

 

 「んー……まぁ、あるんだけど……」

 

 

 べつに下着まで履き替える必要は無いだろうと、一人結論を下そうとしていたおれに対し、発言を禁じられた身ながらも身振り手振りで、何事かを必死にアピールして見せた白谷さん。

 珍しく真剣そうなその表情と、その動作の可愛らしさに……早くも決意が揺らぎそうになる。……いや、なったんだけどね。

 これ以上勝手な発言をしておれを窮地に陥らせないようにと『許可が出るまで発言することを禁止』されていた白谷さんだったが……その戒めはわずか十分たらずで撤回されることとなったのだ。だってかわいいんだもん。

 

 まあ……そこはべつに良い。白谷さんとて悪意があったわけじゃないのだ。良かれと思ってやってくれたことを許してやれないなんて、そんなケ(ピー)の穴が狭いようじゃ(オトコ)が廃るってやつよ。

 なので『発言禁止』令は撤回するとして。白谷さんが伝えようとしていたことが何なのか、今はそこが気になる。

 

 白谷さんも、自身が戒められた理由は納得しているんだろう。だからこそ何か言いたげにしているが……またおれが迷惑を被ることを危惧して、あと一歩言い出せないでいる。

 

 

 「白谷さんの魔法とかの知識は、正直おれよりもずっと詳しい。この鶴城(つるぎ)神宮の中じゃ、特に注意が必要だと思う。おれには悪気がなくても、魔法的に良くないことをやらかすかもしれない。……だから、何か気づいたことがあるなら……遠慮無く助言して欲しい」

 

 「…………わかった。じゃあ言わせて貰うけど……悪く思わないでね? ノワ」

 

 「アッわかった! だいたい何言われるのかわかったぞ!!」

 

 「そうなんだ、やっぱりノワはえらいね。……じゃあ、脱ごっか。下着(パンツ)

 

 「やっぱりかァーーーーー!!!!」

 

 『わ、ワカメ様!? 何事でございますか!? 大丈夫でございますか!?』

 

 「大丈夫(大丈夫じゃない)です!!!!」

 

 

 

 ……いわく。

 白谷(ニコラ)さんが元居た世界では、神様に近しい立場で働く人々は、身の回りに人一倍気を配る必要があったという。

 畏れ多くも神様のお近くでお仕えする以上、その身やその衣に穢れがあってはならない。神職に就く者は清い身でなければならず、身に纏うものもまた浄められたものでなければならない……のだとか。

 

 まぁ、あくまで『こうすべき』という指標であり、実際にこの指示を全うしているのは総本山の人間、それも敬虔な一部に限った話だったという。

 地方や辺境の教会なんかでは、そんな贅沢言ってられる環境じゃなかったらしいし……それどころか総本山においても、私利私欲に溺れる司祭や司教も居たのだとか。

 

 

 その異世界の風説が、こっちの世界でもそのまま適応されるかは解らない、とのことだったけど……なるほど、お参りする際には手水舎で手や口を浄める風習がある以上、日本の神様が清浄を好んでもおかしくないだろう。

 ……いや、それに……まぁ、そうか。いくら消臭してキレイキレイしたとはいえ……ちょっとよごれちゃった服で神様のお近くをうろうろするなんて、普通に考えて失礼極まりない話だ。

 というか神様云々関係無く、よごれちゃった服のままでいるというのは……相手が誰であろうとも、普通に失礼に当たるだろう。

 ……どのようによごれちゃったかは絶対に言わないが!

 

 

 

 「……白谷さん」

 

 「なあに? 覚悟決まった?」

 

 「…………っ、……その…………おっ、……お願い、あるんだけど…………いい?」

 

 「もちろん。ボクも、ボクの【蔵】も、ノワのお願いとあれば全力で応えるよ。ちゃんと誰にもバレないように空間隔離掛けて……穢れも気配も匂いも一切漏れないように仕舞っておくから、心配しなくて良いよ」

 

 「よくわかったねえ!! さすが白谷さん!! 泣きそう!!」

 

 「ノワには笑顔の方が似合うよ。だからさ、ほら。一思(ひとおも)いに脱いじゃおう。恥ずかしくないよ、誰も見てないから」

 

 「わああああん!!」

 

 『ワカメ様!? ほんとに大丈夫でございますか!?』

 

 「大丈夫(大丈夫じゃない)ですーーー!!!!」

 

 

 

 衝立の向こうのふすまの向こうに待たせてしまっているシロちゃんと補助の巫女さん達を、これ以上待たせるのも宜しくないだろう。

 おれは半泣きになりながらも覚悟を決め、長袖シャツを下着ごとすぽんと脱いで、キュロットスカートもすぽんと脱ぎ、ヒートテックのタイツから脚を引き抜き、やむにやまれぬ事情で(けが)れを負ってしまった淡いブルーの下着を引き下ろす。

 脱いだ衣類や()()()()()はそのまま白谷さんに投げ渡し、【蔵】に仕舞い込んで証拠隠滅してもらう。

 

 つぎは……こっちだ。この忌々しい白いダブル三角布。モリアキの絵やゲームグラフィックでしかお目に掛かったことの無い……ああもう、良いやもう! 下着(パンツ)! 紐下着(パンツ)です! もう自棄(ヤケ)だ! ちくしょうめ!

 巫女服は良いにしても! なんで紐下着(パンツ)なんか置いてあるのさ! シロちゃんみたいな女の子神使のためか! そうか! そうだな! でもなんでわざわざ紐下着(パン)なのさ! ゴムが無いからか! なるほど! そっか! へー! 確かに紐ならゴム無しでもサイズ調整できるもんね! なるほど! ちくしょう! いちいち理にかなってやがるな紐パンツのくせに!!

 

 

 「ちくしょう……なんなの紐パンって……! これずり落ちるじゃん! どう結べば良いの!?」

 

 「どうどう落ち着いて。一旦脱いで、軽く結んでから穿くと穿きやすいよ」

 

 「なんでそんな詳しいの……」

 

 「構造的には、男性用も同じようなものだからね。形はやや違うけど」

 

 「へぇー……異世界の服飾文化ってやっぱ色々違うんだ……」

 

 「うん。それとね……」

 

 

 白谷さんの助言通りに攻略を試み、なんとか真っ白な紐下着(パンツ)の装備に成功する。ここまで来ればあと一息、浴衣を着るようなものだ。

 ……と、何やら意味ありげに言葉を切った白谷さんの様子を窺うと……苦笑というかなんというか、複雑な表情でおれのことを見つめている。

 

 

 「着替えるときにわざわざ一度真っ裸(すっぽんぽん)になる、っていう文化も……ボクの世界では特に無かったかな?」

 

 「………………」

 

 「顔に似合わず大胆だね、ノワ。……今夜のお誘いって捉えて良いかな?」

 

 「…………よく、ない」

 

 

 ちくしょう……なんてみじめなんだ。もっと早く指摘してほしかった。シャツ脱いだくらいに。いやむしろ脱ぐ前に。

 ……まあ、テンパってたおれが完全に悪いんだけど。

 

 おれは我が身の情けなさにすんすん鼻をすすりながら……とりあえずは着替えを完了させるべく、残された巫女装束へと手を伸ばしたのだった。

 

 

 



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84【鶴城神域】神職の身支度

 

 おれは今となってはこんな有様だが……これでもこの世に生を受けてから三十年(あまり)を、健全な男子として生きてきた。

 SNS(つぶやいたー)やらネット掲示板とかで度々目にしてきた情報……『巫女さんは下着をつけない』とかいう出所の知れない情報に、言葉では言い表せない『ときめき』みたいなものを感じたりもしていた。

 

 

 だが。

 その情報が出回り始めた当初はどうだったか知らないが。

 日本全国津々浦々の神社すべてが()()だとは思わないが。

 

 少なくとも! この鶴城(つるぎ)神宮では!

 巫女さんは……ちゃんと下着を付けているのだ!!

 

 

 ふははは! 絶望するが良い! 健全な男子諸君よ!!

 おれは……おれはちゃんと! ちゃんとパンツをはいているぞ!!

 

 

 

 

 

 「ワカメ様……不安が御座いましたらそう仰って頂ければ、このシロめがお手伝い申し上げましたのに……」

 

 「ハイ。スマセン。申し訳()ッス」

 

 

 

 こんにちは。ごきげんよう。親愛なる人間種諸君。

 魔法情報局『のわめでぃあ』局長、現在ちょっとだけセンシティブな木乃若芽(きのわかめ)だよ。へぃりぃ。

 今わたしは、なんとですね……白髪狗耳ロリ巫女さんの手によって、着衣を剥かれているところでぇす! まぁ例によって配信でも撮影でもないんですけどね! はっはー撮影できるかこんな場面!!

 

 ……いや、ちがうな。着衣を剥かれているとはいえ、白紐パンツと白足袋(タビ)には手を付けられていない。剥かれているのはあくまで着物部分、襦袢と小袖と袴。ここだけだ。

 まぁ(もっと)も、洋服に置き換えて考えれば『シャツとキャミとスカートを剥ぎ取られた状況』になるわけで……つまりは今のおれの格好がどれだけセンシティブなのかは、大体理解して貰えると思う。

 

 

 「小袖も襦袢も、左側が上でございます。ワカメ様のような異国の御方には珍しい衣だとは存じまするが……神様のお側に仕えるとあっては、きちんとして頂く必要がございまする」

 

 「……ハイ。お手間お掛けしまッス」

 

 

 前世(男だった頃)の記憶に基づき、襦袢と小袖を着て袴を履いたおれだったが……お待たせしましたと声を掛けたおれを一目見るなり、白髪狗耳ロリ巫女ことシロちゃんは顔をひきつらせて固まってしまった。

 思わず『おれ、何かやっちゃいましたか?』などと口走ったおれに対して、困ったように眉根を寄せて『失礼致しまする』と一言断ると……目にも留まらぬ速さで帯紐(適当に結んじゃってた)を解き、小袖と襦袢の(あわせ)(左右逆だった)も解き、先程申し上げたセンシティブな格好へと大改装してしまわれたのでございます。

 

 

 「ワカメ様は御髪(おぐし)も大層お綺麗でございますゆえ……お召し物が整いましたら、そちらも整えさせて頂きたくございまする」

 

 「あっ、えっと……ハイ。全部任せます。ホントスマセン」

 

 「和泉(イズミ)様が水引を取りに向かわれましたゆえ、戻られるまでにお召し物を……このシロめが責任をもって、完璧なお姿へと整えてご覧にいれまする」

 

 「ハイ。お世話んなります。いやーホント手際イッスネ……ホントスマセン……」

 

 「はは…………良い感じに『全てを諦めきった目』してるね……」

 

 

 ……もうどうにでもなれ。

 公衆の場、しかもめっちゃ神聖な場で素っ裸(すっぽんぽん)になった上、はずかしい思いをして袖を通した和服を小さな女の子に即剥かれ、もうこの時点でおれの心はぼろぼろだ。

 なけなしの男性は軽い音を立てて粉々に砕け散り、抗う気力はこれっぽっちも残っていない。

 

 今のおれはもはやシロちゃんに言われるがまま、好きなように身体を整えられる『良い子』になることしかできない。完全に無抵抗を受け容れた形である。

 

 そんな自己分析を進めている間にも、シロちゃんはてきぱきとおれの身支度を整えてくれており……あっという間に帯紐が結ばれ、それは見事な巫女装束が完成したのだった。

 

 

 「ではワカメ様、こちらにお座り下さいませ。御髪(おぐし)を整えさせて頂きまする」

 

 「あっ、ハイ。お世話んなりァッス」

 

 「……いつまでふて腐れた喋りしてんのさ」

 

 

 姿見の前、シロちゃんがぽんぽんと叩いて整えてくれた座布団に座り、背筋を伸ばして平静を保つ。そんなおれの背後に陣取ったシロちゃんは、これまたてきぱきとおれの髪を纏めていく。

 長い髪は後頭部でひと括りに。ロングポニテと化したおれの髪に……どうやら小さな和紙を巻き付け、イズミさんとやらから受け取った水引で和紙ごとくいくいと結んでいるようだ。

 

 ……なるほど。髪の長い巫女さんはこうやって纏めるのか。今度モリアキに教えてやろ。

 ていうか……おれの自撮り送ってやろ。

 

 

 「……はい! お疲れ様でございました。これにてお支度、完了いたしましてございまする」

 

 「おぉ……おぉぉ…………ありがとうございます、シロちゃん」

 

 「いえいえ。ワカメ様のお役に立てたならば幸い、このシロめも鼻が高いでございまする」

 

 「可愛ッ…………ン゛ンッ! ありがとうね。……じゃ、リョウエイさんとこ戻ろっか。だいぶ遅くなっちゃったし……」

 

 「ノワがパンツ脱ぐのめっちゃ躊躇ってたからね……」

 

 「言わないで!!」

 

 

 忘れ物や落とし物がないことをしっかり確認したおれは、シロちゃんとイズミさんに先導され、着替えの部屋を後にした。

 ただのサイズ合わせって聞いていたのに、だいぶ心をすり減らした気がする。……めっちゃつかれた、とりあえずやすらぎがほしい。

 

 おいしいお茶……マガラさんの煎れた、はちゃめちゃにおいしいお茶が飲みたい。

 

 

 



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85【鶴城神域】神案件

 

 

 さてさて、場面は再び先程の畳の間へと戻ります。

 

 おれが衣装合わせに時間を取られている間、完全に待ちぼうけとなってしまっていた、この鶴城(つるぎ)神宮のお偉方二人。

 この年の瀬のクッソ忙しいところ本当に申し訳無いと、戻ってくるなり半泣きになっていたおれに対し……チカマ宮司は相変わらずの優しい笑みを湛えたまま。

 古式ゆかしい施設や着衣にはそぐわない最先端の技術の結晶、りんご印のタブレットを駆使して雑務を片付けていたらしく……加えてリョウエイさんと顔を合わせる機会を得たことで、普段保留となっていた案件をここぞとばかりに相談していたらしい。

 

 つまりは……いたずらに時間を浪費させていたわけではなく、ちゃんと時間を有効活用してくれていたらしい。よかった、たすかった。

 

 

 「いや……でもノワがお二人を待たせてたって事実は変わらないから……」

 

 「すみませんでしたァ!!」

 

 「まぁまぁまぁ。知我麻(チカマ)の云う通り、我等の事は気にしなくて良い。……それよりも、矢張(やは)り思った通り。見事な装いじゃないか。なぁ?」

 

 「左様でございますな。大層お綺麗でおられる。将来が楽しみなお嬢様だ」

 

 「えと……お、お褒めにあずかり……恐縮、デス」

 

 

 おれの心というか内面は、未だに(オトコ)であることを捨ててはいないのだが……それでもこの身体を褒められることは――他でもない愛娘『木乃若芽ちゃん』を褒められるのは――なかなかどうして、やっぱり嬉しい。

 在りし日のおれが(若干の(よこしま)な想いがあったことは否定できないが)憧れていた衣装……しかもコスプレ用やパチモンではない正真正銘の神職専用衣装に、おれたちが『好き』を詰め込んだキャラクターが袖を通しているのだ。好きな子に好きな衣装が合わさるとあれば、そりゃあちょっとくらいの代償を支払っちゃう気にもなるでしょう。

 

 

 ……そう、ちょっとくらいの代償。

 おれの心が深い傷を負う程度の、ほんの些細な代償だ。

 

 

 「それじゃあ、役者も揃ったところで『擦り合わせ』を続けようか。シラタニ殿の提案の通り、此方(コチラ)は女性神使の装備一式を提供しよう。『表』の女子(おなご)用の衣装ならば()(かく)此方(コチラ)側の装備なら僕の一存で動かせる。数も其れなりに余裕が在るし、ね」

 

 「『神域』の(マワ)り方の装束ともなれば……その加護と籠められた神力は確かなものでしょう。ワカメ殿の(いくさ)装束としても、充分に役立ってくれましょう」

 

 「えー……っと、…………はい。ありがとうございます」

 

 

 若干引っ掛かるところはあるが……これで鶴城(つるぎ)神宮がわが納得してくれるなら、もうそれでいいや。白谷さんもなんだかホクホク顔だし、シロちゃんもいい笑顔だし。……かわいいし。

 大事なのは……あくまでもこの装束と引き換えに、おれが提供する内容。

 動画配信者(ユーキャスター)としてのおれが……魔法情報局のわめでぃあ局長である木乃若芽ちゃんが、(わざわい)の『種』撲滅のために鶴城(つるぎ)神宮へと提供できる、その対価の内容だ。

 

 

 

 「では……わたしたち『のわめでぃあ』の提案と致しまして、幾つか。……まずは、ひとつ。境内の見所を紹介する動画の作成」

 

 

 境内の見所紹介動画。単純だが、だからといっておざなりに出来ない。なにせこの鶴城(つるぎ)神宮は、実はなかなかに見所が多いのだ。

 境内各所には鶴城(つるぎ)の本宮の他に、合計で三十近い数のお(やしろ)様が存在する。それに加えて歴史的にも重要な遺構や、樹齢千年を越えるともいわれるご神木、ちょっと毛色を変えて茶屋の食事メニューや豊富な御守りなど……紹介したい箇所には事欠かない。

 

 欲を言えば……昨今の刀剣ブームにあやかり、宝物殿なんかもじっくり紹介したいところだが……さすがにそこは一般撮影禁止区画だ。

 駆け出しの配信者であるおれなんかには、さすがに過ぎた願いというか……高望みというやつだろう。

 

 

 「……いや、べつに良くない? なぁ知我麻(チカマ)

 

 「えっ!?」

 

 「ふぅむ…………確認ですが、ワカメ殿のお使いになられるカメラ。……いわゆるストロボ、フラッシュの(たぐい)は……」

 

 「えっ、と…………無いです」

 

 「……なるほど。では龍影(リョウエイ)殿の御墨付きもございますし……特例として、此度に限り許可を出しましょう」

 

 「えっ!!? 良いんですか!?!?」

 

 「えぇ。(ただ)呉々(くれぐれ)も、『普段は撮影禁止である』という旨を記して頂けるのなら」

 

 「おほーーー!! ……えっと、失礼しました。ありがとうございます!! 念のため公開前には、作った映像を確認して頂きに伺いますので……!!」

 

 「えぇ。そうして頂けるのならば……此方としても安心ですな」

 

 

 やばい、一気にテンション上がってきた。めっちゃ気合い入る。

 何てったって……特例だ。普通は撮影が許可されない宝物殿を……今回限り、のわめでぃあに限り、動画撮影の許可を頂けるというのだ。

 鶴城(つるぎ)神宮の宝物殿は、祀っている神様の性格もあってか、刀剣類の収蔵品が非常に多い。脇差や打刀、馬上太刀から槍の穂先に至るまで……古くは鎌倉や南北朝時代の歴史的遺物から、近代の刀工が奉納した芸術品まで。

 数年前の刀剣擬人化ゲームに端を発する若者の刀剣ブームは、未だに健在だ。有名な刀剣類を数多く収蔵する宝物殿を取材させて貰えるなら――鶴城(つるぎ)の宝物殿に有名どころの刀剣が収蔵されていると宣伝できれば――これは非常に強い集客武器となること間違いなしだ。

 

 おれは(はや)る気持ちを必死に(なだ)めながら、尚もプレゼンを継続する。

 鶴城(つるぎ)さんに一人でも多くの人を招くための施策……その二。

 

 

 「二つ目は……茶屋のお食事の食レポというかですね、『こんな名物がありますよ』『こんなに美味しいですよ』ということをアピールできる動画を撮らせて頂ければと。勿論、飲食のお代はちゃんとお支払いさせていただきますので、単純に店内での撮影許可を頂ければ」

 

 「あー……あの茶屋ね。厳密には鶴城(ウチ)の経営じゃないからそんなに我儘(ワガママ)は利かないんだけど」

 

 「えっ!? ……あー、業務委託的なあれですか?」

 

 「そうそう。餅は餅屋ってね。……まぁ我等との関係も悪くないし、やんわりと協力を促すくらいなら出来るだろう。……というか、ワカメ殿みたいな可愛らしい子に『お店紹介したいので』って言われれば、普通に許可してくれると思うよ。あの子らにも利がある話だし」

 

 「なるほど……後程ご挨拶に伺ってみます」

 

 「なら、その際は知我麻(チカマ)を伴うと良い。……にしても、先の案と態々(わざわざ)分けたのには、何か理由が?」

 

 「えっと……それはですね……」

 

 

 良いところに気づきましたね、と偉そうなことを言いたくなるお姉さん(カゼ)を必死に(なだ)め、おれはリョウエイさんへと説明する。

 

 確かに茶屋は鶴城(つるぎ)神宮の一部なので、先の境内案内動画に完全に盛り込んでしまうのも一つの手段だろう。しかしそれでは当然のことながら、茶屋の紹介が『おまけ』程度になってしまう。

 だが、それでは足りない。おれの狙いは単純に、観光動画とはまた別の切り口としてのアプローチを試みる。

 つまりは……鶴城(つるぎ)の茶屋だけで、一本のグルメ動画を作ることにある。

 

 グルメ動画というのは、そのジャンルそのものを好む層が存在する。ラーメン好きにとってはラーメン屋さんの情報さえ得られれば、喫茶店好きにとっては喫茶店紹介の動画さえあれば良いのであって、その他の情報がメインの動画は眼中にも無いのだろう。

 そんな方々に向けた、あくまでも飲食をメインに据えた動画。鶴城(つるぎ)神宮の紹介動画ではなく、あくまでも『美味しいお店があったので紹介します。是非行ってみてね。場所はなんと鶴城(つるぎ)神宮の中だよ』というスタンスでのアプローチだ。

 

 観光動画ジャンルとは別のジャンルにも釣糸を流すことで、より広い間口からの関心を集めようといのが、この作戦の本質である。

 

 

 「なので……せっかくなので、先程許可を頂いた宝物殿……これだけでも一本別枠で動画作っても良いかなって思いました。歴史好きの方々向けのアプローチって形で。第三の釣糸ですね」

 

 「成程……色々と考えてくれて居るんだねぇ」

 

 「鶴城(つるぎ)さんのご期待に添うためです。がんばりますよ」

 

 

 作戦内容も、おおむね理解してもらえたようだ。複数の動画を作るとなるとその分手間も増えるのだが、どっちみち動画配信者(ユーキャスター)として食っていく以上はやらなきゃいけないことだ。別段そこまで苦というわけでもない。

 まぁ……肝心の茶屋への打診がまだ残っているが、いわく何度かテレビや雑誌の取材も入ったことがあるらしい。意地の悪い経営者ってわけでもないので、断られる心配は少ないだろうとのこと。

 

 つまりは……施策その二も、なんとかなるだろう。

 

 

 そしてここで……トドメとばかりに、最後の施策を放つ。

 これこそが本命にして……おれのダメージも最も大きい、いわば諸刃の(つるぎ)なのだ。

 

 ……鶴城(つるぎ)神宮だけに。んフフッ。

 

 

 

 なにわろてんねん。誰や。……おれか!!

 

 

 



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86【鶴城神域】神様の在り方

 

 「えー…………続きまして、ですね……三つ目の施策となるのですが……」

 

 

 おれたちが撲滅すべき対象である、(わざわい)の『種』……それを根こそぎ祓える力を持つ鶴城(つるぎ)神宮へと、一人でも多くの人を呼び寄せるための施策。

 おれと白谷さんが立てた作戦の中で、最も高い効果を発揮できる――その代償として後には引けなくなる――諸刃の剣であり、また背水の陣でもある……秘策。

 

 これは……おれ自身も喪うものが多い、ほとんど自爆覚悟の捨て身の一手。

 

 

 

 「もし…………もし、万が一、何かの間違いで、微粒子レベルで可能なようでしたら……いやダメならダメで問題ないんですが」

 

 「……ノワ、往生際が悪いよ」

 

 「グゥ……ッ! ……えっと、ですね……」

 

 

 

 可能であれば切りたくなかった、とっておきの切り札。

 文字通りそのままの意味での……完全な悪足掻(わるあが)き。

 

 

 

 「年末年始……まぁ、つまりは……初詣のタイミングですね。…………もし、もしまだ()

 

 「あぁ、助勤(ジョキン)かな? 良いね、是非お願いしたい」

 

 「イト募集してる…………えっ?」

 

 「助勤だろ。知我麻(チカマ)、どうだ?」

 

 「……ううむ…………ワカメ殿、大変失礼ですが……御歳は?」

 

 「ノワはこう見えて三十越えてるから、ちゃんと成人だよ」

 

 「ちょっ!?!??」

 

 「なら何も問題無いな。ワカメ殿程の神力と思慮の持ち主ならば、手間も在るまい」

 

 「成程。……龍影(リョウエイ)殿の御墨付きも有るならば、私としても異存はございませんな」

 

 「ホラやっぱり。よかったね、ノワ」

 

 「白谷さん……!! ああ、もう……」

 

 

 幸運(不幸)なことに、鶴城(つるぎ)神宮のツートップの御墨付きを賜ったおれは……外見年齢こそ十歳だが設定年齢は百歳、実年齢も三十代であることから年齢制限も無事に突破(クリア)し、晴れて年末年始の巫女助勤(アルバイト)の内定を賜ったのだった。

 

 

 

 

 

 「……というわけでですね。…………すみません、お見苦しいところをお見せしました」

 

 「いやいや、可愛らしいものだよ。……しかし、ワカメ殿が直々に動く(ワケ)だ。実際の(ところ)、効果は見込めるんだろう?」

 

 「えっと……まぁ、はい。……わたしは見た目が()()ですから、良くも悪くも人目を引きます。髪も黒髪とは程遠いですし、エルフのコスプレ……という形になってしまうので、鶴城(つるぎ)さんに相応しくないかもしれませんが」

 

 「そこはご心配なされませんよう。……実を申しますと、今年は異国出身の子も何名か採用しております。『らしくない』と云われれば、既に『らしくない』状況ですので」

 

 「えっと……お心遣い、痛み入ります。……まぁ、わたしは幸い……というべきでしょうか。この()がなかなか話題性があるらしいので……年末年始、わたしが鶴城(つるぎ)さんでアルバ……えっと、助勤? させて頂けると告知すれば、何人かは()()()に来てくれるんじゃないかなぁ……とか」

 

 「確認ですが、ワカメ殿……その御耳は『コスプレ』という(てい)で宜しいのでしょうか」

 

 「……そう、ですね。不謹慎かもしれませんが、そうゴリ押しさせて頂いた方が混乱も少ないかな……と」

 

 「承知致しました。それでは失礼ながらワカメ殿の情報を……動画配信者(ユーキャスター)が助勤に加わると、巫女衆にも助勤の子らにも通達を通しておきましょう」

 

 「すみません……和を乱すようで」

 

 

 いちおう、お偉方の許可を取り付けたとはいえ……おれ自身深く考えるまでもなくわかるように、今のおれの容姿はお世辞にも巫女さんっぽいとは言えないだろう。

 無理矢理良く言おうとすれば……新ジャンル、だろうか。悪くというか、普通に言えば……異質。

 

 何しろ……緑髪で、エルフ耳で、見た目十歳の巫女さんなのだ。

 シロちゃんのような白髪狗耳だったらまだ巫女装束との親和性も高いだろうが……エルフも緑髪も、どちらかといえば西洋系の特色だ。日本文化を背骨とする御伽草子(ファンタジー)には、エルフ耳なんて登場する機会はそうそう無い。ぶっちゃけ、そぐわないだろう。

 

 

 日本文化の粋ともいえる神社仏閣に、西洋由来の存在がシレッと紛れ込む。そのことに少なくない申し訳なさを抱くおれだったが……意外というべきだろうか。チカマさんは相変わらずの穏やかな笑みを湛えたまま、あっけらかんと言ってのけた。

 

 

 「我々も生き残りに……新たな顧客、特に若者世代の取り込みに必死でして。いわゆるサブカルチャー……漫画やアニメ絵を取り入れる(やしろ)も少なくありません。絵馬や御神籤、御守り等……御朱印帳にアニメ絵を採り入れた寺院もありますので」

 

 「あっ、聞いたことあります。……気にはなっていたんですけど」

 

 「ええ。そうでしょう。現金なものですが……若者に受けるというのであれば、新たな試みも積極的に推し進めるべきだと考えております。今回のことも、その一環と捉えて頂ければ」

 

 「……変わろうと、してるんですね」

 

 「ええ。……文化も、働き方も、流行も変わり行くように……信仰の形もまた、変わっていくべきでしょう」

 

 

 

 実際のところ、不安の全てが解決したわけでは……もちろん無い。

 だがしかし……古き良き時代の文化に固執し、そのまま保全するのではなく。今の……そしてこれからの時代の人々ために、あの手この手を尽くそうと考えてくれている鶴城(つるぎ)さんのためにも。

 

 おれは……おれ自身のちっぽけな恥じらいも、これっぽっちの役にもたたない自尊心も、これまで未練がましくしがみついてきた常識も、この案件のために全部投げ捨ててやろうと……

 

 全身全霊で取り組んでやろうと、そう心に決めたのだった。

 

 

 



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87【帰途談話】とりあえず作戦会議

 鶴城(つるぎ)神宮の首脳陣との打ち合わせを終え、その日とその翌日の計二日間をまるまる撮影ならびに巫女助勤(アルバイト)の研修に費やし……あっという間に現在は木曜日の夜。

 

 非常に密度の濃い鶴城(つるぎ)さんへの二連勤をなんとか無事に終えたおれは……どっぷり日が暮れた時刻にも関わらず迎えに来てくれたモリアキの軽自動車に運ばれ、なんだか久しぶりのような気がするモリアキ宅へと向かっていた。

 

 

 さすがに入浴や睡眠は自宅で済ませたが……それ以外のほぼ全ての時間を鶴城神宮で過ごした、この二日間。家との往復には白谷さんに【門】を開いてもらい、時間を一切無駄にすることなく撮影と研修に打ち込んだ。

 とりあえず撮影したいところの撮影も済んだし、助勤(アルバイト)に備えての研修もなんとか合格を頂いた。

 今のところ無事にことは進み、まわりに報告できそうな域にまで進捗度が達したので、ようやく情報解禁といったところだ。

 ちなみに……この二日間のおれの行動ならびにおれの服装は、モリアキに内緒にしてあった。サプライズってやつになるんだろう。

 

 

 いきなり鶴城(つるぎ)神宮に呼び寄せたのは悪かったと思うが……駐車場に()()()()のまま姿を現したときのモリアキの顔といったら。

 何といっても、シロちゃんがきっちりと着付けてくれた本格的な巫女装束……しかも一日目に着付けて貰った基本形態に加えて千早を羽織った、いうなれば第二形態である。

 親としての贔屓を差し引いたとしても、控えめに言って可愛らしいんじゃないかと我ながら思っている。サプライズというわけでは無いが、少しは喜んでもらえただろうか。

 

 

 

「……いや『ちょっと喜ぶ』どころじゃないっす。本当心臓に悪いっすよ。マジで天国連れてかれるかと思いましたもん」

 

「ホヘェ、まーじ? 可愛い? ねぇおれ可愛い?」

 

「いや、ヤバイっす。控えめに言ってメチャクチャ可愛いっす。こんなん見たらもう大騒ぎっすよ……どうしたんすかその装束」

 

鶴城(つるぎ)さんに取材打診したら貰った」

 

「……………………いやいやいやいやいや。何すかそれ!? どういうこと……えぇ……何すかそれ…………全くワケわかんないっす……マジで大騒ぎなりますよ…………いや本当、よく見つからずに車乗れたっすね」

 

「そこはホラ、頼りになるアシスタント妖精さんがいるから」

 

「んふふ……まぁ、ノワの危機感の無さにはそろそろ慣れてきたからね。ボクが可能な限り守ってあげないと」

 

「白谷さん??」

 

「それはめっちゃ安心感あるっすね……ありがとうございます白谷さん」

 

烏森(かすもり)さん????」

 

 

 

 心外だ。おれはこんなにも色々考えて行動しているのに、モリアキも白谷さんも……まるでおれ一人だと不安だとでも言わんばかりだ。

 そりゃあ確かに……モリアキには配信者計画を発動してから今まで――いやそれ以前からも――数えきれないくらい助けてもらってきた。そのことには感謝しているし、彼の助力は非常に嬉しくも思う。

 

 

「そうそう、先輩昨日新しいの上げたじゃないすか。伊養町のやつ。スゴいっすよあれ!」

 

「ほえ? なになにどうした? もしかしてバズっちまいました?」

 

「先輩のソレがどの程度を指してるのかは解んないっすけど……再生数は既に二万越えてます。一日で」

 

「にまっ…………!?」

 

「地名入れたのが良かったんすかね? SNS(つぶやいたー)の方で色んな人が宣伝してくれてるんすよ。あの『ウェルカムなみこ』さんがRTしてくれて、そっからドバババっと増えました。……この辺住まいのユーザーが興味持ってくれたんすかね?」

 

「マジで!? マジかウェルなみちゃん見てくれたのか! うおー!!」

 

 

 昨晩、一旦自宅へと戻った際に投稿しておいた新作動画『昼飯(メシ)ついていってもイイですか?【伊養町商店街編】』……初となる第三者登場型の動画が、思っていた以上に好評のようだ。

 おれたちが鶴城さんの撮影と研修でいっぱいいっぱいだった間、投稿動画の経緯を観察してくれていたのだろう。良いニュースを持ってきてくれた彼に、自然と顔がほころぶ。

 

 ちょうど良い。ならばこちらも、成果を発表すべきだろう。

 多少流動的なところもあり、実際随所で白谷さんの知恵と助言を拝借したものの……今回だってばっちり案件を獲得してきたのだ。

 

 ……そう、モリアキに報告できる()()()()()のニュース。

 この喜びを共有するために、モリアキに迎えに来てもらったと言っても過言ではない。

 

 

「……何か言いたげっすね」

 

「ふふふふ……良いニュースとすごいニュースがある。どっちから先に聞きたいい?」

 

「ぇえ…………ちょっと待って下さい、事故らないように車停めますんで」

 

「そんな大袈裟(おおげさ)な」

 

「いやいやいや……! そんな本格的巫女装束仕入れてきた時点でもう予想の遥か上ですんで! これ以上ヤバいニュースがあるってことでしょう!? 勘弁してくださいよ!!」

 

「いいや断るね。良いニュースかすごいニュース、どっちから聞きたいか答えるんだよオラッ。()()()よ!!」

 

「いやぁ……めっちゃ良い顔してるね……」

 

 

 

 コンビニの駐車場に車を停め、観念したようにモリアキが後部座席(こちら)へと振り返る。白谷さんに言われた通り、今のおれは見事なニコニコ顔なのが自分でもよくわかる。

 そんなおれと見事に反比例するように……モリアキの顔は不安そうな表情。ふふふ……そのどんより顔をスカッと快晴に変えてやるぜ。

 

 

「じゃあまあ、おれは我慢弱いので。もう二つ発表しちゃうね」

 

「えっ!? ちょっ、待っ」

 

「まず(ひと)ぉつ。鶴城(つるぎ)さんの宮司さんとお話しして案件貰いました!」

 

「は!? 宮司さん……は!?」

 

「そして(ふた)ぁつ! 年末年始、大晦日から元旦に掛けて……おれ鶴城(つるぎ)さんで巫女さんやります! アルバイトします!」

 

「え!? ちょっ……先輩!? え、巫女さん……えっ!?」

 

「あー……ちなみにモリアキ氏。これ多分トドメになるんだけど……ノワね、ツルギの神様の(つか)いと顔合わせしちゃったから。ていうか、気に入られたみたい」

 

「ぇや!? なん、え……神、って…………ちょっ、もう頭痛…………ヴォェ」

 

「ふぉあ!? ちょっ……大丈夫?」

 

 

 うおお、なんだかいきなり気分悪そう……もしかして風邪とか、あの悪名高い肺炎とかじゃないよな。念のために【診断(ディアグノース)】で覗いてみたが……うん、よかった。健康そうだ。

 ちょっとカフェイン摂りすぎが気になるけど……それだって異常って域でもない。少し前の修羅場のときに無理して……翼を授かり過ぎたんだろうか。労ってやらねば。

 

 ともあれ、彼に健康的被害もなさそうなので……落ち着いてきたら報告を再開しよう。

 おれたちが初めて取ってきた、とびっきりの大型案件だ。きっと彼も喜んでくれるに違いない。

 

 



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88【帰途談話】ひどいこといわないで

 

 

 この二日間、自分の管理者ページさえろくに確認できなかったおれに代わって、おれが投稿した動画の動向をしっかり確認してくれていたモリアキ。

 彼のフォローに感謝するとともに、おれのこの二日間の行動と頑張りを共有し、あわよくば褒めてもらおうと情報公開したところ……何だか頭抱えて(うずくま)ってしまった。

 

 なんだか顔色悪いぞモリアキ……大丈夫かな。頭が痛いのだろうか。それとも吐き気だろうか。……それは困る。彼はおれにとって欠かせない、大切な存在なのだ。

 少し前だって……彼自身が抱え込んでいた仕事案件の合間を縫って、翼を授かったりモンスターの(エナジー)を借りたりしながら、この『木乃若芽ちゃん計画』の相談に親身になって乗ってくれたのだ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。おれなんかが彼の息災を祈ったところでどうこう出来るとは思わないが……とりあえず目の前の烏森の頭を、いいこいいことなでなでする。いたいのいたいの飛んでけ。

 

 

「大丈夫かモリアキ……案件抱えすぎてない? ちゃんと休んでる?」

 

「いえ、最近は割と空けてるんで…………っと、ありがとうございます先輩。なんかめっちゃ楽になりました。……でも考えてみれば頭痛くなった原因先輩でしたわ。マッチポンプじゃないすか。最低っすね先輩オレの感謝返して下さいよ」

 

「ひっでぇな!? おれ何も悪くねえじゃん!!」

 

「あっ、これは……」

 

 

 なんだか急に体調が悪くなったらしいモリアキを労ったら、全く(いわ)れの無い罪状をでっち上げられていきなり(ののし)られた。

 は? 納得いかねえ。おれはただモリアキが心配だっただけなのに。どうしておれが責められなきゃならないわけ?

 

 

「はーーーひっで。モリアキひっで。心配したったのにひっで。何がどうしておれのせいだってのよ」

 

「はぁーーー!? 馬ッ鹿なこと言わないで下さいよ!! ()()鶴城(つるぎ)さんでしょう!? あんな大御所っていうか雲の上の存在っていうか、撮影するだけでも畏れ多い()()鶴城(つるぎ)さんっすよ!? そんな異常事態サラッと告げないで下さいよ!! 何なんすか本当にもう!!」

 

「そうなるよね。我は紡ぐ(メイプライグス)……【静寂(シュウィーゲ)】」

 

「はぁーーーーー!!!?? 馬鹿って言う方がヴァカなんですゥーー!! 異常事態だろうが何だろうが案件貰ったのは事実だもーーん!! ちゃんと宮司さん直々に許可貰ったんだもーーん!! その証拠に……ホラホラホラ!! 宮司さんとREIN(メッセージアプリ)のID交換しちゃったもんね!! どーよスゲーだろ!!」

 

「…………うん。我は紡ぐ(メイプライグス)、【遮鏡(ポラリズラ)】」

 

 

 鶴城(つるぎ)神宮からモリアキ宅への帰宅途中、幹線道路沿いのコンビニの駐車場に停まった軽自動車の車内で。

 白谷さんの万全のバックアップを受けたおれたちは、決して避けられない戦いへと身を投じていく。……くだらなくなんかないぞ、これはおれのそんげんを賭けたたたかいなのだ。(棒読み)

 

 

「どッッッこまで非常識なんすかこのド天然全方向人間タラシ幼女がッ!! はっきり言って今の先輩の対人スキル異常ってレベルじゃ無いっすから!! ドコをドウすりゃ()()鶴城(つるぎ)の宮司さんと繋がれるってェんすか!? 自分の可愛さが異常だってもっと自覚しろって言ってますよねぇ!? オマケに……何すか!? 神様の(つか)い!? ワケ解んねっすよ何でそんな非現実領域にまで飛び火してんすか!? 馬鹿じゃないんすか!!?」

 

「うーん……まぁこんだけ張っとけば大丈夫でしょ」

 

「アッ!! まーた馬鹿って言ったバーカバーカ!! なァーにが非現実領域じゃ知った風に!! そんな今さらなこと言われなくても解ってますゥーー!! そもそも()()()()なった時点でおれは今までの常識なんて捨てましたァーー!! おれの周りなんてとっくに非現実的の極みでしょーがバーカバーカ!!」

 

「それじゃあまぁ……あとはお若いお二人でごゆっく」

 

「…………言われてみればそうすね。スミマセン先輩……ちょっと取り乱しました」

 

「えっ!? そこ終息するの!?」

 

「いや…………ていうかおれも、なんか……ゴメン。ちょっと…………いや、ぶっちゃかなり説明飛んだから……モリアキが混乱すんのも無理無いと思う」

 

「ボクは今まさに混乱してるんだけど……?」

 

 

 

 ……まあ、売り言葉に買い言葉ってヤツだよね。おれもモリアキも、本心から相手を貶したかったわけじゃない。……はず。

 

 実際のところ神様の使いとか神域とか……白谷さんで慣れていたはずのおれだって、見事に大混乱したほどの非日常的存在だもの。

 いきなり結論だけを告げられて、モリアキが混乱していないはずもなかった。

 

 おれはオトナなので、顧みるべきところはしっかりと顧みる。

 説明不足のせいで混乱させてしまったモリアキと……なんかよくわかんないけど、目を白黒させている白谷さんのためにも。

 

 落ち着きを取り戻した運転手によって、走行が再開された軽自動車の車内にて……おれは現在の状況の再確認と今後の予定の確認も含めて、あらためて鶴城(つるぎ)神宮PR案件概要に関して情報共有を試みるのだった。

 

 

 



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89【帰途談話】とりあえず夜食

 

 数日ぶりとなる、同志モリアキ氏の自宅。

 おれの家の()()なんかとは比べ物にならないほど居心地のよいリビングスペースにて……おれたちは途中寄り道してテイクアウトしたロースかつ丼を、三人並んではふはふと掻き込んでいった。……期間限定で三九〇円だって。めっちゃ安い。そのうえうまい。

 

 

 ちなみに今更だけど、白谷さんは普通にごはんを食べる。

 とはいっても……そもそも彼女はおれから供給される魔力で生命維持が行われているらしく、実際それだけでも体調含めて問題無いらしいので、どちらかというと娯楽的な側面が強いらしい。

 つまりぶっちゃけ食事の必要は無いんだけど、『ボクも……ノワと同じもの、一緒に食べてみたいから……』なんて上目使いで言われちゃったらもうお嬢ちゃん可愛いねオジサンが何でもご馳走してあげるからね好きなものいっぱいお食べなさいなグヘヘヘってなるに決まってるじゃん!!

 

 まあでも、身体つきからわかる通りにおなかの容量は大きくないので……モリアキが人数分調達したロースかつ丼のうち(ふた)つと四分の三以上は、おれとモリアキで処理する必要がある。

 ちなみにおれのおなかの容量は、せいぜいがロースかつ丼(ひと)つ分だ。頑張って詰め込んでこのざまだ。……がんばれモリアキ。

 

 

 そんなおれの、声なき応援が届いたのだろうか。それとも縫針みたいなサイズのマイ箸を必死に操る白谷さんが愛らしかったおかげだろうか。

 多少眉が八の字になっていたが、そこまでしんどくは無さそうな様子で……無事に三つの空き容器が姿を現したのだった。

 

 

 おなかいっぱいになりながら、これまでの経緯と今後の予定をなんとか全て(ちょっと漏れた事件以外)共有し終え……数日後に迫った修羅場に向けて、おれたちは決意を新たにする。

 ……まぁ、それよりも前に明日の配信だな。本番は夜の二十一時からを予定しているので、まだ少し時間はある。今回は数日前から予告してあるので、割と時間的にも精神的にも余裕を持てているのだ。

 

 ちょっとひと手間、加えてみても良いかもしれない。

 よし。帰ったら白谷さんと打ち合わせだ。……一緒にお風呂入りながらでも。

 

 

 

「じゃあ、そんな感じで。元旦の初詣、一緒に行けなくなっちゃったけど……ごめんな」

 

「いや仕方無いっすよ。どっちみち今の先輩に人混みは厳しいでしょうし。頑張って下さいね、アルバイトも……明日の配信も」

 

「まーかせとけ! 今回は事前告知もバッチリだし! ついに白谷さんのお披露目だもんな……気合入れないと」

 

「んふふ。なんだかボクも楽しみだよ」

 

「オレも楽しみにしてますから! ……お疲れ様っす」

 

 

 久しぶりにモリアキと会って言葉を交わし、おれはバッチリと英気を養う。

 彼にお礼と別れの挨拶を告げ、例によって白谷さんに【門】を開いてもらい、おれたちは一切人目に触れずに自宅へと戻る。

 ……話には聞いていたけど実際【門】を目にするのは初めてらしいモリアキは、若干ひきつった顔ながらも興奮を隠しきれない複雑な表情で見送ってくれた。

 帰る前に烏森宅へマーカーを打ち込んで貰うのも忘れない。これは大事なこと。

 

 あぁ、しかし……白谷さんに協力してもらえば、烏森宅マンション駐輪場に置きっぱなしにしている原付を回収することも難しくないのか。

 さすがに自室へと運び込むのは褒められたもんじゃないので、近くの路上のどこかにマーカーを置き直す必要はあるだろうけど……やはり気軽に使える『足』が有るのと無いとだと、行動範囲がかなり違うだろう。

 まぁ、運転の際は人目を気にする必要があるかもだけど。……こっちのほうも思いついた解決策が無いわけではないので、年明けになって落ち着いたら対策を進めないと。

 

 

 

「ただいまー……っと」

 

「んふふ。おかえりノワ」

 

「ん。……エヘヘ」

 

 

 しかし今は、直近に迫った明日金曜日の配信に注力する。

 

 既に日も暮れて久しいとはいえ、まだまだ夜はこれからだ。日付が変わるまでには時間があるし、おれはおれの仕事をこなさなければならない。

 白谷さんとのお風呂は……もうちょっとお預けだな。まずは動画のデータをとりあえず転送しておこう。

 

 おれは気持ちを切り替え、仕事モードに。

 情報局局長の戦いが、いま始まるのだ。

 

 



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90【配信準備】頼りになるアシスタント

 

 

 およそ一週間ぶりとなる生配信……身体いじめに終始した前回を大きく上回るほどに、盛り込むべき内容は膨大だ。細部はこの身体のアドリブ(りょく)に任せるにしても、全体の流れとタイムスケジュールはしっかりと固めておくべきだろう。

 白谷さんの【門】を通って一瞬で帰宅を果たしたおれは、明日の配信の台本を纏めるべくいつものように愛機(PC)を起動する。

 

 

「待って待って待って。ノワノワ、その格好のまま作業するの?」

 

「ん? その格好…………あー」

 

「シワとかなったらマズいよ。ちゃんと畳むか、ハンガーに掛けといて。浄化とかはボクが済ませるから」

 

「ありがとうたすかる。絶対洗濯機で洗っちゃマズいやつでしょこれ……」

 

 

 着るのはまだちょっとぎこちないので、シロちゃんに手伝って貰いたいところだが……脱ぐ分には何も問題無い。

 各所の括り紐をほどいて千早と袴を脱いでハンガーに掛け、小袖と襦袢も脱いで同様に掛けておく。……パンツは別に脱がなくて良いだろう。紐じゃなきゃいけないなんて指定は無いだろうし、白を指定されたとしても何枚かある。

 部屋着であるモコモコあったかパジャマに袖と脚を通し、今度こそ作業机へと着座する。衣服よし。

 

 それではあらためて……作業開始だ。

 なんてったって大切な相棒、白谷さん(ラニ)の御披露目である。絶対に下手を打つわけにはいかない。

 デスク横の保冷庫からファイト一発なドリンクを一つ取り出して『ぐいっ』と(あお)り、撮影したデータをゴップロ(カメラ)から取り込みながらテキストエディタを開く。

 

 

「気負いすぎないようにね、ノワ」

 

「んえ? やー大丈夫。おれは頑張れるよ」

 

「……キミがそう言うなら、今は止めないけど…………これだけは覚えておいて。キミはひと(たび)のめり込んだら、周りが見えなくなる傾向がある」

 

「…………ん。……自覚はあるよ」

 

 

 ほんの先日。飲まず食わず脇目も振らず、およそ六時間ぶっ通しで愛機(PC)にかじりついていたのは記憶に新しい。

 あのときは白谷さん(の設定したおふろアラーム)によって我に返ったが……その途端に封印していた生理現象が、『待ってました』とばかりに立て続けに騒ぎ出したのだ。

 

 それこそ、もう少し我慢して作業を続けていたら……()()とは言わないが漏れていたかもしれない程に。

 

 この『動画編集にかかわる動作をひたすらに最適化する』呪い(設定)は、ものすごい進捗ペースで作業を進められる強みがある一方で……その反面、その他の動作は優先度下位に設定されてしまうらしく、下手をすれば体調不良や尊厳の危機に陥る可能性が高いのだ。

 

 

「一つのことに集中できるのは長所でもあるけど……キミの場合は、その加減が極端に過ぎる。……ボクから見て『やばそう』って感じたら、そのときは()()()でも止めるから。良いね?」

 

「……うん。すごいね、マネージャーさんだ」

 

「当然。ボクは頼りになるアシスタント妖精だからね」

 

「心強いけど……おれの胸なんて揉んでも楽しくないでしょ。そんなに好き?」

 

「勿論。ノワの身体は全部好き」

 

「…………えっちだなぁ、白谷さんは」

 

 

 ……なので、そんなときに白谷さんの助力はとてもありがたい。ちょっとえっちなところもあるけど、そこはご愛嬌だ。

 おれ自身が作業にのめり込んでしまっても、おれの体調をマネジメントしてくれる白谷さんが適宜ペース配分や休憩を指示してくれる。

 おれは自身の心配をせずに最大効率で作業に取り組めるし、精神的被害を被ることも避けられるのだ。

 

 可愛くて、賢くて、とても頼りになる。

 本当に得がたい、大切な相棒だ。……ちょっとえっちだけど。

 

 

「とりあえずは明日の段取りだね。二十一時スタートで二時間の予定だから、その百二十分の割振りを考えなきゃいけない。白谷さんのお披露目と紹介と、年末年始の更新スケジュールの公開と……巫女さんアルバイトの報告と、鶴城さんのPRも盛り込まないと」

 

「おうたも入れないとだよ。ノワのおうた大人気だったじゃん。民謡アカペラなら準備も要らないんだろ? 毎回ひとつずつ定番化してみても良いんじゃない?」

 

「あー…………ありかも。でもまあ、あくまで前回同様『そこまで言うなら……しかたありませんね!』な感じで。わかめちゃんの()()()()()みたいになれば良いなぁ」

 

「モリアキ氏にサクラ頼んどこうよ。……まぁ尤も、仕込むまでもなくオネダリされると思うけどね」

 

「んへへへ。だったら嬉しいなぁ。……でもま、念のため頼んどこう。モリアキきっと見てくれるだろうし」

 

「そうだね。彼はそういう子だ」

 

 

 やっぱり、白谷さんは頼りになる。おれが見落としがちなところを、しっかりばっちりフォローしてくれる。

 ひとりぼっちで原稿を考えているときよりも、良い考えがどんどん出てくる。三人寄ればなんとやら……まぁおれたちは二人なんだけど、それでも効果は目ざましい。おかげで作業の進みが明らかに早いのだ。

 おれはキーボードをだかだかと打ちならし、それらを文書データとして纏めていく。おれたちの目的のためにも、そして白谷さんのためにも……明日の配信はなおのこと張り切って臨まなければ。

 

 

 この身体の集中技能を遺憾なく発揮した原稿作りは、なんと早々に完了してしまった。

 これ幸いとそのまま鶴城(つるぎ)さん動画の編集作業に移ったのだったが……今日は白谷さんによる万全の支援体制により、一時間ごとの休憩を挟みながら零時まで問題なく作業を進めることができた。

 

 

 この進捗ペース…………すごいよぉ!

 さすがアシスタント妖精さんン!!

 

 

 



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91【告知動画】話題作りにもうひと手間

 

 

 規則正しい電子音が、どこか遠くで聞こえるような気がする。

 

 なんだかとても幸せな雰囲気にひたっていた頭が、非情な現実へと引き戻されていくのを感じる。このままこの『幸せ』に身を委ねていたい気持ちを振り払い……おれは全身全霊をもって、意識を切り替える。

 

 この音は……うん、目覚ましのアラームだな。出所は枕元で充電しているはずのスマホから。心地よいまどろみから引き揚げられたおれは、とりあえずもぞもぞと手を伸ばしてアラームを止める。

 しかし今これを止めたところで、数分後にはスタジオ(ダイニング)のPC机にて充電中のりんごタブレットから第二波が鳴るはずなので……どのみち至福の睡眠へと戻ることはできない。

 

 

 

 ……それに。

 

 

 

「おはよぉーございまーす。……ほらノワ、朝だよ。こっち向いて」

 

「んむゥー…………んんぅー?」

 

「あっ、可愛い。おくちムニュムニュしちゃって……はー可愛い。ノワかわいい。最高」

 

「…………なぁに……どうしたの白谷さ…………カメラ?」

 

「うん。カメラ。おはよう、ノワ」

 

 

 寝ぼけ(まなこ)をこすりながら目を開けたおれの顔へ、近距離からカメラを向けている白谷さん……おれの愛用のゴップロ(カメラ)が小型軽量だったことが幸いして、白谷さんの浮遊魔法でも取り回せるようだった。

 

 とてもいいニコニコ笑顔でカメラを回す彼女の姿を認識し、おれは昨晩眠る前に彼女と話していたことを思い出し……現在置かれた状況を、やっと頭が認識し始める。

 今日の予定は……夜九時から大切な生配信が控えているのと、それとは他にもう(ひと)つ。

 

 

「んあー…………そっか。撮るってきめたんだっけ……もーに…………もーにんぐ……?」

 

「『モーニングルーティーン』って言ってたっけ? まぁボクもよくわかんないけど……とりあえず寝起きのノワを愛でられるならソレで良いかなって。この間のお返しだよ」

 

「いあ……写真と動画じゃ羞恥の威力がけた違いだから……」

 

 

 

 モーニングルーティーン。朝起きてから出勤までの身仕度を動画にするという、特に女性配信者(キャスター)の間で流行っているらしいこのジャンル。

 舞台裏(てき)な、無防備なオフの姿が見られるとかなんとかで、このモーニングルーティーンだけを巡回する愛好家も居るとか居ないとか。……愛好家がこれを好む理由には、あえて触れないでおこう。おれは健全だから。

 

 それで、だ。流行りもの、かつ再生数が見込めるジャンルである以上、このブームに乗らない手はないだろう。おれも一応(身体だけ見れば)女性配信者(キャスター)ではあるので、そんなに毛嫌いはされないはずだ。……たぶん。

 

 

「んぅー……なんかまだ頭がぽーっとする……」

 

「まず顔洗って……いや、それともシャワー浴びてくる?」

 

「ふぁぁぁはふ…………んぅ、そうしよっかな。いってくる。カメラかして」

 

「おお? まさかお風呂シーン?」

 

「ちがぁーうよ。お……ッ、……ふろとか……わたしの身体なんか、見てもおもしろくないでしょ。ちっちゃいし。かのう姉妹じゃないんだし」

 

 

 ……あぶない。危うく(おれ)が出るところだった。

 

 この撮影では――さすがにリアルタイム配信する度胸は無かったけれども――可能な限りのリアリティを出すために、一発取りの回しっぱなし撮影を予定している。

 というのは……おれたちがモーニングルーティーンの参考動画を探している過程で見つけてしまった、某配信者の動画……サムネで『ありのままの私生活を完全公開!!』とか言っておきながら、わざとらしさが拭いきれない可愛い子ぶりながらの演技じみたお目覚めシーンを目撃してしまい……ちょっと『なんだかなぁ』って思ってしまったからだ。(※個人の感想です)

 

 おれたちは幸いなことに二人組なので、アラームが鳴る前からの撮影を相棒に任せてしまえば『演じてる』感の払拭はできるだろう。

 そこからはカメラを回しっぱなしにして、ノーカットで朝の身仕度を済ませることで演技感を撲滅する。つまりはずっと配信者モードの『若芽ちゃん』でいる必要があるので、一人称に『おれ』とか使ったら即終了なのだ。

 

 おれが『おれ』を使うのは……基本的にはモリアキや白谷さんとか、心から信用できる相手の前だけだ。

 視聴者の皆さんが嫌いなわけではもちろん無いのだが……以前の()を知らない人の前では、さすがにちょっと地は出せない。

 

 

「ふふふ。……じゃあボクは休むから……まぁ、変なもの映さないように気をつけてね。脱いだパンツとか。全裸とか」

 

「…………映しそうだからこわいんだよなぁ。まぁ映っちゃったらお蔵入りするだけなんだけどさ」

 

 

 本来であれば、おれは朝にはめっぽう強い。一方で白谷さんは弱い方なので、『おれが起きないように白谷さん先に起きてもらってカメラを回してもらう』なんてことは出来ない。白谷さんを起こすためにアラームを仕掛ければ、絶対におれが先に目を覚ますからだ。

 だから……今日のこの撮影では、奥の手を使っている。……いや、使ってもらっている。白谷さんに。

 

 目覚めが良すぎるおれには、フェアリー種が得意とする安眠魔法を掛けてもらい……寝起きが悪い白谷さんには、単純に寝ずに待機して貰う。

 ……ぶっちゃけ、少しひどいかもとは思ったけど……言い出したのはおれじゃないから、セーフだと思いたい。

 だから今お役目を果たしてくれた白谷さんは、非常にねむねむなハズなのだ。待機中はスタジオ(ダイニング)のりんごタブレットで時間潰しをして貰ってたとはいえ、寝ていないのは間違いない。ゆっくり休んでもらおう。

 

 

「じゃあ後はまかせて。お昼になったら一緒にごはん食べようね」

 

「楽しみにしてるね。……ふぁふ…………じゃあ、おやすみ」

 

「うん。おやすみ」

 

 

 レタートレイのベッドで可愛らしく丸まる白谷さん……さすがに撮影するわけにはいかないので、この寝姿はおれ専用である。

 しかしカメラは回りっぱなしなので、いつまでも見惚れているわけにはいかない。『変なもの』を映さないようにカメラの角度を真上に向けてから、おれはクロゼットを開けて着替えをかき集めて寝室を後に……眠気覚ましのシャワーを浴びに、バスルームへと向かった。

 

 

 



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92【告知動画】パチモン女子の身繕い

 

 既に告知してある通り、今日の夜は重大発表を大いに含んだ生配信を予定している。

 ……にもかかわらず、いきなりこんなカメラを回して『モーニングルーティーン』なんて動画を撮っているのは、なぜか。

 まあ単純なことなんですけどね。ずばり『夜の配信に向けての燃料投下』でありまして。

 

 先日公開したお料理動画から、謎の声こと白谷さんに対する視聴者の興味は膨らむ一方であるらしい。動画のコメントにも、SNS(つぶやいたー)のコメントリプライにも、それは如実に現れている。

 ……サキちゃん(仮名)メグちゃん(仮名)からダイレクトにREIN届くのまでは、さすがに予想してなかったけど。

 

 まあそんなわけで。白谷さんの可愛いお声を本公表前に堪能できて、しかし白谷さんのお姿はまだ伏せたままで、なおかつ編集の手間が掛からなさそうな、そんな都合の良い案は無いかなぁと昨晩考えていたところ……見つけました。

 それがこの『モーニングルーティーン』というわけなのだ。

 

 動画を撮って前後をトリミングして内容を一通りチェックしたら、すぐにでも投稿する作戦だ。

 SNS(つぶやいたー)の投稿告知と併せれば、夜の配信開始まで良い感じに話題を保ってくれるだろう……と思いたい。

 

 

 

 さてさて。それじゃ撮影に戻りますか。

 

 烏森(かすもり)宅とは異なり、おれの部屋の浴室は……まあ、そこまできれいに整理整頓されているわけではない。

 一応清掃は(便利な魔法のおかげもあって)きっちりと行き届いており、ちらっと覗かれても大丈夫なレベルには片付いているのだが……おれは前世(男だった頃)からなにかと買い置きをしたがるタチだったので、洗剤やら石鹸やらシャンプーやらのストック類や畳まれたバスタオルなんかが棚にぎゅう詰めになっており、ちょっと見映えが悪い。

 

 なのでそれらを映さないように、脱衣場に置かれた洗濯機の上へと、レンズを天井に向けて置いておく。

 この配置とこのゴップロ(カメラ)の画角なら周囲の壁面やら……おれの平坦なセンシティブな部分やらを映してしまう危険性も、まぁ少ないだろう。

 ……まっ平らじゃないし。ちょっと膨らんでるし。

 

 

「えっと……角度、大丈夫だよね? 変なの映ってないよね? ……まぁたぶん大丈夫でしょ。じゃあえっと…………今からシャワーをですね、浴びてきます。……んー、十分くらい……かな? 爆速で済ませるつもりですけど、多分ずっと画面変わんないし、トークとかも出来ないので……十分後くらい目指して、シークバーをずずいっと動かしちゃっていいですよ。……じゃ、ちょっと失礼しますね」

 

 

 天井を映すカメラに、画面下からひょこっと顔だけを出すイメージで……注意事項を述べ終えたおれは、画面からフェードアウトするとするするぽいぽい着衣を脱いでいく。

 とはいっても、部屋着兼寝間着であるモコモコあったかパジャマの上下と肌着と、鶴城(つるぎ)神宮で支給された純白の紐パンツのみ。あれよあれよという間に素っ裸(すっぽんぽん)となったおれは、天井を映し続けるカメラを尻目に浴室へと移動したのだった。

 

 映像は一切動かず、全くもって変わり映えしないだろうが……これもモーニングルーティーン動画における『やらせ』『演技してる』感を払拭するための、おれなりの解決案だ。

 これから続く水音のみの十分間を、どうか堪え忍んでほしい。本当にすまないと思っている。

 ……もしくはいっそ、ずずいっと飛ばしてほしい。

 

 

 

 

 はい飛んだー!

 

 

 

 

「っぷほーー……」

 

 

 ガチャリと浴室のドアを開け、バスタオルで顔の水けをごしごしと拭って、一息。

 普段だったらゆっくりのんびり朝風呂と洒落込みたいところだけど、カメラを回しっぱなしの今日はそういうわけにはいかない。水音だけなんていう誰得映像になってしまうのだ、あまり時間をかけるのは宜しくないだろう。

 相変わらず天井を睨み続けるゴップロ(カメラ)の前に、軽く水けを拭った顔と頭をひょっこりと出して、改めてお詫びの言葉を述べておく。

 

 

「ごめんなさい、大変お待たせしました。……アレ、ちょっと角度ずれちゃってる? ……大丈夫か。えーっと、すぐに服着ちゃうので……もう少しだけそのままで待ってて下さい! ごめんなさい!」

 

 

 再び顔を引っ込め、今度は身体のほうもしっかりと拭いていく。間違いなく女の子だが女らしさに欠ける身体に、てきぱきとバスタオルを走らせて水けを取り除く。……やっぱ()()じゃあ見てもおもしろくないだろうなぁ。

 おれやモリアキや白谷さんにとってはストライクゾーンど真ん中な体型だとしても、世間一般でいうところの需要とは乖離していることだろう。……おれたちが()()だという自覚はあるのだ。

 

 二次元の可愛らしい女の子の絵ならまだしも……実在女子となってしまったからには、出るとこ出てる身体の方が需要あるに決まってる。今のおれ(というか若芽ちゃん)は、そりゃもちろん可愛いのは可愛いんだろうけど……なんていうか、おふろシーンとかそっちの需要は無いだろう。

 『無理すんな』『これじゃない』『キッツ』とか言われるのが目に見えてる。

 

 ああ、もう。今はそんなことどうでもいい。どうせ誰かに見せるわけでもあるまいし。

 横道に逸れた思考を軽く頭を振って追い出し、ライトブルーのキャミとパンツを身に付ける。とりあえずこれで()()()の事態が起こっても、お蔵入りすることだけは避けられるだろう。……無理かな?

 まあどっちにしろ綱渡りであることに変わりはないか。一刻も早く安全圏へと避難するため、残りの着衣もどんどん袖と脚を通していく。

 ヒートテックの長袖インナーとロングタイツを下地に、ホワイトの大きめパーカーとデニムのキュロットを合わせる。

 

 このパーカーとキュロットの組み合わせは着やすくて動きやすくて好きなので、今着ているやつの他にも何セットか買ってあるのだ。

 ホットパンツも動きやすいし、下着(パンツ)が見えないので安心感あるのだが……あっちは太ももやおしりのラインがばっちり見えてしまうので、シルエットが誤魔化せるこっち(キュロット)のほうがやや好み。

 パッと見た限りは女の子らしいスカートに見えても、構造的にはズボンに近いからだろうか。……なんかわかんないけど、精神的な抵抗も少なかった。

 

 というわけで、着るものを全部身に付けたので、今度こそ映っても何も問題無い装いへと進化できた若芽ちゃん(おれ)

 あとはこの綺麗だけど長い髪にドライヤーを掛け(たふりをしながら低出力の【乾燥(トロックラー)】を(もち)い)て乾かせば……カメラに映しても問題無い、可愛らしいエルフの女の子が爆誕するのだ。いぇい!

 

 

 

「はふぅーー……ごめんなさい、大変お待たせしました! カメラ回しっぱなしにするので、手短に済ませようと思ってたんですけど……はい。手短に出来ませんでしたね……ハイ。シークバー弄ってもらっちゃったり時間飛ばしてもらっちゃったりとお手間掛けてしまって、重ねてすみませんでした……」

 

 

 しばらくぶりにカメラを手に取り、周りを映さないように天井へ向け、下からアオり気味にカメラを回す。

 実際手早く済ませられなかったことは事実なので、割と本心からの謝罪を述べながら廊下を進み……扉を開いてキッチンスペースへ。

 

 ここは以前収録した『わかめのおはなしクッキング』の際に、カメラに映っても問題無いレベルにまで整えてあるので……固定してあるホルダーにゴップロ(カメラ)をセットして準備万端。動画は次のチャプターに進むのだ!

 ……まあカメラ回しっぱだからチャプターなんてものは無いけど。気持ち的に。次の章へ進みます的な。……『ちゃぷたー』って、可愛いよね。

 

 

 

「えーーと……はいっ! では……木乃若芽のモーニングルーティーン、お送りしています。お風呂場から場所を移しまして……『モーニング』っていうからには、もうおわかりですね! 朝ごはんをつくっていきます!」

 

 

 モーニングルーティーン動画の魅せ場の一つである、朝ごはん。先駆者たる女性配信者(キャスター)達も、それはもう見事な女子力を見せつけていた項目である。

 

 付け焼き刃の家事力しか持たないパチモン女子であるおれが、果たしてどう乗り切るのか。

 

 

 

 この続きは次週!(※今夜です)

 乞うご期待!!

 

 

 



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93【告知動画】パチモン女子の朝ごはん

 

 

 付け焼き刃の女子力であることは疑う余地も無いが……かといって実際のところ、おれはそこまで悲観しているわけではない。

 以前の『おはなしクッキング』を経たことで多少なり自信が持てたこともあるし、前世のおれだって独り暮らしを楽しめる程度には自炊をこなしてきたのだ。

 人並みにお料理をこなせる自覚はあるし、そこへこの若芽ちゃんの設定(呪い)が加われば……尚のこと勝算はあるだろう。

 

 冷蔵庫を開け、食品庫(パントリー)(と言い張ってるキッチン横の扉つき収納)を開け、ちょうど良さそうな食材が見つかったので脳内でメニューを組み立てていく。

 ……なにせ、この動画を撮ろうと思い至ったのが昨晩なのだ。ほんの思い付きで始めた企画なので、朝食のメニューやその買い出しまで仕込んでおく余裕なんてあるハズもなかった。

 でも……まぁ、逆に舞台裏・日常っぽさが垣間見れて、良いのではないだろうか。……そう思うことにしよう。

 

 

「んっ。決めました! 朝なので……やっぱ簡単で手軽なので良いですよね」

 

 

 冷蔵庫と冷凍庫と食品庫(パントリー)から見繕った食材を取り出し、カメラの前へ並べていく。ひとつひとつ分量を量って小皿に分けて……なんて気の利いたこともせず、包装のままデデンと並べていく。

 

 

「きょう使うのは……八枚切り食パン、たまご、マヨネーズ、ケチャップ、スライスチーズ、ピーマン、レトルトのハンバーグ、冷凍ミックスベジタブル。あと塩とコショウとシャンタンペースト……これくらいですかね。まぁ自分用なので、テキトーにつくっていきましょう」

 

 

 

 まずは……卵一個をアルミホイルで包みます。『えっ?』という顔をする皆さんが目に浮かぶようですが、これポイントなんですよ。大切なところです。隙間なくキッチリ包んでくださいね!

 そうしたらですね、マグカップにアルミホイル巻きの卵を入れます。ここに水をですね……卵が沈む水位まで入れます。卵が浮いちゃっても、沈めたときにちゃんと頭まで沈む水位なら大丈夫ですよ。

 水を入れたら、マグカップにラップをかけます。蒸気と圧力が逃げるように、若干ゆるふわで。準備できたこれを……賢明な人間種諸君は気づいたかもしれませんね。電子レンジへと入れちゃいます。六〇〇ワットで……時間は、今回は七分くらいで。はいドーン!

 

 えっと、つまりはですね、これ……ゆで卵を作ってるんです! アルミホイルをキッチリ巻くことで卵の中にマイクロ波が届かないようにして、お水を沸騰させた熱でゆで卵を作る作戦なんですね。アルミホイルをきちんと巻いて、お水にしっかり浸けておけばスパークすることも……たぶん、無いので! 茹で鍋要らずで手軽に作れちゃうんですね!

 

 はいじゃあ、電子レンジさんが頑張っている間に……お鍋にお水を入れて、火に掛けていきます。

 結論からいうと、スープを作るんですね。なので飲みきれる量……んんー…………これくらいかな? 適量です適量。

 コンロに点火して……ここに冷凍ミックスベジタブルをですね、ざらざらーっと。これもお好みで、適量いれます。適量です。そしたらこれ……冷凍食材なので冷凍庫に戻してあげて、と。……お湯が沸くまでの時間も無駄にしないで、今度はこっちです。忙しいですよー朝ごはんですからね! てきぱきやらないとです!

 

 続きましては……はい! 食パンです! 八枚切りだとやりやすいかなぁ……今回はこれを四枚使います。

 まずパンの耳を包丁で落としまして……四枚ともヤっちゃいましょうね、ひとおもいに。ズバって。切り落とされたかわいそうなパンの耳は捨て…………るだなんてとんでもない! 三等分くらいですかね? 適当な大きさに切って……スープに入れちゃいます! パングラタンとか、スープにパンをひたして食べるのとか好きなんですよ、わたし。

 ……あっ、スープ良い感じに温まってますね。じゃあここにシャンタンペーストを適量溶かして……コショウをガリガリッと入れて……お椀に卵を一個割って、よーく溶いて……溶き卵を菜箸に伝わせるように、たらーっと注いでいきます。お鍋の中に円を描くように、ぐるーっとたらーっと。

 スープに入れた端から卵が固まってくので、見てておもしろいですよね。んふふ……あとはお椀を一度洗って、味見して……シャンタンペーストとかコショウとかお塩とかでお好みで味を整えて……一品目の完成です!

 

 

 ……っと、電子レンジさんがお呼びですね! ゆで卵が良い感じになってると良いんですが……

 あっ、今のうちにトースター予熱しておきましょうか。つまみを(ひね)って庫内を熱して、と。

 ……それでは、電子レンジのゆで卵を見てみましょう! マグカップを取り出して、やけどに注意してラップをはずして、流水でザバーって冷やします。アルミホイルのあら熱がとれたらアルミホイルを外し、こんこんって殻を割って剥いていきます。

 よーしよし、いいこいいこ。剥き剥きしましょうねーこわくないでしゅからねー……はい! つるんとキレイに剥けました!

 そしたらこのゆで卵をですね……さっき卵溶いたお椀を洗ったのに入れまして、フォークで潰していきます。……洗い物は極力少なくしたいですし。

 良い感じに潰れてきたらマヨネーズを入れて、ねりねりして、塩コショウでお好みの味に整えます。……はい! たまごサラダですよ! みんな大好きたまごサラダですよ!

 

 しかし気を抜くのはまだ早いです。ここからです。先ほどの食パン二枚でたまごサラダを挟んで……じゃーん! 秘密兵器~! 電熱式ホットサンドメーカー!

 これ楽なんですよ……朝ごはん作るのめっちゃ楽なんですよ……お気に入りです。いい買い物しましたわ……っというわけで、あらかじめ余熱したホットサンドメーカーをぱかって開いてタマゴサンドを置いて……ぎゅうううって押さえてロックします!

 焼き上げている間にもう一個作っちゃいますね! こっちはもっと簡単です。……じゃーん! レトルトハンバーグ! よく三つセットで売られてるような、お手軽でお求め易いハンバーグです。三つで百九十八円(イチキュッパ)とかで買えたりするし、それなりに日持ちするので……なにかと助かりますね。

 これの封を切って、ソースは乗せすぎないようにハンバーグをパンに乗せて……スライスチーズを一枚、どーんと置いて……もう一枚のパンで挟みます!

 

 そうしている間にタマゴサンドがいい感じに焼けたっぽいので……ロックを解除して、開けます! やだぁすごい美味しそう!!

 タマゴホットサンドを取り出して、代わりにハンバーグサンドをセットして……封ふたたび! ぎゅううううって押さえてパチンとロックを掛けて、もう少し待ちます!

 その間にこっちのタマゴサンド……まだ終わりじゃないですよ! 表面にケチャップを塗って、種を取り除いて刻んだピーマンを散らして、スライスチーズを乗っけて……さっき予熱していたトースターへ!

 もうおわかりですね! なんと……タマゴサンドでピザトーストを作ってしまいます! 某喫茶店の大冒険メニューを華麗にパク……リスペクトです! 簡易版ですが!!

 ……あっ、ピーマン一個はさすがに多いと思うので、余ったピーマンはスープに入れちゃいましょうね。捨てるなんてもったいない。

 

 あとは待つだけ……ホットサンドメーカーからいい感じに焼けた音がして、タマゴサンドピザトーストのチーズが美味しそうに溶けてきたら……!

 それぞれ取り出して……すじに沿って三角形に切って……二品目と三品目、完成です!

 

 

 

 ……っと。動きっぱなし喋りっぱなしでカメラの前を右往左往していたおれだったが……まぁ、我ながら結構効率よくこなせたんじゃないかと思っている。

 時計を確認してみたところ……調理開始からここまで、およそ十五分から二十分ってところだ。

 二十分で三品。……まぁ、なかなかだろう。

 

 上機嫌になったおれはふんふんと鼻唄を奏でながらスープをよそい、ホットサンドとピザトーストサンドが乗った大皿をカメラの前へセットし……できたてほやほやの朝ごはんを頂くべく向き直るのだった。

 

 

 食卓……ちゃんと整えないとな……。

 

 

 





朝動画あと一話で終わります
もうちょっとの辛抱です


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94【告知動画】パチモン女子の一段落

 

 

 本日の朝ごはんのお品書き。

 ホットサンド二種と、たまご(など)のスープ。

 

 献立だけを述べるとかなりコンパクトに聞こえるが、ホットサンドは二種類をふた切れずつ……計四切れが待ち構えている。

 コンビニのサンドイッチが(いち)パック(ふた)切れ入りであることを鑑みると……コンビニサンドイッチを二パックとごった煮スープ、ということになるのだろう。

 んん、これはもしかすると……おれまたやっちゃいました系かもしれませんな……!

 

 

「で、でも……ほら、いい感じに出来たでしょう! さっすがわたし! 見事な手際ですね! ふふん」

 

 

 できちゃったからには仕方ない。幸い今は冬なので、そこまで食品も傷みやすくは無いだろう。冷蔵庫に入れておけば今日一日くらい持つだろうし、スープとかは温め直してお昼に頂けばいいか。

 つまりは……実質なにも失敗していない。いいね。

 

 

「それでは……美味しい食事にありつけることに感謝して。……いただきます」

 

 

 回しっぱなしのカメラの前で、キッチンの作業台に並べた朝ごはんをいただく。

 あつあつのホットサンドとたまご(など)スープ……ちょっと野菜が不足ぎみかもしれないけど、そこまで致命的な組み合わせでは無いだろう。

 調味に用いたのはシャンタンペーストやレトルトハンバーグ等、既にほとんど味の整えられた食材だった上、特にやらかしたわけでもないので……はっきりいって、普通に美味しい。

 ハンバーグも中までちゃんと温まっており、サクッとした食感のパンの間からトロッと溶けたチーズが顔を覗かせ……んんーっ、大変美味しゅうございます。

 パンとお肉とチーズを咀嚼し、お口のなかで濃厚な組み合わせを堪能しているところに……今度はどちらかというとすっきりした味の、チキンベースのスープを流し込む。……控えめに言って大成功ですよこれは。ぜひともシェフを呼んでお礼を言わなきゃいけませんね!

 

 

「…………ごくん。…………ほふぅー」

 

 

 ピザトーストのほうも、こちらもおおよそ完璧な仕上がりだ。それもまあ当然だろう、そもそもパクっ……参考にしたメニューが美味しいのだ、失敗するはずがない。

 トッピングの具材の数を削ったり、タマゴサンド部分を圧縮(プレスサンド)したりとアレンジこそ加えてみたものの、基本的なコンセプトは変わらないのだ。

 今のおれは辛いのがあまり得意ではないので、タバスコこそ備わってないけれど……タマゴとマヨとケチャップ、それにチーズが合わさって、サクサクのパンと一緒に雪崩れ込んでくるわけで。このアメリカン極まる美味しさの前では、カロリーなんていう些細な問題は気にならないだろう。……さすがに無理か。だめか。こんどちゃんと運動しよう。

 

 しかし……タマゴサンド部分をホットサンドに変えたのは、我ながら良いアレンジだったと思う。ふわふわパンのタマゴサンドも当然好きなのだが……おれの口はそんなに大きく開かないので、ギュッてなっているほうが食べやすい。

 ぶっちゃけお店で食べる方が当然美味しいのだが、これはこれで。食べやすいので、忙しい朝にはちょうど良いだろう。

 

 

 

「はふぅーー……ごちそうさまでした。はい、以上でモーニングルーティーン『朝ごはん』クリアです! …………ハイ。ご馳走さまです。……スマセン。お昼にちゃんと食べますんで……ハイ……スマセン……」

 

 

 ホットサンド(ふた)切れと、パン耳入り野菜スープを一杯。

 非常に燃費が良い(タンク容量の控えめな)おれにとっては……やはりこのあたりが限界のようだ。朝から食べ過ぎて一日のパフォーマンスが低下するのもアホらしいので、無理せずラップを掛けて冷蔵庫へ。……戦略的撤退である。

 

 改めてきちんと手を合わせて『ごちそうさま』をした後は、調理に使った調理器機やお皿を洗っていく。パーカーと長袖インナーを肘までまくりあげて、じゃばじゃばと。

 よごれが落ちていくのを見るのは楽しいもので、次第に上機嫌になってきた。ふんふんと適当なフレーズで鼻唄を奏でているうちに、あれよあれよと汚れ物が姿を消し……きれいになった食器類や調理器機が水切りカゴに並んでいた。

 

 

 ……というわけで。以上で朝ごはんと、その後始末も無事に完了したことになる。

 

 

「ついでに……歯磨きもここでしちゃいましょうか。キッチンですけど。ちょっと歯ブラシとってきますね」

 

 

 ホルダーにゴップロ(カメラ)を固定したまま、おれはぱたぱたと洗面所へ。愛用の歯ブラシと歯磨きチューブを手に取り、再びキッチンへと戻ってくる。

 歯磨きなんて洗面所で済ませりゃええやん、って思われるかもしれないが……先に述べた通り、おれの家の洗面所はたいへん『ゴチャッ』としていて見映えが良くないのと……

 

 

「すみません、せっかくホルダーがあったので……歯磨きしているときに手が塞がるのって、ちょっとやりづらいので……」

 

 

 片手で歯ブラシ、片手でカップを構えたいおれにとって、両手フリーで撮影できるこの場所は非常にやりやすい場所なのだ。

 普段はちゃんと洗面所で歯磨きしてるんですよ! ……などと聞かれもしない自己弁護を挟みながら、おれはお行儀よくしゃこしゃこと歯磨きを済ませたのだった。

 

 

 ……さて。最後におくちを『くちゅくちゅ』ってそそいで『ぺっ』てしたら、モーニングルーティーン『歯磨き』の部もあっという間に完了である。

 一般的なモーニングルーティーン動画は出勤するまでの流れを撮っているらしいのだが、おれはご存じの通り在宅勤務だ。出勤する必要は無く、なんなら自宅が仕事場なのだ。

 そのため出勤に際して着替えたりする必要も無いので……つまりは、以上でモーニングルーティーンを一通り消化してしまったことになる。

 

 こんなんで良いのかな? という感覚が無きにしもあらずだが、実際のところ以上で全てなのでどうしようもない。他に朝のルーティンなんて思い浮かばないし、まさか白谷さんの寝顔を撮るわけにもいかないので……撮影は以上で、そろそろ〆に向かう必要があるだろう。

 まぁ……朝ごはんのところだけでも、我ながら美味しそうにできてたと思う。見所が全く無いわけでもないので、良いにしよう。

 

 

「……ほふ。……えっと、ではではお片付けも終わったので……以上で『木乃若芽モーニングルーティーン』終了でございます。……わたしは自宅が職場なので、出勤シーン無いんですよね……へへ……すみません。正直なところそんなにおもしろい事件とかも無かったので、見てもあんまり面白くなかったかもしれませんが……まあ、これが普段のわたしということで、この若芽ちゃんを少しでも身近に感じて貰えたらなぁとか……思っちゃったりもしちゃいます。ハイ」

 

 

 元々、たいした準備も仕込みもなく撮り始めた動画だ。そこまで再生回数が伸びなかったとしても、正直そんなにダメージは無い。

 見てくれた視聴者さんに『こんなモン見せやがって!!』とか激怒されるような要素も……たぶん無いハズだ。

 

 正直なところどう評価されるかは解らないけど……とりあえずこの動画はこれでヨシとして、クロージングしてしまおうと思う。

 

 

 

「チャンネル登録のほうも、宜しければぜひお願いします。……こほん。それでは……『NOWA(えぬおーだぶるえー)IT(あいてぃー)NOWA(えぬおーだぶるえー)IT(あいてぃー)、こちらはインターネット放送局『のわめでぃあ』です。以上で今回の放送を終了いたします』、っと。……それではまた! ヴィーャ(ばいばい)!」

 

 

 放送終了の挨拶を述べ、可愛らしく手を振る。最後トリミングするにあたって充分な尺を撮ってから、ニュッと手を伸ばしてゴップロ(カメラ)の停止ボタンを押して……録画中を示すランプの消灯を確認して、『はふー』と脱力する。一発撮りはやっぱり気が抜けなかったので、無事に終わってほっとした。

 

 念のため撮影内容を確認しなきゃだが……おそらくだが、十中八九大丈夫だろう。大がかりな編集をするつもりも無いので、どんなに遅くとも午前中のうちには投稿できるハズだ。

 話題の種は、早く投げるに越したことはない。広まる時間を長く取れれば、それだけ今夜の配信に向けての話題性も高まるって寸法よ。ぐへへ。

 

 

 あと一息、ほんのすこし。おれは冷水をぐいっと飲んで気合いを入れ、映像の確認作業を開始した。

 

 

 



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95【配信当日】本日はどうか宜しく

 

 

 

 結論からいうと……幸いなことに、映っちゃマズいものは何一つとして映り込んではいなかった。

 

 そもそもおれのパンツとか、センシティブな薄い本とか……そういうあからさまにヤバイものを出しっぱなしにするようなオープンな性格を、おれは持ち合わせていない。

 仮にカメラを水平に向けていたとして、せいぜいが部屋の内観が映り込むくらいだ。……女の子っぽさの皆無な部屋はちょっと不審かもしれないけど、それだって『映っちゃマズいもの』ってわけでもない。

 

 ただ唯一、危なかったかもしれない場面といえば……シャワーから出たとき。

 カラーボックスに収まったバスタオルへと不用意に手を伸ばし、そのとき天井を向いたままのカメラの真正面をおれの腕が横切り……腕と、肩と、腋と、なにとは言わないが裾野部分のごくごく一部が映ってしまったところくらい。

 ……裾野の部分とはいっても、ノンスリーブのシャツを着た際なんかに肌色が覗いている部分に過ぎず……つまりはほとんど腕部分しか映り込んでなかったので、セーフだろうという結論を下した。

 

 仮に、なにがとは言わないが山の中腹のあたりや山頂が見えてしまったら、それはもう確実にお蔵入りにせざるを得なかっただろうが……この仮想配信者計画を始めるにあたって事前に熟読した動画サイト(YouScreen)の規約に則って判断した限りでは、今回はギリギリラインより三歩くらい内側に入っているハズだ。

 

 

 

 ……というわけで。

 当初の予定どおり、一発撮り長尺動画の頭と尻尾をトリミングした程度で、おれこと木乃若芽ちゃんのモーニングルーティーン動画は無事に陽の目を見ることとなった。

 

 確認作業を終え、動画のアップロードを終え、タイトルとサムネイルとタグとキャプションを入力し終え、あとは公開ボタンを押下するだけ。

 サムネイルにはちょっと悩んだけど……白谷さんが撮ってくれた、起き抜けのおれの顔を切り出したものをベースとして採用した。『ぽやん』とでも効果音が付きそうな程にゆるゆるな表情なので、やらせではないモーニングっぽさがいい感じに(にじ)み出ていると思う。

 

 

 

(いま八時だから……あと五分。もう少しか)

 

 

 PC画面右下の時計とデスク上の電波時計が、全く同時に朝の八時を示す。

 投稿時刻は八時〇五分を予定している。新着順でソートした場合、八時ちょうどに投稿されたものよりも新しい作品として表示される(と思っている)からだ。

 

 ……実をいうと、完徹してもらった白谷さんにおれが起こされたのは、朝の五時頃だったりする。部屋の照明を点けて起こしてもらったので気にならなかったが、カーテンの外は真っ暗だったハズだ。

 これは単純に……起床時刻が後ろにズレればズレるほど、白谷さんの負担が増えるだろうと判断したからだ。白谷さんに無理を押し付けているのだから、おれだって普段よりも早起きさせられるくらい我慢してみせる。そういう決意のもとで設定した起床時刻だったのだが……そのおかげか副次的な効果として、全ての作業を終えてもまだ朝の八時という……驚愕の事態と相成ったわけだ。

 

 動画の尺は、一時間にもギリギリ満たない。朝ごはんの後片付けをして歯を磨いて、クロージングの挨拶をして……五十五分の一発撮り。

 編集にほとんど時間を要さなかったというのも、良い方向に働いたのだろう。こんなに早い時間帯に投稿できるとは、さすがに思っていなかった。

 

 

 

 

(……っと、そろそろ良いかな。ほい『公開』っと)

 

 

 軽く回顧している間に、時計表示は八時五分へと進んでいた。ここぞとばかりに全体公開に設定を切り替え、ついさっき撮ったばかりの『木乃若芽モーニングルーティーン』動画が全世界へと公開される。

 すぐさまSNS(つぶやいたー)を開いて、今度は動画投稿の宣伝メッセージをつぶやく。

 先日投稿してあった今夜の生配信の宣伝メッセージにモーニングルーティーンの投稿宣伝を関連付けて設定することで、この動画宣伝メッセージを表示させたユーザーの画面に今夜の生配信の宣伝メッセージもツリー形式で表示されるのだ。

 つまりは……モーニングルーティーン動画の宣伝メッセージが拡散されればされるほど、今夜の生配信告知メッセージも一緒に拡散されていくという……おおよそ完璧な作戦なのだ! どや!

 

 せっかくSNS(つぶやいたー)を開いたんだし、と……寄せられていたリプライコメントから幾つかピックアップし、コメントを返していく。言葉の端々に今夜の配信をアピールすることも忘れない。

 嬉しいことに、おれのSNS(つぶやいたー)アカウントをフォローしてくれている人の数も、送ってもらっているコメントの数も、正直把握しきれないほどに増えてきている。……しかしそれでも、最初の『はじめまして』のときからコメントを送ってくれているユーザー名とIDは、なんとか把握できている。企画立ち上げ当初から付いてきてくれている先行投資者(パトロン)さんたちに至っては、尚のことだ。

 

 視聴者さんたちに優劣をつけるわけでは無いのだが……彼ら彼女らが今も変わらずおれを見ていてくれることが、またこんなにも多くの人々がおれを気に掛けてくれていることが、たまらなく嬉しい。

 

 

(……そう、うれしい。めっちゃうれしい。……んふふ)

 

 

 一つでも多くの動画を公開し、一人でも多くの視聴者さんを楽しませ、一人でも多くの支援者さんを覚えておき、一言でも多く彼らと言葉を交わす。……おれにできることは、まだまだいっぱいある。

 さしあたっては……コメント返しだろう。先程の動画告知に対しても、早くも返信コメントが届き始めている。返信速度が追い付かないため、寄せられるコメント全てに返信できるとは思っていないが……それでも、可能な限り多くコメントを返すのだ。

 

 

 彼らは、おれを好いてくれているのだ。おれが彼らを好かない理由なんて、無い。

 期待には……応えてみせる。

 

 とりあえずは午前中いっぱいを使おうと心に決め、おれは視聴者さんたちとのコミュニケーションを図るべく……怒濤の返信ラッシュを繰り広げるのだった。

 

 

 



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96【配信当日】みなさんのおかげです

 

 

 

「へぇー……それでさっきまで返信がんばってたの?」

 

「うんそう。やっぱおれってまだまだ弱小じゃん? 視聴者のひとたちが居てくれるから、おれはこうして活動できてるわけだし……少しでも『ありがとう』って伝えたいなって」

 

「んふふ……やっぱノワはいい子だね」

 

 

 天使のように愛らしい白谷さんに褒められて、おれは思わず心が『きゅん』と高鳴るのを感じた。……やっぱこの子反則だよお。

 

 モーニングルーティーン動画を全体公開してから、おれは怒濤の勢いでSNS(つぶやいたー)のコメントリプライに返信していった。さすがに動画編集ほど重要視される作業では無かったためか、集中の深度はそこまで深くなかったようだ。

 午前中のおよそ三時間あまりを返信に費やしていたわけだが……時間の経過も、喉が乾いたことも、おしっこがしたくなったことも、ちゃんと自覚することが出来た。

 そのためお昼ご飯の時間が近づいてきたことにも気付けたし、白谷さんをちゃんと起こすことも出来たのだ。

 

 そうしておれは今……起きたばかりでまだちょっとぽやぽやしている白谷さんと一緒に、おれが作りすぎて戦略撤退を図った朝ごはんの残りを片付けているところ。……要するに、お昼ごはんだ。

 スープは再度火に掛け、ホットサンドは軽くレンジでチンして、ダイニングではなく自室のコタツテーブルで仲良くいただく。朝ごはんとして食べたときもぶっちゃけなかなか上出来だと思っていたが……『すごくおいしい。ありがと、ノワ』とのありがたいお言葉を頂戴したことで、おれのよろこびはたちまちのうちに有頂天だった。

 

 

 

 …………で。

 

 おれにとって幸せいっぱいなお昼ごはんを終え、現在時刻は十二時を少し回ったくらい。

 今夜の配信本番が二十一時なので……まぁ、八時間ほどはまだ時間があるわけだ。

 

 

「二十一時スタートで……二十時頃にはもう機材立ち上げてスタンバっておきたいから……そのまえに軽くごはん済ませるとして……十九時半! それまでちょっと『集中』する!」

 

「配信はいつもの『正装』で? 巫女装束じゃなくていいの?」

 

「あれは……おれ一人じゃ着付けできないし……そもそも外で着て良いのかな?」

 

「着付けはシロちゃんに手伝って貰えば? 着て良いかも含めてボクが聞いてこようか」

 

「うーーーん……じゃ、じゃぁ……ダメもとで………十九時にお邪魔してもいいか、聞いてきてもらって良い? ……忙しそうに見えるようだったら粘らないで。あちらさんに迷惑掛けたくない」

 

「了解。まーかせて。……ボクもなるべく早く戻るけど、『集中』する前にちゃんとおしっこ済ませとくんだよ?」

 

「んグゥーー! だ、大丈夫だよ……たぶん」

 

 

 妙に良い笑顔を残し、白谷さんは【門】を開くと飛び込んでいってしまった。恐らくは鶴城(つるぎ)神宮の社務所、客間のような和室へ。

 おれはもちろん、白谷さんの漂わせる神力……いわゆる魔力もまた、かなり独特らしい。事前に訪問の予約(アポ)は取り付けていないが、姿を隠したままの白谷さんなら一般の参拝客や職員の方々に見られることなく、マガラさんたち『あちら側』の方々に嗅ぎ付けて貰えるだろう。

 

 白谷さんが『任せて』と言った以上、きっとうまくやってくれるに違いない。おれが心配することは無いだろう。

 彼女が彼女のすべきことを全うしてくれている間、おれはおれの務めを果たすべく……先日鶴城(つるぎ)さんで撮影した膨大な映像データの編集作業に取り掛かるのだった。

 

 

 ……取りかかる前にちゃんと()()()ので、尊厳の危険に陥ることは無いだろう。

 

 

 

 

 

 かたかたかたっ。かちっ。かちっ。すーっ。

 

 かちかちっ。すーっ。ころろろ。ころろろ。かちっ。

 

 ふーんふんふんふふふんふーん。

 

 かたかたっ。かたかたかたかたっ。かちっ。

 

 かちっ。かたかたかたっ。かたかたっ。ったーん。

 

 …………んー。ふんふんふふふーん。ふふんふ

 

 

「いいって!!!」「ゅごャぁぁ!!?」

 

 

 

 静まり返った我が家のスタジオ(ダイニング)に、突如元気いっぱいの可愛らしい声が響いた。

 密閉型ヘッドフォンをしっかり被って作業していたおれでさえ思わず現実に引き戻されるくらいの、それくらい溌剌(はつらつ)とした声の出所は……帰ってくるなりおれの胸元に飛び込み、その小さな身体を擦り寄せる、お陽さまのような笑顔を湛えた妖精さん。

 

 最近特に身体的スキンシップが増えてきてる相棒の、カワイイが溢れる言動に……びっくりとはまた別の理由で、心臓が早鐘を打つのを感じる。

 

 

「っ、と……おかえり、白谷さん」

 

「ただいまノワ。ばっちり許可貰ってきたよ。シロちゃんも十九時に待っててくれるって」

 

「おほー! やった! 巫女装束だよ巫女装束!! 可愛い! カッコいい!!」

 

「めっちゃ嬉しそうだね、ノワ。……視聴者さんも喜んでくれるかなぁ」

 

「わかめちゃんスレに巫女服すきニキ居たから、何人かは確実に喜んでくれると思うよ」

 

 

 

 そもそも『木乃若芽ちゃん』は、動き出した当初こそバーチャルアバターの運用を前提とした仮想(アンリアル)配信者(キャスター)計画だったが……やんごとなき事情により、実在する肉体で動画配信者(ユーキャスター)活動を行うこととなってしまった。

 バーチャルアバターを使えないことで、色々とデメリットを感じることも幾度かあったが……その一方で実在の肉体ならではのメリットも、当然存在する。

 

 出先で軽率に撮影を始めることもできるし……なによりも『お色直し』が非常に簡単だ。

 春服に夏服に秋服に冬服に、部屋着に寝巻きに普段着にお出かけコーデに、季節ごとのイベントコスチュームやハレの日の晴れ着に。バーチャルだとその都度モデルデータを作って物理演算を設定してパラメータ整えて、決して簡単ではない手間を掛ける必要があるのだが……一方リアルの身体であれば、ただ着替えれば良いだけだ。当たり前だが。

 

 クリスマスのコスプレサンタさんやお料理動画のエプロン姿など、配信時の正装()()()()格好のわかめちゃんは、正直言って非常にウケが良い。

 スレッドの反応もなかなかだったし、実際SNS(つぶやいたー)でお褒めの言葉を貰うことも多い。

 

 よって……今夜の配信で着る予定の巫女装束も、きっと喜んで貰えることだろう。

 

 

 

「……っし。じゃあとりあえず……十八時半まで。おれちょっと『集中』するから……」

 

「了解。時間とコンディションの管理は任せといて。思いっきりやっちゃっていいよ」

 

「ありがとう。頼りにしてるぜ相棒!」

 

「おうよ。やっちまえ相棒!」

 

 

 

 年末に向けて、順次投稿していく予定の『鶴城(つるぎ)神宮』シリーズ、全三部作。

 その一作目となる総合紹介動画はものすごい速度で組上がっていき……

 

 

 本日の作業終了時刻、十八時の時点で……大雑把ではあるが、動画の形として纏まるまでに至った。

 

 やっぱさすがだよな! おれら!

 

 

 



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97【配信当日】待機場観察

 

 

「…………んフフッ」

 

「……?」

 

「………………ブフッ! げっほ、え゛っほ」

 

「…………何してんの? さっきから」

 

 

 

 決戦となる金曜日。時刻は二十時……もうすぐ三〇分。

 

 ほんの先刻、【門】を借りて鶴城神宮へと行って帰ってきたおれの衣装は……狗耳白髪ロリ可愛(カワ)巫女シロちゃんの助力により、現在は完璧な巫女装束(第二形態)となっている。

 

 色々と慌ただしかった前回の配信とは異なり、早めはやめで準備を進めてきた今回。

 配信待機ページもかなり前からオープンしてあったので、配信開始時刻を間近に控えた今現在……そこでは、非常に活発なコメントの応酬が繰り広げられていた。

 

 

「白谷さんもこっちおいで。いっしょに見よ」

 

「んー? なになに……おお、これ全部視聴者さん?」

 

「そうなんですよ! ここで二十一時から配信するんだよ、おれたち!」

 

「ほほぉーー……彼らは待っててくれてるわけか。ノワを」

 

「おれだけじゃないよ、白谷さんもだよ!」

 

 

 電波時計が二十時半……配信開始時刻のちょうど三十分前を示したことを確認し、SNS(つぶやいたー)へ告知メッセージを投稿する。

 この配信ページへの直飛びリンクも張ってあった()()が、モリアキをはじめとする親愛なる視聴者さん達によって拡散されていき……おれたちが眺めている配信ページの接続者数も、じわりじわりと伸びていく。

 

 まだ配信そのものは始まっておらず、ちょっといたずらっぽい笑みを浮かべた若芽ちゃん(おれ)のイラスト――サムネイルにも使われているモリアキ謹製の一枚――が映るのみ。

 配信開始時刻までのカウントダウンタイマーこそ回っているものの……現時点では取り立てて視聴するほどの価値があるページとは、お世辞にも言いがたい。

 にもかかわらず……まだ放送が始まっていないにもかかわらず、おれたちの親愛なる視聴者さん達は、稼働しているコメント投稿機能を用いて和気藹々(わきあいあい)と歓談してくれている。

 

 

 

 その歓談の内容は言うまでもなく『若芽ちゃん』と……謎の声こと白谷さんに関してだ。

 おれがしつこいくらいに『重要なご報告があります!!』とアピールしてきたからだろう。お料理動画で、今朝投稿したモーニングルーティーン動画で、度々お騒がせしている可愛らしい『謎の声』の正体がついに明かされるのだと、みんな期待してくれているようだ。

 

 ……しかし現実は甘くない。その『謎の声』の正体発表さえ、今夜の『重要なご報告』の一部に過ぎないのだ。

 

 

 

 

「『謎の声』の中身モリアキ説……根強いなぁ。一回『ちがうよ』って明言したったハズなんだけど」

 

「まぁ他に心当たりというか、候補が浮かばないんだろうね」

 

「モリアキが『美少女』呼ばわりされてるのウケる」

 

「内面は可愛らしいところもあるんだけどね……」

 

 

 しばらく漠然と、流れていくコメント欄に目を通していたが……やっぱり第三者がおれのことについて楽しそうにお話ししてるのを眺めるのは、なんというか……うれしくも、こそばゆい。

 

 このページを見ている人は、つまり全員がおれの視聴者(リスナー)さんなわけで……若芽ちゃん(おれ)という話題を共有するリアルタイムのコメント投稿スペースとあれば、会話に花が咲くのも当然のことなのだろう。

 おれに着せたい・着てほしい衣装を書き込むという、わかめちゃんスレでよく見られる光景がところどころで散見されているあたり……やっぱり()()もこの配信に来てくれていたのだと、嬉しさと安心感とがこみ上げてくる。

 

 喜べ、名も知らぬ巫女服すきニキ。

 今日のわかめちゃんは……開幕からおまちかねの巫女装束だぞ!

 

 

「こうして見ると……やっぱおれのコスプレって需要あるんだなぁ。同じ人が何度も書き込んでるのかもしれないけど」

 

「そりゃ需要あるに決まってるよ! ノワはただでさえ可愛いんだから! 良い機会だ、もっといろんな可愛い格好に挑戦してみようよ! みんな絶対喜ぶよ!」

 

「ら、ラニ……ちょっと落ち着いて。……ええ? そんなに? ほんき?」

 

「勿論、本気だよ。……うう、ボクがもっとオシャレな服持っていれば……虹聖布の(ブライテスト)夜会礼装(ナイトドレス)とか霊魔術師の(ソーサレス)儀式衣装(クローク)とか……うう、あんな軽率に手放さなきゃ良かった……ちくしょう」

 

「どうどうどう。うーーん……白谷さんがそこまで言うなら……試してみようかなぁ」

 

「ほんと!? やった! 聞いたからね!? ボクも全霊で協力するから! お願いねノワ! 絶対だよ!?」

 

「お、おう…………えっとまあ、とりあえず……今日の配信、がんばろうね?」

 

「任せといて! ボクだってちゃーんと『予習』したんだ。役に立つよ!」

 

 

 

 やる気の理由やそこに至るまでの経緯に、ほんのちょっと引っ掛かるものを感じなくも無いけれど。

 白谷さんのモチベーションが高まり、気合充分で臨んでくれるというのなら……おれとしても非常に心強い。

 

 彼女のやる気に影響されたからかどうかは解らないけど……おれの身を蝕んでいた緊張も、いつのまにかすっかり吹き飛んでいるようだ。これは都合が良い。

 時間もそろそろ良い感じだ。着付けも栄養補給も、お手洗いも済ませてある。

 

 

 

「それじゃ、そろそろ…………行こうか」

 

「おっけー! えーっと……『本番入りまーす!』」

 

「!? ぶフッ! どッ、どごブふっ……どこでそんなの覚えてきたの!」

 

「んふふふ。言ったでしょ? ちゃんと『予習』したって」

 

 

 

 ……なるほど、これは確かに心強い。

 

 白谷さんの活躍により、緊張なんていうものは既にどっかに飛んでったらしく……今となっては跡形もない。

 コンディションは万全。心強いパートナーも居る。視聴者さんもこんなにたくさん、今か今かと期待してくれている。もうなにもこわくない。

 

 

 時刻は……ついに二十一時。

 『のわめでぃあ』生配信、放送開始です!!

 

 



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98【報告配信】現在の業績報告

 

 

「ヘィリィ!! ご機嫌よう、親愛なる人間種のみなさん! 魔法情報局『のわめでぃあ』、局長の木乃若芽(きのわかめ)でっす! いぇい!」

 

 

 軽快なBGMが流れ出し、静止画が取り下げられ、入力信号が繋がれたカメラがおれ(若芽ちゃん)の姿を捉え……ついに生配信のオープニングが始まる。

 とりあえず何はともあれ、元気いっぱいの挨拶。小さくて可愛らしい子に気持ちの良い挨拶をされて、それで気分を害する人はほぼ居ないだろう。

 

 つまり……おれ(若芽ちゃん)の元気な挨拶は、有効範囲がハチャメチャに広い万能の必殺武器なのだ。

 

 (しょ)っぱなからその必殺技をお見舞いした上に……今日の若芽ちゃんは攻め手を緩めやしない。なんてったって、目にも鮮やかな緋袴での登場なのだ。

 ……ふふ、さっそく驚きのコメントが届いてますね。良い反応をありがとう。

 

 

 

「この年の瀬のお忙しい中『のわめでぃあ』をご視聴いただき、本当にありがとうございます。生まれたばかりの零細放送局ですが、吹き飛んでいかないように精いっぱい頑張ります! ……そう! ランクがですね! わが『のわめでぃあ』の配信者ランクがですね! 先日なんと…………オブシディアンに昇格しました!! 本当にありがとうございます!!」

 

「オブシディアンはですね……ユースク(YouScreen)さんの配信者階級(ランク)のうち、下から二番目ですね。放送局を開設したばっかりのときは、もちろん一番下のクォーツだったのですが……千人もの視聴者さんにチャンネル登録を頂いたことで、このオブシディアンに昇格することができたんです!」

 

「開設からわずか二週間弱ですよ! 驚きの速さじゃありませんか!? ちょっと……いえ、正直言いますと……かなり興奮しちゃっています!! ほんと信じられな……感無量です! 重ね重ね、本当にありがとうございます!!」

 

 

 真っ白な壁紙が張られた部屋(スタジオ)の壁に投影した背景に、『祝・チャンネル登録者数一〇〇〇人突破!!』とデカデカ書かれた看板を投影魔法で投影する。ぱちぱちと可愛らしく拍手するおれの姿に、コメントがまた一段と加速していく。

 コメント欄には歓声の中に、一部確かな混乱が見て取れるが……あえてこの装いにはまだ触れず。あたりさわりのない――しかし大切な――ご報告と、本心からのお礼のお言葉を、まずはしっかりと伝えておこう。

 

 ……と思っていたのだが……ちょっと予想外な展開となっていたようだ。ちょっとここまでは予想していなかった。

 

 

「……? …………はい!?? え、ちょ……五千人!? いま!? 待って待って待って……え!? あっ! 本当!! えっ、うそ!? うそじゃない!! 五千人!! ゃわーー!!?」

 

 

 

 この生配信が始まる直前か、あるいは始まった直後か……どのタイミングだったのかは把握できないが、少なくとも今現在は『五〇〇〇人突破!!』しているらしい。……すごい。

 背景に投影した『祝・チャンネル登録者数一〇〇〇人突破!!』の『一』の部分にキュッキュッと書き足して……ちょっと不格好だが『五』にしてしまう。

 

 撮れたて新鮮産地直送の、モーニングルーティーン動画が琴線に触れた方々が多かったのだろうか。それとも『実在するエルフの女の子』という特徴的なキャラクターに、物珍しさと期待感を抱いて貰えたのだろうか。はたまた非常に完成度の高い、『本物』仕込みの巫女装束による話題性の賜物だろうか。……あるいは、それら全ての相乗効果によるものか。

 千人の大台に乗ってひとごこちついたことは覚えているのだが……ここ数日の目まぐるしいリアル事情のせいもあって、リアルタイムでのチャンネル登録者数を確認していなかった。

 

 そのことが幸い……というわけでは無いかもしれないが、我ながらなかなかリアルな『驚愕』のリアクションが出たと思う。いやだって、九割は素だし。

 

 

 だってだって……五千人だぞ。千人の五倍だぞ。ファイブサウザンドだぞ。フュンタウゼントだぞ。

 フュンタウゼント(にん)っていうたら……あれやぞ。東京国際フォーラムのAホールとか、パシフィコ横浜の国立大ホールが埋まるくらいやぞ。全国ツアーレベルなんやぞ。……わかりにくいか。

 

 まぁ要するに……すごくいっぱいってことなのだ!!

 

 

「…………っ、…………はふ。すみません、取り乱しました。お見苦しいところをお見せしてしまいました。……でも、本当にありがとうございます。ユースク(YouScreen)さんの収益支援プログラム、順調に近づいてきてますよぉ!! わたしも『のわめでぃあ』も、これから今まで以上にいろいろと頑張っていきますので……ご指導ご鞭撻お付き合いのほど、どうか宜しくお願い致します!!」

 

「よろしくおねがいしまーす!!」

 

 

 ピシッと『気をつけ』の姿勢を取り、綺麗なお辞儀を深々と……まるでお手本のような最敬礼。身に纏う神聖な衣装の効果もあってか、なかなかに真摯な姿勢に映ったのではないだろうか。

 

 

 それと……おれの挨拶の後に続くように、元気よく響いた可愛らしい『謎の声』。

 ちょっと予想外の……予想以上の出来事こそあったものの。おれからのアイコンタクトを的確に読み取った相棒は、(あらかじ)め打合せしていた通りにその存在をアピールして見せた。

 

 耳敏くもそれに気づいた視聴者さんたちによって、コメント欄は一気に盛り上がりを見せていく。

 ……頃合いだろう。目玉商品その(いち)、そろそろ行ってみようか。

 

 

 

「おやおやおやおや……? 今なにか、可愛らしい声が聞こえましたか? ………………ふふふ。じつはですね、わが『のわめでぃあ』に……なんと! 新しいメンバーをお迎えしています!!」

 

「ふふふ。……はい、そうですね。先日のお料理動画『おはなしクッキング』のときにも、実はアシスタントとして活躍してくれていました! 今朝投稿した『モーニングルーティーン』でも……あっ、そう! 実は動画一本投稿してるんですよ! モーニングルーティーンです! まだのひとは、あとでぜひ見てみてくださいね!」

 

「っと、ちょっと横道に逸れちゃいましたが……そうなんです! 度々お騒がせしている、あの可愛らしい『謎の声』さんです!! ……気になります? 気になりますよね! いいですとも! ご紹介しましょう! 『どうぞ!!』」

 

 

 おれの合図の直後……部屋の照明が一気に落とされ、また白谷さんの魔法によって全ての光量が支配され……カメラが写し出す範囲はもののみごとに真っ暗闇、手作業による暗転状態へと切り替わる。

 そんな中をおぼろげな光の塊――自ら光を放ちながら飛翔する白谷さん――が、虹色の燐光を振り撒きながら縦横無尽に飛び回り……やがて画面の中央でひときわ眩い光を放つと、部屋(スタジオ)内に光が戻ってくる。

 

 今度は逆に一度ホワイトアウトした画面から、ゆっくりと映像の明度を落としていき……ついにカメラが()()姿()を――地球史上初めてとなる、フェアリー種の姿を――全世界へと、リアルタイムで公開してのけた。

 

 

 

「ヘィリィ! 親愛なる人間種……わが『のわめでぃあ』視聴者の諸君! ボクは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()(あるじ)に賜りし(めい)は『シラタニ』。……ご覧の通り、ちょっと珍しい『フェアリー種』だよ。……よろしくね、人間種諸君」

 

 

 

 

 穢れなき新雪のような、白銀に煌めく髪。

 澄みきった空のように透明感のある、天色の瞳。

 その背には薄っすらと虹色に輝く四枚の(はね)をもつ、手のひらサイズの高位魔法種族……フェアリー種の女の子。

 

 

 おれの大切な相棒、ラニこと白谷さんが……初めて人前に姿を表した瞬間だった。

 

 

 



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99【報告配信】今期役員のご紹介

 

 

 暗転の中で白谷さんが飛び回り、光量と明度が復帰した、その直後。

 カメラに映ったものが、画面に映ったものが、その目に映ったものが……それが()()であると受け入れられるまでのタイムラグだったのだろうか。

 コメント欄のスクロールが一瞬とはいえ明らかに停止し、親愛なる視聴者諸君が等しく混乱している様子が見て取れた。

 

 それもそうだろう……おれのせいでファンタジーな出来事に免疫がついていた視聴者さんたちであっても、さすがに妖精さんの出現は予想だにできなかったに違いない。

 

 なんでも、おれこと若芽ちゃんの検証wikiなんてものがあったらしく……いわく『木乃若芽ちゃんは実在する』『仮想(アンリアル)の名を騙る実在の動画配信者(ユーキャスター)である』とかいう結論が出されていたらしい。

 まぁ、その結論が出された直後におれが伊養町に出没したとのことで……SNS上での多数の目撃証言と併せて『木乃若芽ちゃんが実在している』という説は事実であると、多くの人々が知るところとなったらしい。

 

 

 しかしながら……そんな事実をとりあえずとはいえ受け入れてくれた、よく訓練された視聴者さんたちにとってみても。

 漫画やゲームやラノベの世界でしかお目にかかったことの無い存在が出現したとなれば、やはり困惑と混乱は避けられなかったようだ。

 

 

 

「やーっとお披露目できたね白谷さん! わたしも白谷さんと共演できるの、本当たのしみにしてた!」

 

「んふふふふ。嬉しいこと言ってくれちゃって。……でもなぁ、そんな『白谷さん』なんて……他人行儀な呼び方されたら、ボク悲しいよ。…………ね? ()()?」

 

「んんっ。……ごめんって。………えっと……………()()

 

「どぉーーよ視聴者諸君! 今の見た!? 聞いた!? 可愛(かわ)いかろう!? ボクのノワ可愛いだろ!! 『若芽ちゃんカワイイ』って言ったげて!!」

 

「待って待って待って待って!! 『ボクの』って何よもう白谷さん!! 視聴者さんたちもほらあ! 真に受けちゃダメで……ちょっ…………ダメだってばぁ!!!」

 

 

 呆然自失となっていた視聴者さんたちも、白谷さ…………もとい()()の怒濤のアピールを受け、平常運転に戻ってきたらしい。いつものように活気溢れる…………いや、いつも以上に活気に満ち充ちた、まるで弾幕とでも言わんばかりのコメントの濁流が押し寄せてくる。

 そんな非常に喜ばしいコメント欄(成功の予兆)を眺めながら、おれは相棒ラニへとこっそりアイコンタクトを送る。魂の奥底で繋がっているおれたちは阿吽の呼吸以上、一心同体とでも言わんばかりのコンビネーションで……二人揃っての『初めてのMCトーク』を続けていく。

 

 

「もぉ…………改めまして。……わが『のわめでぃあ』の新スタッフにして、わたしの頼れるアシスタント妖精さん。その名も『白谷さん』です!」

 

「どうもどうも。ご紹介に(あずか)りました『シラタニ』だよ。……まぁノワと同じく、いわゆる偽名ってやつなんだけどね。『何が』とは言わないけど、たぶんしっくり来ないだろうし……呼び方は視聴者諸君にお任せするよ」

 

「わたし以上にファンタジーな種族ですからね……日本国の命名規則に(のっと)ると、やっぱり違和感ありありになっちゃいますか。……えっと、じゃあ……主な担当の紹介と、好きなものと嫌いなもの。教えてください」

 

「おっけー。ボクはこの『のわめでぃあ』で、主にノワの補助や裏方を担当している。たまにこうして……今みたいに、ノワと二人並んで動画に出ることもあるだろうけど、そのときはどうか宜しく。二人じゃなきゃ出来ないようなことにも、積極的に挑戦していきたいね。好きなものはノワと可愛い女の子と小さくて可愛いエルフの女の子。苦手なものは……早起きと…………孤独、かなぁ」

 

「待ってわたしは聞き逃さないですよ。『孤独、かなぁ(物憂げ微笑)』なんてキメ顔しちゃってるところ申し訳ないですけど、わたしは流しませんよ! 白谷さんの自己紹介なんですから。真面目にやってください、真面目に!」

 

「んフフフっ。……心外だなぁ、ボクはいつだって大真面目なのに」

 

「ウソはいけませんー! わたしにウソはつうじませんー! ……まったく、これだからフェアリーっ子は」

 

 

 生真面目で良い子ちゃんな若芽ちゃんと、飄々としているようで一途で器用な白谷さん。どちらも(中身はこの際気にしないことにして)ファンタジー色が非常に濃い、それでいて可愛らしい女の子だ、

 見目麗しい女の子どうしの、根底で深く信頼し合っているからこそ出来る言葉の応酬。両者の深い信頼関係を垣間見てくれたのだろう、視聴者さんたちも好印象で受け入れてくれたようだ。何はともあれ、見た目は非常に華やかなペアだと思う。中身はこの際気にしないことにして。

 

 ふと何気ない風を装い、カメラの横に置いてある電波時計をこっそりと確認する。

 ここまでは概ね予定通り(オンスケ)……次の爆弾投下予定まで、まだまだ時間的余裕は残されている。せっかくのお披露目なので、白谷さんへの質問をリアルタイムで募ってみようと思う。

 質疑応答、プラン『T』。SNS(つぶやいたー)の若芽ちゃんアカウントへ視聴者さんを誘導し、白谷さんへの質問を募集する。

 

 

「……というわけで、白谷さんへの質問を……今から! 募集します! わたしのSNS(つぶやいたー)……今バルーン出ましたね! こちらのアカウントへ、ハッシュタグ『ラニおしえて』を添えてどしどし送ってください! 寄せられた中から()()無作為に、目についた質問をわたしが代わりに読み上げますので。答えられる・答えられないはありますが、お気軽にお寄せくださいね! タグは『ラニおしえて』です!」

 

「そういえば『どしどし』っていう言葉さ、あれほぼ『おたよりを送ってもらうとき』専用になってるよね。他で使ってるケース無くない?」

 

「えっ? …………あっ? ………ああ、……ほんと…………かも?」

 

「あとさ……あれ。『川上から大きな桃が流れてくるとき専用』の擬音語もあるよね。ニッチすぎない?」

 

「なんでそんな日本人離れした容姿なのに日本語文化に詳しいの? 頭バグるんだけど??」

 

「そりゃあ『とても賢いエルフの女の子』のアシスタントだから、肩書きに恥じないようにね。こう見えて勤勉なんだよボクは。知()()の赴くままに()()た結果さ」

 

「その調子で()()のほうも()()てくれれば良かったんですけどね」

 

「こいつは手厳しいことで」

 

 

 

 とりとめのない会話をしているようで、その実のところは単純に時間稼ぎだ。単に『ぼーっ』と突っ立って待っているのも芸がないので、今回は『せっかく二人いるんだからくっだらねえ会話で駄弁って時間潰そうぜ』作戦を適用した形である。

 おれのSNS(つぶやいたー)アカウントへと、視聴者さんが質問を送ってくれるまでの時間稼ぎ。おれたちの狙いどおりにことは運び、ハッシュタグで検索を掛ければずらずらと……今回の動画には充分足りるであろう質問が、現在進行形で集まってきていた。

 やっぱり二人いると、場の繋ぎひとつとっても非常にやりやすい。次回以降は白谷さんの出演と協力が見込めるので、演出の幅も広がることだろう。

 

 ……というわけで、そろそろ良いだろう。

 なにせ、世界初となるフェアリーの女の子である。気になることも、聞きたいことも、人々の興味は際限無く涌き出てくるに違いない。

 

 

「ではではまぁまぁ、質問コメントも集まってきたので、そろそろ始めていきましょう! 題して……質問コーナー『ラニおしえて』!」

 

「題してっていうか……驚くほどそのまんまっていうか……」

 

「細かいこと気にしないの! さあどんどんいくよ! 覚悟しなさい!」

 

「ぇえぇ……まぁいいや。受けて立とうじゃないか」

 

 

 

 

 巫女服姿のエルフの少女が妖精の女の子へと話しかけ続け、それがインターネットで全世界へ発信されるという……冷静に考えてみれば情報量がとにかく多い、ただただ混沌きわまりない謎だらけの配信。

 

 

 (おのの)け、視聴者諸君。

 

 狂乱の宴はまだまだ始まったばかりだぞ。

 

 

 



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100【報告配信】新役員質疑応答

 

 

 ……本来であれば。

 出演者に対しての質問は、事前に募集しておくことが望ましいのだろう。

 というか普通に考えて、それが常識であるべきだろう。

 

 (あらかじ)め寄せられた質問に目を通しておくことで、回答者も余裕を持って返答を用意することが出来るし……そもそも『答える質問』『スルーする質問』をじっくりと精査することができる。

 スケジュール管理も行いやすいし、メリットの方が遥かに多い。

 

 

 しかし、今回の配信に限って言えば……出演者の詳細も、さらに言うと質問コーナーを設けることさえ、事前にバラすわけにはいかなかった。

 そのため現代の生配信ならではの、視聴者さんたちが手にしているであろう情報ツールを積極的に活用することで、このギリッギリ直前の土壇場において質問募集を敢行。

 おれたちの駄弁(ダベ)りで時間を稼ぐという手段に出たわけだが……幸いにして事前の仕込み(依頼)が項を奏し、さして尺を消費することなく最初の質問を受けとることが出来ていた。

 段取り通りではあるが……迅速に質問を送ってくれた質問者(モリアキ)には感謝しなければならない。

 

 

 

「ではでは……記念すべき最初の質問です! えーっと……『先日のお料理動画のレシピ、出所は白谷さんですか? あと、好きな食べ物は何ですか?』とのことですが……どうですか? 白谷さん」

 

「んふふー……『良い質問ですねぇ!』。一度言ってみたかったんだよね、これ。……まあともあれ、先日の『若鶏の墓』に関してはその通りだよ。皆向けに多少改編した部分はあるけど。……あとなんだっけ、好きな食べ物? そうだね……この国は何でもおいしいけど……(ヌードル)系かなぁ、食べやすいし。あとは……ノワの手料理全般、かなぁ」

 

「何なんですかそのキメ顔は。突っ込みませんよわたしは。可愛いなぁとか思ったりしちゃうくらいで突っ込みませんよ。……では次いきましょう」

 

「つれないなぁ。……お風呂ではあんなに淑やかで可愛らしいのに」

 

「…………ッ!!」

 

 

 ハッシュタグの質問リストから顔を上げ、すぐ傍らで飄々とした笑みを浮かべる白谷さんを『キッ!!』と睨む。……という小芝居を挟む。実際には予定調和、台本通りである。

 見た目こそおれ以上にファンタジーな白谷さんを『リアルタイム現実世界投影型』と言い張り、加えて随所にリアル存在であるおれとの絡みを匂わせ、俗にいう『生活感』のようなものを漂わせることで……白谷さんの『中身』は『見た目』とは別、フェアリー種ではない実在の『誰か』なのだということをやんわりアピールしていく。

 そもそも今回の質問コーナーの趣旨も、実をいうと()()だ。非実在にしか見えない白谷さんだが、その実態はいわゆる一般的な『仮想配信者(アンリアルキャスター)』であるという……常識の範疇に収まるキャラクターである、ということのアピール。

 

 

「……じゃ、次です。わたしは突っ込みませんから。えーっと……『実在フェアリー初めて見ました! 本物ですか!?』」

 

「もちろん、ボクは()()だよ。こうしてここに存在して、カメラを通して視聴者諸君と言葉を交わすことだって出来る。……ただちょっと、ちょーっとだけ、その……まぁ、なんだ。視聴者諸君に認識できるよう姿を投影するにあたって、()()()()()()()()が掛かってしまうというだけであって……まぁ、そういうことだ。察して」

 

「いやぁー……色々ありました。時期的にも技術的にも大変だったんですよ、アシスタント妖精『白谷さん』を実装する…………アッ実装言っちゃった」

 

「言っちゃったじゃん実装」

 

「えへ、言っちゃった…………んんッ! フェアリー種でーす! リアルタイム現実世界投影型アシスタント妖精さんでーす!」

 

「シラタニでーすイェーイ」

 

 

 事実を混ぜ込み、隠したいところは(ぼか)し……極力『嘘』を吐くこと無く、それでいて怪しまれないような設定(プロフィール)を公開していく。

 実際のところ軽率に視聴者諸君……というか人々に彼女の姿を見せることは出来ないので、あながち完全なホラというわけでも無い。

 あとは仮想配信者(ユアキャス)演者にありがちな『触れてはいけない事情』ということを匂わせて、無理矢理じみた高いテンションで押し切り、強引に切り上げることで……一丁上がりってやつよ!!

 

 

「はい! ということで次行きます次! 『出身はどちらですか? わかめちゃんと同じ世界ですか?』だそうですが……」

 

「出身はヤクシ……おっと違った。……そうだね、ノワとは別の世界かな。こっちの世界に引っ越してきたときにノワと出会って、ボクの姿が見える彼女に色々とお世話して貰ってるんだ。……イロイロと、ね」

 

「わざわざ意味深な言い方しないでください。突っ込みませんよわたしは。はい次! てきぱき捌きますよ! 『ズバリ! のわちゃんとはドコまで行ったんですか?』だそうですが……どこ? どこって…………どこ?」

 

「どこ……? 伊養町……はボク留守番か。じゃあ鶴城(つるぎ)さん、とか? アッ、これ大丈夫だった? 言っちゃって……」

 

「オッ!! とぉ!! …………うーーん……まぁ、良いでしょう。白谷さんはあとで反省会ね。……ともあれ、もっともっと色んなところ行ってみたいねってお話はしているので、旅番組好きな視聴者さんもどうか期待してて下さいね!」

 

「てへへ……宜しくお願いします」

 

「はい次! 『白谷さんも魔法使えるんですか? さっき光っていたのも魔法ですか?』」

 

「ふっふっふ。まぁーフェアリー種だからね。あの程度の魔法はお手のものだよ」

 

「おおすごい! ちなみにどんな魔法が得意なの?」

 

「それはもちろん……照明魔法だろ? あとは撮影魔法、ほかには記録魔法、時間を知る魔法、記録を改竄(編集)する魔法」

 

「お、おう……?」

 

「目覚まし魔法とか、注意喚起魔法とか、添い寝魔法とか、ごはん食べる魔法とか、SNS(つぶやいたー)見る魔法とか」

 

「何でも『魔法』つけりゃ良いってもんじゃないからね!? はい反省会! ……あと一個くらい行ってみますか。『のわちゃんが巫女服なのは何でですか。ラニちゃん何か知ってますか』っと……どうですかね? ラニちゃん?」

 

「んふふ……どうだろうね? ノワ?」

 

 

 

 よくぞ聞いてくれました。いや実際コメント欄でも幾度となく聞かれていたんですが……改めて、よくぞ聞いてくれました。

 電波時計を確認してみると、なかなか良い時間配分だ。そろそろ次の燃料投下を行っても問題ないだろうと、相棒と視線を交わしひっそりと頷く。

 

 おれが今身に纏っている、コスプレ衣装とはワケが違う巫女装束。それに加えて、先程白谷さんが口を滑らせた(という演出の)『鶴城(つるぎ)さん』という言葉。

 賢い視聴者さん達の何人かは、既に思い至っているらしい。

 更に賢明な視聴者さんに至っては……伊養町を取り上げた動画を公開したわたしが巫女装束を纏い登場した時点で、近場である『鶴城(つるぎ)さん』へと考えが及んでいたらしい。

 

 というわけで、そろそろ良いだろう。

 『のわめでぃあ』本日の重大発表、その二つ目。

 

 

「なんとですね……浪越市の『鶴城(つるぎ)神宮』! こちらにですね! この年末の忙しいときにですね! ……なんと! 取材許可を頂きました!!」

 

「イェーイ!!」

 

 

 盛大に盛り上がって見せるおれたちに反して、コメント欄の反応はやや困惑気味だった。

 自分のことのように喜んでくれる視聴者さんもいる一方で、『でも……そこまで騒ぐほどのことか?』という感想を抱いた視聴者さんも、もちろん多くいることだろう。

 正直いって『さもありなん』って感じではあるが……しかしその反応を、一部視聴者は数分後にあっさりと覆すこととなるだろう。

 

 首を洗って待っているが良い!

 がはは!!

 

 

 



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101【報告配信】今後の方針

 

 

 中部地方でも屈指の神格と規模を誇る、浪越市(なみこし)神宮区(かみやく)の『鶴城神宮』。そこを動画配信者(ユーキャスター)として取材し、動画を作る許可を貰ったと言ったところで……一般的な反応としては『そ、そっか。頑張れよ』といったところだろうか。

 

 それが悪いというわけでは勿論無いし、むしろ中部日本以外に在住の視聴者さんにとってはこの反応のほうが普通だろう。

 今日日(きょうび)テレビは勿論、旅行雑誌やインターネット記事、果ては個人ブログなどで……全国各地の観光地の情報は――鶴城(つるぎ)神宮も含めて――自宅に居ながらにして得ることが出来る時代なのだ。

 まぁ、かくいうおれも今まさに()()に乗っかろうとしているのであって。

 

 

 しかしながら、おれがわざわざ『重大発表』と銘打ってこのことを告げたのは……ただの個人ブログなどとはひと味違う、とっておきの内容を詰め込むつもりだからに他ならない。

 『決め手に欠ける』との印象が拭えていないだろう視聴者さんに、それを今から教えてあげようではないか。

 

 

 

「『鶴城(つるぎ)神宮』……鶴城(つるぎ)さんの名で呼ばれ親しまれているお(やしろ)さまなんですが、みなさんご存じですか? 加賀見(かがみ)さんと御霊(みたま)さんと並んで日本三大神宮とも呼ばれ、日本の神話にも登場する()()神剣が厳重に祀られているという……たいへん霊験あらたかなお宮さんなんですね」

 

「スゴかったよねー……なんかもう、境内の空気からしてもうなんか……すごい。すごく、すごい。少なくともボクにとっては、非常に居心地が良い森だったよ」

 

「そう、すごいところなんですよ。本殿以外にも境内には様々な名所やパワースポットがありましてですね……その密度がまたすごいんです。名所の密度がすごいんです」

 

「二回言ったね。大切なことなので」

 

「そしてそんな数々の名所の中にはですね……知る人ぞ知る、ある一つの名所があるんですよ! その名はずばり……『鶴城神宮宝物殿』です!」

 

「『刀』を携えたキャラクターでお馴染みのゲームが流行ってから、一気に注目を浴びた施設なんだってね。ゲームのユニットにもなってる『刀』が、何振りかはなんと実際に収蔵されてるんだって」

 

「今回わたしたち『のわめでぃあ』が重大発表として触れたのはですね……なんと! 普段は撮影が全面的に禁止されている『宝物殿』内部の撮影許可を頂いたからなんです!!」

 

「特例っていうか、異例のことみたいだね。普段は撮影禁止の場所を、バッチリ撮影させて頂きました。……鶴城神宮関係者の皆様、ご協力ありがとうございます」

 

「ありがとうございます!!」

 

 

 インターネットで入手できる他の観光情報とはひと味違う、おれたちならではのアピールポイント……それはずばり『撮影禁止区画での撮影許可を特別に頂いた』という一点である。

 

 歴史的・学術的価値のたいへん高い収蔵品を保護するため、それらの展示区画は厳重な環境管理のもとで保管されている。

 カメラのフラッシュ等のような強力な光は、収蔵品によってはその劣化を早めてしまう一因とも目されているため、万全を期するためにカメラの使用禁止・撮影禁止を掲げる博物館は、決して珍しいことではない。

 

 そんな撮影禁止区画での、特例ともいえる撮影許可。しかも最近の若者に大人気の、世界に名だたる刀剣が多数収蔵されている『宝物殿』である。

 何かのタイミングで直接足を運べる近郊の視聴者さんならばまだしも……遠方にお住まいで、かつ刀剣に興味が深い視聴者さんにとっては、朗報と言えるのではなかろうか。

 

 

 

「それでですね……この『宝物殿』を含め、鶴城(つるぎ)神宮の魅力を余すところなくご紹介する動画シリーズをですね! 近日ご紹介予定です! こちら、全三弾を予定してまして……第一弾は鶴城(つるぎ)神宮の概要と本殿および境内全体の総合案内、第二弾は鶴城(つるぎ)さん参拝の際は欠かせない、境内や近郊の美味しいグルメについて重点的に……そして」

 

(シメ)の第三弾で、その例の『宝物殿』をたっぷりとご紹介するって寸法だね」

 

「そうなんです。全部纏めてしまうと長くなっちゃって、皆さんが興味ある部分が探しづらいかなって思いまして……なので、ジャンルごとに三つに分割して作ることにしました!! グルメ動画好きな視聴者さんは第二弾、うわさの『宝物殿』に興味がある方は第三弾だけを見られるようにですね!」

 

「それぞれ特化した分、専門性と密度が高いからね。きっと楽しんで貰えると思うよ。……楽しんであげてね、ノワ頑張ってるから」

 

「がんばってます!!!」

 

 

 白谷さんと二人、掛け合いでの概要説明を淡々と行い、これから年末へ向けての動画公開スケジュールまで公表する。

 ……とはいっても、大晦日まではもう一週間も無い。明日からさっそく『第一弾公開予定日』『第二弾公開予定日』『第三弾公開予定日』と続き……やけにゴテゴテと飾り付けられた『大晦日』、そして『元旦二〇二〇』へと続く。

 ほぼ日刊で動画を投稿していくおれの頑張りを褒めてくれる声も多く、やっぱりちょっとほっこりする。

 

 そしてこのあたりで……この今回のおれの装いが()()である理由を、視聴者さんが察し始める。

 これから鶴城(つるぎ)さん動画シリーズを公開していくための、その宣伝の一環としての巫女装束なのだろうと……動画公開に向けた話題作りなのだろうと、コメント欄の雰囲気が良い方向へと集束し始める。

 

 それも決して間違いではないのだが、さすがに()()()()()まで思考が及ぶ視聴者さんは――おれの最大の理解者である神絵師を除き――居なかったようだ。

 

 

「さてさて。シリーズ動画の予告も宣伝できたことですし……やっとこの衣装の説明に移れそうですね!」

 

「おお? ついに! ……やっとだね。スタートからごく一部、本当に熱烈なコメントが()まなかったよ」

 

「えへへー。わたしもここまで喜んでもらえるとは思いませんでした……ぷみやさん、へちょさん、goddesuさん、茎ワカメさん、KUROUDOさん、ほか多くの皆さん! 熱い声援をありがとう! 注目してくれてありがとう!」

 

「ありがとうね。……ところでノワ、そもそもその衣装……誰がどんなときに着るものなの?」

 

「これはですね、いわゆる巫女装束……つまりは巫女さんの仕事着なんですね。カッコよくて、可愛らしくて……なかなか根強い人気がある装束なんですよ。鶴城(つるぎ)さんとかにも巫女さんいっぱいおつとめしてますし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だと思います」

 

「ふぅーん…………じゃあ何? 今ノワがその装束を着てるってことは、年末年始ノワも鶴城(つるぎ)さんで()()()()するってこと?」

 

「うん。そうなの」

 

「ほぉー。よく似合ってるよ。がんばって」

 

「えへへ……うん。ありがと」

 

 

 

 非常に……非常にあっさりと告げられた、燃料投下みっつめ。

 コメント欄が大混乱の様相を呈し、感嘆符が乱舞したのは言うまでもなく。

 

 正直おれたちが予想していた以上に、視聴者さん達のリアクションはすさまじかった。

 

 

 ちょっ、あの……スクロール速度が半端無い。早い早い早い。

 これはやばい。おれの目じゃなかったら見逃しちゃうね。

 

 んふふ。良いリアクションを、ありがとう。

 

 

 



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102【報告配信】年末年始業務のご説明

 

 

 一昔前の……まだ『動画配信者(ユーキャスター)』という職業が一般的では無く、今のような知名度も社会的立場も持ち合わせていなかった頃は()()はいかなかっただろうが。

 最近は自身の配信チャンネルから飛び出して、様々なイベントを企画したり大々的に企業と組んで活躍したりする動画配信者(ユーキャスター)も、決して珍しいことではない。

 

 おれは出自にかなりイレギュラーがあったとはいえ……仮想(アンリアル)の隠れ(みの)を取っ払われた現在とあっては、駆け出しとはいえいち配信者(キャスター)である。

 さすがに、初心者であるおれが大手振ってイベント主催できるなんて、決して思っているわけじゃないが……『どこどこでアルバイトするので、よかったら来てね!』とアピールするくらいなら、特に問題は無いはずだ。

 というか……()()()()から告知の許可も貰ってるし。

 

 

「んふふふふ! いい反応ですね! わたしとしても嬉しいです! ……こほん。えー……そういうわけで! わたくし木乃若芽(きのわかめ)、初めてのアルバイトでございます!!」

 

「年末年始って、ものすっっごく混雑するらしいよ? 鶴城(つるぎ)神宮。……ノワ大丈夫? 潰されない? 迷子になっちゃわない?」

 

「大丈夫です! お姉さんですから! ちゃんと巫女さんのお仕事できますから! ……えっと、とりあえず確定事項としましては……大晦日から元日にかけて! 浪越市(なみこし)鶴城(つるぎ)神宮にて、わたくし木乃若芽(きのわかめ)が巫女さんの助勤として出没します!」

 

「あくまでアルバイト……もとい、助勤? として、神宮のお仕事をお手伝いさせていただく形だね。ただ(あらかじ)め言っておくけど、お仕事が優先だから……不馴れなノワは、正直あまり自由に動けないだろうと思われる。……そこはまぁ、色々と勘弁してあげてほしい」

 

「記念撮影……とか、何かそういうことが出来れば良かったんですけどね。鶴城(つるぎ)さんにもご迷惑お掛けしてしまうので、今回は『はたらく若芽ちゃんが観察できるよ』ってことで、勘弁してください。すみません……」

 

「とはいっても……可愛いノワを直で観察できる機会だからね。どうせ初詣行くつもりなら、是非鶴城さんに……可愛いエルフの女の子が甲斐甲斐しく働く様子を、どうか観察しに行ってあげてほしい」

 

「はたらくよー! 巫女さんだよー!」

 

 

 一般的な動画配信者(ユーキャスター)さんたちが行うようなオフラインイベントとは大きく異なり……今回のおれのお披露目はあくまでもアルバイトであるため、正直なところ参加者に提供できる見返りは非常に少ない。

 さっき言ったように――需要があるかは謎だけども――記念撮影なんかに応じることも出来ないだろうし、一人一人とゆっくりお話しすることも難しいだろう。

 率直に言って……これを『イベント』と言い張るのは、いくらなんでも無理がある。顧客満足度の観点から鑑みてもたいへん不出来極まりない体たらくであり、こんなに大々的に告知するほどの内容とは言いがたい。

 

 ……だというのに。

 コメント欄に押し寄せる視聴者さんたちの『声』は……こんな情けないおれに対して、こんなにも優しい。

 今回は『鶴城(つるぎ)神宮境内に可能な限り多くの人々を招く』という目的ありきでの、多分に苦し紛れな企画だったが……視聴者の皆さんに楽しんでもらうことを念頭に置いたイベント企画とか、なにか恩返しできる催しを考えるべきだと思う。

 

 しかしまぁ、とりあえず先のことは保留しておこう。要検討リスト入りだ。

 とりあえずの目的である、鶴城(つるぎ)神宮への集客……視聴者さんの反応を窺う限りでは、その手応えはなかなかのようだ。

 

 

「おしごとの内容とか、当日の配置とか……そんな感じの公開できそうな情報が出ましたら、またSNS(つぶやいたー)でご報告しますので! …………更新頻度少ないってウワサの若芽ちゃんSNS(つぶやいたー)ですが! 今後はちゃんとこまめにつぶやきしますので!!」

 

「がんばりすぎて体調崩さないようにね」

 

「大丈夫です! お姉さんですから!! 当日もわたしがんばりますので……皆さんぜひぜひお誘いあわせの上、初詣(はつもうで)鶴城(つるぎ)さんで! 屋台もいっぱい出るって!!」

 

「おお、良いね! ヤキソバ食べようよヤキソバ」

 

「お仕事優先だって。それにラニひとりじゃ食べきれないでしょ? …………はんぶんこ、ね」

 

「ありがとノワ! 好き!!」

 

「んっ。…………えへへ」

 

 

 

 元々、見目麗しい女の子二人の絡みを想定してあったとはいえ……その()()に引きずられたからじゃ無いだろうけど、白谷さんはことあるごとに『好きだよ』アピールをしてきてくれる。

 おれ自身正直いってとてもうれしいし、なんだか心がぽかぽかと暖まってくる感じがするし……なによりも、視聴者さんの反応がかなり良い。ファンタジー色濃いめのなかよし女子二人組は、どうやらお気に召して頂けたようだ。なお中身は考えないものとする。

 

 

「それでは……ご報告は以上になります。長々とご清聴、ありがとうございました!」

 

「あれ、もう終わりの時間? まだ時間あるよね? 何するの?」

 

「んふふふふ……よくぞ聞いてくれました。前回の生配信ではフィッチの輪っかで非常に痛い目に逢ったので、リベンジ……とも考えたんですけど…………さすがにこの装束で運動して、汗とかで汚しちゃうのはよくないので……」

 

「あー…………うん。仕方ないね。運動系はね……」

 

「なので! 今日はこれ! 頭脳トレーニングで遊びます! かしこいエルフの叡知ってモンを見せてやりますよ!」

 

「おー! …………というわけで、ちょっと休憩入れよっか。ゲーム画面出さないとだし」

 

「そうですね。では視聴者の皆さまも、いっしょに休憩しましょう! 今から……そうですね、十分間! 休憩です! おしっこ行くなら今のうちですよ!」

 

「ノワもちゃんと行っといでね。漏ら」

 

「漏らしません!!! お姉さんですから!!! それじゃ一旦(いったん)……ヴィーャ(ばいばい)!」

 

 

 

 可愛らしくひらひらと手を振るおれたちの映像から、モリアキ神謹製のアイキャッチイラストへと画面が切り替わる。

 休憩用の穏やかで牧歌的なBGMが流れ出し、カメラとマイクの入力レベルがゼロになっていることを確認し…………とりあえず、『ほっ』と一息。

 

 目を引く鮮やかな――しかし動きやすいとは決して言えず、汚さないようにめっちゃ気を使う――巫女装束のまま、重要な報告事項を無事につつがなく伝え終えたおれたち。

 配信後半の演目を開始するにあたって、まずは一旦場の空気を入れ替えるべく……アイキャッチ画面を挿入しての休憩を設けることにした。

 

 

 長々とぶっ通しでやるよりかは、緩急つけたほうが何かと気が楽だろう。

 視聴者さんにとっても……そして、他ならぬおれたちにとっても。給水とお手洗いのタイミングは、確保しておくに越したことはない。

 

 

 

「ラニ、ほらお水」

 

「ありがとノワ。……いやー、たのしいね」

 

「んふふ。でしょでしょ。後でコメントゆっくり見ようね」

 

「大好評だったね。楽しみだ」

 

 

 和気藹々(わきあいあい)と騒ぐおれたちへの、好感に満ちたコメントを嬉しく思いながら……おれたちは演者二人体制での『のわめでぃあ』収録に、新たな可能性を見いだしたのだった。

 

 

 

 CM(※無いです)のあとは! げーむで遊ぶのコーナーだよ!

 チャンネルはそのまま!!

 

 



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103【報告配信】新規事業の進捗評価

 

 輪っかのゲームで大活躍したこの家庭用ゲーム機は、国内トップクラスの玩具メーカーによる渾身の逸品である。

 そのラインナップはこれまでのゲームソフトとは一線を画しており……老若男女問わず楽しめるように、その高性能っぷりを活かした様々なゲームが取り揃えられている。

 

 そんな独特ともいえるラインナップの中のひとつ。某大学の教授を筆頭に名だたる学者さん達が全面監修を行った、一般的に『ゲーム』と言われて想像するものとはちょっと趣の異なるゲーム。

 

 それがこの……『脳を鍛えるみんなの思考力トレーニング』である。

 

 

 

 

 

「ふふふふふ……! どぉーですか皆さん! これがかしこいかわいい若芽ちゃんの本気ってやつですよ!!」

 

「おぉぉ…………いや、すごくない? 割と冗談じゃなく……すごくない?」

 

 

 現在はゲームのリザルトとなっている配信画面には、おれの激闘の成果が余すところなく表示されている。

 瞬間記憶力、瞬間判断力、瞬間計算力、並列思考力、漢字知識、文法知識……この六項目で表される六角計グラフは、もののみごとに最も大きな正六角形を描いている。……つまりまぁ、最高評価というわけだ。

 紙吹雪が舞い散るリザルト画面の隅っこで、白の小袖を纏った緑髪エルフの少女が堂々たる自慢(ドヤ)顔を晒しているのだが……こればっかりは多少調子に乗って良い結果じゃないかと思う。

 

 それにしても……なんとか合成する手法が見つかったから良いものの、グリーンバック使えないのは痛手だった。何せおれは頭髪がモロにグリーンだもんな。でもなんとかおれの姿を画面に合成する手段が見つかって、望んだ形になって良かった……魔法マジパナい。

 ほんの数瞬、遠い目で自らの功労を振り返りつつ……ゲーム機とタッチペンを机に置いて腰に手を当て、まるで『えっへん』とフキダシで描かれそうな程に堂々としたキメポーズを取る。先週の体力作りゲームはグッダグダのグッズグズだったので、知力を必要とするこっちで雪辱を果たせたのはとても嬉しい。今度は勝ち申した。

 ……勝つとか負けるとかいうゲームじゃないような気もするけど、そこはまぁ、ほら。自分との戦いっていうか。

 

 

「『全世界ランキング』とかあるよこれ。……すごいね、世界規模で販売されてるんですね、このソフト。どうかな~何位かな~~……おお?」

 

「おーすごい、二桁だ」

 

「お……ぉおぉ…………やっぱすごいんですよね? これ…………ふ、ふふーん! どぉーですか視聴者さん! これが若芽(わかめ)ちゃんの実力ってやつです! 世界規模ですよ!!」

 

「いやあ……正直、ここまでとは思ってなかった。ごほうびも考えとかないとね。モリアキ氏に発注しとくよ」

 

「やった! 楽しみ! よろしくお願いしますねモリアキさん!!」

 

 

 さすがに全世界の頭脳自慢が、みんながみんなこのゲームとランキングに参加しているわけじゃないとはいえ……この全世界ランキング結果が、そのまま全世界かしこさランキングとイコール()()()()とはいえ。少なくとも日本国内において、このゲームのプレイヤーの中では、かなりの上位であるということが証明できたのだ。

 これはごほうびを貰っても問題ない、非常に優秀な成績といえるだろう。

 

 小さくぴょんぴょんとあざと可愛いく喜びを表現するおれと、歓喜に湧くコメント欄。約一名、なんだか見知ったIDの視聴者さんが悲鳴を上げていた気がするが……おれの目とて万能じゃない。見落とすことだってあるだろう。つまりはなにも見なかった。いいね。

 

 

 というわけで。そろそろ脳トレのゲームを始めて、一時間近くが経過しようとしている。

 チュートリアルから始まり、デイリー脳トレプログラムやらエンドレス暗算プログラムやら……さっきの総合力判定プログラムの世界ランキングまで。

 駆け足であったことは否めないが……一通りはこのゲームを堪能できたのではないだろうか。

 それと……この木乃若芽ちゃんのかしこさを、世間へしっかりとアピールできたのではないだろうか。

 

 

 つまりは、冒頭の重大発表――白谷さんのお披露目と鶴城(つるぎ)さんでの年末年始助勤(アルバイト)――に始まり、みんなだいすきなゲームで遊びながらかしこさアピールを図り、ちゃっかりとママ(モリアキ)ごほうび(新作ファンアート)を要求して……これで最後の()()()を残し、今回の生配信でやるべきことは消化し終えたことになる。

 

 時間的にもちょうど良いので、そろそろクロージングに移ろうか。

 

 

「まぁ、こんな感じで。最後はわたしの独壇場でしたけど、今後はわたしとラニの二人体制でコンテンツを提供していきますので」

 

「ボクたち『のわめでぃあ』を、今後とも宜しくお願いします」

 

「宜しくお願いします!」

 

「…………って待って待ってノワ。まさかこのまま終わりじゃないよね? まだあるでしょ?」

 

「えっ? えっ、終わり……えっ? だめ?」

 

「ダメに決まってるでしょ! 前回ほら……あんなにおうた喜んでもらったじゃん! ノワは局長なんだから、視聴者さんの期待には応えないと!」

 

「えっ……でも、あれは……要望があったからで」

 

「今日だってめっちゃ要望あるよ! むしろおうたの要望はいつでもあるよ! ……なぁそうだろ視聴者諸君!!」

 

「ぇええ、そんな…………わ、わあ、あわわわ……!? ほ、ほんと……ほんとに?」

 

 

 白谷さんが何を言いたいのかを割と早い段階で察し始めた視聴者さん達(うち一人は見知ったID)の手によって、始めはほんの僅かに掻き立てられるばかりだったさざ波は……今やコメント欄全体を揺るがすほどの大波に、盛大な『おうた』コールとなるまでに成長している。

 ある程度の()()()があったとはいえ……いとも容易く視聴者さん達を煽動してのける白谷さんの手際にも、内心は『計画通り』とばかりにほくそ笑みながら困惑顔を纏うおれ自身の演技力にも……どこか末恐ろしいものを感じなくもないが、とりあえず場の空気は整った。

 

 前回に引き続き、今回で二回目。あと一・二回でも続けられれば、定番化は固いだろうか。

 幸いにして視聴者さんからの期待も熱く……生歌アカペラ民謡のコーナーも、この調子なら定着させることが出来るかもしれない。

 

 

 ただ、まぁ……今日のところは。

 

 

「じ、じゃあ…………ちょっとだけ、ですよ? うーん…………じゃああれです、ちょっと前の世界情勢で一瞬だけ話題になった、あのお歌でいきましょうか」

 

「オッケー任せて! BGM止めるね! 切り出し職人諸君あとは任せた! ノワいつでもいいよ!」

 

「おおげさだなぁ…………」

 

 

 

 

 静寂に包まれた、どこかファンシーで明るい配信ページにて……巫女服姿のエルフの少女が、大きくひとつ深呼吸。

 

 胸に手を当て、瞳を閉じて、艶やかな唇がゆっくりと開き。

 

 

 

 コメントの流れが、止まった。

 

 

 



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104【報告配信】オールドラングサイン

 

 今回、例によって急遽披露することとなった(というスタンスの)民謡は……数年前にヨーロッパ方面での某会議で話題になったスコットランド民謡、その名も『オールドラング・サイン』である。

 民謡の例に漏れずその発祥はなかなか古く、年始や誕生日や披露宴など……どちらかというとおめでたい場面で歌われることが多い。

 

 ……そんな曲を、組織から脱退するお別れのタイミングで斉唱して見送るとか……なんというか…………うん、気にしないことにしよう。

 

 

 ちなみにこの曲、日本語の歌詞を宛てたものが存在するのだが……こちらは宛てられた歌詞の内容もあってか、どちらかというと別れの場面で歌われることが多い。そのため先述のニュースを目にした日本国民の何割かは――かくいうおれも、今回こうして予習するまでは――そこに込められた盛大な皮肉に気づくことができなかった……らしい。

 ちなみにこの日本語版『オールドラング・サイン』、曲名は『蛍の光』である。みんなしってるね。

 

 

 

 前回もそうだったが……おれが歌い始めた直後(正確には通信ラグを挟んでちょっと後)、コメント欄のスクロールが目に見えて停止するのが……変かもしれないが、ちょっと嬉しい。

 コメントを止めてほしいわけではもちろん無くって、かといってべつにコメントを盛大に加速してほしいっていうわけでも無くって。正直どっちも嬉しいし、そもそもこの配信を見てくれる時点で嬉しい。

 

 コメントが一瞬止まる視聴者さんは、おれの歌声を聞くことに集中してくれてるんだなって嬉しくなるし……一瞬のフリーズからすぐさま復帰して怒濤の勢いでコメントを書き込む人は、感想を一刻も早く共有しようとしてくれているんだと嬉しくなる。

 語彙力を尽くして『すき』を表現しようとしてくれるコメントにも嬉しくなるし、逆に語彙力を喪失してまでも『すき』を伝えようとしてくれるコメント(というか文字)でも当然嬉しくなる。

 

 そんな視聴者さんの反応すべてに激励を受けて、おれはおれを好いてくれるすべての視聴者さんを楽しませるため、この歌声に全力を込める。

 ……決しておれがチョロいわけじゃないぞ。

 

 

 例によってちゃっかり薄目を開けてコメントの流れを把握しながら、おれはとりあえず丸々一曲を歌いきる。例によって日本語ではない歌詞なので正否がわかりにくくはあるのだが……この若芽ちゃんの語学力と頭脳をもってすれば、仮に本場の方々が聞いたとしても怒られることの無い出来映えのはずだ。

 世界ランキング二桁の実力は伊達じゃないのだ。ふふん。

 

 

「…………ふぅ。……いかがですうわぁ!? びっくりした! え、えっと……へへ。すごかった? そう?」

 

「すごかった。ボクきめた。ノワのおよめさんになる」

 

「白谷さん落ち着いて。正気に戻って。……えっと、ちなみに解説っていうか蘊蓄(うんちく)っていうか……いります? ……あっ、いりますか。もちろんですか。ありがとうございます」

 

「尊い……ノワのおうた尊い……」

 

 

 ちょっと白谷さんがつかいものにならなくなってしまったので、おれ一人だけども講義開始といこう。

 白の壁紙に黒板らしきものを投影し、即席の教室風景を作り出す。隅っこにはピアノ(らしきものの絵)も映り込ませ、なんちゃって音楽教室の完成である。

 

 

「はいそれじゃあ……授業を始めます。……なんちゃって」

 

 

 背景は音楽室、しかし教師役は巫女服エルフ……混沌とした情景に一瞬我に返るが、鋼の意思(アイアンウィル)で精神的ダメージをシャットアウト。おれ自身にさだめられた()()に集中する。

 

 

 

「こちらのオールドラング・サイン、歌詞の内容をざっくりと説明しますと……『久しぶりに再会した古くからの知人と、酒を呑み交わしながら昔話に興じる』といった内容ですね。『こうして顔を合わせるとあの頃を思い出す。野山を駆け回り草木を探した。日が暮れるまで遊び回った。そうした記憶もどんどん薄れてしまうことだろう。だが、だからこそ今このときこそは、この再会にこの一杯を捧げよう』といったようなニュアンスです。……あっ、正確な訳じゃないですよ! 概ねの方向性は合っているはずですが、多分にわたしの解釈を含みます。しかし……良いものですね、男同士の昔馴染み。変わらぬ友情、共通の話題……二度と戻らぬあの日に乾杯。…………いや、べつに男同士ってわけでもないのか。男女とか女女の可能性もあるんですね。……まぁべつにそこはどうでもいいです」

 

「この解釈のもととなった歌詞は、ロバート・バーンズさんによって西暦千七百年代後半に綴られたもの、だと言われています。スコットランド人の詩人さんですね。その影響力はすさまじく……ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン、フランツ・ジョゼフ・ハイドン、ロベールト・アレクサンダー・シューマンら歴史的作曲家さんたちも、この曲をそれぞれアレンジして編曲したといわれています」

 

「この曲のおもしろいところはですね……日本に輸入されて顔と名前と仕事さえも変えちゃったところもそうなんですが、その作りもそこはかとなく日本風なんですよね。メロディラインの音階をひとつひとつ見てみるとですね…………なんと『ドレミファソラシ』の中の、ある五つの音しか使っていないんですね。『ドレファソラ』の五つの音階のみで構成されていまして、これは雅楽を始めとする日本の楽曲で多い音階なんですね」

 

「この五音で奏でられる音階、通称『ヨナ抜き長音階』と呼ばれます。()番と()番の音が抜かれるから四七(ヨナ)抜き、というわけですね。ほかでもない日本国歌『君が代』も、このヨナ抜き長音階です。……ただ先ほどのオールドラング・サインにおいてはFメジャーの曲なので基準音がちょっとずれて、第四音『シ』フラットと第七音『ミ』が抜かれています」

 

「これはべつに『日本の音階がスコットランドに輸入された!』……というわけでは無くて、あくまで偶然の一致らしいのですが……逆に、日本で昔から親しまれていた『ヨナ抜き長音階』と偶然にも一致したからこそ、スコットランド民謡であるオールドラング・サイン……あえて言い換えると『蛍の光』が、日本でも広く親しまれることとなったんでしょうね」

 

「なんでもこの『ヨナ抜き長音階』……というかそもそもどうしてこの四七(ファシ)を除いた五音(ドレミソラ)が定着したかというと……一説ですが、単純にドレミソラが歌いやすく、音程を取りやすかったから……だそうです。ともあれ『親しみやすい』という点については疑う余地もないらしく、近年流行した日本の楽曲でも度々登場しています。『にげはじ』でお馴染みの『恋』。ダンスがブームになりましたよね。あの曲のサビ部分もヨナ抜き長音階ですし、小さいお子さんにも大人気な『パプリカ』……これもダンスがブームですね。こっちもサビ部分がヨナ抜きです。あとは……初音ミクちゃんでお馴染みの『千本桜』とかでしょうか」

 

「ただ『絶対にヨナ(ファとシ)を使ってはいけない』というわけではもちろん無いですし、基本的なメロディラインでヨナ抜き長音階を使って親しみやすさを持たせつつ、随所にイレギュラー的にヨナ(ファとシ)を加えてスパイスを効かせたり……このあたりは作曲家さんの腕の見せ所ですね。出だしは普通の七音を使いつつ、サビで転調するような感じでヨナ抜き長音階に切り替えたり……曲の節目で趣を変えたりといった手法も、とても人気が高いですね」

 

 

 

 口頭説明と板書、それに身振り手振りを交えながら、ころころと表情を変えつつ()()をこなしていく。

 リアルタイムの生配信ならでは、今や聴講生と化した視聴者さんたちのリアクションもまたリアルタイムで送られてくるので、これはなかなか楽しい。……音楽教師、やっていてクセになりそうだ。

 

 そうだ……教師といえば。学校といえば。

 せっかくだし、このオールドラング・サインを取り上げた繋がりとして……日本語版の『蛍の光』も、ついでだから取り上げておこうか。何がとは言わないが時期的にもそういうシーズンな気がしてきたし、特別授業も悪くないだろう。……まぁ今は十二月末なんですが!!

 

 

 

 歌詞と言語は別とはいえ、メロディラインは同じものだ。アカペラであれば尚のこと、変わり映えがしないと呆れられるかとも思ったが……よく訓練された視聴者もとい音楽科講義の聴講生諸君は、誰一人不満をこぼすこと無く、全面的に期待してくれるようだった。

 

 残業上等、居残り授業上等。

 おうたのじかん、もうすこしだけ続くんだよ!

 

 

 





このおはなしはフィクションです


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105【報告配信】蛍の光

 

 

 ここ日本国においては、小中高問わず卒業式で歌われる……いわゆる『定番卒業ソング』としての認識が強い民謡曲、『蛍の光』。

 実際にテーマパークやショッピングセンターが閉店間際になると流れ始めたり、しかもどこか寂寥感漂うアレンジで流されたり……どちらかというと『悲しい』という印象のほうが強いのではないか。

 

 実際のところ……卒業式で歌わされたり、学校の音楽科授業で履修するのは、この『蛍の光』の第一節・第二節部分に当たる。

 原曲はスコットランドの民謡であり、数年前の欧州のほうの国際情勢云々に関係あるのもスコットランド民謡のほうなのだが……とりあえずは馴染みの深い日本語での『蛍の光』を、第四節まで歌い上げる。

 

 

 

 蛍の光 窓の雪

 (ふみ)読む月日 重ねつつ

 いつしか年の すぎの戸を

 開けてぞ今朝は 別れ行く

 

 止まるも行くも 限りとて

 (かたみ)に思う 千万(ちよろず)

 心の端を 一言(ひとこと)

 (さき)くと(ばか)り (うと)うなり

 

 

 この部分だけを抜粋すると、なるほど確かに『別れの曲』というイメージも強いのだろうが……原曲であるスコットランドの民謡、ならびに『蛍の光』日本語歌詞として存在する第三節・第四節をふまえると、その印象は変わってくる。

 

 本当はとても……とても切なく、暖かな歌なのだ。

 

 

 

「日本での曲名にもなっている『蛍の光』と、それに続く『窓の雪』……これらは二つとも、ここでは夜間の灯りの代用品として用いられています。蛍のおしりの光と、窓の向こうの雪に反射してくる光……要するに『夜の灯りさえ不自由する環境』だったということですね。そんな環境で『(ふみ)読む月日』を『重ね』てきた……つまりは、必死に勉学に勤しんでいたわけですね。このあたりは中国故事の『蛍雪の功』に由来するとも言われています」

 

「そして『いつしか年のすぎの戸を』ですが……ここがまた深いんですよ。字面だけ(さら)うと『年が過ぎた』のかなぁって思われるかもしれませんが……いやぁ日本語って深いです。この一文、じつは掛詞(かけことば)になってるんですね。次の句の『開けて』まで繋がって『年が過ぎていった』『年が明けた』といった意味にもなるのですが……ちょっと前の日本国において、おうちの戸が『杉』の板っていうのは……あんまり裕福とは言いがたい環境だったんですね。和歌とか俳句の世界では常套句のようです。…………そう、『杉の戸』です」

 

「……もう一度振り返ってみましょう。『いつしか年のすぎの戸を、開けてぞ今朝は別れ行く』。つまりこの節の中には、『貧しい家で必死に勉学に打ち込んできた二人に別れの(とき)が訪れ、新たな環境への()を開けて別々の道を歩み始める』という……極力簡潔に纏めてコレですからね? 前半部分と併せてたかだか五十文字程度の歌詞に、よくぞここまでの情景を盛り込んだなっていうか…………稲垣千穎(ちかい)さん半端無いです。メチャクチャ頭良かったんでしょうね……」

 

 

「気を取り直して、第二節いきましょう。『止まるも行くも限りとて』……『止まる』『行く』というのは、ここではそれぞれ『学舎に留まる』『学舎から巣立つ』という意味ですね。そのつぎの『限り』というのは、今日限り……つまりは、今生の離別をも見据えた決意であると伺えます」

 

「……ここから先、一息に行っちゃいますね。『(かたみ)に思う千万(ちよろず)の心の端を一言に』……ちょっと長いですが、纏めてお話しさせてください。……字面でなんとなく意味はおわかりになるかもしれませんが、おおむねその通りです。別れ行く二人が、お互いのことを思う気持ち……百万やら千万やら、まだまだ話したい言葉・伝えたい言葉も際限無く浮かんでくるでしょうけど……それを、たったの一言に。万感の思いを込めた、たったの一言に」

 

「『(さき)くと(ばか)り歌うなり』。……ただ一言、『(さき)く』。君に幸あれ。どうか無事で。……そんな切なる願いが籠められた歌なんですね」

 

 

 卒業ソングの定番である『蛍の光』……なるほど読み解けば読み解くほど、卒業式にぴったりの歌詞であろう。

 貧しいながらも勉学に打ち込んだ二人。あるいは学友も含め、それぞれの行く先に幸あれと送り出す……切なくも暖かい離別の歌だ。

 

 ここまでは、恐らく多くの視聴者さんの知るところだっただろう。

 だがそれ以降、第三・第四節部分に関しては……()()()により小学校では教わらず『初めて聞いた』といった視聴者さんが、少なからず見受けられた。それが良い・悪いとかはおれは怖いので何も言わない。触れない。

 

 

 筑紫(つくし)の極み (みち)の奥

 海山遠く (へだ)つとも

 その眞心(まごころ)は 隔て無く

 一つに尽くせ 國の為

 

 千島の奥も 沖縄も

 八洲(やしま)の内の (まも)りなり

 至らん國に (いさお)しく

 努めよ我が() 恙無(つつがな)

 

 

「第三節、見ていきましょうね。『筑紫(つくし)の極み』『(みち)の奥』、これはそれぞれ『九州の極み(最端)』と『東北の奥(最端)』……筑紫は九州地方の伝統的な呼び方ですし、陸奥はリンゴの品種でも有名ですね。みちのく、東北地方の呼び方です。『海山遠く隔つとも』、これはわかりやすいです。海とか山とか険しい土地をこれでもかと隔てようとも。所在は遠く離れていても。……直前の句と併せて捉えると、『九州から東北までどれだけ離れていようとも』といった感じでしょうか」

 

「そうきてからの、これです。『その眞心(まごころ)は隔て無く』『一つに尽くせ国の為』……その眞心(まごころ)(=思い)はみんな隔て無く(=変わらず)。日本国が発展していくよう、力を尽くしていきましょう。……つまりこの第三節、纏めると『この広い日本国土、皆が行く先は遠く離れ離れになろうとも、それぞれがこの(日本)の発展の力となるよう、同じ目標のために頑張っていきましょう』……といったところですかね? 字面からもだいぶ読み取りやすい部分だと思います」

 

「それでは最後、第四節……ここも全体の構造としては同じようなイメージです。『千島の奥』、これは千島列島の最奥。北側の領土問題のところですね……あまり深くは触れません。こわいので。一方の沖縄、これはそのまま沖縄県ですね。南と西の端です。そのつぎの『八洲(やしま)』ですが……これだけだと『何だ?』って思う視聴者さんもいるかもしれませんね。八重洲口か? 東京駅か? みたいな。……えっと、この八洲(やしま)……『八島』って書いたりもするんですが、ずばりこの国『日本』のことです」

 

「お話はちょっとズレますが……この八洲(やしま)について少しだけ。本州・九州・四国・淡路・壱岐・対馬・隠岐・佐渡、これら()つの()(の集まり)で構成される国……という意味かと思いきや、実はそれだけじゃないんですね。日本国の神話では『八』の数字は聖数として扱われ、末広がりで縁起が良いことに加えて『とにかく多い』という意味で用いられることが多々あるそうです。『八つ』としてではなく『メニーメニー』な感じで。八重桜とか、八雲とか、八坂とか……八百万(やおよろず)とかはわかりやすくメニーメニーな感じですね。なので八洲(やしま)というのはつまり『めっちゃ島が多い国』という意味でもあるそうです(※諸説あります)」

 

「さて、『蛍の光』に戻ってきましょうね。『至らん國に(いさお)しく』……この『至らん』っていうのはべつに『なさけねぇな!』って意味ではなくてですね、『國の至るところで』という意味になります。なので『この日本全国各地で(いさお)しく(=勇ましく)』となりまして……そして最後、『努めよ我が()恙無(つつがな)く』。ここの『()』はですね、(あに)だけじゃなくて夫とか弟とか……あとは友人とかも含みますね。代名詞です。そして『恙無(つつがな)く』は、(つつ)(=災いや病気・災難)が無い、つまりは息災であるように。……まぁいわゆる『ご安全に!』ってやつですね」

 

 

 

「つまるところ、この第四節……『千島列島の端も沖縄の端も、どこも変わらぬ日本の地である。この広い日本の至るところに散った友よ、どうか息災であれ』と言ったところでしょうか。やれ『國のため』とか『尽くせ』とかあるので勘違いしがちですが、べつにそこまで過激なことは何も歌われていませんよ。わたしも含め皆さんが普通に生きて、普通に働いて、普通に税金を納めていくことも、いうなれば国のために尽くしてるわけですからね。『遠く離れていても、同じ国で生活する友である。どうか息災であれ』。……それだけのことなんですよね」

 

「政治問題とかそういう難しいのは、わたしは別の世界出身なのでよくわかりません。エルフなので。……ですが、こうして良いこと歌っている曲の歌詞を皆さんにお伝えするくらいは……べつに問題ないですよね?」

 

 

 

 なんだかんだで投影魔法での板書も駆使して、定番卒業ソング『蛍の光』について語ってしまった。投稿時期がもう一ヶ月くらい早ければ、タイミング的にちょうど良かったのかもしれないけど……そればっかりは仕方ないな。まぁ何のことかはわからないけど!

 ()()は幸いというか音楽科の恩師が話のわかる人だったので、一節から四節まで彼女の思いも込めて講義を受けることができた。……まあ()()()はエルフなんだけど。

 しかし実際には第二節までしか教わっていない人が多くいるとのことで、せっかくだし語り始めたら……メチャクチャ長くなってしまった。ちょっと民謡を歌ってクロージングするつもりが、どうしてこうなった。

 

 しかしまぁ……コメント欄の反応も上々。かしこい若芽ちゃんアピールもできたし、良いとしよう。

 音楽教師わかめちゃん……ありかもしれない。

 

 

「えーっと……白谷さん? 大丈夫? こんな感じでいい? そろそろ(しめ)るよ」

 

「……………………はっ!? お、おっけー。……じゃあ、そういうわけで。そろそろお別れの時間が近づいてきました。ぶっちゃけかなり押してしまいました」

 

「『おうたほしい』とか言うからじゃん……」

 

「でも後悔はしていない! ……それでは視聴者の皆様も、長々とお付き合いありがとうございました」

 

「今日がっつり増やしていただけましたが……初めましてな視聴者さん、チャンネル登録のほうも宜しければぜひお願いしますね。……それでは……『NOWA(えぬおーだぶるえー)IT(あいてぃー)NOWA(えぬおーだぶるえー)IT(あいてぃー)、こちらはインターネット放送局『のわめでぃあ』です。以上で今回の放送を終了いたします』、っと。ではまた! ヴィーャ(ばいばい)!」

 

ヴィーャ(ばいばーい)!」

 

 

 

 

 ………………

 

 …………………………

 

 カメラ入力オフよーし。

 

 マイクスイッチオフよーし。

 

 BGM入力レベルよーし。

 

 配信ページ確認よーし。

 

 

 

「おわったあああああああああ」

 

「お疲れええええええええええ」

 

 

 

 …………脱力、ヨシ!!

 

 恙無く(ご安全に)!!

 

 

 

 

 





このお話はフィクションです。


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【私は】木乃若芽ちゃんを語るスレ_第八夜【無実です!】そのいち

 

 

 

0001:名無しのリスナー

 

※※※わかめちゃんまとめ※※※

 

名前:木乃 若芽(きの わかめ)

年齢:自称・百歳↑(人間換算十歳程度)

所属:なし(個人勢)

身長:134㎝(ちっちゃいおねえちゃん)

スリーサイズ(自称):68/49/66

主な活動場所:YouScreen・浪越市近郊(?)

 

備考:かわいい

 

 

0002:名無しのリスナー

 

※※※わかめちゃんまとめ※※※

 

・魔法情報局局長

・合法ロリエルフ

・魔法が使える(マジ説)

・肉料理が好き

・別の世界出身

・チョロそう

・「~~ですし?」

・とてもかしこい

・おうたがじょうず

・実在ロリエルフ

・じつはポンコツ説

・命乞いが得意

・わかめ料理(意味深)

・浪越市民(?)

 

(※随時追加予定)

 

 

0003:名無しのリスナー

 

>>1

スレthx

なんとか21時に間に合ったか

 

 

0004:名無しのリスナー

 

>>1

記事乙

ギリギリセーフ!!

 

 

0005:名無しのリスナー

 

>>1-2

記事立てアザース

 

 

0006:名無しのリスナー

 

やっぱ配信前は新スレ移動しときたいもんな

絶対ぇ加速するし

 

 

0007:名無しのリスナー

 

シェフは本当な……ありがたいんだけどスレぶっ飛ぶからな……

いやでも本当ありがたいえちちちなのでもっとぶっとばしてほしいです

 

 

0008:名無しのリスナー

 

速度抑えようと思って抑えられるもんじゃ無いんだよな、わかめちゃんスレってのは

 

 

0009:名無しのリスナー

 

別に実況スレを作ろうって案も頓挫したしな。今に数スレぶっ飛ぶだろうけど仕方ねーべ

 

 

0010:名無しのリスナー

 

生放送待機間に合った

配信ページのおまえら平常運転過ぎワロタ

 

 

0011:名無しのリスナー

 

配信待機なう

重要なご報告ってやっぱあの謎の声ちゃんの紹介だろうな

わかめちゃえちちモーニング本当すこ…………

 

 

0012:名無しのリスナー

 

わかめちゃ動画投稿がんばるなぁ

個人勢にしてはなかなかがんばってるとおもうわ

 

 

0013:名無しのリスナー

 

>>7

今回はえちちモーニングによる延焼がやばかったな

シェフが着火した種火がえちちモーニングで大爆発したやつ

 

 

0014:名無しのリスナー

 

誰も『モーニングルーティーン』って呼んであげてないの草

 

 

0015:名無しのリスナー

 

>>11

同棲ですよ同棲。いっしょのおへやで寝る関係ですよ。

これはきましたわ

 

 

0016:名無しのリスナー

 

ガチロリでガチユリとはたまげたなぁ

 

 

0017:名無しのリスナー

 

重大発表たのしみ

ヘィリィはやく

 

 

0018:名無しのリスナー

 

謎の声ちゃんの正体なんだろな……

 

やっぱロリエルフなんかな!!

 

 

0019:名無しのリスナー

 

ヘイリィまだー???

 

 

0020:名無しのリスナー

 

前スレ1000!!!ついにやったか!!!

クソレス1000ニキ出し抜いたか!!!!

 

 

0021:名無しのリスナー

 

巫女服おめwwwwwww

念願の1000ゲットおめwwwwwww

 

 

0022:名無しのリスナー

 

我が方の勝利である

繰り返す

我が方の勝利である

 

 

0023:名無しのリスナー

 

【速報】

わかめちゃんスレ第七夜にして初の煩悩1000Get達成

 

 

0024:名無しのリスナー

 

おめでとう!!!今夜はお赤飯ね!!!

1000ゲットしました、っつって巫女服おねだりしてこいよ

わかめちゃんおねえちゃんなら土下座すれば着てくれるかもしれんぞ

 

 

0025:名無しのリスナー

 

21時きま!!!!

ヘイリィ!!!!!!

 

 

0025:名無しのリスナー

 

ヘイリィの時間だオラァ!!!

ヘイリィィ!!!!

 

 

0026:名無しのリスナー

 

は???????????

ちょ

 

 

0027:名無しのリスナー

 

ちょっt!!!!まって!!!!!!!!

は!?!????!????!すき

 

 

0028:名無しのリスナー

 

ヘィリィ!!!!!!

 

 

0029:名無しのリスナー

 

は????????????うそでしょ

 

 

0030:名無しのリスナー

 

ほしいものリストに無い品も贈れる裏技あるんだっけ…………

 

わかめちゃんおねえちゃんに巫女服送りつければワンチャン

 

 

0031:名無しのリスナー

 

待ってwwwwwwwwwwwwwwww早い早い早い早い早いwwwwwwwwwwwwwwww

 

 

0032:名無しのリスナー

 

ウッソだろおまえwwwwwwwwww

おねえちゃん!!!!すき!!!!!!!!

 

 

0033:名無しのリスナー

 

うそでしょ……幻覚じゃないよね…………

おまえらにもみえてるよね…………

 

 

0034:名無しのリスナー

 

アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!111!!!11!!

 

 

0035:名無しのリスナー

 

巫女服すきニキ…………

おまえ……しぬのか……

 

 

0036:名無しのリスナー

 

重大発表どころじゃない件

 

 

0037:名無しのリスナー

 

待ってwwwwwww巫女服のインパクトデカ過ぎておはなし頭に入ってこねえwwwwwww

一ヶ月経たずに昇格ってめっちゃすごいことのはずなんだけど全然頭に入ってこねえwwwwwww

 

 

0038:名無しのリスナー

 

すごいんだけどそれどころじゃない

 

 

0039:名無しのリスナー

 

千人とかそれどころじゃない

巫女ロリエルフ見てチャンネル登録余裕でした

 

ていうかもう五千人なるじゃん

 

 

0040:名無しのリスナー

 

>>34

安らかに眠れ……もう思い残すこともあるまい

 

 

0041:名無しのリスナー

 

巫女服すきニキ……良かったなぁ……

 

 

0042:名無しのリスナー

 

これは俄然1000狙わざるをえない状況になってきたな

絆創膏の底力を見せてやるぜ

 

 

0043:名無しのリスナー

 

謎の声ちゃんんんんん!!!!

 

 

0044:名無しのリスナー

 

こえちゃんきこえた

 

 

0045:名無しのリスナー

 

>>42

我等わかめちゃんを健全に愛でる会が絶対に阻止する

 

さすがに絆創膏はBANされる危険が危なすぎる

 

 

0046:名無しのリスナー

 

謎の声ちゃんの声かわいい

 

 

0047:名無しのリスナー

 

ねえwwwww巫女服の説明はwwwwwww

 

 

0048:名無しのリスナー

 

どうぞ!!!!

 

 

0049:名無しのリスナー

 

くらい

 

 

0050:名無しのリスナー

 

暗い

 

 

0051:名無しのリスナー

 

なんぞ?

 

 

0052:名無しのリスナー

 

は????????????

 

 

0053:名無しのリスナー

 

は!?!??!?!?かわいい

 

 

0054:名無しのリスナー

 

ウッッッッッッソだろお前!!!!!

 

 

0055:名無しのリスナー

 

ピクシー!?は!?!??どうなってんの!!?????!?

わかめちゃ実在キャスターじゃねえの1?>!!???!?>?

 

 

0056:名無しのリスナー

 

ぷにあ!!!!!!!ぷに!!!!!

っかわ!!!!くそかわ!!!!!!ア!!!!!!

 

 

0057:名無しのリスナー

 

ボクっコ妖精さん!!!!かわいい!!!!

 

 

0058:名無しのリスナー

 

しらたにwwwwwwwwwwwwww

 

 

0059:名無しのリスナー

 

なんでシラタニwwwwwwwどおしてwwwwwww

なんでそんな見た目で日本人名なのwwwwwwwwwwww

 

 

0060:名無しのリスナー

 

クッソ名前似合わねえ!!!!!

 

でもかわいい!!!!なかよし尊い!!!!!!

 

 

0061:名無しのリスナー

 

「ノワ」

「ラニ」

 

ええ…………こんなん結婚じゃん…………

交尾しちゃうじゃん……………

 

 

0062:名無しのリスナー

 

ラニチャンのほうはユアキャスっぽいか?

実装とか投影とか言ってるし

 

 

0063:名無しのリスナー

 

シラタニ=サンはわかめちゃんガチ勢だったか……

二人まとめてすこだわ

 

 

0064:名無しのリスナー

 

あっ!!!この二人デキてますね!!!!よいとおもいます!!!!

 

 

0065:名無しのリスナー

 

好きあってる女の子どうしイイゾ~~~~

 

 

0066:名無しのリスナー

 

ええすごい、映り方めっちゃ自然……

出演者とCGモデルでイチャコラさせるってこれ、めっちゃ難易度高いんじゃないの?

 

 

0067:名無しのリスナー

 

もうわけわかんね……何が起こってるんだ……

かわいい……ラニチャンかわいい……

 

 

0068:名無しのリスナー

 

待って、ラニチャンも充分わけわかんないけど結局巫女服は何???マジで前スレ1000get報酬じゃねえよな?????もしそうなら俺も絆創膏党に入るぞ?????????

 

 

0069:名無しのリスナー

 

情報量が多すぎんぞ今日の生わかめ!!!!!!

 

 

0070:名無しのリスナー

 

もう どうでもいい 

かわいい から どうでもいい

 

 

0071:名無しのリスナー

 

開幕巫女装束で登場(←わからない)

巫女装束について一切説明なし(←わけわかめちゃん)

 

デビュー数週間でオブシ級(←すごいけどわかる)

千人ありがとう配信で五千人(←もうわからない)

 

新メンバーを紹介します(←わかる)

交際相手はボクっ娘妖精さんです(←わからない)

 

 

0072:名無しのリスナー

 

今北

 

どういう状況だこれ…………

 

 

0073:名無しのリスナー

 

ええ…………なんなの……えっちじゃん…………

 

 

0074:名無しのリスナー

 

ラニちゃんカワイイ!!!ラニちゃんカワイイ!!!

 

…………っていうかこの妖精さんめっちゃ格好きわどいよ!?!?

さてはぱんつはいてねえな!!?!??

 

 

0075:名無しのリスナー

 

質問コーナーっていうか聞きたいことだらけなんですが……

 

 

0076:名無しのリスナー

 

いま!?いま募集すんの?!!??

 

 

0077:名無しのリスナー

 

今から質問募集すんの!?

 

 

0078:名無しのリスナー

 

斬新すぎないwwwwwww???

いや、地デジのバラエティとかだとよくあるけどさ……

処理能力半端無えな……

 

 

0079:名無しのリスナー

 

>>74

ようせいさんがパンツはくわけないだろいい加減にしろ

地下室に叩き込むぞ

 

 

0080:名無しのリスナー

 

けっこんしてるんですか!!

ふたりはけっこんしてるんですか!!!

 

 

 

………………

 

 

………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

 

 

 

0120:名無しのリスナー

 

この状況でリアルタイムで質問選別して読み上げて進行してるって……実はわかめちゃんスペックやばくね?

指動きっぱやぞ、ずーっとメッセ画面スクロールしてるんやろな……よく読めるな……

 

 

0121:名無しのリスナー

 

やっぱ二人いると賑やかだね……

のわちゃんすきすきラニちゃんてぇてぇ……

 

 

0122:名無しのリスナー

 

まって、なんていうか……すげえ進行が上手いっていうか……上手すぎるっていうか……

のわちゃんがらにちゃんに質問振って、らにちゃんが場を繋いでる間にのわちゃんが質問ピックアップして……二人とも動きに無駄が無いし、これラニちゃんわざと目を引く言動取ってるよな?のわちゃんが動く隙を作るためでしょこれ。

互いに互いをフォローしてるっていうか、阿吽の呼吸っていうか……なんていうか、すげえ

 

 

0123:名無しのリスナー

 

らにちゃんかわいいね……ちょっとジャンプしてみよっか

 

 

0124:名無しのリスナー

 

交尾したのかなぁ……

一緒にお風呂入ったりしてるのかなぁ……

 

 

0125:名無しのリスナー

 

俺も私生活アシスタント妖精さんほしい……

ようせいさんと同棲したい……

 

 

0126:名無しのリスナー

 

結局その巫女服は何なんですか????

気になってえちちモーニングでスッキリしてしまいそうです

 

 

0127:名無しのリスナー

 

ラニちゃんの中身何者だ???

わかめちゃんと息ぴったりすぎね???

やっぱモリアキママ???

 

 

0128:名無しのリスナー

 

「ふふふ」って笑うラニちゃんかわいいけど「あはは!」って笑うラニちゃんの声すき

 

 

0129:名無しのリスナー

 

この年になってリアルエルフと妖精さんを目にするとは思わなかったなぁ……

妖精さんはユアキャスらしいけどほぼ実写じゃん……実質実在してるでしょ……

 

 

0130:名無しのリスナー

 

>>127

 

@morikasxxxx:カワイイむすめが増えましたp(・ω<)b

 

@morikasxxxx:うらやましいだろおまえら((^ω^≡^ω^))

 

@morikasxxxx:は?ラニチャンはパンツとかはかないですし(^ω^)?

 

 

ご本人ではないっぽいなぁ……

このタイミングで大ハシャギしてるし

 

 

0131:名無しのリスナー

 

>>128

わかる。子どもっぽい笑い声めちゃかわいい

 

 

0132:名無しのリスナー

 

そう!!!巫女服!!!!

 

 

0133:名無しのリスナー

 

よく突っ込んでくれた!!!!

このままスルーされっかと思ってたわ!!!!

 

 

0134:名無しのリスナー

 

コスプレって質感じゃ無いんだよなぁ

 

 

0135:名無しのリスナー

 

普通に考えてモリアキママの私物……とか?

神絵師はコスプレ衣装めっちゃもってるっていうし……

 

 

0136:名無しのリスナー

 

え、まってその巫女服フラグなの?

ただのコスプレじゃないの!?何か意味があったの!???!?

 

 

0137:名無しのリスナー

 

まって、まって、もしかして巫女服ってことはもしかしてわかめちゃんパンツはいてな

 

 

0138:名無しのリスナー

 

>>135

神絵師はコスプレ衣装買い込んでるって初耳なんだけど

何に使うの?まさか着るの???

 

 

0139:名無しのリスナー

 

ツルギさん!?!????

 

 

0140:名無しのリスナー

 

は?????地元やが?????????

 

 

0141:名無しのリスナー

 

マジかよわかめちゃん来てたの!?!?!???

チクショウいつだ!!鶴城さんめっちゃよく行くのに!!!!!!

 

 

0142:名無しのリスナー

 

動画をつくります、って……その報告のためだけにわざわざ用意したの?

やっぱ実は1000getのお祝いなのでは???

 

 

0143:名無しのリスナー

 

>>138

お絵描きの資料として参考にしたり……

あとは、ほら……あれだ。売り子の女のコに着せてアフt…………誰だこんなときに

 

 

0144:名無しのリスナー

 

鶴城さんなぁ……正直そこまで目新しさを感じない感

 

 

0145:名無しのリスナー

 

ワイ旅番組すき視聴者マン

鶴城神宮行きたいと思ってたから助かる

 

 

0146:名無しのリスナー

 

地元民にとってはぶっちゃけそんな大ニュースって程じゃ無いな

巫女服姿は御馳走様って感じだけど

 

 

0147:名無しのリスナー

 

宝物殿?

そんなんあるんか

 

 

0148:名無しのリスナー

 

は!??!??宝物殿撮ったん!?!??

すっげ…………よく許可出たな……

 

 

0149:名無しのリスナー

 

宝物殿ってあれ撮影禁止じゃ……

 

 

0150:名無しのリスナー

 

全三弾……すごい、がんばるなぁ

 

 

0151:名無しのリスナー

 

ホゲエエエ鶴城さん全面協力ってことじゃんつえええええ

 

 

0152:名無しのリスナー

 

やっぱかわいいは正義ってことか

わかめちゃんおねえちゃんかわいいもんな……おねがいされちゃったらな……

 

 

0153:名無しのリスナー

 

もう出来てるのwwwwwww

 

明日から順次公開wwwwwはええwwwwwww

 

 

0154:名無しのリスナー

 

宝物殿ggったんだけど

マジかよ太郎太刀見れんの!?!?

 

 

0155:名無しのリスナー

 

鶴城神宮宝物殿すげーな、刀剣だらけじゃん。刀源郷かよ

拝観料300円か……行ってみっかなぁ

 

 

0156:名無しのリスナー

 

いうてワイ地元だからなぁ……宝物殿も何回か見たし

わかめちゃんに会えるなら行ってやっても良いゾ

 

 

0157:名無しのリスナー

 

鶴城神宮全面バックアップってことは

まさかあの巫女服って本物?

 

 

0158:名無しのリスナー

 

まってwwwwwwwwwwwww

まっていまなんていったwwwwwww

っちょっとwwwwwwwwwwwwww

 

 

0159:名無しのリスナー

 

「そうなの」

 

は!?!???!???!??

 

 

0160:名無しのリスナー

 

そうなの!?!???!!?

巫女さんアルバイトすんの!?!?????!

 

 

0161:名無しのリスナー

 

マジかよ初詣鶴城さん行きます

 

 

0162:名無しのリスナー

 

まって待って待って待って行きたい行きたい待って待ってうそでしょまってちょっと

 

 

0163:名無しのリスナー

 

初詣行くかー!!!

 

 

0164:名無しのリスナー

 

おまえら初詣は鶴城さん行くか!!

覚悟は良いな!!俺はできてるぞ!!!

 

 

0165:名無しのリスナー

 

は??????まって?????

わかめちゃん会えるの???マ????

巫女服わかめちゃ会えるの???行きます

 

 

0166:名無しのリスナー

 

>>157

おめでとう……俺の分も堪能してきてくれ……

 

 

0167:名無しのリスナー

 

鶴城神宮ってどこだよ!!!

浪越市ってどこだよ!!!!(半ギレ

 

 

0168:名無しのリスナー

 

ふざけんなwwwwwwwこんな間際で年末の宿とか取れっかwwwwwww

ちくしょう…………リアルわかめちゃんが………

ママ………あいたいよママ…………( ;ω;)

 

 

0169:名無しのリスナー

 

なんで明神神宮じゃねええええの!!?!?

ちくしょう!!!浪越市きたねえ!!!!!!

 

 

0170:名無しのリスナー

 

ママーーーーーーー!!!!

おきなわにも来てママーーーーー!!!!

 

 

0171:名無しのリスナー

 

今日ほど浪越市在住で良かったと思ったことは無かった

 

 

0172:名無しのリスナー

 

隣県だし行ってみっかーー

年末年始なら電車あるっぽいし

 

生わかめちゃんのチャンスだしな……

 

 

0173:名無しのリスナー

 

これ絶対ぇ鶴城さん去年より混むじゃん

ええ……人混みやだ……でも生わかめちゃん……

ウウー

 

 

0174:名無しのリスナー

 

はたらくわかめちゃん楽しみ

絶対行くわ

 

 

 

………………

 

 

………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

 

 

 

0350:名無しのリスナー

 

休憩おわた

 

 

0351:名無しのリスナー

 

きちゃ

 

 

0352:名無しのリスナー

 

きた

 

 

0353:名無しのリスナー

 

おしっこしてきたかー?

 

 

0354:名無しのリスナー

 

わかめちゃんはかシコいからな

脳トレとか余裕だよな

 

 

0355:名無しのリスナー

 

先週は……不幸な事故だったね……

 

 

0356:名無しのリスナー

 

先週のは…………うん……よくがんばったよ

 

 

0357:名無しのリスナー

 

巫女服でHANZAI腰振りはダメだよなぁ

 

 

0358:名無しのリスナー

 

みんなやるやつwwwwwww

 

 

0359:名無しのリスナー

 

そっか…………グリーンバック使おうとすると…………わかめちゃんは……

 

 

0360:名無しのリスナー

 

ああそっかwwww髪緑色だもんなwwwwwww

 

 

0361:名無しのリスナー

 

謎の技術

しらたにさん強い……技術屋か?

 

 

0362:名無しのリスナー

 

研鑽された技術は魔法に等しいってそれ

 

 

0363:名無しのリスナー

 

みえるよー

 

 

0364:名無しのリスナー

 

みえるみえるバッチリ見える

その調子でぱんつも見せt

 

 

0365:名無しのリスナー

 

がんばえー

 

 

0366:名無しのリスナー

 

かしこい()エルフがんばって

 

 

0367:名無しのリスナー

 

「エルフの頭脳を見せてやりますよ!!」

 

またそうやって軽率にイキっちゃうんだから……すき

 

 

0368:名無しのリスナー

 

待って早い早い早い

 

 

0369:名無しのリスナー

 

はっやwwwwwww

 

 

0370:名無しのリスナー

 

はえええええwwwwww

ウッソだろwwwwwwwwwwww

 

 

0371:名無しのリスナー

 

毎秒2~3問ってどんな処理速度だよオオオオ!!?!??

 

 

0372:名無しのリスナー

 

おかしい待って、おかしいおかしい

待って

 

 

0373:名無しのリスナー

 

ぴろん!ぴろん!ぴろん!ぴろん!ぴろん!ぴろん!ぴろん!ぴろん!ぴろん!ぴろん!

 

 

0374:名無しのリスナー

 

はっやすぎだろwwwwwwwww

人間業じゃねえwwwwwwwwwwwwww

 

 

0375:名無しのリスナー

 

オイ誰だよ「かしこい()」とか言ってた奴は!!!

おれはしんじてたぞ!!!!(掌ドリル

 

 

0376:名無しのリスナー

 

これ反射神経と計算力か……すさまじいな……

 

 

0377:名無しのリスナー

 

つええええええええ!!!!

 

 

0378:名無しのリスナー

 

余裕のS判定wwwwwww

これぶっちぎちで最上ランクだろ

実質SSSSぐらい行ってるんじゃね?

 

 

0379:名無しのリスナー

 

恐れ入りました

 

 

0380:名無しのリスナー

 

やべえwwwwwwwwwwww

 

 

0381:名無しのリスナー

 

がんばえーーー!!

ままー!!がんばえーーー!!!

 

 

0382:名無しのリスナー

 

漢字はどうなんだろうな……

わかめちゃんにとっては難しい……か?

あれエルフって日本人か?

 

 

0383:名無しのリスナー

 

組み合わせるやつ

あーこれ俺苦手なやつだ……難しいやつ

 

 

0384:名無しのリスナー

 

さあ漢字は……どうだ?

 

 

0385:名無しのリスナー

 

まってまってまってまってまってwwwwwww

 

 

0386:名無しのリスナー

 

早い早い早い早い早い早い早いwwwwww

 

 

0387:名無しのリスナー

 

ファアアアアアアアアwwwwwww

 

 

0388:名無しのリスナー

 

もはや笑うしかない

 

 

0389:名無しのリスナー

 

川崎教授涙目wwwwwwwwwwww

 

 

0390:名無しのリスナー

 

 圧 倒 的 破 壊 力 

 

 

0391:名無しのリスナー

 

もう驚かない

 

 

0392:名無しのリスナー

 

やばすぎるだろこの幼女

 

 

0394:名無しのリスナー

 

ペンの動きが見えない

 

 

0395:名無しのリスナー

 

これは逆に引く

 

 

0396:名無しのリスナー

 

かわいいかしこいわかめちゃん!!

 

かわいいしシコいわかめちゃん!!

 

 

0397:名無しのリスナー

 

瞬発力と動体視力と……なんだ?

漢字知識はもちろんとして……判断力か?

 

 

0398:名無しのリスナー

 

 し

 っ

 て

 た

 

 

0399:名無しのリスナー

 

余裕のS判定

 

 

0400:名無しのリスナー

 

川崎教授涙目でしょこれwwwwwww

 

0401:名無しのリスナー

 

どこまでぶっちぎるのwwwwww

 

 

 

 

 

 

 





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【私は】木乃若芽ちゃんを語るスレ_第八夜【無実です!】そのに

 

 

0559:名無しのリスナー

 

待てお前……世界ランキングやぞ

 

 

0560:名無しのリスナー

 

二桁っておまwwwwwww

 

 

0561:名無しのリスナー

 

国内ランキング一桁で世界ランキング二桁……

やべーぞこの十歳児

 

 

0562:名無しのリスナー

 

誰だよ「かしこい(笑)」とか言ってた奴!!!!!

 

 

0563:名無しのリスナー

 

すごい

 

なんていうか……すごい

 

 

0564:名無しのリスナー

 

「エルフですから(ドヤ顔)」

 

あーーーークッソ可愛いんじゃァーーーー!!!

 

 

0565:名無しのリスナー

 

これはドヤっても許される戦果

控えめに言ってすごいわ

 

 

0566:名無しのリスナー

 

プレイ動画上げてるキャスターの中で一番じゃね?

 

 

0567:名無しのリスナー

 

よくがんばった

 

 

0568:名無しのリスナー

 

すごかった

 

 

0569:名無しのリスナー

 

クイズ番組でイキってる難関大学生()より絶対スゴいゾ

 

 

0570:名無しのリスナー

 

天才…………小学生、なのかなあ

 

 

0571:名無しのリスナー

 

感動した

 

 

0572:名無しのリスナー

 

先週の悲劇とはえらい違いだ

 

 

0573:名無しのリスナー

 

いかないで

 

 

0574:名無しのリスナー

 

おわかれやだ

 

 

0575:名無しのリスナー

 

いかないで

 

 

0576:名無しのリスナー

 

おうたちょうだい

 

 

0577:名無しのリスナー

 

ママおうた!!おうた!!!

 

 

0578:名無しのリスナー

 

いかないで

まだいっちゃだめ

 

 

0579:名無しのリスナー

 

キャーーーーーシラタニサーーーーーン!!!!

 

 

0580:名無しのリスナー

 

ナイスゥ!!!!!

しらたにさん最オブ高かよ!!!!

 

 

0581:名無しのリスナー

 

ナイスフォロー!!!

シラタニさんよくわかっておられる……

 

 

0582:名無しのリスナー

 

>>578

でもわかめちゃんは正直すぐいっちゃうとおもう

 

 

0583:名無しのリスナー

 

やったあああああああ!!!!

おうたの時間だアアアアアア!!!!

 

 

0584:名無しのリスナー

 

ちゃんとおうたの時間やってくれるわかめちゃんやさしい……

おねえちゃん……おうたちょうだいおねえちゃん……

 

 

0585:名無しのリスナー

 

民謡ktーーーーーーー

 

アカペラ生歌ktーーーーーーー

 

 

0586:名無しのリスナー

 

わかめちゃんのおうたたすかる

 

 

0587:名無しのリスナー

 

 

 

0588:名無しのリスナー

 

鰤の国がやらかしたやつか……

 

 

0589:名無しのリスナー

 

オールドラングサイン……

へー初めて知った

 

 

0590:名無しのリスナー

 

>>582

わかる

エルフ娘は敏感って相場が決まってるもんな

 

 

0591:名無しのリスナー

 

スコットランド民謡だったの……

 

 

0592:名無しのリスナー

 

ええ、日本人作曲じゃなかったんか

 

 

0593:名無しのリスナー

 

さすがかしこい

 

 

0594:名無しのリスナー

 

鰤の国ェ…………

 

 

0595:名無しのリスナー

 

シラタニサンの配慮たすかる

 

 

0596:名無しのリスナー

 

あぁ…………

 

 

0597:名無しのリスナー

 

尊い……

 

すき…………

 

 

0598:名無しのリスナー

 

ありがとう

 

 

0599:名無しのリスナー

 

声きれい

 

 

0600:名無しのリスナー

 

声すき…………

 

 

0601:名無しのリスナー

 

英語……スコットランド語?

外国語発音きれい

 

 

0602:名無しのリスナー

 

本当つええな……何者だよこの幼女

 

 

0603:名無しのリスナー

 

ママぁ…………おっぱい……

 

 

0604:名無しのリスナー

 

しらたにさん……かえってきて……

 

 

0605:名無しのリスナー

 

そりゃほめるに決まってんだろ!!!

わかめちゃんのおうただぞ!!!!

 

 

0606:名無しのリスナー

 

おんがくのじゅぎょうはじまた

 

 

0607:名無しのリスナー

 

わかめちゃママせんせえ!!

 

 

0608:名無しのリスナー

 

わかめちゃんせんせえ!!!!

 

 

0609:名無しのリスナー

 

音楽室wwwwwww

(幼)女教師わかめちゃんすき(巫女服だけど)

 

 

0610:名無しのリスナー

 

そんな内容だったのwwwwwww

 

 

0611:名無しのリスナー

 

おめでたいときに歌うの!?!??

 

 

0612:名無しのリスナー

 

鰤の国…………嫌われとったんか……

 

 

0613:名無しのリスナー

 

おめでたいときに歌う歌で盛大に送り出したのwwww

 

 

0614:名無しのリスナー

 

鰤の国もなかなかだったけど

見送ったその他の国々もなかなかやりおる

 

 

0615:名無しのリスナー

 

男♂同士……(トゥンク

 

 

0616:名無しのリスナー

 

「男同士……良いですよねぇ……」

 

わかめちゃん?

 

 

0617:名無しのリスナー

 

わかめちゃんが腐ってるわけないやろ

らにちゃんと毎晩くんずほぐれつしとるんやぞ(風評

 

 

0618:名無しのリスナー

 

やっぱ蛍の光だよなぁ

そっちの印象のが強いわ

 

 

0619:名無しのリスナー

 

そうそう、蛍の光歌って送り出すって聞いて

最初「粋なことするやん」って思ってたわ

 

 

0620:名無しのリスナー

 

蛍の光

 

 

0621:名無しのリスナー

 

マ!?!???

 

ママ!!??!?

 

マ!!!!??

 

 

0622:名無しのリスナー

 

蛍の光!!!!

おかわり!!!!

 

 

0623:名無しのリスナー

 

オカワリダァァァァァアァアァアアア!!!!

 

 

0624:名無しのリスナー

 

 ぽ や お ま

 ん っ か さ

 ぽ た わ か

 こ ぜ り の

 

 

0625:名無しのリスナー

 

今年度で高校卒業のワイ歓喜

 

 

0626:名無しのリスナー

 

ほーたーるのーひーかーり

 

 

0627:名無しのリスナー

 

あかん……泣けてきた

 

 

0628:名無しのリスナー

 

あっ、これやばい……

これやばい…………

 

 

0629:名無しのリスナー

 

尊い

 

なみだでてきた

 

 

0630:名無しのリスナー

 

二番……

さきくとばかりうとうなり好き

 

 

 

0631:名無しのリスナー

 

こころに染み入る

 

 

0632:名無しのリスナー

 

ふぁ

 

 

0633:名無しのリスナー

 

え、なにそれ

 

 

0634:名無しのリスナー

 

三番!?

 

 

0635:名無しのリスナー

 

え、三番なんてあったん?

二番までだと思ってた

 

 

0636:名無しのリスナー

 

ほへ……三番なってあったんか

 

 

0637:名無しのリスナー

 

四番!?!?

 

 

0638:名無しのリスナー

 

はじめてきく

 

 

0639:名無しのリスナー

 

四番なんてあったん!?!???

 

 

0640:名無しのリスナー

 

何て言った?沖縄?

 

 

0641:名無しのリスナー

 

待って俺知らねえ

そんなの俺知らねえ

 

 

0642:名無しのリスナー

 

おわった

四番まであったんか……

 

 

0643:名無しのリスナー

 

よかった俺だけじゃなかった

米欄も混乱してるやつ多くてちょっと安心

 

 

0644:名無しのリスナー

 

わたしです!!!

はじめてききました!!

 

 

0645:名無しのリスナー

 

よくわかんないけど尊いってことはよくわかった

 

 

0646:名無しのリスナー

 

解説たすかる

 

 

0647:名無しのリスナー

 

板書wwwwwww

最初からおうたシてくれる気だったのね!!!!

そういう所やぞわかめちゃ!!!すき!!!!!

 

 

0678:名無しのリスナー

 

板書たすかる

 

 

0649:名無しのリスナー

 

ここはしってる

 

 

0650:名無しのリスナー

 

蛍雪の功わかる

 

 

0651:名無しのリスナー

 

二番が好きだなぁ……

本当卒業式にピッタリって感じ

 

 

0652:名無しのリスナー

 

深い

 

 

0653:名無しのリスナー

 

作詞者ほんと頭エエんやな……

 

 

0654:名無しのリスナー

 

ここから問題の

 

 

0655:名無しのリスナー

 

なんか一気に物々しくwwww

 

 

0656:名無しのリスナー

 

あーこりゃ学校で教えませんわ……

腐ってっからなぁ日◯組……

 

 

0657:名無しのリスナー

 

なんか納得してしまった

教わんなかった理由がわかったわ

 

 

0658:名無しのリスナー

 

◯教組ェ……

 

 

0659:名無しのリスナー

 

解説たすかる

初めて教わるわ

 

 

0660:名無しのリスナー

 

つくしVS陸奥

 

 

0661:名無しのリスナー

 

意外と分かりやすい

結構そのまんまの意味じゃん

 

 

0662:名無しのリスナー

 

四番これは

 

 

0663:名無しのリスナー

 

四番……

こわいのでwwww確かに……触れんとこ

 

 

0664:名無しのリスナー

 

政治問題はなぁw

触れないのが正解

 

 

0665:名無しのリスナー

 

八島作戦……!?

 

 

0666:名無しのリスナー

 

やおよろずの八ってそういうことやったんか!!!

 

 

0667:名無しのリスナー

 

八が末広がりって漢字のことか

 

今打ち込んでてやっとわかったわ

 

 

0668:名無しのリスナー

 

ご安全にwwwwwwww

 

 

0669:名無しのリスナー

 

「ご安全に」は草

 

 

0670:名無しのリスナー

 

ご安全に!!!!

 

 

0671:名無しのリスナー

 

日本の領土ヨシ!!!

 

 

0672:名無しのリスナー

 

日本ヨシ!!!!

 

 

0673:名無しのリスナー

 

指差呼称好きだなお前らw

ご安全に!!!

 

 

0674:名無しのリスナー

 

恙無く!!!

 

……やっぱしっくり来ないな!

ご安全に!!!

 

 

0675:名無しのリスナー

 

しかし言ってることマトモやん

領土問題うんぬんはあるけど、それ以外は普通のこと言ってるだけやん

や◯教糞

 

 

0676:名無しのリスナー

 

そうだよなぁ……税金払ってるだけでも国のために働いてるんだもんなぁ

なにも過激なこと言ってないじゃんな

 

 

0677:名無しのリスナー

 

今年度で高校卒業のワイ号泣

 

 

0678:名無しのリスナー

 

改めて聞くと本当良い歌だな……

作詞したひとにも感謝だし、わかめちゃん先生にも感謝だわ

 

 

0679:名無しのリスナー

 

これは泣けるやつじゃん……

離ればなれになっても達者でな、ってことでしょ

 

>>677

おめでとう。努めよ兄弟。

 

 

0680:名無しのリスナー

 

>>677

おめでとう。恙無く

 

 

0681:名無しのリスナー

 

>>677

わかめちゃん先生に感謝しないとな

おめでとう

 

 

0682:名無しのリスナー

 

いやwwwwまだ十二月だがwwwwwww

 

 

0683:名無しのリスナー

 

>>679-681

ありがとう…………!!

そしてわかめちゃん先生ありがとう!!!

 

まぁまだ三ヶ月先なんだがな!!!

 

 

0684:名無しのリスナー

 

>>679-681

そのヌクモリティ嫌いじゃないが……

落ち着け。まだ師走だ

 

 

0685:名無しのリスナー

 

>>683

良い子だなお前

いい大人になるぞ

 

 

0686:名無しのリスナー

 

ヨナ抜き………

 

だめだよ……ヨナは抜いちゃだめ……

ヨナのクッキー……

 

 

0687:名無しのリスナー

 

にげはじダンスわかめちゃんは!?!!?

おどりのじかんは!!!!

 

 

0688:名無しのリスナー

 

ホヘェーまじか千本桜

やっぱ作曲とかするひとは色々考えてるんやなぁ

 

 

0689:名無しのリスナー

 

>>0683

卒業式のときにわかめちゃん先生のおうた流してもらおうな……

 

 

0690:名無しのリスナー

 

全く何も関係無いハズなのに『ヨナ抜き』過剰反応して死にかけてるの俺だけじゃなかった

 

 

 

 

………………

 

 

………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

 

 

0943:名無しのリスナー

 

ヴィーャ!!!

 

 

0944:名無しのリスナー

 

いかないで

 

 

0945:名無しのリスナー

 

いかないで……

 

 

0946:名無しのリスナー

 

おわってしまった

 

 

0947:名無しのリスナー

 

ヴィーャ……!

 

 

0948:名無しのリスナー

 

おわってしまった……

なんかめっちゃ濃い配信だった

 

 

0949:名無しのリスナー

 

ママ……あいたいよママ……

 

 

0950:名無しのリスナー

 

わかめちゃんロスが深刻なのでえちちモーニング見てこよう……

 

 

0951:名無しのリスナー

 

わかめちゃん先生すき

校舎裏で告白したい

 

 

0952:名無しのリスナー

 

とりあえず年始の予定立てんとな……

初詣同士おるか?

 

 

0953:名無しのリスナー

 

えちちモーニングのおかげでむすこが元気です

 

 

0954:名無しのリスナー

 

らにちゃん可愛いなぁ……時折チラするチラ部分たまらん

 

 

0955:名無しのリスナー

 

えちちモーニング海外ニキにも人気らしいぞ

あんな健全動画をお気に入りするとか海外ニキもなかなかにやりおるマンだわ

 

 

0956:名無しのリスナー

 

えちちモーニングで通じてしまうの海草生えるんだが

 

 

0957:名無しのリスナー

 

ユースクさん太っ腹だよな……場所が場所ならセンシティブ指定されてもおかしくねえぞあの動画

 

 

0958:名無しのリスナー

 

鶴城神宮かーーー行くかーーーー

 

 

0959:名無しのリスナー

 

年明けた直後は悲惨なくらい混むだろうから

零時ちょっと前にわかめちゃん拝みに行く作戦

 

 

0960:名無しのリスナー

 

とりあえずは今晩もわかめちゃんとらにちゃんが同じベッドで抱き合って眠ってるんだろうなって言う妄想で行こうと思います

 

 

0961:名無しのリスナー

 

>>950

スレ頼むぞ

 

>>954

わかる、ラニちゃんのヒラヒラからのチラチラぐうえっち

 

 

0962:名無しのリスナー

 

ヘィリィっていう挨拶すき

ヴィーャは何かちょっとつかいづらい

 

 

0963:名無しのリスナー

 

とりあえずわかめの光ぶぶんを切り出して卒業式で流してあげてほしい

 

 

0964:名無しのリスナー

 

最近わかめちゃんSNS(つぶやいたー)がんばってるからな……ほめてあげような……

 

 

0965:名無しのリスナー

 

つぎのヘィリィはやくほしい

 

 

0966:名無しのリスナー

 

おわってしまった……うう……おねえちゃ…………

 

 

0967:名無しのリスナー

 

ワイ浪越市民だけど鶴城さんシリーズたのしみ

わかめちゃん編集技術じみに高ぇもんな……

 

 

0968:名無しのリスナー

 

>>963

わかめの光は草生える

いや海草生える

 

 

0969:名無しのリスナー

 

最近わかめちゃんじわじわ人気出てきてるみたいでうれしい

SNS(つぶやいたー)でもわかめ料理ちょくちょく見るようになったしな……

 

シェフのえちちちは別腹だが

 

 

0970:名無しのリスナー

 

毎回おうたくれるわかめちゃんすき

 

 

0971:名無しのリスナー

 

【ご安全に】木乃若芽ちゃんを語るスレ_第九夜【ってやつです】

htfps://ch_fiction/indextop/qawsedrftg201912aw/yo14117/

 

わが背どもよ、恙無く立て終えたで

 

 

0972:名無しのリスナー

 

休日入り前にこんないい気分味わえるとか最高だな!!

 

 

0973:名無しのリスナー

 

浪越市民いいなぁ……

わかめちゃ本当に浪越市在住なのかな……

 

 

0974:名無しのリスナー

 

>>971

あざーーす!!

恙無く!!!

 

 

0975:名無しのリスナー

 

わかめちゃんとらにちゃんがラブラブなので見ててとても興奮します。

つぎの絡みがたのしみです。

ぼくはげんきです。

 

 

0976:名無しのリスナー

 

わかめちゃんありがとう

本当にありがとう

 

 

0977:名無しのリスナー

 

>>971

スレ立て乙

わかめちゃん語彙まとめとかも作りたいな

ぷちさんじwikiみたいな

 

 

0978:名無しのリスナー

 

>>971

乙乙

恙無く!!!

 

 

0979:名無しのリスナー

 

1000ならわかめちゃんのわかめ無し酒

 

 

0980:名無しのリスナー

 

>>971

恙無く。

 

>>977

見てて飽きないもんなぁあの子

情報まとめwikiとか作りたいわね

 

 

0981:名無しのリスナー

 

次スレ立ったけどそこまで焦って埋めなくても良いかね

次の生わかめ来週だろ?

 

 

0982:名無しのリスナー

 

あぁ…………やっぱ巫女服わかめちゃん良いわ……

 

 

0983:名無しのリスナー

 

別にコスプレ定例化っていうよりは、今回だけ特別ってことなんかな……

 

 

0984:名無しのリスナー

 

1000なら絆創膏

 

 

0985:名無しのリスナー

 

1000ならスク水

 

 

0986:名無しのリスナー

 

1000なら絆創膏

 

 

0987:名無しのリスナー

 

わかめちゃんのおうたまとめCD出たら買う

 

 

0988:名無しのリスナー

 

モリアキママにわかめちゃんの何かをつくってほしい

公式に貢ぎたい

 

 

0989:名無しのリスナー

 

1000ならメイド服|(ロングスカート)

 

 

0990:名無しのリスナー

 

1000ならチアガール

 

 

0991:名無しのリスナー

 

1000ならウェディングドレス

 

 

0992:名無しのリスナー

 

1000なら裸オーバーオール

 

 

0993:名無しのリスナー

 

1000なら直穿きスパッツ

 

 

0994:名無しのリスナー

 

1000ならメイド服

 

 

0995:名無しのリスナー

 

らにちゃんはさすがにコスプレ出来ないよなぁ……

 

 

0996:名無しのリスナー

 

明日から三日連続動画投稿たのしみ

わかめちゃんむりしないでね

 

 

0997:名無しのリスナー

 

1000ならマイクロビキニ

 

 

0998:名無しのリスナー

 

悪名高き1000踏み潰しニキが諦めた今が勝機よ

 

1000なら2Bコス

 

 

0999:名無しのリスナー

 

1000なら絆創膏!!!

 

 

1000:名無しのリスナー

 

>>996

個人勢だから生活かかってるんやろなぁ……

必死にならなきゃならんのはわかるけど、確かに無理はしないでほしい

わかめちゃんになんとか、イヤらしくない方法で貢げないもんかね

 

 

1001:

 

このスレッドは1000を越えました。

次回の放送をお楽しみに!

 

 





どうか恙無く。


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106【配信終了】反省会はじめ


私事ではありますが、
なんと評価ポイントが2,000pt到達してました!!

いつも拙作にお付き合いいただき、
本当にありがとうございます!!



 

 

 金曜の夜、およそ二時間の長丁場。ひと仕事終えて全身の力を抜いたおれは、とりあえず巫女装束を脱いで楽な部屋着へと着替えていた。

 ハンガーに掛けた巫女装束一式は、白谷さんがひとつひとつていねいに【浄化(リキュイニーア)】と【洗浄(ヴァッシュラー)】を掛けてくれている。なんか妙に近づいてるし、おまけにお鼻をすんすんしてるような気もするが……きっと気のせい、見間違いだろう。疲労と興奮のせいに違いない。

 

 とりあえずSNS(つぶやいたー)のほうには、配信終了ありがとう投稿も投げておいた。……ついでにモーニングルーティーンもう一回宣伝しとこ。

 とりあえずは以上をもって、今日の対外的おつとめはすべて終了したこととなる。おれは昂っていた心を鎮めるため、レンチンしたホットミルクをちびちびと(すす)っていた。

 

 

「巫女服、ありがとね白谷さん。ホットミルク飲む?」

 

「飲む飲む。こっちのミルクって臭みが無いし、めっちゃおいしいんだよね」

 

「ほへぇ、そうなんだ? 火傷しないようにね」

 

 

 白谷さん専用のマグカップ(というか、喫茶店とかでコーヒーに入れる別添ミルクを提供するときの、あのちっちゃい器)でおれのカップからホットミルクを汲んで、周りを除菌タオルでぐるりとぬぐってから白谷さんへ渡す。

 ちょっとお行儀の悪い注ぎ方だ、という認識はあるのだが……あの小さい器に牛乳パックから注ぐのは至難の技だし、あの器だとレンチンの加減も難しいので仕方無い。あの少なさでは一瞬で沸騰してしまう。

 白谷さん本人も納得してくれてるので、おれたちはこれで良いのだ。

 

 それにしても、あの器……ああもう、いいや。ラニカップを両手で抱えて、ちびちびとミルクを飲む妖精さん。

 控え目に言って、クソ可愛(カワ)である。

 

 

 

 

「とりあえず……九十五点かな」

 

「んぐっ、こくん……ぷゃっ。……そうお? ボクは百点満点だったと思うけど」

 

「内容はほぼほぼ問題なかったし、満点だと思うんだけどね……時間が」

 

「あぁ、急遽日本語版のも増やしたやつね。ちょっとびっくりしたけど……まぁ、確かに()()を入れなかったらピッタリ予定通り(オンスケ)だったか」

 

「そうなんだよね。……なんかね、なんかわかんないけど……今入れなきゃいけないような気がしたんだよなぁ、『蛍の光』」

 

 

 おうたのコーナーを最後に持ってくることは予定調和だったが……メロディラインは同一とはいえ、二曲分披露するのは少々予定外だった。

 二曲目の『蛍の光』とその歌詞解説が追加された分、事前に立てておいたタイムスケジュールからそれだけ逸脱することとなってしまい……配信動画の尺も、百二十分に収めることが出来なかったのだ。

 

 ただまぁ……逆に言えば、()()()()なのだ。

 完全個人勢のおれは企業の雇われ配信者(キャスター)ではないので、タイムスケジュール管理なんかは百パーセントおれの好きに出来る。

 そもそもペナルティなんか生じるはずも無いし、時間超過分の割り増し費用が生じるわけでもない。ぶっちゃけ軽く数時間超過しても、本来何も問題は無いのだ(体力面を除く)。

 予定していた時間通りに収まらなかったというのは、完全におれの独りよがりに過ぎない……不要なこだわり部分なのだろう。

 

 

「まぁでも、概ね良い感じの内容だったね。視聴者さんの反応も上々……ふふふ、よかったねラニ。可愛いって」

 

「当然。ノワとモリアキ氏が手掛けた『白谷さん』だもんね」

 

「モリアキ神マジぱないよな……っと。…………やっぱだ。『二人ともお疲れ様! 今日もかわいかったっすよ!』だって。噂のモリアキ神から」

 

「おお、律儀だね彼も。……彼からもお叱りが無いなら、やっぱ何も問題無いんだよ。良く頑張った」

 

「えへへ…………」

 

 

 金曜夜の生配信を乗り切り、明日からは三日連続で動画投稿の予定だ。

 動画そのものの完成度は、現段階で八割ほど。朝起きて作業に取りかかれば……うん、昼頃には完成させられるだろう。

 投稿予定時刻は、とりあえず十七時頃を目処に考えている。時間的スケジュール的にも問題は無さそうだ。

 

 …………なので。

 

 

「よし……とりあえずお風呂はいって寝よう。もう夜遅いよ、零時なっちゃう」

 

「そうだね。背中流すよ」

 

「んぅ…………じゃあ、お願いしよっかな」

 

「まーかせて。なんなら前も洗おっか?」

 

「そッ!!? それわ丁重にこことわりします!!」

 

「遠慮しなくて良いのに~」

 

 

 そんなとりとめのない会話を交わしつつ、お湯張りスイッチを押す。お風呂に入れるようになるまで二十分程度は時間があるので、飲み干したホットミルクのカップを洗ってしまう。

 

 以前であれば、当然だがこの部屋の住人は……おれ一人。

 ほほえましく暖かい会話を交わす相手も居なかったし、洗い物をしながらこんなにニコニコ顔になることも無かっただろう。

 

 ……単身向け物件の貸借契約上、同居人との同居が問題になる可能性は無きにしもあらずだが……まぁ、そこは今更だ。フェアリーだもんな。

 人間種の法律がそのまま適応されるとは思えないし……要するに、バレなければ良かろうなのだ!

 

 

 

「ねぇノワ、パンツこれでいい? ピンク」

 

「やだよ青がいい! ピンクなんてそんなガーリーな!」

 

「ガーリーも何も……ノワは可愛いエルフガールじゃない。いい加減諦めたら?」

 

「そう簡単には諦めません!! おれはブルーがいいの!! ブルーは男の子の色なの!! だからおれは男の子!! いいね!!」

 

「はいはい。かわいいブルーのおんなのこショーツね。わかったわかった」

 

「きぃぃぃぃ!!」

 

 

 ……少々、いたずらっぽくて掴み所がないところがあるとはいえ。

 日常生活を程よく依存でき、ときに助け助けられ、苦楽を共にできる相棒がいるっていうのは……良いものだ。

 

 




反省会おわり!


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107【年末騒動】きょうは遅番です

 

 

 いきなりだが……今日はいよいよ大晦日。十二月の三十一日だ。

 今晩から明日にかけて、激闘が待っている。昨晩はちょっと夜更かしをして、今朝は気合いを入れて遅くに起き、食事と身支度を済ませ……時刻はそろそろ十五時といったところだ。

 

 

 ここ数日のおれの動きを振り返ると……朝は健全な時間に起きて、午前中は動画の編集をがっつりと行い、お昼を挟んだ午後は()()()()鶴城(つるぎ)神宮にて助勤(アルバイト)の研修を受け、夕方帰宅して『鶴城(つるぎ)さんシリーズ』動画を投稿し、それ以降はSNS(つぶやいたー)で投稿動画の宣伝やコメント返しをこれでもかと投稿しまくり、頃合いを見計らってモリアキを交えてネット通話会議を行い、その後はお風呂に入って二十三時頃に就寝……という日々を、まる三日間続けていた。

 

 我ながらあくせく動き回った三日間であり、来年に取りかかる新しい動画や実況配信のアイデアもいくらか捻り出すことが出来た。

 もちろん先日の配信で宣伝した『鶴城(つるぎ)さんシリーズ』動画も、三日連続で予定通りに公開。

 ジャンルごとにそれぞれ特化させた動画は狙い通り、それぞれを好む層へときちんと届いていたらしい。……やっぱりグルメ系は強いな。良いデータがとれた。

 

 

 そして……そんな中でも堅実に打ち込んできた、巫女さん助勤(アルバイト)の研修。シロちゃんが付きっきりで手取り足取り教えてくれたこの三日間の成果が……いよいよ今日、発揮されようとしているのだ。

 ちなみに残念ながら『腰取り』は教えてくれなかった。当たり前か。シロちゃんが無菌清廉すぎたのだ。

 

 

 

「あー緊張してきた……おしっこ出そ」

 

「今のうちに出しちゃいなよ。ノワどうせ我慢できないんだから」

 

「ヒトをおもらし娘みたいに言わないでくれますかァー!?」

 

 

 白谷さんの開いた【門】をくぐる直前になってもよおしたおれに対し、至極真っ当なツッコミが入れられる。

 身も蓋もない言い方に少々カチンときたのは確かなのだが……これからおよそ二日間の長丁場なのだ。その間お手洗いのお世話になるのは間違い無いので、ならばとりあえず出勤前に済ませてしまおうというのは非常に理にかなっている。

 

 口では反論を述べつつも身体の方は正直である。やっぱり出そうな感じになってきたので慌てて身を翻し、ドアを開けて自宅のお手洗いへと駆け込んだ。

 

 

「うう……仕事中はお水、あんま飲みすぎないようにしないと」

 

「難しいとこだよね。喋りっぱなしだと喉も乾くから水飲まないわけにはいかないし」

 

「そうなの……まあ一時間くらいごとに小休憩あるらしいし、そこまで耐えられれば…………コミケよりはマシだ」

 

「コ、ミ……? まぁ、無理しない程度に頑張って。無事を祈るしかできないけど……精一杯祈るから」

 

「ありがと……ごめん白谷さん、おまたせ」

 

「ううん、今来たとこ」

 

 

 洗浄レバーを押し下げ、通勤用のキュロットを穿き、今度こそ準備は万端である。

 小走りでリビングに開かれた【門】へと駆け、貴重品やスマホ等を詰めたショルダーポーチを引っ掴んで……白谷さんと一緒に飛び込む。

 

 

 足場が無くなり、身体がななめ上方へと引っ張られるような……なんともいえない一瞬の浮遊感。

 このあたりの制御は全て白谷さんが担ってくれているので、彼女と離れてしまえば確実に大変なことになるだろう。……こわ、離れんとこ。

 

 

 

「……よっし。はい到着!」

 

「ありがと白谷さん。こんにちわ、シロちゃん」

 

「はい。ご機嫌うるわしゅう、ワカメ様。今日もお綺麗でございまする」

 

「ぐぬぬ」

 

 

 幼さの残る顔立ちながら非常に上品な笑みを浮かべ、シロちゃんは全く悪びれずにサラッとおれの心をえぐっていく。

 ……いや、わかってる。これは純度百パーセントで善意から来るものだ。『お綺麗ですね』というのは間違いなく女性に向けるべき褒め言葉であり、シロちゃんがおれに向けて()()を用いたということはつまりそういうことであって、おれの心の中の男性部分がゴリゴリと削り取られていく様子がありありと浮かぶようなのだが……

 大丈夫大丈夫……彼女が善意でもって接してくれる以上、彼女に何を言われようとおれが気にする必要はない。彼女はとっても良い子なのだ。

 

 

「シラタニ様も、ご機嫌うるわしゅう。本日は何卒、よろしくお願い申し上げまする」

 

「おはようシロちゃん。今日も可愛いね!」

 

「っ、そんな……わたくしなど、勿体なきお言葉にございまする」

 

「いいや! シロちゃんは可愛いね! 顔立ちは整ってるしおめめぱっちりだし鼻筋きれいだし髪きれいだしほっぺやわらかそうだし! マガラさんもそう思うよね!?」

 

「ッ!? …………む、ゥ……?」

 

 

 おれたちの()()察知し(嗅ぎ付け)て、わざわざ出迎えに来てくれたのだろう。

 部屋の入り口の襖を開け、浅葱色の袴を履いた年若い男性――()()()()の所属である神域(まわ)(かた)与力(ヨリキ)のマガラさん――が姿を表し……た瞬間おれに話題を振られ、鳩が豆鉄砲食らったような顔で硬直している。

 

 嗅覚だけでなく聴覚も抜きん出ている彼は、入室する前のおれたちの会話も把握しているのだろう。

 確かな期待を籠めたおれたちの視線と、困惑と焦燥に染まったシロちゃんの視線……三対の(見た目)女の子の熱い視線に晒された真摯で紳士な神使は……

 

 

「……まぁ…………左様、で……ございますな」

 

「マガラ様ぁ!?」

 

「……良い機会かも知れぬな。シロも俗界の装束を試してみると良い。望月(モチヅキ)浅間(アサマ)にでも持ち掛ければ、嬉々として見繕って()れよう」

 

「いいねそれ! ボクも協力するよ! ノワで試すつもりだった良い衣装があるんだ!」

 

「白谷さんあとで聞きたいことあるから! ……でも実際、シロちゃん着飾りたいなぁ……絶対可愛いもん。現状すでに激かわいいもん」

 

「…………そんな……わたくしは……」

 

 

 いちおう取引相手という立場であるおれたちの意をきちんと汲み取り、マガラさんは空気を読みつつ茶目っ気たっぷりに応じてくれた。

 おれたちの持ちかけた無駄話に乗りながらも、すべきことはきちんとこなす。軽く目蓋を閉じて、柏手を一拍。社務所の外から聞こえてきた様々な音が綺麗さっぱり『ぴたり』と止み……周囲一帯の空気があからさまに切り替わったのが、おれの素肌でも感じ取れる。ここ数日ですっかりお馴染みになった感覚だ。

 

 

「……さて。折角(せっかく)早くから足労賜ったが、未だ()が陰る(まで)は時間が在る。授与所の下見も必要で在ろうが……もう暫し後でも良かろう」

 

「えっ、と? じゃあ……時間まで何をすれば」

 

「…………折入って相談が在る。座ってくれ。……茶を出そう」

 

「あっ……ども」

 

 

 おれは言われるがままに座布団(めちゃくちゃ肌触りが良い)におしりを落とし、何も言われずとも壁際に控えるシロちゃんをしばしガン見する。

 おれの視線に気づいたシロちゃんが大変初々しく恥じらう様子を、しあわせな気持ちで堪能しながら待つこと数分……四人分の湯呑みと急須を丸盆に載せたイケメン神使が戻ってくる。

 ふらつきも震えも一切見られない、大変綺麗な所作で人数分のお茶を淹れてくれ……壁際のシロちゃんを手招きして座らせ、黙したまま四つの湯飲みをそれぞれの前へ。

 

 

 なにか言いたげに視線を巡らせ、一旦言い淀み……そして僅かな躊躇の後、意を決したように口を開く。

 

 

 

「…………自分なりに……旨いと思う葉を、見繕ってみた。……相談の前に…………その、感想を……聞かせて貰えると、有難い」

 

 

 

 ………………いや待て。

 待って。何、待って。かわいいかよ。

 

 本当この神使……まじ紳士だわ。

 

 

 



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108【年末騒動】あゝ哀しき同調圧力

 

 

「えーっと、つまり相談っていうのは……【変化】のまじない? が込められた髪留めを支給するので、それでおれに黒髪を装ってくれ…………ってこと?」

 

「……左様。……申し開き様も無い。一方的かつ後付での契約条件変更など、誉められた事では無いと理解して居るが……」

 

「あー……なぁるほど、やっぱこうなったか……」

 

「…………えーっと?」

 

 

 マガラさん特製のトテモメッチャオイシイ茶を堪能したおれたちに、苦々しさを滲ませたマガラさんより告げられた……折入っての相談。

 いったい何事かと身構えていたおれに告げられたその内容とは、要するに『黒髪になってくれ』といったものだった。

 

 

「いや、ね。ボクもノワがどんなお仕事するのかなって……タブレットとか借りて、巫女さんのアル……助勤、について調べてみてたんだけどさ? …………どこの神社もものの見事に『黒髪』指定なんだよね」

 

「然り。……知我麻(チカマ)殿も幾度と無く、(それ)こそ今しがたも訴求を試みて居られたのだが……」

 

「あーなんかわかった気がする。連盟……ていうのかは解らないけど、なんか横の繋がりから苦言を呈されたとか。もしくは上から『待った』が掛かったとか」

 

茶髪(ブラウン)でさえ難色示されるらしいし……そんな中で緑の髪だもんね」

 

「生配信で大々的に告知しちゃったもんね、おれが『鶴城さんで助勤やる』って。……問い合わせっていうか、『緑髪なんて相応(ふさわ)しくない!』的なクレームとか入っちゃった系かなぁ」

 

「……面目無い」

 

「うぅ……申し訳()うございます」

 

「「いやいやいやいやいやいや」」

 

 

 いかにも申し訳なさそうに頭を下げるマガラさんと、その横で同じく『しゅん』として項垂れるシロちゃん……特にシロちゃんに至っては、頭上の三角耳も『しゅん』と萎れてしまっていて、たいへん可愛らし…………もとい、たいへん可哀想である。

 

 そもそも、二人……というか、鶴城(つるぎ)さんには何も落ち度は無い。宮司のチカマさんに至っては、最後の最後ギリギリまで『なんとかしよう』としてくれていたらしいし……感謝こそすれ、恨むなんてことがあるハズが無い。

 

 そもそも……容姿が()()()であるおれが、無理を言って採用していただいている側なのだ。

 

 

「自分の髪色がそぐわないっていうのは、充分理解してます。そのままで行けるならそれで良かったですけど、ぶっちゃけ数日だけ染めることも覚悟してたので……【変化】のまじないを借りられるなら、それがいいです。髪も傷まないだろうし」

 

「……其所(ソコ)は、御安心戴けるかと。シロ達も常用する装具に御座います(ゆえ)

 

「あぁー……そういうことだったんですね。何でシロちゃんがチカマさん呼びに行けたのかって、割と不思議に思ってたんですよ」

 

 

 ともあれ、どうやらこれでおれも黒髪巫女エルフになれるらしい。

 おれの特徴的な頭を探しに来てくれる(……と思う)視聴者さんには申し訳ないけど……SNS(つぶやいたー)での告知で気づいて貰えれば良いんだけどな……見てもらえるかな……。

 ……ううむ、やっぱ後日何らかの形でお詫びしないと。

 

 

「とにかく、仔細承知しました。わたしとしては何ら異存ありません。……予定通り、宜しくお願いします」

 

「……感謝、致します」

 

 

 

 その後は、あらためて当日……ていうか今日だな。今日明日の全体的な流れを確認させてもらった。

 おれを含む助勤(バイト)巫女さん軍団の勤務地は『授与所』という施設で、要するに御守りや御神籤を販売……もとい、頒布するところのようだ。

 

 また……これは覚悟の上だが、助勤(おしごと)そのものは()()の夕方まであるという。つまりは丸一日以上戦う必要があるわけで、かといってずっと戦い続けるのは……特に女の子にとっては、過酷というかふつうに無理。冗談や誇張じゃなく死んでしまう。

 そのためシフト制で休憩、ならびに食事や仮眠に行くことになるのだが……その際に解放されている関係者専用休憩室ならびに仮眠室も、この後ちゃんと案内して貰えるらしい。

 

 おれ一人だけの空間があるんだったたら、白谷さんの【門】で一時帰宅することも簡単なのだが……この最繁忙期に一人っきりになれることなんて無いだろう。ズルは出来ないと考えている。

 まぁ……色々と便利な魔法が使える時点で、だいぶズルっこなんだけどね。

 

 

「では……差し支え無ければ、装具の具合を見て頂けるだろうか。鶴城(ツルギ)の神気にて作動する装具(ゆえ)、ワカメ殿の纏う神気と干渉せんとも限らぬ」

 

「わかりました。お願いします。……そういえば、リョウエイさんは? お仕事中ですか?」

 

「…………龍影殿は……現在、御客様の応対中に御座います」

 

「お偉いさんだもんね。そりゃ忙しいか」

 

「アッ、そっか。大晦日だもんね。……えっと、じゃあ試着? お願いします」

 

「うむ。承知仕る。……シロ」

 

「はいっ! ではワカメ様、此方へ」

 

「マガラさん、お茶ごちそうさまです。失礼します」

 

「……御粗末様……である」

 

 

 シロちゃんに案内されるがまま、いつも更衣室として使わせて貰っている部屋へと移動する。

 おれたちの長い長い激闘の一日が、いよいよ始まろうとしているのだ。

 

 

 



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109【年末騒動】一方その頃

 

 

「……して、客人の様子はどうだ龍影(リョウエイ)。感付かれた様子は?」

 

「いえ、特には。今の処は問題無いかと」

 

中々(なかなか)に愛らしい見姿の化生だが……貴様は何とも思わぬか?」

 

「……いえ。率直に申しますと……『済まない事をしたな』と」

 

呵々(カカ)! ……心配するな、()()何もして居らぬ。貴様が気に病む(いわ)れは無い」

 

 

 

 一年、三百六十五日の最後を飾る、十二月の三十一日……大晦日。

 翌日……それこそ数時間後には新年元日を控えているとあって、時と共に世間が慌ただしさを増していく現在。

 

 浪越市神宮区の一等地、人々から『鶴城さん』と呼ばれ親しみを受ける荘厳な社にて……とある密会が執り行われていた。

 

 

 

「ヨミ様の権能(チカラ)を疑う訳では無いのですが……本当に()()と云うのですか? 例の(わざわい)が」

 

「其の様だな。一方的な羨望を突き付けおった直後に、掌を返して()()()()()()()()だ。余程焦って居るのだろうよ」

 

態々(わざわざ)今日になって告げられた(ところ)に、引っ掛かりを感じざるを得ないのですが……」

 

()()! (ソレ)は単に()()めの力不足と云う奴よ。俗界の物事ならいざ知らず、此の地に由来せぬ事柄には、さしもの覗き魔も梃子(テコ)()るらしい。……まぁ我とて他神(タニン)の事は嗤えぬか」

 

 

 

 ただただ無駄に広い、それでいて人気(ひとけ)の全く無い板敷の広間。

 

 この場に居合わせる人物……いや()()()()()()()は、尋常ならざる気配をその身に纏う二人の男性のみ。

 

 

 

「他の依代候補は……()だ出雲か?」

 

「はい。鶴城へと移送するには……この時期も有りますので、七日程は掛かりましょう」

 

「ふゥム…………()()()()()()か」

 

「ええ、()()()()かと。……()()()中々(なかなか)良い()でした。……此処で絶たれると云うのは、矢張(やは)り残念ですが」

 

「……割り切るが良い。(そもそ)も『神』とは理不尽な存在(モノ)よ。好き勝手に振舞い、気紛れに暴れ、(いたずら)に贄を求む。暗澹たる海原の如く、何時(いつ)荒れ何時(いつ)凪ぐか杳として知れぬもの。……()風情(ふぜい)()()を測ろうなど、(そもそ)も無理な話よな」

 

「……特にあなた様に於かれては、ですか」

 

()()()! 解って居るでは無いか! 応とも。此度も我の()()()(ゆえ)、ヒトの子らには暫しの微睡(まどろみ)に浸って貰おうか!」

 

 

 

 どちらも古式ゆかしい装束を身に纏った、しかしその装いが決して不自然には映らない、堂々たる佇まいの男性が二人。

 それぞれの格好で板張りの床に腰を落とし、ヒトの気配も聞く耳も存在し得ない空間にて……上に立つ者ならではの、忌憚無き言葉を交わしている。

 

 一人は、鶴城神宮の治安維持担当。神域廻り方の元締を務める、長い黒髪を一つに括った優男。

 

 もう一方は……天真爛漫な稚児のように屈託無い笑みを振り撒く、未だ少年の域を出ないであろう風貌の小柄な男。

 

 きちっと背筋を伸ばした正座を決め込む優男に対し、胡座をかいた上で上体を感情のまま前後左右へ揺さぶる小柄な男。

 ……どちらが、どれほどまでに上位の存在であるのか、二人の間柄を知らぬ者にとっても一目瞭然の相対だった。

 

 

 

「……肝心の()()化生(ケショウ)の娘本人には、()露見(バレ)て無かろうな?」

 

「マガラが上手く取り成している筈です。……(いや)矢張(やは)り実に惜しい。堅物のあの子も、彼女には(ほだ)されて来て居たのですが」

 

「詫びはせぬ。其の(かわ)りとは云わぬが、貴様に【幽世】の行使を一時預けよう。……()()()()()()()()()()()()()()()()(えにし)の深き此の地が焼かれる様を、貴様とて見たくは在るまい」

 

(それ)は…………願ったり、ですが」

 

「今となっては……我を除き、貴様にしか十全には扱えまい。……我は愉しい愉しい『祭』に忙しいのでな。行使に際した()()()()()()()()()()()()()。上手く()れ」

 

「!! ……感謝、申し上げます。フツノ様」

 

「良い良い。貴様からの感謝など……今更よ」

 

 

 

 当事者不在のまま、酷く一方的に進められた……人間種などより遥か上位の存在による、この地の行く末を左右する会談。

 

 度々話題に上げられていた『化生(けしょう)の娘』……若葉色の髪と翡翠色の瞳、人間(ニンゲン)には有り得ぬ長い耳と呪われた力を持つ、今や異形の少女と成り果てたヒトの子。

 彼女がことの顛末、このとき交わされた密談の内容を知ることが出来たのは……全てがどうしようもない程にまで、遅きに失してしまってからだった。

 

 

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

 

「………………え? は!? ちょっ……も一回いいすかトミさん!?」

 

『いや、だからな……ウチの従業員……いや、元・従業員がやりやがったんだわ。前に撮った『わかめちゃん』の写真、アレの無断持ち出しが発覚した』

 

「…………このこと……セ、っ……わかめちゃんには」

 

『真っ先に伝えなきゃならんって解っちゃ居るんだが……予約のときの記載情報、アレお前のだったろ? 連絡先知らなかったのもあったし、写真の本人とお前とどういう関係か問い質されて……』

 

「っ、ぁ………………ちな、みに……持ち出し、って、どの程度の……」

 

『データ自体は、幸いってか触られた形跡が無かった。記録媒体(メディア)がオレの私物だったからだろな本来()められた()っちゃ無ぇんだけど! ヤられたブツはアレだ、ポートレート。六ツ切りの……ええと、B5くらいのヤツが三枚だ』

 

「…………データそのものじゃ無いなら……あぁでもスキャンしちまえば」

 

『そういうこった。取り敢えず動機が不純極まり無いってことで犯人は即日クビ切って、その後の沙汰をさあどうするかってトコだ。取り急ぎ当事者に報告と……謝罪が出来れば、って感じだな。盗られた写真も返還させたが、正直な所複製されて無いとも限らん。反則的に可愛いからな、あの娘は』

 

「ぐ、ゥ…………報告、すべきっすよね……ご本人」

 

『常識的に考えりゃモチロンそうだろうが……今、ってか明日の夜まで、()()だろ? あの子……』

 

「そうなんすよねェ……!! 先日聞いた話ではもう現地入りしてる時間ですし、お着替えしちゃったらスマホとか持ち歩いてないでしょうし……そもそも、こんなタイミングで伝えるべきなのかどうか……」

 

『デスマーチの直前にメンタル磨り減る案件とか……さすがにしんどいだろうな……申し訳無い』

 

「…………ああ、もう! とりあえずもう一人の保護者に相談してみますわ! オレ以上にあの子の事考えてくれるハズなんで!」

 

『すまん。落ち着いたら会社から直々に謝罪入れる。……後頼む』

 

「…………ウッス」

 

 

 電話を切り、大きく深呼吸。伝えるべきことと今伝えるべきではないことを頭の中で整理しながら、祈るような気持ちでコールボタンをタップする。

 耳に当てたスマートフォンから、無機質な呼び出し音が鳴る。二回、三回、四回、五回……やはり遅かったか、と落胆する直前。

 

 

『おほい? どしたモリアキ?』

 

「ッ!! 先輩スマセン! 今大丈夫すか!?」

 

『んー……?(ごめんシロちゃん、ちょっとだけ待ってもらっていい? ん、たぶん大丈夫。ごめんね)……大丈夫だって。でもおれちょっと精神的に立て込みつつあるから……』

 

「わかってます。……先輩、白谷さんちょっとだけお借りしていいっすか? 白谷さんに相談したいことがありまして」

 

『ほえ、モリアキん家行ってもらえばいい感じ?』

 

「そうっす。先輩お忙しいでしょうし、白谷さん一人ならフットワーク軽いかなって」

 

『確かになぁ。わかった、つたえとく。ほいじゃね』

 

「……頑張ってくださいね、先輩」

 

『…………おう! まーかせて!』

 

 

 

 通話が切断されたことを電子音が告げ、その音を合図とするかのように大きく深く深呼吸。

 ……直接伝えることは憚られるタイミングだが、完全に秘匿することもそれはそれでマズいだろう。

 

 オレ一人では……正直、正解を導き出せる自信が無い。

 普段は保護者を気取ってる癖に、肝心なところで役に立たない。そんな自分が嫌になるが……今は自己嫌悪に陥っている場合ではない。

 もうすぐ【門】を開き、ひょっこりと姿を現すであろう……先輩の頼れる『相棒』。彼女の助けを得るためにも、オレが正確な情報を伝えなければならないのだ。

 

 

 ああ……それにしても、時期が悪い。

 この年の瀬にこんな騒動なんて……年末年始何か良くないことが起こるんじゃないかと、そんな邪推も湧いて出てしまう。

 

 もっとも、これはただの思い込み。何の理由もない思い付きに過ぎないけれど。

 

 

 ……先輩、どうかお気をつけて。

 そう祈らずには、居られなかった。

 

 

 



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110【年末騒動】緊急出動だよ!

 

 

 冬の陽は短い。夕方五時も回れば、既に太陽は高度をかなりの低さまで下げてしまう。

 それに伴い当然周囲の明るさも失われていき……まだ夕方六時かそこらであるハズなのに、鶴城神宮最寄り駅である神宮東門駅のロータリーは不気味な暗がりで満たされていた。

 

 

「ノワ……大丈夫? 無理だけはしないで」

 

「…………ん。まだへいき。リョウエイさんがくれた『お守り』のおかげかな? ……『苗』の場所、わかった?」

 

 

 相棒に問い掛けながら、バスの影から()()()と姿を表した人形(ヒトガタ)――アンバランスな人体を模した赤黒い植物素材の(カタマリ)――異形の『葉』を目掛け、瞬く間に三射射掛(いか)ける。

 およそ十メートル程度だろうか……あの『葉』との距離を一瞬で飛翔した魔力の矢は、頭と胸と腹に深々と突き刺さる。大紋百貨店のときより明らかに頑丈さを増していた『葉』だったが……ようやく動きを止めて崩壊し始めた。

 

 白谷さんの【蔵】から提供され(借り受け)た『聖命樹の(リグナムバイタ)霊象弓(ショートボウ)』。この異世界産の魔法武器をこの法治国家で振り回すことなど、平時であればそうそう許されないのだろうが……()()()()()であれば大丈夫だろう。()()()()()()()()

 

 

「……正面のでっかい建物、『エキビル』っていったっけ。その上のほうに……厄介だね、()()()()よ」

 

「群れてるって……『苗』の保持者が!?」

 

「そう。……いわゆる『籠城戦』ってやつかな? 小癪なことを……!」

 

「徒党を組む……まぁ利害が一致すれば、そういうこともあるのか……」

 

 

 言葉を交わしつつも、射掛ける手は止めない。捕捉した端から撃ちまくって四体の『葉』を塵に返し、神宮東門駅の駅ビルむけて走りだす。

 幸いにして人波に揉まれる心配も無く、動きの緩慢な『葉』を蹴り飛ばし、ときに白谷さんが魔法で切り払い、改札フロアへと昇る大階段まで到達する。

 

 

「うーわ……なぁにこれぇ……」

 

「……エキビルごとぶっ壊せれば楽なのに」

 

「だめだよ、可能な限り穏便に済ませなきゃ。リョウエイさんに負担かけたくないし……犠牲者は、出したくない」

 

「…………ボクはノワのほうが大切だからね。これだけは言っとくよ」

 

「ん。……ありがとね、ラニ」

 

 

 ゆっくりとこちら目指して進軍してくる、大階段を埋め尽くすほどの『葉』の群れ。おれから見て距離が近い順に矢を放ち、少しずつ少しずつ削っていく。

 白谷さんの言う通り、纏めて吹き飛ばせれば楽なのだろうが……それはあくまで、本当に最後の手段。

 

 この戦場へと飛び込むときにリョウエイさんから言われた()()()、ならびにここに至るまでの顛末を……おれは自らに言い聞かせるように、振り返るように思い起こしていった。

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

 あれは……シロちゃんに仕事着を着付けて貰おうと、括り紐や帯や【変化】の髪留めの使用方法等を教えて貰っていたときだった。

 お着替えのために『さあ服を脱ごう!』としていたおれ達のもとへ、マガラさんいわく『重要なお客様との会談中』だったハズのリョウエイさんが、挨拶もそこそこに血相を変えて飛び込んできたのだ。

 もうちょっと入室が遅かったらおれがセンシティブなことになっていたのだが……おれの貧相でよろこぶようなリョウエイさんじゃないだろう、逆に申し訳無い気持ちになるところだった。まぁそれはべつにいい。

 

 珍しく焦った様子のリョウエイさんに詳しい話を聞くところによると……なんでも、鶴城さんの結界……鶴城神宮の敷地よりもギリッギリ外側に、()()(わざわい)の反応が見られたのだという。

 

 

 

「それって……ちょっと、やばいんじゃ……」

 

「やばいね。以前話した通り僕たち『鶴城』の神使は、この『神域結界』の中だからこそその権能(チカラ)を十全に振るえる。……その一方で結界の外では、ロクに動くことさえ儘ならない。厄介な敵がすぐそこに居るって云うのに、指を咥えて見ていることしか出来ないんだ」

 

「…………その『苗』の……いえ、(わざわい)の数って、わかりますか?」

 

「ちょっ、ノワ…………まさか」

 

「仕方無いよ、戦えるのがおれだけなんだから。()()はおれの仕事だし。SNS(つぶやいたー)で告知した()()の時間まで、まだ時間あるでしょ? パパッと片付けちゃおう」

 

 

 幾つもの同族(タネ)を滅されたことで、あの『苗』どもも多少なり学習したということなのだろうか。奴らにコミュニケーションを図る知能があるかは謎だが……保持者の人間どうしであれば、そりゃあ言葉も交わせるだろう。

 リョウエイさんたちのキルゾーンである鶴城神宮境内に侵入すること無く、安全地帯をウロウロと徘徊するばかり。こちらを明確に『敵地』と認識したような、これまでに見られない行動パターンだが……かといって調査に赴くことも難しいという。

 

 ならば……たかが口約束のみとはいえ、協力関係にあるおれが対処にあたるべきだろう。

 心強い味方も居るし、強力な異世界装備だってある。あの『葉』や『苗』保持者の数人程度、よほど無茶をしない限りは勝てるだろう。

 

 

「……済まない、恩に着る。此方で捉えた(わざわい)の数は……四つ。周囲の目を気にして居ては、如何に君とて簡単には行かないだろう。……よって、君たちが存分に力を振るえるよう、此方で場を整えよう」

 

「それは…………すごい。すごく、助かります」

 

「……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()結界【隔世(カクリヨ)】を、接敵と同時に展開する。……この結界内に、部外者は存在しない。幾らかは戦い易い筈だが……地形への被害は極力避けてくれ。多少は(ことわり)の適応修繕で対処出来るが……現世と齟齬が出過ぎると、結界が破綻する恐れが有る」

 

「は、はひ…………気を付けましゅ」

 

「大規模に地を抉ったり、建物を破砕し尽くさなければ……ある程度は大丈夫だろう。(それ)と……(これ)くらいしか出来ないが、貰ってくれ」

 

「あっ、ありがとうございます。……おお、お守り? 『五穀豊穣』だって。……あんま見たこと無いやつだ」

 

「『豊穣』の護符。神力……君たちの云う『魔力』の消耗を、幾らか軽減出来る筈だ。……済まない、この程度しか力に成れず」

 

「いえ、大丈夫です。おれ……わたしたちが、なんとかして見せます」

 

 

 申し訳無い申し訳無いを連呼するリョウエイさんだが、現状提示された条件だけでも充分に力を尽くしてくれている。

 第三者の介入を防ぐという『カクリヨ』の結界と、魔力消費軽減の護符……この二つの条件が加わるだけでも、おれたちの取れる戦術の幅は大きく広がるのだ。

 

 先方は、好条件を提示してくれた。

 ならば当方は……その好意に応えるまでだ。

 

 

 

「それじゃ行ってくるね、シロちゃん」

 

「っ、…………どうか、お早いお帰りを」

 

「どうか、武運を。……我々も()()()()()()()()()動いてみよう。…………シロ、話がある」

 

「えっ? は、はいっ!」

 

 

 

 そのまま込み入った話を始めようとする二人を後にし、隣室に待機していたらしいマガラさんに『俗界』へと還して貰い、人目を避けて鶴城さんの敷地から飛び出し……

 

 神宮東門駅周辺で()()()()を察知したのと、ほぼ同時。

 

 

 空気が冷えきり、

 周囲の光が減じ、

 数多の生命が瞬く間に消え失せ、

 

 おれたちと奴らとの戦いの場……『この世ならざるものの世界』へと、一瞬で切り替わった。

 

 



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111【年末騒動】ちょっと通りますよ

 

 

 おれの頼れる相棒……元勇者・現フェアリーガールの、白谷さん。

 彼女の生命活動の維持、ならびに彼女が行使する魔法によって消費される魔力は、現在その全てをおれが負担するところとなっている。

 

 おれ自身の魔力貯蔵量がそもそも非常識らしく、あまりに気にしたことは無いのだが……湯水のごとく使いまくればいつかは枯れることだろうし、そもそも『魔法』の行使に慣れていない頃なんかは頭の芯が重くなるような不快感に悩まされることもあった。

 だが、幾らか魔力消費にまつわる自己研鑽を重ねたことで、今や単純に非常識な魔力保持量となっている。

 

 そこへきて、おれと魂を重ねた相棒の存在だ。

 彼女の消費する魔力はおれが負担しているとはいえ、総量に対する割合は微々たるもの。()()が増えた分、取り回しの良さは逆に向上しているだろう。

 つまりは超超巨大な貯水槽にこれまで一つだけ備わっていた蛇口に加えて……高度な自律思考能力を備え、高精度な挙動で、貯水槽に負荷が掛からない規模で適切に(魔力)を使ってくれる蛇口が新たに備わった……ということだろうか。

 

 

 ……なんだか言いたいことがよく解らなくなってきたが……要するに『白谷さんの消費する魔力も元を辿ればおれの魔力』であり、白谷さんに供給する魔力も『おれの消費魔力』として計上されるということであり、結論としましては『白谷さんが使う魔法にも『豊穣』の護符の消費魔力軽減効果が乗る』という……つまりは、あれだ。税金逃れというか、知るヒトぞ知る魔力軽減のお得な裏技、てきな。伝わるかなぁこれ?

 

 

 

「百歩譲って言いたいコトは解るけど……キミ以外に魔力軽減の裏技が必要なヤツって誰が居るのさ」

 

「居ないかなぁどっかに! リ美肉おじさん居ないかなぁ!!」

 

「リ、ビ……? ……帰ったら調べよう。とりあえずほら、(マト)ならいっぱい居るから」

 

「もー! 【氷槍(アイザーフ)】【並列(パリル)三十二条(トリツヴィク)】!」

 

我は紡ぐ(メイプライグス)……【防壁(グランツァ)回廊(ターナル)】」

 

 

 おれの苛立ち紛れの魔法行使を、思考の奥底で繋がった白谷さんが正確に汲み取り、荒っぽいおれのフォローをすべく魔法を重ねて展開する。

 長さ百センチ程の細く鋭い円錐形の氷塊、それに速度を付与して質量弾として撃ち出す【氷槍(アイザーフ)】……それを複数並列(ペースト)すること三十二本。神宮東門駅の駅ビル三階、長い直線廊下を徘徊する『葉』の群れを一掃するための大技に対し……建造物への被害を防ぐために、彼女は素早く視線を巡らせて防壁を展開。壁や床や天井を防壁で覆い、細く長い角柱状の有効攻撃範囲を造り出す。

 ついでに【回廊】の出口も塞いでしまう。コッチがわ以外を完全に閉じられた、まさに袋のネズミ状態である。

 

 

「【撃て(フィア)】!」

 

「…………こいつはえげつない」

 

 

 こちらの意を察して【回廊】状の狩場を造ってくれた白谷さんに応えるべく、おれも少々方針を変える。三十二本を一直線に飛ばすのではなく、微妙に射角を変えつつ放射状に一斉射。

 ……すると、まぁ……水平あるいはそれに近い角度で放たれた氷槍は『葉』の体を貫き、抉り、削りながら飛翔するが……そうでなかった氷槍は壁や床や天井にぶち当たり、鋭く細かな破片となって跳ね返る。

 弾体が損壊し砕けようとも、一度付与された運動エネルギーが霧消することは無い。氷の散弾は『葉』の体を大きく()ぎ取り、のみならず逆側の壁に跳ね返り縦横無尽に暴れ回る。

 

 ほんの数秒、けたたましい破砕音が止んだ三階廊下部分には……赤黒い()()()としか形容できない()()()が、細切れになって散らばるのみだった。

 

 

 

「無茶するなぁ……ボクが居なかったらどうするつもりだったのさ」

 

「ラニが居ない生活なんて考えたくない」

 

「この子はもぉー! 可愛いなぁまったくもー! 好きにやっちゃって! ボクが許す!!」

 

「えへぇー」

 

 

 間の抜ける会話をしながらも、周辺警戒は怠らない。防壁の【回廊】を解除された廊下、左右に連なる店舗テナント部分に潜んでいた『葉』を霊象弓(ショートボウ)で撃ち抜き安全を確保しながら進んでいく。

 目指すは……この駅ビル上部に潜む生命反応群、つまりは『苗』の保持者が立て籠る一画。大まかなゴール地点は把握できているので、そこへ至るためのルートを逆算していく。

 

 とりあえず目指すべきは、階段ホールだろう。大階段で地上階ピロティと直結していたここ三階改札フロアと異なり、ここから上は階段ホールに階段が集約されているハズだ。

 ……もしかしたら一階部分にもその階段ホールがあったのかもしれないが、おれが普段使うルートは大階段を昇るルートしか知らない。だからこのルートを自然と選んでしまっても仕方が無いし、つまりおれはわるくない。

 

 

「…………何ふてくされてんのか解んないけど、行くよ? コンディション大丈夫? 嘘言ったら揉むからね」

 

「大丈夫ですゥー!」

 

 

 今や敵地と化した駅ビル。その真っ只中にありながら、いまいち緊張感に欠けている自覚のある言動のおれたち。

 その余裕っぷりも……まぁ、仕方の無いものだというか。実際のところ『葉』は耐久力こそ上がっているものの、その動きは相変わらず緩慢であり……数は多いが、そこまで恐れるほどの事でもなかったのだ。

 

 駅ビル三階フロア商業スペースにて無事に階段ホールを発見したおれたちは、階段ホールにひしめく『葉』をこれまたちぎっちゃ投げちぎっちゃ投げしながら着実に進み、ついに五階フロアへと到達した。

 

 このフロアのいちばん奥……確か百均ショップが入っていたあたりが、白谷さんの探知魔法に引っ掛かった『生命体』たちが居座る場所だ。

 おれたちは気合いを入れ直し――とは言いながらも、これまで相手取ってきた『葉』の脅威度からそこまで警戒を高め過ぎることも無く――反則(チート)武器である聖命樹の(リグナムバイタ)霊象弓(ショートボウ)の性能を遺憾なく発揮し、着実に侵攻を続けていった。

 

 

 

 あと少しで、目的地に到達できる。

 

 そうすれば、すぐに事態を解決できる。

 

 そうすれば……巫女さんのお仕事にも、遅れなくて済む。

 

 来てくれるかもしれない視聴者さんたちを、悲しませなくて済む。

 

 

 

 こんな局面において、そんな見当違いの思考にうつつを抜かす。

 

 それを油断、ないしは慢心と言わずして……いったい何と言うのだろうか。

 

 





※この作品は大してシリアスにはなりません。


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112【年末騒動】ええい面倒な!

 

 

 おれの輝かしい(?)初陣となった、浪越銀行神宮支店での一幕。まだこの身体で戦うことと『魔法』の扱いにそれほど慣れていなかったおれだったが……あのときは相手との相性もあってか、さほど苦戦せずに無力化することが出来た。

 

 あのときは保持者の『願い』が『復讐』方向へと集束していたため、まだそこまで彼の怒りを買っていなかったおれは攻撃対象と見なされなかったのだろう。

 あのまま戦闘が長引けば、いずれ敵対認識されてしまっただろうが……その場のノリで行動したにしては、なかなか上出来な立ち回りだったと思う。

 

 

 ……今まさに神宮東門駅の駅ビル五階で戦闘中であるおれが、どうしてそんなことを思い返しているのか。

 

 簡単だ。今回は()()()()とは、どうやらなにもかもが正反対だろうからだ。

 

 

 

『後方七時!!』

 

「ッ!!」

 

『左右ほぼ同時!!』

 

「っとォ!?」

 

『ッ!? 上!!』

 

「ぐ……!?」

 

 

 

 周囲四方八方から立て続けに降りかかる敵意に、おれは突風に舞う木っ端のごとく翻弄される。

 薄暗い店内を這うように駆け回り、什器の列を(かく)(みの)にしながら右へ左へと転がり回る。

 

 敵の攻撃手段そのものは、全く洗練されていないただの『具現化させた魔力塊』でしかないのだが……厄介極まり無いことに【防壁】をほんの一瞬で侵食し切る破壊力を秘めており、回避し続けることしかできない。

 一対一ならいざ知らず、それが四人も揃って立て続けに攻撃を仕掛けてくるなんて……まったく悪夢というほか無いだろう。

 

 

「【氷槍(アルケート)】! っらァ!!」

 

『……ダメだ、目標健在』

 

「やっぱか畜生! 【草木(ヴァグナシオ)】!」

 

『接触と同時に解呪(ディスペル)されてる……デタラメだ』

 

「ホンっトだよ! んぎぎぎぎ……!!」

 

 

 おれの魔法による攻撃も、奴らに直接触れた途端に強制解除されてしまうらしい。

 しかし【氷槍(アルケート)】射出の際に付与した運動エネルギーは着弾の瞬間まで残っていたらしく、辛うじて衝撃で弾き飛ばす程度の成果は挙げられたが……一方で拘束を試みようと放った【草木(ヴァグナシオ)】に至っては、触れた瞬間に霧消してしまった。

 

 だがそれでも、遣りようはある。奴らが壁や床に触れている以上、何でもかんでも消し飛ばせるというわけでもあるまい。

 そこかしこに散らばる什器に対しては、おれは充分【草木(ヴァグナシオ)】で干渉することができるのだ。ぶっとい(ツタ)を操って什器の幾つかを絡め取り、壁際へと奴らを押し込んで制圧を試みる。さらにその外側にも【草木(ヴァグナシオ)】を張り巡らせ、什器と床あるいは什器どうしをガッチリと拘束する。

 ……ヒト一人で持ち上げるには、いささか重量があり過ぎる什器だ。ちょっとやそっとの力では抜け出せまい。

 

 

 おそらく基幹となっているのは……認めたくないが、おれに対しての特効効果。今や理性も欠いた彼らに問い質すことは不可能だろうが、つまりは『若芽ちゃんを捕まえたい』『拘束したい』『征服したい』『組み敷きたい』……そんな系統の願い(欲求)が、都合良く『種』に拾われてしまったのだろう。

 彼らとて、おれ(若芽ちゃん)が世間を賑わす『正義の魔法使い』と知っていたわけでは無いだろう。あくまでおれの蒔いた餌(=初詣で巫女さんの助勤やるよ!)に釣られてここまで来たところで、鶴城神宮の神域結界に『苗』が本能的な危機感を抱いた結果、同様の境遇に陥った『苗』どうしで結託し、鶴城神宮の目の前で様子を窺っていた……そこをリョウエイさんが捕捉し、おれに対処依頼が下された、ってところだろうか。

 

 現状おれに与えられた材料から判断する限りでは、こんな感じの推測だが……あながち間違いじゃ無さそうなところと、これでは何の解決策も見いだせない辺り……非常に頭が痛くなる。

 

 

『ノワ来るよ!! 足下!!』

 

「っ!? クッソ!!」

 

 

 おまけに……この攻撃手段が、また嫌らしい。

 こんなところにまでおれ(若芽ちゃん)に対する特効効果が働いているのだろうか……理由はよく解らないが、ひたすらに知覚しづらいのだ。

 

 おれの視覚は――エルフ種族の特性だと思うのだが――魔力の流れをある程度、()ることが出来る。

 相手が魔法を唱えていればその発現を察知することが出来るし、空間中に顕現しようとする魔法に対してもその『予兆』を感じとることが出来る。

 …………本来であれば。

 

 だが……今回に至っては。おれに対して抱いた『よからぬこと』を原動力としている彼らの、おれに『よからぬこと』を企てる攻撃に対しては。

 おれの視覚の魔力感知が……まるで働いていないのだ。

 そのため先程からは白谷さんのフォローと、鋭敏な聴覚で捉える魔法発現の瞬間の『大気を抉じ開ける音』を聞き取ることで、なんとかどうにか避け続けることが出来ているのだが……それはあくまで、この距離を保っているから。

 彼らの延髄に延びる『苗』を除去しようと接近を試みれば、そのぶん攻撃の精度も上がることだろう。今以上に回避が難しくなることは確かだろうし……いつまでも避け続けられるとも限らない。

 

 …………本当に、どうしたもんか。

 

 

 

『…………ノワ、ちょっといい?』

 

「んう、っと……なあに?」

 

『ひとつ考えがあるんだけど……乗ってくれる?』

 

「考え……?」

 

 

 白谷さんからの声に一旦距離を取り、攻撃の頻度が落ちたところで……白谷さんの提案する作戦イメージを精査する。伝声通信魔法の一部機能を拡張して、言葉と併せて作戦概要のイメージを受け取る。

 なるほど、うまくハマれば効果はありそうだが……白谷さんの負担が大きい、というか……単純に危険すぎる。

 

 

「……………………それ、……大丈夫なの?」

 

 

 奴らの『わかめちゃん特効』とでもいうべき特性が、おれと魂を共有する白谷さんにも適応されないとも限らない。

 なにせ、おれの【防壁(グランツァ)】を一瞬で喰い破るほどの侵食力なのだ。そんなものがおれの可愛い相棒に降り注げば……心配するな、っていうほうが無茶な話だ。

 

 

『解るよ。キミがボクに抱いている、懸念。心配してくれてるんだろう? …………でもねノワ、覚えていて。ボクはそれと全く同じモノを……キミに対して抱いているんだよ』

 

「っ、それは……」

 

『奴らの身体能力は、幸いまだ人間のままだ。……であれば、姿を隠したままのボクが見つかることは無い。少なくとも、今はまだ』

 

「……成長したら、手の打ちようが無くなる、と」

 

『ノワは賢いからね。解るハズだ。……大丈夫、言うほど危険は無いよ。なにせキミと違って、ボクは奴らに見えていないんだ』

 

 

 薄暗がりの先、赤々とした目を光らせる四人の『保持者』が……ついに什器の拘束を押し退ける。

 亡者のようなおぼつかない足取りで、それでも確実にこちらを認識し……おれたちの隠れる防火扉へ向かってくる。

 

 うだうだ悩んでいる時間は……あんまり、無い。

 

 

 

「…………いっしょに、新年迎えるんだからね。いっしょにおもち食べて……いっしょにお神酒飲むんだからね!!」

 

『当然だろ相棒。ボクらの相性を見せ付けてやろう』

 

 

 白谷さんの提示した作戦は……彼女はもちろん、おれだって重要な役割が多くある。

 彼女が覚悟を決めたのだ。それに応えずして……何が相棒か。

 

 さあ、反撃だ。

 おれたちの底力……よーく見とけよ!!

 

 

 



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113【年末騒動】状況一転また一転

 

 

 おれの紡いだ魔法による攻撃も――そしておそらくは『聖命樹の(リグナムバイタ)霊象弓(ショートボウ)』の矢による攻撃も――その一切が通用しない四名の『保持者』。

 圧倒的に分が悪いこの一戦を制するため、おれたちは同時に行動を開始した。

 

 

 

「【草木(ヴァグナシオ)(アルム)】! どっせェい!!」

 

 

 モノを保持することに特化させた特性を付与し、【草木(ヴァグナシオ)】の腕を造り出す。そのままそれで周囲に散在する什器……百均商品をたっぷり詰め込んだ商品棚を引っ掴み、投げる。

 もちろん、さすがに直撃コースは狙わない。いくら『苗』によって身体を改竄されていようと、あれほどの質量弾が直撃すれば良くて大怪我、下手すれば死亡に繋がりかねない。

 横長の什器は狙い通り、保持者のすぐ横へと着弾する。陳列されていた商品(五百ミリペットボトル飲料・常温)がぶちまけられ、保持者たちは本能的に身をすくませる。速度を伴う五百グラム超の質量弾が降り注ぎ、身体中に直撃を受けた保持者の足が止まり、これにはさすがに体勢を崩す。

 

 

「も一丁(いっちょ)……おらぁ!!」

 

 

 第一段階の成功を確信しつつ、続けざまにもう一投。同様に五百グラム質量弾(一部二五〇グラム弾含む)を満載した什器が狙い通りに飛んでいき……ぶち撒けられる質量弾の雨に、奴らの行軍と攻撃動作が完全に止まる。

 

 ふと前方をよーく見れば……視界の端っこにひっそりと、頼れる相棒の姿。つまり第一段階はなんとかクリア出来た模様。

 というわけで、続けて第二段階。とはいってもやることは大して変わらない。増設した【草木(ヴァグナシオ)(アルム)】で陳列什器をぽいぽい連投。……ただし今度は商品の数・細かさを優先し、体制を崩すことよりも奴らの視界を塞ぐこと・おれたちから注意を逸らすことに注力する。

 視界を埋め尽くすほどに飛来する()()を前にしては、お世辞にも思考能力が高いとは言えない『苗』は漠然と顔を覆って防御することしか出来ない。

 

 ……第二段階、クリア!

 

 

「っ、ラニ!!」

 

我が意を繋げ(メィウィリアス)! 【繋門(フラグスディル)】!』

 

 

 奴らが顔を覆って自ら視界を閉ざし、かつおれの放り投げた散弾が放物線軌道を描いている……まさに、今この瞬間。

 第一段階で奴らの足を止めている隙にその背後に回り込み、こっそり【門】の座標指定(マーカー)を打ち込み即撤退していた白谷さん……満を持して開かれたその座標指定(マーカー)への【門】に飛び込み、一瞬で奴らの背後へ移動する。

 

 周囲にはいまだ()()から降り注ぐ、百均商品の絨毯爆撃。その中でこちらに背を向け顔を覆う防御体制を取る『保持者』達、その無防備なうなじが眼前に並んでいる。

 

 

(貰っ、た……ッ!!)

 

「【加速(アルケート)(ドヘル)】!!」

 

 

 白谷さんの【門】から飛び出たその勢いのまま、【加速】の身体強化(バフ)魔法を纏った身体で『保持者』たちに肉薄する。丁寧に引っこ抜かないと根っこがちぎれて残ってしまう可能性があるとか、彼らの身体に後遺症が残ってしまう危険があるだとか……考慮しなきゃいけないことも勿論あるが、しかし今は一人でも多くの敵対対象を無力化しておきたい。

 いかに思考力の乏しい『苗』とて、同じ手はそう何度も通用しないだろう。最大の成果が期待できる初手を逃せば、その後に好機(チャンス)は期待できない。

 

 

 一瞬の葛藤を乗り越えて伸ばした手は……右手で一本、左手でもう一本の『苗』を引っ掴み、そのまま引き抜く。

 

 駄目押しとばかりに、白谷さんがもう一人の『苗』に飛び付き……両手でしがみついたもう一本を、渾身の力で引き抜く。

 

 

 

「ッッ!? ギャ――――――」

「グェッ、グギ――――――」

「!!? ぅギャ――――――」

 

 

 身体中に張り巡らされた『根』が消滅を始め、それに伴い身体中を()(むし)りながら悶絶し始める三人……しかし最後の一人までは、結局手を伸ばすことが叶わず。

 振り向いたそいつの真っ赤な目が、至近距離からおれを()()と見据え……

 

 その口角が不気味に、しかしはっきりと吊り上がる。

 

 

 

 

我は紡ぐ(メイプライグス)! 【回復・極(レザリシュオ)】!!」

 

「ガっ!? ぐ、か……ッ!!」

 

「っ! 我が意を繋げ(メィウィリアス)! 【繋門(フラグスディル)】!!」

 

 

 

 

 甘く見ていた……なんて次元じゃない。

 なんということはない。先程まで空間を隔てておれに降り注いできた、いわゆる『具現化した魔力塊』……洗練されているわけではない、などとタカを括っていたそれを、直接身体に押し付けられただけだ。

 おおよそあらゆる攻撃と衝撃を遮断する【防壁(グランツァ)】、きわめて堅牢な()()さえ容易に崩壊させる魔力塊だ。特効対象であるおれに直接叩き込まれればどうなるか……そんなの、考えるまでもないだろう。

 

 だが……幸いというべきだろう、奴ら四人のうち三人の無力化には成功したのだ。一旦体制を立て直して、再度攻撃を試みれば……充分すぎるほど勝機はある。

 

 大丈夫。まだいける。次はもっとうまくやる。うまくやってみせる。

 急がないと。時間がない、急がないと。急いで、急いで、急いで、急げ。早く。急げ。早く早く早く早く早く。

 

 

 

「ノワのバカ! ちょっと落ち着けよ!!」

 

「えば……ば、バカって……そんな」

 

「バカだろう!? 解ってるだろ!? キミ今冗談じゃなく死に掛けたんだぞ!? 一瞬とはいえ心臓と片肺が消滅したんだぞ!?」

 

「…………あう。見事に血で真っ赤だね」

 

 

 

 白谷さんの機転で離脱したおれたちの所在は……現在駅ビルの外、地上階ピロティ部分。

 この周囲はさっき『葉』を刈り尽くしていたお陰で安全地帯となっているようで、おれはコーヒーショップのテラス席に座らされて白谷さん私物の霊薬(ポーション)を飲まされ、またお説教を受けているところだ。

 

 さっきの一瞬。ほんの一瞬とはいえ……奴の手で触れられたおれの身体は、瞬く間に侵食されていった。

 左胸を中心として半径十センチ程度の球状に、おれの身体は比喩じゃなく削り取られたのだ。一瞬で事態を把握した白谷さんが極級の回復魔法を掛けてくれたお陰で、幸い体組織に大きな影響は無いようだが……ほんの数瞬とはいえ大怪我を負った激痛はまだズキズキと響いているし、大穴が空いたことによる出血は服を赤黒く染めたままだ。

 

 

 

「…………ありがとね、ラニ。助かったよ」

 

「っ、っ!! …………もぉぉぉ!!」

 

「ははっ。……ありがとう。白谷さんがいてくれて良かった。……おれもまだまだ死にたくないもん」

 

 

 限りなく危険だった、ということは……間違いないだろう。胸を骨と臓腑ごと抉られた激痛は、なかなか忘れられるものじゃない。

 あんな痛みは、さすがに二度とごめんだ。おれは決して戦闘狂なんかじゃないし、どちらかというと臆病者だ。正直なところ危険な目には逢いたくないし……なにより、おれはまだ()()()()()()

 

 せっかく……せっかく『若芽ちゃん』が軌道に乗り始めたのだ。

 まだまだやりたいことも、試したいことも……恩返ししなきゃいけない人も、いっぱいいる。

 

 だから……おれはまだ、()()()()()()

 

 

 

 

 

「私もそうだ。私はまだ死にたくない」

 

「うん。……………………えっ?」

 

 

 

 この世ならざるモノのみが行動できるという、『カクリヨ』の結界内。

 さっきまでの激闘の場から一時撤退した、駅前カフェのテラス席。

 

 

 

「……何者かな? どうやってココに?」

 

「無論、浪鉄(ローテツ)だよ。此処は駅だろう? 電車で来たに決まっとろう」

 

「えっ? ぇえ……っ!?」

 

 

 

 光量の頼りない照明を背景に……いつのまにかすぐそこの席に、見知らぬ老紳士が座っていた。

 

 

 





※この作品は大してシリアスにはなりません。


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114【年末騒動】久しぶりじゃないか

 

 

 ついさっきまではおれたちしか居なかったはずの、コーヒーショップのテラス席。

 一切の部外者が存在しないはずの『カクリヨ』結界内、おれたちと『苗』との戦場で……見るからに場違いな佇まいの男性が、いつのまにか(くつろ)いでいた。

 

 落ち着いたカーキ色のスーツと、同色生地の丸帽子。テラス席の椅子にゆったりと腰掛け脚を組み、微かに捻れた(ステッキ)を傍らに。綺麗な白髪と口髭をキチッと整えた……ロマンスグレーを絵に描いたような、見事なイケオジと言える。

 街中を歩いているときに見かけたら、思わず見惚れてしまったかもしれないが……現在この状況下においては、その完成度が逆に違和感でしかない。

 

 

(……ラニ、『保持者』は四人って言ってたよね)

 

(ボクもそう記憶してる。でも()()は明らかにただの人間じゃない)

 

(この結界内に居るくらいだもんね。……いったい何者だろ)

 

()()()()()()、かね?」

 

「「!!?」」

 

 

 謎の老紳士の口から発せられた言葉に、思わず身をすくませる。

 ラニとの会話は小声どころではなく、思念を直接送り合う魔法によるものだ。いかに聴覚に優れた存在とて盗み聞きすることは不可能であり、秘匿性は極めて高い。……そのはずだ。

 

 

「いや、失礼。私もこの国で長いこと暮らしてきたが、妖精の(たぐい)は御目に掛かったことが無くてね。……何者だね? 君は。いや、()()は」

 

「「………………」」

 

 

 思考を読まれた……わけでは無さそうだが、かといって大した慰めにはならない。やっぱりこのお爺さん、ただの人間じゃない。

 今や常人には認識できないハズの白谷さんの存在を……()()()()の存在を、確実に認識している。

 

 

 おれたちに話しかけてきたこのヒトが、いったい何者なのか。

 考えられる展開は……二つに一つ。非常に単純かつ明解なことだ。

 

 ひとつ。かつてのおれと同様、『種』による改竄を受けて身体そのものが作り替えられ、異能を得つつも自我を失わなかったケース。要するに、味方。

 

 そして……もうひとつ。

 今までの『種』や『苗』とは()()()()()()()存在。当然のように異能を備え、明らかに異様なこの状況下においても平然としている……つまりは、何一つ焦る必要が無いケース。

 ……要するに、敵。

 

 最低限そこのところをハッキリさせないことには、どう対処すべきか方向性も定められない。

 いきなり敵意を露にして来るわけでもなく、まず会話から入ってきてくれている。意思疏通の可能性が見受けられるということは……敵ではないのだろうか。そう思いたいが、しかし。

 

 

「……わたし達は……今ちょっと、(タチ)の悪い『苗』を取り除こうと頑張ってるところです。……そういうお爺さんは、何をしてるんですか? ()()()()()()で」

 

「私かね? 私は……そうだね。少しばかり()()()()を、ね。……そうだ、お嬢さん。此処で会ったのも何かの縁だ、少しばかり訊ねたいんだが……」

 

「…………かまいませんよ。……わたしに解ることなら、なんなりと」

 

 

 さあ……どう出るか。どう来るか。

 掴み所の無いこの老紳士は……果たしておれたちにとっての『(わざわい)』となるのか。それとも『違う』のか。

 

 意識せずとも鋭さを増してしまう視線で見据える中……老紳士はその穏やかな笑みを微塵も崩すことなく、口を開く。

 

 

 

「私が探しているモノは…………()()()()()、だね。ヒトの可能性を拡げ、大いなる力を授け、この世界に変革をもたらす福音を……『契約の(コントラクト)苗芽(スプラウト)』を刈り取り、滅ぼさんとする悪しき元凶。……御存知無いかな? ()()()()には存在し得ない()()を備えた、大変可愛らしい刈り手なんだが……」

 

「………………すみません、あいにく。……ヒトの理性を溶かし、人格を壊し、不要な混乱をもたらす上に、放っておくと()え続けて全人類を、そしてやがては世界を滅ぼしてしまう……タチの悪い『混沌の苗』を刈る正義の魔法使いなら、不本意ながら心当たりあるんですけど」

 

 

 

 おれと同様の結論を下した白谷さんが、臨戦態勢を取りつつ【蔵】から武器を取り出してくれる。眼前でなおも余裕を崩さない()を睨み付けながらそれを受け取り、おれも覚悟を決める。

 

 遅かれ早かれ、相対する相手だと理解していた。思っていたよりも遥かに早かったが、しかし泣き言は言っていられない。

 魔力に乏しいこの世界では、奴に対抗し得る力を持っているのは恐らく……誠に遺憾ながら、おれたちだけなのだ。

 たとえ勝ち目が薄かろうと、おれたちが何とかするしかない。

 

 何とかできなければ、そのときは()()()()()の故郷の二の舞になる。

 

 

 それは……絶対に駄目だ!

 

 

「…………【草木(ヴァグナシオ)拘束(ツァルカル)】」

 

「お、ぉお……? これは……」

 

 

 テラス席のウッドデッキから勢いよく伸びた無数の(ツタ)が、老紳士の姿を取った敵を椅子ごと厳重に縛り付ける。

 常人なら平然としていられるハズの無い圧迫に晒されてなお、老紳士の顔は少々の困惑を浮かべるのみで平然としたものだ。

 

 やはり……やはりこいつは、人間じゃない。

 他ならぬ『人間』の姿をしたモノに、()()を殺すつもりで攻撃を仕掛けるという葛藤を無理矢理圧し潰し、()()を殺すために魔法を紡ぐ。

 

 

「……【氷槍(アイザーフ)】【並列(パリル)六十四条(ゼルキュルク)】!!」

 

我が意よ貫け(メイペネディス)! 【光矢(リヒト)】!!」

 

 

 おれと白谷さんがそれぞれ攻撃魔法を発現させる。

 頑丈な(ツタ)によって戒められた敵の周囲全周より、雪崩打って襲い来る六十四本の氷の槍と、それらごと纏めてブチ抜く熱量を秘めた光の槍。

 全てを焦がす光は突き立った氷の槍を一瞬で融解・沸騰させ、加速度的に膨張した大気は盛大な破裂音と衝撃波を周囲一帯にぶち撒ける。

 テラス席の椅子やテーブルが吹き飛び、コーヒーショップをはじめとする駅ビルの窓ガラスがことごとく砕け、荒れ狂う大気の流れは商品を好き勝手に引っ掻き回し、湯気と煙と砂埃がもうもうと立ち籠める中…………

 

 

 そいつは、当然のようにそこに居た。

 

 

 

「…………無傷とか……さすがに自信なくすわー」

 

『本当だよ。ボクは躊躇ったつもり無いんだけどなぁ』

 

「おれだってそうだよ。……まったく」

 

 

 おれが(けしか)けた【草木】の拘束、その更に外側。囚われの老紳士をぐるりと覆うのは……複雑に絡み合った根のような魔法条文で綴られた、半球状の防御結界。

 あれだけの攻撃魔法と水蒸気爆発に晒されて尚、表層の魔法条文が僅かに欠損する程度。生半可な術理密度の為せる技ではない。

 

 愕然とするおれたちの手前、綻ぶように防御結界が解けていき……スーツにまとわりついた拘束魔法()()()()()をぱたぱたと叩き落としながら、悠然と老紳士は立ち上がる。

 おれの拘束魔法【草木(ヴァグナシオ)】は見るからにその力を喪失し、かさかさに乾きひび割れていた。

 

 

 

「ホンット……何者なんですか、お爺さん」

 

「……そういえば、御挨拶がまだだったね。……とはいえ名乗るほどの者でも無いが……姓は山本、名は五郎。見ての通り……枯れ木のような老人だよ」

 

「またまたご謙遜を。足腰もしっかりしてるじゃないですか」

 

「…………それに、それこそ()()()じゃないか。()()()()の名前も、ちゃんと名乗ってくれないと困るよ。…………()()()()

 

 

 

 白谷さんの小さな唇から紡がれた、()()()()

 

 どうか勘違いであってくれ、というおれの願いも虚しく。

 

 

 『山本五郎』さんの姿を借りた『メイルス』さん――ニコラさんと出身世界を同じくする彼――は……それはそれは嬉しそうな笑顔を浮かべたのだった。

 

 

 





※この作品は大してシリアスにはなりません。


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115【年末騒動】どうしてこんなことに

 

 

 小さく可愛らしい妖精の少女へと、その存在そのものが変わり果ててしまった『勇者』。

 

 この世界におれたち以外の……おれが知らない知人なんて居るハズの無い彼女が、懐かしげに言葉を告げる相手。

 

 

 それが意味するものは、たったの一つ。

 彼は。『メイルス』とは。現在おれたちと相対している、この得体の知れない脅威は。

 

 かつて世界ひとつを滅亡へと追いやった……『魔王』にほかならない。

 

 

 

「なるほど……『ニコラ』かな? 随分と可愛らしくなったものだ。……すまないね、全く気付かなかったよ」

 

「気にするなよ。キミとボクの仲じゃないか」

 

()()()()にまで、私に会いに来てくれたのかな? 相変わらず情に厚い男……少女だね」

 

「褒めても何も出ないし、容赦もしないよ。…………なんだっけ? 『此処で会ったが百年目』ってやつ?」

 

 

 再会を喜ぶ……にしては殺意に溢れる声色で、ラニから警戒信号が送られる。

 再び攻撃魔法を構築し始める相棒に合わせて、おれも武器と魔法を同時に構える。

 

 

「今のキミは……()()()なんだい? ヤマモト(なにがし)さんに()()()()? ……返答によっては正義の美少女エルフ仕置人が黙っちゃいないぞ」

 

「別に手荒な真似はしていないとも。両者合意の上の、極めて誠実な取引さ。()()()か、というよりは……()()()()()()()という(こたえ)が適切かね」

 

「……変わったね、メイルス。キミが()()()()()の力を借りるだなんて」

 

「ちょ、『どちらでもある』って…………それって、まさか」

 

 

 山本さんと、『魔王』メイルス。

 いわく目の前の老紳士は、その()()()()()()()状態だという。

 

 確かに外見的特徴で言えば、純粋な日本人の容姿といえるだろう。見た通りの老紳士であれば、その言動の端々に垣間見える優雅さにも頷ける。つまりそれらは『山本五郎さん』のものであるはずなのだが……であれば、先の攻撃魔法を凌げるはずがない。

 比喩や誇張ではなく『殺すつもり』の攻撃魔法だった。ただの日本人であれば、それを五体満足で切り抜けられるはずがないのだ。

 あれを凌いだ魔法技術は、確かに紛れもなく異世界出身者の……つまりは『魔王』メイルスのものだろう。

 

 主たる人格を損なうことなく、別人格をも兼ね備えた状態。

 おれと白谷さんとの関係とも異なる、『一つの身体を二人で共有している』とでもいうような状態。

 

 俗にいう『憑依』した状態……ということなのだろうか。

 見たところ両者の関係は良好そうであり、『憑依』の同調率も高そうなのだが……だからこそタチが悪い。

 

 

 相手の戦力は未知数だが、かといって絶望的ってわけでは無い。

 ほんの僅かとはいえ防御結界を突き崩せたのだ、まるで通用しないわけでもない。そもそも防御結界を真っ向から突き破る必要も無いし、うまく本体に攻撃を叩き込む手段を考えればいい。

 それに……おれたちの【防壁】も、さっきまでのような展開にはならないだろう。微かとはいえ魔法が通ったように、少なくとも『魔王』はおれに対する特効効果を持ち合わせているわけでは無いのだから。

 

 

 

「来るよノワ!」

 

「やだもぉー!」

 

 

 『魔王』メイルスはおもむろに、携えた(ステッキ)を地へと一突き打ち鳴らす。

 その硬質な音を切っ掛けに周囲一帯の地面がざわめき、赤黒い無数の芽が急速に生育を始める。

 数えるのもバカらしくなるような規模の『葉』の群れが、今まさに生み出されようとしているのだ。

 

 まだ生育しきっていないそれらへ向け、手当たり次第に矢を放つ。まだヒトの形に纏まっていないそれらはまるで無防備であり、矢の一発でもぶち込めればその活動を停止させられるのだが……いかんせん数が多すぎる。

 おれの連射速度は速い方だと思うのだが、それにしたって生えてくるペースのほうが明らかに速い。この規模の大量発生にはさすがにドン引き、草も生えない。不気味な『苗』は生えてくるけど、ってやかましいわ。

 

 

「……ッ! なら纏めて……燃えちまえ! 【焼却(ヴェルブラング)】!」

 

「纏めて……薙ぎ払う! 我が意よ纏え(メイフォロアス)、【光刃(シュヴィルト)】!」

 

 

 見るからに植物系素材である『葉』に効果が見込めそうな『炎』を用いた魔法に切り替え、掃討を試みる。どちらかというと苦手な属性だが、四の五のいってる場合じゃない。

 おれがどんどん延焼させていく逆がわでは、白谷さんがバカでかい光の剣を振り回して『葉』を纏めて斬り刻んでいく。よく耳にする『まるでバターのように』という比喩がしっくり来る見事な斬れ味、それを縦横無尽に振り回しているのだが……二人ぶんの駆逐速度を合わせても、それでもまだまだ処理速度が足りない。

 既に『葉』として生育しきった個体はじりじりと増え続け、ゆっくりとした足取りながら的確に包囲を狭めてくる。

 

 

「【焼却(ヴェルブラング)】! 畜生(ちくしょう)……キリが無い!」

 

「術者を止めれば……っ! 我が意よ貫け(メイペネディス)! 【光矢(リヒト)】!」

 

 

 最悪の予感が脳裏をよぎり始め、ラニは苦し紛れに攻撃を仕掛けるが……先程から余裕の表情を崩さない『魔王』はやはり、防御結界を構築して容易(たやす)く凌いでしまう。

 やっぱりか、と舌打ちを隠しきれない白谷さん。奇しくもおれも同様……というか、この状況は舌打ちどころじゃ済まされない。

 よくもまあこんなに次から次へと、無尽蔵に呼び出し続けられるものだ。……さすがにずるいぞ。いくらなんでも反則じゃないか。

 

 

 

「……予想以上だよ。早々に()しきれると見ていたのだが」

 

「それはどうも! じゃあそろそろ勘弁してくれませんか!」

 

「済まないね。ご期待に沿いたいところだが……この世界で『魔力持ち』は珍しくてね。貴重な()()をみすみす見逃すのも、勿体無いだろう?」

 

「っ、……っ!?」

 

「この世界で、まさかエルフ種……それもとびきりの魔力の持ち主と邂逅できようとは。計画の障害を排除出来る上に、()()()に『()()()()()』まで手に入る。退く理由など在るまい」

 

「ひっ、」「()ッ、(サマ)ァア!!!」

 

 

 愛らしい顔を憤怒の形相で染めた白谷さんが、弾丸のように空を翔る。

 

 自身に向けられた敵の視線に思わず身をすくませたおれは、その瞬間緩んだ攻め手を掻い潜るように押し寄せる『葉』を押し返しながら……そこからの目まぐるしい流れを眺めることしか出来なかった。

 

 

 空間が揺らぎ【蔵】の扉が開き……白く煌めく鋼の直剣が、彼女の傍らに姿を現す。

 今の白谷さんの身長、その軽く十倍はありそうな全長……もはや握ることすら叶わなくなった剣の切っ先を『魔王』に向け、槍投げのように直剣が射出される。

 このタイミングで持ち出したということは、よほど()()()()()の剣なのだろう。実体を伴った渾身の一撃は、『魔王』の防御結界を見事カチ割ることには成功する。

 

 しかし……そこで大人しく攻撃を喰らってくれるほど、『魔王』は素直じゃなかったらしい。

 粉々に砕かれた防御結界の残滓が炸裂し、ラニの小さな身体を容赦なく揺さぶる。姿勢制御を失ったほんの一瞬を狙い澄まし……何もない空中から突如、赤黒い(ツタ)が襲い掛かる。

 

 

「っ、ラニ!!」

 

 

 間違いなく捕縛のための一手だろう。ラニの小さな身体にわざわざ(あつら)えたかのように繊細な、しかし見たままの強度ではなさそうな(ツタ)が四方八方から襲い掛かる。

 最悪の結末を予見し、悲鳴じみた声を飛ばすことしか出来ないおれの見つめる先。

 

 

 

「【残影(リープ)】!」

 

「ほお?」

 

 

 ラニの姿が霞み、一瞬で掻き消えるのと同時。

 空間を跳躍し『魔王』のすぐ背後に現れたラニは、更に二本の短槍を取り出しそれぞれ振りかぶり……無防備を晒す『魔王』へと、一気に叩き込む。

 

 

 

 敵の防御結界を砕き、迎撃を掻い潜り、至近距離に潜り込んでからの……捨て身じみた一手だったが。

 

 

 

 

 

「……っ、……ッぐ、クソっ!」

 

「ラニ!? ……っ、ぐ……!?」

 

「上々のようだね。原住民と侮っていたが……なかなかどうして使()()()じゃないか」

 

 

 『魔王』の背後を取ったラニが、突如として力無く地に落ちる。

 何が起こったのかと混乱するおれの身にも突如()()が現れ、それで全ての原因と……敗北を察した。

 

 ラニが得意とするような空間魔法の一種だろうか。はたまた配下を呼び寄せる『魔王』ならではの魔法なのだろうか。

 タネは結局わからなかったが……確かなことは、さっき駅ビルの五階で撃ち漏らした『保持者』の一人が――おれたちへの特効効果を備えてしまった、天敵と言うべき相手が――『魔王』メイルスを守るように控えていることと……

 そいつの展開した何らかの力場によって……おれたちの魔法と抵抗が、ほとんど封じられてしまったということだ。

 

 

 

「エルフだけでなく……妖精も確保できようとは。私はなかなか運が良い、これで()()も大きく進歩するだろう。……感謝するよ、ニコラ。そして……名も知らぬ哀れなお嬢さん」

 

「ノワに、手ェ出すな! ……ぐ、クソッ! 離せェ!!」

 

「ラニ! ラニぃっ!!」

 

 

 力なく地にへたり込んだラニを、赤黒い(ツタ)が無遠慮に掴み上げる。

 大切な相棒への狼藉を阻止しようにも……おれの身体とて今や自由は残されていない。ついに抑えきれなかった『葉』に両手両足を戒められ、魔法も使えない今となっては……ただのひ弱な十歳児でしかない。

 

 

 あいつのいう『研究』がどういうことを指すのか、詳しいことは解らないが……おれはこんなんでも、創作に携わるものの端くれだ。悲しいことに、なんとなくだが()()がついてしまう。

 そして恐らく……その予想はあながち、間違いとは言えないのだろう。

 

 冗談じゃない。この身体が汚され辱しめられることもだが、そんなこと以上に……おれの大切な相棒までもが穢されようとしているだなんて、そんなのは全くもって冗談じゃない。

 自分の生まれ育った世界を滅ぼされる絶望を味わってなお、見ず知らずの世界なんかのためにその身を捧げようとした……そんな優しく温かく崇高な心の持ち主の結末が。

 小さく儚い少女の最期が、()()()()()()()()であって良いハズがない。

 

 守らないと。あの子を。おれの大切な存在を。……ひとりぼっちの、小さな『勇者』を。

 助けないと。助けないと。おれが助けられないなら、どうか誰か。誰でもいい、助けて。お願いだ、誰か助けて。お願いします。助けて。助けて。………あの子を、助けて!

 

 

 ()()()()()()()()()……()()!!

 

 

 

 もはや万策尽き、絶望的な状況に追い込まれ、神様に祈ることしかできなかったおれの身体が。

 

 四肢を空中に(はりつけ)にされ、悲痛な表情をその顔に宿したラニの姿が。

 

 

 

 

 ()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……………………………

 

 

 

 

 

 …………え?

 

 ……………………は?

 

 

「え、あれ……? 何これ?」

 

 

 

 おれを抑えつける周囲の『葉』ごと、一瞬水底に沈められたような錯覚。

 

 まるで狐につままれたような感覚からふと我に返ると、周囲はやはり神宮東門駅のロータリー。当然、海の底なんかであるはずがない。

 

 

 ただ、それでも……おれの記憶しているさっきまでの状況と異なっている点としては。

 

 おれを組み敷いていたハズの『葉』の群れと、ラニを拘束していた(ツタ)が力無く(しおれ)れ、干からび……

 

 

 

 

「…………何者だね? 無粋な」

 

()ァッ()()()!!! ()()()に願われたからには応えねばなるまいよ! ……して『何者ぞ』と問われたからには……答えねばなるまいな!!」

 

 

 

 駅前ロータリーに立ち並ぶ街灯のひとつ、ひどく危なっかしいその上に……しかし全く危なげなく佇む、小柄で可愛らしいその姿。

 

 

(ワレ)こそは、()の地に根差す神が一柱! 銘を『佐比(サビ)布都(フツノ)天禍尊(アマガツノミコト)』! ()の『鶴城(ツルギ)』の(みや)()の『浪越(ナミコシ)』の地に根差す子()の護り神にして、海原(うなばら)波濤(はとう)を司り(いくさ)振舞(ふるまい)を尊ぶ(モノ)! 人呼んで!!」

 

 

 ほっぺたの柔らかそうな可愛らしいその顔に、歯を剥き出し嬉々とした笑みを浮かべ。

 

 彼女(?)の身の丈を軽く何回りも上回る……五メートルはありそうな両刃の直剣を、いとも軽々と振りかざし。

 

 

 

 

「『()()()()()! 此処(ココ)(まか)り通る!!」

 

 

 荒れ狂う大時化(おおしけ)のような、途方もない魔力(神力)を迸らせて。

 おれのよく知るその姿が……しかしおれの記憶とは全く異なる表情・異なる口調で、堂々たる名乗りを上げた。

 

 





いざ舞え、踊れ、『祭』である


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116【年末騒動】ツルギの神

 

 どう考えてもヒトの手には余る、およそ五メートルはあろうかという馬鹿でかい刀剣を携え、白髪狗耳ロリ可愛(カワ)巫女シロちゃん……の姿をした『剣神』フツノ……を名乗るモノは、軽々と街灯から飛び降り『魔王』へと踊り掛かった。

 

 小さな手で器用に巨大剣を握り、天頂から振り下ろしての一撃。受けきれないと判断した『魔王』はその身を翻し、すんでのところで逃れる。巨大剣は勢いをそのままに路面のアスファルトを軽々と切り裂き、深々と食い込む。

 好機と判断した『魔王』は攻撃を試みるが、自称・剣神フツノは地に突き刺さったハズの巨大剣を容易く引き抜き切り返し、飛来する『棘』を軽々と打ち落とす。

 その背後から迫ってた『(ツタ)』には一瞥もくれず……周囲に渦巻いていた魔力(神力)を具現化させ、意のままに(はし)る潮流が呑み込み、押し潰す。

 巨大剣を容易く振り回し攻め立て的確に退路を削ぎ、動きを固められた『魔王』へと、大きく迂回してきた潮流を直上から叩きつける。

 おれたちへの特効効果を備えた、天敵とも言える『保持者』は呆気なく(なみ)に呑み込まれ……非常に呆気なく大の字に()されてしまった。マジか。

 

 

 

「っ、ぶ…………不愉快な。一張羅が台無しじゃないか」

 

()()! 水も(したた)ると()う奴か。一段と男前になったではないか!」

 

「……成程(なるほど)、自らを『神』だなどと豪語するだけはある」

 

「我は(ただ)事実を述べたのみよ。一方の貴様は名ばかりよな。臣下を持たぬ『王』(もど)きめ、所詮はこの程度か?」

 

 

 距離を取り口を開いた『魔王』に、自称・剣神フツノは朗々と答える。巨大剣の柄をトンと肩に担ぎ、余裕綽々と相手を見下してのける。

 

 圧倒的な実力を前に、窮地を逃れたおれもラニも唖然とするほか無い。

 神域から出られないハズの鶴城(つるぎ)神宮関係者がどうしてここに居るのかとか、そもそもあのシロちゃんの姿をしたモノは何者なのかとか、解らないことはたくさんあるけど……何はともあれ、目の前の超常大決戦に唖然とするしかない。

 

 自称・剣神フツノに煽られた『魔王』はその表情こそ笑みを保っているものの……先程までとは異なり、明らかに焦りが見てとれる。この自称・剣神フツノの実力はそれほどまでに桁違いなのだろう、それはおれの目から見ても明らかだった。

 

 

「……先程から自称自称と失礼な小娘よな。覚えの悪い()は長生きせぬぞ。我は正真正銘『剣神』フツノ、『佐比(サビ)布都(フツノ)天禍尊(アマガツノミコト)』と云うて()ろうが」

 

「ぅひぇ!?」

 

龍影(リョウエイ)真柄(マガラ)痣丸(アザマル)()(かく)として……千秋(センシュウ)やら清雪(セイセツ)やら蓬乾(ホウケン)やら、果ては知我麻(チカマ)望月(モチヅキ)らまでもが皆、一様に口を揃え褒め称えるのだ。どんな才女かと期待して()れば……」

 

 

 ()しょ…………剣神フツノ……さん、さま、は……おもむろに巨大剣を横薙ぎに一閃、じりじり迫っていた『葉』をひとふりで軽々と薙ぎ払い……何もない空間から短刀を取り出し、手指の動きで『魔王』めがけて放る。……お放りになられる。

 投擲された短刀のみで防御結界を軽々と打ち砕かれ、さしもの『魔王』も驚愕を禁じ得ない模様。

 ……さ、さすがですフツノさま。

 

 

()()()! 褒めるな褒めるな! 我こそは『剣神』の名を戴く者ぞ!」

 

「ぐ……冗談ではない!!」

 

 

 五メートルの巨大剣を振りかぶりながら、左掌には標準サイズの脇差をどこからともなく取り出すフツノ……さま。

 更に周囲には両刃の短刀……というよりかは槍の穂先を四つばかり浮かべ、そんな重装備でも足取りは軽やかに『魔王』へと肉薄する。

 自らが誇らしげに掲げる『剣神』の名に恥じない、多種多様な刀剣類を用いての飽和攻撃。さっきのおれたちが必死に追い払っていたときとは、殲滅力がまるで桁違いだ。

 『魔王』はフツノさまの攻撃を凌ぎきるので精一杯。周囲に控える『魔王』の取り巻き、(しょ)っぱなの大浪(おおなみ)を逃れて生き残っていた『葉』たちも、鎧袖一触で塵に還されていく。

 

 

()()だ! 踊り足りぬわ! 気張(きば)れよ龍影(リョウエイ)!!」

 

 

 右手に構える巨大な剣、超絶な破壊力をもちながら鈍重(とはいってもおれの基準で言えば充分速い)であるそれを縦横無尽に振りまわし、その間隙を縫うように左手に握られた脇差が振るわれ、ときには手を離れて飛翔する。

 

 脇差の間合いから外れれば外れたで、今度は意のままに飛翔する槍の穂先が襲いかかる。

 牽制では収まらない威力の牽制を凌いだ先には、当たれば恐らく即死であろう巨大剣の一撃が襲いかかる。

 

 巨大剣の間合いよりも外に逃れれば、今度は顕現した『宙を(はし)る浪』が牙を剥く。

 初手で『葉』の大群やラニを戒める(ツタ)を枯らしたように、あの水は植物にとっては有害なのだろう。それを差し引いたとしても、あれほどの質量の直撃を受けてはひとたまりもない。

 

 

 駅ビル攻略中におれたちが念頭に置いていた『あまり建造物に被害を出さないように気を付けよう』とかいう、あの葛藤が何だったのかは……うん、あんまり考えないことにしよう。

 あたりの路面や壁面はそこかしこが割れ砕け、アスファルトも街灯も信号機も停留所の屋根も、至るところに綺麗な切断面が走っている。リョウエイさんがんばれ。

 

 そんな猛攻に晒されては、さしもの『魔王』とて無傷とは行かなかったのだろう。埃ひとつ無いカーキ色のスーツは見る影もなく、そこかしこに砂埃と赤黒い汚れが滲んでいる。

 

 

 

「ハッ、弱いな。…………此の程度か。興醒(きょうざ)めだな」

 

「く……っ、」

 

 

 やがてフツノさまは吐き捨てるような一言と共に……まるで興味を失ったかのように、巨大剣を含めた刀剣の全てをどこぞへと仕舞ってしまった。

 しかし一方の『魔王』は攻勢に転じる余裕も無いらしく……肩で息をするように立ち竦むばかり。

 

 

「ハァ……ヨミの(つか)いめが『大いなる(わざわい)』と騒ぎ立て()るからこそ、大切な依代(シロ)を投じたと云うに。……全くの無駄足だったでは無いか。まるで手応えが無いとは思うたが……只の形代(カタシロ)に過ぎぬで()ろう? 貴様」

 

「えっ!?」

 

「……まさか、そこまでお見通しとは。全くもって()りづらい。……自称『神』がこうも容易く現れるとは……何なのだ、この世界は」

 

「恨むならばこの地に……我が波濤(はとう)の加護宿りし『浪越(なみこし)』の地に降り立った、貴様の不運を恨むのだな」

 

「…………忠告、有り難く受け取っておこう。この地の神よ」

 

呵々(カカ)! 此の地は決して渡さぬよ、尻尾(シッポ)を巻いて逃げ帰るが良い。……二度と顔を見せるな、(うつわ)たらぬ()()()()の『王』よ」

 

 

 

 フツノさまの言葉を受けて憎悪の表情を垣間見せ……山本五郎さんの姿をとった『魔王』メイルス()()()()()()()()()()木偶人形は、ぼろぼろと呆気なく崩れ去っていった。

 おれに対する欲求を付け込まれた四人の『元・保持者』は、幸い一人の犠牲者も出すこと無くその全てが無力化され……

 

 鶴城神宮のすぐ目の前で繰り広げられた一戦は……この地に根差す神様の介入によって、その幕を閉じたのだった。

 

 

 



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117【年末騒動】彼女の選択

 

 

「さァ、て……訊きたい事が在るのだろう? 其処(ソコ)化生(ケショウ)の小娘よ」

 

 

 敵となるもの全てが消え失せた『カクリヨ』の結界内で……シロちゃんの身体に宿った『剣神』フツノさまは、タクシーのボンネットにどっかりと腰を落として胡座をかくと、堂々たる口調でそう言っ……(おっしゃ)った。

 

 

「今の(ワレ)は機嫌が良い。少々拍子抜けだったと()えど、久方振(ひさかたぶ)りに【神器(ナミタチ)】を振るえたは一応の事実ゆえな。……『赦す』。何なりと問うてみるが良い」

 

 

 機嫌が良い、というのは本当なのだろう。普段のシロちゃんとは方向性がやや異なるとはいえ、その顔に浮かぶのは晴れ晴れとした笑顔。……控えめに微笑む普段のシロちゃんも尊いが、この青空のような笑顔もなかなか捨てがたい。

 

 違う、そんなこと考えてる場合じゃない。

 おれのなかで渦巻いている、ある()()……それがさっきから気になって、仕方ない。

 

 

 

「…………さっき、『せっかく大切なシロを投じたのに』って言ってましたよね。……シロちゃんは、今どうなってるんですか? フツノさまって、本当にあの鶴城さんの主神のフツノさまなんですか? ……シロちゃんは、大丈夫なんですか?」

 

「良かろう。順に答えよう。此の依代(シロ)は貴様が察する通り、今(ワレ)依代(ヨリシロ)として用いている。次に、我は正真正銘鶴城(ツルギ)の宮の主神『佐比(サビ)布都(フツノ)天禍(アマガツノ)(ミコト)』その(ヒト)である。……して、この依代(シロ)だが……何を(もっ)てして『大丈夫』と評すかは解らぬが、仮に『以前と同じ状況へ戻れるのか、否か』と問われたとすれば……『否』だ」

 

「っ…………!?」

 

 

 ……以前と同じ状況へは、戻れない。

 今確かに、はっきりと、鶴城の主神その(ひと)である彼(?)は……そう言った。

 

 震えそうになる喉に無理矢理平静を繕わせ、絞り出すように問いを続ける。

 

 

「……どう、なっちゃうんですか、シロちゃんは。……フツノさまが離れたら、シロちゃんはどうなっちゃうんですか」

 

()ぐに死ぬことは無かろう。……が、()うして鶴城(ツルギ)の『神域結界』の()へと出……()()()()()のだ。今我が()の身を手放せば、もう此奴の身へと()が神力を届ける事は叶わぬ」

 

「な……ッ!? そんな!! そんなの、」

 

非道(ヒド)い……と云うか? 小娘。……勘違いするな、(コレ)元来(もともと)()()()()()()だ。(ワレ)ら神を其の身に宿し、『神域』の外へと道を拓き、役目を終えれば()を絶たれ、神性を喪う。()()()()()()なのだ、『依代(シロ)』とは」

 

「!? ちょ…………ま、まって……『シロ』って……名前、一族、って……」

 

「……其処(ソコ)からか。(ソレ)は『個』を示す『名前』では無い。()の者の『シロ』とは……肩書、役職と呼ぶ方が近かろうな」

 

「…………そん、な」

 

 

 あの子が……おれにいろいろと教えてくれた、小さくて可愛らしい頼れる先輩巫女である、シロちゃんが。

 自分自身の、本来の名前さえ名乗ることを許されない……そんな『使い捨て』の道具のような扱いを受けていただなんて。

 

 鶴城神宮が。この国の神々が。それに連なるひとたちが。

 そんな、彼女(ヒト)個人(ヒト)とも思わぬような思考の持ち主の集まりだったなんて。

 

 

「あぁ、勘違いするで無いぞ? 依代(シロ)の監督役であった龍影(リョウエイ)達……真柄(マガラ)痣丸(アザマル)を始め『(マワ)り方』(ども)はな、此の子を大層可愛がって居ったよ。今日()()()()()()も、大変に悔いて居った。『残念でならぬ。堅物の真柄(マガラ)も、今代の依代(シロ)には(ほだ)されて来て居たのだが』とな」

 

「っ、……なんとか! 何とかならないんですか!?」

 

 

 

 ほんの数日、ほんの数回顔を合わせていただけだったが……ほんのわずかに、彼ら彼女らの間柄を垣間見ただけだったが。

 

 控えめで大人しいながらも、優しく笑うシロちゃんが。

 

 無愛想で不器用ながらも、その実はとても思慮深いマガラさんが。

 

 どこか底知れぬところもあるが、心穏やかで調和を尊ぶリョウエイさんが。

 

 

 彼らの関係が、今日これ限りで終わってしまうということは……『残念』なんていう一言では、到底表しきれない。

 

 

 

 

「業腹だが……我には何も出来ぬな。結界から出て()が絶たれた神使に()()を授ける等、我らの神力が狭苦しい『神域結界』に押し籠められている以上は如何(どう)しようも無い。此の国・此の時勢に『結界』内で()を結んだ神々(ワレラ)に頼らず、()()()()()()()()()()()()()()()等……()んな玉虫色の手段等、在る訳が無かろう?」

 

 

 

 

 

「…………………………え?」

 

 

 

 落ち着け。考えろ。冷静になれ。

 今フツノさまは……何といった。

 

 神様との縁が絶たれても。神様から神力を授かることが出来なくなっても。

 ()()()()()()()()()()()()()()()ことが出来れば……シロちゃんは助かると。

 そう言ったのではないか?

 

 

 

 

「………………」

 

「………………」

 

 

 おれと同じ結論に辿り着いたのだろうか。おれと深い深い()を繋いだ存在と……大切なおれの相棒と、思わず顔を見合わせる。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()ことで存在を保っている『妖精ラニ』と、目が合う。

 

 

 

「……フツノさま」

 

「…………小娘が。(ワレ)から我の神使を奪い取ると……そう云って退()けるか」

 

「はい。…………気に入りませんか?」

 

()()()! 気に喰わぬな! (ワレ)の所有物を()(さら)われると在っては、当然気に喰わぬ!! 気に喰わぬが…………(ワレ)(コレ)でも子煩悩(ゆえ)、な。子に道を強いる程愚かでは無い。……()()に聞くが良い」

 

「え、ちょっ……」

 

 

 

 

 シロちゃんに収まるフツノさまは、そう言うと(まぶた)をストンと落とし

 ……それと同時に、シロちゃんを取り巻いていた神力が、あっという間に霧消する。

 

 

 その呼称()のとおり真っ白な睫毛に縁取られた(まぶた)がゆっくりと持ち上がり。

 

 しばし周囲へと巡らされた瞳が、間近で見つめるおれに焦点を合わせる。

 

 

 

「っ、ぁ…………ワカメ、さま……?」

 

「シロ…………ちゃん」

 

「……わた、くしを……シロ、を……いえ…………『依代(シロ)』では無くなる、わたくしを……」

 

「…………シロちゃん」

 

 

 やはり……彼女は全てを知った上で、こうしておれを助けに来てくれたのだ。

 おれにこの事態の解決を依頼したのはリョウエイさんだけど、そもそもリョウエイさんが察知して対策を打ってくれなければ……年末年始の大にぎわいな鶴城神宮を襲われ、尋常じゃない被害が出ていただろう。

 名も知らぬ多くの人を守るために、シロちゃんはこの辛すぎる役割を引き受けたのだ。

 

 こんな良い子が死ななきゃいけないなんて……そんなのは絶対に、絶対に間違っている。

 

 

「『御役目』を終えた、わたくしを……受け入れて…………くださる、ので、ございまする……か?」

 

「シロちゃんが……良いなら。…………おれは、シロちゃんを……『シロ』じゃなくなったとしても、()()を失いたくない。……きみが、必要なんだ」

 

「っ……!? わ、ワカメ……さま……」

 

 

 

 清らかさが形になったかのように綺麗な純白の髪と、未だ幼げながら浮世離れした風貌を備えた……神の導き手として生を受けた、神狗の少女。

 周囲の誰もが想定していたよりも遥かに早くにその御役目を終え、御役御免となった……小さな女の子。

 

 おれの提案、おれの求めに対して……彼女が下した回答。

 生まれも役目も関係無く。彼女本人の口から発せられた、他の誰にも……それこそ神様にも強いられない、彼女の希望。

 

 

 ………………それは。

 

 

 



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118【謹賀新年】つまりはこれからも

 

「お待たせいたしました。明けましておめでとうございます。…………はい、……はい、……はい。承りました。御初穂料二千五百円、ご用意をお願いいたします。……はい。確かに。どうぞお納めください。……はい。お疲れ様でございました」

 

「ようこそお参りでございまする。……はい。……はい。承りましてございまする。御初穂料千五百円、お納めをお願い致しまする。…………はい。こちら三体、お納めくださいませ。失礼致しまする。……はい。ようこそお参り下さいました」

 

 

 

 …………おかしい。

 これは…………おかしい。

 

 なにかあったに……違いない。

 

 

 

 とりあえず、現状を説明させていただこう。

 

 現在の時刻は……なんと、てっぺん回って零時五分。

 そう、何を隠そう(隠してないけど)ついさっき年が明けたばかりなのだ。

 

 なにはともあれ……あけましておめでとう、親愛なる人間種諸君。

 

 夕方頃に予定外の急務こそ入ったものの、今は予定通りおしごとの真っ最中である。新年を迎えたばかりの鶴城神宮は、一斉になだれ込んできた参拝者の波によって見渡す限りの人・ヒト・ひとアンドHITO。境内は大まかに一方通行の区画整理がなされ、混雑を可能な限り緩和しようと誰も彼もが頑張っている。

 おれが座る授与所の窓口から見た限りでは……廻り方の、たしかアザマルさんだっけ。彼が比較的すいている窓口へと参拝客を割り振ろうと奮闘している様子が見てとれる。

 …………まぁ、残念ながらあまり功を奏していないんだけど。

 

 

「ようこそお参りでございます。……はい、……はい!? ……えっと、はい、承りました。……御初穂料……いっ、一万二千五百円、ご用意をお願いいたします。……はい。確かに。どうぞお納めください。……はい。お疲れ様でございました。良い一年でありますように」

 

 

 SNS(つぶやいたー)で事前に宣伝した甲斐あってか、おれ目当てで来てくれたという参拝客の方々が(驚くことに)何人も居た。

 握手して『ありがとうございます!!』って言いたいところだけど……今のおれは巫女さんなのだ。研修三日か四日かそこらの新参ぺーぺーだけど、その意識だけはプロ並みなのだ。

 おまけにおれには、エルフとして生を受け(生まれ変わっ)たときに備わった反則(チート)的語学力がある。アザマルさん始め参拝者誘導係の方々には『日本語が得意じゃない方々は、なるべくおれに回してください。何とかします』と伝えてあるので、国外からお越しの参拝者さんたちは優先的におれに回される。

 ……よって、おれのところに並んでいる方々は……必然的に多い。

 

 つまりはおれを見ている目の数も当然多くなるので……巫女さんとしてお勤めする以上は、ふさわしくない行為は慎まなければならない。

 なんてったっておれの仕事の様子は参拝者さんたちだけではなく、神様だって見ているのだ。初詣に来る人だって次から次へと尽きることは無いだろうし、てきぱきとこなさなければいけない。

 

 

 …………まぁ、それは良いんだ、別に。最初からそのつもりだったし。シロちゃんから仕事内容を聞いてある程度覚悟していたことだし。

 

 だけど……だけど、さすがに()()はおかしいと思う。

 

 

 

 なんで、どうして、おれの窓口に並んでいる参拝客の方々が!

 というか……おれの窓口だけじゃなく! 周囲に並ぶ方々までもが!

 

 全員! スマホを! カメラを! 当然のようにコッチへ向けて構えているのか!!

 

 

 

 

『ノワのエルフ耳が珍しいからじゃん? それか……あれだよ、やっぱ黒髪でも『カワイイ』は目立つんだって』

 

(境内って撮影禁止だったりするんじゃないの!? ちょっと神様どうなってんの!?)

 

『ねぇ神様、境内カメラ禁止じゃないの、ってノワがおキレになられてるんだけど』

 

()()()! 良いのか? 貴様のカメラも取り上げる事と成るぞ?』

 

(ぐ…………それは、やだ)

 

『やだって。じゃあ仕方無いね』

 

『応とも。仕方無きことよ。なァに魂を吸われるでも在るまい、我慢せえ』

 

「ンアー…………!!(小声)」

 

「わ、ワカメ様!? 大丈夫でございまするか!?(小声)」

 

大丈夫(大丈夫じゃない)です!!(小声)」

 

 

 参拝者さんたちや()()()()()()()手前、さすがに大きく取り乱したりは出来ないが……かといって受け流せるほどおれは大人じゃないので、小さく取り乱す。

 本来であれば、私語は当然誉められたもんじゃないだろうが……今日に限ってはまるで戦場のような有り様なのだ。補給兵……もとい頒布品供給役の子や、通信兵……もとい在庫管理係の子と業務連絡していてもおかしくないので、つまりはギリギリ許される。そう思うことにした。

 

 そんな感じでいっぱいいっぱいになっているおれの様子を暖かく見守る、大小様々なレンズとソレを構える人々の群れ。……その中にはカメラもろとも姿を隠した白谷さんの姿もあるのだが……それ自体は別に良いとしよう。そもそも、自分たちの活動報告用としての映像記録は、打ち合わせの段階で許可は貰っている。これは別に良いのだ。

 

 問題は……白谷さんの、すぐ隣。

 そこに存在するモノを認識してしまって、ちょっと頭を抱えたくなる。

 

 

(しか)し……棒振は未々(まだまだ)だが、仕事の手際は中々(なかなか)に見事では無いか。……あー、(ワレ)らも優秀な働き手を()(さら)われたからなァ、優秀な長耳の化生(ケショウ)を巫女に欲しい(ところ)だがなァ……』

 

『それは言わない約束だよ神様。シロちゃ…………キリちゃん本人が望んだんだから。それにノワには()でのお仕事……()()()()を請け負わせるんでしょ?』

 

()()()! ……そうさな。さすがに大人気(おとなげ)無かったか』

 

 

 ……ちくしょう。比喩でもなく()()()()()()()中での助勤(アルバイト)なんて、まったくもって冗談じゃない。

 芸が細かいというか何というか……わざわざ白谷さんと似たり寄ったりな背格好になって、白谷さんとツルんでおれを冷やかしに来るだなんて……本当に冗談じゃない。

 見た目妖精か小人かなのに、その中身はアレだぞ。恐ろしいったらありゃしない。

 おれの精神的不調の元凶を睨み付けて不満を訴えてやりたいところだが、今のおれは接客中だ。こんな寒い中わざわざ足を運んでくれる彼らの心境を鑑みると、不誠実な対応なんてとてもできない。

 

 結果としておれは、自由気ままな神様とおれの相棒との世間話を聞き流しながら……しかし精神の安寧を得るべく、すぐ隣でにこにこ笑顔でお仕事をこなすシロちゃん……改め、霧衣(きりえ)ちゃんをそっと横目で伺い……

 

 

 お仕事中なので控えめながら、それでも心からの安堵の表情を浮かべたのだった。

 

 

 

 

 

 その瞬間の表情をラニカメラだけではなく参拝者スマホにもすっぱ抜かれて、やれ天使だやれ慈愛だやれ聖母だなどと好き勝手に祭り上げられることになるだなんて……

 オマケにその副次的効果で、国内外含めてチャンネル登録者数が倍率ドン! することになるだなんて……

 

 霧衣(きりえ)ちゃんの横顔に見惚れていたこのときのおれには、まったく予想できるハズも無かったのだった。

 

 

 





どうかよろしくね




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【鶴城神宮】木乃若芽ちゃんを語るスレ_第十一夜【公認幼女】

今回はややあっさりめです。安心して下さい。
もし物足りなく感じられたら……すみません。



 

0001:名無しのリスナー

 

※※※わかめちゃんまとめ※※※

 

名前:木乃 若芽(きの わかめ)

年齢:自称・百歳↑(人間換算十歳程度)

所属:なし(個人勢)

スリーサイズ(自称):68/49/66

身長:134㎝(ちっちゃいおねえちゃん)

主な活動場所:YouScreen・浪越市近郊・鶴城神宮

 

備考:かわいい

 

 

0002:名無しのリスナー

 

※※※わかめちゃんまとめ※※※

 

・魔法情報局局長

・合法ロリエルフ

・魔法が使える(マジ説)

・肉料理が好き

・別の世界出身

・チョロそう

・「~~ですし?」

・とてもかしこい

・おうたがじょうず

・実在ロリエルフ

・じつはポンコツ説

・命乞いが得意

・わかめ料理(意味深)

・世界ランキング上位

・見習い巫女さん

 

(※随時追加予定)

 

 

0003:名無しのリスナー

 

>>1

スレ乙

 

 

0004:名無しのリスナー

 

>>1 乙

ちくしょう初詣組楽しんでこいよ!!

 

 

0005:名無しのリスナー

 

>>1

記事立て乙

 

まだ時間あるな

わかめちゃ……SNSちゃんと活用してえらいぞ……

 

 

0006:名無しのリスナー

 

わかめちゃんのシフト見たけどさー……

巫女さんて年始こんなハードスケジュールなの?

 

 

0007:名無しの参拝客

 

てst

 

 

0008:名無しのリスナー

 

@kinowaka-media_NOWA-IT:【お詫びとご報告】親愛なる視聴者の皆様。日頃より『のわめでぃあ』をお引き立ていただき、ありがとうございます。ご報告が直前となってしまい大変恐縮ではありますが……皆様にひとつ、お知らせしなければならないことがあります。

 

 

0009:名無しのリスナー

 

@kinowaka-media_NOWA-IT:【お詫びとご報告】本日ならびに明日予定しておりました、浪越市鶴城神宮での助勤に際してですが……神様のお住まいという厳粛な場であることを鑑み、わたくし木乃若芽の頭髪色は相応しくないと判断いたしました。

 

 

0010:名無しのリスナー

 

@kinowaka-media_NOWA-IT:【お詫びとご報告】ご連絡が直前となりましたことを重ねてお詫び申し上げます。先述の理由より、当日わたくし木乃若芽は頭髪を黒色に変更した上で、助勤に臨ませて頂きたく存じます。

htfp://tubuyaita.pic/201912312134_q3rg6uj/

 

 

0011:名無しのリスナー

 

 だ な

 と ん

 

 

0012:名無しのリスナー

 

@kinowaka-media_NOWA-IT:【お詫びとご報告】ラニが一晩で染めてくれました。スタイリストってすごい。髪色が変わっちゃったらわたしだとわかりづらいですが、休憩を除いてずーっと同じ場所に居るので、どうか許してください。親愛なる視聴者の皆さんと会えるのを、楽しみにしています。よろしくお願いします。

 

 

0013:名無しのリスナー

 

おしゃしんんんんんん!!!!!

黒髪…………だと……!?

 

 

0014:名無しのリスナー

 

まじかー……わかめちゃんのサラサラ緑髪好きだったんだけどなぁ

 

……と思ったがおしゃしん見てすべてを許した

 

 

0015:名無しのリスナー

 

ラニちゃんんんん!!!

万能選手すぎやしませんか!!

 

 

0016:名無しのリスナー

 

びっくりした……直前でキャンセルかと思った

うわなにこれ、美少女じゃん

 

 

0017:名無しの参拝客

 

緑髪じゃないのね、了解

黒髪わかめちゃんもそれはそれで楽しみ

 

 

0018:名無しのリスナー

 

黒髪巫女エルフおしゃしんーーーこれ永久保存やろ

しかしもったいないような、仕方無いような……

 

 

0019:名無しのリスナー

 

>>17

おまえ!!!まさか!!!現地か!!!!!

 

 

0020:名無しのリスナー

 

初詣行けるやついいなぁ……わかめちゃんの吐いた息吸える奴いいなぁ……

 

 

0021:名無しのリスナー

 

>>17

っはーーーー!!!???

おまえそこ代われ!!おれがかわりにわかめちゃん堪能して来てやるから!!!!

 

 

0022:名無しのリスナー

 

>>17 が憎すぎて我を忘れそうになったけど

>>20 が気持ち悪すぎて我に返ったわ

 

 

0023:名無しの現地調査員

 

やっぱ何人かお前らおったんか

そりゃ来るよな……だって生わかめちゃんやで……

 

 

0024:名無しのリスナー

 

わかめちゃんおしゃしんありがとう!!!

 

しかしいつもよりスレの流れ遅い気がするのはそういうことか!!!!

現地か!!!ちくしょうあいつら!!!!

 

 

0025:名無しのリスナー

 

生わかめちゃんいいなぁ……

 

生わかめちゃんいいなぁ………………

 

 

0026:名無しのリスナー

 

黒髪巫女服ロリエルフとか属性盛りすぎじゃん……

ぜったいかわいいじゃん……会いたいよママ…………

 

 

0027:名無しのリスナー

 

わかめちゃん九州にも来て……

 

 

0028:名無しのリスナー

 

東京きて……ファンミーティングひらいて……わかめちゃ……

 

 

0029:名無しの現地調査員

 

鶴城神宮ぼっち参拝スマホ凝視ニキここの住人説

 

 

0030:名無しのリスナー

 

おまえら!!!!!!わかめてゃの!!!つぶやいたー!!!!

しゃしん!!黒髪ろりえるふ!!!!!ア!!!!!!!

 

ア!!!!!!ああ!!!!!!!

 

 

0031:名無しのリスナー

 

おしごとがんばって

 

 

0032:名無しのリスナー

 

ウワアアアアアア!!!!

おねえちゃん!!!!すき!!!!!!!!

 

 

0033:名無しのリスナー

 

うそでしょ……何この美少女…………

エルフなのに黒髪巫女服が違和感無いって何…………

 

 

0034:名無しのリスナー

 

アッ!!!ああ!!!!!アッアッアッ!!!!!!!ア!!!!!!!

 

 

0035:名無しのリスナー

 

巫女服すきニキこれ死んだんじゃねえかな

 

 

0036:名無しのリスナー

 

現地来れない視聴者にもやさしいわかめちゃん本当すこ……

 

 

0037:名無しのリスナー

 

うう……おしゃしんたすかる……ママ……

 

 

0038:名無しのリスナー

 

は?かわいい

 

 

0039:名無しのリスナー

 

中継は無理だよなぁさすがになあ……

すごくても人員規模は個人勢だもんなぁ……

 

 

0040:名無しのリスナー

 

これ尊死するレベルでしょ

 

 

0041:名無しのリスナー

 

このわかめちゃんは永久保存ですやん

 

 

0042:名無しのリスナー

 

ちくしょう現地組羨ましすぎる

憎しみで人が○せれば

 

 

0043:名無しの参拝客

 

まだ日付変わってないのにめっちゃ人多い

 

やっべめっちゃたのしみ

めっちゃドキドキしてきた

 

 

0044:名無しの現地調査員

 

この中の何人がわかめちゃん効果なんだろうな……

ぱっと見明らかに去年より混んでるぞ

 

 

0045:名無しのリスナー

 

肌の露出が無いのにめっちゃえっちに見えてしまう

さっきから息子が元気いっぱいすぎてやばい

 

日頃から巫女モノで致しまくってきた俺には刺激が強すぎる

 

 

0046:名無しのリスナー

 

わかめちゃん

 ああわかめちゃん

     おねえちゃん

おしゃしんかわいい

  もっとおしゃしん

 

 

0047:名無しのリスナー

 

決めたわ。俺も今から浪越市行くわ。

 

 

0048:名無しの現地調査員

 

ツレと連絡つかねんだけど

マジ人多すぎワロロンティーヌ

 

 

0049:名無しのリスナー

 

つぶやいたーのおしゃしんさぁ、これ地鶏じゃないじゃん?

ということはラニちゃんもおるんやな!!いい仕事してますねえ!!

 

 

0050:名無しのリスナー

 

だっこのポーズはだめでしょ

ママ……だっこしてママ……

 

 

0051:名無しのリスナー

 

つぶやいたーいっぱい活用してくれるわかめちゃんたすかる

 

 

0052:名無しのリスナー

 

ラニちゃんも現地おるんか?

まあラニちゃんっていうかラニちゃんの魂っていうか……

 

 

0053:名無しの参拝客

 

授与所、ってこれだよな。

さすがにまだわかめちゃん居ないか

 

 

0054:名無しのリスナー

 

おしゃしん綺麗だなあ……

黒髪もめっちゃ自然だし、染めた感無いよね……すごい

 

 

0055:名無しのリスナー

 

さむそう

 

 

0056:名無しの現地調査員

 

ツレが電話にでんわ

この人混みの中ではぐれるとかマジ萎えぽよなんだがーーー???

 

まぁいいや。おれはわかめちゃんを優先するぞ

悪く思うなよ

 

 

0057:名無しのリスナー

 

つぶやいたーでちょくちょくわかめちゃんの話題見かけるの、なんだか嬉しい

さっきの写真めっちゃ拡散してるっぽいし

 

 

0058:名無しのリスナー

 

屋台っていいよね……

わかめちゃんと屋台巡りデートしたい人生だった……

 

 

0059:名無しの参拝客

 

>>55

実際さむい。めっちゃさむい。日が落ちてから一気に冷えてきた

こんな気温なのに重ね着できない巫女さんマジ大変そうだわ……

 

 

0060:名無しのリスナー

 

@kinowaka-media_NOWA-IT:おしごとの様子はラニが記録して、つぶやいたーに投稿してくれるらしいです。おしごとに支障がでない範囲でなるべく写真も載せられるようがんばりますので、鶴城さんに来れないかたも雰囲気だけでも味わってくださいね。

htfp://tubuyaita.pic/201912312134_j62s03g/

 

やさしい……ママやさしい…………

 

 

0061:名無しのリスナー

 

さすラニ

 

らにちゃんありがとう……gj…………

 

 

0062:名無しのリスナー

 

推しユアキャスが巫女わかめちゃんに食いついててわらう

めっちゃテンション上がってて逆にこっちがほっこりするわ

 

 

0063:名無しのリスナー

 

巫女わかめちゃんおしゃしんの拡散ペースやばない??

 

 

0064:名無しのリスナー

 

>>60

ついかの!!!おしゃしん1!!!!

はたらくわかめちゃんの!!!!ア!!!!

 

 

0065:名無しのリスナー

 

>>62

それどこの剣治お兄ちゃんだよ

 

 

0066:名無しのリスナー

 

わかめちゃんのかわいさがついに人々に認められるように……

胸が熱くなるな……

 

 

0067:名無しのリスナー

 

>>62

どうせけんじおにいちゃんでしょ

 

 

0068:名無しのリスナー

 

おしゃしんに付いてる英語リプ笑うわ

巫女服に食いついた海外ニキがわかめちゃんのおみみ見て語彙失ってるの

 

 

0069:名無しのリスナー

 

>>62

剣治お兄ちゃんは予想通りだからまぁいいにしても

よいねしてるユアキャスの者結構いるな

 

いいぞ……わかめちゃんに興味もってけ……

 

 

0070:名無しのリスナー

 

巫女服わかめちゃんがバズって知名度上がってほしいし推しとコラボしてほしい

 

 

0071:名無しのリスナー

 

@kinowaka-media_NOWA-IT:じつは……さむいので袴の下にこっそりタイツはいてます。ナイショですよ

 

ア゜!!!!かわいい!!!!!!

 

 

0072:名無しのリスナー

 

わかめちゃんのタイツになりたい

 

 

0073:名無しのリスナー

 

ええ…………うそだろかわいい…………

 

 

0074:名無しの参拝客

 

覚悟完了。俺はもうここから動かねえ。

神様には悪いけどわかめちゃん優先すっぞ

 

 

0075:名無しのリスナー

 

一日だけっていうのがな……

二日だったら俺も行けたのに……うううう……

 

 

0056:名無しのリスナー

 

jkになってわかめちゃんといっしょにご奉仕したい人生だった

 

 

0077:名無しのリスナー

 

おれはラニちゃんならやってくれるって信じてる

ノワちゃんだいすきっ子の本気を見せてくれ

 

 

0078:名無しのリスナー

 

@kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】ノワがどっか行っちゃいました。呼び出し食らっちゃったみたいです。タイツ没収かな?

 

没収するならおれにくれ!!!!!

 

 

0079:名無しのリスナー

 

次のおしゃしんがまちどおしい……

わかめちゃんわかめちゃんわかめちゃん

 

 

0080:名無しのリスナー

 

わかめちゃんwwwwwww

呼び出しwwwwwwwwwwww

 

 

0081:名無しのリスナー

 

タイツ没収wwwww無慈悲wwwwwwwwwww

 

 

 

………………

 

 

………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

 

 

 

0120:名無しのリスナー

 

@kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】鶴城さんから妖精がありました。予定を早めてこれからノワが出撃するようです。みんなノワをよろしくね

htfp://tubuyaita.pic/201912312148_4h7ijk/

 

いまから!!?!???

 

 

0121:名無しのリスナー

 

いまから!!!!!?!??

 

 

0122:名無しのリスナー

 

妖精があったかwwwwwwwwww

そうだね、ラニちゃん妖精だもんね。誤字かわいいかよ

 

 

0123:名無しのリスナー

 

がんばるぞいKAWAII…………

 

 

0124:名無しのリスナー

 

予定を早めて出陣か……

そんな阿鼻叫喚なんか現地

 

 

0125:名無しのリスナー

 

しゃしんたすかる……

がんばるぞいわかめちゃんくそかわ

 

 

0126:名無しのリスナー

 

@kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】現地にお越しの方へ。ノワ本人にはナイショですが、写真はノワに限り撮影を許可します。鶴来神宮さんの許可済です。ノワにはナイショです。他の巫女さんは原則ダメです。ノワは撮影OKなので、がまんしてください。一般の方々も映らないように配慮してください。

 

ひっでえwwwwwらにちゃんGJwwwwwwww

 

 

0127:名無しのリスナー

 

ラニちゃんwwwwwwやりおるwwwwwwwwww

 

 

0128:名無しのリスナー

 

らにちゃんの「ノワ」呼び好きだなぁ……

めっちゃ信頼してる感あふれてて尊い……

 

 

0129:名無しの参拝客

 

わかめちゃん出陣マジか!!!!!

どこ!!!!!!!!!!

 

 

 

0130:名無しのリスナー

 

らにちゃんならやってくれると信じてました

 

 

0131:名無しのリスナー

 

ノワにはナイショですwwwwwwwww

海草生えるwwwwwwwwwwww

 

 

0132:名無しのリスナー

 

現地ニキしゃしんはやく

 

 

0133:名無しの参拝客

 

きた!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

0134:名無しのリスナー

 

写真撮影解禁てことはわかめちゃんのおしゃしん撮るフレンズがいっぱい出てくるってことやんな

頼むぞ同志……たのむぞ……

 

 

0135:名無しのリスナー

 

わかめちゃんのタイツは無事だったんだろうか

 

わかめちゃんはどんな勝負ぱんつはいてるんだろうか

 

 

0136:名無しの参拝客

 

【速報】生わかめちゃん出陣

現地のおまえらによる歓声ハンパない件

 

 

0137:名無しの氏子

 

なんかテレビスタッフおるぞ

なんでこんなとこに陣取ってんだ?本殿じゃねえの?

 

ぶっちゃけ邪魔なんだが

 

 

0138:名無しのリスナー

 

わかめちゃんきた!?!????!

 

 

0139:名無しのリスナー

 

生わかめちゃん!!!!?!!?

 

 

0140:名無しのリスナー

 

現地のおまえらwwwwwwwwww

 

 

0141:名無しのリスナー

 

おまえらwwwwwwwwwwwwわらうわwwwww

 

 

0142:名無しのリスナー

 

おれらじゃない現地の人びっくりしただろうな

いきなり野太い歓声が上がったんだろ

 

 

0143:名無しのリスナー

 

しゃしん!!!はやくして1!!!

やくめでしょ!!!!!!

 

 

0144:名無しの参拝客

 

かわいい…………ちっちゃい……かわいい…………

 

 

0145:名無しのリスナー

 

今から明日の夜までか……きつそう

 

わかめちゃんキツそう(意味深)

 

 

0146:名無しのリスナー

 

@kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】「現地にお越しの方へ。暖かいご声援、ありがとうございます。ですが、鶴来さんには多くの方々が訪れます。厳粛な場ですので、熱い思いは胸の内にとどめておくようにお願いします。ほんとはとてもうれしいです。」だそうです。どうよ、ノワかわいいでしょ。あげないよ

 

かわいいよ!!!!!

ほしい!!!!!!

 

 

0147:名無しのリスナー

 

リアルタイムつぶやいたーたすかる

 

 

0148:名無しのリスナー

 

現地ニキいわれとるぞー

のわちゃんかわいいしラニちゃんもかわいい

 

 

0149:名無しのリスナー

 

ラニちゃんのノワちゃんすきすきっぷりメッチャかわいいよなぁ……

 

 

0150:名無しのリスナー

 

まわりの迷惑を考えるのわちゃんえらいぞ

 

 

0151:名無しのリスナー

 

つぶやいたーリアルタイム有効活用できてえらいぞ……

 

って言おうとしたけど今の担当らにちゃんなのか。

らにちゃんえらいぞ

 

 

0152:名無しのリスナー

 

テレビスタッフ沸いてんの草

まぁ大晦日だしな、各地の様子をーとかあってもおかしく無いか?

 

 

0153:名無しのリスナー

 

現地ニキしゃしんおねがい……おねがい……

 

 

0154:名無しのリスナー

 

実戦型わかめちゃんのしゃしんはやく

現地ニキはやく

 

 

0155:名無しのリスナー

 

べつにファンサービスとか演目とかあるわけでもないのに、ただアルバイトするだけなのに歓声上がるって……

 

 

0156:名無しの参拝客

 

htfps://vvvvvv.uploader/domein/meccha_kawaii.fc.jp/20191231xxxx_0038/

 

htfps://vvvvvv.uploader/domein/meccha_kawaii.fc.jp/20191231xxxx_0059/

 

htfps://vvvvvv.uploader/domein/meccha_kawaii.fc.jp/20191231xxxx_0124/

 

 

0157:名無しのリスナー

 

鶴城神宮まで公共交通機関で三時間……

…………おれも行くかなぁ、悩める

 

 

0158:名無しのリスナー

 

生わかめちゃん登場かぁ……いいなぁ盛り上がってるんだろうなぁ……

あっでもわかめちゃん直々に「低まれ」のおふれがでたのか……

 

 

0159:名無しのリスナー

 

>>156

アッ!!!!!!神

 

 

0160:名無しのリスナー

 

>>156

うわちっちゃ!!!かわ!!!!!!なにこれやば!!!!!クッッソかわ!!!!!!なにこれ!!!!!

 

 

0161:名無しのリスナー

 

>>156

よるのおしごとに臨むわかめちゃん!!!!

 

よるのおしごとに臨むわかめちゃんだ!!!!!!!

 

 

0162:名無しのリスナー

 

>>156

ニキありがとう!!!!

もう百枚以上撮ってることには触れないでおいてやる!!!!

 

 

0163:名無しのリスナー

 

つぶやいたーでもわかめちゃんの写真出回り始めてるんだけど

ことごとく盗撮じみてて海草生える

 

 

0164:名無しのリスナー

 

アッ!!!!!!かわいい!!

決めたわ。おれも初詣いくぞ。片道三時間がなんぼのもんじゃ

 

 

0165:名無しの参拝客

 

ねぇ……俺さ。今まだ年明けてないけどさ、お守り買ったんだけどさ。

 

わかめちゃんやばいわ。やばい。これはやばいぞお前ら。何がヤバイって……全部やばい。やばすぎて野蛮人になるわ

 

 

0166:名無しのリスナー

 

みんな巫女服と黒髪にしか注目してないけどさ

注目すべきはサラッサラのポニテやろ。ほっぺの輪郭とうなじと首筋やろ。

控え目に言って神やぞあの髪質

 

 

0167:名無しのリスナー

 

写真撮影の許可は降りてるけど、動画はさすがにアウトだよな……

はたらくわかめちゃんおねえちゃんのお声ききたいよ……らにちゃん……

 

 

0168:名無しの浪越市民

 

現地なうなんだが

わかめちゃんが接客した参拝客が軒並み語彙力失っててわらうんだけど……

 

俺ももうじきあの仲間入りするんだろうな……感慨深いな…

 

 

0169:名無しのリスナー

 

浪越市在住で生わかめちゃんスルーする奴

もったいなさすぎだろ俺と代われ

 

 

0170:名無しのリスナー

 

>>165

もう少し具体的に頼む

説明いかんによっては今から新幹線の切符を買うぞ俺は

 

 

0171:名無しのリスナー

 

何で俺は日本の隅っこ暮らししとるんや……

わかめちゃんおきなわおいで……水着撮影しよ……ウウ……

 

 

0172:名無しのリスナー

 

らにちゃんとセッ久してからわかめちゃんさらにかわいくなったよな

このかわいさは世界で通用するレベル

 

 

0173:名無しのリスナー

 

モリアキママうらやましいなぁ……こんな美少女と仲良しなんだろ?

 

……まさかなかよし(隠語)してねえよな

まさかねえよな????

 

 

0174:名無しの参拝客

 

実戦配備わかめちゃんのここがすごい

・めっちゃちっちゃい(あからさまに座高が高い。一人だけ座布団マシマシの模様)

・言葉遣いめっちゃ巫女さん(ようこそお参りくださいました、とかいう)

・黒髪めっちゃ自然(染めた感ゼロ。最初から黒髪だったって言われて信じるレベル)

・計算めっちゃ速い(タイムラグほぼ無しで合計金額おしえてくれる)

・めっちゃ頑張りやさん(ちっちゃいから身を乗り出して品物を手渡ししてくれる)

 

・下 に T シ ャ ツ 着 て な い

 

・渡すとき 身 を 乗 り 出 し 前 屈 み

 

・ち ょ っ と だ け み え る

 

 

0175:名無しの浪越市民

 

外国人観光客がわかめちゃん見て悲鳴上げてた

オーマイガーとか本当に言うんだな

 

 

0176:名無しのリスナー

 

おしゃしんと盗撮写真でとても幸せな気分になれる

推しててよかった……

 

 

0177:名無しのリスナー

 

>>174

すごい

 

すごい

 

 

0178:名無しのリスナー

 

>>174

まじかよ!!むなもと!!!!?!???!わかめちゃんの1!11!!!!11

 

 

0179:名無しのリスナー

 

>>174

thx.

のぞみ始発指定席取ったわ

 

>>175

悲鳴って穏やかじゃねえな

なにがあったんだろ

 

 

0180:名無しのリスナー

 

>>175

悲鳴wwwwwwwwwwww

 

外国人ってエルフ耳になんか悪感情あるんか……?

わかめちゃんが嫌われるのやだなぁ……

 

 

0181:名無しの参拝客

 

外国人ニキの悲鳴ならおれも見たな

OMGとかWTFとか聞こえてちょっとワクワクしたのはナイショだ

 

何話してるかは全然わかんなかったけど、わかめちゃんニコニコ笑顔でお話ししてたから

嫌われてるとか嫌悪感持たれてるとかそういうのじゃなさげだった

 

 

0182:名無しのリスナー

 

>>174

わかめちゃんのたにま!?!???

 

わかめちゃんのたにま!!!!!!

 

 

0183:名無しのリスナー

 

>>175

オーマイガーwwwwwwwww

 

そりゃ言いたくもなるよ、実在エルフだもん

 

 

0184:名無しのリスナー

 

>>181

当たり前のように外国人ニキと会話できるわかめちゃんッパネェ……!!!!

すげえな……かしこさを腐らせてない

 

 

0185:名無しの浪越市民

 

>>181

代わりに説明thx

 

そう、すっげぇ流暢に英語喋ってた。マジ叡知

海外ニキも大興奮してたしお守りめっちゃ買ってた。

握手してブンブン手振ってたしちゃっかり自撮りツーショットかましてたし……

すげえな、グイグイ行ってたぞあの海外ニキ……裏山

 

 

0186:名無しのリスナー

 

>>181

当たり前のように外国人とコミュニケーションとれるわかめちゃんスッゲェ

 

っていうかテレビスタッフってまさかわかめちゃん目当てじゃないよな?

いやでも普通カメラに収めるとしたら本殿とか、もしくは参道とか露店街だろうし………

まさかな???

 

 

0187:名無しのリスナー

 

@kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】他の国からお越しの人は、ノワの窓口に来てください。かわいいノワがいろんな言語でご案内します。

htfp://tubuyaita.mov/201912312238_8Jh7ipa/

 

動画だ!!!さすラニ!!!!!

しごとがはやい!!!!!

 

 

0188:名無しのリスナー

 

>>185

ぐおおおおおおおおチクショウ!!ツーショット裏山!!!

ちくしょう……外国人特有のグイグイ行けるスキルなんなん……

 

わかめちゃんに手ェだしたらゆるさねえからな……

わかめちゃんは日本の宝なんやぞ

 

 

0189:名無しのリスナー

 

動画だ!!!ア!!!しゃべってる!!!

わかめちゃんおねえちゃんが英語しゃべってる!!!!

 

 

0190:名無しのリスナー

 

>>187

なんでこんな盗撮カメラみたいなローアングルなのwwwwwww

置き鞄の中に仕掛けられた盗撮カメラかよwwwwwwwwwwww

 

めっちゃきれいに英語しゃべってるわかめちゃんすげえ

 

 

0191:名無しのリスナー

 

>>187

アメイジンググレイスのときに解ってたことだけど

やっぱ英語めっちゃきれいだな……すげえ…………

 

あとうごくわかめちゃん尊い。すき

 

 

0192:名無しのリスナー

 

さっきからわかめちゃん(ていうかラニちゃん)のつぶやいたー投稿に張り付いてる海外ニキいるんだけど、これもしかして奴か?

どうするお前ら、処す?処す?

 

 

0193:名無しのリスナー

 

>>187

らにちゃん本当視聴者の心をよーくわかっててくれて嬉しい……

めっちゃたすかるぞ……ありがとうらにちゃん……

 

 

0194:名無しのリスナー

 

まだ日付変わってないんだよな?

明日の夕方までわかめちゃんに会えるんだよな???

 

やっぱおれも初詣行くわ

 

 

0195:名無しの氏子

 

現地ひとどんどん増えてる

今から来ようとしてるやつ無理せず昼間にしたほうがいいぞ多分

 

 

 

 

 

………………………………………………

 

 

………………………………

 

 

………………

 

 

 

 

 




※次回は通常更新に戻ります。ご安心ください。


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119【補足事項】神様のキャリアプラン

 

「ほんっと! 神様もひとが悪いよ! ()()()()()ても別に死ぬわけじゃない、って……そんな大事なこと、もっと早く教えてくれてよかったじゃん!」

 

『まァ人間(ヒト)では無いからな。(そもそ)も貴様が先走り、勝手に思い込んだだけであろうに。他神(タニン)への責任転嫁(など)誉められたモノでは無いぞ?』

 

「えっと…………わたくしは、ワカメ様に拾っていただけて……その、とても嬉しく思って居りまする」

 

「………………んフフ……えへへ」

 

『あぁ、ノワ……キミって…………やっぱチョロいよね』

 

『チョロいな』

 

「うるさいな! このマスコットどもが!!」

 

 

 日付が変わって早々たたみ掛けられた怒濤の第一波を凌ぎきり、おれとシロちゃん……改め、霧衣(きりえ)ちゃんは現在休憩をいただいている。

 おれは日付が変わる前にもちょこっと参戦していたので、そろそろいい感じに慣れて来た感覚がある。

 

 鶴城(つるぎ)さんの助勤(アルバイト)は、一時間半のおつとめの後に小休憩が三十分でワンセット。この合計二時間を延々繰り返すことになるらしい。ちなみに食事や仮眠の時間はこの流れとは別に、それぞれちゃんと確保されているんだとか。

 とはいえなにぶんかなりの長丁場、しかも夜勤込みになるので……同僚の助勤(アルバイト)の女の子たちの中には『もぅマヂ無理』『ヤバイつらたん』『マジ卍』『ぴえん』と感じる子も勿論いるだろう。

 時間の経過と共に疲労は蓄積していくだろうし、彼女たちはまだ若い。中には未成年の子だって居るのだ、泣き言が出たって当然責められることではない。

 

 だが……一方で。おれが前世で(男だった頃に)勤めていた職場は昼夜交互の二交代制の現場だったため、おれはそもそも夜勤に対して耐性がある。

 前職は八時から十時まで働いて、小休憩(10)分を挟んでその後は十二時まで。昼休憩一時間の後は一時から三時まで働いて、(10)分の小休憩を挟んで五時まで。残業が発生すればそれプラスアルファで労働時間が加算されるという……まあ、割とよくあるタイムテーブルだと思う。

 おれの元・職場は、それが二週間ごとでローテーションしていた。昼勤二週間のあとに夜勤も同様に二週間、それぞれ丸十二時間ズレるタイムテーブルとなる。おかげで夜勤にも適応できる身体になったわけだが……こんなところでそのときの経験が役に立つとは。

 

 つまりは、まぁ…………あんまり疲れていないのだ、おれは。

 だからこそこうして『一般人には見えないから』ってはしゃぎ回っているマスコットども(ラニと神様)と、他愛もないお喋りに興じる余裕もあるわけだ。

 一方で霧衣(きりえ)ちゃん以外の同僚の女の子たちは、早くも表情がやばい。やっぱりまだ若い女の子なので、気温的にも体力的にも厳しいんだろう。無理はしないでほしい。

 

 

 

「じゃあ、なに? 今まで『お役目』を終えた先輩シロさんたちは……今もふつうに、ばっちり生きてるの?」

 

『応とも。大抵は国の職員……『神社庁』とか云ったか? 籍を適当に(こしら)えてな、悠々と第二の人生を歩んで居るよ』

 

「せ、籍を適当に(こしら)えて、って……」

 

其処(ソコ)は……ホレ。()の国の役所やら中央には()()が潜り込んで居るからな。其奴達(そやつら)()()()()させるだけの事よ』

 

「え……ぇえぇ? じゃあなに、おれってばつまり……単にワガママをゴリ押して、転職とキャリアアップの邪魔しちゃっただけ……っていう?」

 

()()()! ……否定は出来ぬな』

 

 

 休憩室として割り当てられた大広間の手前。そこかしこに慌ただしく関係者が往来する廊下の片隅にて、おれたちは長椅子に腰掛け言葉を交わしていた。

 顎に手を当てて、落ち着いて記憶を掘り起こしてみると……確かに、『神力(=魔力)の供給は途絶える』とは言っていたが、それが『死亡』に繋がるとは一言も言っていない。

 『()ぐに死ぬわけではない』と言われたから『なんとかしないと命の危機なのだ!』と勘違いしてしまったが……ぶっちゃけ依代(シロ)さんじゃなくとも、飲まず食わずでいればそりゃいつかは死んでしまうだろう。だが今日じゃない。

 

 お役目を終えたシロちゃんが死んでしまうと早合点して、その後に用意されていた彼女のための人生プランを部外者に御破算(ごはさん)にされれば……さすがにそりゃあ『気に喰わぬ』といわれても仕方ない。いや、正直すまないと思っている。

 

 

「ごめんシロちゃん!! ……じゃない! 霧衣(きりえ)ちゃん!!」

 

「おっ、お顔をお上げくださいワカメ様! 此度はわたくしが自ら選んだことにございまする! 微塵も後悔して居りませぬ!」

 

「ヴゥッ……ぎりえぢゃん……!!」

 

『はいはいご馳走様。やったねノワ。家族が増えるよ』

 

()()! 我としても異存は無い。……確かに、貴様等の存在は何かと便()()だからな。貴様達と良き(えにし)が結べた事は、(まっこと)僥倖で在った』

 

 

 聞くところによると……フツノさまがシロちゃんの身体を使用し出陣することを決めたのは、おれがリョウエイさんに対処を依頼される直前の出来事だったという。

 フツノさまにしてみても、可能であればシロちゃんを使いたくは無かったのだろう。『おれにどうにか勝利してほしい』という考えは嘘偽りないものだっただろうし、だからこそリョウエイさんに『カクリヨ』の行使権を預けたり『豊穣』の御守りを回してくれたりと、至らぬおれのフォローをしてくれていたのだろう。……まぁ結局おれの手には負えなかったんだけど。

 

 

 彼女は依代(厳密には候補)としてのお役目に加えて、鶴城神宮の内務も幾らか請け負っていたとのこと。神使として『裏』の業務に通じつつ、チカマ宮司との連絡を請け負ったりと『表』の方々とも関わりがある。

 いくら命を落とすことが無いとはいえ、神力を喪っては『裏』の方々と接することが出来なくなってしまうため、鶴城神宮がわとしても苦渋の決断だった……らしい。

 

 そこへ来てふらりと現れたのが、何を隠そうこの世界で(たぶん)唯一のエルフ種である、おれだ。途方もない魔力(神力)を秘めたおれに(おれ本人が知らないところで)白羽の矢が(いつのまにか)立っ(てい)た。

 おれと魂の契約を結び、おれの持つ魔力を授かる妖精種族……白谷さんの存在が決め手となった……らしい。

 

 加えて、ほかでもないシロちゃ……霧衣(きりえ)ちゃん本人と、おれとの関係が良好だったこと。

 おれの人となりを観察していく上で……身内として抱き込むことのメリットが多いと判断されたこと。

 というか……霧衣(きりえ)ちゃん本人には、前もってこの案が打診されていたのだという。……あの、ちょっとまちたまえ君たち。

 

 

『まァ……順は()()前後したがな』

 

「多少? ねぇ多少?」

 

『年始の祭事が片付いたら、あの娘の当面の生活費と……そうさな。此度の報酬に加えて、()()()として幾らか包ませよう。期待して居れ』

 

「えっ!? そっち!? いや、嬉しいけど……あの、『ごめん』とかそういうのは」

 

呵々々(カカカ)! 我は鶴城(ツルギ)の神なるぞ? 神とは(そもそ)も身勝手なモノよ。そう易々と頭を下げると思うてか』

 

「ぇえ……ブレないなぁ神様……」

 

 

 ……まぁ、おれとしても失ったものが特にあるわけでも、何か被害を被ったわけでも無い。

 一回軽く死にかけたとはいえ、それはおれがこの副業を続ける限り避けられない危険なのだ。鶴城さんのせいでは無い。

 

 おれ抜きで話を進められていたという点も……リョウエイさんからはちゃんと謝罪の言葉を貰ったし、結局のところおれも同じ結末を選択したのだ。霧衣(きりえ)ちゃん本人も含めて全員が納得しているなら、これ以上波風を立てることでも無いだろう。

 

 

 

 

「えっと……で、では……ワカメ様」

 

「んへ?」

 

「ふつっ、不束者(ふつつかもの)ではございますが……この霧衣(キリエ)めを、どうか宜しくお願い致しまする」

 

「…………んっ。よろしくね、キリエちゃん」

 

「……っ、はい!」

 

『まぁ……とりあえずは、この繁忙期を乗り越えないとね』

 

(ゆめ)忘れるな、少なくとも今日一日は我の(しもべ)。貴様達二人は()わば『奥の手』『秘蔵』と云う奴よ、途中離脱は認めぬ。()く休み、()く励むが良い』

 

「うへぇ…………がんばります……」

 

 

 

 

 あぁ……そうだ。そうとも。

 

 おれたちの長い長い戦いは、まだまだ始まったばかりなのだ。

 

 

 




確認はたいせつ


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120【補足事項】延長入りました!!

しんどい、ごるでんういーくしんどい(ぴえ


 そこからは……とりあえずの契約期間である元日の夕方まで、おおよそ丸一日。

 おれと霧衣(きりえ)ちゃんは小さくたって高性能、獅子奮迅・一騎当千・八面六臂の大活躍だった。ちょっとドヤッとしそうになる。

 

 

 ……というわけで。

 一月一日、おれが鶴城さんに貢献した活躍の数々を、ダイジェストでお届けしよう。

 

 

 まずは、SNS(つぶやいたー)での宣伝告知に対するリアクション。

 ありがたいことにおれの宣伝工作は功を奏し、『来てくれたら嬉しいなぁ』くらいの気持ちいでいた視聴者さんたちが、なんと結構な人数参拝に訪れてくれたのだ。

 時期が時期だけに、また場所が場所だけに、長々とお話しすることは出来なかったが……「へぃりぃ!」「SNS(やいたー)見て来ました!」「局長さんお疲れ様!」などと一言添えてくれる参拝者さんが、思っていた以上にたくさん会いに来てくれた。

 

 正直言ってとても嬉しかったので、嘘偽りの無い心からの笑顔が自然と湧いて出ていたことだろう。そのときの嬉しさといったら……頒布物の授与のときに、思わず視聴者さんの手を握ってしまうくらいだ。

 もっと言うと、握ったままブンブン上下に振って『ありがとうございます!!』を連呼したかったとこだけど……お守りとか縁起物の『頒布』は厳密に言うと『物販』なんかとは異なるため、『(お買い上げ)ありがとうございます』の類いの言葉を使うのは良くないらしい。霧衣(きりえ)ちゃん先輩が言ってた。

 

 なので……せめて感謝の意を少しでも伝えられるよう、ほんの一瞬とはいえちゃんと手を握って、心を込めて『良い一年でありますように』を告げていく。

 神社のしきたりもあり、すぐそこで神様が睨みを利かせている状況と在っては、いろいろと自由が少ないことがよくわかったので……次はもっと、こう、ダイレクトに感謝の意を伝えられるような方法も考えたいと思った。

 ……っていうかフツノさま仕事しろよ。

 

 

『ねぇ神様、サボってないで仕事したら? ってノワが』

 

「ちょっ!? …………ン゛ンっ」

 

『失礼な奴よ。()の『我』は写身(うつしみ)が一つに過ぎぬ。……見くびるな、歳始めの儀に我が子()(ないがし)ろにする神が居ようか』

 

(ァッ、えっと、その……スマセン。ハイ)

 

『ごめんなさい、だって。神様』

 

()()! 理解(わか)れば良い。ホレ、異国からの旅人だ。貴様の出番だぞ』

 

(はひ……がんばりマス……)

 

 

 なんていう一幕があったりもしたんだけど……本当にこの妖精さんは。

 

 

 

 そうだそうだ。あとはやっぱりなんといっても……授与所窓口での通訳対応だろう。

 

 神職にあって外国語に堪能な方々は、総じて神宮各所の重要処を任されており……この授与所にも一名配されていたのだが、残念なことに全く手が足りていなかった。

 助勤(アルバイト)の巫女さん達はほとんどが若い学生さんで、英語はせいぜい学校の授業で習った程度。こちらも残念だが、いきなりの実戦投入はちょっと厳しかったようだ。

 

 そも、ジャパニーズトラディショナルシュラインで迎えるニューイヤーフェスは、昨今のインバウンド需要の中でもなかなかインポータントなマターであるらしい。

 フォーリンカントリーからのカスタマーをアテンドするにあたって、やはり彼らのメインランゲージでのコミュニケーションを試みることはプライオリティが高く、重要なファクターであると判断できよう。

 おれが通訳としてカスタマーとコミュニケーションを図ることで彼らのニーズに的確にコミットできる上、品揃え豊富な頒布物のディテールもスムーズにエクスプレインすることが出来る。つまりはこの授与所と鶴城神宮にとって、大きなベネフィットとなるベストプラクティスなのだ。

 

 

『えー、っと…………日本語でおk』

 

 

 ……うん、まぁ、要するに。

 おれであれば海外からのお客様に不自由させることなく、ほぼほぼ彼らの母国語で案内することが出来るのだ。

 漢字が読めない彼らにとって、希望通りの用途のお守りを選ぶことは極めて困難だろう。一つ一つ効能を説明、あるいはどんな用途で求めているのかをヒアリングし、適切な縁起物を提案する。

 やはり言葉が通じることの安心感は半端無いらしく、皆めちゃくちゃ喜んでくれた。……ふへへ。

 

 しかし……幾つかの外国言語の知識があることは理解していたが、通訳業務はぶっつけ本番だった。

 おまけにおれの通訳スキルが英語や中国語といったメインどころに限らず、フランス語・スペイン語・ドイツ語・ベトナム語・イタリア語・タガログ語などなどにまで対応していたのは……ちょっと、我ながらビビった。

 叡智のエルフは伊達じゃないな。さすがは世界ランク二桁位の実力者だ。

 ……この代償が、あの悲惨な結果を残す原因となったクソザコフィジカルか。ここまでハイスペックな語学力とトレードオフなら……まぁ、仕方無いか。

 

 

 

 あとは……おれが休憩に入ろうかというタイミングで、忙しいだろうにリョウエイさんがわざわざ足を運んでくれた。

 さすがに疲れが見え始めていた霧衣(きりえ)ちゃんは先に休憩室に入らせ、彼女を除いて二人(とラニとプチフツノさま)で話の場を設ける形となった。

 

 いわく『やっぱり直接謝罪しておかないと』とのことであり……ここに来て今回の、依代(シロ)改め霧衣(きりえ)ちゃんを巡っての思惑と計画の全貌を、改めて知らされることとなったのだ。

 

 とはいっても、話の大筋は既にフツノさまから伝えられていた。

 『シロちゃん』の神力を全喪失させることを避けたいがために、魔力の供給元としておれを利用したという……極めて端的に、身も蓋もない表現を取るとすれば、大変身勝手な話なのだ。

 ……だが、まぁ……今回こういう手段を選ばざるを得なかった理由……霧衣(きりえ)ちゃんに対する心配りも、ちゃんと包み隠さず教えてくれた。

 

 

 まず歴代『依代(シロ)』さんたちのような、国の職員としての第二の人生。……結論から言えば、あれ霧衣(きりえ)ちゃんのような幼い子に適用するのは少々難しかったらしい。

 既に大人の年齢に達している『依代(シロ)』さんであれば、一人世帯として戸籍をほにゃほにゃすることも容易みたいだが……霧衣(きりえ)ちゃんみたいな無垢で世間知らずでバチクソ可愛いくて幼い娘を放り出すには、さすがに不安が大きかったとのこと。

 人間年齢換算で十三歳程度、初等教育をようやく終えたあたりだという。……そりゃ確かに不安だわ。

 

 ……なので、しばらくの間。可能であれば、霧衣(きりえ)ちゃんが神使の保護者の手を離れ、成人として自立できるようになるまで。

 ある程度の期間を定め、信頼のおける協力者のもとでヒトとしての生活を送らせたい……とのことだ。

 

 

 そもそも、霧衣(きりえ)ちゃんの実戦投入は十年単位で先のことと想定されていた。今回彼女が『御役目』を務めたこと自体が、まずもって想定外だったとのこと。

 本来今日このとき鶴城(つるぎ)に配備されていたはずのベテランの『依代(シロ)』さんは……なんと現在、東京に出張中らしい。

 昨今の国際情勢が不安定で混迷を極める中での年越祭事ということで大々的に執り行うため、また主神のみならず相添神にも直々のお世話係を付けるため……と、全国から応援がかき集められたのだという。

 鶴城(つるぎ)さんには『依代(シロ)()()』として霧衣(きりえ)ちゃんが居たため真っ先に目をつけられ『まさか御役目(実戦投入)があるわけでも無いし、お世話係なら()()()でもこなせるだろ。ベテランこっちに貸せ。こちとら首都東京様やぞ』との御意見が押し通されてしまったらしい。

 

 その()()()の事態、神様自ら出陣するような事態に陥ろうなんて、この平和な国では確かに全く想定外だったとはいえ……首都最優先・地方蔑視思考の一端を垣間見てしまったようで、なんだか世知辛い。

 

 

「まぁ実際、あちら様の無理を飲まされてコッチは被害を被った訳だからね。(むし)れるだけの補填は(むし)り取る心算(つもり)だよ、……アイツら最近ちょっと調子乗ってるからね」

 

『然り。奴等の見栄の為に我等が不便を被る等、(そもそ)もが気に喰わぬ話よ。此所(ここ)らで灸を据えて遣らねばなるまい』

 

 

 ……垣間見たくもなかった関係性を垣間見てしまいながらも、今後鶴城(つるぎ)さんの人員体制に穴が開いたりはしないみたいだとわかり、とりあえずはほっとした。

 

 

 まぁ、諸般の理由は理解したけど。

 なら最初からすべて相談してくれればよかったのに、とも思ったのだが……そこはなんとも神様らしい、身勝手な理屈で押し通されてしまった。

 

 

依代(シロ)を使う事態(コト)とならぬのが最善であったが、な。此方(コチラ)の事情を(あずか)り知らぬ貴様が、()の上で(みずか)ら我が縁者と縁を結んだ……と云う事実が必要なのだ。『我等が鶴城(つるぎ)を深き縁を結ぶべき相手であると、貴様が自らの意思で選んだ』と云う事実がな』

 

「要するに……他の神様にマウント取りたいわけだ、布都(フツノ)様は。『ワカメ殿は鶴城(つるぎ)を選んだぜ、どうだ羨ましいだろザマァミロ』って」

 

「ざ、ザマァミロ……」

 

 

 この世界この国この時代に、奇跡(魔法)起こせる(使える)ほどの神力(魔力)をもった人間なんていうのは……たぶん、ほとんど存在しない。エルフとなったおれを『人間』とカウントしていいのかは解らないけど、神族ではない一般人という意味では該当するだろう。

 そんな『例外』ともいえる存在であるおれは、今後増えていくであろう(わざわい)……『苗』に対処するにあたって、極めて有効な手札となるらしい。神様たちのコミュニティの中でも、ちょっとした『話題のひと』なのだとか。

 

 そんな話題性をもつおれを、自陣営に引き入れることが出来たとなれば。

 しかもほかでもない、おれ本人がそう望んだのだとあれば。……なるほど確かに、フツノさまにとっては自慢できること……になるのだろうか。

 

 ま、まぁ……つまりは(てい)よく利用されただけだともいえるのだが……おれだってちゃんと()()は頂けることになっているし、理不尽で一方的な要求というわけでもない。

 当事者であるおれや霧衣(きりえ)ちゃんが納得しているので、問題ないということにしよう。

 

 

 

 …………というわけで、この話題はこれでいい。問題ないということにしたので、問題ない。

 問題だったのは……リョウエイさんが持ち込んだ、もう一点の話題。

 

 これにはさすがのおれも、顔がひきつるのを自覚せざるを得なかった。

 

 

「つまり、だ。ワカメ殿の風貌と仕事ぶり……特に語学力が、ちょっと各方面で絶賛されててね。実際我々も非常に助かってるし、お陰様で命拾いしてるところもあるし……となると、恥ずかしながら明日以降がかなり不安でね」

 

「………………というと、つまり」

 

「…………三が日の間、延長お願い出来ないかな」

 

「やっぱりかー」

 

 

 はははは。そうだろうそうだろう。なんてったって、おれはやるからには全力でご奉仕させて頂いたのだ。

 研修期間数日の見習い巫女エルフとはいえ、手際の良さではこの授与所で一・二を争うレベルだという自覚はある。それに加えての完璧な通訳業務、更には非常識なほど可愛い容姿ときたもんだ。

 容姿端麗、才色兼備。リョウエイさんや他の管理職の方にとっては、そりゃもう喉から手が出るほど欲しい人材として映っているだろう。……だってそうなるよう頑張ったもん。

 

 

「いや、無理を言ってるのは承知してる。……延長の二日間は、時間単価五割増しでどうだろうか」

 

『もう一声。本来の業務に加えて通訳も任せるつもりなんだろ? ノワの働きっぷりは頒布だけでも軽く二人分以上はこなしてる筈だよ。七割』

 

(いや)(ソレ)は認められぬな。劣悪な待遇を強いるようでは我が鶴城(ツルギ)の沽券に関わろう。倍だ。倍出せ龍影(リョウエイ)

 

『がんばろノワ! 気力と体力の回復ならボクがなんとかする! SNSの告知もボクが引き受けるからさ!!』

 

「う、うん…………まぁ、そこまでいうなら……」

 

「…………恩に着る。……まぁ、布都(フツノ)様直々の指示だ……勘定方も納得するだろう」

 

 

 

 おれの正月三が日は鶴城さんからの熱烈なラブコールによって、こうして働きづめとなることが確定し……

 

 この三日間だけで本業(まだ収益支援プログラム未対応)が軽く霞むくらいの収入を得ることとなり……

 

 

 おれは自分の存在意義について、しばし自問自答する羽目になった。

 

 

 



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【最近のつぶやき】

 

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□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】視聴者のみなさん、ノワを見守ってくれてありがとう。またちかいうちにだいじなご報告があるので、ノワが起きたらまた連絡します。

 

 

□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】今はゆっくり休ませてあげよう。本音いうとパンツ見たいところだけど。ノワのパンツしゃしんにとってあげたいとこだけど。

 

 

□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】無事におうちに帰ってきました。着替える余力もなくしずんでます。ノワ、三日間ほんとうにお疲れさま。

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□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】十八時でおつとめ終わりです。よくがんばったね。えらいぞ!

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□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】お仕事中のノワ。あとすこしだよ、がんばって

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□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】お仕事中のノワ。のどかわいたみたい。そりゃそうだよね

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□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】休憩終わり。最後のひとしごと、がんばってね

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□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】休憩中のノワ。戦友の巫女さんと。肩たたき、だいにんきだって

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□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】30分の休憩いただきます。ノワちょっとおトイレだって。ついてこうとしたら怒られた

 

 

□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】また海外からのお客さん。おーすとにあ?だって。言葉はわかんないけど、ノワをめっちゃほめてくれたのはわかる。いいやつだな

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□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】ノワはだいじょうぶて言ってるけど、疲れてるのがわかる。むりしないで

 

 

□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】休憩おわり。少しだけ眠れた?無理しないでね

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□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】休憩いただきます。少し寝たほうがいいとおもうけど、言っても聞かないだろうな

 

 

□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】きょうは日差しがあったかいね。ほかの巫女さんも、さむさに震えてない。よかった

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□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】おひる休憩終わり。ちょっとねて、おいしいものたべて元気でたって。さしいれありがとう諸君

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□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】ノワの寝顔おすそわけ。かわいいでしょ。また働こうとしてたけど班の巫女さんたちがみんなでむりやり眠らせました。よくやった。

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□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】少しはやいけどお昼休憩だって。12時30分までおやすみします。屋台のさしいれありがとう、ノワめっちゃよろこんでます

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□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】どんどんおきゃくさんふえてきた。がんばれノワ

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□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】休憩終わり。きもちいい朝だね

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□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】きゅうけい

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□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】あかるくなってきた

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□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】休憩おわり。けっきょく小休憩だけでがまんするって。ちょっとよくないとおもう

 

 

□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】小休憩の時間。いまからでもおそくないよ、ちゃんと長く寝るべき

 

 

□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】「あわただしく無くなってきてるから、大丈夫」って言ってるけど、そういう問題じゃない

 

 

□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】別の班の子が体調崩したってきいて、ノワがとんでった。何やってるのあの子、耳が良すぎるのも考えもの

 

 

□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】仮眠してたノワがどっかいった

 

 

□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】一月二日、今日はこれまででお仕事終了です。ごはんと仮眠の長休みをもらうので、つぎは一月三日の4時30分から、になります。今日こそはちゃんと寝てね、ノワ

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□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】のわがほめられてると、ぼくもうれしい

 

 

□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】つぶやいたー見て、来てくれたって視聴者さんが。もっとノワをほめてあげて。あの子じこひょうかがひくすぎるので

 

 

□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】がんばるノワおすそわけ

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□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】休憩終わり。ノワが出たとたんにならびはじめる人、わかりやすいぞ。ありがとうね

 

 

□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】休憩いただきます。たこやきありがとう、おいしかったです。ノワもおいしいって

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□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】海外からのお客さん。ニュヤークっていってた。どこだろ。ぼくも海外の言葉べんきょうしようかな

 

 

□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】日本語だと思うんだけど、若いのになまりがすごいひとだった。ヤッベパーネ?とかマジヤベッショ?とかいってた。にほんはひろい

 

 

□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】ノワおといれ。ぼくも入ろうとしたけど追い出された。もうすぐ休憩終わり

 

 

□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】休憩いただきます。いろんなごはんさしいれ、ありがとうね。やきそばおいしい。ノワはいろけよりくいけ?らしい。巫女さんがいってた

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□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】すこしさむくなってきた。風がなくてよかった

 

 

□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】夕方。一気に暗くなってきた。参拝にくるひとはあしもとにきをつけて、ころばないようにね

 

 

□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】このいいにおいの正体は、ソースとかマヨネーズが焼けたにおいらしい。ノワものしり

 

 

□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】いろんな音、いろんなにおい。にぎやか

 

 

□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】仕事中のノワ。くびすじがにんきなの?

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□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】仕事中のノワ。おっぱいはたぶんおこられるからだめ

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□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】休憩中のノワ。巫女さんにうちのこにならないかって誘われてる。ノワはぼくのだ

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□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】出店のほうもきになるけど、ぼくはノワのほうがだいじだから離れない

 

 

□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】今からお仕事します。よろしくおねがいします。太陽がでてるとあったかいね。ひとでいっぱい

 

 

□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】カラフルなごはん。おしょうがつとくべつなごちそうなんだって。ノワはおにくがおいしいって

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□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】ごはんの長めの休憩いただきます。8時から10時30分までです。

 

 

□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】雲はどっかいったみたい。雨降らなくてよかった。いいてんき

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□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】休憩終わりです。すこし心配

 

 

□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】休憩です。ノワむりしないで。やばそうだったら無理矢理つれてかえるから

 

 

□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】6時、ぼくがおきてもまだ働いてた。ぼくは起きてられなかった、ごめん。ノワはけっきょく寝ないでがんばったみたい。なんでそういうこと

 

 

□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】やっぱりこうなった、ぼくも起きてないと

 

 

□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】ノワたちは仮眠の長休みの時間。でもほかの班がしふとに穴があいた、って話してる。ノワが心配そうなかおしてる。やな予感がする

 

 

□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】一月一日、おつかれさまでした!来てくれたひとありがとう!あしたは朝6時からおしごとです!

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□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】がんばれノワ、あとすこしで休憩だよ、ゆっくり眠れるよ

 

 

□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】すごいはやさで指がうごいてた。ぶんしょうかくのはやい。やっぱりノワはすごい

 

 

□kinowaka-media_NOWA-IT:【ご報告】例によってご連絡が遅くなってしまい、もうしわけございません。なにぶんわたしもさっき打診されたもので……とにかく、わたしももう少し頑張りますので、この機会にぜひ初詣に来てみてください! 寒いので風邪引かないように!

 

 

□kinowaka-media_NOWA-IT:【ご報告】親愛なる人間種の皆様、平素よりのわめでぃあをお引き立ていただき、ありがとうございます。この度の鶴城神宮における助勤ですが、ご好評(?)につき、一月三日の十八時まで、期間を延長させて頂くこととなりました。

 

 

□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】まもなく休憩。ノワがごれんらくしたいって。おたのしみに

 

 

□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】もうお仕事終わっちゃったかと思って、まにあってよかった、って泣きながら話してくれた視聴者さんがいた。きてくれてありがとう、まだせーふだよ。

 

 

□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】18時を回りましたが、なんとまだノワに会えます。あいにきてあげて。かわいいっていってあげてね

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□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】もうすぐ18時です、ノワ目当ての視聴者さんはあんまりいそがなくていいよ

 

 

□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】ノワのかわいいがじゅんちょうにひろがっててぼくはうれしい

 

 

□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】かわいいでしょ、ノワかわいいでしょ。どうよ。あげないよ

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□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】ノワかわいい。いいこいいこ

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…………………………

 

 

 






「し…………しらたに、さん……」

「ん? どしたのノワ」

「こ、これ、これっ……つ、つぶやいたー……いつの間に……こんな写真……」

「そりゃあもちろん……ノワの気づかないうちに」

「ちょおおおおおおお!?」

「あっはっは! 妖精種相手に気を抜いちゃダメだよ」

「……それにしても、休憩中とか……ほかの巫女さんに怪しまれなかった?」

「そこはホラ。可愛らしくて心強い助手がいたからね」

「……? ……!? ああ!? 霧衣ちゃん!? きりえちゃんもグルだったの!? ひどい!!」

「まあまあまあ。可愛いかったよ、ノワ」

「も、ッ! ……もおおお!」




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121【期間満了】ただいま我が家

 

 

 おれの人生が一変して初めてとなる、お正月の三が日。やっぱり新年ともなると人々はみんな特別感を感じていたのだろうか、初詣に行くひとは全国的に見ても増加傾向だったらしい。

 お陰さまで、この鶴城(つるぎ)神宮も千客万来。おれは前年の大晦日から始まり一月三日の日没まで……身を粉にして働き続けた、まさに戦場のような数日間だった。

 

 

 

「……では、一足お先に失礼します。……すみません、最後の最後お任せしちゃって」

 

「いいのいいの大丈夫!! むしろ今まですごく助かったから!! ゆっくり休んでね!! ほんと休んでね!?」

 

「そうそう本当休んでね! わかめちゃん若いのにスゴいわよねぇー! 英語もペラっペラで!」

 

「肩たたきありがとうね。スッゴい疲れ取れたし気持ちよかったわぁ……ウチの子にならない?」

 

「ちょっ……! 抜け駆けはズルいって! うちに! ウチの子に!!」

 

「あははは……お気持ちだけ頂戴しますね。お褒めいただき、ありがとうございます」

 

 

 一月三日の……現在は十八時を少し回ったあたりだろうか。

 リョウエイさんに延長を頼まれたおれのお勤めは、幸いなことに大きなトラブルもなく、無事に契約期間の満了を迎えることとなった。

 

 

 この鶴城(つるぎ)神宮では、三が日も十八時を回ると参拝者も大幅に減るらしい。なのでおれは他の巫女さんたちよりも一足早く、おいとまを頂戴することとなった。

 ……ええ、さすがにこの三日間働きづめだったことを、みんな心配してくれたらしいです。

 それもそうか、おれ自身は【回復(クリーレン)】や【浄化(リキュイニーア)】や【美容(シュルヘニア)】等をこまめに使って、体力を回復したり身体を清めたりお肌をととのえたりしていたのだが……はたから見れば、小休憩を除いてほぼ不眠不休で働くヤバい子だと思われたかもしれない。

 

 

 ……だって、だってしょうがないじゃないか。

 せっかく遠方から来てくれたっていうおれの視聴者さんが、ものすごく残念そうにSNSで溢してるのを見てしまったのだ。

 せっかくおれなんかの姿を見に、遠路はるばる来てくれたんだから……せっかくなら、その目的は果たさせてあげたい。

 

 その時間おれ達の班には長休みが宛てられてたけど、一方の現場は相変わらずのてんてこ舞だ。ヘルプに入って嫌がられることは無いだろうと、相変わらずおれの周りで見た感じ暇そうにしてるフツノさま(分霊)に提案したところ……まるで妖怪か幽霊を見たかのようななんともいえない表情で、快く承諾してくれた。

 幸いなことに、飛び入りでお手伝いさせてもらった別の班の巫女さんたちにも受け入れて貰え(その結果引き抜かれそうになったが)、疲れ知らずの小さな巫女エルフちゃんは昼に夜にと一生懸命に働き続けたのだった。

 

 ……加えて。

 同僚となった巫女さんが徐々に徐々にげっそりしていくのが見てられなかったので、肩たたきしながら【回復(クリーレン)】をこっそりと掛けて回ったら……これがまたたいそう喜ばれた。

 さすがに大っぴらに魔法を使うわけにはいかないとはいえ、見て見ぬふりは出来ない。かといって女体を揉みしだく(マッサージする)度胸は無かったのだが、でもやっぱり知らんぷりをするのもどうかと思ったので……そのいろんな思いのせめぎ合った末が『肩たたき』という、非常にマイルドな部分に落ち着いたわけだ。

 しかし結果としては大成功。僅かとはいえ疲労回復に効果があるおれの肩たたきは、わが班のパフォーマンス向上に一役買っていた……と思う。

 

 

 そんなこんなで、昼も夜もなくがんばってきたおれだったが……これにておつとめは終了。

 おれは眠たそうにしているラニをほっぺつんつんして起こすと、同僚だった巫女さんたちに別れを告げ、休憩の広間を後にした。

 

 長かった三が日も、これで終わり。窓から見える境内は少しずつ少しずつ落ち着きを取り戻し始め、徐々に日常へと切り替わろうとしている。

 向かう先はどこなのかわからないけど、フツノさま(分霊)に導かれるままにずんずんと進んでいったところ…………待って。

 

 

「待って。フツノさま待って。ここおれ入っていい場所?」

 

『関係者以外立入禁止、と云う(ヤツ)よな。鶴城(ツルギ)の職員でも立ち入れる者は限られよう』

 

「それつまり入っちゃダメなやつじゃん!?」

 

 

 いつのまにか人々の喧騒はどこか遠く……静穏かつ厳粛な雰囲気に満たされた、広々とした板敷の一室へと連れて来られたのだった。

 

 床や壁や天井に用いられた木材は、とても綺麗で色白。まるで新築の木造家屋のような心地よい木の香が漂い、その造作もまた繊細で緻密。

 正面には見るからに立派な祭壇が設えられており、蝋燭の炎が揺らぐことなく照らし出す、その先。……その向こう側には、明らかにヒトが立ち入ってはいけなさそうな扉が堂々と鎮座している。

 

 おれのような一般小市民には、どう考えても相応しくない一室。

 部屋そのものの気迫に圧倒されること、しばし。

 

 

「……申し訳ございません。待たせてしまいましたな」

 

「遅いぞ知我麻(チカマ)。主賓を待たせて如何(どう)する」

 

「ぅえ!?」

 

「返す言葉も御座いません。……若芽様、(せつ)に御容赦を」

 

「えっ!? は、はい!!」

 

 

 おれが入ってきた入り口の扉が開き、そこから二人の人物が姿を現す。

 どこか疲労を隠しきれないチカマさんと……どこか緊張を隠しきれない、霧衣(きりえ)ちゃんだ。

 

 

「さて。(あま)り時間が無い、手短に済ませよう。……其処(そこ)な白狗の娘、銘を『白狗里(シラクリ)霧衣(キリエ)』。其方(そなた)此処(ここ)(あき)(はしら)木乃(キノ)若芽(ワカメ)』へ、その(えにし)(うつ)すものとする。異存は在りや、否や」

 

「御座いませぬ。我が身はワカメ殿の御側に」

 

「佳し。貴殿は如何か、(あき)(はしら)よ」

 

「えっ!? え、えっと……異存ありません!」

 

 

 いつの間にか姿を消していたフツノさま(分霊)に代わりいつの間にか姿を現していた……伝統的っぽい和の装束を纏った、浮世離れした雰囲気の少年。

 この方が恐らく、いや間違いなく、フツノさま……ええと、サビフツノアマガツノミコト、その(ひと)なのだろう。

 いきなり雰囲気を変えたフツノさまに面食らいつつも、とりあえずおれに向けて何か『是か否か』を問われたことは理解できたので、霧衣(きりえ)ちゃんに倣い『ないです』と答える。

 

 果たして……おれのその返答は、お気に召していただけたらしい。

 フツノさまは一気に破顔すると表情と口調を崩し、いつも通りの朗らかな笑い声を上げた。

 

 

()()い! 満足よ! (コレ)にて貴様は我が縁者! あの覗き魔や眠り仔めの一手先を往けたと()う事よな!」

 

布都(フツノ)様、()れはあまりにも……」

 

呵々(カカ)! 解って()るわ。……霧衣(キリエ)めの籍やら何やら、其所(ソコ)に纏めさせて()いた。届け出上は貴様の『養子』と()(コト)に成って()る。まァ『嫁』でも構わぬのだがな!」

 

「よ、よめ……っ!?」

 

「……(ソレ)と……老婆心からの物言いだがな、貴様自身も()如何(どう)にかすべきだと思うぞ」

 

「アッ……それは、ハイ。……どうにかしないと、とは……思ってるんです……けど……」

 

「ふゥむ…………南の役所窓口にて『民部(タミベ)』に繋ぐと良い。『(フツノ)に紹介された』と()えば無下には扱うまい。知我麻(チカマ)

 

「承知致しました。民部(タミベ)には話を通しておきましょう」

 

「あ……ありがとう、ございます」

 

 

 生まれ変わってしまったおれにとって、ひとつの懸念であった戸籍問題。これが解決しないことには、免許証の更新が不可能であり……つまりは、原付に乗れないのだ。

 現状の移動手段の大半を電車とモリアキの車に頼っているおれにとって、小回りの効く原付はなにかと便利な存在なのだ。

 正直いって『整形です!!』『証明書類これです!!』でゴリ押して免許証の写真撮影をしてもらおうとか、催眠魔法に手を出そうかとかも考えていたのだが……公的な後ろ楯が得られるというのなら、それは非常に心強い。

 

 これについては単純に、非常にありがたい。

 ここ数日フツノさま(分霊)には見張られっぱなしで辟易してたとこだったけど……すべてゆるそうではないか。ははは。

 

 

霧衣(キリエ)の教育に関してな、相談事が在れば……ら、ゐん? れゐん? ……あの面妖な硝子(ガラス)板を使い、遠慮無く知我麻(チカマ)を頼ると良い。あ奴は噫気(おくび)にも出さぬだろうが、孫娘のように可愛がって居ったからな。親身に応えてくれよう」

 

「ちょ、っ…………コホン。失礼しました」

 

 

 まじかよ。かわいいかよ。

 誰も彼もなんなの。鶴城(つるぎ)神宮はかわいいの集まりかよ。

 

 

(アト)は……そうさな。此度の働きの奉仕料、此方の……と云うよりは『中央』めの不手際に起因する諸々の迷惑料、ならびに霧衣(キリエ)めの今後の養育に纏わる手当。……加えて、貴様の披露して居る()()に対する、(ワレ)個神(こじん)よりの投資として。…………まァ、()()()色を付けてある。明日(あす)中には貴様の口座に振込ませよう」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

()()()()()()()()が……振込金額も含め、目録に纏めて在る。()()確認するが良い」

 

「……? えっと、わかりました」

 

「有無。……では、まァ……()んな(トコロ)か。重ねてに()るが、此度は大変御苦労であった。……少名(スクナ)(トモガラ)もな。我の御相手御苦労。中々に有意義な一時で在ったよ」

 

『えっ!? えっと……恐縮です?』

 

呵々々(カカカ)! ……ではな。我が宮と我が眷属は、何時(いつ)でも貴様達を歓迎しよう。(また)来るが良い」

 

「……はい。ありがとうございました。…………あの……今年も一年、宜しくお願いします」

 

 

 チカマさんに連れられるように、ひたすらに空気の澄んだ一室を後にするおれたち。

 フツノさまには、まるで『しっしっ』と追い払うかのような手振りで退室を促されたおれだったが……おれのエルフアイはごまかせないぞ。袖で隠す寸前まんざらでもなさそうな笑みを滲ませていたのを、おれにはばっちりお見通しなのだ。

 

 

 妙なところで人間味あふれる神様と別れ、チカマさんに改めてお礼を告げ、またお礼を告げられ。

 おれは一般の方々の目がないその場をお借りして白谷さんに【門】を開けてもらい、誰の目に触れることもなく一瞬で帰宅を果たした。

 

 

 

 

 とりあえず、久しぶりの我が家。

 

 執念で客用のお布団を引っ張り出してリビング兼スタジオスペースの一画に広げ、霧衣(きりえ)ちゃん用の今夜の寝床を確保したところで……あっ、もうだめだ。

 

 

 

「らに、ごめ……きりえちゃ、あと……」

 

「オッケー任せて。……限界だね、言葉がふわふわしてきたよ」

 

「んうう……ちょ、と……だめかも」

 

「いいから、もう休んで。キリエちゃんのことはとりあえず任せて」

 

「わ……わたくしはお気になさらず! ……ゆっくりとお休みください、ワカメ様」

 

 

 

 可愛らしい家族の、そんな暖かい言葉を最後に……()()()()()()()()おれはとうとう活動限界を迎え、倒れるようにベッドに突っ伏した。

 

 おれとラニと霧衣(きりえ)ちゃんの、怒濤のような年末年始は……こうしておれのまぶたと共に、無事に幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

 

 フツノさまから贈られた目録に目を通してアゴが外れるほど驚愕し(おったまげ)たのは……それからしばらく後のことだった。

 

 

 



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122【状況整理】どうにかしないと……

 

 とんとんとんとん、と……小気味の良い音が連なって、どこか遠くで鳴り響いている。

 鋭敏な聴覚が外からの音信号を拾い、それを受けておれの頭が少しずつ働き始め……とりあえず現状が睡眠状態にあったということ、今まさに覚醒しようとしていることに、おぼろげながら思考が纏まり始める。

 

 

 

「…………ぇ? …………んんぅ?」

 

 

 いつもの寝間着とは違う肌触りの……なんだかさらさらすべすべした肌触りの、寝間着……ではない何かを身に付けていることに気付く。

 あまり回らない思考のままのっそりと上体を起こし、そのまま漫然と視線を下に下ろし……

 

 

「……………………はっ!?」

 

 

 大胆に着崩れ、はだけ、皺の寄ってしまった巫女装束に……言葉を失う。

 

 頭の中を『仕事』『しわ』『クリーニング』『着替え』などという単語が飛び交うが……そこまできて自分が現在自宅の自室、まごうことなき自分用の寝床で眠っていたことに、ようやっと気付く。

 ローテーブル代わりのコタツテーブル、壁際には液晶テレビ。ベランダに続く掃き出し窓には、淡いブルーの遮光カーテン。

 ……何度となく目にしてきた、非常に見慣れた室内だ。

 

 

 

(…………そっか。無事終わったんだっけ)

 

 

 ここ数日の間おれの思考の大半を占めていた、年を跨いでの一大企画。生まれたて弱小放送局が手にした、初めての企業案件。

 その結果思いもしなかった御方と顔を繋ぎ、思いもしなかった縁を紡ぐこととなったことまで……それらすべてが無事に終わったことを、やっと頭が思い出す。

 

 そして……今まさに聞こえてくる、この音。それもつまりはそういうことなんだろうと、頭の覚醒にともない朧気ながら理解し始める。

 

 

(『嫁』でも構わんのだがな、って…………ああ、もおおお!)

 

 

 そうだ、昨日は何も考える余裕が無いまま沈んでしまったが……本来これは非常にゆゆしき事態である。

 ……だって、だって、おれはもともと三十代男性、当然嫁なし彼女なし配偶者なしの独身貴族……今だから言っちゃうけどこの歳まで異性とそういうことしたことの無い、俗に言うところの『魔法使い』だったのだ!

 まあ今では名実ともに『魔法使い』なんだけどな。がっはっは。……なにわろてんねん。

 

 

 なし崩し的にかわいい妖精ラニとの同居が始まったとはいえ、彼女だって生来の性別は男だ(と聞いている)し、おまけに非常に小柄な妖精さんである。

 性自認が男であるおれだが、そこは人間サイズとは明らかに縮尺が異なる、小さな小さな女の子だ。

 都合の良い解釈を自分自身に言い聞かせ自己暗示をかけ続け、妖精さんは()()()()対象ではないと理性が抵抗力をつけ始め、彼女(ラニ)との同居にもやっとのことで慣れてきたところだったのだ。

 

 だが……そこへきて。

 この堂々たる狗耳美少女霧衣(きりえ)ちゃんの、満を持しての登場である。

 やむにやまれぬ事情があったとはいえ、世間体をもとに考えれば誰がどう見たってアウトだろう。見るからに幼げな、十三か十四そこらの女の子を自宅に連れ込んだ上で……お嫁さんの真似事をさせているというのだ。

 控えめに言って事案以外の何モノでもない。

 

 しかもしかも。戸籍上は養子、当然血は繋がっていない。おまけにあろうことか親(のような神様)公認で『嫁にしてもいいぞ』とか言われちゃってる始末。

 しかもたぶんだけど……霧衣ちゃん本人も、どうやらまんざらじゃない様子。

 

 おれだって創作者の端くれ、年二回の祭典と虎とメロンと薄い本の収集をそこはかとなく愛する男だ。

 あえて言おう。これなんてエロゲ。

 

 

 

 

『す――――。ボクに――――から、――っぱり――――思うよ』

 

『き、恐縮に―――。――――ワカメ様に―――、で――――する』

 

 

 扉の向こうから聞こえてくる可愛らしい声。世間知らずで純真無垢でいたいけな美少女、ひとつ屋根の下。何も起きないはずがなく。いやいやいやいや。

 ……諦めよう。いつまでも目を背け続けるなんて、できるわけがない。多少謀られた部分があることは否定できないが、おれだってあの子を助けようと……あの子の人生を背負って生きていこうと決めたのだ。

 霧衣(きりえ)ちゃんと一緒に生きていきたいって、おれ自身がそう求めたのだ。

 男なら、自分の言葉に責任は持たないとな。男なら。……男なら!

 

 

「最低限……きりえちゃんの自室……確保したげないとなぁ」

 

 

 しわしわになってしまった巫女装束を脱ぎながら、直近まずすべきことについて考えを纏める。彼女の生活環境を整えること、それは最優先で行うべきだろう。

 あられもない下着姿になりながら、脱ぎ去った鮮やかな緋袴を手に取る。巫女服って洗濯機で洗っても大丈夫なのか、なんて妙に俗っぽいことが気になってしまう。…………ていうか着たまま帰ってきちゃったけど、そもそもこれマズかったんじゃない?

 ま、まぁいいか……そのあたりはまた今度チカマさんに聞いてみよう。REINで。

 

 巫女装束のことは置いといて……そう、とりあえずは霧衣(きりえ)ちゃんのことだ。

 現状この物件の間取りは1LDK……個室が一部屋とダイニング部分の、部屋数でいうと二つしか存在しない。

 しかもそのうちダイニング部分はほぼ完全にスタジオと化しており、居住性は皆無。おまけにおれの部屋からトイレにいくにはそのダイニングを通るほかなく、そんな状況では当然プライバシーなんて確保できるはずもない。

 心が休まることもないだろうし、おちおち着替えだって出来ないだろう。

 

 年頃の女の子にとって、プライベートな空間が確保できないというのは相当のストレスだろう。大切に大切に育てられてきた箱入りの美少女であればなおさらだ。

 劣悪な環境で生活させて、フツノさまやリョウエイさんたちの信頼を裏切るわけにはいかないし……それがなくたって、霧衣(きりえ)ちゃんには笑っていてほしい。快適に過ごしてほしい。

 

 ……最低限、新しい物件を探すしかないだろうな。個室が二つ以上とスタジオスペースの確保、となると2LDKかそれ以上。

 当然、いろんな問題が沸いて出てくることだろう。物件の契約にまつわる諸費用に、荷造りや引っ越しや荷ほどきの時間と手間。その間はスタジオも使えなくなるだろうし、となると前もって動画を撮り貯め編集してストックを確保しておく必要がある。

 幸いというべきかおれの業態はほぼ在宅勤務、出勤経路諸々は考慮する必要がない。都市部から大きく離れた地方であれば、いい物件も見つかるかもしれない。

 

 

 霧衣(きりえ)ちゃんの居住環境を整え、今後の配信計画を立て、先日の案件に関するお礼とフォローをして……でもやっぱり、なるべく早く次のアクションを起こさなければ、視聴者さんを飽きさせてしまう。

 一難去ってまた一難、考えなきゃいけないことは盛り沢山だ。

 

 

 だが……泣き言は言ってられない。

 やるって決めた。おれが決めたんだ。

 

 疲労のせいか、はたまた魔力を大幅に消耗したせいか。今朝はなんだかいつもよりシャキッとしない。……ねぼけてるというか、いまいち思考が纏まらない。

 おれは眠気を飛ばすべく、頬をぺちんと叩いて気合いを入れ……とりあえず今日という一日をスタートさせるべく、さっきからいいにおいを漂わせているキッチンへとふらふら向かっていった。

 

 

 

 

 可愛い同居人二人に指摘されるまで、自分自身のあられもない姿に思考が及ばなかったあたり……おれのいっぱいいっぱいさが解っていただけたのではないだろうか。

 

 自宅でよかった。マジよかった。

 

 

 




ぱんつはいてるから恥ずかしくないもん


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123【状況整理】正当な対価ァ!?

 

 白ごはん。だし巻き玉子と、お味噌汁。

 (サバ)みりん干し、青菜のおひたし。

 

 おはようございます。朝の一句、お届けしました。

 どうですかこの見事すぎる一汁三菜。おれのために早起きして朝ごはん作ってくれたんですって。お嫁さんかな。

 ……にしても(サバ)とか青菜とか、そんな食材買ってあったっけ?

 

 

「モリアキ氏のトコにちょこっとお邪魔してね。くすねてきた」

 

「くす――――!?」

 

「っていうのは冗談だけど……ノワの朝ごはんに良さそうなモノをね、ちゃんと相談した上で恵んでもらった。軽くご報告がてら、ね」

 

「……そだな、モリアキにも報告いかないと。霧衣(きりえ)ちゃんありがとうね、ごはん」

 

「いえ、お気になさらず! 当然のことをしたまででございます」

 

 

 アッこれはやばい。得意気な霧衣(きりえ)ちゃんの笑み、これはとてもやばい。思わず抱っこしてあたまなでなでしたくなるくらいヤバイ。

 というかシチュエーションが既にヤバイ。白髪狗耳和服美少女がおれのために朝ごはんを作ってくれたというシチュエーションで既にごはん三杯分くらいヤバイ。

 ずばり『わかめちゃん』の設定に現れているように、ぶっちゃけおれは恥ずかしながら()()()()()()があるのだ。控えめに言って霧衣(きりえ)ちゃんは、なにがとは言わないがとても()()()。何かが色々とヤバすぎてつまりおれの理性と語彙力がヤバイ。

 

 おれの中に存在する悪しき性癖を、なけなしの理性を総動員して押し留め……おれは表面上は平静を保ち、お盆に載った朝ごはんを自室のコタツテーブルへと持っていく。

 ……食卓も用意しないとな、本当に。

 

 

 

「えっと、じゃあ……いただきます」

 

「「いただきます」」

 

 

 小さなコタツテーブルを囲み、三人で健康的な朝ごはんをいただく。

 ……最初はおれ独りぼっち。そこへ小さな相棒が増えて……ついには三人。いつのまにか賑やかに、そして華やかになった。

 それ自体はとても嬉しいことだろうが……この部屋と食卓の密度を改めて眺めると、悠長なことも言ってられなさそうだ。白谷さんはコンパクトに収まっていたとはいえ、霧衣ちゃんはそうはいかない。

 

 やっぱり、すべきだろうな。……引っ越し。

 

 

「ワカメ様……? お口に合いませんでしたでしょうか……」

 

「えっ!? ……あ、ちがう! ちがうちがう、すごい美味しい! ……ごめんね、食事中に考え事すべきじゃなかったね。ごはんありがと、霧衣(きりえ)ちゃん」

 

「…………ん。……恐縮に……ございまする」

 

「ヴッ…………」

 

 

 霧衣(きりえ)ちゃんのKAWAIIに当てられ、下唇を噛んで必死に理性を保ちながら……おれはこの幸せながらも試練じみた朝餉を堪能したのだった。

 

 

 

 

……………………………

 

 

 

 

「……というわけで! 物件を探そうと思うんですよね!」

 

「いやいやいやいやいや! どういうわけっすか!? …………ってかこの子どなたっすか!?」

 

鶴城(つるぎ)さんからお預かりしました霧衣(きりえ)ちゃんです。一緒に住むことになりました」

 

「いっ……!? 住むって…………えっ!?」

 

「そう、それ。だいたいモリアキが今思ってる通りの懸念がまさにあるわけだ。……察して」

 

「アッハイ。そういうわけっすね」

 

 

 朝ごはんを食べ終え、後片付けを頑として譲らない霧衣(きりえ)ちゃんにおれが根負けして、おれがシャワって身支度を整えた後……おれたちご一行様はラニに【門】を繋いでもらい、頼れる同志モリアキ氏の自宅へと強襲を仕掛けたのだった。

 ラニにとってはついさっきぶり、おれにとってはしばらくぶりとなる訪問。

 霧衣(きりえ)ちゃんにとっては……当然、初めての対面となる。

 

 

霧衣(きりえ)と申しまする。まだまだ若輩者の身にございますが……宜しくお願い申し上げまする」

 

「エッ、アッ……ど、どうも。……モリアキ、と……名乗ってます。ハイ」

 

 

 ツヤッツヤのキラッキラで綺麗な白髪と、ぱたぱたと跳ねる三角形の耳。どこか幼さを残しながらも整った鼻筋と、頬から顎にかけてのまるみをおびたラインが美しい和服美少女が、三つ指突いてご挨拶を述べているのだ。

 おれ同様女性に対する免疫が乏しいモリアキが挙動不審になるのも致し方ないことだったし……だからこそ、おれの今現在の葛藤をすぐさま理解してくれた。

 

 女の子といえば画面の中、彼女といえば一個下(※次元が)としか付き合ったことの無いおれたちのような人種にとって……美少女との同居など、ぶっちゃけ『嬉しい』を通り越してちょっと『こわい』のだ。

 

 

「でも実際、引っ越しっつっても先立つものが必要なわけでしょ? 先輩、今動かせる資金って余裕あるんすか?」

 

「まぁ……おれの口座にまだ幾らか残ってるし。物件契約して諸費用払って引っ越しして、三ヶ月くらいなら家賃賄えると思うし……それに、今日中には報酬が振り込まれるらしいし」

 

「はっやァ!? ぇえ、昨日の今日っすよ? スゲェっすね鶴城(つるぎ)さん……」

 

「そう、すっげぇんだわ……もうびっくり」

 

 

 そうだ、そういえばフツノさまは『幾らか色を付ける』と言っていた気がする。

 魔法情報局『のわめでぃあ』としてお仕事したぶんの報酬に手を付けることは憚られるが……おれに対する『迷惑料』として()()られた部分だったら、引っ越しその他諸々の費用として充てても怒られないのではないだろうか。

 ……というか、そもそもおいくら振り込まれてるんだろうか。まずはそこだ。

 

 

「そだそだ霧衣(きりえ)ちゃん、目録って見せてもらって良い?」

 

「はい。こちらに。失礼致しまする」

 

「いやぁー…………クッソ可愛いっすね」

 

「わかる」「それね」

 

 

 おれやラニとは根本的に違う、生まれも育ちも百パーセント純粋な美少女。

 見るからに女の子らしいその完璧な所作に、中身が男のおれたち三人は少なからず心をときめかせながら、しずしずと差し出された報奨目録を手に取り、開き……

 

 

 開、き………………

 

 

 

 

 

「先輩」

 

「………………」

 

「正直に吐きなさい。何やったんすか先輩」

 

「……………………しら、ない」

 

 

 

 そこに記された金額……ゼロが六つ並んだ支給額に、言葉を失った。

 

 

 

「巫女さんのアルバイトって! せいぜい時給千円前後でしょう!? 夜勤手当てと長時間手当て考慮したとしても、どんだけ多く見積もっても一日三万は届かないっすよ!?」

 

「し、しらない! おれわるくない!」

 

「じゃあ何なんすかこの七桁は!! (ナニ)で稼いだんすかこの七桁!! 延長で三が日頑張ったのは知ってますけど、だとしても大晦日と合わせて四日間すよ!? 明らかに桁ひとつ違いますよねえ!?」

 

「ちがうの、これはちがうの」

 

「あのね、モリアキ氏。……言いにくいんだけど」

 

「なんすか!?」「ちょっ、ラニ!」

 

 

 白熱するモリアキの追求に差し込まれた、ラニの発言。

 思ってもみなかった相棒の裏切りに驚愕するおれだったが……事態はそんな生易しいものじゃなかった。

 

 

 

「ボクちょっとまだニホンゴ読むの自信無いんだけどさ……『土地』と『家屋』」

 

「……土地と家屋?」

 

「うん。『土地』と『家屋』を譲渡する……って見える気がするんだよね」

 

「「…………は?」」

 

「っていうか、これ。これさ……もしかしなくても、(カギ)だよね」

 

「「……………………は??」」

 

 

 

 

 ()()確認すると良い、って言ってたのは……つまりは、そういうことか。

 

 あの場で確認させなかったのは……そういうことだったのか!

 

 

 

「先輩。…………何があったんすか」

 

「…………えへっ。……えへへ」

 

 

 はあはあ。なるほど。そーいうことね。

 いやもう、本当に鶴城(つるぎ)さんは……フツノさまは、やばい。

 

 そんなやばい神様とおちかづきになってしまったという、やばすぎる事実。

 おれはさすがにそろそろ誤魔化しきるのは無理だと判断し……モリアキにことの顛末を包み隠さず共有することを試みた。

 

 

 ……そこ。

 最初から無理があったとか言わない。

 

 

 



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124【状況整理】不良在庫一掃セール

 

 

 山あいの高速道路インター(といっても無人のスマートインター、しかも大変こぢんまりしたもの)にもそれなりに近い、しかしその反面電車やバスの路線は絶望的な、山の中腹に拓かれた別荘地……だった場所。

 バブルの崩壊に伴い別荘地の販売が中断され、売れ残り区画を全部まとめて統合し、モデルハウス別荘も建売物件としてオマケで付けて……しかしそれでも尚買い手がつかずに長らく焦げ付いていた、坪単価にしてなんと千円そこらのワケアリ物件。ヤケクソすぎる。

 

 眺望良好、電気水道引き込み済。別途費用により温泉引き込み可能。最寄りの温泉街まで徒歩五分。しかしながら、()()()()()()。……いや、うそでしょ。どうやって建てたんだよ。

 

 肝心の別荘は、築二十五年の5SLDK。これだけでもふつうに驚く豪邸なんですけど……その敷地面積に至っては、なんと二千八百坪。

 

 

 にせん、はっぴゃく、つぼ。

 もう呆れるしかない。

 

 

 参考までに。この浪越市の一般的な住宅地において、一軒家とちょっとした庭と駐車スペース二台分を含めた平均的な敷地面積が……だいたい四十から五十坪前後、といったところだ。

 

 平米に直すと……なんと、じつに九千平方メートルを優に越える。

 よく用いられる例えで換算するならば……東京ドームが〇.二個分かな。……うん。逆にわかりづらくなったわ。

 

 

 た…………確かに、おれの思い描いていた通りの条件を満たす物件ではある。

 霧衣(きりえ)ちゃんの個室もスタジオスペースも確保でき、当然おれの私室だって余裕だろう。モリアキが遊びに来たとき用の客間だって問題ない。

 それに、周辺は人里離れた山林。別荘地(だった場所)とはいえ最寄りの隣家も相当離れているだろうし……この分なら【静寂(シュヴィーゲ)】を使用しなくとも、騒音被害が生じる可能性は低いだろう。

 

 唯一の懸念となる『接道なし』および公共交通機関の脆弱さに関しても……白谷さんの【繋門(フラグスディル)】があれば一気に解決する。

 買い物の際なんかは荷物ごと【門】で飛ばしてもらえば良いし、このご時世通販ならば自宅の玄関に届けてくれる。遠出するときとかもどこかの駅に【門】を繋いでもらえば良いし、そもそも目的地に直で飛んでも良い。

 

 とはいえ、肝心の建物部分に相当ガタが来てないとも限らないし……もしかしたら居住可能になるまで、相当の手間と費用が掛かるのかもしれない。……かもしれない、が。

 ……だとしても、考えれば考えるほど『魅力的な物件である』との思いが沸き上がってくる。

 田舎生まれの血が、中途半端とはいえ培われた(ドゥー)(イット)(ユアセルフ)の魂が、久方ぶりに燃え上がるのが自分でもよくわかる。

 

 

 ちくしょう。霧衣(きりえ)ちゃんを迎え入れたおれが考えそうなことから白谷さんの【門】のことまで、なにからなにまでフツノさまにはお見通しだったということか。

 くやしい、でも神様すごい。

 

 

 

 

「と、とりあえず…………先輩がスッゲぇ方々とお近づきになったってのは解りました」

 

「…………本当に……貰っちゃって良いの? これ……」

 

「えーっと? 『氏子に頼まれ買い上げ、引退した神使に使わせようと画策して居たが……交通と周辺環境が不便過ぎて大変不評だった。シラタニ殿の権能が在れば活かせようと思い至り、霧衣(きりえ)と縁を結んだ貴殿への餞別として供与の決を下したものである。ぶっちゃけ他の誰も欲しがらないので、ワカメ殿の好きな様に弄ってくれて構わない』……らしいっすけど」

 

「リョウエイさんかな……ぇえ、まじで……まじ…………ちょっとまって……」

 

「あっまだ続いてるっすよ。『追伸。放送局の益々の発展、……ヨリョク? 共々期待している』だそうです」

 

「……ヨリキ、か。そっか。…………そっか」

 

 

 おれの放送局を……魔法情報局『のわめでぃあ』の今後の発展を、鶴城(つるぎ)与力(ヨリキ)のみんなが期待してくれている。

 この法外な報酬は、その期待の現れでもあるということだろう。……そういえばフツノさまも『演目に対する投資』と言っていたっけか。

 

 であれば……この誰も欲しがらなかったという物件を、活かせるおれたちがありがたく頂戴し、そこから今後よりいっそうおもしろい動画を配信し続けることが、鶴城(つるぎ)さんに対する返礼となるのかもしれない。

 

 

「…………突っ返したら……フツノさま怒るよね」

 

「恐らくは。あのお方の気性から察しますれば……」

 

「後で目を通せ、ってのがまた……手が込んでるね。お返ししようにも『一度受け取っただろうに』とか言って突っぱねるつもりなんだよ、どうせ」

 

「目に浮かぶようだよ。……ありがたく頂戴するしかないか」

 

「……左様にござりまする。頂戴しました後に改めて御礼にお詣りする方が、あのお方も喜ばれましょう」

 

「じゃ、じゃあ……あの、先輩。……とりあえず」

 

「お、おう。……そっ、そだな、……とりあえず」

 

 

 やっぱり、なんだかんだでおれたちは健全な男子だ。

 おれは見た目こそこんなになってしまったが……ちっちゃかわいい和服美少女にときめいてしまったり、一国一城の主にあこがれたりと……その心は紛れもなく男子だ。

 

 であれば、こんな心踊る物件。

 当然……気になるに決まっている!

 

 

 

「「見に行ってみる(みます)か!!」」

 

 

 ここからなら……およそ九十キロメートル。高速道路を使えば、一時間半程度で到着できる距離だ。

 好奇心に火のついたおれたちは、そのままモリアキの軽自動車にお邪魔することになり……ちょっとした、しかし賑やかなドライブが幕を開けたのだった。

 

 

 ちょっと遅めの年始休暇、満喫させてもらおうじゃないか。

 

 



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125【年始休暇】おれの完璧な宣伝計画

 

 

 長距離ドライブのときの醍醐味、そのひとつといえば……なんといっても、サービスエリアでの喫食だろう。

 その土地ならではの食材を使ったり、そのサービスエリアならではの趣向を凝らした商品に仕立てあげたりと……そこでしか味わうことの出来ない、まさに『名物』とでもいうべき目玉商品。それは全国津々浦々のサービスエリアに存在する、大きなセールスポイントである。

 

 そんな目玉商品をスルーするなんて出来るはずもなく……おれは当然のように運転手(モリアキ)にサービスエリアへの寄り道をねだり――ラニと霧衣ちゃんの援護射撃もあって――晴れておいしいものを食べる権利をもぎ取ったのだった。

 

 

 ……のだが、しかし。

 

 

 

『先輩先輩。気づいてるとは思いますが……』

 

「まぁそうだよな。緑髪ロリエルフと白髪和装ロリだもんな。……案ずるでない、むしろそれこそ我が策略よ」

 

「? ……ワカメ様?」

 

「んん。気にしなくて良いよ霧衣ちゃん。おいしい?」

 

「はいっ! わたくし、斯様(かよう)な氷菓子は初めて頂いてございまする! 牛の乳が()(よう)な甘味へと化けるとは……異国の料理は大変に興味深いでございまする」

 

「かわいいねぇ……」

 

「んふふ。ノワも可愛いよ」

 

「なんだと、ラニのほうが可愛いよ」

 

『はいはい皆クッソ可愛いくてございますよ!!』

 

 

 自前の【変化】の神秘によってかわいらしい三角耳を隠した霧衣(きりえ)ちゃんに対し……最近開き直りの境地に至ったおれは、自慢の緑髪と長い耳をさらけ出したままである。

 三が日を明けたとはいえ、一月四日とあってはまだまだ年始休みの人々も多い。高速道路のサービスエリアとあっては、帰省帰りに立ち寄る人も多いだろう。

 それなりに混雑している中で当然のように人目を引くおれたちには……これまた当然のように、スマホのカメラがちらほらと向けられていた。

 

 おれは黒の長タイツにローブのようなニットワンピを合わせ、その上にコートを羽織ったアースカラーのコーデ。割とありふれた格好なのに対し……

 いっぽうの霧衣(きりえ)ちゃんは……紺色の和服に臙脂(えんじ)色の羽織を合わせ、足先には靴下ではなく足袋(たび)と草履という完璧な和装。

 

 和装はただでさえ人目を引く上……この霧衣(きりえ)ちゃんの美少女っぷりよ。まだ幼げながらおよそ完璧に和服を着こなし、その所作も非常に(さま)になっている。

 彼女を見た人の誰もが思うことだろう。『あの可愛い子……いったい何者だ!?』と。

 

 

「モリアキも一緒にソフト食べりゃよかったのに。ツーショット撮ってもらおうぜツーショット。嬉しいだろ?」

 

『ツーショットには惹かれますがSNS(やいたー)に上げられて叩かれるのは嫌ですんで! あのハーレム野郎○ねとか言われんのが目に見えてますんで!』

 

「大丈夫だよモリアキ。ラニは姿隠してるし、ハーレムっていうよりは両手に花くらいにしか見られないって」

 

『いやそれ何の慰めにもなってませんよねェ!?』

 

「…………そのお耳の機械細工にて、モリアキどのとお話されているのでございますか?」

 

「うん、そう。……あー、霧衣(きりえ)ちゃん用のヘッドセットも買わないとね。おれ以上にモリアキのフォロー必要そうだ」

 

『あっ、じゃあオレコンビニ見て来るっすよ。……ついでに一服してくるんで、ゆっくりペロッてて下さい』

 

「ごめん、たすかる。今度パンツ見ていいよ」

 

「写真は任せて。バッチリえっちな感じに押さえとくから」

 

『まーた喜ぶべきか怒るべきか判断に悩むことを!!』

 

「ソコでちょっとでも喜んだり悩んじゃうあたりさすがモリアキだよな」

 

「さすがだよね」

 

「?? さすが、でございますか……?」

 

 

 姿を眩ませたままおれの右手に腰かけた白谷さんが、茶目っ気たっぷりにヘッドセット越しのモリアキへと語りかける。屋外空間の雑踏の中では、そんなどこからともなく響く小声を気にする人なんて居やしない。

 遠巻きにスマホカメラを向ける人たちに、ラニとの会話を聞かれる心配は無い。

 

 そうとも。彼ら彼女らは今、緑髪のロリエルフと白髪の和装ロリという和洋折衷ファンタジーなおれたちを……この尊い空間を写真に収めるので忙しいに違いないのだ。

 いいぞ、もっと撮るが良い。おれがゆるす。撮ってSNS(つぶやいたー)に載せてつぶやくが良い。

 ……というのも、この世界において緑髪ロリエルフとあれば、それはそのものずばりおれのことを示すのだ。緑髪エルフの目撃情報が増えれば増えるほどおれの知名度が上がっていき、つまりはそれが『のわめでぃあ』の周知に繋がるのだ。

 

 これといって費用も手間もかからない、おおよそ完璧な周知作戦。犠牲となるのはおれの羞恥心のみ。

 ()()を代償とした()()、ってやかましいわ。

 

 

 お上品にぺろぺろと舌を這わせる霧衣(きりえ)ちゃんと、小さなお口で可愛らしく(ついば)むラニの様子を堪能しながら……おれは自分で自分に突っ込みつつも、この幸せな風景を心のファインダー(とちゃっかりゴップロ(カメラ))に、しっかりと収めたのだった。

 

 

 



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126【年始休暇】山あいの温泉地

 

 

 おれやモリアキや……フツノさまたちが住む浪越市から、第二東越基幹高速に乗って東進することおよそ一時間。

 目を輝かせながら静かに、そしておしとやかにはしゃぐ霧衣(きりえ)ちゃんにほっこりしながら車は進み、ついに目的地の最寄りであるインターチェンジに差し掛かった。

 都市部にあるような大掛かりなものではなく、自動の発券・精算機が据え付けられたレーンが一本のみの、ぶっちゃけたいへん地味なインターである。

 

 あたりを見回してもお店の類は見当たらず、当然人々の賑わいなんかも見られない。地図上では、こぢんまりした温泉街が近くにあるようなのだが……少なくともこのインターチェンジの近辺にまでは、その賑わいは届いていない。温泉街の名前と矢印が書かれた看板がひとつ、ぽつんと立っているのみだ。

 道路脇の植生は冬場なのに元気がよすぎて、整備費を倹約させられている様子がなんとなく伝わってくる。

 

 あくまでも高速道路の敷設が優先され、ここのインターチェンジはあくまでもおまけ程度に設けられたものなのかもしれない。『ここに本線が通ってここで下道とぶつかるし、じゃあインター作っとくか』みたいな。もしくは工事車両の進入ルートを再利用したとか。

 ま、まぁ……お役所の方々の考えまでは、おれにはわからないけど……少なくともおれの地元にあったような『インターチェンジを中心としたグルメストリート』『高速道路利用者を見据えたビジネス・リゾートホテル街』のような賑わいは、ここでは見られなかった。

 ……それが悪いということでは、決して無いのだが。

 

 

「……合ってるっすよね? 誉滝(ほまれたき)インター」

 

「合ってる合ってる。滝音谷(たきねだに)温泉って看板あったし」

 

「……斯様な箱の中に入ってのお勤めとは……なかなかに息苦しそうでございまする」

 

「うん? …………あぁ。……いやあ、霧衣(きりえ)ちゃん可愛(かわ)ゆすなぁ」

 

 

 おれたちにとっては何とも感じないものでも、長らく境内から出たことのなかった霧衣(きりえ)ちゃんにとっては、どれも新鮮に感じるものばかりなのだろう。

 よくある『現代にタイムスリップしたお侍さん』モノのようなリアクションにほっこりしながら、車はバーをくぐって一般道へ。

 ナビの誘導は件の『滝音谷(たきねだに)温泉』……ではなく、その反対方向へと向かっていく。

 

 

「あっ、もう別荘地に入るんだ? 『フォールタウン』って看板あったわ。この上もう例の別荘地ってこと?」

 

「そうみたいっすね。温泉街と別荘地の間にスマートインターがある感じっすか」

 

「……おいおいおい、思ってた以上にお店無いぞこれ」

 

「あるとしたら温泉街の方っすかね……ナビにはそれっぽいアイコン映ってなかったっすけど」

 

「ヒェッ……」

 

 

 う、うん……確かに、温泉街には程近い。

 車道は大きく迂回するようなルートを描いているが……最短ルートを歩めば確かに、五分程度で温泉街に辿り着けそうだ。

 

 だが……温泉街に辿り着いたとて、そこにお店があるとは書いてない。

 個人経営の飲食店なら探せばありそうだが……少なくともカーナビにアイコンが載るような全国チェーンのコンビニや飲食店、スーパーマーケットの類は無いようだ。

 

 贔屓目に見て、車での通勤はそれなりに便利だったとしよう。

 しかし一日の仕事を終えて帰ってきても、近くで食料を買えそうなお店がほぼ無い。かといって食事が出来るお店も、恐らく選択肢は多くない。

 温泉はあるだろうけど、他の娯楽は……ナビを見た感じ、見当たらない。

 

 なるほど確かに。長年買い手がつかなかったのも、なんとなく頷ける気がする。

 

 

 別荘地の正面入り口を通ってからは、物件自体は割とすぐだった。

 きらきら顔で周囲に目線を巡らせている霧衣ちゃんと、わくわく顔で表情を輝かせているラニの笑顔を尻目に……車は速度を落とし、やがて停止する。

 

 別荘地内の物件というよりかは、行き止まりの林道と言われたほうがしっくり来るだろう地点。

 まさかここじゃないよなというおれたちの思考を読んだかのように、カーナビの音声が無慈悲にも『目的地に到着しました』と告げる。

 

 

「………………どれ?」

 

「…………あ、見えた。あれじゃね?」

 

「あ、あれっすか。……ぇえ、そゆこと……マジで道繋がってないんすか……」

 

「アプローチとか完全に草に覆われてんじゃん……こりゃ草生えるわ」

 

 

 

 物件資料にあった家屋……建て売りの別荘というのは、今車を停めているここから見上げる形となる、あれのことだろう。隣接する車両用道路無しというのは、物件と道路地点は大きく高度差があるということだったらしい。

 コンクリートで固められた壁の上、長い階段を昇った先に、確かに大きな建物が建っているのが見てとれる。……多分この場所にクレーンか何か設置して建てたんだろうな。

 

 外観は特に問題があるとは思えない。建物が乗っかってるこのコンクリートの壁も、確かに年月相応の汚れで黒っぽくなってるが……ひび割れや崩落なんかまるで見当たらない。

 築二十五年でろくに手が入っていないとなると、もっと荒れていても良さそうなものだけど。……いや良くはないや。

 ともあれ、全くの手付かずで放置されていたわけでは無さそうだ。もしかしたら鶴城神宮の関係者が、定期的に手入れに訪れているのかもしれない。

 

 

 

「とりあえず……鍵貰ったってことは中見て良いんだよね? せっかくだから、見るだけ見てみよう。……せっかくだから!」

 

「いやぁー……いい笑顔っすね先輩。まあ気持ちは解りますけど」

 

 

 霧衣ちゃんに鍵を持たせたということは、つまりはそういうことだろう。

 一応モリアキ宅を出発する前に、チカマさんに『内覧に行ってきます!』とREIN入れてあるので……これだけ時間をおいても『待った』が掛からないということは、つまりは内覧しても問題ないということだ。……と思う。

 

 共有であろう道路に路上駐車するのはちょっと気が引けるが、そんな何時間も停めなければ大丈夫だろう。……ていうかそもそもこのあたり他に家無いし。

 シートベルトを外してショルダーバッグをひっつかんで、おれはワクワクを隠すこともなく地面に降り立つ。山の中だけあってやはり空気が澄んでおり、深呼吸するだけで心が落ち着く気がする。

 

 

 

「……うん。良いねここ。さすがに魔素は無いけど、嫌ぁな気も感じない」

 

「霧衣ちゃん足下きをつけてね。モリアキはやくはやく!」

 

「ワカメ様……元気いっぱいでございますね」

 

「ホンットお子様みたいっすよね。はしゃいじゃって」

 

「はー???」

 

 

 モリアキには後でセクハラでも仕掛けてやるとして……とりあえずはこの物件である。

 元気に伸びた草に覆われたアプローチを通りやっと辿り着いた玄関扉は、なかなかに重厚感がある立派なものだ。造りもしっかりしており、特に傷んだ様子は見られない。

 

 キュロットスカートのポケットから鍵を取り出し、心が高鳴るのを感じながら鍵穴に鍵を差し込み……回す。

 これもまた軋みや引っ掛かりや嫌な摩擦音なんかを響かせることもなく、大変スムーズに機構が働き、小気味のよい音と共にロックが解除される。その動きはとても滑らかであり、やはり長年放置されていた家屋らしくはない。

 やはり絶大な不人気とはいえ鶴城神宮関係者の所有物件、きっちり定期的なメンテナンスが施されていたということなのだろう。おれは一人で勝手に感心していた。

 

 

 ともあれ、期待通りに鍵は開いた。ドアノブをつかんで捻り、よっこいしょっと引っ張る。

 どっしりと厚みのある玄関扉は、しかしながら大きな抵抗もなく滑らかに開き……おれは無人の静けさに包まれたお家へと、ついに足を踏み入れ、

 

 

「お……おじゃましまぁーす」

 

「……いらっしゃいませ」

 

「????????」

 

 

 

 

 ……おれは無人()()()()()の、静けさに包まれ()()()()()のお家へと、ついに足を踏み入れ……ようとしたところで。

 

 

 予想外の事態に、足が止まった。

 

 

 



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127【年始休暇】5SLDK管理人付き

 

 

 

「あっ……あった。ほんまや」

 

「ホヘェ、まじっすか」

 

「まじまじ。ほらここんとこ『契約済保守担当要員一名』って書いてある」

 

「あー……なるほど。つまりこちらの(かた)が」

 

「……御理解頂けたようで、何よりです」

 

 

 

 二十五年の歳月を感じさせない、清掃と整備の行き届いたリビングにて……おれたちは霧衣ちゃんが持たされていた物件資料を、改めてじっくりと読み直していた。

 それによるとこの物件、広大な土地と5SLDKの家屋に加えて……なんとなんと『保守担当要員』、つまりは管理人さんまで付いてくるらしい。

 いや、至れり尽くせりっていうかなんていうか……まずはそもそもこの『保守担当要員』さんだ。いったい何者なんだってばよ。

 

 恐らくだが……二十五年もの間、保守担当としてこの物件の保全に務めてきたのだろう。建物に荒廃した感じが見られなかったのも、つまりはこのひとの功績によるものなのだろう。

 その経歴とその外見からして、十中八九神使の方々と近しい存在。年齢を感じさせない容姿をもち、作業に適した服装でありながら……しかし一部致命的に、この現代日本にはそぐわない格好。

 

 

「……えっと、ごめんなさい。……お名前……お伺いしても、良いでしょうか?」

 

「……これは失礼を。なにせ久方ぶりの来客ゆえ、少々常識を欠いてしまったようで」

 

 

 そう前置きを述べると……保守担当要員の彼女(?)は踵を合わせて居住まいを正し、堂々たる姿勢にて名乗りを上げた。

 

 

「手前は……鶴城神域(マワ)(カタ)(ガシラ)龍影(リョウエイ)様が(しもべ)、天つ走狗の山伏が一翼。姓を狩野(カノ)、名を天繰(テグリ)と申します」

 

「あっ……ご丁寧にどうも。おれは……えっと、動画配信者やってます。木乃(きの)若芽(わかめ)っていいます」

 

「……成る程。貴嬢が……あの」

 

 

 テグリさん……どこか異国情緒漂う響きだが、やはりというかリョウエイさんのところ所属らしいので、やっぱり日本人なのだろう。短めで揃えた清潔感のある髪は、日本人によく見られる真っ黒な色だ。

 しかしながらその身に纏うのは、違和感がものすごい――いや、室内作業用の服装としては正しいのかもしれないが――丈と袖の長い黒のワンピースドレスと、白く輝くエプロンドレス。

 ええ、はい。つまりは……どう見ても、古式ゆかしいメイド服である。

 

 オマケにその腰周りを彩るのは……建築現場や工事現場でお仕事する方々が身に付けてそうな、非常にゴツいツールバッグ。しかもどうやらガワだけじゃなく、実際に多種多様な工具が収まっているようだ。

 がちゃがちゃ音が鳴るほどに様々な工具を身に付けていては、ツールバッグが巻き付いている腰やら足やらに負担が掛かりそうなものなのだが……恐らくだが、テグリさんはどうやら大して気にしていない様子。

 

 恐らく、というのはほかでもない。

 立ち姿勢や声色から推測することは出来るのだが……おれたちには、実際にテグリさんの表情を()()窺うことが出来ないのだ。

 

 

 黒髪に縁取られた、彼女(?)の顔。

 そこには、彼女の纏うクラシックメイド服と非常にそぐわない――いや、むしろ本来の所属からすると正しいのかもしれないが――物々しい天狗の半面が、口許以外全てを覆い隠していた。

 

 

「……あの…………テグリ、さん?」

 

「? ……はい。なんでしょうか」

 

「えっと……そのお面って」

 

「……解り易いかと思ったのですが……お気に召しませんか?」

 

「わ……わかりやすい、って……まさか、やっぱ」

 

「……ええ、その通りです」

 

 

 背丈のほどは、霧衣(きりえ)ちゃんよりも少し高い程度。モリアキを基準にすると、だいたい彼の肩くらい。自らを『天つ走狗の山伏が一翼』と表した、リョウエイさんの部下。

 

 ロングスカートのクラシックメイド服に、嵩張(かさば)り重たそうなツールバッグを腰に巻き……天狗の半面で目元を隠した、物静かな(たぶん)女の子。なおおむねは控えめながら確かに存在を主張しているくらい。ぶっちゃけ好みのサイズです。

 

 

「不肖、狩野(カノ)天繰(テグリ)。……現在は約定に基づき、家政婦の役を頂戴しておりますが…………これでも以前は『大天狗(オオテング)』を名乗ったこともございまして」

 

「………………すごいひとじゃん」

 

「ヤベェお方じゃないっすか」

 

「……恐縮です。……まぁ、所詮は布都(フツノ)様に御厄介となっている、(いち)居候にございますが」

 

 

 やばい神様が(ヘッド)を張る鶴城(つるぎ)一派は……家政婦さんに至るまで実力者揃いのようです。

 

 ハチャメチャに広い敷地と、バカデカいお家と、冗談みたいな実力者であろう管理人……至れり尽くせりっていうか、ここまで来ると逆に怖い。

 …………フツノさまは本当……おれに何をさせようとしてるのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

「やぁやぁ知我麻(チカマ)。聞いたよ、若芽殿が例の物件見に行くって?」

 

「その様ですな。朝方一報が入っておりましたので……そろそろ到着する頃合いかと」

 

「いやー良かった良かった。思った通り、興味持って()れたみたいだね」

 

「…………宜しいのですか? 大天狗殿と引き合わせてしまって」

 

「まぁ僕も色々考えたんだけどね。様々な可能性を鑑みた結果……若芽殿に全部任せるのが得策だと判断した」

 

「それは…………それは」

 

天繰(テグリ)も悪い娘じゃ無いんだけどね。さすがに三十年近く放置して居た訳だろ? ……僕達が顔を出した処で、火に油を注ぐだけだと思わないか?」

 

「…………そう、ですな」

 

「大丈夫大丈夫、若芽殿はきっと(うま)()って()れるよ。何も心配要らないさ」

 

「……返信だけでも、返しておきます」

 

「うん、任せたよ。じゃあ僕は(コレ)で。…………若芽殿への報酬額の件でね、勘定方に呼び出し喰らってるんだ。……割とガチな声色だったよ」

 

「御愁傷様でございます」

 

 

 

 



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128【年始休暇】個性派管理人さん

 

 

 報奨目録に添付されていた鍵を使い、報酬として用意されたという別荘物件に足を踏み入れたおれたち。

 そこでおれたちを待っていたのは……天狗の半面を被った重装備メイド少女という、なかなかに個性的な管理人『狩野(カノ)天繰(テグリ)』さんだった。

 

 自己紹介の後に詳しい話を聞いたところ……やはりというか思った通りというか、この物件がきれいなまま保たれているのは、彼女の功績によるものらしい。

 その腰にガチャガチャと提げているツール類は、思った通り飾りなんかじゃなかったらしく……二十五年間もの間この物件を守り続けていた、いぶし銀の武器だったのだ。

 

 

 

「えっと……つまりテグリさんは、結界の外でも活動できる……んですか?」

 

「……そうですね。これでも一応は『天狗』の身となりますので。普段は山中を跳ね回っております。……あぁ、しかし今の私は契約で縛られておりますので……基本的には、この屋敷から離れることは叶いませんが」

 

「その、『契約』……っていうのが、このお家の維持管理……ってことですか?」

 

「……ええ、その通りです。『入居者が決まるまで建物の管理保全に努め、即日居住可能なように環境を維持し続ける』……それが、手前に求められた契約内容です」

 

「ちょっ、あの……入居者が決まるまで、って……あの」

 

「……御察しの通りです。現に手前はこの二十五年間、この屋敷とその近郊に縛られ続けることとなりました。……かつての大天狗が、今となっては座敷童の真似事です」

 

「「「………………」」」

 

 

 

 二十五年にも及ぶ放置プレイをかまされたと聞いて、おれとモリアキとラニの顔があからさまに引きつる。……というかつまり俺が今回この話を蹴ったりしたら、天繰(テグリ)さんの()()がまた延びるということじゃないか。しかも上限なし。

 ……いや、ちょっ……断りにくいだろ。

 なんだかもう、何から何までフツノさまの(てのひら)の上で弄ばれてるような錯覚さえ感じてきた。あの(ひと)おれの性格理解しすぎだろ。

 

 

 

「二十五年…………あの、まさか……ずーっとこのお家の中に?」

 

「……いえ。工具や資材を調達せねばなりませんし……()()もございますので。手前はこの屋敷から遠く長く離れること叶いませんが、麓や隣の裾野程度ならば遠出もこなせますので」

 

「え、あの……副業? 副業って何…………あっ、ごめんなさい。聞いて大丈夫なことでした?」

 

「……問題ありません。龍影様の許可も頂いておりますので。……ここよりすぐ下、川沿いに集落がありまして。何らかの設備や家屋が壊れた際にはその補修を請け負い、見返りとして若干の金銭や……生活に必要な資材を頂戴しておりました」

 

「便利やさん、ってことっすかね。……器用なひとは本当ありがたがられますから」

 

「あー……川沿いの集落って、あの『滝音谷温泉』のことか。……ええすごい、テグリさんあの温泉街の人と顔見知りなんだ?」

 

「……そうですね。それなりに良好な関係を維持出来ているかと」

 

「おぉー……すごい」

 

 

 このお家を万全の状態に保つための、いろんな工具や様々な技術……それらを腐らせることなく、ご近所さんの求めに応じて活かしてきたという。

 それはとても立派なことだと思うし、やはりテグリさんは根っからのいい人なんだろう。一見とてもクールで、ともすると冷徹とも取られそうな口調なのだが……彼女の言動の端々には、きちんと他者に対する思いやりを垣間見ることができる。

 

 何よりも……この個性的な格好にもかかわらず人々に受け入れられているなんて、そこに至るまでには並々ならぬ努力と苦労を要したことだろう。

 

 

 

「とっ、とりあえず……おれたちはその『入居者候補』ってことになるんだけど……お家の中、見て回っても良い?」

 

「……構いません。もとよりそのつもりですので。……御家族四名様、ということで宜しいですか?」

 

「!! はい!」

 

「ちょっ!? オレは付き添いっす! こちらの三名で! 何シレッと同居させようとしてんすか!?」

 

「だ、だって…………寂しいんだもん……」

 

「『もん』じゃないんだよなぁ!!」

 

「……それでは、僭越ながら手前が御案内を。この屋敷に関しましては、誰よりも詳しい自負がございますので」

 

「アッ、ハイ」「お願いします」

 

 

 とりあえず荷物や資料やその他もろもろをリビングスペースに置かせてもらい……ぴしっとした動作がきれいなテグリさんの先導によって、わくわく物件内ツアーが始まるのだった。

 

 

 

 

「……いやぁ、ボクは割とお似合いだと思うんだけどね、あの二人。さっさと同棲しちゃえば良いのに(ひそひそ)」

 

「えっ!? ま、まだ縁を結んでおられないのですか!?(ひそひそ)」

 

「そうなんだよね……あんなに仲良いのにさ(ひそひそ)」

 

「はぁ……奥手なのでございますね(ひそひそ)」

 

「だからさ、ほら。キリちゃんも積極的に行かないと、ノワ振り向いてくれないよ? 草食系だから(ひそひそ)」

 

「わ、わたくしは……わぅぅ……(ひそひそ)」

 

 

 ……背後から聞こえるひそひそ話は、あえてシャットアウトさせていただこう。おれはなにもきこえない。エルフイヤーだって休みたいときもある。

 おれは男だ。それこそこの若芽(わかめ)ちゃんのような、かわいい女の子が好きなのだ。

 

 ラニ帰ったら覚えてなさいよ。

 

 

 



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129【物件探索】すごくすごいおうち


やっっと極繁忙期がおわる…………



 

 

 そもそもおれたちがここへ来た目的は、何を隠そうこの物件の内覧である。

 誰よりもこの物件に詳しい天狗面重装備メイド少女テグリさんの先導によって、ついに豪邸案内ツアーの幕が上がった。

 参加者は御家族四名……もとい三名と、その付き添い兼お抱え運転手が一名。うち御家族三名に至ってはエルフと狗耳美少女と妖精さんという、こちらもなかなか個性的な面子だった。

 ふつうの人間種モリアキしか居ねえ!

 

 

 とりあえず……気をとりなおして。さっきまでくだをまいていたリビングからススッと移動して、すぐ隣のキッチンスペースへ。おれもモリアキもお料理が好きな人種なので、やはりここは気になるところだ。

 このお家のキッチンは、今はやりの対面とかアイランドキッチンではなく、調理台が壁際に向いたL字配置のタイプ。まあ建てられた当時のトレンドなのだろう。

 若干奥まっているとはいえ、調理台の内側キャビネットがリビングから丸見えだ。これは常にきれいに保たないといけないやつだ。

 

 

「……まず、こちら。先程の居間と続き間となります、調理場です。調理用ならびに給湯用の熱源はプロパンガス、水道は公共上水、管径二十五ミリにて引き入れており、水量水質ともに問題御座いません。換気設備や照明器具類も、動作は問題御座いません」

 

「スゲェ! ガス火の三(くち)コンロとグリルに……オーブンまで付いてんぞモリアキ!!」

 

「えっマジっすか!? ビルトインガスオーブン!? ……あっマジだ。スゲェ。いいなぁピザもロービ(ローストビーフ)も作り放題じゃないすか。ていうか単純に広いっすね調理スペース……うっわ、食品庫(パントリー)ひっろ」

 

「……然様に御座いましょう。屋敷全体を通して、広さに余裕を持たせた造りとなっています。相当金回りに余裕があったのでしょう。……計画した当時は」

 

「「あー…………」」

 

 

 昨今のいわゆる一般的な戸建て住宅なんかとは、根本的に異なる造り。建物が完成したのが二十五年前だとして、この別荘地計画が立ち上がったのはもっと前……まだまだ日本全体がバブリーでイケイケドンドンな感じだった時代のことなのだろう。

 設定価格帯も、ターゲットとなる販売層も、現在の一般家屋とは大きく異なっていただろうことは、この僅かな間でも感じ取れた。

 

 いい意味で現実離れした、見慣れない造りのオウチ見学会。その『驚き』はとどまるところを知らず、この後もおれたちを翻弄し続けるのだった。

 

 

 

「……こちらは洗面室……廊下側と調理場側、左右どちらからも繋がる構造となって居ります。入浴の際は()()()()()にお気を付け頂ければと」

 

「モリアキ見て見て! 風呂すっげ! でっけ!」

 

「うわ……これユニットバス……じゃ、無いっすよね。本当金持ちじみた造りっすね」

 

「どれどれ……おお、いいね。ひろいひろい。これならノワとキリちゃんとボクと……」

 

「こっち見ないでください!! オレは部外者ですんで!!」

 

 

 

 

「……こちら廊下側を出ますと、洗面室の対面は御手洗い……右が階段室、左は先程の玄関ホールとなります。……二階は後にして、先に一階部分を。玄関ホールを横切った先は、畳敷きの和室が二間(ふたま)

 

「「二間(ふたま)」」

 

「……襖で区切り、別々の個室としても使えます。もちろん続き間とはいえ、別々に出入りできる造りで御座います。……間の襖を取り払えば、二十畳の広間としても利用できましょう」

 

「「二十畳」」

 

「……こちら側の間仕切りを開け放てば先程の居間と繋がりますゆえ、合わせて五十二畳の大広間となります」

 

「「五十二畳」」

 

 

 

 なんというか……規模がいちいち大きすぎて、感覚が狂いそうになってくる。

 おれが現在寝起きしている洋間が八畳間なので……つまりはこの一階部分、居間と調理場――要するにLDK――と和室二間(ふたま)部分だけで、おれの自室が六つは収まる計算となる。

 ……いやいや待って待って待っておかしいおかしいおかしい。

 

 ゆとりのある大空間なんてレベルじゃない規模に、ただただ唖然とするしかないのだが……ただひとつ確かなことは『お金持ちの考えることって、いちいち思い切っているなぁ』といったところだろうか。

 おれのような小市民には、こんな建物を建てようなんて考えすら浮かばない。

 

 

「……一階部分のお部屋は、以上となります」

 

「「すごい」」

 

「……では二階へ。…………こちらが主寝室、家主のお部屋となります。広さは二十畳」

 

「「二十畳」」

 

「……二階の洋間です。こちらは十畳。ルーフバルコニーへと出られます」

 

「「ルーフバルコニー」」

 

「……こちらは畳敷きの和室。眺望良好に加えて、吹き抜けより一階居間が見下ろせます」

 

「「吹き抜け」」

 

「……二階部分のお手洗いと……こちらがシャワーブースとなります」

 

「「シャワーブース」」

 

 

 ……これ、もう……個人宅じゃないでしょ。

 スタジオつくって自室確保して霧衣ちゃんのお部屋確保して……仮にラニにも一室割り振ったとして、それでも部屋数に余裕がある。本当にすごすぎる。

 というか、一部屋最低でも十畳以上って。……主室に至っては二十畳って。

 

 

「これ……建物自体、何坪なの?」

 

「……およそ二四〇平米、七十四坪ですね」

 

「二倍――――――!!!!」

 

 

 恐ろしい。恐ろしい建物だ。この建物そのものも非常に恐ろしいが、こんな建物を一人だけで長年保守してきたテグリさんもある意味恐ろしい。

 

 ……いや、まてよ。

 今案内されたこのお家の中には……まぁもちろん入居者が居ないというのもあるが、生活感がほとんど感じられない。

 と、なると。

 

 

「…………あの……テグリさん、は……どこで寝起きしてるんです、か?」

 

「あっ、そういえばそうっすね。管理人室みたいな部屋でもあるんすか?」

 

「…………納屋を」

 

「「……なや」」

 

「……ご要望とあれば……そうですね。御案内しておきましょうか」

 

 

 なや。納屋。……つまりは、別棟の物置。

 顔全体に『マジか』と書かれたおれたちをよそに、テグリさんは先導するようにテクテクと玄関へ。後に続くおれたちも履き物をはいて一旦アプローチに出て、そこからは脇道に入って割とすぐ。

 鬱蒼とした低木による隠蔽と、すぐ側に佇むヤベェお家に目が行ったせいで全く気付かなかったけど……そこには確かに、ひっそりこぢんまりとした建物が存在していた。

 

 規模でいうと……あのお家を一般家屋と仮定すると、それこそプレハブ物置くらいの比率でしかないだろう。ぱっと見た感じだが、六畳間が二階積み重なったくらいの大きさに……見える。

 

 

「……倉庫としての役割に加え、庭園用小型車の格納を目的としていた模様に御座いますが……手前が管理人として赴任するにあたり拠点とすべく、龍影様に改装の許可を頂きまして」

 

「か、改装の許可って……一人でやったの!?」

 

「……ええ、まぁ。……一から住処を創るよりは幾分(ラク)ですので」

 

 

 外壁には蔦のような植物が這っており、母屋(おもや)とは異なりなかなか年期を感じさせる佇まい。

 しかし構造やら機構自体はしっかりしているようで、入り口である引き戸はがたつきや軋みもなく滑らかに開かれた。

 

 

 

「……あまり……見て楽しいものでも無いとは存じますが」

 

「…………ぇえ?」

 

 

 二階建て物置の一階部分。

 テグリさんが宿直室として手ずから改装を施した、その居住空間。

 

 入り口入ってすぐにある土間と、やや急で妙に細い階段をスルーした、その奥。

 決して広くはない、むしろ非常にコンパクトに纏められたそこには……

 

 

 

 どう見ても割と現行モデル、少なくともここ十年以内に調達されたであろうデスクトップパソコン一式が、壁際のデスクにきっちりと収められていた。

 

 

 



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130【物件見学】救いの光

 

 

 この七十四坪ものバカデカイ物件を、たった一人で保守し続けてきたテグリさん。

 敷地内の物置小屋を手ずから改装したのだという、彼女の自室(というか宿直室)を見せて貰ったところ……いろんな意味で予想外のお部屋が、おれたちを待ち構えていた。

 

 

 

 

「……あまり……見て楽しいものでも無いとは思いますが」

 

「………………いや、そんな、ことは」

 

 

 

 まず、楽しいか楽しくないかで聞かれたら……ぶっちゃけおれはとっても楽しい。

 

 そもそもおれは他の人の部屋とか見るの、実はけっこう好きだったりする。インテリア情報誌とか、お部屋づくり雑誌とか、そういうのを見るのも結構好きだ。

 最近は()()()()()しまったばっかりに、モリアキ以外の知人のオウチを訪問することが出来なくなってしまったわけで……そんなわけで他の人のお部屋訪問に飢えているおれにとって、これは思ってもみなかったご褒美だったりする。

 

 

 ……とかいうおれの個人的な感想は、一旦置いておくとして。

 

 改めて、テグリさんの宿直室。さっきまでの母屋(おもや)には無かった生活感が、確かにこの空間にはしっかりと漂っていたのだが……その中でもひときわ目を引いたものが、なかなかご立派なタワーパソコン。

 決して広いとは言えない、ぶっちゃけ狭……コンパクトに纏められたこの一室において、見るからに強力なマシンパワーを秘めていそうなその佇まいは非常に目立っていた。

 

 しかしながらそれ以外にも、注目すべき箇所が多く見られるこの一室……まずはなんといってもその面積だろう。およそ六畳ぽっちの空間に、テグリさんの私生活の場の全てが収められているのだ。

 

 

 ……いいか、勘違いするんじゃないぞ。部屋が六畳じゃない。

 廊下部分と、水周り――ミニキッチンや洗濯機や、恐らくはお手洗いやシャワーブース――も含めて、()()でおよそ六畳なのだ。

 

 おれもつい最近SNS(つぶやいたー)とかネットニュースで知ったんだけど……東京の都心部では現在、極小物件の需要が高まってるとかなんとか。

 いわく……『片道二時間往復四時間もかけて通勤するよりは、近場でギリギリまで休める場所を確保したい』だとか『映画も漫画もスマホやタブレットで事足りるし、モノをあまり必要としない』だとか『食事は外食でほとんど済ませるし、ほんと寝るだけの場所でいい』などという考えの若年層を中心に、ものすごい勢いで増えていっているらしい。

 

 ちょっと話はズレたけど……イメージとしてはまさにあんな感じだ。短い廊下の両側に限りなくコンパクトに纏められた水回り、その先には……ほんの三畳程度の自室スペース。

 ロフト、というよりかは『押し入れの上段』のような感じの寝台がちょっと高めの位置に設けられ、その下には衣装箪笥(タンス)のような収納やオープン棚やらが端から端まで造作され、その片隅からは立派な机の天板が伸び……大きめのワイドモニターが置かれ、座りやすそうなチェアが収められている。

 

 ネットカフェとかのペア席とかだと、こんな感じのデスクまわりになってるかもしれない。

 非常に限られている空間ながら、極めて効率よく纏められており……おれ個人としては、非情に好みなお部屋だ。

 

 

 

「……パソコン……デカいっすね」

 

「……えぇ。薦められまして。……慣れれば、これもなかなか便利な道具ですので」

 

「…………よく、使うんです……か?」

 

「……それほどでも。……備品や資材の在庫管理と、月々の資金繰りの出納記録、ならびに私的な金銭の出納帳、龍影(リョウエイ)様との諸連絡に、例の『副業』の商談、他には欠乏消耗品の発注、世間や世界の情報収集……その程度しか」

 

「「めっちゃ使いこなしてるじゃん(っすね)……」」

 

「……そうでしょうか?」

 

 

 そうですとも。へたな現代人より扱えてますって。

 ネットサーフィンや通販専用マシンとしてではなく、ちゃんと表計算ソフトやらメーラーやらも使ってあげてるあたり、とても『使いこなしてる』感が高いと思います。

 

 ……いや、しかし。

 メールの送受信や通販の発注ができているということは……つまり。

 

 

「もしかして……いやもしかしなくても、ネット環境完備なのか!? 光なのか!?」

 

「……そうですね。……川沿いの集落が、数年前に観光客を誘致しようと躍起になったことがありまして。やれ歩道の整備やら、やれ宿泊施設の改装やら、やれインターネット環境の整備やら……その際は手前も微力ながらお手伝いさせて頂き、そのお零れに(あずか)った形ですね」

 

「…………光?」

 

「……電線業者は確か……光ファイバーケーブル、と仰ってましたね」

 

「ッッッ!! シャァァア!!!」

 

「おー……ガッツポーズ」

 

 

 完璧か。完璧すぎないか。

 青空と木漏れ日の下、バカデカイ敷地に響き渡らんばかりの大声で、おれは歓喜の感情を露にする。

 

 いや、だって……おれたちが拠点とするための必須事項であり、また同時に最大の懸念であった問題が解決していたのだ。

 ぶっちゃけ山奥とか回線通ってんのかな、新しく引くとすると工事に何ヵ月かかんのかな……とかまで考えたり、工事業者に見積依頼出そうとも考えていたのだ。

 

 正直いって……物件の規模には若干()()()るけど、それさえ目をつぶれば理想的な物件であることに変わりはない。

 ……どうせ知人を家に招くでもないし、他人にどうこう思われる心配もあまり無い。招くとしたらモリアキくらいだろ。

 

 

「ちょっと前向きに検討したくなってきた。リョウエイさんと話進めれば良いかな? そのへんどう…………テグリさん?」

 

「…………失礼しました。……依頼が届いていたようで」

 

「依頼って、例の『副業』? 便利やさんの?」

 

「……はい。…………宜しければ、ご紹介致しましょうか? 若芽様がこの地を拠点となさるのであれば、遅かれ早かれ集落の者と顔合わせを済ませるべきかと」

 

「うーん…………ま、まだ本決まりってわけでもないし……それにおれ、見た目()()()()だし……引かれない?」

 

「……手前の身なりでも受け入れられましたので、あまり問題は無いかと」

 

「なんかすごく説得力あるな。……そっか。ありがとう」

 

 

 確かに……現在かなり乗り気になってきている以上、近隣の環境は把握しておくに越したことはないだろう。

 せっかく遠出してきたんだし、時刻はまだまだお昼前だし。例の……滝音谷(たきねだに)温泉街、とかいう場所がどんな場所なのかも、正直にいって気になるところだ。

 

 ……というわけで。おれは『副業』のお仕事に赴くテグリさんの厚意に甘え、案内と紹介とやらを受けることにした。

 うん、やっぱ調査は大事だもんね。

 

 

 それにしても……温泉街かぁ。

 

 ……ふへへ。ちょっとたのしみ。

 

 

 



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131【近隣探索】最寄りの集落

 

 

 ちょっと仮眠しときたいんで車で休んでます、というモリアキを一人残して鍵を預け、おれたちはテグリさんに導かれるままに温泉街へと向かう。

 こちらの世界の全てが物珍しいラニはともかく、霧衣(きりえ)ちゃんもどこかわくわくを隠しきれない表情でついてきてくれた。

 ……そっか。長い間鶴城(つるぎ)の境内から出たことなかったんだもんな。

 

 

 なんだかほほえましい気持ちになりながら、おれはとりあえず温泉街に関する記憶を呼び起こす。……といってもほとんど無いんだけど。

 物件資料には……たしか『隣接道路無し・近場の温泉街まで徒歩五分』と記されていた。このうちまず『隣接道路無し』に関しては『舗装道路と物件とに高度差があり、階段のみでしかアクセスできない』ということなのだと理解できたのだが……もう一方の『徒歩五分』に関しては、まだ確認していなかったのだ。

 

 

 

「はーはーはー。なるほどなるほど? そーいうことね。なーるほどなるほど?」

 

「な……何、どうしたのさ……」

 

「いーや? べっつにー??」

 

「…………???」

 

 

 ……結論からいうと、その表現は()()正しかった。

 徒歩五分。確かにそうだろう。車道とは別の荒れ放題の散歩道を通り、ここへ来るときに降りた誉滝(ほまれたき)スマートインターの下をくぐり、歩行者専用の細い橋を渡り……所要時間を計ってみたところ、確かに六分十三秒。

 おれの歩幅と歩行速度が一般成人男性より大きく劣ることを考慮すると……まあ、だいたい許容範囲だろう。

 

 しかしながら。()()正しかった、といったのはほかでもない。

 確かに、おれの足で六分。慣れた一般の方々であれば、五分程度で踏破できる道ではあるのだが。

 

 その道のスタート地点は……例の物件が建つ()()()()()()()()()()であり。

 ……要するに、お家の玄関からの計測では無いのだ。

 

 そしてこの敷地境界なのだが……ヤケクソぎみに敷地統合した()()()というか()()()というか、道路を無視して最短コースを突っ切っても徒歩五分くらい掛かってしまう。

 ……とはいえ、鬱蒼とした植生に妨げられているのがほとんどだったし、テグリさんが鉈を振り回して切り開いてくれたので……つぎからは半分ほどの所要時間で済むだろうけど。

 

 

 つまりは、だ。

 物件資料には『温泉街まで徒歩五分』と記載されていたのだが……実際のところは『玄関から徒歩でおよそ十分』は掛かるっていう……でもまぁ『実は三十分でした』とかいう規模でも無いので、誤差と言えばそれまでなんだけど。

 

 

 

 

「高低差がなかなかデカいね……行きはヨイヨイ帰りは、ってやつだよこれ」

 

「ノワは特に体力面があれだからね。えーーっと……クソザコナメクジ?」

 

「ちょ、っ!? っ、どこで覚えてきたのそんな言葉!! そんな子に育てた覚えはありませんよ!? それに自己強化(バフ)魔法使うからクソザコじゃないもん!!」

 

「はいはい。そうだね。自己強化(バフ)使わなくてもクリアできるようにカラダ鍛えようね」

 

「きぃぃぃぃ!!」

 

 

 

 なにかほほえましいものを見るかのような、暖かい視線の霧衣(きりえ)ちゃんに見守られながら……クソザコナメクジの謗りを受けたおれは自然豊かなショートカットルートを突破し、アスファルト舗装された道路へと無事に帰還を果たした。

 

 

 目の前には、欄干が赤く塗られた橋。その橋が架かる川はゆるやかに蛇行しつつも左手から右手へと流れ、その両岸には大小さまざまな建物がひしめきあい、そこかしこで温泉のものと思われる湯気が立ち昇る。

 ごつごつした岩が散らばる川はなかなかに風情があり、心地よくも迫力ある水音を辺り一帯に響かせている。

 川の水面近くには遊歩道が整備されているようで、夏場なんかはさぞ涼を堪能できることだろう。

 

 しかしながら……この『滝音谷温泉』。

 雄々しく流れる川の水音こそ響き渡っているが、地名から推測する限りではそれに加えて『滝の音』でも聞こえてきそうなものなのだが……そこは突っ込んではいけないところなのだろうか。

 

 

 ……でもまぁ、べつに気にする必要は無いか。滝があろうと無かろうと、住環境には微塵も影響無い。

 今おれが気にするべきことは……テグリさんの目的地である今回の『依頼者』、またその(かた)を始めとするこの滝音谷温泉街の方々に、おれたちのビジュアルがどう捉えられるのか。……まずはその一点のみだ。

 

 

 正月休みも終盤となり、人によっては今日から仕事の人も少なくないだろう。この滝音谷温泉街はどちらかというと閑散としており、人通りはぶっちゃけ少ない。

 この客入りが今日だけのことなのか、それともここ数日ずっとこんな感じなのか……そこはあえて、あまり気にしないことにする。

 

 浴衣姿の人の影があっても良さそうな、下駄の音が今にでも聞こえてきそうな、そんな風情ある温泉街の上り坂。

 しかしながら実際に聞こえてくるのはテグリさんの保護靴と、それに連なる二人分の足音のみ。

 きょろきょろせわしなく視線を巡らせるおれたちを率いるように、テグリさんは狭い路地へと物怖じせずに入っていく。

 

 

「ちなみにテグリさん、今回の依頼って何なんですか?」

 

「……空調機器の故障のようですね。よく寄せられる依頼です。……最近は特に冷えますので」

 

「ええ、直せるんだ……すごい」

 

「……症状にもよります。……手前では手に負えぬことも多々ございますので」

 

 

 車一台通るのがやっと、といった幅の道をお話ししながら進んでいき……やがてテグリさんが入っていったのは、玉砂利の敷き詰められた和風のお庭。

 敷地の入口脇に置かれた岩には、達者な書体で『落水荘』と彫られていた。

 

 

「あのっ……てっ、テグリさん! ……えっと、今回の依頼主って……」

 

「……はい。こちら『落水荘』の支配人、小井戸(コイド)様です」

 

「し……しはい、にん……」

 

 

 

 今回依頼を送ってくれたテグリさんの『お得意先』とは……どうやら温泉旅館だったらしい。

 しかもどうやら……テグリさんの口振りから推し測るに、なかなか良好な関係を築けているようだ。

 

 

 ……いや、テグリさん顔ひっろ。

 

 

 

 



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132【近隣探索】静かな温泉街

 

 

 皆様こんにちわ。魔法情報局『のわめでぃあ』局長、実在美少女配信者エルフの木乃若芽(きのわかめ)です。へぃりぃ。

 本日はですね、いつものスタジオから飛び出して……岩沢市の『滝音谷(たきねだに)温泉』よりお送りしています。

 

 ここ滝音谷温泉はですね、中央を走る岩波(いわなみ)川に沿うように広がる山あいの温泉地なんですね。北から南へと流れる岩波川の西と東それぞれに源泉があって、周辺の宿泊施設や公共浴場へ掛け流しの温泉を供給しているとのこと。

 そんな中で、わたしたちがいまお邪魔しているのがですね……こぢんまりとした佇まいながらも創業八十年を越す『落水荘』さんです。

 部屋の総数は十二室と決して規模の大きなお宿ではありませんが……和のテイストを随所に残しながらもモダンにアレンジされた館内は古くささを匂わせず、それでいて歴史を感じさせるシックで落ち着いた雰囲気に包まれています。

 

 そして……はい。こちらです。

 なんとこの『落水荘』さん館内にはですね……岩波川の流れを眺めながら優雅なひとときをたのしめる、喫茶店が設けられているんですね。

 

 

 

 

「若芽様! 若芽様! ぜんざいが……ぜんざいがこんなにも美しく!」

 

「フルーツいっぱいだね。見た目も鮮やかで……あっ、ほら! 霧衣(きりえ)ちゃん大好きなソフトクリーム乗っかってるよ」

 

「ほ、本当に……本当にわたくしが、これをいただいて宜しいのですか!?」

 

「はっはっは。可愛らしいお嬢さんだ。テグリちゃんのお連れさんだろ? あの子には世話んなってるからね。遠慮無くおあがり」

 

「……だって。よかったね霧衣(きりえ)ちゃん。……すみません、ごちそうさまです」

 

「いやいや。ありがとうね、こんな山奥まで来てくれて」

 

 

 黒く塗られた木材が空間にメリハリを与えている、大正浪漫な空気漂う喫茶店スペース。

 カウンター席が八席と、四人掛けテーブルがふたつ。全部で十六席しかないこぢんまりとした喫茶店だが、調度品も程よくレトロな雰囲気で纏められていて、正直なかなか好みな感じだ。

 現在おれと霧衣(きりえ)ちゃん(と姿を隠したラニ)は、テグリさんが空調の修理を行っている間……なんと、温かいお茶とフルーツ白玉ぜんざいをごちそうになっているのだ。

 ……いいご身分だとは、実際自分でも思ってるよ。

 

 

 おれたちは『落水荘』さんの正面入口から堂々とお邪魔し、テグリさんがフロントカウンターの人と二・三言葉を交わしたかと思うと……なんと支配人である小井戸(こいど)さん――白髪混じりの頭髪をオールバックに纏めた、なかなかダンディーなおじさま――自らテグリさんを出迎えてくれた。

 そこでおれたちがテグリさんに『我が家に遊びに来た恩師の友人』という形で紹介され、ならばとおれたちはフロント脇の喫茶店スペースへと通され……一方でテグリさんは呼び寄せられた中居さんに案内され、お仕事へと向かっていった。

 

 そこからは、先程のやり取りのとおり。

 全く仕事をしていないのにおもてなしを受け、しかも明らかに子ども扱いされるという……なかなかに申し訳ないというか、自尊心が傷ついたというか、でも好意を無駄にするのも憚られるというか……とても複雑な心境でモノローグを入れるはめになったわけだ。

 

 

 しかし……こんなにいい雰囲気の喫茶店スペースなのに。

 そもそも滝音谷温泉自体、なかなか風情ある温泉街なのに。

 

 気にしないようにはしていたんだが……出歩いている人の姿が殆んど無いというのが、やっぱりどうしても気になってしまう。

 

 

 おれたちが誉滝(ほまれたき)インターを降りてから、実際数えるほどしか車を見掛けていない。

 道中のサービスエリアはあんなに混雑していたのに、この温泉街から最寄りインターに至るまでは……そんな活気は見られないのだ。

 そろそろお昼時だというのに、川沿いの食事処へ入る人の姿もない。

 

 この『落水荘』もそうだ。時間帯的にはチェックアウトを終え、客室の清掃が一斉に始まっている頃だと思うのだが……おれのエルフイヤー(地獄耳・指向性)によると、リネン類の摩擦音――クリーニング用の大袋にシーツを詰め込むときの音――が、ほぼ生じていない。

 つまりは……清掃が必要な客室がほとんど無かったということだろう。

 

 

 

「……あの、小井戸支配人。ちょっとお尋ねしたいことがあるんですけど……」

 

「何でしょう? 私で良ければ、何なりと」

 

 

 実際……客入りってどうなんですか。

 

 そう聞こうとしたことは確かなのだが……よくよく考えてみれば初めて会った相手、しかもまだちんちくりんな幼女に売上を聞かれるなんて、普通は気持ちの良いもんじゃないだろう。

 ……来客不足に喘いでいるとしたら、なおのことだ。間違いなく気分を害してしまうことだろう。

 

 せっかくテグリさんが築いてきた良い関係を余所者が引っ掻き回すのは、それは決して誉められたもんじゃない。

 

 

「…………滝音谷(たきねだに)、って……滝の音の谷って書きますよね。滝があるんですか?」

 

「あぁ、そのことですか。…………そうですね。……()()()んですよ。以前は」

 

「無くなっちゃったん……ですか?」

 

「……えぇ。三十年ほどか、もうちょっと前か……それくらいですかね。残念なことですが」

 

「そ…………そうなん、ですね……」

 

 

 

 今からおよそ三十年ほど前。……その情報を耳にし、一つの仮定がおれの脳裏をよぎったのだが……それが『正』だったとすると、この話題を掘り下げるのはマズイ。自殺行為となる可能性がある。

 これ以上話を拡げるわけにもいかず、かといっていきなり畳むのも怪しすぎる。どうすべきかと思考を巡らせているところに……重装備を携えた天狗面のメイドさんが現れた。

 

 

「……小井戸様。作業完了しましたので、ご報告を」

 

「おぉ、ありがとうねテグリちゃん。……やっぱもう寿命なんかねぇ、あのエアコン」

 

「……そうかもしれませんね。モーターもかなり古いものですので。……今回は断線箇所の接触を繋いで何とかなりましたが、やはりかなり消耗が進んでいる様子です。……本格的な部品交換ともなれば、手前では手に負えません」

 

「……そっか。入れ換えるべきか、どうすべきか…………いや、済まないね。何はともあれ、ありがとう。すぐ来てくれて助かったよ」

 

「……いえ。こちらこそ、ありがとうございます」

 

 

 小井戸支配人は穏やかな笑みを浮かべると、テグリさんに茶封筒を手渡す。両手でそれを受け取ったテグリさんは深々とお辞儀を返すと、こちらに視線(?)を向けた。

 自分は帰るが、どうするのか。……そう問いたいのだと思う。

 

 

「あのっ、小井戸支配人……わたしたちも、そろそろおいとまします」

 

「おお、そうかい。またおいで。……次はちゃーんとお代を頂くけどね」

 

「そっ、それはもちろん! じゃあ……帰るよ、霧衣(きりえ)ちゃん」

 

「…………はっ! は、はいっ! ……御馳走様でございました」

 

「はっはっは。お粗末さまでした」

 

 

 

 小井戸支配人と他の従業員さんに見送られ、おれたちは『落水荘』を後にする。

 当初の目標となるご挨拶……というかおれたちのビジュアルに関しての印象調査だが、意外なほどあっさりと受け入れられた。

 また実際に見て、歩いて、この温泉街の雰囲気を多少なり味わうことができた。

 

 そのこと自体は、よかったと思うべきなのだが。

 

 

 滝の音の消えた滝音谷(たきねだに)温泉……その現状と、それを引き起こした原因について、おれは少し思考を巡らせることとなった。

 

 

 



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133【近隣探索】風評の原因?

 

 

「……そうですね。……確かに。集落の方々の中には、それこそが原因であると考える方々も多いでしょう」

 

「あー……じゃあやっぱ印象よくないんだろうなぁ」

 

「……否定はできませんね。……事実、手前も以前は敵愾心を露にされたこともありました」

 

「…………よくそこでめげませんでしたね」

 

「……『契約』履行のためには、集落との交流が必要だと判断しましたので」

 

「あぁ…………」

 

 

 

 ここの地名にも現れているように、かつてこのあたりには『誉滝(ほまれたき)』という滝があったのだという。

 正直いって、規模はそんなに大きくない。岩波川に注ぐ流れのひとつ、その途中にあったのだという誉滝(ほまれたき)だが……その最大の特徴だったのが『岩波川沿いの温泉からその瀑布を眺めることができる』という点だったのだという。

 昼夜を問わず水飛沫と水音を響かせ、訪れる人々を楽しませたという誉滝。その迫力のある音がどこにいても聞こえることから、この地は『滝音谷(たきねだに)』と呼ばれたのだという。

 

 

 ……そんな『滝音谷温泉』の……より厳密にいうと『誉滝』の終焉は、今からおよそ三十年前。誉滝の近くの山肌を切り開き、住宅用地が造成され始めたことに起因する……と、温泉街の人々は考えているらしい。

 土地改良のため地中深くを掘り返され、また地表面が削られ、(なら)され、圧縮され、捏ね回されるに伴い、昼夜を問わず響いていた滝の音は日に日に弱々しくなっていき……ついにはその流れとともに、完全に止んでしまったのだという。

 

 今となっては月に数回、大雨の後なんかに稀に見られる程度。ここに住んでいる人々にとってはそこそこの頻度でお目にかかれるらしいが……最初からそれ目当てで訪れていた観光客にとっては、そうはいかない。

 温泉に浸かりながら瀑布の音と眺望を楽しみたかった観光客にとって……たまにしか見れない、しかも雨天の後でないと拝めない、しかも確実に滝となるかは解らないとあっては、その魅力も褪せてしまう。

 

 誉滝が姿を消して以降は……後を追うように、観光客の姿も消えていってしまったのだという。

 

 

 

「…………ここに住んで……石とか、投げられない?」

 

「……手前はこれでも、粘り強く交流を試みてきたつもりですので。……手前がこの物件の保守管理要員ということは、集落の方々全員の知るところです。頭ごなしに(なじ)られることは無いでしょう」

 

「…………テグリさん、まじぱねぇっす……」

 

 

 観光地としての目玉を奪われたとあっては……観光産業に従事しているこの町の人々にとって、別荘地『フォールタウン』はさぞや憎いものだったことだろう。

 直接的な加害者ではなかったにしろ、あの場に居を構えた者に対する風当たりが強くなってしまっても、それはある意味仕方の無いことなのかもしれない。

 

 そんな逆風も逆風、完全アウェーの中で、二十五年間地道に信頼関係を築き上げてきたというのだ。

 やはりこのメイドさん、半端無いって。

 

 

「……でもさ、雨の後とかにはたまに流れるんだよね? 誉滝(ほまれたき)

 

「……そうですね。……推測の域を出ませんが、完全に滝が死んだわけでは無いのだと思います。この山に滝の水源が存在する以上は、流れていた水が全て消えるとは考えづらいかと」

 

「…………滝まで届かずどっか途中で流れが変わって、雨のあと増水したりするとそこから溢れてくる……みたいな?」

 

「……ええ。確認したことがありませんので、あくまで推測になりますが」

 

「そ、そうなんだ……そんなに険しい山の中、とか?」

 

「……いえ。契約の履行そのものには関係が無いと判断しましたので」

 

「あ、あぁ……なるほど……」

 

 

 

 誉滝(ほまれたき)として流れていた水の流れが完全に消えてしまったのではなく、どこか別の方向へ流れるように変わってしまった説。

 そもそもの水源――この山の地下に蓄えられた地下水――が消滅するなどありえないので、その水はどこかに存在するはずなのだ。

 

 別荘地の造成工事でその流れが変わり、滝へ向かうはずだった水が別のところへ流れていってしまった。

 しかし滝方向へのルート……というか、水は無いが川部分は健在なので、大雨の後とかには水がそこを伝ってくる。……とか。

 

 

 

「……では……見に行ってみますか? 誉滝(ほまれたき)へ」

 

「んー…………そう、だね。せっかくだし。霧衣(きりえ)ちゃんは大丈夫? 疲れてない?」

 

「はいっ! 問題ございません! これでも神使依代に連なる系譜でございまするゆえ!」

 

「じゃあ……ちょっと寄り道。()()()して帰ろっか」

 

 

 

 まぁ、なんにせよ推測である点には変わりない。全然見当違いな考察である可能性だって、充分にあるのだ。

 

 ……だが、しかし。仮にこの仮定が正しかったのならば。

 そのときは……もしかしたらだけど、おれでも何とかできるかもしれない。

 

 まあ()()を行う際には、まずはリョウエイさん達有識者に相談した方が良いだろうけど。

 

 

 とにかく、現地を見てみよう。詳しく調べればもっとスマートで有効な解決策も浮かぶかもしれない。

 おれたちは誉滝(ほまれたき)の現状を確認すべく、テグリさんより道案内を受けることとなった。

 

 

 休憩中のモリアキにもREIN(メッセージ)入れたし……ちょっとした森林浴とトレッキング、ということにしておこう。気分転換気分転換。

 

 



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134【近隣探索】優雅な山歩き

 

 

 今日現在は流れ落ちる水も無く、ただの崖になってしまっている誉滝(ほまれたき)

 滝壺の水溜まりから始まっている小さな流れが、かろうじて『ここが滝である』ということを物語っていた。

 

 目の前には、目測高さ十五メートルほどのまっすぐな崖。

 見上げてよくよく注視してみれば、滝壺の真上のあたりが抉れている。ここから水が流れ落ちていたのだろう。

 

 

 単純にして明快な作戦は……こうだ。

 まずはここから、あの崖の上に登る。いまは水が流れていないけど、そこには誉滝(ほまれたき)へと続く川があるはずであり……その川の痕跡を辿って遡上していけば、いずれは川の流れが変わってしまった地点へと到達できる……ハズだ。

 普通の人間にとってはもちろん、到底想定しがたい行程。……あっちょっと韻踏んだ。

 

 しかしそこは美少女魔法使いエルフである木乃若芽ちゃんと、クールでスマートな大天狗少女メイドであるテグリさんである。この程度の段差は大した障害にはならない。

 愉快型美少女妖精であるラニもまぁ、当然のように飛んでいるから良いとして。白髪狗耳和装美少女霧衣(きりえ)ちゃんは……おれが抱っこして一緒に【浮遊(シュイルベ)】で飛んでけば良いか。

 ……とか思っていたら、大きく身を屈めてからの跳躍で軽々と登ってしまった。神使の系譜やべぇ。

 

 

 

「石がごろごろで歩きづらいね……霧衣(きりえ)ちゃん気をつけワァー!?」

 

「若芽様!? だだっ、大丈夫でございまするか!?」

 

「ねえねえノワ、浮けばよくない? それともトレーニングな感じ?」

 

「い、いや、だって、トレッキングの風情が…………ハイ、スマセン……」

 

 

 川底の石は大抵、下流に行けば行くほど角がとれて、小さく丸くなっていく。逆に上流のほうなんかでは、まだまだ大きくゴツゴツしているものが多い。

 そんなゴツゴツが敷き詰められた、非常に非情で不安定な歩きづらい枯れ川の底を……先頭を切り開くテグリさんは軽々と、おれのすぐ後ろに続く霧衣(きりえ)ちゃんはピョコピョコと、傍らのラニはふわふわと……そしておれは、おっかなびっくり進んでいる。

 

 自己強化(バフ)魔法で筋力や持久力はブースト出来ても、どうやらバランス感覚がそれに追い付いていないようだ。平地での体力測定ならまだしも、不整地を突き進むにはまだまだ実力不足らしい。……やはりおれがクソザコナメクジということなのか。うう。

 背に腹は代えられぬとおれは歩きを諦め、ラニ同様【浮遊(シュイルベ)】主体に切り替えて追従していく。……ふがいない。

 

 

 

「……かなり藪が張り出ていますね。……水が枯れ時間が経てば、こうもなりますか」

 

「テグリさんは……普段から山歩きしてるんですか?」

 

「……いえ。……家屋と人前以外、地を歩く必要もありませんので。……何故ですか?」

 

「いやぁ……慣れてるなぁ、って」

 

 

 ひらひらと靡くエプロンドレスは、枝や草に引っ掛かってほつれたり汚れたりしそうなものなのだが……テグリさんはとても器用に、荒れて枯れた川を進んでいく。

 見ればその腰にはいつのまにか、例の嵩張るツールバッグに加えて黒塗りの鞘が足されており……その右手にはやはりというか、刃渡り四十センチほどの山刀(マチェット)が握られている。

 

 テグリさんが右手を閃かせるたびに、行く手を遮っていた枝葉や藪があっさりと切り開かれていく。明らかに刃の届く範囲よりも遠いところまで切断している気もするけど、まあきっとそういうことなんだろう。大天狗だしな。

 

 

「……昔取った杵柄、というものでしょうか。施設の保全には無用でしたが、意外と身体が覚えているものです」

 

「すごいなぁ…………あっ、じゃあさ、もしおれが入居することになったらさ……お庭の整備するとき、手伝ってくれませんか? もちろんお金はお支払しますので……!」

 

「………………解りました。良いでしょう」

 

「ヤッター!」

 

 

 文字通り道を斬り拓いてくれるテグリさんのおかげで、おれたちは非常にゆるゆると登っていくことができた。

 周囲を観察しながら、こうして言葉を交わすことができるくらいの余裕っぷり。山の空気は心地よく、お天気もよくて大変気持ちが良い。

 

 そのままふよふよとトレッキング(?)を堪能していたおれたちだったが……ちゃんと肝心の目的も果たすことができた。

 誉滝(ほまれたき)に注ぐ川の『流れが変わった場所』。それは……半分正解、半分不正解、といったところか。

 

 

 

 

「えーっと…………これは……」

 

「ぇえ……待って、そうきたか…………場所的にもこいつのせいだよね?」

 

「……そうですね。……壁を立て溝を掘りコンクリートを打ち、人工的に流れを変えた……といったところでしょうか」

 

「なんと……壁の終わりが見えませぬ」

 

 

 それが見下ろせる高台までちょいとひとっ飛びして、四人揃って川の切れ目を改めて見下ろす。

 上流から流れていた川は、突如現れたコンクリートの壁に沿って流れを変え……そのままあさっての方向へと導かれ、やがては大穴に飛び込んでいく。

 川の流れを寸断したその壁はとても幅が広く……そして、限りなく長い。

 その広い天面は黒色で舗装され、更に白のラインが引かれ……その上を多くの自動車がびゅんびゅんと行き交っている。

 

 

 誉滝(ほまれたき)の滝壺から遡上すること、およそ三十分。

 

 鬱蒼としていた山林から一転。いきなり視界に飛び込んできたのは……ついさっきおれたちもお世話になった超々巨大な人工物、『第二東越基幹高速』だった。

 

 

 



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135【近隣探索】束の間の団欒

 

 

 軽く調べてみたところ……誉滝(ほまれたき)の源流である川のほかも、あと何本かの小川が同じように纏められ、ここから少し離れた別の川へと注がれているようだった。

 高速道路を造成するときに、水の流れを制御し易くするために手が加えられたのだろうか。もしくは何か別の理由があったのかもしれないが……事実として誉滝(ほまれたき)の水源(のうちの一つ)である流れは地中の導水管へと導かれ、あさっての方向へと繋ぎ変えられてしまっていた。

 

 おれの血液を水の流れに落とし、その魔力反応が辿った経路を入念にトレースしたのだ。この探知の正確さにはかなりの自信がある。

 地下を通されていたとて、この流れの行く先を見失うことはない。

 

 

 

「えっと、つまりは……高速がある以上はどうしようもない、ってことっすか?」

 

「いや、高速下の導水管は割と近い……つっても百メートルくらいあったかな? とにかく、そんなに遠くまでは続いてなかった。だからその出口から、うまいこと水を元の流れまで持ってくれば……」

 

 

 

 なんちゃってトレッキングの終着点にて、消えた川の流れを追っていたおれたちは……モリアキをほったらかしにしてからそれなりの時間が経っていたこともあり、とりあえず急いでお屋敷へと帰還した。

 帰路は目的地がはっきりと判っているので、のんびり地表を這う必要はない。念のために姿を隠す対策を講じた上で『ばひゅーん』と飛んで帰ってきたので、往路とは異なりほんの数分で戻ってくることが出来た。

 

 そして……さすがに空を飛ぶまでは出来ない霧衣(きりえ)ちゃんは、今度こそおれが抱っこして一緒に【浮遊(シュイルベ)】する形となった。

 きりえちゃんはやわらかくてあったかくていいにおいがした。やったぜ。

 

 

 

「えーっと……つまり地面掘って、水路みたいなのを引っ張る……と?」

 

「うん。もしくは……地下の地質をちょっと弄って、難透水層と帯水層を良い感じに配置して、地下水路を作るとか」

 

「ォエ!? そんなん出来るんすか!?」

 

「確証は無いけど……『地面を操る』系の魔法の知識はあるし……もしかするかも、みたいな」

 

 

 お屋敷へと戻ったおれたちは、例によってラニに【座標指針(マーカー)】を設置してもらい、テグリさんにはメアド(メールアドレス)を教えてもらい……最後までクールな佇まいを崩さなかった彼女にお礼を告げ、一旦お屋敷物件を後にした。

 ……たぶん、また来ることになるような気がするけど……まずはリョウエイさんやチカマさんに、色々と確認しておかなければならない。

 

 という経緯で一旦帰路についたのだが、考えてみればお昼ご飯もまだだったのだ。……白玉ぜんざいはご馳走になったけど。

 そんなことなど知るよしもないモリアキに『高速乗る前に腹ごしらえしません?』という提案を受け、ちゃんとした食事もいただきたかったので全員が同意を示し、彼の運転する車に揺られて滝音谷温泉街へと繰り出し……なかなか良さそうな和食処『あまごや』さんを見つけ、こうしてお邪魔している形である。

 

 

 緑髪と白髪の幼女二人を連れた、三十代の一般成人男性……見ようによっては割と事案なのだが、意外なほどあっさりと受け入れられたことに少なからず驚く。……落水荘の小井戸支配人といい、やっぱ観光産業に従事している人は受け流す力が高いのだろうか。

 そんなこんなで注文したお料理が届くまでの間、おれはこの『滝音谷温泉』と『誉滝』について、モリアキと原状認識の共有を図っていた。

 

 このまま引っ越し入居すれば……全くおれたちに原因が無い事象によって、大なり小なりヘイトを集めてしまうだろうことも含めて。

 

 

「ほいで結局どうすんすか? ……まさかその滝を再生させようとか」

 

「悩んでるんだよなあ正直。……やめた方がいいと思う?」

 

「ウーーンなんとも。ただやっぱめっちゃ不自然だと思いますよ? 数十年単位で止まってた流れがいきなり蘇るなんて」

 

「だよなぁ……正直いって、おれにそこまでする義理も無いっちゃ無いんだけどな。ラニがいれば引っ越しもひっそりとできるだろうし、完全にオウチに籠ってれば温泉街の人たちと会う機会も無いだろうし。誰か来ても居留守使えば良いし、そもそも敷地入り口から閉ざしちゃえば……っと」

 

 

 お料理を持ったおばちゃんの接近を察知し、おれは思わず口を閉じる。よそ者であるおれたちがこんな話をしているなんて、だれがどう考えても不審だろう。

 おれたちはただの観光客。知人であるテグリさんを訪ねて、ちょっと遅い年始休暇を堪能しに来ただけの、ただの美少女と神絵師なのだ。

 

 難しいことはオウチに帰ってから、あるいはリョウエイさんに相談しながらでも考えれば良い。

 とりあえずはこの見るからに美味しそうな地鶏の親子丼を、あつあつのうちに美味しく頂かなければならないのだ。

 

 

「全員揃ったっすね? ほいじゃあ……いただきます」

 

「「いただきます」」(まーす)

 

 

 

 地鶏と朝産み卵の親子丼。お味噌汁と香の物とデザートに果物がついて、普通盛り一人前千三百円。運ばれてきたのは普通盛りが二食と、大盛りが一食だ。

 丼のボリュームも具の盛り加減も、なかなか勢いがあって悪くない。モリアキの大盛りに至っては……一.五倍くらいありそう。これでプラス二百円ならお得な気がする。……まぁおれには食えないけど。

 千三百円という価格も、観光地価格ということも鑑みるなら妥当な範囲だろう。付け合わせで付加価値を高めようという姿勢も好印象だし、なにより実際にめっちゃおいしい。

 しかしながら……お店の名前にもなってる『あまご』は、もっと温かくならないと入らないんだって。ざんねん。

 

 おれはお味噌汁の蓋に丼の具をちょいと移して、こっそりと身体の影に。

 ラニが爪楊枝を駆使して鶏肉にかぶりつく様子を堪能しながら、霧衣(きりえ)ちゃんが目を輝かせつつもお上品に召し上がっていくのを満喫しながら……おれはおいしいお昼ごはんを、五感で存分に味わったのだった。

 

 

 

「いやぁー……写真に撮りたいっすわ、この光景」

 

「撮ってもいいけど一回三万円ね」

 

()っか!!」

 

「美少女が三人で三万円ポッキリやぞ? めっちゃお得やろ」

 

「先輩それめっちゃいかがわしく聞こえてるって解ってます?」

 

「!! …………うっわ、変態」

 

「割と理不尽なんすけど!?」

 

 

 

 気心知れた相手と、いつも通りの他愛の無いやりとり。そんな和気あいあいとした、少し遅めのお昼のひとときは……残念ながらそう長くは続かなかった。

 

 この後おれのスマホへと届けられた、チカマさんからの音声着信により……おれは()()()へと、連れ戻されることとなる。

 

 

 

 



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136【非常呼集】新たなる危機と器機

 

 

 ショートメッセージじゃない、珍しく音声着信での連絡。……恐らくはよほど差し迫った用件なのか、文章で残すことが憚られることなのか。

 まぁおそらく前者だろうとアタリをつけていたのだが、残念なことにその通りだった。

 

 いわく……例の『苗』によるものと思われる魔力反応を、試作段階の()()()が捉えたのだという。

 

 

 

『苗』(スプラウト)探知機(レーダー)……完成していたの!」

 

「まだ試作段階って言ってるでしょ。話聞きなさいよノワ」

 

「いやでもだって! 言うとこでしょこれ!」

 

 

 親子丼を半分くらいたいらげたところでの、火急の用件……おれは後ろ髪を盛大に引かれながらもモリアキに事情説明して一言詫び、ラニと霧衣(きりえ)ちゃんを引き連れお店を飛び出し、滝音谷温泉街から鶴城神宮の社務所控え間まで【門】を開いてもらってひとっ飛び。

 霧衣(きりえ)ちゃんはモリアキに預けようかとも思ったんだけど……チカマさんが『役に立てると思うので、連れて行ってあげて下さい』とおっしゃるので、モリアキ一人だけ置いてけぼりとなる形だ。

 

 ……あっ。お金払って無ぇわ。やっべモリアキごめん。

 

 

 

「でも実際、うまく動いてくれてるようで良かった。なにせ初めての試みだからね、動く保証も無かったんだ」

 

「お、おぉ……おれが年末年始ほったらかしてる間に、いろいろ動いてくれてたんだね……ありがと、ラニ。好き」

 

「ボクもだよノワ! ……いやまあ、実際殆んど手伝って貰ってたんだけどね……鶴城(つるぎ)さんトコの清雪(セイセツ)さんに」

 

清雪(セイセツ)様……技術部の統括で居られまする」

 

「おれ会ったこと無いひとだ……すごいねラニ、めっちゃ社交的」

 

 

 待機していた神使のお兄さんに軽く挨拶をして()()()()へと引き入れて貰い、人っけが無くなった鶴城神宮境内をラニに導かれるまま疾走する。

 砂利を蹴散らしながら向かった先は、社務所でも本殿でもない別の建物。年末年始のお仕事の際には立ち寄ったことの無い、参道から少し脇道へと入ったところに佇む比較的新しい建物だ。

 

 

 

「こんちゃ清雪(セイセツ)さん! 来たよ!」

 

「おっ、お邪魔します……」

 

「おぉ……お待ちしておりましたぞ、シラタニ殿。……霧衣(キリエ)も息災のようだな」

 

「は……はいっ。……あの、このたびは……」

 

「良い良い。後にせぇ。()ずは……此方(コチラ)へ」

 

 

 白い髪をオールバックに、口元にはきっちり整えた白いお髭をたくわえ、顔には皺が刻まれているけども立ち姿勢はものすごくしゃんとしている男性。

 リョウエイさんやマガラさんとはまた異なる雰囲気の、どちらかというと『おじいちゃん』みの強い印象を感じさせるセイセツさん。

 つまりはこちらの(かた)が鶴城神宮の技術部門のお偉いさん、ラニを手伝って『苗』(スプラウト)探知機(レーダー)の試作を造り上げてくれたのだろう。

 

 

 外観の印象とは異なり、意外と鉄筋コンクリートの壁や構造が見受けられる建物内……入り口から比較的近い一室。

 その部屋の、ほぼ中央に鎮座する()()

 

 その構造だけ見てみれば、極めて単純。

 ぱっと見では……水の張られた水盆に、木片がひとつ浮かべられたようにしか見えない。

 だが……木片の浮いている水も、また浮いている木片自体も、それぞれが異なる性質の『魔力』を秘めているのがおれには解った。

 

 そして極めつけは、浮かぶ木片の一端。赤と黒の顔料で白木に描かれた図柄――おそらく魔方陣のようなものなのだろう――の上には、小さな欠片状に加工された『苗(だったもの)』が打ち付けられている。

 

 

「理屈とか構造とか省いて、簡単に説明するね。この『矢』に仕込まれた『苗』の残骸は、同族のもとへ向かおうとしてる。そういうふうに仕向けた。つまり」

 

「この『矢』が示す方向に……別の『苗』がある、ってこと?」

 

「そう。ちょっと見てて。こうやって『矢』の向きを変えようとしても……」

 

「うわ……明らかに同じほう指してる……『ぐりんっ』て動いた……」

 

 

 何も感知していない状況であれば、指で弾かれた『矢』は弾かれた勢いのまま水面を漂うだけのはず。

 

 つまりは……羅針盤。

 アラームが鳴るわけでも、マップ上に光点を映し出すわけでも無い、アナログきわまりないアイテムではあるが……それでも活動する『苗』の所在を突き止められる、極めて有用な代物だろう。

 

 

「ってことは、この『矢』が指す方向だから…………南東? 空港島の方かな……」

 

「残念ながら距離までは解らない。とりあえず方向と『苗』の覚醒の感知を最優先したからね。ただボクらであれば、上空から探すことも出来るだろ? その方角に飛んでけば」

 

「最終的には自分の五感が頼りってことね。わかった、行こう」

 

 

 残念ながらこの『羅針盤』試作型は、その大きさと構造から持ち運ぶことが出来ない。大きいし嵩張るし揺れると水が溢れちゃうので、ここから持ち出すことは難しい。

 小型化とか可搬化は今後の改良に期待するとして……今日のところはとりあえず方角を見定めて、ここから飛ぶほかない。

 

 スマホのGPSマップで方角を合わせ……目指す方向の目標物(ランドマーク)を調べ、そこへ向かって飛ぶようにする。

 

 

「えっと、おれたちは行くけど…………霧衣(きりえ)ちゃんは?」

 

「わっ……わたくしも微力ながら、若芽様のお手伝いをさせて頂きたくございまする!」

 

「ワカメ様、何卒お頼み申す。……霧衣(キリエ)も神使の系譜ゆえ、足を引っ張ることは無い筈です」

 

「えーっと…………おっ……おんぶで、良い?」

 

「はいっ!!」

 

「おー、やったねノワ」

 

「……?? ん、わかった。じゃあ、はい。……おいで」

 

 

 花が咲くような……という表現が似合う可憐な笑みを浮かべ、霧衣(きりえ)ちゃんの身体が小さなおれの身体に密着する。

 すぐさまラニの言葉の真意を察しながら、おれは表面上は平静を保ったまま【浮遊(シュイルベ)】を発現させ、霧衣(きりえ)ちゃんにもその効能が及んだことを確認する。

 

 今までは気にしたこともなかったのだが……おれの魔法【浮遊(シュイルベ)】はおれがぷかぷか浮かぶだけじゃなく、おれと接触した人物(ひと・もの)にも効能が及ぶらしい。……考えてみれば袖とか裾とか浮いてたわ。

 なので霧衣(きりえ)ちゃんをおんぶしていても、彼女の体重がおれに掛かるわけでもない。さっきの山歩きの帰路で実証済みなので、今回たとえそこそこの遠距離を飛ぶことになっても大丈夫だろうと判断した。

 

 両腕をおれの首もとに()()()と回して背中に密着してくる霧衣(きりえ)ちゃんとともに、おれはお行儀悪く窓の縁へと足を掛ける。

 

 

「すみませんばたばたで。チカマさんにも御挨拶出来ず」

 

「いえいえ、お構い無く。私の方から伝えておきましょう。……お気をつけて」

 

「ありがとうございます、セイセツさん。……いってきます」

 

「「いってきまーす(まいります)!!」」

 

 

 窓の縁を軽く蹴り、以降は【浮遊(シュイルベ)】の制御に集中する。

 自分達に【陽炎(ミルエルジュ)】を纏わせて姿を消し、おれはひっそりと……しかしながら急ぎ、南東方向へと飛んだ。

 

 

 

 

 ……つつましやかなふたつのふくらみの存在と、密着する柔らかい身体の体温と、おれの顔のすぐ横で吐息を漏らす綺麗なお顔と、さらさらと靡きふわりと香る白銀の髪。

 ひとつひとつの要素が充分過ぎる程に過剰火力な狗耳美少女を、おれは五感で全身で感じながら……自分に入念に【鎮静(ルーフィア)】をこっそりと掛け、表面上を取り繕うことに成功した。

 

 

 

 

(くくく……役得だねぇ、ノワ。美少女に抱きつかれてどんな気持ち? ねぇねぇ)

 

(ラニあとで覚えてなさいよ。帰ったら歯ブラシの刑だからね。ちゃんと超極細毛のやつ買ったから安心していいよ)

 

(ヒェッ……)

 

 

 しらふだったら……間違いなく耐えられなかったと思う。

 

 

 



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137【非常呼集】物流拠点の人工島

 

 

 浪越市を擁するこの中日本エリアは、日本有数の重工業地帯である。

 港湾部には様々な工場や鉄工所やコンビナートが立ち並び、また貨物鉄道の積込所や高速道路のインターチェンジも整備され、自動車や鉄鋼製品や化学製品などをはじめとする様々な工業製品が日夜造り出されているのだ。

 

 そんな工業地帯の玄関口でもあるのが、海上の人工島に築かれた巨大ターミナル……中日本国際空港『セントラルゲート』。

 通称『空港島』とも呼ばれるこの区画は、当然国際空港としての機能を備えながら……しかしながら大規模な港湾設備と広大な倉庫エリアを備え、空だけではなく海の物運の要でもある。加えてこの『空港島』へは客運用とは異なり、貨物専用の鉄道線路も整備されている。

 

 つまりは……陸海空の物流が集まる、一大施設なのだ。

 

 

 

『なのでもー……大騒ぎみたいっすよ。飛行機は着陸できないってんで上空グルグルするしかないみたいですし、空港内の利用者も従業員もパニックみたいで……』

 

「利用者多いだろうからなぁこの時期……あー、くっそ!」

 

「落ち着いて。ノワのせいじゃない。まだ犠牲者も出てないんだろう? モリアキ氏」

 

『えーっと……報道ではそんなこと言ってなかったっすけど……あぁ、現在確認中って言っ』

 

()()()()()()()()()()()()?」

 

『…………そう、っすね。ええ、まだ出てないみたいす』

 

「わかったねノワ。まだ全然手遅れなんかじゃない。だからキミが自分を責める必要は絶対に無い」

 

「…………ごめんラニ。それと……ありがとモリアキ。……切るね」

 

『ご武運を。先輩』

 

 

 

 鶴城神宮から最短コースを突っ切り、山を飛び越え川を飛び越え海を飛び越え進むこと、およそ三十分。進行方向には巨大な人工島が、海上に忽然と顔を覗かせている。

 スマホをポケットにしまい、間もなくの着陸に備え、頭の中で作戦を再度思い浮かべる。

 

 

「もうすぐ。……霧衣(きりえ)ちゃん、大丈夫?」

 

「ごッ……ご心配には及びませぬ! 周囲の水気(スイキ)も充分、わたくしの神力も問題ございませぬ!」

 

「じつは高いとこ苦手でしょ霧衣(きりえ)ちゃん!! ごめんね!! 無理しなくて良いからね!?」

 

「ひゅっ……いえ! わたくしも、若芽様のお役っ……お役に立ちとうございまする……! こっ、こっ、こっ……この程度!」

 

「よーしよしよし良い子だね霧衣(きりえ)ちゃん! わかった大丈夫だから一旦降りるね! 大丈夫だから! 【陽炎(ミルエルジュ)】!」

 

「ううううう…………」

 

「どうしよノワ、めっちゃそそる」

 

「わかる」

 

 

 ……作戦の要である霧衣(きりえ)ちゃんの身体全体がブルってしまっているので、慌てず騒がずプランBに変更。

 おれたち全体を覆い隠すように光学系迷彩魔法【陽炎(ミルエルジュ)】を展開し、万が一目視されても正体が露見しないように備えた上で……管制塔の上に強行着陸する。

 

 

「きりえちゃん着いたから! 大丈夫だから落ち着いてね! あっそだ、【鎮静(ルーフィア)】」

 

「うううう…………かたじけのうございまする……」

 

 

 霧衣(きりえ)ちゃんが落ち着きを取り戻すまでの間、空港ターミナル内に探知魔法を放つ。すると案の定というか前情報通りというべきか……禍々しい『苗』の魔力反応を四階レストラン街にて捉えた。

 無言でラニに視線を向けると、瞑っていた目を開いた彼女と視線が合う。どうやら彼女も『苗』の所在を突き止めたらしい。

 

 

「……うう、無様をお見せ致しました……かくなる上は働きにて、汚名返上してご覧にいれまする。……若芽様」

 

「うん。お願いね、霧衣(きりえ)ちゃん」

 

「はいっ! …………では」

 

 

 自失状態から復帰した霧衣(きりえ)ちゃんが目蓋を閉じ、可愛らしい三角形の耳が立ち上がる。

 おれの感覚器が『苗』とは異なる魔力の流れを感知し、それがこの空港ターミナル全域を覆わんとしているのが理解できる。

 

 

真十鏡(まそかがみ)……映せし鶴城(つるぎ)……白妙乃(しろたえの)……」

 

 

 よく晴れた日の午後三時。いかに冬とはいえ、気温はそれほど低くはない。

 洋上の人工島とあれば、遮るものなど有りはしない。風は勢いよく吹き付け、大気が滞ることなど有り得ない。

 

 そんな環境において『有り得ない』はずの事象が、みるみるうちに現実となっていく。

 

 

「……(くも)(かく)せる…………()輩霧(ともぎり)や」

 

 

 周囲一帯に無尽蔵に存在する海水から、明らかに異様な速度で真っ白な『霧』が立ち上る。

 人工島の周囲全方向から、まるで意思を持ったかのように纏まった霧は、建物の内外で大混乱が巻き起こっている空港ターミナルへと迫っていき……ついにはすっぽりと覆い尽くす。

 

 大開口部の窓ガラス越しに、呆然と佇む人々の姿が見てとれるが……空調ダクトから侵入を果たした『霧』は、そんな人々さえもあっさりと呑み込んでいく。

 

 

 

「吾が名の下に。『微睡(まどろ)み』よ………御座(おわ)しませ」

 

 

 霧衣(きりえ)ちゃんが柏手をひつと打ち鳴らすと……今やあたり一面を覆い尽くした『霧』を媒介として、ひとつの術式が発動する。

 魔力に対する抵抗力を持ち合わせていない――つまりはこの世界のほぼ全ての――人々は、周囲の『霧』から発せられた『微睡み』の(まじな)いに抗えず……糸の切れた操り人形のように、ばたばたと倒れていく。

 見た目はかなりアレなことになってるが、命や健康に害は無い。特殊な眠りに落ちているだけだ。

 

 ……とはいえ、周囲に立ち込める『霧』による視界不良は、もちろんのこと健在だ。

 上空に待機する航空機のためにも、迅速に事態を終息させて『霧』を払わねばならない。……急がねば。

 

 

 

「ノワ、行けるよ!」

 

「ん。……ありがとね霧衣(きりえ)ちゃん。行ってくる」

 

「……はいっ。お気をつけて」

 

 

 ひと仕事終えた霧衣(きりえ)ちゃんを管制塔の屋上に残し、おれはラニが開いた【門】へと飛び込む。

 

 その出口は……空港ターミナル四階のレストラン街。

 いきなり湧き出た『霧』と、いきなり倒れ始めた人々を目の当たりにし、さすがに呆気に取られたように立ち尽くす……赤黒く禍々しい魔力を纏った『苗』の保持者、その背後。

 

 このまま迅速に音も無く接近し、抵抗する間も無く『苗』を引っこ抜く。

 大胆かつスマート、叡智のエルフが誇る世界ランク二桁位の頭脳によって導き出された、おおよそ完璧な作戦…………だったのだが。

 

 

 

「あ()っ」

 

「!?」

 

(あっ! お馬鹿!!)

 

 

 開かれた【門】出口の真下にあった、散乱したフードコートの椅子に蹴躓(けつまず)き……(したた)かに脛を打った際に盛れ出た悲鳴と、蹴飛ばされた椅子が立てる物音によって。

 

 ……完璧な作戦は、変更を余儀なくされたのだった。

 

 

 



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138【非常呼集】終始余裕の試合運び

 

 

 そもそも……例の『苗』が発芽してしまう原因であるとおれたちが考えているのが、それこそ自ら死を選ぼうとする程までに心身を大きく害する『負の感情』の蓄積だ。

 絶望や落胆、憤怒、悲嘆などなど……大きな感情の変化を嗅ぎ付け、あの『種』は根を張り宿主を改竄していく。

 

 大きな『負の感情』というものは往々にして、原因となるもの・ことが明らかであることが多い。

 そのストレス源を打開する手段を目の前にぶら下げられれば、殆んどの人は飛び付かざるを得ないだろう。

 

 

 ……飛び付いたが、最後。

 すぐさま『理性』というブレーキを壊され、そこからは崖に向かって一直線。

 なかば強引に授けられた異能の行使に……どんどん歯止めが効かなくなっていくのだ。

 

 

 

「要するに! ストレスが溜まりそうなとこは要注意ってコトだね!」

 

「なるほど解りやすい!! 確かに接客業しかも繁忙期ってめっちゃストレス溜まってそうだ!!」

 

「ゴァァァァァアアア!!!!」

 

「「ウワァァァァァァ!!!!」」

 

 

 

 今回のケースでは、これは非常に解りやすい。原動力となってしまったのは間違いなく『憤怒』の類いだろう。

 全国展開しているコーヒーショップのエプロンを掛けたお兄さんが、目を赤々と光らせて壮絶な形相で追い掛けてくる。端的に言ってメチャクチャ怖い。

 幸いというべきか不幸にもというべきか……今や彼は完全におれたちに夢中のようだ。微動だにしない周囲の人々には目もくれず、立って動いている人物に反応している、とでもいうのだろうか。

 

 

 

「館内はやりづらい……外出よう! 【解錠(エントスペイル)】!!」

 

「よしきた! ヤーイここまでおーいで!!」

 

「グルァァァァアアアアア!!!!」

 

「「キャアアアアアアア!!!!」」

 

 

 

 モンスタークレーマー……とまでは行かなくとも、ワガママが過ぎる()()()というものは意外と多い。

 世間一般が年末年始休暇を満喫しているそのときに、いつも通りお仕事してくれるサービス業の方々。普通に考えてとてもありがたい存在であるハズなのだが……品物の提供が遅いだとか、品物が売り切れだっただとか、単純に周りがうるさいだとか、そういったワガママを無抵抗な店員さんにぶつける迷惑客が後をたたない。

 

 おれ自身も学生時代、居酒屋でアルバイトしていたことがあるので……だいたい何があったのか予想がつく。

 先ほどの探知魔法で探った際、あの『保持者』が掴み掛かったお客様が、霧衣(きりえ)ちゃんの『霧』由来とは異なる事象により硬直させられていたのを確認していた。

 

 

 『黙れ』『静かにしろ』。もしくは……『逆らうな』『抵抗するな』。

 彼の異能の根本となるのは、おそらくこの系統だろう。

 

 気持ちは痛いほどよく解るが……かといって放置するわけにもいかない。

 

 

 

「ねえラニ! どうすれば良いと思う!?」

 

「定番でいうと拘束して動きを止めて、背後に回って()()()()だろうね! 何にせよまずは」

 

「動きを止めないとね!! 【草木(ヴァグナシオ)拘束(ツァルカル)】!!」

 

「ッ、グ……!? グ、ガァァァアア……ッ!!」

 

「めっさ怖いんだけど! これ大丈夫!? 大丈夫!?」

 

「力はそこまで強化されてないから……多分?」

 

「クッッソガァァァァァアアアア!!!!」

 

「………ッ! こ、怖くないし! もう慣れたし!!」

 

 

 原動力が『憤怒』に類するものだからだろうか、なんだかいつにも増して恐怖感が煽られる。

 正面から怒気をぶつけられ身体が(すく)むが……あの腹立たしい『対わかめちゃん特化』や『魔王』とは異なり、ちゃんと【拘束】は発現している。つまりはおれの魔法が通用するということなので、彼はもはやまな板の上の鯉でしかない。もうなにも怖くない。

 

 

「終わらせる……! 【加速(アルケート)】【静寂(シュウィーゲ)】!」

 

 

 おれは自身の身体を魔法で強化しつつ、とりあえず大きくバックステップ。屋外の緑化通路には館内よりも濃い『霧』が立ち込めており、その視界はもはやほんの数メートル離れただけで見失ってしまうほど。

 一般の人々よりも遥かに高感度のおれでさえ()()なのだ。どうやら常人レベルの視力しか備えていない『保持者』にとっては、地面以外真っ白にしか映らないだろう。

 ……おれたちだって、ただ無様に逃げ回ってたわけじゃないのだ。彼の五感と運動能力は、既にあらかた把握済みだ。

 

 思った通り、標的であるおれを見失い戸惑いながら当たり散らしている『保持者』を中心として、大きく円を描くように背後に回る。

 認識不可能な角度から認識不可能な速度で接近し、抵抗不可能な状態のまま細心の注意を払って『苗』を引っこ抜く。

 

 

(……王手(チェック)

 

「ッ!? グぇぼ、ッぐゥゥゥゥ……ッ!!?」

 

「……うん、『巻き戻り』始めたね。お疲れさま」

 

「やっぱめっちゃ苦しそうだよなぁ……【鎮静(ルーフィア)】【回復(クリーレン)】」

 

「……ッ、はーっ…………はーっ…………」

 

 

 身体中に脂汗を滲ませながら、それでも呼吸を落ち着けた彼に『ほっ』と胸を撫で下ろしながら……とりあえず気を失ったままの彼を抱き抱え、館内の安全な場所へと移動させる。

 例によって彼も被害者の一人なので、なんとか上手いとこ救われてほしい。周囲をきょろきょろ見回し、この時勢たいへん珍しい目的の品を見つけ、受話器を持ち上げて赤いボタンを押す。

 

 さすが専用回線なだけあって、すぐに相手と繋がった。

 

 

「空港から掛けてます。浪越中央警察署の春日井さんに伝えてください。『一階バスターミナルの喫煙室、彼も被害者なので寛大な配慮を』……以上です。よろしくおねがいします」

 

 

 おれの一方的な物言いに、電話口の向こうでは混乱している様子が伝わってくるが……あまり多く喋って声とかボロが出るのは嫌だ。

 伝えるだけ伝えて、あとは春日井さんに全部丸投げする。おれたちにはまだやることが残ってるのだ。

 

 この『霧』を消さないことには、異変が終息したと伝わらないだろう。

 がんばって術を維持してくれている霧衣(きりえ)ちゃんに作戦の終了と無事を伝えるため、おれは管制塔を目指して【浮遊】していった。

 

 

 

 高所に置き去りにしたことを涙目涙声で訴えられ、おれの平らな胸にすがりついて嗚咽を漏らす霧衣(きりえ)ちゃんに誠心誠意詫びながら……

 

 すぐそばでにやにや顔で囃し立てる妖精の刑罰を『はぶらしボディーソープの刑』に格上げすることを、おれはひそかに心に誓った。

 

 

 






「おや…………『ベルア』が消されたか。……これはやはり、彼女らも何らかの探知手段を講じた……と見るべきか」

「えー……それヤバイじゃん。あたしらの動き筒抜けなんじゃない? やだよあたし自粛とか。まだ全然シ足りないのに」

「はは。心配は要らないよ。現に私達は好き勝手に動けているだろう? 精々(せいぜい)従僕(サーヴス)の覚醒を察知できる程度だろう」

「ふーん……? まぁお父様(パパ)がそう言うならいっか。じゃあもうしばらく『いつも通り』できる? 結構良さげな(パパ)見つかったんだぁ」

「……そうだね。宜しく頼む。……期待しているよ、『リヴィ』」

「えへへっ。……じゃあ、あたし『食事』行ってくるから。二人が起きたら教えてね、お父様(パパ)

「そうするつもりさ。心配せず行っておいで」



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139【非常呼集】追いつめられたぞおれ

 

 

「あー……やっぱ結構なニュースになってんね。犠牲者出なくて良かったけど」

 

「そりゃそうっすよ、空港島が霧で覆われるとか前代未聞っすもん」

 

「それにしてもキリちゃんすごいよね! あんな大規模な術の制御とか、今のボクでもちょっと自信無いよ」

 

「んっ……恐縮でございまする」

 

 

 

 行きは可哀想なほど震えていた霧衣(きりえ)ちゃんも、帰りはニコニコかわいい笑顔だ。なんてったって空を飛ばなくて済む、ラニちゃんお得意の【繋門(フラグスディル)】が使えるのだから。

 

 ()()を終えたおれたちは、【座標指針(マーカー)】を打ち込んであった例の別荘地のお屋敷入り口へと帰還。前もってREINで連絡をいれていたお陰もあり、無事モリアキと合流することができた。

 とりあえず昼メシ代の二千八百六十円(税込)を支払おうとするおれに対し、彼はさんざん抵抗した挙げ句『じゃあキリエちゃんの分はオレが持つっすよ』などと言ってのけた。イケメンかよ。

 

 ともあれ今度こそ、やっとおうちへ帰れるのだ。

 来たときと同様、車通りのほとんど無い無人の誉滝インターから高速道路に乗り……来たときと同じサービスエリアで小休憩を挟み、あとはモリアキの自宅まで一直線。日帰りドライブ小旅行はエンディングへと向かっていた。

 

 

 

「そういえば先輩、次の動画とか用意してあるんすか? 鶴城さんシリーズ全部投げちゃいましたよね?」

 

「ぶっちゃけ無い。だからヤバい」

 

「三が日アレだったから仕方ないとは思うんすけど……やっぱ金曜夜の『生わかめ』、楽しみにしてた視聴者(リスナー)さん多かったみたいすよ?」

 

「あー…………ぐぬぬ、気を抜くのが早かったなぁ。そっか、巫女さんバイト終わらせてそのまま生配信すればよかった……」

 

「「いやいやいやいやいや!」」

 

 

 車載テレビから流れるニュースが、例によって無責任なコメンテーターの持論に染まり始めたのを察知してか……モリアキが話題を切り替えようと持ち掛けてくれた。

 大紋百貨店の一件直後にラニがブチギレていた、あのコメンテーターのおっさんだ。正直おれもこのひとは苦手なので、意識して認識から外す。……ていうかチャンネル回す。

 

 ……そう、チャンネル。大手地上波サマのチャンネルなんかよりも、まずは自分のチャンネルだ。

 今後の配信および動画投稿に関しては、ずばりおれが今まさに考えていたことだったので、彼の知恵も借りられるなら非常にありがたい。

 

 

「さすがに……あんな激務終えたあとで配信しろとか、そんな酷なこと言えないよ。三日間のノワの働きは視聴者さんたちだって解ってくれてるハズだし。そのためにずっと()()()()()たんだし」

 

「先輩の視聴者(リスナー)さんお行儀良いっすからね……まぁ演者が小さい女の子ってのもあるんでしょうけど」

 

「うう……じゃ、じゃあ……今晩あたりゲリラ配信、とか? いやクソザコ配信者がゲリラやったって誰も来ないかもしれないけど、アーカイブは動画で残せるし……」

 

「あぁー……いやそんな自虐的にならんでも……というか、普通に良いと思いますよ。ひと仕事終えたんで雑談枠~とかでも。みんな喜びますよ」

 

「あっ。じゃあじゃあ、演出? っていうのかな……ちょっとボクにやらせてもらって良い?」

 

「ほえ? 演出?」

 

「ノワの魅力を最大限に活かして、それでいて視聴者さんに喜んでもらう演出手段にね。ちょーっと心当たりっていうか、試してみたいことがあるっていうか」

 

「へえすごい。よくわかんないけど……ラニがそこまで言うなら、じゃあまかせる」

 

「へへへ。ありがとノワ!」

 

 

 最近はタブレットやらPCやらの扱いにも慣れてきて、どんどんアシスタント性能が上がってきている頼れる相棒(ラニ)の、そんな思ってもみなかった申し出。

 おれはそこはかとない嬉しさを噛みしめながら……そんな彼女の企てる『ひみつ』の演出とやらに、いやがおうにも期待が高まる。

 

 とりあえずは今晩、突発的に生配信を行うことを決定事項として……おれたちは霧衣(きりえ)ちゃんも交えて今後の動画企画の案を『あーでもない』『こーでもない』と出し合いながら、にぎやかな車内のひとときを過ごすのだった。

 

 

 

 





【都内某所・某広告代理店】


「…………すっげぇなこの子。本物? ホンモノのエルフ?」

「部長現実を見て下さい。フィクションに決まってるでしょう」

「いや……でもホラ、耳。耳めっちゃとんがってる」

「そんなん付け耳とかでどうとでもなるじゃないですか。……っていうか、エルフかどうかはこの際どうでも良いんですよ」

「わーってるって。……お前が持ってきた、ってことは配信者(キャスター)なんだよな、この子も。例のモニタープラン絡みか?」

「勿論です。登録者数はまだ一万弱ですが、開設ひと月も経たずにこのペースは」

「ヒト月で一万!? はっえ!!」

「…………ですので、今後の成長には大いに期待が持てます。……加えて、彼女は我々が当初懸念されていた『インドア系』への影響力も大きく、彼らに効果的な宣伝が行えるかと」

「……………………本音は?」

「ファンなのでのわちゃんと直接交渉したいです」

「ハッハー良いね! 正直者は嫌いじゃ無ぇ! オッケー解った。打診してみろ」

「ありがとうございます。部長なら解ってくれると思ってました」

「ならもっと愛想良くしてくれ」

「ならもっと待遇良くして下さい」

「………………」




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140【背水配信】空気読むエルフだから

 

 

 

「ヘィリィ! えっと……親愛なる人間種の視聴者諸君! いつもノワを応援してくれてありがとうね!」

 

 

 おれのお気に入りゲームのサウンドトラックを流す、愛用の密閉型ヘッドフォン……の向こうから聞こえてくる、おれの頼れる相棒妖精ラニの元気いっぱいなMCトークに耳を傾ける。

 完全なゲリラ放送……にする勇気はなかったので、直前でビビって結局SNS告知してしまったのだが……そういう経緯もあったので、視聴者さんが全く居ないというわけでは無いのだろう。

 ありがたいことだ。まぁ今のおれに確認する(すべ)は無いんだけど。

 

 相棒の可愛らしい晴れ姿を拝めないのが悔やまれてならないが、今のおれは彼女の考えた『演出』をこなすべく、現在特殊な状況で待機中なのだ。仕方がないが……やっぱちょっと気になる。

 声のする方を向いてみようと、振り向いてみようと試みるものの……アイマスクで目隠しされた視界は誰を映すこともない。

 いつものパソコン椅子に座らされたおれの身体は自由に動くことを許されず、肘掛けにやさしく戒められた両手を不安げにぐっぱーぐっぱーすることしか出来ない。

 

 

「突然の配信にもかかわらず、来てくれてありがとうね。後ろで椅子に縛られてるのが美少女エルフ配信者のノワ……放送局局長の『キノ・ワカメ』。ボクはそんな彼女のアシスタント妖精、シラタニ。はじめましての視聴者さんも、どうぞよろしくね」

 

 

 ラニの挨拶に合わせておれもご挨拶したくなったが……今のおれは『ヘッドフォンで聴覚を、アイマスクで視界を塞がれている状態』なのだ。……視界はしょうがないとしても、実際には聴覚を塞がれているわけじゃないのだが……ラニの頑張りに水を差すのも申し訳ないので、おれは求められる役割を全うすることにする。

 こんなんでも演者のはしくれだ。観客が興ざめするような悪手は打たないとも。

 

 

「ねっ……ねぇ、ラニ? 放送始まっちゃうよ……? もう取っていい?」

 

「だめだよー。もうちょっと我慢してね、ノワ。……聞こえてないかな?」

 

「ね、ねぇえ? ……ら、ラニ? いるよね? ラニぃ……?」

 

「…………ッ、やっべ、めっちゃソソる」

 

 

 おそらく『()』であろうラニの声色に、あやうく吹き出すところだった。

 あぶないあぶない……今のおれは『ヘッドフォンから流れる音楽以外聞こえていない状態』なのだ。

 

 

「……縛られたノワをこのまま堪能していたい気持ちもあるんだけど……ゆるふわ緊縛だからね、いざとなったら実力で脱出されちゃうからね。さっさと進めましょう」

 

「あっ、あのー……あのぉー…………ラニ、さん?」

 

「……ええ、本日の催し物ですが……先週かな? あの脳トレゲームでノワのかしこさは充分伝わったと思うんだけど……一方であの、体力ゲームのやつ。あれさぁ……消化不良だったよねぇ……?」

 

「ッ!!? ねっ、……ねぇ、ラニ? いま何時……? 配信……」

 

 

 アッ、ハイ。わかりました。理解しました。おれの相棒の考えが全部わかりました。そういうことかチクショウ!!

 大方おれの視覚と聴覚を封じた上でゲームをこっそり起動して、目隠しを『はいジャーン!!』って取って苦手なゲームを目の当たりにしたときのおれの反応……呆然としたり泣き崩れたりする様子を楽しみにしてるんでしょう!!

 な、なんていやらしい。そんなもので視聴者さんが喜ぶと思ってるなんて……ちょっとラニちゃんには教育の必要があるかもしれない。

 

 そんなおれの心配を知るよしもなく……ひとりで進行を務めるラニは視聴者さんへの説明をこなしながら、着々と準備を進めていく。

 

 

「……というわけで。今からノワの脚にコントローラーをセットしに行ってきます。……ふへへ……役得役得」

 

「しらたにさん?? ……っ、ちょっ!? ラニ!?」

 

 

 例の体力作りゲームでは、加速度センサーつきのコントローラーのひとつを、左脚の太もも部分に固定する必要がある。

 コントローラーがセットされた専用バンドを脚に巻き付ければ良いので、セット自体はとても簡単なのだが……手足を封じられた状態でセット()()()()の身にとっては、まずスカートをまくり上げられて脚を開かされた上で太ももにバンドを巻かれるという……カメラに映ったら確実にBAN(配信停止)される危険が危ない光景である。

 さすがの色ボケ妖精もそこはちゃんと頭に入っていたのか、チェアをくるりと回しておれに真後ろを向かせるよう調整してくれた。

 

 ……この角度ならチェアの背もたれしか映らないので、仮におれがスカートをまくり上げられても映像的にはナニも問題は無い。

 

 

「んゃっ!? ちょっ、やっ! な、なにやってんの!? なんでスカート捲ってんの!?」

 

「んふへへへへ……良いではないか良いではないか。はいちょっと脚上げてー……おお、絶景」

 

「ちょっ……!? なんかきた! わたしのあし! なんか巻いた!? ねえなんか! ねぇーラニちょっと! 今内もも触ったでしょねえちょっとおおお!!」

 

「っしゃぁオッケー! 任務達成! やったぞ視聴者諸君! ピンクだった!」

 

「もおおおおお!! ラニいいいいい!!」

 

 

 ……映像()、何も問題無いのだろう。

 しかしながら音声は……これはセーフなのだろうか。……大丈夫?

 

 ま、まぁ大丈夫だと思うことにしよう。なにせ音声だけでいうなら、それこそもっときわどい音声動画を上げている仮想配信者(ユアキャス)だっているのだ。りったいおんせいとか。さいみーんとか。しゃっせーかんりとか。わたし幼女だからわかんないけど。

 

 しかしいい加減、おれだって視聴者さんの反応が気になる。

 ここまで恥ずかしい目に逢ったのにコメント閑古鳥だったらちょっとどころじゃなく悲しいので、そろそろ明かりのもとに戻してほしい。

 

 

「ねぇラニ、もういいでしょ……ジョグコンでしょこれ。もう何されるのかわかったもん……目隠し取っていいでしょ?」

 

「うーん……そうだね、視聴者諸君も喜んでくれたみたいだし。……そう、ピンクだったよ。リボンついたかわいいやつ」

 

「あの、ラニ? ねぇえ?」

 

「……え、()? …………洗濯のときも見たこと無いし、つけてないんじゃないかなぁ、必要無いだろうし」

 

「ねええええラニいいいい!!!」

 

 

 ……もういい。いくら温厚なおれだって、おむねのことに触れられたら堪忍袋がリミットブレイクよ。聞こえないふりで反論できないのにも限度がある。

 そもそも手首の拘束はおれが痛がらないようにと、ハンドタオルでやさしく縛られた程度なのだ。ぷちキレたおれであれば自力で振りほどける程度の強度だし……っていうか、手前に引けば普通にスポッて抜けたわ。

 そのままヘッドフォンをがばっと外してぶん投げ……るのは精密機器だからやめた方がいいと思うので、膝の上に丁寧に置く。

 最後にアイマスクをはずして……いたいけなおれを苛んでいた全ての戒めから、こうして無事に解放されたのだった。

 

 

 

『キレたwwwwwww』『らにちゃんにげて』『やっぱちっちゃいのかぁ』『海草』『のわちゃんに触れるとかどういう技術だよ!?!?』『ピンク!ピンクです!!』『えちちたすかる』『のわちゃんの脚パカいいなぁ』『海草生える』『ラニちゃん中身おっさんやろ……』『絶叫たすかる』『のわのわよわちゃん→つよつよのわちゃん』『これは海草』『草ですわ』

 

「………………」

 

 

 そうして目にした光景は…………告知が直前になったとは思えない、定例生配信に匹敵するくらい多くの視聴者さんと、滝のように流れるコメントの嵐。

 一部欲望に忠実だったり、センシティブな部分を揶揄するようなコメントも見受けられるが……おおむね殆どが好意的というか『楽しんでくれている』のがよくわかる、正直なコメントだった。

 

 ……まったく、もう。

 こんなん見せられたら……怒れないじゃん。

 

 

 

「…………ラニ」

 

「はいっ!」

 

「『超極細毛はぶらしボディソープ綿棒の刑』ね。覚悟しとくように」

 

「ヒェッ!? は、は……ぃ……」

 

「返事!!!」

 

「イェス! マム!!」

 

 

 ……だが許すとは言っていない。

 おれなんかよりももっともっと、存分に恥ずかしい目にあってもらう。配信されないだけありがたいと思いたまえ。

 

 そんな意思を込めてにっこり微笑むと……察しのよいラニは顔をひきつらせながら頷いてくれた。

 

 

 なぜか視聴者さんには大ウケだった。

 

 

 



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141【背水配信】これは余裕ですわ

 

 

 魔法放送局『のわめでぃあ』が誇る専属アシスタント妖精さんによって企てられた、おれこと木乃若芽ちゃんに対するドッキリ(というつもりだったらしい)大作戦。

 仕掛人ラニと視聴者さんにとっては……どうやら無事『大成功』を収めたらしい。いいのかこれで。……そ、そっか。

 

 後になって聞いたことだけど……なんでもおれが困惑したり不安そうにしてたり恥ずかしがったりしている様子は、弊局の視聴者さんたちに大変大きな需要があるのだとか。

 ちょっと訓練されすぎじゃありませんか視聴者諸君。それでいいのか本当に。

 

 

 

「というわけで! 今日ノワにはコレをやってもらいます。もう放送始まっちゃってるからね。みんな楽しみにしてるから『待った』はできないよ! がんばってね!」

 

「ぇえ……いや、べつに『やれ』っていわれればこんなプレイされなくてもやりましたけど……」

 

 

『やらせてください』『たすかる』『ふてくされわかめちゃんかわいい』『「やりましたけどー」←かわいい』『不機嫌のわちゃ』『ママやさしい』『がんばって』『とんがった口かわいい』

 

 

 久しぶりに起動された例の体力作りゲーム……輪っか型のアタッチメントにコントローラーをセットしてプレイする例のやつだ。

 かなり不意打ちだったとはいえせっかくモリアキが調達してきてくれたのだから、確かに一回プレイしただけでお蔵入りするのも勿体無い。おれとしても前回の苦い思い出のまま終わるのは嫌なので、リベンジというのもやぶさかではない。

 

 ……というわけで。

 負荷設定を大幅に盛った前回とは異なり、今回はあくまで『高学年女の子』基準の負荷設定で挑戦していく。このあたりは前回の悲劇(もはやゲームどころじゃなくなり最初のステージで惨敗)を目撃している視聴者さんの許しも得て、安全第一で基本に忠実に進める方針が採択された。ご安全に。

 年齢・性別に続き、プレイヤーの基礎情報を順番に入力していくと……身長体重を入力したあたりで、コメントの『ざわざわ』度が上がった。

 …………そういえば普通の女の子は隠すのか。女の子じゃなくてもこのへんは隠すか。

 

 

 

『隠さなきゃ』『あっ……』『あっ』『身体情報さらけ出すスタイル』『ちっちゃ……』『かっる』『じょじじゃん』『おねえちゃんちっちゃい……』『身体測定たすかる』『ちゃんとごはん食べて』『ちっちゃいおねえちゃんかわいい』『食べないと大きくなれない』『リアル叙事』『まな板なわけだ』『板わかめ』『海草生える』

 

「まな板って言ったひと喉に魚の小骨刺され」

 

「よくコメント気づいたね!?」

 

 

 おっと…………平常心平常心。わたしはかしこい全能美少女エルフなので。取るに足らない茶化しは右から左へ聞き流し、リベンジに集中することにします。

 

 難易度設定ノーマルなゲームごときでヘチョヘチョするほど、わかめちゃんはお安くございませんことよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほッ、…………ヒョら! 余裕のよしこちゃんでヒュよ!」

 

「オッそうだね」

 

 

『実質クリアおめ!!!』『つよつよ』『やるじゃん』『【速報】ゲーム開始わずか二十分で記録更新』『おっ、そうだな』『脚震えてない?大丈夫??』『ヒョラって言ったぞ今』『使用済タオルちょうだい』『余裕かぁ……(遠い目)』『わかめちゃんつよい(棒読み)』『余裕ってなんだっけ……』

 

 

 配信画面に映るのは『ビクトリー』と喜びを露にポーズを取るマイキャラと……その右下にワイプで映る、膝に手を当ててうなだれるかしこい全能美少女エルフの姿。

 前回の配信とは異なり、ゲームオーバーからのコンティニューを挟むことなくストレートにステージクリア。やはりノーマル難易度程度であればあっさりとクリアできるようだ。……そのはずだ。…………そのはずなのだ。

 

 

 

「な、ッ……なんで、こんな……ッ、……おかしくない? ちゃんと一〇歳、女の子で……ッングっ、……設定、したでしょ!?」

 

「単純にノワが一般的な女の子よりもよわよわってことじゃない?」

 

「ほぁッ!?」

 

 

『あっ……』『言っちゃった』『あーあ……』『海草』『ド直球ストレート草』『えげつねぇ』『よわよわわかめちゃんかわいい』『絶望顔たすかる』『ラニちゃん容赦ねえな』『草』『これは海草』『かわいそうかわいい』

 

 

 いやまさか。いくらなんでも、そこまでは。

 

 確かに……たしかに、設定(プロフィール)には『魔法補助の無い()の体力はクソザコ』って書き加えた記憶はあるけども……その『クソザコ』がまさかこれ程までに深刻だとは思ってもみなかった。

 明確な数値やちゃんとした比較対照を設定しなかったばっかりに『クソザコ』部分のみが強調され、その結果想像を絶する『クソザコ』として再現されてしまった……とでもいうのだろうか。やだ、ありえる。

 

 日常生活や()()のときは、大なり小なり補助魔法を……それこそ息を吸うように行使できるので、さしたる問題もない。

 だが……今回のように『補助魔法使用禁止縛り』を自らに課したフィジカルトレーニングにおいては……実際この『わかめちゃん』の体力は、一般的な一〇歳女児に()()()()()という現実に直面してしまったわけだ。

 

 

 

「…………っ、……ない……」

 

「……え? ごめんノワ、なんて? ……大丈夫?」

 

「っ……みとめない! わたしがっ、一〇歳の幼女よりもクソザコだなんて……! わたしの体力がう◯ちだなんて!! そんなの……ぜったい認めないから!!」

 

「ちょっ、女の子がクソとかザコとか◯んちとか言っちゃいけま」

 

「つぎ! 次のステージいきますから! このわたしが……このわかめちゃんが、クソザコナメクジじゃないって! しちゅーさ(視聴者)しゃん(さん)に証明しちゅ(して)やみ(やり)にゃっ(ます)ぷゃら(から)!!」

 

「なんて?」

 

 

『なんて?』『何て?』『しちゅー……何?』『うんち草生える』『なんて?』『シチュニャミパッパヤ?』『どうしたわかめちゃん女児か』『メンタルまで小学生に……』『かわいいかよ』『だめだこの女児早くなんとかしないと』『パッパヤ海草』『これは海草』

 

 

 コメント欄の流れが増し、盛大に草が生い茂っている気配が伝わってくるが……おれはそれらを一時的に、あえてシャットアウトする。外野の茶化しなんてもう()に入らない。

 これまじでキレた。おれキレさしたら大したもんっすよ。もうゆるさねっすよ。

 

 こうなったら……全力で(※ステージ1の)ラスボスを倒し、クソザコのレッテルを払拭する。それを今日の配信の目標として設定し、おれは鼻息荒く次のチャプター(ステージ1-2)へと足を進めた。

 

 

 

 待ってろよ、にっくき(※ステージ1の)ラスボスめ。

 

 そう……全てはおれのクソザコイメージ払拭のため。

 その首、このわかめちゃんが貰い受ける!

 

 

 

(※ステージ1の踏破ではゲームクリアにはなりません)

 

 

 





(※ステージ1の踏破ではゲームクリアにはなりません)

(※あたりまえです)




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142【背水配信】完全勝利S

 

 

 

 つらく……けわしい戦いだった。

 

 何度もくじけそうになったし、正直『もうだめだ』と思ったことも幾度となくあった。

 

 それでも……それでもおれは、ついにやりとげたのだ。

 

 

 因縁の相手である(※ステージ1の)ボスを撃破し、ついに(※ステージ1の)ノーコンティニュークリアを達成したのだ!!

 

 

 

「や、やった……やった! やった、みてみてラニ!! たおした!!」

 

「えっ、アッ、えっと……はい。うん、おめでとうノワ」

 

「えへへー……ありがとラニ。視聴者さんもありがとう! どおだったわたしの勇姿。ちゃんと見ててくれました?」

 

 

『えーっと……うん』『お、おめでとう』『【審議中】』『つよつよわかめちゃんだ』『余裕だったな(ふるえ)』『あの、休憩時間は……』『確かにノーコンだけどさぁ……』『いやこれステージ1で死ぬ方が難し』『わあのわちゃんすごい(棒読み)』

 

 

「宣言通りノーコンクリア、有言実行の優秀な美少女エルフです! もーっとほめてくれてもいいんですよ! ふふん」

 

 

 

 およそ一時間近く前……視聴者さんの前で高らかに宣言した『ノーコンティニューでクリアしてやります!』の言葉通り、一度もゲームオーバーになることなく(※ステージ1の)クリアまでこぎ着けることができた。

 

 チャプターの合間とか、行動コマンドの選択時とか、敵キャラのセリフのときとか……敵が行動しないタイミングで()()動きを止めて、()()()()()()雑談枠が生じていたような気がしないでもないけど……それでもちゃんと公約どおり『(※ステージ1を)ノーコンクリア』したことには変わりない。

 

 おめでとう、おれ。ありがとう、おれ。

 

 

 

「あっ、消費カロリーとか疲労度とか出るんだ……えーすごい、脈拍まで測れるの? めっちゃハイテクじゃないですか」

 

「えーっと……うん。まぁ、ズルはしてないので……審議の結果『オッケー』ってことになりました」

 

「な、何ですか審議って。だれがどう見ても完膚なきまでにわたしの華麗な完全勝利じゃないですか!」

 

「………………あ、うん。そうね。じゃあこの調子でもうちょっと頑張ってみよっか。視聴者さんもノワのつよつよなとこ見たいって」

 

「ヒュッ」

 

 

 えっと、あの……確かに『完膚なきまでの華麗な完全勝利』というのは、正直少し盛りすぎたかもしれない。

 少なくとも小休憩を挟みまくったので『華麗』では無いだろうし、自キャラのライフポイントもギリッギリだったので『完全勝利』では無いだろう。

 

 つまりは……えっと、ごめんなさい。調子乗りました。

 

 

「でもまぁ、頑張ったんじゃない? ちょっと……いや、なかなかに時間掛かっちゃうのが難点だけど、でもクソザ…………運動が苦手なノワにしては、よくやり遂げたと思うよ。まだステージ1だけど」

 

「ねえいまクソザコって言ったよね?」

 

「えーっと……『継続はチカラなり』って言うくらいだし、今日はだいぶ時間押しちゃったけど、今後も定期的に続けてみよ? 今日みたいに雑談小休憩挟みながらなら、クソザ…………ノワでも頑張れるでしょ?」

 

「いまクソザコって言ったよね?」

 

「ノワの頑張ってる姿(と苦しんでる顔)、もっと多くの視聴者さんに見てもらおうよ。……ほら、視聴者のみんなも応援したいって。ノワの前向きな姿勢(と苦悶の表情)にみんな元気付けられてるんだよ」

 

「いま小声でなにか言ってたよね?」

 

 

『キノセイダヨ』『クソザコ笑うわ』『わかめちゃんのいいとこ見てみたい』『シリーズ化しよう』『くそざこがんばれ』『何も言てないあるよ』『せめてストーリー全クリしよ』『ラニちゃんいい性格してんな……』『アシスタントに完全に食われてんじゃねーかwww』

 

 

 

 どうやら視聴者さんたちも、概ねラニと同意見らしい。

 

 実際のところ……いわゆる『ゲーム実況配信』というものは、非常に取っ掛かりやすかったりする。

 前もって撮影した動画を編集して公開する、という手順を踏むとなると、撮影にも編集にもなかなか多くの時間と手間がかかる。

 その分テンポよく纏められたレベルの高い動画が投稿でき、かつ失敗も生じづらいというのはメリットではあるのだが……さすがに連日のように投稿し続けるとなると、それに掛かる手間は尋常じゃない。

 

 一方で、今回のような『実況配信』では……環境を整えたり配信するための準備はもちろん必要だが、映像を撮り貯めたり事前に編集したりする必要は無く、極端な話『やろう』と思ったらすぐに開始できる。

 おまけに配信サイト(ユースク)のアーカイブ機能を使えば、生配信した映像は動画として、しかも配信中のコメントごと保存できるのだ。

 

 リアルタイムでコメントのやり取りが行える生配信ならば、ひとりぼっちよりかは幾分楽しくゲームに取り組めるだろう。

 いままで通り各種ジャンルの番組(コンテンツ)投稿を止めるつもりはないが、非常に気軽に取り組める『ゲーム実況配信』は充分にアリだと思う。

 

 ましてや……おれが悶え、苦しむ(サマ)が、多くの視聴者にウケるというのなら……なおのことだ。

 

 

 おれは、この魔法情報局『のわめでぃあ』の局長だ。

 視聴者さんを喜ばせるためなら……おれが苦しむ程度、()でも無い。

 

 

 

「……じゃあ、そうですね。…………がんばって、つづけてみます」

 

「!! よく言った! 偉いぞノワ!!」

 

「ふ、ふん。……視聴者さんもわたしの勇姿、しっかり見ててくださいね。今度はちゃんと、前もって告知しますから」

 

「そうだね……せめて前の日には告知したいね……」

 

 

 

 ゲーム実況配信の定例化宣言と、事前告知の徹底。それに沸く視聴者さんのコメントを受け、まんざらでもない表情を浮かべながら……

 

 おれはどうにか今回の継続プレイ要請を(ケム)に巻き、ステージ2以降の攻略を次回以降に回すことに成功した。

 

 

 危ないところだった。

 

 

 



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143【背水配信】にげられない!!

 

 

 

 めちゃくちゃ前向きな抱負を提示することで、とりあえず目先の追加プレイからラニと視聴者さんの意識を逸らすことに成功したわけだが……しかしこのまま配信を終了してしまうには、時間的にも内容的にも少々物足りない。

 

 というわけで、困ったときの雑談枠。みんな大好き雑談枠だ。特に最近はかすてら(ウェブコメント)や質問箱をほったらかしにしてしまっていたので、結構なコメントや質問が溜まったままなのだ。

 一応、都度都度目を通すくらいはしているのだが……いい機会なので、いくつかピックアップして読み上げていこうと思う。おたよりコーナーっぽく。

 

 

 

「……というわけで、かすてら(ウェブコメ)順番に見てきましょうね」

 

「オッケー。じゃあボクが読み上げるから……ノワはトレーニングモードね」

 

「なんにぇぇぇぇぇぇ!!?」

 

 

 トレーニングモード……それはさっきまで挑戦していたストーリーモードとは異なり、鍛えたい部位ごとに纏められた様々なエクササイズを、すぐに、直接、好きなだけ、徹底的に楽しめるモードである。

 そんな地雷がひしめいている殺伐とした地雷原とゆるゆるふわふわのかすてら(ウェブコメ)が、一体どうして繋がるというのか。いまのおれには理解できない。

 

 

「大丈夫大丈夫。メニュー軽いヤツにしていいから」

 

「んやっ!! そうではなく!! どうしてかすてらとトレーニングが結び付くのかが知りたい!!」

 

「流れとしては、まずボクがかすてらや質問箱から拾った質問を読み上げます。そしたらノワに回答を考えながら単品トレーニングをこなして貰って、単品ワンセット終えたところで答えてもらうの」

 

「フレンズパークかよ!!?」

 

「ボクもおもしろそうな演出、いろいろと勉強してるんだよね。だからノワにはがんばって……実験台になってもらおうかと」

 

「言い方がひどい!!」

 

 

 

 なんてことだ。スムーズに雑談枠へと移行し、運動から逃れられたかと思ったら……逃げた先にまでフィットネスがついてきた。

 なるほどな……『しかし、回り込まれてしまった!!』っていうときの心境はこういうものか。なるほどなるほど。

 

 にこにこ笑顔のいたずら妖精さんと、おれを苛めることに盛り上がりを見せるコメント欄の空気を、嫌というほど肌身で感じ……おれは全ての抵抗を諦めた。

 この世界に神などいない。

 

 ……あっ、ちがうんですフツノさま。そういう意味じゃないんです。言葉のアヤってヤツで。

 

 

 

 

 

「じゃあノワの準備が整ったようなので……第一問」

 

「うわぁーん!!」

 

「『わかめちゃんこんにちわ。いつも動画楽しく見させてもらってます。次また旅行動画撮影する予定はありますか。またあるとしたら、目的地はどこを予定していますか』……旅行動画の行き先候補、三つお答えください。はいスタート!」

 

「ほぇぇぇぇ!?」

 

 

 ラニの合図と共にスタートするカウントと、手渡されるコントローラー。どうやら今回の設定は『指定通りのリズムでスクワット・十五回』らしい。

 ゆっくり膝を曲げて腰を落とし、またゆっくりと膝を伸ばし立ち上がる。この『ゆっくり』というのがまた嫌らしく、なかなかどうして思うようにカウンターが進まない。

 

 わかったぞ。これ十五回ってめっちゃ苦しいやつだ。

 

 

 

「……っ、……はっ、……はっ、…………はっ、ングぇっ…………りょこう……みっつ……」

 

「だ、大丈夫……?」

 

「ンッ……だい、じゅぶ。…………えっと……北海道と、沖縄と……北陸?」

 

「おお。端から端まで。ちなみに理由とかは?」

 

「理由……っ、はぁっ、んぐっ……いや、漠然と……日本を端から端まで制覇してみたいなぁ、とか……いや、全制覇、できるかどうかは、おいといて。あくまで、構想……っていうか」

 

「へぇー。たしかに楽しそうだね。ちなみにこの中で、次の旅行動画候補として一番可能性が高そうなのは?」

 

「ぇえ……この中なら…………沖縄かなぁ。冬なら直行便安そうだし」

 

「実現できるよう全力で支援するね」

 

「そ、そう? ありがと……」

 

 

 

 疲労状態のまま勢いに任せての回答なので、お世辞にも賢い返答だったとは言いがたいが……しかし少なからず考えていたことだ。

 

 四十七都道府県すべてを制覇できる、なんて自惚れているわけではないが……鶴城さんでのアルバイトを告知した際の地方在住視聴者さんの嘆きが、とても印象に残ってしまっている。

 おれは……計画としては仮想配信者(ユアキャス)から生まれた存在だが、今はこうしてちゃんとした身体を持っているのだ。せっかく実物の肉体を持っているんだから、仮想(アンリアル)の存在では出来ないことにも手を出してみたい。

 

 まだラニにも提案してないことだけど……沖縄とか北海道とか、その現地ならではのアルバイトに手を出して、その様子を動画にしてみてもおもしろいかもしれない。ご当地ダ◯シュみたいな。

 ……まぁ、撮影許可降りるバイト先を探すのが、まずもって大変そうなのだけど。

 

 

 

「じゃあ…………次、いける? 言い出しといてなんだけど……ノワがここまでボロボロになるとは思わなかったから……」

 

「………………ふつうに、雑談枠で……」

 

「アッ、ハイ」

 

 

『これは英断』『もう虫の息じゃん……』『のわのわよわちゃん』『ラニちゃんやさしい……』『よわちゃんかわいい』『意思の弱さ』『リングから逃げるな』『「自分を追い込んでいこう!!」』『赤ら顔たすかる』『荒い息づかいたすかる』『えちち顔たすかる』『これは事後』

 

 

 コメント欄の空気も、おおむねおれに同情的だった。

 

 たすかる。ひと欠片の慈悲、たすかる。

 

 

 

 



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144【背水配信】今わたしの願い事が

 

 

 時計を確認したところ……配信開始からおよそ一時間半。べつに早めに切り上げてもいいのだが、なんとなく生配信のアーカイブは二時間で揃えたい気持ちがある。

 いや、特に深い理由は無いんだけどね。揃ってるとなんかカッコいい、とかそんな程度なんだけどね。

 

 まぁ、体力を著しく消耗するコンテンツが待ち構えてるわけでもなし。改心したラニとふつうの雑談コーナーを設ける程度なら、あと三十分くらいは時間があるということだ。

 

 

 

「えーっと、じゃあ……気を取り直して質問いくね。あっ、ノワお水飲んで。ごっくんして」

 

「あっ、ありがとラニ。ちょうど喉渇いてた」

 

「そりゃ良かった。……ごっくんできた?」

 

「?? う、うん。……ごっくん、できた」

 

「ッッシャ!! 後は任せたぞ諸君!! はいでは次の質問ね。気にしないでね」

 

「?????」

 

 

『やりおる』『策士』『ラニちゃん!!!!』『これはgj』『いただきました!!!』『職人たのんだ』

 

 

「『ラニちゃんとの絡みはとても嬉しいのですが、他の仮想配信者(ユアキャス)、あるいは他の配信者(キャスター)とコラボする予定は無いんですか?』……コラボ。コラボかぁ」

 

「コラボかぁ…………」

 

 

 コラボ。ようするにコラボレーション……合作、あるいは共演である。

 

 おれが今後配信者(キャスター)としての活動を続ける上で、またおれの知名度と客層を拡充する上で、極めて有効であろう一手。

 それは……同じ趣味を持っていたり、共通項があったりする他の配信者(キャスター)と共演し、企画を通して交流を図る……『コラボする』こと。

 

 解っちゃいる。解っては、いるんだ。

 コラボした方がいいって。嬉しいことに、そう望んでくれる声があるってことも……認識はしてるんだ。

 

 

 しているん、だが。

 

 

 

「えーっと…………ご存じの視聴者さんも居られるかと……わたしのことを初期から知ってくれてる視聴者さんは、恐らくご存じのことかと思うのですが……わたし、実は『仮想配信者(アンリアルキャスター)』ということで企画がスタートしたんですね。いえ企画もなにも若芽ちゃんは異世界出身のエルフなんですけどね」

 

「うん。設定は大切だよね」

 

「プロフィールね。設定じゃなくてプロフィールですので。……えーっと、それでですね……紆余曲折を経まして、どちらかというと実在の身体を(せっ)……プロフィールのほうに寄せる感じで、割と強引にキャラメイクしたものが、わたしこと『若芽ちゃん』なわけです。……ええ、つまり……ごめんなさい、今まで黙ってましたけど……わたし『仮想(アンリアル)』じゃないんです」

 

 

『知ってた』『ですよね』『しってた』『そらそうよ』『あー…』『言っちゃった』『な、なんだってー(棒読み)』『知ってた』『公然の秘密ってヤツな』『そっかー』『知ってた』

 

 

「えっ!? 知って…………ン゛ンッ。……えっと、つまりですね……仮想配信者(ユアキャス)から出てきた実在の配信者(キャスター)ということになるので……あの…………コウモリ状態といいますか……」

 

「どっちつかずなボッチだからどっちにも近づきにくい、ってことね」

 

「ボッ……!? えっと…………はい。……お話ししたいユアキャスさんとか居るんですけど……わたし『裏切者』みたいに思われてないかな、って……わたしごときミジンコがこちらからお声かけするのは、とてもとてもおこがましいっていうか……ほら、わたしクソザコですし……フフ」

 

「そこで自虐に走らなくても……!! ああもう……大丈夫、ノワはがんばってるよ。クソザコだけど。ノワががんばってること、ボクも視聴者さんもちゃんと知ってるよ。フィジカルミジンコだけど」

 

「うううう……ラニぃ……」

 

 

『海草』『これツッコミどころだよな!?』『慰めるか貶すかどっちかにして!!』『これが飴と鞭かぁ……』『いい話……かなぁ……』『これのわちゃん歓喜と怒りとどっちだと思う?』『ミジンコフィジカルは草』『海草生えまくってウニ豊漁ですわ』

 

 

 要するに……仮想配信者(ユアキャス)の方々にとっては、3Dモデルではない『実体』であるおれのアバターが懸念であり……一方現実(リアル)で活躍している配信者(キャスター)さん達にとっては、単純にサブカル色の強いおれのビジュアルは『異端』なのだろう。

 何がとは言わないが……明るい(陽の)雰囲気(キャラクター)に満ち満ちている実在配信者(キャスター)さんたちにとっては、大人しい(陰の)雰囲気(キャラクター)に染まっている仮想配信者(ユアキャス)は気にくわない存在……だと考えてそうなところがある。まぁ偏見かもしれないけど。

 

 実際のところ『当初は仮想(アンリアル)を名乗って客寄せをしておきながらその後は方針転換を図りやがった』といったヘイトを集めていても、別段なにもおかしくない。

 想定外過ぎる事件があったからとはいえ、事実は事実だ。責められても仕方無い。

 

 仮想(アンリアル)現実(リアル)……この身体は双方の長所を併せ持っている一方で、双方の短所をもまた併せ持っているのだ。

 

 

 

「グスッ。……つまりですね……わたしとしては、いろんな同業者さんと仲良くしていきたいのが本音ですので…………こ、こんなわたしと……こっ、交流、してもいいよ、っていう神様のような配信者(キャスター)さんが居ましたら……お声かけ頂けると、うれしい……です」

 

 

 あっ、フツノさまのことでは無いです。まさか聞こえてるわけないと思うけど、一応自己弁護しておきます。

 

 

「ノワ、正直に言ってごらん。コラボの打診…………欲しい?」

 

「うぅぅ……ほしい」

 

「ほんと? 打診いっぱい欲しい?」

 

「ほ、ほしいよぉ。……わたしも、いっぱい……いっぱいほしいのぉ!」

 

「楽しそうなみんなのナカマに入れてほしい?」

 

「……入れて、ほしい。わたしもナカマに……入れてほしい!」

 

「…………フッ。後は任せたぞ、同志よ」

 

 

『惜しい人を亡くした』『ラニちゃん!!!』『切り抜き職人たのんだ』『もうだめだこの妖精』『ラニちゃん中身絶対俺らだろ』『でかした!!!!』『※この後はぶらしの刑されました』『ラニちゃん……無茶しやがって……』『はぶらしの刑』

 

 

 先程からコメント欄がよくわからないところで盛り上がりを見せているようだが……過酷な運動の後遺症でアタマに酸素が回りきっていないおれの思考では、その意味するところはよく解らなかった。

 ラニもちゃんと改心してくれたはずなので、そんなひどいことを企てたりはしていないだろし……きっと『おれがコラボに前向きだ』ということを喜んでくれているのだろう。

 

 

 

「じゃあボクが生きてるうちに次の質問ね。『ラニちゃんとは一緒に寝てるんですか?』……だって」

 

「一緒……まぁ、そうだね。ラニもわたしのベッド(の枕元の())で寝てるもんね」

 

「そうだね。ノワのかわいい寝顔独り占めだよ。羨ましかろう?」

 

「嘘おっしゃい。ラニのほうが寝付きいいしねぼすけじゃん。かわいい寝顔堪能するのはわたしのほうだし」

 

「ぐぬぬ。はいつぎの質問ね!」

 

「照れ隠しラニちゃんかわいいかよ」

 

 

 

 

 

 

 その後も、あたりさわりのない質問コーナー……コメント欄いわく『てぇてぇ』なやりとりを、時間いっぱいまで。

 

 なんとか体力を回復させたおれは、いつも通りのクロージングを掛けて……どうにか無事に、突発配信を終了することができた。

 

 

 

 正常な思考が戻ったところで、先程気になった部分のやりとりを見直した結果……わるいこ妖精さんに『シリコン耳かきの刑』が新たに追加されることとなった。

 

 悔い改めて。

 

 

 

 



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145【収録完了】言質とりました

 

 

 およそ二時間にわたる配信だったが……ここでひとつ、視聴者さんには内緒だった驚愕の事実がある。

 ……というのもほかではない。なんと今回の配信では始終、このスタジオ(リビング)観覧席にはお客さんが居たのだ。

 

 いやま、そこまで特別な事態っていうわけじゃないんだけどね。お客さんというのもなんのことはない、狗耳白髪和服美少女こと霧衣(きりえ)ちゃんのことだ。

 

 

 自室の無い彼女にとっての暫定プライベートゾーンである、リビングスペースの片隅……幸いというか配信用定点カメラからは死角になる位置でクッションの上にきちっと座り、おれたちの配信の様子を見学してもらっていた。

 いちおう念のため【静寂(シュウィーゲ)】を掛けさせて貰ってたけど……大変お行儀よく見学してくれていたので、本当この子マジでいい子だと思う。

 

 

「……えっと、ごめんね。長いこと不便させて」

 

「め、滅相もございませぬ! 斯様な現場に居合わせたことなどございませぬゆえ、わたくしも大変得難い経験でございました」

 

「キリちゃんキリちゃん、どうだった? ノワの()()()。興味沸いた?」

 

「勿論にございまする! 鶴城(ツルギ)の宮にて『すまほ』を拝見した際より、わたくしは大変興味を掻き立てられてございましたゆえ!」

 

「え、えへへ……こそばゆい」

 

 

 

 素直で純粋でとても真っ直ぐな霧衣(きりえ)ちゃんは、その表現もまた全くもって表裏が無い。つまり彼女のこの感想は、混じりっけなしの正直な本心なのだ。

 迷惑だったんじゃないか、というおれの懸念に対して『むしろ興味深い経験をさせて貰った』と返してくれた彼女。空気を読んだとかおれに配慮してくれたとかそういうのじゃなくて、心の底から楽しんでくれていた……ということらしい。

 

 それは正直なところ、とてもうれしい。

 素直な感想を貰えることも、ストレートに褒められることも……暖かい声援はそのままやる気に繋がってくるのだ。

 

 それにしても。彼女が興味を持ってくれたのは、とてもありがたいことだ。

 なればこそ、おれのこの本業の楽しさをもっと彼女と共有できれば……なおのこと嬉しいのだが。

 

 

 

「じゃあさ、キリちゃんも出てみる? 動画とか配信とか」

 

「え!?」

 

「あっいいかも! わが『のわめでぃあ』では演者募集中なので!」

 

「ひゃい!?」

 

「キャラも立ってて良いんじゃない? 清純派和服美少女!」

 

「あ、あの!?」

 

 

 お、おぉ……ラニちゃんやりおる。

 正直おれもひそかに『いつどうやって切り出そうか』と狙っていたことだが、ラニがあっさりと切り込んでいった。

 ……この子の行動力と度胸は本当すごいと思う。伊達に勇者を勤め上げちゃいないということか。

 

 最近は意外と()()を好むということが解ってきたので、株価が上がったり下がったりしているのだが……それでもやっぱり根底のところではおれの大切な相棒であり、おれのよき理解者なのだ。

 敵に回すととても厄介だが……味方であるというのなら、それはとても心強い。

 

 

 

「し、しかし……わたくしのような未熟者が、若芽様のお仕事の邪魔をするなど……」

 

「うーん……じゃあさ? リョウエイさんとかに聞いてみようよ」

 

「あっ、いいね! どっちみちあのお屋敷について、詳しい話聞きに行きたかったし……明日あたり行って、そのときに許可とってみる?」

 

「あ、あの! わたくしは……その……」

 

「いや、もちろん霧衣(きりえ)ちゃんが『どうしても嫌』っていうなら……無理強いはしないけど……」

 

「……わたくしは、しかし」

 

「キリちゃんがノワを助けてくれるなら、すっごく安心なんだけどなぁ。……ボクは身体が()()()()だからさ。知恵や口は出せるけど、()()()は出来ないから」

 

「…………っ!」

 

(ナイスフォローですよ白谷さん)

 

(フフ、お安いご用ですよ若芽さん)

 

 

 彼女が本心から嫌がっているのなら、当然すぐに引き下がるつもりだけれど……しかし演出の幅を広げるためにも、新たなファン層を開拓するためにも、そしておれたちの癒しのためにも、霧衣(きりえ)ちゃんには是非とも()()()()に来てほしい。

 手助けが得られるなら非常にありがたい、迷惑なところなんて何も無い。これは何一つ偽りの無い、おれとラニの共通認識である。

 とはいえ実際のところ、勝算が割と高かったからこそ切り出した提案なのだが……やっぱり彼女はおれたちの思った通り、とても思いやりのある良い子のようだ。

 

 

 

「……でっ、では…………龍影様の御許しが得られた暁には……」

 

「…………には?」

 

「っ、……わ、わたくしも…………その……演者、として……お力添え、させて頂きたく……」

 

((――――計画通り))

 

 

 

 めでたく本人の言質(意思確認)が得られたので、さっそく明日はお義父様(リョウエイさん)にご挨拶に行こうと思う。

 新居についての提案と要望も含めて、重要な議題が盛りだくさんだ。

 

 あまり夜更かしも良くないし、霧衣(きりえ)ちゃんの暫定プライベートゾーンを長らく侵略するのもよくない。

 おれたちはてきぱきと明日の予定を詰め、せかせかと眠る準備に移った。

 

 

 

 

 ……のだが。

 

 おふろを巡ってまたひと波乱あったので、自戒も込めて記録しておこうと思う。

 

 

 



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146【収録完了】執行

 

 

 重ねて、になるが……わが家はあくまでも、単身者向け物件である。

 同じ『単身者向け物件』という括りの中では比較的余裕のあるであろう『1LDK』の間取りではあるが、浴室やお手洗いなんかはやっぱり独り世帯用のものが入れられている。

 特に……浴室。一般的な〇.七五坪タイプのユニットバスは、いうまでもなく完全に一人用の浴室だ。成人男性であれば膝を伸ばせない程度の浴槽では、複数人数での入浴など望むべくもなかっただろう。

 

 だがそこは、成人男性のときより横幅も全長も大幅に縮んだおれの身体。

 浴槽のサイズは変わっていないのに、膝を伸ばして入浴できるようになっ(てしまっ)たし……おれの減少した体積よりも更に小さな妖精種族であれば、余裕をもって入ることが可能なのだ。

 

 

 それこそ……()()お行儀悪く入浴していても問題ない程度には。

 

 

 

 

 

「……はーっ、……はーっ、……はーっ」

 

「んふふふふふ……お疲れさま、ラニ」

 

 

 おれの左(てのひら)の上。人差し指と中指にもたれかかるように脱力している、虹色の薄羽をもつ小さな美少女。

 おれの親指と小指によって細い腰をホールドされた彼女は、その全身を余すところなくきめ細かい泡で包まれている。白いその肌は薄桃色に色づき、中空を見つめる瞳は潤み……息も絶え絶えに()()()とした表情を浮かべる彼女は、控えめに言ってとても扇情的だ。

 べつにへんなことしてないんだけどね。ふしぎ。

 

 おれの右手に握られた泡だらけの医療器具(はぶらし)(超極細・やわらか毛・コンパクトヘッド)によって、全身を余すところなく磨き上げられた白谷さん。……そう、これはただのスキンシップ。気心知れた相手とお互いに背中を流し合うような、そんなとても健全な入浴中のヒトコマなのだ。

 お風呂は血行を良くするからね。肌が赤みを増しててもなにもおかしくないよね。

 

 

「よいしょっと。……お湯ここに張っとくからね。動けるようになったらあわあわ流しちゃって」

 

「……ッ、はー……っ、…………ご、ごめんノワ……もうちょっと」

 

「あれ、大丈夫……? どっか痛かった!?」

 

「い、いや……大丈夫。痛くないよ。……えっと、ね…………腰が」

 

「腰が…………抜けちゃった?」

 

「………………うん。(はね)も動かせないや」

 

 

 えへへ、とはにかんだ笑みを浮かべる、てのひらサイズの小さな美少女。

 ちょっと調子に乗りすぎたかなぁとも思ったが……先にお調子に乗られたのは彼女の方だったので、おれは省みない。とはいえ彼女の心と身体の(みそぎ)も無事に済んだので、ここでおれが『シリコン耳かきの刑』を撤回してプラマイゼロ……ということにしておく。

 

 

「ラニ、お湯かけるよ。流されないようにね?」

 

「……ん。おねがい」

 

 

 おれの親指と小指に小さな腕が掛けられたのを確認し、ラニ専用浴槽(メラミン製スープカップ)で汲んだお湯を少しずつ掛けていく。

 彼女の身体全体を覆い隠していたあわあわが流されていき、超極細毛で磨き上げられた小さな身体が露になっていく。

 てのひらサイズながらもしっかりと女の子している彼女の身体に、おれの心の中の男性部分(絶滅危惧)が元気を取り戻しかけるが……全警戒心を取り除いて脱力しきって蕩けきって安心しきった相棒の、おれに全幅の信頼を置いてくれている様子を目の当たりにして……我に返る。

 

 おれの(てのひら)の上を『安心できる場所』だと認識している、おれの大切な相棒。……そんな彼女の信頼を、おれは裏切ることなんて出来ない。

 

 

「ふふっ。お客様? かゆいところはございませんかー?」

 

「……なにそれ? ンフフッ。……へんなの」

 

 

 脱力しきってなされるがまま、全身のあわあわを流し終えた小さな女の子を……再度お湯を汲み直した専用浴槽(スープカップ)へとていねいに移す。

 背中の(はね)を潰さないよううつぶせに、浴槽(カップ)の縁に両腕と頭を乗せてくつろぐ相棒。……時々()()()が過ぎるけれど、やっぱり愛らしい存在なのだ。

 

 

 

「……もぉ。ノワってば強引なんだから」

 

「なにさ。べつに痛くなかったでしょ? おれ洗うの上手いんだよ? 実家のイッヌも気持ち良さそうにしてたし」

 

「イッヌ? ……あぁ、犬。…………ぇえ、ボク犬扱いなの……」

 

「あははは……ごめん、そういうわけじゃないんだけどさ? …………可愛くって。つい」

 

「まったくもう。ノワのほうが可愛いよ」

 

「いや。ラニのほうがちっちゃくて可愛いよ」

 

「いやいや。ノワのほうがいたいけで可愛いよ」

 

「いやいやいや」

 

「いやいやいやいや」

 

 

 さっきまで()()()としていたラニも、すっかり調子が戻ったようだ。こんな軽口を叩けるまでになっていた。

 それにしても……久しぶりに思い出した。実家で暮らしていたときに可愛がっていた、我が家の愛犬『太郎左衛門』……アクの強い和風な名前に反してパピヨンとマルチーズのミックスという、毛足の長いふっかふかの男の子。

 いつもいつでも元気いっぱい、物怖じしない能天気な子というか……最初から最後までイタズラばっかりだった、我が家の愛犬。

 

 もう二度と会うことが出来なくなってしまったけど……あの子と過ごしたひとときは、本当に楽しかった。

 

 

 

「…………引っ越し、したらさ」

 

「うん?」

 

「あのお屋敷に引っ越ししたら、さ。…………ペット、お迎えできる……かな」

 

「…………ふふっ。……『アリ』だと思うよ? 配信者(キャスター)でもネッコチャンと一緒に暮らしてる人結構見るし。イッヌお迎えするのも良いかもね。……好きなんでしょ?」

 

「…………うん。昔いっしょに暮らしててさ。白いふわっふわの……アホの子だった」

 

「なーるほどね。……だからオオカミのマガラさんに、あんな熱い視線向けてたんだ?」

 

「えっ!? お、おれそんなだった!?」

 

「あはははっ。……ノワは顔に出やすいからねぇ」

 

「ぐぬぬ…………先あがるね!」

 

「はーい。ボクはもうちょっと浸かってるよ。お湯はそのまま?」

 

「ん。明日洗濯に使う」

 

「おっけー」

 

 

 気恥ずかしさを紛らわせるように、おれはざばりと立ち上がって浴槽から出る。

 ……最初の頃はラニに見られるのも恥ずかしかったけど、最近はあまり気にならなくなってきた。気にするだけ無駄だっていうのもあるんだろうけど……慣れってこわい。

 

 浴室の折戸を開けて脱衣所へ移り、バスタオルを引っ張り出す。一番風呂を譲った霧衣(きりえ)ちゃんが使ったタオルと『彼女の脱いだもの』が入った洗濯かごを見ないよう意識しながら……ばばっと手早く身体を拭き、下着と寝巻きを身に付けていく。

 なお下着は()だけだ。お気に入りのライトブルーに、細いライトグレーのストライプ。しましまだけど細いし(タテ)縞なのであざとくない。ちなみに()は無い。必要ない。……ラニちゃんめ、なかなかの洞察力じゃないか。

 

 おれのことをよく解ってくれていると喜ぶべきか、それとも()()()()()()を観察されていると嘆くべきか。なんともいえない複雑な心境のままモコモコパジャマを身に付け、洗面室の扉を開いてリビング部分へと戻り…………

 

 

 

 

 

 リビング部分の片隅……おれの記憶が確かならば、たしか霧衣(きりえ)ちゃんに割り振ったはずの暫定パーソナルスペースに、お行儀よくお座りしてこっちを窺っている……

 

 

 白い、ふわふわの、大変可愛らしいわんこと……目が合った。

 

 

 



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147【収録完了】あにまるせらぴー

 

 

 おーけー。落ち着いて状況を整理してみよう。

 

 

 おれたちは先程、一番風呂を譲った霧衣(きりえ)ちゃんと入れ違いになる形で浴室へと移った。

 時刻はもう真夜中なので、当然玄関ドアはカギもチェーンも掛けてあるし、まだまだ寒い季節だから窓もキッチリ施錠している。

 

 お風呂場でおれたちは()()()()()()スキンシップを図っていたため、正直そこそこ入浴時間が掛かってしまっていたとは思う。なのでこの間に霧衣(きりえ)ちゃんがお出かけしてしまい、開けっ放しになっていた玄関から見知らぬわんこが侵入してしまった……という線も、考えられるといえば考えられなくもないのだろう。

 だが……大人しくて超が付くほど良い子である霧衣(きりえ)ちゃんが、家主(おれ)に何の断りもなく深夜外出を試みる、ましてやセキュリティの要である玄関を開けっぱなしにするなんてことは……恐らくまずもって有り得ない。

 加えて、周りが大自然なド田舎というわけでも無く……むしろ都会に分類されるこの浪越市南区において、首輪のついていないわんこがペット禁止マンションの共用スペースを突破し、居室に侵入を果たすなんて……こちらも割と有り得ない。

 

 

 つまりは『わんこ外部から侵入説』は、信憑性に欠ける。

 

 他に考えられる選択肢……おれが今まで見聞きしてきた情報をもとに導き出される『お風呂から上がったら見知らぬわんこに出迎えられた事件』の真相とは。

 

 

 

 

「………………」

 

『…………きゅーん……』

 

「……………………霧衣(きりえ)……ちゃん?」

 

『!! わふっ! くぅん』

 

「っと待っ……! いま夜! 夜だから……うん、いい子。…………じゃなくって!!」

 

「え? なぁにノワ、どうし……………………え?」

 

 

 いつもの服……というか布を身体に纏うことすら忘れ、小さな天色の瞳を真ん丸に見開いて、ぽかんとした顔で硬直する相棒。

 うんうん、わかる。その気持ちめっちゃ解る。理解出来ないってことが理解できる。

 

 

「え? 犬…………え?」

 

「あのねラニ。落ち着いて聞いてね」

 

「えっ? 何……ねぇノワ、あの……いぬ……」

 

「うん、そう。この犬……わんこ、ね…………霧衣(きりえ)ちゃん」

 

『わふっ!』

 

「……………………は!?」

 

 

 

 突如現れたわんこと、突如姿を眩ませた霧衣(きりえ)ちゃん。感情を表すようにぱたぱたと動く三角形の耳と艶やかな毛並みは、両者とも穢れのない真っ白……よくよく考えるまでもなく、全くもって同じ色だ。

 

 そもそも、彼女が仕えていた鶴城神宮の神使の面々。霧衣(きりえ)ちゃんの先輩にあたるのだろう彼らの特技を、おれたちは目の当たりにしていたではないか。

 で、あれば。あそこまであからさまな狗耳(イヌミミ)を備えている彼女が、同様の特技を備えていたとしても……何らおかしくない。

 

 

「いやほら、マガラさんさ? 最初でっかいオオカミだったじゃん? ……たぶんだけど、そういうことなんだと思う」

 

「…………この世界のカミサマとその(つか)いって…………なんていうか、自由だね」

 

「この世界っていうか……この国、かなぁ? わかんないけど」

 

『くーん……』

 

 

 なにはともあれ……謎のわんこが霧衣(きりえ)ちゃんだということは、とりあえずわかった。ペット禁止のこの物件だが、この子はペットではなく……えっと、うん。同居人だ。なのでつまりはセーフなのだ。たぶん。

 …………いや、アウトか。やっぱアウトか。そういえば入居のときルームシェア禁止って言われたな。やっぱダメだ。

 

 まあ良いや。良くはないけどとりあえずは保留で良いや。いま問題なのはそこじゃない。

 

 今問題なのは……なぜ霧衣(きりえ)ちゃんが突然、こんな奇行に走ったのか……というところだ。

 

 

 

「えーっと…………霧衣(きりえ)ちゃん? どうしたの、いきなり」

 

『…………きゅーん』

 

「わ……わっ、と…………おぉぉ」

 

 

 動機を問いただそうとしたおれの足元に……ずずいっとその身を寄せてくる、ふわっふわの真っ白なわんこ。

 かつてのおれの愛犬・太郎左衛門とは異なり、その面構えはマズルの張った見事な日本犬。柴犬のようにも見えるが柴よりも毛足は長く、それでいて細く柔らかそうで。愛らしい中にも凛々しさを秘めたその佇まいは、どこかオオカミっぽい雰囲気も感じさせる。……なんだか神秘的なお犬様だ。

 人語を発することが出来ないのか、それとも発するつもりがないのか。彼女の気持ちと動機を言葉で聞くことは出来ないが……確かなことは、この子は今おれにすり寄ってきているということ。

 

 すぐ目の前にある見事な毛並みに、自然と喉が『ごくり』と鳴る。かつて夢中になった感触を思い出してしまい、おれは欲望に抗いきれず……震える手がおずおずと伸びていく。

 つぶらな瞳は相変わらずこちらを見つめたまま。可愛らしく小首を傾げるその所作から拒絶の意は窺えず、それどころか細く弱々しく鳴らされる喉は『何か』を心待ちにしているようで。

 

 

 

「……わ…………わぁ、うわ……っ」

 

『はふっ、わふ』

 

「おぉ………………うおぉぉぉ……!」

 

 

 ついに届いたおれの指が、その暖かさと柔らかさに一瞬で虜にされる。

 たまらず手を伸ばし、埋め……身を屈めて抱きつくように腕を回す。

 

 風呂上がりのおれよりも更に高い体温。滑らかでいて柔らか、それでいてしっかりと弾力を感じさせるすべすべの毛並み。天日干しされたお布団のような、鼻腔をくすぐる独特な香気。

 

 

 あたたかい。きもちいい。……()()()()()

 

 

 ……あっ、だめこれ。…………むりだ。

 

 

 

「…………っ、ぅあ……あ、っ……ぁぁ……ぅあぁ……っ!」

 

「あ、あの……ノワ? 大丈夫…………じゃないねこれ。どう見ても大丈夫じゃないよこれ。…………ねえ、ちょっとノワ? ……ちょっ!? ねぇノワ!?」

 

「ぅうう……ぅうぅぅ………! …………タロ……っ、たろぉ……ううぅぅぅぅ…………っ!」

 

『…………くぅん』

 

「あー…………ごめんね、キリちゃん。もう少し…………泣かせたげて」

 

『…………わふっ』

 

「ぅうううぅぅぅぅ…………ッ!」

 

 

 

 いい年した大人の男が……なさけない。

 

 遠い遠い空の彼方へ旅立ってしまった、二度と会えない愛犬のぬくもりを久しぶりに思いだし……おれはしばらくの間、恥も外聞もなく身体を震わせることしかできなかった。

 

 

 霧衣(きりえ)ちゃんは何も言わず、拒みもせず……なさけないおれの傍にいてくれた。

 

 

 



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148【収録完了】やさしい子

 

 

 

「この度は大変ご迷惑をお掛けしました」

 

「ふふっ。……もう良いの? ノワ」

 

「うん、大丈夫。……霧衣(きりえ)ちゃんも……ごめん」

 

『くぅん』

 

 

 霧衣(きりえ)ちゃん(わんこ)に抱きついたまま、しばらくの間ひんひんとしゃくり上げていたおれだったが……交感神経だか副交感神経だかの落ち着かせるほうが働いてくれたのか、感情の昂りはすぐに鳴りを潜め、あとには単純な気恥ずかしさのみが残った。

 いや、だって恥ずかしいに決まっている。なにせ三十代男性が十代女子に抱きついて泣きじゃくってたんだぞ。いやまじでやべーぞこれ、事案だ事案。

 

 うう……もうだめ、恥ずかしすぎて死んじゃう。恥ずか死ぬ。どうしてこんなことに。

 ……そう、どうして。霧衣(きりえ)ちゃんはいったいどうして、いきなりこんな魅惑的な体型になってしまったのだろうか。

 

 

 

「多分、だけどさ」

 

「……うん?」

 

「…………聞こえてたんじゃないかな。ボクたちの会話」

 

「えっ!?」

 

 

 聞こえていた。聞かれていた。……そうだ、そりゃそうだ。嗅覚を始めいろんな感覚が鋭敏な霧衣(きりえ)ちゃんのことだ、聴覚だってその例に漏れないのだろう。

 お風呂場でのおれたちのやりとりが聞こえていたとして……それが原因で思うところがあって【変化】の(たぐい)を行使したのだ、と考えるのが妥当だろう。

 

 つまりは。

 

 

「イッヌと戯れたいっていうおれの願望が駄々漏れしていたから」

 

「キリちゃんもボクみたいにノワにあちこち撫で回して欲しくて」

 

「「…………えっ?」」

 

『…………わ、わうっ』

 

(待て! そっちか!? そっちなのか!?)

 

 

……いや、しかしどっちもあり得る…………あり得るか?

 

 でも、まぁ……実際のところは、なんだかんだでおれのために気を遣ってくれたんだろう。……実際にお世話になってしまったわけだし。

 なんてこった。清純で素直でとても良い子で、そのうえ包容力もあるだなんて……完璧な女の子じゃないか。……おれよりも年下だというのに。

 

 

 ……頭では、理解しているつもりだ。

 おれだって三十年あまりを生きてきた、一般的に『大人(オトナ)』に分類される人間だ。まぁ今はただの人間じゃなくてエルフだけど、そこは置いといて。

 

 いい大人が年端もいかぬ少女を、そのままの意味で犬扱いするなんて。普通に考えれば色々と『宜しくない』のだということくらい、理解しているつもりだ。

 宜しくないのだろうが……あの抱き心地(※断じてけしからん意味では無い)と安心感を味わってしまった後となっては、あの誘惑を跳ね退けることなどもはや不可能だ。

 

 それは……良くない。

 ちゃんとした一人の少女である彼女を、愛玩動物として扱うなんて。……そんなのは、良くない。

 

 

 

「…………きりえ、ちゃん。あのね?」

 

『くぅん?』

 

「グゥ、ッ。…………あの、それ……ね? ……おれ、我慢できなくなっちゃうから…………きりえちゃんに、(わる)……っとぉ!?」

 

『くぅーん……』

 

 

 一歩引こうとするおれを『逃がすか』とばかりに、その暖かな身体を積極的に絡めてくる霧衣(きりえ)ちゃん(わんこ)。

 その暖かさと、彼女の頑なな意思を肌身に感じてしまっては……おれはもう、抗うことなど出来なかった。

 

 そういえば……彼女はことあるごとに『役に立ちたい』って言ってたっけ。

 

 

 

「どうやら……キリちゃんのほうが一枚上手(うわて)だったみたいだね?」

 

「ラニほんと慣用句とかどんどん覚えてくよね……すごいね」

 

「フフ。話逸らそうっても無駄だよ。……せっかくだし、一緒に寝よ?」

 

「エッ!? ちょ、だ、だって……霧衣(きりえ)ちゃん、女の子」

 

「ノワも女の子だから大丈夫だよ。……どう? キリちゃん。ノワと一緒に寝てくれる?」

 

『わふっ!』

 

「ほら、いいって。何も難しく考えること無いって。……そうだね……この子は狗耳和服美少女キリエちゃんじゃなくて、わんこの『シロ』ちゃん! ……ってことで」

 

「……わんこの……シロ、ちゃん…………アッ」

 

 

 (なか)ば無理矢理のこじつけのようにも感じられるラニの提言を受け、それを受け入れるべきか否か熟考の沼に沈もうとしていたおれの胸元に……だめ押しのように頭を擦り付けてくる、真っ白なわんこ。

 

 ラニの提案に全く異議を唱えようとしない当事者……彼女による身体を張った猛アピールにより、おれの葛藤はほんの一瞬で片付けられてしまった。

 

 

 

「…………シロ、ちゃん」

 

『わふっ』

 

「……ふふっ。…………っ、……一緒に…………寝る?」

 

『わふっ! くぅーん』

 

「んふっ。………………ありがとね。二人とも」

 

 

 

 

 放送局の運営に、心強い仲間が加わ(る言質を取)った日の夜。

 

 まだまだ肌寒い季節柄ではあるが……おれは身も心も暖かな幸福に包まれ、とてもとても安らかな一夜を過ごすことができた。

 

 

 

 

 

 

 

 ……翌朝。

 

 熟睡に伴う気の緩みで【変化】の術が解かれたらしいシロちゃん――改め、狗耳和服美少女霧衣(きりえ)ちゃん――のあどけない寝顔を、おれは起き抜けに至近距離で目の当たりにしてしまい平静を欠くことになったのだが……

 

 

 またすぐ【変化】した『シロちゃん』にすり寄られて呆気なく陥落するあたり、我ながら本当チョロいなって思ったよ。

 

 

 い……いや、ちがうし。

 おれべつにチョロくなんかないし。

 

 

 



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149【識者会議】お願いがあります

 

 

 へぃりぃ。おはようございます、視聴者のみなさん。

 実在エルフ美少女仮想配信者(URーキャスター)、魔法放送局『のわめでぃあ』局長の木乃若芽(きのわかめ)です。

 本日わたしたちはですね……ほんの少し前にハチャメチャにお世話になりました、浪越市(なみこし)神宮区(かみやく)鶴城(つるぎ)神宮へとお邪魔しております。

 

 というのもですね、本日のご訪問ですが……主な目的は二つありまして。

 報酬として賜ったお屋敷の権利に関してと、霧衣(きりえ)ちゃんの『のわめでぃあ』出演依頼と……取り急ぎこの二点を片付けるため、リョウエイさんとの面会を取り付けたわけでございますが……

 

 

 

 

「おう。良く来たな我が縁者…………んん? 何だその(カオ)は」

 

「エッ!? なっ、ちょっ……いえ、その……どうして、ここに」

 

「……何を言って居る。此処(ココ)は我が鶴城(ツルギ)の宮ぞ? (ワレ)の宮中にて(ワレ)が姿を現すことの何が悪い。……(ソレ)とも何か、(ワレ)に聞かれて困る悪巧(わるだく)みでも企てる心算(つもり)か?」

 

「いえいえいえそんなそんなそんなめめめめ滅相もございません!!」

 

「ぇえ、ウッソでしょ……神様(カミサマ)がこんな身近でいいの……ぇええ」

 

 

 

 どこか疲れたような顔のリョウエイさんと一緒に現れたのは……簡素ながらも神々しい衣とどう見ても只者ではない雰囲気を纏った、勝ち気な表情を湛える少年。

 この神域の主にして、日本でも屈指の知名度と信仰を誇る『剣神』フツノ、その(ひと)である。

 

 まさかお会いするとは思ってもみなかった、そのままの意味で()()()()()()()お方を目の前に……おれは思いっきり緊張し(ブルッ)てるし、ラニに至ってはなんだか頭を抱えてしまっている。

 つい最近まで依代(シロ)としてここで暮らしていた霧衣(きりえ)ちゃんだけが、若干緊張した面持ちながらも平静を保っていられたようだった。

 

 

「まァまァまァ、座るがいい客人共よ。些末事は気にするな。……我は只の()()()()()、貴様らの邪魔をする心算(つもり)は無い。居ないモノとして扱うが良い」

 

「さ、さすがにソレは無理だと思います……」

 

「……済まないね、若芽(ワカメ)殿。僕らも立場上…………()御方(おかた)にだけは、どうしても逆らえないから」

 

「えっと、あの……いえ。…………大丈夫……です」

 

()()!」

 

 

 胡坐(あぐら)を組んで上体を反らし、いったい何がそんなに面白いのか屈託の無い笑みを浮かべる鶴城(ツルギ)の神様……ツッコミたい所は沢山あるのだが、このままだといつまでたっても話が進められない。

 正直言って割り切ることは難しいのだが……お言葉に甘えてあまり気にしないようにして、こちらの話を進めさせてもらおうと思う。

 

 ……あっ、マガラさんお茶ありがとうございます。

 

 

 

「……して? 天繰(テグリ)めに会いあの館を見たのであろ。如何(どう)だ? 気に入ったか?」

 

「アッ……えっ、えっと、その……………率直に言って、とても魅力的だと感じました。……周辺環境的にも、間取り的にも……インフラ環境的にも」

 

()()! そうかそうか! それは良い! ……して、何だ? 大方『さすがにアレを貰い受けるは気が引ける』……と()った(ところ)か?」

 

「!!? えっ!? そんな……読心術!?」

 

(たわ)け。『術』に頼らずとも()の程度、人間(ヒト)(カオ)を何千年も眺め続けて居れば造作(ぞうさ)も無いわ。……まぁ尤も、貴様の場合は殊更(ことさら)解り易くは在ったが」

 

「わあああーーーんラニぃーーーー!!」

 

「あぁ……よしよし、しかたないなぁわかめちゃんは……」

 

 

 

 別の世界から来た美少女妖精に、未来の世界から来た猫型ロボットのような慰め方をされる。みじめだとは思わない。だってラニちゃんは可愛いから。

 しかし一方で、長年に渡って人間(ヒト)を見続けていたという点は事実なのだろう。やっぱり神様はつくづく得体の知れない存在であると、おれは再認識することとなった。

 

 とはいえ……こちらの理解者となってくれているならば、心強いことこの上ない。おれの内心を当てられたのはシャクだというか泣きそうになるが、事情を察してくれているというのならば話が早い。

 

 

「いくら報酬とはいえ……あんなに高価なものを頂くのは、さすがに気が引けてしまうというか…………えっと、ぶっちゃけますと贈与税とか市民税とか固定資産税とか、そのあたりの処理が気になるっていうか……おれそのあたりの知識無いですし」

 

「うーん…………物件そのものの価値が然程(さほど)でも無いから、税に関しては(あま)り心配は要らないかと思ったんだけど……まぁ不動産や収税関係は面倒だからねぇ、若芽殿が不安だと()う気持ちも解る」

 

「ならば貸借で良いのではないか? 要は『譲渡』で無ければ気にならんので在ろ? 贈与に纏わる面倒事も霧消しよう。(ソレ)で貴様の気が済むので在れば、易いものよ」

 

「あぁ、確かに。()しくは……所有権を霧衣(キリエ)に授けるのは? (これ)ならば実質的に若芽殿が所有出来ましょう」

 

「ふゥむ……()(ほど)な。何だ、如何様(いかよう)にも出来るでは無いか」

 

 

 

 おぉ……最初は『うわマジかよ何で居るのこの(ヒト)』と思っていたけど……最高責任者であるフツノ様みずから改善案を提案してくれるとあっては、さすがに話の進みが早い。あっけに取られるおれたちの目の前で、あれよあれよという間に具体的な解決策が組み上げられていく。

 しかもそれらは決して絵空事を言っているわけではなく、ちゃんとおれの意図を汲んでくれているというのがすごい。なんだかんだで味方になってくれるこの神様、やっぱり非常に好感が持てる。

 

 お陰さまで……この分ならば、思っていたほど時間は掛からなさそうだ。

 

 

「うむ、概ね纏まったな。後で蓬乾(ホウケン)に回しておけ。我が名を出して構わぬ」

 

(ソレ)は非常に助かります。僕もつい先日コッテリ絞られたばかりですので。…………じゃあ、議題一つ目は取り敢えず大丈夫かな」

 

「アッ、えっと……ハイ。ありがとうございます。……それでですね、もうひとつのご相談なんですけど」

 

 

 ふたつめのご相談。それはこの霧衣(きりえ)ちゃん……鶴城神宮の面々が可愛がってきた狗耳少女を、わが放送局(チャンネル)の出演者として起用させていただくことは可能か……というご相談だ。

 

 

 

「…………つまりは……何だ? 霧衣(キリエ)に貴様の演目を手伝わせるに、我の言葉が必要……と?」

 

「えっと……はい。フツノさまに許可を頂けるなら手伝っても良いと、霧衣(きりえ)ちゃんには同意をもらってますので……」

 

「…………成る程な。後は我の許可次第、と云う事か」

 

「……はい。……いかがでしょう、フツノさま」

 

呵々(カカ)! 見くびるでない」

 

 

 からからと笑う神様の表情に、おれは勝利を確信した。

 そうだ、そもそもこの神様はなんだかんだいって身内に甘い……立ち振舞いとは裏腹にとても優しい(かた)なのだ。

 

 彼の表情に引かれるように頬の緩んだおれの顔は……しかし。

 

 

 

 

「我は『許可』など出さぬ。認識を改めよ」

 

「…………………………えっ?」

 

 

 

 一瞬のうちに真顔へと変貌したフツノさまの、底冷えするような声色によって……心臓を鷲掴みにされたような悪寒に見舞われることとなった。

 

 

 







えっ?



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150【識者会議】保護者だからな

 

 

「貴様は如何(どう)やら……少ぉしばかし()()()()をして()るようだな? ……なァ、『木乃若芽(キノワカメ)』よ」

 

「…………っ!?」

 

 

 

 ついさっきまで湛えていた笑みさえ消し、僅かながらに眉をひそめ……フツノさまの口から発せられたおれの名前に、思わずびくりと身をすくませる。

 眼前の神さま……その表情は深く考えるまでもなく、好意的なものであるとは言い難い。

 

 先ほどまでとはうって変わっての表情変化は、おれの要望――霧衣(きりえ)ちゃんを『のわめでぃあ』の出演者として登用すること――が不愉快なのだと言わんばかり。

 リョウエイさんやマガラさんにはそんなに悪印象じゃ無かった動画配信のおしごとだけど……フツノさまにとってはやはり、ネットコンテンツは気に入らないものなのだうか。

 

 

 

「……良いか? 其処(そこ)霧衣(キリエ)白狗里(シラクリ)より(ワレ)が預かり、いずれは()依代(シロ)とすべく鶴城(ツルギ)にて面倒を観て来た」

 

 

 

 シラクリ、という単語には聞き覚えがある。

 この上ない激務だったお正月の助勤(アルバイト)を終え、なんやかんやで霧衣(きりえ)ちゃんの助けとなることを決めた際に……フツノさまよりお言葉を頂いたときだ。

 

 文脈から察す限りでは、彼女の苗字あるいは出身地だろうか。……などと考えていた記憶がある。

 

 

 

「……が、貴様も知っての通り今や『役目』を終え、(ワレ)との()は既に絶たれた。…………此処(ここ)(まで)は理解して居るか?」

 

「えっと、はい…………あっ」

 

 

 

 フツノさまとの縁――いわゆる魔力を譲受するためのバイパス――が絶たれた代わりに、新たにおれと縁を結び……彼女が大人になるまでの間の保護者を、僭越ながらおれが務めることとなった。

 そこまでは……理解している。

 

 

 ……いや、違った。理解()()()()()()()()()()

 

 なるほど、そういうことか。それは確かに、フツノさまが許可なんてくれるハズが無い。

 

 

 

「…………痴れ者めが。(ようや)く思い至ったか」

 

「で、っ……でも、ホントにおれなんかが……決めちゃって良いん、です……か?」

 

「……何だ? 演目に霧衣(キリエ)を使いたいのでは無かったのか?」

 

「そりゃ出てほしいです……けど……」

 

 

 ……しかし、本当に良いのか。

 おれなんかの一存で、まだ幼いこの子の向かう方向を……この後の人生を決めてしまっても。

 

 

 

「…………ええい埒が明かんな! 霧衣(キリエ)!!」

 

「はヒャいっ!!?」

 

「貴様は如何(どう)なのだ! ()の者の演目に惹かれ、道を同じくしたいと思うたか! それとも否か!」

 

「…………わ、わたくし、は」

 

「『(ダレダレ)()()うのなら()』……(など)とは口にして()れるなよ。貴様自身で悩み、考えた()の答を訊いているのだ」

 

「……っ!」

 

 

 おれの思考が行き詰まったことを察したのか、いきなり霧衣(きりえ)ちゃんへと矛先を向けたフツノさま。

 口調こそ荒々しく刺々しいが……そこに込められた温かな思いは伝わってくる。

 

 なればこそ、おれがこの後取らねばならない選択についても、おおよそ見当がついてきた。

 

 

「ハァ…………まァ我儘(ワガママ)に育てて()れなんだ(ワレ)らにも一責在るか。……貴様は今や『依代(道具)』に非ず、(おの)が意思を持つ(いち)個人。何をするも、何を考えるも自由の身なのだ。……少しは本心を主張をして見せろ。『()りたい』……とな」

 

「っ!? な、何故」

 

(ワレ)に二度も言わせるか? 貴様達(キサマら)は。人間(ヒト)(カオ)を何千年も眺め続けて居れば造作(ぞうさ)も無い。()してや(ソレ)が、寝食を共にした子であれば……尚のことよ」

 

「…………布都(フツノ)、様……」

 

「『木乃若芽(キノワカメ)』よ、聞いての通りだ。……貴様も、此奴(こやつ)()()った自覚を持て。子の意思を理解し、信じ、ときに諭し、導き、正しき道を指し示すは貴様の役割よ。……まぁ、従順に育て過ぎたのは事実(ゆえ)、今回は(ワレ)が口を出すが……(コレ)以降霧衣(キリエ)が善き道を歩めるか否かは、貴様の舵取に懸かって()る」

 

「まぁ要するに……もう霧衣(キリエ)若芽(ワカメ)殿の庇護下なのだから、布都(フツノ)様は口出しする心算(つもり)無い……って事だね」

 

「おい、龍影(リョウエイ)

 

「……そう、ですね。…………すみません。意識を改めます」

 

 

 ……そうだ。早合点したところがあったとはいえ、霧衣(きりえ)ちゃんの人生を背負うと決めたのは……ほかでもない、おれ自身だ。

 彼女の保護者だという自覚が、おれには足りていなかったらしい。

 

 要するに、おれは自分に生じた責任を見ないように……フツノさまに転嫁しようと、甘えていたんだろう。

 フツノさまが許可をくれたから、だから霧衣(きりえ)ちゃんを巻き込んでも良いのだと……彼女を巻き込むための理由づくりに、フツノさまを利用しようとしていたのだ。

 

 そんなことを赦してくれるほど、神さまは甘く無いってことだ。

 本人の意思さえよーく確認しておけば、彼女に掛けるべき言葉なんかは自然と口から出てきただろうに。

 

 

 

 

「……まぁ、しかし…………何だ。……如何(いか)な一人前の大人とて、ヒトとは所詮弱く、愚かで、儚きモノよ。……時には折れ、悩み、道を見失う(こと)も在ろう」

 

「は、はぁ……」

 

()の時は…………偉大なる先達、(ソレ)こそ百年単位の年長者にでも教えを乞うが良い。()しくは絶対的かつ()()な庇護者()る存在を頼れ。……()()程度ならば、ともすると授けて貰えるやも知れぬぞ」

 

「要するに……数百年生きて知識と経験は無駄に備えた僕達に、気軽に相談する。もしくは神様(※ただし鶴城(ツルギ)に限る)に助言を求めると良い……って事だね。布都(フツノ)様は()に対しては見栄っ張りだし、素直じゃない(トコ)在るから」

 

「…………はいっ」

 

「…………龍影(リョウエイ)。次は無いぞ」

 

「存じて居りますとも。布都(フツノ)様」

 

 

 

 

 うん……前言撤回。

 

 やっぱこの神さま……甘々だわ。

 

 





「ははぁー…………なるほど。これがよく聞く『おまえが(ママ)になるんだよ』っていう」

「絶ッッ対に違うから!!!!!!!!」



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151【新装開店】マジカルお引越し

 

 

 鶴城神宮への訪問と会談、おれの要望を聞いてもらったり相談に乗ってもらったりお説教をいただいたりを経て……晴れて霧衣(きりえ)ちゃんの『のわめでぃあ』参入、およびあのお屋敷の取り扱いが決定した。

 結局のところ所有権は鶴城神宮のままで、期間無指定の貸借契約という形に落ち着いた。ちなみに賃料は驚くことに実質負担(ゼロ)、なんでも霧衣(きりえ)ちゃんの養育費(※なんと今後毎月振り込むつもりだったらしい)で相殺……ということらしい。

 

 ……っていうか…………月々振り込むつもりだったのかよ。恐ろしいわ。

 

 

 

 

「ねぇーノワー! 線繋がってるけどこのままで良いのー!?」

 

「あーっあーっ待って! 待って待ってあーっ待って待って待って!」

 

「待つから! 待つから落ち着いて!」

 

「ごごごごめん…………いや、我が社の生命線ですからコレ……」

 

「そりゃあボクもわかってるけどさ」

 

 

 

 あのお屋敷への入居に関して何の憂いも無くなったおれたちは、現在おうちへと帰って荷造りの真っ最中である。

 なんのための荷造りかは、いまさら言うまでもないだろう。……いや言うんだけどね。引っ越しのためだ。

 

 引っ越しの準備、ともなれば……本来であれば引っ越し業者さんを呼んで見積りを取って貰って日付を予約して契約して、貰った段ボールを組み立てて荷物を仕舞っていって引っ越し当日までにお部屋をスッカラカンにする……という大変面倒な行程を踏む必要がある。

 時間も手間もお金もかかり、引っ越し前と同等の生活水準に戻るためには数週間や数ヵ月を見ておく必要もあったりする一大イベントなのだが……おれたちにおいては、その常識は通用しない。

 

 

 

「……っと…………ヨシ! ラニ、パソコンお願い。本体ひとつと、ディスプレイみっつと……とりあえずその四つ」

 

「ほいきた。我は紡ぐ(メイプライグス)……【蔵守(ラーガホルター)】」

 

「えーっーとー……大丈夫そうね。じゃあパソコン机と、あと椅子もお願い」

 

「ん。まかされよ」

 

「ちなみに白谷さんや、本棚ってやっぱ本全部抜かなきゃダメ?」

 

「んー……仕舞うときと出すときに向きや勢いを注意しなきゃだけど、そのままでイケるよ。ちょっとボクが頑張る必要があるけど!」

 

「ラニちゃん神かよ。引っ越し終わったら好きなものおごるわ」

 

「うむ。くるしゅうない」

 

 

 

 愛用してるベッドやコタツテーブルやタンス代わりの六段衣装ケース等『かさ張るもの』や、商売道具であるハイエンドPCとその周辺機器や各種資料が納められた激重(ゲキオモ)本棚等の『繊細なもの』を、そっくりそのまま異空間に仕舞い込める【蔵守(ラーガホルター)】によって非常に身軽に。

 高層物件から高台の物件へ、都心部から山間の別荘地へ、座標指針(マーカー)を打ち込んだ地点であれば複数人だろうと所持品ごと転送できる【繋門(フラグスディル)】によって、非常に迅速に。

 

 支払うものは、おれの魔力。さすがに『消費無し』とまではいかないが……際限なく生み出され続ける上に最大量貯蔵量も豊富なおれにとっては、一晩寝れば全快する程度の消費でしかない。

 つまりは……実質無料!

 

 準備の手軽さ、輸送の素早さ、費用の低さ等々……どれを取っても引っ越し業者さんを呼ぶより、全てにおいて勝っているのだ!!

 

 

 

「引っ越しするときは絶対アイミツ(相見積もり)取った方がいいよ。見積もりで呼んだ業者さんにはその場で契約しない方がいいよ。あの手この手でアイミツ阻止しようとしてくるけど、確固たる意思でアイミツ取る方がいい」

 

「な……何? どうしたのいきなり」

 

「『この場で契約してくれるなら幾ら幾ら値引きします』とか『他社の見積もり依頼キャンセルしてくれるなら幾ら幾ら値引きします』とか言ってくるけど、それ最初からその値引き分を上乗せした金額提示してるだけだから。騙されちゃいけない」

 

「お、おう。……何か思い出しちゃった?」

 

「そうなんだよ。やっぱ早計はダメだね。……あぁ、ラニにあと四年早く出会えてればなぁ」

 

「さすがにそこまでは……弊社では対応致しかねます」

 

「ハイ。スマセン」

 

 

 

 

 霧衣(きりえ)ちゃんにはひと足先にお屋敷へ飛んでもらい、天繰(テグリ)さんと食品や日用品の調達に行ってもらう。そしてその間におれたち(元)男性陣の手で荷物を運び込み、大雑把に配置しておく……というのが、今回の作戦である。

 

 最大の懸念にして難所であったリビング(スタジオ)部分がこれで無事に片付き、あとはおれの自室を残すのみだ。

 とりあえず持っていくのはベッドとコタツテーブルと衣装ケースとテレビボードと……そのあたりだろうか。

 いやしかし、このレイアウトも結構お気に入りだったんだよな。いざ崩すとなると若干もったいない気もする。

 

 

 …………ん、まてよ。

 

 

 

「ねえねえノワ、思ったんだけどさ」

 

「うん、おれも思った。…………ちなみに何を?」

 

「えっと……キリちゃんのお布団とか部屋の家具とかカーテンとか、どのみち買いに行くんだよね?」

 

「オッケー同じこと考えてたわ。そうだよ、別にこの家解約するわけじゃないんだもんね」

 

「ンフフ。すごいね、別荘持ちじゃん。……それで、どう? そういう家具とか日用品、一気に揃いそうなお店って……心当たりある?」

 

「あるんだなぁそれが。……そうだよ、やっぱそうしよ。引っ越し費用ラニのおかげでまるまる浮いたから、家具とか寝具とか新調してもお釣りが来るよ」

 

 

 

 そうと決まれば話は早い。おれのお気に入りの自室はそのままに、とりあえずスタジオスペースの品々だけを運ぶことにする。

 改めて【門】を開いてもらい、引っ越し先のお屋敷へ。今度の行き先は玄関前ではなく、二階部分の二十畳間……主寝室(マスターベッドルーム)だ。

 マスターベッドルーム……めちゃくちゃ素敵な響きだ。ふふふ。

 

 っと、ニヤつくのは後回しだ。霧衣(きりえ)ちゃんが帰ってきたら一緒に買い物に行きたいので、それまでにスタジオのセットは終わらせたい。

 ラニ共々隣室の十畳洋間へ移動し、商売道具を慎重に取り出してもらう。あらかじめ脳内で考えておいたレイアウトに沿って品々を配置していき、てきぱきと配線を繋いでいく。

 電源ケーブルを繋ぎ、三本の映像出力ケーブルをそれぞれディスプレイに繋ぎ、マウスやマイクやミキサー等の周辺機器も繋ぎ……そしてLANケーブルを繋ぐ。

 パソコン本体を起動し、ネットワーク接続を確認し、カメラの配置と入力信号と映り具合と画角を確認し、全ての機器が問題なく動作することを確認し、仕上げに要所要所でケーブル類を束ね……

 

 

「……っしゃ! 完成!」

 

「おぉー……前の部屋より広い?」

 

「いや、ほぼ同じ。前の部屋がリビング部分だけで十畳弱だったから…………この部屋と、ほぼ同じ」

 

「…………五つある部屋の、いちばん狭い部屋だよね……ここ」

 

「そうなの。この広さの部屋があと三つと……倍の広さの部屋が、ひとつ」

 

「…………」

 

「…………………」

 

「スタジオの使い勝手は変わらなさそうだね!!」

 

「そうだね! 戸惑うことも無さそう!!」

 

 

 …………よかったね!!!!

 

 



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152【新装開店】モールだいすき県民

 

 

「いやー…………白谷さんが()()に気付いてくれて良かったっすよ……」

 

「でしょう? まぁボクもノワの保護者だからね。色々と気を張ってるわけよ。……ねぇ? ノワ」

 

「はい……お世話になってます……」

 

 

 

 朝というか午前中に鶴城(つるぎ)さんへとお伺いして、帰宅後すぐ『引っ越し』作戦へと移行し、なんとものの(いち)往復そこらで引っ越しそのものが完了し、霧衣(きりえ)ちゃんと天繰(てぐり)さんによって食品や日用品の調達が完了した……その後。

 とはいっても……なんとびっくり、この時点で現在時刻はまだ十三時。少し遅めのお昼時だ。まさかこんなに早く引っ越しが完了するとは思わなかった。ただひとえにラニの存在がひたすらに大きかった。

 

 ……というわけで。

 現在おれたちは先程立てた計画に沿って、霧衣(きりえ)ちゃんを伴い大型ショッピングモール……通称シオンモールへと足を運んでいた。

 目的はずばり、新生活に必要な品々の調達だ。布団や家具などかさ張るものや重量物も、どれだけ買っても問題ない。小さくてハイスペックなラニちゃんさえ居れば何も困らない。

 

 

 …………そう思っていた時期が、おれにもありました。

 

 

 

 

 

「【蔵守(ラーガホルター)】使うのは、別に良いんだよ。ボクが消費する魔力コストも、元を辿ればノワの魔力だもん。愛しいノワのためとあらば、ボクはどれだけでも働いてみせるよ」

 

「はい…………ありがとうございます……」

 

「でもさ、ノワ。…………お店で、お金払って、家具を買って、その場で【蔵】に仕舞う……ってのは、さすがに無理だよね?」

 

「はい……おっしゃる通りです……」

 

「だからこそオレの出番、ってわけっすね。店員さんに頼むにしろオレが運ぶにしろ、とりあえず車の中に運び込んじゃえば、あとは白谷さんがパパっとやってくれるわけでしょ?」

 

「そうそう。だからさ……悪いんだけど、頼めるかな?」

 

「モチロンっすよ。お安いご用っす」

 

「スマセン……ホント、スマセン……」

 

 

 

 意気揚々と買い出しに出掛けようと、とりあえず(けやき)駅へ【門】を開いて貰おうとしたおれに対し……頼れる相棒ラニちゃんさまは『確認なんだけど、行くのはボク達三人? どうやって品物持って帰る?』とおっしゃられた。

 さも当然のように『ラニの【蔵】に入れてもらえないかなぁって……ダメ?』とアホ丸出しな回答を述べたおれに対し、そこで全てを察した聡明なラニちゃんさまはにっこりと微笑み……おれが求めた『(けやき)駅』行きではなく、我らが同志『モリアキ宅』へと繋がる【門】を、どこか圧力を感じさせる無言で開けてくださった。

 

 行き先を知らないまま【門】を通り抜け、あんぐり口を開けてお食事中だったモリアキ氏と目が合い、こちらもお口あんぐり状態に陥ったおれの眼前にて……我らが救世主ラニちゃんさまは畏れ多くも、おれの計画の欠点をビシッと指摘して打開策をバシッと提示し、モリアキともサクッと交渉してくださったのだ。

 

 

 そうして全てを察したモリアキと、おれの危機を救ったラニちゃんさまと、クソザコ低能の間で交わされたやり取りが……冒頭の会話となるわけだ。

 

 

 

「まぁまぁ。誰にでも失敗はあるっすよ。気にしないで下さい先輩」

 

「そうだね。誰にでも失敗はあるからさ。気にしないでいいよノワ」

 

「えっと……誰にでも失敗はございますゆえ。お気になさらず若芽様」

 

「そうですね!! 仲良いねキミら!!!」

 

 

 ラニのファインプレーとモリアキの気配りに救われたおれたちは、昨日に引き続きモリアキの軽自動車にお世話になってショッピングモールへと向かっている最中である。

 明日の月曜日から仕事や学校が始まるケースが多いので、年始休み最終日である日曜日の今日は……道路の混雑はそれほど深刻じゃなさそうだ。

 休みの最後を楽しもう、という考えの人も居ることは居るんだろうけど、やっぱり翌日に備えて家にいる人も多いだろう。少なくとも昨日よりかは空いているはずだ。

 

 

 

「若芽様! 若芽様! 頭上に橋が……橋がどこまでも続いておりまする!」

 

「高速道路だね。お金払って使う道路だよ。昨日おれたちが使った道路とおんなじ」

 

 

「わ、若芽様! あれも『くるま』にございまするか!?」

 

「そうだね。バスっていって、人がいっぱい……三十人くらいかな? 一度に乗れる自動車だよ」

 

 

「ぴゃうぅっ!? な、な、何事にございまするか!? ま、まさか近くに(ニワトリ)が!」

 

「クラクション……警笛(ケイテキ)っていってね、注意を促したりするときに鳴らすんだけど……無駄に鳴らしまくる人もいるからなぁ浪越市(なみこし)は」

 

 

 

 いわゆる『箱入り娘』という表現がぴったりであろう。今まで鶴城(つるぎ)の神域から出たこと無かったらしい霧衣(きりえ)ちゃんにとっては、周りの様々なものが新鮮に映るようだ。

 昨日の遠出でも目を輝かせていたけれど、あれは殆どが山間部を走る高速道路だった。それに比べて都市部の下道ともなれば、興味を惹かれるオブジェクトは多種多様。次から次から質問攻めにされるおれだったが、不快感は無い。

 楽しそうに視線を巡らせる霧衣(きりえ)ちゃんを眺めるのは……楽しくさえある。

 

 彼女のおかげで『ほんわか』したムードの車は順調に進んでいき、幸い大規模な渋滞や交通トラブルに見舞われることも、また進入前の路上で待たされることもなく……おれたちは無事に『シオンモール浪越南』地下駐車場へと到着を果たした。

 

 

 

「若芽様! 若芽様! ここはまさか地の底にございますか!?」

 

「地下駐車場……地の()ってわけじゃないけど、地面の下だね。この上にシオンモール……えっと、建物全部が商店街になってるバカデカいビルが建ってるの」

 

「し…………しょうてん、がい? しょうてん……商店、でございます……か? 商店……がい??」

 

「そこからかー! こりゃあ良い反応が期待できそうですなぁ」

 

「フヘヘ。楽しみになってきたっすよオレ」

 

「ンフフ。奇遇だね、ボクもだよ」

 

 

 

 霧衣(きりえ)ちゃんに温かな視線を向けるラニだったが……おれとモリアキはこっそり目を合わせ、二人でひっそりとほくそ笑む。どうやら彼も考えることは同じのようだ。

 地上階部分へと昇り、シオンモールの全貌を目にすれば……恐らく、いやほぼ間違いなく、ラニも霧衣(きりえ)ちゃん同様に大興奮間違いなし、冷静では居られなくなることだろう。

 

 ふふふ。奇遇だね、ラニ。

 おれたちも君の反応が……楽しみになってきたところだよ。

 

 

 



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153【新装開店】並行攻略作戦

 

 

 今回最も優先すべきはまず、霧衣(きりえ)ちゃんとおれの寝具。ついで食器だろうか。

 

 最低限今晩ゆっくり休める場所の確保と、食事を摂る環境の整備を早急に完了させなければならない。その他の家具――本棚やらソファやらローテーブルやらテレビボードやら――なんかはまぁ……買えるなら買ってしまいたいが、最悪後日に回してしまっても問題ない。

 あぁ、ダイニングセットは優先しないと。これは食事に必要なものだ。

 

 というわけで、まずは最優先でそのあたりの調達を目指す。

 幸いなことにこのモールには、価格以上の満足感が得られると評判の家具店チェーンが出店している。全国的に有名なその家具店であれば、ベッドから寝具からダイニングセットまで揃えられるだろうし……そういえば確か食器類やカトラリーも置いてあったような気がする。

 ……ヨシ、決めた。第一目的地はそこにしよう。モリアキと目的地の共有を済ませ、おれは館内マップを眺めながら一階奥のテナントへと狙いを定める。

 

 

霧衣(きりえ)ちゃーん大丈夫? 動くよー? きりえちゃーん?」

 

「…………はっ!? は、はいっ! 大丈夫めぴゅ(です)! 問題ごじゃい(ござい)ばみぇん(ません)!!」

 

「なんて??」

 

 

 吹き抜けから上層階を見上げておくちあんぐりしていた霧衣(きりえ)ちゃんを正気に戻し、おれの肩の上で姿を消したまま同様におくちあんぐりしているラニちゃんはそのままに……おれたち三人(プラスおくちあんぐり硬直してる小さな一人)は、賑やかなモール内部を進んでいった。

 

 

 

 新生活の準備というのはどういう形であれ、少なくともおれにとってはわくわくするものだ。

 高校を卒業して大学へと進学し、親元を離れ独り暮らしを始めたとき。誰の意見も受けずに自分だけのセンスで(※ただし予算は考慮した上で)家具や家電をひとつひとつ選んでいったあのときのことを思い出す。

 就職に伴う転居の際はあくまでその当時持っていた家具家電に買い足した程度だったのだが……しかし今回は規模が違う。

 自室一部屋まるまる、リビングダイニング部分全て、そして霧衣(きりえ)ちゃんのお部屋全てと……おれ史上初めてとなる超大規模な調達なのだ。さすがに気分が高揚しますね。

 

 というわけで、やってきました価格以上。

 調達すべきものを頭の中で思い出し、おれはしばし攻略法を思案する。

 

 

「んー……モリアキ、ごめん。ちょっと頼みってか相談なんだけど」

 

「ほいほい何でしょ。ちなみに先輩かなり人目引いてるんで、口調とか気を付けて下さいね。地が出てます」

 

「っ!! ご、ごめん……なさい。……だからさっきからよそよそしかったんですね。……じゃあ電話する……します」

 

「あー、そうっすね。それが良いかもしれません。……じゃ」

 

 

 ……何にせよ、揃えるべきものが多すぎるのだ。

 もちろん今日だけで全て揃える必要はない。数日かけて揃えていっても良いのだろうが……買った品物を持ち帰るため(のアリバイづくり)には、モリアキの協力が必要なのだ。そう何日も彼を拘束するのも良くないので、出来ることなら今日じゅうに大物は揃えたい。

 

 一方で……霧衣(きりえ)ちゃん。独り暮らしはもちろんショッピングモールに来るのも初めてなこの子は、当然『何が必要か』なんてわからないだろう。仮に知っていたとしても、彼女の性格からすると『買ってもらう』ことを避けたがることは想像に難くない。

 なので、彼女の買い物にはおれがついている必要がある。

 

 

「もしもし、きこえますか?」

 

『ウィ、オッケーっす。……それで、頼みってのは?』

 

「ん。……えーっとですね、あのおうちのLDK……いえ、リビングは後回しで良いので、ダイニングとキッチン部分……ですね。テーブル椅子セットと、人数分の食器類と、基本的な調理器具類。そのあたりの品定めをお願いできないかなぁ、と……」

 

『えーっと……オレのセンスでいいんすか?』

 

「そんな奇妙奇天烈(キミョーキテレツ)なセンスじゃないってことは解ってますので、お任せします。常識の範囲内で。……あ、別に高級品は要らないですから、実用性優先で。多く見て六人分……かな? DK(ダイニング・キッチン)全体で十万……んー、十五万くらいまでを目安に」

 

『おぉ、なかなか大盤振る舞いっすね。……まぁ楽しそうですし、いいっすよ。やってみます』

 

「すみません、助かります。お願いします」

 

 

 

 正直なところ、おれはインテリアにそこまでこだわるタチではない。配置にしても品物にしても実用性重視、極端な話見た目なんかはどうでもいい。そんな基準でこれまで過ごしてきた。

 モリアキのことは信用しているし、彼の部屋のインテリアや食器類のセンスを見る限りでは結構良い感じで揃えられている。あんな感じで纏めてくれるなら何も文句は無いし、むしろ彼が手ずから選んでくれるということがなんだか嬉しい。……支払いが自分だとしても、だ。

 

 なので……あっちのことは彼に全て委ねるとして。

 おれたちは、おれたちのお部屋づくりに集中する。

 

 

 目指すのは、インテリア雑誌なんかに載るようなお部屋。実用性の高さはそのままに、それでいて統一感があり、綺麗に纏められているお部屋。

 

 まぁ要するに……映っても恥ずかしくないお部屋、ということだ!

 

 

 



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154【新装開店】何かお探しですか?

 

 

 インテリア関係のセンスが皆無……というわけじゃないと思うけど、おれはぶっちゃけそんなに自信がない。

 なのでまあ……下手な意地やら見栄を張らずに、素直にプロの手を借りることにする。

 

 

「お話いただいた条件ですと……このあたりでしょうか? 掛け敷き枕のカバー三点セットです。シングルサイズは……この段ですね。和風っぽいデザインとなりますと……このあたりでしょうか?」

 

「お……おお! すてきです! 霧衣(きりえ)ちゃんどうですか? 気に入った柄あります?」

 

「ほ、本当によろしいのですか!? わたくしのために新品など……わたくしの好きな柄など!!」

 

「もちろん! いいんですよ! 桜色でも若草色でも柿渋色でも一斤染色でも!」

 

「っ、……でっ、では…………こちらの、桜の柄で。……えへへっ」

 

((かわいい…………))

 

 

 霧衣(きりえ)ちゃんが選んだのは、ホワイト地のベースに薄桃色の花びらが盛大に散らされた、上品ながら華やかなカバー。数ヵ所にあしらわれた枝のブラウンがアクセントとなり、間延びさせず良い感じに引き締めている。……と思う。

 

 一方でおれが選んだのは、図柄化された枝葉の意匠が全体にあしらわれたカバー。似たようなモチーフなのに華やかさには大きく差が開いており……生粋の女子力の差を早くも実感することとなった。

 

 

「……まぁ、お布団はこれで良いとして。……店員さんすみません、さっき言った家具なんですけど、和室に合いそうなものってありますか?」

 

「ございますよ。ご案内いたしますね」

 

 

 シングルサイズの布団セットと、同カバーセット。品がかさ張るものであるだけに、カートは早くもぎっちぎちだ。

 すると付き添いの店員さん――おれたちが助言をお願いしたお姉さん――は襟元のマイクに何やら話しかけると、他の店員さんが新しいカートをもって駆けつけてきてくれ、布団が詰まったカートと交換してくれた。

 どうやら……買い物の邪魔にならないように、レジ付近で預かっていてくれるらしい。結構買い込むつもりだったので、これは助かる。

 

 こうして身軽になったおれたちが案内されたのは、リクエスト通り『和風』テイストで固められたエリア。

 衣装箪笥やローボード、ちゃぶ台や文机やローテーブルに始まり……箱階段モチーフのシェルフや収納つき畳ベッド、行灯(あんどん)型のフロアランプなどなど……シックな木の色で纏められた家具類は、どれもなかなかカッコいい。

 デザインはしっかりと古式ゆかしい和風家具なのに、その実体は現代の技術がこれまたしっかり用いられているらしい。部品単位で分解されており、持ち帰りはコンパクト。ドライバー一本で組み立てられるのだとか。

 

 言うまでもなく、霧衣(きりえ)ちゃんのお部屋(二階和室)に置く家具を見繕うためなのだが……肝心の霧衣(きりえ)ちゃんは『自分のための家具(新品)』ということを受け止めきれずに早々に硬直(フリーズ)してしまったので、仕方がないので勝手に選んでいくことにする。

 ……とはいっても、セレクトは店員さんにほぼ丸投げなんだけどね。いちおう『年頃の女の子・おばあちゃんっ子(※捏造)・和風テイストが好き・初めての自分のお部屋』という(てい)で選定基準を伝えてあるので、必要であろう品々を次々と紹介してくれる。

 

 まぁ、実際は『買わせたいもの』を勧めて来ているんだろうけど……おれの『いっぱい買うから、なるべく安い品を探したい』というお願いを覚えてくれているようなので、良いとしよう。

 高級品を勧められてきたら……即さよならしていたところだ。

 

 

 こうして無事に――当事者の和装美少女をなかば置いてけぼりにしてしまったままだったが――台車三台を追加で召喚してもらい、和室の家具類ピックアップを終えることが出来た。

 

 

 あとは…………おれの部屋だ。

 

 ……なんとか、なんとか予算内に収められそうだ。

 

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

「モリアキ氏。モリアキ氏」

 

「ッウォォ!? ……っ、と……ビビったっすよ。()()んすね? 白谷さん」

 

「ははは、ごめんごめん」

 

 

 

 先輩からの要請に従い、ダイニングとキッチンまわりの品々を見繕っているオレの肩の上に……いつのまにか()()()()()が載っかっていた。

 しかもそれだけではなく、そこからはほんの微かな声が聞こえる。視線を向けてみても何も見当たらないというのに、だ。

 

 

「すっげ、何にも見えね。……姿を消す魔法ってやつすか」

 

「うんそう。ノワに言われてね、カード持ってきた。はい」

 

「カード? あぁ、クレカ……って!? …………いや、マジすかあの幼女」

 

「あとね、ノワたち今から家具選ぶから、結構かかりそうだって。だから先に買って、車に戻って、家まで運んどいてほしいみたいで。それでカード届けにボクが派遣されたわけだね。それで暗証番号は」

 

「待て待て待て待て待て! 良いです! 言わなくて良いっすから!」

 

 

 何もないところから、突如出現した(ように見える)プラスチックのカード。ホログラムの印刷とICチップがあしらわれたそれは、赤と黄色の丸印でお馴染みのクレジットカード。

 これで会計を行え、ということなんでしょうけど……品物確認しなくて良いんすか。これでもしオレが変なのカゴに入れてたら、どうするつもりなんすかね。……どうもしなさそうっすね。

 

 まぁ、オレもそこまで落ちぶれちゃ居ないので、先輩に『買え』と言われたもの以外はカゴに入れちゃ居ませんが……以前にも増して警戒心がガバガバになってる気がしてしまい、さすがにちょっと頭が痛い。

 

 

「……先輩は……大丈夫なんすか?」

 

「今店員さんと一緒に動いてるから、大丈夫だとは思う。……まぁ、あの子は割と常に心配な子だから……そういう意味じゃ大丈夫じゃないかもね」

 

「了解っす。とりあえずコッチすぐ終わらすんで、したら白谷さん先輩んトコ戻ったって下さい」

 

「オッケー。心得た」

 

 

 耳に当てていたカモフラージュのスマホを下ろしてメモアプリを開き、拾い忘れが無いかどうか再度確認する。

 カート上段のカゴに入れられた食器類とカトラリー、あとは取っ手の取れる鍋セットと、包丁とまな板等の調理小物。冷蔵庫や電子レンジなんかはさすがに家電店で調達するとして……ダイニングのテーブル椅子セットは、レジ横でキープして貰っている。……とりあえずは大丈夫そうか。

 

 

 

「ほいじゃレジ行きますか。……暗証番号は白谷さん入力して下さい。テンキーは隠しとくんで。……数字わかります?」

 

「大丈夫。抜かり無いよ」

 

「さすがっす。……じゃ、行きますか」

 

 

 白谷さんの安心感を実感する反面……こんな強キャラを先輩が手放したことに対する不安が、ふつふつと沸き上がってくる。

 この不安を解消するためには、やはり白谷さんには一刻も早く戻ってもらうべきだろう。

 

 レジに到着し、キープしてあったダイニングセットと合わせ、カゴの中身を会計する。

 預かったカードを読み取り機に挿入し、左手でテンキーを隠して右手をテンキーに添える(フリをしながら白谷さんへ合図を出す)。どうでもいい会話でレジ打ちの店員さんの注意を引くことも忘れない。

 幸い白谷さんの介入を怪しまれることもなく、暗証番号を受け付けたクレジットカードによって会計が済まされ……おまけに駐車場まで店員さんと台車を借りることが出来た。

 

 こちらはもう問題ないだろう。あとは店員さんと別れてから、白谷さんに荷物を送ってもらえば良い。

 

 

 

 心配なのは……やっぱり、あちらっすね。

 いろんな意味で安心できない美少女二人組のことを……オレはさすがに、心配せずにはいられませんでした。

 

 



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155【新装開店】おっ、価格以上

 

 

「あっ! ひっで! それおれが信用できないってこと!?」

 

「信用できないんじゃなくて安心できないんすよ! ほら先輩危なっかしいんで!」

 

「ひっで! なんでや!? おれ立派な三十代一般成人男性やぞ!?」

 

()()()が影も形も残って無いんすよね……」

 

「きぃぃぃぃ!!」

 

 

 

 

 あの後……店員のお姉さんの協力のもと、しめて台車五台にも及ぶ家具類をセレクトし終え……カードを抱えて戻ってきたラニを伴い、無事にお会計を済ませた。

 ……レシートの金額が今まで見たことない額になっていたけど、おれは省みない。

 

 

 お買い上げの商品はお店のご厚意に甘え、店員さん数人がかりで駐車場まで運んでもらい……なんとかモリアキの車に全て押し込むことが出来た。

 後部座席を全て倒した積載モード、助手席さえも格納すれば長尺モノにも対応可能。とはいえあの量の荷物を押し込むのはなかなかに骨が折れそうで……なかなかエグい難度の立体テト◯スだった。

 店員さん、本当にありがとうございました。

 

 あとは……妙にニコニコしていた店員さんたちが引き上げていったのを確認した上で、車内でラニにひとつひとつ【蔵】へと仕舞ってもらえば良いだけだ。

 

 

 リアハッチを閉じた車の中、しかも薄暗い地下駐車場とあっては、魔法の【蔵】に仕舞うところを見とがめられる心配も無いだろう。

 おかげでさしたる時間もかからずに、車の中を再び空っぽにすることができた。ラニちゃんマジパネェっす。

 

 

 

「それで……どうします? 家電買いに行きます?」

 

「んー……それ思ったんだけどさぁ……冷蔵庫、入る? この車」

 

「あー……………………申し訳無いっす」

 

「いやいやいやいや!! おれ! おれの方こそ申し訳無いだから!!」

 

 

 

 今までのような、単身物件での独り暮らしならまだしも……家族が増え、おまけにキッチンも爆発的に広くなった新居では、さすがに冷蔵庫も相応のものを置きたい。

 となると、やはり四百から五百リットルサイズ。重量はもとより高さもそれなりになってくるため、モリアキの軽自動車では……冷蔵庫を倒したとしても、収められる保証は無い。

 

 なので……貸し出しトラックが借りれるなら借りたいところだ。幌つきに収まればその中で【蔵】へと収めてもらえば良いし、幌に入らなかったとしても……どうにか人目につかないところまで持っていって、そこで仕舞えば……なんとかなりそうだ。

 

 

「でもオレ、普免しか無いっすよ? トラックとか運転したこと無いっすけど……」

 

「こういうとこの貸し出しトラックって大抵軽トラか1.5tだから、普免で行けるはず。モリアキ免許とったの改定前っしょ?」

 

「そうっすけど……詳しいっすね? トラック乗ったことあるんすか?」

 

「ホムセンの貸し出しトラックに何度か。あとおれ、中型あるし。4t車乗れるんやぞ」

 

「普通にすごいと思いますし、ドヤ顔してるとこ悪いんすけど…………『わかめちゃん』じゃ無理っすよ」

 

「…………!!!!!!」

 

 

 そ、そんなことは……今はそんなことは、べつにどうでもいいんだ。泣いてないし。

 

 大事なことは……つまりは貸し出しトラック作戦であれば、目的を達成できそうだということ。

 そしてそのトラックを借りられるのは、現在通用する免許証を持っているモリアキしか居ないこと。

 

 厳密に言うと、おれの1DKまで運搬を依頼するという手段もあるにはあるんだろうが……それだと時間が掛かってしまうし、部屋まで入ってもらわなきゃならなくなる。

 それはそれで面倒だし、お店のひとにも申し訳無い。

 

 

 

 とはいえまぁ、要するに『買える』ってことだ。このモールにも家電製品売り場はあったし、都合が良い。

 じゃあ行こうか、と言おうとしていたおれだったが……それに『待った』をかけるように、おれの耳がちょっとした異音を捉えた。

 

 

 

「……っっ!! ……も、もも…………申し訳ございませぬ……!!」

 

「いやいやいや!! おれのほうこそごめんね! そうだね、もう三時過ぎてるもんね! ごめんね! お昼まだだったもんね……!!」

 

 

 当初の予定(がばがば)では、(けやき)駅から電車でシオンモールに行き、そこで昼食でも摂ってからお買い物にしよう……などと考えていた。

 モリアキと合流したことで予定が変わり、彼と色々相談しているうちに昼メシのことが頭から抜けていき……しかし控えめな霧衣(きりえ)ちゃんはおれたちの邪魔はするまいと、空腹を主張できなかったのだろう。

 ……ひとつのことにのめり込むと周りが見えなくなる。おれの悪い癖だ。

 

 

「じゃあ……家電はオレが調達して来ましょうか? 先輩はキリエちゃんとメシ食ってきて下さいよ」

 

「ぅえ!? う、うーん……正直助かるんだけど……」

 

「……いや、白状しますね。……正直オレには、衆目監視の中で先輩達美少女と一緒にいる自信無いっす」

 

「ンヒッ!? ……あ、あぁ……なるほど。……ごめん」

 

「いえいえ! 先輩が気にすることじゃ無いですんで! ……なのでまぁ、その間にオレが家電選んでくるんで、キリエちゃん接待したったって下さい。……セレクトをオレに任せて貰えるなら、っすけど」

 

「……じゃあ、重ね重ね悪いけど……お願い。モリアキ目線で『良いな』って思ったやつ買ってくれて良いから。……ほい、カード。べつに暗証番号くらい知っちゃっても良いよ? おれモリアキのこと信用してるし」

 

 

 暗証番号を巡ってのひと悶着は、ラニの口から聞いていた。

 律儀な彼はおれのクレカの暗証番号を聞こうとせず、それどころか『オレが悪人だったらどうすんすか!』などと言っていたらしいが……だって、彼が悪人じゃないなんてことは、おれはよく知っているし。

 それに、クレカはきっちり使用履歴が残るのだ。お店の購入履歴と合わせれば、変な買い物をしたかどうかなんて……いつでも追跡できてしまう。

 ……そんなお粗末なことを、彼がするはずは無い。

 

 

「…………いえ。オレも一応蓄えはあるんで、立て替えときます。クレカ暗証番号を他人に委ねるのは……ヒトとしてヤバイっす」

 

「そこまで!? で、でもじゃあさっきみたいに……ラニに同行してもらえば」

 

「いや、後日返してくれりゃ良いっすよ。一応買う前に写真とか送るんで、安心してくださいって。……実際、会計のためだけに白谷さんお借りする方が……先輩達が危なさそうですし」

 

「なッ!? ど、どういう意味かな!?」

 

「あー……確かにそうだね。キリちゃんは初めてだろうし……ノワ一人だと、やっぱ不安だよね」

 

「ひどくない!? おれオトナぞ!?」

 

 

 

 ちょっと……彼のことが信じられなくなってしまいそうだ。

 ひどい。わたししんじてたのに。よよよ。

 

 

 





※クレカの暗証番号は他人に教えてはいけません


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156【突発撮影】新人歓迎撮影

 

 

 突然だが……この浪越市(なみこし)においては、飲食店の中でも『喫茶店』の地位がけっこう高い。

 

 まずなによりも浪越市内……というかこの県内、喫茶店そのものの総数が非常に多い。全国チェーンや個人経営の店舗を全て引っくるめると、その数は八千に届かんばかり。

 総数だけで言えば東京や大阪に後塵を拝するが……その独特に発達した文化と相俟って、一種の『名物』の域にまで昇華されている。

 

 その身近さでいえば、ここのような大規模ショッピングモールであればほぼ間違いなく入っているし……なんならMの字マークのファストフード店よりも出店率は高いかもしれない。

 

 

 そんな喫茶店の中でも、トップクラスの人気を誇るチェーン店『むぎた珈琲』。おれは何を隠そうここのタマゴサンドが大好物なので、見るもの全てが初めてな霧衣(きりえ)ちゃんにぜひとも体験して貰いたい……と思ったわけだ。

 ……実はもうひとつ理由があったりもするのだが、それはこれから説明させていただこう。フフフのフ。

 

 

 

 

「撮影許可出たよ! オッケーだって! よかったね霧衣(きりえ)ちゃん!!」

 

「あわわわうわうわうわう!?」

 

(ははは……まぁ気楽にね)

 

 

 

 めでたく我らが『のわめでぃあ』に参画することになった霧衣(きりえ)ちゃんだが……その()()をわかりやすく羅列すると『和装』『白髪』『いぬみみ』『箱入り娘』といったところであろう。なお『美少女』なのは当然なのでカウントに入れないものとする。

 おれとラニは持ち合わせていない、彼女ならではの強力な()()……せっかくなら、その魅力が余すところなく伝わるようプロデュースしたくなるのが、動画配信者というものであろう(※そうとは限りません)。

 

 というわけで、おれたちは密かに練っていた計画を急遽実行に移すことに。

 ランチタイムを既に過ぎ、客足が和らいでいたこともあったのだろう。気になっていたお店の許可も、幸いなことにあっさりと得ることが出来た。

 

 

 というわけで、いよいよ撮影開始である。

 のわめでぃあがお送りする新作シリーズ(予定)……題して『箱入りお嬢さま初体験』シリーズだ。

 ……決してやましい意味は無い。絶対に疑う余地無く全年齢だ。きわめて健全、あたりまえだね。いいね?

 

 

 

「ヘィリィ! 親愛なる人間種のみなさま! 魔法情報局『のわめでぃあ』局長兼レポーターの『木乃若芽(きのわかめ)』とー?」

 

「し、ッ! しんじんれぽーたー、の……きりえ、ですっ!」

 

「はい! よくできました。……というわけでですね! 本日はこちらのキリちゃんにわたしの『推し』を体験してもらおうと……こちら! 『むぎた珈琲』さんにやって来ました! ワーイ!」

 

「ひゃわあああ……!?」

 

 

 実際のところは、まだ視聴者さんにお披露目していない霧衣(きりえ)ちゃん。近々生配信にて紹介するつもりではいるが……撮影する分には全く問題ない。

 どうせ編集に時間かかるしね。あくまで公開タイミングをお披露目配信後にすればいいだけだ。

 

 

 というわけで、きわめて健全なこの『初体験』シリーズ……やることは至って単純だ。

 世間知らずな箱入り娘である霧衣(きりえ)ちゃんにいろんな経験をしてもらい、解説を入れながらそのリアクションを愛でさせてもらうという……よく外国人留学生の子たちをレポーターにして行っている企画の、亜種といえるだろう。

 

 このご時世、おれたちにとっては当然のように扱っている、周囲にありふれている様々な事柄。それらに全く触れずに生きてきた子、ましてや動画撮影・公開に寛容な子(しかも美少女)なんて、世界中見てみても稀少だろう。

 安定した人気を誇るこの分野に、競合が存在しない独自の強みで切り込んでいく。伸びる見込みは充分だ。

 

 

 ……というわけで、撮影のほうに戻ってみよう。

 

 

「キリちゃん、サンドイッチって食べたことある? こう……手でつかんで食べるお料理なんだけど」

 

「手で、つかんで……握飯(にぎりめし)のようなものでございますか?」

 

「方向としては間違ってないね。ごはんじゃなくて、食パンではさんであるの。キリちゃん食パン食べたことあるよね?」

 

「あ、あの白くてふわふわの『しょくぱん』にございますか!?」

 

「そうそう。こないだのトーストとはぜんぜん違うから、楽しみにしててね。……それポチっと。ぴんぽーん」

 

 

 

 店員さんのご厚意により、いちおういちばん奥まったボックス席へと通してもらったが……他にお客さんが全く居ないわけではないので、当然のように視線を感じる。

 霧衣(きりえ)ちゃんが可愛いので仕方がないとは思うのだが……この子の印象を悪化させないためにも、なるべく周囲に迷惑を掛けないようにしなければ。

 全く声を漏らさない……というのはさすがに無理なので、せめて大声を出さないように心がける。

 

 

「えっと……タマゴサンドと、からチキと、むぎたグラタンと、特製ピザ。……あとバニラシェイクと、バナナミルクで。おねがいします」

 

(けっこう行ったね。……大丈夫?)

 

(…………一品二品じゃ画面映えしないから、しかたないかなって)

 

(まぁ……確かに。ロッキー君も五品六品並べてたもんね)

 

(食べきれなかったら……持ち帰りパックもらおうと思ってる。てか多分そうなる)

 

(まぁ、そのときは持つから任せて。心配しないで()っておいで)

 

(ありがとラニ。こころづよい)

 

 

 

 後々手間はかかるものの……生配信とは異なり編集である程度の無茶が利くので、おれにとって動画の撮影は比較的気が楽だったりする。

 しかし同席の霧衣(きりえ)ちゃんにとっては、当然そういうわけにはいかない。彼女は『むぎた珈琲』はおろか、こうしてカメラに向かうことさえ(お遊びで撮った練習を除けば)初めての経験なのだ。

 借りてきた猫のようにカッチコチな彼女の緊張をほぐせるように、上司であり局長であるおれが気を回す必要がある。

 

 注文した品が届くまでの間、わずかとはいえ無駄にするには勿体無い。撮った映像の尺を削ることはできるが、存在しない映像を後から錬成することはできないのだ。

 霧衣(きりえ)ちゃんの魅力的な映像を少しでも多く押さえ、また彼女を少しでもリラックスさせられるよう……運ばれてくるドリンクを視界に捉えながら、おれはいっそうの気合いを入れ直した。

 

 

 



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157【突発撮影】秘めたる力

 

 

 

 まず運ばれてきたのは……飲みものが二品。バニラシェイクとバナナミルクだ。

 どちらも見た目が似ていて『バ』から始まるが、これはただの偶然だ。……もっと鮮やかな色のドリンクにすればよかったかもしれない。ミックスジュースとか。

 

 まあ今回のところは大目に見よう。実際この二品、どちらも美味しいことは疑い無いし……きっと霧衣(きりえ)ちゃんもいいリアクションを取ってくれることだろう。

 

 

 

「ありがとうございます。……ということで、まずはドリンクですね。こちらが『バニラシェイク』、こないだのソフトクリームを飲みものにしたようなやつで……こっちが『バナナミルク』、バナナっていう南国の果物を潰してミルクと混ぜたもの……ですね」

 

「……いいにおい…………で……ございます」

 

「んふふ。どっちも甘くて美味しいから、きっと好きになると思うよ。……どっちから行ってみる?」

 

「ええ、と…………では、こちらで……」

 

 

 

 霧衣(きりえ)ちゃんがおずおずと手を伸ばしたのは、全くの未体験領域であろうバナナミルク。これはあまくておいしいやつ。

 バニラシェイクは冷え冷えだと飲みにくかったり頭痛かったりするので、この選択は正しいと思う。霧衣(きりえ)ちゃん本人がこのことを考えていたかどうかまではわからないが。

 

 ストローの紙包装を破いて特徴的なグラスに刺し、心なしか目を輝かせ注視している霧衣(きりえ)ちゃんの前へずずいっと持っていく。硬直する彼女にストローの使い方を身振り手振りで教え、おれは歴史的瞬間を目に焼き付けるべく息を潜めて集中する。

 

 形の良い鼻をすんすんと鳴らし、おそるおそるといった様子でストローを咥え、おっかなびっくり吸引し……甘くて滑らかなバナナミルクが、ついに彼女の口内へと到達する。

 

 

「…………!!」

 

((かっわええ……))

 

 

 両手でグラスをお行儀よく持ったままお目目を大きく開き、未知の感覚を堪能する霧衣(きりえ)ちゃん。

 白い喉がこくんこくんと動き、目元はいつしか満足げに細められ……感想を聞くまでもなく、その顔はたいへんご満悦の様子。

 

 やがて……そう小さくはないグラスの、三分の一ほどを一気に飲んでしまってからだろうか。

 彼女は名残惜しげにストローから口を離し、舌を小さく出して『ぺろり』と唇をひと舐め。潤んだ瞳で虚空を見つめ、ほんのりと頬を紅潮させて『ほぅっ』と熱い吐息をこぼす。……あっ、この()はやばいぞ。

 

 

「お顔を見る限り、聞くまでもなさそうですが……どうでした? 霧衣(きりえ)ちゃん。初めてのバナナ味は?」

 

「…………とっても、香り高くて……甘くて……滑らかで。……これが『ばなな』のお味……なのですか」

 

「ふふふ……今度バナナ買ってこよっか。バナナミルクもおしいけど、単品でも甘くて美味しいよ」

 

「ほふ……それは楽しみにございまする。…………たいへん、大変美味にございました」

 

「あれっ、もういいの?」

 

 

 霧衣(きりえ)ちゃんは満足げに微笑むと、飲みかけのバナナミルクをおれへと手渡してくる。

 グラスにはまだ半分以上残っているのだが……もういらないんだろうか。

 

 

「えっと………………若芽様、にも…………味わって、いただきたく……」

 

「…………Oh……」

 

(あー……ごちそうさま)

 

「うん…………うん……ごちそうさま。…………じゃあ霧衣(きりえ)ちゃんには次こっち、『バニラシェイク』。はいどうぞ。冷たいから勢いよく飲まないようにね?」

 

 

 おいしいものはみんなで共有する……そんな心配りが自然とできている、心優しい霧衣(きりえ)ちゃん。……きっと保護者さんの育て方が良かったのだろう。

 どことなく恥じらいながら、しかし幸せそうに『おすそわけ』されてしまっては……女の子耐性の低いおれには抵抗なんてできるわけもなかった。恐ろしい子。

 

 しかしながら、おれだってただでは死なない。カメラが回っている間は『局長』なのだ、瀕死の『おれ』をカバーするように『わたし』は見事機転を利かせ、二品目を霧衣(きりえ)ちゃんに勧めることに成功する。

 なんでもないことのように進行しているが、現在進行形で『おれ』の理性は陥落寸前である。

 

 そんな内心の激闘を知る由もない霧衣(きりえ)ちゃんは、先程よりかは多少積極的にストローへと口をつける。

 さっきのバナナミルクよりも粘度の高いバニラシェイクを、おくちをむにゅむにゅと動かして懸命に吸い上げていく。

 やがてストローの中身が霧衣(きりえ)ちゃんのお口に到達し、その冷たさと甘さを体感した彼女の表情変化をおれ(たち)がしばしの間堪能し、その愛らしさに骨抜きにされていた……そのとき。

 

 突如として霧衣(きりえ)ちゃんが目を見開き、ストローから口を離し、それどころか頭を抱えて俯いてしまった。

 

 

「…………っ!! ……っ!!」

 

「き、霧衣(きりえ)ちゃん……!? 大丈夫? どうしたの!? 頭痛いの…………あぁ、頭痛。あぁー」

 

「……っ、……わかめ、様ぁ……」

 

「アッ!!! かわいい!!!」

 

(めっちゃ口から出てるよノワ)

 

 

 

 口内の温度が急激に低下したことを受けて反射的に血流量が増やされ、また口内付近を通る神経がその冷気の刺激を過敏に察知してしまうことによる……激しく鋭い、瞬間的な頭の痛み。

 それすなわち……アイスクリーム頭痛。俗にいう『頭がキーンとする』やつだ。

 

 先日のサービスエリアでのソフトクリームは、おしゃべりしながらゆっくりと食べていたこともあり……彼女の小さなお口では、頭痛に繋がるほど勢いよくは食べられなかったのだろう。

 しかし今回のバニラシェイクは、ストローですすれる飲みものである。しかも少々室温に慣らしたこともあってよりなめらかに、かなりのペースで口内へと運んでしまえる。

 アイスクリームをほとんど食べたことがなく、何の備えも出来ていなかった霧衣(きりえ)ちゃんにとっては……避けることのできない悲劇だった。

 

 

 

「あぁ……よしよし、ゆーっくり息吸ってー、はい吐いてー。……いたいのいたいの、白谷さんに飛んでけー」

 

「ふーっ……ふーーっ……」

 

(ひどいなぁ……まあキリちゃん辛そうだし、今回は大目に見てあげよう)

 

(あら、ラニちゃんやさしい)

 

(ノワちゃんほどじゃないさ)

 

 

 

 しばらくおれの腕の中で、かわいそうにその身を震わせていた霧衣(きりえ)ちゃん。

 落ち着いた頃を見計らってカメラを回し、ご感想を聞いてみたところ……

 

 

 

 

「…………すごかった……で、ございます……」

 

((ヴッ……!!!))

 

 

 頭痛によるものと思われる涙を浮かべ、顔を赤らめ……しかし甘味による多幸感によって蕩けたお顔でそんなことを言われてしまっては。

 

 無自覚にえげつない一撃を放ってくる霧衣(きりえ)ちゃんのポテンシャルに、恐れおののくおれたち(元)男性陣であった。

 

 

 恐ろしい子……!

 

 



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158【突発撮影】美少女はかわいい

 

 

 喫茶店とは文字通り、茶を喫する(のむ)店である。

 

 浪越市およびこの近郊を除く一般的なイメージでいえば……ちょっとした待ち合わせや時間潰しや小休憩で利用するための、コーヒーや西洋茶などを嗜むお洒落なお店、といったところだろう。

 ネット辞書なんかには『飲み物をはじめ菓子・果物・軽食を客に供する飲食店のこと』といった感じで定義付けられている。

 

 ここにあるように食事のメニューを揃えているところもあるが、その場合でも『ガッツリ食べる』というよりかは『小腹を満たす』程度の……どちらかといえば軽食で括れるジャンルのことが多い。………と思う。

 とはいっても、昼メシどきにはお得なランチセットを掲げてアピールしてみたり、デカ盛りグルメを名物にしてみたりと……要するに、そのお店独自の個性をそれぞれ出しているわけであって。

 

 

 そんな中で、今回われわれがお邪魔しました『むぎた珈琲』。

 こちらのお店の『個性』としておれが推しているのは……ずばり『軽くない軽食』である。

 

 

 

「わ……わかめ、さま…………これ……」

 

「……うん。アッ、えっと……はい。……いざ目の当たりにしますと……さすがに圧巻ですね」

 

(ねぇこれ写真と違わない? こんなサイズだったっけ?)

 

 

 ご注文のお品は、全部で四品。おれの大好物にして喫茶店フードの大定番『タマゴサンド』にはじまり、こちらも定番で老若男女に好かれる洋風から揚げ『からチキ』、チェーン店とは思えぬコクのある味と食べごたえの『むぎたグラタン』、シンプルながらも間違いないウマさでコスパも高い『特製ピザ』。

 それら四品はどれもメニューブックに写真共々載っていたのだが……いざ届けられたそれら実物の品々は、やっぱり何度見ても写真と比べて違和感がある。

 

 ……デカいのだ。お皿からして、デカいのだ。

 女性であればほぼほぼ間違いなく、一品目のタマゴサンドだけで満足してしまうであろう。それくらい一品一品のボリュームがすごい。

 ぶっちゃけてしまおう。これ全部食べきるのは無理。それくらい量がある。

 

 本当はイチオシのデザートもあるんだけど……そもそもこの物量に勝てないことが確定してるので、尻込みしてしまった。

 日和(ヒヨ)ったか木乃若芽。情けないぞ木乃若芽。……視聴者さんにも怒られそうだけど、そのときは開き直ってリベンジするとしよう。

 

 

 

「……はい! こちら注文した品が届きました! では早速……キリちゃん! 覚悟は良いですか!?」

 

「はひっ!? えっ、えっと、えっと…………おっ、お手柔らかに……」

 

「ははははは」

 

 

 慈悲を求める霧衣(きりえ)ちゃんの視線からあえて目線を外し、一品目のタマゴサンドをずずいっと押し付ける。

 おっかなびっくり手を伸ばし、食パンのふわっふわな感触に驚きながら、両手で掴んでお上品にお口へと運んでいく。

 

 特製のタマゴペーストがたっぷり挟まったこちらの品……パンのふわっふわ感とレタスのシャッキシャキ感、厚めに切った胡瓜の歯応えと相まって、まさに五感で楽しめる逸品となっている。

 マヨネーズの酸味と旨味にタマゴペーストの仄かな甘味も加わり、後から後から食べたくなる飽きの来ない味に仕上がっているのだ。

 

 ……というようなことを、目を細めた霧衣(きりえ)ちゃんが料理を堪能している間、おれの口から説明していく。

 頬を染めてわずかに口角を上げ、もきゅもきゅと幸せそうに咀嚼している様子を見せられては……幸せそうな彼女のひとときを邪魔するのも憚られる。

 いや……まじで幸せそうな顔するんですよこの子。

 

 

 

「んふふ……もうひと切れ食べていいよ。おいしい?」

 

「……たいへん……これまた大変に、美味にございまする」

 

「えへへ。よかった。わたしの好物なんですよ、これ」

 

「で、では若芽様、その…………一緒に、いかがでしょう……か?」

 

「じゃじゃじゃ、じゃあせっかくだし……いただこうかな!」

 

「ふふふっ。……はいっ!」

 

(ハイハイおアツいことで。ごちそうさま)

 

 

 

 二切れ目に手を伸ばす霧衣(きりえ)ちゃんに促され、おれもタマゴサンドをひと切れ手に取る。テーブル上に置いたカメラに向かって『いただきます』と断りを入れ……大きく口を開けて、がぶり。

 ふわっパリッザクッとした食感を楽しみながら、可能な限り上品に咀嚼し……そして嚥下する。そのまま続けて二口目を『がぶり』……久しぶりとなる好物に幸せを感じながら、欲望のままにがっついていく。

 

 あっという間におれが一切れを食べきったとき……お隣の霧衣(きりえ)ちゃんは、まだ半分くらいだった。

 小動物のように『ぱくり』と噛みつき、ほんのり瞼を閉じながらもきゅもきゅと堪能しているその様子たるや……うん、おれには到底敵わないや。なんだこのかわいい生きもの。反則かよ。

 

 

「……? ……!? はう、な、なんでございましょう!?」

 

「いやぁー……ンヘヘ。なんでもないよフヒッ。……あ、じゃあこっちもどう? サンドイッチと交互に食べてごらん」

 

「これは……唐揚(からあげ)、にございますか? 小さくて可愛らしい……」

 

(おまえのほうが可愛いよ!!!)

 

「それな……ッ!? とぉ…………そう、(とり)の唐揚げみたいなの。やわらかくてジューシーで、ひとくちサイズだから食べやすいよ? はいフォーク」

 

「で、では…………頂きます」

 

 

 フォークであれば左手でサンドイッチを持ちながら食えるだろう、などとさも当然のように考えていたおれに対し……霧衣(きりえ)ちゃんが取った行動は、おれの予想を遥かに上回るお上品さだった。

 なんと霧衣(きりえ)ちゃんは、食べかけのサンドイッチをお皿にちょこんと置き直してから……なんだあれ、和服の胸元からハンカチのような……半紙のようなペラい物体を取り出したのだ。

 何ぞ何ぞと目を見開くおれの眼前、彼女は二つ折りにされているぺらぺらを左(てのひら)に乗せると、今度はおれが渡したフォークを右手で持ち……あぁ、取り皿代わりってことか。

 

 そういえば……いわゆる『手皿』は厳密にいうとマナー違反、フォーマルな場だとよろしくないとか聞いたような気もするけど……なるほど、こうするのが正解なのか。いやまじお上品。

 

 ……などとおれ(とラニ)が凝視しつつも感心している中、霧衣(きりえ)ちゃんは小さなお口を大きく開けて『からチキ』を頬張る。

 

 

 そこからは……うん、めっちゃ幸せそうな食べっぷりですわ。

 

 

 

(……ねぇ、ラニ)

 

(なぁにノワ)

 

(…………かわいい女の子って………かわいいね)

 

(わかる)

 

 

 物欲しそうな目の霧衣(きりえ)ちゃんに、おれは笑顔で『からチキ』のお皿を勧める。

 あからさまに『ぱぁっ』と明るい顔になったかと思うと喜色満面でフォークを伸ばし……ひとつ、またひとつと『からチキ』が消えていく。

 どうやら……大変お気に召したらしい。

 

 

(……そういえば、マガラさんも鶏肉めっちゃ凝視してたもんね。狼属性みたいだし。……やっぱみんな鶏肉好きなのかな)

 

(かもね。あぁーいい笑顔……ノワちゃんと映像おさえてるよね? これくっそ可愛いぞ)

 

(心配すんなって。バッチリ完璧だぜ相棒)

 

(オーケーさすがだぜ相棒)

 

 

 

 にっこにこの笑顔でお口をモニュモニュする霧衣(きりえ)ちゃんと、それを眺めてニッコニコの笑顔になるおれ(たち)。

 

 あとになって気づいたことだが……どうやら目の届く範囲のお客さんと店員さんの視線を、見事に総ざらいしていたらしかった。

 

 

 やっぱ……霧衣(きりえ)ちゃんの美少女っぷりが半端無いんだなぁって。

 

 

 



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159【突発撮影】まんぷくチャレンジ

 

 

「あ、もしもし? …………うん。REIN(メッセージ)見た見た。やっぱそれくらいの値段するよね…………うん、大丈夫。…………観音開き? いいじゃんカッコいいじゃん。……うん、おれは不満無いよ。…………うん。おねがい。…………ありがと。じゃ、あとで」

 

(おぉー、いい品見つかったって?)

 

(うん、広々冷凍庫で六ドアだって。予算的にもまぁ許容範囲だし、購入頼んどいた)

 

(オッケー。じゃあボクもそろそろ出動準備かな?)

 

(トラック借りて、積み込むから……もうちょっと掛かると思う。だから)

 

「んゥ~~…………ッ!!」

 

(グラタン食べて、ひと段落……ってとこかな。ピザはお持ち帰りさせてもらお……あぁ可愛い)

 

(そうだね。……可愛い)

 

 

 

 注文したお料理四品のうち……現在霧衣(きりえ)ちゃんは三品目の『むぎたグラタン』を攻略中だ。

 とろっと濃厚なホワイトソースと焦げ目のついたあつあつのチーズ、様々な旨味がふんだんに絡んだマカロニとぷりっぷりの小エビ。間違いなく美味しいオーブンメニューを、予想以上に幸せそうな表情で霧衣(きりえ)ちゃんが切り崩しに掛かっている。

 

 鶏肉が好物らしいことが発覚した彼女は、サクッとジューシーな『からチキ』を一人で全部堪能し終えると、タマゴサンドの残りをきっちりと片付け終えた。

 四切れあったタマゴサンドの最後の一切れをおれが貰い、残すところあと二品。どっちから取りかかろうかとと悩んだ末で下した作戦は……器の特性上お持ち帰りができないグラタンを先に攻略することで、()()()()()は残された『特製ピザ』をテイクアウトできるように、というもの。

 いざというときのために撤退ルートを確保し、安全マージンを確保した上での選択である。

 

 

 そして予想通りというか残念ながらというべきか、どうやらその撤退ルートを使用する形となりそうだ。いやいや、これはおれの先見の明がすばらしかったということだろう。ふふん。

 

 撤退の理由としてまず第一に、作戦遂行中のモリアキからREIN(連絡)が入ったこと。色々と吟味してくれた上で『これだ!』と選び抜いた一品の詳細とお値段が送られてきたので、おれは『それでおねがい』とゴーサインを出した。

 あとは事前の打ち合わせどおり……可能であれば幌つきの貸し出しトラックに積み込んで貰い、人目の無い場所でラニに【蔵】へとしまってもらえば作戦終了である。

 ラニに告げたように、合流まではもう少し時間がありそうなのだが……第二の理由により、そろそろ撮影は切り上げるべきだと判断した。

 

 

 

「ううー、おいしそ……キリちゃん、わたしもちょっと味見して良いですか?」

 

「はふ。……んぐっ、……はいっ! わたくしはたくさん、堪能させていただきましたので……あとは若芽様、お召し上がりください」

 

「わあー、ありがとキリちゃん! えへへー」

 

 

 撮影を切り上げる判断を下した、もう一つの理由。……というのも、おれたちの小さなおなかがじわじわと悲鳴を上げはじめたからだ。

 

 八個入りの『からチキ』を一人で食べきってしまった霧衣(きりえ)ちゃんは、グラタンを三さじほど堪能したあたりで……表情は相変わらず幸せそうなのだがさすがにおなかがいっぱいなのか、心なしか眉根が寄っているようにも見えた。

 そこでおれのほうから『あとおれが食べようか?』と含ませて持ちかけてみたところ、察しのいい霧衣(きりえ)ちゃんは『私はおなかいっぱいなので、お願いします』と譲ってくれた……というのが、先程のやり取りである。

 

 おれのおなかの中身は現在、タマゴサンドが二切れぶん。グラタンは残り六割程度、これくらいなら食べきれるだろう。からチキを食べ損ねたことが良い方向に転んだ形だ。

 霧衣(きりえ)ちゃんから譲り受けたグラタン皿とスプーンを手に、おれはカメラの画角に自らを収める。

 

 

「ではあらためて……いただきます」

 

「ふふ。ではわたくしが……若芽様のかんばせをしっかり撮らせて頂きまする」

 

「ふ、ふも……ぅやっ! ちょっ、ちょっと……恥ずかしいって!」

 

「うふふ、観念なさいますよう。……ちょっとした意趣返しにございまする」

 

「ぅヤーーーー!!?」

 

(ふふふ……仲睦まじいこと)

 

 

 

 表面はちょっと冷めていようとも、その中は相変わらず温かいまま。

 ごちそうを食べられるしあわせを噛み締めながら……おれは一刻でも早くカメラを奪還すべく、はしたなくない程度に急ぎグラタン攻略に臨むのだった。

 

 ……ちょっとべろ火傷した。ひはい(いたい)

 

 

 



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160【準備段階】まだあわあわあわあわ

 

 

 昼めしついでの突発的な撮影ではあったが、とりあえずお店で確保できる分の映像は、これで無事撮影できたと思う。ゴップロ(カメラ)を持ち歩くことを習慣づけておいて良かった。

 とはいえおれたちの一身上(おなか)の都合により『特製ピザ』をいただくシーンはまだ撮影できていないのだが……こちらはテイクアウトさせて頂き、おうちで撮影することにする。

 店員さんをコールし、せいいっぱい申し訳なさそうな顔をつくって『ピザ持ち帰っちゃ……ダメですか?』と打診したところ……店員のお姉さんはめっちゃいい笑顔で快諾、持ち帰り用の専用ボックスに移し替えてくれた。

 

 ……まぁ、ふつうにテイクアウト対応メニューだもんね。

 本当は食べきれないことが解ってたなら、最初から持ち帰りで注文した方が良かったんだろうけど……そこはまぁ、つまりは並べた()を撮りたかったっていうか……うん。ごめんなさい。

 

 

 おれは一人申し訳なさを感じながら、背景に花が咲いてそうなしあわせスマイルを振り撒く霧衣(きりえ)ちゃんを伴ってお会計を済ませる。

 それじゃあモリアキと連絡を取ろうかとスマホを取り出したところで……帽子にお店ロゴのバッチを付けた、一人の年配店員さんに呼び止められた。

 

 ……まって、これはもしかして()()ですか。

 

 

 

「わ、わたしなんかで……いいんですか? いえ、嫌とかそういうんじゃ無いです、むしろ光栄です。光栄、なんですけど……配信者(キャスター)っていってもわたしはべつに、正直そこまで知名度あるわけじゃ……正直まだまだ若輩者ですし…………いえっ、嫌じゃないです! 全然! ……そう、ですか? ……では、わたしでよろしければ……はい。よろしくお願いします」

 

 

 

 ええ……()()でした。今回は霧衣(きりえ)ちゃんも一緒でした。

 

 まぁおれは確かに、動画配信者(ユーキャスター)の端くれだ。

 超絶大人気配信者(キャスター)さんたちがテレビや雑誌に取り上げられたり、ファンの方々にキャーキャー歓声を上げられていたりするのは……正直いって、羨ましくもある。

 おれもいつかはあの高みまで『届く』と言わずとも『近づきたい』とは思っているので、写真撮影の申し出なんていうのは……ぶっちゃけ、とてもうれしい。

 

 だがやっぱり『本当におれなんかで良いのか』『おれなんかの写真撮って得するのか』という疑問が拭いきれないのも、正直なところ事実なのだが。

 

 

 

 

「……はい! ありがとうございました! ……すみません、お騒がせしました」

 

 

 お店の看板の前で、店員さんたちと並んで写真を撮ってもらう。数台のスマホ(うち一つはおれの)での写真撮影、他のお客さんの邪魔にならないように手早く行わねばならない。

 ……おれの価値に疑問を感じたことも事実なのだが、それでもバッチ付きの店員さん(ネームプレートにはなんと『店長』と記されていた)をはじめ店員の皆さんが実際に喜んでくれていることも、またれっきとした事実なのだ。

 

 ならばおれは、おれのことを好んでくれる人たちが喜んでくれるよう頑張るまでだ。

 今はまだ何の価値もないこの写真が、数年後か数十年後かわからないけど価値あるものとなるように……大人気配信者(キャスター)の一員となれるように、がんばっていかなければ。

 

 

 

「ふふ。良い顔してるね、ノワ」

 

「? ……ほえ? そうお?」

 

「気合充分、ってとこかな? なんか引き締まったみたい」

 

「……うん。おれがしっかりしなきゃなって。……めっちゃいい顔しちゃってる霧衣(きりえ)ちゃんを見てると、ね」

 

「キリちゃん? …………あー、これ大丈夫?」

 

「いやぁー…………だからこそ、おれがしっかりしないと……ね」

 

 

 

 アルコール類など一滴も摂取していないのに、まるで酩酊しているかのように夢見心地な顔をした白髪和服美少女……おれの服の袖をきゅっと握ってちょこちょこと付いてくるその姿は、ぶっちゃけ非常に愛らしい。

 どこかふわふわした足取りで、ぽわぽわした雰囲気ながらもちゃんとおれについてくる霧衣(きりえ)ちゃん。……しかしどうやら気づいていないようだが、現在非常に周囲の視線を集めてしまっている。

 白髪+和服+美少女+至福顔……とあっては正直無理もないなぁとは思うけど、このままだとモリアキと合流するのは難しいかもしれない。

 

 とりあえず対策を練るにしても連絡を取るにしても、一旦腰を落ち着けたいところだ。

 周囲の目線を避けるようにトイレ近くの自販機コーナーへと場所を移し、しあわせスマイルの霧衣(きりえ)ちゃんをベンチに座らせその隣に陣取り、今度こそスマホを取りだしモリアキへ連絡を試みる。

 

 

 

 ……試みようと、していたのだが。

 

 

 

 

「……ノワ? どしたの?」

 

「っ! ぁ……あぁ、ごめんごめん。……直接電話しちゃうか」

 

「…………??」

 

 

 REIN(メッセージ)を送ろうとスマホを取りだしたおれの目に飛び込んできたのは、新着メール受信を告げる通知メッセージ。

 なかなか見かけないこの通知は……おれがあらかじめメーラーで設定しておいた、ある特定のメール受信を知らせるためのもの。

 

 

「……もすもす? モリアキ? 遅くなってごめんね、今どんな感じ? ………うん………うん、…………うん。………………うん。ありがとね。……了解。屋上ね」

 

「お…………屋上?」

 

「白谷さんもいっしょ。霧衣(きりえ)ちゃんも。…………うん、じゃあとりあえず屋上いって、人居るようなら白谷さんだけ合流してもらうね。おれたちは近くで聞き耳立ててるから。……うん、じゃあ」

 

「…………まぁ、道中説明してもらえばいっか。行くんだね?」

 

「うん。……霧衣(きりえ)ちゃん、大丈夫? 起きて? そろそろ行くよー」

 

「…………ふュ、」

 

 

 おぉ、やっと帰ってきたか。

 呆然自失していた自覚はあるのか、顔を赤らめて恥ずかしがる霧衣(きりえ)ちゃんをラニと一緒に愛でながら……とりあえずモリアキが調達してくれた大型冷蔵庫と合流すべく、屋上まで続くエレベーターを探す。

 幸いなことに……休憩に使っていた自販機コーナー(というかトイレ)のすぐ隣に、駐車場へ行けるエレベーターがあった。とりあえずボタンを押してエレベーター(カゴ)を呼び寄せつつ、おれは存在を主張し続ける『通知』をタップしてメールボックスを開き…………息を呑む。

 

 

 

 

 開かれたのは……仮想配信者(URキャスター)改め動画配信者(ユーキャスター)木乃若芽(きのわかめ)』活動用に取得した、専用のメールボックス。

 普段はほぼほぼ配信サイト(YouScreen)からの連絡で埋め尽くされている受信トレイの中で……ひときわ異彩を放っている、一通の未読メール。

 

 

 おれが認識するなり言葉を失った、気になるその件名は……ずばり『配信者様向け販促企画のご依頼に関して』。

 差出人は『(株)三納オートサービス』とある。字面から予測するに、どうやら自動車関係の会社らしい。

 

 

 つまりはこれは……どう考えても『企業案件の依頼』というやつなのでは無かろうか。

 

 

 

 …………………………え?

 

 

 ………………まじ?

 

 

 



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161【準備段階】十五万八千円(税別)

 

 おれたちが屋上駐車場に到着したときには、既にモリアキと件の冷蔵庫は到着していた。

 見上げるほどに背が高い大型家電製品は、全身を段ボールと梱包プラテープでカバーされた状態で、家電量販店の名が書き込まれた台車の上に鎮座していた。

 

 周囲をキョロキョロと見回す限り、店員さんとおぼしき人の姿は見られない。

 つまりは幸運なことに、打ち合わせの通りにことを進められそうなのだ。

 

 

 

「ごめんごめんモリアキ、おまたせ。ささっとしまっちゃおう」

 

「うっす、お疲れさまっす。そうっすね、あっちの角とかなら人あんま来なさそうっす。…………霧衣(きりえ)ちゃんどうしたんすか?」

 

「『むぎた』をお見舞いした」

 

「あぁ…………」

 

 

 

 おれたちにとって都合が良かったのは……まず第一に、店員さんが早々に引き上げてくれていたこと。

 いわゆる『お車までお届けします』サービスなのだろうが、ちょっと変更が加えられたおれたちの作戦を実行するにあたり……申し訳ないが、現場を見られるわけにはいかないからだ。

 そして第二に……現在屋上駐車場は車の影もまばらであり、歩いている人の姿もほぼ見られない。いちおう生命反応探知で車内に人が残っていないか探ってもみたので、大丈夫だと思う。

 これによって部外者に見咎められることなく、【蔵】にしまうことが出来るというわけだ。

 

 

「やぁー……貸し出し車が無いって言われたときは、ほんとどうしようかと思ったっすよ」

 

「うん、なんとかなりそうで良かった。(なん)て言って言いくるめたの?」

 

「いや大して捻って無いっすよ。『もうすぐ知人がトラック乗って駆けつけてくれるんで、ここまでで大丈夫っす。積み終わったらすぐ台車お返ししに行きますんで』って言っただけっす」

 

「うーわ、息を吸うように嘘をつくとか(こわ)

 

「はー? 言わせたのはドコのダレっすかこの悪女」

 

「はいはいそこまで。じゃれ合うなら場所考えないと二人も()()()()()()よ」

 

「「すみませんでした」」

 

 

 いたずらっぽい笑みを浮かべるラニの目の前で、何もない空間に突如亀裂が走る。

 そのままその亀裂はバシバシと広がっていったかと思うと、あっという間に一辺(いち)メートルほどの四角形が口を開ける。

 あとは……ラニの指示に従うようにその四角形がすすーっと宙を飛んでいき、直立する冷蔵庫の上から下までずずーっと呑み込むように動くと……そこにあったはずの高さ二メートルに及ぶ段ボールは姿を消し、アスファルト上の台車のみが残された。

 

 それを見届けながら、おれは再度探知魔法を行使し……現場を見られた形跡が無いことを、あらためて確認する。

 ちなみに防犯用の監視カメラもちょうど死角の位置なので、魔法が誰かに露見する心配もないだろう。

 

 

 ……というわけで、以上で今日のお買い物は全て完了したことになる。

 いやー買った買った。おれ一人だったら絶対に終わんなかったわ、あんな量の買い物。

 

 

 

「……ところでモリアキさん、今日このあと……ってか明日っていうか…………その、ご予定って……いかがでしょうか」

 

「いやそんな恐縮せんでも良いっすよ。大丈夫っす、付き合いますって」

 

「ぅいぇ!? あ、あのおれまだ何も言ってな」

 

「家具組み立てたり、配置手伝ったり……まぁそんなところでしょ? オレも何だかんだそういうの好きですし、手伝いますよ」

 

「うわぁーーんありがとママぁーーー!!」

 

「誰が母親(ママ)っすか!! この子はもォー!!」

 

「はいはい仲良し親子だね」

 

 

 

 いやまじ……ほんと彼はいいやつだ。甘えっぱなしで彼の時間を消費し続けるのも申し訳ないので、さすがに片付いたらいくらか包むべきだろう。冷蔵庫の代金と併せて。

 本業としてイラストレーターを務めているだけあって手先は器用だし、レイアウト能力や色彩感覚もずば抜けている。それ以外にも料理に工作に掃除にと非常に多芸で器用な人間なので、いてくれると安心感が半端無いのだ。

 

 そして何より……おれたちの『木乃若芽ちゃん計画(プロジェクト)』の、重要な参謀(ブレーン)役でもあるのだ。

 引っ越し後の部屋作りを手伝ってほしいというのもあるのだが……()()()()のことも相談したい、というのが本音であった。

 

 

 

(引っ越しに片付けに動画撮影に編集に、あと生配信にSNS(つぶやいたー)に……営業掛けたり打ち合わせとかも、当たり前だけどおれがやんなきゃなんだよなぁ。…………やっぱ個人勢配信者(キャスター)って……大変だ。ヒカ(King)まじすげぇ)

 

(密着動画ボクも見たよアレ。エグいよね)

 

 

 

 確かにとても忙しくはあるが……『むぎた珈琲』の店長さんたちや視聴者さんたちのように、おれの活動を喜んでくれる人のためにも、少しでも多くの『たのしい』を発信できるよう、がんばっていきたい。

 そのためにも……()()()()は、是非とも受けたいところだ。

 

 幸いにして彼の同意も得られたことなので……おれたちは白谷さんに本日何度目かとなる【門】を繋いでもらい、新居へとひとっ飛びしたのだった。

 

 

 

 ちなみに……モリアキの車は地下駐車場に置きっぱなしだ。

 おまけにその車内に【門】の座標指針(マーカー)を設置済なので、帰りはそこへ飛べば良いし買い出しもラクチンなのだ。

 いやーまったく、おれの作戦は完璧ですな。自分で自分の才能が怖くなるわ。がっはっは。

 

 

 

 ……あ、いえ……すみません……ラニちゃん様のお力あってこそでございます。ハイ。……いえ、本当すみません。調子に乗りました。……ハイ、すみません……おっしゃる通りです……ハイ……。

 

 



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162【準備段階】環境汚染は避けるべき

 

 

 随分と低くなった太陽は、どうやら既に山の向こう側へ沈んでしまったらしい。

 暗くなった手元を照らすために照明のスイッチを入れ、オレは再び作業へと取りかかる。

 

 

 

「白谷さんスマセン、『長いネジ』四本お願いします」

 

「えーっと、『長いネジ』『長いネジ』……これだね、はい」

 

「あざます。……あとゴメンナサイ、『⑥の板』もお願いします。……いけます?」

 

「よゆーだよ。我は紡ぐ(メイプライグス)浮遊(シュイルベ)】。ほいパース」

 

「ヒョエエ、すごい光景っすね……取れました。ありがとうございます」

 

 

 

 板を組み合わせて固定し、右手に握りしめたドライバーで、ビス穴へと『長いネジ』を捩じ込んでいく。

 接着剤と四本のネジで板を固定し終え、組み立て説明図通りの形状に大きな箱が立ち上がったことに、とりあえず安堵の吐息が溢れる。

 見た目に反して重みを感じさせない大型家具を持ち上げて壁際に配置し、組み立ててあった引き出しを開口部に納めていく。

 

 厚みのある集成材で組み上がった()()は、段々に重なった形状が見た目にも楽しい『箱階段』……の形をした収納家具。

 明度と彩度を抑え目にしたシックな色使いは空間を引き締め、落ち着いた畳の間の雰囲気をより一層引き立てるアイテムといえそうだ。もちろん、収納家具としての性能も申し分ない。

 和室によく見られる大きな衣装箪笥ほどの圧迫感は無いが、それでもなかなかの大きさがあり、組み立てには難儀するかとも思ったが……『部材の重みを打ち消す魔法』や『手の疲労をかき消す魔法』を使いこなす()()()()()()()()()の助力を得、非常にハイペースで作業を進めることができた。

 

 

「家具はこんなもんっすかね? あとお布団は……オレがカバー掛けちゃって良いんすか? おっさんっすよオレ。年頃の女の子の寝床にちょっかい出すのは気が引けるっていうか」

 

「キリちゃんはそんなの気にしないから大丈夫だと思うけどなぁ……まあ、気が引けるなら手出さなくて大丈夫でしょ。ここまででも充分すぎるほど働いてくれてるよ」

 

「へへ……恐縮っす」

 

 

 買い込んだインテリア品をそれぞれの個室に収め、梱包を解いて敷物を敷いて家具を組み立てて……とりあえずやっと和室が仕上がりつつあった。

 収納つきのタタミベッドと、行灯(あんどん)型フロアランプと、箱階段型衣装箪笥と、おしゃれな意匠のオープンラック。男手の要りそうな品々は組み立て終わったので、とりあえずは大丈夫なのではないだろうか。

 布団の開封に関しては……要らぬ心配だとは思うけど、やっぱり本人にお任せしようと思う。

 

 ……というわけで、一部屋目はこれにて作業完了。

 つづいて二部屋目に取りかかろうかと廊下に出たところで……階段ホールからドタドタとはしたない足音が響き、小さな人影が駆け上がってきた。

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

「ぅああモリアキごっめん!! 遅くなった!!」

 

「気にしないで下さい。白谷さんのお陰でめっちゃラクチンでしたんで」

 

「ぅわぅー、ラニもごめんね、ありがとう」

 

「なんのなんの。ボクも興味深かったよ。……家具があんな速さで、次々組み上がるなんてね。本当にこの世界の人々は頭が良い」

 

 

 新居のダイニングスペース……モリアキに手伝ってもらって組み上げたダイニングテーブルにて、温め直した『むぎた特製ピザ』を霧衣(きりえ)ちゃんにお見舞いする映像を撮っている間。

 モリアキは『ただ待ってるのもアレですんで』と、なんと購入した家具の組み立てを申し出てくれたのだ。

 

 なるべく早く撮影を切り上げて手伝いに入ろうと思っていたのだが……とろっとろのチーズにヤられた霧衣(きりえ)ちゃんは予想を遥かに上回るヤバさだった。そしてそれを間近で浴びていたおれの理性がものすごい速度で異常を(きた)した結果……想定していた以上に悲惨な進捗ペースとなってしまったわけだ。

 

 

 クロージング(ヴィーヤ!)まで撮り終えて霧衣(きりえ)ちゃんとゴミを片付けて手を洗って、おれたちがやっと駆けつけたときには……なんと、まるまる一部屋分の家具組み立てを押し付けてしまった形となっていた。

 

 

 

「いや、白谷さんのアシスト(りょく)がヤバイんすよ。浮かせる魔法のおかげで重い部材も楽々ですし、手だって全然疲れませんし。白谷さんサマサマっす」

 

「ま、まじで!? すごい! ラニちゃんすごい!」

 

「さすがでございます! 白谷様!!」

 

「えへへ。いやぁー……ンヘヘ」

 

 

 

 でれっでれの可愛い笑顔を振り撒く、われらが万能アシスタント妖精さん。彼女の助けが得られるからこそ、本来ならば数日がかりのお引っ越しを一日二日で完了させることが出来るのだ。

 本当に……彼女には頭が上がらない。

 

 

「じゃああとはおれの部屋だけか。……よし。今からおれもちゃんと働くから、早いとこ終わらせちゃおう」

 

「それなんすけど先輩、まず霧衣(きりえ)ちゃんのお布団出したって下さい。ベッドは組み立てたんすけど、布団はまだなんすよ。……先に大物だけ片付けちまおうと思ってて」

 

「あぅえ、そうなん? ……ん、わかった。よしじゃあ……霧衣(きりえ)ちゃんおいで! こっちが霧衣(きりえ)ちゃんのお部屋よ!!」

 

「わ、わ、わ、わっ、わたっ、わっ…………わたっ、くしの……おへや……」

 

「おぉー! 家具めっちゃ良い感じ……いやぁモリアキとラニちゃんさまさまだわ……」

 

「フヘヘッ。……じゃあ、そっちお願いします。オレ達は先輩の部屋の家具組んでますんで」

 

「ありがとモリアキ。お礼に後でパンツ見て良いよ」

 

「久しぶりにソレ来ましたねェ!!?」

 

 

 勝手知ったる間柄、というやつなのだろうか。口では驚いたようなことを言いつつも、彼の表情はどちらかというと『まーた言ってるよコイツ』といった感じだ。

 もちろんおれも冗談半分ではあるのだが……いやしかし、もし彼が希望するなら、下着を晒すくらいは吝かではないとも思っている。たかが下着、着衣の一部なのだ。露出度で言えば水着と大して変わらない。……まぁ、この身体で水着着たことなんて無いんだが。

 

 

 

「…………わかめ、さま」

 

「え? どしたの霧衣(きりえ)ちゃん」

 

「…………わ」

 

「……………………わ?」

 

 

 

 要するに……おれたちにとっては取るに足らない、いつものジョークだったのだが。

 

 新しい家族となった、生粋の美少女にして箱入りのお嬢様にとっては……少々刺激的だったらしい。

 

 

 

「わたくしも、皆様に…………その、っ……下着を、見せ」

 

「ごめんね!! 見せなくていい!! 見せないで良いから!! だから安心して!!」

 

 

 

 この子の健やかな教育のため……どうやらおれも、立ち振舞いを気を付けなければならないだろう。

 モリアキへのセクハラも、控えた方が良さそうだ。

 

 

 …………はい。スミマセン。

 

 



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163【準備段階】ごめんなさいしろオラッ

 

 

 幸い、というかなんというか……あやうく勘違いされるところだった霧衣(きりえ)ちゃんの認識を矯正した上で、現代日本で他人に下着を晒す必要なんて無いのだということを理解してもらうことができた。

 

 そのついでと言ってはなんだが……霧衣(きりえ)ちゃんルームのおふとんも、ばっちり準備万端だ。可愛らしい桜柄のカバーを被せ終え、モリアキとラニが組み立ててくれた和風ベッドの上に置いて……これで今晩、寝苦しい思いをさせることも無いだろう。

 それどころか、やっと彼女に与えることができたプライベートな空間である。おれたちの視線と影を気にすること無く、存分に羽を伸ばしてほしい。

 

 

 

「よーし。いい感じのお部屋できたね、霧衣(きりえ)ちゃん」

 

「……本当に……有り難うございまする」

 

「なんのなんの。わが社は福利厚生に力を入れていますので」

 

「ふふっ。……では、わたくしも誠心誠意お勤めさせていただきまする」

 

 

 

 霧衣(きりえ)ちゃんのお披露目配信は……ちょっと急だが、明日月曜日の夜で予定している。

 定例配信(にしたいと思っている)金曜の夜まで待とうかとも思ったのだが、今日の突発撮影を経たことであっさりと気持ちが変わった。

 ……とはいっても、決しておれが優柔不断というわけではないのだ。ちゃーんと理由あってのことなので、まずはそこを釈明させて頂きたい。

 

 まずは何よりも、この霧衣(きりえ)ちゃんの可愛さを一刻でも早く多くの視聴者さんに自慢……もとい、お披露目してあげたいというのがひとつ。

 この子の純真さと可愛らしさはまさに国宝級(※個人的見解です)である。このまま埋もれさせるなんてとんでもない。彼女のような美少女のKAWAIIを愛でるだけでリラックス効果と健康増進が期待でき、寿命が何年か延びるという研究データもあるのだ(※ありません)。

 

 そして……もうひとつの理由なのだが、こっちは正直言っておれの見込みが甘かったと言わざるを得ない。

 というのも、つい先ほどモール内の喫茶店で撮影させて頂いたとき……そのとき周囲の席でティータイムを楽しんでいたお客様方が、おれたちの写真をSNS(つぶやいたー)上に掲載していたらしい。

 

 他でもないおれ自身が『この身体の外見的特徴が『のわめでぃあ』の宣伝にそのまま繋がるのだ!』などと口走っていたのだ。奇しくも昨日モリアキに説明した通りの宣伝効果が、今まさに発揮されてしまっているという状況である。

 さっきの喫茶店で撮られた写真が拡散し、それに触発されて先日のサービスエリアでの写真もじわじわと掘り起こされてきているらしく……現在おれのSNS(つぶやいたー)には『あの和服美少女は誰ですか!?』『のわちゃんのお姉ちゃんですか!?』『お披露目はいつですか!?』などといったお問い合わせが多数寄せられているのだ。

 

 とはいえ、現在はお引越し作業の真っ最中である。今日中にはある程度『住める』ようにしておきたいので、今晩生配信を行うことはさすがに不可能だ。ちょっとキャパシティが足りない。

 なので諸々のお問い合わせに対し『明日の夜に配信を行います。重要な発表があります』といった旨を、おれのSNS(つぶやいたー)で発信させてもらうに留まったわけだ。丸一日あれば生活に必要な部分は何とかなるだろうし、空いている部屋は後回しでもいい。

 

 

 

「だからまぁ、今日のところは……あとおれたちの部屋を仕上げて完成かな?」

 

「承知いたしました。がんばりましょうね、若芽様!」

 

「ンウウウウがんばりゅうううう」

 

 

 慈愛の微笑みで元気づけてくれる霧衣(きりえ)ちゃんにデレッデレの笑みを浮かべながら、廊下を進んでおうちの西側へ。

 二階の廊下は玄関ホール上の吹き抜けをぐるりと回るように通っており、個室は霧衣(きりえ)ちゃんの和室を含めて三部屋存在する。

 進行方向左手のドアは、新たな収録スタジオ兼作業スペースとなる十畳の洋室。そして正面突き当りのドアが主寝室……つまりは、おれとラニの部屋となる。

 

 

 

 

「白谷さんスマセン『④の板』と『⑧の板』お願いします」

 

「おっけー。さすがにボクもそろそろ解ってきたよ。ココでしょ? はい『ネジ』これね」

 

「おぉスゲー……飲み込み早いっすよ白谷さん。ありがとっす」

 

「なんのなんの。なにせココに絵を描いてくれてるからね、よく考えられてる。……それに、モリアキ氏の手捌きを間近で見てたからね。おかげでなんとなーく理解できるよ」

 

「いやいや、やっぱ白谷さんの順応性の高さがですね」

 

「いやいやいや、モリアキ氏の手際の良さあってこそで」

 

「いやいやいやいや」

 

「いやいやいやいやいや」

 

「だァまらっしゃァァい!!!!」

 

「「ワォーーーー!!!?」

 

 

 お互いに謙遜し合って無限ループに突入していた二人を止めるべく、おれはドアを開け放って部屋へと突入する。

 しかしながら……タイミングと勢いが悪かったのだろう。宙にふわふわ浮かべられていた部材がラニの魔法制御を失い落下し、ネジ締め前の仮組みだったフレームが部材の一つに直撃を受け、けたたましい音を立てて崩れていく。

 

 

 

「「………………」」

 

「…………ごめん、なさい」

 

「チクショウ可愛いんだよオラァ!!」

 

「涙目で上目遣い反則だろオラァ!!」

 

「ヒィッ!!? ゆ、ゆるして! おれも手伝うから! がんばるから!!」

 

「「当たり前だよなぁ!!?」」

 

「ヒィィィッ!! ごめんなさいごめんなさい!!」

 

 

 あのすみません、本当すみません。悔い改めるのでそのあたりにして頂けると。

 いやほら……おれはべつにいいんだけど、こっちには美少女がいるから。お嬢様がいるから。情操教育に悪影響の可能性あるから、ね。

 

 まぁ、なんというか……もともとお手伝いするつもりでしたので、そこんトコどうか大目に見てください。

 

 

 



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164【準備完了】キャパシティ増やしティ

 

 

 なんだかんだで全ての家具を組み立て終え、新生活のための準備は(とりあえず)一通りの完了を見ることとなった。

 霧衣(きりえ)ちゃんの和室と、おれとラニの主寝室……そしてキッチンの冷蔵庫と、ダイニングテーブルセット。一気に揃えたので出費もそれ相応のものだったが、それでも常識的に考えるよりかは時間も費用も手間も少なくて済んだ形となる。

 

 なんといっても……この物件の存在を初めて知り、下見に訪れたのは、ほんの昨日。ラニの超べんり魔法とモリアキの超おたすけ技術の合わせ技によって、驚いたことにわずか一日で拠点移行を完了してしまったのだ。

 

 

 ……というわけで。

 当面の懸念事項を解決したおれたちは、意気揚々と徒歩十分の温泉街へと繰り出した。引っ越し祝い……というほど大仰な席ではないが、モリアキを巻き込み楽しい楽しい夕餉の席を設けた次第である。

 足を運んだのは、昨日の(ちょっと遅めの)お昼でお世話になった『あまごや』さん。今日は逆に少し遅い時間になってしまったせいか、店内に他のお客さんは見られなかった。……大丈夫なんだろうか。

 

 

 

「まぁ、何はともあれ。今日一日、お疲れ様でした!」

 

「おつかれっす!!」(お疲れ様ー)

「お疲れ様でございまする」

 

 

 今晩のメニューは、無難に牛肉そば。いわば『引っ越しそば』である。

 元々の由来としてはご近所さんに『()()に越して来ました』『()()()()()()()()お付き合いをお願い致します』といった意味を込めて配るものだったらしいが、現代ではどうやら『新居で自分たちがそばを食べる』といったイメージのほうが強いらしい。

 ……まぁ、おれらに至っては『新居』でさえ無いわけで。……良いんだよこういうのは。そば食べたって事実が欲しいだけだ。

 

 しかしながら、実際にメニューのお写真が美味しそうだったので期待はしていたけど……これはべつに引っ越し祝いうんぬんじゃなくても、普段から普通に注文したくなる品だ。割下で煮込まれた牛肉が出汁の風味豊かなかけそばの上にたっぷりと載っかっており、なかなかに食べごたえがありそうな一品。

 中途半端な時間に『むぎた特製ピザ』を頂いてしまったおれと霧衣(きりえ)ちゃんは……お店のひとには申し訳ないが、二人で一人前にさせてもらった。

 

 

 

「……ほれめ(それで)? ングッ。……話って何すか?」

 

はらひ(はなし)? ………………んムあぁ、そう! えっと、とりあえず今後の予定立てたのの意見聞きたいのと、企業案件らしき問い合わせが一件あって」

 

「ほえ……マジすか!? ユースク(YouScreen)介しての問い合わせってことすか?」

 

「たぶんそう。プロフィール概要欄からの問い合わせみたい。……企業様向けフォーム設定しといて良かったわ」

 

 

 温かいお蕎麦をすすりながら、はしたなくない程度におれは情報を共有する。

 それに伴い現在の懸念事項……案件は是非とも受けたいけど、今後配信と動画撮影と編集と公開を全並行していくには少々キャパシティ的な不安が拭いきれないこと、優先順位をつけるとしたら何を優先すべきなのか……などなど、第三者視点で業界を俯瞰できる彼に助言を求める。

 

 

 ぶっちゃけ……ライブ配信のみに特化すれば、楽には楽なのだ。

 事実――ごく初期の黎明期を除いて――仮想配信者(URキャスター)のうち何割かの方々は動画そのものの投稿をほとんど行わず、代わりに連日のようにライブ配信を行うことでコンテンツを提供している。配信終了後にアーカイブとして保存し、それを『投稿動画』として公開している形だ。

 そういったライブ配信を得意とする配信者を、一部では『キャスター』ではなく『ライバー』と呼称したりもしている。

 

 ひとくちに『ライブ配信』といっても内容はそれこそ多岐に渡り……ひとつのゲームを極めるためにとことんやり込んでみたり、質問箱やSNS(つぶやいたー)を駆使してお喋りに興じてみたり、超高性能なマイクを用いたバイノーラル音声を武器にしてみたりと様々である。

 それらを提供し続けることが『楽である』などと言うつもりは、断じて無い。無いのだが……仮にライブ配信のみに専念できるのだとしたら、少なくとも映像を撮影するために取材に出掛けたり、映像を切った貼ったして動画へと編集する手間だったり……そういったものを省けるのは事実だろう。

 

 

 

「おれも……ライブ配信のみに絞った方が良いんかな……」

 

「いやぁー……難しいとこっすけど、切り捨てるのも勿体無いと思うんすよ。あの『えちちモーニング』とか海外ニキネキに大人気じゃないっすか。『ソゥキュートフェアリーガール』とか『ジャパニーズフォレストフェアリー』とかって話題っすよ」

 

「は!? 何そのこっ()ずかしい呼び名!?」

 

「まぁソコは置いといて。実際企画動画シリーズもなかなかに需要が高いので、続けたほうが良いんじゃないかとは思います。……『放送局』っつってるわけですし」

 

「置いといて、って……まぁ、確かに生放送ばっかじゃ『放送局』自称するのに力不足だよなぁ」

 

「しかし仮にこれから案件ガッポガッポで忙しくなってくると、逆に生配信できる余裕が無くなりそう……っていうことっすよね」

 

「ガッポガッポて……いやまあ、そういうことなんだけどさ」

 

「うーん…………先輩がもう一人居れば良いんすけどね」

 

「ははっ。何言ってんのさ」

 

 

 まあ確かに……おれがもう一人いてくれるなら、色々と楽になることだろう。

 本業である配信者(キャスター)活動と副業である『(スプラウト)』駆逐との役割分担だってできるし、それ以外にも仕事と趣味の両立だって充分可能だ。

 

 だが、そんなことはもちろん有り得ない。不可能だ。絵に描いた餅を求めて口を開けっぱなしで居られるほど、おれは暇じゃない。

 特に……これからは。

 

 

 

「それで、聞く限りではめっちゃ面白そうではあるんすけど……どうするんすか?」

 

「とりあえずは話だけでも聞いてみよっかなって。面白そうだし。それでモリアキ、お願いがあるんだけど……」

 

「同席っすか? いいっすよ別に。面白そうですし」

 

「アアーーありがとう!! 好き!!」

 

「気安く『好き』とか言うんじゃありませんこの悪女!!」

 

(はいはいおアツいことで)

 

「はふ、はふ。熱々で……美味しうございます」

 

 

 

 新しい拠点と、新しい案件と……ここまで期待を寄せられたのに『発展しない』なんて、有り得ない。

 おれ自身のキャパシティにも、そりゃ上限はあるだろうけど……上限に達したこともないのに弱音を吐くのは、それはやっぱり違うだろう。

 とりあえずは行けるところまで、持てるところまで抱えてみよう。心強い仲間がついてるんだ。

 

 より一層の発展と健勝を願った晩御飯はとても美味しく……そして、とても暖かかった。

 

 



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【シャワーを】木乃若芽ちゃんを語るスレ_第十五夜【浴びてきます】

 

 

………………

 

 

………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

 

0559:名無しのリスナー

 

ラニちゃんほんとセンシティブ

生放送中におまんまチラしちゃうんじゃないかと不安でたまりません溜まります

 

 

0560:名無しのリスナー

 

ヘィリィがここ最近の生きがい

 

 

0561:名無しのリスナー

 

のわちゃんとらにちゃんが同じベッドで寝てるって

 

のわちゃんとらにちゃんが同じベッドで寝てるって

 

 

0562:名無しのリスナー

 

>>559

今さらだけどラニちゃんやっぱはいてないよね……

見えちゃいそうでめっちゃドキドキする

まぁさすがにすじまでは作り込まれてないと思うけど、それでもハラハラムラムラしてしまう

 

 

0563:名無しのリスナー

 

のわちゃんのごっくんたすかった

 

 

0564:名無しのリスナー

 

「ナカまにイれてほしい」

これ引き出したラニちゃんマジ神だろ

 

 

0565:名無しのリスナー

 

いつもはヘィリィのおかげで寝つきがいいんだけど

さすがに今日はちょっと……すぐには寝付けんな……

 

 

0566:名無しのリスナー

 

安定のザコフィジカル逆に安心する

 

 

0567:名無しのリスナー

 

よくがんばった

 

 

0568:名無しのリスナー

 

体力無いのはエルフの宿命なんか……?

おかげでこちらは元気いっぱいですが

 

 

0569:名無しのリスナー

 

俺も街中でわかめちゃんとこんにちわしてみたいわ

浪越市民うらやま

 

 

0570:名無しのリスナー

 

例のソフトクリーム撫子は結局何者だったんだろうな

 

 

0571:名無しのリスナー

 

>>568

アンパン〇ン先輩もお花畑先輩も立派なレディだからその説は不適

 

 

0572:名無しのリスナー

 

ソフトクリームなでこは海草生える

 

 

0573:名無しのリスナー

 

わかめちゃんとおでかけいいなぁ……

 

 

0574:名無しのリスナー

 

>>571

?????

お花畑…………レディ……???

 

 

0575:名無しのリスナー

 

のわちゃんめっちゃ目立つもんな

知名度に反してそこらのキャスターよりか目撃情報集めやすいんじゃね?

 

 

0576:名無しのリスナー

 

>>574

それ以上いけない

レーシックされるぞ

 

 

0577:名無しのリスナー

 

>>574

おまえ……一万年ベロチューされんぞ……

 

 

0578:名無しのリスナー

 

のわちゃん他のユアキャスエルフと絡んでくれないかな……

いやエルフじゃなくてもいいんだけど……じゃれあってほしい……

 

 

0579:名無しのリスナー

 

一人でよーがんばってるとは思うけど、やっぱ企業勢よりは勢い劣るよな

 

 

0580:名無しのリスナー

 

五十鈴はのわちゃんとタイアップすべきだと思う

エルフやぞ。だれがどう見てもエルフやぞ。

 

 

0581:名無しのリスナー

 

案件とか全部自分で取ってこなきゃならんでしょ……つら

 

 

0582:名無しのリスナー

 

のわちゃんにはラニちゃんがいるだろ!!

毎晩ベッドで抱き合う仲やぞ!!!!イチャいやろ!!!

 

 

0583:名無しのリスナー

 

企業勢はそこんとこ強いよな。

グループとしての実績と信用もあるし、専用のエージェントおるから企業案件も取ってきやすいし

メンバーも豊富で幅広く揃ってるから企業側の需要にも応えやすいし

一方でキャスター本人は配信に専念できるからキャスター自身の質も高いし

 

 

0584:名無しのリスナー

 

のわちゃんちゃんと収益化申請してるんかな

投げ銭まだ?養いたいが?

 

 

0585:名無しのリスナー

 

ソロ活って本当大変なんやな……

企業勢は一か月で五万人とか届く子もおるんやろ

のわちゃのレベルならもう五万とか届いてもおかしくねーべ

 

 

0586:名無しのリスナー

 

ソフトクリームなでこちゃん追加情報まだ?

 

 

0587:名無しのリスナー

 

ユースクに明るいプロ業界人がついてないの不安だよな

 

 

0588:名無しのリスナー

 

養いたいわかる

ささやきボイスとか売ってくれるなら秒で買うぞ

 

 

0589:名無しのリスナー

 

えちちモーニングの朝ごはんシーン永遠に見てられる

おいしいものをおいしそうに食べてほしい

俺の稼いだ金でおいしいもの食べてほしい

そして俺のために毎朝美味しい味噌汁を作ってほしい(イケボ

 

 

0590:名無しのリスナー

 

でもマジで収益化申請忘れてる説ない?

前提ラインはとっくに達成しとるやろ?

おじさん心配だよ

 

 

0591:名無しのリスナー

 

ラニちゃんのおかげでセンシティブわかめちゃんおこえフォルダが潤いまくりや

 

 

0592:名無しのリスナー

 

のわちゃんのホットサンドうまそうだった

あれ見てホットサンドメーカー買いました

 

 

0593:名無しのリスナー

 

>>589

最期以外同意だわ

 

 

0594:名無しのリスナー

 

>>589

最後ゆるさんぞお前

 

 

0595:名無しのリスナー

 

ソフトクリームなでこちゃんも同棲しとるんかな……

 

 

0596:名無しのリスナー

 

>>589

最後でDAINASIだよお前……

 

 

0597:名無しのリスナー

 

収益化申請したところで即許可降りるわけじゃ無いやろ

さすがにもう申請済みで現在審査中の段階なんやろ

個人勢だから企業勢よりも審査に時間かかってるだけやろ

 

…………多分……きっと……

 

 

0598:名無しのリスナー

 

やっぱ万全のバックアップ体制敷ける企業勢って安心感あるんやなって

 

 

0599:名無しのリスナー

 

ユースク専門の弁護士とか司法書士みたいなのおらんの?

いろんな手続き代行してくれていろんなお役立ち知識アドバイスしてくれたりするひとおらんの?

 

 

0600:名無しのリスナー

 

にじキャラ社のことピンハネよばわりしてすみませんでした

 

 

0601:名無しのリスナー

 

>>580

今更だけど五十鈴ってそういうことかwwwwwww

確かに適役だわwwwwwwwwwwwELFwwwwwwwwww

 

 

0602:名無しのリスナー

 

>>599

いちおうあるにはあるぞ

キャスターの活動バックアップする専門の会社があってだな、ユーキャスター専門の「にじキャラ」社みたいなもんや

 

てかヒカ(King)そこの代表やで

 

 

0603:名無しのリスナー

 

のわちゃん一万人おめでとう配信はやく

 

投げ銭解禁はやく

 

 

0604:名無しのリスナー

 

>>580,601

 

>小さい妖精、いたずら者の意味。力があり小回りの効く、機動性の高さを表した。

 

>力があり小回りの効く

 

 

>> 力があり <<

 

 

0605:名無しのリスナー

 

五十鈴自動車もそうだし……あの子の容姿なら美容系とか服飾系も行けそうだよな。

飲食系とか、外食産業とか食品会社も狙えそうだし

あと教育教材系もいけるんじゃね?おうたの先生やぞ

 

あとは……やっぱ、エロg

 

 

0606:名無しのリスナー

 

のわちゃんはトラックのイメージないなぁ……

 

 

0607:名無しのリスナー

 

>>604

ゆるしてあげて

 

 

0608:名無しのリスナー

 

おれに地位と権力があればのわちゃんに企業案件持ってったるんやけどな……

 

 

0609:名無しのリスナー

 

>>605

ふつうに音楽教室もいけそうだな

 

 

0610:名無しのリスナー

 

>>604,606

でも実際、小さな女の子がトラック乗り回してるとかギャップ良くない?

 

ロリキャラが大斧振り回したりゴツイ鎧の中身が女児だったりとかそういうの好きだろ??

 

 

0611:名無しのリスナー

 

>>605

のわちゃんとえっちできるゲームがあったら確実に買うな……

 

まあさすがに実在の人物登場させるerogeはautoだろうけど

 

 

0612:名無しのリスナー

 

やっぱ実績がモノを言うんかなぁ……

ノワちゃんなら色々コマーシャルできそうなのに勿体無い

 

 

0613:名無しのリスナー

 

のわめでぃあ視聴者の中に企業の重役はおらんのか

 

 

0614:名無しのリスナー

 

だれか企業案件あげてあげて……

 

 

0615:名無しのリスナー

 

CM企画に許可出すような連中ってジジイ共だろうから

昔ながらの癒着とか慣習とかいろいろあるんじゃね?

テレビにヒカ(King)出れるようになるまでにも相当揉めたと思うぞ

 

 

0616:名無しのリスナー

 

>>610

ちょっと新たな扉が開けそうだわ

 

 

0617:名無しのリスナー

 

しっかしほぼオンリーワンの個性だよな、文字通り触れ合えるエルフとか

埋もれさせるのは全世界の損失やぞ

 

 

0618:名無しのリスナー

 

ネットで話題の動画、とかいう番組に拾われるのを待つか?

知名度上がってくれば影響力も出て来るんじゃね?

 

 

0619:名無しのリスナー

 

芸能界入りしてほしいかって言われるとしてほしくないんだけど、

それはそれとしてテレビでもわかめちゃんが見たい

 

 

0620:名無しのリスナー

 

あれだ、それこそ北欧とかでなら人気出るんじゃね?

わかめちゃんなら現地言語喋れそうじゃん?

 

 

0621:名無しのリスナー

 

>>618

ついに自分達で取材することさえ放棄したテレビ局(笑)の怠慢の結晶か

 

いい時代だよな、バズった動画パクってきて旬の芸能人ワイプで入れりゃ番組一本作れるんだからよ

制作費用抑えられて広告収入ガッポガッポ

 

 

0622:名無しのリスナー

 

盗撮して晒し上げとかわし良くないとおもう

 

 

0623:名無しのリスナー

 

そういえばラニちゃんの単独スレって無い?

あの子もなかなかにオンリーワンな個性だと思うんだけど

 

 

0624:名無しのリスナー

 

さすがに勝手にテレビ局に投稿すんのもな……

 

まあそもそも俺らが投稿できるような動画なんて無いけど

 

 

0625:名無しのリスナー

 

そもそもテレビで取り上げられることってそんな重要か?

このご時世ネットメディアの方が影響力あるまであるぞ

ネットメディアに付いてこれない老人は置いといて

 

 

0626:名無しのリスナー

 

わかめちゃんの魅力あふれる切り抜き動画つくってSNS上げりゃいいんじゃね?

本編URL記載しとけばセーフなんだろ?

 

 

0627:名無しのリスナー

 

確かにテレビ優先すんのはなんか違うな

 

 

0628:名無しのリスナー

 

まあとりあえず今まで通りわかめチャンネルステマします

 

 

0629:名無しのリスナー

 

とりあえずSNSでバズりゃなんとかなるか

あの子のビジュアルならどこかしらが食いつくだろ

 

 

0630:名無しのリスナー

 

マネージャーの存在ってやっぱでっかいんやな……

 

 

0631:名無しのリスナー

 

>>623

さすがに単独スレは無いやろなぁ

名実ともにのわちゃんのアシスタント……ってかオマケみたいな立場だし

ラニちゃん単独で何かしてるわけじゃないし

 

まぁ一部界隈にとても大人気そうな子だってのは解るけど

 

 

0632:名無しのリスナー

 

ようわからんがつまりFA描けばええんやな

htfps://vvvvvv.uploader/domein/meccha_ecchinano.fc.jp/202001050224xxxx/

 

 

0633:名無しのリスナー

 

らにちゃんをえっちな目で見ないでください!!!

 

 

0634:名無しのリスナー

 

ラニちゃんが実質マネージャーなのかなぁ

私生活もおたすけされてるのかなぁ……

 

 

0635:名無しのリスナー

 

>>632

シェフ!!!!シェフのお通りだ!!!!!

 

 

0636:名無しのリスナー

 

>>632

最オブ高かよ!!!メルシー!!!!!ボーノボーノ!!!!トレビアーーーン!!!!!!!

 

 

0637:名無しのリスナー

 

シェフのつぶやいたー捕捉したわ……拡散しとこ

 

 

0638:名無しのリスナー

 

>>632

#わかめ料理 配給たすかる

 

 

0639:名無しのリスナー

 

もう寝ようと思ってたのにこんなのおかずじゃん

 

 

0640:名無しのリスナー

 

これがあるからわかめちゃんスレはやめらんねぇな!!!

 

 

0641:名無しのリスナー

 

仲良きことはてぇてぇことなり

 

 

0642:名無しのリスナー

 

お前らもう寝ろwwwwwwww

 

 

 

 

………………

 

 

………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

 

0750:名無しのリスナー

 

htfps://twbyaiter.com/paparacchi01/status/1260153568641708032

 

 

0751:名無しのリスナー

 

またソフトクリームなでこちゃん目撃されたってマ?

 

 

0752:名無しのリスナー

 

マジかよソフトなでこちゃんじゃん

 

 

0753:名無しのリスナー

 

>>750

内装からしてむぎたか?

どこのむぎただ?

 

 

0754:名無しのリスナー

 

カメラさんもっと寄って

 

 

0755:名無しのリスナー

 

>>750

のわちゃんと一緒だよな

あの子の頭めっちゃ目立つ

 

 

0756:名無しのリスナー

 

あーもしかして撮ってんのかこれ

 

 

0757:名無しのリスナー

 

新キャラか!!のわめでぃあの新キャラか!?!?

 

 

0758:名無しのリスナー

 

撮ってるなこれ。テーブルにカメラみたいの見える

 

 

0759:名無しのリスナー

 

ソフトクリームなでこちゃん一般通行人ってことは無いよな?

 

 

0760:名無しのリスナー

 

新しい仲間がふえるよ!!

白髪和服美少女とかまたキャラ濃いな!!!

 

 

0761:名無しのリスナー

 

すげえ、なんでこんなハイレベルな人材をホイホイ発掘できるんや

 

 

0762:名無しのリスナー

 

もうのわめでぃあってなんなん?

アイドルグループでも目指しとるんか??(歓喜

 

 

0763:名無しのリスナー

 

和服美少女とかツボすぎてやばい

 

 

0764:名無しのリスナー

 

htfps://twbyaiter.com/debagameman_z/status/8641126010325356708

別角度も見つかった

 

 

0765:名無しのリスナー

 

おばあちゃんじゃないよな?めっちゃ若いよな?

 

 

0766:名無しのリスナー

 

若白髪っつっても限度があるぞ!!!

 

 

0767:名無しのリスナー

 

>>764

アッかわいい!!!!!

 

 

0768:名無しのリスナー

 

>>764

かわいい!!!は!!!!??

 

 

0769:名無しのリスナー

 

>>764

おしとやか美少女じゃん……

白髪和服おしとやか美少女とか実在してたの……

 

 

0770:名無しのリスナー

 

のわめでぃあ推します

 

 

0771:名無しのリスナー

 

シオンモール浪越南らしい

サトリで家具買ってたって目撃証言も

 

 

0772:名無しのリスナー

 

>>764

やっべ、正直めっちゃタイプ

 

 

0773:名無しのリスナー

 

和服普段着で着こなすってすげぇな……

 

 

0774:名無しのリスナー

 

いくつくらいだろ……二十いってなくね?

座ってるから身長わかりづらいな

 

 

0775:名無しのリスナー

 

サトリで家具買ってた、って

え?のわちゃん引っ越しするの?

 

 

0776:名無しのリスナー

 

チクショウまた浪越市か!!!

ええ加減にせえよ!!!うらやま!!!!

 

 

0777:名無しのリスナー

 

シオンモールに出没するエルフかぁ……( ˘ω˘ )

 

 

0778:名無しのリスナー

 

Tokyoだいすきエルフもいるから多少はね……

 

 

0779:名無しのリスナー

 

>>776

待て落ち着け、引っ越しの準備中やぞ

 

 

0780:名無しのリスナー

 

ふとん2セット等々けっこう買い込んでたらしい

なおその場にはソフトクリームなでこちゃんも居た模様

 

 

0781:名無しのリスナー

 

ほぇー最近のエルフは都会的なんやなぁ……

 

 

0782:名無しのリスナー

 

お花畑も都会にあるんやぞ

やっぱエルフの森は都会やったんやな

 

 

0783:名無しのリスナー

 

>>780

え、つまり同棲?

 

 

0784:名無しのリスナー

 

>>779,776

残念だけど……

浪越南で買ってるってことは引っ越し先はその近くなんだよなぁ

 

 

0785:名無しのリスナー

 

>>780

同棲じゃん!?!?同性が同棲で新生活じゃん!!!?

やべーぞ!!!がちゆりの塔建てろはやく!!!!

 

 

0786:名無しのリスナー

 

ラニちゃん公認なんですか!!?!?

 

ふたりの交際はラニちゃんのおゆるしを得てるんですか!!?!??

 

 

0787:名無しのリスナー

 

修羅場になんなきゃいいけどな……ラニちゃんのわちゃんだいすきだから……

 

 

0788:名無しのリスナー

 

ちくしょう俺もサトリ行きゃよかった

 

 

0789:名無しのリスナー

 

公式発表待ちかぁ……

まあ撮影してたってことは遅かれ早かれお披露目あるだろな

気長に待つか。楽しみが増えたわ

 

 

0790:名無しのリスナー

 

つぎのヘィリィが待ち遠しいわ

 

待ち遠しすぎてマチコちゃんになったわ

 

 

 

 

………………

 

 

………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

 

 

0943:名無しのリスナー

 

珍しく告知が早いわかめちゃんえらい

 

 

0944:名無しのリスナー

 

明日の夜八時か……いつもよりちょっと早いのな

夜更かししないようにっていう気配りか?

 

 

0945:名無しのリスナー

 

ヘイリィの予告だオラァ!!!

 

 

0946:名無しのリスナー

 

このタイミングでぶっ込んできたってことは

やっぱソフトクリームなでこちゃんのお披露目か?

 

 

0947:名無しのリスナー

 

もうのわめでぃあ自体がひとつの箱になりつつあるんじゃね?

ラニちゃんもなでこちゃんも可愛すぎやろ

 

 

0948:名無しのリスナー

 

ソフトクリームなでこちゃんで通用しちゃってるのわらう

 

 

0949:名無しのリスナー

 

白髪和服美少女めっちゃたのしみ

美少女三人でなかよししてほしい

 

 

0950:名無しのリスナー

 

ていうか引っ越し作業はもういいんか?

自分達のこと優先しててええんやぞ……?

 

 

0951:名無しのリスナー

 

ソフトクリームなでこちゃんに俺のソフトをペロペロしてハードにしてほしい

 

 

0952:名無しのリスナー

 

隠し撮りじゃお顔くわしく見れてなかったから楽しみ

いやもう美少女だってわかってるんだけど楽しみ

お声も楽しみだしつまりめっちゃたのしみ

 

 

0953:名無しのリスナー

 

おk950俺か。立てて来るわ

あと>>951 はさすがの俺もドン引きだわ

 

 

0954:名無しのリスナー

 

らにちゃんと仲良いといいな……

推しが痴情の縺れでギスギスするのは嫌だ……

 

 

0955:名無しのリスナー

 

>>951

うわ……

 

 

0956:名無しのリスナー

 

>>951

ちょっとさすがに気持ち悪い

気持ちはわからんでもないけど言い方が気持ち悪い

トイレの後手洗わなさそう

 

 

0957:名無しのリスナー

 

>>951

お前和服美少女に何しようとしてんの

ティーンの和服美少女とか絶滅危惧ⅠA類やぞ

地球環境の平和と全ての生命のために〇んで

 

 

0958:名無しのリスナー

 

>>951

お前みたいなのがいるから戦争が終わらないんだ

 

 

0959:名無しのリスナー

 

人気すぎやろwwwwww

 

 

0960:名無しのリスナー

 

>>951 の人気に嫉妬しないのでそのまま〇んで

 

 

0961:名無しのリスナー

 

しかしソフトクリームなでこちゃんの肌露出が少ないだけに

ラニちゃんの肌色率が余計目についてしまうな……

 

 

0962:名無しのリスナー

 

ヘィリィが待ち遠しい

月曜日がこんなに待ち遠しいのは初めてかもしれん

 

 

0963:名無しのリスナー

 

わかめちゃんのおかげで仕事始めに希望が持てました

 

 

0964:名無しのリスナー

 

つぶやいたーがんばるわかめちゃんえらいぞ……

ほめてあげような……振り込ませて……

 

 

0965:名無しのリスナー

 

しかし本当大丈夫かわかめちゃん

忙しすぎてしんじゃわないか不安だよ

 

 

0966:名無しのリスナー

 

引っ越ししたってことはこれからもっと頑張るつもりなんだろ

すごいけど……体だいじにしてほしい

 

 

0967:名無しのリスナー

 

>>951 はヒトとして最低だけどそういう薄いブックがあったら買います

 

 

0968:名無しのリスナー

 

どこに引っ越すんだろうなーー

 

おうち紹介とかやってくんねーかなーーーー

 

 

0969:名無しのリスナー

 

【変なとこ】木乃若芽ちゃんを語るスレ_第十六夜【映っちゃう】

htfps://ch_fiction/indextop/qawsedrftg202001cf/wa29yo14/

 

 

0970:名無しのリスナー

 

物件動画見るのめっちゃ好きな人っているよね

不動産屋さんの物件内覧動画とか、インテリア凝るニキのお部屋紹介動画とか

とにかく自分以外の人の住環境見るの好きな人いるよね

 

俺です

 

 

0971:名無しのリスナー

 

先達キャスター達も新居紹介動画とか上げてくれてるからな……

わかめちゃん……先例にならっていいんやで……

 

 

0972:名無しのリスナー

 

>>969 乙

わかめちゃんのへんなとこ見せて

 

 

0973:名無しのリスナー

 

>>969 乙

こんなんあったらクリック不可避やんwwwww

 

 

0974:名無しのリスナー

 

>>969

あざーす!!!!

本当わかめちゃんはセンシティブだな!!!!

 

 

0975:名無しのリスナー

 

しかし今スレ移行すると明日のヘィリィ中にスレ跨ぐかもしれんのよな

 

 

0976:名無しのリスナー

 

一日でどれくらい埋まるかだよな……

 

 

0977:名無しのリスナー

 

今はここ埋めるべきでいいんだよな?

とりあえず梅

 

 

0978:名無しのリスナー

 

次スレ加速させるのは控えた方が良いか

夜になったらさすがにわかめちゃん新情報も出て来んやろ

 

 

0979:名無しのリスナー

 

1000ならわかめちゃんのわかめ無し酒

 

 

0980:名無しのリスナー

 

やっぱ雑談スレと実況スレは分けた方が良かったかもな

 

 

0981:名無しのリスナー

 

ああーーーどこ引っ越しちゃったのママーーー

 

 

0982:名無しのリスナー

 

1000ならビキニ

 

 

0983:名無しのリスナー

 

1000ならそろそろぱんつ

 

 

0984:名無しのリスナー

 

1000なら絆創膏

 

 

0985:名無しのリスナー

 

実況スレよりもハッシュタグのほうが取っ付きやすい説あるからな

というか本来ならソッチで実況してコッチ荒らさない方が良いのかもだ

 

 

0986:名無しのリスナー

 

1000なら絆創膏

 

 

0987:名無しのリスナー

 

1000ならスク水

 

 

0988:名無しのリスナー

 

1000ならメイド服|(ロング)

 

 

0989:名無しのリスナー

 

1000ならミニスカメイド

 

 

0990:名無しのリスナー

 

ソフトクリームなでこちゃんの印象強すぎて明日おなまえ聞いたときに順応できるかどうか不安だわ

 

まぁお披露目されるって決まったわけじゃないんだけど

 

 

0991:名無しのリスナー

 

実況スレは置いとくとして、名言集はほしい

個人URのそういう纏めページとかないもんか

 

あればスレ立てのときにも地味に便利だろうな……

 

 

0992:名無しのリスナー

 

>>988

は?

 

 

0993:名無しのリスナー

 

>>989 あ?

 

 

0994:名無しのリスナー

 

惜しむべくは巫女服のときにソフトクリームなでこちゃんが現れなかったことが……

美少女和服あわせが……

 

 

0995:名無しのリスナー

 

どんな子なんだろうな……楽しみがすぎる

誰かが言ってたけど月曜日が楽しみになるとは思わなかった

 

 

0996:名無しのリスナー

 

1000なら絆創膏

 

 

0997:名無しのリスナー

 

そろそろ当たってほしい

1000なら体操服

 

 

0998:名無しのリスナー

 

さすがに1000踏み潰しニキの暴虐もここまでやろ

 

1000なら巫女服ふたたび

 

 

0999:名無しのリスナー

 

さすがに俺もそろそろ発言自重しとくか……

いっつもタイミング悪くて怒られるもんな

俺べつにそんなん意識してるわけじゃないんだけどなーw

 

 

1000:名無しのリスナー

 

1000ならわかめちゃんは正統派弓エルフ

 

 

1001:

 

このスレッドは1000を越えました。

次回の放送をお楽しみに!

 

 



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165【披露配信】おまたせしました!

 

 

ヘィリィ(こんにちわ)! 親愛なる人間種諸君! 今日も一日お疲れさまです。魔法情報局『のわめでぃあ』局長、かわいいエルフの木乃若芽(きのわかめ)でっす! やー!」

 

「おなじく『のわめでぃあ』技術アシスタント兼局長補佐兼その他いろいろ、かわいい妖精種のシラタニだよ! やー!!」

 

 

『へぃりぃ!』『かわいい』『へぃりぃ!!』『待ってた』『は?かわいいが??』『はじまた』『ヘィリィ!!』『癒したすかる』『ママ……』『ヤーかわいい』『のわちゃの笑顔すき』『かわいい』『やーかわいい』『ラニちゃん見えそ』

 

 

 いつものように軽快なオープニングBGMを流し、新しくなったスタジオの壁に背景映像を【投射】し、親愛なる視聴者さんたちへと笑顔を振り撒く。

 改めまして、こんばんわ。一月六日月曜日、時刻は二十時を回ったところです。

 

 定例配信ではないイレギュラー気味のライブ配信ということもあり、視聴者さんが来てくれるか内心不安ではあったのだが……早めのSNS(つぶやいたー)告知が功を奏したのか、いつもと変わらないくらいの閲覧者数から始めることができた。

 ……いや、むしろいつもよりやや多い説まであるぞ。

 

 

「まず皆様にご報告、というかお礼というか……恐らくはこの画面のちょっと下、概要欄のあたりに記載されてるかと思うんですけど……あの、えっと、あの、あのですね、あの」

 

「お、落ち着いてノワ」

 

 

『どういたしまして』『すごい』『どもるとこかわいい』『なるほどね?』『今夜はお赤飯ね』『すげいよなぁ……』『ママがんばって』『やりやがった』『おめでとう!!』『すごい!!!』『敏腕局長わかめちゃんママ』

 

 

「ッスゥーー……はい、ありがとうございます。……あのですね、わが『のわめでぃあ』のチャンネル登録者数がですね……な、な、なな、なんと! 一万人を(大きく)突破いたしました!! 皆様ありがとうございます!!」

 

「いぇーい! みんなありがとう!!」

 

 

『おめでとう!!!』『おめでと!!!!』『ママおめでとう!!』『一ヶ月で一万はすごい』『おめでとう!!』『もう一万七千なんだよなぁ……』『わかめちゃんすごい』『だいたい切り抜き動画のせい』『ラニちゃん効果』『OMEDETO!!!』『しこしこ動画のせい』『おめでとう!!』『おめでてぇてぇ』

 

 

 

 今日のライブ配信を行うにあたり、ユーザーページからここ数日の各種数字を眺めていたのだが……とりあえず登録者数が五桁に達していたところで目を見開き、しかも千の桁がもう後半になってたことに軽く取り乱した。

 慌ててモリアキに音声通話を繋ぎ、騒ぎを聞き付けてきたラニと霧衣(きりえ)ちゃんとひとしきり興奮してはしゃぎまわったのは記憶に新しい。……まあ今日のお昼のことだもんね。

 

 それで、いったいなぜこの短期間で一万近くも増えたのかと気になったわけだが……パラメーター解析ページとSNS(つぶやいたー)と、おまけにラニが持ってきた謎情報を統合したところ……どうやら、おれの声を使った……その…………淫靡な雰囲気のまとめ動画が、ひとつの原因らしかった。

 白谷さん演出によるあの会のライブ配信、そこで発言させられた『そういうふうに取れる発言』を『そういうふうな雰囲気』に仕立て上げた逸品。元凶である白谷さんも中々だけど、実際に動画にするやつも絶対ロクなヤツじゃない。

 しかしそれでも……我が身のことながら可愛らしく、それでいてセクシーに纏められていた動画の完成度は……ぶっちゃけかなり高かった。くやしい。

 

 それと加えて、もう一つの大きな要因として考えられるのが……どうやら海外からのアクセス数がものすごい勢いで伸びてきているらしいということ。

 モリアキの話にあった……なんだっけ、ドスケベフェアリーガールシラタニだっけ。そんな感じの海外ニキネキに『モーニングルーティーン』動画が受け、そこからおれの見た目に興味を引かれてチャンネル登録してくれて、おまけに彼らの間の(クチ)コミでじわじわ広がってくれた……という形らしい。

 特にセリフや語りが無くても楽しめる動画だったからこそ、言語の壁を越えて受け入れて貰えたということだろうか。英語タグ仕込んどいてよかった。

 

 ……なので。

 

 

「……こほん。失礼しますね。Dear viewers. Thank you so much for your support of our channel. I'm very happy to say that we reached 17,000 reviews in about a month.」

 

「えーっと……『親愛なる視聴者の皆様。私達のチャンネルを支援してくれて、本当にありがとうございます。約一ヶ月で一万七千もの評価に届いたことは、とても嬉しく思っています』だね」

 

 

『!!?』『つっよ』『は?』『なんて?』『Whoa!!?』『AHHHHHHH!!!!』『wtf!!!』『まじか』『What the heaven!!!』『Woohoo!!!』『かしこい』『グローバルロリエルフ……』『Thank you so much too!!』『Mum!! I love it!!!』『歓喜の雄叫びが』『ほええ』

 

 

 

 もしかしたら、といった希望的観測から企んだ一計だったが、どうやらなかなか覿面な効果を発揮してくれたらしい。

 慣れ親しんだ言語での挨拶を受け、海の向こうの視聴者さんたちは喜びの声を聞かせてくれた。

 

 せっかく()()に声を届ける技術があるのに、それを使わないのは勿体無い。動画のほうには字幕設定を行えば良いんだろうけど、ライブ配信はそうはいかない。

 海の向こうからわざわざおれのチャンネルに興味を持ち、時差もあるだろうにわざわざ繋いでくれているのだ。……せっかくなら、彼らにも楽しんでほしい。

 

 

「じゃあ、ここからはボクが。……えっとね、今日の配信はみんなに『お知らせ』があってね。……っていうか、もうどこかで知ってるヒトも居るかもしれないけど……実はわが『のわめでぃあ』に、新しい仲間が加わります!!」

 

「はい。それでは失礼して。Our viewers, we have an announcement for you today. We're delighted to announce the addition of a new member to our "Nowa-Medias"!!」

 

 

 お知らせを告げ、様々な言語で沸き上がるコメント欄を満足げに眺めながら、おれは何気ない動作でカメラの死角でカチコチにこわばるメインゲストの和装美少女へと視線を送る。

 リハーサルは充分に行ったし、本番前には【鎮静(ルーフィア)】もばっちり掛けておいたのだが……やはり初めてのライブ配信、不安の方が大きいのだろう。

 

 だが……それでも、瞳に秘められた強い意思は揺るがない。

 おれたちの助けになりたいと、彼女自信が言ってくれたこと……そこに揺らぎは見られない。

 

 ……だから、心配は要らない。

 

 

 

「……ではお待たせしました! 登場していただきましょう……どうぞ!」

 

 

 さあ、視聴者諸君。度肝を抜かれるがいい。

 この『かわいい』を前に、果たして平静でいられるかな!

 

 



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166【披露配信】ようこそわが局へ!!

 

 

 日本人と欧米人、両者はどちらも同じ人類ではあるのだが……その感受性というか感情の表現方法は、あらゆる点において対照的だ。……と思う。

 

 自らの中で感情を処理しようとする日本人に対し、欧米人は積極的に感情を表に出して共有しようとする。……ように思う。

 おれが印象的に記憶しているのは……世界的に人気が高い、特撮怪獣映画シリーズのうちの一作。世界の命運をも左右する最終作戦で勝利を納めた際の、勝利を収めた日本人陣営のリアクションだ。

 雄叫びを上げるでもなく、誰彼構わず抱擁を繰り返すでもなく……ただぎゅっと瞳を閉じ、拳を握り締め、歓喜にその身を震わせていたのだ。

 これの舞台がもし欧米だったら、作戦指令室の中は歓喜と叫び声と拍手と書類とが盛大に飛び交っていたことだろう。

 

 

 そんな特撮映画の演出と、今回のケースが関係あるのかどうかはわからないが……奇しくも現在のコメント欄は、だいたいそんな感じだった。

 

 

 

「おっ…………お初に、お目に掛かりまする。わたくし、魔法情報局『のわめでぃあ』新人れぽーたー……名を『霧衣(きりえ)』と申しまする」

 

 

 非常に控えめに物静かに、それでいてしっかりと通る声で告げられた、和服白髪狗耳美少女霧衣(きりえ)ちゃんの自己紹介。おれが通訳し終えるのを待つまでもなく、コメント欄は膨大な量の英文感嘆詞で埋め尽くされていった。

 いっぽう我らが日本人視聴者さんたちは……あれ、普通にコメントしてくれてますね。

 

 まあ……とはいっても、

 

 

『は?』『うそ』『は???』『すこ』『やばい』『みみ』『まじかよ』『かわいい』『すこ……』『けもみみ』『ぺろぺろ』

 

 

 などなどなど……お世辞にも知能指数が高いとは言いがたいコメントだったが、おそらくは深く考えずに反射的にキーをタイプした形なのだろう。それだけ彼らの素直な気持ちが伝わってくる。

 

 ……そっか、顔は真顔のまま『クッソワロタwwww』とかタイプするの得意だもんな。言葉は出ずともコメントは別か。

 

 

 

「みっ……右も左もわからぬ、未熟者の身にございますが……若芽様と様々なことに挑戦し、色々と学ばせて戴きたく存じまする」

 

「かっわいいでしょ! どーよ視聴者諸君! かっわいいだろぉ! キリエちゃんかわいいって言って!!」

 

 

『きりえちゃんかわいい!』『かわいいい!!』『かわいいよ!!』『KAWAII!!!』『so cute』『和服かわいい』『みみかわいい!!!』『かわいい!!!!』『みみしゃぶりて』

 

 

 ラニによって盛大に煽られ、コメント欄を埋め尽くす『カワイイ』の波。その直撃を受けた霧衣(きりえ)ちゃんは、頬を朱に染め救いを求めるようにおれを見ながらも……その口元はまんざらでもなさそうに、ゆるやかな弧を描いていた。

 あー……まじでかわいい。

 

 

「こちらの霧衣(きりえ)ちゃんはですね……わたしたちの活動を支援してくださっている、さる名家のお嬢様でして。ちょっと箱入りすぎて世間知らずなところもあるので、ご当主さまから『色々なことを経験させてやってほしい』とお預かりした、という(せっ)て……あっ」

 

「あっ」「えっ?」

 

「せって、せって……ぃんぐ、の上で……セッティングの上で! 我々がお預かりしたお嬢さんなんですね!!」

 

「ねぇノワ、いまヤりました? またヤっちゃいました?」

 

「あーあー。Well, you know what? She is a young lady from a prestigious family, so――」

 

「あからさまに誤魔化してるねぇー? 審議だよ審議ー!!」

 

 

『おっしおき!!おっしおき!!』『設定て』『お漏らしはいけませんわ』『わかめちゃ……おもらししちゃったか……』『これはおしおきが必要でしてよ』『白谷さんヤっておしまいなさい』『ヤっちゃいなさい』『設定って言ったぞ今』『設定かー』『ママ……おしおきされてママ……』

 

 

 欲望が溢れるコメント欄に若干ヒきながら……しかしなかなかいい()()が出来たのではないかと、内心ほっと胸を撫で下ろす。

 というのも、これはほかでもないフツノさま直々の()()()だった。義務では無いが『出来ることなら軽くアピールしておいてほしい』程度の、非常に軽いもの。

 なんでも、神使の特徴を持つ娘をおれの(もと)で働かせ、その娘の出自が『やんごとなき一族』であると匂わせることで……要するに、また他の神様にマウント取ろうとしているのだろう。

 ……しかし、そんなに影響力あるのかねえ、おれって。

 

 

 

「じゃあ民主主義に(のっと)り、ノワには後日視聴者さんの総意に従ってもらおうかね。内容は後日SNS(つぶやいたー)でアンケート取るから、ノワを苛めたい視聴者諸君は見逃さないようにね」

 

「…………は? ちょっ……ちょっと、白谷さん!? ()()わたし聞いてないんだけど!? ねえ!?」

 

「言ってないからねぇ。でもほら、視聴者さんみんな喜んでるよ。視聴者さんの声は大事(だいじ)にしないとね、視聴者さんあっての放送局だもんね。ほらキリちゃん、ノワのかっこいいとこ見ててあげて」

 

「わ、若芽様! さすがでございまする!」

 

「ぅぅぅぅぉのれシラタニよ! (たばか)りおったか!!」

 

「ふひひ」

 

 

 あンの……あのぷにあ○イタズラ妖精め!!

 おれを辱しめたいがためにこの場を利用して……視聴者さんを抱き込んで、わかめちゃん(おれ)お仕置き(イタズラ)するための既成事実を作りやがった!!

 

 

 ……などとまあ、ラニに乗っかって怒ったフリをしてみたものの、おれは根底のところでやっぱり彼女を信頼している。

 事実として、前回の突発配信(わっかのゲーム・リベンジ編)……彼女の()()とやらに乗っかった結果、本日一万七千人ものチャンネル登録者を得ることができたのだ。悔しいが……視聴者さんたちの求めるものを、彼女はよーくわかっている。

 

 それに……おれが本気で嫌がることや、公序良俗に反するようなことはしない(ハズ)。そのあたりをちゃーんと弁えてくれている(ハズな)ので、おれも安心して流されることができるのだ。

 

 

「もぉー……しょうがないなぁラニちゃんは。……まぁ新しい仲間の霧衣(きりえ)ちゃんに免じて、今回のところはおとなしく受けてあげるよ」

 

「ッシャァ!! ナイスゥ!!」

 

 

『やったぜ!!』『ナイスゥ!!』『これは上手い』『ラニちゃんよくやった』『1000ならぱんつ解禁』『おっしおき!おっしおき!』『つぶやいたー張っとけ張っとけ』『おしおきやった!!!』『絶対ぇ見逃すなよ!!』

 

 

 

 ま、まぁ……せっかくのお祝いの日だ。多少ハメを外すのは、大目に見ようじゃないか。

 

 この後は新メンバーの霧衣(きりえ)ちゃんを交え、ちょっとしたレクリエーションを予定している。せっかくの楽しげな流れに水を差すのは、それはさすがに粋じゃない。

 コメント欄も喜んでくれているようだし……まぁいいか。

 

 

 

 

 …………などと余裕ぶっこいていたこの日のことを、おれは後日盛大に後悔することとなるのだが……このときは当然そんなことなど知る(よし)もなかった。

 

 やっぱりイタズラ妖精は油断ならねえってことだな!!!

 

 



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167【披露配信】序列わからせ戦・序

 

 

 わが『のわめでぃあ』の新人れぽーたー、和装いぬみみ娘の霧衣(きりえ)ちゃん。彼女の特技として挙げられるのは、和服の着付けや家事全般。

 お洋服や洋食はまだちょっと未経験だが、こと和の領域のものであれば問題ない。伊達に長年修行してはいないってことだろう。

 

 しかしながら、彼女を主軸に添えて番組を組んでいく場合……そのあたりをメインとして推すには、少々決め手に欠ける。

 和食のお料理番組……とかなら一定の需要は期待できるだろうが、それこそテレビには偉大な先達がおわせられる世界なのだ。某上沼先生とか某平野先生とか。

 彼女ならではの『特徴的な強み』は何があるのか、映像コンテンツとして視聴者さんに楽しんでもらえるものは何があるだろうか。

 

 ライブ配信での交流企画といったら、よく挙げられるのが『遊戯(ゲーム)を通しての交流』だろう。乱闘ゲームだったりレースゲームだったりパーティーゲームだったりと様々だが、どれも白熱した盛り上がりを見せる定番のコンテンツだ。

 しかしながら……おしとやかで可憐で大人しくて控えめな彼女は、残念ながらこれまでコンピューターゲームの(たぐい)に触れたことが無かったらしい。

 そこはおいおいじっくりしっぽり教えさせてもらうとして……じゃあ今回の配信はどうしようか、無難にみんなでおうたでも歌ってお茶を濁そうか。

 ……そんな折、ほかでもない霧衣(きりえ)ちゃん本人の口から、耳を疑う言葉が飛び出てきたのだ。

 

 

「遊戯でしたら……わたくし僭越ながら、鶴城(つるぎ)の宮で五指に入れる種目(もの)がございまする」

 

「エッ!? すごい! ……えっ? でも遊戯って……その、五指に入れる種目(もの)って、なに?」

 

「ふふっ。……()()にございまする」

 

 

 そういって、どこか得意気に胸を張る霧衣(きりえ)ちゃんがお部屋から持ち出して見せたのは……しっかりとした厚紙で作られた箱。

 なるほど()()であれば、ライブ配信で取り上げても映えるかもしれない。日本人なら多くの人が知っていて、それでいて配信者の間で競合はほとんど見られない。おまけに()()は、海外でじわじわ人気が出てきていると聞いたことがある気がする。

 

 

 

 

 

 

 ……とまあ、そんな経緯がありまして。

 本日の霧衣(きりえ)ちゃんお披露目配信では、おれと彼女で()()をやってみようということになったのだ。

 

 

 

「っというわけで、霧衣(きりえ)ちゃんの得意なゲームで遊びます! 霧衣(きりえ)ちゃん、()()はいったい何ですか?」

 

「こちらは、ですね……骨牌(かるた)札、皆様御存知『小倉百人一首』にございまする」

 

「いやぁ、もう……ね? わかるでしょ視聴者の皆さん。こんな可愛い子が(ふる)き良き日本文化を愛してくれてるんですよ……尊い……霧衣(きりえ)ちゃんまじ尊い……」

 

「わ、若芽様……?」

 

 

『尊い』『めっちゃ渋い趣味』『すげえ粋なお嬢さんじゃねえか……』『やまとなでしこ尊い』『容姿だけじゃなく中身も純和風』『ジャパニーズカードゲームOK』『超高純度の和服美少女いいぞ……』『和服似合う美少女すこ』『なかなか見る機会無いからなぁ』

 

 

 最近流行りのネット対戦形式ではない、非電源ゲームと括られるこのジャンル……視聴者さんに不評だったらどうしようかとも思っていたけど、どうやらその心配は杞憂だったらしい。

 おれの日頃の行いが良かったからか、はたまた霧衣(きりえ)ちゃんの正統派和服美少女っぷりが好意的に受け取られたからか(まぁ多分こっちだろう)。ともあれ霧衣(きりえ)ちゃんを交えての百人一首対決は、視聴者さんにも楽しんでもらえそうだ。

 

 

「それじゃ、さっそく準備に移りましょう。ちょっとカメラ動かしますね。……霧衣(きりえ)ちゃん札の準備お願いします。ラニは霧衣(きりえ)ちゃんと札を分けてって」

 

「承知いたしました。……ときに、若芽様」

 

「……こんなんで角度だいじょぶかな。どしたの? 霧衣(きりえ)ちゃん」

 

()()()……如何程(いかほど)お付けいたしましょう?」

 

 

 

 ……ほほう。ほうほうほう。()()()、とな。

 つまりはこの娘っこは……この局長である叡知のエルフわかめちゃんさまに向かって、さも当然のように『ハンデはどれくらい要りますか』などと言ってのけたわけだ。

 

 カメラの配置を終えたおれは、おれの中で渦巻く思いを圧し殺すように、ゆっくりと振り返る。

 字札をおそらく五十枚ずつに分け終えたのだろう……画面右側と左側、同じ高さに揃えられた束を並べ、全く邪気の無い笑顔を向ける霧衣(きりえ)ちゃん。

 

 

「ふふふ…………霧衣(きりえ)ちゃん」

 

「は、はいっ」

 

 

 ……なるほど。いい度胸だ。

 鶴城(つるぎ)神宮で五位に入る実力だ、と本人は言っていたが……ここはひとつ、実力の差というものを理解して貰わないといけないみたいだ。

 

 

 

 

 

「……………………七対三で……お願いします」

 

「はいっ。承知いたしました」

 

「ウーーーン……このヘタレっぷりよ」

 

「だってたぶん勝ち目無いもん!!!」

 

 

『ハンデ貰うんだwwwww』『もらうの!?』『あっさりと力不足を認めるスタイル』『『もん』じゃないんだよ』『六四じゃないんだ……七三っておま……』『よわよわのわちゃん……』『これオチが見えたわ』『のわのわよわちゃん』『よわちゃん』『霧衣(きりえ)ちゃん良い子……』『よわめでぃあだったか……』

 

 

 コメント欄にフルボッコにされてるけど……おれはこの選択を後悔していない!

 だってこうでもしないと『どっちが勝つか』のハラハラドキドキ感を、視聴者さんに味わってもらうことが出来ないからだ!

 

 だから……おれはこの『よわよわ』の(そし)りを、甘んじて受ける覚悟だ。すべては視聴者の皆さんに楽しんでもらうためなのだ。

 

 

 だから……おれはべつに、おこってない。

 おこってないけど、それはそうと視聴者の皆様。いつかおぼえてろよチクショウめ。

 

 

 



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168【披露配信】序列わからせ戦・破

 

 

 現在絶賛ライブ放送中のスタジオ、そのフローリングの床にて……二つの人影が正座で向かい合い、静かに佇んでいる。

 

 西側に座す一人は、おちついた和服を着こなす白髪の美少女。正座の姿勢も堂に入っており、その姿もその表情も大変落ち着いている。

 一方で東側に控えるのは、魔法使いふうのローブを纏う若葉色の髪の少女。表情こそ余裕を形作ろうとしているものの……頼りなさげに揺れる姿勢を見るまでもなく、いかにも自信なさげな様相を呈している。……まぁおれなんだけどね。

 

 

 両者の間には、厚紙で作られたカードがずらりと並べられている。

 それぞれ十五字程度のひらがなのみが書き綴られたそれらのカードは……画面向かって左側の美少女の前には、四段組の七十枚。少しの空白を隔てた対岸、画面向かって右側のおれの前には……三段組の、三十枚。

 

 比率にして、まさに七対三。なかなかに圧のある勢力差であるにもかかわらず、大勢を前にした白髪美少女は穏やかな笑みを崩そうとしない。

 

 

 

 

「えーっと、なかなか大人げないことになってるけど……あらためてルールを説明するね」

 

 

 審判兼進行役であるラニが音頭を取り、おれたちはカメラ方向へと視線を向ける。

 小さくたって高性能なアシスタントさんはカメラの死角から、タブレットPCとにらめっこしつつ口上を述べていく。

 

 

「ルールは標準的な『ゲンペーカッセン』。ランダムで読み上げられる『カミノク』を聞いて、対応する『シモノク』のカードを取り合うゲーム。相手の陣のカードを取ったら、自陣から好きなカードを相手の陣へ押し付けることが出来る。逆に自陣のカードを取られたら敵陣から一枚受け取らなきゃいけないし、『オテツキ』したときにも相手からカードを貰わなきゃいけない。先に自陣を空っぽにしたほうが勝利。……合ってる?」

 

「はいっ。万事問題ございませぬ」

 

「合ってる合ってる。すごいねラニ」

 

「えへへー」

 

「えーっと……This game is called Genpei Gassen, and it's a competitive game using Japanese tanka poems――」

 

 

『おとなげないのわちゃん』『エグい戦力差』『ハンデでかすぎじゃね……』『しゃーねーだろのわちゃんなんだから』『ラニちゃんえらいぞ』『このハンデを抱えて涼しい顔よ』『リアルタイム通訳ぱねぇ笑うしかねえ』『赤ちゃんをのわちゃん呼ばわり草』『コレどっちが年上なんだろうな……』『きりえちゃんマジお姉さん』

 

 

 ラニが『百人一首読み上げソフト』のスタンバイを行い、おれが海外ニキネキ向けに簡単にルール説明を試みていく間、おれはディスプレイを盗み見てコメント欄を確認する。

 恥も外聞もかなぐり捨てたおれの『七対三』に呆れる声が散見されるが、こうでもしないと一方的な展開になってしまうことをおれの直感が告げていた。

 

 源平合戦……というか骨牌(かるた)百人一首は、記憶力はもちろん反射神経と瞬発力と体捌き、長時間に及ぶ集中力と体力などなどを総動員する……意外とハードな種目なのだ。

 その激しさや、一部では『畳上の格闘技』と呼ばれることもあるとかないとかあったとか。

 

 まあ、つまりはですね……いくら記憶力に自信がある叡知のエルフとはいえ、まともに当たって勝てる気がしないわけです。

 

 

 

「……っというわけで、そっちは準備良い?」

 

「はい。いつでも」

 

霧衣(きりえ)ちゃんなんでそんな余裕なの……! あぅぅ……いいよ! 始めよう!」

 

「オッケー! それでは……第一回『のわめでぃあ』杯……いざ尋常に!」

 

 

 

 

 

 合図とともにラニがタブレットを操作し、ランダムで選ばれた一句が今まさに読み上げられようとしている。

 

 札の列を覗き込むように上半身を乗り出すおれに対して、霧衣(きりえ)ちゃんは綺麗な正座姿勢のまま……目蓋を閉じて精神集中を図っているようだ。

 

 思わず見とれてしまいそうなその姿は、とても戦闘開始前には見られないのだが……もしかして序盤はおれに花を持たせてくれようとしているのかもしれない。それはそれで助かるような恥ずかしいような

 

 

『――――ほ「はいっ!!」

 

「「は?」」

 

 

『は??』『は!??』『ふぁ』『アッだめだこれ』『うそやろ』『はっえ』『は……?』『やべえ』『何この』『あっこれ負けたわ』『うせやろ』

 

 

『――――不如帰(ほととぎす) 鳴きつる方を 眺むれば……』

 

「『ただ有明(ありあけ)の 月ぞ残れる』……頂戴致します」

 

 

 静かながら、どこか嬉しそうな霧衣(きりえ)ちゃんの宣言に我に返ると……おれの自陣の上段が一枚欠けており、そこへ霧衣(きりえ)ちゃんの自陣から一枚が差し込まれるところだった。

 それの意味するところは……至極単純。前のめりに構えていたおれの遥か上をいく反応速度と瞬発力で、決まり字『ほ』を認識した霧衣(きりえ)ちゃんの(てのひら)が『たた(ただ)』の札目掛けて飛んできた。

 そしておれは……ろくに反応できなかった。

 

 

「まッ、……まぁまぁ、まだ始まったばかりですし……」

 

「おっ、そうだね。……じゃあ次いくよ」

 

『――――ふ「はいっ!!」

 

「「!!?!?!??」」

 

 

 またしても、たった一文字。

 タブレットが無作為に選び出した一句、その一文字目が発せられた次の瞬間には……今度は霧衣(きりえ)ちゃんの自陣最上段、カメラから見て手前から四番目の札が勢いよく弾け飛んでいった。

 

 

『――――吹くからに 秋の草木の しをるれば……』

 

「『むべ山風(やまかぜ)を (あらし)と云ふらむ』……頂戴致します」

 

 

 すっと立ち上がり、飛んでった札を回収し、しずしずと元の場所へ戻って座り直す。

 タブレットから流れる読み上げの、反復する二順目に被せるように……またしてもどこか得意気な微笑みとともに、霧衣(きりえ)ちゃんは文字札を掲げた。

 

 

 ……あっ、これだめだ。

 

 

 



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169【披露配信】序列わからせ戦・終

 

 

 ()()()()()()()の途中だが……ここで百人一首の『決まり字』について、おれの所見になるが軽く説明しておこう。

 

 

 まず百人一首はその名の通り、百の短歌によって構成されている。読み上げられる『五七五七七(※例外あり)』の一句を聞きながら、場に散りばめられた下の句『七七(※例外あり)』を探すというのが基本的な流れだ。

 

 このとき読み手は『上の句(五七五)』から『下の句(七七)』へと読み上げていくのに対し、競技者が奪い合う字札には『下の句(七七)』しか記されていない。

 つまり……普通に構えている限りでは、上の句を読んでいる間はどの字札が正解なのかは解らないのだ。

 

 ……だが、百人一首の読み札は『短歌』である。

 短歌における上の句と下の句は当然ワンセットなので、読み上げられた『上の句』に対応する『下の句』を()()さえしてしまえば、読み上げが『下の句』に達する前に取り札……字札を探し、取ることが出来るのだ。

 一般的な骨牌(かるた)が『取り札の文字を最初から聞くことが出来る仕組み』――例えば『い』の札は『()ぬも歩けば棒に当たる』など――であるのに対し、百人一首は『取り札の文字へと続く上の句を聞いて、記憶を頼りに判断しなければならない』という点が大きく異なる。

 

 

 とはいったものの……こと骨牌(かるた)遊びに関して言えば、なにも一句丸々記憶する必要は無い。

 

 たとえば、つい先程霧衣(きりえ)ちゃんが弾き飛ばした一枚、そこに記された下の句は『むべ山風(やまかぜ)(あらし)()ふらむ』。

 これには『吹くからに秋の草木(くさき)のしをるれば』という上の句が存在するのだが……この百人一首の中で『ふ』で始まる短歌は、この一句しか存在しない。

 つまりは読み手が『ふ』の一文字を発したその時点で、取るべき下の句は『むべ(略)』だと一発で特定することができる。極論を言うと『ふ』が読まれたら『むへ(むべ)』を取る、ということだけ覚えておけば良いのだ。

 

 むろん、百句全てが一文字で特定できるわけでは無い。百句もあれば一文字目が被ることも当然あり、ぶっちゃけ最初の五文字が被っている句も幾つかある。

 一例を挙げるならば『あさぼらけ あ』と『あさぼらけ う』。前者は『()()ののさとに(略)』、後者は『()()はれわたる(略)』がそれぞれ対応する取り札であり、このケースは六文字目が読まれたところで取るべき札が決定することとなる。

 なお片方が既に読まれた状況下では、消去法により当然もっと早く特定できるのだが。

 

 

 長々と述べたが……要するに、だ。

 超一流の競技かるた選手の戦いは……ほんの数文字が読まれた時点で、狙いすました一手が飛んでいくのだ。

 

 そして……どうしておれが、こんなゆっくりと講釈垂れることができるのかというと……

 

 

 

 

『――――こころにも「はいっ!!」

 

「あぅ」

 

 

『――――わがい「はいっ!!」

 

「ちょっ」

 

 

『――――たご「はいっ!!」

 

「ヒゅっ」

 

 

 …………全く、手も足も出ないんだこれが。

 

 

 

『めっっっちゃつええ』『ワンサイドすぎる』『勝負あったな……』『かるたってこんな速ぇの』『たじたじのわちゃん』『赤子の手を捻るかのように……』『おしとやかなのにつよつよ』『やばい……キュンキュンくる……』『草も生えませんわ』『ママがんばって……』『これはプロ』『速いのに綺麗なんだよなぁ』『キリエちゃんのファンになります』

 

 

 コメント欄の空気も、どうやらおれに勝ち目がないことを察してしまっているようだ。

 ここまで完膚無きまでにボロッボロにされるとはさすがに思っていなかったが……霧衣(きりえ)ちゃんのファンが増えてくれるのなら、おれも『かませ』に徹した甲斐があるというものだ。

 

 ……いや、負け惜しみとかじゃなく。最初から勝てないっていうのはわかってたんですけど。強がりじゃなくてほんとですけど。

 ですけど……はい……まさかここまでとは。

 

 

 

 

「えーっと……結果発表ー…………いる?」

 

「い、いちおう……形式的に……」

 

「う、うん……じゃあ…………結果は二十五枚差で、キリちゃんの勝利です!!」

 

「おめでとう!! チクショウすごい!!」

 

「ふふっ……ありがとうございました」

 

 

 対戦相手に向かって、深々と一礼。まるで剣道や柔道みたいな礼儀正しさに、あらためてこれが(れっき)とした『競技』なんだなぁあということを思い知る。

 結局おれが取れたのは、自分の目の前でヤマを張っていた六枚のうちの五枚のみ。ぶっちゃけ他はすべて諦めてこの六枚に注力していたのだが……それでも一枚取られる体たらく。

 ……いやぁ本当まいった。霧衣(きりえ)ちゃんこれほんとプロレベルなのでは。

 

 

『圧倒的』『し っ て た』『おめでとう!!』『わかめちゃんが手も足もでなかった』『圧倒的お姉さんですわ……』『わかめちゃんがあかちゃんだった』『のわちゃんはのわめでぃあの中でも最弱……』『きりえおねえちゃん!!!』『和服美少女にひざまくらしてほしい』『局長なのに底辺wwwww』

 

 

 思っていた以上におれの地位が危ういことになっていたけど、視聴者さんも霧衣(きりえ)ちゃんの落ち着いた色気にめろめろのようだ。……そう、わかっているではないか(なにがし)よ。霧衣(きりえ)ちゃんは所作がいちいちオトナっぽいんだよな……まだ小さな子ども(※実際の身長差は考慮しないものとする)なのに。

 それはそうと……霧衣(きりえ)ちゃんにはコテンパンに負けたけど、おれがいつラニに負けたというんだ。解せぬ。

 霧衣(きりえ)ちゃんと事を構えたように、今度はラニちゃんと対決企画を組んでみても楽しいかもしれない。……体格差をうまくごまかせる種目があれば、だけど。

 

 というわけで、霧衣(きりえ)ちゃんのお披露目は成功したと思って差し支えないだろう。

 リアルタイム通訳を挟みながらだったので、内容の割には若干押し気味だが……今日はもともと余裕のあるスケジュールだった(のに加え、試合が予想以上にあっさり終わってしまった)ため、そろそろ時間的にもちょうどよさそうだ。

 お知らせを挟んで、クロージングへ向かうことにしよう。

 

 

 

「……はいっ! というわけで……新しい仲間を加えてよりにぎやかになった『のわめでぃあ』ですが、なんと! ……お気づきの視聴者さんも居ましたね。……なんと! このたび我々…………拠点をですね! お引っ越しいたしました! いぇーい!」

 

「いぇーい!」「い……いえー」

 

 

 配信内容やスタジオのレイアウトが劇的に変わるわけではないので、視聴者さんたちにとっては特に興味もない話題かもしれないが……それでも、おれたちがまだまだ上昇思考であるということは解ってくれると思う。

 それに……この『引っ越し』に際して、新しく試みてみたい企画も幾つかあるのだ。

 

 

「新しい拠点はですね、ぶっちゃけ『山』なんですよね。なので大声出してもご近所さんに迷惑掛からないのでありがたいんですが……お庭が、ですね。ちょっと手を加えたいなぁって思ってるので」

 

「お庭って規模じゃないよね、あれ。少なくとも……さっかー? はヨユーで出来る()()はあると思う。……整地すれば」

 

「そう、整地すれば。……現状は控えめに言って『山』なので、ちょっといろいろがんばってみたいとは思ってまして……そこで! 視聴者さんにお知恵を拝借したいと思います!」

 

「おぉ。……というと?」

 

「はいっ。とりあえず……明日、その『山』の写真を何枚かSNS(つぶやいたー)に上げようと思います。……晴れてたら。なので視聴者さんの中で『こういう開拓してみようぜ!』『こんなの作ってみようぜ!』とかいうご提案があれば、その記事へ……できれば参考にできそうな情報とともに、返信(リプライ)を頂けますと幸いです! 鉄腕で疾走(ダ○シュ)しそうな感じのやつですね!」

 

「規模とか予算とか実現可能かどうか等々考慮した上で、おもしろそうなのがあったら実際に企画として進めていこうとも思ってるので……おもしろそうな良い案をどうかたのむよ! 親愛なる視聴者諸君!」

 

 

 村づくりや無人島開拓を行う某人気番組ではないが……完成にはほど遠い状態から少しずつ出来上がっていく様子を見るのは、たぶんとってもワクワクすると思う。

 おれ自身がものづくり大好き人間(エルフ)だからかもしれないが……同じ趣味をもつ視聴者さんが少なからず居てくれると、おれは信じている。

 ……まぁ、誰もいなかったらそのときはそのときだ。モリモリ掘ってアリの巣状の地下シェルターでも作ってみよう。

 

 

 

「それでは、そろそろおわかれのお時間です。『NOWA(えぬおーだぶるえー)IT(あいてぃー)NOWA(えぬおーだぶるえー)IT(あいてぃー)、こちらはインターネット放送局『のわめでぃあ』です。以上で今回の放送を終了いたします』、っと。お相手はわたし木乃若芽(きのわかめ)と」

 

「アシスタント妖精(フェアリー)シラタニと」

 

「ひゅっ、し、しんじんれぽーた、の……きりえでした!」

 

 

 

「それでは……ヴィーャ(ばいばーい)!」

 

 

 



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170【閑話休憩】おふろに潜む罠

 

 

 『かぽーん』て

   だれ考えたんだろ

       すげーよね。

 

 

 はい皆様こんばんわ。健全な人間種諸君の健全なおともだち、健全美少女エルフ動画配信者(ユーキャスター)木乃若芽(きのわかめ)ちゃんです。健全(へぃりぃ)。……ほんと誰が考えたんでしょうね。

 

 あの擬音語ひとつで『場所がお風呂場』で『場面が入浴中』であるということが簡単に伝えられるという……なんて画期的なんでしょう。ほんとすごい便利。

 

 

 

 

 

「ねぇのわー、見て見て。『とびうお』」

 

「ブッフォ」

 

「へっへっへ。やってやったぜ」

 

 

 広々としたお風呂で脱力し、思考に沈むおれのすぐ傍で。

 薄翅を広げた小さな美少女が、一糸纏わぬその身体をぴんと一直線に伸ばし『トビウオ』に見立てて……『どうだ』とばかりに得意気な自慢(ドヤ)顔を向けてくる。

 

 その謎の自信に満ちた表情と脈絡の無さに、ゆるみきったおれの思考は一瞬でオチた。その不意打ちはずるいと思う。

 おれを仕留めたことで満足したのか……てのひらサイズの小さな女の子はちゃぷちゃぷとお湯を掻き分け、ときに頭の先まで完全に潜り、温かな湯の心地よさを全身でもって堪能している。

 

 

 

 ……というわけで、『かぽーん』である。

 

 新しい拠点となった5SLDKの大豪邸……それは浴室に至るまでの広々としたつくりになっており、以前のおれの部屋のユニットバスなんかとは到底比べようもないシロモノだった。……いや、以前のっていうか別に解約してないんだけどね。

 

 しゃもじのようなナンのような(しずく)型のような、ちょっと歪なオーバル型……あっ、洋梨型ってやつか。

 とりあえず、この浴槽。真っ白で真新しい洋梨型の大型浴槽は、おれのような小柄な体型であれば……なんと、完全に寝られてしまう。

 脱力して水面に浮かんでも、頭と足先がつっかえることが無い。しかも温度コントロールできる。フハハハハすごかろう。……はい。

 この浴槽であればおれとラニはもちろん、きりえちゃんも一緒に入れてしまう大きさなのだが……さすがにそれはまずいだろう。

 おれたちのような『まがいもの』とは違う。あの子は生粋の女の子なのだ。

 

 

 

「ああー…………やっば……きもち……」

 

 

 それはさておき……何はともあれ、このお風呂はやばい。昨日はシャワーのみで済ませてお湯張りはしていなかったので、この威力を思い知るのは今日が初めてだったが……即落ちでした。

 四肢のすべてをお湯に委ねて揺蕩うことができ、当然ながら完全プライベート。長い髪を湯槽に浸けても怒られる心配は無いし、ラニみたいに泳いだり潜ったりも自由。……まあさすがにおれが泳ぐには少し狭いか。

 

 今は湯槽の(へり)に頭を預けているが、小さなエア枕でも浮かべてそこに頭を乗っければ完璧かもしれない。温かなお湯に包まれて身も心もゆらゆらと揺らぐのは、それはとっても気持ち良さそうだ。

 

 

 ……しかし、ラニはどうしたんだろう。潜ったきりなかなか浮かんでこない。……とはいっても二十数秒そこらなのだが、そんなにお湯のプールがお気に召したのだろうか。

 

 などと思っていたところ、お湯に揺られるまま仰向けで揺蕩っていたおれの内ももに、わずかな刺激。

 

 それは例えるならば、小さな気泡に下から上へと撫でられたような。

 

 そしてそれが意味するところは……おれの内腿の下方に、その気泡の発生源があるということで。

 

 

 

 

「………………ふっ!」

 

『!! も゛っ! ごがぼぼぼ!!?』

 

 

 ぷかぷか身体を浮かせたままわずかに上体を反らし、左腕をおれの臀部下へと突っ込み……浴槽の底を(さら)うように手を伸ばし、そこへ潜んでいた生物を鷲掴(わしづか)みにする。

 

 エルフ種にとって、自然環境に由来する魔法など朝飯前だ。風や大地や流水を用いた探知術もそのひとつであり、それは水が湯に変わろうとも同様。ひとたび意識すればその存在を見失うことなど無い。

 

 

「…………なにやってんの、ラニ」

 

「げェっほ! ぽぇ! え゛っぽ!」

 

 

 息を止めて潜水中のところをいきなり掴まれるという予想外の事態に、へんなところにお湯が入ったのだろう。

 苦しそうに咳き込む小さな美少女、いたいけで良心が痛みそうな光景ではあるのだが……水中で()()()()()()()()にある程度思い至ってしまっては、おれの口から出てくる声は自然と低いものとなってしまう。

 

 ……確かに、おれは元々の性別は男である。当然恋愛対象は女の子であり、それこそ『わかめちゃん』みたいな可愛らしい子はストライクど真ん中だ。

 だからラニの――おれ同様に男としての精神を持ったこの子の――考えたようなことも解らなくは無いのだが……だからといって、一定の理解は示すとはいえ、ほかでもないおれ自身の下半身を至近距離から凝視されていたとあっては……心から油断しきったリラックス中にそんな視線を注がれていたとあっては、さすがに『おい待てコラ』とツッコみたくもなる。

 

 

 よって…………処す。

 

 

 

「…………ラニちゃんや」

 

「なッ……なにかな、のわちゃんや……」

 

 

 小さな身体をおれの左手指でガッチリと拘束され、白絹のような髪からぽたぽたと水滴を(したた)らせ、虹色の薄翅を力なくはためかせながら……囚われの小さな美少女は引きつった笑みを浮かべる。

 

 

「お風呂。……楽しんでくれてるようで、なによりだよ」

 

「え……えへへっ。じゃ、じゃあボクそろそろ……」

 

「だ め だ よ 。……ちゃんと、隅々まできれいきれいしないと」

 

「ヒッ!?」

 

 

 おれは返すように()()()()笑みを浮かべ、湯から立ち上がり湯槽を跨いで洗い場へと移る。

 広々とした洗い場の壁に掛けられた大きな鏡は、その左右にオープンな収納棚が造作されており……そのうちのひとつ、メラミンのスープカップに立てられた()()におれが右手を伸ばすと、左手に握った小さな身体がびくりと震える。

 

 

「あ、あの……の、のわ…………ねぇ、待っ」

 

「ラニもこの角度なら……鏡、よーく見えるよね」

 

「ね、ねえ! ノワ待って? ねぇまって! ごめん! 謝るから!」

 

「大丈夫大丈夫。ちゃんと弱酸性ビ○レだから。もちもちすべすべの赤ちゃん肌に磨き上げたげるから」

 

「ちょヤぁっ! 冷た……あっ待って! あヒャふぅっ! ヤははひゃっ! やっ、そえだめっ! あヒャはヒゅっ、あっ! そえ、はっ……ごくぼそはっ、極細毛はだえぇっ!! あヒャふきゅッ、ヒャゎっ、……ふャぁぁぁ!!」

 

 

 

 どれだけ大きな声を上げても……近所に家屋の無い山林であれば、他者様に迷惑をかけることは無い。

 大衆向けのユニットバスとはひと味違うこのお風呂場であれば、そもそも密閉性と遮音性は非常に高い。

 

 引っ越し二日目の夜、ゆったり優雅なバスタイム。

 小さくて可愛らしくて、おまけにとてもスケベな妖精さんは……可愛らしい身体を可愛らしく何度も痙攣させながら、おれの(てのひら)の上でその身体を磨き上げられていった。

 

 

 同性どうしの身体洗いっこだから、極めて健全。

 

 

 …………いいね?

 

 



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171【閑話休憩】しずかなよるに

 

 

「あれ、霧衣(きりえ)ちゃんおかえり。お風呂空いたよ」

 

「はいっ。……ただいま、でございます。若芽様」

 

 

 身体を拭き終えたおれたちが脱衣室から出たところで、ちょうど今帰ってきたらしい霧衣(きりえ)ちゃんと鉢合わせた。

 

 どうやらこの家の家事を一手に引き受けるつもりらしい彼女は、この夜更けにも関わらず『各種道具の収納場所や使い方を聞いておきたいから』とテグリさんの住む()()()へと足を運んでいたのだ。

 ぶっちゃけ明日でも良かったんじゃないかとも思ったんだが……メールを送ったテグリさんが『では只今からで。お待ちしています』と言うんだから、しかたない。

 

 ……いやそもそも、テグリさんやリョウエイさんみたいな()()()()に縁の深い方々にとっては……今からの時間こそが本領発揮できる時間帯なのかもしれない。しらんけど。

 

 

「一番風呂ごめんね。気になるようだったらお湯張り直しちゃって」

 

「いえ、家主様の当然の権利にございます。それに、若芽様はお綺麗でございますゆえ。……えっと、シラタニ様? 大丈夫……でございますか?」

 

「あははは大丈夫大丈夫。お風呂が広々だったから、ちょーっとはしゃぎすぎて……のぼせちゃったみたい。ねっ?」

 

「……はーーっ、……はーーっ、」

 

 

 昨晩は立て込みすぎていて浴槽をお掃除出来なかったので、湯槽にお湯を張って浸かったのは今日が初めてとなる。

 つまりおれたちは、この家の本当の意味での『一番風呂』を譲ってもらったわけで。

 そこでのひとときがよりによって()()だったのだと思うと……ちょっと思い出して興奮してきた。いや健全な洗いっこですけど。

 

 そんな『洗いっこ』で精も根も尽き果てたといった様相のラニちゃんは……つやつやすべすべぷにぷにに磨き上げられ、ほんのり紅潮した身体をふわふわタオルにくるまれ、潤んだ瞳に()()()とした表情を浮かべたままおれの腕に抱かれている。

 ……どうやら腰が抜けちゃったらしいので、このままベッドまで連れていこうかなって。

 

 

「じゃあおれたちは先()がるけど……お風呂と一階の電気、あとお願いして良い?」

 

「はいっ。お任せくださいませ。……それでは若芽様、シラタニ様。おやすみなさいませ」

 

「うん。おやすみ、霧衣(きりえ)ちゃん」

 

「…………ぅゆすみー……」

 

 

 霧衣(きりえ)ちゃんは確かに箱入りのお嬢さんだが、決して何もさせてもらえなかった訳じゃない。

 現代日本の常識や知識には、確かにちょっと疎いかもしれないけど……日常生活を送るための知識や技術や、集団生活を送る上での気配りや心構えなど、そのあたりは非常にしっかりしている『良い子』なのだ。

 なので戸締まりも、消灯も、安心して任せることができる。

 

 脱衣所に消えた霧衣(きりえ)ちゃんの、その後の様子を意識しないように自分自身に言い聞かせながら……相変わらず艷っぽい吐息をこぼす相棒を抱き、階段を上っていった。

 

 

 

 

 

 

「はい、到着。……ラニ、おふとんついたよ」

 

「……んぅー……」

 

「あはは……そんなにスゴかった?」

 

「…………うん。……ボクの『男』が跡形もなく溶けて消えるとこだった」

 

「わあ」

 

 

 

 新居におけるおれたちの部屋は……何度か言っているように、わりと落ち着かない広さだ。

 南北にざっくり九メートル、東西はおよそ三.六メートル。イメージとしては一般的な単身向け物件の居室を二つ繋げた感じの空間であり……まあ、つまりは半分に区切ってしまえば(比較的)身近な広さのスペースとなるのだ。

 

 そんなわけで。この部屋におけるおれたちの生活スペースは、南半分に集約されている。

 カッチリとしたラインで表現された家具類は、おれの『なんか良い感じに』『カッコよさげに』というひどく漠然とした要望に応え、価格以上のお店の店員さんが揃えてくれたシリーズものだ。系統でいうと『インダストリアル』とかいうらしい。……たしか。

 デスクとシェルフのセットはキッチリ幅が合わせられ、また棚板のひとつとデスク天板がツライチになるデザイン。またそこに同シリーズのロングシェルフや拡張天板を組み合わせて、使い勝手も抜群。

 実用性のみならず、木部のブラウンとブラックのアイアンが良い感じに空間を引き締めてくれる。……ように感じる。

 

 そんな部屋の片隅……(みや)部分が壁に接するように設置されたベッドの、その隣に配置された間仕切り代わりのオープンシェルフ。

 おれのベッドよりはやや高い位置にある一段が、新しくなったラニの寝室だ。

 

 

「ほらラニちゃん。おふとんだよ。スヤスヤしましょうね」

 

「ぅうぅぅー……ままぁー……」

 

「……まったく。……大人しくしてれば本っ当可愛いんだけどなぁ」

 

「えへへぇー。ノワのほうが可愛いよ?」

 

「ふふっ。……ありがとう。ほら、おふとん入って。……あ、その前にちゃんと服着なよ、風邪引いちゃうよ?」

 

「うぅん……でもさ、ボクのあの服……保温効果ろくに無いよ?」

 

「……ヒラッヒラのチラッチラだもんね」

 

 

 困ったような諦めたような笑みを浮かべながら……結局着衣を纏わぬすっぱだかのまま、ラニは自分用の寝床へともぐっていく。

 ……まあ、プライベートルームの中だもんな。自室では楽な格好で居たいという気持ちもわかるので、おれの口からは何も言うまい。……夏場の風呂上がりとか、おれだってパンイチで徘徊しそうな気がするし。

 これからお出掛けするわけでも訪問客があるわけでもないし、本人が良いなら良いのだろう。

 

 

 

「じゃあ……寝よっか。おやすみ、ラニ」

 

「うん。……おやすみ、ノワ」

 

 

 リモコンで部屋の照明を落とし、真新しい寝具にくるまり目蓋を閉じる。

 今日はずっと在宅でのおしごとだったので、そこまで疲労は溜まらないと思っていたのだが……二時間に及ぶライブ配信とお風呂場での例の一戦は、予想以上に体力を持っていったようだ。

 小さな相棒が寝息を立て始める前に、おれの意識は夢の世界へと沈んでいった。

 

 

 

「…………ノワ……ありがとうね」

 

「………………んん……」

 

 

 沈む直前、どこか『らしくない』ラニの声が聞こえたような気もしたが……まどろみに染まるおれの意識では、それが夢か現かを判断することは出来なかった。

 

 

 ただ……気のせいかもしれないが、少しだけ。

 

 その晩はいつもよりも、少しだけいい夢を見られた気がした。

 

 



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172【閑話休憩】おれたちの新たな力

 

 

 さてさて。

 新拠点での配信者業務も無事に始まり、名実ともに拠点移行が完了した我が放送局であるが……かといって移転前の物件を解約したわけではなく、現在おれの籍は浪越市南区にそのままの形で残されている。

 とはいっても、その戸籍は今の()()ではなく……三十代一般成人男性であった頃の()のものなのだが。

 

 

 今のところはなんとか色々と誤魔化せているものの……戸籍が無いという点については、いい加減何とかしないとマズイだろう。病院とか図書館とか……あと特に免許証とか。

 そう思って以前フツノさまに助言して頂いた区役所窓口へと足を運び、周囲から注がれる奇異の視線に耐えながら『フツノさんに紹介されました。タミベさんお願いします』と伝えたところ……

 

 滅茶苦茶(メチャクチャ)に焦った様子で一人の中年男性がすっ飛んできてくれて、そのまま順番待ちのおじさんおばさんをすっ飛ばして呼び出され、完全個室の相談スペースへとあっさりと通してもらうことが出来た。

 

 

 そこからは……なんか、もう…………いろいろと申し訳なくなるくらいスムーズに()()を進めて貰った。

 常識外れの変更手続きとあっては色々と問題もあるだろうし、なんなら性別も年齢も容姿も全て変わってしまったとあっては問題しか待ち受けていなさそうなものだが……なんというか、人が良さそうというか押しが弱そうなタミベさんは『はは……慣れてますから』などと軽く笑って見せた。

 

 ……あっ、わかっちゃいました。これはアレですね。処理に慣れてるって意味じゃないっすね。フツノさまの無茶振りには慣れてますって意味ですねこれは。

 スマセン……お世話んなりまっす。

 

 

 いちおう処理の形式としては、()の以前の戸籍をベースにしながらも、アレやコレやを書き換える形となるらしい。

 まあ、戸籍に繋がりのある家族に対しては……いずれ自分の口で直接説明しなければならないだろうけど。

 それでもちゃんとした戸籍が得られたというのは、やっぱり非常に安心感がある。

 

 生年月日も現住所も年齢もとりあえずそのままで、性別だけ更新してもらう。ついでに名前も変えるべきかどうかは悩んだけども、女の子で『まさき』という名前も居ないわけじゃないらしいので、とりあえずは保留。

 なんだかんだで三十二年間付き合ってきた名前だ。二度と元の姿には戻れないとはいえ……その名前まで捨ててしまうのは、なんだか寂しい。

 

 

 まあ何はともあれ、フツノさまおよび鶴城神宮という強大な後ろ楯のお力もあり、思っていたよりもあっさりと戸籍に関しては片付いた。

 新しく『女の子』になっ(てしまっ)たおれの住民票を発行してもらい、また県警の担当者さん宛の紹介状もしたためてもらったので……つまりは、これで念願の免許証を更新して貰うことができるのだ!!

 

 

 るんるん気分で区役所を後にしたおれは、上機嫌のまま徒歩五分の警察署へ。総合案内窓口でタミベさんからの紹介状を提示し、()()()()()担当者さんに取り次いでもらい……無事に撮り直した写真で再発行して貰うことができた。

 ……あんまり特記するようなことも特に無かったので、細かい経緯は割愛する。

 強いて言えば、やっぱりおれの容姿は人目を引くらしく、おまわりさんたちが唖然としていたくらいだろうか。

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

「んおお? おかえりノワ」

 

「ラニごめんね、お待たせ…………なにやってんの?」

 

「んー…………実験? ちょっと見てて」

 

「え、実験?」

 

 

 そんなこんなで、長らく悩んでいたことをわずか数十行で片付けてしまい……旧・自宅である南区の1LDK(今となってはこちらが別荘)へと、おれは無事に戻ってきた。

 

 おれが行政手続きに出掛けている間、可愛い相棒は部屋に籠って何をしていたのだろうか。『実験』などと言っていたが、危ないことはしていないだろうか。

 そう不安に思うおれの目の前、珍しく真剣な表情のラニは両手を掲げると……その両(てのひら)が突如、魔法の断裂に呑み込まれた。

 

 …………と。

 

 

「ひゅわぁぁ!?」

 

「おぉ……成功かな? うへへ、やわらか」

 

 

 眼前の光景に息を呑むおれの背後、突如として超至近距離に魔力反応を感知する。

 あまりにも近すぎる反応・不自然すぎる現象に、混乱のあまり硬直するおれの身体を……そんなおれの、よりにもよって臀部(おしり)を、何やら『手』のような感触が無遠慮に撫でさする。

 

 慌てて振り払い振り向いてみても……そこには謎の『手』の姿も無く。

 代わりに……ラニの(てのひら)を呑み込んだものと色合いもテクスチャも非常に似通った、それこそ『亜空間』とでも呼ぶべきものが、おれの尻のすぐそばに佇んでいる。

 そして、更に。その『亜空間』からは不定形ながら……五つの魔力塊が伸ばされているのを、おれの固有視覚(エルフアイ)は確認している。エルフアイなら透視力(おみとおし)

 

 

 

「ちょ、っ…………なにこれ……【門】?」

 

「うんそう。術としての骨格は【繋門(フラグスディル)】だね。その特性を分析して、解析して、応用して、新しい可能性に辿り着いた魔法(もの)

 

「解析、って……えっ? つまりラニのオリジナルってこと!? そんなこと出来るの!?」

 

「ただの人間(ヒュム)種のボクじゃ、絶対に出来なかった。……ひとえに『この身体』と、そう願わせた環境と……何より、キミのおかげだよ。ノワ」

 

「…………おれ、の?」

 

 

 満面の笑みを浮かべる小さな相棒は……おれの尻を撫で回していた『それ』と同形状のものを、もうひとつ造り出す。

 すると『それら』はおれの尻から離れ、殺風景になった部屋を背景に悠然と浮かぶ彼女の、その左右にぴたりと控える。

 

 切断面のような亜空間から、五つの細長い魔力塊を生やす『それら』。

 小さな彼女の()()、一対に広げたられた()()は……まるで。

 

 

 

「空間跳躍式・身体機能拡大魔法。ボクの意のままに動き、感覚を信号として共有でき、注いだ魔力次第でサイズも自在に変動できる『身体部位』を、魔力で擬似的に形成して操れる魔法。……【義肢(プロティーサ)】とでも名付けようかね」

 

「す、すごっ! ……え、めっちゃ便利そうじゃん! すごいよラニ!」

 

「……えへへ。ボクもかなーり気合い入れたんだ。……コレがあれば、頑張るノワのあたまナデナデしてあげたり……ギューってしてあげられるし……」

 

「……ラニ」

 

 

 

 

「ノワの胸にカラダうずめながら、同時におしり撫でたりも出来るようになったし。この大きさの手ならノワの控えめサイズでも、ちゃんと『揉む』ことが出来るようになったよ!」

 

「………………ラニ……」

 

 

 

 良い話かと思ったのになー。

 

 最後の最後で台無しなのだが……ま、まぁ、そんな煩悩も聞かせてくれるほどに、おれのことを信頼してくれているということ……なのだろうか。

 

 ともあれ、偉業であることには変わりない。この便利な術を携えた白谷さんは、今まで以上におれたちの力となってくれることだろう。そんな気がする。

 

 

 

 ……このときのおれの予感は、どうやら正しかったらしく。

 

 ラニの新技術をいかんなく用いた配信は、その後のおれたちの活動に大きな影響を与えることとなるのだが。

 

 

 

「んっ。…………そんなに揉んで楽しい? おれ元男だよ? ……元男の尻だよ?」

 

「楽しい楽しい。今のノワは小さくて可愛くて柔らかいエルフの女の子だからね。めっちゃ興奮する。全然イケる」

 

「そ、そう……程々にしてね」

 

「ノワやさしい」

 

 

 

 思考のほとんどが桃色に染まっているこの妖精さんが、先々そんな大きな働きを果たすことになるなどとは……とてもとても感じられないおれだった。

 

 



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173【秘境探索】初期装備(SSR)

 

「おかえりなさいませ。若芽様、シラタニ様」

 

「「ただいま!!」」

 

「……ふふっ。元気一杯でございまする」

 

 

 自宅となったお屋敷の玄関扉を開くと、大変可愛らしい美少女が『おかえりなさい』と出迎えてくれる。

 世の男達が夢見てやまないような光景に感涙を浮かべそうになりながら、とりあえず我が城となったお屋敷の、だだっ広いリビングへと向かう。

 お役所手続きが午前中の、しかもかなり早い段階で終わったのはありがたかった。……というのも、今日は夕方までに『やっておかなければならないこと』があるためだ。

 

 玄関からただただ真っ直ぐ進んでいき、リビング南側の大開口部サッシを開け放つ。

 するとそこにはお屋敷同様、手入れの行き届いた広大な庭……なんてものは無く。

 

 

「うーん……やっぱり『山』だよね」

 

「『山』っていうか……『山林』に分類されるのかな? こういうのって」

 

「低木も繁茂しておりますゆえ……駆け回るも難しそうでございまする」

 

 

 おうちの充実っぷりとは打って変わって、大自然の生命力を存分に感じさせる敷地が、そこには広がっていた。

 

 

 いちおう『建物の維持管理』はテグリさんの手によって完璧に行われているので、枝葉が建物に掛かったり笹薮がすぐそこまで迫っていたり……といったことにはなっていない。

 建築の際にあらかた伐採・整地が行われたからだろうか。建物の周囲ざっくり五メートルほどは樹木も生えておらず、せいぜいが高さ一メートル程度の低木と雑草に覆われている程度。

 

 しかしそれよりも遠くは、長年手付かずで伸び放題の木の枝や、なかなかの密度で茂る笹薮によって日の光を遮られ、暗く見通しの悪い山林が続いている。

 

 広さだけは『およそ二千八百坪』と聞いているが……その他の状況に関しては、正直把握できていない。

 

 

「とりあえずせっかくだし、実際に見てみよう。きりえちゃんも来る?」

 

「昼餉の支度がございますので……わたくしは留守番を(つかまつ)りまする」

 

「アッ! おれがんばる! 楽しみにしてるね!!」

 

「キリちゃんボク『オヤコドン』がいい! 卵ふわふわのやつ!」

 

「ふふっ……お任せくださいませ」

 

「「ヤッター!!」」

 

 

 和服美少女の手料理と聞いて、俄然やる気が湧いてきたおれたちは……とりあえず頑丈そうなフィールドワーク装備とアウトドアカメラを取りに、遊び盛りの少年のような心境で階段を駈け上がっていった。

 

 

 

 というわけで、装備確認。

 山歩き用の装備を探そうと、以前通販サイトとにらめっこしたこともあったのだが……この体型で着られるアウトドア用高機能装備が存在しなかったので、おれは早々に諦めた。

 ……というのも、ほかではない。おれには頼りになる相棒がついているからだ。というわけで開き直ってラニちゃんに泣きつき、おあつらえ向きの装備を【蔵】の中身から見繕ってもらう。

 

 動きやすそうであり、それでいてこの身体の保護も出来、そして何よりも【適化(オプニュフラ)】の魔法が込められた装備。

 以前着たことがある『影飛鼬(シャルフプータ)脚衣(タイツ)』をベースに、それと同系統の長袖アンダーウェアに袖を通し。その上からは何やら革製と思しき胸当ての縫い付けられた分厚い亜麻布(リネン)の半袖シャツと、下半身にはカンバス地の頑丈そうなキュロット。

 トドメとばかりにブーツと指ぬき(オープンフィンガー)グローブ……こちらの品、なんとなんと竜革(ドラゴンレザー)製だという。

 それぞれには虹のようにも煌めく銀糸で細かな刺繍が施されており、実用性重視な作りでありながらも華やかさを損なわない。……まあ華やかさじゃなくて、魔法効果的な目的の刺繍なんだろうけど。

 

 それらタダモノじゃない装備を身に纏い、謎の革製のベルトを締め、ただならぬ気配を漂わせるナイフをシースごとそこに吊り、これまた刺繍と魔法効果が盛りに盛られたフード付きポンチョを纏った……頭の先から足の爪先まで、完全装備のその姿は。

 

 

 

「……ねぇノワ、弓持ってみない? 絶対似合うよ」

 

「あやっぱり? イイ感じの見た目で纏まってそうだなって思ってた。スカウト系とかそういう人の装備? ……ん、ありがと」

 

「うーわ、めっちゃかわいい。すごい似合う。……そうだね。斥候(スカウト)とか射手(アーチャー)とか野手(レンジャー)とか、そういう子のための装備。……第一線級とまでは行かないけど、在野の走竜(ドレイク)程度なら傷ひとつ付かないよ」

 

「そんなモンスターは棲んでないからね!? 日本には!!」

 

 

 ツッコミを返しながらも、ラニに手渡された短弓(ショートボウ)を携えて軽くポーズをとってみる。肌の露出がほとんど無い装備であれば、特に気恥ずかしさも感じないようだ。

 クローゼットの扉を開いて姿見鏡に全身を映し、そこに出現した『エルフの狩人』の姿に思わず感心してしまう。やはり高性能な装備は見た目も上質なのだろう、アースカラーに纏められた装備一式はなかなかに可愛らしい。

 

 顔と指以外の肌の露出をほぼ抑え、それでいて軽量で動きを阻害しない。ドレイクやらドラゴンやら存在し得ない脅威に備える必要は無いが……少なくともこの装備なら枝に引っ掻かれ破けることも無いだろうし、万が一にもヘビやらハチやらといった危険生物に襲われることになっても安心だろう。

 

 とりあえず、これで未開の秘境(おにわ)を探索する準備は万端だ。

 雨も降らなさそうだし……昨日のライブ配信で告知した『庭の写真』を撮るべく、そろそろ出発しようと思う。

 

 

 

「ねぇノワちょっとまって。こっち向いてみて」

 

「んう?」

 

「アッいーね! さっそく投稿するね! はー可愛い」

 

「……あ、SNS(つぶやいたー)ね。確かにこれは誰かに見てほしいかも。すごい『エルフ』っぽいよね」

 

「そうでしょそうでしょ。いやぁ世のエルフ好きが黙っちゃいないよ。お金取れるレベル」

 

「またまた冗談。……じゃあそろそろ行こう、お昼までに少しでも見てこないと」

 

「うん、そだね…………っと。オッケーつぶやいた! じゃあ行こっか」

 

「ほっほい! じゃあ靴はいて……はいてたわ。じゃあ窓から行っちゃうか」

 

「あらあらはしたない。ケガしないように……しないか。その装備なら」

 

 

 

 この世界の常識外の、明らかに過剰な防御力。おまけにこの衣装ならパンツがチラする心配もないので、安心してアクティブに動き回れる。まぁ覗くような人は居ないけど。

 ……あっ覗きそうな妖精なら居ましたね。すぐそこに。

 

 おれの視線(ジト目)を受けて『きょとん』とする可愛らしい姿に『なんでもないよ』と苦笑を返し、おれたちはお行儀悪く秘境(おにわ)探索へと出発した。

 

 

 



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174 進みながら撮りながら

 

 

「『違和感なしの美幼女エルフ』『弓めっちゃ似合う』『衣装クオリティたっか』『タイツ越しのおみあしたすかる』……ふふふ、そうだろうそうだろう。よーく解ってるじゃないか視聴者諸君よ」

 

「ラニー! このへん! このへん撮ってー!」

 

「おっけーまかせて! はいさーん、にーい、いーち、はいポーズ!!」

 

「ぽーず!! ……って、おれまで映る必要ある? 地形とか環境撮れれば良くない?」

 

「必要アリアリのアリだよ。だって比較対象なきゃ大きさわかんないでしょ、これ」

 

「…………うん、たしかに」

 

 

 

 ボクのでっち上げたそれっぽい理屈に、どうやらあっさりと納得したらしい……わが最愛の女神。

 実際説明した通りの効果もあるといえばあるので、当面の間は『本音』のほうを勘づかれる心配は無さそうだ。ちょろかわいい。

 

 新たに紡ぎだした【義肢(プロティーサ)】を駆使し、ボクの身体よりも圧倒的に大きく重い『タブレット』を器用に操り……ノワの指示する環境写真を撮り溜めながら、彼女の後方やや上空よりふわふわと追従していく。

 ノワの言い出した『視聴者さんに見せる庭の写真とるよー』との基本方針から逸脱しない範囲で、ボクは知恵を総動員して『周囲の地形が映る資料写真でありながら()()にもなる写真』を撮りためていく。

 

 ノワ本人は無頓着だけど……今の服装の写真がものすごい需要を秘めていることを、ボクは知っている。

 

 

 出掛ける前に撮った写真……本格的なエルフ族弓士の衣装を纏ったノワの写真は、既にSNS(つぶやいたー)へ投稿済みだ。ちなみにこちら、本人には『この後に投稿する予定のアナウンスとして』『後続の投稿に注目してもらえるように』と説明し(でっち上げて)許可を貰ってあるので、何も恥じ入る必要はない。

 ボクは撮影地点を探るノワの後に続きながら、時折彼女の指示通りに(彼女ごと)撮影しながらこっそり名詞検索(エゴサ)を行い、先程の呟きの行く末を観察していたのだ。

 

 その結果として、やはり彼女のコスプレ(と思われている)写真を数多く撮っておくべきだという結論に至った。

 

 

 

 

 

「わ、ラニラニ! 水の音……あっち! 川あるよ川!」

 

「ちょっ……落ち着いて。ちょっと枝葉が濃い……払おうか?」

 

「や、おれがやるよ。大丈夫」

 

「あっそのナイフね、魔力を吸って疑似刀身を伸ばす『お約束』なやつだから」

 

「そんな『お約束』お目にかかったことねぇよ!!」

 

「いやほんと気を付けて。ノワが本気で伸ばせば十三キロとか届きかねない」

 

「マジかよこわ」

 

 

 おっかなびっくり二、三度ナイフを振り、周囲の下草を何度か刈り払ったところで、魔力量の調整と『刃』の伸ばし方をだいたい掴んだようだ。

 やっぱり……彼女はすごい。魔力の総量だけじゃなく制御技術(コントロール)もずば抜けている。

 ボクがここまで自在に魔法を行使できるのも、ボクの縁者がひたすらに優れた人材だからに他ならない。

 

 優秀で、つよくて、優しくて……可愛い。

 義務感とか打算とかではなく、単純に本心からこの子の助けになりたいと思える。

 

 だからこそ、彼女の願いが現実のものとなるように……彼女の知名度と人気が少しでも上がるように、ボクは最善を尽くす。

 

 

「……いや、良いねここ。今度は水着でも持ってくる? 水着グラビア撮ろうよ」

 

「なッ!? そ、そんなのやらにゃいよ! ……でも、泳げるようにするのはアリかもね。着替える小屋みたいなのつくって、石とか動かして流れ穏やかにして」

 

「完全プライベートだもんね。……敷地境界もまだ先みたいだし、真っ裸で泳いでても大丈夫だよ。夜営にももってこいだ」

 

「マッパはやだ!! ……でも、ここで一晩過ごすのは気持ち良さそう。…………あっ、写真! 撮らなきゃ!」

 

 

 川の真ん中あたりに鎮座する大岩の上に飛び乗り、気分が高揚してきたらしいノワは可愛らしくポーズをとる。

 ボクはそんな彼女を写真に収めながら、同時に本来の役割もきちんとこなしていく。ふざけるのは自分の仕事をこなしてからだ。やるべきことをやらずに欲望を優先するなんて唾棄すべきことだ。

 

 川のおおまかな形状や幅、水流量や周辺の地形。必要と思われる情報を写真で、ときには音声メモを用いて記録していく。

 規模的には……川というよりは『沢』と呼称するほうが近いかもしれない。幅は(いち)メートルから広いところでも()メートル程度。そのまま浸かってもノワの膝くらいまでだろう。とても泳ぐには至らない。

 しかし……あたりの岸辺は、今でこそ低木や下草が繁茂しているが、そこそこの広さの平地が確保できそうだ。拠点として整備するのも、水を引き込み遊泳地を造るのも、やろうと思えば充分可能なスペースはある。

 

 

「……んん。だいたいメモった。ラニも良い?」

 

「オッケーだよ。じゃあ次どっち行く?」

 

「結構入ってきたからなぁ……そらそろお昼近いし、一旦引き返そう。んで午後からは別の方向行ってみようか。おうちの近場から探ってく形で」

 

「了解。……足下気を付けてね。帰りは登りだよ」

 

「ありがと、大丈夫。……タイツと靴がめっちゃつよい」

 

 

 ボクの所持品が可愛い彼女の助けとなれたなら、ボクとしても非常に嬉しい。

 楽しそうな笑みを浮かべながらひょこひょこと踏み入っていく彼女に続いて、ボクもひとたびの帰路についた。

 

 

 かえったらお昼ごはん。キリちゃん特製のおいしい『オヤコドン』が待っている!

 

 

 




【最近のつぶやき】


――――――――――――――――――


□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】けっこうりっぱな林と、水が流れてる沢を発見。はだかで泳ごうっていったら怒られた。まわり誰もいないのにね。 #わかめ山
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□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】拠点から見たらこんな感じ。ささやぶ?が元気よくて、その向こうはもう林になってる。この方向は全体的に下り坂なかんじ #わかめ山
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□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】ごきげんよう視聴者の諸君!昨日の配信で告知した開拓予定地の写真をのせていくよ。意見ぼしゅうのほうは少し作戦を変更して、ハッシュタグ #わかめ山 をつけてお願いね。そのほうがみやすいから。
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175【秘境探索】車両が解禁されました

 

 

 大変満足感の高いお昼をごちそうになった後、再びラニと二人で探索へと飛び出した。きりえちゃんも誘ってみたのだが、残念なことに『やるべきことが残っておりますゆえ』と断られてしまった。

 お手伝いの申し出さえも丁重に固辞されてしまっては、おれに打つ手は残されていない。進んで家事を引き受けてくれるのはとても助かるのだが、彼女一人に負担を掛けるのもやっぱりよくないと思う。落ち着いたときにでも当番を決めるべきだろうか。

 

 

 

「午前中はあっち方向だったから……こっちいってみよっか」

 

「オッケー! 未踏のダンジョンとか見つかると良いね」

 

「良くないよ!?」

 

 

 能天気な相棒に苦笑を返しながら、生命力を感じさせる藪を掻き分け進んでいく。

 おれの視点の高さでは茎や葉しか目に入らないが、その代わり上空から俯瞰してくれるラニが目を光らせてくれているはずだ。

 

 ダンジョンなんていう非常識なものが、人の手の加えられた別荘地(跡地)に沸いているとは思えないが……そこまで行かずとも『おもしろい』ものを彼女ならば見つけてくれそうな……そんな気がし始めた、まさにそのとき。

 

 

 

「ねぇノワ、ちょっと待って」

 

「ん、んう? どしたの?」

 

「…………ここさ、もしかして……道じゃない?」

 

「え、道? …………いわれてみれば、足下固められてる……ような気もする」

 

「木の生えかたも不自然っていうか……枝が伸びまくってわかりにくいけど、ちょうど道の形に空いてる気がするんだよね」

 

「……すごい、ラニちゃんよく見てるなぁ。とりあえず写真写真」

 

 

 さすがにアスファルトやコンクリートで舗装されたりはしていないが……屈んでよーく見てみればその地面は確かに、人工的に敷き詰められたとおぼしき砂利で覆われている。

 周囲の地面は赤土だったはずなので、白っぽい砂利は尚のこと不自然だ。

 

 つまり、やはりこれは人工物……工事車両なんかが出入りしていた道路(跡地)なのだろう。

 

 

 …………ということは。

 少なくとも車両を出入りさせる必要のある場所が、この先にはあるはずなのだ。

 

 

 

「ねえノワ、そういえばテグリさんのおうちさ、『車両保管庫予定だったみたい』とか言ってなかったっけ?」

 

「…………方角的にも()()っぽいね。あっちはテグリさんちの近くに向かってて……つまり、こっちに辿っていけば」

 

「大きな道路に出られるはず、っと。……いいね! クルマごとおうちの裏まで寄せられるようになるかもよ!」

 

 

 

 今さらになって思い出したが……そもそもこの土地は、売れ残りの別荘区画を抱き合わせて一区画に併合したという経緯がある。

 元々は幾つもの別荘分譲区画に区切る予定だったはずであり、当然それぞれ別荘まで自家用車でアプローチできるようにも計画されていたことだろう。

 であれば、それぞれの区画にアクセスするための私道が計画されていてもおかしくはない。

 

 おそらくは、統合前の区画と区画の境目だったのだろう。今となっては併合された一つの区画の内部、草木に埋もれた砂利道でしかないが……少なくともこの道の行く先には、大きな可能性が待ち構えていることだろう。

 

 

 

「行ってみるっきゃ無ぇよなぁ!」

 

「いっそ道切り拓いちゃおうぜ! そのナイフなら出来るっしょ!」

 

 

 確かに……これが道であるのならば、拓いておいて損はない。仮に道路に繋がっていなかったとしても、敷地内の移動が楽になりそうだ。

 何よりも、どうせこの程度の魔力であれば……一晩眠れば回復する。

 

 

「よっし! いくぞ神剣『十三(キロ)』! おまえの力を見せてみろ!」

 

「気合い入れ過ぎるとマジで危ないから慎重にね!?」

 

 

 

 その後おれは、行く手を遮る低木や笹藪や竹藪を切り払い続け……数十年にわたって録な手入れがされていなかった道を、それはそれは破竹の勢いで切り拓いていき……

 

 

 別荘地『フォールタウン』内の舗装道路、おれの新居へと続く道の途中へと、()()()()()()()()()接続する場所まで辿り着いたのだった。

 

 

 

 

「あー……なるほどねえ。草で塞がってたのもあるけど……気づかないわけだよ」

 

「側溝、っていうか……排水路かなぁ。グレーチングも無いみたいだし……工事中は適当に丸太でも並べて、鉄板とかで橋渡ししてたんだろうね」

 

「本当『掘っただけ』みたいな有り様だ。たぶんだけど、水に削られて広がっちゃったのかな」

 

 

 Uの字というかVの字というか、石と土が露出してしまっているその側溝。よく見かけるコンクリートで形成されたものとは異なる形状であり、ちょっと『やっつけ』感が拭えない。長年雨水が流れ続けたことで一部が崩れてしまったのだろうか。

 今しがた切り拓いてきた私道の行き着く先。そこはアスファルト舗装された幅六メートル道路を目の前に……幅・深さそれぞれおよそ五十センチ程に及ぶ溝によって、非情にも絶たれていた。

 

 

「……どうするノワ、この溝モリアキ氏の車じゃ乗り越えられないよ」

 

「うーん…………繋いじゃうか。繋がれば便利そうだし。水がちゃんと流れれば良いわけでしょ?」

 

「そうだね。橋みたいにできれば一番いいと思う」

 

 

 ……実際に試すのは、勿論のこと初めてだ。この事態を打開しうる知識こそ会得しているものの、今までに使ってきた魔法よりも制御の難度は大幅に上だろう。

 だが、それでも。上手くいけば大きな恩恵が受けられる上、失敗したとしてもデメリットは特に無い。挑戦するためのコストも実質ゼロだし、何度でもやり直しが利く。……やってみる価値はありますぜ!

 

 

 

「というわけで、じゃあ…………【領地(シューレス)掌握(コンダクト)】」

 

 

 周囲の地形状況を探査・把握し、その構成成分を砂粒一つに至るまで完璧に掌握する。

 私道の終端、『橋』を架けるその位置を指定し、溝の底に水が充分流れるだけの幅と高さを確保し……それ以外を()()()()()

 材料なら周囲一帯に、それこそ()()()()()存在する。ただの土だろうと超高圧で圧縮すれば、立派な堆積岩(のようなもの)へと早変わり。

 

 さすがに一枚板で橋を架けるほどの強度は無いが、幸いなことに溝はそこそこの深さがある。アーチ構造を参考にブロック状の構造材を組み上げれば、シミュレーション上では大型トラックだろうと通過できる。……まぁ道幅的に無理だろうが。

 

 

「表面処理……こんな感じかな? なんちゃってコンクリみたいな」

 

「…………すっっっご……やっぱノワすごい。ボクが乗ってもびくともしないよ」

 

「……そりゃそうだろうね」

 

 

 魔法制御を絶やさず維持し続けるには相応の集中力を必要としたが……とりあえず形にすることはできた。

 一度や二度乗り入れる程度では壊れないよう造ったつもりだし、雨に晒されてもちょっとやそっとじゃ劣化しない。……と思うのだが、やっぱ定期的に確認しておこう。よっぽど劣化が見られるようなら、表面にコンクリでも打てばいい。それくらいなら費用もたかが知れているだろう。

 

 というわけで、入り口はこれで開通した。

 あとは……ゴール地点だ。

 

 

「じゃあとりあえず来た道戻って……テグリさんち前まで切り拓くか!」

 

「おっけー! 細かいとこはボクも手伝うよ!」

 

 

 

 刈り取った草木は道端に寄せて除けて、砂利道に埋まっていた根っこ部分も【領地掌握】で吐き出させ、最後に圧力を掛けて路面を固める。砂利道なのは相変わらずだが、これで圧倒的に走りやすくなることだろう。

 

 おれは土地開発魔法の熟練度をものすごいペースで稼ぎながら、秘境(おにわ)の開拓に打ち込んでいった。

 

 





【最近のつぶやき】


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□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】荒れ果てた道っぽいのがあったので、整備してみた。なんと道路から直接にわのなかまで車ではいれるようになった。のわすごい #わかめ山
htfp://tubuyaita.pic/01071436_tjj5p6/


□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】#わかめ山 ノワの汗と赤らんだ顔とてもすてき。写真売れるからとらせてっていったらすごい冷たい目で見られた。たまらない


□kinowaka-media_NOWA-IT:【白谷】けっこうしっかりした林がのこってる。木もまっすぐだし、小屋とか建てるのにもつかえそう #わかめ山
htfp://tubuyaita.pic/01071313_kv9d8e/


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176【探索終了】こんなんでええやろ

 

 

 未開の秘境(おにわ)の探索を進め、なんと一般道路から新居の裏手までの私道を整備し終えた後。

 思っていた以上の開拓っぷりに『こんだけ働けばバチ当たんないだろ』ということで早々に切り上げ、ラニが投稿してくれていたらしい開拓予定地の写真を確認してたところ……モリアキからおれのスマホへ一通のREIN(メッセージ)が届いた。

 先日、彼にはとある取引を打診していたのだが……今回晴れて『準備できたっすよ』との返答メッセージが得られたのだ。

 

 ……というわけで、休憩もそこそこに【門】を開いてもらう。

 一瞬で長距離を移動でき、モリアキと会いたいときに会えるので非常に便利だ。……白谷さん、いつもありがとうございます。

 

 

 

 

 

「お疲れっす先輩。一昨日ぶりっすか?」

 

「おすおっす。度々ごめんなモリアキ」

 

 

 というわけで、日曜日に引っ越し関連のアレソレを手伝って貰って以来となるモリアキ氏。

 先日は車を回収しなければならないということもあり、あの後わざわざモールへ飛び、そこから車を運転して帰宅したらしいのだが……ちょっと彼にばかり負担を掛けすぎたかもしれない。

 今後は彼も泊まれるよう、早めに客間を整備しておくべきだろうか。

 

 

「いえいえなんの。どうせ埃被ってたノートですし。必要なデータは吸い出してあるんで、あとは好きに使ったってください」

 

「ありがとう、ほんと助かる」

 

「ありがとうねモリアキ氏。ボクもパンツ見せたほうがいい?」

 

「ラニはいてないでしょ!! 直はさすがにダメだと思う!!」

 

 

 えっちが過ぎるイタズラ妖精さんの発言に、さすがに『ビキッ』と硬直したモリアキ。わかめちゃんのパンツは恥ずかしがりながらも喜んでくれる彼だが……厳密には人間ではない妖精さんとはいえ、さすがに直でお目にかかるとなると穏やかではない。

 彼はハイスペックで気が利いて、蓄えもなかなかだという超優良物件なのだが……おれ同様『陰』の属性の人物(キャラ)なのだ。ラニちゃんは少し手加減してほしい。

 あらためて頭を下げつつ、彼のお古のノートPCをありがたく受け取る。

 

 ともあれ……今はこちらだ。なんでもこのパソコン、以前出先で『仕事』ができるようにと購入し、実際一時期は重用していたらしいのだが……りんご印の高性能タブレットPCと鉛筆型専用周辺機器が登場して以来、すっかり使わなくなってしまったのだという。

 今となっては型落ちとはいえ、グラフィックのお仕事に使える程度には高性能。しかしりんご印が実践配備されてしまった以上、恐らく日の目を見ることはもう無いだろう。だからといって下手なPCよりは高性能なので、棄てるのも勿体無い……という話を以前聞いたのを思いだし、妥当であろう枚数の諭吉チケットと引き換えに、本日晴れて受け取りに馳せ参じた次第である。

 

 

 ラニの新たな技術と、このPC。……これがあれば、色々と新たな展開へと繋げることが出来るだろう。

 

 

 

「それっと……明日っすよね? 例の()()

 

「そうそう。十時にお伺いする予定だから、八時に出れば良いかなって。だからそれくらいの時間にまた来るけど……ほんとに運転頼んじゃっていいの?」

 

「先輩電車で行くのは気が重いでしょう? 大丈夫っすよ。三納(みのう)市までなら高速乗っても電車より安上がりっす」

 

「本業の締切とか大丈夫? 本当夜更かしとか気を付けてね? 疲れたら疲労回復の魔法掛けるから言ってね?」

 

「はは、大丈夫っすよ。……いざとなったら、そんときは頼らせてもらいます」

 

 

 明日というのは、ほかでもない、おれの新たな企業案件の商談に向かうにあたり、彼には同席をお願いしてあったのだ。

 

 個人勢の動画配信者(ユーキャスター)として生計を立てることこそ目的と掲げているものの、ぶっちゃけおれはその手の契約やらにさほど詳しいわけではない。

 鶴城(つるぎ)神宮の一件は正直例外中の例外だと思っているので、いろいろと参考にはならないだろう。

 

 フリーランスとして現在進行形で活躍する彼の知識を借りるため、また単純に一人だとちょっと寂しくて不安なため、彼には打ち合わせの場に同行をお願いしてあったのだ。

 おれは中身はれっきとした大人だが、見た目幼女一人だけだとさすがにナメられそう……というより、ともすると失礼にあたるかもしれない。なのでちゃんとした大人の男性であるモリアキに『マネージャー』のような形で同席してもらいたい、という考えに至った次第である。

 

 

 

「じゃあそういうことで、明日の八時。よろしくね。……寝坊してたら電話して……」

 

「オッケーっす。お庭探索お疲れ様です」

 

「んへへ。……あとそうだ、今晩ちょっとゲーム実況配信やってみようと思ってるから、よかったら見てみて! 二十時ね!」

 

「マジっすか!? 了解っす。楽しみにしてます」

 

 

 

 今夜の配信は、例によって告知がギリギリとなったゲリラ配信。ゲーム実況の予定ではあるが、どちらかというとテスト配信に近い。

 おれのメインPCは問題ないだろうが……サブPC――より正確に言うと、モリアキより譲り受けたばかりのハイスペックノートPC――がちゃんと動くのか、おれの思い描いているような配信が行えるのか。そのあたりをテストするための配信である。

 

 ……なので、そのあたりに詳しい視聴者(リスナー)さんがいてくれると、コメントとかで教えてもらえるので……ぶっちゃけ非常に助かるのだ。

 

 

 ともあれ……とりあえずはネット環境に繋ぎ、配信する予定のゲームをインストールしないことには話にならない。

 おれはあらためてモリアキに感謝の意を告げると、ラニが繋いでくれた【門】へと身体を滑り込ませ……新居の居間へと一瞬で帰還を果たした。

 

 

 現在時刻は……まもなく十七時。配信開始予定は二十時なので、作業に費やせる時間は二時間ほど。……だってゆっくり晩御飯食べたいし。きりえちゃんがせっかく用意してくれるんやぞ。

 しあわせな晩ごはんを堪能するためにも、おれはセットアップへ向かい動き出した。

 

 

 



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【変なとこ】木乃若芽ちゃんを語るスレ_第十六夜【映っちゃう】

 

 

………………

 

 

………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

 

 

0557:名無しのリスナー

 

ktw---------

 

 

0558:名無しのリスナー

 

へぃりぃの時間だオラァン!!!

 

 

0559:名無しのリスナー

 

ヘィリィ!!!

 

 

0560:名無しのリスナー

 

ヘィリィ!!!!!

 

 

0561:名無しのリスナー

 

はじまた

 

 

0562:名無しのリスナー

 

やーかわいい

 

 

0563:名無しのリスナー

 

やー!(かわいい)

 

 

0564:名無しのリスナー

 

やーってなにwwwwwwwかわいい

 

 

0565:名無しのリスナー

 

やー!

 

 

0566:名無しのリスナー

 

おちついて

 

 

0567:名無しのリスナー

 

ままおちついて

 

 

0568:名無しのリスナー

 

1.7万オーバーおめでとうママ!!!!

はやくすぱちゃ認知して

 

 

0569:名無しのリスナー

 

1万(1.7万)人登録者数おめでとう!!!!!

 

 

0570:名無しのリスナー

 

しこしこ動画効果かぁ…………

 

 

0571:名無しのリスナー

 

っはwwwwwwwwwwww????????

 

 

0572:名無しのリスナー

 

な、なんて……???

 

 

0573:名無しのリスナー

 

なん

 

だと

 

 

0574:名無しのリスナー

 

バイノーラルかよ!!!!すっげ!!!!!

 

 

0575:名無しのリスナー

 

えいごつええwwwwwwwwwwまじか

リアルタイム翻訳すげえ

 

 

0576:名無しのリスナー

 

なるほど、そっか……全世界レベルの美少女なんやな……

わかめ……がんばってるな……

 

 

0577:名無しのリスナー

 

ぇえ……叡智はマジモンだったんか……

冗談抜きにリアルタイム翻訳すげーって

 

 

0578:名無しのリスナー

 

海外のおまえら……よかったな……ウゥ

 

 

0579:名無しのリスナー

 

>>574

たぶんグローバルって言いたかったんだと思うけど

それはそうとしてバイノーラルわかめちゃんはほしいよな……

 

 

0580:名無しのリスナー

 

えいごのせんせえ……!!!

 

わかめちゃんえいごのせんせえ!!!

 

 

0581:名無しのリスナー

 

海の向こうのおれら

おれら以上にガチなのでは(困惑)

 

 

0582:名無しのリスナー

 

お知らせ待ってた!!

 

え待って、リアルタイム翻訳つづけるの

 

 

0583:名無しのリスナー

 

ずっと二か国語のターンwwwwwwwwww

 

 

0584:名無しのリスナー

 

SUGEEEEEEEEEEwwwwwwww

 

 

0585:名無しのリスナー

 

モル氏かな……

 

やっぱリアルタイム通訳進行カッコいいよな……

 

 

0586:名無しのリスナー

 

お知らせ気になってたはずなのに今それどころじゃない

 

 

0587:名無しのリスナー

 

マジでえいご教材の音読案件あげて

俺絶対買うから。頑張って勉強するから

 

 

0588:名無しのリスナー

 

新しい仲間……!!!!!

やっぱりソフトクリームなでこちゃんか!!!!

 

 

0589:名無しのリスナー

 

ソフトクリームちゃんか!!!!

 

 

0590:名無しのリスナー

 

和服っ子とか海外のおれら死ぬんじゃね

 

 

0591:名無しのリスナー

 

ソフトクリームなでこちゃんのことか!!!

絶対美少女だわ、絶対美少女だわ

 

 

0592:名無しのリスナー

 

どうぞ!!!

 

 

0593:名無しのリスナー

 

みみ!!!??!???!??

 

 

0594:名無しのリスナー

 

ケモミミwwwwwww

 

 

0595:名無しのリスナー

 

wwwwwうっそやろwwwwwwwwwwwwくっっっそかわいいwwwwwwwwwwwwすきwwwwwwwwwwww

 

うそやろ…………

 

 

0596:名無しのリスナー

 

は?え?

 

は????

 

すき

 

 

0597:名無しのリスナー

 

け、けもみみ和服美少女…………だと……

かわいい

 

 

0598:名無しのリスナー

 

どういうことだよマジで……ラニちゃんと同じユアキャスアバターか?

でも盗撮写真にも写ってたやん……ええ………どういうこと……

 

 

0599:名無しのリスナー

 

どういうことなの……ええ……ソフトクリームなでこちゃんは実在するんでしょ…………

 

 

0600:名無しのリスナー

 

わけわかめちゃんだが……

久しぶりのわけわかめちゃんなんだが…………

 

 

0601:名無しのリスナー

 

でも!!!!かわいいから!!!!!!オッケーです!!!!!!

 

 

0602:名無しのリスナー

 

美少女エルフ配信者←わからない

同棲相手は美少女妖精←わからない

新メンバー和服ケモミミ美少女←わからない←New!

 

 

0603:名無しのリスナー

 

実際かわいい

めっちゃ好み

 

 

0604:名無しのリスナー

 

清楚かわいい……

 

 

0605:名無しのリスナー

 

かわいいからオッケーです!!!

 

ほら見ろよ海外のおれら発狂してんじゃん

 

 

0606:名無しのリスナー

 

ねこみみじゃねえよな……和服だし狐か?

ちょっとおしり見せてほしい

 

 

0607:名無しのリスナー

 

ファンタジーが過ぎるでしょう

 

久しぶりにわけわかめちゃんなんだが……

 

 

0608:名無しのリスナー

 

もうのわめでぃあだけで美少女配信者事務所つくっちゃおうぜ……

 

 

0609:名無しのリスナー

 

まだ若いのに和服バッチリ着こなしてるもんなぁ……海外ニキ大歓喜じゃん

和服美少女はやっぱつえぇわ

 

 

0610:名無しのリスナー

 

>>606

シンプルにただの変質者でワロタ

 

わかめちゃんこいつです

 

 

0611:名無しのリスナー

 

きりえちゃん

 

きりえちゃんかわいい

 

 

0612:名無しのリスナー

 

きりえちゃん!!!!かわいい!!!!

 

 

0613:名無しのリスナー

 

きりえちゃんかわいい!!!!

 

 

0614:名無しのリスナー

 

きりえちゃんかわいいやったー!!!

 

 

0615:名無しのリスナー

 

おまかわ

 

 

0616:名無しのリスナー

 

きりえちゃんかわいい!!!!

 

 

0617:名無しのリスナー

 

箱入り娘か……

 

って設定wwwwwwwwwwww

 

 

0618:名無しのリスナー

 

おもらし

 

 

0619:名無しのリスナー

 

わかめちゃんおもらししました今

 

 

0620:名無しのリスナー

 

おいィ?お前らは今の言葉聞こえたか?

 

 

0621:名無しのリスナー

 

でもかわいいからオッケーです!!!

 

 

0622:名無しのリスナー

 

いや実際箱入りのお嬢さんでしょきりえちゃん

 

和服って着こなすのめっちゃ難しいぞ……

それに所作がいちいち綺麗だし絶対ただものじゃないぞ……

 

 

0623:名無しのリスナー

 

それはそうとしておしおきされる局長みたいえす(^q^)

 

 

0624:名無しのリスナー

 

>>620

俺のログには何もないな

 

ログには何もないけどアーカイブには残るからおしおきされてほしいな

 

 

0625:名無しのリスナー

 

ラニちゃんのが何枚か上手なんだよなぁ

のわちゃんには悪いけど……あきらめて

 

 

0626:名無しのリスナー

 

ラニちゃんマジ策士

 

そしてまじえっち

 

 

0627:名無しのリスナー

 

さすラニ

 

 

0628:名無しのリスナー

 

のわめでぃあ追ってて良かった……

三人ともレベル高すぎてしあわせ……

 

 

0629:名無しのリスナー

 

きりえちゃんのしゃべり方好きだなぁ……なんかやすらぐ

 

 

0630:名無しのリスナー

 

きりえちゃんのビジュアルとのわちゃんの語学力あれば海外でBAKAUKEなのでは?

むしろ海外でも流行って

 

 

0631:名無しのリスナー

 

いやマジでアイドル事務所じみてきたんじゃね……?

収集つくんか??

 

 

0632:名無しのリスナー

 

「~~でございまする」かわいい

 

 

0633:名無しのリスナー

 

ところで……きりえちゃんも一緒に住んでるのかな……?(ニチャァ

 

 

0634:名無しのリスナー

 

おっぱいがちっちゃいのすき

やっぱ和服には貧乳だよ兄貴!!!

 

 

0635:名無しのリスナー

 

ラニちゃんと修羅場らないでよかった

 

 

0636:名無しのリスナー

 

所作がきれいぐうわかる

 

 

0637:名無しのリスナー

 

ラニちゃんときりえちゃん

のわちゃんを奪い合うよりも一緒に寝て(意味深)ほしい

 

 

0638:名無しのリスナー

 

恥じらうきりえちゃんくそかわやが

 

 

0639:名無しのリスナー

 

>>634

のわめでぃあ全員貧乳説

 

 

0640:名無しのリスナー

 

きりえちゃんの表情

これはわかめちゃんと寝てますわ

 

 

0641:名無しのリスナー

 

仲良きことはてぇてぇことなり

 

 

0642:名無しのリスナー

 

もうだめ、みんなすき

 

 

 

 

………………

 

 

………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

 

0750:名無しのリスナー

 

ルール説明できるラニちゃん偉い

 

 

0751:名無しのリスナー

 

特技まで純和風とか最高かよ

 

 

0752:名無しのリスナー

 

ラニちゃんよくせつめいできた

えらいぞ、ごほうびに綿棒でマッサージしてあげよう

 

 

0753:名無しのリスナー

 

しっかしこの幼女ほんっとおとなげ無ぇな

 

 

0754:名無しのリスナー

 

改めて見るとひっでえwwwwwwwwwwww

 

 

0755:名無しのリスナー

 

七対三って

 

…………七対三って

 

 

0756:名無しのリスナー

 

百人一首って要は覚えゲーだし、叡智のエルフがまけるわけないやろ……

リアルタイム通訳でルール説明できるくらい知能つよつよエルフが負けるわけないやろ…………

こんなにハンデついとるんやで……まけへんやろ……

 

 

0757:名無しのリスナー

 

のわめでぃあ杯

 

 

0758:名無しのリスナー

 

ドキドキしてきた

 

 

0759:名無しのリスナー

 

がんばえーーー

 

 

0760:名無しのリスナー

 

わかめちゃんがんばええええええええ嘘だろwwwwwwwwwwww

 

 

0761:名無しのリスナー

 

ウッソだろwwwwwwww

 

 

0762:名無しのリスナー

 

はえええええwwwwwwwwwwww

 

 

0763:名無しのリスナー

 

「ほ「ハイッ」

 

 

0764:名無しのリスナー

 

のわちゃんの顔よ

 

 

0765:名無しのリスナー

 

唖然wwwwwwwwwwww

 

 

0766:名無しのリスナー

 

゜ ゜( Д )

 

こんな顔してたぞよわちゃん

 

 

0767:名無しのリスナー

 

これは勝負あったわ

 

 

0768:名無しのリスナー

 

決まり字で即手が飛んでく

これは間違いなくプロ

 

 

0769:名無しのリスナー

 

うそやろ……あんなに粛々としてた美少女が……

こんなんギャップ萌えやんずるいやん

 

 

0770:名無しのリスナー

 

かわいくておしとやかなのにつよい

最強

 

 

0771:名無しのリスナー

 

のわちゃんがんばって……

 

 

0772:名無しのリスナー

 

無理だこれ

 

 

0773:名無しのリスナー

 

はっええwwwwwwwwwwww

 

 

0774:名無しのリスナー

 

だからwwwwwwww早いってwwwwwwwwwwww

 

 

0775:名無しのリスナー

 

「ふ「はいっ!!!」」

 

 

0776:名無しのリスナー

 

とんでったwwwwwwwwwww

 

 

0777:名無しのリスナー

 

やだ……カッコいい…………

 

 

0778:名無しのリスナー

 

これは燃える

 

 

0779:名無しのリスナー

 

かわいいのにカッコいい……

 

 

0780:名無しのリスナー

 

おしとやかなお嬢様かと思わせといて

競技になると本気を出す

 

やだ……すき……

 

 

0781:名無しのリスナー

 

これラニちゃんわろてるやろwwwww

 

 

0782:名無しのリスナー

 

七対三でも勝負にならなさそう

 

 

0783:名無しのリスナー

 

やばいわ……もうのわめでぃあヤバすぎるわ……

はやく課金させて

 

 

0784:名無しのリスナー

 

イイショウブカナー…………?

 

 

0785:名無しのリスナー

 

ま、まだ二枚だから……

まだ始まったばっかりだから……

 

 

0786:名無しのリスナー

 

局長がんばって

 

 

0787:名無しのリスナー

 

さあがんばれ

 

 

0788:名無しのリスナー

 

あっ

 

 

0789:名無しのリスナー

 

アッだめみたいですね!!!

 

 

0790:名無しのリスナー

 

はいおしまいだよ!!!おしまい!!!

無理ー!これむりー!!!!!

 

 

 

………………

 

 

………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

 

 

0943:名無しのリスナー

 

いかないで

 

 

0944:名無しのリスナー

 

いっちゃだめ

いかないで

 

 

0945:名無しのリスナー

 

やっぱ引っ越ししてたんか……!

 

 

0946:名無しのリスナー

 

スタジオの床も新しくなってたもんな

 

 

0947:名無しのリスナー

 

お引っ越しおめでとう!!!

ふりこませて!!!1はやく!!!!

 

 

0948:名無しのリスナー

 

引っ越しおめでとう!!!

 

 

0949:名無しのリスナー

 

山、ってことは……

 

やっぱきりえちゃん同棲してるのか!!!

通いじゃねえよな!!!!!やったぜ!!!!!

 

 

0950:名無しのリスナー

 

まって、やっぱきりえちゃん同棲してるの

同じおうちで寝たり同じおうちで着替えたりしてるの

同じおふろに入ったりしてるの

 

 

0951:名無しのリスナー

 

山つき!!!田舎か!!!!!

浪越市近郊の田舎どこだ!!!!おれもすむ!!!!!

 

 

0952:名無しのリスナー

 

ほえええ広いお庭っていうか山いいなぁ

ワイも私有地で気兼ねなくキャンプしたい

 

 

0953:名無しのリスナー

 

いかないで

 

 

0954:名無しのリスナー

 

開拓案とな

おもしろそうじゃんキャンプ場つくってママ

 

 

0955:名無しのリスナー

 

キャンプ場とか作ってほしいけど……一般公開はせんやろなぁさすがに

万がいち一般公開しちゃったら逆に心配だわ

 

 

0956:名無しのリスナー

 

ダッシュ的なやつか

 

 

0957:名無しのリスナー

 

>>950

ムラムラしてるとこ悪いが次スレ頼むぞ

 

 

0958:名無しのリスナー

 

山開拓かぁおもしろそう

しかし何があるかな……キャンプ場とかダメだよな

 

 

0959:名無しのリスナー

 

キャンプ場とかじゃさすがに無理だろうしなあ

畑みたいな何か生産できる環境整えて、生産された物を通販、とか

 

無論おれも買うが

買わせろ

ていうかスパチャ解禁はやく

 

 

0960:名無しのリスナー

 

キャンプ場人気過ぎワロタwwwwwwww

 

 

0961:名無しのリスナー

 

山いいなぁソロキャンしたい

 

 

0962:名無しのリスナー

 

開拓するしないは置いといて

とりあえず女の子三人でなかよく姦しくキャンプしてほしい

姦キャンプしてほしい

 

 

0963:名無しのリスナー

 

きりえちゃん無双がすごすぎて

 

 

0964:名無しのリスナー

 

アウトドア系も需要高いからなぁ

 

 

0965:名無しのリスナー

 

手付かずの山かぁ……おうちもけっこうボロいのかな……

近くに隣家が無いって防犯面とか大丈夫かなあ……

 

 

0966:名無しのリスナー

 

いかないで

 

 

0967:名無しのリスナー

 

引っ越しって諸々費用なかなか掛かるだろうに

よく決断したわ

 

 

0968:名無しのリスナー

 

ネットがあるならどこからでも配信者できるからなぁ

 

 

0969:名無しのリスナー

 

おまえら低まれ……まだ次スレが……

 

 

0970:名無しのリスナー

 

いかないで……

 

 

0971:名無しのリスナー

 

しんじんれぽーたーきりえちゃん

 

 

0972:名無しのリスナー

 

ヴぃーや!!!

 

 

0973:名無しのリスナー

 

ヴィーヤ!!!みんなかわいかったぞ!!!!

 

 

0974:名無しのリスナー

 

お疲れさま!!!!!

 

 

0975:名無しのリスナー

 

次スレ俺立ててきた方が良いか?

 

 

0976:名無しのリスナー

 

まぁ……臨時ヘィリィだし……

まだ定例ヘィリィ残ってるし……

 

 

0977:名無しのリスナー

 

>>950 ニキ生きてるかな……妄想でトリップしてねえよな……

 

 

0978:名無しのリスナー

 

ヘィリィがおわってしまった……あと一週間もがまんできn…………あと四日か!!

すげえ!今週もういっかいヘィリィがある!!!!!

 

 

0979:名無しのリスナー

 

【超極細毛】木乃若芽ちゃんを語るスレ_第十七夜【はぶらしの刑】

htfps://ch_fiction/indextop/qawsedrftg202001jr/yo14ero1/

 

遅くなってすまん○す○んこ

ちょっときりえちゃんの裸身想像してたら手間取った

 

 

0980:名無しのリスナー

 

しかしわかめちゃん本当手広くやるなあ……

 

おうたもお料理も街灯インタビューも、今度はアウトドアにも進出するんか

 

 

0981:名無しのリスナー

 

金曜日ヘィリィがたのしみ

今週一週間がんばる

 

 

0982:名無しのリスナー

 

>>979

おかえり。よくやった

きりえちゃんへの狼藉は聞かなかったことにしてやる

 

俺もラニちゃんにはぶらしの刑したいわ

 

 

0983:名無しのリスナー

 

山林の用途っつったらやっぱキャンプ場しか思い浮かばねんだよなぁ……

 

 

0984:名無しのリスナー

 

次スレ間に合ったか、よかった

ラニちゃんそのうちわからされちゃいそうで不安

 

 

0985:名無しのリスナー

 

>>979

乙でございまする

 

 

0986:名無しのリスナー

 

1000ならロングメイド服

 

 

0987:名無しのリスナー

 

1000ならスク水

 

 

0988:名無しのリスナー

 

そういえば前スレ1000久しぶりの勝利だったんだよな……

何かの間違いでファッションショーしてくれないかな……

 

1000なら勝負ぱんつで

 

 

0989:名無しのリスナー

 

露天風呂とか作って入浴シーンをですね、

周囲に隣家が無いなら全解放しておふろにはいれるよわかめちゃん

 

 

0990:名無しのリスナー

 

ツリーハウスとかおもしろそうだとおもうの

 

 

0991:名無しのリスナー

 

>>988

万が一ファッションショーしてくれたとしてもお前のソレは普通に無理だろ起きろ

 

 

0992:名無しのリスナー

 

1000なら体操服ブルマ

 

 

0993:名無しのリスナー

 

おまえらここで議論するのもいいけど

ちゃんとわかめちゃんつぶやいたーにリプライしてやれよ?

 

 

0994:名無しのリスナー

 

延々と掘り進めて地底ダンジョンつくろうぜ

 

 

0995:名無しのリスナー

 

>>989

わかってると思うけどそのシーン拝めないからな

 

まあバスタオル巻いてて良いから入浴シーンは確かに拝みたいな……

きりえちゃんの発育途上拝みたいよな……

 

 

0996:名無しのリスナー

 

1000なら絆創膏

 

 

0997:名無しのリスナー

 

さっさと移っちまうか

埋め埋め

 

あ1000ならスク水で

 

 

0998:名無しのリスナー

 

のわめでぃあファッションコレクションだけで動画一本できるぞママ

 

 

0999:名無しのリスナー

 

いろんな衣装のわかめちゃん見たいよな

1000なら白魔導師エルフ

 

 

1000:名無しのリスナー

 

諦めない

1000なら弓術士エルフ

 

 

1001:

 

このスレッドは1000を越えました。

次回の放送をお楽しみに!

 

 






9999:名無しのアホ

なんと次回も掲示板が続きます。
掲示板が苦手な方はすみませんが明日の朝までお待ち下さい。

評価とかぶくまとか感想とかお待ちしております。


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【超極細毛】木乃若芽ちゃんを語るスレ_第十七夜【はぶらしの刑】


0000:名無しのアホ

勿体つけといて控えめです。
重ね重ね申し訳ありません。


 

 

 

0001:名無しのリスナー

 

※※※わかめちゃんまとめ※※※

 

名前:木乃 若芽(きの わかめ)

年齢:自称・百歳↑(人間換算十歳程度)

所属:のわめでぃあ(個人勢・序列最下位)

身長:134㎝(ちっちゃいおねえちゃん)

スリーサイズ(自称):68/49/66

主な活動場所:YouScreen

お住まい:浪越市→浪越市近郊山間部(?)

家族構成:ラニ(嫁)、きりえ(嫁)

 

備考:かわいい・よわよわ・へちょへちょ

 

 

0002:名無しのリスナー

 

※※※わかめちゃんまとめ※※※

 

・魔法情報局局長

・合法ロリエルフ

・魔法が使える(マジ説)

・肉料理が好き

・別の世界出身

・ざんねん

・「~~ですし?」

・とてもかしこい

・おうたがじょうず

・実在ロリエルフ

・じつはポンコツ

・命乞いが得意

・わかめ料理(意味深)

・お引っ越ししました!

・ガチ多言語対応

・ 序 列 最 下 位

 

(※随時追加予定)

 

 

0003:名無しのリスナー

 

>>1

スレthx

放送中に使いきらなくて良かったわ

 

 

0004:名無しのリスナー

 

>>1

正直ダメかと思った

 

 

0005:名無しのリスナー

 

>>1-2

スレ乙

・ 序 列 最 下 位 wwwwwwww

 

 

0006:名無しのリスナー

 

>>1

局長なのに最底辺……

 

 

0007:名無しのリスナー

 

嫁ふたりの百合重婚とかたまげたなぁ

 

美少女がどんどん増えるのわめでぃあ

改めてヤバいわよ

 

 

0008:名無しのリスナー

 

というわけでだ

わかめちゃんハウスのお庭について意見を出してこうと思う

願わくばえっちなやつ

 

 

0009:名無しのリスナー

 

嫁&嫁えっちじゃん

 

アバターじゃなくてマジもんの美少女なのがな……よく集まってくれたわ

ラニちゃんは違うけどきっと魂もかわいいと思う

 

 

0010:名無しのリスナー

 

きりえちゃんのつよつよとのわ虐たすかるな月曜の夜

しあわせ

 

 

0011:名無しのリスナー

 

明日写真載せるって言ってたっけ

 

 

0012:名無しのリスナー

 

基本的にダッシュパクりゃ良いんじゃねえの?

反射炉建てようぜ反射炉

 

それはそうとのわ虐たすかる

 

 

0013:名無しのリスナー

 

前スレでチラッと出てたけどツリーハウスおもしろそうだなって思った

ていうか小屋セルフビルドしてほしい

見てみたいわ。まあ単純に俺の趣味なんだけど

 

 

0014:名無しのリスナー

 

1000なら(略)二連続の快挙じゃね?

これは我らが祈りが大天使女神ノワワエルに届き天地開闢五穀豊穣五体当地まったなしなのでは???

のわちゃんのオーメンにアーメンしたいぞ

 

 

0015:名無しのリスナー

 

やっぱキャンプしてほしいよな……狭いテントで三人なかよくくんずほぐれつしてほしい

可能であればテントになりたい

 

 

0016:名無しのリスナー

 

弓士わかめちゃん確かに見てみたいな

 

 

0017:名無しのリスナー

 

そもそも広さがどの程度なのかわかってない件

 

 

0018:名無しのリスナー

 

>>15

じゃあ俺はランタンになるわ

じっとり汗ばむ裸身を艶かしく照らし出してやんよ

 

 

0019:名無しのリスナー

 

ハンモックでおひるねのわちゃん見まもりカメラとかどうよ

川辺で水音拾いながら一時間耐久環境音+ハンモック休憩動画

水音で作業集中効果もあるし、作業に疲れたらのわちゃんの寝顔も拝めてリラックス効果もやばたにえん大作戦よ

のわちゃんが一時間寝落ちせずに耐えられるわけ無いだろうから、どうにかしてラニちゃん抱き込めば勝ち確やぞ

 

 

0020:名無しのリスナー

 

山林の活用事例とか

キャンプ場とメガソーラーしか浮かばないんだが

 

>>14 は宗教関係者各位に是非怒られろ

 

 

0021:名無しのリスナー

 

やっぱ一般人招き入れるのは抵抗あるだろうな……

小屋ぽこぽこ建てて宿泊客招いたりとか楽しそうかなって思ったんだけどあれだわ、これキャンプ場だわ

バンガローってやつだわ

 

 

0022:名無しのリスナー

 

たしかにだわ、広さどんなもんなんだろ

キャンプ場連呼してたけど1ha切ってました、とかじゃまた考え改めなあかんしな

 

 

0023:名無しのリスナー

 

メガソーラー建設するエルフとかある意味見てみたいなwwwwwwwwwww

エルフっていう存在に真っ向からケンカ売ってるぞwwwwwwwwwwww

 

 

0024:名無しのリスナー

 

>>19 個人的にこれ天才だと思う

 

おみずがきれいならわさび沢とかもいいぞ

あの風景はめっちゃ心が癒される

 

 

0025:名無しのリスナー

 

メガソーラーエルフwwwwwwwwwwww

 

 

0025:名無しのリスナー

 

エルフの森を焼いて太陽光発電パネルを植えようキャンペーン

 

 

0026:名無しのリスナー

 

山林っていったったよな

ってことはとりあえず木がいっぱい生えとるやろ

 

カナディアンロッキーなログハウスとかどうじゃ

 

 

0027:名無しのリスナー

 

メガソーラーエルフは海草大繁殖ですやんwwwwwwwwwww

 

 

0028:名無しのリスナー

 

いやぁでもPC詳しいしなあ……電気系つよつよエルフかもしれん……

 

 

0029:名無しのリスナー

 

真面目な話、とりあえず明日の追加情報待ちかね

広さとか環境とか植生とか水源とか

 

それはそうと >>19 いいな

 

 

0030:名無しのリスナー

 

ツリーハウスおもしろそう

木の上の秘密基地とか子供の頃憧れたなぁ

 

 

0031:名無しのリスナー

 

とりあえず収益化に関しての追加情報が何も無かったことについて

 

 

0032:名無しのリスナー

 

なんにせよ明日か

情報開示何時くらいだろうな……

 

 

0033:名無しのリスナー

 

明日つぶやいたー張り付くために今日はもうねるわ

 

 

0034:名無しのリスナー

 

>>31

まさかだよな……いやほんと、まさかだよな……

 

 

0035:名無しのリスナー

 

>>31

不安だよなぁぁぁぁ……

局長ふとしたところでポンコツだからなぁぁぁ……

 

 

 

………………

 

 

………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

 

 

 

0120:名無しのリスナー

 

おまえら………

 

おまえら!!!

 

 

0121:名無しのリスナー

 

まって、マジで1000取るとわかめちゃん着てくれるジンクスとかあるん?

まさかわかめちゃんココ毎回見に来てくれてるとかある??まさかないよなマジで偶然か??

なんなのわかめちゃんスレ……マジなんなの……

 

 

0122:名無しのリスナー

 

我が方の勝利!我が方の勝利!我が方の勝利!我が方の勝利!我が方の勝利!我が方の勝利!我が方の勝利!我が方の勝利!我が方の勝利!我が方の勝利!我が方の勝利!我が方の勝利!我が方の勝利!我が方の勝利!我が方の勝利!

 

 

0123:名無しのリスナー

 

肌の露出がないのにちっちゃくてかわいいってわかる

 

 

0124:名無しのリスナー

 

完璧じゃん……映画とかにそのままでてるやつじゃん……

 

 

0125:名無しのリスナー

 

うそだろお前うそでしょ

かわいい実写なのにかわいい

 

 

0126:名無しのリスナー

 

小道具もめちゃ凝ってるな……弓も矢筒もホンモノっぽいっていうか、『作り物』感が薄くてすごい

まぁ俺本物の弓とか見たこと無いんですけどね

 

 

0127:名無しのリスナー

 

ノリノリでエルフコスしてくれるえるふのわちゃんやさしい

あとかわいい……すき……

 

 

0128:名無しのリスナー

 

フードがなぁ……また良いんだよ……

 

 

0129:名無しのリスナー

 

これは好きなやつ

これは日本人がすきなエルフ

 

 

0130:名無しのリスナー

 

>>127

 

意外とコスプレに寛容なんじゃないかって思えてくるよな

表情が柔らかくてとてもいい

 

 

0131:名無しのリスナー

 

弓士っつって弓だけじゃなくてナイフ吊ってるところが個人的ここ好きポイント

そうなんですよ、獲物にトドメ刺したり血抜きしたりするのに刃物必要なんですよ……

ハンターも剥ぎ取りナイフ携帯するしな……

 

 

0132:名無しのリスナー

 

タイツキュロットいいなぁ……目覚めそう

 

 

0133:名無しのリスナー

 

ぴっちり黒インナーわかめちゃんエッッッ

 

 

0134:名無しのリスナー

 

健康的えっち……

 

わかめちゃんは肌見えなくてもえっち……

 

 

0135:名無しのリスナー

 

きりえちゃんは着せ替えしてくれないのかな……

ああでもこだわり和服してほしい気もする……ああ……

 

 

0136:名無しのリスナー

 

【速報】のわちゃんお庭探索出発

 

平日の昼間からスレ張り付かせるとか……

わかめ……なんてやらしい女だ……

 

 

0137:名無しのリスナー

 

のわちゃんのタイツになりたい

 

 

0138:名無しのリスナー

 

インナーだけの状態も見てみたいな……だめかな……ぴっちりインナーに包まれたちっぱいだめかな……

 

 

0139:名無しのリスナー

 

その格好でおにわ探索するのwwwwwwwww

 

 

0140:名無しのリスナー

 

まってwwwwそれで行くのwwwwwwwwwwww

 

 

0141:名無しのリスナー

 

>>138

だめだよ…………

 

 

0142:名無しのリスナー

 

本当の意味でのレンジャー装備か(?)

 

 

0143:名無しのリスナー

 

ラニちゃんか!撮影たすかる

 

 

0144:名無しのリスナー

 

わかめ探検隊出発と聞いて飛び起きました!!

 

 

0145:名無しのリスナー

 

#わかめ山

なるほど

 

 

0146:名無しのリスナー

 

わかめ山wwwwwwwwww

 

 

0147:名無しのリスナー

 

木が多いな、ツリーハウスわんちゃんあるか

 

 

0148:名無しのリスナー

 

フィールドワークのわちゃんKAWAII~~~~

 

 

0149:名無しのリスナー

 

空撮wwwwwwwwどうやって撮ってんのwwwwwwwwwwww

 

 

0150:名無しのリスナー

 

新しい写真wwwwいちいちのわちゃん入れてるのコダワリを感じるwwwwwww

ラニちゃんのわちゃん好きすぎやろwwwwwww

 

 

0151:名無しのリスナー

 

撮影ドローンか?

こんな枝が伸びまくってそうな山でよー飛ばすわ……

 

 

0152:名無しのリスナー

 

振り向きのわちゃん

 

 

0153:名無しのリスナー

 

見返り美エルフKAWAII

 

 

0154:名無しのリスナー

 

カメラマンのこだわりを感じる

 

 

0155:名無しのリスナー

 

ねぇ写真……これもしかして……

もしかしなくてものわちゃんメインじゃね?

 

 

0156:名無しのリスナー

 

ラニちゃんはかわいいのわちゃんをいっぱいおれらに供給してくれるからやさしい

もっとちょうだい

 

 

0157:名無しのリスナー

 

しっかし衣装かっこかわいいなぁ……

 

 

0158:名無しのリスナー

 

見た感じ針葉樹っぽいな。明るさから考えると結構元気よく伸びてそう

間隔もそんなに疎でも密でもないし、三本に梁を渡してツリーハウスも作れそう

 

もしくは……いっそ伐採して木材にもできるかも

 

 

0159:名無しのリスナー

 

杉っぽいなこれ

さすがに植林か?

 

 

0160:名無しのリスナー

 

全部の環境写真にのわちゃん写ってんじゃねえかwwwwwww

 

 

0161:名無しのリスナー

 

ハンモックかけるのに丁度良さそうな木~~

 

 

0162:名無しのリスナー

 

良い感じの木陰じゃん……テント張りたくなるわ……

ツリーハウスが現実味帯び始めたの嬉しい

 

 

0163:名無しのリスナー

 

なんで平日の昼間にリアルタイムつぶやいたー実況できるんだよお前ら!!!!仕事はどうした仕事は!!!!!(巨大ブメラーン

 

 

0164:名無しのリスナー

 

川あるじゃん!!!

 

 

0165:名無しのリスナー

 

は???すげえ!!

いいなぁ川!!水源いいな!

 

そして相変わらずのわちゃんかわいい

 

 

0166:名無しのリスナー

 

いちいちのわちゃんメインで撮るからなぁこのカメラマンww

 

 

0167:名無しのリスナー

 

水場あるの良いな!

川でおよごうのわちゃん……はずかしくないから……

 

 

0168:名無しのリスナー

 

はだかでおよいでもいいのよ

 

 

0169:名無しのリスナー

 

はだかでおよごう(提案)

 

 

0170:名無しのリスナー

 

ねえwwwwwwwなんでいちいちこんなフェチっぽい写真なのwwwwwww

ラニちゃんwwwwwwwwww

 

 

0171:名無しのリスナー

 

おみずつめたくてきもちよさそうな顔めっちゃえっち

 

 

0172:名無しのリスナー

 

美少女

 

間違いなく美少女

 

 

0173:名無しのリスナー

 

のわちゃんの手が浸かった水ほしい

 

 

0174:名無しのリスナー

 

【#わかめ山】仮まとめ

■人工的な植林の形跡あり

  生育具合はなかなか・伐採可能

  ツリーハウス・ログハウス等

■笹藪あり

  伐採→垣根や日除け等に

  乾燥させて燃料に?

■水源あり

  水質不明・透明度高い

  →飲用可?不可?

  冷たそう・気持ち良さそう

  泳げそう

  →天然プール・養殖池・釣り堀等

 

 

 

………………

 

 

………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

 

 

 

0250:名無しのリスナー

 

まさかの人工物

 

 

0251:名無しのリスナー

 

なんかもー企画モノ写真集みたいだよ

 

 

0252:名無しのリスナー

 

ラニちゃんカントク絶好調じゃん

 

 

0253:名無しのリスナー

 

すげーよな、お昼跨いでそれなりに長時間探索してるのに

一向にKAWAIIが尽きないんだぜ

 

 

0254:名無しのリスナー

 

道(跡地)かぁ

 

 

0255:名無しのリスナー

 

道があったってことはやっぱ人の手が入ってたんやろな

林業やってた説か?

 

 

0256:名無しのリスナー

 

直して使えるのかなぁ

お客さん招いたりできるのかなぁ

 

 

0257:名無しのリスナー

 

ナイフ構えるのわちゃんKAKKO・KAWAII

 

 

0258:名無しのリスナー

 

ナイフが異様に似合う幼女なんなのwwwww

 

 

0259:名無しのリスナー

 

またナイフ凝ってるなぁ……作者だれだろ

衣装ともどもどっかで見た覚えもないし

……まさか自作じゃないよな……

 

 

0260:名無しのリスナー

 

ポーズ指示するラニちゃんもノリノリだし

ポーズ取るのわちゃんもまたノリノリだし

 

ありがたみ……

 

 

0261:名無しのリスナー

 

やっぱエルフだもんな。

単純に森の中似合うわ

 

 

0262:名無しのリスナー

 

これ写真まとめたらそのまま出版できるぞ

ていうか買うぞ?ブース出して??

 

 

0263:名無しのリスナー

 

あれ、道探索断念したんか

 

 

0264:名無しのリスナー

 

まじか、そのまま車道出られるかと思ったけど

 

 

0265:名無しのリスナー

 

まぁ軽く探索するって感じだったし

道の終端探るのはまた今度って感じなんかね

 

 

0266:名無しのリスナー

 

ああそっか、そもそもが『お庭がどんな感じなのか何枚か写真載せるよ』ってスタンスだったっけ……

なんかカメラマン兼カントクがめっちゃノリノリだったから本質忘れてたわ

 

 

0267:名無しのリスナー

 

しかし実際写真集ほしい

今回の写真はありがたく部屋に貼るけど、それはそれとして写真集ほしい

 

 

0268:名無しのリスナー

 

のわちゃんの活動に好意的な写真館とか無いもんか

プロが撮れば絶対ヤバいことになるぞあの子

 

 

0269:名無しのリスナー

 

探索終了かーーーー

おつかれさまーーーーーー

 

 

0270:名無しのリスナー

 

おつかれのわちゃん

おつかれらにちゃん

ただいまきりえちゃん

 

 

0271:名無しのリスナー

 

そっか、おうちできりえちゃんがお帰りを待ってるんやな……

およめさんかな……

 

 

0272:名無しのリスナー

 

おお、今日はここまでか

 

 

0273:名無しのリスナー

 

いうて昼休憩込みで四時間くらいか?

のわのわよわちゃんにしては頑張ったんじゃない?

 

 

0274:名無しのリスナー

 

よわちゃんよくがんばった

 

 

0275:名無しのリスナー

 

一人では耐えきれぬ ちから(よわさ)でもきっと

二人なら大丈夫 私は信じる

 

アウウウオーーーwwwwwww

 

 

0276:名無しのリスナー

 

写真あるとやっぱイメージ湧くな

 

 

0277:名無しのリスナー

 

よーしパパがんばって事業計画プレゼンしちゃうぞ~

 

 

0278:名無しのリスナー

 

金曜ヘィリィがまたたのしみになったわ

 

 

0279:名無しのリスナー

 

>>275

邪神は帰れwwwwwww

 

 

0280:名無しのリスナー

 

やべえwwwwwwwなんかツボったwwwww

 

 

0281:名無しのリスナー

 

そういえばのわちゃん免許持ってるんかな……

開拓っつったってユンボ使えるのと使えないのとじゃえらい違うぞ

まっさかあの山林をシャベル担いで切り開くわけじゃあるまいて

 

 

0282:名無しのリスナー

 

アウウウオーーーwwwwwww

 

 

0283:名無しのリスナー

 

いやもうこれ夫婦じゃん

いや婦婦か

 

いやいや、きりえちゃんもまざって婦婦婦か

 

 

0284:名無しのリスナー

 

>>281

あんな幼女がユンボどころか車運転できるわけ無いだろ常考

運転するんじゃなくて載せられる側だわ

 

あとどうでもいいが、シャベルはさすがに担がんだろ

てかあんな小さい道具で開拓とかマゾゲーにも程がある

 

 

0285:名無しのリスナー

 

のわちゃんがエルフ運転できたらネタとしておもしろいとおもうんだがな……

 

 

0286:名無しのリスナー

 

もしかしてシャベルとスコップ間違えてね?

 

 

0287:名無しのリスナー

 

なんだかんだでツリーハウスが有力候補か

あの子らで楽しむにしても、作ってるの眺めるだけで楽しそうだし

 

あわよくば三人なかよくお泊まりしてほしいな……

 

 

0288:名無しのリスナー

 

エルフ乗るエルフとか

メガソーラーエルフとか

 

のわちゃんの追加属性本当エルフらしくねえな!!

 

 

0289:名無しのリスナー

 

十歳そこらにしか見えないけどな……

本当のとこ何歳なんだろうな……

 

 

0290:名無しのリスナー

 

メガソーラーエルフwwwwwww

 

くっそwwwwせっかく忘れてたのにwwwwwww

 

 

0291:名無しのリスナー

 

>>281,284,286

ちなみに西日本と東日本でシャベルとスコップ真逆のものを指すとか聞いたような気がするからソレじゃね?

 

 

0292:名無しのリスナー

 

どうぶつ飼おうぜどうぶつ

ヤギさん一家と柴犬おむかえしようぜ

 

 

0294:名無しのリスナー

 

のわちゃんは百歳児。いいね

 

 

0295:名無しのリスナー

 

>>291

ggってきたわ。目から鱗だわ。

地域によって呼び方もまちまちなのか……こりゃ混乱するわ

 

 

0296:名無しのリスナー

 

ああ!!柴犬じゃね!?きりえちゃんのみみ!!

きりえちゃんイヌっこなんじゃね!!??こりゃのわちゃんラブ勢まちがいないですわ!!!

 

 

0297:名無しのリスナー

 

まさかわかめちゃんスレで知識が増えるとは思わなかったわ……

 

 

0298:名無しのリスナー

 

数多あるキャスターの中からわかめちゃんというお宝を掘り当てたおれらは

まさにシャベル・スコップの加護を受けとったわけやな(ドヤ

 

 

0299:名無しのリスナー

 

もうメガソーラーエルフで全部吹っ飛んだわw

 

 

0300:名無しのリスナー

 

>>296

つ、つまり……なんですか?夜な夜なのわちゃんの未発達ぼでぃをぺろぺろしてるっていうんですか?

 

>>298

ちょっと何言ってるかわかんないですね

 

 

0301:名無しのリスナー

 

>>298

ちょっと何言ってるかわかんないっすね

 

 

0302:名無しのリスナー

 

>>296

まって、今すごいエッチな気分になってきた

 

 

0303:名無しのリスナー

 

エッチなことしたんですか

 

 

0304:名無しのリスナー

 

お前らちゃんと #わかめ山 つぶやいとけよ???

露天風呂ってつぶやくのわすれんなよ!!?!?!

 

 

 

 

………………………………………………

 

 

………………………………

 

 

………………

 

 

 

 

 





9999:名無しのアホ

明日は通常営業に戻ります。
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177【閑話休憩】思わぬ適性

 

 

 画面の暗転が明けると同時に、自分達が乗せられた輸送機がマップ上空を横切り始める。

 プレイヤー達が我先にと降下していくのを尻目に、私はどうしたもんかとしばし思考に沈む。

 

 ……まぁ別にどこでもいいや。どこを選んでもどうせ大して変わらないし。

 

 

 低ランクでの試合なんて……知人からの頼みと上からの命令でもなければ、好き好んで入りもしない。

 私とあの子達をコラボさせて盛り上げたいのだろうけど、実力の乖離した相手と無理やり組まされたところで普段通り楽しめるわけがない。それにサブアカウントを使っての『初心者狩り』なんて、格好悪いったらありゃしない。……この上なく気乗りしないが、業務命令とあらば首を縦に振るしかない。

 せめてもの抵抗で『イメージダウンになるから()()()()()は出さない。通話もしない。名前と身元を全て隠してお助けプレイヤーに徹する。練習してランクが上がったら本アカでコラボする』という妥協案を引き出し今日に臨んだものの……それでも気乗りしないことは変わらない。

 

 しかし……私の他に指導できそうな身内が居ないというのだから、仕方無い。

 全てを諦め、盛大な溜め息と共に吐き出し……今はゲームに集中すべく、適当な地点を目指して降下していく。

 ……未来のコラボ相手(候補)が慌てたように後に続くが、正直見ている余裕があるとは思えない。どう動けばこの子を成長させられるのか、皆目見当もつかない。私はそこまで頭が良い部類じゃ無いのだから。

 

 

 

 着地とほぼ同時、既に銃器を調達し終えた他プレイヤー同士の交戦音が、どこからともなく聞こえてくる。

 いくら自信があるとはいえ、銃を持たない状況で勝てるとは思っていない。このゲームのジャンルはFPS、一人称視点のシューティングゲーム……銃を撃ってなんぼなのだ。

 

 しばらく誘うように周囲を走り回り、地形を確認しつつ戦闘音を拾いまくる。ついでに囮になるつもりでもあったのだが、キルを譲ろうとしていたコラボ相手(候補)はいつのまにか何処かへ行ってしまった。……いや、私が気にしてやれなかっただけか。

 自分の『向いてなさ』に呆れるとともに全てを諦め、加えて思っていた以上に撃たれないことに拍子抜けしながらも走り回り……まぁこのランクならこんなもんかと一人納得し、幾つかの家屋へと押し入り装備を物色する。

 

 しかし……コラボ相手(候補)を早々に見失った酬いだろうか。銃の引きがなかなかに悪い。現在手持ちの武器は『ハズレ』と名高いサブマシンガンが一丁のみ。やってやれないことは無いだろうが、正直少々心もとない。

 二軒目の建物に飛び込み、幸いにも比較的優秀なハンドガンと弾を拾う。半ば無意識に動く指が即座にリロード動作を指示し、画面内の自キャラが銃を構え直すと同時に……

 

 

 ―――すぐ隣のドアが開かれる。

 

 

 

「はい残念ー」

 

 

 侵入者にとっても、完全に予想外だったのだろう。扉から侵入を試みる側からは完全に死角となる影に位置取り、ごく至近距離からの狙い済ましたヘッドショット。三発が三発とも後頭部に叩き込まれ、無抵抗なまま相手は死ぬ。

 

 オマケに……そのまま引っ込んでいればいいものを、敵討ちを試みたのか漁夫の利を狙っていたのか、二人目の獲物が無防備に姿を現す。さすがにこちらの場所は把握されていたらしく、出会い頭にサブマシンガンを突き付けられるが……この距離ではこちらのほうが火力は高い。さっきの雑魚と同様に片付けられると判断を下す。

 

 一発目。少し逸ったか。放った銃弾は胸のど真ん中へ。衝撃に獲物が硬直するが、まだ殺す(キル)には至らない。

 

 二発目。手負いの獲物は生意気にも身を翻し、銃弾は肩をかすめるに留まる。浅くない手傷を与えたが、まだ生きている。

 

 三発目。狙いを修正して頭のど真ん中へ。トリガーを引く(クリックする)直前に獲物が動き、すれ違うように背後へ回り込まれる。すんでのところで発砲を思い止まる。

 

 とっさに振り向き、三発目。今度こそ殺ったと思ったが……ほんの数フレームの僅差で、発砲の直前に獲物の姿が消える。

 ……なんということはない、ただ()()()()()だけだ。たったそれだけの動作で六発目は虚しく壁に突き刺さり、手痛い反撃……身体の正中線上へサブマシンガンの掃射を受ける。

 

 一方のこちらは、ハンドガンの六発を撃ちきったところだ。舌打ちしながら武器の持ち替えを選択、狙いを定めさせぬようジグザグに動きながら距離を取り、こちらもサブマシンガンを選択。

 思わぬ反撃にかなり体力を削られてしまったが……それでも敵にマガジン一本分を撃ち切らせて尚、こちらはまだ健在だ。敵のリロードが終わるまでは一方的に攻撃を浴びせることが出来、しかも敵の残体力はほんの数パーセント。

 

 一発一発が軽いサブマシンガンとはいえ、三発でも叩き込めば殺せるだろう。

 

 ……そう、思っていた。

 

 

「…………チッ」

 

 

 距離を離すのではなく逆に詰め、まるでこちらの狙いがわかっているかのように、ただただ執拗に回り込むような挙動を取る眼前の敵。

 こちらの銃口の向く先には決して立たず、その動きはちょこまかとすばしっこく……振り向いても振り向いても画面中央に捉えられない。

 捉えたと思いトリガーを絞るも、動き回る敵を捉えられずにことごとく外していく。そうこうしている間に敵のリロードが完了したらしく、こちらへ銃口が向けられようとしている。

 

 止むを得ないかと身を翻し、開け放たれたままの扉から外へと飛び出す。

 距離さえ離せば、あの鬱陶しい回避は使えないだろう。……そう思っての一手だったが。

 

 

 

「はっ?」

 

 

 外へ飛び出たところで、鉢合わせした他プレイヤーに至近距離から銃撃を浴び、体力ゲージが削りきられ画面が赤く染まっていく。

 

 反射的にログへと視線を送ると……自分をキルしたプレイヤーとは、他でもないコラボ相手(候補)。

 

 

 

 『私FPS苦手なので……プロに勉強させてほしいんです!』と涙ながらに頼み込んできた、同期の一人だ。

 ……生きていたのか。

 

 

 彼女自身も、全く予想外のことだったのだろう。たまたま正面に飛び出てきた他プレイヤーがいたのでビビり散らして撃ってみたら、なんと殺した相手は同盟相手のはずの私だった……といったところか。

 混乱して立ち竦むのも無理はないのだが、そんなところで棒立ちしていると……あーあ。

 

 

 

「……まぁ、初心者だもんね。仕方無いか」

 

 

 私をキルしてのけた同期は、私をここまで追い込んだ敵にあっさりとキルされ……私達ペアは早々に敗退を喫することとなった。

 

 

 同期をキルした、私から生き延びたプレイヤーIDは……『FairyRANI』。

 

 …………フェアリー、ラニ。

 

 

 

 

「……いや……一周まわって逆にセンスあるわ。フェアリーて」

 

 

 この初心者ランク帯にありながら、いろんな意味でセンスの塊である、見知らぬ相手。

 笑うしかない状況へと追いやられた私は……火曜夜九時現在、初心者ランク帯で特訓配信を行っている、恐らくは凹んでいるであろう同期の配信枠へと飛んだ。

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

「くあー!! 二位かぁー!!」

 

「ラニちゃんすっげ! カッコいい! なでなでしてあげる!!」

 

「えへへぇー」

 

 

『初見って言ってなかった……?』『惜しかった』『てぇてぇ』『まぁ初心者帯だし』『てぇてぇ』『のわちゃん何も出来なかったね……』『デレデレラニちゃんくそかわ』『よわちゃん強く生きて』

 

 

 

 現在の時刻は、火曜の夜九時をいくらか回ったところ。

 モリアキに譲ってもらったノートPCを順調にセットアップし終えたおれは、同じ『のわめでぃあ』の構成員でありアシスタントである妖精ラニと、念願である初の協力プレイでゲーム配信を行っている。

 

 ……とはいえ、実際に配信されているのは、メインPCに映るおれの画面だけ。配信チャンネルはひとつしか確保していないので、さすがに複数のPC画面を同時に配信することは出来ない。

 そこを解消するためには……それこそ『のわめでぃあ』内で複数の配信アカウントを取得する必要があるだろう。

 

 まあしかし、とりあえず今は()()でいい。今まではおれの傍らやカメラの死角でアシスタントに徹するしかなかった白谷さんだったが……今はこうして、同じ空間で、すぐそこで、同じゲームを協力して遊ぶことが出来るのだ。

 プレイ中の彼女はカメラに映らないが、マイクはちゃんと彼女用のものを設置してある。プレイの合間合間にはカメラの前へ姿を現してくれるので、『いっしょにプレイしてる感』は伝わることだろう。

 

 

「やー……でも悔しいなぁ。わたし本当何も出来なかった」

 

「見事に瞬殺されちゃったもんね……狙いがめっちゃ正確だった。ノワが即死したの本当びっくりした」

 

「言わないで!! わたしもびっくりしたんだから!! ドア開けたら死んだんだもん!!」

 

 

『よわちゃんかわいい』『完璧な不意打ちだった』『敵討ちに向かうラニちゃんの忠犬っぷりよ』『よわちゃんはどうしてのわのわなの?』『「よくもノワをォ!!」すき』『ラニちゃんかっこよすき』『どっちが局長かわかんねーな』

 

 

「ぐおおおお悔しい!! わたしだってね!! 不意打ちされなきゃ強いんですよたぶん!! いいですかラニちゃんもっかいリベンジですよリベンジ!! たすけてくださいラニちゃんさま!」

 

「はははは、よきにはからえ」

 

 

 

 FPSというゲームを初めて経験するはずの白谷さんは、その後もめきめきと頭角を現していき……そんな期待の新星におんぶにだっこされているおれも、なんとか人並み程度のレベルには至っていた。

 

 ついには一位をもぎ取るまでに上達したラニに比べ、おれは結局途中でリタイアしてばっかり、一度も生き残ることは出来なかったんだけど。

 二人で協力してゲームを遊ぶって、こんなにも楽しいんだということを……ひさしぶりに思い出すことができた。

 

 



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178【案件商談】本日のおすすめ

 

 おれが()()なる前も、そして()()なってからも……気心知れた相手と遠出するというイベントは、おれはぶっちゃけかなり好きだ。

 

 高速道路のサービスエリアはやっぱりいつ訪れてもワクワクするし、仲間内以外の()()が居ない車内では思う存分騒ぎ放題だ。大音量でアニソンゲーソンを流したり、タブレットでお気に入りのアニメ視聴会を繰り広げたり、唐突にゲームを始めたり。

 

 そんな和気あいあいとした雰囲気を、おれは非常に好いている。

 その思いは当然、おれが()()なった今でも変わらない。

 

 

 

 だからこそ、今回の話が舞い込んできたとき……おれは内心、小躍りしたくなる心境だった。

 

 ()()なる前の()のままだったら、憧れこそすれ到底手の届かなかった存在。それは多くの人々を魅了してやまない商品ではあるが……生涯でそれを手にすることのできる人は、ごく一部に限られるだろう。

 

 今回の案件の依頼者『三納(みのう)オートサービス』さんはそんな商品を手掛けている、その筋では有名な老舗自動車用部品メーカーだ。

 

 

 

 

 

「うーん……ナビではそろそろのハズなんすけどねー……」

 

「めっちゃ田んぼだぞ……そんな工場っぽい建物なんて…………アッ、あれか!? あの左ななめ向こうがわの!」

 

「んー…………アッ看板ありました! あれっすね!」

 

「おっけーついた! ……三十分前か。ちょうどいい時間かな」

 

 

 おれたちの住む浪越市から、中日本北越自動車道へ乗って北上すること……およそ一時間。

 県境を跨いで山の方へと幾らか進んだ山あいの盆地に、目的地である『三納オートサービス』さんの本社工場は位置していた。

 動画配信者(ユーキャスター)としてのおれを選んでくれた、(例外となる鶴城さんを除けば)初となる企業様。その期待に応えなければなるまいと、いやがおうにも緊張と期待は高まっていく。

 そうこうしている間にも、車は目的地へと到着する。この後は期間や費用や提案内容などを詰めていくための、大事な大事な商談が待っているのだ。

 

 

 

 

「ご足労頂き、有り難うございます。三納オートサービス取締役、(せき)と申します」

 

「同じく営業部、多治見(たじみ)と申します」

 

「株式会社ウィザーズアライアンスより参りました、大田(おおた)です。宜しくお願い致します」

 

「こちらこそ。わざわざお声かけ頂きまして、ありがとうございます。若輩ではありますが動画配信者(ユーキャスター)として活動しております、木乃(きの)若芽(わかめ)と申します」

 

「マネージャー兼広報担当、烏森(かすもり)と申します。本日は宜しくお願いします」

 

(万能型アシスタント妖精の白谷(シラタニ)です。よろしくね)

 

(お話中は笑わせないでよね!?)

 

 

 

 応接室へと通されたおれたち二人(とこっそり同席している小さな一人)は、とりあえず先方のお三方と軽く自己紹介を交わす。

 先方は順に……白髪が混じり始めたナイスミドル、良い感じに日焼けした体格の良い中年男性、そしてスーツ姿の細身の男性。対するこちらはご存じの通り、三十代一般成人男性と元・三十代一般成人男性。

 今日は基本装備の魔法使いローブではなく、失礼の無いようそれっぽい商談用コーディネートに身を包んでいるので、いつもよりもオトナな雰囲気だ。……その実体は子供服だけど。

 

 おれは以前の職場で身に付けていた社会人スキルを遺憾なく発揮し、見事に下手(したて)に出てのご挨拶をバッチリとこなしてみせた。

 見た目十歳児がなかなか堂に入ったお辞儀と名刺交換をしてのけたとあって、あちらさんも少なからず驚いてくれたようだ。

 

 ちなみにこちらの名刺は……烏森(かすもり)先生が一晩でやってくれました。まじ神。

 

 

 さて。今回俺が受け取ったお仕事依頼メールだが……案件の打診元は、何を隠そうこちらの三納オートサービスさんだ。

 同席している『ウィザーズアライアンス』社とは、つまるところ広告代理店である。こちらの大田さんが数ある配信者(キャスター)たちの中からおれに白羽の矢をたて、三納オートサービスさんもその提案を受け入れてくれて、そうして晴れておれと三納オートサービスさんを結びつけてくれた……という経緯になる。

 ……名前からして、やはり配信者(キャスター)専門の広告代理店なのだろうか。まぁ今は別にいいか。

 

 

 とりあえず重要なことは……先方はおれたち『のわめでぃあ』に広告業務を依頼したいと考えてくれており、おれたちは先方より提示された条件に魅力を感じたからこそ、直に言葉を交わす機会を設けて貰ったのだということ。

 双方歩み寄りによって実現したこの席で、おれたちは案件の内容を再確認し、これから擦り合わせを行っていくのだ。

 

 

 

「えっと……まず、確認させて頂きます。今回の企画内容の大筋としましては、まず御社の製品をわたくしどもで体験させていただき、その使用感および使用風景、そしてメリットを纏めた動画を作成し、御社の社名・製品名等の情報とともに公開させて頂くこと。……これが、まず()()()

 

「はい。仰る通りです」

 

「……そして、()()()()()。御社が出展予定の展示会イベント等に、販促要員として参加すること。対象は今年開催予定の四つのイベント。つまりは一年間で四回に限り、われわれは御社にスケジュールの優先決定権を賦与すること。……という認識で宜しいでしょうか?」

 

「はい。問題ありません。あくまで『スケジュール面での優先権』という形ですので、冠婚葬祭や疾病等の止むに止まれぬ事由に関しては、そちらを優先していただいて構いません。その際は勿論、違約金等を請求するつもりもございません」

 

 

 ここまでは、事前のメールでも教えてもらっていたことだ。

 タイアップ動画の撮影・公開だけでなく、販促会の際のお手伝いも要求されているあたりが、一般的な案件とはちょっと異なるだろうが……その販促活動についても、メールに記載された業務内容を確認してみても、特に変なところは見られなかった。

 つまりはお仕事内容としては、非常に真っ当なもの。

 むしろ……『仮想(アンリアル)』ではない、実体の身体を持った配信者(キャスター)であるおれだからこそ、今回案件のお鉢が回ってきたのかもしれない。

 

 

「……そして、あの…………わたし自身ちょっと、いまだに半信半疑なんですけど……それらの企画における、われわれの報酬が……ですね」

 

「そう、ここです。オレ……いえ、我々としても気になっていたのですが…………()()()()()?」

 

「ええ。……なんでも聞くところによると、今後は旅行動画やアウトドアでの活動も視野に入れて居られるとか。その際に弊社の製品であれば、木乃(きの)様のお役に立てると考えて居ります」

 

「さりげなくほんの一言、弊社の社名を口にして戴ければ……それで充分すぎる宣伝効果は期待できると大田様に助言頂き、我々も納得の上で結論致しました」

 

「……補足させて頂きます。三納オートサービス様の要求としましては……メインとなる商品紹介動画に加え、今後『のわめでぃあ』様がスタジオ外での活動を行う際、その()()として本製品を可能な限り使用して頂くこと。また使用されました際には最低一回、動画内にて『三納オートサービス』社の社名を告知していただくこと。以上が『動画による製品アピール』の概要となっております」

 

「…………御社の要求は、把握しました。……それに対する『報酬』が…………()()()ですか」

 

 

 広告(ウィザーズ)代理店(アライアンス社)の大田さんからの補足説明を受けて、お仕事の内容を確認したおれは……机上の資料に目を向ける。

 そこに用意された資料は、今回おれたちが宣伝する商品……であると同時。

 

 成約の際の()()として、()()()()が約束されている、三納オートサービスさん渾身の一品。

 

 

 

「……4WD6ATガソリン車。乗車定員八名、就寝定員四名+小人一名、ギャレー・防水マルチルーム付」

 

「いわゆるバンコン、ってやつっすか……しかも特装グレード」

 

「ええ。弊社自慢の一品です」

 

 

 

 子供心と冒険心を忘れない、多くの大きなお友だちの憧れの品。

 興味は尽きないけれど……様々な理由により手にすることを諦める人が多い、贅沢品に分類されるもの。

 老舗に部類する自動車部品メーカー、三納オートサービスさんの注力商品。

 

 誰が呼んだか『自走する別荘』。

 それすなわち……キャンピングカーだった。

 

 



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179【案件商談】手の内は知られている

 

 目の前にぶら下げられた、非常に魅力的きわまりない()

 ついついそこにばかり目がいってしまい、すぐにでも飛び付いてしまいたくなるのだが……そのためにはまず、しっかりと足場を確認しなければならないだろう。

 

 何ていったって――譲渡ではなく貸与とはいえ――あまりにも報酬が魅力的すぎる。

 おれはまだまだ開設ひと月程度の弱小配信者(キャスター)なので、正直おれ以外にも適役の……それこそキャンピングカー解説に手慣れた配信者(キャスター)さんなんか、けっこう居そうなものだと思うのだが。

 

 

 商談の相手である二社ともに、なかなかの歴史あるいは規模を誇る会社である。おれなんかを騙したところで特にメリットがあるようにも思えないが……それはそれとして、落とし穴が無いかどうかはしっかり確認しておくべきだ。

 

 

 

「……あの、企画内容は概ね大丈夫だと思います。年四回のイベントというのも……書面で頂いている、一月と三月と六月と十月の四つのイベントで良いんですよね?」

 

「はい。三月と十月の『浪越キャンピングカーフェア』が二回と、六月の『東京キャンピングカーフェス』……そして直近、今月末の『ジャパンキャンピングカーフェス2020』。以上の四つなのですが……今月末も、ご都合は大丈夫でしょうか?」

 

「ええと、はい。現状特に……というか、恥ずかしながらわたし自身、そこまで案件を頂いてはいませんので。個人での配信や撮影のスケジュールでしたら、充分に対応できます」

 

「助かります。正直今月末のは半ば諦めてましたので」

 

 

 メールのやり取りで頂いていた資料によると、この一月末に東京で執り行われる『ジャパンキャンピングカーフェス2020』はその開催時期もあり、規模も注目度も四つのなかで最も高いのだという。

 なので有名どころの配信者(キャスター)さんたちは、既に当日の別の予定が詰まってしまっていた……まあ恐らく、一般参加者として参加する予定なのだろう。

 

 加えて、おれにとっては魅力的に映った『バンコン車両の貸与と継続的な使用』……こちらも普通のひとにとっては、取り扱いに難儀するものなのだろう。

 駐車場も新たに確保しなければならないし、なにより使い慣れた愛車が既に存在しているのだ。人によっては愛車を貶されるように感じてしまい、心象を害してしまう恐れもある……かもしれない。

 

 つまりは、イベント当日のスケジュールが確保でき、継続的なモニター利用が見込める人物。ここを優先して探していたのだろうと、アタリが付けられる。

 

 

 だが……それにしたって、他に候補者はごまんと居るだろう。

 声を掛けてもらえたことは光栄なのだが……果たして、なぜおれを選んでくれたのか。そこのところは、是非聞かせてもらいたい。

 

 

 

「……すみません、ひとつお尋ねしたいのですが…………単刀直入にお訊きします。今回の案件、なぜわたしにお声かけ頂けたんでしょうか?」

 

「それにつきましては、私から」

 

 

 おそるおそる、抱えていた疑問を表するおれに、大田さんが手を挙げてくれた。

 彼の所属であるウィザーズアライアンス社……広告代理店とのことなので、おれを選んだ理由を説明できるとすれば、なるほど彼になるのだろう。

 自分自身の客観的な評価を聞ける、良い機会でもある。おれは居住まいを正し、彼の言葉に傾聴する。

 

 

「まず一点目。……ご気分を害されないで頂きたいのですが……『のわめでぃあ』様がまだチャンネル設立間もない、駆け出しの動画配信者(ユーキャスター)であったこと。またそれでいて、同時期に設立されたチャンネルの中でも、その成長率がひときわ抜きん出ていたこと。……多治見(たじみ)様との協議の上、広告費用等の兼ね合いもあったことから、いわゆる『ベテラン』域の配信者(キャスター)は除外致しました」

 

「……な、なるほど」

 

 

 可能な限り失礼がないように気を使ってくれているが……要するに、大御所だと相応の謝礼を用意しなきゃならないから。

 加えてイベント当日のスケジュールも押さえづらいので、最初から中堅~駆け出しの配信者(キャスター)に絞って候補を探していたらしい。

 

 

「続いて、二点目。昨今アウトドアやキャンプを題材とした漫画・アニメ等作品の台頭を受け、キャンピングカー市場としても新たな客層を開拓する必要性を強く感じたこと。そしてその『新たな客層』を獲得するにあたり、『のわめでぃあ』ひいては木乃(きの)若芽(わかめ)様の存在が適役であると判断したこと。……ですね」

 

「き、恐縮です」

 

 

 まあ……早い話が『オタク受けしそう』ってことだろう。確かにおれはエルフだし美幼女だし、漫画とかアニメとかに居そうなキャラクターではある。ていうかそういうつもりでつくったわけだし。

 サブカルチャーに造詣が深い視聴者さんも大勢居るだろうし、一般的な配信者(キャスター)に比べるとソッチの割合が多い自覚と、自負はある。

 

 なるほどつまり『仮想配信者(ユアキャス)上がりの動画配信者(ユーキャスター)』という、異色ともいえるおれの出自が(うま)いことハマった形となるのか。

 どちらにも馴染みきれない短所とばかり思っていたが……なかなかどうして、どう転ぶかはわからないもんだ。

 

 

 

「そして、三点目。……個人的に、この三点目が『決め手』と言っても過言では無い理由がございまして」

 

「…………そ、それは……?」

 

 

 落ちついた表情で、淡々と説明を進めてくれている大田さん……広告代理店のやり手営業マンらしく、無機質ともとれる冷静さで述べられる……『決め手』とは。

 

 

 

()()に、なんとか報いたいなぁと思いまして」

 

「「…………はい?」」

 

「候補者の一人として多治見様に布教しましたところ、大層気に入って下さいまして」

 

「「…………えっ?」」

 

「いやぁ……最初は半信半疑だったんですけどね。今となっちゃあウチの会社、取締役も含めて結構な数『視聴者』居るんですよね」

 

「なん……」「ほあっ……」

 

 

 

()()()()。機会があれば、ぜひ一席お願いしたいものです」

 

「うそぉーーーー!!!?」

 

 

 

 おれの……おれたちの、親愛なる視聴者諸君からの、とてもとても予想外だった企業案件。

 

 そ……そういうことも、あるのか。……あるのか?

 

 

 



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180【案件商談】最初から解ってたよ

 

 

 かちこちに強張っていた肩から一気に力が抜けてしまうほどに、おれにとっては予想外だったのだが……よくよく考えてみれば、今回の案件は配信サイト(ユースク)のフォームからのコンタクトだったわけで。

 

 おれのチャンネル概要ページのメールフォームからの問い合わせだったということは……そこへ至るまでにはおれのチャンネルを見てくれていたという可能性だって、そりゃ当然あって然るべきであって。

 

 

 しかし……びっくりしたのは確かだけど、同時にとても嬉しいのもまた確かなのであって。

 

 

 

「えーーーーっと…………うわ、めっちゃ恥ずかし……ええ…………ほ、ほんとに……わたしの、視聴者さん、なん、です……か?」

 

「『故代の唄うたってみた』から追っています。……年末年始は、大変お疲れ様でした」

 

「私は大田さんに提案を受けてからの視聴者になります。……昨年末の、鶴城神宮三部作のあたりからですね」

 

「私も……昨年末くらいでしたかな。多治見から『案件候補者見つかりました!』と紹介されまして。どんなもんかと見てみたら、年甲斐もなく……楽しませて貰っております」

 

「あわわわわわはわわわわ」

 

(めっっちゃコアなファンじゃん……)

 

 

 順に……大田さん、多治見さん、関さん。

 きりっとしていて真面目一辺倒だと思っていた大田さんが火付け役だったのも驚いたが……失礼だが、けっこうご年配である関さんまでおれを知ってくれていたのには驚いた。

 

 そ、そっかあ。おれの動画、楽しんでくれてたのか。

 

 

 

「……という訳でして。職権濫用と取られるかもしれませんが……決して私情のみでの判断では無いこと、(しっか)りとした理由ありきで提案させていただいたことを、御理解頂けたでしょうか」

 

「は、はいっ! ……恐縮です」

 

「オレ……あいえ、自分の方からも…………ありがとうございます。ちょっとこの子、自己評価低すぎるところありまして。自分も気にしてたとこでしたので……」

 

「むむむ……」

 

「いえ、謙虚であるところは美点かと。……評価が伸びてくると、それに伴い……何といいますか…………気が強くなる配信者(キャスター)も大勢居ますので」

 

「で、ですよね! ほら! やっぱ調子のっちゃダメなんですよ!」

 

「いやぁ、『のわめでぃあ』さんはもっとバズって良いと思いますけどね」

 

「ほええ!?」

 

 

 掛けられたはしごを昇ろうとしたら、そのはしごをいきなり外され……ここが商談の場であるにもかかわらず、おれは思わず()()()のような、どことなく間抜けさ漂う悲鳴を上げてしまう。

 しまった、と思うも時既に遅し。周囲を見回すと、その場の全ての人々の(心なしか生暖かい)視線がおれに注がれ……なんというか、とてもいたたまれない気持ちになる。

 

 率直にいって……めっちゃ恥ずかしい。

 

 

「さて。他疑問点が特に無いようでしたら……とりあえず、一旦()()()()()みますか?」

 

「ホェ!? いいんすか! ……何ほっぺプクーしてんすか若芽(わかめ)ちゃん。見学行きたくないんすか?」

 

「いきたい。見たい。…………あっ! ……見たい、です」

 

「そうですね。せっかくご足労頂きましたので、是非ご覧下さい。お返事は()ぐでなくても結構ですので。……じゃあ多治見、案内してあげて」

 

「わかりました。……では、どうぞコチラヘ。お荷物は置いといて頂いて構いませんので」

 

「「よろしくおねがいします!!」」

 

(まーす!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

「……というわけで、コチラがPRして頂きたい商品……兼、報酬として貸与させて頂く車両になります」

 

「おおーー! カッコいい!!」

 

「……ベース車はハイエースっすか? ロングの」

 

「そうですね。スーパーロングの特装車になります」

 

「な、なるほど。()()()()()でよく見かける車両っすもんね」

 

「ええ。やはりトップクラスのシェアを誇る車両ですので、走行性能も安全性能も申し分ありません。居住性も拡張性も高く、良い車両ですね」

 

「そ、そうっすよね……」

 

「多治見さん中! 中見て良いですか!!」

 

「ええ勿論。鍵は開いてますので、どうぞご覧下さい」

 

「やったーーーー!!」

 

「…………子どもっぽいところも……あるんですね」

 

「ははは……仕事のときは精一杯取り繕ってるんすよ」

 

 

 モリアキがなにやら諦めたような表情をしているが、とりあえずそんなことは後回し。それどころじゃない、まずはこっちだ。

 

 眼前に鎮座する大きな車両……といってもギリギリ普通車の括りに入れられるだろう。高さ制限には気を付けなければならないだろうが、町乗りしていても違和感が無いバン車両だ。

 外観では、天井高と後席の窓のあたりに手が加えられているのが見て取れるが、それ以外はほぼほぼふつうのバンに見える。ボディは暖かみのあるウォームベージュで染められており、やはりふつうの商用バンとはひと味違うのだろう。……しらんけど。

 

 

(めっっちゃ興奮してるじゃん。そんなにこのクルマが気に入ったの? 確かに大きくて頑丈そうだけど……)

 

(うふふふラニちゃんや……余裕ぶってられるのも今のうちよ)

 

(な、なに……なんなのこわい)

 

 

 そして……いよいよ、キャンピングカーがキャンピングカーたるゆえんの、キャビンスペースを拝見させていただく。

 ドキドキしながらスライドドアに手を掛け、思いきって取っ手を引く。ドアはおれの手を離れゆっくりと開いていき……予想以上の光景が、おれたちの目に飛び込んでくる。

 

 

「「おおーーーー!!」」

 

(なにこれ……すっご……もう家じゃん)

 

 

 出入り口正面には、セカンドシートのベンチを利用したダイネットが備わる。折り畳めそうなテーブルを挟んだ反対側には、どうやら反転してこちらを向いているらしい運転席と助手席。

 つまり駐車時にはテーブルを囲んで、四人向かい合ってくつろげる配置になっているのだ。

 多治見さんや関さんに『屋外で活動するときの拠点に』とか『出先で撮影するときのスタジオ代わりに』とか言われていてから、どんなもんかと気にはなっていたけど……なるほど、これなら余裕で撮影できるわ。

 

 加えて……車両後方には横向き配置のロングソファ兼二段ベッドと、それに向き合う形のコンパクトなギャレー。据え付けのコンロこそ無いものの、小型軽量のカセットコンロでも持ち込めば何も問題ない。その更に隣、車両最後部には……なんと小さいながらも、シャワーが使える防水ルームまでついている。

 なんというか……至れり尽くせりだ。比喩ではなく『住める』だけの装備が整っており、これがあれば活動の幅も大きく広がることだろう。

 

 

 

「ねえモリアキ……おれこれほしい」

 

「気をしっかり保ってください先輩。地が出てます(小声)」

 

「!! ……あぅ」

 

「……まぁ、気持ちはわかります。……ぶっちゃけオレも同じ感想ですし」

 

「…………んへへ」

 

 

 もともと乗り気だったけど……現物を見せてもらって、より一層気持ちが高まった。

 魅力的きわまりない移動拠点を(一年間の期間限定とはいえ)借りることができ、おまけに『のわめでぃあ』をアピールするためのお仕事もさせてもらえる。

 

 どう考えても、(トク)しかないだろう。

 それに……配信者(キャスター)としてのお仕事事情に詳しい広告(ウィザーズ)代理店(アライアンス社)の大田さんとは、可能な限り良いお付き合いをさせていただきたい。あわよくば今後ともごひいきにお願いしたい。

 

 

 …………と、いうわけで。

 

 

 

 

「受けよっか」

 

「そっすね」

 

(やったー!)

 

 

 はい、満場一致でございます。

 

 わたくし木乃若芽(きのわかめ)、誠心誠意お勤めさせていただきます!

 

 

 



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181【作戦会議】ちゃんと考えてるし!

 

 

 仮想配信者(アンリアルキャスター)として活動しようと思っていた頃は……まさか『木乃若芽(きのわかめ)ちゃん』が展示即売会の会場で()()()することになるとは、全く思ってもみなかった。

 まぁ無理もないだろう、そもそも実在しないからこそ『仮想(アンリアル)』な配信者(キャスター)なわけで。創作されたキャラクターが画面の中から出てくることなんて、普通は絶対にあり得ない。

 

 しかし、何の因果か木乃若芽(おれ)()()()()しまったのだ。そのことを今さら嘆くつもりはないし、おれは『木乃若芽ちゃん』を()()()と決めたのだ。

 ならばこそ、現実の身体を持つ配信者(キャスター)にしか出来ないようなことも、積極的に取り組んでいきたい。やれることは、色々とやってみたい。

 

 

 

 三納オートサービスさんとの契約は、非常にすんなりと纏まった。

 リース期間は納車から一年間。状況によっては更新の可能性あり。その対価は動画でのPRと、年四回のイベント参加。あとは先方の準備が完了し次第、車両をおれの自宅(浪越市南区単身物件)前まで持ってきてくれる手筈となっている。

 燃料費は自腹だが、車検や保険もあちら持ち。非常にたすかる。

 

 そんなこんなで、三人が三人とも『るんるん』気分の帰り道。

 ただでさえドライブはテンションが上がるというのに、今のおれたちは尚のこと盛り上がっちゃっております。

 

 

 

「どうしよ……めっちゃ楽しみ。早く届かないかなぁ、運転してみたいなぁ」

 

「見ました? 先輩が『運転できる』って知ったときの皆さんの顔。鳩が豆鉄砲ってやつっすよ」

 

「普通思わないよな。こんなちんまい幼女がハイエース運転できるって」

 

「……運転するよりは載せられる方が似合いそうっすもんね」

 

「何を言ってるのかわっかんねぇなぁ!!!」

 

 

 おれは(一応)中型免許も持っているので、(やろうと思えば)四トン車程度なら扱える。今回の車両は普通車の中では最大級のサイズとはいえ、それでも四トン車よりは当然小柄だ。

 外出の際はいっつもモリアキに付き合って貰っていたので、さすがに申し訳なくなっていたところだ。これでおれ一人でも衆目を(あまり)気にせず遠出が出来るようになるので、彼の負担も減ることだろう。

 

 

 ……それに。

 どこへでも移動ができて、部外者が入ってこないプライベートな個室となれば。

 

 

 

「……ラニがいってた、あの『羅針盤』の改良型。……家だけじゃなくてあの車にも設置すれば、探知の精度上がるんじゃない?」

 

「そうだね。置ける場所は多い方が……そして可能であれば、距離が離れてる方がいい。複数箇所で方角を探れば、より正確な位置を特定できるだろうね」

 

 

 好意で置きっぱなしにさせてもらっている、鶴城神宮の一号羅針盤……おれたちが『(スプラウト)』の活動を探知するための、重要な手掛かり。それは現在ラニとセイセツさんらの手によって、小型化を目指した二号機を制作中なのだという。

 そして二つ目、ひいては三つ目の羅針盤が正式稼働すれば、より『苗』の場所特定は容易になり、迅速な駆逐が可能となる。

 

 ようするに、測量の分野のお話だ。

 地図上の……たとえばA地点とB地点に『羅針盤』を配置し、それぞれ反応があった方角へと直線を伸ばす。その際A地点から伸びた直線とB地点から伸びた直線の交点が、ずばり『(スプラウト)』の所在ということになるのだ。

 

 

 鶴城神宮と、南区のおれの部屋と、岩沢市滝音谷の新居と……そして、移動式のバンコン車内。とりあえず四ヶ所にでも配置できれば、なかなかの精度が狙えるだろう。

 当面の目標は『羅針盤』の追加設置と、遠隔地の『羅針盤』をいつでも確認できる体制づくり。この二点を念頭に置いていく形になる。

 

 追加発注のほうは既に掛けてある(らしい)から良いとして。遠距離の『羅針盤』確認は……どうしようね。見まもりカメラでも使えば良いか。センサーで羅針盤の『動き』を関知したらアラーム鳴るようにして。……良いかもしれない。

 

 

 

「いや、しかし……先輩がそんなとこまで考えてたなんて、意外でしたよ」

 

「まぁテンション上がったのは事実だけどな。色々と便利になりそうだなって思ったら、あれこれ考えついた」

 

「誰にも見られない、っていうのが良いね。ボクとしてもやりやすい。遠出してたときに『苗』が沸いても、すぐに【門】を開いて帰ってこれるわけだ」

 

 

 さすがに、高速道路やバイパス道を運転中のときなんかは、そういうわけには行かないだろうけど……しかしそれでも、圧倒的に自由度が上がることは確実だ。

 安全な場所に停車したあとならば尚のこと簡単、【座標指針(マーカー)】を打ち込んでおけば帰路も楽々。直接車内に【門】を繋げば良い。このときも周りの目を気にせずに、存分に反則的(チート)機能を使うことができるのだ。

 

 

 つまりは、すごく、べんり。

 おれたちの可能性が、取れる選択肢が、今まで以上に拡がることだろう。

 

 

 

「大田さんも力になってくれるって言ってたし、これから忙しくなるかもね。……なるといいなぁ」

 

「本当……ノワがもう一人いれば良かったのにね」

 

「そんなんなったらおれがまず爛れたセイカツを送るからダメ」

 

「……妙なニュアンスを感じましたが……ちょっとオレに考えがあるんで、動いてみて良いすか? 良い返事貰えたらまた報告しますんで」

 

「まじかよ。よくわかんないけどお願いします。……でもいちいちおれに許可なんて取んなくて良いよ? おれ基本的にモリアキ信頼してっから」

 

「嬉しいこと言ってくれるっすね、この幼女は。……ご期待に添えるよう頑張るっすよ」

 

「にしし」

 

 

 モリアキの秘策は気になるけど、そのへんは彼に任せるとして。

 つかの間の休息、帰りの車中での気楽なひととき、ところによりサービスエリアを……おれは暫しの間堪能させてもらうとしよう。

 

 おれは……おれとラニには、帰ったらやらなきゃならないことがあるのだ。

 

 

 

 そろそろ初心者帯を脱出したいなぁって!

 

 



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182【日々精進】あらぁ立派になって……

 

 

 ラニがもともと居た異世界は、いわゆる剣と魔法のファンタジーな世界だったらしい。俗に言うところの『中世ヨーロッパ風』の、なぜだか割とよく知ってる気がする世界だ。

 技術水準もそれに倣う感じだったらしく、そのためこの世界に存在する様々な『技術』の結晶に対し、彼女は大変な興味を示して見せた。

 

 おれが『配信』を行っているパソコンや、通信に用いるネットワークの概念に始まり……タブレットPCや自動車や家庭内設備や、調理家電などなど。

 もともと学習能力が高かったのであろう彼女は、数回扱い方を教えればすぐに会得して見せた。スマホやタブレットなんかは、今となっては十全に使いこなしていると言って良いだろう。

 

 

 そんなラニちゃんの、最近のブーム。

 それは……モリアキからPCを譲ってもらったことに端を発する、ネット対戦形式ゲームの数々だった。

 

 

 

 

「いだァ! 左奥屋根の上! ごめんちょっと下がる!」

 

「オッケー見えた。任せて……ッシ取った!」

 

「ラニちゃんつよい! カッコいい!!」

 

「油断しないでね。まだあと八人いる」

 

 

『エイムはええ』『のわちゃんの引きの良さよ』『ラニちゃんのカバーがうまいんだよなぁ』『あの距離でよー落とすわ』『ちゃんと敵の位置見れたのわちゃんえらいぞ』『引くことを覚えたのわちゃんえらい』『えらい』『いのちだいじに』『悲鳴もっと』

 

 

 

 一昨日と昨日に引き続き……今日も今日とて日中をまじめにおしごとしたご褒美に、夜はラニと一緒にゲームを堪能している。わが社は福利厚生に力をいれております。

 せっかくなのでと人気配信者(キャスター)みたいにプレイ配信してみたところ、おれのようなクソザコプレイをわざわざ見に来てくれるやさしい視聴者さんたちの声援(コメント)もあり、楽しく練習に打ち込むことができた。

 

 ……まあ、例によってラニちゃんセンパイに助けて(キャリーして)貰ってばっかなのだが。

 

 

 

「……っし取った! あと三人! 生きるよノワ!」

 

「おっけー今度こそ! 今度こそ!」

 

 

 新たな『手』を身につけたラニは、マウスとキーボードを自由自在に操って的確に操作していく。

 さすがは『元・勇者』なだけあってか、もともと思考速度と反射神経と判断力と視野の広さは非常に高水準。そこへ意のままに動かせる魔法の『手』が加わり、かつゲームの操作に身体が馴染めば……あとは、つよつよプレイヤーの誕生というわけだ。

 

 八面六臂の大活躍を見せるラニちゃんを少しだけ助け、その何倍も助けられ、おれたちペアはサバイバルマッチを順調に生き残っていき……ついに敵はあと一人。

 

 

「ッ! ……っぶな。うわ見られてるか……ボム届かないよなぁ」

 

「まかせてラニ! 今度こそわたしが!」

 

「あっちょっとノワ! 今はまだ」

 

「うわーーーーーー!!!」

 

「ああーー!! ノワーーーー!!」

 

 

 なんで、なしてや、おかしいやろ。

 いまラニのほう向いてたやん。

 

 背後から奇襲を掛け華麗に決勝点をもぎ取ろうとしていた、おれの巧みな戦術もむなしく……屋根上からの着地を綺麗に狩られ、おれのキャラ『ElfNOWA(えるふのわ)』は敵アサルトライフルの掃射に沈んだ。合掌。

 

 しかしおれの死は全くの無駄ではなかった(はずだ)。敵の注意がおれの対処に割かれた隙をついて、ラニのキャラ『FairyRANI(ふぇありーらに)』が一気に距離を詰める。

 軽量で速度のあるハンドガンに持ち替え、うまいこと遮蔽物に身を隠しながら接近を試み、敵の潜む物陰に投擲物を立て続けに投げ込み、炙り出す。

 

 爆弾の攻撃範囲から逃れるべく、敵が物陰から飛び出てくる。直後爆発音と共に爆炎が上がり、一瞬の間を置いて()()()が起爆する。

 

 

 一発目とは異なり、とても大人しい破裂音。

 代わりに放たれるのは……辺り一面を真っ白に染め上げ、視界に重篤な妨害効果(デバフ)をもたらす強烈な閃光。

 

 つまりは……爆発そのものの攻撃力を犠牲に、一時的な行動抑制に特化させた閃光弾。

 逃げ出した先で閃光できればヨシ、もし逃げなかったら爆砕できてそれでもヨシ。爆発攻撃力の高い通常グレネードと混ぜて投げ込むなんて……味方ながら嫌らしい。

 

 

 そして狙い通りというべきか……無情にもおれを下した『最後の一人』は、どうやら閃光をまともに受けてしまったらしい。その動きはふらふらと酩酊者のようで、必死のはずの索敵行動もどこかおぼつかない。

 そして……われらが『勇者』は、そんな隙を見逃さない。

 

 

 ほんの数メートルにまで肉薄した『FairyRANI(ふぇありーらに)』は、慌てず騒がず単発高火力のショットガンに持ち替えると……

 

 

「取ったァ!!」

 

「うわイケメン」

 

 

 閃光のデバフからやっと回復したらしい敵プレイヤーを、無慈悲に吹き飛ばしてのけた。

 

 

 

 というわけで、試合終了。

 おれたちの見事な作戦勝ちである。ふふん。

 

 

『おめでと!!!』『やったぜ!!』『今夜はカツ丼ね』『ラニちゃんつっよ』『ほんまに初心者か?熟知しすぎやろ』『最後の一人うにたそじゃん』『のわちゃんなんでジャンプしたんや……』『うにたそ狩るとかラニちゃんつっよ』『無駄ジャンプすると声と物音でバレるやで』『奇襲するなら静かにね……』『あたまよわちゃんかな』

 

 

「うぐぐぐぐ……そ、そうやったんか」

 

「あははは。惜しかったね、ノワ」

 

「うわーんラニぃー!」

 

「よしよし、ノワもがんばってたもんね、いいこいいこ」

 

 

『ラニちゃんママ……』『どっちが年上かわかんねーな』『これはラニちゃんがつよい』『てぇてぇ』『ちっちゃいママ……』『よわちゃんはのわめでぃあにおいて最弱』『信じられるか……局長がヒエラルキー最下層なんだぜ……』

 

 

「ぐぐぐ……で、でもまあ、視聴者さんたちの助言もあって、だんだんうまくなってきてる自覚はあるので……また明日! がんばります!」

 

「ふぁぁー……はふ…………もうこんな時間じゃん、やばいよ。みんなはやく寝ろ? あしたも平日でしょ?」

 

「そだねぇ、今日はそろそろ終了にします。また明日……は、ライブ配信だね! わたしがんばるので、皆さんもおしごとやお勉強、がんばってね!」

 

「それじゃあそういうわけで。……おつかれ諸君。おやすみ」

 

「それでは、また。ヴィーヤ(ばいばい)!」

 

 

 

 ちょっと急いだ感は拭えなかったかもしれないが……時刻的にもまあ妥当だろう。ラニちゃんがねむねむアピールしてくれたので、そこまで不自然には映らなかったと思う。

 

 ……というわけで、問題の『これ』だ。

 先程の試合で最後まで生き残り、優勝したラニの操作キャラクター『FairyRANI(ふぇありーらに)』のアカウント宛に届いた……今まさに届いたばかりの、ダイレクトメッセージ。

 

 

 

「…………えっ? うそ」

 

「なになに、だれだれ?」

 

 

 差出人のIDは……『Wuni_Violet』。

 そのアカウントの持ち主と会ったことなどもちろん無いが……見たことと聞いたことなら『これでもか』とある。

 

 

 界隈で一・二位を争う超大御所事務所『にじキャラ』所属仮想配信者(URキャスター)の一人。

 自他ともに認めるゲーム好き、配信の九割以上がゲームの実況プレイ。当然腕前のほうもめちゃくちゃ上手い。けだるげな言動と眠たそうなビジュアルに反したつよつよプレイがチャームポイントの、可愛らしい女の子配信者(キャスター)

 

 その知名度も、活動期間も、そしてチャンネル登録者数も……ぶっちゃけおれなんかとは住む世界からして違う、雲の上の存在。

 そんな彼女の名は……『村崎(むらさき)うに』。

 

 

 

 おれの相棒にして同僚のラニへと、突如届けられたメッセージ。……その内容は。

 

 業界屈指のゲーマー配信者(キャスター)村崎(むらさき)うに』さんからの、まさかまさかの『FPS(シューティングゲーム)コラボ』の打診だった。

 

 



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183【共演依頼】らにちゃんとうにちゃん

 

 

 実在エルフ配信者(キャスター)、おれこと木乃若芽(きのわかめ)は……焦っていた。

 

 そりゃあ自分だって配信者(キャスター)のはしくれ、元を辿れば仮想配信者(ユアキャス)を夢見てスタートした活動だ。当然コラボ企画とか(とつ)(とつ)されなんかも憧れはあったし……実体を得て『仮想(アンリアル)』ではなくなってしまった今となっても、それは変わらない。

 

 

 しかし……いざ実際に、そのチャンスが目の前に降ってきたとあっては。

 しかもそれが、業界トップクラスの事務所に所属する『売れっ子』からのアプローチとあっては。

 

 そういう専門的なノウハウを備えたマネージャーさんなんて付いてないおれにとっては……どういう段取りを取れば良いのかからして、全く未知の領域だった。

 

 

 

 

 

 

『…………え、すません。何て?』

 

「ラニに『にじキャラ』の『うにたそ』からコラボの打診が届いたの。どうすれば良い?」

 

『………………ぇえ……マジっすか』

 

「マジマジ。連絡用アドレスも記載されてた」

 

 

 というわけで、おれの『マネージャーさん(代わり)』のモリアキ氏に救難信号を打診する。

 おれ一人の知識では偏りや抜けがあるかもしれないし、別の視点からものごとを見ることができる第三者の意見は是非ともほしい。

 少なからず業界に精通している人材であれば……なおさらだ。

 

 

「とりあえず『おれ無名だけど事務所の許可は大丈夫なんですか?』と『コラボするとしたらどんな内容を考えてますか?』をめっちゃ(うやうや)しくした文面で返信しといたけど……大丈夫だった?」

 

『そっすね。大丈夫だと思います。あちらさん事務所の許可が出てるんであれば、だいぶ楽っすね。こっちから色々お伺い立てる必要も減ります。……前向きなんすね』

 

「そりゃねー。チャンスもチャンスだし、単純に『うにたそ』と共演できるって嬉しいことだし。……おれもがんばって応援するからね! ラニがんばってね!」

 

「えっ!? ボクなの!?」

 

「だってメッセージ届いたのラニだし、そもそもおれのプレイがうにたそのお眼鏡にかなうわけ無いし」

 

『んー……白谷さんの立ち絵でも用意しときます?』

 

「んーや……画角を、こう……ラニちゃんの顔だけ映して。クロマキって画面に入れようかなって」

 

『あぁ……手もとが映んなきゃセーフっすか』

 

「そうそう。そういうことだけど……ラニ、いけそう?」

 

「う、うん。……がんばるよ」

 

 

 とりあえずは、先方からの申し出であれば失礼には当たらないだろうこと。またコラボの詳細情報が得られたら共有して知恵を拝借すること。

 以上二点を再確認し、おれはモリアキとの通話を切った。

 

 それにしても……コラボだ。コラボなのだ。しかも相手は大御所だ。

 厳密に言えばコラボするのはラニちゃんなのだろうけど……それはそれとして、心が踊るところは変わらない。それこそ我が身であるかのように嬉しいのだ。

 

 

 

 

「……まぁ、ノワが乗り気ならボクは良いけどね。……それはそうと、明日の準備。ちゃんとできてる?」

 

「そこは大丈夫。ちゃーんとスライド作ってあるから。英文注釈もバッチグーよ」

 

「?? ばっ、ちぐ……? ま、まぁ…………大丈夫そうなら良かった」

 

 

 今日は木曜日なので、明日の夜は毎週恒例(にしたい)ライブ配信の予定だ。今回の内容は主に『ご報告』や『雑談』の予定となっている。

 おうちの裏庭の活用方法とか、おれたちに今後やってほしい企画とか……視聴者さん達からの意見を募ったり、出せる情報や写真を出したりして、和気あいあいと過ごせたらなぁとか考えている。

 三納オートサービスさんからは『月末の展示会は情報開示OK』との約束も貰ってるので、そこもお知らせできるだろうし……あとはいちおう、(シメ)民謡(おうた)も用意はしてあるので、視聴者さんに楽しんでもらえるようがんばりたい。

 

 

 というわけで、明日の夜は問題ない。

 

 なので今気になるところといえば、やはり…………噂をすればなんとやら、さっそくメッセージが返ってきましたね。

 

 

 

「お? 例の『うにたそ』から? 早いね。なんだって?」

 

「ちゃんとしたお名前は『村崎うに』ちゃんね。マネージャーさん交えて相談したいから、明日もしくは近日中に時間貰えないか、だって。……あした日中十五時くらいまでなら大丈夫かな。返信しちゃうよ?」

 

「ノワにお任せ。全肯定美少女妖精さんだからね、ボクは」

 

「めっちゃ心強い~~」

 

 

 最近のご時世ともなれば、ちょっとしたミーティングくらいであればネット通話で手軽に済ませることができる。

 むしろ仮想配信者(URーキャスター)のように『中の人』の神秘性を重要視する場合なんかは、逆に顔合わせしないで済むネット通話のほうが都合が良いこともある。

 そのあたりの裁量は人によって様々だが……『村崎うに』ちゃんの場合は、どっちかというと『楽だから』だろう。ネット通話を使用してのグループトークをご所望のようだった。

 

 それであれば、こちらも大した手間を要する必要もない。ミーティングの要請に対して『明日の日中であれば大丈夫です』と返信を返し、これで明日の行動予定がだいたい決まりつつあった。

 懸念であった先方とのミーティングも、ネット通話で行えるというのなら気が楽だ。

 

 あとはミーティングの時間次第だが、どっちみち在宅ワークな一日になりそうな予感。……まぁいいけどね、現おうちめっちゃ居心地良いし。

 

 

 

「よしじゃあ……お風呂はいって、今日はもう寝よっか。自分から『日中大丈夫です!』言っといて寝坊とかしたら目も当てられない」

 

「わぁいおふろ。ラニおふろ大好き」

 

「えっちなことするのは禁止だからね」

 

「そ、そんなあ」

 

 

 なぜか呆然としている妖精さんは置いといて。おれは下着と寝巻きを取り出しおふろの準備をすすめ、小脇に抱えて階段を下る。

 途中でキッチンに寄り道して、密封チャックつきのポリ袋を一枚拝借。うにちゃんからのメッセージの確認と返信対応ができるように、スマホを入れてお風呂に持ち込むのも忘れない。

 

 

 季節がら、まだまだ肌寒い日々が続いているが……少しずつ少しずつ毎日が充実していくのを、おれはとても嬉しく感じていた。

 

 あしたも良い一日でありますように。

 

 

 



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184【共演依頼】大御所ご一行さま

 

 いったいどこの誰ですかね……ネット通話でのミーティングなんて気が楽だ、とか言ってたあほエルフは。

 まったく。探し出しておしおきしてやる。

 

 

 いやまあ、確かに。身支度を整えて旅支度を整えて公共交通機関を乗り継いで遠路はるばる出かけるために丸一日予定を空ける必要が無いというのならば、それは充分に『気が楽』なのかもしれないが。

 

 だからといって……さすがに、()()は少々、少しだけ、わずかながら、ジャストアリトル(ほんのすこし)予想外の展開だった。

 

 

 

「改めまして、木乃若芽(きのわかめ)と申します。……あの、本日は……どうぞ宜しくお願いします」

 

『うわ……くっそかわやん……』

 

『す、っ……すご…………本物』

 

『……アバター、では無いのですよ……ね?』

 

 

 

 金曜日の午前十時。招待されたグループ通話へアクセスし、発信されたコールを受けてみたところ……そこでは大御所事務所『にじキャラ』さんに所属する三人のアカウントが待ち構えていた。

 

 どこか可愛らしい訛りを残す女の子の声と、おどおど感を拭いきれないやや高い声と、落ち着き安心感のある大人の男性の声。

 いったい誰が誰なんだ、と不安になっていたおれだったが……やはり『にじキャラ』さんではネット通話でのミーティングがスタンダードなスタイルになっていたのだろう。参加アカウント名は初見でも判りやすいように、非常に単純な表記がなされていた。

 

 現在この通話の参加者は、おれこと『のわめでぃあ代表』を含めて四名。

 おれ以外、にじキャラ社の面々は……『村崎うに』『ミルク・イシェル』『マネージャー【八代】』の三名。

 

 うにさんとマネージャーさんは事前連絡通りだが……もう一人の参加者は正直、びっくりした。

 

 

 

 

 話はほんのちょっと……二分前に遡る。

 

 ミーティングの予定時間が近づき、うにさんから勧誘があったチャットルームへ接続し、とりあえず誘われるがまま音声通話を繋ぎ、軽くご挨拶を述べたところで……マネージャーの八代(やしろ)さんから『つかぬことをお伺いしますが……『エルフ』だというのは、事実なのでしょうか?』とめっちゃ下手(したて)に尋ねられまして。

 

 想定外だったメンバーの同席にドギマギしていたおれは、『なんならカメラ映しましょうか』と口走ってしまったことに端を発する。

 

 

 つまりはまぁ、おれの顔を映した部分に関しては、おれが勝手にやったということになっているのだが……とはいえ既にネット配信で晒している顔であること、また先方からのアプローチに対してこちらも誠意を見せておきたいこと等の理由が浮かんだので、この特徴的極まる容姿を公開することに踏み切ったわけだ。

 

 ……さすがに彼ら『にじキャラ』社は、ともするとおれ以上に『プロ』の面々だ。コラボ相手の素性を見知らぬ他者に吹聴するような方々ではあるまい。

 

 

 

『ごめんなさい、無理言うて。……改めまして、『にじキャラ』Ⅳ期生の『村崎うに』やよ。……顔は出せんけど、ごめんね?』

 

「い、いえっ! おれ、ッ…………いえ、おかまいなく。……わたしが勝手に晒しただけですので!」

 

『あっ、あのっ! 同じく『にじキャラ』所属、Ⅳ期生の『ミルク・イシェル』です! 改めまして、宜しくお願いします!』

 

『突然のご無礼、改めて失礼致しました。『にじキャラ』Ⅳ期生マネージャー、八代(やしろ)と申します』

 

「いえ、おかまいなく。もともと公開しちゃってる顔ですので。……ご丁寧に、ありがとうございます」

 

『あのー、ちなみに『FairyRANI(ふぇありーらに)』ちゃんは……』

 

「はい。同席して会話も聞いてますけど、顔出し姿出しはNGで。……妖精ですから」

 

「はいはーい。ボクは神秘の妖精さんだからね! そこんトコよろしく!」

 

『おおー、よろしくやよー』

『よっ、宜しくお願いします』

 

 

 

 

 改めましての自己紹介の後、先程よりかは心なしかほんわかしたムードのもと、今回のコラボに関して情報共有が始まった。

 詳しい話を聞くところによると……どうやら今回のそもそもの発案者は、やはり『うにさん』だったらしい。

 

 彼女が最近ハマっているゲームのプレイ配信を探していたところ、一昨日おれが練習配信していたところを偶然見かけ、そこでまずおれたちのビジュアルと『FairyRANI(ふぇありーらに)』の立ち回りっぷりに興味を抱いたこと。

 そんな中で昨晩、偶然にもおれたちと対戦する形でマッチングし、ラニの活躍とおれの賑やかし(意訳)と仲の良さを気に入ってくれたこと。

 また奇しくもうにさん自身、まだFPSゲームに慣れていない同期生を引率する立場であり、おれを引率しているラニの境遇に感じ入るところがあったらしく、また引率している同期生とおれが丁度釣り合いとれそうな腕前だったため……似た境遇のペアということで『コラボしたら面白そうだ』と考えてくれた。……らしい。

 

 

 つまりは、今日のミーティングに参加している『ミルク・イシェル』さんこそが、うにさんが引率しているビギナーであって。

 うにさんとミルクさん、ならびにラニちゃんとおれの四名によるダブルペア育成コラボが、今回の企画の基幹なのだという。

 

 

 

 

『……というわけで。メイン進行とさせて頂くのは、勝手ながら弊社『UNI'sOnAIR(ユニゾネア)』を予定しております。失礼ながら『のわめでぃあ』様は当日『Deb-CODE(音声通話ソフト)』内チャットにて諸連絡を交わしつつ、(どう)音声通話接続の上で、対戦ないし協力プレイをお願いする形となります』

 

「はい。承知しました。……ええ、異存ありません。こちらは大丈夫です。本放送進行中の弊チャンネル『のわめでぃあ』の扱いに関しては、何かご指定や禁止事項・留意事項はございますか?」

 

「いえ、こちらからは一切制限を設けません。弊社所属配信者(キャスター)の個人情報等や連絡チャット等は厳に秘して頂きますが、そちらで別視点として配信を行って頂くことに関しては全く問題ございません」

 

『あたしも後でラニちゃんの立ち回り見てみたいし、ミルにも見せたげたいし。なので配信アーカイブ残しといてもらえると、あたしも嬉しい。ねっ?』

 

『は、はいっ。……私からも、ぜひお願いしたいです』

 

「そういうことなら……よろこんで」

 

 

 

 自前でも配信して良いというのなら、何も問題は無い。要するにおれたちに求められていることは、『Deb-CODE(音声通話ソフト)』にて通話の上で彼女たちとゲームをプレイする、という一点のみだ。

 特に行動や配信を制限されることも無いのなら、単純にわちゃわちゃ賑やかにゲームを楽しめば良い。

 

 思っていた以上の好条件に感心しながら、おれたちにとってのデメリットは特に無さそうだという結論に至ったおれは……今回の案件そのもの自体『受けても良いな』と思うまでになっていた。

 

 

 

「ちょっと……いえ、かなり前向きに検討してみたいので……予定スケジュールとかお聞きしても良いですか?」

 

『……! ありがとうございます!』

 

『『ありがとう!!』』

 

「こちらこそ。宜しくお願いします」

 

「よろしくー!」

 

 

 マネージャー八代(やしろ)さんと、うにさんとミルクさん。彼ら彼女らの嬉しそうなリアクションを耳にしながら……おれはコラボの詳細を詰めていった。

 

 

 中途半端な存在のおれでも、誰かと一緒に活動することができる。

 

 これは……とても嬉しい事実だった。

 

 






にじキャラⅣ期生『Sea's(シーズ)』メンバー
(※一部抜粋)

【村崎うに】
ダウナー系少女配信者(キャスター)。イメージカラーは紫。
配信中は口が悪いが、実際は面倒見が良い。
常識人で何かと苦労人な実質的副リーダー。
得意ジャンルはゲーム全般(特にFPS)。

【ミルク・イシェル】
ミニ系男の娘配信者(キャスター)。イメージカラーは白。
配信中は尊大な態度を演じさせられている。
観察力と胆力が高く、物真似と歌唱が得意。
ホラゲーも得意。反面アクション系は苦手。



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185【共演依頼】心の霧は払われた

 

 

 当事者間のミーティングによって、『にじキャラ』所属配信者(キャスター)とのコラボ配信の流れと日程は無事に決定した。

 気になるその日程は……来週の土曜、よる二十一時から。見事なゴールデンタイムである。

 

 詳細は今後随時、チャットで連絡を取りながら詰めていくらしく……とりあえずスケジュールは決定ということなので、現段階をもって晴れて『告知解禁』となった。

 

 つまりは……今夜の配信にて、大手を振ってお知らせできるのだ。

 

 

 

 

『重ねて申し訳ないのですが……此方(こちら)でも告知や サムネイル等に使用させて頂きたいので、お二方の『立ち絵』もしくは『バストアップ』画像提供にご協力頂けますでしょうか』

 

「あっ、承知しました。少々お待ち下さい。えーっとですね…………んー……棒立ちのやつの方がいいですか? ポーズとか取ってると使いづらいですかね」

 

『そうですね……あまり大きな動きの無い画像で、告知に適した表情のものがあれば』

 

「えーと立ち絵立ち絵……とりあえず自分とラニと何パターンか.zipで纏めてお送りしますので、すみませんが使えそうなやつ選別お願いします」

 

『承知しました。ありがとうございます』

 

 

 

 サムネイルの『素材』としてストックしてあったバストアップ画像から幾つか選び、圧縮して八代(やしろ)さんへと送信する。発信力のある『にじキャラ』さんが告知を手伝ってくれるというのなら大変心強いし、ありがたい。

 

 うにさんやミルクさん個人もさることながら……彼女らの所属事務所『にじキャラ』の看板は、それ以上の()()()を視聴者へともたらしているのだ。

 

 

 

『それでは、本日の打ち合わせ内容としては以上となりますが……『のわめでぃあ』様の方で、何か確認しておきたいこと等はございますか?』

 

「あっ、それじゃ一点。……あの、お誘いいただいた身の上でおこがましいのですが…………あの……まずわたしは個人勢の一年生、加えてまだコラボの実績もなく、しかも仮想(アンリアル)の皮を被ろうとした実在配信者(ユーキャスター)という複雑な立場でして……」

 

『ええ、存じております』

 

「恐縮です。……それでですね、わたしなんかとコラボすること……『にじキャラ』さんとしては、そのへん大丈夫だったのかな、って……話題性なんかも貢献できるとは思えませんし」

 

『? …………あぁ、そういうことですか』

 

 

 

 今回のコラボに関しては、村崎うにさんからの要望で実現して貰ったのだという。そこは解ったのだが……だがおれは同じ事務所の仲間ではなく、あるいは別の事務所の人気どころでもなく、話題沸騰中の個人勢というわけでもないのだ。

 おれが享受する恩恵に対して……正直いって、事務所としての『にじキャラ』が得るものが、あまりにも少ない気がする。

 

 ここでおれがもし話題性の高い配信者(キャスター)だったら、先方にもメリットはあるのだろうが……弱小個人配信者(キャスター)とコラボするにあたって、いわゆる『待った』のような声は上がらなかったのだろうか。

 『あの子と遊んじゃいけません!』じゃないけど……そんな感じのニュアンスの声は、運営側から掛からなかったのだろうか。

 

 

 

『うちはなぁ……結構のびのびやらせて(もろ)てるからなぁ』

 

『……そうですね。けっこう奔放ですよ、『にじキャラ』って』

 

 

 二人の配信者(キャスター)から返ってきた声は、とても『言わされている』ような感覚は無く……運営元である『にじキャラ』社に対する確かな信頼と、大きな安心感が伝わってくるようで。

 事実、二人よりも運営サイドに近しい立場の八代(やしろ)さんからも、安心とも苦笑とも取れる笑い声が溢れる。

 

 

『コラボに関しては、完全に配信者(キャスター)各位の自主性に任せています。もちろん我々側から『この子とコラボしてほしい』と持ち掛けることもありますけど……逆に配信者(キャスター)個人が『やりたい』と言ったことを咎めることは、そうそう無いですね』

 

『あたしも『ユアライブ』の子とよく絡んどるしなぁ』

 

『……生身の動画配信者(ユーキャスター)さんと共演してる先輩も居ますし……自称活動家の少年とコラボした例もありますので』

 

「お……おぉ……」

 

 

 おおらかというか何というか……どうやらおれの心配は、全くもって杞憂だったらしい。

 大御所ならではの余裕、などと斜に構えて受け取ることも出来てしまうだろうけど……余裕のある大御所だからこそ、できることもあるのだろう。

 

 

 

『何にせよ、配信者(キャスター)達には()()()()と活動して欲しいと考えています。彼ら彼女らの楽しそうな姿を見せることで、視聴者さん達は安心して付いてきてくれますし……そうであることが『にじキャラ』全体としてのプラスであると考えます。配信者(キャスター)達の要望に対しては、取れそうな手段は全て検討する。我々マネージャーはそのための努力は惜しまない。……そういう変わり者の集まりですので』

 

『いつもお世話になってまぁーす』

 

『私たちの……自慢の運営さんです』

 

「……すごい、ですね。……ありがとうございます。本当に」

 

 

 

 ……今までのおれは、勝手に一線を引いて引き籠っていただけなのだろう。仮想(アンリアル)生身(リアル)のコラボなんて不可能だと勝手に決めきって、可能性を探ることさえ諦めていた。

 

 落ち着いて考えてみれば、不可能な理由なんて全く無い。なにも『どつき漫才』や『組体操』をやれと言われたわけじゃないのだ。

 手を握れなくても、身体に触れられなくても……場を共有することは出来る。共に並び立つことは出来る。

 

 そう教えてもらえただけでも、今日『にじキャラ』社の方々とお話しできて良かった。

 

 

 

「……今からもう、とても楽しみになってきました。……改めて、宜しくお願いします」

 

『ええ。こちらからも、重ねて。今後とも宜しくお願い致します』

 

『じゃあノワちゃん! さっそく練習しよっか!』

 

「ふぁぁ!?」

 

『ミルもええよな? この後ひまやろ?』

 

『ふぁぁ!?』

 

「あー……この二人なんか波長合いそう」

 

『そうやろー。あたしもそう思っとった』

 

 

 

 ま、まぁ……今日の配信は夜だし、夕方から準備すれば間に合うだろうし……二時間か三時間くらいなら大丈夫か。

 単純におれがゲームを練習するためにも、またコラボ相手であるお二方との交流を深めるためにも、今回はご相伴にあずかるとしよう。

 

 新しい可能性を広げてくれた、ほかでもない恩人のお誘いだ。無下に断っては男が(すた)るというものだ。

 

 

 男が(すた)るというものだ!!

 

 

 

 男が!!!!!(念押し)

 

 

 



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186【配信終了】とてもすごかったです


※ 突然ですが配信終了をお知らせします。



 

 

 き……緊張した!!

 

 めっっっちゃ緊張した!!!

 

 

 

 どういうことなの……なんかいつもの三倍くらい視聴者さんいたんだけど!!

 

 

 

 

 

「ふ、ふたりとも……おつかれさま」

 

「いやいやいや……局長こそおつかれさま。プレゼン良かったよ」

 

「さっ、さすがお二人とも……場馴れして居られまする……」

 

 

 

 毎週(ほぼ)恒例となっている、金曜夜のライブ配信をなんとか乗りこえて……おれたち三人はスタジオの床にへたり込み、しばしの余韻に浸っていた。

 ……と思ったらへたり込んでるのおれだけじゃん。ラニはぷかぷか浮いてるし、きりえちゃんは背筋伸ばしたおんなのこ座りだし。つええ。

 

 同僚たちの可愛らしさとタフさにひっそり驚愕しながら……おれは今しがた無事終えた放送の内容を思い返す。

 今までに無い視聴者さんの数と、予想だにしていなかったお客さまの出現に、内心めっちゃビビり散らしていたおれだったが……スタジオ背景の【投影(クルエクトラ)】を微塵も揺らがせずに維持できたのは、われながら誉めても良いと思う。

 

 

 

「良かったね、ノワ。ウニちゃんとミルクちゃんさまさまだね」

 

「ほんとにね……いやー『にじキャラ』半端無いって。この数字『にじキャラ』さんの宣伝のおかげでしょ絶対」

 

「ふふっ。嬉しそうでございまする」

 

 

 うふふふ……嬉しいかって。そりゃあもちろん嬉しいですとも。

 

 

 まずなによりも……今日のお昼のミーティングを受けて、うにさんとミルクさん両名から正式に『コラボします!』の告知がなされたこと。

 またその際、今晩の定例(にしたい)配信の宣伝つぶやきを拡散してくれていたので、いざ本番になってみれば彼女たちのフォロワーさんが多く来てくれることとなったのだ。

 

 しかもなんと、それだけではなく……うにさんとミルクさんお二方本人が、視聴者さんとしておれの配信を見に来てくれたこと。

 さらにさらに、お二方だけではなく他の『にじキャラ』メンバーの方々も、何人か見に来てくれていたらしいこと。

 ただでさえ(嬉しいことに)流量の増したコメント欄のみに集中することは出来なかったので、大御所の方々のコメントすべてを把握できていた自信は無いが……偉大なる先輩配信者(キャスター)にお褒めと励ましの言葉を送ってもらえたというのは、やっぱりとても嬉しい。

 

 さらにさらに、三つ目。おれたちのわめでぃあが手にした、貴重な企業案件……その一部。

 今月末、東京の臨海国際展示棟にて開催される『ジャパンキャンピングカーフェス2020』……そこに出展するメーカーのひとつ『三納オートサービス』さんにて、二日間イベントコンパニオンのお手伝いをさせていただくことを、やっと視聴者の皆さんにお知らせすることができた。

 関さんとか大田さんとか、見ていてくれただろうか。

 

 

 イベント告知は、おれが思っていた以上に盛り上がった。さすがに首都東京ともなれば、浪越市よりも多くの視聴者さんが行動範囲なのだろうか。

 そのリアクションたるや……年末年始の鶴城神宮初詣の助勤(アルバイト)決定報告のときよりも、明らかにコメント欄のスクロールが速かった。体感で七割増しくらい。

 

 三納オートサービス営業部の多治見さんいわく……おれを起用することの目的のひとつとして『今までキャンピングカーというものに触れたことの無い方々に、少しでも興味をもって欲しいから』というのがあるらしい。

 なので、このお知らせを聞いた視聴者さんたちの中で、一人でも多く『そんなイベントあるのは知らなかったけど、珍獣(エルフ)が見れるなら行ってみようか』みたいなことを考えてくれるひとが増えれば……作戦第一段階としては、成功といえるだろう。

 

 

 ……そして、どうやら。

 放送中のコメント欄や、放送終了後のSNSを流し見した限りでは……なかなかの成果が期待できそうである。

 

 イベントまでの期間もあと二週間くらいあるし、そもそも土日開催の予定だ。なので首都圏在住の方々であれば、無理なく足を運べることだろう。

 ……初詣のお知らせは、本当に直前だったからなぁ。その節は本当に申し訳ないと思ってる。

 

 

 

 

「そういえば、途中でコメントが何回か『おるやんけ』で埋まってたけど……あれ、なに?」

 

「あー、あれね。うにさんとかミルクさんみたいな、おれなんかよりずっとずーっと有名な配信者(キャスター)さんがね、ありがたいことに見に来てくれてたみたい。……いやほんと『にじキャラ』横の繋がり強いなぁ」

 

「えっと、つまりは……うにちゃんたちのギルドの……有名人? のひとが見ててくれてた、ってこと?」

 

「そうそう。おれが気付けた限りだけど……うにちゃんたち除いて、三人くらいは見た気がする」

 

「へぇー。コラボ増えるといいね」

 

「えへへ。そうだね」

 

 

 

 増えるかなぁ。増えるといいなぁ。

 

 一応うにさんたちとのFPSコラボのお知らせをした際に、『わたし変なエルフですけどいろんな配信者(キャスター)さんとコラボしたいです!(ちらっちらっ)』とアピールしてきたので、布石そのものは打ってある。

 もちろん、受け身でいるだけじゃ良くないって解っちゃいるけど……まだまだ人脈も何もないおれにとっては、今はこれで精一杯なのだ。

 

 もっと知名度が上がって、おれの配信者(キャスター)としての実績が積み重なってきたら……そのときはあの子やあの子にコラボ打診してみたい。

 夢は大きく。ふふふ。

 

 

 

 ……と、まぁ……そんなかんじで、大変有意義な定例(にしたい)配信だったのだが。

 じつはもうひとつ、振り返っておかなければならない『いいこと』があるのだ。

 

 いや、正直『いいこと』の域を軽く逸脱しつつあって……ヤバさすら感じ始めてることなのだが。

 

 

 ともかくそれは、ほかでもない。SNSや『わかめちゃんスレ』なんかでも度々視聴者さんに突っ込まれていたことだ。

 

 

 じつはですね……このたび、晴れて『収益化プログラム』の認可が降りましてですね。

 視聴者(ユーザー)さんから配信者(キャスター)に、直接支援を送ることができる制度――端的にいうとまさに『投げ銭』システム――である通称『スパチャ』を、この度やっと導入することができたのですが。

 

 

 

 

 ……えっとですね。

 

 

 大変なことになりました。

 

 



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187【配信終了】とてもやばいですので


※ 本作品における名称等は非実在のフィクションです。
※ 実在する人名・サービス名・機能・仕様等とは異なります。


 

 

 動画配信者(ユーキャスター)として生計を立てるにあたって、配信サイト(YouScreen)さんから収入を得る方法は幾つかあるが……大きな柱としてよく挙げられるのは、つぎの二つの手段だろう。

 

 

 ひとつは、投稿動画に設定することができる『広告動画』。いろんな企業の商品やサービスや、ときにはイベントやコンサートなんかをアピールする……そのままテレビでいうコマーシャルのようなものだ。

 配信サイト(ユースク)さんにおいては、まず投稿の際に広告動画を『設定する・しない』を選ぶことができる。設定された広告動画の再生数に応じて、広告料として付与される形となる。当然『設定しない』にしてしまえば広告料は入ってこないのだが、視聴者さんによっては広告が嫌だと捉える人も少なからずいるようだ。……まあそりゃそうか。

 

 また『広告動画』設定の際には広告動画の挿入頻度を増やしたり、スキップ不可能(=強制的に広告動画全てを視聴させる)に設定することで、より広告料のレートを上げることも出来るのだが……肝心の動画を視聴する際にペースを乱されることになるので、視聴者がわにとっては鬱陶しいと捉えられてしまう恐れも、まぁ当然あったりする。そりゃそうだよな。

 

 ちなみにおれはというと、とりあえず『冒頭一回のみ・五秒後スキップ可能』に設定しておいた。割とメジャーで無難な設定だろう。

 

 

 そして……もう一本の、大きな柱。

 それこそが今回から『のわめでぃあ』が導入し、先程おれのなかでちょっとした騒ぎになるところだったシステム……俗にいうところの『投げ銭』こと『スーパーチャージ』、『スパチャ』等と呼ばれる制度だ。

 

 こちらはなんと……リアルタイムで配信を視聴中の視聴者さんからライブ配信の提供者へ、直接()()()できてしまう制度。

 名実ともに『投げ銭』なのである。

 

 配信中に投稿するコメントに『スパチャ』を添付し、メッセージと共に任意の金額を送ることができるシステム。この『スパチャ』の乗ったコメントは派手な色で飾られリストにも残るので、激励やツッコミやイジりなど、多様な使われ方をされることもしばしば。

 もちろん手数料等として幾らかマージンは回収されるが……それでもざっくり六割から七割程度は、配信者(キャスター)のもとへと届く仕様だ。

 しかしながら『にじキャラ』などの企業所属配信者(キャスター)は、そこから更に会社取り分が差し引かれる形となるらしいが……どうであれ、ユーザーからの『お布施』が直接目に見える形で届けられるというのは、モチベーションに大きく影響することだろう。

 

 

 

 そう…………モチベーションにですね……非常に大きく影響するんですよ。

 

 

 

 

 

「……ノワ? なに見てんの?」

 

「あのねぇ……これねぇ…………今日のスパチャ一覧」

 

「ほえ、『スパチャ』……な、なんか数字書いてあるけど……これ、もしかして」

 

「…………うん、そう。……こっちが件数で、これが平均額で、金額ごとの分布グラフがこれで………………こっちが合計金額」

 

「わあー。…………引っ越しのときさ、けっこう出費したって言ってたよね。……もしかして、返ってきた?」

 

「………………そうみたい。……うう、ちょっと『申し訳ない』が過ぎちゃうよぉ」

 

 

 

 いやもちろん、嬉しいことには変わり無い。当然だ。

 

 おれたちの放送に価値を感じてくれているひとが居るからこそ、こうしてこの金額に表れているわけで。

 このスパチャの一件一件は、おれたちへの期待そのものに他ならないからだ。

 

 

 だから『申し訳ない』からといって……受け取ってしまった以上は、当然返すことなど出来ない。それに実際突き返されてしまっては、返された側としても複雑な心境だろう。

 

 であれば、せっかくの形ある厚意……是非とも有効に、ありがたく使わせて貰うべきだ。

 おれが今感じている『申し訳ない』の気持ちをバネに、返金とは別の形で視聴者さんに還元する。それこそが、おれたちの取るべき選択のはずだ。

 

 

 現金な話だが(お金の話題だけに)……『お金』は非常に便利なもので、いろんなものに『変える』ことができる。

 より高価で高性能な機材を更新したり、視聴者さんにより楽しんでもらえるようなゲームを購入したり、気軽には行けないような体験を代わりにレポートしたり……などといったことは勿論として。

 そのほかにも……他の人の『時間』を買い、おれが抱えているタスクを委託してしまったり。するとおれが視聴者さんたちに『お礼』を企てるための『時間』を確保することができ……より色濃いリターンを返すことができるのだ。

 

 

 モリアキとも相談したのだが……じつは動画編集作業を一部、外部に委託しようと考えている。おれの取れる時間を増やすのが目的だ。

 おれたちは全国あちこちで動画を撮り続けること、あるいはライブ放送を行うことに、ひたすらに専念する。撮影した動画を外部業者さんにどんどん編集してもらい、おれは完成した動画を受け取ってチェックして(場合によっては修正依頼を掛けて)投稿するだけ。

 動画一本あたり、集中モードでも六時間は下らない編集時間を、まるまる別の用途に充てることが出来る。お金があれば、それも充分に可能なのだ。

 

 

 

 配信者(キャスター)として生計を立てるということは、つまりは視聴者の皆さんに養ってもらうということに他ならない(と個人的には思ってる)。

 この道を選んだのはおれ自身なので、今さら後悔はしていない。……していないが、養われっぱなしというのもさすがに格好悪いと思ってしまうし、どうせ養ってもらってるなら常に感謝の気持ちは忘れないようにしたいとも思う。

 

 

 収益化プログラムのお陰で、収入のほうはなんとかなりそうだ。

 収入がなんとかなるのなら、編集を外注すれば時間が手に入る。

 時間に余裕ができるのなら、ちょっとくらい無茶できるだろう。

 

 

 

「若芽様、シラタニ様。お風呂が沸いてございまする。どうぞお先にお入り下さいませ」

 

「あっ! 霧衣(きりえ)ちゃんありがとう! おふろいこっか、ラニ」

 

「そだね。……うん。ありがとキリちゃん」

 

 

 

 ……まあ、そいうわけで。おれにスパチャを送ってくれた全てのひとへ、まずは感謝のお礼作戦。隙間時間をうまく見つけて、少しずつこまめに行動に移していこう。

 

 題して『スパチャのお礼メッセージをおれの声で送ろう』作戦。その内容はずばり、作戦名見たまんまだ。十秒そこらのお礼の言葉、動画ではなく音声のみであれば、そこまで煩雑なものでは無いだろう。

 

 黄スパチャ(四桁円)以上のひとは、ユーザーネームも読み上げて『そのひと専用に録りました』感を出してみたり。

 赤スパチャ(五桁円)のひとは……ラニか霧衣(きりえ)ちゃんも巻き込んで、もう一文加えたりしてみてもいいかも。

 

 

 えへへ。なんだか楽しみになってきた。

 ……喜んでくれるかな。

 

 



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188【仕込途中】視聴者還元せーる?

 

 

 録音開始ボタンを押して、お名前とメッセージを吹き込んで、録音終了ボタンを押して、名前をつけて保存。

 

 一呼吸おいたらまた録音開始ボタンを押して、お名前とメッセージを吹き込んで、録音終了ボタンを押して、名前をつけて保存。

 

 

 

「『ネネウ』さん、こんにちわ。木乃若芽(きのわかめ)です。先日は『のわめでぃあ』に格別のご支援をいただき、本当にありがとうございました。今後ともがんばっていきますので、楽しみにしていてくださいね」

 

 

「こんにちわ、木乃若芽(きのわかめ)です。『太郎左衛門』さん、先日は『のわめでぃあ』に格別のご支援をいただき、本当にありがとうございます。楽しんでもらえるようがんばりますので、今後ともどうぞよろしくお願いします」

 

 

 

 録音終了ボタンを押して、名前をつけて保存して、フォルダに纏めて、ファイル数とリストを照らし合わせて確認して…………

 

 

 

「失礼いたします、若芽様。お茶をお持ち致しました。……(こん)を詰めすぎではございませんか? お疲れではございませぬか……?」

 

「ほへ、大丈夫大丈夫。ありがと。……黄スパチャのひとは『太郎左衛門』さんで最後だから。あとは赤スパチャのひと……十人くらいかな? そんだけだよ」

 

「ノワがんばるなあ……全員ぶんでしょ? あのリストにあったひと」

 

「そだよぉー。でもまぁ、声だけだからね。そんなんでもないよ」

 

 

 

 昨日のライブ配信にて頂戴した――以前のおれの月給を軽くぶっちぎる規模にまで育った――『スパチャ』の山に対し……おれは還元施策の一環として、ユーザーネーム入りのお礼メッセージを送ろうと決めた。

 

 おれが普段使わせて貰っている配信サイト(YouScreen)さんには、『スパチャ』を送ってくれたユーザーの一覧を情報として取り出すことができ、そこから彼らへダイレクトメッセージを送付できる機能が備わっているのだ。

 メッセージには文章の他、ちょっとしたファイルを添付できるようになっている。画像を添付されることが多いだろうその機能を、今回は音声(MP3)ファイルを送ることに使用させて貰う。

 

 

 おれたちが昨日晴れて導入に至った『スパチャ』とは、その付与金額に応じて三段階に色分けされている。

 

 付与金額が三桁円(百円以上千円未満)のスパチャは青色。

 それ以上、四桁円(千円以上一万円未満)になると黄色。

 そして赤色は……なんと五桁円(一万円以上五万円以下)のスパチャが付与されたものだ。

 

 一目でだいたいの金額が解るようカラー分けがされているため、これのおかげでパッと見でも『ヤバさ』を判別しやすくなっている。

 それぞれのカラーをとって『青スパチャ』『赤スパチャ』などと呼称され……要するに『黄スパチャ』や『赤スパチャ』が連投されると、おれの中の『申し訳なさゲージ』が跳ね上がるということである。

 ちなみにこの色分けの仕様は、あくまでおれが普段お世話になっている『YouScreen(ユースク)』さんのものであり、このあたりは()()()()()()()()()()()()らしい。ここ大切ね。

 

 

 

 

 話は逸れたが、ユーザーへのダイレクトメッセージ添付作戦についてだ。

 今回送ろうとしているのはオフィシャルな商品としての音声データではなく、お世辞にも『きれい』とは言いがたい……場合によっては環境音やリップノイズとか入っちゃってる可能性もある、完全素人録りのおれの肉声である。そもそも音声(MP3)データ自体がけっこう短いこともあり、幸いなことにそこそこ軽い。

 千人や万人に送ることにでもなれば難儀するかもしれないが……百そこらだったら、一人ひとりにメッセージを送ることくらい問題ない。

 

 

 ……というわけで、昨夜の放送から一夜あけた本日は土曜日。

 おれは霧衣(きりえ)ちゃん特製朝ごはんを堪能したあと、スタジオスペースに籠ってせかせかと音声ファイルを量産していたのだ。

 

 ちょうど作業がひと段落したところで、霧衣(きりえ)ちゃんが冷たい麦茶を差し入れに持ってきてくれたので、ありがたくいただき小休憩とする。……正直めっちゃ『きゅん』とした。

 

 

 

「ちょうどよかった。二人とも、ちょっとお願いあるんだけど……いい?」

 

「いいよ!」「はい。なんでしょう」

 

「おぉ。……えっとね、今から録る赤スパチャのひとのお礼メッセね……二人にも声入れてほしいんだけど、だめ?」

 

「ノワが言ってたみたいに『だれだれさん、ありがとう!』みたいのでいいの?」

 

「そうそう。お一人あたりおれと、ふたりのうちどっちかで大丈夫だと思う」

 

「わたくしは問題ございませぬ。お手伝いいたします」

 

「ボクももちろん大丈夫。何でも言ってね!」

 

「きゅん」

 

 

 あーもう……ふたりとも、すき。

 優しげな笑顔で微笑みかけられてしまっちゃったら……おれのココロはもうイチコロだよ。これはやっべぇわ。

 

 かわいらしくて心強いわれらが『のわめでぃあ』構成員の、ありがたい力添えを得たことで……おれは赤スパチャの方々用お礼メッセージを、当初思い描いていた通りの内容で、あっという間に用意し終えることができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………と、いうわけで。録音のほうも片付いたので……せっかくだし、おれたちも『ミーティング』やってみようと思う」

 

「「おぉー…………」」

 

 

 一月十一日土曜日、時刻はまもなく十一時といったところです。……おぉ、(いち)がめっちゃ並ぶやつ。

 

 今週の月曜日にお披露目を済ませ(ついでに源平合戦でボッコボコにされて)、そして昨日金曜日の定例配信を迎えて……いぬみみ和装美少女新人れぽーたーの霧衣(きりえ)ちゃんも、そろそろ『のわめでぃあ』に染まっ……げふげふ、慣れてきたことだと思う。

 

 なので。このあたりでひとつ、企画を立てるほうにも参画してもらおうか……などと考えてみたわけで。

 

 

 

「本日の議題は、われわれ『のわめでぃあ』で新しくやってみたいこと、もしくは作ってみたい動画について。大前提として『一人でも多くのひとに見てもらい、見た人をポジティブな気持ちにさせる』ことを念頭に、おもしろそうな企画をどんどん発表していってください! はいじゃあラニから!」

 

「ふォえぇ!?」

 

「ひゃわわわわ」

 

 

 突然の指名に珍しく狼狽するラニと、自らの行く末を察して可愛らしく慌てる霧衣(きりえ)ちゃん。……なんといってもおれ一人の知恵と知識には限界があるので、他のひとの意見を聞きたいとは常々思っていたのだ。

 そういうときは大抵モリアキを巻き込むのが常なのだが、彼だってそう際限無くいい案が涌き出てくるわけでもないだろう。新しい風を呼び込めるのなら、それは是非とも呼び込むべきだ。

 

 なんだか『ついで』のような形で始まったミーティングだけど、今後の展開を左右する(かもしれない)大切な場でもある。是非ともいい意見を聞かせてほしい。

 

 

 

「んんん……そだねぇ、正直いくつかあるにはあるんだ」

 

「おおー! 聞きたい聞きたい!」

 

 

 おれたち『のわめでぃあ』の、頼れるアシスタントさんは……そう勿体つけると、可愛らしくはにかみながら語りだした。

 

 おれはとりあえず……ペンとスケッチブック(アイデア纏める用)を取り出したのだった。

 

 



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189【仕込途中】あーでもこーでも

 

 

 配信者(キャスター)としてのおれたちの活動は、大きく分けて二つある。

 

 ひとつはライブ配信。リアルタイムの映像を視聴者さんにお届けし、ネット上で場を共有して楽しむこと。

 そしてもうひとつは……企画を立て、動画を撮影し、編集したものを投稿することだ。

 

 今回のミーティングの想定としては、後者の撮影企画のアイデアを募る形だが……べつに前者のライブ配信の案を出してもらっても、わたしはいっこうに構わん。

 つまりは、何でもいいから意見を聞きたい。

 

 

 

「まずは……やっぱりお庭の開拓ネタ関連なんだけどね。ノワはさ、『環境音動画』って知ってる?」

 

「波の音とか鈴虫の音とか、そういうの?」

 

「そうそう。カメラとマイクを屋外に置いてさ、一時間ずーっと定点撮影するやつ。お庭に小川あったじゃん?」

 

「あぁー……あの川で水音録るってこと? ……でもそんなの、もういっぱい出回ってるんじゃない?」

 

 

 タブレットPCやノートパソコンを持たせてから、ラニは暇さえあればネットを徘徊して情報収集に奔走しているようだ。

 おれ以外の配信者(キャスター)の動画を見てみたり、掲示板サイトへ潜ってみたりと……その言動の端々には日頃から口にする『ノワ(おれ)の役に立ちたい』という気持ちが滲み出ていて、なんとも泣かせてくれる。

 向上心と行動力に溢れた彼女のことだ、もしかするとおれ以上に『トレンド』に詳しいかもしれない。

 

 そんな優秀なラニちゃんの考え出した意見は、やはりおれなんかとは目のつけどころが一味違っていたようだ。

 

 

 

「いやー、ボクはあんまり詳しくないんだけどさ……げいのうじん? って呼ばれてる人がね、自前のチャンネルで公開してたんだよ」

 

「え!? 水音動画!?」

 

「そうそう。川の目の前に椅子置いてさ、一時間ずーっとそこで読書したり、お茶飲んだり、スマホいじったりしてるの。あとは焚き火の前で同じことしてたのもあったけど……これがまたウケてたんだよね」

 

「ま、まじで……あぁ、芸能人さんのファンのひとにまず安定支持されるのか……それでいて元々の環境音動画としての効果もあるから……なるほど」

 

「それに見た感じ、編集の手間もほぼ無さそうだったから。……どうかな、ノワ。水辺でおよそ一時間(いちじかん)、のーんびりゆーっくりしてるだけで動画一本できるんだよ?」

 

「やだ……おトクに感じてきたわ……」

 

 

 編集(ほぼ)不要という点も、なるほどなかなか好印象だ。たいした手間もかからないというのなら、試してみる価値はあるかもしれない。

 費用対効果が大変に優れている、ということか。……いや、ラニちゃんすげぇ。よく思い付いたな。

 

 

「……うん、良さそう。すごいね、よく教えてくれた。……今度やってみよう」

 

「ヨッシャ! ふふ……義理は果たしたぞスレの民よ(小声)」

 

「……?? ……じゃあ、つぎ。霧衣(きりえ)ちゃん、何かやってみたいことある?」

 

「えっ、と…………」

 

 

 

 霧衣(きりえ)ちゃんはそもそも、配信者というものを知ってからまだ間もない子だ。昨年末におれが鶴城さんへ訪れ、そこでリョウエイさん達に宣伝したのを背後から盗み見て、そこで初めて知ったらしい。

 なので正直、この界隈に対する知識は持ち合わせていないだろうけど……だからこそ逆に、斬新かつ新鮮な発想が出てくるのではないか。

 

 このときのおれは……そんな期待をしてしまっていた。

 

 他ならぬ……現在進行形での自身の『やらかし』を、ご丁寧に箱に詰めて蓋を閉めた上で棚に上げて。

 

 

 

「わたくしは……恥ずかしながら、未だ常識に疎い未熟者の身にございますゆえ…………お手間をとらせ申し訳なく存じまするが、()()()()()のように、まずは色々なことを体験させていただきたく」

 

「あっ」

 

「えっ?」「あっ?」

 

「い、いやいやいや! なんでもないよ! そうだね、いろんなお店いってみようね霧衣(きりえ)ちゃん!」

 

「ねえちょっとノワあの、まさか『むぎた珈琲』のやつ投稿し忘r」

 

「せっかくだし今日のお昼どっか食べいこっか!! ラニたしかシオンモールにマーカーあったよね!! あっこ飲食店いっぱいあるし!! 霧衣(きりえ)ちゃんハンバーガー食べたことないでしょまだ!!」

 

「わわ……た、楽しみでございまする!」

 

「ぇえ……明らかに誤魔化したよね今……」

 

 

 

 わ、忘れてたわけじゃないし。今日のお昼に投稿しようと思ってただけだし。ちょうどこの後投稿するつもりだったし。ほんとうだし(目そらし)。

 

 

 しかし……そうか。現状この家の家事全般を引き受けてくれている霧衣(きりえ)ちゃんだが、現在の環境のままだと、彼女が今後『学び』を得られる機会が少なくなってしまう。

 現代の機器類とネット環境に適応したラニのように、自分から勉強できる周辺環境を整えるべきかもしれない。

 ……とりあえず、タブレットを支給してみようか。今となってはラニも教えられる立場になってくれたことだし。調べものにも向いているだろうし。

 

 あとはやっぱり家事の負担を軽減させるべく……お掃除とかはテグリさんに相談してみようか。最近はもっぱら『副業』に専念しているらしいが、相変わらず住処は例の納屋棟……すぐお隣だ。

 メールを送ればなんだかんだで相談に乗ってくれるし、霧衣(きりえ)ちゃんにも……もちろんおれたちにも、優しくしてくれる。頼れば応えてくれる面倒見のいいお姉様だ。

 

 それに……彼女はこのオウチの扱いにおいてはベテランなのだ。対価を支払っての『契約』であれば、彼女も嫌な顔はしないだろう……と思う。

 

 

 

「ちょっと電機やさんで買いたいものもできたし……やっぱモールでごはんしよう。ラニ、いい?」

 

「まぁ……ボクは全肯定フェアリーだからね。もちろん大丈夫だ……けど」

 

「わぁいやった…………けど?」

 

「まずは忘れてた動画、ちゃんと投稿すること。いいね?」

 

「アッハイ」

 

 

 苦笑するふたりの視線を背中に感じながら、おれは椅子に座ってメインマシンへと向かう。

 配信サイト(ユースク)へアクセスして管理者ページを開き、編集はバッチリ済ませておいたもののぶっちゃけ投稿を忘れていた『和装お嬢様の初体験【むぎた珈琲】編』のアップロードを行う。

 しかも今回は海外ニキネキを集中的に狙うべく、英文でタイトルと概要説明も設定してあるのだ。たとえば英語圏のユーザーからは、タイトルが『First time in a Japanese dress lady's life.(Coffee Shop MUGITA)』みたいな感じで表示されるようになるので、タイトルだけでどんな動画か判断しやすいはずだ。より吸引力を増してくれることだろう。

 

 サムネイル画像――これまたきちんと作成・準備済みだった――を指定し、キャプションを日本語と英語でそれぞれ書き込んで、ちゃんと広告設定を行って……準備おっけー。

 最後に『投稿』ボタンを押下し、投稿が無事に完了する。これで全世界から動画を視聴できる状態になった。ついでとばかりにSNS(つぶやいたー)でも投稿アナウンスを流し、宣伝も抜かりない。

 海外では和服の人気も高いって聞くし……そもそも霧衣(きりえ)ちゃんがかわいいのだ。どれくらいアクセスしてもらえるか、今から楽しみである。

 

 

 ……というわけで、これで投稿が完了した。

 かわいいかわいい霧衣(きりえ)ちゃんと、おれたち『のわめでぃあ』の今後のためにも。

 

 

「はいはい!! よしこれでオッケーでしょ!! じゃあシオンモールいこうね!! ごはんとお買い物しようね!!」

 

「なにふて腐れてんのさ。お子ちゃまかな」

 

「ふふふっ。……若芽様、まるで(わらべ)にございまする」

 

「んきいいい!! それじゃあ各々お出掛けの支度(したく)して十分後に玄関に集合! 解散!!」

 

「「はーい」」

 

 

 

 本来なら、こんなにのんびりしているべきじゃないのかもしれない。駆け出しの配信者(キャスター)であるならば、それこそ寝る間を惜しんで駆けずり回るべきなのかもしれないが。

 

 それでもおれは、この可愛らしい同僚たちと過ごす週末の『お出掛け』が、今はとても楽しみで仕方なかった。

 

 

 ……帰ったら、ちゃんと本気出す。

 

 

 



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190【休日満喫】初めてのはんばーがー

 

 

 前回、引っ越しのときの買い出しで訪れた際に打ち込んであった【座標指針(マーカー)】……それは厳密に言うと『地下駐車場の隅っこに停車していたモリアキの車の中』の座標だったわけだが、結論から言えば今回も問題なく利用することが出来た。

 

 仮にここの駐車マスに他の車が停まっていたらアウトだったのだろうが……本当に空いていてよかった。車内で記録したから多少高さ(Y軸)が上がっており、そのため出現地点からほんの数十センチ落下する形となったが、この程度なら問題なく着地することが出来た。

 ……とはいえ、この駐車マスがいつでも空いているわけじゃないのだ。もっとアクセスしやすい位置に【座標指針(マーカー)】を打ち直しておこう。

 自宅から五秒でシオンモールに来れるとか、便利なんて言うレベルじゃない。絶対に手放せない。

 

 

「あそこのオウチ、買い物がクッソ不便なのがほぼ唯一の難点だからね……! このメリットは捨てられない!」

 

「わ、若芽様! 若芽様! 食料の類いの買い出しもさせていただきたく存じまする!」

 

「そだね、ついでに買っちゃおっか。でも重たくなるだろうし……先にごはんたべて、タブレット見て、それからでいい? おれも手伝うから」

 

「わっはっは、もちろんボクも手伝うとも。キリちゃんのお料理ボクも好きだし、荷物持ちとあらば【蔵】とボクの出番でしょ」

 

「は……はいっ。宜しくお願い致しまする」

 

 

 

 

 というわけで。まずは軽く腹ごしらえを済ませるべく、おれたちはとりあえず飲食店街へと向かう。もともと勢いに任せて言い出したことなのだが……せっかくなので『ハンバーガー』を楽しませてあげたい。

 ……念のため、愛用のゴップロ(小型カメラ)も持ち込んである。お店がわの許可さえ得られれば、いつでもおっ始められる状況なのだ。

 

 

「問題は……赤のMにするか、緑のMにするか。()()()()は選べない、ってのが難しいとこよな」

 

「?? 赤と……緑、でございますか?」

 

(ぇえ、何そのキツネかタヌキかみたいな)

 

「あながち間違いじゃなさそうなのが、また。……霧衣(きりえ)ちゃん、赤と緑とどっちがいい? 直感で」

 

「直感……で、では…………『緑』で」

 

 

 

 

 

 

 ということでやってきました。こちらはシオンモール浪越(なみこし)(みなみ)、一階の飲食店街です。

 毎度お騒がせしております。魔法情報局『のわめでぃあ』局長、卵かけごはんは混ぜない派の木乃若芽(きのわかめ)です。へぃりぃ。

 

 先日の収録の際に大変気に掛けていただき、公開後も大反響(※予定)の『和装お嬢さま初体験』シリーズですが……なんとなんとご好評(※捏造)につき、早くも第二段をお送りさせて頂こうと思います。

 われわれニホンジンにとっては馴染みの深いモノ・コトですが……同じ日本生まれの日本育ちでも、箱入りのお嬢さんが人生初めてそれに触れたとき、いったいどんな反応を見せてくれるのか。本日も視聴者さんに『かわいい(KAWAII)』の奔流を、存分にお見舞いしていこうと思います。

 

 

「本日霧衣(きりえ)ちゃんに体験していただくのはァー……? こちら! 『MocBURGER(モックバーガー)』さんです! いぇーい!」

 

「えっと、あの…………いぇーい!」

 

(恥ずかしさ拭いきれない『いぇーい』かわいいかよ)

 

(それな)

 

 

 今回もなんとか無事に撮影許可をいただき、まずはお店の入り口前でオープニング部分を録る。正直めっちゃ目立ってるが、背に腹は代えられない。

 他に出入りするお客さんの邪魔にならないように、そしてお顔を(うつ)してしまわないように……お店のロゴや店構えはしっかりおさえておきつつ、少し端っこに避けてパパっと済ませる。こんなもんやろ。

 週末のお昼時とあって、さすがになかなか混んでいる店内ではあったが……端っこのほうのボックス席を幸いにも押さえてもらえたので、おれたちはぺこぺこしながら店内を進んでいき、霧衣(きりえ)ちゃんに座っててもらう。

 

 本来であればメニューの前であれこれ一緒に悩みながら決めたかったのだが、今回はあまりのんびりしていられない。お店にとっても稼ぎ時なのに、回転率を下げるのは宜しくない。なので、今回はおれのセレクトに任せてもらうことにする。

 バーガーを四つとサイドメニューを三点、ドリンクは……せっかく店内なので、スープを二種類選択。ちょっと申し訳なさを感じながら『バーガーぜんぶ四つ切りで』とお願いしたところ、大変いい笑顔で快諾してくれた。ありがてぇ。

 

 

 お金を支払い、プラスチックの番号プレートを受け取り、霧衣(きりえ)ちゃんの待つボックス席へと戻る。店内をぐるりと見回してみると、おしゃれな店内はやはり結構な混み具合。

 

 緑色Mの字のハンバーガー屋さんは、どちらかというとクオリティにパラメータを割り振った感じのイメージだ。

 日本生まれのハンバーガー屋さんなので、日本人好みの味覚をよーく理解してくれている。何を隠そうあのテリヤキ風味のバーガーを生み出し、またバンズの代わりにおにぎりで挟んだバーガーを売り出したのも、こちらが先なのだ。

 正直コスパが良いとは言いがたいが、材料すべてに産地が明示された素材を使用し国産野菜にこだわるなど、安全性と品質にはとことんこだわっている。

 

 ……などといったお話を、お料理が届くまでの間霧衣(きりえ)ちゃんに説明していく。

 しかし実際、彼女は『はんばーがー』なる料理を食べたことがなかったらしいので、おれの説明を受けてもいまいちピンと来てないようだった。かわいいからヨシ。

 

 

 

 

「というわけで! 届きました! ワーイ!」

 

「わぁーい!」

 

(アッかわいい)

 

(ほんまそれ)

 

 

 店内飲食の場合はバーガーがよく見えるように、片側をオープンな感じで包装してくれている。

 そのため……赤や緑や黄色などが織り交ざった大変おいしそうな表情が、一目でよく見えるのだ。

 

 

「バーガーが『こだわりハンバーグサンド』『モックチーズバーガー』『フィッシュフライバンズ』と『海鮮かき揚げライスバーガー』。サイドメニューが定番の『フライドポテト』と『オニオンフライ』に『モックチキン』。そしてスープが『ミネストローネ』と『クラムチャウダー』。……へへっ、とてもおいしそうですね」

 

「は……はいっ。おいしそうすぎて……おなかが減って参りました」

 

(いいなぁーーーー!)

 

 

 バーガー類は注文の通り、食べやすく包丁で四等分してくれてある。おまけに持ち帰り用に紙ボウルと紙袋も用意してもらったので、完全におれたちのおなかの容量を察されてしまっている。

 ちくしょう、本当に気の利く店員さんだ。お名前聞いとけばよかった。

 

 

 というわけで。

 

 今日も今日とて撤退戦の準備も整えられたおれたちは、もはやなんの憂いもなく……安心しておいしいお料理へと取り掛かるのだった。

 

 



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191【休日満喫】初めてのたぶれっと

 

 

 以前伊養(いよう)町商店街での撮影の際に使った『勝手に盗撮しようなんてフテぇ野郎じゃねえかついでに宣伝してけ作戦(うろ覚え)』だったが……じつはあれも一応、コンセプトとしてはまだ生きている。

 大きくアップデートされた点としては、看板ポップが大幅に小型化されたことと、それをおれが身に付けるのではなく自立式になったこと。

 今もこうして……テーブル上に設置した小型カメラの画角外にて、周囲の方々に対する無言アピールを続けてくれている。

 

 なかなかに混雑する週末のお昼どき、そんな環境下で行われた今回の撮影は……おれの華麗な予想通り、お料理の半分弱を『お持ち帰り袋』へと詰め、なんとか無事に終了を見ることとなった。

 それぞれ四分の一ずつ、量は少なくとも種類は全種類カバーできた。これは大きな進歩である。

 

 

 

「……よし。…………すみません、長らくの間大変お騒がせ致しました。騒々しくてすみません、大変失礼致しました」

 

 

 近くの席でお食事をされていた方々に、順番順番に頭を下げていく。きわめて幸いなことに皆さんとてもいい人たちで、中には『今度チャンネル見てみるね。がんばって!』などと激励の言葉を掛けてくれる方も居た。ありがてぇ。

 必要な分の動画もきっちり撮り終えたので、これにて『MocBURGER(モックバーガー)』さんを後にする。忙しいランチタイムにホントお邪魔しました。

 

 

 前々から思ってたけど……この街の人々あったけぇな!

 おれみたいな不審きわまりない容姿の人物なんて、ふつうは通報されてもおかしくないと思う。緑髪と白髪だし、おれなんて長耳だし……『街中でこすぷれとか嫌だわぁ!』『最近のコは恥知らずねぇ!』とか聞こえるように陰口言われることも、正直覚悟していた。

 

 だが、実際はこの通り。遠巻きにスマホカメラを向けられることこそすれ、撮影を妨害されたり敵意を向けられたりすることは無かった。

 エルフであるおれはそのへんの『他者から向けられる感覚』に敏感なので、敵意の有無ははっきりわかる。おれに向けられる感情の大半は好意的なものであり、それ以外の感情も『興味』『疑問』くらい。……本当にありがたいことだった。

 

 

 

 

 と、いうわけで。本日の予定のうち三分の一を消化したので、二つ目の工程へとフェーズを進めようと思う。

 

 続きましてはエスカレーターで『うにょーん』と昇って三階、家電量販店へ。店内はスマホやパソコンやゲームソフトや大型テレビが所狭しと並ぶ、いつ来ても心躍る光景だ。今日はきりえちゃんへと持たせるためのタブレットPCを探しに来たので、PC周辺コーナーへと向かう。

 相変わらず周囲の方々から好奇の視線とスマホカメラは向けられているが、職業柄仕方ないことだと割り切ることにする。

 

 

「タブレットって……初心者用とかある? 使いやすいやつとかあんのかな」

 

「……すみませぬ、わたくしは…………何が何やら」

 

「だよねぇ……」

 

(…………そんな何種類もあるの? タブレットって)

 

(そうなんですよお客様。ちなみにラニちゃんに貸してるやつはプロ仕様の最上級レベルね、りんごマークのやつ)

 

(オヒェ!?)

 

 

 自前用(現ラニちゃん用)のハイエンドなタブレットは色々と調べたことがあったのだが、初心者用のものは正直気にしたことがなかった。性能を上げれば上げるだけお値段のほうもどんどん上がるだろうが、逆にそこまでのハイスペックを求めない初心者用・日常使い用だったら、せいぜい五桁……五万円くらいで収まるだろう……と思う。……収まると良いなぁ。

 

 そんな希望的観測を立ててはいるんだけど……どうしよう。タブレットなんて見た目どれも同じに見える。素人が性能なんてわかるわけないし。

 やはりここは困ったときのモリアキ氏に聞くべきだろうか。しかし正直なところ彼もハイスペック志向だし、興味のない分野についてはそうそう詳しく無いだろう。店員でもないし。

 

 …………はっ、店員。

 

 

 

「いらっしゃいませ、お客様。何かお探しですか?」

 

「ナイスタイ……んぐッ。…………えっと、タブレット探してるんですけど……この子、電子機器とか得意じゃなくて……入門用のって、どれがいいのかわかんなくて」

 

「よ、よろしくおねがいします!」

 

 

 餅は餅屋、タブはタブ屋だ。他でもないこのお店の商品のことなら、ちゃんとした専門知識を備えた店員さんに聞くのがいちばんだろう。ちょうど話しかけてきてくれた店員さんを巻き込んで、きりえちゃんのタブレットデビューを推し進めていこうと思う。

 

 

「そうですね……とりあえず、用途としてはどういったことをお考えでしょうか?」

 

「えーっと……とりあえずは調べものとか、あと動画見たりとか……ですかね? メインのタブレットは別にあるので、サブというか」

 

「それでしたらですね……こちらなんかはいかがでしょうか。『Apollon Helios 7』です。通販大手Apollon.comが販売しているオリジナルのタブレットなのですが、エントリーモデルとしてもおすすめです。お嬢さんがお使いということと、他にもメインのタブをお持ちとのことでしたので、大き過ぎず軽量で取り回し易いという点は長所だと思います」

 

「なるほど重さ。それは盲点でした……おぉー軽い! きりえちゃんどお? 重くない?」

 

「本体重量がだいたい三百グラム弱ですので……えーっと…………果物のリンゴと同じか、それより軽いです」

 

「ほ、ほわ……艶々で綺麗な板面にございまする」

 

 

 まぁ……確かに、機能的なことを聞かれてもわからないだろう。とりあえず手に持った感じの質感を気に入ってくれたらしいことと、あまり重さを感じていなさそうだということ……このへんの感想は概ね良好っぽい。

 であれば、性能面や価格面はおれに任せて貰おう。彼女には『持った感じ』で判断して貰うことにする。

 

 

「プロセッサも一.三(1.3)GHzのクァッドを積んでますので、動画の読み込みもそこそこ早いです。内蔵ストレージは十六GBですがマイクロSDスロットを備えてますので、五百GB程度まで保存容量を拡張できます。Apollonプライムから動画をダウンロード保存しておけば、オフラインでも視聴できます」

 

「おぉすごい。ちゃんとカメラもついてるんですね」

 

「えぇ。フロント・リアともに静止画二メガピクセルです。ビデオでは七百二十ですが、そこまで致命的というわけでも無いかと」

 

「バッテリーはどれくらい持ちます?」

 

「無給電の連続使用では七時間程度です。屋外でずーっと映画を見続ける、とかでも無い限りは……まぁ、特に不自由しない程度の容量はあるかと」

 

「ですよねぇ」

 

 

 想定しているのはあくまで、在宅中での使用だ。どの部屋にもコンセントはあるので、割とどこででも充電することが出来る。そう考えるとバッテリーの容量も、特に不満を感じる程でもないだろう。最悪ケーブル挿しっぱで使えばいいのだ。

 それに……それらのデメリット(と呼ぶほどでもない)部分を補って余りあるのが、なんといってもお求めやすいこの価格だ。

 

 ―――税抜き、六千九百八十(6980)円。

 あくまでサブ機ということを念頭に置いたチョイスではあるが、このお手軽さであれば各所の力不足感も納得できるレベルだろう。まさかの四桁である。

 そもそもきりえちゃんが使う分には、力不足になることも無さそうだけど。……ネットサーフィンくらいだと思うし。

 

 

 

「よし決めた。これ買います。…………あと、すみません」

 

「ありがとうございます。何でしょう?」

 

 

 

 

 思っていた以上に、お手軽なタブレットが入手できそうなので。

 

 おれはもう一つの『ほしいもの』……密かに購入を狙っていたアイテムに手を出すことを決めた。

 

 

「マイク、っていうかレコーダーになるかもしれないんですけど……『TR-07X』って、置いてますか?」

 

「レコーダー……探してみますね。少々お待ち下さい」

 

「はい。お願いします」

 

 

 

 

 結論からいうと……ありました。

 

 なので、買いました。

 

 

 演目が増えるよ!

 やったねラニちゃん!

 

 



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192【休日満喫】初めての生鮮売り場

 

 

 ここシオンモールは各種飲食店街や専門店街に加えて、生鮮食品売り場もかなりの広さを誇る。

 その規模と品揃えたるや……一階の一部分を占める生鮮食品売り場のみで、下手なスーパーマーケットを打ち負かしてしまう程。

 いつぞやラニと一緒に買い物にいった近場のスーパーなんかでは、申し訳ないが太刀打ちできないだろう。

 

 飲食店舗で撮影を終え、家電量販店でタブレットPC(とマイク)を購入し終えたおれたちは……二人(三人)仲よく並んでカートを押しながら、この生鮮食品売り場へと訪れていた。

 ほかでもない、おれたちが消費する食材を買い込むためなのだが……この光景を初めて目にするらしい霧衣(きりえ)ちゃんは、いつぞやのラニが軽く霞む程にテンションが上がっていた。

 

 

 

「おっ、おっ、おっ……お野菜が! 艶々(つやつや)の綺麗なお野菜が! 美味しそうなお野菜が……こんなにも!!」

 

「うふふ……霧衣(きりえ)ちゃんが見たことないお野菜あるかもね。端っこから見てってみよっか」

 

「若芽様! 若芽様! わたくし斯様(かよう)なきのこは御目に掛かったことがございませぬ!」

 

「エリンギだね。香りはそこまででもないけど、歯ごたえと食べごたえが良いきのこだよ」

 

「おっ、おっ、おとうふが! おとうふがこんなにも! ああっ納豆も! こんなにも種類がたくさん!」

 

「お豆腐めっちゃ安いね。納豆もピンからキリまでいろんな種類あるからね」

 

「たっ、たまごが!! たまごが山と積まれております若芽様!!」

 

「これまた安い……うちみんなたまご大好きだもんね。多めに買ってこっか」

 

 

 まだほんの一部、野菜コーナーとそこに隣接する冷蔵ショーケース周辺しか見てないのだが……既に彼女は現代の生鮮食品売り場に夢中のようだ。

 いつもの貞淑さは鳴りを潜め、まるで幼い子どものようにはしゃぎ回るその様子は……正直、非常に人目を引いてしまっている。思わず昇天するほどかわいい。

 

 それもまあ、仕方無いだろう。珍妙な緑髪のちんちくりんとは違い、まずもって霧衣(きりえ)ちゃん自身が類稀なる魅力溢れる和服白髪美少女だし。そりゃみんな見ちゃうよね。

 

 

 

(いやぁ、相変わらずのクソザコ自己認識よ)

 

(ほあ、っ……自分の見た目の異質さくらい、ちゃんと理解してるよ! 失礼な!)

 

(ははは冗談がお上手で)

 

(なによお!?)

 

 

 念のためにと、大きいほうのカートを持ってきていて良かった。上段に二つと下段に一つ載せられた買い物カゴへ、現在進行形で食材がどんどん詰め込まれていく。

 

 わが家の台所を取り仕切る霧衣(きりえ)ちゃんには、あらかじめ『必要と思った食材は遠慮せず買って良い』『そうしてくれると美味しいごはんが食べられるので、おれたちも嬉しい』と念押ししておいた。

 そのことをきちんと念頭に置いてくれているのだろう、霧衣(きりえ)ちゃんは目を輝かせながら食材一つ一つをじっくり吟味し、それでいて手早くピックアップを進めていった。

 

 

 

「お、おっ、お肉が! いろんな種類のお肉が一堂に会しておりまする!」

 

「マガラさんもめっちゃ凝視してたけど、やっぱ霧衣(きりえ)ちゃんもお肉好き?」

 

「は、はいっ! こうして、色鮮やかなお肉を眺めて居りますと…………んっ、……はぁっ、……んはぁ、っ」

 

「いっぱい買おうね! おれもお肉好きだから! 早く買って次いこう次!!」

 

 

 

「お米も調達しておきたいのですが……こちら、封を綴じられておりまする……」

 

「え、何かまずかった? 穴空いてないし良いことじゃない?」

 

「……いえ、しかし……これでは、香りを嗅ぐことが出来ませぬ。……少しだけ封を切らせて頂くことは出来」

 

「出来ないからこれ買っちゃおう! たぶん売れ筋だから! 十キロ買っとこ!!」

 

 

 

「わ、わ、わ、若芽様! 若芽様! おべんとうが! おべんとうがあんなにも並んでおりまする!」

 

「お総菜コーナーだね。独り暮らしだと揚げ物なかなかできないから、こういうところで買っちゃうんだよね」

 

「……ご心配には及びませぬ。わたくし若芽様のためとあらば、天婦羅もカツレツも喜んでご用意致しましょう」

 

「わぁ……それは割と普通に嬉しい。……ありがと、楽しみにしてるね」

 

「…………はいっ!」

 

 

 

 うん、失敗した。

 なんだこれ。あまりにも『かわいい』が過ぎるが。カメラ回しとけばよかった。……いや、まわりに人いっぱいいるし……どっちみち無理か。

 この『かわいい』を視聴者さんたちと共有できないのは残念だが……逆を返せば、この『かわいい』はおれたちのみに許された特権なのだ。そう考えればなんだかテンション上がってきた。ひゅんひゅん。

 

 

 

「若芽様……? こちらの品は……いったい何物でしょうか? かけそばが描かれているように見えますが……」

 

「これねー、即席らーめんなの。サッポロ特番。……あ、霧衣(きりえ)ちゃんラーメン食べたことある?」

 

「らー、めん? …………申し訳ございません」

 

「だだ大丈夫だよ! 謝ることじゃないから!! ……よしじゃあ買ってこ。近いうちに作り方教えたげるね」

 

「は……はいっ!」

 

 

 ウグゥゥゥゥ……がわいい!!!

 

 真正面でほころぶような笑みの直撃を受けたおれが、ふと周囲を見回すと……お買い物中の皆さまがたも、少なからず霧衣(きりえ)ちゃんスマイルを食らってしまっているようだ。

 皆一様に立ち止まって、こちらへと視線と身体を向け、とても温かい表情をおれたちに注いでいて……

 

 

 …………まぁ、要するに。

 

 めっっっちゃ目立ってるわけですね。

 

 

「よ、よし霧衣(きりえ)ちゃん! お買い物早く済ませちゃおうね! いこういこう! あと足りないもの何かある?」

 

「あとは……お出汁に使ういりこや昆布があれば」

 

「あー乾ものね。乾もの乾もの……こっちかな……」

 

「わわ、わわわ、若芽様! うどんが氷漬けにされてございまする!」

 

「あーこれはね、冷凍食品っていってね……」

 

 

 

 霧衣(きりえ)ちゃんが買い込みたい食材に加え……霧衣(きりえ)ちゃんに食べさせたい食材を、ついでとばかりに見繕い。

 

 

 お昼過ぎの生鮮食品売り場。

 

 多くの人々の温かい視線に晒されながらも……おれたちはるんるん気分でお買い物を続け、商品をどんどんカゴの中へと詰めていった。

 

 

 なお……お買い物袋はぱんぱんだった模様。

 

 



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193【休日満喫】業務効率化のために

 

 

 おれたち自身、なかなかに奇抜な見てくれだという自覚はあるけれど……このご時世――よっぽどの有名人でもない限り――あからさまに後をつけられたり、一挙一動を凝視されたり、といったことはそうそう無いらしい。

 際限なく尾行されたら正直いってお手上げだったので、おれの無名さに助けられた。

 

 当たり前だが、おれやラニが【魔法】を使うところを見られるわけにはいかない。緑髪エルフなんておれ以外に存在しないので、一発でおれが異能力者だということがバレてしまう。

 なので【蔵】や【門】を使うときには、周囲の視線に充分気を付けなければならない。これについては人の視線も勿論そうなのだが……現代ならではの機械の視線、つまるところ監視カメラの記録範囲にも、気を配っておく必要がある。

 

 

 そんなこんなで、シオンモール浪越南(なみこしみなみ)の屋上駐車場。大量に買い込みカートに満載されていた食品をとりあえず【蔵】へ仕舞い込み、もう一つの目的を果たすべく良さそうな場所を探しているところである。

 あぁ、ちゃんと監視カメラに映らないところで仕舞ったので、ご安心を。広い屋上駐車場であれば、監視カメラの死角もあちこちに、それこそ停まってる車の影なんかは無数にあるのだ。

 ……というわけで、空っぽになった(のを【陽炎(ミルエルジュ)】で誤魔化してる)カートをガラガラと押しながら周囲を見回し、()()()()な場所を探していく。

 

 すると……あった。

 監視カメラに映らず、店舗出入り口から直接見えず、人通りも少ない絶好の場所。

 屋上駐車場に設置された大型空調設備室外機の影……それこそ『かくれんぼ』でもやらない限りは、誰も足を踏み入れないであろう場所。

 

 それはつまり……自宅とこのショッピングモールを繋ぐ【門】を開くにあたって、おおよそ最適といえる場所である。

 

 

「おっけー。【座標指針(マーカー)】ばっちりだよ」

 

「ありがとラニ! これでいつでもシオンモール来れるよ。うわぁめっちゃ便利じゃん……夢みたい」

 

「シラタニ様さすがでございます!」

 

「わっはっは! よきにはからえ!」

 

「いやぁ……まじ助かる。ラニちゃんさまさまだわ。お礼に何か欲しいものがあればなん」

 

「今なんでもって言ったよね?」

 

「ひぇっ」

 

 

 

 おれの自爆じみた犠牲によって、非常に便利な直通手段を手に入れたおれたちは……若干一名のおれを除いた皆がうきうき気分のまま、意気揚々とモールを後にした。

 

 い、いったい何を要求されるのか……今は考えないことにしよう。

 

 

 

 

 

 

 というわけで。ほんの数秒で帰宅、さすがラニちゃん様様である。

 

 帰ってきて早々だが、おれは少々やらねばならないことがある。買い込んだ生鮮食品の管理を霧衣(きりえ)ちゃんとラニちゃんに詫びを入れながら丸投げし、おれは一人スタジオスペースへと引きこもる。

 携帯カメラとメインPCを同期させ、撮影した映像データを転送する。その間にDeb-CODE(音声通話ソフト)を立ち上げ……つい先日モリアキから紹介され、新たに登録したばかりの連絡先をクリックし、まずはチャットでアプローチを掛ける。

 

 ……と。すぐに既読マーカーがつき、幸いなことにおれの望んだ返信が得られた。

 たっぷり一拍、大きく深呼吸をし……音声通話発信ボタンをクリック。ほんの数秒の呼び出し音が流れたかと思えばメロディが『ぶつり』と途切れ……『ごそごそ』とマイクの位置を調整するような音とともに、聞きなれない男性の声が聞こえてくる。

 

 

『……えーっと…………あの、ども。……はじめまし、て?』

 

「では無いと思うんですけど…………先日はどうも、お世話になりました」

 

『いや、その…………こっちこそ。…………ご無沙汰してます。……あの、いつも楽しませて貰ってます』

 

「な、なんでそんなオドオドなんですか!? トリガミさん!!」

 

『いや、そりゃあ……だって…………()()からの一対一通話ですし』

 

「………………恐縮です」

 

『いえいえいえいえ、こちらこそ』

 

 

 通話の向こうの相手は……神絵師モリアキの同輩にして、おれの親愛なる視聴者さんの一人でもあり、多忙になる(見込みの)おれの業務効率化のためモリアキが紹介してくれた、業務提携先の窓口でもある男性。

 

 彼は、鳥神(トリガミ)さん。

 昨年末ごろモリアキによって拉致同然に連れていかれ、たいへん女の子らしいお写真を撮ってもらった『スタジオえびす』の従業員であり……映像メディアの扱いならおおよそ何でもこなせるという、現役の編集者さんだ。

 

 

 

『モリアキからも話が行ったことかと思いますけど…………その節は、ウチのモンが大変ご迷惑お掛けしました。本当に申し訳ありません』

 

「いえいえそんな! …………まぁ、恥ずかしくないといえば嘘になりますけど……もともとネットに晒しちゃってる顔なので。……それに…………その()()で、こうしてわたしにとって『お得』に発注させて頂けるので。われわれとしては万々歳ですよ!」

 

『…………恩に着ます。局長さん』

 

「えへへぇー」

 

 

 なんでも……彼の勤める『スタジオえびす』の元・従業員のひとりが、おれの写真を無断持ち出しした……という事件があったらしい。

 年末年始おれは()()でバタバタしていたので、ラニとモリアキからことの顛末を聞いたときには、既に全てが片付いたあとだった。

 

 どうやら年末におれがシバいた『苗』の保持者……おれに対する特効効果を備えた彼らのうちの一人が写真持ち出しの犯人だったらしく、警察に保護された後にその流れで確保されていたらしい。

 持ち出し事件が発覚してから『スタジオえびす』さんは迅速に動いてくれていたらしいし、取締役のお兄さん(意外なほど若かった)も丁寧にお詫びを入れてくれたので、おれは彼らに対する悪印象は全く持ち合わせていなかった。

 

 とはいえ、映像・写真を取り扱う事業である以上絶対にあってはならない激ヤバな事案だったらしく、一時は『賠償金』とか『制裁』とかいう単語が飛び交うくらい物騒なことになっていたのだが……さすがに桁がヤバそうだったので、おれは何度か丁寧に固辞していた。

 じゃあどうやってオトシマエをつければ良いのか、と『スタジオえびす』さんが頭を悩ませていた(らしい)ところ……モリアキからトリガミさんに『映像編集って、動画一本いくらくらいが相場なん?』と問い合わせがあり、詳しく話を聞いてみればほかでもないおれ(のわめでぃあ)が映像編集の外注を検討しているとわかり、『ならば今こそ』とかなり勉強した価格で見積を出してくれた……という複雑な経緯がありまして。

 

 いやあ、おれは本当あんまり気にしてなかったんですけど……そのせいで『スタジオえびす』さんが逆に困っていたとは思ってもみなかったので、正直すまなかったと思ってる。すま○こすま○こ。

 

 

 ……まぁ要するに、つまるところ。

 おれは大変おトク(相場の七割程度)なご予算で、プロ集団に動画編集を依頼できる『コネクション』を手に入れたのだ!

 てってれー。

 

 

 

 

『おおよそのイメージとしましては、これまでに御社が作成してきた動画に倣う感じで宜しいでしょうか?』

 

「アッえっと、はい。可能であれば、もっとバラエティっぽい方向性で。効果音とかBGMとかフォントとか、そのへんは大概フリー素材から拾ってきたやつなんですけど……ぶっちゃけ特にこだわりがあるわけでも無いので、もっと良さそうなものがあったらそのへん全部お任せしたいです」

 

『承知しました。以前モリ…………失礼。烏森(かすもり)に提示させて頂いた見積内容ですと、追加費用無しでのリテイクは二回までとなっていますが……そちらはご了承頂けますでしょうか?』

 

「はい、大丈夫です。それ以上のリテイクお願いしたい際は、改めて見積お願いすればいいですか?」

 

『そうですね。……一応あくまで目安ですが、超過分のリテイクは一回につき『見積金額の二割から二割五分程度』とさせて頂くことが多いです』

 

「わかりました。その内容で異存ありません。……というわけで、さっそく一本お願いしたいんですけど……良いですか?」

 

『ッホゥォ! ……すみません。マジ失礼しました。……本当すみません……思ってた以上にテンション上がってしまいまして』

 

 

 お仕事の話になってからは、一転して『やり手』っぽく饒舌になっていたのだが……ここへきて再び()が出てしまったようだ。……おれとしてはビジネス用の応対よりも、モリアキと話してるときみたいな気軽な感じが落ち着くので……ちょっとモリアキが羨ましい。

 それにしても……おれの『視聴者さん』である彼は本来、おれの動画を楽しんでもらうべき立場のひとなのだ。完成して公開された動画を見るときの楽しみを奪ってしまうようで、なんだか申し訳ないのだが。

 

 

「あははは。……こちらこそ、すみません。本来は楽しんでもらうべき視聴者さんなのに、こんな手伝いさせてしまって」

 

『いえいえいえいえいえいえ!! ぶっちゃけマジで光栄なことなんで!! 社員一同誠心誠意取り組ませて頂きます!! 勿論お預かりしたデータが外部流出しないよう、今度こそ管理徹底しますので!!』

 

「そこは信用させてもらいます。……では、このままデータ送れば良いですか? 圧縮してメール添付のほうがいいです?」

 

『そうですね……GF便でお願いして良いですか? あ、使い方わかります?』

 

「大丈夫です。了解しました。……では、アップ出来たらチャットのほうにURL貼りますね」

 

『お願いします。他何か疑問点等あれば、遠慮なく送って下さい。このアカウントは職場でも家でも見れますので』

 

「ご丁寧にありがとうございます! …………無理しないで下さいね?」

 

『……ッ、ホァ…………頑張ります!』

 

 

 ……う、うん……大丈夫だろうか。なんだか変な声というか吐息が聞こえた気がしたけど。

 彼の勤める『スタジオえびす』さんも、当然本来の業務があることだろう。そもそもおれの依頼は相当『勉強』してもらっているので、利益が薄いはずなのだ。……そんなに急がなくても良いので、本当無理だけはしないで欲しい。

 

 しかし、仮にゆっくり進めて貰ったとしても……それでもおれは以前より、圧倒的に楽に動けるようになるのだ。

 この『時間』というアドバンテージを最大限活用するためにも、どんどん種を撒いていこうと思う。

 

 

 

(えーっと…………Apollon、Apollon……それとメルオクメルオク……)

 

 

 トリガミさんとの通話を終えたPCで、世界的大手通販サイト『Apollon(アポロン).com』とオークションサイト『メルオク(メルクオークション)』を立て続けに開き、それぞれ探しているものを検索窓に入力し、表示される情報を取捨選択しつつ片っ端から吟味していく。

 新品で良品でお手頃なものが買えればいいのだが……贅沢は言っていられない。探し物のうち一つは新品でもお値打ち品が見込めるが、二つ目の探し物は正直望み薄だろう。そうそう市場に出回る品では無い。

 

 出来るだけ安く手に入れたい、というのは確かだが……かといって『安物買いの銭失(ゼニうしな)い』になるのは避けたいところだ。

 

 

 

 まぁ、ダメでもともと。一朝一夕で見つかるとは思っていない。しばらくこまめに覗いてみて、気長に探していこう。

 

 …………と思っていた、二つの探し物だが。

 

 

 

 どうやらおれは荒浪(あらなみ)の神様だけでなく……取引や幸運の神様にも、いつのまにか気に入って貰えているらしかった。

 

 通販サイト(アポロン)のほうは無事に購入手続きを済ませ、オークション(メルオク)のほうも良さそうな品を見つけ、コンタクトを打診することができた。

 

 

 ふふ……たのしいことになりそうだ。

 

 



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194【週末配信】相談のってくれますか?

 

 

「ヘィリィ! 親愛なる人間種の……チキュウに住まう世界じゅうの視聴者諸君! 魔法情報局『のわめでぃあ』局長、靴下は左から履く木乃若芽(きのわかめ)です! Hello! My dear!」

 

「やほー。同じく『のわめでぃあ』所属の万能型アシスタント妖精、(じつ)はゴハン派のラニこと白谷(シラタニ)ちゃんだよ。へろーまいでぃーあ!」

 

「こっ、こんばんわ。『のわめでぃあ』新人れぽーたー……えっと、えっと…………らーめん、が……美味でございました、霧衣(キリエ)と申します。……へろうま、いり……にゃあ……?」

 

「「は? かわいいが??」」

 

 

『ヘィリィ!!』『何なのその自己紹介www』『のわちゃんの靴下……』『ヘィリィ!』『【¥10,000】ヘィリィたすかる』『かわいい』『マイディア!!』『わかめちゃ!わかめちゃ!!』『かわいいが?』『らーめん!!』『らーめん初体験かぁ……』『かわいいが』『にゃあ可愛い』

 

 

 

 こんばんわ。世界のみんなのおともだち、実在美少女エルフ配信者(キャスター)木乃若芽(きのわかめ)です。

 いやあ……らーめん気に入ってくれてよかった。おれも腕を振るった甲斐があったというものだよ。……サッポロ特番だけど。

 

 昨日の定例配信に引き続き、なんと二夜連続でお送りしております『のわめでぃあ』ライブ配信……誰が呼んだか『生わかめ(※非公式)』。

 例によって放送当日、間際になってのお知らせとなってしまったのだが……それでも多くの視聴者さん――最近は標準(デフォルト)で四桁――が来てくれたことは、言うまでもなく非常に嬉しい。

 ……いや、言うべきだな、これな。

 

 

 

「突然のお知らせにもかかわらず、みなさん来てくれてありがとうございます! わたくし木乃若芽(きのわかめ)、ならびに『のわめでぃあ』一同、とっても嬉しいです! ……ハイ。本当スミマセン。もっと連絡早くしなきゃって思ってるんですけど……実はですね、割とその場のノリで決めちゃってたりするので……『アッ、今晩配信しよ』みたいな…………アッ、もんざえもんさん『ヘィリィたすかる』赤スパありがとうございます! こちらこそとっても助かります!!」

 

 

 定例配信や『うにさん』たちとのコラボのように、前々から配信予定を決めてある場合は、当然早め早めからSNS(つぶやいたー)で告知ができるのだが……今回の突発配信、なんと開催を決めたのは十六時をそれなりに回った頃。

 ちなみに現在は二十一時を少し回ったくらいなので……ほんの四時間ちょっと前に、唐突に『今晩配信します!』と声を上げた形になる。

 

 いくら土曜とはいえ……たとえばもともと外出の予定を組んでしまっている人なんかは、告知を見たところでどうしようもないだろう。

 決してうぬぼれるわけじゃないが、配信を見れなかったことを悲しんでしまうひとだって居るかもしれない。

 

 そういう視聴者さんを出さないように……そもそも視聴者さんに迷惑をかけないようにするために、もっと先々まで予定を立てておくべきなのだろう。

 ぶっちゃけ我が『のわめでぃあ』、行動が少々場当たり的なところがある。……これはプロとしてふさわしくないですね。

 

 

 そのへんも今後の課題なのだが……今日はまた別の『課題』を解決する、そのための糸口を得るための配信なのだ。

 時間を有効に活用するためにも、さっそく始めていこうと思う。

 

 

 

「というわけでですね、本日お集まりいただいたのは……ほかでもありません。視聴者のみなさんとお話ししたいというのもあるのですが……本日の主役はですね、こちら! 霧衣(きりえ)ちゃんです!」

 

「よよよよろろろしくお願いいたします!」

 

 

『かわいい』『は?かわいいが?』『可愛い』『おちついて』『お耳めっちゃうごく』『不安顔くそかわ』『>本日の主役<』『主役がんばって!』『ぷるぷるしてる』『【¥30,000】推しのハレ舞台と聞いて』

 

 

「いやぁほんと……視聴者のみなさん優しい方ばかりで、わたしとしてもすごく嬉しいです。おかげさまで、大切な霧衣(きりえ)ちゃんを安心してお任せできます」

 

 

『てれる』『娘さんは任せて』『娘さんは幸せにしてみせます』『お義母さんありがとう』『それほどでもない』『てれる』『やっと結婚を認めてくれたんですね!』

 

 

「渡さんぞ!! 霧衣(きりえ)ちゃんは絶対に渡さんからな!! 当然ラニも渡さんからな!!!」

 

「はわわわ」「お、おぉ……」

 

「アッ、ケモミミンスキーさん『推しのハレ舞台と聞いて』赤スパホントありがとうございます。霧衣(きりえ)ちゃん推しとはお目が高い。スパチャはありがたく推しの……霧衣(きりえ)ちゃんのおやつ代に使わせていただきます」

 

「ひゅえ!?」

 

 

 スパチャはとてもとてもありがたいことなのだが、だがしかし。基本的には常識的で優しくて博識で、信頼のおけるわが視聴者さんたちなのだが……だからといって、この子たちの人生を預けるわけにはいかない。

 おれよりも弱い者に、かわいい娘たちを渡すわけにはいかない。

 

 ……まぁ、それは置いといて。いつものジョークだろう。まったくノリのいい視聴者さんたちだ。ははは今回はジョークで済ませてやる。

 

 

「……こほん。失礼しました。ええとですね、こちらの霧衣(きりえ)ちゃん。ご存じの通り容姿端麗才色兼備の超絶美少女なわけですが……ご存じの通り、箱入りのお嬢様でして。……ほんとかわいいですよね」

 

「かわいいよね………」

 

「…………あうぅん」

 

「それでですね……つまりはこの霧衣(きりえ)ちゃんの可愛さをですね、より多くの人々に知らしめる動画企画をですね、近々動き出そうと思いましてですね」

 

「なるほどなるほど?」

 

「…………ひゅぅ」

 

「実はですね、本日わたしとラニとそれぞれ一案ずつ、企画を考えてまいりました。それを今からお互いに、視聴者の皆様へプレゼンさせていただきましてですね。最終的に『どっちの企画がより魅力的か』というのを、皆さまにジャッジしていただこう! ……というのが、今回皆様にお願いしたいことでして。題して……」

 

「おおー! 題して……?」

 

「…………ふゅ……」

 

 

 

「ずばり、『どっちの動画SHOW』!! こちらを本日行っていこうと思います!!」

 

「毎度思うけどこれアレでしょ? 怒られない? 怒られたらアーカイブ消そうね?」

 

「たぶんイケるイケる。……もし怒られたら変える」

 

「そうしなさい」

 

 

『うーん……ギリギリ?』『期待』『おおおおおおお』『まるまる一緒じゃないから……』『今夜の!!ご注文は!!』『やーどうだろな』『おはなしクッキングも怪しいぞ』『よくわからんけど楽しみ』『うめき声かわいいたすかる』

 

 

 例によって企画名を怒られたらさすがに変えようと思いますが、しかし企画内容は概ねそのまんまだ。

 本日の特選素材(スペシャルゲスト)である霧衣(きりえ)ちゃんを、おれたち二人の料理人(プレゼンター)がどう料理していくのか。そして視聴者の皆さんは、どっちの企画を注文してくれるのか。

 

 これからおよそ一時間(目安)をかけて、じっくりプレゼンしていこうと思う。

 

 

 

「では早速ですが……まずはわたしとラニ、それぞれの企画を発表していきます。視聴者さんには現段階で『どっち』が魅力的なのか、後で行う『アンケート』にてお気持ちを聞かせていただきたいと思います」

 

「はいじゃあボクからいくね! ボクの持ってきた企画は極めて単純にして明快。おまけに()()は万人受けすること間違いなし。題して……『KIRI’Sキッチン』!!」

 

「ふひぇっ!?」

 

「危ないなあ!!!!!」

 

 

『あのwww』『おまwwwwww』『ギリギリじゃねえか!!』『さっきからなんなのwwwww』『あのさぁ……』『わかりやすい』『ま、まぁ……セーフか?』『なるほどなぁ??』『いいのかなぁ……』『海藻生えるwww』

 

 

「ちくしょう勢い持ってかれた! ラニちゃんやりおるマンかよ! ……じゃあつぎ、わたしの企画発表します。確かに()()でいうとラニの企画よりも弱いかもしれませんけど……でもですね、絶対みなさんに需要あると思うんですよ。……わたしの企画、題して『キリエクローゼット』です!」

 

「……く、ろーぜ…………?」

 

衣装庫(クローゼット)? ……あぁーそういう。なるほどね、どうしようめっちゃ応援したい」

 

 

『気になる』『なるほどそういう……気になる』『和服もいいけどなぁ』『俺は突っ込まんぞ』『深夜番組だもんなぁ』『これはセーフなん?』『知名度前二つより低いからなぁ』『大丈夫やろ多分』

 

 

 

 ラニとおれがそれぞれ提示した『KIRI’Sキッチン』と『キリエクローゼット』……どっちに転んだとしても、霧衣(きりえ)ちゃんの魅力をアピールできるのは間違いないだろう。

 

 これから交互に自分の企画の売り込みを行い、両名のプレゼンが終わったらいったん『アンケート』機能を利用し、視聴者さんのリアクションを確認する。

 それを合計三度繰り返し、つまりはアピールポイント三点のプレゼンを行い、最後三回目のファイナルプレゼンテーションを終えた段階での『アンケート』……いうなれば決選投票の成績で、最終的な勝敗が決まる。

 

 

 以上一連の流れが、本日のライブ配信の演目……視聴者参加型・企画決定企画、題して『どっちの動画SHOW』である。……たぶんセーフだと思う。

 

 

 

 ……というわけで。

 

 

 

「ではでは、まずは視聴者のみなさんにお尋ねします。……今のお気持ちは! どっち!!」

 

 

 





アウトかなぁ…………


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195【週末配信】手に汗握れ攻防


握れ(威圧)



 

 

 おれとラニがそれぞれ企画案を持ち寄り、霧衣(きりえ)ちゃんをどう料理げふんげふんプロデュースするのかを争う特別企画……題して『どっちの動画SHOW』(※後日企画名が変わった際は察して下さい)。

 ラニが持ち込んだ『KIRI'Sキッチン』(以下ラニ案)と、おれの持ち込んだ『キリエクローゼット』(以下ノワ案)の対決である。

 

 まずはそれぞれ、企画名を公表してからの支持率調査。ユースク(配信サイト)に備わるライブ放送アシストツールのひとつ『アンケート』機能を利用して、ラニ案かノワ案かを選んで投票してもらったところ……

 

 

 

「やっぱねですね、視聴者さんは欲求に正直だなって」

 

「ぐぬぬぬ」

 

 

『勝ったな(慢心)』『てれる』『ミニスカ希望』『それほどでもない』『おりょうりがあああああ』『まだだ!まだ終わらんよ!!』『勝ったな。フロ入ってくるわ』『ま、まだこれからだし』

 

 

 スタート時の投票結果は、わがノワ案がやや優位。六割超の支持を集める結果となったが……しかしまだまだ、充分巻き返しの圏内だ。今後の展開に期待が高まりますね。

 まだまだ最初も最初、第一印象のみで判断した投票結果にすぎない。ここからのプレゼンでどう評価が変わっていくのか、二転三転していく戦況もこの企画の醍醐味だ。

 

 というわけで、いよいよ勝負開始。

 まずは先攻ラニ案『KIRI'Sキッチン』のプレゼンが幕を開ける。

 

 

 

「はいみなさんご拝聴。ボクが紹介する『KIRI'Sキッチン』ひとつめのアピールポイントですが……まずなによりも『料理する女の子は可愛い』『美味しそうに食べる女の子は可愛い』というところをアピールさせていただこうと思います!」

 

「アッ、それはわかる」

 

「ひゅぃ!?」

 

「構想としては……キリちゃんがキッチンに立ってお料理をしている様子をカメラで撮らせてもらってですね、控え室のボクがそれを拝見しながら、解説とか『ここすき』なポイントとかをおしゃべりさせて貰って……出来たお料理は拘束して嗅覚以外の五感を封印しておいたノワの前に配膳してもらって……そしてさいごに拘束を解いて実食したときの、ノワの反応もあわせて味わってもらいたいなぁって」

 

「なんか不穏なワード聞こえましたよ!? わたしまた拘束封印されるの!? やですよわたし!!」

 

「……わたくしは、お料理をすれば宜しいだけ……ですか?」

 

「そだね。ボクらはとくに邪魔も茶々入れもしないから、腕によりをかけておいしそうなお料理つくってもらって、拘束されたノワの前に配膳してくれれば……それでオッケー」

 

「……なるほど。安心致しました」

 

「わたしは不安になりました!!」

 

 

『拘束wwwww』『【¥10,000】のわ虐たすかる』『嗅覚だけ残すって拷問じゃん……』『【¥10,000】緊縛代』『【¥30,000】つまりえっちなやつですね』『【¥3,000】少ないですがロープ代』『まな板の上の鯉はのわちゃんだった説』『局長の扱いひどくない?』『なるほどわかめ料理(意味深)』『【¥4,980】DVDでくれ』『わかめ料理かぁ』

 

 

 おっとぉ思わぬ地雷が隠されていましたね!

 まさかのまさか、こっちに向けた攻撃が飛んでこようとは思いませんでした。霧衣(きりえ)ちゃんかわいいをアピールするための企画なのに、隙あらばおれを辱しめようとするのはちょっとひどいと思う。

 ああでも……霧衣(きりえ)ちゃんのおいしい手料理がいただけるというなら……いやいやしかし。

 

 

「シュンさん『のわ虐たすかる』すぱちゃありがとう! やめてあげて! ケータさん『緊縛代』すぱちゃありがとう! すごい複雑な気持ち! たまごやきさん『つまりえっちなやつですね』三万もすぱちゃありがとうございます! でもちがいます! こんなことにそんな大金つぎ込まないで! 『少ないですがロープ代』たどちゃんさんすぱちゃありがとうございます! 少なくないよ! 何メートル買わせるつもりだよ! ざっそうにゅーすさん『DVDでくれ』あげません! でもすぱちゃありがとう! ちくしょうお礼言うべきか罵声浴びせるべきか悩むじゃんかよ!! ぜえはあぜえはあ」

 

「荒い息づかいたすかる。……というわけでアピールポイントそのいち、『お料理中のキリちゃんの姿』と……ついでに『拘束されて喘ぐノワの姿』。魅力たっぷり間違いなし! ……どうかな?」

 

()()()で拘束されるの割とひどいと思いますが! ラニ最近隙あらばわたしを縛ろうとしてません!? ああもう、つぎつぎ! 次わたしのターンいきますから!」

 

「ノワは可愛いからね。仕方ない」

 

「あ……ありがとう…………じゃなくって! ……こほん。わたしの『キリエクローゼット』ですが、企画の大筋としては『和服以外を身に纏う霧衣(きりえ)ちゃんの恥じらいを愛でたい』という点に集約されます。つまりはここ、アピールポイントそのいち。それはずばり『慣れない洋服を着せられる霧衣(きりえ)ちゃんがお上品に恥じらう姿』です!!」

 

「どうしよう、やっぱソソられる」

 

「ひょんなぁ!?」

 

「ご覧の通り可愛い霧衣(きりえ)ちゃんなのですが……実はですね、我々も彼女が『洋服』を着てるところを見たことが無くてですね。……そうなんですよ、部屋着も和服なんです。お風呂上がりとか浴衣ですよ浴衣。それも決して悪くはないんですけど……やっぱさぁ、スカートとかノンスリーブとか……おみあしとか上腕二の腕とか、気になるじゃん? 気になるでしょ?」

 

「ぶっちゃけすごい気になる」

 

「ちょっ…………!? わ、若芽様ぁ!」

 

 

 さすがに、俗にいう『破廉恥(はれんち)』な格好をさせるようなことはしない。しないが……たとえばふわっと広がるフレアスカートから覗く健康的なおみあしや、肩や腕が拝めるデザインのサマードレスやキャミソールのような……健康的で健全な衣装を着てもらいたいし、見てみたい。

 可愛い女の子に可愛い格好してほしいというのは、健全な人間であれば誰しも持ちうる感情ではなかろうか。

 

 

『可愛い服!!』『おめかしキリちゃん!!!』『【¥999】のわちゃんの下着代』『和服美少女はじめてのスカート(Gokuri)』『【¥40,000】きりちゃん下着代』『【¥30,000】マスター、あちらのお嬢さんに萌え袖パーカーを』『和服もいいけどなぁ……たまには』『きりちゃん悲鳴かわいそう』『【¥10,000】美少女の涙御馳走様です』『悲鳴たすかる、ボイス販売あくして』『刀郷くんおるやんけ』『けんじくんスパチャ芸わらう』『相変わらず変態じゃねえかwwww』

 

 

 さっきまでのにっこり顔とはうって変わって、悲壮な雰囲気を滲ませる霧衣(きりえ)ちゃん……まるで一人ぼっちで置き去りにされたわんこのようなその雰囲気は愛らしくもあるのだが、そうはいってもやっぱり嫌われたくはない。

 企画が単なる『イジメ』になってしまわないよう、線引はしっかりと(わきま)えておく必要があるだろう。

 

 

 

「シコルスキーさん『のわちゃんの下着代』『きりちゃん下着代』お一人で二通あわせて上限ギリギリすぱちゃ本当にありがとうございます! 無理しないでね! あからさまな待遇格差は見なかったことにしてやる!! たましーさん『マスター、あちらのお嬢さんに萌え袖パーカーを』すぱちゃありがとう!! いいねぇお客さんわかってんねぇ! 霧衣(きりえ)ちゃん萌え袖パーカー絶対かわいいよ……ホッパとニーソ合わせようぜ。とうごうけんじさん『美少女の涙御馳走様です』すぱちゃありがとう! 霧衣(きりえ)ちゃんにひどいことしないで! …………原因わたしか!! 霧衣(きりえ)ちゃんごめん!!」

 

 

 さすがは土曜日の夜、ということなのだろうか。昨日のライブ配信に勝るとも劣らない勢いで、コメントと色付き(スパチャ)コメントが流れていく。

 ……万札規模(赤スパチャ)をほいほい投げられると、例によって申し訳ないゲージが急上昇してしまうのだが……座右の銘(※昨日決めた)である『寄せられるスパチャは期待の現れ』を念頭に、おれは感謝の気持ちとやる気モチベーションを高めていく。

 

 おれが寄せられるスパチャにお礼を返している間も、視聴者さんたちは結構悩んでくれているようだ。

 彼ら彼女らの葛藤がコメント欄に現れており、おれたちはそれをときに拾い、ときにツッコミを入れ、視聴者さんたちとの心のふれあいをしばし楽しむ。

 普段は報告事項や演目披露など、一方通行の配信が多い気がする弊『のわめでぃあ』だが……やっぱり視聴者さんとの距離が近い雑談配信というものも、また違った楽しさがあるのだろう。……今度やろう。

 

 

『悩める……』『そうきたかー』『緊縛のわちゃんかぁ』『どうしよう揺らぐ』『のわちゃん拷問』『拷問のわちゃん見たいよなぁ』『どっちもみたい』『今北なにこの究極の選択』『おまえら!!キリちゃんが可愛そうじゃないのか!?』『きりちゃんの夏色ワンピ拝みたい』『のわちゃんの拷問は可愛そうじゃないのか……』『のわちゃんはいいのか』『局長の扱いひどい放送局ですね!?』『どうしよう本気で悩む』

 

 

 特選素材(スペシャルゲスト)として特等席に座らされている霧衣(きりえ)ちゃんも――おれたちのプレゼンで一喜一憂していたけれども――目まぐるしく流れていくコメントと、視聴者さんたちの意見や感想を興味深そうに眺めている。

 おれたちの行っている『番組づくり』への興味と理解を深めてもらえると嬉しい。

 

 

 

「さてさて、だいぶお気持ちが揺らいだ方が多いのではないでしょうか。まだ第一(ファースト)プレゼンを終えたばかりですが、現在の支持率チェックいってみましょうか?」

 

「ぐぐぐ……巻き返せるかなぁ」

 

 

 なんの説明もない状態で行われた最初の『アンケート』結果は、六割越を取得したノワ案が優位。

 一度目のプレゼンを終えた後での、全四回中の二回目となる『アンケート』。このままノワ案が逃げ切るのか、それともラニ案が追い上げを見せるのか。

 

 ドキがムネムネでワクワクが止まりませんが……それでは、チェックしてまいりましょう。

 

 

 今のお気持ちは……どっち!!

 

 





テレッテレッテーテーレーレーレー(効果音)


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196【週末配信】一進一退の興亡

 

 

 気になる第二の投票(アンケート)結果だが……なんと大逆転を果たし、七対三でラニ案『KIRI'Sキッチン(withのわ虐)』が一転優位に立った。

 それを受けてラニと霧衣(きりえ)ちゃんは喜びも(あらわ)に、コメント欄とスパチャは荒ぶり、そしておれはがっくりとうなだれた。……まだだ、まだ終わらんにょ。……噛んだ。もうやだ。

 

 しかし、まだプレゼンの機会は残っている。おれ(ノワ)案にもラニ案にも、まだまだアピールしたい部分は残されているのだ。

 

 

 

 というわけで迎えた二回オモテ。初回の優位から一転、苦境に立たされたノワ案の攻撃(プレゼン)。……それは『一緒にお洋服のお買い物にいくシーン』という一手。

 デザインも色使いも様々な現代のお洋服売り場に、幼げな容姿ながら和服を着こなす霧衣(きりえ)ちゃんをご案内。トップスからボトムから果ては肌着に至るまで、店員さんに協力して貰いながらコーディネートを考えていこう……という趣向である。

 

 いっぽうの二回ウラ、先行するラニ案の攻撃(プレゼン)だが……奇遇なことに、こちらも『お料理の食材を買い出しにいくシーン』という札を切ってきた。

 それはまさに、今日のお昼過ぎの一幕……ぶっちゃけクッソ可愛(カワ)だった霧衣(きりえ)ちゃんのお買い物シーンを、今度はそれに狙いを定めて押さえてしまおうという作戦。……あの溢れるKAWAIIを撮影できなかったことを悔やんでいたおれに対する、ラニなりのなぐさめの心意気なのかもしれない。……かわいいやつめ。

 

 

 以上両者出揃った第二回の攻防、奇しくもなのか狙っていたのか『お買い物シーン』どうしでの対決となったのだが……第三回目となる投票(アンケート)結果はなんと、五割強(52%)五割弱(48%)でおれのノワ案(キリエクローゼット)やや優位という拮抗状態。

 最終攻防を前にほぼ横並びとなった熱い展開に、またしてもコメント欄とスパチャとおれの申し訳なさゲージは勢いを増した。なのでおれはスパチャのお礼がんばった。

 

 

 ……以上が、最終回の攻防を間近に控えたこれまでのダイジェストとなる。

 

 

 

 

「というわけで! 最終(ファイナル)プレゼンテーションに参りたいと思います!」

 

「イェーイ!!」「い……いえー!」

 

「つきましては、大変申し訳ないのですが……最終局面はプレゼン内容の吟味と投票に集中していただきたいので、これ以降のスパチャは読み上げをいったん保留させていただきます。最後にまとめてのお礼とさせていただきますので、ご了承下さい。リアルタイムでのリアクションもできなくなってしまうので、お得感も無くなってしまうので……なので、プレゼン内容の方に注力してもらいたいなって思います。……それでは、ラニからどうぞ」

 

「っしゃ! ……こほん。それでは、わが『KIRI'Sキッチン』の最終アピールポイントですが……」

 

 

 カメラの前で堂々と、聴衆に語りかけるようにプレゼンを行う妖精(フェアリー)の少女。

 その身体の小ささからは想像もつかない、熱を帯びた口調で繰り出される『奥の手』。……それは。

 

 

「……ボクも最近『お勉強』したんだけどね。この世界には『スマホ』とか『タブレット』とかいう便利な道具があるじゃない? ……それがあればさぁ、いつでもどこででも、保存した『書物』が読めるらしいじゃない?」

 

「電子書籍のこと? それが何……っ!? ま、まさか!?」

 

「ふふふ……さらにこの世界では、いち個人が好きなように書物を(つづ)ることもできるらしいね。商人の扱う書物より『薄い』し物流の経路には乗せられないらしいけど……そもそも書物の形にしないでも、どこからでも買うことが出来るらしいじゃない?」

 

「理解力と適応力高すぎでしょラニちゃん!?」

 

 

『ウスイブックスか』『虎とかメロンとかか』『まぁ確かに誰でも著者になれる世界ではあるな』『かがくのちからってすげー』『むしろDLサイトとかFANsAc(ファンサ)とかか』『電子同人書籍は良い文明』『マジかまさかまじか』

 

 

 おれはここまでの説明を受けて、ラニが何を繰り出そうとしているのかに思い至ってしまった。

 そしてそれが実際に実現可能であることも、実現させるためのツテに心当たりがあることも、大きな効果が見込めそうであることも……この叡知の(かしこい)エルフは理解してしまった。

 

 

「和服美少女の料理シーンを堪能してもらい、ノワの緊縛……もといリアクションを堪能してもらい……そして、ここで更に! 『KIRI'Sキッチン』にて調理したお料理のレシピ、そして調理の腕を振るうキリちゃんの写真集! それを用意させていただこうじゃないか!」

 

「ツッッエ……! 写真集はずるいって!!」

 

「し……写真、でございますか? …………ま……まさか、で、ございますが……わたくし、の?」

 

「うんそう。料理中にナイショでこっそり撮るから大丈夫」

 

「ないしょ!? そっ、そんなあ!?」

 

 

『まって割とほしい』『電子書籍サービス、だと』『純和食レシピ!!けもみみ美少女写真集!!』『【¥20,800】ちびねこパック印刷代』『まさかの裏切りwwwww』『内緒はナイショにしなきゃだめでしょわらうwww』『ラニちゃんひっでwww』『大盤振る舞いすぎるが』

 

 

 

 やばいやばいやばい、視聴者さんの気持ちがけっこう(なび)いている。そりゃそうだよおれだって欲しいもん。

 

 電子書籍は印刷する必要がないので、印刷費要らずで手軽に本(という体裁の電子データ)を作ることができる。肝心のレシピや霧衣(きりえ)ちゃんの写真等、確かに素材はほぼすべて自前で用意できるため、大きな出費も生じないだろう。

 レシピ本や写真集『らしさ』を表現するデザイン部分は、さすがに少々手間が掛かるだろうが……それこそ、視聴者のみなさんにいただいた『スパチャ』の使い道だ。『ねこすきー』さん印刷代ありがとう。肝心のデザインに関しては広告分野(大田さん)に多少ツテができたことだし、彼経由でデザイナーを紹介してもらってもいいかもしれない。

 

 つまりは……()()()()()()のだ。

 いつのまにかそのことを調べあげているラニに軽く戦慄する一方、いよいよ勝機が危うくなってきたことを悟る。

 

 

 ……やはりこれは、四の五のいってる場合じゃなさそうだ。

 おれも覚悟を決め……腹ァ括るっきゃない。

 

 

 

「さあさあ! 果たしてわれらがノワちゃんは……一発逆転することができるのか!?」

 

「ぐぬぬ……煽ってくれちゃって。……いいです、わたしも腹をくくります。霧衣(きりえ)ちゃん一人に、(つら)い思いはさせません」

 

「「…………?」」

 

 

 現代日本の文化をよーく理解したラニの一手で、いよいよ追い込まれたノワ案『キリエクローゼット』……起死回生の一手として、おれが切る『切り札』。

 

 ……それは。

 

 

 

「わたしの提案する企画『キリエクローゼット』ですが……これはひとえに『霧衣(きりえ)ちゃんに可愛い格好させたい』というスタンスを軸にしています。しかしそれは言い換えると、単純に『可愛い女の子に可愛い格好させたい』というものです。……ここでいう『可愛い格好させる女の子』は…………なにも、一人に絞る必要は無いと思いませんか?」

 

「!!? ちょっ……ノワ!?」

 

霧衣(きりえ)ちゃんみたいにお(しと)やかじゃありませんし、女の子らしい体型じゃないですけど…………かしこくて、耳が長くて、配信者(キャスター)をやってる『美少女』に……皆さん、心当たりありませんか?」

 

「わ…………若芽、様?」

 

 

『!!!!!』『まじかwwww』『ウオオオオオオオオオ』『!?!???!』『!!!!』『【¥10,000】ありがとう』『つええwwwwwwww』『なんつー切り札』『オッ……』『流れ変わったな』『【¥10,000】さすがです局長!!すき!!!』『BGM入ったわ』『俺……逝くよ……!』『背水つええ』『BGMきたか』『【¥30,000】これで可愛いパンツでも買いな』

 

 

 

 窮地に陥ったおれの……流れを変えるための、起死回生の一手。

 

 おれの持つ武器と、戦場であるこの場の空気と……裁定者であるおれの視聴者さんたちの趣向を吟味した上での、最有力となるであろう秘策。わたしのたったひとつの望み(※誇張表現)。可能性の獣(※比喩表現)。希望の象徴(※過大広告)。

 

 

 それは。その一手とは。

 

 

 

「……霧衣(きりえ)ちゃんの魅力を引き立てる、かわいらしいお洋服。プロの協力のもと選び抜いた、素敵なコーディネート。……それを…………わたしも、同じデザインのものを、霧衣(きりえ)ちゃんと一緒に身に付けさせていただきます。『おそろい作戦』……これがわたしの、とっておきです」

 

 

 

「ごめん。ボクそれに投票するわ」

 

「お……おそろい! 若芽様と、おそろい……!」

 

 

 

 

 

 

 ――――最終結果。

 

 九割五分の支持を得たことで、おれの企画案『キリエクローゼット(withノワ)』が勝利を納め……ラニとの企画対決企画『どっちの動画SHOW』はおれに軍配が上がったわけだが。

 それは……そのことは、非常に喜ばしいことなのだが。

 

 

 そもそも……今回はおれが負けても、デメリット何もないよね?

 

 ラニの案だって普通に『きりえちゃんかわいい』できるし、問題なかったよね?

 

 ということは、つまり……むしろ自分から猛獣の檻に身投げしにいったまであるよね?

 

 

 

 歓喜に沸くコメント欄と、笑顔でおれを称えてくれるラニと霧衣(きりえ)ちゃんと、例によって盛り上がりを見せるスパチャの勢いを肌身で感じながら……おれは『その場の勢いに流されない、先を見通す長期的な視点』の大切さを、身をもって実感したのだった。

 

 

 ひとつかしこくなったね!!

 

 ではごきげんよう! ヴィーヤ(ばいばい)

 

 





完全勝利したはずのわかめちゃんUC(アンリアルキャスター)


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197【日曜某日】新たなる野望

 

 

「ねぇノワ……ほんとに今晩配信しなくていいの? 日曜だよ?」

 

「いいのいいの。明日も祝日……おやすみだから、そっちでいいかなって。……それに日曜は他の配信者(キャスター)さんもいっぱい配信してるからね」

 

「いっぱい……? 番組、が……いっぱいあるのでございますか?」

 

「あー……競合? ってやつ? 『のわめでぃあ』はまだよわよわだからね……」

 

「ングゥ! ま、まぁそうなんだけど。……それに、おれも『見るがわ』に回りたかったり」

 

 

 

 昨晩の自爆とおれの無駄死に(幸いおれ以外には気づかれていない)から一夜明け、優雅な日曜日の朝。例によってきりえちゃん謹製の和朝食をおいしくいただいたおれたちは、今日の予定について話し合っていたところだ。

 

 実際のところ……週末の土曜と日曜の夜は自宅でくつろいでいる人が多く、テレビはもちろんわれわれ配信者(キャスター)にとってもゴールデンタイムである。視聴者数もコメント数も……ともすると送られるスパチャの数も見込めるため、いろいろと『稼ぎたい』のであれば狙い目の時間帯ではあるのだが……しかしそうはいっても、同じことを考える配信者(キャスター)は当然のこと多いだろう。

 そんな激戦地に、ぽっと出の個人(ソロ)がのこのこ出ていったところで……時間帯がかぶってしまった大御所の大先輩方に視聴者を取られ、悲しい結果になるであろうことは疑いない。

 

 まぁ、ライブ配信を行うにあたって特に費用が生じるわけではないので、厳密には『損をする』ことは無いのだが……普段おれの配信を見てくれている視聴者さんとて、他に追ってる配信者(キャスター)さんも居るだろう。

 ゴールデンタイムを荒らして、あんまり視聴者さんを困らせたくないし。

 

 昨日いただいたスパチャのお礼ボイスも、こまめに進めておきたい。既に予想の三倍近い件数頂いてしまっているのだ、あまり貯めすぎると後が大変だろう。

 それに今日の夜は……ちょっと個人的に『見たい』配信がいくつかあるのだ。

 

 

「まず『うにさん』と『ミルさん』のFPS配信が二十一時からあって……それが何時までかはわかんないけど、二十二時からもう一人、べつの配信者(キャスター)さんの配信があって、そっちも見てみたいし」

 

「あー、見るがわってそういうことか。……そういえば金曜日のときも、ウニちゃんとかミルちゃん来てくれてたみたいだね」

 

「若芽様が共演する予定のお二方でございますね。……わたくしもお話、同席した方が良かったでしょうか」

 

「次の機会あったら、そのときはキリちゃんもアピールしとこう。ボクとおなじ『のわめでぃあ』の一員だし」

 

「そうだね。がんばってプロデュースしてこう。……まぁ、そういうわけで。おれの配信(とこ)来てもらってばっかりだと悪いし、おれも先輩方の演出とか参考にしたいし」

 

「ノワはえらいねぇ……いいこいいこ」

 

「勤勉でございまする……」

 

「んっ。……えへへー」

 

 

 ラニが新たに身に付けた【義肢(プロティーサ)】の手のひらで、おれの頭をぐしぐしと撫でてくれる。彼女の優しい魔力で形作られた手のひらはとても温かく、気分が落ち着く。……なにげに癒し効果が高そうだ。

 

 

 

 ……っとまぁ、それはともかく。

 そいうわけで今夜は特に配信予定を組んでいないため、日中をその準備や練習に費やす必要もない。じゃあいったい今日のお昼は何をするのか……というとですね。

 

 

 

 ―――ぴーんぽーん。

 

 

「おぉ、すっげ……見事に時間通りじゃん」

 

「さすがテグリちゃん! そこに痺れ憧れ」

 

「本当いつ学習してるの!?」

 

 

 わいのわいの言いながら広い玄関ホールへと場所を移し、縦に二つ並ぶ(ロック)を解除して扉を開ける。ピッキング対策のダブルロックなのかもしれないが、正直こんなところを狙う物取りなんて居るのだろうか。

 ロックひとつでも良いかもなぁ、などと考えながら、よっこらしょと扉を押し開ける。開かれた扉の向こう、色濃い山の自然を背景に佇んでいたのは、物々しい天狗の半面で鼻から上を覆ったメイド服の女の子。

 

 改めておれたちと契約を交わしてくれた大天狗の少女、狩野(カノ)天繰(テグリ)さんだ。

 

 

「こんにちはテグリさん、無理いってすみません。……()()()()、ありがとうございます」

 

「……いえ。手前は何も。ただ麓で待っていただけですので」

 

「でもでもノワがお買い物できたのって、実際テグリちゃんのおかげだよ。地元の建材屋さんとの付き合いなんて、ボクらじゃ絶対に辿り着けなかっただろうし」

 

「……手前の趣味が御屋形様の役に立ったのであれば……恐縮です」

 

 

 軽く言葉を交わした限りでは、ともすると不機嫌とも思えるかもしれない口調だが……これは決して気分を害しているわけではなく彼女の『平常運転』だということを、おれたちは知っている。

 

 鶴来(つるぎ)のリョウエイさんの部下にして、おれたちが入居するまで物件の保守管理を完璧に勤め上げ、長きにわたる交流によって近所の集落『滝音谷温泉街』の方々と強いコネクションを持つに至り……そしてつい先日、おれたちと改めて『住居内保全の一部委託』『指揮下での敷地内環境整備への協力』『宅配便等配達物受け取り代行』『入居者不在時の警備全般』などなど……めっちゃ大雑把に括ると『お手伝いさん』としての契約を交わしてくれたテグリさん。

 彼女はとても物静かで、クールで、非常に器用であり……また同時に面倒見の良い、見た目にそぐわぬ年長者なのだ。

 

 そうこうしている間に、玄関から続く長い階段を降りきった。超有能アシスタントであるラニのお陰でついつい忘れそうになるが、本来であればこのおうちに出入りするには……この長い階段を使わなければならないのだ。

 とまあ、それは良いとして。今度ラニちゃんはべつの形で労ってあげるとして。

 

 

「……Φ48.6ミリ単管パイプ各種と、同ジョイント・クランプ各種。……こちらが基礎用のセメントと、そちらのトラックが骨材となる砂利やガラ。基礎補強用の鉄筋メッシュはこちらと……屋根用の下地合板と角材はそちらに纏めてあります。屋根材はスレート……クァッドを必要数、安く工面して頂きました」

 

「…………やっぱ壮観だなぁ。この量を運べって言われたら途方に暮れるやつ」

 

「うーわ。すごいね……こんなに大きな木の板は見たこと無い」

 

 

 近所の建材屋さんに取り寄せてもらい、ここまでトラックで運んでもらった建材の山。砂利のたぐいに至っては、なんと荷台に積んだダンプトラックごと置かれている。

 おれの新居の玄関アプローチである階段の麓、私有地とはいえ道路のアスファルト上に敷き詰められた各種材料は……総重量でいうと、間違いなくt(トン)の規模だろう。

 木材や鉄筋など雨風に晒されるとよろしくない重量物もあり、そうなるとなるべく早く片付けなきゃいけないのだが……というかこの規模だと、ふつうはフォークリフトとかユニックとかが無きゃ詰むレベルなのだが。

 

 だが、おれたちに()()()は必要無い。

 

 

 

「じゃあこれ、全部でいいの?」

 

「うん。できれば種類別にまとめてほしいんだけど……」

 

「おっけーだよ。新しく【部屋】つくって、わかりやすく整理格納しとく」

 

「ありがとう~ラニちゃん最高~」

 

「わはは、よきにはからえ。……じゃあま、お仕事しますか。我は紡ぐ(メイプライグス)……【蔵守(ラーガホルター)】」

 

「うっわ……すっげ」

 

「…………初めて目にしますが、これは……凄まじいですね」

 

 

 小さな身体で自慢(ドヤ)顔を見せる相棒の働きもあって……中型トラック規模の建材の山、ならびにダンプトラックの荷台に積まれた砂利の小山は……ものの数瞬で綺麗さっぱり姿を消した。

 その手際の良さと、(かさ)や重量を一切気にしない反則級(チートクラス)の格納術には……百戦錬磨の技術者であるテグリさんでさえも、驚きを隠せないようすだった。

 

 

 

 

 さてさて。賢明な視聴者諸君にはもうおわかりだろう。

 

 今回テグリさんが取り寄せてくれた、こちらの建材。いったいなんのために集めてくれたのか。……つまるところおれは、我々は。

 

 

 先日晴れて新居裏手まで開通させた、敷地内私道(転圧した砂利道)の傍らに……健全な男の夢、遊び心溢れるガレージを作ろうと画策しているのだ。

 

 

 

 そう……ガレージは男の夢なのだ!!!

 

 

 

 おとこの!!!!!!(念押し)

 

 



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198【日曜某日】魔法的土木作業

 

 

「…………範囲指定。深度指定。魔法規模調整。……よし。【領地(シューレス)掌握(コンダクト)】!」

 

「おぉ、きれいきれい。……やっぱ丁寧だね、ノワの魔法」

 

「……御見逸(おみそ)れしました、御屋形様」

 

 

 前方地面に流し込んだおれの魔力を起点として、大地に類する魔法が発動する。

 掌握した地面を意のままに操る【領地(シューレス)掌握(コンダクト)】によって、幅八メートル・奥行き六メートルに渡り地面が浅く掘り下げられる。

 

 

「ラニおねがい。まずは『ガラ』を半分……いや、とりあえず四分の一くらいかな?」

 

「おっけー。穴の中に出せばいいんだよね。我は紡ぐ(メイプライグス)蔵守(ラーガホルター)】」

 

「うぉ! ……うん、いったんこれで転圧しよう。【加圧(グヴェルクラフ)】」

 

「おーすごいすごい。……はぁ、ボクも穴の中に出したかったなぁ、夜とか(ちらっ)」

 

「聞かなかったことにするね!!!!」

 

 

 掘り下げた地面の底面に、粗く砕いた廃コンクリートのガラを敷き詰め、魔法でまんべんなく【加圧】して踏み固める。

 そこへもう一度ガラを砕いて敷き詰めてもらい、再び魔法を使って充分に【加圧】。……これで基礎を打つための下準備が整った。

 

 

「……大の大人が数人掛かりで、相応の機材を用いて数日掛ける行程なのですが……」

 

「まぁ……魔法ですから。反則(チート)使いまくってるので、そりゃ早いですよ」

 

「ねぇノワ、次は?」

 

「えーっと……じゃあ鉄筋メッシュお願い。端からちょっとだけ空けて、あとは敷き詰める感じで」

 

「ほいほい!」

 

 

 テグリさんがボソリと呟いたように……人手も工期も機材さえも大幅に省略して、非常識な速度で基礎工事は進んでいく。身体強化魔法を施したおれはもとより、テグリさんの速度と精度はかなりのものなのだが……自由自在に宙を駆けるラニの【義肢(プロティーサ)】は、テグリさんに勝るとも劣らない働きを見せた。

 あっという間に格子状に組まれた鉄筋メッシュが敷き詰められ、ワイヤーで結ばれ固定されていく。上部構造との『つなぎ』になる異形鉄筋アンカーもまっすぐ必要な場所に立てたので、あとはここにコンクリートを流し込めばいい。

 

 ……というわけで、再びおれの出番だ。

 

 

「ラニ、つぎお願い。えっと……セメントと砂利と硬化剤と、あと細かいガラ」

 

「おっけー準備できた。……そっちは?」

 

「ちょっと待ってね。……範囲指定。容量指定。重力値設定。……【空間(キュリーア)掌握(コンダクト)】。いいよラニ、()()()に投げ込んじゃって!」

 

「わかった、いくよ! 我は紡ぐ(メイプライグス)……【蔵守(ラーガホルター)】!」

 

「んん、ッ! ……よっし、(とら)え……ン、グぅッ!? (おも)ぉ……っ! お、おも……んぎぎぎ……みず、みず……【流水(ヴァルサー)】! ……あと、そして……【旋渦(ヴォルティーク)】!! うおおおお耐えろおれ! 耐えろおれ!!」

 

「ま……まじでやりやがった! 無茶苦茶だよノワ……!!」

 

「……概算ですが……恐らくは、三十t(トン)は在ろうかと」

 

「うおおおおお! おれ今めっちゃ魔法使い! めっちゃ魔法使ってるおれ!」

 

 

 空中のいち領域を支配下におき、そこへ投じられた部材……セメント粉と砂利と硬化剤とガラの重力数値を書き換え、更にそこへ必要分の【流水(ヴァルサー)】を加え、仕上げに【旋渦(ヴォルティーク)】でよーくかき混ぜる。

 一般の人が目撃すれば、もちろん何事かと思われるであろう。物々しい騒音を撒き散らしながら空中に浮かぶ、重い灰色の大きな渦。……とても異様な光景である。

 

 灰色の泥をかき混ぜ、おれが一体なにをやっているかというと……ずばり、コンクリートを作ろうとしている。

 専用の攪拌ミキサーなんて用意して無いので、おれの有り余る魔力と魔法知識にモノを言わせて、いろんな魔法を駆使してあの手この手で再現しようとしているところなのだが……正直びっくりなことに、何とかなってしまいそうだ。

 まあ……材料と分量さえ合っていれば、あとは混ぜて流して固めるだけだし。

 

 

 というわけで。よーく混ざった自家製コンクリートを丁寧に、先程鉄筋メッシュとアンカーボルトを設置した地面へと流していく。

 同時に魔法で微振動を加え、気泡を吐き出させることも忘れない。あらかた気泡が抜けたら低出力の【加圧(グヴェルクラフ)】を駆使して表面に軽く圧力をかけ、排水勾配を意識しながらしっかりと(なら)していく。

 

 しかし……()()()。作ったコンクリートの分量が少し多かったのだろうか。一番最初に整地して、【領地(シューレス)掌握(コンダクト)】で掘り下げた分を埋め戻してなお、混成した自家製コンクリートには余りがある。

 とはいえ()()の用途を考えると……段差さえなければある程度追加で()()()おいても大丈夫だろう。むしろ高さを稼いでおいたほうが、雨水の流入を防げるかもしれない。……よし。盛ろう。盛った。(なら)した。

 

 

 

「…………一日、いえ……ほんの数刻で、基礎コンクリート打設まで終えてしまうとは……手前の常識が覆されそうです」

 

「まぁノワは常識はずれだからね。テグリちゃんの感想が正しいよ。気を強くもって」

 

「べんり反則(チート)技の申し子であるラニちゃんに言われたか無いよ。……ところでラニ、ラニの【蔵】って時間経過止められるの? 生コン仕舞ってもらってもいい……?」

 

「『ナマコン』ってその……石になるっていう、泥? ……まぁ時間は経過しないから、大丈夫だけど」

 

「まじで……うわ最高。これ建築業界の革命だよどう考えても」

 

「ボクはノワ専用だからね。エッチクギョーカイのことは知らないなぁ」

 

 

 コンクリートは日干しレンガなんかとは異なり、化学反応で硬化が進む。たとえ雨に降られても水に浸かっても、反応が進む時間さえ経過すればカッチコチに固まってしまうのだ。

 つまり、コンクリートを生コンのまま保存することは不可能、ふつうはコンクリート打設のたびに生コンを練る必要があるのだが……われらが万能美少女アシスタント妖精さんはなんと、格納物の時間経過――つまりは生コンの硬化――を停止させることができるという。

 

 コンクリートを打ちたくなったら、ラニに【蔵】から生コンを取り出してもらい、拡げるだけ。規模にもよるが、ほんの数分で打ち終わってしまう。やばすぎるな!

 

 

 

「まぁ、とりあえず……これで基礎工事は完了ですね!」

 

「イェーイおつかれ! ……つづきは硬化待ちかぁ。早く固まるといいね」

 

「……一昼夜である程度は硬化しますが、車両乗り入れとなると……この季節であれば、二週間程度は見ておきたいところでしょうか」

 

「むー……仕方ない、しばらくは露天駐車だね。……停める場所ならいくらでもあるし」

 

「納車は……火曜日っていってたっけ? あさって?」

 

「うん、十一時。場所変更してもらって、モリアキの駐車場借りることにした」

 

「まぁそっか、『ミナミク』のおうち目の前ふつうに道路だもんね。……たのしみ?」

 

「めっっっちゃたのしみ!!」

 

 

 バンコン車両を収めるガレージを作っておきたかったのだが……出来ないものは仕方ない。

 コンクリートの硬化が間に合わない以上はどうしようもないので……続きの作業はおよそ二週間後、基礎をガッチリ硬化させてから進めていくことにする。

 

 というわけでガレージ作戦、本日の作業はここまで。

 時間的にもそろそろお昼なので……今日のところは、これくらいで勘弁してあげようじゃないか!!

 

 



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199【日曜某日】熟練スキルのなせる技

 

 

 霧衣(きりえ)ちゃんに持たせるつもりで買ってきたお手頃タブレット、『Apollon Helios 7』。

 昨日のうちに充電と初期セットアップを済ませ、一通り使い心地を確かめてみたのだが……ハード的にも、使う子の技術的にも、どうやら問題なく使えそうだった。

 さっそくラニが先輩風を吹かせてくれて(いや実際先輩なのだが)、インターネットブラウザの使い方を手取り足取り教えてくれていたらしい。

 おれはといえば……QWERTY配列のキーボードは慣れない(というかローマ字表記がいまいちわからない、たとえば『き』を『KI』に変換できない)らしい彼女にあわせ、入力をテンキー形式に設定し直したくらいだ。

 

 ……いや、だって…………超絶美少女のすぐとなり、それこそ息が掛かりそうな近距離に密着してのレクチャーなんて……エルフになる前から魔法使い(実績達成済三十代)だったおれには、ちょっとレベルが高すぎるわけで。いや決して霧衣(きりえ)ちゃんが嫌いなわけじゃないしむしろ好きなんだけど。いやいやそうじゃなくてゴニョゴニョ。

 

 

 まあともあれ、無事に使い始めることができたようで、その成果は今日のお昼ごはんにもさっそく現れていた。

 なんとなんと……音声認識とタブレットでのレシピ検索を駆使して、霧衣(きりえ)ちゃん人生において初となる洋風メニューを用意してくれたのだ!

 

 

 

「ええっと……『しーふーどぴらふ(?)』と、『おむれつ(?)』と……『みねすとろーね(?)』にございます」

 

「「おおおおおおー!」」

 

「…………おぉ……これは」

 

 

 最大六人まで座れるひろびろダイニングセットには、現在四人(うち一人は小さなラニちゃん)が腰を掛けている。

 本格的に家事やらなにやらを手伝ってくれることになったテグリさんに『せっかくなのでどうですか?』と食事をお誘いしたところ……鼻をひくつかせるような所作を行ったかと思うと、大きく頷いて同意してくれた。……きっといいにおいを嗅ぎとったんだと思う。

 

 というわけで、いつもよりも心なしか賑やかなランチタイム。本日のメニューは霧衣(きりえ)ちゃん(いわ)く『しーふーどぴらふ(仮)』と『おむれつ(仮)』と『みねすとろーね(仮)』とのことで……やはり基本的な料理スキルが高レベルなおかげなのだろう、たいへん美味しそうに見える。

 

 

 ……ええ、そう見えるのだが……おれは気づいた。

 この中で恐らく唯一、現代日本人としての標準的な味覚と知識と経験を備えている、おれだけが気づいた。

 

 

 これ、たぶん…………コンソメの代わりに出汁(ダシ)使ってるわ。

 

 チキンストックの代わりに……いりこと昆布のあわせ出汁(ダシ)だわ。

 

 

 

「いただきまーす!」

 

「アッ、いただきます」

 

「…………戴きます」

 

「はいっ。……お口に合いますでしょうか」

 

 

 

 ……ほほう、なるほど。なるほどなるほど……いや、これは……すごい。

 

 結論からいおう。滅茶苦茶おいしかった。

 

 

 恐らく彼女は……レシピや調理動画を見て勉強していく中で、『コンソメ』というものが洋風の出汁(ダシ)であることに気づいたのだろう。見慣れぬ粉末・聞きなれぬ言葉であっても、『どういった場面でどのように使われているか』という情報をもとに、長年の調理経験から正解にたどり着いたのだ。

 

 確かに、先日の買い出しの際は『コンソメ』の類を購入した記憶は無い。つまり現在このおうちには、レシピにおいて必要とされている食材が不足している状況だった。

 そんな中で……動画を視聴する中で『コンソメ≒出汁(ダシ)(※霧衣(きりえ)ちゃん感覚)』であることに気づき、初心者向けであろう洋食レシピに挑戦し、そして見事に成功してのけた。

 なるほど確かに、調理経験と食材の知識が充分であれば……たとえ初めて見るレシピであっても、既存のレパートリーをベースに応用を効かせる形で盛り込めば、充分に活かすことができるのだろう。

 こまめに味見を行い、少しずつ味を整えていけば……いや、それでもちょっとやそっとの経験でなせる技じゃない。

 

 

 つまり、本日の献立……『しーふーどぴらふ(仮)』と『おむれつ(仮)』と『みねすとろーね(仮)』の三品。

 

 これらは霧衣(きりえ)ちゃんフィルターを介した結果、それぞれ『海鮮炊き込みご飯』『きのこと薫製肉入り出汁(だし)巻き卵』『とまとと馬鈴薯と玉葱のお吸い物』として誕生し……

 

 

 

「「んまーーーーーーい!!」」

 

「……大変、美味にございます」

 

「…………ほぅっ。……良かった……でございます」

 

 

 見事、大成功を納めたのだ!

 

 

 改めて思うのだが、この子は非常に頭が良い。学習意欲も応用力も、そしてもちろん真面目さや積極性も。

 もしこの子がこの先、いろんな経験をすることが出来れば……それはきっと彼女の将来に、大きな可能性をもたらしてくれることだろう。

 

 やっぱり……彼女という逸材をこのままおうちの中で埋もれさせておくのは、それは非常によろしくないと思う。

 

 

 

「…………ねぇ、霧衣(きりえ)ちゃん」

 

「はいっ。なんでございましょう、若芽様」

 

霧衣(きりえ)ちゃんさ……料理教室、とか……行ってみたくない?」

 

「……りょうり、きょうしつ…………お料理の、教室……? 習い事の(たぐい)でしょうか?」

 

「そうそう。……霧衣(きりえ)ちゃん日本料理は得意でしょ? それ以外の……今日のオムレツ(仮)とかみたいな洋食もそうだけど……イタリア料理とかインド料理とか中国料理とか、ロシア料理とかブラジル料理とかトルコ料理とかベトナム料理とか、とにかくいろんなジャンルのお料理があるのね」

 

「そんなにあるのですか!?」

 

「そうなんですよ、正直おれも全然知らないお料理とかもあるし……とにかく、せっかくそんなにすごい料理スキルがあるんだから、もっと腕を磨いてみて……いろんな国のお料理に触れてみても良いと思うんだ。……実際、楽しいと思う」

 

 

 嘘ではない。実際霧衣(きりえ)ちゃんほどの手際の良さなら、三ツ星シェフとまでは行かずともかなり高レベルな料理人になれる可能性は秘めていると思う。

 

 だが……それ以上に。彼女にとっての『一般常識』が……おれたちだけの間で形成されてしまうのはちょっとよくないのではないかと、おれは懸念している。

 つまりは彼女には……おれたち以外の知人を、友人を、仲の良い人を……人とのつながりを作るべきだと、おれは思う。

 

 

 ……思っていたのだが。

 

 

 

 

「若芽様、は……」

 

「うん?」

 

「……若芽様は、わたくしのために……そう仰ってくださっているのです……よ……ね?」

 

「っっ!! ももっ、もちろん!! 霧衣(きりえ)ちゃんのことは大好きだし! おれたちが霧衣(きりえ)ちゃんを手放すとかあり得ないから! 単純にいろんなお料理を勉強して、ここ以外の『外』でいろいろ経験して、先生とかと仲良くなって…………あと、おいしい料理作ってほしいなぁ、って」

 

「……!!」

 

 

 

 ……さすがに、切り出し方が唐突すぎたのかもしれない。

 今の一瞬、おれに向けられた霧衣(きりえ)ちゃんの視線。……そこには、まぎれもない『悲嘆』と『恐怖』の感情が垣間見えていた。

 

 つまり、彼女は……『おれに捨てられてしまうかもしれない』と、そう考えてしまったのだろう。

 

 

 だがしかし、それは無い。ありえない。

 フツノ様から預けられた大切な()だから、というのもあるのだが……たとえそんな来歴が無かったとしても、今のおれは彼女との日々をなんだかんだ気に入っている。

 気立てがよくて、控えめで、お料理はじめ家事全般が得意で……とびっきりの美少女。しかもやわらかいし温かいしいいにおいがする。嫌うことのほうが難しい。

 

 とはいえ彼女にとっては、おれのこの気持ちなんて知る由もない。突然距離を置かれようとすれば、不安を感じてしまっても仕方ないことなのだろう。……悪いことをしてしまった。

 

 

「お料理教室っていっても、たぶんお昼の数時間だし。送迎と護衛はラニちゃんがなんとかしてくれるから、不安も少ないと思う」

 

「もへ!? ングッ。……まぁいいか。まかせて!」

 

「……そういうことでしたら……お任せください。…………皆様のためにも……わたくし、がんばります!」

 

「いい子だなぁ……ありがとうね。……とりあえず料理教室はおれのほうで探してみるから……」

 

「あの…………御屋形様」

 

 

 突如、いままで無心で『和風洋食セット』を(顔は見えないけど)おいしそうに攻略していたテグリさんが口を開く。……いや食事のためにお口は開閉してたんだけど、そういう意味ではなく。

 そんなテグリさんの口からこぼれ出たのは……おれにとって、意外も意外な申し出だった。

 

 

 

「……その……霧衣(キリエ)様の料理教室……手前も御一緒させて頂くことは、可能でしょうか?」

 

「えっ? あ、う、うん……空きがあれば大丈夫だと思うから……予約できるか調べてみる」

 

「……感謝致します。……あぁ、勿論費用は手前で用意致します(ゆえ)、ご心配なさらず」

 

「いや、それくら…………アッ、はい。了解です」

 

 

 

 おれとしては正直なところ、霧衣(きりえ)ちゃんが寂しい気持ちを味わわなくて済むし……なによりも彼女の安全が確保できるため、非常にありがたいのだが。

 それにしてもテグリさん……完全無欠の万能キャラかと思いきや、もしかするとお料理は不得手なのかもしれない。

 

 なるほど……ギャップもえ、ってやつだな!

 

 

 

 そんな感想を表情に出さないよう細心の注意を払いながら……おれたちは普段よりもちょっと賑やかな昼食を、おなかいっぱい満喫したのだった。

 

 

 



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200【日曜某日】受け入れ先確保!

 

 

 結局おひるごはんが終わった後、テグリさんは深々とお辞儀をすると『副業』へ出掛けていった。砂利を積んでいたダンプトラックの回収依頼も、ついでに声かけしてきてくれるらしい。

 出掛けに『……昼食の御用意、有難う御座いました』と改まっていたけども、とんでもない。もともと外回りのお仕事予定だった彼女だったのだが、建材受け取りの立ち会いのために急遽戻ってきてもらったような形だったため……つまり、お礼を言うのはむしろこちらの方なのだ。

 

 そんなこんなでテグリさんと別れ、とりあえず『やることリスト』を頭のなかに思い浮かべ、優先度『高』かつ日中でなければできない作業を優先して片付けることにする。

 料理教室のピックアップなんかは日が落ちてからでもできるので、とりあえずは後回しだ。

 

 

 

 

 というわけで、戻ってきましたガレージ建設予定地前。

 敷地内私道に隣接するように午前中で基礎コンクリートを打ったわけだが……とりあえず今から手を加えるのはその隣。おうちとガレージ(予定地)との間の、幅およそ三メートル強の場所だ。

 位置関係的には、一階の二間(ふたま)続きの和室の外側。おうちの南西がわになる。

 

 

 とりあえず状況を整理すると……まずガレージを作るための基礎コンクリートは、あと二週間ほど放置する必要がある。正確にいうと、数日も置けば作業を続けられるくらいの硬度になるらしいが、それでも重量物である車両の乗り入れはお預けの状態なのだ。

 そして目下の楽しみであるバンコン車両――三納オートサービスさん渾身の一台――が届けられるのが、明後日の火曜日。……明日は祝日だから営業日じゃないので、ここは仕方ない。

 そしてそして、納車される予定地であるモリアキ家ちかくの駐車場……そこは普段、彼の軽自動車が使用している区画だ。納車のタイミングだけ近くのコインパーキングへ移ってくれるとのことなのだが、もちろんずーっとそのままでいて貰うわけにもいかない。

 

 現段階での予定としては……納車されたその日のうちに、浪越市(なみこし)神宮区(かみやく)モリアキ宅近くの月極駐車場から、この岩波市(いわなみし)滝音谷(たきねだに)フォールタウンの新拠点まで、試運転とドライブをかねて車を持ってこようと考えている。

 そしてそのまま――ガレージが完成するまで――敷地内の別の場所に、とりあえず停めておく作戦なのだ。

 

 

 

「……っというわけでですね! ガレージ完成までの間バンコン車を停めておくための露天駐車場をですね、これからパパっと作っていこうと思います!」

 

「うわびっくりした。いきなりエア配信はじめんのやめーよ」

 

「いいじゃん。常に練習しとかなきゃだよ」

 

 

 最近ことあるごとに配信のノリが出てしまうのだが、おれとしては悪いことだとは思っていない。本番においてスムーズな(ベシャ)りが出来るよう備えるためには、常日頃からたゆまぬイメージトレーニングが重要なのだ。しらんけど。

 

 というわけで、イメージもそこそこに早速取り掛かっていこうと思う。

 

 

 

 基礎を打って、柱を立てて、壁を張って、屋根を掛けてと……色々と手間暇かける必要のあるガレージとは異なり、壁も屋根も無い露天駐車場であれば作ることは難しくない。

 その工程を端的にいうと……車両を停める部分に砂利を敷き詰め、加圧して固めれば良いだけだ。

 

 ……まぁ尤も、ふつうであればそれなりの資材と機材と人手と時間を要するのだろうが。

 

 

「ガレージできるまでの、仮の駐車場だからね。あんま大きくなくていい」

 

「って言っても、ボクは規模のイメージよくわかんないし……」

 

「そうね。じゃあまずおれが固めるから、ラニはその上に砂利置いてって」

 

「ん。わかった」

 

 

 和室の西側掃き出し窓の外側、おうちからおよそ三メートル程度までの一帯を、まずは【加圧(グヴェルクラフ)】で丁寧に踏み固める。

 すぐそこにおうちがあるので、コントロールは慎重に。おうちの基礎を巻き込んで【加圧】してしまったら変な影響が出るかもしれない。安全マージンはしっかり、基礎の立ち上がりから五十センチは空けておく。

 ……まあドア開けたりするのに()メートル程度は離すだろうし、固めてない場所をタイヤが通ることは無いだろう。

 

 

「これならやりやすいよ。固められたとこに砂利入れてけば良いんだね」

 

「そうそう。……いやぁマジ建築業界に喧嘩売ってそうだわ、ラニちゃんの反則(チート)魔法ほんと半端無いって」

 

「えへへー。まぁ空間魔法はボクの数少ない取り柄だったからね。負ける気がしないよ」

 

 

 自慢げに語るラニのすぐ傍ら、空間に突如生じた亀裂から、ダンプトラックに積まれやってきた砂利がドバドバと流れ出してくる。

 吐き出し口たる空間の亀裂は器用にその位置を動かしながら、おれが今しがた転圧した露天駐車場予定地へとまんべんなく砂利を放り込んでいく。

 

 そのままのペースで、今度は敷地内私道との接続部まで。道路と駐車場をきっちり砂利の小山で繋ぎ、白っぽい砂利の道がおうちのすぐ側まで伸びたように見える。

 おれたち以外の一般車が通らないこの私道なら、車の転回に使用しても大丈夫なはず。形状的にもスペース的にも問題ないだろう。

 ラニの【蔵】が口を閉じ、砂利の吐き出しが止まる。あとはこれを【加圧(グヴェルクラフ)】で固めるだけだ。

 

 

 

「いやぁいやぁ……敷地広くて本当良かったね。こんなの他の人に絶対見せられないよ」

 

「そうだね。さすがにあの重量を手運びするのは……クソザコナメクジのノワには堪えるでしょ?」

 

「ひゅっ……あの量はおれじゃなくても無理だと思う!」

 

「まあ確かに……荷車に積んで馬二頭繋いだとしても、ここまで全部運ぶのは相当時間掛かるだろうね」

 

「うん。なのでラニちゃんには……本当感謝しなければならない。何かお礼を検討することもやぶさかではないので、なにか希望があれば何で」

 

「ん?」

 

「…………まぁ…………いいよ、ある程度なら」

 

「マジで!? ヨッシャァ!!!」

 

 

 他愛のない会話を繰り広げながら、おれの【加圧】作業は順調に進んでいく。ラニの要求と反応も予測の範囲内なので、特に心を乱されることもなかった。

 ……まぁ、いったい何を要求されるのか、不安が無いわけじゃないのだが……おれに実害が生じたり、おれの社会的地位を貶めたり、おれが本気で嫌悪感を顕にするようなことは、さすがに要求しないだろう。もと勇者だもん、それくらいの分別はあるはずだ。

 

 

 

「ちなみに今のところは……何か考えてたりするの?」

 

「えっとねー、ちょっと待って…………んん、思い出した。あのさノワ、医療ツールで『バンソーコー』って」

 

「はい却下!!!!!」

 

「そ、そんなあ」

 

 

 さすがにそれは『衣装』ではない。追放(BAN)される危険が危ないし……なによりも普通に恥ずかしいじゃないか。

 いたずらっぽく笑うのは、かわいいから良いんだけど……あまりおれの信頼を損ねないでほしいですね!

 

 

「じゃあさ、じゃあ……『スクミズ』ってわかる?」

 

「?? スクミズ……? スク……水……え、は? ……嘘でしょ?」

 

「なんかね、泳ぐとき専用の装備らしくてね、ノワの『スクミズ』姿を求める声が」

 

「三十路一般成人男性のスク水姿なんかで喜ぶか! 変態どもが!!」

 

「何度も言うけどノワはかわいいエルフの少女だからね?」

 

「ぬがーーーー!!!!」

 

 

 い、いや……しかし。たとえ需要があると言っても、水着とかさすがにセンセーショナルが過ぎると思うのだが。

 だってほら。さすがのユースクさんだって、そんな水着姿の女の子の動画なんて……そんなお色気動画なんてあるわけないでしょ。世界に名だたる健全な動画サイトやぞ。

 

 女の子の水着グラビア……しかもマニアックなスク水での動画だなんて。たとえラニ様視聴者様がゆるしても、ユースクさんがゆるしませんよ。

 

 

 

 ゆるすなよ。おい。ユースクさん。ゆるすなよ。

 

 

 ばか。なんであるの。

 

 



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201【日曜某日】お誘いあわせの上

 

 

 まあまあまあ……とりあえずスクミズの件はですね、一旦こちらであずかり保留させていただくとしてですね。

 

 

「保留なんだね? ボクはちゃんと覚えとくからね?」

 

 

 ちくしょう。この変態どもが!

 

 とにかく、これで無事に露天駐車場が完成したわけだ。

 幅はおよそ三.五メートル、奥行きおよそ六メートルとやや中途半端だが、ガレージ(予定地)とおうちとの隙間なので仕方ない。SL仕様のバン車両が停められる分の奥行きはしっかり確保されているので、幅が広すぎる分には何も問題ないだろう。

 足下も【加圧】に【加圧】を重ねてしっかりと固めてあるし……ちょっと悪い気もするが、雑草を除去するために除草剤も撒いておいた。砂利が草の根で崩されることもないはずだ。

 

 おうちのすぐ隣、砂利敷きとはいえ平坦で、かなり余裕を持った広さのスペース。

 この先ガレージが完成して露天駐車場としての役目を終えたとしても、屋外多目的スペースとして色々と役立ってくれることだろう。

 

 

「バーベキューとか出来そうだしね。いっぱい人呼んで、炭火のコンロ並べて。ああ、ピザ窯とか薪置き場とかもつくってみたいね! おもてなしの幅が広がりそう!」

 

「作るのは楽しそうだから良いんだけど……呼べる知り合い、そんないっぱい居る?」

 

「………………」

 

「………………」

 

「…………モ」

 

「モリアキ氏以外で」

 

「……………………」

 

「……………………」

 

 

 

 …………いま改めて愕然としたわ。うそ、わたしの知人少なすぎ!?

 おれは……きりえちゃんの知人や交遊関係を心配する前に、自身の交遊関係を先になんとかする必要があったのかもしれない。

 しょうがないじゃないか、だっておれは()()()()だもの。せっかく居心地のいい拠点を手に入れたんだもん。住所バレとかさすがに嫌だし。

 

 

 ま、まぁ……おれの知人に関しては置いといて。

 とりあえずは、これでめでたく駐車場の準備が出来たのだ。キャンピングカーをお迎えする準備は万端と言えるだろう。

 あとはコンクリの硬化と納車当日を待つだけだ。

 

 現在の時刻は、だいたい十五時。お昼後にちょっとゆっくりしていたけど、まだまだ陽はそれなりの高度を維持している。

 観たい配信が始まるまでは、まだまだそこそこの時間がある。どうしたものかと思案していたおれだったが……突如スマホが聞きなれない着信音を、何度か立て続けに鳴り響かせる。

 

 

 それは普段おれもよく使うREIN(メッセージツール)のものなのだが……モリアキやトリガミさんやチカマ宮司やうにさんみたいな『仕事関係』の方々で使っている着信音とは異なる、いわば『プライベート用』の着信音。

 そんな設定を施してあり、かつおれが最近連絡をやり取りしているアカウントなんて数えるほどしか無いのだが……つまりはそんな『数えるほどしかいない知人』からの連絡なのだろう。

 

 つい先ほど、自らの交遊範囲の狭さを思い知らされた身としては、無視や後回しはし(づら)いところだ。

 

 

「だれだろ、モリアキじゃないし……」

 

「ノワ…………もしかして、本当に友達居ないの?」

 

「い、ッ!!? いますー! ちゃんと友達いますー! おれが()()なっちゃったから連絡取れてないだけですー!!」

 

「わかったから。……それで、誰から?」

 

「ちょっと待って、いま読み込み……できた。…………あれ、メグちゃんだ」

 

「メグちゃん? あぁ伊養(いよう)町のときの。なんだって?」

 

 

 およそ一ヶ月……いや半月ほど前。おれが初めて『実在エルフ』の()()()()()()として街頭企画に臨んだときの栄えある(?)最初のゲストさんこそ、現役女子高生吹奏楽部員の二人組……サキちゃん(仮名)とメグちゃん(仮名)だったのだ。

 

 撮影終了後、なかば彼女たちの勢いに押しきられる形でREIN(メッセージアプリ)の連絡先を交換してしまったのだが……幸いというべきか、彼女たちは極めて常識的なネットリテラシーと距離感を持ち合わせており、現役高校生に対する偏見としてよく見られる『既読をつけたらすぐに返信しないと後ろ指差される』『自分だけを除いた別グループで陰口言われる』などといった事態に巻き込まれることもなかった。

 

 そのためせいぜいが、部活動に励む彼女たちの愚痴メッセージにあたりさわりのない反応を返したり、ちょっとした悩みごとや相談事に常識的なアドバイスを返してみたり、おれの配信や動画に対する感想を律儀に述べてくれていたり、あるいは『また今度ランチ行きたい!』といったお誘いをやんわりと受け流したり……などといったやり取りを行う程度。

 過去数回『どうしても声が聞きたい!!』と求められたこともあったが……それだってこちらの迷惑になりにくい時間帯を選んでくれたし、通話を繋いで五分と経たずに満足してくれていた。

 つまりは、負担になりにくい交流を心掛けてくれていたのだ。

 

 そんな彼女たちの片割れ、メグちゃん(仮名)からのREIN(メッセージ)

 気になるその内容だが…………なんともなんとも、これまたなかなかに予想外の相談内容でございまして。

 

 

 

「あのね……来月の二十三日の日曜日にね、定期演奏会があるんだって」

 

「定期演奏会……あぁ、メグちゃんたちの楽団の?」

 

「そうそう。それでね、その本番に備えて、今日も練習してるんだって」

 

「あれ、今日って休みの曜日じゃ?」

 

「そうなの。日曜だから、学校……勉強するとこは休みなんだけど、その分楽器の練習をまる一日やってるみたい」

 

「……なんて勤勉な。仕事中に堂々と居眠りするギルドのアホ共には見習ってほしいよ」

 

「あははっ。……そうかもね」

 

 

 本番までのおよそ一ヶ月、土日返上でひたすら練習に打ち込むらしい彼女たち。……送られてきたメッセージを読み進めるに、それこそ本番を終えるまで気の休まる日は無いらしい。

 平日は当然のように学業が待ち構えており、それが終わってから放課後の部活動。この時期は陽が落ちるのも早いので、帰る頃には真っ暗だろう。

 そして週末は週末として、長丁場での部活動が待ち構えている。土曜日はお弁当持参で朝から夕方まで、日曜日も半日とはいえ練習が詰め込まれているらしい。

 

 

 そんな、なかなかにハード(ブラック)なスケジュールが続く一ヶ月間を目前に。

 明日の月曜祝日、彼女たちは……『最後の晩餐』とまでは行かないまでも、モチベーションを高めるべく決起集会(という名のランチ)に出掛ける予定なのだという。

 

 

 

「…………うん、なんとなく読めたけど……つまり?」

 

「えっとですね……つまりですね……」

 

 

 デスマーチ突入前の、最後の休日。

 

 これからの一ヶ月を戦い抜くためにも、とびっきりの『癒し』がほしいと仰る彼女の……その要望とは。

 

 

「明日の決起会……っていうか、ランチ。…………きてくれないか、って」

 

「昼間でしょ? いいんじゃない?」

 

「だよねぇ。さすがに……………………は?」

 

「明日の夜は配信するにしても……ノワなら準備に一時間もあれば余裕でしょ? 明日じゅうにやらなきゃいけない予定って、あった?」

 

 

 

 いや、まあ、そりゃ……スケジュール的には空いてるんだけど!

 

 あいてるんだけど!!

 

 



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202【日曜某日】集中力向上タイム

 

 

 おれはどうやら……()()なる前からなのだろうが、頼み込まれると強く出られない性格らしい。

 

 

 営業職時代は自分の主張を押しきることが出来ず、成績はいっつも底辺。前職時代も幾度となく『申し訳ないけど、頼むわ』の餌食となり、必要以上のタスクを抱える羽目になり。

 

 そして……今生。

 この愛らしいエルフの少女に籠められた設定(呪い)は、その傾向を容赦なく助長させる。

 

 おれは、()()()助けを求める真摯な声に対して……強く出ることができないのだ。

 

 

 

「ノワが()()に注力したい気持ちもわかるし、ボク自身その必要性は理解してるけどさ……数少ない知人は大切にした方がいいよ」

 

「かっ……数少なくないしー!! おれにだって友達……いっぱい…………いるしー!!」

 

「…………………………」

 

「………………すみません()()ました」

 

「よろしい」

 

 

 ちょっと予想外の圧に屈してしまったけど……つまりラニは、おれのことを心配してくれているのだろう。

 奇しくも、おれがきりえちゃんの交遊関係をもっと広めるべきだと考えたように……この業務に取り組むにあたって(存在転換という非常事態があったとはいえ)非常に狭まってしまったおれの交遊関係の狭さを心配して、メグちゃん(仮名)のお誘いを受けるように後押ししてくれているのだろう。

 

 まあ……確かに、世の人気動画配信者(ユーキャスター)さんたちだって人間だ。友達付き合いだってしているだろうし、同業者以外にも知人友人は当然居て然るべきだろう。

 おれは見た目こそ奇抜な幼女だが、そんな彼らと同じ(ただし知名度は雲泥の差だけど)ひとりの動画配信者(ユーキャスター)であり、同じ人間だ。

 

 ……いや、ごめん。おれはエルフなので同じ『人間』かどうかは正直ちょっと疑問だが……だとしても『知人と交遊を深めることが悪である』などということにもならないだろう。べつに他人に迷惑を掛けているわけでも、犯罪行為に及んでいるわけでも無いのだ。

 

 

 いや、まて…………一般成人男性が年齢性別を隠して未成年の女の子と接触するというのは……もしかして、これはもしかして犯罪行為に値するのでは無かろうか。

 落ち着いて考えてみれば……これはさすがにアウトな気がしてきたぞ!

 

 

「もう何度目かわかんない指摘だけど、ノワは誰がどう見ても十歳女児だからね。残念ながら合法合法」

 

「し、しかし!! ラニちゃんだってわかるでしょ! アラサーのおっさんが若い女子の中に混じるとか……拷問やぞ!!」

 

「…………ごめん、ボクにとってはむしろご褒美なので」

 

「ヒュツ…………こっ、この……このパリピ妖精め!!」

 

「ふははは! なんとでも言うがいい! 小さく可愛い女の子『のわちゃん』よ!!」

 

「きぃぃぃぃっ!!」

 

 

 

 おれの必死の抵抗も虚しく、ラニちゃん監督のもとでおれはメグちゃんへとREIN(メッセージ)の返信を送り……明日の祝日、おれの一日の予定はおおむね決定と相成った。

 

 うう、今からとっても胃が痛い。

 

 

 

 

 

 

 さてさて、ちょっと予想外のダメージこそあったものの……まだまだ『うにさん』の配信までは時間がある。

 とはいえこの季節、陽が落ちるのは思いのほか早い。かくいうこの滝音谷フォールタウンにおいても既に陽は傾き始め、このままだとあと一時間そこらで一気に暗くなることだろう。

 街灯とまでは行かないまでも……ガーデニング用の照明機器や夜間灯くらい、今後買ってもいいかもしれない。

 

 きりえちゃんとテグリさんのお料理教室もある程度探しておきたいし、先日のスパチャに対するお礼メッセージも収録しておきたいので、おれたちは屋外での作業を切り上げおうちへと帰投する。

 靴を脱いで廊下のフローリングをぺたぺたと進んでいき、やっぱり広さに慣れないリビングへ。ソファを始めとするのんびりセットはまだ購入していないので、やや殺風景さを感じさせるのはそのせいかもしれない。

 

 

「おかえりなさいませ、若芽様、シラタニ様」

 

「ただいま、きりえちゃん」

 

「ただいま! キリちゃんお勉強中? タブレットは慣れた?」

 

「……うぅ……恥ずかしながら」

 

 

 お留守番していてくれたきりえちゃんはダイニングの椅子に腰掛け、彼女用のタブレットを目の前に整った眉を八の字に寄せている。

 電子機器を扱うのが初めてとなる彼女は、やはりというかタイピングが苦手で、かなりの頻度で打ち間違いをしてしまうようだ。まぁ尤も、これまでそういった類の機器に触れたことが無いのなら、ある程度は仕方ないのかもしれないが。

 

 なにせこのご時世、高校生はおろか中学生や小学生でさえも、自分用のスマホを持っている時代である。年齢的には中学生相当だろうきりえちゃんは、同年代の子らに比べると少々出遅れてしまっているのかもしれない。

 

 

「じゃあじゃあ、センパイであるボクが見ててあげるとしよう」

 

「あ……ありがとうございます! シラタニ様!」

 

「ノワは仕事部屋でしょ? 晩ごはんできたら呼びに行くから、がんばってね」

 

「うわー本当頼れるラニちゃんだ。……じゃあ、お願いね。きりえちゃんも(こん)を詰めすぎないようにね」

 

「…………ふふっ。……そっくりそのまま、お返しさせて頂きまする」

 

「だよねぇー」

 

「ぐぬぬ……」

 

 

 頼りになる同居人のことを心強く感じる反面、末恐ろしさを垣間見ながらも……おれは自分のやるべきことを片付けるべくリビングを後にし、二階の作業部屋へと上がっていった。

 

 

 きりえちゃんたちのお料理教室の候補ピックアップと、スパチャのお礼メッセージ。まずは料理教室を探すところから始めて、晩ごはんまでにはお礼メッセージも少しは取りかかっておきたい。これから第二弾の収録を始めるわけなのだが、そろそろ第一弾も発送し始めて良いかも……いやむしろ、第一弾の発送を優先した方が良いかもしれないな。新兵器(TR-07X)もあることだし、録音だけならPCがなくても出来るのだ。

 

 よっし。まだまだやれることはいっぱいある。気合いれて頑張っていこう。

 

 夜はお楽しみの……配信視聴タイムが待っているのだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キリちゃんはさー、泳ぐのとか得意?」

 

「泳ぎ、でございますか? ……未だ幼少の頃、出雲の郷にて川遊びに興じた程度でございますゆえ……」

 

「ほうほう、そっかそっか。じゃあさ、暖かくなったら水着着て……ノワと川遊び、してみない?」

 

「……!! ……? ……みず、ぎ……でございますか?」

 

「あれ、水着をご存じ無い? ちょうどいい、タブで検索してみよっか。…………え、じゃあ川遊びって……どんな格好で?」

 

「………………真裸にて……ございまする」

 

「ワァオ!!」

 

「わ、童女(わらはめ)の頃の話にてございまする!!」

 

「大丈夫大丈夫! わかってるから! じゃあ今度、ノワと一緒に水着……はもう買えるのかな? ……まあいいや。ノワが水遊びできる場所つくってくれるみたい(※要出典)だから、楽しみにしててね」

 

「は……はいっ!」

 

 

 

 おれの知らぬところで、いつのまにか外堀が埋められようとしていただなんて……彼女たちのことを完全に信頼しきっていたおれには、全くもって知る由もなかった。

 

 



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203【観覧見学】先輩コンビのウデマエ

 

 

『こんばんしーっすー。あんりある水底配信者(キャスター)、『村崎うに』やよー。よろしうにー』

 

 

「よろしうにー! ……はぁ、かわいい……うにたその眠た目かわいい」

 

「ははぁなるほど? これが『おまかわ』ってやつか」

 

 

『今日も今日とてミル呼んで、FPEX(一人称視点STG)ペア練習してくっからねー。今日こそはチャンプ取れっかねぇー』

 

 

「うぉー! うにたそー! がんばえー!」

 

「わ、若芽様が……まるで童に……」

 

 

 

 いつものことながら美味しい晩ごはんをいただき、食後に仕事部屋でせかせかとお礼メッセージ業務を進め……ふと気がつけば時刻は現在、夜の九時。

 つまりはおれのコラボ相手である『うにたそ』こと『村崎うに』さんの……仮想配信者(ユアキャス)大手事務所『にじキャラ』所属の大御所の、生配信のお時間である。

 

 

 以前はソロで高ランク帯に潜り、野良プレイヤーと小隊を組んでひたすらレートを更新していくプレイを行っていたうにさんだが……最近はどちらかというとソロでのプレイは鳴りを潜め、同じ『にじキャラ』所属の配信者(キャスター)を伴いペア・トリオでのプレイが多くなってきているようだ。

 うにさん以外の『ゲームつよつよ配信者(キャスター)』と組むこともあれば、ミルさんみたいに『あまり得意じゃない配信者(キャスター)』と組むこともあり……ほかでもないおれ自身もそんな『得意じゃない子』の一員として、畏れ多くもコラボさせていただくこととなったのだ。

 

 おれたち三人が見つめるPC画面……そこにはFPSゲームのタイトル画面と、右下には2D描画された『村崎うに』ちゃんのアバター、右上にはリアルタイムで流れる透過されたコメント欄が配された、ゲーム配信を行う彼女のライブ配信ページが映っている。

 そんな中……画面右下へ新たに、別のキャラクターのバストアップ画像が表示される。白のロングストレートと青灰色の瞳をもつ、顔の輪郭やパーツ配置からして幼げなアバター。鎖骨のあたりから下は画面に映ってないが、そこには二枚貝をモチーフにした白のロングドレスが描かれているはずだ。

 

 

『今さらだし詳細説明とか省くけど、いいよね。ぱっぱか進めちゃお。……よい、しょっと。……あー、あー、ミル? ミルー?』

 

『聞こえておるよ。……問題無い』

 

『オッケー。じゃあまぁ今日も頑張っぞ。目指せチャンプ! ()()()当日までに上手くならないとね!』

 

『……っ、言われずとも、元よりそのつもりよ。()()の全力を尽くす……それだけのことよ』

 

 

「ねぇラニ! 今うにたそコラボっていった! これおれたちのことだよね!」

 

「う、うん……そうだろうけど……ねぇノワ、この『()』って言ってる、この白い子……この子って」

 

 

『まぁミルは皆さんご存じだろうけど……でもいちお、自己紹介お願い。ノルマだし』

 

『……うむ。……ご機嫌よう皆の衆。()仮想(アンリアル)水底領主配信者(キャスター)、イシェル家当主『ミルク・イシェル』である。よしなに』

 

『よしなにー』

 

 

「よしなにー! ……うん、この子ね、ミルさん。この前ミーティングでお話ししたでしょ」

 

「ぇえ……キャラちがくない?」

 

「ミーティングのほうが『()』なんだろうね……でもやっぱキャラ演じるのって大変みたいでさ、ふとした拍子に()が出るんだよミルさん。……でもそこがまた可愛いっていう。男の子だけどね」

 

「ホェ!?」「……まあ、なんと」

 

 

 ぽかーんと目とお口を開き、あっけにとられた様子のラニときりえちゃん。まあ無理もないだろう、だっておれを始めとした多くの視聴者が、公式プロフィールの性別欄を確認しておったまげたくらいだ。

 ビジュアルで言えば、極めて正統派な白ロリである。髪もスカートも長く流れ、儚げな表情と相俟って非常に庇護欲をそそられる、幼げで可愛らしい配信者(キャスター)。だが男だ。

 その声もまた物静かで優しげで、滅多なことでは大声を上げない。笑うときだって控えめであり、その容姿と相俟って『ご令嬢』という表現がぴったりだろう。だが男だ。

 

 いったい『にじキャラ』運営はどうしてこんな可愛らしい子を『男の娘』キャラで行こうと決めたんだ、と某界隈では一時期話題だったのだが…………誰かが彼のモチーフであるらしい『白ミル貝(ナミガイ)』をなんとなく画像検索してみたところ、一瞬で納得してしまったらしい。

 かくいうおれも画像検索してみて……恥ずかしながら秒で納得してしまった。なにがとはいわない。ユースクさんも『にじキャラ』さんもミルさん本人も、もちろんおれたち『のわめでぃあ』も健全です。いいね。

 当然健全だし寿司ネタにもなる美味しい貝なんだけど、画像検索は自己責任で。いいね!!

 

 

 

「見た目と性別にギャップがあったからか、ミルさんは開き直って『ギャップ』を全面で押してくキャラになったみたいで。だからあんな可愛らしい癒し系のキャラなのに、設定としては一人称『()』で偉そうな口調の領主キャラにされちゃったらしい」

 

「お、おぉ…………詳しいね」

 

「ふふ……まーね。一時期ほかの同業者(ユアキャス)のこと調べまくってたし、単純に『にじキャラ』追っかけてたから。……まぁ結局()()()にはなれなかったけど」

 

「なるほどねぇ。……でもさ、アンリアルじゃなくてもキャスターなら……それは立派な同業者だよ。実際コラボするんでしょ?」

 

「…………そうだね。……おれも、あの子たちの同業者か」

 

 

 混ざりもののおれでも、仮想配信者(ユアキャス)の方々と共演することが出来るのだと、ほかでもないうにさん達に教えて貰った。

 おれが蓄えた仮想配信者(ユアキャス)の方々のプロフィールも、これから先もしかすると役立つ日が来るのだろうか。……来るといいなぁ、いっぱいコラボしたい。

 

 そうとも、もとはといえば……この業界に飛び込むことを選択するくらいには、おれは仮想配信者(ユアキャス)が好きなのだ。

 

 

 

「『応援してます! 二人とも頑張って!』っと。……赤スパつけちゃお。えいっ」

 

「おぉー。一万円だっけ? ノワふとっぱら」

 

「へへ……『のわめでぃあ』活動費じゃなくて、おれのポケットマネー……年末年始のバイト代からだから、安心してね」

 

「いやべつにそこは心配してないっていうか……気にしてないっていうか」

 

 

『んおおーー!! ほらミル気合い入れーや! のわっちゃん見とるぞ! のわっちゃーん赤スパありがとー!!』

 

『っひゅ!!? ……っ、……こほん。……()とて『Sea's(シーズ)』の端くれ。……無様は晒さぬ、見ているが良い』

 

 

「ひゃあーーかわいいーーーー」

 

(おまえのほうが可愛いよ)

 

(若芽様も愛らしうございまする)

 

 

 

 彼女たちの立ち回りを、トークを、相方とのやり取りを、おれたちは存分に拝見し勉強させてもらいながら、たまに応援のコメントを送ったりしながら……今ばっかりは配信者(キャスター)ではなくいち視聴者(リスナー)として、おれは久しぶりに配信視聴を楽しんだのだった。

 

 



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204【観覧見学】先輩たちの戦い方

 

 

 相変わらず良い動きを見せるうにさんと、慎重に慎重に進もうとするミルさん……彼女たちペアはときに生き残り、ときに打ち負け、結果としておよそ一時間ほどで一位(チャンプ)を獲得することが出来た。つよい。

 戦績レート的には、そこまで高レベル帯の戦場じゃ無かったとはいえ、それでもすごいことに変わりはない。

 

 おれたちとしても、非常に楽しませて貰った。うにさんのプレイがうまいのはもちろんのこと、プレイしながらも平然と視聴者さんのコメントにトークで返したり、敵を華麗にキルしながらも自身のおもしろエピソードを語ってみせたりと……視聴者を楽しませるエンターテイナーの()()()として、学ぶべきところをたくさん見せて貰った。

 

 ……ちなみにきりえちゃんはというと、やっぱり平衡感覚とか感覚器官がヒトよりも鋭敏なせいだろうか。グリッグリ動き回る一人称視点に耐えられず、ゲーム開始から三十分くらいで見事に『酔って』しまっていた。

 そのため今は自室で横になっているらしく、若干ふらつきながら『もうしわけございませぬ……きりえは、きりえは弱い子にございまする』と言い残して去っていった。……うう、かわいそう。そんなことないのに。

 

 しかしながら……この部屋にもちょっと横になれるソファというか、マットレスみたいなの置いとけばよかったなぁって思った。……たぶん、おれも今後お世話になるだろうし。また今度シオンモールで探そう。

 

 

 

「アッやっべ、もう十時(二十二時)じゃん」

 

「んん? あぁー……そいえば何かあるって言ってたっけ」

 

「うん、他の仮想配信者(ユアキャス)さんの麻雀配信が」

 

「……ほう、マージャン。四人対戦形式のボードゲームだっけ?」

 

「そうそう。初心者でも運次第で勝てたりするし、意外と競技人口多いんだよ。……おれはルール詳しくないけど」

 

 

 

 残念ながらペア双方ともキルされてしまい、反省会しながら新しいゲームを始めようとしている、うにさんミルさんペアの配信……その画面をちょっと縮小し、新たにタブを増やして再び配信サイト(ユースク)を開き直す。

 マイページから『見たい配信』リストに飛び、そこへ登録しておいたとある仮想配信者(ユアキャス)のライブ配信ページへと飛ぶ。

 

 どうやら時間通りにライブ配信はスタートしたらしく……現在は参加者四人の自己紹介が行われているところのようだ。

 

 

 

「詳しくないのに配信見たいの? 何でまた」

 

「いやぁ、ね? じつは……おれが今気になってる『にじキャラ』の配信者(キャスター)さんがですね……お二人ほど参加してまして」

 

「へぇー? 誰と誰?」

 

「えっとねぇ、このひとと、このひと」

 

 

 おれが指差したのは、四人並んでいる参加メンバーのうち三人目と四人目。

 ちょうど今から自己紹介するらしいゲストの三人目と、このチャンネルの主である主催の四人目だ。

 

 

 

『こんばんどすー。仮想(アンリアル)エルフ皇女配信者(キャスター)、トールア・ド・ショットヘーゼ・ル・ナッツバニラ・アーモン・ド・キャラメルエ・キスト・ラ・ホイップ・キャラメ・ルソース・モカ・ソースラン・バチップ・チョコレー・ト・クリーム・フラペ・チーノ・ティーリット……どす。よろしうどすえー』

 

『相変わらず長いっすね! ……えー以上、たいへん豪華かつクセの強いゲストの皆様をお招きしての一席ですが……主催はワタクシ、絶滅危惧の仮想(アンリアル)男子高校生配信者(キャスター)、刀剣ボーイ(男子)こと刀郷剣治(とうごうけんじ)でお送りいたします!』

 

『お前ホント一回とうらん好きに怒られろ』

 

 

 

 ゲストの一人である男性仮想配信者(URキャスター)にツッコまれ、主催の男子高校生仮想配信者(URキャスター)がぺこぺこと頭を下げる。

 その様子を眺め、おれが気になっている仮想(アンリアル)エルフ配信者(キャスター)のトールア・R・ティーリット様が、もう一人の女性ゲスト配信者(キャスター)と一緒に朗らかな笑い声を上げている。ちなみに彼女のミドルネーム『R』は『略』の意味らしい(公式情報)。

 

 

「えっと……トールアっていう女の子と、トーゴケンジーっていう男の子?」

 

「彼女の出身地では名前が最後に来るみたいだから、ティーリットが名前だね。刀剣くんはそのまんま、ケンジが名前でトーゴーが苗字」

 

「へぇー……ってことはもしかしてこのティーリットちゃんが、以前ノワがいってた『共演したいエルフ族の子』ってこと?」

 

「ヴッ…………そう。よく覚えてるね?」

 

「えへへー」

 

 

 

 エルフ族の皇女である(という設定の)ティーリット様は、うにさん達の所属する『にじキャラ』の第Ⅰ期生……つまりはこの仮想配信者(ユアキャス)ブームの草分け的存在だ。

 同期とともにLive2Dのアバターとリアルタイムライブ配信を駆使し、仮想配信者(ユアキャス)としてのコンテンツを確立していった偉大なる先駆者のひとりであり……当然、おれなんかとは全くもって次元が違う『レジェンド』と呼ぶにふさわしいお方である。

 

 来歴と本名と外見的特徴はコッテコテのファンタジー風味であり、そのビジュアル……というか装束のほうも、たいへん神秘的で個性的。金髪碧眼に長い耳に小さく華奢で幼げな体躯と、まさに典型的なエルフのお姫様といえる容姿。

 独特な訛りながらきちんと日本語を操る彼女は、いわく『いっぱい勉強したどす』とのこと。日本かぶれというよりは『あいらぶ古都』と言って憚らない古都かぶれ。京都や奈良などの神社仏閣を愛し、言動の端々にエセくさい京言葉もどきが混じる……いろいろと可愛らしいエルフの皇女様だ。

 

 

 

『でも正直、わち麻雀あんま得意じゃないどすけども……なんで呼ばれたんどす?』

 

『どうせ刀郷(トーゴー)の趣味だろ。……だとすっとオレサマが呼ばれた理由が解んねぇんだけど』

 

『べつに下心なんて無いですって! そんな失礼な理由で先輩呼びませんよ!』

 

『でもありえますよー? わたしとティー様が本命で、ハデさんはフェイクとか。できればロリ三人集めたかったけど、それだとさすがに燃やされるから、みたいな?』

 

『そそっ、そんなこと無いですって! 信じてくださいよ先輩!』

 

『まあまあ……ふふっ。…………しねどす』

 

『オアアアアアアーーー!!』

 

 

 そしてもう一人、おれが気になっている配信者(キャスター)さんが……今しがたティーリット様の断罪魔法を受け爆発炎上している(らしい)、仮想(アンリアル)男子高校生配信者(キャスター)の刀郷剣治さん。例によって大手事務所『にじキャラ』所属の第Ⅱ期生、うにさん達の二個上だ。

 健全な男子高校生らしく(?)、小さくて可愛らしい女の子が好きだと公言して(はばか)らない剛の者だが……本人いわく『ちゃんと一線は弁えている(※あたりまえ)』という、自称・紳士な仮想(アンリアル)高校生である。

 

 

 そんな彼のことを、どうしておれが気になっているのかというと……むしろなんというか、おれのことを先に気にしてもらってたからというべきか。

 おれの『視聴者さん』たちからのタレコミや、おれのSNS(つぶやいたー)へ寄せられるコメントから判断するに……なんと畏れ多いことに、この業界においては大先輩である刀郷剣治(とうごうけんじ)さんが、おれのことを度々自身の雑談枠やSNS(つぶやいたー)で話題にしてくれていたのだという。

 ……っていうか昨日の配信見に来てくれて、おまけにスパチャまで投げてくれてたし。刀郷先輩おったやんけ。

 

 まあ確かに、おれのビジュアルは『小さくて可愛らしいエルフの女の子』なので……なんというか、そういうことなのだろう。

 しかしとはいえ、興味を持ってもらえたことは非常に嬉しいし、ほかでもないおれ自身()()()()()()を持ち合わせている健全な一般成人男性なので……同じ趣向をもつ()()()()として、彼とはうまい酒が飲めそうだ。この身体でお酒が出してもらえるかは置いといて。

 

 

 

『というわけで! 以上の四名でお送りする質問箱消化麻雀『聞かせてほしい(じゃん)』! さっそく始めていきまッッしょう!!!』

 

『『いぇーい!』』

 

『あからさまに誤魔化したなコイツ……』

 

『ははははは(棒読み)』

 

 

 

 表示された麻雀画面の下に仲良く並ぶ、四人の『にじキャラ』配信者のバストアップ。

 おれたちの目指すひとつの形、気心知れた仲間同士での仲睦まじげなゲーム(兼お題消化雑談マラソン)コラボが、今始まろうとしていた。

 

 大御所の方々のトークと進行……とても楽しみである。

 

 



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205【観覧見学】新人の悪あがき

 

 

 仮想配信者(URキャスター)たちの間において、麻雀配信は結構な高頻度で見かける、つまるところ『定番』と言って差し支えない演目だろう。

 特に近年では、手軽にネット対局が行える基本無料麻雀ゲームの台頭などもあり、ネットも含めればその競技人口はじわじわ伸びてきているのだとか。

 

 複数人での対局が標準仕様なので、自然とコラボの形式になりやすい。基本的なルールを覚える必要はあるが、複雑難解な『上がり役』なんかはコンピューターが自動で判別してくれる。熟練者ならではの戦略やノウハウで左右される部分もあるが、最終的には運任せなため初心者でも勝機はそれなりにある。そしてなにより……仮想配信者(URキャスター)に興味が無い年齢層の視聴者にも、麻雀対局動画という形でならばアピールできる。

 また、世の中には単純に『麻雀に興味はあるけどルールよく解んないから、とりあえず他人の打つとこ見て覚えていきたい』という若年層視聴者さんも数多く居るため……なんだかんだで一定の視聴数とコメント数は狙える、手軽な安全牌なのだろう。

 

 

 仮想配信者(URキャスター)どうしでの対局では、だいたい打ちながら雑談に興じることも少なくない。最近のマイブームや自身の『やらかし』を面白おかしく紹介したり、玄人にもなると麻雀を打ちながら質問を消化していったりする猛者もいる。

 

 かくいう今回の……『にじキャラ』第Ⅱ期生刀郷剣治(とうごうけんじ)さん主催の麻雀対局も、どうやらそういう趣向らしかった。

 この対局の参加メンバーは事前に告知されており、刀郷さん含め参加者に答えてもらいたい質問を事前に広く募集し、当日は対局中に集まった質問を公開、全員に答えてもらいながら麻雀を打ち続ける……という企画らしい。

 麻雀は突き詰めると、広い視野や判断力や推理力などなどを総動員する、高い集中力を必要とする競技だ。質問の消化を行いながら対局を行うともなれば、集中力を大いに乱れさせ、判断力の低下は避けられないだろう。

 

 

 

『俺様が思うによ、やっぱ今日の対局刀郷(トーゴー)の趣味出てると思うんだよな』

 

『だッ、だからちがいますって。ティー様と生徒会長が好みなのは否定しませんが……』

 

『ちょっと……刀郷くん、今の発言大丈夫なんですか? 坂元さんに怒られません?』

 

『やぁー怒られるかもしんねっす。ウチのマネージャーさんめっちゃ怖いんで』

 

『それは単に、トーゴーくんの日頃の行いのせいどすやろ?』

 

『いやいやいやそんなそんなそんな』

 

『あぁそれだわ。悪ィな刀郷(トーゴー)

 

『ウッソォ!!? うわ痛ぁ!!』

 

 

 

 向けられた疑念を逸らすことに集中力を割きすぎて周囲の警戒を怠ったがため、他のプレイヤーが狙っている上がり牌をうっかり捨ててしまったことによる……非常に手痛い失敗。

 それを目の当たりにした一同は、コメント欄も含めて大爆笑の模様。気心の知れた仲間内ならではの罵声や揶揄する言葉が飛び交うが、その雰囲気は極めて和気あいあいとしたものだ。

 対戦相手の足をあの手この手で引っ張り精神をかき乱すために、容赦ない追及と心理戦が繰り広げられるのも、この麻雀対局配信の見所のひとつであるという。

 

 

「おもしろそうなゲームだね……相手が何を欲してるのか、ちゃんと把握ないし予測しないといけないのか」

 

「そうそう。自分は高得点を狙いつつ、かつ自分の狙いを悟らせず、それでいて相手の役を完成させず……それでも結局最後は運任せ」

 

「運任せだからこそ、素人でも勝てる余地が残ってるわけだ。……うまくできてるなぁ」

 

「でしょお」

 

 

 ほんのわずかな見学だけで、このゲームに興味津々といった様子を見せる相棒妖精ラニ。おれと彼女がおもしろ半分に見守る先、対局とそれに伴う場外心理戦はどんどん進んでいく。

 しかしながら、やはり仮想配信者(ユアキャス)を多数抱える大手事務所の売れっ子さんたちだ。ゲームと平行しているのにもかかわらずトークの勢いは落ちることなく、おれたち含め視聴者をいっこうに飽きさせない。トークテーマのベースである質問箱を活用しながらも、あくまで自然に(それでいておもしろそうな方向に)話題をどんどん拡げていく。

 

 

『じゃあじゃあ、仮にじゃよ? 仮にトーゴーくんの趣向十割で麻雀のメンツ揃えるとしたら、どういう顔ぶれになるんやろ?』

 

『まずオレサマが除けられるだろ? 姫と会長はロリだから良いとして、あと一人か。ミルとかアキとかリューあたりか?』

 

『なんでそうなるんすか! 全員男の子じゃないっすか!』

 

『でも実際のところどうなんです? 刀郷くんの好みとなると青樹(あおき)ちとせちゃんとか花畑(かはた)みどりちゃんとか』

 

『もちろんあの子達も可愛いと思ってるんですが……僕への当たりがですね、やたら辛辣というか。殺意に満ちてるというか』

 

『あたりまえどす』

 

 

「むむむむ……知らない名前ばっかりだ。ユアキャスってそんないっぱいいるんだ?」

 

「そだね。彼ら『にじキャラ』さん以外にも『ユアライブ』とか『芸真途(げいまあず)』とかいくつか事務所あるし、事務所に属さない個人勢も含めると……何百人っていると思う」

 

「そんなに」

 

 

 まあ、かくいうおれも……そんな何百人の中の一人になろうとしていたわけだが。

 今となっては仮想(アンリアル)じゃない動画配信者(ユーキャスター)、何百人どころか何万人規模の中の一人になってしまったのだ。この絶望的でさえある分母の中で生き残ることは、決して簡単ではない。

 

 だからこそ、偉大なる大先輩たちの技術を、作風を、雰囲気を、取り込めるところは取り込み、自分の糧にしていきたい。

 ……そう思っての、他配信者(キャスター)さんの配信視聴だったが。

 

 

 

『べつに『にじキャラ』じゃなくても良いですので、他に誰かいないんですか? ロリソムリエ刀郷(とーごー)くんイチオシのロリッ子は』

 

『いやそれがですねぇ、居るんですよ。よくぞ聞いてくれましたって感じなんですけどね』

 

『うわ気持ち悪…………いや悪ィ。気にすんな。ちなみに何処の誰よ、コラボしたことある相手? 『ユアライブ』さんとか?』

 

『いや違うんすよ。個人勢なんすけど……『わかめちゃん』って可愛い子がいるんすよ』

 

 

 

「「!!!!!!!!」」

 

 

 

 …………いや、その……前情報としては知っていましたけど。刀郷さんがおれのことを気にかけてくれているって、情報としては知ってますけども。

 

 こうして実際に、リアルタイム視聴しているライブ配信で、こうして目の当たりにしてしまうと……さすがにびっくりしてしまうし、なんだかとっても畏れ多いが……だが実際、とってもうれしい。

 

 

 

『わちも知っとるよぉ。かいらしいエルフのろりっこやろ? (みどり)(ちい)ちゃい子』

 

『マジすかティー様! あぁ、やっぱエルフだからっすか?』

 

『そうそう。仮想(ユア)でないのにあの可愛らしさどすやろ? わちも気になっとったどす』

 

『え!? 仮想配信者(ユアキャス)じゃないのにエルフなんですか!?』

 

『ウッソだろお前……マジかよ』

 

『それがマジなんすよ。めっちゃ完成度高いリアルエルフの女の子で、主に企画系の配信者(キャスター)なんすけど最近はライブ配信も増えてきて』

 

『挨拶がこれまた愛らしいのやよね、『へいりぃ』って』

 

『そうですそうです! その子です!』

 

 

「…………いやぁ、おれに似た別人のことかと覚悟してたけど」

 

「ノワ以外に『ヘィリィ』使ってる不届き者がいたらボクが処しに行くわ」

 

「そこまでしなくていいよ。……でも……うわぁ、マジか。ティー様にも知って貰えてたのか」

 

 

 刀郷さんとティーリット様はその後もしばし、おそれ多くもおれの話題を拡げてくれていた。

 いわく……一生懸命さが可愛らしい、小さい子なのにお姉さんぶってドヤろうとするのが可愛らしい、たまにヘマして半泣きになるのがかわいそうで可愛らしい、などなど。

 決して少なくない、むしろおれの何十倍もの支持者を誇る成功者である彼女らに、おれのアピールポイントを褒めてもらえたことが……おれのやって来たことが間違いでは無かったと認めてもらえたことが、今は何よりも嬉しかった。

 

 たしかに仮想配信者(ユアキャス)とて、広義でくくれば動画配信者(ユーキャスター)の一部だ。仮想配信者(ユアキャス)の中には、実在の配信者(キャスター)――ヒカ(King)(はじめ)会長など――のファンであることを公言する子も少なくないし、それこそよくある『芸能人では誰が好きか』なんかの話題の延長線上なのだろう。

 しかし実際、いざ自分がその『好かれる側』に立ってみると……これは非常に、非常にこそばゆく、しかし決して不快ではない。なんともいえない不思議な感覚だ。

 

 

 ただひとつ確かなことは……刀郷さんと、ティーリット様。このお二人のことが、今まで以上に好きになったということ。

 

 

 

「ふふふふ……刀郷さん昨日赤スパくれたからね。おれからも赤スパお返ししちゃおっと」

 

「……思い出した、『美少女の涙たすかる』とかそんな感じのやつだ。……へぇー、彼が」

 

「そうそう。……よし行けっ! おれの一万円!」

 

「なになに……『昨夜はあついひとときをありがとうございました。つたないですが、また今度サービスさせてください』? ……昨夜なにかあったっけ? あとサービスってなに?」

 

(意味深)(カッコいみしん)ってやつだよ。『昨夜の配信でスパチャくれてありがとう、今度お礼のメッセージ送りますね』っていうのを、あえて勘違い()()()()()言い回しに言い換えただけ。あと平仮名多めで(つたな)さアップ。わたし十さいだから」

 

「ははぁ……でもなんでまた?」

 

「ふふふふ……それはだね」

 

 

『ちょ、っ……わかめちゃんおるんすか!? え、まじ……待って、待ってオレ……ええっ!? サービスってなに!?』

 

『は? どういうことだ刀郷(トーゴー)お前……何? サービス? まさかお前、そのロリッ子にサービスさせようとしてんの?』

 

『うわ最低ですね刀郷くん。……えっ? つまり今刀郷くんの放送をその『わかめちゃん』が見てるってことですか? イェーイわかめちゃーん見てるー?』

 

『いや、ちがっ……いえ、ちがくないんすけど! いえ、赤スパチャをですね、頂いただけでして』

 

『年端もいかぬロリっこに赤スパ貰って、サービスまで強要するなんて……最低どすなあ』

 

『待ってください! これは違うんすよ! もー…………あっ、でもわかめちゃん本当ありがとうございます。嬉しいす。でも言い方にちょっと気を付けてほしかったなぁっていうか』

 

『トーゴーくんそれロンどす』

 

『ウワアアアアアア嘘おおおおお!!』

 

 

「ははぁ…………なるほど、彼おもしろいね」

 

「でしょう? 刀郷(とーごー)さんは俗にいう『弄られキャラ』ってやつでね、割と質問箱とかかすてら(WEBコメント)とかでも辛辣な意見多いんだけど、彼自身それをおもしろおかしく処理するのが得意だから……つい困らせたくなっちゃって」

 

「なるほど……悪女だなぁノワは」

 

「へへへ、そうかも…………っと、それ追加黄スパほーい」

 

「なになに……『ごめんなさい、もっとうまくご奉仕できるようがんばります』…………なるほど。ノリノリじゃんノワ」

 

「ふへへー」

 

 

 おれの放った第二のスパチャによって……刀郷さんは狙い通り、おもしろいように平静を欠いていった。

 視聴者さんたち(どうやらおれ(わかめちゃん)のことを知っている方々も居たらしい)のコメントも勢いを増し、畏れ多いことに『わかめちゃんおるやんけ』も頂いてしまい、そんな中で刀郷さんの取り扱いに手慣れた視聴者さんたちにコメント欄で弄られ、また共演者の方々にもおれ(わかめちゃん)の送った文面を追及され……四方八方から集中攻撃を浴びた彼に、もはや集中力は微塵も残っていないようだった。

 

 ティー様の待ち牌に気付かず振り込み、思いっきり高い役の直撃を受けた刀郷さんは……全八回(半荘戦)のちょうど半分あたりで削りきられ(トばされ)、見事最下位となった。

 

 

 

『それにしても……パパ活、ってやつですか? 男子高校生なのに年端もいかぬロリっ子にご奉仕させるなんて……これは『全校集会』の必要ありですかねぇ?』

 

『いや……でも……わかめちゃんは百歳児なんで、合法かなって……』

 

『エルフの世界で百歳はまだまだお子ちゃまやから……有罪どすなぁ』

 

『オーイ坂元(マネージャー)さーん! 刀郷(トーゴー)がやらかしましたよー!』

 

『ウワアアアアアア!!!』

 

 

 

 彼のポテンシャルの高さと、流れるように言い訳を繰り出すトーク(りょく)、リアクションの巧みさと、周囲を明るくする独特の才能に実は感心しながら……しかしおれはその後も遠慮なく、勘違いされそうな言い回しを心がけつつコメントを続けていった。

 

 いやぁ、でも本当……刀郷さん活き活きしてるよなぁ。

 

 





にじキャラⅠ期生『FANtoSee(ファンタシー)』メンバー
(※一部抜粋)

【トールア・R・ティーリット】
エルフ皇女配信者(キャスター)。イメージカラーは白金。
和風好きで古都好き。エセ京言葉のような謎言語を操る。
容姿および口調はおっとり穏やかな癒し系。
怒ると一撃必殺『しねどす』を繰り出す。

【ハデス】
冥王系偉丈夫配信者(キャスター)。イメージカラーは青黒。
容姿は厳ついオレサマ系だが、頼れる兄貴分。
良い声から繰り出される囁きASMRは実質凶器。
割と何でもこなせるハイスペック万能配信者(キャスター)



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206【観覧見学】今日アフターどうすか

 

 

 うにさんミルさんのFPS配信を右窓で視聴しながら、刀郷(とうごう)さんたち四人の麻雀配信を左窓で視聴し、それぞれにコメントを送り続けること、およそ三時間。

 ……まぁFPS配信は途中で終了したので、後半の一時間ほどは麻雀配信に掛かりっきりだったのだが。

 

 現在は日曜日の深夜あらため、祝日月曜の午前一時。すっかり夜も更け、日付も変わって久しい。

 

 

 街灯も周囲の家屋も存在しない、山の中腹の一軒家のとある一室。

 その部屋は現在……深夜にしては相応しくない程に賑やかな、複数人の『人の声』で溢れていた。

 

 

 

『ったく……このデコ男子がよぉ! あたしらだって疲れてるってのにさぁ!』

 

『悪かったって貧乳。いやほんとマジで助かったって』

 

『ああ!? テメェまじわからせっぞ! 今からスマブロすっか!?』

 

「う、うにさん……どうどう、おさえて」

 

『いやぁー本当かわいいわぁー。生エルフよ生エルフ。夢みたいどすわー』

 

『確かに……こりゃぁたまげたな。刀郷(トーゴー)はまだしも、姫さんが入れ込むのも解る気がするわ』

 

「はひゅっ!? き……恐縮です!!」

 

『わかめちゃん大丈夫ですか? あのロリコンデコに何か()()()()()()ことされてません? いやマジめっちゃ可愛いですねグッヘヘ』

 

『か、会長さん……本音が漏れてます……』

 

 

 刀郷さんの麻雀配信が終わり……おれは現在おそれ多くも、うにさんが立てたDeb-CODE(会議通話ソフト)内某会議ルームにお邪魔させていただいている。

 そこの参加者はなんとびっくり、おれ以外の全員が大御所の大先輩がた……超有名配信者(キャスター)が勢揃いしているのだ。

 

 

 発起人である仮想(アンリアル)男子高校生配信者(キャスター)の『刀郷(とうごう)剣治(けんじ)』さんと、彼に頼み込まれておれとコンタクトを取り、この場を設けた仮想(アンリアル)海産物配信者(キャスター)でありゲーマーでもある『村崎うに』さん。おれが憧れる仮想(アンリアル)エルフ皇女配信者(キャスター)の『トールア・R・ティーリット』様、彼女同様の第Ⅰ期生メンバー、仮想(アンリアル)冥王配信者(キャスター)である『ハデス』様。刀郷さんの同期である第Ⅱ期生、仮想(アンリアル)生徒会長の『日野影(ひのかげ)(ながれ)』さんと、うにさんの同期であり先日もお話しした『ミルク・イシェル』さん……総勢六名の『にじキャラ』配信者(キャスター)が勢揃いした、大変賑やかかつ尊みあふれる聖域と呼べる神聖な場である。

 

 

 いや、その……まって、本当おれの場違い感が半端ないんですが。

 

 ちょっと場違いすぎるっていうか、ありがたすぎて……あの、これお金払うレベルなんですけど。払いますいくらですか。

 

 

 

 麻雀配信の終了後、刀郷さん(とティー様)主導によって立てられたらしいこの通話ルームは……端的にいうと、実在エルフ配信者(キャスター)であるおれを眺める場である……らしい。

 おれの連絡先を知っているうにさんがまず目をつけられ、更にミルさんが巻き込まれ……おれとの通話を希望してくれたお二方とおれとの会議通話の場が設けられ、更に『オレも』『わたくしも』ともうお二方が興味を示し、こうして深夜のプチ会合が発足される流れとなった。

 

 そしておっかなびっくり通話を繋ぎ、案の定というか『フェイスカメラ繋げて貰えちゃったりしますか』とのご要望を受け、ある種の想定通りだったおれは快諾して見せ……大先輩の皆様におれの顔を晒す栄誉を賜ったのだった。

 

 

 

「あの……あっ、あらためまして……いわゆる個人勢で配信者(キャスター)やってます、『木乃若芽(きのわかめ)』と申します。……お話できて光栄です!」

 

『いやあの、えっと……オレの方こそ、光栄です。一目見たときから『可愛いな』って思ってて。まさかオレの配信見に来てくれるとは思ってなくて』

 

「いえそんな! わたしの方こそ、こんな弱小配信者の配信に来ていただけて……しかも赤スパまでいただいてしまって。刀郷さんのような先輩配信者(キャスター)に絡んで貰えて、お話する機会まで頂けるなんて……」

 

『わかめちゃんわかめちゃん、わちは? ティーリットさんとはお話しできて嬉しい?』

 

「もちろんです!! わたしも一応エルフ族として活動させて頂いてるので……あわよくば同族ってことをアピールして、何らかの形で絡みに行けないかと画策してました!」

 

『ふふふふ……照れるわぁ』

 

『ティー様ティー様。わかめちゃんとコネクション持ったのあたしが先なので、つまりあたしのおかげなんで、そこんとこよろしくお願いしますね』

 

『……でもうにさんが最初興味持ったのって、ラニさんですよね?』

 

『ちょお!? ミルなに余計なこと言っとん!!』

 

「……まあ、たしかに……いちばん最初コンタクト取られたのって、わたしの相棒のアカウントでしたね」

 

『のわちゃああああん!!?』

 

 

 いいなぁ、こういう空気。

 賑やかで、仲良さげで……楽しくて。

 

 個人勢としてスタートしたおれは、当然だが『同期』も『先輩』も居やしない。そのあたりの事情も込みで『個人勢』という選択を取ったのだから、仕方の無いことだと理解はしているのだが……それでもやっぱり、憧れる。

 学生の部活動のような、あるいは気軽なサークル活動のような。仲のいい友人どうしが一緒に遊びにいくノリで、雑談やコラボを行える……そんな関係に対する憧れは、おれにだって当然ある。

 

 しかし今は……一時とはいえ()()()()に触れられたことが、嬉しくて仕方ない。

 おれがこの道を志す切っ掛けとなった方々の、完全オフのフリートークを耳にすることができ……しかもその場に居合わせていられることが、ただただ幸せで。

 

 

 

『というわけで……のわちゃん?』

 

「は、はひっ!?」

 

『同じエルフのよしみってことで……今度、わちともコラボ、してもろて良い?』

 

「はひゅ!!?」

 

『おっ、じゃあオレも良いか? ファンタジー仲間が増えるンは嬉しくてな。ゲームでも雑談でも良いから、なんとか頼むわ』

 

『あっ、じゃあわたくしも。お歌コラボとか良いですね。カラオケご一緒しません?』

 

『ちょぉ! 先輩がた抜け駆けズルいっすよ! オレが先に目ぇつけてたんすから!』

 

『あたしとミルのが先だっての! 調子乗らんとけやおいデココラ!』

 

『う、うにさん落ち着いて……ぼくたちは一歩先いってますから……』

 

 

 

 おれなんぞとは住む世界からして違う天上人からの、まさかの共演(コラボ)のお誘い。これは夢かまぼろしかと自らの頬をつねってみるも、やっぱり痛い(ひはひ)。……夢じゃない。

 おれが実在エルフ配信者(キャスター)としてやけっぱち気味に活動開始したときから、うっすらと思い描いていた『先輩エルフ配信者(キャスター)』との夢の共演。また彼女をはじめとする『売れっ子』配信者(キャスター)の皆様からの、ありがたすぎるお誘い。

 憧れていた方々からこんなお話を頂けるなんて、嬉しさが振りきれてしまいそうだ。

 

 是も非もない。絶対にご一緒したい。何がなんでも、むしろこちらからお金払ってでもお願いしたい。

 

 

 断る理由なんて、何一つとして存在しない。

 

 

 

「わ、わ、わ、わたしでよければ! 是非! ご一緒させてください!!」

 

『やった! ふふふ……明日金剛(マネージャー)さんにも連絡しとかんとなぁ』

 

『姫さんもう今日だぞ。寝ボケんのはまだちょっと早いぜ』

 

『わたくしたちも、坂元(マネージャー)さんに連絡入れときましょう』

 

『じゃ、じゃあオレの『全校集会(裁判)』は免除ってことで……』

 

 

 うにさんたちとコラボの話が持ち上がったときは……そりゃそれだけでももちろん嬉しかったけど、まさかこんなことになるなんて思っても見なかった。連絡先の数が一桁しか無かったおれのDeb-CODE(会議通話ソフト)に、『同業者』のお名前……しかもとびきりの有名人が、一気に増えたのだ。

 

 そもそもの切っ掛けを……おれが仮想配信者(ユアキャス)の方々とも共演(コラボ)できると気づかせてくれたうにさんは勿論だが。

 

 

 

「刀郷さん!」

 

『ふぁっ!? ななな何でしょう!』

 

「わたしのこと、()()()()()くれて……本当にありがとうございます!」

 

『ちょっ……!!?』

 

『『『『『……………………』』』』』

 

(うわぁ…………えげつな……)

 

(ふふふふふ……わたしは何もおかしなこと言ってませんですし)

 

 

 

 高く買ってくれて――つまりは、能力や価値があるものだと見なしてくれて――ありがとうございます。

 

 彼があの麻雀配信のとき、わたしのことをいろいろと誉め話題にしてくれたからこその、今があるのであって。

 

 

『やっぱり……うふふ…………しねどす』

 

『いやー『全校集会(裁判)』待たずに処刑ですわー』

 

『やりやがったな刀郷(トーゴー)。ロリはマズいぞお前』

 

『パパ活仮想配信者(ユアキャス)乙。炎上しろデコ』

 

『…………すみません、どうかご無事で』

 

『ちがうんすよ! これは違うんす!』

 

 

 

 第二の切っ掛けを作ってくれた、絶滅危惧種の男子高校生仮想配信者(URキャスター)……刀郷剣治さん。

 彼の生きざまを、人となりを、そして彼への恩を……わたしは決して忘れない。

 

 

 

 

 

 

(まるで死んじゃったみたいな言い方だね?)

 

(彼はもうだめだ。仕方ない)

 

(原因がいけしゃあしゃあと……やっぱノワは悪女だよ)

 

(ウフフ)

 

 

『炎上はもう嫌だァーーーー!!』

 

 

 ―――合掌。

 

 



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207【祝日騒乱】さっそくやらかし

 

 

「わ……若芽様ー? ……えっと……も、もう起きておられますかー?」

 

 

 

 まるで……夢でも見ていたみたいだ。いやむしろ、今だって信じられない。

 おれが憧れてやまない、偉大な先駆者の配信者(キャスター)さんたちに……コラボのお誘いをいただき、しかもしかもREIN(メッセージアプリ)の連絡先まで交換していただけるだなんて。

 

 

 

「若芽様ー……? ……し、失礼致しまする」

 

 

 

 第Ⅰ期生のティーリット様とハデス様、第Ⅱ期生の刀郷(とうごう)さんと日野影(ひのかげ)さん、そして第Ⅳ期生のうにさんとミルクさん。……おれが憧れていた配信者(キャスター)さんたちが、六人も。

 嬉しすぎて、まるで夢でも見ているんじゃないかという心境だが……仮に、仮に『コラボやらないか』の話が夢だったとしても、刀郷さんとティーリット様におれの活動を誉めて貰えたという事実だけで、充分すぎるほど嬉しい。

 

 

 

「……わ、わかめさまー? ……まだおねむでございまするかー?」

 

「……んゅぅーーん…………?」

 

 

 

 そうだ、刀郷さんへのお礼もそうだけど……収益化達成後の第二回配信、そこで頂いたスパチャのお礼がまだ片付いていないじゃないか。

 それに第一段のお礼に対するリアクションも気になるし……ちょっとくらい、エゴサしてみてもいいかな……って。やらなきゃいけないことにも、ある程度目処がついたことだし。

 

 …………そうだ、おれにはやらないといけないことが…………あれ?

 

 

 

「わかめさまー?」

 

「んひゃああああ!!!?」

 

「きゃぁっ!?」

 

「うああ!? ごごごめん霧衣(きりえ)ちゃん!?」

 

「い……いえ。お気になさらず。……おはようございます、若芽様」

 

 

 

 可愛らしい同居人のモーニングコールによって、やっと目が覚めたおれ。どうやら昨晩……というか今朝未明の突発小会議のせいで、恥ずかしいことに寝坊してしまったらしい。

 

 いや待てまさか全部夢だったのか、と思ってスマホを手に取ると……おれの予想に反し、見慣れぬアカウントからのREIN(メッセージ)通知。

 それは、おれの不安を払拭するには充分すぎる相手からの……控えめに言ってものすごく自慢できるであろう六名のお相手からの、お礼と『おはよう』のメッセージだった。

 

 いや、しかし……あの出会いが夢じゃなかったことは嬉しいんだけど、いったいおれはいつのまにベッドへ潜り込んだんだろうか。

 少なくない疑問を感じながらも、おれは『おはよう』にしては少々遅くなってしまったお返事を考えていく。……しかし、なんて返そう。さすがに十時ともなれば『おはよう』は相応しくないだろう。

 

 

 …………待って、十時?

 

 

 今日は……あれから寝て、起きて…………そう、祝日の月曜日だ。

 

 祝日月曜日の、お昼。……今日の予定は。

 

 

 

「うわヤッベェ!!」

 

「ひゃわ!?」

 

「ああっごめん霧衣(きりえ)ちゃん! ねえちょっとラニ! ラニ起きて! ……ああもう、お風呂いくよラニ!!」

 

「んみゅーーん……」

 

 

 まずいまずいまずい。社会人たるもの、一度交わした約束は守らなければならない。

 今日のお昼はメグちゃん(仮名)サキちゃん(仮名)とのお約束……デスマーチ突入前の彼女たちの、最後の昼餐(ランチ)にお呼ばれしているのだ。

 

 どうやら昨晩はお風呂に入れず眠ってしまっていたようで、つまり今からお風呂に入って身を清めなければならない。霧衣(きりえ)ちゃんには大変、ほんと大変申し訳ないけど、どうやら朝ごはんをいただく時間は無さそうだ。

 

 

「お気になさいませぬよう、若芽様。あさげは代わりにわたくしが、お昼に頂くと致しまする」

 

「ごめんね霧衣(きりえ)ちゃん! あと起こしてくれてありがとう! ……ラニおきて! ()()に剥いちゃうよ!」

 

「いいよぉー」

 

「起きてんじゃんこのえっち妖精!! ああもう……」

 

「落ち着いてくださいませ、若芽様。拭布(たおる)は準備万端でございまする」

 

霧衣(きりえ)ちゃん……最高。すき」

 

「ふふっ。ありがたき、でございまする」

 

 

 可愛らしくはにかむ霧衣(きりえ)ちゃんに感謝の言葉を述べながら、おれはお出掛け用のちょっと大人っぽく見える(しかし結局は子ども用の)服と下着とラニちゃんを引っ掴み、どたばたと一階お風呂場へと駆け込んでいった。

 

 

 おれは朝風呂は嫌いじゃない。寝汗や垢をすっきり洗い流して全身さっぱりすることで、朝から気持ちよく一日を過ごすことができるからだ。

 なのでゆっくりのんびり浸かりたいところではあるのだが……他ならぬおれのお寝坊のせいで、現在時間はちょっと差し迫っている状況であり、残念なことに湯船でのんびりぷかぷか浮かぶことができない。残念だ。

 

 ぱぱっと服と下着を脱ぎ捨てて洗濯機へと投げ込み、素っ裸でお風呂場へと突入する。鏡に映る自分の裸身にちょっと顔が赤らむのを感じながらシャワーヘッドを手に取り、お湯の温度と吐水量を調整する。ラニ専用浴槽であるカップに適温のお湯を適量張って、未だ寝ボケたふりをしておれの指に吸いついてくる妖精さんをやんわり振りほどいてぶち込み、おれは手早く自分の身体を清めることを優先する。

 

 目の細かい化繊スポンジでボディソープを泡立て、手の指先から足の爪先までくまなくこすり洗っていく。大きくのけ反り背中に手を回し、あるいは脇の下から手を回し、背中もきちんとこすり洗い。……自分一人で背中のほとんど全域に手が届くのは、正直びっくりな柔らかさだと思う。

 身体を泡だらけにし終えたなら、つぎはこの長くて綺麗な若葉色の髪だ。日本人離れしたこの髪だが、幸いなことに日本人向けのシャンプーで問題ないようで……しかしおれはあまり詳しくないのでドラッグストアの店員さんに薦められるがまま、ちょっとお高めのシャンプーで洗っている。

 生えぎわから毛先まで、指と手のひらをうまく使って――それでいて変な力を入れて痛めないように――手早くかつ丁寧に泡立てていく。

 

 

「いやぁー……眼福眼福」

 

 

 能天気な相棒の声をスルーしながら、おれはシャワーのお湯を全身で浴びる。頭のてっぺんからあわあわが一気に流されていき、若干のくすぐったさとともにすっきりとした気持ちよさが全身を満たす。

 お湯の流れから少し外れてまぶたを開き、仕上げとばかりにこれまたお高めのコンディショナーをポンプして手に取る。白っぽい高粘度の液体を両手に伸ばし、毛の流れに沿うように馴染ませていく。

 最初ラニは『そのままでも充分きれいだと思うけどー?』などと言っていたが……どうやらこの香りを気に入ってくれたようで、今では何も言ってこない。

 でも『髪の毛のにおいが好き』だなんて……ちょっと変態っぽいぞ、ラニちゃん。

 

 

「いやぁー……いいね、めっちゃせくしー」

 

 

 無遠慮な相棒の声を意識して受け流し、最後の仕上げに取りかかる。コンディショナーのあとはタオルで髪を纏めたり、十分程度置いたりして薬効成分を浸透させるのが良いらしいが……今は時間がないので仕方ない。三分で切り上げよう。

 その間に洗顔フォームを泡立て、顔をぐしぐしと洗っていく。これまたドラッグストアの店員さんおすすめのアイテムで、医薬部外品の括りであるため薬効効果も抜群なのだとか。……おれにはよくわかんないけど、実際におれのほっぺを突っついたラニが感動してたので、たぶん良いものなんだと思う。

 入念にお顔を撫で回し、そろそろ三分経っただろう。再び頭からシャワーを浴び、髪の毛から『ぬるり』とした感覚が無くなるまでしっかりと洗い流す。

 ……かなり端折(はしょ)って()()なので、真っ当にケアしようと思うとなかなかに大変だ。これを日常的に手間隙かけて行う世の女の子たちには、本当に頭が上がらない。

 

 

「んむゥーー……ねぇラニ、いま何時?」

 

「十時二十八分だね。三十分前」

 

「十五分前には着いてなきゃだから……もう時間ないじゃん! やだあ!」

 

「大丈夫、ボクがついてるって。あと十五分もあるよ」

 

「微妙に安心できない時間なんだよなあ!」

 

 

 のんびりマイペースの彼女に元気づけられながら、おれはシャワーを止めてバスタオルを被る。とりあえず髪の水分をおおざっぱに拭い、あとは顔から下へ。敏感な部分をこする際の刺激は無理矢理無視して、身体の表面から水滴を取り除く。

 

 

「んん……ラニ、髪お願い」

 

「おまかせ。我は紡ぐ(メイプライグス)……【蒸散(トランスピラ)】」

 

「むふゥーーーー」

 

 

 髪から余計な水分が一気に蒸発していく、なんとも不思議な感覚を味わいながら……おれは大事なところを守る下着を手に取り、かたっぽずつ脚を通していく。……今日は淡いライトイエローだ。

 ぴったりと肌に触れる感触と、脚の間の物足りなさに少しだけ悲しい気持ちを抱きながら……ぶんぶんと頭を振って寂寥感を追い出し、お出掛け用の衣類に袖を通していく。

 

 

「ちょっ……いきなり頭動かさないでよお」

 

「ああっ! ごめん!」

 

 

 清潔感のある白のキャミソールと、その上に同色の可愛らしいブラウス。シックで大人びた黒色の裾から、白のフリルが覗くレイヤードスカート。パンツがチラするのを防ぐために愛用の黒タイツ(【SR】影飛鼬(シャルフプータ)脚衣(タイツ))を身に付け、カーキ色のモコモコカーディガンを羽織る。これでこの季節ならではの寒さから身体を保護でき、また【敏捷】値といざというときの【隠密】性能が大きく上昇する。

 スカートはおなかと背中の編み上げ部分でサイズ調整ができるものだが、アクセントとしてラニの私物のベルト(【SR】蒼翼竜(ヴィルバーム)細飾帯(ロープベルト))もプラスしてオシャレ度と【火耐性】【斬耐性】を大幅アップ。

 女の子らしい小さなショルダーバッグは、白革製で目にも眩しい上品なデザイン。中には歳相応でいて子どもっぽ過ぎないデザインのお財布と、ちょっと太めのペンにしか見えない護身用のダーツ(【SSR】緋煌石の(ガルドネリアス)点穴針(ピアッサー))。視線さえ通っていれば視た地点に着弾し、符号(スペル)とともに手元へ戻ってくる優れものだ。

 

 

 ……ところどころ突っ込みどころが無いわけじゃないが、ともかくこれでお出掛けの準備は整った。

 現代日本においてはまずもって不要であろう装備品が見受けられる気がするが……これもひとえに、おれの身を案じてくれるラニちゃんのお節介なのだろう。ありがたいことだ。

 

 でもねラニちゃん……さすがに武器は要らないと思うんだ。……うん、ごめんね。場合によっては逮捕されちゃうからね。ごめんね。

 

 

 

「十時四十分……なんとか間に合うか……」

 

「じゃあ【門】ひらくよ? 準備いい?」

 

「うん、お願…………ちょっ、ちょっとラニちゃん!? 服! ラニちゃん服!!」

 

「えーいいじゃん、どうせノワ以外には姿晒さないんだし」

 

「おれのココロがたいへんなの! お願いだから服着て!!」

 

「しょうがないなぁわかめちゃんは」

 

 

 

 危うく……危うく、すっぱだかのまま相棒を町中に連れ出すところだった。

 いくら一般の方々には見えないからって、さすがにそんな破廉恥な真似はお父さんゆるしませんよ!!

 

 

 

 ばくばく鳴る心臓をなだめながら【門】をくぐり、出た先は伊養町某所の路地裏。集合場所はすぐ近くなので、なんとか間に合いそうだ。

 

 …………いやあ、色々とあぶなかった。

 十五分前に到着できて、本当よかった。

 

 



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208【祝日騒乱】女子三人寄れば姦し

 

 

 はい。想像どおりです。いえ、ある意味では想像以上です。

 そうですね、ただひとえに詳細をきっちり確認していなかったわたしに、全ての非があると思います。

 

 確認を怠ったわたしへのお仕置きだと考えれば、不本意ですが耐えられてしまいそうな気さえしてきました。

 

 

 

「もーズルいじゃーん! メグもサキもこんな可愛い子と知り合いだったなんてー!!」

 

「ホントだよホントにもーー!! だってほら、やばくない? めっちゃ髪サラッサラ……お手手もめっちゃスベッスベ……」

 

「うわ……今ふわってメッチャいい匂いした……これもしかして、アレじゃないですか? かえで先輩が使ってるやつ。イルミルのオルナですっけ」

 

「あの二千円くらいするっていう、高いやつ? すごーいこだわってるんだぁー。……でもみーちゃん、匂いだけでよくわかるね」

 

 

 

 ……ほんとっすよ。ほんと。

 

 女の子の美容に対する認識をナメてました。髪の毛のにおいだけで使ってるシャンプー特定されるとは思いませんでした。

 

 すみません……中の人は美容に対する認識なんてこれっぽちも無くて、当然こだわりなんかもあるわけがなくて……単純に店員さんにおすすめされたから買っただけなんです。ほんとすみません。

 

 あとそしてそれとあと……できることならですね、そろそろ勘弁していただけるとですね、わたしとしてはとてもありがたいのですが……。

 

 

「あ……あのー……先輩方、そのあたりで……」

 

「そうですそうです、わかめちゃん……は良いにしても、周りの人たちに迷惑掛かっちゃいますので」

 

「いやよくないよ!?」

 

 

 サキちゃんとメグちゃんの口添えのお陰で、なんとか解放してもらうことができたが……四人八本の腕に撫でられ触れられ(もてあそ)ばれ、ラニとは異なり『陰』の気をもつおれの意識は危うく擦りきれ、消えてしまうところだった。

 おれの意識が今こうして生き残っているのは、ひとえに『わかめちゃん』としての適応能力が適切に状況を受け入れてくれたからに他ならない。つまりは『わかめちゃん』のおかげで生存できたと言っても過言じゃないのだが……よくよく考えればおれがこうして愛玩動物(エルフ)と化してるのも、もとをたどれば『わかめちゃん』のせいだったわ。ちくしょうめ。

 

 

 

 というわけで、定期演奏会前のデスマーチを間近に控えた最後の昼餐(ランチ)。いちおうおれの恩人であるサキちゃんメグちゃん、彼女らに乞われる形となったおれが同席させて頂くのは……彼女らの通う浪越(なみこし)大学附属明楼(めいろう)高校の吹奏楽部、木管楽器パートの皆様です。

 ……いや、実際には今日来れなかった子も何人かいるらしいのだが……都合がつかなかった子らには悪いが、おれとしては正直、助かった。

 

 そんなおれたち、おれも含めた総勢七名が現在進行形でお騒がせしているのは、これまた以前撮影でお世話になった伊養町(いようちょう)商店街の喫茶店『ばびこ』さん。

 オーナーさんが気持ちのいい笑顔で迎えてくれた、オシャレでお値打ちな人気店だ。

 

 

 集合場所であるこのお店に十五分前に到着したとき、既にサキちゃんメグちゃんとほか四名の女子高生が待ち構えていた。そこからは引きずられるように店内に連れ込まれ、囲われながらメニューを注文し、ほとんど頭に入ってこなかった自己紹介を聞かされ、緊張で前回より美味しさを堪能できなかったランチをいただき、我慢できずといった形で伸ばされた手にもみくちゃにされ……そして今に至る、というわけである。ちなみにラニはずっと姿を消したまま腹抱えて笑い転げてる。おまた見えるよ。

 

 

 

「でも本当、なんだかやる気出てきたっていうか……リラックスできた気分だわ。やっぱ『わかめちゃん』のおかげなんかね?」

 

「ほんとほんとー。明日から休みなしシンドいけど、この写真見てチャージすれば乗り切れる気がしてきた」

 

「もう一年早く出会えてればなぁー! 夏コン金賞行けただろうになぁー!」

 

 

 オーボエ担当の二年生が呟いた一言に、クラリネット担当とフルート担当の二年生がそれぞれ続く。

 おれ自身そこまで買い被られては疑問しかないのだが、それでも彼女たちにプラスであるなら良いとしようか。

 

 

「でもずるいなぁ、さっちゃんもめぐちゃんも。私も『のわめでぃあ』出たかったなぁー」

 

「それはしょうがないって。私らちゃんと誘ったもん」

 

「そうそう。バイトだから行けないーって断ったのチカちゃんだからね」

 

「ぐぅぅぅ……そっかぁ」

 

 

 一年生のクラリネット担当少女から漏れ出たぼやきを、同じく一年生のフルート担当サキちゃんとサックス担当メグちゃんが無慈悲にも切って捨てる。

 事情を知り『どうしようもない』ということを理解したクラリネットちゃんは唇を尖らせながらも、何が面白いのかおれの顔を『じーっ』と見つめ始める。

 

 外行き『わかめちゃん』モードを纏ったおれは、ここまで大歓迎されている現状に未だ戸惑いを隠せずにいるのだが……やっぱりイマドキの女子は『かわいいもの』好きということなのだろうか。つまりはおれは現代の女子高生に受け入れられるレベルで『かわいい』ということなのだろうか。

 そうか。少なくともこうしてランチに誘ってもらえる程度には、どうやら嫌悪感を抱かれていないということなのか。

 ということは……高校生をターゲットにした企画なんかも、もしかすると考えてみても良いかもしれない。

 

 

 対外反応を『わかめちゃん』に委譲したまま、ひっそりと今後の作戦を練り始める『おれ』。そんなわたし(おれ)を交えたまま、相変わらずにぎやかに談笑している彼女たちだったが……思考に沈む『おれ』の耳に、少し気になる話題が届いた。

 

 

 

「でもさ…………定演中止になるかも、って話……ホントなの?」

 

「…………浪商(ナミショー)の子が被害にあった、っていう……アレの話?」

 

「危うくお父さんも……もう少しで殺されちゃうとこだった、って」

 

「逃げ込んだ家にまで上がり込んで……目ぼしいものを片っ端からかっ浚ってった、って……怖いよね」

 

 

 

 ふと視線を宙へ向けると……不可視の妖精が珍しく真面目な表情で、いつのまにかおれへ真っ直ぐ視線を向けている。

 浪越市近郊で発生したという……彼女らの噂話を聞く限りでは、非常に凶悪な事件。

 

 もしかして……もしかするとだが。

 

 

 

「…………すみません、それ……その話、詳しく聞かせてもらえますか?」

 

「ん? いいよー。怖いもんねぇ……なんだっけ、連続強盗事件?」

 

「そうそう。えっとね……うちの近所の高校……浪越商業高校の三年生がね、下校途中に何者かに襲われて…………えっと、入院するはめになったって話」

 

「どうやら家までついてこられちゃったみたいで……玄関入ったところで…………えーっと……らん、ぼ……されちゃって」

 

「なん、っ!?」

 

「お父さんも襲われながら、決死の覚悟で追い払って通報して、被害者の子は病院に運ばれたけど……げっそりやつれちゃったって」

 

「あとお家の中の目ぼしいものが、いつのまにかごっそり取られちゃってたって」

 

「家まで押し込まれた、っていうケースはこの子一人だけみたいだけど……下校途中だけなら、もう何人も襲われてるって」

 

「…………ひど……、っ」

 

 

 

 ……いや、非道いなんてものじゃない。

 同じ高校生である彼女たちだって、すぐ近くでそんな凶悪事件があったとなれば気が気でないだろう。

 

 

 学校帰りに後をつけられ家に押し入られ……彼女たちは言葉を濁していたが、()()されるなんて。

 

 未来ある若者が、やつれてしまうほど深い傷を心に負わされてしまったなんて。

 

 

 二基稼働している『羅針盤』の、そのどちらにも反応が無かったということは……おれたちが追っている『苗』とは、なんの関わりも無いのかもしれないが。

 犯人不明の凶悪事件がすぐ近くで起こっているのに――おれの力なら犯人を追うことが出来るかもしれないのに――目と耳を塞いだまま、被害者が増えていくのを……『負の感情』に染められるひとが増えていくのを、黙って見ていることなんて出来ない。

 

 

「…………みなさん、も……気を付けてくださいね。……本当に」

 

「うーん…………でもまぁ、大丈夫でしょ。私達は」

 

「そだね。大丈夫だと思う」

 

「……っ!? な……なんでそんな気楽でいられるんですか!? そんな凶悪な事件が起こってるっていうのに!!」

 

「いやー…………だって………………うん」

 

「……ちーちゃん、わかめちゃん聡い子だもん、はぐらかせないって」

 

「…………でも……こんな小さい子に」

 

「……私が言う。いい? わかめちゃん。……被害にあってるのはね」

 

 

 

 浪越市の高校生たちを震撼させているという、凶悪な事件。

 

 下校途中の学生を狙い凶行に及ぶ、卑劣きわまりない犯行。

 

 にもかかわらず……決して安心出来ない立場であるはずの彼女たちが『自分は大丈夫』だと考えている、その理由とは。

 

 

 

 

「被害者はね、一人の例外無く………………男子だから」

 

「……だん? …………はい??」

 

「だからね、男子。……男の子だけなんだよ」

 

 

 

 …………つまり、なんですか。らんぼうされた、っていうのは……怪我で入院じゃなくてやつれて入院ってことは……殴る蹴るされたとかじゃなくて、そういうことで。

 

 げっそりやつれてしまったっていうのは……つまりは、その……吸い尽くされた、っていうことですか。

 

 

 な、なるほど、それなら…………安心か。

 

 

 

 

(いやいやいやいや安心じゃないからね! 男の子は安心じゃないから!!)

 

(わ……わかってるよう!!)

 

 

 



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209【祝日騒乱】平穏と不穏と


6月18日付オリジナル日間5位に入ってました!!
すごい!!まじで!!!ありがとうございます!!!
こんなのはじめてなのでとてもうれしいです!!!

拙作をご拝読いただきまして
本当に、本当にありがとうございます!!!!




 

 

 さすがはネット世代の高校生というべきか……噂の出所というのは他でもない、小中学校からスマホとネットに慣れ親しんできた彼ら彼女らならではの、知人間ネットワークであるらしい。

 

 被害者の()()と同じ学校の生徒が、同じ出身で別の学校へと進学した知人に顛末を知らせ、知らされた生徒は今度は彼ないし彼女の学校内で情報を拡散する。

 そうして情報を得た生徒が、同様に出身は同じだが別の進学先へと進学した友人に情報を拡散し……以降繰り返すようにして情報は広まっていく。

 

 なるほど、テレビや新聞なんかじゃ校内の事情はなかなか得られない上、即応性でも学生ネットワークの方が遥かに上だろう。自称有識者のコメンテーターによる余計なマウント芸を目に入れなくて済む分、こっちの方が現場の情報源としては遥かに有用かもしれない。

 

 

 

 

「ちー先輩すごい!! 九十七点だって!!」

 

「イェーイ! トップの座は貰ったァ!!」

 

「ぐぬぬ……短く儚い天下だった……」

 

「どんまいです……ミカ先輩」

 

 

 

 まあ情報源はこの際どうでも良い。おれにとって問題となるのは『苗』との関連性だ。

 例の凶悪事件……もし犯人が『苗』に起因するものなら、残念ながら警察の方々の手には負えないだろう。そうなればおれが対処しなければならない。

 だが一方、犯人が『苗』とは関わりの無い……こういう言い方はひどいが、一般的な事件の場合。

 おれの行動の根底にある『負の感情の払拭・低減』という観点で言えば、やはりおれが積極的に出た方が良いのかもしれないが……非常識な魔法の力を持っているとはいえ、おれはあくまで一般人。調査関係者から見れば部外者だ。

 彼らの仕事場を荒らして仕事を増やす恐れもあるし……慣れないことに首を突っ込んで時間を浪費するよりは、本業に専念して『正の感情の拡散』を目指した方が、幾分有意義かもしれない。

 

 というわけで、そこんところの見極めをきちんと行う必要があるのだが。

 しかし『羅針盤』が反応していない現状から見るに、やはり『苗』は無関係なのかもしれないが……しかしなんだか、どうにもなにかが引っ掛かる。

 

 

 おれが引っ掛かっている一点、それは家に押し入られ逆レ……もとい、乱暴を受けたというケース。

 このケースでは被害者の人的被害に加え、奇妙な物的被害の情報も上がっているのだ。

 

 『目ぼしいものが根こそぎ奪われていた』。この部分だけ抽出してみれば、一般的な強盗被害なのだろうが……今回このケースで奪われた()()()()()()は、一般常識とは一線を画す。

 

 

 奪われたものとは……『食品』。

 

 財布や通帳や印鑑や宝飾品といった金品には一切手をつけず。冷蔵庫や戸棚やパントリーに至るまで、ありとあらゆる食品を根こそぎ奪い去っていったという……捜査関係者もこの噂を聞いた者も、皆一様に首を傾げる奇妙な特徴。

 

 

 一般的な強盗目的の犯行であれば……こんな被害が出ることは、おそらく有り得ないだろう。

 

 

 

「だめかァー九十五点!」

 

「いや充分すごいと思いますよ先輩!」

 

「そうですよー、私なんて七十八ですし……マイクよりもタンバリンがお似合いですし」

 

「さ……サキちゃん……元気だして……」

 

「いやーまいったなー! 今回も私の優勝かなー!」

 

 

 

 考えられるのは、二点。ひとつは本当に『苗』が関係ない事件だったケース。

 不自然な食料品の略奪も、いちおう『奪わねばならないほどに飢えていた』のだと解釈することも、不可能ではない。

 

 しかしながら……実際のところとしては。

 二点目……何らかの方法で『羅針盤』で探知できない『苗』が活動しているケース。……こちらである可能性の方が、おそらく高いだろう。

 

 白熱する女子高生たちの喧騒を背景に、おれとラニは現状得られた情報をもとに思考を纏めていく。

 

 

(被害者の共通点は……高校生の男子?)

 

(うんそう。加えて、運動部……野球とかサッカーとかテニスとか……偏見かもしれないけど、そっち方向にも健全に元気いっぱいな子が狙われたようにも思える)

 

(……そういう子を狙って……つまりは、そういうことしてるわけか。そういうことする『願い』に寄生されてるって考えれば……まぁ、有り得そうか)

 

(今回の『保持者』は……女性、ってことね)

 

(まったく……『羅針盤』が使えないのが厄介だよ。一体どういう手を使ったんだか)

 

(うん……そうだね)

 

「……だって実際、ノワちゃんおうたメチャクチャ得意でしょ!?」

 

「うん……そうだね。…………えっ?」

 

(えっ? ボク知らないよ?)

 

 

 

 ふと気づけば……おれの目の前には網網の球体がくっ付いた黒塗りの棒状集音機材、世間一般では『マイク』と呼ばれるものが差し出され……おまけにこの場にいる少女たち全員の視線が、かなりの圧力を伴いながらおれに注がれているところであって。

 

 半自律応対(わかめちゃん)モードから戻ってきた『おりこう』なおれの思考は……現在おれの置かれた状況と、この後取らざるを得ない行動を、無慈悲にも一瞬で導き出す。

 

 

「先輩たちにノワちゃんのおうた、聞かせてあげてほしいの。……お願い! 今度スパチャ送るから!」

 

「……まぁ……ここに連れ込まれた時点で、なんとなくそんな気はしてましたから。……スパチャとか別に無くていいですよ。学生さんでしょう?」

 

「!! ありがとうノワちゃん!! 私がんばって布教するから!!」

 

「アッ、それは割と普通に嬉しいです。……でも、押し売りはしないであげてくださいね」

 

「うん…………うん! ありがとう!」

 

 

 おれのこの身体(アバター)……年端もいかない少女エルフの姿をとったこの身体は、重ねていうが非常に優秀だ。

 ほがらかに話しかけてくる彼女たちへの適切な対応を()()続けながら、ラニと共に例の事件に関して考察を進めながら……それでいてこの場(カラオケボックス)へ連れ込まれたことをしっかりと理解し、万一に備え披露する曲の選定を済ませていた。

 

 大切な()()()()()の前であれば、おおよそ完璧に『わかめちゃん』を……魔法情報局の敏腕局長を()()()ことができるのだ。

 

 

 おれは……()()()は、木乃若芽(きのわかめ)。魔法情報局『のわめでぃあ』の総責任者……局長だ。

 コンテンツを楽しみにしてくれている()()()()()をガッカリさせるような、受けた恩を仇で返すような、期待に応えず失望させるような……そんな情けない悪手など、()()()は決して打ちはしない。

 

 

 

「それでは……僭越ながら一曲、歌わせていただきます。欅少女18で『誰よりも高く』。…………特別、ですよ?」

 

 

 

 

 掲げた目標へ向かって、チーム一丸となって向かっていく彼女たちへ。

 つらい道を死に物狂いで、一心不乱に突き進む彼女たちへ。

 

 おれの持てる技能、おれの持つ知識の粋を、いっさいの遠慮無く発揮し……一曲に『激励』の気持ちを込める。

 

 

 がんばれ。がんばれ。まけるな、がんばれ。

 

 つらくても。キツくても。

 仲間がいれば、分かち合える。

 

 

 

 

(いやぁー、もー…………本当はんぱないよね、ボクの相棒は)

 

 

 不自然な女の子であるおれの、不自然で(つたな)くとも真摯な『激励』の(ことば)

 『まがいもの』のおれの想いがちゃんと届くのか、正直ちょっと不安だったけど。

 

 ……彼女たちの顔から察するに、どうやらなんとか届いたみたいだ。

 

 

 喜んで、もらえた。……よかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






 大都会の街並みを、遥か眼下に見下ろす高層建築……その上層階に位置する高級分譲物件の、とある一室。

 シンプルモダンなインテリアで彩られたそのリビングスペースには……その分譲住宅の客層にはおおよそ相応しくない、異様な光景が広がっていた。



「……ねぇ、つくしちゃん」

「………………?」

「そんな食べ方して…………ホントにおいしいの?」

「…………(こくこく)」

「…………そう」


 人工大理石のフロアタイルが敷かれたリビングの床……鏡面のように磨きあげられたそこは、今や見る影もなく。
 箱が、ビニール袋が、包装フィルムが、厚紙が、おおよそありとあらゆる食品包装の成れの果てが……辺り一面に無造作に散りばめられている。

 そんな多種多色の混沌の、そのほぼ中心。
 そこにはこれまた異様で異質な、二つの人影が座り込んでいた。



「あーだからそれ、パスタ……お湯で茹でないと…………あーあ」

「…………♪ ……♪」


 外装フィルムを破り捨て、一食ごとに分割結束されていた乾麺(スパゲッティ)を……ひと束百グラムのその束を、小さな両手で握りしめ。

 小さな口を異様なほど大きく開けて……握った反対側から()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 歓喜の笑みを浮かべ、次の束を手に取る彼女の……その周囲。
 そこには空っぽになった米袋が、殻ごと姿を消した卵のパックが、中身を失ったバターの包み紙が、五食入りの袋ラーメンの内袋が、次から次へと撒き散らされていく。



「うげぇー気分悪くなりそ…………あー、もうダメ。我慢できないわ。【そのへんのゴミ(インベイダー)】【綺麗にしなさい(ハウスクリーニング)】【実行(エンター)】」

「……!! …………!!?」

「我慢しなさい! つくしちゃんの(食事)には触れてないでしょ! ただゴミ捨ててるだけだってば!」

「…………! …………、………………♪」

「……そ。……解ってくれたなら良いわ」


 未だ混沌を生み出し続ける少女に呆れるように、もう一人の少女が呟いた【呪言(コード)】……それを切っ掛けとする超常たる現象が、溜まりに貯まった混沌(ゴミ)を一瞬で一掃してのける。

 正しき姿を取り戻した、清潔感溢れるリビングの真ん中で……しかし今しがた異能を行使した少女の顔色は、相変わらず曇ったまま。


「……はぁ。……あたしも『餌』探してこよっかなぁ…………あんまり()()()()()し過ぎるとバレそうで嫌なんだけど……つくしちゃんが()()だもん。あたしだってゴミ屋敷ヤだもん。……魔力(イーサ)どんだけあっても足りないよ」

「…………? …………。」

「……なぐさめてくれるの? ……ソッカァー……つくしちゃんはヤサシイネー……ははっ」

「…………♪」


 もう一人の少女を気遣う素振りを見せながらも、自身は一切ペースを落とすことなく、うっすら土の付いたままのサツマイモをガリゴリと齧り続ける少女。
 その様子を目の当たりにし、異能の少女はより一層がっくりと項垂れる。



「……はぁ。……せっかく良い(パパ)見つけたと思ったのになぁ……入院しちゃうとかツイてないよぉ。…………ちょっと()()()()()かなぁ」

「…………、………………」

「……んーん。大丈夫だよ。あたしは『お姉ちゃん』だもん。あたしと、あたしの『リヴィ』なら…………つくしちゃんの『アピス』にも、もちろんシズちゃんの『ソフィ』にも……苦労なんてさせないから」

「……………………(すりすり)」

「も、もお! この子は……そんな可愛い子ぶったって…………ああ、もう! 今日だけだからね!」



 再び勢力を増しつつある混沌(ゴミ)の中……異様で異質な二人の少女は、仲睦まじげに寄り添い合う。

 自らを『リヴィ』と呼称した少女の手のひらで頭を撫でられ、『アピス』と呼称された少女は珍しく(食材)から口を離し、くすぐったそうにはにかんで見せる。


 一見すると微笑ましく見えないこともない、ぴったり寄り添う二人の少女。
 しかしながら、その異常きわまりない食性から推して測れるように……この場の二人は両者どちらとも、『普通』の人間とはかけ離れた存在……『異能者』である。



 笑みの形に開かれた『アピス』の口内、そこには本来あるべき肉の色は見て取れず。

 光さえ呑み込むように真っ暗な、底さえ見通せぬ穴がぽっかりと口を開き……そこには口蓋垂はおろか、舌さえその姿を認められず。


 黒く昏い洞の中に、ただただ不気味に白い歯列のみが、綺麗に弧を描いて並ぶだけだった。



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210【祝日騒乱】ダメもと現地調査

 

 

 たった六人とはいえ、視聴者さんの前で無様なところは見せられない。

 その意気で臨んだ、この身体(わかめちゃん)になって初めてのカラオケだったのだが……とりあえずメグちゃんサキちゃんご一行様には大好評、泣いて喜ばれるほどの大成功を収めた。

 まぁ……喜んでもらえたなら、何より。

 

 その後は少しだけお話をさせてもらい、しかしあまり時間はかけずに……カラオケボックスに入ってから合計で二時間そこらで、楽しいひとときは終わりを迎えたのだった。

 厳密に言うとめっちゃ渋られたのだが……『今晩のゲーム配信の準備したいので』と申し訳なさげに告げたところ、みんながみんな(てのひら)を返して盛大に送り出してくれた。なおREIN(メッセージアプリ)の連絡先を求められたのはいうまでもない。

 さすがにこれ以上交流が増えると本業に支障を来すので、これ以降の連絡先交換は控えさせてもらいたい……とさりげなく釘を刺しておいたので、こういうケースは今回が最後になるだろう。……たぶん。

 

 

 ……ということで、彼女たちと別れたおれは配信準備のために自宅へ向かう……と思わせておいて。

 例によって周囲の視線が無いことを確認した上で、【陽炎(ミルエルジュ)】をはじめとする穏行魔法と【浮遊(シュイルベ)】を使用。彼女たちに聞いた情報とスマホの地図アプリを頼りに、とある施設を目指して飛んでいく。

 ……いやぁ、『こんなこともあろうかと』じゃないけど……この【隠密(ファニシュテル)】つき脚衣(タイツ)借りといてよかった。

 

 

 

「空飛ぶエルフ、って……かなりシュールな絵面だよなぁ」

 

「まぁ普通は人鳥(ハルペイア)とか、ボクみたいな妖精(フェアリー)とかだよね。あとは翼竜(ワイヴァン)みたいな魔種か」

 

「ラニのいた世界には【浮遊(シュイルベ)】みたいな……【飛行魔法】みたいなのって無かったの?」

 

「あったけど、要求魔素量が膨大すぎてね。あと姿勢制御に細かな魔法式を複数同時操作する必要があるとかで、つまりそもそも難易度がクッソ高い上に……おまけに、難解すぎて飛行中は他の魔法が実質使用不可能になるっていう、大きすぎる欠点があって」

 

「そ、そうなの……?」

 

「うん、そうなの。……だからせいぜいが移動専用魔法、だけどそれでも利便性で言えば【繋門(フラグスディル)】には劣る。だから翼や(ハネ)を持たない人族で飛行魔法を使いこなせてる者は……ほとんど居なかったね」

 

「…………つまり、おれって……すごい?」

 

「すごいっていうか、ありえない。どれくらいありえないかっていうと……この世界の人間種諸君で例えると、水面を走りながら片手で頭上に洋戯札(トランプ)タワー立てながらもう片手でナイフ六本ジャグリングしながら体廻輪(フラフープ)回してるようなもんだよ」

 

「なにそれ無理ゲーじゃんキモ」

 

「だから……そうだよ(真顔)」

 

 

 日頃からラニは『ノワはすごい』『非常識』と度々口にしていたけれど……やっぱりおれにとっては比較対象が存在しないので、どの程度の『非常識』なのかいまいちピンと来ていなかった。

 しかし今(あくまでひとつの例えであるとはいえ)どれくらいヤバい難度なのかを教えてもらったことで……この世界におけるおれの立ち位置というか、優位性というか、どれくらいのアドバンテージを得ているのかということが……やっとわかってきた気がする。

 

 水面を走りながら片手で頭上にトランプタワーを立てながらもう片手でナイフ六本ジャグリングしながらフラフープ回してるような、そんな変態じみた曲芸行為……それでさえおれにとっては、全処理能力のうち三割程度でしかないのだ。

 ラニたちへの魔力譲渡や【座標指針(マーカー)】の保持なんかで常時一割程度の負荷が掛かっているとはいえ、正直まだまだ余裕であることに変わりは無い。

 

 

 しかし……そんな破格といえるほどの高性能を秘めているのなら。

 使えそうな魔法をとりあえず片っ端から試してみたりすれば……もしかすると、手がかりを掴むことが出来るかもしれない。

 

 そんな可能性にときめきはじめた、おれたちの眼下。大きな楕円の白線が引かれた地面や、これまた大きな扇型の広場を……陸上競技トラックや屋外野球場を擁する学舎の姿を、上空からばっちり捉える。

 先ほど別れた吹奏楽部木管チームの子らの言うとおり、扇型の競技場には白い練習着姿の人影がちらほらと……月曜日の祝日とて相も変わらず練習中の、浪越大附属明楼高校野球部員たちの姿が見てとれる。

 

 校舎の壁に掛けられた巨大なアナログ時計の針は、まだ午後四時にも届いていない。

 今夜の配信は二十時からの予定なので……準備の時間を確保するにしても、あと二時間程度は余裕で浪費できる計算だ。

 

 

 

「いやぁー……すごい、立派な学校だね。おれの通ってた高校よりずっとすごい」

 

「ホンットすごいね……でっかい学院。……いや、この世界の建築技術が半端無いって知ってるつもりだったけどさ」

 

「ラニこんど東京(トーキョー)遊びいこう。絶対ビックリするから」

 

「へぇ、絶対。……じゃあもしボクがビックリしなかったらバンソーコーね」

 

「んへぁ……っ!? …………配信は……ダメ、だよ? 追放(BAN)されちゃうし……いや多分ビックリすると思うけど……」

 

「そんなにかぁ。……そりゃあ楽しみだ」

 

「ふふふふ」

 

 

 こっそりひっそりちゃっかりと地面に降り、【隠密(ファニシュテル)】【陽炎(ミルエルジュ)】を纏ったまま学校敷地内をぶらぶらと歩く。

 おれの気配と姿を限りなく掻き消す魔法により、どうやらおれたちの侵入は気づかれずに済んだようだ。帰宅途中の学生さんと何人もすれ違ってきたが、誰にも存在を感じ取られていない。よっぽど大声や騒音を出さない限りは見つかることも無さそうだ。

 

 もこもこカーディガンとレイヤードスカートに身を包んだ、ちょっとおしゃれな見た目十歳そこらの女の子エルフ。……高等学校には全くそぐわない存在のおれが、平然と運動部練習場をぶらついているのだ。普通であれば声を掛けられないはずがない。

 

 若干のなつかしさを感じながら、学校施設をのんびり眺めるのも楽しくはあるのだが……当然だが、ただの散策や気分転換のために()()()()()をしているわけじゃない。

 

 

「まー……そんな都合よく犯行現場押さえられるとは思わないけどさ」

 

「帰宅途中を狙われてる、って情報もあるし……タイミングだけ定めてしばらく警戒しとく? なんなら【座標指針(マーカー)】打っといてさ……」

 

「そうだね、現状それがいちばん近道かなぁ……あとはメグちゃんサキちゃんに情報集めてもらうとか……」

 

 

 

 コンクリートで舗装された通路を運動部員にまぎれて歩き……おれたちはいちばん突き当たりの運動施設、野球場の一塁がわ応援席へとたどり着いた。

 通路から段々に降りていっている応援席と、そこから更に降りた位置にある野球場競技グラウンドでは……どうやらそろそろ練習を切り上げようとしているのだろうか、丁字形のグランド整備道具を持ち出す部員たちの姿が見られる。

 

 

 

 

「ねぇ、ラニ……あの子」

 

「…………ノワも気づいた?」

 

 

 

 明楼(めいろう)高校の敷地は広大だが、野球場ともなるとさすがに学校敷地の外れの方だ。おれたちが歩いてきた一塁がわ応援席は校舎方面なので行き交う学生さんも多いのだが……反対方向、三塁がわの応援席の向こうがわは、隣の緑地公園へと続いている。

 

 陽が陰り始めたとはいえ、まだまだ四時そこらだ。公園で友達と遊んでいたとおぼしき子どもたちの姿が、三塁側応援席にはちらほらと散見される。

 

 

 そしてそんな子たちの中で、おれたちが無意識のうちに注視してしまうような……とても油断ならない、ただ者ではない佇まいの少女が、ひとり。

 

 

 

 

 

「…………ピンク、かぁ」

 

「あーあ、可哀想に……野球部の子たちもめっちゃ気にしちゃってるじゃん」

 

「そりゃ気にしちゃうよ。あの子ゲームに夢中で気づきそうにないし。ノワも隣座って勝負してくれば?」

 

「おれフィッチ(ゲーム機)持ってきてないし、あの子なんのゲームしてんのか解んな…………待って、ねえ、勝負ってなに」

 

「ピンクとイエローだと、どっちのほうが強いんだろうね? やっぱピンクかな?」

 

「ねええええちょっとおおおおお!!」

 

 

 

 健全な高校生男子野球部員たちを刺激してしまっている……とても開放的な格好の女の子。

 この距離から見た感じだが……人間でいう十歳程度のおれよりも、外見年齢でいえばもう一回りは年上であろう。……実年齢はおれの方が年上だけど!

 

 

 このときのおれたちは……特に何一つとして危機感や違和感を抱くことなく、『いやぁーいいもん見たわ』くらいの心境でいたわけだが。

 

 

 

 

 まさか……こんな形で『アタリ』を引くことになろうとは。

 

 

 おれたちの直感も、どうやらまだまだ捨てたもんじゃないようだ。

 

 

 



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211【祝日騒乱】掴んだシッポ

 

 動きがあったのは……それからしばらく後のことだ。

 

 どうやら練習と片付けが終わり、主将とおぼしき高校生の号令で解散していく野球部員たち……その中の数人、つい先ほど黙々と(を装いながらチラチラと女の子の様子を窺いつつ)グランド整備に取り掛かっていた、野球部員の何人か。

 練習着から着替えるべく更衣室へ向かおうと、部員たちの最後尾を歩いていた彼らに……くだんの女の子が突然、接触を図ったのだ。

 

 

 

「…………まさか、とは思うけど」

 

「ハズレならそれでいい。【浮遊(シュイルベ)】」

 

 

 ふつうに……極めて常識的に考えれば、仲の良いお兄ちゃんが部活動を終えるのを待っていた妹、といったところだろう。状況的にも特に違和感があるとは思えない……が。

 

 で、あれば。

 仮に『仲良しの兄妹』なのであれば。

 野球部員三人が練習着のまま、更衣室とは逆方向へ……人けの少ない防災倉庫群の方へと向かう理由が、考えられない。

 

 

 確証は無い。推測でしかない。頼みの綱の『羅針盤』が沈黙している以上、こちらには確たる根拠がない。

 だが……それでも、なにか()()()()がするのは確かなのだ。

 

 広い野球場を飛び越え、ネットフェンスを飛び越え、繁茂する木々を飛び越え……見下ろす下方。

 ……間違いない。ここからでもわかる程に愛らしい容姿と淫靡な雰囲気を纏う少女のほうから、明らかに肉体的に迫っている様子が見て取れる。

 

 

(…………おっけー。ちょっとボクが()()掛けてみるよ)

 

(お願い。……このままだとただのデバガメで終わっちゃう)

 

(良いものが見れればそれでも良いかもだけど……そうも言ってられないからね)

 

 

 今まさに全年齢じゃないことが始まろうとしている、その上空にて……ラニの【蔵】の扉が音もなく開かれ、そこから()()()()が姿を現す。

 

 それは……一言で言い表すのなら、どこか鉱石じみた質感をもった全身鎧。

 金属のものとは異なる艶やかな光沢を湛え……沈み行く夕陽に照らし出される、白磁のような美しい輝き。随所に施された金装飾(エングレービング)と白金に煌めく鎖装飾、背と腰回りに施された白地の布飾りが、ことさらに優美な雰囲気を醸し出している。

 

 

()()()()()、のは初めてだからね。ちゃんと援護してよね…………相棒』

 

「……わかった、任せて。…………惚れ直したぜ、相棒」

 

 

 入り口がわりの面頬(バイザー)が下ろされ、小さく愛らしい相棒は姿を消し……彼女の代わりに現れたのは、身の丈では一七〇(170)センチ程の白亜の騎士。

 人体の身体機能を忠実に再現し、自身の身体を拡張する【義肢(プロティーサ)】……両手両足のみならず()()の再現に成功した『勇者』は、その荘厳な鎧を我が身のように操ってのける。

 

 

 

「うわぁぁぁぁぁ!?」

 

「な、何だ!? 何だよ!?」

 

「ま、待って! 待っ……!」

 

 

 公園の木々よりも更に高い位置からの自由落下……あの鎧の重量がどの程度かはわからないが、野球部員たちは着地の衝撃だけで、見事に腰を抜かしてしまった。

 平和な国NIPPONの住宅地、日常の象徴である学校に、突如として出現した物々しい全身鎧。()()()()()()()()()()()()()()であれば……彼らのように驚き、戸惑い、あるいは逃げようとすることだろう。

 

 

 この『非日常』を前にしてなお、平然としているのは。

 

 戸惑うどころかその眉を吊り上げ、敵愾心も露に睨み付ける余力さえあるのは。

 

 

 自身もまた……『非日常』に属する存在だからに、他ならないのだろう。

 

 

 

「ッ、最悪だわ! よりによって『勇者サマ』が……あたしの『食事』ジャマしに来るなんて!」

 

『…………成程ね。アレが君の『食事』……君の願い、か』

 

「……何よ。……何を願おうとあたしの勝手でしょ? ……ジャマしないで欲しいんだけど」

 

『誰にも迷惑掛けず、法も犯さずに居たのなら……あるいは、様子見だけに留めて見過ごしたかもしれないけどね』

 

「…………チッ!」

 

 

 ……どうやら、ビンゴ。

 あの魅惑のピンク色は、いわゆる『撒き餌』なのだろう。……それに興味を示した獲物を彼女自らの手で釣り上げ、補食するための。

 

 健全な男子高校生複数人を襲い、ときには病院送りにし、一軒の食材全てを奪い去った『強盗傷害事件』の容疑者が……彼女。

 

 

『一応訊いておくね、可愛らしいお嬢さん。……大人しくお縄につく気は?』

 

「無いわ。……あたしだってまだまだ、やりたいことが……やらなきゃいけないことがあるんだから!」

 

『……そっか。……可愛い子に手荒な真似は嫌なんだけどなぁ』

 

「紳士的なのね。それならそのまま…………見逃して欲しいんだけ、どッ!!」

 

 

 勢いよく地面を踏みしめる彼女の周囲……突如ざわざわと地面が波打ち、赤黒い若芽が伸び始める。

 上空から俯瞰するおれの眼下、その『芽生え』はものすごい勢いで広がっていき……彼女とラニを中心とした周囲一帯、できそこないの人形(ひとがた)に縒り集まった赤黒い植物塊『葉』が、次から次へと姿を現していく。

 

 

 

(ちょっとちょっとちょっとウソでしょ!? おれ今弓持ってないんだけど!?)

 

(だから護身用の武器持ちなって言ったじゃん! ノワのおばか!!)

 

(だってそんな……さすがにこんなん予想外ですやん!!)

 

(だよねえ……! 仕方ない、いま【蔵】開けるから、弓を)

 

(ラニ! 前!!)

 

 

 

 おれに武器を提供しようと注意を上空に向けた、その隙をついて……容疑者の美少女から、明らかな()()()()が放たれる。

 腰に帯びていた剣を抜き払い攻撃魔法を両断するも……ラニの左右に分断された攻撃魔法は防災倉庫を直撃し、それぞれ小さくない爆発を生じさせる。

 

 

(ラニ! ラニ!? 無事!?)

 

(こっちは問題ない。弓と杖は取れた?)

 

(う、うん……おかげさまで)

 

(じゃあノワはそのまま、『葉』の駆除をお願い。ボクはあの子を追う)

 

(……! でっ、でも……)

 

(まだ学生さんがいっぱい居るんでしょ? 彼らの安全を確保できるのはキミだけだ)

 

(…………ッ、危なくなったらすぐ呼んでね!!)

 

(勿論。……頼りにしてるよ、相棒)

 

 

 

 なるべく手早く意思の疎通を終わらせ、それぞれの役割分担のもとで行動を開始する。

 明らかな『魔法』を行使し、意のままに『葉』を呼び出すあの子の正体が気にならないと言えば……ラニのことが心配じゃないと言えば嘘になるが、今おれがやらなきゃいけないことも、相棒に言われるまでもなく理解している。

 

 ラニから借りられたのは、武器が二つ。顔と姿を隠す外套を取り出す暇がなかったので、自分の魔法【陽炎(ミルエルジュ)】を忘れず纏って姿を隠さなければならない。

 それさえ忘れなければ……いくら数が多いとて、駆除は時間の問題だ。その一方で学生や周辺住民への被害を防がなければならないので、のんびりしている暇はない。

 

 

「うわああ!!! …………えっ?」

 

「離れて! 野球場から遠くに!」

 

「はっ、ハイッ!!」

 

 

 制服姿の男子生徒に掴み掛かろうとしていた『葉』に、上空から飛び蹴りを食らわせ頭部(のような塊)を吹き飛ばす。尻餅をついた彼を叱咤して逃がし、その周囲に散らばる『葉』を視界に入った端から射抜いていく。

 今しがたの彼以外『葉』に近づかれている生徒は居なかったので、誤射を恐れず一方的に射掛けることが出来る。混戦状態でもない状況であれば、弾数無制限かつほぼ一撃で仕留められる『聖命樹の(リグナムバイタ)霊象弓(ショートボウ)』は非常に有用だ。エルフであるおれとの相性も非常に良い。

 

 この一帯を殲滅し終え、再び地を蹴って宙へ身を踊らせる。急上昇して周囲を索敵、次の目標地点へ向かいながら進路上の『葉』を上空から撃ち抜き、最大効率で蹴散らし続ける。

 一度にいっぱい『葉』が沸いたので非常にびっくりしたが……あの子は正直、あの『魔王』メイルスほどの威圧感は感じなかった。現状あらたな『葉』の出現も止んでいるようだし、際限なく『葉』を生み出し続けることは不可能なのだろう。……そう思いたい。

 

 

 ……なんていう考え事をしていながらも、手と足は当然休めたりしない。人々に『葉』が接触しそうな部分を優先して殲滅したので、逃げ遅れた人は居なさそうだ。幸いなことに『葉』の足は非常に遅いので、人的被害が出る可能性は大きく下がったといえるだろう。

 とりあえずの危機は去った。あとは残敵を掃討し、ラニの援護に向かえば良い。

 

 

 

(…………あの子……『苗』が生えてなかった。…………どういうこと、なんだろう)

 

 

 自らの欲にその身を委ね、それでいて『苗』にその身と思考を支配されず、この世の常識が当て嵌まらない『異能』を行使する……そんな存在。

 

 それらの情報が指し示すものを、少なくとも今は考えないようにぶんぶんと頭を振り……一刻も早く相棒のもとへ駆けつけられるよう、おれは弓を握る手に力を込めた。

 

 

 





※このお話は大してシリアスにはなりません


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212 邂逅

 

 

 妖精(フェアリー)種であるボクの(ハネ)は、それそのものが物質化立体魔法陣の塊だ。

 七色の輝きを湛える大小四枚の美しい(ハネ)……ボクにこの身体を与えてくれた張本人は『ゲーミング妖精さん』とかつぶやいて笑ってたけど、ボクは我が身のことながら『美しい』と思っている。この身体同様、大切なものだ。

 

 そんな美しい四枚翅だけど、勿論見た目だけの飾りじゃない。

 この(ハネ)が持つ力とは……大地の重力による支配に別れを告げる、半自律揚力展開魔法。

 

 ヒトが座るように、あるいは立ち上がるように。息を吸うかのように自由自在な浮遊・飛翔を可能とする()()は、妖精(フェアリー)種ならではの基礎代謝といっても過言ではないものだ。

 

 

 まあ……要するに。

 

 妖精(フェアリー)種である今のボクは、この(ハネ)がこの身に備わっている限り……()()()()を自由自在に飛翔させることが出来るわけだ。

 

 

 

「……っ、しっつこいわね! このストーカー!」

 

『はっはっは。ごめんね、キミがあまりにも可愛いくて。ねぇねぇどこ住み? さっき何してたの? てかREINやってる?』

 

「ッ!? キっモ……! マジで近付くんじゃないわよ! 【落ち葉よ(トリックスター)】【舞い上がれ(スクランブル)】【行く手を阻め(インターフェアー)】【実行(エンター)】!」

 

『そう、()()だよ。……だからこそ逃がすわけにはいかない』

 

 

 辺り一面に散らばる落ち葉……木々に生命力を送る役目を終え、枯れて地に落ちたそれらが、突如意思を得たかのように舞い上がる。

 一つ一つが小さなそいつらは大群を伴い、大きな流れと化してボクの行く手を阻もうとする。

 

 複雑な軌道を描くそれは、この世界の常識に当てはまらない(混沌)の法。

 神サマの影響と庇護を拒否し、カガクギジュツと歩むことを選択したこの世界には……身近な例外(ノワ)を除き()()()()()はずの、その力。

 その力を振るう者、それでいてボクらと関わりの無い者が……あの『魔王』と無関係であるはずがない。

 

 

 

『……メイルスの眷属か。なるほど、()()()()してるじゃないか。彼は今どこで……何を企んでいる?』

 

「ぎ、ッ!! ……知らないわよ! 知っててもアンタなんかに……『勇者サマ』なんかに、このあたしが教えるわけ無いじゃない!!」

 

『へーそっかー。……じゃあ気は進まないけど……実力行使で聞き出すとしよう』

 

「やってみなさいよ! 【全体突撃命令(ブルートフォース)】【実行(エンター)】!!」

 

 

 

 ボクの行く手を阻もうとしていた落葉の濁流は、今やその規模を更に増し……周囲一帯を巻き込み、撒き散らす『渦』へと変貌を遂げている。上方へ飛び上がって迂回する方法も無いわけではないが、それでは恐らく逃げられてしまう。

 

 どうやら、ボクの因縁の相手は……なかなか良い父親を演じられているようだ。彼を揶揄するようなボクの言動に、眼前の美少女はあからさまな怒りを向けてくる。

 ……生半可な刷り込みなんかではない。これは本気の慕われようだ。

 

 

 

(なら容赦無く……思いっきり突っ込むだけだ)

 

(ホエェ!? ど、どどっ、どうしたのラニ!? おれなんか気に障るようなボケしてた!?)

 

(あー今まさにだね。帰ったら存分にツッコミさせてもらうから)

 

(そんなあ!?)

 

(そういうわけで。()()()()()()()()()

 

(…………もう……わかったよ)

 

 

 

 そもそも……この鎧はそんじょそこらの鎧ではない。

 攻城兵器や巨龍の口腔砲(ブレス)、また対龍魔法の直撃でさえ凌ぎきる名品だ。いかに密度を増した魔力の奔流とて、それで削りきれるはずがないのだ。

 

 

我は紡ぐ(メイプライグス)……【蔵守(ラーガホルター)】』

 

 

 思考は一瞬。最愛の相棒との議論(じゃれ合い)も一瞬。使い慣れた魔法の蔵の扉を開き、昔々は使い慣れていた――しかしここ最近は持つことすら叶わなかった――愛用の装備を、懐かしさとともに引っ張り出す。

 

 その『愛用の装備』とは……剣とは逆の手に構える、もうひとつの()()

 敵の攻撃そのものを受け止め、その質量をもって押し返し、押し潰し、一方的な攻勢に転じることを得意とする……一般的には『盾』と呼ばれ防具に分類される、()()

 

 

 白亜の全身鎧の重量、左手の凧型盾の重量。それらを纏う()()()()を……可愛い可愛い相棒に与えられた虹色の(ハネ)の力で、一気に翔ばす。

 

 

 

『よい……しょォっ!!』

 

「ひ、っ!?」

 

 

 ごうごうと音を立てる枯葉の竜巻を、高質量を伴った高推力の身体で一点突破。

 

 鎧と盾と魔力の肉に守られたボクには、当然すこしも被害は無く。

 

 

 妨害をものともせずに突っ込むボクの見つめる先、意表を突かれその身をすくませる美少女を確保せんと、剣を手放した右手を伸ばし……

 

 

 

 

 

 

 

「……えっ?」

 

『………………まいったね』

 

 

 

 

 攻城兵器や巨龍の口腔砲(ブレス)、対龍魔法の直撃でさえものともしない、白亜の全身鎧。

 装甲面よりはいくらか強度が落ちるとはいえ、それでも一級以上の強度を備えているはずの……肘関節から先。

 

 

 そこは今や……【義肢(プロティーサ)】で再現された中身()ごと、綺麗に削り取られていた。

 

 

 

 

 

「なっ……なんで、つくしちゃん…………っ、まさか! シズちゃんが!」

 

『へぇ、つくしちゃんっていうんだ? こんにちは、初めまして』

 

「……? …………、…………(ぺこり)」

 

『…………なるほどね。嫌われてないみたいで良かったよ』

 

「ちょ、っ!? あ、あんた……今さら何ふざけたこと!」

 

『ボクは…………そっちの子には『勇者サマ』とか呼ばれてたけど、『ニコラ』っていうんだ。よろしくね』

 

「…………(ぺこり)」

 

「つくしちゃん!?」

 

『いやぁー…………待って、やばい。めっちゃ可愛い』

 

「……………………まぁ、そうでしょうね」

 

「…………?? ……?(きょとん)」

 

 

 

 一人目の美少女を確保せんと手を伸ばしたボクの前に……仲間を庇うように突如として姿を表した、『つくしちゃん』と呼ばれる二人目の美少女。

 年齢的には、一人目の子よりも幾分が幼いだろうか。全体的に小柄で線が細く、背丈や胸なんかもノワといい勝負だ。

 

 ……美少女が増えること自体は、ボクにとっては大歓迎なのだが…………一見純真無垢な言動の『つくしちゃん』だが、その脅威度は見た目と全くそぐわない。

 

 

 

 ちらちらとこちらを気にしながらも、一人目の美少女に叱責されている『つくしちゃん』の、その口もと。

 

 そこには見る影もなく咬み千切られ、噛み砕かれ、今なお咀嚼し嚥下されている……右腕鎧(ガントレット)()()()()()が、無様な姿を晒していた。

 

 




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213 侵攻

 

 

「全くもう…………あんたのせいで……あたしたちは大赤字よ」

 

『それは済まないことを。お詫びに今度お茶でもどうかな? いい喫茶店知ってるんだ。ご馳走するよ?』

 

「!!? …………♪ ……!!」

 

「ちょっ!? ダメだってば! 騙されちゃダメよつくしちゃん! 正気に戻って!!」

 

 

 

 

 この世界を混沌に導く存在、ボクと同じ世界から来た『魔王』。つい先日(身代わりだったとはいえ)相対したその存在は、目下のところボクたちにとっての大きな懸念事項である。

 

 その眷族と目される美少女を追い詰め、あわよくば捕らえて身体に訊こうかと手を伸ばしたところ……そんなボクの前に割って入り、あっさりと片腕をもぎ取って見せた細身の美少女。

 眼前では今まさに、そんな美少女どうしの仲睦まじいじゃれ合いが繰り広げられているのだが……どんなに可愛らしく見えても、やはりあの『魔王』の眷族ということか。

 

 

 認識した物体を支配下に置き、それらを『従わせる』能力(チカラ)

 認識した空間に直接干渉し、思う存分『喰い荒らす』能力(チカラ)

 

 生命の基本的欲求に即したその『願望』は……その『願いのチカラ』もまた、ひときわ強力なものなのだろう。

 

 

 

『苦労してるんだねぇ……キミも』

 

「何度もいうけど『勇者サマ』のせいなんだからね!?」

 

『それに関しては、被害者を出しちゃったキミが悪いよ。ただ健全な男の子を誘って楽しむ()()だったなら、こんな噂にもならなかっただろうに』

 

「…………こんな噂、って……どんな?」

 

『どんな、って……下校途中の学生を襲う凶悪犯、家屋に押し入り被害者に暴行を働き病院送りにした上、家じゅうの食料を根こそぎ奪い去った強盗事件の容疑者……だっけ』

 

「………………つくしちゃん?」

 

「………………(目をそらす)」

 

「ちょ……ちょっと!!? まさか『アピス』に!?」

 

「………………(視線を泳がせる)」

 

『…………苦労してるんだねぇ』

 

 

 

 顔を真っ赤にして叱責する美少女と、籠手だったものを咀嚼しながらすまなさそうにうなだれる『つくしちゃん』。噂となった事件の前半部分はともかく、後半部分……食材を根こそぎ平らげた件の犯人は、この『つくしちゃん』なのだろう。

 どこか微笑ましくもあるじゃれ合いを目の前に……ボクはといえば、なんだか邪気が抜かれてしまった心境だ。これ以上彼女たちに刃を向けるのは、いろんな意味で得策とは言いがたいだろう。

 

 特に……『つくしちゃん』。この子は底が知れない。……今やり合うのは危険すぎる。

 

 

 

『とりあえず……事情はなんとなく解った。そうだ、お詫びに霊薬(ポーション)あげるから……この場()仲直りしよう』

 

「!!? …………♪」

 

「…………どういう、つもりよ」

 

『どうもこうも……キミたちは要するに、魔力(イーサ)が必要なわけだろ? 男の子たちから魔力(イーサ)を集めようとしたところを()()()邪魔されて、その迎撃でより一層魔力(イーサ)を消耗してしまった。……だから、その補填。魔力(イーサ)を回復できる、『勇者サマ』印の霊薬(ポーション)。……ほしくない?』

 

「それがニセモノじゃないって……たとえば、毒じゃないっていう保証は?」

 

『『つくしちゃん』に毒見を頼めば良いんじゃないかな? 多分だけど、毒とか効かないだろ? この子』

 

「…………どうして、そう思うのよ」

 

『だって…………籠手とか食べても、おなか壊さないっぽいし』

 

「あー…………」

 

「……? …………?」

 

 

 よしよし……もう一息。

 まだまだ警戒心を解かれてはいないようだが、少なくとも敵愾心は薄れているようだ。

 

 今この場で事を構えるのは、正直なところこちらにとって危険が大きい。『つくしちゃん』の攻撃本能が解き放たれれば、周囲にどんな被害が生じることか。

 なのでここは安全に撤退しつつ、また撤退してもらいつつ……可能であれば、彼女らの拠点を探る。そのための交渉だ。べつに本心から仲直りしたいわけじゃない。

 

 

『とりあえず、これ。霊薬(ポーション)。今からつくしちゃんに放るから、飲んでみて』

 

「…………(こくり)」

 

 

 ボクの手を離れ、放物線を描いて飛んでいった硝子の小瓶は、つくしちゃんの小さな手に収ま……ることなく、そのまま口内へと消えていった。

 硝子瓶の断末魔が聞こえる中、一人目の美少女が注視する先……毒見を請け負ったつくしちゃんは、目を輝かせて笑みを浮かべる。

 

 それを受けて、少なくともボクが霊薬(ポーション)を持っているということは解ってもらえたようだ。

 

 

 一人目の美少女は視線をさ迷わせながら……やがて意を決したような目つきとなり、ボクの撒いた餌に食らいつく。

 

 

 

「…………乗ったわ。その……ポーション? を受け取ったら、あたしたちは何もせずに撤退する」

 

『おっけー。心配なら……おうちで飲む前に、ちょっとだけ『つくしちゃん』に毒味してもらうといい。……瓶ごと食べられない程度に』

 

「…………そうするわ」

 

 

 

 残された左手を【蔵】につっこみ盾を仕舞い、代わりに()()魔力回復効果のある霊薬(ポーション)の小瓶を五つ、纏めて掴んで引っ張り出す。

 訝しげな視線でこちらを見上げる一人目の美少女へゆっくりと近づき、おずおずと手のひらを広げる彼女の手に、そっと押し付ける。

 

 

 戸惑ったような、混乱を隠しきれない様子の美少女に頷きを返し、小瓶を受け取った瞬間を見計らって……左手を翻し。

 

 

 彼女の頭を、くしゃくしゃっと撫でる。

 

 

 

「ちょ、っ!? な、何すんのよ!?」

 

『ははは、ごめんごめん。いやほら、ボクってば可愛い女の子に目がなくて、ね』

 

「……次あたしに触ったらチ○コ潰すから」

 

『うわこわ、心得とこう。……ところで』

 

 

 可愛らしい顔を真っ赤に染め、再び敵愾心を燃え上がらせてこちらを睨む美少女。

 しかしながらその両手には……ボクからの謝罪と真心(など)が込められた、識別用の紙札(タグ)つきの硝子瓶。

 

 それを受け取ったと……受け取ってしまったということは、警戒心が崩れ去ってしまったことの表れだろう。

 

 

『キミの名前。……教えてくれるかな? 可愛らしいお嬢さん』

 

「……………………すてら」

 

『おぉ、可愛い名前。ボクは……ニコラ・ニューポート。改めて、よろしくね』

 

 

 無視される、あるいは断られる可能性もあったが……どうやらその心配は無かったようだ。

 睨み付けてくる視線こそあれど、それはもはや姿ばかり。ここまで警戒心を崩されてしまって、フルネームでの自己紹介を受けたとあらば……

 

 

「……佐久馬(さくま)(すてら)。……この子は、水田辺(みなたべ)つくし。…………よろしくは言わないから」

 

「……♪ ……(ぺこり)」

 

「あたしは言わないから!!」

 

『いいよいいよ。……()()()

 

「ホンっとムカつくわ…………じゃああたし達、今度こそもう帰るけど……もう追ってこないでよね、変態」

 

『あっ……ごめんもう一回お願い』

 

「ッ!! 死ね!!」

 

「…………、……。」

 

 

 

 まるでボクと同じ場を共有することを拒むように、異能を操る『サクマ・ステラ』によって勢いよく巻き上げられた枯葉の壁。

 

 異分子たる少女二人はその向こう、突如として地面に空いた……恐らくは『ミナタベ・ツクシ』によって開けられた、真っ暗な大穴へ。

 

 

 

 

 この世界の崩壊を目論む『魔王』メイルスの眷属二人は、その姿を眩ませた。

 

 

 

 

 ボクたちの有する『羅針盤』の探知に反応する、封印加工された『苗』の破片を忍ばせた紙札(タグ)……ノワの言葉を借りるのなら『発信器』とでも言えるであろう()()を添付された硝子の小瓶を、大事そうに抱えたまま。

 

 

 




※このお話は大してシリアスにはなりません


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214【祝日騒乱】真生

 

 

「ちょ……っ!? ラニ腕! うで!!」

 

『いやいやいや、参ったね。アレはヤバいよ』

 

「参ったね、じゃなくて! 大丈夫なの!?」

 

「そりゃまぁ…………ガワだけだからね。よっこいしょ」

 

「お……おぉ」

 

 

 右腕を欠損した白鎧の面頬(バイザー)が開き、そこから可愛らしい姿の相棒が飛び出してくる。

 彼女が操っていた全身鎧は痛々しい姿となってしまったが、考えてみれば彼女本体はこの小ささだ。それこそ胴体ど真ん中をブチ()かれでもしない限り、彼女が怪我をする心配は無いのだろう。

 

 それにしても……おれに貸与された武器の性能から推し測るに、この鎧だってかなり上等な品物なのだろう。

 他でもない『勇者』が大事に持ち歩くような品なのだ……この見るからに高級そうな仕上がりからして、少なくとも数打ちの粗悪品ということは無いはずだ。

 

 そんな鎧の片腕を()ぎ取り……いとも容易く損壊させて見せた、あの少女。

 ラニから下された『待っていろ』の指示もあり、おれはその現場に居合わせては居なかったのだが……そんなに激しい戦いだったのだろうか。

 

 

 

「実際のところ、どうだったの? ……そんなやばかった? あの女の子」

 

「そうだね。結論から言うと()()()だ。メイルス……『魔王』の手勢だったよ、()()()()

 

「二人……なるほど、増援かぁ。向こうも組織だって動き始めた、ってこと?」

 

「そうだね。最初の一人と、追加の一人。そして恐らくは、少なくとももう一人……【転移】系の使い手が居るだろうね」

 

「う…………異能力者が、三人も」

 

 

 

 片腕を失うほどの損傷を受けた鎧を【蔵】に格納しながら、『どーしよっかね』とラニは苦笑してみせる。

 いやいやそんな、『どーしよっかね』なんて笑ってられるレベルじゃ無いほどヤバそうなものだが……歴戦の『勇者』は涼しい顔だ。焦りを感じさせない余裕っぷりである。

 

 異世界産の高級鎧を損壊させるほどの、強力な敵勢力の出現……この危機にどうしてそんな余裕で居られるのだろうか。

 おれが抱いたその懸念を、異世界の『勇者』はどうやら察してくれたようで。

 

 

「多分だけど、拠点の場所はわかったからね」

 

「…………え、ごめんもっかい」

 

「多分だけど、拠点の場所はわかったからね」

 

「……………………え、まじで?」

 

「うん。今のところは、あくまで『多分』だけどね。……ちょっと確認してみよっか」

 

 

 数多の修羅場を潜り抜けてきた歴戦の『勇者』は……こともなげに、そう言い放って見せた。

 

 

 底知れぬ余裕を漂わせる彼女が開いた【門】をくぐり、『一号羅針盤』が設置されている鶴城(つるぎ)神宮内技研棟へとひとっ飛び。

 そこに安置されている水盆――『苗』の所在に反応して針を向ける『羅針盤』――はいつもの反応より圧倒的におぼろげとはいえ、確かに一方向を指し示している。

 

 基部に刻まれた目盛を読み取り、矢の向く角度を記録する。

 試しに矢をつついてみると……非常にゆっくりとした動きながら、同じ方位へと針を向け直している。

 喚び出された『葉』は多分全て駆逐したはずだし、仮に残っていたとすればこんな弱々しい反応じゃないハズだ。

 

 

「……なに、この反応」

 

「これはねぇ、多重封印して弱めた『苗』の破片に反応してるんだ」

 

「『苗』……の、破片?」

 

「うん、そう。……あの子たちに持たせた『おみやげ』にね、ちょいと仕込んでおいたのさ」

 

「!! じ、じゃあ……この反応の先が!?」

 

「あの子たちの帰投先……隠れ家ってわけだよ。ノワソン君」

 

「な……なるほど…………」

 

 

 

 技研棟の職員さんに軽く挨拶をしてから、せかせかと帰路につくおれたち。その道中(といっても【門】を利用したためあっという間だが)ラニから受けた説明によると……通常の『苗』よりもかなり弱々しくなるよう調整してあるので、もし他の『苗』が出現した際にはそちらの反応が強く出るだろうということ。

 ただ単純に捕縛するよりも、鮮度の高い情報を得るために策を打つ……ただ単純に強いだけじゃなく賢いラニは、本当にとても優秀な『勇者』だったのだろう。

 

 そんな賢い妖精さんからレクチャーを受けながら、おれたちは何事もなく帰宅を果たす。キッチンでごはんの用意をしてくれていた霧衣(きりえ)ちゃんに『ただいま』の挨拶をしてから、リビングの片隅にこぢんまりと置かれている『二号羅針盤』を確認し、こちらも目盛を記録しておく。

 あとはこの記録をもとに、地図上で直線を引っ張って交点を求めれば良いだけだ。A0大判サイズの浪越市近郊市街地図をダイニングテーブルに拡げ、鶴城(つるぎ)神宮の技研棟と岩波市のおれの拠点、それぞれの羅針盤で読み取った角度を分度器で移し、長尺定規で線を引っ張る。

 

 

 そうして導きだされた交点、浪越市の大都会ど真ん中の高層建築郡こそ……あの子たちの隠れ家に他ならない。

 

 

 

「……なるほど。これで拠点の所在はだいたい掴めた」

 

「うん。……あとは……あの子の動きが掴めればなぁ」

 

 

 明らかな『異能』を行使して尚、あの『苗』に寄生されておらず……そして『羅針盤』にも反応しない、あの女の子。

 実際に交戦したラニいわく……同格の存在が、三人以上。

 

 

 恐らく彼女たちは()()()()()……強い願いに呼応した『苗』によって、()()()()()()()()()()()()()()存在。

 

 自らを殺し得るほどの絶望の淵で……『こうありたい』『こうなりたい』『こうしたい』と強く願ったその願望を、そのまま異能(チカラ)として備えてしまった異能力者。

 

 

 はっきりいって、その実力はまるで未知数。ラニの鎧を壊したことといい、『苗』や『葉』などとは比べ物にならないだろう。

 今後あの子たちが何を仕出かすか解らないが、その動きを『羅針盤』で追えないというのは非常にマズい。

 

 

「そうだね。後で詳しく情報共有するけど……特に、鎧の腕を()()()()子。『つくしちゃん』って呼ばれてたけど、あの子の攻性異能はメチャクチャヤバい」

 

「……ど…………どう、いう……?」

 

「実際に体感した上での推測だけど、恐らくは空間作用系。任意の場所・モノを()()()()ことに特化してる。……詳しい有効範囲は解らないけど、つまり()()()()()()()()()()ってことだね」

 

「じ、じゃあ……鎧の右腕も……()()()()、ってこと?」

 

「そだね。手を伸ばしたとこでいきなり()が現れて、『ガチン』って」

 

「ひぇっ」

 

 

 そんな危険な能力を秘めている、おれの同類。……もっと違う立場で会うことが出来たなら、立場の近いお友だちになれたかもしれないのだが……今となっては叶わぬ願いだろう。それよりも対策を、動向を掴む手段を考えねばならない。

 見た目はごく普通の、可愛い女の子だったのだ。おれが直接見かけるとかならまだしも、街中を歩いていても違和感を持たれづらいだろう。

 

 何かを企み行動する彼女らを捕捉することも、またこちらから探し出すことも難しい……ともなれば厳しい風向きなのだが。

 

 

「まあそこは大丈夫でしょ。ちょっと時間もらうけど、目処はついてる」

 

「えっ? マジで?」

 

「マジマジ。材料もきちっと確保済みだよ」

 

 

 

 あっさりとそう言いながら、にっこりと微笑む小さな『勇者』。

 その小さな手のひらが自慢げに掲げて見せたのは……ライトブラウンに煌めく、細くしなやかな何本かの繊維。

 

 

 それは……おれや霧衣(きりえ)ちゃんのものとは明らかに異なる、女の子のものとおぼしき毛髪であった。

 

 



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215【祝日騒乱】ただでは起きない

 

 特定人物に対して(まじな)いを行使するにあたり、髪の毛というものは非常に効果的な媒介となってくれる。……らしい。

 

 言われてみれば確かに、この日本において『(のろ)い』と聞いて真っ先に思い浮かぶ『丑の刻参り』。あれは五寸釘で打ち付ける藁人形に、(のろ)いたい相手の毛髪を入れ込むことで、藁人形を被術者の形代に仕立て上げている。……とかいう話を以前どこかで聞いたような気がする。

 

 

「つまりこの髪の毛さえあれば、あの子……『すてらちゃん』っていうらしいんだけど、その子の所在地を掴めるようになる……かも」

 

「おぉ…………かも?」

 

「なにせ、術の構成はこれからだからね。上手く行くかは解らない。……でもまぁ、しばらくは危ない行動控えてくれると思うよ」

 

「…………あんだけ噂になっちゃってるんだもんね」

 

「そうだね。この世界は情報の伝播がとにかく速い。人目につくと宜しくないのは、あの子達だって同じだろう」

 

 

 他ならぬおれ自身が色々と苦労しているのだ。あの子達がおれと同様に『異能』を会得していたとしても、そう大っぴらにそれを行使することはできないだろう。

 いつ、どこに、どんな形で目撃者の『目』があるか……そしてそれがどんな早さで拡散していくのか。あの子は身をもって実感したハズだ。

 

 

 

『―――こちら、視聴者から寄せられた画像です。住宅街の緑地公園にて、突如巻き上がった巨大な『落ち葉の渦』と……それを巡って対峙する二つの人影。白い鎧のようなもので全身を包んだ大柄な人物と、もう一人……小さな女の子のような人物の後ろ姿が、画像にははっきりと写し出されています』

 

『漫画やアニメじじゃあるまいし……こんな馬鹿げたことが実際に起きるだなんて、にわかには考えづらいですがねぇ? ……こないだから世間を騒がせてる『魔法使い』のしわざでしょうけど、私ら市民にとってはいい迷惑ですよ。警察はホントなぁ~にをやってるんだって感じしちゃうんですが、どうですか池下さん』

 

 

「コイツほんっと喋り方むっかつくなぁ!」

 

「どうどうラニどうどう」

 

 

 おおっぴらに行動すると、このように悪目立ちしてしまう恐れがある。

 彼女たちの……『魔王』メイルスの狙いは不明だが、自分たちが異能者集団であると露見するのは、さすがに避けようとするだろう。

 

 これに懲りて行動頻度を下げて、大人しくしていてくれれば良いんだけど。

 

 

「……とにかく、セイセツさんたちに協力を仰いで、この『髪』をどうにか役立てる手段がないか探ってみる」

 

「あとは……その『つくしちゃん』っていう、食いしんぼちゃんね。……まともに当たるのは危険なんでしょ?」

 

「そうだね……効率最優先で考えるなら、あの『隠れ家』ごと広域殲滅魔法で灼き尽くせば片付くんだけど……正直、考えたくないかな」

 

「それがどれだけの人を絶望に追いやるか、わかったもんじゃないもんね」

 

「そゆこと。……この世界、この国は……人死にに対する免疫が無さすぎる」

 

 

 

 最後の手段は、あくまでも最後の手段。それの使用を前提として作戦を立てるわけにはいかない。

 ほんの僅かな間だが、この世界について理解を深めてくれたラニの配慮をありがたく思いながら……作戦や技術的な部分は頼れる相棒に任せ、おれはおれのやるべきことに集中する。

 

 

 あまりにもいろんなことがあって、危うく流れてしまいそうになったが……このあと二十一時からは、たのしいたのしいライブ配信が始まるのだ。

 

 

 

 

 

「きりえちゃんお待たせ。ルール見れた?」

 

「わっ、若芽様! お疲れさまでございます」

 

 

 スタジオルームの扉を開き、にっこり笑顔の霧衣(きりえ)ちゃんに出迎えられる。相変わらずの彼女の笑顔に心がぽかぽかしながらも、その様子から『予習』は良い感じなのだろうと胸を撫で下ろす。

 ラニとの打ち合わせを行っている間、霧衣(きりえ)ちゃんには申し訳ないが、今夜やる予定の演目について少々『予習』してもらっていたのだ。少々の不安こそあったが、賢明な彼女はおれの期待通りにばっちりとルールを会得してくれていたようだ。

 

 

「その様子だと……大丈夫そう? ちょっとほったらかしにしちゃって、ごめんね」

 

「いえ、お気になさいませぬよう。わたくしもお勉強、がんばりましてございまする」

 

「良い子だね、きりえちゃん。ゲームの進め方と基本ルールさえ覚えとけば、あとはやりながら身に付けてく感じで大丈夫だと思うから」

 

「はいっ! わたくし、ご期待に応えてご覧にいれまする!」

 

 

 

 霧衣(きりえ)ちゃんの気合も充分、あとはお相手の方々のほうだが……どうやらおれが退席している間に、あちら様も準備を終えてくれていたようだ。Deb-CODE(会議通話ソフト)のチャット欄には、本番の手順と大まかな流れが事細かに記され、会場となるルームへのわかりやすい道順が添えられている。

 おまけに……『準備が出来たら一度通話でミーティングでもどうか』とのお誘いまで。

 

 なんという万全のバックアップ体制……ありがてぇ。

 

 

「えーっと……後ろ幕おっけー。マイクおっけー。霧衣(きりえ)ちゃんおっけー」

 

「お、おっけー」

 

「ンフャァ可愛い!! よしじゃあ……ミーティング始めよっか」

 

「は、はいっ!」

 

 

 ドキドキを抑えきれずにチャットを入力して、送信。……しばらくすると反応があり、その直後Deb-CODE(会議通話ソフト)が軽快な呼び出し音声を流し始める。

 

 大きく二回、いや三回深呼吸して……震える手でマウスを操り『応答』ボタンをクリック。

 

 

『のわちゃーん! こんばわー!』

 

『どもー。お晩方ですー』

 

『わかめちゃんこんばんわっす!』

 

「あわわわわこわわわわわばわわわわわ」

 

「あわわわんわんわうわうわうわうわう」

 

『『『??????』』』

 

 

 

 完全に取り乱し『ポンコツ』と化したおれたちの、会議通話相手。

 霧衣(きりえ)ちゃんを巻き込んだ今夜の演目における、心強い救いの手。

 

 

『どうどうどう、のわちゃん落ち着いて。まだ始まっとらんよー』

 

『そだな。此処には俺様らしか居ねぇ。心配しなさんな』

 

『まだ放送開始まで時間ありますし……リラックスしときましょ、わかめちゃん、と……きりえちゃん、ですっけ?』

 

「「は、はいっ!!」」

 

 

 

 村崎うにさん、ハデスさん、そして刀郷剣治さん。

 畏れ多くもおれが連絡先を交換させていただき……そして今夜行う演目を得意とする、たいへん場馴れしたお三方である。

 

 



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216 基礎環境の改竄算段

時系列的には少し前、
自称・勇者が少女の身体に接触、誘拐しようとする事案が発生した頃の出来事です。


 

 

 薄暗い部屋の中央付近に据えられたプロジェクターが唸りをあげ、排熱ファンの機械音が静まり返った室内へと響き渡る。

 

 Uの字形に配された総木製の長机と、それに合わせずらりと配された上質な椅子。そこに座る人々もまた、身につけるもの全てが上質な品々で揃えられた、名だたる企業・組織の重鎮といって差し支えない立場の者である。

 

 

 しかしながら……そんな名だたる経営者達が今や、皆一様に口を閉ざしてしまっている。

 その一室に居合わせた人々は――ただ一人の例外を除き――手元に配されたA4サイズのコピー用紙数枚、そこに記された情報に釘付けだった。

 

 

 

 

「…………にわかには……信じられませんな」

 

「ですな。あまりにも突拍子が無さ過ぎる」

 

「各分野……それこそ世界中の最先端技術の粋が、これじゃまるで子供の遊びだ」

 

「全く新しい素材、見たことも無いアプローチ、そしてこの数字。これ程の技術……何処から湧いて出たものやら」

 

 

 やがてちらほらと、ひそひそと小声で会話をし始める聴衆を前に……この一室にあってただ一人平静で居た人物は、満足げに頷いた。

 資源力に乏しいこの国において、自給可能な高効率エネルギー源とは永遠の課題である。産業分野の事情に詳しい者共であれば、そもそも食いつかぬ筈が無いのだ。

 

 

 

『試算では……発電機構一基当たりの出力は、およそ百キロワット。これは現行の沸騰水型軽水炉にほぼ相当し、加えて特筆すべきはその小ささ。……仮に既存原発の炉を廃し、空いた敷地に()()を敷き詰めたとすれば……主流の炉であれば八基分程度のスペース、およそ原発一ヵ所分の敷地で……本州全土の消費電力を賄える程になりましょう』

 

「…………ただの『葉っぱ』が、ねぇ」

 

 

 

 スピーカーから響く落ち着いた声に、茫然とも感嘆ともとれる声で聴衆が呟きを溢す。

 

 埋蔵資源に乏しく燃料の長期自給が不可能であり、また温室効果ガスの発生で環境被害が叫ばれている火力発電。

 少資源高効率である反面、昨今の情勢で風当たりがより一層強まり、世間からは悪し様に罵られる原子力発電。

 クリーンなエネルギーとして一時は期待されたものの、天候に大きく左右され、また森林被害も深刻な太陽光発電。

 その他にも水力発電や風力発電など、我が国を取り巻くエネルギー問題は尽きることがなく……だからこそ、この玉虫色の『次世代エネルギー源』は尚のこと魅力的に映るのだろう。

 

 

 南米の某国で発見されたというサンプルを特殊な環境下で栽培し、光合成効率を飛躍的に高め品種改良を施した『植物』……それを原料とする特殊燃料を燃焼させることでエネルギーを取り出す、新型発電機構。

 

 設備的には火力発電施設がほとんどそのまま流用可能である上、原料となる『植物』は生育力も高く、LED照明を用いた水耕栽培であれば、複層構造による省スペース・全天候での培養も可能。当然国内で自給できるため、海外から運んでくる必要も無い。

 

 また副次的な効果として……光合成における二酸化炭素吸収率が非常に高く、発電の際に生じてしまう二酸化炭素を充分吸収して余りある。栽培面積あたりの吸収効率で言えば、杉のおよそ二十四倍。

 

 

 つまりは……燃料まわりのランニングコストがほぼ掛からない上、燃料となる『植物』を生産すればするほど、また発電すれば発電するほど、副産物(オマケ)として温室効果ガスを軽減させてしまうという……デメリットらしいデメリットが見当たらないまさに夢のようなプロジェクト。

 

 

 

 いかに魅力的なプレゼンテーションとはいえ、持ち込んだのが名も知れぬ科学者などであれば、名だたる参列者とて一顧だにしなかっただろう。

 だが……今回のこのプロジェクトを持ち込んだ者の()は、この国どころか世界的にも高名な人物である。

 

 

 日本という国のエネルギー問題を根底から覆す、次世代エネルギープラントの発案者……その名は、山本五郎。

 難病療養のため一線を退いていた、日本屈指の総合建設業『ヒノモト建設』の先代代表取締役社長であり……今もなお各界に太い繋がりを持ち、今回のように名だたる面々を招集出来る人物。

 

 

 

 しかしながら……そんな『山本五郎』の内に潜む、もう一人の人格。

 異なる世界からの技術と、知識と、計略を持ち込んだ『招かれざる客』の存在に気づけた者は……

 

 

 神秘から長らく離れた、この平和な国には……ことこの場においては残念なことに、誰一人として存在しなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………さて、言われた通り焚き付けたが……これで良かったかな? 『魔王』よ」

 

『いや、まぁ……正直何を言っているのか、私にはサッパリだったがね。……だから私は、ゴローの判断を信じるとするよ』

 

「承知した。君にとっては……例の『植物』を大量に栽培できれば、それで良いのだろう?」

 

『そうだね。……性能もゴローの提案通りに仕上げた、この『魔王』渾身の傑作だよ。陽光を分解変換すると共に大量の傷気(CO2)を取り込み、魔素(イーサ)泉気(O2)を生み出す。生育も極めて早く、乾燥粉砕し専用魔具で圧縮すれば非常に高い可燃性を備える』

 

「ああ、申し分無い。……プレゼンは済ませた、サンプルも配布した。後は彼らが動き出すのを待つだけだ。……大人しく待つつもりは無いがね」

 

『……仕事熱心なのは美徳だが……まだ動くつもりか? 可愛い『娘』達が恋しくは無いのか?』

 

「一挙手一投足を見張るだけが愛情では無いさ。あの子達も無力な子供じゃ無い。何かあれば連絡を寄越すだろう。……単身赴任、だからね。今は私に()れることを()らねばな」

 

『ほお……良い父親なのだな、ゴロー』

 

「…………まさか。……私は『親』としては……最低最悪の部類だよ」

 

 

 

 血の繋がった血族ではない、新たに迎えた()()の娘達。可愛い彼女達は今や遠く、自分はこの国の首都にて悪巧みの真最中である。

 

 自分の、そして『魔王』の目的を果たすためには……この国の中枢に根を伸ばす必要がある。以前の自分が築いた人脈、そして『魔王』謹製の『土産物』があれば、そう労することもなく成果は得られることだろう。

 

 

 

 世界の狭間を抉じ開けた()()()とは異なり……この首都を始めとするこの国のほぼ全域では、まだ充分な魔素(イーサ)を得ることが出来ない。

 これでは手勢()を殖やすことも出来ず、当然『魔法』の行使にも大きな制約がある。

 

 だからこそ……先ずは何よりも、環境中の魔素(イーサ)総量を増やす。植生の『魔王』メイルスの権能があれば、それも可能だ。

 

 

 

「……今のままでは、あの騒々しい『神』とやらの助力を得た()()()を御すことは出来ない。……急がないとな」

 

『急ぎすぎるなよ、ゴロー。……案ずるな、()の地はともかく、()の地においては我らに利がある。……それに、貴様の身体とて無理は禁物なのだぞ』

 

「……ご忠告、痛み入る。……心優しき『魔王』よ」

 

 

 

 

 

 首都東京の夜景さえも眼下に見下ろす、都心高層物件の一室。

 

 仄かな月明かりに照らされる、向き合った二つの影は……彼らいわくの『悪巧み』成就のための計画を、着々と詰めていくのだった。

 

 

 



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217【祝日配信】接待されるがわ配信

 

 

「ヘィリィ! 親愛なる人間種視聴者のみなさん! 魔法情報局『のわめでぃあ』局長、最近のマイブームは和風ミネストローネな木乃若芽(きのわかめ)です! 一昨日ぶりですね!」

 

「へ……へいに! あの、あのっ……『のわめであ』新人れぽーたー……たぶれっと、を……買っていただきました……きりえ、ですっ」

 

「やー可愛い……お嬢ちゃん可愛いね……欲しいものいっぱい買ってあげるからね……」

 

 

『ヘィリィたすかる』『ヘィリィ!!』『へいに可愛いが』『ラニちゃん立看板wwww』『【¥10,000】高頻度ヘィリィたすかる』『開幕ノロケたすかる』『セリフが変質者のそれ』『ヘィリィ!』『【¥5,000】きりえちゃんかわいいやったー』『出張wwww』『ラニちゃん……どこいっちゃったの……』『等身大ラニちゃんほしい』

 

 

 

 金曜と土曜に続き、なんと今週末三度目となるライブ配信……不本意ながら広まりつつあるその愛称は『生わかめ』。

 本日ラニは(セイセツさんとの打ち合わせにつき)欠席なので、等身大全身ポップで代用させて貰っている。全身まるまる写してもB5サイズ……コンビニコピーでも百円そこらだろう。なんて手軽なんだ。

 

 まあラニちゃんのことは一旦おいといて。彼女は彼女で、やるべきことをやろうとしてくれているのだ。今はおれたちも、自分のやるべきことをやるべきだろう。

 

 

「ジョンガリアーさん『高頻度ヘィリィたすかる』スパチャありがとうございます! 今回だけですよ! 思ったよりも大変でした! ワンワスキーさん『きりえちゃんかわいいやったー』スパチャありがとうございます! わかる、霧衣(きりえ)ちゃん可愛いが。すきだが」

 

「ひゃわわわわ……」

 

「ん゛んっ。……失礼しました。ええと、本日はですね……そんな可愛い霧衣(きりえ)ちゃんに新たな技を仕込もうと思いましてね…………えっと、皆様も記憶に新しいのではないでしょうか。ちょうど一週間前、わたくし局長の木乃若芽(きのわかめ)ちゃんが手も足も出ず一方的にボッコボコにされた、百人一首の悲劇……ヴッあたまが」

 

「たっ……大変、失礼致しました……」

 

「ちがうの! きりえちゃんは悪くないの! ……まあ、そういうわけで。存分にボッコボコにされながらですね、この子には類稀(たぐいまれ)なる非電源ゲームの才能があるのではないかと、わたくしは思ったわけでして」

 

「がっ、がんばりますっ!」

 

「ふふふっ。……そんなわけで! 本日はですね……こちら! 『雀心(ジャンシン).net』! こちらを使ってですね……霧衣(キリエ)ちゃんに麻雀を仕込んでいきたいと思います! パソコンは電源使ってるやんとか言わない。いいね?」

 

 

『麻雀かぁ!!!』『きりえ無双来るか??』『アッハイ』『麻雀!!!!』『仕込んでいきたいっていきなり実戦か?』『二人いっしょプレイ?』『わー』『【¥10,000】よわちゃん供養』『脱衣麻雀と聞いて』『のわちゃんが秒で剥かれるってマ?』『脱衣エルフと聞いて』『きりえちゃんがんばれ』

 

 

 ルールそのものは自宅学習で目を通してもらったが、実戦はまだ未経験だ。そのため今回の配信では、霧衣(きりえ)ちゃんとおれの二人ペアで打たせてもらうことになっている。

 色々とレクチャーしながら打ちたいのと単純に自信が無いので、野良マッチングは少々敷居が高い。かといって未経験者と初心者のペア、そんなひよっ子相手でも忖度してくれる麻雀経験者、しかも配信に乗せてしまっても問題ない人なんて……そんな都合良い知人が三人も、交遊範囲の少ないおれに居るはずが…………まぁ、いたんですよ。びっくりなことに。

 

 まず取っ掛かりとして、ダメもとで刀郷さんに『霧衣(きりえ)ちゃんに教えながら麻雀打ちたいんですけど、申し訳ないですが付き合ってもらえませんか?』と打診してみたところ、まさかその場で即オッケー。

 しかもしかも、おれが対局相手に悩んでると聞くや否や……それから三十分も経たずにハデス様とうにさんに話をつけて、会議通話ルームまで立ててくれた。ここまでが昨晩……いや今朝未明の話である。

 

 

 なお……このことは当然、視聴者の皆さんにはお知らせしていない。

 サムネイル画像からなんとなく『霧衣(きりえ)ちゃんが麻雀に挑戦する』っぽいことは判るかもしれないが、それ以上の情報は伏せてある。

 なのでしばらくの間は『初心者丸出しの麻雀に付き合ってくれるやさしい知人』ということにさせていただき、通話を繋がずに進めていく。そして途中から……イメージとしては半荘戦(8局戦)を一回か二回終えたあたりで刀郷さんたちがゲリラ配信を開始、そのタイミングで会議通話を繋ぎ、突発コラボ開始……といった流れを画策している。

 まぁもっとも……プレイヤーのIDは隠すにしても、打ち方のクセや使用アバターなんかでバレる可能性も無いとは言いがたいとのことなのだが……そのときはそのときだ。基本的には予定を遵守しつつ『よくわかんないです』としらばっくれ、展開の変更があればチャットで相談する。……ということになっている。

 

 

 なおこのあたりの演出は、ハデス様がノリノリで考えてくれたらしい。

 演出の流れを聞いたのはほんの二時間前くらいだが、おれなんかのために色々と考えてくれたのだと考えると……同性だというのに、思わずトゥンクしてしまいそうになる。

 

 

 

 というわけで、ゲームを始めていこう。

 

 事前にハデス様が準備してくれていた手引きに従い、プライベートルームを探す。四人中三人がスタンバイしているルームにパスワードを打ち込んで入室し、細かなルールを確認した上で『準備完了』を押す。

 

 

「ど、どどっ……どきどき、します……若芽様」

 

「アッ、エット……うん…………わたしも」

 

 

 麻雀卓が映し出されるゲーム画面を左上に、おれたち二人の立ち絵(というか上半身映像)を右下に。勢いよく流れていくコメント欄を右上に配置した、定番のレイアウトだ。

 椅子を横に二つ並べて、ひとつの画面を二人で覗き込む形。マウスやキーボードの操作は霧衣(きりえ)ちゃんが主体で、おれは横から口を出す立ち位置だ。

 

 わが『のわめでぃあ』のゲーム配信におけるこのレイアウト、他の配信者さんと異なる点としては……いわゆる『グリーンバック』の緑色の代わりに、ドギツい赤紫色を採用していることくらいだろう。

 背景幕に紫色を【投影】し、切りぬきソフトでその色をトリミングするように設定しただけなのだが……だってそうでもしないと、緑髪緑目のおれの姿が大変なことになるし。

 髪の毛が透過されて目の部分も切り抜かれるとか、もはや()()だよ()()

 

 しかしまあ、そんな舞台裏は視聴者さんにはわからない。わからないようにしてあるし。

 親愛なるわれらが視聴者さんたちは、見慣れたレイアウト・見慣れた麻雀ゲームの画面を眺めながら、おれたちの『はじめて』の対局を見守ってくれることだろう。

 

 

 ……というわけで、いよいよ始まる東一局。

 

 先輩方……よろしくお願いします!

 

 

 



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218【祝日配信】あったまってきたな

 

 

 霧衣(きりえ)ちゃんには『おれがついてるから!』なんて自信ありげにアピールしてみたおれだったが、実のところそこまで強いわけじゃない。

 

 そりゃあ、まあ……こんなことになる前は一般的な成人男性だったので、学生の頃なんかは知人の部屋に集まって徹夜で打ち続けたこともあった。男子学生あるあるだろう。

 そのため基本的なルール――ゲームの進め方や上がるための条件や専門用語の幾らか――は問題なく身に付けている(つもり)だが……点数計算なんかは恥ずかしながら、同席していた知人に丸投げしていた。

 

 なのでですね、ぶっちゃけウデマエにしてみれば……ただの初心者でしかないわけです。

 

 

 

「……真っ白なハイでございます。若芽様、どうやら予備が混じっていたようで」

 

「うん、そう思うよね。でもこれもれっきとした字牌で、三枚揃えると……えっと、ポイントがつくの」

 

「なるほど三枚……あと一枚、でございますね」

 

「そうだね。まだ山の中にあるかもしれないし、誰かがもう手元に握ってるかもしれない。……そのうち誰かが捨てるかもしれないから、待っててみる?」

 

「はいっ。承知致しました」

 

 

 山から一枚牌を引き、相談しながらどれを捨てるか決めているので……他のプレイヤーにとっては、ぶっちゃけイライラするほどテンポが悪い対局だろう。

 巻き込んでしまった先輩お三方には申し訳ないが、知人で埋められて本当によかったと思う。この『雀心(ジャンシン).net』にはチャット機能こそ無いとはいえ、もし野良で対戦していたら心無いせっかちプレイヤーが晒し行為に及ばないとも限らないのだ。

 

 それに……ほかでもないお三方自身、たぶんだが現在この配信を見てくれている気がする。未経験者である霧衣(きりえ)ちゃんがいろんな仕様・ルールを理解しやすいように、あえて場を整えてくれている気さえしてきた。

 

 そうこうしている間にも、ハデス様が真っ白な牌――(ハク)――を手放した。現在手元には既に二枚集まっているので、つまりはアレを拾えば一役が完成する。

 

 

霧衣(きりえ)ちゃんほら! ハデ…………っと、()クが()たよ! こうやって『あと一枚で三枚揃う』ってときに欲しい(ハイ)を誰かが捨てたときはね……ほら! 『ポン!』って鳴くと貰えるの!」

 

「あわわわ、わわ……っ、ぽ……ぽんっ!! ぽんっ!! ……あ、あれっ? ぽんっ!! …………わ、わかめ、さま……?」

 

「………………ごめんね、言い方が悪かったね……『ポン』っていうボタンを押せば貰えるから……その、ね。……わざわざ口で言わなくても……良いの……」

 

「…………っっっ!!」

 

 

『かわいい』『かわいい』『かわいい』『ぽんかわいい』『かわいい』『【¥1,000】ぽん代』『きりえちゃんのぽんぽん……』『赤面かわいいかよ』『今のはよわちゃんが悪いな』『恥じらいキリエちゃんたすかる』『局長反省して』

 

 

 霧衣(きりえ)ちゃんにひどいことをしてしまった実感はあるが……しかしその甲斐あってか(?)無事に三枚の(ハク)を揃えることができた。

 とりあえず最低限ポイントが貰えることが確定したので、あとはどうにかして一番手でアガれば、この局はおれたちの勝ちだ。

 

 しかし、(ハク)三枚だけでは得点も安い。麻雀でアガるためには、手元の十三枚の(ハイ)と引いた一枚、計十四枚で条件を満たす必要がある。

 現在三枚で(ハク)ができているので、残りは十一枚だ。

 

 

「いま(アタマ)になる二枚組は揃ってるから、あとここからここの九枚を良い感じに三人組を作ってけば良いのね」

 

「な、なるほど……」

 

「三人組っていってもメンバーは誰でもいいってわけじゃなくて、とりあえず同じマークで揃えてくのが鉄則ね。『青竹』か『おはじき』か『漢字』か」

 

「ふむふむ」

 

「あとはその同じマークの中で……たとえば一二三とか六七八みたいに順番で繋がってる『順子(シュンツ)』か、もしくは七七七とか九九九とか同じ数字を集める『刻子(コーツ)』かの二パターンあるのね」

 

「……では……先程の『はく』さんも、これは『こーつ』になるのですか?」

 

「………………た、ぶん。……いや、たしか東三枚でも刻子(コーツ)だったから……そ、そう。合ってるよ霧衣(きりえ)ちゃん。合ってる……はず」

 

「なるほど……では『しゅんつ』と『こーつ』を、あと三つ作れば良いのでございますね?」

 

「そうでございます! 理解が早い! ……っと、いい感じに順子(シュンツ)できそうだね。これもさっきの『ポン』と同じで、あと一枚で揃うってときは他プレイヤーさんが捨てたのを貰ってこれるんだけど……順子(シュンツ)を作るときは自分の左隣の人からしか貰えないのと、鳴き声が『チー』になるの」

 

「ちー……でございますか? ぽん、ではなく……ちー?」

 

「そうそう。一度もポンチー鳴かずに揃えられればボーナスポイントつくんだけど、今回は『(ハク)』揃えるのに鳴いちゃったから、もう気にせずバンバン鳴いていこう」

 

「わ、わかりました!」

 

 

 少なくとも今現在は対戦目的ではなく、霧衣(きりえ)ちゃんに麻雀を体験させるための『チュートリアル』状態である。

 そのため他プレイヤーのお三方(特に霧衣(きりえ)ちゃんの上家に座る刀郷さん)も、こちらの様子を把握してくれてか非常にいい牌を捨ててくれている。

 今もこうして霧衣(きりえ)ちゃんの待ち牌のひとつである『漢字の六』を捨ててくれたので、彼女に指示を出して鳴いてもらう。

 

 

「ち……ちー!! ちー!!」

 

「アッ、かわいい」

 

 

 可愛らしい鳴きで『漢字の六七八』が揃い、これで順子(シュンツ)が一組。あとは三人組をもう二組作れば良いので、これはアガりが見えてきた。……まあ多分に接待して頂いてるわけですが。

 

 その後も危なげなく牌を引いて、不要な牌を捨てていく。教えておいた『とりあえず綺麗な感じに整えてけば良いから』という教えを覚えていてくれたのか……彼女の手牌はみるみるうちに、どんどんめっちゃ綺麗な形に整っていく。

 

 

「……あっ! ちー! ちー、でございます!!」

 

「お、おぉ……『おはじきの六七八」……これはもしや」

 

「あっ! あっ! わかめさま! ちー! あれもちーでござい……ま……す?」

 

「アッ……うん、そうだね。これで『綺麗な感じ』に十四枚集まったからアガりなんだけど、他のひとが捨てた牌でアガるときは『チー』じゃなくて、『ロン』っていうの」

 

「な、なるほど。……わ、わぅ…………ろ、ろん! ろん! ……でございます!」

 

「アッ、ヴッ、ッ……ッハァァー…………ありがとうございます」

 

「…………?」

 

 

 的確にこちらの待ち牌を振り込み続けてくれた刀郷さんの接待のお陰で、チュートリアルを行いながらも無事にアガることができた。

 白と三色同順と……運が良いことにドラ(ボーナス牌)が一枚含まれていたので、今回の獲得ポイントは三九〇〇点。接待してくれた刀郷さんからその点数をガッポリいただき、大きく差をつけて単独首位に。幸先の良いスタートを切ることができた(※接待のおかげです)。これはもしかすると優勝の可能性もありうるのではなかろうか(※接待のおかげです)。

 

 

 配信のほうでは霧衣(きりえ)ちゃんを褒めながら(ポイント)の説明を(おれの覚えてる範囲で)行い、それと平行してDeb-CODE(会議通話アプリ)のチャットではお三方……特に刀郷さんにお礼を述べておく。

 口で喋っている内容と全く別の文面をチャットすることなんかも、マルチタスクを備えるハイスペックエルフ頭脳ならば朝飯前だ。この会合(チャット)を視聴者さんに感付かれることも無いだろう。

 

 

『かわいい』『ありがとうございます』『のわちゃん限界ムーブわらう』『ありがとうございます(合掌)』『【¥3,900】はじめてのロンあがり代』『ちー!かわいかった』『【¥3,900】おめでとう!』『かわいい』『【¥3,900】同席の皆さんやさしい』『このまま優勝いけるか?』『わかめちゃん振り込んだら脱ぐんだよね』『このまま脱がずに半荘終われるか?』『さぁそろそろ本気だしてくれ』

 

 

「は????」

 

 

 呆気にとられるおれの目の前……一部ユーザーのコメントに追従する形で、どんどんよくない方向へと世論が傾きつつある。

 おれの賢い頭脳はこの状況を把握し、わが『のわめでぃあ』の今後において最善手となる選択を無慈悲にも(くだ)…………そうとしたところで、雰囲気に流されそうだったおれのなけなしの意識が『待った』を掛ける。

 

 いや、だって……さすがに脱衣はまずいだろう。世界的シェアを誇る健全な動画配信サービスであるユースクさんで、そんな破廉恥な真似が許されるはずがない。

 

 いやいやしかし、なにも素っ裸になれと言われているわけじゃない。一枚二枚脱いだ程度、露出度は水着と大して変わらない。どういうつもりなのか水着グラビアが許されている以上、肌の露出がそれ以下であればセーフであると判断されるだろう。

 

 それに……そもそもが、失点しなければ良いだけのことなのだ。

 欲望渦巻く野良での対局ならばまだしも……同席しているのは、お三方とも(畏れ多くも)知人である。おれの境遇に理解を示してくれることだろうし、それこそ視聴者の皆さんの知らぬところで談合することだって可能なのだ。

 

 

 要するに、おれたちにとってのリスクはほぼゼロ。

 その状況で『実在ロリエルフの脱衣麻雀』という()()()ともなれば……おれの頭脳の予測を信じるのであれば、なかなかの集客力と視聴者数を見込めることだろう。

 

 

 

 つまりは。

 

 ……非常に、旨い。

 

 

 

「…………じ、……じゃあ…………センシティブな部分が出ちゃわない程度まで! 健全なところまでですよ!?」

 

「わっ、わっ、若芽様!? だだだ大丈夫なのでございますか!?」

 

「大丈夫だよ霧衣(きりえ)ちゃん。対局相手は皆さん信用できる方々ですし…………たぶん……」

 

「が、がっ、がががっ、がんばり、ますっ!」

 

 

 視聴者コメントの熱い期待に応える……という名目で――しかしその一方明確な打算に基づいて――おれは『脱衣麻雀(※全年齢版)』を承認する。

 すぐさまコメント欄は歓喜かつ好色なコメントで染まり、おれの犠牲を称えるスパチャが加速した。……待て、まだ負ける(脱ぐ)って決まったわけじゃないぞ失礼な。ぜったいにまけないからな。

 

 

 ハデス様もうにさんも刀郷さんも、おれの味方だ。つまりは何も心配する必要はないのだ。残念だったな、視聴者諸君。

 

 

 

 

 そう思っていたんです。このときは。

 

 



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219【祝日配信】けがのこうみょう

 

 

「ああーーーーー!!!」

 

「わあーーーーー!!?」

 

 

 ピシャァンと小気味の良いサウンドエフェクトとともに、霧衣(きりえ)ちゃんが捨てた牌に落雷のエフェクトが落とされる。

 

 

 

 刀郷さんのお力添えもあって華麗にアガれた東一局を皮切りに、おれと霧衣(きりえ)ちゃんはまずまずの立ち回りで打つことができていた。

 リーチのみとかピンフドラ二とか、正直目を見張るほどの高得点こそなかったものの……二局目・三局目ともに得点を重ね、おれ自身に課せられた罰ゲームを回避し続けることができていたのだ。

 

 

 ……の、だが。

 

 流れが変わったのは、東四局目。おれの境遇を理解し、フォローに回ってくれていたはずの、大先輩……おれが全幅の信頼をおいていたその彼らの秘められし麻雀力が、ついに長き眠りから目覚めたのだ。

 

 

 

「……えっ、と…………あが、られちゃいました……ネ……へへ」

 

「あ、あわわ……あわわわわ……」

 

 

 霧衣(きりえ)ちゃんが悩みながらも、おそるおそる捨てた『漢字の一』……しかしながら不幸なことに、それは対局相手にとってのアガり牌。

 刀郷さんの『リーチ(ハツ)ドラ二』の直撃を受け、奇しくも一局目と真逆の形でしっぺ返しを喰らう形となってしまった。

 

 

 その展開に悲鳴を上げるおれたちと、歓喜の雄叫びを上げる視聴者さんたちと、疑問符感嘆符が乱舞する談合チャット。

 アガり手自体はごくごくありふれた手だったにもかかわらず……おれの配信はほんの僅かな間に、様々な人々の様々な感情が渦巻く混沌の坩堝と化したのだった。

 

 

【2_SD】刀郷剣治:aa!!?

【4_SE】村崎うに:は!?おま

【2_SD】刀郷剣治:ごめんなさい!!ちがうんすよ!!

【1_FN】ハデス:おまwwwwwwwwww

【4_SE】村崎うに:デコおまえ!!やりやがったなオイこらお前!!

【2_SD】刀郷剣治:ちがうんですって!!!

【2_SD】刀郷剣治:ついいつものノリで……

【1_FN】ハデス:やっちまったかぁ……

のわめでぃあ局長:いえ、kにいしないえd

【2_SD】刀郷剣治:ごめんなさいほんと!!

のわめでぃあ局長:きにしないでください!

のわめでぃあ局長:大乗bでs!!

【2_SD】刀郷剣治:そんなつもり無かったんです!!ほんとゴメンナサイ!!

【1_FN】ハデス:あーあ、わかめちゃんめっちゃ取り乱してるやん

【4_SE】村崎うに:のわちゃんおちついて

 

 

 

 おれこと局長のわかめちゃんがここまで取り乱しているのは……ご存じのことだろうが、ほかでもない。

 今回の配信はあくまで『霧衣(きりえ)ちゃんに麻雀の手ほどきをする会』なのだが……何を血迷ったのか止めとけばいいものを、いわゆる『脱衣麻雀』の特設ルール――霧衣ちゃんが失点するたびにおれが代わりに一枚脱ぐ――を適応してしまっているからである。

 

 ちなみに『やってやりましょう』と言ったのは、まごうことなきおれだ。完膚なきまでの『自業自得』ってやつである。

 

 

 い、いや……べつにおれだって、無傷で勝てるとは最初から思ってなかったし。

 そりゃあ、あわよくば(接待して頂いた上で)ノーダメージ完全勝利とかも狙ってましたけど、お三方が丸々敵に回るわけじゃないって信じてますし。それならば半荘終わるまでに、支払うことになるとしても数回……数回であればべつに、負けてもアウトになりませんし。

 

 

 だから、つまりはですね……ま、まだ全然、想定の範囲内ですので。

 なので……全然、わたしはぜんぜん、すこしも全然焦ってませんからですので。

 

 

 

 

「………ぅうううぅぅうぅぅ!!!」

 

「うぅ……わかめさまぁ……」

 

 

『貴重な薄着シーン!』『これやば』『よかった、ローブ下全裸じゃない』『【¥10,000】わきちらえちち代』『エッッッッッ!!!』『エッッッ!!』『【¥4,545】』『【¥30,000】御馳走様です』『脱ぐとこみせて……』『H・D・D!H・D・D!!』『【¥30,000】』『下ぱんつじゃないのか……』『視聴者数跳ね上がっててわらう』

 

 

【1_FN】ハデス:見てるかトーゴー。この涙お前のせいだぞ

【2_SD】刀郷剣治:いやその……わかめちゃんほんとごめんなさい

【4_SE】村崎うに:デコ……

【4_SE】村崎うに:でも、しかしだよ

【1_FN】ハデス:いやでも、まぁ……なんだ

【4_SE】村崎うに:なんていうかさ

【1_FN】ハデス:実在エルフやべぇな……

【4_SE】村崎うに:のわちゃん脱ぎ方エッロイよなぁ……

【2_SD】刀郷剣治:あの!?!??

のわめでぃあ局長:あの!!!????!?

 

 

 

 いや、まだだ。まだ……たかがローブをやられただけだ。戦闘続行は充分に可能なのだ。

 

 おれの今日の衣装はわかめちゃんの基本(デフォルト)装備といえる、エルフの魔法使いをモチーフとしたセット装備の一式だ。

 既に剥かれた若葉色ベースの『全身ローブ』の下には……上半身に空色とすみれ色の『半袖シャツ』と、下半身にはライトブラウンの『巻きスカート』、足元はホワイトの膝丈『ソックス』と、ソフトレザーの『ブーツ』。

 絶対防衛線である下着類(パンツとキャミ)を除けば、身に付けているのは以上四点となる。……とはいえ、破廉恥な下着姿で配信を続けるのはさすがにヤバいと思われるので、実質的に脱げるのは『ブーツ』と『ソックス』の二点だけだ。

 

 

 半荘戦も既に半分が終了し、残すところあと四局。

 残り四局のうち……失点(マケ)を許されるのは二回まで。

 

 野良だったら、割と絶望的だろう。……しかしこの卓は、対局相手が全員身内なのだ。

 刀郷さんのような『うっかり』でも無い限り、この状況を見ればきっと力を貸してくれることだろう。

 

 

 つまり……もうなにも怖くない。

 

 

「わたしは負けませんー! ここから全勝すれば良いんですー! ……というわけでお願いします皆様! がんばろうね霧衣(きりえ)ちゃん!!」

 

「よっ、よろしくおねがいします!!」

 

 

 

のわめでぃあ局長:というわけですみませんが忖度してください……

のわめでぃあ局長:お願いします(できることなら)なんでもしますから

【1_FN】ハデス:ん?

【4_SE】村崎うに:ん?

【2_SD】刀郷剣治:ん?

のわめでぃあ局長:ヒッ

【1_FN】ハデス:とか言ってみたけど、まぁ心配すんな

【2_SD】刀郷剣治:いやいやいや、さすがにもうご迷惑お掛けしませんよ

【1_FN】ハデス:だな

【1_FN】ハデス:きりえちゃんも安心して、のびのび打ってみな

のわめでぃあ局長:ありがとうございます!

【1_FN】ハデス:見守っててやる

【2_SD】刀郷剣治:オレもオレも。安心してくださいわかめちゃん

【1_FN】ハデス:村崎も良いよな?花持たせてやろうぜ

【1_FN】ハデス:村崎?

【4_SE】村崎うに:ウフフ

【2_SD】刀郷剣治:貧乳?

【1_FN】ハデス:村崎?

【1_FN】ハデス:おい、村崎?

 

 

 

 お三方の心強いお返事を得て、勝ち確の出来レースがここに完成した。

 視聴者さんには悪いが、おれだってせっかく育てたチャンネルは恋しいのだ。こんなことでBAN(追放)されたくは無い。最後まで応援、よろしくね!

 

 波乱の南場(後半戦)が、いま幕を開ける!!

 

 



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220【祝日配信】まだ慌てるような




※健全です。


※健全です(念押し)。







 

 

 脱衣麻雀の……特に今回適用されたルールにおいては、何よりも『点を失わないこと』が肝心となる。

 総合得点で競う通常の打ち方とは異なり、つまりはリーチのみだろうが役牌のみだろうがアガればこちらの勝ち……脱衣は免れられるのだ。唸れ特急券。

 

 

「ろ、ろん!! でございます!」

 

「えらいぞ霧衣(きりえ)ちゃん!! ……そう、でも自分が引いた牌でアガるときは『ツモ』っていうの。『ロン』のかわりに『ツモ』」

 

「わ、わかりました。……つ、つも! つも! でございます!」

 

 

 

 特急券の面目躍如、役はみごとに『(ハク)』のみの非常に安い一手である。

 しかしこれでもアガりはアガり。通常ルールならともかく、今回のようなルールにおいては非常に有用なのだ。

 なんとか着衣(ライフ)を喪失せずに対局は進んでいき、南二局……八局中の六局目にて。

 

 

 ……またしても、事件が起こった。

 

 

 

 

 

「「えっ!?」」

 

 

 南二局が始まって、ほんの数分。拾って捨ててを繰り返すこと、まだ四周目。

 ここからどうやって役を整えていこうか、などと相談していた、その矢先。

 

 深く考えずに捨てた『おはじきの六』に落雷が落ち……自分ではない他のプレイヤーの手牌が開かれ、リザルト画面が表示される。

 

 

【1_FN】ハデス:村崎!!?

【2_SD】刀郷剣治:ちょっ

【1_FN】ハデス:何やってんのお前!!

【2_SD】刀郷剣治:なにやっての!、??

【4_SE】村崎うに:へへ……

 

 

 速攻でアガってみせたのは……なんと、村崎うにさん。

 

 その役は『ピンフ』のみと得点的には安い部類だが……その作りやすさと早さは、いまのおれにとっては充分な一撃だった。

 

 

 

「……えっ、と……じ、じゃあ…………くつ……ブーツを、脱ぎます……」

 

「あわわわわはわわわわ」

 

「だ、大丈夫だよ霧衣(きりえ)ちゃん! まだ危険なとこ全然見えてないから!」

 

「くぅんっ……わ、わかめさまぁ……」

 

 

 レザーブーツの編み上げ紐を弛め、めいっぱい腰を曲げて左足を引き抜いていく。普段は丈の長いローブをまくり上げなきゃならない動作も、そのローブを身に付けていない今であれば楽々行える。

 現在おれの下着(最後の砦)を隠している巻きスカートの丈は膝上程度だが、ブーツを脱ぐくらいの動作ならばセンシティブがチラするまでもなく達成可能だ。横さえ向いていれば、よほど脚を上げない限りは守ってくれる。

 

 大丈夫、この程度なら問題ない。むしろおうちの中だから(ブーツ)を脱ぐのは当たり前のことだ。

 つまり今のおれは平常、いつもどおり。いつもどおりだから何も問題ないし、平常どおりの平常心だから問題があるはずもない。つまりはよゆう。

 

 

 より一層の盛り上がりを見せ、また二つの意味で()が溢れるチャット欄をあえて意識から外し……今はこの場を少しでも早く終息させる。

 いやべつに恥ずかしくないけど!

 

 

【2_SD】刀郷剣治:弁解はあるか??

【4_SE】村崎うに:いやあ、その、ね

【4_SE】村崎うに:別に嫌がらせとかそういう意図じゃなくて

【4_SE】村崎うに:盛り上がるかなぁ、って

【1_FN】ハデス:そりゃあ……まぁ

【4_SE】村崎うに:まだ残機あったし、

【2_SD】刀郷剣治:まぁ、拝めるかどうかって瀬戸際だったら

【4_SE】村崎うに:この時点で『望みが無くなった!』ってがっかりさせるよりは

【4_SE】村崎うに:生かさず殺さず『パンツ拝めるかも!』っていう期待を視聴者さんに持たせた方が

【2_SD】刀郷剣治:たしかに、わかめちゃんの生殺与奪は我々がコントロールできるわけだし

【4_SE】村崎うに:のわちゃんも稼げるかなって

【2_SD】刀郷剣治:オーラスまで期待させといて、ってのは確かにわからんでもない

【4_SE】村崎うに:なので南三であと一枚剥いといたほうが

【4_SE】村崎うに:絶対盛り上がる

【2_SD】刀郷剣治:一理あるかもしれない……

【4_SE】村崎うに:オーラスでのわちゃんあがれば実質無傷だし

のわめでぃあ局長:お心遣いありがとうございます!!!!!おかげさまで視聴数すごいです!!!!!!!

【1_FN】ハデス:確認するが……そこに私的な欲は入ってないんだよな?

【1_FN】ハデス:単に村崎がわかめちゃんの恥じらい眺めて愉悦りたいってわけじゃ、無いんだよな?

【2_SD】刀郷剣治:どうなん?

【2_SD】刀郷剣治:おい貧乳

【4_SE】村崎うに:へへ

 

 

 なるほど、さすがはプロのエンターテイナーだ。突然ふるわれた暴力にちょっと動揺したが、それも決して悪意あっての攻撃じゃないってわかったので良しとしよう。

 うにさんは決してひどいひとじゃない。おれのことを考えての攻撃なんだ。おれの至らぬところを補ってくれるための攻撃なんだ。

 

 プロから提示された演出案に、おれ自身納得できる部分も少なからずあったので……数秒の熟考の末、おれはその申し出を受けることにする。

 つまりは、南三局。おれが危険域ギリギリまで剥かれる予定が急遽飛び込んだ、視聴者さんにとっても注目の一局だ。

 

 

 

「わ…………わかめ、さま……」

 

「……大丈夫。想定内だから」

 

「………………くぅん」

 

 

 これが彼らの本気、ということなのだろうか。

 おれたちが何か調整を企てるまでもなく、流れるように順が回っていき……いやに緊迫感のある『リーチ』を受けてビビったおれたちが切った牌で、刀郷さんが『ロン』。

 見事に『リーチ一発一盃口ドラ赤ドラ』の直撃を受けたおれたちは、八〇〇〇のライフポイントと靴下を失うこととなった。

 

 

 まさか配信で素足を晒すことになるとは思わなかったが……その甲斐あって、というべきだろうか。詳しい言及は避けるがコメントと色つきコメントが大変なことになった。

 ここまで加速するのは収益化記念のとき以降だろうか……いやそのときよりも数段ヤバい気がする。

 

 しかし……視聴者さんたちが盛り上がるのも、無理はない。

 オーラス(オールラスト)である南四局を目の前に、おれに残された衣装(ライフ)は『半袖シャツ』と『膝丈スカート』と……まあ要するに、あと一枚剥かれたらどっちかの絶対防衛線(下着)が露出してしまう形となるのだ。

 

 

 勝つか負けるか、絶対防衛線を拝めるか拝めないか。そうなれば純粋で正直なおれの視聴者さんたちは、その気持ちをストレートに表現してくれるだろう。

 そんな皆の期待を背負っての、南四局オーラス。……しかしながら残念なことに、この局は対局相手との談合によりおれたちの勝利は決まっている。さっき改めて意思確認したから間違いない。三人から『絶対にアガらない』って言質とった。つまりは負ける可能性も、剥かれる可能性も、ことここに至ってはあり得ないはずなのだ。

 

 

 そんな『出来レース』であるはずの、注目の一局。

 

 なんとなんと……まさかまさかの『奇跡』が起こった。

 

 

 

 起こって、しまった。

 

 







※安心してください。


※健全ですよ(念押し)。




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221【祝日配信】容疑者不在の事件

 

 

 ……はい。それでは、落ち着いて状況を整理してみましょう。

 

 

 まず最初に……うにさん始め『にじキャラ』のお三方全員から、改めて『アガらないようにする』という意思確認をとることができた。ここまでは良い。

 だがこの『アガらないようにする』というのが、これまたなかなか曲者であったらしく……というのも、彼ら彼女らは幸か不幸か、普段からそれなりの頻度で麻雀配信を行っていた『熟練者』であったためだ。

 

 常日頃から『いかにして効率よくアガるか』『いかにして他者より早く役を揃えるか』に思考を最適化させていたお三方にとって……普段慣れた打ち方とは()()といえる『アガらないようにする』打ち方を続けることは、少なくない集中力を消費するものだったらしい。

 

 

 そのため……各々が自分の手牌を『アガらないようにする』よう整えることに集中してしまい――しかも絶対に失敗(アガリ)は許されない一局であったこともあり――おれの配信画面、要するに霧衣(きりえ)ちゃんの手牌を、あまり気にする余裕が無かった。

 

 というか、ほかでもないおれ自身が、

 

 

のわめでぃあ局長:最後はわたしが自分の力で劇的勝利を納めてみせます!

のわめでぃあ局長:皆さんはわたしたちのことをきにせず、あがらないことだけきをつけてください!!

 

 

 などと啖呵を切ってしまったのが、何よりも重大な()()()()だったと言えるだろう。

 

 

 

 ……そう、()()()()だ。

 

 注目の南四局オーラス、気になるその結果はまさかのノーテン。アガリまで最短でもあと二枚以上揃える必要がある、要するに『ダメダメ手牌』といったところ。

 やめときゃ良いのに有終の美を飾ろうと息巻き、配信映えする役を愚かにも狙い、引きの弱さに危機感を抱いたときには既に手遅れとなっていた……あわれなおれの夢の跡だ。

 

 

 ちなみにですね、今回の特設脱衣麻雀のルールなんですが……失点した際に一枚剥かれるって形なんですよね。

 

 そこで更なる追加情報としましてですね、なんとなんと……うにさんと刀郷さん、お二方がテンパイ――アガリまであと一枚まで迫った手牌――になっていましてですね。

 

 更に更に追記事項としましては……ノーテンの人は、テンパイの人に一〇〇〇点を献上しなくてはならなくてですね。

 ついでになんですが……この最終局、よりにもよってノーテンだったおれが親だったんですよね。

 

 

 

 まぁ散々もったいつけましたが、要するに()()なんですわ、これ。

 

 

 

 

「あわわわわはわわわわ」

 

「どうどう霧衣(きりえ)ちゃんどうどう」

 

 

【4_SE】村崎うに:ほんとごめん!!!!

【2_SD】刀郷剣治:まじでごめん!!!!

【1_FN】ハデス:やっぱ警告すべきだったか……

【2_SD】刀郷剣治:うわあああああああ!!

【4_SE】村崎うに:やべえええええええ!!

 

 

 完全に錯乱してしまっている霧衣(きりえ)ちゃんと、こちらも完全に混乱している談合チャット……いや、仕方ない。欲をかいて失敗したのは誰のでもなく、おれの責任だ。

 うにさんと刀郷さんにしたって、まさかおれがノーテンだとは思いもしなかったのだろう。特急券(白發中)でもなんでも使ってアガると思っていたのだろう。見映えする役に固執してチャンスを逃したおれの采配が、とにもかくにも全部悪い。

 

 おれが全て悪いのだから……おれはその罰を、慎んで受けなければならない。

 

 

 

 

『ノーテンwwwwwwww』『まさかのノーテン』『ウオオオオオオオオ!!!』『スカートか!!しゃつか!!!』『こんだけお膳立てされといてノーテン罰符wwww』『ぱんつかぶらか!どっちだ!!』『ヨッシャアアアアアアア!!!!』『のわちゃんもぞもぞ』『【¥8,282】祝おぱんつ解禁』『これよわちゃん自爆でしょ』『サービス精神旺盛だなぁ』『【¥49,800】実在ロリエルフの脱衣シーンと聞いて』『やべーぞこれ消される前に保存』『のわちゃんがブラするはずないのでつまり脱ぐのは下』『オーラス親で不聴罰符は救いが無い』

 

 

 幸いというべきか期待を裏切らないというべきか……視聴者の皆さんも盛り上がってくれているようなので、おれの犠牲は決して無駄にはならないだろう。

 現状おれに残された装備は『半袖シャツ』と『膝丈スカート』だ。ブーツと靴下は既に失っているので、つまりはこのどちらかがこれから剥ぎ取られる形となる。

 

 恥ずかしくないと言えば嘘になるが……そもそもおれが下心あって、自分から言い出したことだ。反故にするつもりは無い。

 

 

「んっ……じゃあ…………公約どおり、スカートを……脱ぎます」

 

「あわわわわはわわわわ」

 

 

 机の上に設置したカメラからは、当然机の下で行われている()()の様子を伺うことは出来ないだろう。

 だが……やや前屈み気味の体勢となったおれが、その両手を脚へと伝わせていることから……そこから何かを察してくれたのか、コメントが更に加速していく。

 

 その中にはやはりというか『ちゃんと全身見せて』『下半身写して』の声も多分に含まれており、こちらの逃げ道をちゃっかり完全に塞いでみせた。

 ……心配しなくても、そんな姑息なことはしませんってば。

 

 

 おれはちゃんと――カメラの死角ではあったが――巻きスカートを脱ぎ、あからさまにもじもじと恥じらう様子を見せながら……観念したように、少しずつカメラから離れていく。

 やがておれの下半身……長らくローブとスカートによって隠されていたその()が、カメラの画角内へと姿を表し。

 

 

 物凄い歓声と……そして少しの戸惑いと、これまた物凄いブーイングが巻き起こった。

 

 

 

 

「なんですか『チッ』て!! ちゃんと脱いだじゃないですか!! わたしだってちゃんと恥ずかしいんですからね!? 有言実行を褒められこそすれ怒られるいわれは無いですからね!!?」

 

「……わかめさま……よかったぁ」

 

 

【4_SE】村崎うに:あぁ……良かった

【2_SD】刀郷剣治:ホントすみませんホント

【1_FN】ハデス:おー、ナイスリスク管理

【2_SD】刀郷剣治:マジスミマセン本当

 

 

『ぱんつは??』『エッッッ』『ちくしょおおおおおお!!』『【¥28,200】ナイススパッツ』『これはこれで』『まあそうだよな……』『【¥11,400】せめてちゃんとおしりみせて』『なんでエルフがスパッツはいてんだよ!!畜生!!』『ここへきて突然の現代衣類わらう』『【¥10,000】カメラもっと近く』『わかめちゃんなのにパンツ見えない……』

 

 

 

 ……そう、スパッツ。

 

 スカートの下に身に付けていてもおかしくなく、それでいて下着(最終防衛線)を晒すことなく保護できる……おれにとって救世主といえる、現代紡織技術の結晶だ。

 

 正直、非常に危ないところだったのだが……なんとか間に合ってくれて、本当に良かった。

 

 

 

 

(まーったく……ノワは本当に妖精(ヒト)づかいが荒いんだから……)

 

(ごめんラニほんとごめん……取り込み中のところ……)

 

(いや、いいよいいよ。ボクはノワが一番大切だし。……それに)

 

 

 視聴者さんへ弁解と自己保身を述べながら、せめてものお詫びにと全身撮影用カメラに切り替えて身体を晒しながら……おれの緊急救援要請を受けて駆け付けてくれた相棒に、おれは心からの感謝を告げる。

 彼女が助けに来てくれたからこそ……おれはカメラの死角でスカートを脱ぎつつ、ラニが取ってきてくれたスパッツを急いで着用し、配信に下着(パンツ)を晒すという事態を回避することが出来たのだ。

 

 

 彼女のおかげでおれの配信者生命が危ぶまれることもなく、視聴者さんたちも――下着(パンツ)ではないとはいえ――半袖シャツとスパッツという貴重かつ健全なおれの薄着姿を見て、とりあえずは溜飲を下げてくれた……と思う。

 ……まぁ、つまりは全て良い感じに収まり、おまけに前例の無い規模の視聴者数を記録することが出来たのだ。おれの自爆も、なかなか捨てたもんじゃないようだ。

 

 

 

(それに……ばっちり、特等席で堪能させてもらったからね)

 

(は???)

 

(この至近距離だろ? やっぱ興奮の度合いが段違いだわ。良いものを見せてもらった)

 

(ちょ、っ…………もう! 変態!!)

 

(ありがとうございます!!)

 

 

 

 自らの蒔いた種で自業自得の窮地に陥り、しかし頼れる仲間のおかげで助けられ。

 おれが恩人と感じた方々たっての求めとあらば……やはりおれは何をされようとも、結局は強く拒むことは出来ない。拒もうとも思えない。

 

 なんとも損な性格なのかもしれないが、しかしこれがなかなか心地の良いものなのだ。

 

 

 おれは結局、一人じゃまだまだということだ。

 これからも助けられながら、半泣きになりながらみっともなく足掻いていこう。

 

 

 どうやらそのほうが……ウケが良さそうだし。

 

 



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222【祝日配信】皮一枚で繋がった

 

 

「終わーーーーーー!!!」

 

「わうーーーーーー!!!」

 

『ハッハッハ!! お疲れ二人とも。良いキャラしてたよ』

 

『ほんとなぁ! けっこーオイシイ()が撮れたんとちゃう?』

 

『いやほんとスンマセン……オレのヘマで色々とご迷惑を』

 

「いえいえいえ! こちらこそ、もう……色々と…………本当にありがとうございました!!」

 

 

 

 自業自得による予想外の脱衣(ハプニング)こそあったものの……その他は概ね、ハデス様が立ててくれた筋書きの通りに進んでいった。

 すなわち……おれのTシャツ&スパッツ姿を披露した後、復習がわりの東風戦(四局戦)を始めるにあたり、このタイミングでハデス様たちお三方がゲリラ配信を敢行したのである。

 

 やがて視聴者数名……複数窓で配信を開いていた視聴者さんたちが『もしや』と勘づき、コメントによる指摘に対しおれたちは沈黙を貫き、しらばっくれること四局。

 そろそろ頃合いだろうということで……ここで待望のネタ晴らし。

 わざとらしく『本日お手伝いいただいてる対局相手のかたをご紹介しまぁす』などと言ってのけ、チャットでタイミングを図った後にDeb-CODE(会議通話アプリ)の通話を発信。

 

 おれ(わかめちゃん)の呼び掛けに応じ、続々と会議通話に参加してくる錚々(そうそう)たる面々に、コメント欄が阿鼻叫喚の大混乱に叩き込まれる。

 まあそれも無理もないことだろう。生まれたての零細配信者(キャスター)のライブ配信に、この業界では知らぬ者のほうが少ない大御所がドドドンと現れたのだ。

 

 

 視聴者さんたちのこの反応には、仕掛人がわであるおれも思わずニッコリ。新鮮な経験に気をよくしたおれたちは、その後も調子よく麻雀コラボ配信を続けていった。

 

 

 その後本気を出したお三方に、霧衣ちゃんともどもコテンパンにされたのは言うまでもない。

 

 脱衣麻雀ルール撤回しておいて本当良かった。

 

 

 

 

「本当ありがとうございました……おかげで霧衣(きりえ)ちゃんもかなり打てるようになりました……ていうか飲み込みが思った以上に早かった……」

 

『それな。三回目の半荘戦とか、ほぼキリエちゃんの独断で打ってたんだろ?』

 

『めっちゃ怖かったすよアレ! 待ちが全然わかんなかったす……』

 

「わ、わたっ、わたくしが……でございますか?」

 

『そうやよー! あとはスムーズに上がれるよう場数と経験積んでけば、結構な雀士になると思うで!』

 

 

 そんなこんなで、現在は配信終了後の反省会……という名の『お疲れ様』通話だ。視聴者さんたちの目と耳の無い、出演者のみのこの場にて、ありがたいことに忌憚の無いお褒めの言葉をいただいている霧衣(きりえ)ちゃん。

 ほんのりと顔を赤らめ、わずかにうつむき、しかしまんざらでもなさそうに口元を緩ませているその様子は……控えめにいって非常に可愛らしい。

 

 実際おれ自身も、最後のほうは彼女の判断にほぼ委ねていた。ときどき『これは役になるのでございますか?』などといった疑問に答えることはあったけど、どれを捨ててどれを拾ってどれを待つのかは完全に彼女の采配だった。

 それでいて、この麻雀得意配信者(キャスター)さんたちと渡り合ったのだから……とても良い経験になっただろう。

 あとはCOM対戦のオフラインモードや野良マッチングなんかで、少しずつ腕を磨いて貰えればなって。

 この『雀心.net』は霧衣(きりえ)ちゃんのタブレットでも動作可能なので、そのうちおれと霧衣(きりえ)ちゃんと……ラニにも仕込んで対局してみても、けっこう面白いかもしれない。

 

 

 まあ、麻雀に詳しくなったことはもちろんだったけど……今回は何よりも、おれなんかのためにお三方が力を貸してくれたことが、控えめにいって最高に嬉しかった。

 お三方の厚意を無駄にしないためにも、おれ自身配信者(キャスター)として腕を磨いて精進して、いつか恩返しできるようになりたい。

 

 

『それはそうと……のわっちゃん!』

 

「はひっ!?」

 

『今週末! FPEX(一人称視点STG)コラボ! 楽しみにしとるから、忘れんといてな!』

 

「は……はいっ!! 勿論です!!」

 

『いいなぁー村崎……まぁいいや。わかめちゃんよ』

 

「なななんでしょう!?」

 

『近いうちに姫……ティーリットと、オレらのマネージャーから何か連絡行くかもしれんから、まぁ宜しく頼むわ』

 

「ひゅ!? は、ははは……はひっ!!」

 

『あっ、じゃあオレもマネージャーさんと相談してみますんで、またコラボどうかお願いします! わかめちゃん本当癒しなんすよ……殺意向けてこないし……』

 

「き……恐縮です!」

 

 

 

 えんもたけなわ、といったところだろう。さすがにもう夜も遅い。明日は大事な大事な納車が待っているので、今日みたいに寝過ごすわけにはいかないのだ。

 名残惜しいが、そろそろおいとまさせて頂こう。

 

 

「それでは……本当に、ありがとうございました! おやすみなさい!」

 

「おっ、おやすみなさい、ませっ」

 

『『『おやすみー!』』』

 

 

 

 名残惜しさを感じながら通話終了ボタンを押し、霧衣(きりえ)ちゃんと二人して大きく深呼吸。

 おれと、おれの隣に座る霧衣ちゃんと、おれの脚の間から這い出てきたラニの三人で顔を合わせ……誰からともなく『へにゃり』と頬を緩ませ、とりあえず大きな安堵のため息をこぼす。

 

 偉大なる先輩がたとお話しさせて貰えるのは当然嬉しいことなのだが、それでもやっぱりこの子たちは安心する。

 

 

「……よし、じゃあ……お風呂はいって、おやすみしよっか」

 

「はいっ。承知致してございまする」

 

「ノワいっしょに入ろ! 頑張ったボクへのご褒美!」

 

「いいけど早く上がるからね!? 霧衣(きりえ)ちゃん待たせちゃ悪いから!」

 

「わっ、わたくしはお二階の『しゃわー』にて大丈夫でございますので……ご遠慮なさらずにごゆっくりと」

 

「ヨッシャ!」

 

「アッ、えっと……ありがとうね!」

 

 

 せっかく知り合った間柄なのだから、この縁を大切にしていきたい。

 居心地の良い場を共有できる二人にことさらの感謝を感じながら……イベント盛り沢山だった月曜祝日の夜は、静かに更けていった。

 

 

 







「…………すごいなぁ……うにさん。……わかめさんも」



 明かりの落ちた一室、配信終了イラストの表示されたディスプレイを前に……ぼくは思わず口を開く。
 その言葉に籠められたのは、まぎれもない尊敬。その一方で、そこまでは至れない自身を卑下するような声色も……微かとはいえ、確かに含まれていた。


 画面の中で輝いていた彼女たち……自分の同期生である少女と、その同期生が目をつけた期待の新人。
 ときに笑い、ときに怒り、ときに泣き。とても生き生きと楽しそうに言葉を紡ぐその姿は、自分を含め多くの人々に紛れもない『楽しいひととき』を与えている。


 それなのに……自分は、どうだ。
 果たして自分は、彼女たちと肩を並べられる存在なのだろうか。

 同期生たちの中で、チャンネル支援者数は一番低い。
 村崎うにさんのようなゲームの腕も、玄間(くろま)くろさんのような歌唱力も、甲葉(こうば)コガネさんのようなトーク(りょく)も、自分は持ち合わせてなんかいない。
 ホラーゲーム配信の視聴回数はそれなりだけど……それはこの可愛らしいキャラクターが、大して動じずに冷静に進めていく様子が――この『ミルク・イシェル』というキャラクターの『ギャップ』が――おもしろ可笑(おか)しいというだけのことだ。


 いや、わかっている。自分はまだまだ未熟者だ。
 もっといろんな配信者(キャスター)さんの姿を見るだけではなく……『わかめちゃん』のようにいろんな場に足を運んで、いろんな経験を積んで、いろんな勉強をすべきなのだと……そんなことは解っていた。



 だが……ぼくには、()()()()()()()のだ。



 最近の配信もミーティングも、パソコン越しだからなんとかなった。だからこそこの一ヶ月近くもの間、ずっと隠してやってこれた。
 首都圏在住の同業仮想配信者(URキャスター)たちは度々事務所に入り浸っているらしいが……一方で首都圏に住んでいない自分は、可能な限りネット越しで業務対応して貰えている。


 だからこそ……()()()()()になってしまっても、そのことを気取られることも無かった。
 フェイスカメラ無しの音声通話と、アバター越しの交流ならば……自分のこの異常事態がバレることも無かった。



 だが……これまで通りいつまでも隠し通せるとは、当然思わない。

 仕事先はもちろんのこと……隣人や、家族や、周囲の人々にも。




「…………ぼくは…………なんで」


 何度目かもわからぬ自問自答を続けながら、自分のアバターである『ミルク・イシェル』の全身図を表示させる。

 その名を体現するかのように真っ白な髪、瞳は色素の薄いライトグレー、丸みを帯びた頬と整った鼻のライン、色白で柔らかそうな肌。
 身体つきは小さく華奢ながらも、その骨格はしっかりと男性のもの。長い髪と相俟ってぱっと見は女の子のようだが、確かに()()()()()ギャップが特徴の……いわゆる『(オトコ)()』。


 現実から目を背けるように、ディスプレイから視線を外す。
 ぶんぶんと頭を振り、さらさらとこそばゆい感触を無視しながら洗面室へ。

 変わるはずの無い現実に直面し、大きな溜め息と共に鏡を覗き込めば……



「……なんで…………『ミルク』に、なっちゃったんだろ……」


 デビューからずっと演じ続けていた、長い付き合いの自分のアバター『ミルク・イシェル』にそっくりな背格好の人物が……着なれた室内着を纏って、呆然と立ち竦んでいた。


 泣きそうな灰白色の瞳と……目が合った。




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223【納車記念】るんるんの火曜日

 

 

 おはようは気持ちのよい挨拶だ。すがすがしい気持ちと共に元気よく挨拶すれば、それは一日を気持ちよく始める良い切っ掛けになる。

 慣れ親しんだ間柄だからって、省略する理由にはならない。むしろ気心知れた仲であればこそ、尚のこと元気いっぱいの挨拶をして然るべきだろう。

 

 

「「おはよう!!!!!」」

 

「ゥオワアアアアアアア!!!?」

 

「おっ、おはよう……ございます」

 

 

 リビングスペースにて朝ごはんを食べていたモリアキに、背後から忍び寄って元気よく朝の挨拶を投げ掛ける。

 テレビのニュースに注目していた彼はおれたちの出現に気づいていなかったらしく、面白い悲鳴をあげて飛び上がってしまった。

 

 

 

 

 そんな朝のひと悶着を乗り越え、時刻はついに午前十一時……の、少し前。おれのスマホが音声通話の着信音を鳴り響かせ、待ちに待った人物からの着信と品物の到着を告げる。

 モリアキも巻き込んで外へ飛び出し、指定してあった近くの月極駐車場へ。その入り口付近の路上にハザードランプを焚いて停車していたのは……数日ぶりに目にする大きな乗用車、スーパーロング仕様のバン車両だ。

 

 

 

「そいじゃ、ちょいっと動かしてきますわ」

 

「ありがとモリアキ。迷惑掛ける」

 

「なんのなんの。オレも楽しみですし」

 

 

 隣県からわざわざ車両を運んできてくれた『三納オートサービス』の多治見(たじみ)さんと軽く言葉を交わし、モリアキは自分の軽自動車を動かして駐車マスを開ける。近くのコインパーキングへと一時的に避難させて……の予定だったのだが、ちゃっかりと予定変更。

 路上駐停車禁止の標識もないし、交通の妨げになりそうな位置でもないし……ほんの十分そこらですぐに移動できるようにしておけば、すぐそこの路上でも大丈夫かなって。

 

 そうこうしてもらってる間に、開けられた駐車マスにバンコン車両が収まり、改めて車両引き渡しの手続きと注意事項の説明をつつがなく完了させる。このへんはあんまりおもしろくないのでパパッと省略する。

 

 諸々済ませると多治見さんは『最後の仕上げに入りますね』と運転席のドアを開き、小包と手荷物を広げて何やら作業に取りかかり始めた。

 

 

 

「戻りましたー……っと、取り込み中っすか?」

 

「んんー、そうみたい。最後の仕上げだって」

 

「ほぇ、仕上げ?」

 

 

 いったい何事だろうと見守るおれたちの目の前、多治見さんは手際よく作業を進めていく。運転席の足元へ潜り込んで、ドライバー片手に何やら部品を取り付けているようだ。

 

 

 

「若芽さん、こちらへ。座ってみて下さい」

 

「は、はいっ!!」

 

 

 多治見さんに呼ばれて、おれは待ちに待った運転席へ。ひょいと飛び上がってグリップを掴み、勢いをつけて軽い身体を引き上げる。

 すると……運転席のシート面、そこには厚手のクッションが設置されている。へたれに強そうな、しっかりとしたつくりのクッションが尻の下に挟み込まれ、これなら小柄なおれの身体でも前方視界が余裕で確保できる。

 

 そして……確かな興奮と共に確認する足下。

 そこには、アクセルとブレーキのペダルにそれぞれ繋がる、延長ステーと増設ペダルが新たに設置されていた。

 

 

「……高さは、このあたりで大丈夫そうですね。ちゃんと踏めますか?」

 

「ああっすごい! 大丈夫です! ちゃんと踏めます!」

 

「それでは、この高さで固定します。若芽さん以外の方がお乗りの際は上方に畳んで収納できますので、不都合は無いかと」

 

「か、かんぺきじゃないですか……ありがとうございます!」

 

「いえいえ。……(せき)からの()()()です」

 

 

 

 聞くところによると……身長が低いドライバーさん用の追加設備として、ちゃんと国交省の認可も出ているオプションパーツが存在しているらしい。

 このパーツは三納オートサービスさんでも扱っている品だったらしく……『運転できる』と言い張っていたもののペダルに足が届くとは思えなかったというおれのために、わざわざ用立ててくれたようだ。

 

 ……確かにこれなら、さほど苦労することなく運転できそうだ。本当にありがたい。

 

 

 

「それでは、私はこれで。仔細はまた後程、メールにてご連絡しますが……今月末のイベント、どうか宜しくお願いします」

 

「まっかせて下さい! 全力でご期待に応えます!」

 

 

 ガッチリと固い握手を改めて交わし、『お引き渡しの証拠』ということらしい写真を撮ると、多治見さんは爽やかな笑顔で駅の方へと去っていった。

 ……なんか妙に『笑顔でお願いします』とか『ポーズお願いします』とか注文受けた気がするけど、本人が『引き渡しの証拠』と言っていたからきっとそうなのだろう。そういうことにしておこう。

 

 

 

 

 ……と、いうわけで。

 

 

「ラニ! もういいよ!!」

 

「わっほーーい!! いやぁ、すごいね。本当に家だよこれ」

 

「くるまの中に……おうちが……信じられませぬ」

 

「もー最高っすね……この『隠れ家』感たまんねーっすよ……」

 

「わかるゥ~~~~」

 

 

 今の今まで姿を隠していたラニに声をかけ、身内四人なかよくプライベートゾーンを噛み締める。

 これで今まではおうち以外で姿を現すことが出来なかったラニも、同様になかなか()を出すことが出来なかったおれも、気軽にだらけきることが出来る場を手に入れたのだ。

 

 

 ……というわけで、さっそく堪能してみよう。今からおよそ二時間程度、新拠点のある岩波市滝音谷(たきねだに)へのドライブだ。

 ペダルの踏み心地も良好。ETCカードもセット完了。真新しいカーナビに目的地入力も完了。周辺探知魔法も正常。大気と水蒸気を媒介にする測距魔法があれば、長く大きな車両であろうと『ごっつんこ』する心配もない。

 

 運転手の見た目とは裏腹に、至極スムーズに駐車場からの脱出を果たし……入れ違いでモリアキの軽自動車が元の位置に収まり、その運転手も後部座席に収まる。

 彼もお出掛け用のカバンをちゃんと持ってきているので、これで準備はオッケーだ。

 

 

 

「よーしじゃあ出発しますよー!」

 

「「いぇーーーーい!!」」

 

「い……いぇーい」

 

「出発進行ー! ふんふふーん!」

 

「なんすかこの可愛い生物」

 

「それね」

 

 

 力強く心地よいエンジンの振動を、嵩増しクッション越しのおしりに感じながら……おれは踏みやすく調整されたアクセルペダルをゆっくり踏み込み、ついに念願のキャンピングカーを発進させたのだった。

 

 

 

 

 

 

『そこのハイエース止まってくださーい。そこのハイエース路肩に寄ってくださーい』

 

「「えっ!?」」

 

「「?????」」

 

「ちょっ……先輩なにやったんすか!? シートベルト締めてます!? ウィンカー出しました!?」

 

「締めてるしちゃんと出したし無理な割り込みも信号無視も右折車線直進もしてませんですし!! ええ!? なんで!?」

 

 

 震える身体をせいいっぱい宥めて危なげなく路肩に停車し、カチコチに硬直しながらもハザードを焚いて次の指示を待つ。

 拡声器越しにおれへ警告を投げてきた張本人、赤色灯を点灯させた白黒カラーの速そうな車がおれたちの前へ停車し、紺色の制服に身を包んだ男性二人組が降りてくる。

 

 

「えーっと…………ちょっといいかな」

 

「は……はひっ!?」

 

「……あのねぇ、()()()()()。……保護者の方、お父さんかお母さん、乗られてます?」

 

「………………はい?」

 

「大人ぶりたいお年頃なのはわかるんだけど……()()()()()みたいな子がね、自動車運転するとね、危ないから……法律で子どもは運転しちゃダメなことになってるから、おまわりさんに捕まっちゃうんだよ」

 

「………………………………」

 

 

 後部キャビンで息を殺して大爆笑している二人の気配を感じながら、おれは助手席に置いてあった肩掛けカバンから財布を取り出す。

 おれ自身に対する理不尽な言われようと、爆笑してる背後の二人のせいで、こめかみがひくつき青筋が浮き出そうになるのを必死になって宥めすかし……おれは無表情を貼り付けたまま、日本国における最もメジャーな国家資格のひとつ、自動車運転免許証(金枠(ゴールド))を堂々と提示する。

 

 

「…………大人(オトナ)なんですけど? 召和(ショーワ)生まれなんですけど?」

 

「「えっ!!?」」

 

 

 

 堪えきれず、といった感じでついに吹き出した搭乗客(ラニとモリアキ)をひと睨みし……おれの提示した免許証を端末で照会し、偽造や何かの間違いで無いことを何度も何度も何度も確認していたおまわりさんの対処を待つ。

 出自には非常識な事象があったとはいえ、この免許証の記載事項更新はまぎれもない正規の手順で行われている。まぁ尤もフツノさまと引退神使の方々のおかげなのだが、とはいえそれでもこの免許証はまぎれもない『本物』なのだ。

 であれば当然、おれの提示した免許証と、それを保持している者に問題があるわけが無い。

 

 

 

「…………大変、失礼しました。……いえ本当すみません…………どう見ても小さい子が運転してるようにしか見えなかったので……」

 

「…………自覚は、ありますので。大丈夫です。……こちらこそなんていうか……いえ、本当なんかもう本当すみません」

 

「いえいえいえ、こちらこそ。大変失礼致しました。当然ですが()()()は一切ありませんので、引き続き旅行楽しんで下さい」

 

「アッ、ありがとうございます。それでは」

 

 

 当初こそ頭ごなしに怒られムードだったが(まぁそれも当たり前だろうが)、疑いが晴れると逆に気持ちよく送り出してくれた。

 この県のおまわりさんの職務意識が極めて高いということと、おれが思っていた以上におれの容姿はよく目立つのだということを思い知らされ……フツノさまとの()()を繋ぐことができて本当に良かったと、自分の幸運を再認識したおれなのであった。

 

 

 

「でもなぁ……動画的にはオイシイ()だったよなぁ……カメラ回しとけばよかったなぁ……」

 

「大丈夫、ちゃんとコッソリ回してたから」

 

「へあ!? いつから!?」

 

「出発進行フンフフーンのあたりかな?」

 

「最初からじゃん!!?」

 

「カワイイ鼻唄も独り言もばっちりだよ! やったねノワちゃん!!」

 

「ぐわーーーー!!」

 

 

 ……頼れる相棒の抜け目の無さも、再認識する羽目になったおれなのだった。

 

 

 



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224【納車記念】たのしい回送

 

 

「やっぱ運転しやすいっすか? キャンカーはめっちゃ揺れるって聞いてたんすけど」

 

「んー……ふつうのキャブコンはトラックベースだからじゃね? ハイエースはまだ一般乗用車に近い構造だろうから、キャブコンよりは跳ねないし……実際いい子だよ」

 

「あー確かに……サスまわりがトラックよりかは普通車に近いんすかね」

 

 

 

 浪越市(なみこし)神宮区(かみやく)を出発し、浪越(なみこし)都市高速を経由して第二東越基幹高速へと合流し、そのまま東進することしばし。サービスエリアで休憩を取るべく停車させたおれに、モリアキが興味深そうに切り出してきた。

 いまだに車内設備に目を輝かせている他のふたりに比べ、やはり幾らか現代機器に対する耐性がついているらしく、正気に戻るのも早かったようだ。

 そんな彼と言葉を交わしながらもおれは華麗に駐車を済ませ、お昼の算段を考え始める。

 

 三連休明けの平日、なんの変哲もない火曜日とあっては、お昼時とはいえさすがに人の入りもまばらである。これならばおれたちが闊歩していても、あまり注目を浴びずに済みそうだ。

 フードコートを使うか露店でテイクアウトフードを調達するかで少し悩んだが……せっかくのプライベートゾーンを堪能したいところだし、昼食は車内キャビンで摂ることにする。たまにはラニも堂々とくつろぎたいだろう。

 

 

「というわけで、まずはごはんを買いにいこうか。パン屋さんとかお惣菜屋さんもあるみたいだし」

 

「オレも同行するべきっすか? あんま『わかめちゃん』に変な噂立つのもよろしく無いんじゃ……」

 

「うあう……おれも霧衣(きりえ)ちゃんも目立つからなぁ」

 

「ノワの『マネージャーさん』ってことにするのは? お仕事っぽい話題をアピールしとけば、見聞きした人は勝手にそう捉えてくれるんじゃない?」

 

「「それだ!!」」

 

 

 それだ。そういえばうにさんやミルクさんもマネージャーさんに色々お世話してもらってるらしいし、かくいうおれだって実際にお話しさせてもらった。

 八代(やしろ)さんという『にじキャラ』社の男性スタッフさんとは、おれもちゃっかり連絡先を交換させてもらった。うにさんミルクさんとのコラボの話しかしてないが、その人となりは何となく察することができる。

 担当配信者(キャスター)のお仕事管理やスケジューリングだけでなく、ときにちょっとした外出や買い出しに付き合ったり、車を出してドライバーを勤めたりもしてくれるらしい。

 

 まあ、単に『にじキャラ』さんが過保護なだけかもしれないが……とりあえず大事なことは、配信者(キャスター)の近くにマネージャーが付いているのは、何もおかしいことではない……という点だ。

 

 

 

 

「マネージャーさんマネージャーさん! 焼きそばありますよ焼きそば! あっ、から揚げ……チャーハンの屋台!? チャーハン! チャーハン買いましょうマネージャーさん! マネージャーさんチャーハン! マネージャーはん!!」

 

「落ち着いて下さいセン…………()()()()。いっぱい買ったってどうせ食べきれないんですから」

 

「し、しかし…………ちゃーはんが……からあげが」

 

「…………じゃあチャーハンとから揚げは買いますから。あと二点か三点くらいにして下さいね。全店含めで」

 

「りょっ……了解であります! マネージャーさん!」

 

「よろしい」

 

 

 

 お昼時の混み具合ではあるものの、かといってそこまで混雑しているわけではない……大変居心地のよい人口密度のサービスエリア内を、おれはモリアキ改め『マネージャー:烏森(かすもり)』さんを伴い堂々と闊歩していく。

 紙どんぶりに詰まったから揚げと、箱状のテイクアウト容器に詰められたチャーハンを調達し、許可された残りの三品を探して自慢の鼻をひくつかせる。

 

 まあ鼻だけにとどまらず……生まれ変わったおれの五感は常人よりも大変優秀なので、おいしそうな商品に関する探知能力ももちろん高い。

 嗅覚はもちろん、視覚と聴覚を総動員して、できたて温かなテイクアウトフードを見繕っていく。

 

 ちなみに、現在ラニと霧衣(きりえ)ちゃんは車内にてお留守番中だ。

 姿を隠せるラニはもとより霧衣(きりえ)ちゃんはかなり人目を惹くであろう魅力的な子なので、スムーズに昼飯調達できなくなる恐れがあると踏んだのだが……心配せずともどうやら、そもそもおれ単体でもかなり注目を集めてしまうようだった。

 

 

 

「豚まんふたつ! 下さい!」

 

「はーい。ありがとうございまーす。お嬢ちゃん可愛いからシュウマイ内緒でオマケしちゃうね」

 

「やたっ!! ありがとうございますお姉さん!!」

 

 

 

「すみませーん! 焼きそばふたつお願いします!」

 

「はいよー。こりゃまた可愛いお客さんだねぇ……ヨッシャ、特別に大盛りにしちゃる」

 

「ほ、ほんとですか!! ありがとうございますお兄さん!!」

 

 

 

「いやぁ……何すかこの人タラシ(小声)」

 

「何ですかマネージャーさん(小声)」

 

 

 

 意識の隅で行動アシストを入れてくれる()()()おれ(わかめちゃん)の身体のおかげで、おいしそうなフードを大変おトクに調達することができた。

 両手にビニール袋をぶら提げているマネージャーさんを引き連れ、おれはコンビニで人数分プラスアルファの飲料ペットボトルと紙コップを購入。今度こそ車に戻る。

 おれたちの言動をちらちら気にしていた一般客の方々も、さすがにあえて隅っこの方に停めた車のほうまで追ってくることは無かった。このへんは日本人の習性に感謝である。

 

 

「「ただいまぁー(っす)!」」

 

「「おかえり(なさいませ)!」」

 

「うーわ、やっぱすげぇわ」

 

「よく出来てるっすね……」

 

 

 どうやら二人はお願いしておいた通り、運転席と助手席を転回させた食卓モードを用意してくれていた。

 フロントガラス側も含めて全開口部をカーテンとシェードで隠してくれているので、これでラニも堂々と姿を晒していられる。

 そしてこの食卓モード、一応大人四人がテーブルを囲めるようになっているので、四人中二人がローティーンでもう一人が手のひらサイズの四人組であれば、充分すぎるほど余裕のスペースだろう。

 

 買い込んだ(あった)かフードとドリンク類をいそいそとテーブル上に拡げ、楽しい楽しいランチタイムの始まりだ。

 

 

「よしじゃあ……いただきゃす」

 

「「「いただきます」」」

 

 

 

 せっかくこんな、ロマンの塊ともいえる便利な設備を手に入れたのだ。日常生活でも仕事においても、使わない手は無いだろう。

 

 おれはこの装備をいろんな意味で『活かす』(すべ)を、おりこうな頭脳であれこれ考えながら……

 

 

「じゃあ霧衣(きりえ)ちゃんはおれと『はんぶんこ』しよう。ラニはモリアキと『はんぶんこ』ね」

 

「ふあ……ふかふか! ふかふかでございます!」

 

「白谷さんこれ半分、食えます? もっと小ちゃくした方がいいっすか?」

 

「そ、そうして貰いたいかな……この身体の唯一の欠点だよ」

 

 

 とりあえず今はこの……賑やかで安らぐひとときを、しばしの間存分に堪能するのだった。

 

 

 あっ肉まんヴッメ!!

 

 



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225【納車記念】たのしいじゅんび

 

 

 お昼の小休憩を挟んで、おれたちの車は再び動き出す。

 ただでさえ普通自動車よりは高く、そして嵩増しクッションによって更に高さを増している運転席からの眺めは……なんというか、非常に心地がいい。

 

 視点の高さでいえば、普段の倍は高いかもしれない。この高さはまるで高身長モデル体型イケメン成人男性になったかのようで、ちょっとだけ現実逃避が出来るのだ。

 

 

 

「先輩先輩、今横切ったお父さんの顔見ました? スゲェ見事な二度見でしたよ」

 

「見た見た。そりゃ見ちゃうでしょ、あんな綺麗な二度見だもん……ほんとお手本のような二度見だったね」

 

 

 現在地点から岩波市滝音谷までは、あとおよそ一時間弱。目的地すぐ近くにスマートインターがあるので、残りはほぼ高速道路だ。サービスエリアの駐車場を離れて本線に合流してしまえば、あとはずーっとアクセル踏みっぱなしである。

 多治見(たじみ)さんが取り付けてくれた拡張ペダルのおかげで、アクセルもブレーキも違和感なく操作できる。思っていた以上に疲労も少なかったので、後半も問題ないだろう。

 

 

「スピード出すよー。霧衣(きりえ)ちゃんシートベルト大丈夫ー?」

 

「んぅ、っ……大丈夫にございまする!」

 

「先輩こそ大丈夫っすか? やっぱ代わった方が良かったんじゃ」

 

「大丈夫大丈夫。いざとなったら疲労トバす魔法もあるし」

 

「そ…………そっすか……」

 

「…………?」

 

「………………」

 

「……………………あぁごめん! もしかして……運転したかった?」

 

「……えぇ、その…………まぁ」

 

「ならそう言ってよもぉー! 本線出ちゃったじゃんー!」

 

「いやぁー……スミマセン」

 

 

 しょうがないなぁモリアキくんは……なんてふざけあいながら、おれたちは二人ならんで前方景色を堪能する。

 いつもはモリアキが運転手、おれは助手席にお邪魔していたので……逆となるこの配置はけっこう貴重なパターンだろう。

 

 ここから先、道路は市街地エリアを離れ、山間部へと進んでいく。進行方向には折り重なるような山々と、どこまでも広く青い大空が広がっており……空気の澄んだこの季節、抜けるような青空は非常にすがすがしい。

 

 

 

「助手席っつっても……特にヘルプすること無いっすよね?」

 

「いやあるだろ。降りるインター見逃さないように気を配ったり、車内を盛り上げるためにおうたを歌ったり、運転手を褒め称えたりとか……色々あるだろ」

 

「ぇえマジっすか……ひと眠りしようと思ったのに」

 

「アッずりい! おれだってお昼寝したいわ!!」

 

「だーから代わろうとしたんすけどね? 魔法で疲労トバせるし大丈夫なんでしょ?」

 

「そんなこと…………言いましたね!! わーん!!」

 

「はっはっは! ……ヤバかったら適当なPASA入ってください。マジで代わりますんで」

 

「まぁたぶん大丈夫だと思うけど……そんときゃ甘えるわ。ありがとな」

 

 

 マネージャーさんの心遣いに感謝しながら、今はおれに与えられた役割を全うする。

 ほかでもないおれが獲得した企業案件、その報酬の一環としておれが貸与された、期間限定とはいえおれの車……こいつを自宅まで届けるのは、おれの役目だ。

 

 

「ねえノワ! ボク気付いたよ! コーソク道路で飛ぶのめっちゃしんどい!!」

 

「おとなしく椅子に座ってなさい!! おばか!!」

 

「シラタニさま、よろしければ……わたくしの膝へ」

 

「オホッ!? あ、ありがとキリちゃんでもそこは膝っていうか……おま」

 

「ねえラニわかってるよね!? 霧衣ちゃんに変なことしたら二度と一緒にお風呂入んないからね!!」

 

「い、イェス! マム!」

 

 

 小さなラニの身体を、いい感じにホールドできる座席設備。どうにかして考えておかないといけないようだ。

 載せたい小道具と、追加したい設備と……()()()()()に備えて調達しておくべきものを脳内メモに追加しつつ、おれたちは時速一〇〇キロでオウチめがけて突き進んでいった。

 

 

 

 

 

 …………というわけで。

 

 その後順調に進んでいき、あっという間に誉滝(ほまれたき)インター――おうちの最寄りであるスマートIC――へと到着する。

 搭載されていたETCのおかげでスムーズにバーが開き、高速を降りてそのまま一般道へ。何はともあれまずは自宅裏手、先日新たに造成した砂利敷き駐車スペースへと向かう。

 

 

「モリアキモリアキ、()()な。()()んトコに板渡して橋架けたから」

 

「ぅえマジっすか!? あ本当だ道ある!! 先輩が作ったんすか!?」

 

「んでこっちに乗り入れて……そうそうおれ頑張ったの。ここから一応もうウチの敷地みたいだからね。魔法でヒュバババって草刈りして、ズモモモって地面固めて、ポゴゴゴって石どけたり橋架けたり」

 

(((ポゴゴゴ(ぽごごご)……??)))

 

 

 つい先日整備したこの敷地内私道……幸いまだ雨に降られていないので耐候性は不明だが、少なくとも車両重量は問題なく支えることができるようだ。

 表面には小石や砂利を敷き詰めて転圧し、幅も車一台が通るぶんには充分余裕があるといえる。仮に雨に降られてぬかるんだとしても、脱輪やスタックの危険は少ないだろう。

 

 対向車など来るはずもない、おれが一人で整備したとは思えない道を進むことしばし。

 おれの運転するハイエースは……ついにおれたちの自宅へと到着したのだ。

 

 

 

 

「先輩ホント車庫入れ、ってかバック上手いっすね」

 

「やだいきなりセクハラですか!? やめてくださいマネージャーさん!!」

 

「ノワの魔法は『自然環境』と親和性高いからね。まわりの空気を媒介にして、目で見なくても障害物の場所や距離がわかるみたい」

 

「なるほど……狭い路地とか駐車場でも安心っすね」

 

「ねえスルーされるのはつらい。ゆるして。あやまるから」

 

 

 口では下らない冗談を飛ばしているが、身体と頭はきちんと働いているので許してほしい。

 ラニの説明にもあった『空気』を媒介とした魔法……それを応用して、すぐ目の前にある和室の掃き出し窓のクレセントを動かす。するとそれだけで引き違いの大窓はするすると開き、さらに障子を開ければ畳の広間が顔を出す。

 

 一階和室のすぐ西側に整備された駐車スペース……この位置であれば、オウチと車の間で荷物の積み降ろしも簡単だろう。……まぁ今は特に荷物もないけれど、可愛らしいお嬢様がお上品に降りてくるのを眺められたのでヨシ。

 

 

 というわけで、これで無事にお車の回送が完了した。大きく伸びをして上体をぐりんぐりんと動かし、背骨と背筋の調子を整える。

 スマホの時計を見ると、時刻はまだ十三時そこら。予定通りに()()を進められそうだ。

 

 

 突然だが、ここからは二手に別れての行動となる。おれと霧衣ちゃん班と、モリアキとラニ班のふたつだ。

 

 まずおれと霧衣ちゃんはこの場に残り、今からこの車……兼・我が『のわめでぃあ』移動活動拠点の紹介動画を撮影する。アウトドア系の配信者(キャスター)さんたちが自分のアウトドアギアや愛車を紹介したり、キャンピングカーのオーナーさんが愛車の内部を紹介してくれる動画なんかはある種の『お約束』のようなのだ。

 それになにより、ほかでもない『三納オートサービス』さんからの依頼内容でもある。この車両、ひいてはご依頼主(三納オートサービス)の商品の魅力を余すところなくお伝えするのは、立派な広告(コマーシャル)案件なのだ。

 

 そして……もう一方、モリアキ(マネージャーさん)とラニの班。こちらは到着早々申し訳ないが、モリアキ指揮下で買い出しに行ってもらう。

 おれとは異なり完全な一般成人男性であるモリアキは、何一つやましいところが無いので気軽に動き回れるだろう。そこへラニのもつ『空間移動魔法』と『所持品格納魔法』が加われば、ごく少人数でいくらでも(もちろん予算の許す範囲で)買い出しが可能なのだ。

 

 

 

「んじゃあ、コッチはおれたちで始めてるから……そっちはお願いね。はいお財布」

 

「了解っす。とりあえずメモ通りに買ってきますが、他に買うもんあったらREIN入れて下さい」

 

「おっけおっけ。……じゃあラニ、お願いね」

 

「イェスマム!」

 

 

 お調子者の相棒とマネージャーさんが【門】の中へ消えていくのを見送り、おれは霧衣ちゃんと向き合ってお互いに気合いを入れる。あっちは彼らに任せた分、こっちはおれたちの領分だ。がんばろう。

 

 

 っとまあ、少々ドタバタしているのはほかでもない。

 モリアキたちが買い出しに行ってくれているのは……さっそく明日から予定している、車内泊旅行のためなのだ。

 

 気になるその行き先は……ずばり北陸地方。石河(いしかわ)県は金早(かなざわ)市。

 睦月(一月)も半ばなこの季節だが、まだまだ雪や凍結の心配が無いわけじゃない。しかしそんなことは最初から折り込み済み、三納オートサービスさんのほうで予めスタッドレスタイヤを装備して貰っているので、安心である。

 

 そしてそして、ただ旅行に行くだけが目的じゃない。もちろん旅行動画的にはそちらがメインだが……目的地を金早(かなざわ)に定めたのには、動画には残さない『もうひとつの目的』があるからだ。

 

 

 

 このおれの技能を余すところなく発揮できる(見込みの)、動画映え(たぶん)間違いなしの『企画の種』。

 

 それを頂きに向かうのが、真の目的なのである。

 

 

 



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226【納車記念】たのしい共同作業

 

 

 リビングモードの内装設備とレイアウトを一通り撮影して、霧衣(きりえ)ちゃんをお席に座らせてコメントをいただいて。

 その後内装ギミックを操作して就寝モードに変形させて、おれが撮影係なのを良いことにこれまた霧衣(きりえ)ちゃんを横にならせて、とどめとばかりに(万が一にもお下着様が映らないよう気を配った上で)これまたご感想をお聞きする。

 

 当然こういった設備を使った経験がない霧衣ちゃんは、やはり非常に良い反応を示してくれた。箱入りを強いられていた彼女は当然、キャンプやアウトドアなんてやったことが無かったらしいが……やはりもともと好奇心旺盛な性格だったらしく、おれが度々入れていた説明に対して目を輝かせて聞き入っていた。

 多少は『れぽーたー』としてのお仕事に慣れてきたのかもしれないが、生まれ(変わっ)たときからプロ級の技量を身に付けている(設定の)おれに比べると、当然まだまだ言動の端々が初々しく……そこがまた非常にかわいらしい。

 

 

「きゃんぷ……と言うのですか? おそとで眠るというのは、とてもわくわくなものでございまする!」

 

「キャンピングカーあるととても楽なんですが……そのうちテントとかタープを張ってみたり、ハンモック掛けてみたり、焚き火とかでお料理もしてみたいですね!」

 

「わ、わう…………よくわかりませぬが、楽しそうでございまする」

 

「よくわからないのに!?」

 

「…………わ、若芽様が……楽しそうでございましたゆえ」

 

「アッ!! もっ、フォ…………やば可愛(かわ)

 

 

 ヨシ決めたいつかキャンプしよう。タープも焚き火台もハンモックも買おう。おれは絶対この可愛い子とキャンプに行くんだ。

 そう強く心に決めながら密かに悶絶しながら、おれは撮るべき画をカメラに収めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 やがて、こちらの撮影は順調に片が付く。

 余計なところを削って省いて、一方でオープニングとエンディングとアイキャッチなんかを追加すれば……動画にしてみれば、おそらく二十分程になるだろうか。

 自分で編集を仕上げるか、それとも鳥神(とりがみ)さんのところに依頼するのか。そのあたりはまだ決めていないが、先日預けた動画を確認してから判断するとしよう。

 

 なにしろ、明日からは一泊二日で遠出の予定だ。

 ちゃんとした目的があるので完全に遊びというわけではないのだが、交通手段がキャンピングカーともなればワクワクもひとしおだろう。

 

 

「では……わたくしは夕餉(ゆうげ)の用意に行って参りまする」

 

「ん……おねがいね、霧衣(きりえ)ちゃん。モリアキとテグリさんもいるから、ちょっと大変かもしれないから……お手伝いが必要だったら言ってね」

 

「はいっ。頼らせていただきまする」

 

 

 担当分の撮影が無事完了し、霧衣(きりえ)ちゃんは夕食の準備を始めるべくおうちへと戻っていく。今夜のごはんはモリアキも一緒なので、今から楽しみだ。

 

 買い出し組はもうすぐ戻ってくるだろうとアタリをつけ、おれは今できる翌日の準備に取りかかる。

 まずは後部ハッチを開けて常設ベッド下の収納庫を開き、給電ケーブルを取り出す。車両外部に設けられたソケットにケーブルを差し込み、もう一方のプラグをおうちの外部電源コンセントへ……ブスッと。

 内蔵インバーターだかコンバーターだかインベーダーだかよくわかんないが……とにかくこれでサブバッテリーに充電が始まり、車内灯や冷蔵庫の電源として使えるようになるのだ。

 

 バッテリーのほうは、あとは放っておけば大丈夫だろう。つぎは目的地のセットを行っておこうと思う。

 スマホを取りだしてメルオク(オークションアプリ)を開き、取引相手とのコンタクト履歴を呼び出して確認する。

 今回の取引は扱うモノがモノであるのと、また出品者の方に直接お目通り願いたかったこともあり、郵送ではなく直接受け取りに伺う運びとなっているのだ。

 

 

「えーっと……いしかわ県……かなざわ、は…………あったあった」

 

 

 車載ナビに目的地住所を入力し、予測時間と経路を確認。取り得る選択肢はどうやら二つ。

 ひとつは、いうなれば『山ルート』。この岩波市からほぼ真北へ突き進むルートで、所要時間は休憩を加味して五時間程度。いちおう最短ルートではあるが山間部を進んでいくため、高速道路でさえも()()()()と細かく蛇行している。

 そしてもうひとつは……『海ルート』とでも表現するのが妥当だろうか。まずは北西方向へ向かい、志賀(しが)県と福居(ふくい)県を経由し日本海側を北上していくルート。道のりは割と長くなるが、いっぽう時間は意外と増えないらしい。せいぜいプラス二十分程度のようだ。

 

 山ルートか、海ルート。

 どちらを選択しても最終的には変わらないのだが、やはりここは皆の意見を聞くべきだろう。旅の打ち合わせって楽しいし。

 とりあえず、目的地を仮セットしておく。これで明日『目的地履歴』から選び直せるので、わざわざ改めて住所を入力する手間も無いだろう。

 

 

 

「ノワー! お待たせー!」

 

「せんぱーい戻りましたー」

 

「んおおー! おかえりー!」

 

 

 車のリアがわ、おうちの玄関がある方向から、シオンモールへ買い出しにいってくれていた二人の声が近付いてくる。

 撮影に少なからず時間がかかっていたとはいえ、この間で買い出しを済ませてくれた手際の良さは『さすが』というべきだろう。

 

 

「メモにあったブツは一通り揃えて、白谷さんに仕舞って貰ってます」

 

「ありがとラニ。じゃあ……ごはんまでまだ時間あるし、ごめんだけど出してもらって良い?」

 

「オッケー。じゃあこの……『タタミ』の上に並べてくね」

 

 

 駐車している車のすぐ隣、十畳和室の片方に、二人に調達してもらった品々が次から次へと並べられていく。その中から必要なものをピックアップし、キャンピングカー車内各所の収納へ納めていくのが、今から行う作業である。

 

 

 包丁とまな板、割れないプラ製の食器セットが四人分、アウトドア用カセットガスコンロと、同調理器具セットとケトル、除菌ウェットティッシュに洗剤とスポンジ、そして調味料各種。

 とはいえ正直いって、この車内キッチンで料理をすることはほぼ無いだろう。今日日(きょうび)よっぽどの秘境でもなければコンビニやスーパーで食事を調達できるし、冷蔵庫さえあれば保存も問題ない。アウトドア用コンロやIHヒーターを持ち込めば、熱源を利用した調理も出来なくは無いが、この車の装備としては水栓とシンクのみのコンパクトギャレーなのだ。

 用途としては、せいぜいお茶やコーヒーを沸かす程度だと思うので……つまりはこれで充分だろう。

 

 他にとりいそぎ必要なモノとして、冬用の寝袋(シュラフ)が三つとフリース毛布が三枚。後部の常設ベッド部分へと投げ込んでおく。

 寝袋(シュラフ)は化繊なのでそこまでコンパクトには出来ないが、車内で使う分には問題ない。価格が安く、手入れもしやすいのが化繊のメリットだ。

 

 そして忘れちゃならない……運転中にラニちゃんが転がっていかないための、座席兼ベッドの素材。こちらは深みのあるプラカゴに大判タオルを畳んで敷いて用立てようと考えている。プラカゴ自体を壁面の棚なんかに固定すれば、中身(ラニ)が転がってくこともないだろう。

 いちおう『本人が気に入ったやつを買ったげて』と指示はしておいたので……きっと直接触って身体をうずめて、『これだ』というお気に入りを選んだことと思う。

 

 

 

「いやぁー……高級なの選んでましたよ白谷さん」

 

「ぇえ、お目が高いこと」

 

「そりゃね。直接ボクの身体を預けるわけだし」

 

「アッふしぎ!! ラニちゃんが言うとエッチに聞こえる!!」

 

「ホントだ!! ふしぎっすね!!」

 

「なんなのさ二人とも!!」

 

 

 ともあれ、これで明日に向けて車の準備は整った。

 遠足の前日がいちばんワクワクする、とはよく言ったもので……おれにとって楽しみで楽しみで仕方ない旅行とその前夜が、いよいよ始まろうとしているのだ。

 

 

 



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227【納車記念】たのしいおとまり

 

 

 こんなこともあろうかと、余裕のあるサイズの六人掛けダイニングセットを買っておいて良かった。

 テグリさんとモリアキを交えての、いつもよりも賑やかな夕食の席……今日も今日とて霧衣(きりえ)ちゃんが腕によりをかけて作ってくれた、自慢の和風洋食(?)メニューである。

 

 

 なんでも聞くところによると、霧衣(きりえ)ちゃんの種族である【白狗】……どうやら外見に現れているように、狗としての性質も幾らか引き継いでいるらしい。

 真面目で忠実、しかし好奇心旺盛……といった性格的な部分だけでなく、たとえば聴覚や嗅覚が非常に敏感だったり、人間離れした運動神経を発揮できたりといった身体機能的な部分においても、それは顕著のようだ。

 歴代の【白狗】は対魔のために振るっていたその能力、神様の御遣いとして用立てられた人外の力を……このハチャメチャ可愛い上に桁外れの女子力を誇る霧衣(きりえ)ちゃんは、なんと『お料理の味見にもってこいだ』ということに気づいてしまったらしい。

 先日の『はじめての洋食』の成功に味をしめた彼女は、今となっては積極的に試行錯誤を繰り広げている。

 

 

 というわけで、今晩のメニューは白米と豚の生姜焼、ほうれん草(とベーコン)のバター風味おひたし、そして具だくさんポトフ(※合わせ味噌仕立て)である。

 例によってコンソメの代わりに和風ダシ、おまけに味噌で調味された和風洋食だが……うん、めっちゃうまいんだよな。野菜の茹で加減もちょうど良い。

 

 

「おいしい!」

 

「すごいおいしい!」

 

「うわめっちゃウマ」

 

「……大変美味しゅう御座います」

 

「ふふっ。……なによりでございまする」

 

 

 気心知れた仲間と囲む……()()()ではない()()をさらけ出せる、とても気楽な夕食。

 

 それは美味しくて暖かくて……こんな可愛い子にこんな美味しいごはんを作って貰えるおれは、きっと特別な存在なんだと思いました。

 

 

 

 というわけで、たいへん楽しい夕食のひとときを堪能し終え……なんと本日、わがやは初の宿泊客であるモリアキ氏をお迎えすることとなっている。

 満面の笑みで引き受け譲ろうとしない霧衣(きりえ)ちゃんと、手伝う気満々のテグリさんにお片付けを任せ、おれたち三人はお客様の寝床の準備を開始する。

 

 まだ少し閑散としているリビングダイニング片隅の引き戸を開き、二間続きの和室へ。南側の和室にはラニの【蔵】から取り出された品々が並んでいるが、北側の和室はまるまる空いている。

 本日お客様には、こちらのお部屋をご利用いただく予定となっております。

 

 

「いやいやいや……一人で使うには広すぎっすよ……」

 

「……うん、普通六畳とか……場合によっちゃ四畳半だもんな」

 

「でっかい寝台(ベッド)でもあったほうが良かったんじゃない?」

 

 

 これまたラニの【蔵】に収まっていた、つい先程調達してきてもらった新品の布団セットを開封しながら……おれたちは今更すぎる感想を溢していた。

 なにせ……十畳だ。さっき言ったように、普通の客間の二倍近い広さなのだ。ふとんを六人分は敷けそうな広さに、たった一人ぶんのふとんが『ぽつん』と敷かれた状態は……なんというか、非常にもの悲しい。

 

 

「やっぱさ、おれの部屋で一緒に寝る?」

 

「以前ならともかく今は断固拒否します」

 

「なっ……なんでよぉ!」

 

「なんでじゃありません! いい加減『女の子』の自覚持ちなさい!」

 

「いやだね!! ことわるね!! おれは今でも『男』だもんね!!」

 

「……などと意味不明な供述をしており」

 

「うん……さすがに無理があると思う」

 

「グヌヌーーーー!!」

 

 

 

 おれの名案は断固として断られてしまったが……まあ、広すぎて落ち着かない以外は、実際申し分ない環境だと思う。

 こちらの北側和室であれば、直接玄関ホールへと出ることができる。他の部屋やリビングを経由する必要がないので、おトイレやお風呂場にもアクセスし易い。

 

 広すぎて落ち着かない、というデメリットに関しては……今度どこかで衝立のようなものでも調達しておこう。

 彼が気軽に泊まってくれるようにするために、いろいろと環境を整えていかないと。

 

 

「とりあえずふとん敷いたけど……あぁ、コンセントそこにあるから。電気のスイッチそこで、トイレは階段横ね。……大丈夫? こんなんで」

 

「充分っすよ。ありがとうございます」

 

「ん。あぁあと、一階のお風呂モリアキ使って良いよ。スゲーぞあの浴槽」

 

「正直楽しみなんすけど……先輩いつ入ります?」

 

「気にしなくていいよ。おれ二階のシャワー使うし」

 

「…………本当この物件ハンパ無いっすね」

 

「そうだよね……」

 

 

 正直この物件、おれたち三人だけで使うにはかなり持て余している状況なのだ。

 しかも年頃の女の子である霧衣(きりえ)ちゃんはまだしも、ラニに至っては私室を必要としていない。広さあたりの人口密度は非常に低く、この広さでは逆に寂しさを感じてしまう。

 

 以前のように一緒の部屋で、すぐ隣で就寝するのは無理だとしても……モリアキが『お泊まり』してくれるのは正直嬉しいし、また泊まりにきてほしい。あわよくば頻度を上げてってほしい。

 

 

 

「よしじゃあ……寝床も用意できたし」

 

「うっす。ありがとうございます」

 

 

 レジャー十割の旅行……とまでは行かずとも、実質ほぼ()()である遠出を翌日に控え、しかし時刻はまだ二十時そこら。

 健全な成人男性ともあろう者らが、こんな状況で寝付けるわけもない。

 

 

 ……よって。

 

 

 

「よっし! 飲むか!!」

 

「良いね良いね! いやーボクも買い出しのときから楽しみでさ」

 

「相変わらず犯罪的な組み合わせっすね……幼女と酒」

 

「失礼な! 子ども扱いしないでくれる!?」

 

「飲み過ぎないで下さいよ……明日ドライバーなんすから」

 

「子ども扱いしないで……あっドライバー! 大人(オトナ)扱いだ! やった!!」

 

 

 就寝の支度が整った和室の片隅、畳の上に直で座り込んで、白谷さんの【蔵】からお酒とおつまみを取り出していく。少々お行儀が悪い自覚はあるが、学生時代を思い出して非常にワクワクするので仕方ない。

 テーブルクロスがわりのフロアシートを拡げ、おつまみとポテチをパーティー開けする。各々手に取った酒の封をカシュッと開け(ラニは紙コップから自分用カップで汲み取って)……一同は片手で掲げつつ、定番の掛け声を上げる。

 

 

 

「じゃあ……程ほどに楽しみましょう! 乾杯!」

 

「「かんぱーい!!」」

 

 

 成人男子どうし(強調)の楽しい宴が、幕を開けた。

 

 



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228【納車記念】たのしい作戦会議

 

 

 今でこそこんな可愛らしい身体だが……何度も念押ししているように、おれは三十代成人男性である。

 運転免許をちゃんと持っていることからも、おれがれっきとした大人であるということがご理解いただけることだろう。そして立派な大人であるのだから、当然お酒だって飲めるのだ。

 

 この身体になりたてのとき……コンビニでお酒を買おうとして、無情にも断られたときのことを思い出す。

 あのときは『大人である』と証明できる手段が無かったために涙を呑んだが……免許証を手に入れたおれにとっては、もう怖いものなど何も無い。

 お酒はもちろん、エロ本だって堂々と買えるのだ。おれはおとなですから。

 

 

 なので……つまりは、合法!

 

 

 

「こーゆー機会でもねーと堂々と飲めねーからなぁ……」

 

「でも免許証あるならお店でも出して貰えるんじゃないんすか?」

 

「そうなんだけどさ……そりゃ居酒屋とか行きたいけど、まわりのひと混乱するだろうし、実際めっちゃ目立つだろ? おれがまわりからどう見られんのか、だんだん理解(わか)ってきたし」

 

((理解(わか)ってないんだよなぁ……))

 

 

 酒飲みばかりが大勢ひしめく大人の空間に、見た目年齢十歳そこらで奇抜な髪色の幼女が居たら……そりゃあ良くも悪くも注目を浴びてしまうだろう。

 いくら法律的にセーフだとはいえ……食事中に盗み見されたり会話を盗聴されたり、盗撮されてネットに晒されたり背ビレ尾ヒレ付けられて噂話にされたり……といったことも充分に有り得る。

 つまりは、安心してお酒を楽しむことが出来ないのだ。……完全個室居酒屋とかなら、まあそこそこ安心できるのかもしれないが。

 

 

「おれみたいなヤツとか、そもそも異分子だろうし。今まで通りの生活送れるとは思ってないけど……」

 

「……そういえば、ノワ……あの二人組」

 

「うん。やっぱそうだよね。……おれの()()だと思う」

 

「……夕方にカチ合った、っていう……女の子二人組っすか」

 

「ずるいよなぁ……見た目は普通の日本人美少女って感じだったから、おれみたいにひそひそされないだろうし……」

 

「ぇえ……そこ?」

 

 

 『苗』による存在改変を受け、異能を行使できるよう身体そのものを作り替えられた存在。彼女たちが()()なった経緯は、おれたちには知る由もないのだが……その出自はまさしく、おれと同じといえるだろう。

 

 おれのような存在……非現実な異能力を操る『ファンタジー』な存在が、おれ以外にも存在していたのだ。

 

 

「まぁ、これまでも(フツノ)さまご一行っていう『例外』はあったみたいだけど……」

 

「コッチの世界、市井の民から『魔法使い』が生まれるのは、滅多に無いことなんだろ?」

 

「滅多に、っていうか……少なくとも平成以降は聞いたこと無いっすよ」

 

「昭和も大正も明治も居ないと思うけどね」

 

「江戸、は……ちょっと居そうっすね」

 

「なんかひっそり居そうだから困る。陰陽師とか祈祷師とか妖怪退治してそう」

 

 

 

 まぁ……とにかく。

 浪越銀行襲撃事件とか、空港島の濃霧事件とか、今回の白騎士竜巻事件とか……毎回テレビやネットニュースで有ること無いこと大騒ぎされるくらいには、この世界にとってファンタジー要素は『異端』であり『非日常』なのだ。

 

 

 

「おれ以外にも……何かのキャラクターになっちゃった人とか、居ないのかなぁ」

 

「ぇえ……つまりそれって『キャラになれない事実に絶望して自死を選ぶ』くらいの想い入れってことっすよね……ちょっと厳しいんじゃないっすか?」

 

「んー……そうだね。そこに加えて、別位相に潜む『種』が接触していることも必要かな。『種』そのものは動かないから、ヒトの方から接触するか……()()()に直接植え付けられるか」

 

「おれのときは……いちばん最初にばら蒔かれた『種』が直撃した、ってことみたいで」

 

「あー……現在は直接()()に行けるモノが居るんすね。じゃあ居る可能性少しは上がっちゃったり……」

 

「もしくは単純に……おれと同時期に生まれ変わって、今まで誰にも気づかれずにずーっと引きこもってるとか」

 

「居ないとは言い切れないね。実際、すてらちゃんとつくしちゃん……あの子らの存在だって、ボクらは全く知らなかった」

 

 

 おれ一人だけが選ばれ、おれ一人が反則(チート)的なスペックを獲得しているだなんて、そんな自惚れを抱くつもりは無い。

 あの女の子たちのように『力』を手にした人が今後現れないとも限らないし、おれたちが気付かないだけで既に居ないとも限らない。

 

 願わくば……仲間になってほしいとまでは言わないが、敵対しない存在であってほしい。

 

 

「まぁ事実がどうであれ……すてらちゃんみたいに派手な行動を起こしてくれない限りは」

 

「探しようがないもんなぁ…………あーもー! 心配するだけ無駄だ無駄! おれは飲むぞ!」

 

「もう飲んでるじゃないすか。しっかりして下さいよ。もう酔っ払っちゃったんすか?」

 

「はー? おれおとなだし。おとなは酒に強いんぬゃぞ? だから飲んでもいいんやぞ?」

 

「そうだね、ノワはオトナのレディだよ。ほらもっと飲んで飲んで」

 

「んふふふュ……んへへへ……えへひュへ」

 

「ちょっ…………白谷さん? ほどほどにね? これ明らかにデキあがっちゃってますよ?」

 

「大丈夫。いざとなったら【治療(キュラティオ)】で一発よ」

 

「ワァ魔法スゲェ!! 情緒もへったくれもありゃしねえ!!」

 

 

 モリアキとラニが仲良さそうに……とてもとても仲睦まじく笑いあっていることまでは、なんとか理解することができた。

 ひさしぶりの酒精に侵されたおれのあたまが認識できたのは、どうやらここまでのようだった。

 

 

 

 

 だからですね、あの、正直よく覚えてないんですが……

 

 

 おれ、何かやっちゃいました……?

 

 

 



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229【納車記念】たのしい暗雲

 

 

 聞きなれた携帯のアラーム音に、深い眠りに落ちていたおれの意識が引き上げられる。

 ぱちりとまぶたを開き、自分の身体が置かれた周囲の環境から読み取った情報にて、今現在の状況を確認し把握する。

 

 少しずつ慣れてきた自室のベッド。すぐ傍には丸まって眠る小さな相棒。一見いつもと変わらない朝の光景だが……徐々に働き始めたおれの思考は、いつもと違う状況を思い出す。

 

 

 そうだ。きょうは……いや昨晩は。

 引っ越してから初めて、モリアキがうちに泊まりに来てくれたのだ。

 

 

 

 

「おはよう霧衣ちゃん! あとモリアキ!」

 

「オ゛ッ!? ……おはようございます先輩」

 

「……?? おはようございます、若芽様!」

 

 

 おれがそこまで寝坊助(ねぼすけ)くんというわけでも無いはずなのだが、二人ともなかなかに朝が早い。

 おまけに二人ともかなりの料理好きにして、またかなりの料理上手なこともあり……既にダイニングテーブルには当たり前のように朝ごはんの準備が整い始めていた。

 

 準備をほぼすべて丸投げしてしまうことを詫びながらも、二人からは『好きでやってることですし』と返される。いつものことながらとてもありがたいことだし、とても良い子たちだと思う。

 

 

 

「先輩……昨晩のこと覚えてます?」

 

「え? どれ?」

 

「いやあの、ですから……夜っす。酒盛りしたときの」

 

「おれの同類がいるかも、っていう?」

 

「いえ……えっと…………そのもっと後、っていうか」

 

「……………………え、何? わかんない」

 

「いやいやいやいや! 覚えてないなら良いんす! 大したことじゃないんで! 絶対!」

 

「??? そう? へんなの」

 

 

 勿体つけた彼の言葉に気になるところが無くはないのだが……本人が『大したことじゃない』というのだから、気にしなくても良いのだろう。

 言われた通りに軽く流し、おれは朝ごはんの準備を手伝おうとして……

 

 

「あっ! 若芽様! モリアキ様が居られますゆえ、あさげのお力添えは大丈夫でございます!」

 

「えっ!? アッ、ハイ……スマセン」

 

「じゃあ先輩、出発の……車の準備と、あと窓の閉め忘れ無いかチェックした方が良いんじゃないっすか? 今日たぶんずっと雨っすよ、空模様が悲惨っす」

 

「ま、まじで!? わかった窓みてくる!」

 

 

 せっかくのお出掛けなのに、雨だなんてついてない。まるで何かよくないことの前触れなんじゃないかとも一瞬だけ思ったが、さすがにそれは考えすぎだろう。

 

 雲が出るのも雨が降るのも、当然ごくごくありふれた自然現象に過ぎない。大雨が降り豪雨に見舞われることだって当然のことだと、おれは自分の思考にツッコミを返したのだが。

 

 

 

 勘が良い……というよりはむしろ『フラグ』と呼ぶしか無さそうな自分の()()に頭を抱えたくなるだなんて……このときはまだ思いもしなかった。

 

 

 

 あわただしくも平和な朝のひとときは過ぎていき……おれたちにとって大きな転機となるその一日が、こうして始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

「いやー……結構降ってきたね」

 

「ですねぇ。先輩の魔法のお陰で助かったっすよ、濡れずに乗れたの」

 

 

 テグリさんを呼んで寝ぼけ(まなこ)のラニを座らせて、みんな揃って朝ごはんをいただいて後片付けをして……深々と頭を下げ『副業』へ向かうテグリさんと別れ、おれたちは大雨の降りしきる岩波市をあとにした。

 必要な準備は前日のうちに済ませていたので、あとは各々の手荷物を抱えて車に乗り込むだけだ。らくちん。

 

 

 

「申し訳ございませぬ……わたくしの裾まで気を使っていただき……」

 

霧衣(きりえ)ちゃんを可愛がりたいおれのワガママだから良いのよ! でも実際さ、昨日のうちに積み込み終わらせといて良かったな。あと充電も」

 

「うんうん。作ってもらった寝床もふかふかで気持ちいいし」

 

「そう? 良かっ…………座席だからね!?」

 

「えー、いいじゃんべつに」

 

 

 おれのエルフとしての全方位知覚能力と反射神経をもってすれば、万が一にも事故ることなどあり得ないと思うけど……その『万が一』が起こってしまった際には、シートベルトを締めているかいないかで生存率は大きく変わってくる。

 車外に投げ出され、固い道路に叩きつけられる悲惨な事態を防ぐための座席なのだが……空中で制動を掛けられる彼女(ラニ)にとっては、そこまで危険という意識が無いのかもしれない。

 

 

「ほら、隣の霧衣(きりえ)ちゃんを見習って。シートベルト……の代わりのゴムバンドかけて」

 

「やだよ苦しいもん。ボクは胸まっ平らだから。キリちゃんと違ってクッション無いし」

 

「ひゃう!?」

 

霧衣(きりえ)ちゃんと違って平らなおれだってちゃんとシートベルトしてるんだからね!?」

 

「あっ、あっ、あっ、あのっ、」

 

「ノワは服着るとペタンに見えるけど、ちゃんとやわらかいってボク知ってるし。ノワは自分が思ってる以上にオンナノコの身体だってこと、ちゃんと自覚して? モリアキ氏も何か言ったげてよ、昨日思い知ったろ?」

 

「オレは何も知りません! 記憶にございません! リアクションに困る話題なんでそろそろやめてもらって良いっすか!?」

 

「えっ? あっ……ハイ」

 

 

 

 ……まぁ全てにおいて、おれが事故らなければ良いだけのことなのだ。

 妖精である彼女に人間用の法律が適用されるとは思えないし、そもそも検問を受けてもバレる可能性は絶無。そもそも空中で自在に制動が掛けられる上にパッシブ防御魔法も働いているので、投げ出され怪我する危険は無いのだが……それでも、安全運転は絶対である。なにせモリアキや霧衣(きりえ)ちゃんも乗っているのだ。

 友人よりも濃い間柄である面々、彼らの命を預かっていることを改めて念頭に置き……おれは運転に集中する。

 

 短くない金枠(ゴールド)ドライバーとしての経験に加え、探知魔法による周辺警戒を入念に行い……一般のベテランドライバーよりも遥かに高性能な危険察知能力を持つおれは、高速道路を順調に北進していった。

 

 

 

 

 ……そう、高速道路。

 

 ひとたび本線に乗り入れてしまえば、サービスエリアやパーキングエリアを除いて一切の駐停車が不可能。

 最高時速一〇〇キロで走り続け、信号や踏み切りによる途中停車も一切無い……逃れる(すべ)が一切存在しない、自動車専用道路である。

 

 



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230【途中離脱】異常気象ってやつか

 

 

「モリアキ運転代わって! 早く! はやぐがわっでェェ!!」

 

「いーやいやいやいやいや!! そんな無茶言わんで下さいよ!!」

 

「わっ、わっ、わっ、わたくしが! わたくしが代わりに!」

 

「ありがたいけどきりえちゃん未成年だし! 免許証ないでしょ(多分)! 気持ちは嬉しいけど危ないから座って!」

 

「わ、わううう……」

 

 

 

 ドタバタと非常にあわただしい空気に満たされた車内……交通量も増えてきた高速道路とあっては、止まらず走り続けるしかない(※交通量が少なくても止まっちゃダメです)。

 

 どうにかして運転を代わってほしいおれと、運転を代わりたいけど停車しないことにはどうしようもないモリアキと、どうにかおれたちの役に立とうとしてくれてる霧衣(きりえ)ちゃんによる活発な意見交換が交わされているところだが……いったい何が起こったのか、ここに至るまでの流れをちょっと説明しておこうと思う。

 

 

 

 

 

 おれたちのおうちの最寄りインターから高速に乗り、ウキウキ気分でとりあえず西に進む。

 せっかくなので景色のいい道を走りたかったのと、あと霧衣(きりえ)ちゃんが車酔いに弱そうだったのでグネグネ道は避けたかったこともあり、結局おれたちは海沿いのルートを選択した。時間はあんまり変わらないみたいだし。

 

 というわけで。まずは浪越市を横切るように、都市高速をひた進む。勢いを増しつつある生憎の雨模様だが、雨粒が車に触れる直前に魔法で弾いていたので雨音が響くこともない。

 各々くつろいだり、冷蔵庫でひえひえの飲み物を飲んだり、他愛のないおしゃべりに興じていたりと……車内はとても平穏なものだった。

 

 

 

 その平穏が砕かれるのは……都市高速から外れ、琵琶湖方面へと進んでいたときだ。

 

 

 

 何度目かわからないサービスエリアを『まだ疲れてないし』とスルーした直後、ラニ(に貸したまま)のりんご印タブレットから、REINの着信音が鳴り響いた。

 発信者は『鶴城技研部・清雪』……おれたちが厚意に甘えて一号羅針盤の管理をお願いしている、鶴城(つるぎ)神宮の技術者さんである。

 

 そんなセイセツさんからの、急を要する音声通話ともなれば……内容は言うまでもないだろう。

 

 

 

「モリアキごめん地図開いて! スマホ地図でいいから!」

 

「り、了解っす!」

 

「ラニ、おうちの……二号羅針盤の針は!?」

 

「今繋いで……映った。うん、二八二度。動いてるね」

 

「先輩のおうちがここで……二八二、と。白谷さん、セイセツさんは何て?」

 

「一号は二一八度だって。鶴城神宮から」

 

「だいたいこっちの方で……浪越港水族館のあたりっすかね?」

 

「港区!? そっち【座標指針(マーカー)】置いてないよ! あぁもう!」

 

 

 

 

 

 ……というわけで、現在『どうしよう』『やばいじゃん』と大慌ての真っ最中なのだ。

 

 

 反応のあった地点に駆けつけようにも、時速一〇〇キロで爆走する車内で【門】を開くことはできない。

 停車中ならまだしも、あれは開く座標をしっかり指定してやらなければならない魔法であるらしい。不安定な車内で開こうとすれば、壁や周囲の構造物を削り取ってしまう恐れもあるし、最悪キャンピングカーそのものを収納されてしまいかねない……とのことだ。

 そうなるとおれたちは、時速一〇〇キロで路面に放り出されることになる。つまりは死ぬ。

 

 

 それを抜きにしても、悲しいかな運転手(ドライバー)であるおれが手を離せない。

 ラニには悪いが窓から飛び出てもらって、一人で現場へ急行してもらおうかとも考えたのだが……そもそも彼女(ラニ)は『浪越港水族館どこそれ』な感じだろう。通話代わりの思念は飛ばせても、ラニの現在地がわからなければ指示の出しようがない。

 

 一般道ならまだしも……そしておれが後部座席に座っていたならまだしも、運転手だったのが運の尽きだ。

 反応を検知した現場へ向かいたいのは山々だが、しかし今は身動きが取れない。結局次のサービスエリアに到着するまで、おれたちは出撃を見合わせねばならなかった。

 

 

 

 

 そしてこのことが、おれたちの置かれる環境を大きく変化させてしまう出来事……その一因となってしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 神ヶ見(かがみ)湾に面した埋め立て地の埠頭……そのひとつ。浪越市(なみこし)港湾エリアの主力観光施設である『浪越港水族館』は、広い都市公園の一画に建てられている大型施設である。

 二つの羅針盤が指し示した先、つまり『苗』の活動地点予測として目をつけたランドマークこそ此処(ココ)なのだが……所詮は目測による()()()()の算出に過ぎない。

 到着まで時間が掛かってしまったこともあり、大きな誤差があることを織り込んだ上で、おれたちは肉眼での周辺索敵を余儀なくされたのだった。

 

 とはいえ、雨はどんどん勢いを増していく。それどころか風まで強くなってきており、まるで台風か何かかと錯覚してしまうほど。

 魔法による耐風姿勢制御と対水滴防護を行っていなければ、あっという間に吹っ飛ばされてしまうことだろう。

 

 

(視界悪いよぉ!! 雨強いよぉ!!)

 

(どこだ『苗』……この悪天候だし、やっぱ建物の中か!?)

 

(有り得る。けど…………やっぱ水族館の中かなぁ? っていうかそもそも、どんな『願い』を発現させたのかも解らない)

 

(それね。やっぱ肉眼で『苗』を確認するしかない)

 

(……っし。おれ中探してくる。ラニは)

 

(おっけー、周辺探してくるよ。気を付けてね相棒)

 

(無理すんなよ相棒)

 

 

 

 

 耐風雨魔法を展開したラニと別れ、おれは浪越港水族館へ向けて下降していく。

 入場ゲートは狭く、当然係員と監視カメラの目があるが、全力で隠蔽魔法を展開すれば掻い潜れそうだ……と思ったところで、なにも正面から入る必要は無いと気付く。

 中庭部分にある大型の屋外プール……晴れた日にはイルカショーとかが行われそうなスペースの観覧席へと降下し、改めて魔法で姿をくらませてから突入する。

 

 

(……騒ぎになってない。ハズレか?)

 

(他の屋敷も特に騒ぎになってないよ)

 

(そんなバカな。この悪天候で外にいるわけ無いだろうし)

 

(ノワ、『二号』は? まだ見れる?)

 

 

 館内を静かに疾走しながら、大丈夫だと思うが人々と監視カメラの視線から外れた物陰へと滑り込む。

 スマホを取りだし『見守りカメラ』を立ち上げ自宅の様子を確認すると、そこには先程と同じ角度を示す羅針盤の姿。

 

 つまり、『苗』はまだ健在……だったのだ。()()()()()()()

 

 

 

(当たり前だけど、まだ二八二度のまま。さっきと……同……じ? えっ!?)

 

(ちょ、ちょっ!? ノワ! 外が!)

 

(ねえラニ! ねえラニ針! 針が!)

 

 

 

()()()()()!!)

 

()()()()()!!)

 

(えっ!!?!??)

 

(えっ!???!?)

 

 

 突然動いた羅針盤の針……それはつまり、先程まで検知していた『苗』が何らかの事情により消失し、標準(デフォルト)位置へと戻っていることを示している。

 外の暴風雨が突然終息した(らしい)ことと併せ、どうやらあの荒天が『願い』だったのだろうか。

 

 

 ……いや、それは別に良い。良くないが別に良い。問題はそこじゃない。

 おれ以外の何者が『苗』を駆除したのか。今気にすべきはそちらだろう。

 

 言葉を失い、しばし立ち尽くすおれ。当然動いてなかったし、物音も立ててなかったはずなのに。

 

 

 ……それなのに。

 

 

 

 

 

「――――其所(ソコ)で何をしておる」

 

「!!?」

 

 

 

 物陰に隠れ、魔法で姿を滲ませ、物音さえも立てずに思考していたおれを射抜くように。

 

 この場には全くもってそぐわない、存在すること自体が全くもって有り得ない……しかしおれにとっては見覚えのある姿が、揺らぐことなくこちらを凝視していた。

 

 

 

 乳白色の長い髪が、ふわりと翻り。

 

 灰白色の大きな瞳と、目があった。

 

 



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231【途中離脱】強行突入のち誘拐

 

 

「……其処(ソコ)な客人よ、改めて問おう。……我等(われら)が領にて何を企てておる」

 

「………………なん、で」

 

「この期に及んでなお姿を隠そうなどと、無駄なこと。……余の眼には見えずとも、親愛なる余の()が告げておる。……其所(ソコ)に『奇妙なヒトが潜んでおる』とな」

 

「!!?」

 

 

 

 

 慌てて周囲を見回すが……彼のいう『民』とおぼしき()の姿など、どこにも見当たらない。

 

 ショーが行われる屋外プールのスタジアム客席から入って、すぐの階段を一階分降りた現在位置。

 悪天候でショーが中止となった今現在、周囲に人影は見当たらず……ただパフォーマンス用のメインプールを通して揺らぐ光が、あたりを神秘的に照らすばかり。

 

 目の届く範囲では、おれと眼前の彼以外まったくの無人。

 しいていえば……競技用プールに繋がる大水槽のカマイルカと、その隣の別の水槽を悠然と泳ぐシャチ、そしておれのすぐ横をくるくる回りながら通り過ぎるシロイルカくらいだろうが……

 

 

 ここまで認識したところで、思い出した。

 姿を隠したまま微動だにできないおれを睨み続ける、突如現れた眼前の人物。

 

 おそらく今回出現した『苗』の駆除を執り行った張本人、儚げで可憐な少女にしか見えない少年の……その堂々たる肩書きを。

 

 

 

 

「お騒がせして、すみません。……ご無沙汰です、ミルクさん」

 

「……ほお? 感心だな。余の名、を……知って…………お……りゅ……………はぇ?」

 

「なるほど……水底の領主様、ですもんね。……えっと、まさかですが……この子達と意思疏通できちゃったりする、とか?」

 

「へあわ、わかっ、わわわっ、わっ、わか、っ……わわわわ」

 

「おおお落ち着いてください! 落ち着いて! ミルクさん! 落ち着いて!!」

 

 

 

 隠蔽魔法を解除して姿を表すや否や、おもしろいようにキョドって平静を欠いてしまったミルクさん……色々と聞きたいことはあるのだが、この様子では落ち着いてお話を聞くことは難しそうだ。

 当初の懸念であった『苗』の反応は消失したものの、当然だがここは一般施設であり、おれたち以外にも人の姿は在って然るべきだ。おれのお利口なエルフ頭脳は、今後おれが取るべき行動を素早く組み立てていく。

 

 おれはもとより……ミルクさんの容姿も、この現代日本にはどう考えてもそぐわない。大衆の視線に晒されるのは、恐らくだけど宜しくない。

 なにはともあれ今は、この場を離れることが先決だろう。事情聴取は落ち着ける場所へ移ってからでも問題ない。

 

 

(ラニ! 緊急事態! おれの入った入り口わかる!?)

 

(へぁ!? わかったすぐ行く! 大丈夫、覚えてるよ!)

 

(おねがい! 入ってすぐのところにトイレあるから、そこで【座標指針(マーカー)】打って【門】ひらいて!)

 

(わかった。……確認するけど、女子トイレで良いんだよね?)

 

(はー!? やだよおれ男子だし!?)

 

(何言ってんのこの子! 男子トイレからファンタジー美幼女出てきたら大騒ぎでしょお馬鹿!! ち◯ち◯無いんだから諦めなさい!!)

 

(ぐぬぬ)

 

 

 

 撤退の準備と、再出撃のための布石は打った。あとはお客さんやスタッフさん等に見つからないように……誰にも見られないように撤退を完了させれば、とりあえずは安心だ。

 

 

「……ミルクさん、立てます?」

 

「わ、わわっ、わわわ、わっ、」

 

「なるほどわかりました無理ですね。……ちょっとごめんなさい、失礼しますね!」

 

「わ゜ー!?」

 

 

 大丈夫じゃなさそうなミルクさんを横向きに……俗にいう『お姫様抱っこ』の形で抱き抱え、身体強化(フィジカルバフ)を纏い階段を掛け上がる。

 抱き上げたその身体は小さくて軽くて、それこそまるでお姫様みたいだ。……本当に()()()()んだろうか。にわかにはしんじられない。おれには()()()()()というのに。

 

 

 いや、やめよう。今は余計なことを考えるときではない。そのときが来たら身体に直接聞けば良いだけだ。

 階段を上がりきり、正面にはスタジアムプールに繋がるガラスドア、そして右側には男女別のトイレを捉える。軽く探知魔法を放って中および周囲が無人であることを確認し、顔いっぱいに遺憾の意を表しながら意を決して女子用トイレに飛び込む。

 

 一番奥の個室に入って内側から鍵を掛け、かわいそうなほど混乱しているミルクさんを座らせて落ち着かせる。まるでお人形さんのようにカチカチに固まるミルクさんは、やっぱり非常に可愛らしい。

 ……アッ、まって、こんな可愛い子を無理矢理女子トイレに連れ込むって、これもしかしてなかなかいかがわしい状況じゃございませんこと!?

 

 

 

「きたよノワ!」

 

「こっち! いちばん奥!」

 

「オッケー了解! じゃあさっさと撤退ぅわぁ!!?」

 

「あひええええ!? ちっちゃ……妖精!? 妖精なんで!?」

 

 

 ナイスタイミングで相棒が到着、これで撤退のための全ての条件が整った。

 考えるまでもなくミルクさんは混乱しきっているだろうし……人目を忍ぶという目的があるとはいえ、これは冷静な第三者から見れば紛れもない誘拐だ。(さら)おうとしてる先がハイエース(ベースのキャンピングカー)なのは何の因果だろう。まさか(さら)うがわに回るとは思ってもみなかった。ちょっと興奮する。

 

 

「とりあえず話と説明はあとで! ラニ車まで【門】開けて!!」

 

「……え、ラニ……? くるま? くるまって……えっ!?」

 

「大丈夫、ボクも何がなんだかわかってないから」

 

 

 嘘のように雨が上がったことで、屋外部分へ出てみようと考えたのだろうか。一般のお客さんたちが屋上へ向かってきていることを広域探知で認識しながら、おれは撤退の指揮を執る。

 

 未だに混乱の抜けきれない顔でこっちを見てるラニと、同様に混乱の色濃いミルクさんを半ば強引に拉致る。重要参考人を確保できたので、とりあえずはヨシとする。

 

 こうしておれたちは他者との遭遇を避けるべく、慌ただしく浪越港水族館を後にした。

 

 

 ……結局おれ、『苗』の保持者と一度も遭遇しなかったな。

 

 

 



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232【途中離脱】拉致のち監禁

 

 

 志賀(しが)から福居(ふくい)へ北上する高速道路の途中……おれたちが『苗』対処のためにと駆け込んだ、琵琶山岳(びわやまたけ)サービスエリアの下り線。

 

 駐車場の片隅に停められたハイエースの車内にて、異様な一団が顔を突き合わせていた。

 

 

 

「えー、っと…………有村悠菜(ありむらゆうな)、さん?」

 

「…………はい」

 

「えっと……なんていうか…………心中お察しします」

 

「…………恐縮です」

 

()のパターン、ってことっすか」

 

「なーるほど……そういうことも有り得るのか……」

 

 

 

 おれたちが強襲を仕掛け、事情聴取のためにと拉致った『ミルク・イシェル』さんそのままの容姿の人物は……やはりというか『にじキャラ』仮想(アンリアル)配信者(キャスター)のミルクさん本人で間違いなかったようだ。

 

 おれやあの二人と同様『種』によって身体構造を書き換えられ、おれと同様ファンタジーな容姿を得てしまった人物。

 ただ、予想外といえば予想外だったのは……配信者(キャスター)ではない、()の本名。

 

 

「ごめんなさい。……女の子、だったんですね」

 

「……『女の子』って程、可愛げある歳じゃ無かったですけどね。……いい歳した大人です。……いえ……でした」

 

 

 あまりこういうことを表現するのは、デリカシーに欠けるのかもしれないが……少女のようなアバターと少女のような声をもつミルクさんの()は、どうやら女性だったらしい。

 

 

 

 詳しい話を聞くところによると……()()()なってしまったのは、昨年末の十二月――恐らくおれと同じタイミングだろう――とのこと。

 企業所属の配信者(キャスター)にしては珍しく()()()在住だったので、今回の異変が起こって姿かたちが変わってしまって以降、同僚の顔合わせをひたすら避けまくって今までやり過ごしてこれたらしい。

 ……まあ、そっか。機材と回線さえあれば在宅で配信(おしごと)できるのか。

 

 あとは奇しくも転生直後のおれがそうだったように、通販や出前を駆使して世を忍び(引きこもり)続けてきたとのことで。

 誰にも相談できないまま、新たな行動を起こせないまま、葛藤の中で日々を過ごしていたらしいのだが……今回は()の声なき声を無視することができず――他人の目に自分の姿がどう映るのかを理解した上で――重い腰を上げたのだという。

 

 

 その後の展開は、幸いにもおれの予測した通りだった。

 ()の請願の通りに『保持者』のもとへ駆けつけ、親御さんの制止を振り切り感情のままに暴れる『保持者』へ()の助言のままに()()()()()を施し……そして『巻き戻り』によって痙攣しながら絶叫する『保持者』の様子を目の当たりにしてさすがにビビり、その場から逃走した先でおれと邂逅した……ということらしい。

 

 

 聞けば今回の『保持者』は、まだ小さな女の子。(その筋)からの情報によると、あの浪越港水族館に足繁く通っている……どうやら『いじめられっ子』ということのようだ。

 

 なるほど……つまり『学校にいきたくない』『台風で学校が休みになればいいのに』とか、そういう類いの()()なのだろう。

 ……うん。わからんでもない。

 

 

 

「その……『民の声が聞こえる』っていうのが、ミルクさ…………えっと、悠菜(ゆうな)さん?」

 

「『ミルク』のほう……もしくは『ミル』で、お願いします。……もう戻れないでしょうし」

 

「っ、………………では、ミルさんで。ミルさんが授かった異能……その、なんか『スキル』的なやつは……それこそ『(たみ)と認識した水棲生物の声が聞こえる』みたいな感じ……ですか?」

 

「概ねその通りですけど……正確には、もう少し『支配』の規模が大きいみたいです」

 

「…………と、いうと?」

 

 

 水底の世界の領主、イシェル家当主(という設定)である『ミルク・イシェル』に相応しい、堂々たるその異能。

 

 民の声に耳を傾け心を通わせるだけでなく、領主の威光が及ぶ範囲は更に広いとのことらしく。

 

 

 

「…………簡単にいうと……『水魔法』って感じですね」

 

「みずま…………えっ?」

 

「ですので、『水魔法』。ふわふわ浮かべたり、形を変えたり、投げつけたり。小説とか漫画とかで出てくる『水使い』系キャラの真似事なら、大抵できると思います。……()()は、そういう()()ですので」

 

「ぇえ……つよつよじゃ…………あっ、いえ、えっと…………めっちゃすごいじゃないですか」

 

 

 

 イルカやシャチなどといった海洋哺乳類から、マイワシやカツオやクマノミなどといった魚類、果てはクラゲやタコやヒトデなどのよくわかんない類に至るまで……知性や知能に差はあれど、彼ら彼女らの『伝えよう』とする意思を『(たみ)の声』として聞くことができる。

 

 またそれと同時に……流水・貯水問わず、一度触れて(チカラ)(恐らくは魔力(イーサ))を注いだ水であれば、重力やその他の物理法則を無視して制御下におくことが可能という……荒事ともなれば攻守はおろか索敵や妨害なんかにも転用できる、大変強力な『水の魔法』。

 

 

 中でも特徴的なのが、前者の『水棲生物の意思が聞ける』という点だろう。

 

 そもそも今回ミルさんが『苗』の存在を感知できたのが、水族館で飼育されている生物たちの声が聞こえたからだという。

 もともと水族館近くのマンションに住んでいたらしく、民の声そのものは転生直後から度々聞こえてはいたようだが……いつにもまして切迫した感情が届くにつれて、自身の身に起こったような『異常事態』が起こったのではないかと考えたらしい。

 

 そういえば……イルカは下手すりゃ人間(ヒト)よりも賢く、人間(ヒト)の感情も理解できる……とか聞いたことがあるような気もするし、彼らならではの手段で『苗』を嗅ぎとったということなのだろうか。

 エコーとかソナーとかよくわかんないけど、人間(ヒト)には無い感覚器官を持ち合わせているおかげかもしれない。

 

 

 ともあれ、これでこちらの疑問は解決できた。

 『苗』が発芽した理由、『苗』の反応が消えた理由。そしてどんな背景・どんなチカラが、それを可能としたのか。

 

 今回の『苗』を鎮圧できたのも、被害が大きくならずに済んだのも……つまりは、ミルさんのおかげなのだ。

 

 

 

「ありがとうございます、ミルさん。おかげで助かりました」

 

「い、いえ! ぼくなんかがお役に立てたのなら……幸いです」

 

「……せっかくですので、少しお話でもどうでしょう。お時間大丈夫ですか? ……色々とお答えできると思いますよ」

 

「…………!!」

 

 

 

 恐らく……ミルさんにとっては、初めてその姿を晒せる相手だったのだろう。その身に起こった異常事態に詳しいとなれば、尚のこと訊きたいことは多いはずだ。

 

 受けた恩に応える、というほど大それたものじゃないが……おれの経験が役に立つのなら、喜んでお話させてもらおうじゃないか。

 

 

 



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233【北陸旅程】しばしご歓談を

 

 

 今まで誰にも相談できなかっただろう事情を、心ゆくまで打ち明けられて……またおれがこれまで直面してきた問題と、その解決方法の共有を図り、ミルさんの生活基盤を整えるためのフォローを考える。

 できることならゆっくりと時間を掛けて、一対一で込み入った話でもさせてもらいたいところなのだが……申し訳ないことに、こちらもこちらで人と会う予定があるのだ。

 

 

 ……なので、そのまま拉致る。

 旅は道連れ、とかなんとか言いますし。

 

 

 

 

「ミルさんは北陸って、いったことあります?」

 

「はっ……はい、何度か。やっはり日本海は海産物が美味しくて……」

 

「アッ……食べる(ソッチ)系もイケるんですね」

 

「もともと食べるとこから好きになったので。……意識すれば彼らの声もシャットアウトできるので、断末魔とか聞かなくて済みます」

 

「それは……何よりです」

 

 

 運転席の延長ペダルを畳んで座面クッションをはずして……運転をモリアキに代わってもらったおれは走行中の後部座席にて、引き続きミルさんとのお話に興じている。

 幸いミルさん、今日このあとの予定は特に詰まっていなかったようなので……『ちゃんと港区の水族館までお送りするので!』と確約した上で、しばし身柄を預かることができた。

 

 ラニの【繋門(フラグスディル)】があれば、どこからでも水族館の【座標指針(マーカー)】までひとっ飛びできる。

 ちゃんとお届けするので、一緒にドライブどうですか……と誘ってみたところ、若干悩みながらも首を縦に振ってくれた。

 ミルさんもお家で引き籠っているよりは、()()のおれから情報を得ようと考えてくれたのだろう。参加人数を一名追加しての行程はより賑やかに、順調に日本海側を北上していく。

 

 

 

 色々とお話しをしながら、また色々とお話を聞いててわかったのは……やはりミルさんが転生してしまった原因が、プロ意識を高めすぎたがゆえの出来事だったということ。

 

 もともと彼は……『個性豊かな同期生の中でも確固たる強みに欠けている』ということを、日頃から気にしていたらしい。

 際限の無い劣等感に苛まれ続け、このままではいけない、もっと『ミルク・イシェル』の気持ちを理解したいと強く願ったところ……あの大嵐の日に突如意識を失い、気がついたら()()なっていたのだという。

 

 ……聞けば聞くほど、おれとの共通項が多いようだ。やっぱり他人事とは思えない。

 

 

 

「でもまあ、開き直っちゃっても良いと思うんですよ。少なくとも悠菜(ゆうな)さん自身は、『ミルク・イシェル』さんのことを気にかけているんですよね? それこそ……『なりきって』でも深く知りたいと思うほどに」

 

「そうですけど……良いんでしょうか? ……ぼくは仮想配信者(ユアキャス)の出ですし、若芽さんみたいに生身で演じる度胸なんて……」

 

「『好き』が高じて()()()()するのは、誰にも咎められるいわれは無いですし。このご時世『コスプレです』って言い張れば、割と押し通せちゃうもんですよ。悪魔閣下のノリです」

 

「あぁ……閣下。なるほど……」

 

「何を隠そう……いや隠してないんだけど、こちらの霧衣(きりえ)ちゃん。この容姿をそのまま映しちゃってますので……堂々としてれば案外なんとかなるもんですよ」

 

「い、いちおう……【変化】のまじないで隠すこともできるのでございますが……若芽様に『オープンでいこう!』と」

 

「……そう、なんですね」

 

 

 日本人離れした容姿になっただけでなく、既存のキャラクターそのものになってしまったとあっては、おれとはまた状況や苦労が異なるかもしれないが……それでも、少しは心の支えになるだろう。

 

 ミルさんが気になっているであろう身分証やら戸籍やらは…………チカマさん経由でフツノさまに相談してみたところ、なんやかんやで力になってくれるらしい。

 またその際、なんかわかんないけど『フツノ様が嬉しそうだった』との所見を、チカマ宮司より伝えられたのですが……い、いいさ。ミルさんのためだ。おれも一肌脱ごうではないか。

 

 おれとしても今週末のコラボはもちろん、にじキャラの皆さんとの関わりは大切にしたい。ミルさんが安心して配信を続けられるよう、できる範囲で力になりたいのだ。

 

 

 

 

「先輩そろそろ金早(かなざわ)西インターっすよー! ルートはナビ通りでいいんすか?」

 

「マジか! おっけーとりあえずナビに従って! 下道降りたら金早(かなざわ)市街方面進めば良いし……あー、しばらく行くと右手に青看板のコンビニあるからそこ入って。おれ前に移るよ」

 

「了解っす。とりあえずインター降りまーす」

 

「ほーーい」

 

 

 

 水族館の一件もあって、予定よりも若干後ろに押してしまっている。そのため残念ながらお昼の時間を圧縮し、走行中の車内で済ませることでなんとか予定通りまで挽回することができた。

 ちょっともったいないことをしてしまったが……今回ばかりは仕方ない。取引相手を待たせるわけにはいかないのだ。

 

 肝心の取引自体は、十五時から十六時くらいには終わる予定になっている。なのでそれ以降……優先事項を済ませたら、あらためてオートキャンプを楽しめば良い。

 なのでまずは、この後に控えている取引に集中する。

 

 

 

「よし、運転代わる。気合入れんと」

 

「了解っす。オレらは車で待ってますんで、頑張って下さい」

 

「ボクはこっそりついてくけどね!」

 

「うう……羨ましくございまする……」

 

 

 

 青色看板のコンビニでトイレ休憩と飲み物の補充、ならびに運転手交代を済ませ、おれは目的地へと車を走らせる。

 

 

 遠路はるばるここまで来た目的、それはおれにとって大きな取引を行うためなのだが……というのも今回の品、ちょっと宅配便を使うのは気が引けるサイズと繊細さだからだ。

 まあ、何度か告げているように『北陸旅行いきたい!』『キャンピングカー試したい!』というのもあったのだが。

 

 まあともあれ、その『大きなコワレモノ』を受けとるのが主目的であり、それを譲ってくれる方のお住まいまで、もう少しで辿り着くのだ。

 

 

 

 おれが探し求めていたもの……メルオク(フリマアプリ)を駆使して売買の約束を取り付けた品物。

 

 それは……おれ(エルフ)の技量であれば(たぶん)使いこなすことが出来、競争の激しい『演奏してみた』分野で強烈な個性を発揮できるであろう……誰が呼んだか『楽器の女王』。

 

 

 全高一八〇センチ、重量三五キロのナイスバディ。

 安心の日本メーカーが手掛けた、四七本の弦をもつ大型の弦楽器……その名は『グランドハープ』。

 

 

 それこそが、今回のお目当てなのだ。

 

 

 

 いや、旅行も目的だけど!

 

 



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234【北陸旅程】良い取引でした

 

 

 加賀百万石、とはよく聞くもので。ここ石河(いしかわ)金早(かなざわ)市は北陸地方でも有数の、日本海側を代表する大都市だ。

 大戦の戦火を幸運にも逃れたことで、歴史的で風情のある町並みや家屋を今なお多く残している。一方で近代的な都市作りや先進的な技術開発にも力を注ぎ、伝統技能をはじめ芸術分野においては世界レベルの高水準を誇るという。あとカレーがおいしい。

 

 

 そんな魅力あふれる街、金早(かなざわ)市の中心部から少しはずれた、ゆるやかな丘陵地帯の一区画。

 そこは……まあ、なんといいますか……われわれとは住む世界が異なる(かもしれない)とでも言いましょうか。

 つまりは世帯所得の桁が違う方々が多くお住まいになられる、要するに高級住宅地が広がっておりまして。

 

 

 

 

「遠いところわざわざ、ようこそおいだすばせ。たいばらやったやろ」

 

「??? は、はいっ! この度はわたしの都合に応じてお時間をとっていただき……ありがとうございます!」

 

「いかなてて。こちこそあんやと存じみす。ほかすもいとっしゃさけ、どうしようかて思うとったげんて」

 

「????? ……はいっ!!」

 

 

 出品者から提示された住所の示すままに、忘れずに【エルフ隠し(最新版)】を用いた上で一軒のおうちにお邪魔したところ……きれいな白髪をピシッと整え派手すぎない和服をキチッと着付けた、とてもお上品なおばあさまが出迎えてくれた。

 洋風の大きなおうちに油断してたところ、現れたのは和装のご婦人。つい最近『ギャップ』に慣れてきたおれでさえも、思考に混乱が生じずにはいられない。

 

 それも無理の無いことだろう……なにせ耳に届く言葉は日本語のはずなのに、ところどころ理解できない。

 果たしてこれは本当に大丈夫なのか。勢いで『はいっ!!』とか言ってしまったが、正直なところお取引の金額が金額だけに不安をぬぐいきれない。にほんごのはずなのに。

 

 

 などと一人で勝手に盛り上がっていたおれのもとへ、幸運にも救いの手が差しのべられた。

 

 

「御母様、またそうやって……お客様を困らせないで下さいな」

 

「あらあら…………ふふっ、ごめんなさいね。たぁた可愛らしくて……ついげんぞらしいごくりわるうしとなってな」

 

「取れてないじゃない……お嬢さんが可愛いから、つい困らせたくなって……だそうで。ごめんなさいね、失礼しました」

 

「は、はひっ!! 恐縮です!!」

 

 

 和装のおばあさまによく似た、恐らくは娘さんとおぼしき上品なご婦人(こちらはお洋服)が間に入り、幸運なことに通訳を買って出てくれた。

 お歳の頃は……三十代の半ばくらいだろうか。立ち振舞いの随所に気品がにじみ出ており、御母様と同様非常にお上品な佇まいとあって、この家系の『只者じゃない』感をありありと感じさせている。

 

 こちらの娘さんには日本語が通じるので(あたりまえだが)、これなら取引を行うにあたっての確認も万全に行えるだろう。……というか実際メルオク(オークション)に登録したのも、こちらの娘さんらしい。

 

 

 挨拶もそこそこに、おれはお屋敷の中へと通される。ちなみに『御母様』はどうやら本当にイタズラしに来ただけみたいで、可愛らしいニコニコ笑顔で『せわしないから』と言い残して去っていった。……可愛らしいお母さんだ。

 やけに幅を感じる廊下を進み、なぜか存在する坪庭を横目に、いやに重厚感あふれる扉をくぐり……素人目に見ても防音がしっかりしてそうな一室へ。

 そこにはグランドピアノをはじめ幾つもの楽器が並ぶ『音楽室』といった様相を呈しており……その部屋の真ん中付近には背の高い弦楽器、グランドハープが佇んでいた。

 

 

 

「一応、確認をお願いします。弦は一通り張ってますが、ご覧の通りネックと共鳴板に大きな傷があります。弦を弾けば音は鳴らせますが、ノイズのような雑音が混じります。……本当に良いですか?」

 

「大丈夫です。……それでも、ハープを弾いてみたいんです」

 

「あら。…………そんなに楽器が…………音楽が、好きなんですか?」

 

「はいっ。……大好きです」

 

 

 音楽歴だけでいえば、ほんの一ヶ月そこらのドがつくニワカなのだろうが……しかし()のおれが楽器演奏や音楽を好きなのは、紛れもない事実だ。

 以前ギターを弾いたときも、あんなに気持ちがよかったのだ。同じ弦楽器でも『女王』と名高いハープを演奏できるかもしれない、と思ったら……いてもたってもいられなかった。

 

 だからこそこうして、憧れのグランドハープ(破損あり)を手頃な金額で譲ってもらえると聞きつけて、浪越市からのこのこ北陸までやって来たのだ。

 写真を見て、また実際に見た限りでは、そこまで致命的な破損ではなさそうである。これならおれの【修繕(リペアーレ)】で甦らせることは可能なので、つまりは破格値で完動品を手に入れられることになるのだ。

 文句など、ありようはずもない。定価で買ったら七桁円コースの品である。

 

 

 

「わたしとしては、こちらの品で問題ありません。……ですのでこちら、金額の確認をお願いします」

 

「……はい。お預かりします。……では確認の間、車まで運ばせますので……車は、表に?」

 

「あっ、ありがとうございます。……はい、失礼ながら玄関脇に停めさせて頂いてます」

 

「構いませんよ。品が品ですので」

 

 

 娘さんがスマホをぽちぽちと操作すると――REINか何かで連絡を取ったのだろう――鍛えられた身体の中年男性と、これまた健康そうな体格の若い男性が『音楽室』へと現れた。

 軽い挨拶のあと『ぎょっ』としてみせてくれた二人(暫定的に『婿(仮)』および『息子(仮)』と呼称)は、とくに深く追求することもなく粛々と(ただし息子(仮)はちらちらとこちらを気にしながら)グランドハープを厚布の袋で包み、台車に載せて運び出していった。

 

 

 

「……確認しました。確かに、丁度ですね。ありがとうございます」

 

「アッ、こちらこそ……ありがとうございます!」

 

 

 金額の確認もして頂き、男手二人に品物を運んでもらい……そこへ車で待機しているモリアキも加われば、問題なく積み込むことは出来るだろう。積み込みまで終わって扉を閉めれば、任務完了だ。

 というのも、積み込み自体はあくまでカモフラージュだ。実際にはラニの【蔵】に仕舞って貰うので、運ぶ際の衝撃や転倒の問題なんかも生じるはずがない。

 

 予定していたすべてがスムーズに進み、それではこれでとお(いとま)しようとしていた……そのとき。

 

 

 

「……若芽さん、と仰有(おっしゃ)いましたね」

 

「は……はいっ!」

 

貴女(あなた)さえ宜しければ……触りだけでも、また後日手解(てほど)き致しましょうか?」

 

「!! 良いんですか!?」

 

「ええ。私たちは()()が本業ですので。ご都合もそちらに極力合わせますので……いかがですか?」

 

 

 なるほど……どおりであの音楽室、色んな楽器が揃っているわけだ。

 

 実際グランドハープほどの楽器ともなると、一般人に教えてくれる教室なんてほぼ無いだろう。せっかく繋がった()()だし、ご指導いただいたほうが上達も早いだろう。

 ただ……通う際にはラニに協力を仰がねばならないが、懸念となるのはそれくらいだ。

 

 一刻も早く腕前を上達させ、視聴者さんに還元するために……省ける無駄は、極力省いていきたいのだ。

 

 

 

「詳しいお話聞かせてほしいです! ぜひ!」

 

「ふふっ……わかりました。ありがとうございます」

 

 

 

 おれの音楽知識を強力にバックアップしてくれる、心強い味方……山代(やましろ)いろは先生。

 

 この出会いがまさか、おれの今後の活動にあそこまで大きな影響を与えることになろうとは……割とその場のノリでの行動が多いおれは、当然考えもしなかった。

 

 

 やっぱおれ……良縁の神様に好かれてるのかもしれない。

 

 



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235【北陸旅程】ノルマ達成ですので

 

 

 

 おれが音楽教室の仔細を伺っている間に、他のみんなで作業を完了させてくれたらしい。

 山代先生のお婿さん(仮)と息子さん(仮)とミルさんの手を借り、モリアキと霧衣(きりえ)ちゃんの頑張りもあって、無事に梱包済みグランドハープの積込が完了した。

 

 高さが一八〇センチと室内高ギリギリなので少々不安だったのだが……どうやら専用のクッションカバーを掛けて梱包していれば横にしても大丈夫だったらしく、ベッドモードにすれば全面クッションにできる後部座席はむしろ好都合だったようだ。

 ……まぁ結局、最終的には【蔵】に仕舞うんだけどね。

 

 

 というわけで、無事にグランドハープのお取り引きは完了した。音楽教室に関してはいちおう皆に情報共有をしておきたいので、今夜あたり話してみようと思う。

 先生には『前向きに検討したい、近いうちにご連絡します』と伝えておいたので、そっちは大丈夫だろう。REINの連絡先もバッチリ交換させていただいた。

 朗らかな笑顔で見送ってくれたお婿さん(仮)と、どう見ても霧衣(きりえ)ちゃんに興味津々な様子だった息子さん(仮)に見送られ、おれたちは金早(かなざわ)市某所の高級住宅街を後にした。

 

 ここからは……完全に『おたのしみ』の時間である。

 

 

 

「頼むぞ助手! おれたちをキャンプ場へ導いてくれ!」

 

「了解っす! お任せ下さい! ……まぁナビがあれば安心っすよ」

 

「それな」

 

 

 前もって予約してあったオートキャンプ場までは、ここからおよそ一時間弱。管理棟の受付時間内に到着しなきゃならないので、あまり寄り道する余裕は無さそうだ。

 

 とはいえ夕食の買い出しもしなきゃならないので、時間制限やペース配分など気を配らなければならないことは意外と多い。

 しかしこの慌ただしさも、旅行と思えば楽しいものだ。今回は残念ながらそれほど仕込みはできなかったが、本格的なキャンプ飯やBBQなんかにも改めて挑戦してみたい。霧衣(きりえ)ちゃんもそのへん乗り気のようだし。

 ……それに。

 

 

「おれから持ちかけといて、なんですが……ミルさん、本当に良いんですか? おれたちとしては嬉しいんですけど」

 

「……ご迷惑でなければ、ご一緒させて頂きたい……です。……もちろん食材費とか高速代とか、掛かった費用はお支払しますし」

 

「いえ、それはオレら気にしてないんすけど……ご覧の通りオレ、男ですし……先輩と白谷さんは見た目美少女っすけど、中身は元・男ですし……不安だったりしないのかなぁって」

 

「お気遣い、ありがとうございます。でも今はぼくも男ですし……むしろ、良いんですか? ぼくが居たら……若芽ちゃんの貞操が危ないかもしれませんよ?」

 

「は、ははは……まままたまたごごご冗談を」

 

「……それに、本音を言うと……およそ一ヶ月ぶりの外出なので。……気を許せる人たちと、少しでも時間を共有したいなぁ、って」

 

「………………ミル、さん」

 

 

 そうだ、彼女……もとい彼は、その身に起きた非現実な……今までの人生を文字通りぶち壊されるような出来事に直面し、このおよそ一ヶ月もの間どうすることもできずに引きこもるしかなかった。

 うぬぼれるわけじゃないが、おれという()()の存在によって安心感を得てくれた彼の、今日は久しぶりとなる外出イベントなのだ。

 

 その切っ掛けこそ、偶然と言って差し支えない事件、しかもあの『苗』由来の騒動とあっては喜ぶことは出来ないのだが……しかし結果は結果だ。こうして新しい同類の存在、しかも味方と出会うことが出来たのだ。

 (ミルさん)が望んでくれるのなら、おれは招待主(ホスト)として全力で()()()()()をする義務がある。

 

 

「オレは歓迎するっすよ! まぁ『秘策』もありますし! ミルクさんが乗り気なら、何とかしましょう。なんてったって()()ミルク・イシェルさんですもん!」

 

「そりゃおれも大大大歓迎だけど! モリアキ、わかってるだろうけど撮影はNGよ! ちゃんと事務所(にじキャラさん)通さないと!」

 

「プライベートな分は……こっそりなら、大丈夫でしょ。ぼくもナイショにしておくので」

 

「ヤッター! ミルさんやさしい!!」

 

「…………ふふっ」

 

 

 とても賑やかで華やかな車内はその後も盛り上がりを見せ、おれはその輪の中にいまいち入れないことを嘆きながらも、職務を全うすべく車を走らせていった。

 運転手はつらいよ(つらくない)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……と、いうことで。

 途中の買い出しを挟み、おれたち『わかめちゃんご一行様』は晴れて目的地へと到着した。

 

 ここ『加賀白山の森』は、雄大な自然を満喫できる複合キャンプサイトとのこと。区画分けされ整地されたキャンプサイトやコテージ、BBQ用のオープンスペースや炊事場などの各種施設が整えられ、その中にはおれが求める『オートキャンプサイト』も当然備わっている。

 これまた区画分けされたオートサイトには、そのまま車両を乗り入れることができる。外部電源コンセントの使用もできるのでバッテリーの消耗を気にすることなく電気設備が使用でき、区画内であれば(周囲の迷惑にならない範囲で)車両外での活動も可能。タープを張ってアウトドアリビングを設営したり、なんかもできるわけだな。

 

 チェックインと支払い自体は管理棟の営業時間内に済ませることが出来たので、これより後は出入り自由らしい。

 改めて近所のスーパーに買い出しにいくことも、近くの温泉施設へひとっ風呂浴びに出掛けることも可能なので、いろいろと楽しみの幅も広がることだろう。

 

 

 

 ……よって。

 何の気兼ねもなくなったので。

 

 

「温泉いくか!!」

 

「「イェーーーーイ!!」」

 

「「い、いぇーーーい!」」

 

 

 

 夕飯の目処は既についているし、おれの技量なら素早く準備することができる。よって食事は後回しでも問題ない。なにより食べたばかりでお風呂に入るのは、ちょっとよくないと聞いたことがある。

 おふろに行くかどうかの決を採ったところ……賛成が二票、そして圧倒的賛成が二票。よって民主主義の原則に(のっと)り、これから再び車を走らせることがめでたく決定した。

 

 

 やっぱ旅といえば……温泉だよな!(※個人の感想です)

 

 



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236【北陸旅程】突貫湯けむり旅情

 

 

 おれたちがお世話になるオートキャンプ場から、車でほんの五分。まさに目と鼻の先といえる近距離に、公共浴場『空海の湯』は位置していた。……というか、ぶっちゃけ同じ自然公園の中だなこれ。

 まあともかく、温泉だ。お風呂だお風呂。新居の浴槽も広くて明るくて気持ちが良いのだが、ひろびろ温泉となれば話は別だ。

 

 

 

「ヨッシャついた! お風呂やぞお風呂!」

 

「先輩ホント風呂好きっすよね。旅先では必ずって言って良いほど大浴場行ってますし」

 

「だって大きなお風呂やぞ? いつものオウチのお風呂とは違うんやぞ? 楽しみだし気持ちいいやろ! ねっ霧衣(きりえ)ちゃん!」

 

「あっ、えっと、わっ……わたくしも…………神宮寝所と若芽様のお屋敷以外、おでかけのおふろは初めてにございますゆえ……」

 

「つまり……楽しみ?」

 

「…………はいっ!」

 

 

 ウフフ……そうだろうそうだろう、やはりこの子はよくわかっている。そうとも、旅行の醍醐味はなんといっても『非日常』を存分に味わえるところにあるのだ。

 お風呂なんかはわかりやすいだろう。岩風呂や(ひのき)風呂や薬湯やジャグジー……おうちでは味わえないリラクゼーションの数々は、楽しい一日のしめくくりに相応(ふさわ)しいものだ。

 おまけに温泉ともなれば、更に楽しみは広がる。全国津々浦々の温泉はその特徴も効能も泉質も様々、その土地ならではの楽しみ方のひとつなのだ。

 

 

「…………そっかあ。ノワはダイヨクジョーに行きたいんだね」

 

「そらそうよ! たのしみ!」

 

「……そっすか。じゃあ先輩、良い機会なんで、頑張って慣れて下さいね。…………()()

 

「おん…………は?」

 

「『は?』じゃなくて。大浴場行きたいんでしょう? 良いと思うっすよ。というわけでキリエちゃん、先輩のお世話お願いしますね」

 

(うけたまわ)りましてございまする! この霧衣(きりえ)めにお任せくださいませ!」

 

「マッ!? ちょっ!? (ちが)っ!?」

 

「なにも(ちが)くないでしょ? ノワは女の子なんだから」

 

「まさかこの期に及んで、男湯に入れるなんて思ってないっすよね?」

 

「だ、だって…………そ、そう! おれ十歳だから! だから男湯に入っても大丈夫なので」

 

「女性の保護者が居るんすからソッチ優先に決まってるでしょうお馬鹿」

 

「で、でも! おれ中身は男だし!」

 

「その理屈で言うなら中身は三十代ですんで、つまり男湯はアウトっすね。ハイ論破」

 

「そんなあ!!!」

 

 

 券売機を目の前に、ああでもないこうでもないと議論を重ねるおれたち……近くに他のお客さんがいなくて良かった。絶対迷惑だよ。

 

 ここから取りうる選択肢は、ふたつ。

 ひとつは……女性用の大浴場に、霧衣(きりえ)ちゃんとともに突入すること。すべての反論を封じられたおれにとって、大浴場での湯浴みを許される選択肢は()()しかない。

 もしくは……大浴場そのものを諦めるか。広々とした(ひのき)の湯船を、荒々しくも風流な露天岩風呂を諦め、キャンピングカーのめっちゃ狭いシャワーで済ませるか。

 

 おれの尊厳を踏みにじるような、極悪非道なこの選択肢……まだイマイチそこまで開き直りきれていないおれが取った、その選択肢とは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「き、きりえちゃん! なんで! なんで脱いでるの!!」

 

「……? 若芽様、湯浴みにございまする。服を脱がねば湯に浸ることなど出来ませぬ」

 

「で、でもだって! おれ男だし! 男の前で乙女が柔肌をさらすなんて!」

 

「…………?? 若芽様は愛らしい乙女にございまする。……御安心なさいませ。若芽様の内なる陰陽に関わりなく、若芽様の人となりはこの霧衣(きりえ)、重々心得ておりますゆえ」

 

「は、は、は、はずかしくないの!? おれなんかにはだかみられて!!」

 

「………………??? 重ねて申しますが、これは湯浴みにございまする。家族同然に過ごす者に素肌を晒すことの、いったい何処に恥じらう必要がありましょう?」

 

「じゃ、じゃあ! 霧衣(きりえ)ちゃんは家族相手なら一緒にお風呂に入っても良いって言うの!?」

 

「当然にございまする」

 

「ヒン」

 

「完敗だね、ノワ。おとなしくぬぎぬぎちまちょうね~」

 

 

 

 そ、そんな……そんなばかなことがあってたまるか。なんで霧衣(きりえ)ちゃんはおれの目の前で、平然とはだかんぼになれるんだ。おれは男なんだぞ。

 とっさに目をつぶって顔を背けたが……控えめながらも実りのある双つの脂肪を、引き締まったおなかとおへそを、女の子らしい腰のくびれを、ぱたぱたと振られる白いしっぽを……一糸纏わぬ狗耳美少女の魅力的な裸身を、おれの視覚はハッキリと捉えてしまっていた。

 

 脱衣所に誰もいないのをいいことに、茶化すような声色でおちょくってくるラニなんかは、こちらも当然のように素っ裸だ。おれよりも起伏に乏しいその身体を惜しげもなく晒しており、非常に目に毒な状況である。

 

 

「若芽様、目蓋をお開きくださいませ。浴室は床が滑りやすく危険にございまする。それ以前に、お召し物を脱がねば湯に浸かれませぬ」

 

「ううー…………」

 

「まったく……なにを渋ってるんだか。ノワは誰がどう見ても女の子だもん、女の子用のゾーンに居ても何も問題ないんだよ?」

 

「だ、だって……その…………エッッ、なきぶんに……なっちゃったら」

 

「存分になっちゃえばいいじゃん。ノワは美少女だし合法だよ合法。どうせ勃つモンも無いんだし」

 

「わああああーーーーん!!」

 

「あらあら、若芽様…………よし、よし。大丈夫、大丈夫……でございまする」

 

「ま゜ッ!? ちょ……っ、き、きき、き、きりえちゃ!? む、むね! むね!?」

 

「おぉ……尊い」

 

「よし、よし、いいこ、いいこ。……怖がる必要はございませぬ。御安心くださいませ、この霧衣(きりえ)めが付いてございまする。……さあ、お召し物を脱ぎ脱ぎ致しましょう、若芽様」

 

「ア゛ッ!! ア゜ッッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 いったい、おれのみに、なにがおこったというのだろう。

 

 

 きがついたら……おれたち三人は温かい檜風呂に、にこにこ笑顔のきりえちゃんと並んで、肩まで浸かって伸びきっていた。

 

 

 

(あ゛ぁーーぎもぢぃーーーー)

 

(ちょっとラニ、えっちな声あげないでよ)

 

「若芽様、若芽様。……気持ちよいお湯にございまする」

 

「アッ、エット…………うん。……そうだね」

 

「うふふふ。……これまでご一緒が叶わず居りました分、せいいっぱいお相手させて頂きまする。のちほどこの霧衣(きりえ)めが、謹んでお背中お流し致しますゆえ」

 

「!? にゃ、ッ!? な、なななな」

 

「わたくしは若芽様にお仕えする身……若芽様は霧衣(きりえ)めの御主人様にございますゆえ。御奉仕させて頂くのは当然にございまする」

 

「ごひゅ、ッ!?」

 

(あっ! これ薄い本で見たやつだ!)

 

(おだまりなさい! えっち妖精め!)

 

 

 

 温泉の熱で温められて、血行のよくなった霧衣(きりえ)ちゃんのお顔は……なんだかいつもよりも魅力的に見えてしまう。

 そんな子と裸の付き合いをしてしまっているという現実に、おれは正直いっぱいいっぱいなのだが……おれは気持ちの良いお風呂を堪能しているということに意識を集中し、煩悩を追い出さんと悪戦苦闘を試みるのだった。

 

 

 警戒感の薄い、とびきり可愛い女の子に密着されての……暖かな温泉。

 (ひのき)の湯船のそのお風呂はすごく温かくて、すごく心地よくて。

 

 

 すごく……すごく、いいにおいがした。

 

 



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237【試行運用】たのしい設営(易)

いしなげないで!!!おねがい!!!


 

 

「あっ出てきた。先輩ー生きてますかー」

 

「わあああんモリアキーーーー!!」

 

「お、おぉ…………どうしたんすか先輩、そんな幼女みたいに泣き叫んで」

 

「ちがうの! おれは幼女じゃない! 幼女じゃないの!!」

 

「………何があったんすか白谷さん」

 

「それはもう……可哀相なことだよ」

 

「?????」

 

 

 ……言いたくない。言えるわけがない。

 日ごろからここに通っているマダムたちに目を付けられ『お嬢ちゃん可愛いわねぇ』『小さいのにお利口さんねぇ』などと明らかに女児相手の対応をされ、さらにたまたまお母さんとお風呂入りに来ていたリアル女児にもまるで同年代であるかのように絡まれ……おまけに密着されたり敏感な耳をさわられたり、しまいにはあんな恥ずかしい声を上げさせられただなんて。

 

 さすがのラニも感じることがあったのか、珍しくおれに同情的な立場を表明してくれた。しかし一方で霧衣(きりえ)ちゃんは……おれの背中を洗ってくれてからというもの、いつも以上のにこにこ笑顔をその可愛いお顔に浮かべていた。

 

 自分から進んで(確固たる意志で)申し出てくれただけのことはあるのだろう。その手つきと手際は申し分なく……はっきりいって、これまたへんな声が出ちゃうほどには、非常に気持ちよかった。

 なんでも聞くところによると……神使候補生たちの合宿所のようなところでは、下級生の子たちが上級生の子のお世話を色々としていたらしい。

 背中を流したり、お着替えを手伝ったり、お荷物を持ったり、(とこ)を共にしたり。もちろん宿舎的な施設は性別ごとに分断されていたらしいし、()()()なことは起こりえなかったようだが……この子の距離感の近さは、そういった幼少の経験が大きく影響を与えているのだろう。

 ていうか、(とこ)を共にって。神社庁おい。

 

 

 

 ……ともかく、そんな出来事はおれの心の奥底にしまっておこう。わざわざ吹聴する必要もあるまい。

 

 そんなことよりも、おれには先ほどから……それこそおれたちが入浴しているときから、ずっと気にかかっていたことがあるのだ。

 

 

「おれはもう、なんていうか、たいへんな目にあったんだけど……ミルさんは大丈夫だったの? その……全裸の男性っていうか」

 

「あははははは…………まぁ、そうですね。さすがにまだちょっと、男性の……えっと、他人の()()を見るのは……正直抵抗ありますね」

 

「でしょう? じゃあもしかして……お風呂入れなかった?」

 

「いえ、堪能させて頂きました。個室の貸切風呂が空いていたので、お金払ってそこを」

 

「ぇはェ!? な、ちょっ……ずるい!!」

 

「いや、ずるくはないでしょノワ。……へぇー、個室の貸切オフロ。そんなのがあったんだ?」

 

「あー。だからミルさんの姿、風呂場で見かけなかったんすね」

 

 

 なるほど……貸切風呂。部外者が入ってこれない個室の時間貸し浴場ならば、確かに突飛な見た目であろうとも衆目を気にする必要はなくなるわけだ。

 

 もと女性であるミルさんにとって、男性用浴室に突入するというのは……なんていうか、おれが味わったこと以上に敷居が高いことなのだろう。

 なにせその容姿といったら、ぶっちゃけ控えめに言って美少女なのだ。これでち〇ち〇がついてるなんて信じられない。……本当についてるんだろうか。ちょっと目視もしくは接触確認したほうが良いんじゃないか。

 

 まあともかく、そんな可愛らしい子が男性用の浴場に現れれば……仮に、仮に本当に()()()()()としても、何らかの()()()が生じてしまわないとも限らない。

 そう考えると……やはり個室のお風呂を利用できたのは幸運だっただろう。よかったねミルさん。ぶっちゃけおれも使いたかったけど。ずるいぞミルさん(※ずるくないです)。この恨みいつか晴らしてくれようぞ(※逆恨みです)。

 

 

 

「じゃあまあ……色々あったけど、みんなさっぱりできただろうし」

 

「そっすね。キャンプ場……サイト戻って、晩御飯の準備っすか」

 

「なんかノワが自信満々だったけど……本当に大丈夫?」

 

「お世話になってばっかですし、ぼくも手伝いますよ?」

 

「わたくしも、なにかお手伝いできることは……」

 

「ほんとに大丈夫だから! おれだって大丈夫だから!!」

 

 

 まったくもう失礼な。みんなして心配性というか過保護なんだから。そんなにこのおれが……魔法放送局の敏腕局長が、頼りないとでもいうのだろうか。

 やはりここらでひとつ……おれの有能っぷりを、改めてアピールしておいたほうが良いのかもしれない。

 

 

「サイト帰ったら、すぐに晩ごはんつくるわよー。みんな楽しみにしててねー!」

 

「「わあーい!!」」

 

「「わ、わぁい!」」

 

「ちなみにわかめちゃんママ、今日の晩御飯は何です?」

 

「ふっふっふ……よくぞ聞いてくれました」

 

 

 そう……みんなが気になるのは、今日の晩御飯の献立だろう。

 おれが見事な手際でパパっと仕上げる、きょうのごはん。老若男女みんなだいすきなキャンプのごちそう。……それは。

 

 

「ずばり! カレーです!!」

 

「「おぉーーーー!!」」

 

「「…………?」」

 

 

 盛大に歓声を上げるモリアキとミルさん。一方で『きょとん』としているのは、きりえちゃんとラニ。……なるほど、どうやら『カレー』というお料理を味わったことが無い模様。

 まぁみてろって。いまにその不思議そうな顔を、ニッコリ笑顔に変えてやろうじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 というわけで戻ってきました、キャンプ場『加賀白山の森』。……まぁ車で五分のすぐ隣なんですけど。

 あまり遅くなることもなく戻ってこられたので、エンジン音で眠りを妨げる恐れも無いだろう。おまけに幸運なことに、本日このオートキャンプサイトを利用するのはおれたちだけらしい。お隣さんもご近所さんもいないので、(常識の範囲内で)にぎやかな夜を過ごせそうである。……まぁそんな突飛なことはしないけど。

 お得意のバックで車庫入れを行い、パーキングブレーキをカッチリと掛ける。これで明日の朝まで車を動かすことは無いので、キャンプ設営に取り掛かることができるのだ。

 

 

「ほいじゃあオレはテント広げてきますね」

 

「おう頼んだ。……あー、きりえちゃん……と、ミルさん。わるいけど、モリアキ手伝ってもらっていい?」

 

「了解です。任せてください、漫画とアニメで予習済ですから!」

 

「あー、『ふわきゃん△』ね。そりゃあ心強い。……あー、霧衣(きりえ)ちゃん、虫除けの類いの術とかある?」

 

「……!! は、はいっ! お任せくださいませ!」

 

「うん。じゃあおれはその間にゴハン作っとくから……みんな頼んだ!」

 

「「はいっ!!」」「っす!!」

 

 

 

 こうして……テント(モリアキ用)設営要員三人を車外へと送り出し、おれはおれの分担作業へと取り掛かる。楽しい思い出にはおいしい食事が欠かせない。おれの責任は重大なのだ。

 

 おもてなしの達人わかめちゃんの働きっぷりを、とくとご覧いただこうではないか。

 

 



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238【試行運用】たのしい料理(易)

王者もすきですが、個人的にはゴリラ派です(よくわからない注釈)


 

 

 車内のギャレーやシャワーなんかで使う上水は、リアハッチ開けてすぐのところに収まっている上水タンクから引かれている。

 そこの中身は今回でいえば、昨日のうちにおウチの外水栓から汲んでおいた水道水だ。当然日本国内の、しかも天竜川水系を水源とするわが家の水道水は、そのまま飲んで『うまい』と感じるくらいには上質なものだ。

 であれば当然、お料理に使っても全く問題ない。今回はシャワーも使っていないので、お水はまだまだ余裕のよしこちゃんである。

 

 

 

 というわけでまずは、大きめの鍋でお湯を沸かします。

 底の深い寸胴鍋に水を張り、カセットコンロの五徳に乗せて着火(火○の術)。普通ならばこのままお湯が沸くまで待つのだが、そこはこの叡知のエルフ。加熱魔法を水に向けて放ち、ものの数秒で沸騰まで持っていける。なんという時短テク。

 良い感じにお湯が沸いたら、ここへゴリラ印の魔法のパウチ(三キロ)をドボン(潜影○手)。更に一食分ずつ小分け密閉されたごはんも人数分ドボン(潜○蛇手)して、さらに殻を洗った生卵十個もそのままそっと入れて鍋の蓋を閉め……さあ、ここからが本番だ。

 

 

「すー、はー…………よしっ。範囲指定、出力指定……ん。【加圧(プレシリア)】、【空層(カイルスフィア)】……いけっ!」

 

「……当たり前のように並列詠唱使うんだね。しかも料理に」

 

「んへ? おれまた何かやっちゃいました?」

 

「…………いやあ、なんでもないよ」

 

 

 まあ、気にせずお料理の続きだ。

 ぐつぐつと湯を沸かす鍋の周囲を大気断層で覆い、その大気層内部の圧力を鍋もろとも高めていく。

 通常一気圧であれば水の沸点は摂氏百度、湯がそれ以上の温度に上がることなど無いのだが……【加圧(プレシリア)】の精密作用によって圧力が高められれば、その限りではない。圧力の上昇に伴い、湯の温度は百度を越えて上がっていく。

 これによってより高温での煮込みや湯煎調理が可能となり、調理時間を短縮させることができる。これがいわゆる『圧力鍋』における時短の理屈だ。

 

 

 

「んんー、温度は…………もう少しかな?」

 

「えっ!? 早くない!? もう!?」

 

「温度低めのトコはピンポイントで座標指定して【加熱(ヘイティズ)】してるからね。これはおれにしか出来ないだろーよ」

 

「うーわ、『ちーと』だ『ちーと』。ボクは『カレー』ってよくわかんないけど、ノワがズルっこしてるのはわかるよ」

 

「がははは! これがおれの(チカラ)だ! おそれおののくがいい!」

 

 

 続いて取り出したるは、スーパーマーケットにてこれまた人数分(※ただしラニ用の分はおれといっしょ)を購入しておいた、お総菜のロースカツ。

 揚げられてから時間が経ってしまっており、心なしか衣が湿気ってしまっているようにも見える()()を、鍋の中身が仕上がるまでにこっちも一手間加えていく。

 

 四枚のロースカツを油切りバットに乗せ、【加熱(ヘイティズ)】と【加風(ヴェンティズ)】を併用した熱風を吹き付ける。

 高温の風を循環させて加熱調理を行うコンベクションオーブンを模倣したものだが、その効果のほどは狙い通り。余計な水分を吹き飛ばし、余剰な油分は振り落とし、衣をカリっと生まれ変わらせることに見事成功したのだ。すごいぞおれ。

 

 

「いや、あの……四重…………いや、温度計測とピンポイントの【加熱】合わせると……六重並列以上……?」

 

「なんか出来そうだったんで、やってみました。できました」

 

「お、おう」

 

 

 美味しそうに甦ったロースカツは、四枚とも幅八ミリくらいにカットしていく。

 そうしている間にもお鍋のほうが良い感じなので、ここで【空層(カイルスフィア)】および【加圧(プレシリア)】を解除(リリース)。やけどに注意してお湯を捨て、玉子はすぐに冷水に曝して【冷却(クーグリュズ)】を掛けておく。

 

 お次はほかほかに仕上がった小分けごはんの封をピリピリっと開け、カレー皿にこんもりとよそっていく。

 モリアキは多めに、霧衣(きりえ)ちゃんとミルさんはちょっとだけ多めで、おれとラニのお皿(ふたりで一皿)はふつう盛りで。つまりラニのぶんのごはんを、おれ以外の三人のお皿へと分けて足した感じだな。

 

 ここまでくれば、あとは勝った(優勝)も同然。お湯を捨てて空っぽになった寸胴鍋を【流水(ヴァッサー)】で洗ってキレイにして、その中に魔法のパウチ(三キロ)を開封し、中身をどぼどぼと注ぎ込み、保温のためのとろ火に掛ける。

 車内は濃厚なカレーのいい香りで満たされ、嗅覚を刺激されたおれのおなかが、反射的に物欲しそうな音を立てはじめる。

 

 こうしてほぼ全ての工程を終え、仕上げにゆで玉子の殻を剥いているところで、ギャレー横のスライドドアがガラリと開く。

 

 

 

「先輩ー! めっちゃいい匂いするんすけどー!!」

 

「いいとこに来たな! 今仕上がるぞー! テーブル用意してー!」

 

「ほいほーい!」

 

 

 セカンドシートが食卓モードに姿を変えていく様を横目で見ながら……おれはごはんの上にカレーをいい感じにかけて、(せん)切りキャベツ(※(せん)切り済のものが袋詰めで売ってた)をこんもりと乗せ、更にカットしたロースカツを乗せ、とどめにスライスしたゆで玉子を添えて……

 

 

 

「カレー準備できたよ! どーだうまそーだろ!!」

 

「「おおおおおお!!」」

 

「うーわ、おいしそう……キャベツも乗っかってるの、ちょっと変わってますね」

 

「わふ…………いいにおい、に……ございまする……」

 

 

 わかめちゃん特製カレーが盛られたお皿が、順番に食卓へと並べられていき……四人分のスプーンとフォーク、そして調味用のソースとマヨネーズ、紙コップとよく冷えた緑茶のペットボトルが出揃った。

 屋外作業を行っていた面々もそれぞれ手洗いを済ませ、広いとは言いがたいダイニングに座っていく。

 

 おれとラニが、反転した運転席。モリアキが同じく反転した助手席部分に。霧衣(きりえ)ちゃんがセカンドシート窓がわ、ミルさんがギャレーがわに遠慮がちに収まる。

 広々、とはお世辞にも言いがたいが……それでもこの『秘密基地』感は決して不快じゃない。ワクワクする『非日常』感を満喫するには、充分すぎる設備だろう。

 

 

 

「よし……じゃあ全員揃ったな! ソースとかマヨネーズとか、お好みで掛けていいやつだから。じゃあそういうわけで……美味しく頂きましょう。……乾杯!」

 

「「かんぱーい!!」」

 

「「か、かんぱい!」」

 

 

 冷え冷えのお茶が注がれた紙コップが、音もなく打ち合わされ……楽しい旅行の楽しい夕食が、こうして始まった。

 

 

 

 業務用レトルトを温め、トッピングを乗せただけのお手軽メニューだったとはいえ……そもそも環境からして楽しさに満ちているのだ。

 

 肩肘張らずに済む面々との食事、みんな大好きなおいしいごはんとあらば、楽しくないハズが無かった。

 

 



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239【試行運用】けわしい現実(涙)

立場ってモンを理解(わか)らせてやらないとな……


 

 

 インド生まれのカレーから派生した、日本人好みのカレーライス……その中でもさらに多方面に派生した、日本各地に数多存在する『カレーライス』の中のひとつが、この『金早(かなざわ)カレー』と呼ばれる料理だ。

 

 ルーの色は全体的に黒っぽく味付けも濃厚で、(せん)切りキャベツとカツを乗っけて、ソースを掛けて頂くのが特徴。

 ほかにもスプーンではなくフォークでいただいたり、器にはステンレス製のものを用いたりといった特徴はあるけども……プライベートな席なので、そのへんは気にしない形でいこうと思う。

 

 

 

 

「どーよ? うまいかー?」

 

「「うまーーーい!!」」

 

「なんていうか……コクがすごいです」

 

「すこしだけ辛くて……でも、ふしぎとお箸が進んで……たいへんおいしうございます」

 

 

 できることなら、ちゃんとお店で堪能したかったが……おれたちはともかく、ミルさんの姿を衆目に晒すのは良くないだろう。またキャンピングカーの使い勝手を確かめるため、車内で調理を行いたかったこともあり、今回こうした形を取らせてもらった次第だ。

 まあ……業務用レトルトカレーとパックごはんを暖めるのが『料理』と呼べるかどうかは、ぶっちゃけ疑問が残るところだが。

 

 

「カツカレーはよく食ってたっすけど……キャベツと、ソースが加わるとまた違うっすね」

 

「マヨネーズもオススメだぞ。キャベツとカツだけじゃなくて、ルーにかけてもうまい」

 

「わあいマヨネーズ。ボクマヨネーズだいすき」

 

「あっ……ぼくもマヨお借りして良いですか?」

 

「はーい。どうぞミルちゃん、ボクのマヨネーズ(意味深)だよあ()っ」

 

「自重なさい。このひわいフェアリーめ」

 

「はははは……」

 

「うう……おいひう……ごあいまふ……」

 

 

 だが、まぁ……みんなに喜んでもらえたから、良しとしよう。敏腕局長のおもてなしごはん、大成功である。

 

 いやぁー……動画に押さえられなかったのは本当もったいないけど……しかしその一方、この『非公開』という約束のお陰もあって、飾らない姿のミルさんと交流を深めることができたのだ。

 オートキャンプ動画は、また改めて撮りに行けばいい。ラニも霧衣(きりえ)ちゃんも、きっと手放しで賛成してくれる。

 

 

 だから……これでいいのだ。ぼんぼん。

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「ごちそうさまでした」」」」

 

「はい! お粗末様でした!」

 

 

 やっぱりカレーともなると、みんな途端に食欲旺盛になるようで……二〇〇グラム程度はあったはずのごはんがあっという間に消滅し、みんながみんなおかわりを求める形となった。

 多めに買っておいたパックごはんと、おれの【加熱】が大活躍したのは、いうまでもない。

 

 

 こうして無事にみんなおなかいっぱいになり、お片付けのフェーズへ突入した。

 車内のシンクで洗い物を済ませても良いのだが……カレーの洗い物ともなると、排水タンクに色とかにおいとか付いてしまいそうである。

 しかしながら、心配ご無用。オートサイトの比較的近くには共同の炊事場が設けられているらしく、大型の洗い場もバッチリ整備されている。

 

 というわけで、四人分のお皿をパパっと洗いに出掛ける。……モリアキが。

 

 

「じさま、いつもすまんねぇ……」

 

「いんや、ばさま、こんくらい大したことねぇだ」

 

「すみません……ぼくの分まで……」

 

「しょーがないよ。ボクらもミルちゃんも、どうしたって人目引くし」

 

「そうね。おれたちはもう開き直ってるけど……ミルさんはやっぱ、事務所に相談してからのほうがいいと思うし」

 

「そうっすね。そんときは先輩も力になってくれると思うんで。……まあとりあえず、パパっと洗ってきますわ」

 

「モリアキ氏一人だと寂しいでしょ。ボクもこっそりついてくよ」

 

「ん。おねがい」

 

 

 任せてください、と景気のいい笑顔を浮かべ、洗い物のお皿四枚をたずさえてモリアキは去っていった。

 お皿が四枚だけとはいえ、この寂しい夜更けに一人っきりで炊事場まで行くのは気が滅入るだろう。引き受けてくれたモリアキには申し訳ないし、随伴を申し出てくれたラニの気遣いもありがたい。

 

 残されたおれたちだが……正直いって、あとは寝るだけだ。

 季節や場所によっては夕涼みをしたり、チェアを出してのんびり焚き火を眺めたりも良いのかもしれないが……なにせオートサイトで焚き火はさすがに宜しくない。あと寒い。

 なのでそのあたりのイベントは次回のお楽しみということで、今日は早く寝ることにする。

 

 

 車両後部の横向きベンチを二段ベッドに変形させたり、テーブルを収納してダイネットをベッドに組み替えたりと、可愛い子二人に手伝ってもらいながら就寝準備に取りかかる。

 ベンチ下から寝具を取り出し、それぞれのベッドへと投げ込んで拡げていく。

 

 部屋割り、というか寝床の割り振りは……後部の二段ベッド上段に霧衣(きりえ)ちゃんと、下段にミルさん。おれはセカンドシートを変形させた気持ち広めのベッドを、ラニと一緒に使わせてもらえることになった。

 車内で一夜を明かすのが、ラニ含め四名。……つまり『いやぁ、オレ一人だけ生粋の男っすから』などと言って貧乏籤を譲ろうとしなかったモリアキ一人が、車両すぐ外に設営されたテント泊となる。

 

 季節が季節だけに、厚めの遮熱シートで床暖熱を施した。テントそのものもしっかりしたフライシートとインナーテントを備える耐寒製の高いモデルだし、寝袋(シュラフ)も冬季用の暖かいものを使ってもらう手筈だし、おまけにFF(フォースドフルー)ヒーターの熱をテント内に導くつもりなので、たぶん大丈夫だとは思うのだが……それでもやっぱり、彼一人だけ車の外というのは、正直言って気が引けてしまう。

 

 

 

「……やっぱおれもテント行こっかなぁ」

 

「やめたほうがいいと思います!」

 

「ぅえ!? ……ま、まじ?」

 

「……マジです。結構ガチで」

 

「ガチで」

 

 

 

 思っていた以上に強い語気で反対され、正直ちょっとだけビビった。

 ミルさんがおれの考えに意見を述べてくれるとは……失礼ながら、思ってもみなかった。会って間もない間柄であり、距離感を測っているところだとばかり思っていたので……ここまで熱く、真摯に指摘してくれるのは予想外だったのだ。

 

 

 おれはモリアキのことを大切な仲間だと考えているし、そんな彼が自分の性別を理由に車内泊を諦めてしまっているのだ。ならば彼と付き合いが長いおれが、今回も彼に付き合うべきなんじゃないか。

 そう考えたことで、口から漏れた呟きだったのだが……ミルさんはそれに真っ向から異議を述べてくれた。

 霧衣(きりえ)ちゃんはおれの意見に反対することはほぼ無いので、この立ち位置は非常にありがたい。

 

 

 おれ一人では当然知らないことも、わからないこともある。なので是が非でも、せっかくのご意見番であるミルさんの意見を聞かせていただきたいところだ。

 

 

 

「……いいですか、若芽さん。確かにあなたとモリアキさんは、浅からぬ間柄だと思います。今までよくお泊まりとか、旅行とか……そういうイベントがあって、そのノリで発した言葉なんだと、ぼくは思いました」

 

「う、うん。……創作仲間と温泉旅行いったり、徹夜麻雀やったり、まリカーやったり、BBQやったり」

 

「……とても楽しげな間柄だと思いますし、正直ぼくも羨ましく思うくらいです。……けど」

 

「…………けど?」

 

「…………今の若芽さんなら、そのまま彼と……モリアキさんと接するのは、少し()()だと思います」

 

「………………え?」

 

 

「会ったばかりの人間に、こんなこと言う筋合いは無いのかもしれませんが……はっきり言わせてください。

 

 

……あなたは、今、

 

滅ッッ茶苦茶可愛い『女の子』なんです!」

 

 

「ンなァ゛!!」

 

 

 

 そ、そんなの、おれは……

 

 

 おれは……!!

 

 



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240【試行運用】やさしい指摘(喜)

オラッどうだっ
じぶんの立場ちゃんと理解(わか)ったかおらっ


 

 

 おれは……滅茶苦茶可愛い、女の子。

 

 おれと同類だが、まだおれたちに染まっていない、第三者に近い立場であるミルさんからの正直な評価。

 ぶっちゃけ今まで何度か言われたことのある評価だったが、面と向かって改めて言われると……表現しづらいが、ちょっと『ん゛ッ』てなってしまう。

 

 

 しかし……女の子。正直なところ、おれ自身自覚しているつもりだったのだが。

 

 なにせ身体的特徴からごろっと変わってしまったのだ。目に見えて整った容姿に加えて、脚の間はすっかり寂しさを増し、腰は控えめながらしっかり括れ、胸には微かとはいえしっかりと脂肪を蓄え。

 他ならぬ自分の身体がこうも変わってしまったのだ。おれが女の子になってしまったということくらい、理解しているつもりだ。

 

 

 

「ぼくが…………いえ、ぼくを始めとする周りの面々が指摘したいのは、そういうことでは無くてですね」

 

「えっ!?」

 

「考えてみてください。……非現実的に可愛い女の子、しかもめっちゃタイプな子が、ことあるごとに接近してくる。一緒に旅行に行き、一緒にごはんを食べ、ついには一緒の部屋で……密着しそうな距離で『一緒に寝ましょう』と言い出してくる。…………どう思います?」

 

「………………やばいっすね」

 

「でしょう」

 

 

 しつこいくらいに表明しているが……おれは今現在でも、こんなエルフの女の子の身体であっても、心は相変わらず男のままだ。

 なので……今ミルさんが出した例が、健全な一般男子に対してどれほどの破壊力を秘めているのか、よーくわかる。なんてったって男だからな。

 

 その理論がそのまま今のモリアキに当てはまるのだとしたら、確かにおれの言動は良くなかったのだろう。

 そもそもこの容姿はおれとモリアキの好みをふんだんに盛り込んだ設定なのだ。そんな『おれ(たち)の考えた最強に可愛い美少女(エルフ)』が距離感ゼロで近付いてきたり、イタズラ半分にパンツ見せてきたりしたら…………いや、ふつうに考えたら理性トぶだろ。何してんだおれ。そしてモリアキあいつなんなん鋼の意思か。もしかしてち○こ付いてないのか。やっぱ神なのか。

 

 

 

「とにかく。お二人の仲が良いのは、非常に喜ばしいことだとは思いますが…………心はどうであれ、身体は男女の間柄なんです。ふとした切っ掛けで()()()が起こらんとも限りません」

 

「ま、まちがい……」

 

()()()()()になって、これまで築いてきた関係が壊れるのは……それは、若芽さんの望むところじゃないハズです。……ぼくがこう変わってしまったように、若芽さんも()()()()()()()()んです。これまでと全く同じ関係でいられるとは思わないほうが良いと、ぼくは考えます」

 

「…………同じ関係じゃ……いられない」

 

 

 

 おれとモリアキの関係は……最初は、大学での先輩・後輩の間柄だった。その後就職を機に別々の道に進み、しかし共通の趣味を通じて交流を続けていた。年二回の祭典には一緒に遠征に出掛けたりもしていたし、趣味仲間と旅行に行ったりも何度かあった。

 数年前にはモリアキに誘われ同時期に転職し、しかしモリアキが『神』として覚醒したことで一足先に退職し、それからしばらく後に『計画』が浮上し、その『魂』役に専念するためにおれが退職し……そこからいろんなことがあって、今に至る。

 

 家族以外で、今現在でも関係が続いている人の中では間違いなく濃い関係の……ともするとおれのこの()()を報告できていない実の家族よりも濃いかもしれない関係にいる彼との、この関係。

 それが()()()()()()で崩壊し、二度と治らぬ間柄になってしまうのは……それは、絶対に嫌だ。

 

 

 ……そうだ。ミルさんの言ったとおり……おれの身体は、()()()()()()()()のだ。

 これまでは()()()()()()()()ことによるメリットのみを享受してきたが……デメリットだって当然、存在して然るべきなのだろう。

 

 まあ、なにも『金輪際彼と関わるな』と言われているわけではないのだ。適切な距離感を測ればいいだけ。密着したり過度なスキンシップを図ったりしなければ問題ない。

 少しだけ……ほんの少しだけ寂しい気はするが、そこは仕方ない。その寂しさは……ラニや霧衣(きりえ)ちゃんに埋めてもらえばいいのだ。

 

 

「ありがとう、ございます。……ミルさん」

 

「……いえ。差し出がましい真似を」

 

「いえいえいえ! こっちこそ……身内だったからこそ、気づかなかった指摘だったので。……ありがとうございます」

 

「わ、わたくしには……きっと、到底下せぬご指摘でございました……」

 

 

 おれはモリアキといろんな『楽しいこと』をしたい欲はあるが、しかしそれらはモリアキに迷惑を掛けてでも満たしたいものではない。おれが()()()()()()()()ということをしっかりと認識して、今までとは対応を少しだけ工夫して……物理的に近づきすぎないように心がければ良いだけのことなのだ。

 

 この居心地の良い空間を台無しにしてしまわないためにも、気を付けるべきところは気を付ける。

 それが……()()()()()()()()おれが負うべき責任なのだろう。

 

 

 ……がんばろう。

 

 

 

 

 

 







「…………んー……大丈夫そうだね。ちゃんと纏まったみたい」

「……そっすか。…………ミルさんには……感謝しなきゃっすね」

「女性ならではの着眼点なのかもね。……ごめんモリアキ氏、ボクも深く考えてなかった。キミたちの関係性が変わって当然の、重大すぎる事件だったろうに」

「仕方ないっすよ。白谷さんは以前のオレらを知らんでしょう? ……まぁ、そこまで劇的に変わるわけでもないですし」

「うん……男同士の関係、ねぇ。…………率直に言ってどうなの? ノワの容姿、めっちゃ好みなんだろ? 男同士の関係、続けられそう?」

「いやぁ、さすがに大丈夫っすよ。いうてあの外見年齢でしょ? 可愛いなぁとは思いますけど、せいぜいが『親戚の子』って感じっすかね。…………それに中身も先輩ですし、そんな失礼な目じゃ見れないっすよ」

「あぁ…………まぁ、安心した。ボクとしても、キミたちの仲良さげな雰囲気は好きだからね」

「嬉しいこと言ってくれますね。……じゃあまあ、そろそろ戻りますか。あんま不自然にならんように」

「ふふふ……そだね。ボクはこの世界に詳しくないから、()()()()()()()()()()()()()()()だったってことで」

「あー、了解っす。……お気遣いありがとうございます、白谷さん」




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241【試行運用】ほどよい距離感

ゆうべは おたのしみ でしたね


 

 

 健全な一般成人男性にとって、可愛らしい女の子と同じ空間で就寝することは、非常に精神的な負担が大きい。

 モリアキに不必要な負担を掛けないように、おれも立ち振舞いを少しだけ改めるべきだと認識した夜のことなのだが……ちなみにそれは、おれにも当てはまるんだな、これが。

 

 見た目は可愛らしいエルフの少女とはいえ……健全な一般成人男性の心を持ったおれにとっては、可愛らしい女の子と同じ空間で就寝することは、非常に精神的な負担が大きいのであって。

 

 

 

 

「おはようございま…………めっちゃ眠そうっすね先輩、どしたんすか」

 

「…………うーっす」

 

「………………いや、マジどうしたんすか」

 

「いや、その…………二人のね、寝息がね……めっっちゃ可愛(カワ)いくて」

 

「あー…………」

 

 

 結局昨晩は、モリアキを除く四人が車内のベッドで就寝する形となったのだが……照明を落としたあたりで『アレッ、おれ美少女たちと同じ部屋で寝てるんじゃね?』ということに気づいてしまい、そこからひたすら悶々とする夜を過ごすことになったのだ。

 

 一度気になってしまうと、もう止まらない。二人の身じろぎや寝返りの際の衣擦れにいちいち反応してしまい、吐息や寝言にひたすらときめき続ける羽目になった。

 白狗美少女の霧衣(きりえ)ちゃんは勿論、ついているはずのミルさんも……なんていうか、寝息がいちいち艶かしく、意味不明な可愛らしさだった。生まれもった女子力ってやつか。

 

 

 

「それでこんな朝早くから、車外で一人燃え尽きてるんすね」

 

「…………あのね、霧衣(きりえ)ちゃんね…………おやすみ中『くぅーん』って鳴くんだよ……」

 

「おぉぉ……そりゃやばいっすね」

 

 

 けっきょく昨夜はなかなか寝付けなくて、やっと眠れたと思ったらミルさんの可愛いが過ぎる寝言で目が覚めて。しかもその寝言がなんていうか……どうやら夢の中におれが登場して、しかもしきりにカラダを求められてることを察してしまうような、そんな淫靡な感じの寝言だったので……そらもう、こんなん完全覚醒してまうがな。

 

 そんなこんなで朝の四時をいくらか回った頃には眠ることを諦め、【静寂(シュウィーゲ)】を活用してこっそりと車から這い出し、椅子に座りながら次第に明るくなっていくお空を『ぼーっ』と眺めていたというわけだ。

 

 

 

「まぁそろそろいい時間ですし……起こしますか?」

 

「んー、朝メシおっ始めちゃえばにおいで目が覚めるかなって」

 

「それもそっすね。……カレー麺でしたっけ? 湯沸かしますか」

 

「おう。せっかくだしバーナー試してみたい。緑色のやつ」

 

「おぉ、いいっすね」

 

 

 テントの中からローテーブルを取り出し、その上にカセット式のバーナーをスタンバイ。ペットボトルの水をケトルに入れて火に掛け、朝メシを食べるためのお湯を沸かしていく。

 おうちでは特に何も感じない工程だが、こうして屋外で風を感じながらだと風情を感じるから、なかなかどうして不思議なものだ。

 

 

「まあ早く食べたいし、時短するけどね。えいや【加熱(ヘイティズ)】」

 

「ゥオア!? びっくりしたァ!」

 

「いぇーい。じゃあほれカレー麺。へーい」

 

「あざまっす。……いやこれバーナー意味ありました?」

 

「き、気分……」

 

「……そっすか」

 

 

 

 屋外で食べるごはんは、たとえカップ麺でも美味しく感じる。やはり次はレトルトやカップ麺ではなく、しっかりとアウトドア料理に挑戦してみよう。

 そのときはちゃんと動画に撮って……あぁ、リアルタイム配信とかやってみても面白いかもしれない。キャンプライブ配信。

 霧衣(きりえ)ちゃんも出演できるから画面映えするだろうし、ラニも『謎技術です!!』って言い張れば映っても許されそうな気もするし。

 

 でもやっぱり……そのときはモリアキにも、それこそ例の『マネージャーさん』名目ででも、一緒に巻き込んでしまいたい。某『どうでしょう』な番組のディレクターさんのような感じで、声(とたまに手や体など、要するに首から下の部分)だけの出演なら……なんとかならないだろうか。

 

 ……まあ、そのためには。

 

 

 

「……なぁ、モリアキ」

 

「ほへ? 何すか? オネダリっすか?」

 

「うん、FA(ファンアート)ほしい。…………じゃなくて!」

 

「オォウ!?」

 

「…………迷惑掛けたよな。色々と」

 

「…………? ……………………あぁ!! やっと気づいて貰えたんすか!?」

 

「ヴッ……ご、ごめんて」

 

 

 おれの身体が変わってしまっても、よき理解者である彼との関係は不変だと信じたくて。

 以前のおれの常識()()()()()が次々と壊れていってしまう中、以前と変わらず接してくれる彼の厚意にすがり付いて、甘えていたくて。

 

 そんなおれの、身勝手ともとれる言動によって……彼には大きな負担を掛けてしまっていたことに。

 

 

 

「距離感近すぎだ、って……ちょっと危なっかしいって、ミルさんに教えてもらった。……気を付けるな。ごめん」

 

「…………まぁ、先輩が自分の可愛さを自覚してくれるんなら……オレのことは別に、そこまで気にしないで良いっすよ」

 

「………………えっ?」

 

「で……ですから! ……あんま気にしないで、今まで通りで良いっすよ、オレに対しては」

 

「だ、大丈夫? ムラムラしない?」

 

「……いや、正直幼すぎて微妙っていうか…………『わかめちゃん』の外見年齢もうちょっと上の、それこそjk相当にしときゃ良かったな、とは正直思いま痛ァ!!?」

 

「やっぱ胸か!! 胸が足りないからか!? そんなにおっぱいが好きか!?」

 

「いや男ならおっぱい好きでしょう。大小の好みはあれど」

 

「そうだよなぁ」

 

「いやソコ納得するんすか」

 

「まぁおれも男だしなぁ」

 

「譲りませんねぇ……(無駄なのに)」

 

「そらそうよ(なぜなら男だから)」

 

 

 

 

 朝露が滴る、非日常感あふれる森の中の……少し肌寒くも心地よい朝。

 

 可愛らしい同居人たちが起きてくるまでの暫しの間、おれたちはカップ麺をすすりながら、以前のように馬鹿話に興じていた。

 

 



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242【試行運用】帰るまでが遠足

 

 

 その後は特に大きなイベントが起きることもなく……順々に女の子たち(ぎゃるず)が起きてきたので、順次カップ麺をふるまっていった。

 ちなみに霧衣(きりえ)ちゃん、ミルさん、ラニの順だ。……おれの可愛い相棒は、相変わらずのねぼすけさんのようだ。

 

 女の子たちがカップ麺をすすっている間に、おれたちはテキパキとテントを撤収していく。中身を片付けてポールを抜いてシート類を畳んで……モリアキと二人声を掛け合い、なかなかのハイペースで片付いた。

 ……もしかしたら、おれにはキャンプ設営・撤収の才能があるのかもしれない。

 

 朝ごはんを食べ終えたら、あとの予定は帰るだけだ。

 カップ麺のカラをゴミ袋に詰め込み、車の外にゴミが落ちてないかを再度確認し、忘れものが無いことを確かめ……各々が最終確認を済ませたならば、準備は万端だ。

 

 

 

「支払いは別に良いんすよね?」

 

「そうみたい。好きなタイミングで帰ってくれ、って」

 

「ほいほい。じゃあ行きますよー」

 

「「はぁーーい!」」

 

「「は……はあい!」」

 

 

 のっぴきならない事情により寝不足気味のおれに代わり、運転手(ドライバー)を買って出てくれたマネージャーさんことモリアキ。おれの眠気は疲労回復魔法をぶっ放せば問題ないのだが……ここであえて『オレももうちょい運転してみたいんで』と申し出てくれた彼の厚意に甘えることにする。……甘えてばっかだな。

 

 こうしておれたちは複合キャンプ場『加賀白山の森』を出発し、初めて臨んだおためし車中泊は、まずまず……というよりは、なかなか良好な結果を見ることとなった。

 いずれ行う(予定の)撮影を視野に入れての本番が、いまから楽しみだ。

 

 

 

 

「ミルさん時間は大丈夫ですか? 何時までに帰らなきゃ、とか」

 

「大丈夫です。予定は明日の夜の配信くらいしか入ってませんので」

 

「じゃあこのまま車で、港区までお送りしちゃって良いですか?」

 

「大丈夫です。……むしろ、すみません。ぼくなんかに色々と…………本当に色々と、気を使っていただいて」

 

「いえいえいえ! むしろおれたちの弱点をカバーしてくれる存在がいてくれるほうが、おれは嬉しいですし。……まぁそんな打算無しでも、ミルさんと知り合いになれて嬉しいですし」

 

「わ……わかめ、さん…………すみません、ちょっと本気で狙って良いですか? 性的に」

 

「おごッ!? お、お、おとっ、おとこわ……おことわりします!!」

 

 

 

 

 おれやラニ、そして霧衣(きりえ)ちゃんの三人組……この弱点と言えるのが、ずばり『人手が足りていない』というところだろう。

 あの『苗』を感知し、対処できる人員が限られる上、おれたちはよりにもよって『配信者』という仕事を選択してしまっている。仕事がら生配信などの外せない用事は発生してしまうし……仮に配信中に『苗』が出現した場合なんかは、一旦配信を終了して『苗』の対処に向かうしか無いわけだ。

 一度や二度なら……視聴者さんにも『仕方無い』と目を瞑って貰えるかもしれないが、何度も続くようならさすがに配信者としての品性を疑われてしまうかもしれない。

 

 しかしそんな中で、おれと同様に『苗』に対処できるミルさんと出会うことができ、おれが対処できないタイミングで『苗』が出現した場合には協力してもらえることとなったのだ。幸いにして(ミルさん)も応用の利きそうな異能を獲得しているようなので、大きな助けになってくれるだろう。

 もちろん、危険が無いとは言えないのだが……『若芽さんが戦ってるんだから』と気合充分に、おれたちへの協力を表明してくれた。

 まぁこの仕様上、おれたちとミルさん両方が生配信をしていたらアウトなのだが……既に告知してしまっている今週末のコラボは仕方ないとして、なるべく被せないように立ち回れば良いだろう。

 最悪の最悪……ラニ単独で()()に当たってもらうことも、不可能ではないみたいだし。

 

 

 まあそんなわけで。

 おれたちにはゲームふうに言うところの、心強いPTメンバーが仲間になったわけだ。

 

 

 

 

 

 石河(いしかわ)県を出発したおれたちは行きと同様、日本海側ルートを順調に南下し……途中福居(ふくい)県と志賀(しが)県でそれぞれサービスエリアでの小休憩、またおれとミルさんに【エルフ(等幻想人物(ファンタジー))隠し(改訂版)】を掛けた上でのお昼休憩を挟み、神々見(かがみ)湾岸道路へと戻ってきた。

 その名の通り神々見(かがみ)湾に沿うように、浪越市を東西へ突っ切るように走るこの道を東進すれば、おれたちの住む岩波市まではあと少しなのだが……ミルさんのおうちがあるのは浪越市港区の埠頭近郊エリア、水族館近くの高層マンションとのこと。

 

 なので……ミルさんをお送りするためには、途中で一旦高速道路から降りる必要があるわけだな。

 

 

 

「ミルさんスマセン、この次の……『とびねずみ』? インターで降りれば良いんすか?」

 

「『飛烏(とびくろ)』は(くだ)りしかインターがないので、その次の『浪港(ろーこー)中央』インターで降りていただいて……そのあとは『おおなぎ線』に沿ってしばらく進んでいただければ」

 

「ヨッシャまかせとけ! あとは水族館探して、スマホのナビでおれが案内するよ」

 

「『(カラス)』と『(ネズミ)』を読み間違う幼女にドヤ顔されても不安なんすけど」

 

「な……ッ!? じ、じゃあモリアキは読み間違えないっていうの!?」

 

「まぁ…………見慣れてますし。『烏森(かすもり)』の(かす)の字ですんで」

 

「……………………」

 

 

 

 

 指示通りに『浪港中央(ろーこーちゅうおう)』で降りて、一般道に入る。現在の暫定目的地である浪越港水族館は結構な規模の施設なので、そこへ目掛けてナビで進めばおっけーだろう。

 軽くディスられた(※思い込みです)鬱憤を晴らすかのように、おれは的確にナビゲーションを進めていく。するとどうだろう、おれの指示のおかげで(※思い込みです)われらがキャンピングカーはすいすいと市街地を進み、順調に水族館へと向かっていく。

 

 

 

「その先の……コンビニの角を曲がってください。踏切越えてすぐの側道を抜けるとつぎの(かど)が駅なので、そこを左に曲がってもらえば、すぐです」

 

 

 

 ミルさんに導かれるままにたどり着いたそこは、しっかりとしたエントランスを備える高級志向のタワーマンションだった。

 いちおう部屋ごとに駐車場も備わっていたようで(しかしミルさんは自家用車を持っていなかったらしく)……おれたちの車が、記念すべき初の駐車車両となったようだ。

 ミルさん(のおうちの駐車場)の初めて……もらっちゃいました。

 

 

 

「……本当に、ありがとうございました。……楽しかったです」

 

「いえいえいえ! こちらこそ!」

 

「それでさぁ、ミルちゃん……さっき言った『お願い』の件なんだけどさ? いや、ほんのちょっと。ボク一人だけでいいから。ほんの先っちょだけ。いや(いち)往復(ピストン)だけでも」

 

「ねえラニ何いってるの」

 

「……先っちょとか一往復は、ちょっとぼくもよくわかんないですけど……例の『マーカー』ですよね? 構いませんよ。……せっかくですし、皆さん上がっていきますか?」

 

「ヨッシャァ!!」

 

「ま、まじですか……! ありがとうございます!」

 

「ちょ、っ……良いんすか? オレも?」

 

「もちろんですよ。この二日間いっぱいお世話になりましたし」

 

 

 おれたちのおうちに帰る前に、せめて【座標指針(マーカー)】だけでもとお願いしていたおれたちに……まさかのまさか、ミルさんのおうち訪問の権利が降って湧いてきた。

 この身体になってから供給不足に喘いでいた、おれの『他人のお部屋見たい欲』……それが満たされるチャンスが現れたのだ。

 

 

 終了目前にこんな目玉イベントが出てくるなんて。この一泊二日に『うれしい』が盛りだくさんの、今回の金早(かなざわ)旅行。

 

 

 さすがに気分が高揚しますね!

 

 

 加賀だけに!!!

 

 



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243【試行運用】ふれんど申請

 

 

 以前も述べたように……おれは他の人のお部屋を拝見するのが好きだ。

 

 遊びに行ける間柄の知人がいるのなら、度々飲みや遊びに訪問させてもらったり。

 芸能人の豪邸紹介やインテリアコーディネート系・大規模リフォーム系のテレビ番組があれば、目につく限りは追っかけてみたり。

 読者投稿型の『自慢のマイルーム』紹介雑誌なんかは、はっきりいって大好物だ。実際に訪問することは叶わぬまでも……いろんな趣向を凝らされたお部屋を拝見できるというのは、非常に良い刺激になる。

 

 

 ……というわけで、この『ミルさんのおうち訪問』だが……実のところおれは、非常にテンアゲだったりするわけだ。

 

 

 

「……どうそ。かなり散らかっちゃってますが……」

 

「「おじゃましまーす!」」

 

「「お、お邪魔します……」」

 

 

 元気よく足を踏み入れるおれとラニ、おずおずとドアをくぐるモリアキと霧衣(きりえ)ちゃん。

 おれが初めて目にする同業者(キャスター)のおうちは……やはりというか元・女の子らしさとセンスの良さを感じさせる、ナチュラルテイストですてきなお部屋だった。

 

 

 いわく……間取りは2LDK、広さおよそ六十㎡の角部屋物件。十四階建ての八階部分のミルさん()は、以前のおれの部屋に一部屋足したような部屋割りだった。

 つまりは……LD(リビングダイニング)が、ちゃんとリビングダイニングしているのだ。

 

 ベランダがわにLDと洋室が配され、そちらがわの個室が撮影スペースとなっているらしい。とはいえLive2Dでの表現を使用しているミルさんは、おれとは異なりグリーンバック等の全身撮影設備は(現状)必要としていない。……もっとも、3Dアバターとフルトラッキングそのものには興味があるようだが。

 というわけで、ミルさんの仕事部屋。五畳らしいこのお部屋にはメインPC(りんご印のゴツくて高いやつだ)をはじめ、現行の各種新型ゲーム機やゲームパッド、VRツール等の『仕事道具』がきっちりと収められている。

 

 そして……その仕事部屋の壁面、メインPCデスク向かいの壁面。そこにはA3縦にでかでかと引き伸ばされた、『ミルク・イシェル』さんの高解像度の立ち絵をはじめ、おそらくはキャラデザインを手掛けたイラストレーターさん本人による細かな設定画の数々。

 さらにその周囲には、A4サイズでカラー印刷されバッチリラミネートが施された、『ミルク・イシェル』さんのファンアートの数々。

 

 

「こんなこと聞くのも、おかしいのかもしれませんが…………よっぽど『好き』なんですね」

 

「…………そう、ですね。……小さい頃から海が好きで、だからこの『ミルク』を演じられることが、本当に嬉しくて。もっと『ミルク』をうまく演じられるようになりたくて、この子の魅力をもっともっと伝えたいって必死になってて。気がつけば一人称も『ぼく』に……『ミルク』の色に染まってて。…………まぁ、身体まで『ミルク』になっちゃうのは、さすがにかなり予想外でしたが」

 

「ですよねぇ…………わかるぅ…………」

 

「わかりますかぁ……よかったぁ……」

 

 

 やっぱり境遇を知れば知るほど、彼はおれと共通する部分が目立ってくる。

 ここに至るまで色々と苦労してきたのだろうし、モリアキとは違う方向で頼れる人物とお近づきになれたこと……協力を取り付けることができたことを、おれは非常に嬉しく思う。

 

 

 

「ねぇねぇミルちゃん、このへんに【門】出口置いていい?」

 

「あっ、リビングなら大丈夫です。配信部屋と寝室は勘弁してほしいですけど」

 

「大丈夫? 裸でうろついたりしない?」

 

「いやぁ、さすがにそんな…………………してるんですか!? 若芽さん!!」

 

「ォエエ!? してないよ!!? ちょっとラニ!!」

 

「エヘヘ……」

 

 

 隙あらばいたずらごころを発揮しようとする妖精さんを叱り飛ばすも、実際彼女はちゃんと『おつとめ』を果たしてくれているので、あまり強くは言いづらい。……だからこそ調子に乗っちゃうんだろうな!

 

 ともあれこれで備えは万端、おれのスマホとラニ(に預けたまま)のタブレット、それぞれのREIN(メッセージアプリ)と連絡先交換を済ませ、それぞれのおうちを繋ぐ直通コースも用意できた。

 これでおれが手に負えない()()()()の際は、すぐさまミルさんに相談したり、ラニが直行したりできるようになったというわけだ。

 

 

 こうして根回し……というか()()()を済ませたおれたち四人(含むラニ)は……ミルさんのおうちのリビングダイニング、淡い色使いのカントリースタイルなくつろぎのスペースで、優雅なアフタヌーンティーをごちそうになっていた。

 お紅茶はミルさんが、秘蔵のダージリンを慣れた手つきで淹れてくれた。お茶菓子はつい数時間前にサービスエリアで買ったばっかりの、うさぎの形をした可愛らしいお饅頭。これがまたミルさん()のガーリーな食器によく似合い、非常にファンタジックで可愛らしい。……写真撮っとこ。

 

 西洋のお茶に興味津々な霧衣(きりえ)ちゃんも、この可愛らしさには思わず目を輝かせてしまっているようだ。しっぽぶんぶんが非常に可愛らしい。

 お鼻をすんすん鳴らしながらおずおずと紅茶を口に含み……あっ、どうやらお気に召したようですね。目もとと口もとが緩んでしっぽぶんぶんが早くなってますね。めっっちゃかわいい。

 

 

 

「…………いや、でも…………本当に、遊びに来てくださって……ありがとうございます」

 

「こちらこそお招きいただいて。正直とても嬉しかったです。……おれ、おうち訪問めっちゃ好きなので」

 

「あぁー、やっぱりそうですか。なんか視線が結構本気(マジ)っぽかったので……」

 

「ヴッ……し、失礼しました……」

 

「ミルちゃんは同僚の子たちとは、あんまり遊びいったりとかしないの?」

 

「あはは…………残念なことに、みんな東京在住なんですよね。そういう距離感に憧れはあったんですけど……上京しようとした矢先に()()なっちゃって」

 

「そ、それは…………また……」

 

「お、おれん()なら……! うちなら、いくらでも遊びに来ていいですから! なんなら庭でキャンプしてもいいから!」

 

「あっ、それは楽しそうですね。若芽ちゃんとキャンプコラボ配信とか、絶対盛り上がりますよ」

 

「あーおもしろそう! …………でも、まぁ、そのためにも……事務所(にじキャラさん)にちゃんと相談しないと、ですね」

 

「ですねぇ……」

 

 

 

 望んだ形とはやや違うだろうけど……これも使い方によっては大きな武器となり得ることは、おれがよーく解っている。

 とりあえずは、所属事務所である『にじキャラ』さんに話を通すべきだろう。にわかには信じがたい出来事とはいえ、現実として()()()()()しまったんだから仕方がない。なんだったらおれも事情説明に協力したっていい。

 『にじキャラ』さんにとっては部外者だが……事態をよく知る人物としては、たぶんおれ以上の適役は居ないだろう。

 

 説明を受けた『にじキャラ』さんがわが、果たしてどういう判断を下すかまでは解らないが……ミルさんやうにさんから聞いた話と、実際に話してみた八代(マネージャー)さんの印象からして、そこまでミルさんに不利になるような処置は下さないだろう。

 ……実際、今まで通りの通常業務――Live2Dアバターを操っての配信――を行う分には、全くと言っていいほど支障は無い。実害は無いはずなのだ。

 

 

 

 願わくば……彼にとって、いろんな意味で幸運な結果となりますように。

 

 

 



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244 最近のぼくの悩み

 

 

 ぼくが()()なってからのおよそ一ヶ月間、今までほんの少しも打開できなかった周辺の問題が、あっという間にトントン拍子で好転し続けた……本当に嘘のような二日間。

 

 独力では決して逃れられなかったであろう、思考のドツボに沈んでいたぼくのことを助けてくれて……久しく忘れていた感情を思い出させてくれた可愛らしい女の子とその仲間たちは、どこか名残惜しそうに――しかしとてもいい笑顔で――『またね』と告げて去っていった。

 

 

 そう…………『またね』。

 ぼくはあの可愛らしい少女と……ぼくを救ってくれた小さなエルフの女の子と、また遊ぶことができる。

 

 明後日の土曜日が、FPSゲームのコラボ当日が、今は楽しみでしかたない。

 あの子と出会うことができ、自宅に招けるほどにまで親しくなることができ……抱えていた懸念も、次々と解消してもらうことができたのだ。

 ぼくが()()()()()()()()()のも、悪いことばかりじゃないみたいだ。

 

 

 

 

 

 昨年末のある日。雷が延々鳴り響き、滝のような大雨が降り続いた日。

 今後の配信活動について悩んでいたぼくは、突然意識を失ったらしく……目を覚ましたときには、ぼくの身体は何から何まで変わり果ててしまっていた。

 

 そこまで大きいほうではなかったが、それでも確かに存在していた胸の膨らみは……一切の脂肪が無い真っ平らに。

 湿気を含めばもしゃもしゃと暴れていた、まるで海藻のような髪の毛は……櫛を通す必要も無いほどに真っ直ぐに。

 紛れもない日本人である証拠ともいえる、没個性な黒髪と黒目は……きらきら煌めく白髪と、神秘的な灰白の瞳に。

 

 そして……未だかつて(当然だが)経験したことの無い、脚の間に確かに感じる()()()()()()()()()の存在感と、重量感。

 

 

 

 変わり果ててしまった容姿とは裏腹に、幸いなことに『声』は以前と変わらぬまま。だからこそクリスマスや年越しの配信(業務)は(内心の混乱と焦りを隠しながらも)なんとか怪しまれずにこなすことができた。

 しかしながら事務所(にじキャラ)の忘年会は(そもそも距離的な問題もあったのだが)さすがに参加することはできず、学生以来の仮病を使う羽目になってしまった。

 

 

 配信が続けられたことは不幸中の幸いだったが……身体が変わってしまったことで、当たり前だがぼくの日常生活も完全に変わってしまった。

 

 

 まず何よりも最初に、着るものの調達に難儀した。

 ぼくたちの配信における演出は、あくまでも顔の表情や動きをトレースして行うものだ。実際に姿をカメラに映すわけではないので……極論を言えば、裸でも配信を行うこと自体は可能なのだ。

 しかしそれはさすがにヒトとしてどうかと思うのと……万が一にも表情トレースアプリケーションが不調を起こしたりして、撮影映像そのまま公開されてしまった場合。リアルタイムで世界中に動画や静止画が駆け巡るこのご時世、こっちもまた社会的に即死だろう。

 

 しかし、このあたりはまだ何とかなった。

 プライム会員である自分は、衣料品であればほとんどの品が送料無料。浪越市は――東京ほどではないが――そこそこの都市圏なので、注文の翌日にはほぼ届く。このご時世『置き配』であれば姿を晒す必要もない。

 試着できないのは少々不便だが、ちょうど良いサイズは身長からだいたい判断できるし、肝心の身長は実際に測るまでもなく解る。なにせ設定資料のそのままの数値なのだ。

 加えて……以前から持っていた衣類であっても、決して着れないこともない。体格は多少縮んだとはいえ部屋着なんかであれば問題なく着用できるし、むしろ今の身体であれば男性用より女性用衣類のほうが似合う説もある。最低限下着さえ調達できれば、あとはそこまで困ることでもなかった。

 

 

 同様に……食べるものに関しても、各種サービス発展のお陰でなんとかなった。

 袋ラーメンやレトルト食品なら通販で問題なく取り扱ってくれるし、テイクアウトを行っている飲食店であれば自転車便やバイク便でデリバリーだってしてくれる。

 

 どうしても外に出なければならないのは、週に一度のゴミ捨てくらいだろう。これはもう仕方がないので諦め、早朝三時くらいにフードを目深に被って、聞き耳を立て人の気配を探りながらこっそり出しに行くことにした。

 もし他の住人に見られたら不審者として通報されるかもしれないが、夜中であれば遭遇する危険もほぼ無い。結局こちらもなんとか適応することができた。

 

 

 

 日常生活を送る分には、この身体でもなんとかなるということが判ったのだが……当然、問題だって降ってきた。

 中でも、最も難儀したトラブルはというと……以前のぼくの身体には存在しなかった、脚の間の()()だろう。

 

 こんなモノ……遠い遠い昔に、お父さんと一緒にお風呂に入った頃でしか――あるいは真っ黒に塗り潰されたモノしか――お目にかかったことがない。

 薄れていた記憶に刻まれていた()()よりも圧倒的にグロい造形に、そしてあまつさえ()()が自分の股間にぶら下がっているという事実に気が遠くなったものだが……何よりも困惑したのは、その…………『暴走しやすさ』とでも言うべきだろうか。

 

 ぼくが思い浮かべる()()()()()()に反応し、ときにはぼくの意識とは裏腹に、元気いっぱいに立ち上がり暴れまわる()()

 たとえ下着を着けていても、ズボンをはいていても、元気いっぱいになってしまえば服の上からでもバレバレだ。おまけに変な形のときに元気になられてしまうと、変に圧迫されて非常に痛い。そもそも日ごろから納まりがいまいち落ち着かない。脚の間になにかがぶら下がることの違和感が半端ない。

 おまけに……()()()()()()を考えているのだと一目でわかってしまうだなんて、男の人の身体ってなんて不便なんだろうと……そもそもなんでこんなことになってしまったんだろうと、神様を呪いたくなったりもした。

 

 

 ほかにも『保険証がたぶん使えない』とか『免許証の写真と明らかに違う』とか『吊り戸棚に届かなくなった』とか、あるいは『変な声が聞こえる』とか『なんか断末魔が聞こえる』とか『洗濯物が一瞬で乾かせた』とか『手を使わず身体を洗えるようになった』とか気掛かりな点は多々あれど…………とにもかくにも、()()の出現による衝撃がすべてを持っていってしまった。

 

 

 

 ()()()()を改めて実感したのが……あの可愛らしいエルフの女の子に誘われての、突発的なお泊まりだ。

 

 ぼくの身に起こった事件の全容を、ぼくの気苦労を、ぼくの懸念を、余すところなく理解してくれた彼女。

 ただの同業者かと思っていた……その輝きに憧れすら抱いていた彼女と出会い、同じ部屋(車両)で一夜を共にさせて貰ったりもした。

 

 

 

 そうしたら、えっと、もう、あの、ほんと、なんていうか…………たいへんだった。

 

 ぼくと同様……いや、どうやら()()だったらしい彼女は、やっぱりというか『女の子』として不馴れな様子だった。

 元々が男性であり、しかもなかなかフランクな感じで接する性格だったようで、なにかと距離が近い。男性だったならば然したる問題にもならなかっただろうけど……女の子となってしまった今となっては、その距離感は非常に危険だ。

 おまけに男性だったときの癖なんだろうけど……動作がなにかと大きかったり、脚を大きく開いたりが多い。とにもかくにも隙だらけで、つまりは非常に危なっかしいのだ。

 

 可愛らしい女の子のそんな無防備な所作を見せつけられれば、同席する男性はたいへんなことになってしまうだろう。

 

 

 …………ぼくのように。

 

 

 

 

 

 

「…………全然、収まらないんだけど……」

 

 

 ()()()()()()ときにいつのまにか身に付けていた、灰白色ベースの『ミルク・イシェル』の()()()

 ふんわりとしたこのスカートのお陰でどうにか隠しきれたと思うのだが……あの可愛いすぎるエルフの女の子の一挙一動にドキドキが収まらず、ほぼずーっと()()()()()だった。

 

 

 恩人でもあり、魅力的な女の子でもあり、切磋琢磨し合う同業者でもあり……そして『苗』と戦う仲間でもある。

 そんな『木乃若芽ちゃん』との共演を明後日に控えた、『ミルク・イシェル』となった、ぼく。

 

 本番に向けて、とりあえずやるべきことは明らかだ。

 

 

 

 

 この()()()()をどうにかする(すべ)を……今日明日中に身に付けなければ、どうにもならないだろう。

 

 笑うしかないな。……いや笑ってる場合じゃないんだけど。

 

 





「へっぷち」

「うわ何そのかわいいくしゃみ」

「んんー? だれかおれのウワサしてるとか……?」

「心当たりがありすぎるね? 人気者め」

「エヘヘー」



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245【途中迂回】にげられない!!

 

 

 さてさて。

 主目的であったグランドハープ(破損あり)の取引と、ついでのおためし車内泊という一大イベントを無事に堪能し終え、加えて強力な助っ人とのコネクションを得ることができた。

 すてきな『助っ人』ことミルさんをおうちへお送りして、【座標指針(マーカー)】も打たせて貰って非常時の備えも取らせて貰い……あとはおうちに帰るばかり。……なのだが。

 

 

 

 岩波市のお屋敷に拠点を移してからも、おれの前居である浪越市南区の物件はそのままだ。

 市街地の拠点として色々と便利に使えそうだというのもあったし、なによりも戸籍上はそこ(南区)がおれの住所になっている。

 郵便とか各種通知なんかもここ(南区)に届くので、定期的に回収するのが望ましいと思っているわけだ。……あっちの住所は、なるべくなら使いたくない。

 

 それに加えて……まるごと引っ越ししたスタジオスペースとは異なり、私室のほうはほとんどそのままだ。新居の私室も良い感じに整ったので、使えそうな家具類を少しずつ移しても良いかと思ったわけだ。

 

 

 

「じゃあモリアキ……いろいろとありがとな! 楽しかった!」

 

「コチラこそ! 旅行めっちゃ楽しかったすよ!」

 

「キリちゃんも気に入ったみたいだし、また行こうね! マネージャーさん!」

 

「っへへ…………楽しみにしてるっす!」

 

 

 旧拠点ちかくのコインパーキングに車を停め、人目につかないその車内でモリアキ宅への【門】を開く。すっかりこのファンタジーな交通手段に慣れた彼は余裕さえ漂わせ、ラニに手を引かれて亜空間へと消えていった。

 

 

 というわけで。おれたちもおうちに帰るにあたり、その前にパパッと寄り道を済ませてこようと思う。

 戻ってきたラニに今度はおれの部屋行きの【門】を開いてもらい、霧衣(きりえ)ちゃんと共に一足先におれの部屋へと飛んでもらう。

 おれは【エルフ隠し】を纏った上で普通に入り口からマンションへ入り、集合ポストを確認したのちに部屋へと向かうつもりだ。

 

 

「じゃーね、ノワ」

 

「おう。すぐ行くー」

 

「おっ……お先に、失礼致しまする」

 

 

 可愛い二人組の姿が消え、おれは『ひょいっ』と車から飛び出し鍵を掛ける。そのままぽてぽてと歩道を歩いて、ほんの数週間前までは毎日のように出入りしていたエントランスへ。

 入り口すぐの集合ポストには、やはりというか郵便物がそこそこ溜まっていた。落とさないようにまとめて回収し、持ちやすいように整えてホールドする。

 

 ひじでボタンを押してエレベーターの扉を開け、同じくひじで懐かしくもある階数ボタンを押す。がたがたと音を立てながら扉が開き、重力加速度を感じさせながら籠が上昇していき、やがて電子音と共に扉が開く。

 エレベーターを出てから延びる廊下も、ずらりと並ぶ玄関扉も……引っ越ししてからそんなに長い期間経っていないはずなのに、どこか懐かしいような不思議な気分だ。

 

 

 

「ただいまー」

 

「おかえりー!」

 

「おっ、おかえりなさい……ませ」

 

 

 自宅の鍵を使って、玄関扉を開けて……待ち構えていた家族二人にあいさつを投げ掛ける。当たり前のように返ってくる言葉に頬が緩むのを感じながら、靴を脱いで上がっていく。

 殺風景になってしまったリビングスペースを素通りし、おれが長らく寝起きしていた私室へ。この部屋に置きっぱなしになっていた『使えそう』なモノを見繕い、ラニに運んでもらおうというのが、今回の寄り道の目的である。

 

 

「よしっ! じゃあ……始めよっか。じゃあまずは……テレビからおねがい!」

 

「てれび、てれび…………あの黒い硝子板だっけ?」

 

「そうそれ。今コンセントと配線引っこ抜くから…………いいよ! おねがい!」

 

「ほいほい! まかせたまえ!」

 

 

 ラニの号令で開かれた亜空間に、やや大きめのテレビがずるりと引きずり込まれる。ついでとばかりにその下のテレビ台、およびゲーム機複数も合わせて仕舞って貰い、あっという間に大きなスペースが出現した。

 

 

 時間にして……おれが『ただいま』してから、ざっと五分経ったかどうかといったタイミングだろうか。

 

 さあ次は何を仕舞ってもらおうか……と考えていたおれの、長く尖ったチャーミングな耳に。

 

 

 

 

――――ぴーんぽーん。

 

 

 

「………………んん?」

 

「はえ?」

 

「えっと?」

 

 

 おれにとっては聞きなれた……しかし、なぜか違和感を感じずにはいられない電子音が、唐突に届けられた。

 

 

 ご近所付き合いがほぼ死滅しつつある昨今、来客なんてあるはずもない。

 心当たりがあるとすれば宅配便かそのあたりだろうが……ここ最近この住所に注文した品なんて、残念ながら思い浮かばない。

 

 

 

――――ぴーんぽーん

 

 

「あっ…………はぁーい!」

 

 

 来客が誰なのかはよくわからないが、あまり待たせるのも良くないだろう。記憶に無いだけで結構前に何か注文していたのかもしれないし、実家とか友達から何か小包でも送られたのかもしれない。

 とにかく話は出てからだ。善良な市民であるおれは『居留守を使う』なんて考えが浮かぶこともなく、ぱたぱたとリビングを通過し玄関へと向かっていき…………このあたりで、確か鍵を掛けていなかったことを思い出した。

 

 そんなおれの目の前で――足音か何かで人物の接近を察知したのだろうか――鍵の掛けられていない玄関扉があっさりと開かれ、ドアノブに手を伸ばしたままの変な体勢で固まるおれの目の前に…………

 

 

 

 

 大柄で屈強な、揃いの服を着た男性。

 

 それが…………三人。

 

 

 油断や隙が一切ない、まるで獲物を凝視すかのように揺るがぬ視線で、おれのことを注視していた。

 

 

 

 

「………………なん、です……か?」

 

安城雅基(アンジョウマサキ)さん、ですね?」

 

「…………!!?」

 

 

 出迎えたおれの……どう見ても少女でしかないおれの姿を見て、家主であると一発で言い当てた男。

 

 思わず後ずさり距離を取ろうとするおれに対し、自らの懐へと手を入れ何かを取り出そうとする男。

 

 

(ラニ! 出てこないで! それと【門】用意しといて!)

 

(!!? 解った)

 

 

 どう見ても配達業者ではないその様相……どういう経緯でおれの本名が知られたのかはわからないが、とりあえずここは逃げるべきだと判断を下す。

 

 そう……どう考えても逃げるべきだ。こんな明らかに強そうな男性三人に捕まってしまえば、いったい何をされることか。きっと有無を言わさず捕まって運ばれて、どこかへ連れて行かれて大変なことをされてしまうに違いない。きっとこのマンションのエントランス付近にはそういうための車が停められているだろうし、きっとこの三人以外にも仲間がいたり後で増えたりするんだろう。

 そういう展開だって知っている。おれは詳しいんだ。薄い本で勉強したし。

 

 

 そうとも……こんなお揃いの服を人数分きっちり揃え、揃いも揃って身体を鍛え上げ、物々しい装備を吊るしたベルトを締めて、パスケースのような手帳のような黒色の物体を懐から取り……出す……ひとたち…………なん…………て?

 

 

 

 

「浪越中央署の春日井(かすがい)と申します。……お久し振りです、と御挨拶すべきでしょうか? 陽炎の『魔法使い』殿」

 

「まヒャぉ゜…………ッッ!!?」

 

(ねえノワ!? このヒトってノワがヒャッカテンで迷惑かけたヒトじゃない!? ケーサツだっけ!?)

 

「そ、そえォれ゛……!!」

 

「あの……押し掛けた我々が言うのも難なのですが…………大丈夫ですか?」

 

「へぁ゜!? ひゃ、はひュ…………ふ、ッ、ふャい゜!!」

 

(いや大丈夫じゃないわこれ)

 

 

 

 『苗』によって引き起こされた事件に首突っ込むときは、身元がバレないように隠蔽魔法を張り巡らせていたはずなのに……ほんの微かに残してしまっていた足跡から、ついにおれの住所を特定されてしまったらしい。

 

 現代日本の捜査能力あっぱれと言うべきか、自分の見込みが甘かったと悔いるべきか。

 住所と本名を特定され、こうして『隠蔽していない素顔』を見られたということは、この日本国内において逃げきることはほぼ不可能ということだ。いったいどうしてこんなことに。

 

 

 住所と本名……そして顔。

 

 住所と……本名と……顔。

 …………そして、警察。……()()()

 

 

 

 …………あっ!!!!

 

 

 

 

「免許証!! 更新したせいか!!!!」

 

 

 そうだよあほだよ!!!

 

 






【悲報】えるふわかめちゃん補導される



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246【途中迂回】ちょっと署で話を

 

 

 おれはこれまで、ひたすら善良な一般市民であろうと心がけてきた。

 法律や条例を順守することはもちろん、車両運転時にも教習所で習った通りの事故予防策を徹底し、それこそ警察の方の厄介になることなど無いように暮らしてきた。

 

 なので()()は……当たり前だが、まったくもって初めての経験だった。

 

 

 

 

「急な申し出に応じて頂き、感謝致します」

 

「は…………はひ」

 

「署までもうしばらく掛かりますので……申し訳ありませんが、ご了承下さい」

 

「ひゃい……だいひょうぶえしゅ……」

 

「……体調等、異常はありませんか?」

 

「あひゅ…………お、思ってたより……のりごこち、いいんです……ね?」

 

「…………そうですね」

 

 

 

 確かにおれの想像していた通り……おれの家に押し掛けてきた男性三人組は、おれのことを拐いに来たようだった。

 マンションのエントランス付近には黒塗りのセダン(天井部分から赤色灯がせり上がってくるやつ)が停められており、その中にはさらに追加のお仲間(警察官)が待機していた。春日井(かすがい)さんとその部下に前後を挟まれたおれは……ろくな抵抗ができないまま、すごすごと車の中へと連れ込まれてしまったのだ。

 

 いやぁ……見事な手際ですね。これは日ごろからこういう行為に及んでいる可能性が高いですよ。おれはくわしいんです。

 

 

 

「…………改めて申し上げますが、決して『魔法使い』殿を罪に問おうと考えての連行ではありません。……気楽に、とは言えませんが……そこまで緊張なさらずに」

 

「す、すす、すみばぜん…………はじめて、いきなり、ぱとかー……だったので……」

 

「突然の訪問に関しては、失礼しました。……一応、数日前に書面でお願いをお送りしたのですが」

 

「ひュえ!?」

 

「……どうやら長らくご不在だったご様子で、勝手ながらご帰宅を待たせて頂きました」

 

「そ……そうでしゅか……」

 

 

 

 なるほど、つまり……恐らくおれがタミベさんに戸籍の修正をして貰った――免許証の写真を撮り直してもらった――その日には、既に捜査の手は拡がり始めていたのだろう。

 南区の住所もすぐにマークされていただろうし、しかし既におれの生活拠点が岩波市の新居に移っていたこともあり、書面での出頭要請も直接の訪問もずーっと空振りが続いていたのだろう。

 

 つまりは……よく刑事モノのドラマであるような『張り込み』で、ずっと様子を窺っていたのだろう。きっとあんパンめっちゃ食ってたに違いない。

 そして今日、ついさっき。そんな網が仕掛けられているなど夢にも思っていないアホ(おれ)がノコノコと帰ってきたので、その様子をどこかから捕捉した張り込み中の刑事(デカ)(?)から春日井さんに緊急連絡が飛んで、浪越中央署から春日井さんがすっ飛んできた……ということなのだろう。

 

 

(えーっと……一応チカマさんには、ノワがケーサツに連れてかれたって連絡しといたよ)

 

(ありがとラニ。これで最悪引退した神使のひとたちが助けてくれ……いや、べつによく考えたらおれ何もやましいことしてないぞ)

 

(よく考えなくてもそうじゃん。むしろ助けてあげた側なんだから、堂々としてればいいんだよ。()()

 

(……そう、だよね)

 

(そうそう。むしろお礼でも吹っ掛けてやるといい。……もし決裂して怒らせたとしても、ボクがどこへだって逃がしてあげる)

 

(…………ありがと)

 

 

 

 パトカーに乗せられて警察署へ連行されている最中だが……決しておれが犯罪容疑者というわけではないのだと、そこは春日井さんに説明を受けていた。

 今回の事情聴取は『参考人』としての協力要請とのことなので、ちゃんと情報提供に協力さえすればそこまで長らく拘束されるようなものでもない……ハズだ。

 

 しかし……実際のところ、その『情報提供』というのがキモだ。どこまで話すべきで、どこまでを伏せるべきか。今後の対策を練るためにも『苗』の詳細は話すべきなのだろうが、だからといって『魔王』や『異世界』のことまで共有すべきなのだろうか。

 また……共有したところで、果たしておれの話を信じてくれるのだろうか。ただでさえこんな突拍子もない外見で周囲をざわつかせているのだ、ここに更にホラ吹きとか妄想癖とか言われた日には……さすがにちょっと傷つくし、()()にも少なからず影響が生じてしまう。

 

 

 ……ああ、だめだ。考えたところで仕方ない。

 この()()()なエルフの叡知が、この窮地を脱する画期的な打開策を閃くことを祈るしかない。

 

 

「間もなく到着ですが…………大丈夫ですか? 『魔法使い』殿」

 

大丈夫(大丈夫じゃない)です。…………ただ、その……『魔法使い殿』っていうのは、その…………恥ずかしいので、やめていただけると……」

 

「失礼しました。……では、安城さん?」

 

「んぅ……ぶ、ぶしつけですが…………『若芽(ワカメ)』、で……」

 

「承知しました。……では、若芽様。なにぶん人目を惹くお姿ですので……宜しければ()()()をお被り頂き」

 

「そ、それ完全に逮捕される犯人じゃないですか!! ヤです! 自分でなんとかしますので!!」

 

 

 いくら緑色の頭髪を隠すためとはいえ……男物の上着を頭から被るだなんて、そんなの完全にテレビに映る『容疑者逮捕の瞬間』じゃないか。

 配信者(キャスター)であるわかめちゃんは世間の印象を大事にしなければならないので、マイナスイメージが生じる原因は極力排除すべきなのだ。覆面パトで護送されてる時点でアウトかもしれないが、ならばここからなんとかして挽回しなければならないのだ。

 

 

(ラニおねがい! 黒髪黒目ヒトミミ美少女フォームで!)

 

(ほいほい。……我は紡ぐ(メイプライグス)エルフ隠し(エルヴスレィドラ)】)

 

「んぅー…………!」

 

(その奇声あげてプルプルするのめっちゃ可愛いんだけど何とかなんない?)

 

(なんない! なぜなら! おれ無意識だったから!!)

 

 

 

 ぎょっと目を見開いた春日井さんと他の警察官をあえて認識から外しつつ、日本人っぽい容姿に外見を偽ったおれは、浪越中央警察署の駐車場へと降り立った。

 

 あくまで『参考人』としての立場での事情聴取だが……下手な発言をすると、自らの首を絞める結果となりかねない。おれのような『魔法使い』は『苗』と同様、あくまでも異分子なのだ。

 今後の活動をしやすいように情報開示を行いつつも、自分に疑いが向くような供述は秘さなければならない。

 

 

 避けては通れない局面……うまく立ち回れるよう、おれの叡知に期待するしかない。

 

 がんばりどころだぞ、局長(おれ)

 

 

 



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247【途中迂回】逃走を試みた

 

 

 おれの考えていた『取調室』とは……窓の小さい殺風景な薄暗い小部屋に、これまた小さな机と電気スタンドとパイプ椅子が置かれているだけの部屋だ。

 容疑者はパイプ椅子に座らされ、電気スタンドの明かりを顔面に向けられ、刑事さんがまわりをぐるぐる周りながら威圧してくるような――そして運が良ければカツ丼をご馳走してもらえるような――そんな小部屋に通されプレッシャーを掛けられるのだと、ガクガクプルプルしていたのだが……。

 

 

 

 

「若芽様、どうぞ。こちらへお掛け下さい」

 

「はっ……はいっ!!」

 

「恐れ入ります。こちらで暫しお待ち下さい」

 

「は……はひ」

 

「失礼します! お茶をお持ちしました!」

 

「あっ……ありがとうございます」

 

「こちらお菓子をお持ちしました!」

 

「……? あ、ありがとう……ございます?」

 

「こちらクッションです! お使いください!」

 

「?? …………???? は、はい……」

 

 

 おれが実際に通された『取調室』は……大きな窓と木質の壁の広々とした部屋。重厚な一枚板のローテーブルとふかふかのソファが鎮座した、明るい雰囲気の空間だ。

 下品にならない程度に調度品が散りばめられた、このお部屋の上質な雰囲気。これは『取調室』というよりはむしろ……俗に言うところの『応接室』と呼ばれるものが当てはまるのではないか。

 

 混乱するおれの思考に拍車を掛けるように、年若い婦警さんがお茶とお菓子とクッションを持ってきてくれたこともあり……これからおれの身に何が起ころうとしているのか、一周回って不穏な予感がよぎり始めた。

 というかそもそもここに連れてこられる間、勤務中のおまわりさんたちからの視線がすごかった。もうかえりたい。

 

 

 

「まさか……あの子があの『魔法使い』?(ひそひそ)」

 

「春日井警部補がお連れしたってことは()()なのかな……(ひそひそ)」

 

「ウソ!? 阪上さんは『二十代から三十代、もしくは四十代から五十代の男性』って……(ひそひそ)」

 

「信じない方がいいわよ、ワイドショーなんて。視聴率のために適当なこと言ってばっかなんだから(ひそひそ)」

 

「うん……でも正直、あんな可愛い子だとは思わなかった(ひそひそ)」

 

「ねー! すっごいかわいくて、おまけに大人しくて良い子で……(ひそひそ)」

 

「あとで写真撮らせてくれないかなぁ……捜査のためとか言って(ひそひそ)」

 

「良い子っぽかったけどへんに素直そうだし……真面目な顔で押し切ればイケるかも?(ひそひそ)」

 

 

 

 ……エルフ種となったおれの聴覚は、人間のそれとは異なり非常に鋭敏だ。扉一枚隔てていようとも物音を余裕で拾ってみせ、若い婦警さん二人のひそひそ話もおれにはバッチリ聞こえている。

 そこはかとなく怪しくなってきた雲行きに警戒心が沸き上がるが、こうなってはもはや袋のネズミだ。とりあえず出して貰ったお茶をすすり、心を落ち着かせることにする。……まぁ最悪【門】で脱走することもできるんだけど。

 

 おれの叡智部分が今後の対処方法をシミュレーションしていたところ、扉の外に人の気配を感じ取る。どうやらつい先程退出した春日井さんが、他の誰かを連れて戻ってきたらしい。

 さっきの口ぶりから察するに……『苗』関連の対策部署のひとなのだろうか。

 

 

 

「失礼します。……お待たせしております」

 

「あっ、は、はい!」

 

 

 ノックの後に扉が開かれ、おれはシューカツの儀式を乗り越えるにあたって刷り込まれた習性に従い、思わず反射的に立ち上がる。ドキドキしながらおれが見つめる先、春日井さんが開けた扉からは更に別のひとが入ってきて、おれの対面に着座する。

 ……春日井さんの所作から判断するに、恐らくは彼よりも偉いひとなのだろう。

 

 

 

「……お時間を頂き、感謝申し上げます。愛智県警浪越中央署署長、警視正の名護谷河(なごやがわ)宗翠(しゅうすい)と申します」

 

「しょちょ…………ッッ!!?」

 

「先ずは……事件解決への度重なるご協力、愛智県警総員を代表し、お礼申し上げます」

 

「い、いやいやいやいやいやいや!!? ちょっと!? ちょっ…………いやいやいやいやいやいややややや!!?!?」

 

 

 真っ白な髪をオールバックに整えた上品な壮年男性。その身に纏う雰囲気からしてただ者ではない、名前もなんかメチャクチャかっこいい名護谷河(なごやがわ)署長。

 ……いや、待って。待ってよ、なんでいちばん偉いひとが出てくるの。

 

 正直いって、ここまで仰々しく応対されるほどの理由がわからない。

 確かにおれは浪越銀行や大丸百貨店や空港島での『苗』騒動に首を突っ込み、一方的に事態を解決し(たつもりになっ)て後処理を丸投げしたりしていたが……公務執行の妨害をしたとして薄暗い取調室で事情聴取を施されるならまだしも、お礼を申し上げられるような身分では無いハズだ。

 ……ちゃんと市民税を納め、市の財政に(ほんのわずかに)貢献してはいるけれど。

 

 警察署からの、それこそ署長さんからお褒めの言葉をいただくなんて……あれじゃないか、危険を省みず犯人を鎮圧した勇気ある小学生だとか、危うく大事故に巻き込まれるところだったお年寄りを助けた小学生だとか、アルミ缶を回収して集めたお金を発展途上国に寄付した小学生だとか、そういうようなケースでしかないんじゃなかろうか。

 あれっ、そう考えると……ひとつめのケースはあながち遠いとは言いがたいのかもしれない。いやいやしかし。うう、よくわかんない。

 

 

 そんなおれの、内心の葛藤を読み取ったわけでは無いのだろうが……名護谷河(なごやがわ)署長はどこか嬉しそうな笑みを浮かべると、明らかに愉しそうに口を開いた。

 

 

 

「……なるほど。布都(フツノ)様の仰る通り、愉快な娘さんだ」

 

「…………………………ォエエ!?」

 

「聞けば、我が一族の者が世話になっているとか。……私個人的からも、重ねてお礼を」

 

「…………えっと、まさか…………フツノさまの……」

 

「ええ。不祥、名護谷河(なごやがわ)宗翠(しゅうすい)……生まれ育ちは出雲の国、幼少期を過ごした郷は『白狗里(シラクリ)』と申しまして」

 

「そうきたかーーーー」

 

 

 

 以前フツノさまから聞いたお話にもあった……この国の行政分野各所に送り込まれているという、お役目を終え引退した神使の方々。

 あちこちに食い込んでいるとは聞いていたけれども、よりにもよっていち警察署の署長に就いているだなんて。

 

 しかもしかも……よりにもよってフツノさまから、おれのことを『愉快な娘』だと――つまりはフツノさま基準でおもしろおかしく――聞かされているだなんて。

 

 

 

「……とまぁ、()()()()()事情で。この件に関しては…………失礼。若芽様に力添えを頼むのが良いと、とある()()()の方からの助言もありまして、情報提供のご協力が頼めないかと考えました」

 

「…………笑い声が騒々しい有識者ですね。わかります」

 

「フフっ……お察しの通りで。……まぁ……立場上は、いち市民に過度な肩入れは出来かねますが……貴嬢には同胞が御世話になったりと()()()()()()もありますので。決して悪いようにはしないと、布都(フツノ)様の名に誓ってお約束致しましょう」

 

 

 

 ただでさえ、おれはおまわりさんに逆らえない善良な一般市民であり。

 

 そうそうお目にかかることなど無いだろう署長さん直々に目をつけられ。

 

 トドメとばかりに……その背後には、絶対に逆らいたくない存在(神様)の影をちらつかされれば。

 

 

 

「…………で、できる範囲で……なら……」

 

「ご協力、感謝致します」

 

 

 

 断る余地など、あるわけ無かった。

 

 

 

 

(どんまいノワ)

 

(絶対笑ってるでしょ今)

 

(そんブフッ)

 

(きぃぃぃ!!!)

 

 

 





しかしまわりこまれてしまった!


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248【途中迂回】奥の手を見せよう

 

 

「なるほど…………日本由来の化生(ケショウ)やら(アヤカシ)やらの(たぐい)ではなく、異世界からの侵略者……と。…………どう思うね? 春日井警部補」

 

「いえ、あの……自分は正直、いまいち実感が湧かないと言いますか……まるでお伽噺のようだな、としか……」

 

「……そうか。……まぁ、それが()()()反応なのだろうね」

 

「…………申し訳、ございません」

 

「ああいや、済まない。決して責めている訳じゃ無いんだ。少々言い方が悪かったな」

 

 

 

 …………結局、ほぼすべて白状す(ゲロ)ることになりました。だってしょうがないじゃない、フツノ様と繋がってるっていうんだもん。

 おれの本名と住所を知られていて、免許証更新前の情報も押さえられていて、トドメにフツノ様がバックにいるとなったらそりゃもう詰みよ。何も隠せることなんて無いさ。つまりは丸裸ってことだよこんちくしょーめ。

 ……でもわかめちゃんの丸裸って聞くとちょっと興奮する。

 

 

 幸いにも名護谷河(なごやがわ)署長は『決して悪いようにはしない』と、わざわざフツノ様の名を出してまで誓ってくれたので、とりあえずはそれを信じることにする。……というかそれを信じないとやっていけない。

 なんでも……おれが協力してくれるならば、プライバシーやプライベートが脅かされることの無いよう取り計らってくれるらしいし、今後『苗』の処理で世間様を脅かすことがあった場合にもできる範囲で()()()()()()()()という。

 

 つまりは、おれの個人情報や新居の情報を伏せることはもちろん、それらの情報がこれ以上拡散しないように協力してくれる。

 加えて今後『苗』による騒動が生じた場合は、実働班への(あくまで『正体不明の協力者』という体裁での)協力を条件に、メディア等の情報規制や『魔法使い』関連情報の秘匿、いわゆる情報統制とかそういうやつに協力してくれるという。

 

 いつまでも隠しきれるものじゃないとは理解しているが……それでも、不安を感じるひと・暗い気持ちになってしまうひとが、一人でも少なくなるに越したことはない。

 それに……県警のような大きな組織の広告バックアップを受けられるということは、ネガティブな情報の拡散を抑制できるだけではなく、ポジティブな情報の拡散を後押しすることもできるのだろう。これは使い方によっては非常に強力な武器になり得る。

 

 

 ……あれっ、もしかしてこれ……おれとしてはめっちゃ助かるんじゃない?

 

 

(いやぁ……もしかしなくても、かなり良い条件だろうね)

 

(あ、やっぱり? ……ラニもそう思うなら間違いないのかなぁ)

 

(うんうん。やっぱ領主に連なる組織の庇護下は、いざというときの安心感が半端無いよね。施しを受けるためには、それなりに貢献する必要もあるけど)

 

(おれの『副業』…………あの『苗』の駆除がそのまま、おまわりさんたちへの貢献になるんだもんね)

 

(ボクらの行動はそのままで、今後はずっとやり易くなるんだろ? ばんばんざいじゃん)

 

(うん……ばんばんざいだね)

 

 

 おれの……というか『魔法使い』の存在を()()()()として扱い、今後はおまわりさんからこそこそ隠れる必要は無くなる。

 とはいえ一般の方々まではさすがに御しきれないので、これまで通り適宜【隠蔽】関係の魔法を使わなければならないことは変わらないが、現場での立ち回りは圧倒的に楽になるだろう。場合によっては協力を得ることもできるかもしれない。

 ……あっ、あと『羅針盤』も置かせてもらえるかもしれない。専用の連絡窓口のおまわりさんとか設置してくれるかもしれない。

 

 そうだ、きっと色々とやりやすくなる。そうにちがいない。ポジティブに考えることにしよう。

 

 

 

「……つまり、おれ……アッ、アッ、すみません、わたしの行動に対する()()()()とかは……特に無いと捉えても良いのでしょうか?」

 

「お咎めも何も、我々は協力を要請する立場です。一度ならず二度までも…………三度か。三度も助力を頂き、本来ならばこちらから頭を下げねばならないところを」

 

「いえいえいえいえいえそんな!! お……わたし、も……後処理とか、色々とご迷惑お掛けしましたので……」

 

「ご迷惑などと。あの様な事態は、養成校の訓練でも想定されて居りません。正直なところ我々には、少々手に余る事態ですので」

 

「じゃあじゃあ、ショチョーさん。がんばってお手伝いするからご褒美ほしいな!」

 

「えっ!?」

 

「ええ、尤もです。そのことも含めた対策予算を……現在…………な、っ!?」

 

「えっ!? あっ! ちょっ!?」

 

「予算組んでるって! よかったねノワ!」

 

「ラぬぁあああああああ!!!??」

 

 

 激シブおじさまである名護谷河(なごやがわ)署長も、実動部隊の責任者(だと思う)の春日井警部補も……揃って目を大きく見開き口をあんぐり開けて凝視する、その視線の先。

 

 突如割り込んできた見知った声に――この場に聞こえてはいけないはずの声に――盛大に焦り、言葉を失ったおれの見つめる先。

 

 

「もむ……もむ…………こくん。……ねぇねぇノワ! これ……ケーキ? めっちゃ美味しいよ! あまぁい!」

 

「あぁこれはね、カステラっていって…………じゃなくてですねえ!!」

 

「エヘヘぇ」

 

 

 それは、今までのおれの供述……この世界が『異世界』からの干渉を受けたのだという事実を裏付けする、非現実的な光景。

 おくちのまわりをカステラの糖でベトベトにしながら、センシティブになりかねない服もどきの長布を危ないところまではだけながら……現代日本には存在し得ない幻想種族『フェアリー種』の少女が、何一つ臆することなくその身を晒していた。

 

 

 



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249【途中迂回】いいこと思いついた

 

 

 何もなかった場所からいきなり声が聞こえたら、そりゃ誰だってビックリするだろう。

 

 おまけに……それが、誰が、どこから、どう見ても、日本人とは全くもって異なる背丈と外見的特徴の女の子であれば…………一般的な感覚を持ち合わせている春日井警部補は当然として、多少は神秘(ファンタジー)に理解のある名護谷河(なごやがわ)署長であっても、さすがに平然としていることは出来なかったようだ。

 

 

 

「えっ、と…………ご、ご紹介……します。おれの、あいえ……わたしの協力者で、異世界出身の(ゆう)…………えっと、異世界人……です」

 

「ニコラ、っていいまーす。よろしくね、ショチョーさん」

 

「…………これは……ご丁寧に」

 

「……先程わたしからお伝えした『異世界』にまつわる情報……その出所というか、情報を提供してくれた子……わたしの恩人、です」

 

「魔法とか使えるよ。信じられなかったら言ってね、見せたげるよ」

 

「それは…………それは……」

 

 

 まぁあれだけの情報を提供した以上、率直にいって『遅かれ早かれ』ではあったと思うのだが……これまで身内と鶴来(つるぎ)さん以外の人間(ヒト)に姿を晒したことの無い彼女が、いきなり人前に姿を現したとあっては――しかもこんなにふてぶてしくおやつを喰らい始めようとは――それなりに深い繋がりをもつおれであっても、さすがに焦らざるを得なかった。

 ……まったく、びっくりさせやがって。かわいい。……ちょっと見えそう。

 

 

(見たいならそう言ってくれればいいのに。奥まで見せたげるよ?)

 

(どこを!!? い、いいいいや!! べつにそんなそんなそんな)

 

「実際にこの目で見てしまっては……信じざるを得ませんね」

 

「見たの!!!?? …………アッ! すみませんなんでもないです! すみません!!」

 

「…………?? いえ、こちらこそ。失礼しました」

 

(くそわろた)

 

(おのれ)

 

 

 センシティブ妖精さんはあとではぶらしするとして……せっかく姿を現してくれたので、このまま事情聴取に協力して貰おうと思う。……まあそのつもりで出てきてくれたんだろうし。まぁはぶらしはするけど。

 えーっと、なんだっけ……あぁそうだ。協力とか報酬とかそんな感じの、ダイレクトにおれの利益となるようなお話をしてくれそうな雰囲気だった。

 

 

「そうそう。まぁそんなわけで……ショチョーさん、ノワのがんばりに報いてくれるんでしょ?」

 

「ええ、そうですね。名目上は『例外的獣害対策費用』という形式で考えています。管轄内にて発生した『例外的獣害』を()()()()()()()()()()へ委託、その駆除を依頼するための費用……という名目ですね」

 

「へぇー、すごい。ちゃんと考えてくれてるんだ。……で、幾らくらいになりそう?」

 

「そん、ッ!? いやいやいやいや!」

 

「ノワはこの通り、大変かわいいからね。引く手あまたで忙しいのさ。そんじょそこらの安月給で使えるとは思わないでほしいんだけど……」

 

「ラニちょっと失礼なこと言わないの!! すみません気にしないで下さい!! 報酬とか予算とか(そんなに)考えてませんから!!」

 

「ふふ。……『いらない』とは仰らないのですね」

 

「………………………えへへ」

 

 

 そりゃぶっちゃけ、頂けるものは頂きたいところだけど……しかし住んでいる街のおまわりさん、つまりは市の財政に吹っ掛けるのは、少々気が引ける。

 そう……そんな何千万とか、何百万とか、そこまで高い報酬がほしいわけじゃないのだが……かといってせっかくのチャンスを『いらない』と言えるほど、おれは聖人君子ではない。

 

 もともと『副業』にあたっている間は『本業』の業務ができないので、単純に収入が減るわけだ。

 そりゃあ『苗』の存在を――この世界の危機を――見過ごすことは、この『木乃若芽ちゃん』の気高い責任感が許さないわけだが……かといって『本業』を擲って、無給のまま奉仕活動を続けるというのも、それはそれとしてモチベーションが下がってしまう。

 

 そんな中で、まさかの県から予算(ボーナス)を得るチャンスだ。そんな年間八桁円とか高望みはしないので……そう、お気持ちだけでもいただけるなら……それはとっても嬉しいなって。

 

 

 

「んう…………た、たとえばなんですけど……一回あたりおいくら万円、とか……そういうのは可能なんでしょうか?」

 

「そうですね。くだんの『例外的害獣』の出現頻度がどの程度なのか、そもそも今後も発生が続くのかも定かではない状況ですので……正直、一旦歩合制という形で様子をみさせて頂けるのなら有り難いです」

 

「あっ、じゃあそんな感じで…………とりあえず、一回十万円……なんちゃって」

 

「……は? あっ…………失礼。……いえ、その…………良いの、ですか?」

 

「えっ? えっと、アッ……た、高すぎ……でし、た?」

 

「…………いえ。……一般の有害鳥獣よりも繊細な対処を必要とすることを鑑みれば……むしろ安過ぎるくらいかと」

 

「えっ!? そうなんでしゅか!?」

 

 

 だ、だって……一回十万円だぞ。日給十万円ってだけでもびっくりなのに、頻度は不明とはいえ『苗』を一回もぎもぎすると十万円もらえるんだぞ。今まで無収入だった『副業』の報酬としては充分というか、むしろ破格じゃないか?

 と思っていたのだが……県や市の予算額というのは、おれたち一般市民の感覚とは大きく乖離しているらしい。

 

 ……あっ、当たり前か、ふつうは会社とかに依頼するくらいだもんな。

 

 

「今後の動向を窺いながら、適正な報酬を心掛け相場は随時ご相談させて戴きたいとは思いますが…………取り敢えずは桁を一つ増やしても通せると思うんだが、どうかな? 春日井警部補」

 

「えっ!? ひゃく、ま…………えっ!!?」

 

「……むしろあの危険に単身立ち向かうことを鑑みれば、それでもまだ安過ぎる嫌いはあるかと」

 

「というわけです。……まあ、あくまでも要観察ではありますが、当面の間はこの額で」

 

「いやいやいや! せめて! せめて半値に! 毎回七桁はおかしい!!」

 

「……ですが、あまり安値での委託となりますと…………例の()()()よりお叱りを頂戴する可能性が」

 

「んゥーーーー」

 

 

 だ、だめだ……やっぱ慣れない!

 

 ただでさえ収益化記念配信の直後、寄せられた応援(スパチャ)合計額を見てあんなに取り乱したくらいなのだ。

 そもそもこちとら、年末年始の案件による収入の時点でビビり散らしていた弱小一般市民やぞ。年収相当の金額が一ヶ月そこらで振り込まれて軽く錯乱するようなチキンなんだぞ。

 そんな……そんなクソザコナメクジが、一回出勤するごとに七桁円振り込まれるような『副業』に手を染めれば…………そう遠くない未来、高収入の『副業』にかまけて、たいせつな『本業』を蔑ろにしてしまいかねない。

 

 しかし名護谷河(なごやがわ)署長としても、聞いた感じ()()()()()から圧を掛けられているのだろう。あまり頭ごなしに断るのも申し訳ないというか……たぶん、有識者氏がおヘソをお曲げになられそうな気がする。

 いや、ありがたいんだけど…………ありがたいんだけど、もう少しこう何というか……手心というか……。

 

 

「じゃあさ、じゃあさ? お金以外の報酬で貰えば良いんじゃない? あのキャンピングカーみたいな」

 

「ホエ!? 何!? パトカーレンタルしようってこと!?」

 

「あの、さすがにそれは……」

 

「だだっ、大丈夫です! わかってますので!!」

 

「いや、あの…………うん、ボクの言い方が悪かったね。べつにクルマじゃなくてさぁ」

 

「ぇえ……おまわりさんから頂戴できるようなモノ、って……いったい何よ?」

 

「ふっふっふ。……ねぇノワ、じぶんの『本業』をお忘れじゃないかい?」

 

「ほん、ぎょう…………あっ、そういうことね! なるほど!!」

 

「そうそう! そういうことよ!」

 

 

 

「宣伝広報案件の優先受注権とか!?」

 

「女の子用のカッコイイ制服とか!!」

 

 

 

「えっ!?!?!?」

 

「えっ!!!?!?」

 

 

 






えっ!!?!、???!!?



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250【途中迂回】一日哀願エルフ

 

 

「なにいってるのラニ!! おまわりさんの制服はそんな軽いもんじゃありません!! おれみたいな部外者が気軽に袖を通していいもんじゃないの!!」

 

「なんでさ!! ボク知ってるんだから!! ケーサツって組織は市井で話題の可愛いコに制服着せて愛でたり自慢したりするんだろ!? 『いちにちショチョー』って呼んでさ!!」

 

「「ン゛ン゛ッ……!!」」

 

「それは…………たまにやるけど! それだって著名な文化人とか、最近活躍してる子とか、かわいいゆるキャラとか……そういう、ちゃんとした立派なひとにオファーするんであって!!」

 

「だからその『立派なヒト』にノワを登用して、って言ってるのボクは!! 将来有望な配信者で最近大活躍してて可愛いロリキャラなんだから、要素としては申し分ないじゃん!!」

 

「そうかなあ!!」

 

「そうだよお!!」

 

 

 

 おれとしては、昨年末に鶴城神宮へと持ち込んだ案件のようなものを考えていた。県警タイアップ、といえるほど大それたものにできるかはわからないが……たとえば『交通事故へらそうキャンペーン』とか、『飲酒運転撲滅キャンペーン』とか、『おれおれ詐欺にご用心キャンペーン』とか……そんな感じの告知動画を作って公開して、それを愛智県警のバックアップを受けて公開するような案件を考えていた。

 これでおれの知名度が上がり、今まで届かなかった層にもコンテンツを見てもらったり、チャンネル登録者数や再生数が急上昇して注目ホットワードに載っちゃったり……なんていう未来絵図を思い描いたりしていた。

 

 しかし……なるほど『一日署長』。

 ラニがどこからこの情報を見つけてきたのか、相変わらずの得体の知れない発掘能力には若干ヒくが……言われてみれば確かに、その業務内容としてはおれが思い描いていたものにけっこう近い気がする。

 おまけに『就任式』はその広告力も高いし、テレビや新聞やネットニュースにも取り上げてもらえる。おれの放送局(チャンネル)『のわめでぃあ』の広告手段としては申し分ないし、この身体のスペックであれば問題なくこなせると思う。

 

 選定理由の第一に『制服の魅力』をもってくるのは、さすがラニって感じだけど……相変わらずいいトコ突いてるのが地味にすごい。

 ただやっぱり懸念としては……現状無名・かけだし配信者(キャスター)のおれでは、さすがにまだまだ相応しくないというところだろうか。

 

 

 

 

「いや…………いい考えじゃないか? 広報担当に声掛けてみるか。春日井君、内線を」

 

「はっ!」

 

「えっ!?」

 

 

 

 まじかよ、ほんきかよ、いいのかよ、と思考停止しているおれの目の前で、春日井さんが傍らの受話器を手に取って何事か話し始めた。

 おれのエルフイヤー(地獄耳)がとらえた限りでは『コーホータントーのトヨカワ』を呼んでいたようだが、これはつまり『広報担当の豊川さん』を召喚したってことだろう。

 

 ほかならぬ最高責任者である署長自らの指示である。話の流れから察する限りでは、これは本当にもしかするともしかしてしまうかもしれない。

 

 

 つまりは……おれが。かわいいエルフの幼女である『木乃若芽ちゃん』が。

 浪越中央警察署の一日署長として……凛々しい女性用制服を纏い、おまわりさんのおしごとをすることになるのだ。

 

 

 

 ……そんなの。

 

 

 …………そんなの!!

 

 

 

 

「いいんですか!? おれおまわりさんの制服着れるんですか!? ベストとかベルトもいいですか!?」

 

「えぇ、まぁ……明確な採用基準や採用人数が定められているものでも無いですので。それが若芽様の報酬となるのなら」

 

「うわぁぁぁぁぁぁ……!!」

 

「ど、どしたの……いきなりテンション上がったじゃん」

 

「だって……だって! おまわりさんの制服だぞ! かっこいいじゃん! 憧れるでしょ! おとこのこなら!!!」

 

「「…………?」」

 

「ウゥーーン…………ごめんミルちゃん、やっぱこの子理解(わか)ってないみたい」

 

 

 クソザコ一般市民であるおれなんかに、そんな光栄な大役が勤まるかはわからないが……もし、もし本当にそんなチャンスが得られるのなら、おれは誠心誠意がんばらせていただく所存でございます!!

 

 動画に配信に一日署長(※まだ本決まりではありません)……ちくしょう、がんばりたいことがたくさんだ……!

 

 

 

 

 

………………

 

 

……………………

 

 

……………………………………

 

 

 

 

 どうしてこうなった。

 

 おれは確か……いわゆる『苗』対策の報酬に関して、詳しいお話を聞かせてもらおうとしていたはずだ。

 

 

 春日井警部補が内線で呼んだ、広報担当の豊川さん……および、彼女の部下らしい広報部の婦警さん二人。

 彼女たち三人に『一日署長』についての詳しい説明をしてもらうのだと、おれはてっきりそう思い込んでいた。

 

 事実、最初のほうは確かに要項や規約等の説明だったはずだ。そのはずだったのに。

 

 

 

「もう一枚いきますよー! もう一回笑顔お願いしまーす!」

 

「(にこっ)」

 

「おホッ! 良いですね! 可愛い! いただきまーす…………はいオッケーです! ありがとうございます!」

 

「ふぅ……ありがとうごいまs」

 

「次こっち! こっち視線お願いします!!」

 

「ちょっと背伸びする感じ! オトナっぽさアピールするような感じで!」

 

「(きりっ)」

 

「アァーかわいい!!」

 

「フヒッ、やば……アッ、アッ」

 

「イイヨいいよぉー! ありがとうございます!!」

 

「あふぅ…………ありがとうg」

 

「次こっちへ! ちょっと上目遣いな感じでお願いします!」

 

「(じっ……)」

 

「キャァァァァァァかわいい!!!」

 

「黒髪も可愛い……緑髪も可愛い……魔法ってすごい……」

 

「いや、待っ…………やばいですよ、署長これはやばいですよ……」

 

 

 

 もっとこう!!

 

 打ち合わせとか!!

 

 そうゆうの無いのか!!!!

 

 

 事情聴取あらため打ち合わせが行われている応接室に、新たに入ってきた婦警さん三人組。

 彼女たちは浪越中央警察署の広報部に所属する方々らしく、例の『一日署長』についてそこそこの決定権を持っている部署らしく……署長の『彼女(=おれ)を『一日署長』に立てられないか?』との意見を耳にするや否や目を輝かせはじめ、いきなり『資料用ですので!』『検討する際に必要なので!』と写真をバシャバシャ撮り始めたのだ。こわい。

 

 

 

「まぁ……『一日署長』のような広報企画なら庁の介入もほとんどありませんし。いち警察署の『一日署長』であれば……まぁ告知したい内容にもよりますが、比較的自由に決められるんですよ」

 

「そ、そうなんですか……」

 

「あとは署内に通達を出して意見を聞くくらいですが……でも若芽さんであれば、問題なく受け入れられると思いますよ」

 

「そ、そうなんですか?」

 

「そうですよぉ! 小っちゃくて可愛いから画面映えもオッケー、浪越市民だから地元との関連性も問題無しだし、ネットで話題のファンタジック配信者(キャスター)で話題性もバッチリ!」

 

「そ、そうなんですか!?」

 

 

 ま、まじで。おれいつのまにネットで話題になってたの。ていうかそんな大きな話題になってるの。わたししらない。

 ファンタジックキャスター……なんだかとってもこそばゆいが、確かにおれの特徴を端的に表してくれてるとは思う。……ちょっと恥ずかしいけど。

 

 

「ではまぁ……豊川君。そういう方針で企画書を頼む。()()()()()()()はそのあたりで」

 

「……うぅ…………わかりました。あとはポスター撮影のときのお楽しみにしておきます」

 

「えっ!!?」

 

「というわけで。報酬に関する要望の擦り合わせは、何とか落ち着きそうだね。……改めて、協力をお願いしたく」

 

「は…………はいっ。……こちらこそ、宜しくお願いします」

 

「感謝します。……それでは今後、若芽様との連絡窓口は春日井警部補に一任する。『一日署長』企画は広報部主導で進め、当面の目標を年度末……三月中に設定する。若芽様との折衝は春日井警部補を介して進めるように」

 

「「はっ!」」

 

 

 

 

 えーっと…………はい。

 

 わたくし木乃若芽の……『のわめでぃあ』の新しい企業案件、どうやら決定したようです。

 

 

 




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251【帰宅完了】高速帰宅エルフ

 

 

 この日本国における国家機関であり、日夜国民の安全のため奔走してくれている警察署。そこの協力を得ることが出来、必要以上に隠れ忍ぶ必要が無くなったというのは……正直なところ、とても嬉しい出来事だった。

 

 まあ確かに、最初おうちにおまわりさんが来たときは、はっきり言ってメチャクチャにビビった。

 というか玄関開けたらおまわりさんが立ってたとか、たとえ自身にやましいところが一切無かったとしても『えっ……おれ、何か(犯罪)やっちゃいました……?』と、誰もが混乱してしまうこと間違いなしだろう。……たぶん。

 

 実際今回のおれも、任意同行の間はメチャクチャビビっていた。事情聴取の間もビビっていたし、正直ずっとビビり続けていた。

 小心者のおれが平静を欠かずにいられたのは、ひとえにこの身体(アバター)の胆力がずば抜けていたことと……おれを影から見守り、安心感を与えてくれた相棒ラニの存在のおかげだったから。

 

 

 …………それと。

 

 

 

「わ、わかめさまぁーー!!」

 

「おフっ! ……ただいま、霧衣(きりえ)ちゃん」

 

「あらあら、おあついこと」

 

「うう……ごぶじでなによりでございます、わかめさまぁ」

 

 

 実際に口に出して言うことは気恥ずかしいが……とても可愛らしい…………かっ、家族……が、おれの帰りを待っていてくれたからだろう。

 

 彼女たちと同居するようになってから、おれの精神的キャパシティが大きく拡張されたような気がするのは……たぶんだけど、気のせいじゃない。

 

 

「心配かけたね、霧衣(きりえ)ちゃん。……おぉ、めっちゃ掃除してくれてたんだね。ありがと」

 

「いえっ! これくらいは当然のことにございまする!」

 

 

 おれがおまわりさんに連れて行かれる際、ラニ経由で『心配いらないから、申し訳ないけどちょっと待ってて』と連絡しておいたのだが……どうやら彼女は不安になると、気を紛らわせるためお仕事に集中したくなる性格のようだった。

 まあ『連れて行かれる』といってもおまわりさんなので、この日本においてはそうそうひどい目に遭うことなど無いのだが……いまいち『おまわりさん』のことをよく理解しきっていない霧衣(きりえ)ちゃんにとっては、相当不安に感じてしまう出来事だったらしい。かわいそうなことをしてしまった。……かわいい。

 

 うう……霧衣(きりえ)ちゃんがもっと幼い子だったら、遠慮なく抱っこしてなでなでしてぎゅーして可愛がってあげたいのに。合法なのに。

 もうちゃんと女の子の身体だもんな。おっぱいとかおれより大きいし、せくはらになっちゃうもんな。うう。

 

 

 

「…………うん、まぁいいや。それじゃ遅くなっちゃったけど、おうちに帰ろう。……いや、ここも一応『おうち』なんだけどさ」

 

「家具はもういいの? テレビしか仕舞ってないけど」

 

「んー……とりあえず困らなさそうだし。必要なの思い出したら、直接()()()良いかなって」

 

「あー、まぁ確かにね」

 

「若芽様! お支度完了にございまする!」

 

「おっけ。じゃあ行こっか」

 

 

 

 ホコリや汚れが取り除かれ、すっかりキレイになったリビングを後に、電気を消して鍵を閉めて……おれたちは手荷物をまとめ、南区の1LDKを後にした。

 

 

 

 

 

 そこからは……まぁそれなりに早かった。なにせ行程のほとんどが高速道路、信号も渋滞もほぼ無いのだ。

 警察署での大幅なタイムロスを挽回……しきることは無理なので、開き直って帰りの行程を楽しむことにする。助手席に霧衣(きりえ)ちゃんを乗せて、そのおひざ(というかおまた)にラニを乗せて、前方視界を共有して楽しむことにする。

 

 この調子だと、帰宅する頃には陽が暮れてしまいそうだ。帰ったらほぼ即寝くらいになってしまうだろう。あまり動画公開出来ない日が続くのはよろしくないが、今回は大丈夫なのだ。

 

 というのも……動画編集を依頼しておいた鳥神さんから、作業完了のお知らせをいただいたのだ。……うん、実はまだ数日しか経ってないんだ。時間の流れってふしぎだね。

 クラウドに保存されていた完成品の動画『和装お嬢さま初体験【MocBurger(モックバーガー)】編』は、既に自宅PCへと保存完了だ。休憩中に一通り目を通させてもらったところ、特に問題はなかった(どころか非常に丁寧に作られていた)ので、あとはアップロードの操作を行えば公開できる。

 ゴールデンタイムを狙い、ラニにリモートで自宅PCを操作してもらえば、配信者(キャスター)としてのおれの活動も問題ない。

 

 おれたちが遊んでいる(※ちゃんと必要なことなのでセーフ)間に動画が完成するなんて……編集者って、すごい。

 おれの機動力を飛躍的に高めることが出来るので、出来れば今後とも力添えをお願いしたいものだ。

 

 

 

 そんなこんなで、サービスエリアでのんびり小休憩を挟みながらの帰り道。

 警察署ではアピールのために展開していた【エルフ隠し】も解除して、超絶目立つ緑髪と白髪をさらけ出しながらの晩ごはんだ。ちょっと勇気を出してテラス席フードコートでいただくごはんは、一仕事終えた解放感で尚のことおいしく感じる。……相変わらずものすごい人目を集めている気がするが、おれは気にしない。

 撮りたければ撮ると良い。存分にSNSに拡散しておれの宣伝をするが良い。ふはは。

 

 

 そうこうしている間に良い時間になったので……十八時三分、のわめでぃあの新作動画『和装お嬢さま初体験【MocBurger(モックバーガー)】編』を、全世界へ向けて公開する。

 

 遠出イベントも無事に終えることが出来たので……これからしばらくはおうちでのさぎょうに集中しようとおもう。

 さーて、バリバリがんばるぞ。エイオー!

 

 

 



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252【在宅勤務】いっぱいおしごと


わぁいおしごと わかめおしごとだいしゅき



 

 

 在宅時のルーチンワークになりつつある『お礼メッセージ録音』を程々のところで切り上げ……おれはスマホを手繰り寄せ、気分転換を兼ねてエゴサを試みる。

 新作動画を投稿してから、およそ六時間。おれの思い描いていた通り『きりえちゃんかわいい』を盛大に含んだ一作は、事前の告知ツイートと『にじキャラ』の皆さんの拡散(RT)のおかげもあり、これまでにない速度で順調に数字を伸ばしていた。良いものを仕上げてくれた鳥神(とりがみ)さんには頭が上がらない。

 

 その動画の主役なのだが……表には出さないまでも、やはり霧衣(きりえ)ちゃんは結構な疲労がたまっていたようで、じつは三時間ほど前に眠りに落ちてしまっている。

 明日この再生数を教えてあげるのが、今から楽しみだ。

 

 というわけで日付も変わってしまったので、おれたちもそろそろオヤスミしようと思う。明日の予定を軽く打合せして、おふろに入って身体を清めて(ラニに『はぶらし』をして)からおふとんへ移る。

 幾つかやってみたい企画も、準備しておきたいこともあるので、明日一日はそれらに充てようということになったのだ。

 

 

 

 

 

 そんなわけで、翌日。きょうは金曜日。

 うにさんミルさんとのコラボを翌日に控えた今日だが、しかし明日のコラボは準備やら何やらと奔走する必要は特にない。……ゲームコラボはとても楽でたすかる。

 

 なので……じぶんの配信に関わる仕込みに、丸一日を費やせるわけだ。

 

 

 

「おはようー!」

 

「おはようございます、若芽様!」

 

 

 気持ちのよい朝を迎え、おいしい朝ごはんをいただき、おれたち『のわめでぃあ』の一日が始まるのだ。

 なおラニちゃんは相変わらずスヤスヤの模様。かわいいね。

 

 

 

 さてさて……現状『のわめでぃあ』の更新頻度だが、鳥神(とりがみ)さんが編集を手伝ってくれたお陰で、そんなに日を空けることなく動画投稿を続けられている。とはいえ、さすがに毎日投稿とはいかないのだが。

 ……ていうか、毎日投稿とか普通不可能でしょ。ぽんぽんちゃんやべぇ。まじはんぱねぇ。

 

 まぁ毎日投稿は無理だとしても……視聴者さんに楽しんでもらうためには、コンスタントに動画を撮影・製作していくことが求められるわけだ。

 おれが現在撮ろうとしている動画の企画案には幾つかストックがあるので、その『案』を『形』にすべく、できそうなところから撮り始めていこうと思う。

 

 

 

 

~ 動画企画そのいち ~

【ラニちゃん寝起きドッキリ】

 

 説明しよう。寝起きドッキリとは……早朝まだ夢の中でスヤスヤしているターゲットの寝室へと侵入し、その寝顔を堪能しつつ画面に収め、トドメに何かしらのイベントを起こしてターゲットを夢の世界から引きずり出し、お目覚めのアワアワしている様子を堪能するという……とっても愉悦感あふれる企画なのだ。

 

 

 

「おはよぉーございまぁーす(小声)」

 

 

 いつものゴップロ(小型カメラ)片手に気配を潜め、ラニ(兼おれ)の寝室へと侵入する。

 扉の開閉音も気を使って極力小さく、抜き足差し足で足音を殺……そうとしたけど絨毯敷きだったわ。ラクショーかな。

 

 一般的な『寝起きドッキリ』はまだ陽も昇らぬ早朝であることが多いが、今は既に陽も高く昇りつつある。明るい部屋の中にあっても、ラニちゃんは相変わらずスヤスヤのようだ。

 ……というわけで、その可愛らしい寝顔を頂戴しに行く次第でして。

 

 ちなみにこちらのラニちゃん映像、超リアル3Dモデルと実風景の合成と言い張る作戦である。

 というのも……たとえ理屈に無理があるとしても、スヤスヤラニちゃんのかわいさはみんなと共用すべきだと思ったのだ。

 

 崇高な使命を秘めたおれは任務を達成すべく、朝陽が普通に射し込みずいぶん明るくなった寝室を、ラニちゃんのベッドめがけて進んでいった。

 

 

 ……の、だが。

 

 

「もう!! おばか!! えっち!!!!」

 

「…………んぅー……?」

 

 

 結論から言いましょうね。ボツです。お蔵入りです。これはとても公開できないものです。

 

 理由ですか。いいでしょう。お答えしましょうか。ずばり()()だったからです。

 

 

 

 

~ 動画企画そのに ~

【グランドハープ修理してみた】

 

 説明しよう。おれのお世話になっている動画サイト『YouScreen(ユースク)』さんでは、DIY動画なんかも結構な人気だったりする。

 一般的な木工や日曜大工、ガーデニングなんかは勿論として……中には廃車寸前の車を仕入れ、それを自分の『好きなもの』を詰め込んだ特装仕様に仕上げるつわものも居たりする。

 オンボロだった品物が、プロの手により少しずつキレイになっていく様を見るのは、なんともいえない感動がある。もの作りが好きな人にとってはとっても魅力的な動画といえよう。

 

 

 

「と、いうわけで。これからこちらの『グランドハープ』をですね……修理して、弾けるようにしていきたいと思います!」

 

「ふぁーーーぃ」

 

「……ごめんなさい視聴者さん。ラニちゃん起き抜けなのでふわふわなんです」

 

「いぇーーーぃ」

 

 

 目を覚ましたラニちゃんに服を着させて、ぽやぽやしてるところ悪いが【門】を開いてもらい、一昨日購入したばかりのグランドハープ(中破)を取り出してもらう。

 ぱっと見た限りでの破損部分は、支柱と共鳴板の割れが大きいだろう。実際に弦を弾いてみたところ、やはりひび割れ部分が変な振動を発してしまうらしく……なんというか、『ビィィィン』というノイズのようなものが混じってしまうようだ。

 

 このあたりの検分をカメラに収め、あとはこれを修繕していく様子を撮影していこうと思う。

 ネットで仕入れた『楽器修繕の知識』を再現し、カンスト近い器用さ(DEX)を駆使して割れや傷を補修していく。傷の付近を削り取り、よく似た木目をもつ木材(古材)を欠損部位と全く同じ形に削り出し、(にかわ)やら接合ダボやらを駆使して一体化・結合していく。

 音の共鳴に悪影響を与えないように、歪な形にならないようにを意識しながら、丁寧に補強し磨き上げていく。

 

 正直おれ自身も予想外だったのだが……共鳴板のほうは、なんとか形になったと思う。支柱のキズも見た目は綺麗にととのえられ、見た感じでは見事に修繕が完了したように見える。

 ……まあ実際のところは、修繕跡が残っているのはごく表面のみなんだけどね。荷重を支える構造体の芯部分は【修繕(リペアーレ)】でバッチリ直してあるので、初心者丸出しのおれの修理でも演奏には問題ない。

 

 つまり動画としては、おれがおぼつかない手つきでおっかなびっくり(しかし手順としては間違っていない……はずだ)グランドハープを修理した映像が収められているのだ。

 

 

 

「んふふ……いい感じに仕上げられたんじゃないでしょうか?」

 

「おぉーすごい。ちゃんと音でるの?」

 

「んふふふ……もちろん! ほら!」

 

 

 ずらりと並ぶ弦を端から端へと撫でるように弾くと、『これぞハープ!』という綺麗な音が響き渡る。

 正直まだまだ弾き方を知らないので、ほんとうに『音』を鳴らしただけだ。しかしそれでも、中枢部分を魔法でしっかり修復されたグランドハープは『さすが!!』と喝采したくなるほどに綺麗な音を奏でてくれる。

 

 これで『楽器修理動画』としての素材も確保できたし、今後の『演奏してみた』動画に対する期待も高めてもらえることだろう。

 

 

 

 今後の『のわめでぃあ』に……こうご期待、というわけだ。

 

 



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253【在宅勤務】その場の勢いで

 

 

 今後のチャンネルの展開として期待できそうな要素は、主に『裏庭の開拓』関連と『演奏してみた』関連、そして麻雀やFPS(一人称視点STG)等の『オンライン対戦ゲーム』系あたりだろうか。

 あぁ……南区の旧拠点からゲーム機も幾つか調達してきたので、『家庭用ゲーム』も使えそうだな。例の輪っかのフィットネスゲームもSNS(つぶやいたー)で度々触れられているので、こまめに挑戦していかなきゃならないだろう。輪っか(リング)から逃げるな。

 

 

 これらのうちゲーム関係は特に仕込みを必要としない(せいぜい対戦相手との擦り合わせくらいだろう)ので、とりあえず今回はスルー。

 

 ……というわけで。

 

 

 

 

~ 動画企画そのさん ~

【環境音動画:小川のせせらぎ】

 

 以前ラニに見つけてきてもらった動画企画案……定点設置カメラで風景を撮りながら高精度マイクで環境音を録音する、この企画。

 おれが特に何かするというわけでもないので、『動画』というよりかは『環境音』ジャンルのほうが近そうな企画だな。

 

 

 

「……んー、このへんで良いかな」

 

「おほー! いい雰囲気」

 

「でしょでしょ。これウチの裏庭なんすよ」

 

「裏庭……すごいなぁ……」

 

 

 おうちからお庭に出て裏手に回って、獣道を下ることおよそ五分ほど。

 そこには……ごつごつした岩と砂とが広がる地面と、そこから生える生命力旺盛な植物、そして冷たくて心地よい水が絶え間なく流れる、小さな沢が通っていた。

 

 沢に沿って少し歩き、比較的石や岩が少ない場所を探す。するとそう遠くない地点におあつらえ向きの砂地を見つけたので、周辺の環境を改めて検分する。

 斜面も緩やかで道を作りやすく、また切り開いて平地も作りやすそうだ。沢のすぐ近くまで砂地が続いており、繁茂している植物を間引けば、ちょうど良い撮影地点に出来そうだ。水辺でのレジャーも行えそうなので、今後の動画にも活かせそうな気がする。川原キャンプとか。沢だけど。

 

 ……うん、良いな。決めたここにしよう。

 貸与とはいえ、現在はおれが権利を持っている土地の中だ。あらかじめ鶴城(つるぎ)さんからは『好きに開拓してヨシ』とのお墨付きもいただいているので、問題なく土地をコネコネすることができる。

 敷地内私道を作ったときのように大地魔法を活用すれば、階段や坂道の造成から切土や盛土だって自由自在なのだ。

 

 

「……というわけで、ここにしよう。よさげな雰囲気だし……東屋(あずまや)みたいな休憩小屋とか、ブンブンとか作るのもおもしろそうだね」

 

「ぶん、ぶん……? まあよくわかんないけど、たのしそうだね。めっちゃ下草わっさわっさしてるけど」

 

「うん。だからね、とりあえずは……草むしりをしようと思う。このへん一帯、水辺まで。それこそ砂浜みたいにしたい」

 

「なるほど、いーね! …………今これオフレコなんだろ? ボクも手伝うよ」

 

「わ~~たすかる~~」

 

 

 動画で使うかもしれないので、いちおう手を入れる前の様子を少しだけ撮っていく。Before(びふぉー)って感じだな。

 それさえ撮ったら、あとはカメラの電源を落とす。ここから先は記録されることがないので、存分にあばれることができるのだ。

 

 ラニが縦横無尽にひらひらと飛び回り、女の子の大事なところを存分にちらちらさせながら光の剣を振り回し、砂地に根を張る下草や低木がばっさばっさと斬り倒されていく。

 みるみるうちに見通しがよくなっていき、おれは地中に残された根っこの掘り起こしに取りかかる。

 

 

「んい~~~~」

 

「なにその奇声。あほっぽいよ?」

 

「おれも思った。……しょうがないじゃん、(りき)んだら出ちゃったんだから」

 

「かわいいね?」

 

「オッ、オウ……」

 

 

 おれの気合いのかけ声と共に、切断された根っこが地上にぽこぽこと吐き出されてくる。

 それらを拾い集めて刈り取った草木と一纏めにして小さく刻み、少し離れたところに穴を掘って埋めておく。

 ……今回はそのまま処理してしまったが、堆肥を作るためのコンポスターなんかを調達しても良いかもしれない。家庭菜園とかやってみてもウケるかもな。

 

 

 あとは根っこを掘り起こした穴を埋めて……そんなこんなで、とりあえず砂地のほうは片付いた。生命力を溢れさせていた草木は姿を消し、そこそこの広さの水辺の平地が姿を表したのだ。

 

 砂地の広さは……四畳半から六畳くらいだろうか。片側は沢に面し、反対側は勾配の急な斜面へと続き、ほかの二辺は岩というか石というか、ごつごつした感じになっている。

 岩石ごつごつエリアも、あくまで地面がごつごつしているだけなので、テーブルやチェアなんかを置く分には(ぐらぐら対策さえすれば)問題ない。何か作業をすることも問題ないだろう。

 ただやっぱり地面はごつごつしているので……シートを敷いて座ったり寝転んだり、あるいはテントを張ったりなんかは向いていない。

 

 とはいえ……使い方を工夫すれば、けっこう色々なことに使えそうだ。あと単純にめっちゃ心地いい。

 

 

 

「いやぁー…………うん……良いね。……これで水音をずーっと録音してればいいの?」

 

「うんうん。ノワTR-07X(高精度マイク)買ったって言ってたじゃん? それを水辺の近くに置いて音を拾って、カメラは三脚に固定して……あとはノワがカメラの前で、のんびり脱力しててもらえば」

 

「ハンモックで寝ててもいい?」

 

「いいと思うよ。……あっ、どうせなら設置するところから押さえたほうがウケると思う」

 

「な、なるほど!」

 

 

 カメラの設置予定地点に立ってぐるりと見回し、カメラに映る映像をイメージする。沢はちゃんと見えるのか、流れる水はちゃんと見えるのか、またどのあたりにハンモックを掛ければ良い感じに見えるのか……それらを確かめながら、いろんな要素を鑑みて計画を立てていく。

 

 ……うん。収録地は大丈夫そうだ。

 必要なハンモックも、先日Apollon.comで調達済みだ。必要なものはすべて揃っているので、やろうと思えばすぐにでも収録を始められる。

 

 

「…………どうしよ、撮っちゃう?」

 

「撮っちゃう? 一時間くらい」

 

「んー……撮っちゃうか。雨も来ないし」

 

「撮っちゃっちゃおう。オッケオッケ」

 

 

 

 すこし流動的だが……自分の思ったときに思ったように取り組めるのが、自営業(キャスター)である自分たちの強みでもあるのだ。

 

 ……というわけで。

 これより、川原でゆっくり一時間を過ごす作戦を……決行しようと思う。

 

 



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254【在宅勤務】わーけーしょん

 

 

 ラニに【蔵】の扉を開いてもらい、収録機材一式が収められたモコモコの袋を取り出す。

 続いて、動画中で設置するハンモックも取り出す。木にぐるりと回して吊るすためのベルトも準備オッケー。

 

 モコモコ袋からゴップロ(小型カメラ)と三脚を取りだし、小川と砂地とその奥の景色、緑の木々が映せる絶妙な角度を吟味しながら、液晶画面を確認しつつ設置する。

 小さめの三脚を取り出して広げ、TR-07X(高精度マイク)をアタッチメントでセット。水面に近づけて良い水音が聞こえる場所を探り、ぐらつかないことを確認してこちらも設置。

 マイクとカメラをケーブルで繋ぎ、ポータブルバッテリーからも給電ケーブルを伸ばし……これで一時間以上の録画および高精度録音を行う準備が整った。ラニちゃんさまさまである。

 

 

 

「さてノワ、大丈夫? 手筈は解ってる?」

 

「えーっと、まずはコントローラーの録画ボタンを押して…………えっと、あとは騒音立てないように意識しながら、カメラの撮影範囲内で一時間ほど()()()()する」

 

「そんなに大きな音じゃなければ、足音とか物音とか立てても大丈夫だよ。ハンモック掛けるんでしょ?」

 

「あっ、そうだ! えっとじゃあ……録画ボタン押して、ふつうに撮影エリアに入って、ふつうにハンモック掛けるのに挑戦して……ふつうにのんびりすればいい?」

 

「そうそう。別に手際良くなくても大丈夫だからね。ノワのもたもたも()(だか)なので」

 

「そ、そんなもたもたしないよぉ」

 

「ウフフ。……じゃあ、始めちゃう?」

 

「……ん。そだね」

 

 

 

 

 カメラとマイク、ふたつの三脚の配置を指差し確認し、おれはいよいよ録画ボタンを押す。高精度マイクが涼しげな水音を拾い始め、およそ一時間の環境音動画の収録が始まる。

 

 

 まずは編集用に十秒程度の余白部分を冒頭に設けてから、おれは行動を開始する。カメラの後ろから姿を表し、ちらちらとカメラを気にしながらハンモック片手に定位置へと向かっていく。

 ここから先は……特にカメラの存在を気にする必要は無いようだ。気持ちを楽にしてハンモックの設営に取りかかることにする。

 

 まずは太くて頑丈な木を二本、できれば三メートルほどの間隔で生えているところを探す。今回はあらかじめ見繕っておいたので問題ない。

 つぎに専用のベルトを木の幹にぐるりと、二本の木それぞれに巻いて金具で留め、最後にハンモック本体とそれぞれのベルトの金具を繋げば……ゆらゆらと揺れる心地よい寝床が出来上がる。

 

 

「…………っ、んっ!」

 

 

 思わず歓声を上げそうになるのをぐっとこらえ、静かに喜びを表現する。ばんざいっ。

 

 さっそくいそいそとよじ登るために、まずは上半身をハンモックへ預ける。そのまま全身を載っけようとしたのだが……やっぱりゆらゆらするハンモックでは、なかなかうまく踏ん張れない。

 ハンモックへと両手を突っ張ったまま、まるでお尻を突き出すような姿勢でガクガクガクと不格好に震えるばかりで……まって、むずかしい。これうまく乗れないぞ。

 

 

(うわぁ…………なんて無様な格好)

 

(だ、だってこれ、こわっ…………むず!!)

 

 

 おれの予定では颯爽と寝転がるはずだったのだが、なかなか予定通りにはいかない。

 カメラにお尻を向けてガクガクする不格好を晒し続けるわけにもいかず、意を決して勢いよく飛び乗る。……つもりだったんだけどなぁ。

 跳躍が足りなかった(というかほんの十センチくらいしか跳べてなかった)らしく、しかし重心を上半身に傾けていたせいでバランスを大きく崩してしまい、肘が曲がって顔が布地に激突して膝が地面について、そのままべしゃっと尻餅をついて、ごろんと仰向けに転がってしまう。……ぐぬぬ、かっこわるいところが映ってしまった。

 

 

(ブフッ、……踏み台とか使う?)

 

(ねえいまわらったでしょ)

 

(ほらノワ、いい感じの丸太のブフッ)

 

(ねえわらったよね? わらったでしょ? おれそういうの聞き逃さないよ?)

 

(使わないの? 踏み台)

 

(………………つかう)

 

(……………………ぷっ)

 

(もおおおおおおお!!)

 

 

 

 顔の表情に不機嫌さが現れてしまったかもしれないが……気にせずそのまま行動を続ける。なぜなら若芽ちゃんはぷんぷん顔もかわいいので。

 カメラの後ろがわへ一旦はけて、そこでラニがわざわざいい感じに形を整えてくれた丸太を受け取り、両手で抱えてハンモック付近へと戻る。カメラの目の前、あからさまな体力強化(フィジカルバフ)魔法は控えたほうが良さそうなので、これはおれの生の体力だ。

 つまりは……ひょこひょことぼとぼと、とてもゆっくり……かつ、とても一生懸命なのだ。

 

 十メートルそこらの距離を一分くらいかけて、ゆっくりと丸太を運び終える。

 ラニが光剣で加工してくれたのだろうか。丸太を横倒しにしたようなつくりの踏み台は、ちゃんと踏み面の幅もしっかり広くとられており、それでいてしっかりと安定するように底面が加工されていた。

 なるほど、これであれば……ぶざまに『すってんころりん』することもなくハンモックに乗れそうだ。

 

 

「…………んっ!」

 

(おー、よくできました)

 

(のれた! 乗れました! おほほーっ!!)

 

 

 なるほど、これは良いぞ!

 ゆるやかに身体全体を包まれる感触は、リクライニングシートともまた違うが、体勢的には似たような感じかもしれない。小柄なおれなら身体を『ぐーっ』と伸ばすこともできるので、とにかくとてもリラックスできる形だ。

 

 

 

 ゆらゆらと揺れる感覚も心地よく、これはなかなかクセになりそう。

 

 

 ハンモックへと持ち込んでいたブランケットのおかげで肌寒さも軽減でき、木漏れ日とそよ風がまたきもちいい。

 

 

 

 

 ゆーら、ゆーら、ゆーら。

 

 

 

 

 あっ、あっ……あー…………これ、いい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(………オイオイオイ、寝たわアイツ)

 

(スヤァ……)

 

 



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255【在宅勤務】すずしげ水音動画

 

 

(えーっと、あの…………局長? 局長ー?)

 

「んん、っ…………んむぅぅぅ……」

 

(アッ、これはだめだ。本気(マジ)寝入ってますわコレ)

 

 

 

 ふわふわと、ゆらゆらと、なんともいえない浮遊感。

 心地よいまどろみに沈む中……可愛らしいだれかの声が聞こえた気がした。

 

 もぞもぞと身体を動かせば、揺れはゆらゆらと大きくなる。

 いつものベッドや畳なんかとは違う、独特なその感触に……おれの中のかしこい部分が、睡眠中でもお利口に働き始める。

 

 

 えーっと……まずどうやら、おれは今おひるねをしているらしい。……もとい、思考が覚醒に向かっているので『おひるねをしていた』というのが正しいか。

 そしてどうやら、そのおひるねをしていた場所というのが…………なんていうか、ふわふわするところだ。

 とてもふわふわしている上、肌触りはもこもこだ。これは確か、おれのお気に入りブランケットの感触。……ということは、やっぱりいつものベッドなのだろうか。

 

 

(あー……むにゃむにゃだって。本当に言うんだぁ……寝息拾えないの残念だよなぁ)

 

「…………んぅー?」

 

 

 ラニの声が聞こえるので、たぶん間違いない。いつもどおりのきもちよいベッドでの、気持ち良いまどろみのひととき。

 頬を撫でる風の流れも、耳をくすぐる水の音も、気持ちいい眠りを後押ししていたようだ。

 

 

 

 うん……? 風?

 

 …………水の、音?

 

 

 

 

 

 

(………………ねぇ、ラニ)

 

(ぉお? 目が覚めた? おかえりノワ)

 

(いつから…………何分くらい、ねてた?)

 

(ハンモックにもぐりこんで、五分後くらいかな。そこからだいたい三十分ちょっとくらい)

 

(うそぉ!? まだ何もしてないのに……!)

 

(撮れ高はバッチリだったから、大丈夫だよ。そろそろ起きる?)

 

(? う、うん? ……うん、そうする)

 

 

 身体はたぬき寝入りを継続しつつ、思念(テレパス)で相棒と相談を済ませ……おれはあたかも『今目が覚めましたよ』といった(てい)で、ゆっくりと起床を装うことにする。

 まぁ、もともとこの動画は環境音……つまりは水音がメインなので、おれが何もしていなくとも問題ないのだ。

 

 だから……なにもはずかしいことはない。

 

 

 

「んぅー…………」

 

 

 もぞもぞと身じろぎして、のっそりと起き上がる。ハンモックの上は心地よくも不安定でなかなかふんばりが効かないが、身体をうまくひねってバランスを取る。

 今度は乗るときのような無様は晒さず、踏み台をうまく使って靴を履き、おっかなびっくり地面に降りる。

 身体を伸ばして調子を整え、つい先程までおれに安眠を提供してくれたハンモックを見下ろす。ふと思うことがあり、今度はおしりをハンモックに委ね、身体を横向きに座ってみる。

 

 

「おぉー…………」

 

(あっ、今の声拾っちゃったんじゃない?)

 

(えっまじ?)

 

 

 ……まぁいいや。そんなこと気にならないくらい、今のおれは能天気なのだ。

 なぜならこの……ハンモックに横向きに座って足をぷらぷらさせるやつ。暫定的にハンモックチェアと呼称するが、これがまたいい感じに気持ちいいのだ。

 

 というわけで、お昼寝から目覚めてからしばらくを、ハンモックチェアでゆらゆらと過ごす。

 

 

 

(あはぁー…………きもち……)

 

(ねぇノワ、おなかすかない?)

 

(んう……ちょっとおなかすいた)

 

(んふふ。……それはよかった)

 

(…………?)

 

 

 

 ゆらゆらとハンモックのロッキングでリラックスしていたおれの聴覚が、おれとラニ以外の第三者の接近を知覚する。

 なにごとか、どういうことかとラニ(カメラ)のほうへ視線を向けると……おれの視線の先にたたずむ相棒は、いたずらっぽい表情を浮かべたまま。

 

 やがてその第三者が視界内に姿を表し……その手に提げられた小さな風呂敷包と、それを携えるかわいい和服美少女の姿を、おれの視覚と意識が捉える。

 

 

「……っ! …………っ!」

 

(アッ…………かわいい)

 

(わかる)

 

 

 おれの姿を見つけ、花が綻ぶような笑みを浮かべた霧衣(きりえ)ちゃんは……おれに声をかけようとしたそのお口を慌てて押さえ、代わりに控えめに手を振ってくれる。

 

 

(しずかにね、って伝えてあるから。……おりこうさんだ)

 

(なるほど…………かわいい)

 

(わかる)

 

 

 いったいいつのまに言い含めていたのだろうか……ラニの言いつけどおり、声や物音を立てないように近づいてくる霧衣(きりえ)ちゃん。小包を提げたまま軽々と斜面を飛び降り、カメラの後方に音もなく着地する。

 するとラニも【蔵】を開き、なにかを霧衣(きりえ)ちゃんに手渡す。それを受け取り抱えた霧衣(きりえ)ちゃんはこれまた危なげの無い足取りで、石や木の根が蔓延る地面を草履で悠々と歩んでくる。

 

 やがてその姿がカメラの撮影範囲に入り、環境音動画に霧衣(きりえ)ちゃんが姿を表す。……あっこれは永久保存版では。

 

 それはそうと、いったいどうしたんだろう。……もしかすると、おれの寝落ち気味なお昼寝で心配を掛けてしまったのかもしれない。

 何の連絡も入れなかったのは……さすがに申し訳なかったか。

 

 

 

「わかめさまっ、霧衣(きりえ)が参りましたっ」

 

「アッ、オッ……ど、どしたのきりえちゃん。おれまた何か迷惑かけちゃってた?」

 

「い、いえっ、決してそのようなことはございませぬ! ……あのっ、僭越ながら……おひるごはんをお持ち致しました」

 

 

 環境音としての水音にかき消されるくらいの、集音マイクに届かないくらいの、お耳がこそばゆいひそひそとした小声。……それこそ内緒話のようなウィスパーボイスに、ちょっと『くらっ』としそうになる。ぐぐぐ……堪えろおれ。こらえた。

 冷静さをわずかに取り戻したおれの思考が、今しがたの霧衣(きりえ)ちゃんの発言……『おひるごはん』を認識し、あわてて現在時刻を確認する。

 

 スマホの画面に表示される現在時刻は、十一時半。……おぉ、見事におひるどきだ。

 どうやら霧衣(きりえ)ちゃんはおひるごはんをどうするのか、おれに確認を取りに来てくれたようだ。……この撮影、かなり突発的だったからなぁ。なかなか戻ってこないおれにしびれを切らしてしまったのだろう。申し訳ないことをしてしまった。

 

 

 

「ふふっ。……すこしだけ、お待ちくださいませ。ただ今お味噌汁をご用意させて頂きまする」

 

「………………??」

 

「温め直すだけにございますゆえ、(しば)しお待ちくださいませ」

 

 

 その言葉と共に霧衣ちゃんが取り出したのは、先程ラニに手渡された包み……アウトドア用キッチンツールの数々。小さな折り畳みテーブルふたつと、ガスバーナーと、金属カップと、スプーン等だ。

 テーブルのひとつにキッチンツール類を広げ、もうひとつの上で風呂敷包みを解く。

 杜若色の布に包まれたその中身は……小さく握られたおにぎりが四つと、鮮やかな黄色がおいしそうなだし巻き玉子のタッパーと、汁物が封じられた密閉容器と、おわんが二つ。

 

 

 シンプルながら美味しそうな……霧衣(きりえ)ちゃんの手作りおひるごはん。

 

 おれは静かに、しかしそのテンションは爆アゲだった。

 

 



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256【在宅勤務】無音声おひるごはん

 

 

 グランドシートを拡げて、その上に小さく低い折り畳みテーブルを広げて……お行儀よく履き物を脱いでシートに上がり、霧衣(きりえ)ちゃんはおれのために(※重要)お昼の準備を始める。

 屋外だというのに、相変わらずきちっと着付けた和服姿。真っ白な足袋(たび)がまた目に眩しく、ちょっとむらむら……もとい、どきどきしてしまう。

 

 

「……お声は、抑え目がよろしいのでございますね」

 

「ん……そう。…………ありがとうね、霧衣(きりえ)ちゃん」

 

「いえいえ。わたくしが、好きで……楽しくて、(おこな)っていることにございまする」

 

「アッ、アッ…………アリガト……ッス……」

 

(うわ語彙力喪失してるよ。わら)

 

(KAWAIIが過ぎるんじゃぁ……)

 

 

 環境音動画という前提を台無しにしてしまわないよう声量を抑えての、しかしそれでも『可愛い』が過ぎる彼女の言動に……危うくおれ自身が叫び声をあげそうになった。あぶなかった。

 

 しかし……どうやら完璧に、この突発撮影の企画内容を把握してくれている彼女。これはもしかすると……やはり頼れる()()()()()()さんが根回ししてくれたのだろうか。

 

 

 

(キリちゃんもタブレット慣れてきたみたいでね。REIN(チャット)くらいなら問題なく扱えるようになってるのさ)

 

(うわぁーーーー先生ありがとぉーー)

 

(ふふふふ。……お昼ごはんどうする、って聞かれてね。今ノワがこれこれこういう撮影してて……寝落ちしたって教えてあげたら)

 

(そんなのおしえちゃったの!?)

 

(わたくしも拝見してもよろしいでしょうか? って聞かれたから)

 

(そんなのきかれてたの!!?)

 

(キリちゃんをここに案内してあげて)

 

(つれてきちゃってたの!?!?)

 

(十分くらい『じーっ』て眺めてたよ?)

 

(そんなに!!?)

 

 

 おれがのんきにお昼寝していた間の驚愕の出来事に、思わずがっくりうなだれたおれだったが……目の前でにこにこ笑顔でお味噌汁の仕上げに取りかかる霧衣(きりえ)ちゃんは、そんなおれの様子を慈愛の眼差しで見つめている。……くそぅ、かわいいなぁ。

 小鍋にあけたスープを温め、ラップでくるんだお味噌を落とし、菜箸とおたまでお味噌を溶いて……辺りにはみるみるうちに、おいしそうなにおいが満ちていく。

 

 おたまで味見を済ませると……お椀にそれぞれお味噌汁をよそい、おにぎりとあわせておれの前へ。

 照れくさそうに頬を緩ませ『お待たせいたしました』とすすめてくれる。

 

 

「うぅ……ほんとありがとね。……いただきます」

 

「はいっ。……いただきます」

 

(いいなぁー)

 

 

 グランドシートの上に座り込み、おれと霧衣(きりえ)ちゃんは手を合わせて『いただきます』をする。ラニが物欲しそうな思念を送ってくるが、今回ばかりは『ごめんね』するしかない。……いや、まてよ。べつにラニが映っても大丈夫なのかなぁ?

 

 いや、やっぱり良いや。どうせメインになるのは環境音だし、しかもライブ配信ではなく動画としての投稿だし。

 仮にラニ(の放つ光)がカメラに映り込んだとして、あの距離のカメラからでは詳細は映らない(はず)。謎の光はあとから編集したのだと思わせればいいだろう。

 

 ……という思考内容をリアルタイムでラニと共有し、カメラ(ラニ)のほうへ向いて手招きをする。

 

 

(ありがとノワ! すき!!)

 

(えへへー)

 

 

 淡い光の玉のように見える(はずの)ラニが、ふわふわとこちらへ飛んでくる。おれのおひざの上に着地した彼女は天真爛漫な笑みを浮かべ、おれの指先で摘ままれた米粒の塊へとかぶりつく。……くそぅかわいいやつめ。視聴者さんにお見せできないのが残念だ。

 しかしまぁ、優柔不断と言われればそれまでなのだが……そもそも今回のこれは突発的な撮影開始だし、演出も流動的だし、色々とイレギュラーな撮影だが……環境音動画とはあくまで音声がメインなので、映像のほうはこれでも問題ないだろう。

 そういうことにしよう。おれが局長(ルール)だ。

 

 

 

 

 

 

「……うん、そろそろいい時間なんだよね」

 

「おー? ……そだね、一時間経ったか」

 

「例の…………環境音動画、という演目でございますか?」

 

「そうそう。……おれたちがのんびりしてるだけの映像なんだけど、ほんとにウケるのかな」

 

「のんびりしてたの主に局長だけどね」

 

「ヴっ!!」

 

 

 まぁ例によって……特に消費するものもない気楽な撮影なのだ。仮に失敗したとしても、特に痛手があるわけでもない。

 公開したときにどんな評価が下されるのかはわからないが、とりあえずこれで良いということにしよう。確かにおれは好き勝手に休んでたが、環境音はちゃんと撮れてるだろう。…………たぶん。

 

 最後にちょっとしたひと工夫を試み、この動画はそろそろ撮影終了することにする。

 

 

「若芽様と一緒に、かめらに歩いて近づいて……お辞儀、でございますか?」

 

「うんそうそう。さすがおりこう。……いくよ」

 

「はいっ!」

 

 

 食べ終わったあとを片付け終えた霧衣(きりえ)ちゃんと、クロージングについてひそひそと軽く打ち合わせを済ませ、早速行動に移す。

 そこそこの距離にあるカメラへ向かい、二人ならんで歩いていき……おれはひらひらと手を振って撮影範囲から外れ、カメラの前に一人残された霧衣(きりえ)ちゃんがはにかみながらも可愛らしくお辞儀をして……

 

 

 

「…………おつかれさまでした」

 

 

 

 水音を拾うための高精度マイクに顔を近づけ、ささやくように一言吹き込んで、無線コントローラーの録画停止ボタンを押す。

 カメラの液晶ディスプレイから録画中を示すマークが消え、記録状態が解除されたことを指差し確認してから……

 

 

「おわりーーーー!!」

 

「いぇーーーーい!!」

 

「い、いえーーーい!」

 

 

 両手を天に突き上げ、一仕事終えた解放感をみんなと一緒に分かち合う。

 ラニが持ってきた案をベースに、おれが臨機応変……といえば聞こえはいいが、要するにその場その場での無計画撮影を行い、最終的には霧衣(きりえ)ちゃんのKAWAIIで誤魔化した一本。

 

 ここからは……おれのしごとだ。撮影映像のチェックと編集、最後の仕上げが待っている。

 手伝ってくれた二人に報いるためにも、少しでもいい動画にしたいところだ。

 

 

 ごはんもたべたし、げんきいっぱいだ。がんばろう。

 

 



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257【在宅勤務】のわめ会議

 

 

 少々突発的ではあったが……動画一本分の撮影を終わらせた、いいお天気の昼下がり。

 おれたち『のわめでぃあ』の三人はおうちに戻り、リビング(床座ベース)でくつろぎながら意見を交わしていた。

 …………そのうちおっきいソファと、テーブルとかもほしいな。リビングらしい家具そろえたい。

 

 

 というわけで(?)第二回目となる『のわめでぃあ』首脳陣みーてぃんぐだ。……まぁ首脳陣イコール演者なんだけど。

 

 

「のわめでぃあの企画案! かんがえよう!」

 

「おー!」

 

「お、おーっ!」

 

 

 

 ライブ配信だけでなく動画投稿を行うおれにとっては、視聴者さんたちを飽きさせてしまわないように、常におもしろい動画を供給し続ける必要がある。

 おれ一人ではさすがにネタ切れも早いだろうが、今やわが(のわめでぃあ)には優秀な助手がふたり(モリアキも勝手に頭数に入れれば三人)もいるのだ。

 実際、先程撮影を終えた『一時間耐久環境音動画【おうちの裏の小川】編』なんかも、元々はラニの発案である。先駆者の環境音動画を拝見した限りでは、あれはあれでなかなか目の付けどころがすばらしいと思った。

 

 

「というわけで、ラニちゃん! 前回に引き続きいい案はありませんか!」

 

「うーん…………あんまり方向性が被ると良くないよね?」

 

「Oh……すばらしいプロ意識。名実ともに立派なアシスタントだわ」

 

「さすがでございます! シラタニ様!」

 

「でっしょー」

 

 

 現在製作が確定しているのは……視聴者さんからの投票で可決された、和服美少女着飾り計画『きりえクローゼット(with自爆ノワ)』がある。

 ほかにも定番企画として、新拠点の広々キッチンを活かしたお料理企画『若芽のおはなしクッキング』、道行くひとの昼食にご一緒するメシテロ企画『昼飯(メシ)、ご一緒してもイイですか?』、かわいい箱入り霧衣(きりえ)ちゃんにいろんな新体験をさせて愛でる『和装美少女の初体験』シリーズ……このあたりの定期的な投稿を計画している。

 そこに加えて、新作といえる環境音動画。こちらも何種類か展開が出来そうなので、第一段の反響次第で今後の展開も考えようと思う。

 

 ……っとまあ、このあたりが『現在の』のわめでぃあの武器になるわけだ。

 この並びに加える新たなる武器、つまりは『これからの』のわめでぃあの強みを考えていくのが、今回のミーティングの目的だ。

 

 

「これらと被ってないジャンル…………やっぱ旅行系?」

 

「りょ、りょこう!」

 

「おお……キリちゃんは旅行すき?」

 

「はいっ! いろんな景色を眺めてみとうございまする!」

 

「そだねぇー、せっかく良い移動拠点あるんだし」

 

「せっかくならあのクルマ活かしたいよね。タジミさんも喜ぶだろうし」

 

「そうだよねぇー……」

 

 

 

 実際に泊まってみてわかったが、あの移動拠点(キャンピングカー)の使い勝手はなかなかのものだった。……ていうかぶっちゃけ、非常に良い感じだ。

 

 おれと霧衣(きりえ)ちゃんは両方とも小柄なので、横に二人並んでもセカンドシートのベンチに収まるのだ。更に小柄で宙に浮けるラニに至っては、なおのこと。

 おれの使っているカメラ(ゴップロ)マイク(TR-07X)も小型で取り回しに優れる機材なので、キャンピングカー車内のリビングスペースでも問題なく撮影することができるわけだ。

 フリートーク部分を出先で撮ることも出来るので、撮影できる企画の幅も大いに広がるだろう。

 

 というわけで……方向性としては、全国各地へ足を伸ばしての旅番組。そこへおれたちならではのプラスアルファのセールスポイントを加えれば……視聴者さんたちに、いっぱい喜んでもらえる……とおもう!

 

 

 

「じゃあさ、じゃあさ? やっぱゴハンに注力すればウケると思うんだ、ボクは!」

 

「わっ、わたくしも! わたくしも……いろんなお料理を経験しとうございまする!」

 

「いやぁ……やっぱメシテロだよね、わかる。じゃあとりあえず方向性としては……旅先でおいしいお料理を堪能するっていう作戦で」

 

 

 首脳陣三名(一名(モリアキ)不在)の満場一致で、大まかな方向性は定まった。ホワイトボード代わりのA3用紙に大きく『りょこう』『うまいもん』と書きなぐり、ではつぎはどうやって特徴を付けていくかを考える。

 そう……ひといきに『おいしいごはん』とはいっても、全国各地の市区町村には、それこそ数えきれぬほどの飲食店、星の数(というと大袈裟かもしれないが)のお料理が存在するのだ。

 それら全てを取り上げることは、残念ながら出来なさそうなので……つまりはおれたちが訪れるお店・取り上げるお料理を、何らかの基準で選ばなければならない。

 

 その判断基準……取捨選択の基準を、どう設定すべきなのか。そこを詰めるため、ミーティングは更に熱を帯びていく。

 

 

 

「やっぱさ、詳しいヒトに聞くべきだって。そこのヒトがよく行くお店なら、つまりはめっちゃおいしいってことじゃん?」

 

「な、なるほど! 名案にございまする、シラタニ様!」

 

「アッ、えっと、あの…………ウーン」

 

「……?? 若芽様?」

 

「えっと……うん。そうね、わかる。わかるよ。…………わかるん、だけど……」

 

 

 

 

 少々雲行きが怪しくなってきたが、しかしどうしようもない。実際その手段がきわめて信頼性が高いというのは、おれも視聴しているときから感じていたことだ。

 

 旅先で、行く先々の現地にお住まいの方に、よく行くお店を教えてもらい……『せっかくここに来たなら、これを食べなさい』と教えてもらう企画。

 

 

 

「丸パクリは…………やっぱダメだよなぁぁ……」

 

「「………………???」」

 

 

 

 タイトルが似てる、とかじゃなく……そのまんまだもんな。

 さすがに……それはあかんか。どうにか別の手段を講じなければならないだろう。

 

 

 ……いや、めっちゃ良い企画なんだよなぁ、あれ。

 

 




せーっかニュッピャー! せーっかくねー!
せーっかーくホホメニャホニャフー!

せーっかムップャー! せーっかくねー!
フニャヤヤポンメー! ワンダフォーデー!


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258【在宅勤務】続・のわめ会議

 

 

 いや……実際のところ、非常にそそられる企画なのは間違いない。

 みんなだいすきなグルメ、しかも地元で話題の人気店へとほぼ確実に辿り着けるとあれば、その土地の魅力を伝える大きな手助けとなるだろう。

 

 しかし……非常に、非常に残念なことに。

 その企画は既に……地上波テレビで大人気放送中なのだ。

 

 

 

「べつに良いんじゃないの? クイズ番組とかワイドショーとか、わりと似たり寄ったりじゃん」

 

「ンググ……そうかもしれないけど! でも『たぶん大丈夫』で実際大丈夫じゃなかったら…………たいへんなことになるし」

 

「?? え、そうなの?」

 

「そう、だと、おもう…………コンプライアンス? だか、放送倫理? だか……そういう企画案とかは、アイディアとして考えた人に権利があるから……あんまりパクるのは良くない、んじゃないかな。…………あとおれ、ヒムラさんに嫌われたくないし」

 

「んー? …………なるほどねぇ。きまじめ、っていうか」

 

「『まねっこ』は……良くない、のでございますね……」

 

「んぅ……その『まねっこ』でお金儲けしようとしてるなら、なおのこと……ね」

 

 

 おれたちのこの活動も、いつ終わるとも知れない戦いなのだ。あまり波風を立てたくないし、波風が立ちそうな要因は極力排していきたいと考えている。特にテレビ業界が絡むと……えっと、色々と面倒なことになりそうなので。

 

 正直なところ、今までに取り上げてきた企画あれこれも『危ない』ものがいくつかあった自覚は……ある。

 企画タイトルも少々ピントをぼかした感じにして誤魔化しているので……だからこそ既存の番組を丸パクリしてしまいそうなこの企画に、今こうして二の足を踏んでいるわけだ。

 

 

 

「じゃあさ、じゃあさ? おすすめしてもらうモノを別のに変えれば良いんじゃない?」

 

「別のモノ……って?」

 

「いやぁ、たとえば……こっちの世界にもさ、見晴らしの良い崖とか、万病に効く薬草の群生地とか、旧時代の遺構とか、巨龍の亡骸とか、そういう『旅人がこぞって目指す名所』みたいなの……あるんだろ?」

 

「あぁー『観光名所』ってやつか!」

 

「そうそう! たぶんそれだ!」

 

 

 なるほど……『食べる』だけに絞らずに、それ以外の『見る』『遊ぶ』などといったジャンルにも裾野を広げ、おすすめされた内容を体験する。

 その地ならではのオススメを現地の方に教えていただき、ときには名所にいって絶景を眺めたり、名物アクティビティに挑戦してみたり、名物料理や知るひとぞ知る料理を堪能したり……同じ企画でもいろんなモノを取り上げることができるので、飽きられにくいと思う。

 

 …………うん、いいかもしれない。

 これなら……ちょっと危ういかもしれないけど、丸パクリにはならないだろう。

 

 

 その方向で考えてみよう……と思っていたところで。

 予想外の方向から、思ってもみなかった名案が届けられた。

 

 

 

「あの…………若芽様?」

 

「ん? どしたの霧衣(きりえ)ちゃん」

 

「……えっと……つぶやいたー、の……ほろあー? さんに、おすすめしていただくのは……いかがでしょうか?」

 

「………………………………はっ!!」

 

 

 

 

 SNSサービス『つぶやいたー』とは……自分がフォローしているユーザーが気ままにつぶやいた発言を見ることができる、比較的『ユルい』SNSである。

 またこの『つぶやいたー』には便利な機能がいくつもあるのだが……それらのうち、おれが思い浮かべた二つの機能がある。

 

 ひとつは……特定の文字列を『タグ』として利用し、その『タグ』を含む発言を任意の範囲(自分のフォロワー内、または全ユーザー内)で一括表示させるもの。

 つまりは『せっかくレジャー(※仮)』とかいうタグをつくって、それをおれの視聴者(フォロワー)さんたちに告知しておけば、やさしいおれの視聴者(フォロワー)さんたちがこの『タグ』をつけて『オススメ観光地』をどしどしつぶやいてくれる……ということだ。

 

 もうひとつは、その『タグ』検索で引っ掛かったつぶやきの中から『現在位置の近く』でつぶやかれたもののみをピックアップできる、というもの。

 要するに……行った先々で検索すれば、現地の『オススメ観光地』情報を入手することができる……ということなのだ!

 

 

「どうかな! これなら楽しそうじゃない!?」

 

「おぉぉ…………そんな機能が……」

 

「は……はいてく…………でございまする」

 

「……うん、良いなこれ。つぶやいたーでも盛り上がってもらえそうだし。それに……現地ニキネキも積極的に絡んでくれそうだし、少しでもコミュニケーションできたらおれもうれしいし!」

 

「はいはいはい! ボク賛成!!」

 

「あっ、わっ、わっ、わたくしも! ……でございます!」

 

 

 

 よし……あらためて満場一致だ。

 企画の骨格として既存の案を参考にし(パクっ)たのは確かだが、SNS(つぶやいたー)を利用した『せっかくなので』の募集は……まぁ、ゆるされるだろう。たぶん。だめかな。やっぱだめかもしれない。

 い、いや……これくらいなら、おそらくはインスパイア企画として通用するはずだ。

 

 

 

 というわけで、おれたち『のわめでぃあ』がお送りする『旅行企画』、その大筋がめでたく決まった。

 

 

 題して……のわめでぃあの『せっかくとりっぷ』だ!!

 

 

 

 

 …………ダメかな!!?!?

 

 





※後日企画内容が変わっていた際は察して下さい。


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259【在宅勤務】続続・のわめ会議


※ミーティングつづきです。
 もうしばしご容赦ください。



 

 

「ラニどーお? 斜めってない?」

 

「おっけーおっけーまっすぐ。いい感じだよ!」

 

「若芽様! 天繰(テグリ)様より『例のもの』をお借りして参りました!」

 

「ありがと霧衣(きりえ)ちゃん! …………いや、まさかまじで()()()()とは……」

 

「へぇー? これまた興味深い」

 

 

 

 おれの頼れる同僚ふたりの知恵を借り、めでたく方針が定まった旅行企画……のわめでぃあの『せっかくとりっぷ』。

 その企画の『流れ』に関しては、おおむねミーティング通りで良いとは思うのだが……ただあとひとつ、どうしても決めなければならないものがある。

 

 それは……ずばり、目的地。

 日本全国津々浦々の、果たして()()に行くのか。視聴者さんからの不満がでないような、可能な限り公平を期す抽選方法とは、いったいどんなものが考えられるだろうか。

 

 

 ……ということで、見つけました。ありました。ほめていいのよ。

 

 

 

「このあたりかな……うん、この距離なら大丈夫そうね」

 

「ここから……投げれば、良いのでございますか?」

 

「うん、そう。……いけそう?」

 

「……この形のものは、いまひとつ慣れておりませぬが……ご期待に応えて見せまする」

 

「ありがとう霧衣(きりえ)ちゃん! ……って、そんな種類あるの? ()()()()って」

 

「はいっ。わたくしどもが手遊びして居りましたものは、『針型』と呼ばれておりました。天繰(テグリ)様の()()は……筆型、槍穂型と呼ばれるものでございましょう。打ち易そうな()()()でございまする」

 

「「へぇぇぇー…………」」

 

 

 えっと……まさか種類がいくつもあるとは思わなかったが、要するに『棒手裏剣』……西洋風にいうところの『ダーツ』と呼ばれる投擲武器だ。

 ……なにをやろうとしてるのか、もうわかったね。

 

 しかし例によって丸パクリだとジョージさんに申し訳ないので、やんわりとピントをぼかしてパク(参考にす)る。

 先ほどエッサホイサと壁に掛けたのは、ぶあつい発泡系断熱材(スタイロフォーム)に貼り付けた大きな日本地図……ではなく、ランダムにナンバーを振り分けたいくつものマス目の集合体が印刷された、A3用紙二枚分の特製ポスターを貼った構造用合板。

 イメージとしては、デタラメにマスの数が多くて細かいビンゴカードのようなものだ。数字は『1』から『144』まで、ただし数字の歯抜けは無く、全部で百四十四マス。あくまで順番がランダムなだけだ。

 

 そしてこちらのポスター、先述のようにA3用紙が二枚なので、簡単に作り直すことができる。数字の順番をランダム選出する専用のプログラムを導入することで、数字の配置をその都度変更したシートを作成して印刷し、あとは貼り付けるだけ。

 そして、つまりはこの巨大ビンゴカードポスターにダーツを投げるのだが……このときダーツが当たった番号が、そのままこちらの全国地図帳のページ数と対応しているというわけ。

 

 

 

「ボードのナンバーの順番はランダムだし、ダーツだからどこに当たるかもわからない。これなら視聴者さんも納得してくれるでしょ」

 

「ノワは投げなくていいの? 局長でしょ?」

 

「……あのね…………おれ(じつ)は見えるんだわ、あの数字。あと多分、集中すれば狙ったとこ当てれる。それじゃフェアじゃなさそうだし……」

 

「ぇえ…………ドン引きなんですけど」

 

「あと単純に……霧衣ちゃんのかっこいいシーン、人気出そうだし」

 

「ひゃふゎ!?」

 

「…………まぁ、そうね」

 

 

 

 (マト)である巨大ビンゴボードを掛けた壁から投擲ラインまでは、およそ三メートル。

 このラインから霧衣(きりえ)ちゃんに棒手裏剣(ダーツ)を投げてもらい、目的地となる都道府県市区町村の地図ページ抽選を行う作戦だ。

 

 

 てれてれもじもじしているかわいい霧衣ちゃんに、まずは何発か練習してもらうべく、抽選ボードの上にべつの合板を立て掛ける。

 いつものような和服を纏ったまま、そのお手手(てて)棒手裏剣(ダーツ)を携えた霧衣(きりえ)ちゃんは……相変わらずはずかしそうな表情を浮かべながらも佇まいは凛として、非常にかっこいい。かっこかわいい。

 

 

 

「まだカメラ回さないから、何回か練習してみて。気楽に気楽に」

 

「はぅうぅぅ…………し、承知つかまつりまする……」

 

「キリちゃんがんばえー!」

 

「がんばえー!」

 

 

 

 おれとラニの激励を受け……おそらく()()()()が入った霧衣(きりえ)ちゃん。何度か深呼吸して棒手裏剣(ダーツ)を構え、目はまっすぐ標的の合板を見据え……そして大きく振りかぶられた彼女の腕がついに、張りつめた空気を裂くように勢いよく振り抜かれる。

 

 

 その瞬間……『直感』とでも呼ぶべきだろう感覚に突き動かされ、おれは標的である合板――二枚重ねたうちの一枚――に向けて防護強化(フィジカルバフ)を叩き込む。

 

 傍らのラニが『ぎょっ』とした顔でこっちを見るが……それとその()()が鳴り響いたのは、ほぼ同一のタイミングだった。

 

 

 

「「うわァァァ!?」」

 

「あ……っ!」

 

 

 

 ガレージの建築用に調達しておいた、厚さ十五ミリ程の構造用合板……念のためにと二枚重ねて立て掛けておいた()()に、鉛筆のように尖った鉄器の先端が深々と突き刺さり。

 

 それは一枚目を易々と貫通し、防護強化(フィジカルバフ)が張られた二枚目の表層へと、その先端を僅かに食い込ませていた。

 

 

 

「…………えっと…………ごめん、きりえちゃん」

 

「わっ、わっ、わっ、わっ、わかっ、わっっ、さまっ、」

 

「かるーく……そーっとで良いから……ね?」

 

「も、ももっ、もっ、申し訳、っ、ございませぬ!!」

 

「おぉぉ……無附与(ただ)のアイアンでこの威力……」

 

 

 

 

 とってもかっこよくて、凛々しくて、それでいてめっちゃ可愛いかったけど。

 

 この超人的な投擲技巧は……残念だけど、これもお蔵入りだな!!

 

 

 

 本番までに、よーく言い聞かせておかないと!!!

 

 





次回定例配信です。
宜しければよろしくお願いします。



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260【定例配信】たのしみだなあ



 わすれてたわけじゃない。

 決して……決して忘れていた訳じゃないんだ。しんじて。




『はぁ……まぁどうでも良いんすけど。とりあえず、早く配信待機ルーム作ったほうが良いと思うっすよ?』

「そうだね! 今つくって…………できたよ! これでいいでしょ!?」

『何でオレにキレてんすか。そんなんよりSNS(つぶやいたー)告知したほうが良いっすよ?』

「そうだね!! キレてないっすよ!!」



 ……すみません、正直危ないとこでした。
 わすれてました。たすかりました。


 一月十七日、金曜日の夜……現在の時刻は、二十時半頃。
 明日に控えたゲームコラボの印象が強すぎて、完っっ全に失念していたが……毎週金曜二十一時は、のわめでぃあ定例(にしようとしている)配信の時間なのだ。

 おれたちが今取り組んでいることや、ここ最近の状況報告……あとは『ふつおた』とか、視聴者さんとの言葉のキャッチボールなどなど。
 わが『のわめでぃあ』と視聴者さんとの近さをアピールするための、個人勢ならではの自由な配信時間。これはぜひとも大切にしていきたいものなのだ。





 …………と、いうわけで。







 

 

 

 

 

 

 

「ヘィリィ! 親愛なる人間種視聴者の皆さん! まだまだ肌寒い日が続きますが、いかがお過ごしですか? カゼとかひいてないですか?」

 

「ごきげんよう、ニンゲン種諸君! たのしいたのしい『のわめでぃあ』の時間だよ!」

 

「よ、っ……よろしく、おねがいします……っ!」

 

 

『ヘィリィ!』『まってた』『よかった……はじまった……』『へいに』『ヘィリィ!』『【¥10,000】局長かわいい』『局長わすれてたやろ』『きりえちゃんかわいい』『これは要調査』

 

 

 そ、そりゃぁ事前告知は()()()()遅れてしまい、三十分前の告知になってしまったが……セーフはセーフだ。ちゃんと(ギリギリだけど)事前告知したし配信開始時刻にも間に合ったので、つまりはなにも問題はないのだ。

 大丈夫、こと放送局業務に関してはプロ級の技量をもつ局長だよ。しっぱいなんてするはずは(※演出上オイシイ場面は除いて)無いんだよ。

 

 

「タヌさん『局長かわいい』すぱちゃありがとうございます! えへへ……てれる。……こほん。さっそくですが……先日、一本動画を投稿させていただきました! ……そう! みんなだいすききりえちゃんかわいいの動画だよ! 概要欄に動画リンクも貼ってあるので、ゼヒご覧くださいね! きりえちゃんかわいいっていって!!」

 

「はわわわわわうわうわうわう」

 

 

『もう見た』『きりえちゃんかわいい』『最オブ高だわ』『きりえちゃんかわいい』『【¥10,000】きりえちゃんかわいい』『きりえちゃんかわいい』『わかめちゃんかわいい』『おまえのほうがかわいいよ』『きりえちゃんかわいい』『みんなかわいいが過ぎるが』『【¥3,000】ラニちゃんもかわいいぞ』

 

 

「わゅうううううう…………!!」

 

「うんうん……ありがとうございます、ありがとうございます! 霧衣(きりえ)ちゃんもこんなに喜んでます! ぴょんこさん『きりえちゃんかわいい』ありがとうございます! せやろー! ケージさん『ラニちゃんもかわいい』すぱちゃありがとうございます! そうなの、みんなかわいいの。すき」

 

 

『いっぱいいっぱいだが』『きりえちゃんかわいい』『キマシタワー!!!』『鳴き声たすかる』『きりえちゃんかわいい』『相思相愛尊い』『半泣きかわいいたすかる』『悲鳴が……』

 

 

 おれの行動とは別で動画編集を行ってくれる、鳥神さんと『スタジオえびす』の方々……彼らの助力のおかげできわめて効率良く活動できるので、実際のところ非常に助かっている。

 今回晴れて公開した『和装お嬢さま初体験【MocBurger(モックバーガー)】編』は、そんな外部委託動画の第一弾だったのだが……視聴者さんの反応を伺う限りでは、特に違和感無く受け入れてもらえたようだ。すごいぞ『スタジオえびす』さん。

 

 なお調子に乗ったおれは、引き続き『キャンピングカー車内紹介動画』の編集を発注してある。なのであと数日……早ければ週明け月曜か火曜にでも、『三納オートサービス』さんからの企業案件動画『そのいち』が投稿できることだろう。

 他の作業をして待っているだけで動画が出来上がるなんて、なんてすごい。しんじられない。ありがたき幸せ。

 

 

 

「きりえちゃん初めては正直とてもかわいいので……視聴者のみなさんも、きりえちゃんに初体験してほしいお店があったらぜひぜひ、配信内コメントや動画の感想コメント、もしくは『のわめでぃあ』SNS(つぶやいたー)までお寄せください! みんなできりえちゃんに初めてを経験させてあげよう!」

 

「あうーーーーん!!」

 

「ちなみに『のわめでぃあ』は健全だからね! 当たり前だけど!」

 

「そうですよ! 何一つやらしくないです! 健全ですから! そこんとこ宜しくお願いしますねユースクさん!!!」

 

 

『これはKENZEN』『初体験(KENZEN)』『日頃の行いが……』『けんぜんだなぁ(棒読み)』『【¥800】本当にそうでしょうか?』『局長もラニちゃんもえちちだからなぁ……』『【¥10,000】』『のわめでぃあはKENZEN、いいね?』『はじめてのプールを』『回転寿司のスシタローを』『天逸のラーメン!』『きりえちゃんが唯一の清純枠』『きりえちゃんは癒し』『【¥50,000】かわいい水着で初めてのウォータースライダーを』『麺屋五右衛門を』『はじめての水着いいな……』『KENZENですから(念押し)』『きりえちゃん癒しわかる』『局長いやらし』『ラニちゃんいやらし』『いやらし』

 

 

「アッ、アッ、ヌンプチさん『かわいい水着で初めてのウォータースライダーを』すぱちゃありがとうございます……! うわすぱちゃ最大上限じゃないですかもっと有意義なことに使って! いえとてもありがたいのですが!! うーん、うーーん……ウォータースライダー……プール……みずぎ、かぁ…………うーん、われわれは健全なので、さすがにそれは危険が危ないような……」

 

 

 

 口ではいろいろ言いながら、しかし実際おれは……いや、おれを含め多くの配信者(キャスター)たちは、ユースク(YouScreen)さんのことを非常に信頼している。

 一方的や理不尽な削除・追放(BAN)は滅多にしないし、あからさまな規約違反でなければ大抵目を瞑ってくれる。そりゃ度が過ぎたものはこの限りじゃないが、それでもまずはちゃんと『どこが悪いか』を警告してくれるし、どう直せば許されるのかきちんと導いてくれる。

 

 この安心感があるからこそ、このユースク(YouScreen)を土台とした配信者(キャスター)文化は隆盛を極め、多種多様な動画配信者(ユーキャスター)仮想配信者(ユアキャスター)を産み出すに至ったのだ。

 そして……ここに集う視聴者さんたちも皆、そんな配信者(キャスター)たちへ盛大な声援を送ってくれる。それはとてもうれしいことだ。

 

 中にはちょっと、いやかなり、欲望に忠実なのもあったりするけど……それさえもご愛敬だ。おれ自身も放送局の方向性や需要なんか、いつも参考にさせてもらっている。

 

 

 まぁ、つまりは…………()()()()需要があるってことなんだな。

 …………参考にはさせてもらおう。参考には。ただしやるとは言ってないが。

 

 

 

「……さて。本日の『きりえちゃんかわいい』はこのへんにしてですね」

 

「ほんじつの!? わ、わかめさま!?」

 

「まずは『おしらせ』を……二点! 続けてお送りします!」

 

「わ、わうぅぅぅぅ……!」

 

 

 

 途端に盛り上がりを見せ、一気に加速するコメント欄。やっぱりリアルタイムで視聴者さんのリアクションが見られるというのは、とても楽しいものだ。

 親愛なる視聴者さんをさらに喜ばせることが出来るように、おれたちもいろんなことに挑戦していかなければ。

 

 

「まずは……一点。前回の活動報告と、つぶやいたーでお知らせしています通り……明日ですね、十八日土曜日のよる九時から…………()()『にじキャラ』所属のおふたり! 万能型プロゲーマー『村崎うに』さん! ならびに鋼の(アイアン)心臓(ハート)の持ち主『ミルク・イシェル』さんと! FPEX(一人称視点STG)共演(コラボ)させていただきます!!」

 

「ボクも出るよ!! イェーイたのしみ!!」

 

 

『がんばえー!!』『うにたそと勝負になるんか……』『よわちゃんがんばれ』『よわちゃん……無茶しやがって……』『ラニちゃんならワンチャン』『よわちゃんだからなぁ』『ラニちゃんがんばって』『ミルくんちゃん最近がんばってるからなぁ』『うにたそ無双』『推しと推しのコラボ……最高かよ……』『のわちゃん知名度上がるの嬉し……』

 

 

「ありがと!! わたしがんばる!! あとわたしを『よわちゃん』って言ったひと………………(すぅー)次は……許しませんから……ねっ(……ふふっ)」

 

 

『ア!!!』『みみ!!!』『!!!』『【¥10,000】』『アッ!!!』『エッッ』『息』『【¥10,000】』『ひだりみみがぞわぞわする』『ああ!!!のわちゃんの!!!』『息が掛かっ』『!!』『アアーーーーー!!』『ささやきやば』『ままーーーー!!!!』『【¥5,000】ねえ今俺の隣にのわちゃんいなかった?』『ア゜!!!』『今ここにのわちゃんがいた』『まま!!!!おちる!!!!』

 

 

「アッ、えっと、あの……アッ、あっ…………ご、ごめん……なさい?」

 

「うわぁ…………これはひどい」

 

 

 

 あまりにもおれのことを『よわちゃん』呼ばわりするコメントが多かったので、ついかっとなってゼロ距離でささやいてやった。後悔はしていない。……などと供述するところだが…………実際やってみたところ、なかなかの威力を叩き出したようだ。

 この後も勢いよくコメントが流れていき、しかしその大半が言葉にならないコメントだったので、正直不安が無いわけでもなかったのだが……どうやら好意的に受け止めてもらえたらしい。

 

 ただ……濫用は控えようかな。そう頻繁に言葉を無くされちゃ、おれが困る。視聴者の皆さんには建設的な意見をいただきたいのだ。

 

 

 

「えー…………っと、ですね? そんなわけで……明日のよる九時! かわいい子がいっぱいのFPEXコラボ、メインチャンネルは村崎うにさんの『UNI'sOnAIR(ユニゾネア)』にて配信予定です!」

 

「『のわめでぃあ』でもノワ視点で同時配信する予定なので、ぜひぜひこっちもよろしくね! ボクもがんばるから!」

 

「めざせチャンプ……! がんばれラニ!!」

 

「ノワもがんばるんだよ」

 

「若芽様もがんばってくださいませ」

 

「あぅーん…………」

 

 

 

 メインの進行はあちらに委ねているので、おれたちはあくまでDeb-Code(会議通話)を繋いでいっしょにプレイするだけだ。コラボ番組そのものを楽しむなら、正直うにさんの『UNI'sOnAIR(ユニゾネア)』で観るべきだろうが……それでもやっぱり本音を言うと、おれのチャンネルも見ていてほしい。

 しかしそんなことを視聴者さんに強要するわけにもいかないので、せめておれはおれで観ていて楽しい配信になるよう、あの手この手を尽くそうと思う。

 

 おれには、他の仮想配信者(ユアキャス)には無い強みが……表情も表現力も豊かな生身があるのだ。

 

 

 明日の配信では……この身体(アバター)の可能性を、存分に見せてやろーじゃん!

 

 

 



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261【定例配信】日本列島ランダムの旅

 

 

 定例活動報告配信にて、視聴者の皆さんへお送りする二つの『お知らせ』のうちの一つ……明日よる九時からのゲームコラボのお知らせを、つつがなく完了させる。

 メインチャンネルとなるうにさんのチャンネルを宣伝しながら、おれは密かな闘志と気合をこの身に漲らせていた。

 

 わかめちゃんが……ただの配信者(キャスター)とはひと味違うってこと、よーく思い知らせてやろーじゃん。

 

 

 

 

「……というわけで、続きまして『お知らせ』その二へいきましょう! ラニちゃん説明を!」

 

「はあい! えっとね……ご存じの視聴者さんも居るかもだけど、ボクら『のわめでぃあ』は先日『三納オートサービス』さんからオシゴトをいただきまして。その一環として……キャンピングカー? をですね、使わせてもらってるんだよね?」

 

「よっこい、しょっと。……うん、そうそう。モニターさんみたいな感じですね! 三納オートサービスさんの製品を使わせていただきながら、その使用感やメリットデメリットを報告したり……そんな感じなんですが、まぁキャンピングカーですよ? 遠出するに決まってますよね?」

 

「りょ……りょこう! ……で、ございます!」

 

 

『キャンカーいいなぁ』『きのう谷屋PAで見たぞ』『ついに旅番組かぁ』『やっぱのわちゃんだったのか……』『加賀森で見たぞ』『のわちゃん目撃証言はガチだったのか』『りょこうたのしみ!!』『【¥7,800】沖縄きてママ……』『温泉で見たって証言もガチってことか!?』

 

 

 まぁ……先日の北陸ぷち旅行の際は特に身を隠していなかったので、見られることもあるだろうとは思っていた。

 しかし実際おれの『目撃証言』がそんないろいろと挙げられていたとは知る由もなかったし……まさかあの、温泉でおれのことを()()()()()()くれたひとの中にも視聴者さんがいただなんて……さすがにそれは、ちょっとびっくりだった。

 

 とはいえ実際、旅行動画に関する期待はなかなかのもののようだ。

 年末の鶴来神宮助勤(アルバイト)のときに、その距離ゆえに断念していた視聴者さんも少なくなかった(らしい)。

 そんなこんなな理由もあるので、単純に『旅行動画が好き!!』という方々はもちろん、それ以外の理由でも期待されている気がする。……これはよりいっそう気合を入れないといけないな。

 

 

 ……というわけで、ここからが本題。

 今しがたおれがえっちらおっちら運んできたのは……さっききりえちゃんに棒手裏剣(ダーツ)をテストしてもらった、例の合板。なお先程の一投でブチ抜かれたところは、ちゃんと新しく印刷し直してキレイキレイしてある。

 

 おわかりいただけただろう。おれたちはこれから……ライブ配信しながら、行き先抽選を行おうとしているのだ。

 

 

 

「こちらにご用意いたしました、意味ありげなボード……こちらには『1』から『144』までの数字がランダムに散りばめられています。ちょっとカメラ寄ってみましょうね…………よっこらしょっ、と」

 

「あっ、わ、わかめさま! お手伝いいたします!」

 

「アッ、カワイ…………っ、ありがときりえちゃん。……えっと、見えましたか? 順番バラバラで『1』から『144』まで、ひとマスにひとつずつ数字が書かれていますね」

 

 

 コメント欄に『見える』『見えた』の文字が満ちたことを確認してから、例のボードを壁際へと設置し直す。

 はにかみながらお手伝いしてくれるきりえちゃんにズッキュンされながら肉体労働を終え、おれたちは再びカメラへと向き直る。

 

 

「今からあのボードにですね、きりえちゃんに……コレを投げてもらいます。ダーツですね」

 

「ダーツの刺さった番号が、つまるところ次のノワの目的地ってわけだね」

 

 

『ダーツ!?』『ダー、ツ……?』『えらい物騒なダーツやな……』『は???』『ダーツってなんだっけ』『ところさんのやつかwwwwww』『ダーツ???』『俺の知ってるダーツと違う』『ダーツか?これダーツか?』

 

 

「このダーツで当たった数字はですね…………こちらの『JAF全日本ロードマップ』のページと対応させて、目的地ってことにします。『1』ページの北海道は稚内(わっかない)近郊から、『144』ページは沖縄県の石垣(いしがき)市と竹富(たけとみ)町まで。そして投げたダーツが……例えばですよ? 『100』番に当たったとしたら、このロードマップの『100』ページのエリア……岡山県の倉敷市や総社市のあたりですね。この範囲を中心に散策する、って感じになります」

 

 

『ねぇダーツ?』『これ手裏剣ってやつじゃん?』『ダーツ???』『ダーツ(スリケン)の旅wwww』『殺傷力高そうなダーツですね??』

 

 

「ダーツです。いいね?」

 

 

『アッハイ』『アッ、ハイ』『わかりました!!』『ダーツ!ダーツです!!』『アッ、ハイ』『イェスマム!』『サー!イェッサー!』

 

 

 

 視聴者さんたちも抽選方法について納得してくれたので、ここで改めて企画の概要を説明しておく。

 

 まず最初に、きりえちゃんのダーツによって目的地をランダムに選定。同時にその目的地付近に住んでいる視聴者さんたちに協力を募り、SNS(つぶやいたー)のハッシュタグにオススメスポットをジャンル問わず寄せてもらう。そしておれたちが移動拠点(ハイエース)でそこへ向かい、現在地周辺で抽出したそれらオススメスポットを訪問、撮影交渉の上で堪能および撮影し、帰宅後編集して後日公開する……というものだ。

 

 企画概要、ならびに企画名称『のわめでぃあのせっかくとりっぷ』を公表し、例によって『セーフ?』『まぁセーフ?』などのコメントをいただき、また企画内容について色々とお褒めの言葉をいただき……このままであれば『新企画発表会』は、好評のうちに終わることだろう。

 

 

 ただ……おわかりのことだろうか。

 一見かんぺきに見えるこの企画だが……ただひとつ、決定的かつ致命的なボトルネックが存在しているということに。

 

 

 

「つきましては、ですね…………願わくば『のわめでぃあ』視聴者さんがいる地域に、ダーツが刺さってほしいですね……」

 

「現地視聴者さんゼロとかになって途方に暮れたら笑えるよね」

 

「笑えないよぉ!! みなさんぜひぜひ、お知り合いにも協力要請をどうか! どうかお願いします! なんでもし……あっ」

 

 

『ん?』『なんでもって』『ん?』『ん?』『ん?』『ん?今』『ん?』『ん?いまなんでもって』『ん?』『ん?』『怖すぎだろwwwwww』『ん?』『ん?今なんでもって』『ん?』『ん?』

 

 

「い…………言い切ってないからセーフ、ってことで……」

 

「……まぁ……そうね? しょうがないなわかめちゃんは」

 

「あ……ありがとう、ラニえもん」

 

 

 

 場合によっては……現地の情報に詳しい視聴者さんだったら、現地在住じゃなくても受け入れるなどの柔軟な対応を取るべきなのかもしれないが…………まぁ、そのへんは壁に当たったら考えよう。

 いや、きっと大丈夫、大丈夫だ。おれの親愛なる視聴者さんたちを信じるんだ。

 

 

 

 

「…………こほん。ではでは、気を取り直しまして」

 

「この借りはいつか返してもらわないとね」

 

「アッ!! こわい!! うぅ……とりあえずそれは保留としてですね……きりえちゃん、おねがいします!」

 

「は……はい、っ!」

 

 

 

 ……気を取り直して、いよいよきりえちゃんにしゅりけ…………ダーツを投げてもらう。

 

 ボードからおよそ三メートル、きりえちゃんは右手の指に棒手裏剣(ダーツ)を挟み、ゆっくり深呼吸しながらスタンバイ。

 いつものことながら、とても綺麗な立ち姿だ。静かに垂れる和服の袖や、足先を覆う白足袋(しろたび)、三角形の白い狗耳とふさふさ尻尾がはたはたと動きまわり、とても非常にガチで可愛らしい。

 

 

 

 おれたちと視聴者さんたちが、固唾をのみながら暖かな視線で見守る中……

 

 運命の一投が、ついに(打ち合わせ通りに()()()()で)放たれ……

 

 

 

 スパァンと硬質な音を立て、ボードに真っ直ぐ突き立った。

 

 





るぅるるぅるやぁぃやぁぃおぉぉーをいぇー!

るぅるるぅるやぁぃやぁぃおぉぉーをいぇー!


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262【配信終了】反省会はじめ

 

 

 あれから……つつがなく『せっかくとりっぷ』の目的地選定を終え、ひさびさ感のあるアカペラ民謡(おうた)を披露したり、かすてら(ウェブコメ)を読み上げたり、寄せられた質問に答えたり、次回配信の予定(=明日のコラボと、来週の定例活動報告)を告げたり……あっという間に二時間が経過し、一月十七日のライブ配信は終了(ヴィーヤ)となった。

 配信終了の報告とお礼をSNS(つぶやいたー)に投げ……あと、モリアキにお礼を送ることも忘れない。正直助かった。

 

 

 今日は朝からいろいろあったけど……さまざまなことをクリアできたので、なかなかに実りの多い一日だった。もうへとへとだ。

 疲れた身体にしみわたる、やさしさたっぷりおいしいお夜食をいただき……霧衣(きりえ)ちゃんが後片付けを引き受けてくれたのをいいことに、おれたちはおふろをいただこうとしているわけだ。

 まったく、我ながら良いご身分である。

 

 

 

「だぁって、ノワだってちゃーんとお仕事してるじゃん。全然『いいご身分』なんかじゃないよ、ちゃんと相応の権利だよ」

 

「んう…………そうかなぁ」

 

「そうだよぉ。すぱちゃのお礼も、もうほとんど録り終えたんだろ? あの数を……」

 

「それはそうだけど……ついさっきまた貰っちゃったし、明日のコラボでまた増えるかもだし。実際、まだ全部終わってないのに次が来ちゃったわけだし……」

 

「そんなのおふろ上がりでいいから! 今はちゃんと休むべきなの! ちゃんと温まって!」

 

「わ、わかった、わかったよお」

 

 

 

 広々とした浴槽で、小さな裸身がばしゃばしゃと(お湯)飛沫を上げ、脱衣場でまごつくおれを呼び寄せる。

 可愛らしい相棒の『だだっこ』じみた発破を受け……おれは葛藤を振り払うように上下の下着を脱ぎ去って、そのまま洗濯機へと放り込む。

 

 ……脱いでるときにお風呂場の方から『おほーっ』とか聞こえた気がするけど、もう気にしない。

 

 

 軽く掛け湯をして、ちょうど良い温度のお湯が張られた浴槽へ。爪先からそろりそろりと身体を沈め、そのまま浴槽の縁に頭を預けてあたたまる。

 仰向けにぷかぷか浮かぶこのスタイルは、おれのお気に入りの入浴姿勢だ。今まではでっかい温泉や露天風呂じゃなきゃ叶わなかった体勢だが、この身体とこの浴槽であれば自宅でもそれができる。すばらしい。

 ……まぁしいていえば、舐め回すような視線が気にならなくもないのだが……しょせんは小さくて可愛らしくて無害なだけの出歯亀(でばがめ)だ、さすがにおれも慣れてきた。減るもんじゃないし。

 

 

 

「んんー……今日はめっちゃ働いたなぁ」

 

「そうだねぇ、起き抜けにカメラ向けられてたのはびっくりしたけど」

 

「そうだよ、なんで真っ裸なのさ。寝起きドッキリ動画()りたかったのに……」

 

「だって気持ちいいんだもん。ノワもやってみれば?」

 

「『もん』じゃないんだよ! やらないよ!」

 

 

 朝イチの『ラニちゃん寝起きドッキリ』は、残念ながらお蔵入りになってしまったが……第二企画『グランドハープ修理してみた』のほうは、無難に近日投稿できそうな気がする。

 あからさまに魔法バレしそうな部分は既にトリミングして消去してあるので、あとは鳥神さんに依頼すれば動画の形に仕上げてくれる。……わぁ、めっちゃ楽。

 

 その後の『環境音動画:小川のせせらぎ』に関しては……明日にでも編集(とはいってもほとんどトリミングだけ)を行って、すぐにでも投稿してしまおうか。撮影中は恥ずかしながら半分くらいスヤスヤだったので、映像がどんなものなのかは要確認だが……それも明日の午前中にやってしまおう。

 

 

 そしてそして……新作の動画企画『せっかくとりっぷ』の案も出来上がり、冒頭の行き先抽選(霧衣(きりえ)ちゃんのカッコカワイイダーツ)部分も、ちゃんとうまい具合に撮影・配信することができた。

 行き先の選定も済ませ、大雑把に必要な日数と時間の計算も済ませている。あとはまとまった()()の日ができたら、キャンピングカーで現地にレッツゴーすれば良いだけ。気になるその行き先は…………まだ秘密だ!

 

 

 

「新しい企画もだけど……もうある企画も、続編つくってかないと……だよね?」

 

「うん、そうなの。ハープ直ったから『演奏してみた』とか、『昼飯(メシ)ご一緒してイイですか?』とか、『きりえちゃん初体験シリーズ』とか。あぁ、あと『きりえクローゼット』も取り掛からないとだし……忙しくなるね」

 

「そこに月末の……キャンピングカーフェス? と、一日署長もね。……たいへんだよノワ、大忙しだ」

 

「そうそう。それにあしたは……うにさんとミルさんと、ゲームコラボの日だからね。午後からはおうちにいようと思う」

 

「うん。……がんばろうね」

 

「がんばりゅぅぅ」

 

 

 つい先日までは一人っきりで、タスク管理も大変だったのだが……フォローしてくれる相棒の存在とこの身体の情報処理能力もあり、スケジュール管理もおちゃのこサイサイだ。

 おれの活動を理解し、力になってくれるコたち(とモリアキ)がいてくれれば……どれだけタスクが積み重なろうとも、負ける気がしない。

 

 

 すべては……視聴者さんに喜んでもらうため。

 さまざまなジャンルを網羅した、たのしさいっぱいの放送局を……おれたちの手で作るのだ!

 

 

 

 

 

「……ねぇノワ、水着配信はいつやるの?」

 

「ぇえ……まだ冬だからなぁ、寒いし。やっぱ夏になってからに………………は!? いやいやいや! やらないよ!?!?」

 

「えー!? やーろーおーよー!! 絶対だいにんきだからァー!!」

 

「いーやーだーねー! 水着とかはもっとセクシーなギャルズが着るべきなんですし!!」

 

「ノワはもっと自分のボディがセクシーだってこと自覚して」

 

「そうかなぁ」

 

「そうだよぉ」

 

 

 

 …………そっか、そんな需要あるのか……若芽ちゃんの水着姿。

 

 いやいやいや、でも若芽ちゃんは健全で清純なのがウリなので……いやでも数字が……いやいやいやそんな軽率な……いやいやいやでも収入(すぱちゃ)が…………ぐぬぬー悩める!

 

 

 

 のわめでぃあに……『深夜枠』を設けるべきなのか、否か。

 降って沸いた究極の選択に、おれは頭を悩ませることになるのだった。

 

 



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263【共演準備】収録前ご挨拶

 

 

 午前中は昨晩おふろで立てた予定通りにお仕事をして、霧衣(きりえ)ちゃんのおいしいお昼ごはん(今日はなんとカツ丼だった)をむせび泣きながらいただく。

 そのあとは鳥神(とりがみ)さんに編集(しごと)を一件依頼したり、出来たての新作動画『環境音動画【小川のせせらぎでリラックス】編』を投稿したり、すぱちゃのお礼メッセージを録音したり、買い物リストを作成したり、今後のToDoリストを作成したりして……なんだかんだで現在時刻は夕方十七時。そろそろいい時間だろう。

 今晩の『例のコラボ』に万全の態勢で臨むため、照明と空調と周辺機器の調整をそれぞれ進めていく。集中力を保つためにも、快適環境を心がけたい。

 

 フェイスカメラとアームに固定したマイクも準備万端、それぞれ位置と動作を確認する。特にマイクは先日導入したばかりの新型なので、視聴者さんのリアクションが楽しみだ。

 二つ備わる音声感知素子を使用し、バイノーラル音声も収録できる高精度の逸品である。……よろこんでくれるかな。

 この新型マイクがあれば、唐突に至近距離でささやきバイノーラルを繰り出し……視聴者さんをビックリさせちゃうことだってできるのだ。ふっふっふ。

 

 

 

「んんー…………カメラ入力、おっけー。……マイク入力、おっけー。いい感じに声入ってるかなぁー? ……うふふふっ。……こぉーんなのは……どぉーですかぁー?」

 

「……なにそのマイクテスト。ちょっとエッチが過ぎるんだけど。ボクのココこんなんなっちゃったんだけど」

 

「どこのことかな。エッチが布巻いて飛び回ってるラニちゃんに言われたくはないかな」

 

「ひどい~~~~」

 

 

 

 いつも通りのひどいやり取りを交わしながら、ラニ用のノートPCも同様に立ち上げていく。この前までおれがメインで使用していたマイクは現在こっちに繋がれているため、こちらのノートPCでも会議通話に参加することで、ラニちゃんのかわいいお声をより高精度で拾うことができるのだ。

 なおカメラは(うっかり女の子の部分が見えちゃったら即アカBANなので)残念ながら未実装だ。危険回避のためにも、ラニちゃんのアバターは立ち絵で我慢してもらおう。

 

 というわけで二台のPCを立ち上げ終えて、それぞれゲームコラボの準備を進めていく。Deb-Code(会議通話アプリ)には既に『にじキャラ』のお二人(とマネージャーさん)がログインしているのが確認でき、専用会議通話ルームで流れの確認が行われていた。

 マネージャーさん主導で事細かにタイムラインが明示されており、お二人はそれを確認していた様子。『にじキャラ』のみなさんの勤勉な姿勢と万全のフォロー体制に、あらためて感心してしまう。

 

 

「うっそでしょ。ねぇノワ、あちらさんもう準備万端だよ」

 

「すっげえなぁ……マネジメント(りょく)っていうか」

 

「大まかな流れをちゃーんと決めてくれてるわけね。こりゃあ楽ちんだ」

 

「そうだね。痒いところに手が届く……」

 

 

 

 念のためのご報告だが……決して、おれたちが遅刻したわけではない。コラボ放送の開始は二十一時から、直前の準備を含めても二十時から繋げば充分間に合うのだ。

 重ねて言うが、現在時刻はまだ(・・)十七時。集合時刻の三時間も前だ。いくらオンラインだから、常時着席している必要がないからとはいえ……こんな早くから準備を整えようとする彼らのプロ意識には、ただただ感心するしかない。

 

 

 

「あー、あー……こん、にち……は?」

 

『!! わかめさん! こんにちは!』

 

『あぁ、っと……若芽様、お世話になります。本日はどうぞ宜しくお願いします』

 

「は、はひっ! よろしくおねがいします!」

 

『うにさんは今、買い出しに出掛けてます。晩ごはんと飲み物と……エナドリを買いに』

 

『予定時刻までまだ時間がありますので、若芽様もお好きなようにされて大丈夫ですよ。晩御飯とか済ませて来て頂いても』

 

「あっ、ありがとうございます。晩ごはんは霧、っ、……っと…………同居人の子が用意してくれるので」

 

『『霧衣(きりえ)ちゃんですか!!』』

 

「エッ!? あっ、あっ、えっ…………えっと……ハイ」

 

『『おぉ~~~~』』

 

「なっ、なんですか? あの、その……なにごとですか……?」

 

『『いえ、なんでも』』

 

「???」

 

 

 

 やっぱりというか、この時間はだいぶゆったりまったりとしているらしい。

 『今晩は大仕事があるぞ!』という意識を与えつつも、あえて開始時間まで大幅なゆとりを持たせることで、連帯感とモチベーションを高めつつも程よくリラックスさせることができるのだろう……と思う。

 

 さすがは大御所(にじキャラさん)……いろいろとよく考えられている。

 

 

 

「せっかくなので……わたしも、段取り確認させていただいて良いですか?」

 

『ええ、お願いします。念のためもう一度ペーストしますので』

 

「ありがとうございます、八代さん」

 

『光栄です』

 

 

 

 ここまで良くしてもらって、ご迷惑をお掛けすることは許されない。なによりおれ自身が許せない。

 せっかくお誘いいただいたコラボ企画……おれたちに(正確にはラニに、だが)初めて声を掛けてくれたうにさんたちとの、楽しい楽しいゲームコラボ。

 

 おれたちもおもいっきり楽しんで……視聴者さんにも、おもいっきり楽しんでもらわないとな!!

 

 

 

 



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264【共演配信】はい、キュー!

 

 

「ヘィリィ! 親愛なる視聴者のみなさん! 魔法情報局『のわめでぃあ』のライブ配信へようこそ! 局長の木乃若芽(きのわかめ)とー……?」

 

「アシスタントのシラタニちゃんとぉー……?」

 

「えっ、と……おてつだいの、きりえ、ですっ!」

 

「よろしくおねがいしまーす!」

 

 

『ヘィリィ!』『ヘィリィ!!』『【¥4,545】』『ヘィリィのじかん』『へいに!!』『ありがとう』『かわいい』『きりえちゃんかわいい』『初々しいなぁ』『局長かわいい』『【¥720】ヘィリィありがとう』

 

 

 一月十八日、土曜日。予定通りにゲームコラボの幕が上がり、おれたちは配信を開始する。

 (うにさん)のチャンネルでもときを同じくして番組が始まっているはずであり、おれたちはDeb-Code(会議通話)が掛かってくるまで暫し待機することになっている。

 

 タブレットで無音再生している(うにさん)のチャンネルでは、うにさんとミルさんのLive2Dアバターが仲睦まじげにじゃれ合っている。

 音声が混線してしまうため音を出すことは出来ないので、何を喋っているかまではわからない。視聴者さんの手前ヘッドフォンを被ることは憚られたので、無音の映像だけで想像力を働かせるしかない。

 …………あ、イヤフォンにすればよかったのか。

 

 

「本日はですね……わたしとラニと、ゲーム配信を行います。FPEX(一人称視点STG)……最近UR(ユア)界隈でブームのようなので、わたしも流行りに乗ろうかと思ってですね……へへ…………練習、してるんですけどね……」

 

「よわちゃんちょっとのわのわだからね……もう少し頑張りましょう、って感じだね」

 

「ウゥー! そ、そんな中ですね、まだのわのわ…………よわよわなわたしとですね、遊んでくださる(かた)が現れまして!」

 

「ご存じの視聴者さんもいるだろうし、補足しとくね? 界隈で話題のつよつよユアキャスちゃんが、ほかでもないボクのプレイに興味を持ってくれてね。彼女の教え子も交えて『四人で遊ばない?』って誘ってもらったわけで」

 

「そ……そう! つまりラニちゃんのおかげで! わたしと遊んでくれるひとがあらわれたの! うれしい!!」

 

「おーおー、よちよち。……ノワちゃんはお友だち少ないからねぇ」

 

「わぁーん!!」

 

 

『泣き顔たすかる』『おれらがいるぞ!!』『お友だち少ない(ティー様の妹分)』『脱衣麻雀する相手なら居るがな』『お友だち少ない(ハデス様の同盟相手)』『ティー様がいるやん、元気だして』『コミュ障よわちゃん……!?』『【¥45,450】脱衣麻雀またやろう』『てぇてぇ』『嫁なら二人もいるのにな……』『【¥10,000】ノワちゃんはわちの娘』『お友だち少ない(刀郷のオカズ)』

 

 

 (うにさん)がわがフリートークに興じている(と思われる)間、おれたちも時間稼ぎを兼ねた雑談((けん)これまでの経緯説明)を行いお茶を濁す。

 通話で呼ばれるまで待たなければならないのだが、かといって話が盛り上がりすぎると着信時に話題をぶつ切りしてしまうので……さじ加減が難しい。

 

 というわけで、程々の盛り上がりを維持しなければ、と思っていた矢先……ちょっとなんだか大変なものが見えた気がして、思わず反射的に背筋が伸びる。

 

 

『おるやんけ』『ティー様おるやんけ』『ティー様!!』『よわちゃんすごい』『のわちゃん……有名になったね……ウウ』『ティー様おるやんけ』『けんニキおるやんけ』『【¥3,333】エルフコラボ期待してます』『けんじお兄ちゃん割と最低で草』

 

 

「ひュっ!? て、ティ……っ、え゛ふっ、お゛ッ……ティーリットさま!?」

 

「おおー! ノワが大好きって言ってたエルフのおねーさん? ティーリットちゃんこんちわー。ラニだよー見てるー?」

 

「ば……ッッ!? おまッ!! ……っ、で、ではここで……共演相手のかたと中継を繋ごうと思います!!」

 

 

 偉大なる大御所、尊敬すべき先駆者でもあり、個人的にも応援したい『推し』である方々……予想外すぎるお客様のご来場に、正直驚きを隠しきれない。これはちょっと気合を入れ直さなければならなさそうだ。

 ……いやおれは最初から真剣なのですが!

 

 さっそく粗相を働きそうだった相棒を押し留めようとしていた間に、Deb-Code(会議通話)のチャットが新着メッセージを表示させる。エルフアイでパソコンの画面を確認し、通話発信の要請に『大丈夫です』と応答を送り、おれは愛用のヘッドセットを被る。

 

 すぐにリズミカルな着信メロディが流れだし、応答ボタンを押す。するとヘッドフォンから微かなノイズ音を経て、可愛らしい声が聞こえてくる。

 

 

 おれの同業者であり、本日の共演者でもある……『村崎うに』さんと『ミルク・イシェル』さんの登場だ。

 

 

 

『……というわけで本日のスペシャルゲストは! 最近話題のガチリアルエルフ配信者(キャスター)……木乃若芽(きのわかめ)ちゃんやぞ! のわちゃーん! こんばわよー!』

 

「うにさーん! こんばんわ!」

 

『そっ……息災のようだな。若芽どの』

 

「ミルさんこんばんわ! ()()()()()はありがとうございました! 楽しかったです!」

 

『ひゅっ』

 

 

 通話越しの音声も配信に乗せてあるので、視聴者のみなさんにもお二人との会話はバッチリ届いている。

 あわせて先日の打ち合わせのときにいただいた立ち絵を表示させ、おれの配信画面が一気に賑やか、かつ華やかになった。二人ともかわいい。

 

 特に……()()()()()の車中泊とは異なり、今日は配信用のキャラクターを演じているミルさん。

 彼は肩書きである『領主』の名に恥じぬよう、配信中は仰々しい口ぶりを意識した振舞いなのだが……しかしふとした拍子に、おとなしく()()()な『地』が頻繁に現れてしまう。その剥がれやすいメッキがまた可愛らしいのだ。

 

 

 

『おーおー! なんやなんや? あたしを差し置いてデートかぁ?』

 

「ち、ちがいますよ! わたしの()()に付き合っていただいただけで……ですよねミルさん!」

 

『えっ、あ、しょの…………う、うむ。……その節は、世話になったな』

 

『おぉー二人とも勤勉やなぁー。これは今日の戦果にも期待できそうですなぁー』

 

「エヘヘー。でもわたし、うにさんとのデートなら大歓迎ですから!」

 

『マジかよヨッシャ! おうおうデコ見とるか!? どーや羨ましいやろ!!』

 

「そんなのでマウント取らないでください!!」

 

 

『ノワミルひみつの特訓』『エッチなことしたんですか』『逢瀬か!逢瀬か!?』『わちもデート……』『おれももわちゃんとでーとしたい……』『【¥4,545】ミルくんちゃんとデートしたんですか!!』『【¥721】えっちなことしたんですか』『じゃあおれはラニちゃんとおデートを』『【¥10,000】素直にうらやましい』

 

 

「デートはともかく! コラボのお誘いは大歓迎ですので!! ……じゃなくてですね! ……まぁ、そんなわけで…………お二人とも、きょうは宜しくお願いします!」

 

「二人ともよろしくね! こっちも準備オッケーだよ!」

 

『ラニちゃんもよろしうー! ……それじゃ、準備も良さそうなので……さっそくタッグマッチ始めっぞー!』

 

『よろ……っ、……宜しく、頼む』

 

「「よろしくお願いしまーす!」」

 

 

 

 お誘いいただいての遠隔参加となる、本日のゲームコラボ。知人とわいわいやるゲームは昔から大好きなので、なおのこと楽しみだ。

 お客様もいらっしゃってくださったので……華麗なプレイはもちろんとして、おれたちの『配信映え』するところを、存分に見ていってほしい。

 

 

 それでは……第一試合!

 よろしくおねがいします!!

 

 

 





がんばるぞ!!!



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265【共演配信】さっそくの見せ場





がんばるぞ!!








 

 

 生まれかわっ(てしまっ)たおれの身体は、体力こそまぁひかえめであるものの、生身での能力そのものは決して低くない。視覚(エルフアイ)聴覚(エルフイヤー)は人間種族の何倍も鋭敏だし、強化(バフ)魔法を纏えば運動能力だって桁外れ。

 つまるところ、高水準・高性能。様々な観点で『強い』といえる、才色兼備の美少女エルフなのだ。

 

 一般的な『人間』相手はもちろん……たとえ世界屈指のアスリート選手相手だろうと、本気を出せばぶっちぎりで下してしまえるだろう。

 

 

 まぁ、要するに……おれのスペックは『つよつよ』ってことなのだ。ふふん。

 

 

 

 

 

 

「ぐわーーーーー!!!」

 

「ああ! ノワがしんだ! この人でなし!!」

 

(わり)ぃなのわっちゃん! 悲しいけどコレ対戦なのよね!』

 

『う、うにさん……大人げな…………大人げない奴よな』

 

 

 

 試合開始して早々、降下直後でもたもた武器を探していたおれのプレイヤーキャラに、早々に火器を拾得したうにさんが強襲を掛けてきた。

 敵ながら見事な一撃離脱によっておれは早々に退場させられ、おれの悲鳴と銃声を聞いたラニが駆け付けたときには時既に遅し……うにさんの操る速度特化キャラは、障害物の彼方へと消え去っていた。

 

 

 ……ということで。現在四人で仲良く楽しんでいるこのFPEX(一人称視点STG)……記念すべき(?)第一試合目。現在の対戦モードはペアでのサバイバル戦――五十名のプレイヤー、二十五組のペアが広大なフィールド内で撃ち合うモード――だ。

 降下地点がすぐ近くだったのも不運だし、そもそもうにさんたちがすぐ近くに降りたことに気づけなかった時点で、完全に後手に回ってしまっていたようだ。……まだまだ経験値が足りてないな!

 

 

 

「おのれウニちゃん……お友だちとて容赦しない! ノワのカタキ討たせて貰う!」

 

「ラニちゃん……」

 

「ノワを(いじ)めて(はずかし)しめて泣かせて良いのは……ボクだけだ!」

 

「ラニちゃん……?」

 

 

 ちょっと引っ掛かるところはあったが……きっときのせいだろう。ダウンし応援するしかできないおれが見つめる先、ラニは獅子奮迅の大暴れをしてみせる。

 戦闘中の他プレイヤーを背後から奇襲し、バッチリ狙い済ましての射撃によって一人目を瞬殺。もう一人に狙いを定めさせることなくジグザグちょこまかと走り回り、相手が障害物に引っ掛かり足を止めた一瞬を狙い、その頭部へと掃射。

 野良マッチングのプレイヤーたちを、瞬く間に二人キル。足を止めることなく走り続け……恐らくはうにさんペアを探して、さらに他のプレイヤーを蹴散らし続ける。

 

 

『ちょ、っ……キルログがエグいことになっとんのやけど!? こわ!!』

 

「はははは! ノワのカラダはボクのものだ!」

 

『か、カラダ……っ!?』

 

「ねえなにいってんのラニ!? ちょっとねえ!?」

 

「待っててねノワ! 勝利の栄光をキミに!」

 

「わたしもう死んで(負けて)るんだけど!!」

 

「大丈夫負けノワもかわいいよ! っていうか抵抗できないノワって正直ソソる」

 

「へ、変態だーーーー!!」

 

 

『なかよし』『忠犬ラニちゃん良い……』『そわそわきりえちゃん』『へんたいだー!!』『キリちゃん画面ガン見』『【¥4,545】やっぱエッチなことしたんですか』『のわちゃんのからだ……ウッ』『ラニちゃんが羨ましすぎる』『俺もノワちゃんのカラダ堪能したい』『仲良いなぁ』『刀郷くんしねどす』『きりえちゃんのみみの動き可愛すぎる』

 

 

 

 早々にダウンしたおれの画面は、相棒(バディ)であるラニの背後からの視点を映している。おれのかたきを討つべく無双するラニの神プレイをまざまざと見せつけられ、そのすさまじさに呆気に取られることしかできない。さす勇。

 加えて……お隣に座るきりえちゃんが興味津々の様子で画面を覗き込んでいるので、そのかわいいお顔がおれのフェイスカメラにチラチラと映り込んでいるようだ。めっちゃかわいいが。あといいにおいするが。

 

 

 おれがいろんな意味でドキドキする試合運びだが……この後さらにドキドキが加速するというか、むしろ一周まわって意味不明な事態へと突き進んでいった。

 仲よさげなおれたちのやりとりを聞かされていたうにさんが、いきなりとんでもないことを言い始めたのだ。

 

 

 

『チキショー自慢かよ! 乳繰り合ってんじゃねェェ!!』

 

「うにさん!!!?」

 

「ハッ、掛かってきなよ! 臆病者にノワは抱かせない!!」

 

「ラニちゃん!!?!??」

 

『ミルええな!? 落ち着いて狙いや! ノワちゃんとイチャコラするチャンスやぞ!』

 

『任せよ。仕留める』

 

「ミルさん!?!????」

 

 

 待って、なんなのこの状況。いまのぼくには理解できない。

 

 なんの変哲もないタッグ戦のはずなんだけど、聞こえてくる会話内容がいちいち不穏だ。これではまるで、わたし(おれ)(のカラダ)を巡ってみんなが争っているみたいじゃないか。わたしのために争わないで、とか言っても良いところなのだろうか。

 ラニがおれ(とおれのカラダ)を好いてくれてるのはよく知ってるけど……うにさんとミルさんは一体どうしたというのだ。どうしてこうなった。しょうきにもどって。

 

 

『これはヒロイン』『のわちゃん完全に賞品でワロタ』『悪女かな』『のわちゃん争奪戦と聞いて』『チャンプなればのわちゃんとデートできるってマジ?』『わかめちゃんヒロインか』『野良マッチング狙うしかない』『デート権(ガタッ』『局長ついにメンバーじゃなく賞品に成り下がったか……』

 

 

「し、賞品呼ばわりはひどくない!? わたし局長ぞ!? いちばんえらいんですよ!!?」

 

「大丈夫だよノワ! ボクがノワの尊厳守るから!!」

 

『あたしだってちゃんと大事(だいじ)にするし! 毎日お風呂だって一緒に入るし!』

 

『ぼ、っ…………余の伴侶となれば存分に甘やかしてくれようぞ! 生活に不自由はさせぬ!』

 

「なんてやつらだ! ノワの貞操が危ない! ボクが守護(まも)らねば!!」

 

「むしろラニが直接の原因だと思うんですが!? どうしてくれるんですか!! 責任とってほしいんですが!!」

 

「いいよ。結婚する?」

 

「アッだめだ! この子全然(こた)えてない!!」

 

 

 

 信じられるか……こいつらこんなやり取りしながら撃ち(ヤリ)合ってるんだぜ。

 

 ついに接敵したラニとうにさん……遮蔽物に身を隠しながら中距離で打ち合う二人を、そのやや後方からミルさんのスナイパーライフルが睨んでいる。

 前衛のうにさんが動きを止め、ミルさんが仕留める作戦なのだろうが……予測しづらい挙動で絶えず動き回るラニに翻弄され、ミルさんの狙撃はなかなか標的を捉えきれない。

 そうこうしているうちに、前衛のうにさんもじわじわと体力を削られていく。ラニはこれまでに仕留めたプレイヤーからくすねた回復剤を多用し、二対一でありながらも互角以上に渡り合っているのだ。

 

 

 それにしても、すごい戦いだ。なんという白熱した一戦、これは名勝負と呼んで差し支えないのではなかろうか。おれは居ないけど。即死したけど。

 

 

 

 そんな名勝負だったが……やはりこのゲームは大人数での直接的対決ゲームだ。

 

 戦況の膠着状態は……ざんねんながら、そう長くは続かなかったのだ。

 

 

 



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266【共演配信】敵の敵は

 

 

『ぐぁーーーー畜生ォーーーー!! ムッカつくゥーーーー!!!』

 

『心中察するが台バンは()めよ! ええいはしたない!!』

 

「はっはっは……ねぇノワ、あいつらに阻害(デバフ)魔法とか掛けれない? エッグイやつ」

 

「心中お察しするけど呪詛吐かないで!! ようせいさんでしょ!!」

 

 

 

 

 

 突然だが……視聴者の皆様は『漁夫の利』という故事成語をご存じだろうか。

 昔々の中国、さまざまな国が生まれては滅んでいく戦国時代のお話なのだが……とある国が生存のために講じたお話が元になっているワードである。

 

 いわく……川辺で一羽の鳥がハマグリを食ってやろうと啄んでいたら、ハマグリが殻を閉じて鳥のクチバシを挟んで……まぁ、バシッと白羽取りしてしまったと。

 状況は完全に膠着状態、食うか食われるかの瀬戸際なわけで、当然両者とも生死をかけた戦いなわけで、全力なわけだな。

 そこで鳥が『へいボーイ、疲れるだろ。無駄な抵抗やめちまえよ』と囁くと、ハマグリも『お気遣い痛み入るぜブラザー。そっちこそこのままじゃ餓死しちまうぜ。もっとチョロい獲物探し行ったらどうだい』などと互いに一歩も退かず火花をバチバチ散らしていた、と。

 そこへ漁夫(ぎょふ)……まぁ漁師さんだな。漁師さんが通り掛かり、『なんか知らんが逃げずにじっとしてる鳥おったから捕まえたった。お、なんかハマグリも付いとった。ラッキー』と、鳥とハマグリ両方を美味しくかっ浚っていった。

 

 

 まぁつまりは……二つの勢力が争って両者疲弊していたところに、これまで体力を温存していた第三者勢力が介入し、双方を滅ぼして唯一勝者となること。これがいわゆる『漁夫の利を得る』っていう展開なわけで。

 このときの二つの勢力……さきの例え話でいうところの鳥とハマグリが、うにさんミルさんとラニちゃんだったわけで。

 

 

『うぜええええご丁寧に屈伸煽りしてくんじゃねええええ!! ぶっ(コロ)すぞあいっつぅぅぅぅぅ!!!』

 

「ウニちゃんウニちゃん、ボクも付き合うよ。……ふふふ、初めてだよ。ボクをここまで虚仮(コケ)にしたお角猿(サル)さんは」

 

「ランダムマッチングだし仕返しの機会なんてそうそう訪れないから! あきらめなさい二人とも!」

 

『その通りよ。ええい幼児(おさなご)でもあるまいに! みっともなく喚き立てるでない!』

 

『「ぐぬぬぬぬぬ(ぎりぎりぎり)」』

 

『「こわ」』

 

 

 いい勝負だったところに水を差され、お楽しみを邪魔されて……双方チームの強者ふたりは、こうしてマジギレなされているわけでございます。

 いやぁね。悔しいって気持ちもわからないわけではないけど……しかしこれは楽しいゲーム、楽しい配信なのだ。あんまりギスギスしてほしくないし……なにより、かわいい顔が台無しだ。

 

 

「じゃ……じゃあ、次そういうヤンチャな子が出てきても対抗できるように……四人組(クアッド)にしませんか? 協力プレイしましょう協力プレイ!」

 

『!! う、うむ。余としても異存は無い。いかがか? ご両人』

 

『「ノワ(のわっちゃん)がそう言うなら」』

 

「おっ、おう……」

 

 

 うにさんの腕前は配信アーカイブである程度は知っているつもりだったが……実際に味わってみるとその身のこなしはすさまじく、正直敵に回したくないっていうのが本音だったので、この展開は嬉しいところだったりする。

 ラニちゃんとうにさんが切り込み、ミルさんが状況を俯瞰しながら狙撃銃で援護を掛け、そしておれが応援する。……うむ、完璧な役割分担だ。なにもおかしなところはないな。

 

 雨降って地固まる、じゃないけど……あの屈伸煽りボーイのおかげで、こうしてチーム四人が強い意思のもと団結することができた。

 そういう意味では……彼にも感謝すべきなのかもしれないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「前言撤回だ! ぜったいにゆるさないからなバーカバーカ!!」

 

「ああっ! ノワがやられた!! 畜生誰が…………あいつだッ!!」

 

『出やがったあの屈伸煽り野郎! オラッ()()()()()()ね!!』

 

『うにさん口調!! あんま乱暴なのは!!』

 

「追うよウニちゃん! 先行する!」

 

『オーケイ深追いすんなよラニちゃん! あたしが回り込む』

 

「絶対に生かして帰さない……!」

 

『おうよ! ここで(コロ)す!!』

 

「『こっわ』」

 

 

 移動速度の早いハンドガンに持ち替え、ラニは襲撃者に猛追を掛ける。牽制射撃を行いながら『疾走』アビリティを発動、距離を縮めつつも逃げる相手には揺さぶりを掛ける。

 こちらに背を向け一目散に逃走を計る相手はラニの様子を伺うことが出来ず、発砲音と周辺に着弾する音から単純に『後ろから撃たれている』と思い込むことだろう。狙いを絞らせないように細かくジグザグに逃げざるを得ず、そうなれば一直線の『疾走』に比べて多少なりとも速度は落ちる。

 

 もちろん、脇目も振らずに直進するラニは……他のプレイヤーにとっては、格好の獲物だろう。

 しかしそこはラニの背後へと続くプロ級プレイヤーが、また彼女から狙撃の手解きを受けた鋼の心臓(アイアンハート)の持ち主が、頭を出した先から逐一丁寧に処理していく。

 

 

「くッはっはっはっは! どこへ逃げようというのだね!?」

 

「その身体で迫力あるのすごくない?」

 

 

 『にじキャラ』ペアのバックアップを受け、ラニはなおも襲撃者との距離を縮める。ついに襲撃者の逃走先が戦闘エリア外縁部に阻まれ、さすがに振りきれないと判断した襲撃者は反転……迎え撃つ構えをとる。

 

 しかし敵とて、ここまでただただ闇雲に逃げていたわけではないらしく……ラニの右斜め後方、障害物の影より新たな敵影が姿を現し……

 

 

『オラァ()ねェェ!!』

 

『うにさぁん!!?』

 

 

 ついに追い付いたうにさんの、怒りのアサルトライフル掃射を受け……一瞬で退場する羽目になった。

 

 

 ダウンしたプレイヤーは他生存者の視点を盗み見ることができるので、おれの画面では現在の戦況がよくわかる。

 今現在この周囲にいるプレイヤーは、ぜんぶで八名……うち敵方は三名、こちら側が三名。残る二名はやや遠く、この戦闘とは直接関わり無さそうな立ち位置だ。とりあえず置いといて良いだろう。

 ラニたち三人と、おれの仇たち三人……三対三の直接対決だ。

 

 

 この場を決戦の場と定め、まずラニが突っ込む。正面奥の遮蔽物に隠れる敵(おれを瞬殺したやつ)へ手榴弾(ボム)を投げ込み牽制しつつ……まずは横の建物の二階から狙う敵を片付けるべく、爆発音を背景に建物へと突っ込む。

 速度重視のピーキーなキャラクターに振り回されることなく、建物内を迅速にクリアリングしつつ階段を登り、ほんの五秒そこらで敵の潜む二階の部屋へ。これまた室内へと手榴弾(ボム)を投げ込み揺さぶりを掛け、爆発の直後部屋へと飛び込む。

 爆発から距離を取ろうと窓際へと寄っていた敵の胴体に、窓の外から撃ち込まれた狙撃銃の弾丸が突き刺さる。衝撃で敵が硬直したところへ、至近距離から容赦なくハンドガンが叩き込まれ……これで敵の残りは二人。

 

 しかしその直後……狙いづらい二階の室内を屋外から狙撃するため、障害物の上へとよじ登っていたミルさんが襲撃を受けて体力を全損。

 発砲された方角を察知したうにさんが処理に回り、正面からの撃ち合いの末になんとか競り勝つ。

 これで残る敵は一人、対するこちらは二人。ただしどちらも無傷とはいかず、当たりどころによっては一発退場してもおかしくない。

 

 

『出るよ!!』

 

「オーケー!!」

 

 

 敵とて黙って待っているわけも無く、まずは手負いのうにさんに狙いを定めたようだ。一方のうにさんも撤退は選ばず、削られた体力ながらあえて打って出る。

 それに応じるようにラニも飛び降り、こちらを見ていない敵の背後を狙うべく接近し……ようとしたところで、何かが転がるような音に反応し、強引に進路を真横へと変える。

 

 直後、ラニが踏み込もうとしていたまさにその地点で、こっそり投じられていた手榴弾(ボム)が炸裂する。

 ダメージを抑え目にした代わりに衝撃力を高めた手榴弾(ボム)によって、ラニは大きく吹き飛ばされる。体力はほとんど削られていないが、空いた距離と生じた隙は決して無視できるものではない。

 

 

「っ! くっそ……上手いなぁ!」

 

『ナっメんなァ!!』

 

 

 一時的に動きを封じられたラニを尻目に、敵は手負いのうにさんへと襲い掛かる。

 遠距離からの銃撃戦で互いに互いを削り合い、しかし体力の差は覆しがたく……ついにうにさんが皮一枚まで追い込まれる。

 

 ……しかし、あと一歩というところで敵が弾切れを起こしたらしい。物陰に隠れてリロードを行うが……その物陰へ、山なりに投じられた手榴弾(ボム)が投げ込まれる。

 炙り出された敵がうにさんの潜む物陰へ、リロードが完了した銃の狙いを向けた……そこへ。

 

 

 

「ッッしゃぁ当たったァ!!」

 

『ナイスやラニちゃん!!』

 

 

 胴体ど真ん中に突き刺さった一発……長射程・超衝撃の狙撃銃による一撃が敵の体力を削りきり、ついに戦闘不能(ダウン)へと追い込んだ。

 

 

 

 他のエリアではまだまだ生存プレイヤーも残っており、当然これで優勝が決まったわけでもない。

 

 しかしそれでも……激闘を制した二人、仮想配信者(ユアキャス)きってのゲーマーと元異世界勇者の妖精は…………

 

 

 

 

『は~~~~ざっこ。ざっっっこ! ねぇねぇ今どんな気持ち? 煽ってた相手に煽り返されるのってどんな気持ち??』

 

「不意打ちで初心者狩っていい気になってたら逆に狩られるのってどんな気持ち? ねぇねぇ! やり返されるのってどんな気持ち??」

 

『「………………」』

 

 

 

 倒した相手の……無抵抗に横たわるプレイヤーキャラの目の前で、執拗に反復横飛びを繰り返すという……たいへん大人(おとな)げない、モラルの低い行動に手を染めていたのだった。

 

 

 

『身内以外への不愉快な言動はマナー違反です! ……である!!』

 

「煽り行為ダメ絶対!! ゲームはたのしくプレイしましょう!!」

 

 





※ゲームはたのしくプレイしましょう!!

感想とかブクマとかチャンネル登録(※ないです)もよろしければ宜しくお願いします!!



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267【共演配信】対戦ゲームの心得

 

 

「いいですか。自分がされてイヤなことは他のヒトにしちゃダメです。わかりましたか?」

 

『「はーい」』

 

「確かに……わたしも悔しかったり、腹立たしかったり……そういう気持ちになることもあります。ニンゲンですも…………エルフですもの。気持ちはわかります」

 

『「はーい」』

 

「でもでも……ゲームっていうのは、楽しむために作られたものですから。ゲームの勝敗で生計を立ててるプロの方ならまだしも……せっかくゲームで遊ぶんですから、楽しく遊ばなきゃ損じゃないですか」

 

『「はーい」』

 

「ストレス解消のためのゲームで逆にストレスを溜め込むなんて、本末転倒です。……負けても何も損しないですし、心にゆとりと余裕をもってあそびましょう。……わかりましたか?」

 

『「はーい」』

 

「………………今の気持ちを一人ずつ、正直に言ってください。わたし怒りませんから、いいですか? 正直に、です」

 

「背伸びしてお姉さんぶろうとするノワはやっぱ可愛いよなぁ」

 

『おこおこぷんぷんなのわっちゃんは()いちゃくて可愛(かわえ)ぇなぁ』

 

「うがァーーーーーー!!! ギャオオオオオオオン!!!!!」

 

『わ、若芽さん落ち着いて! 若芽さん!?』

 

 

 

 

 

 

 波乱の第二試合、四人ひとチームでのクァッド戦を終え……おれたち『のわめでぃあ・にじキャラ【Sea's(シーズ)】』有志連合は、視聴者さんと一緒に反省会の真っ最中である。

 幸いなことに、おれたちのチームが勝利を収めることができたのだが……その試合はなんというか、いろいろと反省すべき点が多々々々見受けられたためだ。

 

 特に……一部プレイヤーによる、非マナー行為。ゲームの楽しさを伝えるための配信においての()()は……さすがにちょっと、褒められたもんじゃない。

 なのでおれは心を鬼にして、威厳のある年長者として……()()()()ことは()()()()のだと、このイタズラっ子妖精さんにしっかり理解(わか)らせてあげる必要があるのだ。

 

 

 

『のわちゃん先生……』『でもよわちゃん真っ先に落ちたからなぁ』『【¥4,848】よわちゃんまじめにやって』『よわちゃんに腕前は期待するな』『【¥4,848】よ……のわちゃんがんばって』『上手くないのに見てて楽しいって何か変だな』『よわちゃんやっぱのわのわだわ』『せんせーラニちゃんがパンツはいてません』『笑いの神と寝た幼女』

 

 

「ぐ、ぐぬぬぬ……」

 

「(爆笑)」

 

 

 …………も、もちろん……おれにも非があることくらい、よーくわかっている。ほんとです。わかってますとも。……わかってるってばあ!

 

 今回ラニたちが暴走した一件だって、元をたどればおれがぶざまにも瞬殺されたからこそ生じた事態なのだ。

 おれがつよつよであればみんなストレス無くプレイできただろうし、煽られて二人がムカ着火ファイヤーすることもなかった。おれに責任が無い、だなんて無責任なことは……服が裂けても言えない。

 ……なんか違う気がするな。まあ良いか。

 

 

 

 そもそも、おれは正直いって……ゲームはそこまで上手じゃない。

 

 脳トレゲームのように、単純に知識や知能や頭の回転がモノをいうゲームなら、それこそ世界ランキング百位以内に入れるくらいには自信がある。

 ポーカーとか麻雀とか、運が絡むゲームはその限りじゃないけど……あんまりやったことないけど、チェスとかリバーシとかそのあたりもいい線行けるのではないだろうか。

 

 だが……その一方で。

 アクションゲームやシューティングゲームなど、この身体の『設定』によるアシストが充分に得られない分野においては……悲しいかな、その技量は以前の俺と大差無いようだった。

 いやむしろ……随所でポンコツ化したりするぶん、幸運の値はガックリ下がってる可能性さえあるかもしれない。

 

 

 おれ自身は先に告げたように『べつに負けても楽しめればオッケー』なスタンスなのだが……そのせいでおれのチームメイトが迷惑を被ったり、ゲームを楽しめなくなってしまったりするのは……それは、絶対に良くない。

 せっかく共演(コラボ)を持ちかけてくれて……一緒に遊んでくれようとするひとに迷惑を掛け、心を曇らせるのは……おれの主義に反する。

 

 

 だから……迷惑を掛けないように。みんなで楽しく遊べるように。

 …………うまく、なりたい。

 

 

 

『まー、時間もまだまだあるし。練習しよっか?』

 

「ふふ……そだね。気楽にいこう」

 

「…………!!」

 

『ミルものわっちゃんも、見込みはあるからね。場数さえ踏めばとっさの判断が出来るようになってくるっしょー』

 

「ミルちゃん狙撃上手(じょうず)だったし……ノワも真似してみる? エルフなら得意そうじゃん?」

 

『ぼ、ぼくなんっ…………()など、まだまだ。……ただ、共に研鑽を積めるのであれば…………それは、とても嬉しく思う』

 

「な、なるほど……わたしも、やってみます」

 

『「んふふふ」』

 

 

『エルフの狩人(スナイパー)……』『狙撃銃エルフ!』『森の中だと無敵なやつじゃん!』『FPEXに弓があれば変わったのかもしれん』『局長かっこいいとこみせて』『リアル狙撃なら得意そうなんだけどなぁ』『のわちゃんがんばえー!』

 

 

 いくら『上手くなりたい』と思っても……ひとりぼっちで延々とキルされ続けるとなれば、決して長続きはしないだろう。

 好きなだけ練習に付き合ってくれて、助言やなぐさめの言葉を掛けてくれて、そして一緒に楽しんでくれる。そんな仲間と一緒に遊べることができ、また多くの方々にあたたかい応援を送ってもらえることが……こんな幸せな環境でゲームを遊べることが、おれは非常に嬉しい。

 

 

 

「がんばります……!」

 

『オッケー! じゃあま……存分に死んでくか!!』

 

「ノワ、好きなだけ悲鳴上げていいからね。ていうかみんな欲してるからむしろ上げて」

 

「そんっ!? あげにゃいよ!!?」

 

「(爆笑)」

 

「むきーーーー!!」

 

 

 

 全ては……気心知れた間柄の子たちの応援に報い、みんなで楽しくゲームで遊ぶため。

 

 おれはウデマエを高めるべく、ほっぺをぺちんと叩いて気合を入れ直した。

 

 

 

『……ねぇのわっちゃん、そのカワイイムーブって、()? やっぱ天然?』

 

「ホア!?」

 

「天然だね。わりと普段からこんなんだよ、この幼女」

 

『可愛い……』

 

『何それくそかわやん』

 

「な、っ……!? ヴゥーー!!」

 

 

 

 気にしない。絶対に、気にしない!

 おれは気合を入れたんだ。おれの鋼の意思は……こんなことで絶対に掻き乱されたりしない。

 

 

 

 

 そう思っていた時期が、おれにもありました。

 

 平常心を保つトレーニングも、おれにはたーーっくさん必要だということが……よーーーくわかりました。

 

 



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268【共演配信】伏兵あんぶっしゅ

 

 

 とつぜんだが……ここ数回の試合(ゲーム)を経験したことで、おれは自身の立ち回りに関して大きな()()()を得ることができた。

 おれの生存確率にダイレクトに直結する、非常に重要な着眼点。嬉しさのあまりラニに共有を図ったのだが……

 

 

「ねぇラニ! わたしスゴいコト気づいた! 前に出ないで隠れてれば狙われない!!」

 

『『……………………………』』

 

「…………………………ごめん、何て?」

 

「えっ? う、うん……だからね、わたし今まで敵探して歩き回ってたんですけど、すごい撃たれたんですよね。でも物陰に隠れてれば狙われないし、長生きできるってことに気づいてですね…………ラニ? どしたの、頭いたいの? 大丈夫?」

 

「いやぁ…………うん、何でもないよ」

 

『のわっちゃん…………』

 

『わかめ、さん…………』

 

「…………?」

 

 

 

 とても物静かなテンションで……おまけにとても悲しそうな表情で、静かに『なんでもないよ』と言われてしまった。

 なにか心配事でもあるのだろうか。本当に大丈夫なのだろうか。後で悩みでも聞いてあげよう。

 

 なんかコメント欄の流れる速度が上がったような気がする(しかも妙に草が生えてる)気がするけど、今は試合(ゲーム)中なのでコメントを拾うことができない。すまない視聴者さんたち。

 

 

 

「ッ! 撃たれた、どこだ」

 

『おった左や』

 

『……っ、(かす)ったか』

 

「あ……当たった! あたったよラニ!」

 

「えらい! あとでご褒美してあげるね! 今夜は寝かさないよぉ!」

 

「エヘヘー」

 

『プロスナ二人の安心感よ~』

 

『……うにさん、よくスルーできますね……』

 

 

 

 実際のところ、おれにはスナイパーとしての適正がそれなりにあったらしい。スコープを覗いて狙いを定めて、敵が顔を出す一瞬を射抜く……その一連の動作がそれなりに慣れてきたように思う。

 ふつうの人間種(ヒト)にとってはほんの一瞬でも、感覚強化(バフ)魔法の恩恵で身体感覚を引き伸ばせば、おれにとってはまるでスローモーションのように認識することができるのだ。……もしかしなくても、ちょっとしたリアルチートってやつなのかもしれない。

 

 

 

「後衛が確実に敵減らしてくれるからね。数的優位を取るまで少しの間、ボクらは回避に徹していればいい。楽チンだよ」

 

『それなぁ。ムキになって飛び出てくれりゃぁ美ロリ組がきっちり仕留めてくれるし』

 

『び、美ロリ組…………?』

 

「大丈夫ですよ、ミルさんとっても可愛いですし」

 

「ノワも鏡見ようね?」

 

「……………………え?」

 

 

『草』『これは海草』『草』『だめだこの美幼女』『お前のことやぞ美ロリ』『「え?」じゃないんだよなぁ』『海草大繁殖』『ダイソウゲンですわ』『ラニちゃん身体に理解らせてあげて』

 

 

 ま、まぁ……そっか。この身体(わかめちゃん)は可愛いからな。……ふふん、いっぱい称えてもいいのよ。

 

 しかし、やっぱり『慣れ』や『場数』というものは大切だ。

 いまいち馴れていなかったこともあってか、最初のほうはいろいろとぶざまな真似をさらしたこのゲームも……この身体の特性の活かし方とちょっとしたコツを掴んだら、それなりに好成績を叩き出すことができた。

 もちろん、組んだチームがみんな優秀だったということもあったのだろうが……最後のほうなんかは、五回に一回くらいは優勝(チャンプ)を取れるまでになっていたと思う。

 

 これもひとえに、気長におれに付き合ってくれたうにさんミルさんと、クソザコナメクジだったおれを見放さずに付き合ってくれた視聴者さんたちのおかげだ。

 みんなのおかげでおれは(心を乱されなければ)つよつよスナイパーとして活躍することができるのだ。

 

 

 

「あとの懸念は……やっぱり奇襲には弱い、ってとこかなぁ」

 

『そやなぁ。まぁビックリして取り乱しちゃう~って、あたしは可愛いから良いと思うんやけど』

 

「そだね。バランス取れてるんじゃない? つよつよとよわよわで」

 

「そんな微調整いらないですし!!」

 

『じゃあ胆力つけんとなぁ。ミルとかすごいよ? めっちゃ肝据わっとるし。この子ホラゲー淡々とこなすんよ』

 

『えぇ、っと……まぁ……場合によるがな』

 

「胆力かぁ…………どうやって鍛えれば良いんですか……?」

 

 

 

 今回のゲーム配信に限らず……おれは予想外の展開に(やや)弱いという弱点がある。

 これはそもそも『不慮の事態に直面すると取り乱す』『たまにポンコツになる』という若芽ちゃんの『設定』に起因するものだ。

 

 完璧なキャラクターなんてものはつまらない(※個人的な感想です)ので、目に見えて明らかな弱点があるほうが親しみやすいと思って盛り込んだ『設定』なのだが……それにしたってある程度制御できるなら、それに越したことはないだろう。

 

 

 そう思って訊いてみた、胆力トレーニング方法。

 

 おれのお友達であり、同業者であり……そして()()でもある(ミルさん)を見込んでの質問だったのだが。

 

 

 

 

『若芽どのは、()()を聞いたとて……ちゃんと活かしてくれるか?』

 

「…………えっ?」

 

『余の経験を教え、知恵を貸すのだ。……それを無為にせぬと、この聴衆の前で誓えるか?』

 

 

 

 ミルク・イシェルというキャラクターとしての……演出としての人格を出され、『教えたからにはちゃんとやれ』と発破を掛けてくれたミルさん。

 そこまでしておれのことを考えてくれているのだ、若芽ちゃんのことを肩を並べるビジネスパートナーとして認めてくれたのだと……とても嬉しい気持ちが、じんわりと涌き出てきたのだ。

 

 …………このときは。

 

 

 だからこそ、おれはその問いに……『教えたらちゃんとやるのか?』『視聴者さんに誓えるか?』に対し、躊躇うことなく頷いた。

 

 ……頷いて、しまった。

 

 

 その瞬間……音声通話越しでは見えるはずのないミルさんの表情が、『にやり』と歪んだ気がしたのは…………きっとただの気のせいではないと思う。

 

 

 

 

『余からの訓示は……大きく三つ。ひとつ、今までの自分が持たない『新しいこと』に挑戦すること。ふたつ、『全てやり切る』と決め、腹を括ること。……そして、三つ。……それは』

 

「…………それは?」

 

()()、あるいは()()等の……身を(すく)ませる悪感情を、克服すること』

 

「え………………つ、つまり……まさか」

 

「ブフフッ……!」『あぁー…………』

 

 

 

 予想外の事態に弱い『わかめちゃん』の、よわよわ胆力を鍛えるために下された……信頼していたミルさんからの、助言。

 

 多くの視聴者さんの前で『ぜったいやります!』と同意させられた上で伝えられた……後出しジャンケンにも程がある、そのトレーニング内容。

 

 

 …………それは。

 

 

 

『なるほどなぁ、()()()()……まぁホラゲー配信か、もしくは恥ずかしい格好……水着とかどーよ?』

 

「あぁー……仕方ないよね? 誓ったもんね? 弱点克服のためだもんね?」

 

『くく…………両方、とは言わぬ。どちらか一方でも構わぬ。…………応援しているぞ? 若芽どの』

 

「……………………ん゜んっ!?」

 

 

 

 

 あんなに……あんなに人畜無害そうな、可愛らしい清純美少女のお顔をしておいて。

 

 おれの境遇をよく知っているはずの……おれにひどいことをしないと思っていた、あのミルさんが。

 

 

 

 

 まさか……まさか、こんなひどい仕打ちを仕出かしてくるなんて……!

 

 

 

「大丈夫だよ、ボクがついてるから。大丈夫。ノワは大丈夫。ボクがついてる。なにも怖くないよ。大丈夫だから。がんばろうね、ボクがいるから大丈夫。がんばろう、ボクと一緒にがんばろう、怖くないよ、大丈夫怖くない。大丈夫だよ……」

 

『刷り込みこっわ』

 

「ウゥー………………わかり……まし……た」

 

「『ヨッシャァ!!』」

 

 

 

 奇しくも……おれの身体に込められた『本能』とでもいうべき『視聴者さんに喜んで貰えるためならなんでもする』という呪い(設定)が、ミルさんの提案を『是』と判断した。

 なんと効果的な作戦……さすがはおれの『同類』というべきだろうか。ミルさんが提示してきた『演出案』だが……ことコンテンツを成長させるにあたって、それは確かに有用な手段のようだった。

 

 おれが怖がったり、恥ずかしがったり……そういう()を、おれの視聴者さんたちは求めているということ。

 それはここ最近いろんな場面でひしひしと感じていたところだったので……なんというか、よくもまぁそこに目をつけてくれたというべきだろうか。

 

 

 ……やっぱり避けては通れないか。

 ちくしょうめ。やってやろうじゃねえかこのやろう。

 

 

 

 

 というわけで。

 これまで『のわめでぃあ』を成功に導いてきた、おれの身体の『お利口』な直感に従い……

 

 おれこと木乃若芽ちゃんは、その試練に挑み……乗り越えることを決めた(※ただし()()かは言っていない)のだった。

 

 

 

 

 

 なお『どちらにするか』を巡り……コメントおよびすぱちゃの数はものすごい数になった。

 

 



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269【共演終了】驚縁の連鎖

 

 

『……はい。それでは……反省会を始めましょうか』

 

『もう深夜やからなぁー。お手柔らかにたのむわー』

 

「よ……よろしくお願いします」

 

 

 うにさんミルさんと一緒に楽しんだ、一人称視点シューティングゲーム『FPEX』コラボ配信。当初の予定ではおよそ二時間の予定だったのだが、一時間延長して零時まで継続するかたちとなった。

 これは直前のミーティングで選択肢として示唆され、実際に配信中の反応を見て我々に打診が行われ、途中Deb-Code(会議通話)のチャットでの折衝の上で変更となったのだが……すごいな、全体を見て舵取りをする人がいてくれるって。客観的な立ち位置から配信そのものの空気を俯瞰できるし、演者への伝達にしてもツールが上手く活用されてる。

 

 なるほど……チャットであれば配信に音声が乗ることもないし、演者からも意思の提示を行いやすい。特に仮想配信者(ユアキャス)であれば表情や視線全てが配信されるわけじゃないので……これならば極論、喋りながらでも打ち合わせは(ある程度)可能なのだろう。

 ……さすが大御所、経験の蓄積と効率化がものすごい。

 

 

 

八代(やしろ)ん、どうやった? いつもよりウケとった?』

 

『そうですね…………単純な数字比で言えば、最大同時視聴者数が『UNI'sOnAIR(ユニゾネア)』平均のおよそ一.八倍、コメント数に至っては三.三倍程度ですね』

 

『「おぉー…………」』

 

『あの……ぼくのほうはどうですか?』

 

『『イシェルバレー広報課』は……最大同時視聴者数は平均の一.四倍、コメント数はいつものおよそ二.三倍ですね』

 

『『「おぉぉーー…………」』』

 

「す、すごい……そんな数値パパッと出せるんですね……」

 

『えぇ、まぁ。私以外にもバックアップ要員が居りますので』

 

「「おぉー…………」」

 

 

 配信直後に『いつもと比べてどうだったか』をすぐに聞かせてもらえるのは、配信者にとってモチベーションの向上に一役買ってくれることだろう。

 今回の配信がいつもより良かったのか悪かったのか……いち視聴者に比較的近い立場から配信を見ることができたマネージャーさんを交え、良かった点や反省点を洗い出すための『反省会』……この体制を確立し、実際こうしてフォローできているので、やはり『にじキャラ』さんは配信者を大切にしてくれてるんだということがよくわかった。

 さすが大御所事務所……参考にできそうなところがいっぱいだ。

 

 

『途中少々()()()ところもありましたが、総合的に見て成功と捉えて良いでしょう。……若芽様、改めてご出演ありがとうございました』

 

「こちらこそありがとうございました! 軽く目を通した限りですが……こちらも()()がすごいことになってまして」

 

『それは良かった。……『コラボしなければ良かった』と言われるのは、さすがに堪えますので』

 

「いえそんな! ()()うにさんやミルさんと共演できたのも嬉しかったですし……それに加えていろんなノウハウを見せていただいたので、こちらとしても得るものが多かったです。やっぱり有名事務所は……『にじキャラ』さんはすごいなぁって」

 

『そう言って頂けると、こちらとしても幸いです。……実を申しますと、最近弊社においても『わかめちゃん』の話題がじわじわと増えて来てまして』

 

「えっ!? 弊社、って……『にじキャラ』さんです、か?」

 

『そうなんよ~! ティー様とハデ兄ぃと……あと刀郷(トーゴー)のデコあたりがな、積極的に布教してる感じで』

 

「しょんっ!? あ、あえ…………ひゅッ」

 

 

 な、な、な、なんという……なんという、驚愕の新事実。

 先週麻雀をご一緒させていただいたのは確かなのだが……まさかそこまで、話題にしてくれるほどにまで、おれたちのことを覚えていてくれたとは。

 

 ティーリットさまと、ハデスさまと、刀郷さん。……いいひとだなぁ。

 

 

『ですので我々『Sea's(シーズ)』としても、若芽さんをいち早く……表現は良くないかもしれませんが、()()出来たということで……その、鼻が高くて』

 

「そ……それは、それは…………恐縮です」

 

八代(やしろ)八代(やしろ)ん! ラニちゃん最初に見っけたのはあたしだからね!』

 

『解ってますって。感謝してますよ、村崎さん』

 

『ふふん』

 

 

 

 本当にその通りだ。生まれたての弱小放送局を、数多(あまた)溢れる配信者たちの中から見つけ出してくれて……そして、こんなに大きなチャンスを与えてくれた。

 今日のコラボで話題にしてもらったのはもちろん……先だっては霧衣(きりえ)ちゃんの麻雀お勉強会に、雲の上(大御所)の方々をお招きすることができた。

 あのときの麻雀コラボだって、村崎うにさんが場を整えてくれたおかげで成立した一席だ。あのコラボのおかげで『のわめでぃあ』のチャンネル登録者数も一気に跳ね上がり、SNS(つぶやいたー)とかでおれたちの話題を目にする機会も、あからさまに増えたのだ。

 

 

 つまりは……この独特なホンワカ(なま)りがチャームポイントなガチゲーマー系ダウナー美少女仮想配信者(アンリアルキャスター)ちゃんには……おれは足を向けて眠ることが出来ないのだ。

 

 

 おれが話題にな(プチバズ)る切っ掛けを与えてくれて、大躍進する道筋を切り拓いてくれた美少女。

 それと………誰にも助けを求められないと思っていた裏家業を、公私共に支えてくれる美少女(※ただしついている)も。

 

 以前から好きだった『にじキャラ』の二人だったが……おれの人生に大きな影響を与えてくれた『恩人』と呼んで差し支えないだろう。

 

 

 

「あの…………うにさん!」

 

『んん? なんや?』

 

「あと、ミルさん!」

 

『えっ!? は、はいっ!』

 

 

 おれは……ひととの調和を重んじる、心優しいエルフの少女なので。

 

 恩義には、誠意をもって報いるべきだし……

 つまり恩人には……誠意をもって、恩返しをすべきだろう。

 

 

 

()()()()()、わたしに良くしてくれて……とても嬉しく思います。なのでわたし、その()()がしたいです。わたしにして欲しいことがあったら、(※公序良俗に反しない範囲で)何でも言って下さい!」

 

『今なんでもって言うたかのわっちゃん!!?』

 

『な、なんっ、なんっ、なっ……なんでもっ!?』

 

「言いました! わたしがお力になれることなら(※公序良俗に反しない範囲で)何でもお申し付け下さい!」

 

『ウォォォォォォ!!』

 

『あっあっあっあっあのっあのっ』

 

『ぇえ、いいなぁ……』

 

 

 

 人脈も、知名度も、おそらく貯蓄額も、お二人には遠く及ばない。

 そんなよわよわなおれが『恩返し』しようと思ったら……この身体で払うしかない。

 

 背景でも、エキストラでも、引き立て役でも、道化でも、もしくはただの通訳やBGM演奏係としてでも。

 おれが役に立てることがあるのなら……このお二人のためなら、(※公序良俗に反しない範囲で)何だってやってやる。

 

 ……八代(マネージャー)さんが物凄く羨ましそうな声を漏らしていたようだが……彼にもいつか、何らかの形でお返ししよう。お世話になってるし。

 

 

 

『じゃじゃじゃじゃじゃじゃあさ! のわっちゃん! 早速お願いがあるんやけど!』

 

「は、はいっ! なんでしょう!?」

 

 

 恩人の一人である、うにさんからのお願い。

 

 こんなに勢いよく出て来るのだ、いったい何を持ちかけられるのかと思ったら。

 

 

 

『のわっちゃんの『本気(マジ)の歌』! 聞かせてほしくてな!』

 

「う……歌、ですか?」

 

『そうそう! それでな…………あたしがちゃーんと仲介するから、『クロ』とコラボしてくれん!?』

 

『『おぉーーーー』』

 

「………………ま、まじっすか!?」

 

 

 

 持ちかけられたのは、まさかの『おうた』コラボ。

 

 しかもそのお相手(候補)は……よりにもよって、()()『クロ』さん。

 

 Ⅳ期生【Sea's(シーズ)】どころか『にじキャラ』屈指の歌唱力を誇る女の子、この春にはグループでのメジャーデビューも決まっている……超超期待の仮想配信者(アンリアルキャスター)である。

 

 



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270【共演終了】狂宴の気配

 

 

 うにさんやミルさんが所属する配信者事務所『にじキャラ』には、年齢も性別も外見も容姿も、それどころか種族もサイズも多種多様な設定(プロフィール)をもつ仮想配信者(アンリアルキャスター)が所属している。

 

 同時期にデビューした配信者(キャスター)どうしはいわゆる『同期生』として、公私共に付き合いが濃くなる傾向が強いという。

 また、キャラクターとしても『近い』設定(プロフィール)の配信者が同時お披露目されることも多く、彼ら彼女らはそれぞれ四人から八人くらいのチームで纏められている。

 

 

 たとえば……村崎うにさんやミルク・イシェルさんたち第Ⅳ期生は、水棲系生物がモチーフの【Sea's(シーズ)】という名前のチーム。お二人の容姿も、それぞれ『ウニ』と『ミル貝』をモチーフに擬人化したようなデザインだ。

 チームマネージャー(のひとり)である八代さんには、おれもミーティング等で度々お世話になっているな。

 

 また同様に、トールア・R・ティーリット様やハデス様たち、第Ⅰ期生で結成されるチームは【FANtoSee(ファンタシー)】と呼ばれている。

 こちらには『エルフの王女様』や『冥界の王』や、ほかにも『勇者』や『聖女』や『宮廷魔法使い』、果ては『邪龍』やら『上級悪魔』などなど……たいへん幻想的(ファンタジック)設定(プロフィール)のキャラクターが揃っている。

 

 一方で、刀郷(とうごう)剣治(けんじ)さんや……直接絡ませて貰ったことは無いが、彼と麻雀を打っていた生徒会長、日之影(ひのかげ)(ながれ)さん。彼ら彼女ら第Ⅱ期生は【私立安理有(あんりある)高校】などというチーム名で括られており……名前からわかるように、仮想(アンリアル)高校生で構成されたチームだ。

 

 

 

 おれが申し出た『恩返し』の提案に対して、うにさんから要求された『本気(マジ)の歌』コラボ……その共演相手として提案されたお方こそ、『クロ』さんこと『玄間(くろま)くろ』さん。

 上記のうち【Sea's(シーズ)】に所属する美少女配信者(キャスター)であり、つまりはうにさんやミルさんと同期であり、お二人とはそこそこ長い期間苦楽を共にした間柄であり……うにさんいわく『オフでもめっちゃ仲良いんよ~』とのことらしい。

 

 

 

 ―――仮想配信者(アンリアルキャスター)玄間(くろま)くろ』さん。

 艶やかな黒髪と青銀色に煌めく瞳をもち、黒と銀の和服に身を包んだ……立ち絵(見た目)からして演歌歌手のような佇まいの、凛々しい顔つきの女の子配信者(キャスター)だ。

 

 例によって、おれはこれまでご一緒させてもらったことがないお方(※あたりまえ)だ。そもそもうにさんやミルさんとは異なり、くろさんはそこまで積極的にゲーム配信を行うほうでは無いのだという。

 いや、べつにゲーム配信をやらないわけではないのだが……サンドボックスやクラフト系をまったりと取り組む、いわゆる『のんびり系』『ライトプレイヤー』といった感じの配信者(キャスター)さんなのだ。

 

 

 その代わりに振るわれる武器、彼女の十八番とでも言えるものが……何を隠そう、『おうた配信』である。

 

 ここは大手事務所である『にじキャラ』ならではの、事業所所属配信者(キャスター)の長所なのだろう。

 彼女の属する『にじキャラ』さんは、この国の楽曲著作権管理団体と商用利用の正式契約を交わしているため、事業所所属の演者……まあ要するに仮想配信者(アンリアルキャスター)さんたちは、まるでカラオケボックス等で歌うかのように歌声を披露することができるのだ。

 

 

 

 その歌声がですね……これがね、ほんっとすごいんですよ。

 

 音程の安定感が半端なくて、揺さぶられるような複雑な音階でも全くブレなくて、入りも抜けもバチっとキマッてて、柔らかい声色から硬く重い声色まで表現の幅がものすっごく広くて……見るからに得意そうな演歌はもちろん、容姿とは裏腹にポップなアニソンもそつなく歌い上げ、果てはビブラートをふんだんに効かせたバラードや、歌詞全部が英語で綴られた洋楽ロックやヒップホップだって歌いこなす。

 

 そのたぐいまれな歌唱力を買われ、同様に歌が得意な『にじキャラ』所属者でユニットを結成……今春メジャーデビューが予定されているほどの人気者だ。

 こんな身体と境遇に陥った甲斐もあり、おうたがとても好きになったおれこと若芽ちゃんだが……くろちゃんの天より与えられし歌唱力は、付け焼き刃であるおれの()()なんかとは比べ物にならない。

 

 

 そんな『歌唱力のオバケ』であるくろさん――当然おれの憧れの配信者(ひと)である――との、よりにもよって『おうた』での共演(コラボ)のお誘い。

 もちろん嬉しくもある反面……不安や萎縮が全く無いかと訊かれれば、言い切るのは少し難しい。

 

 

 

「…………ご迷惑じゃ、ないですか? 今お忙しいでしょう? くろさん……」

 

『いやぁー……いつも通り『のほほーん』ってしとるよ? ……だってまぁ、クロだし』

 

『昨日なんかも、夕方ぼくのとこにいきなり通話かかってきて。何事かと思ったら……んんっ。……『なぁ、にるにる。うち晩メシなに食ったらええと思う?』って。……知りませんよそんなの』

 

『あ~よく言う~。てか相変わらずめっちゃモノマネ(うま)いなぁミルは。……そいえば八代(やしろ)ん、あたしも真夜中にREIN届いとったわ。『やしろんにはナイショなんやけど、事務所ロッカーの鍵なくしたかもしれん。どうしよ』って』

 

『…………明日本人に直接聴取を行います』

 

 

 

 ……まぁ、普段なにかとのんびりした言動が特徴のくろさんなのだが……身近な方々の口から飛び出てきたエピソードには、びっくりした反面『ちょっと()()()な』とも思ってしまう。

 部外者が知り得ない身内の情報を、おれなんかに知らせてしまっても良いのだろうか、と疑問に思ったりもしたのだが……うにさんたちの声色から察するに、おれに『くろさんに対する抵抗感を払拭してほしい』という目的があってのことだろう。

 

 また同時に『おれの口はそんなに軽くない、信用に値する人物だ』ということを認めてくれた、ということでもあり……それは率直にいって、とっても嬉しい。

 

 

 ミルさんもうにさんも、そしてことの推移を見守っているマネージャー八代(やしろ)さんも……ここ最近のミーティングを通して、おれたち『のわめでぃあ』の空気を少なからず知ってくれているはずだ。

 その上で、今が大事な時期であるはずの玄間(くろま)くろさん……ほかでもない同期の仲間との共演(コラボ)を持ちかけてきてくれたということは……入念な損得勘定とリスクの検証が行われ、『のわめでぃあ』であれば大丈夫だと、そう考えてくれたからこその結論なのだろう。

 

 

 

『まぁ、玄間(くろま)本人への事情聴取は置いておくとして…………村崎(むらさき)が言い出さずとも、実を言うと運営側から打診するつもりでもありました』

 

「えっ!? いや……えっ!?」

 

「おぉーすごい。……え、それって『にじキャラ』さんが組織として?」

 

『まぁ……そうですね。……先程申しましたように、他チーム内でも若芽様を狙っている空気がありまして』

 

『ずばり言ってしまうと、ティー様と刀郷(とうごう)さんが筆頭ですね』

 

『あとハデ()ぃも積極的やな。日之影(ひのかげ)会長も刀郷(デコ)(そそのか)されて気になり始めてる感じ』

 

『そういうことです。ですのでまぁ、例によって……他チームに取られる前に、もう一丁共演(コラボ)もぎ取ってしまおうという魂胆でして』

 

『そこでのわっちゃんが『何でも』とか言うからなぁ。こりゃぁお言葉に甘えるっきゃ無ぇなって思ったわけ』

 

『ちなみにうにさんが断られたら、ぼくも重ねて要求するつもりでした』

 

「…………ヒョエェェ」

 

 

 そ、そんな……そんなことで、おれの『恩返し』権を使ってしまって良いのか。

 八代(やしろ)さんたちの事情も理解したし、他チームに先んじてスケジュールを抑えたいという気持ちも、わからんでもない。

 ……まぁ、ほかの『にじキャラ』配信者(キャスター)さんたちがおれを狙っている、という点は……正直いって正直半信半疑だが。

 

 

 しかし実際のところ、この『本気(ガチ)歌』共演(コラボ)……はっきり言って、おれにとってのメリットが大きすぎる。

 出自こそ仮想配信者(アンリアルキャスター)とはいえ、メジャーデビューが決定している御方だ。つまりは実質的には、ほぼほぼ『芸能人』といっても過言ではない。

 

 そんなテレビに出るような、話題沸騰の『芸能人』とおれが、光栄にも共演させて貰える。

 わが『のわめでぃあ』の宣伝効果は……計り知れない。

 

 

 

「そ、そこまで……そこまで言われたら……」

 

『『『言われたら……?』』』

 

 

 しかし……それが先方からの、おれが断りづらい『恩返し』に突け込んでまでも叶えたい『お願い』だというのなら。

 おれが恩恵を教授する一方で……『にじキャラ』さんも、第Ⅳ期生【Sea's(シーズ)】としても、なにかしら得られるものがあるというのなら。

 

 おれが……何かの役に立てるというのなら。

 

 

 

「び、微力ながら、がんばりますので…………よろしくお願いしますッ!」

 

『ヨッシャァァァ!!』『おぉーーー』

 

『ッッし!! ……感謝します、若芽様!』

 

 

 通話越しながら喜びを露にする『にじキャラ』お三方の反応を耳にして……やっぱり彼らの厚意と、そして好機を無駄にしないためにも、しっかりしなきゃなと気合が入る。

 特に八代(やしろ)さんなんか……普段落ち着いた物腰の彼が、珍しく喜びも露にしているのだ。その期待には応えたい。

 

 

 まぁ、そんな感じで……思ってもみなかった大チャンスに、どきどきとわくわくが高まったFPEX(ゲームコラボ)の夜だったが。

 

 

 

『ではそういうわけで、玄間(くろま)ともども打合せの席を、近々設けたいと考えているのですが……』

 

「わかりました。えっと……来週の火から木くらいなら、いつでも大丈夫です」

 

『ありがとうございます。でしたら……そうですね。二十一日の火曜日に、お手数ですが弊社事務所へ……旅費はお支払い致しますので、()()()()ご足労頂くことは可能でしょうか?』

 

「えっ!?」

 

『おおー! ええやんええやん、あたしも行こ! ついでにミルもおいでや! 忘年会も新年会も来んかったやろ?』

 

『えっ!?!?』

 

『それではせっかくですし……玄間(くろま)以外も、【Sea's(シーズ)】の面々に声を掛けてみますか』

 

「『えっっ!?!?!?』」

 

『よっしゃ宴やな! テンション上がってきた! あたし個室借りれる店探しとくわ!』

 

「『ちょっ!!?!!』」

 

「(爆笑)」「(おろおろ)」

 

 

 

 ……いや、でも……うん……東京かぁ。正直楽しそうではあるよなぁ。

 

 考え方によっては……おれにとってもミルさんにとっても、これはいい機会なのかもしれない……な。

 

 





おすしたべたい



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271【緊急会談】飛んで火に入る

 

 

「どっ、どど、どどうど、どっ、ど、うど……どうしましょう、わかめさん!!!」

 

「と、とりあえず落ち着いて下さいミルさん……又三郎(またさぶろう)みたいになってるから……」

 

「又三郎……宮沢先生、でございましょうか」

 

「??? ……タマ、サブロー??」

 

「「またさぶろうだよ(でございます)」」

 

 

 

 

 うにさんと、マネージャー八代(やしろ)さんを交えての反省会(兼ミーティング)は……若干名に対し大ダメージとなる爆弾をぶん投げたまま、しかしさすがに夜も遅いということでお開きとなった。

 会議通話が終了して……まぁそんな気はしていたけど、五秒と置かずに着信メロディが鳴り響き……

 

 

『お願いです!! たすけてください!! わかめさん!!』

 

「ミルさん心からの一句ですね。……夜分で恐縮ですが、今から()()()も大丈夫ですか?」

 

『……? えっ、うちに来られる……ってことですか? ……ぼくは構いませんけど……でもこんな夜じゃ、電車もバスも』

 

「「こんばんわァー!!」」

 

「うわァーーーーーー!!!?」

 

「おっ、おじゃま……します……」

 

 

 

 家主の許可を得たのでラニに【門】を開いてもらい、岩波市のおれの自宅から浪越市港区の某地点まで一瞬で移動する。

 ミルさん宅のリビングに現れたおれたちは隣室との扉を開き、半泣きでPCデスクに向かっていたミルさんとご対面を果たしまして。

 

 そしてみんな揃って場所をリビングスペースへと移し、ダイニングの椅子に失礼したところで……そこで冒頭のような又三郎(またさぶろう)を披露された、というわけ。

 

 

 

「いやぁ、まぁ…………いい機会(チャンス)だと思う……思いますよ? おれ……あっ、いえ……わたしは」

 

「……楽な話し方で大丈夫ですよ。ぼくも取り繕う余裕無いですし」

 

「んぅ……じゃあお言葉に甘えて。…………正直なところ、ミルさんだって『嫌いじゃない』んでしょう? うにさんたち『にじキャラ』のみんなが」

 

「それは…………はい。間違いなく……好き、です」

 

「ですよね」

 

 

 

 現在ミルさんが抱えている葛藤……それはつい先程、おれと『玄間(くろま)くろ』さんとの打合せの場を設けるついでに、『ミルも事務所おいで』『久しぶりに【Sea's(シーズ)】のみんなで集まろう』という爆弾が爆発したことによる。

 

 以前の()()であれば、特に不安に思うことなく同意していたことだろう。

 しかし今の()には、そうすることができない理由ができてしまった。

 

 『ミルク・イシェル』というキャラクターの()を演じる日本人の女の子『有村悠菜(ありむらゆうな)』さんとしてではなく……日本人離れした容姿の男の娘『ミルク・イシェル』()()となってしまった、今の()

 容姿からして『何かとんでもないことが起こった』ことがひと目でわかってしまうので……職場(にじキャラ)の方々と顔を合わせるということは、イコール詳細を説明する必要が生じてしまうということであって。

 

 

 良好な関係を築けている同僚だからこそ、いつかはこの秘め事を打ち明けなければならない。

 ならば多くの同僚が一同に会する場であり……そして、この事態の詳細に少なからず精通しており、多少はフォローができるであろうおれが同席できる場であれば、彼も少しは気が楽だろう。

 

 

 

「……大丈夫ですよ、ミルさん。部外者のおれから見ても、【Sea's(シーズ)】のみんなはいい雰囲気じゃないですか」

 

「そ、そうなんですけどぉ……! 実際()()()()であの子らとの会合に行くのは気が引けるっていうかぁ……!!」

 

「大丈夫です。心配しないでくださいミルさん。……おれもいっしょに、ちゃんと皆さんに説明しますから」

 

「それはとても心強いんですけどぉ!! 若芽さんだからこそ宜しくないっていうかぁ!!」

 

「…………? えっ、と……? す、すみません、おれにどこか至らぬところが……? やっぱ生粋の女の子どうしの場だから……」

 

「ち、ちがうんです! そうじゃなくて!」

 

 

 東京への……『にじキャラ』さんの事務所へ赴いての、くろさんとの顔合わせと大規模な打合せ。

 おれも一緒だから大丈夫だよ、などと必死に鼓舞してみたのだが……それでも二の足を踏んでしまっているミルさんの、いちばんの懸念。……それは。

 

 

 

「っ、その……()()の子が! …………ああもう! いいですか若芽さん! 【Sea's(シーズ)】にはですね! 性別問わず小さくて可愛い子が大好きな……()()()(やつ)がいるんですよ!!」

 

「…………つまり、その…………ミルさんが狙われちゃうかも、ってこと?」

 

「ははは何をいってるのさノワ。『性別問わず小さくて可愛い子』でしょ? キミもじゃん」

 

「そうです!!」

 

「ヒュっ」

 

 

 

 

 そのひとのお名前は……当たり前だが、おれも聞いたことのあるひとだった。

 ミルさんの同期【Sea's(シーズ)】の一員であり、彼いわく『本格的に手遅れな患者』。

 

 

 その子の名前は……『花笠(はながさ)海月(みづき)』。

 中性的な容姿と落ち着いたハスキーボイスが特徴的な、【Sea's(シーズ)】いち『声がいい』女の子配信者(キャスター)

 

 朗読劇や雑談枠やASMR(自律感覚絶頂反応)など、その『いい声』を十全に活かした配信枠には男女問わず根強い人気がある、にじキャラ公式実力派美少女劇団員配信者(キャスター)……である。

 

 

 

 普段の活動を拝見している限りでは、海月(みづき)さんの立ち振舞いはとてもスマートでカッコイイのだ。……ヅカ系、というやつだろうか。

 そんな彼女が、そんな病気……もとい、おれと近い趣向の持ち主だなんて……そりゃ確かに、配信者(キャスター)とかでも小さい子相手には、ものすごく紳士的に接していたようだったけれど……

 

 

 …………え、つまりその『紳士的』な対応って、つまり()()()()こと?

 

 まって、おれもしかして……めっちゃヤバい内部事情聞いちゃった?

 

 





にじキャラⅣ期生『Sea's(シーズ)』メンバー
(※一部抜粋)

玄間(くろま)くろ】
超マイペース歌謡少女配信者(キャスター)。イメージカラーは黒銀。
母親は温泉旅館の大女将。四姉妹の末っ子。
立ち絵や各衣装の全てが和装(テイスト)。
異様に高い歌唱力と、独特の喋り口が特徴。

花笠(はながさ)海月(みづき)
公式実力派美少女劇団員配信者(キャスター)。イメージカラーは赤と黄。
女声ながらよく通る声は、幅広い層に人気。
人当たりが良く、基本どんな相手にも紳士的。
だが小さな子相手には少々()()()らしい?



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272【遠足計画】どっちにしようかな

 

 

 ミルさんの怯えようが気にならないわけではないのだが……そうはいっても、もう夜は更けに更けている。

 最終的にはミルさんも『いつかは……話さなきゃいけないことですもん……ね』と納得してくれたので、今日のところはお開きとなった。

 

 

 

 ……というわけで、とりあえずおれはミルさんと一緒に『にじキャラ』さんの事務所へお伺いすることになりそうだ。

 

 とはいえミルさんにとって、その行程は決して容易いものではない。あんなに日本人離れした容姿をもち……しかもあの見てくれで身体は男の子、しかし魂は女の子なのだ。

 新幹線や航空機を使おうにも、駅や空港なんかでは物凄い注目を浴びてしまうことだろうし、公共施設でのお手洗い問題とかもあるかもしれない。……いやまあ逆にあの外見なら、逆に堂々と女の子用お手洗いを使える気もしなくはないがな。逆にな。

 

 

 しかしお手洗い問題がどうであれ、移動中や休憩中や食事中も含めて四六時中注視され続けるというのは、さすがに堪えるだろう。

 加えて……それが全国的に知名度も高い仮想配信者(アンリアルキャスター)『ミルク・イシェル』さんであれば、おれなんかとは桁違いの混乱が生じかねない。

 

 

 

 ある日突然思い描いていたキャラクターに変身してしまい、不馴れな身体と周りの目が気になって遠出ができない……そんなお悩みを抱える、そこのあなたに朗報です!

 そんな懸念を一気に解決できるのが、こちらの商品。老舗自動車アクセサリーメーカーである『三納オートサービス』さんの手掛けたキャンピングカー、その名も『ハイ・ベース』です!(※宣伝ノルマ達成)

 

 最大乗車定員八名、就寝定員大人四名+子ども一名。コンパクトながら温水シャワーとトイレ、調理用水栓と冷蔵庫と電子レンジをも備え、移動可能な拠点として申し分のない性能と居住性を誇る逸品。

 まさに『自走する部屋』といっても過言ではないだろう。これさえあれば誰の目も気にすることなく遠出でき、東京まで三百五十キロにも及ぶロングドライブだって問題ないのだ。

 

 

 …………本当マジで、三納オートサービスさんには頭が上がらない。

 来週末のイベントでは精一杯恩返ししなきゃならないし、鳥神(とりがみ)さんたち『スタジオえびす』さんに発注した動画も、納品されたら即公開できるように準備しておきたい。

 

 

 

 

 

「じゃあ……寝て起きて、またがんばろう。おやすみ」

 

「そだね。おやすみー」

 

「はふ…………ほやすみなさいませ」

 

 

 ねます!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよぉございまぁーす(小声)」

 

 

 おきます!

 

 

 はい。あっという間に日曜日の朝……時間帯的には変身ヒーローが怪人に飛び蹴り叩き込んでる時間ですね。

 昨晩はちょっと夜更かししてしまったとはいえ、おれと霧衣(きりえ)ちゃんはすっきりと目覚めることができた。

 ……おれよりも早起きして朝ごはん用意してくれるとか、やっぱ家事力と女子力が半端ないわ霧衣(きりえ)ちゃん。まじでいいお嫁さんになるよ。

 

 まぁそれはそれで良いとして。

 問題なのは……朝ごはんの時間が終わり、ヒーローの時間(タイム)が過ぎてなお、未だにスヤスヤなねぼすけさんがいるということでして。

 

 なので……今度こそ、寝込みを襲ってやる(※誤用)しかありませんね!

 

 

 昨晩は眠る前に、ラニちゃんがちゃんと服(というか装飾布)を身に付けていることは確認済だ。今朝おれが起きたときにも(申し訳程度に)身に纏っていたので、すっぱだカーニバルが幕を開ける心配はない。

 

 なので、今度こそ、ねぼすけラニちゃんの天使のような寝顔を寝起きドッキリしようとしてるわけでして…………

 

 

 

 

 

「なんでおれのパンツ握りしめてんの!? さっきそんなの持ってなかったじゃん!!」

 

「んへぇー…………いゃぁー……ノワがさっき起きたあとに……ね」

 

「あのとき起きてたの!? じゃあなんで起きなかったのさ!!」

 

「えへへぇー……ほら、ボク二度寝……すきですし? それにこれ、肌触りが良くて」

 

「気持ちはわかるけど! わかるけど!! だからっておれのパンツ握って…………まって、どっから取ってきたそのパンツ!? ねえちょっと!!?」

 

「んー……ちょっとまえに干してたやつを拝借して、それを【蔵】に」

 

「えっ?」

 

「あっ」

 

 

 

 あははははは。そうかそうか。まったく、懲りないなあニコラちゃんは。

 

 はぶらしの刑よりも()()()()おしおきを……これは早いうちに実装してあげなきゃいけなさそうですね。

 リサーチしておかないと。薄い本とか読んで。えち絵師のフォロワーさんとかにも聞いとこ。

 

 

 

 

 ……と、ちょっとした事件は起こったが。

 

 そんなこんなで日曜日の朝(といってもそろそろ十時)。とりあえずミーティングに赴くのは良いとして、ここからだと日帰りするのは少々無理があると思われる。

 つまり必然的に泊まりがけでの行程となるのだが……ここでおれたちには、二つの選択肢がある。

 

 ひとつ。北陸旅行と同様、東京近郊でRVパークを探し、わがハイベースで車中泊をするパターン。

 

 そしてもうひとつは……みんなで朝食バイキングつきの、ちょっとよさげなホテルに泊まること。

 

 

 

「ほてる、というものは……西洋ふうの旅館? 朝食をいただけるのでございますか?」

 

「ボクは宿屋がいいなぁ、色々と()()()()()がありそうで魅力的だし。……なんだけど…………バイキング、ってなあに?」

 

「うふふふふ……それはね、バイキングっていうのはね。ブッフェともいうんだけどね……」

 

 

 やはり現代日本の経験があまりない二人は、首都東京のお宿に興味津々なようだった。

 霧衣(きりえ)ちゃんのタブレットを借りて照天トラベルを開き、東京都渋谷区周辺の『ちょっとよさげなホテル』の写真をスイスイっと流し見せてみる。

 おれのおうちともハイベースの車内ベッドとも異なる、非常に近代的で洗練された客室インテリアのスライドショーに、二人とも目を輝かせて興味津々だった。

 

 そんな中で目についた(というか検索条件としておれが追加したのだが)『朝食バイキング』の文字列。

 朝食ならまだしも『バイキング』とはなんぞや。朝食にバイキングが出てくるというのか。朝食に海賊がでてくるってのか。なんて日だ。

 ……とかいってボケるのではなく、二人に『朝食バイキング』というものがどういうものなのかを、至極真面目に教えていく。

 

 

「食べ放題!? 好きなだけ食べていいの!? なんでも!?」

 

「さ、三十種類……!? あさごはんに三十種類のお料理でございますか!? す、すさまじい手際にございまする!!」

 

「これは……腸詰? すごい整った形の……あっ、ねぇねぇキリちゃん! これタマゴヤキだよね黄色いの! こんな穀物粥(ミール)みたいなタマゴヤキ初めて見る!」

 

「きれいなたまごの色……この柔らかさは、いったいどういう手法でございましょう……彩りも大変美しくございまする……」

 

 

 いくつかのホテルをザッピングして見てみたのだが……カッコいいインテリアと、大きなベッドと、きれいなお風呂と、大都会東京ならではの景色。そしてなによりも朝食バイキングに、彼女たちは夢中のようだった。

 これはもう……採決を取るまでもなさそうだ。

 

 首都東京の『ちょっとよさげなホテル』ともなれば、ピンからキリまでさまざまだろうけど……とりあえず『朝食バイキング』があって、見晴らしが良くて、都会的なカッコいい客室で……それでいて二部屋、そこそこお値打ちで泊まれるお部屋。

 土地勘も知識も少ない状況で今から理想的な宿を探すのは、おれ一人では少々難儀するかもしれないが……かわいい二人が目に見えてテンション上がってるのだ。その期待には応えたい。

 

 

 

「よっし。じゃあ…………ホテル! 泊まろっか!」

 

「イェーイやったー!」

 

「や、やったー……っ!」

 

 

 

 

 実をいうと……心当たりがひとつ、思い浮かんだのだ。

 

 実際におれの思うとおりに()()が進むかはわからないが……だめでもともと、当たってみようと思う。

 

 

 

 やっぱ最終的には……その道に精通した方の力を借りるのが、いちばん確実なわけですよ。

 

 



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273【遠足計画】ゴーユートラベル

 

 

「ありがとうございます! すみません本当すみません、大切な休日のお昼どきに()()()()()お願いしてしまって……!!」

 

『いえ、お気になさらず。此方としてもどんな形であれ、木乃様の……『局長』のお役に立てるのなら、幸いです』

 

「いえいえこちらこそそんな…………オマケに、こんな……あの、ほんとに…………いいん、ですか?」

 

『私の上司に木乃様のポテンシャルを思い知らせるには、これが手っ取り早いかと思いまして。……勿論、木乃様の気が乗るのなら……ですが』

 

「ののっ、のっ、のります! 乗りますよこんなの!」

 

 

 

 日曜の午前にもかかわらず、いきなりの音声通話に出てくれたお相手は……現在のわたし(おれ)にとって数少ない、東京在住の知り合いである大田さん。

 つい先日、おれに三納オートサービスさんを紹介し、おれたち『のわめでぃあ』が活動範囲を拡げるの切っ掛けを与えてくれ、移動拠点(ハイベース)を借り受ける道筋を作ってくれた……広告代理店『ウィザーズアライアンス』の担当者さんだ。

 

 休日の朝いきなり送りつけられたおれからのREIN、しかも仕事とは全く関係のない内容――東京のホテル事情に関して訊きたい、などというおれのお願い――にもかかわらず、快く対応してくれた。

 おれたちの希望と予算にマッチする、たいへんステキなホテルを紹介してくれ……しかもしかもそれだけではなく、非常にオイシイ条件をも付けてくれたのだ。

 

 

「……御社事務所で、大田さんとミーティング…………という建前の()()()、ですか。……お茶をご馳走になるだけでわたしたちの知名度が上がるなんて、旨すぎるお話じゃないですか」

 

『ええ。いち視聴者である私の見解ゆえ、多分に贔屓目ではありますが……木乃様のビジュアルは、他に類を見ない類稀(たぐいまれ)()()があります。せっかく東京へお越しになられるということで……弊社の他の奴らと、特に私の上司にですね、『のわめでぃあ』の方々のお姿を見せ付けて頂ければな……と』

 

「…………その、お手柔らかにお願いしますね。……えっと……わたしはまだしも、あの子にとっては初めての場でしょうし」

 

『光栄です。……生『のわきり』が拝めると思うと、今からもう楽しみで楽しみで。お陰様で仕事も捗りそうです』

 

「大田さんクールに見えて結構()()人種ですよね」

 

『よく言われます』

 

 

 

 

 実をいうと……紹介してもらったホテルというのは、大田さんの勤める『ウィザーズアライアンス』社の保養施設(として客室利用権を購入しているホテル)ということらしい。

 

 会員制のリゾートホテルグループであるそのホテルは、全国各地の保養地に幾つものリゾートホテルを擁しており、会員として契約を交わした法人にそれらホテルの客室に泊まる権利を『年間合計○○泊まで』あるいは『半年あたり○○泊まで』のような感じで貸し与えているらしい。

 そのホテルとの契約内容に依るのだろうけど……たとえば年間三十泊コースだった場合は、一室を三十泊――もしくは二室を十五泊だったり、三室を十泊だったり――利用する権利が賦与されるらしい。

 

 

 今回大田さんが提案してくれたプランは、要するに『ウィザーズアライアンス』社が所有している『保養施設宿泊の権利』を、二泊分もおれたちに与えてくれるというものだ。……たぶん相当余ってたんだろうな。

 

 どのみちこの会社では元々その『年間○○泊』の権利を消化しきれていなかったらしく、このままでは今年度分の権利が三月末に自然消滅する見込みだったこと。

 会員権利の価格そのものは年額固定であり、実際に宿泊する際の実費は宿泊者本人(今回でいうとおれたち)の直接負担となる(※しかしそれでもグレードを考えれば周辺相場より圧倒的に安い)ので、『ウィザーズアライアンス』社としては何も痛手が無いこと。

 以上の理由から提案してくれた作戦であり…………いわく『私の名前で予約を入れ、木乃様ご一行を『商談相手』という形でご案内するのであれば、何も問題はありません。接待利用はホテル側も推奨しておりますので』とのこと。

 手慣れている大田さんがそう言いきるならそういうものなんだろうということで、お願いすることにした。

 

 

 そしてそして、その見返りとして要求……というか提案いただいたのが、大田さんの勤める『ウィザーズアライアンス』さんへ赴いての『顔見せ』というわけだ。

 なんでも……大田さんが白羽の矢を立てた『商談相手』を、同僚や上司に見せびらかしたいんだそうで。……おれにそんな価値あるのかなぁ。

 

 

 

『では……明日月曜から二泊、朝食ブッフェ付のプランで押さえておきます。チェックインは二十日の十五時以降、チェックアウトが二十二日の十時です…………宿泊費の方は一室二泊で……』

 

「…………うん。…………それで、お願いします!」

 

『承知しました。…………少々お待ちを……あっ、オーケーです。無事に予約完了しましたので、一応エビデンスをREIN(チャット)のほうへ送っておきます』

 

「ふへぇ……ありがとうございます、大田さん。……ほんと助かりました」

 

 

 

 都心の高層リゾートホテルに、二泊二食。金銭感覚がまだまだ庶民のおれにとって、これは決して安いお値段ではなかったけど……喜んでくれるであろう二人のひまわり笑顔が拝めるならば、これくらい安いものだ。

 それに実際、立地とグレードを鑑みると……あの内容で五桁で収まったのは、ある意味奇跡かもしれない。実際、大田さんの協力無しでは無理だっただろう。

 

 

『いえいえ。私こそ……()()に名前を呼んで頂けて、光栄です。それでは当日……もう明日ですね。お昼過ぎに弊社までご足労頂ければと』

 

「わかりました。品川区の住所で良いんですよね。……駐車場って、あります?」

 

『来客用平面駐車場を押さえておきます。車種は……()()車ですか?』

 

「はいっ。大変良い感じです。……そっちの方も、ほんとうにありがとうございます」

 

 

 

 そこからいくらか世間話して、今後の『のわめでぃあ』の作戦を(ネタバレにならない範囲で)お話しして……改めてお礼を述べて、音声通話はお開きになった。

 

 

 それから少し後、明日月曜日の行動タイムラインと宿泊先の詳細情報が綴られたメッセージが送られてきた。

 さすが、見た目クールなやり手の営業マン(濃いめ)だ、フォロー体制に抜かりがない。この人はぜったい仕事できる。将来伸びるひとだ。……コネありがてぇ。

 

 

 

 

 …………自撮り送っとこ。ぴーす。

 

 

 

 






※例の疫病が発生しなかった平和な世界でのお話です(遠い目)。



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274【遠足計画】抱き込み既成事実

 

 

 八代(やしろ)さんからのお返事もあり、先方のオッケーも頂いたので……おれと玄間(くろま)くろさんとの顔合わせやらミーティングやらヤンヤヤンヤの日取りが、二十一日火曜日の十時からに正式決定した。

 二泊三日の東京出張、その二日め。場所は東京都渋谷区にある『にじキャラ』運営会社さんの本社ビル。

 宿泊地が東京港湾エリアの一等地なので、ホテルからのアクセスも不便じゃない。……いや、東京都の密度ぱないわ。

 

 というわけでつまるところ、ミルさんの『運命の日』が決まってしまったわけだが……そういえばミルさんは宿泊ってどうすんだろ。一緒に行こう、とは言ったけど……それこそ『ここからあっちまで一緒に車に乗ってく』ってことしか決めてなかった気がする。

 

 

 …………いやいやいや。

 これ、もしかしてだけど……冷静に考えてヤバいんじゃなかろうか。

 

 

 

 

 

『そうですよね! うわあああどうしよう! うわー、ううー…………いつもは事務所の近くでホテル取ってて……その、一階のレストランのごはんも美味しくて、女性専用フロアもある行きつけのホテルがあるんですけど……そこ女性用大浴場あるし、男女でフロア別れてるから安心できるし、配信者(キャスター)の子たちも贔屓にしてるおすすめなんですよ。若芽さんも事務所に用があるときは…………って、ああもう! そういうことじゃなくてですね!』

 

「落ち着いてくださいミルさん。……つまり泊まろうとしてたホテル、泊まれないんですよね? むしろホテル予約取れないんですね?」

 

『そうなんですよぉ!! ぼく背丈こんなですし、成人済みって信じて貰えないでしょうし……身分証だってまだ無いですもん!! うー、あうー……わ、わかめさんおねがいです! あの……また車泊めてください! お願いします何でもしますから!』

 

「ん?」「ん?」

 

『うわびっくりした! いたんですかラニさん!?』

 

「へぃりぃミルちゃん。いたよーボクだよー」

 

 

 とりあえずミルさんの言質は取ったので、先程大田さんに送ってもらったホテルのURLを送信して共有する。

 ……というのも、ほかではない。予約を入れてもらったホテルはなんと、定員五名ツーベッドルームのすごいお部屋なのだ。

 なんとこちらのホテル……お値段体系は『一部屋いくら』で勘定される『ルームチャージ』形式というやつらしい。仮に一人で泊まっても五人で泊まっても、宿泊費用自体は変わらない。まぁ朝食代は人数分増えるわけだが。

 

 つまり元々、あと三人ぶんは増やせる余地があったわけだ。そこにミルさんが増えたとしても、何も問題はない。……むしろ楽しくなりそうなので、おれ的には大歓迎だ。

 

 

『うっ、わ…………すご…………え? ……えっ? 本当にいいんです……か……?』

 

「えーっと……ご自身のお食事代だけ出してもらえるなら、おれは全く何も問題ないですよ」

 

『い、いやいやいやそんな! ちゃんと宿泊費もお支払しますって! ……でも、若芽さんすごいですね……いったい総額お幾らするんですか……?』

 

「それがですね……二泊で合計…………こんな感じで」

 

『は? あっ、いえ…………で、でも五桁っておかしいでしょちょっと。二泊でしょう?』

 

「そう、二泊なんですよ。……つまり一人あたり負担とすると……これくらいです。二泊で」

 

『いや払います全然お支払します。マジで払います。こんな機会滅多に無いですし。……すみませんほんとう助かります』

 

 

 

 おれと霧衣(きりえ)ちゃんと(あとラニと)……そしてミルさん。四人で割れば一人あたりの負担もたかが知れている。いやぁルームチャージ制ほんと半端ねぇわ。

 しかし……そうだな。せっかくのメッチャゴーカルームなのだ。ここはもう一人メンツを揃えてみるべきだろうか。一人あたりの負担も下がるし。

 

 

 

 

『いやいやいや冗談でしょう!? 美少女だらけの中に男が一人って拷問以外の何物でもないっすよ!?』

 

「だ、だって! ミルさんは男の子だよ!?」

 

『あのナリで中身が女性だったら何の慰めにもなんないっすよ!!』

 

「じ、じゃあ! おれは中身ちゃんと男だから」

 

『今の先輩と同じ部屋で寝るくらいなら風呂場に寝袋で寝ます』

 

「あっ、リビングのソファがベッドになるって書いてあるわ。おれともミルさんとも別の部屋いけるぞ」

 

『えっ、マジすか。ちょっと前向きに検討して良いっすか』

 

「おうおう。ほれ、URL今送った。スゲーぞ」

 

『ウォォォォ何これスッゲェェェェェ!!』

 

(ちょろいぜ)(ぬるいぜ)

 

 

 

 こうしておれたちは、負担を更に減らすことに成功した。

 一人あたりの最終的な費用は二泊朝食つきで……なんと、ちょっと贅沢なビジホシングル並のお値段にまで下がったのだった。

 

 大田さんに予約訂正のお願いも済ませ、感謝の気持ちを込めて自撮りをもう一枚送信する。……あんなに喜んでくれるとは思わなかったもんな。大田さんの誤字は貴重だと思う。

 

 

 

 

 というわけで、これで明日からのプチ出張について、懸念はほぼ払拭できたと考えて良いだろう。

 総勢五名(うち一人は手のひらサイズ)、北陸旅行のときと同じ顔ぶれが揃っての、しかし今度は贅沢な高層ホテルステイが待っているのだ。

 

 

 ……ではここで、三日間の出張予定をおさらいしておこう。

 

 一日め。朝の九時頃にミルさんとモリアキを【門】で迎えに行き、揃い次第おれの(ハイベース)で一路東京を目指す。

 途中何度か(おしっこ)休憩や昼休憩を挟みつつ、十四時ころを目処に品川区へ。十五時から『ウィザーズアライアンス』さんで大田さんとお会いして、それが終わったらお待ちかねのホテルへと案内してもらって……そこからはおたのしみの時間である。

 

 二日め。ラニと霧衣(きりえ)ちゃん(もちろんおれも)お待ちかねの朝食バイキングを堪能し、十時から今度は『にじキャラ』さんの事務所へお邪魔する。……ここがひとつの山場だな。

 玄間(くろま)くろさんとの顔合わせもそうだけど……ミルさんの身に起きた『秘密』を、【Sea's(シーズ)】の方々に説明しなければならない。

 その日の夜は、村崎うにさんがなにやら張り切ってくれているようだが……ミルさんのことも含め、はっきりいってどう転ぶかはわからない。

 

 三日めは、特に予定は入っていない。とりあえず朝食バイキングは予約しているが……チェックアウト後の予定は、まるで未定だ。

 ミルさんの諸問題がどう転ぶかわからないし、行動できる余力は残しておいた方がいいだろう。

 何事もなく『めでたしめでたし』で終わったら……そのときは、東京観光なんかしてみても良いかもしれない。

 

 

 願わくば……この東京出張が、おれたちはもちろんミルさんにとっても良い結果で終わりますように。

 

 



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275【東京遠足】いきなり満身創痍

 

 

「ママーー!! だずげでママぁーー!!」

 

「ガマンしなさい! 男の子なんでしょ!!」

 

「無理ぃーー!! おれ女の子だから……お゛ん゛な゛の゛ご゛だ゛が゛ら゛む゛り゛ーー!!!」

 

「こういうときだけ『女の子』前面に押すのは卑怯っすよ!!」

 

「ああ!! だめ……だめ!! もう……おし、っ…………あーーーー!!」

 

「(爆笑)」

 

「(おろおろ)」

 

「(そわそわ)」

 

 

 

 

 今回の東京出張にあたって非常にはりきり同乗者にテキパキと指示を出し、喜び勇んで運転席に座り、意気揚々と拠点を出発し。

 最寄りの誉滝(ほまれたき)スマートインターから高速に乗り、ご機嫌な会話に花を咲かせながら東進すること……およそ一時間。

 

 

 県境を越えたあたりで……事件は起きた。

 

 

 

 

 じわじわと忍び寄る寒気を感じ、嫌な予感を感じ始めたおれの、高性能なエルフアイが見つめる先。

 見晴らしの良い片側二車線の高速道路、その進行方向に……ずらりと並ぶ黄色い点滅ランプの列。

 

 それは……全ての自動車に搭載されている、本来は左右への進行方向を周囲へとアピールするための機能。

 車両前後それぞれ右と左に搭載された点滅ランプ、方向指示器(ウィンカー)と呼ばれるそれを左右同時に点滅させることで、何かしらの異常事態を周辺ないし後続車両へと明示する、非常点滅(ハザード)表示灯(ランプ)と呼ばれるもの。

 

 

 高速道路上において、そのハザードランプが使用されるケースは、大きく分けて二つある。

 

 ひとつは……故障など何らかのアクシデントが発生した際、路肩に停車すると共に点滅させ、後続車両に自車の存在をアピールし二次被害を抑制するすること。

 そしてもうひとつは……渋滞の最後尾にて、後続車両に減速および停止を知らせること。

 

 

 そして今回はなんと……残念なことに、後者であって。

 つまりおれたちの進行方向には現在、交通渋滞が伸びているわけで。

 

 

 

 つまり。なんと。げんざい。

 

 おれの……なにがとはいわないがおれの、とある生理的な現象が、徐々に徐々にその存在を主張し始めているのであって。

 

 

 

 

「だずげでぇーーー!! 運転かわってママぁーーー!!」

 

「運転中はさすがにムリですって!! どっかで停車しないと!! サービスエリア無いんすか!?」

 

「あの……さっき『浜村サービスエリア』7キロ、って……」

 

「それあと何分ーーー!!?」

 

「うーん…………」「さぁ…………」

 

「わぁぁぁぁぁーーーーん!!!」

 

「(大爆笑)」

 

「(おろおろ)」

 

 

 

 通常であれば七分そこらで到着するはずなのだが……今はご覧のとおり渋滞だ。

 しかもたちが悪いことに……停車するわけではなく、のろのろゆっくりと少しずつ進んでいる状態。いっそ停止してくれていればババっと運転を代わってもらい、車内トイレに駆け込んでたすかることができるのだが……ゆっくりとはいえ進んでいるのであれば、当然それも叶わない。

 

 おれに残された選択肢は……現状では何分かかるかわからない『浜村』サービスエリアまで、この『おしがま』状態でなんとか辿り着くしかない。

 

 ……いや、配信者の演目として()()()()()があること事態は知っている。知っているが、それはおれがやるべきものではない。

 そもそも『おしがま』は……()()臓器に少なくない負担を掛けるものだ。つまり健康上よくないのだ。だからやっちゃだめなのだ。そうに決まっているのだ。

 

 

 

 そう、健康に悪いことなのだ。なのになぜ健康を害してまで我慢しなくてはならないのだ。

 

 

 

「…………先輩、いきなり黙んないで下さい怖いんで」

 

「…………モリアキ、おまえ確か……()()()()()()持ってたよな?」

 

「「(ぶふーーーーっ)」」

 

「「??????」」

 

「却下!! お気持ちはわかるけどヒトとして却下っす!! どのみちドライバーなんで無理ですって!!」

 

「そそっ、そうですよ若芽さん! さすがにこんなところじゃマズイですって!!」

 

「うわぁーーーーーーん!!!」

 

「「??????」」

 

 

 最終手段を無惨にも潰され……あとはもうサービスエリアまで十数分か数十分かを、冷や汗を垂らしながら耐えるしかない。

 もしくは全てを諦め、本能のままに解き放つか……いやいやだめだ、このお車は大切な借りものだ。これからこの車といろんな動画を作らなきゃいけないのに、その運転席にはおれのおしっ…………敗北の歴史が刻まれてしまうだなんて、そんなの許されるはずがない。

 

 

 おれが、いきのこる、しゅだん。

 つまりは、なんとかして尿意に耐える。

 もしくは、なんとかしてモリアキと替わる。

 

 

 耐えることが難しくなってきた以上、是非とも替わる作戦を実行したいところなのだが……やはりネックになってしまうのは、アクセルペダルを緩めるわけにはいかないということ。

 のろのろとはいえ走行中の車線でアクセルを離しては、後続車両に多大な迷惑と……ときには危険をばら蒔いてしまう。

 しかし現実問題として、アクセルペダルから足を離さずに運転を替わることはできない。おれはまだしもモリアキは一般成人男性なので、強化魔法による運動加速なんかは難しい。ペダルを離した一瞬でヒュヒュンと入れ替わることなんて不可能だろう。そもそも狭い。

 

 

 仮に……おれがモリアキと運転を入れ替わる間、アクセルペダルの踏み込みを維持できて、ついでにハンドルも固定できて……そんな仕組みがあるのなら、おれはたすかるかもしれないのだが。

 

 

 

「……なるほど。やってみよっか?」

 

「「えっ!?」」

 

「ノワが離れても……その、踏板(ペダル)? の角度と……その舵輪(ハンドル)? の位置をキープしてれば良いわけだろ?」

 

「そ、そう! そうしてくれればモリアキに替わってもらえて…………できるの!?」

 

「保証はないよ。ボクだってこんな(もの)駆ったこと無いし。……だけど」

 

 

 

 そういって……異世界出身の元勇者にして、おれの頼れる相棒は。

 普段はいたずらっ()を発揮してばっかで、ことあるごとにおれの身体にセクハラを仕掛け、まるでエロオヤジのような言動で……それでもおれが本当に困ったときにはちゃんと助けてくれる、優しくて心強いアシスタントさんは。

 

 

 

「相棒の危機を、ただ笑っていられるほど……落ちぶれちゃ居ないつもりだからね」

 

「ら、ラニぃ……!」

 

 

 

 不敵に、それでいて可愛らしく……なぜだか非常に安心感を感じさせる笑みを浮かべ、優しげに微笑んだ。

 

 

 

 

我は紡ぐ(メイプライグス)……【義肢(プロティーサ)】」

 

 

 ラニの作り出した魔力の塊――人体における両手と両足のはたらきを摸倣した拡張義肢――が、空中にいきなり姿を現す。

 ペダルを踏むおれの足のとなりに、なにやら反発力をもった物体が並んだ感覚。同様にハンドルを握る両手のすぐ隣にも、朧気な輪郭と濃い魔力を感じる。

 

 

「いまだよノワ。ゆっくり離して」

 

「んん……ッ! ふーっ、ふーっ」

 

「おっけー掴んだ。……気を確かに、ここで漏らしたら意味がないよ」

 

「おれは……ぜったい、おもらしとか、しない!」

 

「はいはい。じゃあ後ろいって……モリアキ氏、頼むよ」

 

「了解っす。……さすがハイエース、動きやすい天井高っすね…………よし。大丈夫っすよ白谷さん」

 

「ふたりともありがとおおおお!!!」

 

 

 

 ラニのアシストによっておれは運転席から解放され、危なげなくモリアキにドライバーを替わってもらうことができた。

 セカンドシートに座る白髪ペア(とても絵になる)が心配そうに見つめてくれるのに引きつった笑みを返し、通路を通って車内の防水マルチルームの扉を開け。

 

 据え付けられた装置の蓋を開き、ショートパンツともどもサックスブルーの下着(※漏水が無いことを確認)を引き下ろし、勢いよく腰を落とし…………

 

 

 

 

 

 

 

 

「……たす、かった…………ひぃ……」

 

 

 ペーパーでちゃんと水けを拭い、下着とショートパンツを引き上げ、装置のボタンを押して処理をして、据え付けの手洗い水栓でおててを洗い……マルチルームの扉を開け…………あれ、開いてる。

 

 

 何やらうすら寒いものを感じながら、車内キャビンへと戻ったおれは……とても微妙な空気の一同に、微妙な空気のもと出迎えられた。

 

 

 

 

「……あの…………もしかして……聞こえて……」

 

「えっと、あの……」

 

「その、わかめさま……」

 

「…………あのねぇ、ノワ……いや、まぁ、うん。……今度からは…………気をつけようね」

 

「………………」

 

 

 

 ミルさんは気まずそうにそっぽを向き、霧衣(きりえ)ちゃんは気まずそうにおみみを垂らし……モリアキの表情はわからないが、耳まで真っ赤に染まっているようだ。

 

 

 

「……溜まってた、ってやつなのかな」

 

「ヒゅっ」

 

「なかなかすごかったよ…………()

 

「…………ッッっ!!!!!」

 

 

 

 

 

 それから……およそ二十分後。

 

 危機を乗り越え、やっと到着したサービスエリア。

 その駐車場へと停車した車内はまるで……お通夜のような様相だったという(他人事)。

 

 

 



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276【東京遠足】片道五時間弱の末

 

 

「ほらほら先輩、東京インターっすよ東京インター!!」

 

「ぅおー……やっぱ車多いなぁー」

 

「ホラホラあれ!! 三軒茶屋って書いてありましたよ今!!」

 

「三軒茶屋!! なんか聞いたことある!! テレビで聞いたことある!!」

 

「先輩!! あれ! あのデッカいビル!!」

 

「ヒルズってやつか!? すっげデッケ!!」

 

 

 

 おれたちの暮らす浪越市は、いわゆる政令指定都市というやつである。その肩書きにふさわしい都会であり、駅前の高層建築郡は天を衝かんばかりだ。

 道路網も鉄道網もバッチリ整備され、高層ビルのオフィス街が広がり、基幹駅の付近には飲食店や飲み屋が軒を連ねる。

 申し分のない都会だと思っていたし、おれもかなり愛着ある街である。

 

 

 しかし……これを目にしてしまっては。

 高さも、密度も、慣れ親しんだ浪越市とは比べるまでもない、超高層建築の林立するさまを見せつけられては。

 

 

 

「………すっげぇなぁ、東京」

 

「でっかいっすねぇ…………東京」

 

「…………た、楽しそうですね……お二人とも」

 

「ミルさんは……あんま驚かないんですね」

 

「えぇ、まぁ。……()()()()前は、月に一度か二度は来てましたので。……といっても、ほぼ新幹線ですけど」

 

「「ほへぇー…………」」

 

 

 東越基幹高速からダイレクトで接続される、首都高速道路……われらが首都東京の交通と物流を担う大動脈は、ビルとビルの間を縫うように高架が架けられている。

 目まぐるしく変わる景色と遠くからでも見える巨大建築物は、レーシングゲームとかでもよく取り上げられる程度には楽しい風景だと思う。

 

 浪越市の都会っぷりに慣れていたつもりのおれたちでさえ、こうして『おのぼりさん』感が拭いきれないのだ。

 現代日本の都会の街並みに耐性がない子がこの光景をお見舞いされては……いったいどうなってしまうのか。

 

 

 

「……先輩、撮れてますか?」

 

「そらもうバッチリよ。和装美少女はじめての大都会やぞ」

 

「本当……絵に描いたように窓に張り付いちゃってますね……」

 

「おてて広げて『ぺたっ』てね。くっそかわいいが」

 

「「わかる」」

 

 

 お屋敷で大切に育てられた霧衣(きりえ)ちゃんと、異なる世界からやってきたラニちゃん。二人ともこの東京の風景を目にするのは初めてなのだろう。

 天高く(そび)え、どこまでも続く高層建築。サイズも種類も様々な、おびただしい数の自動車の群れ。数珠のように連なって橋梁の上を走る、ヒトを運ぶための鋼の箱。重々しい羽音のような騒音を立て宙を舞う、風車が生えた鉄の籠。

 ハイベースの車窓から見えるそれら『都会の光景』に、もはや声も出ないようだ。

 

 

 

 

「あったあった五反田。五反田! 五反田! ベッド! ダブルベッド!」

 

「五反田! はい降ります五反田! 新橋! 二酸化マンガン! ベーコンエッグダブルバーガー!! ……ミルさん、このあたりって土地勘あります?」

 

「…………えっ? いえ、あの…………すみません。東京っていっても……渋谷駅から事務所まで歩いたくらいしか……」

 

「了解っす。まぁナビに従えば着くっしょ。先方には連絡してます?」

 

「いま『五反田で降りました』って送ったよ。まぁここまで何度か送ってるし、把握してくれてるとおもう」

 

「うーっす」

 

 

 

 いよいよ車は高速道路から降り、長い長いトンネルから地上へ。都心ならではの密度の濃い大通りをゆっくり進み、車はやがて目的地付近……大崎駅近郊へと差し掛かる。

 カーナビが示す目的地までは、あとほんの少し。……いや、ここまで近づけば目視でも見てとれる。

 

 ゴールである『ウィザーズアライアンス』さんの事務所が入るビルのすぐ近く、REIN(チャット)に示されたコインパーキングに、大きな(ハイベース)をきちっと収める。

 ……魔法のアシストがないのに、見事に駐車マスに収めてみせた。モリアキやりおる。やりおるマンかよ。

 

 

「……っと、十四時半……三十分前か。まぁ許される……かなぁ」

 

「大田さんは何て言ってます? ここまで特にヤバそうなリアクション無いなら大丈夫なんじゃないっすかね?」

 

「あ、噂をすればだわ。……一階受付前で待ってます、だって」

 

「あぁ、なら大丈夫そうすね。行きますか…………行けますかね? 霧衣(きりえ)ちゃんは」

 

「きりえちゃーん起きてー。きりえちゃーん? 大丈夫ー?」

 

「…………はっ!?」

 

 

 あ、帰ってきた。よかった。

 箱入りのお嬢様には、あまりにも衝撃が強すぎたのだろうか。鶴城(つるぎ)の方々いわく、しっかりとした教育を施す前に実戦投入されてしまったとのことなので……いろんなことが未経験だったんだな。かわいいね。

 

 本来なら東京についての知識とか、現代の日本について色々教わるはずだったんだろうけど……まあしかたない。

 今はおれが、あの子の後見人であり保護者なのだ。一緒にいろんな経験を積ませてあげよう。

 

 

霧衣(きりえ)ちゃん、大丈夫? やっぱミルさんと車で待ってる?」

 

「だっ、大丈夫にございまする! ちょっとびっくりしてしまっただけにございますゆえ……」

 

「むりしないでね。……ラニちゃんは、大丈夫?」

 

「…………うん…………ごめん、大丈夫。……いやぁ、すごいね、トーキョ。……正直なめてたかも」

 

「でっしょー。スカイツリーとかも昇ってみたいよね」

 

「良いっすね。もうここまで来たら『わかめちゃん』を存分に見せ付けてやりましょうよ。歩く広告塔作戦」

 

「ふへへ……トレンドワード載っちまうかなー!」

 

 

 

 浪越市在住のおれだが、東京観光は数えるほどしかしたことがない。今回の予定全てが無事に片付いたら、ラニと霧衣(きりえ)ちゃんと……できればミルさんと(あと可能な範囲でモリアキとも)、東京の観光地を堪能してみたいものだ。

 

 そのためにも……今回の『やること』そのいち。

 広告代理店『ウィザーズアライアンス』さんへの……顔見せ兼『のわめでぃあ』の売り込み。

 

 

「よしじゃあ……いきますか!」

 

「「おーー!」」「お……おーっ!」

 

「が……がんばってきてくださいね!」

 

「ありがとミルさん! ちょっと待っててね!」

 

 

 フロントカーテンとシェードを下ろして目隠しを施したキャビンに、ミルさん一人をおるすばんで残し……もしものときはエンジンを回せるように鍵を預け、おれたち四人は(うち一人は姿を消して)車両をあとにする。

 

 おれたちのポテンシャルがどの程度のものなのか……いっちょ確めてみようじゃないか!

 

 



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277【東京遠足】スゴイアプローチ

 

 

 ……うん、めっちゃ見られてる。

 

 …………すっっごい見られてる。

 

 あーあー、霧衣(きりえ)ちゃんめっちゃぷるぷるしてる……悪いことしちゃったかなぁ。

 

 

 東京都は品川区、広告代理店『ウィザーズアライアンス』の事務所にて……おれたち『のわめでぃあ』三名(+小さくて見えない一名)は大田さんに先導され、お仕事中の皆さんの横を『ちょっと通りますよ』していった。

 というのも、この会社じたいはオフィスビル内のワンフロアにあるわけですが……会議室へと案内されるためには、必然的にワークスペースの隣を通る必要があるわけでして。

 

 

 

(すごいねノワ、まわりの視線独り占め……あいや、二人占めだね)

 

(おれはまぁ、大丈夫なんだけど……霧衣(きりえ)ちゃんがなぁ)

 

(ボクが肩のってるよ。周りにバレないようにこっそり声かけてる。ちょっとでも安心してくれるといいんだけど……)

 

(ありがとラニ。よく気が回るね)

 

(なんのなんの。ここからだと和服の胸元から覗くふくらみかけが)

 

(おい)

 

 

 

 多くの目に見つめられる中、おれたちは会議室のひとつへと通される。

 扉が閉じたことで、とりあえず安心感は感じられるようになったけども……しかし、なんだ。この会議室はなんていうか……スケスケなのだ。ちょっとおちつかない。

 

 

(ねぇーノワー! すごいよこれ! こんな透明ででっかい透板(ガラス)! スゴイデカイ!!)

 

(はいはい落ち着いて…………ガラス叩くんじゃありません! 落ち着きなさい! ほらもぉ向こうのお兄さんめっちゃギョッとしてるじゃんほらぁ! ラニちゃんメッ!!)

 

 

 都心のオフィスビルは、もしかしてこれが標準仕様なのだろうか。会議室の周囲を囲うのは……壁というか、でっかいガラスだ。

 ビルそのものの壁に接する一面と、内装として設けられた壁……その二面を除いた他の二面、入口ドアのある面までもが、ピッカピカスッケスケのガラス張りなのだ。

 ……いや一応、真ん中くらいの高さは曇りガラスになってるか。目隠しになってるんだな。

 

 

 

「……さて。早速ですが……まずは遠いところをご足労いただき、心より感謝致します。……キリエ様は、お初にお目に掛かります。株式会社ウィザーズアライアンス……新聞屋のような事業(こと)をしております、大田と申します」

 

「は、はいっ! きりえ、ですっ!」

 

「えっと……この度はお招きいただきまして、恐縮です。改めまして、木乃若芽(きのわかめ)です。……すみません、芸名ですが」

 

「マネージャー兼広報担当、烏森(かすもり)です。……その節は、お世話になりました」

 

「ええ。……今週末ですよね。私個人としても、応援しています」

 

「がんばりますよー。いちおうこれまでもメールで打ち合わせは進めてますけど、木曜に多治見(たじみ)さんのとこへお伺いする予定です」

 

 

 そう……今週末、二十五日土曜日と二十六日の日曜日。おれたちにとっても非常に馴染みのある臨海展示場で、全国規模のキャンピングカーイベントが開催されるのだ。

 まあもっとも、事前搬入とか設営とかスタンバイ全般は多治見(たじみ)さんたちのほうで担当してくれるらしいので、おれに求められてるのは当日のコンパニオン……とはいえセクシーさなんて望むべくもないので、要するに客寄せパンダだ。

 見映えする衣装を着て、ブースに足を運んでくれたお客さんの対応をして、幾つかのヒアリングを行った上で、多治見(たじみ)さんたち営業スタッフへと引き継ぐのが主なお仕事である。

 年末の鶴城(つるぎ)神宮でのアルバイト経験が活きるわけだな!

 

 

 

「……さて。本来の目的である『顔見せ』は、無事に完了してしまったわけですが……」

 

「あっ、ほんとに『こんにちわ』するだけで良かったんですね」

 

「えぇ。ご覧の通り……フロアじゅうの視線と話題を独り占め……いえ、二人占めですか」

 

「ブフッ。あっ、いえ……すみません」

 

(なにわろてんねん)

 

(だれのせいよ)

 

「……?? ……えっと、まぁ……実際のとこ、大変注目して貰えたみたいっすね」

 

「えぇ。ざっと見たところ……理容系と化粧品類と、服飾系と……子ども向け商品全般の担当者が、あからさまに目の色変えてましたね」

 

「こど、っ」

 

「あぁー……」(あぁー……)

 

「それで、ですね……ものは相談なのですが」

 

「あっ、はい」

 

 

 

 まぁ……子ども向け商品のくだりは、あえて気にしないことにしておこう。実際おれの身体が可愛らしい女の子であることには変わりないし。事実なわけだし。ふふん。

 

 

 それでそれで、大田さんからの相談……それはまぁなんのことはない。まわりでお仕事中の他の営業担当さんたちへ、おれの『コマーシャル』も兼ねてひと芝居打とうということらしい。

 

 芝居といっても、そんな手の込んだものじゃない。

 まず『おれたち人数分の飲み物を持ってくる』という名目で大田さんが席を外し、その後をおれが『お手伝いします』という体でついていく。

 フロアの片隅……オフィススペースと会議スペースの間くらいに設けられたフリードリンクの自販機で、四人分(ラニごめん)の飲み物を調達しながら、こちらを窺っているであろう営業の方々へ『わたし』の可愛らしさをアピールする。……といった感じだ。

 

 大田さんは『わたし』のような可愛いくて良い子な配信者を見つけて、しかもビジネスパートナーとして良好な関係であることをアピれて鼻高々。

 一方の『わたし』は自分のセールスポイント、ならびに『案件募集中です!』ということをさりげなーくアピれて万々歳……というわけである。

 

 

 ……と、いうわけで。ここからは単なるボーナスステージだ。

 おれが愛想を振り撒くだけで、案件が向こうからやってくる(かもしれない)。まったくオイシイお話だぜ。

 

 それではボーナスステージ、いってみよう。はい、キュー。

 

 

 

「大田さん大田さん、わたしもお手伝いします。一人でカップ四つは無理でしょう?」

 

「あぁ……すみません、木乃様。()()()()()()に働かせてしまって。何になさいますか?」

 

「いえそんな! わたしなんてまだまだ『()()()()()()()()()()()ですし、今週末のお仕事も()()()()()()()()()頂けたわけですし……あっ、わたし『いちごオレ』でお願いします。あと烏森(かすもり)さんはアイスコーヒーで」

 

「かしこまりました。木乃様は……()()()()()()に届いても良い頃だと思うのですが」

 

「あと一息なんですけどねぇー……ですのでわたし、()()()()()()()()()ですよ? ……というわけで、何かありませんか大田さん、わたしがんばりますよ! 他ならぬ大田さんのためとあらば!」

 

「そうですね……ちょうど幾つかご提案が。霧衣(キリエ)様と併せて」

 

「ホントですか! ()()()()()()()()()()()()()()()()!? わぁ、連れてきてよかったぁ! ……あっ、霧衣(きりえ)ちゃん『抹茶オレ』で。甘い抹茶は多分初めてなので、きっとかわいい反応しますよ? 見ものですよ?」

 

「それは楽しみです。……ではお二人も待たせていますし、戻りましょうか」

 

「はいっ! よろしくお願いします!」

 

 

 ちらーっと補足しておくと……配信者(キャスター)を起用する企業案件の相場は――もちろんプロモーション内容や契約にもよるが――一般的に『登録者数×(かける)1~1.5』と言われている。

 そして先程アピールした通り、おれの配信者(キャスター)クラスはまだまだ『オブシディア』であり……そして『まだ五万に届いていない』のであって。

 つまるところ……最大限高く見積もっても、五万から八万弱。それが『のわめでぃあ』所属メンバーが案件をこなす上での予算なのだということを、ひっそりとアピールすることができたわけだ。

 

 

(さーっと回ってみたけど……効果すごいよ。みんなノワの話に興味津々って感じ。提案してみるかーとかアポ取ってみるかーとかいう声も聞こえた)

 

(まじで!? あとでメールフォーム確認してみよ……)

 

(あとやっぱ……まぁ、案の定なんだけどさ?)

 

(な、なあに……?)

 

(ふふ…………『かわいい』とか『めっちゃかわいい』って声がいっぱいで。良かったね?)

 

(ンフゥ~~~~)

 

 

 もし両手が飲み物で塞がっていなかったら……おれは顔を覆ってじたばたしていたかもしれない。

 この身体(わかめちゃん)が可愛いのはよーく理解(わか)っているし、つまりおれが『かわいい』って言われるのも仕方のないことなのだが……それはもちろん嬉しいのだが、やっぱりどうしても気恥ずかしさは残ってしまう。おれは男なので。

 

 

(は?)

 

(いや、は? じゃないが)

 

「……? どうかなさいましたか? 木乃様」

 

「なんでもないです! ……えへへ、きれいなオフィスだなって」

 

「それは…………恐縮です」

 

 

 

 こうしてひと芝居を終えたおれたち二人(+ラニちゃん)は、モリアキと霧衣(きりえ)ちゃんの待つ会議室(スッケスケ)へと戻ってきた。

 お飲み物をみんなに配り、お礼をいって口をつけ、予想通りのカワイイムーブを目に焼き付け……会議室はホンワカ和やかな空気に包まれる。

 

 それからは近況について雑談しながら、先日のFPEX(ゲーム)コラボの感想を聞かせてもらいながら……商談というよりかは幾分ユルい話の席だ。

 

 

 そのさなか、話し半分に大田さんが現在抱えている案件を幾つか見せてもらった。

 大田さんも『気になる案件(もの)があれば担当者と繋ぎます』なんて軽く言っていたけれど……あの、ちょっと。

 

 

 あの……これみよがしに『若芽様』『霧衣様』『白谷様』って、ご丁寧にファイル分けしてあるんですけど。

 

 

 

 最初からおれ(たち)に向けてアプローチするつもりだったんですね!

 なんていやらしい!!!(歓喜)

 

 

 





【お品書き】

●実在エルフ配信者(天然)
¥50,000~


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278【東京遠足】突撃マーケティング

 

 

 おれと霧衣(きりえ)ちゃんと……あとなんと、ラニへ向けての案件のお誘い。

 それぞれの数こそ決して多くはないが、おれたち三人それぞれに向いている案件を見繕って纏めてくれるなんて……そんなにおれたちのことを見てくれているのだと思うと、なんだかとても嬉しくなってくる。

 

 もちろん、ここにあるのはあくまで『概要』のリストだ。クライアントとなる企業名も案件の詳細もぼかして書いてあるので、せいぜいが『商品ジャンル』と『プロモーションの概要』くらいしか書かれていない。

 そもそも企業さんから正式な打診があったわけでもなく、大田さんが抱えている――つまり企業さんから『こんなプロモーション考えてるんですが、良い子いませんか』と持ちかけられた――案件を、チラ見せしてもらっているだけだ。

 しかしそれでも、軽く目を通させてもらった限り……ちゃんとおれたちの特徴をきちんと活かせそうな案件が並んでいた。

 

 

 たとえば……霧衣(きりえ)ちゃんなんかわかりやすいな。インスタント食品(和食)のコマーシャルや、御中元商戦に向けたプロモーションのイメージキャラクター、あとは……あの、ペット用アイテムの販促ポスター撮影なんかもあるんですが。

 いえ、確かにこの子は(いぬ)()として打ち出していますけども……まさか霧衣(きりえ)ちゃんに首輪とかつけるわけじゃあるまいな。お父さん許しませんよ。あと詳細は避けるが神罰が下るぞ。

 

 一方でおれのほうには……ものの見事に子ども用商品のプロモーションだな。仕方無いか、身体年齢的には十歳前後だもんな。もろJSだもんな。

 文房具に子ども服に学習塾に……あとは食品コマーシャルの子ども役とか、旅行会社コマーシャルの子ども役とか、百貨店コマーシャルの子ども役とか……ちょっと大田さんや、これ子役欲してる案件入れまくっただけやろ。

 それと、なんですかこの『変身ヒロイン玩具』って。ぷちきゅあですか。さすがに十歳は対象年齢外でしょ。

 

 そして……今日この場には不在(ということになっている)のラニちゃん向けの案件は……テーマパークの大規模電飾イルミネーションの紹介動画と、あとは意外なことに化粧品や美容用品のコマーシャル。

 なるほど、『魔法のような効果』ってことをアピールしたいのだろうか。主役じゃなくて魔法使い役かな。……なるほど、適役かもしれない。

 

 あぁ、ちなみにここでいう『コマーシャル』とはあくまで『宣伝全般』のことで、テレビコマーシャルとはまた別物だ。

 ……テレビなぁ、あれは別次元だよなぁ。

 

 

 

「……とまぁ、軽く目を通していただきましたが……勿論先方にはこれから提案するわけですが、この中で『これはNG』というものはありますか?」

 

「ブフッ、あっいえ、スマセン……『どれなら出来そうか』とかいうんじゃ無いんすね」

 

「そうですね。私個人としても、なるべく多く打診してみたいなと」

 

「あの大田さん、すみません……霧衣(きりえ)ちゃんの『ペット用アイテム』って……」

 

「あぁ、ご安心下さい。具体的にはまだ明かせませんが……(よう)は『飼い主』役ですので」

 

「はふ……よかった。…………じゃあわたしは……特には大丈夫です! わたしにできるオシゴトなら、なんだってがんばりますので! どうかお願いします!」

 

「わ、わわっ、わう……わたくしも! わたくしも、若芽様のお役に立てることがございましたら……!」

 

「ありがどぎりえぢゃんンン!! ウゥ……ちゃんとわたしもちゃんとケアするからね……いっしょにオシゴトがんばろうね!」

 

「えへへ……若芽様ぁ」

 

「おぉ……(てぇて)ぇ……」

 

「わかります」

 

 

 

 ……っと、まぁ、このあたりの会話なのですが……じつはですね。

 わたくしの叡知の魔法をこっそり使って、ガラスの振動数をチョチョイと弄ってですね、音を少しだけ伝えやすくしてましてですね。

 

 わたしたちが大声出したあたり……わたしの『特には大丈夫です!』発言から『いっしょにオシゴトがんばろうね!』のあたりまで、不自然じゃない程度に外に漏れるよう工作してましてですね。

 

 

(どう? ラニ。反応してるひといる?)

 

(いい感じいい感じ。ノワのプロフィールページ見てるひとめっちゃいる。何人かは今動画見てくれてるよ、あの『スケベモーニング』とか)

 

(ねえなんであれスケベっていわれてるの!?)

 

(やっぱ下手に『動画』って気取らずにさ、ユル~いオフの様子を映すほうがウケるのかな。スケベだし)

 

(ねえなんでスケベなの!?)

 

 

 ……と、とにかく。

 おれの目論み通り、多くの方々がおれたち『のわめでぃあ』に興味を持ってくれたようだ。会議室のガラス越しなら聞こえないと思ってか、あちこちでおれたちの噂をしてくれているみたいなので……あとでラニに訊いてみよう。

 

 大田さんのほうからも、さっきの案件の企業さんへおれたちを提案してくれる(とはいっても候補のひとりとして)らしいので、そちらも期待したいところだ。

 

 

 ふと大田さんが時計へと目を遣り、つられておれたちも時刻を確認すると……現在時刻は、もうすぐ十六時。なんともいい時間である。

 

 

「それでは、()()も達せられたことですし……そろそろお開きとしましょう。ぜひごゆっくりお休み下さい」

 

「ありがとうございました、大田さん。……案件のほうも、どうか宜しくお願いします。なんなら相場の半値でも良いので。浮いた分御社の取り分でも良いので!」

 

「そこまでの不義理はしませんが……ありがとうございます。先方へも提案し易くなるでしょう」

 

「すみません、お世話になります。……コーヒー、ご馳走様でした」

 

「お、ッ……お茶、ご馳走さまでございました!」

 

「いえいえ。お粗末様です」

 

 

 

 大田さんとおれたち三人はそれぞれガッチリ握手を交わし、良好な関係をアピールしつつ、再びフロアじゅうの注目を浴びながら退室する。

 エレベーターホールまで見送りに来てくれた大田さんに改めてお礼の言葉を告げると……クールな彼にしては珍しく『ニヤリ』と笑みを浮かべ、悪巧みが成功した子どものように喜んでくれた。

 

 

 

「場所は解りますか?」

 

「大丈夫です。住所も聞いてますし、あのでっかい門構えですよね」

 

「まぁ……良い目印っすよね」

 

「わかりました。ではまた近いうちに……朗報をお届けします」

 

「わあ心強い。……それでは、また」

 

 

 

 おれのようなちんちくりんに最敬礼を取る大田さんを残して、エレベーターの扉がゆっくりと閉じ……今度こそ間違いなく『ひと仕事おわった』のだ。……いやほぼお茶してただけだが。

 

 

 なのでこの後は車に戻り、そのあとは……もうおわかりですね!

 

 待ちに待ったおたのしみ……リゾートホテルなわけですよ!!

 都心の会員制リゾートホテル……きっと各界の著名人とか、経済界の重鎮とか、そういうすごくすごいひとがよく使うホテルなんだろうな!

 それだけランクの高いホテルなんだろうな!

 

 ギャワーたのしみ!!

 

 

 

 

 










「……あっ、お父様(パパ)! お帰りなさい!」

「……! ………!!」

「あぁ、ただいま『リヴィ』、それに『アピス』。……『ソフィ』は、相変わらずかな?」

「うん、可愛い顔してずーっとスヤスヤ。……せっかくゴーカなホテルなのに、もったいない……よく飽きないね」

「それがあの子の『願い』だからね。……二人は、何か不自由は無いかな?」

「……!! …………、……! ………!!」

「……いや、しょうがないって、あたしから見ても食べ過ぎだったもん。……ねぇお父様(パパ)、やっぱつくしちゃんには質よりも量だって。一皿何千円のお料理を目の前で食べ散らかされちゃうと……ちょっと、見てるだけで胃が痛いわ」

「ふむ…………そうかい。……解った、手配しよう」

「うん。……それで、それでね? あたしの食事(パパ)のほうは……」

「……そうだね、()()なら良いだろう。くれぐれも、面倒事は起こさないように」

「やったー!! ……んふふっ。久しぶりだなぁナマ……んふふふふ……」

「…………、…………。……、…………?」

「あぁ。上手く行ってるよ。心配してくれてありがとう、『アピス』」

「!! …………♪ ……!」

「……さて、それでは……もう少ししたら『ソフィ』を起こしに行こうか。いくらあの子の『願い』とはいえ、ヒトは食べねば死んでしまうからね。……だろう? 『アピス』」

「……! …………♪ ♪」

「あたしも楽しみ! せっかくゴーカなホテルのディナーだもん……食べてから『食事』に行く!」

「それは良かった。…………()()も順調に進んでいるからね。今夜ばかりは、水入らずの食事を楽しむとしよう」






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279【東京遠足】ゴーユーホテル!

 

 

 まず、はっきり申し上げましょう。

 わたくし木乃若芽(きのわかめ)……もとい、本名安城雅基(あんじょうまさき)三十代一般成人男性でございますけれども……都心の豪華なホテルなんて、泊まった経験あるはずがなくてですね。

 

 一般男性のお手軽旅行なんて、ほとんどが安価なビジネスホテルだし。

 仲間内での旅行だって、だいたいは民宿とか……たまに贅沢して温泉旅館とか、とにかく郊外に遠出することがほとんどだ。

 

 

 そんな中で……都心の、ベイエリアの、高層建築の、こんな豪華なホテルなんて……初めても初めてだ。

 入り口でドアマンが待ち構えているホテルなんて……屋根の掛かった玄関前まで直接車を乗り入れられて、到着するや否や恭しく出迎えてくれて、お荷物を運ぶのを手伝ってくれるホテルなんて、少なくともおれは初めてだった。

 

 霧衣(きりえ)ちゃんやミルさんを出迎えたときだって、顔色ひとつ変えずに穏やかな笑みで、きびきびと気持ちの良い動作でエスコートしてくれる。

 ドアマンのお兄さんからして、すばらしい接客だ。……さすが豪華なホテルなだけはある。

 まぁ……運転席に座るおれ(見た目十歳エルフ幼女)を見たときは、さすがに『ぎょっ』としていたようだけど。ふふん。

 

 

 その後おれは、この大きな車を置くための駐車場へ通されたわけだが……す、すごい、とても背が高い車なのに入れる。地下駐車場でこれはちょっと感動的だ。

 しかし……周りに停められてる車がことごとくツヤツヤしてカッコいい高級車ばっかりなので、ちょっと……いや、かなり場違い感がすごいかもしれない。だってハイエースだし。……いやハイエースだってカッコいいし。キャンカーだから高級車だし。

 

 などと誰にも何も言われてないのに張り合いながら、かばんを引っ提げて車を降りる。鍵を閉めるのも忘れない。ピピッとな。

 そこからはほんのり光る案内看板に従い、曇りひとつなく磨かれたガラスの自動ドアをくぐり、地下駐車場とは思えぬ豪華さの階段を昇っていく。

 するとそこには……磨き上げられた大理石で彩られた絢爛なロビーと、ビジホとは全く異なる宿泊者受付スタイルが待ち構えていた。

 

 

 

「あっ、若芽さん!」

 

「先輩、こっちっす」

 

「はわわわわわわ」

 

「ご、ごめん、おまたせ……」

 

 

 見るからに高価そうなソファに座らされた三人は、皆がみんな完全に場の空気に呑まれており、ラニに至っては先程から一言も言葉(思念)発し(送っ)て来ない。……しんでんじゃねえか?

 

 一階フロア、正面エントランスの片隅に設けられた受付……いやこれ『受付』っていうよりは、わたしの貧相な記憶からサルベージした限りでは『ラウンジ』という表現が近いですかね。まぁとにかく宿泊者代表であるおれは、これまた重厚感あるローテーブルと一人用ソファに案内され、住所と名前と車種とナンバーを記入する。宿泊者はおれの名前……というか芸名である『木乃若芽(きのわかめ)』で記入して良いらしい。

 

 事前に大田さんから聞かされていた限りでは……なんでもこのホテルは、それこそVIP(ぶいあいぴー)な方々がお忍びで利用されることも多いため、そういった方々なんかは偽名で泊まることもよくあるのだとか。……まぁ一部芸能人のひとたちとかかな。普段から芸名だもんな。完全会員制で予約者と紐付けしてあるからこそのユルさってことだな。

 

 とりあえずおれはこの身体(アバター)の性能を遺憾なく発揮し、このような場であっても(表面上は)平静を装いながら館内の説明を受ける。内心は気後れしそうっていうか実際してるんだが、お利口な頭脳とお耳はバッチリその性能を発揮中だ。

 しかしながら、おれみたいな突飛な容姿の小娘相手であっても、丁寧に耳心地のよい説明を続けてくれるホテルマンの男性は……なかなか見上げたプロ意識だ。こんな緑ロリ銀ロリ白ロリと成人男性の団体とか意味不明すぎるだろうに。普通ドン引きして然るべきだろうに。

 

 

 まぁ何はともあれ、無事にチェックインの手続きも済ませることができた。

 部屋番号のレーザー彫刻が施されたアクリル角棒の、なんというか『THE・ホテルのルームキー』といった風体の鍵を二本預かり、ホテルマンのおにいさんに先導されてエレベーターへと案内される。

 

 しばらくしてやってきたエレベーターは……これまたなんていうか、すごかった。すごすぎて霧衣(きりえ)ちゃんとラニは軽く気絶しそうだった。

 しかし……それも無理からぬ話だ。照明とガラスをうまく配置したエレベーター内は、ただでさえきらきらと煌めく幻想的な空間となっており……しかもそれだけではなく、正面の壁には大きなガラス窓が設けられていたのだ。

 まだまだ日の短い日々が続き、陽は既に傾き沈みつつある。夕日に染まる空のグラデーションと、少しずつ遠のいていく街の灯りがただただ幻想的で……とても感動的な光景だった。

 

 

 やがて辿り着いたのは、地上十九階。加速度をほぼ感じさせない緩やかな減速でエレベーターは到着し、滑らかに扉が開く。

 放心したままの霧衣(きりえ)ちゃんをゆすって起こし、同様のラニを指でつまんでおれの肩に乗せて、エレベーターから降りて廊下へ。

 やたらふかふかした感触の廊下に軽くビビりながら、ルームキーに刻まれた部屋番号を探す。

 

 

「いちきゅーまるなな、いちきゅーまるなな……」

 

「じゅうに、じゅういち、じゅう…………」

 

「はーち、なな! ありました! どきどきしますね烏森(かすもり)さん!」

 

「……? …………あぁ、そういう。……いちおう公共の場っすもんね。了解しました、若芽(わかめ)さん」

 

「あぁー……大変そうですね、若芽さんは」

 

「へへ…………」

 

 

 いやいや、ミルさんの方こそこれから大変だろう……とは言わずに、おれは鍵を差し込みドアを開ける。

 するとそこには、いつの間にか(とはいってもおれが署名している間だろう)運ばれていた、おれたち全員ぶんの旅行かばん……車から皆が降りたときに台車に載せられていた荷物たちが、きちんと届けられていた。

 

 

 

 そして……それら荷物が寄せられた、客室エントランスの、その向こうがわには。

 

 おれたち一行への『接待』として大田さんが確保してくれた、東京ベイエリアのリゾートホテル……ツーベッドルームとリビングスペース、独立した水回りを備えた豪華な客室が、落ち着いた大人の雰囲気と共に待ち構えていた。

 

 

 



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280【東京一夜】ビール飲むエルフ

 

 

 とてもすごい(クソザコ語彙力)ホテルならではのサービスとして、おれが謎の憧れを抱き続けていたのが……ずばり『コンシェルジュ』と呼ばれるサービスだ。

 豪華ホテルに常駐しているコンシェルジュとは、要するに頼めばなんでもやってくれる存在(※語弊あり)……つまりは実質、執事さんである(※語弊あり)。

 対応できるお手伝いの範囲は、施設の規模やユーザーのランクや宿泊プラン等にもよるのだろうが……幸いなことに、おれが望んでいた対応は問題なく行っていただくことができた。

 

 

 おれの今回のお願い内容、それはずばり『完全個室のある料理の美味しい居酒屋を教えてほしい』というもの。

 考え方によっては、いくつもの館内レストランを擁するこのホテルに喧嘩を売るかのようなお願いなのだが……例によって人当たりの良さそうな笑みを浮かべたナイスミドルのおじさまは、嫌な顔ひとつ見せずにシュババババッとお店を探してくれた。

 タブレットを駆使して幾つか候補をピックアップし、おれへ幾つか質問を投げ掛け、おれが答えるごとに候補を絞り込んでいき……最終的にはお店に電話で問い合わせ、その場で個室席の確保も(もちろんおれの同意のもとで)済ませてくれて、お店の詳細をプリントアウトしてくれて、更にはタクシーまで手配してくれた。

 ……ここまで、ほんの五分そこら。おまけに追加費用は一切不要。ありがてぇ。

 

 

 

 

 というわけで。おれたち四名(+姿を隠した小さな一名)の珍妙な一団は、宿泊しているホテルから程近い海鮮居酒屋『魚有(うおもち)』さんへとお邪魔している。

 

 タクシーの運転手さんにお礼を言ってお金を払い領収書を受けとり、『よかったら帰りもお声かけを』とお名刺も頂戴し……あっという間に到着しました『魚有(うおもち)』さん。

 ホテルからの事前連絡によって、お店の方々も前もって覚悟してくれていたのだろう。緑髪銀髪白髪ロリトリオを目の前にしても平静を欠くことなく、少なくとも表面上はにこやかに対応してくれていた。……なかなか見上げたプロ根性だ。

 

 そうして通してもらった、お店の奥のほうの個室席。よくある可動間仕切りの個室ではなく、ちゃんとした壁で仕切られている、完全な個室だ。

 本来は六人卓がふたつの十二人用個室のようだが……どうやらおれたちの意図をきちんと理解してくれていたらしく、一部屋全部お借りして良いらしい。……ちょっと申し訳ないが、ありがたい。

 

 おれたちの……見るからに常識はずれの一団の会話は、ちょっとよそ様にお聞かせするわけにはいかない内容を多分に含んでいるのだ。

 

 

 

 

「はい、それじゃー……お飲みものは全員行き渡りましたかー?」

 

「「「はーーい」」」「は、はいっ」

 

 

 卓に備え付けのタブレットで『ずばばばーーっ』と注文し……最初の飲み物が届けられ、全員の前にグラスやジョッキが立ち並ぶ。

 おれとモリアキは堂々と生中、きりえちゃんが抹茶ラテ、ミルさんは……年齢的にはセーフなのだがあまり飲めないほうらしく、ウーロン茶と渋めのチョイス。……社会人らしい。

 

 六人掛けのテーブルを囲み、各々の飲み物グラスを掲げ……なんとなく場の勢いで挨拶を請け負ってしまったおれは、開き直ってそのまま会食の火蓋を切った。

 まぁさいわい、この場の面々は全員身内のようなもんだ。気恥ずかしさも気負いすることもそんなに無い。

 

 

「予定のひとつも無事終えて、あとは明日の『にじキャラ』さんとのミーティングが残ってるわけですが……まあ翌日に残さない程度に、楽しく騒ぎましょう! それでは……かんぱーい!」

 

「「「かんぱーい!」」」

 

「……っ、ぱーい!」

 

((((かわいい……))))

 

 

 身体が()()なってしまったお陰でなかなか飲むことができないでいた、キンキンに冷えた居酒屋さんの生ビール――久しぶりに味わう刺激と、苦味の中に隠された旨味とコク、喉の奥底からカーッと上がってくる酒気――それを存分に味わいながら、可愛らしくソフトドリンクへと口をつける二人を眺めて堪能する。

 

 ウーロン茶を呷るミルさんは……小さく幼げな容姿でありながらその()()ゆえかとても大人びて見え、その見た目と所作のギャップがまた魅力的。

 一方で、抹茶ラテへお口をつける霧衣(きりえ)ちゃん……こちらはこちらで極めて分かりやすく、()()()ととろけた表情とぱたぱた揺られるお尻尾が、声に出さずとも彼女の感情を余すところなく表している。

 入口からは死角になる位置で、おれのジョッキに顔を突っ込んでビールを盗み飲みしてるラニちゃんも……どうやら現代日本の生ビールはお気に召したようで、おしり丸出しにしながら身を乗り出して直飲みの構えだ。うーん豪快かつセンシティブ。

 

 

 

「失礼しまァす! 刺盛(サシモ)り五人前とダシ巻き玉子、揚げ出し二つに蛸唐(タコカラ)にサーモンマリネ、そして(サバ)の塩焼きになりあァす!」

 

「あっ、ありがとうございます!」

 

「お嬢ちゃん可愛いねぇ! いっぱい食べてってねぇー!」

 

「はい! いっぱい食べます!!」

 

 

 はきはきと感じの良いお姉さんによって、美味しそうな料理がドバババッと運ばれてくる。

 なんでも一宮(コンシェルジュ)さんいわく……すぐ近くの豊須(とよす)市場でぴちぴちの海鮮を直接仕入れているらしく、特に魚介類を扱う品々はとても評価が高いらしい。

 ちなみに魚介類以外も評価が高いらしい。なんじゃそりゃ無敵か。

 

 

「ヴッメ!! え、これブリっすかね……ウソでしょめっちゃ美味いっすよヤッバ」

 

「うわほんと、脂のノリすご……醤油皿に脂が融け出るって、相当ですよ」

 

「ねぇなにこのタマゴヤキ! めっちゃふわふわ! ふわふわ! ねぇなにこれ!」

 

「んんぅー……っ! お出汁(ダシ)が……これはお出汁(ダシ)がとても……上質なおつゆが染み染みで……っ!」

 

 

 あ、うん。無敵だった。

 

 みんながみんな美味しそうにお料理をパクついていき、それに伴いニコニコ顔が広がっていく。

 お料理をガツガツ掻き込みグイグイとビールを呷るモリアキと、いろんな種類のお刺身を順番に堪能しているミルさん、プロが作るダシ巻き玉子に感動しつつ舌鼓を打つラニに、そのプロの技を少しでも盗もうと真剣な表情で箸を進める霧衣(きりえ)ちゃん。

 もちろんおれも、おいしいお料理と生ビールを堪能させていただいている。四膳のお箸がお料理をどんどん減らしていく様を眺めながら、おれ自身の頬が緩むのを自覚する。

 

 

 やっぱり……気心知れる仲間と楽しむ酒の席は、とても楽しい。

 

 

 

「ゥお待たせしましたァ! こちら焼き物が(サケ)ハラスと帆立(ホタテ)醤油バターとイカのポッポ焼、こちら七味マヨお好みでお使い(くだ)ァさいッ! あとこちら海鮮チャーハンと海鮮チヂミと明太玉子焼き、それと生ビールお二つとウーロン……ありゃお嬢ちゃんお酒飲めるの! すごいねーちっちゃくてかわいいのにお姉さんなんだねぇ! それじゃあねー!」

 

「アッ、エット、アッ…………ハイッ」

 

「なかなか勢いあるお姉さんっすね。てか先輩そんな頼んだんすか」

 

「い、いや、だって…………おッ、おいしそうだったんだもん……」

 

「まーまーモリアキ氏。ボクもいろんなお料理堪能したかったしさ? それにお腹いっぱいでも、ボクがちゃーんと持って帰るから」

 

「あぁーそういえば……そっすね。アッ、ビールありがとござます。……じゃあまあ、カンパーイ」

 

「うぇーい!」

 

 

 

 おいしい食事と、おいしいお酒。まだ明日大事な予定が残っているので、完全にハメを外して酔い潰れることは許されないが……久しぶりの賑やかな酒の席は、とても楽しいものだった。

 

 あっ、鮭ハラス焼きマジウッメ。

 

 





「今日は『とれぴち』のおさしみと鮭のハラス焼きで入賞していくことにしますね……」


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281【東京一夜】予定確認エルフ

 

 

 徐々に徐々に思考をアルコールに侵食されながらも、忘れないうちに情報の共有を試みる。

 既に若干名はいい感じに酔っぱらい(デキ上がり)始めてきているが……だからこそ手遅れになる前に周知しておくべきだろう。

 

 

 

「とりあえず正気を保ってるうちに、明日の予定ね。とりあえず十時から『にじキャラ』さんと打ち合わせがあるので、余裕もって九時まわったくらいには出たい。あちらの事務所にお伺いする形なんだけど……電車でいく? 渋谷駅から近いんだって」

 

「えっ? いや、その……大丈夫なんすか?」

 

「おれはもう開き直った……けど…………あぁごめんなさい、ミルさん」

 

「いえ……ぼくのほうこそ、お手間お掛けしてしまい……」

 

 

 おれ自身は、見られることに対する抵抗は薄らいできたのだが……まだ今後の方針の見通しがたっていないミルさんや、霧衣(きりえ)ちゃんにとってはそうはいかないだろう。

 殺人的密度を誇る東京の電車に詰め込むのは、さすがにちょっと憚られる。

 

 となると、取れる選択肢は(ハイベース)ということになるだろう。都心の繁華街をあの大型車で走るのは少々不安だが、大気を操るエルフの知覚能力があればなんとかなると思う。

 ……ああそういえば、タクシーっていう選択肢もあるのか。

 

 

「……あぁ、そうっすね。東京ならそこかしこで捕まえられるでしょうし、良いと思いますよ」

 

「ぼくも賛成です。運転手さんくらいなら……見られても」

 

「おっけ。じゃあその方向でいこう。ホテル帰ったら一宮(コンシェルジュ)さんにお願いしとかなきゃ」

 

 

 

 明日のお仕事に関する相談事は済ませたので、あとは当日を迎えるのみだ。寝て起きればお待ちかねの朝食ブッフェが待っているのだが……もう一日を終わりにしてしまうのは、とてももったいない。

 なんてったって、都心とはいえリゾートホテルだ。日頃の激務に疲れた各界のVIP(ぶいあいぴー)な方々も利用するこのホテルならではの、リラクゼーションやらコミュニケーションやらレクリエーションができる館内施設がいっぱいある(らしい)のだ。

 

 

 

「たとえばですね……大浴場! なんとこのホテル、めっちゃゴーカな大浴場があるんえしゅよ!」

 

「先輩酔ってます?」

 

「酔ってないです。だいじょうぶです。ほらほら見てみて」

 

 

 お料理の皿をちょっと避けてスペースを作り、ホテルから拝借してきたスパのパンフレットを、四人に見えるように広げる。

 それによると……このホテル最上階には広大な温浴施設が設けられており、東京湾ベイエリアの夜景を眺めながら様々なお風呂に浸かることができるらしく、さらにさらにお風呂ゾーンとは別に温水プールもあるらしい。

 ダークトーンの大理石が暖かな照明で照らし出され、手すりなど金属部は真鍮色に輝き、めっちゃオトナな感じがする。

 正直いって……とても魅力的だ。

 

 

「大浴場……スパかぁ…………行ってみたいですけど、ちょっと難しいですよね……」

 

「あっ………………ミルさん、えっと」

 

「慣れなきゃ、とは思うんですけど……やっぱまだちょっと、大人数の前に出るのは」

 

「……ごめんなさい、軽率でした」

 

「いえいえいえそんな! 気にしないで下さい!」

 

 

 いや、気にしないわけにはいかないよ。

 だって……ほかでもない、おれもそうだもの。

 

 豪華なお風呂やリゾートスパには憧れるけど……そこに全裸の女性がいっぱいいると考えると、どうしたって尻込みしてしまう。

 たとえこの身体が――構造的特徴から身体機能全般に至るまで――完全に女の子のものだとしても……いや事実として身体は完全に女の子なのだろうけど、その中身の人格である()()はまぎれもない男なのだ。中身が男である()()()()()の女児が、女性が安らぎを得るための場所に出没するのは……それは、許されることでは無いのだろう。

 

 北陸旅行のときはあまりにも軽率に入ってしまったが……後になって落ち着いて考えてみても、あれは少々よくないことだったと思う。

 少なくともおれには、たとえば『合法的に女湯に入れるぜひゃっはー!』とか考えられるような、そこまで気楽な考えは持つことが出来なかった。

 

 かといって……女湯がダメだからといって男湯に入ることも、それはそれで難しい。ていうかモリアキに本気(マジ)でブチギレられた。こわかった。

 これから先の人生、大浴場を堪能することができないのだと考えると……さすがにちょっと、泣きそうになる。

 

 

 

「……おれも…………大浴場、入りたかったなぁ」

 

「わかめさん……」

 

「……難しいか。……ははっ、しょうがないよな。()()()()()だし」

 

「…………若芽様……」

 

 

 ……いかんいかん。楽しいお酒の席なのに、なんだかどんよりしてしまった。

 せっかくおいしいご飯とお酒を堪能しているのだ、こんなしんみりした空気は良くないな。

 

 そうだそうだ、こんなに立派なホテルなのだ。たとえスパがなくても、リゾートを堪能できる設備はいっぱいあるのだ。

 

 

(はい)れそうっすよ? 先輩」

 

「「えっ!?」」

 

「よく見てください。ほらここ……『水着着用の混浴施設』って書いてます。男女別フツーの大浴場は別であるみたいっすね」

 

「えっ!? どれど…………アッほんとだ!!」

 

「ほ、ほんとだ……つまり……」

 

 

 水着着用の温浴施設……つまりあのスパを利用するひとは、みんな水着を着ているということであって。

 

 水着を着ているということは、異性に見られちゃいけないようなセンシティブな部分は、水着のおかげでちゃんと隠されているというわけで。

 

 

 つまり……こんなおれでも、ちゃんと水着を着てさえいれば。

 あのお洒落で豪華なリゾートスパを、何の懸念も心配もなく堪能することができるのだ!

 

 

 

 ………………水着かァー!

 

 



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282【東京一夜】水着から逃げるな

 

 

 結局あのあとおれたちは……心行くまで居酒屋料理とお酒を堪能し、お会計を済ませ、なぜか店員さんに記念写真を撮られ……往路でお世話になったタクシーの運転手さんに電話して迎えに来てもらい、無事にホテルまで帰ってきた。

 ホテルで過ごす夜の時間をなるべく多めに確保するため、夕食を少し早めに摂ったこともあり……部屋まで戻ってきたこの時点で、時刻はまだ十九時。まだまだ夜はこれからだ。

 

 

「……せっかくの機会ですが……すみません、やっぱりぼくはお部屋のお風呂にします」

 

「うーん……そうだね、しょうがない。男用水着着るの、やっぱ抵抗あるだろうし」

 

「そうなんですよ。……大浴場は残念ですけど見送って、お部屋のお風呂で我慢します。タオルもあるはずなのウワァーーーー!!?」

 

「えっ!? ちょ、どうしたのミルさウワァーーーー!!?」

 

 

 めっちゃひろい。きれい。おしゃれ。

 これあれですやん、部屋風呂でもめっちゃ豪華ですやん。たぶん浴槽の底にモリアキが寝れる広さですやん。

 わっ、アメニティめっちゃ充実してるじゃん。シャンプーの容器もオシャレだし……泡風呂の素とかあるぞ。

 

 

 

 ……というわけで。

 

 ニッコニコ顔でお部屋のバスルームへと消えていったミルさんをお留守番に残し……居酒屋さんでお話ししていたリゾートスパを堪能しに、おれたちは例の眺望良好エレベーターに乗って最上階、二十八階を目指す。

 タオルとかアメニティ類はスパのほうにあるし、肝心の水着も入口近くでレンタルできるらしいので、替えの下着類さえ持っていけばいいというお手軽さだ。

 なおレンタル費用等館内で生じたお会計は、ルームキーを見せることでツケてもらう形らしい。チェックアウトのときにまとめてお会計するスタイルだな。

 

 

 

(ねぇノワ、これなんかどお? カワイイよ?)

 

(ヤですー! ビキニなんておれは絶対ヤですー!!)

 

(せん)ぱ……わかめちゃん決まりました? オレ先行ってますよ?」

 

「んぬぅー! わ、わかった……おれも腹くくる…………きりえちゃん大丈夫?」

 

「……下着、のようなもの……なのでございますね。……これを身に付けたまま、お風呂に入るのでございますか?」

 

「ま、待って!? 順応早くない!? えっウソでしょ白ビキニ!? きりえちゃん恥ずかしくないの!?」

 

「若芽様、落ち着いてくださいませ。肌の露出であれば下着と大して変わりませぬ」

 

「でっ、でも! そ、そんな大胆な……」

 

「……? 大胆もなにも、お風呂にございまする。湯浴みの場にて素肌を晒すことに、いったい何の羞恥がございましょう?」

 

「アッそうだ! こういう子だったこの子! おふろが絡むと羞恥トぶ子だこの子!」

 

「わかめちゃん静かに。他のお客さんに迷惑っすから」

 

「ングゥーーーー!!!」

 

 

 

 少し困ったような、あるいは微笑ましいものを見るかのような、そんな複雑な笑みを浮かべる女性従業員さんに見守られながら……適正身長のエリアから、おれは意を決して水着を選ぶ。どう見ても小学生向けのラインナップなあたりまた泣かせてくる。泣いてねえし。

 ルームキーを見せてレンタル手続きを済ませてモリアキと別れ、男性用更衣室の看板を未練がましく睨みつけながら、おれたち二人(と見えない一人)は女性用更衣室へと歩を進めていく。

 

 手の中に抱えたブルーのさらさらした布地が、なんだか妙に存在感を主張している気がしたが……おれは全力で気にしないことにした。

 

 

 

 

 

 

 最上階といったな。あれは嘘だ。

 

 いや嘘ってほどでもないんですが、実際のところまだ上のフロアがあるらしくてですね。

 エレベーターで上がれる最上階がこのスパゾーンであることは、確かに事実なのだ。おれ含め宿泊客は二十八階エントランスにて水着レンタルを済ませ、男女別の更衣室へと通される。

 その後水着に着替えた利用者は混浴ゾーンで再び合流し、ここ二十八階のスパエリアか……もうワンフロア上の、展望プールを堪能することとなる。

 

 入口は二十八階だが、中に入ればツーフロア分の温浴施設ってことだな。メゾネットってやつか?

 

 

 

「じゃあそんなわけで、オレちょっくらプール行ってくるんで! ……先輩たちのこと宜しくお願いしますね、白谷さん」

 

「オッケー任せてモリアキ氏。ゆっくりしてくるといい(小声)」

 

「ねえおれ年長者なんだけど。この中で最年長なんだけど。なんでおれが面倒見られるがわの扱いなの?」

 

「だって女児で……アッ嘘。ウソです。いやぁ先輩まだその身体慣れてなさそうですし」

 

「ご安心ください若芽様。霧衣(きりえ)めがお傍におりますゆえ」

 

「そっ、そうだね…………うん、なるべく一緒にいようね……」

 

 

 更衣室出口の休憩エリアにて落ち合ったおれたちは、さっそくだが二手に分かれることとなった。

 屋上フロアの展望プールを満喫したいというモリアキと、現フロアのリゾートスパを満喫したいおれたち二人(と、おれたちの保護者を自称する見えない一人)……各々が存分に、好きなように、気兼ねなく堪能できる分散配置となっている。

 まぁおれたちも後でプールに行ってみたくなったり、モリアキも体を温めにスパを楽しんだりするのだろうけど……とりあえずそんな感じで、別行動ということだ。

 

 高級ホテルの展望プールだもんな。そりゃあもうすごそうだ。……まぁ、モリアキにも気苦労掛けてばっかりだし、おまけにトドメがこのハチャメチャかわいい水着美少女だもんな。プールで存分に体を動かして……運動して発散したいこともあるのだろう。

 滑り止めの施された屋内階段を、彼はワクワク顔で昇って行った。

 

 

 

 ……というわけで、スパゾーンに残されたおれたち。

 おれと、相変わらず一般人に見えないよう姿を隠しているラニと……そう、ハチャメチャかわいい水着美少女、だ。

 

 さすがに公共の場であるので、かわいらしい狗耳と尻尾は(本人いわく【変化】の(まじな)いで)隠されているが……この子の素材の良さはその程度じゃ微塵も揺るがない。

 湯気を吸ってしっとり張り付く純白の髪と、それに縁どられた穏やかな笑みをたたえたお顔と、控えめながら整った発展途上のボディラインと、それを守護する真っ白な水着。水着とはいえ下なんてほぼパンツみたいなもんだし、トップはフロントと首後ろで結ぶタイプらしく……つつましやかながら形の良い、おれより豊かなふたつのふくらみをそっと支えている。

 いつもは丈の長い和服で一分(いちぶ)の隙も無く守られていた素肌が――ビキニタイプの水着を纏っているとはいえ――無防備に晒されているのだ。……正直クラっと来ちゃいそうだ。

 

 一方のおれは……子どもっぽい紺色のワンピースタイプ。

 せいいっぱいの抵抗として『子ども用水着』っぽさが極力少ない、スイミングスクールとかで用いられていそうな競泳水着っぽいデザインのものだ。あくまでもスイミングスクールで使ってそうなやつであって、断じて『スクール水着』ではない。いいね。

 

 

 

「……? 若芽様?」

 

「アッ、アッ、エット……い、いこっか」

 

「はいっ! お供致します!」

 

「ヴッ……!!」

 

(……うん、わかる。これはやばいね)

 

(でしょう……)

 

 

 ……はー……どうしよ。かわいい。すきだが。

 

 おれは安全な存在なのだと……おれの傍なら安心なのだと、心から信頼してくれている霧衣(きりえ)ちゃん。

 やんごとなきお方からお預かりした子であり、出会ってからまだふた月と経っていない間柄なのだが……おれの中では既に、なくてはならない存在となっていた。

 

 

 結婚して家庭を持った男の人って……こんな感じの気持ちになるのかもしれないな。

 

 

 ……結婚……なぁー……(遠い目)。

 

 

 

 

 

 

 








「…………っぷはぁ! ……はー……サイッコーっすね……チョーキモチイイ」

「ふふっ。おにーさん精が出るねぇ?」

「っ!? っとぉビックリしたぁ……こんばんわお嬢ちゃん。どしたのかな?」

「んんー……どうした、って程でもないんだけど……ちょっと、お話相手がほしくって」

「お話相手? 親御さんは一緒じゃないの?」

「ん。部屋で妹たちと休んでるの。……それで、あたし一人でプール来たんだけど……なんていうか、周りの人…………おじさんばっかりだし」

「はははは……オレもそろそろ『おじさん』の歳っすけどね……」

「そんなことないよぉ! おにーさんの泳ぎっぷり、めっちゃカッコ良かったし! だからさ、あたしおにーさんとお話ししたくって。ね、ね? ちょーっとだけ。ちょーっとだけお話しシよっ? 一発(ちょっと)だけで良いから!」

「……? まぁ…………少しだけなら……」

「やったぁ! ……あっ、名前! まだだったね」

「あぁゴメンゴメン。おじさんは……アキラ。烏森(かすもり)(あきら)。よろしくね……えーと……」






「あたし、佐久馬(さくま)(すてら)! 短い付き合いだけど……よろしくね、おにーさん!」








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283【東京一夜】従者から逃げるな

 

 

「うぅぅぅ……最高ぉぉ……きもちぃよぉぉぉ……」

 

「はふぅぅぅ……よいもので……ございまする……」

 

(えっちな声やめてもらえません?)

 

(しょうがないじゃん気持ちいいんだから)

 

 

 

 一通りぐるっと回ってみてわかったことなのだが……この混浴水着ゾーン、どちらかというと『お風呂』というよりかは『アミューズメントプール』といった趣のほうが強いのかもしれない。

 いやいや、とはいってもお湯の温度は四十度弱くらいだし、檜風呂にジャグジーに寝湯に薬湯に歩行浴槽なんかも揃っているし、普通に体を温めリラックスすることはできる。

 しかしながら……水着を着ているという都合上、身体をくまなく洗うことは出来ないわけだ。

 

 じゃあどうするのか、というと……なんでも水着ゾーン(とプールエリア)はそもそもが別料金エリアだったらしく、というか水着のレンタル料金に水着ゾーンの利用権が含まれていたらしい。

 水着ゾーン用のロッカーキーにはICチップが仕込まれており、エリア内のドアにそれをかざすことでもうひとつの脱衣場へと出入りすることが出来……つまりはその更に向こう側に、いわゆるふつうの、素っ裸で利用する大浴場があるらしい。

 なるほど、ロッカーキーのICチップで男女を振り分けるわけだな。ハイテクだ。

 

 というかそもそも、レンタル水着に夢中になっていたおれたちが単純に見落とししていただけで……大浴槽と洗い場とサウナのみの男女別無料エリアにも、エレベーターホールからダイレクトアクセスできる動線がちゃーんと存在していたらしい。

 へへ……気づかなかったわ……

 

 

 まぁでも実際、おれはそっちにいくつもりは無いのであって……こうして水着着用の上で、混浴エリアの檜風呂でのんびり温まっているわけだ。

 先程堪能したお酒の酔いがまだ良い感じに尾を引いており、ぽかぽか温かいお湯と相俟って、ふわふわして非常に心地良い(※泥酔時の入浴は控えましょう)。

 

 水着着用だから、という大義名分のおかげもあってか、至近距離から霧衣(きりえ)ちゃんの横顔を存分に眺めることが出来る。

 心地よい温浴と、見目麗しい美少女の横顔……水も滴るかわいいおかおは、正直いって見惚れてしまう。

 整った頬のラインと、きれいな首筋と、とてもきれいな肩や鎖骨……間近で見る霧衣(きりえ)ちゃんの素肌は、とてもきめ細やかで……さわってみたら、すべすべで気持ちいいんだろうなって。

 

 

 

「若芽様は……」

 

「はひゃィっ!?」

 

 

 そんな、少なからず『よこしま』な気が紛れてしまったおれの心を読んだわけでは無いだろうが……

 他ならぬ霧衣(きりえ)ちゃんの口から出てきた発言に、彼女の吐き出した感情に……おれとラニは度肝を抜かれた。

 

 

 

「……若芽様は…………この霧衣(きりえ)めを、好いてくださいますか?」

 

「!? も、もちろん!」

 

「ほ、ほんとうにございますか!? この霧衣(きりえ)めは……若芽様の御慈悲を賜るに、相応しい娘でありましょうか!?」

 

「……??? う、うん! 大丈夫! おれにとって霧衣(きりえ)ちゃんは、大切な…………えっと、その……だ、大好きな、子……だから」

 

「!!! わ、わっ、わうぅっ…………」

 

「き、きりえ……ちゃん?」

 

 

 思い詰めたような表情で告げられたその質問は、今までとは少し毛色が異なる気がしなくもないが……彼女がおれにとって大切な、大好きな子だという認識は、まぎれもない事実である。

 だからこそ、少し気恥ずかしくはあったけども、真正面からおれを見詰めて発せられた彼女の言葉に、おれは躊躇わずに言葉を返すことが出来たわけだが……

 

 その後の反応は、少しだけ予想外だった。

 

 

「わぅっ…………わっ、若芽様ぁーー!!」

 

「オホォーーーー!!?」

 

(ああーー! いいなァーーーー!!)

 

 

 腕を回しておれの身体に抱きつき、やわらかいおんなのこの身体を擦り付けてくる霧衣(きりえ)ちゃん。まって、それやばい。それはやば……あっ、おむね、あっそんな、ぎゅーって、あっ、あっ。

 ……あまりにも高威力の一撃をもろに食らっているおれだが……すぐそこでこっちをヨダレ垂らしながら凝視しているえっちようせいさんが視界に入ったおかげで、少しだけ平静を取り戻した。

 

 いったいどうしたのだろうか、こんな公衆の面前でナニが始まろうとしているのか……などと慌てふためくおれに向けて、ほかでもない彼女の口から、愛しい心情が切々と吐露され始めた。

 

 

「わたくしは……若芽様を、お慕い申し上げておりまする。……先に申しましたように、わたくしは陰陽など関係なく、ただただ若芽様にお仕えしたいと……お側に居りたいと、そう願っておりまする」

 

「う、うん。……おれも、霧衣(きりえ)ちゃんに傍にいてほしいし……」

 

「っ! わぅぅ…………つきましては、その、えっと……若芽様、に………その、っ……たくさん、なでて…………この霧衣(きりえ)めに、愛撫を、頂戴したく……」

 

「あ、あい、あい、愛撫……ッ!!?」

 

(ちょっとノワ! 声!)

 

「わたくしの、御姉様も……湯浴みの際は、霧衣(きりえ)めを撫でて下さいました。……わたくしは、若芽様にも…………た、たくさんっ、撫でて……戴きたくございまする」

 

「…………きりえ、ちゃん」

 

 

 愛撫とは……ウィキペディア先生曰く『優しく、あるいは愛情をこめて、触れたり、さすったりすること』らしく、なるほどそこには淫靡な気配は見当たらない。全年齢だからね。

 つまり霧衣(きりえ)ちゃんは、以前『御姉様』と一緒にお風呂に入ったときには、その『御姉様』にいっぱい優しく撫で撫で……まぁつまり、愛撫してもらっていて……しかしおれとお風呂に入ったときにはなかなか愛撫して貰えないものだから、おれに嫌われているんじゃないかと感じてしまった……ということか。

 

 な、なるほど…………霧衣(きりえ)ちゃんは白狗の系譜だもんな。世のわんこが当然のように持ち合わせているであろう『なでなでしてほしい欲求』を、わん()である彼女も秘めていたってことか。

 れっきとした女の子であるこの子を『わんこ』扱いするつもりは決して無いのだが……無いのだが、しかしわんこはスキンシップが欠かせないっていうからな……そういうことなのか…………そういうことなんだろうか……

 

 とりあえずおれは、なにかを期待する眼差しでこちらをじっと見つめてくる霧衣(きりえ)ちゃんの……ほぼ裸の身体を撫でさするのはさすがに憚られたので、絹糸のような白髪へとおおずおずと手を伸ばす。

 至近距離でおれの身体にすがり付く神使白狗の少女は……おれの手のひらが頭を撫で始めると、目蓋を閉じて心地良さそうに鼻を鳴らす。

 身長は彼女のほうが高いのだが……今は浮力を伴うお湯の中なので、彼女の頭はおれの胸元あたりだ。白ビキニ越しのやわらかな感触がおれのおなかのあたりに押し当てられているので、たぶんおれにあれがあったら間違いなくヤバイことになっていた。

 

 

「おれが…………その、なでなですると……霧衣(きりえ)ちゃんは嬉しいの?」

 

「はい……っ! 大切なお方に、身体を撫でていただくと……わたくしは、とてもしあわせなのでございまする…………んぅん」

 

「そっかぁー! ヴゥーン!!」

 

(ノワやっぱこれやっちゃうべきだよ。据え膳食わぬは何とやらだよ)

 

(なんでそんな慣用句しってるの! あとおれ今おんなのこだから!)

 

(あっ! また! 都合の良いときだけ女の子名乗るのはずるいよ!!)

 

(しりませんー! ずるくないですー!)

 

(やっぱ女児か)

 

(なんだと)

 

 

 

 ラニの茶茶入れは置いておくとしても……おれに頭を撫でられて、こんなに幸せそうな顔をしている彼女を見てしまい、あまつさえ面と向かって『もっとなでてほしい』と求められてしまっては……そりゃあ、期待に応えないわけにはいかないだろう。

 それはいい。わかった。覚悟を決めよう。……ただし。

 

 

「きりえ、ちゃん……あの、あのね」

 

「はいっ! なんでしょう、若芽様」

 

「……ひとが、みてないとこで…………ね?」

 

「くぅん…………わかりましたっ」

 

(アァーー(てぇて)ぇーー)

 

 

 ……さすがに、さすがに乙女の柔肌をなでなでするのは、おれにはかなり刺激が強い。

 しかしながら、普段は非常に良い子な霧衣(きりえ)ちゃんたっての願いであり、飾らぬ欲求が()()だというのなら……彼女の頑張りに報いるためにも、望みを叶えてあげるべきなのだろう。

 

 お風呂から上がったら。ちゃんと服を着たあとなら。けんぜんなスキンシップの範囲でなら。

 それくらいならば……お安いご用だ。

 

 



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284【東京一夜】敵対者から逃げるな

 

 

 おれが霧衣(きりえ)ちゃんのけんぜんな欲求を聞き届け、けんぜんな触れ合いを増やすことを心に決めた……その直後。

 

 全くもって思ってもみなかったタイミングで……おれたちは予想外の襲撃を受ける羽目になった。

 

 

 

「いたいた。(せん)ぱ……わかめちゃん。お疲れっす…………おアツいっすね? オレお邪魔でした?」

 

「あっ、烏森(かすもり)さ…………ん゛ッ!!?」

 

(ん゛んッ!!?)

 

 

 

 スキンシップを求める霧衣(きりえ)ちゃんに夢中なあまり、背後から近付くモリアキにおれたちは全く気づかなかったわけなのだが……背後から掛けられた言葉に振り向いたおれたちは()()()()を目にしにたことで、思わずビキッと硬直してしまった。

 

 

 困ったような表情を浮かべる、ゆったりしたハーフパンツ型の水着を身に付けたモリアキの……その左手。

 

 そこには……目が覚めるほどに可愛らしい、幼げながらどこかオトナびた雰囲気を漂わせる、()()()()()()()()()()()()()()が、控えめな胸を押し当てるように抱き付いていた。

 

 

 

「ふーん? ……この子たちが……おにーさんの言ってた子?」

 

「あ、あのっ、あの、あの、あのっ…………モ、モリアキ、さん?」

 

「あっ、解ります。違うんす。何言いたいのか解ります。けど違うんすよ」

 

 

 歳の頃はおれの身体年齢よりも少し上、幼いながらも女性として成長し始めたその肢体を、可愛らしいピンク色のビキニ水着で彩った……控えめに言って、美少女。

 初対面のモリアキはことの重大さを把握していないらしく、相変わらず困惑気味の表情を浮かべているが……おれの内心と姿を隠したままのラニは、起こりうる可能性を綿密にシミュレートし始めていた。

 

 無理もないことだろう。なにせこの子はつい先日ラニが壮絶な果たし合いを繰り広げたその本人であり、ラニの見立てでは【従わせる】魔法の使い手であり、あの『葉』を呼び出し支配下に置いた人物であり……他にも二人は居るであろう少女と共に『魔王』メイルスに付き従う、いわばおれたちにとって()である立場の少女なのだ。

 

 

 そんな彼女が……おれたちの敵が、モリアキの手を取り……えっと、その……おっぱいを、押し当てている。

 彼女の()()を多少とはいえ垣間見たおれは、最悪の事態を予感してしまっていた……のだが。

 

 

 

「……ホントだ…………うぅん、ちょっと悔しいけど……でも確かに、すっごい可愛いね! こんばんわお嬢ちゃん、あたし佐久馬(さくま)(すてら)。よろしくね?」

 

「えっ!? あっ、えっと……き、木乃(きの)……若芽(わかめ)、です」

 

「わぅ、っ! ……き、きりえ……ですっ」

 

「きの、わかめちゃん、と……きりえちゃん。…………わかめちゃん? ……わかめちゃんは、いま何歳?」

 

「えっ、と……さん、じゃない。……ええと…………じゅっ、さい、です」

 

「えっ、ホント!? じゃあシズちゃ……あたしの()と同い年だ! すごい!」

 

 

 おれ同様、彼女(すてらちゃん)の発言を聞いていたラニから……とあるひとつの可能性について、考察が告げられる。

 奇しくもおれが推測していたもの同じ結論に至った、その考察……それはつまり、()()()()()()()()()()()()()()()という可能性だ。

 

 

 思い起こしてみれば確かに……高校横の緑地公園で彼女と一戦交えたのは、全身鎧に身を包んだラニだった。

 であれば彼女(すてらちゃん)()として認識しているのは()()()()なのであって、あの場を覗き見つつも姿を現していない()()に対しては、今日のこれが初対面だと認識している可能性が高い。

 

 あの『魔王』メイルスの一味だという先入観さえなければ……なるほど、社交性があり積極性がありちょっと無防備であり性的であり、そういう嗜好を持ち合わせた人でなくとも好かれやすい、非常に可愛らしい女の子だ。

 もし前情報無しで出会ってしまっていたら……おれもあっさりと『すこ』になっていただろう。

 

 

 しかし……だとすると。

 おれと似たり寄ったりな嗜好をもつモリアキは、どうしてこんなにも平然としていられるのだろう。

 

 

 

「……いや、何すかその目は。オレ本当何もしてないっすよ」

 

「本当ですか? モリアキさん……わたしたちの目の届かないところで、その子にイタズラしたりしてませんか? 警察呼ばなくて大丈夫ですか?」

 

「大丈夫ですんで! オレはむしろ巻き込まれた側ですんで! ほ、ほら! すてらちゃんからも何か言ってくださいよ!」

 

 

 (いぶか)しげな態度を隠そうともせず、すてらちゃんへと視線を向けると……当のすてらちゃんは『てへぺろ』とでも言わんばかりの表情で、あっさりと恐ろしいことを口走る。

 

 

「あたしのお部屋で遊ぼう、って誘ったんだけど……おにーさんってば『親戚の子たちを引率しなきゃなんないから』って、取りつく島もなくって。正直ちょっと悔しかったけど、おにーさん(いわ)く『可愛い子だ』って言ってたから、どんな子かなぁって思ったら…………いやぁほんと、可愛い子だったから。お近づきになりたくって、つい」

 

「…………えっ、と……恐縮、です」

 

「オマケに……わかめちゃんは妹と、きりえちゃんがあたしと歳も近そうだしさぁ。……ねね、二人とも、あたしの部屋来ない? おにーさんも一緒にさ。あたしとイイコトしよ? ねっ?」

 

「「お断りします(するっす)!!!」」

 

「……むぅ、残念。妬けるなぁおにーさん」

 

 

 口では残念そうなことを言いつつも、その表情はひどくあっけらかんとしている。他人の心証を害することを良しとしないすてらちゃんからは……なんというべきか、『魔王』の眷属らしい禍々しさとでもいうべきものが微塵も感じられない。

 おれに話しかけてきたことも、勿論彼女の言っていた『可愛いって聞いたから』という理由もあったのだろうが……おれの(肉体)年齢を聞いて喜んだあの様子から察するに、彼女の『妹』とやらの遊び相手を欲していたのだろう。部屋に招いた理由としても、決して安心フィルターされちゃうようなことをするためだけじゃないはずだ。……そう感じた。

 

 つまり、なんだろうな。なんていうか……とても()()()に見えるのだ。

 まぁことあるごとに性的だけど。ちょっとスキンシップが多いけど。……おれも見習った方がいいのかなぁ。

 

 

 

「うーん……いい食事(パパ)いなさそうだし、あたしも帰ろっかなぁ。残念だけど……またね、おにーさん」

 

「? パパ? ……いやぁー……そうっすね。そのへんの他人に声掛けるより、ご家族に遊んでもらう方が良いっすよ」

 

「そ、そうだね……あぁ、でもこのホテル客層良さそうだし……そういう危険は無い……のか」

 

「……!! あぁー! そういうことか!! なぁんだ、じゃあ無駄足だったのかぁ…………まあいいや! わかめちゃん!」

 

「はいっ!!」

 

 

 ……やっぱり、()()()()()()を目的としていたのだろう。

 それが叶わぬホテルだということが判明したせいか……すてらちゃんはすっぱり諦めたような、朗らかな『いいお姉ちゃん』の表情で……おれに告げた。

 

 

「また会ったら……あたしと、あたしの妹たちと、仲良くしてほしいな!」

 

「……っ!!?」

 

「えへへ……会ったばっかなのに『変なやつ』って思われるかもしれないけど…………なんか()()()()()()()()んだよね。……ごめんね。変なこと言って! じゃあね!」

 

「えっ? アッ、う、うん……じゃあ、ね?」

 

 

 

 あの子は間違いなく……あの日ラニの前に立ち塞がった、あの女の子のはずだ。

 

 しかし……憎むべき()と相対していないときの、ただの世話焼きなお姉ちゃん(えっち)の顔をした『すてらちゃん』は……朗らかな笑顔で手を振りながら、更衣室へと消えていった。

 

 

 

 

「……どう思う? ラニ」

 

「……演技、じゃあないだろうね。すてらちゃんは……そこまで腹芸が得意そうには見えなかった」

 

「うん……正直、本音なんだろうと思う。……本音で、おれたちと……」

 

「……悪い子、には……わたくしには、見えませんでした」

 

「……うん……率直に言って、おれも。……モリアキは? 何か感じたことある?」

 

「そうっすね…………やっぱわかめちゃんの胸、もうちょい盛っとけば良かあ痛っ!! 痛い!!」

 

「チクショウ見損なったわ! いいもんおれには霧衣(きりえ)ちゃんがいるもん! 霧衣(きりえ)ちゃんのおっぱいは貴様には渡さんからな!!」

 

「わかめ様ぁ!!?」

 

「あらあらおアツい」

 

 

 あの子がいたということは……恐らくだが『魔王』も、このホテルに滞在してるのだろう。

 どういう手段を用いたのかはわからないが、少なくともこのホテルの会員権を手にできる人物と親しい間柄にある……という点は、間違いない。

 

 立場というものがあるだろうし、面と向かって事を構えることは無いと思うが……とりあえず、警戒は怠らないようにしよう。

 

 

 

 まぁ、それはそうとして…………

 積極的なスキンシップ、おれも自然に出来るようにならないと……なぁ。

 

 

 



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285【東京一夜】約束から逃げるな



健全です!!!(挨拶)





 

 

 人々の持つ強い『願い』を糧として、負の感情に引き摺られやすい『欲望』に転化させ、歪んだ形でそれを叶えさせようと宿主を改竄し始める、悪意の『種』。

 それを用いてこの世界を滅ぼさんと画策している『魔王』メイルスと、彼に付き従う(恐らく)三人の眷属。

 

 その眷属の一人、佐久馬(さくま)(すてら)ちゃん。

 そして……先日ラニ(の鎧)の片腕をもぎ取った『つくしちゃん』と、今日名前だけ出てきた『シズちゃん』。

 

 彼ら彼女ら『魔王ご一行様』が現在、このホテルに居るということは……残念ながら、ほぼ確定したわけだ。

 

 

 

「……そんなに……恐ろしい相手なんですか? その子たちって……」

 

「うん…………とりあえず、恐らく三人とも()()()()()()()存在。……それに『すてらちゃん』だけど……ラニと戦ってたところを見た感じ、【支配する】ことに特化した魔法を使うっぽい。あとロリなのにめっちゃエッチ」

 

「うわ恐ろしい」

 

 

 

 そんなに長い時間じゃなかったはずなのに、妙なほど疲れた気がするおれたちは……『まぁもう一泊あるし』と自分達に言い聞かせ、お部屋に戻ることにした。

 鍵を刺して扉を開き、ちょうどお風呂上がりのミルさんと遭遇し、男の子のはずなのに漂う色香に軽く混乱しながらも……とりあえずことの顛末を共有することが出来たのだ。

 

 浪越市にいたはずの彼女たちが、いったいなぜ東京に居るのだろう……なんてことは、考えるだけ野暮だろう。

 他ならぬおれたちだって、今朝八時には浪越市に居たのだ。公共交通機関が発達した現代日本においては、その気になれば一日で北の端(新千登勢)から南の端(南覇)まで移動することだって不可能じゃない。たぶん。

 

 

 不安なのは……いままでは浪越市周辺でしか活動が見られなかった『苗』が、その活動範囲を拡大してしまうのではないかという懸念。

 よもやこの地で『魔王』一味と遭遇するとは思わなかったが……彼らとて何の目的もなく遠出するとは思えない。一行がこの東京に姿を表したのは、きっと何かの前触れなのだろう。

 

 

 しかしながら……実際彼らと事を構えるのは、現在のところ分が悪いと思う。これはおれだけでなく、おれ以上に荒事に長けたラニが下した結論でもある。

 ミもフタもない、はっきりとした言い方をしてしまうと……おれたちでは()()勝ち目が薄いということだ。

 

 ミルさんを仲間に引き入れたことで、単純な処理能力と順応性は桁違いに上がったのだが……しかしそれでもあの三人、特に【食らう事】に特化した異能を行使する『つくしちゃん』の危険度は底が知れず、おまけに『シズちゃん』に至ってはその何もかもが不明……全くもって未知の存在なのだ。

 叶うならば、このまま鉢合わせすることなくやり過ごせればと思うのだが……果たしてどうなることか。

 

 

「荒事に対して、やっぱおれも慣れとかないとだよな。……今のままだと、いざ『魔王』とまた正面衝突したときに……正直、不安が残る」

 

「……オッケー、わかった。おうち帰ったらボクとシュギョーしようね。……ていうか、そもそも素材としてはこれまで見たことないくらい上等なんだもん。絶対優秀な魔法使いになれるよ」

 

「あ、あのっ! ……ラニさん…………ぼくも、お願いします」

 

「み……ミルさん……!?」

 

「……もう、他人事じゃないんです。若芽さんのがんばりを知っちゃったら、見て見ぬふりなんて出来ません」

 

「ぅうううぅぅぅ…………! ありがとぉぉ!」

 

「ふふふふ……もと勇者のシュギョーは厳しいぞ!? ついてこれるかな!?」

 

「あっ、あんまりつらくない程度でお願いします」

 

「そんなあ!」

 

 

 一般の人々には決して見せられない『魔法』を交えた戦闘訓練であっても、おれの所有す(借りてい)る山林であれば人目につく心配は無い。あまり騒音を立てない範囲であれば、存分に鍛練を積むことが可能だろう。

 

 奴らが今回東京で、こうして何かを画策しているということは……あんまり考えたくないが、おれたちにとっては嬉しくない()()()をしている可能性が高い……と思う。

 今後荒事も増えることだろうし……戦い慣れしておいて、損はないだろう。

 

 

 

 

 まぁ、そんなわけで。

 おうち帰ってからの新たな日課、トレーニングについて……いろいろと思いを馳せたところで。

 

 

「はいじゃあ……おやすみの準備するよ! 部屋割りを発表します!!」

 

「「わーい!」」「「わ、わーい」」

 

 

 そうだ、おれたちは今リゾートホテルに来ているのだ。

 ずーっと先のことばかり見てないで、いま目の前に迫っていることに、まずは全力で取り組むべきなのだ。

 

 つまりは……玄間(くろま)くろさんたちとの顔合わせと、明日のモーニングブッフェと……ゴーカホテルのベッドだ!

 

 

「えーっと、じゃあ……ダブルベッドのお部屋をミルさん、ツインのベッドルームを……おれと、ラニと、霧衣(きりえ)ちゃんで……」

 

「……あの、モリアキさん……本当に、良いんですか?」

 

「いやー全っ然大丈夫っすよ。……ていうか教えてもらったんすけど、このソファ普通にエキストラベッドになるらしいんすよね」

 

「えっ!? そうなんですか!?」

 

「そうなんすよ。んで、こっちの…………ウォークインに、エキストラベッド用の寝具があるって。コンシェルジュさんが」

 

「お、おぉ……すごい」

 

 

 そういえば確かに、このお部屋の最大収容人数は五名って書いてあった。

 ダブルベッドに二人、ツインルームに二人として……もう一人ぶんが、このリビングのエキストラベッドだったということだ。

 

 これならば……モリアキも少しは寝心地が良いだろうし、おれの良心の呵責も控えめで済む。……いや、ベッドルームのベッドには劣るだろうけど。やっぱり申し訳ないな。

 

 

「気にしないで下さい先輩。今回の遠征では先輩とミルさんがいちばん大変なんすから。……いちばんが二人居るってなんか変っすけど、まぁとにかくオレは本当遊びに来た程度でしかないんで、一緒に騒げるだけでも嬉しいっすよ」

 

「モリアキ…………おまえ本っ当中身イケメンだよな……」

 

「が、外見もイケメンでしょう!? ねえ!? ミルさんもそう思いますよね!?」

 

「えっと、そのぉ………………はい」

 

「めっちゃ間が気になりますがありがとうございます!! 救われました!!」

 

 

 

 彼の心配りとミルさんの気配りに助けられながら、おれたちは各々の寝床へと赴き、眠りの支度を整える。これより先は自由時間……各々好きに過ごしてもらい、好きなタイミングで眠りに落ち、朝食の時間にまた集合する作戦だ。

 ミルさんもモリアキもおれたちも、動画(ユースク)を見たりSNS(つぶやいたー)を眺めたりと気ままに過ごす予定である。

 個室に引きこもれるおれたちと違い、リビングスペースのモリアキはちょっと落ち着かないだろうが……まさかそんな素っ裸になるわけでもあるまいし、大丈夫だろう。今日のところは我慢してほしい。

 

 

 というわけで、おれたちが使わせてもらう寝室。このツインタイプのベッドルームは、ゆったりシングルベッドが二つ並んだ贅沢なつくりだ。テレビや小型冷蔵庫まで備わっており、居心地も非常に高い。

 またダークトーンで纏められた室内インテリアに、寝具の清潔な白色がよく映え……なんていうか、こう、オトナっぽくて非常にいい感じのお部屋だ。ぐぬぬ、語彙力よ。

 試しにベッドによじ登ってみると、これがまたすごい。ほどよく沈み込む低反発のマットレスが、とても気持ちよい抱擁を返してくれる。

 新居のベッドはちゃんと厚手のウレタンマットレスを敷いているので、寝心地はむしろ良いほうのはずなんだけどんだけど……このベッドの気持ちよさは桁違いだ。

 

 ……うん、やばいわこれ。

 

 

「ぎぼぢいい~~~~~~」

 

「えっちな声たすかる~~」

 

 

 大の字うつぶせでノビるおれと、茶化すような声色のラニちゃんと……どこかそわそわした様子で、しっぽをばたぱたとはためかせている霧衣(きりえ)ちゃん。

 

 なにかを期待してるかのようにこっちをちらちら窺うその様子はぶっちゃけメチャクチャ可愛いんだけど……あんまり『おあずけ』するのもかわいそうだもんな。

 

 

 そろそろ……あの子のお願いを叶えてあげるとしよう。

 

 

「……きりえちゃん」

 

「わ、わかめさま……!」

 

「…………こっち、おいで」

 

「はいっ!!」

 

 

 






健全です!!!(真実)




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286【東京一夜】べっどいん(意味深)




ぼくはわるくありません!!!






 

 

 なにも間違ったことは言っていない。

 

 なにも間違ったことはしていない。

 

 

 おれは……木乃若芽(きのわかめ)は、今晩ついに。

 やんごとなきお方より預けられた、この可愛らしい狗っ娘と……ベッドを共にするのだと、そう心に決めたのだ。

 

 

 

 

 

 

「あぁーーーー! だめーー! これだめーー! かわいいーー! やだーー! もうすきーー! だめーー!」

 

「わふっ! わふっ…………きゅぅん! くぅん!」

 

「アアッ! あっ! がわいいよぉ! きりえちゃん可愛いよぉ! よーしよしよしいいこいいこアアッがわいい!! アア!! ふかふか!! アアー!!」

 

「くぅん……きゅん!」

 

 

 

 おれに対し、長らく秘めてきた心情を吐露した彼女と……おれは確かに『いっぱいなでなでしてあげる』という約束を交わした。

 

 公共の場であるあのスパゾーンで、水着(白ビキニ)姿の霧衣(きりえ)ちゃんの全身を愛撫する度胸までは、さすがにちょっと持ち合わせてなかったのだが……折衝案としておれが持ちかけた提案に、霧衣(きりえ)ちゃんは満面の笑みで同意してくれた。

 

 

 そうとも。なにも()()姿()()()()()()()()()()()()必要はないのだ。

 

 何を隠そう、彼女は神使『白狗』の一族だ。主神たるフツノさまとの縁は断たれたとはいえ、このおれと縁を繋いだ彼女にとっては【変化】の(まじな)いなど朝飯前。

 いつぞやガチでヘコむおれをやさしく慰めてくれた、凛々しくも可愛らしい『白狗』の姿……ふかふかでモッフモッフの姿に身を変えた彼女であれば、美少女の身体を撫でさする気恥ずかしさも生じない!

 

 少女の姿ではなく、神使『白狗』の姿となったキリエちゃん……その姿はその名の通り、真っ白な日本犬といった面持ちだ。どこぞのお父さん犬みたいだな。

 その顔つきは目鼻立ちもスッと整っていて、お目目もぱっちりとしている美人さん。そしてその体つきは柴犬などに比べてかなり立派で、寝そべったおれ(十歳児)よりも少し小さい程度……なかなかに立派な体躯だ。

 

 そして気になるお召し物だが……よくわからないがこれも【変化】の(まじな)いの応用だかなんだかで、一時的に存在を消してしまっているらしい。

 おれが認識しやすいイメージとしては、着衣専用の亜空間格納魔法……俗にいう『アイテムボックス』とか『ストレージ』といった感じのアレだろうか。あくまで着ていたものを一時的に格納する程度らしく、ラニの【蔵守(ラーガホルター)】のような利便性は無いみたい。

 まぁ……【変化】を解除したときに素っ裸になるわけじゃない、ということがわかったので……とても助かった。

 

 

 

(まぁ……こんなことだろうと思ったけどさ)

 

(な、なによお……なにが不満ってのよお)

 

(ついにセンシティブ解禁かと思ったんだけどなぁ)

 

(AVであることには変わり無いからいいじゃん)

 

(いえ、あの、そうは申しましてもですね)

 

 

 

 AVはAVでもアニマルビデオだけど。とうぜんだけど。アニマルビデオじゃないAVなんておれが許可するわけないですけど。

 

 いやでも実際のところ、霧衣(きりえ)ちゃんの欲求を解消する手段としては、これはこれで最適解だと思うわけで。

 和装美少女である霧衣(きりえ)ちゃんの身体におさわりしようとすると、この場にはいないハズの春日井(おまわり)さんの姿が脳裏にチラつくが……『白狗』であるキリエちゃんと戯れる分には、余計な呵責は生じない。

 肝心のキリエちゃん本人も全身全霊で喜んでくれているので、フラストレーションの解消手段としては何の不満も無いらしい。

 

 いやぁでも……そっか。そうだよな。

 今までろくに遊んであげられず、お散歩にも連れていってあげられず、おれがビビって(恥ずかしがって)いたばっかりに接触も最小限……『白狗』の権能だけでなく、その性質をも少なからず継いでいた彼女にとっては、それはあまりにも酷な『おあずけ』だったのだろう。

 …………だって……普通に考えて『事案』だし。和服美少女jcに三十代一般成人男性が()()()()するとか、まじめに絵面がやばすぎるし。そりゃ『逮捕』の二文字が脳裏をよぎるのも仕方無しだし。

 

 

 だが、()()ならば。『白狗』の姿を取り戻したキリエちゃんを、存分にモフるのであれば。

 

 ただのスキンシップにしか見えないし、実際その通りだし、つまり絵面的にも問題ないし……

 よって、完全に合法なのだ!

 

 

 ……ちなみに、こちらのホテルは当然ながらペット連れ込み禁止だ。キリエちゃんはペットじゃない、家族だ……とか余計な抗議をするつもりは無いが、要するに抜け毛やにおいなどの証拠が残らなければ問題ないわけだ。

 その点エルフってすげーよな。清掃も消臭も魔法で一発だし。まあ『白狗』のキリエちゃんは少しもくさくないんだけど。フローラルなシャンプーのにおいだけど。すんすん。

 

 

 

 

「おれ……わんこと暮らすの、昔っから夢だったんだよね」

 

「くぅーん……?」

 

「庭付き一戸建て買ってさ、休日とか公園に一緒に散歩にいったりしてさ、リビングとかでわんこと一緒にお昼寝したりもしてさ」

 

「くぅん……あふっ! わふ!」

 

「……うん、まぁ……正体は霧衣(きりえ)ちゃんなんだって、解ってはいるんだけど……ある意味『夢が叶った』っていうのかなって」

 

「きゅぅん!」

 

「おぉ、(てぇて)ぇ…………うん。写真はこんなもんで()っかな」

 

 

 周囲をひらひらと飛び回りながら、なにやらおれたちの様子を窺っていたラニちゃんだったが……正直いって彼女の言動に気を配る余裕が無くなるほどに、おれの意識は限界が近づいていた。

 

 温かな体温と、さらさらの肌触りと、ふかふかの感触を全身で感じ……これまたふかふかなベッドの上でキリエちゃんに抱きついていたおれは未だかつてない程の安らぎを感じていたらしく、つまりとてもねむみがすごい。

 

 

 

「ねーえ、のわー、きりちゃんー……ボクもぉー」

 

「ん。ラニちゃんもおいで。いっしょに寝よ?」

 

「わぅっ! はふっ!」

 

「わぁーい!! 二人とも好きー!!」

 

 

 霧衣(きりえ)ちゃんの求めによって、思ってもみなかったやすらぎを得ることに成功したおれは……都心高層ホテルでの一日目の夜を、とても幸せな気持ちで過ごしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 ……翌朝。

 

 とても清々しい気持ちで目が覚めたおれの、すぐ隣……それこそ文字通りの『吐息が掛かりそうな程』の至近距離に。

 

 襦袢を所々艶かしく肌蹴させた、とびきり可愛い白髪狗耳美少女が、すやすやと健やかな寝息を立てており……

 

 

 起き抜けのおれの理性が、危うく跡形もなく消し飛ばされるところだったのだが…………まぁ、落ち着いて考えれば予測できたとこだったか。

 やっぱり危機管理がなってなかったというか、慣れないことをするときは落とし穴に気を付けないといけないなというか。

 

 

 

 ……あれは、まじで、あぶなかった。

 

 







健全です。





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287【二日目朝】おはよぉございまぁーす

 

 

「なーんだ……寝込み襲ってやろうと思ったのによぉ?」

 

「ははは冗談は経歴だけにして下さいね先輩」

 

「おっ、おはようございます! 烏森(かすもり)様!」

 

「おはようございますキリエちゃん。……なんかご機嫌っすね?」

 

 

 東京出張、二日めの朝。時刻は六時半といったところか。

 危うく大変なことになるところだった目覚めを経て、おれと霧衣(きりえ)ちゃんはベッドルームの扉を開く。するとそこには増設ベッドでスヤッスヤに眠るモリアキの姿……は無く。

 

 まだ瞼も開ききっておらず、寝癖がぴょこぴょこ跳ねてはいるものの……われらがマネージャー兼広報担当氏が、温かなお茶をすすっていた。

 あー、お部屋備え付けのティーセットか。リビングにはそんなのも備わってたか。……客室内も知らないことだらけだ。

 

 

「先顔洗ってきていい? それともモリアキ先いってくる?」

 

「いや、どうぞどうぞ。も少しシャッキリしてから行きますわ」

 

「で、では! わたくしはお茶を淹れておきますゆえ……」

 

「んう。ありがとね霧衣(きりえ)ちゃん」

 

「はいっ! お安い御用にございまする!」

 

 

 朝食時間はもう始まっているのだが、レストラン自体は九時まで開いているらしい。ねぼすけ組を起こすのはもう少し後でも大丈夫だろうと判断し、おれは客室内水回り……昨晩ミルさんと悲鳴を上げた豪華なバスルームの扉を開ける。

 …………うーわ、改めてスゲーわ。

 

 めっちゃ広々した脱衣室には、めっちゃ艶々した洗面カウンターが端から端まで渡されており、お洒落で繊細なデザインの水栓と大きなオーバル型のボウルが据え付けられている。

 大きな鏡も曇りひとつ無く……一枚ガラスの間仕切りと広々したシャワースペース、そして(おれにとっては)巨大な浴槽が映し出されている。

 間仕切りがガラスだから視線が通るし、鏡が一面に張られているので……滅茶苦茶広く感じるな。いや実際広いんだろうけど。

 

 水を出してぱしゃぱしゃと顔を洗い、洗顔用液体ソープ(とてもいいにおいがする)を泡立てて再び洗う。長い髪が垂れてくるので未だに上手に洗えないが、これは仕方がないので慣れるしかないのだろう。

 最後にお水であわあわを洗い落とし、髪の毛についたあわあわもちゃんと流し、水を止めてフェイスタオル(とてもふかふかしている)で水けをしっかり拭き取って洗顔完了だ。

 

 

「おまたせしまして……おぉ、ミルさんおはようございます」

 

「…………ほぁようもびゃいますゅー」

 

「なんて? まあわかりますけど……よく眠れました?」

 

「ふぁぁい…………しゅごい……きもちよかったえしゅ」

 

「それはなによりです」

 

 

 ローテーブルには淹れたてのお茶が湯気をたてており、そのうちひとつを寝起きのミルさんがぽやぽやした顔ですすっている。……朝あんまり得意じゃないのかな。かわいいが。

 得意気な笑顔を浮かべている霧衣(きりえ)ちゃんにお礼をいって、おれもソファに座ってお茶をいただく。ちょっとぬるめで飲みやすく、起き抜けの身体を内側からほっこり温めてくれる。

 

 

「…………わかめさん、しゃわーですか?」

 

「んふぇ? いえ、顔洗っただけです」

 

「あー………………」

 

 

 おれと入れ替わりで洗顔に行こうとしていた、ぽやぽやしょぼしょぼしたままの起きぬけミルさん(かわいい)だったが……おれの濡れたままの前髪ともみあげ(?)を見とがめ、眠たそうにしながらも口を開く。

 

 

「……顔、洗うときは……ですね」

 

「う、うん」

 

「タオルで…………髪を、こう……ターバンみたいに巻くと……いいですよ」

 

「……ぉお? …………おぉー!!」

 

「そんな感動することっすかね……」

 

 

 さすがは経験者というか……先輩というべきか。まだいまいち『女の子』の身体に慣れていないおれにとっては、まさに目から鱗な助言である。

 可愛らしいあくびを残しながら洗面室へと消えていく真っ白な後ろ姿を、おれは尊敬の念さえ感じながら見送っていた。

 

 

 

 ……さてさて。

 ミルさんに続きモリアキと、その後に霧衣(きりえ)ちゃんも顔を洗い終えて……時刻はそろそろ七時を回ろうとしている。

 朝食レストランの入場時間は九時までだが、早めには入れれば当然それだけゆっくり食事を摂ることができる。もちろん二時間まるまる食べ続ける必要は無いし正直無理だと思うのだが、その後のスケジュールを余裕を持たせてこなすためにも、なるべくなら早めに食べに行きたいところだ。

 

 それに……単純に、このホテルの朝食ブッフェが楽しみなのでありまして。

 

 よって、そろそろレストランへ向かいたいのだが……誰とは言いませんが、まだ起きてこないねぼすけさんがいるみたいなんですよね。

 

 

 

 

 

 

 

「「「おはよーございまぁーす(小声)」」」

 

「み、みなさま…………」

 

 

 つい先程までおれときりえちゃんが眠っていたツインベッドルームへ……なるべく音を立てないよう細心の注意を払いながら、四つの人影が忍び込もうとしていた。

 そう……いうまでもなく、おれたちだ。言い出しっぺのおれと、ちょっと気まずそうな霧衣(きりえ)ちゃんと……正直かなり乗り気なお二人だ。

 

 おれの『ラニちゃんの寝姿まじやばいよ』とのアピールにホイホイ釣られてしまった、本日のお客様ご一行である。

 

 

「う、わ……本当やば…………くそ可愛(カワ)ですよ(小声)」

 

「いや、これ、やば……いや、アウトっすね(小声)」

 

「ほわ……わうぅ………………はぁっ(恍惚)」

 

「ウフフフフ…………」

 

 

 おれの目論み通り、思わずといった様子で言葉を失う三人。かく言うおれも余裕ぶってはいるが……この光景は何度見ても慣れることはないだろうし、飽きることもないだろう。

 

 愛用タオルを畳んで作った特製のベッドの上で、小さな身体を丸めてすやすやと眠る、この世のものとはおもえぬほど幻想的な姿。

 愛らしくも神々しいその姿は、まさに幻想種族『妖精』の名に恥じない佇まい。

 身内贔屓も多分にあるとは思うが……写真撮って公開とかしたら天下取れる。間違いない。たぶん。

 

 

 

 ただ、まぁ……うん。ただひとつ残念なのは……

 

 

 

「……見えちゃってます……ね」

 

「斯様に小さくとも……ちゃんと『女の子』にございますね」

 

「オレ捕まんないっすよね? やっぱ外出てましょうか??」

 

「ラニちゃんのFA(ファンアート)で許してあげよう」

 

「ウッス……」

 

「はぁー……やばすぎ……可愛すぎ…………あの、わかめさんこれ……写真撮っちゃマズいですか? 絶対自分以外に見せないので……」

 

「と、とりあえず撮っちゃって……あとで本人に許可もらって、良いっていったら…………うん、ていうかおれも撮ろ。えっちじゃない角度で撮っとこ」

 

「お、お写真! わたくしの『たぶれっと』にも……」

 

「いややば……純粋に可愛いが過ぎますってこれ」

 

「……お二人とも、程々に……オレちょっとリビング出てるんで……」

 

 

 

 若干ヒき気味のモリアキが退室するのを気にも留めず……おれたちはこれ幸いと超接写で、この『かわいい』が振りきれた天使を撮りまくる。

 画面上のボタンをタップするどころか長押しして、バシャシャシャシャシャシャっと盛大にシャッターを切りまくる。

 

 

 

「最高」「尊い」「やばい」「無理」

 

 

 ラニがいけないんだよ、ちゃんと早起きしないから。おれたちの目の前で無防備に眠っておれたちを誘惑したでしょ。そんなあざと可愛い格好ですやすや寝息立ててるから。おんなのこのとこ見えちゃいそうじゃん。ミルさんもきりえちゃんも釘付けだよ。そんないけない格好して。ラニ子がわるいんだよ。

 

 

 

 ふふふ。

 

 

 

 ……うふふふふ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 尊み溢れる寝顔へ、至近距離に顔とスマホを近づけての一方的な撮影会は……

 

 

 

 響き続けるシャッター音と三者三様の溜め息吐息によって眠りから引き起こされたラニちゃんに、ドン引きした顔を向けられるまで続いた。

 

 






ラニ子が悪いんだよ…………




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288【二日目朝】めし!めしだ!!!

 

 

 今回おれたちがこの東京出張を迎えるにあたり、ホテルに泊まろうと思い至った切っ掛け。

 そのひとつこそ何を隠そう……和洋折衷多種多様な朝ごはんを好きなだけ堪能できる、ホテルレストランでの朝食ブッフェなのである。

 

 中でも……ラニと霧衣(きりえ)ちゃんのお二人はひときわ楽しみにしていたようで、『朝ごはん行くよー』の一言とともにめちゃくちゃいい笑顔で駆け寄ってきた。

 まぁもっとも、最後のねぼすけラニちゃん以外はすでに準備万端だったんだけどね。

 

 

 ルームキーを握りしめて部屋を後にし、エレベーターに乗り込んで二十六階へ。昨晩すてらちゃんと運命的な遭遇を果たし(てしまっ)たスパゾーンが二十八階なので、そのツーフロア下が目的地のレストランである。……というかレストランエリアでツーフロアあるらしい。

 和食と洋食と中華の各レストランに加えて、夜限定だがオシャレなバーやプライベートラウンジもあるらしいのだが……まぁ今回は置いておこう。

 今おれたちが用があるのは洋食のレストラン……の隣にある、縦にツーフロアぶち抜いた大宴会場だ。

 

 

 

「お早うございます。お部屋の鍵を拝見しても宜しいでしょうか?」

 

「アッ、えっと……はい。一九〇七号室の木乃(きの)です。四名です」

 

「…………はい。確認致しました。只今ご案内致します」

 

 

(……お願いね、ラニ)

 

(オッケー。ノワもちゃんとタマゴヤキ、忘れないでよ?)

 

(まかせといて)

 

 

 係のお姉さんにテーブルへと案内される間、魔法で入念に姿を眩ませたラニを偵察に飛ばす。

 このホテルに『魔王』一行が滞在していることがほぼ確定である以上、お風呂同様の公共スペースである朝食会場は、遭遇の可能性が高いエリアといえるだろう。

 正直彼らがここに居ないことが望ましいのだが……もし見つけてしまった場合でも前もって先方の場所を把握できていれば、いろいろと対策のしようがあるだろう。

 

 ……というわけで警戒してみたのだが……どうやら今のところはこの場に居ないみたいで、ほっと胸を撫で下ろした。

 良かった。ごちそうを前にコッソリしなきゃいけないなんて、ある意味拷問だろう。

 

 

 

「わ、わ、わ、わかめさまっ! わかめさまっ! 焼き鮭が! 出汁(だし)巻きが! 厚揚げが! 冷やっこも! ああっ、あちらには……薫製肉でしょうか? 腸詰めも! こちらが『けちゃっぷ』にございますね! こちらは……なんと! こちらも『たまご』にございますか!? まるで粥にございまする!」

 

(それ!! それちょうだい!! ねえノワあれ! あのタマゴヤキたべたい! トロッてしてるやつ! たまごたべたい!! たまごちょうだい!!)

 

(はいはい。ラニちゃんは『たまごやき』がしゅきしゅきでしゅねー。……あ、温玉もあるじゃん。もってこ)

 

「キリエちゃんあっち、パンいろいろありましたよ。クロワッサンとか」

 

「く、く、く、くろわさん! くろわっさんも食べてよいのですか!?」

 

「大丈夫ですよ、ブッフェなので。……わかめさん、ぼく一緒にいましょうか?」

 

「お願いしていいですかミルさん。おれちょっとたまご大好き妖精さんのご機嫌取りしなきゃ」

 

(ねぇノワ! あれもタマゴヤキじゃない!? キリちゃんがよくつくってくれるやつ! ねえノワたまご!! タメィゴ!!)

 

「はいはい出汁(ダシ)巻きね。……すみませんミルさん、あっちにモリアキもいると思うから、ちょっと霧衣(きりえ)ちゃん見ててもらって良いですか……」

 

「ふふっ。……大変そうですね。任されました」

 

(たまごーーーーー!!)

 

(ええいやかましいわ鶏卵中毒者(ジャンキー)めが!!)

 

 

 

 

 ……というわけで。

 

 幸いにも、というべきだろうか。いうべきだろうな。たまご料理を求めて大騒ぎする小さな女の子の声は、おれ以外のお客さんに聞こえることは無かったらしい。

 朝っぱらからハイテンションにあてられて若干げんなりしつつあったおれは、とりあえず相棒(たまごジャンキー)の希望を可能な限り叶えながらも自分が食べたいお料理を調達し、ちゃんと牛乳もグラスについで席へと戻る。

 

 目に鮮やかな緑髪と、とんがった敏感な耳。おれへ注がれる奇異の視線はそろそろ慣れたが……おれ同様に奇特な見た目の美少女二人は、果たして大丈夫なのだろうか。

 

 

「あっ、おかえりなさい若芽さん」

 

「わかめさま! はやく! はやくっ!」

 

(せん)ぱ……若芽さんスマセン、早く『いただきます』を。霧衣(きりえ)ちゃんが限界っす」

 

「アッ、ハイ。スマセン。大丈夫そッスネ。失礼しましたッス」

 

「ねぇノワはやく! ノワのたまご食べちゃうよ」

 

「よくわかりませんけどじゃあハイ! 合掌! いただきます!」

 

「「「「いただきます!」」」」

 

 

 四人それぞれのトレイいっぱいに溢れんばかりに載っかった、色とりどりの美味しそうなお料理の数々。生野菜のサラダ、サーモンのカルパッチョ、コーンスープとお味噌汁、ウィンナー、ミートローフ、ミニハンバーグ、鮭や鯖の塩焼き、肉じゃが、筑前煮、その他いろんなパンや白米やお粥やカレー…………などなどなどなど。

 各々が好きなものを取ってきた朝ごはんを、みんながみんなニコニコ笑顔で食べ始める。

 もちろんたまご大好きラニちゃんイチオシの卵料理……スクランブルエッグと出汁(ダシ)巻き玉子以外に、ライブキッチンの出来立てオムレツやベーコンエッグも確保済みだ。おれたちの目の前でシェフが手ずから丁寧に焼いてくれたきれいな逸品に、ラニは完全に目が釘付けになっているようだ。

 

 

 

「んふふふ……お行儀わるいよラニ。そんなにおいしい?」

 

「おいしいよぉ! ……いやぁ、もう……鳥のタマゴがこんな美味しいなんて……ほんと感動。最高」

 

「ラニの世界の卵、そんな美味しくなかったの?」

 

「もふ、もぐ……んっ。……そうなんだよねぇ。生臭いし、色もくすんでるし、鼻の奥のほうに変なニオイ感じるし…………あー、それにひきかえ見てごらんよ! このキレーな黄色! かぐわひい(はお)り! なめらかな口触(くひまわ)り!」

 

「食べながらしゃべらないの! お行儀悪い……」

 

大丈夫(はいみょうふ)らよ、どうせ他のひとに見えてないひ!」

 

「そうだけどぉー!」

 

 

 姿を消したラニがもりもりとごはんを食べるのを、おれの身体で遮るようにカバーする。取り皿に載っかった料理が不可視のラニに啄まれ不自然に欠けていく様子は、ちょっと一般のお客様に見せるわけにはいかない。

 ……まぁ、こんなに大勢のひとが出入りする空間だ。他人の取り皿を凝視する人なんて、そうそう居ないだろうけれど……万が一怪しまれた場合はどうするつもりなんだろう。

 一般的な常識をわきまえたおれは、やっぱり心配がぬぐいきれないのだが……

 

 

 自由気ままな相棒が、満面の笑みを浮かべて『うまい』『おいしい』を連呼する様子を目にしてしまったら。

 

 モリアキと、霧衣(きりえ)ちゃんと、ミルさんと囲む朝食の席が、こんなにも微笑ましく楽しいのなら。

 

 

 

「……おれもたべよ」

 

「そうそう。いっふぁいたべな?」

 

「元凶であるラニに言われても…………あぁ、もう……いいや。気にしたら負けだわ」

「んむふー」

 

 

 この可愛らしい笑顔を眺め続けるためなら、おれはがんばれる……と思う。

 

 

 ……今日も一日、がんばろう。

 

 

 

 

 

 

 

 






「……もうそろそろ、起きて来ても良い時間なんだがね」

「…………、……! ……!! …………、」

「いや……今日は『部屋食』だよ、『アピス』。君に気兼ね無く暴食(願い)を果たさせて遣りたいのは山々なのだが……さすがに君の()()は、一般客の目には少々奇特に映ってしまうだろうから……ね」

「………………(泣)」

「……ふふっ。心配しなくとも良い。ちゃんと量は用意させよう。部屋食(これ)ならば一般人の目を気にする必要も無いし……代金さえ積めば、必要なだけ届けてくれるだろうからね」

「!! ………♪ ……♪♪ …………!」

「…………そうだね。……まぁ、不安といえば…………『ソフィ』はともかく『リヴィ』も、朝餉が届くまでにちゃんと目を覚ますのか……という点かな」

「…………、…………! ……!!」

「…………いや、さすがにそれは良くないよ、『アピス』。ヒトは食事を摂らねば死んでしまう。君の暴食(願い)も勿論大切だが……かといって、姉妹を死なせたくはあるまい?」

「………………。」

「……そうか。解ってくれたか。…………ふふ、『アピス』は良い子だな」

「…………♪♪」




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289【第二関門】はじめまして



いざいざいざいざいざ





 

 

 心行くまで優雅な朝食ブッフェを堪能し終えたおれたちは、部屋へ戻ってお出掛けの準備へと取りかかる。

 今日は特に大切な用事があるので、くれぐれも粗相がないようにしなければならない。……というか、ミルさんは果たして大丈夫なんだろうか。心配のあまりごはんが喉を通らないかもしれな……めっちゃもりもり食っとったな。

 

 

「……ぼく一人だったら、途方に暮れてたと思いますけど……若芽さんたちが居てくれるので、心強いですよ」

 

「き…………恐縮ッス」

 

 

 ……うん。心配はなさそうだ。

 なんだかんだで、やっぱりおれなんかよりも肝が強い。さすがは鋼の心臓(アイアンハート)の異名を誇る歴戦の配信者だ。

 

 他人の心配よりも……自分達の心配をしなきゃ、ですね。

 

 

 

「じゃあ昨日の予定通り、タクシーでいこうと思います。コンシェルジュさんには手配お願いしといたので……そろそろ行きますか。覚悟は良いですか?」

 

「はいっ! ぼくは大丈夫です!」

 

「わ、わたくしも……大丈夫、ですっ!」

 

「オレは全然問題ないっす。ただのマネージャーさんですし」

 

「がっつり食べたからね。ボクもしっかり働くよ!」

 

 

 みんながみんな、心構えもバッチリきまっていたようだ。……大丈夫だな。

 部屋の時計はもうそろそろ、九時を示そうかというところだ。打ち合わせ会場である『にじキャラ』さんの事務所があるのは、渋谷区の一等地。コンシェルジュさん情報では二十分程度で着くらしいので、それを信じて行動開始する。

 

 シースルー眺望良好エレベーターで一気に下り、ホテルの正面玄関へ。

 するとそこには……おれの考えていた『タクシー』とはちょっと毛色の異なる車輌がバッチリ待機しており、運転手さんがにこやかな笑顔とともに出迎えてくれた。

 

 

「木乃様、四名様でございますね。お待ちしておりました。本日皆様の御案内を務めさせて戴きます『帝國旅客車輛』の瀬戸(せと)と申します」

 

「え……あれっ!? あ、はいっ! お世話になります!」

 

 

 スライドドアを開けてもらい通された車内は……四つの完全独立キャプテンシートが配された、ゆったりとぜいたくなつくりの特装車両。天井が高く全長も長い、たしか『グランエース』とか呼ばれる高級志向のミニバンだった気がする。……おれも一時期めっちゃ憧れてたやつだ。

 この車なら後部座席に三人が『ぎゅっ』てなる必要も無いし、ダークトーンとレザー調で落ち着いたインテリアは単純にめっちゃ好みだ。運転席に収まる瀬戸さんの所作もキビキビと心地よくて……まるでおれがえらいひとになったみたいな、そんないい気分にさせてくれる。

 

 

 

「それでは出発致します。狭い車内ではございますが、到着まで暫しの間お寛ぎ下さい」

 

「えっ? (せま)……? えっ、アッ、アッ…………よ、よろしくおねがいします」

 

 

 おれたちが目的地を告げることも無く、黒くて艶々でかっこいい大型タクシーは静かに走り出す。……たぶんだけど、コンシェルジュさんに予約お願いするときに目的地聞かれたからな。そこから伝えてくれたんだろうな。スマートだ。

 

 道中の車内の様子は簡単にまとめるが……なんとぜいたくにも首都高速を使って、めっちゃスムーズに送り届けてくれた。途中かの有名な『虹の橋』を渡るときなんかは、誰とは言わないけど五人中二人が大はしゃぎでした。

 

 ちなみにやっぱ言っちゃうけど、正解はモリアキとおれです。霧衣(きりえ)ちゃんとラニちゃんは完全に言葉を失ってました。かわいいね。

 

 

 

 

「道中大変お疲れ様でございました。到着でございます」

 

「アッ…………ありがとう、ございます。……スッゴク快適でした」

 

「お粗末様でございます。お足元お気をつけ下さい」

 

 

 高速道路のおかげで渋滞にも捕まらずに済み、前情報どおり二十分ほどで到着したのは……東京都渋谷区の一等地、賑やかな通りに面したオフィスビルの前。

 事前に八代(やしろ)さんから頂いていた情報と照会してみたところ、やはりこのビルで間違い無いようだった。

 

 そう……八階建てのこのビルのてっぺんツーフロアが、今ちまたで話題の超大手仮想配信者(アンリアルキャスター)事務所『にじキャラ』さんの、いわば本拠地ということになるのだ!

 

 

 

「本拠地、とは少し違いますね。……正確には『拠点のひとつ』って感じでしょうか?」

 

「えっ!? そうなんですか!?」

 

「そうなんですよ。ここは最も対外的なやり取りを行う拠点でして…………えっと、もしかすると社内秘に片足突っ込むかもしれないんですけど……いわゆる『収録』や『配信』を行ったり、配信者(キャスター)の子たちが入り浸ってる拠点は、また別のところにあるんですね」

 

「……はえー…………そっか。配信者(キャスター)さんたちの身バレ対策もあるんです……かね?」

 

「あるかもしれないですね。……単純に、スタジオセットや防音室を組み立てるには手狭だっただけかもしれませんが」

 

 

 配信者(キャスター)事務所の内部事情を聞かせて貰っちゃいながら、おれたち四人(プラス一名)は現在エレベーターで八階を目指している。

 本日のお相手である八代さんに到着の旨をREIN(メッセージ)送信したところ……どうやらもうお邪魔して大丈夫らしく、丁寧なお礼の言葉と『エレベーターで八階までお願いします』との指示を頂いたのだ。

 

 フロアレベルを示すデジタル表記がひとつひとつ進んでいき、運命のときが刻一刻と近づく中……恐らく一番重大な告知事項を秘めるミルさんは、まるで平然とした穏やかな佇まいだ。

 そんな堂々とした様子を見せつけられては……おれだって、いつまでもあわあわしているわけにはいかない。

 畏れ多くもお招き頂いた、大事なお話し合いの席なのだ。くれぐれも粗相のないように……失敗しないように、ちゃんとしていなければならない。

 

 

 

「………では、手はずどおりに。まずはおれたちが前に出ます」

 

「はい。お願いします。一通り皆さんのご紹介が終わったら……ですね」

 

「おれたちも全力でフォローするので……どうか、気を楽に」

 

「心強いです。……ありがとうございます」

 

 

 最終確認を済ませたところで、いよいよデジタル表記が『八』階を示す。軽い電子音が鳴り響いて無機質な音声が到着を告げ、自動扉がスムーズに開く。

 エレベーターホールの向こう側、ライトグレーの壁に掛かるスチールのフロア案内表示には『八〇一・八〇二・八〇三:株式会社NWキャスト』の表記。……間違いなく、ここだ。

 向かって右手側が八〇一と八〇二、左手側が八〇三号室なわけだが……おれたちがお呼ばれしているのは八〇三号室なので、左側だ。給湯室とお手洗いの横を通って廊下を進むと、正面にスッケスケのガラスの間仕切り壁とガラス扉が立ち塞がる。東京のオフィスビルってスッケスケ度高くない?

 

 

 そして、その向こうから……おれたちの姿を認識し、満面の笑みを浮かべて駆け寄ってくる(※室内で走ってはいけません)女の子が一人と、そのすぐ後ろを必死な表情で慌てたように追い掛ける男のひとが一人。

 

 

 

「のわっちゃーーーーーーん!!!」

 

「うわぁぁぁぁぁ!!?」

 

「村崎さん抑えて!! 廊下!! ここ廊下です!! お静かに!!」

 

 

 突如響き渡った女の子の喜声に……目の前の八〇三号室だけでなく、背後のほうの八〇一と八〇二号室のほうからも、こちらを窺う気配の動きを感じる。

 しかし、あくまで気配を感じるだけだ。その人々の動きをおれの視界では確認することはできない。……なぜなら。

 

 

「ちっちゃいなぁ! 可愛(かわえ)ぇなぁ! ほんまにアバターのまんまの『わかめちゃん』なんやなぁ!」

 

「う、うにふぁ…………ふご、あもっ」

 

 

 屈託のない笑みを浮かべるショートヘアの女の子……口調や声色から察するに『村崎うに』さん(の(なかのひと))に取っ捕まり、そのお胸に頭部を抱き込まれていたわけで。

 

 ……そして、そのせいで……おれが予定していた自己紹介や、その後のフォローをこなすことが出来なかったばっかりに。

 

 

「……? あ……っ…………? え……あの!? ちょ、ちょっと……ミルク、さん?」

 

「んお? なんやぁミルも一緒…………に…………」

 

(あっ、これやばい)

 

(ごめんノワ、これちょっと阻止無理だわ)

 

 

 

 うにさん(の(なかのひと))の後を追っ掛けてきた八代さんが、どうやら最後尾のミルさんの姿に気づき。

 今まで接してきた()()……有村悠菜(ありむらゆうな)さんとは明らかに異なる、『ミルク・イシェル』そのものの容姿を目の当たりにして戸惑いを隠しきれず。

 

 硬直する彼に釣られるように……アバターそのものの姿で現れた同僚の姿を目撃した、村崎うにさん。

 この感情を素直に表に出す女の子が、果たして平静を保っていられるハズもなく。

 

 

 

 

「……ご無沙汰、してます。……うにさん」

 

 

「お゛わぁぁぁぁああああああああああああああああああああああ!!??」

 

 

 

 

 腹の底から響き渡る、本気の『絶叫』と表現して差し支えないであろう大声が……このフロア全体隅々へと届かんばかりの声量を伴い、それはもう盛大に響き渡った。

 

 

 ……ふつうの人間種よりも圧倒的に高い感度を誇る……おれの地獄耳(エルフイヤー)の、すぐ近くで。

 

 

 






ようやっっと会えたな!!

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よろしうにー!!



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290【第二関門】宜しくお願いします!



よろしうにー!!!





 

 

 このオフィスビルそのものには、いろんな会社や団体のオフィスが入居しているらしいのだが……おれたちが今いる八階フロアの全体と七階フロアの半分は、配信者事務所『にじキャラ』の運営母体である『株式会社NWキャスト』さんが押さえているらしい。

 つまりこのフロアにいる人間は(おれみたいに商談に訪れた来客や、コーヒーマシンの備品補充業者等のごく一部を除き)全員が『にじキャラ』さんの身内というわけで。

 

 まぁ、要するに……極めてあたりまえのことなのだが、仮想配信者(アンリアルキャスター)『ミルク・イシェル』のことをよく知っている人()()()()()わけで。

 

 

 よりにもよって廊下で絶叫されてしまったばかりに、おれたちが通された八〇三号室は勿論のこと、八〇一と八〇二号室にもことの顛末は知れ渡ってしまっており……恐らくは今このときも、この会議室の外には多くの関係者が詰めかけていると思われる。

 

 

 

 

「…………以上が、わたしと……()の身に起こった、仮称『身体存在改竄事案』の顛末になります」

 

「「「「………………」」」」

 

「えーっと……ご質問等、ございましたら……」

 

 

 ……当初の予定では、まず八代さんと面会して、ことの顛末を伝えて、彼の判断を仰ごうかと考えていたのだが……『もしかしたら居るかもしれない』とは思っていた『村崎うに』さんの介入によって、事態はかなり大規模な騒ぎへと波及していった。

 

 とはいえ、話すべき内容は変わらない。現在おれは『にじキャラ』さん(かた)の四名――『村崎うに』さん(の(なかのひと))と、Ⅳ期生【Sea's(シーズ)】マネージャーの八代(やしろ)さんと、同アシスタントの六丈(りくじょう)さんと……『にじキャラ』部門の統括本部長である(らしい)鈴木さん――の目の前で、『ミルク・イシェル』さんの演者さんが『ミルク・イシェル』さん()()になってしまった原因と(もく)される事象についての説明を行っているところである。

 

 ……まぁ、あれよあれよという間に執行部の役員のお方までお越しになられてしまわれたので……表面上は粛々と進めておきながらも内心めっちゃガクビクしてる、というのは内緒だ。

 

 

 

「…………正直、非常にファンタジーな……非現実的な事象だとは、わたし自身でも思ってます。……いきなり出てきて『信じてくれ』って言われても、困りますよね。……そう簡単」

 

「うん。驚いたな」

 

「貰える訳じゃないってことくらいは…………えっ?」

 

「うん? いや、僕は信じるよ。……驚いた」

 

「「えっ!?」」

 

 

 おれの説明……こんな非現実的な事象のアピールを受け、あっさりと『信じるよ』と言ってのけたのは……統括本部長の鈴木さん。

 この『にじキャラ』運営の舵取りを行うとてもすごいお方で、本来ならおれなんかがそう易々とお話しできる立場のお方じゃないのだが……そんな偉大なるお方が、おれをまっすぐと見据えてくれていた。

 

 

「僕はこれでも……ヒトの表情筋について、色々と勉強してきたつもりだからね。君が……えっと…………ごめん」

 

木乃若芽(きのわかめ)さんです、本部長」

 

「ごめんごめん。……だから、ウソを言ってるかどうかは割と判るんだけど……若芽(わかめ)さんとミルクさんが虚偽を述べてるんじゃ無いってことは、とりあえず判った」

 

「ひぇっ」

 

「……それと…………若芽(わかめ)さんと、()()ミルクさん……表情の動きに『つくりもの』っぽさが、少しも見当たらないんだよね。スキンを重ねた特殊メイクなんかじゃ、こうはいかない」

 

「「おぉー…………」」

 

 

 意外……と言ったら失礼だが、どうやらちゃんと信じてくれるひとが居てくれたこと(しかもそれがとびきり偉いひとであること)に、とにかくものすごく感謝すべきだろう。

 お陰でおれも、信じてもらうためにアレコレ苦心する必要がなくなりそうだ。

 

 

 

 

「じゃあじゃあ、もう()()も問題無いよね?」

 

「「「「!?」」」」

 

「アッ! おばか!」「ちょっ……!?」

 

「大丈夫、ちゃーんと【静寂(シュウィーゲ)】張ってるし。ココダケのナイショってやつだよ」

 

「そういう意味じゃ…………ぁぅ」

 

 

 ……まぁ、確かに……じっさいに彼女の姿を見せつけてやったほうが、事態を把握させるための最短経路なのだろう。魔法を見せつけてやることも手段のひとつだが、こちらのほうがビジュアル的にもわかりやすい。

 なんてったって、見たまんまのファンタジー種族だ。現代日本にとっては……それこそ画面の中でしか有り得ない、多くの創作者が恋い焦がれた幻想存在。

 

 

「ふぇありー…………ラニ、ちゃん……?」

 

「んん? そうそう! いやーお久しぶりだね、ウニちゃん。先日はどーも! また小隊(チーム)組もうね!」

 

「おっ、おう! うわぁーマジか!? えぇーマジか!! なんやこれくっそかわやん!!」

 

「ヤシロさんも……こんにちは、はじめまして。いつもうちのノワがお世話になってるね!」

 

「あ、いえ……こちらこそ、その節は……こちらこそ、お世話になりました」

 

 

 

 手のひらサイズのその身体で、ひらひらと会議室内を飛び回り……うにさんを始め『にじキャラ』さんの面々へ、愛想よくご挨拶を続けるラニちゃん。

 おれの相棒にして……頼れるアシスタント妖精さん。

 

 彼女がいきなり姿を現した目的が、おれにもようやく理解できた。

 

 

 

「それで…………キミが、ウニちゃんたち組合(クラン)頭目(ヘッド)……で、合ってるかな?」

 

「うーん……微妙なとこですね。会社の経営的にはもっと()がいるんですけど…………『にじキャラ』内での舵取りという意味では、まぁ……責任者の一人、ではありますね」

 

「なるほど。つまり……ミルちゃんの今後を決定できる立場であるわけだ」

 

「「「「…………!!」」」」

 

「…………そうですね」

 

 

 当初の予定には含まれていなかったのだが……騒ぎを聞き付け、急遽この場に加わることとなった、配信者事務所『にじキャラ』の実質的責任者である鈴木本部長。

 前代未聞の事態に直面した所属タレント(ミルさん)の処遇について、決定権を有する人に直談判出来るのは……正直、幸運だった。

 

 幸運にも整ったこの場で、おれたちがまず行わなければならないこと。

 ラニと思念を繋いでの協議の上で導き出した、最優先事項。……それは。

 

 

 

 

「「……お願いします!!」」

 

 

 会議机を挟んだ向こう側に座る、鈴木本部長へ。

 おれは勢いよく立ち上がり、腰を直角ちかく曲げた最敬礼で。ラニも空中に浮かんだまま、深々と頭を下げて。

 

 

「直接的な原因の一端は、ボクに……異世界人であるこの『ニコラ・ニューポート』にあります。ボクに出来る補償であれば、力の及ぶ範囲で何でもします。……だから!」

 

「だから、どうか! ミルさんの……『ミルク・イシェル』さんの、続投を! 活動の継続を! もしこのことで生じる損害であれば、我々が……微力ながら、精いっぱい補填致しますので……どうか!!」

 

「え、ちょっ!? ちょっと、あの、あの……若芽さん!?」

 

 

 ()()()()()()まで……これまでの自分を投げ捨ててでもキャラクターに没頭したいと()()()いたミルクさんが、その役から外されてしまうような事態にでもなれば――『ミルク・イシェル』を演じることが出来なくなってしまえば――それは間違いなく、深い絶望を生んでしまう。

 

 また同様に……ミルさんを推していた、本気(ガチ)支援者(ファン)にとっても、人生をかけて推していた存在が居なくなってしまえば、その喪失感は計り知れない。

 

 

 そしてそれは。その深く暗い……負の感情は。

 この首都東京で何かを画策している『魔王』のばら蒔く『種』にとって、格好の温床となってしまうだろう。

 

 それは……避けなければならない。

 

 

 

 

「…………まぁ、問題ないでしょう。良いんじゃないかな?」

 

「「「えっ!?」」」

 

「実際……一ヶ月近く? 何も問題なく活動出来てたわけだろ? 村崎さん?」

 

「えっ!? あっ、まぁ……はい。普通に……特に、違和感とかも無く……」

 

「じゃあまぁ、そういうことで。業務に支障が生じていない以上……まぁ、本人が『辞めたい』とか言うんでなければ」

 

「言いません! 続けさせてください!」

 

「なら、問題無いね。今後とも頼むよ、ミルクさん」

 

「…………っ!! はいっ!! ありがとうございます!!」

 

「「ありがとうございます!!」」

 

 

 

 とりあえず……これで最悪の事態は、免れることが出来た。

 ミルさんも思い入れのあるキャラクターとして活動を続けることが出来るし、八代(マネージャー)さんも六丈(アシスタント)さんも……そしてうにさんも、明らかに『ほっ』としてくれているのが見てとれる。

 

 ……本当に、よかった。

 

 

 

「それはそうと……木乃若芽(きのわかめ)、さん?」

 

「はっ、はいっ!!」

 

「それと……ニコラ、さん? で良かったかな?」

 

「活動中は『ラニ』で通ってるので、そっちで!」

 

「じゃあ、ラニさんね。……ちょっとお聞きしたいんだけどね」

 

 

 

 

 ……この日。

 

 『にじキャラ』さん……いや、この業界は。

 

 

 

「魔法、って……どんなことが出来たりするのか、ちょっとだけ聞かせてもらっても、良いですか?」

 

「わ、わかりました。わたしにわかることなら」

 

「お安いご用よ! この『天幻』のニコラにお任せあれ!」

 

 

 

 

 大きな……非常に大きな、転換点を迎えることとなる。

 

 



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291【第二関門】続・はじめまして

 

 

「んー……今聞いたような条件で『魔法』を構築すること自体は……色々と技術的な課題はあるけど、不可能じゃない。あくまで表層に限って再現するだけであれば、ノワやミルちゃんみたいな『根本的な改竄』を受ける危険も無いだろうね」

 

「その……技術的な課題、というのは?」

 

「大きく分けて、二つかな。一つは、術者がその『キャラクター設定』を忠実に表現する必要があるっていうこと。もうひとつは……単純に、コストの問題」

 

「コスト……というのは、その……『魔法』を行使して頂く際の……?」

 

「んんー……報酬(ギャラ)、とは少し違うかな。いやまぁ、ボクらもやってやれないことは無いけど、その都度ボクらに『発注』して報酬(ギャラ)払ってーってするのは、スズキさんがわも色々と面倒でしょ? 最終的には外部からの魔力供給を無く……は、難しいか。供給の手間を極力減らしたいなって。バッテリー方式、っていうのかな?」

 

 

 

 

 鈴木本部長さんがおれたちへ……というか、ラニへと持ち掛けた相談というのは、ほかでもない。ミルさんのように、キャラクターアバターを実際の人間に投影することは、果たして可能なのか。……というものだ。

 

 仮にそんな魔法が確立されれば……3Dアバターモデルを新たに製作せずとも、演者に直接アバター情報を投影することで、様々な活動に対応することが出来る。

 おれこと木乃若芽ちゃんが、仮想配信者(ユアキャス)の枠に収まらない様々な演目をこなしてきたように……既存仮想配信者(ユアキャス)の子たちも、より『映える』動画を公開することが可能となるのだ。

 

 ……まぁとはいえ、今回のお話であった魔法は、あくまで『外見』を投影するのみに効果を絞る形になりそうだ。

 なので、おれやミルさんのように特殊技能(=魔法)をも含めた『キャラクター設定』まで再現できる……というわけでは無いだろう。そこまで再現するには、どうしたって不安要素が多すぎる。

 

 

「魔力の供給源に関しては……うーん、相談してみないと。ボクら以外の協力者の助けが必要だと思う」

 

「では……そちらの折衝はお任せしても? 仮に費用が生じるようであれば、弊社としてもご相談に応じられるかもしれません。勿論、技術開発に関する投資も吝かではありません」

 

「オッケー話がわかるぅ! そういうコトならボクも魔法開発がんばるよ! じゃあじゃあスズキさん、REIN交換しよREIN。トモダチ申請しよ」

 

「妖精さんとREIN交換とは、光栄ですね。同業者に自慢してやりたいところですが……」

 

「それはまた別料金で。ボクは高いよぉー? ひゃくおくまんえんくらいかな!」

 

「はっはっは! これはまた手厳しい」

 

「はっはっはっは!」

 

 

 …………ぇえ、なんなのこのコミュ(りょく)オバケ。あっという間に業界最大手の上層部とお近づきになりおったぞ。

 そりゃあ、他に類を見ない『魔法』というアドバンテージがあったにしろ……さほど不快感を抱かせずにグイグイ潜り込んでいく積極性には舌を巻くしかない。……広報担当のモリアキ氏もドン引きである。

 

 

 

「えーっと……部長さん、横からすみません」

 

「はい。何でしょう? 村崎さん」

 

「……あの、つまり…………あたしも『うに』に、あたしたちも『ユアキャス』の姿になれる、かも……ってことっすか?」

 

「ご期待に沿うようボクがんばるよー! 期待しててねウニちゃん!」

 

「ラニちゃんんんんんん!! すき!! けっこんしよ!!」

 

「はっはっは。照れるね」

 

「ただ、この情報はまだ内密にお願いします。……なにぶんまだ不確かなものなので」

 

「そうだね。ウニちゃんはしかたないけど……他の子には、ぬか喜びさせたくない。ヤシロさんたちも……もちろんノワも、気を付けてね? この後ミーティングだろ?」

 

「アッ、ハイ!!」

 

「……そうですね。ありがとうございます」

 

 

 そ……そうだ。そうだった。あまりにも内容が濃すぎたせいで忘れていた。

 こんなに重要な会談の場が設けられていたわけだが……これはあくまで『ちょっと早く着いてしまったために起きた予定外の会議』に過ぎないのだ。

 

 おれたちの本来の目的……おうたコラボに向けた顔合わせは、まだなにひとつとして始まっていないのだ!

 

 

 

 

 ……というわけで、ここでお忙しい中同席してくれていた鈴木本部長が退出する。恐らくコトの詳細を周知したり秘匿したりするためのアレコレが待っているのだろう。今後の込み入ったお話は、ラニと直接REIN(メッセンジャー)で行うようだ。

 また同じタイミングで、ミルさんたちのアシスタントである六丈(りくじょう)さんも……こちらは一旦の退出となるらしい。なんでも玄間(くろま)くろさんを呼びに行くんだとか。

 

 会議室の扉が開いた瞬間――直接は見えない角度だったが――ものすごい人々の注意が一斉にこっちへ向いたのが、探知魔法を使うまでもなく把握できてしまった。

 霧衣(きりえ)ちゃんもモリアキもミルさんもうにさんも、思わず真顔で顔見合わせちゃったもんな。……このお部屋はスッケスケじゃなくて、本当によかった。

 

 

 それにしても……ラニも『魔法開発』なんて軽々しく請け負っちゃったけど、大丈夫なんだろうか。いくら『天幻』の二つ名もちとはいえ、無から新たな概念を創造するようなものだ。

 ……でもそういえば確か、おれの尻を揉もうとして【義肢(プロティーサ)】とか作ってたなこのスケベ妖精。なんか大丈夫そうな気がする。

 

 

 

「でも、まぁ……今まで通り活動できそうで、良かったっすね。ミルさん」

 

「はい!! 本当にありがとうございます!!」

 

「ボクらは何もしてなかったけどね。スズキさんと……やっぱ『にじキャラ』さんの理解あってこそだよ」

 

「ですねぇ……本当あっさり。配信者(キャスター)さんのやりたいように演じさ(やら)せてくれるんだなって」

 

「そやそや。それこそ特にクロなんか……もう、やりたい放題やしなぁ……」

 

「ぇえ、そんな…………えっと、すごいひとなんですか……」

 

 

 今回おれが(おそれおおくも)共演(コラボ)させていただく、玄間(くろま)くろさん……普段の配信からもなんとなく垣間見えていたが、やはりその本性はなかなかすさまじいようだ。

 ミルさんもうにさんも心なしか遠い目をしているようにも見えるし、マネージャーの八代(やしろ)さんに至っては……なんだか溜め息をついてガックリとうなだれてしまっている。待って、ちょっと不安になってきたんだけど。大丈夫?

 

 

「いやぁ……大変だったんよ。あの子基本的に人見知りっていうか……気分屋っていうか……」

 

「実を申しますと……今日のこの場も『ミルクさんが久しぶりに来るから、同期生で集まったらどうか』という名目で呼び出してまして。……いやぁ、つまりですね」

 

「え、ちょっ!? その……つまり、わたs」

 

「にるにるーーーー!」

 

 

 直前になって明かされた驚愕の事態に思わず硬直する中、独特な呼称と共に勢いよく会議室の扉が開き……二つ結びにした黒髪を尻尾のように跳ねさせて、ニコニコ笑顔の女の子が会議室へと飛び込んでくる。

 

 身長は……見た感じでは、やや小さめ(といっても当然おれより高いのだが!)……一五五くらいだろうか。

 暖かそうなモコモコのコートに身を包んだ小柄な姿が室内をぐるりと見回し……真っ白なドレスに身を包んだ白髪ロングの男の娘を視界に収め、その目蓋を大きく見開く。

 

 

「……………………あれ、にるにるだ」

 

「ど、どうも………ご無沙汰です」

 

「……んん? …………なぁ、にるにる?」

 

「は、はいっ! なんでしょう!」

 

 

 久しぶりに会う(らしい)同期生を、真正面から見つめ。

 右手を顎に、左手を腰に当て。

 可愛らしく『こてん』と小首をかしげ。

 

 

 

「3D…………できとったん?」

 

「…………えー、っと……」

 

「……なぁクロクロ、ちょーっと無理があるって。3Dだったとしてもココにいるのはオカシイっしょ」

 

「んー………………そかなぁ」

 

「そやよぉ」

 

「…………そっかぁ……」

 

 

 口では理解したようなことを言いながらも、まだ色々と納得していないようだ。……まぁそれも当たり前と言えば当たり前なのだが。

 首をかしげながらもまわりを見回し、うにさんを見て、八代(やしろ)さんを見て、六丈(りくじょう)さんを見て…………

 

 

「え? だれこれ」

 

「あっ、アッ、エット……」

 

「……新人さん? え、これ面接とかそうゆう感じなん? うちヤバいとこ入ってきた?」

 

「ち、ちちち違います、大丈夫なとこです。大丈夫ですクロさん」

 

「ええと、まぁ……順を追って説明しますので……とりあえずお掛け下さい」

 

「はぁーい」

 

 

 

 ……うん、まぁ……うにさんのように絶叫されるのも、それはそれでちょっと困るんだけど……しかしこれはなんというか、これはこれで調子が狂うと言いましょうか。

 

 前情報通りの非常にマイペースな、のほほんとした雰囲気で……玄間(くろま)くろさんとの顔合わせは(若干の認識不一致とともに)幕を開けた。

 

 

 



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292【第二関門】では、こんな感じで

 

 

 改めて……軽く探知魔法を使ってみたり、指向性を持たせて聴覚感度を強化してみたりと情報収集を試みた結果……やっぱりというかなんというか、この会議室の外は結構な騒ぎになっているようだ。

 その騒ぎの内訳としては、実在ロリエルフ配信者(キャスター)であるおれ(わかめちゃん)の来訪に関してのざわめきも(嬉しいことに)少なからずあったわけだが……しかしやっぱり一番大きなざわめきとしては、『ミルク・イシェル』さんが実在して(しまって)いたことに関してのようだ。

 

 普段から(ミルクさん)(をはじめとする所属配信者(キャスター))がどれほど大切にされているのかを窺い知ることが出来た反面……あの喧騒の只中を何食わぬ顔で『のほほん』と突破して来たくろさんの大物っぷりに、おれは驚愕を禁じ得なかった。

 

 

 

 

「……初めまして、玄間(くろま)くろさん。わたしは……新人仮想配信者(アンリアルキャスター)木乃若芽(きのわかめ)と申します」

 

「………………ほぅん?」

 

「では、私から。実はですね……玄間(くろま)さんに、新しく共演(コラボ)のご提案がございまして。そのお相手が、こちら『のわめでぃあ』の」

 

「あぁー…………あぁー! しっとるよ、うち」

 

「えっ!?」

 

「アメイジンググレイス。アカペラで歌うとった子やろ? 緑エルフの小ちゃい子。……うん、しっとるしっとる。見た見たうちも」

 

「あ…………ありがとうございます!」

 

「いぃーえー」

 

 

 初手のインパクトでペースを持っていかれるところだったが……本来の目的も忘れるわけにはいかない。

 おうたコラボのための顔合わせであるので、つまりは共演(コラボ)相手であるくろさんとお近づきになった方が後々スムーズに進められるのだろうが……しかし『人見知り』と聞いていたので、正直ちょっと不安だったのだ。

 しかしながらなんとくろさんは、おれのアカペラ歌唱を聞いたことがあるのだという。全くの未知・無関心からのスタートも覚悟していただけに、これはちょっと嬉しい誤算だ。……これはもしかすると、うまく行くのではないだろうか。

 

 

「でもそんなコラボいうても、うちなに歌えばええのん? そんなんいきなり言われても、なんも準備してへんし」

 

「あ、今日じゃないので大丈夫です。曲目は……まぁ、そこも含めて打ち合わせを行っていきたいのですが……若芽さん、ちなみに『カラオケ』はお好きですか?」

 

「えっ? あっ、アッ、はい! からおけ! 大丈夫です!」

 

「それでは、スタジオに機材を用意しての……いわゆる『オフコラボ』のような形式ではいかがでしょう? コメントやSNS(つぶやいたー)でリクエストを募って、目についた歌えそうなものを随時予約いれていって頂く感じで」

 

「ん。ええよ」

 

「ぅえ!? え、ちょっ……あの!? ……良いん、ですか? わたしなんかが共演(コラボ)相手で……」

 

「まぁ、八代(ヤシロ)んが『やれ』言うたしなぁ。うちもかめちゃんの歌聞いて『ええなぁ』思うてたし、んにはんもにるにるも懐いとるみたいやし。ぜんぜんええよ。よろしうな」

 

「は……はいっ!! よろしくお願いします!!」

 

「おーおー。かぁいいねぇ。かわいいねぇ。……写真撮ってええ?」

 

「えっ? アッ……いい、ですよ。大丈夫です」

 

「んふゥー」

 

 

 ニコニコ笑顔でいそいそとスマホを取りだし、こちらへと向けてくる玄間(くろま)くろさん。どうやら気に入っていただけた……のかな。なんともマイペースなひとだ。

 正直いって、おれはここまでトントン拍子で進むとは思わなかったのだが……どうやら八代さんも六丈さんも、またうにさんやミルさんであっても、この展開は少なからず予想外だったらしい。

 

 独特の歓声を上げながら可愛らしくはしゃぐ歌姫(の(なかのひと))を、おれたちはしばし唖然としながら眺めていた。

 

 

 

 

 

 

「んで? にるにるはどうしてにるにるになったん?」

 

「ふュご!?」

 

 

 ひとしきり写真撮影を堪能したらしいくろさんが、のんびりお茶をすすることしばし。

 ニコニコ顔からいきなり繰り出された、あまりにも事態の直球ど真ん中な質問に……当事者であり質問された側のミルさんが、不意を突かれておもしろい悲鳴を上げる。

 

 ……まぁ、説明しないわけにはいかないだろう。鈴木本部長がこの後どういう告知を出すのかはわからないが……同期生である彼女(くろさん)たちには、偽るような真似をしない方がいいだろう。

 そう思って八代さんへと視線を向けると……おれと同じ結論に至ってくれたのだろう。申し訳なさそうな表情ながら、大きく頷いてみせた。

 

 

 

 ……というわけで、おれは再び説明に入る。内容的には先ほど鈴木本部長に話したものと同じなので、ざっくりがっつりと割愛させていただく。

 くろさんは椅子に座ったまま、上半身をゆっくりぐーるぐーる回しながら……えっと……たぶん、真剣に聞いてくれていた。

 

 そうしてこうして、おれが一通りの説明をし終えた後、くろさんが発した言葉は……

 

 

 

「ぅん! わかったぁ!」

 

「……のわっちゃん騙されちゃあかんで。これわかってないやつや」

 

「全く思考時間なかったですもんね。多分途中からもう聞いてませんよ、くろさん……」

 

「んふゥーー」

 

 

 個性的な鳴き声(?)を上げながら、ニコニコ顔を崩そうとしない玄間(くろま)くろさん。うにさんとミルさんの指摘に対しても特に反論しないあたり……図星といったところなのだろう。

 おれとしては……せっかく熱弁をふるった説明をあんまり聞いてもらえてなかったという事実に、正直『ぐさっ』と来たわけだが……

 

 

「まぁ、にるにるがにるにるで無くなるわけでもないし。かわいいし。えっかなって」

 

「…………くろ、さん……」

 

「んふゥー。かぁいいねぇ。前のモシャモシャしたにるにるもかぁいかったけど、今のサラサラのにるにるも、うちは好きやで。写真撮ってええ?」

 

「んん゛ッ! ……わかり、ました」

 

「そっちの可愛(かわ)い子ちゃんもええ? せっかくやし、白ロリふたりで」

 

「はひゅ!?」

 

「んふゥーー初々しいなぁカワエエなぁ。よっしゃ()ろたで」

 

「す、すみません……きりえさん……」

 

「ひゃわわわわうわうわうわう」

 

 

 おっとぉ……くろさんのことを『仲間思いのいいひとだなぁ』と見直した直後、霧衣(きりえ)ちゃんにタゲ(ターゲット)が向いたぞ。

 こいつぁちょうどいい。どうやらただの『かわいい子好き』らしいくろさんに……わが『のわめでぃあ』の誇る最高ファンタジーかわいい戦力を、今こそお見舞いしてやろうではないか。ラニちゃんやっておしまい!

 

 

「はいはーい! ボクもいれていれて!」

 

「んん? なんやまた可愛(カワ)い子ふえたな。ええでお嬢ちゃんおいでおいで。はーいポーズ」

 

((………………んん???))

 

「おー可愛(カワ)い。ええなぁお嬢ちゃんノリノリやね。ほなも(いち)枚」

 

「う、うん? うん……いぇーい」

 

「んふゥーお嬢ちゃんなかなかきわどいねぇ。かわいいねぇ」

 

「…………あの、クロ? ちょっと……何も疑問に思わんの?」

 

「……んー? ………………なんかある?」

 

「えーっと……」

 

「……あぁ! たいへんや、パンツはいてないやん!」

 

「「「「「そこじゃなくて!!」」」」」

 

「…………んー?」

 

 

 

 いやぁ……いやぁ、マイペースだ。

 話に聞いていた以上に、ほんっとマイペースだ!

 

 

 もう、まったく……かわいいなぁ!!

 

 



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293【第二関門】常識ビフォーアフター

 

 

玄間(くろま)くろ。よろしくぅ」

 

「ちゃんと自己紹介しぃや! なんかもっと、こう……あるやろ!」

 

「んふゥー」

 

 

 

 まさかのまさか、この日本において実在幻想種族(フェアリー)をスルーする人がいるとは思わなかったが……ちゃんとあの後(ひかえめだったけど)驚いてくれたので、まぁそこんところはヨシとしようじゃないか。

 ……ほら、ラニちゃん元気だして。何しょげてんのさ。あぐらかかないでよ。おまた見えちゃうでしょ。

 

 

 

「改めまして……エルフになっちゃいました、木乃若芽(きのわかめ)です。こっちの和服美少女が……」

 

「あっ、あのっ! れぽーたー見習いの……霧衣(きりえ)と申しますっ!」

 

「そしてボクがフェアリーの! 現代ニホンで唯一のフェアリーの! 超稀少種族フェアリーの! ラニことシラタニです!!」

 

「どうどうラニちゃん」

 

「ごめんてマミちゃん」

 

「むきぃーー!!」

 

 

 ラニちゃんの(不本意な)尽力もあり、くろさんとの距離感は大きく縮めることが出来た……気がする。

 おかげでやっと、本当にやっと、本題である『おうたコラボ』に関しての詳細を詰める話の場を設けることが出来た。

 

 八代さんの提案によると……場所は『にじキャラ』さんの所有スタジオにて、普通のカラオケ機材を用いての『カラオケ配信』ということらしい。

 っていうかさっき普通に言ってたけど……自前で持ってるんですかあの機械。

 

 

「でもでも、かめちゃん実在仮想配信者(URキャスター)なんやろ? ふつうにカラオケボックスとか行って、ふつうにカメラで録っても()ぇんやない?」

 

「わ、わたしは別に、構わないんですが……くろさんは、その……大丈夫なんですか? カメラに姿が映っても」

 

「ぅん! 大丈夫ぅ!」

 

「「「「大丈夫じゃ()ないです!!(やろ!!)」」」」

 

「んふふゥー」

 

 

 ……うん、わかったぞ!

 この子は……なんというか、てきとうだ!

 

 決して悪気があるわけじゃないんだろうし、実際悪い子じゃないんだろうけど……まわりで世話を焼く人たちは大変そうだ。

 それがさっきの八代さんの……死んだような目に繋がるんだろうな。

 …………相当振り回されてきたんだろうな。

 

 

「やぁーでもぉー……カラオケボックスのほうが……いいじゃん?」

 

「何をして『良いじゃん』って言っとんのかわからんのやけど……じゃあ逆にさ、くろ。うちのスタジオじゃダメな理由て何?」

 

「…………ドリンクバー……」

 

「「「…………あぁー……」」」

 

「んふゥー! かめちゃんわかってくれる?」

 

「えーっと…………うん……はい。……わかります」

 

 

 そうなんだよなぁ……なんていうか、座って立って歌い続けるだけっていうのも……疲れるっていうのとは少し違うんだけど、だんだん『だるさ』のようなものが出てきちゃうんだよな。

 そういうときに気分転換もかねてブースから出て、ドリンクバーで好きなジュースを選んで注いで……たった数分の散歩だけど、ブースに戻ってくると『だるさ』がいつの間にか姿を消していて、また歌いたくなってくるのだ。

 あと単純に……オレンジジュースがいっぱい飲める。うれしい。

 

 ……というわけで、おれ個人的な意見としては、くろさんの提案に賛成であるのだが……それをカメラに収めて配信したい側の八代(やしろ)さんと六丈(りくじょう)さんは、やはりというか苦い顔だ。

 そりゃそうだろう。配信者(キャスター)『木乃若芽』と実在の姿がイコールであるおれとは異なり……おれの目の前にいるニコニコ笑顔のくろさん(の(なかのひと))と、配信者(キャスター)としての『玄間(くろま)くろ』さんは――ミルさんとは異なり日本人系のビジュアルではあるものの――正直、かなりの乖離がある。

 

 つまりは……専門的な設備が整っていないカラオケボックスでは、おれたち二人を同じ画面に収めることができない。

 もちろんカラオケボックスに特性グリーン(パープル)バックや編集機材を持ち込めば、対応そのものは可能といえば可能なのだが、とはいえ編集のためのパソコン類から周辺機器への配線類から全て運ばなきゃならないとなると……裏方のひとにとっては、正直いって非常に面倒な注文なのだろう。

 

 ……うん、そのへんの大変さを知ってるおれがくろさん側に付いたのは間違いだったかもしれない。

 

 

 

 このあたりで軽く、現在の状況について整理してみよう。

 

 まず……おれとくろさんの『おうたコラボ』を行うにあたり、演者双方の合意はひどくあっさりと得ることが出来た。

 基本的な方針は、端的に言うと『カラオケオフコラボ』形式。リアルタイムでコメントやSNS(つぶやいたー)ハッシュタグでリクエストを募り、視聴者さんの要求に可能な限り応えていくスタイルを画策している。

 

 ……と、ここで。現在議論の焦点となっているのは、その『カラオケライブ』を収録する場所についてだ。

 

 まず運営側としては、撮影や配信や配信中のフォローを的確に行うためにも『自社で確保したスタジオで行いたい』という基本方針を提示。

 しかしその一方で……主演であるくろさんとおれの二人が『どうせやるならカラオケボックスがいい』と反旗(ワガママ)ひるがえし(言いはじめ)、いきなり意見が対立することとなった。

 

 えっと……裏方の苦労をある程度知ってるおれとしては、正直スタジオでの収録でもべつに構わないんだけど……でもそれを言うとたぶんくろさんが『しゅん』としてしまうので、心の中で手を合わせて詫びつつその意見は呑み込んでおく。

 

 

 

「そうですね……我々としても、最大限演者の意向に添う形としたいのは山々なのですが……」

 

「うーん…………ネックになってるのは、やっぱくろさんのアバターを動かすための機材っすよね。撮影して……まぁ流れるコメント欄とフレームに嵌めて、それを配信に乗せるだけであれば、ハイスペノートが一台あれば外でも可能なんでしょうけど……」

 

「いっそのことさ、カラオケボックスにいくだけいって、まぁドリンクバーとかも使わせてもらって……適当な立ち絵と曲目とかのテロップだけで、わたしたちの姿は映さないで、音声だけライブ配信っていうのは」

 

「「「「「「「それは却下」」」」」」」

 

「んぬェー!?」

 

 

 

 

 ……で、あれば!!(半ギレ)

 

 であれば、やっぱりどうにかして機材を運ぶか、くろさんに涙を呑んで貰うか選ぶしかないですね!

 

 

 

「その……コラボ? までは、どれくらい期限があるの?」

 

「そうですね、なるべくなら早めに計画したいところですが……」

 

「来月の前半あたりでできればー、って言うとったっけ? 八代(やしろ)ん」

 

「ざっと、十日間から二十日間くらい……ってとこかな。……それがどうかしたの? ラニ」

 

「うーーーーん…………まぁ、できる、かな? やってみるか…………やってみる価値はあるか」

 

「ねーえー? ラーニー? ちょっとー? もしもーし? ……おっぱい揉む?」

 

「揉む揉む。……え、ごめん何?」

 

「うわ完全に反射で返事したよ今」

 

「いえ、ですからわかめちゃん揉めるほど無い痛い!! ちょっ、やめてください! よそ様の前ですよ!?」

 

「ああっ! ごめん! つい!!」

 

「うわ完全に反射で殴ったよ今」

 

 

 ……まぁ、ともかく。ラニがなにやら思考に沈んでいたので、そのお考えをお聞かせ願おうと思ったわけだが……

 

 そこにはなんと、この仮想配信者(ユアキャス)業界を揺るがさんばかりの……並々ならぬ決意が秘められていた。

 

 

 

「…………【変身】魔法……とでも言おうかな」

 

「「「「「「……は?」」」」」」」

 

「さっきスズキさんに言われたやつ。……それまでに間に合うよう、ちょっとがんばってみるよ」

 

「「「「「「…………は!?」」」」」」」

 

 

 

 この世界には存在しない『魔法』を操り、新たなる『混沌の理(魔法)』を紡ぎ出す……『天幻』の元・勇者。

 

 

 魔法(ファンタジー)の匠の挑戦が……今、始まる。

 

 







大改造
常識ビフォ→○フター(ピアノの旋律)





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294【第三関門】一難去ってまた一難

 

 

 とりあえず纏まった方針としては……コラボの開催日時を来月の第三土曜日、十五日に(仮)設定する。

 

 会場は、この事務所の近くにある(らしい)大手カラオケチェーン『おうたの館』、そこのパーティールームを予約してくれるらしい。……あっ、してくれたらしい。

 

 

 とりあえず一番望ましいパターンとしては……その当日までにわれらが『天幻』の勇者(ぷに◯な)ラニ謹製の【変身】魔法を完成させ、それを纏った玄間(くろま)くろさんと超美麗3Dモデル(=【変身】魔法)を用いたオフコラボを開催すること。

 また同時に次善の策として……もし【変身】魔法が完成までこぎ着けなかった際は、わが『のわめでぃあ』の便利でキュートなアシスタント妖精(ぷ◯あな)ラニちゃん渾身の【蔵守(ラーガホルター)】によって、撮影・合成のための機材一式を運ぶ手助けをさせて貰うこと。

 

 運搬の問題さえカバーできるのならば、あとは機材を置くスペースと回線さえ確保できれば問題ない。だからこそスペースに余裕を持たせたパーティールームなんだろうな。

 

 

 というわけで、多分にラニちゃんの力添えを前提とした不安定な計画ではあるものの……とりあえずの見通しは立てられたし、本来の目的であった『顔合わせ』も無事に済ませることが出来た。

 

 

 本来の目的は、達成されたわけだ。

 

 

 

「のわっちゃん!!」

 

「はひィ!?」

 

「……と、ミルとクロと、霧衣(きりえ)っちゃん!! ランチいくでランチ!!」

 

「「ふぁい!?」」「おほぉー」

 

 

 

 突拍子もないうにさんの発言であったが、残念なことにこの場には彼女を止める者は居ない。

 苦笑いするマネージャー八代(やしろ)さんと烏森(かすもり)さんとアシスタント六丈(りくじょう)さんに見送られ、満面の笑みを浮かべるうにさん(の(なかのひと))とくろさん(の……もうそろそろいっかな、この注釈)に手を引かれ、おれと霧衣(きりえ)ちゃんとミルさんは会議室から引っ張り出される。

 ……まぁ、大筋は決まったのだ。彼らならいい感じに話を詰めてくれるだろう。丸投げしてすまないと思っているが、おれにはどうすることもできない。むしろたすけて。

 

 

(ボクこっち付いて様子見てるから……まぁ、がんばって)

 

(うぐぐ……たのんだよラニちゃん!)

 

 

 おれの切なる願いも虚しく、テンションが振りきれた女の子ふたりの手によって、衆目監視のもとへと(かしま)しく引きずり出されるおれたち……緑銀白のごきげんヘア三人組。

 この事務所八〇三号室の人々の視線を一気に向けられ、さすがにちょっと怯んでしまったわけだが……やっぱりというか霧衣(きりえ)ちゃんはなかなかあわあわしてしまっているようで、とてもかわいそうなことになっている。……おれがフォローしないと。

 

 

 

「う、うにさん! ちょっとゆっくり! きりえちゃん着物! きものなので大股が!!」

 

「あっ……ご、ごめん! ごめんな霧衣(きりえ)っちゃん!」

 

「い、いえっ! ……お気遣い、ありがたく存じまする」

 

「なんなん、めっちゃええ子やん。にるにるも見習い? ほーれよしよしよし」

 

「や、やめてください! ぼくちゃんと良い子でしょう!?」

 

 

 身体を改変されるという大事件を経て、変わってしまったかに思われた、()の交遊関係。

 いつもどおりの調子を取り戻したのであろう彼ら彼女らの、打てば響く仲睦まじげなじゃれ合いに……光栄にもこの場に居合わせると言う栄誉を賜ったファンの一人として、尊いこの光景にただただ感謝の祈りを捧げるのだった。

 

 

 

「わ、わかめさん!? 何で拝んでんですか!? ちょっ……この二人どうにかしてください!! 霧衣(きりえ)ちゃんがどうなってもいいんですか!? 若芽さん!?」

 

「おっ、お止めくださいムラサキ様! そこは……やっ、んんっ!?」

 

「はあ!? 誰ですかウチの子にオイタしてる悪い子はァ!!」

 

「やべー! のわっちゃんがキレた!?」

 

 

 こうして、おれたち(見た目だけは)女の子五人組は、フロアほぼ全員の注目を浴び続けながらも他のひとに話し掛けられ引き留められることなく……ホールへ飛び出て階段を下って、()()()()避難することに成功したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「…………はい! とゆーわけで! ヘイリィー視聴者の諸君!」

 

「あっ!! パクリですか!? ダメですパクリはゆるしませんよ!?」

 

「海底情報局『うにめでぃあ』局長の村崎うにやよー! よろしうにー!」

 

「パクるなら最後までしっかりやってくださいよ! チクショウ(ナマ)『よろしうにー』だ! すき!」

 

「元気ですねぇ若芽さん……」

 

「元気いっぱいでございまする……」

 

「んふふゥーーー」

 

 

 

 いそいそと場所を移しまして、こちらは『にじキャラ』さん事務所のすぐ近くにある喫茶店。都会の一等地ならではのお洒落な店構えと豊富なメニューと手頃な価格、それに加えて距離的な要素もあり、『にじキャラ』所属の配信者(キャスター)の子たちに大人気のお店らしい。

 なにも考えずにふらーっと足を運んだところ、特に示し合わせたわけでもないのに同僚に遭遇した……なんてことも少なくないらしい。うにさんの談による。

 

 なるほど確かに、お店の雰囲気もメニューも価格も魅力的に見える。おれは生粋の女の子ではないので喫茶店事情はまだまだ詳しくないのだが、近くにあったら確かに通ってしまうだろう。

 

 

「うちはパスタにしよっかなぁー。……あっ、いいのあるやん。ンフフゥーのわっちゃん色やよー」

 

「お、お好きにどうぞ? わたしは……あっ、ハンバーガープレートなんてのもあるんですか? ……うわ、おいしそ……」

 

霧衣(きりえ)さん、何にしますか? お好きなお料理とかあります?」

 

「りえっちゃんこれこれ、タマゴサンドあるで。あと『からチキ』やないねんけど、似たようなチキンフリッターもあるねんで。食べきれんかったらうちも手伝うし、一緒にどう?」

 

「……あっ! たまごさんど! たまごさんどでございますか! わたくし、たまごさんどは頂いたことがございます! からちきも存じ上げておりまする!」

 

「んふゥー。……じゃあこれにしよな。ほなウチは……ウチもパスタにしよかなぁー」

 

 

 おれがハンバーガープレートの写真に目を奪われていた間、すぐ横から聞こえてきた、霧衣(きりえ)ちゃんとくろさんとの会話。

 耳から入ってきたその内容を反芻し、頭が理解すると同時。驚愕と共に上げたおれの視線と、こちらを窺っていたくろさんの視線がぶつかる。

 

 すると……彼女は。

 きわめてマイペースであるものの面倒見が良い、『にじキャラ』屈指の歌唱力を誇る玄間(くろま)くろさんは。

 

 

 眠たそうな目蓋はそのままに、口許は得意気に笑みを浮かべ……右手の二本指を立て、可愛らしく『ぴーす』さいんを送って見せた。

 

 

 

 

 お、おれたちの……『むぎた珈琲店』の動画、みてくれてたんだ。

 霧衣(きりえ)ちゃんが『おいしい』って言ったものを、覚えててくれてたんだ。

 

 もう……すき。

 

 



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295【第三関門】抵抗は無意味だ

 

 

「そんでな、今日の夜やねんけど……とりあえず【Sea's(シーズ)】の面々に声掛けて、翠樹苑予約しとってん」

 

「ぅん! うちも知っとるー」

 

「せやなーよう覚えとったなークロ偉いでー」

 

「んふふゥー」

 

 

 ほうれん草が練り込まれた幅広の生パスタに、バジルと松の実とチーズをふんだんに効かせたオイルソースが絡まった、見た目からして緑一色な逸品……確か『フェットチーネ・コン・スピナーチ・ジェノベーゼ』とか言ってた気がする。めっちゃ強そう。

 そんな本人いわく『のわっちゃん色』なパスタをお上品に口へ運びながら、うにさんが切り出した『今晩の予定』……そこにくろさんが同調し、仲睦まじい同期生同士のこれまた(てぇて)ぇ絡みが披露される。

 

 うにさんに撫でられ、目と口を弓なりにして歓喜の表情を露にしているくろさんは、厚切りベーコンとフレッシュトマトが豪快に挟まったBLTサンドをパクついている。霧衣ちゃん(うちのこ)を気に掛けて世話を焼いてくれる、マイペースだが面倒見の良いお姉さんだ。

 

 

「……ぼくとしては、できればご一緒したいところなんですけど…………あの、えっと……海月(ミヅキ)さんが……」

 

「う、うん…………そこんとこは……正直マジでごめんな。……まさかミルが()()()んなっとるとは思わんかったし……」

 

「あははは……そこはまぁ、仕方ないですよ。誰だって予想できないでしょ」

 

「いや、でもな……ミルの意見、ちっとも聞かずに決めてもうたやろ。……酷いことしたよな……ほんまごめんな」

 

「大丈夫です。……おかげで、みなさんに打ち明ける踏ん切りがつきましたし」

 

「ミル…………堪忍な。うちらが全力で守ったるからな……!」

 

「うにさん…………!」

 

 

 同じパスタ系統の料理を選ぶあたり、やっぱりこの二人は良いコンビなのかもしれない。緑一色のうにさんとは異なり、白いクリームベースに卵黄が絡んだカルボナーラをチョイスしたのは、ひときわ目を引く真っ白な装いの……見た目小柄な美少女の男の子、ミルさん。

 濃厚なクリームパスタに舌鼓をうち、取り戻した同僚との距離感に嬉しそうな顔を見せながらも……その表情にはどこか、悲壮な決意のようなものさえ窺わせる。

 

 

 ……ていうか、まって。その海月(みづき)さんってそんなヤベェひとなの?

 

 

 

「えーっと……じゃ、じゃじゃ、じゃあ、ミルさん()今夜は【Sea's(シーズ)】の皆さんと会食ってことで! 存分に交遊を深めてきてくださいね!!」

 

「ちょっ、わかめさん!? 何言ってるんですか逃がしませんよ!?」

 

「に、逃げるってなんですか人聞きのわるい! わたしは部外者なので当然その場には居られないのは当然あたりまえですし! なのでわたしたちは安全なところで晩ごはんにしますし! あっ、鍵は一本フロントにお預けしておくので、時間を気にせずどうぞごゆっくりどうぞですので!」

 

「ははは何を言ってるんですかわかめさん。どうせまだお店決まってないんでしょう? だったらぼくたちと一緒に行きましょうよ。なにも同席しろとは言いませんから。ただちょっと手違いで席が隣り合わせになるかもしれませんけど」

 

「そそっ、そんなそんな! わたくしのような弱小配信者(キャスター)ごときが、皆様と場を同じくしようだなどとおこがましいですし! 会社の飲み会によそ者が入り込むのはさすがにどうかと思いますし!?」

 

「あっ、べつに事務所関係ない予約やし、大丈夫やよー。八代(やしろ)んも六丈(ジョー)()ぇへんし」

 

「ゥエッ!? エット、アノ……デ、デモデスネ……」

 

 

 考えろ。考えるんだ。ほかに何か理由……彼女たち【Sea's(シーズ)】の会合に……より厳密にいうと、なんかすげぇやばそうな花笠海月(はながさみづき)さんとの遭遇を回避するための理由。

 ミルさんを生贄に捧げて難を逃れようとしたのだが……その生贄(ミルさん)がなかなか往生際がわるく、徐々に外堀が埋められつつある。このままではやばい。

 

 

「……ていうかむしろ、うちら最初からのわっちゃん拉致する気でいたしなぁ」

 

「らち……っ!? でで、でっ、でもでも、そんな! わたしたちも今晩の予定」

 

「予定が特に無いことはミルからのタレコミで知っとるし……それになぁ? のわっちゃん……コッチには()()()があるんやでぇ? ()()()()?」

 

「!!!!」「……あぁー」

 

 

 

 まずい。これはまずい。ちくしょうどうしてこうなった。いったい誰がそんな厄介な権利を賦与しやがったんだ。ぶつぞ。ばか。

 ……そうだ、そうなのだ。今回おれたちが東京へ来る切っ掛けとなったのは、うにさんの()()()に起因するものなのだが……その『お願いを(公序良俗に反しない範囲で)何でも聞く』と言った相手は、うにさんだけではない。

 

 ミルさんにおれが与えた、()()()()……『公序良俗に反しない範囲で、何でもお願いを聞く』という約束は、まだ生きているのだ。

 

 

 

「ふふふ……()()()()()、わかめさん。ぼくたちの飲み会に、同席してください」

 

「ででっ、でも……きりえちゃんが……」

 

「なぁなぁりえちゃん、今日夜ご飯うちと一緒せぇへん?」

 

「くろ様たちとご一緒、でございますか! 楽しみでございまする!」

 

「アッ抱き込まれてる!? くろさんいつのまに!? ……でで、でっでっ、でも! モリアキが! うちのマネージャーさんをひとりぼっちにするわけには!!」

 

「なんかアッチはあっちで盛り上がったみたいで、八代(やしろ)んから『今晩六丈(ジョー)と烏森さんと飲みに行きたい』とか言うてるで」

 

「アッほんとだ!! REIN来てる!! しかもこっち『行ってきますね』って断定してる!!」

 

 

 な、なんという手際。なんというチームワーク。

 これが国内有数の配信者事務所『にじキャラ』さんの、第Ⅳ期生ユニットの実力だとでもいうのだろうか。

 

 全ての外堀を埋められ、懸念事項を払拭され、おまけに他でもない自分自身が『(公序良俗に反しない範囲で)何でも聞きます』と言ってしまった()()()を持ち出されては。

 

 

 ……あの霧衣(きりえ)ちゃんが、玄間(くろま)くろさんに構ってもらって、あんなに嬉しそうにしているのを見せつけられては。

 

 

 

「…………その……海月(みづき)さん、からは…………ちゃんと、守ってください……ね?」

 

「「ヴッ…………!!」」

 

 

 不承不承、といった(てい)を隠そうともせず……これ見よがしに唇をとんがらせて拗ねたような表情で。

 

 内心から沸き上がる『うれしさ』を隠したまま、おれは招待に応じたのだった。

 

 

 



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296【第三関門】突発ロケの気配

 

 

 共演(コラボ)相手との顔合わせを済ませ、ミルさんの身の上を説明し終え、共演(コラボ)当日へ向けた打ち合わせも済ませ…………

 そしてランチへ拉致られ、今晩の夜会(サバト)へ招かれ……いや、あらためて後半の急転直下っぷりやべーな。

 

 まぁともかく、おれと霧衣(きりえ)ちゃんは幸運にも、【Sea's(シーズ)】の方々との会食にご一緒させていただけることになったわけだ。

 

 

 

「とりあえずここの三人と、海月(ミズ)と……『コガっち』と『ういちゃん』と、あと『ちふりん』と『アヤくん』が来れるって言うとったで」

 

「勢揃いじゃないですか!! なんなんですかその布陣!! わたしたちをどうしようっていうんですか!!」

 

「そらもう……思う存分可愛がりたいなぁ、って」

 

「ぬ……ぬわーー!!」

 

「ま、そうゆうことや。……ラニちゃんは……また()()のお楽しみにさせてもらおか。とりあえず合計十名の大所帯やからな、賑やかに楽しもーや。なぁ霧衣(きりえ)っちゃん! いろんなお料理たのしみやろ!」

 

「はいっ! 楽しみでございまする!」

 

「んふゥーええなぁ和服美少女。んいはんが好きそうなタイプやなぁ」

 

「あぁ……そやねぇ、和装同盟。……霧衣(きりえ)っちゃんともコラボしたいよなぁ」

 

「あの、えっと……わたしたちは、コラボいつでも大歓迎ですので……」

 

「…………ラニちゃんの【魔法】。うまくいくとええな」

 

「…………そう、ですね」

 

 

 

 一人でも多くの人々におれたちの『演目』を楽しんでもらい、生きる気力を沸き上がらせてほしい。それが、おれが配信者(キャスター)としてがんばる理由だ。

 そうすることで、負の感情に反応して寄生する『種』の発芽と増殖を抑制し、それによる世界の危機を防ぐ……というのが、おれたちの行動原理となっている。

 ただ――もちろん、おれの手で人々を楽しませることも重要なのだが――視聴者さんに『次の配信も見たい』『明日からも頑張りたい』とプラスの意欲を漲らせてもらうにあたっては、なにもおれの配信()()を見て満足してもらう必要は無いのだ。

 

 このご時世どこででも気軽に繋がるインターネットを利用して、視聴者それぞれの『好き』にコミットできる、多種多様な『楽しい』をお届けする……刺々しい言葉や批判的な論調の多いテレビや新聞とは異なり、純度百パーセントの『好き』や『楽しい』が摂取できるコンテンツであること。

 それこそが仮想配信者(アンリアルキャスター)の強みであり、この世界の『侵食』を防ぐ鍵になる……と、おれたちは踏んでいる。

 つまりは……この仮想配信者(アンリアルキャスター)――また活動内容や活動範囲を一部同じくする動画配信者(ユーキャスター)――界隈が盛り上がれば盛り上がるほど、世界は快方へ向かうはずなのだ。

 

 

 であれば、おれたちがそこに協力しない理由は無い。

 おれたちは出来うる限り界隈を盛り上げ、ひねり出せるだけの知恵をひねり出し、ときには異世界(ラニちゃん)頼みの新機軸を投入して、一人でも多くの人々に楽しんでもらいたいのだ。

 

 おれが共演(コラボ)させていただけるなら、界隈の盛り上がりは少しでも加速されることだろう。

 そこにラニが研究してくれる【変身】魔法が加われば、よりリアルな……今まで見たこと無いほどリアリティに溢れ、実在芸能人のバラエティ番組もビックリな共演(コラボ)を披露することができるはずだ。

 

 

 それはまさに、エンターテイメントの革命・革新といって差し支えないだろう。

 そんな新世代の『楽しい』を目のあたりにして……それでもなお死にたくなるひとなんて、いるはずがない(……と思いたい)。

 

 

 

「わたしも……ラニの研究を、がんばってサポートします。……なのですみませんが、【変身】含めた魔法……と、ラニのことに関しては……」

 

「他の子らには……もうちょっとお預けってことやな。あの子らには悪いけど……んふふ、うちらだけの秘密ってわけや」

 

「うちが【変身】お披露目の第一号ってわけやろ? んふふゥー楽しみー」

 

「……そうすれば、ぼくの()()も……相対的に目立たなくなるんですね」

 

「そうですね。……もう少しの辛抱です、ミルさん」

 

「……ふふっ。大丈夫です。若芽さんのおかげで……とっても、心強いですよ」

 

 

 

 ミルさんの容姿についてだが……とりあえず取り急ぎ『にじキャラ』さん側から『新たなプロモーション活動の一貫として、特殊メイク技術による配信者(キャスター)再現の実証試験を先行して行っている』という体裁での声明を出してもらえるらしい。

 なので……正直、いまこのときも向けられているスマホカメラと、そこに撮られた写真のSNS流出に関しては、ある程度の誤魔化しは効くのではないかと思われる。

 

 ……奥まった位置のボックス席に通して貰えたお陰で、奥がわに座っているうにさんとくろさんのお顔は撮られる心配無いだろうが……出るときはおれが()()()()()()()()()した方が良さそうだな。

 ちなみに話し声に関しては、おれが違和感無い程度に【静寂(シュウィーゲ)】を張ってある。無音にすると違和感を感じられるかもしれないので控えめだが、会話内容を聞き取れない程度の強度は確保されている。抜かりは無い。

 

 

 

「ほいじゃあ、まぁ……夜はそういうことで。十八時からで押さえてあるから、後で店の場所REIN送っとくわ」

 

「ほーい」「わかりました」「はいっ!」

 

「…………で、かめちゃんかめちゃん」

 

「は、はいっ! なんでしょう? くろさん」

 

 

 

 楽しい楽しいランチの席も、そろそろお開きだろう……というところで、おれはくろさんから声を掛けられる。

 にこにこ顔の彼女の視線は……お手拭きでお上品におくちを拭っている、いい脱力笑顔の和装美少女……霧衣(きりえ)ちゃんへと注がれており。

 

 

()()()()()()()()()。撮ろうや」

 

「………………えっ!?」

 

「りえっちゃんの、洋服。可愛(かぁい)いの選んだるから。撮影もちゃーんと手伝うたるから。……んにはんが」

 

「ウチかーい!? まぁええけど!」

 

「いいんかーい!?」

 

「んふふゥー」

 

 

 

 

 ……ここで説明しよう! 『きりえクローゼット』とは!

 

 われらが『のわめでぃあ』期待の新人れぽーたーこと霧衣(きりえ)ちゃん(かわいい)の魅力を余すところなく伝える新企画プレゼンにおいて、多くの視聴者さんの支持のもと勝利を納めた……まぁようするに、『霧衣(きりえ)ちゃん着飾ろう企画』である!

 詳しい経緯と企画内容は百九十四話【週末配信】あたりを確認してくれたまえ!

 

 とまあ、そういうわけで……おれも撮ろう撮ろうとは思っていたのだが、ハープ回収にかこつけた北陸旅行とか、急遽舞い込んだ東京出張とか……そんなこんなで、実はまだ取りかかれていなかったりするのだ。

 いわれてみれば確かに、現役女子であるうにさんくろさんの力添えが得られるなら、お店のチョイスもかなり楽ができるだろう。

 それにあたりまえだが、首都東京には多くの……それこそ、遺憾ながらわれらが浪越市以上に豊富な、若者向け衣料品店が軒を連ねているのだ。おしゃれなお洋服を見繕うにあたり、これ以上の好条件は無いのではなかろうか。

 

 

「のわっちゃんのカメラ、うちが借りて……うちらの姿が見えんようにして撮れば、まぁ大丈夫ちゃう?」

 

「……そうですね。確かに、見ず知らずの店員さんのアドバイスよりかは……」

 

「うちらのほうが頼りになる?」

 

「それは、もう…………はい」

 

「ッシャァ! 気合入ってきたぁ!!」

 

「元気ですね、うにさん……」

 

 

 幸いなことに……この喫茶店の割と近く、というか渋谷駅の周囲に、おあつらえ向きのエリアがあるらしい。

 夜のお約束まではまだまだ時間があることだし……正直、おれも着飾った霧衣(きりえ)ちゃん見てみたいし。

 

 

「……? 若芽様?」

 

「…………うん。決めた。そうしましょう」

 

「「いぇーーい!!」」「あははは……」

 

「…………?? わ、若芽様!?」

 

 

 

 いい笑顔でハイタッチを交わすうにさんくろさんと、どこか疲れたような乾いた笑みをこぼすミルさん。

 お三方はいそいそと帰り支度を整えると、伝票をもってレジへ向かい(あわてて認識阻害の魔法を掛けたのでセーフ)ぱぱっとお会計を済ませてしまった(あわてておれと霧衣(きりえ)ちゃん分のお金は押し付けたのでセーフ)。

 

 

 ……というわけで。

 一応、うにさんとくろさんには認識阻害の魔法(顔を見た人でも記憶に残りづらくなる・カメラ等にはピンボケしたように写る)を掛けさせて貰った上で。

 未だに事態をのみ込めておらず、きょとんとした顔のままの霧衣(きりえ)ちゃん(かわいい)を囲み……可愛いお洋服を求め、おれたちは行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なお、このとき。

 

 『霧衣(きりえ)ちゃんが着たものと同じものをわたし(若芽ちゃん)も着る』という宣言を、他ならぬ自分の口から言い出していたことを、綺麗さっぱり忘れていた……ということは、賢明な視聴者さんにはお分かりいただけたのではないだろうか。

 

 

 

 もしおれがそのことを覚えていたら……あんなにあっさり同意したりはしなかった。

 

 

 

 ええ、しませんでしたとも。

 

 

 



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297【第四関門】街頭オープニング

 

 

 正直おれは、お世辞にも『若者』って歳じゃないという自覚はある。

 

 つまり、よく『若者の街』なんて言われる東京都渋谷区、特に渋谷駅周辺なんて……おれにとっては全くもって未知の領域なのだ。

 

 

「やっぱトーキューはまず行かなきゃっしょ。あとモディとマルマルに」

 

「んにはん、んにはん。うちマグネットって一度行ってみたいねんけど」

 

「なんやクロはマグネったこと無いんか。じゃあそこも行くとして……あとはヒカエリくらい?」

 

「六時までやろ? あんま盛り盛りして遅れてもダメやよ」

 

「そやなぁ……これくらいにしとこか。のわっちゃん霧衣(きりえ)っちゃんは何処からいきたい?」

 

「アッ、アノ、エット……お、おまかせ……します」

 

「わ、わたくしも……」

 

 

 トーキューまではかろうじてわかった。テレビで見たことあるやつだ。だけどそれ以降、文脈から察する限りは服が買えるお店なのだろうが……マグネットってなんだ、磁石じゃないのか。くろさんは磁石がほしいのか。……違うよなぁ。

 とにかくおれたちにとっては、完全に未知の領域なのだ。この場に慣れているであろうお二人に、全てを委ねるしかない。

 

 ちなみにミルさんに関してだが、ちょっと『にじキャラ』さん内での諸々で話のすり合わせやら打ち合わせやらが緊急で舞い込んだらしく……ラニ経由で召還要請が下されたので、事務所ビルの入り口前で別れてきた。

 霧衣(きりえ)ちゃんファッションショーに立ち会えないことを悔いながら、ラニと二人で不承不承打ち合わせへと戻っていった。……すま○こ。

 

 

 

 

 

 

 

「はいじゃあいくでー! ハイさーん! にーい! (いーち!)」

 

「……ッ、ヘィリィ(こんにちは)! 親愛なる視聴者の皆さん! 魔法情報局『のわめでぃあ』局長、叡知のエルフ木乃若芽(きのわかめ)とー…………?」

 

「し、ししっ、しんしんしんりんれぽーたーの……きりえ、でひゅっ!」

 

「はい、よくできました! ……えっと、うん……しょうがないね。すっごい人が多いからね……」

 

「わわ、わっ、わっ、わかめさまぁ……!」

 

「ヨシヨシ大丈夫、こわくないこわくない」

 

 

 第一目的地である『トーキュー』さんの、よくテレビとかで見る特徴的な看板をバックに……それなりの人通りがある幅広い歩道のすみっこで、とりあえずオープニングの撮影を慣行する。

 いままで収録を行っていた屋内スタジオとは異なり、霧衣(きりえ)ちゃんにとっては初めてとなる街頭収録だろうに……しかも初っぱなから高難易度の東京ど真ん中だ。スパルタってレベルじゃねえぞ!

 

 

「本日わたしたちはですね……みなさんご存じ! 若者の街『シブーヤ』にやって来ました!」

 

「わ、わわわわ、わわわうわうわう」

 

「なんでもこの『シブーヤ』はですね……若者向けファッションがなんでも揃う、そんなステキな街らしいんですね! こないだウニさ……アッ、えっと……お友だちに、教えてもらいまして!」

 

 

 実際……おれたち以外にも、スマホやアクションカメラを回している若者はたくさんいる。

 街並みや人波を撮影したり、観光に来た記念を残そうとしていたり、あるいはごく稀におれたちのような動画配信者(ユーキャスター)が動画撮ってたり……その理由は様々だろう。

 

 だが、まぁ、なんというか……おれたちの場合、ぶっちぎりで人目を引いているんだよな。まぁあんなハイテンションで口上述べてたら仕方無いか。髪色も日本人離れしてるしな。

 霧衣(きりえ)ちゃんには申し訳ないが、例によって『のわめでぃあ』の宣伝のためだ。埋め合わせはちゃんと今夜、ベッドの上で存分にかわいがってあげよう(※誤解を招く表現)。

 

 

 

「……っというわけで! 本日はこちらの和装美少女霧衣(きりえ)ちゃんに、プロの目線でコーディネートを施していこうと思います!

 

 ……題して! 『きりえクローゼット』! オープンです!」

 

「で……ですっ!!」

 

(((かわいい……)))

 

 

 ……ええ、大変お待たせしました。忘れてたわけじゃないんです。ほんとです。

 

 『のわめでぃあ』街頭収録企画第二弾、出張先の東京はシブーヤ駅前にて、ついに企画始動です。

 

 

 

 

「…………はいカットぉ! いやーいやーいやー……良いねぇ! 可愛いねぇ二人とも!」

 

「ふひぃ……ありがとうございます、うにさん」

 

「おーよしよし。りえっちゃんもよう頑張ったなぁ。ええこええこ」

 

「わうぅぅぅぅぅ」

 

(なんなんあの子。正直たまらんのやけど)

 

(でしょう。そうなんですよ。わかっていただけましたか)

 

 

 オープニング部分を撮り終え、臨時カントク(自称)の村崎さんにオッケーサインを貰い、おれたちはいそいそと場所を移動する。このあとはお店へと身分を明かして企画内容を説明して撮影交渉を行うという、重要な交渉が待っているのだ。

 飲食店へお邪魔するのは幸いにも何度か経験があり、正直だんだん慣れてきた感じもあったのだが……それが果たして衣料品店となると、いったいどうなってしまうのだろうか。果たして無事に許可を頂くことはできるのだろうか。

 

 

「大丈夫ですよー。他のお客様のご迷惑にならないようにお願いしますねー」

 

「えっ? アッ……ありがとうございます!」

 

「うーわ、シュンサツやん()っわ。ああいう子を『人たらし』って言うんやろなぁ」

 

「やだぁあたしこわーい。あたしも(たぶら)かされちゃーう」

 

「人聞きの悪いこと言わないでもらえますか! うにさ…………っと、()()()()。……それと、()()()()()()さん」

 

「いやぁ……すまんすまん」

 

「んふふゥー」

 

 

 理不尽な言われようもあったけど……幸運なことに、うにさん行きつけのお店で撮影許可を取り付けることができた。これで前提条件はほぼすべてクリアできたので、晴れて撮影を始めることができる。

 

 なお……うにさんとくろさん。このお二人は現在、おれの手で【認識阻害】系統をマイルドにした魔法を掛けている。

 効果としては、いくらか限定的。姿そのものを偽るのではなく、どちらかというと『意識されづらい』『記憶に残りづらい』ことを優先した、周囲に違和感が生じづらいタイプだ。

 そこに()()ことは認識できる。会話をすることもできる。しかしいざ意識の焦点を外へ移すと、途端にその人物の詳細記憶が薄れていくという……もともとは『敵対国家の市街地への潜入工作用』の隠蔽魔法、とはラニの談。いつの時代もモノは使いようだ。

 

 

 というわけで。

 村崎うにさん改め『カントク』、玄間(くろま)くろさん改め『スタイリストさん』、心強い二人のバックアップのもとお送りする『きりえクローゼット』。

 

 最初のコーディネート……張り切っていってみましょう!

 

 



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298【第四関門】コクーンコート

 

 

 さてさて。

 

 撮影許可をいただいたお店へとお邪魔し、とりあえずくろ(スタイリスト)さんと一緒に店内をぐるーっと見て回る。

 今まで着たことのない現代衣料の数々を目の前に、そもそも好奇心が旺盛な霧衣(きりえ)ちゃんは早くも興味津々といったところだ。うふふ、今から着るんだよ。

 

 カメラの撮影範囲外でくろ(スタイリスト)さんが真剣に目を光らせている間、おれたちはうに(カントク)さんの指示のもと、興味深げにアレコレ品定めする()を撮られている。まぁ実際霧衣(きりえ)ちゃんは興味津々でいてくれてるので、『やらせ』っぽさは少ないのではないだろうか。

 おれの『演じる』スキルのほうは、いまさら語るまでもないだろう。ふふん。

 

 

 くろ(スタイリスト)さんがコーディネートを纏める間、どうやらもう少し時間がありそうなので……話はちょっと逸れるけど、われわれの近況をご報告しておこうと思う。

 というのもですね、最近タブレットの扱いもじわじわ上達してきている霧衣(きりえ)ちゃんなんですけどね……このたびついに、通販を駆使して現代風の下着デビューを果たしまして。

 

 というのも元々、彼女がお引っ越ししてくるときに持っていた下着類は……その、おれが昨年末に鶴城(つるぎ)さんへ初めてお邪魔してちょっとビビっ(もらし)てしまった際に工面して頂いたような、伸縮性にやや乏しい真っ白の紐下着オンリーだったのだ。

 ゴムの代わりに結び紐でつけ心地を調整する紐下着は、当然おれにとっては違和感の方が強かった(そもそも女の子用の下着(ぱんつ)の時点で……いや、これ以上言うまい)のだが、幼少の頃から紐下着に慣れ親しんだ霧衣(きりえ)ちゃんにとっては、()()()()のものだったようだ。

 そんな中で、わがやの家事全般を進んで引き受けてくれた霧衣(きりえ)ちゃん。当然その『家事全般』の中にはお洗濯も含まれており、つまりおれの下着(ぱんつ)に日常的に触れていたわけであり……そんな中で、自分が愛用しているものとは伸縮性も手触りも構造も異なる現代の下着に興味を持ったらしく。

 

 あとは……タブレットPCの指南役であるえっちな妖精さんの助言のもと、通販サイトを駆使して見事お買い物をやってのけた。

 ちなみにブラは……スポブラとか、チューブトップっていわれるやつみたいだ。おれはよくしらない。……おれは、しらない。

 

 ああそういえば、支払いはおれのカードからだった。ラニから事前に相談は受けていたので、霧衣(きりえ)ちゃんには謝られたんだけど、おれとしては問題ない。……むしろ、そういえば霧衣(きりえ)ちゃんもラニちゃんも『お小遣い』に関しては全く考えてなかったなと、おれは逆に申し訳ない気持ちになってしまった。

 

 

 ……ということを、展示されているスッケスケの上下下着(パンツとブラ)セットを眺めながら思い出していた。

 この撮影が終わったら……服以外にも、雑貨屋とか寄ってあげたいな。

 

 

 

「おったおった。んには……やない、ちがう。『カントク』や」

 

「そうそう、よく覚えとったなぁー、えらいでク……やないな。『スタイリスト』ちゃん。どや、コーデ出来上がった?」

 

「んふふゥー。ちゃんと一式揃えたで。()()の色に合うと思うし、サイズ違いのもばっちりあるて」

 

「よっしゃでかした! のわっちゃーん霧衣(きりえ)っちゃーん! 試着はじめるでー!」

 

「はぁーい!」「は、はひっ!」

 

 

 衣類を物色している様子を撮られながら、おれが霧衣(きりえ)ちゃんの下着に思いを馳せていた間に……心強い助っ人のくろ(スタイリスト)さんは務めを果たしてくれたらしい。

 カゴいっぱいにアースカラーの衣類が詰め込まれ、どうやら準備は万端のようだ。

 

 さて、くろさ……もとい、スタイリストさんよ。

 霧衣(きりえ)ちゃんの、すーぱーうるとら可愛らしいコーディネート……見せてもらおうではないか。

 

 果たしてこのおれを……満足させることができるかな?

 

 

 

 

 

 

「がわいい~~~~~~~~!!」

 

「んふゥーーーー」

 

 

 満足しました。さいこう。かわいい。すき。くろお姉さますごい。すき。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 試着ルームのカーテンがおずおずと開かれ、外で待っていたおれたち一同は……おれはもちろん、カメラを構えていたうに(カントク)さんと、コーディネートを手掛けたくろ(スタイリスト)さん、更にはこのお店の店員さんや一般のお買い物客の方々まで(恐らく)全員が全員、思わず見惚れてしまっていた。

 それほどまでに完璧な……見事と評するしかない、霧衣(きりえ)ちゃんの愛らしさを存分に引き出した仕上がりだった。

 

 

「きりえちゃん、こう……ぽーずを、お手々広げるみたいな」

 

「こ……こう、でございますか?」

 

「アアッ!! いいよぉ! かわいい!!」

 

 

 クリーム色の暖かそうなモコモコセーターに、オトナっぽい落ち着いた臙脂色(えんじいろ)の七分丈スカート。このスカートは優雅なドレープがふんだんに入っており、ぱっと見は緋袴のようにも見える。

 スカートの裾から覗くおみあしは、清楚な白のロングソックスで防寒対策もばっちり。これは足袋(タビ)イメージだろうか。そこにちょっとゴツめのショートブーツが合わさり、レザーのブラウンと相俟って安定感を与えてくれている……ように思う。

 そして、その更に上。モコモコと暖かそうなタートルネックセーターの上に……このコーディネートの一番のポイントなのだろう、飾り紐がかわいらしいブラウンカラーのコクーンコートが加わる。

 

 これによって、赤系統のカラーイメージで纏めながらも、霧衣(きりえ)ちゃんらしい落ち着いた雰囲気を強調し……それでいて全体的に女の子ならではの丸みを帯びた、可愛らしいラインを表現しているのだ。

 袖口にダボッとした余裕のあるコクーンコートは、ともすると褞袍(どてら)や羽織のように見えないこともないし、加えて臙脂(えんじ)色のスカートは緋袴に見えないこともない。つまり霧衣(きりえ)ちゃんに似合わないわけがないのだ。

 

 それらハイレベルなコーディネートが、微笑みながら恥じらう彼女の様子と合わさって……なかなかエグい破壊力を発揮していると思う。

 

 

 そのまま腕を広げてもらったり、腰をひねってもらったり……九十度ずつぐるりと一周、くまなく披露してもらったり。

 うに(カントク)さん直々にオッケーが出るまで、おれたちはその愛らしさを存分に堪能させていただいた。

 

 

 いやぁー……いいもの見せて貰いました。

 ではではそういうわけで、そろそろお会計に移ろうかとおもうんですけど……あ、あの、くろ(スタイリスト)さん? このカゴはいったい……? 見たところ霧衣(きりえ)ちゃんが着てる服がもう一セット入ってるように見えるんですが……しかもなんというか、サイズがかなり小さめっていいますか……えっと……

 

 

 

「…………あっ!!!!」

 

「ウッッソやろのわっちゃん!? マジで忘れとったん!? ボケやなくて!?」

 

「エッ!? えっと、あの、あの……そ、そのようなことはなくて……ですね……」

 

「わ……わかめ、さま……?」

 

「ハイ着ます! よろこんで霧衣(きりえ)ちゃんと『おそろい』させていただきます!!」

 

 

 

 

 悔しいかな、敏腕スタイリストさんの手による冬服コーディネートは……

 

 

「んふゥーいい仕事したわぁ」

 

「いやー……ええなぁ。コッチはこっちで、のわっちゃんの髪色のおかげでかなりポップな感じがして……子どもらしくてめっちゃ可愛(カワ)えぇ」

 

「とってもお似合いでございます若芽様! 霧衣(きりえ)めと『おそろい』にございまする!」

 

「うわぁーーーーい」

 

 

 緑髪で幼児体型のおれにとっても……大変すてきでいい感じに仕上げていただけたようです。

 

 ははっ、ちくしょう…………めっちゃ可愛いなぁ、おれ……

 

 




【私的なおしらせ】

とてもありがたいことに、樽様(@taru666)よりハチャメチャかわいいきりえちゃんの挿絵を頂戴いたしました!!
本当にありがとうございます!!

わうわうかわいい……!!


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299【第四関門】……の途中ですが

 

 

 トーキューの洋服やさんにて、二人仲良く試着を済ませた後……おれはもとのエルフ装束に着替え直し、二人分のお会計を済ませてお店を後にした。

 ただ……あのコクーンコート。やっぱりあれはいいお値段する代物だったようで……二人合わせて(いち)のわめでぃあから()のわめでぃあ程度のお金は吹っ飛んでいったけど、しかたない。

 ほかでもない、かわいい霧衣ちゃんのためだ。がんばってお金稼ごう。

 

 ということで、現在の装いだが……もとの服に着替えてしまったおれとは異なり、霧衣(きりえ)ちゃんはなんと試着したコーディネートのままだ。

 店員さんにタグを丁寧に取り除いて貰い、着てきた和服と履き物を逆に袋に詰めてもらい……おれたちのみならずその場に居合わせた人々全員に大絶賛された装いそのまま、嬉しそうにほころんだ笑みを浮かべて付いてきてくれている。くっそかわいいが。

 

 

 

 

「カントクカントク、どや? ええ感じに撮れとる?」

 

「完璧っすよスタイリスト先生(センセ)ェ……この調子でも一丁(いっちょ)お願いしますわぁ」

 

「んふゥーまかしときー。じゃあ今度は……かめちゃんメインで組んでみるかねぇ」

 

 

 背後から聞こえてくるひそひそ声をバッチリ拾いつつ、おれたち二人は仲よさそうにつぎの目的地へと向かっていく。なんでもその複合商業施設、お洋服を売っているお店だけでもいろんなテイストのお店が揃っているらしい。たのしみだ。

 マップとにらめっこしながら教えてもらった限りでは、大雑把に駅方面へと向かっている形になるので……平日の昼間とはいえ、なかなかに人通りが多い通路を通ることとなる。

 

 

 あぁ……そういえば、おれたち四人が四人とも(見た目は)女の子だった。

 今は後続の二人はちょっと離れているので、先行するおれと霧衣ちゃんなんかは……緑髪の幼女と白髪少女の二人組。めっちゃ異様に映るだろう。

 

 うーん……失敗したな、()()()をちゃんと考えてくるべきだったか。いつもはモリアキ(マネージャーさん)が目を光らせてくれてたからなぁ。

 

 

 

 

「お嬢ちゃん可愛いね。今日どしたの? 学校は?」

 

「あれ、もしかしてサボり? 見かけによらず(ワル)()だぁ~」

 

「じゃあさ、じゃあさ、お兄さんたちと遊んじゃう? 楽しいことシちゃう?」

 

「良いトコ連れてったげるからさ、ちょーっと付き合ってくれない?」

 

 

 

「ちょ、っ……クロ、あれ」

 

「っ、ンの野郎ォ……」

 

 

 おれたちの進路を塞ぐように姿を表した――失礼だが、ちょっと賢そうには見えない――男性が四名。彼らにおれたちが絡まれたことを察知したのだろう、背後の二人が息を呑む……というか剣呑な気配を纏ったのが、おれにはわかった。

 

 おれたちの身を案じ、怒ってくれた。不埒者に狼藉を働かれるのではと、心配してくれた。

 少し前までは住む世界が違う、憧れの存在だった彼女たちに……そんなにも大切に想ってもらえることが、不謹慎だがとても嬉しい。

 

 

 そのお気持ちは、とっても嬉しい……んだけど。

 

 

 

 

「あはは、大丈夫です。わたしこう見えて、ちゃんと三十越えてるので」

 

「…………ぅええ!? ウッソぉ!?」

 

「いやいやいや無理があるって! ……え、マジで?」

 

「えっ? いや、その…………ゴメンナサイ」

 

「いえいえ、おかまいなく。……いやぁ実際、よく職質……ていうか、補導されかけるんですよ。えーと……ほらっ、ちゃんと昭和生まれですし」

 

「…………スンマセンっした!」

 

「てっきり迷子かと!」

 

「ワケアリの不登校児かと!」

 

「いや、あの……大変失礼しました。ホントスミマセン」

 

「いえいえ」

 

 

 

 てっきり……タチの悪い軟派男どもに絡まれた、と思われてしまったのだろう。

 いきなりけらけらと笑い出したおれの様子を見て、後方の二人の動きがピタリと止まり、唖然としているような気配が感じられる。

 

 ……そう、気配。

 おれのこの身体の『人付き合いが得意』『対人スキルが高い』とかいう設定のせいか、それとも取って付けたような『たくさんの人に好かれる愛されキャラ』とかいう赤面ものの走り書きのせいか……とにかくおれは、相対したひとと認識の齟齬無くコミュニケーションを取れる、という特技がある。

 極めて端的に、あえて一側面のみを誇張して表現すると……おれが直接顔を見た相手であれば、その感情が『なんとなく』わかるのだ。……ちゃんと落ち着いていられれば、だが。

 

 それによって、おれたちの行く手を遮った男性四人組が――そりゃあお世辞にも賢そうには見えない風体だけど――おれたちを『心配』してくれているのはわかったし、うにさんくろさんが危惧したほどの危険が無いこともわかった。

 こうしてお話ししてみれば……ただの賑やか好きで、派手好きで、楽しいことが好きで、そしてこの街が大好きな……今どきの兄ちゃんたちだ。

 

 

 

「へぇー! 配信者(キャスター)やってるんスか! すごいっスね!」

 

「そうなんですよー。今日もこっちの……この子のお洋服を買いに」

 

「……アレッ? もしかしてアレじゃないスか? 実在エルフ動画配信者(ユーキャスター)、って……」

 

「あっ、たぶんそれです。……ほら、お耳」

 

「「ウェェェェェェェ!!?」」

 

「調べれば出てくると思うので、お兄さんたちもぜひ『のわめでぃあ』をよろしくお願いしますね!」

 

「「う、ウッス!」」

 

 

 

 せっかくなので宣伝もバッチリ済ませ、目を白黒させている霧衣(きりえ)ちゃんの手を引き、意外と面倒見の良いお兄さんたちと別れる。

 そのまま歩道をもうしばし歩き続け……おれたちは二つ目の目的地である複合商業施設前にて、後続のうに(カントク)さんくろ(スタイリスト)さんと再合流を果たした。

 

 半ば勘違いだったとはいえ……おれたちのことを心配してくれて、ありがとう。そうお礼を告げようとしていたおれに……渋面を滲ませた二人の顔が、ずずいっと近づいてくる。……アレッ『おこ』だ。ナンデ。

 

 

「のわっちゃん……『悪女』って言われたこと無い?」

 

「もしくは『人たらし』とか? アレはなかなかやと思うでー」

 

「ホエエエエ!?」

 

 

 どうやら……彼女たち二人には、かなり心配をかけてしまったようだ。

 そうか、この身体は見た目だけでいえば、小さく華奢で可愛らしい幼女だもんな。会話内容もよく聞こえなかっただろうし、端から見るとかなり危なっかしく見えたのかもしれない。……悪いことをしてしまった。

 

 

「……ごめんなさい。ご心配おかけしました」

 

「ほんとに反省しとる?」

 

「はい……してます……」

 

「すまない、って思うとる?」

 

「はい……思ってます……」

 

「お詫びになんでも言うこと聞いてくれる?」

 

「はい……聞きま……す………………ん?」

 

「「イェーーーーイ!!」」

 

「ちょっと!!?」

 

 

 ちくしょう! やりやがった! 油断も隙もあったもんじゃねえ!!

 

 せめて、せめてどうか公序良俗に反しない範囲で!

 のわめでぃあは健全な放送局なので!!

 

 



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300【第四関門】セカンドコーデ

 

 

 おれたちの地元浪越市(なみこし)から遠く離れて、東京都渋谷区からお送りしている(※まだ収録段階です)、霧衣(きりえ)ちゃん着飾り計画『きりえクローゼット』。

 一発目から完全に未知の土地での収録となる今作だが……頼りになる現地案内人さんの力添えに助けられ、収録は今のところ順調に進んでいる。

 

 オープニングを撮って、一店舗めの物色シーンを撮って、おれと霧衣(きりえ)ちゃんのトークシーンもいくらか撮って、くろ(スタイリスト)さんがピックアップしたアイテムの()をそれぞれ押さえて……そしてそれらを身に纏った霧衣(きりえ)ちゃんのお披露目シーンも、いろんなポーズと共にしっかりと。

 更に更に……霧衣(きりえ)ちゃんとおそろいのお洋服を試着したおれの様子も、ばっちりと。

 

 これらの『素材』はたっぷりと集まったので……あともう一店舗、もう一式くらいコーディネートを撮影できれば、動画として編集するには充分な素材が得られるだろう。

 ……うん、あまり言いにくいけど……ご予算的にも、あと一式くらいが限界かなって。女の子のお洋服がこんなにお金の掛かるものだとは……ちょっと、甘く見てたかもしれない。

 

 

 

「やっぱ……お店によって、テイストも微妙に違うんですね」

 

「……色づかい、とでも申しましょうか? 先ほどのお店は柔らかな色あいが多く見受けられましたが……」

 

「そだね。このお店は……なんていうか、クールでスタイリッシュっていうか。都会的っていうか」

 

「なるほど……くーるで、すたみっつ……で、ございますか」

 

 

 例によってお店へ許可を取り付け、お店の中をあれこれ拝見させてもらいながら、くろ(スタイリスト)さんがコーデを纏める時間稼ぎ兼使えそうな映像集めに奔走する。

 店員さんや他のお客さんの視線とスマホが気になるが……そもそもおれたちは迷惑かけてる側だからな、しかたない。

 霧衣(きりえ)ちゃんは目の前のお洋服に目が釘付けで気にしてないみたいだし……おれもあんまり気にしないことにしよう。

 

 

「……じつはわたし、こういうお店連れてってもらうの、今回が初めてなんですよね。……あっ! その、えっと……エルフなので、人間種のひとたちのお店って……あんまり行ったことなくって」

 

「わ、わたくしも…………その、今まであまりお屋敷から出ることは叶いませんでしたので……斯様に賑やかなお店は、とても興味深くございまする!」

 

霧衣(きりえ)ちゃんは『洋服』ってあんまり着たこと無いですよね。……どうですか? 着てみた感想として」

 

「えぇっと……何と申しましょう? とても身体の動きに合わせてくれる、とでも申しましょうか……軽くて、柔らかくて……ふわふわ、でございまする」

 

「ふ、ふわふわ……なるほど」

 

「のびちぢみする布地、とは……とても画期的なものでございまする。先日頂いた『ぱんつ』のときにも」

 

「アッ! エット! アアッ、とぉ!! ……う、うん! そうだね! つまり……洋服は、あんまり嫌いじゃない?」

 

「はいっ。なかなか良いものにございまする」

 

 

 企画立案企画配信(どっちの動画SHOW)のときは、ひどく怯えてあわあわしていた彼女だったが……先だって入手した下着(ぱんつ)が良い影響を与えてくれたのか、幸いなことに現代衣料に対する抵抗感は持ち合わせていないようだった。

 慣れない衣装を着せられたことによる気恥ずかしさはあれど、どうやら慣れれば問題ない程度の感覚だったようだ。先ほどのお店で選んでもらった服もお気に召したようで、今となってはにこにこ顔で花柄ワンピを眺めている。かわいいが。

 

 

「カントクーでけたでー」

 

「おぉー了解やー。のわっちゃーん! きりえっちゃーん!」

 

「カントクさんちょっと! 声大きいですちょっと! お店に迷惑でしょうちょっと!」

 

 

 身内の迷惑行為に若干ヒヤヒヤしたが……ともあれ我らがくろ(スタイリスト)さん渾身のコーデが準備できたらしい。

 期待に胸を膨らませながら、霧衣(きりえ)ちゃんと二人分用意されたカゴを受け取る。……なんだかんだでくろ(スタイリスト)さんの見る目は確かなので、おれはもはやそこまで抵抗感を感じていないのだ。

 

 

「今回のは……どっちかっていうと、のわっちゃんに特に似合うように揃えたらしいんよ。せやからな、」

 

「だいたいわかりました。わたしが先にお披露目すれば良いんですか?」

 

「そそそそそ。頼める? のわっちゃん」

 

「ぜんぜん大丈夫ですよ。くろさ……スタイリストさんの腕前は、信頼してますから。じゃあ霧衣(きりえ)ちゃん、またあとでね」

 

「は……はいっ!」

 

「んふふゥー嬉しいこと言うてくれはるやんー」

 

 

 複数ならんだ試着ブースのうち奥がわ二つをお借りして、おれと霧衣(きりえ)ちゃんはそれぞれお着替えへと意識を移す。

 段々この身体(おんなのこ)に順応してきた……というわけでは無いと思うのだが、女の子向けの衣服を身に付けることに対する抵抗感は、確実に薄れてきている気がする。……少なくとも最初の頃よりは。

 

 まぁでもでも、実際のところは『おれのことをちゃんと見ていてくれるひと』が存在している、ということに対する安心感が半端無いからだろうと考えている。

 玄間(くろま)くろさんが、おれのために揃えてくれたコーデなのだ。そう考えると嬉しさもヒトシオだし、期待には応えたいと思ってしまう。

 

 

 そんな考えごとをしながらも、順調に衣服を身に付けていく。先ほどの経験が功を奏したのか、今回は霧衣(きりえ)ちゃんもひとりでお着替えできているようだ。

 店員さんに服を着せてもらっている霧衣(きりえ)ちゃんの声も、あれはあれでなかなか滾るものがあったが……愛娘の成長を感じられるようで、とても嬉しい。おれ娘いないけど。

 

 スカートのホックを締め、シャツの裾は外に出して、アクセントのロープベルトを結んで、デニムのジャケットを羽織って。そもそも()()がちゃんと女の子しているだけあってか、このあたりのアイテムも身に付け方がなんとなくわかる。

 脱いだものをきちんと纏めて、とりあえず袋に詰め込んで……立ちあがり姿見に全身を写して、仕上がった『わかめちゃん向けコーデ』を改めて眺め……その完成度の高さに、我が身ながら思わず見惚れてしまった。

 

 

 

「あの、カントク。……着替え、できました」

 

「おお! オッケー今カメラ回すわ。……じゃあ登場シーンからな、頼むわのわっちゃん!」

 

「はーい!」

 

 

 うに(カントク)さんの合図に従い、おれは胸を張ってカーテンを開ける。

 その向こうで待ってくれている……うに(カントク)さんと、くろ(スタイリスト)さんと、カメラと、店員さんと、一般のお客さん…………えっ、あの、待って。

 

 

 

 ひ と お お く な い ?

 

 



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301【第四関門】ブルーとグリーン

 

 

 白に近い淡いペールブルーのシャツと、ディープグリーンのロングスカート。シャツの丈はスカートから出されラフな雰囲気を醸し出しつつ、ライトベージュのロープベルトがアクセントを加えると共にお洒落さをプラス。

 彩度は低めとはいえ、ブルーやグリーンなどの印象的なカラーを使っていながらも、アウターに羽織ったデニム地のジャケットのおかげで、総じて落ち着いた色合いのコーディネートだ。

 

 おれのヘアカラーであるグリーンを採り入れて活かすため、スカートに同系色のディープグリーンを配しつつ、比較的近い色であるブルー系で上半身をコーディネート。ワンポイントで黄色系(ベージュ)をプラスして全体を引き締め、間延びしないオシャレな感じに仕上げられている。

 

 

 現役の、若者であるくろ(スタイリスト)さんの手による……今の時風に合わせた、おれのためのコーディネート。

 ……そんなの、嬉しいに決まっている。

 

 

 

「…………あー、クロ」

 

「まいど」

 

「これはグッジョブやわ」

 

「んふゥー。おおきに」

 

 

 その出来映えのほどは……いつのまにかギャラリーとして集まっ(てしまっ)ていた店員さんや一般のお客さんの反応から見る限り、やはり間違い無いのだろう。

 小さな背丈と奇抜な髪色なおれだったが、現代風のコーディネートのおかげで……なんということでしょう。小っちゃいのは相変わらずだけど、どこか大人っぽいお淑やかなお嬢さんふうの、なんとまあ愛らしい格好へと生まれ変わったのです!

 

 その可愛らしさたるや……思わずスマホを取り出して撮りたくなってしまうほど、ってことなんだろうな。

 高く評価して貰ってるって考えれば悪い気はしませんが……うん。無断で撮られるのはなぁ、宣伝になるとはいえなぁ……仕方ないとはいえなぁ。

 

 

「あのぉー、おねーさん。お店ん中で他人の撮影って……アレ大丈夫なん?」

 

「……はっ! す、すみません! お客様すみません、店内での無断撮影は禁止させて頂いております! 恐れ入りますが……」

 

 

 ……うん、惚れてまうわ。

 

 そこまで表情に出してしまったわけじゃないと思うのだが……おれの表情から懸念していることを察し、早急に手を打ってくれた。

 他ならぬ店員さんからの指摘によって、遠巻きにおれたちへとスマホカメラを向けていた一般のお客さん(ぎゃるず)達は……しぶしぶといった表情ながらもスマホを収め、各々のショッピングへと戻っていった。

 お陰で……『木乃若芽ちゃん』の好感度を落とすことなく、こうして場を整えることができたわけだ。

 

 やっぱり、進んでカントク役を引き受けてくれただけのことはある。視野の広さも面倒見の良さも、判断力も思いきりの良さも……伊達に有名仮想配信者(ユアキャス)ユニットで副リーダーを務めちゃいないってことだ。

 かっこいいぞ、うにさん。

 

 

「……うん、ええな。可愛い。はー可愛い。……なんなん? のわっちゃんファッションモデルでもやっとったん?」

 

「ぇえ……無いですよそんなの。うにさんだって緑髪ちんちくりんなファッションモデルとか聞いたこと無いでしょ」

 

「いやぁー……だって、なぁ? その割には何てぇーか……ポーズとか『撮られ慣れてる感』っていうか……まぁええか」

 

「あぁー…………」

 

 

 前後左右の四面それぞれをぐるっと一周撮ってもらったり、調子にのっていろいろとポーズを決めてみたり……図らずも以前鳥神(とりがみ)さんとこで撮ってもらったときの経験が活きたな。あとでジュースをおごってやろう。

 とりあえず、わざわざうに(カントク)さんがそう言うってことは、なかなか可愛い感じに撮れたのだろう。あとで確認するのが楽しみだ。

 

 

 ……っとまぁ、おれのことはこのへんで良いだろう。

 いよいよ大本命、霧衣(きりえ)ちゃんのお披露目のときがやってきた。こっちはなるべく一般のお客様には晒したくなかったので、店員さんが声かけしてくれて助かった。

 

 

 

「それじゃあ……霧衣(きりえ)ちゃん! いいよー!」

 

「は、はいっ!」

 

 

 先ほどのお店と同様、おれとお揃いでサイズ違いの一式コーディネート。グリーンとブルーをベースに置いた爽やかなイメージながら、彩度を落とすことで落ち着いた雰囲気に仕立てた逸品。

 おれの髪色と合うように組み合わせてくれたカラーパターンだが、果たして霧衣(きりえ)ちゃんに当て嵌めるとどうなるのか。

 

 

「「「おぉーー…………」」」

 

「え、えへへ……っ」

 

 

 いや、普っ通にかわいいが。すきだが。

 

 そもそもの話、うちの霧衣(きりえ)ちゃんは顔が良いんですよね。いや顔だけじゃなくて当然性格も良いし声も良いし育ちも良いんですけど、そこは今回は置いておくとしまして。繰り返しになるけど顔が良いので常に魅力値に大幅なバフが掛かってる上、その髪色がまた一般日本人とは大きく異なるのでこれまた人目を惹きつけるんですね。人目を惹いた上で顔が良いんだから、そりゃつよいに決まってますよ。かわいいの相乗効果ですよ。しかもその髪の色がきれいな白髪っていうのがですね、またとても良いんですよ。おれのようなグリーンと異なり綺麗な白髪なので、要するにどんな色とも喧嘩しないわけですね。さっきの赤系統のコーデもまたお(あつら)え向きかってくらい似合ってましたが、やっぱりどんな色合いのお洋服も着こなせるっていうポテンシャルを秘めているんでしょうね、グリーンベースのこっちのコーデもまた非常に似合ってて……っハァーーーー(溜息)

 

 

「うち……今日来てよかったわ」

 

「そうやろぉ? ……いや、うちもここまでとは思わんかったけど……でもほら、クロもたまにはこうして【Sea's(ウチら)】以外とも絡んだほうがええって」

 

(つる)はんとは絡んどるもぉーん」

 

「それ仕事(ユニット)の話やろ! そういうんやなくって!」

 

 

 

 今回の立役者おふたりの仲良さげなやり取りを聞きながら、可愛らしくも初々しくポーズを取る霧衣(きりえ)ちゃんをただただ愛でる。

 うに(カントク)さんは口ではやんややんや言いながらも、カメラはばっちりかわいい霧衣(きりえ)ちゃんを捉えている。さすうに(さすがうにさん)

 

 

 というわけで、収録した映像もなかなかの量になったことだし、当初の目的は無事達成したことだし……そろそろ撮影を切り上げるタイミングだろう。

 REINで一報入れてあるとはいえ、もともとは『ランチに行く』という体で飛び出してきたのだ。

 ……いや、そもそもはただの打ち合わせだったハズなんだけど……まぁ、いいか。

 

 

 構想そのものは前々からあったのだが、図らずも突発的な撮影となってしまった、この収録。

 かわいいが溢れる映像と、プロの手によるコーディネートと、霧衣(きりえ)ちゃんの嬉しそうな笑顔が得られたのなら。

 

 二人分の服を買うくらい……しめて六桁に届かんばかりの出費なんて、どうってことない。

 

 

 

 ……大田さんお仕事ありませんか。

 

 



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302【第五関門】恥ずかし辱しめ

 

 

 『わたしは

  話し合いすっぽかして

  服を買いに行きました。

        きの わかめ』

 

 

 

 

 

 ……うん、よく見るアレだ。

 正座させた子の首に罪状が書かれた看板を掛け、衆目監視に晒すという……例のアレだ。

 ソレで使うはずの看板がなぜかおれの首から下げられ、そしておれは何故か正座をさせられており……まぁ要するに、そういうことだ。

 

 

 

「不服そうっすね? わかめちゃん」

 

「いえそんな、滅相もございませんッス」

 

 

 

 突発的な企画撮影(の名を借りたショッピング)を終え、『にじキャラ』さんの事務所へと戻ってきたおれたち四人。

 

 その中で最年長(という設定)のおれが代表として責任を取り、こうして罪状とともに……『にじキャラ』さん事務所フロアのエレベーターホールにて、晒し者にされているわけだ。

 

 

 

「……いえ、あの……でもですね? 決して遊んでいたわけではなくってですね」

 

「知ってます。収録っすよね。……でもそれ、そんな緊急の用件でした? ミルさん絡みで別件の打ち合わせ入ったって、(しら)た……知らなかったんですか?」

 

「アッ、エット……REIN貰ってました……ッス」

 

「ですよね。オレちゃんとREIN送りましたもん。……わかめちゃん、ミルさんのフォローする役目ですよね? 自分の役目投げ出してお買い物っすか?」

 

「アッ、アッ、エット、アッ……」

 

 

 

 晒し者……そう、これはまごうことなく晒し者だ。

 

 エレベーターホールとはすなわち、このフロアを利用する全員が必ず通る場所だ。

 八代(やしろ)さんたちと打合せしていた会議室がある『八〇三』以外……『八〇一』と『八〇二』のオフィスに勤める方々も、当然のように行き来する共用スペースだ。

 

 

 そんなエレベーターホールの、一等地。

 

 フロア案内が掛けられた、その目の前に。

 

 罪状を記した看板を首から掛けられ、プロ(くろさん)の手によるコーディネートでおめかしした、たいへん可愛らしい実在エルフのおれが、かわいそうに項垂れて……正座させられているのだ!

 

 

 

「……というわけで、『にじキャラ』さんの今後を左右するお話し合いをすっぽかしてお買い物していた罪っす。本来ストッパーであるはずの最年長……百歳児であるにもかかわらず悪い子したわかめちゃんに、代表して反省して貰ってるわけっすね。†悔い改めて†」

 

「で、でもでも……これ、さすがにわたし可哀想じゃありませんか? いたいけなエルフですよわたし。こんなとこで正座させられちゃってたら、みなさんの良心が痛むでしょう?」

 

「ご心配なく。ご覧の通り……大盛況っす」

 

「わああーーんひとでなしーーーー!!」

 

 

 

 ……はい、というわけで。

 

 おれたちがわざとらしいやり取りをしてまで、いったい何をしているのかというと……『にじキャラ』さん事務所フロアのエレベーターホールをお借りしての、小芝居兼売名行為である。

 

 鈴木本部長さんからお触れが回ったのだろうか。ミルさんについての企業内周知は、概ね無事に完了したようだ。

 それに伴い、ミルさんの個人的な事情に関する協力者として、おそれおおくも『木乃若芽(きのわかめ)』の名を挙げていただいており……ならばついでに顔も売ってしまえ、と思い至っての小芝居である。

 

 ちなみに罪状看板については、八代さん(○ェバンニ)が一分でやってくれました。なんだか専用のテンプレートがあるらしい。

 ……うん、日常チャバンジか。苦労してるんだなぁ。

 

 

「ごめんなぁのわっちゃん、八代(やしろ)んの指示やねん……はい、笑ってー」

 

「んふゥーうちも録っとこ。ほな笑ってー」

 

「この状況で笑顔出ると思いますか!?」

 

 

 などと可愛らしくがなりたてる『反省』体勢のおれを、ぐるりと囲んだ『にじキャラ』運営の方々のスマホが捉え、カシャカシャとシャッター音が響き渡る。

 

 今回の『晒し者』計画は、うにさんくろさんを通じて『写真撮影許可』をみなさんに出して貰っている。

 可愛いおれのかわいそうな様子を存分に写真に収めてもらい、おれの顔と名前を覚えてもらい、あわよくば共演(コラボ)とか案件とかに誘ってもらえればなぁ……という、大変あざとい完璧な作戦だ。立案者のラニちゃん後でお話があります。

 

 ……まぁ、『にじキャラ』でお仕事してるようなひとたちであれば、コンプライアンスの観点は重々承知してくれているはずだ。自社内で撮った写真をSNS投稿したりはしないだろう……という()()もあったりする。

 

 

 

大人気(だいにんき)だね、ノワ。ハチマルニーとハチマルイチのほうも、ノワの話題で持ちきりだったよ)

 

(よかった、おれの羞恥は無駄じゃなかったんだね。ラニちゃんあとでお話があるからね)

 

(ははは……ほ、ほら、ボクちゃんとモリアキ氏とお話し合い聞いてたから。後でちゃんと教えてあげるから、ね)

 

(そう、ありがとね。お部屋の『はぶらし』はちょっと硬めだったから。罪状はもうおわかりですね。覚悟の準備をしておいて下さいね)

 

(は、はははは……は……)

 

 

 

 顔はひんひんとわざとらしい泣きべそをかきながら、思念会話ではラニちゃんに『おぼえとけよ』と釘を刺しておくのも忘れない。

 確かに、極めて効果的に顔と名前を売ることができたのは事実なのだが……正直ここまで恥ずかしいとは思わなかったのだ。ひんひん。

 

 ……といった旨をマネージャーさんに視線で訴えたら、こめかみをぽりぽりと掻きながら苦笑気味に頷いてくれた。

 彼の後方に待機していた八代(やしろ)さんがどこぞへと姿をくらませ、そのすぐ後に鈴木本部長さんがどこからともなく現れ、未練がましくおれを撮影しようとしている社員さんを追い払ってくれた。すき。

 

 

 

「ひん……ひん……」

 

「すみません若芽さん……本当すみません」

 

「おぉーよちよち、大丈夫やよー怖くないやよー」

 

「んにはん、うちも抱っこしたい」

 

 

 やっと『みそぎ』から解放されたおれは……わざとらしくあざといすすり泣きをして見せながら、うにさんに引っ立てられて会議室へと引っ込んでいった。

 ふふ……われながらよくやった。スタッフさんたちにもいろんな意味で印象づけることができただろう。

 

 

 

 実体化仮想配信者(アンリアルキャスター)の存在をまざまざと見せつけ、その多彩な表情や細かな動作……つまりは『可能性』を、これでもかとアピールする。

 ……布石は、しっかりと打ったのだ。

 

 あとはラニちゃんが、肝心の【変身】魔法を仕立ててくれるのを待つばかりだ。

 この仮想配信者(ユアキャス)界隈に……おれたち『のわめでぃあ』の手で、新しい風を巻き起こしてやろーじゃん!

 

 

 なお大御所の力は借りるものとする!

 

 



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303【第六関門】新たなる日課予定

 

 

 くろさんとの共演(コラボ)、ならびに【変身】魔法の導入に向けて、当面の方針と作戦は決まった。

 

 それに伴う根回しと協力の約束を取り付け、業界の偉大な先輩と個人的なコネクションをも築くことができた。

 

 業界最大手の重役と直にお話しする機会を得、また多くのスタッフさんに顔と名前を売り込むことができた。

 

 

 ……うん、控えめに言って大成功なのでは。

 

 

 

「お疲れさまでした、先輩。先輩たちは今晩オタノシミなんすよね?」

 

「死ぬときは一緒ですよ若芽さん」

 

「おれは海月(みづき)さんのこと信じてるから」

 

「真顔で言わんで下さい二人とも……悪かったですって」

 

「ん。……じゃあ、悪いけど……そっち終わったら先部屋戻っちゃって。おれら気にせず寝ちゃってて良いから。おれら【静寂(シュウィーゲ)】使うし」

 

「まぁその辺は随時REINで」

 

「ん。そだな」

 

 

 

 大成功を収めた『にじキャラ』さんとの打ち合わせを終え、恐れ多くも玄間(くろま)くろさんにREINの友達登録を送ってもらい(モリアキも八代(やしろ)さんたちと連絡先を交換していたみたいだ)……そんなこんなでおれたちは行きと同じくタクシーを召喚し、とりあえずホテルへと帰還することにした。

 

 

 なお……この選択には、大きく分けて二つの理由があったりする。

 

 ひとつめは、単純に夜の会食までまだまだ時間があるということ。

 ホテルの部屋や館内施設でのんびりすることもできるだろうし、ラニの協力を得たおれたちであれば、浪越市の拠点まで一瞬で行き来することだってできるのだ。

 予定外だったとはいえ、企画動画一本分の映像素材が手に入ったのだ。少しでも早く公開できるようにするために、なるべく早く自宅PCに取り込んで鳥神(とりがみ)さんに依頼を出してしまいたい。

 いやぁ……旅先でもすぐにメインマシン使えるとか、本当にラニちゃんさまさまだわ。はぶらしの刑はやめないけど。

 

 そして、もうひとつの理由なのだが……これはどちらかというと、ミルさんとうにさんとくろさん、あと八代(やしろ)さんからの進言によるところが大きい。

 なんでも聞くところによると、『木乃若芽ちゃん』の出現が思っていた以上に大ごとになっており、このままでは収拾がつかなくなる恐れがあるとかなんとかどうとかこうとか。まじか。

 写真撮影タイムを設けたことがあだとなった……というほど深刻な事態でも無いのだろうが、要するに他のスタッフさんが撮ったおれの写真(とそこに映った同僚(うにさん))が他の『にじキャラ』演者さんに伝わり、『じゃあ俺も』『じゃあ私も』とあの事務所へ手空きの演者さんたちが詰め掛けようとしていたところだったらしい。……まあぶっちゃけて言うと、ティーリットさまとか刀郷さんとかそのあたりだという。

 

 

 そんなわけで、あのままお邪魔していても大混乱になってしまうだろうなので……ならば夜の予定まで行方を晦ませてしまおうという結論に至ったわけだ。

 それをヒトは『戦略的撤退』という。

 

 

 

「オレは()っと仮眠しますが、ミルさんはどうします? ホテル戻ってから」

 

「うーん…………ぼくはベッドに横になっちゃったら、たぶん間違いなく寝過ごしちゃうと思うので……」

 

「わかる。わたしも寝過ごす。……じゃあ……たとえば、なんですけど……ミルさんも来てみますか? うち、ッ、…………の、作業する……部屋?」

 

「あっ! ちょっと気になります!」

 

 

 あぶない、危うく瀬戸(運転手)さんがいるところで【門】とか【魔法】とか言うとこだった。

 あまりにもお部屋感覚でくつろげてしまうので、ついつい気が緩んでしまうけど……ここはおうちじゃないんだもんな。気を付けないと。

 

 そんなことがありつつもスムーズに車は進み、無事に戻ってきましたゴーカホテルの一階ロビー。

 フロントのひとから鍵を預かり、とりあえず周りの目と耳を気にしないで済むお部屋まで戻ってくる。……うん、やっぱすげーわこの部屋。

 

 

「とりあえずは、まぁ……打ち合わせと顔合わせとその他いろいろ、お疲れさまでした。モリアキはこのまま仮眠?」

 

「うっす。八代(やしろ)さんと六丈(りくじょう)さんが誘ってくれたんで、晩メシは勝手に済ませてくるっすよ」

 

「了解。じゃあおれと、ラニと、ミルさんと……霧衣ちゃんな。一旦オウチ戻ってこまごまやってくっから。んで多分そのまま【門】で街中いくから、ごめんだけど出るときフロントに鍵預けといて」

 

「りょーかいっす。……んじゃ、お気を付けて」

 

「うーっす」

 

 

 ラニちゃんに頼んで自宅へ通じる【門】を開いてもらい、おれたち一時帰宅組は行動を開始する。

 

 というかもしかして、ミルさんは通るの初めてだっただろうか。足元がふわふわして不思議な感覚だが、これはこれで慣れるとやみつきになるんだよなぁ。

 

 ふわっとしたかと思ったら、すぐに足元に堅い敷石の感触。目を開けるとそこは都心のベイエリアとは似ても似つかぬ、鬱蒼とした緑に覆われた山間の別荘地。

 おれたちが拠点としている、5SLDKのお屋敷の玄関前だ。

 

 

 

 

「うわァーーーーーー!!?」

 

「なューーーーーー!!!?」

 

「……おや、失礼を」

 

 

 

 突如悲鳴を上げたミルさんに釣られて悲鳴を上げてしまったおれの背後、ミルさんのすぐ傍らより……突如、大人びた声が聞こえてきた。

 耳心地の良いハスキーボイス、ミルさんを驚かせたその声の主は、物々しい天狗の半面を被ったロングスカートのメイドさん。

 

 見てみればその片手には抜き身の鉈が握られており、もしかしなくても臨戦態勢だったのかもしれない。

 

 

 

「……御屋形様の気配と……只人ならざる者の気を感じましたので」

 

「あっ……なるほど、ミルさんか」

 

「あ、あのっ、あのっ……わ、わかめさん……こちらの(かた)は……」

 

 

 ……うん、そりゃそうだよな。オウチに招くのが初めてなんだから……当然、初対面に決まってるよな。

 ミルさんはおれと同様の、いわば神力(魔力)もちだ。彼女ほどの手練れであれば、おれのような特異な気を放つ存在の出現を察知し、飛んでくることくらい雑作もないのだろう。

 

 

「えっと……紹介します。わがやの家事手伝いにして、契約保守管理要員にして、警備全般担当の……えっと、『大天狗』の、天繰(テグリ)さん……です」

 

「て、ん……!? おおて……!!?」

 

「……御紹介に(あずか)りました、御縁在りて此方の御厄介と相成って居ります……姓は狩野(カノ)、名は天繰(テグリ)と申します。御承知置きを」

 

 

 腰に佩いた山刀(マチェット)が物々しい音を立てる中、天繰(テグリ)さんは恭しく一礼。疑うまでもない強者の風格に、ミルさんはすっかり及び腰だ。

 いや、びびるよな。おれだって最初見たときは漏れるかと思ったもん。

 

 ……っと、待てよ。そういえばこちらの天繰(テグリ)さん、超ハイスペックな万能選手だ。

 おれたちの今後について、ふわふわと考えていたことだけども……これはもしかすると、もしかするかもしれない。

 

 

「あの、天繰(テグリ)さん。ご相談なんですけど……」

 

「……はい。御屋形様の御用命と在らば……何なりと」

 

「えっと、じゃあ……ご相談なんですけど…………おれたちに、稽古つけてもらうことって……出来」

 

「承知致しました」

 

「アッえっ!? 良いんですか!?」

 

「久方振りに立合に興じられようとは……感無量です」

 

「そんなに!? ていうかめっちゃやる気に満ちてませんか!?」

 

「その様な事は御座いません。……しかし、稽古……真柄(マガラ)以来でしょうか。腕が鳴ります」

 

「待って! 今なんかヤバイ事実聞こえた気がした! えっウソでしょマガラさん!? 教え子ってこと!?」

 

「御屋形様の御希望と在らば、手を抜くわけには参りません。不肖狩野天繰(カノテグリ)、全身全霊を以て立合わせて戴きましょう」

 

「ウソでしょそんなキャラだった!? もっとクールで物静かな子じゃなかったのテグリさん!?」

 

 

 

 えーっと……確かに、実践経験が致命的に足りないおれたちにとって、戦い慣れするということは大事だと思う。それは間違いない。

 

 

 間違いない、んだけど……この選択が果たして、良かったのかどうかどうか。

 眠れる獅子ならぬ大天狗様を呼び起こしてしまったことが、この後おれたちの身体とスケジュールにどういう影響を与えるのか。

 

 今のおれに予測することは……あまりにも難しかった。

 

 

 






旅行の途中でも、すぐに自宅で作業ができる。
そう……ラニチャーンならね。



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304【第六関門】お手並み拝見

 

 

「それじゃあ……ボクが審判を務めます。……ルールの確認ね。相手の背中にさわったら勝ち。殺傷力の高い攻撃は禁止。いい?」

 

「おっけー」「問題ございません」

 

 

 

 現在時刻は……十五時半くらい。場所はおれたちの拠点のお庭、鬱蒼と繁る山の中の一画。

 私有地の中でも、位置的に真ん中に程近いこのあたりであれば、おれたち以外の部外者に盗み見られることもないだろう。

 

 

 

「えーっと……じ、じゃあ……テグリさん。……宜しく、お願いします」

 

「はい。何処からでもお出で下さいませ」

 

「ぐ…………」

 

「……二人とも、くれぐれも気を付けてね。それじゃあ模擬戦……はじめ!」

 

「ッ!!!」

 

 

 

 

 …………というわけで。

 

 実在ロリエルフのおれこと木乃若芽(きのわかめ)と、万能系大天狗ガール狩野天繰(カノテグリ)さんの模擬戦がいきなり幕を開けたわけだが……というのも彼女に稽古をつけてもらうにあたって、果たしておれはどの程度の強さなのかを知っておく必要があると思ったからだ。

 あとついでに……ミルさんに、テグリさんとおれの力量を見ておいてもらいたかった……というのもある。師匠たるひとがどれだけすごいのかを知れば、きっとはりきって師事してくれるだろう。

 

 

 

「【草木(ヴァグナシオ)拘束(ツァルカル)】、行ッけ!」

 

「……ほう」

 

 

 余裕の佇まいを崩そうとしない天繰(テグリ)さんに、周囲四方八方から【拘束】のための(ツタ)を伸ばす。森の中であれば至るところに緑が溢れているので、それらに起因する魔法であればほぼタイムラグなしで発現できるのだ。

 目にも止まらぬ速さで伸びてくる(ツタ)を掻い潜るのは、はっきりいって至難の技だ。そうして【拘束】された相手であれば……たとえ天繰(テグリ)さんといえども、【加速】の魔法を纏ったおれに追従できるはずがない。

 

 

 はい、フラグでした。

 

 そう思っていた時期がわたしにもありました。

 

 早い? うるせぇなおれだって驚いたわ!

 

 

 

「ウッッッソでしょう!?」

 

(いえ)(まこと)にございます」

 

 

 右手で引き抜いた山刀(マチェット)と左手に握った(ナタ)を縦横無尽に振り回し、高速で飛来する(ツタ)の群れを斬り払う。

 半ば以上を欠損し勢いを削がれた蔦はあさっての方向へ飛んでいき、標的を捉えられずに虚しく巻き戻る。

 

 当然、それら(ツタ)を牽制に利用しようとしていたおれの戦略はあっさりと水泡に帰し……このままでは両手に武器を悠然と構える天繰(テグリ)さんに、正面切って飛び込む形となる。

 無策で飛び込んで勝てると思えるほど、おれの観察眼は鈍っちゃいない。今しがた(ツタ)を斬り払った手際を見ただけでも、速度で勝てないことは明らかだ。

 

 速さでは劣り、手足の長さでも劣り、実戦経験でも劣る。搦め手無しの真っ向勝負では、まともに当たっても勝てるわけがない。

 どうにかして動きを封じなければ……搦め手に頼らなければ、勝ち目は無い。

 

 

 

「ッ、【浮遊(シュイルベ)】!」

 

「ほう……」

 

「【領地(シューレス)掌握(コンダクト)】!!」

 

「ふむ」

 

 

 思いっきり地面を踏みしめ、宙に身を踊らせると同時【浮遊】を行使。ありえない機動で天繰(テグリ)さんの視線を誘い……その隙に足元を盛大に破砕し、大きく陥没させる。天繰(テグリ)さんとて二本足で地を踏んでいる以上、足場を崩されれば体勢を崩さないはずが無い。

 

 そのまま周囲空中に散らばる土塊を支配下に置き、落とし穴に落とされた天繰(テグリ)さんの足を固めるべく魔法を紡ぐ。おれの意に従い土塊が軌道を変え、山歩き用のゴツいブーツに殺到しようかというそのタイミングで……

 

 

「後ろを失礼」

 

「うわっぶ!?」

 

 

 相変わらずクールな天繰(テグリ)さんの声が、おれの背後から聞こえたことに愕然とする。

 ほんの一瞬前まで眼下にあったはずのメイド服姿は姿を消し、空中から地表を見下ろすおれの()()に、いつの間にか回り込んでいるのだ。

 

 『なぜ』とか『どうやって』とか、そんなことを考えるのは後で良い。迫り来る現実に対抗するため空中で無理矢理身を捻り、伸ばされる天繰(テグリ)さんの手のひらをおれの右こぶしで迎え撃つ。

 

 

「【斥力(アヴスクラフタ)】!!」

 

「おや」

 

 

 ただ単に『ふっとばす』ことに主眼を置いた魔法が直撃し、天繰(テグリ)さんはそのまま斜め上方へとぶっ飛んでいく。その反作用でおれも地表へ向かいぶっ飛んでいくわけだが、咄嗟に【草木】を展開して衝撃を吸収させる。

 一挙動で立ち上がり天繰(テグリ)さんの方へと視線を向けると……林立する針葉樹の幹に斧を叩き込み勢いを削いだ天繰(テグリ)さんの姿が、今まさにメイド服を翻しおれ目掛けて飛び掛かろうと力を溜めているところで……

 

 

 

「お疲れ様でございます」

 

「なぁ……ッ!!?」

 

 

 ぽん、と。

 

 上方を注視していたおれの背中に、天繰(テグリ)さんの手のひらが当てられた。

 

 

 

 いったいなぜ。天繰(テグリ)さんは今木の上に居たはずなのに、と目を凝らして見てみれば……そこにあったのは針葉樹の幹に叩き込まれた小ぶりな斧と、その柄に引っ掛かるようにしてぶらさがる()()()()()()()()()()

 

 ……なんのことはない。西陽が逆光となったことで詳細を見落とし、輪郭と特徴的なアイコンだけで判断してしまっていただけだ。

 おれが体勢を立て直す一瞬のうちに仕込まれた()()()()に……おれは少しも気付くことができなかったという、ただそれだけのことだ。

 

 ニンジャとかがよくやる『空蝉(うつせみ)の術』……ってやつだな、これ。初めて食らったけど、これ思ってた以上に効果すごいわ。

 ……いや、単純に高度な技量がなせる技か。

 

 

「……まいり、ました」

 

「……御粗末様でございます」

 

「ぐぅ。……確かに吹っ飛ばした……手応えがあったハズなのに」

 

「……歩法の一種にございます。己の神力を編み上げ、ほんの一瞬ですが写身(うつしみ)を紡ぎ出す……攻撃を『受けた』と錯覚させる程度であれば、木偶でも事は足りましょう」

 

「ぇえ……分身の術……?」

 

 

 

 まいった。こりゃつよすぎる。もはやニンジャじゃないか。一般人がニンジャに勝てるわけがない。実際手も足も出なかった。単純に速度と技量が半端ない。

 おれがいくら魔法で目眩ましを仕掛けたところで、最後に残るのは本人の技ということか。ここまで完敗だと、逆に清々しい。

 

 尊敬の念と共に立ち上がり、降参とばかりに振り返ったおれ……しかし疲労困憊のおれが目にしたのは、正直かなり予想外なお姿だった。

 

 

 

「……やはり、御屋形様は……恐れながら、身体の扱い方に不慣れな御様子ですね」

 

「あっ、アッ、かわ……アッ、いえ…………あっ……はい」

 

「……成程。……で、あれば……手前でも微力ながらお力に成れるかと」

 

 

 

 鴉の濡れ羽のように艶やかな黒髪を靡かせ、健康的に引き締まった身体を惜しげもなく晒すかのような……『強キャラ』感が拭えない佇まい。

 

 腰まわりは『きゅっ』てしてるし、おしりは『くいっ』てしてるし、ふとももは『すらっ』としてるし……そしておっぱいはおれよりも大きい。霧衣(きりえ)ちゃんくらいか。

 

 身体のラインにぴったりフィットする真っ黒の上下アンダーウェア――伸縮性も通気性も高い『働く男(ワー○マン)』印の高性能化繊インナー――以外は、くるぶし上まで覆うタイプのゴツいブーツしか身に付けていないもんだから……露出が皆無のはずなのに、なんだか妙に艶かしい。

 

 

 

 『空蝉の術』を行使するにあたり、特徴的である天狗面とメイド服と重装ツールバッグを装備解除した、軽装モードの天繰(テグリ)さん。

 

 猛禽のような瞳孔をもった鳶色の、ともすると無感動にも感じられる鎮まった(眠たそうな)瞳を……そういえば、おれは初めて目にしたのだった。

 

 

 

 

 ええと、はっきり申しますとですね。

 

 おれ……ああいうジト目の子、かなり好きなんですよね。

 

 

 



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305【第六関門】つかの間の休息

 

 

 東京出張の真っ只中だったが、一旦拠点へと帰還したおれたち。

 ()()()()してくれた強キャラ大天狗少女の天繰(テグリ)さんに、軽い気持ちで『戦い方を教えてくれませんか』などと聞いてみたところ……いきなり彼女と模擬戦じみた立合いを繰り広げることを余儀なくされた。

 

 まぁ、手も足も出なかったわけだけど……こちらの力量(の低さ)をどうやら判ってくれたようで、結論としてはありがたいことに稽古をつけて貰えることとなった。

 

 生徒はおれと、霧衣(きりえ)ちゃんと……そして、ミルさん。

 ただでさえ本業がこれから忙しくなるというのに……しかしミルさんは笑顔を浮かべ、おれの力になってくれることを改めて宣言してくれた。

 うぅ……ありがたい。しゅき。

 

 

 そんな経緯で、スケジュールはまた今後決め直すということで……一旦『師匠』と別れ、おれたちは拠点である5SLDKへと帰還する。

 本来の目的も進めたいし……他ならぬ師匠が『稽古の用意を整えて参ります』と言い残し、どっかへ飛んでいってしまったためだ。目視不可能な速さで。なにあれやば。

 

 

 

 

「……っと、ここが『仕事部屋』ですね。まだ中途半端ですが……」

 

「う、わ……ひっろ…………あぁそっか、全身映さなきゃなんないですもんね。……ははぁー……やっぱL2Dとは全然違うんですね……」

 

「3Dで()ってる仮想配信者(ユアキャス)さんはもっと大変だと思うよ……フルトラッキングしなきゃだし、機材もめっちゃ増えるだろうし……高いし」

 

「……あっ、そういえばそっか……そりゃ部屋まるまるひとつスタジオになりますよね」

 

 

 わが城のスケール感に圧倒されっぱなしのミルさんを、おれは二階のスタジオ兼編集部屋へとお招きする。……なにげにモリアキ以外で初めてのお客様だ。うれしいな。

 先日おれもミルさんの仕事部屋を拝見させていただいたのだが……同業者とはいえ(これまでは)演目も異なっていたので、やっぱりそれぞれ細かなところが違うようだ。

 まぁ(もっと)も、おれがここまで広いスタジオを確保できたのは、つい最近のことなのだが。

 ……ええ、つい最近なんですよ。まだ一ヶ月経ってないんですよ。もっと長い期間過ぎたような感覚するんですけどね。ふしぎ。

 

 ま、まぁ……そのあたりは突っ込んじゃダメな気がするので、あえて気にしないことにしましょうか。

 おれはメインマシンを立ち上げ、愛用の小型カメラをケーブルで繋ぎ、保存されていた撮れたてホヤホヤの動画データをPCへ転送する。

 同時に直通回線(Deb-code)で鳥神さんへと呼び掛けを行い、発注の準備を進めていく。

 

 

「まぁ、おれは実質的には、ただの動画配信者(ユーキャスター)だから。ヒカ(King)さんとか寿司炒飯さんとか翔ちゃんさんとか、みたいな。……なので最悪、家具とか映り込んじゃっててもいっかなって」

 

「ははぁ……なるほど、確かに。…………ぼくも最終的には……こういう形にできるんでしょうか」

 

「できると思うよー! ラニの【変身】魔法が実用化されれば、ミルさんに限らず…………あぁ、まぁ、撮影スペースは、たぶん今より広くする必要あるだろうけど……」

 

「ですねぇー……」

 

 

 うわさのラニちゃんだが……彼女は現在、ちょっと諸用で席を外してしまっている。

 おれと天繰(テグリ)さんとの模擬戦が終わったあたりから『ちょっとツルギさん行ってくる!』と言い残し、早々に【門】を開いて飛んでいってしまった。なんでもくだんの【変身】魔法の構築のため、鶴城(ツルギ)の神使の方々にお知恵を拝借するのだとか。

 ……まぁ、霧衣(きりえ)ちゃんやマガラさんが得意とする【変化】の(まじな)いを見る限りでは、それをうまいこと応用すれば出来そうではある……と思う……けど…………そのあたりは専門家(『天幻』の勇者)に任せよう。

 

 そんなことを考えている間に、鳥神さんから反応があった。なんでも今月は本業のほうの伸びが思わしくなく、時間もリソースも余り気味なので是非やらせてほしい……とのこと。

 例によって、おれのいち『視聴者』である彼の楽しみを奪ってしまうようで申し訳なくもあるのだが……そのぶんの『お礼』は別の形で考えるとしよう。費用の算出は前回と同様で良いらしいので、細かく指示や条件を指定して……『発注』を掛ける。

 

 

「ははぁ……そっか、なにも全部自分でやる必要無いんですもんね……」

 

「そうだよお。おれたちは個人勢だから、マネージャー……は、モリアキがいるか。アシスタント……も、ラニちゃんがいるな。ううーーーん」

 

「わ、わかりますから。編集担当とか、裏方スタッフさんとか、そういう方々のことですよね?」

 

「そう、そうなの! ……生配信だけなら楽っちゃ楽なんだけど、なんだかんだで投稿動画も需要あるし。英字テロップ入れれば海外ニキネキにも楽しんでもらえるし」

 

「そんなことまでやってるんですか!?」

 

「そだよー! ……いやぁ、『一人でも多くのヒトを楽しませたい』って……呪いみたいなもんだけど、おれの願いでもあるからね」

 

「…………わかめ、さん……」

 

 

 幾つかある動画ファイルと写真ファイルの吸出しが完了し、今度はそれらをネット上のストレージサービスへとアップロードする。

 このあたりに引かれている光回線はなかなか機嫌が良い子なので、本当にいつも助かっている。……恩返しじゃないけど……滝音谷温泉街にも、いつか何かの形で貢献できればなぁ。

 

 

 

「……よしオッケー! じゃあせっかくなので……お客様にわがやをご案内しましょうか?」

 

「えっ!? 良いんですか!? 正直めっちゃ興味あります! すごい豪邸ですよね!?」

 

 

 そうですよ……やばいんですよ……ふふふ。

 

 先日お邪魔させていただいたお礼、というわけじゃないですけど……このおうちのすごさを、ご案内させていただこうじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

「わかめさん、結婚しません?」

 

「「ぶふーーーーっ」」

 

「あははっ。……すみません、冗談です」

 

 

 

 自宅のひろびろLDKのダイニングテーブルで、のんびりお茶をすすっていたおれたち三人……おれと霧衣(きりえ)ちゃんと、そしてミルさん。

 放心状態から戻ってきたミルさんが突然そんなことを言うもんだから、おれも霧衣(きりえ)ちゃんもたまらず吹き出してしまった。……あー、霧衣(きりえ)ちゃんなんて咳き込んじゃってるじゃん。かわいい……あっ、もとい、かわいそう。

 

 いやぁ、でも……おれだってまさか、東京出張の真っ只中に自宅でのんびりお茶をすすれるなんて、思ってもみなかった。

 都心ベイエリアの高層ホテルで、街並みを見下ろしながらのティータイムも良いものだろうけど……モリアキには静かに休んでほしいところだし、これはこれで。霧衣(きりえ)ちゃんが淹れてくれた緑茶は相変わらず温かくて落ち着くので、おれはこれが好きなのだ。

 ……うん、せっかくの日本茶なんだから……和室でいただけばよかったな。一階の和室も座卓とか座布団とか揃えないとな。というかいい加減リビングにソファとかラグとか揃えないとな。後回しにしすぎたか。

 

 

 

「あの……ところで若芽さん」

 

「はいなんでしょう。すみませんけど結婚はしませんよ?」

 

「あはは……冗談ですって。……じゃなくて、おうち紹介動画とか撮らないんですか?」

 

「……………………あぁ!」

 

 

 そっか……そうだな。そういえばこの拠点のお庭はちょっとだけ公開したが……おうちのほうは公開してなかった。

 せっかく動画映えする素材があるのだ。単純な『おうち紹介』だけじゃなく、インテリアコーディネート系の企画も、やってみてもいいかもしれない。単純に『家具を選んで、買って、配置する』だけでも、そういうのが好きなひとにはウケるかもしれない。

 それになにより……元々家具自体は買い足す予定なのだ。例によって、動画を撮るにあたっての出費は特に無い。実質無料で動画一本分の映像が撮れるのだ。

 

 

 

「そだねぇー。……おうち紹介動画は、近いうちに撮ってみよう。そのあとは家具調達動画とか、設置動画とか……なんだ、動画ネタ結構あるじゃん」

 

「そういう『おうち動画』系ぼく好きなので、楽しみにしてますね」

 

「ングゥー! が、がんばるよ……!!」

 

 

 

 まぁ、それらも引っくるめて……ちゃんと『かえってきたら』のお話だ。

 

 とりあえずは今日の夜、おそれ多くもお呼ばれした【Sea's(シーズ)】のみなさんとのお食事会が待っているのだ。ラニちゃんは十七時くらいまでには帰ってくるとのことなので、それまでは自宅でのんびりしていようと思う。

 

 

 うーん……会食。期待六割、不安四割といったところか。いややっぱ単純に楽しみだし……なにより、嬉しい。

 

 ……失礼の無いように臨まなければ。

 

 

 



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306【第七関門】宴の前触れ

 

 

 中華料理店『翠樹苑』さん。

 東京都渋谷区の某所、例の『にじキャラ』さんの事務所からそこそこ近い(といっても帝応線で二駅の)距離にある、うにさん行きつけのお店らしい。

 

 まぁ、うにさんの行きつけ……というよりは、うにさん主催の『めし食いいこうや』の集いでよく利用されるらしいので……つまりは実質【Sea's(シーズ)】の皆さんの行きつけということなのだろうか。しらんけど。

 

 

 

 

「いらっしゃ………………えーっと、チクサさんのお連れ様ですか?」

 

「……? えっ? えっと……」

 

「あー……『村崎うに』さんの?(小声)」

 

「!!! あっ! そ、そう! そうです!」

 

「ふふっ……かしこまりました。お連れ様ご案内しまぁす!」

 

 

 

 ……うん、スゲェ常連さんみたいだ。

 ()()を教えてしまっているあたり、あのお姉さんはなかなか濃い付き合いの店員さんなんだろう。

 

 予約の時間は十八時からのはずなのだが、うにさんとくろさんは三十分前にもかかわらず既に入店しているという。

 『なんなら早めに来とってもええよー』とは言ってもらっていたのだが……まぁ確かに、ピークタイム前にお店へ入ってしまえば、多くの一般のお客様に見られるリスクも減るだろう。入り口近くで大騒ぎになる……なんてことも避けられるだろうし、なるべく人目を避けたいおれたちにとっては好都合だった。

 

 というわけで。

 対人用の【ファンタジー隠し(Ver.黒髪黒目)】を纏ったおれたち三人は、うにさんの提言に従い三十分巻きで入店したわけだ。

 ちなみに現在の服装は、おれと霧衣(きりえ)ちゃんは昼間にくろ(スタイリスト)さんに揃えてもらったカワイイコーデ。ミルさんは事情説明用の配信衣装じゃなくて、ついでとばかりに一旦おうちに戻ってお召し替えを済ませている。

 白ロリ衣装で中華料理は……いや、中華料理じゃなくても食事会なんかは、かなりシュールな絵面になっちゃうもんな。

 

 

 

「おーきたきt……おお!? 黒髪!? すっご!」

 

「おおー、黒髪でも似合うとるやん。さすがうち」

 

「こんばんわ、うにさん、くろさん。さっきぶりです」

 

「こ……こんばんわっ! お招き戴き……ありがとうございます!」

 

「……来ちゃいましたよ……うにさん、くろさん」

 

「うん……うちも可能な限りフォローすっからな……」

 

「ウーンやっぱかぁええなぁ! 洋服もよう似合っとるで、りえっちゃん!」

 

「あわっ、わわっ……わぅぅ」

 

 

 

 うにさんたちの待つ個室へ通され、店員さんがヒラヒラ手を振りながら退室する。

 やはりというか、うにさん(とくろさん)とかなり仲の良い店員さんらしく……『エルフ耳の可愛い子が来たらうちの客やから』と言われていたらしい。

 

 例によって、あまり他人に聞かれたくないお話をするおれたちの仕事柄……完全個室を借りきって行われる、今回の席。

 堀ごたつの座敷一部屋を贅沢に押さえ、その一部をおれたちで使わせてもらう形式らしく……収容人数二十四人のところを、なんと今日は十人で使わせてもらうようだ。わあい贅沢。わかめ贅沢だいすき。

 

 そろそろ良いだろうと、おれたち三人に掛けられていた隠蔽を解除し、満を持して緑髪白髪銀髪をさらけだす。

 道中、タクシーの運転手さんや通行人から目立たないようにするための隠蔽だが……お店の中に入ってしまえばこっちのもんだ。

 ……この二人にはラニちゃんの存在までバレているので、これくらいなら問題ないのだ。共犯者ってやつだな。

 

 というわけで、あとはこのお部屋で開始時刻を待つばかりなわけだが……

 

 

「とりあえずREINのグルチャで『今晩うちの友達二人来る』ってことは伝えてあるけど……正直何人かにはバレとるな」

 

「バレてるんですか!?」

 

「いやぁー……さっきの事務所での騒ぎがな、思ってた以上に飛び火しとるみたいでな?」

 

「やばくないですか!?」

 

「いうて『にじキャラ』ん中だけやし、大丈夫やと思うで。んにはんのREINは着信ものすごいみたいやけど」

 

「通知切ったからもう大丈夫や」

 

「いや……それ、大丈夫じゃ()

 

「大丈夫や。絶対大丈夫や」

 

「あぁー……」

 

「んふふゥー」

 

 

 

 うにさんの『何人かにはバレてる』っていうのが、果たして吉と出るのか凶と出るのか……あと早くもそわそわし始めてるラニちゃんは、果たしてずっと姿を隠していられるのか。

 『他人の目を盗みながら盗み食いすることくらい、ボクにとっては夜ごはん前だよ』とかよくわかんないこと言ってたけど……本当の本当に、いろんな意味であの子は大丈夫なんだろうか。

 

 

 色々と不安はぬぐいきれないけど……あんなに親身になっておれを助けようとしてくれているミルさんを、おれは見捨てることなんて出来やしない。

 たとえ病気(ロリショタコン)のひとが待ち受けていようとも……自分だけ助かろうだなんて、そんな選択できるわけがない。

 

 

 

「おぉ、『ういちゃん』と『ちふりん』が着いたって」

 

「んふゥー! んいはんやぁー!」

 

「そやねぇ……きりえっちゃん今洋服やけど、くっそ可愛(カワ)やし大丈夫やろ」

 

「あわわわうわうわう……」

 

「ちふりさんは……若芽さんと話が合うかもしれませんね」

 

「あぁーたしかに。……で、でも、あの……わたしなんかが話し掛けちゃって、ほんとに良いんでしょうか……」

 

「ここだけの話やけど、【Sea's(シーズ)】みんな大なり小なり『のわめでぃあ』好きやで」

 

「ェはヲ!!?」

 

「うちが布教したからな!! 褒めてええんやで!!」

 

「ありがとうございます!?!?」

 

「んいはんとふりはんな、なかなかの『のわめでぃあ』ファンやで」

 

「ェままマジですか!?」

 

「ウチらには劣るけどな!!」

 

「んふふゥー」

 

 

 うぅ、よかった……とりあえずうにさんのおかげで『誰こいつ?』な事態も避けられそうで……正直、かなり気が楽になったぞ。

 大丈夫……おれのことを知ってくれているひとの前であれば、おれはちゃんと『わかめちゃん』になれる。……大丈夫だ。

 

 【Sea's(シーズ)】のみなさんを信じるんだ。がんばるぞ、おれ!

 

 



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307【第七関門】◯◯という名の紳士


うたげがはじまるンゲ




 

 

 やがて徐々にメンバーが集まっていき、ありがたいことに皆さんそれぞれから熱烈な歓迎を受けたおれたちは……ついに問題のお相手、花笠(はながさ)海月(みづき)さん(の(なかのひと))との対面を果たしたわけだが。

 

 

 結論から申しますとですね。

 おれたち……というか、主におれが心配していたような出来事は、幸いなことに起こらずに済んだようです。

 

 

 と、いうのもですね…………

 

 

 

 

「……あの、海月(みづき)、さん?」

 

「アッ! アッ、アッ、エット……は、ハイッ! ……ッフヘ」

 

(うーわ、めっちゃノワみたいだね)

 

(うそ!? おれこんな限界してる!?)

 

(してるしてる)

 

 

 

 赤色メッシュ入りの鮮やかな金髪を靡かせ、クールに澄ました中性的イケメンフェイスから、老若男女に人気な耳心地良いハスキーボイスを繰り出す……『にじキャラ』公式実力派美少女劇団員配信者(キャスター)、『花笠海月(はながさみづき)』さん。

 とある筋より一種の病気(ロリコンショタコン)であると吹き込まれていただけに、参加者全員が揃ってからもミルさんと二人、内心ビクビクしていたのだが……あまりにも尋常ではない様子が気になってしまい、おっかなびっくり声をかけてみた……というのが、先程のお話である。

 

 てっきり……目があったが最後、瞬く間に捕食され(性的に絡まれ)ると身構えていたのだが……本日の席に【Sea's(シーズ)】メンバーのなかで一番最後に合流した彼女は、遅刻を詫びる挨拶の途中で、なんといきなり硬直してしまったのだ。

 

 

 おれは思わずミルさんを見て、そしてうにさんを見て……お二人の表情から、やっぱりいつもと様子が違うらしいことを感じ取った。

 他の【Sea's(シーズ)】の方々(くろさんを除く)もまた同様、歯切れの悪い海月(みづき)さんの言動には違和感を感じている様子。

 ……くろさんは、まぁ……相変わらずニコニコと笑ってた。

 

 

 

 

「……どしたんですか? 海月(ミズ)ちゃん。……その、元気ないっていうか」

 

「うん、そうそう。……私はてっきり狂喜乱舞するかと思ってたんだけどさ? 美ロリと美ショタだし」

 

 

 おずおずと切り出したのは、読み聞かせや文学講義動画なんかを得意としている【Sea's(シーズ)】の文学少女『文郷(もんごう)ういか』さん(の(なかのひと))。

 物静かで優しげで、どこか包容力を感じさせる声色の彼女は……いつもと明らかに異なる同僚を前に、じっとしていられないようだった。おれの推しだ。

 

 口火を切ったういかさんに続いて、おれたちが思っていたことをズバッと言ってくれ(ちゃっ)たのは、こちらは【Sea's(シーズ)】きっての旅好き配信者(キャスター)洟灘濱(いなだはま)道振(ちふり)』さん(の(なかのひと))。

 仮想配信者(ユアキャス)でありながらアクションカメラを使いこなし、全国各地の観光地レビュー動画やのりもの体験動画を数多く上げてくれている女の子。おれの推しだ。

 

 

 

「俺はミルの特殊メイク、鈴木さんからも聞いてたし……そりゃミズが暴走しないかって心配しちゃあ居たんだけどさ? 今のミズは何ていうか……別の意味で心配っつうか」

 

「……せやなぁ? まぁ()()()()もおるし『病気(ビョーキ)』が出ないんは()ぇんやけど、それはそれとして薄気味悪いっちゅぅか……いや、マジどうしたん? ほんま大丈夫か?」

 

 

 お二人に続き、海月(みづき)さんの異常事態を心配して口を開いたのは、この【Sea's(シーズ)】の(押し付けられ系)リーダーであるノルウェ……もとい乗上(のりがみ)彩門(あやと)さん(の(なかのひと))。

 普段は軽快なトークを交えたゲーム配信を行いつつ、結構な頻度で所属の垣根を越えた共演《コラボ》企画を考案・運営してくれて、しかもその評価はなかなか高い……誰が呼んだか『にじキャラの便利屋』。便利に使われすぎて纏め役まで押し付けられてしまった、苦労人のお兄さんだ。おれの推しだ。

 

 仲の良い彩門(あやと)さんに被せるように、訛りの濃い口調で『甲葉(こうば)コガネ』さん(の(なかのひと))が続く。軽薄な言動に反したその表情は、やはり本気で同僚(ミヅキさん)のことを心配しているようだ。

 いつもはチャラチャラと現代っ子っぽい言動を織り交ぜ、ゲームに雑談にカラオケに、とにかく『楽しそう』に挑む姿が特徴の彼なのだが……同期生と遊ぶことも大好きな、とても仲間思いの男の子なのだ。おれの推しだ。

 

 

 

「と、とりあえず……お茶のんで、落ち着きましょう? 海月(みづき)さん。ゆっくりで良いですから」

 

「……せやなぁ。まさかこんな限界化するとは……いやまぁ、いつも通りのノリでミルとかのわっちゃんらに絡まれとったら、それはそれで困るんやけんど」

 

「アッ、アッ、……ッ、ソノ……ダ、ダッテ……」

 

「イズはん紳士やもんなぁ。現物のにるにるを目の前にして手も足も出なくなったんと(ちゃ)う? 『Yes(イエス)フィクションNo(ノー)タッチ』ってやつ」

 

「……ッスゥーーー……ッ、ソノ……ハイ」

 

 

 ついさっきまでは死地に送られる兵士のような面持ちだったミルさんは、一転して優しく海月(みづき)さんの介抱に臨む。

 そのときの海月(みづき)さんの幸せそうな表情を鑑みる限り……どうやら、うにさんとくろさんの考察が正しかった、ということなのだろう。

 

 つまりは、同僚いわく特殊な病気(ロリコンショタコン)である花笠(はながさ)海月(みづき)さん(の(なかのひと))は……ちゃんと思慮分別を弁えた、常識人だということ。

 そしてどうやら、現実(リアル)として現れてしまったミルさんは……そんな海月(みづき)さんにとって、かなりのストライクだったということ。

 

 個室のドアを開けてみたら、めっちゃタイプな白ロリ男の娘が『ちょこん』とお座りしていたら……あんなに限界になってしまっても、それは致し方ないということなのだろう。

 

 

 

 

「……大丈夫ですよ、海月(みづき)さん。ぼくは格好こそ()()()になっちゃいましたけど、()()は以前と変わりません。……右も左もわからなかった初コラボで、真っ先にあなたに絡んで貰えて……あなたに助けて貰った、『ミルク・イシェル』です」

 

「…………ミル……」

 

「…………えーっと、普段から度々『欲求』を聞かされちゃってる身としては、それら全てオッケーとは到底言いがたいですけど……」

 

「っ、それは…………ごめん」

 

「ふふっ。……けど、()のように……一般常識的な『スキンシップ』の範囲でなら……()みたいに、接して頂けたらな、って」

 

「…………っ!!」

 

 

 

 泣きそうな顔をする海月(みづき)さん(の(なかのひと))の目の前へ、純白のストレートヘアを靡かせミルさんが移動する。

 そのまま……()()を期待するように、頭を突き出すように傾けて……そのままの体勢で静止する。

 

 やがて、ゆっくりと……おずおずと、海月(みづき)さん(の(なかのひと))の手が伸ばされ……ミルさんの頭に、おそるおそる触れる。

 

 

 

「…………前の『もしゃもしゃ』も……好きだったけどな」

 

「それは……ごめんなさい」

 

「フフッ。……いや、ミルが謝ることじゃない。それに……」

 

「サラッサラでしょう? なかなかの撫で心地だって自負してますよ?」

 

「そうだね。…………相変わらず、可愛いよ……ミル」

 

「そうでしょう。海月さん(あなた)のかわいい()分なんですから」

 

 

 

(…………ねぇ、ノワ……これが『てぇてぇ』って感情なの……?)

 

(う゛ん゛、そうだよラニちゃん……! ヴゥッ(てぇて)ぇ……(てぇて)ぇよぉ……)

 

(な、なるほど……おもむきが深い……)

 

 

 

「……というわけで。わかめさん、良いですか?」

 

「えっ? あっ、はい!(何が?)」

 

(えっ、ボク知らないけど)

 

「ありがとうございます! ほら、海月(みづき)さん」

 

「し、失礼します……ッ!」

 

「?????」(?????)

 

 

 

 いきなり投げ掛けられたミルさんの声に、つい反射的に返事を返してしまったのだが……いったいなにが『良いですか』だったんだろう。

 すると……頭の中には疑問符を浮かべながらも表面上は平静を保っていたおれの目の前に、海月(みづき)さん(の(なかのひと))がおずおずと歩み出てきて……かしこいおれは、全てを察した。

 

 

 あー、はいはい。そういうことね。

 おっけー完璧に理解したわ。

 

 

 

 しょうがないにゃぁ。……いいよ。

 

 



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308【第七関門】あそびのおさそい

 

 

若芽(わかめ)ちゃんほら、エビチリだよ。エビは好きかな?」

 

「あっ、ありがとうございます! あむっ、もぐ……もぐ……んふぅっ。……はいっ! エビ大好(だいふ)きです!」

 

「ははっ。【Sea's(ウチ)】にエビモチーフ()らんくって良かったなぁ? 嫉妬でエラい(コト)んなる(トコ)やったで」

 

「あっ、そっか! ねぇねぇ霧衣(きりえ)ちゃん、イカ食べてイカ! イカ好き? イカ好きって言って?」

 

「あわわ、わわっ、わう…………す、好き、にございます」

 

「やったー! わたしも霧衣(きりえ)ちゃん好きー!」

 

「わうー!?」

 

 

 

 

 一時はどうなることかと思ったが、こうして無事に楽しげな食事会を始めることができた。

 どんどん運ばれてくる大皿盛りの本格中華料理を前に……久しぶりに会えたミルさんとの『積もる話』を、みんな存分に楽しんでくれているようだった。

 

 

 ミルさんへの『おさわり(※ソフト)』が許されたことで、心の平静を取り戻した花笠(はながさ)海月(みづき)さんは……ミルさんの勧めによっておれの頭をなでなでしたことで満足したらしく、本格的にいつもの調子が戻ってきたらしい。

 つまりは……小さく愛らしい少年少女に対し、正しい意味でとても『紳士的』に接してくれているのだ。

 

 畏れ多くも弱小配信者(キャスター)であるおれに、格下であるおれなんかに、チャンネル登録者数十万人オーバーの有名配信者(キャスター)(の(なかのひと))が………なんとエビチリを『あーん』してくれたのだ!!

 

 

「その……こっちの()()()の和え物も……どう、かな?」

 

「ありがとうございます! ……あむっ、もぐ、もぐ……んふふ。……海月(ミヅキ)さん、食べちゃいました」

 

「……嫌い、じゃ……無い?」

 

「もちろんです。わたし……嫌いなもの、そんなに無いですから」

 

「フフッ。……ありがとう」

 

 

 

 いや、しかし……うん。……みなさんのお名前(というか芸名)に海産物の名が含まれているのは、ともすると食事の場では意識しちゃったりしないんだろうか。

 決して失礼な意図は無いのだが……こう、『食べる』ということはセンシティブな意味にも捉えられてしまうわけで…………うん、考え過ぎか?

 

 

 

「ちなみにすみません、本っ当どうでもいい疑問なんですけど……【Sea's(シーズ)】の皆さんって食ネタで弄り弄られとか、そういうのあるんですか?」

 

「それがあるんですよぉ! アサリとかシジミに砂が入ってたら、何故かぼくのせいになるんですよ! 同じ二枚貝だから、って! 『ぅオイこらミルゥ! またジャリッてさせやがったなァ! ウチのお味噌汁どうしてくれんねんコラァ!』って、めっちゃ理不尽じゃないですか!?」

 

「雑うにやめーや! ていうか、だって貝全般はミルの配下やし、ミルは領主やろ? 責任の所在は明らかやんなぁ?」

 

「そんなぁー! うわーん!」

 

 

 あまりお酒に強くない、と言っていたミルさんも……久しぶりの同僚との語らいの場とあっては、さすがに飲みたい気分なのだろう。

 自分で言っていたようにあまり強くないみたいで、既になかなかいい具合にデキ上がってしまっており、隣に座るうにさんとくろさん、対面の彩門(あやと)さんのいいオモチャと化している。

 

 泣き顔のミルさんも可愛いんだけど……これが男の子って本当に本当なんだろうか。本当に()()()()のだろうか。確かめてみるか?

 

 

 

「あの……ういか様は、烏賊(いか)が引用元……なのでございます、よね? コガネ様は……」

 

「ウチか? そやなぁ、ウチと……あとチフリあたりは、まぁ一目見ただけやと解りにくいよなぁ」

 

「私はちょっと変化球だからね。イナダと、ハマチと、ブリ。出世魚を三つ束ねて、洟灘濱(いなだはま)道振(ちふり)。……でも一人っ子なんだよねぇ」

 

「んでもってウチはな……何を隠そう、(カニ)やねん。香箱蟹(コウバコガニ)いうてな、ズワイ蟹のメスのめっちゃウマイやつらしいで。知らんけど。てかウチ(オス)やし」

 

「ははぁ…………皆様、おいしそうにございまする……」

 

「でしょー」「せやろー」

 

 

 

 やっぱりというかお名前ネタは、真っ先に弄りやすい鉄板ネタなんだろう。

 何も知らない初見さんでも、とりあえず何かしらのツッコミどころがあれば触れやすいだろうし、実際うにさんの配信でも『初見です。おいしそうなお名前ですね』なんていうコメントを幾度か見かけたことがある。

 

 視聴者さんたちにとって身近なモチーフをキャラクターに落とし込み、親近感を沸かせる……そのあたりも含めて、ノウハウを蓄積した大御所事務所の戦略のひとつなのだろうか。しらんけど。

 

 

 事実……少なからず配信を追っかけていたおれとは異なり、ミルさんたち以外は今日が初対面となる霧衣(きりえ)ちゃんであっても……まぁ、非常に食欲に忠実な形ではあるが、親近感を感じてくれてるみたいだし。

 

 

 

「見てみてー霧衣(きりえ)ちゃん。これがね、この子が『文郷(もんごう)ういか』っていってね、私のアバターなの。かわいいでしょー?」

 

「……! は、袴にございまする! ういか様は武士(もののふ)の家系にございまするか!?」

 

「んー……そこまで昔じゃないんだよねぇ。大正浪漫(ロマン)風、ってわかるかなぁ? ほら私、文学少女って設定だから」

 

「たいしょう……大正……宮沢先生や川端先生の時節でございますね。存じておりまする」

 

「いぃー子だねぇー! よーしよしよしよし」

 

「わうぅーー!?」

 

「あははー。ういちゃんは和服っ子好きだもんねー。霧衣(きりえ)ちゃんのこと前々から気にしてたし…………よし。私も撫でとくか」

 

「ち、ちふり様ぁ!?」

 

 

 まだまだ人付き合いが不安な霧衣(きりえ)ちゃんでさえも、こうしてスキンシップを取れるまで至ることができたのだ。

 うらやまけしからん気持ちもちょっとだけあるのだが……あんなに楽しそうな霧衣(きりえ)ちゃんを拝むことができたのも、彼女たちの『親しみやすさ』ステータスが抜きん出ているおかげなのだろう。素直にありがたいことだ。

 

 ていうか、ふつうに可愛い。まじ(てぇて)ぇ。

 もっとやっちまってください。

 

 

 

「それにしても……次世代特殊メイクのテストケース、って言ってたか? ……本物にしか見えねぇな」

 

「そうだね。私も本っ当にビックリしたよ」

 

海月(ミズ)ほんと見事に限界化しとったもんな!」

 

「あははー。でもさ、これって私たちにもやってくれるのかな?」

 

「やってほしいよぉ! 私もくろちゃんと霧衣(きりえ)ちゃんと和装共演(コラボ)したいよぉ!」

 

「ええで」

 

「やったぁ!!」

 

「くろ様ぁ!?」

 

 

 この場にいる【Sea's(シーズ)】の方々には――ミルさんとうにさんとくろさんのお三方を除き――鈴木本部長さんの声明そのまま、あくまで『特殊メイクの一種』という形で周知されている。

 ラニの【変身】魔法が現実味を帯びてくれば、その際改めて……おそらく『にじキャラ』所属配信者(キャスター)全員を集めて、その『次世代演出技術』の周知を行う形となるらしい。

 

 なので……まぁ、騙しているのは事実なので若干心苦しくはあるのだが、もうしばらくの間はヒミツにさせてもらう。

 この『次世代演出技術』の普及を――おれや、霧衣(きりえ)ちゃんとのオフ共演(コラボ)を――楽しみにしてくれている彼女たちに、早く明るいお知らせを届けてあげたいものだ。

 

 

 

(……頼んだよ、ラニちゃん)

 

(うん? ほんと? 豚肉と玉子炒め?)

 

(なんて??)

 

 

 

 あー、うん。豚肉と玉子炒めね。ラニちゃんもこっそり中華満喫してくれてるようで……うん、良かったよ。

 うん……わかった。食べたいのね。たまごね。わかったよ、頼んどく。頼んどくから……

 

 

 ……依頼のほう、まじで頼むよ?

 

 

 



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309【第七関門】お持ち帰り

 

 

 楽しい時間というものは、あっという間に過ぎるもので。

 十八時から始まった『ミルミルおひさしぶりの会(withのわめでぃあ)』は(えん)もたけなわ、二十時を回ったあたりでお開きの流れとなった。

 

 この会食の間で、おれたち『のわめでぃあ』と『にじキャラ【Sea's(シーズ)】』さんたちの距離は、()()()と近づいたと思う。

 おれなんかもリーダーでありコラボ屋でもある彩門(あやと)さんをはじめ、なんと【Sea's(シーズ)】の方々みんなとREINの連絡先を交換することが出来た。……のみならず、なんとお祭りコラボの際には声をかけてくれるという。まじか。

 

 

 彩門(あやと)さんだけでなく、他にも皆さんと個人的なコラボのお誘いを数多く頂いた。

 

 たとえば……おれは洟灘濱(いなだはま)道振(ちふり)さんとの『二人旅コラボ』。

 これまで道振(ちふり)さんの動画は一人称視点での旅行動画がメインだったので、そこにおれこと若芽ちゃんが加わってみてはどうか……という形である。とてもたのしそうだ。

 

 あとは……今日はいろんなひとに可愛がって貰ってた霧衣(きりえ)ちゃんには、筋金入りの和装美少女好きである(らしい)文郷(もんごう)ういかさんから、熱烈な『きものコラボ』のお誘いが掛かっていた。

 気になる内容は……細かいところはまだ未定のようだが、オフコラボで『百人一首』や『初心者活け花選手権』などをやってみたい、とのこと。ふはは、いい度胸だ。

 

 ほかの方々……甲葉(こうば)コガネくんや花笠(はながさ)海月(みづき)さんからも、『すぐには思い付かないけどなんか思いついたら是非絡ませてほしい』とのお声を……特に海月(みづき)さんからは入念に、執拗に、徹底的にお願いされた。

 

 

 

 

「ほいじゃあ……のわっちゃん、すまんけど頼むわ」

 

「任せてください。お二人もお気をつけて」

 

「ほなな。りえっちゃんも、またなー」

 

「はいっ。……おやすみなさいませ」

 

 

 ほかの皆さんがそれぞれ家路についた後……残されたのは泥酔客(ミルさん)と、苦笑しながらも暖かい目で見送ってくれた、うにさんとくろさん。

 身体が変わってしまったことでお酒に弱くなっているのか、はたまた心のつっかえが取れたことでいつも以上にお酒が進んだからなのか……真っ白ストレートロングヘアの可愛らしい男の娘は、いつしかスヤスヤと寝息を立て始めてしまっていた。

 

 お開きの時間になっても目を覚まさず、うめき声をこぼすだけだったので……同じ宿に泊まっている(ということをポロってしまった)おれたちが、お部屋までお届けすることになったのだ。

 

 

 なお……うにさんからは『後で詳しく聞かせて貰うからな』と言われてしまったのだが……そこはまぁ、そのとき考えればいいや。……うん、気にしないことにしよう。

 

 

「ラニちゃん【探知】。人の少ない方へ」

 

「おっけー任せて。……うん、良さげな路地裏があるね」

 

「ん……案内お願い。霧衣(きりえ)ちゃん、モリアキと連絡とれる?」

 

「んゅっ!? れ、連絡、でございますか!?」

 

「落ち着いてキリちゃん! こないだお勉強したことを思い出すんだ!」

 

「あっ! わかった! わかったでございまする! こちらの『ねずみさんのおくち』印を押すのでございます!」

 

「「なんて???」」

 

 

 えーっと、ねずみさんのおくち…………あぁ……『受話器』のマークね。

 な、なるほど……まぁ、その……確かに『出っ歯の何者かが斜めになってニッコリしてるお口』に見えなくも無いのだが……うん、解ってるなら良いか。

 

 まるで表彰状を読み上げるように、背筋をピーンと伸ばして両手でしっかりタブレットを構えて、霧衣(きりえ)ちゃんは相手方が通話に出るのを緊張の面持ちで待ち続けている。

 うーーん……おれの両手が塞がってなければ、存分に写真撮ってたんだけどな。残念ながらおれの両腕と背中は現在使用中なので。思ってたより軽いぞミルさん。……いや強化(バフ)魔法が強いのか。

 

 おれの背中に感じる温かさと、小さな身体(とはいえおれよりは大きい)の重量と、頬に感じる健やかな吐息と……おれのおしりのあたりに感じる、なんというか、その……グニュグニュしたモノの感触と申しますか、名状しがたい大きな袋状の存在感と言いますか。

 

 

 ……うん、疑って悪かった。ミルさんはちゃんと男の子でした。しかもなかなかご立派そうだぞ。

 

 

 

「かっ、かすもり様! 夜分恐れ入ります! 霧衣(きりえ)めにございます!」

 

『こんばんわ霧衣(きりえ)ちゃん。珍しいすね。どうしたんすか?』

 

「やほーモリアキ。おれおれ。おれだっておれ。おれわかめちゃん」

 

『あぁー今流行りのオレオレって詐欺(ヤツ)っすね。本当にわかめちゃんならスリーサイズと今日のパンツの色わかりますよね?』

 

「上から六八の四九の六六でピンクの星柄」

 

『『(ぶふーーーーっ)』』

 

『アァーーッ!!? だ、大丈夫すか!? ちょ、ちょっと若芽ちゃん!?』

 

 

 ……ん?

 ちょっとまて。なんで今通話の向こう側から二人分の『飲み物を噴き出したときの音』が聞こえてきたんだ?

 

 

「おい待て!! スピーカーしてたんか!! そこに八代(やしろ)さんたち居ったんか!? 何言わしてくれたんワレほんとおまえまじ!!?」

 

『いやスミマセンホントスミマセン!! ちょっとしたお茶目心で……!!』

「(おろおろ)」「(爆笑)」

 

「そ、ッ……そこ、そこまさか他に人居ないでしょうね!? パンツの色公開したんですよこちとら!!」

 

『……………………ハイ!!』

 

「その間は何ぃーーーー!!」

 

『大丈夫っす! 部外者じゃないんで!! ヤバイことにはならないんで!!!』

 

「パンツの色晒すのは十分ヤバイことだろぉがバカぁーーーーーー!!」

 

「(おろおろ)」「(大爆笑)」

 

 

 ああもう……言いたいことが次から次へと浮かんでくるが、話が進まないのでこの場は『ぐっ』と呑み込むことにする。

 モリアキには後日、しっかり謝罪と賠償を要求してやるとして、この場は早々に切り上げるとしよう。

 

 

「おれ…………わたしたちは、もう切り上げますから! ミルさん送って、先にホテル戻ってますので!」

 

『(ホテルって!? まさか烏森さん若芽ちゃんと同じ部屋!?)』

 

『ち、ちが…………えーっと……』

 

『(ちょっと本部長! これフ◯イデーですよフラ◯デー!)』

 

『(ブッハッハッハッハ!! やべーっすよ、炎上案件ですよこれ!!)』

 

『いえ、あの……ホテルは同じっすけど、部屋はちゃんと別ですから!』

 

「……賑やかになってる気がしますが、じゃあそういうことで。わたしはちゃんと伝えましたからね? 飲みすぎないで下さいね?」

 

『(やさしいーーーー!!)』

 

『(かわいいーーーー!!)』

 

『えっと、その……あの! わかめちゃ』

 

 

 はい、切断(ブツッと)

 賞状持ちしてくれてたままの体勢で『あわあわ』している霧衣(きりえ)ちゃんにお礼を言って、ちゃんと安心するように言い聞かせる。

 

 ……いや、べつにそこまでキレてるわけじゃ無いんですけどね。ほんとですよ。おれキレさしたら大したもんですよ。

 というのもですね、そろそろくだんの『人けの無い路地裏』に着いたわけでして、つまりはラニちゃんに【門】を開けてもらう準備が整ったわけですので。

 

 

 なので……ほんとにおれは、いうほどキレてないわけです。

 

 ……ちょっとだけです。

 

 

 

 

 

 

 

「はい到着ー」

 

「いぇーい!」「い……いえーい」

 

 

 高速道路で二十分の距離を一瞬でひとっ飛びして、ベイエリアの高層ホテルの地下駐車場へと戻ってくる。

 出現場所は駐車したハイベース号の車内なので、防犯カメラとか他のお客さんとかに見咎められることもない。

 あとはこのままエレベーターで一階に上がって、フロントで鍵をもらって、もう一回エレベーターにのって……十九階のお部屋へ帰れば、任務完了である。

 

 

 というわけで、フロントロビー。今からチェックインのセレブリティな方々が、あちこちで優雅にくつろいでいる中……両手が塞がっているおれに代わり、霧衣(きりえ)ちゃんがばっちりと鍵をゲットしてくれた。いいこだねぇ。

 

 そのまますごすごと退散し、エレベーターを呼び寄せる。四基あるうちの一番端のエレベーターが到着し、澄んだベルの音と共に滑らかに扉が開く。

 背中にミルさんを乗っけたままのおれと、鍵を握った霧衣(きりえ)ちゃん(と、姿を消したままのラニ)がエレベーターに乗り込み……扉が閉まろうかという、その直前。

 

 

 

 

 小さな可愛らしい、十歳くらいの女の子が、するりと滑り込んできた。

 

 

 

 



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310【最終関門】一瞬の油断が命取り

 

 

 今日はもうお部屋へ戻って、ゆっくり休もうと考えていたおれたちは、お部屋のある十九階へと上るためにエレベーターを呼び寄せたわけだが……籠の扉が閉まる前に、一人の小さな女の子が滑り込んできた。

 

 お上品な黒のワンピースを纏った、おれとあまり背丈が変わらない……おそらく、十歳そこらの女の子。

 しかし付近に保護者とおぼしき人の姿は……扉が閉まってしまったエレベーターの籠の中には、当然いるはずも無く。

 

 唖然としていたおれたちを載せたまま、エレベーターはゆっくりと……やがてどんどん速度を増していった。

 

 

 

「……こんばんわ。お嬢さんは何階?」

 

「………………」

 

 

 真っ黒な髪と瞳は、日本人としての特徴のひとつだ。おしりに届かんばかりの長い髪を高い位置で二つに結んだ、ツーサイドアップと呼ばれる髪型……先端がやんわりとカールしているその凝ったヘアスタイルはとてもお上品で、この子がとても良い立場のご息女であることを窺わせる。

 

 幼いながらもすっきりと整った目鼻立ちは、しかし日本人というよりは精緻な西洋人形のようでもあり……そしてその瞼は眠たげに潜められ、小柄な体躯に『眠た目』が合わさって非常に庇護欲をそそられる。

 

 

 

「…………」

 

「………………」

 

 

 しかしながら、その可愛らしいご息女は……おれの問い掛けに対して反応を返すことは無く、おれの目を『じっ』と見つめ返してくるばかり。

 さすがにおれも少々居心地が悪くなり、霧衣(きりえ)ちゃんなんかはそわそわと落ち着かなさそうに視線をさ迷わせている。

 

 

 おれの背中に乗っかったミルさんの健やかな寝息と、エレベーターの微かな駆動音のみが響く中……やがて『ふわり』とした浮遊感を感じると共に電光表示が『十九』を示し、おれたちのフロアへ到着したことをベルの音が告げる。

 

 

 後ろ髪を引かれるような思いを感じながら、とりあえずは背中のミルさんを寝かせることが先決だろうと、エレベーターから降りることにする。

 

 結局お話しできなかったなぁ、と少し残念な気持ちを拭いきれなかった……おれの(よこしま)な気持ちが伝わったのだろうか。

 黒ワンピの少女はおれから『ふいっ』と視線を逸らすと、その年齢と小さな手のひらにはやや持て余し気味の……三連カメラを備えたスマートフォンを取り出し、なにやらスイスイと操作する。

 

 すると……今日買ったばかりの真新しいお召し物、ロングスカートのポケットに納められたりんご印のスマートフォンが……いきなり画像共有の着信通知を告げる。

 

 

 

 ふとももに突如感じた微振動に、思わず硬直するおれの目の前……感情変化の乏しい眠た目はそのままに。

 

 

 唇の前に人差し指を立てた『ないしょ』のポーズは、エレベーターの扉に阻まれ……姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……そして、今。

 

 泥酔したミルさんをベッドに横たえ、霧衣(きりえ)ちゃんとラニを『ミルさん見ててあげて』と半ば無理やりお部屋に残し……

 

 おれは『指示』に従い、先程降りたばかりのエレベーターに再び乗って、二十七階へと向かっている。

 

 

 おれが見つめるスマートフォンの画面……そこには、先ほど謎の共有許可申請が掛けられた画像が映し出されている。

 そこに記された文章、おれへ下された『指示』。……それは。

 

 

 

『二十七階 ラウンジ横 非常ドア前』

 

『必ず一人で』

 

『小さな友人 頼るな 絶対に』

 

 

 

 

 メモ帳か何かのスクリーンショット……簡潔な、それでいて有無を言わさぬ口調の『指示』。

 ただの可愛らしいイタズラだと、切って捨てることも出来るかもしれないが……おれの『小さな友人』の存在を知っている子が、()()()()()()()()()()()であるとは到底思えない。

 

 

 果たして……指定された場所に。ロビーからは少し奥まっているため人目の及びづらい、非常口マークの灯った扉の前に。

 

 暗がりに身を隠すように……黒いワンピースドレスを纏い、二本おさげの可愛らしい少女が、眠たそうな目でおれのことを待ち構えていた。

 

 

 

 

「……こんばんわ。……また会ったね、お嬢さん」

 

「…………こん……ばんわ」

 

「……もう夜遅いよ? ……わたしに……何か、用?」

 

「…………んっ」

 

 

 

 眠たそうな表情にたがわず、気だるそうな動きで……それでもまっすぐおれを見据え、片手を伸ばしてくる少女。

 

 全くもって意味はわからないけど……どうやら握手を求めているようだとアタリをつけ、こちらへ向かって伸ばされた白い小さな(といってもおれと同じくらいか)手を、こちらから握り返す。

 

 

「…………警戒……しないん……だ?」

 

「えっ? ……うん、まぁ…………悪い子には見えなかった、から……」

 

「…………あきれ……た。――【解錠(イザナエ)】」

 

「ッッ!?」

 

 

 

 

 

 ばちん、と物凄い音を立てて、辺りの空気が一転する。慌てて少女の手を振りほどいて距離を取り、いったい何が起こったのか周囲に気配を巡らせ……愕然とする。

 

 二十七階、レストランフロアの上層。軒を連ねるおしゃれなバーや密談用の高級ラウンジは、それぞれ防音性の高さもウリのひとつなのだが……だからといってここまでの静寂は、いくらなんでもあり得ない。

 利用者のみならず、従業員の気配も、物音も、心音や呼吸の僅かな音でさえ……おれの鋭敏な聴覚器をもってしても、おれたち二人以外の反応を知覚することが出来ない。

 

 

 

「…………しらない、ひと……ついてっちゃ…………信じちゃ、ダメ……だって…………教わら……なかった?」

 

「……っ、いや、だって…………そんな!」

 

「…………日本は……平和、だって? ……外敵なんか……いない、って? …………()()()()()……()()……()()?」

 

「!!? な、ん……」

 

 

 

 得体の知れない少女は気だるげに腕を振るい、非常扉を軽くノックする。

 たったそれだけで固く閉ざされたはずの扉はあっさりと開き、その向こうには眼下に首都の夜景が盛大に広がる。

 

 そちらには一瞥もくれずに……その眠たそうな瞳は、相変わらずおれを見据えたまま。

 

 

 

「…………キミの、『小さな友人』……妹、たちが……世話になった……ね?」

 

「いもう、と……? ……ッ、まさか、すてらちゃん達の!? …………で、でも……あの子のほうが」

 

「ボクが、長女。……見た目……これ、だから……対外的には、逆だけど…………キミには、隠す必要も……無い」

 

「……そ、そう…………なん、だ?」

 

 

 得体の知れないご息女は自ら正体を明かし、一方のおれは自らの軽率さを悔いることしか出来ない。

 形勢不利を悟り相棒に応援を要請しようにも、どうやらおれの呼び掛けが全く届いていないみたいで……彼女(ラニ)の声が、全く聞こえない。

 

 これはマズイ。完全に後手後手に回っている。彼女の言った通り、おれの警戒心の無さが招いた結果だとでも言うべきだろう。

 相棒(ラニ)の助けが期待できないことが、こんなにも絶望的だとは……思ってもみなかった。

 

 

 

「……自己、紹介。…………ボクは……【睡眠欲(ソルムヌフィス)】の使徒……『宇多方(うたかた)(しず)』。……短い間…………よろしく」

 

「…………よろしく。シズ、ちゃん。……それで? これから……何を始めるつもりなのかな?」

 

「……妹、たち…………世話……なった、お礼を。……デート、しよっか? 屋上で」

 

「ちょ、っ!?」

 

 

 

 言うが早いか、シズちゃんは開け放った非常扉から夜空に身を投げ……当たり前のように空中に浮遊し、そのままおれを一瞥して上方へと飛び去っていった。

 恐らくは……『屋上』へ。誰の邪魔も入らず、邪魔な壁や天井もない、だだっ広く開けたおあつらえ向きの空間へと。

 

 

 全く情報が無い、未知の敵であったはずのシズちゃんとの遭遇。自らを『長女』と名乗った以上……あのラニをもってして『相手したくない』と言わしめたつくしちゃんよりも、恐らく実力は上なのだろう。姉より優れた妹など存在しない、とか聞いたことある気もするし。

 

 

 追い掛けたくは無いが……かといってこのまま待っていても、状況は何一つとして好転しないだろう。

 何度耳を済ましても、どれほど探知魔法を行使しても、このフロアにはおれ以外誰も居ないのだ。

 

 この明らかに異状な事態を打開するには……気は重いが、行ってあの子の企みに付き合うしかない。

 

 

 

 東京の夜景を眺めて、こんなにも不安を感じようとは……思ってもみなかった。

 

 

 






※この作品は大したシリアスにはなりません




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311【最終関門】幻想ジェネレイト

 

 

「……じゃ……はじめよ。――【想起(マドロメ)】」

 

「ちょ、待ッッ……!?」

 

「待たない。……ボクが……ルール」

 

 

 

 誘い出されたホテル棟の屋上……緊急時用のヘリポートと申し訳程度の常夜灯が設えられた、嫌味なくらい解放感溢れる屋外空間。

 夜の闇に融けるように悠然と佇むシズちゃんのすぐ傍らにて、突如空間が不自然に揺らぎ、軋みを上げながら歪んでいく。

 

 それはまるで、魔力によって【()】が抉じ開けられるような……おれの親愛なる相棒が得意とする、()()()()であるかのような。

 

 

 この世ならざる異能の力で開かれた【門】から現れたのは……これまたどう見てもこの世のものとは思えない、見るもおぞましい名状しがたい怪物(バケモノ)

 赤黒い(ツタ)や葉や茎や芽が縒り集まり、組織のひとつひとつが意思を持ったように蠢きながら……無理やり四足の獣の姿を取ったもの。

 

 狼とも大猿とも獅子ともつかない、ひどく不格好で薄気味悪い、大柄な男性ほどはあろうかという『獣』の魔物(マモノ)だ。

 

 

 

「…………戦力……テスト。……キミに……たたかって、もらう」

 

「っ、わたしに拒否権は!?」

 

「あるわけない。…………いけ」

 

≪――窶ヲ窶ヲ鄒主袖縺昴≧縺ェ縲?、後□??シ≫

 

 

 シズちゃんの号令に忠実に従い、名状しがたい唸り声を上げながら『獣』が駆け出す。がっしりした体躯に似合わず滑らかに地を駆け、おれとの距離をほんの一瞬で縮めてみせる。

 短い首の先の、やや小さな頭……そこに備わる異様に大きな口が『がぱり』と開き、ミミズの大群が蠢いているかのような気色悪い口内を覗かせる。

 

 

≪――繧ャ繧。繧。繧。繧。繧。繧「繧「繧「??!シ!≫

 

「ひぇ……ッ!!」

 

 

 アレに喰いつかれたらロクな結果にならないことは、考えるまでもないだろう。自らに【加速(アルケート)】をはじめとする強化(バフ)魔法を掛け、とっさに身を捻り突進を回避する。すぐ傍を通った大口が『ガチン』と嫌な音を立てるが、しかし無事にやり過ごすことには成功する。

 飛び掛かった姿勢のまま背を向ける『獣』は、まだ体勢を立て直せていない様子。どう見ても好機であり、これを逃す手は無いだろう。

 

 

「【氷槍(アイザーフ)】【並列(パリル)三十二条(トリツヴィク)】!」

 

≪――縺舌?∬イエ讒倪?ヲ窶ヲ繝?シ?シ!!!?!≫

 

 

 無防備を晒す『獣』の背中に、氷の槍が雪崩打って襲い掛かる。射掛けた三十二本のうち数本は外れたが、殆んどは標的に突き刺さり、どうやら小さくない手傷を負わせることに成功したらしい。

 不気味な『獣』は痛みに身をよじり、どこが目かもわからない顔を苦痛に歪ませ、声にならない怒声を上げている(ように見える)。

 

 ……が、まだ奴は活動を続けている。

 まだ終わりじゃない。畳み掛けて……息の根を止めなければならない。息してるのか判らないけど!

 

 

≪――繧ャ繧ュ縺鯉シ∫峩縺舌↓縺ァ繧ょ眠繧峨▲縺ヲ……≫

 

「……っ! 【焼却(ヴェルブラング)集束(フォルコス)】!」

 

≪――繧ー縲√ぎ繧。窶ヲ窶ヲ繝!!?!!?縺翫?繧後♀縺ョ繧後♀縺ョ繧鯉シ∬ィア縺輔〓?∬ィア縺輔〓?∬ィア縺!!!!!!≫

 

「ひ、ッ」

 

≪――險ア縺輔〓!!!!!險ア――縺輔〓―――≫

 

 

 

 魔法の炎に貫かれぽっかりと空いた風穴から、全身へと燃え広がった炎に焦がされ。

 『獣』の魔物は絶叫を上げながらのたうち回ったかと思えば、やがて力無く倒れ伏し……小さな爆発と共に、幽かに燐光を散らして消え失せた。

 

 生命活動を停止した、ということだろうか。……そもそも生物かどうか怪しいところだが。

 

 

 

「……っ、どうよ! 勝ったぞ!」

 

「ふぅん……? ……まぁ……いっか。じゃあ…………つぎ――【想起(マドロメ)】」

 

「嘘でしょ!?」

 

「ほんと。…………実戦……経験……ひつよう」

 

 

 情け容赦なく空間が歪み……先程と同様、名状しがたい怪物(バケモノ)が姿を現す。

 

 しかし今度の()()は、先程よりも一回り小柄。前肢の代わりに扁平な翼を、太い尾の代わりに扇のような尾羽を備えたそいつは……恐らくは何かしらの種を参考にしたとおぼしき『鳥』の魔物(マモノ)

 

 

「…………新作……戦えるか…………試す。……がんばって。……情報……たくさん、ほしい」

 

「ぐ……新型の評価試験、ってことか!?」

 

「…………キミの……生殺、与奪。……ボクが……握ってる。……拒否権……ない」

 

「知ってるよ! あぁもう……どうせわたしが勝つんですから! 意味なんて無いと思いますけどね!!」

 

「ん…………その意気。……じゃあついで、もう一騎。――【想起(マドロメ)】」

 

「ごめんなさい調子に乗りました! 勘弁してくださいやだもぉ! ちょっ、まっ……嘘でしょう!?」

 

「ほんと。…………がんばって、足掻いて」

 

 

 

 赤黒い草で編まれた血肉を蠢かせ、二体に殖えた『鳥』の魔物が不気味に身構える。

 さっきの『獣』とは異なる運用思想であろうそいつは、深く考えるまでもなく速度特化型。自在に宙を飛び回られるとあっては、なかなか骨が折れそうだ。

 

 せめて『弓』でもあれば……相棒の【蔵】に収蔵された弾数無制限の魔弓さえあれば、あの程度の『鳥』ごとき一瞬で仕留められるだろうに。

 

 魂を分けあった半身である相棒は、相変わらずおれの呼び声に応えてくれない。

 やはりおれ単独で……このまま事に当たるしかないようだ。

 

 

 

≪――辟。讒倥↓雜ウ謗サ縺≫

 

≪――雋エ讒倥?蜉帙r隕九○繧≫

 

「ちくしょう! なに言ってっか解んねぇよバーカ!!」

 

 

 悪態を吐きながら強化(バフ)魔法を纏い、更に【焼却(ヴェルブラング)】の魔法を複数個集束させる。曲がりなりにも植物を模した組織は、どうやらそのまま炎熱に対する耐性が低いらしい。

 魔法の炎を珠状に()し固め、周囲に幾つも浮かべて戦闘体勢を整え……生理的嫌悪感半端ない造形の『鳥』を迎え撃つ。

 

 

 

 【睡眠欲(ソルムヌフィス)】を名乗った、魔王の従僕……可愛らしい見た目にそぐわぬ強大な異能を秘めた『使徒』が、ただただ()()と観察する中。

 

 いつ終わるとも知らぬ『評価試験』……その第二幕の幕が上がった。

 

 

 





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312【最終関門】幻想コンタクト

 

 

 どれ程すばしっこい『鳥』であっても、奴が攻撃を試みる際には必然的にこちらへと近づかなければならない。

 

 当然と言えば当然だろう。この地球上に生息している、ありとあらゆる鳥類……いや、地球の歴史を大きく遡り、かつて大空を支配した翼竜であったとしても、その攻撃手段は己の(くちばし)や爪に限られる。

 かまいたちを飛ばしてきたり、ダーツのような羽毛を飛ばしてきたり……そんなものは、ゲームや漫画・小説の中でしか有り得ない。

 

 であれば……結局のところ、対処としては簡単だ。

 おれ目掛けて攻撃体勢に入り、勢いよく突っ込んでくる『鳥』に対し……おれはカウンター気味に、魔法を叩き込んでやれば良いだけ。

 (まと)があっちから突っ込んでくるんだから、入念に狙いを定める必要もない。ただタイミングを合わせるだけだ。

 邪魔するやつは指先ひとつでダウン……なのである。

 

 

 

「……っ、もう……良いでしょ。お開きでしょ……おうちに帰して……」

 

「…………まだ……だよ。……まだ、がんばって」

 

「やだああああああ!! なんでいじめるのぉぉ!!」

 

「やだじゃ、ないんだよ。…………これだから……お子様は」

 

「わたしはお子様じゃ無いですし! ……っていうか、そっちだってお子様じゃん!!」

 

「…………ッ! ボクは……お子様じゃ、ない! ……立派な……大人(オトナ)

 

「どこがですか!? どう見てもわたしと同じくらいの……十歳そこらのお子様にしか見えませんけど!!」

 

「…………それ……キミ…………自分で『お子様』って……」

 

「……………………アレェ!?」

 

 

 あれぇ……いや、ちがうんだ、おれの召身体年齢は十歳そこらだけど、おれはエルフだから実年齢は百歳(という設定)なのだ。いや設定云々を抜きとしても、()の実年齢は三十を越えてる立派なオトナなのだ。召和生まれやぞ。

 とにかく、おれはお子様じゃないのだが……どう見てもお子様なシズちゃんは、見た目は同じくらいのおれに『お子様』呼ばわりされたことが腹に据えかねたらしい。

 

 

 

「…………まぁ……いいよ、べつに。……キミが、自分を『立派な大人』っていうなら」

 

「ひっ……!?」

 

 

 三度目となる、空間の歪み……彼女が異形の魔物(マモノ)を喚び出す【門】を造り出す。

 しかしその大きさは、前二回の比ではない。奇しくも屋上ヘリポートに相応しい、ヘリコプターくらいの大きさであれば余裕で呑み込めてしまうほどのサイズだ。

 

 ……明らかに、ヤバイ。

 どうやらシズちゃんは……かなり『おキレ』になられているらしい。

 

 

 

「…………じゃあ、これが……最後の『テスト』」

 

「さ……さい、ご? 本当?」

 

「ほんと。……勝てたら……ううん…………()()()()()、だけ……ど!」

 

「ちょ……っ!?」

 

 

 

 深淵へ続くかのように禍々しい【門】の歪み……その向こうから姿を現した、シズちゃんいわく『最後』の試験(テスト)相手。

 

 前の二体……『獣』や『鳥』なんかとは、大きさもそうだが根本的に異なる魔物(マモノ)

 現代日本において、いや日本に限らずとも、誰一人として相対したことが無いハズの……存在し得ない存在。

 

 

 『獣』のものよりも更に太く、逞しく、巨大な、四本の脚。

 

 『鳥』のものよりも更に大きく、分厚く、頑強な、一対の翼。

 

 そして……ヘリコプターなんか目じゃない、がっしりどっしりした筋肉質な体躯と、ぶっとくて長い尾。

 

 牙状の太いトゲを無数に備えた、ワニのように大きく開く顎と……雄々しい一対の角を備えた、禍々しくも凛々しい頭。

 

 

 

「――【幻想概念創造(デイドリーム・アウト)】。……『(ドラゴン)』、って……やつ」

 

「ひ……」

 

 

 鱗の代わりに、赤黒くざわめく葉を纏い。

 筋肉の代わりに、赤黒く蠢く(ツタ)を這わせ。

 

 その体表面に生理的嫌悪感を感じさせる微細動を伴いながら、その一方で四つの脚と尾を力強く踏み鳴らし。

 

 

≪――蜉帶ッ斐∋縺ィ豢定誠霎シ繧ゅ≧縺倥c縺ェ縺?°窶ヲ窶ヲ蟆丞ィ!!!!!!≫

 

「やだあああああ!!」

 

 

 『混沌の種』に連なる魔物(マモノ)の最終進化系が、人けの無い首都・東京の夜空に響き渡った。

 

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

 

 フリーのイラストレーターとして活動していれば、それこそ名だたる大手企業の肩書きを持つ依頼者(クライアント)からのお仕事を受けることも、そりゃ度々あったりするわけで。

 しかしそんなケースでも……依頼もリテイクも納品であっても、メールやチャットで済ませることも少なくない。

 ネット文化が発達した昨今であれば、尚のこと。これからこういう流れは加速していくことだろう。

 

 

 まぁ、なので……少なくとも『仕事上で付き合っている相手と飲みに行く』なんてぇのは……前の職場以来のことなんすよね。

 

 しかもしかもそのお相手が……天下に名だたる『にじキャラ』さんの、売れっ子を多数抱える現役のマネージャーさんと技術アシスタントさんと、更にそこの取締役ともなれば……こんな好機を逃すことなんて出来るはずもなく。

 

 ましてや、自分たちが手塩に掛けて育てて(準備して)きた『愛娘』をベタ褒めされちゃったら……そりゃあ、色々と話も盛り上がってしまうわけで。

 

 

 

「いや、でも……まだ色々と理解が及んでないトコもありますけど……とりあえず本っっ当『良い子』ですよね、若芽ちゃん」

 

「えぇ、本当に……非常に空気が読めるというか、こちらの『してほしいこと』をよーく理解してくれてる、っていうか。……親御(ママ)さんの教育が良いんですかね?」

 

「いやいやいや! 大変なんですって! 割と危なっかしいし何かと無防備だし……オレのお願いロクに聞いてくれないんすよあの幼女!」

 

「それだけ『気を許してる』ってことなんだろうね。いやぁ微笑ましい」

 

「いいなぁー良い子で」

 

「ウチは問題児揃いですから……」

 

 

 

 先輩(わかめちゃん)の今までの努力が報われた、と捉えるのはまだ早計かもしれないが……こうしてオレが大御所の方々と酒を呑み交わすことが出来ているのも、また先輩(わかめちゃん)が同業者であり『推し』でもある子たちと交流できているのも、あの子が頑張ってくれた結果なのは間違いない。

 まぁ、少なからず『運』に依るところがあったのも確かなのだが……そこからこうした縁を繋ぐことが出来たのは、他ならぬあの子のおかげ……あの子の実力あってこそだ。

 

 苦楽を共にした――といってもオレの『苦』なんて微々たるものだが――間柄の子が褒められるのは、やっぱりとても嬉しく……どこかこそばゆい。

 あの子が同業者(キャスター)の子と仲睦まじげに騒いでいるのは……親の贔屓目も多分に含まれるだろうが、とても(てぇて)ぇ。

 

 

 

「あの……オレなんかがお願いできる立場じゃ無いのは、理解してますが…………どうか、今後とも仲良くさせてあげて下さい」

 

「いえいえいえそんな! こちらこそ! こちらこそ若芽さんのお陰で……Ⅰ期やⅡ期も含め、なかなか良い活気が出て来てるんですよ」

 

「そうだね。……それに、例のラニさんの『秘策』が実用化すれば……配信者(キャスター)の子たちはもちろん視聴者さんにも、喜んでもらえるのは間違いない」

 

「俺は正直、技術屋としては複雑な気持ちですが……『魔法』を演出に織り込むってのも、それはそれで楽しそうですし。俺たちがパイオニアになれるって思えば、悪くないですね」

 

 

 

 白谷さんが開発中の『魔法』は……キャラクターとしての配信者(キャスター)を最もよく知っている演者()()に、キャラクターの容姿を投影する魔法を行使してもらう……というものだ。

 たとえば、配信者(キャスター)『村崎うに』さんの場合。うにさんの演者さん本人が術者となり、長年演じ続けていた『村崎うに』のことを強く強く思い浮かべてもらい、【変化】の(まじな)いを参考にした【変身】魔法を発現させることで、自らに『村崎うに』さんの容姿(のみ)を再現・投影させる……というもの。

 ……さすがに、先輩(わかめちゃん)やミルさんのように、内部設定や能力まで再現させるには至らない。術者への負担と発現コストに加えて、単純に魔法構築の手間が掛かりすぎるのだ。

 

 とはいえ術者の『想像力』だけでキャラモデルの再現が可能なのか、また魔法の発動コストをどこから捻出するのか、等の課題は残るが……仮にこの魔法が実用化されれば、『()()()()も本人の完全実在仮想配信者(アンリアルキャスター)』を起用することが可能となる。

 そうなればもう、3Dモデルなどという次元ではない。表情も、顔色も、髪の毛や衣類の靡きひとつとっても、まぎれもない『現実』のものとなって視聴者を楽しませてくれる。

 仮想配信者(アンリアルキャスター)に食事をさせることも、3Dモデルなんかあるわけがない新商品レビューをさせることも、ハンドクラフトやプラモデルを作らせることも、実在人物と絡ませることも、交通機関を使って旅をさせることも……これまで技術的な制限によって不可能だったあらゆる演目が、これさえあれば表現可能となるのだ。

 

 その威力は……業界内外への影響力は、計り知れない。

 

 

「そうすりゃもっと気軽に……若芽ちゃんと絡めるようになるんでしょう? 良いことじゃないですか」

 

「そうそう。最近金剛さん……いや、Ⅰ期のマネージャーさんからアプローチがスゴいんですよね。……絶対ティーリット様ですよ。コラボさせろ3Dスタジオ使わせろ、って」

 

「ほへ? ま、まさか……ウチの子に、っすか?」

 

「若芽さんに迷惑掛かんないように、Ⅳ期と頻度調整しろ、って言ってあったからね。……若芽さんだって案件と……用事とかあるだろ?」

 

「ま、まぁ…………それなりに」

 

「はっはっは! 人気者は辛いねぇ」

 

「……精進します。……でも、共演(コラボ)の依頼だったらジャンジャン持ってってあげてください。あの子が『やりたい』って言うなら……やれないことを安請け合いするような子じゃないんで、きっとなんとかやってくれますよ。本人も喜ぶと思います」

 

「ふふふ……ありがとうございます。金剛さんにも、そう伝えておきます」

 

 

 

 色々な方々に気に掛けてもらえて、新発想の『魔法』のような技術も実装間近で……これからこの業界は、そしてあの子の『のわめでぃあ』は、もっともっと楽しいことになっていくでしょう。

 あの子には――いや、完全に年下の子に対する扱いになっちゃってますが――とにかく健康第一で、身体に気を配って、程々にがんばってほしい。

 

 

 まぁ、とりあえずは……寝心地のよい都心リゾートホテルでのステイを、心行くまで堪能して……存分にリラックスしてほしいっすね。もうそろそろおネムの時間でしょうし。

 

 あの子に限って、夜遊びとかはさすがに無いでしょうけど……ちゃんと寝れてるかは、まぁ心配っすね。

 

 

 



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313【最終関門】幻想コンバット

 

 

 おれたちの暫定駆逐目標、通称『苗』。

 それに感染したヒトがばら蒔くと思しき、ときに感染者の手助けを行う、人形(ヒトガタ)の徘徊無生物……通称『葉』。

 

 その身体の構成から察するに……流れとしては『(それ)』を系譜に持つものであろう、眼前に佇む巨大な『(ドラゴン)』。

 前の二種……『獣』や『鳥』なんかとは、見た目からして危険度が桁違いだ。

 

 

 

≪――蟆乗焔隱ソ縺ケ縺ィ縺?%縺?°???≫

 

「ちょ、ちょっと勘弁してほしいんですが!?」

 

 

 四つ足を踏ん張り、翼と口を大きく拡げ、口腔内に集まる高密度の魔力反応を、おれの視覚(エルフアイ)がばっちり捉える。

 考えるまでもなくアレだろう。定番といえば定番だが、それは当然創作の中でのお話だ。この現実世界ではあってはならないことだし、有り得てはいけないものだ。

 

 この国の首都で、『(ドラゴン)』の怪物が……魔力砲(ブレス)を放つなんて!!

 

 

 

 

「【防壁(グランツァ)(フォルティオ)】【並列(パリル)四重列(フィアファ)】!!」

 

≪――濶ッ縺?ヲ壽ぁ縺?≫

 

 

 発射地点の座標とおれの座標から導き出された結論から()()()()()を予感し、回避ではなく防御の体勢を整える。

 有り余る魔力を一斉に紡ぎ、生半可な攻撃は容易く弾き返す安心と信頼の【防壁(グランツァ)】の強化仕様を……出し惜しみせずに四重並列で顕現させる。

 

 真正面から受け止めるのではなく、やや上方へ向けて傾斜させて。叡智のエルフの頭脳は一瞬で最適な角度を導きだし、高強度の四重防壁が展開され……

 

 

「ッッ、っぶねぇ!!!」

 

≪――縺縺縺≫

 

 

 傾斜装甲の面目躍如、ヒト一人どころか鉄筋コンクリートの構造躯体でさえ塵と化す破壊光線を、何も存在しない遥か上空へと逸らすことに成功する。

 ……何も無いよな。飛行機とか人工衛星とか宇宙ステーションとか巻き込まれて無いよな。無いと信じるしかない。

 

 しかし、初撃こそなんとか弾ける角度で放たれたわけだが……そう何度も理想的な角度で飛んでくるとは思えない。たとえば天頂から真下へ向けて放たれでもすれば、身体を張って真正面から受け止めるしかなくなるわけで。

 そんな危険は冒したくないし、それ以外の危険も放置したくない。であれば取るべき手段は単純、可及的速やかにあの『龍』を駆逐するしかないわけで。

 

 

 

「【氷槍(アイザーフ)圧縮(プライジャ)集束(フォルコス)】!!」

 

≪――濶ッ縺?□繧阪≧≫

 

 

 魔力砲(ブレス)を放った直後、足を踏みしめた砲撃体勢を取ったままの『龍』へ向け、単発高火力カスタマイズを施した氷属性魔法をブチ込む。

 炎ではなく氷を選択したのは、おれの()()()()()がそうすべきだと告げていたからだ。翼の生えた『(ドラゴン)』なんて、そんなもん氷で四倍弱点取れるに決まってる。よしんば『植物』要素が優先されたとしても四倍取れるに決まってる。世の真理だ。

 あんなナリをしているアイツに、つまりは氷が効かないはずがないのだ!!

 

 

 

「ぬぇい…………やァ!!!」

 

 

 

 おれの渾身の一撃……長大な氷の槍に有り余る魔力を押し込めまくった爆発寸前の氷属性炸裂魔法は、狙いたがわず『龍』の魔物(マモノ)の胴体にブチ当たり、強烈な圧力を一気に解放して弾け飛んだ。

 

 気になる効果の方だが、目論み通りちゃんと通っていた。さすがですゲー○リさん一生ついていきます。

 ヤツのぶっとい胴体……胸郭のあたりには盛大に風穴が空き、上半身と下半身が今にもちぎれ、崩れそうなほどの大損傷を与えていた。

 

 

 ……与えていた、のだが。

 

 

 

≪――繧ー繧ー繧ー繧ー繧ー≫

 

「ッ、殺しきれなかった……っ!」

 

 

 ブチ開けた風穴の周囲からは、うぞうぞと蠢く肉のような(ツタ)が伸びていく。

 それらは互いに互いを絡め取り、纏わり付き、編み上げ、欠損組織の修繕を試みようとしている。

 

 

「…………Hと、Bと……D。ふりまくった」

 

「あのクソバ火力(かりょく)で耐久型とか冗談でしょう!!?」

 

 

 自己再生だか羽休めだか、はたまたその両方なのか知らないが……このまま黙って修繕を待っていては振り出しに戻ってしまう。

 おれの攻撃だってちゃんと(たぶん四倍で)通ったのだ。効いていないはずは無いし、攻撃の手を緩める理由は無い。

 

 

「【加速(アルケート)】【氷槍(アイザーフ)】【並列(パリル)三十二条(トリツヴィク)】」

 

 

 自らに疾走の強化(バフ)魔法を掛け、弱点属性(暫定)である氷魔法を従え、至近距離まで接近を試みる。

 『龍』の自己修繕はまだ完璧ではない。あの傷目掛けて一斉に射掛ければ、再び少なくない損傷(ダメージ)を与えられるはずだ。

 

 そう思っての行動だったが、さすがに『龍』とて黙って見ているわけでは無かった。長大な皮膜の翼をはためかせ、一挙動で暴風を造り出す。

 ほんの一瞬、一拍とはいえ……巨大な翼と小さな身体では、到底太刀打ちできようもない。おれの身体はあっけなく宙を舞い、盛大に吹き飛ばされる。慌てて【浮遊(シュイルベ)】を発現させるも既に『龍』との距離は大きく開き……自棄(ヤケ)気味に【氷槍(アイザーフ)】を解放するも、損傷部位に突き立ったのはほんの数本にとどまった。

 

 とはいえその周辺、前肢や翼などにもきちんと突き刺さっていたので、被害(ダメージ)そのものは小さくないはずなのだが……事実として『龍』はまだ活動を続けており、しかもその巨大な翼を何度も何度も翻しており。

 

 

 

「ウッソでしょ飛ぶの!?」

 

「…………翼……あるし」

 

≪――縺昴≧縺?繧!!!!!!≫

 

 

 当たり前といえば当たり前なのだろうが……巨体を誇る『龍』はホテル屋上ヘリポートから飛び立ち、夜空に【浮遊】するおれ目掛けて突っ込んできた。

 

 

 これはマズい。非常にマズい。今までもマズかったが、最大値を大きく更新するレベルでマズい。

 さっきも言ったように、上空から投射攻撃を放たれては甚大な被害が生じかねない。跳弾させて無力化させることも難しい上、首都圏の地表ともなれば人が居ない場所がまずもって無いだろうし、道路や線路や送電線なんかが攻撃に晒されても甚大な被害が起きてしまう。地下鉄や地下街などの地下構造物も縦横に張り巡らされているだろうし、海上だってクルーズ船やらタンカーやらフェリーが多く行き交っている。

 東京とは世界屈指の利便性を備える都市であるが……世界屈指の脆弱さを併せ持ってしまった都市でもあるのだ。

 

 そんな脆弱な都市に被害を生じさせない、たったひとつの確実な方法。

 それは……ほかでもない。被害を生じさせ得る敵性存在を、一刻も早く取り除くことだ。

 

 

 

 

≪――繧ー繧ェ繧ェ繧ェ繧ェ??シ!!!!!!≫

 

「ッッ!! やってやろうじゃねぇかこの野郎!!」

 

 

 戦力試験だか期末試験だかなんだか知らないが、そっちがその気ならこっちだって試験(テスト)してやろうじゃないか。

 そちらの理不尽な幻想(ファンタジー)に抗うべく……こちらも非現実的な想像(ファンタジー)に魂売ってやろうじゃないか。

 

 巨大な口を開き咆哮を上げる怪物に、恐怖感が沸かないといえば嘘になる。

 しかし……今このとき、この場において、あいつをなんとか出来るのは()()()()なのだ。

 

 

 

 

「……【(ことわり)を越えて来たれ!】【今ひとひらの力を示せ!】【()()()()()()()()()()姿()!】【気高き稀なる強者(つわもの)よ!】」

 

 

 

 大丈夫、大丈夫。わたしは木乃若芽。

 ()()()()()()使()()であるわたしなら……きっとやれる。やってくれる。やってみせる。

 

 

 わたしは、人々に『しあわせ』と『たのしい』と『うれしい』をお届けする……この世界を絶望から遠ざける、叡智のエルフであり。

 

 遠く離れた異世界からの希望、強くて優しくて気高い(けどちょっとえっちな)【天幻】の勇者と縁を繋いだ……この世界で唯一無二の幻想戦力なのだ!

 

 

 

「【『創造録(ゲネシス)』・解錠(アンロック)】! 【召喚式(コード)・『剣を執りし勇者(ドレッドノート)』】!!!」

 

 

 

 思い描く姿は『勇者』。読んで字のごとく、そのままの意味での『勇ましき者』。

 人々のために力を尽くし、巨悪に立ち向かい、戦いの果てにこれを滅す者。現代日本では様々なゲームや創作作品の主人公として取り扱われ、世界史を紐解けば太古の昔から物語に語られる……人々の心の支えとなる、英雄。

 

 強くて、気高くて……かっこいい。

 おれの思い描く理想の『勇者』……その身体を()()()()()()()

 

 

 

「…………なに…………それ」

 

「……ふふふ……何を隠そう、わたしは『エルフの熟練魔法使い』ですので!」

 

 

 骨格を造り上げ、筋肉を造り上げ、視覚や聴覚や嗅覚や触覚を造り上げ……そして鎧と剣を造り上げ。

 おれの創造力によって、魔力を糧に造り出された人形に……『一』から『十』までおれの魔力と完全に馴染む身体に、()()()()()()()()()()()

 

 この身体が備えている……配信者として考え得る限り詰め込んだハイスペックな技能(スキル)の数々を、今こそ有効活用させてもらう。

 ()()であって()()ではない、しかしおれの望む通りの結果を導くため、いつも適切にフォローを入れてくれる並列人格(マルチタスク)を……強引な解釈で切り離し、確立させる。

 

 

 

「かわいくてカッコよくて優秀な『使い魔』の一人や二人! 持ってたって不思議じゃないでしょう!」

 

「期間限定の特別(SSR)バージョン! 本日限り・出血覚悟の大サービスです! 見逃す手はありませんよ視聴者さん!」

 

「…………うるさ」

 

 

 

 呆れるほどの魔力量にモノをいわせ、『別解釈した自分自身を召喚する』。

 熟練魔法使い(という設定)だからこそ成し得た、真っ当なファンタジー物語だったら反則(チート)間違いなし、大顰蹙(ヒンシュク)間違いなしの荒業。

 

 でもわたしは、()()()()()は気にしない。

 何故ならこれは、正当派王道ファンタジー作品なんかではなく……いち配信者(キャスター)が思いのままに紡ぐ、邪道・ご都合上等の愉快痛快娯楽(エンターテイメント)作品に過ぎないのだから。

 

 

 わたしは……人々に笑顔と希望を届ける、この世界の高みを目指す配信者(キャスター)にして。

 

 人々の破滅を否定する、この世界唯一にして最高の……エルフの超熟練魔法使い(キャスター)

 

 

 

 魔法放送局『のわめでぃあ』の敏腕局長、泣く子も笑う『木乃若芽(きのわかめ)』なのだ!!

 

 

 



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314【最終関門】幻想デイドリーム

 

 

「行きなさい! 勇者(わたし)!」

 

「行きますよ! 魔法使い(わたし)!」

 

「【加速付与(アドアルケート)】! 【防壁(グランツァ)追従(アルス)】! 前は任せた後ろは任せろ!」

 

「ッシャやったらァ! 【戦闘技能封印解錠(アビリティアンロック)】【勝つまで負けない(ファイトオアフライト)】! 来いッ!!」

 

≪――縺昴s縺ェ縺ョ繧「繝ェ縺九h!!!≫

 

 

 魔法使い(わたし)による多重強化(バフ)魔法を受け、勇者(わたし)が剣を握り勢いよく突っ込む。

 中遠距離からの投射魔法による面制圧を得意とする魔法使い(わたし)とは異なり、勇者(わたし)が得意とするのは高速での中近距離戦闘だ。

 

 剣も鎧も……本職の『勇者』の持つ逸品には遠く及ばないが、魔法使い(わたし)強化(バフ)勇者(わたし)の自己強化(バフ)をも上乗せして、魔力値で殴って押しきる男らしい作戦だ。

 

 ……男らしい作戦。いい言葉だ!

 

 

 

≪――2蟇セ1縺ッ蜊第?ッ縺?縺ィ諤昴≧!!!!≫

 

「っ、ぶねぇな! お返しだ!!」

 

「追撃します! 【氷槍(アイザーフ)集束(フォルコス)】!」

 

≪――繝槭ず縺壹k縺?→諤昴≧!!!!!!≫

 

 

 基礎攻撃力に大幅な強化(バフ)が施された勇者(わたし)の斬撃が『龍』の右前肢を大きく斬り裂き、魔法使い(わたし)の追撃魔法が左翼の翼膜をずたずたに切り刻む。

 

 翼に直撃させたことで、市中に墜落してしまいやしないかと一瞬『ヒヤッ』としたのだが……どうやら翼そのもので稼いだ揚力だけではなく、飛行のための魔法を用いているらしい。

 直ちに墜落するわけではないが、しかしそれでも少なからず悪影響は生じるようで、空中での姿勢制御能力を大きく欠いた『龍』はよたよたと力なく……ふらつくように飛行を続けている。

 

 

 やはり……HBD(体力と防御力)に振りまくった巨体は、そう簡単に落ちてくれない。もちろんこのペースで波状攻撃を加え続ければ落とせるだろうが、『落とす』とはいっても地表に落とすのは宜しくない。空中で消滅させる必要がある。

 

 奴が墜落する前に、迅速に息の根を止めて霧散させるためには……定番でいえば、やはり急所を狙うべきだろう。

 生物を模している以上、その急所たる選択肢はそう多くはない。定番としては体液を全身に循環させる『心臓』か、身体制御と思考を統括する『主脳』といったところか。

 一度胸郭を吹き飛ばしても戦闘続行を試みたことから、この二つの選択肢のなかでは『主脳』……こちらが急所である可能性が高い。というか普通に考えて、頭を消し飛ばされて生きていられるハズがない。

 

 ……試験(テスト)とか言っていたくらいだし、さすがに不死身とかじゃないだろう。ないよな?

 

 

「……というわけで! 決めるぞ魔法使い(わたし)!」

 

「了解だ勇者(わたし)! 足止めは任せろ!」

 

 

 相手の考えていること・取ってほしい行動が、まるで手に取るようにわかる。こういうのを阿吽の呼吸っていうのだろうか。……ちがうか。

 とりあえず勇者(わたし)の要請に応えるべく、魔法使い(わたし)はわたしの持てる力を思う存分に振るい……役割を全うする。

 

 

 

「【基点法陣(イーサフロー)】【多重設置(メルフシュタルト)(ズィクス)】【氷鎖(アイズィーク)拘束(ツァルカル)】!」

 

 

 ボロボロの翼を懸命に羽ばたかせ、よたよたと飛行を続ける『龍』の周囲……前後左右上下の六方向。

 魔法使い(わたし)の生み出した術式発動基点【基点法陣(イーサフロー)】がそれぞれ魔法陣の光を発し、縛鎖状の尾を引く氷の矢が一斉に放たれる。

 

 

≪――縺昴l繝上Γ縺ァ縺励g?!!!!!!≫

 

「残ッ、念! 捕まえましたよぉ……!!」

 

 

 一見すると細く、頼りなくも見えた氷の矢は……標的たる『龍』に直撃するや否や、尾を引いた縛鎖もろとも、六本それぞれが極太の氷柱へと変貌を遂げる。

 

 斯くして……この世ならざる生物を模した、禍々しい『龍』の魔物(マモノ)は。

 全方向から突き立った氷柱によって空中に(はりつけ)にされた憐れな獲物へと、ほんのわずか一瞬の間に変貌を遂げた。

 

 

 座標を固定された【基点法陣(イーサフロー)】と、そこから伸びる氷柱の杭によって移動を封じられ。

 極低温による表面組織の凍結によって、身じろぎさえも封じられてしまえば。

 

 駆け出しの勇者(わたし)であっても……仕留めることは容易い。

 

 

 

「頭ですよ! 頼みます、勇者(わたし)!」

 

「任せろ! 消し飛べ……【滅却(レクイエスク)】!!」

 

 

 

 高濃度の魔力を纏わせた剣による攻撃によって、傷口を中心に直接滅却する。

 斬撃の瞬間に刀身より流し込まれた、超超高密度の光属性魔力の奔流は……標的の魔力回路をずたずたに侵食し、ほんの数瞬の後に臨界を起こし炸裂する。

 

 

 攻性バフを幾重にも重ねた直接攻撃で防御を貫き、対象を内から崩壊させる魔力を流し込む魔法剣技……【滅却(レクイエスク)】。

 

 眩い光と炸裂音と衝撃波を撒き散らす爆発が収まった後には、そこに『龍』が存在していた形跡すら残らず。

 

 

 

 魔法使い(わたし)の六つの【基点法陣(イーサフロー)】のみが、悠然と佇むばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………おっけー。じゃあ後は頼むわ、魔法使い(わたし)

 

「おつかれ。ゆっくり休めよ、勇者(わたし)

 

 

 なんとか()()()()を越えることなく――そしてそれを気取られることなく――シズちゃんいわく『最後の試験』を乗り切った()()()()

 役目を終えた『勇者』の身体は……その身に纏う武具ごと微細な粒子へと(ほど)けていき、きらきらとまたたきながら消えていく。 

 

 もともとこの世界での身体を持たず、おれの魔力を無理矢理固めて人の形を取らせたものに過ぎない。

 それを維持するためには膨大な魔力を消費し続けなければならず、オマケに思考を分割し続けて遠隔操作の魔法を使い続けた上で目まぐるしい高密度戦闘をし続けるなんて……ラニに言わせれば『正気の沙汰とは思えない』ほどの無茶だったらしい。やってしまったが。

 参考にしたテグリさんの『分身の術』でさえ、ここまでの完全独立動作は出来ていなかった(はずだ)もんな。無理もないか。

 

 

 実際『非常識なほど』と評されたはずのおれの魔力も、今となってはさすがに底をつきかけている。

 二人体制での戦闘可能時間は、ざっくり三分が限度。余力のあるうちに落ち着いて術式を解除しなければ、どうなるか分からない。人形は魔力暴走を起こして大爆発することだってあり得るし、思考を分割されたおれは人格が破綻する可能性だって無くはない。

 

 そんなデメリット……というか危険性を大いに孕んだ術式。自らの分身(オルター・エゴ)を創造する、超熟練の魔法使いだからこそ(時間制限付きで)扱えた……【創造録(ゲネシス)】。

 正直普通にメチャクチャ疲れるので……できることなら、もう二度と使いたくない。

 

 

 

「さて……試験とやらは、これでおしまい?」

 

「…………うん。……充分」

 

「………………そう」

 

「…………戦闘……データは、取れた。……いい経験……なった。よかったね」

 

「良くないし。わたしは帰って寝たいし」

 

「……………なら、だいじょうぶ」

 

「……なにが?」

 

 

 

 

 

「キミは、今まで…………()()()()()だけ……だから。――【訣別(サヨナラ)】」

 

「っ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 明度の落とされた、シックで大人びた雰囲気の照明。

 

 磨き上げられおれの姿を写し出す。大理石調の壁。

 

 どこからともなく聞こえてくる人々の談笑と、控えめで落ち着いたBGM。

 

 目の前には固く閉ざされ、ヒビ一つ無いサムターンカバーが掛けられた……誰かが出入りした形跡なんて微塵も見られない、非常扉。

 

 

(っ、ラニ!! ねぇラニ!?)

 

(うォわぁぁああ!? なっ、なな……何!? 何でバレたの!?)

 

(!! よかった、声聞こえ………………おい。……バレたって、何?)

 

(えっ!? えっと、えっと、えっと…………な、なんでもない……よ?)

 

(………………なるほど? だいたいわかった。やっぱ()()わ)

 

(ヒッ!?)

 

 

 

 周囲を見回してみても……夜色のドレスに身を包んだ、眠たそうな目付きの少女は見当たらず。

 スマホを取り出し時計を見直しても……時間経過の形跡は、見て取れず。

 

 

 

 しかしそこには……小さな姿に到底見合わぬ、途方もない実力を秘めた【睡眠欲(ソルムヌフィス)】の使徒から届けられた『指示』が、確かに残され。

 

 

 眩暈(めまい)と確かな倦怠感を感じるほどに、()()()()()ほどに消耗したおれの魔力が……おれの身に何が起こっていたのかを、如実に物語っていた。

 

 






ゆめおちです!!ごめんなさい!!!石投げないで!!


でも評価とか感想は投げてほしいです!!よろしくおねがいします!!!




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315【事後始末】これから忙しくなるね




『コントラクト・スプラウト』前回までの三つのできごと!!

ひとつ、美少女に釣られて人けの無い場所へ誘い出された、おれことわかめちゃん!

ふたつ、突如吹っ掛けられた『試験』は……なんと妙にリアルな白昼間だった!

みっつ、目を醒ましたおれが急ぎ部屋へ引き返すと……相棒がおれのぱんつを漁っていた!







 

 

()ぅっ! ちょっ、ノワ……いたい」

 

「!!! ご、ごめん! ごめんラニ……大丈夫?」

 

「……ボク()、大丈夫だよ。やわらかごくぼそ毛だから、肌も傷ついてないし。…………キミの方こそ、大丈夫なの?」

 

「…………はは……」

 

 

 いやぁ……やっぱり隠し通せるわけがないか。

 本人は『なにわろてんねん』とおキレになられているけども、この鋭敏きわまりない感性には笑うしかない。

 

 痛みにしかめた顔から、可愛らしく寄せた眉根はそのままに……あからさまに『心配』の表情を浮かべておれを見つめる、素っ裸の可愛らしい相棒。

 おれが憧れ、尊敬する本物の『勇者』には……隠し事をするのは、難しいみたいだ。

 

 

「……隠せるとか、思わないでね? 一割とか二割なんかじゃなく、八割そこらも目減りしてれば……さすがに『何かあった』って気づくよ」

 

「……いや……ごめん。隠そうとしてたわけじゃなくて……なんていうか、おれ自身よくわかんないっていうか……未だにいまいち信じられないっていうか……」

 

 

 そう前置きを置いてから……おれは観念したように、少しずつ思い起こしながら説明を試みる。

 【睡眠欲】の使徒を自称する少女との遭遇と……可愛らしくも底知れない彼女が企てた、『性能試験』とやらについてを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………うん。……ボクに相談が無かったのも、その『シズちゃん』に釘を刺されたからだ、ってことで納得してあげる。……色々と言いたいことはあるけど」

 

「……ッス。ありがとうございまッス」

 

 

 どっぷりと夜も更け、お部屋の広々バスルームでお風呂を堪能している、おれたち二人。

 お仕置きも兼ねて、その小さな身体を隅々まで『はぶらし』していたおれは……ついさっきの摩訶不思議な出来事について、頼りになる(けど割とえっちな)相棒の意見を求めていた。

 

 有無を言わさぬ口調で命じられた、謎だらけの『試験』と……おれに()()を指示した、これまた謎だらけの少女について。

 

 

 

「それにしても……なるほど、『【睡眠欲(ソルムヌフィス)】の使徒』を自称する()()、と。……そうきたかぁ」

 

「妹たち、って言ってたし……やっぱ、すてらちゃん達も……」

 

「そうだね。……【食欲(アペティタス)】のつくしちゃんと、【愛欲(リヴィディネム)】のすてらちゃん。ノワやミルちゃんと同様、それぞれの『欲求』や『渇望』を叶えるために……あの『苗』の力で生まれ変わった子、ってことか」

 

「…………三大欲求じゃん。……強いわけだよ」

 

「ほんとそれ」

 

 

 

 おれたちが――というよりかは、全身鎧に身を包んだラニが――かつて相対した、『佐久馬(さくま)(すてら)』ちゃんと『水田辺(みなたべ)つくし』ちゃんの、なかよし少女二人組。

 あのとき彼女達の撤退を支援したという、ラニがその存在を推測していた『転移系の異能力者』こそが、今回おれが相対した『宇多方(うたかた)(しず)』ちゃん……あの二人のお姉さん、ということなのだろう。

 

 魔王直々の手勢、三人の使徒たちが……満を持して動き始めたということなのだろうか。

 あの『試験』で用いられた魔物(マモノ)たちが、今回の結果を踏まえて改良され……また近いうちにおれたちの前に立ちはだかるということなのか。

 

 

 

「『獣』と『鳥』と…………『龍』、ね」

 

「うん……今までの『葉』は無抵抗な『ただの(マト)』だったけど……あいつらは……」

 

「好戦性を賦与されたか。……厄介だね」

 

「……天繰(テグリ)さんにも相談したいなぁ」

 

「バッチリ稽古つけてもらうといいよ。あの子は見た感じ……まじで強い」

 

「まじで」

 

 

 

 とりあえず、今回の襲撃で改めて実感した懸念要素として……やはりおれ単独での通常戦闘能力は、攻撃魔法での面制圧一辺倒になりがちだということ。

 それで撃ち漏らさずに倒しきれるなら言うこと無しなのだが……今回のように『敵の周囲に被害が及ぶことは許されない』『絶対に(マト)を外せない』状況に追い込まれた場合、やはり近接攻撃で仕留めるしかなくなってしまう。

 ……まぁ、今回のところは結局『夢オチ』だったため、万が一誤射してしまっても実被害は無いようだったが……今後あのクソ耐久の『龍』が街中に現れでもしたら、駆除し終えるまでにどれほどの被害が生じることか。

 

 今回は一種の『禁じ手』である『勇者』の召喚を行ったが、あれはひたすらに燃費と効率が悪い。あそこまでの大業を使わなくとも、適切な装備と修練を積んでさえいれば、もっとスマートに対処できるハズなのだ。

 ……そうでないと困る。

 

 

 というわけで、都合よく『師匠』を見つけることができたことだし……かえったら新たな『日課』に勤しまなければならない。忙しくなりそうだ。ただでさえビッグイベントの直前だというのに。ぐぬぬ。

 

 

 

「……気負いすぎないでね、ノワ」

 

「ラニ?」

 

 

 思考に沈むあまり、いつのまにか『はぶらし』する手が止まって久しく……それだけにとどまらず眉間に皺を寄せているおれの苦悩を、機敏にも察知してくれたのだろう。

 

 おれたちの頼れる万能アシスタントさんは、真っ平らな胸を堂々と反らし……自信満々に、高らかに宣言する。

 

 

「ノワが一人だけで戦う必要なんて、ないんだからね。……そりゃあ、『夢』に引きずり込まれた今回は、ちょっとどうしようも無かったにしても……この世界での戦いなら、霧衣(きりえ)ちゃんや、ミルちゃんや……そしてこのボクが、必ずノワの傍にいるから。絶対に一人に背負わせないから」

 

「……ありがとね、ラニ」

 

「なんのなんの。『推し』の助けになれるんなら、ボクだって本望だよ……相棒」

 

「ふふっ。……頼りにしてるよ、相棒」

 

 

 …………信じられるか。この妖精さん、ほんの数分前まではおれに『はぶらし』されて身悶えながら『これだめ!』『やめておねがい!』『ボクがとけちゃう!』なんて……それはそれは可愛らしい嬌声を上げてたんだぜ。

 

 まったくもう……いたずら好きで、セクハラが大好きで、憚ることなく『ノワすき』と公言して……隙あらばおれを輝かせようと、あの手この手で(おれの無許可で)暗躍してくれる妖精さんだけど。

 ここぞってときには……やっぱり、とっても頼りになるんだなぁ。

 

 

 

 

「まぁそれはそれとして、お仕置きはちゃんと済ませるけどね」

 

「ゥエぇ!? 誤魔化せたと思ったのに!?」

 

「残念だったねぇ。はいじゃあ次おしりね。今度は痛い痛いしないようにちゃんと()()()()スるからね。安心してね」

 

「いやあのここはボクの献身に免じてこのへんでゆるしてもらえrちょっと! ちょっと待って! こっ、こころの準備が! こころのじんにゃっ!? あっ!? あっ!!」

 

「そういえば妖精さんの蜜って『ものすごい上質な魔法触媒になる』って聞いたことあるんだけど、そこんとこどうなんですかラニちゃん」

 

「し、知らない! ボクそんなのしらない! だ、だめぇ! ああー!」

 

 

 

 日頃の貢献(おイタ)()()の気持ちを籠めて、丁寧に丁寧に小さな身体の凝りをほぐしていく。

 身体じゅう至るところのツボを『はぶらし』で刺激されて、血行がよくなっているのだろう。おれの手のひらに収まるサイズの身体はみるみる火照って赤みを帯び、ラニもとっても気持ち良さそうだ。

 

 これはマッサージだから。医療行為だから。健全な入浴のついでに、労いの意を籠めて身体を洗ってあげているだけだから。

 

 

 だから至って健全。いいね?

 

 

 

 

 

 

 

 








「……!! …………! !!!」

「!! シズちゃん! もぉ……どこ行ってたの!? 心配したんだから!」

「…………ん。…………()()()()()()。……()()()()()()

「あー……そういえば、シズちゃんホテル全然満喫してなかったもんね……眠ってばっかで」

「…………ん……お昼寝、は……良いよ」

「…………、…………。…………。」

「……うん、あたしも別にとやかく言うつもりは無いけどね。ただちょっと、びっくりしただけ。帰ってきたらシズちゃん居ないんだもん」

「…………ごめん。……心配、かけたね……すてら」

「ううん、大丈夫。…………でもなぁ、シズちゃん起きたのが()()だったらなぁ……一緒にプール行けたし…………そうそう、聞いてシズちゃん! お風呂でね、すっごい可愛い子見つけたの!」

「…………そう。……嬉しそうだね」

「うん! できればあの子ともヤりたかったけど、家族のガードが固そうだったし……仕方ないなって」

「ふふっ、…………そう」

「…………、…………? …………?」

「……言われてみれば、そうね。……何か良いことあったの? シズちゃん」

「…………ん。……そう、だね……ちょっと」

「へぇー! 良かったねシズちゃん!!」

「…………ん。よかった。……ほんとうに」




「あの子なら…………いい感じに……思い通りに、動いてくれるだろうから……ね」





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316【追加項目】せっかくなので寄り道

 

 

 ――――翌朝。

 

 危惧していたような『魔王』一味の襲撃も無く、逆にひどく拍子抜けしてしまった朝ごはんのひととき。

 おいしいごはんを好きなだけ堪能できるのはやっぱり幸せなことなので、ラニによる偵察を経て安全を確保し終えたおれたちは……名残を惜しむように、思う存分ホテルのモーニングブッフェを堪能させていただいた。

 

 例によって鶏卵(たまご)中毒者(ジャンキー)が大暴れしたのは、言うまでもない。

 どうやら『たまごかけごはん』という新境地に辿り着いたらしい。よかったね。

 

 

 

 そうしてこうして、各々がホテルでの最後のひとときを楽しんで……おれがフロントカウンターで『えっ!? ほんとうにこの金額なんですか!?』というレベルのお会計を済ませ、無事チェックアウトを完了させた後。

 お世話になっております移動拠点キャンピングカー『ハイベース』号の運転座席にて、おれは小さな相棒から今日の予定についての相談を受けていた。

 

 当初の予定では、一日目に『ウィザーズアライアンス』の大田さんとの顔合わせと、二日目に『にじキャラ』の方々との打ち合わせ……この二つが主要目的となっていた。

 つまり、今回の東京出張において『やるべきこと』は、既に完了しているわけだな。

 

 よって本日は、何も予定は組まれていない。しいていえばおうちに帰るだけだ。

 まぁ今日一旦おうちに帰ったとしても、明日の『三納オートサービス』さんとの打ち合わせを終えたらまた週末東京に逆戻りするわけだが……それはそれで頑張るとして。

 

 

 

 

「それじゃあ、その……たぶん『囘珠宮(まわたまのみや)』のことだと思うんだけど、つまりそこに行きたいってこと?」

 

「うん。大丈夫? いけそう?」

 

「えーっと……いや、まぁ……時間的には大丈夫だと思うけど……」

 

「あっ、オレは全然大丈夫っす」

 

「あっ! ぼくも大丈夫です!」

 

「は、はいっ! わたくしも大丈夫にございまする!」

 

「ハイわかりましたーおれも大丈夫でーす行きまーす向かいまーす発車しまーす」

 

「「イェーイ!」」

 

「「い、いぇーい!」」

 

 

 

 たった二泊とはいえ、非常に『濃い』ひとときを過ごせたホテルに別れを告げ、おれたちは車を走らせる。

 平日の朝ともあって通勤の車で道はやや混んでいるが、繁忙期ほどの動きづらさはない。快適なものだ。

 

 

 ラニの希望により急遽立ち寄ることに決めた『囘珠宮(まわたまのみや)』とは……この大都会東京のど真ん中に堂々と居を構える、広大な緑地公園を擁する神社である。

 日本国民を愛し、また多くの日本国民に愛された、かつての偉大な天皇陛下を祀ったお宮であり、年間を通し様々な神事が執り行われる。

 中でも毎年初詣ともなれば国内外から多くの人々が訪れ、その参拝者数は堂々の一位。

 また通常時であっても、その立地と緑地の広大さから、都市部に暮らす人々の憩いの場となっている。

 

 神社といえば思い出すのが、おれたちに縁が深い浪越市(なみこし)の神社、笑い声がうるさ……力強く迫力がある神様がおわします、鶴城(つるぎ)神宮。

 なにを隠そう霧衣(きりえ)ちゃんは、そこの神使に連なる一族の出身なのだ。わうわうだぞ。

 

 

 しかしながら、勝負事の神様として広く知られるフツノさまとは異なり……今から向かう『囘珠宮(まわたまのみや)』に祀られているのは、神格化されたとはいえかつての天皇陛下だ。

 この国の歴史にそこまで詳しくないラニが、いったい何故興味を持ったのかはわからないが……まぁ、単純に人気の観光地のひとつである。訪ねることそのものに対して反対は無い。

 

 

 

 『囘珠宮(まわたまのみや)』の立地としては、奇しくも昨日訪れた『にじキャラ』さんの事務所に程近い。渋谷駅から歩いていける好立地だ。

 そのため車でのルートもだいたい同じで、現在位置や『あとどれくらいで着きそうか』なんかもわかりやすい。例によって虹の橋に大ハシャぎしながら車は進み、渋谷区のあたりで下道に降りて……囘珠宮(まわたまのみや)と隣接する合歓木(ねむのき)公園の緑地を眺めながら少し進み、やがて駐車場へと到着する。

 

 本来はこの合歓木(ねむのき)公園の施設利用者向けらしいが……囘珠宮(まわたまのみや)の参拝客も度々停めているらしい。

 好立地なだけあって安くはないが、広々として出入りしやすいので、こんなもんだろう。

 

 

 

「ハイ到着ー! お疲れ様ー!」

 

「いうて三十分くらい? ほんと『にじキャラ』さんとこに近いんすね」

 

「都会の真っ只中だもんなぁ、こりゃ初詣参拝客数全国一位なわけだ……ぅぅ、っょぃ……ヵてなぃ……」

 

「めっちゃ対抗意識持ってますやん」

 

 

 今日はつかの間の観光を楽しむつもりなので、おれと霧衣(きりえ)ちゃんとミルさんは髪色と瞳の色を誤魔化した『お忍びスタイル』だ。

 服装のほうも抜かりはない。昨日揃えてもらったばっかりの若者向けコーデ(おれはグリーンのスカートとデニムジャケット、霧衣ちゃんは臙脂色スカートとコクーンコート)でバッチリキメてるので、これなら都会を闊歩して観光満喫していても違和感無いだろう。かわいいぞおれたち。

 

 ちなみにミルさんは……これは、生まれ持った女子力のなせる技なのだろうか。

 本日の服装は、男の子としても女の子としても違和感の無いユニセックススタイル。フードつきパーカーにタイツとハーフパンツが、ハチャメチャによく似合ってる。かわいいが。

 

 

 

 

「……それで、ラニちゃん。囘珠宮(まわたまのみや)っていってもかなり広いけど、お目当てはドコなの? やっぱ本殿?」

 

「んっとねー……わかんない!」

 

「ハァー…………」

 

「だ、大丈夫だって! 秘策だってあるし!」

 

「いや、うん……まぁ……いいよ」

 

 

 久しぶりの出番となる通話用ヘッドセット(カモフラージュ)を付けた上で、姿を隠したラニへと盛大な溜め息を送ってみせる。

 てっきりお目当てのものでもあるのかと思っていただけに、あまりにも悪びれない天真爛漫な姿にツッコミを入れたくもなったのだが……ここまで屈託の無い笑顔を向けられては、邪気だって削がれてしまう。かわいいが。

 

 

 しょうがないなぁラニちゃんは。わかんないならしょうがない。せっかく来たことだし、ゆっくり敷地内を堪能するとしよう。

 モリアキもミルさんも同じ結論に至ったみたいで、各々が愛用スマホを構えて荘厳な雰囲気を写真に収め始めた。

 

 それを見て霧衣(きりえ)ちゃんも、手鞄からいそいそとタブレットを取り出し、ミルさんに教わりながら写真を撮ろうと頑張っている。そんなかわいい様子を微笑ましく眺めながら、おれもスマホでお写真をパシャパシャと。

 

 手に手にスマホやタブレットを構えながら、のんびりと歩を進めるおれたち四名。

 やがてそれに触発されるかのように……ラニちゃんはおもむろに空間を歪めて【蔵】の扉を開け放ち、手を突っ込んで何やらごそごそと物色しているみたい。

 

 

 やがて、ラニがその小さな手を【蔵】から引き抜くと……そこに握られていたのは、おれが貸与しているりんご印のタブレットPC()()()()

 

 

 

「は!? ちょラニ待ておま!!? 何やってんのしまいなさい振り回さない!!」

 

「ゥエア!? 何やってんすか先輩!!」

 

「マズいですよ若芽さんちょっと!!」

 

「ねえ待ってなんでおれが悪いみたいに言われてるの!? 解せねえ!!」

 

「(爆笑)」

 

 

 

 

 気がつけば……静謐で厳かだった森林の空気はいつの間にやら、心地よいを遥かに通り越し重苦しさを増し。

 

 気がつけば……すぐそこを行き交っていたはずの一般の方々は、いつの間にやら一人残らず姿を消して。

 

 気がつけば……おれたちの周囲全方三六〇度、複数のただならぬ気配がいつの間にやら取り囲んでおり。

 

 

 

『――――困った仔よなぁ……由緒正しき囘珠の宮にて、()()()()()斬八落(ちゃんばら)遊びとは』

 

「おや、お気に召さなかったかな? 『カグラマイ』っていうのを()ってみたつもりだけど」

 

『――――笑止。坊の()()は『舞』とは呼べぬよ。なんと粗く、なんと拙い……』

 

「それは失礼。じゃあ失礼ついでに……お茶でも戴けないかな? ほら、いい()()()を持ってきたんだ」

 

『――――太々(ふてぶて)しい客よな。……金鶏(キンケイ)殿へと繋ごう。付いて来るが良い』

 

「恩に着るよ。この地の『与力(ヨリキ)』諸君」

 

『――――何なのだ、貴様等(きさまら)は』

 

 

 

 

 いやぁ、その……懐かしいなぁ、こういう感じの雰囲気。鶴城(つるぎ)さんに初めて行ったとき以来だろうか。

 

 おれたちに苦言を呈した彼は、鋭い一瞥を送ってこちらへ背を向け……またあるものは周囲の樹上から飛び降り、またあるものは茂みの中から次々に姿を表し。

 先頭を行く隊長格に付き従うように――もしくは容疑者一行を護送するように――砂利の敷き詰められた参道を音もなく歩む、彼ら。

 

 

 この『囘珠宮(まわたまのみや)』の神域を護る神域(マワ)り方、悪しき者を誅する聖なる神使。

 隊列を組み、整然と行進を続ける……威風堂々たるその姿は。

 

 

 

「これは……やべーわ」

 

「いや、オレこういうの弱いんすよ」

 

「かっ……わいい…………」

 

「ふわふわに……ございまする……」

 

 

 

 害ある獣を駆除する者として古来より有り難がられ、豊穣や富の象徴としても崇められ、ヒトの暮らしに長らく寄り添い、ときの権力者や数多の有力者にも愛されたという……『禰子(ネズ)()る者』『(ネム)りを(この)む者』『()()る姿の者』等をその名の由来とする、獣。

 

 

 

 

『――――全く。あの浪越の神(イナカモノ)の匂いに飛び起き、何事かと勇んで出て視れば、まるで厄介事の予感しかしニャい……しないではないか。面倒ニャ…………こほん。……面倒な』

 

 

 

(((((かわいい!!!)))))

 

 

 

 ふわふわの見た目にそぐわぬ、威厳たっぷりのバリトンボイスで……

 

 しかしながらほんのちょっぴり威厳に欠ける口調でぼやきながら、可愛らしい『猫』の神使は歩を進めていった。

 

 



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317【追加項目】剣神がログインしました

 

 

 まぁ、単に『囘珠宮(まわたまのみや)』とは言いましても……その敷地内には本宮をはじめとする社殿のほかに、各種ホールや文化施設や複合スポーツ施設などなど様々な公共施設が含まれており、要するに非常に広大だ。

 

 その敷地面積は、なんとじつに七十万平米にも及ぶという。

 それはわれらが浪越市鶴城神宮のおよそ三倍……驚くべきことに、千葉県にあって東京の名を冠するあの某有名テーマパークよりも広大なのだという。

 

 

 ふわふわの神使(ねこさん)たちに連れられ、おれたちが通されたのは……なんというか『神宮』っぽい区画ではなく、(くだん)の文化施設のほう。

 図書館に併設された管理棟のような、鉄筋コンクリート造のひどく近代的なオフィスエリアの一角に……『囘珠神域(まわたましんいき)(まわ)(かた)』と記されたプレートが掲げられた一室が、あまりにも堂々と存在していたのだ。

 

 ……まぁ、当然関係者以外立ち入り禁止区画なわけだけど。あたりまえだけど。

 

 

 

 

 

『……して、金鶏(キンケイ)()の『(ワレ)』が態々(わざわざ)訪ねたと()うに、『百霊(モタマ)』めは何故顔を出さぬ』

 

「知りませんよそんなの。私達だって大変なんですから。予約(アポ)も無しにいきなり(とつ)して歓迎して貰えると思ってるんですか?」

 

呵ッ々(カッカ)! ……まァ、思わぬな! あの引籠娘(ひきこもりむすめ)めの事だ、相も変わらず微睡観(マドロミ)の真最中で在ろう。他神(タニン)()()を好んで邪魔する程、厄に()の身を染めては居らぬよ』

 

「よーく解ってんじゃないですか。貴方様と違って、百霊(モタマ)様は大変ご多忙であらせられます。……面会はちゃーんと予約(アポ)取ってからにして下さい、此方も()()()()()をせねばなりませんので」

 

 

 

 おれたち……小さなラニちゃんを含めた総勢()()は、現在その『囘珠神域(まわたましんいき)(まわ)(かた)』オフィスの応接室へと通されている。

 現在はテーブルを挟んで二人の人物が言葉の応酬を繰り広げているのだが……先程から女性がわの声色がなんというか、剣呑っていうか遠慮がないっていうか。

 

 

 

『……(いや)、込み入った『準備』など不要よ。略式も略式、『音』のみで構わぬ。……済まぬが『火急』故な。無礼無理無茶承知の上、(しか)して引き下がる訳には()かぬ』

 

「っ!! ……ああもう、わかった……わかりました。……(ナツメ)、第零会議室の利用申請。『勾玉』の準備を」

 

『――――御意に』

 

(モミ)(シイ)、あと(ニレ)は……腹ぁ(くく)りなさい。働いて貰うわよ」

 

(ソレ)には及ばぬ。『勾玉』さえ借受けられれば事は足りる。()が縁者が力となろう』

 

「…………へぇ? 貴女が?」

 

「……?? ……………………おれ!!?」

 

 

 目まぐるしく進展する展開に、棒立ち状態で目を白黒させていたおれは。

 突如こっちに飛んできた『パス』を受け止め損ね、初対面の方々の前で大変恥ずかしい思いをする羽目になったのだが……

 

 

 

呵ッ々(カッカ)! 何を隠そう、此奴は(ワレ)に連なる一族を縁者に迎えし『(あき)(はしら)』よ! 神器とはいえ模造格程度、扱えぬ筈は在るまい。……なぁ!』

 

「あのおそれながら大変申し訳ございません()()()()()! わかりやすくご説明をお願いしとう存じます!!」

 

 

 

 ……いったい、何がそんなに楽しいというのだろうか。

 

 ラニが預かり持ち込んだという、所持がバレれば一発逮捕間違いなしの日本刀……神器【浪断(ナミタチ)】(の模造格(レプリカ))を依代として、半透明の――いわく『霊体』としての――姿で顕現した、鶴城神宮主神『佐比(サビ)布都(フツノ)天禍尊(アマガツノミコト)』……の、写身(うつしみ)のひとつ。

 

 

 神格は薄れても、存在感と笑い声の大きさは据え置きのわれらが神様は……それはそれは楽しそうに笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて。……騒々しいカミサマのせいで有耶無耶になってたけど、改めて自己紹介しとこうかしら」

 

 

 おれたちをここへと連れてきた猫の神使――たしか『ナツメ』と呼ばれていた子――が退出して、しばし。

 ニヤニヤ顔を崩そうとしないフツノ様(霊体)に埒が明かないと判断したのか……眼前の少女はおれたちに着席を促すと、盛大な溜め息の後そう口を開いた。

 

 ……そう、少女。例によって()()()()()ではないと思うのだが……『女性』と呼ぶにはいささか抵抗がある程度の年代の、女性。

 ぴしっとした黒のスーツと、正直動きづらそうなタイトスカート。バリバリのキャリアウーマンって感じの服装に身を包んでいるが、タイツで包まれたおみあしはほっそりとしていて……全体的に華奢な印象を受ける。

 明るいブラウンの髪はツヤッツヤでサラッサラで、後頭部高めの位置でひとつに結んで纏められている。お手本のようなポニテだ。

 

 

 

「私は……この囘珠(まわたま)の宮の神域奉行……って言って通じるわよね? 金色(コンジキ)(ニワトリ)って書いて『金鶏(キンケイ)』よ。……お会いできて光栄だわ、将来有望な『(あき)(はしら)』ちゃん」

 

「き、恐縮です!! 自分は『木乃若芽(きのわかめ)』と申します!」

 

「ハイハイ! フツノ様の栄えあるメッセンジャーを務めました、異世界出身妖精のラニです! よろしくね、キンケーちゃん!」

 

「……なぁーるほど? ……あぁ、残念だわ。本当残念。……私達の氏子に居てくれたなら速攻で抱き込みに行ったのに」

 

呵ッ々ッ々(カッカッカ)! そうであろうそうであろう!』

 

「そうでしょうそうでしょう! さっすがキンケーちゃん、見る目があるね!」

 

「……うちの神様は良いわよ? 無茶振りしない、無理強いしない、笑い声も五月蝿(ウルサ)くないし、包容力も抜群。……乗り換えない?」

 

「かっ、……考えておきましゅ」

 

 

 

 えーっと……聞いた情報を整理すると、こちらの少女もとい女性が『神域奉行』の『金鶏(キンケイ)』さん。鶴城(つるぎ)さんでいうところの龍影(リョウエイ)さんに相当する地位の御方らしい。

 そういえばリョウエイさんのお名前、龍の影って書いて『龍影(リョウエイ)』なんだって。やべーよ()(てい)をナントヤラっていうしあの人の正体やっぱ東洋龍(おりえんたるどらごん)なんじゃねーの。

 

 まぁ、龍影(リョウエイ)さんのことは一旦置いておいて……こちらの金鶏(キンケイ)さん、現代ルックな見た目と相まって、正直ちょっと『軽い』印象を受けてしまう。

 比較対照の龍影(リョウエイ)さんが、神様に対し非常に低姿勢だったからなのかもしれないが……さっきから写身(うつしみ)とはいえ神様相手に『笑い声がうるさい』とか『あなたと違ってうちの神様はお忙しい』とか、ともするとご機嫌を害されそうな言葉を口にしてしまっている気がするのだが……

 ……言われた側のフツノさまは気にしてなさそうだし、まぁいいのか。

 

 

「……私達の上司は、あくまで百霊(モタマ)様ですから。布都(フツノ)様の神格も位もその実力も承知してますが、とはいっても別の(やしろ)の……()()()()のトップですからね。一応表面上は敬意を表してますが、心からの崇拝は向けませんよ」

 

「えっと、いや、その……表面上でも敬意が現れてないように見えちゃうっていうか……」

 

()んなものだ。気にする程の些事(コト)でも在るまい。(ワレ)の敵で無いのならば(ソレ)で良い』

 

「は、はぁ……そういうものですか」

 

 

 ほかならぬ本神(ほんにん)が納得してるなら、べつにとやかくいうつもりはない。触らぬ神になんとやら、とか言われるくらいだし。

 

 それからしばらくの間、カッチコチに固まる霧衣(きりえ)ちゃんとモリアキとミルさんをなかば放置しながら、あたりさわりのない日常会話に興じる上位存在お二方。ラニは興味深そうに『ふんふん』と聞き耳を立てているが、その度胸は本当にすごいとおもう。きっと心臓に毛が生えてると思うので、今度おむねをじっくり観察する必要があるかもしれない。

 

 

 おれはというと、そんななんとも言いがたい現実風景から目を背けるように……応接室内のあちこちで思うがままにリラックスしている神使(にゃんこ)の方々の勤務風景を、心のファインダーにしっかりと刻み込んでいたのだった。

 

 あっ、あくびした。かわいい。

 

 



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318【追加項目】大神がログインしました

 

 

 囘珠(まわたま)与力(ヨリキ)の隊長格であるらしい、『ナツメ』と呼ばれた神使(ネチコヤン)に先導され……おれたち()()プラス金鶏(キンケイ)さんは、役所のような廊下をぞろぞろと進んでいった。

 金鶏(キンケイ)さんとナツメさんは前を歩き、真ん中におれたち重要参考人五名が続き……そして最後尾には、腰帯に本格的(銃刀法抵触間違いなし)な日本刀を差した狩衣姿の獰猛系美少年、フツノさま(霊体)が控えている。にげられない。

 

 やがてご一行様が到着したのは……入口に『第零会議室』とプレートが掲げられた、関係者以外立入禁止(スタッフオンリー)エリア内の一室。

 いや、なんていうか……一般利用者には公開されていないエリアのなかでも、ひときわ厳重にセキュリティが固められたようなエリアだった。鍵つき扉も二枚は開けてた。

 

 

 そんな『第零会議室』の前へと案内され、最後尾のフツノさまに追い込まれ……ラニ以外戸惑いの色濃いみんなとは異なり、おれは腹を括って次の展開に備える。

 悲しいことに、なんとなくだが想像がついた。というか()()フツノさまがこうしてわざわざ出向いている時点で、もはや()()しか考えられない。考えたくなかったが。

 

 

 

 

 

 

『…………ん? あれ……これ第零から? どうしたの金鶏(きんけい)ちゃん、元気?』

 

「畏れながら申し上げます、百霊(モタマ)様。ご多忙の折大変申し訳ございません。しかしながら、取り急ぎご相談申し上げたいことがございまして」

 

『ん。いいわよ。……それはそうと、金鶏(きんけい)ちゃんは最近元気してる? 無理してない? お野菜食べてる? お母さんは心配よ』

 

「……はい。お陰様で、何事もなく。……あの、百霊(モタマ)様……大変申し上げ難いのですが」

 

『なぁに? もしかして(なつめ)ちゃんが虐めるの? お仕置きしたほうが良い?』

 

『!!?』

 

「い、いえ……皆、大変良く働いてくれています。そうではなく……」

 

『わかった。予算(おこづかい)足りなくなったんでしょ? 若竹(わかたけ)ちゃんも悪い子じゃないんだけど、たまに融通が』

 

『ええい程々にせぬか!! 話が積り過ぎだ小娘(コムスメ)共が!!』

 

 

 

 お役所っぽい『第零会議室』などという名前に反し、畳が敷きつめられ窓には障子が立てられた、十畳ほどの純和室。

 フツノさまに言われるがまま意識を集中させると、なんだか『すーっ』と力が抜けるような感覚と共に、しかしおなかの奥のほうがぽわぽわと温かくなるような、なんとも言えない感覚が伝わってくる。

 

 そのまま意識を集中させ、『温かさ』の根源を辿っていくと……畳の間のいちばん奥のほう、壁面に設えられた荘厳な祭壇から――いや、祭壇に納められた祠の奥から――ほんのり暖かな光と暖かな声が漏れ出ている。

 そこから漂う気配そのものは、明らかにおれたちなんかとは別次元のものなのだが……しかしどこか嬉しそうで『うきうき』という効果音がよく似合う、まるで娘からの久々の電話に喜びを露にする実家のお母さんのような。

 そんな独特な声色と空気、そしていつ終わるとも知れぬ『ほんわか』した世間話に……ついにフツノさまがおキレになられた。

 

 

『うわぁびっくりしたぁ…………えー、なぁに? ちょっと布都(ふつの)ちゃん来てたの? やだぁ~~金鶏(キンケイ)ちゃん早く言ってよもう~~恥ずかしいじゃないのもぉ~~』

 

「えっと、その……大変申し上げ難いのですが……」

 

『うん、わかった。お母さんも今そっち行くから。ちょっと待ってね……んーっ』

 

「えっ!? ちょっ、あのっ! 百霊(モタマ)様!? 百霊(モタマ)様お待ちを! 今は()からの御客様が!!」

 

「よいしょっと……はい、ただいま! 久しぶりね、布都(ふつの)ちゃ………ん……………」

 

『…………阿呆めが』

 

 

 

 入口の扉と襖が閉じられ、障子の閉めきられた『第零会議室』……その中の様子を覗き見ようとする不届きな存在が居なかったことは、まだ幸運と言うべきだろうか。

 

 神器『勾玉』(の模造格(レプリカ))が納められた祠の扉が溢れんばかりの光と共に開け放たれ……その眩くも暖かな光と共に現れた姿を認識したおれは、とりあえず真っ先にモリアキの頭を掴んで九十度ひねった。ミルさんは少し悩んだけど信じることにした。

 

 

 

 モリアキの『いたァい!!』という悲鳴はとりあえず無視しておいて……驚愕と焦燥と呆れの感情に満たされた、十畳そこらの純和室。

 

 祭壇のすぐ目の前に突如現れたのは、話の流れから察するに『モタマさま(の分身のひとつ)』なのだろうが……旧知の間柄であるらしいフツノさまの訪問を聞き付け、わざわざ姿を表してくれたのだろう。

 ただ、まぁ、なんというか……その姿というか格好が、唯一にして最大の問題だった。

 

 

 

 ぱっちりとした大きめの瞳、その目元は『きょとん』とした驚愕に染まり。

 さらさらつやつやの長い御髪(おぐし)は、足元に届かんばかりに真っ直ぐに流れ。

 完全に硬直したその佇まいは、まさに『何が起こったのかわからない』と言わんばかり。

 

 日本人らしく華奢で控えめで慎ましやかなその身体は……なんというか、生まれたままの姿というか。愛らしくも神々しいそのお身体を隠すものは――慌てふためいて必死にディフェンスを試みようとしている金鶏(キンケイ)さんを除いて――なにもなく。

 

 

 

『……顕現のときに衣も紡ぐ癖を付けて()かぬから、()()なるのだ。良い教訓に成ったな?』

 

「…………っっっ!!?!?」

 

 

 

 フツノさまと同格の『神様』にしては妙に若々しい……というよりもむしろ幼げな風体で。

 

 身内以外の来客に、あられもない身を晒してしまった『囘珠(まわたま)』の神様は……絹を裂くような、たいへん可愛らしい悲鳴を上げられたのでした。

 

 



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319【追加項目】業務引き継ぎの相談

 

 

「ごめんなさい、だらしないところ見せちゃって……」

 

呵ッ々(カッカ)!! 良い土産話に成ったではないか! 大神の(ヘソ)を拝んだ(ヒト)の子なぞ()()う居るまいよ』

 

「もぉ、布都(ふつの)ちゃん。……ごめんなさいね、せっかく来てくれたのに失礼な格好を……」

 

「「「いえいえいえ……!!」」」

 

「まぁ実際オレ見れてな(いた)ァ!!」

 

 

 

 ほんわかした穏やかな笑みを浮かべ、目の前でお上品にほほえむ、神官のような特徴的な衣服に身を包んだ女性。

 ……いや、なんていうか……もう色々とツッコミどころ満載なんですけど……とりあえず、こちらの『少女』にしか見えないお方こそ、この『囘珠宮(まわたまのみや)』の主であるモタマさまその(ひと)であるらしい。

 正式なお名前は『鼎恵(かなえ)百霊(もたま)世廻(よぐりの)(みこと)』。大願成就や商売繁盛や五穀豊穣などなど……恵みをもたらす系のご利益があるといわれている、万人に人気の神様だ。

 

 

 神様という存在の実力と横柄さを身をもって経験していたおれは、てっきりこちらの神様もそういう感じかと半ば諦めの姿勢だったのだが……急遽お目通しが叶ったモタマさまは、とても穏やかで優しげなお方だった。

 金鶏(キンケイ)さんのセールストークも、あれ本当のことだったんだな。ほんの少しお言葉を頂戴した限りだが……なるほど確かに、半端ない包容力を感じてしまう。……見た目は霧衣(きりえ)ちゃんくらいの少女なのに。

 

 

 

「……百霊(モタマ)様は、普段は『神域』深層にて、我らの身を案じて下さっております。こちらのような幾柱もの写身(うつしみ)に別れ、首都圏各地の結界起点を守り、人知れず我らの生活をお守り下さって居られるのです」

 

「う……写身(うつしみ)、なんですか?」

 

「ぇえ……この密度で……?」

 

写身(うつしみ)が増えれば、本神(ほんにん)への負担も増える。其故(それゆえ)百霊(こやつ)は神界へと引籠り、情報収集や指示の殆どを『勾玉』で行っている訳だ。(ワレ)(ソレ)を借りられれば……声だけ届けば、事は足りたのだがな』

 

 

 な、なるほど。普段はこの世に身体をもっていないから、姿を現したときには『すっぽんぽん』だった、と。

 普段であれば声のやり取りのみでコトは足りるし、わざわざこの世向けに身体を構築する必要もない。今回もそのつもりでフツノさまや金鶏(キンケイ)さんは『勾玉』での通話を試みたが、盛り上がったモタマさまが(てっきり身内と友人だけの場かと思い)姿を現してみれば……おれたちがいた、と。

 

 そこであわてて――正式な場よりは幾分ラフな格好だとはいえ――お召し物を繕い……『変なもの見せちゃって、ごめんなさいね』などとしょんぼりしているわけだ。

 

 ちょっとかわいすぎやしませんか、囘珠(まわたま)の神様。ちょっとお近づきになりたくなってきたのですが、やっぱ入信……あの、えっと、すみませんフツノさまその目をやめていただけますか口は笑ってても目は笑ってないですごめんなさい大丈夫ですわたしはこれからも浪越の民です。信じていただけますか。ありがとうございます。ありがとうございます。フツノさまは寛大で寛容で頼りになる偉大な神様です。

 

 

「だ、だってぇ! 布都(ふつの)ちゃんが囘珠(うち)に来るなんて珍しいし…………()()()()()()()なのかなぁ、って」

 

呵ッ々(カッカ)! 相変わらず察しが良い(ヤツ)よな、話が早い。……飛びきりの『土産話』を持って来たぞ、百霊(モタマ)……(いや)、大神『鼎恵(カナエ)百霊(モタマ)世廻(ヨグリノ)(ミコト)』よ。面白い話と……面白くない話だ』

 

「あらあら。それじゃあ……面白くないほうから聞かせてもらえるかしら?」

 

 

 

 そう言うと……この国において屈指の信仰を集める、二柱の神様は。

 

 方や『にやにや』、方や『にこにこ』と……それぞれの神性がよくわかる表情で、おれへと視線を寄越したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

呵ァッ々ッ々(カァッカッカ)!! 『龍を(したが)夢幻(ゆめまぼろし)(チカラ)の源とする童女(わらはめ)』と来たか!! 何処かで見覚えのある話よなぁ大神よ! (コレ)は傑作も傑作、御誂(おあつら)え向きと云わざるを得まいて!!』

 

「えっ!? これじゃない!? えっと、あの……フツノさま!? 『おもしろくないほう』って『魔王』ネタじゃないの!!?」

 

『くくっ……(いや)、合っておるよ。……っ、く呵々々(カカカ)! あの『王』を名乗りし不届き者め、姿を眩ませたかと思えば……(ワレ)(もと)を離れ、斯様(かよう)に愉快な事態(コト)を企てて居ったとは!』

 

「……えっと、その……意外でした。てっきりフツノさまは……あの『魔王』たちの動向、全部把握できちゃってるのかな、って」

 

呵ッ々ッ々(カッカッカ)! 知らぬ知らぬ! (ワレ)とて所詮(しょせん)は『浪越』の神よ! 神々視(カガミ)の『闚魔(のぞきま)』でも在るまいに、他神(タニン)の治界(すべ)てを()る事など出来ようか!』

 

 

 

 そういえば……あたりまえだが、神社にはそれぞれ祀られている神様がいる。

 鶴城(つるぎ)神宮のようにフツノさまを……『佐比(さび)布都(ふつの)天禍尊(あまがつのみこと)』を祀っている神社もあれば、この囘珠宮(まわたまのみや)の『鼎恵(かなえ)百霊(もたま)世廻(よぐりの)(みこと)』のような神様をお祀りしている神社も、当然あるわけだ。

 なんていったって……そこは日本、八百万(やおよろず)の神々が住まう国である。日本全国津々浦々、その土地土地に根差した神様の治める領地は、さすがにその神様たちのものだ。

 

 以前聞かせてもらった限りでは、神様は基本的に『自前の神社の敷地から(本体は)出ることができない』らしいので、つまり『ご自身が治めている領地の外では、振るえる力が限られる』のだと予測できる。

 よその神様の領地の中を覗き見たり、よその土地で暴れたり……なんかは出来ないわけだ。

 

 

「うふふ。私達ってねぇ、いうほど全知全能じゃないのよねぇ。……そりゃあ、私は治める土地と影響力は大きいほうだけど……数多の神々のひと柱でしか無いわけだし」

 

呵々(カカ)! 佳く云うわ『大神』めが。貴様一柱で何柱分の務めを果たして居る。……呑気に無駄話に興じる余裕なぞ在るのか? 早々に切り上げ、『微睡観(マドロミ)』に移るべきでは無いのか?』

 

「やぁよ。せっかく金鶏(きんけい)ちゃんがお茶会開いてくれたんだもの。私だって混ざりたいし……『面白い話』まだ聞いてないもの」

 

「えっ!? あの、でもまだ『魔王』の……面白くない話のほうが……」

 

布都(ふつの)ちゃんが応援してるんでしょう? なら私ももちろん協力するわ。何でも言って頂戴な。金鶏(きんけい)ちゃん、お願いね」

 

「は、はいっ! 承知致しました!」

 

 

 げに凄まじきは、圧倒的な『コネ』のちから。モタマさまと旧知の間柄であるフツノさまのお陰で、囘珠宮(まわたまのみや)の協力を取り付けることに……ほんの数分で成功してしまった。

 今後この東京で『苗』の被害があった際は、この囘珠宮(まわたまのみや)がおれたちのフォローを請け負ってくれるらしい。

 具体的には……隠蔽工作や、報道規制や、超法規的措置などなど。

 

 率直にいって……あのテのワイドショーのコメンテーターには辟易していたので、そのあたりもフォローしてくれるというのならとてもありがたい。

 

 

『後は……(くだん)の『龍(モドキ)』だがな。……百霊(モタマ)よ、貴様の(もと)で【隔世(カクリヨ)】の代演が叶う(モノ)は?』

 

「んーっと……金鶏(きんけい)ちゃんと、(なつめ)ちゃんと、若竹(わかたけ)ちゃんと、(おおとり)ちゃんと……あと末広(すえひろ)ちゃんと蓬莱(ほうらい)ちゃんね」

 

()鶴城(ツルギ)に於いては、(ワレ)を除けば龍影(リョウエイ)しか居らぬ。(ゆえ)に、恥を偲んで問おう。……()の者らの中で『囘珠(マワタマ)』の運営に直接絡んで居ない者は?』

 

「んー…………(なつめ)ちゃんね」

 

『!!?』

 

『……単刀直入に問おう。()の者を、此処な『(あき)つ柱』へと預ける心算(つもり)は?』

 

「うぅん…………力を貸してあげたいのは山々なんだけど……この子と()が切れちゃうのは、ねぇ」

 

 

 

 

 

「……っとお困りの、そこの神様(あなた)!!」

 

「えっ?」『呵々(カカ)!』

 

「そのお悩み……この【天幻】の万能アシスタントが、解決してみせます!」

 

 

 

 ………………えっ!!?

 

 



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320【追加項目】専門スタッフの派遣要請

 

 

 鶴城神宮や囘珠宮の敷地内を警備する『(まわ)(かた)』や、()()()()でのお勤めを果たしている神使の方々……彼ら彼女らは通常、それぞれの持ち場である敷地から外へ出ることができない。

 彼ら彼女らが超常の力を行使できるのは、ほかならぬ主神との縁を繋ぎ、その力を借り受けているからに他ならないからだ。

 

 神様の力が及ぶのは、せいぜい敷地内……神域結界の影響範囲に限られる。

 そこから外に出てしまうと、神様から神力を届けるための『(パス)』が切れてしまうのだという。

 

 

 かつて霧衣(きりえ)ちゃんが、依代(シロ)としてのお役目を務めるために『鶴城(つるぎ)神宮』から外へと飛び出し、フツノさまからの(パス)が失われたように。

 あくまでも()()()へ適応してしまうというだけで、直ちに命が脅かされるわけでは無いとはいえ……神力の(パス)が切れてしまっては、業務に支障が生じてしまう。

 

 廻り方の纏め役である神使(ネチコヤン)、ナツメちゃんを手放すことは……囘珠宮(まわたまのみや)としても、モタマさまとしても、さすがに許容できるものではないのだろう。

 

 

 

 しかしそんな折、今まで沈黙していたラニちゃんが声を上げた。

 しかもその口ぶりはまるで……敷地から出た神使でも、主神との(パス)を失わずに済むかのような言い口だったのだが。

 

 

「セイセツさんに色々と協力してもらってね。キリちゃんとフツノさまのパスが切れたときの現象を、ボクなりに分析してみたんだけどさ? ……要するに『フツノさまの魔力を遠隔で送ることができれば、パスが切れない』わけじゃん?」

 

「そん…………そう、なの?」

 

「「「さぁ……」」」

 

「まぁ実際、そうだったんだよね。セイセツさんの紙人形で実験してみたんだけど、紙人形にその『フツノさまの魔力を受信する仕掛け』を施して、鶴城(ツルギ)神宮の外に放り出してみたところ……ちゃんと動いたんだよ。鶴城(ツルギ)さんの外でも」

 

「まじで!? ラニちゃんそんな実験やってたの! すごいねぇーえらいねぇー!」

 

呵々々(カカカ)! 中々に興味深い見世物であったぞ! 居合わせた市井の子らも大層驚いて居ったわ!』

 

「ちょっと!? バレちゃったの!!?」

 

呵ッ々ッ々(カッカッカ)!!』「わっはっは!」

 

 

 

 えっと、つまり……ラニちゃんの宣伝文句を信じるのなら、そのラニちゃん特製の仕掛けさえあれば、神使の方々が敷地外でも――神様の神力の届く範囲外でも――(パス)が切れることなく活動できる、ということで。

 それはつまり……神使の方々にとっては、これまで出ることが叶わなかった敷地外を見聞する好機(チャンス)が舞い込んできた、というわけで。

 

 

『まァ、当然『全盛の状態』とは行かぬがな。神域と同じ様に立振舞える訳でも無い。神域外での荒事は……業腹だが、相変わらず此奴(こやつ)()に任せる他無い訳だが』

 

「なるほどねぇ。その悪鬼を退治するのは、ちょっと不安だけど……【隔世(かくりよ)】の()()を行うくらいなら問題ない、ってことなのね?」

 

『然り。……荒事の際に【隔世(カクリヨ)】へと引きずり込むことが叶えば、此奴(こやつ)()の負担も減らせよう』

 

「…………本当に……本当に、私と(なつめ)ちゃんの『縁』は切れないのね?」

 

『百霊様!?』

 

「恐らくは、ね。……セイセツさんの紙人形は帰還後もパス繋がってたし、何度試しても問題は見られなかった。……けど、実際にシンシの方々で試したことは無いから……」

 

『万が一、と云う事態(コト)は……有り得ぬとは言い切れぬな。……まァその『万が一』が生ずれば、(ワレ)の眼が曇ったと云うことだ。責任を以て『出雲』へと掛け合おう』

 

「……布都(ふつの)ちゃんが()()()()言うなら……私は、良いわ。(なつめ)ちゃんはどう? ()()、興味あるんでしょう?」

 

『――――吾輩、は……』

 

 

 

 黄金色に輝く瞳を大きく見開き、その中に仄かな困惑と……ほんの微かに期待の『気配』を乗せて。

 しっとりふわふわの錆色の毛並みの、巡回警邏に並々ならぬ情熱を注ぐ――外界とそこに暮らす人々に並々ならぬ関心を寄せる――真面目でプライドが高い、錆猫の上級神使は。

 

 

 

 

「…………うん。じゃあ……()()()ってことで、やってみましょうか。

 

(われ)に連なる与力(よりき)が一柱、銘を八海山(やつみやま)(なつめ)其方(そなた)(われ)鼎恵(かなえ)百珠(もたま)世廻(よぐりの)(みこと)』の名に於いて、此処な(あき)(はしら)木乃(きの)若芽(わかめ)』の(もと)へ…………えーっと、しばらくの間? (えにし)(うつ)す……のを試してみることとする】っと」

 

()()! 何だその契約条詞は。ヨミに知れたら愉快な事態(コト)に成りそうだな』

 

「ここにいる子たちが告げ口しなきゃバレないわ。よみちゃんの常世視(とこよみ)だって、さすがに『音』は拾えないもの。…………そういうわけで、(なつめ)ちゃん。お母さんからの『命令(おねがい)』です。……いい?」

 

 

 

『――――御意に』

 

 

 

 

 歯を剥いて心から愉快そうに笑う神様と、慈愛に満ちた暖かみのある笑みを浮かべる神様に見守られ。

 

 多分に実験的な要素を含む、前代未聞の『はじめてのおつかい』作戦へと……二柱の神様による完全バックアップ(技術提供:のわめでぃあ)のもと、満を持して挑むこととなった。

 

 

 

 おれたちの仲間に、神使(ネチコヤン)が加わるかどうかの瀬戸際なのだ。

 頼むぞラニちゃん、信じてるぞラニちゃん。きみならできる。むしろできなかったら覚悟しなさいよ。でんぷんのりの刑が待ってるぞ。

 

 



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321【追加項目】これで『龍』も怖くない

 

 

『――――正直……半信半疑だったのだがな』

 

呵ッ々(カッカ)! 無理も在るまい。此迄(これまで)に成し得た者など居るまいだろうし、な』

 

「わっはっは!! これぞ【天幻】の勇者の実力よ!!」

 

「す、すごいよラニ! 見直した! 本当にやっちゃうとは……!」

 

 

 

 結論から申しますとですね……ご覧の通り、実験は無事成功したわけでございます。

 

 

 ラニとセイセツさんが試作していた、くだんの『神使用神力遠隔受信デバイス』とでも表現すべきだろうステキアイテム。それは幾重にも編まれた紅白の紐に、白木の木片と水晶のような石があしらわれた……えっと、身近なもので例えるのならば『ペット用の首輪』だった。

 思わず『それでいいの!?』という視線を送ったおれとモリアキとミルさんの現代日本人三人組に対し……この世界と異世界のファンタジーの民一同は『何か問題でも?』と言わんばかりだった。

 えーっと、あの…………ハイ。なんでもありません。

 

 しかしながらその見た目に反して……肝心の効果のほうは、ばっちりしっかり狙い通りだった。ひと安心だ。

 気になるその使用方法だが、先ず装着者へと神力をもたらしている神様(今回のナツメちゃんでいうところのモタマさま)に手に取っていただき、神力を注いでいただくことで……なんか波長とか色とかパターンとか、そういう感じのものを首輪に記憶させるらしい。ブルートゥースのペアリング作業みたいだな。

 しかるのちに、ペアリングを完了させた首輪を対象者……外界で活動したい神使へと装着するだけで、準備完了。あとはペアリング登録された神力()()に効力を限定した【門】の派生魔法を経由し、モタマさまの神力が送られ続けるのだという。

 

 

 注意点としては……フツノさまからの説明でもあったように、装着者が外界へ出ても十全の実力を発揮することは出来ない。

 これは主神から送られてくる神力のうち一定の割合を、例の【門】の派生魔法で浪費してしまっているからだという。神使の位なんかの個体差にもよるが、外界活動時の……まぁなんだ、パラメータとかステータスとでも評する値は、通常時の二割から三割程度にまで低下しているのだという。

 しかしその一方で、神様の負担を(ペアリング作業を除き)特に増やすこともなく、また神使本人の神力を食い潰すこと無く、半永久的な動作を確立することができたのだ。……これは快挙と言えるだろう。

 

 また……残念な点としては、ラニちゃん秘蔵の異世界産鉱物素材を使用しているため、生産・供給数には限りがあるだろうということ。

 同等の『魔力の性質を記憶する』『魔法式を記録する』効果を持つ素材でも見つかれば話は別、とのことだけど……神秘の薄れたこの世界において、それはあまりにも難易度が高いと言わざると得ないだろう。

 

 

 まぁそんなこんなで、懸念事項や改善箇所も幾つかあるものの……当初の目的であった『外界での活動』そのものは無事に果たされたわけで。

 

 

 

「あの……じゃあ、改めて。……わたしたちに、協力して……仲間になって、もらえますか? (なつめ)さん」

 

『――――ふん。……勘違いするでにゃ……ないぞ。……だが百霊(モタマ)様の御命令と有らば無下にもできぬ(ゆえ)、仕方にゃく……仕方なく! ……貴様らの力になってやろう』

 

「「「ウ゛ォォォォォォ!!!」」」

 

『(ビクゥッ!!)』

 

 

 おひげをぴくぴくと動かしながら『ふいっ』とそっぽを向き、激シブのバリトンボイスでそんな可愛らしいセリフを吐く錆猫の神使。

 その可愛らしすぎる姿に、その美しい毛並みに、その自信満々な態度に……おれたち現代日本人三人組は盛大に雄叫びを上げ、叫び声こそ上げずともラニちゃんは満面の笑みを浮かべ、元わうわう系神使の霧衣(きりえ)ちゃんも新たな仲間(かぞく)の出現に嬉しそうな笑顔を浮かべている。

 

 神様と、一部の神使が扱える【隔世(カクリヨ)】の術、それの使い手を仲間に引き入れることが出来るのなら、心強いことこの上ない。

 昨晩()の中で『龍』との試験に臨んだときだって……周辺への被害を防ぐことを念頭に置いた立ち回りを、終始余儀なくされていたのだ。

 昨年末の神宮東門駅前での、()()フツノさまの大暴れっぷりを思い起こす限り……【隔世(カクリヨ)】による助けさえあれば、攻撃面でも防御面でも好きなように動くことができる。

 効率の悪すぎる奥の手に……【『創造録(ゲネシス)』】による【勇者召喚】に頼る必要も、無くなるのだ。

 

 

 

 

『さて……義理は果たせた、と思うて良いな? 『天幻』の小娘め』

 

「何一つとして不満は無いよ。心からの感謝を、偉大なるツルギの神よ」

 

「え、ちょ……ふ、フツノ、さま……?」

 

呵ッ々(カッカ)! ()ァに……例の『首輪』を一つ工面する代わりに、な。……七面倒な悪鬼共を相手取るならば、【隔世(カクリヨ)】は在って困るモノでもあるまい』

 

『――――身柄を引き渡される吾輩としては、誠に複雑な心境にゃの……なのだが』

 

「……もう、(なつめ)ちゃん……機嫌なおしなさいな。……ねぇ若芽(わかめ)ちゃん、この子ささみが好物なんだけど」

 

「キロで買って帰ります!!! カ○ガンもアーテ○スも、あとち○ーるもいっぱい買って帰ります!!」

 

 

 自分のスキルをうまく活用して、おれの手助けをしてくれるばかりでなく……フツノさまの協力を取り付けてくれていただなんて。

 本当にラニには頭が上がらないし……ご縁を繋いでくれた神様がフツノさまで、本当によかったと思う。

 

 フツノさまは寛大で、寛容で……とっても頼りになる、偉大な神様です。

 

 

 

 

 

『…………さて! 『面白く無い話』はもう良かろう! ……さァ百霊(モタマ)よ、待ちに待った『面白い話』と洒落込もうではないか!』

 

「でも布都(ふつの)ちゃん、わりかしいっつも『面白い』とか『愉快だ』とか言ってるから……」

 

『んぐっ。…………まぁ、その…………有無(ウム)。……(しか)し、此奴(こやつ)()の演目は中々に見物(みもの)だぞ! 百霊(モタマ)よ、貴様は『きゃすたー』と呼ばれる演者を知って居るか?』

 

配信者(キャスター)? うーん、えぇーっと……まぁ、それなりに?」

 

『えっ』

 

金鶏(きんけい)ちゃんと(おおとり)ちゃんにね、教えてもらったの。『いんたーねっと』とか『ゆーすくりーん』とかを使った『てれび』みたいなやつでしょ? この前も囘珠(うち)で『さつえい』してる人がいる、って(もみ)ちゃんたちが騒いでて…………布都(ふつの)ちゃん? どうしたの?」

 

『…………………い、(いや)……』

 

 

 

 

 

 えーっと、うん。さすが大都会東京を見守るモタマさまは……つよかった。

 

 フツノさまのあんな、しょんぼりしてる顔……初めて見たわ。

 

 



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322【追加項目】『宿題』だって怖くない

 

 

 ラニが率先して開発に臨んでくれている、おれたちや『にじキャラ』さんたちの今後の『要』ともいえる【変身】魔法……それを行使するためには、どうしたって外部からの魔力供給を必要とする形となってしまう。

 

 そもそも、おれやミルさんのように『魔法を扱う』ための構造でもなく、元々身体の中に魔力を秘めているわけでもない、ごく普通の一般日本人――仮想配信者(ユアキャス)の方々の『(なかのひと)』――にとっては……自力で魔法発動に至るまでの魔力を捻出するのは、至難の技だろう。

 

 彼ら彼女ら『(なかのひと)』本人が【変身】魔法を行使するためには、まずもって魔力を工面する手段を構築しなければならない。

 

 

 

「ボクは考えたわけだよ。ミルちゃんはナミコシに住んでるけど、他のユアキャスの子らはこのトーキョに住んでるわけでしょ? フツノ様に話聞いてみたんだけど、トーキョには超強力で超優しい神様がいるって言うじゃない?」

 

「あらあら! それってもしかして、私のことかしら? 布都(ふつの)ちゃんが私のこと褒めてくれてたの? そうなのね布都(ふつの)ちゃん!」

 

『…………ふん』

 

「それでね、まぁ勝手ながら……神様のもつ魔力を、固形化して持ち出し拝借できないかな、って考えたんだ。もちろんとっても失礼なこと言ってるってのは理解してるけど、だからこそ最後まで聞いてほしい」

 

金鶏(きんけい)ちゃん、落ち着きなさい。早合点は『めっ』よ!」

 

「…………承知、致しました」

 

 

 一瞬剣呑さと威圧感の増した、この『囘珠(まわたま)』の神域奉行であるキンケイさん。俺は思わず、神域に生える樹を伐ろうとしてマガラさんに連行されたときのことを思い出し……思えば遠くへ来たもんだなぁと、とても感慨深い気持ちになってしまった。

 距離的にも……そして、立場的にも。まさか『神様』と面と向かってお話できるようになろうなんて思うまいよ。

 

 

 

「まず……神様のチカラの源が、他ならぬ『この国のひとたちの信仰』あるいは『感謝と尊敬の念』である、ということについて。神様のチカラを高めるためには、それらを集めれば良い。……つまり『人々の感謝や尊敬が集められる』のなら、それは神様にとっても望ましいこと。……の、はずだよね? フツノ様?」

 

『まァな。()く云う(ワレ)も……まァ利害の一致が在ったとは云え、此奴等(こやつら)の『動画』には世話に成ってな』

 

「あっ、『鶴城(つるぎ)さんシリーズ』ですね。その節はお世話になりました」

 

有無(ウム)(まっこと)大義であった。年始めの()()以降、あからさまに若年層と……異国からの参拝客が増えたとな、蓬乾(ホウケン)が珍しく騒いで居ったわ』

 

「あらあらあらすごいじゃない。じゃあその……私たちも『お世話』になれば、若い子達からの信仰も増えるのかしら?」

 

「そう! そこでボクからの……いや、我々『のわめでぃあ』からの、『楽して儲ける』ご提案です!」

 

「あら」『呵々(カカ)

 

 

 

 まず我々『のわめでぃあ』がわの要求としては、この『囘珠(まわたま)神域』に満ちる空間魔力を少しだけ拝借させていただくこと。

 これは早い話が【変身】魔法のためのリソースとしてであって、形式としてはラニが完成させていた【蓄魔筒(バッテリー)】に充填して持ち出しさせてもらう形となる……らしい。

 その【蓄魔筒(バッテリー)】に込められたモタマさまの神力を拝借して、仮想配信者(ユアキャス)(なかのひと)たちに【変身】魔法を行使して貰うというわけだ。

 

 ちなみに……肝心の【蓄魔筒(バッテリー)】への充填プロセスは、なんだか専用の設備も併せて試作していたらしい。この装置に【蓄魔筒(バッテリー)】をセットしてしばらく放置するだけで、ノータッチで神力をチャージしてくれるスグレモノ。

 なんでもラニちゃん、ひそかにセイセツさんから『この世界』の理化学知識の講釈を受けていたらしく……浸透圧やらイオン濃度やらを基に独自のアレンジを加え、大気中の神力(魔力)を自動で集める機構を編み出したのだとか。ラニちゃんすごすぎない?

 

 

 そしてモタマさま……というよりかは金鶏(キンケイ)さんとしては気になるところだろう、結局のところ『囘珠宮(まわたまのみや)』にとってはどんな恩恵があるのか、という一点。

 

 最大の争点であろう()()に関しても……自信満々な自慢(ドヤ)顔(かわいい)を浮かべたラニちゃんは、既に効果覿面なセールストークを固めていたようだった。

 

 

 

「要するに……モタマ様、ひいてはマワタマさんのことを、人々……特に若い子や異国の子たちが、いっぱいいっぱい感謝するようになれば良いわけでしょ?」

 

「そうねぇ……そうなれば、私たちも嬉しいのだけど……」

 

「……そんな大々的にプロモーションを打つための予算など、我らには与えられておりません。それどころか、隙あらば予算を削られ倹約を強いられる現状です。……『(こちら)』の部署は、特に成果が目立ちませんから」

 

「うんうん。大丈夫、めっちゃ効果覿面な一言があるから。マワタマさんには『この一言』を表向きに公表して貰うだけで、全世界から感謝の気持ちがガッポガッポだから!」

 

「そ、それは……気になるけど…………いったい、私に何を言わせるつもりかしら?」

 

 

 囘珠(まわたま)神域に充填装置を設置させてもらい【蓄魔筒(バッテリー)】への環境神力チャージに協力をいただく見返りとして、おれたちが『囘珠宮(まわたまのみや)』へとお返しできるお礼――若者を中心とした、全世界規模での感謝と信仰の収集――それを可能とするための『魔法の一言』。

 

 金鶏(キンケイ)さんたち神使の皆さんも思わず前のめりになってしまう、気になるその一言とは。

 

 

 

「ボクらは『にじキャラ』さんに、()()()()()()()()()()()()()()ことを報告するつもりなんだけど……その裏付けのための声明を『にじキャラ』さん宛に出してほしい。いち企業に肩入れするのは不本意かもしれないけど、残念だけどボクらもここ以外にコネは無いんだ」

 

「……つまり、『にじキャラ』さんが開発した新世代演出案は、囘珠宮(まわたまのみや)()()()()完成にこぎ着けた、ってことに?」

 

「あぁーそういう。……そうなれば、消費者である視聴者……それこそ若年層を中心とするユースク(YouScreen)ユーザーは、確かに囘珠(まわたま)さんに滅茶苦茶感謝するでしょうね。『推し』がリアルに出現するんすから」

 

「なんなら、『にじキャラ』に広告動画でも打たせれば良いと思いますよ。アーカイブ見るときに囘珠(まわたま)さん貸ホールとかのCM流れる、みたいな」

 

 

 そう、つまり結局のところは『鶴城(つるぎ)さん』のときと同じ……おれたち配信者(キャスター)の特色を最大限活かした、大規模プロモーション活動だ。

 囘珠(まわたま)さん側には目立ったデメリットも無く、実質無料で大幅な『信仰』を集められる。おまけにフツノさまからの援護射撃も加わるとあれば……さすがに気になってきたようだ。モタマさまもかなり目を輝かせてくれている。

 

 

 

「うーん……その、環境神力、っていうのも……そんなにたくさんじゃないのよ、ね?」

 

「そうだね。適切な(たと)えがわかんないけど……神使の子が【変化】のマジナイを六回分使うくらい」

 

「……その、【蓄魔筒(バッテリー)】? 一個を満タンにするのに……?」

 

「いや、一昼夜で。充填装置(チャージャー)一基あたりの最大装填数である十二本を、全部チャージさせたときの消費」

 

「あらぁ……ずいぶんと安いのねぇ」

 

「装置を増やせば、当然もっと嵩むけど……とりあえずテストってことで」

 

「……わかったわ。やってみましょうか」

 

「やったァ!!」

 

 

 

 こうして……心強い()()()()()を得たおれたち『のわめでぃあ』は。

 

 仮想配信者(ユアキャス)業界に革命をもたらす、一世一代の大勝負……そのすべての前提条件を、無事クリアすることに成功したのだった。

 

 

 

 

「……ところで……ラニちゃん、でいいのよね?」

 

「合ってるよぉモタマ様! 覚えてくれて光栄だよ!」

 

「うふふ。……それでね、聞きたいんだけど……その【蓄魔筒(バッテリー)】って、何に使うつもりなの?」

 

「あー、そのあたりは……専門家のノワから」

 

「ぅえ!? おれ!? ま、まぁ……いいけど」

 

 

 

 

 神様相手にスマホで動画(ユースク)見せたことある現代人なんて……おれだけだって断言できるね。

 

 神様に名前覚えてもらった系配信者(キャスター)って書いたらバズるかな。不誠実だからさすがにやらないけどね。

 

 

 



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323【復路騒動】よろしくおねがいします




ねこです

よろしくおね
がいします





 

 

 ともかく、これで『にじキャラ』さんとのお約束である【変身】魔法の実用化に目処が立った(らしい)。

 その【変身】を使って、おれたちが何をしようとしていたのか――仮想配信者(ユアキャス)という概念の話から、それを現実世界へ持ち込もうとするおれたちの企み――を聞き、モタマさまは大変嬉しそうな歓声を上げてくれた。

 この神様……可愛らし過ぎやしませんか。

 

 ……と、いろんなことがありました『囘珠宮(まわたまのみや)』でございますが……片付けるべき課題はすべて片付け終えたので、そろそろおいとまの時間が近づいて参りました。

 おれたちを助けてくれることになった、錆猫神使の(なつめ)さんを伴い……おれたちは名残惜しくも、第零会議室を後にする。

 

 

 

 

「また東京に来たら、いつでも遊びにおいでね! 第零会議室なら金鶏(きんけい)ちゃんに言えばすぐ開けてくれるからね!」

 

「あの、素朴な疑問なんですけど……本殿とか、そっちのほうじゃないんです……か?」

 

「うふふふ。だってほら、私たちが間借り()()()()()なわけだし」

 

「「「ええ!!?」」」

 

「聞いたことなぁい? 囘珠(まわたま)は過去の天皇陛下をお祀りした(やしろ)だ、って。だから主神が盟和ちゃんで、実は私たちが相殿(あいどの)なのよね。私たちが主神を務めるお社は、また別にあるのよ」

 

「ほへぇー…………」

 

 

 

 驚愕の新事実を思わぬ形で知ることとなったが……たぶん知ってる人にとっては既知の事実だったんだろうな。フツノさま(分身)も澄まし顔だし。

 

 そんなこんなでキンケイさんたちとも別れ、神使(ねこちゃん)たちに盛大に見送られながら……おれたちと(ナツメ)さんは『囘珠宮(まわたまのみや)』を後にした。

 

 

 ちなみに……例の【蓄魔筒(バッテリー)】充填設備は、第零会議室近くの倉庫に置かせて貰っている。

 ついでとばかりにラニの【座標指針(マーカー)】もセットさせてもらったので、これで【繋門(フラグスディル)】を繋げば迅速に充填具合を確認することができるようになったわけだ。

 しかも副次効果として、『にじキャラ』さんの事務所まで徒歩圏内という好立地なアクセスポイントを得ることができた。とてもべんり。モタマさまありがとう。

 

 

 

 

『――――クルマ、とは……斯様に心踊る装いであっただろうか?』

 

『どれどれ……ほぉ、(コレ)は確かに。……()いな、寝床と茶ノ間が備わった車か』

 

「フツノさまなんで居んの!?」

 

『当然、去って居らんからな』

 

 

 合歓木(ねむのき)公園駐車場で駐車料金を支払って、われらが移動拠点ハイベースを発進させようと乗り込んだおれたちだったが……(ナツメ)さんは良いとして、妙にご機嫌な帯刀美少年までもが乗り込んできたもんだから、そりゃもうびっくりよ。

 往路はラニの【蔵】の中にて、神剣(模造体)の状態で眠りについていたフツノさまだったが……ラニに振り回されモタマさまとの交渉のために目覚めてからそのまま、交渉そのものが終わっても姿を消すことなく顕現し続けていたのだった。

 

 そして……その流れで、こうして車に乗り込み、興味津々で車内各所を眺めているということは。

 ……誠に、誠に光栄(ざんねん)なことではあるのだが……復路はこの賑やかな(やかましい)神様と共に過ごすしかないのだろう。

 

 

 

 

「おれはもう諦めたからね。じゃあ出発しまーす揺れにお気をつけくださーい」

 

有無(うむ)。良い心掛けだ』

 

 

 運転手はわたくし木乃若芽、終点浪越市までご案内いたします。

 からからと良い笑顔を浮かべる獰猛系帯刀美少年フツノさまは、眺望良好な助手席に収まってシートベルトをばっちり締めてくれている。同乗者のシートベルト非装着は運転手(わたし)の罰則になるので、そこんところ従ってくれるのは素直にありがたい。

 

 

『――――お。……ぉ、おぉ……動いているのか、この小部屋が』

 

「なつめ様、なつめ様。こちらの窓より外の風景がご覧いただけまする。疲れましたら、霧衣(きりえ)めのお膝をお使い下さいませ」

 

『――――うむ。礼を言おう、白狗里の娘よ』

 

「光栄にございまする」

 

「……かわいい……えへへぇ」

 

 

 セカンドシートでは、窓際に霧衣(きりえ)ちゃんと通路側にミルさんが収まる。安定の白ロリコンビは見た目的にも性格的にもとても癒されるので、二人には是非とも仲良しでいてほしい。

 加えて……新たなる癒し効果が期待される(ナツメ)さんも、現在はダイネットテーブルの上に香箱座りの体勢で、流れ行く外の景色をじーっと眺めている。

 

 ……神使ならある程度は大丈夫だと思うけど、本来走行中の車内でねこちゃんを放すのは良くないハズだ。

 視聴者の皆さんは真似しないで、是非ともペット用おでかけケージを使ってあげてください。

 おれも細心の注意を払って安全運転します。

 

 

「これはこれで新鮮っすね。電車みたいですし。……あーでも外の景色見るにはこっちのが楽っすね」

 

「ふふふ。男どうし仲良くしようぜ、モリアキ氏」

 

「男どうし、ってのはさすがに無理があると思うっすよ……あとちゃんと座ってください白谷さん。ヒラヒラでチラチラっす」

 

「おーいモリアキ、度が過ぎるようならシンクに投げ込んで蓋しちゃって良いからね!」

 

「了解っす」「そんなぁー」

 

 

 最後尾、横向きのベンチシートにはモリアキが腰掛け、ひと仕事終えて元気いっぱいにはしゃぎ回るラニちゃんがその周囲を飛び回る。

 走行中の車内での飛行は疲れる、とか自分で言っていたにもかかわらず……よっぽどの解放感なのだろうな。本当にお疲れさまだ。

 

 セイセツさんと共同での研究と、魔法や機器の試作や開発。もともと研究や考察が好きだとは言っていたけど、まさかここまでやってのけるとは……正直、予想以上だった。

 これはラニちゃんにも……ご褒美を買ってあげるべきだろうな。

 

 

 

「ねぇーラニー」

 

「ん、なぁにノワー」

 

「帰ったらご褒美買ってあげるね。何がほしい?」

 

「今なんでもって言ったよね!?」

 

「言ってねぇよおいこら何させる気だ不健全エッチ妖精め!!」

 

「ノワのおしりを枕にしたい!!」

 

「や、やめなさい! 清純派美少女も乗ってるんですよ!!」

 

 

 

 あまりにもひどいやり取りに、危うく道を間違えるところだったけど……なんとかナビ通りの交差点で曲がり、首都高速に乗ることに成功した。

 ここまで来れば、あとは簡単。緑色の看板に従って適切に車線変更を繰り返し、東越基幹高速へと合流……『浪越』の表示めがけて突き進めば良いだけだ。

 

 現在時刻は……お昼どきのすこし前、といったところか。道中サービスエリアで休憩を挟みながらでも、陽が暮れるか暮れないかくらいの時間には浪越市(なみこし)に帰れるだろう。

 

 

 

 そう、思っていた。

 

 

 そのはずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

呵ァッ呵ッ呵ッ呵(カァッカッカッカ)!!』

 

「どうしてこんなになるまで放っておいたんだ!!」

 

「違うんす! 仕方が無かったんすよ!」

 

 

 



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324【復路騒動】しゅっぱつします

 

 

 とつぜんですが、地理のお勉強です。

 

 

 日本の首都である東京……ここはひと昔前は『江戸』と呼ばれていまして、日本各地からその『江戸』へ向かうための街道というものが、色々と整備されているわけです。

 

 この江戸からおれたちの住む浪越市方面に向かう『東海道』のほかに、東北方向は兎津宮(うつのみや)を経由して日興(にっこう)東照宮へと向かう『日興街道』、その途中の兎津宮(うつのみや)から分岐して臼川(しらかわ)へと向かう『奥州街道』……また江戸から鷹崎(たかさき)軽伊沢(かるいざわ)を経由して滋賀県へと抜ける『中山道』と、そのショートカットルートとして下崇覇(しもすわ)まで繋がる『甲州街道』とがございましてですね。

 これらがいわゆる『五街道』というやつで、このうち『東海道』と『中山道』は草都(くさつ)で合流し、ゴール地点は同じ御条(ごじょう)大橋と……まぁつまり、目的地は同じでも辿る道が大きく二パターンあるわけです。

 

 

 それでですね、現代の高速道路というのはですね、往々にしてその街道とほぼ同じルートを辿っていてですね。

 つまりおれが走っていたはずの『東越基幹高速』はですね、『東海道』を爆走するルートなわけですね。

 

 ……そのはず、なんですよね。

 

 

 

 

「なんで!!! ねえ!! なんで!!!」

 

呵ッ々ッ々ッ々(カッカッカッカ)!!』

 

 

 

 おれの記憶が正しければ……東越基幹高速道路に『蓋場(ふたば)』なんていうサービスエリアは無いはずであって。

 

 そしてそして……その蓋場(ふたば)サービスエリアが存在するのは、中山道を通る中央基幹高速道路のはずであって。

 

 

 

「モリアキおまえ!! ルートおもいっきり外れとるやんけ!! おまえ恵比奈(えびな)から八央地(はちおうじ)行きやがったなおまえ!! なんで!? どう見ても中央幹方面じゃねえか!! 誰に(そそのか)された!? 言え!! 正直に言え!!」

 

「いやあのちがうんす! 違うんすよ先輩!」

 

呵ッ々ッ々ッ々(カッカッカッカ)!!』

 

 

 

 おれが記憶しているのは……確か恵比奈(えびな)サービスエリアでテイクアウトごはんを買い込んで、車内でわいのわいの昼食を摂ったところだ。ここまでは覚えている。

 だが……問題なのはその直後。妙に休憩を勧めてくるラニちゃんとフツノさまに押される形でおれが客席へと移動し、モリアキが代わりに運転手を務めることとなり。

 そして……なぜかその直後、心地よくも猛烈な眠気に誘われたことまでは……覚えている。

 

 

 

 ……いや、まぁ……考えるまでもない。

 

 こんなことを企み、そして周囲に強いるような存在なんて……一柱(ひとり)しか思い浮かばない。

 

 

 

 

呵ッ々ッ々(カッカッカ)!! 急ぐ旅でも在るまい? 寄り道もまた佳いものぞ』

 

「いや、あの……で、ですが! おれたちだけならまだしも! お客さん……ミルさんにも都合ってもんがあるんですよ!?」

 

「あっ、ぼくは楽しそうなんでオッケーです」

 

「そんなぁ!!?」

 

「それに最悪、ボクが【門】で送るから。ミルちゃんちまで一瞬だよ」

 

「きさまらァ!!」

 

『――――(かしま)しい一団よな』

 

「わああん(なつめ)さんんんんん!!」

 

 

 ちくしょう、なんてこった。フツノさまの暴走を止められる者は居なかったのか。居なかったな。

 

 ……まぁ、実行犯の一人にはまた今度入念に()()()()してあげるとして。

 しかしよくよく考えてみれば――ラニちゃんをこき使うことにはなるけども――いつでもどこからでも、おれたちは自宅に一瞬で帰宅することが可能なのだ。

 そしてこの中央道ルート、なんと明日打ち合わせでお邪魔する予定である三納オートサービスさんの近くを通っていたりする。

 

 ミルさんとかフツノさま(の分体が宿ってる刀)はラニに責任もって送って貰うとして……つまり、これは実質ショートカットルートということになるのだ。所要時間は伸びてるけどショートカットなのだ。ちくしょうやっぱり赤石山脈の存在はデカかった。

 

 

 

「……もう…………じゃあ、このまま崇覇湖(すわこ)のほうまで行って、丘屋(おかや)ジャンクションから帰る方向で……それでいいんだね? 本当に満足なんだね?」

 

有無(うむ)。流石に此以上の我儘は云うまいて。呵々(カカ)、いや何……写身(うつしみ)とはいえ鶴城(ツルギ)の宮から出たは久方振りであった故、な。少々吾欲が勝った。赦せ』

 

「ウグ、ッ……今回だけにしてくださいね! おれだって鬼じゃないんですから、相談してくれればちゃんと応じましたって」

 

「オレは悪くないんす。不可抗力なんす」

 

「ボクもボクも! 不可抗力なので」

 

「きさまらは許さんからな覚えておけ」

 

「「ゥエエエエ!?」」

 

 

 

 ラニちゃんには、帰ったら新作『でんぷんのりの刑』を試すとして……モリアキには新しい動画のサムネでも描いてもらおうか。相場の七掛くらいに勉強して貰って。

 ふふ、恨むならおのれの軽率な行動を恨むがいい。おこだよおれは。ぷんぷん丸だよ。

 

 

 

 

 ……というわけで。

 

 まぁせっかく中央基幹高速道路を通るのだから、こっちがわの観光名所もいくつか回っておきたいよね。

 こっち方面には霊験あらたかな大きな湖があり、しかもそれは高速道路のサービスエリアからでも眺められるとあっては、立ち寄らない手は無いだろう。持っててよかった小型カメラ(ゴップロ)

 

 眠らされている間にルート変更され、いつのまにか到着してしまっていた蓋場(ふたば)サービスエリアを出発して……およそ一時間ほど。

 到着したのは、中央基幹高速道路の崇覇湖(すわこ)サービスエリア。北陸方面と東海方面に分岐する丘屋(おかや)ジャンクション直前の大規模サービスエリアとして、観光やビジネスや物流ドライバーさんなど多くの人々で賑わっている。

 

 

 しかしながら……一月末の信州は、流石によく冷える。このサービスエリアの名前の由来ともなっている巨大な湖『崇覇湖(すわこ)』も、カッチコチに凍ってしまっている。

 例によって『こんなこともあろうかと』仕様のわれらがハイベースは、冬仕様のスタッドレスタイヤを装着済だ。念のためのチェーンもラゲッジには収まっているので、冬の高速道路も怖くない。

 

 一方のおれたちは……おれとミルさんは、温度調整の魔法を使ってなんとかなっている。霧衣(きりえ)ちゃんも昨日くろさん(の(なかのひと))がコーディネートしてくれた、暖かそうなコクーンコートが役に立っているようだ。

 モリアキは……少し心許ないだろうけど、がんばって。保温魔法かけてあげるから。

 

 

 

「おれも冬の崇覇湖(すわこ)は初めてだな! せっかく来たんだし、サービスエリアレビュー動画とか良いかもしれんな。レストランでオススメフード食って、オススメおみやげ買って」

 

「あっ、じゃあぼく映らないほうがいいですかね。せっかくなので、ぼくもゆっくり回ってきて良いですか? スタマ(スターマックス)の長野限定マグ見てみたくって」

 

「そういうことなら……自由行動にしますか。集合時間決めて、車に戻ってくる感じで」

 

相分(あいわ)かった。()れならば尚のこと都合が良い』

 

「う、うん……?」

 

呵々(カカ)。……気にするな、もう迷惑は掛けぬよ』

 

「そ、そう……ですか?」

 

 

 

 まあ、せっかくの寄り道だ。このままマイナスで終わらせるのも勿体無い。動画一本分でも撮れるなら完全にプラスだろう。

 

 そう思うことにして、おれたち『のわめでぃあ』組はミルさんおよびフツノさまとは別行動……サービスエリアレビュー動画の撮影へと踏み切ることにした。

 

 ころんでもただでは起きない!

 

 

 



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325【復路騒動】さつえいします

 

 

ヘィリィ(こんにちは)! 親愛なる人間種視聴者諸君! 魔法情報局『のわめでぃあ』たび部、部長の木乃若芽(きのわかめ)だよ!」

 

「こんにちは。しちょうしゃ、の、みなさん。新人れぽーたーの、霧衣(きりえ)でございます」

 

「わたしたちはですね、ほんじつは中日本基幹高速の『崇覇湖(すわこ)』サービスエリアへとやって参りました!」

 

「まぁ他の企画でのね、用事の帰り道なんだけどね。せっかくだからサービスエリア満喫してこうって魂胆なんだよね?」

 

「そうだぞぉー。元はといえばラニやんのせいで道間違えたからだからなぁー」

 

「えへへ…………」

 

 

 

 イメージとしては……成人男性(おじさん)四人組が仲良く(?)旅する、北の大地(ユメミルチカラ)の某人気番組な感じでどうでしょう。演者(タレント)が二人でカメラに映れない組が二人だから、パーティー編成としては丁度良いのではないだろうか。

 というわけで、白谷(ディレクター)さんと烏森(カメラマン)さんの支援のもと、おれたち二人は崇覇湖(すわこ)サービスエリアでの撮影を敢行する。

 

 ちなみに撮影許可のほうはあっさりと頂けました。ありがとうございます、一般のお客様の迷惑にはならないようにします。

 

 

 とはいえ残念なことに……お食事に関しては、ほんの一、二時間ほど前に恵比奈(えびな)サービスエリアで済ませてしまったばかりだ。レストランの名物グルメをいっぱい堪能するというのは、残念ながらちょっと難しい。

 せいぜいが二人で一食、あとはテイクアウトの品を(ハイベース)の中で(ディレクター)陣と一緒にちょこっと摘まみ、のこりはラニやんに保管してもらう作戦ならば、現在のお腹すき具合でも何とかなるだろうか。……そうしようか。

 

 

 

 

 

「というわけで! こちらがその名物の『さくら丼』です! おいしそうでしょう!」

 

「お、おっ、おっ、おにっ、おにくっ、おにぅっ、ぅにぅぅぅ……っ! わ、わかめさま! おにく! おにくでございまする!」

 

「ヴッ可愛(カワ)ッ……霧衣(きりえ)ちゃんどうどう、おちついて。おにくは逃げないよ」

 

「はぅ……っ、わうぅぅっ!」

 

(良い画が撮れたよノワ、これはやばい)

 

(マジかよラニやんGJ(グッジョブ)

 

 

 信州名物のひとつ、『さくら丼』。

 新鮮な赤身馬刺をごはんの上にたっぷりと乗せ、県内産のわさびと生姜醤油ベースのタレで頂く、ワイルドかつボリューミーなひと品だ。

 馬肉は肉厚で食べ応えがあり、馬肉ならではの食感と旨味と風味が噛めば噛むほどにじみ出てくる。臭みや嫌なエグみもないので、見た目の肉の量に反して、意外なほどサラッと食べてしまえる。馬肉のお刺身すごい。

 

 おにくだいすきガールは目の色を変えて、かつ極めてお上品に、それでいて非常に幸せそうに……新鮮馬肉を堪能していたようだった。

 ごちそうさまでした(二つの意味で)。

 

 

 

 その後は当初の作戦に従い、テイクアウト可能な名物料理を幾つか購入。

 おみやげメニューひとつとっても、伝統を引き継ぎながら流行りのテイストを取り込んでいたりもして、なかなか見ていて楽しい。

 クリームチーズおやきとか、山賊焼バーガーとか……あとは(サバ)ドッグなんていうのも美味しそうなので買ってみた。どのお店も快く撮影に協力してくれ、みんな霧衣(きりえ)ちゃん(おにく摂取によるニッコニコモード)にメッロメロでデッレデレの様子だった。

 わかる、これはやばいぞ。全方位にKAWAIIをぶち撒ける危険なやつだ。よっしゃ勝手に写真撮るのも今回は許しちゃう。みんな道連れにしてやるからな。()ぬがよい。

 

 

 その後もサービスエリア内をふらふらと散策し……おみやげコーナーのオリジナルロボットシリーズのプラモデルやご当地キャラクターの大型フィギュア(かわいい)に大興奮したり、ワンコインミニサイズのフィギュアシリーズ(かわいい)に悶絶したりしながら売店エリアを見て回ったり、今回は(時間)の都合で堪能できなかったけど温泉施設(の入口)を見に行ったりと、動画として使えそうな映像を色々撮り貯めていたところへ。

 

 なにやら騒々しい人々のざわめきが、おれの敏感なお耳へと届いてきた。

 

 

 

(し、しかし! ……って、そんな! ホント…………か!? なんで今いきなり!?)

 

(解んないけど! でも…………って……なら、早くお客さんに知らせないと!)

 

(ですね。とりあえず館内放送…………、聞いてみます)

 

(わかった、そっちは頼む! 俺は……の様子見て来る)

 

 

 

「……んん? 何かあったんでしょうかね? なにか慌ただしいような」

 

「わうぅ…………崇覇湖(すわこ)? の方角を気にしているようでございまする」

 

「展望デッキありましたよね。見に行ってみましょうか」

 

「はいっ。お供致します!」

 

 

 

 サービスエリアの建物から外に出て、広々とした展望デッキへと場を移す。湖がわ、安全のために張り巡らされた金網フェンスには、どこかの何者かの願掛けらしい南京錠が数多く掛けられている。

 ……これ、撤去の手間と費用が問題になってるって聞いたことある気がする。縁結びだかなんだか知らないけど、そういうのよくないとおもうぞ。はぜろリア充。

 

 まあ、そのへんは置いておこう。

 とりあえずこの眺望デッキ……その名に恥じない見事な眺めで、崇覇湖(すわこ)とその周囲の市街地がよく見える。

 この崇覇湖(すわこ)サービスエリアは山の斜面の高台に作られているため、遮るもののない大パノラマが堪能できるらしいのだ。

 

 

 そんな広大な展望デッキ……いちばん眺めが良さそうな、一段高くなっているあたりに。

 このサービスエリアのスタッフと思しき中年男性のすぐ隣近くに、安全フェンスのてっぺんに腰掛けているふてぶてしい帯刀美少年の姿。

 

 ……どうやら【穏形】のたぐいの(まじな)いを行使しているようで、すぐそこの職員さんには気付かれていないらしい。

 

 

 

『よぉ! 間に合うたか! 呵ッ々(カッカ)此方(こち)へ来い。……()()()ぞ』

 

「?? 間に、合った? ……()()()?」

 

「えっ? ……あっ、お嬢さん良いところに! 良いところに来ました! あの湖、崇覇湖(すわこ)があるでしょう! あれがですね!」

 

『……何だこの小僧。手首でも落として()れようか? (ワレ)の話相手を掠め取ろうとは生意気な』

 

「ォワー待って! 落ち着いて! 鎮まり下さいお願いですから!」

 

「……えっ? ど、どうしました? お嬢さん」

 

「気にしないで下さい! なんでもないですので!!」

 

呵々(カカ)! 騒々しい奴よな!』

 

「…………ッ!!」

 

 

 幽霊でも見るような目でおれを見つめてくる職員さんに軽く会釈を返し、フツノさまの隣へと進んでいく。

 おれへの理不尽な物言いに反論してやりたくもなるけど、残念ながら一般の方の手前言い返してやることもできない。ぐぬぬ。

 

 

(せん)……わかめちゃん? どうしたんすか、何かあったんすか?」

 

「え!? …………えー、っと…………その、『呼ばれた』っていうか……」

 

「?? …………あぁー、なんとなく解りました。『呼ばれた』んすね。またですか。……楽しそうにしてます?」

 

「そりゃあもう。めっちゃ楽しそうですよ」

 

『何を訳分(ワケワ)からん事を云うて居る小娘めが。……ホレ、今に()()()ぞ。小僧、とっとと()の機構細工を構えぬか』

 

「あっ、どうやら()()()みたいです。モリしーカメラ回して下さい。あっち……湖だそうです」

 

()()()? ……あいえ、カメラは回ってるんすけどね」

 

 

 一般の方にしてみれば、まるで要領を得ないであろう、おれ(とフツノさま)とモリアキとの会話……事実そこの職員さんは、まるで死んだはずの人間を見たかのような名状しがたい壮絶な表情になってしまっている。正直、非常にいたたまれない。

 

 いったい何が()()()のか解らないが、できることなら場を移したい。だが上機嫌なフツノさまに見咎められては踵を返すことも難しいだろう。この居心地悪い空気に慣れるしかない。

 

 

 まぁ、だが……幸いにして。

 その微妙な空気は、そう長くは続かなかったわけだけども。

 

 

 

 

 

――――ゴギャンッ!!

 

「「「「『!!?』」」」」

 

 

 突如として響き渡った轟音に、おれたち一同(と職員のおじさん)は思わず身をすくませる。

 ディレクターを気取っていたラニちゃんもおれの肩に緊急着地して、しきりに周囲を警戒しているようだ。

 

 

 

――――ゴゴ、ゴギュゴゴ……

 

――――グ、グ、グキュグゴゴキュ……

 

――――パシンッ、ビシ……パギャンッ

 

 

「こ、れっ、て…………まさか」

 

「わかめ、さま……みずうみが……」

 

 

 

 おれたちの背後、サービスエリアの館内放送が、来場者たちへと緊急の連絡を告げる。

 それに導かれるように、多くの人々が展望デッキへと飛びだし……目の前で起こっている変化に、息を呑む。

 

 

 全面が凍っていた巨大な湖は、その表面を覆う氷に巨大な亀裂が走り。

 

 互いに隣接し合った氷の特大プレートは、それぞれが激突し擦れ合うごとに、重々しく迫力のある独特な音を響かせ。

 

 割れ砕けた巨大な氷塊が、長大な亀裂に沿うように……まるで道か山脈かのように長く長く連なる、極めて稀少な自然現象。

 

 

 

 

御神渡(オミワタ)り……と、呼ぶらしいな? ヒトの子()は』

 

「………………すっ、ごい……」

 

「みずうみが……割れ…………」

 

 

 

 まさか、と思い……フェンスのてっぺんに腰掛けたままの、一般の人にはそのお姿が見えていない神様へと視線を向けると。

 

 自信満々な笑みを崩そうともしない、フツノさまの鋭い視線に……正面からぶつかり合う。

 

 

 

(ワレ)を愉しませた、その()()だ。八朔(ヤサカ)めは(ワレ)の系譜(ゆえ)な、(ワレ)(めい)には逆らえぬ。適材適所と云う(ヤツ)よ』

 

 

 笑い声が騒々しくて、横暴で、横柄で、狂暴で、ただちょっと幼馴染には弱くって……そして意外なところで面倒見が良く、義理堅い。

 そんな神様からの……全く思ってもみなかった『恩返し』に。

 

 

 

「……職権濫用、だと思うけどなぁ」

 

呵ッ々ッ々(カッカッカ)! ()うでは無いか!』

 

 

 

 おれはそのことをとても嬉しく、この神様とのご縁を心強く思う反面……

 

 いきなり無理難題を吹っ掛けられたのであろう、まだ見ぬ『ヤサカさま』の心労を……心の底から案じたのだった。

 

 






※かみさまとかは割と架空の設定が多分に含まれています(いまさらな注釈)



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326【復路騒動】到着そして一時帰宅



さいしょから【門】使えばよくね?

……とか言わない。おれとの約束だ。





 

 

 思ってもみなかった寄り道だったが……思ってもみなかった幸運(神為的(じんいてき))に恵まれ、おれたちは思っていた以上の『動画映えネタ』を獲得することができた。

 隆起する瞬間を捉えた映像なんて、よほどの幸運がなければ捉えることは不可能だろう。そもそもあんな時間に突然隆起が始まるなんて、かなり珍しいことなのだと思う。

 ……本当すみませんヤサカさま。フツノさまが御迷惑お掛けしました。また今度個人的にお礼に来ます。

 

 自由行動中は気ままに散策していたらしい(なつめ)さんも、言いつけどおりきちんと戻ってきてくれていた。ミルさんはミルさんで地域限定マグカップを確保できたみたいで、ほくほく顔だ。かわいいね。

 

 そんなこんなで、()(だか)も上々。テイクアウトフードもばっちりおいしく(一部だけ)頂いて映像もおさえ、満足のいく収穫が得られたおれたちは、全員揃って予定通りの時間に崇覇湖(すわこ)サービスエリアを出発した。

 

 

 それからは、至って順調に行程を走破していった。丘屋(おかや)ジャンクションで浪越(なみこし)方向へと折れ、未だ空気を震わせている崇覇湖(すわこ)へと別れを告げる。

 何処か遠く背後の方角で、あからさまに『ほっ』とした雰囲気を感じたのは……たぶんだけど、気のせいじゃないと思う。

 

 

 

「そういえばフツノさまは……その、刀? に憑いてれば外へに出られるの?」

 

然程(さほど)の自由は無いな。()(もっ)て模造格とは云え『神器』の一片(ひとひら)よ。龍影(リョウエイ)めに勘付かれずに持ち出すは至難の技よな』

 

「ちょエ!?!?」

 

『『神域』の展開が叶うは、鶴城(ツルギ)の敷地のみよ。鳥居から外へ出ずればヒトの子()の街よな。武士(もののふ)の死に絶えた時分に(こんなもの)を持ち歩けば、(たちま)ち警邏が飛んで来よう』

 

「ま、待って! 内緒で持ち出したの!? リョウエイさんたちに秘密でのお出掛けなの!?」

 

呵ッ々(カッカ)! 高々(たかだか)分体の一つよ、鶴城の役を果たすには何一つ支障は在るまいて』

 

『――――奔放にゃ……なのだな。鶴城(ツルギ)の神は』

 

「ちょっとぼくもびっくりしてますよ」

 

「オレだって理解の範疇外っすよ」

 

「わっ、わたくしは大丈夫にございます!」

 

 

 運転中ゆえ背後を振り向くわけにはいかないけれど……ラニちゃんが自慢(ドヤ)顔でふんぞり返ってるのが目に浮かぶようだ。

 

 この世界この時代にはあり得ない、空間魔法の使い手と意気投合したフツノさま。楽しそうで何よりですが、お散歩はほどほどにしていただけたらなぁって。……無理な気がするなぁ。

 

 

 静かに景色を眺めている限りは、目付きの鋭い美少年であるフツノさま……そんな神様の横顔をチラチラと伺いながら(もちろん安全運転で)車を走らせることしばし。

 やがて車は浪越環状高速道路へと流入し……急遽予定変更された目的地へと到着が近づいたことを、陽の傾きと共に告げられる。

 

 

 ちょっと迷惑行為に片足を突っ込むかもしれないけれど……きょうはこの先の三納加模(みのかも)サービスエリアに移動拠点(ハイベース)を設置し、ラニちゃんの【門】で強行帰宅をさせていただく作戦である。

 明日の朝は自宅からこの車内へと【門】で転移し、三納オートサービスさんのところへ向かうわけだな。そのときはさすがにフツノさま(分体)やミルさんは同行しないので、ここでお別れする形となる。

 

 

 

「……はい、到着です。おつかれさまでした、皆さん」

 

「「「「お疲れさまでした」」」」

 

有無(ウム)。御苦労であった』

 

 

 道中の寄り道のせいもあって、三納加模(みのかも)サービスエリアに到着する頃には既にどっぷりと陽が暮れてしまっていた。

 フードコートなんかはまだもちろん開いているだろうが……そんなにのんびりしていては、それこそ帰宅は夜遅くになってしまう。各々ばんごはんはおうちで済ませることにして、いよいよ帰宅の儀を執り行う運びとなった。

 

 

 まず妙にスッキリした笑顔のフツノさま(分体)を鶴城(つるぎ)神宮の畳の間へとお返しし、つぎにミルさんを港区の自宅マンションへとお送りする。

 二人とも今回の出張にはなんだかんだ満足してくれたようで、特にミルさんには満面の笑顔でお礼を言われてしまった。かわいいが。

 フツノさまは……うん。リョウエイさんにたっぷり絞られて下さい。

 

 

 そうしてこうして……残るはおれたちだ。

 大活躍の(ハイベース)三納加模(みのかも)サービスエリア駐車場の隅っこへと置かせて貰ったまま、まずはその車内に【座標指針(マーカー)】をセット。コンティニューポイントをしっかり確保した上で、岩波市山中のお屋敷へと向かい【門】を開いてもらう。

 

 一瞬の暗転の後、おれたちの足元はタイル調のアプローチへと様相を変え……目の前には大きな大きなおうちと、メイド服姿の天狗半面美少女が、一礼と共に出迎えてくれる。

 

 

「ただいま、天繰(テグリ)さん」

 

「……御帰りなさいませ、御屋形様。……おや? ……これはこれは……珍しいお客様で」

 

『――――(これ)は……驚いた。……さぞ(にゃ)の在る御方と御見受けする。……我輩は囘珠(マワタマ)百霊(モタマ)様より仰せつかり、暫しの間こちらへ厄介とにゃる……名を八海山(ヤツミヤマ)(ナツメ)と申す』

 

「……これは……ご丁寧に。手前は姓を狩野(カノ)、名を天繰(テグリ)。御縁在りて此方(こちら)の館の管理全般……等々(などなど)を請け負って居ります、天つ走狗の一翼に御座います」

 

 

 (なつめ)さんと天繰(テグリ)さんは、どうやらうまくやってくれそうだ。お互いに敬意をもって接してくれているので、見ていてとても安心感があるな。

 

 

 ……というわけで、自宅へ帰ってきて一段落ついたおれたち一行だが……これから色々と準備しなければならないので、ちょっとばかし忙しくなる。

 

 おれは作業部屋でPCに向かい、崇覇湖(すわこ)サービスエリアの映像を吸出して編集準備をしなければならない。

 せっかく『御神渡り』なんていうレア現象が(フツノさまのお陰で)撮れたのだ、旬を逃すわけにはいかない。おれが手ずから編集を施し、今日明日中には公開したいものだ。

 

 モリアキとラニは、毎度便利に使ってしまって申し訳ないが、買い出し係だ。

 行き先はいつものシオンモール浪越南、主として晩御飯……(なつめ)さんの歓迎会を開催するにあたってのお総菜の類いと、他でもない(なつめ)さんの寝床(ベッド)とかおトイレとか、あとおもちゃやフードやおやつ等々。

 モタマさま(いわ)く『ふつうの猫ちゃんと同じように可愛がってあげて』とのことだったので……もしかすると失礼かもしれないが、猫可愛がりさせてもらおうと思う。

 

 そしてそして、本日の主賓である(なつめ)さんは……霧衣(きりえ)ちゃんと天繰(テグリ)さんに、おうちの中とお庭の一部を案内してもらう作戦だ。

 家事全般担当の霧衣(きりえ)ちゃんと敷地内警備保全担当の天繰(テグリ)さんがいれば、抜かりなく案内してくれることだろう。

 ラニたちの帰還を感知したら戻ってきてくれるとのことなので、安心である。天繰(テグリ)さんぱねぇっす。

 

 

 

 以上、ばたばたと慌ただしくも夜は更けていく。やることはいっぱい、それでいて明日は大切な打ち合わせ、そのあと週末にはビッグイベントが待っているのだ。

 忙しいのは確かだけど……しかしそれでも確かに『楽しい』のだから止められない。止められるわけがない。

 

 新メンバーを迎え、さらに賑やかに慌ただしくなっていく『のわめでぃあ』。

 わたしたちの今後の活動を……どうぞ皆様、お見のがしなく!

 

 

 



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327【前夜放送】無線環境テスト




ヨシ、時を飛ばそう。






 

 

 いやぁ、不思議ですね。

 東京から引き返して、崇覇湖(すわこ)に寄り道して、三納(みの)加模(かも)サービスエリアに車を置いて一時帰宅したのが、まるで昨日のことのように感じられますが……

 

 なんと本日、一月二十四日の金曜日。ただいまのお時間は二十時というわけでですね。

 そう……二十五日と二十六日、土日で行われるキャンピングカーフェスの前夜にして、われらが『のわめでぃあ』定例生放送の時間が近づいているわけですね!

 

 

 

「……はい、みなさんこんばんわ。魔法情報局『のわめでぃあ』が、二十時をお知らせします。…………んー、っと……げんざい、てすと、ほうそう、ちゅー、です。……えへへ、テストなんですよ。びっくりしました? ごめんなさいね」

 

「大丈夫そうかな? ノワ、ちょっと軽く踊ってみて。映像のラグ見てみたい」

 

「んウー!? お、踊るって……()()で!? ちょっと無理がありゃしませんか!?」

 

「アッ、おっけー。ラグもほとんど無さそうだね。大丈夫そうだよ」

 

「な、なんか解せぬ! 釈然としないですが!」

 

 

 

 明日は朝九時前に東京入りしなきゃならないので、起きてから出発したのでは間に合わない。おれたちだけで飛んでいくならまだしも、当日はこの(ハイベース)も会場入りさせる必要がある。

 なんでも、この車がそのままおれたちの控え室となるようで。会場で展示される兄弟車両の並びに入れて、実機として外装バリエーションのアピールに使うほか……当日は小型カメラ(ゴップロ)片手にリアルタイムでライブ配信を行い、その際のスタジオとして居住性の高さをアピールする作戦らしい。

 

 あぁもちろん、控え室としておれたちが休憩するにあたって、一般のお客さんはハイベース号の中に入れないようにしてくれるらしいので……おれたちもあんしんだ。

 

 

 まぁ、つまりですね。イベントには(ハイベース)共々会場入りする必要があって、もちろん朝の三時とかにおうちを出れば良いんでしょうけど、やっぱり安心安定の前日入りを狙いたくてですね。寝坊とかしたらやばいし。

 でもそうなると、金曜夜の定例配信がネックになってきまして……定例配信が終わってから車を走らせるとなると、それこそ夜通し走り続ける必要があったりで、それはちょっと疲れそうなので。

 

 

 そこで、おれたち思い付きました。

 

 どうせ当日、ライブ配信のスタジオとして使うなら。

 

 前日金曜日の『のわめでぃあ』定例配信も、()()からお送りしてしまえばいいじゃないか……と!

 

 

 

 

「本放送は、このあと午後九時……二十一時、いつもの時間からお送りします。……ご覧いただいてわかるかもしれませんが、本日はちょっと趣向を変えてですね、カメラ近めでお送りしますよー。現在テスト放送中、現在テスト放送中。こちらはインターネット放送局『のわめでぃあ』です。……なんちゃって。えへへ」

 

「は? かわいいが? 何なのノワ誘ってるの? テストついでに雑談タイムいっとく?」

 

「べつに誘ってな……あー、いいかもですね。ちょっと今回、こういう体制なので。みなさんからのコメント、タブレットに流れてるので……タブ見ながらでごめんなさいね、決してSNS(つぶやいたー)中毒じゃないですからね」

 

 

 事前に告知してあった予定には無かったテスト放送だが……おれのチャンネルの配信開始通知を設定してくれている視聴者さんが、いち早く駆けつけて情報を拡散してくれたようだ。

 視聴者数も徐々に徐々に増えていき、タブレット上のコメントも少しずつ流れる速度が上がっている。

 

 本来ならば十分そこら回線強度と送受信速度をテストしてみて、早々に切り上げようかとも思ったのだが……どうやら喜んでくれているらしい視聴者さんに『ばいばい』するのも、それはなんかもったいない気がする。どうせ数十分後にはまた『ヘィリィ(こんにちは)』するんだし、じゃあ繋ぎっぱなしでもいいかなって。

 

 

 というわけで、せっかくなのでラニの提案に乗っかり、一問一答形式での雑談枠を設けてみよう。

 いつもの『放送中』スタイルのようにキチッとシャキッとキメた『わたし』とはひと味違った……ユルくてラフい雰囲気の、いろいろと『距離が近い』雑談枠。たまにはこういうのも良いだろう。よーしおじさんカメラ回っててもお茶飲んじゃうぞー。

 

 

「『きりえちゃんはいないの?』……ん、大丈夫。ちゃんといますよ。テスト放送はわたし一人……とラニちゃんで、霧衣(きりえ)ちゃんは本番に備えて待機してもらってるですね。やほー霧衣(きりえ)ちゃん」

 

「わ、わほー……!」

 

「は? かわいいが」「すきだが?」

 

「き、恐縮でございまする……」

 

「んふふふ。じゃあ次ー……『東京に来てたって本当?』えっとですねー、これは……言って大丈夫?」

 

「普通に大丈夫じゃん? フェーズⅢまで」

 

「おっけー。えっとですねー、じつは……ミルさんと、うにさん。先日のコラボ以降、ありがたいことに仲良くさせて貰っててですね……えへへー。……そうそう、『にじキャラ』さんの。()()Sea’s(シーズ)】さんですよ! なんとデートに誘ってもらいまして!」

 

「かわいかったよねぇ、二人とも」

 

「うん……めっちゃ(てぇて)ぇの。それでですね…………まだ具体的には明かせませんが、近々ちょっとした……ここは言ってもいいのか。コラボをですね、予定してましてですね!」

 

「そのための仕込みと打ち合わせと、ハイベース号の試験走行も兼ねて、だよね?」

 

「そうそう! みなさん見てくれました? われらがスポンサー『三納オートサービス』さん提供によるハイベース号の紹介動画をですね、投稿していましてですね! ……そう、そうです! 霧衣(きりえ)ちゃんかわいいのやつです!」

 

「わ、わうぅ!?」

 

「そしてなんと、その『三納オートサービス』さんも出展する『ジャパンキャンピングカーフェスin東京』がですね! 東京臨海展示場ビッグボックスにて、いよいよ明日開催されるんですよ!」

 

「ねぇノワ、それ本放送で話す内容だからね?」

 

「アッ!!!!」

 

 

 

 

 ま、まぁ……なにはともあれ。

 途中読み込みで止まったりブツ切れになったりすることもなく、放送そのものは問題なく行えているようだ。

 カメラの死角である反転(こっちむき)助手席シートに座って、自前のタブレットで配信を見てくれている霧衣(きりえ)ちゃんも、特に問題無さそうだと太鼓判を押してくれた。

 

 ごきげん光回線が引かれたいつもの自宅拠点ではなく、出先での無線回線での配信なので、正直回線強度に不安はあったのだが……これは今後も、ハイベースからの生配信に大いに期待が持てそうだ。

 

 

 というわけで、その後はもう三十分ほど突発雑談枠を設けて……名残惜しまれながら四十五分頃にカメラとマイクの入力信号を切り、配信待機画面を表示させる。このまま二十一時からの本放送に備える形だ。

 運転席で配信管理用のPCに向かっていたモリアキからもオッケーサインが出たので、今のうちにほんの数分だが休憩を取ることにする。お茶を飲んだり、小腹を満たしたり、おしっこを出したり……準備は万端だ。

 

 

 

 屋外活動拠点ハイベースからお送りする、記念すべき第一回目の『のわめでぃあ』定期活動報告配信。

 

 その幕が今……ついに上がるのだ。

 

 

 



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328【前夜放送】波瀾万丈人生遊戯

 

 

「わ、わかめさま! ふたごが! 霧衣(きりえ)めにふたごが産まれましてございます!」

 

「き、きりえちゃんの……きりえちゃんのあかちゃん……(ゴクリ)」

 

「ノワ起きて。家なしノワちゃん早くルーレット回して。未だに子どもが一人もいないノワ早く次進めて」

 

「わ、わかってまひゅ! そんなに言わなくてもいいじゃんかぁ!!」

 

「旦那様さえ見つかってないもんね……かわいそうに」

 

「憐れまないでもらえますか!? かなり泣きそうなんですけど!!」

 

 

『きりえちゃんのあかちゃん……』『あらやだおさかんですこと』『もう車いっぱいじゃん』『【¥10,000】出産祝』『子宝に恵まれないエルフだっているんですよ!!』『臨場感溢れるじゃれ合いてぇてぇ』『子だくさんきりえちゃん解釈一致』『大家族わうわう』『のわちゃんはなんでそんなに残念なの』『きりえちゃんおかあさん!!』

 

 

 

 はい、みなさんこんばんわ。本日は特設会場(ハイベース)よりお送りしております『のわめでぃあ』定例放送、誰が呼んだか『生わかめ』のお時間です。

 

 

 とりあえずは本放送も順調に進み……現在は、いよいよ明日開催される『ジャパンキャンピングカーフェスin東京』のイベント内容・タイムスケジュール等の告知を終え、当日参加メンバーそれぞれの意気込みを公表し終えたところですね。

 まぁなんというか、このあたりは一方的なおしらせとなるので、ざっくりばっさりと割愛させていただきましょう。

 

 

 ……そして、今。

 

 

 

「あっ! またあかちゃんが産まれましてございまする!」

 

「オアア!? えっ、お祝い金!? ちょ、ちょっ……子どもの人数×三万円ってエグ過ぎない!? 子ども何人いるの霧衣(きりえ)ちゃん!?」

 

「七人目にございまする。霧衣は幸せ者でございまする……えへへ」

 

「かわいいねぇ。まぁまぁお金くらいいーじゃん。ノワお金だけはあるんだから。家無いのに。お金だけは」

 

「わーーん! わたしもおうちほしいーー!!」

 

 

『なかないで』『わかめちゃんかわいそう』『家なしエルフかわいそう』『ウチにおいで……』『【¥500】ホテル代』『神待ちエルフときいて』『ホームレス女児エルフ……』

 

 

 

 車という括りでは当然広いが、かといって部屋として捉えるにはお世辞にも広いとはいえないこの特設スタジオ(ハイベース)……この中でも行える演目として、おれたちが白羽の矢を立てたのが、何を隠そう『ボードゲーム』。

 テーブルの上で完結する遊びであれば、配信にはこのテーブルの上さえ映しておけば問題ない。非常にお手軽に楽しめるし、種類も豊富。ネタ切れの心配も薄いだろう。

 

 というわけで、今回おれたちが挑戦しているのは『人生遊戯』。波瀾万丈な人生をスゴロク形式で疑似体験できる、ロングセラーの定番ゲームだ。

 

 アームとホルダーで固定した小型カメラ(ゴップロ)でテーブルの上を撮影しながら、愛用のダブルヘッドマイクでおれたちの臨場感溢れる(さわがしい)声を入力して……ほぼリアルタイムで配信へと流す。

 ヘッドフォンを使っている人には、たぶんおれたちの声が左右から聞こえる感じになるので、なかなか面白いことになってると思う。ふひひ。

 

 

 気になるゲームの進捗具合に関しては……まぁ、うん。おれたちの歓声と悲鳴からなんとなく察していただけるとありがたい。

 伴侶に恵まれ、多くの子宝に恵まれ、大きなマイホームでしあわせいっぱいな人生を送る霧衣(きりえ)ちゃんに対し……おれは、その、うん。お金はいっぱい集まったな。お金はな。

 

 

 

「『こども、てあて』? 『子ども一人につき、五万円を受け取る』……わ、わ、わっ、わうっ! おかねがいっぱいでございまする!」

 

 

「あっ! 念願のオウチだ!! …………うん? ……『欠陥住宅を買わされる。任意の物件をキープできるが、補修費用として売値の百パーセントを追加で支払う』…………お金ならあるし!!(半ギレ)」

 

 

 

 なんだか嫌な雲行きだなあ!

 

 お金を得る代わりにそれ以外を失う『試合に買ったが勝負には負けた』みたいな人生を暗示されているみたいで、なんだかとっても気が気でないが!!

 

 

 だが……なかなか悲惨な人生を送っている自分の(コマの)生涯を憂いていたところ……ふと、どこかこそばゆい空気の揺らぎを、おれの長い耳が捉え。

 

 思わずそちらへと視線を向けると……そこには、にっこりと楽しげに微笑む霧衣(きりえ)ちゃんの姿。

 

 

 

「すてきなご主人さまに恵まれて、立派なおうちにも住めて、斯様(かよう)にたくさん遊んでいただけて……霧衣(きりえ)めは、(まこと)幸せ者にございまする」

 

「……きりえ、ちゃん」

 

「若芽様、霧衣(きりえ)めがお(そば)に居ります。お仕事もお手伝いいたします。……ですので、どうか、ご安心を。霧衣(きりえ)めが、若芽様を不幸になどさせませぬ」

 

「…………ヴゥ、ッ! ぎりえぢゃ……(ずびずび)」

 

 

 きめた。おれ、この子をぜったいしあわせにする。

 こんないい子が悲しい顔をしなくて済むように、ひもじい思いをしなくて済むように……この子の、そしておれたちの平和を脅かすモノは、このおれが全力で取り除いてみせる。

 

 おれをこんなにも慕ってくれるこの子と、いろんな遊びで楽しいひとときを過ごし……そしてそれを視聴者の皆さんにお裾分けさせてもらい、霧衣ちゃんの『かわいい』を摂取してもらえるように。

 おれたちの活動が、健やかに続けていけるように。

 

 

 

「キリちゃんゴーーール!! やったね!!」

 

「わ、わふっ! やりました! やりました、若芽さま!」

 

「よーしよしよし! いい子だねぇ! ……子だくさんだねぇ」

 

 

『【¥10,000】ゴールイン(意味深)おめでとう!』『てぇてぇ』『そのまま夜のゴールインしようぜ』『【¥10,000】のわちゃんこづくりしよ』『きりえちゃん充実しまくりの人生』『俺の子かぁ』『デレデレのわちゃんかわいいねぇ』『うにたそおるやんけ』『うにちゃん……』

 

 

 

 多くの視聴者さんたちに見守られ、また祝福され……もはや勝負とかどうでもよくなってきた。というか、こんなに霧衣(きりえ)ちゃんがかわいくていい子なんだから……もうおれの敗けでいいや。

 

 とにかく……ほぼ真上からテーブルを映すこのアングルであれば、ボードゲーム配信なんかも問題なく披露できることがよくわかった。超人気声優さんが闇のゲームをやってる感じのアングルだな。

 ただし、リアルタイムともなればもちろん編集は挟めないので、状況の変化なんかはしっかり声に出してアピールしなければならないだろうが。

 

 

 

「今日はお試しなので……いろいろやってみましょうね。じゃあ次は……こちら! 『誰じゃ彼じゃ』です!!」

 

「……これはまた面妖な面持ちの……(なつめ)様、でございましょうか?」

 

「――――!!?」

 

(あっ)(あっ)

 

 

 思わず呻き声、というか鳴き声をこぼしてしまった(ナツメ)さん……その可愛らしいお声は果たして、高精度マイクがバッチリ拾ってしまったようだ。

 カードをシャッフルしているおれが見つめる先、タブレットに表示されるコメントには『ねこ』『ぬこ』の単語が溢れ始める。

 

 うーん……まぁ、特に秘密にする必要もないか。人語を喋らなければ何も問題ないわけだし。

 

 

 

「んー……バレてしまっては仕方無いですね。ナツメちゃん、こっち。テーブルおいで?」

 

「――――――(ふいっ)」

 

 

 不承不承、を気取りながらも……しかしおれの観察眼はごまかせない。この子がカメラやマイクやタブレットに興味津々なのを、おれたちはバッチリお見通しなのだ。

 オーバーヘッド部分のミニベッドから軽やかに飛び降り、(ナツメ)さんはテーブルの上へ。カメラとマイクがその姿を捉え、コメントは一気に盛り上がった。

 ……なるほど、やっぱみんなどうぶつ好きなんだな。そうだよな、おれだって好きだもん。

 

 

 

「えー……それでは、ギャラリーのナツメちゃんも交えて、『誰じゃ彼じゃ』をやってみようと思います! えっとまず、このゲームはですね……」

 

 

 

 

 

 伝えるべき告知もちゃんと伝えたし、いろんなボードゲームを一緒に堪能したし、新メンバー(?)ナツメちゃんの紹介も(一方的に)したし……そして、回線強度の試験も無事に済ませることができた。

 二十三時を少し回った頃に、だいたい予定通りにクロージングも済ませ……一月二十四日の『生わかめ』は惜しまれながら、つつがなく終了のときを迎えた。

 

 

 大都会東京の湾岸地区某所、夜景のすてきなパーキングエリアにて……おれたちは確かな手応えを感じていたのだった。

 

 

 

 ……明日も早いぞ。

 

 



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329【国展催事】エルフです現場入ります

 

 

 展示即売会の朝は早い。

 

 すぐそこの臨海湾岸パーキングエリアで一夜を明かしたおれたちは、まだ空が明るみ始めるその前からいそいそと行動を開始した。

 

 顔を洗って身支度を整え、【洗浄】やら【消臭】やら【除菌】やらをぶちまけて、きわめて迅速に準備を完了させる。

 【集中】を掛けてねむけを完全にすっ飛ばしてハンドルを握り、アクセルペダルを丁寧に踏み込む。打ち合わせの際に貰っていた地図をもとに、東京臨海展示場ビッグボックスの東ホール裏手、搬入口のトラックヤードへと向かう。

 

 次第に明るみを帯びていく首都東京の港湾エリア……目的地に近づくにつれてやはり目立つのは、形状もサイズも実に多種多様なキャンピングカーの群れ。

 もしかしなくても……行き先はおれたちと同じ展示場であり、目的もまたおれたちと同じ『ジャパンキャンピングカーフェスin東京』、その当日搬入組なのだろう。

 

 

 

 

「あっいた! 多治見(たじみ)さーん! おはようございまーす!」

 

「ちょっと先輩声が大きいっす! めっちゃ注目浴びてますよ!?」

 

「わははもう開き直ったさ。どうせイベント中は撮られまくるんだぜ? なら今から目立っちゃったほうが話題になるだろ」

 

「まぁ……このナリでハイエース運転してりゃ、そりゃあ話題になるでしょうね……」

 

 

 今回のおれのお仕事が『プロモーション』である以上、つまり今回ばかりは()()()()()が目的となる。

 おれが目立つということは、それすなわち『三納オートサービス』さんのブースが注目されるということに他ならない。たとえどんな切っ掛けであったとしても――実在エルフなんていう珍獣を見るためだったとしても――興味を抱いてもらえた時点で、おれの役目は果たせるのだ。

 今まででは悪い意味で目立っていたおれの容姿だったが……こういうときばっかりは、日本人離れした容姿で良かったなって思う。

 

 

 さてさて。クライアント様である三納オートサービス社の方々と無事合流し、改めてご挨拶をきちんと済ませる。おれは立派な社会人であるからして、挨拶は大事よね。

 

 気になるブースの準備のほうだが……ぶっちゃけ大モノの搬入に関しては、おれたちのハイベースで最後だったようだ。グレードや一部装備の異なる兄弟車輌や、大型の展示パネルや大道具なんかは……なんでも昨晩の前日搬入で設営済らしい。

 おれたちとハイベースは当日(本日)朝の搬入時間を狙って入構を済ませる予定だったので、こうして最後に合流するかたちとなったわけで。これで必要な商材はすべて揃ったわけだな。

 

 

 

 

「それでは改めて……本日と明日、接客補助として参加してくださる『木乃若芽』さんです。……若芽さんすみません、一言お願いできますか?」

 

「は、はいっ! ……ご紹介にあずかりました、木乃若芽(きのわかめ)と申します。皆さんの想いが詰まった商品をお預かりし、実際に愛用させて頂いている者として、一人でも多くのお客様にこの()の良さを訴求できるよう尽力いたします。皆さんのお仕事の邪魔をしないよう、少しでもお手伝いできるよう頑張りますので……どうか、宜しくお願いします!」

 

「「「宜しくお願いします!!」」」

 

 

 

 その後は本日のおれのアシスタント……主に配信全般のフォロー要員として、ラニちゃんの代わりにモリアキを紹介。

 また会場での呼び込み業務には不参加だが、同じく配信を行う際のパーソナリティとして……満を持して、霧衣(きりえ)ちゃんをご紹介。

 ぺこりと可愛らしくお辞儀をしたときの、あの割れんばかりの拍手といったら……両隣のブースのスタッフさんたちも『何だ何だ』と意識を引かれ、直後思わず暖かな笑みを浮かべてしまうほどの愛らしさであろう。わうわう。

 

 というわけで、今日のおれはちょっとしたハードワークが待っている。お客さんを呼び込みながら、リアルタイムでお仕事のようすを配信しながら、ときには車内特設スタジオからの配信で、この『ハイベース号』の可能性を多くの人々に知らしめなければならないのだ。

 多治見(たじみ)さんはじめ営業スタッフの方々は、みんな感じの良い方々だったので……なおのこと、おれにこんないい()を預けてくれた彼らの力になりたい。

 

 

 不安は確かにあるのだが……幸いというか、おれたちは()()()()()にはそこそこ耐性があるので、なんだかんだ大丈夫だと思う。

 平均して年に二回は来てたもんな。会場も同じだし。東3ホールとかもう家みたいなもんだわ。……まぁ、家はさすがに言い過ぎたわ。

 

 

 

 

「あの、若芽さん。……すみません、そろそろ衣装のほう良いですか?」

 

「あっ……そうですね。……うん、時間あるうちに着替えちゃった方がいいですよね」

 

「お願いします。車外モニターとPCのセットアップは我々でやっておくので、着替え終わったら確認をお願いします」

 

「あぁ、じゃーオレもコッチ見てますんで、若芽ちゃんは車内でゆっくり着替えてきて下さい」

 

「りょーかいです! ……では、ちょこっと失礼しますね!」

 

 

 イベントスケジュールにふんふん言いながら目を通していたおれは、多治見さんの助言に従い『仕事服』へと着替えるため、控え室でもあるハイベース号の中へと引っ込む。

 おれが車内へと消えていくや否や、多治見(たじみ)さんが恐らく知り合いなのだろう他社の方々に取っ捕まっているのが見えた。ついでにモリアキも巻き添えってた。

 フフフ、おれってば罪な女だ。……男だが。

 

 

「へい! ラニちゃんカモン!」

 

「おーけー!」

 

 

 バンクベッド部分で(なつめ)さんと遊んでいたラニちゃんを呼び寄せ、本日の衣装を出してもらう。衣装とはいってもそんなに特殊なものではなく、いつぞやのお庭探検で身に纏った『エルフの斥候(スカウト)』装備だ。

 おれの神秘性を表現し、それでいて嫌らしくないテイストで纏めるためには、やっぱりこれくらいが丁度良いらしい。やっぱり外見年齢十歳程度というところがネックであり、一般的なキャンペーンガール的な衣装は……さすがに都条例が黙っちゃいないだろう、とのこと。

 まぁでも実際、おれたちもこの格好は気に入っていたので、評価してもらえたなら単純に嬉しい。

 

 

「やっぱノワの生着替えは興奮するね」

 

「ラニちゃんわかってるね? 今回ばっかりは調子にのって姿晒さないでよ?」

 

「わかってるよぉ。ずーっとクルマの中でナッちゃんと戯れてるから!」

 

『――――し、仕方のないヤツよにゃあ。……ぬしがどうしてもと云うのなら、付き合ってやらんこともにゃ……無い、ぞ』

 

「……ふふ。お願いね、(ナツメ)さん」

 

 

 仲間たちと言葉を交わしながら、おれは長袖シャツとスカートを脱ぎ捨て、てきぱきと『エルフの斥候(スカウト)』装束を身に付けていく。実戦仕様の高級装備とはいえ、今この世界においては単なるコスプレ衣装に過ぎないだろう。

 

 だが……単純に似合ってるのもあるが、その縫製はしっかりと細かく仕立てられているため、非常に見映えがする衣装なのだ。

 弓と矢筒(※ただし入っている矢束はさすがにフェイク)も身に付ければ……ほら、完璧なエルフだぞ。わはは。

 

 

「若芽様。お支度は整いましてございまするか?」

 

「んー…………んっ。大丈夫そうだね。おっけーだよ霧衣(きりえ)ちゃん。……もしかして、皆さんに?」

 

「はいっ。建物内とはいえ、少々冷えますゆえ……」

 

「やさしい……っ! いいこだねえ! きっとみんな喜ぶよ……!!」

 

「……っ、はいっ!」

 

 

 

 おれは紙コップを収納から取りだし、お湯の沸いたケトルを掴む。

 霧衣(きりえ)ちゃんははにかみながらお礼を告げ(※とてもかわいい)……お盆に急須と茶筒と鍋敷きを乗っけて、丁寧に持ち上げる。

 

 

 三納オートサービスのみなさんに、温かなお茶を振る舞おうという……とっても温かな心の持ち主である、やさしくてかわいい和装美少女。

 そんな究極の逸材が……よくよく考えてみれば、情報に餓えた展示即売会場の出展者たちに、目をつけられないはずもなく。

 

 

 電動スライドドアがゆっくりと開いていき、車外の様子が徐々に伺えるようになって……おれたち二人は図らずも、同じ『おくちあんぐり』で硬直してしまった。

 

 

 

 

 いや、ひ と お お く な い ?

 

 

 



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330【国展催事】客寄せエルフ

 

 

『――――只今より、『ジャパンキャンピングカーフェスin東京』を、開催致します!』

 

 

 

 館内放送でイベントの開始が告げられ、万雷の拍手が響き渡る。おれやモリアキ(マネージャーさん)にとっては、およそ年に二回のペースで非常に身に覚えのある光景だ。探し物は何でしょうか。

 

 ただいつもの()()と違っているのは……所狭しと並べられているのが長机と長椅子ではなく様々なキャンピングカーであり、取引されているものが薄い本ではなくゴツい車輌である……といったところだろうか。

 とはいえ会場の雰囲気そのものは、大変慣れ親しんだものである。館内のコンビニの場所もATMの場所もお手洗いの場所もコインロッカーの場所も熟知している、たいへん馴染みのある会場だ。

 まぁ、今回はそれらにお世話になることは無さそうだが。

 

 

 というわけで、いよいよ始まりました『ジャ(中略)スin東京』。以前よりお伝えしている通り、おれの本日のお仕事は早い話が『客寄せパンダ』なわけなのだが……まぁまだお客さんの入場が始まったばかりだ。

 込み合うまで少し時間があると思われるので、いちおうおれに割り振られた業務チャートを簡単に説明させていただこう。

 

 

 まず、基本待機について。クライアント様であらせられる『三納オートサービス』さん側としても、おれの『エルフ種』という属性と能力を前提としてプランを組んでくれていた。

 なんとなんと、ブースのフレームと単管パイプを駆使し、樹木の枝をイメージしたおれ専用のお立ち台……もとい、待機スポットをつくってくれていたのだ!

 まぁ木や葉なんかの飾り付けはスタイロやらフェイクグリーンなわけだけど……ぱっと見で『木だ!』ってわかる程度には、しっかり飾ってくれていた。

 

 高さは目測で百五十センチほど。というのも、あんまり高すぎると安全帯が必要になってしまうのだとか。ここに立つことはほぼ無い想定なのだが、念のためにと安全手すりも付けてもらっている。やさしい。

 構造としては、片持ちで出っ張った棚板といった感じだろうか。三角形の形に方杖(ほおづえ)も組まれており、おれが『ひょいっ』と飛び乗っても、この通り。ガタつきなんかは感じられない。

 ……着地も見事に決まったな。感嘆のお声も浴びて、いい気分だ。

 

 こんな感じで、昇り降りには(ふつうのひとは)若干難儀するだろうが、枝の上にはちゃんと六百ミリ幅の天板を渡してくれてある。その上さらにウレタンクッションまで敷いてくれているので、意外と座り心地は悪くないし……それになにより、とても目立つ。

 

 

 この――まぁ、安全のため立つことはほとんど無いのだが――おれ専用の『お立ち台』とでも言うべき専用ステージから来場者の方々に呼び込みを行うこと、また場合によっては降りて簡単な接客をしたり、また昇って休憩がてらアピールを行ったりすることなんかが……本日のおれの主なお仕事となるわけだ。

 

 

 コンセプトイメージとしてはずばり『森の中で木の枝に腰掛けてるエルフ』な感じらしい。そういうことなら、はりきって神秘的ムーブさせていただこうじゃないか。

 

 

 

「わかめちゃーん! ヤッホー!」

 

「やっほー! がんばりましょーねー!」

 

「こっち向いてー! わかめちゃーん!」

 

「はーい! ぴーすぴーす!」

 

「わかめちゃんイェーイやっほー!」

 

「いぇーい! みんな元気ー?」

 

「「「「「いぇーーい!!」」」」」

 

 

(神秘的が……なんだって?)

 

(いわないで、おれも思ったから)

 

 

 ま、まぁ……近くのブースの方々は、同業他社のライバルであると同時にイベントを戦い抜く戦友でもある。仲良く騒いでも大丈夫だろう。

 というか、会場全部が同じジャンルなんだもんな。同じ趣味を持つものどうしが互いにリスペクトし合える……他社の方針やアイディアを知ることができる、貴重な交流の場だ。やっぱりこういう場は良いものだな。

 

 

 なおおれの本日のお仕事は、『のわめでぃあ』でも中継させてもらう予定だ。それに(ともな)い業務中小型カメラ(ゴップロ)を回すことに関しては、クライアント様からもきちんと許可が出ている。あんしんだ。

 

 手持ちのアクションカメラと、何台かの据え置きのカメラ……うち一台は『お立ち台』にもバッチリセットされている。

 それらの映像をうまいこと切り替えて、車内特設編集ルームのモリアキとラニちゃんが映像を作ってくれる手筈になっている。

 ちなみにディレクター陣からの指示なんかは、こっそり装備しているインカムと思念通話でバッチリの予定だ。抜かりはない。

 

 こうして出来た映像は『のわめでぃあ』でも中継配信されるほか、ブース内に『のわめでぃあ』を流す専用のモニターも用意してくれた。まじノリノリですね。ありがてぇ。

 

 

 

「わかめちゃーん何か歌ってー!」

 

「そういうイベントじゃないですしー! そういうのはわたしのチャンネルで! 迷惑かけない形でやりますので!」

 

「次こっち目線良いですかー!」

 

「そ、そういうイベントじゃないですってばぁ! 車見てくださいよキャンピングカー! いい()揃ってますよほらぁ! ……よい、しょっと」

 

 

 一瞬軽い悲鳴が上がったりもしたが、きちんと体力補強バフを纏ったおれは軽やかに着地し、おしごとのほうも()()()とこなす。

 おれたちの控え室ではない、内部公開されているほうの車輌へとご案内し、そちらで待機している多治見(たじみ)さんたち営業チームに対応を引き継いでもらう。

 

 珍しいもの(おれ)見たさで立ち寄ってくれたお客さんでも、結局のところはキャンピングカーに興味があって、今日このイベントに来てくれたわけだ。

 見学可能な車輌(男のロマン)を目の前にすれば、そりゃ詳しく見てみたくもなるだろうな。いいぞ。

 

 

(いやぁ……めっちゃ大好評じゃん)

 

(うれしいね。おれの突飛な容姿でも『モノは使いよう』ってわけだ)

 

(えーっと、あの……うん……がんばろうね)

 

(がんばるよぉー! おれが必要とされてるんだもん!)

 

 

 

 徐々に増えてきたお客さんによって、多治見さんたち営業スタッフさんはフル稼働状態のようだ。嬉しい悲鳴ってヤツかな。

 なのでおれは対応順番待ちのお客さんをとりあえず列に並べて……お客さんからの質問に対して、おれの答えられる範囲で使用感とかを答えていく。

 多くのお客さんを相手取ることは、年末年始に経験済みだ。これくらいの密度など、まだまだどうということはない。

 

 

「次の方お待たせしました! どうぞお進みください!」

 

「ありがとねお嬢ちゃん! 『ユースク』ってぇのも見てみるよ!」

 

「わあい! ありがとうございます!」

 

(……まー、楽しそうだから良いとしようか)

 

(めっちゃたのしいよ!)

 

(無理しすぎないでね。二時間経ったら声かけるから、ちゃんと休憩すること)

 

(はあい。ありがと、ラニ)

 

(…………ふふっ。いえいえ)

 

 

 

 イベントはまだまだ始まったばかり。

 チーム『三納オートサービス』一同、がんばっていこうぜ。エイオー!

 

 



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【おまえも】木乃若芽ちゃんを語るスレ_第二十五夜【かわいいよ】

 

 

 

0001:名無しのリスナー

 

※※※わかめちゃんまとめ※※※

 

名前:木乃 若芽(きの わかめ)

年齢:自称・百歳↑(人間換算十歳程度)

所属:のわめでぃあ(個人勢・序列最下位)

身長:134㎝(ちっちゃいおねえちゃん)

主な活動場所:YouScreen

お住まい:浪越市→浪越市近郊山間部(?)

家族:ラニ(嫁)きりえ(嫁)なつめ(先生)

 

備考:かわいい・よわよわ・へちょへちょ

 

 

0002:名無しのリスナー

 

※※※わかめちゃんまとめ※※※

 

・魔法情報局局長

・合法ロリエルフ

・魔法が使える(マジ説)

・肉料理が好き

・別の世界出身

・ざんねん

・「~~ですし?」

・とてもかしこい

・おうたがじょうず

・実在ロリエルフ

・じつはポンコツ

・命乞いが得意

・わかめ料理(意味深)

・お引っ越ししました!

・ガチ多言語対応

・ 序 列 最 下 位

・ 渋 谷 区 の 妖 精

・ ハ イ エ ー ス 

 

(※随時追加予定)

 

 

0003:名無しのリスナー

 

>>1 乙

おねえちゃん多妻

 

 

0004:名無しのリスナー

 

>>1

乙ですわ

 

 

0005:名無しのリスナー

 

>>1-2

スレ乙

イベント始まったら加速するだろうしな、良いタイミングだわ

 

 

0006:名無しのリスナー

 

>>1

スレタテ乙

 

タイムテーブル見たわ。無茶するなぁ本当

 

 

0007:名無しのリスナー

 

どこに行こうとしてるのか

あれ個人勢だよな?手広くやりすぎじゃね?

 

 

0008:名無しのリスナー

 

ラニちゃんが度々思わせ振りなつぶやきしてるせいでワクワクで不安だわ

わかめちゃんが今どれだけの企みを秘めてるのか全容が知れない

 

お庭とかも意見募ってから続報無いよな?

まさか頓挫したとか……?

 

 

0009:名無しのリスナー

 

渋谷駅に出没わかめちゃん笑うわwww

森の妖精さんじゃなかったんか。畜生俺も拝みたかったわ

 

 

0010:名無しのリスナー

 

キャンピングカーで行動範囲広がります!!て言うとったからな、旅の頻度も増えるんだろうか

 

昨日のアレはビビったけどな。出先から二時間生配信とか覚悟キマッとる

ユーキャスでやってるやつはよく見るけど、ユアキャスで屋外配信はあんま聞かないもんな

 

 

0011:名無しのリスナー

 

>>8

お前らがプールとか露天風呂とかヌーディストビーチとか無理難題を投げつけるからだろ!!

俺もだけど!!!

 

 

0012:名無しのリスナー

 

渋谷マグネでのわきり目撃ってやっぱあれかな、きりえちゃんの着飾り計画?

有言実行してくれてるのな。たのしみ

 

 

0013:名無しのリスナー

 

あと30分で開場

 

 

0014:名無しのリスナー

 

>>10

わかめちゃんをユアキャスに分類するべきか否かは専門家の中でも意見が別れるところだがな

 

 

0015:名無しのリスナー

 

>>10

ユアキャスでは虹のちふりんが一応やってたな

あの子の場合はずっと一人称視点で空飛んでただけだけど

 

 

0016:名無しのリスナー

 

東京民は良いよなぁ、コミフェスだけじゃなくわかめちゃんも堪能できるってんだからよ……

旅行企画まじ期待してるぞわかめちゃん……西表島きて……

 

 

0017:名無しのリスナー

 

ビッグボックス東館とか実家よりも通ったわ

 

 

0018:名無しのリスナー

 

でも私設チャンネルでイベント中継って、相当無茶なことやってるじゃん?

キャンギャルやって接客しながらカメラ回すってことでしょ?

 

 

0019:名無しのリスナー

 

>>16

希望を捨てるな。共に頑張ろう

俺も伊逗大島から応援してるぞ。

 

 

0020:名無しのリスナー

 

>>16

喜界島のワイ心中お察ししますですわ

 

 

0021:名無しのリスナー

 

>>16

西表はエグいなwwww

東京ってどうやって行くんだ?那覇経由か?

 

 

0022:名無しのリスナー

 

はいしんはじまた

 

 

0023:名無しのリスナー

 

えいぞうきましたわ

 

 

0024:名無しのリスナー

 

すげえ車がいっぱいだ

コミフェス以外のビッグボックス初めて見たかもしれん

 

 

0025:名無しのリスナー

 

いつぞやの!!エルフアーチャーコス!!

かわいい!!!!

 

 

0025:名無しのリスナー

 

なんか視点高ぇなっておもったらお立ち台か!

木の枝か!解釈一致です大道具さんGJ!!!

 

 

0026:名無しのリスナー

 

これあれか、アクションカムにハンドグリップとマイク付けて自分で回してるんか

よーやるわ

 

 

0027:名無しのリスナー

 

あ定置カメラもあるのね

どんだけお金かけたのわかめちゃん……

 

 

0028:名無しのリスナー

 

すげえ、リアルタイムで映像切り替わったぞ

裏方さんおるんかな。ぜひともがんばってもろて

 

 

0029:名無しのリスナー

 

>>21

配信開始の波に呑まれたけど、西表には空港無いねんな。

なので船で石柿まで出て、そっから南覇に飛んで、南覇からやっと東京に飛べる感じになるねんな

石柿から直行便も無くはないけど費用がな……

 

 

0030:名無しのリスナー

 

あのハイベースのなかにきりえちゃんが

 

 

0031:名無しのリスナー

 

わかめちゃんのおへや見れるってマ??

 

 

0032:名無しのリスナー

 

会場めっちゃバイブス上がってるやん

見た感じ一般客の視線総浚いやぞwwww

お前らもっと車見ろ車wwww

 

 

0033:名無しのリスナー

 

あいどるじゃん

 

 

0034:名無しのリスナー

 

旅行企画も溜め込んでるんだよな。本当にこなせるんやろか

 

 

0035:名無しのリスナー

 

ヨシやっぱ行くか。

まってろよおまえら。オレの一眼でかわいいわかめちゃんをバッチリ抜いてやっからよ

 

 

 

………………

 

 

………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

 

 

 

0120:名無しのリスナー

 

既に行列できてんじゃねーか

 

 

0121:名無しのリスナー

 

なぁ俺キャンピングカーのイベントとかはじめて見るんだけどさ

普通こんな列形成するような販促会じゃねーよな?

 

 

0122:名無しのリスナー

 

営業スタッフがんばって

 

 

0123:名無しのリスナー

 

中見れる展示車両1台しかないもんな……

 

 

0124:名無しの現地特派員

 

オッス、オラ現地人

とりあえずプレスが唖然としてたので記念書き込

 

 

0125:名無しのリスナー

 

わかめちゃんはかわいいからな

 

 

0126:名無しのリスナー

 

質疑応答すげーな、どんだけ製品知識備えてるんだ

べつにこの会社の社員って訳じゃないんやろ?

 

 

0127:名無しのリスナー

 

製品のことここまで熟知してるキャンギャルおりゅ???

 

おりゅかもしれんな、単に俺なにも知らんし

 

 

0128:名無しのリスナー

 

完全にのわちゃんオンステージじゃん

 

 

0129:名無しのリスナー

 

それにしてもかわいい

 

 

0130:名無しのリスナー

 

並んでるおれら徐々に入れ替わってくせいか、やっぱ最初のおれらで出されたような質問何度も出てるな

 

しかしそれでも嫌な顔ひとつせずに答えてくれるのわちゃん天使かよ

 

 

0131:名無しのリスナー

 

『今日の私は販促要員ですので、製品に関係する質問でお願いします!』

『私個人に関する質問はまたの機会に!』

 

ざんねん……パンツのいろ聞きたかった

 

 

0132:名無しのリスナー

 

きりえちゃんはでないのかな

 

 

0133:名無しのリスナー

 

>>131

さすがに冗談だよな?

案件に集中しようと頑張ってる子にそんなくっだらねぇ質問とか、さすがに冗談だよな?

 

 

0134:名無しのリスナー

 

案件だもんな、いつものようにはいかないよな

 

 

0135:名無しの現地特派員

 

アウトドア系ユーキャスの有名所がちらほらこっち気にしてんの笑う

明らかにここブースだけ人口密度おかしいんだよな

 

 

0136:名無しの一般客

 

【速報】おしゃしん許可!!!

【速報】おしゃしん許可!!!

【速報】おしゃしん許可!!!

【速報】おしゃしん許可!!!

【速報】おしゃしん許可!!!

 

 

0137:名無しのリスナー

 

カメラ切り替わった

 

 

0138:名無しのリスナー

 

定置カメラアングル

 

 

0139:名無しのリスナー

 

ええええええええええええいいいいいなあああああああああ!!!!!

 

 

0140:名無しのリスナー

 

え?

は?マジで

 

 

0141:名無しの一般客

 

【朗報】しゃしんネットUPのおゆるし!!!

【朗報】しゃしんネットUPのおゆるし!!!

【朗報】しゃしんネットUPのおゆるし!!!

【朗報】しゃしんネットUPのおゆるし!!!

【朗報】しゃしんネットUPのおゆるし!!!

 

 

0142:名無しの現地特派員

 

『他の人のお顔が写らないよう注意してもらえるなら、つぶやいたーとか上げても良いですよ』

わかめちゃんやさしい

 

 

0143:名無しのリスナー

 

やさしい!!!!!!

 

 

0144:名無しのリスナー

 

この衣装すき

 

 

0145:名無しのリスナー

 

了解つぶやいたー待機します

現地のおまえら頼む……頼む……

 

 

0146:名無しのリスナー

 

これもう何のイベントかわかんねーな!!

 

 

0147:名無しのリスナー

 

「次のかたどうぞ!!!」

指示ガン無視して写真撮影に興じるおまえら自重しろwwww

 

 

0148:名無しのリスナー

 

果たしてこれ列のうち何パーセントくらいが真面目なお客さんなんだろうな

 

 

0149:名無しのリスナー

 

>>146

いうてモーターショーとかそんなもんじゃね?

車よりもチャンネー撮ることに集中してるカメコおるし

 

 

0150:名無しのリスナー

 

弓めちゃ綺麗だよな……安っぽくないしすごい

 

 

0151:名無しのリスナー

 

テロップwwww

 

 

0152:名無しのリスナー

 

裏方さんよーやるわ

 

 

0153:名無しのリスナー

 

突発撮影会実施中wwwwww

 

 

0154:名無しのリスナー

 

まぁウチのわかめは可愛いからな

 

 

0155:名無しのリスナー

 

ああっ、おしゃしんの時間が

 

 

0156:名無しのリスナー

 

会社名ロゴが背景に映り込むように立ち位置調整してたのまじプロの技

 

 

0157:名無しのリスナー

 

ミノオートサービスさんか。よくわかめちゃんを抜擢してくれた

 

 

0158:名無しのリスナー

 

写真許可は継続だって、よかったなおまえら!!!

おれもな!!!!

 

 

0159:名無しのリスナー

 

喉乾かないんかな……心配

 

 

0160:名無しのリスナー

 

>>157

MINOで「ミノー」らしいぞ

 

 

0161:名無しのリスナー

 

この後の予定ワイプたすかる

裏方さん有能

 

 

0162:名無しの現地特派員

 

いやびびった、この中継の編集っていうかカメラ切り替えとかテロップとか

あのへん車内にスタジオ仮設してるらしい

 

 

0163:名無しのリスナー

 

今起きた

なんでこんなことになってるんや(大歓喜)

 

 

0164:名無しのリスナー

 

今さらだけどエルフ弓士とキャンピングカーってめっちゃじわじわ来る組み合わせだよな

異世界転生キャンカー無双か?

 

 

0165:名無しのリスナー

 

>>162

車内そんな広々しとるんか……

昨日ゲームしとったテーブルとはまた別ってことやんな?

 

 

0166:名無しのリスナー

 

>>162

車内は見れるんですか!!?

わかめちゃんのおへやは覗けるんですか!!?

 

 

0167:名無しのリスナー

 

>>164

なるほど……異世界にキャンピングカーと一緒に転生して森の中でロリエルフ手懐けて……

イケる!!!!

 

 

0168:名無しのリスナー

 

なぞBGM入った

 

 

0169:名無しのリスナー

 

>>167

それは転生ではなく転移なのでは?(素朴な疑問)

 

 

0170:名無しの現地特派員

 

>>166

とりあえず窓は全部シェード掛かってて覗けない

フロントと運転席もカーテン掛かってるから、完全に外の視線遮られてるな

 

ただダッシュボードのほうに明らかに正規じゃない配線がのたくってたから、多分だけど助手席あたりを特設デスクとPC置いて編集スタジオに改造してるんだと思われ

 

正直かなりポテンシャル高いと思う、この車

 

 

0171:名無しのリスナー

 

そろそろナカのほうも見たいなぁ……

 

 

0172:名無しのリスナー

 

おれもキャンピングカー乗り回してロリエルフ手懐けたい

 

 

0173:名無しのリスナー

 

のわちゃんの座ってる板ほしい

 

 

0174:名無しのリスナー

 

明日もあるんだよな……ちょっと新幹線取るか

 

 

………………

 

 

………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

 

 

 

0250:名無しのリスナー

 

 待 っ て ま し た

 

 

0251:名無しのリスナー

 

いかないで

 

 

0252:名無しのリスナー

 

いかないで

 

 

0253:名無しのリスナー

 

開場のおまえらの悲鳴やべぇなwwwww

 

 

0254:名無しのリスナー

 

ワイどっちかっていうと中のが気になるから嬉しいわ

 

 

0255:名無しのリスナー

 

やっぱキャンカーはナカを覗いてなんぼよね

 

 

0256:名無しのリスナー

 

わかめちゃんのナカ

 

 

0257:名無しのリスナー

 

きりえちゃん!!!!

 

 

0258:名無しのリスナー

 

きりえたん!!!おでむかえ!!!!!

 

 

0259:名無しのリスナー

 

完全に妻じゃん

 

 

0260:名無しの現地特派員

 

これ現地にもモニターあって映ってるんだよな

車内見れてワクワクだわ

 

 

0261:名無しのリスナー

 

ひろいな

 

 

0262:名無しのリスナー

 

やっぱひろい、すごい

 

 

0263:名無しのリスナー

 

やっぱ編集席は助手席なんか

 

 

0264:名無しのリスナー

 

らにちゃんはいないの

 

 

0265:名無しのリスナー

 

うれしそうなきりえちゃんかわいい

完全に忠犬の顔ですわ……

 

 

0266:名無しのリスナー

 

まさかのwwwww

 

 

0267:名無しのリスナー

 

まさかのリベンジwww

 

 

0268:名無しのリスナー

 

昨日のリベンジってwwwwwそんな気にしてたのwwwww

 

 

0269:名無しのリスナー

 

ま、まぁ……車内スペースの広さをアピールするには良い考えか……?

 

 

0270:名無しのリスナー

 

BABANUKIDA!!!

 

 

0271:名無しのリスナー

 

まさかのトランプ

 

 

0272:名無しのリスナー

 

テントの中で定番っちゃ定番だもんな

 

 

0273:名無しのリスナー

 

なるほどキャンプの定番

 

 

0274:名無しのリスナー

 

ぬこwwwwwwwwww

 

 

0275:名無しのリスナー

 

ぬこおるやんけ!!!!

 

 

0276:名無しのリスナー

 

夏目先生おるやんけwwwww

 

 

0277:名無しのリスナー

 

カメラ近いカメラ近いカメラ近いカメラ近いカメラ近いカメラ近いカメラ近いカメラ近いカメラ近いカメラ近いカメラ近いカメラ近い

 

 

0278:名無しのリスナー

 

なつめ先生ガチ恋距離たすかる

 

 

0279:名無しのリスナー

 

にゃんこにゃんにゃんこ!

 

 

0280:名無しのリスナー

 

こんな広々車内だったらにゃんこ楽しいだろうな

 

 

0281:名無しのリスナー

 

今死ねばニャンコの赤ちゃんに転生してわかめちゃんに可愛がってもらえるんかな……

 

 

0282:名無しのリスナー

 

おまえら勝負のいくえを気にしてやれよwwwww

 

 

0283:名無しのリスナー

 

ねことキャンピングカー旅いいなあああああ

 

 

0284:名無しのリスナー

 

>>281

落ち着けwwwwwなつめ先生がメスである保証は無いんやぞwwwwwwwww

 

 

0285:名無しのリスナー

 

>>281

早まるなwwwwwwwwww

 

 

0286:名無しのリスナー

 

まぁ勝負とかどうせきりえちゃんが勝つし

 

 

0287:名無しのリスナー

 

キャンピングカーイベントでトランプやってそれを全国ネット中継ってよくよく考えると謎が強いな

 

 

0288:名無しのリスナー

 

>>284

マジレスすると毛の色で大雑把に性別は絞れるんだよなぁ

三毛猫にオスがほぼいないとかいうアレよ

赤と黒の毛色を発現する遺伝子はX染色体なんよ。細かい説明は省くけど、つまり赤と黒の2色の毛色を持つトーティとか三毛猫はかなりの高確率でメス

 

つまり夏目先生も恐らくメス

 

 

0289:名無しのリスナー

 

>>286

それを言っちゃあおしまいだよ!!!!

 

 

0290:名無しのリスナー

 

卓上遊戯でわかめちゃんがきりえちゃんに勝てたことってあった……?

 

 

0291:名無しのリスナー

 

きりえちゃんはのわめでぃあの中でもかわいい

 

 

0292:名無しのリスナー

 

二人でババ抜きってかなり不毛じゃねwwwww

 

 

0294:名無しのリスナー

 

>>288

ほえーサンガツ

 

 

0295:名無しのリスナー

 

なんでみんなナツメにゃんのこと『先生』って呼ぶのか気になってたんだけどwwwww

もしかしなくても漱石先生ってことかwwwナツメにゃんwwwww

こりゃ一人称は「我輩」で決まりですにゃんwwwww

 

 

0296:名無しのリスナー

 

>>288

なんか黒毛混じりのまだら模様はメスだって聞いた気がする

あれか、生物で習った遺伝のあれこれのやつか

 

 

0297:名無しのリスナー

 

まさかわかめちゃんスレで知識が増えるとは思わなかったわ……

 

 

0298:名無しのリスナー

 

【ナツメちゃんまとめ】

毛並:べっこう色

性別:おんなのこ

一人称:我輩

 

 

いやキャラ濃いな。さすがに我輩は無いやろ

かわいけりゃええんや

 

 

0299:名無しのリスナー

 

お前ら画面見てやれよ……わかめちゃん半泣きだぞ

 

 

0300:名無しのリスナー

 

カード配り終えた時点でだいぶ悲しいことになってたからね……

 

 

0301:名無しのリスナー

 

二人ばばぬきは不毛だよぉ、せめてもう一人か二人必要だよぉ

 

 

0302:名無しのリスナー

 

きりえちゃんうれしそう……

ごしゅじんさまとあそべて嬉しいんだね……かわいい

 

 

0303:名無しのリスナー

 

つよがるわかめちゃんはかわいいね……

 

強がってそのまま勝てたためしがないけどね……

 

 

0304:名無しのリスナー

 

>>301

わかめちゃんが無毛と聞いて

 

 

 

 

………………………………………………

 

 

………………………………

 

 

………………

 

 

 

 

 



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331【国展催事】これでも販促なんです


※しばらくイベント模様が続きます





 

 

「だ、誰ですか!? (ダイヤ)の九を止めてる悪い子は!! いったい何処の誰ですか!!」

 

「わ、わたくしではございませぬ! 信じてください! 若芽様!」

 

「大丈夫わたしはいつだって霧衣(きりえ)ちゃんの味方だから! というわけで(せき)さん早く(ダイヤ)の九出してください! わたしがかわいそうじゃないんですか!?」

 

「どちらかというと可愛らしいことになってるので、もうしばらく堪能したいなぁと」

 

「く、くされげどうめ!! ちくしょう!!」

 

(あっ! ノワおばか!! クライアントさんになんてこと言うの!?)

 

(だ、だってえ!!)

 

 

 

 東京臨海国際展示場、通称ビッグボックスの東ホール。

 全国規模のキャンピングカー展示即売イベントか開催されているその一角、とあるメーカーのキャンピングカー車内にて……かわいらしいエルフの少女の、切羽詰まった悲痛な声が発せられた。

 

 ……はい、おれです。ヘィリィ(こんにちは)

 

 

「わ、若芽様……申し訳ございませぬ」

 

「わたしのことは気にしないで霧衣(きりえ)ちゃん! ここはわたしに任せて先にいけ! わたしの代わりにヤツを……『三納オートサービス取締役の(せき)さん』をたおすんだ……!!」

 

「……っ! 拝命致しました! 関様に恨みはございませぬが、わが主命とあらば」

 

「ごめんなさい言いすぎました! そんな殺意高めなくていいですから……ふつうでいいから……」

 

「えっ……は、はいっ!」

 

「ははは……さすがに背筋が冷えました」

 

 

『忠犬きりえちゃんすっき』『よわちゃんはどおしてそんなにざんねんなの』『一瞬目がマジだった』『ここまで社名連呼されたらさすがに覚えそうやな……』『これはいい宣伝ですわ』『弊社……弊社もわかめちゃんに案件発注しましょう弊社……』『ほんきのきりえちゃんむねきゅん』『ワイも社名と名前連呼されたいンゴ……』

 

 

 

 実は初めてとなる、外部の方を巻き込んでの『のわめでぃあ』生配信……今回のあわれな犠牲者は、『三納オ(中略)社の(せき)さん』だ。

 

 現在おれたちがいったい何をやっているのかというと――まぁおわかりのように『七ならべ』なわけだが――われらがハイベース号の兄弟車種である展示車両、そのキャビンスペース内の広々テーブルにて、この『ひろびろ』感をアピールするためのデモンストレーションを行っている……というわけだ。

 なおこの様子は三納オ(略)社のスタッフによって撮影され、モリアキとラニチャンによる音声レベル調整などを経て、車外のモニターおよび『のわめでぃあ』にて中継配信されているかたちとなる。完全に催し物だな。

 

 予想外に伸びてしまった商談待機列だったが……おれと霧衣(きりえ)ちゃんと関さんとの白熱のカードバトル中継により、今のところ目立った不平不満は出ていない。

 強いて言えば、この兄弟車種『グランベース号』の中を見たいというお声が高まってきているらしいので……この試合が終わったら、とりあえずエキシビションマッチは一旦お開きになりそうだ。だからこそ勝ちたい。

 

 

「だいやの、いち! で、ございまする!」

 

「えらいぞ霧衣(きりえ)ちゃん! これでわたしの(ダイヤ)たちが…………誰ですか!! (ダイヤ)(キング)止めてるのは!? どうせ(せき)さんでしょうわたし知ってるんですからね!! 良いんですか!? 御社がそのつもりなら『三納オートサービスさんは取締役が平気な顔して(しち)ハラするような会社です』って吹聴しますよ!!」

 

「もうされちゃいましたね……じゃあ容赦する必要ありませんよね。いやー残念です」

 

「アッ、まって、待ってください、まっ、ちがっ、ちがうんです、これわちがうんです」

 

 

『取締役がんばれ』『ざこわかめ……』『取締役gj』『関さんその調子』『いいぞ関さん』『がんばれ関さん』『わかめちゃんがんばって(棒』『きりえちゃんいいこ』『クソザコ局長たすかる』『関さんがんばれ』

 

 

 謎の関さん人気によっておれの地位が脅かされる中……おれを大きく突き放して、関さんと霧衣(きりえ)ちゃんとの首位争いが繰り広げられる。

 関さんが(ダイヤ)の九を出したことで、おれもやっと(ダイヤ)の十、(ジャック)(クイーン)を出せるようになったのだが……残念、時既に時間切れ。

 

 

 

「アガりです。対局有難うございました」

 

「わ、わうぅ……」

 

「ちくしょおおおおおバカやろおおお!!」

 

(ノワ口調! クライアントさんだってば!)

 

 

 決して、クライアントさんである三納オ社の関さんに忖度したとかいうわけでもなく……今回ばかりは割と普通に負けた。七ならべ、侮りがたい。

 車内見学を希望するお客さんのため、いそいそとカードを集めて撤収の準備を整えるおれたちだったが……カメラの死角で関さんにアプローチを掛けてみたところ、なんとオッケーが返ってきた。……よって。

 

 

 

(せき)さん、勝ち逃げはゆるしませんからね。ちょっと『ハイベース』までツラお貸しいただけますでしょうか?」

 

「構いませんよ。受けて立ちましょう」

 

「よ、余裕ですね!? でも『ハイベース号』はわたしたちのホームグラウンドですので、今度は()()はいきませんから!」

 

「私も社員の期待を背負ってますので。社員と……視聴者さんのためにも、若芽さんには是非とも悔しがって戴かないと」

 

「な、なんてひどい会社だ! ちくしょうめ!」

 

 

『取締役wwwwww』『関さんよくわかっとるやないか!!』『依頼人を畜生呼ばわり草』『社員おれら説』『いいぞ取締役もっとやれ』『これは株価上昇待ったなしですわ』『いったい何をやってるんだこの幼女は!!』『クライアントを『ひどい会社』呼ばわりwww』『関さんも暇じゃなかろうに……』『い、一応車内スペースのアピールにはなってるから……』

 

 

 おれたちが退出し一般公開が再開される『グランベース号』から、こちらは一般には公開されない『ハイベース号』へ……ぞろぞろと移動する最中流し見た限りでは、配信のほうのコメントは良い感じに想定通りだった。

 また現地のお客さん……見学および商談待ちの人々からも、『取締役がんばれ』『関さんがんばれ』『きりえちゃんがんばれ』の声援を多数いただいた。わかめちゃんは?

 

 三納オートサービスさんが良い感じに受け入れられているようで、ひと安心だ。おれのこころはしょんぼりだけど。

 

 

 というわけで、即売会開場からの『のわめでぃあ』配信。

 おれは商品アピールに、質疑応答に、車内でのトランプゲームに、取締役をお迎えしてのゲームにと……ぶっ通しであれやこれやを披露し続けているのだが。

 

 関さんとのリベンジマッチ、ということで引きこもったわけだけど……そろそろおなかがすいてきましたので。

 リベンジマッチもほんきでやるけど、次の演目の準備も進めていこうとおもう。

 

 

 



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【おまえも】木乃若芽ちゃんを語るスレ_第二十五夜【かわいいよ】そのに


※ちょっと短いかもしれません。
大変申し訳ございません、責任取って局長が





 

 

………………

 

 

………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

 

 

0557:名無しのリスナー

 

ひっろ

 

 

0558:名無しのリスナー

 

セカンドシートが無いのか

 

 

0559:名無しのリスナー

 

すげぇ、リビングじゃん

 

 

0560:名無しのリスナー

 

ちゃんとキッチンもあるのか……

ええ、すげえ……ソファでっか

 

 

0561:名無しのリスナー

 

下フルフラットで三人と二段ベッドの上で四人か。

このスペースで大人三人川の字はやだなぁ……実質二人か三人かぁ

 

 

0562:名無しのリスナー

 

テーブルでっか

 

 

0563:名無しのリスナー

 

しちならべwwwwww

取締役と七ならべwwwwww

 

 

0564:名無しのリスナー

 

ノリ良いなこの取締役wwwwww

 

 

0565:名無しのリスナー

 

いいなぁ……弊社の執行部も理解あるヒューマンだったらなぁ……

 

 

0566:名無しのリスナー

 

きりえちゃんがんばれ

 

わかめちゃんは…………うん

 

 

0567:名無しのリスナー

 

アイドルと七ならべ遊べるとか裏山

役得ですわ……

 

 

0568:名無しのリスナー

 

まぁそうそう実力差とか出ないっしょ

いうて七並べぞ?

 

 

0569:名無しのリスナー

 

『はあとのはち、でございますっ』

『すぺえどのご、でございますっ』

↑かわいい

 

 

0570:名無しのリスナー

 

淡々と進んでくの逆に怖い

 

 

0571:名無しのリスナー

 

いうてそんな撮れ高も無かろうて

 

 

0572:名無しのリスナー

 

すぱちゃできないんか

 

 

0573:名無しのリスナー

 

きりえちゃん絶対『すぺえど』と『はあと』つってるよな

かわいいよな

 

 

0574:名無しのリスナー

 

パス

 

 

0575:名無しのリスナー

 

おっと、パス

 

 

0576:名無しのリスナー

 

大丈夫かわかめちゃん……

 

 

0577:名無しのリスナー

 

初パスはわかめちゃんか……

これは雲行きが楽しくなってきたな

 

 

0578:名無しのリスナー

 

わ、わかめちゃ……?

 

 

0579:名無しのリスナー

 

パス2wwwwwwやばいぞwwwwww

 

 

0580:名無しのリスナー

 

顔ひきつってません?

 

 

0581:名無しのリスナー

 

パス2wwwwww

 

 

0582:名無しのリスナー

 

わかめちゃんの表情を執拗に狙うスタッフ

よくわかってるじゃないか

 

 

0583:名無しのリスナー

 

wwwwwwwwwwww

 

 

0584:名無しのリスナー

 

やばwwwwwwww

 

 

0585:名無しのリスナー

 

やべーぞwwwwパス3wwwwww

 

 

0586:名無しのリスナー

 

めっちゃ視線泳いでるwwwwww

 

 

0587:名無しのリスナー

 

あーなーるほど作戦ね。作戦。

 

んなわけねえだろwwww見栄張るなしwwww

 

 

0588:名無しのリスナー

 

きりえちゃんかわヨ

 

 

0589:名無しのリスナー

 

取締役がんばれ

いいぞ取締役

 

 

0590:名無しのリスナー

 

取締役がんばって

 

 

0591:名無しのリスナー

 

あーららwwwwww

 

 

0592:名無しのリスナー

 

パス4wwwwww/(^o^)\

 

 

0593:名無しのリスナー

 

あーあーボロボロだよwwwwww

こりゃもうだめかもしれんねwwww

 

 

0594:名無しのリスナー

 

わかめちゃんがんばれー(棒)

 

 

0595:名無しのリスナー

 

wwwwwあーあーwwwwどんどんボロボロにwwwwww

wwwwかわいいねぇwwwwwwwww

 

 

0596:名無しのリスナー

 

泣きそうwwwwwwかわいいwwwwww

 

 

0597:名無しのリスナー

 

wwwwwwwwwwww

 

 

0598:名無しのリスナー

 

キレたwwwwwwwwwwww

 

 

0599:名無しのリスナー

 

パス5wwwwww

 

ついにキレたwwwwww

 

 

0600:名無しのリスナー

 

なんつー言いぐさwwwwww

 

おくちわる勢wwwwww

 

 

0601:名無しのリスナー

 

俺に任せて先に行けwwww

 

でも!!!!かわいいから!!!!!!オッケーです!!!!!!

 

 

0602:名無しのリスナー

 

関さんがんばれ

 

 

0603:名無しのリスナー

 

かわいそうはかわいい

 

 

0604:名無しのリスナー

 

こりゃもうだめかもしれんね

 

 

0605:名無しのリスナー

 

なんで七並べがこんなにおもしろいのwwwwww

 

 

0606:名無しのリスナー

 

三納オートサービス取締役の関さんがんばって

 

 

0607:名無しのリスナー

 

きりえちゃん忠犬かわいい

 

 

0608:名無しのリスナー

 

わかめちゃんきりえちゃんとけっこんしろ

 

 

0609:名無しのリスナー

 

わかめちゃんwwwwなかないでwwwwww

 

 

0610:名無しのリスナー

 

生わかめちゃんの悲鳴ききてぇなぁ

 

 

0611:名無しのリスナー

 

投了wwwwww

 

 

0612:名無しのリスナー

 

残念だったねぇ……

 

 

0613:名無しのリスナー

 

まぁこうなりますわな

 

 

0614:名無しのリスナー

 

しってた

 

 

0615:名無しのリスナー

 

かわいそう

かわいい

 

 

0616:名無しのリスナー

 

大の字wwwwwwだだこねないでwwww

 

ぱんつみえそう

 

 

0617:名無しのリスナー

 

ひろびろやなぁ……あれ扉の向こうトイレか?

 

 

0618:名無しのリスナー

 

リwベwンwジwマwッwチwwwww

 

 

0619:名無しのリスナー

 

取締役に駄々こねるなwwwwww

 

 

0620:名無しのリスナー

 

やさしい

 

がんばれ関さん

 

 

0621:名無しのリスナー

 

#がんばれ関さん

 

 

0622:名無しのリスナー

 

わかめちゃん応援されないのかわいそう

 

ワイは期待してるぞ。がんばって負けて

 

 

0623:名無しのリスナー

 

のわちゃんの悲鳴おいしいえす(^q^)

 

 

0624:名無しのリスナー

 

BABANUKIDA!!!

 

 

0625:名無しのリスナー

 

ばばぬき再び

 

 

0626:名無しのリスナー

 

じじぬきか?

 

 

0627:名無しのリスナー

 

これはジジ抜きか

 

 

0628:名無しのリスナー

 

どれがババかわかんないやつ

 

 

0629:名無しのリスナー

 

#関さんがんばれ

 

 

0630:名無しのリスナー

 

たかがババ抜きでこんなに応援される取締役おる?

 

 

0631:名無しのリスナー

 

きりえちゃんがんばれ

 

 

0632:名無しのリスナー

 

ぬこー

 

 

0633:名無しのリスナー

 

ぬこ先生ぇwwwwww

 

 

0634:名無しのリスナー

 

ぬこ先生ガチ恋距離たすかる

 

 

0635:名無しのリスナー

 

ぬこ先生とわかめちゃんときりえちゃん

癒し効果半端無いだろうな……

 

 

0636:名無しのリスナー

 

ごほうびおねだりwwwwww

 

 

0637:名無しのリスナー

 

やめとけわかめちゃんwwww

取締役にこれ以上迷惑かけんなしwwww

 

 

0638:名無しのリスナー

 

これ販促イベントやろwwwwww

クライアントに向かってなんだそのカワイイムーブはwwwwww

 

 

0639:名無しのリスナー

 

さすがのきりえちゃんもこれには困惑

 

 

0640:名無しのリスナー

 

きりえちゃんお困り表情かわゆすなー

 

 

0641:名無しのリスナー

 

ナビプレゼントwwwwww

 

 

0642:名無しのリスナー

 

カーナビプレゼントwwwwwwwwww

 

 

0643:名無しのリスナー

 

まじかよビッグボックス行ってくるか

 

 

0644:名無しのリスナー

 

ご成約特典カーナビwwwwww

 

 

0645:名無しのリスナー

 

関さんすみません

うちの局長がご迷惑を……本当すみません

 

 

0646:名無しのリスナー

 

#わかめちゃんがんばれ

 

 

 

 

………………

 

 

………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

 

0750:名無しのリスナー

 

ワンチャンあるか

 

 

0751:名無しのリスナー

 

これはワンチャン

 

 

0752:名無しのリスナー

 

局長が一抜けでカーナビプレゼント?

 

 

0753:名無しのリスナー

 

きりえちゃんなかないで

 

 

0754:名無しのリスナー

 

関さんが勝つかわかめちゃんが勝つか

 

わかめちゃんが勝てば開場成約特典カーナビ

関さんが勝てばよわちゃんかわいそう撮れ高

 

どっちに転んでもうまいな?

 

 

0755:名無しのリスナー

 

局長の良いところたまには見てみたいよな

 

 

0756:名無しのリスナー

 

あと何枚だ?

けっこう良い勝負じゃね

 

 

0757:名無しのリスナー

 

のわちゃんがんばれ

 

 

0758:名無しのリスナー

 

三枚!!!

 

 

0759:名無しのリスナー

 

良い勝負wwwwww

 

 

0760:名無しのリスナー

 

顔隠すのずりぃwwwww

表情隠すのおとなげねぇぞこの百歳児wwwwwww

 

 

0761:名無しのリスナー

 

おとなげないwwwwwwこれは女児

 

 

0762:名無しのリスナー

 

これには関さんも苦笑いwwwwwwwwww

 

 

0763:名無しのリスナー

 

イケる!!!!

 

 

0764:名無しのリスナー

 

がんばれ!!!、

 

 

0765:名無しのリスナー

 

かてるでこれ!!!?!

 

 

0766:名無しのリスナー

 

いったか!!!!!?

 

 

0767:名無しのリスナー

 

うおおおおおお!!!!

 

 

0768:名無しのリスナー

 

やった!!!!よわちゃんが!!!!!!

よわちゃんがつよいぞ!!!!やった!!!

 

 

0769:名無しのリスナー

 

拍手喝采wwwwwwwwwwww

 

 

0770:名無しのリスナー

 

あーそっかこれ現地でも流れとるんかwwww

 

 

0771:名無しのリスナー

 

関さん苦笑い

 

 

0772:名無しのリスナー

 

きりえちゃんしょんぽり

 

かわいい

 

 

0773:名無しのリスナー

 

きりえちゃんなぁwwww

めっちゃ表情に出るんだよな、やっぱ良い子なんだろうな

 

 

0774:名無しのリスナー

 

きりえちゃん駆け引きは苦手かぁw

かわいいなぁ

 

 

0775:名無しのリスナー

 

カーナビおめでとう!!!

 

 

0776:名無しのリスナー

 

【目録】会場成約先着一名様にカーナビオプション無料プレゼント

 

 

0777:名無しのリスナー

 

よくやったわかめちゃん

 

 

0778:名無しのリスナー

 

なんて?

 

 

0779:名無しのリスナー

 

はっえwwwwww

 

 

0780:名無しのリスナー

 

wwwwwwご成約wwwwwwww

 

 

0781:名無しのリスナー

 

さっそくご成約wwwwww

 

 

0782:名無しのリスナー

 

おめでとうわかめちゃんwwwwきみのおかげだwwwwww

 

 

0783:名無しのリスナー

 

なんかすげぇ顔してるぞわかめちゃんwwwwww

 

 

0784:名無しのリスナー

 

きみの頑張り(によるカーナビ)が決め手なんやでwww誇ってええんやでwwwwww

 

 

0785:名無しのリスナー

 

おめでとう!!!

 

 

0786:名無しのリスナー

 

カーナビおまけとはいえ、キャンピングカーをポンと成約しちゃうとかスゲェな

 

 

0787:名無しのリスナー

 

おかわりwwwwww

 

 

0788:名無しのリスナー

 

関さんwwwwwwすきwwwwwwwww

 

 

0789:名無しのリスナー

 

大丈夫か取締役wwwwむりすんなwwwwww

 

 

0790:名無しのリスナー

 

のわちゃんがんばれ!!!もう一本!!!!

 

 

 

………………

 

 

………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

 

 

0943:名無しのリスナー

 

めっちゃ上機嫌じゃん

手際良いなのわちゃん

 

 

0944:名無しのリスナー

 

これリンチャンがやってたやつか

 

 

0945:名無しのリスナー

 

パスタを割ります!!

 

 

0946:名無しのリスナー

 

イタリア人の悲鳴が聞こえた

 

 

0947:名無しのリスナー

 

コンロひとつあればお料理できるの良いなぁ……

やっぱ車内で立てるっていいなぁ

 

 

0948:名無しのリスナー

 

関さん元気だして

 

 

0949:名無しのリスナー

 

マグカップでっかwwwwww

 

 

0950:名無しのリスナー

 

カップでけぇ

 

スープカップか

 

 

0951:名無しのリスナー

 

お手軽やな、味付けはシチューのルウだけでええんか

 

 

0952:名無しのリスナー

 

おいしそう

 

 

0953:名無しのリスナー

 

関さんゲンキダシテwww

 

まぁでもカーナビ2つ支払ったとはいえ、会場成約2件ってデカいんじゃねーの?しらんけど

 

 

0954:名無しのリスナー

 

カップ5個?

裏方さんか?

 

 

0955:名無しのリスナー

 

車載冷蔵庫いいなぁ

 

 

0956:名無しのリスナー

 

ミルクwwwwww

ねこ先生かwwwwww

 

 

0957:名無しのリスナー

 

>>950

次スレ頼むぞ

 

関さん後で怒られるんかなぁw

 

 

0958:名無しのリスナー

 

ねこ先生のごはんか

 

 

0959:名無しのリスナー

 

ささみ派かぁー

 

うちのニャンコ様もささみ好きだな

 

 

0960:名無しのリスナー

 

きりえちゃんおてつだいかわいい

 

 

0961:名無しのリスナー

 

カセットコンロとフライパンでできちゃうのか

 

 

0962:名無しのリスナー

 

のわちゃん『おタマをうまくつかって』

 

 

0963:名無しのリスナー

 

のわちゃんがタマって

 

 

0964:名無しのリスナー

 

わかめ……おれのおタマもうまくつかってくれ……

 

 

0965:名無しのリスナー

 

おまんの代わりにカップで!??!?

 

 

0966:名無しのリスナー

 

わかめちゃんはなにカップですか

 

 

0967:名無しのリスナー

 

ワイもおタマで味見してほしい

 

 

0968:名無しのリスナー

 

変態どもがwwwwwwwwww

 

 

0969:名無しのリスナー

 

なんだこの気持ち悪いやつらwww

 

 

0970:名無しのリスナー

 

おいしそう

 

 

0971:名無しのリスナー

 

これ会場メシテロやろなぁ……おいしそうなにおいやばいやろ

 

 

0972:名無しのリスナー

 

いただきます(合掌)

 

 

0973:名無しのリスナー

 

取引先の取締役とランチとか胃が痛くなりそうなもんだが

 

 

0974:名無しのリスナー

 

いただきまーす

 

 

0975:名無しのリスナー

 

ねこ先生かわヨ

 

 

0976:名無しのリスナー

 

きりえちゃんふーふーかわいい

 

 

0977:名無しのリスナー

 

やっぱ裏方さんのぶんか

 

 

0978:名無しの現地特派員

 

>>971

実際ヤバイ

においと映像とリアルわかめちゃんの相乗効果でむらむらがヤバイ

 

 

0979:名無しのリスナー

 

【おタマ】木乃若芽ちゃんを語るスレ_第二十六夜【入れます】

htfps://ch_fiction/indextop/qawsedrftg202001jr/yowa10yo/

 

できました!

一緒にいただきますしましょう!!

 

 

0980:名無しのリスナー

 

関さんはよくがんばったよ

取締役でも叱られるんかなぁ

 

 

0981:名無しのリスナー

 

おれのおタマを入れてほしい

 

 

0982:名無しのリスナー

 

まさかおひるごはん中継メシテロされるとはおもわなんだぞ

 

 

0983:名無しのリスナー

 

おれはおタマをきれいに洗ってほしい

わかめちゃんのおててで手洗いしてほしいな

 

 

0984:名無しのリスナー

 

次スレあざす

きわどいけどまぁセーフやろ多分

 

 

0985:名無しのリスナー

 

>>979

大丈夫かそれwwwwww

 

 

0986:名無しのリスナー

 

関さんいいひとなんやろなぁ……

 

 

0987:名無しのリスナー

 

1000ならスク水

 

 

0988:名無しのリスナー

 

ワイも広報担当になって推しに案件発注したい……

 

 

0989:名無しのリスナー

 

車内でパーティーとかほんとキャンピングカーすげぇんだな

 

せっかくなので次はぜひシャワールームをですね、

 

 

0990:名無しのリスナー

 

三納オートサービスさんいいなぁ

でもキャンピングカーはさすがに手が届かないんだよなぁ……手軽に売り上げ貢献できる商品はないんか

 

 

0991:名無しのリスナー

 

1000なら神官わかめちゃん

 

 

0992:名無しのリスナー

 

>>989

天才か?

 

ビッグボックスでシャワーシーンとか青少年たちがたいへんなことになりそうだが???

 

 

0993:名無しのリスナー

 

おいしそう

 

 

0994:名無しのリスナー

 

いいなぁなかよしランチ

 

 

0995:名無しのリスナー

 

>>989

なんとかしてわかめちゃんをその気にさせるんだ

俺はわかめちゃんの入ったシャワーの蒸気を捕獲する準備しておくから

 

 

0996:名無しのリスナー

 

1000なら絆創膏

 

 

0997:名無しのリスナー

 

さっさと移っちまうか

埋め埋め

 

あ1000ならスク水で

 

 

0998:名無しのリスナー

 

>>990

車用アクセサリーメーカーだから手頃なのからあるぞ

ホームページみてみるよろし

 

 

0999:名無しのリスナー

 

次スレ移っとくか

1000なら調理師エルフ

 

 

1000:名無しのリスナー

 

ハイエースやっぱ広いよなぁ……もはや部屋だよな……

 

そりゃこんだけ広けりゃおにいさんたちもやることやれるわな!!ハイエースが風評被害されるわけやな!!!

わかめちゃんが運転するがわになるとは思わんかったがな!!

 

 

1001:

 

このスレッドは1000を越えました。

次回の放送をお楽しみに!

 

 



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332【国展催事】ちょっと休憩……

 

 

 あーーなるほどね!!

 

 なるほどなるほど!!!

 

 おっけー。これはなかなかハードだわ。

 

 

 

 

「の、ノワ……大丈夫?」

 

めんめんだいびゅぶ(ぜんぜんだいじょぶ)

 

「アッ、だめだねこれはね。我は紡ぐ(メイプライグス)……【快気(リュクレイス)】」

 

「あ゛あ゛ーーーーーー」

 

『――――だ、大丈夫なのか……家主殿は』

 

「大丈夫大丈夫。ちょーっとキモチよくなっちゃってるだけだから」

 

キぐ(効く)ゥーーーーーー」

 

『――――そ、そうか……』

 

 

 

 つい先程まで、われらがハイベース号へとお客さん――三納オ(略)社取締役の関さん――をお招きして、『わかめのおはなしクッキング【出張版:カンタン車中泊メシ編】』をお送りしていたおれたちだが……現在はというと、配信画面に別の動画を流しての休憩中である。

 

 ちなみに休憩のお供は、先日撮れたてほやほやの崇覇湖(すわこ)サービスエリアお出掛け動画。今回が初公開となるので、視聴者さんたちにとっても『見飽きた』感は無いだろう。

 いろんな『撮れ高』をおよそ三十分程度の尺に纏めてあるので、つまりはその動画が流れている間……最低でも三十分程度は、脱力しきって休憩する時間が得られるというわけだ。

 

 まあ……一度小休憩はあったものの、それ以外はほとんど立ちっぱ動きっぱ喋っぱだったもんな。われながらよくがんばってるとおもうぞ。えらいぞおれ。

 

 

「先輩お疲れっす。多治見(たじみ)さんから労いの言葉頂いてますよ。お陰様で例年に無いペースで成約、ないしはクロージングアポ取れてるらしいです」

 

「ン゛い゛っ。…………うん。お役に立ててるようでよかったわ」

 

「先輩ホント大丈夫っすか? 今変な鳴き声出ましたよ?」

 

「大丈夫。ラニちゃんが疲労やっつけてくれたから。それに鶴城(つるぎ)さんのアレに比べれば、まだまだ全然」

 

「アレは確かにひどかったよねぇ……」

 

 

 まぁ、そんなわけで。

 魔法による体力(フィジカル)バフと疲労回復魔法により、おれはふつうのひととは比べ物にならないほどの連続行動を可能にしているのだ。

 今回のお仕事は声を張る必要こそあれど、会場そのものは十八時にはクローズするのだ。休憩が終わって戦線復帰しても、そこからはあとほんの三時間。余裕のよしこちゃんだろう。

 

 それにそれに。十五時から半まではメインステージのほうで、キャンプ芸人さんのトークショーがはじまるのだ。

 会場内の御客さんたちもそっちのほうに流れるだろうし、つまりおれの負担も減ることだろう。……営業さんたちも、やっとゆっくりごはん食べられるかもしれないな。

 

 

 

「休憩終わったら……なんだっけ? フリートークだっけ」

 

「対談形式のね。メインテーマは『キャンピングカーの可能性』だって。おれたちが『ハイベース号』つかってみた感じの、なんていうか『これ良かったよ』とか『これいいかも』みたいなやつを語ってくれだって。六十分くらい」

 

「せ、先輩そんなトーク得意でした……? 一時間ってそれ、例のキャンプ芸人さんより持ち時間長いじゃないっすか……」

 

「まぁあっちはメインステージ、こっちは個別ブースだからな。箱のデカさがそもそも違うし、テーマから脱線しても良いんだって。あくまで告知用に決めただけらしいよ、トークテーマ」

 

「へえー……まあ、午前中の様子見る限り大丈夫そうだけど、無理だけはしないように。視聴者さんを悲しませないでね」

 

「へへ…………おれの扱い方、よく心得てるね」

 

 

 おれの弱味をよく知っている相棒の助言に苦笑が漏れるが……おれだってそれくらいは心得ている。自分の体力の限界もわかっているつもりだし、引き際は弁えているつもりだ。

 あと一息、あと三時間程度。やるべきことは決まっているし、原稿やカンペも頭の中にしっかりと入っているので……懸念は、あんまりない。

 

 既に崇覇湖(すわこ)サービスエリア動画は終り、今は配信待機用画面が映し出されている。カメラのほうは三納オ社のスタッフさんにお預けしたので、あとはおれがこの扉を開けて姿を表せば上手くやってくれるはずだ。

 (せき)さんからも『準備完了』のメッセージが届いたので、あちらの準備も万端らしい。……よっしゃ行くか。

 

 

「ヨッシ。……いってきます」

 

「「「いってらっしゃい(ませ)」」」

 

『――――程ほどに励むがよい』

 

 

 心強い声に見送られ、おれはスライドドアの扉に手を掛ける。

 われらがハイベース号の電動スライドドアは、特徴的な電子音を響かせながらゆっくりと開いていき……三納オ社ブースに集まるお客さんたちの姿がおれの視界に入、って、あの。

 

 

 ひ と お お く な い ?

 

 

 

 

 

 

「ただいまの時間からは、実際に弊社の製品をご利用いただいている、仮想(アンリアル)……? ええと、実在動画配信者(ユーキャスター)の『木乃若芽』さんにお話をお伺いしようと思います。進行は(わたくし)、三納オートサービス営業部、多治見(たじみ)が務めさせて頂きます。若芽さん、宜しくお願い致します」

 

「よ、ッ……よろしく、お願いします」

 

「若芽さんどうされました? 大丈夫ですか?」

 

「いえ、あの、えっと……あの、皆さん本気ですか? なにやってるんですか? 皆さんのほうこそ大丈夫なんですか? わんわんながしまグリルさん来てるんですよ!? なんでこんなところに居るんですか!?」

 

「こ、こんなところ…………」

 

「あっ!? エッ、えっと! わあ、ちがうんです! これは違うんです! あ、あっ、あっ、えっと……ありがとうございます! みなさん! 三納オートサービスのブースへご足労いただきまして、とってもありがとうございます!!」

 

 

 がっくりと項垂れた(ふりをした)多治見(たじみ)さんと、ひっそりと視線を交わして『にやり』とほくそ笑む。

 もちろん、おれは本心から三納オ社さんのことを『こんなところ』なんて思っているわけがない。台本通りというやつだ。

 

 お客さんもそのことは解ってくれているのだろう。局長(おれ)のぽんこつっぷりを揶揄する声や単純に励ましてくれる声が飛び交い、とても和気あいあいとした雰囲気。どうやら『掴み』は上々のようだ。

 

 

「えーっと……ただいまの時間、メインステージではアウトドア芸人『わんわんながしまグリル』さんによるトークショーが開催される時間なので…………てっきりこちらはユルく行けると思ったのですが……」

 

「話が違いますよ多治見(たじみ)さん。なーにが『お客さん五・六人くらいのユルい対談なので実質休憩時間』ですか。わたしウソつかれました? (せき)さんといい多治見(たじみ)さんといい、わたしがかわいそうじゃないんですか??」

 

「……はいっ。それでは早速始めていきましょうか」

 

「アー!! ひどい!!」

 

 

 口ではそんなことをつぶやきながら、顔にはほがらかな笑顔を浮かべ……おれの持つ武器を最大限活かすべく、ころころと表情を動かして見せる。

 普段から広報動画の撮影に駆り出されているという三納オ社の撮影スタッフさんも、ハンドカメラと定点カメラをこまめに切り替えている裏方さん(モリアキ)も、なかなか見事な働きっぷりを見せてくれる。

 おかげで……おれの手持ちのタブレットに流れる視聴者コメントは勢いを増し、しかもそのほとんどが好意的なものだ。

 

 ……収益化設定をオンにしておけばスパチャいっぱい貰えたのかもしれないが、他社様の案件に乗っかってお金稼ぎをするのは、さすがにちょっと違う気がした。

 おれの今のこの時間は、三納オ社さんに捧げているのだ。この特別生配信もあくまで『ハイベース号』の有用性をアピールするための手段に過ぎない。先方の理解もあって『のわめでぃあ』で同時公開する許可を頂けたが、この配信の権利は三納オ社さんにあるわけで。

 よって、それでお金稼ぎすることはできない。配信者としての矜持というわけだ。ふふん。

 

 

 

 

「……という形で、一問一答形式でお話を進めていこうと思います。よろしいですか?」

 

「はいっ! しっかりアピールしますので、お任せください!」

 

「それでは早速……質問その一。『ハイベース号は就寝定員四名+一名とのことですが、部屋割というかベッド割はどのような形でお休みしてますか?』とのことですが……」

 

「はいっ。ベッド割ですね? ええと……ハイベース号には大きく分けて三つのベッドがありまして、『運転席上の子ども用バンクベッド』『セカンドシート部のセミダブルベッド』『後部の常設二段ベッド』があるわけですが……主にわたしが『バンクベッド』で、霧衣(きりえ)ちゃんが『二段ベッド』の上で寝ることが多いですね。二段ベッドの下は荷物置きスペースとして使わせて頂くことが多いです。セカンドシートはダイネットのままで、今はテーブル下がナツメちゃんの指定席ですが……お客さんが来たときとかはテーブルを畳んで、ベッドにして使おうと思ってます」

 

「ちなみに、ラニさんはどちらで? それと二段ベッドの下ではなく、あえて……自社の製品なので言うのもアレですが、狭いバンクベッドを使用する理由があれば、ぜひ」

 

「っ!! ……えー、っと……ラニちゃんは、その…………わ、わたしと、いっしょに、寝て……ます。……あの子は、その……ちっちゃいので」

 

「バンクベッドに二人ですか!?」

 

「えーっと……はい。……縦幅は控えめなんですけど、横幅はそれなりにあるので。……それと、二段ベッドの下を使ってないのはですね、ラニちゃんがわたしと一緒に寝たがってたから、幅のあるバンクベッドを使ってたというのもあるのですが…………うん、言っていいですよね。……霧衣(きりえ)ちゃんがですね、寝息がメチャクチャ可愛(カワ)いくてですね」

 

『わ、わかめ様ぁ!?』

 

「……はい! そうなんです! 可愛いんですよ! なのですぐ近くで寝てるとですね、とっても、こう……寝顔延々と眺めていたくなってしまうので!!」

 

『わかめさまぁーー!!?』

 

「あぁー…………」

 

 

 

 質問者である多治見(たじみ)さんも、会場のお客さんたちも、どうやら納得してくれたようだ。車内から微かに響いた霧衣(きりえ)ちゃんのかわいらしい悲鳴が、おれの言葉に説得力を持たせてくれたのではあるまいか。

 

 コメントの流れも会場の反応も上々だ。やはりハイベース号はとっても使いやすいレイアウトなので、この車の良いところをもっと積極的にアピールしていかなければならない。

 

 

 ……よし。この調子でがんばっていこう。

 次の質問バッチコイ!!

 

 



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【おタマ】木乃若芽ちゃんを語るスレ_第二十六夜【入れます】


しつこいかもしれませんが当日の掲示板のご様子をお伝えします。
少し短めです。ごめんなさい。責任とって局長が




 

 

 

0001:名無しのリスナー

 

※※※わかめちゃんまとめ※※※

 

名前:木乃 若芽(きの わかめ)

年齢:自称・百歳↑(人間換算十歳程度)

所属:のわめでぃあ(個人勢・序列最下位)

身長:134㎝(ちっちゃいおねえちゃん)

主な活動場所:YouScreen

お住まい:浪越市→浪越市近郊山間部(?)

家族:ラニ(嫁)きりえ(嫁)なつめ(先生)

 

備考:かわいい・よわよわ・へちょへちょ

 

 

0002:名無しのリスナー

 

※※※わかめちゃんまとめ※※※

 

・魔法情報局局長

・合法ロリエルフ

・魔法が使える(マジ説)

・肉料理が好き

・別の世界出身

・ざんねん

・「~~ですし?」

・とてもかしこい

・おうたがじょうず

・実在ロリエルフ

・じつはポンコツ

・命乞いが得意

・わかめ料理(意味深)

・お引っ越ししました!

・ガチ多言語対応

・序 列 最 下 位

・渋 谷 区 の 妖 精

・ハ イ エ ー ス 

・バンコン2台売った女

 

(※随時追加予定)

 

 

0003:名無しのリスナー

 

>>1 乙

シチューパスタうまそう

 

 

0004:名無しのリスナー

 

>>1 乙

やっぱアウトなんじゃねーのスレタイwwwww

 

 

0005:名無しのリスナー

 

>>1-2

テンプレ乙

おタマをいれさせてほしい視聴者ワイ定期

 

 

0006:名無しのリスナー

 

>>1

 

 

0007:名無しのリスナー

 

>>1-2 テンプレ乙

おタマとかおまたとかしらんけどひわいすぎるだろわかめちゃん……大丈夫?

 

 

0008:名無しのリスナー

 

おいしそうに食べるなぁ

 

 

0009:名無しのリスナー

 

きりえちゃんかわいい

しちゅーははじめてかな……

おみみぱたぱたかわいいね……

 

 

0010:名無しのリスナー

 

関さんいいなああああああ俺もわかめちゃんとランチいっしょしたいいいいいいいいいい

 

 

0011:名無しのリスナー

 

ふつうに手際いいよなわかめママ

 

 

0012:名無しのリスナー

 

関さん裏山

ワイもわかめママの手料理ほぢい

 

 

0013:名無しのリスナー

 

そういえばいつぞやのJKもラッキーだったよな……わかめちゃんが昼メシ一緒についてきてくれるやつ。

あれもうやらないんかな……片町はさすがに来てくれないかな……

 

 

0014:名無しのリスナー

 

ごはんおいしそうに食べる子すき

 

 

0015:名無しのリスナー

 

ナツメ先生ご満悦顔いいぞ

 

 

0016:名無しの現地特派員

 

いいこと思い付いた

今俺らがここでメシくったら、それはもはやわかめちゃんと昼食を共にしたということに他ならないのでは??

 

 

0017:名無しのリスナー

 

きりえちゃん恍惚顔えっち……

 

 

0018:名無しのリスナー

 

>>13

伊養町のやつな

あれ良いよなぁ……わかめちゃんならではの企画だろうし、一般出演者JKにもめっちゃ気を使ってくれてたし

またやってくれないかな……一回こっきりで終わりってことはないと思うけど……

 

 

0019:名無しのリスナー

 

おまえら要望があれば励ましのお便りを送るんだよ

こんなとこでぶつくさ言ってる暇があったら感謝のメッセージおくれおくれ

 

 

0020:名無しのリスナー

 

モニター越しで場の空気を共有しながら昼メシ食ってたから実質同席だわ

オレわかめちゃんとランチ同席したったったわウヒョーwww

 

 

0021:名無しのリスナー

 

>>16

その手があったか

 

 

0022:名無しのリスナー

 

ごちそうさまでした

 

 

0023:名無しのリスナー

 

ごちそうさま

 

 

0024:名無しのリスナー

 

こちらこそご馳走さまだわ

 

 

0025:名無しのリスナー

 

「おそまつさまです(慈愛の微笑)」

↑かわいい

 

 

0025:名無しのリスナー

 

わかめ……腕を上げたな……

おまえはいい奥さんになるよ……

 

 

0026:名無しのリスナー

 

至高のひとときだった

 

 

0027:名無しのリスナー

 

関さんありがとう!!!

 

 

0028:名無しのリスナー

 

関さんおつかれさまでした!!!

 

 

0029:名無しのリスナー

 

取締役ここまでか

三納オートサービス取締役の関さんはここで退場か

 

 

0030:名無しのリスナー

 

おつかれさまでした!!

 

 

0031:名無しのリスナー

 

休憩か

 

 

0032:名無しのリスナー

 

わかめちゃん休憩かーー

 

いやいやいやwww当たり前だろ何時間ぶっ通しで動いてんだあの子wwwwwwww

 

 

0033:名無しのリスナー

 

休んでもろて

 

 

0034:名無しのリスナー

 

配信終了?

 

 

0035:名無しのリスナー

 

いかないで

 

 

0036:名無しのリスナー

 

休憩のおともwwwwwww

PLLかよwwwwwwwwww

 

 

0037:名無しのリスナー

 

ねえーーwwww休憩じゃないじゃんーーーwwwww

 

 

0038:名無しのリスナー

 

俺たちには休憩させてくれないのかwwwww

 

 

0039:名無しのリスナー

 

すわこキタ━(゜∀゜)━!!!!!!

 

マジかよ!!!!うおおおお!!!!!

 

 

0040:名無しのリスナー

 

信州在住オレ完全勝利d(゜∀゜´)b

 

 

0041:名無しのリスナー

 

休憩のお供に初出し動画ってどんだけ太っ腹なのわかめちゃん……

 

おむねはぺったんなのに……

 

 

 

………………

 

 

………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

 

 

 

0120:名無しのリスナー

 

きりえちゃんかわいい

 

 

0121:名無しのリスナー

 

おにくだいすきwwww

きりえちゃんかわいいwww

 

 

0122:名無しのリスナー

 

きりえちゃんかわいい…………

 

 

0123:名無しのリスナー

 

わうわうわうわうwwwwww

 

 

0124:名無しの現地特派員

 

現地モニターでもバッチリ崇覇湖動画流れてて海草不可避

だーーから芸が細けえんだよ……これが個人勢のやることかよw

 

 

0125:名無しのリスナー

 

大和撫子なのにおにくを前にキャラ崩壊するきりえちゃんかわいいかよwwwwwww

 

 

0126:名無しのリスナー

 

おじさんのおにく棒を召し上がれ……

 

 

0127:名無しのリスナー

 

うっまそ

 

 

0128:名無しのリスナー

 

いい顔

 

 

0129:名無しのリスナー

 

めっっっちゃうまそう……

 

 

0130:名無しのリスナー

 

あーっこれはセンシティブ

 

 

0131:名無しのリスナー

 

仲良くふたりで分けるのかわいい

 

 

0132:名無しのリスナー

 

きりえちゃんの鳴き声は

ガンには効かないが

そのうち効くようになる

 

 

0133:名無しのリスナー

 

>>126

おじさんのおにく棒ないなったな

にくボールごとないなったな

 

 

0134:名無しのリスナー

 

ねぇこれ休憩だよなwwwwww

なんでこんな手が込んでんだよwwww

 

 

0135:名無しの現地特派員

 

今度いったとき食ってみよう……いっつも山賊焼ばっかだったわ

 

 

0136:名無しの一般客

 

なんで俺達はさっきからメシテロされ続けなきゃなんねんだwwwwww

会場のおれら悲惨だぞwwwww

 

 

0137:名無しのリスナー

 

ごちそうさまでした

 

 

0138:名無しのリスナー

 

おみやげ興味津々きりえちゃんかわいい

 

 

0139:名無しのリスナー

 

ご馳走さまでした

 

 

0140:名無しのリスナー

 

なんでプラモ売ってんのwwwwww

 

 

0141:名無しの一般客

 

めっちゃひとふえてきたんだがwww

 

 

0142:名無しの現地特派員

 

そろそろステージイベントのはずなんだが

現地のおまえら訓練されすぎだろ、微動だにしねえぞw

 

 

0143:名無しのリスナー

 

サービスエリアにプラモ売ってんのwwwww

 

 

0144:名無しのリスナー

 

崇覇姫様はかわいい

 

 

0145:名無しのリスナー

 

崇覇姫様に興味津々のきりえちゃんwwww

 

 

0146:名無しのリスナー

 

霧衣ちゃん和ものキャラに興味津々なんか

 

 

0147:名無しのリスナー

 

>>143

鎮岡SA行ったことないんか?

あそこバングイのお膝元だからカンプラだらけやぞ

 

崇覇湖SAも金型メーカーが近くにあるからな

和弓とか鎖鎌とか小太刀二刀流とか薙刀とか、けっこう芸が細かいパーツ売ってて個人的に好きだぞ

 

 

0148:名無しのリスナー

 

さすがに姫ちゃんフィギュアは見送りかー

 

 

0149:名無しのリスナー

 

>>146

着物キャラとか、袴とか羽織とか好きそう

虹のクロちゃんとかういかちゃんとか好きなんじゃないかな

絡んでほしいな……きもの同盟……

 

 

0150:名無しのリスナー

 

>>147

プラモガチリスナー氏おったかー詳細あざす

 

オリジナルプラモデルとかすげーな崇覇市

和っぽいモチーフ多いのは珍しいな

 

 

0151:名無しのリスナー

 

ミニフィギュア500円wwwwww

かわええwwwwこれなら俺も買っちゃう自信あるわ

 

 

0152:名無しのリスナー

 

のわめでぃあのフィギュアほちい

 

 

0153:名無しのリスナー

 

あーーーどれもこれもうまそうなんじゃーーー

 

 

0154:名無しのリスナー

 

サバドッグいいなwwwうまそうwww

 

 

0155:名無しのリスナー

 

ガチ恋距離mogmogたすかる

 

 

0156:名無しのリスナー

 

どうした?

 

 

0157:名無しのリスナー

 

なんだ????

 

 

0158:名無しのリスナー

 

崇覇湖カッチコチやな

そういえば数年ぶりに御神わああああああああああああ!??!??!!!!!

 

 

0159:名無しのリスナー

 

でっけーなぁ崇覇湖

 

 

0160:名無しのリスナー

 

崇覇湖っていったらカナコ様の御神渡りの印象がつよえええええええええええええええええええええwwwwwwww

 

 

0161:名無しのリスナー

 

まってまってまってまってwwwwwっwすげえwwwwwww

 

 

0162:名無しの現地特派員

 

これ映像とらえたやつおるんかwwwwwwww

わかめちゃwwwwwwwww

 

 

0163:名無しのリスナー

 

待って何この音まってまってこわ

 

 

0164:名無しのリスナー

 

崇覇湖が割れたっていうのは聞いてたけど、まさかわかめちゃんが映像捉えてるとはさすがに思わんかったわ

 

 

0165:名無しのリスナー

 

待って、割れる瞬間ってめっちゃ貴重なんじゃね?

ていうかなんで?これ何時だ?なんでいきなり割れた???

 

 

0166:名無しのリスナー

 

すっげ……ええ…………御神渡りってめっちゃ貴重なんじゃないの……

 

 

0167:名無しのリスナー

 

こんな時間にいきなり御神渡り起こるとか有り得るんか……

すげえ…………持ってんなぁわかめちゃん……

 

 

0168:名無しのリスナー

 

音すげえ

映像と合わさって更にすげえ

 

 

0169:名無しのリスナー

 

鶴城神宮でいっぱいおしごとしたからね……いっぱいご奉仕したからね……神様がごほうびくれたんだよ……

わかめちゃんはかわいいからね……神様に愛されてるんだよ……きっと……

 

 

0170:名無しの現地特派員

 

会場でもあっちこっちでどよめきが起こってるわww

自称旅好き系ユーキャスのひと曰く『数日狙っても空振りすることの方が多い。御神渡りの瞬間に居合わせるのは珍しいし、映像に残せてるのもすげえ』って

 

 

0171:名無しのリスナー

 

神様愛され系ロリエルフユーキャスターで売ってこうぜ

 

 

0172:名無しのリスナー

 

休憩で流していいもんじゃねーだろこれ!!

 

 

0173:名無しの旅好きゴブリン

 

>>170

現地特派員ニキ特定したわwww

それ渡り鳥モクレンさんやぞwwww自称ってwwwww

そっち系では圧倒的有名人の部類やぞwwwwwww

 

 

0174:名無しのリスナー

 

なんか現地すげえことになってそうだな??

おれも行きたくなってきたな???

 

 

 

………………

 

 

………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

 

 

 

0250:名無しのリスナー

 

【速報】のわちゃんラニちゃんおなじベッド!

【速報】のわちゃんラニちゃんおなじベッド!

【速報】のわちゃんラニちゃんおなじベッド!

【速報】のわちゃんラニちゃんおなじベッド!

【速報】のわちゃんラニちゃんおなじベッド!

 

 

0251:名無しのリスナー

 

微かに聞こえたきりえちゃんの悲鳴かわいすぎひんか?

寝息がかわいいきりえちゃん圧倒的破壊力よ

 

 

0252:名無しのリスナー

 

ラニちゃんがリアルロリだったってことがオレ的最大の収穫だわ

のわちゃんに「小さい」呼ばわりされる子って相当だぞ

ロリの百合かな???ここが天国かな??????

 

 

0253:名無しのリスナー

 

多治見さんグッジョブだわ

なんだ?三納オートサービスさんは手練れ揃いか??

 

 

0254:名無しのリスナー

 

>>251

あれやっぱきりえちゃんの悲鳴だよなww

「わかめさまぁ!!?」ってwwwwwかわいいがwww

 

 

0255:名無しのリスナー

 

どんどんいこう

どんどんわかめちゃん丸裸にしてこう

 

わかめちゃんを裸に剥いていこう!!

 

 

0256:名無しの現地特派員

 

>>251

こちら現地

会場はきりえちゃんの悲鳴にほっこりしている模様

 

 

0257:名無しのリスナー

 

設問2

『今まで車中泊回数はどれくらいか』

 

 

0258:名無しのリスナー

 

「これまでハイベース号では何泊くらいお泊まりになられましたか?」

 

 

0259:名無しのリスナー

 

いうてまだ一ヶ月も経ってないもんな

そんなに遠出できてないんじゃ?

 

 

0260:名無しの現地特派員

 

まだそんな日が経ってないし

 

 

0261:名無しのリスナー

 

えええ

 

 

0262:名無しのリスナー

 

すげえwww相当気に入ってんのなwww

 

 

0263:名無しのリスナー

 

北のほうと東のほうwwwwww

北ってどこだ、どこまで行ったんだ

 

 

0264:名無しのリスナー

 

そういえば北陸で目撃証言上がってたっけ?

あれ金早だっけ?

 

 

0265:名無しのリスナー

 

東のほうってなんか恵比奈で目撃されたとか言ってたやつ?

 

 

0266:名無しのリスナー

 

自宅でもwww

 

 

0267:名無しのリスナー

 

おうちのおにわキャンピングカーwww

めっっちゃ気に入ってるじゃんwwww

 

 

0268:名無しのリスナー

 

そっか、電源繋げばバッテリー気にせず電気使えるんだもんな。

ベッドあって電源あってすぐそこに冷蔵庫あるって、そりゃ入り浸るわ

 

 

0269:名無しのリスナー

 

ほえーやっぱ居心地ええんやろな……

 

 

0270:名無しのリスナー

 

つぎつぎ

どんどん剥いてけ

 

 

0271:名無しのリスナー

 

次の設問

 

 

0272:名無しのリスナー

 

あー寝具か

 

 

0273:名無しのリスナー

 

おふとんか!!!気になる!!

 

 

0274:名無しのリスナー

 

わかめちゃんと擬似的に同じふとんで寝るチャンス

 

 

0275:名無しのリスナー

 

コールかぁー

まぁキャンピングカーつってもコンパクトだからな

寝袋安定だわな

 

 

0276:名無しのリスナー

 

寝袋かーなるほどなぁ

でも初心者向けモデルのやすいやつっていっても結構あるのでは?

 

 

0277:名無しのリスナー

 

『ブルーのかっこいいやつ』wwww

かわいいかよwwwwww

 

 

0278:名無しのリスナー

 

かっこいいやつwww

 

わかめちゃんこういう子だよなぁ、ピンクとか黄色とかの可愛らしい色よりも男の子っぽい色すきだよな

かわいいかよ

 

 

0279:名無しのリスナー

 

ブルー好きわかめちゃん

髪の毛もグリーンだから親和性高そう

 

 

0280:名無しのリスナー

 

ラニちゃんwwwwwwwww

いまばりタオルが手放せないラニちゃんwwwwwかわいいがwwwwww

 

 

0281:名無しのリスナー

 

愛用タオル無いと眠れないラニちゃんかわいいwwww

 

 

0282:名無しのリスナー

 

まってまってまてまてまってまてwww

のわちゃんをして『ちっちゃい』って言わしめて

寝るとき愛用タオルが手放せないって

 

ラニちゃんロリじゃんこれもうwww間違いなくロリwwwwww

 

 

0283:名無しのリスナー

 

きりえちゃんおねえちゃんと戯れるロリ二匹かわいいかよ!!!!

 

 

0284:名無しのリスナー

 

きりえちゃんがいちばん身長高いのかwww

 

 

0285:名無しのリスナー

 

多治見さんよく突っ込んだwww

 

『合法です!!!』wwwwwwwww

 

 

0286:名無しのリスナー

 

ほんとうにござるかぁ~~??www

 

 

0287:名無しのリスナー

 

>>283

最年長はわかめちゃんおねえちゃん百歳児だから!!

わかめちゃんのほうが(自称)おねえちゃんだから!!!

 

 

0288:名無しのリスナー

 

『詳しい年齢は明かせませんけどラニちゃんは二十代です』

うそつけ絶対ロリだぞwwwwww

 

まあでも実際オトナであれ小柄あまえんぼだもんな……つまり合法ろりだよ……

 

 

0289:名無しのリスナー

 

待ってまだ心の準備できてない

 

 

0290:名無しのリスナー

 

次の設問

 

 

0291:名無しのリスナー

 

はー思わぬところで推しのリアル垣間見るかたち……

 

 

0292:名無しのリスナー

 

ラニちゃんめっちゃ神秘のベール包まれてたからね……そりゃ盛り上がるよ……

今まで謎に包まれてたわかめちゃんすきすき有能アシスタントが小柄あまえんぼロリだったんだぞ……

 

 

0294:名無しのリスナー

 

設問そのよん

 

 

0295:名無しのリスナー

 

あーそれ気になる

 

 

0296:名無しのリスナー

 

今後やってみたいこと

 

 

0297:名無しのリスナー

 

まさかの翁縄wwwwwwwww

 

 

0298:名無しのリスナー

 

キャンピングカーで翁縄!?!!?

 

 

いやいやいや……ぇえ!?

 

 

0299:名無しのリスナー

 

まぁ……回ってる人は少ないよな……

船便で車運ぶにしても安くないしな……

 

 

0300:名無しのリスナー

 

そりゃ北界道旅行動画はいっぱいあるだろうけど……

 

だからって真逆に舵を切る発送、男気ありすぎやろwwwすきwwwwww

 

 

0301:名無しのリスナー

 

あっちの風景写真でしか見たことないんだよなぁ……

地味に楽しみ

 

 

0302:名無しのリスナー

 

ようやるなぁ……

 

 

0303:名無しのリスナー

 

西表島民ワイ感涙に咽び泣いてる

 

すぱちゃさせて……

 

 

0304:名無しのリスナー

 

これ島民ニキ大歓喜やろなぁ……よかったなぁ……

 

というわけでいつか喜海島にもですね、

 

 

 

 

………………………………………………

 

 

………………………………

 

 

………………

 

 

 

 

 

 

 

 






※翁縄編書くかどうかは未定です




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333【国展催事】ハーフタイムナイト

 

 

 ――勝ったッ、第一日目……完!!

 

 まぁ、ざっとこんなもんですよ。

 鶴城(つるぎ)さんで年末年始鍛えられたおれたちにとっては、たかだか八時間か十時間そこらの肉体労働なんて……

 

 

 

 

「ああーーーーーー!!」

 

「ああっ、こらノワ! まずはお着替えしないと! シワになっちゃうでしょ!」

 

「この服の性能ならシワにならないかなって」

 

「それもそうか」

 

「いや……今ここで着替えられても困るんすけどね……」

 

 

 

 限界こそ迎えなかったものの、かなり良いところまで体力を削られていたおれは、自室へたどり着くなり盛大にベッドに倒れ込んだ。

 一日目の撤収を終え、ひとあしお先に解放されたおれたちは……徐々に【認識阻害】の魔法を纏いながら臨海公園の多目的トイレに滑り込み、そこから【門】で即時帰宅をキメたのだ。

 なおハイベース号は、今晩は会場に置きっぱなしである。仕方無いね。

 

 そんなわけで、霧衣(きりえ)ちゃん以外の面々はおれの私室にて、会議というか反省会というか……まぁ、なんかそんな感じのお話し合いを始めようとしていた。

 ラニちゃんのお小言を軽く流し、モリアキの呆れを含んだ声をも聞き流し……危うく睡魔に負けるところだったが、強固な精神力で見事打ち勝ち起き上がる。

 ほんとうに精神力強いひとはベッドダイブしないとか、そういうのは言わない方向で。

 

 

 

「はいじゃあノワが早くお休みできるように、さっさと始めちゃおうね」

 

「うっす。じゃあ軽くなんすけど……とりあえず多治見さんから。今日一日だけでなんと成約が二名、クロージングフェーズが四名、継続フォローベース乗ったのは十六名、と……なんていうか、いわく『夢かと思うほど』の成果だったみたいっす」

 

「ボクが見た感じ、会場のほうも良い雰囲気だった。ブースの周りで楽しんでくれてたお客さんは……百人くらいかな? みんな楽しんでくれてたよ。さっすがノワ」

 

「き……恐縮でしゅ」

 

 

 

 いかに体力回復魔法でドーピングを施したとて、おれ本人の感覚としては丸一日動き続けたことに変わりはない。

 もちろん使わなかったことに比べれば圧倒的に楽なんだろうけど、多少とはいえ疲労は溜まっていってしまう。

 まだまだ働けと言われれば、ぶっちゃけ働くことは可能なのだが……『疲れた』が溜まっているのは事実なのだ。

 

 だが……しかし。

 おれがこれだけ『疲れた』ぶんの成果が得られたというのなら。

 しかもそれが、良い意味で『夢かと思うほど』『ありえない』ほどの大戦果だというのなら……おれも丸一日、頑張った甲斐(かい)があるというものだ。

 関係ないけどなんで()()があるっていうんだろうね。やっぱり山梨県に関係があったりする故事成語なんだろうか。まぁ今はどうでも良いけど。でも山梨も良いな、こないだは蓋場(ふたば)で降りたあと通過しただけだったもんな。

 嗚呼……山梨。甲州地鶏。鳥もつ煮。桔梗印の信玄餅。ワインビーフ。清泉寮のソフトクリームとミルクプリン。……そしてそして、めくるめく魅惑のワイナリー。すてき。

 

 

 

「…………なことが予測されるわけだけど……ノワ大丈夫? 話聞いてる?」

 

「は、はい! 大丈夫です! あとほうとうも食べたいです!」

 

「??? なに、ホウトウって。ウドンみたいなやつ?」

 

「先輩…………」

 

「わ、悪かったですって……」

 

 

 二言も三言も言いたげな『じとーっ』とした二人の目が、揃いも揃っておれへと注がれ、突き刺さる。

 ちゃっかり扉を開けて会議室(おれのへや)への侵入を果たしていた(なつめ)さんもいつのまにか加わって、これで六つのおめめがバッチリこちらを向いている形となる。見ちゃらめ><。

 

 いや、でも……まあ、今回ばかりはミーティング中に食い意地トリップしたおれが悪いので……ちゃんと反省させていただこうと思う。この通り。すま○こ。

 

 

「……まぁ、そういうわけで。ネックとしては、やっぱりノワの休憩時間なわけだよね。生配信垂れ流しって時点で、これはある程度仕方ないとは思うけど……」

 

「提案なんすけど……要するに、休憩時間でも視聴者さんに楽しんでもらえれば良いわけっすよね?」

 

「だなぁ。今日は崇覇湖(すわこ)サービスエリア動画あったから良かったけど……でも問題は明日だよ、おれの視聴者さんにとっては見たことあるやつばっかりだし、尺だって三十分もなくない?」

 

 

 崇覇湖(すわこ)サービスエリアの動画は、どのみち近々公開するつもりの動画だったので、休憩時間捻出のために公開したのは良い判断だったと思う。

 きりえちゃんかわいいを盛大にブチ撒けられたと思うし……それになにより崇覇湖(すわこ)御神渡(おみわた)りのシーンは、アウトドア系動画配信者(ユーキャス)の人にも褒められていた(って聞いた)。

 

 

 だが……問題は、明日だ。新作動画作戦は弾切れにより、もう使えない。鳥神(とりがみ)さんに依頼を掛けている『きりえクローゼット』は完成間近ではあるらしいのだが、残念ながら明日には間に合いそうもない。

 

 というわけで、既出のキャンピングカー紹介動画(きりえちゃんかわいいのやつ)でお茶を濁そうと思ったのだが……だからといって見たことある動画だったら、そりゃあ初見のお客さんは喜んでくれるかもしれないけど、既に見たことある視聴者さんはガッカリしてしまうかもしれない。

 

 

 

「せっかちちゃんっすよ先輩、まだオレ話してるんすから。……まぁ、手っ取り早く結論から言うとっすね……実はまだ先輩にも見せてないFA(ファンアート)、いくつか溜め込んでるんすよ」

 

「「おおーー!!?」」

 

「それでですね、とりあえず適当な動画一本……まぁここは主に会場で初見のお客さん向けに、『のわめでぃあ』の活動記録として動画を流しまして……それが終わったらですね、もうオレの新作に『休憩中』『再開時刻:○○(マルマル)時』みたいな感じで文字入れて、あと適当なフリーBGM流せば……ほら!」

 

「な、なるほど……モリアキママの新作なら、おれの視聴者さんも喜んでくれるだろうし……三十分休憩が確約されるなら、おれもたすかるし」

 

FA(ファンア)は三枚あるんで、ローテ組んでゆっくり切り替えてけば……まぁ、視聴者さんも飽きずに許してくれるんじゃないっすかね?」

 

「………………まま……」

 

 

 あ、ありがてぇ!

 これでおれは休憩時間を獲得しつつ、その間も視聴者さんたちを飽きさせずに済むわけだ。

 それになにより……おれがまだ見たこと無い、ってところもポイント高い。めっちゃたのしみ。どきどきがわくわくだが。

 

 ほんとたすかる……モリアキママすき……

 

 

 

「じゃあ休憩時間問題はそれでカバーするとして……あと多治見さんが気にしてたのが、プレスとか現地取材に対しての対応について」

 

「ぅえ!? おれなんかマズった!?」

 

「いやいや違うっす、その逆っすよ。『そこまで頑なに弊社を立てなくて大丈夫です』って言伝(ことづ)てを預かってます」

 

「……ぇえ、良いの?」

 

 

 

 ……実をいうと、ですね……実際本日も何度か、三納オートサービスさんにではなく()()に対して、色々と質問を投げ掛けられることもあったわけです。

 ま、まぁ……こんな見た目ですし、一般的な『キャンペーンガール』っぽくないのも理解してはいましたけれども……しかし今回のおれは、あくまで三納オートサービスさんに雇われた身の上だ。雇用主様を(ないがし)ろにしておれが目立つことは好ましくないからと、おれ個人へ向けた質問や取材なんかは片っ端からパスさせて頂いてたのだ。

 だって……おかしいでしょ。なんでキャンピングカー情報紙の記者が、肝心のキャンピングカーを無視しておれのことばっか聞いてくんのさ。ハイベース号の性能におれの年齢は関係ありませんことよ。

 

 

 

「なので、そのへんも。もちろん多治見さんは先輩の意図を理解してくれてましたが……その上で『多少は自分達のことも宣伝して下さい』とのお触れを頂きました。……ですんで」

 

「……うーん、まぁ…………わかった。多少、ね?」

 

「そのへんの采配は任せる、とのことでしたが……そんなに『のわめでぃあ』を犠牲にしなくても良いよ、というお言葉ですんで、ありがたく頂きましょう」

 

「…………わかった。そうする」

 

 

 

 正直に言うと、同業者(ほかのキャスター)さんたちとの……特にアウトドア方面に明るい方々との意見交換とか、憧れてたりするんですよ。

 なのでこの……いうなれば『私的交流の解禁』は、申し訳なくも非常にありがたかったりする。

 

 このお触れのおかげで……明日のフリータイムが、より楽しみになったな!

 

 

 

「……お取り込み中、失礼いたしまする。みなさま、夕餉(ゆうげ)の支度が整いましてございまする」

 

「ありがと霧衣(きりえ)ちゃん! 今いく! ……ほか連絡事項ある?」

 

「いえ、以上っす。大丈夫っすよ」

 

「ヨッシャごはん行こうごはん! ゆでたまごのにおいする!」

 

 

 待ちに待った、霧衣(きりえ)ちゃんお手製の晩御飯。それはずばりラニちゃん大好きなゆでたまご……ではなく、みんなだいすきカレーライスである。

 ゆでたまごはつけあわせだね。スライスして乗せるとおいしいんだ。

 

 まぁ……例によって『たくさんの肉じゃがに香辛味噌(かれーるう)を溶いた煮込み料理』という、霧衣(きりえ)ちゃんフィルターで和風解釈されたカレーライスらしいけど……あの子の料理センスには全幅の信頼が措けるので、不安は無い。

 実際にカレーライスを食べたことがある天繰(テグリ)さんがお手伝いと味見を買って出てくれたので、なおのことだ。なおカレーは甘口とする。

 

 

 おいしいごはんをたべて、お風呂に入って、ゆっくり休んで……東京でお仕事中とはとても思えないのんびり具合だが、決して悪くない。ラニちゃん様様だな。

 

 コンディションしっかり整えて……二日めの明日も、最後まで気を抜かずに頑張ろう。

 えいおー!

 

 

 



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【突発雑談枠】キャンフェス行ったから感想とか語るよ_2o2x.o1.25【URcaster/洟灘濱道振】


イベントの途中ですが今回おはなしは進展しません。ごめんなさい。
がっかりさせてしまった責任をとって局長が




 

 

 ……ん。あーあー。オーダー。

 

 こほん。……オーダー! (なま)一丁!

 

 

 あーあー。……おっけ、入ってるね!

 

 

 こーんばーんしーーっす! 日々成長、日進月歩! 仮想居酒屋『出世街道』へようこそいらっしゃいませェお好きなお席どうぞォ!

 仮想(アンリアル)出世頭(しゅっせがしら)配信者(キャスター)三面六臂(さんめんろっぴ)の『洟灘濱(いなだはま)道振(ちふり)』でっす! いぇい夜路四駆(ヨロシク)ゥ!

 

 

 いやぁー……ごめんごめんごめんごめん。ほんとごめんね。告知直前になっちゃってね、本当申し訳ないって思ってる。ていうか私も本来なら配信するつもりなかったんだけどね。

 

 でもねーいやぁねーだってねぇー……さすがにこれはね、誰かに伝えなあかんやろと思ってね。急遽枠とらせてもらいましたァー!!

 

 

 

 そうそう、キャンフェス。配信タイトルにも書いたんだけどね。っていうかところでお客さんたち、キャンフェス知ってる?

 ちょうどね、今日明日ビッグボックスでやってる『ジャパンキャンピングカーフェス』っていうイベントがあるんだけどね。

 

 そうそうそう、キャンピングカーオンリーのコミフェスみたいなやつ。オンリーだよオンリー。いい響きだね。

 ッヘヘー……いやー外せないっしょ。旅好きを自称する身としてはさ、私もいつかはー……って思ってるもんね。自分だけの城だぜ、城。マイ城。

 

 

 まぁつまりね。

 (わたくし)洟灘濱(いなだはま)道振(ちふり)……本日その『キャンフェス』に行って参りました!! イェーイ!!

 

 

 あっ、シロミスキーさんスパチャありがとう! 『何となく展開読めた気がする。俺も現地いたわ』いぇーいスパチャありがとー!

 でもでもでも言わないでね! ネタバレはしないでね! もうタイトルの時点でわかる人にはわかるけど! ……そう、現地ね。現地やばかったんだわ!

 

 

 まぁ、一応『キャンフェスってなんぞや』ってお客さんにもわかるよう説明しとくとね、ジャパンキャンピン……まあいいや今後『キャンフェス』って略すけど、このキャンフェスは一般入場たったの五百円ポッキリで、国内外メーカーのいろんなキャンピングカーたちが一気に見られるナイスイベントなわけで!

 出展者数が……百五十、って言ってたかな。ちょっとごめん正確な数はわかんないけど……まぁでも百台以上のキャンピングカーがズラッと並んでたらね、私みたいなのはそりゃもーテンションあがるわけですよ!

 

 

 

 『ちふりんどんなレイアウトのキャンピングカーが好きなの?』

 

 あっ、フィッシュ縦長さんスパチャありがッとう! うーんレイアウトねー…………いやほら私ってば、ご存じのお客さん多いかもしれないけどさ……酒飲んだらさ、もーー動けないじゃんね、私って。ほら……ね。

 

 だからさ、よくある『後部座席を全て倒すとフルフラットな広々ベッド~』とかいうやつ。あれ確かにベッドとしては広いけど、展開すんのめっちゃ面倒くさそうだなって。

 

 ダイネット……あー、えっと、リビング部分で晩酌してさ、良い感じになってさ。……いやダメな感じになってさ。もう寝たいわけじゃん。

 そっから晩酌の後片付けして~テーブル片付けて~座席倒して~隙間埋めボード嵌め込んで~シュラフ広げて~……って『しゃらくせぇわ!』ってなるじゃん?

 

 ならんか。まじで。……まじかー。

 

 

 まぁつまりね、要約すると……『晩酌スペース出しっぱのままベッド展開できるレイアウト』が好き。

 これね、もー最優先だわ。

 

 

 んでんでんで、そうそうそう。話が()れるとこだったけど、今回『いいな』って思ったキャンピングカーがあってね。

 それでね、それがね……まさに! ダイネット広げたまま二段ベッド使えるんだよ!

 しかもしかも! ……いやね、キャブコンだったら結構あるよ? キャブコンってあれよ、トラックベースのやつ。トラックの車体に居住スペースの小屋の部分を乗っけた、多分みんなが『キャンピングカー』って聞いて真っ先に思い浮かぶ形してるやつ。

 それなら普通にダイネットと二段ベッド両立してるのあるんだけどさ……やっぱさ、デカいんだわ。まぁトラックだしさ。取り回しっての? やっぱよろしくないんだわ。

 

 

 それで……なんだっけ。

 …………そうそうそう、でねでねでね、その『いいな』って思ったやつがね、ハイエースなんだわ。ベース車種。つまりギリ普通車。

 いやね……まさかまさか、バンコンで私の希望条件満たしたレイアウトが拝めるとは思ってなかったからさ。それでテンションめっちゃ上がったわけよ。

 

 

 

 …………それで、ね。

 

 

 それで……リーフレット見たら良い感じのレイアウトだったから、めっちゃテンション上がってたんだけどね。

 

 

 そこのブースにね……私の理想のキャンピングカーを出展してたメーカーさんの、そのブースにね。

 

 

 …………居たんですよ。

 

 

 

 ………………本物。まじまじ。本物だった。

 

 

 

 

 本物の……実在の、ロリエルフだった。

 

 

 

 

 

 いや、ね。噂には聞いてたんだけどさ。

 

 うちら……っていうか【Sea’s(シーズ)】では、うにちとかミルくんとか……あとは【Sea’s(シーズ)】以外では刀郷(とーごー)先輩とかティー様とかがね、コラボしたっていう子がですね。みんなして『個人勢でめっちゃスゴい子がいる!!』って言うもんですからね、その存在は知ってたんですよ。

 

 

 そうそうそうそう! なになになに、もしかしなくても知ってるお客さん多いの?

 

 ……うん、そう。『わかめちゃん』。

 個人勢のねー、『魔法情報局のわめでぃあ』っていうチャンネルのね、スッゴいカワイイ実在(リアル)エルフの女の子がいるんですよ。木乃若芽(きのわかめ)ちゃんっていう子なんですけどね。

 

 

 『わかめちゃん最近東京でよく目撃されてるらしい』

 へー、そうなんだ。なんかさ、聞くところによるとさ、愛智(あいち)浪越市(なみこし)のほう中心に活動してるっぽかったから、ちょっと諦めてたんだけどねー。

 東京で拝めるとは思わなかったからね。やっぱ私運良いのかも!

 

 『リアルわかめちゃん目撃したユアキャスって初めてなんじゃ』

 あっ、アッ、えっと…………うーん、どうだろ。あーでも、確かうにちが自慢げに『のわっちゃんとデートするんやでっ☆』とかって嬉しそーにアピってたからな、あの子は会ったことあると思う。多分。

 

 

 まあ一方の私なんかはね、()()()()()()()()()()()()()()()()

 ……いやまあ、お会いしたってか、遠巻きに眺めてただけなんですが。

 

 

 いやーいやーいやー、すごいねあの子。エンターテイナーっていうの? やばかったよ手際とか。

 イベントの時間中さ、ほっとんど全部動き続けて頑張ってたんだよ。トークに質疑応答にトランプに漫才に……あっ、お料理もやってたっけね。

 

 んでんでんで、後になってうにちに聞いてみたらさ、やっぱそういう動画あったみたいでね、お料理動画。とりあえずさっき倍速で見てみたんだけど、めっちゃクオリティ高いのよ。

 まぁ本人がカワイイからめっちゃ動画映えするんだろうね。手際もよかった。あー取締役うらやましかったなあ。

 

 

 それで……なんだっけ。

 そうそうそう! やべーのがさ! イベントが十時から十八時までなんだけど、確かあの子、合計で一時間くらいしか休んでなかったと思うんだよね!

 昼休憩だって普通一時間でしょ? なのにたった三十分よ三十分! ……いやまぁ、直前のお料理披露で実食もしてたけどさ。でもたった三十分で切り上げて、何食わぬ顔で対談トーク始めたときはもービビったね……あんなちっちゃい身体のどこにそんな体力備わってんの、って。

 カワイイ見た目に反してさ、とんだフィジカルモンスターだよあの子。

 

 

 

 ……えっ、体力くそざこなの? まじ? あっ、輪っかのやつやってたんだ。アーカイブあるの? へー今度見とこ。

 

 『わかめちゃんの輪っかは口に水含んで見るべき』

 なにそれ……めっちゃ気になるじゃん……でもそもそも輪っかでそんな笑えることある?

 うーん……どうなんだろ。まあいいや、それも含めて楽しみにしとこ。

 

 

 それで、えーと、なんだっけ…………そう! しかも!! しかもさぁー!!

 

 あーちなみに、私のお客さん……今見てくれてるお客さんの中で、この時期の崇覇湖(すわこ)の『アレ』知ってる人いる?

 アレあれでしょ、伽那呼様のスキルカードになってたやつ。東峰のさーほら…………あーやっぱちらほら居るね! さすがは私のお客さん。……あーめっちゃ居る。

 

 

 じゃあさじゃあさ。その中で、アレが……アレが、今まさにモリモリしてるとこ。モリモリし終わった状況じゃなくて、現在進行形でモリモリしてる、その瞬間見たことあるお客さん…………居たりする?

 ……いないかな? 『ふつーおらんやろ』そうそう、ふつーおらんのだわ。狙ってみれるもんじゃないし。毎年起こるわけでもないし。ふつーは居らんのだわ。

 

 

 まあさっきからアレアレって、いい加減うっとうしいかな。まぁ言っちゃうとね。崇覇湖(すわこ)とか……あとは北海道の屈謝露湖(くっしゃろこ)とかで見られる自然現象なんですけど、『御神渡(おみわた)り』っていう現象があるんですね。

 詳しいメカニズムとかは各々でググって貰えればと思うんですけど、凍った湖面がバリバリバリバリィって、こう……割れるっていうか、盛り上がるっていうか?

 

 

 『イヤラシイ動きの低速米粒弾がぁ……』

 そうそうそう、それそれそれ。それで一躍有名になったよねー、崇覇湖(すわこ)御神渡(おみわた)り。なつかしいなぁ風塵録。

 

 えっ……『お歳がバレるぞ』?

 ………………お客さんたちは何も聞いてない。良いね?

 

 

 それでね、なんだっけか……あー御神渡(おみわた)りだった。

 うーん……ごめん。やっぱなんかうまく説明できないんだけど、写真とか映像見て貰えれば一発で解ると思うんだけどね、かなりレアな現象なんだって。

 『山脈みたいになってるやつ』そうそうそうそう! まっ平らな湖面にね、割れた氷の山脈が……ずらーーって伸びてくやつ!

 

 

 それでね、そんなレア現象……さすがにその場面居合わせたお客さんなんて、そうそう居ないと思うんですよ。

 いろんな条件が重ならなきゃ見れないらしくて、五年に一度見れるかどうか、っていうレベルのやつ、なん、だけ、ど……

 

 えっ? いる? うそ、モリモリしてるとこ!? ……えっ、あ、いる! いた!

 だれだれ? えっと……『きのわかめ』さn待って待って待って待って待って!? えっ待って本当に本人!!? 本当に!! わかめちゃんおるやんけ!!?!?

 

 

 

 

………………………………………

 

 

 

…………………………

 

 

 

……………

 

 

 

 

 

 







「いやぁ………リアクション早すぎっしょ。まさか当日夜にもう取り上げてくれるとか思わんっしょ。モリアキよー見つけたな……」

「ちふり様! ちふり様にございまする!」

「いやぁSNS(つぶやいたー)の力っすよ。良かったっすね先輩、道振(ちふり)さんって結構有名どころじゃないっすか」

「へぇー……現地来てくれてたんだ。ボクも気づかなかったよ」

「ひといっぱいだったもんね……おれも全っ然気づかなかったわ」

道振(ちふり)さん……明日も来てくれるんすかね? まぁ状況的にご挨拶は難しそうっすけど」

「わかんないけど……えへへ、『明日も頑張ってね!』って言ってもらった……うへへ」

「わ、わたくしも! わたくしも、せいいっぱいお手伝いいたします!」

「はいはいはい! じゃーなおのこと今日はもう寝ときましょうね。……夜更かし禁止っすよ先輩。エゴサはまた後日」

「わ、わかってるよう……」






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334【催事二日】至近距離えがおおーら

 

 

 みなさんヘィリィ、こんにちわ。泣く子も笑う『のわめでぃあ』局長、木乃若芽だよ。

 

 東京臨海展示場ビッグボックスにて開催中の、全国規模のキャンピングカーイベント……その名も『ジャ(略)ス』!

 本日はその最終日となる二日目、一月二十六日の日曜日でございます。

 

 

 無難に朝起きして、各々身支度整えて、みんな揃ってごはん食べて、囘珠宮(まわたまのみや)のアクセスポイントへと【門】を開いて、何事かとすっ飛んできた金鶏(キンケイ)さんに挨拶をして……帝國旅客車輛の瀬戸さんに相談してタクシーを手配してもらって、会場まで悠々と高級タクシーで通勤させていただきまして。

 

 ちなみに帝國旅客車輛さん、やっぱ普通のタクシー会社とは一線を画す会社らしくてですね……乗客のプライバシーとか機密事項とか、そのへんの取り扱いもしっかりしている『安心』なタクシーらしいです。窓もスモーク入ってるし、あんしんだ。

 

 

 ともあれ、指定されていた集合時刻までに無事出勤を果たせたおれたちは……昨日と同様に、順調にスケジュールを消化していった。

 

 

 

 

「「「おぉぉぉぉーー」」」

 

『――――ほぉ……』

 

「……いや、目の前でまじまじ見られると照れるっすね」

 

 

 そうして迎えた、例の『休憩』時間。おれたちは前日立てた計画の通り、まず『車輌紹介動画(霧衣(きりえ)ちゃんがかわいいやつ)』を放映し、そのあとの数分はモリアキママによる『新作公式ファンアートお披露目』という形で場を繋ぐことになっていた。

 今回が初出しとなる公式イラスト供給には……会場モニターをご覧の一般のお客さんたちも、また『のわめでぃあ』の視聴者さんたちも、たいへん喜んでくれたようだ。

 

 でもおれのほうがうれしいもんね。ママありがとう。

 

 

 ちなみに本日の休憩時間は、十二時頃と十五時頃にそれぞれ設けてもらっている。今回は十二時のほうだ。

 なんでも……昨日のおれの『休まなさっぷり』に関して、各方面よりツッコミが三納オ社さんに寄せられたんだとか。

 おれが勝手に無茶なスケジュール組んだだけなのに、そのせいで迷惑かけてしまう形となってしまったのだ。まったくもって申し訳ない。

 

 なのでおれは尚のこと気合いをいれて、午後からもはりきって三納オ社をPRしていく。

 キャンペーンガールらしくないことをしてるのは百も承知だが……おれは施されたら施し返す男なので。恩返しだッ。

 

 

 

 

 

ヘィリィ(こんにちわ)! 親愛なる視聴者さん、と……会場にお越しの皆さん! 初めましての方は初めまして。魔法情報局『のわめでぃあ』局長……しかし本日は『三納オートサービス』さんの広報担当、木乃若芽(きのわかめ)ですっ!」

 

「こ、こんにちわっ! のわめ……っ、ではなく…………みのう、おおと、さあびす、の……見習いの、霧衣(きりえ)、ですっ!」

 

「よくできました! えらいねぇ、きりえちゃんいいこだねぇ」

 

「わうぅぅ……わうぅぅぅぅ……!」

 

「えへへ……まぁ、配信をご覧頂いてる方にとっては『いまさら』感が拭えないのですが……なんとなんと、本日は東京臨海展示場『ビッグボックス』内、東ホールからお送りしています!」

 

 

『てぇてぇ』『尊ぇ』『てぇてぇ……』『のわきりてぇてぇ』『しってた』『会場のおまえら裏山』『てぇてぇ』『かわいいが』『わうわうかわいい』『スパチャできない』『なでなでして……』『今更だけどな』『出張ヘィリィ』

 

 

 ……えーっと、最初おれも提案を聞いたときはビックリしたのですが……なんとなんと、いつものような『のわめでぃあ』生配信を()っても良いよと、クライアント様直々に許可をいただきまして。

 というかぶっちゃけ、会社としての目標そのものはとっくに達成してしまっているらしいので……まあ、早い話が『関さんの趣味』らしい。

 

 あのおじさま、どうやら我々のなかでも霧衣(きりえ)ちゃんがいちばんの推しであるとのことで……なんとなんと『場所は提供するので、ぜひ霧衣(きりえ)嬢にも活躍の場を』などと仰ってくださいました次第でございまして。

 

 まぁ……要するに、霧衣(きりえ)ちゃん分を堪能したいということだ。

 

 

 

 クライアント様からのご要望という形であったのなら、おれは応えずにはいられないだろう。そこんとこよく解っておられる。

 本来であれば昨日同様、関さんを巻き込んでの車内ひろさアピールの予定だったのだが……急遽予定を変更し、おれ対霧衣(きりえ)ちゃんの対談形式フリートークという形で、『きゃんぴんぐかーのすきなところ』をお話ししてもらう形となった。

 というわけで、構成のほぼ全てが『のわめでぃあ』となってしまったので……改めてヘィリィ(こんにちわ)する形となったわけでして。

 

 

 

「改めてになりますが、本日わたしたちは『三納オートサービス』さんのお手伝いとして、こうしてイベントにお邪魔しているわけですけども……」

 

「はっ、はいっ! こっ、ここっ、からの、時間は……わたくし、新人れぽーたーの、きりえが、『きゃんぴんぐかー』のすきなところを……ごせつめい、させていただきますっ」

 

「はい、よくできました! 大丈夫? きりえちゃん。緊張してない?」

 

「しゅっ、しゅこし……どきどき、しておりまする。……斯様(かよう)に、おっきくて、ご立派なお社様は……わっ、わたくし、初めてでございますゆえ」

 

「大丈夫だからね。わたしがついてるから、安心してね。…………あと視聴者さんたちの中で今えっちなこと考えた人は局長おこらないから正直に『きりえちゃんかわいい』って言って」

 

「わうぅ!??」

 

 

『お、おっきくてご立派さま……』『きりえちゃんかわいい』『きりえちゃんかわいい』『きりえちゃんかわいい』『立派だなんてそんな……照れるぜ』『きりえちゃんかわいい』『きりえちゃんかわいい』『AVインタビューかな……』『きりえちゃんかわいい』『振り込ませて』

 

 

 

 昨日今日と、朝十時からぶっ通しで配信回しているものの……車外で表立って霧衣(きりえ)ちゃんを起用するのは、地味に今回が初めてだ。

 おれの視聴者さんたちからの歓声と、会場のお客さんのどよめきと感嘆。狗耳白髪和服美少女きりえちゃんのポテンシャルは、やはり健在のようだ。取締役が推すだけのことはある。

 

 そんなこんなで自己紹介を終えて、特設の『お立ち台』へと二人揃ってひらりとよじ登って、ふたりならんで腰掛ける。なんでも昨日の閉場後、技術スタッフさんが高さの再調整をしてくれたらしく、現在の座面高さは九十センチほどに下げられている。

 お客さんたちとの距離も近づいたので、声も聞こえやすいだろう。あしがぷらぷらしてしまう高さだけど、霧衣(きりえ)ちゃんの姿勢は相変わらずきれいだ。

 

 

「それでは、そういうわけで……気合いいれて、いってみましょうか。『キャンピングカーの()()()()ポイント』ひとつめ。お願いします!」

 

「は、はいっ! ……えっと、あの……ごしゅっ、……わかめさまと、(おんな)じお部屋で眠れますゆえ、とても安心感が…………わ、若芽様!? いかがなされました若芽様!!」

 

「いや、ヴゥッ……っ、…………うん、大丈夫。……大丈夫だから……」

 

 

 

 

 予想通り……いや、予想を遥かに上回る『かわいい』の暴力。これがよく聞く『むり』『しんどい』といった感情なのかもしれない。ヒトって極限状態まで陥ると、やっぱ語彙力なくなるんだな。

 

 

 

 

 さてさて……この子と一緒にお話をする、この先およそ一時間。

 

 果たしておれは、この超高火力おれ特効攻撃を食らい続けて……生き残ることが可能なのだろうか!

 

 



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335【催事二日】会場散策でーとたいむ

 

 

 いや、正直危なかったけどね。

 あぶなかったけど……なんとか耐えきったと思ったんですよ。

 

 

 甘かった。

 

 対談形式トークを終えても……まだ終わりじゃなかったのだ。

 

 

 

 

 

「じゃあ、霧衣(きりえ)ちゃんちょっと待っててね。今訊いてくるから」

 

「は、はいっ! いってらっしゃいませ!」

 

 

(あの、突然すみません。こちらのキャンピングカー、可能であれば中のほう拝見させていただきたいんですが、いかがで…………エッほんとですか! ありがとうございます! あっ、えっと、あの……じつはわたし今仮想配信者(ユアキャス)やってまして、それで配信中なの、です、が、っと…………ほんとですか!? うれしいです! ありがとうございます!)

 

 

「オッケーいただきました! やたぁ!! 行きましょ霧衣(きりえ)ちゃん!!」

 

「はいっ! 御伴(おとも)させて戴きまする!」

 

 

 

 おれたちが現在お邪魔しているのは、ジャパ(略)スin東京に出展している某メーカーさんのブース。

 ……じつはこちら、配信者向け広告代理店(ウィザーズアライアンス)の大田さんから報告(タレコミ)があったメーカーさんなのである。

 

 なんでも、こちらのメーカーさん……おれたちが三納オートサービスさんから車輌を貸与され、めっちゃ満喫させてもらった車内動画(きりえちゃんかわいいのやつ)を公開した際……その様子が一部界隈で話題になっていたことを聞き付けたらしい。

 そして大田さんのところに『おれたち(『のわめでぃあ』さん)みたいにサブカルに明るい配信者いませんか』との相談を持ちかけてきたらしく……それで早い話が『ちょっと様子を見てきていただけませんか』という非公式な依頼を、おれは大田さんから引き受けてきたわけで。

 

 

 この際の『様子』というのは……いわく、メーカーさんがわの『サブカルに対する理解の幅』ということらしい。

 われらオタクと呼ばれる種族を、ただのオイシイ金蔓(カネヅル)としてしか捉えていないような相手には……つまるところ、あまり本気でお相手したくはないのだとか。

 やっぱオタクって……言っちゃアレだけど、面倒な種族だよな。おれも含めてな。

 

 そういった(ちょっとイヤらしい)視点から見た限りでは、こちらのメーカーさんはなかなか……いや、かなり良さそうな雰囲気だった。

 こうして直接相対すれば、おれに嘘や取り繕いは通用しない。そりゃさすがに『思考が読める』とかいうわけでは無いが、単純に『歓迎』か『嫌悪』かに絞ってしまえば、なおのこと間違えようがないのだ。エルフアイはお見通し。

 

 

 というわけで。

 おれたちの見学(および撮影)希望を快く引き受けてくれたこちらのメーカーさんは、いわゆる『軽キャンパー』と呼ばれる商品を主に取り扱っているらしい。

 ベースとなる車輌は軽自動車とはいえ、そもそも最近の軽自動車は基本性能が優秀なものが多いのだ。それらをベースにすることで軽自動車の取り回しの良さや燃費の良さを活かしつつ、用途を絞り込みスペースを最大限活用したキャビンを兼ね備えたものだ。

 そのお求め易さと小回りの良さ、街乗りも余裕でこなせるフットワークの軽さ等々……就寝定員を二名、あるいは一名に絞るのなら、極めて優秀なアイテムといえる。

 

 

 

「なるほど、めっちゃコンパクトにまとまってますね……」

 

「わ、わぁ……! おちつく空間にございまする」

 

「ソファベッドと、ポップアップルーフテント……ふたりで悠々、詰めれば四人寝れるサイズなんですね。良いなぁ」

 

「おふたりで、いっしょに……なかよしでございまする!」

 

 

 

「おおすごい、ソファ兼ベッド……あっ、カウンター下に脚が入る! なるほど、折り畳み式カウンターテーブルか……」

 

「となりどうし、若芽様のお隣でございまする。……えへへっ」

 

「ヴッ!! ……えっと、ソファの幅は……二メートル弱でしょうか。奥行きも九十弱ありそうなので、このままでも寝れますね」

 

「窓にも換気扇がついてございまする! これでお料理もはかどりましょう」

 

 

 

「ああすごい。やっぱりこれ、カウンターそのままでもソファに『ごろん』できますよ! 気軽にくつろげて良いですね……あっ、ソファの背もたれ外してギャレーのほうに嵌めればベッド広がるやつですねこれ」

 

「お、おっ、お二階が! わかめさま、おにかいに寝床がごさいます!」

 

「ポップアップベッドですね! ……あっ! カウンター端の棚! 変な配置だなぁと思ったら……上がるための階段ですかこれ! すごい! 霧衣(きりえ)ちゃんのぼってみる?」

 

「は、はいっ! 屋根裏のようで……よいしょっ、……はふぅ。わたくしはとても落ち着く空間にございまする、若芽様……若芽様? お顔を赤らめて、いかがなされました? …………えっ、みえ? ……???」

 

 

 

 

 続きましては、こちらのメーカーさん。キャンピングカー本体ではなく、汎用オプションパーツを幅広く手掛けている金属加工会社のキャンパー部門らしい。

 

 例によって大田さんからの紹介で、こっちへの訪問は割と『お願い』ベースで打診されていた形だ。

 だがしかし、どのみち全メーカーさんを回ることは無理なので、依頼混じりであろうとも目星を立てられるのはありがたい。

 こちらのメーカーさんは、サブカルに理解があるかどうかは関係なしに、単純に大田さんのところで度々プロモーションを手掛けている……まあ、いいお付き合いをしている関係なのだとか。

 

 

「じゃあまた、わたしが聞いてきますので……ちょっと待っててくださいね」

 

「はいっ。いってらっしゃいませ」

 

 

(こんにちわ、すみません。いきなり失礼します。あっ、いえ、その、怪しいものでは……あいえ、見た目は怪しいですけど、お巡りさんのお世話になったりはして……な…………えーっと…………あっ!? アッ、えっと、ちがいます! けっしてわるいいみでは……そうじゃなくてですね! ……えっと……わたし、実は配信者(キャスター)やってまして……それで、その……ご迷惑でなければ、こちら撮影させて頂くことは可能でしょアッ、エッ、大丈夫ですか!? ありがとうございます! ありがとうございます!!)

 

 

「いいって!!」

 

「さすがでございます! 若芽様!」

 

 

 

 

 そんなこんなで会場内を(といっても三納オ社さんの近くに限られるが)ふらふらとさ迷い、おれは与えられた会場散策時間を霧衣(きりえ)ちゃんとともに満喫する。

 大田さんからのお願いもあったし、個人的にも見てみたいブースはいくつかあったので、おれはたいへん楽しませてもらったのだが。

 

 気づけば……というか当然だが、突飛な容姿でカメラを回す二人組は良くも悪くも非常に目立つ。

 

 

 ましてやそれが、前日から界隈を騒がせていた『アウトドアが好き(※自称)で容姿端麗(※自己評価)でトークも堪能(※自画自賛)で見た目幼児にしか見えない実在エルフ(※性癖)で遣り手の配信者(※要出典)のキャンピングカーオーナー(※レンタル)』ともあれば……それはもう『これでもか』ってくらい、話題性があるということなのだろうか。

 

 

 

「すみません、ありがとうございました! 楽しかったです! カタログもありがとうございます! ……じゃあ、もうそろそろ十四時半ですからね。ブースに戻りましょうか」

 

「あの、お嬢さん。……突然すみません」

 

「えっ? あっ、はい!」

 

「すみませんお忙しいところ。(わたくし)、こういう者でして……大変恐縮ではございますが、少しだけお話宜しいでしょうか?」

 

「ヒゅっ、………………わかり、まヒた」

 

 

 

 

 これを『ごほうび』と捉えるべきか、はたまた『試練』と捉えるべきなのか。

 

 ……遺憾ながらまだまだ人生経験に乏しいおれにとっては、いまいち判断することはできなかったが。

 

 

 

「えーっと……では予定をちょっと早めまして、これから休憩をいただきます。おつぎは十五時、しばしご歓談を。……ヴィーヤ(ばいばい)!」

 

(ラニ、モリアキに伝えて。予定変更、休憩そのに突入)

 

(りょーかい。暗転……休憩用動画……はいった! おっけーだよ)

 

「……カメラとマイク、切りました。……ここで大丈夫ですか? めっちゃ人多いですけど」

 

「そうですね……ブースのほうへ向かいながらで。『三納オートサービス』さんのところで宜しいですよね?」

 

「わかりました。大丈夫です」

 

 

 

 おれの直感が。

 『一人でも多くのひとを喜ばせるため、少しでも多くのひとに知ってもらおうとする』ことを求める、本能とでもいうべき感覚が。

 

 

 これは絶好のチャンスである、と……そう告げていた。

 

 



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336【催事二日】飛込出演とーくしょー



【前回のあらすじ】
やばいことになったぞ!!





 

 

『会場の皆様、大変お待たせ致しました! ジャパンキャンピングカーフェス二日目、イベントステージ第三部! これより開場致します!』

 

 

 

 

 会場客席から盛大な拍手が鳴り響き、軽快なBGMが流れ始める。

 さすがはプロのイベント会社が手掛けるステージイベントだ。司会進行のお姉さんの声も聞き取りやすいし、マイクからの声とBGMの音量バランスもいい感じだ。

 

 本職の方が進行を務めている様子をこうして間近で眺めることなんて、そうそう無いだろう。学生時代の学園祭以来だろうか。

 抑揚をしっかりとつけ、とても聞きやすいお姉さんの言葉は、その後もステージイベントのスケジュールを順調に読み上げていく。

 

 その光景を目の当たりにし、耳から入る音声を認識し……『配信者としてこうあるべき』と設定し、それを再現したはずのおれの身体が、がらにもなく緊張しているのをいやがおうにも思い知らされる。

 

 

 

 

「間もなく()()だけど……大丈夫? 若芽ちゃん」

 

「っ、……すみません、失礼しました」

 

「いや、構わないよ。……この会場、ホント立派(リッパ)だからね。緊張して当然だよ。そもそも無理言ったのはコッチなんだし」

 

「いえ……ご心配お掛けしました。大丈夫です、いけます」

 

「っへへ、さすが心強いな。……宜しくね、局長さん」

 

 

 

『それでは早速、お呼びしてみましょう! 今ホットで絶好調のアウトドア芸人! 配信サイト『ユースクリーン』登録者数は十万人超え! 監修レシピブックの出版も決定しました……『わんわんながしまグリル』さん!』

 

 

「じゃ、先行くね」

 

「はいっ!」

 

 

 巨大な会場、立派なステージ、多くのお客さん、まぶしいスポットライト。

 そんな環境をものともせず……ベレー帽がトレードマークの愛犬家アウトドア芸人『わんわんながしまグリル』さんは、元気よくステージ袖から飛び出していった。

 

 日頃から多くの人々の視線に慣れている人は、その胆力も桁違いなのだろう。

 芸人……いや、芸能人。おれのような一般人なんかとは住む世界が異なる、日本中の人気者。おれなんかが肩を並べようなどとおこがましいが……しかし今日、いま、このときだけは、隣に並べる存在にならなければならないのだ。

 

 

 

『続きまして、もうお一方(ひとかた)! 昨日の開場以降、界隈の話題を独占! 配信サイト『ユースクリーン』登録者数は異例の早さで五万人! 実在した森の妖精『木乃若芽《きのわかめ》』さんです!』

 

 

 ……なんだか妙にこっ恥ずかしい宣伝文句が聞こえた気がするけど、今はそんなの気にしていられる状況じゃない。あとだあと。

 意識して頭の中のスイッチを切り替え、理想の演者を()び起こす。

 

 暗くひっそりとした舞台袖から、スチールの階段を駆け上がり……わたしはまばゆいスポットライトが照らし出す舞台上へと、胸を張って飛び出していった。

 

 

 

 

 

『さてそれでは改めまして、イベントステージ第三部。十五時からはアウトドア芸人『わんわんながしまグリル』さんをお招きしまして、先日に引き続きインタビュー形式でお話お伺いしようと思ってたのですが……』

 

『はい。それに関してはボクから。いやぁ昨日の……ちょうど今なんですけどね。ボクの枠始まる直前になって、急にお客さん『サーーッ』て()けてったんですよ。ボク一応芸人なんで、芸人としてはこんな恐ろしいことったら無いんですよね。んで、なんでかなって後になって調べてみたら…………いやいやいや……見つけましたよ、元凶! 捕まえましたよ! ()()()です!』

 

『つ…………捕まっ、ちゃい……ました。……えへっ』

 

『『えへっ』じゃないですよホンマ可愛いなぁ。何なんすかお嬢ちゃん、可愛い顔して恐ろしい子ですよ。ボクはよく知ってますけど……ホラ、皆さんにちゃんと自己紹介したったってください』

 

『はいっ。……ヘィリィ! 実在仮想配信者(アンリアルキャスター)、キャンピングカーだって乗れるエルフの『木乃若芽(きのわかめ)』です! ……わんわんながしまグリルさん、本日はお招きいただき、ありがとうございます!』

 

『なんでも聞くとこよによると……ほんの三十分ほど前にわんわんながしまグリルさんからの打診で、急遽出演が決まったとか』

 

『はいっ! 今日わたしは宣伝お手伝いとしてお邪魔してたんですけど……自由時間に会場内歩いてたらですね、わんわんながしまグリルさんの』

 

『いや、お二人とも……ナガシマでいいすよ。長いでしょう』

 

『あっ……ありがとうございます。えっと、ナガシマさんのマネージャーさんに声掛けられ……捕まっちゃいまして。そこで……本当ありがたいことに、ナガシマさんが共演を持ち掛けてくださって、急いで相談して許可もらって、大急ぎで晴海(はるみ)お姉さんにご挨拶して……そして今に至ります』

 

『私達もビックリしましたよ。いきなり出演者が増えたこともなんですけど……だって、エルフちゃんですよ、エルフちゃん! 本当妖精さんみたいで、とーっても可愛らしいですよねぇー!』

 

『き、恐縮です。……妖精ではないですが!』

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

 ……っとまぁ今更だが、ここへ至るまでの経緯をざっくりと説明させていただこうか。

 とはいえ、司会進行兼インタビュアーの晴海(はるみ)お姉さん、ならびにナガシマさんの説明にあった通りなのだが……光栄なことに、アウトドア芸人ナガシマさんのマネージャーさんから共演のオファーをいただいたことに始まる。

 

 大慌てで多治見(たじみ)さんおよび(せき)さんに相談してみたところ、二つ返事で『こちらとしては問題無いですよ』と……なんていうか、やけにアッサリと許可をいただきまして。

 取り敢えず時間が差し迫ってるということで、お詫びとお礼はまた今度にするとして……今度はイベント運営委員会のほうへと相談に伺い、しかしこちらも妙にあっさりと許可が降りまして。

 

 

 よって……おれはこうして『わんわんながしまグリル』さんに導かれ、おそれおおくもメインステージへと登壇してしまったわけで。

 

 

 

 

『……っと、このように話題沸騰中のお二方ですが……好みのアウトドアの楽しみ方やプライベートについて、お話お伺いしていこうと思います! どうぞ、お掛け下さい』

 

『うっす。宜しくお願いします!』

 

『しっ、失礼、します……っ!』

 

『ガッチガチやね。緊張してます? 若芽ちゃん』

 

『も、もちろん! わたし一般人ですし……こういう場は初めてですし!』

 

『では……ガチガチのところすみませんが、進めさせて頂きますね』

 

 

 

 

 

――お二方はそれぞれ、ご自分でキャンピングカーを所有されてるとのことですが、大まかな仕様をお聞かせいただけますか?

 

【わんわんながしまグリル(以下『長島』)】ボクはダイナのキャブコンですね。購入して……五年くらいかな? まぁ中古なんですけどね。就寝六名くらいいけるみたいですけど、ほぼ一人と一匹でしか使いませんね。

 

【木乃若芽(以下『木乃』)】わたしはハイエースベースのバンコンで……案件の一部として、お借りしている形です。レンタルなんですけど、とてもよくして頂いてます。就寝定員は大人四名と子ども一名……えーっと、はい……わたしが『子ども一名』部分に、どういうことか収まってます。オトナなんですが。

 

 

――結構な頻度でアウトドア利用をされているようなのですが、出掛けるときはどなたとご一緒することが多いですか?

 

【長島】あー……ボクはもう独身貴族なもんで、完全に人間はボクだけですね。ボク一人と……相棒のアラシ君とですね。ラブラドールの男の子です。

 

【木乃】わたしは……三人か、四人で行くことが多いですね。大抵『のわめでぃあ』の……あっ、えっと、ユースクでやってるチャンネルのメンバーです。

 

 

――泊まり掛けで出掛けることも多いとは思うのですが、食事はどのような形を取ることが多いですか?

 

【長島】日によってまちまちですね。火を起こして飯盒炊爨やら焚き火料理することもあれば、お湯だけ沸かしてカップ麺にすることもあったり……パックご飯とレトルト食品をレンチンして済ますこともありますよ。

 

【木乃】わたしたちは……お料理ガチな子がいるので、割とその子が何とかしてくれちゃってますね。朝ごはんとかは簡単なカップ麺にしちゃうこともありますけど。

 

 

………………………………

 

 

……………………

 

 

 

…………

 

 

 

 おっかなびっくりだった、注目を浴びながらのステージイベントだったが……お二方の穏やかな語り口のお陰もあってか、おれは少しずつ調子を取り戻していった。

 

 日頃からおれを応援してくれてる視聴者さんたちと、今日はじめておれを目にするお客さんたち。

 その多くの温かな目に見守られながら、対談イベントは順調に進んでいった。

 

 

 





『絶対に実在人物と名前かぶっちゃダメだ』という強い意志によって、到底実在しなさそうな芸人さんが爆誕しました。わんわん。

実在人物に名前被ってないよな??(不安)
こんなご機嫌なお名前の有名人さんいませんよね????(無知)


もし後日名前変わってたら察してください(予防線)



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337【催事終了】波紋拡散いんしでんと

 

 

『仮想発の実在妖精!? 神秘のベールに包まれた謎多き新人配信者【木乃若芽】とは?』(URサーチ)

 

□2o2x年1月26日17:28 □ジャンル:URcaster

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 Live2Dや3Dモデルを活用したアバターを操作し、動きや声を当てることでキャラクターを表現する、現実には存在しない配信者……すなわち、仮想配信者(アンリアルキャスター)

 にじキャラ(株式会社NWキャスト)とユアライブ(株式会社ウィズダムヴィジョン)の二大巨塔に牽引される形で隆盛を誇るこの『仮想配信者』界隈において、昨今()()()()()が巻き起こっているのを、ご存じだろうか。

 実在仮想配信者騒動とも呼ばれるこの事件は……昨年末、とある一人の(自称)仮想配信者がデビューしたことに端を発する。

 彼女の名こそ、表題にある『木乃若芽(きのわかめ)』さん。紛れもなく日本人であろう名前をもつ彼女だが……驚くなかれ。なんとファンタジックなエルフの少女の姿を持つ、敢えてこう書くが仮想(アンリアル)ではない、実在の配信者(キャスター)なのだ。

 

 

 

………………………………

 

 

……………………

 

 

…………

 

 

 

 

『アウトドアブームに新たな風! キャンフェス会場に『森の妖精』現る』(キャンパーズプレス)

 

□2o2x年1月26日17:33 □タグ:アウトドア

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 昨今、キャンプやアウトドアレジャーを題材とした漫画作品やアニメーションの台頭もあり、にわかに活気づいて久しいアウトドア分野において、またしても新たな展開が巻き起こった。

 ジャパンキャンピングカーフェス(東京臨海展示場ビッグボックス:一月二五日・二六日)の二日目メインステージイベント、アウトドア芸人の『わんわんながしまグリル(※以下長島)』さんに招かれる形で現れたのは、なんと新緑色の髪と尖った耳を持つ、年端もいかぬ少女であった。

 まるで童話や小説の中から飛び出してきたかのような容姿ながら、自身もハイエースベースのキャンピングカーを乗り回すオーナーであるという、木乃若芽(きのわかめ)さん。普段インターネット上で動画コンテンツを提供している配信者(キャスター)として活躍している彼女は、長島さんと共に時間いっぱいキャンピングカーの魅力について語ってくれた。

 

 

 

………………………………

 

 

……………………

 

 

…………

 

 

 

 

『アウトドア芸人、未成年少女とまさかのツーショット!? 所属事務所は静観の構え』(週刊ホットインフォ)

 

□2o2x年1月26日20:26 □カテゴリ:芸能

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 自身のブログや動画投稿サイトにて、愛犬との生活やソロキャンプ関連記事を数多く投稿しているアウトドア芸人『わんわんながしまグリル(本名:長島王一(きみかず))』氏に、とある疑惑が浮上している。

 発端となったのは、東京臨海展示場ビッグボックスにて開催された『ジャパンキャンピングカーフェス』での一幕。トークイベントに招かれた長島氏だったが、本人が出演するステージイベント開始直前、演出に関して強引ともとれる方針転換を図ったのだ。

 当日ステージイベントに携わっていたスタッフに詳しい話を聞いたところ、当初は長島氏とインタビュアーによる一対一の対談形式を予定していたものの、登壇十五分前になって突如対談相手として『とある少女』の登場が決まったのだという。

 わんわんながしまグリル氏といえば、これまで女性関係の報道が滅多にされてこなかった『独身貴族芸人』であるが、この異例ともいえる強引な人員変更は彼の判断によるものなのか、はたまた誰かの指示によるものなのだろうか。

 

 

 

………………………………

 

 

……………………

 

 

…………

 

 

 

 

 

『探せばまだまだありそうですよ。大人気ですね、若芽さん』

 

「ゥオオォォオゥオゥオゥオ…………」

 

「おぉ…………スゲェことになってるっすね……」

 

 

 

 都合二日間に及ぶ展示即売会『ジャパンキャンピングカーフェス』……おれがキャンペーンガールとしてお手伝いさせていただいたイベントは、大きなトラブルもなく無事幕を閉じた。

 三納オートサービスの方々に見送られ、とりあえずおれたちは一足お先に開場を後にした。彼らはこれから撤収作業があるらしく、本当ならおれも手伝おうとしたんだけど……なんか、全力で断られた。

 

 『拒絶』の感情まで感じてしまっては、おれにはどうすることもできない。……しかしまぁ普通に考えれば、ちまい部外者がうろうろしてるほうが邪魔だったな。

 うん、さすがに軽率だった。

 

 というわけで、とりあえず先日と同様港湾エリアの某パーキングエリアに(ハイベース号)を停め、中のひとご一行はおれたちの拠点へと直帰しまして。

 自室へ戻ってメインPCを立ち上げたところに、すかさず会議通話を繋いできてくれたミルさんによって、各方面でおれのことが話題になっていることを教えてもらった……というわけだ。

 

 

 そもそも今回の『ジャパ(略)ス』……クライアント様である三納オートサービスさんいわく、最終的な成果は例年の同イベント比で、なんとおよそ四倍。

 有力顧客候補も数多く獲得することができたので、疑う余地無く大成功とのことである。

 取締役の関さんをはじめ、重役の方々に直々にお褒めの言葉をいただいたのだが……いやいやいや、おれのほうこそ感謝してもしきれない。

 

 とても便利な移動拠点を提供してくれて、こんな晴れ舞台を用意してくれて……そのおかげで、今日なんか芸能人のお方とお話しする機会を得ることができ、おまけにこうして様々なネットメディアで取り上げてもらえたのだ。

 おれの知名度も、結構上がったのではないだろうか。嬉しいことだ。

 

 

 

 ただ……さっき流し見たなかでもあったように、ときと場合によってはおれの存在が誰かの迷惑となり得るということも、しっかりと認識しておく必要があるだろう。

 

 長島さんのような……それこそ芸能界で戦っている人々なんかは、こういった疑惑やスキャンダルが致命傷となりうる可能性だって秘めている。

 今回は現場の責任者に『楽しそうだからオッケー』との許可を得たとはいえ、急なねじ込みであったことは事実なのだ。噂好きなひとがあれこれ思考を巡らせ、良からぬ噂が立たないとも言えないだろうし……事実、立ち始めてしまっているのだろう。

 

 センセーショナルな見出しの記事は、数字もウケも良いのだとか。取材らしい取材もせず、伝聞に自身の推測を織り込んで、有ること無いことをそれっぽく仕立て上げる。当事者に迷惑が掛かろうと知ったことではない。むしろ当人から弁明が出ればそれを拾って記事にできるので、記者としては話題に事欠かないから都合が良い。

 ……あの記事からは、そういった自分勝手な『悪意』ともとれるものが感じられる。

 

 

 

「……とりあえず、長島さんには謝っといた方がいいかな」

 

「そうっすね。多分事務所の耳には入ってると思いますが、念のた………………えっと、どうやって?」

 

「えっ? REIN(メッセージ)で」

 

『「えっ?」』

 

「えっ? あ、いや……あのあと舞台袖で意気投合しちゃって。キャンピングカー旅の先輩だし。アドバイスとかお願いできませんか、って聞いたら交換してくれたから……」

 

「………………先輩、あの」

 

『若芽さんそれ……絶対に、絶ッッ対に、ぜっっっったいに!! この場以外の誰にもバレちゃダメですからね!?』

 

「えっ? あっ、アッ、う、うん」

 

 

 

 さすがにおれだって、長島さんが住む世界の異なるひとだということは解っている。彼はミルさんうにさんたちや、あるいは一般JKのメグちゃんサキちゃんたちみたいに、おれなんかが気軽に連絡を取り合えるような方ではないのだ。

 連絡先を交換していただけたことは嬉しいのだけど……彼にアドバイスなんかを求めるのは、もしかするとよくないのかもしれない。

 

 

 

「とりあえず、お礼と、記事のお詫びと。それだけ送って、あとは……残念だけど、連絡取ることは無いかもなぁ」

 

『…………すみません。ぼくは仕事柄どうしても、スキャンダルとかそういうのに対する警戒心が……』

 

「いやいやそんな! むしろありがとうね、ミルさん。記事になってるなんて気づかなかったし」

 

『ずーっと配信してましたもんね。仕方無いですよ。……本当に、お疲れ様でした』

 

「そうっすよ。取り敢えずは、お疲れさまでした……先輩」

 

 

 

 階下の台所から、お醤油とみりんのいい香りがほんのりと漂ってくる。例によって霧衣(きりえ)ちゃんが手掛けてくれる晩ごはんが、そろそろ完成に近づいてきたのだろう。

 

 おおきなお仕事、おおきな山場を無事乗り切ったことを祝して……今日の晩ごはんはなんと、ちょっとふんぱつして『すきやき』だ。

 お肉もネギもおとうふも、たまごもたくさん。ビールだって準備万端だ。

 

 

 

「わかめさまぁー! 夕餉の支度が整いましてございまするー!」

 

「ねぇねぇねぇノワ! すごいよたまごが! お肉にたまごつけて食べるんだって! ノワ早く早く!」

 

「わかった! 今いくから! ……じゃあ、ミルさん。また」

 

『ふふっ。……はい、また。お疲れさまでした』

 

 

 

 おれたち『のわめでぃあ』の成功と、三納オートサービスさんの成功を祝して。

 今日のところはとりあえず、細かいことは考えずに祝杯を上げようではないか。

 

 明日から、またがんばろう。

 

 

 



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【おタマ】木乃若芽ちゃんを語るスレ_第二十六夜【入れます】そのに


※例によって中途半端かもしれません。申し訳ございません。責任をとって局長が




 

 

………………

 

 

………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

 

 

0557:名無しのリスナー

 

なんでわかめちゃんがステージ立ってんのwwww

 

 

0558:名無しのリスナー

 

わかめちゃんなにやってんの!?!、?

 

 

0559:名無しのリスナー

 

局長!!!、?

なにやってんだよ局長ォ!!、!!

 

 

0560:名無しのリスナー

 

まさかのながしまグリルさんからのオファーなの

さっきのマネージャーさんだったか

 

 

0561:名無しのリスナー

 

『捕まっちゃいました(てへぺろ』

は?かわいいが???すきだが???

 

 

0562:名無しのリスナー

 

チクショウおれも捕まえてぇ

 

 

0563:名無しのリスナー

 

だよなぁwwww昨日わかめちゃんオンステージだったからなぁ

 

 

0564:名無しのリスナー

 

芸人にとっては怖いよなww

自分の番になっていきなりお客さん捌け始めるとかトラウマレベルだもんなぁ

 

 

0565:名無しのリスナー

 

そんなフットワーク軽く出演決められんのwwww

 

関係者各位gj!!!!!

 

 

0566:名無しのリスナー

 

われらが局長の晴れ舞台!!!、

今夜は宴やな!!!!

 

 

0567:名無しのリスナー

 

アイドルじゃんかわいい

 

 

0568:名無しのリスナー

 

撮影係きりえちゃんかな

 

三脚使ってそうだしスタッフか

 

 

0569:名無しのリスナー

 

ながしまグリルさんよくやってくれた

 

 

0570:名無しのリスナー

 

わんこ好きコラボ!!!!

 

 

0571:名無しのリスナー

 

どっちも好きな俺歓喜

 

 

0572:名無しのリスナー

 

ながグリさん地味に好きなんだよな

自分がキャンプしてる気分になれる動画

 

 

0573:名無しのリスナー

 

きりえちゃんはおるすばんか?

こんなお客さんいっぱいの中に和服イヌミミ美少女とか注目されないわけ無いもんな?

 

 

0574:名無しのリスナー

 

ダブルゲストトークショーたすかる

 

 

0575:名無しのリスナー

 

はーまじ……まじ最高

推しの晴れ舞台じゃん……アーカイブ残してほしい……

 

 

0576:名無しのリスナー

 

森の妖精wwwwwwww

 

 

0577:名無しのリスナー

 

ようせいさんかぁー(ちらっ

 

 

0578:名無しのリスナー

 

ラニちゃんが黙ってなさそう

 

 

0579:名無しのリスナー

 

ラニちゃん『ボクを呼んだかい?』

 

 

0580:名無しのリスナー

 

ま、まぁ……媒体によってはエルフって妖精だし……あながち間違いじゃないのか?

 

 

0581:名無しの現地特派員

 

>>573

きりえちゃんはハイベース号の中でお留守番のもよう

わかめちゃん一人しか出てかなかったわ

 

 

0582:名無しのリスナー

 

ながぐりさんデッカいやつもってんのな

車体でかいけど自分達以外ほとんど泊めないって前インタビューでいってたが

 

 

0583:名無しのリスナー

 

わんこと二人旅してるんよね

 

 

0584:名無しのリスナー

 

わんわんながしまグリルさんのわんわんかわいいからすき

 

 

0585:名無しのリスナー

 

大型犬と二人旅は男の憧れ

 

 

0586:名無しのリスナー

 

わんながニキいいなぁ、独身貴族謳歌してるって感じで凄く羨ましい

 

 

0587:名無しのリスナー

 

ハイベース号!!!

 

 

0588:名無しのリスナー

 

大人四人と子ども一人寝られるんか

こどもようwwwwわかめちゃん子ども用wwww

 

 

0589:名無しのリスナー

 

子ども用ベッドにロリが二人で密着して一夜を共にしてるんですね……えっちじゃん

 

 

0590:名無しのリスナー

 

大人四人ものれるの

 

 

0591:名無しのリスナー

 

のわちゃん無茶な大人アピールは見苦しいぞ

 

 

0592:名無しのリスナー

 

ハイエース運転するんだよなぁこの幼女……

 

 

0593:名無しのリスナー

 

あーそうそうアラシ君だ

ご主人様大好きでかわいいんだよなぁ……

 

あーーいいなぁワンコと二人旅ーーー

 

 

0594:名無しのリスナー

 

ラブラドールのかいぬしワイときめきを禁じ得ない

 

 

0595:名無しのリスナー

 

わんわんながしまグリルさんのわんわんかわいい

 

 

0596:名無しのリスナー

 

なんのこちとらよわよわわかめちゃんとわうわうきりえちゃんやぞ

 

 

0597:名無しのリスナー

 

三人……のわちゃんとラニちゃんときりえちゃんか

四人って誰だろ、裏方さんか?

 

 

0598:名無しのリスナー

 

仲良いなぁwwww

 

 

0599:名無しのリスナー

 

寝息がかわいいきりえちゃんな

 

 

0600:名無しのリスナー

 

ラニちゃんとのわちゃんが同じベッドでなかよししてるってことは大人二人分空きがあるんだよな?

どうやったら泊まれる???

 

 

0601:名無しのリスナー

 

めしの話題は俺に効く

 

 

0602:名無しのリスナー

 

キャンプ飯はいいよなぁ

男飯って感じだ

 

 

0603:名無しのリスナー

 

ダッチオーブンやってみたい

 

わかめちゃんと◯ッチオー◯ンやってみたい

 

 

0604:名無しのリスナー

 

わんながグリルさんは料理つよつよ勢だよな…

監修レシピブックとか出しちゃうくらいだもんな

 

 

0605:名無しのリスナー

 

きりえちゃんかーー

 

 

0606:名無しのリスナー

 

お料理ガチの子wwww

 

 

0607:名無しのリスナー

 

きりえちゃんお料理上手かわいい

 

 

0608:名無しのリスナー

 

わかめちゃんきりえちゃんとけっこんしろ

 

 

0609:名無しのリスナー

 

わかめちゃんしあわせだろなぁ……

 

きりえちゃんもしあわせだろなぁ

 

 

0610:名無しのリスナー

 

ハイベース号の正直そこまで整ってないキッチンでも問題なくお料理できるきりえちゃんのスペックよ

 

 

0611:名無しの現地特派員

 

【速報】ハイベース号から女の子の悲鳴wwwwww

 

 

0612:名無しのゴブリン

 

きりえちゃんの悲鳴wwwまたwwww

 

 

0613:名無しのリスナー

 

仲良いなぁまじてぇてぇ

 

 

0614:名無しのリスナー

 

きりえちゃんのりょうりすきなわかめちゃんすき

 

 

0615:名無しのリスナー

 

シンクがあって、あとはコンロ持ち込んでる程度やろ?

すげえな、おれ卵焼きしか作れねーぞ

 

 

0616:名無しのリスナー

 

いってみたいところかぁ

 

 

0617:名無しのリスナー

 

行ってみたいところ

 

 

0618:名無しのリスナー

 

わかめちゃん翁縄とか言ってたか?

 

 

0619:名無しのリスナー

 

ながぐりさんも結構あちこち行ってるよなぁ

 

 

0620:名無しのリスナー

 

ながぐりさんも翁縄あこがれあるんか

キャンピングカーで翁縄ってなかなか行けんよな

 

 

0621:名無しのリスナー

 

翁縄キャンピングカーかぁ

 

 

0622:名無しのリスナー

 

おお、やっぱり翁縄か

 

 

0623:名無しのリスナー

 

これあくまで『行ってみたいところ』だからな?

行くとは言ってないからな???

 

 

0624:名無しのリスナー

 

西表島在住ワイ期待していいんですか

翁縄本島までだったら余裕で出向きますが

 

 

0625:名無しのリスナー

 

さすが旅好きどうしめっちゃ話合うじゃん

 

 

0626:名無しのリスナー

 

翁縄へ車を運ぶ段取りとか普通のひとはしらない

海運会社の料金とか普通のひとはしらない

 

 

0627:名無しのリスナー

 

真面目に手段考察し始めて草wwww

 

 

0628:名無しのリスナー

 

やべーぞ二人ともやる気になってるんじゃね

 

 

0629:名無しのリスナー

 

西表島ニキに幸あれ

 

 

0630:名無しのリスナー

 

次に行くところ

 

 

0631:名無しのリスナー

 

次に行こうとしてるところ?

さっきのとは違うんか

 

 

0632:名無しのリスナー

 

次つったらあれか、ダーツしたところ?

 

 

0633:名無しのリスナー

 

ダーツのとこか

 

 

0634:名無しのリスナー

 

わんながグリルはやっぱり手堅いな

 

 

0635:名無しのリスナー

 

まぁ無難にそうくるか、わんこ一緒だとな

 

 

0636:名無しのリスナー

 

あー、さっきの「行きたいとこ」はあくまで願望ってことね

んでこの「次に行こうと思ってるとこ」は実際に計画してるとこって意味か

 

 

0637:名無しのリスナー

 

希望とは違うのか

実際に計画してるとこってことね

 

 

0638:名無しのリスナー

 

きりえちゃんがダーツやったやつかwwww

 

 

0639:名無しのリスナー

 

ビンゴカード82番ぶち抜いたやつ

 

 

0640:名無しのリスナー

 

やっぱ伊逗かーーー

 

 

0641:名無しのリスナー

 

次は伊逗か!!!

ていうかもうあの企画やるんか!!!

 

 

0642:名無しのリスナー

 

ちょっと伊逗在住のフォロワーにわかめちゃん布教してくるわ

ていうか泊まれないか聞いてくるわ

 

 

0643:名無しのリスナー

 

あれか、現地でつぶやいたーで「せっかくなので◯◯いってみて」って募集するやつか

生わかめで言ってたやつか

 

 

0644:名無しのリスナー

 

さりげなく宣伝wwwwwwww

 

 

0645:名無しのリスナー

 

チャンネル宣伝欠かさないのわちゃんえらいぞ

 

 

0646:名無しのリスナー

 

ちょっと鎮岡県民になってくるわ

 

 

 

 

………………

 

 

………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

 

0750:名無しのリスナー

 

いかないで

 

 

0751:名無しのリスナー

 

いかないで

 

 

0752:名無しのリスナー

 

局長いかないで

いっちゃやだ

 

 

0753:名無しのリスナー

 

おてて振るわかめちゃんかわいい

いかないで

 

 

0754:名無しのリスナー

 

夢のような時間だった……

 

 

0755:名無しのリスナー

 

いかないで……

 

 

0756:名無しのリスナー

 

でもこの規模のイベントのステージだろ

さすがに耳ざとい報道関係者黙ってないのでは?

 

わかめちゃんバズってしまうか???

 

 

0757:名無しのリスナー

 

のわちゃんおつかれさま

 

 

0758:名無しのリスナー

 

晴れ舞台よかったぞ、わかめ……

成長したな……

 

 

0759:名無しのリスナー

 

これで今までわかめちゃんを知らなかった層にもわかめちゃんのかわいさが知れたわけだな

いいことだ

 

 

0760:名無しのリスナー

 

これは急上昇検索ワード待ったなしですわ

 

 

0761:名無しのリスナー

 

とりあえず今夜から明日の朝にかけてそれっぽいネットニュースチェックしとかんとな

 

 

0762:名無しの一般客

 

明らかに記事撮影用のデジイチ構えてたおっさんおったからな

わかめちゃんの写真バシバシ撮ってたから何かしらの記事にはなると思う

 

 

0763:名無しのリスナー

 

おバズりの予感!!!!

 

 

0764:名無しのリスナー

 

今夜はお赤飯かな

 

 

0765:名無しのリスナー

 

わかめちゃんは……さすがに休憩か

めっちゃ熱こもってたもんな……

 

 

0766:名無しのリスナー

 

やっべ、ドキドキしてきたわ

おれのわかめが記事になるって考えると

 

 

0767:名無しのリスナー

 

三十分休憩か

ええんやで、ゆっくり休みや

 

 

0768:名無しのリスナー

 

いま会場で知って検索してくれてるひとおるんやろな……

明らかに登録者数増えてるわ

 

 

0769:名無しのリスナー

 

しっかし本当三納オートサービスさんはよくやってくれた

三納オートサービスの取締役の関さんはよくやってくれた

ありがとう三納オートサービス取締役の関さん

 

 

0770:名無しのリスナー

 

ウィンウィンの関係ってやつですね!!!

 

 

0771:名無しのリスナー

 

休憩後は通常業務に戻るんか

よかったなわかめちゃん……へいわだぞ

 

 

0772:名無しのリスナー

 

わかめちゃんおつかれさま!

今日もかわいかったよ!!

 

 

0773:名無しの一般見物客

 

こちら三納オートサービス社ブース前

明らかに人増えてる模様

 

 

0774:名無しのリスナー

 

やベーな今日

休憩挟みながらだけどずーっとカメラ回ってるんだろ?実質ヘイリィじゃん

 

 

0775:名無しのリスナー

 

休憩中も飽きさせまいというわかめちゃんの心遣いよ……

 

 

0776:名無しのリスナー

 

すげーよな……ぶっ通しとかよーやるわ

カメラの給電どうやってんだ?わかめちゃんゴップロユーザーやろ?

 

 

0777:名無しのリスナー

 

わかめちゃんに会いたいけど

わかめちゃんにいっぱい休憩とってほしい

このジレンマよ

 

 

0778:名無しのリスナー

 

もうすぐ休憩終わっちゃうのかぁ……

大丈夫なんか局長

 

 

0779:名無しのリスナー

 

伊逗の旅楽しみだなぁ……

温泉回とか期待しちゃっていいんですかね???

 

 

0780:名無しのリスナー

 

>>776

こういう細かな休憩タイミングとか、あるいは別の固定カメラに切り替わったタイミングでバッテリー交換してるんだろうな

つっても標準バッテリーだけじゃたかが知れてるし、モバイルバッテリーから常時給電してるっぽい

どうやらあれ自撮り棒じゃなくてグリップ兼用モバイルバッテリーだわ

 

 

0781:名無しのリスナー

 

>>777

わかる、毎秒悲鳴上げてほしいけどゆっくり休んでほしい

 

 

0782:名無しのリスナー

 

ユアキャススレでこんな流れ早いのわかめちゃんくらいじゃね?

既に20スレ超って産まれて1ヶ月そこらの速度じゃねえぞ

 

 

0783:名無しのリスナー

 

まもなく開場wwwwwww

 

 

0784:名無しのリスナー

 

まあいうて年末年始の巫女さんバイトよりは

 

 

0785:名無しのリスナー

 

運動量がやべーんだよな

よく体力持つよな本当

 

 

0786:名無しのリスナー

 

まもなくはじまる

わかめちゃんきちゃ

 

 

0787:名無しのリスナー

 

そっか年末年始な……

四日連続二十時間くらいご奉仕しとったか?

 

そういえばスレもそうだな。わかめちゃんリアル顕現祭で一気にスレ加速したんだっけか

 

 

0788:名無しのリスナー

 

わかめちゃんがんばって

むりしないで

はやくぱんつみせて

 

 

0789:名無しのリスナー

 

キャンギャルが休憩開けるだけで謎の大歓声よ

 

 

0790:名無しのリスナー

 

ぜってー他のキャンギャルと扱い違うってwwwww

俺含め普通の人の知ってるキャンギャルとちがうwwwwwww

 

 

 

………………

 

 

………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

 

 

0943:名無しのリスナー

 

キャンプレも記事だしてたわ

さすがやな

 

【アウトドアブームに新たな風! キャンフェスin東京に『森の妖精』現る】

htfps://_camperspress.netnews/archives/2o2oo126_03

 

 

0944:名無しのリスナー

 

すげーなマジで記事ぽこじゃか出てんじゃん

 

 

0945:名無しのリスナー

 

わかめちゃんはよくやってるよ

 

 

0946:名無しのリスナー

 

キャンプレgj

お目が高いわ

 

 

0947:名無しのリスナー

 

URサーチもキャンプレもいい記事だしてくれた

わかめちゃん古参として例を言おう

 

 

0948:名無しのリスナー

 

いやーでもあの対談はよかったとおもうぞ

ながグリ兄貴の事務所的にアーカイブ残せないのは残念だけど、逆にインタビュー記事として掲載される可能性あるかもな

どっかで文字起こししてくんねーかな

 

 

0949:名無しのリスナー

 

開場の誰かが録音ないし録画してくれてればいいんだが

 

 

0950:名無しのリスナー

 

芸能人はなーー……権利関係うるさそうだし、下手なことできんわな

 

 

0951:名無しのリスナー

 

ちょっとまて、

わかめちゃんの初オフコラボ相手ながグリ兄貴ってことか?

 

わかめちゃんのはじめてのあいてが????

 

 

0952:名無しのリスナー

 

でもお互いめっちゃ楽しそうでよかったな……

なんとか何かしらの形で残してほしいけど、はしもとはそのへん厳しいよな……

 

 

0953:名無しのリスナー

 

ああ!!!わかめちゃんのはじめてのオフコラボが!!!!

 

 

0954:名無しのリスナー

 

>>951

わんわんながしまグリルゆるさんぞ

 

 

0955:名無しのリスナー

 

わかめちゃん芸能人とプロ司会者相手に普通に渡り合ってたよな……

トークショーとして全然成り立ってたよな。ポテンシャルたけえよあの百歳児……

 

 

0956:名無しのリスナー

 

>>951

な、なんてことだ……わかめちゃんのはじめてが……

 

 

0957:名無しのリスナー

 

事前の打ち合わせなしにあのトーク濃度は単純にすげぇって

 

 

0958:名無しのリスナー

 

やっべ >>950 俺じゃん

建ててくるからな、わかめ……

先にシャワー浴びて待ってろよ……

 

 

0959:名無しのリスナー

 

とりあえずゆっくりやすんでもろて

 

 

0960:名無しのリスナー

 

>>951,954,956

落ち着けお前ら

わかめちゃんのオフコラボ処女は既にうにたそが奪ってるから

 

 

0961:名無しのリスナー

 

わかめちゃん芸能人とタメはれる説

 

 

0962:名無しのリスナー

 

>>958

スレ立ててくれんのは素直に嬉しいんだけど

何なんスかね、この彼氏ヅラっていうか……

 

 

 

 

わかめはおれの隣で寝てるってのによ

フフ、これから忙しくなるな、わかめ

 

 

0963:名無しのリスナー

 

【ラニとは】木乃若芽ちゃんを語るスレ_第二十七夜【同じベッド】

htfps://ch_fiction/indextop/qawsedrftg202001xk/461pan2/

 

 

スレ立ては完了したんだが

 

ちょーっとおもしろくねーもん見つけちまったは……

見て見ぬふり出来なさそうなのでお前ら巻き込むわ

 

 

0964:名無しのリスナー

 

わかめちゃんユースクだけにとどまらず活躍の幅つよつよ芸人になってほしい

 

芸人ってとこ重要な

 

 

0965:名無しのリスナー

 

>>962

まぁまぁ待て、現実逃避したい気持ちはわかるが正気にもどれ

わかめは特定相手と床を共にするようなふしだらな女じゃない

 

 

そうだろう、わかめ。

フフ、そのドレス……似合ってるぞ……

 

 

0966:名無しのリスナー

 

【アウトドア芸人、未成年少女とまさかのツーショット!? 所属事務所は静観の構え】

 

htfps://_geinounews.com/wrno412503/update/2o2oo126/geino_06/

 

 

↑面白くねーもん

 

これ書いたライターってクソデマ記事で悪名高いやつじゃん

おれたちのわかめにくだらねぇ悪い噂立てんなよクソクソクソうんち

 

 

0967:名無しのリスナー

 

おもしろくないってことはわかめちゃんのことじゃないのか(?)

 

 

0968:名無しのリスナー

 

わかめちゃんの自称彼氏が多いインターネッツですね?

 

 

0969:名無しのリスナー

 

なんだこの気持ち悪いやつらwww

 

 

0970:名無しのリスナー

 

おもしろくないってことはわかめちゃんとちゃうかぁ

 

 

0971:名無しのリスナー

 

うーーーーーん……………

 

なんていうか……これは狙ってやってるんだよな?

 

 

0972:名無しのリスナー

 

うわこれはタイトルからしてひどいな

ながグリ兄貴かわいそう

 

 

0973:名無しのリスナー

 

事務所は静観の構え、って単にお前が何も取材してないだけとちゃうんかと

 

モノは言いようっていうか、あえて悪い印象与えるようにしてるんだろうな、こういうのって

タイトルでインパクト与えてクリックさせる手法だよ

 

 

0974:名無しのリスナー

 

きみかず、っていうのか……

 

王と一でワンとoneか……なるほど

 

 

0975:名無しのリスナー

 

まあたしかに、わかめちゃんの登場決まったのはいきなりでむりやりなところはあっただろうけど……

そこは当事者どうしで話し合った結果大丈夫だと判断されたから結構されたわけで、それを外部の、しかもろくに取材しない記者モドキが『どうなんでしょうか!!!』とか言えるもんじゃねーよな

 

 

つまりクソライター◯ね

 

おれらのわかめに触れるな

 

触れていいのはラニちゃんときりえちゃんだけやぞ

 

 

0976:名無しのリスナー

 

トークイベントのときめっちゃ楽しそうだったもんな、わかめちゃんもながぐり兄貴も

不幸な結末にはなってほしくないわ……

 

 

0977:名無しのリスナー

 

畜生、俺らにわかめちゃんを助けられる力があれば

 

 

0978:名無しの現地特派員

 

>>966

これひでぇな

こいつの記事中のスタッフの証言も怪しいぞ

わかめちゃんのおかげか現場めっちゃほのぼのムードだったもんよ

 

 

0979:名無しのリスナー

 

氷山の一角なんだろうな

今後こういう悪意が増えんとも限らん

 

 

0980:名無しのリスナー

 

芸能人ってこういうゴシップ記事に敏感だからな……

 

 

0981:名無しのリスナー

 

のわめでぃあには健やかであってほしいんじゃ

とりあえず励ましとお疲れ様のスパチャ投げさせて早く

 

 

0982:名無しのリスナー

 

わかめちゃんが場に現れることで場がほんわかする

 

めっちゃ強い特殊能力やん

 

 

0983:名無しのリスナー

 

きりえちゃんがわうわうしてるとこ大量摂取したい

 

 

0984:名無しのリスナー

 

言い忘れてたわ、次スレありがとな兄貴

 

1000ならわかめちゃんたち幸せ

 

 

0985:名無しのリスナー

 

>>981

スパチャのお礼ボイスやべーよな

あれ無料で貰えるとか有り得んやろ……ボイスの価値のが高いから実質無料でスパチャできるのわめでぃあ最高

 

 

0986:名無しのリスナー

 

1000ならラニちゃんビキニ

 

 

0987:名無しのリスナー

 

とりあえず記事発掘

 

【仮想配信者からまさかの実在マルチタレントへ!? 最新技術がもたらす新時代のエンターテイメントとは】

 

htfps://_net_OTmediA.news/cas/net/2o2oo126_03

 

 

0988:名無しのリスナー

 

>>985

やばすぎるよな

くそかわいいを摂取できて名前まで呼んでもらって一万円とかありえんわ

ラニちゃんかきりえちゃんはランダムなんだろうな

 

 

0989:名無しのリスナー

 

もう次スレ移ったったんか?

今こそ1000ゲットのチャンスなのでは?

1000ならデンジャービースト礼装

 

 

0990:名無しのリスナー

 

わかめちゃんにお名前呼んでもらえんの!!!!?!!??

 

 

0991:名無しのリスナー

 

は?まって名前呼んでもらえんの!?

おれ名前呼んでもらってないんだが!?まってあれ一人ずつ録ってるってことか!!?

 

 

0992:名無しのリスナー

 

ウソでしょスパチャすると名前呼んでもらえんの!!?

なんでそういうだいじなことおしえてくれなかったのはどうして

 

 

0993:名無しのリスナー

 

お名前呼んでくれるサービス知らん新参おりゅ???

 

1000ならロリ神官

 

 

0994:名無しのリスナー

 

きりえちゃんにおなまえよんでもらえるの!!!?!?!

 

 

0995:名無しのリスナー

 

【のわめでぃあお名前読み上げサービスまとめ】

 

・スパチャするとお礼にのわちゃん肉声お礼メッセージが届く

・帯の色によって豪華さが異なり、単純に桁が増えるほど豪華になる

・黄色以上だとお名前も読んで、俺ら専用のお礼ボイスを録ってくれる

・赤スパだと更にのわちゃんの他にきりえちゃんorラニちゃんにもお名前呼んでもらえるサービスが受けられる

・極低確率(※要出典)で三人揃ってお礼してくれるスペシャルコースがある(という噂)

 

ほれ、来週の生わかめが待ち遠しくなったな?

 

 

0996:名無しのリスナー

 

実質無料でお礼ボイスもらえるサービスマジ頭おかしいよな

さすがにそろそろ手が回らんくなるんとちゃうか?無理しないで

 

 

0997:名無しのリスナー

 

配信者としてあんな活動していながらのサービスだからな

マジ頭おかしいと思う

 

あ1000ならピッチリスーツで

 

 

0998:名無しのリスナー

 

環境音バリバリ入ってるし、隙間時間に録ってるんだろうけど

だからといってそうそうできるもんじゃないんだよな……

 

 

0999:名無しのリスナー

 

>>995

は???そんなサービスやってたの?

マジかよスパチャします五桁ぶっ込みます

 

 

1000:名無しのリスナー

 

やっぱ折れてほしくないよな、こんな視聴者思いの良い子なんだもんよ

わかめちゃん世間の悪意に負けないでほしい。お前らもはげましのおたより頼むぞ、あれ俺らが思ってる以上にキャスターの励みになるんだからな

 

1000なら『のわめでぃあ』は負けない

 

 

1001:

 

このスレッドは1000を越えました。

次回の放送をお楽しみに!

 

 



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338【企画撮影】せっかくとりっぷ・起



おまたせ!!!待った!?!?!?
(※まってない)





 

 

 晩御飯と、お風呂と、そして夜はそれぞれのお部屋(モリアキは一階客間)でグッスリ眠って疲れを取って。

 そして迎えた翌朝、本日は一月二十七日の月曜日だ。

 

 ……いや、ハイベース号で過ごす夜も嫌いじゃないんだけど、純粋な男性であるモリアキにとってはなかなか気が重い状況らしいからな。

 大仕事終わりでゆっくり休むのなら、自宅へ帰って休んだ方がいいと判断したわけだ。

 幸いなことにおれたちには、それができる手段・助けてくれる相棒がいるので……ラニちゃんに感謝しつつ、ありがたく助けてもらうことにしたのだ。

 

 

 

「おはようございます! 視聴者の皆さん! 魔法情報局『のわめでぃあ』たび部のお時間ですよ! 昨日の夜は『すきやき』でした、部長の木乃若芽です!」

 

「おっ、おはよう、ございますっ! すきやきを、つくりました! 霧衣にございますっ」

 

「アーかわいい」

 

 

 オープニングの撮影場所となったのは、昨晩車両(ハイベース号)を停めさせてもらった首都圏港湾区画の某パーキングエリア。

 車の外に二人ならんで、カメラマンであるモリアキ先生に撮影をお願いして、霧衣ちゃんとオープニングトークを……この企画の概要を、改めて説明する。

 

 

 

一、この企画は『のわめでぃあ』視聴者参加型企画である。

 

一、無作為に(ダーツで)選出された目的地付近の視聴者の助けを得て、旅程を決めるものとする。

 

一、視聴者さん一名につき一点まで、提案を承認できるものとする。

 

一、目的地付近以外の視聴者さんの指示・支援は受けることができない。

 

一、万が一現地視聴者さんの助けが得られない場合は車中泊となる。

 

 

 

 ざっくりとこんな感じの内容を、きゃいきゃいと(かしま)しく述べていく。このへんはあとで編集のときにでもテロップで入れようと思う。

 

 一応このレギュレーション、以前の配信で軽くお伝えしてあったわけだが、もちろん挑戦するのは初めてだ。

 正直どう転ぶかはわからないので、そこが少し怖くもある反面……とても楽しみでもあるわけだな。

 

 

 

「それではそういうわけで……さっそくSNS(つぶやいたー)でですね、救難信号を打診してみようと思います!

 

『【#わかめ旅】実施中!

 本日の目的地→→→【伊逗半島南部】

 せっかくなら素敵なトコに行ってみたい!

 【名勝】【グルメ】【レジャー】【宿】

 #わかめ旅 付けてリプお願いします!

 現地の視聴者さん、助けてください!』

 

…………っと。送信ーー……おっけー! さぁ、どうなりますかね! どうかよろしくおねがいします!!」

 

「わ、わくわく、でございます!」

 

 

 観光地も薦めてもらえなければ立ち寄れない。ご当地グルメも薦めてもらえなけらば食べられない。アクティビティだって挑戦できないし、宿だってどうなるかわからない。

 最悪のパターンは白おにぎりで車中泊だ。

 

 すべては……すべては、おれのフォロワーさんと視聴者さんに懸かっている!

 

 

「今日今現在の視聴者のみなさん、頼みましたよ! それでは、『のわめでぃあのせっかくとりっぷ』……スタートです!!」

 

「わあー(ぱちぱちぱちぱち)」

 

 

 あとで編集のときには、派手めのエフェクトとBGMが入るとこだな。タイトルロゴも入れるとしたらここだな。目的地の情報なんかもチラッと入れてみて『果たしてこれらの名物を堪能することはできるのか』とかナレーションしてみてもいいかもしれんな。

 

 ……などなど演出案をアレコレ考えつつ、オープニング場面の撮影は完了。

 みんなをせかして車に詰め込み、移動中のタイムラプスを押さえるべくフロントへ向けてカメラをセット。

 行き先も、動画の出来も、果たしてどうなるかわからないのだが……だからこそおもしろいのだ、こういうのは。

 

 

 

「はいでは出発しまーす!」

 

「これ移動中は音入ってないんすよね?」

 

「入ってないっていうか、入れないつもり。よっぽどおもしろいトークでも拾えたらテロップと一緒に出そうと思うんだけど、どうでしょうって感じで」

 

「あー……どうでしょうか。把握っす」

 

 

 

 目的地の選定に関しては、さっきのつぶやきの拡散を祈るしかないわけで。

 加えて……まだ現地にさえついていない現在、特に移動中なんかは、ただ車を走らせることしかできないわけで。

 

 

 となれば……車内での会話くらいしか、動画に使えそうなネタは無いわけだよ。

 

 

 

「編集するとき映しちゃダメなやつ、ちゃんとカットしてよ?」

 

「え? ダメなやつ……ラニちゃんのお姿とか?」

 

「ノワのパンツとか」

 

「わたし脱がないからね!? われドライバーぞ!!」

 

「こらノワ前! ちゃんと前見てほら!」

 

「理不尽じゃないこの扱い!?」

 

 

 当然、出演者たちのトークの技量なんかは全く異なるわけだけど……(当人たちにとっては)普通に喋ってるだけなのにあそこまで面白くなるなんで、あのおじさんたちは本当にすごいと思う。

 ヨーさんは本当すごい。同じおじさんとして尊敬する。いや『同じ』とか比べるのもおこがましいが。

 

 

「歌でも歌った方がいい? 海とか見えたら」

 

「さすがに楽曲は権利関係厳しくないっすか? 歌ってどうせ1/6でしょ?」

 

「そりゃそうよ。……きびしいかー」

 

 

 

 ともあれ、車内はわりとのんびり穏やかなものだ。

 

 おれもなかなかハイベース号の運転がこなれてきた感じがあるし、ナツメさんも居心地の良い壁面収納を見つけたらしい。

 助手席の霧衣ちゃんはキラキラ顔で行き交う車を眺めており、モリアキとラニのディレクター陣ふたりはセカンドシートでテーブルに向かい、各々おれのつぶやきに対するリアクションを探ってくれている。

 

 二人のリアクションを窺う限りでは……どうやら、白おむすび車中泊は避けられそうだ。

 

 

 

「あっ、これ良いっすね。都合よく貸切やってるみたいっすよ」

 

「モリアキ氏モリアキ氏、こっちはどーよ? ロケーション的にも良い感じじゃん?」

 

「あー良い感じっすね。多少騒がしくしても大丈夫そうですし」

 

「あとせっかくなら絶叫系も入れたいよね、こんなに寄せてもらってるし。銅貨帯の繁忙期ってヤツだよ」

 

「…………? あぁ……『よりどりみどり』みたいな感じっすかね」

 

「よくわかんないけどそんな感じ。ホラホラ、どれがいちばん『ウケる』と思う?」

 

「先輩どっちかっていうと『高いところ』よりかは『ホラー』系のが弱いんで……コッチなんかどうっすかね?」

 

「うわなにこれ怖」

 

「わたしは二人の会話がこわい!!!」

 

 

 

 ……うん。色々と現地視聴者さんが知恵を貸してくれているのは、とってもよくわかった。

 ツアーの行程はディレクター陣に委ねるとして、おれはとりあえず車を走らせることとしよう。

 

 東越基幹高速道路を浪越方面へと進み……目指すは鎮岡県、沼都(ぬまづ)インターだ。

 そこで高速を降り、あとは南伊逗方面へとバイパスが伸びているはずなので……その途中の道の駅で、ディレクター陣が立てたプランを拝見しようと思う。

 

 

 視聴者さんたちも気にしてくれているらしいし……どうやらいろいろと、()()旅になりそうだな!!

 

 



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339【企画撮影】せっかくとりっぷ・承


#わかめ旅】新企画始動中!!
感想やブクマやチャンネル登録お待ちしてます!




 

 

「……はい! やっとつきました、伊逗(いず)半島! わたしたちは今、道の駅『鹿野(かの)のへそ』へお邪魔しています!」

 

「わ、わぁー!(ぱちぱちぱち)」

 

「かわいいなぁ」「かわいいねぇ」

 

「……っ!??」

 

 

 

 スタート位置から東越基幹高速をかっ飛ばすこと、およそ二時間半。

 おれたちは概ね予定通りにインターを降りてバイパスをひた走り、伊逗(いず)半島のほぼ真ん中に位置する道の駅へと到着した。

 

 今回の旅でお邪魔するエリア【82】は、おおむねここから南の範囲となる。残念ながら北方向の沼都(ぬまづ)壬島(みしま)伊逗永岡(いずながおか)は、今回の旅ではお預けである。

 今後【81】を当てたときのお楽しみというわけだな。

 

 というわけで、こちらの道の駅『鹿野(かの)のへそ』……比較的新しめの道の駅で、すぐそこを流れる鹿野(かの)川を眺められるオシャレなレストランがイチオシらしい。山の幸と川の幸と海の幸を用いたお料理が楽しめる、って……なにそれ死角なしじゃん。

 ……鹿野のへそ。テグリさんのおへそかぁ。

 

 ま、まぁ、おれの煩悩は置いておいて。

 こちらの道の駅のレストラン、特にオススメだというのが、椎茸そば。名産らしい椎茸や山菜を甘辛く煮含め、温かいお蕎麦の上にたっぷりと乗っけて温泉卵を落としたもの……とのことで、なんというか聞いてるだけでも美味しそうである。

 

 

 …………の、だが。

 

 

 

「ぅえ!? た、食べちゃダメなんですか!?」

 

「ダメだよノワ。残念だけど今回のスケジュールに含まれてないから」

 

「す、スケジュール!? そ、そうスケジュール!! わたし知らないんですけど!!」

 

「大丈夫大丈夫。目的地は運転手してくれるマネージャーさんが知ってるから」

 

「わたしはぁぁぁ!!!?」

 

 

 

 あのねぇ、キミたちはボクを目的地告げずに連れてこうってかい。いいかいキミわかってるね、これは拉致だよ、拉致。

 運転手のマネージャーさんも冗談じゃないよそんな、人のよさそうな顔してえらいことしてくれるじゃないか本当にさぁ。大丈夫ですじゃ……だぁから『大丈夫です』じゃないんだよ本当にさぁ。こっちはどこ行くかまだ知らされてないんだぞぉ!?

 

 

 

「まあまあまあ。大丈夫だって。悪いようにはしないから」

 

「本当? 温泉入れる?」

 

「入れる入れる」

 

「………………」

 

「…………………………」

 

「それでは!! 次の目的地へ……いくぞッ!!(やけくそ)」

 

「い、いむぞっ!!」

 

「かわいい」「かわいい」

 

「……っっ!!!」

 

 

 

 はい、というわけで。

 小休憩がてら映像を挟むことができたので、再び車に乗り込んで移動開始だ。構想としてはこのあたりで行程案内を差し込む形かな。そのへんは後日編集するときに何とかするとして、とりあえず今のおれは何処に連れてかれるのかわからない。拉致だよこれは。

 

 ブーブー言いながらも車に乗り込み、とりあえず移動。今回はおれと霧衣(きりえ)ちゃんが後部座席、モリアキ(マネージャーさん)が運転手を務めてラニがそのフォローに回る配置だ。

 なおナツメさんはおれの膝の上でくつろいでいる。僭越ながら撫でさせていただきますねナツメさま。お加減のほどは……あっ、よろしいですか。いい感じですか。恐れ入ります。ち◯~るをどうぞ。

 

 

 

「……真面目な話さ、なんであの人たちって喋ってるだけであんな面白いんだろうね。おれには到底真似られる気がしないわ」

 

「…………? あぁ、今オフレコっすか」

 

「ん。道中のタイムラプスは使うかもだけど、編集のときに音声つまむから」

 

「了解っす。…………まぁ、あの四人組は……不思議っすよねぇ」

 

「?? なになに、なんのお話? ボクら以外に四人組で旅してるパーティーがいるの?」

 

「いるんだわ、すげーひとが。……そだ、ラニちゃんこっちおいで。試験に出るシリーズ見せたげる」

 

「上映会は良いんすけど、オレ笑って事故っても責めないで下さいよ? 音声だけでも破壊力ヤバイんすから」

 

「安全運転で頼むよ!?!?」

 

 

 

 キャビン部に据え付けられたメディアターミナルに、もじゃもじゃ頭の男性タレントたちがはしゃいでいるパッケージのDVDを読み込ませる。

 運転中に立ち上がって移動するのは危ないので、視聴者のみなさんは席の移動は停車中にしましょうね。

 

 運転席やや後方の天井部分、バンクベッドの床下部分に内蔵されているモニターを引っ張り出し、おれはせかせかと準備を始めていく。

 前席に座っている人には申し訳ないが、このハイベース号であれば走行中でも映画上映会をおっ始めることが可能なのだ。

 まぁもっとも、今回視聴するのは映画ではなく……もとは北方ローカル局のバラエティ番組なわけだが。

 

 

 

「へぇー……円盤に動画が保存されてる、ってこと? この世界の記録媒体は本当いろんな形があるんだね」

 

「流通に乗って売買されてるのは、大体この形かな? ダウンロード販売とかもあるけど……いいや、全再生ぽちっと」

 

「ノワたちの動画もこんな形の……円盤で販売、ってできるの?」

 

「作ったところでなぁ……コストに販売数が見合わないだろうし、ショップも扱ってくれないだろうし。っていうかそもそも、ユースクで無料で見れるものをわざわざお金払って買おうとは思わないって」

 

「そっかぁ…………おぉ? 始まったかな?」

 

 

 パーカッションの音とともにタイトルロゴが表示されていき、特徴的なオープニングBGMが流れ始める。

 おれがひそかに目標としている作品……日本全国に多くの根強いファンを持つこの作品からは、企画の内容や演出の案や編集の手法などなど、学び取れるものが多くあるはずだ。

 

 おれとモリアキは……それこそ画面を見ずとも音だけで情景を思い描ける程度には繰り返し繰り返し履修した作品だが、初見となるラニちゃんと霧衣(きりえ)ちゃん(とナツメさん)は、いったい何を感じ取ってくれるのだろうか。

 

 

 

 願わくば……出演者いじめ()()のところを、重点的に学んでほしいところだが。

 

 ……今回の拉致を見る限りは、残念ながら望み薄かもしれないな。

 

 

 

 

 

「先輩先輩。水着って持ってます?」

 

「お前は何を言っているんだ」

 

「ですから、水着ですって。湯浴み着でもいいっすけど」

 

「あー、えー、うー、…………バスタオルじゃ、だめ?」

 

「ちゃんと編集するなら、まぁ……それもありかもしれないっすけど。少なくともオレに撮影は期待しないで下さいよ? タオル一枚のわかめちゃんと場を共有するとか()(ぴら)ゴメンっすからね? ラッキースケベは実在しませんし、させませんから」

 

「そこは、まぁ…………ラニに撮影お願いすればいいか。…………っていうか、入浴シーンって録って大丈夫なの?」

 

「ユースクには割とありふれてるみたいっすよ。先端を巧妙に隠した素っ裸をサムネにしてる女子だっていましたし」

 

「大胆だなぁ。おじさんびっくりだよ」

 

「まぁタオルならタオルで構わないんで、編集終わったら公開前に一応見せて下さ……あー、いえ、白谷さんに真面目にチェックして貰ってから見せて下さい。ヤバくないかどうかオレもチェックしますんで」

 

「うっす。おなしゃす」

 

 

 

 信号停車の隙を見計らい、おれはひらりと身を翻して助手席に収まる。

 大きなフロントガラス越しに映る光景を、愛用の小型カメラとともに目に焼き付けながら、青色看板をちゃっかり確認し目指しているであろう方向を推測・考察しながら……

 

 

 

「てんしちゃんの3D、本当ヤバかったっすね」

 

「ヤバイよな。あれは可愛すぎる何かだわ」

 

「……ああいう『非・人形(ひとがた)』? っていうかデフォルメ体型の配信者(キャスター)も【変身】ってできるんすかね?」

 

「そこは想像力次第っていうか……試してみるしか無いだろうなぁ。明日が楽しみでもあり、不安でもあり」

 

「今度はティー様と会えますかね? オレあのお方の声めっちゃ好きなんすけど」

 

「わかるーめっちゃ可愛いー」

 

「包容力ありそうで、それでいて幼げで」

 

「それな。ちょっとだけ舌足らずな感じな。自分のこと『わち』っていうのすき」

 

「わかる。舌ったらず好き」

 

 

 

 後部座席のお客様が、バラエティコンテンツのお勉強をしている間……前部座席のおれたちは、おれたちならではの会話に興じていった。

 

 

 



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340【企画撮影】せっかくとりっぷ・転

 

 

――『せっかくスポット』そのいち。

 伊湯(いとう)マリンビレッジ【伊逗之助(いずのすけ)】。

 

 

「これもしかしてアレですか!? 期待しちゃっていいやつですか!?」

 

「えーっとね……つぶやいたーネーム『ワンワヤ』さんからの『せっかく』スポットだね。【伊逗之助(いずのすけ)さんの海鮮こぼれ丼】を食べてみてほしいって」

 

「やったーー!! 最高! すき! ワンワヤさんありがとう!!」

 

「若芽様……まるで童女(わらはめ)にございまする」

 

「撮影交渉はちゃんと自分でやるんだよ。四人席おねがいね」

 

「ガッテン承知! いって参ります!」

 

 

 

 

(あの、こんにちわ。……すみません、四名で……入れますか? あっ、あとですね、じつはわたし配信者(キャスター)やってまして……あの、他のお客様とか映さないようにしますので、カメラで撮影ってさせていただいても…………テラス席? えーっと……あぁー、あっちですか! ぜんぜん大丈夫です! ありがとうございます!)

 

 

 幸いにして、快く許可を頂くことができた。なんでも実際いろんな配信者(キャスター)さんが訪れている人気店なんだとか。

 ……というか、むしろ『わざわざ許可を取りに来てくれる人の方が珍しい』とか言われちゃったんですが……あの、同業者諸君よ。

 

 まぁ、なにはともあれ。

 おれたち非常に目立つ三人組(+姿を隠したラニちゃん)は海鮮食堂【伊逗之助(いずのすけ)】さんへとお邪魔しまして……名物の【海鮮こぼれ丼】をいただくことができたわけでございます!

 緑髪ロリエルフと白髪狗耳美少女との同席ということで、モリアキが非常にいたたまれない顔してたけど……仕方無いね。

 顔は一般の皆さんの印象に残らないようラニちゃんが魔法で誤魔化してくれてるから、ちょっとだけ辛抱してね。

 

 

「うっわ、(アジ)が……やば……こんな肉厚で脂乗ってる(アジ)、わたし初めてかも……」

 

「んんゥー……っ! 新鮮なお刺身を、こんなにも……霧衣(きりえ)は幸せ者にございまする……」

 

「ナマのお魚って、こっちの世界で初めて食べたけど……この独特な食感がくせになるね。ショイユとかいうソースがまたよく合う」

 

 

 ラニちゃんは例によって、カメラとまわりのお客さんの死角でおれがこっそりおすそわけしながら……おれたち三人(+ラニちゃん)はそれぞれが美味しいご飯に舌鼓を打っていた。

 撮影係のモリアキも満足そうな顔して、刺身と米を掻き込んでいる。……カメラ回してるからな、あんまり喋れないんだよな。

 

 

 

「「「ごちそうさまでした!」」」

 

 

 目の前のマリーナを眺めつつ潮風を感じつつ、たいへん優雅なお昼御飯を堪能し終え……おれたちは【伊逗之助(いずのすけ)】さんにお礼を告げ、(なぜかお店のひとと、あと一般客の方に記念撮影を頼まれたので、ありがたく応じさせていただいて)ホクホク顔で伊湯(いとう)マリンビレッジをあとにした。

 

 なお生魚のにおいを感じ取った棗さんに無言の圧力を受けたおれは、おみやげとして買っておいた鯵ジャーキーを無条件供出するハメになった。

 

 

 ともあれ、大変満足度の高いおひるを堪能できたわれわれ。

 行き先を告げずに拉致られたときにはどうなることかと思ったけど……この調子なら今回の旅は良いものになりそうだなぁと、このときおれは大いに期待していた。

 

 

 

 

 

 甘かった。

 

 

 

 

――『せっかくスポット』そのに。

 伊逗高原(いずこうげん)博覧街【手まねき博物館】。

 

 

「えー、っと……あの、その、えっと…………ここ、ですか?」

 

「はい。到着しました。こちらつぶやいたーネーム『パラグッド』さんからの『せっかく』スポット、伊逗高原(いずこうげん)博覧街の【手まねき博物館】さんでーす」

 

「あの、あの、あのっ、あの……っ!?」

 

「ひとことコメント紹介するね。『直接的なホラー表現やグロテスクな演出こそ(あんまり)無いものの、展示のラインナップと配置によって得体の知れない恐怖を感じさせる、底知れない実力を秘めたスポット。『手まねき博物館』っていう施設名と相まって、マジでどっかに連れてかれるんじゃないかっていう不安が半端無い。なお同行者は帰宅後体調を崩し数日寝込んだ模様((ワラ))』とのことですが」

 

「ガチホラースポットじゃないですか!? ()ですよわたし!!」

 

「やだじゃないんだよ!! パラグッドさんに申し訳ないと思わないの!? いきますって言って! せっかくノワのためを思って勧めてくれたんだよ!?」

 

「わたしはだまされませんよ!? どうせみなさんわたしの泣き顔とか怯えた表情とか悲鳴とか期待してるんでしょう!?」

 

「よくわかってるじゃん。なお今回は局長であるノワおひとりで、自撮り棒持って突撃して貰います。……視聴者さんの期待には応えてくれるよね? 局長だもんね?」

 

「んグ、ッ、痛いところを……いいですか! わたしがそう簡単に悲鳴上げると思ったら大間違いですからね!?」

 

 

 

 

 

 

「ヒィッ!? あっ、す、すみません……あのっ、おとな一枚…………えっ? アッ、は、はい、大人で…………いえ、あの、おとな……わたし…………あっ、すみません……ありがとうございます…………うう……あっ! あの、わたし実は配信者(キャスター)やってまして……その、中の撮影、とかって……あっ、おっけーですか! ありがとうございます! ……はい。ありがとうございます」

 

 

 入場券売り場もなんていうか、無駄に雰囲気出てるっていうか、入り口に辿り着くまでに既に色々とヤバそうっていうか……その上スタッフのおじさん(?)の佇まいが只者じゃなくて、危うく悲鳴上げてしまうところだった。

 しかし、これでだいたいの怖さは想像がついた。館内に入ったところでたかだか展示物、しかも『ホラーやグロテスク表現が(あんまり)ない』って言われてる以上、もはや恐れることはない。おまけに館内の撮影許可も頂けたし、これは実質的勝利と言っても差し支えないだろう。

 

 わっはっは。残念だったな、おれをいじめる視聴者諸君!

 しかし……まぁ、おもしろそうな施設を教えてくれたことには、感謝してあげようじゃないか。わたしは寛大なので!

 

 

 

 

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい、ゆるしてゆるしてゆるしてゆるしてゆるしてゆるして…………ヒッ!? やだもぉ、やだぁ……なんでこんな……やだぁぁちょっとぉおぉぉ……もぉぉぉぉラニぃぃぃぃぃ」

 

(ボクは居ないものとして考えてね。がんばってね、実質的勝利を収めた局長さん)

 

「やだぁぁぁぁぁあやまるからぁぁぁぁぁ…………うぅぅ……なんで…………やだぁ……えっ、ちょっ……なんであんなでっかい太子がいるの……もうやだ……わけわかんない……」

 

(確かになかなか賑やかなことになってるね。明るい大空間……集会場の跡地かな? 草木が元気に生い茂ってて、いろんな……像? を呑み込みつつあって……遺跡か何かみたいだね)

 

「遺跡に巨大聖徳太子は居ねぇよバカぁ!! ヒッ!? ごめんなさいバカっていってごめんなさいゆるしてゆるしてゆるして……やだぁごめんって言ったのにぃ! わーんあの像こっち睨んだぁ!!」

 

(睨んでないし……少しも動いてないし……)

 

 

 

「いや……これ…………一段と不気味な……」

 

(剥製、みたいだね。獣に鳥に……なかなか見応えがありそう)

 

「……ちょっと、これカメラ映さないでおきますね。ショックが大きそうな…………えっと、何があるかっていうと……胎児の、模型が、いっぱい」

 

(うわビックリした…………え、つくりもの? 血の匂いもしないし……ねぇノワ、生首がめっちゃ並んでるんだけど)

 

「うわビックリした…………あー、えー……確かにこれは………この数は……夜見ると泣く。昼なのに泣きそう。もうやだかえりたい」

 

(もう少しがんばって。まだ半分くらいじゃん、どんどん行こ)

 

 

 

「………こわい、ここ…………こわい……」

 

(すごいね……なかなか独特な感性だよ)

 

「うぅぅ……なんか、せなかのあたりがムズムズするような……寒気のようなゾクゾクっていうか、底知れない不安感っていうか…………ぅうー! も、もう……だめ……! やだぁぁぁぁぁあ出してぇぇぇ! あやまるからぁぁぁぁぁ!」

 

(た、確かに……ヒトの形をしてるのにヒトじゃないモノだったり、ぱっと見た感じはヒトなのに当然のように欠損してたり……これは不安になるね)

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい、出して、だして、やだ、やだやだやだ、この中やだ、外にだして、おねがいします、おねがいです、そとにだして……」

 

(うーーん限界かな。ノワ、こっち。非常口のマークついてる。……手、引っ張るよ?)

 

「うぅ…………ぐすっ、ひっく……ふぇぇ、ラニぃ……」

 

(大丈夫。ボクはここにいるよ。……大丈夫)

 

「ラニぃ……ひっく。グスッ。……ぜったいゆるさないからな

 

(ヒェッ)

 

 

 

 

――『せっかくスポット』そのさん。

 条ヶ崎(じょうがさき)海岸【門湧吊橋】。

 

 

「潮のにおいするんですけど……もしかしなくても海ですよね?」

 

「ご明察。つぶやいたーネーム『ジロデーム』さんからのオススメポイント。今度はキリちゃんも一緒に行けるビュースポットだよ」

 

「う、うみ! わたくしもうみを拝見できるでございますか!?」

 

霧衣(きりえ)ちゃん海眺めるの好きだもんね! よかったねぇー」

 

「うんうん。じゃあノワはこれ持ってね。ちゃんと紐むすんで、しっかり握っててね」

 

「えっ? これ……自撮り棒? えっ? 自撮りしてろ、ってことですか? ……なんで?」

 

 

 

 

「そういうことか!! そういうことか!! アッ、ゆれゆれゆれやだやだやだ……ちくしょう恨みますから!! ぜったいゆるしませんから!!」

 

「す、すごい迫力にございまする! 水しぶきが、ぐばーっ、ごばーっ、て…………ひゃわっ! こ、ここまでしぶきが届いてございまする!」

 

「き、きき、きりえちゃん! きりえちゃ、きり、きりえちゃん!! おちついて、ゆれ、ゆれる、おちつ……っ……、ッスゥー…………ッ。……きひえちゃん、よかったね。たのしひ?」

 

(せいいっぱい取り繕おうとしたんだろうけど声震えてるね)

 

「はいっ! 斯様(かよう)に雄々しき波しぶき、わたくし拝見するのは初めてでございますゆえ!」

 

(あーそっか、フツノ様が(つかさど)ってるんだっけ、荒波って)

 

「な、なるほど! なるほどなるほヒャァッ!? ゆ、ゆ、ゆ、ゆら、ゆれ、ゆるぇ、っ!!?」

 

「……? 若芽様? まるで産まれたての仔鹿のようでございまする」

 

「ごめんなさい足腰きたえるから! 輪っかサボんないから! だからゆらさないで! ゆるして!!」

 

「わ、若芽様、落ち着いてくださいませ。風のいたずらにございまする。霧衣(きりえ)めは若芽様の味方にございまする」

 

「も、もう撮れたよね!? 風景撮れたもんね!? もうかえるからねいいよねかえるからね!! ちくしょうバーカバーカ!!」

 

(女児かな)

 

(うるさいきちくげどう!!)

 

 

 

 

………………………………………

 

 

………………………………

 

 

……………………

 

 

 

 



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341 ボクがいるから大丈夫





番組の途中ですが…………







 

 

 厄介な事態になったのは確かだけど……しかしこれはこれで、嬉しい誤算というわけだ。

 ()()()()世界を脅かす『魔王』メイルスの手勢、その末端。今まではボクと、ボクの愛しの契約者しか抗えなかったそいつらに……こうして、一矢報いることができたのだ。

 

 先日のノワの話にあった、戦闘力を追加された新型の敵兵……識別呼称『獣』。

 地上での機動性と近距離での白兵戦能力にパラメーターを割り振ったそいつらは、しかし宙を(はし)る潮流によって強かに打ち据えられ、路上の鉄馬車(くるま)を巻き込んですっ飛んでいく。

 頭を振りながら立ち上がろうと試みているようだが……その半身は土のような色へと変色し、どうやらボロボロに腐食してしまっているようで。

 

 

「っ、よし……当たってる!」

 

「やっぱ……海の水? には弱いみたいだね、あいつら」

 

「そうですね。ぼくでもなんとか渡り合えそうで……相性が良かったみたいで、助かります」

 

「気を抜くでない。まだ敵は健在……数も減っておらぬ」

 

「……っ、すみません。集中します」

 

 

 貝殻と白波をイメージした(らしい)白のドレスに身を包んだ、ノワの心強い協力者。太洋の支配者たる純白の美少女(※ただしち◯ち◯がついている)、ミルク・イシェル。

 今回が初陣となる彼女()は傲ることなく、その『創造力』を研ぎ澄ましていった。

 

 

 

 

 

 

 …………話は、ほんの少し前に(さかのぼ)る。

 

 

 順調に撮影を進めていった『せっかくとりっぷ』だったが……さすがにノワを虐めすぎたかなと反省した我々ディレクター陣は、本日最後のスケジュールを『単純に楽しいアクティビティ』に変更することにした。

 その内容は……モリアキ氏いわく『若干季節外れ』らしいけど、一人用の小舟で海へと漕ぎ出す『シーカ・ヤック』とかいう移動手段らしい。

 ここまでのホラースポットとスリルスポットに可愛らしくおヘソを曲げていたノワも、これにはニッコリ。あっという間に(オール)を使いこなし、キャッキャと歓声を上げて漕ぎ出していったのだが……

 

 

 こんなときに。こんなところで。

 一切の遮蔽物がない海上の湾内で、水難事故を避けるためインストラクターさんが常に注視してくれている環境下で。

 ボクの【繋門(フラグスディル)】による転移を使うことができない、こんなタイミングで。

 

 ボクの(借りたままの)タブレットが『緊急』の着信を告げ……鶴城神宮技研棟から『苗』の反応検知が告げられたのだ。

 

 

 取り急ぎノワと思念を繋ぎ、モリアキ氏とも言葉を交わし、REINを用いてミルちゃんに相談を持ちかけ……結論として、ミルちゃんに『初陣』を飾ってもらうこととなった。

 

 ノワ以外でも……魔力を備えたミルちゃんなら、ボクの持ち込んだ装備も幾らか役に立つはずだ。

 『決して無理をしない』という大前提のもと、ボクとナツメちゃんはひっそりと【門】を開き……ミルちゃんと合流を果たし、『苗』の反応最寄りのアクセスポイントへと転移した。

 

 

 

 

 

 そして……今現在。

 

 ボクたちはつい先日までお仕事で来ていた、この樹海のような都市――この国の首都だという――にて……強化型敵兵、通称『獣』たちと大立回りを繰り広げているのだ。

 

 ……やっぱり、この街にも『種』をばら蒔いていたか。

 モタマ様の協力を取り付けておいて……こうして『カクリヨ』を扱えるナツメちゃんを引き入れておいて、本当に良かった。

 

 

 

「我輩の【隔世(カクリヨ)】は、生半可な齟齬では(うしな)われぬ。存分に力を振るうが良い」

 

「はい。ありがとうございます、ナツメさん」

 

「いーね。頼りになるし、強いし、トドメとばかりにメチャ可愛い。いやーナツメちゃん最高ー」

 

「……全く。……その蕩けた顔を、少しは真面目に…………(いや)、何でも無い。……見事な手際よな、勇者殿」

 

「まぁね。新入(ニュービー)のフォローとか、こう見えて結構こなしてたから……ねっ、と」

 

 

 人間大の手指を【義肢(プロティーサ)】で再現し、それを使って【蔵守(ラーガホルター)】から取り出した物々しい投擲武器……【磔刑の(キュルシフィア)縫投槍(ジャベリン)】を、『獣』目掛けて投げつける。

 三本放った【縫投槍(ジャベリン)】は狙い通りに飛翔し、フォーメーションを組もうとしていた『獣』を建物や地面に縫い止め、その動きを阻害する。

 殺傷力や破壊力よりは、こうして単純に『動きを止める』ことに特化したこの槍は……まぁ、振りほどけない程度の相手であれば、非常に有効な妨害手段となり得るらしい。

 

 こうして今現在、未だに敵対行動を取れるのは……先程ミルちゃんがぶっ飛ばし、片足を腐食させられている正面の『獣』のみ。

 周囲を警戒してくれているナツメちゃんのフォローもあるので、実質的に一対一の場を整えられた形になる。

 

 せっかくミルちゃんが……何やら集中して、大技を試そうとしてくれているのだ。邪魔させるわけにはいかない。

 

 

 

「……【()の喚び声に応えよ。愛しき我が民、我が(しもべ)、我が力。猛々しき汝が姿を……此処へ】」

 

 

 普段の控えめで優しげな立ち振舞いとは打って変わって、威風堂々たる声色(ただし声そのものは可愛らしい)で紡がれた……彼女()の、呪文(決め台詞)

 ミルク・イシェルとして紡がれた設定を再現し、その力を自らのものとする……彼女()ならではの、儀式。

 

 

 

「【近衛兵召喚(サモン・ガード)大顎鮫(ピストリクス)】!!」

 

「「おぉーー!!??」」

 

 

 ミルちゃんの目の前に現れた魔法陣から、巨大な影が唸りを上げて姿を現す。

 大の大人よりも更に大きい……優に三(まわ)りは勝るその影は、片足を腐食に苛まれ思うように動けない憐れな『獣』へ一直線に突っ込んでいき……

 

 

 ――――ばぐん、と。

 

 不格好な『獣』の姿を真似た非生物の、その腹から上すべてを、ほんの一口で易々と喰い千切って見せた。

 

 

 

「……えっ? 待って、すっご……どういうこと!? 召喚式!?」

 

「よもや……式神(シキ)を降ろしたか? 依代も無しに……?」

 

「えーっと……なんというか、ですね…………こっそり練習してたら、()べるようになっちゃいまして。……妄想力の賜物ですね」

 

「「?????」」

 

 

 

 (いわ)く……ノワと初邂逅を果たしたときに色々と説明を受けたことで、どうやら『設定そのもののミルク・イシェル』となったということが解ったらしく。

 また『ミルク・イシェル』として設定されていた――本人がそう認識し、『そうありたい』と願っていた――プロフィールや能力が、そっくりそのまま再現されていたことに気づいたらしく。

 

 そこへ来て……ノワの手助けとなることを決めて以降、『水棲生物と心を通わせる』『有事の際は自ら指揮を執る領主』という設定(プロフィール)を過大解釈し、『水棲生物を近衛兵として呼び出す』ことが出来ないかと密かに(妄想力の)鍛練を続けていたところ……()()()のだという。まじで。

 

 

 

「若芽さんなら解ってくれると思うんですけど…………その、『イマジナリーフレンド』っていうか……」

 

「そ、想像の力で……疑似生命を生み出すなんて……」

 

「……圧倒的であるな……獅子奮迅の如きよ。まぁ獅子ではなく鮫だが。……(いや)(そもそ)も何故鮫が宙を舞うのだ……」

 

「ふふふ……今度DVD持って遊びに行きますよ」

 

「……?? ぴー、ぶい、みー……?」

 

 

 

 そんな会話を交わしている間も……ボクが縫い止めたままの『獣』たちは、一体また一体とミルちゃんの【近衛兵】に為す術もなく喰い荒らされていく。

 落ち着いてよくよく見てみると、空を飛んでいるように見える【近衛兵】の周囲には流水の帯が流れており……つまり実質的には、ミルちゃんがあの巨体の軌道を操っているということなのだろうか。さすがは水魔法使いだ。器用なことをする。

 

 

「ぼくも、ラニさんを連れている若芽さんが羨ましくて。ラニさんほど万能じゃないですけど……戦闘時と待機時を使い分けられる【変身】と、進路となる水の帯を自在に操れる【水魔法】、この二つは持たせることが出来ました。自慢の我が子ですよ」

 

 

 あっなるほどね、【近衛兵】くん自前の魔法なのね。

 ……本当に、本当に器用なことをする。

 

 

 緻密な魔法紋様を描かずとも、永ったるい詠唱呪文を諳じなくとも……脳裏に思い描く『想像』の力でもって、自由自在に表現して見せる。

 

 この世界、この時代、この国の人々の底力を……ボクはとても、とても心強く感じていた。

 

 

 

 

 







「ねーぇ、お父様(パパ)? 本当にアレでいいの? ワンちゃんの反応消えちゃったよ?」

「あぁ……構わないよ、『リヴィ』。この世界の神とやらが介入したか、早々に異界に引き込まれたようだが……しかし僅かとはいえ、人目に付いたことだろう」

「んん……? なるべくヒトにバレた方が良い、ってこと?」

「程々に、だね。……限られた情報は考察の余地を生み、未知の現象に際した人々は様々な思いを巡らせるだろう? ……そうすれば、後は我々が関与しなくとも……」

「……お父様(パパ)が社長さんたちに植えさせた『葉っぱ』の魔力で、勝手に『魔物』を産み出してくれる……で、いいの?」

「その通り。……賢い子だね、『リヴィ』は」

「えへへぇー。じゃあさ、ご褒美にあの社長(パパ)たち、何人か誘ってヤっていい? ちゃーんとお金貰うからぁ」

「…………くれぐれも、やり過ぎないようにね。『リヴィ』に手を出すような、どうしようもない輩とて……まだまだ利用価値はあるのだから」

「はぁーい! えへへ……楽しみだなぁ」







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342【企画撮影】せっかくとりっぷ・結



まーたやりやがったなこの作者は!!!!





 

 

 …………待って。まって。

 

 まって。わかんない。なにがあったの。いったいどういうことなの。

 

 

 

 

「ノワただいま!! 完全勝利だよ!! ふへはー!!」

 

 

 空間をぐんにょりねじ曲げて【門】を開き、まず現れたのは妙にハイテンションの相棒兼破廉恥(はれんち)妖精、ラニちゃん。

 元気一杯のその姿は、なんだかさっきよりもずいぶんとご機嫌な感じがするけど……まぁ、それはいい。

 

 

 

「ご無沙汰してます、若芽さん。SNS(つぶやいたー)見てましたよ」

 

 

 続いて【門】から現れたのは、ツヤツヤロングストレートの髪の毛からフリフリボリューミーなお召し物から、総じて真っ白な美少女(にしか見えないがち◯ち◯がついている)……おれ同様の実在仮想配信者(アンリアルキャスター)にして『苗』対策の心強い助っ人、ミルク・イシェルさん。

 彼女……もとい彼も、まぁべつに問題ない。シーカヤック挑戦中かつインストラクターさんの注視を浴びていたおれに代わって、初となる現場を見事にこなしてくれたのだ。出撃を依頼したのは他ならぬおれなので、当然彼の参戦は知っている。これも特に問題ない。

 

 

 問題は……彼の、ミルさんの肩に()()()()()()()()()、妙に可愛らしくデフォルメされた魚のような……鋭角的な鼻先と大きな口と立派な背ビレを備えた、アッ(サメ)ですかねこれは。

 そこはかとなく『ゆるキャラ』感を漂わせる(サメ)のマスコットは……やはりというか、どうやらぬいぐるみなんかでな無いようで、おれと目が合うなり『ぺこり』と会釈してみせる。

 

 おぉ……鮫に会釈されたよ、おれ……。

 

 

「ミルさん、あの…………その子」

 

「そうそう! すごかったよーノアくん! あの『獣』かそれ以上にでっかくなってさ、こう……バクッ! って!」

 

「実は……ラニさんと若芽さんの関係性に憧れて、色々と試行錯誤してみたところ…………デキちゃいました」

 

「ミルさん本当にち◯ち◯ついてますか? 顔赤らめていわないでください? めっちゃセクシーなんですが?」

 

「ついてますよ。見ます?」

 

「ヒュっ、」

 

 

 

 話の流れから察するに……要するに、ミルさんの『従魔』とか『使い魔』とか、そういう(たぐい)の魔法生物なのだろう。

 おれの頭の中でくすぶっている魔法知識の中にも、そういう魔法生物の錬成手法に関する記述もあるようなので……おれやミルさんのように『魔力』を備えた存在であれば、なるほど生み出せないこともないようだ。

 

 特にミルさんは、水棲系生物に強力なバフを掛けたり、高度な連携が行えたりするキャラクターだという。水棲生物の中でも強者として名高い『(サメ)』の使い魔とあらば、戦力としても申し分ないのだろう。

 そ、そっかぁ……あの『獣』を『バクッ』てできちゃうくらい強いのかぁ……。

 

 

 

「まぁ、他愛ない奴等であったな。坊も家主殿に劣らず、術師としては中々のものよ」

 

「あっ、ナツメさんお疲れ様です。ありがォ」

 

有無(うむ)。我輩の【隔世(カクリヨ)】が在れば、家主殿も存分に力を振るえよう。斯様な悪鬼如き、そうそう不安は在るまいて」

 

 

 

 おれが、真に言葉を失ったのは……囘珠宮(まわたまのみや)のモタマさまよりお預かりした、錆猫の神使(ナツメ)さん。

 赤毛混じりの黒の毛並みを持ち、責任感とプライドが高く、好奇心が旺盛で……テーブルの下やおれたちのお膝がお気に入りな、つやつやふかふかで可愛らしい猫ちゃんだ。

 

 

 ……その、(ナツメ)さん、が。

 

 

「――――如何(どう)したのだ、家主殿。中々に愉快な顔をして()るではないか」

 

「いや、あの、えっと、あの、その、あの」

 

「――――何だ? 鶴城(ツルギ)の宮より白狗の娘が嫁いだと聞いた故、ヒトを模した姿も嫌悪感を示さぬだろうと踏んだのだが……」

 

「と、(とつ)いゅ……っ!?」

 

「…………何だ、……好いては()れぬのか? 我輩の()の姿は」

 

「いいえ!! すきです!!!」

 

 

 形の良い三角形の耳を頭頂部に備え、毛並みと同じ鼈甲(べっこう)色の髪をおかっぱに揃え、しかしながらその金色の瞳には縦に長い瞳孔を持ち、おしりから垂れるふわふわの細長いしっぽをうねうねと動かし……。

 それでいて、へそ出しキャミソールとダボ袖パーカーにホットパンツとニーソックスという、めちゃくちゃイマドキでおマセな感じの、ぶっちゃけ非常に火力の高い現代衣類に身を包んだ……その姿は。

 

 

 

「うーっす戻りましたーカヤックの支払いバッチリ済ませウワアアアアアアア猫耳美幼女だアアアアアアア!!?!」

 

「む、う…………済まぬ、不快で在ったか?」

 

「いいえ!! 好きっす!!!」

 

「――――う、うむ。嫌悪感を抱かれて居らぬなら……それなら良い。……さて、家主殿よ」

 

 

 

 囘珠の神使たる錆猫の少女は、その……ちょっと神使っぽくない装いに身を包んだ小柄な体で、堂々と胸((ひら)たい)を張り。

 おれとモリアキが口元をニヤけさせながら目を見開き、霧衣ちゃんがお口に手を当ててびっくりしたお顔で、ラニちゃんとミルさんはデレデレのニコニコのいい笑顔で、五人それぞれの視線を、臆することなく受け止めて。

 

 

「短い間だが、よおく観させて貰ったのだがな。……我輩も、そなたらの演目には興味が湧いた。白狗里(シラクリ)の娘ほど堪能ではないが……及ばずながら我輩も、()を貸そうぞ」

 

「やだ……かわいい…………すき」

 

「どうしよオレ結構ツボなんすけど」

 

「まこと……愛らしくございまする」

 

「この衝撃を食らいながらちゃんと戦ったぼくすごくないですか?」

 

「ははは……本当ミルちゃんよく頑張ったよね……」

 

 

 

 歴史あるお社の神使らしくない、活発そうなイマドキの女の子の(たぶん合歓木(ねむのき)公園に遊びに来ていた女児の服装を真似たのだろう)装いで。

 

 しかしその格好とは(おれの偏見かもしれないけど)少々そぐわない……理智的で、計算高く、真面目そうな、愛らしくも凛々しい表情を浮かべ。

 

 

 

「我輩は……八海山(ヤツミヤマ)(ナツメ)(これ)より暫し、我輩の興味と好奇心が尽きるまでの間……貴嬢と、貴嬢の生み出す演目に、微力ながら全霊で(もっ)て力添えとならんことを誓おう」

 

 

 

 小さくてしなやかで可愛らしい猫耳美少女ナツメちゃんは、モタマさま(おかあさん)に頼まれたからではなく……自分自身で観て、聞いて、考えて、導き出した意思のもと……

 

 おれたちに……『のわめでぃあ』に、力を貸してくれることになったのだった。

 

 

 






【まじめがんこくーでれ猫耳幼女】
棗ちゃん(SSR)がなかまになったよ!!
やったね!!!!



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343【企画撮影】旅番組といえばお部屋

 

 

 さてさてさて……そうは言っても『伊逗(いず)半島』ですよ、視聴者さん。

 

 日中はディレクター陣からの壮絶な虐めに逢い、途中シーカヤック体験中にはちょっとした騒動もあったけれど。

 

 ここまで来たからには。

 せっかく地学的資料の宝庫である『ジオパーク』と名高い、この伊逗(いず)半島に来たんなら。

 

 偉大なる火山活動の恩恵に(あずか)らなきゃ……そりゃあバチが当たるってもんでしょうよ!!

 

 

 

「いいですか? 解ってますね? もう『ボケ』とか『のわ虐』とか要りませんからね? この期に及んで撮れ高なんて要りませんからね? 常識的に考えてくださいね?」

 

「し、信用ないなぁ……わかってるって」

 

 

 

 マネージャーにして今回のカメラマンであるモリアキが運転し、ヒトを模した姿となったイマドキ猫耳神使ガール(なつめ)ちゃんが助手席に収まり、われらがハイベース号は本日の最終目的地へと、その力強い駆動音を響かせていく。

 刻一刻と表情を変える夕焼け空の下、彼女がキョロキョロと興味深げに観察しているのを微笑ましく眺めながら……おれたちはセカンドシートにて、今晩泊まる宿に対しての期待を膨らませていた。

 

 なお『せっかくなので』とミルさんも誘ってみたのだが……残念なことに、今晩はうにさんとゲームの配信予定を組んでいるのだとか。

 なのでうにさん宛に『明日のお昼、楽しみにしててね』と伝言をお願いし、助っ人ミルさんには【門】にて直帰していただく形となった。

 報酬は後で例の口座(※まだ聞いてない)に振り込んでおこう(※言ってみただけ)。

 

 

 そんなこんなで(ハイベース号)を走らせること……ほんの数分。

 それこそ……つい先ほどまでシーカヤックを堪能していた『月ヶ浜』を見下ろす絶景の高台に、今晩お世話になるお宿は佇んでいた。

 

 ……ということで。

 お宿の駐車場に車を停めて、チェックイン前の最後の撮影を始めていく。

 

 

 

「……はい。正直ボクらもね、ちょーっとノワを虐めすぎたかなって反省してたので」

 

「いま反省したって言ったよね?」

 

「なので、お宿のほうはね……うん。張り切って選ばせていただきました」

 

「わかってるね? 宿はほんとみんな道連れだからね? 霧衣(きりえ)ちゃんに変なとこで寝させないでよね?」

 

「わ、わぅ……」

 

「『変なとこ』かどうか、その目で確かめてもらおうかな。つぶやいたーネーム『チョベリア』さんからの『せっかくスポット』……嘉茂(かも)南伊逗(みなみいず)町の『時之戯(ときのあそび)』さんに是非泊まってみてください、とのことで……はい! 今晩はなんと温泉旅館です!」

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

「わ、わうぅぅぅ!?」

 

 

 

 

 いそいそと撮影を終えて、旅行鞄を引っ掴んで、モリアキを『はやくはやく』と急かしながらぞろぞろと車を降りて、温泉旅館『時之戯(ときのあそび)』さんへとお邪魔していく。

 見た感じはそこまで、高層建築って感じの建物ではないみたいだ。恐らく敷地内に幾つもの宿泊棟が建ち並ぶ、回遊形式のお宿なのだろう。落ち着いて過ごすことができそうで、なんだかとってもわくわくしてきた。

 

 

 

「お世話になります。先程予約させていただいた『烏森(かすもり)』です」

 

「はい。お待ちしておりました。()()()()()()()()()()でお伺いしております」

 

(…………んん???)

 

(ふっふっふ。ナツメちゃんの歓迎会、ってわけじゃないけどね)

 

 

 ふと傍らを見てみると……和服姿の霧衣(きりえ)ちゃんのすぐ隣に、イマドキっぽいへそ出しルックのおかっぱ少女が、ちょこんと佇んでいる。

 

 髪の色や服装の趣味(やお耳やしっぽの形)は異なるけど、まるで姉妹のようになかよしだ。霧衣(きりえ)ちゃんも嬉しそうににこにこ顔で、とても可愛らしい。

 おれが見とれてる間に、モリアキはスムーズにチェックイン手続きを済ませ……木製のホルダーに収められたカードキーを二枚、バッチリ受け取っていた。

 

 軽く館内の案内も受けていたようで、彼自信も『ワクワク』を抑えきれなさそうな表情でおれたちを先導し始めたので……おれは逸る気持ちをおさえて、おしとやかを心がけて後に続いた。

 

 

 

 

 えーっと、ですね。

 こうして辿り着いた、本日のお部屋。温泉旅館【時之戯(ときのあそび)】さんの複層特別室……メゾネットスイートというやつですね。

 

 先に申し上げておきましょう。一泊二食付き大人三名子ども一名で、ギリッギリ五桁に収まるくらいです。

 とはいえ、非常に評価と満足の高いお宿なので、つまりこのお値段が適切な価格ということなのでしょう。

 ……先日大田さんに押さえてもらった都心の会員制リゾートホテルが、どんだけぶっ壊れなのかよくわかりますね。あれ二泊で四名ですよ。

 

 

 

「先輩先輩。お部屋レビュー動画的なの、撮ります?」

 

「アッ、撮りたい! 許可とってこないと……」

 

「聞いてきたんで、大丈夫す。部屋ん中とバルコニーなら基本的に大丈夫、ネットへのアップもオッケーとのことです」

 

「やだイケメンかよたすかる」

 

 

 やはりというか想像した通り、おれたちのお部屋は広い敷地内に点在する宿泊棟のひとつであるらしく……二階建ての建物を縦にまっぷたつに割った部分が、我々がお世話になる『典雅』の間らしい。

 この棟はこの『典雅』の間と、そのお隣の『閑雅(かんが)』の間の二部屋しかないらしい。庭園の中にこのような棟がいくつもあり、落ち着いた静けさで安らぎのひとときを過ごすことができる……ということなのだとか。とても贅沢なつくりだ。ちなみにお部屋の読み方はご想像にお任せします。とても上品な様を表す言葉だよ。けんぜんだよ。

 

 

 

 というわけで、みんなさっさとお部屋で休みたいことだろう。

 おれは『典雅』の間の前で霧衣(きりえ)ちゃんと並び、自撮りモードでパパッと前枠を撮り、そのままカメラを構えて扉(風情ある引き戸だ)のリーダーに鍵をかざして……ついにお部屋に足を踏み入れる。

 

 

 お部屋は……うん、すごかったよ。

 

 この敷地そのものが傾斜地に広がっているらしく、入り口はなんと二階部分。ひろびろとした玄関ホールで靴を脱ぎ、足触りのよい畳敷の廊下を進むと……左手にはこれまたひろびろとした洗面室を備えたお手洗い、右手には下層へと降りる階段が口を開けており……そしてそして、その奥だよ。出たよ出たよ出ましたよ!

 

 ごつごつした岩がワイルドな内湯と……洗い場からフラットで続く、ウッドテラスと(ひのき)の露天風呂!

 廊下部分とはガラス戸で区切られており、浴室がわのブラインドで目隠しも可能(じゃないとさすがに恥ずかしい)!!

 もちろん源泉掛け流し、当然ながら完全貸切り、部外者が入ってくるはずもない。露天風呂だって程よい高さの塀で囲まれ、景色は堪能しながらも他の客室からの視線は完全シャットアウト!

 傾斜地という立地が項を奏し……なんと、三日月状の砂浜が夕闇に映える月ヶ浜を眺めながらの入浴が可能なのだ!

 

 

 すぐにでも服を脱ぎ捨てたい気持ちをおさえつつ、カメラがぶれないよう必死に平静を保って廊下を引き返し、下り階段へ……おっと、上へ続く急勾配な階段もありますね。

 ははーん小屋裏にも畳敷でおふとん敷けるスペースですか。大したものですね。お子さまこういうところ大好きでしょ。おれも大好きだもん。お子さまじゃないが。

 

 気を取り直して……階段を降りて、一階へ。一階っていうか地下っていうか悩むとこだがまあいいか。階段降りたところはちょっとしたホールになっていて、正面にはひろびろ洗面台を備えた洗面室とトイレ。ふたつあるのは助かる。

 そしてそして、右手方向には十畳の畳の間。これはごろ寝に最適なスペース。例によって傾斜地の恩恵もあって眺望良好、露天風呂同様に月ヶ浜がよく見える。

 一方の反対側、位置的には玄関の真下だが、こちらは落ち着いた雰囲気のベッドルーム。ひろびろダブルベッドが存在感と安心感をひたすらにアピールしており、とてもくつろげそうなお部屋ですね。

 

 うーん……宿紹介単品で動画作れるな、これは。作るか。

 

 

 

 

「……はい撮影終了!! 解散!!」

 

「「わぁぁーーーい!!」」

 

「わ、わぁーい!」「をぉっ!?」

 

 

 一通りカメラを回し終えたので、これで晴れてみんな自由にお部屋を満喫することができる。……本当なら一目散にベッドダイブとかしたかっただろうに、みんなの協力に感謝だわ。

 

 お部屋の様子も撮れたし、あとはベランダからの景色なんかを追加で撮れば良さそうだ。

 それに……カメラ回している間みんなの感嘆の声がめっちゃ入ってたので、そこはあとで音声編集することにしよう。ナレーション的に声を入れてもいいだろうな。

 

 

「……のですが…………いかがでしょう、わかめさま!」

 

「んー………」

 

「わ…………わかめ、さま……」

 

「ぇあぁ!? ごめん霧衣(きりえ)ちゃん! 大丈夫だよ!」

 

「わ、わかめさま! 宜しいのですか!?」

 

「も、もちろん!」(ねぇラニ何があった?)

 

(えっ? ボク知らないけど……)

 

(えっ?)

 

(えっ?)

 

 

 内心の動揺を朗らかな笑みで隠しながら、歓喜にその身を震わせている霧衣(きりえ)ちゃん。

 おれは少しだけ嫌な予感を感じながらも、あえてそのことは考えないように、願わくばそうじゃありませんようにと密かに祈っていたのだが……

 

 

 事態は、ゆうに、二回りは、深刻だった。

 

 

 

 

「お任せくださいませ、なつめ様! わかめ様共々、(わたくし)が丁寧にご奉仕させていただきまする!」

 

「「えっ!!?!?」」

 

「それは助かる。我輩らは普段の姿が()()であるからして、『風呂』など数える程しか経験が在らぬゆえ」

 

「「えっ!?!?!!??」」

 

「おふろ、おふろ! わかめさまと、なつめさまと……いっしょにお風呂にございまする!」

 

「アッ!!!」「エッッ!!!!」

 

「オレにはどうすることも出来ないんで、頑張って下さいね。ちなみに夕食は夜七時半からの予約なんで、余裕もって行動お願いします。裸んぼのまま出てこないで下さいね」

 

「うわああああああん薄情者ォォォォ!!」

 

「オレにどうしろっていうんすか……」

 

 

 

 おれには……おれには、この子の笑顔を裏切るなんてこと…………できるはずが、ない。

 

 やるしかないのか。受けて立つしかないのか。

 がんばれ、こらえろ、おれの理性。

 

 

 

 あとラニちゃんは後でお話があります。

 覚悟の準備をしておいて下さいね。にがさないぞ。

 

 

 



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344【一派団欒】旅番組といえばお風呂



※『のわめでぃあ』は健全な放送局です。みんなしってるね。







 

 

 とても可愛らしい(なつめ)ちゃんのお洋服(へそだしキャミとダボ袖パーカーetc)だが、あれは要するに【変化】の(まじな)いの一種によるものらしい。

 おれの予想した通り、やはり合歓木(ねむのき)公園に遊びに来ていた都会っこガールの服装を真似たようで、(なつめ)ちゃんの神力で再現されたものであり、立場でいえば『ヒトの姿を真似た身体』と同等のもの……要するに、実際の商品では無いらしく。

 

 いやー、びびったわ。いきなり『ぼんっ』て音したかと思ったらさ、振り向いたらもう素っ裸なんだもん。

 いやーいやー……それにしても、ちっちゃかったわ。ちっちゃくてぺったんだったわ。おれのほうが大きかったわ。どこがとは言わないけど。ふふん。

 

 

 

「わかめさま! お背中をお流し致します!」

 

「アッ、アッ、エット、アッ…………ッス」

 

「うふふふ。わかめさま、お肌が大変お綺麗でおられますゆえ、霧衣(きりえ)めが丁寧に磨かせて頂きまする」

 

 

 おれのほんの微かな優越感を粉微塵に打ち砕く、整ったボディラインの白髪美少女に手招きされ……おれは自らの眼に【視力低下】の阻害(デバフ)魔法を掛け、なかば手探り状態で洗い場へと引っ立てられていった。

 いや、けっして巨じゃないんだよ。そんなにおっきくないっていうか、どちらかというと控えめなほうのはずなんだよ。……なんだけど、とにかく形がきれいなんだよな。なにがとは言わないけど。

 

 子どもそのものの(なつめ)ちゃんはともかく……魅力的な女性として成長しつつある霧衣(きりえ)ちゃんの裸身は、未だ性自認が男性のまま踏みとどまっているおれにとって、非常に刺激が強いものなのだ。直視などできるはずがない。

 東京のリゾートホテルのときは水着着用の上だったので、まだ刺激が控えめ(とはいっても別の意味での魔法使い(三十代童◯男性)(ころ)すには充分すぎる凶器)だったのだが……この密着距離で裸の付き合いとあっては、これは死人が出んとも限らない。おれしんじゃう。

 

 視覚に阻害(デバフ)魔法が掛かっていようとも……おれのこの鋭敏な耳があれば、物音や水音を聞き分けることで周囲の状況は把握できる。

 椅子に座ったおれの背後、身体洗い用の手ぬぐいを丁寧に泡立ててくれている霧衣(きりえ)ちゃんの、とても嬉しそうな吐息まで……おれには手に取るようにわかるのだ。

 

 

 

「なつめ様、もう暫しお待ちくださいませ。わかめ様へのご奉仕が終わりましたら、霧衣(きりえ)めがお身体を磨かせて頂きまする」

 

「……うむ……気にするでない。……我輩は暫し…………んぅーっ……もう暫し、こうして……融けておるよ」

 

「いー感じにふわふわしてるね、ナツメちゃん。温泉気に入った?」

 

「……うむ…………此の姿で、湯を堪能するは……また格別、よな」

 

 

 

 ちっちゃな身体を仰向けに浮かべ、気持ち良さそうな声を出しちゃってる(なつめ)ちゃん。ヒトの身体を……見るからに幼げで小柄な身体を真似たのには、本人いわく『きちんとした理由』があるらしい。

 

 

 なんでも『ヒトの手足が在れば便利だと解っては居るのだが、かといって大きな身体では機敏に動けまい』『『カワイイ』と云う音が、容姿を褒める音だと解ったのでな。そう言われていたヒトを真似ようと試してみた訳よ』とのことで。

 実際にこれまでにも何度か【変化】そのものは試しており、金鶏(きんけい)さんからも『カワイイ』のお墨付きを頂いていたとのこと。

 ……なるほど、あのコーディネートは金鶏(きんけい)さんチェックによるものか。

 

 まぁもっとも……ヒトの姿では木の上で昼寝することもできないし、木陰で眠っていたら騒ぎになるし、妙に注目を浴びて落ち着かなかったり、夜間には軍服の集団(多分おまわりさん)に絡まれたり、といったことが数多くあったらしく……普段は本来の姿である、気楽な錆猫(ネチコヤン)の姿でいたらしい。

 

 

 しかしながらここ数日、おれたちの活動を間近で観察していく中で……光栄なことに、彼女は自らの意思で、我々の活動を『手伝いたい』と思うまでになってくれたという。

 

 似たような出自・境遇の霧衣(きりえ)ちゃんが日々を楽しそうに……幸せそうに過ごしていたことも、この姿を披露しようと考える切っ掛けになったようだ。

 

 

 

「……んぅぅ、んふぅぅ…………極楽、よな」

 

「ふむふむ。ノワよりもぺったんこだけど……これはこれで」

 

「おい破廉恥(はれんち)妖精。よそ様の娘さんに狼藉働いたらメン◯レータムの刑だからな」

 

「そッ、それなに!? こわい!!」

 

「じゃあ大人しくしてること。合意無しにガン見したり、おさわりしたりは禁止」

 

「じゃあじゃあノワ、みていい? さわっていい?」

 

「………………しょうがないなぁ」

 

「ヨッシャ!!」

 

 

 

 まぁ……おれもラニにお世話になってることは確かなわけで、彼女のフラストレーションを解消するためにこの身を差し出すくらい、霧衣(きりえ)ちゃんや(なつめ)ちゃんがセクハラされるよりはマシなわけで。

 女の子らしい反応が期待できるわけでもない、中身三十路男性(おじさん)のおれ相手で、それで彼女(ラニ)の欲求が解消されるなら……まぁいっか、減るもんじゃないし。

 

 

「それはそうと……ノワ」

 

「なあに? まだ何かあるの?」

 

「うん。入浴シーン撮らなくて良かったの?」

 

「と、ッ!? 撮りません! 健全なので!」

 

「えー! キリちゃんに洗われてるノワとか絶対みんな喜ぶよ! てぇてぇだよ!」

 

霧衣(きりえ)ちゃんの裸をネットに上げられるわけないでしょおばか!」

 

「ぐぬぬ……そっかぁ」

 

「そうだよお」

 

「でもでも、こんな素敵なおフロだよ? 映像に残さないの、もったいなくない?」

 

「ぐぬ、ぐぬぬ…………おれひとり、なら……バスタオルきちっと巻いとけば良っか。……明日の朝にでも撮るかなぁ」

 

「(ヨッシャ!!)」

 

 

 確かに……せっかく温泉旅館に来たのに、温泉についての情報がないというのも、映像(コンテンツ)としては寂しいものだ。

 だいじなところが見えちゃわないように、きちんと対策した上での撮影なら、配信サイト(ユースク)さんはもちろん地上波テレビでも度々放映されている。問題は無いだろう。

 生粋の女の子にそういう撮影を強いるのは、ちょっと『のわめでぃあ』のコンプライアンス的によろしくないと思うので……であれば、そこまで羞恥心を感じづらいおれがその役を負うべきだろう。

 

 

 

「……はいっ! わかめさま、玉のようにつやつやお肌に仕上がりましてございます! お疲れさまでございました!」

 

「アッ、アリガト……ッス。……ッヘヘ」

 

「わかめさま、気持ちよかったでございますか? 霧衣(きりえ)めは、わかめさまのお役に立てましてございますか?」

 

「も、ももッ、もちろん! スッゴク気持ちよかったデス! さっぱりすっきり! ありがとね、霧衣(きりえ)ちゃん!」

 

「っ!! お、おそまつさま……で、ございます。……えへへぇ」

 

 

 水分を含んでぺたんと纏まった白髪から、ぽたぽたと雫をしたたらせながら……水も滴る狗耳美少女霧衣(きりえ)ちゃんは、とてもうれしそうにはにかんでみせた。

 霧衣(きりえ)ちゃんに解放され、内湯の岩風呂へと戻るおれと入れ替わりで、ほんのり桜色に色づいた(なつめ)ちゃんが洗い場へと呼び寄せられる。

 

 湯に身を委ねたおれのちょうど目の前を、(なつめ)ちゃんのおしりが横切ったときには……不覚にも、ちょっとドキッとしてしまった。あんな『すとん』『ぺたん』なのに色気があるなんて。……くやしい。

 

 

 おれは自分自身の性癖と業に、ほんのちょっとだけ辟易しながらも……

 生まれも育ちも髪色も所属も異なる美少女二人が仲睦まじげに触れ合うその様子に、非常に尊いものを感じていた。

 

 

 けもみみ美少女の絡み……正直めっちゃこうふんしますね。

 

 






※『のわめでぃあ』は健全な放送局です。


※健全ですね。





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345【一派団欒】旅番組といえばお食事

 

 

 温泉を堪能して、浴衣にお着替えして、ちょっと()()()()()SNS(つぶやいたー)に載せる用に自撮りして、魔法も併用して髪の毛を乾かして……時間的にはなんとかバッチリ、夜七時十五分に間に合った。

 夕ご飯の第二部が七時半からなので、今から食事会場へ向かえばちょうどいい感じだろう。

 

 早くもものすごい勢い(当社比)で拡散していく進捗報告のつぶやきに軽くビビりながら……おれたち大人三名と子ども一名(と妖精一名)はお部屋を後にした。

 オートロックらしいので、(カードキー)はきちんと持っていかないとだな。

 

 

 さてさて、こちらの温泉旅館『時之戯(ときのあそび)』さんですが……度々申し上げているように、敷地そのものは山の傾斜を活かした眺望良好なつくりとなっている。

 そのため必然的に斜面が多くなってしまうわけだけど……食事会場のある管理棟(フロントやラウンジやロビーがあった建物)へと続く石段は歩きやすく整えられ、そこから眺めるお庭もまた綺麗に仕上げられていた。

 おれは食事会場への道を進みながらカメラを回し、夜間照明によってライトアップされている木々や竹林を映像として記録していく。

 

 

 

「こういうのも良いな。人によっては『建物間移動するの面倒!』とか言うかもしれないけど、おれは好き」

 

「オレもオレも。でっかい建物の中で完結してるのも……それこそ先日の東京ベイのホテルも良かったっすけど、敷地の広さ活かす形式も良いっすね」

 

「よくは解らぬが……我輩はこの庭、嫌いではないぞ。木々も程よく間引かれ、下草も丁寧に刈られておる。……駆け回り易そうだ」

 

(なつめ)ちゃん浴衣(ソレ)で駆け回っちゃダメだからね!?」

 

 

 残念ながら浴衣という衣類は、着たまま運動を嗜むようには出来ていない。身体への追従性も可動範囲もそれほどではないので、大きく動けば盛大に肌蹴けてしまう。

 肌の露出を防ぐための下着……和服で用いる襦袢なんかは、霧衣(きりえ)ちゃんは自前のものがあるらしいけど、今現在浴衣の下には着けていない。(なつめ)ちゃんは当然襦袢なんて未実装なので、もちろんのこと着けていない。

 つまりは、浴衣の下は(おれが無理矢理はかせた)下着(パンツ)のみなので……浴衣を肌蹴させるわけにはいかないのだ。

 

 ……うん、また今度服を買いに……今度は(なつめ)ちゃん用の下着とかをメインに買いに行かないとな。

 

 

 そんなこんなで、各々が各々の感性でライトアップされるお庭を堪能しながら、数時間前にチェックインで訪れた管理棟へと辿り着いた。

 お食事会場はこの建物の中、一階のこれまた眺望良好な和食処だ。夕食はお部屋ごとに間仕切られた個室とのことなので、この常識離れした美少女二人を連れ込んでヨロシクしていても問題ない。給仕のひとがいなければ、ラニちゃんにつまみ食いさせることも簡単だろう。

 

 

 予約者でもあるモリアキが先陣を切って、和食処の受付へとお部屋名を告げる。

 案内のおねえさんに個室へと通していただき……お箸とナプキンとお品書き、そして醤油皿やグラスや固形燃料コンロの準備が整えられた、四人分の席へと通された。

 

 

「すげえぞこれ。ヨッシャめっちゃ撮る。めっちゃSNS(やいたー)上げる」

 

「コース形式なんすね。順番に順番に出てくるみたいな……うわ、めっちゃ手ぇ込んでるっすよ」

 

「お、おっ、おりょうり! こうきゅうなおりょうりにございます!!」

 

「わ、我輩は……家主殿が工面(くめん)して()れた『かりかり』で構わぬのだが……」

 

「今回は……まぁ急遽ですが、(なつめ)ちゃんの歓迎会なので! ……視聴者さんに()()姿()を披露するかどうかは、まぁおいおい考えるにしても……とにかく今晩は、せっかくなので美味しいもの食べてほしいので!」

 

「う、うむ……そうか。……恩に着る」

 

 

 そう……(なつめ)ちゃんのこの姿を披露するかどうかは、まだ未定なのだ。

 というのも、ほかでもない。(なつめ)さんは既に猫ちゃんの姿にて、『のわめでぃあ』の一員として動画デビューしてしまっているからだ。

 

 

 猫ちゃんは猫ちゃんで、おれも含めて多くの人々に絶大な人気がある。

 猫ちゃんの姿で出演してもらったことは、それは悪手だとは思ってないが……ヒトの姿の(なつめ)ちゃんを披露してしまったら、猫のナツメちゃんと幼女の(なつめ)ちゃんの二人が存在することになってしまう。

 

 猫耳美少女の(なつめ)ちゃんは、これは当然視聴者さんに人気が出る。あたりまえだこんな可愛いんだもん。

 しかしながらその一方で……猫ちゃんのナツメちゃんだって、既にすごい支持を集めているのだ。

 超絶大人気なキャラクターは、当然それだけの注目を集めるのだ。猫のナツメちゃんと猫耳美少女の(なつめ)ちゃん、ふたりが同時に姿を表すことができない以上……いずれはこの両者が同一の存在だということ(=姿を変化させることが出来るということ)に、思い至る視聴者さんが出てきてしまうかもしれない。

 

 

 存在を秘匿するのが永続的なのか、はたまた何らかのタイミングで披露することになるのか……そこは率直にいうと、今の段階ではなんとも言いがたい。

 

 要するに……どっちも捨てがたいんだ。

 

 

 

 

 

「なつめさま、いかがでございますか? お好みのお料理はございますか? 今度霧衣(きりえ)めがご用意させていただきまする」

 

「……なんだ、これは……ヒトとは、こんなにも複雑な味覚を備えて居ったというのか……」

 

「うふふ。おめめまんまる、でございます。なつめさま、大変愛らしくございまする」

 

 

 ヒトの姿で、ちゃんとしたお食事を摂るのは初めてなのだろう。隣の席の霧衣(きりえ)ちゃんに甲斐甲斐しく世話を焼かれながら、おっかなびっくり料理に口をつける、小さな可愛らしい女の子。

 子ども用とて、そのクオリティは大人用と何ら遜色ない。むしろ小さい子が大好きなメニューが多く盛り込まれてるので、正直非常に美味しそうだ。

 小さなおててで懸命に匙を操り、ハンバーグや茶碗蒸しをどんどん口へと運ぶその姿を……おれたちは皆微笑ましく見守っていた。

 

 

 ……やっぱり、この『尊い(てぇてぇ)』光景をお蔵入りさせるのは偲びない。

 おれは(ナツメ)ちゃんを取り巻く環境と公表の可能性について――現状生じている懸念とソレを解消するための手段、それを実行するための前提条件や必要となる要素等について――今までにない速度で思考を巡らせ始めたのだった。

 

 

 

 あっ、高速思考中ではありましたが、お料理はちゃんとおいしくいただきました。

 味はもちろん、見た目もとてもきれい。いわゆる『五感で楽しむ』ことができるコース料理、控え目に言って料理人の人の腕はんぱねぇって思いましたね。

 

 

 出されたお料理すべてに大満足、同席者のみんなの関係性にも大満足。

 

 たいへん満足感のある、すてきな夕食の席でございました。

 

 



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【ラニとは】木乃若芽ちゃんを語るスレ_第二十七夜【同じベッド】



例によって所々ぶつ切り途切れ途切れです。もうしわけございまえぬ。
おわびに局長が





 

 

 

………………

 

 

………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

 

 

0557:名無しのリスナー

 

伊逗の国の民ワイ歓喜wwww

 

 

0558:名無しのリスナー

 

ぬまづは!!?!ぬまづはだめなの!!?!!

うちうらみかんは!?!?!?!?

 

 

0559:名無しのリスナー

 

つぶやいたー拡散した。

あとは頼むぞ82ページの民よ……!!

 

 

0560:名無しのリスナー

 

もうそろ選考終わったかなぁ

スタートです!してから結構時間経ったし

 

 

0561:名無しのリスナー

 

ダーツしてから今日まで時間あっただろうに、その間に住所移さなかったおまえらの落ち度だろ

プロ視聴者さんはわかめちゃんの到来を現地で待つものなのだよ

 

 

0562:名無しのリスナー

 

これ観光地の抽選結果発表っていつなん

 

 

0563:名無しのリスナー

 

スタートしてから二時間以上経つしな、そろそろ伊逗半島に着いててもおかしくないけん

 

 

0564:名無しのリスナー

 

関東のワイさすがに今回は見送りだわ

動画たのしみに待ってるぞ……無理するなよ、わかめ

 

 

0565:名無しのリスナー

 

つぶやいたー張り付いてんのつかれた

 

 

0566:名無しのリスナー

 

まだかな……わかめママまだかな……

 

 

0567:名無しのリスナー

 

>>561

ガチ過ぎんだろwwwwwwww

わかめちゃんのために住民票移したんかwwww

 

 

0568:名無しのリスナー

 

そろそろ着いた頃だと思うんだけどなあ

 

 

0569:名無しのリスナー

 

おいwwwwつぶやいたーwwwwwwwwわかめちゃんwwwwwwww

 

 

0570:名無しのリスナー

 

わかめちゃんwwwwかわいそうかわいいwwwwwww

 

 

0571:名無しのリスナー

 

@kinowaka-media_NOWA-IT:【#わかめ旅】伊逗半島の道の駅『鹿野のへそ』に到着しました!!しいたけそばがおいしいらしいです!!食べちゃダメって言われたけど!!おすすめされてないからダメなんだって!!はー!?!?

 

htfp://tubuyaita.pic/2o2oo127_120443_q3rg6uj/

 

 

不機嫌顔かわいすぎるがwwwwwwww

 

 

0572:名無しのリスナー

 

おこわかめちゃんかわいすぎるwwww

 

かわいそうだけどかわいいwwww

 

 

0573:名無しのリスナー

 

そっか……メシも『せっかくだから』されないと食えないのか……

意外と過酷なんじゃね?

 

 

0574:名無しのリスナー

 

ああ、つぶやいたーでおすすめされてないとダメなのかwwww

 

 

0575:名無しのリスナー

 

不機嫌顔かわいい

 

 

0576:名無しのリスナー

 

@kinowaka-media_NOWA-IT:【#わかめ旅】しいたけそばを食べられないままどこかへ連れていかれています。目的地は教えてもらっていません。あのね、これ拉致だよ、拉致

 

 

【悲報】わかめちゃんハイエースされるwwwwwwwwwwwwwwww

 

 

0577:名無しのリスナー

 

わかめちゃんハイエースwwwwwwww

 

ついにフラグ回収したか!!!!

 

 

0578:名無しのリスナー

 

ハイエースで拉致ってそれ薄い本が厚くなっちゃうじゃん!!!

ハイエースのべっどでナニをしているんですか!!工口同人ですか!!!!

 

 

0579:名無しのリスナー

 

まって動画めっちゃ楽しみ……

拉致られてるわかめちゃんはいったい何を思うのか……

 

 

0580:名無しのリスナー

 

いいなこういうの。つぶやいたーでリアルタイム旅の様子知らせてくれんのめっちゃ助かる

 

 

0581:名無しのリスナー

 

>>573

名物料理が有名なお店のすぐ前を通っても、つぶやいたーでおすすめして貰ってなかったら食えないってことだろ

うわつらい

 

 

0582:名無しのリスナー

 

しいたけそば食えなくて凹んでるのわちゃんはかわいそうだけど、なんでかとってもほっこりするんだよなぁ……

 

 

0583:名無しのリスナー

 

さっきのつぶやきが12時くらいか?

どこに向かってるのか次第で次のつぶやきがいつになるか予測立てられんかな

 

 

0584:名無しのリスナー

 

おひるごはんおあずけのわかめちゃんはかわいそう

 

いや、わかめちゃんはかわいそうでもかわいいから良いにしても、きりえちゃんがかわいそう

 

 

0585:名無しのリスナー

 

おなかへったなあーーーーーーーん

 

 

0586:名無しの鎮岡県民

 

おすすめされやすいってことはそれなりに名の知れた名所名店ってことやろ?

さっきのしいたけそばをスルーしたってことは時間的に考えても次の目的地が飯屋ってことだろ?

鹿野のへそから車でアクセス可能な有名食事処、他県のお客さんにおすすめしたいお店。

 

以上の条件から俺はここ、伊湯マリンビレッジで勝負に出る。

 

伊逗乃助の海鮮丼ならワンチャンあるぞ

 

 

0587:名無しのリスナー

 

だめwwwwハイエースされたのわちゃんがおもしろすぎてwwwwwwww

 

 

0588:名無しの天樹市民

 

>>586 ニキは東海岸方面か

ワイはそのまま南下して天樹方面張ってるわ

 

 

0589:名無しのリスナー

 

あーそっか、現地民はうまく推理すれば遭遇できる可能性もあるんか!!

くっそ裏山

 

 

0590:名無しのリスナー

 

まだかな……もう13時なるぞ……

 

 

0591:名無しのリスナー

 

おなかすいたよママ……

 

 

0592:名無しのリスナー

 

>>586 ニキwwwwwwwwすげえwwwwwwww

 

 

0593:名無しの天樹市民

 

ヌワーーーーーーーーー!!!!

 

 

0594:名無しのリスナー

 

すげえwwww当てやがったwwwwww

 

 

0595:名無しのリスナー

 

>>586 ニキおめでとう!!!

おしゃしんたのむぞ!!!!!

 

 

0596:名無しのリスナー

 

@kinowaka-media_NOWA-IT:【#わかめ旅】ひとつめの目的地です!!『せっかくなので【伊逗乃助の海鮮こぼれ丼】食べてみて』です!!すごくうれしい!!ありがとうございます!!いただきます!!

 

htfp://tubuyaita.pic/2o2oo127_131522_8pjco2tm/

 

 

0597:名無しのリスナー

 

すげえ…………当てやがった…………

 

 

0598:名無しのリスナー

 

ウマソーーーーーーー!!!!!

 

 

0599:名無しのリスナー

 

めっちゃこぼれてるやん

 

 

0600:名無しの天樹市民

 

586ニキいいなぁ……よかったなぁ……

 

だが次こそは当てるぞ。東海岸だな。

まってろよ……わかめ……

 

 

0601:名無しのリスナー

 

ネタが特盛なのか……すげえ……

刺身めっちゃツヤツヤしてる……

 

 

0602:名無しの鎮岡県民

 

わかめちゃんかわいい……

 

きりえちゃんかわいい……

 

 

もう無理……しんじゃう…………

 

 

0603:名無しのリスナー

 

お昼ごはん食べたってことは後はもうレジャーだろな

 

 

0604:名無しのリスナー

 

伊島マリンビレッジって82ページの北の端っこだよな?

ここから南方向の観光地か

 

 

0605:名無しのリスナー

 

586ニキ…………生きて…………

 

 

0606:名無しのリスナー

 

>>602

生きろwwww

生きて可能であればお写真を

 

 

0607:名無しのリスナー

 

昨日行ったとこじゃん……

 

 

0608:名無しのリスナー

 

ハッシュタグえらいことになっとんなwwww

今からいって間に合うんか?

 

 

0609:名無しのリスナー

 

おしゃしんのついか!!たすかる!!!

 

 

0610:名無しのリスナー

 

おいしそうにたべるわかめちゃんかわいい!!

 

 

0611:名無しのリスナー

 

htfp://tubuyaita.pic/2o2oo127_132155_3o5po2i/

 

かわいい(思考停止)

 

 

0612:名無しのリスナー

 

よかったね……楽しい旅になりそうだね……

 

 

0613:名無しの鎮岡県民

 

店員さん相手にめっちゃ丁寧だったわかめちゃんいいこ

きちんと撮影許可もらって迷惑にならないようにするわかめちゃんえらい

 

 

0614:名無しのリスナー

 

刺身くいたくなった

あじのさしみ食いてえ……

 

 

0615:名無しのリスナー

 

リアルタイムで旅の様子追っかけられんの楽しいなww

 

 

0616:名無しのリスナー

 

東海岸のアジは良いぞ……

 

 

0617:名無しのリスナー

 

次の目的地は何処なんだ?

もう選考終わってるんかな

 

 

0618:名無しのリスナー

 

あ~~ワイも旅行したいンゴ~~~~

 

 

0619:名無しのリスナー

 

>>616

は???打浦のアジのがうまいが???

 

 

0620:名無しのリスナー

 

とりあえず東海岸を南下する作戦だよな。ここから中伊逗に戻るのも考えづらいし、横断して真逆の西伊逗にいくのも考えづらい

となるとこのまま東伊逗の観光地を狙えば良いわけだ。さっきのメシどころよりは難易度低いのでは?

 

 

0621:名無しのリスナー

 

アジ論争wwwwwwww

 

 

0622:名無しのリスナー

 

沼都打浦のアジフライうまかったぞ……

でも今回82ページだもんな……

沼都は81ページだもんな……

 

 

0623:名無しのリスナー

 

ごちそうさまわかめちゃん良い顔

 

 

0624:名無しのリスナー

 

いい笑顔wwww満面の笑みじゃん

 

 

0625:名無しのリスナー

 

ごちそうさまわかめちゃんかわいい

 

 

0626:名無しのリスナー

 

この後泣くなったんだよね……

 

 

0627:名無しのリスナー

 

えがおかわいい……よかったねわかめちゃん……

 

 

0628:名無しのリスナー

 

しいたけそばのときのふて腐れ顔が嘘のよう

 

 

0629:名無しのリスナー

 

つぎの目的地は

 

 

0630:名無しのリスナー

 

拉致再び……しってた

 

 

0631:名無しのリスナー

 

わかめちゃんかわいそうかわいい

 

 

0632:名無しのリスナー

 

ハイエースふたたびwwww

 

 

0633:名無しのリスナー

 

>>626 やめろwwwwかわいそうだろwwww

 

 

0634:名無しのリスナー

 

いうて観光地やぞ。そうそう悲しい事件なんて起こらんやろ

 

 

0635:名無しのリスナー

 

この後あんなことになろうとは……

 

 

0636:名無しのリスナー

 

>>626

不穏な匂わせやめーやwwwwwwww

 

 

0637:名無しのリスナー

 

だめだハイエースされるわかめちゃんがやっぱツボでだめだ

 

もうなんなの……笑い止まらんのやけど……三納オートサービスさん完璧すぎやろ……

 

 

0638:名無しのリスナー

 

移動中かぁ……ながいなぁ

 

 

0639:名無しのリスナー

 

ママ……はやく……おなか冷えちゃう……

 

 

0640:名無しの鎮岡県民

 

htfp://tubu.pic/denden87/2o2oo127_132942_cm5wpn6/

 

みて……わかめちゃんやさしい……

おしゃしんとらせてもらった…………もう死ぬ……

 

 

0641:名無しのリスナー

 

霜田まで行くんやろか

熱側らへんでワニワニするんやろか

 

 

0642:名無しのリスナー

 

>>640

ああーーー!!!かわいい!!!!!いいなあ!!!!!!!

 

 

0643:名無しのリスナー

 

>>640 まま!!!!やさしい!!!!!

 

 

0644:名無しのリスナー

 

>>640

すっげwwwwwwwwうらやまwwwwすげえ!!!

 

 

0645:名無しの鎮岡県民

 

もうだめ……わかめちゃん一生推す……

のわめでぃあみんな好き……

 

 

0646:名無しの天樹市民

 

ちょっとガチ気合入れて推理するわ……

ワシもわかめちゃんとおしゃしんしたいんじゃ……

 

 

 

 

………………

 

 

………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

 

0750:名無しのリスナー

 

なにがあったwwwwwwww

 

 

0751:名無しのリスナー

 

「いってきます!」から僅か30分wwww

 

 

0752:名無しのリスナー

 

 

@kinowaka-media_NOWA-IT:【ラニだよ】【#わかめ旅】信じて送り出したノワが泣きじゃくって帰ってきた

 

htfp://tubuyaita.pic/2o2oo127_141522_m8jdm6dg/

 

 

ガチ泣きじゃん……かわいそう

 

 

0753:名無しのリスナー

 

いやでも実際手まねきは怖ぇよ

 

 

0754:名無しのリスナー

 

信じて送り出したわかめちゃんが……

 

 

0755:名無しのリスナー

 

泣きべそかきながらも視線そらさないわかめちゃんけなげ……

 

 

0756:名無しのリスナー

 

わかめちゃんかわいそう

泣かないで

 

 

0757:名無しのリスナー

 

手まねき博物館は実際ヤバい。

 

建物入る前もヤバいけど、入ってからは更にヤバい。

第一層はまぁまだマシ。ヤベェけどまだいける。

真にヤベェのは三層以降。いろんな意味でテレビに出せないやつが押し寄せてくる。

二層はまだ混乱で済むかもしれんけど、三層はガチでトラウマレベル。

あれは数日夢に出る

 

 

0758:名無しのリスナー

 

泣いてる顔もかわいいけど

やっぱわらっててほしいなぁ……

 

 

0759:名無しのリスナー

 

なかないで

 

 

0760:名無しのリスナー

 

>>757

誰が高難度ダンジョンの話をしろと言ったwwww

なんだそれやべぇwwwwどんな施設なんだよwwww

 

 

0761:名無しのリスナー

 

なんていうか……普段あんなに「わかめちゃんの泣き顔おいしいです」とか言っちゃってたけどさ……

いざガチ泣きしちゃってるのを見ちゃうとさ…………

 

ごめんな、わかめ……俺、ちゃんと就活するから……

 

 

0762:名無しの一般客

 

大丈夫かなぁ……企画頓挫しないよな?

楽しくなってきたところだったから中断されるのはとても残念

 

 

0763:名無しのリスナー

 

わかめちゃんげんきだして

 

 

0764:名無しのリスナー

 

わかめちゃん……!!!

 

 

0765:名無しのリスナー

 

わかめちゃん……むりしないでね

 

 

0766:名無しのリスナー

 

>>761

ワイむしろ興奮覚めやまぬでございますわ

ようじょえるふのなみだおいしいです

 

 

0767:名無しのリスナー

 

わかめちゃんはかわいいよ

 

泣き顔もかわいいよ

 

 

0768:名無しのリスナー

 

アッ!!!!のわきり!!!!!てぇてぇ!!!!!

 

 

0769:名無しのリスナー

 

@kinowaka-media_NOWA-IT:【ラニだよ】【#わかめ旅】きりえちゃんせらぴー。のわもおちついたみたい。これでえんりょなく次にいけるね

 

htfp://tubuyaita.pic/2o2oo127_142245_ncv1dv/

 

 

0770:名無しのリスナー

 

きりえたんやさしい……

 

そしてらにたん容赦ねえ…………

 

 

0771:名無しのリスナー

 

みてこのきりえちゃんの慈愛の表情……

 

 

0772:名無しのリスナー

 

きりえちゃんの母性

 

 

0773:名無しの一リスナー

 

ラニちゃんほんまいい写真とるなぁ

のわめでぃあがやっぱ写真映えするんやなぁ

 

 

0774:名無しのリスナー

 

企画継続wwwwwwww

のわちゃんがんばってwwww

 

 

0775:名無しのリスナー

 

この安らぎの表情が笑みとなるのか曇るのか……

 

 

0776:名無しのリスナー

 

しかし次どこ行くんだろうな

行き先予測組も手まねき博物館は当てられなかったみたいだし

 

 

0777:名無しのリスナー

 

つぎはたのしいところだといいね……

 

 

0778:名無しのリスナー

 

わかめちゃん笑うか泣くか

 

俺は笑うに一票

 

 

0779:名無しのリスナー

 

温泉ロケとかないのかな……

 

 

0780:名無しの鎮岡県民

 

>>776

博覧街までは当たってたんだわ……ガラスかオルゴールのどっちかだと踏んでたんだが……

 

まさか……まさか手まねき行くとは思わねーって……

 

 

0781:名無しのリスナー

 

ホームページ見ただけでヤベェってわかるわこれ

レビュー記事も軒並みやベーぞこれ

よくここ行こうって気になったな??ラニちゃん鬼畜か??ノワちゃん大好きロリなのにドサドなのか????

 

 

0782:名無しのリスナー

 

俺伊逗出身現関東民

大榁山リフトいくと思ってた

 

手まねきは予想できねぇよ……だってわかめちゃんだろ……

 

 

0783:名無しのリスナー

 

なにこのカオス

これ俺心神喪失する自信あるわ

 

 

0784:名無しのリスナー

 

>>778

正直笑っててほしいけどまた泣かされるに一票

 

 

0785:名無しのリスナー

 

>>778

さすがにラニちゃんも懲りたやろ

これで次泣かせたら相当のサドっこやで

 

 

0786:名無しのリスナー

 

>>778

妖精さんは悪戯っ子って相場が決まってるので

オレは泣かされる方に一票

 

 

0787:名無しのリスナー

 

ラニちゃんはのわちゃんが本気でいやがることはしないから

あの二人は心の奥底では信頼し合ってるから

 

 

0788:名無しのリスナー

 

わかめちゃんがんばって

むりしないで

はやくぱんつみせて

 

 

0789:名無しのリスナー

 

真面目な話次どこだろうな

海鮮丼くって、ホラーハウス行って、

そろそろ楽しいレジャースポット来るんじゃないか?

どうぶつえんとか

 

 

0790:名無しのリスナー

 

@kinowaka-media_NOWA-IT:【#わかめ旅】わたしはディレクターさんたちをぜったいにゆるさない!!!!!

 

htfp://tubuyaita.pic/2o2oo127_152108_k92lijsx/

 

 

 大  草  原wwwwwwwwww

 

めっちゃ火サスじゃんwwwwwwwwww

 

 

0791:名無しのリスナー

 

【速報】ラニちゃんはドS!!!

【速報】ラニちゃんはドS!!!

【速報】ラニちゃんはドS!!!

【速報】ラニちゃんはドS!!!

 

 

0792:名無しのリスナー

 

あーこのお顔は完全におキレですわwwww

 

 

 

………………

 

 

………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

 

 

0943:名無しのリスナー

 

よかった……不幸なわかめちゃんなんていなかったんや……

 

 

0944:名無しのリスナー

 

おいィ!?時之戯さんのホームページつながらないんだが!?!?

 

 

0945:名無しのリスナー

 

すげえ立派なたたずまいじゃん

 

 

0946:名無しの鎮岡県民

 

時之戯なんて超高級旅館に下々の民が泊まれるわけないだろ!!!いいかげんにしろ!!!!

 

温泉ロケ期待

 

 

0947:名無しのリスナー

 

いい笑顔……よかったねのわちゃん……

 

 

0948:名無しのリスナー

 

これ時之戯さんのホームページ落ちてんじゃねwwww

 

 

0949:名無しのリスナー

 

@kinowaka-media_NOWA-IT:【#わかめ旅】お部屋まではお庭を通ります。すごくふぜいあってすてき

 

htfp://tubuyaita.pic/2o2oo127_173402_e89fko0/

 

敷地めっちゃ広そう……

 

 

0950:名無しのリスナー

 

月ケ浜でいちばんお高いとこじゃん

 

 

0951:名無しのリスナー

 

霜田のほう行ったこと無いんだよなぁ

こんな立派なお宿あるんか

 

 

0952:名無しのリスナー

 

@kinowaka-media_NOWA-IT:【#わかめ旅】お部屋のお写真!すごいです!動画でも撮ったので公開をおたのしみに!!

 

htfp://tubuyaita.pic/2o2oo127_174513_g32c4k/

 

 

プライベート温泉あるじゃん!!!

これわ!!!!!!わかめちゃん!!!これわ!!!!!!

 

 

0953:名無しのリスナー

 

石階段と竹林めっちゃ風情あっていいな

 

 

0954:名無しのリスナー

 

風呂すげえwwwwwwwwww

畳の間とベッドルーム二部屋あるんかwww

 

これ階段もあるな、メゾネットか?どういう間取りだろ

 

 

0955:名無しのリスナー

 

屋根裏部屋なのでは!!?!?

 

いいなあ!!!オレ屋根裏部屋で寝る!!!!

 

 

0956:名無しのリスナー

 

お部屋の内装もめっちゃいい感じやん

っていうか部屋数多っ!これぜんぶ一部屋の中ってことやろやば

 

 

0957:名無しのリスナー

 

間取り確認したいのに公式HP落ちてるんですけどオオオオオオ!!!!!

 

 

0958:名無しのリスナー

 

>>950 流れきる前に次スレたのむでよ

その間おれはわかめとふろはいってくるからよ……

 

 

0959:名無しのリスナー

 

追加のお写真すげぇな

浴槽二つあるってことか?内湯と外湯?

……外湯?露天風呂つき??すごない????

 

 

0960:名無しのリスナー

 

つまり今から月ケ浜いって望遠鏡覗き込めば露天風呂浴びるわかめちゃんを覗くことが可能!?!??!?

 

 

0961:名無しのリスナー

 

今ごろみんな服脱いで一緒にお風呂入ってるのかな……

それともみんなでベッドにダイブして乳繰り合ってるのかな……

 

 

0962:名無しのリスナー

 

旅館の『あのスペース』がない。やり直し

 

 

0963:名無しのリスナー

 

【ぜったいに】木乃若芽ちゃんを語るスレ_第二十八夜【ゆるさない】

htfps://ch_fiction/indextop/qawsedrftg202001zs/6ri0z/

 

マッハで立ててきたぞ!!!まだお風呂シーンは始まってないな!?!??

 

 

0964:名無しのリスナー

 

しかし一日の最後がいい思い出で終わってよかったねわかめちゃん……

 

涙の数だけ撮れ高あるよ……

 

 

0965:名無しのリスナー

 

>>962

エアプ乙

追加おしゃしんよく見ろアホ

掃き出し窓の手前にあのセットあるだろうが

 

 

0966:名無しの鎮岡県民

 

温泉旅館で部屋についたら真っ先にお茶淹れるんだけどこれって鎮岡県民の習性なん?

 

 

0967:名無しのリスナー

 

でも確かに『あのスペース』はだいじよね

旅館っていったらあのスペースよ

 

 

0968:名無しのリスナー

 

こんな旅館泊まってボードゲームオフとかしてぇよなぁ……

 

 

0969:名無しのリスナー

 

しゃしんは!?!?!?おふろしゃしんは!?!?!?!?

 

 

0970:名無しのリスナー

 

わかめちゃんの脱衣……

きりえちゃんの脱衣……ごくり

 

 

0971:名無しのリスナー

 

@kinowaka-media_NOWA-IT:【#わかめ旅】お風呂!堪能してきます!!やー!!!!

 

htfp://tubuyaita.pic/2o2oo127_175211_fc9eif3/

 

 

0972:名無しのリスナー

 

やーかわいいwwwwwwww

 

 

0973:名無しのリスナー

 

おふろ!!!おふろだ!!!!

のわちゃんときりえちゃんのおふろだ!!!!!

 

 

0974:名無しのリスナー

 

期待していいんですか!!!

おふろしーんを!!期待していいんですか!!!

 

 

0975:名無しのリスナー

 

薄着わかめちゃんかわいい

まだぶらしてないのかな……いらないか

 

 

0976:名無しのリスナー

 

きりえちゃんのはだか……Gokuri

 

あっ、局長は無理しないでね、おなか冷えるよ

 

 

0977:名無しのリスナー

 

まあ待て、この完璧なツーショット

おそらく撮影者は別にいる、つまりラニちゃんもいっしょにおふろ

 

 

0978:名無しの天樹市民

 

アアあアア天樹温泉じゃなかったかァーーー

 

でも幸せならオッケーです!!!

 

 

0979:名無しのリスナー

 

ユアキャスの中の人が一緒にお泊まりとか聞いても、まぁてぇてぇとは思うんだけどそこまで興奮せんのよな

 

でもわかめちゃんたちは実在だからな……実在きりえちゃんが実在わかめちゃんとらにちゃんの前で服を一枚一枚脱いでいってると考えると、これから三人が裸の付き合いをするんだと思うとめっちゃ濃いの出る

 

 

0980:名無しのリスナー

 

次スレ立ってよかったなこの勢いやベーぞ

やっぱお風呂シーン好きか変態どもが

 

 

 

>>>> わたしです <<<<

 

 

0981:名無しのリスナー

 

あのおしゃしん一枚だけでも

のわちゃんときりえちゃんが裸の付き合いできる程度になかよしで

らにちゃんにも全幅の信頼をおいてるんだなって思えて

 

はぁ…………マジ尊ぇ……のわめでぃあ最高…………

 

 

0982:名無しのリスナー

 

のわめでぃあを好きでよかった

 

 

0983:名無しのリスナー

 

そろそろパンツ脱いだかな

 

 

0984:名無しのリスナー

 

時之戯の風呂場の脱衣場のカゴになりたい

 

 

0985:名無しのリスナー

 

のわちゃん中継繋いでもいいのよ

 

 

0986:名無しのリスナー

 

ちくしょう時之戯の排水溝に住みたい

 

 

0987:名無しのリスナー

 

どうにかして残り湯買い取れねーかな……

 

 

0988:名無しのリスナー

 

見える……きりえちゃんのおむねにしっとしてマッサージを敢行するのわちゃんのてぇてぇが見える……

 

 

0989:名無しのリスナー

 

あの部屋がわかれば風呂場換気口の前に陣取るんだがな

 

 

0990:名無しのリスナー

 

1000なら現場と中継が繋がる

 

 

0991:名無しのリスナー

 

今日ほど自分がスパ○ダーマンでないことを悔いた日はない

 

 

0992:名無しのリスナー

 

気持ち悪い俺ら多すぎワロタwwwwwwwwww

 

 

0993:名無しのリスナー

 

ボディソープになってだいじなところに刷り込まれたい

 

 

0994:名無しのリスナー

 

体洗うやつになって俺の体できりえちゃんのおむねを磨きあげたい

 

 

0995:名無しのリスナー

 

なんだこのスレやべーぞ

 

 

0996:名無しのリスナー

 

おふろシーンとってくれないかな……

旅番組だよわかめちゃ、おふろシーンははずせないでしょ、わかるね、みんながまってるんだよ、わかるでしょ、やだじゃないんだよみんなが期待してるんだよ、やだじゃないんだよ、視聴者さんはわかめちゃんの入浴シーンを期待してるの、わかめちゃんときりえちゃんとラニちゃんがはだかんぼになってお湯につかるのを期待してるの、わかるね、やだじゃないんだよ、わかって、はだかをきたいしてるんだよ、やだじゃないんだよオラッおまちかねのサービスシーンするだよおらっヘイリィしろっ肌色へいりぃしろおらっ

 

 

0997:名無しのリスナー

 

きもちわるい視聴者さんの多いいんたーねっつですね><

 

 

0998:名無しのリスナー

 

1000なら絆創膏

 

 

0999:名無しのリスナー

 

このスレは限界だ!!俺が食い止めている間に次スレ(htfps://ch_fiction/indextop/qawsedrftg202001zs/6ri0z/)に移るんだ!!

いろんな意味で限界だ!!このスレはもう長くは持たない!!!

 

 

1000:名無しのリスナー

 

>>996

やだじゃないんだよwwwwwww

怪文書やめーやwwwwwwwww

 

 

1001:

 

このスレッドは1000を越えました。

次回の放送をお楽しみに!

 

 



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346【一派団欒】旅番組といえば座談会

 

 

 隙をみてラニちゃんにえさを与えつつ、最後まで感動が尽きなかった夕食の席を終え……おれたち『のわめでぃあ』一派、おとな三名こども一名ようせい一名の総勢五名は、ライトアップされたお庭の石段を降って『典雅』の間へと戻ってきた。

 

 お部屋に戻ると、なんとびっくり。

 夕食前、おれたちがお部屋をあとにする前とは様子が様変わりしており……室内の階段を降りて一階の和室部分は座卓と座椅子が少しだけずらされ、開けられたスペースには二組のお布団がピシッと広げられていた。

 

 

「な……なんということでございましょう!? おふとんが! 既におふとんの用意が!」

 

「なんと、いつの間に……よもやこの館にも黒子衆が……」

 

「おれたちが夕食いただいてる間に敷いてくれたんだね。ありがたい」

 

「おぉ、注文通りっすね。ありがたいことで」

 

 

 

 なんでもお布団の敷き方についてだが、チェックインのときにある程度注文ができるのだという。

 今回の例でいえば――ようせい一名は一旦脇に置かせてもらうとして――宿泊者はおとな三名とこども一名(おれではないぞ!!)の、つまり四名だ。

 おとな一人はダブルベッドで悠々と休ませ、おとな一人とこども一人のなかよしコンビは和室で休んでもらい……残るおとな一人の寝床は、小屋裏ロフトスペースに一組敷いてもらえるよう注文していたらしい。

 

 

 

「というわけで、オレが小屋裏ロフトいただきますんで」

 

「あっ!! ずるい!! おれも屋根裏部屋で寝てみたいのに!!」

 

「じゃあ何すか。オタク君はただの一般三十路男性であるオレに美少女たちと同じフロアで寝ろっていうんすか」

 

「………………めんご」

 

「解っていただけたようで」

 

 

 

 

 というわけで眠る場所もスムーズに決まったので……あとは就寝までの時間を利用して、突然だが作戦会議を行おうと思う。腹をわって話そう。

 『のわめでぃあ』の今後の方針を決める、大切な会議。その議題というのは他でもない、(なつめ)ちゃんのことだ。

 

 

「…………? 我輩、か?」

 

「そう! (なつめ)ちゃんなんですよ!」

 

「お、おぅ……」

 

 

 議題はズバリ……一度『猫ちゃん』の姿で公開してしまったナツメちゃんの幼女(ヒト)の姿を公開すべきか否か、また公開する際はその懸念事項について。

 さっきの食事中、並列処理(マルチタスク)を有効活用して思考を巡らせ導きだしたおれの草案に対して、みんなから意見を募りたい……というものだ。

 

 

「ぶっちゃけ、猫耳美幼女ってものすごい貴重な人材資源だと思うんですよ」

 

「さ、さようか」

 

「こんな可愛い猫耳美幼女を埋もれさせることは、のわめでぃあはモチロン、全世界規模の損失なんですよ」

 

「そ、そんなに」

 

「なので可能であれば、猫耳美幼女の(なつめ)ちゃんにも、ぜひ霧衣(きりえ)ちゃんみたいに出演してほしいんですけど……」

 

「ま、まことか」

 

「いっしょに! なつめさま、霧衣(きりえ)めと一緒に、でございますか!」

 

「いや……でも、先輩……ナツメさんは既に」

 

「うん、そうなの。……そうなんだよなぁ、良い考えないかなぁ」

 

 

 

 まず、おれは猫耳美幼女(なつめ)ちゃんをパーソナリティとして登用したい。

 しかし先日の配信にて、既に(にゃんこ)のナツメちゃんを出演させてしまっている。

 ここで猫耳美幼女なつめちゃんを登場させてしまえば……仮に今後、全員集合シーンなんかを撮る必要が生じた際なんかに、不都合が生じてしまう恐れがあるわけだ。

 

 少しだけ考えたのは、新たにべっこう色の毛並みの猫ちゃんをお迎えして、その子を『猫のナツメちゃん』に仕立て上げるという手段。

 だがしかし……その猫ちゃんだって、れっきとしたひとつの命なのだ。おれの活動の、いうなれば利益のため、ひとつの命を他の何者かの代替品のように扱うことが……果たして道徳的に正しいことなのだろうか。

 

 …………正しくは、ないと思う。

 

 

 

「……っというわけで、八方塞がりなわけで。ああーー失敗したなぁーー……こうなったらもう(なつめ)ちゃんに分身してもらうしかないよぉーー」

 

「……ふむ。話は解った。遣ってみようかの」

 

「だよねぇーー……ニンジャじゃあるまいし、いくらなんでもそんな分身なんて…………えっ?」

 

「姿()()で良いのなら、然程(さほど)難儀なものでの無いのでな。…………さて」

 

 

 

 表情を引き締め『すくっ』と立ち上がった、子ども用浴衣姿の猫耳美幼女(なつめ)ちゃん。

 おそらくは【蔵】の一種なのだろう()()に片手を突っ込むと……そこから一枚の、白くてひらひらした紙片を摘まみ出す。

 

 

 

「……真似化(まねけ)や、(まね)け。……【分身具現(わけみよきたれ)】、【八海山(やつみやま)(なつめ)】」

 

 

 

 何事かと注視するおれたちの前、目蓋を閉じてぶつぶつと呪言を呟き……白い紙片を『ひょい』っと放る。

 ひらひらと宙を舞う紙片は床の畳に落ちると同時……『ぼんっ』という小さな破裂音とともに、見覚えのあるべっこう色の毛並みをもつ猫ちゃんの形へと、その大きさ・姿を変える。

 

 

 とてとてと四つ足で畳の上を進み、おめめをまんまるに見開いている霧衣(きりえ)ちゃんのお膝へと『ひょい』と飛び乗り……手足を畳んで丸くなって、可愛らしくあくびをひとつ。

 

 その愛らしさ、そのふてぶてしさ、その自由気ままな様子……どこをとっても『猫ちゃん』そのものの、その姿は。

 

 

 

「媒体となる形代に己の神力を注ぎ、指示の(まま)に働く擬似的な従者を造り出す、影を司りし執行者らが得意とする秘法……『分かち身』の術。……かの大天狗殿に手解きを受けてな、こうして姿形()()ではあるが、どうにか会得に漕ぎ着けたものよ」

 

「ぶ、ぶぶっ、ぶん、ぶんっ、ぶぶぶんっ、」

 

「モリアキ落ち着け、なつかしの数取団みたいになってんぞ」

 

「今の我輩では……業腹ながら、技能も含めた完全な『分かち身』を織り上げることは叶わなんだが……こうして限定的で在れば」

 

「……その、『全員集合』のシーンだけでも、分身の術で『猫ちゃん』の姿を披露できれば」

 

「うむ。…………(これ)ならば我輩でも、家主殿らの……霧衣(きりえ)殿の手助けをすることも、可能であろうか?」

 

「さすがでございます! なつめさま!」

 

 

 きちっと着付けた浴衣の膝の上で、のんびりと安らぐ錆猫を優しく撫でながら、霧衣(きりえ)ちゃんはそれはそれは嬉しそうにその思いの丈を露にする。

 (なつめ)ちゃんの技を褒め、共に活動できることを喜び、共にたのしいひとときを過ごせるとを期待してやまない。

 

 そんな思いを込め、膝上の猫ちゃんをデレッデレの表情でなでなでする霧衣(きりえ)ちゃんに。

 

 

 

「…………んっ!」

 

「ひゃわっ!?」

 

 

 ふてぶてしく丸まる錆猫を無理矢理押し退け、その抗議の声を無視するように……姉のように慕う白髪狗耳美少女の膝に頭を預ける、小さく愛らしい猫耳美幼女(なつめ)ちゃん。

 

 やがて目を細め、妹分を優しく撫で始める霧衣(きりえ)ちゃんの、その包容力たっぷりの母性の片鱗に。

 

 

 

尊い(てぇてぇ)」「もぅ無理」「しぬ」

 

 

 おれたち(中身)男性三人組(トリオ)は完全に語彙力を喪失し、泣きながらカメラを回すだけの存在となり下がったのだった。

 

 

 

 

 






@kinowaka-media_NOWA-IT:【#わかめ旅】そうそう、これね、母性たっぷりのマジてぇてぇ浴衣霧衣ちゃん。きりえちゃんにはないしょだよ
htfp://tubuyaita.pic/2o2oo127_214223_pmo5r2/
なぞのロリはラニちゃんじゃないよ。その正体は次の生わかめをおたのしみに。



@kinowaka-media_NOWA-IT:【#わかめ旅】本日のこうしんはこれで最後。お布団しいてもらったのでねるだけ。せっかくなので浴衣じどりのおすそわけだよ。温泉旅館きぶんを味わってね。わたしかわいく撮れてるかな?
htfp://tubuyaita.pic/2o2oo127_214842_tm3gam9/



それではみなさん、おやすみなさい。ヴィーヤ!




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347【一派団欒】泊まりといえば朝襲撃

 

 

((おはよぉーございまぁーす!))

 

 

 伊逗半島の南端、嘉茂(かも)南伊逗(みなみいず)町の温泉旅館『時之戯』さんにて、盛大に羽を伸ばしているおれたち『のわめでぃあ』一派。

 昨晩は今後の展望について、まさに望む形での解決策を見つけることができ(ほんと天繰(てぐり)さん半端ない)……それを喜ぶ霧衣(きりえ)ちゃんによって、非常にしあわせな情景が作り出されたわけだけど。

 

 そのですね、非常にしあわせな絡みを見せてくれた、わが『のわめでぃあ』において『最もてぇてぇ』と名高いカップリング(おれ調べ)である神使義姉妹、霧衣(きりえ)ちゃんと(なつめ)ちゃんペアがですね……

 

 

(今まさに……このふすまの向こうで、なかよくいっしょにスヤリスヤリと眠っているわけですよ、ラニちゃん)

 

(そりゃもーたまんないよね、ノワ)

 

 

 これはもう……是非ともその健やかなおやすみ顔を、カメラに収めさせていただかなくてはなるまいて。

 ……もちろん、本人が嫌がるようなら、公開はしない。おれとラニが私的に堪能する限りだけど……すごいものが撮れそうだと、おれの直感が告げているのだ。

 

 

 

 

(では……いきましょうか、相棒)

 

(おうよ。まかせとけ、相棒)

 

 

 空間と幻想に特化した技能を操る【天幻】の二つ名持ちにして、その長所を更に伸ばす幻想種族である相棒ラニの、全力の存在隠蔽魔法……第一線級といえるそれを纏ったおれたちが、一切の音を立てずに襖を開いていく。

 いかに感覚が鋭い霧衣(きりえ)ちゃんとて、おふろとお料理と妹分とのスキンシップでリラックスしきった状況下とあっては……かの世界では『魔王』直属の配下さえ欺いて見せたと嘯くラニの幻想魔法を看破することは困難だろう。

 事実、おれたちがこうして二人が眠る和室に侵入したというのに……おふとんのふくらみは微動だにせず、寝息に応じて規則正しいリズムを刻んでいる。

 

 しかし……おれはここで、ひとつの違和感に気がついた。

 二人が眠っているはずの寝室、二人分敷かれたお布団。……しかし片方の掛け布団は平たいまま、人が入っているとおぼしき膨らみは一人分しか見当たらない。

 

 

(待ってウソでしょバレてた!?)

 

(そんなバカな! ボクの全力だぞ!?)

 

 

 襲撃を察知されたのかと思い、細心の注意を払い周囲を警戒してみるも、しかしそこに可愛い子ちゃんの姿はない。おれたちの侵入を察知し、布団から離脱した……というわけでは無いようだ。

 

 であれば、どういうことなのか。

 二つの布団、一つの膨らみ。消えた少女の謎。

 

 その謎を解く鍵は……うん。

 これはまた……なんとも尊いものだった。

 

 

 

(ラニ……!! ねぇ……これ!!!)

 

(ちょっ、待っ…………うわ……うそでしょ)

 

 

「……くぅー、……くぅー、」

 

「……すぅ、……すぅ、」

 

 

 

 その真相は……どうということはない。

 ひとつの膨らみに、二人が密着して……一緒に収まっていただけのことだ。

 

 横向きになって、少し背中を丸めて『くぅくぅ』と可愛らしい寝息を立てる霧衣(きりえ)ちゃんと……その胸元に寄り添うように丸まり、『すぅすぅ』と健やかな寝息を立てている三角耳……(なつめ)ちゃん。

 回された腕と掛けられたおふとんによって、(なつめ)ちゃんの表情を窺うことは出来ないが……きっと、いや間違いなく、幸せそうな顔をしていることだろう。

 

 

(ラニ、消音魔法)

 

(オッケー【静寂(シュウィーゲ)】)

 

 

 浴衣猫耳美幼女を胸に抱いて眠る、浴衣白髪狗耳美少女。

 やばすぎる。尊いが過ぎるが。これは普通にお金取れるレベルの芸術作品だが。

 

 公開できるかどうかは、置いといて。

 おれたちはこの芸術遺産を後世に残すべく、とにかく夢中でシャッターを切り続け……

 

 

 

 それからおよそ三十分後の、朝五時半。

 いつもどおりの時間に健全な起床を果たした霧衣(きりえ)ちゃんに、恥ずかしそうに咎められるまで、写真データを蓄積していったのだった。

 

 

 

 

 

………………………………………

 

 

 

 

「モリアキおはよおーー!! こんちわーー!! こんばわーー!! ゥ起きてェーーーー!!」

 

「ウワアアアアアアアアア!!!?」

 

「この扱いの差よ……」

 

 

 

 

………………………………………

 

 

 

 というわけで。

 

 賑やかな朝のひとときを過ごし、お食事処で目にも美味しい朝食和膳を堪能(なおラニちゃんはおんせんたまごに大興奮の模様)したおれたちは……チェックアウトまでの間、部屋に戻って温泉ロケを敢行することにした。

 

 

 まずモリアキに詫びながら『庭園でも散歩してきて』と蹴り出し、浴衣を脱いでバスタオルをきっちり巻いて、『はらり』しないようにカメラからは映らない部分でバッチリガッチリクリップで止めて……とりあえずは準備完了。

 あとは自撮り棒と防水無線コントローラーを駆使しながら、お湯に浸かってお風呂レビューを撮影すればいいだけだ。

 

 まぁ念のためバンソーコーは貼ってあるし、下もパンツで保護してあるので、万が一『はらり』しても『ぽろり』する心配は無いわけだが(まぁでもパンツは透けるかもしれないな)……しかし健全には万全を期す必要があるので、編集のときにはより一層の注意が必要だろう。

 

 

 それにしても、いいお湯である。

 元々きれいだったおれのお肌だが、目に見えてつるつるになってしまった。昨晩霧衣(きりえ)ちゃんが磨き上げてくれたおかげもあるのだろう。テクニシャンだこと。

 

 これなら美肌モデルの案件だって受けられちゃうぞ。大田さん案件お待ちしてます。

 

 

 

 そんなこんなで、およそ三十分ほどの朝風呂兼撮影は順調に進み、宿紹介動画のお風呂パートには充分であろう尺が撮れたので……うん、そろそろ撤収することにしよう。

 ちゃんと服も着たので、そろそろモリアキを部屋に入れてあげないと。

 

 

 

 

 

「悪い、時間かかった」

 

「いえいえ。朝の散歩も良いもんっすね。お庭がまた綺麗で」

 

「あー……そういえば隅々まで見てなかったな……」

 

「到着も遅かったですもんね。出発もそこそこ早いですし」

 

「それなー」

 

 

 

 というわけでその後は各々荷物をまとめて、帰る支度を整えて……チェックアウト時刻の十五分前には、みんな揃って準備完了。

 全員が全員『いい宿だった』の感想のもと、安らぎのひとときを提供してくれた『時之戯(ときのあそび)』さんと別れを告げ……モリアキの運転で(ハイベース)が動き出した。

 

 

 

 帰りの都合上、きょうは半日だけの活動となるが……『せっかくとりっぷ【伊逗半島南】編』二日目。

 

 きょうも張り切っていきましょう!

 

 



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348【企画撮影】せっかくとりっぷ・完



ちょっと巻きでお送りします




 

 

――『せっかくスポット』そのろく。

 嘉茂(かも)松咲(まつざき)町【磐科学校(いわしながっこう)】。

 

 

 宿を出発し、一旦海岸線に別れを告げ、山間部をぐねぐねと走る県道を進むこと……およそ一時間弱。

 コンビニはおろか商店や食堂さえ滅多に見えない山道を抜けた先には、すぐそこに海を控えた山あいの磐科集落が広がっていた。

 

 そこにひっそりと佇む、異国情緒あふれるなまこ壁の建物こそ……つぶやいたーネーム『セパント』さんのおすすめによる『せっかく』スポット【国指定重要文化財・磐科(いわしな)学校】である。

 

 

「すごい……めっちゃ昔の建築じゃないですか? 明治とか大正とか……」

 

「えーっと……マネージャーさんにもらったカンペによると、シュンコーは一八八〇年……メイジ十三年? みたいだね」

 

「ひゃく、よんじゅっさい……で、ございますか……」

 

「ひぇ…………すっご……」

 

 

 正面入り口……昇降口脇の事務所で入館料を支払い、霧衣(きりえ)ちゃんと二人おっかなびっくり足を踏み入れる。ラニちゃんは姿を隠して声だけ状態なので、例によって無線接続(ブルートゥース)ヘッドセットの出番である。

 

 年期を感じさせる木造の旧校舎、なんでも当時の大工さんたちがハイカラな西洋建築をなんとか再現しようと苦心した末の建築物だそうで、和風と洋風両方の特徴を随所に感じさせる独特の作りになっている。

 たとえば……玄関上の破風はお寺や神社によく見られる形であり、外壁は防水・耐火と装飾を兼ねた漆喰となまこ壁。しかしそれでいて、二階バルコニーはおしゃれな半円型、窓なんかもアーチ形状が取り入れられているなど、他ではあまり見かけない独特な校舎といえるだろう。

 

 

 

「えー……それでは、授業を始めます! みなさん、おはようございます!」

 

「おっ、おはようごじゃいますっ! わかめさま!」

 

「いいお返事です、霧衣(きりえ)ちゃん! あとわたしのことは先生と呼ぶように!」

 

「は、はいっ! せんせい!」

 

「アッ最高」

 

(かわいいかな?)

 

 

 ずらりと並ぶ教室のひとつ、当時を再現された教壇部分に立って……気分はすっかり学校の先生だ。明治時代ってことは、まだ先生も袴とかだったのだろうか。現在(目に見える)生徒は霧衣(きりえ)ちゃん一人だけだが、当時はこの教室も子どもたちで溢れていたのだと思うと、感慨深いものがある。

 読み書きそろばんだけじゃなく、女の子たちはお裁縫なんかも習っていたようだ。服を縫ったり補修したり、冬場や夜なんかは布細工の工芸品をつくって生活の足しにしていたらしい。

 

 なるほど……お裁縫か。和裁ハンディクラフト動画とかもウケるかもしれないな。なんてったって霧衣(きりえ)ちゃんだもんな。

 

 それにしても……明治時代の学校。女学生……袴……なるほど、大正浪漫文学少女。

 ……ういか×きりえ和装コラボ、なんだか急激に実現させたくなってきたぞ。思わぬところで活動意欲が掻き立てられたけど、これはこれで。いいインスピレーションを与えてもらった、ってことなのだろう。

 ありがとう、磐科(いわしな)学校。

 

 

 

 

――『せっかくスポット』そのなな。

 伊逗(いず)土居(とい)地区……()()

 

 

「はい、到着しました。さっきの磐科(いわしな)学校から、車でおよそ三十分くらいですね。再び海沿いを進んできました。……さてラニやん、こちらはいったい……?」

 

「ふっふっふ……ここはですね、複数名の現地視聴者さんから『わかめちゃんと霧衣(きりえ)ちゃん二人に是非とも訪れてほしい』と熱烈なお勧めをいただいた『せっかく』スポットなんだけどね?」

 

「えっ? わ、わたしと……」

 

「わ、わたくしと……でございますか?」

 

「ふっふっふっふ……では発表させていただきましょう。つぶやいたーネーム『リリアーツ』さん、『百合眼』さん、『ユーリード』さん、『ガドルフ』さんのおすすめによる『せっかく』スポット……『せっかくなので【恋人崎の廻り鐘】、一緒に三回鳴らして下さい』です!」

 

「こ、ここ……っ!?」「わうーー!!?」

 

 

 

 伊逗半島の西側は、日本でも有数の漁獲量を誇る駿賀(するが)湾に面している。

 おれたちが現在連れてこられている伊逗(いず)土居(とい)の『恋人崎』は、そんな駿賀(するが)湾にポッコリ突き出ている立地らしく……ここから北方向を望めば、伊逗(いず)半島と駿賀(するが)湾と……その更に向こうに、白く雪を被った美しい富士山を同時に視界に収めることができるのだ。

 海の青と、空の青と、山々の緑と、そして富士山の白と薄青……自然の織り成す色彩の共演には、思わず感嘆の吐息が溢れてしまう。

 

 そんな……たいへん風光明媚な展望台の一角に。

 とてもとてもファンシーな形状の石碑と共にたたずむ、これまたファンシーな装いの、とあるひとつの鐘。

 

 これこそが、なんとも百合百合しいお名前の方々にお勧めされた『せっかく』スポット……【恋人崎の廻り鐘】なのだろう。意味深な『三回鳴らして』についても、ご丁寧に石碑でばっちり解説されていた。

 まぁ要するに……早い話が、縁結びのおまじないなんだって。

 

 

 

「……えーっと……で、では…………じゅんびはいいですか、きりえちゃん」

 

「はいっ! お供いたしますっ!」

 

「っ!! ああもう……かわいいなぁ!」

 

 

 

―――かーん。―――かーん。―――かーん。

 

 

 

「あー…………(てぇて)ぇー……」

 

「美少女どうしの『なかよし』は万病に効くっすからね……」

 

「成程……縁結びの儀なわけだな。……のう勇者殿よ、我輩も()の二人と鳴らしてきても構わぬか?」

 

「アッ!! ちょっと待ってねめっちゃ撮るから!! ホラうれ……モリしーカメラ早く!!」

 

「今先輩達が使ってますんで!!」

 

 

 

 おっとぉ……おれたち二人が出演するパートを録り終わったと思ったら、かわいらしいお嬢ちゃんがかわいらしいオネダリをしてきてくれましたね。

 

 

霧衣(きりえ)殿、我輩とも鐘突を頼めるだろうか」

 

「はいっ、構いませぬ! 喜んでお相手いたしまする!」

 

 

 なるほどなるほど、つまり『自分も縁結びのおまじないがしたい』……と。

 おれと霧衣(きりえ)ちゃんが縁結びのおまじないをしてるのを見て、自分も仲間に入れてほしいって考えた、と。かわいすぎるが。そりゃもう夢中でカメラ回すが。

 

 

「家主殿、家主殿。我輩と御一緒を頼めるであろうか?」

 

「もちろんです!!!」

 

 

 こちらの様子を窺っていたディレクター陣にカメラを押し付け、おれよりも小柄な美幼女の手を取り、メルヘンチックな鐘を鳴らす。

 一緒に鳴らした本人は満足げな表情で、見守ってくれていた霧衣(きりえ)ちゃんは暖かな視線で……撮影を押し付けられた二人は、無言でサムズアップ。良い()が録れたようだ。

 

 はー……弊社の構成員、まじ(てぇて)ぇ。

 

 

 

 

――『せっかくスポット』そのはち。

 伊逗(いず)土居(とい)地区【土居(とい)金山】。

 

 

「ねぇねぇノワ!! 世界一大きなゴールドの塊に直で触れるんだって! 守りがこんなチャチな薄板一枚だなんて……これもう持ってってくれって言ってるようなもんじゃない!? われ【天幻】ぞ!?」

 

「んなわけ無いでしょ! おばか!!」

 

 

 

「こうやって、お皿でシャコシャコやって、上の方の砂を捨てて……底のほうに砂金が沈むはずだから、それを集めるんだけど……」

 

「しゃこ、しゃこ、しゃこ……うふふ、おみずが冷たくて気持ち良いでございまする」

 

「む……のうのう、家主殿よ。『砂金』とは(これ)で良いのか?」

 

「なんでこんなにあんの!? ひと(すく)いで八粒とかおかしくない!?」

 

「あっ、霧衣(きりえ)めのお皿にも『きらきら』がございまする!」

 

「なんでそんなに出るの!!?」

 

 

 

「ほぉ……四十粒か。我輩の勘も捨てたものでは無いな」

 

「『きらきら』が小瓶にいっぱい……(なつめ)さまとお揃いにございまする」

 

「えーっと……三十粒以上だと『砂金採り名人』らしいね。二人は四十粒以上の好成績なわけだけど……」

 

「わたしは仲間はずれですね! うらやま!!」

 

「日頃の行い、ってやつかな?」

 

「きぃぃぃっ!!」

 

 

 

………………………………………

 

 

………………………………

 

 

………………………

 

 

 

 ……っとまぁ、こうして伊逗半島の西海岸、土居(とい)地区から東方面へと山道を進み……再び道の駅『鹿野(かの)のへそ』へ、今度は西側から到着する。

 これで伊逗半島の南部を『ぐるり』と一周してきた形になるわけだけども……宿含め二日間で合計九つの『せっかく』スポットを堪能することができた。

 

 九つめのスポットは……ほかでもない。

 『せっかく【鹿野(かの)のへそ】に来たのなら【しいたけそば】を食べてみて』との助言をいただき、こうして温かくておいしいおそばにありつくことができたのだ。

 

 おれが昨日、しいたけそばを食べられなかったことで、大人げなくへそを曲げていたのを……SNS(つぶやいたー)を見ていた現地視聴者さんが憐れんでくれたらしい。めっちゃありがてぇ。

 テラス席のテーブルひとつを借りきって、みんなでしいたけそばをいただきながら、そろそろだろうとクロージングの撮影に入る。

 

 

 

「それでは……第一回【のわめでぃあのせっかくとりっぷ:伊逗半島南部編】、いかがでしたでしょうか?」

 

「たのしかった!」

 

「……で、ございまする!」

 

「エヘヘー。こちらの企画、もし『面白かったな』『続きが見たいな』『霧衣(きりえ)ちゃんかわいかったな』など感じましたら、ぜひチャンネル登録と『よかった』ボタン、つぶやいたーのフォローもよろしくお願いします!」

 

「わ、わうぅぅ!?」

 

 

 

「それではまた、次の動画で……」

 

「「「ヴィーヤ(ばいばい)!」」」

 

 

 



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349【完成披露】さぁさ皆さんお立会い

 

 

「ノワ早く早く! 遅れちゃうよ!?」

 

「おれは何とかなるんだけど! モリアキ早く!」

 

「一般人に優しくない職場っすね! ココは!」

 

「モリアキが追加で壬島(みしま)コロッケ頼むからだろ! おいしかったけど!!」

 

 

 さてさて……つい先ほど、記念すべき第一回の『せっかくとりっぷ』収録を終えたおれたちは……思っていたよりも時間が押してしまっていたことに慌てふためきながら、(ハイベース)を道の駅『鹿野(かの)のへそ』へと置いたまま、ラニちゃんの【門】へと飛び込んだ。

 (なつめ)ちゃんの【隔世(カクリヨ)】によって無人となった緑地公園を全力疾走し、おれたち『のわめでぃあ』構成員は待ち合わせ時間に間に合わせるべくひた走る。

 自身の誇る権能を、本来の用途とは異なる目的で使われた(なつめ)ちゃんは……猫ちゃんの姿ながら複雑な表情を滲ませている。まじめんご。

 

 現在時刻は、午後一時四十分。本日の()()()は午後二時なので厳密に言えば遅刻じゃないのだが、こちらから提案した時刻なら十分前くらいには着いてなければ失礼だろう。

 特に今回は超重要な案件であり、お伺いする()()()()()()なのだ。

 

 

 

「セーーーフ! 一時四十八分ぎりぎりせーふ!! さすがおれだわ!! なぁモリアキ! ……モリ………………し、しんでる」

 

「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、……っ、勝手に、ころさな……っ、はぁ、」

 

「おーおー……かわいそうに。我は紡ぐ(メイプライグス)……【快気(リュクレイス)】」

 

「アァーーーー(恍惚)」

 

『――――も、もう戻して良いかの?』

 

「ご、ごめん。おねがいします」

 

 

 現実世界のほうにも干渉するモノは無さそうとのことなので、ヒトの姿を真似た(なつめ)ちゃんに【隔世(カクリヨ)】を解いてもらう。

 途端にすぐそこの大通りからは賑やかな喧騒が聞こえてくるが、それを尻目におれたち四人(と妖精一人)はエレベーターへと滑り込み……なんとか、ぎりぎり、約束の十分前ちょうどに、株式会社NWキャストさんの事務所へと辿り着く。

 

 

 そう……おれたちが本日『お約束』している相手とは、ほかでもない。

 

 株式会社NWキャストさんが擁する、配信者タレント集団……仮想配信者(ユアキャス)業界最大手事務所『にじキャラ』さん所属の方々なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ少々早いけど、皆揃ったみたいだし……始めちゃおうか? 若芽さん」

 

「……っ!! は、はいっ! 宜しくお願いします!」

 

 

 今回おれたち四人が通されたのは、前回お邪魔したときとは異なる『八〇一』ルームの中の一室。合計三十人ほどが腰掛けられる広さの、なかなか上等な会議室である。

 議長席に座るのは、この『にじキャラ』部門の事実上トップである鈴木本部長。以前ミルさんの身に起きた事件をカミングアウトした際にお会いして以来だが……その表情はなんだか、とてもわくわくしているように見える。

 

 

 

「えー…………本日皆さんにお集まり頂いたのは、ですね」

 

 

 嬉しそうな表情を隠しきれない、若々しい顔色の鈴木本部長……彼が見つめる先に着座しているのは、左右合わせて十五名の男女。

 そのうちおよそ半分は、なんとおれがお会いしたことがある方々だ。先日この近くの中華料理店『翠樹苑』さんで短くも濃密なときを過ごさせていてだいた、うにさんやくろさんたち第Ⅳ期生【Sea's(シーズ)】(の(なかのひと))たち……ミルさんを除いて、七名。

 

 残るもう半分は……おれにとっては推測の域を出ないのだが、確信ともいえる直感がその正体を告げている。

 めっちゃニコニコ顔でおれを凝視してくる小柄な女性と、親しい友人に会ったかのような笑みを向けてくる大柄な男性……彼ら彼女らを含む八名。

 

 ……間違いない。

 この業界の偉大なる先達にして、おれ含め多くのサブカル系配信者(キャスター)の憧れ……『にじキャラ』第Ⅰ期生(の(なかのひと))の方々だ。

 考えるまでもなく、ティーリットさまとハデスさまなのだろう。リアルのほうもかわいい&かっこいいかよ。すきだが。

 

 

 

 

「Ⅳ期のミルクさんの身に起こった変化については、先日皆に伝えた通り。本日は彼女……あいや、彼のケースを参考に、()()()()()から技術提供を受けて開発した、いわば『新世代演出技術』……その御披露目と、『体験』を行っていただきたく」

 

「それって! あたし達もアバターの格好になれるかもっていう!?」

 

「まだ説明の途中なんですけど…………まぁ、()()()()()。皆さんに演じていただいている仮想配信者(アンリアルキャスター)、その姿を……現実の皆さんに投影する。()()のような技法です」

 

 

 

 おぉー、と……十五名の演者さんたちから盛大な歓声が上がる。

 とはいえ、うにさんやくろさんたちのごく一部を除いて、そんな演出手法は初耳だという方も、もちろん多い。

 戸惑いの感情も少なからず見受けられるが……しかしそんな中にあっても、喜びの感情を持ち合わせていないような方は、さすが誰一人として居なかった。

 

 

 やはりプロ中のプロの方々なだけあって、自らが演じるキャラクターへの思い入れもまたひとしおなのだろう。……であれば、なおさら都合が良い。

 

 今回ご用意した術式は、術者が『いかに具体的に想像できるか』が鍵となる。

 キャラクターの容姿や格好なんかを指示する魔法条文は織り込まれておらず、ただ『ディテールは術者のイメージを参照する』という条文があるのみだ。

 

 つまり……自らが演じるアバターをうまく再現できるかは、演者本人の『想像力』と『創造力』に委ねられるわけだ。

 

 

 

 

「……では、論より証拠というか、百聞は何とやらというか。……ここから先は……若芽さん、お願いします」

 

「は、はいっ! 失礼します!」

 

 

 

 先日お邪魔した際の『晒し者』作戦の甲斐もあって、この場にいる方々は皆おれのことを知ってくれているようだった。おれがお話ししたことのない方々も、どちらかというと好意的な視線を向けてくれている。

 

 これなら……最初からおれの話を聞いてくれる体勢であるならば、いける。

 名指しされ立ち上がったおれは、この場に踏み込む直前ラニに手渡されたアタッシュケースを机の上に置き、ほっぺをぺちんと叩いて気合を入れて口を開き……

 

 

「そのカワイイムーブほんま天然なんやね……」

 

「んふゥーーかぁええなぁーー」

 

「はぁ……わちも抱っこしたい……」

 

「………………ヒンッ!!」

 

 

 

 うにさんくろさんティーさま(の(なかのひと))によって盛大に出鼻をくじかれ……あっという間に半泣きにされたのだった。

 

 



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350【完成披露】本日おすすめの商品

 

 

 この現代日本において、近年特に培われた概念として……『変身アイテム』というジャンルが存在する。

 

 

 古くは百万ワットの輝きを放つペンライトや、テクマクでラミパスな化粧道具……最近ではバックルに剣が収められたベルトやら妖精の石をセットして使うショートステッキやら、その形状や効果は多岐に渡る。

 日本のアニメーション作品や特撮ドラマ作品において、特に日曜日の朝には欠かせないそれらアイテムは、近年においては殊更に趣向が凝らされた機能・デザインの玩具が商品化されたりと……特にサブカル分野においては大変馴染み深いものとなっているのだ。

 

 

 

 ……というわけで。

 今回おれたち(というか特にラニ)が用意した『新世代演出技術』のキモともいえるキーアイテムこそ、こちらの特製『変身アイテム』というわけだ。

 

 

 

「とりあえず、現状用意できたのは三つです。動力源はこの、三式蓄魔筒(バッテリー)が四本。裏側の蓋をはずして挿入します」

 

 

 四角く扁平の、手のひらからはそれなりにはみ出るサイズの……なんていうか、板。身近なもので似た形のものはといえば、みんな持ってる(と思われる)スマートフォンだろう。

 ただし三式蓄魔筒(バッテリー)(まんま単三電池サイズ)を挿入する都合上、その厚みもやや厚め。どちらかというとモバイルバッテリーの方が近いだろうか。

 

 

「テスト品なので、インターフェースとかは必要最低限です。登録してあるコマンドは【書込(インストール)】、【登録(セットアップ)】、そして……【変身(キャスト)】と、【解除(シャットダウン)】。側面のボタンを押しながらコマンドを発声すると……発動します」

 

 

 用意してもらったホワイトボードに、四つのコマンド名を順番に書いていく。……しかしボードの上のほうに手が届かなかったので、筆記エリアは下半分だ。いまおれを笑ったな。だれだ……うにさんやんけ!!

 ちょっと立場というものを理解(わか)らせてあげる必要があるようなので、おれはニヤリとほくそ笑みながら説明を続けていく。

 

 

「実際に、どなたかに()って頂いたほうがわかりやすいと思うので……どなたか、お手伝いをお願いできませんか?」

 

「「「「はぁーーい!!」」」」

 

「オォゥ……えっと、では……」

 

 

 勢いよく、ほぼ全員の手が挙げられる。第Ⅰ期生の方々は半数以上、第Ⅳ期生に至っては……全員だ。

 とりあえず、おれがお話ししたことある方であればやりやすい。というわけで先ほどの悪巧みを加味して……うん。決めた。

 

 

「……では、おそれながら………ティーさま」

 

「やったぁー!」「そんなぁー!」

 

 

 ふっふっふ……うにさんよ。キミはいい友人だったが、わたしを笑ったのがいけないのだよ。はっはっはっは!

 ……いえ、すみません。今後ともよろしければお付き合いのほどお願いしたく存じます。はい。

 

 

 

 というわけで、ティーさま(の(なかのひと))にご協力いただき、こちらの【変身】デバイス『L2T3』(仮称)のデモンストレーションを開始します。

 

 まず第一段階の【書込(インストール)】。これは変身デバイスそのものに、【変身】で参照するディテールを記録する作業だ。

 術者が想像した姿に【変身】させるのがこのデバイスの本懐だが……そう毎回毎回【変身】を使うたびにアバターの細部ディテールを想像するのは、さすがに骨が折れる。疲れてるときなんかは集中力が持続できず、再現度がいまひとつの『コレジャナイ』状態になってしまう恐れがあるのだ。

 もちろん【変身】をやり直せば問題ないのだが、やり直せばそれだけ蓄魔筒(バッテリー)は消費される。集中力もどんどん下がっていく可能性だってあるし、つまりは非効率的だ。

 

 というわけで、あとあとショートカットコマンドで呼び出せるようにするための下準備というわけだ。

 予めティーさま(の(なかのひと))に正確なディテールを想像してもらい、それをデバイスへ【書込(インストール)】を行う工程。

 アバターの姿を思い描けたら、ボタンを長押しながら発声コマンド【書込(インストール)】、続いてファイル名……キャラクターの名前を唱えてもらう。……一回コマンド練習してみましょうか。

 

 

「んん……書込(インストール)、トールア・ド・ショットヘーゼ・ル・ナッツバニラ」

 

「どうどうどうどう! ティーさま略称! 略称で大丈夫です! ファイル名ですんでわかれば大丈夫です!」

 

「さ、さきに言ってほしかったわぁ……!」

 

「すすすすみません……失礼しました……!」

 

(かわいい)

 

(それな)

 

 

 ともあれ無事に【書込(インストール)】ができたようなので、次のフェーズへと進もうと思う。

 現在の段階は、ティーさまが想像したアバターデータをデバイスが仮保存している状態だ。まずはこのデータが正確かどうかを確認したいので……そう、出力してみようと思う。

 

 お待ちかねの……【変身(キャスト)】コマンド、そして新技術初お披露目の瞬間である。

 

 

「感覚としては、さっきと同じです。もうアバターは仮保存されてるので、あとはさっきのファイル名と同じ名前を発声コマンドで読み込んでもらえれば」

 

「ん……やってみる。…………すーー、はーー、…………【変身(キャスト)】、【トールア・R・ティーリット】」

 

「「「「「―――!!!!??」」」」」

 

 

 

 いや、まぁ、その……新世代演出技術だなんだと取り繕っちゃ居ますけども……要するに結局は【魔法】なわけですよ。

 

 登録されたプログラムの実行コードを受領し、変身デバイスが試験通りに動作を開始し……図柄化されたプログラムコードが宙を(はし)り、術者たるティーさまを中心に【変身】の魔法陣が生成される。

 ラニが元居た世界で確立され、体系化された魔法技術……それはこの世界の現代日本へと持ち込まれ、デジタルネットワーク時代のプログラミング技術の片鱗を取り込み、こうしてひとつの形へと昇華したのだ。

 

 

 純粋なるこの世界(の神様)の魔力(神力)を糧とし、現代に最適化された魔法詠唱(プログラムコード)にて発動し、特別に(あつら)えた魔法媒体によって紡ぎ出される……数多の人々を楽しませ、幸せを与えるための『魔法』。

 

 その記念すべき初お披露目の日、初となる【変身】魔法……立体魔法陣(プログラムコード)の光が収まったその場所、先ほどまでティーさまの(なかのひと)が立っていた、その場所には。

 

 

「……ご気分は、いかがですか? ティーリットさま」

 

「…………………………」

 

「………………えっと、あの……」

 

「…………ねぇ、わかめちゃん?」

 

「は、はいっ! なんでしょう!?」

 

 

 

 プラチナブロンドの長い髪をひとつに纏め、小さいながらも精緻な髪飾りで彩り、艶かしくも大胆に肩を晒したパールホワイトのロングドレスを華奢なその身に纏い、上品な黄金色に輝くストールをふんわりと巻いて。

 

 人間にはあり得ない……今のおれ同様長く尖った耳をもった、高貴な装いのエルフの少女が。

 

 

 

「…………わち、どうなっとるん?」

 

「えっ…………えっ!?」

 

「んっと、な? …………鏡、とか……なぁい?」

 

「あっ!!!!」

 

 

 

 ほんのりと眉根を寄せた、困ったような表情をそのお顔に浮かべながら……

 

 興奮と歓喜を隠しきれない笑みとともに、堂々と佇んでいた。

 

 

 



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351【完成披露】勉強させて頂きます

 

 

 変身デバイスに入力したデータを、【変身(キャスト)】で出力したティーリットさま。その正確さを同僚の方々が四方八方からきゃいきゃいと確認し……これでうまく【書込(インストール)】できていることが確認できた。

 そこで、このアバターデータを本登録する。コマンドみっつめ、【登録(セットアップ)】の出番である。

 

 三度目ともなれば、こなれたものなのだろう。スマホ型の変身デバイス『L2T3』を構えながらちょっと気はずかしそうにポーズを取り、今や『ティーリットさま』本人となった彼女は音声コマンドを詠唱する。

 

 

「【登録(セットアップ)】! 【トールア・R・ティーリット】!」

 

「はい、おっけーです。…………すみません、【登録(セットアップ)】は、特に……その……エフェクトとか、出ないので……」

 

「…………っ!!!」

 

 

 せっかくキメポーズをとったにもかかわらず、見た限りでは何も起こらず『しーん』と静まり返る会議室……かわいらしいエルフの王女さまは整ったお顔を真っ赤に染め、黄金色の潤んだ瞳でおれのことを恨めしそうに睨み付ける。いえ、あの……おれは何も悪くないですし、正直ごほうびです。ごちそうさまです。

 ともあれ無事に正式保存ができたので、次からは直接音声コマンドで【変身】することができるのだ。やったね。

 

 あとは、四つめのコマンド【解除(シャットダウン)】。今まで同様ボタンを押しながらの発声で発動、変身直前で一時保存していた状態へと、元通りに容姿を巻き戻すためのコマンド……まぁ要するに、変身解除だ。

 変身デバイスの使用手順としては、以上となる。ティーさまのご協力もあってスムーズにお披露目も進めることができた。ティーさま、ありがとうございます。お疲れ様でした。ささ、お早く【解除(シャットダウン)】のほうして(もろ)てですね、次のお方にデバイスをお渡しいただけると……

 

 

「やだ!」

 

「えっとあの、やだじゃなくてですね」

 

「やだ! わち、まだ『ティーリット』で()るもん!」

 

「あの、もん! じゃなくてですね……」

 

 

 長年演じ続け、その間焦がれ続けてきた『ティーリット』になれたことが、心の底から嬉しいのだろう。

 美しく可憐なエルフの王女様は、花の咲くような満面の笑みを浮かべながら、とても可愛らしい『わがまま』を口にして、ころころと笑っている。

 その愛らしさを目にしてしまっては、第Ⅰ期生および第Ⅳ期生の他の面々も、『じゃあしょうがないかぁ』と引き下がってくれる……なんてことはもちろん起こるはずもなくてですね。

 

 

「やだじゃないんだよ! 俺だってハデスなってみてぇんだって! いや俺だけじゃねぇって! 早よ替われ!」

 

「やぁもん! わち王女さまじゃもん! わちが優先されるべきなんじゃもん! ほぉら、ひかえおろ!」

 

「ティー様じゃあせめてスマホ貸してくださいよ! あたしらだって試してみたいです!」

 

「アッ、えっと……いちおう、デバイスを手放しても【変身】そのものは解除されないので……」

 

「じゃあええよ。はい、セラちゃん」

 

「俺はぁぁぁ!!」「あたしはぁぁぁ!!」

 

 

 お、おぉ……ちょっと収拾つかなくなりそうだぞ。プロの仮装配信者(ユアキャス)の方々のアバターへの思い入れを少し甘く見ていたか。

 とりあえず鈴木本部長に視線を向け、この場を納めるためにお手を拝借しようと思ったのだが…………し、しんでる。

 

 

「鈴木本部長! 起きて……助けてください!」

 

「……はっ! せ、静粛に! 一旦落ち着いてください!」

 

「ティー様助けて! 魔王と勇者とウニとハマチとカニが襲ってくるの!」

 

「あたしだって襲いたか無いねん! オラ穢されたく無けりゃそのスマホ渡しーや!」

 

「Ⅰ期のマスコット枠がしゃしゃってんじゃ無ぇぞ! ティーが王女なら俺だって魔王だぞコラ!」

 

「やだぁ! マスコットだからこそちゃんとなりたいの!」

 

「セラちゃんほら、冷静に考えて。魔王が襲って来てるんすよ。対抗馬たる僕を優先すべきでしょ」

 

「ちくしょう! キャラ設定じゃどう考えてもファンタジー枠に勝てない……!」

 

「諦めんなや道振(ちふり)ん! 物量で言やぁ海産物のが圧倒的に上なんやで! 何てったって戦いは数や!」

 

「静粛に! 落ち着いてください皆さん! 順番で!」

 

 

 ……いやまあ、鈴木本部長はしんではいなかったけど……ティー様が勝手に又貸ししたデバイスをめぐって、苛烈な争奪戦が繰り広げられようとしている。

 エルフの女王が保護する天使と、それに力を貸すように見せかけてちゃっかり狙っている勇者、そこへ魔王とウニとハマチとカニが襲い掛かり……いや、うん、温度差で風邪引きそう。

 

 しかし総責任者である鈴木本部長をもってしても、沈静化がここまで困難とは。……たださすがに少しずつ収まってきてはいるので、このあたりならおれの言葉も届くだろう。

 

 

 

「お取り込み中のところすみません、実はこちらにデバイスもう二台ありまして」

 

「「「「「(くわっ!!)」」」」」

 

「ヒィッ!? そ、そ、それで、ですね……そのデバイスなんですけど、あの、えっと……蓄魔筒(バッテリー)の交換が、必要でして……」

 

 

 

 わかりやすさを追求するため、蓄魔筒(バッテリー)一本あたりで一項目のコマンドが発動できるように容量設定を行った。

 ティーリットさまが使ったデバイスは【書込(インストール)】【変身(キャスト)】【登録(セットアップ)】を発動し、四本中三本がカラッポになっている。

 これでは、よくて【書込(インストール)】まで。【変身(キャスト)】を発動することは不可能だ。

 

 ということを、野獣に睨まれた小動物の心境を体感しながら伝え終え……しぶしぶ、といった表情を隠しきれないティーさまにデバイスを返却して貰う。

 

 

「重ねてになりますが……【書込(インストール)】の作業は、かなりの集中力を必要とします。失敗すれば再度やり直しなので、その分蓄魔筒(バッテリー)を消費します。周囲が急かして失敗させれば……それが続けば、わかりますね。今日持ってきた蓄魔筒(バッテリー)にも限りがあります。明日以降に改めていただく必要も、あるかもしれません」

 

 

 

 まあ……半分は嘘だけどね。

 先日囘珠(まわたま)さんを訪ねてから、手持ちの資材を盛大に吐き出して蓄魔筒(バッテリー)と充填設備は増強を行ってきた。

 本日持ち込んだ蓄魔筒(バッテリー)は……ざっくり八十本くらい。『焦るな』『焦らせるな』と釘は刺したし、これでも足りなくなったらラニちゃんに取りに行ってもらえばいい。

 

 

「……では、改めて。こちらの三台のデバイスを……こちらは、じゃあそのままセラさんに。あと二名は……Ⅳ期の彩門(あやと)さんと、Ⅰ期のベルさんにお預けします」

 

「「「「そんなーー!!」」」」

 

「後は、お願いします。じゃんけんでもくじ引きでも構わないので、順番を決めて……なんとか一派を纏めてください」

 

「えー……いや、ありがたいけど……こんな緊張するのは初めてかも」

 

「……私も。……さっきのみんな、すっごく怖かったもん……」

 

「わたしも一斉に睨まれたとき(コロ)されるかと思いましたもん。……それでは、蓄魔筒(バッテリー)交換の際はこちらへ。わからないこととか質問も受け付けますので……頑張ってください」

 

 

 

 会議室内を再び満たす、割れんばかりの歓声。とりあえずの説明義務は果たしたので、椅子に体を預けて脱力する。

 おれが生贄(すけーぷごーと)として選んだお二人、ベルナデット・ドゥ・ラティアさん(の(なかのひと))と、乗上彩門(のりかみあやと)さん(の(なかのひと))……Ⅰ期とⅣ期の纏め役に全責任をぶん投げ、おれは今後の算段について思考を巡らせる。

 

 現在目の前で争いの原因となっている変身デバイスは、その四号が最終調整中だ。先程ラニとの脳内直通協議の結果、とりあえずは『にじキャラ』さん各ユニットに二台、つまり合計八台を目処に増産することを決めた。

 四号はもうすぐロールアウトらしいので良いとして……あと四つ。蓄魔筒(バッテリー)のほうも増産してもらわないといけないので、ラニちゃんの素材の備蓄が不安でもある。

 

 今回のところは、第Ⅰ期生グループに先行して二台。おれとの関わりが深い第Ⅳ期生グループに、一台。

 Ⅱ期とⅢ期は……もうすこしだけ待ってもらおう。ごめんね刀郷(とーごー)さん。

 

 

 当面の間は()()()()()での動作に慣れていただいて……来月(二月)中盤、おれとくろさんとの『おうたコラボ』を皮切りに、順次実戦投入(おひろめ)していくスケジュールとなっている。

 一人ずつ順番に配信枠をとるのか、全員纏めてお披露目するのか……そのあたりは、鈴木本部長さんと『にじキャラ』さんにお任せしよう。

 

 というわけで、おれと玄間くろさんとの『おうたコラボ』開催日……Xデーは、二月の十五日土曜日。

 それに向けて……がんばっていきましょう。

 

 



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352【技能指導】こっちもこっちで


※わすれてたわけじゃないです!





 

 

 ちょっと自慢しますが……幼少期のおれは、ぶっちゃけ文武両道でして。

 

 お勉強もできたし、足もそこそこ早かった。水泳の授業ではぶっちぎりの好成績を残せたし、弁論大会もクラス代表に選ばれたりもいたしまして。

 しかし、まぁ……しょせんは小学生の頃の話ですよ。中学高校へと進み、もっと優れた同級生が頭角を表し始め、またおれの好成績の一因でもあった『習い事』を辞めてからは……うん、ご想像にお任せしましょう。井の中の蛙なんとやら、です。

 

 

 そんなこんなで、なぜ急に昔話を始めたかというと、ですね。

 おれは今、それこそ十数年ぶりに、新しい『習い事』を始めようと思っているわけでして。

 

 

 

 

「……はい、到着ウワァーー寒ゥーー!!」

 

「おぉ? ……おホォー! すごい! 一面真っ白だよノワ!」

 

「まぁ北陸だからねぇ……冬は長いし、雪も多いよ」

 

「なるほどね……だからタイツであったかくしてたわけか」

 

 

 

 昨日は『にじキャラ』さんの事務所に赴き、第Ⅰ期生と第Ⅳ期生の方々に【変身】魔法と専用デバイスを与え、来るXデー(二月十五日)への布石を打たせていただいた。

 当面の間はレクチャーや助言役や『もしも(※蓄魔筒(バッテリー)の緊急充填など)』に備えて、火曜から木曜の午後お邪魔させていただくことになったので、配信者(キャスター)の皆さんには配信(本業)の傍ら、鍛練に臨んでいただこうと思う。

 なおデバイス四号機と五号機の準備が整えば、順次Ⅱ期とⅢ期にも声掛けするらしい。

 

 そんな取り決めを終え、『にじキャラ』の方々には『近場のホテルに泊まります』と伝えておき、実際には岩波市の拠点で一晩を明かし(モリアキも自宅に帰還して休んでもらい)……本日はその翌日、二十九日である。

 お昼過ぎからは昨日同様、『にじキャラ』さん事務所へとお伺いする予定なわけだが……現在はもうすぐ朝の九時。現在位置は、雪深い北陸地方だ。

 

 

 

 

「ご、ごめんくださーい! 木乃(きの)と申しまーす!」

 

『はぁい、おはようございます。……開けましたので、どうぞ』

 

「し、しつれいします!」

 

 

 おれとラニが足を運んだのは……先日グランドハープ(※破損あり)を譲っていただいた、自宅で音楽教室を開いておられる山代(やましろ)先生のお屋敷。

 前回みんなそろってハイベース号で訪ねたときに、近くの公園のお手洗い(女子用)に【座標指針(マーカー)】をセットさせて頂いてましてですね。

 

 

「いらっしゃい。遠いところわざわざ。……独りで来たの? 疲れたでしょう」

 

「い、いえっ! 今は……ちょっと、時間まで別のところにいますが……そのひとにここまで連れてきてもらいました」

 

「あらあら。それはそれは……お二人とも、ご苦労様」

 

「大丈夫です。来たくて、来たんですから」

 

 

 おれの今の目標……それは、【変身】によってアバターの姿を再現した玄間(くろま)くろさんの生歌に、おれがグランドハープで伴奏を務めさせていただくこと。

 先方には『ピアノ伴奏』と伝えてあるが、期日までにバッチリガッチリ練習して『じつはわたし、ハープ弾けるんですよ。カッコいいでしょう』とドヤ顔したい……というのが、目下の野望なのだ。

 

 そのために、ラニちゃんという手段をフルに活用して、週二回水曜と木曜の午前中、通いでハープを習うことになったのだ。

 ちなみに、山代先生には『火曜日の夜に電車で来て、ホテル泊まって、木曜に帰ります』ということでお伝えしている。普通にこの通りの作戦を考えればなかなかの出費なので、通学時間と費用を節約させてくれるラニちゃんには頭が上がらない。おしおきはするけど。

 

 ともあれ、山代先生にとっては『そこまでしてハープを学びたい熱心なご令嬢』に映ったらしく……お月謝のほうはややお心を頂いた金額で、マンツーマンでの手ほどきを頂けることになった。……うそついて、ごめんなさい。

 

 

 

「それじゃあ、時間を大切に使いましょうね。無駄話はここまでにして、早速楽器に触ってみましょうか」

 

「はいっ! 宜しくお願いします!」

 

 

 以前ハープを譲っていただいた『音楽室』へと足を踏み入れ、そこに鎮座していたグランドハープ――おれが譲り受けたものと同じメーカーのもの――の前へと通される。

 

 ほんわかしたマダムから、キリッとした教育者の顔へ。山代(やましろ)いろは先生の音楽特別指導が、ついに幕を開けたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……じゃあ、今日はこのあたりで終わりにしましょうか。やだ、もうこんな時間」

 

「あっ、本当だ! ありがとうございました……先生」

 

「ふふっ。……はい、お疲れ様でした。また明日ね」

 

 

 初日の音楽教室を何事もなく終え、おれは山代先生と先生の息子さん(高校生くらい)に見送られ、先生のおうちを後にした。

 それにしても先生……どう見ても三十代、ともすると二十代でも通用しそうなお肌なんだが……なんとびっくり四十代、しかも年女だという。やべーよ魔法だわあれ。

 

 

(ラニ、終わったよ。そっちは今どんな感じ?)

 

(んおおー? わかった、さっきの公園戻るよ)

 

(はいはい。ごーめんね、ちっと長引いた)

 

「うわほんと。ちょっと急がないとね。キリちゃんのごはん食べ逃しちゃう」

 

「それはやだぁ!」

 

 

 まぁ……こちらも魔法なわけだけど。

 

 

 

 周囲に人けが無いことを確認して女子用トイレに滑り込み、個室の中で【門】を開いて岩波市の拠点へ戻り、霧衣(きりえ)ちゃんのお手製おひるごはんをいただいて再び【門】へと飛び込んで、今度は東京の囘珠(まわたま)さんへ。

 わずか一時間足らずで北陸→東海→関東間を移動するなんて、ラニちゃんにしか不可能だろうな。感謝しないと。おしおきはするけど。

 

 倉庫内で【門】から『にゅっ』と姿を表し、充填設備にセットされていた蓄魔筒(バッテリー)を片っ端から回収していく。

 いちおう金鶏(きんけい)さんに様子をお聞きしてみたけど、特に環境神力が減っているような感覚も無いとのことだったので、安心した。

 

 

 そうこうしていたら、もう間もなく十三時だ。これは本格的にヤバイぞと、隠蔽魔法フル展開のうえで【浮遊(シュイルベ)】を使用。空中を一直線でかっ飛んでいくことで、今日も今日とてギリギリセーフ。

 人知れずエレベーターへと飛び込み、隠蔽魔法を解除。対人隠蔽の通用しない監視カメラには、普通に慌てて飛び込んできたようにしか映らないだろう。

 

 

 

「おはようございます。宜しくお願」

 

「のわっちゃあああああん!!!」

 

「わかめちゃあああああん!!!」

 

「おわあああああああああ!!?」

 

 

 

 『八〇一』号室に到着するや否や盛大に歓迎を受け、そのまま会議室へと連行される。あまりの迫力におれもラニもろくな抵抗ができなかった。こわ。

 

 そこには昨日の面々が既にほとんど全員揃っており(まあ時間どおりなので当たり前か)……おれ(たち)の到着を待っていてくれたのだろう、昨日に引き続き配信者(キャスター)の皆さんの【変身】トレーニングが開始された。

 

 アバターの情報は既に昨日【登録(セットアップ)】してあるので、今日からは直で【変身(キャスト)】を使用することができる。デバイス一台で四名まで【変身】することができるわけだな。

 当初心配していた非・人間型、あるいは人間型から大きく乖離した造形の配信者(キャスター)さんたち――天使モチーフでデフォルメ体型の『エメト・セラフ』さんと、邪龍モチーフのこちらは人外じみた姿かたちの『ウィルム・ヴィーヴィル』さん――も、どうにかこうにか納得のいく形となったようで、ひと安心だ。

 とはいえ、このデバイスによる【変身】で再現できるのは、あくまで姿かたちだけ。人間(なかのひと)のときとは身体のバランスが大きく異なるお二方は……たぶん、他の配信者(キャスター)さんたち以上に入念な慣熟訓練(リハビリ)が必要だろう。がんばってほしい。

 

 

 ……というわけで、おれはおれが敬愛していた仮想配信者(ユアキャス)の方々が、仮想空間と同じ姿を手に入れて嬉しそうにはしゃぎ回っているのを飽きもせずに眺めている。

 自分のお仕事である蓄魔筒(バッテリー)の交換や質疑応答など、やるべきことはやっているので……この光景はおれに与えられたボーナスということだろう。

 

 

 

「やーやーやー……これはこれは……お披露目が楽しみですなぁー」

 

「んふゥー。うちが最初やねんでー」

 

「くぁーメッチャ羨ましいわーもー!」

 

「なんなら、んにはんも歌えばええんとちゃう? お披露目できるやん?」

 

「……………………アリやな!」

 

「んふゥー」

 

 

 随所にスタッズがあしらわれた、パンキッシュな紫色のフード付きパーカー、その上にはこれまた刺々しいダークグレーのジャケット、そしてふとももが眩しいブラウンのミニスカート姿の、目に鮮やかなライトオレンジの髪の少女……村崎うにさんが、悪戯を思い付いたラニちゃんのように油断ならない笑みを浮かべている。

 そんな彼女の様子を独特の鳴き声(?)とともに見守るのは……白青から濃紺に掛けてのグラデーションが見事な、荒波をモチーフに盛り込んだ和服をビシッと着こなした、黒銀色の髪と瞳の少女……玄間(くろま)くろさん。ふにゃふにゃしてそうな印象だったけど、意外なことに(失礼)ディテールをバッチリ再現してくれていた。

 

 

 さんざん画面の中で目にしていた、とても『(てぇて)ぇ』二人の絡み……現実で再現されたその光景を、おれは満足げに堪能していたのだった。

 

 



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353【技能指導】初週の成果

 

 

 午前中は北陸ちほーへ飛んで、山代先生にマンツーマンでハープの手ほどきを受けて。

 

 レッスンが終わったら、お昼は一旦本拠地に戻って霧衣(きりえ)ちゃんのおいしいごはんを頂き。

 

 お昼を頂いたら今度は東京へ飛んで、『にじキャラ』配信者(キャスター)の皆さんの【変身】訓練に参加して。

 

 そして夜になったらまたまた拠点に帰って、おいしい晩御飯をいただいてからPCに向かって編集(おしごと)を進める。

 

 

 ……以上が、昨日および今日のおれの一日のタイムラインだ。

 ハープのレッスンは水曜と木曜なので……たぶんだけど、来週の水曜木曜も同じスケジュールになると思う。

 

 

 

 配信者(キャスター)さんたちの【変身】訓練のほうは……火曜日の午後にお披露目してから、今日で三日目。初日以降は自由参加という形になっていたのだが、アバターの姿になれるのが相当面白かったのだろう。配信の用事以外、みんな籠りっきりで【変身】を満喫している。

 三日目ともなれば、さすがに皆さんこなれてきたようだ。この感じなら、すぐにでも実戦投入できるだろう。

 

 

 ただその一方で……案の定というべきか、よく三日間持ったというべきか……どこからともなく噂を聞き付けたⅡ期生とⅢ期生の配信者(キャスター)さんたちから、『ずるい!!』とのお声が上がったらしい。まぁそれも当然っちゃ当然だろうな。

 

 幸い、ジェバ……もとい、鶴城神宮技研棟の清雪(せいせつ)さんが一晩でやってくれました。

 待望の変身デバイス四号機と五号機がついにロールアウト、これで『にじキャラ』さんの各ユニットへ最低一台ずつデバイスが行き渡る形となる。

 

 

 おれの『にじキャラ』訪問および訓練補助業務は『火曜から木曜の午後』、という形で取り決めを行っていたのだが……さすがにこの状態で一週間待てとか言われたら不満が爆発しかねないので、急遽明日金曜日の午前中にお邪魔させていただくこととなった。

 ただし、会議室は別件で使うらしいので、事務所近くの貸し会議室(さらに広い)を押さえてくれたらしい。

 そして……どうやらその場に、時間的余裕のあるⅠ期生とⅣ期生の方々も来てくれるようで……なんなんですかね、お祭りですか。超豪華な顔ぶれが勢揃いじゃないですか。

 

 

 

「……っというわけでミルさん! 明日『にじキャラ』さんとこ行きましょう! 【Sea's(シーズ)】のみなさんバッチリ【変身(キャスト)】使いこなしてますし……()()()()()ですよ」

 

『…………っ、……すみません、わかめさん…………ほんと、ありがとうございます』

 

「なんのなんの。……わたしだって、ものすごい助けて貰ってますし。()()だって半分以上は自分達の都合でやってることなので……恩返しにさえ、なってませんけど」

 

『だとしても、ありがとうございます。……ふふ。夢みたいですよ』

 

「…………えへへ」

 

 

 

 明日はハープのレッスンが無い日なので、午前から配信者(キャスター)さんたちに付き合うことができる。

 貸し会議室も九時から押さえてくれているらしく、場所もREINで送ってもらった。Ⅳ期マネージャーの八代(やしろ)さんが現地で待っててくれているらしいので、いきなり向かっちゃって大丈夫らしい。

 

 そこでⅡ期生ユニット【私立安理有(あんりある)高校】、およびⅢ期生ユニット【MagiColorS(マジキャラ)】の皆さんが待ち構えている……とのこと。

 ……大丈夫だよな。いきなり糾弾されたりしないよな。いざとなったらティーリットさまに助けを求めよう。

 

 

 

「それでは……明日の朝、八時半頃お迎えに伺いますね」

 

『はい。……何から何まで、ありがとうございます』

 

「いえいえ、お気にせず。……身体で払って貰いますので!」

 

『やーん。……ふふっ。……では、おやすみなさい』

 

「おやすみなさい」

 

 

 

 やーんじゃないんだよこの(オトコ)()は本当可愛いんだから。これでアレがついてるんだぞ信じられねえ。

 ……いやでも、中の性格的には以前の人格……有村(ありむら)さんなのか。なら立ち振舞いや言動が可愛らしくても、なにも問題なかったわ。

 

 しかし……なるほど、そうか。

 今までは『仮想の容姿を実在人物に投影する』形で【変身(キャスト)】を使用していたが……逆に、今のミルさんに以前の『有村(ありむら)さん』の姿を投影することも可能なのか。

 それができれば尚のこと、ミルさんは姿を気にしなくても良くなりそうだし……配信者(キャスター)さんたちの活動以外でも、色々と活用の幅は広げられそうだ。

 

 まぁ尤も、変身する姿を正確に想像しなければならないので……長年その姿を思い描いていた姿でもなければ、思うように【変身】するのは難しいだろうが。

 

 

 そう……あの【変身(キャスト)】の魔法は、決して万能ではないのだ。

 

 

 

 

「……ねぇ、ラニ」

 

「んん? どしたの?」

 

「えっとね……【変身】関連以外に、あのデバイスで魔法使うことって、可能? たとえばほら、【浮遊(シュイルベ)】とか」

 

「あぁー…………セラちゃん?」

 

「うん……」

 

 

 『にじキャラ』第Ⅰ期生【FANtoSee(ファンタシー)】所属、天使モチーフの配信者(キャスター)である『エメト・セラフ』さん。

 三頭身に可愛らしくデフォルメされた容姿の彼女は、今回の【変身(キャスト)】の魔法で一番『割を食った』配信者(キャスター)さんだろう。

 

 これまでの仮想配信者(ユアキャス)としての活動は、フェイスリグやトラッカーを用いてアバターを操作する形式だった。そのため標準的人間体型から逸脱した容姿でも、可愛らしく動かすことが出来たわけだが。

 

 この【変身(キャスト)】魔法によって、その姿かたちそのものは、おおよそ完全再現できたといって過言ではない。

 ないのだが……再現できたのは、あくまでも『姿かたち』のみ。さすがに翼をはためかせ、あるいは魔法的な何かを行使して翔ぶことは出来ず……可愛らしくデフォルメされた肢体で、よちよちと歩き回るのがせいいっぱいだ。

 

 ティーリットさまやベルナデットさんに抱っこされてる姿は、それはそれで愛らしくもあるのだが……そもそも身長や手足の長さ・視点の高さからして、他の配信者(キャスター)とは全く違うのだ。

 椅子にも座れず、机に手が届かず、扉さえ開けられない。幼児並の背丈のままというのは、さすがに酷だろう。

 

 

「……うん、ボクも気にはなってたんだよね。……んー、少し考えてみるよ」

 

「ごめんね、ラニ。おれのわがままばっかで。……材料、ほとんどラニ持ちなんでしょ?」

 

「否定はしないよ。いちお霊木の欠片とか、縁起物の石とか、この世界の魔力素材で使えそうなモノは使ってるけど……やっぱり到底、足りない。……足りないけど、まぁ……他に使い途もないからね」

 

「…………ありがとうね、相棒」

 

「へへ。なんのなんの。……ボクだって、楽しませて貰ってるんだぜ」

 

 

 ミルさんとの通話を終え、編集作業を再開するおれの前方やや下方、机の下のあたり……膝の間あたりから、相変わらずな趣向を隠そうともしない相棒の声。

 昨日に引き続きタイツをはいているので、彼女の望むものは拝めないだろうに……しかしそれでも満足なのだという。上級者だこと。

 

 

 

「近付きすぎたら……膝で潰すからね」

 

「せめて太ももにならない?」

 

「そこまで近づいたらタイガーバ○ム(赤)の刑だわ……」

 

「なにそれ怖っ!?」

 

 

 まあ……見られて減るものでもないし、これが対価がわりだというのなら、おれは何も言うまいよ。

 

 ……見るだけなら、許そう。

 もっとも……さわったりスンスンしたら即(しょ)すけどな。慈悲はない。

 

 



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354【技能指導】だいたいⅡ期Ⅲ期

 

 

 今日も今日とて、気持ちのよいすこやかな朝を迎えた金曜日。

 傍らですぴすぴと寝息を立てている、手のひらサイズの可愛らしい相棒……昨夜はおれの机の下に潜り込んできたちょっと病気なラニちゃんの寝顔をこっそり盗撮し、おれはキビキビと朝の支度を整える。

 

 ぱぱっとシャワって、ささっと服を着る。以前はいちいち赤面していた女の子ぱんつも、今となっては慣れたもの。今日は黒ベースに白のドットだぞ。

 靴下を履いて、肌着を着て、上下の服を着て……変なところがないかを確認して、身支度終了。七面倒くさい髭剃りの手間が無くなったので、非常にスムーズだ。

 

 

 

「おはよぉー。きりえちゃん、てぐりさん」

 

「あっ、わかめさま! おはようございます!」

 

「……お早う御座います、御館様」

 

 

 霧衣(きりえ)ちゃんと天繰(てぐり)さん、最近仲が良い二人と朝の挨拶を交わし、三人で揃って霧衣(きりえ)ちゃんお手製の朝ごはんを頂戴する。おいしいごはん、いつもありがとうね。

 

 ちなみに、今日もまだおネムらしい(なつめ)ちゃんは、霧衣(きりえ)ちゃんのお部屋で寝起きしている。

 猫ちゃん用のベッドとタワー型のアスレチックが持ち込まれた二階和室で、だいすきな霧衣(きりえ)ちゃんと寝起きを共にしているよ。尊いね。

 ……ちなみに、しーしーは猫ちゃん用を使っているよ。普段の格好がそっちなので、色々と楽なんだって。

 

 

 

「ごちそうさまでした! いってくるね!」

 

「はいっ! おそまつさまでした!」

 

「……行ってらっしゃいませ。お早いお帰りを」

 

 

 食べ終えた食器を台所に運んで、【洗浄(クリーレン)】できれいきれいして水切りカゴへ。二人にあいさつして後のことをお願いして、おれはお仕事に出掛ける。

 

 ……といっても、向かう先は玄関じゃない。階段を上って二階の自室だ。

 

 

「ラニ、おきて。そろそろ時間だよ」

 

「んんぅー……………すん、すん…………はっ! たまご!」

 

「はいおはよう。ゆで玉子マヨネーズつきだよ」

 

「おふぁよおー……いただきます」

 

「先に【門】ひらいて。あっち着いたらゆっくり食べてていいから」

 

「んぅー」

 

「食べながら魔法使ったよ器用だなおい」

 

 

 

 

 『にじキャラ』さんに指定された貸し会議室は、事務所の近くの緑地公園内の文化施設……要するに囘珠(まわたま)さんと同じ敷地内だ。

 一旦ミルさんちにお邪魔して合流し、二人一緒に再び【門】を潜り、囘珠(まわたま)さんの倉庫内アクセスポイントへ『にゅにゅっ』と顔を出す。

 

 そこへずらりと並ぶのは、蓄魔筒(バッテリー)へと環境魔力を詰め込むための、専用の充填設備の列。都合五台分の変身デバイス、そしてその動作を賄うだけの蓄魔筒(バッテリー)……その数はもはや百に届かんばかり。

 とはいえⅠ期とⅣ期の面々は【書込(インストール)】と【登録(セットアップ)】を済ませたので、消費数を減らせたのは幸いだった。これ以上の増産はせずとも大丈夫だろう。

 

 単三電池のようなショットガンの(シェル)のような、漆塗りの木製の蓄魔筒(バッテリー)……ちょっとした工芸品のようにも見えるそれをおよそ百個、手提げ鞄にしっかりと詰め込んで倉庫を後にする。

 すれ違う職員の方に会釈しながら廊下を進み、二人ならんで建物の外へ。途端に寄ってくる(なつめ)さんの同僚たちに『かりかり』を振る舞いながら、指定された貸し会議室へと歩を進めていく。

 ミルさんには認識改編の魔法を掛けているので、道行く一般の人にとっては黒目黒髪の美少女に映ってることだろう。

 

 

 

「おー! ミルか! ミルやんな! おひさー!」

 

「ご無沙汰です、うにさん!」

 

 

 貸し会議室が収まる建物の前、元気いっぱいの村崎うにさん(の(なかのひと))が、おれたちを出迎えてくれる。Ⅱ期とⅢ期の方々とは直接の面識が無いので、気心知れた彼女が一緒にいてくれるのはとても心強い。

 ミルさんも先日の状況報告以来となるうにさんとの顔合わせに、見るからに嬉しそうな表情を滲ませている。

 

 そのまま彼女と一緒に建物へ入り、会議室のある二階へ。おれたちの後をぞろぞろ付いてきていた猫ちゃんたちとは、残念ながら入り口でお別れだ。

 館内はどうぶつさん立入禁止だろうし、みんなびっくりしちゃうからね。うにさんも『ぎょっ』としてたもん。

 

 

 

 そして……今げんざい。なんと。

 

 おれは会議室内の、おそれおおくも『お誕生日席』へと通され……初対面となる十一名の配信者(キャスター)さんと、そのマネージャーさんたちと、例によって自由参加のはずなのになぜかほぼ全員いるⅠ期とⅣ期の方々……

 

 つまりは『にじキャラ』所属タレント()()()()という、そうそうたる面々の注目を浴びているのだ。

 

 

 

 

「えー……それでは、始めようと思います。若芽さん、お願いします」

 

「い、いきなり丸投げですか!?」

 

「「「「「かわいいー!!」」」」」

 

「ちょっと!!?」

 

 

 Ⅱ期の方々は男女比が半々くらい、Ⅲ期は五名全員が女の子。アバターはもちろん(なかのひと)からして美男美女が揃った顔ぶれは、おれの平静を失わせるには充分だった。

 この中でおれが交流させて頂いたのは、Ⅱ期の刀郷(とーごー)さんと……あとは彼の配信に同席していた日之影(ひのかげ)会長さんくらいである。

 その他の方々にはおれが何者か、そこから始めなきゃならないと思っていたのだが……ありがたいことに、皆さんおれのことを知ってくれているらしい。まじか。晒し者効果か。

 

 皆さんがお話を聞いてくれる体制になっていたので、簡単に自己紹介をさせてもらい、あとは先日のⅠ期とⅣ期のときと同様、順を追って説明させていただく。

 とはいえ今回は、既に【変身(キャスト)】についての話は同僚から回ってきているのだろう。おれが背伸びして板書している間、Ⅱ期とⅢ期の方々の『わくわく』も高まっているようだった。

 

 

 

「……では、早速やってみましょう。まずは代表として……刀郷(とーごー)さん。それと、赤嶺(あかみね)さん。お手伝いをお願いします」

 

「ハーーーイ!!」「やったぁ!!」

 

 

 他のメンバーから笑顔で送り出されるⅢ期の赤嶺(あかみね)さんと、中指を立てられて送り出されるⅡ期の刀郷(とーごー)さん……お二人にホワイトボード横左右に立ってもらい、完成したばかりの『変身デバイス』をそれぞれ預ける。

 

 いまだブーイングさめやまぬ会議室内……おれは【書込(インストール)】にはかなりの集中力を要すること、失敗してやり直しともなればそれだけ時間が押してしまうことを再度説明し、静かにしてもらうようお願いさせていただいた。

 ……はい、静かになりましたね。皆さんよくできました。先生は嬉しく思います。

 

 では、心を落ち着けていただいて。お二方のアバターを、隅々まで思い浮かべていただきます。

 もう一度手順の確認です。サイドボタンを長押ししながら発声コマンド【書込(インストール)】を入力、ボタンを押したままアバターのディテールを隅から隅まで頭の中で思い描く。……いいですね。失敗してもやり直しは効くので、緊張しすぎないように。

 

 

 それでは……始めてください。

 

 



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355【技能指導】ヒミツの特訓

 

 

 東京都渋谷区、合歓木(ねむのき)公園内の文化施設……その二階の大会議室。

 全ての窓にはブラインドが落とされ、入口ドアは内側から施錠され、関係者(+われわれ)以外の出入りが完全に遮断された空間。

 

 そこでは今……おおよそ現実世界のものとは思えない、異様・異常ともいえる光景が繰り広げられていた。

 

 

 

 

「いやぁ、でもですよ? やっぱ『変身ポーズ』っつったらこれでしょ! これ! ターンアップっすよ!」

 

「わかってないなぁ刀郷くん。ズバッてスキャンするほうがカッコいいですって。ただ歌は気にしない方向で」

 

「ボクらの推しポーズはなぁ……あのデバイス一つだと再現できないんだよね。……やっぱ同時に二つ使えないと」

 

「でも姉さん、将来的には二つ用意してくれるって、若芽ちゃんが」

 

「すげーな……あの子のバック本当どうなってやがんだ……」

 

 

 学生服のような衣装に身を包み、頭髪を青や赤や緑や濃紺や桃色に染めた少年少女たちが、のんびりと雑談に興じていたり。

 

 

 

「青ちゃん青ちゃん! もうちょっと右!」

 

「はぁー? おれは間違ってないんですけどぉー。みどが立ち位置左すぎるだけなんじゃねーの?」

 

「まだぞうやっでわだじのぜいにする! しょーがないじゃんみんな背ぇ縮んでんだから!」

 

「みど泣かないの! ももを見習いなさいほら! さっきから愚痴ひとつ言わず黙々とゥオオオイ何喰ってんだお前!?」

 

「き、きーちゃんのカバン開いてたから……おやつ見えたから……つい」

 

 

 カラフルでフリフリなドレス状の衣装に身を包んだ少女たちが、五人揃って仲良く(?)フォーメーションの打ち合わせをしていたり。

 

 

 

「あははぁー! セラちゃんほんっと()っちゃくて可愛いー!」

 

「や、やめなさいベルナデット! ちょっ……こら! どこ触ってんのよ!」

 

「いやでもセラちゃんそれ、揉めるような膨らみ無いじゃないですか」

 

「オイ待て勇者。さすがの俺様もドン引きだぞソレ」

 

「ドン引きであるな。弁護の余地は無かろう」

 

「あー燃やせないのが悔やまれるわ。女の子の敵でしょこの勇者」

 

「わちがわかめちゃんに頼んでみよか? 勇者燃やしたいんじゃけどー、って」

 

「おっ、オレちょうどジッポあるぜ? 根性焼きでもすっか?」

 

 

 神官服に身を包んだ金髪碧眼の美少女と、その腕の中にすっぽり収まる幼児サイズの女の子、鎧を纏い剣を提げた青年や、雄々しい角を備えた褐色肌の大男……果ては全身を鱗に覆われた竜人や、捻れた鍔広帽子を被った赤髪の美少女や、白い肌と長い耳を持つ王女様、青黒い肌と蝙蝠の翼を持つ悪魔に至るまで。

 アニメや漫画やライトノベル等でしかお目に掛かれないファンタジーな謎の一団が、画面の中の姿はそのまま現実世界へ姿を表し……いつものような集団コントを繰り広げていたり。

 

 

 ここが現代の日本だとはとても思えない……非常に賑やかで、そして楽しげな光景が繰り広げられていた。

 

 

 

 身も心も『キャラクターそのもの』になりきった、今や実在仮想配信者(アンリアルキャスター)となった『にじキャラ』一同の姿を前に、八代(やしろ)さんはじめ各ユニットのマネージャーさんたちも、皆一様に興奮を隠しきれない様子だ。

 あちこちから『うちのこかわいい』『マジてぇてぇ』『夢みたい』……なんて声が聞こえてくる。イイゾ。

 

 一方こちら……ミルさんをはじめⅣ期生の方々は、お菓子とソフトドリンクを取り出してマネージャーさんと談笑している。

 飲んだり食べたりといった動作ができるのも、この【変身】ならでは。みんな問題なく使いこなせているようなので、演出の幅が広がることだろう。

 

 

 鈴木本部長は残念ながら、現在事務所にて経営者会議の真っ最中とのことだけど……なんでもこの、他社(というかおれたちの介入なし)では決して真似できないだろう『新世代演出技法』を最大限に活かすため、大掛かりなイベントを仕掛けようとしているらしい。

 それはこれまでのようなオンライン上の、マシンスペックとフルトラッキング環境がものをいうバーチャルなイベントではなく……恐らくだが、それこそアイドルやミュージシャンが執り行うような、リアルを重視したイベントのほうが近いのだろう。

 

 また、そういったイベントだけにとどまらず……それこそ地上波テレビの各種バラエティ番組をパク……参考に、いろいろと動きのある活動を目指すつもりでいるらしい。

 

 

 

 そんな状況下において、『にじキャラ』さんたちの目下の注目として挙げられるのが……再来週の土曜日に控えた、おれと玄間(くろま)くろさんとのカラオケコラボの席だ。

 当初は八代(やしろ)さんを筆頭に『Ⅳ期の一部だけ』で企画されていた催しだが、なんでも一部企画内容の変更を打診されているとのこと。

 

 まぁ、要するに……他のユニットからも『歌うま』な子を何人か、ゲストとして登場させることは出来ないか……というものだ。

 まだ本決まりでは無いとのことらしいが(おれの顔を立ててくれているのだろう)、先方の意図としては初披露の場でできるだけ話題性を出しておきたい、ということなのだろう。わからんでもない。

 

 しかし、まぁ……そうはいっても、件のコラボの主導権を握るのは、当日のメイン会場である【仮想温泉旅館くろま】……玄間(くろま)くろさんのチャンネルであり、つまりは『にじキャラ』さんなのだ。

 おれはお誘いされた側であり、いわばゲストの身の上であるので、あまりわがままは言いづらい。というかそもそも共演できるお方が増えること自体は、一も二もなく大歓迎なのだ。

 おれの目的は……視聴者のみなさんに、少しでも多く喜んで貰うことで果たされるのだ。断る理由は無いだろう。

 

 

 

(オッケーわかった。スズキさんにREIN送っとくね!)

 

(いま会議中じゃないの!? ……まぁ送る分には問題ないか)

 

 

 ……というか、おれが個人勢だからというのもあるのかもしれないが、『にじキャラ』さんはいちいちフットワークが軽いな。良いことだ。

 会社によっては旧来の『メールで打ち合わせの相談』→『打ち合わせ日程の確定』→『打ち合わせの場で関係者一同を集めて相談』などという回りくどい手法を取り、またそれを好む会社も多いのだろう。

 しかしながらおれたちは個人勢……意思決定権を持つのはおれと、モリアキと……ラニくらいか。そんな会社様相手みたいに丁寧に丁寧に出てもらわなくとも、REIN(メッセージ)の一本で『ええか?』『ええで!』で大丈夫なのだ。早い早い。

 

 提案の内容を見てみるに、共演者……というか当日の追加ゲストとは後日打ち合わせの場を設けてくれるらしいし、まぁ実際()()()()の誰かになるのだろう。

 今回こうやってデバイスを提供させていただいたこともあり、おれたちへの好感度も嬉しいことに高いみたいだし……和気あいあいな感じで打ち合わせができそうだ。

 

 

 

「のわっちゃーん! こっちおいでー! カントリーマダムあるよー!」

 

「ああっ! うにちゃんずるい! わちもわかめちゃんとお茶会したいのぉー!」

 

「じ、じゃあティーリット様もご一緒します?」

 

「ええのミルちゃん!? やったー! わちもご一緒する!」

 

 

 ふと見てみれば、皆さんひと通りはしゃぎ回って疲れたのだろうか。

 積み重ねられていた椅子や畳まれていた長机を引っ張りだし、みなお茶会とまではいかずとも団欒モードのようである。

 

 そんな中で……この魔法()()()()演出技法の(表向きの)立役者である、小さくてかわいくて気立てがよくて頭もよくて顔も性格もいい初代実在仮想配信者(アンリアルキャスター)であるおれに対し、ほとんどの配信者(キャスター)さんがちらちらと様子を伺っているらしい気配を感じるのですが……うむ。

 

 

 今日は……夜の『生わかめ』以外、これといった予定もいれていませんので。

 

 不肖、木乃若芽(きのわかめ)……つつしんで皆様の『おしゃべり相手』、務めさせていただく所存でございます!!

 

 

 

 ふふふ……推しと直に顔合わせておしゃべりできるんだぜ……最オブ高かよ。

 

 



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356【定期配信】お披露目なつめちゃん

 

 

ヘィリィ(こんにちは)! 親愛なる人間種の皆さん! 魔法情報局『のわめでぃあ』定例活動報告放送、通称『生わかめ』のお時間がやって参りました! 進行をつとめますのはわたくし、局長の木乃(きの)若芽(わかめ)と……」

 

「こ、こんばんわ! しんこう、あしすたんと、の……きりえ、です!」

 

「はいかわいい。きょうも霧衣(きりえ)ちゃんはかわいい。かわいい霧衣(きりえ)ちゃん分を摂取できるのは『のわめでぃあ』だけ! そこんとこヨロシクお願いします!」

 

「わ、わうぅぅぅぅ」

 

 

『へいりぃ!!』『【¥10,000】待ってた』『【¥4,545】めそめそのわちゃん』『はじまた』『ヘィリィ!』『【$30.25】Heilley!!』『ヘィリィのおじかん!!』『ヘイリー!!』『【¥2,828】開幕ノロケたすかる』『It's the best. I really like this couple.』『【¥10,100】のわきりてぇてぇ』『【¥3,000】きりえちゃんおやつ代』『らにちゃんはおらんのか?』『【$136.5】What two precious people, I'm so lucky to be alive.』『【¥30,000】たび部編集がんばれ』

 

 

「ま、まってまってまって、まって! うれしいけどまって! 待ってください! いきなりすぱちゃ多くないですか!? ソレ以上は危険ですよ!!」

 

「期待の現れ、ってやつじゃん? はいはーいボクもいるよー。カメラ係なのでソッチいけないけどラニちゃんだよー」

 

「き、きりえで、ございますっ!」

 

「かわいいが」「すきだが」

 

「わうぅー…………!!」

 

「いや、でも……本当にありがとうございます。みなさんの様々なご支援のおかげで、わたしたちもこうして美味しいごはんが頂けてます。うれしいけど、ほんとむりしないで」

 

 

 いきなりになるとは思わなかったが、開幕すぱちゃラッシュを披露してくれた視聴者さんたちに、お礼の言葉を添えてお名前を読み上げさせていただく。

 大規模リアルイベントを終えて、視聴者さんたちを巻き込んでの新企画撮影を終えて……二つの大きな山場を乗り越えて初となる生配信、通称『生わかめ』なのだ。……もう『生わかめ』でいいよね。

 

 いろいろとお伝えしたいこともあるし、披露したいこともあるし……楽しんでもらいたいことだって、ある。

 おれたちの活動やできごとを皆さんにお伝えして、もっと来週を楽しみにしていてもらえるように――もう一週間を生きる気力を漲らせてもらえるように――するためには、定期的な配信は欠かせないのだ。

 

 

「……っと。以上、開幕すぱちゃありがとうございます。……勝手ですが、これ以降はちゃんとお返事できる保証は無いです。最後に纏めて、っていう形になっちゃいますので、お得感が無くなっちゃうので……も、もったいないので……むりしないで、くださいね?」

 

「……はいそれじゃあ、期待に応えるためにもずこばこ進めていこうね。本日のお品書き、キリちゃんおねがいね」

 

「は、はいっ! ほんじつの、めにう、ですっ! ひとつめ、『きりえのおともだち』。ふたつめ、『みんなであそぼう』。みっつめ、『だいじなおしらせ』……以上のみっつ、でございます!」

 

 

 ラニちゃんがカメラをズームさせ、ボードに纏められた『本日のお品書き』を映してくれる。

 コメント欄に溢れる『きりえちゃんかわいい』の文字列に紛れて……無理しないでねって言ったのに『すぱちゃ』を送ってくれるひとや、お品書きの内容についていろいろと考察してくれるひとの姿が見受けられる。いい感じだ。

 時間通りに配信を終えられるよう、テキパキキビキビと動かねばならない。というわけでさっそくだが、お品書きひとつめ……いってみようか!

 

 

 

 

「……はい。まず最初に……先日は『たび部』の活動にご協力いただき、ありがとうございました。伊逗半島南部にお住まいの視聴者さん、そして応援してくださった全国の視聴者さん……お陰さまでわれわれ『たび部』、大変有意義な活動をすることができました」

 

「あ、ありがとうございましたっ!」

 

「そこでですね……あれは、二十七日の夜でしたね。わたしがSNS(つぶやいたー)に上げさせていただいた写真のなかに、ひとつ『気になるもの』が……いえ、もう言っちゃいましょう。『謎の女の子』が写っていたと思います。……霧衣(きりえ)ちゃんが母親(ママ)の顔で膝枕してた子ですね。写真でるかな……」

 

「…………っ!? わ、わかめさまぁ!!?」

 

「あーそういえば隠し撮りしてたね。ちょっとまってね…………あっ出た出た。いっぱい出」

 

「さてさてさて! われわれ『たび部』と行動を共にする謎の女の子! いったい何者なのでしょうか! 気になりますよねえ!!」

 

 

『きりえちゃん悲鳴たすかる』『きりえちゃん……』『「わかめさまぁ↑!?」定期』『らにちゃんじゃないのか』『おいおいひでーぞこの百歳児wwww』『まさかの新メンバー?』『らにちゃん「いっぱい出たね(はーと」』『盗撮魔の多い放送局ですね?』『ロリ多すぎん?』『【$98.75】I'm just glad my favorite talent is wearing a YUKATA.XD』『わかめちゃ……ここぞとばかりに笑顔で……』

 

 

 し、しょうがないじゃん。きりえちゃんがあんな表情見せるのがわるいんだよ(※わるくありません)。

 

 まあでも確かに、認識の不一致があったことは認めよう。

 おれはあのとき霧衣(きりえ)ちゃんへ『写真(SNS(つぶやいたー)に)上げてもいい?』とお伺いを立てたつもりだったのだが……とうの霧衣(きりえ)ちゃんはというと、どうやら『(知人に)あげて(=譲渡して・披露して)もいい?』というニュアンスで解釈していたみたいだな。

 慈愛に満ちた笑みで『はいっ。構いませぬ』っていわれたもんだから、おじさん勘違いしちゃった。ごめんね。……今度おねがいを聞いてあげるとしよう。

 

 というわけで、不幸な事故こそあったものの……隠し撮り霧衣(きりえ)ちゃんのおしゃしんを上げたのは、ほかでもない。つまりは謎の女の子こと(なつめ)ちゃんを、本日お披露目しようということなのだ。

 

 

 

「それでは、ご紹介いたしましょう! リハ通りにできるかなぁー…………? それでは、()()()()()()! お願いします!」

 

「う……うみゅ、っ…………うむ」

 

(かわいい)(かわいい)(かわいい)

 

 

 おれの出した合図と共に、猫耳幼女姿の(なつめ)ちゃんが画面横から姿を表し…………あまりにもカメラに接近しすぎているためその全貌を映し出せず、しかも三脚の高さの都合で頭頂部のみしか映ってない。

 つまり今現在画面には……おれと霧衣ちゃんを背景に、画面いっぱいに鼈甲(べっこう)色の頭頂部と……不安げにピコピコ揺れる同色の三角耳が映し出されている状況なのだ。

 

 

 そんな衝撃的な光景を前に……カメラの後方モニターに表示されたコメント欄が、混乱と歓声の坩堝へと成り果てたのを、おれのエルフアイはばっちりと確認している。

 このチャーミングな猫耳を真っ先に晒したことで……そこには()()()()()流れが出来上がりつつあった。

 

 

「な、なつめちゃん近い近い近い近い!! お顔映ってないよ! お耳しか映ってないよ!!」

 

「お、おう……? す、すまぬ。しばし待たれよ」

 

「……はい、ではあっち、カメラ向いて……よし。それでは、改めまして……わが『のわめでぃあ』四人目となるパーソナリティー、なつめちゃんです!」

 

「う……うむ。……(えん)()って、此方(こちら)に厄介となっておる……名を『(なつめ)』、という。……よろしく頼む……頼、み? …………おねがい、します」

 

「はいよくできました! アーかわいい」

 

 

 三角形の猫耳。特徴的な鼈甲(べっこう)色の毛並みと、尻尾。

 そして……同じ響きの、そのお名前。

 

 それらの符号は、視聴者さんたちに『ある推測』をさせるには充分のものだっただろう。ここまで外見的特徴が露であればそれも当然だろうし、むしろおれはそれを狙っていたのだ。……わかってもらわなければ、困る。

 

 

「はい、というわけで……棗ちゃんです。ちっちゃくてかわいいです。わたしがお姉さんみたいですね! …………いえ実際にお姉さんですが! 百歳なので皆さんよりもお姉さんですが!」

 

「ノワ横道逸れてる。おとなげない」

 

「ングゥッ!! ……さて……お気づきの視聴者さんも居られると思います。なんと(なつめ)ちゃん……皆様には先んじてお披露目させて頂いた猫ちゃんと、同じお名前なんですよね。……どういうことだと思いますか?」

 

 

『うそでしょ』『擬人化!!!』『にゃんこがロリになるとかマジかよ』『ねこちゃんはどこ』『人化とかあるわけないだろ』『なつめにゃんは!!!』『かわいい』『服装イマドキなのに喋り方wwww』『うそやん』『どういうことなの』『かわいいからオッケーです!』『人化???』『わかめちゃんよりちっちゃい……』『わけわかめちゃんじゃん……』

 

 

 

 ……うんうん、いい感じに混乱していますね。

 

 そろそろいい頃合いだろう。おれは目の前で『きをつけ』をしている(なつめ)ちゃんのあたまに手を置き、さらさらの(毛並)を感じながら『なでなで』を始める。

 これは決しておれが棗ちゃんに辛抱たまらなくなったわけではなく――いや、その気持ちも少しはあるのだが――れっきとした演出の一貫であり……()()なのだ。

 

 おれの合図……事前に決めておいた算段に従い、演出をまた一段階前進させ……(なつめ)ちゃんが振り返りおれの目を見上げてくることで、それは『状況は順調に推移』の合図となる。

 

 そう……順調。ならば問題ない。(なつめ)ちゃんは()()()に集中させ、こちらはおれが場を受け持とう。

 

 

 

「じつはですね! ……もうお気づきの方も居られますね! こちらの(なつめ)ちゃん……先日お披露目させて頂いた猫ちゃんの、なんとなんと『人化』した姿だったのです!!」

 

「「な……なんだってー!!」」

 

「恥ずかしさが残る霧衣(きりえ)ちゃんかわいいね」

 

「わかる」

 

「わ、わうぅぅぅぅ」

 

 

『うそでしょ』『おへそかわいい』『なん、だと』『どういうことなの』『ウッッソだろwwwwwww』『んなアホな』『かわいい』『わけわかめちゃんじゃん』『人化とかありえるんか??』『マジかよ』『意味不wwwwwwwwたすけてwwwwww』『わけわかめちゃん』『ありえんwwwwwww』『乳首八個あるの?』『ちょっとまって無理わかんない』

 

 

 順調に混乱が広がっている、われらが視聴者さん。……日頃からファンタジー感あふれるおれたちに触れているだけあって、荒唐無稽ともいえる『人化した猫ちゃん』説を『そうかもしれない』と受け入れ始めてしまっている。……まぁそうなるように企てたのおれだけどね。

 というわけで、最終段階。(なつめ)ちゃんもきっちり打ち合わせ通りに動いてくれているようで、さっき視界の端で()()を確認できた。大丈夫そうだな。

 

 

 

「というのも、昨年末と今年のお正月にお世話になりました鶴城さんにですね、ねこのナツメちゃんを連れていったときにですね、こう……神がかり的なことが……ワーッていう感じにすごいことが起こりましてですね、それでにゃんこのなつめちゃんがですね、」

 

 

『wwwwwwwwwww』『おまwwwwwwwwww』『あーあ』『wwwwww』『台www無wwwwしwwwwwww』『あーあーあーあwwwww』『イェーイわかめちゃん見てるー?』『海草大繁殖不可避wwwwwwww』『わかめーーー!!うしろーーー!!』『コチカメのBGMながそうぜ』『wwwwwwかわいそうwwww』『後ろwwwwwww』

 

 

「…………? うしろ? …………アァーン」

 

「あーあー……ノワやっちまったねぇ」

 

 

 

 視聴者さんたちが気づき、コメントでおれに指摘した、()()

 おれたちの『うしろ』、壁面棚をのんきにヒョイヒョイと進んでいくのは……鼈甲(べっこう)色の毛並みと三角耳と尻尾を持つ動物。

 ……まぎれもない、(にゃんこ)

 

 その姿を認識し……表情が一気に引きつる(演技をしてみせる)、局長(わかめちゃん)

 

 

 この瞬間、おれが主張しようとしていた『猫耳少女の正体は人化した猫ちゃんである』という筋書きは見事に瓦解し、それは『猫耳(超リアル)をつけた幼女を猫ちゃんの人化として仕立て上げようとした(が、失敗)』というポンコツストーリーへと差し替わる。

 人化したことになっているはずの猫ちゃんが、演出担当の思惑を無視してフレームイン……つまり(なつめ)ちゃん(猫耳幼女)とナツメちゃん(にゃんこ)が同時に存在することが露見してしまったのだ。

 

 

 それこそが……おれたちが立てた、いわば真の計画。

 (なつめ)ちゃんの『分身の術』で生み出した猫ちゃんを用い、不本意を装い同時にフレームインさせることで、両者が『演出としては同じ存在だと印象づけたかった』『しかし実際には別々の存在だとバレてしまった』ということを視聴者さんたちに周知する。

 別々バレはあくまで不本意、演出としては同一存在として扱いたかった……ということをアピールしておくわけだな。

 

 

 最初に()()を行っておくことで……今後は(なつめ)ちゃんがどちらの姿で映っても、視聴者さんに『なつめちゃん』として受け入れて貰える下地が出来上がる。

 これ以降は常に『分身の術』を用いずとも、猫耳幼女と猫ちゃんどちらの姿で登場しようとも、『もう一方はどこかで遊んでるのか』と、勝手に推測して勝手に納得してもらうことができるわけだ。

 

 今ごろ視聴者さんたちの中では『そっかー猫ちゃん人化できたのかーwww』『まぁ猫が人に化けるとかあるわけ無いよな』『両方なつめちゃんなのねwww了解www』という流れができていることだろう。……できているっぽい。

 ……なんだか想定以上におれ(わかめちゃん)のポンコツっぷりを揶揄するコメントが多い気もするけど……ま、まぁ、ゆるそう。

 

 

 

「…………っ、……と、ひうわけで……かわいい(なつめ)ちゃんを、今後ともヨロシクねッッ!!」

 

「んに。若輩者ではあるが、よろしく頼むのである」

 

「ノワ声震えてるし。キレないで」

 

「キレてないですし! わたしキレさしたら大したもんですし!」

 

 

 

 お披露目は、どうやら無事に終了。作戦通りだ。

 それじゃあ後は……『のわめでぃあ』みんなで、楽しいときを過ごそうではないか。

 

 





この番組は、魔法情報局『のわめでぃあ』の提供でお送りします。
評価ブックマーク感想などなど、よろしければよろしくおねがいします!


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357【定期配信】お手並み拝見と告知



がんばるぞ!!!










 

 

「ま゜アーーーーーーーーー!!!」

 

「わ、わかめさまぁ!!」

 

「嗚呼……かわいそうなノワ」

 

「……下手人の台詞とは思えぬ」

 

 

『よわちゃん……』『やっぱりよわちゃんだった』『なにその悲鳴www』『【¥4,848】かわいそう』『よわめでぃあ局長』『なんでこんなによわよわなのはどうして』『lol』『よわちゃんのことのわのわって言うのやめろよぉ!!』

 

 

 

 (なつめ)ちゃんの登用により、限定的とはいえ四人の演者が揃ったわれわれ『のわめでぃあ』。

 せっかくなので四人なかよくあそぼうと思い、あまり手の込んだ準備が必要ない対戦ゲームを始める運びとなった。

 

 映像出力を調整してゲーム画面を映し、四人対戦可能な大乱闘ゲームをスタートする。カメラが回っていない場面でなら、ラニちゃんが【義肢(プロティーサ)】を用いて参戦しても問題ない。

 声も入るし、キャラクターの体力ゲージのところにわれわれのバストアップ画像でも置いとけば、臨場感だって問題ないだろう。

 

 

 ……と思って始めたゲーム大会、第一回大乱闘『のわめでぃあ』杯だったのだが。

 真っ先に残機ゼロでゲームオーバーになったのは……はい。おれでした。

 

 

「ジョーカーの必殺ずるいと思います! 出が早いし避けにくいんだもの! うしろから不意討ちで来るなんていやらしい! あと復帰阻止もずるい!!」

 

「わはは!! だってそういうキャラだもーん! 恨むなら民天堂さんを恨むがいい!」

 

「恨みごとなんて言えるわけないでしょ! 天下の民天堂さんだもん! みんな大好き民天堂さんだもん! ……あっ、民天堂さーん見てますかー案件お待ちしてまーす!」

 

「見てたとしてもよわよわな子には来ないんじゃないかな……」

 

「ギ、ッ!!」

 

 

 仮想配信者(ユアキャス)界隈でも屈指のゲーマーである『にじキャラ』の村崎うにさん、彼女に見初められる程のゲーム技量を誇るラニちゃんは、ゲームが変わってもそのつよつよレベルは据え置きだった。

 鼻唄混じりの片手間におれを蹴落とすと、今度は仲良くぴょこぴょことじゃれ合っているわうにゃうコンビへとその牙を向ける。

 あ、相手は初心者やぞ。どうか手心を。かわいそうだとおもわないのか。

 

 

「悲しいけど、これって対戦なのよね」

 

「ぐ、ぬゥ……っ!!? むキュ、っ!!」

 

「な、なつめさま! いま霧衣(きりえ)が……」

 

「はーいごめんねごめんねー」

 

「「「ああーーーー!!」」」

 

 

 

 お、おとなげねぇ!!

 

 黄色いネズミと青いハリネズミを相手取り、その双方をあっという間に蹴落として見せた黒い怪盗……を操る、異世界の勇者。

 魂の相方が相手だろうと、いたいけな初心者が相手だろうと、全身全霊全力で試合に望むその姿勢は……もう少しこう、なんというか。手心というか。

 

 

「イェーイさっすがボクだよねー」

 

「ぐ……ぐやじい! 一度も勝てながっだ!!」

 

 

 結局……四人対戦モードで行った五試合すべて、ラニちゃんが一位の栄冠を手にするはこびとなりました。五連覇よ五連覇。

 

 歓迎会にしてはずいぶんと大人げなかったが……げーむつよつよ妖精さんの実力を遺憾なく発揮でき、また(なつめ)ちゃんの生真面目っぷりとがんばり屋さんっぷりと、そしてなによりも可愛らしさをアピールできたのではないだろうか。

 特に何も考えずに、みんなでキャッキャとゲームで遊ぶだけでもそこそこウケるということがわかったので……だべりゲーム配信なんかも良いかもな。お手軽だし。

 

 

 

 

 ……というわけで、時間的にそろそろ頃合いだろう。

 対戦ゲームを用いての『みんなであそぼう』コーナーをそろそろ切り上げ、次のメニューへと進もうと思う。

 

 

 (なつめ)ちゃんのお披露目と並んで、本日の配信で重要度の高い、『だいじなおしらせ』のコーナーだ。

 

 そう……われわれが『にじキャラ』さんと水面下で準備を進めている、『次世代演出技法』プロジェクト……その第一弾となる『カラオケコラボ』配信が、本日ついに情報解禁となるのだ!

 

 

 

「いいですか、視聴者さん。今から大事なお知らせしますよぉー。……再来週の、土曜日! 二月の十五日ですね! 夕方六時、十八時からなのですが……大丈夫ですか視聴者さん、予定とか入っちゃってませんか?」

 

「まぁ入っちゃっててもアーカイブとかで見てもらえばいいんだけどね」

 

「アッ、そうだね、別に大丈夫か……」

 

 

 まぁリアルタイムで見てほしいのは確かなのだが……このコラボ配信はくろさんのチャンネル【仮想温泉旅館くろま】にて、アーカイブとして視聴できるようにしてくれるらしい。おれとしてもたすかる。

 

 まあ、当日や終わった後のことを考えるのは、まだまだ時期尚早。今は発表のタイミングなのだ、視聴者さんたちを焦らすのもここまでにしよう。

 

 

 

「ずばり、発表しちゃいます。……というのもわたくし木乃若芽(きのわかめ)、これまで恐れ多くも『おうた』を度々お褒めいただいておりましてですね……ですので、皆さんに喜んで貰えるよう『おうた』のみに専念した配信を、近々予定しててですね」

 

「今までは……えっと、怒られるのが嫌だから、民謡とか権利がオッケーそうなやつしか歌ってこなかったんだけど……やっぱ、視聴者のみんなから寄せられる声にはね、そういう要望もあるんだよね」

 

「そうなんです。……ですので、今回ちょっとその権利まわりをしっかり詰めてですね、大丈夫なようにしまして! ……そしてですね、なんと! そしてなんと、このわたしと一緒に『おうた』配信してくださるというお方が現れましてですね!!」

 

「俗にいう『コラボ』ってやつだね! ノワの『おうた』を買ってくれるなんて、なかなかお目が高い子だよ!」

 

「そそそそんな偉そうなこと言えませんよ! わたしなんかがあのお(かた)の隣に並ばせて頂けるだなんて、おそれおおくて恐縮で……でも、正直とっっても嬉しいですので!」

 

「よかったねぇ、ノワ。……ところで、そのお相手は? もうみんな気になってるよ」

 

 

『おうた!!!』『おめでとうのわちゃん!!』『めでてぇ!』『わかめちゃんのおうただ!』『民謡以外も聞けるんか?』『だれだだれだ』『【¥1,170】アニコンデビューおめでとう?』『おうた漬けの時間とか最高かよ』『わかめちゃんに目をつけるとはただ者ではないな……』『やったーー!!おうただァーーー!!!』『キボーノハナー……』『お相手気になる』『オメガ高い子』

 

 

「視聴者さんたちのコメントも盛り上がって参りましたので……そろそろですね、いよいよですね、発表させていただきたいと思います! わたくし木乃若芽(きのわかめ)が共演させていただく、おうたつよつよ系配信者(キャスター)さんはァ~?」

 

 

 

 ……っとここで、おれに向いたカメラの死角で、ラニちゃんがヒュババッとDeb-Code(会議通話アプリ)を操作し……とあるお(かた)と通話を繋ぎ、そのお(かた)の声を配信に乗せる。

 その『とあるお(かた)』とは……この期に及んで、わざわざ言うまでもないだろう。

 

 

 

『…………えっ? まいどぉー』

 

「えっ!? あ、あの……えっと、その……もうちょっと、何か……」

 

 

『!!?!、』『は!?』『ちょ、』『はぁ!!?!?』『うそでしょ』『は?』『うそやん』『ちょwwwwww』『!!!!!』『ウワアアアアヤッタアアアアアアア!!!!』『まってまってまって』『ウッッソだろwwwwww』『マジかよwwwww』

 

 

『ん。……玄間(くろま)くろ。よろしくぅー』

 

「アッ、えっと……も、もう少し……できれば…………えっと……」

 

『んふふゥー。かめちゃん意外と欲しがりさんやんなぁー』

 

「アッ…………アッ、エット……はい! というわけで……『にじキャラ』さん所属の歌姫、【Sea's(シーズ)】の『玄間(くろま)くろ』さんです!!」

 

『まいどー』

 

 

 八代(マネージャー)さんに頂いていたくろさんの立ち絵を表示させ、対談形式っぽく場を設ける。今はまだ『新世代演出技法』は秘匿段階なので、今回はあくまで通話オンリー、お声をお借りするだけだ。

 だが……おれのような弱小個人配信者が、業界最大手の売れっ子とタイマン共演(コラボ)の機を頂けるなんて……ましてや、おれの求めに応じて通話に出てくれるなんて、視聴者諸君も夢にも思わなかったのだろう。先程から驚愕に彩られたコメントがものすごい。

 

 

「改めまして……再来週、二月十五日の土曜日、よる六時から! 場所は【仮想温泉旅館くろま】にて! ……いいですか皆さん、()()玄間(くろま)くろさんですよ。『にじキャラの歌姫』の生歌を堪能する大チャンスですよ!」

 

『かめちゃんも他人(ひと)のこと言えんのやけどな』

 

「またまたご冗談を……ええと、形式としてはなんと、リクエスト形式による視聴者さん参加型です! 当日公開されるつぶやいたーハッシュタグで歌って欲しい曲をリクエストできる感じですね! まぁ採用するかは気分次第なのですが!」

 

『あとなんか、すごいこと起こるねんで。まだナイショやけど、すごいこと』

 

「そう!! ()()()()()が起こります!! これはもートップシークレットなので今はなにも言えませんが、常識を覆す()()()()()が待ってますので……おたのしみに!!」

 

『んふふゥーー』

 

 

『【¥12,000】CDはつばいして』『有給取ろう……』『絶対ぇ見る』『【¥5,000】ありがとう』『【¥3,000】ボイス販売のほうもぜひ検討を』『ぜってぇ休出無視する』『くろちゃんすき』『かめちゃん呼びてぇてぇな……』『【¥15,000】晴れ舞台おめでとう!!楽しみにしてるわ!!』『ンフフゥー』『わかめちゃん歌姫伝説がついに始まるのか……』『相手が豪華すぎるwwwwww』

 

 

 

 日時も、配信場所も、肝心の共演相手も……そして()()()()()が起こるということも、バッチリしっかり告知できた。

 玄間(くろま)くろさんが通話に出てくれたことで、視聴者さんにとってもインパクトと共に深く印象づけることができたことだろう。

 

 

 

 というわけで、そろそろ放送も終わりのお時間だ。

 予定通りお披露目と告知とを済ませたので、布石は充分打った。これからいままで以上に頑張っていかなきゃならない。

 

 

 なにしろ……あと二週間後には、それはそれは()()()()()が起きるのだから。

 

 

 

「それではまた、来週のこの時間にお会いしましょう! よい夜を。……ヴィーヤ(ばいばい)!」

 

『むぃーや!』

 

 

 

 

 

 一月三十一日の金曜日、深夜。

 

 おれは……SNS(つぶやいたー)注目(トレンド)ワードに載った。

 

 



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358【公開遊戯】トレモを撮るもの



初心者狩りはよくないとおもいます!



 

 

 おはようございます、みなさん。グッドモーニング、いい朝ですね。

 昨晩の生配信から一夜開けて、今日は二月一日の土曜日です。今日もいちにちがんばっていきましょう。

 

 

「……御館様、本日は生憎(あいにく)の雨模様にございます。『良い朝』と表現するには、(いささ)清々(すがすが)しさに欠けるかと」

 

「わぅぅ……しとしとでございまする。……これでは、お洗濯ものが干せませぬ」

 

 

 …………アゥン! ツッコミを入れられるまでにおれたちに順応してくれているようで、おれはとてもうれしいです!

 

 霧衣ちゃんの言うように、昨晩から降り始めたらしい雨は現時刻でもまだ降り続いており、まわりの木々をしとしとと濡らしている。

 大自然に囲まれたこの環境であれば、そんな雨音に耳を澄ますのも風流なものに感じられるだろうが……今日明日じゅうはこんな天気らしいので、ちょっと予定していた作業は日を改めるべきだろうか。

 

 

「……霧衣(きりえ)嬢、御心配は無用です。……当物件、脱衣場の天井には、室内物干の吊り金物が仕込まれて居ります(ゆえ)

 

「な、なんと! ならばお洗濯も安心でございまする!」

 

 

 ……うん。やっぱりガレージはさすがにまた後日、日を改めることにしよう。

 屋根だけでも掛けてあれば色々と作業できただろうけど、まだ屋根どころか柱さえ立っていないもんな。

 特に納期が決まっているわけでもないのだ。しとしと雨を浴びながらの建築作業は……さすがにちょっと、避けたい。風邪引いちゃう。

 

 であれば、ぽっかり空いた週末……どうしたもんか。

 もちろん編集とかスパチャのお返事録音とか、おれがやるべきことはいっぱいあるので、いよいよ『週末の過ごし方』が思い付かなかったら取り掛かろうと思う。

 とはいえこのお天気模様が今日明日と続くのであれば、お出掛けするような気分には……ちょっとなれそうもない。

 

 

 

『――――家主殿よ』

 

「ゥオワァ! びっくりしたぁ!」

 

『す、すまぬ。驚かせてしまったか』

 

「えへへ、ちょっとびっくりした。……おはよう、(なつめ)ちゃん」

 

 

 

 おれがぼーっとしていた間に、いつのまにか猫ちゃん状態の(なつめ)ちゃんがダイニングへと姿を現し、猫ちゃんのお鼻をかわいらしく『すんすん』と鳴らしていた。

 

 じつはこの物件、ダイニングのちょうど真上に二階の和室、つまり霧衣(きりえ)ちゃんと(なつめ)ちゃんのお部屋があるのだが……ダイニングへと続くリビングの真上部分は吹き抜けとなっており、二階和室の小窓からリビングを見下ろすことができるのだ。

 

 小窓といっても、ふつうの腰窓くらいの大きさはあるものだ。解放感を感じさせ、また採光と通風の役割を担う内窓は……やはり転落防止の観点もあるのだろう、せいぜいが換気用にちょっとだけ開く程度。顔は出せても、肩は……縦にならなきゃ、通れない。

 しかしそこは可愛くても神使。生来の身軽さと強化された運動能力を遺憾なく発揮し、リビング部分のふわふわラグに音もなく着地してのけたのだろう。

 

 

 

「おはようございます、(なつめ)さま。『かりかり』に致しますか? 『みるく』に致しますか? それとも……」

 

「(ン゛ン゛……ッ!!)」

 

「うむ、家主殿のような『ごはん』を頼む」

 

「はいっ! かしこまりました!」

 

 

 ほほえましいやり取りを見聞きしながら、(よこしま)なイメージ画像を思い描いてしまったことを心の中で詫びる。天繰(てぐり)さんが『何事か?』と小首をかしげ窺ってくるが、『なんでもないです』と愛想笑いを浮かべて返す。

 

 やはり(なつめ)ちゃん……先日のお泊まり以降はヒトの姿での食事にハマっているらしく、結構な頻度でおれたちと同じ朝ごはんを堪能している。

 椅子の上に重ねられた座布団の上に『きちっ』と正座して、それでいて目を輝かせながら待つその姿は……にこにこ顔で朝ごはんを準備する霧衣(きりえ)ちゃんと相俟って、ひたすらに微笑ましい。最高である。写真撮っとこ。

 

 

 

 しかし……うん、そうだな。そうしようか。

 

 いい『週末の過ごし方』……思い付きました。

 

 

 

 

 

 

 

ヘィリィ(こんにちわ)! 親愛なる人間種諸君! えへへ……昨日ぶり、ですか? 皆さんはちゃんと早起きしましたかぁー?」

 

 

 みんなのあさごはんを終え、おれも【洗浄(クリーレン)】で後片付けに協力して、今日も今日とておしごとへ出掛ける天繰(てぐり)さんをお見送りして……その後三人揃って、二階の配信ルームへ。

 もはやおれのお家芸となりつつある(よくない傾向)、直前告知のゲリラ配信……まぁべつに新情報も新ネタ披露もするつもりはないので、ゆるしてとは言わないが気にしないでほしい。

 じゃあ一体、いきなり何をしようとしているのかというと……至極簡単なことよ。

 

 

「それでは……これより『よわめでぃあ』、大乱闘強化合宿を始めたいと思います。参加者はわたくし、最底辺だけど局長の木乃(きの)若芽(わかめ)とー……?」

 

「ごはんがかり、霧衣(きりえ)ですっ!」

 

「む…………ひるね係、(ナツメ)

 

「かわいい」「愛らしうございます」

 

「……む、…………うむっ!」

 

 

 

 まぁ要するに……おれたち初心者三人がモチャモチャとゲームしている様子を、ただただだらだらと配信させてもらっちゃおうという作戦だ。

 とても好意的に解釈するとすれば……トレーニング回、つまりは修行回だろう。

 

 ちなみにリアル修行計画のほうも、計画そのものはちゃんと進行中だ。べつにけっして忘れてるわけではなく、天繰(てぐり)さんが色々と根回ししてくれているらしい。

 

 

 まぁ、おれたちの修行はおいといて。きょうの配信は要するに、『初心者狩り(ラニちゃん)のいないところで低レベルどうし戯れよう』という催しだ。

 つぶやいたーでの投稿や配信概要欄でそのことは告知済みなので、スーパープレイや撮れ高なんかは期待できないはずなのだが……嬉しい誤算というべきか、それでも視聴者数はどんどん増えていっている。

 

 漫然とプレイするよりは、誰かに見てもらっていたほうが集中できるだろう。これはありがたい。

 

 

 

「ではでは、休日自宅の気楽なゲーム大会……はじめていきましょう!」

 

「「わぁー」」

 

 

 

 

 低レベルどうし、非常にユルい突発的ゲーム配信枠。

 平和な初心者集団『ひよこ組』の集落。

 

 それが……それがまさか、()()()()()になろうとは。

 

 

 ゆるゆるプレイしようとしていたおれには、到底思いもしなかった。

 

 



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359【公開遊戯】挑戦者が現れました!

 

 

 初心者三人と、COM(コンピューター)(最弱設定)が一人。とてもレベルの低い身内対戦モードでキャッキャと戯れること、およそ一時間ほど。

 

 事態が動き出したのは……霧衣(きりえ)ちゃんが『お洗濯ものを干して参ります』と途中退席した後の出来事だった。

 

 

 

 

 昨日と同様、現在の配信画面は、そのほとんどがゲーム画面である。

 キャプチャーされたプレイ画面を左上、視聴者さんたちから寄せられるコメントを右上、おれのバストアップのキャプチャーを右下に合成した、わりと定番のスタイルだ。

 おれたちの操作キャラの下、フレーム部分におれたち三人のバストアップ画像を置いてあるくるらいで、じつは今まで霧衣(きりえ)ちゃんと(なつめ)ちゃんは(オープニングを除いて)カメラに映っていなかったりするわけなのだが。

 

 

 

「じゃあじゃあ……しばらく霧衣(きりえ)ちゃんのところもCOM(コンピューター)にしちゃいますね」

 

「うむ。ひと勝負といこうではないか」

 

「なんの、負けませんよー。局長の良いところ見せてあげますとも!」

 

 

 

 プレイヤー二人と、COM(コンピューター)(最弱設定)が二人。初心者感がまだ拭いきれないおれたちだったが、とりあえず実践経験は積まれていく。

 

 とはいえ、やはり最弱設定のAIだ。隙も大きく、強力なコンボは狙って来ず、おれたち初心者でもそこそこの勝率を叩き出すことはできたのだが……まぁ、慣れてくると物足りなくなっちゃうよね。

 半ば(なつめ)ちゃんとの直接対決のような形になってしまい、やっぱりこのゲームは大人数で入り乱れて遊ぶほうが楽しいのだと、改めて気づかされる。

 

 やっぱり……一方的にボコられる未来が見えるとはいえ、ラニも叩き起こしていっしょに遊んだほうが楽しいかもな。

 せっかくコントローラー四つあるんだし、やっぱCOM抜きで四人対戦やりたいな。

 

 

 ……なんてことを願ってしまったから、ってわけじゃ無いんでしょうけど!

 

 

 

「うーーん……やっぱCOM相手だと微妙っていうか。霧衣(きりえ)ちゃん早く帰って来ないか……っと、帰ってきたかな? おかえンヘェ!!?」

 

 

『COM相手におれつえーするわかめちゃん10さい』『対人経験積もう』『なにその変な声』『オンラインはまだ早いか……』『あへぇ!?』『どうした局長、しっこか』『ンへェって鳴いたか今』『すごい顔wwwwwwなにがあったwwwwww』『対戦相手募集しようぜ』『きりえちゃん??』『どうした、何が起こった』

 

 

 

 そんなおれの、他愛のない願いが届いたわけではないのだろうが。

 配信ルームの扉を開け、おれの願いを叶えてくれる『心強い助っ人』が……今まさに、そろりそろりと入室してきまして。

 

 

 突然の事態に困惑し、硬直するおれの目の前で……いたずらっぽい笑みを浮かべ、我先にとコントローラーを手に取る()()()

 おまけに……唇の前に人差し指を寄せ、可愛らしく『しーっ』なんてされてしまっては……流されるしかない。

 

 

 

「…………えっと、はい。……心強い()()()()()が来てくれたので……四人対戦だよ! やったね(なつめ)ちゃん!」

 

「うむ。昨日のような無様は晒さぬ」

 

「めっちゃ肝据わってますね。わたしは今すぐにでも平常心を喪失しそうなんですけど」

 

 

 

 ……というわけで、おれ対(なつめ)ちゃん対なぞの助っ人お二人。

 

 昨日よりはいくらか大乱闘慣れした(と思っている)おれたちの成長を確かめる一戦が、いま幕を開けた。

 

 

 

 

 

 …………のだが…………いや。

 

 

 

 

「勝てるわけないじゃん!!!」

 

「ぐ、ぐぬぬ……またしても……」

 

 

 

 わかってたけどね。知ってたけどね!

 

 まったくもう、一体この子はどういうつもりなのか……いや『どういうつもり』って聞いてもどうせ『ボクに黙って楽しそうな配信(コト)始めたことへの意趣返し』とでも言うつもりなのだろう、あの妖精(ぷに○な)は!

 

 

 だからって……だからって、こんなことをするか!?

 こんな吹けば飛ぶような、おれみたいなクソザコ配信者(キャスター)のぐだぐだ生配信に……()()()()()()()をいきなり連れ込むか、普通!?

 

 

 

「わかめさまぁー、お洗濯終わりましてございまする! 大変お待たせ……致し、て……おりぅ…………ひゃえ……」

 

「あっ、霧衣(きりえ)ちゃん! おかえり!」

 

「お、おっ……お客様! わがやに……わがやにおきゃくさまでございまする!!」

 

 

『きりえちゃんの声』『きりえちゃん帰ってきた』『のわちゃんのぱんつ干してたきりえちゃん』『いやじゃあマジ誰なんだよwwwwww』『お客様!!』『きりえちゃんじゃないんか』『らにちゃんじゃないの』『えっラニちゃんじゃねえの!!?』『だれなの!!ねえ!!』

 

 

 

 ほんわか身内プレイに甘んじてたおれたちを突如急襲し、おれのフェイスカメラ以外にカメラが回ってないのをいいことに、おれたちのすぐ隣で先程まで大乱闘を繰り広げていた……()()()()

 

 配信をハブられた腹いせにと、空間を跳躍する【繋門(フラグスディル)】を使いこなす相棒(イタズラ妖精)によって送り込まれた……一筋縄ではいかない、刺客。

 

 必死に口を(つぐ)み、視聴者さんたちに正体を気取られないようにしながらも、おれと(なつめ)ちゃんをコテンパンに叩きのめして見せた……大乱闘つよつよ配信者(キャスター)ズ。

 

 

 

「…………ぷっ、……ッははは! のわっちゃんその顔反則やって! その『プクー』顔やめーや! そんなん可愛すぎやん!」

 

「いやぁー、まぁそれもだけどよ? 反則ッつったら霧衣(きりえ)嬢だろ。俺様実際お目に掛かったの初めてだけどよ、マジで完璧な和服美少女じゃねーの」

 

「それよかこの子っすよ、なつめちゃん! 昨日の配信見ましたよ! ちょっと、どういうことなんすか若芽ちゃん! なんでこんな可愛い子が次々出てくるんすか『のわめでぃあ』は!」

 

「とーごーくん、解っとるどす? よその子に()()()()は裁判飛ばして即火刑どす」

 

 

(……ラニ、鈴木本部長さんは)

 

(話通してあるよ。許可もバッチリ)

 

(なら()かっ…………いや全然良くねぇわ。覚えとけよぷにあ○勇者。今晩メ○ソレータムの刑すっからな)

 

(し、釈明の機会を!!)

 

 

 

 おれたちの悲鳴と歓声を拾うために設置した高精度マイクが、聞き覚えのあるひとのほうが多いだろう御四方のお声を拾い上げる。

 そのお声が届いたのであろう視聴者さんの混乱は、これまたわかりやすくコメント欄に表れており……うんうん、よくわかるよ。正直おれもその中に加わって『は!??』ってコメントしたい気分だし。

 

 

 

 というわけで、本日のお客様……順に、村崎うにさん、ハデスさま、刀郷(とうごう)さん、ティーリットさま(の(なかのひと))。

 

 東京の『にじキャラ』さん事務所から、岩波市のわが拠点へ……距離の壁と常識の壁と所属の壁と配信者ランクの壁を四枚纏めてブチ抜き送り込まれた方々。

 

 

 人呼んで……『にじキャラ【なかよしゲーム部】』の皆さんである。

 

 

 





自信無いからぴょこぴょこ練習してたのにベテランに乱入されていきなり本番させられるやつ!!!!

なんてかわいそう!!!!!




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360【誘客遊戯】ドキドキの選手入場


平和な初心者の村にレートガチ勢の群れが攻めてくるなんて……




 

 

「こんばんしーっす。いやべつに昼間やしコンバンワやないねんけどな。村崎(むらさき)うにやよー」

 

「ウェーイみんな見テマスカー! (カタナ)(ツルギ)、若気の勇気! 刀郷(とうごう)剣治(けんじ)でっす!」

 

「よぉよぉ、今日も励んでおるかな皆の衆。俺様こそが混沌の主、冥王ハデスである」

 

「ご機嫌よう、わちの可愛い王国民たちよ。わちが王女、トールア・ティーリットであるよ」

 

「………………へ、ッ…………ヘィリィ(こんにちわ)、親愛なる…………い、いや、待ってこれ……無理、でしょ。……ここに並ぶの、無理でしょ……」

 

 

 

 初心者だらけのじゃれ合いが繰り広げられていたはずの、わが『のわめでぃあ』本拠点二階の配信(おしごと)ルーム。

 そこには今や(カメラが回ってないのをいいことに)四名の超豪華ゲスト(の(なかのひと))が押し掛け、このおうちの家主であるはずのおれを完全に圧倒してしまっている。

 

 この部屋に集った関係者はなんと、総勢八名にも及ぶ大所帯。おれと(なつめ)ちゃんと霧衣(きりえ)ちゃんと戦犯(ラニ)と……そして超絶大人気配信者(キャスター)である、お四方だ。

 ……お四方(よんかた)って日本語合ってるのかな。お三方(さんかた)なら聞いたことあるんだけどな。

 

 

 ともかく……ラニの悪巧みとそれに悪ノリした鈴木本部長(にじキャラ責任者)によって送り込まれまれた刺客によって、おれたち初心者の平和な週末はあっさりと滅びを迎えた。平和な初心者の村になかよしゲーム部の群れが攻めてくるなんて。

 

 

 

「まぁーそういうわけで。あたしらが来たからには、もーのわっちゃんらに寂しい思いはさせへんのやで」

 

「い、いや、その…………あの、べつに寂しかったわけじゃ」

 

「わかめちゃんは、寂しくないの? わちと会えて……嬉しくないの?」

 

「アッ嬉しいです! はい! 寂しかったわけじゃ無いですけど、嬉しいです! ティーリットさまと、もちろんうにさんと、ハデスさまも。遊びに来てくれて、ありがとうございます!」

 

「あっ、あの……すみませんわかめちゃん。一人忘れてない……かな……?」

 

「いや俺様達もよ、ちょーっと()()()()でビビったけどなァ……でもま、面白そうだったしよ。()()()()()()()()()()な、若芽ちゃん!」

 

「こちらこそ! わざわざお越しいただき、ありがとうございます! ラニちゃん後で『おはなし』があります」

 

「ヒェッ」

 

「あのオレ…………一人忘れて……あの……」

 

 

 うにさん以外は、動画ではないラニの姿を見るのは――幻想種族『妖精(フェアリー)種』を拝むのは――初めてだろうに……そんなことは微塵も感じさせず、平然と普段通りのキャラクターで演目を進めていく。

 さすが大御所、さすが大先輩、さすが大企業。プロの風格が半端無い。

 たとえその姿が映らなくとも、言葉だけで周囲の観客を引き込んで魅せる。事実としておれたちも、そして当然のようにおれの視聴者さんたちも、これから何が起こるのかと楽しみでならない。

 

 

 

「えー……それでは。場も整ったので」

 

「ラニ!? えっ、待っ……えっ!?」

 

「それでは……これより、第二回『のわめでぃあ杯【局長争奪戦】』の開催を! ココに宣言します!!」

 

「ちょ「「「「うおおおおおお!!」」」」

 

 

『うおおおおお!!!!』『一般参加枠!!一般参加枠は!!』『なんなんだよこの顔ぶれwwwwww』『局長(賞品)ふたたび』『おい配信ジャックされたぞwwwwwww』『ウオオオオオオオwwww』『なかゲ部主力まるごと出張とかありえんwwwwww』『ラニちゃんひっでえwwwwすき』

 

 

「はい、ありがとうね。やーやーご声援ありがとうね。……ではさっそくルールの説明! この場に集いし選ばれし戦士八名で、こちらの『大乱闘スマイトブロス』にて己の技を競い合っていただきます!」

 

「ねえ! ちょっと! わたし聞いてな」

 

「ゲームは情け無用の個人戦! ボクと『なかよしゲーム部』の方々はストックライフ三つ、ひよこ組の三人はハンデとしてライフ五つで、しかしその他は同じルールで戦っていただきます!」

 

「あっ、ハンデたすかる。……じゃなくて! だから」

 

「試合の組み合わせはくじ引きでランダム! 各試合上位二人が決勝戦へと進出! そして栄えある優勝者には……本大会の主催である『のわめでぃあ』局長の木乃若芽ちゃんから、『(公序良俗に反しない範囲で)何でも言うことを聞いてあげる権利』が進呈されます!!」

 

「ちょ「「「「うおおおおおお!!」」」」

 

 

 

 だ、だめだ……みんなだめだ。

 これはあれだ、場の空気に流されてとか、盛り上げるためにとりあえず歓声上げとこうだとか、そんなチャチなもんじゃ断じて無ぇ。もっとおそろしいものの片鱗だこれ。

 

 うにさんはじめ『なかゲ(なかよしゲーム)部』の方々は、みんながみんなどういうわけか本気で優勝を狙っている雰囲気だ。

 いったいおれなんかに何を求めているのか気が気でないし、これでは『必要とされていて嬉しい』よりも『どうしてこうなった』感のほうがつよい。こわい。

 

 そして一方、われら『ひよこ組』……優勝商品を聞いてから霧衣(きりえ)ちゃんも謎のやる気に満ち満ちており、それに触発されてか(なつめ)ちゃんも気合充分。

 そしてそして、発起人でもあり災厄の元凶でもある『たのしい』中毒患者(ジャンキー)は……にやにやとした表情の裏に、これまた静かな闘志を漲らせている。こわい。

 

 

 そしてそして……こわいといえば、視聴者数とコメント数も非常にこわい。

 『心強い助っ人』の参戦以降、視聴者数はうなぎのぼりで急上昇。配信画面には相変わらず、ゲーム画面とおれの顔しか映っていないのに、視聴者さんがSNS(つぶやいたー)で『ヤベェことが起きてる』と拡散してくれたおかげでどんどんカウンターが回っていく。

 

 大慌てで以前頂いていた『にじキャラ』配信おたすけ素材集から皆さんの立ち絵バストアップを引っ張り出し、画面下へ『ずらーっ』と並べさせていただく。

 霧衣(きりえ)ちゃんと(なつめ)ちゃんとラニちゃんをちょっと右のほうに詰めて、その隣にうにさんとティーさまとハデスさまと……画面端ギリギリの半分見切れてる位置に刀郷(とーごー)さんを配置する。

 

 

 おれが必死に配信環境を再構築している間に、どうやらくじ引きによる組分けは決まったようだ。……おれ引いてないんですけど!!

 どうやら残った最後の一本にされてたみたいで、おれの出番は第二試合……対戦相手はティーリットさまと刀郷(とーごー)さんとラニちゃんだ。やばいわね!!

 

 

 

「……ていうか! 流されに流されていつの間にか状況整っちゃってますけども! わたしまだ納得してないですからね!? なんでわたしが賞品みたいな扱いなんですか!?」

 

「大丈夫やよのわっちゃん。のわっちゃんが優勝すればええねん。簡単やろ」

 

「簡単なわけないでしょう! さっき瞬殺されたばっかりじゃないですか! ヤですよわたし! どう考えてもわたしが大変な目に遭うやつじゃないですか!!」

 

「じゃあ…………期待してくれてる視聴者さんに『ごめんね』って言って、やめる? こんなにたくさん、スマブロ大会を楽しみにして集まってくれたのに?」

 

「………………………………なんですかこの数字はァー!!?!?」

 

 

『大乱闘から逃げるな』『わかめちゃんがんばって!!』『一般参加者枠をおおおお!!』『やめないで』『大乱闘から逃げるな』『賞品から逃げるな』『今北産業』『同接数えっぐwwwwwww』『大乱闘から逃げるな』『わかめちゃんの見せ場と聞いて飛び起きました!!』『局長せいぜいがんばって』『やめないで』『大乱闘から逃げるな』『つよつよなわかめちゃんなら余裕っしょ?』

 

 

 

 いつもの『生わかめ』の、二倍は優に上回っている視聴者数……目に見える形での『期待』の現れを、こんなにもまざまざと見せつけられてしまっては。

 

 せっかくの休日、わざわざおれの配信に、こうして駆けつけてくれた『なかゲ部』皆さんの期待とやる気を……こうも見せつけられてしまっては。

 

 

 ……そしてなによりも、おれがここで『やだ!』をゴリ押しした際の……おれ以外の()()の人々の悲嘆と落胆を、想像してしまっては。

 

 

 

 

「……ッ!! やってやろうじゃねぇかこのやろう! おしりの穴かっぽじって待ってろやオラァ!!」

 

「わーのわっちゃん! お下品! お下品はダメやって!」

 

「『耳の穴かっぽじって』と『首洗って待ってろ』が悪魔合体しちまった感じかね……」

 

「いや、おしりって…………青ちゃんじゃないんすから」

 

「青ちゃんは堂々と『けつ』言いはるからなぁ……つよい子やわぁ」

 

「いや……ティー様もあんま『けつ』とか言わん方が良いっすよ……」

 

 

 

 そうとも……おれは泣く子も笑う『のわめでぃあ』の局長だ!

 一人でも多くの視聴者さんを楽しませるためならば……おれは如何(いか)なる苦労も(※一部を除き)厭わない!

 

 のぞむところだ。第二回『のわめでぃあ杯【局長争奪戦】』……受けて立とうじゃん!!

 

 

 

 ちなみにラニちゃんはわかってるね。

 覚悟の準備をしておいてくださいね。

 

 にがさないぞ。

 

 



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361【誘客遊戯】ワクワクの第一試合

 

 

 ――――第一試合。

 『ひよこ組』からは霧衣(きりえ)ちゃんと(なつめ)ちゃん、『なかゲ部』からは村崎うにさんとハデスさま。

 

 ……これは、あれですわ。猛獣の檻に入れられたチワワですわ。

 

 

 

「よろしうな、霧衣(きりえ)っちゃんと……(なつめ)ちゃん? うわーこらまた可愛ぇ子やんなぁー」

 

「ん。むらさき……うに殿、であらせられるな。お噂は家主殿からかねがね。宜しく頼む」

 

「ほぉー? 小さいのにきちんとご挨拶できるんだ。おぉーえらいねぇー。おじさんはね、『はです』って言うんだ。よろしくな、(なつめ)ちゃんと……霧衣(きりえ)ちゃん」

 

「成程、はです殿……貴殿が。家主殿が『声めっちゃせくしー、好き』と褒め称え「わあああああああああ!!!」な。宜しく頼む」

 

「よっ、よろしくおねがいしますっ!」

 

「ハッハッハ! いやー……賑やかでいいね、微笑ましくて。俺様羨ましいわ」

 

ウチら(なかゲ部)大抵殺伐とした罵り合いになるもんなぁ……」

 

「大体お前と青のせいだけどな」

 

 

 試合前のご挨拶は((なつめ)ちゃんの暴露を除き)とても微笑ましいものだったけど……まぁしかしそうは言ってもこのお二方、『にじキャラ』が誇るゲームユニット『なかよしゲーム部』の一員、その指折りの実力者だ。

 ひよこ組の二人が相手だからって、こと試合においては正々堂々、真っ向勝負を繰り広げることだろう。

 

 つまりは……容赦がない。

 

 

 

「わたくしは練習と同様、『ねずみさん』で参りまする!」

 

「むう、我輩も……此奴しか慣れておらぬからな」

 

「いちいちセレクトが可愛らしいもんなぁー癒されるわぁー」

 

「ハハッ。その割にはヤル気満々のセレクトじゃねぇか」

 

 

 黄色いねずみさんと、青いハリネズミさん、それにミリタリー系装備の傭兵と、浅黒い肌の肉弾系魔王。

 第一試合の選手四名はキャラクターセレクトを終え、対戦ステージがランダムで選出され、そのステージへとプレイヤー達が召喚されていき……カウントダウンの後、ついに試合の幕が上がる。

 

 おれは各々のプレイヤーキャラの下へと立ち絵配置を頑張った。

 ギリギリ間に合ったよほめて。

 

 

 

「ッオラァ()ねやオッサン!!」

 

「誰がオッサンだ! まだ四千代だ!」

 

「よ、四千!? 斯様(かよう)に永き時を生きた御方であったか!」

 

(なつめ)ちゃん真に受けちゃダメですよ! いやあながちウソって訳でもないんすけど……ああもう説明しづらい!」

 

「わちらはまだまだ三桁歳の若者やよー。ねー、わかめちゃーん」

 

「は、はいっ! そうでしゅ!」

 

 

 

 開幕動いたのは、うにさん操る傭兵。……さすがに初手でひよこ組を食らうほど落ちぶれてはいなかったのか、もう一人の身内であるハデスさま操る魔王へと仕掛ける。

 キャラクターの特徴でもある遠距離攻撃をばら蒔きつつ、地雷や爆弾を投げまくって回避の選択を迫っていく。

 

 

「ぅお!? 床が!」

 

「ああっ! 爆発してございまする!」

 

 

 ばら蒔かれたそれら火器を回避しきれず、また地雷を踏んづけ、ひよこ組が初々しい悲鳴をあげているが……そんな中仕掛人である傭兵(うにさん)は付かず離れずの距離を維持しながら、中距離から魔王(ハデスさま)をじわじわと削っていく。

 

 しかし、一方の魔王(ハデスさま)もやられっ放しではない。鈍重な代わりに防御と攻撃力の高いキャラクター、その攻撃範囲を最大限活かし、攻撃を掻い潜りときに防御しながら、果敢に近距離戦に持ち込んでいく。

 

 中距離戦を得意とする傭兵(うにさん)とて、機動力は魔王(ハデスさま)より『やや上』程度。そこまで素早いわけでもなく、ましてや近接攻撃の範囲が広い魔王(ハデスさま)に追い立てられ、こちらもじわじわと被ダメージが蓄積していっている。

 

 

「ゥオオ怖ぇ! あれ捕まったらアカンやつやん!」

 

「チッ、外したかぁー。タイミング合ってたんだけどなぁ」

 

「小指一個分届かんかったなぁ、っと……ほれお返し、やっ!!」

 

「ぬわーー!!?」「わうーー!!?」

 

「……酷ぇ事しやがる」

 

「ち、ちがうんやて!!」

 

 

 繰り広げられる必殺技の応酬、巻き込まれるひよこ組、あちこちで上がる悲鳴、狩られていくいたいけな(ライフ)……戦いとはかくも無情なものなのだろうか。

 まぁゲームだからな。そういうこともあるだろう。ひよこ組のお二人には開き直ってがんばってほしい。

 

 

「オッラァ!!」

 

「なんのっ……ッだァ!!」

 

「ああーー!!」

 

「っしゃオアァ!!?」

 

 

 復帰したひよこ組が『こわ、近付かんとこ』している間に、傭兵(うにさん)魔王(ハデスさま)のほうに動きがあったようだ。

 着地のチャンスに振るわれた傭兵(うにさん)の近接強攻撃、しかしそれを魔王(ハデスさま)は僅かに横にずれてギリギリで避け、お返しとばかりに振るわれた腕が見事に傭兵(うにさん)をかっ飛ばす。

 画面外まで飛ばされて残機(ライフ)を一つ喪失する傭兵(うにさん)、しかしタダでは終わらない。最後っ屁として放られていた爆弾が時間差で爆発、攻撃後の硬直で回避も防御も取れなかった魔王(ハデスさま)がその爆風に巻き込まれて吹っ飛んでいき……僅差ながら傭兵(うにさん)と同様に残機(ライフ)をロスト。

 

 

 

「えいっ! えいっ!」

 

「ははは何の! そらっ!」

 

「むぅーーっ!」

 

 

 超ハイレベルな攻防が繰り広げられている一方で、とても微笑ましいじゃれ合いも同時に繰り広げられ……その温度差に頭がいたくなりそうだが、とりあえず高度な試合であることは確かだ。

 それにうにさんもハデスさまも、どうやら『ひよこ組』には(直接)手出しをしないつもりらしい。やだ紳士的。

 

 しかし……自分がプレイしていると、どうしても画面に釘付けになってしまうから解らなかったけど……まぁ当たり前といえば当たり前なんだけど、ゲームをプレイしているひとはこんなにも楽しそうな顔をするものなのか。

 ほほえましく一喜一憂するひよこ組の二人は、単純にひたすらに可愛らしい。加えて、うにさんとハデスさま、そのお二方の表情も……うん、とても活き活きとしてて楽しそうなんだよなぁ。

 

 

 

 

「あぁーーーー!!」

 

「ッ、しゃぁ!! ハッハァ!!」

 

 

「えいえいっ……ああっ! ねずみさんが!」

 

「すまぬな! あねう…………ん゛んっ、……霧衣(きりえ)殿」

 

「「ン゛ン゛ッ!!」」

 

 

 

 

 そうこうしているうちに……野獣共とひよこたち、双方で決着がついたようだ。

 

 激戦を制しリングに残った上位二人は……魔王(ハデスさま)青いハリネズミ(なつめちゃん)

 その後の結果はやっぱりというか、魔王(ハデスさま)が容易くハリネズミ(棗ちゃん)をぶっとばし……こうして一位と二位が決定する形となった。

 

 

 

「ではでは、第一試合の勝者はー? ハデスさんとナツメちゃんです! イェーイ!」

 

「イェェェイ!!」

 

「い、いえーい……?」

 

 

『いぇーい!』『さすハデス』『さすハデ』『なつめちゃんおめでとう!!』『さす冥王』『うにたそ……』『実質タイマンだったな』『うにたそ焦ったか』『なつめちゃんかわいい』『誰が勝ってもオレは嬉しい!!』『きりえちゃんざんねん』『さすハデ!!』『きりえちゃんがー!!』『きりえちゃんかわいかったぞ!』『うにたそ残念』

 

 

 うにさんとハデスさまの激戦もあり、思っていた以上に白熱した第一試合だったのだが……やはり視聴者さんも楽しんでくれていたようだ。

 順当に考えれば、当然うにさんとハデスさまの二人が勝ち抜けることもできたわけで……しかしながら(なつめ)ちゃんを残すという『予想外』の結果を見せることで、視聴者さんは大いに熱くなってくれているようだ。

 さすがプロの売れっ子配信者(キャスター)さんだ、場の盛り上げ方をよくわかっていらっしゃる。

 

 

 

 よし、それでは……われわれも後に続くとしましょうか。

 おれは確かに、(最終的に納得したとはいえ)不本意な形で『優勝賞品』に仕立て上げられてしまったけど……なに。

 

 

 おれが勝ってしまっても、構わんのだろう?

 

 



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362【誘客遊戯】ハラハラの第二試合

 

 

 大盛り上がりの中で決着した第一試合……その勝者はハデスさまと、なんと『ひよこ組』の(なつめ)ちゃん。

 見事に空気を読んでくれた『なかゲ部』の方々のお陰もあり、見所のある激闘ながらいい意味での予想外と、非常に盛り上がりを見せた一戦であった。

 

 

 そして……選手交替からの、第二試合。

 参加者はおれと、ラニちゃんと、『なかゲ部』からは刀郷(とーごー)さんと、ティーリットさま。

 

 この中では、圧倒的におれがよわよわなのだろう。何てったって霧衣(きりえ)ちゃんや(なつめ)ちゃん同様『ひよこ組』なのだ。マトモにやり合えば勝てるはずがない。

 しかししかし、そんなおれにも光明が差したのだ。それはほかでもない第一試合で証明されたこと。

 見ていて面白い盤面を作り出すためには、つよいひとはつよいひとを倒しにいかなければならない。つまり、おれは逃げに徹してさえいれば、勝手に二位になるという寸法なのだ!!

 

 

「ぐわーーーーーーーー!!!」

 

「ああ! わかめちゃん!?」

 

「ラニちゃんえっぐ……! 全く容赦ないじゃないすか!」

 

「はっはァ!! ノワを虐めて泣かせて辱しめる権利は誰にも譲らんよ!!」

 

「こわいこわいこわい!! やだ! ゆるして!! やだ、わたし死にたくな…………ああーー!!?」

 

「「あぁー…………(合掌)」」

 

 

 開幕からの怒濤のラッシュと的確なコンボで、またたく間におれの操るエルフの勇者はライフポイントを削りきられる。

 第二試合では唯一ハンデを貰っていたのに、しかしゲームオーバーになったのは一番最初っていう……どんだけ執拗に攻められてたの。ひどい。

 

 おれのみに粘着しているようなら、ハラスメントとして訴えかけてもよかったのだろうが……しかしそこはこの勇者、抜け目が無いというか単純に半端無いというか、刀郷(とーごー)さんとティーリットさまにも怒濤のアタックを仕掛けているんだよな。

 おれのライフを削りきりながら、またお二方も(漁夫の利があったとはいえ)一つずつ削ってみせる……いや、強すぎやしませんかね。

 

 

 というわけで、現在の戦況としては……黒ずくめの怪盗を操るラニちゃんが残機(ライフ)三で単独首位、その下にエルフのお姫様キャラを操るティーリットさまと、大剣装備のソルジャーを操る刀郷(とーごー)さんが続く。

 

 お姫様(ティーさま)ソルジャー(とーごーさん)怪盗(ラニ)の暴れっぷりに危機感を抱いたのか、どうやら共闘の構えを見せたようだ。

 

 

「……ッ! さすがに……やりづらいね、っ!」

 

「ラニさんさすがに、ちょっと危険すぎますん、でっ!」

 

「わかめちゃんのかたきじゃよー! えいっ、えいっ!」

 

(かわいい)

 

 

 そりゃあれだけ暴れまわり、哀れな少女(おれ)をたやすく殺めた相手とあっては、怪盗(ラニ)は警戒されて然るべきだろう。

 ソルジャー(とーごーさん)は距離を詰め、お姫様(ティーさま)は中距離から、怪盗(ラニ)にダメージをじわじわと蓄積させていく。

 がんぱれお二人。めっちゃ応援する。おれのかたきを討ってくれ。

 

 

 

「……ねぇ、ティーちゃん?」

 

「んう? なんじゃ?」

 

 

 二対一、さすがに旗色が悪いと悟ったのだろうか。

 ゲームつよつよで、イタズラが大好きで、たまにえげつない悪辣(あくらつ)さを見せる可愛い妖精が……その本性を露にする。

 

 

「ずばり『ファンタジー女子会』とか……どう?」

 

「…………? なにを、いうとる?」

 

「っ!! ティー様耳貸しちゃダメっす! 早くラニさん倒さないと……」

 

「ボクが勝ったら……()()()()()()『ファンタジー女子会』コラボ、持ち掛けようと思ってるんだけど」

 

「け…………けど?」

 

「ティー様ダメっす! 早く攻撃を! ラニさんの作戦っすよそれ!」

 

 

 

「『ファンタジー女子』であるティーちゃんも……コラボ、誘っちゃおっかな★」

 

刀郷(とーこー)くんごめんねどす」

 

「アァーーやっぱこうなったーー!!」

 

 

 

 な、なんてえげつない……!

 美味しそうな餌をちらつかせ、甘い囁きでティーリットさまを(たぶら)かし、あっという間に自らの手勢に引き込んで見せた。

 

 というわけで、いとも容易(たやす)く形勢逆転。

 怪盗(ラニ)お姫様(ティーさま)に畳み掛けられ、あわれソルジャー(とーごーさん)は確実に追い込まれていき……

 

 

 

「くっそぉーーーーー!!」

 

「「イェーーーーイ!!」」

 

「いやぁ……女子って怖ぇなぁ……」

 

「いやぁ……あれはラニちゃんが怖いわ」

 

 

 

 こうして第二試合の勝者は、漆黒の怪盗とエルフのお姫様……ラニちゃんとティーリットさまの『見た目華やかペア』に決まりまして。

 

 

 

刀郷(とーごー)さん……今度飲み行きましょっか……」

 

「あっ……いえ、光栄っすけどオレ、一応高校生って設定なんで……お気持ちだけ頂いときますわ……」

 

「そっ、……そう……です……か」

 

「のわっちゃんの誘い断るとか最ッ低やなデコ!!」

 

「そうだぞ刀郷(トーゴー)! わかめちゃん姫直々(じきじき)のお誘いだろうが!!」

 

「いや、でも! でもですよ! 仮にオレがあのお誘い受けたらまた炎上するでしょう!?」

 

「せやろな」「だろうな」

 

「ほらぁーーーー!!」

 

 

 ラニちゃんのえげつない策略の前に散った刀郷(とーごー)さんは、負けてなおかわいそうな目に遭っていた。かわいそう。

 かわいそうだけど……おかげでコメントのほうは大盛り上がりだよ。すごいね刀郷(とーごー)さん。

 

 

 

 ……というわけで。

 様々な悲劇こそあれど、事件と言えるような問題も特に起こらず……これで決勝に駒を進める四名が無事に決まったわけで。

 

 

 ではでは……第二回『のわめでぃあ杯【局長争奪戦】』、()えある決勝戦の参加者を、ここに纏めさせていただこう。

 

 第一試合からは、肉弾系魔王を操るハデスさまと、青いハリネズミを操る(なつめ)ちゃんがノミネート。

 終始紳士的な試合運びとなった第一試合、うにさんに半ば譲られるような形とはいえ、(なつめ)ちゃんが『ひよこ組』のなかで唯一、勝ち抜けの栄誉を賜るに至った。えらいぞ!

 

 そして混迷の第二試合からは……今大会の主催にして黒幕、ラニちゃん操る漆黒の怪盗、そして彼女に唆されたエルフのお姫様……を操作するエルフの王女、ティーリットさま。

 とにもかくにもラニちゃんの悪辣さが際立った第二試合、しかしそれでも寄せられるコメントはなぜか好意的なものが多い。げせぬ。

 

 

 以上の四名で闘っていただく決勝戦。ルールは変わらず、(なつめ)ちゃんのみ残機(ライフ)五スタートのハンデ戦だ。

 

 この一戦での勝者が……優勝賞品、つまりは『局長(おれ)に(公序良俗に反しない範囲で)何でも一つお願いを聞いてもらえる権利』を手にすることができる。

 おれとしては一も二もなく(なつめ)ちゃんに勝ってもらいたいけど、さすがにそれは厳しいか。

 

 

 

 というわけで、更に増えた多くの視聴者さんたち(おれ正直びびってる)が見つめる、注目の一戦。

 

 いざ尋常に……はいプレイボール!

 

 

 







試合運びがバレていたぞ。なんでだろう??(純粋無垢な瞳)






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363【誘客遊戯】メラメラの決勝戦

 

 

 全世界が注目(※誇張表現)している決勝戦……コメントの流れを見る限り、やはりというか一番人気は怪盗(ラニちゃん)のようだ。

 単純に強い上に、談合によりお姫様(ティーさま)を事実上味方につけているところも、支持が集まる理由だろう。

 

 次いで人気なのが、予選では安定した強さと紳士的な振る舞いを見せた魔王(ハデスさま)

 堅実に繋ぐ高火力コンボにより、近距離では無類の強さを誇るが……なにせ出が遅めという短所をどうカバーするか。仮想敵である怪盗(ラニちゃん)はそこそこの射程で出が早い技を多数持っている(ずるい)ので、苦しい戦いが予想される。

 

 エルフのお姫様のキャラクターを操作するエルフの王女様、ティーリットさまは……コメント欄で繰り広げられるトトカルチョではいまいち支持を集めづらいようだが、SNS(つぶやいたー)を見て駆けつけてくれた王国民(ファン)の方々からの声援がちらほら見受けられる。

 見目麗しく、可愛らしい王女さま……その人気と支持は、よそのチャンネルへ出張していても相変わらずのようだ。

 

 そしてそして、ひよこ組から唯一のノミネートである(なつめ)ちゃん。この子は勝つか負けるかは置いといて、単純に人気の高さがものすごい。

 かわいいし、素直だし、がんばりやさんだし……そして、かわいい。彼女が『あねうえ』と慕う霧衣(きりえ)ちゃん共々、大きなお友だちや海外のお友だちに絶大な人気を誇るのだ。

 

 

 

 そんな個性豊かな面々が出揃った、注目の決勝戦。気になる試合運びとしては……まずは大方の予想通り、怪盗(ラニちゃん)が頭一つ飛び抜ける形となった。

 お姫様(ティーさま)を伴い魔王(ハデスさま)に狙いを定め、二人掛かりの波状攻撃でじりじりと削っていく。

 

 

「お姫おまっ……! 勝ちたく無ぇのか!? ラニちゃんに全部持ってかれんぞ!?」

 

「わちラニちゃんが勝てば野望果たせるもーん。わかめちゃんとデートしたいだけじゃもーん」

 

「わはははは! そーゆーわけだよハデスくん! 大人しく我ら『ファンタジー女子部』の(にえ)となるがいい!」

 

「クッソ! 抜け目無ぇなァあのチビッ子!」

 

 

 高速で場を荒らし回り、出の早い攻撃を繰り出し牽制してくる怪盗(ラニちゃん)

 そしてその撹乱役に気を取られ過ぎると、出は遅いが高火力のお姫様(ティーさま)が一発を狙ってくる。

 

 更に分が悪いことに……魔王(ハデスさま)はどちらかというと、鈍重パワータイプのキャラクターだ。どちらか片方に反撃を試みたとて、そんな大きな隙を見逃して貰えるハズがない。

 魔王(ハデスさま)を最大の脅威と判断し、最優先で落としに掛かってくる『ファンタジー女子部』……狙いを定めた相手を複数人でボコるというその陰湿さに、ハデスさまもうすら寒いものを感じているようだ。

 

 

 

「クッッ、ソ……ぬぐぐ……」

 

「はははは! 逃げてばっかじゃ勝てないよ!」

 

 

 僅かな隙を見いだし、ほんの少しずつ反撃を試みるが……しかし二対一の状況は覆し難く、どうにも勝ちが見いだせない。

 

 もはや万策尽きたか、調子に乗った女子連中に一泡吹かせてやることは無理なのか。ハデスさまが、そしてあまりにも一方的な攻勢にさすがに『それはちょっと……』と感じ始めた視聴者さんたちが、世の不条理と悔しさを滲ませる中……ついに状況が大きく動く。

 

 

 

「あっ、当たりおったわ」

 

「「あっ!?」」「オォ!?」

 

 

 場を荒らし回った漆黒の怪盗……しかしそれ以上の速度を誇る音速のハリネズミが、独り黙々とキー入力トレーニングを続けていた(なつめ)ちゃんの手によってついに目覚めた。

 

 操る本人でさえ見失いそうな程の速度を乗りこなし、魔王(ハデスさま)のみに集中している怪盗(ラニちゃん)お姫様(ティーさま)の背後へと、青色ハリネズミさん必殺の突撃技が突き刺さる。

 

 少なくない魔王(ハデスさま)からの反撃、そして同様に少なくない同盟相手からのフレンドリーファイアによって、実は着実にダメージを蓄積していた『フ女子部』の二人は……思わぬ伏兵の介入により、二人纏めて残機(ライフ)喪失の憂き目に逢う形となったようだ。

 

 

 

「ッハッハッハ!! くく……っ! (ナツメ)ちゃん最ッ高だわ! よーやったよーやった!!」

 

「役立てたのなら、幸いよ。……戯れとはいえ、対等とはいえぬ勝負では楽しくなかろうてな。若輩の身なれど、我輩も仲間に入れて貰おう。此で漸く二対二よ」

 

「ず、ずるい! ハデさまずるい! わちもナツメちゃんとニャンニャンしたい!」

 

「欲が多すぎんだよ貪欲王女様!! どーせ結局若芽ちゃんち全員とお近づきになりてぇんだろ!?」

 

「はっはっは……参ったね。ナツメちゃん完全に見れてなかったわ」

 

 

 思わぬ形で頭角を表した(なつめ)ちゃんは、まるで虐められているような様相を呈していた魔王(ハデスさま)のフォローに入り、その後も()に餓えた野獣達と押しも押されもせぬ立ち回りを繰り広げていた。

 

 やはり『すばしっこさ』においては譲れないものがあるのだろうか。その速すぎる移動速度ゆえにやや扱いづらいピーキーなキャラクターを器用に使いこなし、フ女子部二人の動きを器用に削いでみせる。

 そうして動きが止まり、あるいは隙を晒したとあらば、すかさず魔王(ハデスさま)の剛腕が襲い掛かる。

 

 無論、(なつめ)ちゃんとてまだまだ初心者の域を出ない『ひよこ組』だ。コンボだってまだまだ未熟、うまくダメージを稼げないし、回避や復帰だって所々おぼつかない。

 しかしながら、ここに至ってはハンディキャップの存在がデカい。残機(ライフ)二つの差はいかんせん大きく、削り削られながらなんとか拮抗できてしまっている。

 

 

 こうして、思ってた以上に熱い戦いをみんなで見守ること……数分。

 

 

 

「ああーー!!」

 

「すまぬの、姫君よ」

 

 

 まずはお姫様(ティーさま)ハリネズミ(なつめちゃん)に撃墜され。

 

 

「ぬ!? …………くっ」

 

「ゴメンねナツメちゃん! キミはよくやったよ!」

 

 

 そんなハリネズミ(ナツメちゃん)も、怪盗(ラニちゃん)の強攻撃で盛大に吹っ飛ばされ。

 

 

 こうして残るは、怪盗(ラニちゃん)魔王(ハデスさま)の一騎討ち。

 双方ともダメージはかなり蓄積しており、いつダウンしてもおかしくない。

 

 飛び掛かり、牽制し、殴り、跳び、転がり、防ぎ、放ち、避け……一進一退の攻防が続き、どちらかの攻撃がマトモに入ればもう決まるだろう程にギリギリまで削り合い……

 

 

 

「……ッ!! 貰ったァ!!」

 

「させるかァァ!!!!」

 

 

 勝敗の決め手は……ステージ全体に流星雨(ダメージはさほどではないが回避が非常に困難)を降らせるアイテムを拾った怪盗(ラニちゃん)が、それを使用し発動ポーズを取った……その一瞬の硬直に。

 

 対する魔王(ハデスさま)は所持していた金属バット(専用モーションの打撃技が使用可能)を装備解除し、そのまま怪盗(ラニちゃん)目掛けて投げつけ。

 

 

 本来であれば、強パンチに届かぬ程度しか入らないはずのダメージだが……互いに爆発寸前までダメージが溜まっていた状況とあっては、それを爆発させるには充分な刺激だったらしく。

 

 

 

「ああーーーーーー!!」

 

「ラニちゃんーーーーー!!」

 

「ッしゃァァァ! やったぜ(ナツメ)ちゃん!!」

 

「かかかか! やりおったな! 魔王殿よ!」

 

 

 

 手に汗握る決勝戦、その結果は……『なかよしゲーム部』所属、ハデスさまの優勝。

 

 こうして第二回『のわめでぃあ杯【局長争奪戦】』は、過去最大を記録する視聴者さんの数と、過去最大の盛り上がりを見せるコメント欄に見守られ、大盛況のもと幕を閉じ……

 

 

 

 

 優勝者への賞品、兼・おれへの罰ゲームの執行が、無慈悲にも決まったのだった。

 

 

 



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364【配信終了】ガヤガヤの慰労会

 

 

「ええーと、では……お疲れ様でした!」

 

「「「「「「お疲れ様ーー!!」」」」」」

 

 

 

 都市部からはそれなりに離れた山間部、岩波市の滝音谷フォールタウン。

 お世辞にも賑わっているとは言いがたい……というかぶっちゃけおれたちの他には数軒しか人が住んでいない気がする、緑深い山の斜面に拓かれた別荘地の一角。

 

 売れ残り区画をヤケクソ気味に抱き合わせた区画に建つ、とある一軒の大きなお家からは……閑散とした別荘地には似つかわしくない、たいへん賑やかな声が漏れ出ていた。

 

 

 

「……つっても今日日、なかなかホームパーティーとかできねーよ! てか出来るような(ウチ)ある知人がまず居ねぇしな!」

 

「わかめちゃんわちと結婚しよ、わちもこのおうち住む」

 

「気持ちはわかりますが落ち着いてくださいティー様。のわっちゃんはあたしが唾つけてるんで」

 

「おい貧乳。どさくさ紛れに何いってんだお前。八代(やしろ)んにチクるぞ」

 

 

 

 今まではその広さを全く活かせずにいたリビングスペースには、普段使っている六人掛けのダイニングテーブルに加えて折り畳みのアウトドアテーブルが姿を現し……そうして拡張されたテーブルの上には、シオンモール謹製のお惣菜と各種ドリンクが並んでいる。

 例によって烏森(マネージャー)さんとラニちゃんがダッシュで調達してきてくれました。

 

 ひろびろした空間に多人数、そして料理とお飲み物……これはまさしく、ハデスさま(の(なかのひと))の言うとおり『ホームパーティー』と言って差し支えないだろう。

 おれのおうちで、おれが憧れる方々と、テーブル囲んでわいわい騒ぐことが出来る。

 まさかこんなことが起こるなんて……それこそ『木乃若芽ちゃん』のモデリングデータが消し飛んで自殺を考えていたときには、まさかまさか考えもしなかった。

 

 

 

「いやー……わたしなんかが、ですよ。……ほんと『まさか』ですよ」

 

「ハハッ。『まさか』はコッチのセリフだぜ。刀郷(トーゴー)が話題にした娘っ子が、まさかこんなに楽しい事持ち込んでくれようとは、ってな!」

 

「そうっすよ! 前々から怪しいとは思ってましたけど……まさかラニちゃんが実在妖精さんで、まさかワープ魔法まで使えるなんて!」

 

「うちらとの打ち合わせの日の朝に伊逗半島おったもんな。まさかとは思っとったけど、ほんまにワープしてくるとは思わんかったわ」

 

「へへへ……いやぁ、【変身】デバイス公開する時点で、もう遅かれ早かれかなぁって。配信者(キャスター)さんなら守秘義務まわりしっかりしてそうだし、たぶん大丈夫かなって」

 

「もぐ、もぐ……ボクとしても、やーっと楽になったよ! 今まではロクにお話もできなかったし!」

 

 

 

 そう……『にじキャラ』さんたちへ【変身】デバイスを提供することは、つまり先方を共犯者として抱き込むということに他ならない。

 やっとコソコソせずに、文字通り羽根を伸ばせるようになったことが嬉しいのだろう。霧衣(きりえ)ちゃんお手製のだし巻き玉子にかぶりつきながら、今回の主催にして黒幕の妖精さんは朗らかに笑う。

 

 

 いままでこの世界には……少なくとも現代においては存在していなかった、【変身】魔法を始めとする様々な幻想(ファンタジー)技術。

 それらの秘匿、および限定的な提供に関して、鈴木本部長をはじめとする『にじキャラ』さんたちと協力関係を構築する。

 こと配信業において、一・二位を争うシェアを誇る『にじキャラ』さんが後ろ楯となってくれるのならば……色々と、心強い。

 

 ただし、おれたち『のわめでぃあ』の立ち位置としては、以前と同じ個人勢のままだ。

 あくまで技術提供と一部情報隠蔽に関して、協力関係を結ぶだけ。……あとはまぁ、個人的なお付き合いをさせていただくくらいだろう。

 

 

 

「はー、かわいい……ラニちゃんもかわいいし、なつめちゃんもかわいい……きりえちゃんもかわいい……もちろんわかめちゃんも。……やっぱやだぁ、わちここに住むぅ!」

 

「住むのは無理ですって。……遊びに来ていただくくらいなら、大歓迎ですけど」

 

「「「「マジで!!!!」」」」

 

「ちょっ、あー……オレ知らんっすよ?」

 

「えっ!? わたしまた何かやっちゃいました!?」

 

「もぐ、もぐ……まあ、賑やかにはなりそうだね? 良かったじゃんノワ。てぇてぇだよ」

 

 

 

 まぁ……ラニちゃんが手のひらサイズなこともあり、正直持て余し気味だった拠点である。

 気の利いたおもてなしが出来るかはわからないけども、遊びに来てくれるというのなら……おれは正直、うれしいかなって。

 

 せっかく招き甲斐がある物件に住んでいるのに、今までお客さんらしいお客さんを招いたことがなかったのだ。

 今回みたいな、ちょっとしたホームパーティーを開いても楽しいだろうし……なんならお庭を開拓して、身内用のテントサイトやBBQ場なんかも作ってみてもいいかもしれない。

 オープンに開かれた場ではなく、あくまで(貸借とはいえ)私有地なので……場合によっては【変身】したままでも騒げるかもな。

 

 

 

「……うん、大丈夫だと思います。敷地もそこそこ広いし、私有地扱いだから部外者も入ってこないだろうし……人目を避けて屋外撮影とかも出来るかも」

 

「す…………スッゲェな、マジで」

 

「……うーん、やっぱもしかすると相談させて貰うかもしれんわ。いい感じに使えて秘匿性も高い土地、鈴木さん探しとった気がする」

 

「わかりました。じゃあ、こっちも準備しときますね。テーブルももうちょっとカッコよくしたいですし……お布団とかも」

 

「「「「泊まれんの!!?」」」」

 

「ヒュ、っ…………えっと、まぁ……今はお布団一組しかないですけど、寝る場所的には……そっち十畳が二間(ふたま)あるので」

 

 

 おれの指し示す方向、今は間仕切りの障子で遮られている畳の間のほうへと視線を向け、なにごとか考え込んだかと思うと……やがて車座になってひそひそと相談をし始める『なかよしゲーム部』の皆さん。

 その表情の真剣さには、ちょっと近づき難いものを感じてしまうが……まぁ、いくらなんでもいきなり『今晩泊めて』とはならんだろう。

 何やら手招きされて飛んでったラニちゃんが、いやに良い笑顔で何事か頷いているけど……いやいやまさか、まさかそんな、いくらなんでもそんなね、皆さん荷物だって持ってないだろうし、なにより売れっ子の皆さんには週末予定もあるでしょうし。

 

 

 

「ねぇねぇノワ、明日泊まりに来て良い? だって」

 

「明日かァーーー!!! ……うぅん、まぁ……二言はありません(おとこなので)。良いですよ」

 

「「「「イェーーーーイ!!!」」」」

 

 

 やっぱり……荷物を取りに行ったり、またこっちへ戻ってきたり……そういう相談だったのだろう。

 最大の懸念である移動手段の問題がラニのおかげで解消されるのなら、あとはもう勝ったようなものだ。この分ならおそらく、皆さん明日の夜は配信予定を入れていないのだろう。

 

 とりあえず、先方がその気だというのなら……おれはお客様が配信(しごと)を忘れてゆっくり出来るよう、招待主(ホスト)として最善を尽くさねばなるまいて。

 

 

 

「んじゃあ……わかめちゃんのマネージャーさん。烏森(かすもり)さん、つったっけ?」

 

「あっ、ハイ! 何でしょう、えっと……ハデス様?」

 

嘉手納(カデナ)で良いっすわ。ちょーっと買い物手伝ってくれません? 布団調達しないと。支払いオレが持つんで」

 

「「いやいやいやいやいやいや!!?」」

 

「移動はラニちゃんが手伝ってくれるってんで、一丁お付き合い頼んますわ。刀郷(トーゴー)お前も来い。荷物持ちくらい出来んだろ」

 

「了解っす! まぁまぁまぁまぁ、そもそもが我々のわがままですんで、これくらいは出させてくださいって!」

 

「そうやよー。ハデ兄ぃとかどうせお金持ちなんやし! なんならソファとかねだってもええくらいやねんな!」

 

「その辺はお姫に買わせとけ」

 

「ちょっと!? わち聞いてない!」

 

 

 

 おれたちが止める間もなく、あれよあれよという間にそういう流れになってしまったわけだが……皆さんに割と本気で『心配すんな』『どうせ使わせて貰うのは自分らだし』『これでも有名配信者(キャスター)やぞ』などと押されてしまっては、なんとも断りづらく。

 加えて、あまりにも皆さん楽しそうに相談するもんだから……まぁ、お言葉に甘えることにしましょうか。

 

 

 そんなこんなで、ハデスさま(本名嘉手納(カデナ)さんというらしい)とモリアキと刀郷(とーごー)さんは、移動係のラニちゃんともどもワイワイと買い物に出掛けていった。

 行き先は恐らく、おれたち行きつけのシオンモールだろう。あそこは広いし品揃えも豊富だし、なによりも監視カメラの死角も多い。ちょっと人に言えない手段でモノを運ぶおれたちにとっては『もってこい』なのだ。

 

 後に残されたおれたちは……とりあえず空いたお皿をシンクへ運んだり、少しずつ残ったお惣菜を一皿に纏めたりと、出来るところから後片付けを始めていった。

 

 

 

「あーは言ったけど……ほんまに迷惑やなかった?」

 

「いえ、大丈夫ですよ。実際わたしも……ちょっとどころか、かなり楽しみですし」

 

「わちもお泊まり会たのしみ! ありがとねわかめちゃん!」

 

「……えへへ」

 

 

 

 しかし……そっかぁ。おれのおうちでお泊まり会かぁ。

 

 未だにどこか『おそれおおい』と感じる部分もあるのだが……こんなに喜んで貰えるというのなら、まぁいいか。

 おもてなし、がんばろう。

 

 



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365【会場視察】お迎え体制準備

 

 

 午前から始めた『第二回のわめでぃあ杯』を終え、ちょっと遅めの昼飯兼その『おつかれさまでした会』を終え……買い物に出掛けていった男性陣が戻ってきた時点でも、まだ十五時を少し回ったくらい。

 日没が早い冬、かつ生憎の雨模様ということもあり、お外はかなり暗くなってしまっているが……時間のみで考えると、まだもう少し何か出来そうな時間ではある。

 

 なのでせっかく人手があることだし、また『どうせ使わせて貰うの我々なんで』というお言葉に甘え……調達してきて頂いたおふとんのセッティング、カバー掛けの作業のお手伝いをお願いしてみた。

 するとどうだろう、皆がみんな嫌な顔ひとつせずに、喜んでと協力を申し出てくれた。ありがてぇ。

 

 

 で、さっそく場所を暫定お客さん寝室である一階の続き間へと移し、ラニちゃんに【蔵】を開いてもらったわけだけど……あの……

 

 

 

「何組あんのこれ!?!?」

 

「五の五で、十組かね。十畳二間(ふたま)って聞いたからよ、出入口に敷かないって考えると、一部屋五組かなって」

 

「あばばばばば…………モリ、っ……烏森(マネージャー)さん! なんで止めなかったんですか!?」

 

「いや……三対一なんすよ。民主主義の結果なんすよ……」

 

「ラニぃぃぃぃぃぃ!!!!」

 

「わっはっはっはっは!!!!」

 

 

 いや、だって……待ってよ。

 掛と敷と枕とそれらカバーの六点セットで、一セット一万円くらいするんじゃないの。

 

 

「いやもっと安かったわ。毛布付きの七点セットで、一セット八千円だったかな」

 

「十セットで八万円じゃん!!!?」

 

「大丈夫だって。刀郷(トーゴー)も持ってくれたしよ」

 

「そうゆう問題じゃ無くってですね!!?」

 

「もー、のわっちゃん早よ手ぇ動かしーや」

 

「アッ…………ッス。スマセン……ッス」

 

 

 

 おっといけない。大人(オトナ)の余裕と財力を見せつけられ、ちょっと平静を欠いてしまったが……この押し問答は既に通った道だ、今更蒸し返すのも大人げないだろう。おれはオトナなのだ。

 

 実際のところ、おれも霧衣(きりえ)ちゃんも(ラニと(なつめ)ちゃんも)自分用の布団や寝床を持っているので、この布団を使うことは無いだろう。

 かといって……いや、ほんと恥ずかしい限りなんだけど、おれのおうちに泊まりに来ようだなんていう酔狂な知り合いは、現状『にじキャラ』関係者さんくらいしか思いつかない。

 なので彼らの『どうせ使うのは自分達なので』という主張は至極もっともであり、ほかでもない調達した本人が納得しているのならば……おれが気にするだけ無駄なのかもしれない。

 

 

 

「いやぁー……こんだけお布団並ぶと、ほんと壮観ですね……」

 

「温泉旅館みたいっすね! オレなんかテンション上がってきました! 修学旅行みたいで!」

 

「わかめちゃん温泉旅館行ってきたんじゃろ? いいなぁ、わちも温泉行きたかったやわぁ……」

 

「いや姫さんよ……さすがにそれは高望みってもんだぜ?」

 

「あ、じゃあ泊まり来たとき行きますか? 温泉近くにありますし」

 

「「「「あるの!?!?」」」」

 

「え……えぇ、温泉街すぐそこなので」

 

 

 そういえばうちのお風呂、温泉引き込み可能って書いてあったな。

 今までは普通のお湯で満足してたけど、せっかく引き込める物件に住んでいるのだ、引き込んでみても良いかもしれない。

 

 ただでさえ広々とした、家とは思えない浴槽なのだ。ここに滝音谷の温泉が加われば、その癒し効果は計り知れない。

 そういえばラニの【蔵】には生コンが残っているはずだ。よさげな岩をかき集めて、露天風呂なんかも作れちゃうかもしれない。夢が広がる。

 

 

 ……などとおれが今後の開拓について思いを巡らせている間、『なかゲ部』の方々も話は纏まったようだ。おれはかしこいからな。何て言われるかだいたい予想ついたぞ。

 まあお泊まりの提案を受けた時点でそうなる気はしていたので、既に心構えはできている。以前お邪魔した落水荘さんなら立ち寄り湯もやってるみたいだし、送迎もハイベース号があれば大丈夫だろう。

 

 

「……わかめちゃんよ」

 

「はいなんでしょう」

 

「温泉旅館始める気()ぇ?」

 

「わかりました。だいじょ……は?」

 

 

 

 

 はっはっは!

 そんなの予想できるわけ無いだろ!!

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

 温泉旅館は置いておくにしても、立ち寄り湯送迎プランのほうはお気に召していただけたらしい。

 『浴衣レンタルある?』とか聞いてくる困ったお嬢さんがいましたがあるわけないやろ民家やぞ(半ギレ)。浴衣のご利用は持ち込みでお願いします。

 

 お布団のほうも計十セットのカバー掛けが終わり、綺麗に畳んで和室の物入れに格納することができた。

 そのまま畳の間で膝を突き合わせ、なにやら宿泊プランを練り始める『なかゲ部』の皆さん。おれも招待主(ホスト)としてお客様の不安を無くすべく、お問い合わせには誠意をもって答えさせていただきます。

 

 

「風呂は……じゃあお言葉に甘えて、立ち寄り湯案内して貰うとして……飯って、食えるとこある? さすがに人数分用意して貰うわけにもいくめぇよ」

 

「温泉街のほうに『あまごや』さんっていう和食処があります。他にも何軒かあった気がするので……畳んじゃってなければ」

 

「あーそっか! 滝音谷ってあれですよ、開発工事で滝が消えちゃったやつですよね?」

 

「そうですそうです。やっぱお客さんの数減ってきちゃってるみたいで」

 

 

 落水荘の支配人さんは、頼もしいことにまだまだ諦めるつもりは無いようだが……大きな目玉を失った観光地が盛り返すには、並々ならぬ苦労が待ち受けているだろう。

 おれとしても、せっかく徒歩数分の好立地に居を構えさせていただいたのだ。どうせなら長いお付き合いをさせていただきたいなぁ……とは、前々から思っている。

 

 起死回生の一手として、ミルさんの協力のもとで密かに計画している計画はあるのだが……それはまだ、時期ではない。

 あと四ヶ月か……五ヶ月程度は、機を窺いながら待つ必要があるのだ。

 

 

 

「…………このあたり……『光』引かれてるって言ってたよな」

 

「そうですね。例の温泉街も引かれてるはずですよ。むしろそっちが主目的みたいで」

 

 

 まぁ今回のお泊まりにはあまり関係ないので、と話を戻そうとしたところ……なにやら考え込んでいた嘉手納さん(ハデスさま)が、ぽつりぽつりと口を開く。

 

 

「その……『落水荘』さん? って……プロジェクター貸し出しとかある?」

 

「んー……すみません、わたしはそこまでは……」

 

「まぁそこは持ち込みゃ良いだけか。宿って事ぁ広間もあるだろうし」

 

「あー……なーるほど、そういう。うんうん、あたしは賛成やよ。青ちゃんが急かしてたもんなぁ」

 

「あーいいっすねー! そっか……何も函根(はこね)じゃなきゃいけない理由も特に無いっすもんね」

 

「わちはええよぉ。わかめちゃんたちとも遊べるし」

 

「…………?? ……えーっ、と?」

 

 

 置いてけぼりを食らうおれの目の前、『なかよしゲーム部』の皆さんはなにやら笑顔で頷き合い……

 

 

 

「度々すまん! わかめちゃん! その『落水荘』の場所、ちょっと教えてくんねぇかな?」

 

「えっ? い、いいです、けど……」

 

「おう、ちょーっとな。下見と……良さげだったら、予約。遊び来た()()()で、わかめちゃんらを良いように使って悪ぃんだけど」

 

「い、いえ……おかまいなく……?」

 

 

 嘉手納さん(ハデスさま)はそう言って立ち上がり、『なかよしゲーム部』の皆さんもそれに続く。

 おれは困惑しながらもハイベース号の出撃準備を始め、ラニちゃんは例によって『おもしろそうだ』と興味津々の様子である。

 

 

 それにしても、広間の『予約』とな。

 なにがあるんだろ。合宿とかかな。

 

 



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366【会場視察】準備は万端です

 

 

「いやいやいや……良いトコ取れそうだわ! 本当ありがとなわかめちゃんと……何よりも、ラニちゃん」

 

「はっはっは! なんのなんの! えらいヒトには積極的に媚びる(タチ)なのだよボクは!」

 

「お風呂もめっちゃ良さげな感じでしたよ。あれならセラさんも喜びますかね」

 

「そりゃもー大喜びやよー! わちだって楽しみじゃもーん!」

 

 

 

 細かな経緯は省くが……おれの拠点への『お泊まり会』に端を発した『なかゲ部』皆さんの打ち合わせは、なんと近いうちに『落水荘』さんにて『温泉旅館合宿コラボ』を行わせていただくところまで到達したらしい。

 

 事務所からの距離や他メンバーの希望も鑑み、当初は函根(はこね)を主軸に宿を探していたらしいのだが……いかんせん『いいお値段』なことが殆ど、かつ部屋数がなかなか押さえられなかったらしく、会場選びに難儀していたのだとか。

 なんでも宿泊部屋だけでなく、スタジオとして使用できる大きめのスペースが必要で、むしろこっちがネックだったようだ。

 収録するつもりなら静かじゃなきゃマズいもんな。お隣で宴会やってたらアウトなわけだ。

 

 光回線が引かれていることと、それを使わせていただけること、そして宴会用の広間のひとつを数日借りきって収録スタジオとして使わせて貰えること。

 そしてなにより……希望日程で希望する部屋数が確保でき、おまけに予算内に収まったことなどから、『なかゲ部』部長(らしい)ハデスさまがマネージャーさんと電話相談の上、その場で決断を下していた。

 

 支配人の小井戸(こいど)さん(おれのことを覚えててくれた!)にはしきりに感謝されたのだが……どちらかというと決め手はやはり、充分な設備をきっちり管理していてくれた落水荘さんがわの努力によるものだろう。

 おれが直接貢献したわけじゃないが、支配人さんの努力が少しでも報われるのなら、おれとしても嬉しい。

 

 

 

 

「……はい、到着です。お足元お気をつけください」

 

「ありがとう。……すっかり遅くなっちまったな」

 

「だいぶ話し込んでましたもんね……おぉ、雨上がってますよ」

 

「ほんとや。助かるわぁー」

 

 

 おうちの横の露天駐車場に(ハイベース)を停め、お客様がぞろぞろと降りてくる。

 お留守番していた霧衣(きりえ)ちゃんと(なつめ)ちゃんの笑顔に出迎えられ、お客様たちもとてもいい笑顔だ。

 

 

 さてさて、帰ってきて早々だが、本日のお客様である『なかゲ部』の皆さんは、そろそろお帰りのお時間だという。……もうそろそろ十七時だもんね。

 元々『にじキャラ』さんの事務所で『合宿』について打ち合わせをしていたところに、配信をハブられた腹いせに悪巧みを画策していたラニちゃんに(そそのか)され、そんなこんなで突発的おうちゲームコラボに駆けつけてくれ(ちゃっ)たのだとか。

 

 なので……事務所から失踪して、そろそろ六時間になるわけで。あちらさんのマネージャーさんたちも心配してるだろうし、むしろ今までごめんなさいな感じである。

 

 

「まぁ金剛さん……あぁウチのマネージャーな。『優勝グッジョブ!』ってREIN(メッセージ)入ってたし、多分大丈夫だろ」

 

「そっすね。むしろ『優勝商品』に喜んでくれてるんじゃないですか? 引く手数多(あまた)っすよわかめちゃん」

 

「わちら居なくなった代わりに、たぶん今ごろ『どう料理しようか』会議始まっとるよ」

 

「便利やもんなぁ若芽ちゃん。愛でてよし泣かせてよし虐めてよしの万能っ子やもん」

 

「なんですかその評価!!!?」

 

 

 

 そんな不穏な言葉を残しながら……例によってラニの専売特許である【繋門(フラグスディル)】の魔法によって、『なかゲ部』の皆さんは帰っていった。……まぁ、また明日お会いするんだけどね。

 

 しかししかも今回の【繋門(フラグスディル)】、出口はなんと『にじキャラ』さん事務所ビルの階段踊り場らしい。……ついに本陣に直接乗り込む【座標指針(マーカー)】打っちゃったか。セキュリティとか絶対ヤバヤバだろそれ。

 あっ……それぞれの事務所の扉には夜間ちゃんと鍵掛かるから大丈夫なのね。鈴木本部長も【座標指針(マーカー)】のことはちゃんと把握してるのね。まじかよホントに大丈夫なのか株式会社NWキャスト。

 

 

 

 さてさて、ともあれお客様もお帰りになって一段落したので……こっちはこっちで『受け入れ準備』のため活動していこうと思う。

 とりあえず取り急ぎモリアキに連絡を取ってみたところ……寸法的にも雰囲気的にも良さそうなソファが見つかったらしく、おまけに(ほろ)つき貸し出しトラックも確保できそうだという。

 さすがお値段以上。いつも頼りになります。

 

 モリアキにはおれが『なかゲ部』の方々を『落水荘』へとご案内する間、シオンモールで要調達品を見繕って貰っていたのだが……さすがモリアキ、おれの注文をきっちりこなしてくれていたようだ。

 霧衣(きりえ)ちゃんたちに留守番をお願いし、ラニを伴っておれもシオンモールへと場所を移し、周囲の注目をあえて無視しながらお値段以上の家具屋さんへと足を運ぶ。

 

 

 

「お疲れ様です()()()()()()()()。下見ありがとうございます」

 

「あぁ、お疲れ様です()()()()。一応リストにあったものは一通り台車に纏めてますので、確認お願いします」

 

「はい。えーっと……キャットタワー(特大)ひとつと、座卓がふたつと、ソファ……おぉ、やっぱ結構大きいですね……」

 

「そりゃそうっすよ。駐車場のトラックまでは運んでくれるみたいなんで」

 

「助かります。……じゃあ、お願いします」

 

 

 

 魔法の(クレジット)カードで支払いを済ませ(顔覚えられてた。いつもありがとうございます、とか言われた)、品物はお店のスタッフさんに台車でガラゴロと運んでもらう。それにしてもスゲーなこれ、ちょっとした大名行列だわ。

 どうにかこうにか無事に幌トラックへの積み込みを終え、スタッフさんは会釈を残して撤収していった。あとはいつも通り、幌をキッチリ閉じてあるのを確認した上で、手早く【蔵】に商品を格納していくだけだ。

 ラニちゃん、いつもありがとうございます。

 

 

「じゃあモリアキ、三十分くらい適当に乗り回してきて」

 

「了解っす。トラック返却したらREIN(メッセ)入れますんで、迎えお願いしますね」

 

「まーかせて! それじゃ頼んだよ、モリアキ氏!」

 

 

 一応アリバイ作りのため、幌トラックには南区のおれの部屋あたりまで行って貰い……適当なところで店舗へ戻り、空っぽのトラックを返却してきてもらう。

 一方で中身は颯爽と岩波市へ帰還し……キッチンで霧衣(きりえ)ちゃんと(なつめ)ちゃんが仲睦まじくお料理してるのを五感で感じながら、大型家具の組み立てを行っていく。

 

 

「できた!!」

 

「すごいね……あっという間だ」

 

 

 まぁ……ソファなんて骨格はほぼ出来てるもんな。ボックス状の構造体を並べて金具で固定して、その上にクッション部分をのせれば完成だ。リビングが一気にリビングっぽくなったぞ。

 座卓なんてもっと簡単。天板に脚を四本固定するだけ。がらんどうだった一階の畳の二間も、これでやっと『和室』っぽくなった……かも。

 

 そしてそして、おれ的には今回一番のいちおし家具がこちら、キャットタワー(特大)だ。

 (なつめ)ちゃんがお料理のお手伝いに集中している隙に、梱包を解いてしゅばばばばっと組み立てていく。身体強化魔法フル稼働だ。

 リビングの吹き抜け部分に設置し、位置を合わせて壁に固定。最終的にはこのタワーをはしご代わりに、二階和室の換気窓から直接出入りできるようにしたいのだが……さすがに高さと足場が足りないので、後日直接キャットウォークを設置することにしよう。

 

 

 

「わかめさま、お待たせ致しました! 夕餉の準備が整いましてございまする!」

 

「ありがと霧衣(きりえ)ちゃん。こっちも終わったから……ごはんにしよっか。もうそろそろ七時だし」

 

「家主殿、家主殿。我輩も胡瓜を切ったのだぞ。あと馬鈴薯を潰したぞ」

 

「ほんとぉーえらいね(なつめ)ちゃんー! ……よし、じゃあ……そんな(なつめ)ちゃんにプレゼントだよ! ほら!」

 

「む……? ………………む!? ……おぉ……!!」

 

 

 

 聳え立つ段々な構造物が、いったい何のためのものなのかを理解したのだろう。(なつめ)ちゃん(猫耳幼女モード)はその瞳をらんらんと輝かせ、ぴょこぴょこと跳び跳ね始める始末。

 

 ふふふ、喜んでくれてなによりだけど……まずは晩ごはんをいただこうね。

 とんかつと千切りキャベツと、(なつめ)ちゃんがお手伝いしたというポテトサラダ。とってもおいしそうな献立だ。

 

 

「やほーノワ。戻ったよぉ」

 

「ありがとうございます白谷さん。つつがなく完了しましたよ、先輩」

 

「おかえり二人とも。ありがとね」

 

 

 家具を追加して拠点の快適レベルも上がり、(なつめ)ちゃんも順調に我々に馴染んできてくれて……みんなのおかげで、少しずつ前へ進んでいる実感がある。

 そのことを喜びながらおいしい晩ごはんをいただき、ごちそうさまと片付けを終え……おれは夜の日課と化した定常業務、お礼メッセージ収録への気力を漲らせる。

 

 やれること・できることは、次から次へと思い浮かんでくる。

 焦りすぎはよくないけど……それでも、堕落した生活は送りたくないもんな。

 

 

 明日も、明後日も、頑張ろう。

 

 



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367【日曜大工】『おにわ部』発足

 

 

 はいみなさんおはようございます。日付変わって日曜日ですね。

 

 昨晩は……えっと、あの、まぁ……おたのしみでした。

 なにがって聞かれると、まぁお風呂なわけですが……お客様がお帰りになられた後、少々オイタが過ぎたいたずらっ子にですね、『ねぎらい』の意も込めてメンソ○ータムしたんですけどね。だいじなところに塗って差し上げたわけですけどね。

 

 

 ……いや、すごかった。びっくりした。

 大洪水っていうか、大雨だった。

 

 あと……声がね、とても可愛らしかった。ふふふ。

 

 

 

 というわけで、おたのしみの翌朝。

 どしゃ降りだったラニちゃんとは異なり、本日は快晴……とまではいかないまでも、土日の間は降り続くだろうとの予報を華麗に裏切ってくれた。

 いうなれば『曇り時々晴れ』といったところだろうか。ほぼほぼ曇天だがごく稀に晴れ間が覗く程度、薄暗いけど雨は降らないみたい。よかったね。

 

 

 

「お客さん来るまで時間あるし……キリが良いとこまで進めちゃおっか」

 

「やいさほー」

 

 

 そう……今日のお昼過ぎからは、なんとなんと大事なお客さんが遊びに来てくれるのだ。

 しかもびっくりなことに泊まりがけ、要するにおれのおうちで『お泊まり会』が執り行われるわけなのだ!

 

 すごくて! えらいひとが! お泊まりに来てくれるのだ!!

 

 

 朝からそわそわしてなんか落ち着かなかったので、こういうときは身体を動かしてスッキリするべきだと相場が決まってる。とはいえもちろんセンシティブなことをするつもりはない(※なぜなら健全だから)ので、あくまで健全な方向で発散しようと思いまして。

 

 それで……せっかく雨が上がったということもあり。

 撮れる部分だけでも、撮影を敢行してしまおうということになったわけです。

 

 

 

 

「ヘィリィ! 親愛なる人間種諸君! 毎度お騒がせしております魔法情報局『のわめでぃあ』おにわ部……今日の朝ごはんはだし巻き玉子でした、部長の木乃(きの)若芽(わかめ)です!」

 

「ヘィリィ! ナマ配信はまだ無理だけど、撮影動画なら編集魔法でバッチコイ! ダシマキタマゴめっちゃおいしかったよ、万能系アシスタントフェアリーのラニことシラタニです!」

 

「さぁさぁ本日はですね、のわめでぃあの『おにわ部』シリーズということでですね! こちら『おにわ部』はその名の通り『お庭の開拓』を進めていこうというシリーズになります!」

 

「俗にいう『でー・わい・わい』動画ってやつだよね。木を切ったり家具を作ったりお庭を整えたり」

 

DIY(でぃーあいわい)ですね。第一回目となる今回は、屋外での活動の拠点として使える作業小屋……兼・ガレージをですね、つくってこうと思います!」

 

 

 

 とりあえず冒頭部分を撮っておき、あとはタイムラプスというか写真を撮ってコマ送りというか、編集頼みで動画を組み立てていけばいい。

 とはいえ魔法を使っているところを大公開するわけにはいかないので……大事なところは隠しつつ、それでいて工程がわかるように、いろいろと悩みながらカメラに収めていく必要があるわけだ。

 

 

 

 ではでは、カメラもセットできたことだし……早速作業のほうに取りかかっていこう。

 

 

 先日マジカルコンクリートミキサーで打設したコンクリートは、およそ充分と思われる時間置いておいたお陰だろう、今となっては完璧に……カッチカチに硬化している。

 幅およそ八メートル、かけることの奥行きおよそ六メートル。手前に向かっていい感じに排水勾配がつけられた灰色のコンクリート面には、壁を立てる予定のラインに沿ってニョキニョキと鉄筋アンカーが突き出ている。……つくしんぼみたいだな。

 

 というわけで、第一段階。まずはこのラインに沿って、基礎立ち上がりとなるコンクリートブロックを並べていく。

 カメラの撮影範囲外で、魔法をフル活用して用意したモルタルを用意。コンクリートブロックの下にモルタルを塗って、基準となる一個を……ブロックの穴に鉄筋アンカーを通すように、設置する。

 ぽっかり空いた穴に鉄筋が通され、しかし今のままではガタガタになってしまうので、穴の中にモルタルをつめつめしておこう。これでモルタルが硬化すれば、鉄筋がズレずに固定されるわけだな。

 

 

 あとはこのコンクリートブロック一個を基準として、コンクリートエリアの外に適当に杭を打って糸を張り、水平を出すための基準を作り……その高さに合わせて、モルタルを塗ったブロックをずらーっと並べていく。

 ここはまぁ、編集のときは(エヌ)倍速ですっ飛ばしていいあたりだろうな。作業内容も単調だし。

 

 そんなこんなで、壁が立つ予定のライン……『コ』の字型にブロックを設置し終え、柱や屋根を組み上げるためのコンクリート基礎が立ち上がった。

 

 

 ……まあ、こんなかんじで……あとは巻きで進めていく。

 

 『コ』の字のコンクリートブロックの上に土台を渡し、鉄筋アンカーと専用金具で結合。アンカーの数も専門のサイトを参考に充分植え付けておいたので、強度も問題無いはずだ。

 

 これで台風なんかの強風に煽られても、上部構造がすっぽ抜けて倒壊することは無い。……たぶん。

 ……うん、自分を信じよう。自分とDIYハウツーサイトの管理人さんを信じよう。

 

 

 というわけで作業再開だ、アンカーを固定した土台部分に、今度は壁を立てていくわけだな。

 

 ここで使うのが『ツーバイフォー』工法。視聴者さんたちも名前くらいは聞いたことがあるのではなかろうか。

 詳細はざっくり省くので各自で検索し(ググッ)て貰うとして……まずは寝かせた状態の壁の骨組みを作り、それを土台の上に立ち上げて構造体とするものだ。

 

 寝かせた状態で組み立てればいいので、身体の小さなおれでも問題なく作業は進められる。クランプで固定しながらビスをどんどん打ち込んでいき、ツーバイフォー材どうしをどんどん接合していき……そうして完成したのは、外寸が幅一八〇センチかける高さ二七〇センチ、四五センチ間隔で間柱の入った巨大なフレーム。

 なかなかにハードな作業だったが、身体強化魔法をほどよく使っているので、実際そこまで疲労は無い。

 

 

 あとはこれを、先程基礎とガッチリ接合した土台の上に、えんやこらどっこいしょと立ち上げて固定すればいいのだが……

 

 

 

「…………ねぇラニちゃん」

 

「なんだいノワちゃん。ちなみにボクはか弱い妖精さんだから肉体労働は出来ないよ」

 

「………………」

 

「……………………」

 

 

 

 そのサイズこそ長大だが、所詮は枠組みだけなので、重量自体はそれほどでもない。重いっちゃ重いが、まぁ立ち上げるだけなら人の手でもなんとかなりそうなレベルだ。

 だが……壁のフレームを起こし、土台の上に持ち上げ、倒れないように固定する、その一連の作業ともなると……さすがに(ひと)一人(ひとり)の手だけでは――小さな二本の腕だけでは――ちょっと限界といわざるを得ない。

 

 もちろん、ラニに【義肢()】を借りたり、あるいはおれも魔法を用いたりすれば、現環境のみで作業を進めることも可能だ。だがカメラを回している都合上、あからさまに明らかな魔法(インチキ)を映すわけにはいかないのだ。

 

 取りうる手段があるとすれば……一旦カメラを止めるか、もしくは魔法を使って組み立てた後に編集でバッサリ削除するか。どっちにしろ映像は歯抜けになってしまうので、視聴者さんがわにとっては疑問が残る仕上がりになってしまうだろう。

 

 であれば、召喚可能な人手に助力を乞うか。そう連日連夜モリアキを呼びつけるのも気が引けるのだが、ほかに頼れそうなひとなんて……

 

 

 ……そう、日曜大工やDIYを得意とし、おれの活動に理解を示してくれており、おれたちと少なくない交流がある気の知れた人物であり、そしてあわよくば作業の様子をカメラに収めさせてくれそうな……そんな都合のよい人物なんて、そうそう知り合いにいるわけが

 

 

 

「……如何なされました? 御屋形様」

 

「いたアアアアアアアア!!!!」

 

「…………? ……はい、御早う御座います」

 

 

 

 朝イチのお手伝い(おしごと)から、ちょうど今帰ってきたらしい彼女。

 ロングスカートのクラシックなメイド服と腰に提げたゴツすぎるツールバッグが特徴的な、目元を隠した天狗半面の美少女職人大天狗ガールの天繰(てぐり)さん。

 

 彼女が音もなく舞い降りたのは、おれたちの作業を撮影している固定カメラの後方。まだ撮影エリアには現れていないが……果たして。

 これはこれはもしかすると、そしてあわよくば、いい感じの演出に使えるかもしれない。

 

 

 

「あ……あの! 天繰(てぐり)さん! もしお時間よろしかったらなんですけど……ガレージ作るの手伝って頂けませんでしょうか! あとあわよくば撮影させて頂きたいのですが!!」

 

「……ほう……木造壁式構造、で御座いますか。……成程、であれば……手前でもお力になれるかと」

 

「つ、(つえ)ぇ………………あっ、ちなみにその……撮影のほうは……」

 

「……まぁ……手前は別段、構いませぬが」

 

「ヨッシャァァ!!」「おほーーーー」

 

 

 

 この豪邸を十数年に渡り完璧に保ち続け、地元の集落の困りごとを一手に引き受け解決し続けてきた『超おたすけキャラ』にして、また業務用空調設備の不調なんかもあっという間に治してみせた技術者。

 

 彼女の技術を貸して貰えるのなら。加えてその様子を、そしてなんと彼女の姿を撮影させて貰えるのなら。

 

 

 もう……なにも怖くない!

 

 



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368【日曜大工】こころづよいめんばー!

 

 

 ものごとに精通している、いわばプロと呼ばれるようなひとが手伝ってくれるだけで、こんなにも作業効率が跳ね上がるものなのだと……ちょっと恥ずかしながら、さすがにここまでとは想像していなかった。

 おれの指示を正確に把握してくれ、なにをしようとしているのかを豊富な知識と経験から導き出し、取ってほしい行動を先回りして、指示を出す前に動いてくれている。

 

 

 

「……四枚目は、三枚目と直角で?」

 

「あっ、えーっと……はい。ちょうどカドの部分なので、ガッチリと」

 

「……承知致しました」

 

 

 

 もちろんその手際も、大量に提げた工具類の扱い方も……なんというか、見事という他無い。

 当たり前のように電動インパクトドライバーやクランプやハンマーを取りだし、立ち上げた壁パネルを端材で仮固定、しかるのちにものすごい速度でビス打ち固定していった。……速度だけじゃなく精度もヤッベェ。

 

 

 

「……御屋形様、壁枠組み上がりました」

 

「えっ!? もう!? ハッエ!!」

 

「……では、手前は一番から固定して参ります。立ち上げの際は御声掛け下さいませ」

 

「アッ、えっと……ハイ!」

 

 

 

 そんな超人技術者ガールが手伝ってくれてるんだから、作業の方もものすごいペースで進んでいく。

 あれよあれよという間に壁の骨組みが立ち上がっていき、立ち上がった壁どうしもガッチリ接合。『コ』の字型の囲い(の骨組)が完成した。

 

 あとは梁を掛け、屋根を掛け、壁を張り、扉を付け……そして外壁材や屋根材等で仕上げをすれば、完成である。

 

 

 この時点で、時刻はそろそろお昼。屋根を掛けるのはまた重労働になりそうなので、一旦ここまでにしておこう。

 端材で壁を支えるアウトリガーや、壁と壁が動かないように固定する火打梁を仮設し、変形や破損がしなさそうな状態でいったん途中保存(セーブ)し作業中断とする。

 

 

 いやぁ……天繰(てぐり)さんが手伝ってくれて、本当に助かった。おれひとりで魔法禁止縛りのままだったら、時間までにここまでたどり着けなかったかもしれない。

 

 ……それでですね、あの、天繰(てぐり)先生……可能であれば、明日以降も手伝ってくださいませんでしょうか。

 というか……本心を申しますと、『のわめでぃあ』おにわ部の名誉顧問として、今後もお力添えをいただくことは出来ませんでしょうか。

 

 

「……構いませぬ」

 

「エッ!? いいの!!?」

 

「……えぇ。……手前の腕が、御屋形様の御役に立てるので在れば」

 

「アッ、アッ……ありがとうございます!」

 

「キャラ強いもんなぁ、テグリちゃん」

 

 

 

 ラニのいうとおり……色々と『濃い』メンツが揃ったおれたち『のわめでぃあ』の中でも、決して色褪せない強い個性を発揮できる天繰(てぐり)さん。

 カメラには絶対映せない修行パートだけではなく、ちゃんとカメラに映せる(しかも許可ももらった!)DIYおたすけ要員として……その手腕を存分に振るっていただきたいものだ。

 

 じゃあとりあえずは、また明日!

 よろしくおねがいします!

 

 

 

 

 

「……其は構いませぬが……御屋形様」

 

「えっ? あっ、はい」

 

「……明日の午後は、体捌きの鍛練の予定に御座います。……お忘れなきよう」

 

「アッ!! は、ハイッ!! ももももちもちロンです!!」

 

(忘れてたなこれはな)

 

(ずびばぜんでぢだ)

 

 

 

 

……………………………………

 

 

 

 

 はい、そんなわけでハチャメチャ美味しいお昼ごはん(おとうふのネギ味噌焼き定食)をいただき、時刻はもうすぐ十三時と三十分。

 集合時間は十四時でお話しさせていただいているので、移動時間も鑑みてそろそろお迎えにお伺いしようと思う。

 いやぁ……いくら『にじキャラ』さん事務所に直行できるようになっちゃったからって……日曜はだめでしょ、たぶん。

 

 

 まあまあまあ、ねこちゃんたちに『かりかり』を振る舞いながらお散歩すれば、集合場所である『にじキャラ』さん事務所ビルなんてすぐだろう。

 最近ほぼ毎日お世話になっている囘珠(まわたま)さんのアクセスポイントへと転移し、金鶏(きんけい)さんに呆れ半分の苦笑を向けられ、すれ違う職員さんたちに会釈しながら建物の外へと出ていくと……途端に寄ってくるねこさんたち。

 

 

「はい、にゃーにゃー。にゃーにゃ、はいはい、こんにちわね、にゃーにゃ」

 

(は? かわいいが?)

 

「はいはいはいよーしよしよし、ほら『かりかり』あるよ『かりかり』。にゃーにゃ、にゃんにゃー。んふふふふ……はぁ……かぁいい」

 

(おまえのほうが可愛いが?)

 

 

 ラニの茶茶入れを意識して受け流しつつ、すっくと立ち上がって移動を開始する。

 すると歩き始めたおれを追いかけるようにねこさんたちも移動を始め、つかずはなれずの距離を保ちながら着いてきてくれるみたいだ。

 

 

「にゃにゃー? 護衛してくれてるのかにゃあ? ありがとにゃー」

 

(待って、誰かいないの、やばいってこれ)

 

 

 緑地公園内の遊歩道をぞろぞろと、ちょっとした大名行列のようにもなりつつあるおれたちだったが……しあわせな時間は無情にも終わりを告げる。

 合歓木(ねむのき)公園の敷地の端、ここから先は囘珠(まわたま)さんの神力が及ばない『ヒトの土地』だ。こう見えて神使であるねこさんたちは……簡単には出ることが出来ないのだ。

 

 

 

「いいこいいこ。また遊び来るからね。おつとめ頑張ってね。……はい『かりかり』。喧嘩しないでにゃー?」

 

(はぁ…………かわいかった。やばかった)

 

(そだねぇ、はー最高。ねこちゃんかわいいし……本当癒されるよねぇ)

 

(…………ウン、ソウダネ……)

 

 

 ねこさんたちのおかげでやる気チャージも充分。歩道橋を渡り、横断歩道を渡り、一方通行の裏路地を進み、歩行者用の地下通路を通り、いつぞやうにさんとくろさんに連れてきてもらった百貨店の前を通り、世界的に有名なわんこの像の広場をかすめるように横切って……

 はい、見えました。見えましたが。あの。

 

 

 

「……まぁ、これくらいなら……なんとか?」

 

(そうだね。ボクが思ってたよりは少なかったかな?)

 

「どんな恐ろしい予想立ててたのラニちゃん」

 

(そらモチロン最大人数よ)

 

 

 本日の集合場所としてご連絡させていただいてた、『にじキャラ』事務所ビルのエントランス前。

 そこには……一泊分のお泊まりセットとおぼしき荷物を携えた村崎うにさん、刀郷さん、ティーさま、ハデスさま……のほかに。

 

 

「ごめんホントゴメンのわっちゃん! ちょっと相談なんやけど!」

 

「おはようございます、うにさん。まぁこうなる予感はしてたので……大丈夫ですよ、これくらいなら」

 

 

 ……実はですね、昨日お約束させていただいたのは、前述の四名様なのですが……おふとんを合計十セットも提供して頂いたお礼というわけではないのですが、『キャパを越えない範囲でなら、もう何名かに声掛けてくださっても良いですよ』とお伝えしておいたんですね。

 

 つまり、最大で十名様になることも覚悟していたのですが……

 

 

 

「んふふゥーおおきにぃー」

 

「あの……ごめんなさい、いきなりで」

 

「お世話になります!」

 

「すみません! お世話んなります!」

 

 

 もう四名様を加えた、たいへん賑やかかつ見目麗しい美男美女の集団、合計八名の団体様をお迎えして。

 一泊二日の超強行日程、滝音谷温泉の弾丸ツアーは……こうして幕を開けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 おれはこのとき……もっと彼らの装備に気を配っておくべきだった。

 

 

 彼らのうちの何人かが、一泊二日の旅行にしてはちょっと過剰なサイズのカバンを用意していたということに。

 

 お泊まりセットの他に……意味ありげな数台のノートパソコンと意味ありげな周辺機器を、ちゃっかり持ち込もうとしていたことに。

 

 

 

 ……この段階で、気づいておくべきだった。

 

 

 





FULL PARTY!!


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369【非日常日】チェックイン

 

 

 さてさて。

 

 ちょっと軽く現実逃避したくなる程度には豪華な方々が顔を揃え(てしまっ)た、わが『のわめでぃあハウス』への突発お泊まり会。

 突然の呼び掛けにもかかわらず……なんと、総勢八名もの仮想配信者(アンリアルキャスター)(の(なかのひと))がわざわざ集まってくれたのだ。

 

 

 単純に遊びたい目的だったり、近々計画しているらしい合宿の下見だったり、おれたちの拠点を見てみたいだったり。

 その目的こそさまざまなようだが……共通しているのは、どうやら皆さんわくわくしてくれているらしいということだ。

 

 

 

「取り敢えず……軽く自己紹介させとくか。Ⅰ期からは俺と、姫さん……ティーリット」

 

「はあい!」

 

「あともう一人。ウィルム」

 

「よろしくお願いします! 先日はありがとうございました!」

 

「Ⅱ期は……オレだけっすね。毎度おなじみ、刀郷(とうごう)剣治(けんじ)です!」

 

「お前本当人望無ぇのな」

 

「ちがうんすよ逆っす。大人気になりすぎて迷惑掛かっちゃうかなって思って、あえて誘わなかったんすよ」

 

「それ後日確実に奴らに恨まれるパターンだよな。……刀郷(トーゴー)……いいやつだった」

 

「いやいやいやいや!! ……えっ、オレ死ぬんすか?」

 

 

 Ⅰ期とⅡ期からは四名……昨日ご一緒じゃなかったメンバーとしては、邪竜モチーフ配信者(キャスター)のウィルム・ヴィーヴィルさん(の(なかのひと))がパーティーイン。

 例の【変身】デバイス慣熟訓練の場では、人体とはあちこち異なる身体を操るのに難儀していた彼。そのキャラクターモチーフこそ『邪竜』と禍々しく、また配信中は傲岸不遜で偉そうな態度を気取っているものの……その(なかのひと)はハキハキとした好青年。

 配信中も結構な頻度で()が出るので、アバターのカッコ良さと性格とのギャップもあってか、女性人気がかなり高いのだという。

 

 

「あとⅣ期はウチと、あと」

 

「まいど」

 

「まいどやないねん。まぁ合っとるけどな。Ⅳ期はクロと……あとちふりんな」

 

「お世話になります! すみません本当いきなり!」

 

「んで、Ⅲ期からは(アオ)ちゃんひとり」

 

「あい! 青樹ちとせです! よろしくおねがいします!」

 

 

 相変わらずマイペースの玄間(くろま)くろさんと、洟灘濱(いなだはま)道振(ちふり)さん、そしてⅢ期からは青樹(あおき)ちとせさんが飛び入り参加。

 

 くろさんは単純に『おもしろそうだから』といったところだろう。そんな雰囲気を隠そうともせず、ニコニコ笑顔でうにさんの背後に『ピタッ』と貼り付いている。てぇてぇ。

 

 道振(ちふり)さんは……たぶんだが、おれが動画や配信で度々アピールしている『おにわ開拓』と、あとハイベース号。そのあたりに興味があるとのことで、うにさんもそこを気にして声を掛けてくれたのだろう。

 

 Ⅲ期から唯一の参加者は、青樹ちとせさん(の(なかのひと))。こちらはティーさまからのお誘いらしく、『なかよしゲーム部』で予定しているコラボ会場の下見がメインらしい。

 というのも、ちとせさん……この可愛らしいお姿ながら『なかゲ部』副部長を務める、ゲームつよつよ配信者(キャスター)なのだ。

 

 

 集合場所である『にじキャラ』さん事務所ビルのエントランスにて、元気いっぱい朝のあいさつ(※もう昼です)を終えたみなさん。お泊まり会に向けて皆さん気合充分の模様。

 それでは……いよいよもって移動開始。めくるめく【魔法】の力を、存分に堪能していただこうではないか。

 

 

 

(ラニ、【門】おねがい)

 

(あらほらさっさ)

 

(ほんと順応力すごいねキミ)

 

 

 エントランスのカドっこ、表通りからも防犯カメラからも死角になる絶妙な位置に、ラニが紡いだ【門】が開かれる。

 初めて目にする空間の裂け目に、飛び入り参加の四名様は目に見えてビックリ顔。その一方で昨日一度経験した四名様は、心なしかドヤ顔で。そこマウント取ろうとしない。

 

 

「とりあえず、ぱぱっと行きましょうか。……じゃあ、刀郷(とーごー)さん。先導をお願いします」

 

「了解っす! 行きますよぉー!」

 

 

 勢いよく飛び込み、空間の裂け目に消えていく刀郷(とーごー)さん。正直『このまま閉じても面白そうだな』とは思ったけど、視聴者さんのいないこの状況ではただの時間の無駄なので実行には移さず、そのまま気持ちの準備ができたひとから順次飛び込んでいってもらう。

 経験者の四名様が消えていき……それを見て覚悟ができたのか、初見の四名様も後に続く。

 最後におれが周囲を見回し、一般人の方に見られてないことを目視と魔法で確認し……最後に飛び込む。これにて移動が完了だ。

 

 八名様の団体(とおれたち)はほんの一瞬で、関東から東海地方へと移動してのけたのだ。

 

 

 

 

 【門】から出た先は、我が家の玄関アプローチの一角。石材を敷き詰めて広めのスペースが確保された、いろんな使い方ができそうな気がしなくもない空間だ。

 そこから両開きの玄関を開けると、そこにはこれまた広めの玄関土間と上がり框……そして。

 

 

「いらっしゃいませ。ようこそお出でくださいました」

 

「うむ。遠路はるばるご苦労。……いや勇者殿の権能があれば苦労も無いのか」

 

「「「「うおおおおおおお」」」」

 

 

 いつものように家事がしやすそうな和服を身に付けた霧衣(きりえ)ちゃんと、そんな『あねうえ』の真似をしようとしたのだろうか、珍しく浴衣姿の(なつめ)ちゃん……わが『のわめでぃあ』の誇るわうにゃう姉妹が、正座して三つ指突いて待ち構えていたのだ。

 思わず歓声を上げられたお客様の気持ちもわからんではない……というか、ぶっちゃけおれもやばかった。

 

 

 

 ……さてさて。

 こうして集合からほんの数分でチェックインまでこぎ着けた、われらが『のわめ荘(※非公式)』なわけだが、これからどうしようね。

 

 漠然と『落水荘さんの下見』だとか、『おにわやキャンピングカーを見たい』だとか、いろいろご要望は聞いているのだが……まぁ落水荘さんはどうせお風呂入りに行くだろうし、夕方でもいいかな。

 会場の下見させてもらって、立ち寄り湯でひとっぷろ浴びて、あまごやさんで晩ごはん食べて……それで大丈夫だろう。というわけで。

 

 

「えーっと……じゃあ、十六時ころになったらおフロと、会場下見と、十八時くらいにばんごはん……みたいな感じでいいですか? それまで自由時間というか、ゆっくり過ごしていただくというか」

 

「「「「「「はぁーーい!」」」」」」

 

「んふふふ……はい、いいお返事です。それじゃあ……おうちの中のことは、霧衣(きりえ)ちゃんと(なつめ)ちゃんに聞いてください。お庭にはわたしがいるので、何かあったらわたしに聞いてください。あと遭難したらわたしのケータイに連絡ください。なんとかしますので」

 

 

 おれの発した『遭難』という単語に、『またまたご冗談を』と言いたげな視線をいくつか感じたが……いや、うん、下手するとマジでするとおもうよ……遭難。

 まぁそこまでいかずとも、まだ全然未開拓なおにわなのだ。ほんの数分歩けばもう未開の山林が顔を出すことだろう。

 

 いろいろ悩んだ末の、思考放棄ともとれる『自由時間』だったが……なんだかんだで皆さん楽しんでくれそうで、よかったよかった。

 

 

 ……というわけで、『おにわ班』のご案内を担当させていただくのは、わたくし木乃若芽(きのわかめ)ちゃん。

 おにわに興味を示したのは、男のロマンが通じるアウトドア派の四名……刀郷(とーごー)さんと、ハデスさまと、道振(ちふり)さんと、ウィルムさん。

 せっかくなのでみんな一緒に案内しようと、おれは自ら先導して『みどころポイント』を巡っていく。

 

 和室のすぐ外のハイベース号や、それが停められている露天駐車場(兼多目的スペース)、その隣に建設中のつくりかけガレージと、それらの前を通り車道まで続く敷地内私設道路。

 さらにちょっと遠出して、杉林からなだらかな斜面、そのまま下っていって……いつぞや環境音動画を収録し(ようとして居眠りしてしまっ)たきれいな沢と、その水辺に広がる岩場と稀少な砂地。などなどなど。

 

 

 

「……ねぇ、わかめちゃん」

 

「なんです? 道振(ちふり)さん」

 

「土地利用料払うからさ……今度キャンプしに来ていい?」

 

「ま、まぁ……かまいませんよ?」

 

「「「いいなぁーー!!」」」

 

「そんな言うなら、みんなもやりゃいいのに。キャンプ。楽しいよ?」

 

「あーそっか、例のアレが使えるようになりゃあ……アバターの姿でキャンプとかも出来るのか?」

 

「「「おぉーーーー!!」」」

 

 

 ふっふっふ、いいとこに気づきましたねハデスさま。

 まさにその通り、あの【変身】デバイスの力があれば……アバターの姿のまま、いろんなことに挑戦できるんです。

 

 もちろん、【変身】したらしたで逆に動きづらくなることも充分にあり得る。

 ウィルムさんなんかがいい例だろう。日本人の平均よりふた回りは大柄な体躯と、尻から後方へ伸びる太く長い尾、そしてバランスを取るためにやや前傾気味となった姿勢とあって……確かにちょっと、キャンプをするには不向きかもしれない。テントなんかも果してちゃんと入れるのかどうか……いや、べつに寝るときまで【変身】を維持する必要は無いのか。

 

 しかしそれでも、今までのようにスタジオや機材の有無にこだわらず、カメラひとつ(と【変身】デバイスが)あれば何処ででも収録できるというのは、確かな強みになるだろう。

 

 

 

「せっかくなので……いろいろ、探してみますか。新しい『演出』の可能性」

 

「そうですね。これだけ配信者が揃えば、色々と知恵も出てきそうですし」

 

「おっけおっけおっけおっけ! 楽しくなってきたわぁ!」

 

「お前は最初から楽しそうだったよな……?」

 

 

 一人でも多くの視聴者さんに楽しんでもらうための、おれたちにしかできない手法を求めて。

 

 このお泊まり会が有意義なものにできればいいなと、彼らに多少なりとノウハウを持ち帰って貰えればなと……おれはあれこれ叡知を働かせ始めたのだった。

 

 



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370【非日常日】環境更新のすすめ

 

 

 おれたちがお庭を散策しながら、あーでもないこーでもないと言葉を交わしている間……おうちのほうでもなにやら楽しげなことが起こっていたようだ。

 とはいえ、おれはお庭にいたので詳しいことはわからない。わうにゃうシスターズに付いててくれたラニちゃんからの伝聞になるが、いちおう振り返っておこうと思う。

 ちなみに『おうち班』として案内を受けていたのは、うにさんとくろさんとティーさまとちとせさん。女の子四人組だ。

 

 

 まずやはりというべきか職業柄というべきか……皆さんはおれの配信部屋に興味を持たれたようだ。

 

 おれたち実在系の配信者(キャスター)は――もちろん人にもよるだろうが――わりと全身を画面に入れることが多い。……気がする。

 そのため全身を撮影するようのカメラは、立ち位置はある程度離す必要があるわけだ。

 

 フェイスリグを上手く使うため、むしろカメラを顔の近くに配置する必要がある仮想配信者(アンリアルキャスター)とは、収録ならびに配信スタジオのレイアウトからして色々と差違があることだろう。

 

 

 

「こ、こちらが、わかめさまの、おしごとのおへや……ですっ!」

 

「「「お邪魔しまーす!」」」

 

「やっぱ広いやんなぁ。もうこれ『スタジオ』やんな」

 

 

 おれのお仕事部屋……まぁ『スタジオ』は、大きく分けて二つのゾーンから成り立っている。

 

 部屋に入ってすぐ右手側・北側の壁には、編集作業用のメインマシンとその周辺機器、そして『民天堂フィッチ』をはじめとするゲーム機が纏められているスペース。

 お顔を撮る用のカメラと特製グリーン(パープル)バックスクリーンも備わってるので、主にゲーム配信のときなんかはここで撮影・配信しているわけだ。撮影動画の編集もここで行っている。

 

 そしてもうひとつのゾーンが、先程述べた『実在の配信者ならでは』のゾーン。西側にソファを置いて、その手前にローテーブルを置いて、それらを収める形でまた別の固定カメラと、三脚代わりの液晶モニターを配置したスペース。

 モニターにはカメラで撮れている映像を映したり、昨日『のわめでぃあ杯』を行ったときのようにゲーム画面を出力したり、あるいは『生わかめ』のときにカンペや覚え書きを表示したりと、その用途は様々。

 カメラとほぼ同軸にモニターがあるので、モニターをガン見しててもカメラ目線になるというすぐれものだ。これのおかげで生配信は恐れ知らずなのだ。ふふん。

 

 

 

「なーるほど……フェイスリグと違くて、部屋ん中とか机の上とか全部映ってまうんやな」

 

「配信中カンペとかメモ見るときも、見かたを工夫しないとバレちゃうってこと?」

 

「わち、まずお部屋片付けんとなぁ……」

 

「かめちゃんみたいに……こんなんで、スクリーンで隠せばええんちゃう? グリーンバックってやつやろ?」

 

「「おぉーーーー」」

 

「いやでも、『へぃりぃ!』するときみたいな広い場所も無きゃだめじゃろ? わちの家ワンルームじゃもん……」

 

「「あぁーー……」」

 

 

 ……といった感じで、やはり皆さんあの【変身】デバイスを使用しての配信と、それに伴う環境構築に興味を抱いているようだった。

 

 仮想配信者(アンリアルキャスター)と、実在の配信者(ユーキャスター)……コンテンツを提供するためのプラットホームこそ同じユースク(YouScreen)だが、その戦略や配信環境は似ているようで大きく異なるのだ。

 仮に、仮想配信者(ユアキャス)の皆さんに【変身】デバイスを貸与したとして。すぐさま配信を行えるひとは、恐らくほぼ居ないのではないだろうか。

 

 おれたちは……最終的な目標としては、配信者(キャスター)さんひとりひとりに【変身】デバイスを行き渡らせ、おれたち(のわめでぃあ)のような配信を行ってもらうことを『目標』としている。

 もちろん、時間がどれくらいかかるのか、また資材が足りるのか、本当に現実的なのか等々、検討すべきことはたくさんあるのだけど……なのでもし可能であるならば、配信者(キャスター)さんたちにも今のうちから配信環境(おへや)のことについて考えておいてほしかった……というのは、確かにある。

 

 そういった意味でも……霧衣(きりえ)ちゃんたちに『おうち班』を案内してもらったことは、良かったのかもしれない。

 

 

 

「のうのう、客人殿よ。吾輩とあねう……霧衣(きりえ)殿の部屋も、視察に参られても良いのだぞ?」

 

「ほうほうほうほう! ええんか! うち他人(ひと)様のお部屋見るの地味に好きなんよ!!」

 

「わちも! わちもきりえちゃんたちのお部屋見たい!」

 

「わ、わたくしどものお部屋でよろしければ……」

 

「うむ! 貴嬢らは家主殿の大切な客人(ゆえ)な、吾輩が案内してしんぜよう。付いて参れ」

 

「……のじゃロリみたいな口調のくせにメスガキじみた服装のギャップ正直たまらん」

 

「……クロ、ヨダレ垂らさんといてな」

 

「んふゥーーーー」

 

 

 

 ……といった感じで、その後は霧衣(きりえ)ちゃんたちの私室(和風ながら女の子らしい二階の和室)に始まり、二階のお手洗いとシャワールームとロフトの物置、階段を降りて一階のお風呂場とダイニングキッチンとリビング、そして間仕切りを取り払えば続き間となる二部屋の和室と……余すところなく。

 正直いって合宿所としても使えそうなわれらが拠点を、たどたどしくも可愛らしく説明してくれていたらしい。おれも見たかった。

 

 なお、おれ(とラニ)の私室は『ごしゅじんさま(家主殿)の部屋だから、無断で立ち入るわけにはいかない』といって、案内しなかったようだ。

 ……いちおう自室には(在宅下着泥棒対策で)鍵もかけていたのだが、二人がとても良い子だということが改めてよく解った。お客さんもほっこりしていたらしいし、よかったよかった。

 

 

 その後はダイニングテーブルを囲んで、霧衣(きりえ)ちゃんが淹れてくれたお茶をすすってしばし懇談していたらしい。

 おれたちが戻ったときにはお話もとても盛り上がっていたみたいだったし、秘蔵の抹茶羊羹までお出ししていたので、霧衣(きりえ)ちゃんもうにさんたちのことをよっぽど気に入ってくれたようだ。

 

 

 しかし……はぁ、やっぱ推しどうしの絡みって……尊い(てぇてぇ)わ。

 

 おれ……生きててよかった。がんばってよかった。

 

 

 

 ……よし。もっとがんばろう。

 推しに良い生活させるために……おれ、おしごと頑張るよ!

 

 



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371【非日常日】会場決定だって!

 

 

 散策から戻ったおれたち『おにわ班』は、霧衣(きりえ)ちゃんたち『おうち班』と合流し、その後はおうちの中やはなれ(ハイベース号)で自由気ままなひとときを過ごしていた。

 ハデスさまとうにさんがネット回線をご所望だったので、おれはリビングの片隅の複合コンセントを案内する。ここからなら客間である和室までケーブルを引っ張れるだろう。

 

 何やらごそごそと準備を始め、おれはその様子を観察していたのだが……まあなんとなんと、取り出したるは有線ルーターとノートパソコン。

 なんでも……少しとはいえゆっくりできる時間があるので、他の配信者さんの配信を見て話題を仕入れておきたいのだという。

 

 

 このときのおれは……『あっ、やっぱさすがはプロのひとだ。遊びに来てても仕事のこと考えてるなんて、とても意識が高い。すごいなぁ』なーんていう感想を抱いちゃったりしてたわけだが。

 

 

 

 …………あのね。

 

 おれはまだまだ若かったと、愚かだったと言わざるを得ませんでしたね。

 

 

 

 

 

 

「……それじゃ、そろそろ行きますか? お風呂とか」

 

「「「「「「はーーい!!」」」」」」

 

 

 大きな荷物を客間に置いて、おふろ用の小さなバッグを手に手に抱え、御客様ご一行様はおふろの準備を整える。

 霧衣(きりえ)ちゃんと(なつめ)ちゃんも『大きなおふろにございまする!』『ま、まぁ……悪くはないな』などと言いながら、タオルと替えの下着を風呂敷(!)に包んで準備万端だ。

 

 かんぺきな和装の霧衣(きりえ)ちゃんはともかく、イマドキガールな装いの(なつめ)ちゃんに風呂敷包みは、正直違和感が勝るのではないかと思ったのだが……『あねうえ』の真似っこをしたがる妹分に見えて、正直とても尊い(てぇてぇ)

 

 そんな賑やかな装いの一団は、総勢十一名が連なってぞろぞろと移動を開始する。滝音谷温泉街までは徒歩十分そこら、落水荘さんまでなら充分に徒歩圏内だ。

 ……さすがのハイベース号とて、十一名はちょっと収まらないので、致し方ない。

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、俺と……(アオ)は広間の下見行って来っから、お前ら適当に行って来い」

 

「あ、も一回(っかい)うちも下見行くわ。晩メシまで時間あるやろ?」

 

「えっと……予約は十八時からなので、十五分前くらいに出られれば」

 

「じゃあわちらはお風呂いってくる! きりえちゃんなつめちゃん一緒いくどすえ!」

 

 

 時間はそれこそたっぷりと、一時間半くらいは確保してある。ハデスさまとちとせさんとうにさんの『なかよしゲーム部』三名は広間の下見に、その他の七名はひとっ風呂浴びに、時間までしばしの自由行動となった。

 

 そしておれはというと……ハデスさまたち『なかよしゲーム部』の会場視察のほうへ。

 プロの配信者集団が企画するオフコラボの、その準備段階を目にすることができるなんて……こんなレアな機会なかなか無いだろう。

 

 

 

「こちらが大宴会場、水月(みなづき)の間です。収容人数目安は六十名程。ご覧のように隣接する部屋は御座いませんので、御客様のご希望される用途にももってこいかと」

 

「どーよ(アオ)ちゃんよ。条件的には申し分無ぇだろ? 光回線アリ、有線もオッケー、外部からの騒音もほぼ入らねぇ。大型モニターやら機材やらも、わかめちゃん()まで()()で運んでくれるってぇから心配無ぇ。……函根(はこね)のホテルじゃこうは行かねぇぜ?」

 

「ぬむむむむむむむ…………ま、まぁ……いーんじゃん?」

 

「だルぉーー??」「せやろぉーー??」

 

 

 落水荘さんの大宴会場『水月の間』……そこはよくある大広間を可変間仕切りで区切るようなつくり……ではなく、庭園に突き出た出島のような、独立というか孤立した間取りになっていた。

 支配人さんいわく『なにぶん古い作りですので……』とのことで、今どきの宴会場としては珍しく、可変間仕切りでの広さ調整に対応できていない。

 仕切りの無い六十畳程の広さのみでの案内のため、非常に用途が限られてしまうお部屋のようだ。

 

 しかし、その立地は申し分無い。壁や窓を隔てたその向こう側は――出入り口やパントリーのある一面を除き――三方向が庭園、つまり屋外なのだ。

 これならば配信のためにマイクを設置しても、隣の宴会場のガヤガヤを拾ってしまう心配もない。

 

 確かに、やや広々とし過ぎる感じも無くはないが……狭いならまだしも部屋が広くて苦労することなんて、そうそう無いだろう。

 その後も『コンセントがここで』『じゃあモニターこのへんで』『こっちにパソコンおいて』などといった感じで、いろいろとシミュレーションを試みているようだった。

 

 

 

「じゃあ……配信会場はココで、(アオ)も文句無ぇよな?」

 

「っ、ちょ、待てって! えぇーっと、おれまだ……そう、客室とか! もっと館内見てみたいし!」

 

「では……折角ですので、お部屋のほうもご案内致しましょうか」

 

「……良いんすか? 支配人」

 

「勿論、構いません。我々としましても、折角の御予約を逃したくはありませんので」

 

「よっしゃ! ありァーっす!!」

 

「まぁ……うちも気になっとったんやけどな」

 

 

 今日の下見というのは、どうやら青樹(あおき)ちとせさんを納得させるのが目的のようだった。

 どうやらハデスさまはじめ『なかゲ部』の過半数は、ここ落水荘さんで異議なし状態のようだ。一方でちとせさんたち『函根(はこね)温泉派』は未だ抵抗を見せていたので、頭目であるちとせさんを納得させるために今日滝音谷(おれんち)へ連れてきた……ということだろうか。

 

 肝心のちとせさんもどうやら納得してくれたようで、おれもお招きした甲斐があった。

 ……というか、ちとせさん一人称『おれ』なんだよな。小柄でガーリーなアバターで喋り方も舌っ足らずな感じなのに、一人称はワイルドで。そのギャップがまた可愛らしいんだよな。

 

 ともあれ宿泊するお部屋を見に行ったということは、かなり前向きに検討しているということなのだろう。勝利は目前と見て間違いなさそうだ。

 べつに『なかゲ部』の合宿がどこで行われようと、おれ自身には何も影響が無いのだが……いや、ほら、住んでるところの近くに有名人がロケで来たりするとさ、ね、なんか嬉しいじゃん。そんな感じ。

 

 

 

「じゃあ、わたしもお風呂いってくるので……また後ほど」

 

「はぁーい!」「ほぉーい!」

 

「おう。また後でな」

 

 

 そんな感じの、そこはかとなく嬉しい気持ちを感じながら、勝ちを確信したおれは『なかゲ部』の方々と別れ……せっかくなのでひとっ風呂浴びに、立ち寄り湯エリアへと足を運んだのだった。

 

 

 

 

 もちろん貸し切り風呂ですが……なにか?

 

 ……いや、あの、ほら……さすがに女性用大浴場は……ネ?

 

 

 

 

 








「よぉしみんな準備よいな!? わかめちゃん来たら、きりえちゃんとなつめちゃんで左右から抑え込むんよ? おむね押し付けてムギューってしてやるんよ!」

「は、はいっ!」「う、うむ」

「なんか……めっちゃやる気ですね、ティー様。……私は私でゆっくりさせて貰いますね?」

「うちは遠目に眺めて楽しませて貰お」

「ふーん。よいもーん。後になってわかめちゃんとウフフしたくなっても仲間いれたげないもーん」

「……ねぇクロ、ティー様って本当に成人済だよね?」

「わかるゥー。かめちゃんのこと『合法ロリやわぁ!』とか言うとるけど本人も大概やんな」

「ギリ高校生って感じ」

「それな。HighPhone(ハイフォン)の裏めっちゃデコってそう。ラインストーンとかで」

「で……デコっとらんもーん!」

「『もん』やないねんなぁ」

「ほっぺプクーがここまで似合う二十代おる?」

「に、二十代!?」「な、なんと!?」

「………………なによぉー! もぉー!!」





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372【非日常日】牙をむく絶対強者

 

 

 貸切りの個室風呂でいいお湯をいただき、お座敷の休憩ゾーンでゆっくりのんびりと火照りを鎮め…………うつらうつらした頃にティーさま(と霧衣(きりえ)ちゃんと(なつめ)ちゃん)の襲撃を受け、まったく身に覚えの無い叱責を受け。

 その後は一人また一人と合流していき、徐々に話の輪を広げつつ……無事に時間までに全員集合することができた。

 

 『なかゲ部』の方々もいい表情だったし、帰りぎわ支配人さんもニコニコ顔で見送ってくれたので……たぶん決まったんだろうな。

 

 

 そして晩ごはんの席だが……まぁ特筆するような大事件は無かったけども、とりあえず皆さん『うまい』『おいしい』と喜んでくれたので良かった。

 お客さんが少ないのは、お店と温泉街にとっては死活問題なのだろうけど……あまり人に聞かれたくない話がポコポコ飛び出るわれわれにとっては、申し訳ないけど都合がよかったのかもしれない。……いや、このままで良いとは思わないけどさ。

 個室っていっても……ふすまじゃ声も漏れちゃうしなぁ。

 

 

 

 そしてそして……晩御飯を終えたおれたちは、再びラニの【門】のお世話になって『ただいま』したわけだけど。

 

 ここでおもむろに、今にして思えばやや強引ともとれる勢いで、ウィルムさん(の(なかのひと))に『変身デバイスについてコツを教えてほしいです!』『せっかくなので若芽さんの配信部屋で相談させてください!』『今後に備え色々勉強したいんです!』と持ちかけられまして。

 客間である和室へと向かう『にじキャラ』の方々とは一人だけ外れたウィルムさん(の(なかのひと))によって、おれは二階へと隔離されまして。

 

 

 ……まぁ、邪竜という操りづらい身体に【変身】する彼の『お悩み』は、それはもちろん本物だったんだけど。

 後になって思い返してみればね……ウィルムさんの相談を聞こうと決めた時点で、もう『詰み(チェック)』だったんだろうな。

 

 

 

 

「……ですので、今回採用してる【変身(キャスト)】のプログラムは、使用者のイメージ(りょく)に大きく左右されます。ですので、」

 

「あっ…………あっ、若芽さんすみません。ちょっと、良いですか?」

 

「えっ? え、えぇ……大丈夫ですけど……」

 

「すみませんありがとうございます。こちらへ」

 

「えっ? 廊下? な、なんで」

 

「いえ、大丈夫です。大丈夫ですんで、こっちへ」

 

「えっ? 階段? えっ……えっ?」

 

「すみません本当すみません。大丈夫ですんで本当すみません」

 

「えっ? ……………………えっ??」

 

 

 

 おれの講釈を遮り、さも申し訳なさそうに切り出したウィルムさん(の(なかのひと))に流され……おれはあれよあれよと、一階和室の片側へと連れてこられた。

 

 そこでおれを待ち受けていたのは……なにやら改まった顔で、座卓に肘をついて某特務機関総司令ポーズをとっているハデスさま。

 ……ぶっちゃけ嘉手納さん(ハデスさま)自体なかなかガタイのいい渋めイケメンなので、非常に似合っている。

 

 

「…………えっ? あっ、あの」

 

「よぉ、若芽ちゃん。悪ィな、お疲れん所」

 

「い、いえ…………えっと、これ」

 

「まァまァまァ……取り敢えず座ってくれや。今姫さんが茶ァ持って来っからよ」

 

「えっ? あっ……き、恐縮です」

 

 

 このお部屋に居るのは……今おれを連れてきたっきりニコニコ顔でことの成り行きを見守っているウィルムさんと、非常にシブくてカッコいい声色のハデスさま……そして、おれ。

 

 他のみなさんはリビングだろうか、それともお庭かな、なんてのんきなことを考えていたのだが……続くハデスさまのお言葉に、おれは冷や水を浴びせられたような感覚に陥った。

 

 

 

「ところで……先日の『(公序良俗に反しない範囲で)何でも言うことを聞いて貰える権利』のことなんだがよ?」

 

「あ゜ュ、っ」

 

「ちょっと相談ってぇか……『どこまでならセーフ』なのかをよ? キチッと確認しときてぇなって」

 

「あ……あぁ、しょうゆ、……キょうゆう、ことでヒゅか」

 

「だ、大丈夫か? 若芽ちゃん。落ち着け? 今姫さん(ティーリット)が」

 

「お茶じゃよーー!!」

 

「おう。()()()()()()だな」

 

「エッ? アッ!? アッ、アッ…………ッス」

 

 

 いったいなにが大丈夫なんだろう……なんていう疑問が沸いたのも一瞬。

 ティー様がお紅茶(ティー)を淹れてくれたんだなとか、これはおれのお気に入りのカップだなとか、この香りは霧衣(きりえ)ちゃんが『とっておき』って言ってたやつだなとか……とにかく情報の洪水がワッと浴びせられたせいで、ちょっと冷静な思考ができるかどうか怪しい。

 

 冷静になれるかは怪しいのだが……おれの処遇がこれから決められようとしているらしいのだ、ここは集中しないと。

 

 

 

「とりあえずな? せっかくなんで、皆の意見聞いてみたんだけどよ?」

 

「え()ぃっ!?」

 

「わかめちゃんは……ほら、Ⅳ期の玄間(くろま)とコラボ控えてんだろ? そんな時間と手間掛けさせんのも良くねぇよなってなったんだわ」

 

「アッ……えっ、と…………お心遣い、ありがとうございましヒゅ」

 

「おう。んで、だ。……もう単刀直入に言うけどよ、『コスプレ』して貰えね?」

 

「コーーーー!? な、ななっ、なっ……なんの、ですか!?」

 

「それを、ほら。今から話し合って決めようかなって」

 

「あはァーん……」

 

 

 

 な……なるほど、つまりおれに課せられた今回の罰ゲームは『ハデスさまの指定する衣装を着る』ということか。

 こちらのスケジュールを慮ってくれたことは……まぁ、正直ありがたい。おれたちとしても、今は例のコラボに注力したい時期であるからして。

 

 なので……このときのおれは『意外とあっさり済みそうだな』なんていう印象を抱いてしまったわけだ。

 

 

「じゃー()ず……水着はイケる? スク水とか」

 

「そ、ッ……そういう趣味ですか!? ハデスさま! アッわかった! 刀郷(とーごー)さんのご要望ですかそれ!!」

 

「残念。姫さんだ」「わちじゃ」

 

「オ゜ッ……」

 

「まぁ……水着は『無し』と。しゃあないわな。じゃあ次……バニーちゃんとかは?」

 

「ングっ……い、良い趣味してますね…………いヒゃぁぁぁ、ダメです! デコルテ晒すとか恥ずかしすぎます!! そもそもこんな体型(ちんちくりん)で着れるバニーちゃん服とかあるんですか!? どんな層向け商品ですかそれ!! 自分でいうのも悲しいですけど事案ですよ!!」

 

「まぁごもっともだな。じゃあバニーも×(バツ)、っと。…………じゃあ、メイド服とかどーよ? 『お帰りなさいませ御主人様』みてぇなやつ」

 

「これまた良いご趣味ですね。わたしなんかを(かしず)かせたいですか。刀郷(とーごー)さんでしょどうせ」

 

「いやコレは俺様」

 

「ん゜っ…………ま、まぁ……それくらいなら……ミニじゃなければ……(ごにょごにょ」

 

 

 

 出会い頭の一撃(スク水)こそ『ヤベェ!』って思ったけど……まぁその後は幸いというか、常識的なラインナップのようだ。

 メイドさんの衣装も、おれたちは天繰(てぐり)さんで見慣れている。以前ならいざ知らず、今のおれはそこまで忌避感を抱いていないのだ。

 

 ……ハデスさまが『メイドさん好き』ってのは、ちょっと意外だったけど。

 天繰(てぐり)さんご紹介した方が良いだろうか。それともガレージDIY動画完成まで隠しとこうか。なやむ。

 

 

 まあ、おれがそんなことを考えている間にも質問は続く。

 『ナース服は』『チャイナドレスは』『○麗(チュ○リー)は』『ゴスロリは』『(チャイナ)ロリは』『酒呑童子は』『軍服は』『詰襟と羽織は』『婦警さんは』などなど服飾アレルギーの問診を受け、それにおれはイエス・ノーで答えていき……

 

 最終的に候補としてノミネートされたのは、『メイド服(ロング)』『ゴスロリ』『(チャイナ)ロリ』『詰襟と羽織』の四つ。

 この四つの中ならば……まぁ、そこまで精神的な負傷も軽いだろう。

 

 

 

「なるほど? 改めて確認だが……()()()()()()()()()()()()ワケだな?」

 

「えっ? あっ…………はい。大丈夫です」

 

「本当に? 何が出ても駄々こねない?」

 

「??? えっと……………は、い」

 

 

 

 

「言質取ーーーーった!!!」

 

「ウワァァァァァ!!!?!?」

 

「さあさあ諸君投票のお時間だよ!! 最も得票の多かった衣装は……なんと! ノワが着てくれるって!!」

 

「は!? ……いや、着るのは覚悟しました……け、ど………………ッッ!!?」

 

「お、気づいたかー?」「気付いたみたいすね」「やっほーかめちゃん」「あははは……えっぐい……」

 

 

 

『メイドさん!!、メイドさん!!』『ふりふりの華ロリすき』『スク水はァーーー!!!』『冥王のメイはメイド好きのメイ』『わかめちゃんメイドさんと特製ボイスで』『詰襟羽織って不滅の刀かwwww』『メイドさんがいいなー!!!』『華ロリって初めて見た。くそかわ』『ひもみずぎ……』『わかめちゃんなんだからパンツ見せて(半ギレ』

 

 

 

「わああああああああああああ!!??!」

 

 

 

 

 ええと……はい。注意力が散漫だったというか、エグい奇襲を受けたというか、この部屋に入ったときに勝負は既についていたというか。

 

 続き間の和室、ふすまを隔てていた隣室では……なんと今まさに、現在進行形で、ノートPCを開いてのライブ配信が行われており。

 

 

 

「いやぁー……すまんな、わかめちゃんよ。恨むならラニちゃんを恨んだってな? ……最初からなんだわ」

 

「  、 ゜, 」

 

 

 

 おれとハデスさまが囲んでいた座卓の、その下には。

 

 配信中のPCからケーブルが伸びた集音マイクが……ひっそりと設置されていた。

 

 



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373【非日常日】配信さぷらいず

 

 

 ……っと、ここでネタ晴らし!

 じつはターゲットであるおれ(わかめちゃん)以外の全員が仕掛人!

 

 なんとなんとビックリなことに……持ち込まれたPCでは現在進行形で、ハデスさまの配信チャンネルにてライブ配信が行われており、しかもその配信の主目的はなんと『わかめちゃんに何着せるか考える配信』だったようで。ちなみに主犯は安心と信頼の破廉恥妖精だったようで。

 ……またキミか、厄介な(懲りない)やつだよキミは。

 

 

 ウィルムさんがおれを二階へ隔離し時間稼ぎを行っている間、この和室に配信環境と集音マイクを設置し、ハデスさまが配信をスタート。

 ハデスさまの視聴者さんたちに企画内容を説明し終えたあたりでウィルムさんに合図を出し、何も知らない能天気なおれがノコノコ和室へと姿を表した……と。

 

 あとは……ハデスさまの誘導尋問に流されるがまま、『これだったら着てもいいよ』という衣装をまんまと宣言させられた。

 リアルタイムで言質を取られては……確かに、弁解のしようもない。

 ちくしょう、なんか妙におとなしいなって思ってたんだよ。ラニちゃんどこ行ったんだろうなって気にはなってたんだよ。まさかこんな仕込みしてるとは。だからお風呂に来なかったんだなあの妖精(ぷ○あな)

 

 

 

「……っつーわけで。今をときめく実在合法エルフ幼女配信者(キャスター)木乃若芽(きのわかめ)ちゃんをお招きしてまーす」

 

「ア゜ォ、ッ…………へ、ヘィリィ(こんにちわ)、お初にお目にかかります……魔法情報局『のわめでぃあ』局長、木乃(きの)若芽(わかめ)……です。……正直まだドキドキしてますが、()()()にお招きいただけて……光栄です。よろしく、お願いします」

 

「はいはい、よろしくな。……まぁそんなわけで、昨日に引き続きわかめちゃん()にお邪魔してるワケだけど……視聴者(リスナー)さんら待たせんのもアレだしよ、早速『アンケート』取ってみっか」

 

「そ、そういう……ことだっ、たんです……ね」

 

「そうなんだわ。いやー本当単純……あーいや、素直な良い子だよな、わかめちゃん。こっちが思った通りに動いてくれるし。嫌なハプニングも無ぇ」

 

「……誉め言葉として頂戴します」

 

 

 今となっては開け放たれたふすまの向こう側では、ハデスさまが持ち込んだノートPCを囲んで『にじキャラ』の皆さんが裏方を務め、音量調整やら画面のレイアウトやらを弄ってくれているようだ。

 普段から在宅で配信なんかも行っている方々なので、機器の操作や素材の扱いなんかも手慣れたものなんだろうな。

 そしてその中には当然のようにおれの相棒の姿もあり……配信アシスタントとしての技量を余すところなく発揮している様子だった。

 

 エルフアイ(望遠)で盗み見た配信画面には、ハデスさまの立ち絵と『若芽ちゃん』の立ち絵(おれが『にじキャラ』さんへ提供したもの)とが並び、対談形式のような形でレイアウトが組み立てられている。

 メインアシスタントを務めるうにさんの手によって『アンケート』機能の準備が進められていき、おれが先ほど提示させられた四つの選択肢――『メイド服(ロング)』『ゴスロリ』『(チャイナ)ロリ』『詰襟羽織(○滅の○)』――が記されたボタンが、配信画面に姿を表す。

 

 

「よしオッケー。出たみてぇだな。……んじゃ視聴者(リスナー)諸君に投票して貰って、一位のヤツをわかめちゃんに着て貰う……と。いやー楽しみだなァ!」

 

「あの……わたしゴスロリとか(チャイナ)ロリとか○○の○とか持ってませんよ?」

 

「大丈夫だ姫さん(ティーリット)に買わせっから」

 

「「ちょっと!?」」

 

 

 

 こんなことに出費させるのもどうかと思うが……どうやら盛り上がってるようなので、あえて気にしないことにしよう。

 この配信はハデスさまの枠なのだが、見た感じ色つきの――『メイド』とか『ミニスカ』とか書かれた赤色の――コメントが結構見られる。……ミニスカは着ないぞ。

 

 おれが着るはめになる衣装代を持って貰うというのは、ちょっと申し訳なくて気が引けたが……こうして衣装代を捻出できるというのなら、おれは何もいうまい。

 お金の出所はハデスさまの視聴者(リスナー)さんだけど。衣装買うのはティーさまらしいけど。……アレッ。

 

 

 

「「「「「おぉーーーー!!!」」」」」

 

 

 ちょっとした違和感を感じたが……そんなタイミングで配信アシスタントさんズのほうから歓声が上がった。どうやら投票結果が出たらしい。気になって仕方が無いといった様子のハデスさまに、配信アシスタントのうにさんが集計結果を告げる。

 

 結果は――この配信チャンネルの主に対する忖度が働いた結果かは解らないが――堂々の『メイド服』。

 シックな黒のワンピーススカートと、レースに彩られた純白のエプロン……我が身のことながら、おそらく大変可愛らしく映ると思う。

 

 

 

「オッケーオッケー! よぉやった諸君! 俺様は嬉しいぞ!!」

 

「…………まぁ、わかりました。……いいでしょう、おと、っ、……な……に二言はありません。おとななので」

 

「つーわけで姫さん(ティーリット)。メイド服な。ロングのやつ。コスプレっぽいヤツじゃなくて……あーホラ、クラシックな感じのヤツで」

 

「むぅー……わかったどす。ちょっと気合入れて選んで、後で経費清算しにいくどす」

 

「…………いや、ド○キとかの安いので」

 

「「それは駄目(じゃ)」」

 

「ン゛ン゛ッ!!?」

 

 

 

 

 おれはオトナで……そして男なので、約束を違えるようなことはしない。そもそも、ハデスさまには『(公序良俗に反しない範囲で)なんでも言うことを聞く』権利を(一部不本意な切っ掛けであったとはいえ)与えているのだ。

 それこそ、いきなり『チャイナドレス着てI字バランス』とか言われても、おかしくない立場だった。……いや、これはさすがに公序良俗に抵触するかもな。たとえがわるかったか。

 

 まあつまり、おれにちゃんとお伺いを立ててくれて、どんな衣装ならセーフかをきっちりと確認してくれた上での最終選考だったので……ここまで気を使われて譲歩して貰っては、さすがにちょっと断れない。

 

 

 その後は……まぁ、お披露目の日時はどうするのかとか、ロケ地はどうするのかとか、そんな感じの詳細をお話しして、おれもその内容を(ハデスさまの視聴者(リスナー)さん立ち会いのもとで)きっちりと承服して……()()()()はお開きとなった。

 

 

 

 しかしながら、冥王ハデスさまの突発雑談枠配信はまだまだ終わらない。

 急な場とはいえ『にじキャラ』さんからなんと総勢八名、われわれ『のわめでぃあ』も四名がこの場に居合わせた、顔付き合わせての『雑談』をするにはもってこいの場なのだ。

 

 おれの思い付きによる指示で、ラニちゃんの【蔵】にストックしておいた缶ビールや缶チューハイを開放していく。

 それを見た皆さんは(わうにゃうペアを除いて)いい笑顔を見せ……どうやらおれの意を汲んでくれたようだ。

 

 

 さぁ、夜はまだまだこれからだ。

 罰ゲームに対する温情のお礼、というわけではないが……ハデスさまの配信チャンネルに、微力ながら貢献させていただこう。

 

 



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【突発雑談・本人秘匿】合法実在幼エルフの沙汰決める_2o2x.o2.o2【URcaster/冥王ハデス】

 

 

 よぉーしじゃあ、無事わかめちゃんへの『お願い』も決まったことだし……あー、視聴者(リスナー)諸君にはまだ内緒だが、俺様たちにとっても嬉しい誤算もあったし……その他諸々、いろんな目出度(めでた)い出来事を祝して……乾杯!!

 

 

「「「「「かんぱーーーい!!!」」」

 

 

 

 いやー……いいね、こういうの。十二人か? こんな集まっての雑談配信ってそうそう無ぇよな。なかなか出来ねぇよ。

 

 

「基本自分ちから配信やからね……」

 

「せいぜいが通話越しであるな」

 

 

 だなぁ。この()視聴者(リスナー)諸君に見せらんねぇのが心苦しいんだが……まー賑やかなもんよ。通話越しでも十二人はなかなか無ぇよな。

 

 『そもそもどういう集まり?』うーん……どこまで言って良いものかな……よくよく考えりゃあかなり急展開だったからなぁ……

 

 

「元々の発端は昨日の、わかめちゃんのスマブロじゃよね」

 

「……そうですね。週末だけどあいにくの天気なので、霧衣(きりえ)ちゃんと(なつめ)ちゃんと、練習でもしようかなって。……そしたら」

 

 

 ラニちゃんにドッキリのお誘い受けてな。そんとき()()()()()()()()()()()()()()()()俺様達がな、ラニちゃんに(そそのか)されて……『面白そうだな』って、お招きしていただいたわけだ。

 そのあたりの出来事はわかめちゃんの『のわめでぃあ』で……アーカイブ残ってる?

 

 

「あっ、大丈夫です。『ゲーム配信』ジャンルで残してます」

 

 

 オッケーオッケー。まぁそんなわけで、わかめちゃん本人には内緒でお邪魔して、一緒に遊んで……その日は俺様の優勝でお開きになったんだけどよ。

 

 ……まぁ、なんてぇか……わかめちゃんらのオウチがな、とにかく(スゲ)ェんだわ。もーお嬢様よこの子。

 

 そんで……姫さんだっけか? お泊まりしたいーって言ったら……『いいですよ』って言われちまってな。

 んで味を占めた俺様達は、頭数を倍にして今日襲撃を仕掛けたわけよ。

 

 

「本当に……まだ信じられませんよ。あの『にじキャラ』の皆さんがわたしん()でお酒飲んでるんですよ」

 

「諦めろぅー現実だぞぅーぃ」

 

「せやせやーとっとと諦めーぃ」

 

 

 まぁ……なっちまったモンは仕方無ぇわな。っつーわけでわかめちゃん()にお泊まり会してるわけだが……あれだ。せっかくの機会だし……『腹を割って話そう』か!

 なんか身内に対して言いたいことある(モン)居たらどんどん言っちまえ?

 

 

「あっ、じゃあオレいいっすか。いっつもオレの事をロリコンって馬鹿にしてる宮古(みやこ)姉弟(きょうだい)なんすけど」

 

「ここに居ない相手じゃん! REINでやれーや! ほんま使えねぇデコがよぉ」

 

「まあまあまあ青ちゃん。確かに刀郷(トーゴー)は使えねぇデコだけど、まぁ面白けりゃええねん」

 

「ひどい言い様っすね……まぁそれでですね、オレが今日()()()()ることが、どっかの誰か経由で宮古(あね)にバレましてですね。大層恨み言を言われたわけですよ」

 

「あ、それ私だわ。ハイベース号の写真めっちゃ送っちゃった。ごーめん刀郷(トーゴー)先輩」

 

「いや、大丈夫す。それで宮古姉(みやこあね)にネチネチ言われてるわけですけど、そもそもオレが……てかオレたちがここに居るの、大元を辿ればオレが『わかめちゃん良いな』って思ってたことに起因するわけですよ!」

 

 

 あー……そういやそうだったか。あん時ゃ確か、俺様と刀郷(トーゴー)と……姫さんと、あと日之影会長サンか。確かその四人だな。

 刀郷(トーゴー)主催の四人打ちやってたトコにコメント欄が騒がしくなって、何事かと思ったら噂のわかめちゃんが現れてて……

 

 

「わたしがスパチャのお礼でスパチャしたら、なぜか刀郷(とーごー)さんが炎上したんでしたっけ」

 

「そうですそうです! あれ以降わかめちゃんと我々との距離感がググッと近づいたんで……つまりは今日この集まりがあるのも、元を辿ればオレのロリコンのおかげなわけっすよ! はっはっはっは! どぉよダブル宮古(みやこ)ども! 羨ましいだろひゃははー!」

 

 

 自分でロリコンって言いやがったぞコイツ……

 

 

「わたし百歳のお姉さんなんですけど……」

 

刀郷(とーごー)くん……レディをロリ呼ばわりはどうなんどす? しぬどす?」

 

「まぁかめちゃんは小ちゃくて可愛いからなぁ」

 

 

 ぇえ、でもよ……じゃあ何か? 刀郷(トーゴー)のロリコンのお陰、ってことか? 今日のアレやコレやは。

 

 

「まぁそういうことになるっすね。全てはロリの導きによるものなんすよ」

 

「デコ先輩残念ですが……ダウトっす。それ」

 

「えっ!? ちょ、」

 

「……そうだね、トードーくん。残念だけど、ボクとウニちゃんの出逢いのほうが先かな」

 

「やよねー! さっすがラニちゃん! つまり今日のこのお泊まり会も! 温泉合宿も! 全部うちのお陰ってことやんな!!」

 

「ああー! そんなぁー!」

 

 

 まぁ……サラッと重要事項お漏らしした村崎には、追って沙汰を下すとして。

 

 

「ぬあーーーー!?」

 

 

 取り敢えず刀郷(トーゴー)のロリコンは今更どうしようもないってことで……まぁ、触らんでおいてやろうや。個人の性的趣向にとやかく言うモンでも無ぇだろ。実害が無いならどんな性癖だって構わんのよ。

 

 

「とりあえずおれらⅢ期は皆キモがってるって覚えとけな?」

 

(アオ)ちゃんあの、オレ一応先輩」

 

「あ? 黙れよロリコン。Ⅲ期(おれら)のエロFA(ファンアート)『よいね』してんの知ってんだからな。なんならわかめちゃんのエッチなイラストも『よいね』してたかんなコイツ」

 

刀郷(とーごー)くんしねどす」

 

「ちがうんす! ちがうんすよ! ほ、ホラ! ハデス様も実害無きゃ無罪って」

 

 

 ……さて、じゃあ他に『腹を割って』話したい奴おるか? 俺様冥王ハデスの名において、この雑談枠の間は無礼講だ。『あいつキモい』だとか『視線がイヤらしい』だとか『こんな秘密知ってる』だとか、忌憚の無いぶっちゃけトークを繰り広げてくれたまえ。

 

 

「え、あの、ハデス様!?」

 

「あの…………じゃあ、部外者が恐縮ですが……わたしから。よろしいですか?」

 

 

 はいわかめちゃん。いいぞ、気にせずどんどんぶっちゃけちまえ。

 

 

「はい、では……えっと……『性癖』になるのかは判らないんですけど…………玄間(くろま)くろさん」

 

「にゅ?」

 

「もしかして、なんですけど……小さいけもみみっ子が好きなのかなぁ、って」

 

「…………………………え? (こわ)。なんでバレたん? エルフの読心術的なやつ? こっわ」

 

「「「「一目瞭然なんだよなあ!!!」」」」

 

 

 まぁな……あー、えーっと……わかめちゃんとこのメンバーでな、なつめちゃんってぇ小さい猫耳っ子が居てな。……あー、Ⅳ期の玄間(くろま)が…………これ配信乗せられねぇのマジ勿体無ぇなぁ……ずーっと膝に乗っけてんだわ。

 

 うーん……なつめちゃん見るからに小さいからな。夜更かしはちょーっと厳しかったか? めっちゃ船漕いじゃってるわ。

 

 

「んふゥーみてみてほら、うちの服『ぎゅっ』て握っとるよほら」

 

「アァー尊い(てぇてぇ)……!!」

 

 

 これ……もうお休みさせてやった方が良いかね。さすがにオッサンどもの宴会に付き合わせんのも酷だろ。

 

 

「せやなぁ。(なつめ)ちゃんネンネしよか。かめちゃんお布団ある?」

 

「で、ではっ! わたくしがお部屋までご案内いたしまする! くろ様、何卒そのまま(なつめ)さまを」

 

「ん。わかったぁ」

 

「…………ぅゅぅ(むにゃむにゃ)」

 

((((((かわいい…………))))))

 

「……では、くろ様。こちらへ」

 

「ほな、いってくるわ」

 

 

 

 ………………あー、うん。なんだ。

 

 俺様もⅣ期との絡みってそこまで濃くは無いんだけどよ? あそこまでいい笑顔の玄間(くろま)って、なかなかに稀少(レア)じゃね?

 

 

「レアやね」「レアですね」

 

「……すみません、うちの子が」

 

「いやいやいや! 良いモン拝ませて貰いましたよ! アー尊い!」

 

「ロリコンは黙るどす」

 

「デコが気持ち悪い顔しやがってよぉ」

 

「アア!! 辛辣!!」

 

 

 

 ほいじゃあ、次行くか。暴露なり告発なり、誰かあるか? ぶっちゃけて言いたいこと言うチャンスだぞ? 誰かみたいに炎上したら自己責任だけどよ。

 

 

「……では、我輩から。宜しいか?」

 

 

 ほいじゃウィルム。いいぞ、やっちまえ。

 

 

(うけたまわ)った。……まぁ……先日、我等Ⅰ期で集まった際のコトなのだがな…………()唐変木(トーヘンボク)勇者めが、セラフ嬢の体型に関し……聞き捨てならぬ発言をな」

 

「はいはい。わち支持します。あ奴はいっぺん処すべきどす」

 

「あれですか、噂の『揉むとこ無い』発言ですか。さすがに赦せないっしょ……ね、のわっちゃん」

 

「何でわたしに振ったんですか今。ねぇうにさん。ちょっと。目そらさないでくださいちょっと。うにさん。何で今このタイミングでわたしに振ったんですか。ねぇ。どういうことですか。目そらさないでくださいこっち見なさいってば。何が言いたいんですか。ねぇうにさん」

 

「今のはおれもうにちゃが悪いと思う」

 

「我輩もそう思う。今のは村崎に非があろう」

 

 

 まぁまぁわかめちゃん。将来きっと美人になるから。元気だしなって。二十年後くらいが楽しみじゃんか。……な?

 

 ……いや、ほっぺプクーは草だわ。

 

 

 

 

 

…………………………………………

 

 

 

………………………………

 

 

 

……………………

 

 

 

 

 



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374【襲撃翌朝】朝ごはん会戦



ゆうべは おたのしみ でしたね





 

 

「おはようございまー…………うわ、ひでぇ」

 

「わわわわうわうわう!? み、みなさま!? 大丈夫でございますか!?」

 

「うーーん……」

 

「うぅーーん……」

 

「ぬぐぅーー……」

 

「あっダメそうですね、これはね」

 

 

 おれが騙し討ちに近い形で罰ゲーム――いずれ着ることを確約させられたコスプレ衣装――を決定させられ、そのままお酒を入れて『腹を割って話そう』配信を敢行した……その翌朝。

 諸事情により、急遽男性陣の専用寝室と化していたハイベース号の中は……なんというか、死屍累々な感じだった。

 

 ハデスさまと、ウィルムさんと、刀郷(とーごー)さん(の(なかのひと)……もうそろそろいっかな、この注釈)のお三方。どうやら配信を終了して場所を移した後も酒盛りを続けていたらしく、テーブルの上やギャレーカウンターにはお酒の空き缶が散在している。

 

 

「はいはいはい。お兄さんたち朝ですよー。二月三日の月曜日、朝七時半ですよー。可愛いかわいい若芽ちゃんと霧衣(きりえ)ちゃんのモーニングコールですよー」

 

「「「うぅーーーーん……」」」

 

「アッ本格的にダメそうですね」

 

「はわわわわわわうわうわうわう」

 

 

 いったい何時まで騒いでいたのやら……まぁそのへんはおしり丸出しで爆睡しているイタズラ妖精に問い質すとして。

 まるでゾンビのような呻き声を上げている男性陣、その様子は非常に身に覚えのある光景……まぁ要するに、完全な二日酔いってやつだろう。頭痛とかめまいとか吐き気とかそのへんが大変なことになってると思われる。……つらいよね。

 

 

「じゃあ……しかたない、酔っぱらいどもはわたしがどうにか叩き起こしますので……霧衣ちゃんは朝ごはんの準備、お願いできますか? 天繰(てぐり)さんと(なつめ)ちゃんにも手伝ってもらって」

 

「は、はいっ! 承知いたしてございまする!」

 

「さて……まぁしょうがないですよね。非常事態ですもん。……【快気(リュクレイス)】」

 

「「「アァーーーーーー」」」

 

 

 身体の中から沸き上がる『心地よさ』に、泥酔患者三人がダメそうな呻き声を上げるが……ともあれこれで二日酔いはやっつけられたと思うので、しばらくすれば起き上がれるようになるだろう。

 おれはセンシティブな格好の相棒をつまみ上げ、(はね)を畳んでから愛用の今治タオルでぐるぐる巻きにしておく。これならばおしりやおまたが男性陣に見えてしまう心配もない。

 

 見せちゃいけないものを一通り隠し終えたことを確認し、おれは改めてモーニングコールを試みる。……大サービスだぞ。

 

 

「はいじゃあ改めまして。みなさーんあさですよー」

 

「「「うーーーーぃ」」」

 

「おやおやぁ? あいさつがきこえないぞぉー。もう一回いきますよー……おはよーございまーす!」

 

「「「おはようございまぁぁす!」」」

 

「はいっ! よくできました! …………お身体不調はありませんか? わかめちゃんのよく効く『おまじない』させて頂いたので、さっきよりはマシになったかと」

 

「ぉぅ…………ほんとだ。マジかよ」

 

「おぉ……すごい」

 

「あー……マジっすか。頭痛消えましたわ」

 

「はいっ。ようござんすね。……すみません、一階の洗面所は女性陣が使ってるので……洗顔はハイベースのギャレーか、外水洗で我慢していただけますか……すみません」

 

「いやいやいや。問題ねぇわ。……あんがとな」

 

「…………えへへ」

 

 

 

 ……うん。男性陣はこれで大丈夫そうだ。

 やむにやまれぬ事情により、客間である和室を追い出されてしまった彼らであったが……掛け布団を持ち込んだお陰もあってか、寝苦しさを感じさせずに済んだようだ。

 準備ができたらダイニングに来てもらうように言ってあるので、遠からず朝ごはんに来てくれることだろう。

 

 

 …………というわけで。

 

 あとの問題は……こっちだ。

 

 

 

 

 

 

「おかえり、若芽ちゃん。……ごめんね、うちの身内が」

 

「いえいえいえ。ギャップ萌えってわけじゃないですけど……嬉しいですよ。普段と違った側面が見られて」

 

「そう言って貰えると……うん。…………あぁもう、四人とも朝ズボラだからなぁ」

 

 

 おれが玄関からオウチに戻ったとき、ちょうど洗面所から道振(ちふり)さんが姿を現し、申し訳なさそうに口を開く。

 女性陣……というよりは『にじキャラ』さんたちのなかで唯一朝ちゃんと起きられた彼女は、既に洗顔と身だしなみを整え終えたようだ。

 

 ……まあ、彼女の言葉から解っていただけるかと思うんだけど……道振(ちふり)さん以外の女性陣はね、あれね。だめだよ。ちょっと映せないね。

 

 

「……わたしは、まぁその……なんていうか、えっと……よそ者なので、っていいますか……」

 

「あぁーごめんごめんごめん、大丈夫。身内の不始末だから。……さすがにね、パンツ丸出しのおねーさんがたを起こさせたりはしないから。私がちゃんと責任持って叩き起こすから」

 

「……すみません、さすがに()()は……びっくりしました」

 

「だよねぇ……ごめんねぇ……」

 

 

 元はといえば……昨晩の配信中、酒気と眠気にやられて道振(ちふり)さんとティーさまとくろさんがダウン、急遽隣の部屋に用意したお布団に緊急避難させ、そこを女子部屋に改編した経緯がある。

 その後配信終了時まで粘った(※ただしいい(だめな)感じに出来上がってた)うにさんとちとせさんもお布団にダウンし、眠る場所を奪われた男性陣はハイベース号に避難、ラニに唆されて二次会をおっ始めた……という形だ。

 

 まぁつまり、こっちもこっちでなかなか混沌とした有り様だったわけだな。

 朝おれが扉トントンしてみても反応したのは道振(ちふり)さんだけだったし……扉開けてもらって道振(ちふり)さんに挨拶して、まだ薄暗い部屋の中覗き込んだら――まぁ、誰のかは解らなかったけど――パンツ丸出しのおしりがこっち向いてたんだもん。

 

 さすがに嫁入り前のお嬢さんの下着姿を拝むわけにはいくまいと、こっちの部屋のことは道振(ちふり)さんに丸投げして、おれはお台所から様子を見に来てくれた霧衣(きりえ)ちゃんと一緒に、はなれ(ハイベース)の様子を見に行ってきた……というわけだな。

 

 ……うん、お嬢さんがたの寝起き姿は、男のおれには少々刺激が強すぎる。

 ここは道振(ちふり)さんに全てを任せて、おれは戦略的撤退とさせていただこう。わはは。

 

 

 

「あっ! わかめさま! ごはんが炊けたようでございまする!」

 

「……お早う御座います、御屋形様」

 

「む……戻られたか、家主殿よ」

 

「おはようございます、天繰(てぐり)さん、(なつめ)ちゃん。霧衣(きりえ)ちゃんは……大丈夫そう?」

 

「はいっ! 肉じゃがはいい具合に『しみしみ』でございまする。出汁(だし)()きは念のためたくさんお作りましたが、お出汁(だし)はまだございますので、不足とあらばまだまだご用意できまする」

 

「家主殿、家主殿。今朝のみそしるは我輩が味見をしたのだぞ。葱と豆腐も我輩が刻んだのだぞ」

 

「……腸詰の方は、僭越ながら手前が。頃合良く焼けたと自負しております」

 

「ありがとうございます……! もうみんな最高かな!」

 

 

 ダイニングテーブルと、アウトドア用折り畳みテーブルが二つ。……ちょっと見た目はカッコ悪いけど、広さのほうは充分だろう。

 簡素な造りの折り畳みテーブルは、ちょっと左右にゆらゆらするが、脚と脚を紐でガッチリ結べば問題ない。

 

 テーブルにおかずを運んで、お茶碗……はさすがに人数分は無いので、お客さんは茶碗代わりのペーパーボウルと、あと割り箸で我慢していただく。

 これまたお椀代わりのペーパーボウルにお味噌汁をよそい、ぎっしり炊いたごはんを炊飯器ごとテーブルに運び、しゃもじを用意して準備万端。

 

 おかずは鍋いっぱいの肉じゃがと、ずらりと並んだ出汁巻き玉子と、程よく焼き色がついたウィンナー。

 朝食ブッフェと呼べるほど大層なものじゃないけど……お腹を満たすことくらいは出来るはずだ。

 

 

 

「おはようございまーすお邪魔しまーす。……いやーすまん、ちっと手間取っ」

 

「待って、めっっちゃいい匂いするんすけど! あっお早うございます皆さ」

 

「わかめちゃんごめんね、車の鍵。ありがとう。……いやー、貴重な経験でき」

 

 

 

「はいっ! お早うございます、皆さま。早速ごはんをよそわせて頂きまする」

 

「のうのうお客人よ。今朝のみそしるは我輩が味見をしたのだぞ。葱と豆腐も切ったのだぞ」

 

「……お早うございます、御客様。……朝餉の支度は整って居ります」

 

 

 

「「「うわーーーー!! メイドさんだァーーーー!!」」」

 

 

「朝っぱらからやっっかましいわ野郎共わぁーー!? メイドさんだァーーーー!!」

 

 

「どうしたんみんな、そんな大騒ぎしわぁーー!? メイドさんじゃーーーー!!?」

 

 

 

 『はて?』とでも言いたげに可愛らしく首をかしげる、この大騒ぎの元凶であるメイドさんこと天繰(てぐり)さん。

 昨日の公開処刑配信のとき、ハデスさまが『メイド服好き』ということを聞き、『これはもしや』と期待しながら機を窺っていたのだが……思っていた以上のリアクションを引き出すことができたので、おれは満足だ。

 

 副次的な効果として……皆さんの絶叫によって、寝起きぽやぽや系女子ふたりも目を覚ましたらしい。

 くろさんは五割増しでンニュンニュしてるし、ちとせさんは普段のおくちわるさは鳴りを潜めてムニャムニャしてる。かわいいかな。

 

 

 岩波市の山中。今まではその広さを持て余していた我が家で執り行われた、お泊まり会二日目の朝。

 

 賑やかな一日は……こうして騒動と共に幕を開けた。

 

 



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375【襲撃翌朝】進捗すさまじいです!

 

 

 驚愕のしんじじつ!

 

 なんと『にじキャラ』第Ⅰ期生のハデスさまは……激シブでダンディなナイスガイでありながら、メイドさんをこよなく愛する紳士だった!!

 わー、しらなかったー(棒)。

 

 

 

 

「いや、あの、えっと……本当助かりました。ありがとうございます、皆さん」

 

「……我々だけでは、此処まで作業は捗らなかったでしょう。……感謝致します」

 

「いやいやなんのなんの! 一宿一飯の恩義、ってなぁ! そうだろお前ら!」

 

「「(ぜーはー、ぜーはー)」」

 

「し、しんでる……」

 

 

 まず昨晩……ハデスさまの『メイド服好き』が発覚した、おれの公開処刑配信。

 

 加えて、今朝……わが『のわめでぃあ』の新メンバー(まだ未公表)、DIY(おにわ部)専属職人メイド大天狗ガール天繰(てぐり)さんとの遭遇を果たし。

 

 そして……現在。

 おれは予定通り、天繰(てぐり)さんとガレージの作業の続きに取り掛かったわけだけど……おうちでゆっくりしていてもいいのに、ハデスさまが(あからさまに嫌そうな表情の刀郷(とーごー)さんとウィルムさんを巻き添えに)手伝いを申し出てくれまして。

 そのお陰でなんと、壁を張って梁を掛けて屋根板まで打ち終わるという……もう『ほぼ勝ち』が見えるあたりまで作業が進んだ次第でありまして。いやぁ男手(おとこで)ってすごいですね。

 

 

 ところで、えーっと、まぁ……なんでこうなったか……と。それに関しては、おれのエルフ的知覚能力が告げているんですが……

 

 多分ハデスさま……かなりストライクなんじゃないかな、天繰(てぐり)さん。

 

 

 

「いやーいやー……手際すげーのな、テグリちゃん」

 

「……恐縮に御座います」

 

「そのメイド服……良いね。自前? どっかで買ったの?」

 

「……知人の伝手(つて)にて。……針仕事の職人が居ります(ゆえ)

 

「へぇー(すげ)ぇ!! ……って事ぁ、他にもそのメイド服着てる知り合い居んの?」

 

「……さて、其処(そこ)までは。……手前は家仕事が主に御座います(ゆえ)、『正装』と聞き重用して居りますが」

 

「おうおうおう。その通りよ! やっぱハウスメイドの仕事着っつったらメイド服っしょ!」

 

「……矢張(やは)り、左様(さよう)でしたか」

 

 

 ……うん、めっちゃ興味津々でしたね。

 見れば刀郷(とーごー)さんとウィルムさんも、妙に生き生きとコミュニケーションを図るハデスさまにどこか唖然とした様子だ。

 ハデスさまが『メイド好き』ということは情報として知っていたんだろうけど、実際に(メイドカフェではない)メイドさんと対面したのは初めてだったのだろう。

 

 天狗の半面で目元は隠れているとはいえ……天繰(てぐり)さんの艶やかな御髪(おぐし)や引き締まった腰まわり、程よいサイズのおむねや整った体幹……そして何よりもメイド服の自然な着こなしは、ありありと見てとれる。

 天繰(てぐり)さんの魅力を感じさせるには、充分だった……ということだろうか。

 

 そう……何が凄いって天繰(てぐり)さん、メイド服姿がすごい『自然』なんだよな。服そのものがすごいのかもしれないけど、いわゆる『コスプレっぽさ』が感じられない。

 もし仮に、天狗面とツールバッグを装備解除していれば……およそ完璧な『メイドさん』に見えるのではなかろうか。もっともお料理は現在勉強中だけど。

 

 

 まぁ何はともあれ……男性陣お三方のお陰で、ガレージ作業はとてもとても捗った。

 撮影のほうもモチロン抜かりはない。カメラの位置と角度を調整することで、『にじキャラ』男性陣お三方のお顔は九割九分がた映らずに済んだはずだ。

 

 そして残りの一分(いちぶ)に関しては……編集のときにちゃんとチェックすれば、どうとでもなるだろう。

 基本(えぬ)倍速でタイムラプス掛けるだろうし、お顔が映っちゃったところはそこだけボカシを入れたり。そこは局長の編集技術の見せ所だ。

 

 

 ……というわけで、作業のほうは終了だ。おれたちの都合に付き合わせてしまった彼らにも、帰る前にひとっ風呂浴びていただいたほうがいいだろう。

 木材の粉や土であちこち汚れているだろうし、いくら冬とて体を動かせば汗をかく。そもそも人間は寝てる間も汗をかく。

 

 そこんとこ、よーくご存じなのだろう。お嬢さん方は朝食のお片付けを終えるや否や、荷物を纏めて『朝風呂行ってくるわ!』と出掛けていってしまった。

 棗ちゃんの分身がこっそり様子を窺っててくれるらしいので……とりあえずは安心だろうか。えらいぞ(なつめ)ちゃん。あとで○ゅ~るをおごってあげよう。

 

 

 

「思い残すことがないなら、お荷物ぜんぶハイベースに積んじゃいますか? チェックアウト……じゃないですけど、帰る前にもうひとっ風呂浴びて、落水荘さんから直接帰るとかでも」

 

「あー…………良いかね? 正直助かる。おじさんこの汗だくで電車乗りたくないわぁ」

 

「めっちゃ張り切ってましたもんね、ハデス様。そんなにテグリさんに良いトコ見せたかったんすか?」

 

「ちょ馬鹿野郎(バカヤロー)刀郷(トーゴー)テメーコノヤロー」

 

「あーコレは図星だな。耳の後ろ掻いてやんの」

 

 

 なるほど……ハデスさまにそんなクセが。これは覚えておいたほうが良さそうな情報ですね。

 刀郷(とーごー)さんとウィルムさんの指摘に恥ずかしがるハデスさま……そんな意外な一面も目にすることが出来、この二日間で(おそれおおいが)とても親近感を感じるようになっていた。

 

 

「……大変、御立派で御座いました。……感謝申し上げます」

 

「…………へへッ」

 

「うわ、少年みたいなテレ顔っすよ」

 

「これネタにしばらく弄ってやりたいけどなぁ……天繰(てぐり)さんのこと喋っちゃマズいよね。どうやって伏せよう……」

 

「あっ、ガレージ完成し次第公開するんで、もう少しだけ待っていただければ」

 

「マジで。オッケー超待つよ。めっちゃ楽しみに待ってる」

 

「……お手柔らかに頼むわ」

 

 

 

 有り体に言えば『推し』である天繰(てぐり)さんに御礼を告げられ、まんざらでもなさそうな顔をして見せたハデスさま。

 うわ、常日頃からオトナびてるひとが不意に見せる無邪気さ……これまた尊い(てぇてぇ)ですわ。

 

 さすがに同期相手ともなれば、頭ごなしに『おいやめろ馬鹿』とは言いづらいのだろうか。『にじキャラ』配信者(キャスター)の中でも年長者の部類に入るハデスさまは、観念したように両手を広げて苦笑して見せた。

 ……はー、かわいいかよ。

 

 

 

 

 そのあとは……まぁ、ダイジェストとしてご報告させていただこうか。

 

 お嬢様方は大荷物もキチッと纏めてくれてあったので、とりあえずそれらをぽいぽいとハイベース号に収容。

 しかる後に男性陣と、お風呂に行きたそうな(なつめ)ちゃんを乗せて、落水荘さんまでハイベース号を回しまして。

 

 男性陣をお風呂に送り出し、(なつめ)ちゃんには言伝(ことづ)てを頼んで送り出し……一方おれは喫茶コーナーで優雅にプリンパフェとアイスコーヒー(計一〇五〇円)を頂きつつ、お礼メッセージを録りながら時間をつぶす。

 というのも……休憩座敷を覗いてみたところ、お嬢様方のお姿は無かったからだ。恐らくお風呂で(なつめ)ちゃんが合流してくれただろうと思い、あの子を信じることにした。

 

 

 自分で行けば良いじゃんって?

 ……いや、無理だよ。おれ純粋な女の子じゃないし。中身おじさんだもん。いくら身体が()()だからって、平気な顔して女湯に入り浸れるほど開き直れてないし……さすがにあの子たちに会わせる顔がない。

 

 

 まあともかく、そうしてこうしてどうやら言伝(ことづ)てはしっかり伝わっていたらしく((なつめ)ちゃんえらい。おやつ追加)……予定時刻の十一時には、みんな揃って落水荘を後にすることができた。

 本予約を決めてくれたこともあってか、支配人も大変いい笑顔で見送ってくれた。

 

 その後は昨晩お世話になった和食処『あまごや』さんにて、今度はランチのご利用。丼ものやお蕎麦や定食なんかをいただき、大満足のみなさん。

 うにさんと刀郷(とーごー)さんのコミュ(りょく)が半端なく、店員のおばちゃんとあっという間に打ち解けてたのは衝撃的だった。

 

 

 ……っとまぁ、終盤は駆け足だったけども……以上で『にじキャラ』の皆さんのお泊まり会は、無事終了のはこびとなった。

 カモフラージュの意味も含めてハイベース号にご搭乗いただき、しかし実際にはラニちゃんの【門】にて、ほんの数瞬で渋谷区の事務所へひとっ飛び。

 いや、確かに今日は月曜だけどさ。ほんとに直通でいいのか株式会社NWキャスト。

 

 

「じゃあな、わかめちゃん! また()()よろしく頼むわ!」

 

「のわっちゃんまた明日なー! 楽しかったでー!」

 

「助言、ありがとうございます。セラちゃんとも共有して、身体使いこなせるよう頑張りますね!」

 

「ありぁとぅーね、わかめちゃん。今度おれともFPEX(シューティングゲーム)やろうぜぇ」

 

 

 ほんの僅かな間の滞在だったけど、皆さんどうやら満足してくれたようで……【門】に飛び込み際には皆さん口々に、感謝の言葉を掛けてくれた。

 アッ、もぅヤバい。マジ無理。しんじゃう。推しからのお礼の言葉やぞ。印刷して壁に貼りたい(※無理です)。

 

 

 

 とはいえ……おれも束の間とはいえ夢みたいなひとときを過ごさせてもらったので、こんどは真面目にがんばるターンだ。……いやおれ(わかめちゃん)はいつだってまじめだけど。

 

 徐々に厄介なことになりつつある、【苗】を巡る騒動……おれたちの対応能力を底上げするためにも、われらが万能系大天狗少女天繰(てぐり)さんに、ちょっとばかし稽古をつけて貰うことになっているのだ!

 

 

 遊んだ分は、がんばらないとね。

 

 天繰(てぐり)師匠、どうぞよろしくお願いします!!

 

 

 



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376【無茶修行】天狗の仕業じゃ(半ギレ)



局長は色々とかけもちしてるのでアレコレやってます!
お客様が帰ったあとの午後です!




 

 

 師匠(てぐりさん)(いわ)く、おれが【苗】対策に動く……えーっとまぁ、つまりは『出撃』するにあたって、いちばん懸念されるべき点として挙げられる箇所は、ずばり『運動能力』なのだという。

 

 

 攻撃手段ならびに敵対対象の妨害・拘束手段に関しては、おれの頭のなかに数多納められている多種多様の『魔法』を用いれば問題ない。

 まぁ実際のところは使い慣れた数種類――【氷槍(アイザーフ)】やら【草木(ヴァグナシオ)】やら――に追加効果を付与し、状況に応じて数で補ったりと……まぁだいぶ行き当たりばったりな部分はあるのだが、現状これでなんとか対処できている。

 一応【焼却(ヴェルブラング)】や【放電(ヴォルティーク)】、【暴風(ストラクス)】などの各属性魔法も一通り二通り以上は取り揃えているので……まぁ、周囲への被害を考慮しなくて済む場面ならば、盛大にお披露目させていただこうと思う。

 

 

 というわけで、やはり懸念となるのは『運動能力』のほうだろう。

 そもそもおれのジョブとしてのモデルは『魔法使い』であるからして、どちらかというと敏捷性よりかは火力にパラメータを割り振ったイメージだ。運動が苦手だったとしても『そういうもの』なのだから、ある程度は仕方ないところも無くはない。

 

 もちろん、これまで何度か試みてきたように、身体強化(フィジカルバフ)魔法をこの身に纏えば、下手な陸上競技の選手以上に走れる自信はある。

 しかしそれは、あくまでも付け焼き刃に過ぎない。いくら身体能力を高めたところで、咄嗟の判断力や身体の使い方や効率的な動作に繋がるわけではないのだ。

 

 今のおれでは……たとえ身体強化魔法を纏い、超一流アスリート並の身体能力を発揮できたとしても、たとえばラグビーやバスケットボールやサッカー、あるいは剣道や柔道などで活躍するなど……到底望むべくもないだろう。

 というのも、単純に『技術』が無いからだ。プロ選手の高度な判断力に裏付けされた各技術は、一朝一夕でどうこうなるものでは無い。

 

 

 

 

 というわけで。

 

 

 お師匠様(てぐりさん)からおれに課せられた、最初の鍛練。それはずばり『身体の動かし方を身に付けよう』というものだ。……小学校体育かな。

 

 しかしそうはいっても、さすがは大天狗さまのご指導、といったところか。気になるその訓練内容は、天繰(てぐり)さん曰く『実戦的』とのこと。

 カッコいいその響きと、なによりもカッコいいお師匠様(てぐりさん)に……おれの期待はいやがおうにも高まっていた。

 

 

 

 ……のだが。

 

 

 

 

 

「ちょ()ああああ!! じ、じじっ、実戦的って! こういう意味じゃ、ないッ!? っ、と思う! んです! けどぉぉッ!?」

 

「ほう……まだお喋りの余裕がお在りですか。さすが御屋形様。もう()()増やすとしましょう」

 

「むりむりむりむりむりアアーー!! むりむりむりだってこれむり!! アアーー!!」

 

 

 

 鍛練の場となったのは、おれが所有する(借りている)山林の深部……鬱蒼とした針葉樹と低木が生い茂る一帯。隣地との境界線から大きく離れたこのあたりであれば、万が一にも部外者に見咎められる心配は無さそうだ。

 

 そもそも……この山は天繰(てぐり)さん()()のテリトリーだ。おれたちに縁の無い余所者など、おおよそ勝手なことなど出来るハズがない。

 

 

 そんな深い森の中、四方八方に遮蔽物や障害物が林立する環境にて、おれが今まさに置かれている状況。

 それはずばり、二人……いや一人増やされて三人になったか。……とにかく、三人の黒い翼を持つ少女による縦横無尽の猛攻をただただひたすら延々と回避し続けるという……『実戦形式』と呼べなくもないかもしれないがとりあえず大変物騒きわまりないものだった!

 

 

 

「……其処迄(そこまで)と致しましょう」

 

「「「御意に」」」

 

「っ!! ぐはーーっ! ぬがーーーー!!」

 

 

 我ながら可愛げのない悲鳴を上げながら、とりあえず服が汚れるのも厭わず地面にごろんと仰向けに寝転がる。

 服が汚れるのなんて今更だ。訓練用にと着替えたジャージの上下だが、既にくだんの『訓練』によって余すところなく黒塗りにされている。

 

 仰向け大の字で荒い呼吸を繰り返し、平らな胸を上下させるおれの視界。そこにはすぐ傍らでおれを『じっ』と見下ろす天繰(てぐり)さんのほかに……天に向かってまっすぐ伸びる針葉樹の林と、その枝に悠然と佇みおれを見下ろす、黒い翼を持ち特徴的な和服に身を包み一本歯の下駄を履いた、三つの人影。

 彼女らの左手には墨色の帯がたなびく瓢箪(ひょうたん)が握られ、そして右手には訓練用の木刀……ではなく、長い柄と巨大な穂先を持つ一メートル程の和筆が携えられていた。

 

 

 まぁ……要するに『羽子板』の罰ゲームみたいな感じかな。塗られたくなかったら避けなさいってことだったらしい。いちおうお顔は勘弁してくれるらしいよやさしいねははは避けられるわけないだろ三対一やぞばかじゃないの!!

 

 

 

「……大雄(ダイユウ)。……所見は」

 

「は。体捌きそのものは未だ未熟なれど、一足ごとの跳躍力……脚力はなかなかのものかと」

 

「……迦葉(カショウ)

 

「はい。姉上に同じく。やっぱ単純に動き慣れてないって感じですかね。磨けば光るってやつだと思います。楽しみですね」

 

「……求菩提(クボテ)

 

「んん。……視野が、まだまだ……かも。墨の水音も、聞こえてない。……思ったより……あっさり後ろ取れたから」

 

「ングゥーーーーッ」

 

 

 返す言葉がない……というか、三人の言葉はそれぞれ非常に身に覚えがありすぎる。

 いくら三対一だったとはいえ、あれだけ目まぐるしく跳び回っていながら、それでいておれの様子をちゃっかり見分していたとは……はんぱねぇ。

 

 

 おれの(次回以降はミルさんも)鍛練に付き合うための、天繰(てぐり)さんがここ数日擦り合わせを行っていた『準備』こそ、ここへこうして招集された三人の烏天狗……ダイユウさんとカショウさんとクボテさん。

 天繰(てぐり)さん一人だと付けられる稽古に限界がある、みたいなことを言っていたが、これどう考えても過剰戦力だと思うんですけど。

 

 なんていう実力者を……しかも三人も連れてきてくれたんだ。見た目はそりゃあ可愛らしい少女だけど烏天狗だしどうせ見たまんまの年齢じゃないのだろう。三桁歳でも驚かんぞ。でも見た目美少女三人に合法的にいたぶってもらえるとかご褒美かよ畜生ありがとうございます!!(半ギレ)

 

 

 

 ……などと言葉には出さずに愚痴ってみても、状況はなにも変わらない。

 近くの枝に掛けてあった鞄から天繰(てぐり)さんが持ってきてくれたタオルとドリンクをありがたく頂き、汗ばんだ顔とおなかを拭って喉を潤し、調子を整える。

 

 それは確かにありがたくはあるのだが……そこに込められた『休憩できましたね。では次いきましょう』のメッセージをおれは確かに受け取ってしまい、ありがたくて涙が止まらない。

 『鍛練の間は雇い主とか関係なくビシバシお願いします!!』なんて言ってしまった一時間前のおれをどうにかして黙らせたいところだが、口から出てしまった言葉が消えることは無い。

 

 そしてなによりも……おれはおとこなので、二言はない(おとこなので)。

 

 

 

「……それでは、再開致しましょうか。……位置へ」

 

「「「御意に」」」

 

「ぐぐぐ……了解です。【快気(リュクレイス)】」

 

「……では。……老婆心に御座いますが、可能な限り動作は控え目に。過分な所作は次の行動を縛ります。……『烏』共の墨の音と、御屋形様の耳を上手くお使い下さいませ」

 

「…………やってみます。……お願いします」

 

 

 ふわりと飛び退き、手掌にて合図を下す天繰(てぐり)さん。

 直後三方向から液体の跳ねるような音と風の流れが迫り、息もつかせぬ連擊が襲い来る。

 

 大丈夫……魔法使用禁止縛りでもなければ、おれのスタミナはほぼ無尽蔵なはずだ。疲労は溜まりこそすれ限界を迎えることはなく、ほんの少しずつとはいえ進歩することができれば――鍛練に鍛練を重ねれば――いつかは『つよつよ』になれるはずだ。

 

 

 そうして、基礎体力も上がっていけば……あのにっくき『輪っか』のやつも、魅せられるプレイができるようになるはずだ。

 

 

 そう……これはおれの配信にも活かせる、画期的な修行なのだ!

 視聴者の皆さんに喜んでもらうためにも、皆さんに褒めてもらうためにも、立派に鍛練を乗り越えて見せる。

 

 

 おれは、ぜったいに負けたりしない!

 

 なぜなら……おれはおとこだから!!

 

 





もうちょっと修行するんじゃ!


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377【無茶修行】わかめは助けを呼んだ

 

 

 やっぱり三対一には勝てなかったよ。

 

 

 

「おつかれ、ノワ。………………ノワ?」

 

「…………………………」

 

「し、しんでる」

 

「いや殺してないですって」

 

「はい。直接打撃は控えた筈です」

 

「………………真っ黒」

 

 

 

 あれから第二ラウンドと、そして第三ラウンドを無事(?)戦い終えて……おれは横向きで丸まって、死んだようにぐったりと倒れ伏していた。

 

 いやね……いくら体力回復魔法があるっていってもね……おれわかった、そんな無限に回復できるわけじゃないわこれ。

 

 

 確かに、消耗した体力を回復することは出来た。ガックガク大爆笑だった膝もきちんと黙ったし、身体の疲れもきちんと吹き飛ばすことは出来た……と思っていた。

 しかし実際には、魔法では解消しきれない疲労というか……強化(バフ)魔法は健在なのに、徐々に徐々にパフォーマンスが下がっていくのが、自分でもわかったのだ。

 

 中でも精神的な疲労は、取り除くのに少々難儀するようだ。集中力そのものもずーっと張りつめ続けていたので、脳のまわりがオーバーヒートしているような感覚さえある。

 

 

 

 …………で!(半ギレ)

 

 決して長い時間では無かった(はず)とはいえ、ものすごい高密度の運動をし続けたおれは……ジャージ部分も露出した素肌部分も、首から下は全身余すところなく墨で黒塗りにされたあられもない姿で、土が露出した地面に丸まって『すんすん』とすすり泣いているのだ!

 

 ご丁寧に……塗り残しを見つけたらそこを狙うという執拗さで、見事に真っ黒に塗られてしまった。すんすん。

 

 

 

「これ程とは……正直びっくりなんだけど……ねーえ、天繰(てぐり)ちゃん。この子たちみたいな子をアテにさせてもらう……とかって、やっぱ難しい?」

 

「……ええ、恐らくは。……手前や、手前の翼共を飛ばすこと自体は叶いましょうが……肝心の『敵』が視えませぬ」

 

「あぁー……そっか。知覚できなきゃどうしようもないのかぁ」

 

「……恥ずかしながら。……神域に座す主神殿で在ればまた違いましょうが」

 

 

 うん、それはおれも考えたことがあった。

 

 フツノさまやモタマさま、あるいはその配下である龍影(リョウエイ)さんや金鶏(キンケイ)さんは、神域および境内から出張ることは不可能だろうが……こうして比較的広い行動範囲を持つ天繰(てぐり)さんには、もしかしたら助力を乞うことは出来るのではないだろうか。

 ……そう考えた時期が、おれにもありました。

 

 しかし実際、結論としては……不可能。

 目に見える脅威を排除することは不可能じゃないけれども……大本である『苗』を知覚し、干渉することが出来ないのだ。

 

 

 あまりにも『葉』や、あの『獣』や『竜』が増えまくり、いよいよ処理の手が足りなくなったら、そのときは(縄張りに限り)手を借りることは不可能じゃないかもしれないが……そこまでの事態に陥るなんて考えたくはないし、そこまでいく前にまずはおれが戦えるようになることが重要だろう。

 

 

 なので、おれは色々と鍛えなきゃいけない……ところではあるのだが。

 

 

 

「あの、頭領……この子生きてます?」

 

「うーん……かなり頑張って避けようとしてたもんね……」

 

「…………しんだ?」

 

「……(いえ)、大丈夫でしょう。……()の程度で御屋形様は潰えませぬ。……さぁ、いざ」

 

「ち……ちょ、待っ…………たいむ……」

 

「あー……これはダメそうだね。仕方ない」

 

 

 確かに、精神的な疲労度は溜まりに溜まっているとはいえ……【快気(リュクレイス)】でそれらの疲労を無視すれば、行動継続そのものは可能だ。可能だが……さすがにもう少し、こう……なんというか。手心というか。

 

 いや、甘えたことを言っている自覚はあるんだけど、もう少し心と身体を休ませてほしいかな、って思ってたんですが……お師匠さまの様子を窺う限り、直ちに再開させようとしているのは明らかなのであって。

 

 

 

「代わるよ、テグリちゃん」

 

「……ほう」

 

 

 そんな『ひんひん』べそをかいていたおれの、心と身体を助けてくれたのは。

 

 やっぱり……ここぞというときに頼りになる、小さくも心強い相棒だった。

 

 

 

「ノワの代わりに、ボクが相手だ。たまにはめいっぱい動かないと、って思ってたところだし……こんな身体だ、今まで以上に感覚が難しいし。……いいよね?」

 

「……頭領、私は一向に構いません」

 

「はい。右に同じです」

 

「……左に同じ」

 

「そう来なくっちゃ。……久し振りに燃えてきたよ」

 

「…………まぁ……良いでしょう」

 

 

 

 空間を捻じ曲げ現れた【蔵守(ラーガホルター)】の扉……そこから頭頂高二メートルに達しようかという白亜の鎧が姿を現す。

 清廉で優美な印象を感じさせる全身甲冑は、その右腕部分は痛々しく欠損していながらも……しかしながら意匠の異なる別の籠手を誂え、その守りは微塵も揺らぐことはない。

 そのままの意味で、この世のものとはおもえぬ迫力と存在感は健在だ。

 

 右手には両刃の剣……の代わりだろうか、長めの羽子板のような……棒? もしくは板? ……まぁ、訓練用だろう武器を握り。

 左手には、全身鎧と意匠を近しくする凧型の盾――()の得意とする攻防一体の、もう一つの武器――を携え。

 

 入り口代わりの兜の面頬(バイザー)を開け、未だヤム○ャ体勢ですすり泣くおれに向けて自信たっぷりに親指を立てて……可愛らしくも頼もしい笑みを残し、鎧の中へと姿を消し。

 

 

『【義肢(プロティーサ)全身骨格(トルクトレイル)】。……うん、悪くないね。むしろいい感じ』

 

「……成程……一種の『分かち身』の術と推測致しますが……斯様な使い方が在ろうとは」

 

『ふっふっふ。ボクもこう見えて、結構動けるほうだからね。……さて、さんざんノワを虐めてくれたんだ。一矢くらいは報いさせて貰おうか』

 

「ラニちゃん…………」

 

『ノワを虐めて泣かせて辱しめて犯してねぶって良いのは……ボクだけだッ!!』

 

「ラニちゃん……??」

 

「「「(めんどくさい人だな……)」」」

 

 

 かわいそうなおれの仇をとるべく……あるいは、回復の時間稼ぎのため。

 

 小さな身体を魔法と防具で包んだ異世界の『勇者』は、重々しい金属音と共に……しかし軽やかに歩を進めていった。

 

 

 






メイン勇者きた!これでかつる!!



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378【無茶修行】『格』の違い

 

 

 ほんとに今更なことなんだけど……いくら木刀の代わりに巨大な和筆を構えたとて、それでおれの全身にボディペイントを施すのは、並の技量では叶わないだろう。

 

 グリップ部分以外のほぼ全てが有効打撃範囲である木刀とは違い、和筆で黒塗り出来る部分は当然、穂先の部分のみに限られる。

 おれを塗り塗りするためには適切な間合いを保ちつつ、それでいて()()速さを維持しなければならない。

 

 

 ……つまりは烏天狗三人娘は、それほどまでの技量を備えているということだ。

 たぶんだけど……筆での塗り塗りではなく単純にコテンパンにするルールだったら、ほんの数秒でヤ○チャ(ノックアウト)される自信がある。

 

 

 

 

『はっはっはっは! 伊達(ダテ)に世界の終末を見届けちゃあ居ないってわけよ!!』

 

「「「ぐぬぬ……」」」

 

 

 

 そんな技量と速度を備える三人娘の猛攻(三十分ワンセット)を……なんとラニちゃん(in全身鎧)は驚くことに、片手短杖と凧型盾で見事に凌ぎきって見せた。

 

 

 おれのとき同様三対一だし、『両手の武器を同時に使っても二人が限界なのでは』などというおれの考えをいい意味で裏切り、始終余裕のペースでの試合運びとなったこの一戦。

 特筆すべきはやはり……【門】あるいはそれに類する魔法を、積極的に防御手段として用いていたところだろう。

 

 右手の短杖で一人目の筆を往なし、左手の盾で二人目の筆を防ぎ……死角(であるはず)の背後から襲い掛かる三人目には、襲撃者の目の前に【門】を開けて素通りさせてしまう。

 出現座標をあえて記述せず、襲い来る敵に対して入り口を向けるだけ。その入り口から入ればほんの数メートル先に飛ばすだけの、『トンネル』のような空間魔法……しかし単純に『攻撃を防ぐ』用途に使う限りでは、なかなかどうして効果的な様子だった。

 

 

 しかしあの空間魔法、今回は単純に『素通り』させただけだったが……使い方によっては入口と出口を同軸上に配し、『反射』のように用いることも可能なのだろう。

 たとえば敵の投射攻撃や攻撃魔法、それこそあの【竜】の口腔砲(ブレス)なんかを【門】に取り込み、入射方向へとそのまま撃ち返す。つまりは某『魔○の筒(マジックシ○ンダー)』。

 ……想像しただけでも半端ない。それこそがラニの二つ名【天幻】の本領なのだろう。

 

 かつて存在していた世界で、世界を滅ぼす魔王相手に単身戦いを挑み……負けなかっただだけのことはある。

 

 

 

 

「…………ラニちゃん」

 

『なぁにノワ。惚れ直した?』

 

「うん。……いや、ごめん。…………正直、こんな強いとは思ってなかった」

 

『っふひへへぇー! いつでも誘ってくれていいんだよ!』

 

「なにを!!?」

 

『大丈夫、優しくスるから! ちゃんとほぐすし痛くしないから!』

 

「なにが!?!?」

 

 

 

 ……相変わらず、その性根のほうはなんとも言いがたい……えっちで破廉恥でイタズラ大好きな、おれの相棒。

 しかしその秘めたる実力と……そしてなによりも、おれのことを大切に思ってくれているというところ。それらの点に関しては、もはや疑う余地もない。

 

 天繰(てぐり)さんの従者三人に(おれが頼んだこととはいえ)泣かされたおれの、仇というか仕返しに名乗り出てくれ……そして見事に勝利を納めてくれた、心優しい相棒。

 まぁもちろん勝負ではなく、あくまで鍛練の一環ではあるのだが……常日頃から『ノワはすごい』と口にしてくれている彼女は、おれがスンスン泣きべそかかされたことに対して思うところがあったらしい。……おかあさんかな。

 

 

『肉体は()()だから……全盛期よりは反応が鈍いけど、代わりに探知魔法のキレは増したね。この身体を与えてくれて、そして命を繋いでくれたノワのおかげだよ』

 

「……おれの……おかげ?」

 

『もちろん。ボクの総ては、あくまで『借りモノ』に過ぎない。この身体も、魔力も、ボクが持つチカラの何もかもは、全てノワから借りているモノだ。ボクが引き出せたチカラは、そもそもノワの持つソレのほんの一部に過ぎない』

 

「ラニの強さが……おれの、一部」

 

 

 

 元々この世界に存在しなかった『フェアリー種』という幻想種族……そんなラニの存在をこの世界に引き留めているのは、全ておれの魔力によるものだ。

 ラニの使う魔法の全ては、おれの魔力を消費して発現されている。あの攻防一体の【門】の魔法も、全身鎧を纏った身体を機敏に動かす浮遊魔法も、そもそも仮初めの身体を構成している【義肢(プロティーサ)全身骨格(トルクトレイル)】も……元を辿れば全ておれの魔力によるものだ。

 

 つまり……ラニの戦闘能力を担保しているのは、おれの保有する魔力に他ならないわけで。

 

 

 

『……わかるかい? ノワ。キミの持つ潜在能力の凄まじさは……ボク以下であるハズが無いんだ』

 

 

 

 きわめて極端な言い方をすれば『おれの一部』であるラニが、あそこまで高い能力を秘めているのだ。

 

 その宿主であり、親株であり、支配者であるおれが……弱いハズがない。

 

 

 ……この子は、そうおれを励まそうとしてくれているのだろう。

 

 

 

 

 

「……では、早速試して観ましょうか」

 

「ァイエェェェェエ!!?」

 

「……御屋形様の潜在能力……その発揮を御手伝いすることこそ、手前の役目に御座いましょう。……『烏』、構えよ」

 

「「「御意!!」」」

 

『あっれー……スイッチ入っちゃった?』

 

「ホエェェェエェ!?」

 

 

 

 

 ……その後。

 

 さっきラニ相手に手も足も出なかった鬱憤を晴らすかのように……おれは烏天狗三人娘に、またしてもコテンパンにされたのだった。

 

 

 いやまって、ともするとさっきより執拗におしり叩かれたんだけど。これ明らかに私情入ってるよね烏天狗ちゃん。つまり間接的にラニちゃんのせいじゃないの。ラニちゃんのせいでおれのおしりがペンペンされてるというの。

 

 

 

「……本日の鍛練は……此処迄と致しましょう」

 

「…………………………」

 

「し、しんでる」

 

「……()れでは、また明日午前。……御待ちして居ります」

 

「………………(ぐすっ、めそめそ)」

 

「ああ、なんてかわいそう(かわいい)

 

 

 

 すぱるたすぎる。こわい。おしり二つに割れちゃった。

 相変わらずヤム○ャ(倒れ伏)しているおれに天繰(てぐり)さんが一礼すると、烏天狗三人娘は同様に会釈を残し、各々飛び上がって解散していく。

 木々のざわめきを残してシュバババッて消えていったので、あの子らやっぱめちゃくちゃつよいとおもう。

 

 そして……天繰(てぐり)さんは墨で真っ黒なおれを易々と抱え上げ、メイド服が汚れるのも厭わず背中に背負う。

 リアル年齢はあえて考慮しないにしても、それでも少女然とした天繰(てぐり)さんの背中……目の前のうなじと艶やかな髪にドキドキしてしまいながら、疲れきった身体が熱を取り戻すのを感じてしまう。

 

 

「……精も根も尽き果てるまで、是非とも御足掻き下さいませ。……その後の事は、御心配無く。……手前が責任を持って、家までお送り致しましょう」

 

「アッ、アッ、アッ、……………ッスゥー……」

 

「いいなぁー! テグリちゃんのおんぶだよ! よかったねノワ!」

 

「本気で言ってるなら液のり(アラ○ックヤマト)に沈めっぞ」

 

 

 

 社会人だった頃以上に月曜日が嫌いになり……しかし、ほんのちょっとだけ『楽しみ』が増え。

 そんな些細な出来事に『人生』を感じた、冬のとある一日でした。

 

 

 

 

 ちなみにその晩、ラニちゃんはメンソレー○ムによって無事大雨になりました。

 

 アラ◯ックヤマトじゃないだけありがたいと思って。

 

 



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379【時間経過】ぶっ飛ばせ一週間



めっちゃトバします




 

 

 月曜日の午前中は、各種外構作業および『おにわ部』の収録。同日午後は午前中に引き続き天繰(てぐり)さんにお世話になり、烏天狗三人娘に合法的にいたぶってもらった(半泣き)。

 

 翌火曜日の午前中はミルさんを道連れに、昨日同様『ご褒美』してもらい(全泣き)、お昼ごはんとひと休みを挟んで東京に飛び、『にじキャラ』の皆さんの【変身】デバイス慣熟訓練監督役を務めた。

 

 水曜日と木曜日は……午前中は北陸に飛んで、山代先生にハープのご指導を三時間みっちり施して頂き、午後は火曜日と同様東京にて『にじキャラ』の皆さんと【変身】を使ってキャッキャウフフ。

 

 

 とりあえず【変身】訓練について。さすがにこの段階にまでなってくると(邪竜のウィルムさんや天使のセラフさんといった例外を除き)皆さんそれぞれ『らしい』立ち振舞いを演じられるようになってくる。

 そのためここ数日は――慣熟訓練に満足いったのか、あるいは各々の予定が入っていたのか――訓練に不参加の配信者(キャスター)さんも度々見受けられるようになってきた。……というかそもそも、最初の全体お披露目以降は元々『自由参加』の形になっていたのだが。

 

 その代わりというかなんというか、株式会社NWキャスト(『にじキャラ』の運営会社)の社員さんが見学に訪れるようになってきた。配信者(キャスター)の皆さんも顔馴染みのスタッフさんと嬉しそうに談笑していたり、決めポーズや立ち振舞いを見てもらって意見を聞いていたり、あるいは突発撮影会が始まったり(※ただし情報流出は厳禁も厳禁、念書も書かされたという)と……こういう裏側を拝見できたのは、とても嬉しかった。

 ちなみにおれも撮影会に巻き込まれた。……流出しないなら、まぁ。

 

 

 ちなみにお泊まり会以降、Ⅲ期の青樹ちとせちゃん……ちとせさんが、積極的に絡んでくれるようになった。フラグが立ったか。

 

 Ⅲ期の子たちが【変身】した姿は、そのまままさしくローティーンの魔法少女(○リキュアや○どマギ)といった姿なので……なんというか元々が病気(ろ○こん)のケを持つおれには、正直非常にたまらない。

 おれと身長があまり変わらない彼女たちとの交流を――自身に【鎮静(ルーフィア)】の魔法を掛けまくり理性を必死に叱咤激励しながら――おれはきわめて紳士的に乗り切ることができた。

 なお刀郷さんは隅のほうで半殺しにされていたような気がする。おれは何もみていない。

 

 

 そしてそして、金曜日は拠点のおにわにて悪夢の鍛練再び。……いや、みたび。

 月曜午後、火曜午前に続き今週三度目となる運動鍛練、おれは澄ました顔で当然のようにミルさんを巻き込み、教官たちの意識を分散させようと画策する。

 とりあえず多少の効果はあったが、結局はボロボロの真っ黒にさせられたので……先は長そうだ。

 

 金曜の午後は、主に午前中のダメージをリカバリーすることに費やし、こまごました作業やお礼メッセージの録音や……夜の準備等々を行う。

 そして迎えた金曜夜、定例配信『生わかめ』。ここ一週間の『のわめでぃあ』の活動報告が主な内容だが、それだけだと尺が足りないので、結局はおうたで尺を稼いだり、ゲーム配信に手を染めたりといった形になる。

 今週のお題目は、因縁の『輪っか』のやつ。視聴者の皆さんは『よわよわ』なおれの姿を期待していたようだったが……鬼教官たちによる鍛練が役立っているのか、以前よりかは動けるようになっている気がする。

 目に見えて効果が実感できるのは……さすがに、ちょっとうれしいな。

 

 なお、この度『おにわ部』顧問として参加承諾をいただいた天繰(てぐり)さん。彼女のご紹介は『おにわ部』動画第一作を公開してからにするつもりだ。

 来週月曜か……火曜には『ガレージ編』の収録が終わる見込みなので、鳥神さんには次の依頼を打診してある。来週末か、再来週頭くらいには公開できそうだ。

 

 そうそう、今回の『生わかめ』配信中は、めいんぱーそなりてぃーである霧衣ちゃんに例のおしゃれコーデ(えんじ色スカートとコクーンコートのやつ)で臨んでもらった。

 視聴者さんたちからの反応も上々、そして『生わかめ』配信中にちゃっかりと『きりえクローゼット』動画投稿のほうも完了。

 クロージングのときに動画投稿のおしらせもねじ込めたので、この配信終了後にその流れで動画を見に行ってくれることと思う。我ながら完璧な作戦だな!

 

 

 さてさて、定例配信を終えた翌日の土曜日。世間一般では休日なので、在宅のひとも(平日よりは)多いだろう。

 ……というわけで()()を狙って、いくぶんかラフな配信を慣行する。

 

 先週の土曜に行った『ひよこ組スマブロ練習』配信のように、事前告知なしのゲリラ配信。しかし嬉しいことに見に来てくれるひとも多いので、自然と身が引き締まる思いだ。

 

 そんな今回の配信内容は、ずばり『人生遊戯リベンジ』だ。ダイニングテーブルにすごろくボードを拡げ、おれと霧衣(きりえ)ちゃんと(なつめ)ちゃんの三人対戦で、人生の勝者を決めようというものだ。

 なお配信アシスタントとして、ラニちゃんのほかに神絵師モリアキを召喚している。なお神の召喚日当(コスト)霧衣(きりえ)ちゃんごはんと合歓木(ねむのき)公園ねこまみれの権利だ。……神ちょっとお手軽すぎねぇか。諭吉札も足しとこ。

 

 今回の『ゆる配信』の狙いとしては――視聴者さんに楽しんでもらいたいのもあるのだが――ジャパンキャンピングカーフェスで行ったような、リアルタイムでのカメラ切り替えによる配信演出の再現といったところだ。

 テーブルの上の映像を押さえる固定カメラのほかに、プレイに興じるおれたちを遠景で押さえる三脚カメラを設置、あとは必要に応じてズームアップに使用する手持ちカメラ。

 これら三つのカメラのリアルタイム切り替えに望もうという、どちらかというとラニちゃんとモリアキにとっての練習という側面が強いかもしれない。

 

 まぁしかし、そんな裏事情など知らない視聴者さんたちにとっては……単純に高濃度の『かわいい』を摂取でき、また同時に上質な『のわ虐』を満喫できる、休日の昼の優雅なひとときを愉悦……もとい満喫するには、ちょうど良いコンテンツであったようだ。

 かわいそうな局長のこころを犠牲に、われらが裏方さんを含め多くの人々の役に立つことができたので、大成功と言えるだろう。

 ……おれのこころはぼろぼろだけど。すぱちゃのお礼メッセージのタスクもめっちゃ増えたけど。

 

 

 そんな慌ただしくも充実した、配信者(キャスター)生活の一週間。その締めくくりとなる日曜日は。おれは基本的には休憩をとることが多い。

 日曜日は単純に同業他者の配信が多く、それこそ登録者十万人百万人単位の方々がこぞって配信予定を入れているので、おれが配信をぶち当てにいっても土台勝ち目が無いからだ。

 

 おれは決して他の配信者(キャスター)さんの視聴者さんを奪いたいわけじゃなくて、一人でも多くのひとに生きる気力を漲らせ……『来週をお楽しみに』してもらいたいのだ。

 他の大人気な配信者(キャスター)さんは、そういう点では紛れもない同志だ。……いや先方(あちら)がおれのことをどう思っているかはわからないが、少なくともおれにとっては非常に心強い味方であることには変わりない。

 

 よって、奇しくも世間一般の方々と同じように、おれは休日・日曜日を満喫する。……と言いたいところだったのだが。

 おれは来週土曜に、一世一代の大イベントを控えている身だ。この身体の性能(スペック)であれば問題ないとは思うが、念には念を入れておくべきだろう。練習するに越したことはない。

 

 

 というわけでやってきました、こちら浪越(なみこ)市は浪東(ろうとう)区の某テナントビル。伊養(いよう)町にセットしてあったアクセスポイントから、姿を隠してひとっ飛びだ。

 昨年末、おれがこの身体になって間もない頃……初めての『歌ってみた』動画を録るにあたり、アコースティックギターと収録スタジオをお借りした『ユニオンスタジオ』さんとその系列会社が入っている、一棟まるまる音楽系のテナントビルだ。

 なんでも……くだんの『ユニオンスタジオ』さんの会員証(スマホに表示される二次元コード)があれば割引が受けられるカラオケ店が、ほんのすぐ近くにあるそうで。

 

 受付スタッフには多少訝しげな視線を向けられたが、日本が誇る最強の身分証明証である運転免許証(金枠(ゴールド)・昭和生まれ)を提示し、やや強引に受付を済ませる。

 そうして手にしたプレートを手に……ホクホク顔で階段を登り、やがて個室へとたどり着く。

 そうとも、おれは今日……徹底的に『ヒトカラ』を満喫させていただくのだ!

 

 ……あっ、ごめんね。ラニちゃんがいるからひとりじゃないね。ごめんね。へそ曲げないで。元気だして。後でパンツ見て良いから。いや、今じゃなくて後………………まぁいいけど。それで機嫌直るのかよ。解せぬ。

 

 

 そんなこんなで……おれのパンツなんかでご機嫌を取り戻したゲンキンな相棒と、昼を挟んで(※ミートスパがおいしかった)夕方近くまで、徹底的にカラオケを楽しんだ一日。

 よこしまなナンパ師のたぐいはラニちゃんが探知即認識撹乱(サーチ&コンフューズ)で追っ払ってくれたので、邪魔されること無く思う存分練習できた。

 最近のアニソンもいくらか履修したので、これで視聴者さんからのリクエストにもある程度対応できるだろう。喉の調子も良い感じだし、思ってた以上に歌えそうだ。

 

 おとくなパック料金でお会計を済ませ、妙にこちらをチラチラ見てくる店員さんの『興味・関心』の感情を浴びながら、おれたちはカラオケ店をあとにする。

 その後はおうちに帰って、霧衣(きりえ)ちゃんのごはんを堪能して、『にじキャラ』さんたちの配信を見たりスパチャを投げたりお礼メッセージの録音を進めたりと、ゆるやかな夜のひとときを満喫して。

 

 

 

 そうして眠りにつき、安らかな眠りを享受し、翌日気持ちの良い朝陽と共に目覚め……迎えてしまった月曜日。

 

 こうして始まる、慌ただしくも充実した一週間。

 

 

 

 先週とほぼ同じスケジュールを順当に消化していき……迎えましたカレンダーは二月十四日の金曜日。時計の針は二十時半。

 

 

 翌十五日土曜日の、待ちに待った『おうたコラボ(&実在仮想配信者(アンリアルキャスター)計画お披露目)』を間近に控え。

 

 その前夜祭ともいえる定例配信『生わかめ』が、いよいよ始まろうとしているのだ。

 

 



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380【前夜配信】……はんのうがない

 

 

 ちょっと不思議なことが起きたような気がしなくもないが……まぁ、深くは気にしないことにしよう。

 一昨日はまだ二月二日か三日かそのへんだったような気もするし、一週間どころか二週間弱がものすごい早さで経過した気もしなくもないけど……まぁ、そういうこともあるだろう。

 

 というわけで、今日は誰がなんと言おうとも二月十四日の土曜日、現在時刻は二十時四十五分。あと十五分後には定例配信『生わかめ』が始まろうとしており、既に配信画面には開場待機イラスト(神絵師モリアキ謹製・新作)が映し出されている。

 ……さすがは我が神、相変わらず良いお仕事をなさる。

 

 

 

『……じゃあ、そんな感じで。うちもかめちゃんの配信見とるから、タイミングはそっち合わせるわ。いきなり音声配信繋いで(もろ)てええよ』

 

「はい。助かります。……すみません、くろさんもお忙しいでしょうに」

 

『んーん、全然全然。準備とかはぜーんぶ八代(やしろ)()がやってくれとるし。うちは当日現地いって歌うだけやしぃー』

 

「はははは…………」

 

 

 この肝の据わりよう……これが『にじキャラ』が誇る歌姫の胆力か。

 おれなんか本番が明日というだけで緊張でガックガクだし、そんな状況でこれから生配信なので不安でブッルブルでたまらないのだが……良い意味で『いつも通り』のくろさんとお話しできたことで、少しは落ち着きを取り戻せた気がする。

 

 今日の配信では、なによりも明日の『おうたコラボ』のアピールを行うことが最重要だ。そのため明日のコラボ相手であり開催場所チャンネルの主である玄間(くろま)くろさんを(通話で)お招きして、抱負やアピールポイントを語っていただく形になっている。

 くろさんの立ち絵もスタンバイ済だし、進行スケジュールもバッチリ書き出してカンペ用モニターに表示済み。準備はすべてチェック済み、万事抜かり無い。

 

 

「気楽にね、ノワ。緊張すべきは明日の本番だよ。今日の配信はボクらのチャンネルだ、たとえ()()()()ても、一切なにも問題ない」

 

「……そうだね。……そうだ、いつもどおり。いつもやってるやつだ」

 

『まぁ()()()()たらそれはそれでオイシイんちゃう? かめちゃんは』

 

「な、なんてこと言うんですか!!?」

 

「実際オイシイんだよね、よわちゃん」

 

「ラニちゃん!?」

 

 

 ちくしょう、なんてこった。もう怒った、おれは絶対()()()()なんてしてやらないからな。

 おれは気合を入れ直し、時計を確認し……くろさんに一旦の別れを告げ、励ましのメッセージを送ってくれている『にじキャラ』配信者(キャスター)さんたちに心の中でお礼を告げ……配信用の立ち位置へと、満を持して移動する。

 

 

 おれのことを心配そうに見つめる霧衣(きりえ)ちゃんに満面の笑顔を送り、お返しにとばかりに安心した笑顔を見せてくれる霧衣(きりえ)ちゃんに胸ズッキュンされながらも平静を保って見せ……カウントダウンが始まり、自然と顔が引き締まる。

 そうとも、ここはおれたちの配信チャンネル……おれたちのホームグラウンドだ。

 なにも恐れず、ただ楽しんで貰うことのみを考え、いつも通りやれば良い。

 

 二月十四日、たのしいたのしい『のわめでぃあ』定例生配信……多くの視聴者さんに見守られ、今スタートだ!

 

 

 

……………………………………………

 

 

 

ヘィリィ(こんにちわ)! 親愛なる人間種のみなさん! 魔法情報局『のわめでぃあ』局長、最近のマイブームはメンソ○ータムとかハッカとかスースーするやつ、木乃若芽(きのわかめ)です!」

 

(ヒっ……)

 

「こ、こんばんわ! のわめでぃあ、ぱーそなみに、見習いの……最近、えぇっと…………香草(はーぶ)、に、興味がございます……霧衣(きりえ)にございますっ!」

 

「お料理スキルが日に日に向上してます霧衣(きりえ)ちゃんです。もう『おはなしクッキング』の主演、霧衣(きりえ)ちゃんで良いんじゃないかなって。わたしアレ以降お料理披露できてませんし……」

 

「わ、わたくしなど…………わぅぅぅ」

 

「はい! 今日もかわいい霧衣(きりえ)ちゃんを堪能できるのは『のわめでぃあ』だけ! よろしくお願いしますね!」

 

「わかめさまぁぁ!!?」

 

 

『ヘィリィ!!』『【¥1,350】駆け付け三杯』『ヘィリィきちゃ』『かわいい』『ヘィリィ!』『きりえちゃんかわいい』『かわいい』『ノルマ達成』『「わかめ様ぁ!?」いただきました』『おまかわ』『ヘィリー!!!』『きりえちゃんの悲鳴かわいい』

 

 

 毎度のようにオープニングをきゃいきゃいと終えて、本日のお品書きを述べていく。

 その中でもメインは、ここ最近のおれたちの行動(のうち一般公開できるもの)のご報告と……なんといっても、明日の本番の告知だろう。

 

 特に明日の告知は、玄間(くろま)くろさんにもご協力をいただく予定になっているのだ。あまり悠長に進めてはいられない。

 

 

 ……というわけで、手早く活動報告を済ませていく。その内容は概ね『おにわ部発足したよ』『近々動画第一作投稿するよ』『面白そうな開拓案あったらDM(メッセージ)ちょうだい』といったものだ。

 今日はべつに天繰(てぐり)さんのお披露目があるわけでもないし、パパっと済ませよう。パパっと。はい済ませた。

 

 

 

「……というわけで『おにわ部』の活動については、また近々追ってご連絡させていただくのですが……近々どころじゃなくてですね、すぐ明日に控えた超超重大イベントがございましてですね!」

 

「は、はいっ! わたくしどもも、楽しみにしております……『おうたの会』でございます!」

 

「そうです! 霧衣(きりえ)ちゃんよくできました! よーしよしよしよし」

 

「わ……わうっ、わうっ……わぅぅぅ」

 

「アーかわいい…………っと、それでですね、本日はなんと! すてきなゲストさんをお招きしております! ……まあ通話なんですけどね」

 

 

 さりげない手振りでラニちゃんに指示を出し、待機してくれている玄間(くろま)くろさんへと音声通話を発信する。

 

 おれの歌唱力を買ってくれた『にじキャラ』さん全面バックアップのもと、本邦初公開の実在仮想配信者(ユアキャス)を全面に押し出した、決して余所では真似できないリアルタイムカラオケコラボ。

 そのお相手である玄間(くろま)くろさん……先程はおれを心配して通話を繋いで元気付けてくれた、独特のほんわかした空気を纏うおうたつよつよ配信者(キャスター)さん…………が。

 

 

 

「………………………」

 

「…………………ゎ、ゎぅ……」

 

「………………………出ませんね」

 

 

 

 …………通話に、出ない。

 

 そんなばかな話があるか。だって……だってまだ三十分かそこらだぞ。

 生配信を開始する前、確かにくろさんと言葉を交わしたし……『配信見てるから、そっちのタイミングで通話繋いでいいよ』と、確かにそう言ってもらったはずだ。

 

 なのに…………出ない。

 

 

 

「…………えー、っと…………」

 

「あわわわわうわうわう」

 

「…………じ、じゃあ……ものまねを! 『疑惑を追求されたしゃちちゃん』のモノマネします! ……ん゛んっ…………

 

『Who told you that?(※誰が言った?)……Who supplied you this information!?(※そんな事言いやがったのはどいつだ!?)』」

 

『おぉーーーー(ぱちぱちぱち)』

 

「え? ちょ、おるやんけ!!?」

 

『んふふゥーーごめんて。耳掃除しとった』

 

「みみーーーー!!」

 

 

『ほんのり似てるの草』『まさかのしゃちちゃん』『耳ww掃ww除wwww』『浮き輪疑惑のか』『sharrrrrrrch!!!!』『ブチギレしゃちちゃんwwwwwww』『くろまおったやんけ』『居留守は草wwwwww』『ひっでえwww』『くろまwwwww』『ちょっとだけ似てる』『これは海草』『かめちゃんかわいそう』

 

 

 

「…………というわけで! 『にじキャラ』の歌姫、玄間(くろま)くろさんです!(半ギレ)」

 

『まいど!』

 

「いや、『まいど』じゃなくて。どういうつもりですか。ひどいじゃないですか。なんであんなひどいことするんですか。かわいいわかめちゃん恥かいちゃったじゃないですか。わかめちゃんがかわいそうじゃないんですか?」

 

『かわいそうは可愛い、って言うやん?』

 

「そゴほォ……ッ」

 

 

 

 

 ……落ち着け。大丈夫だ、気にすることはない。これがくろさんの平常運転なのだ。

 

 ちょっとした不幸はあったが、無事に通話を繋ぐことができた。

 大御所の参戦に、視聴者さんたちの期待も高まってくれている様子なので……このままいってしまおう。

 

 

 

 明日の一大イベントに向けての決起集会、兼・前夜祭!

 

 いざ尋常に……宜しくお願いします!

 

 



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381【決起集会】どんなキャラですか

 

 

 とてもとても大切な局面である、おれとくろさんとの『おうたコラボ』を翌日に控え……おれは自局の定例配信にて共演者である玄間(くろま)くろさんを通話にお招きし、明日のコラボに関してのお話を伺おうとしていたわけだ。

 

 本当に今更だが……その独特の雰囲気と耳心地の良い声色と、そして何より類稀なる歌唱力を秘めた彼女は、おれにとって憧れの人物といって差し支えない。

 つまりは、これはおれの推し(・・)との直接通話なわけでして……いやはや、緊張しないほうが難しいってやつですよ。

 

 

 

『……はい! というわけでぇー……本日お招きしましたのはぁー? …………ヤバ可愛(カワ)エルフガール木乃若芽(きのわかめ)てゃンッでーす!』

 

「???????」

 

『いやーんよーゥこそ来てくれましたぁー! キャーくろ嬉ッスィー! くろねぇー、前から若芽(わかめ)てゃンとコラボしたかったナァって思ってたんですよゥー! やだァくろもうマンモス(うれ)ぴー!』

 

「は??? アッ、いえ……エット、いや…………は!?!?」

 

『でもでもだってほらぁ、若芽(わかめ)てゃンってぇ、明日くろと『おうたコラボ』してくれるってゆうぢゃん? だからくろねぇー、若芽(わかめ)てゃンにお礼が言いたくってぇー!』

 

「……アッ……………………ッス」

 

『ごめんて。そんなドン引かんでもええやん』

 

「そうは申されましても」

 

『んふゥーー!』

 

 

 

 ……いや、端的にいって非常に思うところがあるんだけど……もしやくろさん、おれが緊張してることを見抜いて、それを解すためにわざわざあんなキャラを……?

 いやいくらなんでもまさか。いやいやでもくろさんならやりかねない。いやいやいやだがしかし。いやいやいやいや……まあいいや、考えてても埒が明かない。

 

 まぁでも、確かなことは……くろさんのお陰でおれの緊張がきれいさっぱり解れたということだ。

 

 

 

「……そうです、明日の『おうたコラボ』なのですが……改めて概要を説明させていただこうと思います」

 

『うん。おねがい。うちもよー知らんし』

 

「おいこら主演。…………すみません失礼しました。ちょっとお言葉が過ぎました。ごめんなさい許してください」

 

『今なんでもするって言うたー?』

 

「言うてないですー」

 

『そっかぁー……』

 

 

 

 なんだか妙に残念そうなくろさんは一旦置いておいて(そんなにおれに言うこと聞かせたかったのか)……ここで視聴者さん(とくろさん)に向けて、改めて明日の概要を説明させていただく。

 

 

 明日の催し物……まぁ暫定『おうたコラボ』と呼称している配信だが、いわゆる『オフコラボ』という形での配信となる。

 実在仮想配信者(アンリアルキャスター)なんていう謎存在であるおれ(わたし)こと若芽(わかめ)ちゃんと、超人気仮想配信者(アンリアルキャスター)である玄間(くろま)くろさん……存在する次元が異なるこの両者だが、このたび『にじキャラ』さんが実用化に漕ぎ着けた最新技術により、全く前例の無い共演を可能にする目処が立ったのだという(ひとごと)。

 

 つまり視聴者のみなさんは……今の段階では『なにが』とか明言は避けるけど、これまでに見たことも聞いたこともない配信をご視聴いただくことになるのだ。たのしみでしょ。たのしみっていえ。

 

 そんな『たのしみ』なコラボの内容は、これまでも何度か告げているように『カラオケ』である。くろさん(とおれ(オマケ))の歌唱力を堪能するにはもってこいの演目だろう。

 当日はSNS(つぶやいたー)ハッシュタグを活用して、視聴者のみなさんから『歌ってほしい曲』のリクエストを可能な範囲で受け付けていくつもりだ。

 配信ページにはコメント欄も当然あるのだが……おそらく流れがかなり速くなると思われるので、あえてSNS(つぶやいたー)を併用することにした。ちなみにこれはわれらが(モリアキ)のアイデアである。わが神はすごいぞ。ふふん。

 

 気になる配信のお時間のほうだが……配信開始は十八時から、なんと最長六時間。つまりは零時まで。

 途中小休憩を挟みながら、思う存分『最新技術』を堪能していただこうという魂胆である。

 

 

 そして……ここからがオフレコ。

 この『小休憩』というのが――視聴者さんは軽く流しているだろうけど――非常に大きなポイントなのだ。

 視聴者さんたちは『小休憩』と聞いて、おそらくこれまでの『配信』の常識に当てはめ、『映像入力を落とした状態で『休憩中』画面を表示させ、十分か十五分くらいは動きの無い状態になる』という……そういう感じに『小休憩』を想像してくれていることと思う。

 

 しかし、実際は全く違う。

 カメラは回しっぱなし、音声も繋ぎっぱなし。その状況で好きに飲み物を飲んだり、軽食を摂ったり、室外へ用を足しにいったり……それこそ普段カラオケにいくのと同じような状況のまま、六時間粘ろうというのだ。

 ……ここだけの話だが、おれとくろさん以外にも何名か応援に駆けつけてくれる予定だ。そのため配信画面が寂しくなる可能性も低いだろうし、息を整える時間も確保できる。かんぺきなさくせんだろう。

 

 なお、本格的に心と体を休めたくなったときに備え、ちゃんと緊急避難先となるお部屋も確保してくれているのだという。至れり尽くせりだ。

 はい、オフレコここまで。

 

 

 

 ……と、いうわけで。

 

 わかりやすく纏めると……楽しさいっぱい・サプライズいっぱいの六時間が、いよいよ明日に迫っているのだ。

 

 

「わたしたちも、視聴者のみなさんに楽しんでいただけるよう……せいいっぱいがんばります! 明日の十八時から『仮想温泉旅館くろま』、ぜひご覧ください!」

 

『いうてかめちゃんも『のわめでぃあ』で配信すんねやろ。ちゃんとそこも告知せなあかんよ?』

 

「えっ、アッ……ありがとうございます。……はい、当日はこちら『のわめでぃあ』もサブチャンネルとして配信させていただきます。手持ちカメラで配信する予定なので……手ブレとかで、あんまりきれいに映らないかもしれませんが……」

 

『みんなちゃんとスパチャ準備しとかなあかんで。かめちゃんねるにバッチリ振り込んでこうな』

 

「ふューー!! う。うれしいですけど……無理はいけませんからね!? あと『のわめでぃあ』ですし!!」

 

『んふゥーー』

 

 

 

 そんなこんな、なんとも掴み所の無い空気の中で執り行われたご連絡を終え……おれは『それではくろさん、ありがとうございました』と通話を終えようとしたのだが。

 

 

 

『せっかくゲストに来てくれたんやし、もうちょっと話そ。かめちゃん最近『ワクワクすること』って何かあった?』

 

「えっ? アッ、えーっと……そうですね、お庭の開拓を本格的に動き始めたので、そのあたりでしょうか? ……あの、ゲストはくろさんなんですけど」

 

『お庭なー広々やもんなー。今後はどんな開拓してこう思うとるん?』

 

「えっ? えっ? えっと…………漠然とですけど、水辺でゆっくりできるスポットとか良いなーって。……あの、わたしが訊くがわだと思うんですけど」

 

『ところで、さっきから良い子にしとるりえっちゃんなんやけど……パンツ何色?』

 

「は、はいっ!! し、白地にお花の柄にございまする!!」

 

「ちょっと!!?」

 

 

 

 そんなこんなで……そのままズルズルと雑談に突入。

 肩肘張らない雰囲気のくろさんのお陰か、意外なことにトークも弾み……一部あぶないところはあったが、視聴者さんにも概ね好評だった。

 

 

 結局……二時間に及ぶ『生わかめ』のうち、一時間以上も通話を繋いでくれていたくろさん。そのネームバリューはやはり強力無比であり、来場者数と『よいね』の数はわかめ史上ベストスリーに入るほどだった。

 くろさんの質問のおかげで恐らく『切り抜き』したら面白いことになるだろう場面も結構あったし、おれは質問されるがわにはいまいち慣れていなかったので、とても良い経験になったと思う。

 

 

 正直いって、単純に非常に助かった。

 この借りは……明日(いつか)必ず返さねばなるまい。

 

 予定通りの時刻に、想定以上の『撮れ高』にあふれる配信を終えたおれは……明日の『おうたコラボ』本番に思いを馳せるのだった。

 

 



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382【準備着々】会場入りました!


昨日あたり予約投稿の不備で正しく更新できていなかったようです
ご迷惑をお掛けしてしまいまして、大変失礼いたしました

お詫びに局長が(


 

 

 昨晩……おそれおおくも我がチャンネルに玄間くろさんをお招きして、例の『おうたコラボ』に関して改めてご説明させていただいて。

 おれのチャンネルを見てくれている大切な視聴者さんたちの期待を、煽るだけ煽らせていただきまして。

 

 

 

 そうして迎えた翌日、運命の土曜日。

 

 世界初、実在仮想配信者(アンリアルキャスター)によるコラボ生配信を間近に控え……会場となる『おうたの館(隠元坂店)』七階フロアは、にわかに慌ただしさを増していった。

 

 

 なんとなんとびっくりなことに、本日この七階ワンフロアは『にじキャラ』さんが全て押さえているらしい。

 つまりは部外者完全立ち入り禁止、音源はおれたちのカラオケ筐体のみ、大勢のスタッフさんの注目のもとで、本日の催しが執り行われるらしい。

 

 お客さん用のエレベーターは管理用コマンドを入力しなければ七階に止まらないようになっている上、階段室とフロア間の扉も一方通行(出ることは可能・進入は不可能)になっているらしい。

 ……いや、やりたい放題だな。ワンフロアって二十部屋くらいあるんじゃないか。全部借りきるってどれくらい費用掛かるんだろ。個人勢じゃ無理無理の無理よ。

 

 まぁしかし……こうでもしないと近隣ブースから音がドンドコ漏れてくるだろうし、店内放送を止めてもらうなんていう芸当も不可能だろう。

 決して安い費用じゃないが、それだけの予算を投じるだけの価値がある。……先方はそう考えてくれている、ということだ。絶対に失敗は許されない。

 

 

 ……なーんて、バチバチに気合充分で臨んだ事前ミーティング。

 そこで告げられた本日の方針に、やや肩透かしを食らった気分だった。

 

 

 

 

 

「……えーっと、つまり…………あんま『配信』を意識し過ぎず、時間いっぱい肩の力抜いて、くろさんと普通にカラオケを楽しめば良い……ってことですか?」

 

「そうですね。配信中はノートの画面のほうにコメントも流れますので、歌い疲れたら雑談枠のような感じで調子を整えて頂いたり……ドリンクとか頼んで喉潤して頂いても大丈夫です」

 

「かがみんかがみん、お腹すいたらフードとか頼んでもええ?」

 

「ちょっ!?」

 

「大丈夫ですよ。……あぁそうそう、フードやドリンクはデンロクから注文できますので、そちらでお願いします。二人ともドリンクバー行っちゃいますと、画面が大変悲しいことになりますので……」

 

「ぅえ!? い、いいんですか!? ……え、わたしも!?」

 

「大丈夫です。若芽さんのように飲食出来るという点も、非常に重要なアピールポイントですので」

 

「んふゥー! うちパフェたべよ」

 

「ちゃんとおうたも歌ってくださいね!?」

 

 

 

 本日のイベントチーフであるスタッフさん(かがみさんって呼ばれてた)から説明を受けながら、出演者であるおれとくろさんはひとつひとつ懸念事項を確認していく。

 方針を聞く限りでは『コラボ配信!』というよりかは、なんというか『オフのカラオケにカメラが潜入した!』みたいな体裁で進めていきたいらしく……なんと配信中に飲み食い可、おしっこによる途中退席も可、雑談というかダベりも可、スマホやタブレットも(常識の範囲内で)使用可という……なんともユッルユルの配信らしい。

 

 とはいえカメラの存在は認識している(てい)で、できれば定期的に愛想を振り撒いてほしいし……それこそ唄うときなんかは固定カメラを意識してほしい、とは言われている。

 メイン会場であるここ七〇一号室には既に数台の固定カメラが仕掛けられており、それらから得た映像は別室のパソコンでいい感じに切り替えられ、高精度マイクから得られた音声と合わせて配信されるのだという。

 

 

 ……加えて、なんというか……おれにとってはタチの悪いことに。

 

 『にじキャラ』さんが借りきったこのフロアの、会場と編集ルーム以外のいわゆる『空き部屋』では……『にじキャラ』運営会社の方々(当然お偉いさん含む)や暇をもて余した所属配信者(キャスター)さんたちが、リアルタイムで配信を視聴しやがる(なさる)予定らしい。

 

 というかまぁ、実は……われわれ『のわめでぃあ』も、ちゃっかり一室お借りしていたりする。

 関係者であることを表すネームプレートを首から下げたモリアキと、基本的に姿を隠す予定らしいラニちゃん、そして今回は完全に見学者枠の霧衣(きりえ)ちゃんと(なつめ)ちゃん。

 おれの頼れる仲間たち四人はそのお部屋からおれへとエールを送ってくれたり、自前のチャンネルの配信を行ったり……あるいは『もしも』の際は対処に向かって貰う形となる。

 

 

 

「それと……事前にお知らせしました通り、本日は玄間(くろま)くろ以外にも何人か配信者(キャスター)が待機しております。頃合いを見計らって、彼ら彼女らには『ゲスト』という形で飛び入りして頂こうと考えてます。いつ誰が行くかは分かりませんが、一応留意しておいて下さい」

 

「……わかりました。例のデバイスの蓄魔筒(バッテリー)とか、他わたしたちが対応すべき事態とかありましたら、遠慮なく仰ってください。こちらのスタッフに対応させます」

 

「ありがとうございます。感謝します。……いやぁ……夢のようですよ。スゴいですね、あのデバイスは」

 

「お役に立てたのなら、幸いです」

 

 

 そして……今回の催し物を行うにあたり、何よりも大切な【変身】デバイス。それらは纏まった数の蓄魔筒(バッテリー)ともども『にじキャラ』さんに預けてある。例の『飛び入り』希望の配信者(キャスター)さんが出た際なんかには、そちらで貸し出しを行って貰う手筈だ。

 ……まぁ確実に飛び入り希望者出るだろうな。なんてったって実在仮想配信者(アンリアルキャスター)の初陣だ。

 

 配信者(キャスター)の皆さんの【変身】行使に関しては、ここ二週間(のうち数日)みっちり練習してもらった。きっと使いこなしてくれることだろう。

 ほかでもない、おれの目の前で鼻唄を歌っている玄間くろさん(の(なかのひと))も……既に【変身】を済ませ、『仮想温泉旅館くろま』の見習い女将こと『玄間(くろま)くろ』本人(そのもの)になっているのだ。

 

 青銀の瞳には若干気だるげなムードを漂わせながらも、どこか自信に満ちた『ドヤ』っぽい佇まい。

 荒波柄の着物をバシッと着付け、鮮やかな朱の帯をキュッと締めて、足袋と草履を履いた脚を優雅に組んで、緊張感など感じさせぬ余裕の表情を浮かべている。

 その振る舞いをまざまざと見せつけられては……やっぱり年季の差というか、格の違いというか……そういうものを感じずには居られない。

 

 

 

「かめちゃんかめちゃん。かめちゃんは、カラオケとか好き?」

 

「えっ? あっ……まぁ、嗜む程度には」

 

「んふふゥー。……なら何も問題無いやんな。うちとたのしいたのしいカラオケに来た、ってだけやねんで」

 

「…………えへへ……そうですね。ありがとうございます」

 

「んふゥー! ……ま、長丁場やけど……楽しもうや」

 

「……はいっ!」

 

 

 

 ……やっぱり、敵わないな。

 

 狙ってやっているのか、元来備えた素質なのかはわからないけど……おかげでいい感じに気持ちもほぐれた。

 これなら……楽しめそうだ。

 

 

 

「んじゃーまぁー……一丁(いっちょ)肩慣らし、いっときますか」

 

「おぉー! がんばってください。はいマイク」

 

「なに言うとるん、かめちゃんも歌うんやで。はいマイク」

 

「ホエェェェ!?」

 

 

 

 スタッフのかがみさんが微笑ましそうな視線を向ける中……貸しきりの七階フロアに、優美な歌声が響き渡る。

 他に音源がほとんど存在しない現在、その歌声はフロアの隅々までよく通り……最終確認中のスタッフさんや、待機中のほか配信者(キャスター)さんや、お偉いさんたちお客様やおれの身内や……そして誰よりも、おれの心を揺らしていく。

 

 

 

 ……やっぱすごい。おれには到底敵わない。

 

 敵わないけど……近づきたい。

 

 

 

 意味ありげな流し目を寄越すくろさんに、ひとつ頷き意志を返し……おれは意を決して、マイクを握りしめた。

 

 



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【かめちゃんやし】URcasNC『玄間くろ』総合スレ_86皿目【海産物やろ】



突然ですが別スレから失礼します。
変なタイミングで申し訳ございません、局長がお詫びに




 

 

 

0001:名無しのリスナー

 

■にじキャラ所属Ⅳ期生「玄間くろ」に関する話題を語り合うスレッドですやでー

流れが速いときがあるので次スレは>>950あたりが立てると安全かもやでー

みんなのんびりしてったってなー

 

■玄間くろ

公式つぶやいたー

htfps://twbyaiter.com/kuromakuroma960

公式YouScreen

htfps://youscreen.com/user/cast/kuromakuroma960

 

■にじキャラ専用視聴ツール

htfps://2ji_cara_real.focus.co/#/watch

■NCタレントへの誹謗中傷通報窓口

htfps://nw-cast.com/nc/report/

 

前スレ

【んにはんんにはん】URcasNC『玄間くろ』総合スレ_85皿目【んにちゃーはん】

htfps://ch_fiction/indextop/qawsedrftg202001nj/abntm6z/

 

 

0002:名無しのリスナー

 

>>1 助かった

 

 

0003:名無しのリスナー

 

>>1 乙

亀ちゃんって誰かと思ったわ

 

 

0004:名無しのリスナー

 

>>1 乙

 

 

0005:名無しのリスナー

 

前スレ >>988

ついにくろま3Dか、って噂になってたもんな

和服はどうしても袖の処理が難しいだろうし、手間取るのもしゃあない

 

 

0006:名無しのリスナー

 

くろまがNC外のキャスターとタイマン張るって珍しいな

 

 

0007:名無しのリスナー

 

ついに3Dか……胸が熱くなるな

しかしなんでお披露目の立ち合いがシーズじゃなくて部外者なん

 

 

0008:名無しのリスナー

 

え、今日の重大発表って3Dなん?

俺まだ心の準備できてねーんだけど

 

 

0009:名無しのリスナー

 

3Dお披露目に実在キャスターって成り立つんかね?

かめちゃんは実在だろうけどくろまはどう足掻いてもユアキャスやろ

どうやって整合性持たせる気や

 

 

0010:名無しのリスナー

 

今日#くろま3Dとかマ?

ちょっとつぶやいたー温めてくるわ

 

 

0011:名無しのリスナー

 

>>5 タイマンwwwww

くろまと歌唱力分野でタイ???ラボとかお相手やばいことになってまうのでは?大丈夫か?

 

 

0012:名無しのリスナー

 

わかめちゃん履修済みワイ喜びの舞

 

 

0013:名無しのリスナー

 

くろま開店準備中ktーーーーー

準備画面はいつものくろまなのな

ヨソ様とコラボだから何か変えるんかと思った

 

 

0014:名無しのリスナー

 

くろまがおうたコラボするって聞いて、お相手てっきり弦かと思ったら聞いたことないURcasで

 

誰やこいつって思ったらURcasですらなかった件

 

 

0015:名無しのリスナー

 

>>11 伏せ字わらうわwwww

 

かめちゃんって噂の実在ユアキャスのことだったんかwwwなるほどわかめちゃんwwwwww

くろまのイマジナリ後輩かと思っとったわwwwww

 

 

0016:名無しのリスナー

 

だーから配信実況は実況スレでやれとあれほど

 

しかしもうそろまいど始まるな……俺も実況スレ行くか

じゃーなおまえら、実況は程ほどにな

 

 

0017:名無しのリスナー

 

どういうことだこれ!!!!!

 

なあ!!!!どういうことだこれ!!!!!

 

 

0018:名無しのリスナー

 

おいちょっと待って、意味不明

待てまてまて、これ3Dか?3Dなのかこれ????

 

実写に見えるんだが!?!!!!?

 

 

0019:名無しのリスナー

 

いや待てって、まてって、なんで、くろまどうしたん!??誰やこれ中の人!?????は????

 

 

0020:名無しのリスナー

 

実況スレが次スレ立たずに消し飛んだんだがwwwww

 

920から一瞬でブッ飛ぶとか誰が予測できるよwwwww

 

 

0021:名無しのリスナー

 

わかめちゃんかわいいじゃん(現実逃避

 

 

0022:名無しのリスナー

 

実在してた……俺の推しは実在してたんだ……

空想上の存在なんかじゃなかったんだ……!!

 

 

0023:名無しのリスナー

 

どうみても実写です本当にありがとうございます

 

 

0024:名無しのリスナー

 

この歌声はくろまだな……くろま以外の何者でもないな……

 

 

0025:名無しのリスナー

 

なんかめっちゃユルユルやんwwwww

大丈夫なんかこれwwお披露目配信じゃないのwwwww

 

 

0025:名無しのリスナー

 

わかめちゃんかわいい

 

でもそれ以上にくろまかわいい……

オレの推しはこんなに可愛かった……

 

 

0026:名無しのリスナー

 

まって、マジ好き……すき……

 

 

0027:名無しのリスナー

 

わかめちゃんとやらの仕業か?

 

 

0028:名無しのリスナー

 

顔近く寄ってほしい

これがCGだったら俺一生童貞でいいわ

 

 

0029:名無しのリスナー

 

千本松!!!千本松よ!!!!

 

うわ……ホンモノのくろまじゃん……

すげえ……くろまが千本松歌ってる……

 

 

0030:名無しのリスナー

 

千本松よ…………

 

リアル和服着てる子が歌うとやっぱやばいな……

 

 

0031:名無しのリスナー

 

演歌とかめっちゃ似合うやろくろま……着物やし……

ていうか単純にかわいい……すき……

 

 

0032:名無しのリスナー

 

どんな手を使ってるのかわかんねぇけどすき

よくわからんがにじキャラよくやった!!

 

 

0033:名無しのリスナー

 

ユルいなぁwwすきだが

 

 

0034:名無しのリスナー

 

やべーじゃんリアルカラオケルームだよ

絶対ぇバーチャルじゃねえよ、ジュイカラだよこれ

 

 

0035:名無しのリスナー

 

まぁこっちが実質実況スレと化しちまったなぁ……

実況スレ難民はここ来るしかないもんな……

 

 

0036:名無しのリスナー

 

自己紹介wwwwwwwwww

いまさらになってwwwwwwwwww

 

 

0037:名無しのリスナー

 

くろまかわいいよくろま

 

 

0038:名無しのリスナー

 

まいど ←かわいい

へいりー ←かわいい

 

 

0039:名無しのリスナー

 

くろまがこの世に実在してるってことに思考が追い付かない

 

 

0040:名無しのリスナー

 

これ3Dってレベルじゃねーよな……

どうみても実写番くろまだよなこれ

 

 

0041:名無しのリスナー

 

わかめちゃんっていう子は何、こんなふざけた容姿なのにこれまで当たり前のように実在してたっての?

それがくろまにも伝染したってこと???

 

なんてことしてくれたんだよ振り込ませろやオラどうやったんだよマジ

 

 

 

 

………………

 

 

………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

 

 

 

0120:名無しのリスナー

 

くろま意外と小柄……?

ああもう、比較対照がこれまた小っちゃいから大きさわかりづらいな

 

 

0121:名無しのリスナー

 

表情L2D以上にコロコロ変わるのくっそかわいい

 

 

0122:名無しのリスナー

 

ほっぺかわいいよくろま

和服似合ってるよくろま

 

 

0123:名無しのリスナー

 

NC公式はなんで何も言わねえの?

こんなん3D配信解禁なんてレベルじゃねえだろ

 

 

0124:名無しのリスナー

 

これもしかして武峰館ライブとかもあり得る??

たかだかカラオケボックスで終わらせていいクオリティじゃねえだろこれ

 

 

0125:名無しのリスナー

 

わかめちゃん歌つええな、くろまに全然負けてねえぞ

これリクってリアルタイム受付してる感じか?

 

 

0126:名無しのリスナー

 

っていうかコレ、まさかくろまだけって事は無ぇよな??

NC全員実体化とか???セラちゃんとかどうなるんだ????

 

っていうかそもそも実体化ってなんだ?????

 

 

0127:名無しのリスナー

 

うっま

 

ぇえ……やっば……わかめちゃんやっば……

 

 

0128:名無しのリスナー

 

高音域伸びるなぁわかめちゃん

声きれい……すこだ

 

 

0129:名無しのリスナー

 

うわ声きれい……

ていうか声だけじゃなくきれい……

 

 

0130:名無しのリスナー

 

ふーんやるじゃん

 

 

ごめん嘘、惚れたわわかめちゃん

 

 

0131:名無しのリスナー

 

何者なんだこのロリエルフ……

くろまが実体化したのもどう考えてもこの子のせいだろ

 

 

0132:名無しのリスナー

 

これアーカイブ残るよな?

よしんばアーカイブ残らなかったとしても切り抜きとか何かしらの形で残るよな?

 

これ残さないとか全世界の損失やぞ

 

 

0133:名無しのリスナー

 

くろまおっぱいちっちゃんやな……

隣の子もちっちゃいけど

 

 

0134:名無しのリスナー

 

歌コラボでここまで魂抜かれるとは思わんかった

これ弦たそに匹敵する逸材じゃん

 

 

0135:名無しのリスナー

 

わかめちゃんのチャンネル登録しました

おまえらものわめでぃあ登録しとけよ?この子はヤバイぞ??

 

htfps://youscreen.com/user/cast/kinowakamedia

 

 

0136:名無しのリスナー

 

夢じゃねえんだよな???

 

 

0137:名無しのリスナー

 

なんでNC外のヤツなんかとコラボすんだよマジ誰得だよ

 

……なんて考えてた先週の俺ブッ飛ばしてぇ

 

 

0138:名無しのリスナー

 

NCの技術?だよな……すげぇな……

 

 

0139:名無しのリスナー

 

どう見てもCGモデルじゃねえよな。袖も貫通してねえし皺もちゃんと入ってるし、

ってか背景どう見てもうた館じゃねえか実在に決まっとるやんこんなん

めっちゃリアルなコスプレって言うにしては目の色が日本人離れしてるし、あんな明るい青銀色ってカラコン入れたところで日本人じゃ無理だろ

ていうか隣の子はどう見ても日本人のコスプレじゃねえだろ

 

 

0140:名無しのリスナー

 

とりあえずくろまが実体化したのはわかった

 

んで?この実体化は他の子も使えるんか?

ていうかNC外のURcasも使えるんか??

 

 

0141:名無しのリスナー

 

マッマ発狂しててワロタwwwwwwww

つぶやきがもう日本語の体を維持してねえwwwww

 

 

0142:名無しのリスナー

 

どうやってんだマジ……

 

 

0143:名無しのリスナー

 

最初からくろまの魂がくろまそのものだったわけじゃねえよな?

ならわざわざL2Dでアバター作る必要ないわけだし

 

 

0144:名無しのリスナー

 

もう考えるのやめた

 

俺はこの幸せな空間に浸るんだ

 

 

0145:名無しのリスナー

 

アア!!!!ガチ恋距離たすかる!!!!!

 

 

0146:名無しのリスナー

 

くろまちかいくろまちかいくろまちかいくろまちかいくろまちかいくろまちかいくろまちかいくろまちかいくろまちかいくろまちかいくろまちかいくろまちかいくろまちかいくろまちかいくろまちかい

 

 

0147:名無しのリスナー

 

>>140

画面よく見ろ、あんな緑な子はNCに居ない

 

 

0148:名無しのリスナー

 

くろまかわいい……おくちかわいいよくろま

 

 

0149:名無しのリスナー

 

ガチ恋距離の破壊力やべえだろこれwwwwww

そんな殺人兵器をおもしろ半分にぶち撒けるくろまやべえよくろま

 

 

0150:名無しのリスナー

 

やべーだろ、自分がデザインしたキャラが現実に現れたんやぞ

そりゃマッマも取り乱すわ

 

 

0151:名無しのリスナー

 

ていうか同僚の晴れ舞台に平成保ってるNCメンバー怪しくない?

まさかだぞ??まさかな??

 

 

0152:名無しのリスナー

 

マッマ盛大に錯乱しとるなwwwww

……いや普通取り乱すってこれ

 

 

0153:名無しのリスナー

 

かわいいof最高

 

 

0154:名無しのリスナー

 

うにたそwwwwwwwwww

うっそだろお前!!!!!!!!!!

 

 

0155:名無しのリスナー

 

待て待て待てまって!!!!!!

うにたそも!?!?!??は!?!?!?

 

 

0156:名無しのリスナー

 

は!?!?実在むらさきうにじゃん!?!?!??

 

 

0157:名無しのリスナー

 

どこで売ってんだそのパーカー!!?!!!

おいおいおい村崎ィ!!なにしとん村崎ィィ!!!!

 

 

0158:名無しのリスナー

 

うにたそ!!!!実体化うにたそだ!!?!??

 

 

0159:名無しのリスナー

 

マジか……じゃあやっぱ誰にでも使えるってことか……

やべえじゃん……

 

 

0160:名無しのリスナー

 

うそだろ……まさかウィルくんも実体化できるんか??

 

 

0161:名無しのリスナー

 

まってまってまってまってwwwwwっwすげえwwwwwww

 

 

0162:名無しのリスナー

 

うにたそ歌うんか!!!!

いいぞもっとやれ!!もっと増えろ!!!

 

 

0163:名無しのリスナー

 

やっぱわかめちゃん小っちゃいな……

 

 

0164:名無しのリスナー

 

うにくろてぇてぇ

 

 

0165:名無しのリスナー

 

仲良いよなぁ、この三人

普段から色々とつるんでるっぽいし

 

 

0166:名無しのリスナー

 

うにたそも歌うまいよな……

プロ歌手ほどって訳じゃないけど、普通にお上手

 

 

0167:名無しのリスナー

 

うにたそたまにカラオケ配信してるからな、まぁ安心して聞けるわヨ

 

いや嘘ついたわ、俺ら平常心跡形も無ぇわ今

膝ガックガクやわガックガク

 

 

0168:名無しのリスナー

 

あいをんちゅー!!

 

うにたそ元気いっぱい

 

 

0169:名無しのリスナー

 

実体化うにたそ可愛いなぁ……

アクティブにハシャいでると可愛いがマックスなんだが

 

 

0170:名無しのリスナー

 

うにくろ3D通り越して実体化うにくろ

まさかだよまさか

 

 

0171:名無しのリスナー

 

やっぱどう考えてもわかめちゃんのせいだよなこれ??

お礼に赤スパブッ込んでくるか

 

 

0172:名無しのリスナー

 

やっぱ魔法か??魔法なんか???

エルフの魔法なんかこれ????

 

 

0173:名無しの旅好きゴブリン

 

うにたそのおうた可愛かった……

ていうかあの衣装こんな可愛かったんか……ダボ袖と襟深フードかわいすぎか……

 

 

0174:名無しのリスナー

 

案の定うにたそのマッマ限界化しててワロタwww

 

いやなにわろてんねん笑えねぇわマジ

 

 

 

………………

 

 

………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

 

 

 

0250:名無しのリスナー

 

女王様ktーーーーーーーー!!!!

 

 

0251:名無しのリスナー

 

うっそだろティー様までwwwwwww

Ⅳ期だけってわけじゃねえのか!!!?

 

 

0252:名無しのリスナー

 

ティー様!!!?!?ティー様だ!!!!

 

 

0253:名無しのリスナー

 

わち来たアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!゛!゛!゛!゛!゛!゛!゛

 

王女様ドレスかわえエ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛!゛!゛!゛!゛!゛

 

 

0254:名無しのリスナー

 

どんどん増えるwwwwww

実在URcasどんどん増えるwwwwwwたすけてwwwww

 

 

0255:名無しのリスナー

 

徐々に上がってくNC率よ

 

……いやでもこのメンツの中で霞んでないわかめちゃんのキャラよ

 

 

0256:名無しのリスナー

 

ちふりんは残念だったけどティー様のおうた力はどうだ

 

 

0257:名無しのリスナー

 

ああ……ティー様かわいい……ティー様かわいい……

神々しい……最高……涙出てきた……

 

 

0258:名無しのリスナー

 

コスプレってレベルじゃねえなこれ……

 

 

0259:名無しのリスナー

 

にっこにこティー様かわいすぎて死んだ

 

 

0260:名無しのリスナー

 

エルフが増えたな!!!

やったねわかめちゃん!!!!

 

 

0261:名無しのリスナー

 

ティー様やっぱわかめちゃんだいすきなんだな……かわいいかよ

 

 

0262:名無しのリスナー

 

「もん!」じゃないんだよなぁこの×××歳児……

 

 

0263:名無しのリスナー

 

待って、ティー様やばいティー様やばいティー様やばい

ティーは様やばい……もう無理……マジ無理……

 

 

0264:名無しのリスナー

 

>>256

ちふりんは元気いっぱいで可愛かったよ……

かわいかったよ……(上手いとは言っていない

 

 

0265:名無しのリスナー

 

わかめちゃんと並ぶことでお姉さんっぽく見えるティー様貴重

 

 

0266:名無しのリスナー

 

ティー様よりちっちゃいわかめちゃんマジ何者だよ

 

 

0267:名無しのリスナー

 

王女様に振り回されるわかめちゃんかわいいな

 

 

0268:名無しのリスナー

 

選曲センスよwwwwwwww

なんでムーンライトだよwwwwまぁプリンセスっぽくはあるけどさwwwwww

 

 

0269:名無しのリスナー

 

お背中めっちゃセクシーじゃん!!!

あーっだめですティー様!!えっちすぎます!!!

 

 

0270:名無しのリスナー

 

かわいい……

 

ちふりんの印象が霞むほどにはかわいい

 

 

0271:名無しのリスナー

 

かわいいなぁ……これは永遠のロリータエルフですわ

 

 

0272:名無しのリスナー

 

ティー様合法ロリかと思ったらマジもんの合法ロリだったわ

 

 

0273:名無しのリスナー

 

決めポーズwwwwwかわいいwwwwww

 

 

0274:名無しのリスナー

 

「二時に帰って……五時起きよっ!」

やめーや!!!!

 

 

0275:名無しのリスナー

 

ノリノリじゃねえかこの×××歳児!!!!

 

 

0276:名無しのリスナー

 

88888888888888888

かわいかったぞ王女様!!!

 

 

0277:名無しのリスナー

 

かわいかった……もうやだ、みんなかわいすぎ……(やだじゃない

 

 

0278:名無しのリスナー

 

1期は「これでもか」って程ファンタジーだからな……

個人的にはちふりんとかうにたそとかみたいに現代っぽいのも好きだが

 

そもそもドレスってな……現代日本じゃコスプレと結婚式くらいでしかお目にかかんねーって

 

 

0279:名無しのリスナー

 

次は誰が来るんや

もう誰が来てもおかしくないやん

 

 

0280:名無しのリスナー

 

4期・来賓・4期・4期・1期

 

2期と3期が手付かずですが???

 

 

0281:名無しのリスナー

 

く ろ ま 再 び

 

いいぞ若女将!!!やったれ若女将!!!かわいいぞ若女将!!!

 

\若女将!!/

           \若女将!!/

    \若女将!!/

 

 

0282:名無しのリスナー

 

抑揚がすっげえ

それでいてぜんっぜんブレねぇのな……こわ凄

 

 

0283:名無しのリスナー

 

可愛いのにカッコいいのにガチ恋距離やばい しぬ

 

 

0284:名無しのリスナー

 

くろまおつかれ

 

おつかれくろま

 

 

0285:名無しのリスナー

 

くろまやっぱやべぇな

 

 

0286:名無しのリスナー

 

くろまかわいいよくろま

 

 

0287:名無しのリスナー

 

ぱふぇ食べるwwwwwwww

相変わらず自由だなwwwwwwすきwwwww

 

 

0288:名無しのリスナー

 

ぱwwwwwっふぇwwwwwwwww

 

 

0289:名無しのリスナー

 

みんな食べる気かこいつらwwwww

おい誰か止めろwwwwwカラオケはどうしたカラオケはwwww

 

 

0290:名無しのリスナー

 

【悲報】歌い手全滅

 

 

0291:名無しのリスナー

 

あーだめだwwww全員パヘェ食べる気満々ですわwwwww

 

 

0292:名無しのリスナー

 

待って、食べれんの?

 

食べれんの???まじで?????すごくない?????

 

 

0294:名無しのリスナー

 

みんなめっちゃニッコニコですやん

 

 

0295:名無しのリスナー

 

 冥 王 襲 来 ! ! !

 

 畜 生 襲 来 ! ! !

 

 

0296:名無しのリスナー

 

「失礼しまァーす」じゃねえんだよな!!!!

お前らのような店員さんがいるかよwwwwwwwww

 

 

0297:名無しのリスナー

 

冥王ハデス 参戦!!

 

青樹ちとせ 参戦!!

 

 

0298:名無しのリスナー

 

なんで冥王と鬼畜がパフェ持ってくんだよwwwwっw

なんなんだこのカラオケ店wwwwwww

 

 

0299:名無しのリスナー

 

なかゲ部のワルノリ大好きツートップじゃねえかwwww

あーあーあー大変なことになるぞこれwwww

 

 

0300:名無しのリスナー

 

当たり前のように実体化してんじゃねえよwwww

ちくしょう冥王カッコいいなあ!!!!!

 

 

0301:名無しのリスナー

 

普通なら違和感しかないハズなのにこの部屋全員おかしいから逆に違和感がない件wwww

常識が崩れるwwwたすけてwwwwwww

 

 

0302:名無しのリスナー

 

くろまの視聴者数矢部ぇ事になってんぞwwwwww

トレンドの「実体化」ってこれのことだよなwwww

 

 

0303:名無しのリスナー

 

勢いがすげえwwwどんどん延焼してくやんwww

同接エグいことんなっとるぞこれwwww3Dお披露目配信なんか目じゃねえぞwwwwww

 

 

0304:名無しのリスナー

 

【URcas実況】『玄間くろ』配信実況スレ_127日目【NCⅣ期】

htfps://ch_fiction/indextop/qawsedrftg202002jf/cdoe92e/

 

オッケー待たせたな御客様ども!!実況スレ復帰!!!おつかれ俺!!!!

 

まだ実況スレ再起してねぇよな?

被ってたら俺泣いちゃうぞ??

 

 

 

………………………………………………

 

 

………………………………

 

 

………………

 

 

 

 

 






※ちゃんと普通に書いた該当部分も更新します。
また明日よろしくおねがいします。



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383【歌唱共演】一対一コラボの終演

 

 

 はい十八時! 十八時になりました!

 ただいまより運命の『おうたコラボ』開始となります!

 

 くろさんの配信チャンネル『仮想温泉旅館くろま』では、配信前の待機画面がちょうど今畳まれたところだ。

 それはつまり……おれたちの姿をカメラが捉えたということであり、おれ以外の実在仮想配信者(アンリアルキャスター)の存在が全世界に公表された瞬間であり、おれたちと『にじキャラ』さんが主導する次世代演出作戦ががいよいよ始動するということであり……要するに、とってもとっても大切な瞬間なのだ。

 

 

 …………そのはず、なんだけど。

 

 

 

「ふんふーん…………ふんふふーんふふーん……んふふーんふーん」

 

「…………あ、あの……くろさん?」

 

「おっけ! 一曲目いーれた!」

 

「くろさん?? あの、もうカメラ……あの……」

 

「ええねんええねん。ほいじゃあうち先歌うで」

 

「えっ!? アッ、えっと…………はい……」

 

 

 

 いやあの、なんていうか!! オープニングとかごあいさつとか……そういうの無いの!? 無いか!! 無いみたいだな!!

 

 既にテーブル上の広角カメラは回っているらしく、カラオケボックスの一室でソファに腰かけるおれたちの姿もバッチリしっかり映っているらしく……テーブル上に設置されているコメント閲覧用ノートパソコンには、おびただしい数のコメントが勢いを増して流れていく。

 

 見たところ……戸惑いの声が五割、錯乱している声が三割、狂乱している声が二割……といったところだろうか。

 盛大にもったいつけた事前告知を見て、いったい何の発表があるのかと配信ページに飛んでみたら……仮想配信者(アンリアルキャスター)玄間(くろま)くろ』にそっくりな着物美少女と緑色の珍獣がちょこんと座ってカラオケを始めようとしているのだ。

 3Dモデルのお披露目配信かと思ったら、なんと実在『玄間(くろま)くろ』が駄弁(ダベ)ってました。……うん、取り乱すに決まってる。

 

 

 とうの玄間くろさん本人はというと、そんなコメントの奔流を微塵も気にせず……どう見ても配信は始まっているハズなのに、なんというか非常に自然体で電子楽曲目録(デンロク)を操作し、一曲目を予約する。

 

 彼女の十八番(オハコ)であるアニソンのイントロが流れだし、『お立ち台』へ向けて構えられたカメラの前に、実在仮想配信者(アンリアルキャスター)『玄間くろ』さんが堂々と姿を現す。

 深い青と白を基調とした荒波模様の和服を着こなし、自信に満ちた表情で袖と裾を翻し……『にじキャラ』の歌姫はその実力を存分に見せつけていく。

 

 なによりもびっくりなのは、今まさに今日の演目であるカラオケ一曲目が始まろうとしているのに、視聴者さんへ向けての言葉が何一つとして紡がれていないところだ。

 挨拶はおろか、本日の配信がどういうものなのかという説明も含めて。視聴者さんを完全に置き去りにしている気がするのだが、これは果たして大丈夫なのだろうか。

 

 

 

「ほないくでー、よろしうー。いちばん、玄間(くろま)くろ。『千本松』」

 

 

 心配するおれの内心をよそに、ついにくろさんのおうたが披露され、我々の『おうたコラボ』が幕を開ける。

 ……いやさっきから幕は開いてたんだけど、あまりにもくろさんが自然体過ぎて……配信中っぽい感じが微塵も感じられなかったのだ。

 そこは(くろさんのチャンネルの)視聴者さんたちも同様の思いだったようで、『もうカメラ回っとるで!!』とか『口上とか無ぇの!?』とか『やる気あんのか!!?』とかいったコメントも少なくはなかったが……

 

 くろさんの歌声をマイクが拾い、別室の配信管理用ミキサーによって音声バランスが整えられ、そうして映像入力と共にインターネットに乗せられた配信映像は……『歌姫』の呼び声に恥じない圧倒的な歌唱力と、こうして実在している『玄間くろ』さんの一挙手一投足とをもって、疑問や混乱を真正面からねじ伏せていく。

 

 

 『一番』を歌っている間は明らかにコメント量が減り、間奏になると爆発的に増え。

 

 『二番』に入ると多少は冷静さを取り戻した視聴者さんたちが、目の前の光景を徐々に現実のものとして認識し始め。

 

 再びの間奏を迎え、そうして曲のクライマックスへ向けて演奏と歌唱が盛り上がるにつれて、コメントの密度も一気に増えていき……会場(配信)のボルテージはまさに最高潮に。

 

 

 そうして最後の一音を高らかに歌い上げ、盛り上がりはそのまま後奏へと移り、もはや(おれの動体視力と処理速度でもないと)到底認識し切れぬほどの称賛を一身に受け……演奏のフィニッシュに合わせ、最後は大変可愛らしく自慢(ドヤ)顔とともにキメポーズ。

 おれは気づけばアホ丸出しで、口をぽかんと開けたまま一心不乱に拍手を送っており……ノートPCの画面ではコメント欄のスクロール速度は最高速度を更新し、色付き(スパチャ)が物凄い速度で溜まっていった。

 

 

 

 配信開始の一発目から、容赦なしの一撃を叩き込んで見せたくろさん。カメラの向こうに向かって愛想を振り撒きながらソファへと戻り……ごきげんに『ふんふふーん』などと鼻唄を口ずさみながら、意味ありげな視線をおれに向けてくる。

 

 

 ……その意図するところは、おれでもなんとなくわかる。

 

 今日のこの配信がどういうものなのか。

 おれがいったい何者なのか。

 

 それらを説明するためには……まずは()()してやるというのが、確かに手っ取り早いだろう。

 

 

 嬉しそうに目を細めているくろさんの注目と、カメラ越しに向けられている一億二千万人の視線(※おおげさです)に応えるように……()()()()()()()()()()()()()()()であるおれは、その設定(技能)を十全に発揮すべく気合を入れる。

 

 

 

「……それでは……『仮想温泉旅館くろま』御客様の皆様、はじめまして。そして、失礼します。……にばん、木乃若芽(きのわかめ)。『星の海原』」

 

 

 ……元々カラオケは好きな部類だった。先週だって久しぶりのヒトカラでいっぱい練習した。大御所『にじキャラ』さんのチャンネルであれば、権利関係も怖くない。

 

 何一つ気兼ねすることなく……『おうた』を堪能するのみだ。

 

 

 

 

…………………………………………

 

 

………………………………

 

 

…………………………

 

 

 

 二億四千万個の瞳に見守られ(※おおげさです)、盛大な拍手をこの身に浴びて(※気のせいです)……おれは無事に一曲目を歌い終える。

 くろさんは上機嫌を隠そうともせず、上半身を左右にゆーらゆーら揺らしているが……さすがにそろそろお言葉を頂戴しておかないとマズいのではないかと、おれの配信者としての直感が告げている。……というかさっきノートPCのメッセンジャーに『挨拶しろ』『くろま挨拶』『若芽さん挨拶させてください』的な業務指示が来てたし。

 

 なのでおれは歌い終えた立ち位置そのまま、ちょっと呆れたような表情をわざわざ繕って、くろさんに手招きを送る。

 くろさんはちょっと小首をかしげ(※かわいい!)ながらも、トテテテテっとおれのほうへと小走りで寄ってきてくれた。たすかる。

 

 

 

「……改めまして。初めましての方は、初めまして。『のわめでぃあ』よりやって参りました、緑エルフの木乃若芽(きのわかめ)と申します。……若輩者の身ですが、本日はよろしくお願いします」

 

「ほーん」

 

 

 ……いや、『ほーん』じゃなくって。

 

 おれがマイクを『ずいっ』と近づけながら視線で必死に、それはもう必死に訴えたところ……幸いなことに、くろさんは空気を読んでくれたようだ。

 

 

「まいどおおきに。玄間(くろま)くろ。よろしぅー」

 

「ア゛ッ、も゜ッ……もっと…………なんていうか、こう!!」

 

「んふゥー」

 

 

 ニッコニコ顔で頬に手を当てぐにぐにとその身をよじりながら……恥ずかしがっているのか歓喜に打ち震えているのかはわからないが、なかなかに可愛らしいムーブを見せつけてくれる玄間くろさん。

 幸いにも『おうたオンステージ』用のカメラはその様子をバッチリ捉え、全世界三億四千万人(※てきとう)の玄間くろファンに『かわいい』をお届けすることに成功した。

 

 ……しかしながら、肝心のくろさんはMCを務める気はさらさら無いようで……ディレクターさんからの必死の訴えを受信した気がするおれは、大変僭越ながら説明を試みる。

 

 

「んんっ…………このたび『にじキャラ』が皆様にお届けしますのは……企画名『次世代NFR表現技法』のお披露目を兼ねての、カラオケ配信でございます! 従来の仮想(アンリアル)なアバターではなく……ご覧のように、まるで本物そのもの! ノンフィクションのリアルキャラクターによる表現の『可能性』その一端を、是非とも皆様ご照覧くださいませ!」

 

「……ようわからんけど、好きなだけ歌ってええねんな」

 

「エッ? アッ…………ソウ、デスネ……」

 

「んふゥー! ほなうち二曲目いれるで」

 

「エッ!? だ、だからくろさん、その……もう少しこう……なんていうか!」

 

 

 

 ぴょんぴょんと弾むように移動してテーブルへと身を乗り出し、デンロクを操作して二曲目を予約する。……着物越しながら突き出されたおしりのラインに目がいっちゃうけど、しょうがないよね。おれ男だもん。

 

 ともあれ、おれが歌い終えて予約待ち状態だったカラオケ筐体は、受信してすぐさま前奏を流し始め……こうなっては今からの阻止は視聴者さんを萎えさせるだけだろう。

 おれはメチャクチャ上機嫌なくろさんに諦め半分見惚れ半分の視線を向けつつ、待機場所であるソファ席へとすごすご退散していった。

 

 

 

「さんばん、玄間(くろま)くろ。『朔月(さかづき)の繭』」

 

 

 再びくろさんが戦闘体勢に入り、おそらくはカメラの信号が『おうたオンステージ』用カメラに切り替わる。

 おれはすかさずノートPCへとかじりつき……迅速かつ静粛に、メッセンジャーでディレクターさんに助けを求める。

 

 くろさんが()()調()()である以上、MCというか進行役は別の者が務めるしかない。かといっておれは所詮よそ者であり、あれこれ取り仕切るのは差し出がましいというか気が引けるというか……要するに、くろさんの視聴者さんに歓迎されない可能性がある。

 なので、応援を要請する。くろさんの扱いに長け、くろさんの視聴者さんに反感を抱かれづらく、配信にその身を晒しても問題ない人物……彼女の乱入を要請する。

 

 幸いにして、ディレクターさんも同様の結論に至ったようだ。

 準備を整えてタイミングを図る都合上、おれがもう一曲歌った後に突入させる方針で進めてもらう。

 

 

 餅は餅屋、宿は宿屋……Ⅳ期にはⅣ期。

 こうしておれは早々に降参を告げ、助っ人として実在バイオレットパンキッシュガール配信者(キャスター)『村崎うに』さんの投入が決定し……

 

 

 

 『一対一のおうたコラボ』は、事実上終了したのだった。

 

 

 即落ちってレベルじゃねーぞ!

 

 

 

 



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384【歌唱共演】うには仲間を呼んだ

 

 

 おれこと木乃若芽ちゃんと玄間くろさん、一対一のガチおうたコラボという経緯で始まった今回の配信だったが……共演相手の手綱を握ることが不可能だと泣き言を上げたおれの不甲斐なさにより、急遽追加人員を投入するかたちとなった。

 

 いつものように自由気ままな振る舞いを見せるくろさんを制御下に置くため、今配信の舵取りを務めるカガミさんの指示のもと出撃指示が下ったのが、ほかでもない村崎うにさん。

 数多くのスタッズが散りばめられたパンキッシュなフードパーカーと、そこから覗く鮮やかなライトオレンジの髪が可愛らしい……くろさんの同期にしてマブのダチだ。

 

 

 ディレクターさんにチャットで援護を要請したあと、おれは指示通り二曲目を歌わせていただき……演奏が終わって一息ついたタイミングでおもむろにドアがノックされ、くろさんの『はいってまーす』の返事をガン無視するかたちで、助っ人うにさんが乱入してきたのだ。

 

 それをくろさんは心底嬉しそうに受け入れ、これまた(てぇて)ぇ絡みが発生。

 おれと視聴者さんを盛大にしあわせな気持ちにさせてくれるとともに、そのパンクでオシャレなファッションの()()()()をしっかりと見せつけてくれる。

 

 さすがうにさん、色々と弁えてくださっている。見せ方も魅せ方もなかなかサマになっており、ママ(デザイナー)さんこだわりの衣装とデザインをまるで自分のことのように……いや実際自分のことなのか。とても嬉しそうにアピールしてみせる。かわいいが。

 

 

「ほらクロ! せっかくのお披露目なんやから……ちゃんとこっちこんね!」

 

「やぁや、うち恥ずかしいもん」

 

「『もん』やないねんなぁ!! おン前ほんま()えあるお披露目第一号やぞ! そんなわがまま許されると思うなや!?」

 

「んひゃふゥーー!」

 

 

 

 しかもしかも、うにさんの活躍はそれだけにとどまらない。

 おれの力では畏れ多すぎて実行に移せなかったくろさんの『捕獲』、それをいとも容易く成し遂げ……これまたカメラの前でじっくりとそのお姿を手取り足取り肩取り腰取り、余すところなく晒してくれる。

 

 鮮やかな帯に乗っかる確かな膨らみと、帯で締められた腰からおしりにかけてのライン、足袋に包まれた爪先や草履、蒼色のマニキュアを塗られた指先に至るまで……後ろから抱きつくようにホールドし、その隅々をカメラへと見せつけてくれる。

 

 

 くろさんはくすぐったそうに身をよじるも、しかし振りほどくような真似はせず……いつもの鳴き声を上げながら、同僚になされるがまま。

 おれは眼前で繰り広げられる尊さ溢れる光景に言葉を失い……視聴者さんと一緒に、ただただ歓喜に打ち震えていた。

 

 うにくろ(てぇて)ぇ。

 

 

 

 ……とまぁ、そんなこんなで。

 非常にありがたくも乱入してきてくれたうにさんだが、『せっかくやし』ということで一曲披露してくれることになった。

 

 ロリエルフと着物美少女に続く、(ミルさんの現状を知らない視聴者さんにとっては)三人目となる実在仮想配信者(アンリアルキャスター)……パンキッシュゲーマー少女うにさんの、本気のおうただ。

 

 

 

「えー…………つぎ何番?」

 

「よんばんまでは行ったな」

 

「おっけっけ。……じゃーいくでー! ごばん、村崎うに。『エンドレス∞ローテーション』!」

 

 

 長年親しみ苦楽を共にしてきた、仮想配信者(ユアキャス)としてのアバター……愛着も思い入れもひとしおであろうその姿を()()()()に存在させる、演者にとっても夢のような新技術。

 実体を得たその身体で、心の底からの喜びをアピールするかのように……うにさんは大人気ガールズアイドルグループの代表曲を、振り付けまで完全再現し全力で歌い始めた。

 

 実在仮想配信者(アンリアルキャスター)うにさんは単純に、当然のように可愛いし……元気いっぱいでガーリーな振り付けも非常に似合っていて可愛らしい。

 そんなの見せつけられちゃったら……コメント欄は、まぁ……当然のようにメチャクチャ盛り上がっていましたね。

 

 

 

 

 やがて賑やかな伴奏が鳴り止み、フィニッシュのキメポーズを取っていたうにさんは、吐息とともに自然体へと戻っていく。

 

 元気いっぱい歌い終えたうにさんは、おれたち二人の盛大な拍手と視聴者さんたちからの称賛コメントを浴びながら、どこか気恥ずかしそうにソファへと着座する。

 その恥じらい方や座り方や、あとはパーカーの袖を伸ばして指だけをちょこんと覗かせる『萌え袖』などなど……いちいち女の子らしさが滲み出ている所作は、ぶっちゃけ非常に可愛らしい。

 

 そんな端々の『可愛らしさ』を余すところなくカメラに納められるのは、やはりこの【魔法】のような演出技術ならではだろう。

 

 

 

「あ゛あーー!! めっっちゃ気持ちよかったーー!!」

 

「うにちーーーお疲れ様ぁーーー!!」

 

「ワァーーーーー!!?」

 

「「おぉーーーー!!」」

 

 

 うにさんが歌い終わるとほぼ同時、ブースのドアが『バァン』と勢いよく開かれ……元気いっぱいな言葉とともに、一人の美少女が姿を現す。

 

 ぴっちりした長袖の黒インナーに和服っぽい半袖の上着を羽織り、赤いメッシュが入ったグレーの髪をバンダナで包み、勢いのよい筆文字で『出世街道』と書かれたエプロンを身に付けた彼女。

 ぱっと見は『居酒屋の店員さん』にしか見えないが……当然ここは居酒屋ではないし、かといってこのカラオケボックスの店員さんというわけでもない。

 

 くろさんやうにさんよりも、更に『現代っぽい』格好の彼女。そのまま夜の飲み屋街に居てもおかしくなさそうな彼女は……ほかでもない【Sea’s(シーズ)】の一員、洟灘濱(いなだはま)道振(ちふり)さんだ。

 

 

 うにさんのおうたが終わって、人心地つく間もない強襲に……おれは素で『びっくり』の悲鳴を上げ、くろさんとうにさんは嬉しそうな歓声を上げていた。

 

 

 

「やーごめんごめんごめん。なんかさ、うにちがカラオケコラボに(とつ)ったって聞いてさ。あたしらもせっかくなら仲間に入れてほしいなって思ってさ? 善は急げで突入したってわけなんだけど……大丈夫だった? 興醒めしない? 盛り上がってる?」

 

「えっ? えっと……ま、まぁ……大丈夫だと……」

 

「ちふりんちふりん。『あたし()』って何なん? まだだれかおるん?」

 

「おるよぉー……っと…………何してるんですか? 入ってきたらどうです? 来てくれないとわかめちゃんあげませんよ?」

 

「わたしは道振(ちふり)さんのモノじゃありませんよ!?」

 

 

 おれはそんなツッコミを入れながら、自然と視線はドアの方へ。

 するとそこにはなんというか……どう見てもドレスのスカートのようなものが、チラチラと見え隠れしており。

 

 そして奇しくもそれは……おれがこの二週間ほど、毎日のように目にしてきたお方の御召し物であるらしく。

 

 

 

 

 

「ティー様やないですか!!」

 

「ティー様早く早く! わかめちゃんが物欲しそうな顔してますよ!」

 

「してませんけど!?」

 

「な、なんでしておらんの!? やだやだやだ、わちもわかめちゃんと遊ぶのぉ!」

 

「エッ!? アッ!! エット……こ、光栄……です?」

 

「んゅふふふふー! わちのほうこそ……光栄どす」

 

 

 

 本日初のお披露目となる、実在仮想配信者(アンリアルキャスター)がお二人。仮想居酒屋『出世街道』店員さんと、エルフの国の王女様。

 

 『にじキャラ』三人目および四人目となる起爆剤の投下により……コメント欄とSNS(つぶやいたー)はより一層の盛り上がりを見せたのだった。

 

 

 



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385【歌唱共演】第四・第五の刺客

 

 

「こんばんしっす! 日々成長、日進月歩! 仮想(アンリアル)……いや、実在? 実在仮想(アンリアル)? ……えっと……今日のところは『実在出世頭(しゅっせがしら)配信者(キャスター)』、三面六臂(さんめんろっぴ)洟灘濱(いなだはま)道振(ちふり)でッッす!」

 

「ご機嫌よう、わちの可愛い王国民たち……と……仮想温泉旅館くろまの視聴者さん……ほかあちこちからご覧の人の子諸君よ。わちはアイナリエル第一王女、トールア・ティーリットであるよ。よしなにじゃよー」

 

「いやーティー様……本っ当可愛いですね。いや前から可愛らしかったですけど」

 

「んふふー! ちふりちゃんもメッシュ似合っておるよー! こんな可愛(かい)らしいのに元気っこじゃもんなぁー」

 

「いやいや、ティー様こそ」

 

「いやいやいや、ちふりちゃんこそ」

 

「いやいやいやいや」

 

「いやいやいやいやいや」

 

 

 

 ……はい! というわけで!

 

 Ⅳ期の洟灘濱(いなだはま)道振(ちふり)さん、ならびにⅠ期のトールア・R・ティーリットさまが参戦(ログイン)しました!!

 

 乱入してきた実在仮想配信者(アンリアルキャスター)のお二人に『せっかくだから』とデンロクを押し付け、それぞれ一曲ずつおうたを披露してもらう。

 道振(ちふり)さんのほうは……うん、元気いっぱいで可愛らしかった。格好からして違和感も特になかったのだが……一方のティーさまのほうがね、やばかった。

 

 いやね、もう……プリンセスですわ、これ。

 

 

 

「いやー……ここまで『ファンタジー』なのを見せつけられるとは……正直思いませんでした。……すごいですね」

 

「「「いやいやいやいやいや」」」

 

「わち……わかめちゃんには言われたくないどすー」

 

「ぇえ!!?」

 

 

 ムーンライトな伝説級のアニメソングを、可愛らしくノリノリで歌い終えたティーリットさまは、とても清々しい表情で『ほぅっ』と一息つくと、これまた優雅にソファ席へと腰を降ろす。

 その所作はとても『王女様』然としており、場所が場所(カラオケボックス)なだけに違和感も物凄かったのだが……しかしその圧倒的な可愛らしさと神々しさで、全ての違和感を捩じ伏せているかのようで。

 

 まぁ……なんというか、非常にしあわせな空間なのだ。

 

 

 

「おうた配信は何回か聞きましたけど……やっぱ『実物』を目にすると違いますね。ちふりんもティー様もめっちゃ可愛い」

 

「で、でも……わち、うにちゃんの歌ってるとこ、見れてないどす? ちょっと不公平、っていうか……」

 

「ですよねティー様! いやいやいやいや……やっぱここはもう一度うにちに歌ってもらわないといかんっすね!」

 

「は!? え、ちょ…………や! うちは別に、メインの二人を囃し立てて楽しむだけのお気楽ポジションやし!!」

 

「やーんわたしもっとんにはんのおうた聞きたい~~! んにはんもっと歌って~~!」

 

「いやいやいや!! 何言うとんねんおうたプロが! 視聴者さんらはあんたらがもっとバチバチ曲いれんの期待しとんねん!」

 

「で、でも……道振(ちふり)さんやティーさまも大概ですけど、うにさんめっちゃ大人気ですよ? コメント見ます?」

 

「なァッ!!? んなアホな!!」

 

「おぉー? 見して見して見して」

 

 

 ふふふ……自分は一曲だけ歌ってきもちよくなって、あとは見学ムードでお茶を濁すだなんて……そんなことはおれも視聴者さんも許しませんことよ。

 うにさんも、そして道振(ちふり)さんもティーさまも……来たからにはおれたち同様、時間切れまでたのしい『おうた会』にご参加頂こうではありませんか。

 

 幸いにして視聴者さんも、くろさんとじゃれ合ううにさんの可愛らしさにメロメロのようなので、おれはここぞとばかりに視聴者さんたちへアピールして『もっと歌わせるべきだ』とお客様たちに訴求してみせる。

 おれとくろさんだけではなく……ゲストのみなさんが歌うことの必要性を、多方面からわからせて差し上げる必要があるのだ。

 

 大丈夫。みんなで歌えば、つらくない。

 

 

 そんなおれの作戦が功を奏したのか……数多寄せられる称賛の(コメ)に、うにさんはまんざらでもなさそうな表情を見せ。

 

 

 

「うぅー……じ、じゃあ…………アイス食ったら! うちアイス注文すっから……それ食い終わったら! そしたらうちもがんばるから!」

 

「あっ、うちもぱふぇ食べたい。イチゴのやつある?」

 

「わちもパフェたべる! 歌ったらおなかすいたもぅん!」

 

「『もぅん!』じゃないですよティー様……いやー本当に幼くなっちゃって……」

 

「……じゃあ……僭越ながらわたしが、時間稼ぎにもう一度歌わせていただきますので……その間に決めちゃっててくださいね」

 

「「「わぁーーい」」」

 

「アーかわいいなぁもう!!」

 

「あははは……ありがとね、わかめちゃん」

 

 

 

 道振(ちふり)さんに『任せておけ』と笑みを返し……おれはこの場を繋ぐためデンロクを叩き、三曲目となる予約を入れる。

 一方のみなさんはニコニコ笑顔で『どれにするー?』『うちこれがいいー』『私イチゴー』『わちもイチゴにするぅー』などとじゃれ合いながらデンロクを弄り始め……とても微笑ましくスイーツをチョイスしているようだ。女子三人(以上)寄れば姦しい。

 フードやドリンクの注文もタッチパネルで楽々なので、おれが歌い始めても電話やら内線やらで妨げられることはない。注文の際に声を張り上げる必要もないわけだ。べんりだね。

 

 

 

「えーっと……はちばん、木乃若芽(きのわかめ)。『Sweets☆Ensemble』」

 

「「「「いぇーーい」」」」

 

 

 もはや場が完全におやつの空気になったので、おれはそれっぽい一曲をチョイス。こちら某アニメのキャラソンのひとつなのだが……歌詞のほとんどがスイーツの名前で占められているという、非常に甘ったるい一曲だ。

 とはいえ甘ったるいのはその歌詞だけではなく……声優さんの演技力が光る歌声もまた、非常に甘ったるくて可愛らしい。

 そんなスイートな曲をおれが歌うのには、若干の気恥ずかしさがあったりもしたのだが……完全にスイーツの気分になっているお二人には喜んでもらえそうなので、がんばって可愛らしく歌おうと思う。

 

 

 今のおれがどこまで『かわいい』を表現できるのか……そこんところは正直、気にならないわけじゃない。まぁおれはおとこなわけですが!

 

 よーし、ちょっと本気出すぞ。

 若芽ちゃんのかわいさ……目と耳かっぽじって、存分に味わうがよい!

 

 



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386【歌唱共演】(頭数)いっぱい出たね

 

 

 ところで、今回の『おうたコラボ』だが……メイン会場はくろさんのチャンネルである『仮想温泉旅館くろま』にて執り行われているのだが、一方わたしのチャンネルでも『サブチャンネル』という形で配信許可は頂いている。

 

 がっつり『にじキャラ』スタッフさんの手を借りているのに、自前でも配信してしまって良いのか? 言い方は悪いが、利益は『にじキャラ』さんたちの総取りとなるのでは? ……とも思ったのだが、ところがどっこい部外者であるおれも同時配信してオッケーなのだという。

 ……というのも、今回のコラボはそもそもが軽いノリで立ち上げられたものであり、ここまでガッツリ『にじキャラ』スタッフさんが絡むものになるとは予想外だったのだ。

 要するに……今回の件では、『にじキャラ』の運営側が()()()してきた形となるわけだな。

 

 配信者(キャスター)どうしの一対一コラボであれば――人狼系ゲームやケイブビルダー(サンドボックス系)なんかでよく見られるように――お互いの配信チャンネルで同時に配信することも少なくない。そのあたりを考慮した上で、こうして許可を出してくれたのだろう。

 もちろん、メイン会場は『仮想温泉旅館くろま』である点は変わらない。中央に据えたカメラや卓上固定カメラを臨機応変に切り替え、非常に見ごたえある映像を提供してくれているのは、他ならぬメイン会場の方であろう。

 

 

 ではでは、サブチャンネルである『のわめでぃあ』の配信画面では、いったいどんな配信が繰り広げられているのか。

 おれのおうた(三曲目)の途中だが、そこんところをちょっとご説明させていただこう。

 

 

 まず、音声について。こちらは『にじキャラ』さんのご厚意により、メインチャンネルで使用されている音声入力ソースをそのまま共有させてもらっている。カラオケ筐体から出力させる伴奏や、マイクから入力されるおれたちの歌声やトークなんかだな。

 分配器で出力を分けて、メインチャンネルとおれたちサブチャンネルにそれぞれ提供された音声は、まずはケーブルでわれわれ『のわめでぃあ』待機室へと導かれる。

 そこでモリアキとラニの手によって映像と組み合わされ、会場である『おうたの館』さんのインターネット回線を拝借して配信されていくわけだ。

 

 そして気になるその『映像』はというと……はい、毎度お馴染み小型アクションカメラ、ゴップロさんです。

 おれはというとその愛機(ゴップロ)を常に手元に置いておき、トークのときはテーブル上に設置しておれ(やうにさんやくろさん)をナナメ方向からのアオリで狙い、出番(おうた)のときには1カメと同軸設置された台の上に移動させ、真正面からの()を押さえられるようになっている。

 

 

 まぁ……カメラを移動させるときもバッチリ撮影中なので、そのときの映像はぐわんぐわん動いてしまうことだろう。もしかすると酔っちゃう人もいるかもしれないな。おれのかわいさにな。

 …………ごめんて。ゆるして。

 

 

 

 

 っとまあそんなこんなで、歌いながらの現実逃避を終えたところで。

 ……ええ、思った以上に恥ずかしかったです。二度とやらん。

 

 

 

『くっっそかわ』『しあわせ』『【¥1,320】女将、お嬢さんにイチゴパフェを』『脳が融ける』『【¥880】わかめちゃんかわいいが』『【¥1,760】あちらのお嬢さんにベンリアック』『すげーわこの女児』『すごいしか出てこねぇ……』『【¥980】おじさんのソーセージを』『ゲロ甘ソングすっっっき』

 

 

 おれが一曲歌い終えるとともに、多くのコメントや色つきコメントが流れてきてくれる。文章のコメントだけをピックアップしても、こんなにたくさんのコメントが寄せられているのだ。拍手を表す『88888888』系のコメントも含めると……もう、到底数えきれないくらいだ。

 

 

「おぉーすご、かめちゃん人気やなぁ」

 

「さすがエルフっこじゃね! わちも鼻が高いどす!」

 

「のわっちゃんへのスパチャこっち投げてどうすんねん。のわめでぃあに投げてやりーや。概要欄とこにのわっちゃんのチャンネルあるから…………あるよな?」

 

「えーっと…………たぶ、ん? 書いてくれるって言ってたような……あ、ありましたね。ありました」

 

「あるって! ぅおおぃ視聴者共ォ! のわっちゃん宛はそっちに投げたってや! こっち投げてもクロのおやつに消えるだけやで!」

 

「おおきに!」

 

「まぁそうなる前にわちらで使っちゃうけども。わかめちゃんもイチゴパフェ食べるどす? まぁ『食べるどす?』って聞いといてあれじゃけど、もう人数分注文しちゃってあるんどすよね」

 

「えっ!? アッ…………ご馳走さま……デス」

 

 

 みなさんの発言の意図するところは……つまり、おれ(わかめちゃん)宛のスパチャは『のわめでぃあ』に投げてあげるように、ということ。

 また既にこちらへ寄せられているおれ(わかめちゃん)宛のスパチャに関しては……さっきの『ジョン太郎』さんの言ったように、おれにイチゴパフェをおみまいすることで還元しよう、というおつもりのご様子。

 

 実際『にじキャラ』さんからは、事前に『フードやドリンクは好きなものを注文して大丈夫』『費用は運営サイドで負担するので、遠慮なく』と告げられているし……くろさんもうにさんもそのことをキチッと把握していたのだろう、遠慮なくスイーツとドリンクを注文したようだ。

 まぁ……さすがにベンリアックは注文していないようだが。注文してないよな。するなよ絶対だぞ。

 

 

 しかしながら……ただ単に飲食をするというだけでも、こと今回の演目においては非常に重要な『魅せ場』となり得る。

 フルモーションキャプチャーで動かす3Dモデルとは異なり、実在の飲食物をそのまま撮影・飲食できる点も、この演出手段ならではの大きなセールスポイントであり、そこんところをアピールしていきたいという狙いもあるのだろう。せっかくなのでおれもご相伴にあずかることにした。

 ……も、もう注文してあるなら仕方ないもんね。ちゃんと食べてあげないとね、もったいないもんね。べっ、べつにイチゴパフェ食べたいってわけじゃないんだけど、せっかく用意してくれるんだもんね。もったいないからだもんね。勘違いしないでよね。

 

 

 三曲目のゲロ甘ソングを歌い終わったおれは、自前のカメラを回収しつつソファ席へと戻りながら、そんな自己弁護をモニョモニョと準備していたところだ。

 するとどうだろう、会場であるこのカラオケブースのドアが『こんこんっ』とノックされ、店員さんとおぼしき黒服を着た男性の影が見える。

 もう来たか、早い! ……なんていうセリフが脳裏をよぎったが、そういえば注文自体はおれがゲロ甘ソングを歌っている間に済ませていたようだったし、およそ五分もあればパフェを用意することは可能なの……か?

 ……まぁ、少なくともこのフロアは他にお客さんもいないようだし、つまりはおれたちのオーダーを最優先で受けてくれたということだと思われるので……細かいところは気にしないようにしよう。

 

 

 

「失礼しまァーす」

 

「しちゅえいしまーっす」

 

 

 そんなとりとめのないところに、高速思考で思いを巡らせていたおれの目の前で……ご注文のお品ものを届けるためにブースの扉が開かれ、二人の店員さんがトレンチを携え入室してくる。男性店員さんの影に隠れて、どうやらもう一人いたらしい。

 

 男性店員さんは堂々たる物腰で、()()()のドリンクを載せたトレンチを左手一本で持ちながら、三ツ星レストランのウェイターさんのように綺麗な姿勢で飲み物をテーブルへと載せていく。まぁおれ三ツ星レストラン行ったことないけど。

 その一方でもう一人の……こちらは小柄な女性店員さん。揺らさないように両手でしっかりとトレンチを保持し、長身の男性店員さんの近くへとヒョコヒョコと進んでいく。彼女が持ってきた五人分のイチゴパフェは男性店員さんの手によって、おれたち五人の前へとそれぞれ届けられる。

 

 

 

 …………で。

 

 

「いやいやいやいや、俺様ホント()っさしぶりだわ、この……『カラオケ』とやら?」

 

「いーやいやいやいや……おれも一ヶ月ぶりくらいだわぁ。からおけからおけ……忘年会の二次会いって以来かぁ?」

 

「オイ仮想(アンリアル)小学五年生。当たり前のように忘年会とか言うんじゃない」

 

「あっ。…………げっへへへ」

 

 

 

 ドリンクとパフェを持ってきてくれた店員さんお二方――豪奢な黒服を着た大柄な男性と、ライトブルーとホワイトのフリフリドレスを着た小柄な女性――だったが……さも当然のようにそのままソファ席へと場を移し、和気あいあいと団らんし始め、ニコニコ顔で電子目録(デンロク)を覗き込んでいる。

 ……どうやらこの状況に対して疑問を抱いているのは、視聴者さんを除けばおれと道振(ちふり)さんだけであるらしく、しかし頼みの綱の道振(ちふり)さんは明らかにスルーしようとしているようで……くろさんやうにさんやティーさまは『わあいおいしそう』とか言いながらのんきにパフェ食べ始めちゃったよかわいいね!!

 

 

 

 

「……………………ど、どういうことなんですか!! あなたたち……さては店員さんじゃありませんね!!?」

 

「…………フッ。バレてしまっては仕方無い」

 

「フッフッフ……おれたちの名が知りてぇか? おぢょーちゃん」

 

「えっ? ……えー…………えーっと……じ、じゃあ……一応、お願いします」

 

 

 

 ……なるほど…………こうやって自由気ままに動き出す面々が多すぎるから、Ⅳ期の乗上(のりがみ)彩門(あやと)さんなんかが纏め役として重宝されているのだろうな。積極的に軌道修正を図ってくれている彼の活躍と、その苦労……同じ状況に置かれて初めてわかるその大変さよ。

 うにさんもくろさんも、そしてこちらのお二方も……良くも悪くも自己主張の激しい人たちなので、誰か進行役が居てくれないと機能不全を起こしかねない。よく『しねどす』されてる刀郷(とーごー)さんも、こうして考えれば貴重な進行役だった。おしいひとをなくした。

 

 

 おれの目の前、ノートPCの業務連絡用メッセンジャーに流れてくる、どこか焦ったような指示に従い……おれは謎の二人組に向けて、おっかなびっくり自己紹介を促す。そうでもしないとこのいろんな意味で自分本意(マイペース)な大御所配信者(キャスター)どもは、()()()()を視聴者さんに見せつけてはくれないだろう。

 ……くろさんもうにさんもティーさまもイチゴパフェでほっぺたおちちゃってるナウなので、ちょっと使い物にならないからね。道振(ちふり)さんはなんで壁見ながらパフェ食べてるのこっち見なさいよ。っとまあこんな有様で誰も業務指示を遂行しようとしないので……越権行為かもしれないけど、おれが実行するしかないわけだな。

 

 

 

「よぉよぉ! 今日も励んでおるかな皆の衆! 俺様こそが混沌の主……『冥王』ハデスである!」

 

「こんちとー! 戦場に揺れる一輪の花! MagiColorS(マジキャラ)☆ブルー! 青樹ちとせぇ……でっしゅ!」

 

 

 今日この日のために、およそ二週間に渡って熟考・練習してきたキメポーズとともに。

 実在仮想配信者(アンリアルキャスター)(視聴者さんにとって)第六・第七の刺客は……元気いっぱい堂々と名乗りをあげた。

 

 



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387【歌唱共演】饒舌の七人

 

 

 やっぱりこの約二週間、密かに練習してきてくれたのだろう。

 ちとせさんは女児向けアニメのエンディングソングを、ハデスさまは男性アイドルグループの看板ソングを、それぞれハイレベルな振り付けとともに歌い上げてくれた。

 

 ちとせさんとハデスさま……それぞれ通算で九曲目および十曲目となるおうたを披露し終えて、再びどこかのんびりとした空気が会場(ブース)内に漂い始める。

 コメント(や業務指示)が表示されるパソコン画面を覗き込みつつ、小休憩を兼ねた雑談タイムが始まろうとしていた。

 

 

「いやぁー『やっぱり』っつーか(なん)つーか……コメの勢い(すげ)ぇのな。俺様感動よ」

 

「いぇーーい視聴者さぁーーん見てますかァーーー??」

 

(アオ)ちゃんのウザ可愛(カワ)反復横飛びも完全再現やもんなぁ……」

 

「その辺にしとけ(アオ)。パンツ見えるぞ」

 

「おれドロワだから大丈夫ですゥーー見えちまっても平気ですゥーー」

 

 

 くろさんをはじめとするⅣ期生に留まらず、晴れてⅠ期とⅢ期から合わせて四名のお方の『実体化』をお披露目したことにより……視聴者さんの盛り上がりようは、そりゃあもうえらいこっちゃの大騒ぎだった。

 

 まずもってお披露目させていただいたⅣ期のお三方――玄間(くろま)くろさんと村崎(むらさき)うにさんと洟灘濱(いなだはま)道振(ちふり)さん――は……まぁ百歩、いや千歩くらい譲ってもらえれば、現代日本でお目にかかることが出来なくもない程度の容姿・格好だったのに対し。

 

 まずは、人間にしてはあり得ない長く尖った耳をもつ、造りからして普通ではないロングドレスを身に纏った、美しく神々しいエルフの少女。

 つぎに、褐色肌とはまた色味の異なる、いかにも『人外です』といった色合いの肌を持った、身長二メートルは優にあろうかという魔族の偉丈夫。

 加えて、人為的な手を加えなければ絶対にあり得ない、明るく鮮やかなライトブルーの髪の毛と瞳を持つ……おれと同じくらいに小柄な美少女。

 

 おそらく殆どの視聴者さんがお目に掛かったことがないであろう、ファンタジー感がありありと感じられるお三方の姿。

 それはそのクオリティもさることながら……Ⅳ期(くろさん)のみではなく『にじキャラ』全体が例の『実体化』対象であるということを如実に表しており、やはりコメント欄でも『あの子は!?』『この子は!?』などと()()の実体化を期待する声で溢れている。

 

 

 好きなキャラクターが、この世界に実態を伴って現れるという、到底信じがたいであろう『現実』。

 しかし……その好きなキャラクターの晴れ舞台を、まだ見ぬ演出の可能性を、次の……そしてそのまた次の配信を、視聴者の皆さんに期待させるには充分すぎるだろう。

 

 

 

「『あと誰が来るんですか』そんなん聞かれてもなぁ……うちもあんまり詳しい話聞いとらんし」

 

「それ単にクロが説明聞いとらんかっただけとちゃうん? のわっちゃんは何か聞いとる?」

 

「えー、っと……すみません、詳しい話はわたしも…………というかわたし、一応所属は別口ですので……」

 

「あー……そっか。そうだな。いやーなんか最近めっちゃ絡んでたからよ……イマイチ他所(よそ)の子って感じがしねぇんだよな」

 

「『なかゲ部』でもお世話んなったしなぅー。おれもスマブロ大会参加したかったわぁー」

 

「これからいくらでもできますよ。……()()なら」

 

 

 

 さっきの質問に対しては()()返したが……正直なところおれは、今日この場はこれ以上増えることは無いのではないかと予想している。

 

 というのも……現在このお部屋には『にじキャラ』さんから六名、おれも含めると七名の実在仮想配信者(アンリアルキャスター)がひしめいているのだ。いくら広々としたパーティールームとはいえ、半分くらいは『おうたオンステージ』用にスペースを確保してある上、ソファ席を撮影するためのカメラとて収められる範囲には限りがある。

 もっとスペースを『ぎゅっ』と詰めれば、あるいはもう一人か二人は入るのかもしれないが……現在のスペース配置は実在仮想配信者(アンリアルキャスター)の衣装ディテールが潰れてしまわないよう、若干のゆとりをもって配されている。っていうかそういう感じで着座位置指定のテープが貼ってある。

 

 つまりは……(キャパシティ)的な理由により、これ以上人数を増やすことは無いみたいなのだ。

 

 

 しかしそれでは、恐らく大多数の視聴者さんが納得しないだろう。

 この場にいる方々を()()ている視聴者さんならまだしも……『あの子は実体化したのになんで俺の推しは実体化しないんだ!!』『実体化はどういう基準で選ばれたんだ!?』と不満を抱くひとが居ないとも限らないし、正直相当数居ると思う。

 

 なので……今後の『にじキャラ』に期待してもらうために、これ見よがしに『別の機会がある』ということをアピールしておく。

 今回の『カラオケコラボ』以外にも――さっきおれが述べた『スマブロ大会』に始まり、『お誕生日コラボ』や『カレーの集い』などなど――これまで『にじキャラ』さんが行ってきたいろんなコラボ配信を、()()()()で行えるのだと匂わせておく。

 

 

 事実として……今日のこの『おうたコラボ』を皮切りに、今度は『にじキャラ』内のイベント企画チームが主導となって、この『実体化』を念頭に置いたさまざまなコラボ配信を立て続けに仕掛ける予定なのだという。

 肝心要の【変身】デバイスは既に渡してあるし、蓄魔筒(バッテリー)もおおよそ充分と思われる数を用意した。あとは先方の都合で好きなタイミングで――あえて身も蓋もない言い方をすれば、勝手に――【変身】を行使することが可能だし……おれたちが手を貸す必要があるとすれば、蓄魔筒(バッテリー)の回収と充填くらいだろう。

 

 つまりは視聴者のみなさん、彼ら彼女らの()()が『実体化』されるのは……そう遠い未来のことではないのだ。

 

 

 

「じゃーあー……こんど『なかゲ部』で大会開くときあったら、特別協賛でのわちゃん呼ぶけどいい? 賞品枠で」

 

「わかりました。じゃあ(れん)しゅ…………なんて?」

 

「「「イェーーーーイ!!!」」」

 

「のわめ荘に行きたいかァーーー!!?」

 

「「「ウォォォォォォ!!!」」」

 

「ちょっと!!?」

 

 

 

 まったく、油断も隙もあったもんじゃない。そんな予定を勝手に決められてしまっては……おれはとても、とても楽しみになってしまうじゃないか。

 

 実際のところ、前回ハデスさまたちをお招きした際……おれはびっくりするところもあったが、とても楽しかったことも事実だ。

 それに道振(ちふり)さんだったっけか、確か『自由に使えて人目につかないフィールドを探してる』的なことを言っていた気もするので……まぁ、おれの(借りている)おうちやお庭が何かの役に立つのなら、積極的に協力させてもらいたいとは思っている。

 

 ともあれ……以降の催し物は、そのテのプロである『にじキャラ』企画部門に丸投げするとして。

 

 

 とりあえずおれは今日のこの『おうたコラボ』を成功させるべく、自分本意(マイペース)なプロ配信者(キャスター)たちの思考を軌道修正し……どうにかしてもっと『おうた』を歌わせようと画策するのだった。

 

 

 

 ふっふっふ……一曲二曲で済むと思ったら大間違いよ。

 

 



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388【歌唱共演】さいごの仕掛け

 

 

 まぁまぁまぁ……最初こそあんなに『そんな歌わないでいいです、聞きたいだけです』みたいな顔してる子だってね。

 長丁場でまわりのみんながノリノリで歌っていればね、段々とノって来るってもんですよ。

 

 

 十八時に幕を開け、一対一から始まった今回のカラオケコラボだったが……途中で人数が増え、しばらくしてまた増え、スイーツの注文と共にまた増え……最終的には七人での長時間カラオケコラボと化したわけだ。

 カラオケなんていうものは、基本的に参加人数が増えれば増えるほど、一人あたりの負担は少なくなる。例えば今回のような七人カラオケの場合、自分以外の六名が歌っている間は丸々休憩時間と化すわけだな。

 

 というわけで、たとえ長丁場で予定が組まれていたとはいえ……七人で疲労を分担することができたこともあり、体力的な負担は思っていたよりも少なかったわけだ。

 

 

 そのため……おれも含めた七人が七人とも、今回のカラオケを純粋に楽しんでいたわけだが。

 

 

 

「……うげ、もうこんな時間か……」

 

「えーやだー! わちもっと歌いたいー!」

 

 

 さまざまな魔法を修めた叡智のエルフとて、さすがに時の流れを止めることはできない。

 参加者全員が楽しみ、また視聴者さんたちも(最推しが出ない、という点を除き)存分に楽しんでくれていた、およそ六時間にも及ぶ『おうたの集い』は……惜しまれつつもエンディングへと向かおうとしていた。

 

 タイミング的には、今をおいて他には無いだろう。

 時計の針も零時(エンディング)に近づき、お部屋の空気も『あと数曲で終わりかなぁ』という感じに染まりつつある……()しかない。

 

 

 

「あっ……じゃあ、ティーさま。せっかくですのでハモるやつ歌いませんか? マクベスFの『オリオン』とかどうです?」

 

「うたう! わかめちゃんとデュエットする!」

 

「ありがとうございます! じゃあわたし予約するので、お立ち台にお願いします」

 

「はぁーい!」

 

 

 

 

 作戦第一段階。既にまったりムードの室内の注意を引き付け、動きを止める。

 自分で言うのもアレだが……神秘的で可愛らしいエルフのデュエットともなれば、視聴者さんたちだけではなくこのお部屋の中の注目も引き付けられることだろう。

 なので……そうして、おれたちが場を維持している間が勝負となる。

 

 

 作戦第二段階。貴重な男手であるハデスさまを抱き込み、作戦の要となる品の搬入を行う。

 前もって『終了直前のタイミングで手伝っていただきたいことがある』とはお願いしておいたので、作戦開始の合図を下す。

 配信のカメラが切り替わり、マイクを握るエルフ二人が配信の画面に載り、同時にそれ以外の方々はカメラから一旦外れる形となり……つまりは、こっそり退室していても視聴者さんには気づかれない。

 

 

 作戦第三段階。予約した曲の伴奏が流れ始め、いよいよもってその他の音を塗り潰していく。

 現在おれはティーさまと一緒にデュエットの真っ最中なのだが……こっそり協力を取り付けておいたハデスさまは、今ごろ廊下にてモリアキおよびラニちゃんと合流しているはずだ。

 

 

 そして……勝負どころの第四段階。

 合流したラニの【静寂】魔法により、ドアの開閉音および搬入に伴う騒音をゼロにしながら、ハデスさまとモリアキは二人掛かりで『例のブツ』搬入を行い、テキパキとケースを外してしまう。

 

 なおこのとき、ラニちゃんはティーさまとくろさんのお二人には【認識撹乱】系の魔法を掛けてくれていたらしく、道振(ちふり)さんやちとせさんからは『ぎょっ』とした視線を向けられながらも、こうして無事に準備を終えることができた。

 

 

 

 こうして、おれが自身に注意を引き付けながら、その裏でこそこそ根回しして進めて(もらって)いた準備こそ……まぁ、もうおわかりですね。

 丹念に心を込めて(魔法併用で)修理した、初お披露目となるグランドハープちゃんでございます。

 

 

 

 

「…………はふー……わかめちゃんすごいよぉ、わちすっごい気持ちよかっ…………ひゃえー!?」

 

「はい! おつかれさまでしたティーさま!」

 

「わ、わっ、わっ、わかめちゃ、いつのまに、あの、」

 

「わたしも! とーっても気持ちよかったです! 光栄です! 本当にありがとうございます!」

 

「えっと、えーっと……う、うん……それでね、そのハ」

 

「そろそろお時間もお時間ですし! 最後はせっかくなのでくろさんと! そしてわたしが! 僭越ながら務めさせていただきたいのですが!」

 

「う、うん…………わちは……よいと思う」

 

「ありがとうございます!!!」

 

 

 

 おれ(わかめちゃん)にしては珍しく強い口調と、ティーリットさまを無理矢理言いくるめるような物言いと、そして心なしかドヤ顔で仁王立ちするハデスさま(と居心地悪そうにカメラの死角に隠れるモリアキ)から……何を行おうとしているのかを、恐らく把握してくれたのだろう。

 

 『にじキャラ』配信者(キャスター)の皆様は心なしか目を輝かせ、おれの一挙手一投足に注目してくれているようで。

 

 そして……同・配信スタッフの方々も、さすがというか有能な方が揃っておられる。おれが事前に頼んでおいた『お願い』をバッチリ実行に移してくれたようだ。

 

 

「えーーっと…………じ、じゃあ……最後のトリは、やっぱクロとのわっちゃん、ってことで……ええんやな?」

 

「えぇーーっとぉ、わかめちゃんがすごいことやろうとしてる気がすんだけど……おれら期待しちゃっていい感じ?」

 

「ふっふっふ……まーかせてください! わたしとクロさんの……真の『おうたコラボ』をお送りさせていただきます!」

 

 

 一旦カメラがソファ席に移り、男手であるハデスさまを除いた女子六名が、心なしか『そわそわ』しながら場を繋いでいる間……モリアキとハデスさまの手で『えっさ』『ほいさ』とグランドハープが設置され、すぐさま大道具係さんは撤退。これですべての準備が整った。

 

 

 ……というわけで、いよいよだ。

 僭越ながら、おれが演奏を勤めさせていただき……今や実在の歌姫と化した玄間(くろま)くろさんに、その歌声を披露していただく。

 

 お送りする曲は……その出自こそ発禁(えっちな)げーむ『Aile』の挿入歌だが、原作を知らない人にとっても広く知られている『神曲』と名高い一曲。

 類稀なる歌唱力を誇るくろさんのことだ。原曲の雰囲気を損なうことなく、すっきりしっとりと歌い上げてくれることだろう。

 

 

 歌・玄間(くろま)くろ、伴奏・木乃若芽(きのわかめ)でお送りする……『懐影』。

 

 さあさ皆様、ご拝聴。

 

 

 

「では、準備ができたようなので……いけますか? くろさん」

 

「ん。まかしときー。ところで」

 

「は、い? …………えーっと? ……ど、どうしました?」

 

「…………んんー?」

 

「??????」

 

 

 

 ステージに立ってマイクを握り、カメラの前に姿を表した『歌姫』くろさん。可愛らしく小首をかしげ、何やら考え込んでいる模様。かわいい。

 

 その整ったお顔を、椅子に腰掛けてハープを構えるおれに『ずいっ』と近づけ……えっと、なんだか甘酸っぱいフルーツのようなミルクのようなバニラのような……なんだかとってもいいにおいがしますね。……あっ、イチゴパフェの香りですね。かわいい。

 

 

 

「…………かめちゃん」

 

「はいなんでしょうくろさん」

 

「………………それ、ハープ?」

 

「…………そう、ですよ?」

 

「わあすごい。えっ、いつのまに出したん? やっぱ魔法使い?」

 

「えー……っと…………さっきティーさまと『オリオン』歌い終わったときに……ハデスさまに……」

 

「ほーん? まぁええか」

 

 

((((((ええんかい!!))))))

 

 

 

 ……まぁ、肩透かしを食らったというか、出鼻をくじかれたというか。こんなにデカい楽器が、いきなり現れたように思えるだろうに……相変わらずのんびりとしておられる。

 くろさんがこの様子なら、問題ないだろう。ちょっと(つまず)いてしまったけど、おれもくろさんも今度こそ準備万端だ。

 

 

 それでは、大トリとなる一曲。

 わたくし木乃若芽……つつしんで演奏させていただきます!

 

 



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389【一曲入魂】さいごの仕上げ

 

 

 さてさて、たいそう自信ありげに名乗りを上げたおれだったが……実をいうと、ハープの演奏を完璧に身に付けたわけではない。

 リクエストに応えていろんな曲を披露したり、即興演奏に興じたり……そんなハイレベルな真似ができる技量を会得したわけでは、決して無いのだ。

 

 指さばきも素早さも小手先のテクニックも、まだまだ奏者を名乗るには到底足りない。

 おれが今身に付けたのは、あくまで『課題曲』を演奏する()()の技術でしかないのだ。

 

 

 ……ただし、その一方で。

 おれが狙いを定めた――目星をつけて、くろさんにコラボレーションを持ちかけ、ピアノ譜をもとにマンツーマンで叩き込んで貰った――この一曲()()は、それなりに聞ける程度には仕上がったと自負している。

 

 なによりも……ほかでもない山代先生が、『良いでしょう』と評してくれたのだ。……やれるはずだ。

 

 

 

 右手と左手の十本指、そしてペダルを踏む足に全神経を集中し、練習通り弦を弾いて音色を奏でる。

 

 ゆっくり、しっとりとしたこの曲の曲調ならば、まだ素早くは弾けないおれでも奏でられる。

 

 ピアノとストリングスがメインなこの曲なら、グランドハープ一基だけでも伴奏は務められる。

 

 

 

『――――越えてゆく 遥か道も

 

 ――――辿る 過去の流れも』

 

 

 

 たとえ伴奏が、おれの付け焼き刃の演奏であっても……くろさんの歌唱力をもってすれば、誰もが聞き惚れる神演奏へと変貌を遂げる。

 

 原曲のイメージに見事にマッチした声色で、のびのびと透き通った歌声を奏でる……仮想(アンリアル)改め、実在歌姫配信者(キャスター)であらせられる玄間(くろま)くろさん。

 

 演者らしくカメラと、その向こうにいる数多の視聴者さんを意識していながら、時たま『ちらり』とこちらを窺うその視線・その横顔。

 そこからおれだけが見ることができ、感じることができる『歓喜』をはじめとした様々なプラスの感情を確かに受けとり……おれの演奏が彼女に()()()ことを知り、とっても嬉しくなってくる。

 

 

 

『――――遠く行く (かす)か夏も』

 

 ――――謳う 現在(いま)の先へ』

 

 

 

 歌姫の思いが籠められた神曲は、いよいよ最後のサビへと突入する。

 既に全体の八割以上消化したとはいえ、最後の最後まで油断はできない。最後の()()が肝心、『高名(こうみょう)の木登り』ってやつだな。

 

 加えて……伴奏に装飾音符が増えたり、テンポが急にゆっくりになったり、歌い手とタイミングを会わせる必要なんかも出てくるので、とにかく最後まで気が抜けないのだ。

 

 

 とはいえ難所がわかっているのならば、しっかりと意識して対処すればいいだけだ。

 一時的に意識を拡張したり、手指だけに加速魔法を用いたり、アイコンタクトをしっかりと交わしながら上半身を指揮棒代わりに動かしたりして、言葉を用いずとも意思の疏通を完璧にこなして見せる。

 

 くろさんの最後の一音も、意識してタイミングを図りやすい身ぶりを加えてくれたくろさんのおかげで、完璧なタイミングで入ることができた。

 微塵も揺らぎやブレがない歌声が『すーっ』と長く長く伸びていき……その影で、おれの伴奏がしっとりと曲を締めていく。

 

 

 テンポを落とし、ゆっくりと弦を爪弾き……最後の三連符を余韻たっぷりに鳴らし。

 

 

 

 

「………………はぁー…………きもちぃ……」

 

「ちょっ……何いきなりえっちな声出してるんですか!」

 

 

 

 残響が消えるまで、誰一人として言葉を発することが出来ず、なんとも言いがたい沈黙で満たされたルーム内。

 謎に静かな空気を打破したのは……うっとり恍惚とした表情で蕩けたような笑みを浮かべるくろさんと、そんなたまらん表情に思わずツッコミを入れてしまったおれの発言。

 どこか気の抜けるやり取りで正気に戻った彼ら彼女らは、盛大に拍手を送ってくれた。

 

 

「ちょっ……すご! すっご!」

 

「おいおいやべーぞこれ!」

 

「やだ……すてき……」

 

「マジか…………マジかよ……」

 

 

 

 興奮した様子で歓声を上げ、あるいは感涙を浮かべてくれる女性陣と……なにやら俯き顔を手で覆い嗚咽を漏らし始めてしまった男性陣(ハデスさま)

 とにかくこの場にいる方々からは、(たぶん)概ね好意的な反応を頂けたように思える。

 

 椅子から立ち上がり拍手を浴びながら、くろさんと二人満面の笑みでソファ席へと戻る。ふと配信コメントの流れるノートPCを覗いてみると、そこには目にも留まらぬ物凄い勢いでぶっ飛んでいくコメントの数々と、色鮮やかなスパチャの数々。

 おれの動体視力(エルフアイ)で幾つかコメントを拾ってみたが……うん、皆さん好意的に受け止めてくれたようだ。うれしいな。

 

 

「のわっちゃんあんな特技もっとったん!! あんなでっかいハープ弾けるとかカッコよすぎやろ!!」

 

「ちっちぇーのにすげーなぁー! おれたぶん手ぇ届かねーし……」

 

(アオ)ちゃん先輩()()ですし、カスタネットくらいしか出来なさそうですもんね」

 

「オイ居酒屋おまえ! アレってなんだおまえ! なめんなよおれトライアングルも演奏できっし!!」

 

「はいはーい! わちエルフじゃけど楽器はだめどす! じゃのでわかめちゃんほんとすごいと思うどす!」

 

「私もハープなんて触ったこと無いし……いやぁ本当、すごかったですよ! ね、ハデス様! ………………ハデス様?」

 

「(……ずびっ、ぐすっ)」

 

「……………………し、しんでる」

 

 

 

 何かを思い出してしまったのか、顔を覆ってすすり泣くハデス様だったが……残念なことにこの次世代演出手法であれば、そんな様子も余すところなくカメラに写ってしまう。

 凛々しくも禍々しい黒肌の大男……設定では『冥王』や『魔王』などとも謳われる彼が、泣きゲーを思い出して咽び泣く姿。……もしかしたらキャラ崩壊だとか、名誉毀損に当たってしまうのかもしれないそんな光景が、情け容赦なく全世界へと発信されていく。

 致命傷(クリティカル)を受けてしまったハデスさまの様子を目の当たりにして、コメント欄の方でも幾人か波及してしまった方々がいるようだが……お、おれはわるくないよね?

 

 

 とにかく……共演(コラボ)のお相手であるくろさんにも(あんなえっちな顔を覗かせるくらい)喜んでもらえて。

 

 助っ人である『にじキャラ』所属演者(タレント)の皆さんにも、おうたや演奏をいっぱい褒めてもらうことができて。

 

 そして、メイン会場『仮想温泉旅館くろま』およびサブチャンネル『のわめでぃあ』双方において、おれたち史上最多の視聴者さんに喜んでもらうことができ。

 

 なによりも……実在仮想配信者(アンリアルキャスター)として生まれ変わった玄間(くろま)くろさん、ならびに『にじキャラ』の皆さんの可能性を、時間いっぱいたっぷりと誇示できたと思う。

 

 

 今回の『おうたコラボ』、果たして成功したのか失敗したのか。……それはこのコメントを見れば、一目瞭然のことだろう。

 

 

 

 

 ……というわけで、えんもたけなわ。そろそろお時間が近づいて来た。

 おれとしても満足いく結果だったし、皆さんも悔いはなさそうなので……そろそろクロージングに移ろうと思う。

 

 

 ディレクターさんからの指示を得て、別室の『店員さん』が動き始める。

 賑やかに楽しいひとときを過ごしていた団体に……非情ではあるが、誉れある『終了』を告げるために。

 

 しずしずと廊下を進み、おれたちの居座るパーティールームの前へ。お行儀よく『きをつけ』をして、おそるおそるながら丁寧に『こんこん』っと扉を叩き。

 

 

 

 

『お、っ…………おきゃくさま! ひつ、っ……しつれいいたしまする!』

 

「「「「「「!!!?!?」」」」」」

 

 

 室内の(おれたち以外)六名の視線が一斉に扉へと向かい、やがてその扉がゆっくりと開いていき……その向こうからは先ほどの声の主、着慣れない『うた館』の制服に身を包んだ『店員さん』が姿を現す。

 

 ダウンライトの光を浴びてきらめく白い髪と、室内を探るようにあちこちへ向けられる三角形の耳、脚の間に不安げに垂れる尻尾を備えた……歳の頃は未だ『少女』と呼んで差し支えないだろう、いつも以上に可愛らしい『店員さん』。

 

 

「そ、っ……そろろろ……おわりのお時間が、近づいてございまする……で、ございますゆえ……お会計、の、かわりに……おわりのお言葉、を、おねがい申し上げまする!」

 

「よく言えたねぇー! えらいよー霧衣(きりえ)ちゃ…………じゃなくって、店員さん」

 

「わぅぅぅぅぅぅ……!!」

 

 

 

 『店員さん』からのお声が掛かったので、名残惜しいがそろそろ切り上げなければならないだろう。

 

 かわいいなぞの店員さん(きりえちゃん)激可愛(ゲキカワ)ムーブを目の当たりにして硬直してしまっている皆さんは……申し訳ないけど、一旦放置させていただき。

 

 

 

「それでは……長時間にわたり、お付き合いいただいた『おうたの会』、いかがでしたでしょうか?」

 

「たのしかったー」

 

「ブフッ! …………もし今回のコラボが楽しんでいただけたようでしたら、『にじキャラ』さんのフォームへご意見ご感想をぜひぜひよろしくおねがいします!」

 

「たのむでー」

 

「ン゛ッ……! また、今後『あんなことやってほしい』『こんなこと楽しそう』などのご要望もあれば、そちらもあわせてお待ちしています……とのことです」

 

「せやでー」

 

「……それではそれでは、今後行われるであろう、いろんなコラボを期待しまして……本日はこのあたりで終了させていただきます。進行はわたくし、『魔法情報局のわめでぃあ』木乃若芽(きのわかめ)と……」

 

玄間(くろま)くろ。……が、お送りしました! まいどおおきに!」

 

「やればできるじゃないですか、MC。なんで今までやってくれなかったんですか」

 

「だってかめちゃんが睨んだから。しぶしぶってやつやんな」

 

「………………」

 

「……………………」

 

「それでは! さよーならー!」

 

「おおきにーー!!」

 

 

 

 

 








おおきに!!!!





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390【情報波及】賽は投げました

 

 

『アンリアルキャスターが実体化!? 『にじキャラ』が繰り出す驚異の最新技術とは?』(URサーチ)

 

□2o2x年2月15日19:58 □ジャンル:URcaster

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 ゲームや漫画、アニメーションのキャラクター、そして仮想配信者……『非実在』のそれらキャラクターに入れ込む人々においては、それら『推し』が現実に存在しないという事実を嘆く者も少なくないだろう。

 ところが。日々進歩を続ける仮想配信者業界において……またしても大事件が巻き起こった。

 騒動の発端となったのは、株式会社NWキャストが擁する『にじキャラ』所属のタレント『玄間(くろま)くろ』のライブ配信、『仮想温泉旅館くろま【おうたの集い】』。

 仮想配信者である玄間がゲストを招き、一緒にカラオケを楽しもう、という趣向の番組であったが……驚くなかれ、その配信に訪れたゲストとは、全員が実在の配信者だったのだ。

 企画主であり、仮想配信者であったはずの『玄間くろ』も含めて、全員である。

 

 

 

………………………………

 

 

……………………

 

 

…………

 

 

 

 

『ユアキャス大手『にじキャラ』所属配信者『玄間くろ』、次なる舞台は現実世界!?』(ネットギークMAG)

 

□2o2x年2月15日21:33 □タグ:にじキャラ

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 株式会社NWキャスト所属のURcaster「玄間くろ」は、自身のチャンネル「仮想温泉旅館くろま」において驚くべき内容の配信を敢行した。その内容とはずばり、今までは画面の中でしか存在が許されなかった仮想配信者(アンリアル・キャスター)を、なんとこの現実世界へと出現させるというもの。

 勿論、行われた配信そのものは従来同様、動画投稿プラットフォーム「YouScreen」を利用したもの。しかしながらその配信の内容は、実在の店舗とおぼしきカラオケルームにて同僚たちと「カラオケ」に興じるというもの。

 ソファに腰掛け、テーブルに頬杖を突き、予約端末を操作し、マイクを握り……今までは画面の中でしか存在し得なかった仮想配信者が、それらの動作をあたりまえのように行っているのだ。(※写真1)

 これまでも仮想配信者を登用したバラエティー系コンテンツは数多く試みられてきたが、やはり技術的な制約が大きくのし掛かり、専門の機材を揃えたスタジオでしか収録を行うことができなかった。……とはいえ、これは仮想配信者を登用するにあたっては、当然のことであるのだが。

 その一方で、今回のケース。実際のカラオケ店舗(当然専門の3D収録機材など見られない)にて、時折当たり前のように会場を出入りし、これまた当たり前のように飲食しながら、アンリアルな存在であるはずの仮想配信者が配信を行っているのだ。

 

 

 

………………………………

 

 

……………………

 

 

…………

 

 

 

 

『実在仮想配信者旋風ふたたび!? 謎多き配信者「木乃若芽」と「のわめでぃあ」とは?』(netnote)

 

□2o2x年2月16日05:46 □カテゴリ:URcas

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 日本の配信者界隈に大きな衝撃を与えた「キャンフェス」から、間もなくおよそひと月が経過しようとしている。

 そんな中で昨晩、またしても衝撃的な大事件が勃発した。これまでは仮想空間での存在だとされていたアンリアルキャスターが、なんと現実世界に姿を現したのだという。

 実在するアンリアルキャスターと聞いて思い浮かぶのは、件の「キャンフェス」騒動において頭角を表した配信者「木乃若芽(きのわかめ)」。当初の計画こそ3Dモデルを利用したアンリアルキャスターであり、その容姿も現実離れしたファンタジックな装いあるにも拘わらず、数奇な経緯を経て今では実在人物として活躍している、気鋭先進の配信者である。

 今回の騒動の中心となった配信の参加者で、ただ一人所属が異なる彼女。その来歴も含め、この「突如として現実の存在となったアンリアルキャスター」騒動に関わっていることは、もはや疑いようが無いのではないか。

 

 

 

………………………………

 

 

……………………

 

 

…………

 

 

 

 

『「にじキャラ」キャスター実体化プログラムに関して』(NWキャスト)

 

□2o2x年2月16日07:00 □カテゴリ:インフォメーション

〔つぶやく(ё)〕〔Like_24,343〕〔REIN共有〕〔Fansta共有〕

 

 

 株式会社NWキャスト(本社:東京都千歳区 代表取締役:金江隼人、以下「当社」)が運営するURcaster / 仮想配信者タレントグループ「にじキャラ」において、新世代演出技術の一環として、所属タレントの擬似実体化による表現技法の確立に至りましたことをご報告致します。

 

 当社独自開発の特殊粒子を定着させた衣装を着用させ、光波の屈曲率や衣装の形状を操作することで、あたかも実体化しているかのような表現を可能としました。

 これにより今後、これまでのように限られた環境に留まらず、様々なロケーション・シチュエーション、全く新しい内容の企画コンテンツを提供できるものと考えております。

 

 既に実証は完了し、当社仮想配信者タレントグループ「にじキャラ」Ⅰ期生より「トールア・R・ティーリット」「冥王ハデス」、Ⅲ期生より「青樹ちとせ」、Ⅳ期生より「洟灘濱道振」「玄間くろ」「村崎うに」、以上六名を第一陣として公開致しました。以降の所属タレントにおいても、順次公開を進めていく所存です。

 

 なお今回の新技術の技法を確立するにあたり、試験環境や各種機材・資財を提供して下さった囘霊宮、ならびに同産業技術会館の皆様には、この場をお借りして篤く御礼申し上げます。

 

 今後も株式会社NWキャストは世界的に愛されるコンテンツ作りを目指し、精進してまいります。

 当社ならびに「にじキャラ」各位へのご理解・ご支援・ご声援の程、今後とも宜しくお願い申し上げます。

 

 

 

………………………………

 

 

……………………

 

 

…………

 

 

 

 

「…………ってな感じで、予定通り『にじキャラ』さん側からも声明が出たみたいっすね。この一晩でネットの反響スゴいことになってるっすよ」

 

「ほーん? それはよかよか。……まぁ後はあちらさんにお任せ、って感じかね?」

 

「そっすね。オレらのお仕事としては、一旦これまでで。……まぁ見てた感じ、先輩コラボのお誘いは途切れなさそうっすけど」

 

「あはァーー嬉しい悲鳴ってやつーー」

 

 

 

 現在時刻は、翌十六日の朝七時すぎ。おれは一夜明けて騒がしくなってきたネットのニュースを、我らがマネージャーのモリアキとともにザッピングしていた。

 

 例のお祭り騒ぎが終了して、おれたちは(てれてれ霧衣(きりえ)ちゃんとねむねむ(なつめ)ちゃんをおやすみさせるためにも)早々におうちに戻らせて頂くことになった。

 というのも、もう深夜零時を回ったというのに『にじキャラ』の方々のテンションがすさまじく、なんとそのまま二次会という名目で朝まで(オールナイト)カラオケをおっ始めやがったためである。

 

 配信会場にお集まりいただいたのは六名だったが、同フロア別室に待機していた配信者(キャスター)さんたちは『にじキャラ』全体のおよそ八割にも上るといい、そのまま『せっかく集まったんだし』とワンフロア借りきったまま、スタッフさんも巻き込んで宴が始まったのだ。

 ……配信者(キャスター)さんたちの何人かは、【変身】を用いた上で。

 

 

 おれはそこに危険な臭いを嗅ぎとり、年少組二人をダシに戦略的撤退をキメたわけだが……やっぱりおれの判断は間違っていなかったと思う。

 『にじキャラ』マネージャーさんたちからの救難信号を受けて、再び『うた館』へと駆けつけたおれたちの目の前には……こんな時間まで粘りに粘ってダメになった方々のだらしない姿が、死屍累々といった(てい)で広がっていたのだ。

 

 

 

「はいはーい! みなさん起きてくださーい! 『にじキャラ』行き最終便しゅっぱつしますよー!」

 

「「「「「はぁーーい……」」」」」

 

「あれれぇー? 声が聞こえないぞぉー? 準備はいいですかぁー?」

 

「「「「「はぁぁぁい!!」」」」」

 

(いやーいやー……ヨッパライどもはどの世界でも変わらないねぇ……)

 

(先生すんません、お世話ンなりァっす)

 

 

 とりあえず彼らを穏便に事務所までお連れして、機材の撤収をお手伝いして……そこまではお力添えさせていただこう。主にラニちゃんが。

 われわれとしても……彼らの次なる演目は、とっても楽しみにしてますので。

 

 

 これからこの界隈は、とっても騒がしく……そして、とーっても楽しくなるぞ!

 

 



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391【後日話題】あれから数日

 

 

 あの一件以降……『にじキャラ』さんご一行は、とてもとても精力的に行動していった。

 

 

 おれとくろさんのカラオケコラボに続けとばかりに、また違う組み合わせのメンバーでのカラオケや、会場に集まってのゲーム配信、どこからか早押しボタンなんかを調達してのクイズ大会、多人数でのお料理対決などなど。

 今や仮想配信者(アンリアルキャスター)としての軛から解き放たれた『にじキャラ』配信者(キャスター)たちは、とてもとても精力的に活動の幅を拡げてくれていた。

 

 そんな彼らの提供するコンテンツは、回を重ねるごとにどんどんと研鑽されていき、(また手応えを感じたことで予算も増えていったのだろう)やがてはテレビのバラエティー番組と比べても決して引けを取らない、まさに『プロの域』のレベルにまで到達していった。

 

 

 

 そんなとてもおもしろいコンテンツを提供する『にじキャラ』と所属配信者(キャスター)は、その人気はまさに『うなぎ登り』といったところだろう。

 

 もともと多くの視聴者を擁していたⅠ期生、中でも『売れっ子』だったティーリットさまやハデスさまは、実体化プログラム解禁から間もなく登録視聴者数百万人の大台に到達。

 その他の方々もお二人に続かんばかりに、八十万台や九十万台へと立て続けに辿り着いていた。

 

 

 そんな中で、間もなく百万人到達となりそうなのが……その体格ゆえ()()()()を講じさせていただいた、Ⅰ期生の『天使』モチーフであるセラフさん。

 彼女にはその大きすぎるディスアドバンテージを払拭するため、共用デバイスとは別に首飾り型の専用デバイス(蓄魔筒(バッテリー)一本がギリギリ収まるサイズ)をご用意させていただいたのだが……それに先行入力(プリインストール)させて頂いた秘策こそ、とっておきの【浮遊】魔法(アプリケーション)である。

 

 

 

『セラちゃんずるい! わちもおそら飛びたい!!』

 

『ティーちゃんだって処刑(しねどす)の魔法貰ったじゃん! 私はこれがあってようやく一人前なの!!』

 

「あ、あの……べつに飛行魔法ってわけじゃないので……せいぜい床から一メートル弱浮かぶだけですし、セラフさんはこうでもないと厳しいでしょうし……」

 

『むぅーーーー』

 

『むぅーじゃ無いの。……まったく、この三桁歳児は……』

 

 

 なんていう一幕こそあったものの……念願の上方修正(アップデート)を経たセラフさんは、並々ならぬ努力もあって【浮遊】の扱いを完全にモノにして見せた。

 喜怒哀楽とともにふわふわと高度を変えたり、器用に空中でくるくると回って愛嬌を振り撒いてみせたりと、以前にもまして可愛らしい表現をしてみせる彼女。

 これでようやく()()を必要とせず、独りで配信できるようになったというわけだ。

 

 

 そして一方……われらが(?)エルフの国の王女様にして、このたび晴れてゴールドの配信者ランクに到達した、ティーリットさま。

 日頃からおれたちにとてもよくしてくれている彼女には……お祝いというわけではないが、ラニちゃん謹製の専用杖型変身デバイスを進呈させてもらってたりする。

 こちらは従来のデバイス同様【変身(キャスト)】まわりの機能を一通り備えているほか、セラフさんの【浮遊】に該当する追加機能として、専用処刑魔法【しねどす】を実装したものだ。

 その効果は至ってシンプル……杖を向けた人物にコミカルな炎上エフェクトを三秒間発生させ、その後対象のテクスチャを一定時間『真っ黒』に差し替え……要は黒コゲ(もちろん見た目だけ)にしてしまうというものだ。

 

 内蔵蓄魔筒(バッテリー)の都合上、乱用は出来ないのだが……新たなる(おもちゃ)を手に入れた王女様はとても嬉しそうに、(共演者が居るコラボ等においては)その(しねどす)を存分に振るっていた。

 なおその矛先は九割がた刀郷(とーごー)さんに向いていた模様。しってたわ。

 

 

 

 また……ここへきて、実在仮想配信者(アンリアルキャスター)第二号であるミルさんも、無事配信業の戦線に復帰するに至った。

 同僚の方々とは異なり、普段の身体が『ミルク・イシェル』になってしまった彼は、おれに倣っていち早く自宅の配信環境を一新。変身デバイスを必要としない手軽さも相俟ってか配信の機会も多く、ぐんぐんと支持者を増やしている。

 

 加えて最近では、大手を振って共演(コラボ)配信にも顔を出せるようになった。なにせ周りの同僚たちは皆【変身(キャスト)】の魔法を使いこなし、ことごとくが実在仮想配信者(アンリアルキャスター)(※姿のみ)となっているのだ。

 この世ならざる魔力(ちから)を備えた『本物』の実在配信者(キャスター)がお呼ばれしても……木を隠す森が出来上がった以上、その姿を奇特に思われることは二度と無い。

 

 ただし……そのスカートの中、脚の間にぶら下がっているとされる器官の存在に関しては、以前にも増して熱い議論が繰り広げられているのだとかいないのだとか。

 

 

 

 

 そしてそして……おれたちの変化についても、せっかくなので添えておこうかな。

 

 まずは、チャンネルの登録者(フォロワー)数。こちらがですね、この度なんとシルバーアワード……つまりは、十万人の大台に到達いたしまして。

 

 別次元である百万人(ゴールド)は除くとしても、とりあえず『配信者(キャスター)』として一人前と呼べる位までは到達できたのではないだろうか。

 特にここ最近、一月末から二月にかけての伸び率が半端無い。考えるまでもなく『にじキャラ』の皆さんと接する機会が得られたからであり、彼ら彼女らの影響力のおかげである。

 ……ほんとうに、感謝してもしきれない。

 

 十万人(シルバー)到達の証となるマイルストーン……つまりは表彰盾も、そう遠くないうちに送って頂けるらしい。

 受け取ったら記念配信でもさせていただこうかな。

 

 

 そんな大きな出来事と、いつも通りの小さな出来事――天繰(てぐり)さんと烏天狗ちゃんズによる『ごほうび』や、山代先生の音楽教室や、金曜夜の定例配信や、寄せられたスパチャのお礼録音などなど――を繰り返し。

 

 

 

 ――――本日は、三月六日の金曜日。

 

 浪越市南区のおれの部屋の前では……白と黒のツートンカラーに塗り分けられ、屋根の上には赤色灯が設えられた、とても速そうな車が一台、おれのことを待ち受けていた。

 

 

「お早うございます、若芽さん。本日は宜しくお願いします」

 

「おはようございます。わざわざありがとうございます、春日井さん」

 

 

 

 春日井さんと、彼に付き従うもう一人のおまわりさんによって、おれは後部座席へと案内される。

 とはいえ当然『たいほ』とか『にんいどうこう』とかそういうのじゃないので、そこんところは安心してほしい。わたくし木乃若芽、後ろ暗いところなんて(あんまり)ございません。悪いことなんてしてないし、税金だって滞納してないもん。

 

 

 そんな模範的な市民(どや)であるおれを乗せたパトカーが向かう先は……浪越中央警察署。

 おれこと木乃若芽(きのわかめ)ちゃんが、本日一日署長を務めさせていただく『お仕事現場』なのである。

 

 



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392【一日署長】署長のスケジュール

 

 

 一日警察署長というものは、べつに警察署長のお仕事を全部引き受けるものではない。……まぁあたりまえなのだが。

 

 実際のお仕事としては『署長』というよりは『広報大使』と表現した方がいいだろう。

 市民の皆様に向けて交通安全や防犯なんかについてのアピール活動を行ったり、警察署員の方々へ訓示を行ったり、実際に管内をパトロールして活動PRを行ったり……報道陣相手に会見を開くこともあるらしい。

 署長としての裁量なんかを持つことは無く、一日署長を任命している間でも、署長は署長で普段のように業務しているのだという。

 

 なので、フィクションなんかであるような『偶然事件現場に居合わせた一日署長の有名人があれこれ指示を出して事件を解決に導く』なんていうものは……まぁ残念なことに()()()()()のだという。それもそうだよな。

 

 

 

「ッ、………………よく……お似合いですよ。若芽さん」

 

「ガマンせず素直に笑ってくれて良いですよ春日井さん。わたしはもう慣れましたから。……っていうか、よくこのサイズの制服がありましたね」

 

「えぇ、まぁ……お話を戴いてから、ひと月程度は在りましたので。準備に然程手間は掛かりませんでした」

 

「じゅんッ、…………わざわざ……お手間お掛けします」

 

「いえいえ」

 

 

 署まで連れてきていただいて、真新しい制服一式を手渡されて、控え室兼更衣室へと通していただいて……そこでおれはまるで子ども用サイズの、しかしれっきとした警察官の制服へとお召し変えを行う。

 広報用なので下はスラックスではなくタイトスカート、ただし万が一(パンのチラ)を避けるため黒タイツで防御。

 一式を身に付け、控え室の外に出て変なところがないか確認してもらったところ、なんともいえない空気に出迎えられたわけだけど……まぁ、間違ってないなら良いとしよう。

 

 その後は会議室へと通され、先日以来のお目通しとなる名護谷河(なごやがわ)署長にご挨拶させていただき……広報担当のトヨカワさんを交え、今日一日の大まかな流れを共有させて頂いた。

 

 

「えーっと……任命式と、署内あいさつと、ポスター撮影と、周辺パトロール、おひるを挟んでポスターコンクールの表彰式と……記者会見、ですか」

 

「ええ。それぞれの業務の間には休憩時間を設けますので、控室でお休み戴いても構いません。記者会見の時間以外にも、恐らくは報道関係者が付き纏うと思われますので」

 

「『わかめちゃん』は現在注目度爆上がり中ですからね。ユアキャス実体化の立役者じゃないかって(もく)されてますし、そのテの質問も多いんじゃないっすか?」

 

「…………そういうのって、受け流しても大丈夫ですよね?」

 

「そうですね。本日は『一日署長』として御足労戴いて居りますので。本日の業務外のプライベートな部分に関する質問は、無理に御回答頂かずとも構わぬでしょう。……進行役にも、その様に告知させましょう」

 

「わかりました。ありがとうございます」

 

 

 

 軽ぅく打ち合わせを済ませ、一日署長にあたっての諸注意事項を通達され、あとはお仕事開始を待つまでだ。最初の業務である『任命式』は九時からなので、準備時間を加味してもあと三十分くらいある。

 おれたちは一旦控え室へと下がり、お茶を飲んでお手洗いを済ませ、頂いた資料に目を通しながら身体のほうも整えていく。

 

 

「まぁーオレも報道陣に混じって付いてきますし、白谷さんも付いてくれてるでしょうし。そんな気張らずにいきましょう」

 

「そこんとこは心配してないよ。……ラニの安心感半端無いよなぁほんと」

 

「でっしょー? ノワにイタズラしようとしてもボクが指一本触れさせないから、安心していいよ」

 

「そんな殺伐とはしないと思うけどなぁ……」

 

 

 

 業務内容そのものは、おれにとって何ら懸念するほどのものではない。

 任命式は受け身でいいし、署内あいさつは原稿(バッチリ暗記済み)を読み上げるだけでいい。パトロールは団体さんの一員として付いてけばいいだけだし、表彰式も段取りは全て決めてもらっている。

 

 なので……心配する点があるとすれば、最後の記者会見だろう。なにせおれは(最近ネットでちょっと話題になったくらいで)芸能人とか一流アスリートみたいな有名人ではないのだ。

 おれのことを知らない記者さんには、そもそも『あなた誰ですか』とか聞かれんとも限らない。『知名度が低いのに何故一日署長として採用されたのですか』とか聞かれる可能性も、十分どころか十二分にあり得るだろう。

 また署長さんの言っていたように、記者会見のとき以外にもカメラは常に付いて回る。常に注目を浴び続けること自体は年末年始で経験済みなので……まぁ、ボロが出ないように愛想を振り撒いていくしかない。

 

 

 とはいうものの……べつに報道関係者全員が敵対的というわけでもないのだ。

 『キャンフェス』のあとも、先月半ばの『おうたコラボ』のあとも、おれのことを好意的に書いてくれたライターさんはたくさん居てくれたし……特にサブカル分野に明るいネットメディアなんかは、むしろ積極的に利用してやろうとも思う。

 

 しかしながらその一方で……おれが件の『正義の魔法使い』として報道カメラに捉えられたときなんか、おひるのワイドショーや情報バラエティ番組で(おれに向けてではなく、あくまで『正義の魔法使い』に向けてだが)好き勝手言われていたというのも、これまたれっきとした事実である。

 あのテのメディアには正直いい感情を持っていないので……あのとき『正義の魔法使い』に向けていたような感情をおれに向けられたら、もちろんそれはおもしろくない。

 

 

「でもまぁ、油断は禁物っすよ。記者の中には例の『魔法使い』の正体が、先輩……つまり『わかめちゃん』だって考えてる奴らも居るでしょうし。怪しいところがあったら面白おかしく書き立てて煽るくらいはしてくるでしょうし」

 

「そだね。あくまで『ノワはただのカワイイ配信者(キャスター)なんだ』ってコトを、彼らに印象付けたいところだけど……まぁ、いざとなったらボクが矢面に立とうか。ボクにいい考えがある」

 

「その心遣いは嬉しいけど、何かするときはおれ……は、無理か。モリアキに相談してからにしてね?」

 

「おっけーっすよ。バックアップはオレと白谷さんに任せて、先輩は一日署長に専念したって下さい」

 

「……ん。助かる。……ありがと」

 

「「エヘヘーー」」

 

 

 

 まぁ……おれたちにとって都合の悪い事件なんてそうそう起きないだろうし、おれは与えられた『お仕事』に専念させていただこう。

 おれの働きが少しでも期待されているというのなら、おれはその期待に応えてみせよう。

 

 

 おれたちの控え室のドアが『こんこん』とノックされ、広報担当のトヨカワさんの声が聞こえる。……どうやら出陣のお時間らしい。

 

 バックアップ要員の二人と頷き合い、ラニが融けるように姿を消したことを確認し……おれはほっぺを『ぺちん』と叩いて気合いを入れて、ドアを開ける。

 

 

 

 かっこいい制服に身を包んだおれの、かっこいい『一日署長』のおしごとが……いよいよ始まるのだ。

 

 

 

 

 






(そのカワイイムーブは積極的にやっちゃって良いからね? 撮れ高ってやつだよ。どんどんカワイイアピールしてこ)

(ラぬァーーーー!!?)



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393【一日署長】ちゃちゃっとお昼



【これまでのあらすじ】
わかめちゃんだいにんき!!






 

 

「OK、午前中の業務終了っすね」

 

「やっぱさすがだよなおれら」

 

 

 

 午前中の業務……任命式と署内あいさつとポスター撮影と地域のパトロールは、なにごともなくあっさりと終了した。

 ……いや、この一言だけで終わらせるとさすがに怒られそうなので、あとで思い出せるように軽く纏めとこうと思う。おるすばん組にもお話ししてあげたいしな。

 

 

 最初の業務である『任命式』は予想通りの……いや、正直予想以上のカメラの数にほんの一瞬面食らったが、そこはちゃんと『お仕事できるモード』の局長で乗り切った。

 

 愛嬌を振り撒きながら堂々とカメラの前に姿を現し、名護谷河(なごやがわ)署長からお言葉とともに任命書をいただき、『一日署長』を拝命する。

 事前に行わせて頂いたリハーサルの通り、ビシッと敬礼をキメることができた。多くのカメラやフラッシュを浴びても動じない『一日署長』の姿は、恐らくとてもカッコいいと思う。

 カッコいい制服(※ただし特注SSサイズ)を完璧に着こなしたおれのカッコいい敬礼は、きっと多くの人に『カッコいい!』と褒めてもらえることだろう。なぜならカッコいいので。

 

 

 そんな任命式を終えたら、署長室を出たそのままの足で『署内あいさつ』へと移る。

 おまわりさんたちがお仕事している大部屋(オフィスデスクや書類棚や事務機器がいっぱいある)へと招き入れられ、大勢のおまわりさんに注目を浴びて内心ビビり散らしながらも表面上はにこやかな笑みを浮かべ、恐らくは部長とか課長とか偉いひとのデスク…………の横にこれみよがしに設置された『お立ち台』へと案内される。いや、確かにおれちっちゃいけどさ。

 

 気を取り直して、署員の皆様へとあいさつさせていただく。まぁざっと纏めると『わたしが一日署長です。皆さんいつもありがとう。今日はよろしくお願いします』といった感じだ。対内的なものなのでカメラも少なく、正直とても助かった。

 

 

 その後は……まぁ、『ポスター撮影』が待ち受けていたわけだけど…………うん、ポスターの撮影をね、いっぱいされまして。ほんとうにアレぜんぶポスター用なんだろうな。まさかおまわりさんがうそつかないよな。

 ……いや、うん。もういいよね……おれはよくがんばったよ。

 

 

 予定よりも押してしまった前行程を経て、いよいよ『地域の防犯パトロール』へと移る。

 ……とはいえアナウンスとか横断幕の保持とかは取り巻きのおまわりさんズが全部やってくれるので、局長……もとい、署長であるおれは周囲に愛想を振り撒いてればいいだけだ。完全にいいご身分である。

 

 幸運にも天候に恵まれ、ぽかぽか暖かいお昼どき。地域広報誌かなにかで聞き付けてくれたのだろうか、大勢とまではいかずとも『そこそこ』の数の浪越市民の皆様が見に来てくれている。

 おまわりさんが『交通安全』とか『飲酒運転撲滅』とか『安全運転』に関してのアナウンスを流しながら、広告入りのポケットティッシュを配っていく……様子を眺めながら、おれは暢気に手を振りながら『こんにちはー』『こんにちはー』などとあいさつをしていくわけだ。

 

 それにしても……やはりおれの見た目が()()だからだろうな、市民の皆様の視線が明らかに微笑ましい感じのものになっている。せっかくカッコいい制服を着ているというのに、だ。

 まぁそこは、他人の感想に対してとやかく言える立場じゃないので仕方ないとして……そんなやきもきを抱えたまま、しかし求められるお仕事はきちんとこなしつつ、おれ(を含む大名行列)はおよそ一時間弱(こまめに小休憩をいただきながら)浪越中央署の周囲を練り歩いていった。

 

 なお件のポケットティッシュね。あれに入ってた『交通安全』の広告、おれの写真入ってたんだわ。巫女装束の。……写真の出所(でどころ)一発でわかっちゃったよね。

 ……そういえば、写真の幾らかは宣伝に使わせてもらうかも、とかいう契約だったっけ。言ってた気がするわあの神様。

 

 

 

 

「とりま昼メシ食っちまいましょう」

 

「OK把握」

 

 

 午前中のスケジュールを無事に消化し終え、署長室……ではなくそのすぐ近くの控え室へと引っ込んだおれたち。対外的にはマネージャーということになっているモリアキが貰ってきてくれたお弁当の蓋を開き、割り箸を取り出して『いただきます』とあいさつをする。

 お昼休みを終えたら、午後も『一日署長』としてのスケジュールが詰まっている。とはいえ業務の半分を終えたので気持ちも楽になってきたし、勝手のほうもわかってきた。たぶん大丈夫だろう。

 

 午後のお仕事は……交通安全ポスターコンクールの表彰式と、記者会見。例によって筋書きはほぼほぼ用意してくれているので問題ないだろうけど、油断は禁物だ。

 

 

「そいえば交通安全のポスターって、アレ小学生対象で公募したらしいっすよ。背丈も同じくらいでしょうし、良かったっすね」

 

「なんでその情報今おれに伝えた? 良かったって何? どんな意図がある? 言ってみ? おん?」

 

「ちょ、わかめちゃん!? 口調! おくちわるくてよ!?」

 

「いやさすがに盗聴とか無いだろ。警察署の応接室ぞ。なごやがわ署長が重要なお話とかする場ぞ?」

 

「音漏れのほうも【静寂(シュウィーゲ)】張ってあるからね。たとえノワが泣き叫んでも外には聞こえないよ」

 

「泣き叫びはしないけど……ありがとラニ」

 

 

 まぁ、モリアキの言わんとしていることもわからんでもない。なにせこの身体『木乃若芽(きのわかめ)』ちゃん、人間換算したところの肉体年齢はまさに十歳(という設定)であるからして、身長や体重もおおむねそのあたりの数値なのだ。

 つまりは第三者的な視点で例の表彰式を見ると……ちょうど同年代に見えてしまうわけだな、これが。

 

 だからといって、どうすることもできないだろう。せいぜいが『お立ち台』を用意してもらうくらいしか無いだろうし、そのことで今さら不平不満を言ったところで何も変わらない。

 

 

「いやまあ、身長は別にどうでも良くてですね……」

 

「んん? じゃあ何ウォォオ!? ……あっ、たまごやきね。びっくりした、いきなりお弁当ダイブしないでよラニちゃんおしり丸見えじゃん」

 

「んへへへー」

 

「……まあ、それこそオレらにはどうしようも無いんすけど…………性癖、歪めちまいそうだな、って」

 

「………………あぁー……」

 

 

 ……そっか。もし受賞者に男子児童がいて、おれが愛嬌たっぷりに表彰してあげちゃった場合……向こうからはふつうに、同年代の女の子として見えてしまうのか。

 いやまぁ、惚れた張ったの恋愛対象まではいかずとも、小学生のうちから『エルフ属性』に目覚めさせてしまったら、それはそれでなんというか申し訳ない気がする。早々に性癖をこじらせてしまった者の末路は、遺憾ながら大変よく知っているつもりだ。

 

 ナルシストのつもりは無い……と言いたいところだが、残念なことにおれこと『わかめちゃん』は非常にかわいい。健全な少年少女の将来に悪い影響を与えてしまわないか、そこんところが不安じゃないと言えば嘘になる。

 

 

「…………でもそれこそおれたちにはどうしようもねーって。今から『表彰式やっぱ嫌ですー』とかいえねーもん。しかも理由が『受賞者の性癖を歪めてしまうかもしれないから』とか絶対(ぜって)ぇー言いたくねーし。ナルシスト半端無いじゃんやだよおれ」

 

「まぁ実際もうキャンセルは無理でしょうし……なるようになるしかないでしょうね。()()()()()言動取れっつーのも違うでしょうし」

 

「だよなぁー……前途有望な少年少女にぁ悪いが、おれの可愛さに耐えてもらうしかねーな!!」

 

「手加減してあげて下さいね……」

 

 

 

 まぁ、ふつうに考えれば『惚れられちゃうかもしれない!』なんて……痛々しいにも程がある思考だろう。

 おれはモチロン冗談半分(まぁ本気も半分)だったし、言い出したモリアキにしてもおれの緊張をほぐそうと、からかうために言い始めたことだろう。

 

 

 

 

 しかし、まぁ……それがよりにもよって、あんなことになろうとは。

 

 

 いやぁー…………フラグって、こわいね。

 

 






※わかめちゃんは健全です




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394【一日署長】行動分岐点

 

 

「――――あなたは、愛智県警察署主催『交通安全啓発ポスターコンクール』において、大変素晴らしい作品を創作なされました。その功績と栄誉を称え、ここに表彰致します。……おめでとうございます。すてきな作品を、ありがとうございます」

 

「あり、っ……がとう、ございますっ!」

 

 

 

 おれは介添人(おまわりさん)から手渡された賞状を読み上げ、目の前でガチガチに緊張している男の子へと手渡し、お礼を告げる。

 期待通り『お立ち台』を用意してくれていたおかげで、賞状を手渡す相手のほうが背が高いという悲しい事態は回避することができたわけだが……残念なことに『もうひとつの予想』のほうもあながち見当違いとは言えず、そしてこっちのほうは回避することができなかった。

 

 

(罪な女だねぇ、ノワ。たろう君の『感情』、何色だって?)

 

(うぅーー…………その、混じりっけなしの……『好意』)

 

(ひゅーーーー!!)

 

(ちくしょうおぼえとけよ!!!!)

 

 

 

 賞状を渡して、お辞儀にお辞儀を返して、くるりと後ろを向いて定位置に戻るたろう君の真っ赤な耳たぶを見送りながら……おれは次の賞状を受け取り、二人目の受賞者へと授与を行う。

 

 今回のコンクールだが……大賞を受賞したたろう君を筆頭に、全部で六名の受賞者がいるとのこと。

 つまりは賞状も六枚用意されており、その後も表彰式は続いていったわけだが……しめて男の子が二人と女の子が四人、その全員の耳たぶを真っ赤に染めることに成功してしまったわけだよ、おれは。

 

 

(いや、これは……おれ悪女かもしれん……)

 

(ノワ……恐ろしい子……)

 

 

 いとも容易く六名の男女全員をノックアウトしてしまったおれは、自分の見通しの甘さに少なからず自責の念に囚われながら、それでも無事に総評という大役を片付けることができた。

 

 コンクールの審査員長を務めたおまわりさんが取材陣に色々とお話を聞かれている様子を、おれはその傍らでにこにこ笑顔で眺めている。

 あとはおれ以外のおまわりさん――コンクールの実行委員会の皆さん――に任せていればいいわけで、実際カメラのほとんどはあちらを向いているはずなのだが……未だにおれの一挙手一投足を注視してるカメラもあるんだよなぁ。

 ちゃんと『いい子』アピールしとかないとな。油断して脚開いたりしないよう気を付けないと。

 

 

 今はまだ数台だからいいけど……この後には『記者会見』とかいう、ぶっちゃけ少々気が重いイベントが待ち受けているのだ。

 

 

 

「――――では以上で、愛智県警察署主催『交通安全啓発ポスターコンクール』優秀作品表彰式を終了致します。……報道の皆様へご連絡です。この後十四時半より、本日一日警察署長をお務め頂いた『木乃若芽』さんを交え、会見を執り行う予定です」

 

 

 一斉に注目がこちらに向くのを感じるが、せいいっぱいの愛想(良い)笑いを顔に張り付けて軽く会釈する。途端に切られるシャッターの数々(※フラッシュの明滅にご注意ください)。

 ……いやあの、ちょっと、皆様少々お待ちあそばせ。まだ記者会見には早くてよ。何してやがりますの。

 

 

「それでは時間までの間、木乃若芽さんは一旦退室となります。有り難うございました」

 

「はいっ。ありがとうございました」

 

 

 そんなおれの戸惑いを察してくれたのだろうか。広報担当のトヨカワさんに救われる形で、おれは席を立って一旦退室させていただく。

 去りぎわにも皆様に会釈をして愛想を振り撒いておいたのだが、これがまたシャッターを加速させる結果となった(※フラッシュの明滅にご注意ください)。

 

 

 

 と、いうわけで。

 

 本日の、そして『一日署長』としての最後のスケジュールである『記者会見』。現在時刻は午後二時少し前なので、あと三十分くらいしたらさっきの大会議室に戻り、そこで記者会見が行われることになる。

 質問は基本的に定番なもので纏められているはずで、おれのプライベートな質問は(あんまり)無いはずなのだが……先日『にじキャラ』さんとこで大ハシャぎしたもんな。正直いって、それ系の質問が来るような気はしている。

 

 一方で、進行や記者の指名なんかも任せっきりでいいらしいので……なんていうか(ラク)っていうよりも、むしろ逆にそわそわしちゃいそうだ。

 なんてったって……普段は自分達だけで、司会進行とか段取りとか進めてるもんな。至れり尽くせりは()()()()てないんだよなぁ。職業病ってやつかな。

 

 

 ともあれ、あと三十分後。本日最後の山場を前にした休憩時間、今は少しでもリラックスしたいところだ。

 ……よって。

 

 

 

 

『――――ふたりぶんの 影法師

 

 ――――君と 手を繋いだ』

 

 

「ノワ本当クロちゃんの歌好きだね」

 

「だいしゅき」

 

「案の定切り抜き出てたっすか……まぁそりゃ出るっすよね。良かったっすね」

 

「いっぱいしゅき」

 

 

 先日行われた『おうたコラボ』は、参加者それぞれのおうた部分をはじめ数多くの『切り抜き動画』が投稿されていた。

 

 これらは主として、配信時間が長時間になりがちな仮想配信者(アンリアルキャスター)の『ここすこ』ポイントをピックアップし、見所を短く纏めて取っ付きやすくしたものだ。

 推しを効率的に摂取、あるいは他者への布教に用いるため、視聴者さん側が自主的に編集してくれたものになる。

 

 大多数のケースでは権利元、つまり『にじキャラ』さんには無許可になるので……厳密にいうとグレー、もしくは黒なのかもしれない。

 しかしその一方で、これら『切り抜き』で投稿主が直接的に金銭を得ているわけでは無いこと、また演者の宣伝という観点では確かにプラスに働くこと、あるいは単純に数が多く対処には手間が掛かること……等といった理由から、半ば黙認されているのが現状である。

 

 まぁ……放置しておけば、勝手に見所を纏めた動画を作ってくれて、しかも宣伝してくれるというのだ。

 よほど悪意があるものでもない限り、配信者(キャスター)がわにとっても悪い話ではないのだろう。

 

 

「ノワノワ、スピーカーにして。ボクも聞きたい」

 

「ぅえ!? うるさくないかなぁ」

 

「大丈夫だよ。【静寂(シュウィーゲ)】張ってるし」

 

「うーん……それもそっか」

 

 

 というわけでおれたちは、玄間(くろま)くろさんのおうたの力をお借りして心を落ち着かせつつ、また気力を高めていく。

 やはりおうたは偉大だ、おうたの力で宇宙を平和に。おまえたちがおれの翼だ。

 

 

 

 

 ……なーんて調子にのりながら、おれたちはタイムキーパーさんからのREIN(メッセージ)を受けとるまで『おうた』を満喫していたのだが。

 

 このときの『のんびり』のせいで、初動の対処が遅れてしまったのは……残念ながら、疑いようがないだろう。

 

 

 

 

 『あのときああしていれば』『こうしておけば』なんて言い出したらキリがないのは解っているけど。

 周到に存在を隠された()()に気付けなかったことを、咎めることなど出来やしないと解っているけど。

 

 あのとき……少しでも控え室から出て、少しでも周囲の様子を窺っておけば、()()()()()()また違う結末だったんじゃないかと……そう思わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 今のおれには……ただ祈ることしかできない。

 

 



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395 助けになるって決めたから



 つい先程まで、ポスターコンクールの表彰式が執り行われていた大会議室。
 レイアウトはほぼそのままに演台が設けられ、おれを取り囲んでの記者会見が行われる……そのはずだった。



『発砲は許可出来ない! 通常装備にて対処せよ! 繰り返す! 発砲は許可出来ない!!』

『報道の皆様は会議室から出ないように! 安全の保証は出来かねます!』

『非常階段の安全確保を優先しろ! 一般人を安全な場所へ!』



 固く閉ざされた扉の向こうからは、おまわりさんたちの切羽詰まった声が聞こえてくる。
 恐らくは、ほとんどの人にとって初めてであろうに……赤黒い植物繊維の集合体『葉』を相手取り、署内での不馴れな制圧戦に駆り出されているのだ。


 ……おれの手に掛かれば、ほんの数瞬で片付けられるだろうに……ここまで多くの報道の目がある環境では、さすがにおいそれと本性を露にすることは出来ない。
 一日署長(アイドル)と化し、要守護対象とされてしまった今のおれには……彼らの活躍を祈ることしか出来ない。







 

 

 

 

『落ち着いてね、ミルちゃん。今のところ敵は『葉』だけ、動きはノンビリだ。近付かなきゃただの的だよ』

 

「はいっ。……やってみます」

 

『『苗』の保持者は……多分だけど、一人じゃない。何せこの数だ、ステラちゃんみたいな『幹部格』が出て来てる可能性もある』

 

「覚悟の上です」

 

『心強いね。……ナツメちゃんも、大丈夫?』

 

『――――問題にゃい。家主殿を()()取り込めば良いのだろう? 心得ておるよ』

 

『そう。ノワを現実世界に残したまま、ノワにはカメラの前で何もさせないまま、ボクらだけで『苗』の対処を行う。アリバイ工作、ってやつだね。……宜しく頼むよ? 『正義の魔法使い』ちゃん』

 

「……っ、はいっ!」

 

 

 

 白い全身鎧に潜り込んだラニさんと手早く作戦会議を済ませ、これまたラニさんから借り受けたローブのフードをしっかりと被る。

 この『隠者の外套(ハーミットクローク)』があればぼくの姿の輪郭は誤魔化され、つまりは正体の露見を防ぎ……万が一ぼくの姿を見られたとしても、ニュースで見た『正義の魔法使い(わかめさん)』のように装うことが出来るのだという。

 

 

 黒のような赤茶のような毛並みを持つ猫ちゃんが、何事かぶつぶつと呪文のようなものを呟き……すると途端に空気の質が変わる。

 心なしか薄暗くなった警察署の周りには、ゾンビのような『葉』がそこかしこに蠢き、報道スタッフや警察の方々は姿を消している。建家の外からでは窺い知れないが、同様に若芽さんも()()()()()()()()()筈だ。

 

 今この世界には、ぼくたちのように『魔力』を備えたものと……ぼくたち同様に『魔力』を()()()()()()た『敵』しか存在しない。

 これならば……非常にやり易い。

 

 

 

「【()の喚び声に応えよ。愛しき我が民、我が(しもべ)、我が力。猛々しき汝が姿を、此処へ】

 

 【近衛兵召喚(サモン・ガード)大顎鮫(ピストリクス)】!!」

 

 

 

 いつもは『ゆるキャラ』程度のサイズとデフォルメ具合の【近衛兵】を、猛々しい本来の姿へと復元する。

 顎の一咬みで奴らを倒せるのは、前回の出撃で確認済み。加えて今回はぼく自身も、天狗のお姉さん達との特訓で多少は動けるようになっている。

 

 失敗は許されない場面とはいえ、正直そこまで不安は感じていない。

 なによりも、百戦錬磨の異世界の勇者――あの若芽さんが全幅の信頼を寄せる騎士――が力を貸してくれるのだ。

 

 

『ミルちゃんはボクと敵の掃討。ナツメちゃんは『保持者』を……ボクら以外のヒトを探して』

 

「わかりました」『心得た』

 

 

 白い騎士が剣を手に敵陣へと突っ込んでいく、その非常に絵になる構図に見惚れそうになるが……ぼくも自分のなすべきことを全うする。

 

 手指の動きでもって海水を運び、放ち……奴ら『葉』にとっては致死の猛毒である弾丸を『これでもか』と叩き込み。

 それとは平行して、全身に(みち)となる海水を纏った巨大な(サメ)……ぼくの心強い【近衛兵】が、手当たり次第に『葉』を蹴散らしていく。

 

 ぼくたちが大暴れして『葉』を削っていけば、あの『葉』を産み出した張本人は焦りを滲ませることだろう。

 より正確な情報を得ようと、自軍が蹴散らされる現状を確認しようと、あるいは援軍を産み出そうと……最終的には、動かざるを得ないだろう。

 

 

 ……そうすれば。動きを見せれば。

 

 

『坊、見付けたぞ。巨大な(ハコ)型の四輪車だ』

 

「巨大なハコ形……バスですか!」

 

『む…………有無(うむ)(カサ)は小さいが、形はカンコーバスとやらに似て()るな』

 

「了解です! ノア! おいで!」

 

 

 ぼく以上の大立ち回りを繰り広げていた【近衛兵(ノアくん)】を呼び寄せ、その背に飛び乗って背鰭(せびれ)に捕まる。

 水飛沫を上げながら宙を泳ぐ巨大なサメは、ほんの数秒で警察署の来客駐車場へと辿り着き……そこに停まっている一台のマイクロバスを、直接この目で確認する。

 

 

『あれだ、坊。気を付けよ』

 

「わかりました!」

 

 

 身動きの取りづらいマイクロバス車内……その中に潜む『保持者』を制圧し、うなじに根を張る『苗』を引っこ抜く。

 極至近距離での戦いはまだ不馴れだが、ぼくには幸いなことに【海水】の護りがついている。盾状に水膜を張れば敵の勢いを削ぎ、無力化することが出来るはずだ。

 

 普段だったら、丁寧にドアを開けて『おじゃまします』とでも言うべきだろうが……残念ながらこの薄暗い世界には『ぼくたち』と『敵』しか居ない。急がなければならないし、遠慮する必要はないだろう。

 

 

 

「よいしょっと! お邪魔し…………うわぁぁあ!?」

 

『…………なんと……よもや』

 

 

 

 マイクロバスの中、客席に着いて居たのは……まだ幼げな小学生。

 若芽さんと同じくらいの背丈でしかない、元気いっぱい遊び盛りであるはずのその子らは……しかしどこか虚ろな目で、生気の感じられない視線をぼくに向けていた。

 

 

「……わかめさん、じゃ……ない」

 

「……ちがう……なんで」

 

「……ちがうひと」

 

「……なんで……わかめさんじゃない」

 

「……うそつき」

 

「……あえるって……いったのに」

 

 

 

「…………何を、言って」

 

『坊! 来るぞ!』

 

「ひ、っ!!?」

 

 

「「「「「「 う そ つ き 」」」」」」

 

 

 

 恐らくは……『若芽さんに会いたい』『若芽さんと仲良くなりたい』といった類いの願いを焚き付けられ、狂わされ、植え付けられたのだろうか。

 何て言うのか、商品名は解らないけど……表彰状を納める筒のようなものを『ぎゅっ』と握り締め、空虚な中に憎悪を込めた視線でぼくを見据え、じりじりと距離を詰めてくる()()の男女児童。

 

 

 その威圧感、異常な雰囲気をぶつけられ、そのときぼくは思わず立ち竦み……

 

 足を進めることが、できなかった。

 

 

 



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396【騒動鎮火】完 全 敗 北 D




 『苗』に寄生された人を解放する手段は、現実的な手段に限れば一つしかない。
 どうにか無力化して、動きを止めて、背後に回って……うなじから伸びる『苗』を直接『ブチッ』と引っこ抜く。それだけだ。
 一応、非現実な手段としては……『保持者』ごと消し去れば『苗』も一緒に消えるらしいのだが、まぁ当然手段としては使えない。

 ともあれ、こうして対処方法自体ははっきりしている。
 しかしながら、対処すべき『保持者』が二人以上同時どころか……六人も同時に現れては。
 しかもその『保持者』が、こちらの戦意を殺ぐような……まだ幼い子どもとあっては。


「……ッ、どうすればいいですか!?」

『なんとか分断して、各個処理……しかないよなぁ』

『――――各個処理……成る程ニャあ』


 外に散らばる『葉』をあらかた片付け終えたラニさんと合流し、六人の『保持者』と相対する。潜伏元であったマイクロバスからぞろぞろと姿を表し、淀んだ瞳でぼくたちを凝視してくる。
 さすがに……思考が統括されているわけじゃないだろう。おまけにラニさんからの情報によれば、『保持者』となった者は思考能力や判断力を奪われ、それらが低下する傾向にあるという。
 六人が六人それぞれの思考のもと動くはずであり、ぼくとラニさんで揺さぶりをかければ、少しずつでも分断が狙えるのではなかろうか。


「にッ。……引っ掻き回すのみで()ければ、我輩も加わろう。(コレ)でも囘珠(マワタマ)与力(ヨリキ)の端くれ、(あやかし)如きに遅れは取らぬよ」

『さっすが。……二人相手なら、なんとか抜けそう? ミルちゃん』

「……はい。やってみます」

『大丈夫? ()ける?』

「……?? は、はい。……抜いてみせます」

『グッヘヘヘヘ』

「……何なのだ、その気味悪い声は……」



 作戦はいつもと変わらない。無力化して、動きを止めて、背後に回って……抜く。ただ相手取る人数が二倍になって……それが最悪×(かける)三されるだけだ。
 身に付けた異能で抵抗される可能性も大いにあるが、それも踏まえて慎重に行動するしかないだろう。

 若芽さん一人に頼らずとも……ぼくたちでやり遂げてみせる。
 集中力を高め、気合いを入れ、ぼくは立ち塞がる敵――『若芽さん』を求める小学生六名――へと向き直った。







 

 

 

 

「…………どういう、こと……ですか?」

 

「……そのままの……意味。【魔王】からの…………この世界への、宣戦布告」

 

 

 

 おれは確かに、ついさっきまでは『記者会見とか嫌だなぁ』なんて思っていた。

 正直いって面倒だなぁ、やりたくないなぁ、記者こわいなぁって思っていたし……やらずに済むなら嬉しいなぁなんていうふうにも、確かに考えたりもしていたのだ。

 

 しかしながらこんな形で。恐らく最悪に近い形で御破算にされてしまっては。

 だったら、おれが大人しく記者会見を受けていたほうが……どう考えてもマシだった。

 

 

 

「……特別。もう一度。……この世界、我らが【魔王】……狙っている。……少しずつ、少しずつ、『侵食』は進む」

 

「っ、わけのわからないことを! ファンタジーじゃないんですよ!」

 

「…………ただの人間に、対処は不可能。怯えて待つしか……無い。あきらめて」

 

「はいそうですかって、諦めると思いますか? 魔王だかなんだか知りませんが、この世界を渡しはしません」

 

「…………ただの人間の意見は、聞いてない。……我らが【魔王】の、決定事項に過ぎない」

 

 

 

 眠たそうで、やる気がなさそうで、無気力そうで……どこか浮世離れした雰囲気の、とびきりの美少女。

 ふんわりカールのツーテールを靡かせ、闇色のワンピースに身を包んだ【睡眠欲(ソルムヌフィス)】の使徒は……いかにも気だるそうな半目に侮蔑の感情さえ浮かべて、()()()()()である報道関係者を一瞥する。

 

 議論も、抵抗も、何もかもが不要であると。

 ただの人間の世界は抵抗さえ出来ずに、少しずつ少しずつ【魔王】によって喰い荒らされていくのだと。

 淡々と一方的に絶望的な未来を告げる【魔王】の使徒は、今や記者会見を完全に乗っ取り、記者を通じて日本全国へ……いや全世界へと、勝手極まりない『勝利宣言』を発する。

 

 

 

「……まあ、本当なら……()()も、襲わせたかったけど。宣言のあと、見せしめ……そのつもり、だったけど。…………命拾い、したね」

 

「…………『正義の魔法使い』さんが、助けてくれたってことですか?」

 

「……そういえば……そんなの、居たっけ。……忘れてた。…………取るに足らない、から」

 

「っ、……その『取るに足らない』魔法使いさんに、計画歪められたんでしょうが!」

 

 

 

 突如現れた美少女の口から、突如告げられた非常識な内容。

 予想外すぎる事態に硬直する記者を置き去りに、多少は非現実的な事態に耐性のある者たちが、じりじりと動き始める。

 

 率先して口を開き、注意を引こうと試みるおれの反対側で……春日井さん他数名のおまわりさんが【睡眠欲(ソルムヌフィス)】の使徒を捕縛せんと、その包囲を縮めていく。

 

 

 ……出来ることなら、おれが直接魔法を使ってふん縛ってやりたいところだが……日本全国どころか全世界に公開されてしまう恐れがあるこの場では、おれも目立つ行動を取ることが出来ない。

 そのことを……(シズ)ちゃんとて理解しているのだろう。

 だからこそ『おれに妨害・捕縛されずに』『メディアを通じ全世界へと伝える』ために、わざわざこの場に押し掛けたのだろう。

 

 本来なら、目に見える脅威であり明らかな異形である『葉』をお披露目したかったのだろうが……そちらは(なつめ)ちゃんの【隔世(カクリヨ)】によって異界へと引き込まれ、『正義の魔法使い』さんたちの手によって今頃対処されているはずだ。

 

 ……ちょっと遅いのが気がかりだけど、ラニが付いてくれているんだ。心配は要らないはずだ。

 まぁ……その代わりに守りが薄くなったおれが、こうして奇襲を受けているわけだけど。

 

 

 ともかく、ここで(シズ)ちゃんを捕縛できれば、得体の知れない【魔王】の情報がある程度は引き出せるのではないか。

 幸いにもここは警察署、そうやって()()()()してもらうためのお部屋は整っているだろうし……彼女みたいな幼い子に酷いと思われるかもしれないが、そんな暢気なことを言っていられるような相手じゃない。

 

 やる気満々らしい【魔王】の侵食を、少しでも食い止めるため……ついに完成した包囲網が、春日井さんの号令以下一気に狭められる。

 

 

 出口を塞ぎ、退路を塞ぎ、逃げ道を塞ぎ、主に女性で編成された捕縛要員が(シズ)ちゃんに手を伸ばし……

 

 

 

 

「な…………ッ、」

 

 

 漏れ出た声は、いったい誰のものだったのだろう。

 捕縛の指揮を執っていた春日井さんか、行く末を見守るしかなかった報道関係者の誰かか、あるいは他でもないおれ自身か……もしくは、()()を見ていた全員か。

 

 その白く華奢で小柄な身体に触れる直前で力を失い、三人のおまわりさんが掴み掛かろうとした勢いそのまま、会議室の床へと倒れ伏す。

 三方向から飛んできた法の番人を、くるりと身を翻すだけで軽々と避け……そのまま何事もなかったかのように悠然と――しかし明らかに眠たそうな表情で――彼女は佇んでいる。

 

 

 ……幸いというべきか、生命反応には何も問題が見られない。

 恐らくは【睡眠欲(ソルムヌフィス)】を冠する使徒、その権能によるもの。至近距離に近付いた者を一瞬で昏睡させる、捕縛を試みようとする者にとっては『ふざけんな』と言でもいたくなるであろう、極めて理不尽なその能力。

 

 

 

「……気安く……触れないで。…………おこるよ」

 

「………………ゆるして」

 

「ん…………まぁ、いいよ」

 

「えっ、いいの?」

 

「ボクは……やさしい、から。……昏睡、三日間で……ゆるす」

 

「ひぇ……」

 

 

 

 ぇえ…………まぁ……そのまま永眠させられないだけ寛大というべきか。……いや、実際出来ちゃうんだろうな……匙加減一つで永眠させることが。

 

 

 眠そうでぽやぽやした美少女、宇多方(うたかた)(しず)ちゃん。【睡眠欲(ソルムヌフィス)】と聞くだけではあまり脅威ではなさそうにも思えたが……とんでもない。

 他者を気の向くままに微睡(まどろ)みに墜とし、あるいは肉体の活動そのものを眠らせ、いとも容易く葬ることさえ出来てしまうのだ。

 

 この力の前では……なるほど【愛欲(リヴィディネム)】の(すてら)ちゃんも、【食欲(アペティタス)】のつくしちゃんでさえも、ろくに抵抗出来ないだろう。

 

 

 

「…………にらまないの」

 

「んぎ……」

 

「ボクは…………今日は、伝えるだけ。……これ以上()、なにもする気……ない、から」

 

「……これ以上、()……ね」

 

「……ん。だから…………

 

 

 せいぜい、祈るといい。……『正義の魔法使い』が……無事に、敵を倒し……戻ることを」

 

 

 

 

 歩を進める彼女の前、数瞬前の惨劇を思い出した()()()()()たちが、進んで道を開くように引いていく。

 

 この世界に対し、盛大に喧嘩を吹っ掛けた【魔王】が擁する最強の使徒は……誰にも咎められず、余裕そのものの立ち振舞いで、会議室の扉から堂々と立ち去っていった。

 

 

 我に返ったおれが、慌てて後を追い廊下へ飛び出るも……

 

 そこには腰を抜かしてへたり込んだおまわりさんと、水面のように黒く波打つ床――あの子が転移系の能力を行使した痕跡――の残滓だけが、微かに残るのみだった。

 

 

 



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397【騒動鎮火】ターニングポイント


いつもお目通し頂き、ありがとうございます。

大変失礼なこと、また大変勝手なことと存じてはおりますが、只今感想への返信を一時中断させて頂いております。

頂戴致しました感想は、きちんと拝見させて頂いております。
大変励みになっております。本当にありがとうございます。

更新の方は定期的に欠かさず行っていきますので、
どうかもう暫し、お付き合いいただければ幸いです。




 

 

 さすがに、あんな世界を揺るがす大事件が起きた直後とあっては……おれみたいな破天荒な小娘に時間を掛けようだなんて報道関係者は、そうそう多くなかったようだ。

 

 お集まりの皆さんも、つい先程まで目の前で繰り広げられていた光景――署内になだれ込んできた赤黒いゾンビのような植物塊や、窓の外に散在していた不格好な人形や、それらが忽然と姿を消す様子や、近付くだけで意識を失う謎の美少女の宣戦布告――を目にしてしまっては、正直『心ここにあらず』といった様相なのだろう。

 非常にあたりさわりのない、むしろ『早く帰りたい』といった本音が見え隠れしそうな空気の中で、非常に無難に『一日署長』記者会見は幕を閉じた。

 

 

 

 おれが控え室に引き下がり、そう短くない時間の後。……ついに『正義の魔法使い』ご一行様が、極秘任務から帰還した。

 正直心配していたので、全員の無事にほっと胸を撫で下ろしたのだが……今回の『保持者』の詳細を聞かされ、おれの顔が一気に引きつるのがよくわかった。

 

 おれこと『木乃若芽(きのわかめ)』ちゃんを欲する、六人の小学生……身に覚えがありすぎる。

 それに加えて、明らかに何か企てていた様子の【睡眠欲】の使徒。……恐らくは、彼女が直接()()()()()いったのだろう。でなければ生きる活力に満ちた小学生が、『種』の発芽に至るほどの絶望を抱えるはずがない。

 時系列的にも納得できそうだし、年齢が近しい美少女ならば接近することも容易いに違いない。

 

 

 つまり、あの子……【睡眠欲(ソルムヌフィス)】の使徒、宇多方(うたかた)(しず)ちゃんは。

 ポスターコンクールの受賞者六人組に『苗』を植え付けて支配下に置き、『葉』を大量に生成させて警察署を包囲・侵攻させ、盛大に場を混乱させたところで会見場へ姿を現し、顕現した非日常を突きつけて宣戦布告を行った……ということか。

 

 ……あんなに『働きたくない』オーラを出しておきながら……めちゃくちゃ働くじゃん、お姉ちゃん。

 

 

 

「『保持者』の子らは、全員命に別状は……いや、目立った外傷も特に無い。鎮静魔法も掛けておいたし、じき目覚めるだろう」

 

「ありがと。ミルさんも、ありがとうございます。まさか六人同時とは……」

 

「それもですが……やっぱ小さな子が相手だと、やり難いですね。どうしても躊躇ってしまう」

 

「あぁ…………ごめんなさい、大変な役押し付けちゃって」

 

「いえいえ。……力になるって決めましたから」

 

 

 

 あの混迷に満ちた記者会見の場を、おれたちは『正義の魔法使いによって化物が駆除された』(てい)で乗り切った。事実として騒動は人知れず解決に至ったので、そこそこの説得力はあるだろう。

 加えて、その間おれはずっと会議室にカンヅメだった。途中からは(シズ)ちゃんとバチバチやりあっていたけど、つまりはおれが化物ども……まぁ『葉』の駆逐に向かうことなど、できたはずがない。

 

 あの場に居合わせた報道関係者、ならびにおまわりさんたち(まぁこちらは半ば共犯者である)が、『おれ=正義の魔法使い()()()()』ということを証明する証人となるのだ。

 ミルさんが力になると言ってくれて、おれと一緒に戦うための鍛練を積んでくれて、おれの代わりを務めてくれて……そのおかげで、おれはアリバイを作ることができた。

 メディアの注目も(多少は)逸れるだろうし……今後も動きやすくなることだろう。

 

 おれたちに多大な恩恵をもたらした、純白の天使のような美少女(※ただしおまたに物騒なものがついている)は……こともなげに『気にするな』と言ってのけて、また今後も変わらぬ協力を申し出てくれた。

 こんなに心強いことはない。

 

 

 

「……のう、家主殿、家主殿。我輩も敵を二体引き付けたぞ。あと【隔世(カクリヨ)】もちゃんと、言われた通り家主殿を(はじ)き奏上したのだぞ」

 

「ンッフフフ。……そうだね。頑張ってたよ、ナツメちゃん」

 

「いやもう働きももちろんなんだけど言動がめっちゃ可愛いんですが! 袖クイクイしてきましたよこの子!!」

 

「いやぁー……本当この(のわめでぃあ)強いですよねぇ……」

 

 

 

 このまま存分に労ってあげたいのは山々なのだが……指向性を持たせた遮音結界が、入り口扉がノックされたことを伝える。

 慌ててラニに【門】を開いてもらい、ミルさんと(なつめ)ちゃんをおれたちの拠点へ緊急避難させる。ミルさんに『(なつめ)ちゃんと遊んであげててください』とお願いしたところメチャクチャいい笑顔で承諾してくれたので、あちらはしばらく任せても良さそうだ。

 

 あとは……こっち。

 先刻の【魔王】使徒による宣言を受けての、わが国の今後の方針を決める非常に大事な会議……その結果を聞かせてもらう。

 

 

 

 

 

「結論からになるが……我々とて『はいそうですか』と侵攻を受け入れるつもりは無い」

 

「とはいっても……実際のところ、何も出来なかったんだろう?」

 

「……痛いところを突かれますが、我々とて無策という訳ではありません」

 

「…………と、いいますと?」

 

 

 署長室の隣の応接室に集まった、おれとモリアキとラニと、あと名護谷河(なごやがわ)署長と春日井さん……御忙しい中わざわざ、おれたちのために時間を確保してくれたらしい。

 

 今回の襲撃事件ならびに宣戦布告を受け、警察組織としてはどういうスタンスを取るつもりなのか。

 ここからは『一日署長』ではなく、『例外的獣害』対策として契約を交わした特定業者である我々へ向けて、治安維持を司る国家権力の構成員は……驚くべき秘策を告げる。

 

 

 

「……実は、若芽様達が行使するような神秘の術……それに類する力を込められた護身具の開発に、成功したという企業がありまして」

 

「ふぁ!?」

 

「え、ちょ、それって……まさか、」

 

「……なんでも……生物化学メーカーが抽出に成功した特殊試料に、以前若芽さんに提供して頂いた『特例的外来生物』のサンプルを溶解する効力が見られたようで」

 

「…………メイルスの眷属の体組織を、破壊……それって」

 

「も、もしかして……もしかして! ラニ!」

 

 

 民間企業によってもたらされたという、あの『葉』の体組織を破壊する力を秘める特殊試料。

 その性質を備えた武器があれば、おれたちのような『魔力持ち』でなくとも――『保持者』の『苗』をブッコ抜くことこそ不可能ながらも――ゾンビのように徘徊する『葉』を駆除することは、充分に期待できる。

 

 そして、それは。

 組織に魔力回路を秘めた生体構造に、強力な侵食力を発揮するという……その試料とは。

 

 おれたちが探し求めていた『この世界由来の魔力素材』である可能性が、非常に高い。

 

 

 

「署長、すみません。わたしたちのために確保する、って言ってくれていた、例の獣害対策予算なのですが……」

 

「…………そちらから申し出て戴けるとは思いませんでしたが……良いのですか? 幾らか削らせて戴く形になるかと思いますが」

 

「ええ。例の化学メーカーさんに回したほうが、色々と有意義に使ってくれそうですし」

 

「……承知しました。それでは……若芽様には此迄(これまで)通りの駆除報酬で、引き続きお願い致します」

 

「………………???」

 

「御心配なく。本来若芽さん方に支払われる筈だった駆除費用の、謂わば『残額』……そこに相当する額を、ヒノモト建設へと回すよう申し伝えましょう」

 

「……つまり、もともとショチョーさんは満額支払うつもりだった。でもノワが値切って、ほんの一部しか受け取らなかった。そのせいで行く宛がなかった駆除費を、研究に使ってくれる……ってこと? いい感じに収まったんじゃない?」

 

「………………おぉーー!!」

 

 

 

 

 ただの人間でも【魔王】の手勢……雑兵である『葉』に抗うことができるかもしれない。

 この世界で魔力素材を手に入れる見込みが得られたのなら、色々な道具が試作できるかもしれない。

 そして……白目剥かなくて済む範囲の金額で、割のいい『副業』報酬が得られる見込み。

 

 それらの『うれしいこと』ばかりに目を向けすぎて……おれたちは重大な事項を見落としていたことに、気付くことが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 件の特殊試料の抽出に成功した生物化学メーカー、『ヒノモト建設』。

 

 生物化学らしからぬ社名を持つそのメーカーの、来歴や役員や会社概要等々。

 ただスマホで会社ホームページやウェブ百科事典を眺めるだけでも、考えを改める情報は手に入っただろうに。

 

 

 

 喜びに浮かれ、盲目的になってしまっていたおれたちは……強いて言えば、ここのときに判断を誤ったのだろう。

 

 



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398【副業事情】真・業務効率化

 

 

 くだんの特殊試料というものを、ちょこっとだけ見せてもらったのだが……それは見るからに魔力を秘めてそうな、薄い蛍光グリーン色の液体だった。

 

 とある植物から抽出したというこの液体を特殊な塗料に混ぜ込み、武器や防具の表面コーティングとして利用することで、例の『葉』に対する特効効果が期待できるという。

 

 

 日本においては、そりゃ弾丸やクロスボウなんかには使えないだろうが……それでも警棒や指叉(さすまた)、あるいはナイフや盾や安全靴なんかは、有効な武器防具に生まれ変わらせることが出来るだろう。

 

 

 

 というわけで、そういう装備をある程度揃えてくれたことが吉と出たようだ。

 というのも……あの『宣戦布告』からこちら、『苗』の『保持者』は然程ではないが、『葉』の出現頻度があからさまに増えていたためだ。

 

 当初こそ(なつめ)ちゃんに【隔世(カクリヨ)】に落としてもらったり、あるいは霧衣ちゃんに【認識阻害】の霧を張って貰ったりして、なんとか人目に付かないようにと頑張ってきたのだが……そもそもスタート時点からして、報道関係者に『葉』の存在は露見しているのだ。

 

 何度も何度も執拗に現れる『葉』の存在を隠し通すことは……さすがに、ちょっと無理だったみたい。

 

 

 

 

 

「ノワ、『第二警報』。トーキョだって」

 

「んー……わかった。おれが行く。(なつめ)ちゃんは?」

 

『此処に居る。いつでも出られるぞ』

 

「ありがとう、たすかる」

 

携行探知機(レーダー)忘れないでね。トーキョは広いんだから」

 

「わ、わかってるよぅ……」

 

 

 

 活発化せず潜んだままの『苗』が、自らの手足とするために放ったり……あるいは(しず)ちゃんはじめ三使徒の手によって、直接ばら蒔かれることで出現する『葉』。

 特効装備の普及と、当該区域の警察官への特殊訓練により……緩慢な動きで徘徊しヒトを含めた生物を襲う()()への対処のみに限れば、(物量にもよるが)警官隊でも充分可能なものとなっていた。

 

 その一方で……これ見よがしに異能を行使し暴れ回り、ただの人間であればその正体さえ視認すること叶わず、つまりは対処することが到底不可能な『苗』。

 その『保持者』が活動を開始した際はおれのところに『第二警報』が届き……おれかラニ、もしくはミルさんが直接対処する形となる。

 

 

 幸いにして、『第二警報』(といってもREIN(メッセージ)なのだが)が鳴らされる頻度は、そこまで高くない。一ヶ月あたり四回か五回、平均して週に一回あるかないか程度だ。

 

 しかしいざ鳴らされれば、それはおれたちにしか対処できない事態だということだ。

 とりあえず万全を期して、おれとミルさんは配信を被せないようにしてある。どちらか一方(とラニ)が即応可能な状態にしておくことで、今のところは問題なく対処できている。

 

 『対応人員を増やす』ということで、ちょっとだけ賃上げして頂いて……出撃一回あたり十五万、月に六十から七十五万。ミルさんと折半しても三十数万の月収だ。

 危険が無いとは言い切れないが……副業の収入としては『それなり』のものだろう。

 ……ははっ、嬉しいね。涙出ちゃう。

 

 

 

『さて、どっち?』

 

「んー……あっち」

 

『オッケー。手早く終わらせよう』

 

 

 首から提げられる程度にまで小型化し、探知対象を『苗』のみに絞った新型の携行探知機(レーダー)。これがなかなか便利なのだ。

 都内某所、高層ビルの屋上ヘリポートに(こっそり)敷設させて貰っているアクセスポイントへ飛び、ラニから手渡された【隠蔽】効果付のフードローブを身に纏い、おれは【浮遊】を駆使して探知機(レーダー)の示す方へと急行する。

 一方のラニも、既に全身鎧を着込んだ戦闘体勢。そんな格好したら目立っちゃうのでは、とも思ったけど、その『目立つ』ことが重要なんだとか。

 

 

 

「……アレみたいね。これまた派手に暴れちゃって」

 

『我輩の目にも視えた。拍子を合わせるゆえ、指示をたのむぞ』

 

「がってん。…………さん、にい、いち……いま!」

 

『【隔世】、在れ』

 

 

 空気が冷えきり、陽は薄暗く陰り、逃げ回りあるいは呆然と立ちすくむ人々が瞬く間に消え失せ……片側二車線の大通りに『保持者』のみが取り残される。

 

 騒動の元凶が()()()()()に引き込まれたことで、()()()()()は少しずつ修正の力が働き、そう遠くないうちに人々の認識と記憶は消え失せるだろう。

 ただし……引き込む瞬間を動画とかで捉えられていたら、それはもうどうしようもない。

 隠蔽や情報統制は専門家にお願いするしかないだろう。

 

 

「【静寂(シュウィーゲ)】【草木(ヴァグナシオ)拘束(ツァルカル)】」

 

『オッケーそのまま……よっこいしょ』

 

「――――!!!? ッ、――――」

 

「大丈夫、大丈夫……【鎮静(ルーフィア)】」

 

 

 全身鎧を駆るラニが『苗』を引っこ抜き、そのまま【蔵】へと仕舞い込んで隔離する。

 一方のおれは、身体が『巻き戻り』始めたことで狂乱に陥った『元・保持者』に【鎮静】の魔法を掛け、その身を襲う不快感を少しでも減らす。

 ……これで、あとは彼女をこっそりと【隔世(カクリヨ)】から現世へと戻せば、おれたちに与えられたお仕事は一段落……というわけだ。

 

 

 

 

 例の『宣戦布告』からこちら、おれたちは警察署の全面バックアップが受けられることになった。

 

 先に述べたように……『葉』単独であれば、おれたちが出ずとも対処できるようになっている。

 今まではおれたちがあちこちの『羅針盤』を眺めて身内でチマチマ推測していた出現位置特定も、複数の警察署内に増設された羅針盤を読み取り、おまわりさんたちが済ませてくれる。

 

 おれたちに与えられたお仕事とは……おまわりさんたちでは手に負えない『保持者』が現れ、『第二警報』が発令された際に、指示されたポイントへ急行して対処を行う……というもの。

 場所の特定までお任せできるし、REIN(メッセージ)に地図も添付してくれてるので……とても助かっている。

 

 それは……良いのだが。

 

 

 

「……やっぱ、増えてきてる?」

 

『そうかもね。……シンセーカツも始まって、楽しいことは増えてるハズなのに』

 

「一方で、生活環境変わると不安になる人も多い……ってことかなぁ」

 

『――――歯痒いな。くろま殿たちも頑張ってくれて居るというに』

 

 

 不安というか、違和感は尽きないが……とりあえずはこちらの仕上げに移ろう。

 

 今回の『保持者』だったお姉さん(見た感じ新人OLって感じだった)に異状がないことを確認し、【認識操作】系の魔法を使いながら【隔世(カクリヨ)】を解除。

 最寄りの派出所をスマホで調べ、姿を隠したままお姉さんを運んでいく(ラニが)。

 

 派出所の引き戸を開けて中に入り、【認識操作】を解除して今度はおまわりさん以外に【人払い】を展開。当直のおまわりさんはいきなり姿を現した(ように見える)おれたちに驚いた表情を見せるものの……幸いなことに、すぐに()()()くれたらしい。

 

 

『お勤め、ご苦労様。……話は聞いてる?』

 

「はい、存じております。……自分が対応することになるとは思いませんでしたが」

 

『ごめんね。迷惑は(あんまり)掛けない(と思う)から。後よろしくね』

 

「は。ご協力、ありがとうございます」

 

 

 お姉さんが目を覚ました後は一時的な記憶の欠落と、それに伴う混乱が予測されるので……おまわりさんに保護してもらったほうが、色々と安心なのだ。

 お姉さんに限らずだが……眠ったまま路上に放置しておくと、たぶん色々と大変なことになるだろう。スリとか。置き引きとか。

 

 ……というわけで、これで今度こそ一件落着。

 首から提げた携行探知機(レーダー)にも反応は無いし、『例外的獣害対策室』からの新たな指示も無い。おれたちの完了報告に対する反応は『お疲れさまでした☆』の一文と、可愛らしいエルフの女の子の絵文字(スタンプ)があるばかりだ。

 

 

 それじゃあ、ぱっぱと帰ろうか。

 なんてったって今晩は……ミルさんの『おうた配信』が控えているのだから。

 

 

 



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399【内部事情】母にして姉





突然ですがじゅうだいなおしらせです。



増えました(とつぜん)。







 

 

 おれたちが『副業』で駆り出されるという点に関して、最も危機感を感じていること。……それは『生配信中に出動要請が掛かるとヤバイ』ということだ。

 

 その一点に関しては、今のところ『ミルさんと生配信のタイミングをずらす』という形で対処を行っている。

 仮におれの配信中(あるいは配信直前・直後)に第二警報が発令されたとしても、そのときはミルさん(とラニ)に対処してもらい、逆にミルさんが取り込み中のときはおれ(とラニ)が対処に当たる……といった感じだ。

 

 またこのとき対処現場の秘匿要員として、【隔世(カクリヨ)】の術を行使できる(なつめ)ちゃんか【認識阻害】の霧を操れる霧衣(きりえ)ちゃんを伴うことが多い。

 ぶっちゃけ『葉』や『苗』の存在そのものは、既に一般の方々に露見してしまっているのだが……それでも可能な限りは伏せておいたほうが、不安や恐怖は低減できるだろう。

 それら負の感情は、ともすると新たな『苗』を芽吹かせる養分となりかねないのだ。リスクは避けるに越したことはない。

 

 

 それで、だ。実際のところの出撃頻度なのだが、割合でいえばおれが八割でミルさんが二割ってところだろうか。なお報酬は折半だ。

 団体で動いているおれたち『のわめでぃあ』とは異なり、ミルさんの『イシェルバレー広報課』の演者(タレント)はミルさん独りで頑張っているのだ。どうしてもおれが動けない場合を除き、彼の時間を削りたくはない。

 

 おれ独りのチャンネルではなく……今や小さな『箱』と化した『のわめでぃあ』であれば、(おれ(若芽ちゃん)の出演頻度は落ちたとしても)放送局(チャンネル)そのものの配信頻度を落とすことなく、副業をこなすことが可能なのだ。

 

 

 毎週金曜の定例配信のほかに、ゲーム配信や雑談やおうた、他にも色々なことを得意とする、局長のおれ(若芽ちゃん)

 

 ガチ恋距離にカメラを据えての刺繍や編み物、キッチンに場を移してのお料理配信が意外と人気な、()()新人の霧衣(きりえ)ちゃん。

 

 そして……軽快なトークを交えながらのゲーム配信や、なによりも神がかり的なお絵描き配信をやってのける、()()()()()

 

 

 基本的にはこの三人で、週に二回以上は何かしらの配信を行うように心掛けている。

 

 

 というわけで、前置きが長くなりましたが……本日はですね。

 

 われらが『のわめでぃあ』新メンバーの配信を、ちょっとだけ覗いてみようと思います。

 

 

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

 

 

『りんごタブは賢いっすからね。こーいう毛束の先端のほうも、バッチリ範囲選択してくれるんすよ』

 

 

 お絵描き配信と呼ぶには、正直言ってかなりラフな姿勢――ソファの肘置きを背もたれ代わりに、横向きで膝を曲げて座った格好――で、太もも部分にりんごタブレットを置いて手際よく作業を進めている、期待の新人さん。

 絶賛作業中のりんごタブレット画面を外部出力し、そのリラックスしたお姿をワイプで挿入。カメラはすぐ傍に三脚で設置してあるだけなので、身体の動きによって画角から外れてしまったりもするのだが……まぁ、それもまた一興だろう。

 

 

『『ソフト何使ってるんですか?』っすか。今これはクリスト(クリップストレージ)っすね。家とかで……あぁ、机でPC(パソコン)向かって作業するときは(IRODORI)とかも使うっすけど、こーして気軽に落書きするならタブとクリストっす』

 

 

 鉛筆(ペンシル)型の入力端末を駆使して、ときに繊細に、ときに勢いよく、テキパキと色を置いていく新人さん。

 このチャンネルの配信を見に来てくれてる視聴者さんということは、当然おれたちのことをよく知ってくれているということであり……そんな視聴者さんに喜んでもらえる神作品が、どんどんと完成に近づいていく。

 

 

『『はつめちゃんパンツ見えそう』? ……あー、まぁ……こんな体勢っすからね。スカートって油断するとすーぐ捲り上がっちゃうんすよね。……オレは別に気にしないんすけど、妹が『うちは健全なので!!』って激おこプンプンしちゃうんで……スマセン』

 

 

 どこかで見たような若葉色の髪で彩られた顔で困ったような笑みを浮かべ、どこかで見たような翡翠色の瞳を弓なりに細め……しかしどこかで見た姿とは根本的に異なる、年月を経た大木の樹皮のような褐色の肌。

 凝りをほぐそうとモゾモゾ動くその腰はしっかりと括れ、上半身を動かす度に胸元のボリュームもまた確かな存在感を見せ、タブレットをおなかの上に置いて『ぐーっ』と伸びをして見せるその背丈は……どこかで見たような少女よりも、一回りは高い。

 

 歳の頃は……人間年齢換算では、十四、十五といったところだろうか。(なかのひと)の趣味が『これでもか』と籠められた、発育途上のその身体。

 ()と同様、その細かなディテールまで思い描くことが出来ていながら……最後の一線で()の意見が通ったおれ(わかめちゃん)とは異なり、彼が一から十まで『理想の少女』を表現した、その身体(アバター)

 

 

 顔つきや髪質など身体的特徴は木乃若芽(きのわかめ)ちゃんにそっくりながらも……一回りオトナに近づけた身体つきの、褐色肌のエルフの少女。

 

 

 

『……っとまぁ、こんなもんっすかね。どーすか? ワンドロ(一時間ドローイング)久しぶりでしたけど……なかなかのモンっしょ?』

 

 

 計測開始から、ほんの一時間程度。本気描きとは異なるラフさも見られるが、しかしそこに描かれたのは、確かな神絵。

 狗耳白髪の少女と、猫耳錆色の幼女が仲睦まじげに寄り添いお昼寝している……大変に尊い光景。

 

 ソレを手掛けたのは……ソファから降り立ち、カメラの画角から外れることも気にせず背伸びをし、おれの配信衣装とお揃いのローブをぱたぱたと叩いて皺を伸ばす……期待の新人。

 

 

 

 その名は、『木乃(きの)初芽(はつめ)』。

 

 キャラクターとしては、若芽ちゃんのお姉ちゃんに当たるのだろうが…………まぁ、聡い皆さんにはもうおわかりだろう。

 

 

 初芽(はつめ)ちゃん。『お姉ちゃん』っていうよりは……ママ(モリアキ)なんすよね、彼(女)。

 

 

 

 

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

 

 

「お疲れ、モリア…………はつめちゃん、って言うべきか?」

 

「いやぁ、呼びやすい方でいいっすよ。先輩と違って声もこのままですし、『女の子』の名前で呼ばれるのはイマイチ違和感あるっていうか」

 

「そんな気にするほどか? ぶっちゃけかなり可愛いかったぞ?」

 

「そこは、ホラ。ベースとなってるのはオレらの可愛い娘ちゃんっすから」

 

 

 

 まぁ、つまりはですね。

 おれたちは『にじキャラ』さんへと【変身】デバイスを供与しましたが……とはいいましても我々、取り扱い元ですし?

 

 要するに……デバイスの一つくらい、自前で持っていても許されるわけでして。

 

 

 そんなこんなで調達しておいたデバイスで、いつもは我々のマネージャーとして活動してくれていたモリアキこと烏森(かすもり)(あきら)くんを、華麗に【変身】させたもの。

 それがこちら……新人イラストレーター実在仮想配信者(アンリアルキャスター)おじさんこと『木乃初芽(きのはつめ)』ちゃんというわけだ。

 

 

 そもそも『木乃若芽(きのわかめ)ちゃん』は、おれとモリアキが共同でデザインした娘だ。

 【変身(キャスト)】を行う前段階である【書込(インストール)】と【登録(セットアップ)】……モデルのデータを詳細に思い起こす工程に関しても、創造主(の一人)であるのなら当然問題なくこなすことができるわけだな。

 

 ただし、そっくりそのまま『若芽ちゃん』のモデルデータを再現するのでは、正直いってつまらない(し、単純にわかりづらい)。

 そこでモリアキ氏は【書込(インストール)】を行うにあたり、没案となった彼の意見をサルベージすることにしたらしい。

 

 

 『万人に愛されるには大人(オトナ)びた子どもがいい』と主張した()によって、年齢設定は『十歳相当』という形で落ち着いたが……一方でモリアキは『そのほうが発禁映えするから』との理由から『十四歳相当』にこだわっていた。

 また肌の色に関しても『そのほうがエロいから』との理由から褐色肌を推していたのだが……こちらも()の意見に押しきられ、採用されることは無かった。

 

 

 そんな設定を掘り起こし、(モリアキ)の好み百%を詰め込んだ、つまりは『嫁にするならこんな子』を再現した姿こそが……おれよりも背が高く、胸も大きく、腰も括れている、この褐色エルフの美少女というわけだな。

 

 こうして、理想の女の子の姿(※ただし声はそのまま)となったモリアキ。

 彼はこんな姿になってまでも、なおおれたちのことを案じてくれたみたいで……副業によって頻度が減ってしまうであろう配信の()()()を、なんと自ら買って出てくれたのだ。

 

 

 

「まぁ……オレも先輩が楽しそうに配信すんの、ずっと見てきましたし。やっぱどっかで『憧れ』はあったんすよね」

 

「……そんなに、楽しそうだった?」

 

「そりゃあもう。先輩も楽しそうでしたし、視聴者さんも楽しそうでしたし。……オレなんかが先輩並みに視聴者さん楽しませられるとは思ってませんが、少しでも配信頻度増やせれば……『寂しさ』は軽減できるかなぁって」

 

「………………ありがとな。……本当に」

 

「……っふへへ。まぁ他の絵師様みたく『お絵描き配信』に憧れてた、ってのは本音なんで! こーんな姿(アバター)使っていいよ、って言われちゃあ……テンアゲなわけっすよ!」

 

「まぁ…………確かに可愛いもんなぁ」

 

「そりゃもう! オレらの『好き』の結晶っすからね!」

 

 

 

 以前よりも明かに出現頻度を増した『苗』に、えも知れぬ不安に苛まれるおれだったが。

 おれには……こうして頼れる身内が、信頼できる同志がいるのだ。

 

 大丈夫、まだまだ全然大丈夫。

 この国の未来を、悲嘆に覆わせやしない。

 

 

 

 



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400【天候不順】豪雨の中で輝いて

 

 

呵ッ々(カッカ)!! (コレ)(コレ)は……また思い切った事を企ておったなァ!」

 

「無茶なことしようとしてるって自覚は、まぁ正直あるんですけど……でも、このままにはしたくないなって思いまして……色々と恩もありますし……」

 

()()い! 恩義に報いるは人間(ヒト)として好ましき性質(コト)よ! …………時節的にも支障は在るまい。水無月ならば天の水気も充分よな」

 

「はい。大雨の日を見計らって……ミルさんの力を借りて」

 

「真白の童か……成程な。良いだろ、遣って見せよ。尻拭いは龍影(リョウエイ)が請け負おう」

 

「はいっ!」「えっ……」

 

 

 

 

 

 ……なんていうひと幕が、少し前にありまして。

 本日はそんな六月(水無月)の某日、天気はまさにバケツをひっくり返したような大雨……まぎれもない豪雨だ。

 

 最近の地球温暖化だか異常気象だかおれにはよくわかんないけど、とにかく今年は梅雨前線が非常に発達しているらしく、現在日本列島はその影響をもろに受けていて、そしてそれは当然おれたちが居を据えた岩波市においても同様なわけで。

 今日現在こちら……滝の音が消えて久しい別荘地『滝音谷(たきねだに)フォールタウン』においても、外出を憚るほどの大雨模様となっている。

 

 

 

「この雨ですが……いけますか? ミルさん」

 

「はっはっは。勿論ですとも若芽さん」

 

 

 

 降り続く叩きつけるような雨で、昼間だというのに薄暗く劣悪な視界の中……おれたち二つの人影は一塊になって、乾上(ひあ)がった誉滝(ほまれたき)の上空をふよふよと飛んでいる。

 元々人目の少ない滝の跡地、かつ曇天とどめに豪雨。加えておまけに【隠蔽】魔法も発動しているとあれば……まぁ普通に考えてバレることは無いわな。

 

 ミルさんの【水魔法】によって流水膜の防壁を作り、豪雨をものともせずに進んでいき……やがてたどり着いたのは、どこまでも続いている(ように見える)コンクリートの巨大な壁。

 物流と交通の大動脈、第二東越基幹高速だ。

 

 

 

「えーっと……地下水道みたいなのって、ミルさん視えます?」

 

「ちょっと待ってくださいね。今ぼく背中に感じる柔らかな感触と体温でココロがいっぱいで」

 

「落としますよ?」

 

「冗談です。視えました。……あー、新東越の工事で流れ変えられちゃった感じですね」

 

「そうなんですよ。……見た感じ、単にもとの流れに戻す工事をやってないだけに見えるんですよね」

 

「あぁ、なるほど。地下の水道からまたコッチに戻してあげれば良いんですね?」

 

「そうです。地面削るのはわたしがやるので、ミルさんには水流の矯正をお願いしたいんですけど……」

 

「わかりました。やってみましょうか」

 

「ありがとうございます!」

 

 

 

 地下水道の終点から明後日の方向へと流れていってしまう水流を、もとの誉滝の方向へと導き、川を矯正する。

 それこそが今回おれが画策している『思い切ったコト』であり……勝手に恩義を感じている滝音谷(たきねだに)温泉街への、ちょっとした恩返しだ。

 

 有識者(フツノさま)に作戦を打ち明けたところ、意外なほどあっさりと『遣ってみよ』とのお達しを得、万全を期すために水魔法のエキスパートに協力を取り付け、天候に責任転嫁するために豪雨の(この)日を待った。

 大雨の後なんかに『ちょろちょろ』と滝が復活していることもある、という情報は得ているので……もしこの豪雨の後に誉滝が復活していたとしても、『きっとあの大雨のせいだな!』となってくれるに違いない。

 

 万が一不慮の事態が生じた際には……そのときは、われらがリョウエイおにいさんがなんとかしてくれる(らしい)。

 

 

 

 

 ……というわけで全ての懸念は払拭されたので、いよいよ作戦開始だ。気合を入れて臨もうと思う。

 

 

「おれこの戦いが終わったら霧衣(きりえ)ちゃんに『いいこいいこ』して貰うんだ」

 

「なんですかソレ羨ましい! ぼくにもおこぼれ下さいよ!」

 

「じゃあ……わたしの『いいこいいこ』でどうですか?」

 

「絶対に成功させましょう」

 

 

 ミルさんの気合いも十分なので、まずはおれから行動開始だ。

 現在の地下水道出口、あさっての方向へと水を吐き出し続けている場所を始点として、終点は誉滝跡へと続く川の跡のどこかへと繋げばいい。幸いというかこの豪雨で幾らか水流が生じているので、川のラインとしては判りやすい。

 

 しかし、ただ闇雲に繋ぐだけでは色々とマズい。

 いうなれば新しく川を作ろうとしているようなモノであって、つまりは現在川ではない部分を川にしようとしているわけだな。

 ただでさえ山の斜面であり、水平な地面とは色々と勝手が異なる。第二東越基幹高速のように鉄筋コンクリートでガッチリ固めてしまえれば、たとえば用水路のように真っ直ぐでも大丈夫なのだろうけど……自然の川は水流の影響により、えてして『ぐねぐね』と曲がりくねるものだ。

 

 今日みたいな大雨のときに氾濫してしまえば、簡単に流れが変わってしまう(かわだけに)。なので新しい川の道筋を作るにしても、簡単に氾濫しないように角度等を意識しておかなければならないわけだ。

 

 

「【領地(シューレス)掌握(コンダクト)】【掘削(グラルモルグ)】【圧縮(クライシュルス)】」

 

「おぉーーーー」

 

 

 ミルさんが歓声と共に見下ろす先、地面が『ゴリゴリ』と音を立てながら変形していく。

 木々の根を(可能な限り)避け、しかし低木や下草を盛大に巻き込み、幅三メートルから五メートル前後のそこそこ深い溝が、ぐねぐねと形成されていく。

 

 その溝の到達する先はもちろん、かつて誉滝へと注ぐ流れを作っていた川の跡地。

 思っていたよりも下流に繋げる形になってしまったが……まぁ、滝には注がれるだろうし『よし』としよう。

 

 

「それじゃ先生。お願いします」

 

「うむ。任されよう」

 

 

 ミルさんの【水魔法】が地下水路を流れる流水を捉え、その流れを無理矢理に変えていく。

 おれが今しがた掘り、固め、形成した『川・予定地』へと、際限なく流れてくる流水をそのまま注いでいく。

 

 それなりに余裕を持たせて掘削したお陰か、水を流し入れても決壊や氾濫する兆候は見られない。

 最初こそミルさんに引き入れられた水流だったが……やがてミルさんの制御を外れても、新しく引いた川は順調に流れていった。

 

 

 そして……その行き着く先は、今は雨水が弱々しく流れ込んでいるだけの、誉滝(ほまれたき)

 

 おれたちによって導かれた水流が、ついに誉滝へと到達し……久しく音を喪っていた滝は久方ぶりに勢いを増し、元気よく流れ落ちていった。

 

 

 

 

「どうですかミルさん、危なっかしい箇所とかあります?」

 

「今のところ大丈夫そうですね。実際もう全部ぶっ込んで流しちゃってるんですけど」

 

「えっ!?」

 

「流しちゃってるんですよ。この豪雨の水量を。……まぁ、数日後にもう一度……いや何回かは様子見た方がいいとは思いますけど」

 

「大丈夫そう……ですか?」

 

「そうですね。少なくとも、しばらくは」

 

「……………おぉー!」

 

 

 

 残念ながら、というべきか……梅雨前線の停滞に伴い、この豪雨はしばらくの間続くようで。

 

 麓の人々がこの滝の『異常』に気付くのは、もう少し先のことになりそうだが。

 

 

「雨やんだら、ミルさんも温泉行きましょう。滝の音聞きながらの露天風呂……きっとなかなか風流ですよ」

 

「なんですか混浴ですか? もしかしてぼく誘われちゃってます?」

 

「にゅや!? ち、ちちっ、ちっ……違いますですので!!?」

 

「ざんねん。……いつでも誘ってくださいね?」

 

「ヒュっ」

 

 

 

 ま、まぁ……混浴は置いといて。

 おれたちのこの勝手なお節介が、温泉街を少しでも元気付けてくれると信じて、今日のところはおうちに帰ろう。

 

 元気を取り戻した滝音谷温泉街……単純に、とても楽しみだ。

 

 



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401【暴雨一過】あの夢を諦めないで

 

 

 おれとミルさんの余計なお節介に端を発する誉滝(ほまれたき)、ひいては滝音谷(たきねだに)再生プロジェクトだったが……およそ一週間に渡って降り続いた大雨が上がり、珍しく晴れ間が続いたある日のこと。

 

 ようやくついに……()()()()に気づいた人が現れたようだ。

 

 

 大雨の後などに、一時的に水音を轟かせることはあれども……それは決して何日も続くようなものではない。そのはずだった。

 

 

 

「喜ぶがいい家主殿よ。麓ではそこそこ騒ぎになっておったぞ」

 

「あっ、おかえり(なつめ)ちゃん。……っへへ、気づいたかー」

 

「先輩が復活させたっていう滝っすか? そいえばオレまだ見てないんすけど」

 

「おれだって大雨ん中だったもんよ! 明るい中では見てないし…………見に行ってみる? せっかくだし」

 

「おぉ良いっすね! 白谷さんも、気分転換に外出てみましょうよ。オレの経験則っすけど、スランプのときは気晴らしも必要っすよ。ずーっとウンウン悩んでても良い案出ないっすよ?」

 

「うーん……うーん……」

 

「…………おまた見えそア痛ァ!?」

 

 

 空中にふわふわ浮かびながらぐるんぐるん縦回転しているラニちゃんは、その服とはとても呼べぬ衣装の隙間から大事なところがチラチラしちゃいがちなのだが……しかし本人はそんなことなど頓着せず、相も変わらずうんうんぐるぐる回っている。

 そんな純真無垢な(外見の)妖精さんをエッチな目で見ようとしたモリアキにはエルフ肘鉄を叩き込みつつ……しかしおれもラニちゃんのうんうんぐるぐるに関しては少々心配していたのだ。

 

 

「……ねぇ、ラニ?」

 

「うーん……うーん……」

 

「ラニー? ラニちゃーん?」

 

「うんうーん……」

 

「…………パンツ見る?」

 

「えっマジで。見るめっちゃ見る」

 

「おいこのドスケベ妖精」

 

「えっへへへェー」

 

 

 耳ざといラニちゃんはやっと縦回転を止め、好色そうな表情を隠そうともせず、今度はくねくねと身をよじらせ始めた。

 現金というかなんというか……まぁ、お話できるようになったから良いとしよう。

 

 

 

 

「おしじゃあみんな、準備良い?」

 

「「はぁーい!」」「わうぅ!?」「むぅ?」

 

「『はぁーい』じゃないんだよモリアキおまえ!! 早よ初芽(はつめ)ちゃん【解除(シャットダウン)】すんだよオラッ!!」

 

「ホエェ!? やっぱダメっすか!?」

 

 

 ……と、いうわけで。

 お洗濯を片付けてくれた霧衣(きりえ)ちゃんを巻き込んで、おれたち『のわめでぃあ』ご一行様四名様(と見えない一名様)は……息を吹き返した誉滝(ほまれたき)を眺めに、お散歩に出掛けることにしたのだ。

 

 お天気は快晴とまではいかないが、雲率は五割くらいだろうか。雨上がりの湿度はまだ残っているが、陽射しもしっかり覗いているので意外と心地良い。

 この天候ならば……スランプ気味らしいラニちゃんも、いい気分転換になるんじゃなかろうか。

 

 

 別荘地を出て、スマートインターの下を潜って、岩波川に掛かる風情ある橋を渡って……到着しました滝音谷(たきねだに)温泉街。

 おれの気のせいではないとは思うのだが……なんというかやっぱり『人々が動いてる気配』のようなものを感じる。

 

 川縁に設けられた散歩道をのんびりと歩きながら、おれは聴覚を研ぎ澄まして温泉街の人々の様子を窺ってみる。

 するとやっぱりというか、(なつめ)ちゃんの持ち帰ってきた情報のとおり……滝が生き返ったことに皆さん気づいているようだ。

 

 

 まぁそれも当然のことだろう。

 なにしろ……温泉街の散歩道からは、そして温泉街からは、当然のように見えるのだ。

 

 岩波川の向こう側、ごつごつと切り立った崖を、威勢の良い水音を奏でながら勢いよく流れ落ちる……迫力ある誉滝(ほまれたき)の姿が。

 

 

 

 

「……あっ、小井戸支配人! こんにちは!」

 

「これはこれは。こんにちは、若芽さん。皆さんも」

 

「こんちわっす、支配人。……近いうちに、また風呂お借りしに行きますよ」

 

「えぇ…………えぇ、是非。当館の露天風呂からなら、バッチリ見えますよ」

 

「んふふふふ、楽しみです。……どうせなら、一回泊まりで考えてみてもいいかもしれないですね」

 

「おっ、お泊まりであるか、家主殿よ」

 

「お泊まりでございますか! 若芽さま!」

 

「…………近くの住人用おトクプランとかありますか?」

 

「若芽さんのお願いとあらば、ご用意しましょうか」

 

「「「おおおお!!」」」

 

 

 見るからに上機嫌な小井戸さん……おれたちがよく立ち寄り湯を利用させて貰っている温泉旅館『落水荘』の支配人だ。

 どうやら、誉滝(ほまれたき)が復活したことを喜んでくれているのだろうか。べつにおれたちの仕業だとバレたわけでは無いだろうに、軽く二つ返事で『おトクプラン』の設定を検討してくれるらしい。

 

 

 

「滝…………流れてますね」

 

「……そうですね。雨が上がっても水音が衰えないのは……一体いつ振りでしょうか」

 

「あの豪雨で川の流れが変わった、とかでしょうか?」

 

「そうかもしれませんね。……ここ数日で、かなり降りましたし」

 

「……変わりますか?」

 

「…………ええ。変えますとも」

 

 

 

 ふと周りを見ると……おれが何度か行ったことがある喫茶店のマスターや、霧衣(きりえ)ちゃんがよく買い物に行くというスーパーのおばちゃんや、みんなで度々お世話になっている和食処(あまごや)の店主などなど……滝音谷(たきねだに)温泉街の皆さんが、ちらほらと見受けられる。

 皆さんの顔を軽く見た限りでは……やっぱり、大なり小なり『歓喜』の感情が見え隠れしているようだ。

 

 以前おれが小井戸支配人に聞かせてもらった話では……この滝音谷(たきねだに)温泉街が衰退した一因と目されていたのが、アイデンティティでありランドマークでもある誉滝(ほまれたき)の消失だ。

 果たして本当に滝が蘇ったのであれば――もちろん様々な工夫や努力は必要だろうが――ゆくゆくは以前のように復活させていくことも、不可能ではないのかもしれない。

 

 

 

「……何にせよ、本当に流れが変わっているのか……また滝が枯れる心配は本当に無いのか、そこを確認してからになりそうです」

 

「そこの確認、って……ヘリとかっすか?」

 

「いえ、測量ドローンで仕事をしている知人が居りますので、そこへ頼もうかと」

 

「ほへぇ……ハイテクっすね」

 

 

 

 

 今後この温泉街がどうなっていくのか、どう盛り上げていくのか。ここから先、おれは見ていることしか出来ないが。

 

 温泉を楽しませて頂いているいち消費者として、またひとりのファンとして。

 ぜひとも、良い方向へと進んでいってほしいものだ。

 

 



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402【特殊試料】なんとかの木馬

 

 

 さてさて。

 

 ここ数日、なにやらうんうん唸りながらぐるぐる縦回転しているラニちゃんだったが……さすがにおれもちょっと気になった。

 なので訊いてみたところ……なんでもおまわりさんたちの装備品に関して、なにやら思うところがあったらしく。

 

 

 

「やっぱ……くだんの『トクシュシュリョー」ってやつ」

 

「特種車輌? ……あ特殊試料? 例の蛍光グリーンの液体」

 

「そうそれ。どっかの植物から抽出したっていうそれ。……気になるんだよなぁ」

 

「まぁ……気になるよねぇ」

 

 

 国内の化学企業……というか、大手ゼネコンの化学技術部が精製に成功したという、流体状の特殊試料。

 この世界、この地球においては規格外なほどの魔力に満ち、装備品に塗布すれば『対特定害獣』用の装備として生まれ変わらせることができるという。

 

 話を聞く限りではとても魅力的というか、例の特定害獣……『葉』の出現が増えてきている情勢下とあっては、まさに渡りに船といったところだろう。

 

 

「恐らくは……単純に、高純度の魔力素材だ。そんなものがあるなら、色々と便利な道具が作れそうでもある」

 

「そっか、前言ってた『この世界由来の魔力素材』って」

 

「うん。ナゴヤガワショチョーの……というか、そのクラン(メーカー)の言うことが正しいなら、極めてこの世界に馴染みやすい……要は、応用の幅が広い素材であるはずなんだ」

 

「いろんな魔法アイテムが作れるかも……ってこと?」

 

「んー……詳しく調べてみなきゃ何とも言えないけど……おそらくは。ただ、」

 

「すごいじゃんそれ! じゃあさ、ダメもとで訊いてみない? 研究用にちょっと分けてくれませんかって。とりあえず春日井さんあたりに」

 

「…………そうだね。実物を調べられるなら、それが手っ取り早い」

 

 

 

 

 

 ……というわけで。

 

 

「……こちらが、例の特殊試料……通称『含光精油』になります」

 

「…………やっぱ、すごい魔力量ですね」

 

「我々には解りませんが……若芽さんがそう仰るのなら、やはり本物なのでしょうな」

 

「……そうですね。充分効果あると思います」

 

 

 ほかでもない署長直々の許可のもと、浪越中央警察署四階倉庫へと設置させていただいたアクセスポイント……最近利用頻度が増えつつあるそこへと飛び、最近襲撃頻度が増えている春日井さんを取っ捕まえ、『今度は何だ』と身構える彼に『例の特殊試料見せてほしいな』と可愛らしくオネダリして見せる。

 やっぱりおれのオネダリはつよいらしく……周囲からの生暖かい視線に晒される春日井さんに心の中で詫びながら、おれたちは検分の機会をありがたく享受していた。

 

 この署に保管されているのは、小さな試料瓶に収められたサンプル分のみ。希釈されて塗料や表面処理材に加工される前の原液なので、やはりというか非常に()()

 水よりは幾分粘度の高い、淡い蛍光グリーンの綺麗な液体。……しかしそこに込められた魔力は、深く考えるまでもなく『本物』だ。

 

 この世界においては、探し出すことが困難だろうと諦めかけていた『魔力素材』。降って湧いた幸運に自然と頬が緩むおれとは異なり……姿を現して『含光精油』と()()と凝視していたラニは、なんだか難しい顔をしている。

 

 

「カスガイさん。コレを作ってるクランって……どんなとこ?」

 

「アッ、えっと……この『含光精油』? を作ったメーカーさんって……どんなところなんですか?」

 

「え、えぇ……『ヒノモト建設』の化学技術部ですね。主に塗料やコート剤、コーキング剤等を研究している部署です。……一応、部外秘ですので……」

 

「……それ、わたしたち聞いちゃって良かったんですか?」

 

「はい。署長より、『特定害獣』に関する情報は可能な限り提供せよ、と」

 

「お気遣い感謝します!!」

 

 

 なるほど、署長。要するにフツノさま絡みか。

 こと特定害獣……つまりは『葉』とその対策に類する事柄は、可能な限り情報提供するように、と。

 

 信用を置いてくれてるんだなぁってとても嬉しく思う一方で、神様が見てるのなら下手なことは出来ないなって、自然と身が引き締まる思いだ。

 ……いや、もとから手を抜くつもりは無いんだけど。

 

 

 

「カスガイさん。……この液体の、細かい資料……あー、えっと……文書? 書類? データとか纏められたやつって……ある?」

 

「あー、なるほど。試料の資料、ってことね」

 

「少々お待ちを。持って参ります」

 

「ん。ゴメンね、ちょっと気になることがあって」

 

「………………」

 

 

 ラニの情報開示要求に従い、春日井さんは小会議室から出ていってしまった。

 こうしてこの部屋に残されたのは、『含光精油』のサンプルを凝視しながら何やら考え込んでいるラニちゃんと……なにがとはいわないし説明もしたくないが、こっ恥ずかしい思いをしたおれの二人だけ。

 

 ツッコミを貰えなかったことを恨むわけじゃないが……ラニちゃんは一体、何をそんな難しい顔をしているのだろう。

 

 

「…………いや……ボクの考え違いなら、何も問題無いんだ。この液体をもたらした植物が、ただの福音であるのなら……ソレに越したことはない」

 

「……何か、あるの? これに……この『含光精油』に」

 

「わからない。何もない、ただの『めちゃくちゃ嬉しいサービスシーン』かもしれないし」

 

「サービスシーンっておま」

 

「………………『気付いたときには手遅れ』っていう感じの……遅効性の『猛毒』かもしれない」

 

「も、猛毒って……ちょっ!?」

 

「まだ解らない。まだ根拠も何もない。単なるボクの思い込みに過ぎない。だから」

 

「失礼します。お待たせ致しました」

 

 

 小会議室の扉がノックされ、思わず口を噤む。

 分厚いファイルを小脇に抱えて入室してくる春日井さんの姿を認め……ラニは難しい顔を(一旦)引っ込め、虹色の翼をはためかせ愛嬌を振り撒いて見せる。

 

 思念通話を繋ぐまでもなく……その態度の変わり様を見れば、ラニの考えは手に取るようにわかる。

 懸念はあるが……今はまだ春日井さんに知らせるべきじゃない。我らが勇者にして現世最高の魔法研究者は、そう結論を下したのだ。

 

 

 

「ありがとねカスガイさん! いやーその、なんていうか……せっかくすごい素材なんだし、もっとよく知っときたいなって!」

 

「いえ、こちらこそ有難うございます。なにぶん我々のような現場人間には、少々難解過ぎる嫌いがありまして」

 

「じゃあ、お勉強ですね。……春日井さんは、お仕事大丈夫ですか?」

 

「…………申し訳ありません、実は少々予定が」

 

「ンアーすみません! えっと、じゃあ……どうしましょ、このままこの会議室居座ってたらマズイですか?」

 

「もしくはさ、ちょーっとファイルと試料、借りてっちゃダメかな? もちろん今日中にちゃーんと返すから!」

 

「そうですね……お二方であれば、大丈夫でしょう。終わりましたら、豊川まで連絡をお願いします。彼女に回収させますので」

 

「はい! 了解であります!」「あります!」

 

 

 

 おれたちのとっても可愛らしい、しかし子どものお遊びじみた敬礼ポーズに……苦笑気味に敬礼を返してくれる春日井さん。

 彼に一旦の別れを告げ、ラニの【門】に身を委ね……おれたちは部外者の存在しない自拠点へと帰還を果たした。

 

 

 ここでなら……思う存分騒ぎながら、この『含光精油』を調べることができる。

 

 これがただの救いの手なのか、それともラニの危惧するような猛毒なのか。

 本格的に世に出回り、手遅れになる前に……それを確かめなければならない。

 

 

 



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403【特殊試料】天然由来の安心素材

 

 

…………………………………………………

 

 

対特定害獣用トップコート剤

【ゴカゴアールEX】原液 取扱説明

 

 

■ 製品概要

 

 弊社独自設備にて抽出した、完全植物由来の次世代コーティング素材です。

 昨今頻発する特定害獣に対し、高い忌避・分解効果を発揮します。

 

 

■ 特徴

 

 一.希釈し既存装備品に塗布することで、手軽に特定害獣対応装備へと生まれ変わらせることができます。

 二.コート完了後は固着化保護層を形成し、適応装備へのダメージを軽減させ、大切な装備を長持ちさせます。

 三.製造過程で生じる廃棄物は百パーセントリサイクルを達成し、豊かな自然環境に対する負荷の低減に貢献します。

 四.保護層形成後は、特定害獣の体組織に対する高い抗化反応を発揮し、攻撃および防御能力を高めます。

 

 

■ 用途

 

 警棒、ナイフ、マチェット、さすまた、防盾、保護服、ヘルメット、ブーツ、ゴーグル、ボディアーマー、手袋……等

 

 

■ 使用手順

 

 一.塗布物表面の汚れを取り除きます。

 二.『ゴカゴアールEX』一に対し、塗布物に対応する希釈剤『カタイノヌール』もしくは『ヌノニヌール』五倍量を静かに注ぎ入れ、気泡が混入しないよう留意しながらよく撹拌します。

 三.混合液が無色透明になったら、刷毛やローラー等で塗布物表面へと塗布していきます。塗布物によっては重ね塗りを行うことで、より強固な保護層を形成できます。

 四.風通しの良い冷暗所にて、二十四時間以上乾燥・固着化させます。

 

 

■ 注意事項

 

 製品には万全を期しておりますが、保護層形成後の装備品を使用する上で皮膚に炎症・湿疹・痺れ等の症状が見られた際には、直ちに当該装備の使用を中止して下さい。

 本製品は百パーセント植物由来ではありますが、成分を極めて高濃度に濃縮抽出してあります。必ず薄めて使用して下さい。また人体への影響を鑑み、絶対に服用しないで下さい。

 本製品の原材料である『レウケポプラ』は未だ研究途上の植物素材であるため、更なる研究の進展に伴い用法は随時更新されていく可能性があります。常に最新の取扱説明を参照するよう徹底して下さい。

 

 

■ 製造元・連絡先

 

 ヒノモト建設株式会社 化学技術部

 担当【襟州】【三野須】(内線:〇一三)

 

 

…………………………………………………

 

 

 

「この…………レウケポプラ? っていうのが原材料らしいけど……」

 

「…………聞いたことある? ノワ」

 

「いや……おれそんな植物詳しくないし……」

 

 

 春日井さんから借り受けた、くだんの特殊試料こと含光精油……こと『ゴカゴアールEX』の試料に目を通す。……いや、なんやねん『ご加護あーる』って。ネーミングセンスよ。

 とにかくこの『レウケポプラ』とかいう原材料が、良くも悪くもすべての鍵を握っているようだ。

 

 ……まぁ尤も、この資料が全て正しいのだとすれば、なのだが。

 

 

「んー、ちょっと探し(ググッ)てみたけど……見当たんないね、『レウケポプラ』」

 

「新しく発見された植物、って言ってたっけ。発見されて久しいなら、まだネット上に情報無いのも頷けるけど……」

 

 

 奇しくも、『苗』や『葉』による被害が増えた直後に発見・実用化されたという、極めて有効な素材。

 このあまりにも出来すぎたタイミングには……正直、何者かの意思を感じずには居られない。

 

 相棒が懸念しているのは……つまり。

 

 

「…………あの『魔王』の()()()なんじゃないか。ってこと?」

 

「そう考えるのが妥当だとは思うんだけど……じゃあなんで敵に潮を掛けるような真似してるのか、って疑問が出てくるんだよね」

 

「…………塩を送る、ね。掛けちゃダメだよ」

 

「そうだね。だめだね」

 

 

 一方では、『苗』や『葉』をばら蒔いて人々の不安を掻き立てておきながら。

 もう一方では、それら不安の根元に対する特効薬を振る舞って見せる。

 

 一見相反するその行動、この仮説が事実ならば見事なマッチポンプと言わざるを得ないのだが……そうなれば当然、今度は『じゃあなんでそんなことをするのか』という疑問が生まれてしまう。

 

 『葉』に対処するための『含光精油』を、わざわざ敵対勢力に振る舞う理由とは、いったい何なのか。順当に考えれば、ラニの言ったように『遅効性の毒物である』という仮説が説得力ありそうなのだが……しかし仮に『毒』だとするならば、装備品に塗らせるよりも手っ取り早い方法がある。

 わざわざ『原液の直飲みは厳禁』なんて記載しなくとも……むしろ『飲め』と書いた方が、効率的に摂取させることが出来るだろうに。

 

 

 つまりは……この『含光精油』の目的は、やはり人間を害するものでは無いのだろうか。

 『魔王』の目的はまた別のところで、この『精油』の生産はあくまで副次的なものなのだろうか。

 

 

 

「……そう考えると、やっぱ『毒』じゃない?」

 

「うーん……精油そのものは毒じゃないのかも。しかしそうなるといよいよもって……」

 

「何のためにバラ撒いてるのか、ってなるよねぇ……っていうか今さらだけど、例の『レウケポプラ』が『魔王』の仕業だ……って所は、ほぼ確定?」

 

「だと思うよ。……だって、ノワも知ってるだろ? この世界に、こんな高濃度の魔力を蓄えた植物なんて……いや植物に限らず動物や鉱物だって、これまで存在してなかったんだから」

 

「いやえっと……正直そこまで気合入れて探してたわけじゃないので……見落としとかあったかも、みたいな……」

 

「しかしだねノワソン君。事実、ボクが今こうして【魔力探知】を行ったところで、このオウチ以外に魔力の存在なんてある……はず…………が…………」

 

「…………??? ……え、ちょ、まままま待って、待って。……まさか? ねぇ……まって、あったの!? 魔力反応……」

 

「…………地下? 地中? すぐ近く……埋まってる? ……オウチの、玄関の前の…………すぐそこの、地下」

 

「玄関前……地下………………あぁー……」

 

「えっ? ちょ、な、なに? その顔は……」

 

 

 

 おれは体と顔と耳に熱量が集中するのを自覚しながら、席を立ってラニを手招きする。

 階段を降りて一階へ、目指す先は地中に魔力反応があったという玄関先……ではなく、広々とした洗い場を備えた浴室(おふろ)

 

 可愛らしく小首をかしげるラニちゃんに、どうやって説明すべきかと頭を悩ませるが……残念ながらおれは気の利いた言い回しなんて思い浮かばない。

 直球で言うしか……ない。

 

 

「……もしかして、なんだけど」

 

「??? ……う、うん」

 

「その……魔力反応の、残滓? みたいなのって…………感じたりする? ここで」

 

「…………!! え? うそ、あっ……ホントだ! 微かに……床の…………排水溝?」

 

「あぁー………………」

 

「え、ちょっ、な、何? なんなの??」

 

 

 

 『魔王』一味が敵に塩を送る理由に関しては、結局解らず(じま)いだったけど。

 

 例の『含光精油』に……そして『レウケポプラ』に頼らなくて済む、この世界で採取できる新たな魔力素材に関しては……まぁ使うかどうかは置いておいて、思わぬところで光明を見出だし(てしまっ)たかもしれない。

 

 

 ……願わくば、この『精油』が本気で無害なものであってほしいと。おれたちが材料として使っても問題の無い素材だと。

 

 おれは……そう願わずには居られなかった。

 

 






※もちろん健全です。




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404【特定害獣】勝手なことを言う

 

 

『――――さて続きましては、こちらの話題。日に日に目撃証言が増えております。今となっては都市伝説とも言えなくなって来てしまいました『ブラックゾンビ』騒動に関する話題です。岡谷さんお願いします』

 

『はい。……えー、ここ最近世間を騒がせている、こちらの……画像出ますか? ハイ出ましたね、こちら。……一見すると黒い人影のようにも見えますが、もちろん人ではございません。警視庁都市保安部より布告されました通達によりますと、人々の生活に悪影響を与える『特定害獣』と呼称されています』

 

『『特定害獣』ねぇ……』

 

『……はい。以前から都市伝説として度々話題に上がっていたようなのですが、ここ一月(ひとつき)程でその目撃証言が急増、ご覧のように写真や……こちら、動画等にこうして残される程にまで、身近な脅威となってしまいました』

 

『これはアレですか坂江さん、ぶっちゃけ危険なものなんですか? だとするとこんなモノを野放しにしてる警察は何をやってんだ、って話になると僕ぁ思うんですけどね?』

 

『…………えぇー……こちら、『特定害獣』……あるいは仰られたように『ブラックゾンビ』とも呼ばれている存在ですが……結論から申しますとですね、まだ全容は解明できていない……というお答えになりますね』

 

『やっぱ警察は()っっそいですね! 行動が遅い! こんなの……前代未聞の事態じゃないですか! もっと国民の皆様のためになる情報をね、しっかりと出して頂かないと。我々日本国民としても我慢の限界ですよ!』

 

『えー、警視庁都市保安部から布告された文書によりますと、これら『特定害獣』……世間では『ブラックゾンビ』と呼ばれてますけども、万が一こちらと遭遇した際にはですね、決して近づかず距離を離して、警察に通報して欲しいとのことです』

 

『それは危ないってことですか? じゃあ警察はブラックゾンビの危険性を認識してるってことですか?』

 

『…………えー、今回の通達はどちらかというと、『安全のため』という側面が強いかとは思いますが……』

 

『でもこの段階になっても『気を付けてね~』以外の通達というかですよ、動きが無いわけじゃないですか。警察としては。ブラックゾンビが出る、通報してもらう、そしてそこでやっっと駆除に出向くわけでしょう? それが危険だっていうなら、遭遇しなくて済むようなね、抜本的な対策を講じていただかないと! そのために我々税金をお支払してるわけですから!』

 

 

 

 

 

「…………ねぇノワ」

 

「攻撃は許可しませんー」

 

「むがーーーー!!」

 

「はわわわわうわうわう」

 

 

 

 最近リビングらしくなってきたリビングのソファで、おれは朝ごはんをいただきながらテレビのニュースを耳に入れながら怪しげな週刊誌に目を通す、という離れ(わざ)(※単にお行儀悪いだけです)で情報収集を行っていく。

 そこでは……『正義の魔法使い』であるおれにとっては非常に身に覚えのある光景が、ワイドショーの名のもとに繰り広げられていた。

 

 これまで魔法や神様などといった『神秘』と距離を置いていた現代日本に、どの程度まで情報を開示し……『常識』を書き換えていくべきか。

 その非常に難しい采配を取ろうとしている()の方々を一切鑑みることなく、好き勝手な憶測と責任追求を捲し立てて『正義』に酔っている(つもりの)コメンテーター……その様子にかつて無いこと無いことボロックソに言われたことを思い出したのだろう、『正義の魔法使い』の相棒は非常に()()である。

 

 

 ぷんぷんのラニちゃんは一旦(なだ)めておれの指をしゃぶらせることで落ち着かせるとして……問題なのは、ワイドショーでも話題となっていた『ブラックゾンビ』くんたちのことだ。

 彼らは基本的に、専用装備の支給を得たおまわりさんが対処することになっている。ということはつまり、隠蔽魔法など無い状況下での対応となるわけで……まぁ、こうして明らかに人々の目に付くようになったことで、我々の生活にも少しずつ変化が出始めていた。

 

 

 まず、正否問わず『ブラックゾンビ』関連の記事がものすごく増えた。

 もちろんその中には正しい情報を(ちょっとだけ)含んでいる記事も見受けられるが、なにせ根幹の情報はまだ公開されていないのだ。

 

 ほとんどは記者や出版社の想像あるいは要望であることが多く、強いて言えば『どんな行動パターンか』『万一遭遇したらどう行動すればいいのか』あたりの情報は有用……といった程度だろう。

 

 

 それに加えて……まぁ『さもありなん』といった感じなのだが、ごく一部の怖いもの知らずな人々が『肝試し』に興じるケースも増えてきたらしい。……っと、これは春日井さんからの情報だ。

 人々にとって『特定害獣(ブラックゾンビ)』の印象は『見た目はおどろおどろしいが動きは緩慢な謎の生物』といったところだろう。そのためおまわりさんの制止の及ばぬところで、あるいはおまわりさんが駆けつける前に、『ブラックゾンビに立ち向かった!』と……まぁ、自分の蛮勇をアピールしたい人が一定数いるらしい。

 

 ……ほかでもない、おれたちの活動拠点である配信サービス(YouScreen)においても、そういった蛮勇動画を投稿している配信者(キャスター)が少なからず見受けられる。

 『【特定害獣】ブラックゾンビに喧嘩売ったったwww【なんやソレ】』みたいなやつな。……おれじゃないぞ。

 

 

 そして何よりも……少しずつではあるが、都市部から出歩く人の姿が減ってきているらしい。

 

 そもそも『葉』は、まず見た目からしてアレだ。赤黒い蔦のような根のような葉のような植物繊維の集合体であり、細長いうねうねが纏まっているその様子は……なんというか、非常に名状しがたい。本能的な嫌悪感さえ感じさせる。

 オマケに――と言えるほど気安いものでもないのだが――あいつらの行動は『人々に負の感情を抱かせる』ためのものであり……まぁ要するに、人を『恐怖』や『絶望』に晒すことに対して何の躊躇もないのだ。

 その一環として……考えたくはないが『負傷』させることだって、あり得ない話じゃない。このあたりの危険性に関しては、警察からアナウンスも出されている。

 

 見た目キモくて、キショくて、とどめとばかりに危険な生物。

 賢明で一般的な思考を備える人は、ソレとの遭遇を可能な限り避けようとするだろう。

 

 

 

 

『――――目撃されているのは、現段階では『東京都』および『愛智県』の一都一県ですが、しかし今後出現が拡散する可能性もありますので、近隣県の方々も他人事とはいえません。万が一遭遇した場合は決して刺激せず、速やかに最寄りの警察署、もしくは専用通報窓口へと連絡をお願いします』

 

『これはアレですか、中村さん。都市部に出るってことは、僕らにとっては完全に普段の生活行動範囲なわけでしょ? なるべく外出控えた方が良いんですかね?』

 

『そうですね。安全第一という観点では、もちろん外出しないに越したことは無いのでしょうが……かといっても出勤や通学、日用品の買い物等もありますので、なるべく一人で行動しないよう心掛けて頂くですとか……』

 

『いっつもこうして影響を受けるのは我々一般人なんですよね。全くもって腹立たしい。僕たちの生活に不便が出たら当然国は補償か何かしてくれるんでしょうかね?』

 

『そもそも『特定害獣』に関しては、出現のメカニズムは全くもって不明です。責任の所在が明らかにされていない以上、補償というのもなかなか難しいのではないかと……』

 

『ぇえーー!? じゃあ被害が出る前に何とかしてもらわないと。それこそ目には目をじゃないですけど、例の『魔法使い』さんにキチッと働いてもらうとかどうですかね? ワケわかんないもん同士、都合いいんじゃないですか?』

 

 

 

「おめーの命令で動くつもり()ぇから!!」

 

「そうだそうだ! ボクのノワを何だと思ってるんだ!!」

 

「ばーかはーげ! まじふざけんな! 舌に口内炎できろ!」

 

「そーだそーだバーカバーカ! パンツの尻破けちまえ!」

 

「お、おふたりとも! どうどう、でございます……!」

 

 

 

 ……いかんなぁ、どうにもイライラしてしまう。

 

 霧衣(きりえ)ちゃんの淹れてくれた食後のお茶をすすり、お膝に乗っかり心配そうに見上げてくる(なつめ)にゃんを撫でながら後頭部を吸い、心を落ち着かせる。

 情報を仕入れるのが目的であれば、無理にテレビにこだわる必要もないのだろう。リモコンのボタンを押して電源を切り、((なつめ)にゃんを横に退けて)食器を片付けに立ち上がる。

 

 

 嫌なことは一旦置いておいて、とりあえず気にしないようにしておこう。あのへんのイライラの原因はおれじゃなく、フツノさまや名護谷河(なごやがわ)署長さんやらお偉い方々に丸投げすればいい。

 おれたちは今まで通り、配信者(キャスター)業務の傍ら要請に応じて駆除のお手伝いをしていれば……とりあえずは、それでいいらしい。

 

 

 おれたちは……いつもどおり、有意義な一日を過ごしていればいいのだ。

 今日も一日、がんばるぞう。

 

 



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405【警備強化】こっからおれの領地!

 

 

「…………ねぇ、天繰(てぐり)さん」

 

「……残念ですが……その様ですね」

 

「あおぉーん……私有地なのに……」

 

「……昨年、知人も嘆いておりました。……良い頃合の松茸が余所者に拐われた、と」

 

「うわそれ万死ですやん」

 

 

 

 朝の情報収集を終えた後、家事に取りかかった霧衣(きりえ)ちゃんを除くおれたち『のわめでぃあ』一行。お庭へと繰り出して天繰(てぐり)師匠と合流し、とある地点を目指し山林を進んでいった。

 

 先日の投稿動画『おにわ部【DIYガレージ編】』でお披露目となった、職人系大天狗メイドガール天繰(てぐり)師匠。その誰が見ても明らかな『濃い』キャラクターは視聴者さんたちにクリティカルヒットしたらしく……その華麗な手際と工具類の使いこなしっぷりとクールな佇まいには、早くも多くのファンから支持と応援メッセージが集まっている。

 その中には……某大手配信者事務所所属の、某大御所男性実在仮想配信者の名前があったりするのだが……まぁ、ある意味予想通りだったのでヨシとしよう。

 

 そんな『おにわ部』名誉顧問の天繰(てぐり)師匠と、今日は鍛練ではない目的のもと歩を進めているのだが……おれの鋭敏な感覚器官が、あってはいけないものの存在を捉えてしまう。

 

 

 それは……おれたち以外の『人間』の姿。

 幸い先方はまだこちらに気づいていないようだが……私有地(こんなところ)に部外者が入り込んでくる時点で、どう考えても普通じゃない。

 

 

 

「大人の……男の人が、二人。……山菜採りって格好じゃないですよね」

 

「……小型の電子機器……カメラと、マイクでしょうか」

 

「…………アウトドア好きの同業者(キャスター)か、あるいは……」

 

「ノワ、ボクはいつでも大丈夫だからね。存分に()ってやるよ」

 

「やっぱそうなっちゃいますー?」

 

 

 あるいは……どこかでおれたちの噂を聞き付けた、報道関係者か。

 

 

 いや、まあ……そもそも現在、すぐそこの滝音谷(たきねだに)温泉街が大騒ぎしてるんですよ。

 数週間前の豪雨に紛れて、おれとミルさんで誉滝(ほまれたき)上流の川を『チョチョイ』とやりまして、その結果滝音谷(たきねだに)の象徴ともいえる誉滝(ほまれたき)が見事に復活を果たしまして。

 当然、温泉街の皆さんとしてはこの機を逃す理由は無く、様々なメディアに誉滝(ほまれたき)の復活を触れ回り……こうしてここ最近、何社かの報道関係者が滝音谷(たきねだに)温泉街を取材しに訪れているらしいのだ。

 

 ……そんな中で、おれたちの住処の噂を仕入れてしまったのだろうか。

 『せっかく来たんだし』くらいのノリで、半信半疑でこっちがわの別荘地を探索しに来たのだろう。

 まぁ……特に顔とか髪色隠さずに出没してるもんな。噂になってても仕方ない。

 

 

 実をいうと、わたくし木乃若芽(きのわかめ)……半年前のデビュー直後とは異なり、おれはこの容姿も相まってちょっとした有名人(※ただし良い意味のみとは限らない)となっているのだ。

 ただでさえ『実在仮想配信者』騒動の実行犯と目されている上、一日署長のときの記者会見では最低限のことしかお話しできなかったせいもあってか……最近は『直接カメラで撮影させてほしい』という取材(?)の申し込みも度々あったのだ。断ったが。

 

 なので恐らくは、滝音谷(たきねだに)温泉街の取材に来たついでに、そんな珍獣の姿をあわよくば捉えておきたいと考えたようなのだが……残念、そこはわたしの縄張り内(おいなりさん)だ。

 貸借とはいえ、この土地の権利者はおれだ。……いや厳密には霧衣(きりえ)ちゃんが権利者であり、その保護者であるおれが実質的な権利者として借用させていただいてるけど……まぁつまりはどっちにしろ、おれたちの土地(テリトリー)なのだ。

 

 

 そこに権利者の許可無く無断で立ち入り、住人を盗撮しようとしているわけなので……つまりこれは立派な不法侵入。ギルティだ。

 過剰反応かもしれないが……今回おれたちが企てていること、そして大切な可愛い子ちゃんたちの身の安全を考えれば、断じて見逃すことは出来ない。

 

 

 

「……御屋形様。……手前等(てまえら)が処分して参りましょうか」

 

「処分!? いや……えっ? 手前……()?」

 

「……ええ。……御嬢様方の安全を脅かす不届き者相手と在らば……正当な理由も付きましょう。『(カラス)』」

 

「「「はっ」」」

 

「ォワァァ!!?」

 

「無辜の民に爪牙を向けるは乱暴者の(そし)りを受けましょうが、()れど此度は霧衣(キリエ)御嬢様の御身を狙う狼藉者を処するが為。大義名分は存分に」

 

「いやいやいや待って!? 天繰(てぐり)さんそんな好戦的なキャラでしたっけ!? ……アッそうだったかも!!」

 

「御心配無く、御屋形様。彼女等『(カラス)』は若輩ながらも天つ颯狗の端塊(はしくれ)成れば、徒人(ただびと)に掴まれる尻尾など持ち合わせて居りませぬ」

 

「そ、そういう心配してる、の、も……まぁあるんだけど!! 私有地で人死にとかヤバヤバのヤバですので!!」

 

「…………委細、承知致しました」

 

「……わかって、くれましたか」

 

「……ええ、解りました。然れば命を取らぬ程度に、精々痛い目に遭って頂き……追い払うに留めましょう。『行け』」

 

「「「御意」」」

 

「本当にわかってくれたんですか!!?」

 

「御心配無く。彼女達は利口で御座います故」

 

「本当に信じて良いんですね!?」

 

 

 

 まぁ、既に烏天狗ちゃんズは翔んでいってしまったので、おれには信じることしか出来ないわけだけど……おれのエルフアイが固唾を呑んで見つめる先、修験者のような特徴的な和服を纏った彼女達の輪郭が、突如『ぐにゃり』と歪んで霞む。

 ……かと思えば、次の瞬間姿を現したのは……非常に立派な体躯を誇る、狼のような日本犬の姿。

 

 おれなんかであれば完全に乗れちゃうほどのサイズの巨大わんこが、見通しの悪い山林を一目散に駆けていく。

 唸り声を上げながら疾駆する先は当然……われらが私有地(テリトリー)を踏み荒らす不届き者。

 

 

 

「うわぁーーーー!!?」

 

「ぎゃぁーーーー!!!」

 

 

 『ヴォンヴォン』とか『グルルルル』とか『ギャオオオン』とか物騒な唸り声を上げる、三頭の巨大なわんこ。カメラを持った男達の周囲を執拗に駆け回り、ときにスレスレを(かす)めるように飛び掛かり、口を大きく開けて吼え立てたりと、的確に恐怖を煽っていく。

 命の危機さえ感じさせる巨大わんこの猛攻に、侵入者はたまらず尻餅をついて後ずさろうとする。

 

 そんな男達の背後に、人知れず姿を表したのは……なんというか、『山賊』とか『蛮賊』とかいう表現がよく似合いそうな、薪割り用の手斧を携えた熊のような大男。

 あちこちが土で汚れた作業服に、どこか見覚えがある気がするツールバッグを腰に巻き……きっちりきれいに手入れされた手斧を肩に担ぐ大男の目は……ぞっとするほど冷たく、鋭い。

 

 

 

「………………ウチに……何か用か」

 

「えっ!? あっ、えっ……と」

 

「……コイツらが、他人(ヒト)様に飛び掛かんねェ様に……『入るな』ってェ柵、立ててた筈なんだがァ……なぁ? 開いちまってたか? なぁ、オイ」

 

「い、いえ! そのようなことは……」

 

「…………じゃあ」

 

 

 大男が不気味に黙り混み、三頭の巨大わんこが『グルルルル』と喉を鳴らし……

 

 

 

「勝手に入って来ンじゃ無ェ!! 今すぐ出てけェ!!」

 

「「すみませんでしたァ!!!」」

 

 

 

 巨大わんこ達の咆哮に尻を蹴飛ばされ、転がるように逃げていく二人の記者。

 なるほどここまで脅されれば、普通の神経を備えているヒトであれば、もう入ってこようなどとは思わないだろう。

 

 あのおじさんの正体に薄ら寒いものを感じながら……おれとラニと(なつめ)にゃんは一部始終を呆然と眺めていた。

 

 

 

「……さて……御苦労」

 

「「「はっ!」」」

 

「あっ、やっぱ天繰(てぐり)さんですよね……よかった」

 

「……えぇ。お騒がせ致しました」

 

 

 熊のようなおじさんの輪郭が『ぐにゃり』と歪み、そこにはいつも通りのメイド衣装を身に纏い、ゴツいツールバッグを腰に巻き、どう考えてもそのバッグには収まらなさそうな手斧を携えた天繰(てぐり)さんの姿。

 その背後にはどこか得意気に控える、一本歯の下駄を履いた狩衣姿の少女が三人。

 

 おれのお願いした通り、人死にや大怪我を出さず穏便に……しかしそれでいて二度と立ち入る気が沸かぬであろう程徹底的に脅して見せた、仕事人に。

 

 

 

「け…………結構な、お手前で……」

 

「……恐縮で御座います」

 

 

 この『天繰(てぐり)さんご一行様』が身内でよかったと……今更ながらそのありがたみを、深く心に刻んだのだった。

 

 

 

 








「ところで天繰(てぐり)さん、あのおじさまはお知り合いですか?」

「…………えぇ。……先程申しました、松茸を拐われた知人に御座います」

「あー…………なるほど。てっきり名の知れた武人のたぐいかと……」

「……いえ、只の地主に御座いますれば。……ただ、件の事件に際し垣間見た憤怒の感情が……少々」

「少々」

「……えぇ、少々……ヒトを脅すには過ぎたものかとも思いましたが」

「脅すには過ぎたもの」

「……説得には、ある意味有用かと」

「説得」





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406【業務拡充】積極的登用作戦

 

 

 おれたちの私有地に侵入してきたこともそうだが……おれたちが今回、いつも以上に過剰な防衛反応を示したのには、ひとつの理由がある。

 

 その理由こそ、今回おれたちが目指している目的地に関係するわけだが……今回の目的地およびそこで画策している企画は、いつも以上に周囲を警戒する必要があるためだ。

 

 

 

「よっし到着! このへんなんですが……どうでしょう?」

 

「……ほう、これは」

 

「んー……やっぱ増水してたっぽいね、ここも」

 

「うわまじか。小屋の場所気をつけないと。……いい場所だもんなぁ、とっても涼しげで」

 

 

 

 おにわの山林の某所……玄関から出ておよそ十分程度斜面を下った、澄んだ沢がさらさらと流れる一角。

 いつぞやおれが環境音動画を撮影し(ようとし)、ハンモックを掛けたりお昼寝をしたり霧衣(きりえ)ちゃんとおひるを食べたりした場所だ。

 

 川岸には平坦な土地もあり、穏やかな流れの水場もあり、いろんな用途が浮かんできそうな、ロケーション的にも抜群なこの場所で……今回は『おにわ部』名誉顧問の天繰(てぐり)さん全面監修のもと、とあるプロジェクトを立ち上げようとしているのだ。

 

 

「……そうですね。平坦な砂地も充分な広さが御座います。……建屋を設けるは、冠水を避けるにも斜面を拓くのが良いかと。……幸い、傾斜も緩やかに御座います。削り、(なら)せば、充分な面積は確保出来ましょう」

 

「あの、頭領。樹上に作るのはダメですかね? 真っ直ぐで芯の通った樹がいっぱい在りますし」

 

「……迦葉(カショウ)、本来の目的を忘れるな。御嬢様達に素裸で梯子(はしご)を昇らせる気か」

 

「……でも……楽しそう。二階建て、とか……どう? 頭領」

 

「…………先ずは、平屋にて。脱衣・更衣場を仕上げ……高床小屋は、然る後に考えようかと。……如何で御座いましょう、御屋形様」

 

「ツリーハウスってやつですか!! めちゃくちゃ興味あります!!」

 

「さっすが御屋形様! 話が解るー!」

 

「「迦葉(カショウ)」」

 

「………………御容赦を」

 

「……阿呆姉ぇ」

 

 

 

 天繰(てぐり)さん配下の烏天狗三人娘……ダイユウさんとカショウさんとクボテさん。

 先程から今回の計画に関して、積極的に意見を述べてくれているのだが……というのも、ほかでもない。実はなにをかくそう、他ならぬ彼女達の住処を造ろうとしているのだ。

 

 ……いや、単純に『住処』と称するのは違うかもしれない。

 伝達の齟齬が無いように、今回の計画すべてをご説明させていただこう。

 

 

 

 まず最初に……おれは来る夏に向けて、この沢を遊泳可能な環境に仕立て上げよう……という計画を立てた。早い話が天然プール計画だな。

 

 砂地を掘り下げ、岩を並べ、形を整え、池を造り、沢の水を導き、遊泳可能な水量を溜め置き……完全プライベートの渓流プールを造り(水着姿の霧衣(きりえ)ちゃんを堪能し)たい、というのが第一目標である。

 あの素晴らしい(白ビキニ)をもう一度。

 

 

 次に……更衣室兼休憩室となる小屋をすぐ近くに建設する、という計画。

 

 実際に渓流プールを完成させたとして、自宅で水着に着替えてからここまで(やぶ)を突っ切ってくる……なんていうのもナンセンスだろう。

 おれはまだしも……かわいい霧衣(きりえ)ちゃんや(なつめ)ちゃん、彼女らの乙女の柔肌に傷を付けるわけにはいくまい。

 

 まぁ……お着替えや衣類置き場以外にも、急な雨風を凌いだりお昼ごはんを食べたりお茶を飲んだり。またプールに入らずとも、単純に水音を聞きながら優雅にティータイムを楽しんでみたり。

 小屋ひとつ有るのと無いのとでは、その場の利便性が大きく異なることだろう。

 

 

 そして……奇しくも先程の侵入者を目撃したことで、おれと天繰(てぐり)さん双方とも、その必要性を大きく上方修正する形となった……三つめの計画。

 それはずばり、おれたちが所有(貸借)する敷地内の『警邏拠点』としての役割であり……要するにそれこそが、警備員である烏天狗ちゃんズの寝床だ。

 

 なんでも聞くところによると、おれたちのおうちのすぐ近くの物置小屋を改装し拠点としている天繰(てぐり)さんとは異なり……こちら三人の烏天狗ちゃんズは、要するに『通勤族』なのだという。

 ここ岩波市近辺ではない、ぶっちゃけ高速道路で三十分とか一時間とか掛かるくらいの距離の山に、人知れず庵を建てて拠点としているらしい。……水道は無いけど電気とWi-Fiはあるんだって。

 

 ならこの山を拠点としてもらい、ついでに敷地内の警備もお願いできませんか……とおれがお願いしようとしていた矢先、頭領(であるらしい)天繰(てぐり)さん直々に転属命令が下っていた。……いや言おうとしてたけども。

 とうの三人娘も然して気にする様子もなく、なんと二つ返事で転属ならびに引っ越しを了承してのけた。……いや助かるけども。

 

 

 

 ……というわけで。

 

 渓流プールと、更衣室兼休憩小屋と、警邏詰所兼宿直室。

 これら三つの要素を満たすための、『おにわ部』新たなる挑戦が始まろうとしているのだ。

 ……局長ではなく、名誉顧問(てぐりさん)総指揮のもとで。

 

 

 

「えーっと……今さらですが、本当にいいんですか? 天繰(てぐり)さん」

 

「……えぇ、手前は別段構いませぬ。……昨今の御屋形様の御多忙振りは、手前共も存じて居ります故」

 

「……すみません、完全に労働奉仕させるだけな感じになっちゃって……」

 

「……いえ。……実を申しますと……先日、御屋形様が件の映像を公開して以降……手前の調子が(すこぶ)る好調に御座いまして」

 

「………………ほぇぇ?」

 

「……あーノワ、あれじゃない? モタマ様が言ってた……視聴者さんの支持がそのまま信仰に繋がってうんぬんの」

 

「あ…………あぁー! じゃあなに、つまり……天繰(てぐり)さんが『すこ』されればされるほど、天繰(てぐり)さんの……神力? が上がってく……みたいな?」

 

「…………えぇ、恐らくは」

 

「「「「「おぉーーーー」」」」」

 

 

 驚愕の新事実に、おれたちだけでなく烏天狗ちゃんズも興味津々の歓声をあげていた。

 動画を公開し、視聴者さんたちに喜んでもらうことで、関心と信仰を得られるということは……彼女たちにとっても他人事ではないのだろう。

 

 なにしろ……天繰(てぐり)さん総指揮のもと進行される『おにわ部【水辺開拓編】』。

 こちらで作業担当として活躍していただくのが……ほかでもない、烏天狗ちゃんたちなのだから。

 

 神様や天狗さんたちの事情の、その詳しいところはわからないが……これまでは広く名の知れた天狗でないと、人々から信仰を得ることが出来なかったのだ。

 ダイユウさんたちのような若手天狗でも、こういう形で信仰を得られるというのなら……それはとても魅力的なのかもしれない。

 

 

 

「……では、あらためて。わたしもこまめに見に来るようにはしますし、霧衣(きりえ)ちゃんもお弁当持ってきてくれるとのことですので。……何かあれば、REIN(メッセージ)のほうでも対応しますので……どうか、宜しくおねがいします」

 

「……はい。承りました。……不肖、狩野(カノ)天繰(テグリ)……以下三翼。謹んで拝命致します」

 

「ありがとうございます。……あっ、カメラお渡ししておきますね。使い方は……」

 

「……御心配無く。手前も用意して居ります故」

 

「アッ!!! 最新型!! ハイロゥ(テン)だ!! いいなー!!!」

 

 

 

 

 

 ともかくこれで――言い方は悪いが――おれが何もせずとも、天繰(てぐり)さんが動画のモトを録り貯めてくれる。

 編集の方に関しては、前回の『おにわ部』動画同様、鳥神(とりがみ)さんたち編集スタジオの方々が協力してくれる。

 

 おれたちの拠点の警戒に関しても……そのテのプロが三人も引っ越してきてくれた。安心感が段違いだろう。

 

 

 視聴者さんに『たのしい』を安定供給しつつ、『苗』や『葉』の対処も手を抜くわけにはいかない。

 両方やんなきゃいけないのが、若芽ちゃんのつらいとこだな!!(つらくない)

 

 



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【可愛い子】木乃若芽ちゃんを語るスレ_第三十一夜【揃ってますよ】




いつもよりも短めです。ご期待に添えるか不明です。
重ね重ね申し訳ありません。責任とって局長が






 

 

 

………………

 

 

………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

 

 

0557:名無しのリスナー

 

本当にあのロリ三人のわめでぃあのメンバーじゃねえの!?

野生のロリにしちゃレベル高すぎんだろ!!

 

 

0558:名無しのリスナー

 

何なんだろうな、もう事業計画聞くだけでWAKWAKがDOKIDOKIなんだが??

わかめちゃん男心わかっていすぎじゃない???

 

 

0559:名無しのリスナー

 

渓流プールってことは間違いなく水着シーンあるよな?わざわざプールっていうくらいやぞ?

きりえおねえちゃんの水着姿拝めるんか??全力で振り込むが???

 

和服美少女のおはだとかおしりは価千金の価値がありますが????

 

 

0560:名無しのリスナー

 

てぐりちゃんキャラ濃すぎなんだよなぁ……

すこだが????

 

 

0561:名無しのリスナー

 

事業総監督てぐりちゃんか、まぁあの超絶技巧見せつけられちゃな……

 

 

何が恐ろしいってあの格好で平然とやってのけるんだよな……

あのロングスカートで……

 

 

0562:名無しのリスナー

 

ハデス兄貴のイチオシだ。期待させて貰うとしよう

 

 

0563:名無しのリスナー

 

最近NCとの絡み少なくて寂しいえす;

 

 

0564:名無しのリスナー

 

てぐりちゃんとトリプルロリと初芽ママと

箱全体としての活動はむしろ活発化してるんだろうけど

わかめちゃん局長単品での露出頻度は減ってるよな?

出演はメンバーに任せてマネジメントに移ったってことか?

 

 

0565:名無しのリスナー

 

平然と受け入れてたけど

そもそも個人勢なのに箱つくれるって相当すげぇよな、メンバー全員におちんぎん支払って養わなきゃなんねんだろ?

 

 

0566:名無しのリスナー

 

わかめちゃんがみんなの面倒見て養うママになるってマ?

 

 

0567:名無しのリスナー

 

わかめちゃんマまマママ??

(わかめちゃんがマネジメント側にまわってママになるってマジで? の略)

 

 

0568:名無しのリスナー

 

てぐりちゃんとなつめちゃんはつぶやいたーやんないのかな…………

 

 

0569:名無しのリスナー

 

てぐりちゃんの舎弟三人娘かわいくない?

あんなかわいいのにてぐりちゃんに忠実って

 

夜な夜なエッチなことしてるんでしょ

はやくみせてやくめでしょ

 

 

0570:名無しのリスナー

 

渓流プールと休憩小屋とツリーハウス

そもそも以前デッケェガレージ作ってたし

マジで男心わかりすぎラインナップだよな

ここにピザ窯とウッドデッキが加われば最強じゃん?

 

 

0571:名無しのリスナー

 

マネージャーさんの趣味だろ

わかめちゃん相当マネージャーさん大事にしてるんやな…………

 

 

0572:名無しのリスナー

 

初芽ちゃんマッマに直訴した方がスケヴェが接種できる可能性高いのでは

あの体型正直メチャクチャストライクなので性的に見るぞモリアキ神

 

 

0573:名無しのリスナー

 

そっか、初芽ちゃんマッマの中身…………

それにしてもキャラデザ主が血族になるって数奇すぎるwwwww

 

 

0574:名無しのリスナー

 

えじゃあ一時期囁かれてたマネージャー=モリアキ神説は?

マネお兄さんはモリアキ神じゃねえってこと?

 

 

0575:名無しのリスナー

 

コミフェスでモリアキ神のスケベブック買ったけど、ぶっちゃけ誰が売り子で誰が本人かわかんねーし

そもそも俺マネ兄さんの顔見たことねーわ

 

 

0576:名無しのリスナー

 

箱全体のマネジメントしながら出演するってそれどんな激務だよ

 

 

0577:名無しのリスナー

 

そういやアレってNCの最新技術なんでしょ?

当たり前のように初芽ちゃん使ってるよな?

 

中身男でも激シコボディになれんのスゴいと思うんだけど、

 

なんでのわめでぃあがアレ使えんの?

 

 

0578:名無しのリスナー

 

よく考えるまでもなくモリアキ神がリ美肉してるって意味わかんねーよな……

まあシコだから個人的にはオッケーだけどさ

 

 

0579:名無しのリスナー

 

わかめちゃんも成長すれば初芽ちゃんみたいなえっちっち体型になれるんだ。きぼうをもって

 

……成長、するよな……?

 

 

0580:名無しのリスナー

 

ダークエルフなんだからもっとバインバインムチッムチッになれよ

なんでダークエルフなのにロリ体型なんだよふざくんな

 

 

0581:名無しのリスナー

 

>>573

URのキャラデザ手掛ける程の神絵師が自分の理想の身体を造れないわけ無いんだよな……

実際UR化してる絵師結構いるぞ

 

 

0582:名無しのリスナー

 

>>577 俺は逆かなって思ったが

元々わかめちゃん一派が実用化にこぎ着けた技術をNC側に提供したとかかなって

実際のわめのほうが実在URcas化すんの早かったし

 

 

0583:名無しのリスナー

 

わかめちゃんのほうが実体化したの先だよな

去年末にはもう実体化して巫女さんアルバイトしてたもんな

ちょっと思い出してムラムラしてきたわ

 

 

0584:名無しのリスナー

 

>>557

時系列的にはわかめちゃんのほうが先だし

むしろNC側に何らかの技術提供があったんだと思ってる

最初に目ぇつけたうにたそがファインプレーな形

 

 

0585:名無しのリスナー

 

蚊帳の外なユアライブくんかわいそう

 

 

0586:名無しのリスナー

 

スポンサー特権、という奴ですね。

 

これと私の適合率は98%……まさに、運命。

 

 

0587:名無しのリスナー

 

NWC社の株価爆上がりしてたもんな……

ちくしょー1株だけでも持っときゃよかった

 

 

0588:名無しのリスナー

 

ユラ推しの知人が日に日に元気無くなってってやばいんだが……

 

 

0589:名無しのリスナー

 

確かにユラ所属のURにしてみたらおもしろくない話だよな……

せっかく3Dアバター揃えても競合相手は現実の身体手に入れてるし、視聴者には実体化まだですかとか煽られるし……

おそらくは悪意無しに聞いてるんだろうけど、だからこそタチ悪い

 

 

0590:名無しのリスナー

 

お前らわかめちゃんの話しろよ

 

 

0591:名無しのリスナー

 

ここはのわめでぃあスレだぞ

今日はわうわうクッキングの日だぞ

 

 

0592:名無しのリスナー

 

実際例の実体化プログラム、あれ実質のわめでぃあとNCだけの独占技術ってわけでしょ?

独占禁止法とかに引っ掛からないの?自分達だけで独占してないでもっと一般に公開するべきだと思う

革新な技術を手に入れたならもっと世のため人のために尽くすべき。社会貢献は常識

 

 

0593:名無しのリスナー

 

わうわうクッキングは軽率にガチ恋距離してくれるからたすかる

きりえちゃん蛇口使うとき前屈みになってくれるからたすかる

和服美少女の発育途上のすきまたすかる

 

 

0594:名無しのリスナー

 

なんだこいつ

 

 

0595:名無しのリスナー

 

>>592

国営企業ならともかくたかが一企業が社会貢献のために企業秘密バラすわけねーだろwwww

秘伝のレシピ持ってる飲食店全店に同じこと言えんのかお前

 

 

0596:名無しのリスナー

 

香ばしいなぁ……

 

 

0597:名無しのリスナー

 

どう見ても妬みです本当にありがとうございました

 

 

0598:名無しのリスナー

 

>>592

ていうかそもそもの話

 

のわめでぃあは会社ですらないんだが

 

 

0599:名無しのリスナー

 

囘珠さん産業技術会館が支援したっていう噂は?

 

 

0600:名無しのリスナー

 

こじらせたユラ推しかあるいはユラ所属URの何者かか、もしくはクレバー社の社員様か

 

まぁどうであれわかめちゃんを責めるのはお門違いよ

わかめちゃんを責めるならガチレズロリコンフェアリーが黙っちゃいなぞ

 

 

0601:名無しのリスナー

 

>>599

資金提供って感じの文体じゃなかった?

技術そのものは既にあって、それを実用化させるための設備投資的な感じの協力を、囘珠産業技術会館がーって感じの文体に見えたが

 

 

0602:名無しのリスナー

 

ガチレズロリコンフェアリーwwwwwwww

 

 

0603:名無しのリスナー

 

まあでも実際、ユラからすれば面白くない展開だろうな

わかめちゃんに技術提供を求めてくるのか……あるいは実力行使か……

 

 

0604:名無しのリスナー

 

UR大手二社と業務提携する個人勢エルフ美少女マジなにもんだよwwwwwww

 

 

0605:名無しのリスナー

 

まあでも実際ユラはほとんど身内としか絡まなかったからな

身内以外で絡むとしても数字が見込めそうな、それこそ五十万百万プレイヤーとかとしか絡んでなかったし

 

わかめちゃん側からしたら、うにたそってかNCは知名度が全然無かった自分達を掘り起こしてくれた恩人なわけじゃん?

そこに肩入れするのはわかる気がするわ

 

 

0606:名無しのリスナー

 

実力行使ってまた穏やかじゃありませんね???

 

そんなんが許されるのはエロ同人の中だけにしとけよ

 

 

0607:名無しのリスナー

 

確かに、数千数万だった頃には見向きもしなかったくせに

金のなる木があるってわかった途端に手のひら返してすり寄ってくんのは面白くねーよな

 

ピコ魔王も言ってたしな、以前は酷い扱いしてきたクセにBBABがバズった途端にすり寄ってきたテレビ全部覚えてるって

 

 

0608:名無しのリスナー

 

実際ユラとわかめちゃんの接点これまで絶無だしな

俺も何人かユラ追ってっけどわかめちゃんRTしたのすら見たこと無いわ

 

 

0609:名無しのリスナー

 

わかめちゃんスレで企業間戦争の話題やめてもらえません?

俺はロリトリオの新しい情報がほしいんですけど??

 

 

0610:名無しのリスナー

 

企業間で戦争が起こる

  ↓

企業が新しい世界の支配者になる

  ↓

日本企業がこぞってゲームを作り始める

  ↓

戦力として傭兵が重用される

  ↓

身体は闘争を求める

  ↓

A C の 新 作 が 出 る

 

 

0611:名無しのリスナー

 

ばかやろうおまえそんなん言うならてぐりちゃんの新情報ほしいわ

せめてお顔みせてほしいわ

あとぱんつ見せてほしいわ

 

 

0612:名無しのリスナー

 

個人勢で箱形成してるとこって他にあるか?

Ycasとかでも複数人で活動してるとこって、大抵事務所入ってるか企業のお手付きだよな?

 

メンバーのグッズとか密かに求めてるんだけどどうすればいい?

 

 

0613:名無しのリスナー

 

なつめちゃんのおなか撫でて余生を過ごしたい

 

 

0614:名無しのリスナー

 

俺はなつめちゃん派!!!

 

 

0615:名無しのリスナー

 

きりえちゃんこそ至高

おねえちゃんになって甘やかしてほしい……

 

 

0616:名無しのリスナー

 

ラニちゃんならイタズラ半分でイタズラさせてくれそう

 

 

0617:名無しのリスナー

 

家事ガチ勢きりえおねえちゃんだろ、いいおよめさんになるぞ

 

 

0618:名無しのリスナー

 

初芽マッマは中身男性だからおっぱい揉ませてくれそう

 

 

0619:名無しのリスナー

 

ラニちゃんモチーフのパロディ商品でないかな……

馬TOYsさんはやく……

 

 

0620:名無しのリスナー

 

やっぱおじさんはね、おじさんの性癖を一番理解してくれてるからね……

というわけで初芽ちゃんに一票

 

 

0621:名無しのリスナー

 

【悲報】ここまでわかめちゃん無し

 

 

0622:名無しのリスナー

 

とりあえずおにわ部続報待ち

今から渓流プール取りかかるってことは夏までには出来るか?

つまり今年の夏はついにわかめちゃんのスク水が??

 

 

0623:名無しのリスナー

 

>>621

そ、そんなことないよ!おれはわかめちゃん推しだよ!!

 

 

0624:名無しのリスナー

 

わかめちゃんをもっとかわいがってあげて

 

かわいそうだけがわかめちゃんじゃないんやぞ

 

 

0625:名無しのリスナー

 

いや、でも……だって…………あの子の体型で致すのは……ちょっと罪悪感というか……

 

 

0626:名無しのリスナー

 

わかめちゃんはもう4年くらい成長してから誘ってほしい

 

 

0627:名無しのリスナー

 

やっぱ致すとしたら初芽ちゃんがドストライクなんだよな

 

 

0628:名無しのリスナー

 

初芽ちゃんはスケベブック期待できるんか?

 

 

0629:名無しのリスナー

 

落ち着け中身はおじさんだぞ

声だっておじさんやろ、落ち着け

 

 

0630:名無しのリスナー

 

実際かわいいんだよなぁ若芽ちゃん

 

でも目の前によりえってぃな身体のお姉ちゃんが並んでるとな……

 

 

0631:名無しのリスナー

 

正直性的に見るかっていうと俺は微妙

娘とか娘の友達とかそういう系の「可愛い」だわ

 

 

0632:名無しのリスナー

 

なんでこんな生々しい話題になってんだよwwwwww

 

 

0633:名無しのリスナー

 

は?おれ若芽ちゃんでもふつうにいけるし

 

 

0634:名無しのリスナー

 

業が深い箱だなぁ!のわめでぃあは!!

 

 

0635:名無しのリスナー

 

ガチペドロリコンめ……

 

 

0636:名無しのリスナー

 

でも実際エロゲーのロリヒロインと体系的にはあんま変わらんよな、わかめちゃん

 

 

0637:名無しのリスナー

 

やめないか!!!

のわめでぃあは健全な放送局ってわかめちゃんいってるでしょ!!

局長泣いちゃうぞ!!!!

 

 

0638:名無しのリスナー

 

しばらく見ないうちにどうしてこうなった

ユラとNCの企業間戦争が云々の話してたはずなのに

 

 

0639:名無しのリスナー

 

なんでこんな猥談のノリになったんだっけ……

 

 

0640:名無しのリスナー

 

話は聞かせてもらった!

「のわめでぃあ」新作動画が出る!!

 

 

0641:名無しのリスナー

 

初芽ちゃんがエロいって話?

 

 

0642:名無しのリスナー

 

ΩΩ Ω<な、なんだってー!

 

 

0643:名無しのリスナー

 

亀だけど >>612

かすてらとかに「グッズほしいです」って送ってみればいいんじゃね?

個人勢ならむしろ指針求めてるかもしれんし

 

 

0644:名無しのリスナー

 

でもなぁわかめちゃん最近忙しそうだからなぁ……

初芽ちゃんもてぐりちゃんも可愛いしシコいからすこなんだけど、やっぱわかめちゃんの悲鳴もといお声が聞きたいなって……

 

 

0645:名無しのリスナー

 

世代がバレるぞ

 

 

0646:名無しのリスナー

 

お忙しいだろうにスパチャのお礼は徹底してるんだよなぁ

ちゃんと休んでんのか?あのプロ幼女……

 

 

 

………………

 

 

………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

 

 

0750:名無しのリスナー

 

前スレでもいたけど、わかめちゃんが正義さんである証拠は無いんだよ

どれもただただ「怪しい」って言ってるだけの憶測でしかない

 

むしろ一日署長のアリバイもあるからな

あんなに記者のカメラある中で正義さんやれるわけ無ぇだろ

 

 

0751:名無しのリスナー

 

まぁ実際わかめちゃんにとってしてみれば、のわめでぃあが起動に乗って来て頑張りたいところだろうし

そこをわざわざ正義さん活動で邪魔されたくないだろうな

 

 

0752:名無しのリスナー

 

いうてわかめちゃんの出現頻度落ちてきてるやろ

正義さんじゃないんだったらなんで頻度下がってるん?

 

 

0753:名無しのリスナー

 

実際オカ板でゾンビの報告上がってる時間帯にわかめちゃん生配信してたからな

まぁゾンビってかネクロのほうだったけど

 

 

0754:名無しのリスナー

 

配信頻度とかそんなん個人の事情やろ、体調優れないとか案件抱えてるとか色々考えられるやろが

 

じゃあ聞くがお前なんで仕事してないん?

わかめちゃんにとってはそう聞かれてるようなもんやぞ

 

 

0755:名無しのリスナー

 

前ハープいつのまにか習得してたからな

そういう感じの事故研鑽に充ててるんじゃね?

 

 

0756:名無しのリスナー

 

ていうかブラックゾンビは普通に警察が殴り殺してますし

 

 

0757:名無しのリスナー

 

ネクロマンサー討伐してるのが正義さんなのは多分間違いないけど

だからって正義さん=わかめちゃんって結びつけるのは、こっちは間違い

 

>>750 で言ってるように一日署長のアリバイもあるし、

>>753 であったみたいに生配信中なのにネクロ討伐されてたぞ

俺もリアルタイムでコメントしてたし、わかめちゃんもスパチャにも反応してたし

あれは録画じゃねえって

 

 

0758:名無しのリスナー

 

じゃあ一体誰なんだっていう

 

 

0759:名無しのリスナー

 

他に正義さん務まりそうな心当たりが無いからって、こんなちんちく……いたいけな幼女を正義さん扱いすんのもそれはそれでおかしいとおもう

 

 

0760:名無しのリスナー

 

そもそも正体隠してるからこそ

謎多き正義の魔法使いさんなのであって

 

 

0761:名無しのリスナー

 

正体誰なんだ!?!??って言われても

謎の存在です、としか言えんわな

 

 

0762:名無しの一般客

 

定期的に湧くよな、正義さんわかめちゃん説

 

 

0763:名無しのリスナー

 

正義さんの話題は正義さんスレでやれと何度

 

 

0764:名無しのリスナー

 

若芽さんスレで正義ちゃんの話すんなし

 

 

0765:名無しのリスナー

 

正義さんスレでも正義さんの正体に関しては大した情報もないしな

情報の隠蔽徹底しておられる

 

 

0766:名無しのリスナー

 

わかめちゃんの性技のほうが興味ありますね(メガネクイッ

 

 

0767:名無しのリスナー

 

実際現場を共有してるはずの警察から何も音沙汰無いからな

案外警察のなかにいるんじゃねーの?正義さん

 

 

0768:名無しのリスナー

 

性技レベルいちばん高いのラニちゃんだと思う

 

 

0769:名無しのリスナー

 

まぁ確かにゾンビ駆除してる警察の中に居る方が自然ではあるな

 

 

0770:名無しのリスナー

 

きりえちゃんは絶対たどたどしい手つきでおっかなびっくりコいてくれるし出たのを興味津々で嗅いでくれる

 

絶対受け身

 

 

0771:名無しのリスナー

 

まだこの流れか!!!

のわめでぃあは健全だっつってんニョボ!!!

 

 

0772:名無しのリスナー

 

いやでも性技でいえば初芽ちゃんじゃね?おじさんの求めること全部わかってるでしょ??

 

 

0773:名無しの一リスナー

 

もうだめだこのスレ

 

 

0774:名無しのリスナー

 

マネ兄さん助けて!!!!

 

 

0775:名無しのリスナー

 

なんでこの流れ再燃した!!!どうしてこうなった!!!

 

 

0776:名無しのリスナー

 

性技はわからんけどいちばんエロい目に遭わせたいのはラニちゃんだな

ようせいさんの体液は古来から万病に効くって相場は決まってま寿司

 

 

0777:名無しのリスナー

 

まぁでも実際のわめでぃあは健全だけどこのスレが健全じゃなきゃいけない理由は無いわな

 

 

0778:名無しのリスナー

 

そんな……ラニちゃんが地下室されるなんて……

 

 

0779:名無しのリスナー

 

つまりラニちゃんから対ゾンビ用の聖水が採れるって??

 

 

0780:名無しのリスナー

 

ボクっこ妖精さんから聖水を採取するだけのアルバイトありませんか

いえ決してやましい気持ちはなくてゾンビ対策に少しでも貢献したくて

 

 

0781:名無しのリスナー

 

青色の悪夢が

 

 

0782:名無しのリスナー

 

でも地下室されて搾られてるラニちゃんは見てみたいな

 

 

0783:名無しのリスナー

 

ラニちゃんはいっつも性的だから……

 

格好からして性的だから……

 

 

0784:名無しのリスナー

 

ラニちゃん実際どんなぱんつはいてんのか気になる

あんなサイズのぱんつとかドール用くらいしかないのでは?

あれ履き心地どうなん?

 

 

0785:名無しのリスナー

 

けんぜんにがんばろうと努力してるわかめちゃんを平然と嘲笑うかのようなスレの流れ

悲しいけどこれってネBBSなのよね

 

 

0786:名無しのリスナー

 

わかめちゃんかわいそう(かわいい

 

 

0787:名無しのリスナー

 

>>784 しらねえよwwwwwwww

俺に限らずこの世界でドール用パンツの履き心地とか知ってるヤツなんていねえええよwwwwwww

 

 

0788:名無しのリスナー

 

>>784

ようせいさんがぱんつはくないわけないだろ起きろ

 

 

0789:名無しのリスナー

 

今この流れだから言えるけどさ

わかめちゃん絶対ラニちゃんのだいじなところ見たことあるよね

 

 

0790:名無しのリスナー

 

なんの話してても結局エロに流される

 

 

0791:名無しのリスナー

 

なんの話してたんだっけって遡ってみたら正義さんわかめちゃん説の話だったわ

じゃあ別に流されてもいいんじゃねえの

 

 

いや、なんでこんな流れになったのかは置いといて

 

 

0792:名無しのリスナー

 

>>789

そんなこと言ってもな

そもそも同じ屋根の下やぞ?裸の付き合いしてるに決まっとろうが

 

 

0793:名無しのリスナー

 

あらぁ~~~~~

 

 

0794:名無しのリスナー

 

【悲報】のわめでぃあはえっち

 

 

 

………………………………………………

 

 

………………………………

 

 

………………

 

 

 

 



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407【戦力拡充】光る!鳴る!喋る!

 

 

 ラニとセイセツさんたちが【変身】デバイスを造り上げたときにも思ったことなのだが……魔法の道具はもしかすると、現代の家電製品に近いのかもしれない。

 

 電力の代わりに魔力を動力源として、蓄電池の代わりに【蓄魔筒(バッテリー)】を挿入し、呪文(スペルコード)をスイッチの代わりとして作動し、要求された動作を動力源が供給される限り行うもの。

 その道具の機能を決定する呪文(スペルコード)さえ用意することが出来るならば、その応用の幅は無限大……それこそ『できない』ことが『できる』ようになる可能性は、無いわけじゃない。

 

 

 

 たとえば……人間として当たり前の動作さえ困難になる程に小柄な身体となってしまった少女を、【蓄魔筒(バッテリー)】の魔力で【浮遊】させる魔法道具。

 

 たとえば……投射のための機器を一切必要とせず、物体を決して燃焼させることなく『燃焼しているような幻影』を纏わせる、【演出】のための魔法道具。

 

 

 そんな摩訶不思議な、それでいて『痒いところに手が届く』便利な魔法道具を作れるというのなら。

 それこそ……この現状を打破するための、斬新かつ革命的な魔法道具を作ることも、充分に可能なのではないだろうか。

 

 

 

「ボクの本懐は魔法研究だからね。イメージを形にしてくれる技術者……優秀な技工士にも、心当たりができた。……やってみせるさ」

 

「……手前、で御座いますか? ……白谷様のお眼鏡に叶うかは疑問に御座いますが」

 

「ぶっちゃけ、圧倒的。それこそボクの顔馴染みの…………顔馴染みだった技工士と、たぶん同じかそれ以上の技術力だよ。テグリちゃん」

 

「……恐縮に御座います」

 

 

 

 

 あれこれと試行錯誤するための技術者も抱き込めたし、動力源に関しても……幸か不幸か目処が立った。

 ヒノモト建設化学技術部が抽出に成功した『含光製油』……これを【魔王】一派が齎した理由こそ不明だが、これそのものは極めて上質な魔力素材であることは確かなのだ。

 

 

 現在、主として世間を賑わしている行動体、『葉』……まぁ、ブラックゾンビ。それ自体は現状の装備で、現在の警察官による対応でなんとかなっているが……このままでは済まないということを、おれは知っている。

 

 あの『葉』と同様の体組織を持ち、しかしながら到底似つかぬほどの運動能力と狂暴・凶悪さを付与した上位種……『獣』。

 そして更に高い運動能力と、なによりも飛行能力、それでいて『葉』以上の攻撃能力を備えている上位種その二……『鳥』。

 終いには……その巨体と飛行能力と火力と耐久性と、おれでさえ始末するのに並々ならぬ苦労を強いられるる羽目になった、忌々しい最上位種……『龍』。

 

 出し惜しみをされているのか、それとも出せない理由があるのか……幸いなことにこれまで姿を見せなかったそれら手札を、まだ【魔王】は伏せたままだという事実。

 その事実がある限り、決して安心することはできない。

 

 いちおうおまわりさんには『いつもとは違うヤツが出たらすぐに呼んでください!』とは伝えてあるが……『龍』が都市部に出現と同時に口腔砲(ブレス)をぶっぱなす、なんていう最悪の事態が起こらない保証は……残念ながらどこにも無いのだ。

 

 

 

 そういうことなので、色々と備えておくに越したことはない。

 ラニと軽く意見のすり合わせを行ったところ、やはり『現場で対処に当たるおまわりさんの強化装備を考えるべきだろう』との認識を共有するに至った。

 

 というわけで……優先順位一、二、三。とりあえず三つほど『できれば作りたい』魔法道具が思い浮かんだので、備忘録もかねて記しておこうと思う。

 

 

 

 まず優先順位第一位。おまわりさんたちの命を守るための『防御装備』だ。

 

 現状おまわりさんたちには、『ゴカゴアールEX』で強化されたシールドやヘルメットやボディアーマー等を装備して貰っている。

 動きの緩慢な『(ゾンビ)』が相手であればそれでも充分かもしれないが、それらを装備していても防具で保護できない部分は普通に無防備だし、もしこの先『獣』の牙や『鳥』の足爪が振るわれるようなことになれば……お世辞にも防御力は『充分』とは言いがたい。

 

 なので、要求するスペックは単純にそれらの完全上位互換。イメージとしては『着込む』防具ではなく、【防壁】を生じさせる魔法道具である。

 小っちゃい天使配信者(キャスター)セラフさんの専用デバイス……それを創るために、みんなであれこれ悩んだ甲斐があった。

 基本的な設計はほぼそのまま流用できるし、あとは【蓄魔筒(バッテリー)】の挿入数を増やしたり、登録呪文を【浮遊】から【防壁】に置き換えたりと、ちまちました小改修を施せば良いだけだ。

 

 生産ライン……というか、作り手である木材加工や鍛冶彫金の職人さんは、鶴城(つるぎ)さんが囲っていてくれているはずだ。

 どれくらいの規模で生産できるかはわからないが……やっぱり、可能な限りの量を確保していきたい。

 

 

 続きまして……優先順位第二位。魔力由来の物質を知覚出来るようにするための、視覚装置。

 

 こちらはいうなれば、魔法道具版の赤外線ゴーグルのようなもの。おれたちの扱うような【魔力探知】とまではいかずとも、()()()()()()の魔力の流れや反応をゴーグル型のディスプレイに投影し、魔力由来の現象――つまりは【魔法】――や、その兆候を知覚させることを目的とする。

 

 もちろん、完全に手探り状態での製造となる。難易度は正直かなり高いだろうが……しかし実戦投入がなされた際には、その恩恵は計り知れない。

 ユニットさえ完成させてしまえば、あとは実装する魔法条文(スペルコード)に【熱量】【生体反応】等バリエーションを持たせ(あるいは同時実装してしまい、更に切り替え機能を持たせ)ることで、【魔力】を探知する以外にもマルチに利用できる、汎用性の高いデバイスとして成立させることが出来るだろう。

 

 そして何よりも……()()()()()()の魔力現象、つまりは『苗』の存在を知覚することが出来るようになるのだ。

 

 

 それを踏まえて……優先順位第三位。魔力由来の構造物に干渉するための手袋(グローブ)、ないしは手甲(ガントレット)

 これの提案理由は、単純にして明快。前述の魔力探知ゴーグルによって視認した『苗』を……おれたちの介入を必要とせずとも、直接除去できるようにするためだ。

 

 ただこれに関しては、さっきのゴーグルよりも難易度が高い。

 というのも、おれやミルさんやラニちゃんが『苗』を取り除こうとしている際には……なんというか、直感的に【(わざわい)を取り除こうとする】系の魔法を行使しているようなのだ。

 

 奇しくもあの『種』によって生じた変化によって近似点を備え、そして『それを取り除かなければならない』という意思のもとで生じた、無意識の干渉魔法……それが『おれたちのみが『苗』に干渉することができる』理由らしい。しらんけど。

 

 

 

「三つ目に関しては、まず『『苗』に触れる』ための魔法を作るところから始めなきゃならない。巧妙に位相をズラした存在である『苗』に、こちらの……周波数? を合わせてあげる感じのイメージで。ほんの一瞬、一部位だけズラすだけなら……たぶん、そんな負荷も掛からない」

 

「位相をズラす、って…………そんな大それた魔法、本当に完成できるの?」

 

「…………実をいうと、もう材料は揃ってるんだよね。……ねっ、ナツメちゃん」

 

「えっ?」

 

「……んに?」

 

「あっ(察し)」

 

「??? …………な、何? 何だ??」

 

 

 

 ……そうだ。(なつめ)ちゃんたち一部の神使が行使できる【隔世(カクリヨ)】の術、あれこそまさに『任意の者の位相をズラす』魔ほ…………術、に他ならない。

 これまでは『魔力を持つ者』全てを対象に行使されていた()()を、『手首から先のみ』『掴む瞬間だけ』に限定する。これならば【蓄魔筒(バッテリー)】の魔力でも賄える(可能性がある)し、装備品の形にしてしまえば誰にでも扱えるようになる(かもしれない)のだ。

 

 困ったときの神頼み、とはよくいったもので……この【隔世(カクリヨ)】の術を理解できれば、なるほど確かに『苗』対策も一層の飛躍を見せてくれるかもしれない。

 

 それはとても喜ばしいこと……なのだが。

 

 

 

「…………無理しないでね、ラニ」

 

「なにを今さら。……ここで踏ん張らなきゃ、ボクが惨めに落ち延びた意味が無い」

 

「だとしても。…………無理しないで」

 

「………………はっ。『おまいう』ってやつだよ、ノワ」

 

「んええ!?」

 

 

 

 少しずつ、しかし着実に、幻想(ファンタジー)によって浸食されつつある……この世界。

 

 (混沌)の手勢を防ぎきれるか、押しきられるか。ここがひとつの分水嶺だと、理解してはいるのだが。

 

 

 

 休む間もなく働かなきゃいけないんだろうけど、命と身体を守るためにも休まなきゃいけない。

 どっちもらなきゃいけないのが……『正義の魔法使い』一味のつらいところだな!!(つらくない)

 

 



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408【戦力拡充】正体見極め作戦

 

 

 定例配信およびほか週数回の配信を(極力)欠かさず行い、局長としての活動と存在のアピールをしっかり行いつつ。

 

 自分および所属メンバーの撮影した映像(りょうり部・おにわ部・おてて部・げーむ部……などなど)の編集依頼を発注し、また納品された動画をチェックし、完成品をタイミングを見計らいながら定期的に投稿しつつ。

 

 配信の際に寄せられる暖かな声と支援……『すぱちゃ』に対するお礼のお言葉も、細かな時間を見つけてはハンディレコーダーで録っては送り録っては贈りを繰り返しつつ。

 

 

 そして……世間を騒がせる(混沌)の手勢を、『正義の魔法使い(の一人)』として追い払いつつ。

 

 日々の肉体的・精神的な疲労を……かわいいかわいい同居人たちに、あの手この手で癒してもらいつつ。

 

 活気を取り戻しつつある温泉街、その一等地にたたずむ温泉旅館を、何度かお忍びで堪能させていただきつつ。

 

 

 

 そんなめくるめく激動の日々が続き、早いものでもう七月。気温も湿度も高くなってきたし、そろそろプール日和かもしれない。

 

 しかし今日のところは、プールにうつつを抜かすわけにはいかない。

 おれたちにとっていろんな意味で大切な……久しぶりの『遠征(≒遠足)』の日なのだ。

 

 

 

「春日井さんとは現地で良いんすよね?」

 

「うんそう。なんかねー工場の近くにコンビニがあって、そこの駐車場で十四時に待ち合わせって」

 

「十四時ならまあ……昼メシ食っても余裕ありそうっすね」

 

「そうエヘッだよね。えへへッ」

 

「先輩ヨダレ……いや、まぁわかりますけど……」

 

 

 昨日のうちに給油も済ませたし、ハイベース号の準備も万端。水タンクも消耗品もふわふわ毛布も抜かりない。

 

 そうこうしているうちに、可愛(カワ)い子ちゃんたちも準備を終えたようだ。

 しっかり戸締まりを確認してくれた霧衣(きりえ)ちゃんと、彼女にベッタリな(なつめ)ちゃん……遠足の装いの二人があわただしくも可愛らしく乗り込み、保護者役のラニちゃんからオッケーの合図が下る。

 

 

 

「それじゃ……ごめんだけど、ノワ」

 

「ん。安全運転でいくから……寝てていいよ、ラニ」

 

「うんー…………」

 

 

 壁面収納の一部に備え付けられた、ラニちゃん専用の『おやすみボックス』――周囲にふわふわタオルを敷き詰めた、ラニちゃんの体型に近づけたサイズの専用ベッド――に潜り込み……小さくて勤勉な魔法研究者は、やがて健やかな寝息を立て始める。

 無駄な広さのないこの『おやすみボックス』であれば、走行中の揺れや加減速で大きく揺さぶられることもない。

 

 彼女はここ数日……魔法道具用の魔法構築を間に合わせるべく、朝から晩を経て深夜まで働きづめだったのだ。

 勤勉過ぎる彼女の尽力で、驚異といえるハイペースで『防御装備』と『視覚装備』の試作品(プロトタイプ)が組み上がったわけだけど……ラニにとってはまだまだ気が抜けない状況なのだろう。

 

 本当に……移動中の時間だけでも、ゆっくり休んでほしい。

 

 

 

「じゃあま、出発しましょ。時間遅くなってお昼が食えなかったら、おれは一生後悔する」

 

「そこまでっすか。……まぁわからんでもないっすけど」

 

「わたくしも! おにく! たのしみでございまする!」

 

「我輩もである。最上位の肉なのだろう? 安心せえ、御代はちゃあんと身体で払うゆえ」

 

「「ぶふーーーーっ」」

 

 

 

 (なつめ)ちゃんの爆弾発言に心を乱されそうになりながらも……朝六時、いざ出発である。

 ピンク色に染まりそうになる思考を振りきって、おれは運転に専念する。

 

 

 本日の目的地は、三恵(みえ)県の松逆(まつざか)市。

 そして第一の目標は……とってもとっても楽しみな、お昼ごはん。

 

 そうとも、日本三大和牛と名高い松逆(まつざか)牛……本日はなんと、その『すきやき』のお店を予約してしまったのだ!

 優勝まちがいなしですよこれは!!

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

 っというわけで、敷地内から別荘地内道路、そして県道へ。

 

 これまでも何度かアピールさせて頂いているように、おれたちが拠点を据えている岩波市の滝音谷フォールタウンは『誉滝(ほまれたき)』スマートインターに程近く、こと車での遠出に際しては『なかなか』の利便性を誇る。

 

 都市部からは結構距離があるので、買い物なんかで普段使いするには、さすがにちょっと向かない。

 移動の時間と高速料金を考えると『とても便利』とは言いがたいが……しかしそうはいっても、ほぼダイレクトで高速道路に乗れるのだ。

 今日のように、最初から遠出することが決まっているのであれば、下道の交差点や信号に悩まされずに済むこの環境は非常にありがたい。

 

 

 

 というわけで、第二東越基幹高速(下り)に乗って、西方向へ。

 山間のトンネルと橋架のオンパレードを抜け、車はやがて愛智県の市街地エリアへ。しかし中心地である浪越市方面には向かわず、浪越南ジャンクションを西進。今回はそのまま海方向を目指す。

 

 

 浪越港を跨ぐように架けられた巨大な橋……片側三車線の高速道路、神々見(かがみ)湾岸道路。

 浪越市港区の重工業地帯を眼下に望むこの高速道路は、中日本エリアの工業と物流を支える大動脈だ。この真下に広がる巨大な港湾エリア各所の埠頭から、工業製品や原材料が連日連夜上げ下ろしされている。

 

 ……それらあまりにも大掛かりな、見渡す限り広がる鋼鉄仕掛けの景色を……窓に張り付きながら眺めている二人。

 おてては窓に『ぴたっ』と張り付け、おめめは真ん丸に見開き、三角形のおみみを『ぴーん』と伸ばし、おしりから生えるしっぽは縦横無尽に暴れまわり……これまで見たことが無かったであろう日本の景色に、どうやらびっくりしてくれたようだ。

 

 

 

「先輩……」

 

「ご、ごめんて。もう余所見しないから」

 

「本当頼んます。まわり大型トレーラーばっかですし、メッチャ怖いんすよ」

 

「ッス……マジスマセン…………」

 

 

 ……運転中、とくに高速道路走行中の『よそ見』は、絶対にだめだぞ。

 おれはエルフだからなんとかなった。エルフじゃなかったらあぶなかった。

 

 

 

…………………………

 

 

 

「……よし。みんなー休憩だよー」

 

「はーい」「は、はいっ」「うむ?」

 

 

 そんな重工業地帯、浪越港を越えて……越えている途中で県境を跨ぎ三恵(みえ)県へと突入し、そのまま神々見(かがみ)湾沿いをぐるっと迂回するように進みまして。

 おうちを出発してから、合計およそ三時間。目的地までおよそ三分の二程度を走破したおれたちは、小休憩のため御斎所(ございしょ)サービスエリアへと停車していた。

 途中の湾岸永嶋(わんがんながしま)パーキングエリアで一回おしっこ休憩したので、本日二回目となる小休憩だな。

 

 さすがに長時間座りっぱなしは身体にもよくないし、エルフのおれでも集中しっ放しは身体によくない。咄嗟の判断力も低下してしまうので、やはり適度な休憩が望ましい。ジャフさんも言ってた。

 

 

 それに、いちおうわれらがハイベース号には(いつぞやおれがドア大解放したままお世話になったように)おトイレが備わっているのだが……下世話な言い方になるわけですが、一回ずつ専用凝固剤を使って密封処置を施すのには……まぁ、ランニングコストがですね。少々とはいえ掛かるわけでして。

 なので車内トイレは最後の最後の命綱として、普段はやはりサービスエリアなんかでお手洗いをお借りするのが望ましいわけです。

 

 

「じゃあー……十時には出たい……かな? それまでに各自戻ってくるように」

 

「了解っす。オレは単独行動させて貰いますが……」

 

「……わ、わたくしは…………できれば、若芽様と……」

 

「我輩も家主殿と、ねえさまと一緒に動こうぞ」

 

「ン゛ンッ!! 尊い(てぇてェ)!!」

 

 

 

 ふっふっふ……こうして人々にお見舞いするのは、いつぶりになるだろうか。

 

 遠出のときのおなじみ、『おれたちの存在そのものが広告』作戦。(なつめ)ちゃんの加入とデレにより、これまで以上に高火力を叩き出す超必殺技を……思う存分披露して差し上げようではないか。

 

 

 ふははは、悶えろ。竦め。

 この子らの尊さをSNSにアップしながら○んでゆけ。

 

 

 



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409【遠征撮影】日本三大WAGYU

 

 

 動画撮影の大部分を霧衣(きりえ)ちゃんや天繰(てぐり)さん、そして初芽(はつめ)ちゃんに依存しているとはいえ……おれ自身はべつに、完全に動画撮影から身を引いたわけではない。

 実際SNS(つぶやいたー)や配信時のコメントなどでも、嬉しいことにおれの出演を期待してくれてる視聴者さんがちらほらと見られたのだ。

 

 ……まぁ、その半分くらいはディレクター陣に弄ばれるおれの悲鳴が目当てだというが……それでも、求められていることには変わり無い。

 

 

 というわけで、貴重な『わかめちゃん』需要(ニーズ)に応えるためにも、このあたりで一本撮っとこうかと思いまして。

 つまりなのでこれは決して、決してわたくしの私利私欲によるものではなくてですね、ひとえにわれらが『のわめでぃあ』の発展に寄与するものであってつまりは必要経費なわけででしてですね。

 

 

 

「いや御託は別にいいっすから。わかってますから。大丈夫っすから。早いとこ撮るもん撮って店入りましょ」

 

「し、しょうがないなあ! そこまでいうなら入ってあげようじゃないの!」

 

「いや、えっと…………ソッスネ……」

 

「えへっ。えへへっ」

 

 

 待ちに待ったお昼どき。上機嫌なおれたちが到着したのは、三恵(みえ)県は松逆(まつざか)市にある松逆牛料理のお店『神楽舞』さん。

 どこからどう見ても高級感を漂わせまくる、間違ってもおれのような平民が軽いノリで近づくことなど出来そうもない、控え目に言って『名店』。おれも春日井さんからの紹介でもなければ、ランチの選択肢にすら上がることは無かっただろう。

 

 せっかくの高級店ならば、ぜひとも動画に収めさせていただきたい。なので予約のときダメもとで交渉してみたのだが……なんとあっさりオッケーが出た。

 完全個室だから問題ないんだって。……おぉ、高級店。

 

 

 

 ぴしっと整ったスーツ姿の店員さんに案内され、個室のひとつへと通される。

 全体的に和風の雰囲気のお店ながら、席はテーブルと椅子の洋風な感じだ。おじさんには長時間の正座は少々堪えるので……これは助かった。

 

 四人席ながらテーブルそのものはかなり余裕があり、窮屈さを感じさせない。テーブルの上には既に小さなコンロが一人ひとつずつ置かれ、これから運ばれてくるあれやこれやの期待が高まっていくのが実感できる。

 大きな窓からは中庭を伺うことができ、室内ながらとても解放感を与えてくれる。それでありながら真ん中らへんの高さは曇りガラスになっていて、他の個室のお客さんと目が合うことも無いだろう。

 

 窓から光が入ることを期待して……出入り口側におれと霧衣(きりえ)ちゃんが陣取り、お庭側の大窓を背にモリアキと(なつめ)ちゃんを配置する。

 今回はモリアキが撮影担当のスタイルになるので、対角線からおれたちを狙えるように、いちばん離れてる席に配置した形だな。モリアキの隣が嫌だってわけでは決してないぞ。

 なおラニちゃんはモリアキのすぐ横で姿を消している。……店員さんには、見られるわけにはいかないのだ。

 

 

 

 こうして、万全の体制で待ち構えていたおれたちのもとへ……ついに()()が届けられる。

 

 すき焼き専用の平たい鉄鍋と牛脂、大きな徳利に入れられた香り高い割下、葱や椎茸や春菊やえのき茸等のお野菜と、焼き目のついたお豆腐。

 そしてなによりも……鮮やかな肉の色に白く細かなサシが入った、見た目からして綺麗で美味しそうな松逆(まつざか)牛の薄切りロース肉。

 

 

 

「「「うわぁーーーー…………」」」

 

 

 歓声を上げられるおれたち三人は、まるで子供のように歓声を上げ……そして歓声を上げられない二人は、ものすごい顔で声を我慢しつつ目を輝かせ。

 モリアキが回しているカメラの前、そしておれたちのすぐ目の前で、手慣れた店員さんの手によってすき焼きが仕上げられていく。

 

 コンロに火をつけ鍋を熱して牛脂を溶かし、まずはネギを焼いていく。

 お部屋にネギのいい香りが立ってきたら、本日の主役である松逆(まつざか)牛ロース肉が……一枚(ひとり)、また一枚(ひとり)と旅立っていく。立派なすきやきになるんだよ。

 おれが牛肉との別れを惜しんでいる間にも、薄切りでサシの入りまくったお肉にはどんどんと火が通っていき……霧衣(きりえ)ちゃん(なつめ)ちゃんの肉食ガールの目付き顔つきがヤバイ。

 そうしてトドメのように、徳利から割下が鍋へと回し入れられ……しょうゆとみりんと出汁のいい香りが加わり、嗅覚に超絶大ダメージを与えていく。霧衣(きりえ)ちゃん死んでないよな。いきてた。よかった。……お顔すごいが。

 

 あとは、残されたお野菜やお豆腐やしらたきが彩りよく植えられていき……感極まって涙さえ浮かべているおれたちの目の前へ、おひつからよそわれた白ごはんとお味噌汁と、忘れちゃいけない生卵が配膳され……。

 

 

 

「それでは、何かございましたらお呼び下さい。ごゆっくりどうぞ」

 

「…………ふぁぁーい」

 

 

 

 きれいなお辞儀を残して店員さんが退室し、個室にはおれたち五人とおよそ考えうる限り最強な『すき焼き』だけが残され。

 

 

「いただきます!!」

 

「「いただきます!!!」」

 

 

 肉食系ガールズはお上品にがっつき始め、初手から松逆(まつざか)牛をお口に運び……途端にそのお顔が『驚愕』に染まる。

 お目目を『くわっ』と見開き、お耳も『ぴーん』と伸ばされ、頬をほんのりと上気させたまま、おくちはゆっくりと咀嚼を始める。完全にトロけてますねこれはね。

 

 かわいいけもみみ美少女の可愛い言動に幸せを感じながら……卵を溶き終わったおれもいよいよもって、くつくつと煮えるすき焼きに箸を伸ばす。

 カメラを回しているので、あまりお下品になることの無いように。しかしながらしっかりと、おれは日本屈指のお味を堪能させていただくのだった。

 

 

 

 

「いや……マジやばいっすね、これは」

 

「ギューニクとたまご……このタレがまた……おいひい、おいひいよぉぉ」

 

「やばすぎんよな……とにもかくにも肉がヤバい。割下だけじゃなくて、まずもって肉の脂が甘いんだろうな。おまけにエグいほど柔らかい……」

 

 

 完全に語彙力が消失し、小学生並みの感想しか出てこなくなってしまっている我々だったが……とりあえずお味のほどは疑うまでもなく大満足だ。

 わうにゃう姉妹も二人なかよく『とろん』とした表情で、お口いっぱい幸せいっぱいの様子だ。うーんえっちです。

 

 

 それにしても……さすが日本が誇る三大和牛のひとつ。聞きしに勝る結構なお手前で。

 ヤバいくらいおいしそうなお肉とお料理も、滅多に来れないだろうお店とお部屋の雰囲気も、そして美味しさのあまり恍惚顔になっちゃってる二人の可愛いお顔も、何から何までバッチリ収めることができた。

 

 お一人あたり……五桁円を支払った甲斐があるというものだ。

 ただ合計金額もギリギリ五桁に収まったぞ。よかったね。わあい。……大田さん案件(おしごと)お待ちしてます。

 

 

 

 

 

「ご馳走さまでした。ものスッゴく美味しかったです」

 

「ありがとうございます。またお越し下さいませ」

 

「また来たいです~~」

 

 

 

 おなかも満たし、映像も押さえ、お会計も済ませ、意気揚々と『神楽舞』さんを後にするおれたち。

 しかし、やはり県警のおえらいさんがお勧めするほどの名店……客層もやはりそういう、会社社長とか役員とか、いわゆる上流階級の方々が多いのだろう。

 駐車場にもお高そうなセダンとか、見るからに高級車が並んでおり……われらのハイベース号の浮きっぷりが、なんかここまで来ると清々しいな。

 

 

 

「――――、――――りが――! すっごい――――たぁ!」

 

「はっはっは。――――て――、―――楽しんで貰えたなら、――――も嬉しいよ」

 

 

 おれたちの後を追うように、お店の玄関から出てきた二人組……まさに会社役員といった風体のおじさまと、腕に絡み付く年若い女の子。

 ……ちょっと見ちゃいけない光景を見てしまった気もするが、たぶん気のせいだろう。◯◯活なわけないよな。きっと親子だ。仲睦まじいなぁ。

 

 

 

「もー嬉しいー! ありがと専務さん! 今夜は楽しみにしててね、お礼にいーっぱい()()()シてあげるから!」

 

 

 

 ――――はいアウトぉ!!!

 いったいどこの誰ですか、白昼堂々◯◯活に精を出しちゃってる悪い子ちゃんは。全くもってけしからん!!

 

 

 特に深い意味もなく、むしろ自然な流れで声のする方へと、若干の興味と共に目を向ける我々。

 

 無垢な表情の二人と、羨ましそうにしている一人と……途端に顔を引きつらせる、二人(おれたち)

 

 

 

(…………ラニ、緊急脱出準備)

 

(落ち着いてノワ。近くに一般人も居る。()()()とて強行手段には出にくいハズだ)

 

(それでも……いざってときは三人をお願い)

 

(……わかった)

 

 

 

 ミニスカートとオーバーニーソックス、おへそがチラチラ覗くシャツと、薄手の長袖アウターウェア。腕を絡めて『専務さん』に控え目な胸を押し付けるその目付きは、見た目の年齢とはそぐわぬ程に淫靡なもの。

 ライトブラウンの艶やかな髪を靡かせ、不自然なほどに可愛らしく愛嬌を振り撒く……歳の頃は十代の中程に見える、彼女。

 

 

 おれと、姿を隠したままのラニは……そんな彼女の名前を、そしてその本性を知っている。

 

 

 

 ……佐久馬(さくま)(すてら)

 

 おれたちと敵対関係にある『魔王』メイルスの娘にして……【愛欲(リヴィディネム)】の力を与えられた『使徒』たる少女。

 この世界の存亡を左右する、重要参考人である彼女の目が。

 

 

 

 おれたちの姿を、捉えた。

 

 



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410【現場視察】不意の遭遇

 

 

 今さら言うまでもなく、おれたちと『魔王』メイルスとは因縁浅からぬ間柄である。

 

 それこそラニに至っては……前世においては住む世界ごと滅亡に追い遣られ、この世界に流れ着いてからはおれ共々『素材』として身体を狙われ。

 おまけに……忘れもしない三月。目の前の彼女と同じ『使徒』の一人である宇多方(うたかた)(しず)の手によって、メディアを通じて全世界へ向けた『宣戦布告』がなされたのだ。

 

 

 他でもない『魔王の使徒』が現れたというのなら――それこそ(しず)ちゃんがそうしているように――おれたちは大抵、とても厄介な事態に陥る羽目になるのだが……残念ながら今回においても、それは同様であるらしい。

 

 

 

 

 

 

「わかめちゃんじゃーん! ……え、ちょっとマジで? チョーぐーぜーん! ベイシティぶり? やだーわかめちゃんもお肉食べ来てたの? きゃーもー相変わらず常識外れに可愛いねぇー! チャンネル見てるよー! 今日も撮影してたのー!?」

 

「エッ!? エッ、アッ、アッ、エット、アッ、アッ」

 

「きりえちゃんもおひさしぶり! お風呂以来だねぇーあたし覚えてる? キャー和服かわいいー(ナマ)きりえちゃん可愛いー! なつめちゃんも可愛いー! こんにちはなつめちゃん! あたし佐久馬(さくま)(すてら)! よろしく!」

 

「えっ、う、うむ」

 

 

 

 一触即発の雰囲気になる……と思い込んでいたおれたちにとって、あまりにも想像と乖離した現状に目を白黒させてしまっているのだが……それもまあある意味仕方ないことだろう。

 

 なにせおれたちは――おれと霧衣(きりえ)ちゃんと(なつめ)ちゃんは――敵であるはずの『魔王の使徒』に、容姿をひたすらベタ褒めされているのだ。

 

 

 

(ねぇ、ラニ……これってもしかして)

 

(…………そうだね。理由は全くわからないけど)

 

 

 同性相手に対しても一切気兼ねすることなく、妙に距離が近く艶かしいスキンシップが行われているこの状況。当初こそ戸惑いの感情を露にしていた霧衣(きりえ)ちゃんも、なんだかまんざらでもなさそうに包容力の片鱗を見せ始め、正直非常に尊いのだが……それはまぁ置いといて。

 

 おれたちの見立てが正しいのだとすれば……どうやら彼女、佐久馬(さくま)(すてら)ちゃんは……『おれたちに敵愾心を抱いていない』ように思われてならない。

 

 

 同僚であり、姉であるはずの宇多方(うたかた)(しず)ちゃんが、おれたちを明確に『敵』と定めて行動しているにもかかわらず。

 志を同じくするはずの佐久馬(さくま)(すてら)ちゃんには……どういうわけか、その感情が伝わっていない。

 

 

 

「すごいねぇー……あたしも見たよ、にじキャラのプレスリリース。きりえちゃんの銀髪キレーだよねぇー……」

 

「はわわわわわうわうわうわう」

 

 

 

 ……確かに、いつぞや浪越大附属明楼高校に(こっそりと)お邪魔した際、野球部員男子数名と『お楽しみ』に及ぼうとしていたところに割り込みを掛けたのは……(全身鎧を身に纏った)勇者ラニちゃんだ。

 おれは彼女の生み出した『葉』の駆除こそ行ったものの、直接の面識は無い。おれが一方的に彼女の顔(とピンクの下着)を盗み見ていただけだ。

 

 なので……彼女の中では、おれこと『若芽ちゃん』が『勇者サマ』の仲間であると紐付けが出来ていない。

 おれたちのことは、恐らく単純に『高層ホテルの大浴場で出会った可愛(カワイ)()』としてしか認識しておらず……いち『配信者(キャスター)』と『視聴者(ファン)』の間柄としか認識していない。

 

 

 そう考えると、色々納得できなくもないのだが……しかし今度は『なぜ(シズ)ちゃんが勇者一行(おれたち)の情報を共有していないのか』という疑問にぶち当たる。

 彼女たち『魔王一派』にとっては……おれたち『勇者一行』はその野望の邪魔をする敵であるはずだ。

 

 ……そのはず、なのだが。

 

 

 

「待って待って、めっちゃいい匂いする……いいなぁきりえちゃん、ちょっとあたしとイイコトしない? 気持ちいいことシよ?」

 

「はわわわわうわうわうわう」

 

「ほう、『気持ち良いこと』とな。我輩も気になるぞ、いったい如何なる手法なのだ?」

 

「それはねー、まず服を脱いでね、それからおま」

 

「アアーー!!! そ、そ、そ、そこまで! そこまで!! いい加減にしてください(すてら)ちゃん!! 専務さんめっちゃ置いてけぼりじゃないですか!!」

 

「あっ、いえ……僕のことはお構いなく」

 

「いやそこは構えよ!!!!」

 

 

 

 だ、だめだ……魔王うんぬんを抜きにしても、この子の言動は非常に有害だ!

 特に純真無垢なわうにゃう姉妹のお二人にとっては……そんなよくないことを吹き込まれるのは、それはきっとよろしくない!

 

 彼女がおれたち(※ただしラニを除く)に敵意を持っていないのは、正直嬉しい誤算なのだが……(シズ)ちゃんの目的から(すてら)ちゃんがここにいる理由から、全くもって意味不明すぎる。

 ことごとく後手後手に回ってしまっているみたいで……なんだかとっても落ち着かない。

 

 

 

「……わたしたちは、ちょっと遠足で……神々見(かがみ)さん()()目当てで来たんですけど……すてらちゃん、は…………何してるの? その……専務さん、と」

 

「ふぅーん…………? あたしはねぇー、いま専務さんといーっぱいオシゴトのオハナシしてきて、これからベッドの上で()()シに行こうかなって思ってたとこ」

 

「えっ? (すてら)ちゃんその歳でお仕事してるんですか? すごいですね」

 

「全然だよぉ~! わかめちゃんだって配信者(キャスター)頑張ってるじゃん! そっちのほうがすごいって!」

 

「い、いえいえそんな……恐縮です。……でっ、でも……(すてら)ちゃんの方こそ、()り手って感じじゃないですか。こんな……『専務さん』とお知り合いだなんて、すごいと思います」

 

「ヤリ手だなんてそんな~! でもでも、あたしはともかく専務さんスゴいんだよ! 今めっちゃ伸びてる()()()……っ、……バイオテクノロジーでね! 右肩上がりなんだって!」

 

「…………そうなんですか。すごいですね!」

 

「でっしょー!!」

 

 

 

 すんでのところで自制心が働いたようだが……恐らくは、『ヒノモト建設』。

 白昼堂々パパ活に勤しんでるのはどうなんかとも思ったが、なるほど(すてら)ちゃんならではの情報収集の()()()ということか。

 

 ……ギリッギリで所属をバラされるところだった『専務さん』は、もはや顔面蒼白といったところだが……まぁ自業自得と割り切っていただくしかないだろう。

 あんな美少女とうらやまけしからんことが出来たのだ。悔いはあるまい。

 

 

 

 

「……『わかめちゃん』、そろそろ時間っす」

 

「……了解です、マネージャーさん。……じゃあ、(すてら)ちゃん……また」

 

「あっ、もう行っちゃう……ううん、そのほうが都合いいかも」

 

「えっ?」

 

「あっ、ちがうの、なんでもなくてね。……ねぇわかめちゃん、神々見(かがみ)神宮って……日帰り?」

 

「……っ、……………………()()()()()()()()()

 

「あっ、そうなの?」

 

「……ええ、今夜は……編集()()するつもりなので」

 

「……………よかったぁ」

 

 

 

 ……なんというか、やっぱり……根本的には良い子なんだろうな。

 おれのような小娘(の外見)のことを心配してくれて、欲望には正直だけど無理矢理はしないし……そして、隠し事が下手。

 

 (すてら)ちゃんがおれに『日帰り』を望むということは……明日、きっと何かを企てているのだろう。それが何かはわからないが、スルーすることは宜しくなさそうだ。

 ハイベース号で来て……本当によかった。

 

 

 

「じゃあ……配信がんばってね、わかめちゃん! あたし応援してるから!」

 

「っ、…………ありがとう、ございます!」

 

「きりえちゃんも! また今度会ったらイイコトしよーね!」

 

「わうーーーー!?」

 

「だ、だめですーーわたしがゆるしませんーー!!」

 

 

 

 自社の社名をバラされる直前まで行き、引きつった笑みを浮かべている専務さんを完全に置き去りに……おれたちは【愛欲(リヴィディネム)】の使徒に別れを告げ、ハイベース号へと乗り込む。

 ……彼女の手前、おれは一般エルフ少女を装ったほうが良さそうなので、今回はモリアキに運転手を勤めてもらう。おれは助手席、無垢っこ二人は後部キャビンだ。

 

 

 

(…………嘘ついてるように見えた?)

 

(ぜんぜん。完全に本音だったよ)

 

(やっぱりか。……何考えてるんだ、シズちゃんは)

 

(…………うーん……)

 

 

 

 

 眩しい笑顔で手を振る、非常に可愛らしく、それでいて淫靡で、そして優しい心をもった美少女に別れを告げ……おれたちはお店を後に車を走らせる。

 

 この後恐らくホテルに向かうと思われる『専務さん』の高級車と鉢合わせしないことを祈りつつ……おれたちは本日の目的地である『ヒノモト建設バイオマテリアルセンター松逆(まつざか)工場』へと、急き立てられるように向かっていった。

 

 






けんぜん!!!(なきごえ)




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411【現場視察】明かされた情報

 

 

 おれたちが今回、三恵(みえ)県の松逆(まつざか)市まで足を運んだのは……くだんの『含光精油』製造元の工場見学の許可が、やっと降りたことに始まる。

 

 その効能はすさまじく、品質的にも間違いなく『本物』の魔力素材。現在この世界を脅かしている『葉』を駆逐するための特効薬である『含光精油』だが……その製造元には他ならぬ『魔王』の影が見え隠れしているのだ。

 

 

 どういった工程で、どういった材料から、どういった環境で製造されているのか。それらが解るだけでも、これが『薬』なのか『毒』なのかを判断する切っ掛けとなり得る。

 そう考えて臨んだ工場見学だったが……偶然にも工場近くの老舗すき焼き店にて、くだんの『含光精油』製造元の重役と『魔王』従僕との逢引現場を目撃してしまい……思わぬところで『ほぼ黒』であることを知ってしまったわけなのだが。

 

 

 

「せっかく来ちゃったしね。春日井さんにも悪いし」

 

「そうだね。判断材料は多いに越したことは無い」

 

「……じゃあ、打ち合わせ通り……オレ達は車で待ってるんで」

 

「そだね。工場見学は……ボクら『正義の魔法使い』が行ってくるよ」

 

 

 待ち合わせ場所であるコンビニの駐車場……人目につきにくい裏手にて、ラニは門から全身鎧を取り出す。

 おもむろに【人払い】の魔法を拡げたラニちゃんは鎧の胴体部分を『ぱかっ』と外し……おれの方を見てにっこり微笑み、しきりに『いいよ、キて』とアピールを送ってきている。

 観念したおれは……相棒のフォローを得ながら、おれよりも二回りほどはデカい鎧を着込んでいき、鎧との隙間はラニの【義肢(プロティーサ)】でキッチリと埋め……こうして完全に『鎧に着られた』若芽ちゃんの出来上がりだ。

 

 厳密に言うと……ラニの【義肢(プロティーサ)】を着込んでいる、というような形だろうか。おれの身体全体は具現化させた魔力の筋肉で覆われ、ラニの意のままにおれの身体が動かされる。とっても変な感じだ。

 なお視界は鎧の首もと、胸当てと兜との隙間から得ているぞ。アンダーアーマーを除けば、意外と隙間だらけのようだ。

 

 おれの頭上、鎧の兜部分にはラニちゃんが収まり……こうして出現した、『正義の魔法使い』二人羽織り。

 ここに隠密行動の必需品【隠蔽】効果つきのフード付き外套を、全身鎧ごとすっぽりと覆うように身に纏い……見た目も二人羽織りに近づいたわけだな。まぁ一般の方には輪郭さえおぼろげに見えるだろうけど。

 

 

 こうしておれたちが準備を進めていたところ、ほどなくして到着したのは……ちゃんとお願い通りの、車高高めのワンボックスカー。運転手はもちろん春日井さんだ。

 軽くご挨拶とお礼をさせてもらい、車に鎧ごとお邪魔させていただき、扉を閉める。ハイベース号とその乗組員とは、暫しのお別れとなるわけだな。

 

 春日井さんの運転で走り出した車に揺られ、山のなかに作られたにしては妙に走りやすい道路を進むことしばし。

 やがて唐突に現れた入門ゲートを潜った先には……広大な敷地と、これまた大きくて広々とした建屋……『ヒノモト建設バイオマテリアルセンター』が佇んでいた。

 

 搬入口とおぼしきエリアには、大型トレーラーの姿も見られ……なるほどな、ああいう車が走れるように広い道を作っていたわけだ。

 

 

 

 

 

「視察の方でしょうか。お世話になってます。大変お待たせし……まし…………?」

 

『アッ、お世話になります。怪しいですけど怪しいものじゃないです』

 

「御世話になっております。……特定獣害対策室愛智支部、室長の春日井と申します」

 

「あーっと……大変失礼致しました。ヒノモト建設バイオマテリアルセンター、広報担当の中村と申します」

 

『はいはい。人呼んで『正義の魔法使い』、ジャスティス・アンノウンです。よろしくね』

 

(なにそのセンスの欠片も無い名前)

 

(なによお! いーじゃんどうせ仮名なんだから!)

 

(そのまま通り名で定着しちゃったらどうすんのさ!! やだよおれ『ジャスティスです』とか名乗んの!!)

 

(やだじゃないんだよ! もう言っちゃったんだからしょうがないでしょ諦めんだよ!!)

 

(やだァーーー!!)

 

「だ、大丈夫ですか? えーっと……ジャ」

 

『せめてアンノウンでお願いします……』

 

(あっノワおばか! そんな勝手に!)

 

(ラニに言われたか無いよ!!)

 

 

 

 街中で遭遇したら通報待ったなしの、全身ローブに身を包んだ鎧姿の人物……隣に社会的信用の塊である春日井さん(おまわりさん)が居てくれなかったら、間違いなく春日井さん(おまわりさん)のお世話になっていたことだろう。

 ……というか、春日井さん対策室長なのか。栄転だよな、今度ごはんおごってもらお。……左遷じゃないよな?

 

 ともあれ、工場の方……バイオマテリアルセンター広報の中村さんには、おれ(たち)が『こういうキャラ』なんだということは納得して貰えたようだ。

 事前に春日井さんを通して、無理なお願いしていた甲斐があった。こんな正体不明人物を企業の心臓部である工場に招き入れようなんて……はっきりいって、正気の沙汰じゃない。

 

 

 おれ(たち)が『正義の魔法使い』であるということと、この工場で精製されている『含光精油』について詳しく知りたがっていること。

 現在世間一般に広く知られているこれら情報を提示する分には問題ないだろうし……あえて先方に鎌をかけることで、おれたちの『敵』なのかどうかを判断する材料にもなるだろう。

 

 まぁもっとも……つい先程、恐らくこの会社の『専務さん』と魔王の使徒がイチャコラしてるのを目撃してしまったわけだが。

 

 

 

 しかしながら現状、目の前の『広報担当の中村さん』からは、これといって敵意のようなものを感じ取ることは出来ない。

 むしろこの感情はどちらかというと『敬意』や『尊敬』、そして『感謝』などといった好意的なもの。

 

 事実として、中村さんの案内は非常にわかりやすかった。

 パワポのスライドを印刷したとおぼしき資料も用意してくれていたし、おれ(たち)の質問にもきちんと答えてくれたし、その解答にも嘘や偽りの気配は見られなかった。

 

 つまりは……『ヒノモト建設』そのものは黒に近いグレーかもしれないが、この工場で精製されている『含光精油』ならびに精製に携わっている従事者の方々は、単純に『この製品が特定害獣の駆除に役立っている』ということを誇りに感じてくれていると、そういうことなのだろう。

 中村さんの説明口調には、決して『言っちゃダメな部分を秘匿しよう』なんていう雰囲気は感じられなかった。おれたち『正義の魔法使い』の助けになればと、『含光精油』のこと細かな情報その全てを、余すところなく開示してくれたのだ。

 

 

 

 ……だからこそ。

 混じりっけなし、純度百パーセントの好意で応対して貰ったからこそ。

 

 この工場のすべてが、災害である『特定害獣』の駆除に本気で取り組んでくれているからこそ。

 

 

 おれたち『正義の魔法使い』パーティーの中で、最も魔力探知能力に秀でた妖精(フェアリー)種の彼女は……全身鎧の中で人知れず、その表情に『苦渋』の相を浮かべていた。

 

 

 

(…………ねぇ、ラニ……これ、もしかして)

 

(うん、そうなるね。…………してやられたよ、全く)

 

(もしかして……結構、ヤバいかも?)

 

(直接的にヤバいわけじゃないけど……副次的には、充分にヤバい。『手遅れ』ってやつだね)

 

(あおーーーーん…………)

 

 

 『含光精油』の原料であるとされる新種の植物、レウケポプラ。

 おれたちの世界において、これまで誰一人として知らなかった……全く未知の存在。

 

 

 それが大量に栽培されているという、この工場周辺では。

 

 

 

(気のせいなんてレベルじゃない。あからさまに大気中の……環境魔素(イーサ)が濃い。……この環境下でなら、ともすると生命維持()()に絞るなら、ノワの助け無しにボクが存在できてしまえる程に)

 

(…………ラニのもと居た世界に、魔素(イーサ)の濃度が近づいてる……ってこと?)

 

(ああ。……そういうことだね、含光精油はあくまでオマケ、完全な目眩ましだ。真の目的はあの植物を大量に生育させ……その代謝で魔素(イーサ)を大量に作り出すこと)

 

 

 

 ファンタジーと決別し、神秘の薄らいだはずの……科学技術とともに歩んできたはずの、この世界。

 

 それが今、根底から塗り替えられようとしているわけだが……それを止める手だては、どうやら残されていないらしい。

 

 

 

 



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412【現場視察】時すでに時間切れ

 

 

 まず、世界侵略性外来植物『レウケポプラ』とは……この世界の構造(パラメータ)を根底から改編するために『魔王』メイルスが生み出した、植物の体裁を備えた侵略者である……らしい。

 

 

 特定条件下で加圧抽出することで高濃度の液状魔力素材である『含光精油』を生成し、また抽出後の(かす)を圧縮成形することで『燃料ペレット』として活用できるという。

 

 前者は『(ゾンビ)』対策におけるコーティング材として多用途に活用できる上、後者のペレットは従来の火力発電設備にて、石炭燃料の代替品としてほぼそのまま転用が可能。

 化石燃料を消費しない持続可能エネルギーとして、なんと既に一部で供用が開始されている他……燃焼段階で発生した二酸化炭素は『レウケポプラ』の光合成によって、なんとびっくり百パーセント()()が吸収されるのだという。

 

 ……まぁ、このへんが魔素(イーサ)を生成するためのリソースなのだろうな。二酸化炭素を魔化学変化させて魔素(イーサ)をホニャホニャしてるのだろう。

 

 

 ともかくこの『レウケポプラ』……環境変化に強く、栽培も容易。

 この世界ではまだ需要の少ない『含光精油』部分を抜きにして考えるだけでも……発電の際に二酸化炭素を発生させないどころか、逆に発電(栽培)すればするほど二酸化炭素の削減に貢献できてしまうという、資源に乏しい我が国においては夢のような素材なのだ。

 

 

 そして広報担当中村さんの話によると、()()()()()()()()『レウケポプラ』栽培プラントは……関東・東海・近畿エリアに、既に五ヶ所が稼働中なのだという。

 それはつまり……異世界レベルで高濃度の魔素(イーサ)が満ちて(しまって)いる地域が、ここ含め五ヶ所もあるということに他ならない。

 

 

 

 

 

 工場見学を終えて、それらの情報を得意気に話してくれた中村さんに別れを告げ……おれたち『正義の魔法使い(二人羽織り)』は再び春日井さんに送ってもらい、もとのコンビニ駐車場へと戻ってきた。

 とりあえずラニたちと意見のすり合わせを行いたかったので、お世話になった春日井さんに一旦の別れを告げる。おれたちの見識は後程、レポートにまとめて提出させていただく形だ。

 

 そうして急遽開かれた会議の場。そとからの視線や盗み聞きを心配しなくて済むこの環境(ハイベース)は、本当に助かる。

 

 

 

「ヒノモト建設が音頭を取って、企業間で共同出資して進めてた事業みたい……すげーよこれ、参画企業リスト。日本有数の大企業ばっかじゃん」

 

「そりゃーまぁ乗っちゃいますよね。クリーンな持続可能エネルギー源とか、特に日本は喉から手が出る程欲してるでしょうし。……あー、LEDと水耕栽培で全天候型なんすね。……いや、すげーっすよ。これだけで日本の電力問題解決じゃないっすか」

 

「しかし…………いや、この世界の人々には魔素(イーサ)を感じ取ることが出来ないとはいえ……こうも容易く……」

 

「っ!? ……山本、五郎…………そうだ、この人! 鶴城(つるぎ)さん前で()り合った!」

 

「ヤマモト、ゴロー……あ、あったっすよ。えーなになに……ヒノモト建設の、前会長? 末期癌から奇跡の復活……経営に復帰…………」

 

「…………なるほど? メイルスがヤマモト(なにがし)に巣食った時点で……こうなることは予測出来たってことか……ッ!」

 

「ら、ラニ……おちついて……」

 

 

 

 おれ(たち)が持ち帰った情報、ならびに現在地の環境を材料として……これまでは何処か引っ掛かりを覚えていた『魔王』メイルスの目的が、いよいよ全て明らかになった。

 そしてそれは同時に……おれたちがその企みを潰すことは不可能だということを、まざまざと見せつけられるものでもあったわけだ。

 

 無理もないだろう……なにせ、メリットが大きすぎる。オマケに発言力の高い名だたる大企業が、ことごとく『魔王』に(自覚無いまま)(くみ)しているのだ。

 この先未来永劫に渡って、電力供給の懸念が払拭されるかと思っていた矢先……仮にフツノさまやモタマさまのお名前をお借りしたとしても、言うに事欠いて『魔素(イーサ)が増えちゃうから!』なんていうワケの解らない理由で止められるはずがない。

 

 悲しいことに……この現代日本においては、神様よりも大企業の声のほうが大きいのだ。

 

 

 

 こうして、おれたちはまんまと『魔王』に一杯食わされたわけだが……だからといって悲観してばかりは居られない。

 

 確かに、この世界の『異世界ファンタジー化』を完全に防ぐことには、遺憾ながら失敗したかもしれない。

 しかしながら――ラニが元居た『異世界』がそうだったように――魔素(イーサ)が大気中に満ちていても、人々が営みを続けることは……決して不可能ではない。

 

 

 

「そりゃあまあ、大気中の魔素(イーサ)が増えたなら……『魔王』にとっては動きやすくなるんだろうけど。……でもそれって、おれたちにとっても言えることじゃない?」

 

「…………まぁ、それは……確かに」

 

「オカルトが幅を利かせられるようになるってぇなら、むしろ望むところだよ。おれたちにはこうして『正体不明の魔法使い』できる準備が整ってんだもん」

 

「…………そうだね。魔素(イーサ)由来の現象は……まぁ、色々と起こるだろうけど……それだって捉えようによっては、ボクらの行動を隠してくれるってことだ」

 

「そうだよ。……オカ板とか、テレビとか週刊紙が騒がしくなるだろうけど……でも、まだ全然『滅び』じゃない。打つ手無しだった前とは違って、この世界には『苗』の『保持者』を元に戻すことができる正義の魔法使い(おれたち)が居るんだから。……絶対に、『魔王』の好きにはさせない」

 

「………………ノワ……」

 

 

 

 そりゃあもちろん、われわれは所詮平和ボケした日本人だ。ラニの居た世界の、ラニと肩を並べて戦ったパーティーメンバーよりかは……まぁ、頼りないかもしれないけれど。

 こちらには、ラニが有用性を見出だしてくれた力が……『保持者』の命を奪わずに『苗』を除去する手段があるのだ。

 

 そこに、百戦錬磨の『異世界の勇者』の知恵が加われば……勝算は、決して低くはない。

 

 

 

「やってやろうぜ、相棒。優位に立ったつもりの『魔王』に、一泡吹かせてやろうじゃないか」

 

「……全く。キミがボクの縁者で……本当に良かったよ」

 

「エッヘヘヘェー」

 

 

 

 魔力が満ち始めたこの世界は……恐らく、いろんなところで変化が生じていくだろう。

 

 それはおれたちにとって、枷となるものもあるかもしれないが……追い風となる変化も、多分に期待できるはずだ。

 

 

 

 というわけで。

 工場見学を終え、必要な情報と判断材料も手に入ったので。

 

 そのあたりの話をしに、然るべきところへ向かおうじゃないか。

 

 

 



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413【応援要請】神々見の案内人




この作者またやりやがったな!!





 

 

 鶴城(つるぎ)さんや囘珠(まわたま)さんのように、神様の居られる場所というものは、えてして広大な緑地を擁していることが多い。

 長きを生きた大樹や草木の営みには、邪気を払い澄んだ神力を漲らされる作用があるとかなんとかで……まぁ要するに、あの神社特有のとても落ち着く空気は、神様にとっても色々と都合が良いのだと。

 

 

 

 

「はぇーー…………すっごい」

 

「ふっふっふ、そうでしょうそうでしょう! まぁそれも当然のこと、なにせ神々見(かがみ)本宗(ほんそう)の神域結界に御座いますれば! 緒張(おわり)江都(えど)の弱小辺境格下結界など比べるまでも」

 

((ギロッ))

 

「ヒィッ!? た、た、戯れに! ほんの戯れに御座いますれば! 小生とて本心より申し上げたものでは御座いませぬゆえ! 決して、決して! 本心に御座いませぬゆえ!!」

 

「…………いい性格してるっすね」

 

「そだね……今までに会った神使の中でいちばん軽いわ」

 

 

 いつになく明確な敵意を垣間見せた『緒張(おわり)江都(えど)の弱小辺境格下結界』に所縁のあるなかよし姉妹に睨まれ、あっという間に掌を返し平謝りをして見せる……この社の案内人。

 調子が良いというか言動が軽いというか……糸のように細められたその目からはいまいち『感情』を推し測りづらいが、おれたちはただただ後に続くしかない。

 

 

 確かに、街中に位置するがゆえ敷地を拡げられない鶴城(つるぎ)さんや、面積こそあれど相殿(あいどの)の立場であり公共施設も多い囘珠(まわたま)さんとは根本的に異なり……ここの神域は広大な山林敷地その全てが、神域を形成する『霊場』として機能しているわけで。

 人々の営みの喧騒から離れ、自然のもたらす神力に満たされたこの神域結界は……誇張ではなく、たしかに最も『見事』なものだった。

 

 どれくらいスゴいかというと……初めて鶴城(つるぎ)さんの結界内に侵入(はい)()たときにビックリ仰天していたラニちゃんが、現在は完全にお口あんぐりビックリ顔で等身大フィギュアになっちゃってる(※現在進行形)くらいには、だ。

 

 

 初夏の長い日も陰りを見せ始め、森が神秘的な暮明(くらがり)に沈みゆく中……古めかしくも荘厳な木造の橋を渡り、おれたちは一人の少女に先導されながら、『神々見(かがみ)神宮』敷地内の【隔世(カクリヨ)】を進んでいく。

 

 

 

………………………………………

 

 

 

 

 それは先日……おれたちが松逆(まつざか)市のバイオマテリアルセンター視察へ向かうことが決まり、春日井さんと日程や段取りの調整を行っていたときのこと。

 おれのスマホが突如【リョウエイさん(鶴城神宮)】からの着信を告げ、滅多に無い相手からの音声着信に盛大に取り乱しながら応答したところ……なんとびっくり通話先の声は某笑い声の特徴的な(うるさい)神様だった。

 

 

『聞いたぞ長耳の。近々神々見(ガガミ)の許へ向かうのであろ。成らば都合良い、百霊(モタマ)のとき同様(ワレ)も連れて行くが善い』

 

「えっ!? あっ、その、えっと……確かに三恵(みえ)県ではあるのですけど、神々見(かがみ)市ではなく松逆(まつざか)市でして……」

 

呵々(カカ)! 其所(ソコ)まで往けば然程(さほど)の変わりは在るまい! ものの一ッ翔びで神々見(ガガミ)迄届こうが』

 

「いえあのその……さすがにわたしたちは、ひとっ飛びでは行けないかなぁと。……それに、大丈夫なんですか? 前回のもリョウエイさんに怒られたって聞きましたが……」

 

()ッッ()!! なァに心配在るまい! あの小名(スクナ)めに『写身(ウツシミ)』を預ければ龍影(リョウエイ)めも手は出せま……(何だ龍影(リョウエイ)(やかま)しい。…………はぁ? 貴様この(ワレ)に指図とは良い身分…………は? え、ちょ、待て。待て龍影(リョウエイ)。何だ(ソレ)は。(ワレ)()んな代物(モノ)()らぬぞ。えっ、ちょっ、待っ…………わ、解った! 解っ、わかったと! ……ええい待たぬか! ()布都(フツノ)が解ったと云うて()ろうに!!)』

 

「「「…………………………」」」

 

 

 スマホから漏れ出る騒々しい(にぎやかな)神様のお声に、おれとラニと春日井さんが神妙な表情を浮かべる中……『待て』だとか『聞いとらん』だとか『ずるい』だとかいうお声が、遠くのほうで聞こえる気がする。

 やがて……どうやら通話口の向こうでは、何がとは言わないが片がついたのだろうか。先程までよりいやに大人しくなっ(しょんぼりし)た声色で、フツノさまがお言葉を紡ぐ。

 

 

『…………ハァ…………まァ良い。(ワレ)から夜泉(ヨミ)めに伝えて()こう。其所(ソコ)まで脚を運ぶのなら、(つい)でにでも訪ねてみるが良い。……性根は捻繰(ひねく)れて居るが、一応は神よ。顔を繋いで於いて損は在るまい』

 

「えっと…………ありがとう、ございます。フツノさま」

 

『ハァ…………神々見(ガガミ)から戻り落ち着いたら、(また)霧衣(キリエ)を連れ(はなし)でも納めに来るが良い。茶と菓子程度なら出そう。真柄(マガラ)がな』

 

「……わかりました。きっと、そう遠くないうちにお伺いします」

 

『……呵々(カカ)! (……ほれ、返すぞ龍影(リョウエイ)。全く……何時(いつ)から()んなに生意気に()()った。一体何処(ドコ)何者(ダレ)の入れ知恵……は? 金鶏(キンケイ)? 囘珠(マワタマ)の? あンの小娘が余計な真似(マネ))』

 

「あっ切れちゃった」

 

「あー、切っちゃった?」

 

「切りましたな。……まぁ確かに、アレはあまり他人には聞かせたく無いでしょう」

 

 

 

 

………………………………………

 

 

 

 …………などという、フツノさまの親しみやすさポイントが爆上がりするイベントがありまして。

 まぁ、そこまでお膳立てしていただいたのなら、お顔を出さなきゃさすがに失礼だろうと思いまして。

 そうして神々見(かがみ)さんのご都合をお伺いさせていただいたところ、ちょうど工場見学の日の夕方なら大丈夫だということで。

 

 おれたちはバイオマテリアルセンター(の近くのコンビニ)駐車場での緊急会議の後ちょっとばかり車を走らせ……『お神見(かみ)さん』の愛称で親しまれる『神々見(かがみ)神宮』へと足を運んだわけだ。

 

 

 

「いやはや……しかしながら、我が神々見(カガミ)への参拝を後回しとは。新参の(あき)つ柱と云えば聞こえは宜しいが、長耳の化生の分際で随分とまぁお高く留まって居られる」

 

「帰ろっか」

 

「そっすね」

 

「いやいやいやいや! ほんの戯れに御座いまする! 信頼がゆえの軽口に御座いまする! 断じて! えぇ、断じて本意には御座いませぬゆえ! 平に御容赦を!」

 

「だって……さぁ。ぶっちゃけ気分悪いし。フツノさまには悪いけど、ここまで性格悪いとは思わなかったし」

 

「ンン!! わ、解り申した! 小生の不徳の致す(ところ)なれば! 此度はほんの、ほんの可愛らしい出来心に御座いまする! 今後は断じて! 断じて御客様の御気分を害す所作は慎んでご覧にいれますゆえ!!」

 

「最初っからちゃんとやってくれりゃぁ良かったんだよ。……な? そうだろ? こちとらちゃーんと『紹介状』貰っとるんやぞ? 自分で言いたか無いけど、おれら(れっき)とした『お客様』やぞ?」

 

「は、はい……えぇ、まこと仰有(おっしゃ)る通りに御座いまする……」

 

「あんまこういうの良く無いんだろうけど……キミ容姿に救われたね? 仮にキミがおっさんだったらおれ即フツノさまにチクってたからね? 本来ならアウトだからね? そこんとこ解ってる?」

 

「はい…………しかと肝に銘じさせて頂きまする……」

 

「キミ名前は? ん? 名前(なん)てぇの?」

 

「…………朽羅(クチラ)、に……御座いまする……」

 

「名前覚えたからね?」

 

「………………は、ぃ……」

 

 

 

 

 調子に乗りたい盛りのお年頃なのかは知らないが……糸のように細められていた目には悲壮と焦燥の感情に加え、潤んだ瞳に涙さえ滲ませ。

 

 黒糖色の髪を短く揃えたふわふわの頭に……何故か感情に合わせて『ぴょこぴょこ』と自在に動く、大きく扁平な二房の毛束を備え。

 

 

 

「まったく。……(なつめ)ちゃんはこんなにも落ち着いた良い子だというのに」

 

「……家主殿よ、我輩とてさすがに(コレ)と比べられるは我慢にゃ……ならぬ」

 

「そうだね、(なつめ)ちゃんは良い子だもんね」

 

「うむ。そうであろ。…………んふー」

 

 

 

 (なつめ)ちゃんと似たり寄ったりな小柄な身体を巫女装束に包んだ、野兎の神使『朽羅(クチラ)』ちゃん。

 

 おれたちの案内人である(はずの)イタズラ子兎は……おれの半ギレながらのクレームにより、こうしてようやく大人しくなったのだった。

 理解(わか)りゃいいんだよ。

 

 

 






気を抜くと
 新キャラ全部
     ロリになる



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414【応援要請】神々見の主

 

 

「まーたやりやがったなこのクソウサギ!! てンめェ夜泉(ヨミ)様ン前で『大丈夫です! 理解(わか)ってます!』つったよなァ!?」

 

「や、やぁーーっ!? 何をなさいます! お止めください荒祭(アラマツリ)様! お客人の前で御座いますよ!?」

 

「『何を』じゃ無ェンだよクソウサギの分際でネコ被ってンじゃ無ェぞゴルァ!!! 御客人に無礼働くなッつっただろうがなァオイ!!」

 

「ああっ!? そ、そんなっ!? そんなところを……っ!! 小生の大事なトコロそんなにぐりぐりしちヒャぁあッッ!!? ア゛ッ、すみませんマジごめんなさいあ痛だだだだだいだいだいだ」

 

「「「「「………………」」」」」

 

 

 

 橋を渡り坂を登り、大人しくなったクチラちゃんに導かれるまま、やがて辿り着いた本殿前広場。

 授与所のような詰所のような建物の前で待ち構えていたのは……見るからに鍛えてそうな、袴姿の壮年男性。

 

 白髪混じりの頭から見るに、そこそこお歳を召してそうであり、まじめそうなお顔と相俟って落ち着いた雰囲気を感じさせた……のは一瞬。

 クチラちゃんが近付いた途端、目にも止まらぬ速さで彼女に肉薄、その鍛えられた大きな掌でアイアンクローを仕掛け、ものすごい剣幕でのお説教が始まった。

 

 至近距離から『憤怒』の感情をこれでもかと放ち、距離を置いたはずのおれたちまでもが思わず『きをつけ』してしまいそうな、ものすごい熱量。

 さすがにこれは、あの……クチラちゃん死ぬんじゃなかろうか。

 

 

 

「あ……あのっ! すみません、その……大丈夫です、か?」

 

「だいじょばないで御座いまする! このままでは小生の頭が鶏卵の如く割られてしまだだだだだだいだいだいだ!!」

 

「なァーにが縞鯛(シマダイ)だクソガキウサギが。……気にするで無いよ御客人。此の程度じゃコイツぁ()ィとも響かねェし……案内人の粗相ァな、云わば我が主の名に泥を塗る行為。立場上看過する訳ゃァ行かねェのよ」

 

「ごべんなさいごべんなざい! いや小生今度こそしかと心に刻み申した! 直ちに心を入れ替えますゆえ! 平に御容赦を荒祭(アラマツリ)様!」

 

「お前よく日に何度も心入れ替えられんな。着脱自在か。懐炉(カイロ)じゃ()ンだぞお前」

 

「エヘヘ~~~~」

 

 

 

 おれたち『お客人』の存在もあってか、手早く折檻を終えたらしい……えっと、アラマツリさん。

 先程までの鬼のような形相とは打って変わって、いかにもすまなさそうな顔を浮かべ、おれたちを室内へと招き入れてくれる。

 

 その背後には、くりくりっとした大きな瞳に『歓喜』と『興奮』の感情を浮かべた朽羅(クチラ)ちゃんが、妙にへこへこしながら続き……おれたちはその更に後ろに続く形だ。

 先程までこの世の終わりかのような悲鳴を上げていた子とは思えぬほど、弾むような足取りで歩を進める彼女……ははーん、これはもしかすると()()()()()()なのかもしれませんな。いやはや(てぇて)ぇこと。

 

 

 そんな神使のおふたりに連れられ、厳かな雰囲気の建物内を進み……やがて『あっ、これ向こうに神様居るな』っていう気配の漂う、他に比べ明らかに(しつら)えが一段上なお部屋の前へと辿り着く。

 なおここに至るまで、けっこうな数の神使の方とすれ違った。『こちらがわ』がこんなに賑やかだとは思わなかったので、おれは少なからず驚いた。

 それに加えて……ぶっちゃけおれらは余所者であるにもかかわらず、みなさんとても丁寧にお辞儀してくれた。なんだろう、フツノさまの紹介状効果だろうか。

 

 

 

「……ではまぁ、御客人ならば問題無ぇとは思うが……此の奥にて、我らが主がお待ちだ」

 

「アッ……やっぱそうなります?」

 

「あのオレ、ただの一般人なんすけど……」

 

「はわわわわうわうわうわうわう」

 

「ね、ねえさまよ、落ち着きなさいませ。我輩がついておる」

 

「………………宜しいか?」

 

「アッ大丈夫です。お願いします」

 

 

 

 冷静に考えると全くもってワケわからない状況なのだが……フツノさまとモタマさまに続き、わが国の神話信仰における最高神、そのお三方目とのご対面である。

 おれが昨年配信者業を始めようと考えたときには、まさかこんなことになるとは思っても見なかったし……いまだに信じられないな。だって神様やぞ。

 

 明らかに口数少なく呆けた様子のラニちゃんを見る限り、この神々見(かがみ)神宮神域の(くらい)はやはりとても高いらしい。フツノさまは『性根が捻繰(ひねく)れて居る』とか言っていたけど、しかしそこはわが国の神様である。

 お住まいであるこの神宮、そしてこの神域の様子を見るまでもなく、とてもすごいお方なのだろう。

 

 

 今回の出張に際し……(あらかじ)め予習させていただいた。

 こちらの『神々見(かがみ)神宮』……その名の示す通りご神体は『鏡』。ものの本によると『万里を見通し(わざわい)をはね除ける』という逸話をもつ、門外不出の国宝にして神器にして日本国のレガリアのひとつ『八州(やしま)の鏡』が奉納されている。

 

 その鏡を司る神様、この神々見(かがみ)の宮の主こそ……『真澄(まそ)夜泉(よみ)常世視(とこよみの)(みこと)』。

 日本神話においては空や風を司る神『空神』と称され、現代日本においては『厄除け』の神様として名高いお方である。

 

 

 ……何度もいうが、神様だ。住む世界からして異なる、冗談抜きで上位次元の存在だ。

 御身が宿るという神器なんか、それこそ天皇陛下しか目にすることが叶わないというのに……その神器よりもレアであろう神様ご本神(ほんにん)が、おれと面会してくれるのだという。

 

 

 

 

 そんなお方に。

 

 日本の最高神のお一神(ひとり)であり、規格外の神域を擁する神様に。

 

 

 

 

 

 

「まぁ、そっちの事情はわかったけど……こっちにもさ、事情ってものがあるし?」

 

「エッ……アッ、エット」

 

「いやぁ、ね? 確かに布都(フツノ)の筆跡と口調だけどさ? 確かに布都(フツノ)からそういう連絡は来てたけどさ? 何ていうか……こっちも、ちょーっと事情が変わったっていうか、わしらも今ちょっとやろうとしてる事が在るわけよ。それを全部御破算は出来ないわけだし。わかる?」

 

「アッ、……………はい」

 

「そ。お利口だね。……まぁ、でも……あの剣神ウルサイからなぁ………んー、ちょっと考えさせて。今ちょっと立て込んでるし、また来てほしいんだけど……いい?」

 

「………………わかり、ました」

 

「それじゃあね。わしは今……ちょっと忙しいからさ」

 

 

 

 この社の主であるヨミさま、最高神の一側面にそう断られてしまっては……所詮はただのヒトであるおれなんかが異議を唱えたところで、どうしようもない。

 

 たとえ……明らかにラフ過ぎる格好でふわふわ漂いながら目を伏せ、ともすると気だるげにも見えそうな様相で、おれの語る『異世界からの侵略者』に対して興味無さそうな応対をされたとしても。

 無礼な物言いだとはわかっているけど、『やる気無さそう』で『テキトー』にも見える言動で、けんもほろろに追い払われたとしても。

 

 

 

 ……おれには、反論も反駁も許されない。

 

 

 

 

 

 

「…………済まねェ、御客人。……儂もよもや、斯様に無下に扱われようたァ」

 

「いえ。……こちらこそ、何やらお取り込み中のところ」

 

「…………いや、何つぅか……特に取り込み中ってェ訳じゃあ無い筈なンだが……朽羅(クチラ)?」

 

「い、いえ…………小生も、何も聞かされて御座いませぬ」

 

「……そう、ですか…………とりあえずまた明日、もう一度来てみます」

 

「済まねェな。足労を掛ける」

 

 

 

 今日のところは、これにて一旦撤収。また明日出直すことにしよう。

 フツノさまがちゃーんと話を通してくれているはずなので、また明日も同様に断られるようなら……さすがにちょっと、もう一回フツノさまに相談してみたほうが良いかもしれない。

 

 そのときのおれは、そう結論をくだし……それで自分を納得させたわけだ。

 

 

 

 

 

 まぁもっとも。

 事態はそんな悠長なこと言ってられない状況に……その日のうちに陥っちゃったんですけどね。へへ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 











「…………はぁ。次から次へと……面倒なことが舞い込んでくるね」

『………………ボクのこと……言ってる?』

「当ったり前だし? …………まぁでも……それも込みで()()って決めたのは、他ならぬわし自身だし。……わしは言われた通りに遣《や》ったからね? 次はそっちの番。……いいね」

『勿論。…………鏡の神様には、()()迷惑掛けないようにする』

「へぇ…………まぁ、多少はね? そもそも、わしの神使たちも無能じゃないし。……そう易々と被害は出さないし、出させないよ」

『…………今更だけど……よく、呑んだね? ……ボクの誘い』

「勘違いしないで欲しいんだけど……わしは別に、キミの言うことを信用してるわけじゃ無いし。…………でもまぁ、あの娘をわしの思うままに動かすためには、これが一番手っ取り早いわけだし」

『………………利用されるのは、好きじゃない』

「はん。……笑わせるでないよ、小娘が。わしは『神』なるぞ。身の程を弁《わきま》えよ」

『………………ふん。……小娘、ね』

「…………ともあれ、わしは後は()()に回るだけ。せいぜい上手く遣るがいい。……『魔王』とやらの使徒……お手並み拝見させて貰うし」

『上等。ボクの妹は……うまくやるよ』

「なんだ、貴様では無いのか。つまらん」

『…………つまらんかどうか……見てるといい』

「勿論。よおく視させて貰うとも」

『………………ふん』







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415【夜襲会戦】ブルブルの遭遇戦



 急遽一泊をキメる必要が生じたとはいえ、おれたちはそもそもが自営業にして自由業だ。
 スケジュール的にも問題ないことだし、『せっかくだから』と少々のんびりさせていただこうと考えた。

 事前予約こそしていなかったが、助手席のモリアキがその検索スキルを遺憾無く発揮。幸なことに二間続きの和室を確保することが出来た。みんなだいすき温泉旅館だぞ。
 当日予約だったのでお食事は出せないとのことだが……近くには飲食店がいっぱい、コンビニだってある。素泊まりでも問題ないだろう。



 まぁ、ただ……チェックインしてゆっくりお風呂を堪能するのは、またしばらく後のことになりそうだ。






 

 

 

「…………ラニ、『第二』。……いける?」

 

「当然よ。いちお【座標指針(マーカー)】はカガミさんの駐車場に打ってあるから、トーキョだろうとナミコシだろうと行き来できるよ」

 

「ありがと、たすかる。……(なつめ)ちゃん、大丈夫?」

 

「にっ。……問題ない。手早く終わらせよう」

 

「……ごめんね」

 

「何を謝る必要があろう。家主殿はよく遣っておる。あの神々見(カガミ)の悪戯兎めにも見せ付けて遣りたいものよ」

 

「ん…………ありがとう」

 

 

 

 タイミングとしては……チェックインを済ませてお部屋に荷物を運び終え、さて晩御飯をどうしようかと考え始めた矢先の出来事だ。

 不安そうな顔で見送ってくれる霧衣(きりえ)ちゃんをモリアキに任せ、おれたち三人は後ろ髪を引かれながら宿を飛び出す。

 

 

 本格的に食事や入浴を始める前でよかった、などと考えながら続報に目を通し……しかしながら、そこに表示されていた文面に血の気が引く。

 

 

 出現場所も、目標の詳細も、そのどちらもが『異様』。

 対処すべき目標は初めてとはいえ……しかしながら予期していた事態だが、肝心なのはその場所だ。

 

 

 

「どう考えてもこれ! あの松逆(まつざか)工場ホットスポットのせいでしょこれ!」

 

「……『魔法使い』の視察を受けて、形振(なりふ)り構わなくなった……ってことか? まさか」

 

『――――複数、か。……市井の民に露見するのも、(これ)では時間の問題よにゃ』

 

 

 

 第二警報……改め『特別警戒警報』によってもたらされた、今回の襲撃情報。

 それは『松逆(まつざか)市内山中にて()()()の特定害獣を()()確認した』というもの。

 

 つまりは……ついに『獣』が実戦投入されたということだ。

 

 

 動きの緩慢な『葉』とは異なり、あの『獣』の運動能力と攻撃能力は非常に危険だ。

 たとえ身に纏う装備を『ゴカゴアールEX』で強化していたとしても……腕や爪での打撃はもとより、あの大顎での咬み付きを耐えられる保証は無い。

 

 新規実装した『結界型防護装備』があれば、まだ安心できるかもしれないのだが、あれは『葉』出現が頻発している浪越市や東京に優先配備されていると聞いた。

 これまで『葉』の出現が無かった三恵(みえ)県に数があるとは思えないし……都合よく現場担当のおまわりさんが装備しているとは思えない。

 

 

 対処が遅れれば、問答無用で人的被害が生じてしまう。それは絶対に避けねばならない。

 正体の露見を避けるための外套を借り受け、身に纏い……逸る気持ちを押し留めて(なつめ)にゃんを抱っこし、吸いながら【浮遊(シュイルベ)】を行使。夜闇に沈んだ空に身を踊らせた、まさにその瞬間。

 

 

 

「……ッ!! ……え、ちょ!? 反応が消えた!!?」

 

「は!? そんなバカな…………いやこれ! 魔力反応!?」

 

『――――【隔世(カクリヨ)】を奏上したか。何者かが』

 

「ッホォォ!! ナイスゥ!!!」

 

 

 おれたちや、おまわりさんたちや、一般住民のみなさんが暮らす……いわば『この世』から、位相をすこしだけズラした世界へ。

 この世ならざる世界へと対象を引きずり込んで隔離する、【隔世(カクリヨ)】の術。

 

 いったい誰が奏上してくれたのかは解らないが、とにかく助かった。これでとりあえずは術者がみずから術を解くか……あるいは、術を維持できない状態にでもならない限りは、『獣』が解き放たれることは無い。

 まあ要するに、おれたちは一刻も早くその『何者か』と合流し、敵対対象を駆除する必要があることは変わらないのだが……一般人に被害が及ぶ危険は、大きく減らせたと見ていいだろう。

 

 

 

「……なんか、もやもやむずむずするような、ドームみたいな……あれが【隔世(カクリヨ)】?」

 

『――――うむ。……さすがだにゃ、家主殿の『眼』は』

 

「エルフだからね! ……飛ばすよ、掴まって!」

 

「わかった」『んにぅ』

 

 

 明らかに特定のエリアを覆うように拡がっている、魔力の霞。発動地点が動いているためか、そのもやもやのドームも少しずつ移動しているようだ。

 あれこそが何者かが開いた【隔世(カクリヨ)】の結界であり……おれが倒すべき『獣』が隔離され、また術者が囚われている檻でもある。

 

 

 

『――――にゃんという領域と強度……この規模の【隔世(カクリヨ)】とは』

 

「これは……スゴいね」

 

「……でっっ、か」

 

 

 (なつめ)にゃんとラニちゃんが思わず感心するほどの、圧倒的な規模の【隔世(カクリヨ)】結界……これ程の術を行使できる者なら、おれたちにとっても心強い味方になってくれるかもしれないのだ。

 

 そんな貴重な人物に『万が一』のことがあってはならない。なおのこと合流を急ぎ、一刻も早く共同戦線を構築しなければならない。

 

 

 

「突っ込むよ!!」

 

『心得た! 調律は任せよ!』

 

「さん! にー! いち!」

 

『【隔世(カクリヨ)】、開け!』

 

 

 ()()の一部に(あな)が明き、その内部――ひとまわり薄暗い結界内――の様子が鮮明に映し出される。

 

 幾体かの動体反応が見受けられるその内部へと、三人(※一人と姿を隠した一人と(ネチコヤン)に化けた一人)がまとまって飛び込んでいき……即座に【探知】魔法をフル発動。『獣』の群れと、その群れに追われているとおぼしき術者を探る。

 

 

 すると……いた。

 『獣』が六体と、意外とも思える俊敏さで駆けずり回る【隔世(カクリヨ)】の術者。

 

 

「とにかく追い付く! 【加速(アルケート)】!」

 

「わっぷ」『にゅぶ』

 

 

 宙を蹴り飛ばして速度を上げ、ぶっとい四肢で地を駆ける『獣』の群れを追い越し……追い越しざまに【氷槍(アイザーフ)】を散弾状にバラ撒いて速力を削る。

 

 そうして辿り着いた、この【隔世(カクリヨ)】の術者。

 この巨大な術を維持しながら、速力に秀でた『獣』の群れを振りきってみせた……類稀なる術者とは。

 

 

 

 

 

 

 

 

「い、……ッ!! いい加減に! そろそろ諦めなさいませ!! ……っ、全くもって! 薄気味の悪い!! 寄って(たか)って、幼気(いたいけ)な少女をヴェーッホ! エ゛ッホ、……っ! ぐぐ……いくら、いくら小生が! 小生の見目が麗しいからと! そんなに鼻息荒く迫られて! それで股を開く女子(おなご)など居るわけが! 少なくとも小生の貞操はそん、なに……安、く…………あるぇ?」

 

 

 ふわふわな黒糖色の髪と、同色の長大な垂れ耳、袴の(すそ)と袖とを夜風に靡かせ。

 

 緋袴と小袖の巫女装束に包まれた小柄なその身体は、軽くない運動によってほんのりと色づき。

 

 

 半泣きの上目遣いでこちらを見つめる、小さな野兎の神使……朽羅(くちら)ちゃんは。

 

 

 

 

「……えっ? あ、あれっ……な、何者、に、御座います……? あっ、あの、さっきまで不格好な狒狒(ヒヒ)が……あれっ??」

 

 

 

 ……おれたちが期待していた『類稀(たぐいまれ)なる術者』とは到底言い難い、慌てふためき平静を欠いた様子で。

 

 その(見た目は)愛らしい顔に、盛大に疑問符を浮かべまくっていた。

 

 

 



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416【夜襲会戦】ドキドキの開幕戦

 

 

 囘珠宮(まわたまのみや)内でも比較的上位に位置する、上級神使である錆猫の(なつめ)ちゃん……小さくても頼りになる彼女をして『見事』と称する程の【隔世(カクリヨ)】結界。

 

 その術者との邂逅を目指し結界内へと突入したおれたちが遭遇したのは、神々見(かがみ)神宮にて案内役を勤めてくれた(?)クソg…………もとい野兎の神使である朽羅(クチラ)ちゃんだった、わけ、なの、だが。

 

 

 ……数時間前に相対したときに受けた、アラマツリさんに折檻されて泣き叫んでいたときの印象が尾を引いており……ぶっちゃけ『そんなばかな』という感想のほうが強い。

 

 まぁ……だからといって、やることは何も変わらないのだが。

 

 

 

『来るよノワ。援護を』

 

「おっけ。【氷槍(アイザーフ)】【並列(パリル)三十二条(トリツヴィク)】……てぇッ!!」

 

『――我は紡ぐ(メイプライグス)……【加速(アルケート)】』

 

「えっ、お…………お客人……?」

 

「大丈夫だよ朽羅(くちら)ちゃん。わたしが守るから」

 

「――――っ!! ……は、はいっ」

 

 

 

 おれの奇襲から体勢を立て直し、正面から突っ込んでくる六頭の『獣』。……幸いというべきだろうか、『獣』それぞれに連携しようとする素振りは見られない。

 おれが放った三十二の氷槍に容易く進路を歪められ、ともすると何本かをその身に受けながら、『獣』は全くバラバラなタイミングで進攻を試みる。

 

 赤黒い触手が絡み合ったような名状しがたい体組織をもつ、生理的嫌悪感を催す四本脚の異形の生物……いや、魔物(マモノ)

 

 それを迎え撃つのは……右腕に補繕の痕こそ見られるものの、見るからに上質な造りの全身鎧を身に纏い、剣と盾をそれぞれ構え堂々と佇む『異世界の勇者』だ。

 

 

 あの白昼夢の『評価試験』にて、おっかなびっくりヤケクソ気味に撃退したおれとは異なり……人類に仇為す異形の存在を駆逐し続けてきた百戦錬磨の『勇者』の手に掛かれば、他愛の無いものなのだろう。

 

 

 

 

≪――窶ヲ窶ヲ鄒主袖縺昴≧縺ェ縲?、後□??シ≫

 

≪――繧ャ繧。繧。繧「繧「繧「??!!≫

 

≪――辟。讒倥↓雜ウ謗サ縺≫

 

≪――雋エ讒倥?蜉帙r隕九○繧≫

 

『……ハッ! 言葉さえ持たない『生物(モド)き』の分際で!』

 

 

 向かってくる『獣』にこちらから飛び掛かり、鼻先(?)を盾でブン殴って勢いを完全に殺す。

 脳(あるのかわからないが)を強かに揺らされ硬直した『獣』の身体に、股下から脳天まで剣閃が走る。

 

 二つに分断され倒れ行く『獣だったもの』を蹴飛ばし、次いで飛び掛かる『獣』の口内へと叩き込む。

 口部への刺激を受け反射的に顎を閉じたそいつの無防備な頭部へ向けて、光を纏った刺突が突き刺さり、盛大に()ぜる。

 

 続いて飛び掛かってきた『獣』の顎を盾で往なし、下段を左へと振り抜いた剣が『獣』の後肢を斬り飛ばす。

 直後剣閃を翻し、今度は左下から右上へと胴体を分断。勢いそのままくるりと踊るように一回転し、そのぶんの勢いを乗せた斬撃が頭部を真横に斬り抜ける。

 

 

 

 おれたちを矮小な捕食対象と認識し、考えなく飛び込んできた『獣』の半数が、百戦錬磨の勇者の手によってあっけなく十秒足らずで命(あるのかわからないが)を散らす。

 バラバラに分割され、トドメに【氷槍】を突き立てられても身じろぎしないとあっては……さすがにもう動くことは無いだろう。

 

 こうして群れの半数を駆除することに成功したわけだが……このままあと三体を駆除して終わり、となれば万々歳。

 しかし悲しいかな、今日一日で手にいれた情報を加味してよーく考えてみると……残念ながら、もっと厄介なことになりそうだという予想が立てられてしまう。

 

 

 

「……(なつめ)ちゃん、隠れて」

 

『――――然らば、我輩は森へ。身を潜めるは我らが本懐よ』

 

「ごめんね」

 

『問題にゃいとも』

 

 

 おれの直感に従い、【隠蔽】の外套のフードを目深に被り直し、駄目押しでおれ自身も【情報隠蔽】と【陽炎】の魔法を纏っておく。

 理由はわからないが現状得ているアドバンテージ、それをわざわざ無駄にするのも馬鹿らしい。『正義の魔法使い』の正体が割れていないのなら、その利点を活用させていただくとしよう。

 

 なにせ……今回の襲撃の陣頭指揮官サマが、増援と共に間もなく現れるハズなのだから。

 

 

 

 

「【鉄串ども(ペネトレイター)】【射ちまくれ(フルブラスト)】【実行(エンター)】!!」

 

「ッ、【防壁(グランツァ)(フォルティオ)】!!」

 

「ぴゃああああ!!!?」

 

 

 

 ()()()()『獣』をもう二体斬り倒していた勇者とは、真逆の方向……この【隔世(カクリヨ)】結界展開の要(だと思う)である朽羅(クチラ)ちゃんを狙って放たれた、明確に殺意を感じさせる攻撃。

 ごくごくふつうの、それこそ量販店(ド◯キ)百均(ダ◯ソー)なんかでは、この季節もあって安価で大量に調達できるであろう……バーベキュー用の鉄串。

 

 それらが。六本入りが十袋、計六十本が。

 まるで意思を持ち、そして『何者か』の指示に従うかのように、物理法則に反する『(混沌)』の法によって宙を舞う。

 

 

 おれの展開した【防壁】に阻まれ、硬質でけたたましい音を立てながら、鉄串は自身が耐えきれぬ衝撃によって折れ(ひしゃ)げ、その大半が使い物にならなくなる。

 その様子を認識し、そして魔法使い(おれ)を認識し……それら鉄串をけしかけた張本人の可愛らしい顔が、憎々しげに染まっていく。

 

 

 

 

「……ッ!! 最悪だわ。『魔法使い』だけじゃなく『勇者サマ』も来てるだなんて!!」

 

『やぁやぁステラちゃん。久しぶりだね。元気だった?』

 

「気安く話し掛けないでよ! 全くもう…………腹立つったらありゃしない!! 【鉄串よ(ペネトレイター)】【迸れ(ファイア)】【実行(エンター)】!!」

 

『はっはっは。相変わらず情熱的だね、ステラちゃん。ほらご覧? ()()()()()。ボクってば愛されてるだろ』

 

「えっ? あっ…………そ……そう、だね。……いや、えっと……そう?」

 

 

 第一波の『獣』を駆除し終え、こちらへと戻ってきた『勇者サマ』。

 敵意と共に放たれた鉄串をいとも容易く弾き飛ばしながら、余裕綽々とおちょくるようなセリフを吐いてみせる。

 

 敵の陣頭指揮官に対して精神攻撃を仕掛けながら……おれこと『正義の魔法使い』こと『ジャスティス・アンノウン』を、さも初めて会うかのように印象づけていく。

 

 

「ムッカつく……!! 気安く名前呼ばないでってば!!」

 

『ごめんねステラちゃん。謝るから。めんごめんご。ほらアンノウンも。ステラちゃんに謝ったげて。ステラちゃんに。ね、ステラちゃん。可愛い名前だねステラちゃん。どしたの真っ赤になってプルプルしちゃって。可愛いねステラちゃん。赤ら顔もエッチで可愛いよステラちゃん』

 

「ちょ、ちょっと……そのへんで」

 

「……ッッ!! ッ(とう)にアッタマ来た!! もう許さねぇブチ殺す! 『魔法使い』の仲間なら遠慮いらねぇ! 二人まとめて消し飛んじまえ!! 【キミに決めた(サモン・サーヴァント)】! 【全軍出撃(ゴアヘッド)】【実行(エンター)】!!」

 

「『ちょっ』」

 

 

 

 完全にガチギレバーサークモードと化した、陣頭指揮官……魔王メイルス配下【愛欲(リヴィディネム)】の使徒、佐久馬(さくま)(すてら)ちゃん。

 

 当初の目的として『重要拠点を嗅ぎ付けた『魔法使い』の排除』があったのだろう彼女は……忌々しい怨敵である『勇者サマ』に名を呼ばれ煽られ続け、もはや理性のタガが消し飛んでしまったらしく。

 

 

 

 

 預けられた兵力……その()()を、一気に解き放ってみせた。

 

 

 

「……おい勇者」

 

『…………えへっ☆』

 

 

 

 さっきは『勇者(ラニ)』が蹴散らしてみせた『獣』が、ぱっと見で倍以上。

 

 幸いにも宙を舞う『鳥』の姿は見られないが、一方で最悪なことに『龍』の巨体が……なんと、三つ。

 

 

 ()()最上位種『龍』が…………三体。

 

 

 

 

「後悔したってもう遅ぇ……どうせ遅かれ早かれ()んきゃなんない相手だ。今ここで『魔法使い』共々ブチ殺してやるよ! 『勇者』!!」

 

「絶対に『勇者』のせいじゃんコレ!! いっつもやり過ぎなんだって!!」

 

『いやいやいや元々『魔法使い』狙われてたし!? ボクは悪くないし!!』

 

「そんな言い訳がおれに通じると思うなよ! 帰ったらお仕置きだかんな覚えとけよ本当マジ!」

 

『ジョートーだよ! キミにだったらボクはナニされたって全然オッケー!』

 

「サカってんじゃ無ぇぞクソホモが!! 【死ぬ気で殺せ(キルゼムオール)】【実行(エンター)】!!」

 

「『ちょっ』」

 

 

 

 謎多き『正義の魔法使い』と、その愉快な仲間たちの戦い……朽羅(クチラ)ちゃん防衛戦とでもいうべき一戦が、こうして(ハードモードで)幕を開けた。

 

 

 

 ちくしょうめ。帰ったら魔力素材搾取してやるからな。

 

 

 



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417【夜襲会戦】レベルアップおれ

 

 

 いきなりボス戦……というか、モンスターハウスに(主に勇者(ラニ)のせいで)遭遇してしまったおれたち。

 ボス本体である(すてら)ちゃんに加え、単体でも中ボスとして成立するであろう『龍』が三体、おまけに『獣』が…………わかんない。いっぱい。たぶん二十くらいだ。うっわ。

 

 

 対するおれたち『勇者』パーティーは……『勇者』ラニと、『魔法使い』わかめちゃんの二人編成。うーん、定石(セオリー)的にはあと二人は欲しいところだな。

 

 なんてったって、今回の防衛対象である朽羅(くちら)ちゃん……この子と【隔世(カクリヨ)】にもしものことがあれば、この魔王の軍勢がそのまま現実世界を踏み荒らしていくだろう。

 念のために霧衣(きりえ)ちゃんを残してきているので、最悪市街地に侵攻される前に【霧】で包んでしまうことは出来るだろうけど……それでも、『獣』や『龍』相手に試したことは無いのだ。確実とは言い難い。

 

 それに……(性格はどうであれ)こんな小さくて可愛らしい子が命を散らすなんて、そんな目覚めの悪いことがあってたまるか。

 

 

 

 敵は強力、かつ()()()()。対してこちらは人手不足。

 おれたちはどうすればよいだろうか。レベルを上げて物理で殴るべきだろうか。酒場に寄って仲間を募るべきだろうか。……残念ながら会敵した時点で手遅れだ。

 

 なら……仕方無い。おれが()()()()()()()()しかあるまい。

 

 

(…………本当に、()()やるの? ……大丈夫なんだね?)

 

(大丈夫。天繰(テグリ)さんの言葉でハッキリした)

 

(えっ? な、何が?)

 

 

 

 実は……おれの身にここ最近、ひっそりと生じていた違和感。

 その原因を突き止める手助けとなったのは、なにげない天繰(てぐり)さんの一言だった。

 

 

 

――御屋形様が件の映像を公開して以降……手前の調子が(すこぶ)る好調に御座いまして。

 

 

――つまり……天繰(てぐり)さんが『すこ』されればされるほど、天繰(てぐり)さんの……神力? が上がってく……みたいな?

 

 

 

 おれたちが配信したさまざまな動画、そこに映ったおれたちの活躍を……ときには語彙力を無くしながら、ときには『神』と崇め称賛しながら、全身全霊で『推し』てくれる視聴者さんの存在。

 彼ら彼女ら、顔も知らぬ支援者(フォロワー)さんたちの『信仰』ないしは『想いの力』とでもいうべきものが、神力を――つまりは、おれたちの言うところの『魔力』を――高めてくれるのだと。

 

 

 以前、都心ベイエリアの高層ホテルで『評価試験』を強いられ、息切れしながらもアレを初披露してから……もう五ヶ月ほども月日が流れているのだ。

 

 あれから知り合いもたくさん増えたし、みんなであちこちに脚を運んだし、頼りになるメンバーも増えたし、いろんなことに挑戦したし、おかげで知名度もぐーんと増えたし……もちろんチャンネル登録者も応援してくれる人々も、ずっとずーっと増えたのだ。

 

 おれはもう……あのときのおれじゃない。

 

 

 

 

(ことわり)を越えて来たれ。今ひとひらの力を示せ。わたしが望むわたしの姿……気高き稀なる強者(つわもの)よ!」

 

 

 

 百霊(もたま)さまと、棗ちゃんと、日本屈指の神格と規模を誇る実力社(じつりょくしゃ)の方々と繋いだ縁は。

 ミルさんをはじめとする大御所配信者集団の、現代日本でも屈指の支持(信仰)を集める方々と繋いだ縁は。

 

 その想いの強さ、その願いの力は……決して砕けることは無い。

 

 

 あのときには『いっぱいいっぱい』だった術式でも。

 そこそこの経験を積んだ今のおれになら、きっと使いこなせる。

 

 なんてったって、おれは……この世界唯一の魔法情報局『のわめでぃあ』の、泣く子も笑う敏腕局長なのだから。

 

 

 

「【『創造録(ゲネシス)』・解錠(アンロック)】!」

 

 

 

 つよく賢いエルフの頭脳は、工程をちゃーんと記憶してくれている。

 

 無意識下でも、いつだって最適解を導き出し続けてきてくれている、おれの頼れる並列思考……超一流の配信を成功させるための超高精度並列演算能力を半ば強引に過大解釈し、おれの手助けをしてくれる『もう一人のおれ』として切り離す。

 

 仮初(かりそめ)の意識を与えられた『もう一人のおれ』に、相棒(ラニ)の編み出した【義肢(プロティーサ)全身骨格(トルクトレイル)】を骨格として、身体と装備を付与していく。

 

 おれがこれまで見聞きしてきたものと自慢の妄想力(ライブラリ)から、彼女に適切な装備を見繕う。

 おれたちパーティーの……『勇者』と『魔法使い』に続く、頼れる三人目のメンバーを想像し、創造する。

 

 

 堅固で、強固で、頑丈で。

 おれが繋いだ、繋ごうとしている『縁』すべてを守るための、決して挫けぬ()の者の名は。

 

 

 

「【召喚式(コード)・『堅牢強固たる騎士(インヴィンシブル)』】!!!」

 

『ほぇー』「ちょ、おきゃ……えぇぇ!?」

 

 

 

 現れたのは……重厚かつ堅牢な全身鎧に身を包み、身バレを防ぐためにも兜のバイザーをきっちりと下ろし、長大な塔盾(タワーシールド)長銃槍(ブラストランス)を自信満々に振りかざす、(外からは解らないが)かっこかわいいエルフの護衛騎士。

 護衛対象を確実に守りながら、襲い来る襲撃者を返り討ちにすることを目的とした、耐久力と単発火力に秀でた分身体(オルターエゴ)

 

 

 

「それじゃ……魔法使い(おれ)は敵の掃討に向かうから、朽羅(クチラ)ちゃんは頼んだよ? 堅牢な騎士(おれ)

 

「お任せを。騎士(おれ)のこの装備なら、十二分に役割を全うして見せるから……そっちこそ頼むよ? 叡智の魔法使い(おれ)

 

 

 決戦に向けて、制限時間つきの人員補充を済ませたおれたちによる……この世界の防衛戦が幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








「…………始まったようです、夜泉(ヨミ)様」

「うん。視えてるよ」

「斯様に禍々しい化生(ケショウ)めが……一体どっから湧いて出やがった」

「…………さて、ね。この国の(アヤカシ)由来じゃ無さそうだし」

「……夜泉(ヨミ)様の(まなこ)でも、見通すことは叶いませんか」

「そういわれても……仕方がないね。わしの『眼』も『八洲(ヤシマ)』も、所詮は『日本』を視透(みとお)すものに過ぎないし。……外つ国ならまだしも、異なる世界からの侵攻だなんて前代未聞。予測の立てようが無いし」

「…………だから、朽羅(クチラ)()()()()()……ってぇコトですか。……そのお陰で【隔世(カクリヨ)】の位置指定は遣り易くて……まぁ、助かるのですが」

「そう。……せっかく百霊(モタマ)のやつに『おもしろいモノ』貰ったことだし……あの長耳の小鬼の()()を、間近で視ておきたいし」

「……………………一体……何をお考えですか。夜泉(ヨミ)様」

「…………べつに、なにも?」

「左様ですか。……では、質問を変えましょうか。…………『シズ』とは、何者ですか」

「………………へぇ、()()()()か。……ふぅん……腕を上げたね? 荒祭(アラマツリ)。わしらの荒御霊(アラミタマ)の分際で……(さか)しい奴」

「儂とて、神域の厄を祓う『廻り方頭』なれば……此の程度。……して、夜泉(ヨミ)様。よもやとは思いますが」

「……………………ばれちゃったか」

『ばれちゃった。…………仕方無いね』

「ッ!!?」

『神様は……嘘が下手(ヘタ)だね。……まぁ、そっか。今まで……嘘ついたことなんて、無いか』

「その口を綴じろ! 夜泉(ヨミ)様に何用だ!!」

『…………そんなに、警戒しなくて、いい。……神様たちに、直接危害は…………加えない』

「…………てめェが、『シズ』か」

『ん。…………【睡眠欲(ソルムヌフィス)】、宇多方(うたかた)(しず)。……ボクの名前、よろしく』

「ヨロシクする心算(つもり)なんざ微塵も無ェ。……薄汚ぇ侵略者めが何の用だ。夜泉(ヨミ)様に何しやがった!!」

「…………べつに……わし、何もされとらんし」

『……そう。ただ、神様は……ボクの『悪巧み』に、乗ってくれた……だけ』

「そう、それだけだし。……でも…………そうだね。根掘り葉掘り聞かれるのも……もう、ちょっと面倒だし」



『…………じゃあ、彼も?』


「そうだね。面倒になってきたし。

 ………………()()()()に、引きずり込んじゃおっか」



「……ッ!!?」





…………………………………


………………………


……………





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418【夜襲会戦】『魔法使い』の戦い

 

 

 魔物どもを閉じ込める【隔世(カクリヨ)】結界維持の要である、可愛らしくもクソ生意気な小さな野兎の神使。

 その護衛を信頼に足る騎士(おれ)に任せ、魔法使い(おれ)はとにかく敵を削ることに専念する。

 

 もう一人の信頼に足る仲間『勇者(ラニ)』は、敵の指揮官である……今やバーサークモードと化した(すてら)ちゃんと、その護衛の『龍』二体を相手取って大立ち回りの真っ最中だ。

 

 

 つまるところ、おれのノルマとなっているのは……『龍』が一体と、『獣』がたくさん。

 ……なんだか行ける気がしてきたぞ。

 

 

 

 

≪――雋エ讒倥?蜉帙r隕九○繧≫

 

≪――辟。讒倥↓雜ウ謗サ縺≫

 

 

「やかましい!! 【焼却(ヴェルブラング)】!!」

 

 

 外観はグロテスクだが、その体組織に植物の性質を備える奴等に『火』が有効なのは、前回の『評価試験』で実証済みだ。

 つまり経験が活きたというわけだな。後でジュースを買って飲もう。

 

 とはいえしかし、鬱蒼とした森の中で火を放つなんて、常識的に考えれば有り得ない解決策だろう。倒した敵の身体を焦がす残り火が下草や低木へと燃え広がれば、そのまま山火事の原因となる。

 そうなれば、近隣に住まう人々の生活と財産が脅かされ……また負の感情が高まり、悪循環へと陥ってしまう。

 

 

 …………の、だが。

 

 

 

「近付かせねえよ! 【焼却(ヴェルブラング)】【並列(パリル)三十二条(トリツヴィク)】!!」

 

 

 というわけで、最初から全力(クライマックス)だぜ。

 

 山火事の原因になる。森で火は危険。なるほど了解。しかし使う。

 あいつらに『火』が有効であることは変わり無いし……なんなら周囲に炎が拡がれば、そのまま奴らの行動を阻害することができるわけだ。一石二鳥だな。

 燃え広がったら燃え広がったで、いよいよヤバくなったら魔法で消火すればいい。大丈夫、叡知の美少女エルフだよ。

 

 

「はっはっはっは。燃えろ燃えろ。どんどん燃えろイェーフゥー!」

 

「も、森がー!? 神々見(カガミ)の森がー! あぁぁー!」

 

「アッだめみたいだね、あの魔法使い(おれ)完全に調子に乗ってるよあれ」

 

 

 周囲を炎に巻かれ、身体の末端より炎に侵され食いつかれ……そうして動きを止め、あるいは理知的な行動が出来なくなった『獣』目掛けて、おれは安定安心信頼の『聖命樹の(リグナムバイタ)霊象弓(ショートボウ)』にて制圧射撃を掛ける。

 狩猟民族(エルフ)としての本領を遺憾なく発揮し、炎で照らされ視界も充分な標的へと、毎秒二射ずつのペースで矢を突き立てていく。

 

 黒くてキモくても『獣』は『獣』だ。狩猟民族(エルフ)であるおれが『獣』なんかに負けるわけ無いだろう。おれは絶対『獣』になんか負けたりしない。

 

 

 

 

≪――蜉帶ッ斐∋縺ィ豢定誠霎シ繧ゅ≧縺倥c縺ェ縺?°窶ヲ窶ヲ蟆丞ィ!!!!!!≫

 

「あ(マ゜)――――――!!!!」

 

 

 『獣』の群れに気を取られていたおれのもとへ、側方から『龍』の魔力砲(ブレス)が飛んでくる。

 木々をなぎ倒し、地面を抉り、蒸発させ……それでも出力は以前『評価試験』で受けたものの半分にも満たず、つまりは【防壁(グランツァ)】の多重顕現で防ぎきることは可能なのだが、いかんせんタイミングと体勢が悪かった。

 

 すわ爆発炎上か、と身構えたおれの目の前に……おれのものではない防壁が、何の前触れもなく姿を表す。

 

 破壊力を犠牲に速射性に割り振られた『龍』の魔力砲(ブレス)は防壁に阻まれ、放射状に散らされ周囲に破壊をばら蒔くものの……おれたちに一切被害を生じさせることは無かった。

 

 

 

「…………命拾いしたわ。ありがとう騎士(おれ)

 

「調子乗るのも程々にな? 魔法使い(おれ)

 

「ウッス…………」

 

 

 その表情を窺うことが出来ないまでも間違いなく苦笑を浮かべているであろう、朽羅(くちら)ちゃんの側に控える騎士(おれ)……おれの思考パターンを熟知しきっている彼女の防御魔法【対砲城塞(バスティオン)】によって、辛くも爆発炎上を免れた魔法使い(おれ)

 黒こげアフロな若芽(わかめ)ちゃんなんて見たくなかったので、これは手放しで称賛すべき。本当に騎士(おれ)を召喚しておいてよかった。

 

 

 

「……っていうか! 騎士(おれ)も手ぇ貸せし! 出来るだろおれ知ってんだからな!」

 

「あーバレたか。まぁ元々おれだもんなぁ……しゃーない。じゃーまぁ」

 

 

 騎士(おれ)にも『朽羅(くちら)ちゃんの護衛』という最優先任務があるが、それをこなしながらでも参戦が可能だということは、創造主であるおれがよーく知っている。

 そんな相手に隠し通すことは不可能だと諦めたのだろうか、騎士(おれ)は(顔は見えないが)苦笑混じりの声色で『諦め』を滲ませると……左腕に携えた長銃槍(ブラストランス)を構え、地に根を張った塔盾(タワーシールド)の砲郭に据える。

 

 

「んじゃあ……『龍』引き受けるわ。代わりに『獣』は頼むぞ、すばしっこいの苦手だし」

 

「オッケー頼んだ。『獣』狩りは任せろ」

 

「任せるけど……山火事なんとかしろよ? 魔法使い(おれ)

 

「アッ、…………ッス」

 

 

 魔力砲(ブレス)放射後の放熱を終え、次なる攻撃に移るべく体勢を解く『龍』。……そいつの相手を騎士(おれ)に任せ、魔法使い(おれ)は再び『獣』の群れに立ち向かう。

 じわじわと周囲に燃え広がる炎によって自慢の運動能力を封じられた『獣』だが、しかしそうはいってもまだ二桁数は健在なのだ。炎の切れ目だってあちこちにあり、まだまだ油断するわけにはいかない。

 

 同じ失敗を二度は繰り返さない。【探知】魔法を張り巡らせ、残る『獣』の位置を把握。

 じっくりと、それでいて迅速に狙いを定め、立て続けに【焼却(ヴェルブラング)】を投射。炎に巻かれ動きを止めた端から霊象弓(ショートボウ)で磔にし、丁寧にトドメを刺していく。

 

 

 並列思考の一部を分割・独立させたせいで、いつもよりかはリソースが減っている自覚はある。(すてら)ちゃんから正体を隠蔽するための各種魔法も並列展開中なので、そのあたりの潜在的な負荷が先程の『うっかり』の原因なのだろう。

 

 しかし、(あらかじ)めその短所を把握できているのならば、充分にやりようはある。分身体(オルターエゴ)にタスクを割り振ったおかげで魔法使い(おれ)の負担も減ったわけで……この程度の難易度ならば、丁寧に処理していけば問題ない。

 常に【探知】を発動し、おれの担当である『獣』以外にも騎士(おれ)勇者(ラニ)の戦況を把握、周囲を適度に延焼・消火させて有利な狩場を作り出しつつ、ほか二つの戦場に適宜援護射撃を叩き込んでいく。

 

 

 まぁ、実際のところ……ここが【隔世(カクリヨ)】の結界内で助かった。現世であったら軽率に火を放つこともできなかっただろうし、『龍』の放つ魔力砲(ブレス)の処理にも細心の注意を払わなければならなかっただろう。

 

 

 魔法使い(おれ)担当の戦場は間もなく王手を掛けるとはいえ、まだすべてが片付いたわけじゃないのだが。

 

 

 

 おれ……この戦いが終わったら、この【隔世(カクリヨ)】を張ってくれた術者にお礼するんだ。

 

 神使の方の喜ぶものとかわかんないけど……たぶん御神酒とかなら、迷惑がられることもないだろう。

 ヨミさまにももう一度お話と、あらためてお力添えのお願いをさせていただきたいし……アラマツリさんと朽羅(くちら)ちゃん以外の神々見(カガミ)の方々にも、ちゃんとご挨拶しておきたいし。

 

 そのためにもまずは、目の前の障害を突破しないと。

 

 

 

 

 このときのおれは…………あんな大変なことが起こっていたなんて、当然これっぽっちも知る(よし)もなく。

 

 能天気にも、こんなに場違いなことを考えていたのだった。

 

 

 



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419【夜戦会戦】『護衛騎士』の戦い

 

 

 魔法使い(おれ)のほうは……まぁ調子を取り戻したみたいだし、任せてしまって大丈夫だろう。

 基本的にはハイスペックなのだが、ときどき調子に乗りがちで手痛い失敗を被るというのが、魔法使い(おれ)のひとつの特徴でもある。

 

 たまにポンコツさを垣間見せるという、ほかでもない()が盛り込んだ設定……配信や動画撮影においては撮れ高を稼ぐ『愛されムーブ』に繋がるのかもしれないのだが。

 だがさすがに、こと命のやり取りを行う場面においては……それはちょっと、さすがにご遠慮いただきたいわけで。

 

 

 

「まぁ……欠点がわかってるなら、それをフォローすりゃいいだけで」

 

「おっ、お客人……? その声色は、お客人で御座いましょう? あれっ、でも……あれっ? あの弓師も……あれっ?」

 

「はいはーい朽羅(くちら)ちゃーんちょーっと隠れててねーはい危ないよー」

 

「えっ? えっ? な、何を言ぴゃああああああああああああ!!!」

 

 

 

 魔力砲(ブレス)を防ぎきった騎士(おれ)の【対砲城塞(バスティオン)】と、それを繰り出す騎士(おれ)に興味を抱いてくれたのだろうか。

 巨大な体躯を躍動させ、立ちふさがる木々を殴り飛ばし薙ぎ払いながら、大型ダンプに匹敵するその巨体が迫り来る。

 

 おれの姿と盾の影から、その威圧感半端無い光景を目にしてしまったのだろう。朽羅(クチラ)ちゃんが甲高く可愛らしい悲鳴を上げる。

 まぁそりゃあそうだろうな。なにせ今彼女が感じている印象とは、それこそそのまんま大型ダンプ(くらいのサイズのキモいコワいキケンな非生物)に跳ねられる直前なわけで。

 

 

「な、な、な、何を(ぼう)っと突っ立ってやがりますお客人!? 小生を守ると言っアッしぬ! しぬ! 小生これしぬ!! やだやだやだやだ助けてェ――荒祭(アラマツリ)様ァ――――!!」

 

「アァーやっぱ(てぇて)ぇんじゃァー」

 

 

 

 悪戯っ子のけなげな恋心に満たされるものを感じながら、慌てず騒がず騎士(おれ)は防御用の戦闘技能を発動する。

 そもそもだ。あんな地形を変えるほどエグい魔力砲(ブレス)を容易く霧消させる騎士(おれ)に、あの程度の質量攻撃が防げないわけがない。

 

 

 

「【戦闘技能封印解錠(アビリティアンロック)】【耐衝撃防御体勢(ランパート)】」

 

≪――――蜿ゥ縺肴スー縺!!!!!≫

 

「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!??」

 

 

 咆哮を上げながら突っ込んでくる『龍』の巨体、ものすごい勢いで突き込まれる鼻先、禍々しく尖った先端衝角……直撃すれば刺し貫かれて投げ飛ばされて、まぁ控えめに言って死ぬであろう衝角突撃(ラムアタック)を、しかし騎士(おれ)は微塵も()されずに受け止める。

 

 装備に魔力を通わせ破壊不可能にする魔法。魔力を纏う装備への物理的な衝撃を弾き返す魔法。そして……魔力を通わせた装備の座標を『固定』する魔法。

 

 それら防御魔法の複合による戦闘技能、おれが長きに渡って練りに練った妄想力の結晶。それこそがこの対質量攻撃用複合防御技能【耐衝撃防御体勢(ランパート)】。

 全リソースを『防御』に充てるため、それこそ側背面を『獣』に突かれたら悲しいことになるのだが……そこは騎士(おれ)が絶対の信頼を置く魔法使い(おれ)が、ちゃんと仕事をこなしてくれていたようだ。やれば出来る子なんだよなぁ。

 

 

 こうして発動した【耐衝撃防御体勢(ランパート)】、その効能はすさまじく……おれの構えた塔盾(タワーシールド)から()()()は全く平和なものだが、()()()側はそうはいかない。

 衝突の衝撃で周囲の空気は揺れ、地面は捲れ上がり、突っ込んできた『龍』本人は跳ね返されたその衝撃をそのまま頭部に叩き込まれ……カチ上げられた顎から苦悶の声を漏らしている(ように見える)。

 

 衝突の衝撃は、質量と速度に大きく影響されるらしいので……あんなに重たそうな身体であんな速度で突っ込んできて、その衝撃が集中する鼻先をそのままの勢いで殴り返されれば、そらまぁ痛いやろなぁ。

 

 

 そしてその無防備きわまりない体勢を、おれが黙して見逃す理由も無いわけで。

 

 

 

 

「【砲門開け(オープンファイア)】【城塞主砲(マグルシュ・ドーラ)】!!」

 

≪――――縺翫>繧?a繧埼ヲャ鮖ソ!!!!!!≫

 

 

 

 (あらかじ)め塔盾の砲郭に組み込んでおいた長銃槍(ブラストランス)から、意趣返しとばかりに魔力砲を思いっきり叩き込む。

 長槍(ランス)に組み込まれていた魔法呪紋に魔力を流し込み、勢いそのまま攻性魔力の塊として吐き出し、そうして放たれた城塞主砲は……まぁこの距離だもんな。外さんわ。

 

 鼻先を弾き飛ばされて体勢を崩し、回避も防御もままならない状況で、ほぼゼロといえる至近距離からの、おおよそ完璧なカウンター。

 奇しくもそれはあのときの『評価試験』の再現。胸郭に風穴を開けられた『龍』は、千切れそうな上半身を苦しげに身動(みじろ)がせる。

 

 

 ……そう、こいつはこの攻撃能力を備えておきながら、なんとびっくりHBD(体力と防御力)特化型。

 厄介なことに堅さとしぶとさには定評があり、普通の生物であれば致命打となる攻撃を喰らってなお、往生際悪く自己再生を試みる程なのだ。

 

 だがしかし、そのことは()()()()()

 知っているなら、それを踏まえて対処すればいいだけだ。

 

 

 

 

「うっす。お疲れっす」

 

≪――――繧、繝、繧「繧「繧「繧「繧「繧「繧「繧「繧「繧「繧「!!!!!!!!≫

 

 

 

 防御体勢【耐衝撃防御体勢(ランパート)】を解除し、小脇に抱えるように保持していた長槍(ランス)を大きく突き出し、長く鋭い穂先で『龍』の下顎を刺し貫く。

 そのまま槍を通して超超高密度の光属性魔力を流し込み……その攻性魔力の奔流は標的の魔力回路をずたずたに侵食し、ほんの数瞬の後に臨界を起こして盛大に炸裂する。

 

 対象を内から崩壊させる魔力を流し込む魔法剣技、【滅却(レクイエスク)】。

 これで制御中枢たる頭部を破壊すれば、さすがに自己再生は叶わない……ということも、おれは()()()()()

 

 

 こうして護衛騎士たるおれは、数ヵ月前に『評価試験(進研ゼ◯)』で予習した通りの対処にて……特に手こずることもなく『龍』一体の駆除に成功したのだった。

 

 

 

 

 

魔法使い(おれ)のほうは……まぁ、大丈夫そうかな。勇者(ラニ)のほうは」

 

「あ、あの……お客人?」

 

「んう? どしたの、朽羅(くちら)ちゃん。大丈夫? ケガ無い?」

 

「あっ……えっと、その…………は、ぃ」

 

「よかった。朽羅(くちら)ちゃんに何かあったら(結界が)大変だからね」

 

「……っ!! あっ! アッ、あっ、あっ、あっ……えっと、あの…………はぅぅ」

 

 

 

 お、おぅ……なにやら顔をおさえてそっぽ向いてうずくまってしまったが……きっとそれほどまでに『龍』が恐ろしかったのだろうな。

 

 こんな小さな子が、たった一人で『獣』の群れから逃げ続けていたのだ。とりあえずの危機が去って、安心感のあまり腰を抜かしてしまったとしても、それは仕方の無いことだ。

 ……足下に広がる水溜まりは、見なかったことにしておこう。騎士の情けだ。

 

 

 

 そうこうしている間にも、どうやら魔法使い(おれ)のほうも片付いたようだ。

 となれば、あとは指揮官(ボス)護衛(『龍』)二体を相手取っている勇者(ラニ)のほうだけだ。

 

 さすがのラニとて、かつておれがあんなに苦労した『龍』二体を相手取るのは、少なからず苦労していることだろう。一刻も早く魔法使い(おれ)を援護に行かせないと。

 

 

 

 ……なーんてことを考えていたおれの目の前、突如飛んできたモノを目の当たりにして。

 

 朽羅(くちら)ちゃんの『がまんゲージ』が、再び決壊した。

 

 

 

 かわいそう。かわいい。

 

 

 

 



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420【夜襲会戦】『勇者』の戦い

 

 

『さて、片割れは早くも死んじゃったワケだけど…………いや、これそもそも『生きてる』って言うべき?』

 

「ッ、知らねぇよ! 【消し飛ばせ(ブラストエンド)】【実行(エンター)】!!」

 

『うわぁーコワいー(棒)』

 

 

 

 おれたちが呆然と見つめる先、そこではこれまた壮絶な戦いが繰り広げられていた。

 

 まるで一本一本が意思を持ったかのように飛び回る、(すてら)ちゃんが放つ投擲物……非常識なほどの速度と機動と殺傷力を備えたそれらを、剣と盾と【門】で華麗に捌ききっている異世界の勇者。

 傍らには既に首から上を失くしボロボロに成り果てた『龍』だったものが、はらはらと宙に解けるように消えようとしている。

 

 

 いやー、びっくりしたね。いきなり『龍』の生首が降ってきたんだもんよ。

 顕在型防御魔法(パッシブディフェンス)もあるし、仮に直撃しても損傷なし(ノーダメ)で凌ぐ自信はあったけど、索敵を【魔力探知】のみに頼っていたのが裏目に出たようだ。

 見るからに機能を停止している死骸(生きていたのかはわからないが)が飛んできたところで、魔力を持っていなければ探知に引っ掛かってはくれないわけだな。

 

 ノルマを消化して気が緩んでたのと、がまんが緩んじゃった朽羅(くちら)ちゃんの艶姿に釘付けになっていたとはいえ……これじゃ魔法使い(おれ)のことを笑えやしないな。

 並列思考を失って詰めが甘くなっているのは、どうやら騎士(おれ)も同じようだ。気を付けないと。

 

 

 

「……ッ!! な……何だよソレ! ざっけんな反則だろ!!」

 

『とんでもない。ボクのアイデンティテテュイ? だよ。まぎれもないボクのチカラさ』

 

「ぐ…………っ、【追い詰めろ(ハンドリング)】【土砂よ(セズメンド)】【実行(エンター)】!!」

 

『……そっちこそ反則じみてない? ステラちゃん。従えられるモノに制限とか無いの? ステラちゃん』

 

「あったとしてもテメェなんざに教えねぇよ! 大人しく死んどけ!!」

 

『やだプー』

 

 

 

 魔法使い(おれ)がさんざん警戒していた魔力砲を、あろうことか【門】に取り込みそのまま撃ち返し……その直撃を受けたのであろう『龍』は皮肉にも、自らの最大火力によって左半身を削られ。

 その『反則』じみた戦法に異議を唱えようとするものの、全く聞く耳を持たないどころか更に煽られ……(すてら)ちゃんはどうやらヘイトがマキシマムのようで、効果が薄いにもかかわらず得意の魔法による投射攻撃を続けてしまう。

 

 いやまぁ、確かに……連携を阻止するためには煽り・挑発が有効なのかもしれないけど……味方であるはずのおれから見ても、そこはかとなくムカつくもんな。

 かわいそうに顔真っ赤な(すてら)ちゃんは、勇者ラニを包囲拘束しようと土砂を巻き上げけしかけるが……残念ながら当の勇者は気にも留めず、当たり前のように【門】で呑み込んで無力化しつつ手負いの『龍』に肉薄し、必死に振るわれた腕での殴打をあっさりと捌いて懐に飛び込み、右手の剣を数閃。

 

 これまた見事な手際で二体目の『龍』が解体され……このボス戦も、残すところあとひとり。

 

 

 

『ほらほら、あとはもうステラちゃんだけだよ。どうやら()()()も終わったみたいだし、とっておきの新兵器も全滅みたいだね。ねぇねぇどんな気持ち? とっておき全部瞬殺されちゃったけど今どんな気持ち? ねぇねぇ』

 

「ギ…………ッ!!」

 

 

 ……いやぁ、くっそムカつくわこの勇者(ぷに◯な)

 

 おれはまだ勇者(ラニ)の可愛らしい容姿を知っているから、こんな煽りを受けたとしても『はははこやつめははは風呂んとき覚えとけよ』程度で済むのかもしれないけど……一方の(すてら)ちゃんにとっては、素性不明かつ正体不明な仇敵からの執拗な煽り行為となるわけで。

 残念なことに、煽り耐性が低めの(すてら)ちゃんは……まぁ、うん。完全に怒り心頭じゃんどうしてくれんのこれ!! どう収拾つけるつもりだオイ勇者!!

 

 

 

(いやね、こんだけ怒ってくれれば警戒疎かになるじゃん? そこを魔法使いに【草木】で緊縛拘束してもらおうって寸法よ)

 

(こちら騎士(おれ)。でもこれ、さすがに怒らせ過ぎなんじゃ……? さすがにちょっと可哀想っていうかラニひどいっていうか)

 

(こちら魔法使い(おれ)。ラニがひどいのは同意なので後で採集の刑するとして)

 

(ねえ採集の刑ってなあに!?!?)

 

(するとして! でも……おれ()()を拘束すんの!? このめっちゃキケンな匂いする魔力の渦の、その中心を!?)

 

((ファーーー!!?!?))

 

 

 

 えーっと……(すてら)ちゃんが【愛欲(リヴィディネム)】で支配できるものは、どうやら『物質』に限らないようで。

 今や彼女の周囲を取り巻く()()そのものが攻性魔力を付与され、ごうごうと音を立てながら渦を巻いている。

 

 そしてまぁ、当然というか何というか……彼女の周囲足下の大地も、同様に『支配下』に置かれてしまっているようで。

 おれが【草木(ヴァグナシオ)】で奇襲を掛けようにも、魔法を送り込むことができなかったのだ。

 

 

 

「えーと、待ってね。えっと……【砲門開け(オープンファイア)】【城塞主砲(マグルシュ・ドーラ)】!!」

 

「『うそやん』」

 

 

 騎士(おれ)が放った砲撃魔法は、渦に散らされて周囲に破壊を撒き散らすだけで。

 

 

「待っ、まっ……【氷槍(アイザーフ)集束(フォルコス)】!!」

 

「『うそやん』」

 

 

 魔法使い(おれ)が放った貫通力特化の氷魔法は、風に煽られ穂先を逸らされた上で粉々に砕かれ。

 

 

 

「【取扱注意危険物(イクスプローシブ)】【広域拡散(スプレッドアウト)】【あいつらを入念に(ターゲットインサイト)】【全部ぶち壊せ(フルブラスト)】【実行(エンター)】!!」

 

「「『うそやん!!?』」」

 

 

 

 鉄壁の守りを得た(すてら)ちゃんによる無差別広範囲攻撃……支配下に置き『爆発』を命じた『含光精油』を()()()()()とばら蒔く絨毯爆撃によって。

 

 おれたちは一転して窮地に陥り……とりあえず騎士(おれ)の【対砲城塞(バスティオン)】に潜り込むのだった。

 

 

 

 







『これ待ってたら嵐過ぎ去ったりしない?』

「こちら魔法使い(おれ)。誰かさんが怒らしちゃったから望み薄だと思うぞ」

「こちら騎士(おれ)。全くもって同意だわ。とりあえず戦犯蹴り出した方がいいんじゃね? タゲ(なす)ろうぜ」

『おいやめろばか!!!』




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421【夜襲会戦】『魔法使い』の奥の手

 

 

 はっきり言おう。あの『含光精油』由来の爆薬だけど、なかなかにヤバイ代物だぞアレ。

 

 

 そもそもが魔力の塊(まぁ液体だが)である『含光精油』は、それそのものに膨大な魔力を秘めているわけで……そしてその魔力を用いて【爆破】魔法を形成することは、ある意味では理に適ってるのかもしれない。

 爆薬がそこにあるんだから、あとはそれを起爆させるだけということだ。簡単でしょ。

 

 しかし本来であれば、たとえ爆薬そのものがあったとしても、起爆するための装置となるべき呪文や呪紋、あるいは魔法道具が必要となるのだが……そこは(すてら)ちゃんの能力によって大幅にショートカットされている。

 

 

 彼女の持つ【愛欲(リヴィディネム)】の能力は……周囲のありとあらゆるモノを支配下に置き、自在に『命令を下す』もの。

 大気に『渦を巻き私を守れ』と、大地に『何者も通すな』と命令を下したように……霧状に散らした含光精油に『盛大に()ぜろ』と命令を下したに過ぎない。

 

 

 

 そうしてこうして、渦巻く大気によって拡散された爆薬の霧は、断続的に爆発音を響かせながら盛大に大気を揺らし、静かだった山中の木々や地面や岩を木っ端微塵に打ち砕いていく。

 四方八方から絶えず襲い来る爆炎と衝撃波には……さすがのおれも、ちょっと生きた気がしない。

 

 

「どうすんのこれ! 騎士(おれ)の攻撃じゃ突破出来ないよ!?」

 

魔法使い(おれ)の弓もダメだよなぁ……ラニ、公園のときみたいに突っ込めないの?」

 

『いやー、あのときはただの『落ち葉』の渦だったんだけど……これね、大気そのものが壁になってるわ。言葉通りの、壁』

 

「【門】で吸い尽くすのとかは?」

 

『試してみたけど、吸った端から補充されてる。……そりゃそうだよ、水の中でもないし。大気なんてそこらじゅうにあるし』

 

「「つんだじゃん」」

 

『やばいね』

 

 

 

 どうやら(すてら)ちゃんの攻撃パターンが変わったようで、今までのような無差別焼夷爆撃ではなく、明らかにおれたちを狙っているようだ。爆発の密度と衝撃力が増した気がする。

 

 これだけの重爆撃を受けてビクともしない騎士(おれ)の防御力に驚かされる反面、この状況を打開できない事実に少しずつ焦りが募る。

 今でこそ【隔世(カクリヨ)】の中で収まっているが、こんなに際限なく破壊されては現実世界との齟齬が大きくなり過ぎてしまい、さすがに結界の維持に支障を(きた)すかもしれない。

 

 ただでさえ半端無い結界規模なのだ。維持するために必要な神力(魔力)は、恐らく相当のものなのだろう。

 おれたちがここで亀のように引きこもっていれば……いずれは【隔世(カクリヨ)】結界が決壊し、現実世界に甚大な被害を生じさせかねない。

 そう……結界が決壊。フフッ。

 

 

『なにわろてんねん』

 

「おだまり元凶」

 

『ぐぬぬ』

 

 

 …………いや、おれとて決してふざけていたわけじゃない。

 

 事実としておれは……騎士と魔法使い(おれたち)は、この状況を打開するための案を思いついたのだから。

 

 

 とりあえず懸念すべきは、あの大気の守り。あれを早急に攻略できない限り、おれたちに勝ち目はない。

 ……いやまあ、あの爆薬の弾切れを待つのもアリっちゃアリかもしれないが……(すてら)ちゃんのカバンにどれだけの量が収まってるかわからないし、賭けるにはリスクが大きすぎる。

 

 なのでとりあえずは、あの風を無力化する方向でいく。

 少々手荒な真似をしてしまうことになるが……後始末はちゃんと請け負うので、仕方ないと割りきるしかない。

 

 

 

 

(ことわり)を越えて来たれ。今ひとひらの力を示せ。わたしが望むわたしの姿……気高き稀なる強者(つわもの)よ」

 

『……ッ、…………無茶するなぁ、本当に』

 

 

 いやいや……ところがぎっちょん、そこまで無茶ではございませんで。

 

 まぁ確かに、おれの中の魔力を絞り出すとあっては、それは結構な出費となるだろうが……それこそ()()()()であるならば、都合の良いことに魔力(イーサ)はそのへんに満ち溢れているのだ。

 

 

「【『創造録(ゲネシス)』・解錠(アンロック)】……【蒸着(ジャンクション)】」

 

「……そう、それに……今回に至っては、わざわざ()()()必要もない」

 

 

 おれの並列思考(マルチタスク)では、現状残念ながら二人分の人格しか賄えないようで。

 なので今回は、魔法使い(おれ)に【蒸着(ジャンクション)】を施す。……要するに上書き保存、装備とステータスとスキルビルドの更新だ。

 

 おれの自慢の妄想力(ライブラリ)から、こんなこともあろうかとシコシコ練り上げていた特別プランを引っ張り出す。

 

 

「【装着式(モード)・『至天の高位魔導師(フューリアス)』】!!!」

 

『おぉーーー!!?』

 

 

 マルチに活躍できる『魔法使い』から、特に【魔法】に関する深度をひたすら追求した……運動力と引き換えに『最大火力』に特化させた人格を、おれ自身に降ろす。

 とてもわかりやすくいえば、ジョブチェンジ。時間限定の特別(SSR)バージョン、属性違いの神性能だ。

 

 これは狙わなきゃ損だぞ、全国の視聴者さんたちよ。天井覚悟でぶっ込んでけ。

 

 

 

「【無から有を(アトリヴ・エルストル)】【対価を此処に(ウェールディアゲルブ)】【水流(ヴァシュラ)】【氾濫(フルード)】【豪雨(シュタレイグ)】【泡沫(シャウル)】【我が意に遵え(クィドマス・ヴェルエ)】【彼方を禍せ(マーフ・アフォーア)】」

 

『うそうそうそうそ待って待って何ソレ何ソレ何ソレ何何何何何!?!?』

 

「【創世の洪水よ(ベレシート・マグナフ)】【在れ(イル)】!!」

 

「『わぁーーーーーー!!?!?!』」

 

 

 

 周囲に満ちている環境魔力を取り込み、そのまま魔法の糧として、超絶規模の詠唱魔法を完成させる。

 大気の壁を打ち破る魔法でもなく、堅牢な大地を揺るがす魔法でもなく……賢明なおれが選んだのは、全てを覆い尽くす『水』の魔法。

 

 (すてら)ちゃんの纏う大気の壁は『あらゆる攻撃』を遮断するとはいえ、一分の隙もない壁で覆われているワケじゃない。

 それこそ、呼吸のための空気は供給されているはずだし……であれば、水の侵入を防ぎきれるわけがない。

 

 

 弾丸状にしてぶつけるのとはワケが違う。身を守ることを捨て、魔法制御能力にパラメータを割り振った『至天の高位魔導師(フューリアス)』だからこそ可能な、直径百メートル程の範囲をまるまる()()させる大規模魔法。

 これの本懐は『位置エネルギーを付与した超高質量による破壊魔法』なのだが……今回は無力化が目的だったので『高さ』の座標をゼロに設定、水没させるだけに留めた。モノは使いようだな。

 

 

 

「水族館かな」

 

「お魚いないねぇ」

 

「『……………(呆然)』」

 

 

 こと防御に特化した騎士(おれ)の防御魔法のおかげで、おれたちのいるところに水が押し寄せて来ることはないが……さすがに(すてら)ちゃんの大気の守りでは防ぎきれなかったようで。

 周囲への絨毯爆撃はいつのまにか止み、どうやら竜巻も姿を消しているようだ。

 

 

 魔導師(おれ)は【洪水】の魔法を解き、周囲を埋め尽くしていた水を霧消させる。

 

 静けさを取り戻した暗がりの中、念のため【隠蔽・改】を纏いゆっくりと歩を進めていくと……そこにはやはり、全身ぐっしょりずぶ濡れの(すてら)ちゃんが、がっくりと項垂れへたり込んでいた。

 

 

「……悪いようにはしない。ちょっとだけ我慢して。……【草木(ヴァグナシオ)】」

 

「っ、…………ぐッ」

 

 

 

 憎々しげにこちらを睨み付けてくる(すてら)ちゃんだったが……しかしどうやら、抵抗する余力は残っていないみたいで。

 

 こうしておれたちは、今回の『警報』の原因とおぼしき特定害獣の群れの駆除、ならびに重要参考人の捕縛を成功させ。

 ()()()()()()、無事お仕事を成功させたのだが……

 

 

 

 

「………………やぬしどの」

 

「「『アッ』」」

 

「………………我輩とて、癇癪持ちの幼児(おさなご)では無い。……申し開きがあるというのなら聞こうぞ。何なりと申してみよ」

 

『ノワがやりました!』

 

魔導師(こいつ)がやりました!!」

 

「ゥオエエエエ!?!?」

 

 

 (すてら)ちゃんに姿を見られないよう、こっそりと――それでいてはっきりと非難を込めた視線で――おれへと抗議してくる、こちらも全身ぐっしょり濡れてしまった(なつめ)ちゃん。

 

 

 

「ほんとごめん(なつめ)ちゃん……お詫びになんでもいうこと聞くから……」

 

『今なんでもって言ったよね?』

 

「おまえにはいってねえ!!」

 

 

 その濡れて透けてしまってる着衣と、間近から『じっ』と見上げてくる視線と、静かな怒りを湛えほんのりと赤らんだお顔は。

 

 ……はっきりいって、ハチャメチャに愛らしかった。

 

 

 

 

 

 

 









「我輩は今、とても寒いのだ。なにせ濡れ鼠と化してしまったがゆえ。……であるからして、家主殿」

「ハイ」

「我輩を温めるがよい。旅籠へと戻ったら我輩を『たおる』で拭いて、ちゃんと温め、抱っこするがよい」

「よろこんで!!!!」

「まぁ、それとは別に『お願い』は聞いて貰うが……それはそれとしてあねうえに言いつけるのである」

「ングゥゥ!!? そ、そんなあ!!」







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422【夜襲会戦】戦後処理

 

 

 さてさて……周囲一帯を水没させるという荒業で、辛くも勝利を納めたおれたち『正義の魔法使い』ご一行。

 こうして思わぬ形で『魔王』の使徒の捕縛に成功したわけなのだが。

 

 ……率直に言って『どうしよう』というのが、わりと正直な本音だったりする。

 

 

 この子を連れて帰るとなると、ハイベース号……ひいては『わかめちゃん』の正体が露見してしまう恐れもある。

 であれば、とりあえず通報してパトカーに迎えに来てもらう形になるのだろうが……かといって彼女を一般のおまわりさんに預けることなど、たぶん出来やしない。

 

 彼女を捕縛することが出来るのは、恐らくおれたちのような『魔力持ち』だけだろう。

 (すてら)ちゃんの【愛欲(リヴィディネム)】……周囲のモノに命令を遵守させるそのチカラが、無生物のみで完結するハズがない。

 

 むしろその、欲求や願望に基づく異能だと考えるのならば……知的生物に対して用いることこそ、【愛欲(リヴィディネム)】の本領といえるだろう。

 

 

 そうなると、おれが四六時中付いている必要が出てくるんだけど……これもつまり、正体が露見する危険が高まるということであって。

 ……いや、ぶっちゃけまだ正体がバレてないことのほうが謎なんだけど。本当に(シズ)ちゃんは何を考えてるんだか。

 

 

 

『よんだ?』

 

「呼んでない呼んでない」

 

 

 (すてら)ちゃんはとりあえず、服は風邪を引かないように(もったいないと思いながら)魔法で乾燥させ、これまた魔法で心を落ち着かせて眠らせてある。

 『正義の魔法使い』の敵としておれたちの前に立ちはだかった彼女だけど、なるべく手荒な真似はしたくない。

 

 なにしろ彼女は……おれ(わかめちゃん)の大切な視聴者さんでもあるのだから。

 

 

『眠らせるなら……ボク、手伝うよ』

 

「大丈夫大丈夫」

 

 

 あとは、朽羅(くちら)ちゃんだ。

 呆けたようにおれのことを凝視してるけど……うん、なにがとはいわないけど、きっと身を清めお着替えしたいことだろう。おうちに送ってあげないと。

 

 この子がこの場にいてくれて【隔世(カクリヨ)】の奏上に協力してくれたということは……それすなわち神々見(かがみ)神宮と、そしてヨミさまの采配にほかならないだろう。

 つまりは……味方。さっきはにべもなく断られてしまったが、お礼がてらもう一度お話させて貰いたいところだ。

 

 というわけで、この後の行動は決まった。(すてら)ちゃんを連れて、まずはヨミさまのところへ向かおう。

 幸いなことに、おれの人手は二人分だ。片棒が(すてら)ちゃん、もう片方が朽羅(くちら)ちゃん&(なつめ)ちゃんを抱えれば、神々見(かがみ)神宮までひとっとびだ。

 

 

『すてらは……ボクが連れてく。まかせて』

 

「アッ、やっぱそうなっちゃいます?」

 

 

 

 うーーーーん……まぁ、このあたりが限界だろうな。ええもちろん、さすがに最初から気付いてはいましたとも。

 

 観念したおれが、諦めと共にゆっくりと振り向くと……するとそこに佇んでいたのは、闇色のロングドレスを身に纏った美少女…………の、幻体。

 

 

 騎士(おれ)を消却していなくてよかった。彼女の異能に防御魔法が通用するかは解らないが、時間稼ぎくらいは出来るだろう。

 逆にいうと、およそこの世界最高峰の防御力をもってしても……ほんの数秒の時間稼ぎにしかならない。

 それが彼女、【睡眠欲(ソルムヌフィス)】の使徒なのだ。

 

 

 

『警戒……いらない。……ボクは、今日は……()()()()、だけ』

 

「なんかもう……なんでもありですね、(シズ)ちゃんは」

 

『キミほどじゃ……ない。……ボクのこれは、ただの意識体。触れること……出来ない』

 

「でもチカラは使えるんでしょう」

 

『うん。ばっちり』

 

 

 (すてら)ちゃんやつくしちゃんもなかなかに強力で脅威的なのだが……(シズ)ちゃんの異能は汎用性が半端無い。

 

 いつぞやおれを白昼夢に誘い、強引に『評価試験』に巻き込んだように。

 『魔法使い』と相対し形勢不利に陥った姉妹の撤退を、空間魔法で支援したように。

 警察署に単身襲撃を仕掛け『葉』をばら蒔いた上に、おまわりさん数人を昏睡状態に陥らせたように。

 

 そして……(すてら)ちゃんを連れ帰ろうと、見るからに実体()()()()幽霊のような半透明の姿で、こうしてこの場に現れたように。

 

 

 

『……提案。あるんだけど……きく?』

 

「それおれらに選択肢無いやつですよね?」

 

『うん。……かしこいね』

 

「叡知のエルフですから」

 

『じゃあ、いいね。……ボクは、すてらを連れて帰る。……その代わりに』

 

「おれたちに、この場は手を引けって……退()()()()()()()、ってこと?」

 

『うん。かしこい子は……好き。…………だから、()()()

 

「…………んう?」

 

 

 

 すやすやと寝息を立てる(すてら)ちゃんが、まるで地の底に引きずり込まれるように姿を消し。

 ふわふわと宙に浮かぶ、幽霊のように儚げな佇まいの(シズ)ちゃん……魔王の第一の使徒は。

 

 

 

『その『龍』ね。心臓……の、あったとこ』

 

「え? 心臓……?」

 

『うん。……いいもの、あるから。倒した場所……探してみて』

 

「いいもの、って……あの、ちょっ!?」

 

 

 

 おれたちの認識を混乱させる、とんでもない置き土産を残し。

 彼女の大切な『妹』ともども……跡形もなく姿を消した。

 

 

 

 

 

 

…………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

「ほわぁぁぁぁ……『魔の法』とは(まっこと)器用なものにございまするな。跡形もなく消え失せておりますれば、小生感無量にございまする」

 

「綺麗に消えてよかったね、朽羅(くちら)ちゃんのお()

 

「否、否! この朽羅(クチラ)既に童女(わらはめ)の齢には御座いませぬゆえ、小生に限って斯様(かよう)なはしたない粗相の事実は御座いませぬ! ほんの少し……えぇ、ほんの少し! 小生の……そう! 汗がほんの少し滲んでしまったに過ぎませぬ! 然るにお客人に於いては斯様な悪意ある噂の流布は慎んで頂きたく」

 

「おっけーアラマツリさんにチクるわ」

 

「ンンンッ!! なりませぬ! なりませぬ! ……ぐ、ぅ…………ええ確かに、確かに小生……その…………かっ、覚悟が! 覚悟が少々盛れ出てしまった事実は、確かに御座いまする。それをお客人の『魔の法』にて証拠隠滅頂いた御恩は……確かに、ええ確かに御座いますれば……しかし、その……吹聴は! 吹聴はさすがにご容赦をば! 何卒! 何卒後生にございまする!」

 

「立ち振舞いってモンをちゃーんと考えような? こちとらいちおう恩人やぞ? オマケに朽羅(クチラ)ちゃんの恥ずかしい事実いっぱい握ってんだかんな?」

 

「あっ、あっ、あっ……っ、んはぁ……っ! もちろんっ、勿論心得ておりまする!」

 

「ははーんなるほどな。なんとなく(わか)ってきたぞ、この子」

 

 

 

 松逆(まつざか)市の山中にて、なんとか無事に『特別警報』の対処を終えたおれたち。

 現在はこうして……優位に立とうとしたものの即座に自尊心をへし折られた朽羅(くちら)ちゃんを伴いつつ、真夜中の神々見(かがみ)神宮へと場所を移していた。

 

 たくさんお世話になった騎士(おれ)にはお帰りいただき、現在おれは右肩にラニちゃんを座らせ、背中に(なつめ)ちゃんをおんぶしている状態だ。

 上目遣いで『抱っこ』をせがまれたときには死ぬかと思ったが……どうやら『おんぶ』でも許してくれるらしい。なつめちゃんやさしい。すきだが。

 

 こうして一塊となって歩を進めるおれたちの前では……朽羅(くちら)ちゃんが上機嫌にぴょこぴょこ跳ねながら、時折振り返っては独特な言い回しで言葉の洪水をワッと浴びせてきている。

 なんでも朽羅(くちら)ちゃん、彼女にこの任を任せたお方(恐らくアラマツリさんかヨミさま)から『事態が終息したら協力者を神域までお連れするように』との言を預かっていたようで……まぁ恐らく、そこで事の顛末を説明して頂けるということなのだろう。

 

 

 『特別警報』の発令された現場に、本来神域から出られないはずの神使の少女が先回りしており……失礼だがお世辞にも優秀とは言い難い彼女が、あの規模・強度の【隔世(カクリヨ)】結界を展開できていた、そのネタばらしを。

 

 

 

「いやはや、小生最初っから理解(わか)っておりましたとも! お客人はそんじょそこらの自称・霊能力者などとは異なると! 此度は小生いたく驚かされ、また感銘を受けまして御座いますれば!」

 

「ねぇおもらし朽羅(くちら)ちゃん。本当にこんな時間にお邪魔しちゃって大丈夫なの? おれヨミさまに嫌われてない……?」

 

「ンンッ!! ご、御容赦をば! ……ご安心なさりませお客人、先程は小生がお力になれず暗澹たる思いを味わう顛末となり申したが、此度こそは小生が万の言葉を尽くして嘆願に力添え致しまするゆえ! どうかご安心をば!」

 

「うん、まぁ…………たのむね、朽羅(くちら)ちゃん」

 

「お任せなさいませ!」

 

 

 

 この……クソガキマゾウサギちゃんのお力添えが、果たしてどこまで通用するのかはわからないが……ヨミさまにしても間近でこんな騒動があったとあれば、少しはお話を聞いてくれる空気になったかもしれない。

 それに()()()()()()()()()も手に入ったので……いざとなったら、こちらをお納めしてご機嫌をとるのもやぶさかではない。この案はラニのお墨付きだ。

 

 

(ほんとに……そんなスゴいものなの? これ……)

 

(恐らくはね。あれくらいのサイズと品質なら……単純な含有魔力量のみで換算すると、いまのノワの一割くらいは賄えそう)

 

(一割、かぁ…………あんなデッカいのに『吸収したら魔力全快できる』とかじゃないんだね)

 

(だから! それは! ノワの! 魔力量が! 異常! なの!)

 

(んへぇー!?)

 

 

 

 (シズ)ちゃんの助言(?)に従い、『龍』の死骸(の心臓)があったあたりを探してみたところ……グレープフルーツくらいの大きさの、涼しげな色合いの透き通った石を二つ、見つけることができた。

 おそらくは『龍』一体につき、ひとつ。一体は騎士(おれ)が胸郭に風穴を開けてしまったため、そのときに砕けてしまったのだろうと推測できる。

 

 

 ともあれ、その透き通った石。

 それはなんというか……サブカル系に肩まで浸かって『それ系』の小説を愛読しているおれにとっては、非常に馴染みの深いもの。

 

 

 魔物の体内で生成される高純度の魔力結晶体、『魔石』と呼ぶべき代物(モノ)であり。

 

 

 

 この世界由来の魔力を秘めた、魔力素材である。

 

 

 

 



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423【深夜訪問】手のひらクルー

 

 

「えー…………っと? その、つまり……」

 

「クチラちゃんを……ノワに預けようと? クチラちゃん本人がノワのことを気に入るように、あえて襲撃に巻き込ませ、そしてノワに守らせた、ってこと?」

 

「だいたい合ってるね。まぁ『襲撃』とやらはどのみち避けられそうに無かったし? どうせ対処しなきゃならないなら、わしの計画に利用してしまおうっていう、ね。……実際のとこ、どう? かなり懐いてたみたいだし。もう()を……瞳を見せて喋ってくれるようになったんじゃない?」

 

「ぅえ? ()?」

 

「うん、()。……あの子は警戒心が強いからね、認めない相手には……ほら、糸目っていうの? 臥見(フシミ)の狐どもみたいな感じ悪ぅい目つき」

 

「あぁー……」

 

 

 

 詰所に到着して早々、朽羅(くちら)ちゃんはアラマツリさんに首根っこ掴まれ連行されてったので、この場にはいない。

 現在例のひときわ格式高い『ヨミさまのお部屋』に通されたのは、おれとラニと(なつめ)ちゃんの三人だけだったのだが……ここで全くもって予想外の出来事が待ち受けていた。

 

 

 数時間ぶりに再びお会いしたヨミさま――真澄(まそ)夜泉(よみ)常世視(とこよみの)(みこと)――その(ひと)

 彼女は、先刻の無愛想っぷりは何だったんだろうかと言いたくなるほどに……にこにこと上機嫌そうな()()で出迎えてくれたのだ。

 

 そのあまりにも見事な変わりっぷりに、おれもラニも(なつめ)ちゃんも揃っておくちあんぐり硬直していたわけなのだが……だってしょうがないじゃない、意味がわかんないんだもの。

 

 

 

「わしはこれでも『八洲(ヤシマ)』の……『鏡の神器』の持ち主だし? 他神(たにん)の神域ならまだしも、日本のあちこちに()を光らせることは……まぁ、それなりに容易いわけ」

 

「あぁ、鶴城(ツルギ)の神が言っておったな。覗きが趣味の神が居ると」

 

布都(フツノ)には後で嫌がらせするとして……まぁ、あながち見当違いとは言い難いし? …………でもね、囘珠(まわたま)の猫ちゃん……口は災いの元、って言うからね?」

 

「にュうッ!? わ、わ、わ、わかった! こころえた! ころろえ申した!」

 

((うわヨミさま目ェ怖っ!!))

 

 

 こうして、ちゃーんとお話してくれるようになったヨミさまは……なるほどフツノさまが難色を示されていたように、少々難しい性根のお方のようだ。

 あとなんていうか……怒ると目がこわい。

 

 おかっぱに揃えた艶々の黒髪と、おそらくモリアキ的にストライクゾーンな感じの身体つきのヨミさま。

 不真面目そうに寝っ転がっていた先程とは異なり、ちゃーんと上体を起こした着座姿勢で話を聞かせてくれているのだが……なにせお召し物のですね、何がとは言わないけど防御力がですね、とても緩やかと申しましょうか。

 なにがとは申しませんが……とてもきれいな形をしております。モタマさまよりは控えめだろうか。

 

 

 そんな感じの、ユルい雰囲気の神様かと思えば……自分が立てた計画――今回でいえば、朽羅(くちら)ちゃんのおれに対する好感度を上げる(?)作戦――のために、周囲を平然と巻き込み欺いてみせる。

 

 神様は基本的に自分本意で、良くも悪くも自分勝手な存在(※ただしモタマさまは除く)だと解ってはいたけど……ヨミさまの振舞いは、ともするとフツノさま以上に気ままなのかもしれない。

 

 

 

「さて、それで? わしの狙いは察してくれたと思ってるんだけど?」

 

「……朽羅(くちら)ちゃんを、おれに預けて……おれたちの動きを、ヨミさまがすぐに確認できるように?」

 

「ほう……そのこころは?」

 

「…………朽羅(くちら)ちゃんの……固有、なのかは解んないけど……あの子は身内が何らかの術を行使するときの、目印になるような性質がある。さっきの【隔世(カクリヨ)】も、実際に術を使ったのは……ヨミさまか、アラマツリさんか。そこはわかんないけど、要するに朽羅(くちら)ちゃんを現地に行かせれば、この神域に居ながらでも……遠隔地にでも、ピンポイントで術が使える」

 

「……ふぅん…………それで?」

 

「えっと……たぶん、モタマさまに預けた神力遠隔伝達の『首輪』かその複製品を、朽羅(くちら)ちゃんは装備してる。……そうしてヨミさまは……同じように朽羅(くちら)ちゃんを目印にして、おれたちの近くを『遠見の術』かなにかで…………監視、しようとしてる」

 

「いいね。そこまで読めたなら……話は早い」

 

 

 

 ただヨミさまが命令を下しただけでは、おそらく朽羅(くちら)ちゃんは納得しなかっただろう。

 もちろん立場上は従うしかないし、本人の意に反しておれのもとへと送られることになっただろうけど……しかしそれでは、色々と宜しくない。

 

 慕っていたアラマツリさんから引き離されては、朽羅(くちら)ちゃんは監視役としての役割を全うできない……いや、しないだろう。

 アラマツリさんに折檻()()()()()()()()()平然と命令に背くことも考えられるし……『首輪』によって領域外の単独行動ができるようになってしまったばっかりに、職務を放棄して勝手に神々見(かがみ)へ帰ってきてしまう恐れもある。

 

 叱れど、怒鳴れど、それらは彼女を(よろこ)ばせるだけ。

 そんな非常に御し難い朽羅(くちら)ちゃんを、おれの傍に配置するためには……おれに対して興味を、可能であれば好意を抱かせるしかない。

 ……そういうことらしい。

 

 

 

「今頃……別室で荒祭(アラマツリ)が『説得』に入ってるはず。……あれはわしに忠実だが、頑固で融通が効かんところもあるし。実際今回もめっちゃ逆らわれてイラっとしたけど……面倒だったけど、ちゃーんと目的を説明したし」

 

「ぇえぇ……ていうかむしろ、アラマツリさんにも目的話してなかったんですか……」

 

「…………え? っていうかそもそも、丁寧に説明する必要なんてないし。皆みたいに黙ってわしの言うこと聞いてればいいんだし。……だのに、あれは『なぜですか』とか『何を考えてますか』とか、根掘り葉掘りうるさかったし」

 

「うぅーん…………いやヨミちゃん、最初っから目的共有しとけば良かったと思うよ……」

 

「………………え、だって……わし神ぞ? わしの意見に逆らうとかありえなくない?」

 

「「ウゥーン」」

 

 

 ある意味で神様らしい……ともするとフツノさま以上に高慢なところを垣間見せるヨミさま。

 

 しかしながら、そんな他者を顧みない神様であっても……この国『日本』を長きにわたり守ってきた、まぎれもない最高神の一片なのであって。

 

 

「まぁ……わしの要求を呑んだ以上、身内と考えてやってもいいし。現状『神域』の外で自由に動ける柱は貴重だし、便利に使うためにも恩を売っておいて損はないし」

 

「えっ? あっ、えっと……どうも?」

 

「うん。……とりあえず、祭器を作るんでしょ? 使()()()人間を貸そうか。鶴城に送ればいい?」

 

「祭器……? あ、魔法道具みたいな?」

 

「人手が増えるのはシンプルに嬉しいね! セイセツさんも喜ぶよ! あのひといい歳だから……」

 

 

 今までにお会いした神様以上に、高慢で自分勝手なところはあるけど……やっぱり異世界に侵略されつつあるこの国を心配してくれているというその一点では、力になってくれるということなのだろう。

 

 

 

「喜ばれるなら、悪い気はしないし。……とりあえず、わしが出せる『施し』は荒祭(アラマツリ)に纏めさせるし……また明日、顔出せる?」

 

「……今度は、追い返されませんよね?」

 

「身内相手なら、話は別だし。……朽羅(クチラ)に嫁仕度させて待ってるし、楽しみにしておれ」

 

「よめ……ッ!?」「おほー!!」「ほう?」

 

 

 

 腹の底の窺えない、掴みどころの無い神様ではあったけども……タイミングよく襲撃を仕掛けてきた(すてら)ちゃんの脅威もあって、どうやら協力を取り付けることには成功したらしい。

 神々見(かがみ)神宮が擁する広大な神域結界と、神使を含む多くの人員……魔力にまつわる現象が頻発していくであろうこの世界を、強引にでも軌道修正するための人手が借り受けられるというのなら、それは非常にありがたい。

 

 

 ……まぁ、『嫁』発言は……この際あえて気にしないことにしても。

 とりあえずは明日、改めてお会いするのが楽しみだ。

 

 

 

 

 

 

 








「む!? いかん!!」

「な……何ですか? 今度は何事ですか? 布都(フツノ)様」

「これはいかん……霧衣(きりえ)めの立場が危ぶまれる予感がしたぞ! 龍影(リョウエイ)!」

「すみません、何を仰有(おっしゃ)って居られるのか」

「斯くなる上は……房中術に長ける者を霧衣(キリエ)めの師として送り込み既成事実を」

「若芽殿とは女子(おなご)同士に御座いますが」

「……………………」

「……………………」

「…………ならば、良いのか?」

「さぁ…………(そもそ)も何がでしょう……」

(ワレ)の直感がな、霧衣(キリエ)めの危機を告げて居るのだ。此処(ココ)霧衣(キリエ)(カツ)を入れるためにだな」

「…………はぁ、左様に御座いますか。……それよりも布都(フツノ)様、御仕事が滞って居ります故」

「ぐぬぬ」




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424【急遽一泊】理性耐久試験

 

 

「ほへぇ……じゃ、結局神々見(カガミ)の神様とはお話できたんすね?」

 

「うん。……なんていうか、独特の感性をもった神様だったよ……」

 

「そだね……なんか、めっちゃ上位存在って感じの立ち振舞いだったし……あ、でも色々と支援はしてくれるって。細かいことはまた明日教えてくれるらしいけど……」

 

「に。嫁を寄越すと言うて居ったな」

 

「「よめ!!??」」

 

「いやいやいやいやそこ食いつかないで!!」

 

 

 

 神々見(かがみ)さんにお邪魔したあと、モリアキと霧衣(きりえ)ちゃんが待つ宿に戻ってきて……やっと肩の荷が下りたおれたち。

 一応()()()()が片付いたときに『もうちょい掛かりそうだから晩メシ適当に済ませといて』とREIN(メッセージ)は送っておいたのだが……ばんごはんをおれたちのぶんまで調達してきてくれた彼らの気配りには、本当に頭が上がらない。

 

 緑色Mの字マークのハンバーガーセットをおいしくいただきながら、おれたちは数時間前よりも幾分ほんわかした空気の中で情報共有を図っていた。

 ……あっ、これは霧衣(きりえ)ちゃんが好きっていってたばーがーだな。おいしいよね、フィッシュフライバンズ。

 

 

 

「先輩ヨメってどういうことっすか!? 貰うんすか!?」

 

「もらわねえよ!! 落ち着け!!」

 

「わかめさま! お嫁さんをお迎えでございますか!? 霧衣(きりえ)めはご満足いただけなかったでございましたか!?」

 

「そんなことないって! 霧衣(きりえ)ちゃんはやさしいし可愛いし気立てもいいしあったかいしいいにおいするしいい子だし、おれにとって大切な子だから……!!」

 

「……っ! わ、わかめさまぁ!!」

 

「おほォー!!」

 

「あらあら、おアツいこと」

 

「くぅーん……」

 

 

 感極まって抱きついてくる霧衣(きりえ)ちゃんは、やっぱりほんわかいいにおいがする。

 頭を撫でるおれの手に、気持ち良さそうに鼻を鳴らす彼女の姿……普段はとっても控えめなだけに、こうして甘えてくるときとのギャップがまた非常にいじらしく、かわいらしい。

 彼女の存在は、公私にわたっておれの大きな助けとなっているのだ。彼女をお迎えして良かったと心から思っているし、大満足に決まっている。

 彼女の意思で去るならまだしも、おれが彼女を手放すことなんてありえない。

 

 ただ……なまじ霧衣(きりえ)ちゃんが美少女レベルの高すぎる子であるがために、元々別の意味で()()使()()だった(DT)にとっては、軽率なおはだのふれあいは刺激が強すぎるので可能な限り避けていたのだが……そのことがこうして、彼女に不安を抱かせてしまう原因だったのだろう。

 ……彼女の不安を取り除いてあげるためにも、もっと積極的にスキンシップを試みるべきなのかもしれないな。

 

 っと、まぁそれは一時置いといて。

 

 

 

「えっと、話戻すけど……(すてら)ちゃんは奪還されちゃったけど……どういうわけか『魔法使い』の正体を伏せられてる現状、むしろ助かったのかもしれない」

 

「……しかし、シズちゃん? の行動が謎っすね。確かに『魔法使い』の撲滅だけが目的なら…………えっと、考えたくは無いっすけど……」

 

「『魔法使い』の正体を仲間内で共有して、総力戦で押し切ればいい。……でも、(シズ)ちゃんは()()をしていない」

 

「確認なんすけど、シズちゃんには正体バレしてるんすよね? 『魔法使い』さんの」

 

「うん。一月に東京行ったとき……個人的に呼び出し食らったし」

 

「あぁー……あのときっすか」

 

 

 バーガーを食べ終え、ポテトを一本ずつ摘まみ……おれのすぐ傍で『じっ』と視線を注いでいた霧衣(きりえ)ちゃんのお口に軽い気持ちでポテトを運び、目を輝かせ嬉しそうについばむ彼女に致死量の『かわいい』をお見舞いされ危うく死にそうになりつつも、おれは緑M字のバーガーセットを食べ終える。

 好物のオレンジジュースでおくちのなかをさっぱりさせつつ、初めてのはんばーがーに目を輝かせながらも悪戦苦闘している(なつめ)ちゃんを観察してTP(てぇてぇポイント)を摂取する。

 

 あー、おくちまわりがテリヤキソースでべったりだよ。あーあー、霧衣(きりえ)おねえちゃんが紙ナプキンでおくち拭きにいってあげたよ。あーあーあー、かわいい。あー、やばいかわいい、すきだが。

 TP(てぇてぇポイント)がオーバーフローして最可愛(さいカワ)に見える。耐性のあるはずのおれでもあたまがしあわせになって死ぬ。

 

 

「……先輩、大丈夫っすか? めっちゃダメそうな顔してますよ?」

 

「あハァー……やっぱり?」

 

「カワイイからねぇ二人とも。なかよし絡みめっちゃてぇてぇ……ニャンニャンしないかな、ねこちゃんだけに」

 

「おいこら戦犯」

 

「じゃあまあ、みんな仲良く一部屋で良いっすね?」

 

「えっ!!?!?」

 

「きりえちゃんも先輩と離れたくないでしょうし、一緒のお部屋でオヤスミしたいっすよね?」

 

「はいっ!!!」「えっ!!??」

 

「にっ。……我輩も、姉上と家主殿といっしょでかまわぬ。絵師殿は殿方ゆえ、別室がよかろう」

 

「アッ!?!?? エット!!?!」

 

「というわけで。お二人も期待してるみたいですし……ヨロシクお願いしますね」

 

「アッ!!!! はい!!!!」

 

 

 

 左腕に霧衣(きりえ)ちゃん、右腕に(なつめ)ちゃん、おまけに胸元にはラニちゃん。

 三者三様、ぶっちゃけおれ好みのファンタジー美少女三人の笑顔に囲まれて……退路を断たれたおれは、彼女たちの笑顔を守る決心を心に決めたのだった。

 

 非常に濃密な一晩が決定した瞬間だった。

 

 

 

……………………………………

 

 

 

 

「わかめさまっ、わかめさまっ」

 

「ヴッ!!!」

 

「にぅ。……やぬし…………わ、わかめ、どの?」

 

「アッ!!!!」

 

(アァーー(てぇて)ェーー!!)

 

(ちくしょうこれ卑怯だよ!! おれも眺めてぇ!!)

 

 

 おれにだけ感知できる状態のラニちゃんが、この尊さ溢れる光景にあてられてきりもみ回転しながら飛んでったが……おれだって可能ならばおふとんの上でごろんごろん転がり悶えまわりたいくらいだ。

 

 ふだんの大人しく清楚で控えめな立ち振舞いは()()を潜め、弾んだ声色で身体をすり寄せボディタッチをねだってくる、完全に『甘え』モードに変貌してしまった霧衣(きりえ)ちゃん。

 そんな『あねうえ』の幸せそうな様子を目の当たりにし、嬉しいことに憎からず思っていてくれた『家主』であるおれの手を握り、あねうえに倣って名前で読んでくれた(なつめ)ちゃん。

 

 

 そんな『かわいい』が過ぎる二人(と飛んでっちゃった一人)とともにやって来たのは……今日一日の疲れを癒す『とっておき』の場所。

 ……まぁ、果たしておれの心が休まるかは、試してみる必要があるのだが。

 

 

 それずばり、このお宿のお風呂……温泉大浴場。

 

 そしてもちろん……女性用なのだ。

 

 

 

 

 







けんぜん(予告)





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425【急遽一泊】理性オーバーキル



※のわめでぃあは健全です





 

 

 改めて、おれのおうちで面倒を見ている(※ただし面倒とは感じていない)なかよし義姉妹ふたりぐみ。

 白狗少女の霧衣(きりえ)ちゃんと、錆猫少女の(なつめ)ちゃんだ。

 

 本日は一般のお方もご利用するらしい大浴場なので、可愛らしいお耳と尻尾を隠したスタイルだ。かわいいぞ。

 つまりは我々は一般の方々からみると、キューティクルもバッチリな白髪美少女と、赤みを帯びた黒髪の美少女……そしてドギツイ緑髪のおれという謎過ぎる団体なわけだな!

 

 

 なお女性用のお風呂に突入するにあたり、例によって視覚にセルフ阻害(デバフ)を掛けているぞ!

 なぜならおれはおとこなので、一般のお嬢さんがたの艶姿を盗み見て鼻の下を伸ばすわけにはいかないし……なによりも霧衣(きりえ)ちゃんと(なつめ)ちゃんの未発達ながらもたしかな女の子の魅力あふれる裸なんて見てしまっては生粋の魔法使い(三十路DT)であるおれは鼻血ブーしてしんじゃうおそれがものすごく非常にとっても高いためだ!!

 

 

 そう!! おれはおとこだから!!!

 

 

 

 

「そいえば(なつめ)ちゃん、服ってそれ自前?」

 

「んにゃ、姉上といっしょに調達した装束であるぞ。『たぶめっと』の『つーまん』で召喚したものである」

 

「あー、なるほど通販。すごいね霧衣ちゃん、ちゃんと使いこなしブップォ」

 

「はいっ! 霧衣(きりえ)めは日々勉強にございまする!」

 

 

 み、みちゃった。直視してしまった。ほどよいふくらみだったし色白できれいなお肌だった。つまりは致死量。おれはしんだ。

 ていうか……せっかく対策を講じていたというのに、棗ちゃんの装いをよく見ようとして視覚阻害(デバフ)解除した一瞬の隙を狙われた。だって服かわいかったんだもん。なんていう完璧なコンビネーション、なんて油断ならない子たちだ。すきだが。

 

 

(はいはい我は紡ぐ(メイプライグス)快気(リュクレイス)】【鎮静(ルーフィア)】。まったく……いい加減割りきろうぜ? もしくは身も心も女の子になっちゃえよ)

 

(おれは心はおとこだもん。……割りきる、ってなにを?)

 

(そりゃあ、ほら。可愛い女の子のすっぱだかだよ? オトコだってぇならグッヘヘそりゃあもーたまんないシチュエーションでしょエッヘッヘ)

 

(見る()()のことに手を染めたらメン○レータム電動はぶらし素材採取そうじきの刑な)

 

(ゥエエ!!??)

 

 

 

 そうこうしている間にも、なかよし姉妹は着衣をすべて脱いでしまっていたようだ。おれはあわてて視覚阻害(デバフ)を再展開して、同時に【探知】魔法を展開する。

 視覚はぼやけて『ぼんやり』としか見えないが……これで『ごっつんこ』とかの危険もない。

 

 そわそわを隠しきれない美少女二人(素っ裸)に待たせてしまったことを詫びながら。

 おれたち三人(とヨダレを垂らさんばかりの勢いでガン見している見えない一名)は、いよいよ大浴場へと足を踏み入れたのだった。

 

 

 

 

(※しばらく音声のみでお送りします)

 

 

 

「ひろいおふろ! ひろいおふろにございまする! わかめさま!」

 

「ひろびろだね。ほかのお客さんいるからね、イイコにしようね」

 

 

 

「やぬ、っ…………わかめどの! だっこを! だっこを所望する!」

 

「アッ、そっか。湯船めっちゃ広いもんね。ちょっと不安だったかぁ」

 

 

「ね゛ぇ゛ノ゛ワ゛ー!! つ゛め゛た゛い゛よ゛ぉ゛ーー!! ぶ゛え゛え゛え゛え゛ノ゛ワ゛ーーー!!」

 

「あー水風呂ね、それサウナっていう……あっつい部屋で汗いっぱいかいたあとに入るやつだから…………っていうか声……」

 

 

「わかめさま、お背中わたくしがお流しさせていただきまする! 霧衣(きりえ)めにお任せくださいませ!」

 

「エッ!!?」

 

「んゅ。ならば我輩はおなかをお流ししてしんぜよう」

 

「ファッ!!??」

 

「わ……わかめさまが、新たにお嫁さんをお迎えするとしても……わ、わたくしも! わかめさまの『およめさん』に御座いますゆえ!」

 

「ちょっ!?!!?」

 

「にっ。我輩も、わかめどののことは気に入っておる故……そうさな、『つがい』として振舞ってもよいのだぞ」

 

「ア゜ッ!!!?!???!」

 

 

 

「わかめさま、御髪(おぐし)がとってもお綺麗で、お肌もすべすべ魅力的に御座いまする。加減はいかがでございましょう? 痒いところはございませぬか?」

 

「わかめどのは……我輩よりも乳房が大きいのだな。……大きいほうがヒトの成体にとっては魅力的なのであろ? ……我輩も大きいほうがよかったか?」

 

「アッ、アッ、アッ、アッ、アッ、」

 

 

 

 

――――ばたーん。

 

「ああ!? ノワがしんだ!!?」

 

「わかめさまぁ!?」「わかめどの!?」

 

 

 

 

…………………………………………

 

 

………………………………

 

 

…………………

 

 

 

 

 

 

「いやね……背中にね、当たってたんすよ、霧衣(きりえ)ちゃんの。オマケにね、(なつめ)ちゃんもおれのへそとか、あと…………むっ、むね、とか……触ってきたし。おまけに二人ともおれの『およめさん』とか『つがい』とか、そりゃおれもおとこ冥利に尽きるってもんだけどさ? ……だけどさ? いくら視覚塞いでようとあんなセンシティブボディタッチエクストリームが耐えれるわけ無いやろこちとら魔法使い(三十路DT)やぞいい加減にしろ!!」

 

「どうどうどうノワどうどう」

 

「当事者になると実際めっちゃ辛そうっすね」

 

「やかましいわこのプレイボーイ勇者め!! おれは羨ましい!! 女の子を()()()()目で見れるえっちなラニちゃんが羨ましい!!」

 

「そんなこと言われましても」

 

「でも先輩、実際嫌いじゃないんでしょ? 二人のこと」

 

「あたりまえじゃん! だいすきだが!!」

 

「じゃあ……存分に受け入れてあげちゃって良いんじゃないっすか?」

 

「あの二人をそんなヤラシイ目で見れないもおおおおん!!!」

 

((めんどくさいなこの子…………))

 

 

 

 

 おれが美少女二人に裸で迫られ(※誤解を招く表現)おふろでブッ倒れたあと、どうやら偶然居合わせた一般のお客様が救急コールを入れてくれたらしく、宿の従業員さん(女性)がおれをレスキューして浴衣を着せてくれたらしい。

 気がついたときにはお風呂近くの休憩用座敷で、いつのまにか浴衣を着ていたので何が何やら状態だったのだが……なんでも長湯からの湯中(ゆあた)りで倒れるお客さんは結構な頻度で居られるらしく、従業員さんはそのテの訓練も定期的に行われていたとのことで……従業員さんの意識が非常に高いお宿でした。

 

 そうしてこうして従業員さんのお陰でクールダウンされたおれは、めっちゃ心配そうな顔していた二人にとりあえず丁寧に詫びて安心させたあと、一足先にお部屋に戻ってもらいまして。

 こうして……おとこの心を持っている者どうしで、ひそひそ声ながら秘めたる感情を吐露して大騒ぎしているのだ。

 ちなみに、あのなかよし姉妹に先に戻っていただいたのは……単純に、おれのドキドキが止まらないからだ。

 

 時刻は既に、二十二時過ぎ。

 近くに人の姿は無いとはいえ……まったく、はた迷惑なお客(おれ)である。

 

 

「反則だって……二人ともめっちゃ可愛いんだもん……めっちゃ可愛い子が二人で素っ裸で『ご奉仕します』とかいって迫ってくんだぜ? むりでしょ……ふつうしぬじゃん……」

 

「あー、まぁ……破壊力エグいっすね」

 

「まぁでも、慣れとかないと。……酷なようだけど、ノワは……男性のコミュニティに属することは、出来ないんだから。だって身内贔屓だけどさ、めちゃくちゃ魅力的な女の子なんだもん」

 

「おとこです」

 

「おだまり。ち○ち○ついてないでしょ」

 

「アウーーーン!!!」

 

 

 まぁ、たしかに……ラニのいうことも一理ある。

 残念ながら、元の身体に戻る見込みが無い以上、おれは『女の子』として生きるしかない。それはわかってる。今のおれが男湯に入ったらそりゃもう大変(うすいほん)なことになるだろう。

 

 女の子用のお手洗いだって、あれも最初は無理だったけど、なんだかんだで順応したんだ。

 霧衣(きりえ)ちゃん(なつめ)ちゃんにも協力してもらって、おうちですこしずつリハビリに臨めば……いつかは、お風呂だって順応できるはずだ。

 

 

 

「モリアキ、ラニ…………おれ、がんばるよ」

 

「大丈夫、ノワならできるよ。ボクも手伝う」

 

「いい意気っすよ先輩。じゃあさっそく頑張りましょうか」

 

「えっ?」

 

 

 

 

「きりえちゃんとなつめちゃんと……あと、白谷さん。(ヨメ)三人に囲まれての『初夜(※誤解を招く表現)』じゃないっすか?」

 

「しょ――――――――!!?」

 

「オレは別室でゆっくり休ませて貰うんで……頑張ってくださいね」

 

「おっけーモリアキ氏。防音は任せたまえ」

 

「ぼ――――――――!!!??」

 

 

 

 一難去って、また一難。

 だいすきな美少女三人、おなじ部屋、並べられたおふとん。なにも起きないはずがなく(※起きません)。

 

 おれたちの、普段とはちょっと違う旅先での夜は……こうして騒がしく更けていった。

 

 

 






※のわめでぃあは健全です




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426 ただ二人きりの暗躍

 

 

 夜の闇に包まれる浪越市中央区……交通の一大拠点『浪越駅』を眼下に望む、とある高層タワーマンションの一室。

 

 ワンフロアをまるまる一区画として分譲された物件のメインベッドルーム、その窓際のバーコーナーでは……老人に差し掛かろうかという男が独り、静かに晩酌を楽しんでいた。

 

 

 

『泉を『魔法使い』が嗅ぎ付けた、か。……思っていたよりも遅かったな』

 

「仕方無いのでは? あの子も中々に多忙の身だろう。独りであれだけの働きぶりとは、全くもって恐れ入る」

 

『ほぉ……『経営の神』の口からそのような言葉が出ようとはな』

 

「全くだ。世が世なら、是が非でも囲い込みたい人材だよ……『魔法使い』殿は」

 

 

 

 老人が独りで眠るには到底広すぎ、また豪華すぎるベッドルーム。

 この場に見られる人影はただの一人でありながら……しかし漏れ聞こえる声は、二人分。

 

 まぁ尤も……この密談を耳に入れることができた者は、誰一人として存在しないのだが。

 

 

 

「『駒』が早々に異界へと引き込まれたのは……まぁ、少々予想外だったか。……よもや神々の遣いが、ああも容易く檻から出られようとは思わなんだ」

 

『それに……『魔法使い』の手際にも驚いたよ。アレでも、この私が直々に造り出した魔物なのだが……こうも一方的に敗れるとはね。自信を失くしてしまいそうだ』

 

「『桂馬』と『角行』と『飛車』か。……そんなに一方的だったのかね?」

 

『そうだな。……あぁいや、『カク』? は持たせて居なかったのだがな。『ケーマ』はともかく、とっておきの……ええと、『ヒシャ』? までもが……さしたる打撃も与えられずに、塵となったようだ』

 

「…………それは、それは……悲報と取るべきか、それとも朗報と取るべきか」

 

『『リヴィ』の扱い方が悪かった可能性もあるが……まぁ、然程問題無いだろう。良くもあり、悪くもあり』

 

「……そうだな。『演出』には問題無いか」

 

 

 

 照明を落とした暗い室内……老人の傍らのタブレットには、実に様々な情報が浮かんでいる。

 

 彼の傘下が擁する各プラントの生産状況、密かに設置しておいた『魔素』濃度計の数値、三恵(みえ)県山間部の温泉街にて目撃されたという『UMA(未確認生物)』に関するニュース、また昨今日本各地で確認されている『怪現象』に関する考察スレッド。

 

 そして……密命を与え行動させている部下からの、報告事項。

 

 

 

 

 

「『妖怪』とは…………大昔の日本人が、自然現象を擬人化……いや『擬生物化』し、その『恐れ』の共通認識を図るようになったことで発生したもの……という説がある」

 

『この世界を()()()()にあたって、まずは()()の再現を試みる……というのが、君の作戦だったか』

 

「そうとも。『恐れ』を抱く人間の数は、大気中の『魔素』量で(あがな)わせる。あの『種』が魔素を吸着し、『妖怪』の『卵』……ないしは『繭』を造り出す。…………これ迄は、人間に寄生しなければ発芽すること叶わなかったが……『種』が魔素を充分に溜め込めば、あとは『恐れ』の刺激を加えるだけだ」

 

『人間の悪感情をトリガーに、その『繭』から『妖怪』……この世界に根差す『魔物』が出現するようになれば、君の言うところの『ファンタジー化』に王手が掛かる訳だ』

 

「そうだな。高度情報化社会……通信技術は充分に発達しているからね。どれだけ隠蔽を試みようと、一億二千万対もの目から永遠に隠し通せる筈がない。都市伝説レベルにでも周知された『魔物』は新たな『恐れ』を生み、それは『繭』を刺激し新たなる『魔物』へと繋がる。今でこそ『種』と『繭』を必要としようが……『恐れ』の量が増えれば、やがて魔素のみで『魔物』は受肉する……と」

 

『…………今がその『都市伝説』の段階、というわけだな。……そうなれば、後はもう』

 

「あぁ。それこそ、この世界から『魔素』そのものを除去しない限り……根本的な解決にはならない。……『王手』だ」

 

『なるほど。……であれば』

 

「あぁ。……そろそろだろうね」

 

 

 

 老人はタブレットに手を伸ばし、目まぐるしい速さでタイピングを済ませ、やがては一通のメッセージを送信する。

 

 差出人は自らの手駒である『ヒノモト建設』、その社用対外窓口のアカウント。

 宛先は警視庁組織犯罪対策部、特定獣害対策室。

 

 

 その送信内容は……『特定害獣対策装備の開発・生産支援・専門対策組織の設立に関するご提案』。

 

 

 

「そろそろ……魔物に抗う『対抗勢力』を、本格的に(おこ)す頃合いだろう」

 

『……ヒノモトケンセツであれば、含光精油(エーテル)供給の実績もある。動機と信用は充分か』

 

「そうとも。……人間が『魔物』に滅ぼされては意味が無いからね。目指すのは『危険で厄介だが対処可能な侵略者』だ。そうでなければ、この世界は滅んでしまう。そうなれば……」

 

『私の()()を……果たすことが出来ない。…………感謝するよ、ゴロー。さすがの采配だ』

 

「何を言う。実際に働いたのは君ばかりだろうに……メイルス」

 

 

 

 老人は静かに窓の外を眺めつつ、弄んでいたグラスに口を付ける。

 

 取引先から貢がれた、正直なところ好みとは異なる洋酒だが……しかし彼の身体を共有する異世界からの亡命者は、その味をいたく気に入っているようだ。

 

 高度な技術を持ち、様々な文化を育み、数多の娯楽に満たされ、『異世界』に対して一定の理解がある。

 素晴らしい。全くもって都合が良い。是非とも()()にしたい。

 ……それがこの世界・この国に対する、『魔王』の抱いた感想であった。

 

 

 

『『魔法使い』殿は……よくやってくれている。異世界に対する抵抗感を払拭するという一点では、彼女の演説は都合が良い』

 

「ならば君も『お布施』してみてはどうだね? 『リヴィ』も小遣い……いや、献金か? ……いや、餌から毟った()()()()で合っているか。……()(かく)、『アピス』と二人で熱心に応援しているようだ」

 

『……そうだな、考えておこう。彼女たちの働きのお陰で、私の悲願はまた一歩成就に近づいた。……彼女と、()にとっては不本意かもしれないが……ソレは紛れもない事実なのだから』

 

「それは何よりだ。私とて研究者の出だからね。君の悲願……『異世界再生計画』には、少なからず興味がある」

 

『そう言ってくれると心強い。ゴローの采配と手勢があれば……この世界、この国は……

 

 

――――世界再生のための、絶好の()()となってくれるだろう』

 

 

 

 

 異世界からの侵略者、ありとあらゆる植生を意のままに操る『魔王』と。

 

 不治の病から奇跡の回復を遂げた、一度は世間から見放された『経営の神』による采配。

 

 

 この一人(二人)以外に、計画の全貌を知る者など居やしない。

 未だ何者にも感付かれることの無かった、極秘の異世界再生計画は……ゆっくりと、しかし着実に進んでいた。

 

 

 

 



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427【神前会談】今日はひと味ちがうぞ

 

 

 湯上がり。お泊まり。はだける浴衣。ほてった肌の美少女が三人。なにも起きないはずが無…………いわけないだろいい加減にしろ! なにもおきねえわ!!

 

 健全な『のわめでぃあ』はきわめて健全なので、それはそれはもうとてもほほえましい一晩でしたとも。

 ええ、なにもやましいところはございませんとも!

 

 

 そりゃあ、まぁ……当初こそ『わたくし、(とこ)を共にさせて戴いても宜しいでございましょうか!』なんて求められちゃったりもしちゃったけど……結局いつものように霧衣(きりえ)ちゃんと(なつめ)ちゃんが二人で抱き合いながら、スヤスヤと幸せそうな寝顔でお休みになっていたわけなのですよ。まぁおれのすぐ隣でなんですけどね。わし危うく尊死するところぞ。【鎮静】魔法の熟練度めっちゃ上がったわ。

 ……どうやら『おれ(わかめさま)が一緒の空間で眠ってくれる』という事実だけでも、彼女たちは充分に安心してくれたようだ。おとこ冥利に尽きますな!

 

 

 

 

「やっぱ(てぇえ)ぇ……撮っとこ…………」

 

『んお? 先輩お早うございます。そっちみんな起きてます?』

 

「アッ、モリアキおまえばっかおまえ」

 

「…………くぅーん…………んぅ、っ……おはよう、ございます……わかめさま」

 

『アッ!!!』

 

「ン゛ン゛ッ! ……おはよう、きりえちゃん」

 

 

 花が綻ぶように可憐な笑みを浮かべる……おれの、その…………たいせつな女の子。

 どうやら素肌に直で浴衣を着ているようで、起き抜けのちょっとはだけた胸元からきれいなお山が見えそうで見えない。

 そんな無防備な姿で、それでも安心しきった表情を浮かべて微笑んでくれる霧衣(きりえ)ちゃん……ヴン、やっぱ嫁にするならこんな子だな!

 

 霧衣(きりえ)ちゃんは無事起床を済ませたが、残る二人はまだおやすみ中である。

 朝風呂でも浴びてさっぱりして、優雅に朝ごはんと洒落込みたいところだが……今日は(話が通じるようになった)ヨミさまのところへお伺いする予定が入っている。

 

 

 急遽飛び込んだ宿なので、残念ながらごはんはついていない。

 そのため道中、外で朝食を摂る必要があるので、残念だがあまりのんびりしてはいられない……のだが。

 

 

 

「まったく……寝る子で『ねこ』とはよく言ったもので」

 

「んふふっ。……なつめさま、すやすやで御座いまする」

 

『せんぱーい? オレ見ちゃマズいっすかー?』

 

「残念ですが三人ほどおっぱい見えちゃってるので……」

 

『ウゥーーーン残念』

 

「だろうな色々とざんねんだろうな、でもこればっかりはな、われわれ健全な組織だからな」

 

『アッ、ハイ』

 

 

 

 コッソリ楽しむ用の写真はバッチリいっぱい撮ったので、名残惜しいけどそろそろ『ねぼすけ組』を起こすことにしよう。

 丸まって眠る胸元から大平原が顔を覗かせる(なつめ)ちゃんと、何から何まで丸見えになっちゃってるラニちゃん……逆に未発達すぎていっそ健全なんじゃねぇかって錯覚しそうになるけど、さすがにそれは気のせいなので頭をぶんぶん振って正気を取り戻す。

 

 そうとも、おれは今日の予定をつつがなく消化していくためにも……この天使のような寝子(ねこ)ちゃんたちを起こさなければならないのだ。

 

 

(なつめ)ちゃーん? ラニちゃーん? おきてー、あさだよぉー」

 

「…………んにぅぅぅぅぅー」

 

「んんぅ――――――っ…………」

 

「うぅ、がわいいよぉぉぉ……でも今日予定あるから。ごめんだけど……起きてー、ふたりともおきてー」

 

「……んぅ…………わかめ、どの……いっしょ、ねゅぅ……」

 

「うん、そうだね。いっしょに寝よっか」

 

『ちょちょちょちょちょちょい!? 予定はどうしたんすか先輩!? 早く支度して朝メシ探し行かないと』

 

「うるせぇだまれ!! おれはしあわせな二度寝に(ひた)るんだ!! (なつめ)ちゃんといっしょにねゆんだ!!」

 

「わかめさま、神様をお待たせするのは……えっと、だめでございます。……特に夜泉(ヨミ)様は……その、気むずかしい方とお聞きしておりますゆえ」

 

「んぐぅ――――――!!」

 

「……んにぅ…………もんだい、にゃい。……わがはい、ちゃんと起きれるゅむ……」

 

「ヴッ!! いい子!!!」

 

 

 

 未だぽやぽやしているようだが、ちゃんと自らの意思で『起きる』と宣言してくれた(なつめ)ちゃん。

 浴衣はもはや、かろうじて帯で留められている程度の壊滅具合だ。上半身はほぼ全てを余すところなく解き放ってしまっているし、おんなのこ座りしている下半身には……可愛らしいねこさん柄のお下着さまがお目見えしてしまっている。

 

 ……昨晩のおれだったら、恐らくみっともなく取り乱していただろう。

 しかし今日のおれはひと味違う。美少女に囲まれ一夜を過ごしたことにより、美少女耐性がほんのちょっとだけ上がっているのだ。だからこのお下着さまも心からありがたく頂戴致しますご馳走様です!!!

 

 

 ともあれ、ねこちゃんパンツは置いといて。

 寝起きの様子をほほえましく見守ってくれていた、だいすきな霧衣(きりえ)おねえちゃんに手伝ってもらいながら……(なつめ)ちゃんはくしゃくしゃになってしまった浴衣を脱ぎ去り、通販で調達したお洋服を着付けていく。

 いやはや、この義姉妹まじ(てぇて)ぇよ。あと(なつめ)ちゃんおパンツさまありがとう。すまんなモリアキ、おれので我慢してくれ。

 

 ……ラニは、もう……しらん。タオル茶巾絞りにして持ってくか。

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございました。お気を付けて行ってらっしゃいませ」

 

「お世話になりましたー!」

 

 

 無事に身支度を済ませて、現在時刻はおよそ八時。

 急な問い合わせにもかかわらず、一晩癒しのひとときを提供してくれた宿をチェックアウトし……おれたちはいま再びの神々見(かがみ)神宮へと向かうべく、ハイベース号へと乗り込もうとしていた。

 

 宿の玄関を出て、駐車場に到着し、まぁ何かの間違いだろうと一人納得してそのまま運転席へと潜り込み、

 

 

 

「ぅえっ!? ちょっ、おっ、おっ、おっ……お待ちくださいませ! ちょっと!? お待ちくださいませお客人!!」

 

「はいじゃあみんな乗ってー出発するよー朝パックいくよー」

 

「「イェーイ!」」「「いぇーい?」」

 

「ちょっと!? お客人どの!!?」

 

 

 

 宿の駐車場で出待ちしていたのは、この町中ではさすがに浮きまくっている赤と白の巫女装束。

 きちっと着付けられた袷の上には、その装束に到底相応しくない……どこか見覚えのある首輪を嵌め。

 

 以前はこちらを値踏みするように細められていた目もとを、今となってはぱっちりと見開き。

 そこに『困惑』と『焦燥』をめいっぱい湛えた、可愛らしい野兎の少女が……あわあわしながらすがり付いてきた。

 

 

 は? かわいいが?(半ギレ)

 

 



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428【神前会談】野兎神使の秘密

 

 

 どうやら、朽羅(くちら)ちゃんが嵌めているこの首輪……まぁ深く考えるまでもなく、(なつめ)ちゃんが着けているものと同じ由来を持つものだ。

 

 主神と繋いだ縁を絶やさずに、神力を伝達する経路(パス)を維持したまま神使を神域結界の外で活動させるため、今年の始め頃にラニたちが造り上げた魔法道具。

 こちらの(なつめ)ちゃんでその効果を確認し、また彼女を迎え入れた際に囘珠(まわたま)さんへと寄贈したもの()()()()か……もしくは、その複製品か。

 セイセツさん率いる鶴城(つるぎ)の技研棟には『上司(神様)が必要だと判断したら勝手に増産しちゃっていいよ』と権利を丸投げしてあるので、幾つか追加生産されてたとしても不思議ではない。

 

 

 ともあれ、この首輪。これでヨミさまからの神力供給を受け続けることで……

 

 この子はこうして、神域の外で好き勝手に振る舞うことが出来て(しまって)いるのだろう。

 

 

 そりゃあもう……好き勝手に。

 

 

 

 

「お……お客人! お客人!! 小生にもう一つ『さくさく』を! 後生に御座いまする! 後生に御座いまする! 小生これまで、斯様に見目麗しく立振舞いもまた(らう)たく皆に愛される兎生(じんせい)を歩んで居りましたが……しかしそれでも、斯様に美味なる『さくさく』を賜ったことなど此まで御座いませぬゆえ!」

 

「あーハッシュポテト気に入った? よかったね朽羅(くちら)ちゃん。でもねもうお店ずっと後ろだからね、今からまた買いに行ってると神様待たせちゃうからね、だから我慢しようねわかったね」

 

「おやおやお客人、これはこれは……まぁまぁ随分とまた可笑しな事を仰有られます。ふふふ、ご案じめされますなお客人。此わざわざ足労を給わらずとも、げに神々しき黄金色たる『さくさく』はお客人の掌の内にて御座いますれば! ……ささ、ご遠慮めされるな、後は其なる『さくさく』をこの小生朽羅(クチラ)へと、どうぞ遠慮なさらずお譲り下さいませ」

 

「ラニさんナツさん。ヤってしまいなさい」

 

「えっ? あっ!? ちょ、っ!!? な、なりませぬ!! なりませぬ!! ほんの戯れに! ほんの戯れに御座いまあっ! だ、だめっ……お、お止めくださいませ、どうか!! あっ!? そ、そこは! さすがにそこは小生といえど、ッ! ッきゃんっ! あっ、あっ、お、お慈悲を、あっ、だ、だめっ! そこだめッやぁっ!? ふゃっ! お、お止め、やぇ、ッ……きゃぃッ!? ふゃあぁあーッ!!」

 

「ラニさんナツさん。もういいでしょう」

 

「ッ、…………ッ、はーっ、……はーっ」

 

「いや、あの、先輩……朝っぱらから何してくれてんすか……」

 

 

 

 まったく。おれがちょーっと気を利かせて、赤色Mマークの『朝パック』をごちそうしてあげたら……すーぐコレだ。

 性懲りもなく調子に乗ってしまったクソガキウサギちゃんには、ちょっと立場ってモンを理解(わか)らせてあげなきゃならないわけで。

 

 というわけで、おれの指示に従い朽羅(くちら)ちゃんを理解(わか)らせに入ったのは……われらが可愛い執行人ふたり。

 【義肢(プロティーサ)】で朽羅(くちら)ちゃんを組み敷いて舌なめずりしてるラニちゃんと、生意気な言動に対し単純に青筋浮かべながら敏感なところをくすぐり倒していた(なつめ)ちゃん。

 二人は巫女装束に包まれた小柄な身体を問答無用で後部シートへと押し倒し、無慈悲な私刑を執行する。

 

 生意気な言動が尽きないイタズラウサギの朽羅(くちら)ちゃんだったが……二人の執拗な()()()()によって、とっても素直でいい子になってくれたみたい。

 その小さな体を紅潮させ、とろんと宙を見つめるその大きな瞳には……それはそれは濃い『歓喜』あるいは『恍惚』の感情が、疑いようもなくバッチリと顔を覗かせている。

 ……うん、やっぱりこの子は()()()()()なんだな。

 

 

 

 

「ホントにもう……いきなり車内でドスケベおっ始めないで下さいよ。オレ事故ったらどうするんすか」

 

保険会社(ほふぇんはいは)()警察(めーはふ)()電話(むぇんま)だな(まま)

 

「食べながら喋んないの! お行儀悪いでしょう!! ……あとそういうこと聞いてんじゃないんすよ!! わかるでしょ!?」

 

「(ずぞぞぞぞぞぞ)」

 

「アッ、話聞く気ない! チクショウこのドスケベ寸胴エルフめ……」

 

「(つーーん)」

 

 

 

 ここ神々見(かがみ)市は全国有数の観光名所を擁しているとはいえ……観光客の方々が押し寄せるには、まだちょっと早い時間なのだろう。

 車通りも人通りも少し控えめの神々見(かがみ)市内を、モリアキの運転するハイベース号は順調に進んでいく。

 

 後部キャビンでは……ベンチシートに座るウサギちゃんがなにやら緋袴の内腿をもぞもぞ擦り合わせ始めた以外は、特に特筆すべき問題は起こっていなさそうだ。

 二列目シートでそわそわはらはらし始めた霧衣(きりえ)ちゃんが固唾を呑んで見守る中……ハイベース号はしばらく走り続け、ついに神々見(かがみ)神宮の駐車場へと辿り着く。

 

 

 駐車マスにキッチリと車を収め、エンジンの音と共に微振動が止まる。

 無事に到着を果たしたことで、あからさまに『ほっ』とした気配を滲ませるそわそわ朽羅(くちら)ちゃんだったが……何を勘違いしてるんだ。まだおれの行動フェーズは終了してない(ZE)

 

 

 

「じゃあ…………思ってたより早く着いたし、ちょっと待機しよっか」

 

「ぇホォ!? なな、なっ……なんと!? 今なんと申されましたお客人!?」

 

「だからね、待機。待つの。車で」

 

「な、なっ、なにッ、……なにゆえ!? 何ゆえ斯様に無為な足踏みをなさると!?」

 

「だってまだ約束の時間まで三十分くらいあるし。五分とかならまだしも、三十分も早くついたらさすがに迷惑っしょ」

 

「さん、……ッ!!? な、なりませぬ! なりませぬぞお客人! それはなりませぬ!!」

 

「なんで? ()()()()()()()()()()()()()()理由なんて、あるの? 朽羅(くちら)ちゃん?」

 

「え゛ぉュ゛うぅうゥゥ……!!」

 

 

 

 まあ、おれは全てお見通しなわけだけど。

 そしておれは、そこまで鬼じゃないわけなんだけど。

 

 朽羅(くちら)ちゃんがしおらしく、ちゃーんと正直に理由を説明して、その上で『お願い』できるなら……なんなら、車内トイレを使わせてあげてもいい。

 

 

 だが、あくまでシラを切るつもりなら。傲慢で自分勝手で生意気な態度を取り続けるというのなら。

 彼女の弱いところをバッチリ見抜いた(なつめ)ちゃんが……朝パックのミルクの仇を取ろうと、敏感なところを重点的に()()()()()に行くかもしれないが。

 

 

 

「まぁ……ちゃーんとした理由があるなら、行動予定を変えるのもアリだろうけど……なにか理由あるの? 朽羅(くちら)ちゃん。ヨミさまの遣いだからって威張り散らした上、自分用の朝パックだけじゃ飽きたらず(なつめ)ちゃんのミルクぶんどって更におれのハッシュポテトまで手を付けようとした、朽羅(くちら)ちゃん?」

 

「ふぐゥゥゥゥゥ…………!!!」

 

「ちなみに車内で漏らしたらそのまま即アラマツリさんの前に飛ばすから」

 

「んヒュ、っ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ポリカーボネートの折戸の向こうから、なにやら勢いのよい水音が響いてくる。

 運転席のモリアキには聞こえたかどうかわからないが……助手席のおれのエルフイヤーには、少なくともバッチリ届いていた。

 どうやら……相当溜まっていたらしい。

 

 

 彼女が密かに慕っているであろう人物の名前を出してやったことで、幸いなことに最後の一線を越えずに済んだ朽羅(くちら)ちゃん。

 性格は色々とアレだけど……本人も誇っているように、その容姿そのものは正直とても可愛らしい。

 

 そんな子が、清廉さが形となったかのような巫女装束で、顔を真っ赤に染めてプルプル震えながら泣きそうな声で許しを乞いながら『おねだり』してくるのだ。

 ちゃんと言うべきことも言えたし、おれもオイシイ思いをすることが出来たし……おれは恩着せがましく(おトイレ)を使わせてあげることにした。

 いやぁ、いいもん見たわ。ごちそうさまってやつだな。

 

 

 

「ですから、先輩。あの……ちょっとばかし『やり過ぎ』では……?」

 

「大丈夫なんだなそれが。このへんもバッチリ折り込み済なわけよ」

 

「…………と、いいますと?」

 

「昨晩ヨミさまにお会いしたときにね……『明朝朽羅(くちら)ちゃんを迎えに寄越すけど、もし調子に乗るようなら遠慮無く折檻してやれ。本人も喜ぶだろう』って」

 

「…………えぇ……………それはまた……()()性癖っすね」

 

「アレな、真っ赤になって泣きそうな顔で震えてるやつな。……あの感情『歓喜』なんだわ」

 

「……てっきり虐められ過ぎて泣く寸前なのかなと」

 

「まぁ実際泣く寸前だわな。……歓喜に打ち震えて、だけど」

 

 

 やがて……おトイレの処理装置が全てを終わらせた音を背に、朽羅(くちら)ちゃんが再びキャビンへと戻ってくる。

 その表情はなんというか、安堵とか恍惚とかいろいろと入り混じった、簡単に表すと『うっとり』とした表情なのだが……

 

 おれにはこれが、単純に『間に合った』ことによるものだけ()()()()ということが、まるっとお見通しなのだった。

 

 

 

 どうやらこの子……なにがとは言わないけど、()()()することにも悦びを見出だせる子のようですね。いや『なにを』とは申しませんが。

 

 いやはや……末恐ろしい子。

 

 

 







※のわめでぃあは健全です




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429【神前会談】野兎神使の悲劇

 

 

 昨日と同じように朽羅(くちら)ちゃんにの先導によって、昨日と同じように神宮深部の関係者専用建屋へと案内された、おれたち『正義の魔法使い』ご一行さま。

 

 ただ昨日とは大きく異なっているのは……朽羅(くちら)ちゃんの目が妙に熱を帯びているのと、ヨミさまが妙に上機嫌で出迎えてくれたことだろう。

 

 

 反面、アラマツリさんは……うん、非常に疲れきったような表情だった。

 上司(ヨミさま)部下(くちらちゃん)も結構クセがあるもんな。とても苦労してそうだ。……胃薬でもお供えしてあげようかしら。

 

 

 

「さて、まぁ……昨日ぶりなわけだけど。遠慮無く()()()てくれたみたいで、わしとしても安心したし」

 

「ありがとうございます。ちょーっと……いや、けっこう『イラッ』と来てたんで」

 

「そんなぁ!?」

 

 

 

 先日のような()も取れ、ゆったりともたれるように座るヨミさま……もしかしなくても身を預けているのクッションは『人をダメにする』という噂のやつか。神様もダメにしてしまうのか。すごいぞ矢印良品。

 それはそうと、あの、お召し物も相変わらずラフな感じになっちゃってるんですけど……生粋の(オス)もいるんですけど大丈夫なんですか。

 ……大丈夫ですか。そうですか。

 

 

「まぁ……わしに早く面見せに来なかったとか、ずいぶんと布都(フツノ)に入れ込んじゃってるみたいだとか、言いたいことはいっぱいあるけども」

 

「えっ、アッ、あっ……えっと」

 

「今後は、ちゃーんとわしとも()()してもらうから……それで良いね? まぁ拒否はさせないけど」

 

「…………恐縮です」

 

 

 

 第一印象では、協力を取り付けることは難しいかと思われたヨミさまだったが……昨晩の『魔王』一派による侵攻作戦とそれに伴う朽羅(くちら)ちゃんの出陣を経て、無事に態度を軟化してくれた。

 

 昨晩軽くお話を伺った限りでは、魔法道具関係の研究開発にかかわる人員をいくらか派遣してくれるらしい。

 また奉納品や縁起物を製造する工場にも話を通してくれるらしいので、完成した魔法道具をある程度量産することも出来るだろう……とのこと。

 防御用の結界装備は可能な限り増産しておきたいので、これは単純にとても助かる。

 

 

 そして……それに加えて。

 昨晩ちょっとした騒ぎが巻き起こる原因ともなったのが……次の、こっちだ。

 

 

 

朽羅(クチラ)も、よいね。わしの『目』となるべく、またわしらと(あき)つ柱との仲を取り持つためにも……お前には、『神々見(カガミ)』を出ていって貰う」

 

「っ、…………承知、致しました」

 

「……まぁ、ぶっちゃけ昨晩もう出ちゃってるし。それに以前ならばいざ知らず、その首枷ある限りは……神域を出たところでわしとの縁が断たれるわけでもなし。……荒祭(アラマツリ)の拳骨が恋しくなったら、いつでも遊びに来るが良い」

 

「……はいっ。お言葉、確かに頂戴致しまする」

 

「というわけで、耳長の娘よ。朽羅(クチラ)を『嫁』に遣ろう。そなたの『眼』であれば、こやつの性根も我慢癖も見抜いていよう。存分に可愛がってやってくれ」

 

「っマ゜ぁ!?!???」

 

「そうですね……なんというか、なかなかに将来が楽しみな性癖だなぁ、と」

 

「なホぉあ!?!??」

 

 

 ことの顛末を見守っていたアラマツリさんが疑問符を浮かべながら首を傾げるが……さすがにおれもそこまで落ちぶれてはいない。

 彼には悪いが、朽羅(くちら)ちゃんが責められて(よろこ)ぶマゾロリウサギちゃんだということは、ここだけの秘密にしておこう。……まぁおれの身内にはバラしたったけど。

 

 小さい子の儚い恋路を進んで邪魔して喜ぶほど、おれの性癖は歪んでいない。

 ヨミさまの『嫁』という発言も、きっと喩えとか言葉のアヤとか……そういうアレソレに違いない。きっとそうだ。そうに決まってるし。

 

 

 

「……わしとしては、そなたが朽羅(クチラ)の伴侶でもいっこうに構わないけど?」

 

「ちょア゛!!?」

 

「これ程の神力を秘めた(あき)つ柱との()ともなれば、それはそれは将来が楽しみだし。……朽羅(クチラ)はまだ体が整ってないけど、兎の一族はそのへん旺盛だし」

 

「どのへん!? ……じゃなくて!!!」

 

 

 どストレートな『嫁』発言に、背後のなかよし義姉妹が若干剣呑な気配を帯びるが……しかしすぐに自制してくれたようだ。

 おれのがんばりも、決して無駄じゃなかった。

 

 

 

「……夜泉(ヨミ)様、そのあたりで。……(つがい)となる相手くらいは、朽羅(クチラ)の好きにさせて遣っても良いでしょう。あんなんでも一応は乙女ですし」

 

「い、一応は!? 一応とは如何なる見識に御座いまするか荒祭(アラマツリ)様! 小生は斯様にも……斯様にも! 愛らしく幼気(いたいけ)で目の保養たる乙女に御座いまするに!!」

 

「………………はぁ? お前が愛らしいのは見た目()()だろうが。……ってぇか『顔は良いが関わりたく無い』『臥見(フシミ)の狐のがまだ可愛げがある』『猫を被った兎』ってェのが神々見(カガミ)神使の共通認識だぞ」

 

「   、 」

 

(うわエッッグ……)

 

(あーかわいそうかわいい)

 

 

 

 背景に『がーん』という効果音が見えてきそうな表情の朽羅(くちら)ちゃんは、そのままふらふらと後ずさり……見かねた霧衣(きりえ)ちゃんによって胸元に抱きすくめられると、やがて声にならない嗚咽を漏らし始める。

 

 ヨミさまへと視線を向け、目で訴えると……さすが神様、それだけでおれの言いたいことを察してくれたようだ。

 『朽羅(クチラ)を少々外させる』と言ってアラマツリさんに入り口の襖を開けさせ、おれは霧衣(きりえ)ちゃんに目線で訴え、朽羅(くちら)ちゃんを託す。

 

 

 ……まぁ、アラマツリさんも決して悪気があったわけじゃないのだろう。

 ていうか多分ふつうに朽羅(くちら)ちゃんの日頃の行いが悪いからだろうし、つまりはキッパリ自業自得なのだが……そうはいってもやはり、年端もいかない少女の涙は強いのだ。

 

 

 

「……手間を掛けるね、長耳の。……わしも立場上、下手な口出しは出来ないし。……思うところはあるだろうけど、(いたずら)に託宣を下すわけには行かないし」

 

「…………大変なんですね、神様って」

 

「そうなんだよね。長耳のは余所者だからまだ良いけど……荒祭(アラマツリ)とかはね。『神』たるわしの命令には、あんまり逆らえないし」

 

「ですよね……さすがに、感情の持ち様を命令するのは……」

 

「解ってくれて、なにより。……まぁ、そなたらに手間は掛けさせないけど、少しだけ待って貰うし。荒祭(アラマツリ)に一仕事させるゆえ」

 

「!!?」

 

「今後なにかあれば、朽羅(クチラ)を介し言を送るし。……もう下がって良いぞ。何やら『出口』を開く場所も探したいのであろ。此の部屋と『神域』関連以外なら、好きに見繕って構わないし」

 

「あっ……ありがとうございます。…………それでは、失礼します」

 

 

 

 日本最大の神域を擁する神々見(かがみ)神宮とヨミさまの協力を取り付け、連絡役(けん)監視役(けん)友好の印をお預かりすることとなり……

 

 

「さて、荒祭(アラマツリ)。……其処に直るがよい」

 

「っ、…………はい」

 

「こういうことはね、本来ならわしもあまり言いたくは無いんだけど…………」

 

 

 

 お説教されようとしているアラマツリさんを残し、おれたちはヨミさまのお部屋を後にした。

 ……こっちの様子も気になるが……おれたちが深入りするべきことじゃない。

 

 

 今は……新しい同居人に寄り添い、親睦を深めることが先決だろう。

 

 

 



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430【神前会談】野兎神使の笑顔

 

 

「こちらが神々見(カガミ)の内宮本殿にて御座いまする。別名は煌戴(こうたい)神宮、此の国の天皇陛下にまつわる祭事のほとんどが行われる、大変由緒正しき御宮にて御座いまする」

 

「やっぱ壮観だよなぁ……森の中にぽっかり空いた空間と広い空と」

 

「屋根がまたご立派っすよね。これ二十年に一度建て替えるんでしたっけ?」

 

「これはこれは! 旦那様は博識で居られまする! ……えぇ、えぇ。それ即ち式年遷宮の大祭に御座いますれば! 内宮外宮ともに二十年に一度、社殿は勿論御装束から御神宝に至るまで全てを新たに造り直し、大御神たりまする夜泉(ヨミ)様に新宮へとお(うつ)り頂く由緒正しき催しに御座いまする!」

 

「本殿だけじゃねえの!? 全部!?」

 

「左様に御座いまする。此方の本殿に留まらず、周囲を囲む御垣から鳥居から、宝殿、外幣殿、御饌殿、果ては先程皆様がお渡り頂いた御百裾橋(みもすそばし)に至るまで。これ即ち神々見(カガミ)の宮を常に瑞々しく保つため、千幾百年にも及ぶ先達の御心の賜物に御座いまする」

 

「そんな大規模な建て替えなら、費用だってバカんなんないっすよね……なんでまたそんな頻繁に?」

 

「えぇ、確かに仰有られます通りにて。円貨にして凡そ六百億とも云われておりますれば、遷宮に懸ける我等の熱意も推して知るべしと云えましょうや。……して、遷宮の理由に御座いまするが……それ即ち御宮の建方に依るものにて御座いまする」

 

「「たてかた」」

 

「えぇ、えぇ。神々見(カガミ)の宮はそれはそれは由緒正しき歴史を持つ御宮なれば、その建方もまた弥生の頃の建築に由来するものにて御座いますれば。(すなわ)ち、白木の掘立て柱は雨風にて侵され易く、如何に御立派な霊木とて到底長持ちは望めませぬ」

 

「「なるほどーー」」

 

 

 

 アラマツリさんの身も蓋もない物言い(※ただし自業自得の事実)に、てっきりガッカリしてメソメソしてウォウウォウしてしまってるかと思われた朽羅(くちら)ちゃんだったが。

 霧衣(きりえ)ちゃんの包容(ママ)力によるものなのか、はたまた天性の被虐体質によるものなのか……おれが合流したときには既に、いつもの調子を(表面上は)取り戻していた。

 

 

 ……ので、どうせならばと彼女に改めて案内を頼んでみたところ……意外や意外、本職の観光ガイドばりの丁寧な解説を交えながら、こうしておれたちを案内してくれたのだ。

 そもそも神々見(かがみ)神宮は、日本屈指の観光名所でもある。

 せっかく来たのなら堪能しないと損だし、堪能するなら現地に精通したガイドさんはとても心強い。

 

 確かに、()()性格に難はあるけども……この子はこの子で他に無い魅力を持っていることも、また確かなのだ。

 

 

 

「やっぱ詳しいね、朽羅(くちら)ちゃん。……好きなんだね」

 

「ぅ、ぁ……っ、…………誤魔化しは、効きませぬか。お客人の『眼』の前には」

 

「おれじゃなくても、気付くよ。……説明のとき、とっても嬉しそうで……とっても誇らしげな顔してるもん」

 

「…………それは、それは」

 

 

 ヨミさまから下った辞令によって、これまで慣れ親しみ好いてきた神々見(かがみ)から離れなければならなくなった朽羅(くちら)ちゃん。

 その心境はおそらく、霧衣(きりえ)ちゃんや(なつめ)ちゃんのときほど穏やかじゃないのだろう。

 

 彼女が寂しさを感じないよう、しばらくは積極的に神々見(かがみ)さんへ足を運んだ方が良さそうだ。

 せっかくなら観光動画も撮影してしまいたいし……神宮境内は勿論として、ここ神々見(かがみ)の門前町もまた魅力いっぱいの観光スポットなのだから。

 だから……おれたちがあしげく通っても、なにもおかしくないわけだな。うん。

 

 

「ノワノワ、よさげなおトイレあったよ。ここでシちゃう?」

 

「なにやら不穏なニュアンスを感じましたが一切無視させていただきますね。……うん、本殿にも近いし、さっきの詰所にも近いし……裏なら人もほとんど来なさそうだし。……ここにしよっか。ラニお願い」

 

「ぅエッヘヘ~。公衆トイレの裏でなんてまーたスキモノなんだから~ノワってばも~」

 

「おしゃぶりの刑って新しく考えたんだけど」

 

「さて、パパっと済ませちゃおうね」

 

 

 ガイドの途中で突然公衆トイレの裏手に回ってゴソゴソし始めたおれたちに、可愛らしく小首をかしげ疑問符を浮かべている朽羅(くちら)ちゃんが見守る先……ラニはてきぱきと【座標指針(マーカー)】の設置を終え、これでいつでも神々見(かがみ)神宮へと一瞬で飛んでこれるようになった。

 

 これでヨミさまやアラマツリさんにいつでも会いに来れるし、『魔王』対策の相談も気軽に行えるだろうし……それに、観光するにあたっても便利だからね。

 べつに朽羅(くちら)ちゃんのために用意したわけじゃないんだからね。勘違いしないでよね。

 

 

「……ふぇ…………飛んで、これる、と? ……い、一瞬で!? 何処からでも!?」

 

「ラニに【門】を開いてもらう必要はあるけどね。一方通行ではあるけど……おれん()にも【座標指針(マーカー)】あるから、行って帰ってーってすることは簡単に出来るよ」

 

「な…………っ!?」

 

「だから……ね。面倒な辞令だろうけど……前向きに捉えてくれると嬉しいかな、って」

 

「め、ッ…………面倒、などと……」

 

 

 

 【天幻】の勇者たるラニお得意の反則的(チート)魔法に、おくちあんぐりで唖然としていた朽羅(くちら)ちゃんの……その背後。

 おれの視覚(エルフアイ)(望遠)が捉えたのは……なんだか妙に難しそうな表情の、白髪混じりの男性。

 筋骨粒々のがっしりとした体躯に神職用の袴を纏ったその姿は、ここ神々見(かがみ)の神域奉行であるアラマツリさんだ。

 

 

 

 

「………………朽羅(クチラ)

 

「っ! ……荒祭(アラマツリ)、様」

 

 

 

 おーっとぉ、これは我々撤退しておくべきですね。おれのオトメチックレーダーにビンビン来てますよ。

 まぁおれはオトメじゃないんだけど、オトメチックな気配を感じるレーダーってことね。おれはおとこなので。

 

 

(……いちおボクが見てるよ)

 

(ありがとラニ、たのんだ)

 

 

 背中をピーンと伸ばして硬直してしまった朽羅(くちら)ちゃんに『先に駐車場行ってるね』と告げ、何か言いたげなアラマツリさんにニッコリと微笑みを残し……お邪魔虫一同はいそいそと本殿前広場を後にする。

 

 あとは、あのお二人がゆっくりじっくりお話しすべきことだ。

 ラニも空気は読んでくれてるようだし……余計なちょっかいは出さないだろう。

 

 

 

 

 

 そうして……時間にしておよそ十分か二十分か、そのあたりだろうか。

 駐車場へ向けて歩を進めるおれたち四人の後ろから、ぱたぱたと草履の足音が聞こえてくる。

 

 

(ラニ? 何事もなかった?)

 

(うん。めっちゃ『てぇてぇ』だったよ)

 

「おきゃ、っ……若芽どのー! お待たせ致して御座いまするー!」

 

 

 おれに向けて投げ掛けられた、元気はつらつな声に振り向くと……そこには小柄な身体を巫女服に包み、縮緬(ちりめん)の風呂敷包みと男性用の扇子を大事そうに抱え、満面の笑みでこちらへと駆け寄ってくる少女の姿。

 

 どうやら……アラマツリさんはばっちり彼女を元気づけてくれたようだ。

 今やなんの憂いも無くなった小さな神使は、年相応に可愛らしい笑顔を浮かべている。

 

 ……こうして見てる分には、単純に可愛らしいんだけど。

 

 

 

「……じゃあ、いこっか? 朽羅(くちら)ちゃん」

 

「えぇ、えぇ! この朽羅(クチラ)、我らが神々見(カガミ)の為とあらば! たとえ未開の片田舎であろうとも、辺鄙で窮屈な山奥であろうとも」

 

「あ? なんて? も(ひと)つ首輪着けたろうか? 真っ赤な極太リードで亀甲縛りすんぞおら」

 

「ッンんひゅぅぅ……!!」

 

 

 

 なんとも名状しがたい恍惚とした表情を浮かべ、それはそれは幸せそうに身悶えしてみせる、野兎の少女。

 そんな彼女を白い目で見つつ、『渡さぬ』とでも言いたげな顔でおれの腕にしがみついてくる錆猫の少女。

 可愛らしい妹分と、生意気ながらどこか放っておけない妹分を、慈愛に満ちた眼差しで見守る白狗の少女。

 

 とても華やかで愛らしく(かしま)しい神使少女三人組と、そんな(てぇて)ぇ子たちをデレッデレした顔で堪能している、(中身は)男のおれたち三人……あわせて六名。

 ここにピンチヒッターであるミルさんも加え、魔法道具の製造・配備体勢も着々と整いつつあるわけで。

 

 

 われわれ『正義の魔法使い』ご一行の反撃は、ここから始まる……のかもしれないな!

 

 

 



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431【親睦計画】初陣に御座いまする

 

 

「ご主人殿、ご主人殿! えっへへぇー、ご主人殿の愛らしい伴侶である小生の、その歓迎の儀に関するお話に御座いまする」

 

「アッ、それ自分から言っちゃうんだ?」

 

「えぇ、えぇ! なにせ夜泉(ヨミ)様公認の『嫁』すなわち伴侶にございますゆえ、ひいては人生を共にする間柄に御座いますれば! それは当然、贅を尽くし豪勢たる装いにて催し戴けるものと確信しておりまするが」

 

「オッケー任せろ。チョコとコーヒーとネギとニンニクとアボカドと水仙買ってくわ」

 

「しょっ、そんなご無体な!!?」

 

 

 

 よい子のみんなはくれぐれも、大切な家族であるうさちゃんにチョコとかコーヒーとかネギとかニンニクとかアボカドとか水仙とか、絶対に食べさせちゃダメだぞ!

 他にも食べさせちゃダメなものは色々あるから、目の前の便利なガラス板でよーくチェックするようにね!!

 

 ……とまぁ、おれもさすがに冗談ですし。

 お預かりした娘さんに何かあってはマズかろうと、こうして軽く探りを入れてみたわけなのだが……どうやらやっぱり苦手なようだ。

 

 

「……いえ、その……ご心配を賜り恐悦至極に御座いまするが、別に腹を下すわけでは御座いませぬ」

 

「アッ、そうなの?」

 

「えぇ……えぇ。小生の母上も姉上も、何不自由なく食して居られましたが…………し、しかしながら、小生の……この、高尚たる味覚には、どうやら合わぬようで」

 

「つまり……可愛らしい食わず嫌いってことね。オッケー買ってこ」

 

「ん゛んっ! 後生に御座いまする! 後生にございまする! いえ確かに小生可愛らしく御座いまするがしかしそれは別として! ……それになにより水仙は食物として相応しく御座いませぬ! われらの糧とは成りえませぬ!」

 

「お庭に植えるんだよ」

 

「なるほどぉ」

 

 

 どうやら食の好みとしては、神使といえどちょーっと食わず嫌いのケがあるだけの女の子みたいだ。

 まぁそりゃそうか、霧衣(きりえ)ちゃんだって何も気にすることなくたまねぎとかチーズとか食べてるもんな。(なつめ)ちゃんも熱いのはちょっと苦手だけど、好き嫌いは無いいいこだもんな。

 

 

 

 っというわけでまぁ、つい先ほど神々見(かがみ)の方々と感動的なお別れを済ませた朽羅(くちら)ちゃんとわれわれだったが……現在こうしておしゃべりに興じながら、神々見(かがみ)湾岸道路(上り線)を爆走中だ。

 後部座席ではモリアキとラニが賑やかに話し込んでおり、(なつめ)ちゃんが時折それに言葉を加え、霧衣(きりえ)ちゃんはにこにこ顔で聞き耳を立てつつも若干しょんぼりしてるみたい。……多分昨晩の一戦のおはなしなんだろうな。

 そして一方のおれはというと……順調にハイベース号をかっ飛ばしながら、助手席に身を沈めて上機嫌にまくし立てる小さな巫女さんと、こうして言葉を交わしているわけである。

 

 ……というのも、ほかではない。

 オウチに……というか休憩地点(サービスエリア)に着くまでに、この子にはいくつか確認しておきたいことがあったからだ。

 

 

 

「…………で、さっきの()()なんだけど……結局のところ、どう? べつに無理強いはしないし、断ってくれてもちゃんとお客様として扱うし」

 

「愚問にございますな、ご主人殿。小生とて夜泉(ヨミ)様にお仕えする神使の端くれなれば。鶴城(ツルギ)囘珠(マワタマ)の同輩が務めを果たしているのに、小生だけが惰眠を貪って居ようと在らば……それこそ、神々見(カガミ)神使の名折れというもの」

 

「ほぇ…………ごめん、正直ちょっと意外だった」

 

 

 相談というのは、ほかでもない。

 単純にして明快、おれたちの『本業(のわめでぃあ)』に対する協力要請だ。

 

 いちおうヨミさまからは『そなたの嫁なのだし、如何様に働かせてくれて構わぬ』と言われているのだが……かといって本人にやる気がないのにカメラの前に立たせるのは、視聴者さんたちから不興を買ってしまう恐れがある。

 なので、本人の意思確認。やりたくないようなら無理強いはせず、家事手伝いとして受け入れようかとも思っていたのだが……意外と言っちゃあ失礼なのかもしれないが、予想外の熱意とともに受け入れてくれた。

 

 

 確かに、少々調子に乗りやすく自意識過剰で口も過ぎるし漏れやすい構ってちゃんではあるけども……本人が自信満々に誇示するその容姿と、一切気後れせずに飛び出すその心の強さは、かなりのものだと思っている。なお飛び出た後も心が強いとは言っていない。

 愛情とともに弄って貰えるような立ち位置であれば……この子はこの子で、なかなかに()()()と思うのだ。

 

 …………と、いうわけで。

 

 

 

「じゃあ……期待してるね、朽羅(くちら)ちゃん。細かい報酬規定とか待遇とか、あと寝床とかお部屋とかは帰ってから相談させて貰うとして……取り急ぎさっそくお仕事一つお願いしたいんだけど、いい?」

 

「……っ!! し、しょうがないで御座いますねご主人殿! 早速小生の身体をお求めで御座いますか! んへへぇー! ……ご安心くださいませご主人殿! この朽羅(クチラ)に二言は御座いませぬ、ご主人殿たってのお願いと在らば、何だってこなして見せまし」

 

「「「今なんでもって言ったよね?」」」

 

「ュひゃぇえ!?!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご…………ご主人殿ぉー!! ごじゅじんどのぉー!! わぁーん!!」

 

「よーしよしよし……こわかったね、大丈夫だからね朽羅(くちら)ちゃん。安心してね。大丈夫だからね」

 

「わうぅ、わぅぅぅ……も、申し訳御座いませぬ、若芽様…………この霧衣(キリエ)めが付いておきながら、朽羅(クチラ)様にこのような……」

 

「大丈夫、こうなる気がしてたから」

 

「…………??」

 

「ごじゅじんどのぉー!!」

 

 

 

 

 日本有数の観光地でこれまで過ごしてきたこともあり、多くの人間に対しても、特に思うことは無かったのだろう。

 当初こそ余裕の表情で出掛けていった朽羅(くちら)ちゃんだったが……大勢の人々の注目を浴び続け、数多の視線を一身に受け続け、スマホやカメラを向けられ続けるという経験は、さすがに無かったようで。

 

 『霧衣(きりえ)おねえちゃんと一緒に人数分ハンバーガーセット買ってきて』というミッション(はじめてのおつかい)こそ成功させたものの、こうして泣きじゃくりながら帰ってきたわけだ。

 

 

 まぁ……そりゃそうだよな。

 そもそもここ御斎所(ございしょ)サービスエリアは、このあたりでは指折りの大規模サービスエリアだ。

 神々見(かがみ)|湾岸道路(上り)を利用するひとの多くが立ち寄る場所であり、年間通してかなりの賑わいを見せているわけだが……早いひとはもう夏期休暇に片足突っ込んじゃってるわけだしな、いつも以上に混雑してるようだ。

 

 そんな賑やかなサービスエリアに、突然『はっ』とするほど綺麗な和服美少女と、小さくて可愛らしい巫女服姿の美幼女が現れたら……まぁ、人目を引かないわけが無いわけで。

 今や『のわめでぃあ』の立派な看板娘として、そのテの界隈ではなかなかの知名度を誇る霧衣(きりえ)ちゃんが、明らかに只者ではない可愛(カワ)い子ちゃんを引き連れていれば……それはつまり、この様子を見た視聴者さんに『ひとつの推測』をもたらすには充分なわけで。

 

 

 

(どうだった? ラニ)

 

(ばっちり。自信満々だったクチラちゃんの顔がどんどん歪んでくの。めっちゃカワイイ)

 

(いやそっちじゃなくて。……いやそっちもなんだけど)

 

(うん、そっちもバッチリ。ちゃーんと()()()()()流れてたよ)

 

「うぅ……ごじゅじんさまぁ……(ずびっ)」

 

「あーよちよち、よく頑張りまちたねぇ。……じゃあ落ち着かないだろうし、中入ろっか。霧衣(きりえ)ちゃんもありがとね、なでなでしてあげようね」

 

「は、はいっ」

 

(てぇて)ぇ映像いただきましたァ!!)

 

(ナイスゥ!!)

 

 

 

 

 

 運転席側のシェードを落として、キャビンの窓もブラインドを落として、扉に鍵を掛けて。

 即席ではあるが、これでおれたち専用のパーティールームが出来上がったわけだ。

 

 (ハイベース)の外で様子を窺っている方々には申し訳ないが……ここから先はオフレコ、身内だけでのお楽しみだ。

 

 

「じゃあ、おねえさんを務めてくれた霧衣(きりえ)ちゃんと、ギャン泣きしながら買ってきてくれた朽羅(くちら)ちゃんに感謝して……いただきます!」

 

「「「「いただきます!」」」」

 

「ぐしゅっ…………いただぃ、まぅ」

 

(((((可愛い……)))))

 

 

 

 

 皆がみんな、手に手にバーガーやポテトをつまみ、わいわいとジャンクなお昼ごはんを堪能していく。なんだかんだで、幅広い層に人気だもんな。安定のおいしさである。

 塩っけの強い百パーセントビーフパティのバーガーを、肉食系姉妹も美味しそうに啄んでくれているようだ。

 

 そういえば朽羅(くちら)ちゃん、ギャン泣きしてたけど大丈夫だろうか。外の人間にトラウマ負ったりしてないだろうか。……今後のおしごとに対して、不安を感じちゃったりしてないだろうか。

 そんなおれの……部下のメンタルを思いやる、たいへんやさしい心遣いは。

 

 

 

 

「ご主人殿! 小生の『おいも』が……愛らしい朽羅(クチラ)めの『おいも』が無くなって御座いまする! あぁ、あぁ! なんという! なんたる悲しき結末に御座いましょうか! つきましてはご主人殿の『おいも』を小生にお譲り賜りたく」

 

「全裸に剥いて外放り出すぞマゾガキウサギ」

 

「んふふぅぅぅーー……ッ」

 

 

 

 驚異的な回復力を見せた彼女のメンタルをまざまざと見せつけられ、つい辛辣に返してしまったわけなのだが……当の本人は頬を朱に染め、満面の笑みで、もじもじと嬉しそうに身をよじらせている。

 

 あれは恐らく……単純にハンバーガーセットが美味しいから、というだけでは無いはずだ。

 ……どうやら単純な罵声さえも、彼女を悦ばせる結果となった模様。

 

 

 いやはや、とんだモンスターがいたもんだ。

 この打たれ強さはもう……才能ですね。

 

 

 



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【この頃流行りの】木乃若芽ちゃんを語るスレ_第三十八夜【女の子】


すこし短めです。たいへん申し訳ございません。今回はくちらちゃんが全責任をおって




 

 

 

………………

 

 

………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

 

 

0557:名無しのリスナー

 

だーからなんで摩訶不思議現象全部わかめちゃんのせいにすんだよ

理由ったって「ファンタジーな容姿だから」程度だろ?

確たる証拠も無いのに憶測で話すんなって

 

 

0558:名無しのリスナー

 

落ち着けっておまえら

一緒にわかめちゃんのパンツを拝もうって誓いあった仲じゃねえか

 

 

0559:名無しのリスナー

 

火の無いところに煙は立たないって言うだろ

実際わかめちゃんがこれまで接触してきたところ大抵あり得ん事態になってるからな

 

鶴城神宮しかりNCしかり浪越県警しかり

 

 

0560:名無しのリスナー

 

わかめちゃんがどうこうする、っていうよりは

わかめちゃんはそういうものを引き寄せてる、みたいな憶測は立っても仕方ないと思う

 

 

0561:名無しのリスナー

 

マスゴミ共も最近めっきり正義さんの話しなくなったしな

以前はあんなに声高に叩いて扇動してたのによ

 

やっぱ警察とかから圧力かかったんじゃね?

一日所長とかもやってたし、癒着してんじゃね?

 

 

0562:名無しのリスナー

 

憶測で特定個人を貶めんなよ

 

 

0563:名無しのリスナー

 

わかめちゃん今日は三恵方面なんか

神々見湾岸で目撃情報だってよ

 

 

0564:名無しのリスナー

 

お出かけ久しぶりじゃね?

新作期待

 

 

0565:名無しのリスナー

 

御斎所下りってことは神々見司摩方面か?

 

 

0566:名無しのリスナー

 

ハイベース号大活躍やな

夜は夜で大活躍しとるんやろな……

 

 

0567:名無しのリスナー

 

御斎所か……どっちいくんやろな

神々見方面南下すんのか、京都方面向かうのか

 

 

0568:名無しのリスナー

 

御斎所ざんしょ

 

 

0569:名無しのリスナー

 

マジかよ三恵県民ワイ感涙に咽び泣くわ

 

せっかくとりっぷ三恵版はやくして……

 

 

0570:名無しのリスナー

 

京都方面行くんなら四箇市JCTから新四箇市方面行くはずやからな

つまり今回の目的地は神々見やろな

 

 

0571:名無しのリスナー

 

マジかよちょっと三恵向かうどす

 

 

0572:名無しのリスナー

 

盗撮されてんの気づいてるだろうに

この余裕の佇まいよ……

 

立派だぞ、わかめ……

 

 

0573:名無しのリスナー

 

神々見なのか?信じていいんだな?

行くぞ???俺行くぞ????

 

 

0574:名無しのリスナー

 

わかめちゃん目立つからなぁ……人ごみの中にいても遠目からでも一発で特定できてまうし

 

 

0575:名無しのリスナー

 

正直何度か遠目で見かけたことあるけど

大抵きりえちゃんと仲むつまじくお買い物してるから

さすがに割って入りづらい

 

 

0576:名無しのリスナー

 

目立つよなぁ、あの鮮やかなグリーンヘア

あと大抵銀髪和服少女きりえちゃん同伴してるからな

めっちゃ人目引くよな

 

 

0577:名無しのリスナー

 

なんか最初の頃は黒髪に偽装しようとしたりしてたみたいだけど

最近もう開き直ってるよな

 

 

0578:名無しのリスナー

 

>>575 百合の間に割り込もうとするオスは万死

 

 

0579:名無しのリスナー

 

嫁と楽しく買い物してていきなりキモオタに話し掛けられたらわかめちゃん泣いちゃうだろいい加減にしろキモオタ

 

 

0580:名無しのリスナー

 

唯一の個性ってすげーよな

遠目でも「あれわかめちゃんだ!」ってわかるもんよ

 

 

0581:名無しのリスナー

 

どうしたんだいキモオタ

 

 

0582:名無しのリスナー

 

>>577 宣伝になるから、的なことを言ってた気がするけど

だからって四六時中注目されるやろそれ……生半可な度胸じゃねえぞこれ

 

 

0583:名無しのリスナー

 

ねえわかめちゃんの今晩の宿特定したいんだけど

追加情報はやくして

 

 

0584:名無しのリスナー

 

推しは遠目で愛でるもんだろ

おまえら底辺が触れていい存在じゃねんだぞ

交流イベントでも無いのに凸して推しに迷惑かけるやつは何やってもダメ

 

 

0585:名無しのリスナー

 

さすがに凸はなぁ

わかめちゃんにしてみたら知らない成人男性がニヤニヤしながら声かけてくるわけだしなぁ

 

 

0586:名無しのリスナー

 

自ら広告塔を買ってでる経営者の鏡

 

 

0587:名無しのリスナー

 

最近わかめちゃん成分接種できてなかったからたすかる

マネジメントもすごいけど配信がんばるわかめちゃんもすこだ

 

 

0588:名無しのリスナー

 

わかめ……頑張ってるな……

 

 

0589:名無しのリスナー

 

>>584

それってあなたの感想ですよね?

 

 

0590:名無しのリスナー

 

プールはまだ使わないんですかね?

夏とはいえいい加減おしり寒いんですけど

 

 

0591:名無しのリスナー

 

ちくしょう昼メシだけでも遠目で眺めたかった……

俺はなんのために三恵に住んでるんや……

 

 

0592:名無しのリスナー

 

今夜の宿特定しないと

視聴者さんたちの中で宿経営しててわかめちゃんから予約の電話受けた人は居ませんか

正直に名乗り出て

 

 

0593:名無しのリスナー

 

>>591

仕事のためやろなぁ……

 

わかめちゃんにお布施するお金を稼ぐ尊い業務やで、がんばりや

 

 

0594:名無しのリスナー

 

神々見方面っつってもな

松逆も神々見も司摩も選択肢なわけだし

さすがに範囲広すぎんな……伊逗のようにはいかんか

 

 

0595:名無しのリスナー

 

やだやだ!!わかめちゃんママ子守唄歌って寝かしつけてくれなきゃやだやだ!!

 

 

0596:名無しのリスナー

 

>>594

熊乃って可能性もあるぞ

 

 

0597:名無しのリスナー

 

さすがに時間的にもう宿入っとるやろうしな……

今回はご縁がなかったということで

 

 

0598:名無しのリスナー

 

せっかくとりっぷ新作はやく

 

 

0599:名無しのリスナー

 

そいえば神々見神宮はどうだったん?

誰か張ってたひとおらんのか?

 

 

0600:名無しのリスナー

 

てぐりちゃんの水着姿まだー?

舎弟三人娘の水着まだーー??

 

 

0601:名無しのリスナー

 

>>599

ダメもとで寄ってみたけど、それらしい姿は居なかったな

まぁ俺が着く前に参拝してた可能性はあるけど

 

 

0602:名無しのリスナー

 

事前告知出てた伊逗じゃないんやし

そうそう都合よく現地視聴者ニキとか居らんやろ

 

 

0603:名無しのリスナー

 

おったか……

 

 

0604:名無しのリスナー

 

おるやんけ

 

 

0605:名無しのリスナー

 

おったんか

 

おらんかったか……

 

 

0606:名無しのリスナー

 

やっぱ今ごろ宿でエッチなことしてるんですよ

 

 

0607:名無しのリスナー

 

きりえちゃんとわかめちゃんが同じ部屋で寝るってだけで濃いの出る

 

なんならきりえちゃんとわかめちゃんが一つ屋根の下で寝食入浴を共にしてるって事実だけでめっちゃ濃いの出る

 

 

0608:名無しのリスナー

 

なんか松逆市で熊の群れが出たって話だけど

まさかな……

 

 

0609:名無しのリスナー

 

>>607

俺はなつめちゃん派なんだが??

なつめちゃんときりえおねえちゃんのゼロ距離推進派なんだが???

 

 

0610:名無しのリスナー

 

まさかな、ってなんだよ

 

 

0611:名無しのリスナー

 

なつめちゃん日に日に距離近くなってくよな

本人はさも当然と言わんばかりの澄まし顔ですり寄ってくのめっちゃ尊ぇ

 

 

0612:名無しのリスナー

 

なつめちゃんの「あねうえ」呼び好き

「あねうえ」呼びされて聖母の微笑み浮かべるきりえちゃんスッキ

 

 

0613:名無しのリスナー

 

なつめちゃんのおなか撫でて余生を過ごしたい

 

 

0614:名無しのリスナー

 

>>608

なんでもかんでもわかめちゃんのせいにすんな定期

芸能人の不倫にも野党議員の不祥事にも酔っぱらい無職の機内暴力も「まさかな……」とか付ける気かよ

いい加減にしろ

 

 

0615:名無しのリスナー

 

松逆市っつっても山間部かよ

 

……とか思ったけど「群れ」って穏やかじゃねえな

 

 

0616:名無しのリスナー

 

やべぇのはわかるがわかめちゃんスレでやんな

つぶやいたー行けつぶやいたー

 

 

0617:名無しのリスナー

 

きり×のわ派が劣勢で私は悲しい(ボロン

 

 

0618:名無しのリスナー

 

わかめちゃんと三人のおよめさん

 

 

0619:名無しのリスナー

 

ラニちゃんこそ正妻だと思うんだが

 

 

0620:名無しのリスナー

 

その粗末なえのき茸しまえよ

 

 

0621:名無しのリスナー

 

わかめちゃんの前でポロンしたらどうなるの?

 

 

0622:名無しのリスナー

 

時事ネタ全てにわかめちゃん絡めるのはさすがに無いわ

わかめちゃんは俺の腰に脚を絡めときゃええんやで(イケボ

 

 

0623:名無しのリスナー

 

あの子らの容姿はただ者じゃないとは思うけど

だからって何の根拠もない憶測を並べ立てて印象付けるやり方はアカンやろ

 

 

0624:名無しのリスナー

 

そんなことより要望送れ送れ

水着のシーズンやぞ、今年こそは水着拝まんと夏が終わらんぞ

 

 

0625:名無しのリスナー

 

なんの生産性もない憶測の羅列よりも

ここすきの羅列の方がまだ生産性あるわ

 

 

0626:名無しのリスナー

 

きりえちゃんのみずぎ(がたっ

 

 

0627:名無しのリスナー

 

せいさんせい(意味深)

 

確かにめっちゃ濃いの生産されるな……

 

 

0628:名無しのリスナー

 

もうやだこの変態ども

 

 

0629:名無しのリスナー

 

とりあえず次のナマでそのへん詳しく教えてくれるんじゃね

座して待つべきよ

 

 

0630:名無しのリスナー

 

やだじゃないんだよ

早くご意見ご要望フォーム送るんだよプール水着はやくして

 

 

0631:名無しのリスナー

 

一心不乱に抜かせてみせよ

 

 

0632:名無しのリスナー

 

実際これまでも何かしら行動するとき

わかめちゃんはナマでちゃんとお知らせしてくれてたからな

 

やっぱそういう点では安心感あるよなぁわかめちゃん

視聴者おれらの知りたいことをちゃんと教えてくれるっていうか

 

 

0633:名無しのリスナー

 

定期配信予定組んでくれてるだけで大助かりよ

 

 

0634:名無しのリスナー

 

ぼくもわかめちゃんのパンツ知りたいです

 

 

0635:名無しのリスナー

 

定期配信と動画投稿の二段構え

改めてすげーよな、よーやっとるわ

 

 

0636:名無しのリスナー

 

案件もいくつか進行中っつってたもんな、わかめちゃん

そんな中での遠出だもんな、さすがに気になるわん

 

 

0637:名無しのリスナー

 

まーた新しい幼女捕まえてくんじゃねーの?

わかめちゃんが遠出する前後って大抵美ロリ増えるじゃん??

 

 

0638:名無しのリスナー

 

新メンバー捕まえにいってる説?

 

 

0639:名無しのリスナー

 

拉致だよこれは!!

 

 

0640:名無しのリスナー

 

確かに東京キャンフェスの後だったか?なつめちゃん

でもテグリちゃんと舎弟三人組はべつに遠出してないのでは?

 

 

0641:名無しのリスナー

 

行く先々で可愛い子をたらしこんで家族にしちゃうわかめちゃん……いけない子だ……

 

 

0642:名無しのリスナー

 

>>640

あれも確か滝音谷温泉行った後じゃね

 

 

0643:名無しのリスナー

 

なんでそんなホイホイ新メンバー増えるんだって思ってたけど

やはり全国各地に新メンバー候補をお迎えにいってるのでは??

 

 

0644:名無しのリスナー

 

さすがにそりゃねえだろ

単純に神々見神宮紹介動画とかじゃねーの?

 

 

0645:名無しのリスナー

 

そう何度も何度も美少女が増えてたまるか

まぁ仮に新メンバーだったとしたらそりゃ嬉しくない訳じゃないけど、さすがにもうありえんだろ

もし本当に新メンバー登場だったらFA描いてやるわ

 

 

0646:名無しのリスナー

 

実際これまで美少女を抱き込みまくってるわかめちゃんすごいよな……

どんな人脈だよ

 

 

 

………………

 

 

………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

 

 

0750:名無しのリスナー

 

冗談だろおい!!!!なんだよこれ!!!!ちょっと!!!!

 

 

0751:名無しのリスナー

 

アッ、わかったこれ。のわめでぃあ絡みだこれ

 

 

0752:名無しのリスナー

 

あれきりえちゃんだよな……?

あんな綺麗な白髪の和装美少女とかきりえちゃん以外にいるわけねぇもんな???

 

 

なんだあのロリ巫女!!!!!!!!

 

 

0753:名無しのリスナー

 

御斎所SAかこれ

すげーなまわりみんなスマホ向けちゃってるじゃん

 

 

0754:名無しのリスナー

 

撮影者ァ!!!!説明しろ撮影者ァァ!!!!

 

 

0755:名無しのリスナー

 

きりえちゃんだもんなぁ……こりゃのわめでぃあですわ

 

 

0756:名無しのリスナー

 

アアアアアアアア可愛イイイイイイイイイアアアアアアアア!!!!!

 

 

0757:名無しのリスナー

 

きりえちゃんもそういえば鶴城さんの巫女さんだったか

 

妹分かな?かわいいね、ちょっとおじさんと写真とってくれない??

 

 

0758:名無しのリスナー

 

htfps://vvvvvv.uploader/domein/tousatsu_pic.fc.jp/202007xx1251xx/

htfps://vvvvvv.uploader/domein/tousatsu_pic.fc.jp/202007xx1254xx/

 

 

0759:名無しのリスナー

 

これは事案なのでは??

なんでわかめちゃんそう簡単に幼女連れて帰れるの???

 

 

0760:名無しのリスナー

 

追加燃料wwwwwwwwww

 

 

0761:名無しのリスナー

 

えええええええwwwwwwこれどう見てもギャン泣きですやんwwwwwwwwwwww

 

 

0762:名無しの一般客

 

わかめちゃん……よしよししてあげてるわかめちゃん…………ヴッ

 

 

0763:名無しのリスナー

 

やっぱりわかめちゃんの新しい嫁じゃねえか!!!!

オイ>>645 ニキ息しとるか!!!!!!!

 

 

0764:名無しのリスナー

 

尊ぇ

 

 

0765:名無しのリスナー

 

ギャン泣きする幼女ちゃんと

やさしくハグしてなぐさめてあげるわかめちゃんと

ちょっとしょんぼりしてるきりえちゃん

 

すばらしい作品だと思わんかね

 

 

0766:名無しのリスナー

 

のわめでぃあってことだよな?

 

こうして衆目に晒してるってことはあの幼女ちゃんも身内ってことだよな??

 

 

0767:名無しのリスナー

 

なんなの?また可愛い子増えるの?またおこづかいあげる相手増えちゃったじゃん

もうやだ(やだじゃない)(うれしい)(かわいい)

 

 

0768:名無しのリスナー

 

完全に箱と化したのわめでぃあ

オッケー箱推しだな?任せとけよ

 

 

0769:名無しのリスナー

 

幼女の泣き顔おいしいれす

 

 

0770:名無しのリスナー

 

@nowamedia_sukiman:ウッソだろwwwww御斎所のメックにきりえちゃんおったわwwwwww妹とおつかいwwwwwww尊いがwwwwwwww

htfp://tubuyaita.pic/202007xx1308_q3rg6uj/

 

おひるごはんかな?おつかいかな??

 

 

0771:名無しのリスナー

 

幼女ちゃんめっちゃいいこじゃん

 

 

0772:名無しのリスナー

 

あー……おつかいに行ってみたけど人いっぱい注目いっぱいでこわくて泣いちゃったのか……

きっと控えめで大人しくて引っ込み思案な子なんだろうな……かわいい

 

 

0773:名無しの一リスナー

 

内気控えめ系巫女幼女ちゃんかわいいが

 

 

0774:名無しのリスナー

 

きりえたんをもっと内向的にした感じか

庇護欲そそるわぁ…………(舌なめずり

 

 

0775:名無しのリスナー

 

内気で引っ込み思案だけどみんなのためにおつかいに挑戦してくれたんやな……

いい子すぎじゃん……のわめでぃあはいい子の集まりかよ(そうだよ)

 

 

0776:名無しのリスナー

 

ラニちゃんは果たして「いい子」にカウントできるのだろうか

 

 

0777:名無しのリスナー

 

こんな控えめでかわいいロリっこが

夜になったらおふとんのうえであんなことやこんなことを……

 

 

0778:名無しのリスナー

 

初芽ちゃんの中の人めっちゃ居心地悪そうだな……

わかめちゃんちの男女比どないなっとんねん

 

 

0779:名無しのリスナー

 

>>776

ラニちゃんはいい子だろ!!!!

わかめちゃんのことをあんなに想ってくれてる子はそうそういないぞ!!!えっちだけど!!!!

 

 

0780:名無しのリスナー

 

あーラニちゃんはなぁー……

夜な夜なイタズラばれてカウンタースケベされてるんだろうなぁ……

 

そういう感じの薄い本サンプル見ましたわ

 

 

0781:名無しのリスナー

 

ラニちゃんはなぁ…………うん……

 

 

0782:名無しのリスナー

 

きりえちゃん→わかめちゃんのおよめさん。みんなのおねえさん。めっちゃいい子

なつめちゃん→すました顔してすり寄ってくる。ほめてほしがり。めっちゃいい子

幼女ちゃん→みんなのためにこわいけどお昼ごはんを買いに行ったいい子

ラニちゃん→ノワだいすきで同じベッドで寝てる実質全裸ようせいさん。めっちゃえっち

 

 

0783:名無しのリスナー

 

つぎの生わかめでは幼女ちゃんの紹介まちがいなしですねそうですよね???

 

 

0784:名無しのリスナー

 

金曜夜はナマわかめ!!!

 

 

0785:名無しのリスナー

 

内気控えめ引っ込み思案ロリとか大好物ですありがとうのわめでぃあ

 

 

0786:名無しのリスナー

 

>>778

さすがに初芽ちゃんは同じおうちに住んでへんやろ……

 

 

0787:名無しのリスナー

 

のわめでぃあで唯一のおじさん

神絵師モリアキ大先生のりびどーがたいへんなことに!!

 

 

0788:名無しのリスナー

 

>>778 見てわかめ家紹介動画ひさしぶりに見たけど

やっぱスゲェおうち住んでるよな、わかめちゃん……

これなら美少女五人とおじさんが共存できるのか……??

 

 

0789:名無しのリスナー

 

あーっそうじゃんそうじゃん!!!幼女ちゃんわかめちゃんといっしょのおうちにすむんじゃん!!!

いいじゃん!!いいじゃんえっちじゃん!!!

 

 

0790:名無しのリスナー

 

>>788

間取り的には大丈夫だったとしても、だ

血の繋がった家族でもないのに美少女五人と一つ屋根の下で暮らしてて手出さないとか、それさすがにもう聖人の域だろ

 

 

0791:名無しのリスナー

 

エッチなことしたんですか

 

 

0792:名無しのリスナー

 

>>790

てぐりちゃんと舎弟ガールズは?

つまり美少女9人対おじさん1人じゃん??

 

 

0793:名無しのリスナー

 

あらぁ~~~~~

 

 

0794:名無しのリスナー

 

【悲報】のわめでぃあはえっち

 

 

0795:名無しのリスナー

 

>>792

前たしかどっかでテグリちゃんは別棟に住んでるって聞いたような気がする

あと舎弟三人娘は通勤組だっていってた(気がする)から一緒に住んではいないと思う

 

 

0796:名無しのリスナー

 

別棟っておま……どんだけスゲェんだあのおうち

 

いやまぁ、敷地見るだけでも相当スゲェのはわかるけど

 

 

0797:名無しのリスナー

 

つまりモリアキ神も通勤組なのでは???(名推理

さすがにあんな環境にいたらエッチなことになってしまうでしょうまちがいない(名推理

 

 

0798:名無しのリスナー

 

まぁーそっか、毎日収録やら配信してる訳じゃないもんな。

撮影のときだけ来ればいいわけか

 

 

0799:名無しのリスナー

 

でも実際わかめちゃんハウス

主にラニちゃんのせいでエッチなことになってるからな

 

あのハレンチ妖精め……わからせがひつようなようだな(ギンッギンッ

 

 

0780:名無しのリスナー

 

【悲報】らにちゃんははれんち

 

 

 

………………………………………………

 

 

………………………………

 

 

………………

 

 

 

 

 

 



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【お胸の小さな】木乃若芽ちゃんを語るスレ_第三十九夜【女の子】


物足りなかったらすみません。
やっぱりここは局長がおわびに




 

 

 

0001:名無しのリスナー

 

※※※わかめちゃんまとめ※※※

 

名前:木乃 若芽(きの わかめ)

年齢:自称・百歳↑(人間換算十歳程度)

所属:のわめでぃあ(個人勢・序列最下位)

身長:134㎝(ちっちゃいおねえちゃん)

主な活動場所:YouScreen

お住まい:浪越市近郊山間部某所

家族:らに(嫁)きりえ(嫁)なつめ(嫁)

てぐり(職人)だいゆう(舎弟)

かしょう(舎弟)くぼて(舎弟)

はつめ(姉・母・神)

 

備考:かわいい・よわよわ・へちょへちょ

 

 

0002:名無しのリスナー

 

※※※わかめちゃんまとめ※※※

 

・魔法情報局局長

・合法ロリエルフ

・魔法が使える(マジ説)

・肉料理が好き

・別の世界出身

・ざんねん

・「~~ですし?」

・とてもかしこい

・おうたがじょうず

・実在ロリエルフ

・じつはポンコツ

・命乞いが得意

・わかめ料理(意味深)

・お引っ越ししました!

・ガチ多言語対応

・序 列 最 下 位

・渋 谷 区 の 妖 精

・ハ イ エ ー ス 

・バンコン2台売った女

・URcas実体化の立役者説

・にじキャラ名誉顧問

・行く先々で幼女を誑かす女

 

(※随時追加予定)

 

 

0003:名無しのリスナー

 

>>1 乙

しかし>>2 長くなってきたな、そろそろ纏めるか?

 

 

0004:名無しのリスナー

 

>>1 乙

生ワカメ前の理想的なタイミングでスレ更新きたな

やはりわかめは運命に愛されし女……

 

 

0005:名無しのリスナー

 

>>1-2 乙

>>3 確かにな、いっそ過去分は改行入れなくて良いんじゃね?

最新情報だけ箇条書きする感じで

 

 

0006:名無しのリスナー

 

>>1

 

 

0007:名無しのリスナー

 

わしもそれでいいとおもう

 

 

0008:名無しのリスナー

 

準備画面出たので飛んできました

 

今日は幼女ちゃんのお披露目かな?

楽しみすぎて昨日からパンツはいてないんだが

 

 

0009:名無しのリスナー

 

シメジ見えてんぞパンツはけ

 

 

0010:名無しのリスナー

 

間に合った

この二時間のために一週間を生きてる

 

 

0011:名無しのリスナー

 

あと十分

覚悟完了、パンツ脱いだわ

 

 

0012:名無しのリスナー

 

その粗末なシメジしまってもろて

 

 

0013:名無しのリスナー

 

パンツ脱がすのはわかめちゃんだけにしとけ

 

 

0014:名無しのリスナー

 

このおじさんたちなんでパンツ脱いでるのこわ

 

 

0015:名無しのリスナー

 

わかめちゃんパンツはいてないのは解釈違いですので

名前からしてパンツは見せてくれなきゃダメでしょう!!!

 

 

0016:名無しのリスナー

 

ヘィリィの時間だオッラァ!!!!

 

 

0017:名無しのリスナー

 

ヘィリィ!!!!!

 

 

0018:名無しのリスナー

 

ぱんつはいてないはラニちゃんのお仕事ですので

 

 

0019:名無しのリスナー

 

ヘィリィすきだが

開幕全員集合すきだが

 

 

0020:名無しのリスナー

 

きりえちゃんきょうもかわいい……すき……

 

 

0021:名無しのリスナー

 

完全に配信者グループと化したのわめでぃあ

アイドルグループかな

 

 

0022:名無しのリスナー

 

てぐりちゃん組がいない……

 

 

0023:名無しのリスナー

 

新作な……おうたな……みたとも……

 

 

0024:名無しのリスナー

 

新作ってか神作だよなあれ

なつめちゃんのたどたどしいおうたすきだが

わかめちゃんの伴奏ハープすきだが

 

 

0025:名無しのリスナー

 

みたよーーーわかめちゃんみたよーーー

わかめおねえちゃん幼稚園の保母さんできるんじゃね

 

 

0025:名無しのリスナー

 

貴重ななつめちゃんのおうた永久保存だわ

 

 

0026:名無しのリスナー

 

もろちん!!!みた!!!!

 

 

0027:名無しのリスナー

 

>>22

てぐり組はおにわ部専属だからね……

しかたないね……

 

 

0028:名無しのリスナー

 

ロリ巫女ちゃんまだー?

 

 

0029:名無しのリスナー

 

そわそわなつめちゃんかわいい

じっとするの苦手なのかな、視線めっちゃあちこち飛んでる

かわいいが

 

 

0030:名無しのリスナー

 

すぱちゃお礼もな……よーやっとるよほんま

 

 

0031:名無しのリスナー

 

お礼受けとりました

とけました

 

 

0032:名無しのリスナー

 

がんばるなぁほんと

 

 

0033:名無しのリスナー

 

のわめでぃあはスパチャしてもお礼としてお声が返ってくるから実質無料でスパチャできるからすごい

俺らは何も損してないのにわかめちゃんにおかねが振り込まれるからすごい

 

 

0034:名無しのリスナー

 

おしながきDON!!(かわいい)

 

 

0035:名無しのリスナー

 

きりえちゃんがすこしずつわかめちゃんみたいに身ぶり手振り交えるようになってきたの、

成長っていうか慣れが感じられてとても尊いが

 

 

0036:名無しのリスナー

 

重要なお知らせ!

のところかな?ロリ巫女ちゃんは

 

 

0037:名無しのリスナー

 

やったー相談したいことだーー!!

なんでも相談していいんだぞ、わかめ……

 

 

0038:名無しのリスナー

 

重要なお知らせ

ロリ巫女ちゃん参戦のことか!!!

 

 

0039:名無しのリスナー

 

かすてら消化たすかる

わかめちゃんもっとほめられるべき

 

 

0040:名無しのリスナー

 

かすてらアレのわめでぃあ全員窓口同じなのがな

分けないのかな?、いやべつに不都合あるわけじゃないんだけど

 

 

0041:名無しのリスナー

 

わかめが相談してくれるってことは……

なるほど、つぎの企画の相談か。わかったぞ、わかめ

 

 

 

 

………………

 

 

………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

 

 

 

0120:名無しのリスナー

 

まーーたレベル高ぇ子つれてきたな!!のわめでぃあはよぉ!!!

 

 

0121:名無しのリスナー

 

うさぎちゃんかよ!!!!

わうわうとにゃうにゃうに続いて今度はうさぎちゃんかよ!!!!

 

 

0122:名無しのリスナー

 

ロリうさぎちゃんkt!!!!!!

なんでそうやって性的な子ばっかつれてくるの!!!!!すき!!!!!、

 

 

0123:名無しのリスナー

 

確かに可愛らしいけど

でもまぁ容姿は例のNC演出でどうとでもできるやん

 

 

0124:名無しのリスナー

 

くちらちゃんかわいい!!!!

くちらちゃん!!!ああ!!!!

 

 

0125:名無しのリスナー

 

くちらちゃん……下のおくちをくちくちしてあげようね……

 

 

0126:名無しのリスナー

 

>>123

きりえちゃんたちはNC演出普及前からでてただろ

つまりきりえちゃんはナマだしくちらちゃんもナマ

 

 

0127:名無しのリスナー

 

くちらちゃんかわいい

糸目っこすきだが

 

 

0128:名無しのリスナー

 

-人- <くちらにございまする!

 

 

0129:名無しのリスナー

 

おめめぱっちりかわいい

糸目になるのもかわいい

 

 

0130:名無しのリスナー

 

たとえNC演出によるつくりものだったとしても

こんなにかわいいうさみみロリ巫女ちゃんがいるという事実だけで充分や

 

 

0131:名無しのリスナー

 

まーた難解な言い回しする子だな

見た目とのギャップかわいいが??

 

 

0132:名無しのリスナー

 

>>130 それな、きりえちゃんもなつめちゃんもどうぶつみみが似合いすぎなんだよな

演出だとしても満足だわ

 

 

0133:名無しのリスナー

 

小生とか久々に聞いたぞ

 

 

0134:名無しのリスナー

 

よく舌まわるなぁw

 

 

0135:名無しのリスナー

 

なんかどこぞの度しがたい陰陽師みたいな喋り方するなこのウサギ

 

 

0136:名無しのリスナー

 

なつめちゃんなんか当たりつよくない?

なかわるいのか??

 

 

0137:名無しのリスナー

 

かわいいでございまするなぁ……

小生意外とはきはき喋るであります

 

 

0138:名無しのリスナー

 

忘れもしませぬ、あれは小生が「のわめでぃあ」の一員であった頃……

 

 

0139:名無しのリスナー

 

んんwwwwかわいいでございまするwwww

 

 

0140:名無しのリスナー

 

対談コーナーwwww

おいBGMwwww

 

 

0141:名無しのリスナー

 

ルールル ルルルルールル ルルル

ラーラーラーラーラーwwww

 

 

0142:名無しのリスナー

 

>>>>若芽の部屋<<<<

 

 

0143:名無しのリスナー

 

わかめのへやwwwwwww

 

 

0144:名無しのリスナー

 

まてまてまてまてww髪型かえんなwwww

 

 

0145:名無しのリスナー

 

あぶないwwwwそれはあぶないwwww

若芽の部屋はまだしも髪型はあぶないww

 

 

0146:名無しのリスナー

 

「昇天ペガサスMIX盛りです(ドヤァ」じゃないんだよなあ!!!!

 

 

0147:名無しのリスナー

 

口ずさむなwwww

あのBGMをww口ずさむなwwww

 

 

0148:名無しのリスナー

 

きりえちゃんてきぱきヘアセットできるのすごい

これは日頃からわかめちゃんのおぐし整えてますね(メガネクイッ

 

 

0149:名無しのリスナー

 

これはわらう

みんなでドタバタ会場セッティングするのほほえましいなぁw

 

 

0150:名無しのリスナー

 

やんわりと声色似せようとするんじゃないよwwwwwwww

 

 

0151:名無しのリスナー

 

本日のゲストはですね、また可愛らしい子がお見えになってございますけどもね、あなたそれはそちらの可愛らしい巫女服は自前でいらっしゃるのかしら?ちょっとあなた自己紹介よろしいかしら?

 

 

0152:名無しのリスナー

 

ちょっとだけ似てる

 

 

0153:名無しのリスナー

 

きりえちゃんおみみ見えてるがwww

 

 

0154:名無しのリスナー

 

わうにゃうコンビちょっとだけ見きれてるwwww

 

 

0155:名無しのリスナー

 

確かに対談形式だからwwwwよーく掘り下げられるけどもwwww

 

 

0156:名無しのリスナー

 

待ってwwwwずっとその物真似でゴリ押しする気かwwww

 

 

0157:名無しのリスナー

 

可愛らしい小生であればwwww

 

なかなか自意識高いなwwwwかわいいがwwww

 

 

0158:名無しのリスナー

 

舌打ちwwwwwwww

 

 

0159:名無しのリスナー

 

今なつめちゃん舌打ちしたよなwwww

 

 

0160:名無しのリスナー

 

しっとかな??かわいいが

 

 

0161:名無しのリスナー

 

ずいぶんとプライドが高いウサギちゃんやな!!

ちょっと息子がイライラし始めたぞ!!!

 

 

0162:名無しのリスナー

 

いい声で泣きそう

 

 

0163:名無しのリスナー

 

あーーーーー

 

なーーるほど、こういう子かwwww

 

 

0164:名無しのリスナー

 

>>161

よかった、俺だけじゃなかった

 

 

0165:名無しのリスナー

 

のわ柳さんお顔ひくひくしてるぞww

 

 

0166:名無しのリスナー

 

まあ確かにかわいいよなぁ

 

 

0167:名無しのリスナー

 

ことあるごとに小生可愛いアピールしてくんのな、このうさちゃん

そして実際かわいいから困る

 

 

0168:名無しのリスナー

 

なつめちゃんwwwwwwwwキレたwwwwwwww

 

 

0169:名無しのリスナー

 

なつめちゃんおちついてwwww気持ちはよくわかるwwww

 

一方きりえおねえちゃんはちょっと困った顔だけど余裕の表情

これは正妻ですわ

 

 

0170:名無しのリスナー

 

わかめちゃん争奪戦かぁ……

 

 

0171:名無しのリスナー

 

なつめちゃん「泥棒猫めが!!!」

 

ねこちゃんはなつめちゃんでしょ!!

 

 

0172:名無しのリスナー

 

あーキャットファイトってそういう

 

 

0173:名無しのリスナー

 

しかしうさちゃん……いい声で鳴くなぁ

 

 

0174:名無しのリスナー

 

なんだろうなこのポテンシャルはwwww

一転して平謝りし始めるあたりさては常習犯ですね??

 

見事な誘い受けだわ……いけない子だ……これはちょっと序列をわからせてあげないとダメみたいですね…………

 

 

 

 

………………

 

 

………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

 

 

 

0250:名無しのリスナー

 

最近かすてら消化してなかったなそういえば

 

 

0251:名無しのリスナー

 

最近忙しそうだったもんな……わかめちゃん……

マネジメントに案件に誘拐に……

 

 

0252:名無しのリスナー

 

ドキドキソワソワきりなつかわいい

 

 

0253:名無しのリスナー

 

(・v・)こんな顔してるきりえちゃんかわいいが

(・人・)こんな顔してるなつめちゃんかわいいが

 

くちらちゃんの謎の自信はなんなんだろうな……

 

 

0254:名無しのリスナー

 

くちらちゃんも答えるのかwwwwwww

 

 

0255:名無しのリスナー

 

ソファにちょこんと三人並ぶの可愛いが

なつめちゃん明らかにくちらちゃんにガン飛ばしてんのウケるが

 

 

0256:名無しのリスナー

 

うーんめっちゃ華やか

両手に幼女のきりえおねえちゃんかわいい

 

っていうかなつめちゃんとくちらちゃんマジ小っちゃ…………

どう見てもjsなんですけど大丈夫なんですか……

 

 

0257:名無しのリスナー

 

それなー…………正直気になる

 

 

0258:名無しのリスナー

 

がんばってるのはわかってるんだけどな……

 

 

0259:名無しのリスナー

 

「最近わかめちゃんの配信頻度少なくて寂しいです」

 

配信以外のこと色々と頑張ってるんだろうけど……配信勢からしたら単純に出現頻度下がってるようにしか見えんやろからな……

 

 

0260:名無しのリスナー

 

代わりに初芽ちゃんとかきりえちゃんの配信頻度増えてるし、箱全体としてはむしろ活発化してるほうなんだがなぁ

 

 

0261:名無しのリスナー

 

わかめちゃんガチ勢か

 

そこはかとなく嬉しそうな顔してんなわかめちゃんwwww

かわいいがwwww

 

 

0262:名無しのリスナー

 

まぁそうだよな、そういう回答になるか

 

 

0263:名無しのリスナー

 

最近のわかめちゃんの活動について

・単独配信頻度が下がってるのは正直いって正しい。

・嬉しいことに人数も増えてきたので、その子達のフォローにタスクを割いてしまっている現状

・企画動画の撮影を幾つか行っているので、活動してないわけではない

・案件も幾つか進行中なので、見守ってほしい

・スパチャのお礼メッセージは、雑音混じりで申し訳ないが隙間時間で収録できるので、がんばってお返ししてこうと思う

 

 

0264:名無しのリスナー

 

御斎所で目撃されたのも企画動画絡みなんだろうな、単純にくちらちゃん迎えに行っただけじゃないと思うが

 

 

0265:名無しのリスナー

 

がんばってるな……おれはちゃーんとわかってるぞ、わかめ……

 

 

0266:名無しのリスナー

 

ほえーがんばるな……まじかよわかめちゃんすげぇ

 

 

0267:名無しのリスナー

 

だ、大丈夫?過労死しない???

幼女の抱えるタスク量じゃねえぞ

 

 

0268:名無しのリスナー

 

ボイス販売(無料)

 

 

は??????

 

 

0269:名無しのリスナー

 

ボイス無料!!!!!!まじか!!!!

 

 

0270:名無しのリスナー

 

高純度わかめエキス摂取の救世主じゃん

 

 

0271:名無しのリスナー

 

販売します!!!(期間限定無料公開)

 

 

0272:名無しのリスナー

 

きりえちゃんも!?!?きりえちゃんもあるんですか!!!?

 

 

0273:名無しのリスナー

 

第二弾以降もあるの!!??

 

 

0274:名無しのリスナー

 

#課金させろのわめでぃあ

 

 

0275:名無しのリスナー

 

これで俺もきりえおねえちゃんのごしゅじんさまに……??

 

 

0276:名無しのリスナー

 

好評のようなら、って

 

好評になるに決まってるじゃんこんなの

 

 

0277:名無しのリスナー

 

今後のわかめちゃんの方針

・案件も随時情報解禁になると思うので、どうか楽しみにしててほしい

・単独配信の頻度を上げるのは難しい。他メンバーも可愛い子なので、好いてもらえると嬉しい

・配信の代わりといっちゃなんだが、メッセージボイスを公開予定

・第一弾は「わかめちゃん」。お試しとして期間限定で無料公開(期間後は有料販売なので早やめに)

・好評のようなら第二弾以降も前向きに考える。あの子やこの子も。

・演じてほしいシチュエーションがあれば要望もある程度受け付けるかも

 

 

0278:名無しのリスナー

 

すげぇなぁ……

 

現状の問題点を上げて

問題を解決できるのかどうかを明示して

解決に向けてどう進めていくのか

また解決できない場合どう対処するか

 

これをきっちり説明してくれる役員は有能

完璧な体制じゃん

 

 

0279:名無しのリスナー

 

わかめちゃんの下で働きたい……

 

 

0280:名無しのリスナー

 

わかめちゃんいい経営者になりそう

 

 

0281:名無しのリスナー

 

ついにボイスが!!のわめでぃあにボイスが!!!!

ボイス販売開始ってだけでも嬉しいのに無料配布ってどういうことだよ!!!

 

 

0282:名無しのリスナー

 

なつめちゃんに甘えられたいのでボイスはやく

 

 

0283:名無しのリスナー

 

わかめちゃんダミヘ持ってたよな???

ASMR期待しちゃっていいんですか??

 

 

0284:名無しのリスナー

 

わかめちゃんは視聴者に還元してる気でいるんだろうけど

どう考えても我々が受ける施しのほうが多いんだよなぁ現状……

すぱちゃのお礼で名前呼んでもらえるわコンテンツ安定供給されるわ

良心的すぎるでしょうのわめでぃあ……

 

 

0285:名無しのリスナー

 

わかめちゃんのいちにち!!

気になる!!!!

 

 

0286:名無しのリスナー

 

わかめちゃんに限らずURの者のタイムスケジュール確かに気になるよな

 

 

0287:名無しのリスナー

 

通勤族の我々にしてみればとても気になる話題

 

 

0288:名無しのリスナー

 

「わかめちゃんの1日のルーチンが知りたいです」

 

朝のルーティーンはかなり初期の頃ドスケベモーニングやってくれてたもんな

わかめちゃんの普段の生活もっと知りたいぞ

 

 

0289:名無しのリスナー

 

わかめちゃんの一日は

スケベモーニングに始まり

スケベイブニングに終わる

 

 

0290:名無しのリスナー

 

1日の予定スライドたすかる

 

 

0291:名無しのリスナー

 

「スライドに纏めてみました☆」

 

ぐう有能~~~~

 

 

0292:名無しのリスナー

 

早起きじゃない???

 

よふかしじゃない????

 

おいふざけんなもっとゆっくり休め

 

 

0294:名無しのリスナー

 

ぇえ……もっとゆっくり寝て…………

 

 

0295:名無しのリスナー

 

配信者って在宅ワークだからもっと気楽なもんかと思ってたわ・・・・

 

 

0296:名無しのリスナー

 

やっぱコメントでも突っ込まれてるよな

わかめちゃんもっとゆっくり寝て

なんならおじさんが一緒に寝てあげるから

 

 

0297:名無しのリスナー

 

そっか、らにちゃんが一緒のベッドで寝てるんだっけ

毎晩にゃんにゃんしてんのか????

 

 

0298:名無しのリスナー

 

のわらに仲良いよなぁ・・・・

やっぱカラダの相性も抜群なのかな??

 

 

0299:名無しのリスナー

 

きましたわーーーーーー!!!!!

 

 

0300:名無しのリスナー

 

おほおおおおおおおwwwwwwww

 

でかしたくちらちゃん!!!

おくちが滑っちゃったねきりえちゃん!!!!

 

 

0301:名無しのリスナー

 

「なつめさまと一緒におやすみしておりますので」

 

あらあらあらあらあらあら!!!

あーーーらあらあらあらあらあらあらあらあらあらあらあらあら!!!!!

 

 

0302:名無しのリスナー

 

ゆっりゆりだよ!!!

 

どーすんだこれ!!ゆりっぷるだらけだぞのわめでぃあ!!!!

 

 

0303:名無しのリスナー

 

なつめちゃんwwwwww

きりえおねえちゃんを取られまいとするなつめちゃんwwwwwwかわいいがwwwww

 

 

0304:名無しのリスナー

 

「小生も一緒n」「姉上は我輩といっしょである」

 

くちらちゃんおふとん一人ぼっちかわいそうwwww

 

 

0305:名無しのリスナー

 

「はーいじゃあ二人組つくってー(無慈悲」

 

 

0306:名無しのリスナー

 

こりゃあ初芽ちゃんおじさんと一緒に寝るしかないな!!!

 

 

0307:名無しのリスナー

 

おかしい・・・・・

わかめちゃんの1日のルーティーンの話をしていたはずなのに

なかよしして一緒に寝る(意味深)の話にいつのまにか切り替わってしまっている

 

何かあったに・・・・違いない・・・・

 

 

0308:名無しのリスナー

 

目に見えて凹んでるくちらちゃんかわいそうかわいい

 

涙目よくにあうよくちらちゃん

 

 

0309:名無しのリスナー

 

まてwwwwwww今なんつったwwwwwwww

 

嫁っつったか今wwwwwwww

 

 

0310:名無しのリスナー

 

「小生わかめどののお嫁さんにございますれば」

 

嫁wwwwwwwwwあらあらあらあらあらあらあらあら!!!!!!

 

 

 

0311:名無しのリスナー

 

わかめちゃんスゲェ顔してたぞ今wwww

あとなつめちゃん目wwwwww殺意おさえてwwwwwww

 

もうだめwwwおもしろすぎるwwwwww

 

 

0312:名無しのリスナー

 

きりえおねえちゃんは正妻の余裕かな

慈愛の微笑みまじ癒しだが・・・すきだが・・・

 

 

0313:名無しのリスナー

 

公開初日にしてとんでもねー爆弾ぶっ込んできやがったぞ!!これ確信犯だろこの爆弾ウサギ!!!!

くちらちゃん早くも将来有望ですね!!!

 

それはそうとこのあとおしおきされるんですよね!!!やった!!!!!!

 

 

 

………………………………………………

 

 

………………………………

 

 

………………

 

 

 

 

 



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432【夜間修練】あの子たちのため

 

 

 

 少々……いやほんの少々、取り乱してしまったところもあったけれど……朽羅(くちら)ちゃんのお披露目を兼ねた定例生放送通称『生わかめ』は、いつもどおり無事に閉幕を迎えることができた。

 

 朽羅(くちら)ちゃんが自らを『わかめどのの嫁』と称したことに端を発する一連の騒動は、一時『きりえ派』『なつめ派』『ラニ派』そして新勢力『くちら派』の四つ巴の泥沼状態へと陥った。

 最終的におれ(わかめちゃん)が『みんな大切なわたしの嫁です!』宣言を発したことで、なんとか沈静化の兆しを見せたかに思えたのだが……そうしたら今度はおれ(わかめちゃん)が『攻め』か『受け』かどちらになるのかで、またしても不毛な論争が巻き起こる始末。

 こちらに関してはおれが『わかめちゃんは万能なのでどちらでも戦えます!』と、半ばヤケクソで声を張り上げたことにより……とりあえずは強引に事態を終息させることに成功した。と思う。

 

 

 ちなみに下馬評では『わかめちゃん攻め』が五分に対して『わかめちゃん受け』が三割、そして『わかめちゃん総受け』が六割五分だった。ちょっと待ちたまえ視聴者さん(きみたち)

 

 

 

 そんなこんなで時刻は深夜。配信を終えたおれたちは現在、取り急ぎ霧衣(きりえ)ちゃんのお部屋へとお邪魔していた。

 

 配信のときには場の空気に流されてか、一人で寝ることを余儀なくされるというかわいそうな扱いを受けてしまった朽羅(くちら)ちゃんだったが……そこはわが『のわめでぃあ』が誇る慈愛の狗耳美少女おねえちゃん霧衣(きりえ)ちゃんである。

 あからさまに『しゅん』としている小さな彼女を見かねてか……『わたくしのお部屋で一緒に』と、いたずらうさぎちゃんを受け入れる姿勢を見せてくれたのだ。

 

 涙目だった朽羅(くちら)ちゃんも、この霧衣(きりえ)ちゃんの救いの手には思わずむせび泣き、いつぞやの御斎所(ございしょ)SAのようなしおらしさを垣間見せていた。

 同居人の(なつめ)ちゃんも、『あねうえが決めたならば』と反対することもなく(※ただし『あねうえのおふとんは我輩のものであるぞ!』とキッチリ牽制していたが)、こうしてなかよし(?)三人娘は仲良く(?)一緒のお部屋でおやすみすることとなったのだ。(てぇて)ぇが。

 

 

 

「ノワおまたせ。持ってきたよ」

 

「ありがとラニ。じゃあえーっと……このへんいい? 霧衣(きりえ)ちゃん」

 

「はいっ。問題ございませぬ。それと朽羅(くちら)様、物入れの下段をお使いくださいませ。わたくしと(なつめ)様は上段にて、私物はすべて収まりまして御座いまする」

 

「うぅぅぅぅ…………霧衣(きりえ)どのぉぉーー!!」

 

「んふふっ。ご安心くださいませ、朽羅(くちら)様」

 

((アァーーーー(てぇて)ェーーーー!!))

 

 

 

 一階の客間から、以前『なかよしゲーム部』の方々が遊びに来た際に調達していただいたお布団(女の子用)を(いち)セット、ラニが【蔵】を活用して運んできてくれたので、部屋主の許可のもと設置していく。

 ざっくり北側に入り口がある和室の、窓がある東側に霧衣(きりえ)ちゃんと(なつめ)ちゃんのおふとんが配置され……その反対側の西側(スタジオ側)が朽羅(くちら)ちゃんスペースとなるらしい。

 ちなみに南側には、吹き抜けから一階リビングを見下ろせる通風窓(兼・(なつめ)にゃん専用出入り口)があるぞ。

 

 こうして三人で共用することになったとはいえ、十畳ともともと広さには余裕がある二階和室。三方向に開口を取れることもあり、居住環境は悪くないだろうとは思っていたけど……さすがに三人暮らすのはちょっと手狭かもしれない。

 おれの私室なんて、この倍の広さをおれとラニで二人占めしてるんだもんな。時間ができたら、ちょっと部屋割を考え直したほうがいいかもしれない。

 

 

「じゃあとりあえず……今日はお疲れさま。また明日からよろしくね、朽羅(くちら)ちゃん」

 

「お任せくださいませ! ではでは……ご主人どの、おやすみの(せっ)ぷ」

 

「「(ギロッ)」」

 

「冗談に御座いまする! ほんの戯れに御座いまする!!」

 

「ははははは……ほどほどにね」

 

 

 朽羅(くちら)ちゃんと(なつめ)ちゃんのアグレッシブな関係性が少々気がかりではあるけども……(なつめ)ちゃんは幼く見えてもれっきとした上位神使だ。善悪の区別はきちんとついているし、心配はしていない。

 一方の朽羅(くちら)ちゃんも、その根底にあるのは『構ってほしい』『自分のことを見ていてほしい』という承認欲求である。積極的に構って、ときには()()()()してくれる相手が居てくれるのなら、そんなに悪いことはしないだろう。

 

 それに……彼女たちには、われらが良心霧衣(きりえ)おねえちゃんが着いていてくれるのだ。

 おんなのこ部屋のことは……まぁ、なんだかんだで心配は要らないだろう。

 

 

 

「そーだよノワ。他の子の心配してる場合じゃないよ?」

 

「ヴッ!! …………でもさ、あの……本当にやるの?」

 

「なにを今さら。ノワが決めたんでしょ?」

 

「それはそうですがぁ!!」

 

 

 もうそろそろ日付も変わろうかという深夜。おんなのこ三人組と別れたおれたちは、またおれたち自身も睡眠をとるべく、寝床へと向かっていた。

 階段を降り、廊下を歩き、正面の引き戸を開け……そうして辿り着いたのは、インダストリアルテイストのカッコいい家具でコーディネートされたおれたちの寝室、()()()()

 

 

 

「お疲れ様っす先輩……と、白谷さん。布団敷いときましたよ」

 

「ありがとね、モリアキ氏……じゃなかった、()()()()()()()()!」

 

「ッフヘヘー」

 

「チクショウかわいいなぁおまえ……!!」

 

()()()()っすよ若芽ちゃん」

 

 

 

 半袖シャツとスパッツというたいへんラフな格好に身を包んだ、世にも珍しい長い耳と褐色の肌と手ごろなサイズの双つの実りをもつ、年の頃は十四そこらに見える……笑顔が眩しい美少女。

 おれこと若芽ちゃんの設定上の姉にして、産みの親(の一人)でもある彼女の名は……初芽ちゃん。

 

 そしてその(中身)は……なにを隠そう、モリアキこと烏森(かすもり)(あきら)だ。

 

 

 

 そんな(彼女)がこの部屋に待ち構えており、おふとんが二組敷いてあるということは……つまりは、()()()()()()だ。

 

 

 

「オレもこのカラダなら竿()無いんで、万が一の()()()()の心配も無いでしょうし……それにあの子らと違って中身オレですんで、どんだけ迷惑掛けても大丈夫っすよ、先輩」

 

「よかったねノワ、モリアキ氏と同じ部屋で眠れるよ!」

 

「それはそうだけどぉ!!!」

 

 

 

 そう……全てはおれのたいせつなあの子たちに、寂しい思いをさせないため。

 おとことしての心をもっているおれの、おれ以外の女の子に対する免疫力をつけるため。

 

 初芽ちゃん(モリアキ)全面協力のもと……おれの『美少女耐性獲得プログラム夜の部(※意味深)』が、唐突だが幕を開けたのだった!!

 

 

 

 

 いうておとこどうしだから健全だからな、なにもやましいことなんかないわけだ!!

 

 そう頭では理解しているけども!!!

 

 

 



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433【夜間修練】ワイルドわいだーん

 

 

 そもそもおれとモリアキは、女の子(※ただし二次元に限る)の好みがけっこう近かったりするわけでして。

 つまりは……小柄で華奢なエルフの美少女。しかもじつは緑髪っこが好きな点も、地味に被っていたりする。

 

 世間では『小柄華奢ヒロインといえば金髪もしくは銀髪が正義』だとか『緑髪は不人気ヒロインの象徴』だとか『エルフ属性はもう下火』だとかいう声も多く耳にしたけれど……おれたち二人の理想とする女の子(※ただし二次元)である『緑髪小柄華奢ロリエルフ』で天下を獲る(とまでは行かずともポテンシャルを世に知らしめる)ために、おれたちは『木乃若芽ちゃん』を作り上げたのだ。

 

 ただ年齢設定を行う際には『性癖に忠実に行くべきだ』と主張するモリアキと『老若男女に受け入れられることを優先すべきだ』と主張するおれとの間で、ちょっとした意見の衝突があったのも事実だ。

 だがそれを差し置いても、『木乃若芽ちゃん』を構成する要素のほとんど全ては、おれとモリアキ二人にとってストライクゾーンである点は間違いない。

 

 営業方針によって『十歳程度』という形で設定したけれど……()の性癖で言えばモリアキ同様、真に理想とする女の子(※ただし略)のなにがとは言わないけど数字パラメータは、十三とか十四とかそのあたりなのだ。

 なんの数字かはあえて言わないけど。

 

 

 今だからこそ言えるのだが……霧衣(きりえ)ちゃんはいろんな点でモロに好みで好きなので、最初この子が『嫁』としてお近づきになったときは……とてもしあわせというか、ちょくげきだったので、それはもうやばかった。

 ……ていうかなんなら現在進行形ですきすぎてつらい。

 

 

 

 っとまあ、ちょっと話が逸れたけど……要するに『若芽ちゃん』が外見年齢十歳程度なのはあくまで営業戦略上の判断によるものなので、()の好みで言えばもうちょっと成長した体つきのほうがより好みだということ。

 ……まぁこの身体で過ごしているうちに『これはこれで』と感じるようにもなってきたのだが。

 

 とにかく、なによりも今問題なのは……そんな『もうちょっと成長した体つきの若芽ちゃん(※褐色肌)』が、おれの目の前で無防備な格好を曝しているということだ。

 

 

 

 

 

「モリアキ、おま、おまっ…………もっとさあ! 格好とかさあ!!」

 

「ホェ、なにが不満なんすか? なんの変哲もない部屋着シャツとスパッツっすけ…………あっ! ブラパンツのほうが良かったっすか!? そりゃ申し訳な」

 

「ちげえよ!! ばかじゃないの!? ちがうわよ!! やあねえ!! なに考えてんのよまったくもう!!」

 

「じゃあなにが不満だっていうんすか? ちゃーんとブラもパンツも着けてるんで()()()とかの心配も無いでしょうし、極めて健全だと思うんすけど……」

 

「なんでそんな準備いいの!? モリアキでしょ!? なんでブラとかパンツとかもってんの!!?」

 

「いやまあ、ほら……職業柄? 資料っすよ資料。……っていうか『若芽ちゃん』の初めてのパンツ提供したのオレっすよ?」

 

「なるほどそっかぁ………………いやだから()()じゃなくて!!」

 

「ノワがいつにもまして情緒不安定な件」

 

 

 

 いやちがうんですよ、確かにモリアキ……ていうか『初芽ちゃん』の格好は、決して露出度が高かったりセクシーな格好をしているわけではないんですよ。

 でもですね、でもですよ。おれが性的にとてもすこな緑髪エルフの美少女が、とてもラフな格好であぐらかいでニコニコ笑みを浮かべているわけですよ。すぱっつ越しとはいえおまたとか内ももとかが丸見えなんですよ!

 

 それに……『緑髪褐色美少女エルフ』とかいうファンタジーきわまりない格好の子が、和室の布団の上で警戒心の無い笑顔を浮かべてるというギャップがですね、おれの興奮を掻き立ててやまないわけなのですよ!!

 

 

 

「ははぁ、なるほど。…………よーく解ってくれたようで良かったっすよ、先輩」

 

「……?? ……………あっ!!!」

 

「ははぁーん? なるほどね、ノワはモリアキ氏に対して警戒感ゼロだったから」

 

「そうなんすよ。オレとか『初芽ちゃん』でも無きゃ普通に勃ちますし。そんななのに距離ゼロですし警戒心無いですし軽率にパンツ見せてきますし、実際何度かポッチ見えちゃってましたし」

 

「よ、ッ、……よく…………大丈夫だったね?」

 

「いや実際ギリギリのギリギリで。中身が先輩だったから(そんな失礼な目で見るわけにはいかないので)なんとか堪えきれたって感じで」

 

「そ、そっか…………まぁこの件に関しては、中身がおれだったことが(萎えを助長して性的魅力も消えたので)よかったのかもな」

 

「……?? まぁ、とにかく。オレの苦悩が解って貰えたと思うので」

 

「お、おう」

 

「話元に戻りますけど、先輩の美少女耐性を高めるためなんで……腹くくってください」

 

「んグゥーーーー!!!」

 

 

 なるほどな。中身がおじさんだと解ってはいるけども、視覚的にはとても好みな女の子がすぐそこにいる、と。

 今おれが感じている葛藤こそ、そっくりそのままこれまでモリアキが感じていた葛藤なのだろう。いやほんとよく堪えたなあいつ。ち◯ち◯機能してるんだろうか。……してたって言ってたな。聖人かよ。

 

 しかしまぁ、確かに、美少女耐性をつけるにあたっては効果的なのかもしれない。

 初芽ちゃんとて要するにモリアキなので、おれは以前のようにモリアキと合宿する感じでいいわけだ。ハード面から()()()()が起きないように物理的な対策がなされている点も、なおのことグッドだな。

 

 

 そうとも……相手がモリアキである以上、おれにとってデメリットはもはや存在しないに等しい。

 おれが()()なる前なんかは、同志たちと原稿合宿を繰り広げた仲であるし……べつに『同じ布団で寝ろ』と言われているわけでもないのだ。

 見た目美少女、中身はおじさん。今となっては完全に性別が同じ二人(ラニちゃんも含めれば三人)であるからして……つまりおれたちが同じ部屋で寝ることには、何の懸念も問題も生じ得ないのだ。

 

 

 

「はいじゃー電気消すよぉー」

 

「はーい」「ほーい」

 

 

 和室の照明が落とされ、微かな明かりがふわふわとおれの枕元の専用ベッド(レタートレイ)へと潜り込み……いよいよもって『おやすみ』の準備が整った。

 いつものベッドとは違う寝具の肌触りと、いつもはすぐ隣で眠ることができない同志の存在……自宅であるはずなのになんだかとっても新鮮な寝付きだが、しかしなかなかわるくない。

 

 

 

「あ……そうだ、先輩」

 

「んえ、どしたモリアキ」

 

「お願いですんで寝ながら服脱がないでくださいね?」

 

「え、何それ待ってちょっと詳しく」

 

「おま、っ……! いつの話引っ張り出してくんだよ!? ってかそれは男の頃の話だしノーカンやろ!!」

 

「いやぁ、癖って案外抜けないモンっすよ? 朝んなって素っ裸だったら霧衣(きりえ)ちゃん呼ぶんで、そこんとこお願いしますね?」

 

「じ……上等だよ! ヘーキだもんね、おれべつに裸族じゃねえし!」

 

「……まぁ…………確かに、素っ裸で恥じらいがない子よりは存分に恥じらってってほしいっすよね」

 

「それな。オープンスケベもそれはそれで需要はあるんだろうけど……もっとこう、おもむきというか、ふぜいというか」

 

「へぇー? なんだ、二人ともなかなかイケるクチだね? そーだよねやっぱ最初はツレない態度だったりボクを拒絶するそぶりを見せてるような子が徐々にボクを受け入れるようになってって最後には恥じらいながらも全てを委ねてくれるっていうその変化がまた可愛らしくもあり嬉しくもあり」

 

「おだまり! ヤリ◯ンぷ◯あな勇者め!」

 

「このリア充プレイボーイドスケベ妖精め!」

 

「ええええなんでえええ!!?」

 

 

 

 こういう……おとこどうしでえっちな話をしながら眠りに落ちるとか、長らく出来てなかったもんなぁ。

 女の子にはとてもとても聞かせられないような、本能に忠実な話ができる相手というのは……やっぱり必要不可欠なのだ。

 

 久しぶりに『満たされる』感覚を感じながら……おれはいつのまにか眠ってしまっていたようで。

 

 

 たぶんだけど……とても寝付きがよかったんだと思う。

 

 

 



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434【業界相談】わたしの狙いは

 

 

「突然ですが……若芽さん」

 

「はいなんでしょう大田さん」

 

「ええと、ですね……少々御伺いしたいことが御座いまして」

 

「んふふふ、いいですよ。わたしと大田さんとの仲ですし」

 

「アッ!!! …………恐縮です」

 

「おーさすが。一瞬で落ち着いて見せたっすね……」

 

「やっぱさすがだよな大田さん」

 

 

 

 世間では小中学校がいよいよ夏休みに突入した、七月後半のある日。

 配信者専門広告代理店『ウィザーズアライアンス』社のやり手営業マンにしておれ(若芽ちゃん)および『のわめでぃあ』の担当者にして、ほかでもないおれの親愛なる視聴者さんの一人(しかもかなり古参)である大田さんからの要請を受け……おれは先方の事務所へ、打ち合わせのためお邪魔していた。

 

 本日の同行者は、例によって姿を隠しながらフロアじゅうを偵察飛行しているラニちゃんと……なんとびっくり、初芽お姉ちゃんだ。

 

 

 ……そう、『のわめでぃあ』マネージャーの烏森(かすもり)(あきら)さんではなく。

 木乃(きの)初芽(はつめ)ちゃんなのである。

 

 

 

「それでですね、なんと申しますか…………そちらの、『初芽ちゃん』のような……つまりは例の次世代演出プログラムなのですが……」

 

「ははーん……業界への普及、ってとこですか? わたしたちと『にじキャラ』さん以外への情報公開について」

 

「…………えぇ、まぁ……そうですね」

 

「ふっふっふ……安心してください。()()()は順調ですよ」

 

「……と、申しますと? あっ、いえ……すみません、守秘義務等色々あるでしょうし」

 

「大丈夫ですよ、わたしが一番偉いので」

 

「………………はい?」

 

 

 

 呼び出された主な目的である、われわれ『のわめでぃあ』がお力添えさせて頂いている案件の打ち合わせ(およびおれと大田さんとの仲の良さアピール)は順調に進み……現在はフリードリンクを頂きながらの小休憩中である。

 

 傍らの初芽ちゃん(実物)を見るのは大田さんも初めてだろうけど、ガワはこんなんでも中身はマネージャーの烏森(かすもり)さんだ。

 話し始めれば慣れたもので、以前のように問題なくコミュニケーションと商談とを進められるようになっていった。

 

 

 そんな中、『そういえば』といった感じで切り出された、次世代演出……あぁもういいか。実体化プログラムのお話。

 これまでは我々『のわめでぃあ』および『にじキャラ』さんたちの専売特許として、界隈で反則(チート)的なポテンシャルの高さと無双っぷりを見せつけてきたわけだけど……幾つかの理由に基づき、じつは近いうちにノウハウを一般公開しようと考えているのだ。

 

 その公開の形式こそ……まぁ簡単にいうと、仮想配信者(ユアキャス)専用の機材レンタル会社。

 そしてなにを隠そうこのおれ(わかめちゃん)こそが、そこの代表取締役社長(ただし名ばかり)というわけなのだ。

 

 

 

 

「大田さんなら言っちゃっても良いと思うんで言っちゃいますけど、例のアレ……っていうか初芽ちゃんのコレって、専用の機材が必要なんですよね」

 

「…………何度か耳にした『デバイス』とやらでしょうか?」

 

「そうです。早い話が変身アイテムでして。そしてつまりはこの『デバイス』さえ手元にあれば、所属関係なく『次世代演出プログラム』を行使することは可能なわけですね。もちろん個人勢であっても」

 

「なるほど……その『デバイス』を『貸し出し』という形で提供……貸与することで、多くの仮想配信者(ユアキャス)が『実体化』を披露することが出来る……と?」

 

「そういうことですね。……じつはこのたび、本格的に()()()()機材を専門的に製造できる体制が整いそうでして。どうせなら会社いっこ立ち上げちゃって、製造部門と営業部門でそれぞれ動かしちゃって……仮想配信者(ユアキャス)のお手伝いしちゃおっかなって」

 

 

 

 ここでいう『体制』とは……ずばり先日神々見(かがみ)さんへお伺いしたときにヨミさまがお約束してくれた『そのテのことに精通した人員』の合流によるものだ。

 彼らは我々(というかラニちゃん)が製作した魔法道具の複製品を造ることと、新しい魔法道具の開発やら試作やらが主な業務となるわけだが……せっかく神秘(魔法)に理解がある人員が得られるのなら、もっと規模を拡大して手広くやってしまえば良いではないか。……というのが、某神様からの助言である。

 なおこの助言(ちょっかい)を巡って、神様どうしで水面下の縄張りバトルが繰り広げられたとかなんとか。……おれはなにも知らない。

 

 

 ともあれ、確かにおれの主目的である『負の感情を少しでも減らす』『来週を楽しみに日々を過ごさせる』『この世界・この国を元気づける』等々を果たすためには、協力者は一人でも多いほうがいい。

 『にじキャラ』演者(タレント)の皆さんが『実体化』したときのような盛り上がりが続くのならば、それはおれたちにとっても都合が良いのだ。

 

 というわけで現在、主力業務として案を練っているのは、ずばり改良型変身デバイス(と蓄魔筒(バッテリー))のレンタル業務だ。

 顧客をリスト化して管理し、【書込(インストール)】の手筈から取扱い方法に至るまでのレクチャーを行い、一回いくらかで貸し出しを行う。

 東京のどこか、それなりに利便性の高い場所に窓口を構える予定なので、お客様である配信者(キャスター)もしくは関係者の方にはその都度取りに来てもらう形にはなるだろうけど……優良顧客には長期定額プランとかお届けサービスとかも視野に入れて考えているところだ。

 

 

 ちなみに、この改良型。【変身】行使の際のデータは口述式のパスワードで管理しており、【書込】を行った本人でしか読み込めないようにアップデートされている。

 起動呪文(パスワード)を正しく発声しないと【変身】できないので、変身用のセリフの管理は各自できっちり行っていただきたいものだ。

 

 またラニちゃんの【門】および【蔵】魔法の発動触媒も組み込んでいるので、その気になればいつでも手元へ召喚することができてしまうのだという。

 もしも利用規約に反するお客様が居られたとしても、デバイス自体は速やかに回収することができるので問題ない。その後は然るべき機関に通報、即座に社会的制裁を加えてもらう予定だ。

 モタマさまには警視庁にお勤めの引退神使の方を紹介して頂いたので、ちゃんと手筈は整っている。コネってすばらしい。

 

 

 

「…………というわけで。わたし社長になるんですよ。ふふん」

 

「ちっぽけな零細ですし、経営のほとんどは神々見(かがみ)さんにお任せしちゃってるんで……そこまでドヤれないと思うんすけどね」

 

「うるさいなぁ! わたしに逆らう気ですか!? 社長ですよわたしは! 局長にして社長ですよ!!」

 

「ハイハイそうですね。早く社名決めましょうね。従業員さん困っちゃうんで」

 

「きーーっ!!」

 

 

 

 ともあれ、ここにきてこちらの大田さんとのコネがまた活きてくるわけだ。

 こちらの『ウィザーズアライアンス』社、当たり前だが主な取引先は日本全国の配信者(キャスター)さんたちであり、その中には一定数の個人勢仮想配信者(アンリアルキャスター)も含まれている。

 なので……そんな大田さん(およびその同僚の方々)が担当する仮想配信者(ユアキャス)の方に、『こんな事業やってる会社ありますよ』『よかったら話聞いてみませんか』とかってな感じで、おれたちのデバイスレンタルサービスを宣伝してもらう。

 

 場合によっては、何らかの形でキックバックを検討しても良いかもしれない。

 実体化仮想配信者(アンリアルキャスター)なら新しい案件分野も開拓できるだろうし、大田さんとこと業務提携的な感じでな。

 

 

 配信者(キャスター)さんにとっては、新しい演出プログラムによって可能性を拡げることが出来。

 

 その視聴者さんにとっては、この世界に受肉した推しの新たな活躍を享受することが出来。

 

 大田さんならびに『ウィザーズアライアンス』社としては、広告主に対してよりバリエーション豊かな配信者(キャスター)を提案することが出来。

 

 そしておれたちは…………まぁ、配信者(キャスター)さんたちにとってそんなに大きな負担とならない程度に、おこづかいをいただくことが出来る。

 

 

 ……まぁ、最後のやつはべつに無くてもいいかもしれないが……とにかくこれならば、誰にとっても嬉しい結果になると思うんですよ。

 なによりも、おれが見てみたい。現実の世界に活躍の幅を拡げた仮想配信者(ユアキャス)の、その()()()()を……時間の許す限り見てみたい。そしてあわよくばパクげっふんげふん。

 

 

 

「……では、件の『会社』が事業開始した暁には……ご協力をお約束させて頂きます」

 

「……!! ありがとうございます!!」

 

「いえいえ。……先程の事業協力に関しても、恐らくはお力添え出来るかと思います。私も話を()に回してみますので、仔細をまたお送り頂いても?」

 

「まじですか! 任せてくださいありがとうございますがんばります!! 都心の一等地に事務所構えてやりますよ!!」

 

「ちゃんと予算内に納めなさいよ。超過分はわかめちゃんのお小遣いから出させますんで」

 

「そんなあ!?」

 

 

 

 大田さんが力を貸してくれるのは、それはとっても心強いし……恐らくはこのフロアでおれたちのことを注視している方々も、何割かは力になってくれることだろう。

 一人でも多くの人に、少しでもたくさんの『たのしい』をお届けするため……おれにできることなら、何にでも挑戦していかないとな!

 

 

 

 

 

 

 







(いま何でもって言ったよね?)

(んわビックリしたぁ!? なあにラニ、何かいい考えでもあるの?)

(それがね、あるんだよこれが。とっておきのいい作戦が)

(えっマジで!? とっておき!? オッケー詳しい話聞かせてくれたまえよラニちゃん!)

(ふっふっふ、いいですとも! 視聴者さんから歓喜の雄叫び間違いなしよ! それこそずばり…………)





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435【納涼計画】決戦用装備!!

 

 

 そんな気はしていた。どうせそんなことだろうと思った。やっぱラニちゃんはラニちゃんだった。

 

 しかしながら困ったことに、そういう需要というかご意見の数が、最近ちょっと無視できなさそうな程にまで増えてきてしまっているようで。……まぁ、渓流プール動画のせいだろうな。

 

 

 なんでもラニいわく『このままでは絶望の感情を抱いてしまう視聴者さんが出てきちゃうかもよ!?』とのことでして……なるほど、おれが撒いた種で悲しい気持ちになっちゃう視聴者さんがいるというのなら、このおれが責任とって鎮めてあげるべきなのだろう。

 ラニがそう言ってるんだから……【苗】の発芽メカニズムについておれより詳しいラニがそう声高に主張してるんだから、きっとそうなのだろう。そうに決まってる。もし適当なこと言ってるようなら下半身をメンソ◯ータムの壺に植えるだけだ。

 

 

 

 ……と、いうわけで。

 実際のとこ数字が狙えるのは間違い無いことなので、おれも覚悟を決めました。ようは健全に水着を披露すればいいわけだ。

 

 さしあたってはですね、現在わたくしたちはですね、総合スポーツ用品店『スポーツDEFO浪越南店』さんへとお邪魔しております。

 みんなでわいわいお買い物、たのしいね。若干三名ほど(見えない一名含む)は広々として品揃えも圧倒的な店内におくちあんぐりしてるけどね。かわいいね。

 

 

 

「それじゃ、オレはコンロとか見繕って来るんで……すんませんがギャルズのコーデお願いしますね、ミルさん」

 

「お任せ下さい。FA(お代)分はキチンと働かせて頂きますとも!」

 

「やー心強いっす。……現代の女子用衣料に関する常識って、ウチら致命的に欠落してるんすよね…………」

 

「でしょうね。若芽さんとか放っといたらスク水着てドヤってそうですし」

 

「ひどくない!?!!?」

 

 

 

 本日の最終目的は、まぁ水着を調達することなんだけど……どっちかっていうと、水着というよりは『水辺で遊ぶための衣類』と表現したほうが正しいかもしれない。

 というのも……いくら渓流プールで動画を撮るといったところで、そんな徹頭徹尾水着姿のおれたちの姿を映し続けるのは……なんか、その、ちょっと()()()()()()雰囲気になってしまいかねないからだ。

 

 なので動画を撮るにあたって、バックボーンとしてはあくまで『渓流あそび』を軸に据えていくつもりだ。家族連れでの水遊びというわけだな。じつに健全である。

 濡れても大丈夫な水着の上にラッシュガードやパーカーを着込み、いやらしく映らない程度に露出を下げた状態で水遊びや川遊びを楽しんだり、合間にはバーベキューとかファイアワークなんかを楽しんでみたり……そしてオマケ程度にパーカーを脱ぎ、水着での遊泳を披露してみたり。

 これくらいであれば、まだ健全だと言い張ることも出来るだろう。……いかがわしいイメージビデオにならずに済むだろう。

 

 

 なのでおれたち『ぎゃるず』の目的は、いかがわしくならないような水着、およびその上に着る水遊びウェアの調達だ。

 おれと霧衣(きりえ)ちゃんと(なつめ)ちゃんと朽羅(くちら)ちゃん……当然みんながみんな水着なんて持って無いので、初めての水着選びとなるわけで。

 

 そんな大事な場面で助言を求められそうな人が居ないとなると、たぶんとっても大変なことになると考えられるので……保険として我らが『のわめでぃあ』特別顧問であり、アレが生えても全く揺るがないブッチギリの女子力を誇る、元女性の実在男の娘仮想配信者(アンリアルキャスター)ミルク・イシェルさんに、お忙しい中ご協力いただいた次第でございます。わーぱちぱち。

 

 

 

「水着はぶっちゃけ皆さんの好みで選んでいいと思うんですけど、その上に着るものですね。自然の中で活動するってことを踏まえてちゃんと肌をガードしつつ、それでいて女の子らしい可愛らしさをアピールできて、それでいて脱ぎやすく直ぐに水遊び出来るような…………んんーー、このへんは道振(ちふり)さんのほうが詳しいかもなぁ」

 

「あ、あの……そこまで気合入れていただかなくても」

 

「そんな寒い時期でもないですし……やっぱりここはトップスだけ羽織るものプラスして、あえて脚は出しちゃってサンダルだけっていう作戦もアリなのでは? サラッとした肌触りの化繊アウターなら長袖でもそんなに暑くないでしょうし、せっかく皆さんの柔肌が堪能できるチャンスですもんね。アウターの丈を少し長めで……そうですね、オーバーサイズ気味にすればVラインも隠せるし、もしチラリしちゃっても水着なので致命打にはならないし。そうすればミニ丈と萌え袖でカワイイポイントもバッチリで」

 

「えっと、あの……ミルさん?」

 

「発育がいい子がやるとちょっと嫌味になっちゃいそうなコーデでも若芽さんたちなら皆小ちゃくて可愛らしいですし問題なさそうですね。上半身は重装備でダボッとしたボリュームを見せながら下半身は水着のみで生足をバッチリ見せてあげて上下のギャップとラフさがまたアウターの内側への期待も高めてくれそうですし。食事や休憩のときはアウター着込んでもらいながらたぶんあの子たちのことなので元気いっぱいはしゃぎ回ってくれちゃうでしょうし裾とか捲れ上がっちゃって下着に見える水着がチラチラのぞいてロリのおみあしが」

 

「ミルさん!? ちょっ……ミルさん!!?」

 

「あぁっ、すみません……つい欲望が」

 

「よくぼう!!?」

 

「あっ、いえ。気にしないで下さい」

 

「うん!?!!??」

 

 

 

 一部ほんのすこし怪しいところもあったけど……元・女性ならではの着眼点から、おれたち四人用のフルジップパーカー(ドライタッチ・UVカット)を提案してくれた。

 ようやく落ち着いてきた三人がそれぞれ好きな色のパーカーを選び、おれもかっこいいブルーを選択。

 軽く身体に当てる分にはサイズ感も大丈夫そうだったけど……やっぱり試着したほうが間違いないとのことなので、好みのカラーとサイズを手に取り『ぞろぞろ』と試着ブースへと移動していく。

 

 しかし……試着。そう、試着な。

 現代衣料を身に纏うおれと(なつめ)ちゃんと朽羅(くちら)ちゃん(※体型がほぼ同じ(なつめ)ちゃん(不満げ)から借りた)のはいいとして……問題は、例によってバッチリ和装でキメている(かわいい)霧衣(きりえ)ちゃんだ。

 たっぷりとした布地を蓄えている袖がある以上、パーカーに袖を通して試着することは出来ない。つまりは一旦お召し物を脱いでいただく必要があるわけだが……

 

 

「ぬ、ぬ、ぬっ、ぬっ……脱ぐのでございますか!? お、おう、おっ、おうちの! おうちのお外にございますよ!?」

 

「エッ、あっ、いえ、あの……べつに全部脱いでいただく必要は無くてですね、こちらのパーカーを試着するにあたって下着姿になっていただきまして」

 

「しっ、したぎ……!? わ、わ、わ、わかめさまっ、わたくし、したぎ、と、申されましても、あの、あのっ」

 

 

 おーっとぉそう来ましたかぁ! ハァーンなるほどね!!

 霧衣(きりえ)ちゃんはお風呂が絡むと羞恥心が軽率にブッ飛ぶ子だけど、普通に考えたらオウチ以外の場所で下着姿になるって相当な度胸を必要とすることなんだろうな。

 

 ましてや……彼女が常日頃から身に纏っているのは、きっちりと着付けられた和服である。そう簡単に脱いだり着たり出来るものではなさそうだし……って、そういえば!

 

 

 

「待って霧衣(きりえ)ちゃんまさかだけど……もしかして下着つけてないの!?」

 

((ぶふーーーーっ))

 

「えっと、えぇっと…………ぱ、『ぱんつ』()、着けて……ございまする」

 

「…………あの、ブラ……あいや、えっと、その……お胸を支える下着のほうは?」

 

「………………襦袢、が……」

 

「オゥ」

 

「待ってください霧衣(きりえ)さん……今度からブラ着けましょうか。和服用のブラも商品としてはあるハズなので……その辺は私の方からういちゃんに聞いときますんで…………胸は女の子にとって大切なとこなので、ちゃんと包んであげなきゃダメです……」

 

「えっ、あっ…………わ、わかりまして御座いまする……」

 

「若芽さんも、良いですね? 今度ういちゃ…………文郷ういかちゃんに時間取ってもらうので、霧衣ちゃんに和服ブラの着け方、ちゃんとお勉強させてあげてくださいね……」

 

「スマセン先生……ありがとうございます……」

 

 

 

 ……結局、しかたがないので身体に当てて大体の大きさをチェックして、それで確認を済ませることにした。気持ち大きめのサイズを選んでおけば、ピチパツで動きづらいなんてことにもならないだろう。

 そんなに何万円もするような商品でもないので……万が一サイズ感がダメな感じだったら、そのときは初芽ちゃん(モリアキ)に着させるとして、改めてワンサイズ大きめのを買いに来ればいい。

 

 見た目は完璧な褐色エルフ少女だもんな。存分にその身体を堪能(さつえい)させてもらおうではないか。

 

 

 こうして憂いも断てたので、お買い物を続けよう。

 まだまだ買わなきゃいけないものはたくさん……って程でもないか、いくつかあるのだ。あまりモリアキを待たせないように、こっちもテキパキこなしていこうな。

 

 

 



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436【納涼計画】完全装備!!!

 

 

 さてさて。

 上着(アウター)を調達する時点でも、結構な大騒ぎをしてしまったわけだが……肝心なのはここから、むしろこっちが本番と言っても差し支えないだろう。

 

 ずばり……水着。

 とある(ラニ)からの情報によると、なんでも最近われわれ『のわめでぃあ』に関する話題でよく上がるという、非常に注目を浴びている部分なのだとか。

 まぁ、わからなくは無いけど。ほんと好きだな、視聴者諸君よ。

 

 

 

 

「わかめどの、わかめどの。コレで良いのか? 言われた通り身に付けてみたのだが……ぱんつの上からで良かったのであろ?」

 

「ア゛ッ! がわいい!! そうだね、さすがに売り物だからね、下着着けたままじゃなきゃ試着はマズいみたい」

 

「ご、ッ……ご主人どの、ご主人どの! 小生の水着は如何にて御座いましょう! しっ、小生の愛らしさと魅力を、余すところなく誇示できているものと確信しておりまするが……」

 

「ン゛ンッ!! 待って、ふつうに可愛い……本当大人しくしてればめっちゃ可愛いよね朽羅(くちら)ちゃん……ちょっと背伸びした感じのビキニがまた大胆な……」

 

 

 

 いち早く試着を終えて、おれの目の前へ我先にとお披露目しに来てくれた二人。

 ぱんつの上から水着を身に付けているので、やっぱり多少『ごわごわ』しているらしく、しきりに脚をもじもじと擦り合わせているようだが……そんないじらしい所作も相俟って、二人ともハチャメチャに可愛らしい。

 

 

 まだ女性としては未発達ながらもしなやかで整った身体に、水泳スクール用ワンピースタイプの水着を身につけた(なつめ)ちゃん。

 アスリートモデルの水着はVラインのカットがやや鋭めで、ダークブルーの水着の裾からイエローのぱんつが見えちゃってるけども……そこに目を瞑ったとしても、『すらっ』とした小さな身体と『きゅっ』と上がってるおしり、そして澄ましたお顔がとても誇らしげだ。

 

 一方こちらは、その(見た目だけは)愛らしい顔を『羞恥』で朱に染めた朽羅(くちら)ちゃん。(なつめ)ちゃん同様に幼げな身体を包むのは……なんとびっくり布面積少なめのセパレートタイプ、俗にいう『ビキニ』ってやつだ。

 おへそが可愛らしいすべすべのおなかと(くび)れの乏しい腰回りを大胆に露出させた、随所にフリルがあしらわれたイエローストライプの可愛らしい水着。やっぱりちょっと恥ずかしい程度が()()()のだろうか、羞恥の中には紛れもない『興奮』が見え隠れしている。

 

 

 

「ミルさん」

 

「なんでしょう若芽さん」

 

GJ(グッジョブ)です」

 

「恐縮です」

 

 

 

 女性用の水着試着室は、本来なら男子禁制らしい(まぁ当たり前か)のだが……ミルさんは気づいているのかいないのか澄ました顔で入ってきているので、まぁ細かいことは気にしないことにしよう。

 生まれもっての性別は女性だし、なんならおれなんかよりもずーっと女の子してるし……なにより見た目はどう見てもとびきり可愛い白ロリなのだ。美少女なのだ。つまりは何も問題ないのだ。へけ。

 

 

 そんな試着室の一角にて、美幼女二人の水着姿(試着)を堪能しているおれとミルさん。

 これら水着はミルさんが小さなレディ二人の要望を聞いて、それぞれにお薦めしてくれた水着らしく……うん、とっても似合ってますね。かわいいが。さすがミルさんいい仕事してますね、お目が高い。

 

 そうしてこうしてキャッキャしてるうちに、水着美少女で目の保養を行っていたおれたちの背後から、おずおずとカーテンが開かれる音が響き。

 

 

 大トリとして、われらが誇る最終(てぇて)ぇカワイイ兵器が……満を持してご降臨あそばされた。

 

 

 

 

「「おほォーーーー!!」」

 

「わ……っ、わかめさまぁ……!!」

 

 

 

 ミルさんいわく本人のチョイスなのだという、気になる霧衣(きりえ)ちゃんのその水着は……なんとホルターネックタイプの白ビキニ。パレオもスカートもついていない、シンプルでオーソドックスな形状のものだ。

 いつぞや東京ベイエリアのリゾートホテルで披露してくれたときのものに近く、やっぱりとてもよく似合っている。サイズ感なんかもあのときの数値を呼び起こし、試着回数を重ねずともピッタリサイズのものを見繕うことができた。こっそりメモっててよかったすりーさいず。

 

 それにしても……あのときの堂々とした立ち振舞いとは、大きく異なる様子の霧衣ちゃん。やっぱり彼女の中で『おふろ(イコール)安心できるところ』という図式が成立しているのだろう。

 入浴が絡んだあのときが、あくまで例外的対応だったのであり……それ以外ではこのように、それこそ『出先で着衣を脱いで下着姿になる』レベルの羞恥を感じちゃっているようだ。救いを求めるような視線の霧衣(きりえ)ちゃんめっちゃかわいいが。

 

 

「むぅぅぅぅ……小生も魅力的な肢体であると自負しておりまするが、こうしてまざまざと見せつけられてしまいますと……いやはや、これは確かに美しうございまする」

 

「うむ、やはりさすがはあねうえである。……むう、やはり惜しいことをした。我輩もあねうえのような身体つきの者を模して居れば、わかめどのにも存分に堪能して貰えたであろうに」

 

「ちょっと!?!? なにを!?!??」

 

「若芽さん何してるんですか!!? ナニさせてるんですか!?!!?」

 

「誤解です!! そのようなじじつはございません!!!」

 

「わかめ、さまぁ…………」

 

「ああっ!! ありがとうね霧衣(きりえ)ちゃん!! もう着替えちゃって大丈夫だよ!!」

 

 

 

 明らかに『ほっ』とした様子の霧衣(きりえ)ちゃんが着替えブースの中へと消え、そこへ『着付けを手伝おう』と競泳水着姿の美幼女が続き、更に『し、小生も!』と黄色ビキニの美幼女が続いていく。

 幸いなことに三人ともサイズは問題無さそうなので、先程の上着(アウター)と合わせてこれで決めてしまおう。

 

 

「いやぁー……いいもん見せてもらいましたわ」

 

「私もです。なんていうか……その……下品なんですが……フフ…………ぼ」

 

「はいストォーーップ!!!」

 

 

 

 あぶなげな会話が繰り広げられるおれたちの眼前で、霧衣(きりえ)ちゃんは無事に白ビキニを脱ぎ終えたようだ。床に落とされた水着がどう見ても下着にしか見えなくてドキドキしちゃったけども、これはさすがに仕方ないだろう。ぬぎたてってやつじゃん。

 あねうえへのご奉仕に目処がついた美幼女二人組(※ただし一緒にすると(なつめ)ちゃんがおこる)にも、そろそろ着替えるようにとの指示を出す。三人が着替え終わったらそれぞれに水着を持ってきてもらって、みんなでぞろぞろとお会計へ進めばいいわけだな。さすがに美少女のぬぎたて水着とか持たされちゃったらおれ鼻血千リットル吹いて三回転半(ひね)りしながら倒れる自信あるね!!

 

 というわけで、そろそろこちらがわの用事も終了だ。

 この後はとりあえず水着とアウターをお会計して、そのあとはモリアキに合流して、彼が選んでくれてるバーベキュー用具を一緒に吟味すれば……ほんじつのもくてきはすべてたっせいというわけだな!!

 

 

 

「ははは何を言ってるんですか若芽さんやだなあ」

 

「ははははは何がですかわたしは次の予定が迫ってますので急いでるんですが何でしょうかミルさん」

 

「ははははははは冗談はよしこちゃんですよ。もう一人水着選ばなきゃいけない美少女がいるじゃないですかやだなぁ」

 

「は…………はは、はははは…………ちょっとわたしおなかが腹痛で痛くなってきたので」

 

(なつめ)ちゃん確保!!」「にっ!!」

 

「ゥエエエエ嘘でしょ!? ちょっ、(なつめ)ちゃん!? 正気に戻って!! あとちゃんとホットパンツはいて!!」

 

「問題ない。ミルどのにはマグ……日頃より世話になっておるのでな、願いには応えねば」

 

「いまマグロっていった!? いまマグロっていった!! ちくしょう刺身で買収された!! おれのかわいい(なつめ)ちゃんが!! ウオオオオオン!!!」

 

「はいはい他のお客さんに迷惑なっちゃうからね~~観念して水着選びましょうね~~」

 

 

 

 

 ……その後。

 

 それぞれ自分の水着を選び終え、また普段の装いに戻った三人義姉妹によって……おれに似合う水着の品評会が始まったのだが。

 

 

 

 並み居る強豪をはね除け、栄冠を手にしたのは…………特別顧問であるミルさんが熱弁と共に推薦した、小中学校の授業なんかでよく用いられるタイプの水着。

 水中での安全性を高めるために目立ちやすい青紺色と白のラインが入れられ、伸縮性に富んだ化繊の最新紡織技術を余すところなく注ぎ込み、また昨今の情勢を鑑みて機能性にも配慮した逸品。

 

 

 それすなわち、学校指定(スクール)水着と呼称されるもの。

 

 ただし、おれの特異な来歴と心情を鑑みてくれたミルさんが推薦してくれたのは……上下セパレートタイプの新型であり、ボトムのほうはスパッツタイプのもの。シルエットだけで見れば、陸上競技用ユニフォームに見えなくもない。

 つまりは露出度もそれくらいで済むので……まぁ、うん。……それくらいなら、まぁ。

 

 

 女の子用の水着と聞いて、ほんとう一時はどうなることかと、たいへんなことになってしまうのではないかと思ったが…………思ってたよりもひどい水着じゃなくて、安心した。

 

 やっぱりミルさんはよき理解者だな。ありがたい。すきだが。

 

 

 

 

 

 

 しかしながら……たとえ下がスパッツタイプだったとしても、トップスと共に身体のラインがバッチリしっかり浮き出てしまうものなのだという、至極あたりまえなことをおれがやっと理解したのは……それから数日後、水遊び当日のことだった。

 

 やっぱ試着はたいせつだね。

 

 



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437【納涼作戦】夏のハッピーセット

 

 

「…………あっ、お館様ぁー! おやかたさまぁー! ヤッホーご機嫌麗しう! ようこそご足労下さいました!」

 

「どもども。お疲れ様ですカショウさん。天繰(てぐり)さんはプールのほうですか?」

 

「そうですそうです! なんでも水温をちょうどいい感じに温めてるそうで、お館様方にお気を遣わせぬようにようさりげなーくヒト手間加えておきたいとのことで」

 

迦葉(カショウ)」「阿呆姉ぇ」

 

「あ!!!」

 

 

 

 

 おれたちが例の地点へと近付くと、(からす)天狗三人娘のにぎやか担当カショウさんがいち早く駆けつけてくれた。

 どうやら天繰(てぐり)さんも来てくれてるらしく、つまりは『おにわ部』勢揃いというわけだな。

 

 本人に悪気は無かったとはいえ……ネタバレしてしまった彼女は、もしかすると後で頭領にお仕置きされるのかもしれない。

 三人娘のまじめ担当ダイユウさんと、同しずか担当クボテさんに白い目で見られながらも、しかし本人は『テヘペロ』と余裕の態度を崩さない。

 ……なかなか大物だわ。かわいいが。

 

 

 

 まぁ、気を取り直して。

 おれたち『のわめでぃあ』一同が本日足を運んだのは、この度おにわの一角に造成された『渓流遊びエリア』だ。

 ほかでもない『おにわ部』の方々によって、およそ一ヶ月の歳月と少なくない予算を費やし……安全かつ多用途に遊べるエリアとして、この度めでたく完成と相成ったのだ。すごいぞ天狗パワー。

 

 

 元はそれほど大きな流れでもなかった沢のすぐ側に、深さ五十センチ程を広く浅く掘り下げ、外周は岩で囲いながらも底には足触りのよい砂を敷き詰め、そして沢の水を引き込み池状に仕上げた……完全プライベートのアウトドア渓流プール。

 

 そのすぐ近くに建てられたのは……着替えや休憩や仮眠などなど多用途に利用できるであろう、三坪程のこぢんまりとした平屋建ての小屋。

 小屋の出入り口は急な雨に備えてか、大屋根の掛かった作業スペースとなっている。足下こそ土がむき出しの土間だが、コンロやテーブルを置いてバーベキューなんかもできるつくりだな。

 

 更に頭上を仰ぎ見ると……いったいどうやって建てたのだろうか、地上から三メートル程は離れた高さに、しかしながらがっしりとした造りの監視小屋。烏天狗三人娘の詰所である。

 沢辺に根を張る三本の針葉樹をそのまま基礎(けん)柱とした、あそびごころ溢れるツリーハウスだ。

 

 

 

 

「「「「おぉーーーー……」」」」

 

「なんというか……やっぱスゴいですね、天繰(てぐり)さん」

 

「……恐悦至極に御座います」

 

「めっちゃテンション上がるっすね! 男心わかっていすぎっすよ!」

 

「だよな!! オトコゴコロにビンビン来るよな!! オトコゴコロに!!」

 

「「「「………………?」」」」

 

「な、なによぉ!!!」

 

 

 

 憤慨するおれを置いといて……天繰(てぐり)さんは休憩小屋の錠前をはずして扉を開き、荷物を提げたぎゃるずを中へと案内してくれる。

 おれは建築中に何度か視察(という名目で見学(邪魔し))に来ていたことがあったけど、霧衣(きりえ)ちゃんたちは今回が初めてだ。

 

 実質プロの万能職人である天繰(てぐり)さんの手によって仕上げられた室内は、広いとは言いがたいが天井の解放感があるためか窮屈さは感じず、また隙間や歪みも見られない。

 六畳ほどの室内の床は、よごれやカビに強いクッションフロア。なんと床断熱もバッチリとのことなので、地面からの冷気も(ある程度は)シャットアウトできるらしい。

 壁際に作り付けのベンチがぐるっと巡らされており、端材を寄せ集めて作ったというテーブルがちょうどいい位置に鎮座している。このままお弁当を食べることも出来るだろう。

 

 

 

「テグリさんスマセン、このハシゴってもしかして……」

 

「……えぇ、はい。……御館様がたが監視小屋へと昇る際には、彼方(あちら)の小窓から屋根上へと出ることが出来ますので」

 

「「おぉーーーーーー!!」」

 

 

 片流れの大きな屋根の小屋裏形状を活かし、入り口がわの壁の上のほうに設けられた小さな扉。そこへは入り口すぐ横のハシゴからアクセスすることが出来るらしく、さっきの玄関前作業スペースの屋根の上へと出ることができるらしい。

 更にそこからツリーハウスの監視小屋(=三人娘の住処)へと出入りすることができるらしいのだが……住人である三人娘(ダイユウさんたち)は直接屋根の上まで跳んでこれるので、わざわざハシゴを使うことはない。

 

 つまり……わざわざおれたちが遊びに来るときのために、このルートを作っておいてくれたということだ。

 なんだそれ。うれしい。すきだが。

 

 

 天繰(てぐり)さんと、ダイユウさんと、カショウさんと、クボテさん……『おにわ部』の皆さんのおかげで、ぶっちゃけ期待をはるかに上回るクオリティの建物が完成していた。

 契約に従いこのお礼は近々若干の心付け(ブースト)と共にお支払するとして……今はとりあえず、もうひとつの作品も拝見させていただこうではないか!

 

 

 小屋の撮影はえーっとあーうーん……まぁまた後日でもいいよね!

 とりあえずは水着だ水着。霧衣(きりえ)ちゃんたちの喜びはしゃぐ姿を、一刻も早くカメラに納めなきゃならないのだ!

 

 

 

「…………というわけで、各々水着に着替えようねー」

 

「アッ、じゃあオレ外で準備してるんで、また後で」

 

「おっけー! すぐいくわ!」

 

 

 テーブルの上にみんなそれぞれトートバッグを置き、美少女三人がおもむろに着衣を脱ぎ始める。

 おれはそんな光景から全力で顔を背けながら、一人壁を向いて壮絶な早さで着衣をぽいぽいと脱ぎ捨ててパーカーを羽織り、脱いだものを籠に丸めてドーンしていそいそと小屋の出口扉へ手をかける。

 というのも……あのままあの小屋の中にいたら、素っ裸の美少女たちに捕まってそれはそれはたいへんなことになってしまう危険が危なかったためだ。

 

 こんなこともあろうかと、おれは普段着のローブの下にあらかじめ水着を着ておいたのだ。

 セパレート式の最新型とはいえ所詮はスクール水着であるからして、世の女学生たちの創意工夫をおれも利用させてもらったというわけだな。まぁおれはおとこなわけだけど。

 

 

 こういった賢い作戦の甲斐あって、おれは一足早く女子更衣室から脱出することに成功する。

 出てすぐのところは地面が踏み固められた土間のようになっており、向かって正面に耐力壁とそこに掛かる屋根が頭上を渡っている。

 

 そんな半屋外のスペースでは、先程一足早く小屋から外へ出ていったモリアキが身支度を整えながら待っているはずなのだが……あれれおかしいな。

 

 

 

 なんか。

 

 褐色エルフの。

 

 美少女が。

 

 すっぱだかで。

 

 

 

 ……ぜんぶ見えちゃってるんだけど。

 

 

 

 

「いや…………だって先輩早すぎっすもん。オレだって今【変身(キャスト)】使って初期服脱いだばっかっすもん」

 

「『もん』じゃねえんだよ!! なんですっぱだかなの!! えっち!! 初芽おねえちゃんのえっち!!」

 

「しょーがないじゃないっすか。先輩のセパレートとは違ってオレの水着は()()しなきゃ着れませんし。テルテル坊主のタオルが無い以上は腹括るしか無いかなって」

 

「でも!! おっぱいが!! なんでおっぱいが!!」

 

「いやホラ、そこは……男の習性っていうか。男って着替えるときまず上脱ぐじゃないっすか?」

 

「なるほどぉ」

 

 

 そんな問答を繰り広げながらも、神絵師モリアキ改め初芽おねえちゃんはテキパキと水着(学校指定・Uバックワンピースタイプ)に両脚を通して引き上げていき、その形のよい双つのふくらみを『ぎゅむぎゅむ』と押し込んで形を整えていった。……おぉ、見事な手際。

 

 こうして姿を表した『緑髪褐色肌神絵師おじさん美少女スク水おねえちゃんエルフ』という……なんというか『これでもか!』と盛りに盛られた属性を持つ彼女は。

 その褐色肌と紺色布地の組み合わせが美しい魅惑のぼでぃを……おれへ向けてイタズラっぽい笑みを浮かべると、『さっ』とパーカーに隠してしまった。

 

 

「あっ…………」

 

「んフフフフ。……後の()()()()()っすよ、先輩」

 

「アッ!!!?」

 

 

 

 ははーん!

 さては悪女だなオメー!!

 

 

 







(※おじさんです)




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438【納涼作戦】れっつごー川遊び

 

 

 まぁ、当たり前っちゃ当たり前なのだが……いかに『渓流プール』などと言い張ったところで、広さは小学校や幼稚園のプールなんかとは比べ物にならない。

 ……もちろん、狭いほうでだ。

 

 

 きっちりとした方形では無いが、広さはざっくり五かける四メートルといったところだろうか。そのため『泳ぐ』というよりかは、完全に『水遊び』のための場といった感じだが、それでも他人の目を気にせずに水着でハシャげる場であることに変わりはない。

 取水口や護岸は岩積みなのでゴツゴツしているものの、川辺の岩は角が取れたものが多く、切ったりする危険は無さそうだ。

 目地にもきちんとモルタルが詰められているし、職人の確かな仕事っぷりが見てとれる。

 

 

 

 

「あ、あねうえ、あねうえ、手……手を、手をつ、繋いで」

 

「ご安心くださいませ、(なつめ)さま。霧衣(きりえ)めは此処に、側に居りまする」

 

「ご主人どのぉーー!! ごじゅじんどのぉーー!! みずがつべたいでございましゅぅーー!! あーーーん!!」

 

「だーーから言ったでしょ飛び込んじゃダメだって!! あーもー……ほら、おいで。温めてあげるから……」

 

「アーー(てぇて)ェ光景っすわーーーー」

 

 

 そんな職人たちの作品を心ゆくまで堪能すべく、おれたちは早速バーカーを脱ぎ捨て、順次プールへと飛び込んでいった。

 なおここでいう『飛び込んで』とは比喩のつもりだったんだけど、若干(いち)うさちゃんがガチで飛び込んじゃってギャン泣きしちゃってる件については、おれはちゃんと『準備体操してゆっくり入ろうね』と言ってあったので悪くないです。

 

 撮影担当の初芽おねえちゃんにカメラ(ゴップロ)を預け、飛び込んだせいで一気に身体が冷えてしまい割とガチのトーンでギャン泣きしてる(※自業自得)朽羅(くちら)ちゃんを水から引っ張り出し……とりあえず【保温】魔法を炊きながら『ぎゅっ』て抱っこして落ち着くのを待つ。

 

 見た目だけはとても可愛らしい美幼女(ギャン泣き)と素肌を密着させてる件に関しては、おれの中のおとこらしさが戸惑い気味なのがよーくわかるが……自業自得とはいえ、美幼女の非常事態だからね。仕方がないね。

 いつもはことあるごとに対抗意識を向けてくる(なつめ)ちゃん(※ただしこれも元はといえば朽羅(くちら)ちゃんの自業自得)も、現在はだいすきな『あねうえ』にしがみついて水に慣れようとせいいっぱいなので……朽羅(くちら)ちゃんは珍しくおれを独り占めできるわけだな。ふふん。

 

 

(いやいやいや……最高かよ)

 

(でたなえっち妖精。……ラニはやっぱ姿隠す作戦なの?)

 

(まぁね。視聴者さんたちのことだから十中八九ボクの水着も求めるだろうし……さすがにそれは、これ以上の薄着はちょっと難しいだろうし)

 

(そだねぇ……ラニが撮影係ってしたほうが説得力あるか)

 

(そゆこと。程よいとこでモリアキ氏……いや、初芽ちゃんと代わるよ)

 

(ありがとねラニ。……ガン見くらいまでなら許すよ)

 

(おほォーーーー!!)

 

 

 きりもみ回転しながら初芽ちゃん(モリアキ)のほうへ飛んでったラニちゃん……まぁたぶん言い方から察するに、撮影を代わってくれようとしてるのだろう。

 

 そうだな……おれたちがそれぞれ幼子をあやしてる場面は、せいぜい『チラ見せ』程度で済ませておきたい。おれたち四人が撮せないのなら、初芽ちゃんの艶かしい身体を撮影して尺を稼ぐしかないわけだ。

 まぁ今回は生配信じゃないので、実際に撮しちゃマズそうなところは編集でどれだけでも摘まむことが出来るので……撮れるうちに撮れる映像を収穫しておきたいもんな。

 

 

 監督兼カメラマン(かめらがーる?)と化したラニちゃんの指示のもと、ついにその肢体を露にした初芽ちゃんがプールへと……しっかりと準備運動をしてから、脚を踏み入れていく。

 おれもモリアキもおじさんだからね。急に身体を冷やしたらそれこそ『ヴッ!!』てなって緊急搬送されてしまう。ただでさえ()()なりそうな光景にあふれてるのだから。

 

 そうやって随所におじさんらしい動きを垣間見せながら、神絵師緑髪褐色肌エルフ美少女スク水おじさんはプールを堪能していく。

 いろいろと非現実(ファンタジー)的な要素を多分に含んでいるとはいえ、そもそもの根底にあるのは『夏場の水遊び』だ。健全な少年としての魂が呼び起こされたおれたちにとって、魅力的でないはずが無いのだ。

 

 

 

「気持ちィーー! チョー気持ちイィーー! いやーサイコーっすね!! この歳になって水遊びで興奮するとは思わなかったっすよ!!」

 

「いいねいいね初芽ちゃん。おじさんとは思えないよー。いいよーかわいいよー。オッケーちょっと目線こっち……アッいいねーかわいいねー。そのままちょっと身体見せてもらっアッいいねーいいよぉー。アーッいいねー最高だよぉー初芽ちゃんいいよーとてもおじさんとは思えないよー。そのままいくつかポーズ取ってみてもらって……あーっいいねーえっちだねー!」

 

「おい今『えっち』っていったか!?!?」

 

「ヤベェ!! 健全警察だ!!」

 

「ちょっ!? オレは悪くないすよ!! オレはずっと健全第一で生きてるんで!! 危険(凍結)予知トレーニングも健全衛生講習も欠かさず行ってるんで!!」

 

「ならよし。犯人(ホシ)はあのえっち妖精だな!?」

 

「そうっす」「そんなあ!!?」

 

 

 

 そんなこんなで大小の騒動こそありながらも、賑やかにプールを堪能させていただいているおれたちだったが……

 

 そんなおれたちの背後から、突如として思ってもみなかった襲撃者が姿を現したのだった。

 

 

 

 

「…………申し訳御座いませぬ、御館様。……水の加温が不充分であったらしく、朽羅(クチラ)嬢に御迷惑を」

 

「ま、全くで御座いますとも!! なんと、なんと恐ろしい所業でございましょうや! 乙女の柔肌を晒し斯様に無防備となった愛らしい小生に、この上いったいどんな辱しめを与える心算に御座いまするか!!?」

 

「うぜぇ。犯すぞこのガキ」

 

「ぴ」

 

「まぁまぁ求菩提(クボテ)、こんなんでも()()()やんごとなき御方だし」

 

「左様、()()()御館様の奥方であるが故」

 

「…………わかってる。()()()

 

「ふ、ふぇ……」

 

 

 

 われらが頼れる職人にして『おにわ部』総司令の天繰(てぐり)さんと、その可愛らしい舎弟の烏天狗三人娘。

 まぁ、このプールと休憩小屋を手掛けたご本人だもんな、おれとしても異存はない。そもそも発注のときに『完成の暁には天繰(てぐり)さんたちも一緒に遊びましょう!』と言ってあったし、むしろ望むところだ。

 

 ……望むところ、なのだが。

 

 

 

「とはいえ、やっぱ……不思議な布地に御座いますね、お館様」

 

「……肌に、はりついて…………んっ、不思議な感じ」

 

(しか)し、まるで素裸であるかのように動き易い。……画期的な装束かと」

 

 

 

 身支度を終えた烏天狗三人娘が身に付けているのは……おれや初芽ちゃんと同じような、黒色っぽい学校指定(スクール)水着である。

 しかしながらいったいどこから調達してきたのか、それらは初芽ちゃんが着ているものよりも更に(ふる)いタイプのものであり、腰まわり前部の水抜き穴と前面を縦に走る二本の(プリンセス)縫目(ライン)が特徴のやつでして。

 

 

 えっと、まぁ……つまりは『旧スク』と呼ばれるタイプのやつだな。

 俗称とはいえ『旧』とか言っちゃってるわけだから……つまりは世代交代を済ませた後の、前時代の遺物なわけだよ。

 

 

 メイド服といい、旧スクといい……天繰(てぐり)さんのツテって本当、一体どうなっちゃってるんでしょうかね!!

 

 

 



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439【納涼作戦】波乱の気配

 

 

「……(これ)にて……温度は如何(いかが)に御座いましょう、御館様」

 

「大丈夫だと思うんですけど……どう? 朽羅(くちら)ちゃん」

 

「んゥー…………ま、まぁ、小生も我儘(ワガママ)盛りな稚児(ちご)では御座いませぬゆえ、此の度は此の程度で溜飲を下げて遣っても」

 

「「「(ギロッ)」」」

 

「んヒィッ!? た、た、た、戯れに! ほんの戯れの可愛らしい冗句(じょーく)に御座いまする!! 天狗衆の皆様の御活躍はこの朽羅(クチラ)、しかと心に刻みまして居りまするゆえ!!」

 

「すげーな朽羅(くちら)ちゃんの心。入れ替え自在な上に刻みまくっても大丈夫なタフネスなのかよ」

 

「えへっ、んへっ……えへへぇー…………」

 

 

 

 旧スク姿の烏天狗三人娘と、ウェットスーツのようなぴっちり全身スーツ(と天狗の半面)姿の天繰(てぐり)さん……彼女たちによる『ちょっとカメラには映せない手段』によって、現在プールの水温はあからさまに温められている。

 沢から冷たい水を引き込んでいる取水口、ならびに沢へと水を戻す排水口に木板を落とし、水の流れを止める。これでプールの水温低下に歯止めを掛けられることだろう。

 

 冷たい水にギャン泣きしていた朽羅(くちら)ちゃんと、口には出さなかったがちょっと苦手そうにしていた(なつめ)ちゃんも、これならば大丈夫だと思いたい。

 ちなみに霧衣(きりえ)おねえちゃんはやはりというか、(なつめ)ちゃんのフォローをしながらも満面の笑みでばしゃぱしゃと堪能していた。

 やっぱりわんこは泳ぎが好きなのだろうか。かわいいが。

 

 

 

 というわけで、たぶん仙術とか呪術とか風水術とかそれ系の魔法的なものにより、水を『ぬるま湯』程度まで温めてくれた烏天狗三人娘。

 おれのお願いを叶えてくれた彼女たちは天繰(てぐり)さんの号令が下るや否や……三人がそれぞれ思い思いに、渓流プールとその周りで遊び始めた。

 

 ……うん、びっくりした。烏天狗のお嬢様がた、普通に岩ゴツゴツの沢のほうでパシャパシャしはじめたわ。

 可愛らしくも無駄の無い引き締まった身体を稀少な旧スクに包んだ……魅力的きわまりない姿のままで。

 

 

 

(撮れ高ァーーーー!!!)

 

(うわカメラ飛んできたよ怖)

 

「ほあ!? ……あ、なるほど。シラタニ様の妖術にございますか?」

 

「…………撮ってる? ……たのしい? 手前らなんか……奥方様のような華もないし」

 

「……手前らも『御庭部』の一員に御座いますゆえ。御下命と在らば」

 

「あ、そういうの気にしないで。みんなが遊んでる様子を見せてもらうだけで良いんで! いや本当気楽にしてもらって。ヤラシイこととかしないから!」

 

「…………? よく解らぬが……心得た」

 

「よくわかんないけど……りょーかい。ほらほら求菩提(クボテ)、お姉様が肩揉んであげよう」

 

「……胸触ったら胸()ぐから」

 

「あはは求菩提(クボテ)ってば。お前べつに揉むほど()ア゛オ゛ッ!!?」

 

「しね阿呆姉ぇ」「自業自得だ阿呆」

 

「よっしゃナイス撮れ高」

 

 

 

 作業以外ではなかなか目にすることの出来なかった『おにわ部』の面々をカメラに収め、ご満悦の様子の撮影担当ラニちゃん。

 本人は『ヤラシイことしない』と豪語していたけど……そのカメラがダイユウさんたちのどこを重点的に狙っているのかは、少なくとも現在は本人以外知る(よし)もないわけで。

 

 更に言うと魂の奥底で繋がっているおれには、ラニの感情の一片とはいえ察することが出来てしまうわけで。

 ……うん、見事にピンク色だったわあのスケベ妖精。

 

 

「……まぁ、後でいくらでも編集カットできるから……べつにいいんだけどさ」

 

「ご、ごじゅじんどのぉ! 少々お待ちを! 下穿きが……小生の下穿きがずれてしまいまして御座いまする!!」

 

「撮れ高ァーーーー!!!」

 

「はいブブーー! 健全警察です!! 逮捕!! 不健全は逮捕します!!」

 

「アア!?」

 

「はぁー……平和っすねぇー……」

 

 

 

 グラビア撮影の刑から解放された初芽ちゃん(モリアキ)が、しみじみと呟きを漏らす中。

 『おにわ部』も加えて総勢十名の大所帯となったわれわれ『のわめでぃあ』は、木漏れ日の射す涼しげな水辺にて、しばし健全なひとときを堪能したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 









「…………単刀直入。……あなたは……(すてら)と、つくしを……()()するつもり?」

「おや、珍しいね……『ソフィ』。君から話し掛けて来てくれるとは」

「……はぐらかさない。…………質問に、答えて」



 容赦無く照りつける日射と、それによって熱され周囲に熱を発し続けるアスファルト。
 陽炎さえ生じているのではないかと錯覚されるほど、殺人的な酷暑に苛まれる地表を見下ろす……とある高層タワーマンションの、とある上層部の、とあるフロア。

 几帳面に整理整頓が成された書斎と思しき一室にて……一組の男女が向かい合っていた。


 片や、机とノートパソコンに向かい何やら作業をしていたと思しき、老年に差し掛かろうかという年頃の男。

 もう片や……まだ『少女』と呼ぶのも憚れるほどに幼げな、眠たそうな目付きの――それでいて堂々とした佇まいの――年の頃は十そこらの女の子。



「…………『泉』は……順調に、動いてる。『駒』の受動受肉も……もうすぐ、実現。……そうなれば、ボクたち『使徒』は…………もう、用済み?」

「いやいや、まだまだだよ。『ソフィ』は()(かく)として……『リヴィ』も『アピス』も、極めて強力な()()だが……」

「…………だが?」



 白髪混じりの後頭部を掻きながら、老年の男性『山本五郎』は……いつも通りの柔和な笑みを浮かべながらも、どこか照れくさそうに言葉を紡ぐ。

 自らの発する言葉が冗談じみているということを、他の誰よりも自覚していながら。



「……強力な手札だが…………それ以上に、得難い存在だ。……爺が孫娘に抱く感情とは、恐らく()()()()ものなのだろうな」

「……………ふぅん?」

「……不満かな? ……まぁ、柄にも無いことを言っている自覚はあるのだが」

「…………いいよ、べつに。…………(すてら)とつくしも、働かせてあげて。……二人とも、だいぶ……フラストレーション、たまってる」

「お……おぉ、そうか…………あまり扱使(こきつか)うのは、良くないかと思ったのだが」

「ちがう、逆。…………特に、(すてら)は……()()()()と、思ってるから。……頼られてないって、不安」

「……なるほど。…………ならばこのあたりで、ひとつ()()て……野に放ってみるか」

「…………いいんじゃない? ()()のお披露目、でしょ?」

「はは。目敏いね、『ソフィ』は。……そうだね、ある程度は形になっている筈だ。お手並み拝見と行こうか」

「…………ボクは、移動手伝いと……見学。いい?」

「それと、監視だ。あの子らが()()()()()()ようにね。……宜しく頼むよ」

「…………ふん」



 不機嫌な相を垣間見せる少女が退室し、書斎には老年の男性のみが残される。

 陽が陰り始めた部屋に残された一人……いや、二人。
 困ったような表情の老人『山本五郎』の内側から、『魔王』メイルスの声が響く。


『…………勘付かれたか?』

「……どうかな。鎌を掛けただけという可能性もあるが……」

『あの二人と違い……何を考えているのか解らんな、『ソフィ』は』

「ははは。……彼女には、我々が()()見えていることだろうね」



 茜色に染まる室内に、長く黒く伸びる影。徐々に存在感を増していく()()が自らの様相を暗喩しているようで、山本五郎は独りひっそりと溜息を溢す。

 企てている悪巧みの一幕、悪辣極まりない所業を思い起こし、思考が落ち込みそうにもなるが……しかしそれでも、立ち止まることは出来ない。
 身体を共有する内なる『魔王』が、そんな甘えを許しはしない。


 今さら契約を反故にするなど、許されない。
 既に引き返すことも、その場で足踏みすることも出来ぬまでに、この世界の『常識』は崩れてきているのだ。

 ……そうとも。我が身に求められる立場とは、ただの将棋指しに他ならない。
 死地に送るたかが駒に、いちいち憐憫の感情など抱いていては……大局を見据える指揮官など到底務まりはしない。


 そもそも『駒』に……『道具』に向ける愛情など、不要。
 命令指示を円滑に行うために、反抗心を抱かせぬために、わざわざ『優しい父親』を演じてやっているに過ぎない。




 ……当たり前だ。

 なんといっても、あの子たちは。


 自分同様『この世界から見放された』者を手ずから拾い集め、強い『欲望』に基づく力を与え、欲望を満たすことで魔力を蓄える能力を授けた『三使徒』とは。



 いずれ()()()()が訪れた際、『魔王』の居た世界へと繋ぐ【門】を開くための……ただの魔力供給源に過ぎないのだから。






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440【納涼作戦】寂しがりやの安寧

 

 

 おれの腰にしがみついていた朽羅(くちら)ちゃんも、霧衣ちゃん(あねうえ)の手に掴まりバタ足の練習をしていた(なつめ)ちゃんも、『泳げる』とまではいかずとも徐々に水に慣れてきた……そんな涼しげな昼下がり。

 

 烏天狗三人娘のそれぞれ尻と胸と脚を盗み見していたおれの嗅覚が、突如漂ってきた煙の臭いを機敏に捉えたのだ。

 

 

「あっ! もうそんな時間!? ごめんおれも手伝う」

 

「いえいえ、大丈夫っすよ。もう切ってあるやつなんで、網に乗せて焼くだけですし」

 

「ばっかお前、おれも火遊びしてぇんだよわかれよもーおまえよー」

 

「あっ、はい」

 

 

 

 水着の上からパーカーを羽織った初芽ちゃんと、ぴっちりウェットスーツ姿の天繰(てぐり)さん、引率者二人の手によってコンロがセッティングされていき、お昼ごはんの準備が整えられていく。

 テーブルの上には人数分の取り皿と紙コップ、タレや各種ソフトドリンクのペットボトルが立ち並び……そして片隅にはクーラーボックスから取り出されたばっかりの、カット済みお肉のパックが、山のように。

 

 牛に豚に鶏に、バラにロースにタンにハラミに、果ては腸詰めに至るまで。

 明らかにおれたちが持ってきたものより豪華になっている肉の山に、自然な流れて視線が天繰(てぐり)さんのほうへと向いてしまったが……おれのそんな視線を受けても全く気にした様子もなく、あっけらかんと言ってのけた。

 

 

「……手前の『(カラス)』共もご同席賜れると、そう耳にしましたので」

 

「待って、今買ってきたんですか? 今買ってきたんですか!?」

 

「……えぇ。……麓の、丸木(マルキ)殿の店にて」

 

「買ってきたんですか!? ()()()()()買ってきたんですか!?」

 

「……えぇ、まぁ」

 

「まぁまぁまぁ……オレらみたいに肌出てないですし」

 

「そりゃあ……そうだけど…………まぁいっか。ありがとうございます、天繰(てぐり)さん」

 

「……恐縮に御座います」

 

 

 

 麓の……温泉街のお肉やさんには、近いうちにおわびとお礼とご挨拶にお伺いするとして。

 とりあえずは、ひるのうたげだ。みんな大好きばーべきゅーだ。ボリューム満点になったお肉の山を攻略すべく、炭に火を移さなければならない。

 

 

 

「ほらほら兎のお嬢様、ちゃーんと目ぇ開けないと。岩ゴッツンコしちゃいますよー」

 

「……成長が見られない。白狗のお嬢様は別格として……猫のお嬢様のほうが、有望」

 

「言ってやるな求菩提(クボテ)。朝よりは……多少マシになっている」

 

「ふぐゥゥゥゥゥ……!」

 

 

 朽羅(くちら)ちゃんには烏天狗三人娘が着いていてくれてるみたいなので、おれはしばしこちらに専念しよう。何てったって昼メシの要である。

 

 とりあえずコンロひとつ目は、初芽ちゃんたちのおかげで炭に火が移りつつあるようだ。結構なお手前で。

 断りを入れてこの火種をひとつ拝借して、おれはふたつ目のコンロの火起こしに取りかかる。

 火種の上に炭を乗せて、空気の通り道を考えながら()()()()と盛り上げていく。本来なら煙突状のチャコールスターターとか使うと良いのだが、あいにくとこの場にそんなものは無いし……必要ない。

 

 コンロ部分に限定して、【大気掌握】の魔法を行使。酸素濃度と空気の流れを理想的な形に整えてやれば……ほら、あっという間に炎が上がっていく。

 炭に火が移ったならば、あとは火バサミで炭をならして熾火(おきび)にして、やけどしないように網を乗せて……はい、こっちも準備オッケーです!

 

 

「……そろそろ呼ぶ?」

 

「そっすね。あと焼くだけですし」

 

「おっけー。みんなーごはんだよぉー!」

 

 

 

 

 元気のよい歓声を上げ、ざばざばと水から上がった計六名の水着美少女にドキドキしながらも、おれはその興奮を隠すようにトングをカチカチカチカチ鳴らして平常心を心掛ける。

 そうこうしてるうちに『のわめでぃあ』がわの三人娘はパーカーを羽織ってくれたので、(おみあしはバッチリ見えてるけど)幾らか破壊力は軽減できたので大丈夫そうだ。

 

 ただ烏天狗三人娘は相変わらず、水も滴る旧スク美少女のままである。尻と乳と脚がとてもきけんですな。

 まあ直視しなければ大丈夫だろう。直視したところで勃つモノも無いし大丈夫だろう。気にしたら敗けだ。

 

 

 みんなに取り皿と割り箸を配り、テーブルの上にはラップを剥がしたお肉のトレイが並び、黄金ラベルの焼き肉のタレを紙ボウルに注ぎ……戦闘準備完了だ!

 

 さあ……存分に喰らうがいい、皆の衆よ。

 今こそ戦いのときである!!

 

 

 

 

「あねうえ、にくがまた焼けたぞ」

 

「うふふ。ありがとうございます、棗さま。一緒に頂きましょうか」

 

「んふー。是非もない。いただきます」

 

「はいっ。いただきます」

 

 

 

「兎のお嬢様は、何ていうか……本当にザコ……あっ、えっと…………残念ですねぇ」

 

「……ほんと。口だけ。……出来ないわけじゃ無いと思うんだけど」

 

「もう少し……謙虚さを身に付けた方が、他者への印象もマシになるかと。折角容姿は整って居りますに、立振舞いが()()では……些か勿体無う存じます」

 

「んふゥゥゥゥゥ……ご指摘、有り難く存じまする……」

 

 

 

 霧衣(きりえ)ちゃんと(なつめ)ちゃんはラブラブな感じでおにくをつついてるし、朽羅(くちら)ちゃんは烏天狗ちゃんズになにやら助言を頂きながらもぐもぐしている。

 

 丸木(まるき)精肉店さんが用意してくれたお肉は、サシの入り具合がタダモノではない、一目見て『すごい』とわかる品だった。

 実際、とても美味しいのだろう。霧衣(きりえ)ちゃんはしっぽをぱたぱたさせてるし、(なつめ)ちゃんは耳をぴこぴこさせながら目を細めてるし、朽羅(くちら)ちゃんは泣きながら箸を伸ばしてる。

 ……大丈夫かアレ。大丈夫だよな?

 

 まあ軽く見た限りだが……マイナスの感情は抱いてなさそうだったので、大丈夫だろう。

 あの涙も、単純におにく(とタレ)が泣くほど美味かったというのもあるのだろうが……どうやら『いっぱい構って貰えてる』『自分のことを考えて貰えてる』ことに対する、いわば感謝感激の念のあらわれのようだ。

 神々見(かがみ)の神使の方々からの扱いは、まぁ彼女の自業自得なのだろうけど……ここ(のわめでぃあ)では過度な『構ってちゃん』ムーブをせずに、ありのままの朽羅(くちら)ちゃんとして、のびのび過ごして貰いたいと思う。

 

 

 

大雄(ダイユウ)どの、そなた様のお心遣い誠に感激いたしまして御座いますれば、小生これより謙虚に生きて参りますゆえ! ……つきましてはほんの労いの意を込め、それなる『かるび』を小生の皿に戴ければと」

 

「………………成程。確か此方に……御屋形様より預かり申した『あぼかど』なる果実が」

 

「んん!! 冗談に御座いまする! 可愛らしい冗談に御座いまする! 小生ちゃんと自分でおにくを用立ててご覧にいれますゆえ!」

 

 

 

 まぁ、その『ありのまま』があまりにも目に余るようなら……そのときは()()()()お仕置きしてあげるまでだ。

 

 いたずらっ子の相手を重ねることで鍛えられた、このおれの『おしおき』技術……とくとご照覧あれ。

 今宵のはぶらしは()に餓えておるぞ。

 

 

 

(今なんかゾクッてしたんだけど)

 

(気のせいじゃない?)

 

(そっかぁ)

 

 

 お仕置き仲間が増えるよ!

 やったねラニちゃん!

 

 



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441【納涼計画】更なる撮れ高を

 

 

 みんなで仲良く水着になってプールと沢を堪能して、小屋入り口の大屋根の下でバーベキューを堪能して、食後は休憩小屋の造りつけベンチに『ごろん』と転がってお昼寝をして……そしておれはみんなの無防備な姿をバッチリカメラに収めまして。

 

 そのあとは小屋の裏手の平坦な砂地に狙いを定め、持ち込んだテントをひろげて設営を進めていく。

 ……というのも、せっかくなので今日はこのままキャンプと洒落込もうかと考えたためだ。

 

 

「きゃんぷ……に、御座いますか? 小生これまで寝所の外にて眠ることこそ多々在れど、そこまで心地のよいものではなかったと記憶して御座いまするが……」

 

「ほええ? 朽羅(くちら)ちゃん野営経験あるの?」

 

「野営と申しますか……荒祭(アラマツリ)様に『一晩頭を冷やせ』と沙汰を下されたまでに御座いますれば」

 

「あぁー…………」

 

「…………な、なんでございましょうや? その……『可哀想なもの』を見るような目付きは?」

 

 

 

 霧衣(きりえ)ちゃんと(なつめ)ちゃんはまだお昼寝の真っ最中だが……朽羅(くちら)ちゃんは耳敏くも、裏手でごそごそしているおれたちの様子に『おもしろそうなこと』を嗅ぎとったようだ。有望だな。

 

 何を隠そう(隠しはしないけど)おれたちは現在、ここをキャンプ地とするために活動中なのだ。今回はキャンプ経験の無い朽羅(くちら)ちゃんもいるので、コテージ代わりの休憩小屋が利用できる今回は導入編にもってこいだろう。

 わが『のわめでぃあ』に所属する以上は、全国あちこちへと遠出するスケジュールも充分に考えられる。そしてその際は――もちろんホテルや旅館を堪能することもあるが――そこそこの割合で車中(ハイベース)泊か、もしくはテントを広げて即興キャンプとなることが予測される。

 

 なので……彼女には是非とも、野営の楽しさを味わっていただきたいのだ。

 

 

「とりあえず……実際に夜寝てもらうとこは、また別として。テント立てるから、ちょっと見ててね」

 

「て、てんとたて……? この布の塊が、いったいどういう……」

 

「ほいじゃあモ……初芽ちゃんこっちポール通すぜホーーイ」

 

「ヘーーイこっちもポール通すぜホーーイ」

 

「ヘーーイオッケーィほいじゃあアップするぜぇーヨッコイショ、っとぉ」

 

「ヨーシヨシヨシヨシ……おっけー入ったっす。ヘーィバッチリっすね」

 

「ウェーーイ朽羅(くちら)ちゃん見てるゥー?」

 

「   ?  ??  、 ?」

 

「アッおくちあんぐりだよ、かわいいね」

 

「かわいいね」

 

 

 

 二本のロングポールの張力で立ち上げる、簡単な構造のテントではあるが……しかしそれでも一分そこらで立ち上げられたのだから、おれたちの手際もなかなかのものだろう。

 そしてこうして……ほんのわずかな時間と手間で、布張りとはいえ小屋のようなスペースが姿を表したのだ。きっと色々とびっくりしたあまり、思考処理が停止してしまっているにちがいない。かわいいね。

 

 

「ラニちゃんラニちゃん、寝袋おねがい」

 

「ほいほいよー。テントにふたつ? んで、小屋のなかにみっつ?」

 

「かんぺき。あとで()()()()あげるね」

 

「エッヘヘェー! あっ、あとこれ、ギンギンマット」

 

「そうそうこれこれ。ありがとね」

 

「いやー……設営はかどりまくりっすね」

 

 

 モリアキ(初芽ちゃん)の手際とラニの能力により、驚異のハイペースでテントの設営が進んでいく。

 おれがテント内部にギンギラマットと寝袋とランタンとその他もろもろを運び込んでいる間に、初芽ちゃんはテキパキと(ペグ)を打ち込んでテントをしっかり固定していく。

 

 このへんの砂地部分は長い杭でも打ち込めるように、造成の段階で深さ三十センチくらいまでは大きな石を取り除いてある。

 スッて入っていってガッチリホールドしてくれるんだから、ペグ打ちもけっこう楽しいはずだ。百本だって打てちゃうな。

 

 

 そんなこんなで、おれとモリアキ(初芽ちゃん)の寝床となるテントの設営は、至極あっさりと完了した。

 相変わらずおくちあんぐりしたままの朽羅(くちら)ちゃんが設営の完了したテントの中を興味深げに観察してるのを、おれたちは後方保護者顔でニヨニヨしながら眺めていると……突如後方にただものではない気配を感じとった。

 

 

 

「……御館様。少々宜しいでしょうか」

 

「ほへ? どうしました天繰さん……と、みなさん?」

 

 

 

 掛けられた声に振り向くと……そこには全身ぴっちりウェットスーツ姿の大天狗ガール天繰(てぐり)さんと、その背後には中大小とバラエティ豊かなサイズの実りをそれぞれ旧スクに包んだ、烏天狗の三姉妹。

 見ると彼女たちは、それぞれ一抱えはある発泡スチロールの箱を抱え、あるいは肩に担いで佇んでいる。

 

 

「……勝手かとは思いましたが……お嬢様方に娯楽を供しようと、不肖天繰(テグリ)一計を講じまして」

 

「ほう娯楽。娯楽ですか。ちょっと詳しく聞かせていただけますか?」

 

「……えぇ。……此方、手前の知人より調達致しました……虹鱒(ニジマス)岩魚(イワナ)、そして雨魚(アマゴ)に御座います」

 

「おぉーー!?」

 

 

 聞けば天繰(てぐり)さんの知人(以前姿を真似ていた山賊のようなおじさん)だが、なんでもキャンプ場を経営しているらしく……その場内アクティビティのひとつとして、川魚の掴み取りを提供しているらしい。

 今回おれたちがここで一夜を明かすということで……水遊びに新たな刺激を加えるため、また夕食のメニューにバリエーションを持たせるために、あの渓流プールに放流する用の川魚を調達してきてくれたのだ。

 

 一般的な掴み取り用の生け簀に比べ、水深は確かに深いけれど……取水口と排水口を網で封鎖したこの渓流プールは、川魚を放す生け簀として充分に活用できるだろう。

 晩ごはん用のおにくもまだたくさん残っているけども……せっかくなのでみんなに掴み取りに挑戦してもらって、取れたての塩焼きなんかもまた楽しそうだ。

 偏見かもしれないけど、(なつめ)ちゃんはとても喜んでくれそうな気がする。

 

 

 というわけで、気を利かせてくれた天狗ガールズにゴーサインを出す。

 スチロール箱の蓋が開けられ、川魚が水とともに生け簀もといプールへと飛び込んでいく。

 

 

 これで仕込みは万全、あとはあの子たちが起きてくるのを待つだけだ。

 掴み取りは水位が上がれば上がるほど、その難易度も跳ね上がっていくのだろうけど……神使であるあの子たちは元々身体能力のポテンシャルが高いので、これくらいがいいハンデになるだろう。

 普通の掴み取りだと……たぶん、無双しちゃうと思うんだよな。

 

 

「んふふ。……ほら朽羅(くちら)ちゃん、みなさんにお礼言って。お魚持ってきてくれたんだよ」

 

「んっ、あっ…………あ……ありがとう、に御座いまする」

 

「「「いえいえ」」」

 

 

 照れたように顔を赤らめ、うつむいてしまった朽羅(くちら)ちゃん。

 こうしてしおらしくしていてくれれば、見た目もあって愛らしい子なんだけどなぁ。

 

 

 ……というわけで。

 われら『のわめでぃあ』渓流キャンプのつどいは、もうちょっとだけ続くんだよ。

 

 

 



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442【納涼作戦】躍動する身体

 

 

 お昼寝から目覚めた霧衣(きりえ)ちゃんと(なつめ)ちゃん、そしてちょっとだけ素直になった朽羅(くちら)ちゃんは……見てるこっちが『ほっこり』する程に、川魚の掴み取りを楽しんでくれたようだ。

 

 

 普段はヒトとして生活している彼女たちだが……やはりその血には獣としての本能を、僅かとはいえ秘めているのだろうか。

 水中を縦横無尽に逃げ回る川魚を追い掛け、飛び込み、潜り、手を伸ばし……水着に包まれたその身体をせいいっぱい躍動させ、獲物を捕らえんと暴れまわる。

 

 ばっしゃんばっしゃんと盛大に水しぶきを巻き上げ、弾けんばかりの笑顔を振り撒いている美少女たち。

 この場の撮影を一身に背負ったラニちゃんは、カメラの防水性能と本人の飛翔能力を余すところ無く発揮し、臨場感溢れる映像(と躍動感溢れる胸やおしり)を狙っている。

 

 

 ジュニアサイズの競泳水着を身に纏った(なつめ)ちゃんと、黄色ストライプのビキニに包まれた朽羅(くちら)ちゃんの()()は……まぁ、将来に期待といったところだけど。

 清涼感のある眩しい白ビキニに包まれた、われらが霧衣(きりえ)おねえちゃんの慎ましやかなふくらみは……元気いっぱいはしゃぎまわる彼女の動きをしっかりと反映し、そこに確かな躍動感を感じさせていたのだ。

 

 

 

 

「…………いいな」

 

「あぁ…………いい」

 

 

 おれたちおじさん二人は水辺の岩に腰掛け、爪先でぱしゃぱしゃと水を蹴飛ばしながら……

 この素晴らしい光景を目に焼き付けようと、微笑を装いながらもガッツリ凝視していた。

 

 

 

 

 

 

 

 ……さてさて。

 

 普段は大人しいあの子たちとて、やっぱりたまには羽目を外して大暴れしたいみたいで。

 それに加えて……すばしっこさと体力に定評のある烏天狗三人娘が、今日はこうしてオフモードということもあって。

 

 

 

「晩ごはんまでには帰っておいでー」

 

「はいっ! 承知致して御座います!」

 

「見ておれ好色兎め。どちらが上が身体に教えて遣ろうぞ」

 

「んふぅぅッ! 望むところに御座いまする! 小生(コレ)でも神々見(カガミ)の韋駄天と呼ばれて居りましたゆえ!」

 

(すばしっこい、ってことやろうな……)

 

(逃げ足が早い、ってことっすよね……)

 

 

 

 この山林を縄張りとする烏天狗三人娘と一緒に、盛大な『おにごっこ』を繰り広げたり。

 

 

 

「カカカカ! これならば決して遅れは取らぬ。兎に木登りが務まるはずもあるまい」

 

「ぐぬぬぬ……! ずるいで御座いまする! 小生も高みよりご主人どのを見下(みお)ろし……いえ、見下(みくだ)してみとう御座いまする!」

 

「ダイユウさんヤっちゃって下さい」

 

「……承知し申した。……では兎の御嬢様よ、失礼を」

 

「えっ?? あの、大雄(ダイユウ)ど、のヒャァァァァアァアァアアアァアァァ!!?」

 

「おぉ……一足跳びとはな。さすがは山の民よ」

 

 

 

 駆けずり回ってテンション上がってきた(なつめ)ちゃんと朽羅(くちら)ちゃんが、木登り対決(?)に興じてみたり。

 

 

 

「わかめどの、わかめどの。なにか手伝いは無いのか? 好色兎よりも我輩のほうが『いいこ』だということを思い知らせてやらねばならぬ」

 

「ご、ご主人どの! 小生に! 可愛らしい小生になにとぞご慈悲を! 小生はご主人どのの庇護がなければ生きていけぬ、儚くか弱くも可愛らしい少女に御座いますれば……」

 

「……役立たずであることは否定せぬのか。なんとふてぶてしい」

 

「えっへへへぇー」

 

 

 

 ひととおり山遊びを堪能し終え、休憩小屋前の大屋根下にて休憩していたおれに可愛らしくじゃれついてきたり。

 はー……さいこうかな。

 

 

 

 それにしても、山歩き用の重装備があるわけでもなく……むしろ水遊び用の軽装備にもかかわらず、こんなにアクティブに活動できるとは。神使っこのフィジカル半端ねえ。

 それに……あまりにも元気いっぱいに跳び跳ねるものだから、パーカーの裾から水着のおしりがちらちらと覗いちゃってるんですよね。

 

 水着だってわかっちゃいるんだけど、ああやって裾から『チラ』されちゃうととってもドキドキしてしまうのは、これはもう『おとこの(さが)』というやつであって。

 もう……ほんとかわいい。すきだが。

 

 

 

 そんな元気いっぱいのうちのこたちも、あれだけ遊び回ればやっぱりおなかが空くらしく。

 天繰(てぐり)さんが夕食のために炭をくべ始めたタイミングで、遊び疲れた幼年組は再びの休憩タイムへと突入していた。

 

 

 

「わかめさま、お待たせ致しておりまする。『のーと』を持って参りました」

 

「ありがと霧衣(きりえ)ちゃん。……重ねてごめんだけど、晩ごはん、モリアキの手伝いお願いしていい?」

 

「はいっ! お任せくださいませ!」

 

かわいい、すき(ありがとうね)

 

「……っ、…………えへへぇ」

 

(今心の声めっちゃ出てたけど?)

 

(えっ、まじ?)

 

 

 白くてすべすべのおみ足と、白くチラチラ覗くビキニのおしり。いつもと違う装いで顔を赤らめてはにかんでみせる、可愛らしいみんなのおねえさん。

 お料理の分野における最終兵器である彼女をモリアキ(カレー担当)と天繰(てぐり)さん(魚の処理と串打ち担当)のフォローに回し。

 一方のおれは……休憩小屋内のテーブルに『のーと』を広げてカメラ(ゴップロ)をケーブルで繋ぎ、ラニちゃんの頑張りの成果を吸い出していく。

 

 

 

「電気引いてないから、あんまり長時間はできないけど……」

 

「どれくらいならできるの? この……ポータブル電源?」

 

「見た感じ電池の残りが八割くらいだから…………パソコンのみに用途絞って、十五時間くらいかな?」

 

「…………充分じゃない?」

 

「………………だよねぇ」

 

 

 

 電源の憂いも、実質無くなったことですので。

 頼りになる仲間たちが、楽しい夕食の準備を進めてくれている中……おれは局長としてのやるべきことへと取り組んでいった。

 

 

 

「ご主人どの、ご主人どの! これは! もしやこの愛らしい姿は小生に御座いまするか! わはぁー、んへぇー! さすが小生()まれ持った容姿に胡座をかかず、立ち振舞いもまた庇護欲そそる可憐な佇まいに御座いまする!」

 

「わかめどの、わかめどの、我輩の姿はどうであるか。ヒトとは素肌を目にすれば興奮するのであろ。我輩とて『かわいい』と呼ばれた雌を摸倣した姿であるゆえ、ヒトは『かわいい』者の素肌を見たと在らば興奮を掻き立てられる筈よな」

 

「アッ!!! ハイ!!! まったくもってとても非常にかわいいです!!!」

 

「えへへー」「んふふー」

 

 

 

 くっっそかわいいが!?

 

 いや集中だ。全力で集中だ。

 がんばれおれ。がんばれ!

 

 

 



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443【作戦終了】今後の課題と目標



※そこそこご不浄な話題に触れます。
※お食事中の方はご注意願います。





 

 

 そんなこんなで、水遊びにバーベキューにおひるねに川魚の掴み取りに鬼ごっこに木登りにキャンプにと、たのしいひとときを過ごしてきたおれたちだったが……『たのしいひととき』とは往々にして、あっという間に過ぎ去ってしまうもので。

 気持ちよく晴れた翌朝を山のなかで迎えた我々は……名残惜しさを感じながらも、いそいそと撤収の準備へと取り掛かっていた。

 

 

 ひと晩を休憩小屋で過ごしてもらい、また渓流プールをはじめとする施設の実証を行ってみた結果。

 ……まぁ正直わかりきってたことだが、『非常にすばらしいものである』との評価を満場一致で下すこととなった。

 

 

 特に高い評価を得たのは、やはりプールと川魚の掴み取りだろう。肉食系わうにゃう義姉妹とその尻を追っかけてたラニちゃんからは、特によろこびの声が寄せられている。

 川魚が無かったとしても、プライベートで(しかも水着で)存分に大はしゃぎ出来る環境は、控えめに言って最高である。

 

 また休憩小屋においても、寝袋で問題なく一夜を過ごせる程度の居住性が備わっていたようだ。

 尤もおれと初芽ちゃんはテント泊だったので、霧衣(きりえ)ちゃんたち女子組からの評価になるのだが。

 

 

 ……ただひとつ。

 

 唯一のデメリットというか難点というか、割と致命的な欠点に目を向けるとするならば。

 

 

 

「…………おトイレだよなぁ」

 

「そっすね…………オレらは最悪穴掘って大自然に帰ればいいっすけど」

 

「こればっかりはねぇ……ラニちゃん大変お世話になりました」

 

「なんのなんの。モチはモチヤだよ」

 

「むずかしいのしってるね」

 

 

 

 さすがに、電気や上下水道などのインフラまでは引いていないので……お手洗いを利用する際には、ラニちゃんにおうちまで【門】を開いてもらう(もしくは大自然に帰る)しか無いわけだ。

 

 電気はポータブル電源を持ち込めばいいし、上水もポリタンクで持ち込めばいいのだが……問題なのは、下水。

 食材や食器を洗ったり、あるいはお手々を洗ったりする屋外用シンクの排水は、穴を掘って石を敷き詰めて自然浸透処理でいいだろうけど……おトイレともなると当然、話は大きく変わってくる。

 

 

 おれやモリアキだけだったら、ピット式トイレや撹拌式コンポストトイレでも問題ないのだけど……そこはほら、花も恥じらう乙女も利用するのだと考えると、さすがにそれで済ませるわけにもいくまい。

 においとか、清潔さとか、使いやすさとか……そのへんをどうにかしてあげたいところだ。

 

 

 

「わかめさま! おかたづけが完了致しました!」

 

「ありがとう霧衣(きりえ)ちゃん! ……それでは天繰(てぐり)さん、とっても素敵なお仕事をありがとうございました。我々は戻るので……ダイユウさんたちも、お世話になりました」

 

「……勿体無き御言葉。……恐悦至極に御座います」

 

「同じく。恐縮に御座います」

 

「また遊びに来てくださいね!」

 

「……敷地警邏は……任せて」

 

 

 とてもすごいロケーションを整えてくれた『おにわ部』の一同に別れを告げ、おれたちは獣道を辿っておうちへと引き返していく。

 とはいえ実際はラニちゃんの【門】にお世話になれば一瞬で帰れるし、事実おんなのこたちは()()で一足早く帰っておいて貰ったのだけど……おれたち『薔薇で作った百合の造花』チームは、道中の環境を確認するため徒歩での帰宅を選択したのだった。

 ……まぁ徒歩数分だしな。

 

 

 実際に歩いて、周囲を確認してみて再認識したのが……排水処理の難易度の高さだ。

 小屋用に浄化槽を設置しようにも車が入れる道が無く、ならばオウチの浄化槽まで配管を引っ張ろうにも排水勾配が足りてない。

 しかしながら清潔で美しく健やかな使用感を提供するためには、水洗式のお手洗いであることはほぼ必須条件。いわゆる『ぼっとん』なヤツなんてもってのほかだ。

 

 

 というわけで、八方塞がり。

 どうしようもないか……と諦めかけていたそのとき。

 

 この世界の常識に囚われない知識人が、その本領を遺憾無く発揮し始めた。

 

 

 

「だったらさ、【門】繋ぐ魔法道具つくってみちゃおっか?」

 

「「は?」」

 

「要するにさ、うんうんを別のところに飛ばしちゃえばいいんだろ? オウチのおトイレのほうに【門】の出口を作って、そこにだけ繋がる【門】の入り口を小屋のおトイレに用意すれば……」

 

「そんなのできるの!? 【門】の魔法道具なんて……」

 

「一ヵ所だけで一方通行なら、魔法式もそんなに複雑じゃない。ただ魔力消費がそれなりに激しいけど……そこはほら、供給の目処が立ってるし」

 

「おれが魔力供給すればいいんだよね。オッケー任せ」

 

「いやいやいや! それよりももっといい方法があってだね! 今まではただ垂れ流して捨てていた『上質な魔力素材』をね! 動力源とすればいいわけであってだね!」

 

「えっ、なになになになに!? そんなすごい魔力素材見つかったの!?」

 

 

 なるほど確かに、小屋からの排水をおうちの浄化槽に転送してしまうことができれば、問題点は一気に解決するだろう。

 しかも魔法道具によって転送魔法が自動化できれば、おれたちが居なくてもおトイレを使うことが出来るわけで……つまりはお客さん(※ただし知人に限る)に使ってもらうことも出来るようになる……かもしれない。

 

 

 それになにより、【繋門(フラグスディル)】の魔法道具だ。

 この日本においては、青色猫型ロボットでお馴染みの『どこへでも行けそうな(ドア)』に代表されるように、そのテの手段に対する憧れはとてもとても強いのだ。

 

 それもまあ、当然だろう。なにせヒトを転送できるほどの魔法道具が現実のものとなれば、もう満員電車ともオサラバだ。

 人々は通勤に便利な場所に部屋を借りる必要も無くなるだろうし、首都圏への人口一極化もたちどころに解消できる。

 他にも……急患を一瞬で集中治療質へ運ぶことができたり、僻地の集落に生活物資を安価で大量に送れたり、とれたての美味しい海産物を直接厨房へと届けることができたり……考えたらキリがない。

 

 デメリットである『消費魔力が多い』という点も、その『上質な魔力素材』とやらがあれば賄えるのだという。

 ラニの口ぶりからすると今までは捨てていたものらしいので、今後はちゃんと捨てずにとっとかなきゃならないだろう。『それを捨てるなんてとんでもない』ってやつだ。

 

 

「いやぁ…………とっとくのはさ、ボクはさすがにやめた方がいいと思うよ」

 

「えっ、なんで? もったいなくない? ……っていうか、その魔力素材っていったいなん」

 

「おしっこ」

 

「……………………ごめん、なんて?」

 

「だからね、おしっこ。より厳密に言うと、ノワかボクか……あと多分だけどミルちゃんの、身体から排出される何らかの体液」

 

「……………………」

 

「……魔法道具のために……おしっこ、溜めとく?」

 

「やだ!!! 絶対に嫌!!!」

 

 

 

 オーケーわかった、この魔力素材の話は無かったことにしよう。決して飛躍させてはいけない話だ。

 

 まあしかし、つまりはおれが()()するおし……魔力素材を利用して、限定的な【門】を開く魔法道具。それを排水設備に組み込んでしまおうという作戦だな。

 

 

 この作戦の鍵を握るのは、なんといっても【門】の魔法道具だ。

 これに目をつけた動機が『お手洗い』というのが若干申し訳ないが、何はともあれ非常に有用であることは疑いがない。

 

 魔力供給源が()()な特殊型は、決して表には出せないけれども……仮に【門】の魔法道具が実用化できるというのならば、それはもう色々と革命的なのだ。

 

 

 研究してもらう価値……あるかもしれないな。

 

 



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444【在宅勤務】局長のとある一日

 

 

 ヘィリィ(こんにちわ)、親愛なる視聴者の皆様。魔法情報局『のわめでぃあ』局長、今日はポニテスタイルの木乃(きの)若芽(わかめ)です。

 

 

 突然ですが、現在わたくしは撮れたてホヤホヤの動画データ……そう、渓流プールの水遊びに端を発する一連のアウトドアお泊まり大作戦の映像のですね、編集作業に取り掛かっておりましてですね。

 ただ黙々と作業に没頭するのもつまらないので……こうして『おりこう』な並列思考を活用してですね、実況じみた語りを入れさせてもらってる次第で御座います。

 まぁ配信者トレーニングの一環ってやつよ。

 

 

 というのもですね、我々のわめでぃあ……普段であれば撮影した映像の編集は、モリアキの友人である鳥神(とりがみ)さんが勤める『スタジオえびす』さんに外注させていただいておりまして。

 嬉しいことに、わが放送局の視聴者さんであるという彼……およびスタジオの皆様によってですね、わたしの意をばっちりと汲んでいただき、毎回とてもとてもすばらしい作品に仕上げていただいているのです。すごいぞプロの技。

 

 明言しておきたいのは、そこに不満は全く無いということ。

 ほかでもないわたしの活動時間の捻出に、きわめて多大なる貢献を頂いているわけなのですが…………さすがにね、今回はね。

 

 

 大筋として水着シーンが多量に含まれる上、ラニちゃんの好みによってセンシティブな部分をこれまた大量に含まれると思われるので……さすがにわたしが直々に編集しなきゃならないでしょうね、これはね。

 

 わたしの見てた限りでは無かったと思うんだけど……万が一、いや億が一にでも、ビキニ組が『ぽろり』していたとしたら。

 霧衣(きりえ)ちゃんや朽羅(くちら)ちゃんの『ぽろり』を、外部流出させてしまったなんてことになれば。

 

 わたしは……そのときは、腹を切ってお詫びしなきゃならなくなってしまう。

 

 

 

 ……っとまあ、そんな感じの理由がいろいろとありまして。

 本日こうして自宅のお仕事ルームにて、愛機(ぱそこん)に向かって集中しているわけでございます。

 

 

 

「我輩はこどもが四人も居るのだぞ。その大きなおうちを譲るべきであろう」

 

「なにを仰います。斯様に立派なお屋敷とあらば、小生にこそ相応しく御座いましょう」

 

「ぐぬぬ…………あのとき『十』が出ていれば……」

 

「はっはっはー! …………えっ『固定資産税』? な、なんで御座いましょう、その剣呑な響きは」

 

 

 

 ……わたしのたぐいまれなる集中力は。

 配信者に求められる様々な能力を秘めた、このわたしは。

 

 この程度で……集中力をかき乱されたりは、ぜったいにしないのでして。

 

 

 

「や、やった! 小生にもやっとあかちゃんが! あかちゃんができて御座います!」

 

「ほう……兎にしては随分と遅かったな。旺盛で多産であると聞き及んでいたのだが」

 

「し、小生は! 小生は、きちんと愛を育んでいく方針に御座いますれば! どこぞの泥棒猫のように手当たり次第に交尾したりは致しませぬゆえ!」

 

「…………よく言った好色兎めが。望みとあらば我輩が直々に鳴かせてやろうか」

 

 

 

 し、集中力が……!!

 なんの、この程度……わたしはぜったい、ぜったいに集中力を持ってかれたりしないんだから!!

 

 

 

(難儀だねぇ、ノワ)

 

(ぐぬぬぬ……)

 

 

 仕事部屋(スタジオ)内のソファテーブルエリアにて、現在なかよく(?)ボードゲームに興じている美少女ふたり。

 マス目の指示にたいへん可愛らしく一喜一憂するその姿は、幸いというべきかラニちゃんによってバッチリカメラに収められているので、わたしもあとで堪能することは出来るのですが。

 

 ……ですが、まだ幼げな美少女の口から『あかちゃん』とか『おうせい』だとか『こうび』なんて言葉が飛び出ちゃうとですね、さすがにちょっと心穏やかじゃないわけですよ。むらむら。

 

 

 

(いや『むらむら』じゃないが。子守り頼まれたんでしょ?)

 

(子守りってほどでもないけど! 二人ともちゃんと(自称)おとなだし!)

 

(大人は『寂しいから一緒に居たい』とか言わないんだよなぁ。つまりあの子たちはまだ幼)

 

(お、おれはふたりを信じるもん!)

 

(『もん』じゃないが)

 

 

 

 そう、今日現在この場――というよりも、このおうち――には、彼女たち幼年組(とわたしたち皆)のおねえちゃんにして保護者でもある、霧衣(きりえ)ちゃんが不在なのです。

 言葉には出さずとも寂しそうにしている二人を見かねた霧衣(きりえ)おねえちゃんが、出発前にわたしに持ちかけた相談こそ……『お仕事する一緒のお部屋で遊ばせてあげてほしい』というものなのです。きりえおねえちゃんまじ天使。

 

 そしてその、珍しくおうちを留守にしている霧衣(きりえ)おねえちゃんだが……なんときょうは天繰(てぐり)さんといっしょに、浪越市中央市街方面へとおでかけでして。

 ……というのも、ほかでもない。天繰(てぐり)さんの予定と擦り合わせるのに、少々どころじゃない時間がかかってしまった(※だいたい『おにわ部』の活動によるもので、つまりはわたしのせいである)が……ようやくこのたび『お料理教室』へと通いはじめることができたためでございます。

 

 

 霧衣(きりえ)ちゃんも天繰(てぐり)さんも、ちょっと特殊な事情を抱えているので……そのあたり深く追求されたりしないような層と言いますか、要するに『お上品』なお料理教室を長らく探していたわけです。

 われらが霧衣(きりえ)おねえちゃんがおもしろおかしい噂話のネタにされるだなんて、そんなのは耐えられない。……ただのわがままとも言えるでしょうね。

 

 そんなこんなで、主催者さんのお名前で調べてみたり実際にこっそり見学してみたり、アレコレと選り好みをしていたところ……なんとびっくり、ハープのレッスンでお世話になった(※今でも週イチでお世話になっている)山城(やましろ)先生のお友だちの娘さんが、なんと浪越市中央区で料理教室を開いているのだという。

 

 

 ……というわけで、つい先日直接お邪魔してお話をお伺いさせていただきまして。

 どうやら生徒さんもお上品な方々ばかりで、わたしの目で見てみても霧衣(きりえ)ちゃんたちは単純な『好意』でもって接して頂けているようで。

 ここならば、少々経歴と服装が常識からズレてる二人であっても、下衆な勘繰りや悪意に晒される危険は無さそうなので……お世話になることに決めました。

 

 そんなお料理教室の第一回が今日なので、霧衣(きりえ)おねえちゃんは元気いっぱいに(朝ごはんの片付けをキッチリと済ませてから)出掛けていきまして。

 お料理教室の会場ビルまでラニの【門】でお届けしてもらったし、モリアキも案内役(兼試食係)として帯同しているし、あちらはあちらで新鮮な体験を摂取していることでしょう。

 

 

 

「か、株がーー!! 小生の株がーー!!」

 

「おお、五人目を授かったぞ。……くるまに乗れぬな、寝かしておくか」

 

「ぐぬぬ……まったく多産な猫であらせられますなぁ」

 

「は。大人の余裕というものよ。子供そのものの子兎と一緒にされては困る」

 

「きーーっ!!」

 

 

 

 なので……霧衣(きりえ)おねえちゃんがお料理のお勉強を安心してできるように、わたしたちは作業をしながら、可愛らしい二人のお嬢さんといっしょにお留守番をしているわけです。

 

 二人ともわたしの仕事をきちんと理解してくれているので、わたしの邪魔をしないようにと(まぁ最初の頃は肩に顎乗せてきたり膝に乗って来たりと元気いっぱいだったのですが)今ではこうして二人仲良く(?)遊んでくれているのですね。

 まったく……とても可愛らしくて、尊い子たちです。

 

 

 

「おお、ごーるであるな! やはり我輩に軍配が上がったか。勝敗は火を見るよりも明らかであろうよ。まぁ子兎にしては頑張ったほうではないか?」

 

「わぁーーんごしゅじんどのぉーー!! くちらはちゃんとおどなでございましゅぅーーーー!!」

 

「あーはいはいはい泣かないの! もー……(なつめ)ちゃんも煽るの程々にしてあげて? 落ち着いたオトナなんだから」

 

「む…………そ、そうであるな。やはり我輩も少々おとなげなかったようだ。すまなかった、子兎」

 

「ふーん! 阿婆擦れ泥棒猫が今さら殊勝な態度を取ったところで」

 

「わるぐちは有罪(ギルティ)なのでオヤツ抜きね」

 

「なつめどの! つぎは別のぼーどげーむで遊んで頂きたく御座いまする!」

 

「かかか! まだ負け足りないようだな、子兎め」

 

 

 

 やりたい放題の困った子兎ちゃんだけど……この言動の根底にあるのは、どうやらまぎれもない『信頼』のようだ。

 (なつめ)ちゃんならばちゃんと自分を見て、ちゃんと構ってくれて、ちゃんといっしょに遊んでくれるということが解っているからこその……『すき』の裏返しの『わがまま』なんだろう。

 

 そのことをどうやら感付いているらしい『オトナ』な(なつめ)ちゃんも、口では手酷く罵りながらもこうしてきちんと付き合ってあげている。ほんとうにいい子だ。

 

 

 ……そうだよね。

 こうも嬉しそうな感情をぶつけられちゃあ……怒るに怒れないよね。

 

 



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445【研究成果】限定的再現

 

 

 構想着手から、あっという間におよそ二週間。

 いつもの配信アシスタント業務に加えて、魔法道具の試作・研究を重ねてくれていたラニちゃんの手によって。

 

 ついに、限定的ではあるが【繋門(フラグスディル)】の能力を秘めた魔法道具……きわめて画期的なその試作品が完成したのだった。

 

 

 

「すごい!! すごいよラニ!!」

 

「うぅーん……やっぱこれくらいが限界かぁ」

 

 

 鶴城(つるぎ)さんの技研棟へと技術実証モデルを納品し、そちらはそちらで技術スタッフの方々に解析して貰うとして。

 現在おれたちの目の前には……その複製品第一号が鎮座しているのだ。

 

 作戦としては、この魔法道具の『魔力供給部分』にひと手間加えてですね、えっと、その……おれの、おしっ…………排水パイプを流れてきた()()()()()()()によって起動するように、改良を施すことが一点。

 あとは【門】の出口を、浄化槽……を開けるのは嫌なので、その手前の下水配管へと設置する作業が、もう一点。

 そうすることで、おそらくすべての準備は整うわけで。

 

 周りにインフラが何もない山中の小屋に、念願の水洗トイレが誕生するわけだ!

 

 

 

「…………不満ですか? 白谷様」

 

「そりゃあね。ヒトはおろか生物は運べないし、そもそも【門】の径も小さい」

 

「……しかし、これだけでも画期的な作品に御座います。……今はそれを誇るべきかと」

 

「………………そだね。ありがと」

 

「…………いえ。……手前はただ、当然の事実を述べた迄に御座います」

 

 

 空間を支配する【天幻】の称号を賜ったラニにとって、この程度の【門】()()()は到底【繋門(フラグスディル)】と呼びがたいのかもしれないが……しかし天繰(てぐり)さんの言うとおり、この世界においてはこの上なく画期的な存在なのだ。

 

 この……見た目は『巨大な二本のちくわ』のようにしか見えない木製の筒っぽは、この『筒A』の穴を通ったもの(※ただし非生物に限る)を『筒B』へと転移させることが出来るのだという。

 【門】の維持のために物理的な枠を設け、しかもその枠の内径は十五センチが限界だったとはいえ……その効能はまぎれもない『転送魔法』にほかならない。

 

 

 たとえヒトを……生物を送ることが出来ないとはいえ。

 つまりはこの筒の中を通れるサイズであれば、一瞬で目的地まで品物を送ることが出来るのだ。

 

 手紙に、書類に、小包に、小型高価な精密部品に、もしくは水や、燃料パイプラインの代替に。

 もちろん魔力供給の手段を講じる必要はあるが……それでも、使いどころは数多だろう。

 

 

 ……それよりも。なによりも。

 

 

 

「少なくともおれは、メチャクチャに嬉しい。あの小屋でトイレが現実味を帯びたことはモチロンだけど……なによりも、おれのわがままのためにラニがここまで頑張ってくれたってことが、この上なく嬉しい」

 

「ノワ…………」

 

「…………ありがとね、ラニ。……おれに何かお礼できることがあったら」

 

「ん? ん???」

 

「…………もう。……いいよ、なんでも言って」

 

「えっ!?!?? マ!!?!!?!」

 

「…………信じてるから、ね」

 

「………………まいったなぁ……反則だよ」

 

「……これはこれは……お熱いことですね」

 

 

 

 まぁ、気を取り直して……こちらの、暫定呼称【転送筒】の改良作業だ。

 燃料が異なるとしても、仕様そのものに大きな変更は無い。設置場所の都合上、筒の中を通った燃料から魔力供給を受けられる形にすればいいわけだ。

 というかどうせ転送するんだから、筒Aの片側を塞いでいいかもしれない。こうすれば筒の中に魔力素材が溜まれば自動で【転送筒】が起動し、筒Aの中のちょっと言葉では言いづらいものを筒Bに転送してジャーしてくれるわけだな。

 

 

「…………成程。把握致しました。……ではもう一方の、被転送先は……筒状のまま、既存配管と置換する形で宜しいでしょう」

 

「あーそっか、おうちの排水はそのまま筒を通過して……」

 

「筒Aからの転送もそのまま流せる、てことね。オッケー意外とスムーズに行けそうじゃん?」

 

「そうだね。…………思ってたよりも早く完成しそう」

 

「……小屋の作業も、『(カラス)』共が着々と進めて居りますので……部品さえ届けば、来週には」

 

「まじですか! ……うん、やっぱおれも作業手伝います。埋設作業なら……地面掘ったり固めたり戻したりするのは、たぶんおれがいちばん早いと思うので」

 

「……それは…………そうですね。……非常に助かります」

 

 

 

 本日の暦的には、まだかろうじて八月。ここから一週間で作業を終わらせて、それでもなんとか九月の頭。

 本格的なキャンプのシーズンには、どうやら無事に間に合わせることができそうだ。

 

 

 

「チフリちゃんのお願いかぁ。……何人くらいだって? 来たいって言ってたの」

 

「えとねー、全員だって」

 

「は? …………え? は???」

 

「だからね、『にじキャラ』の配信者(キャスター)さん全員。Ⅰ期からⅣ期。()()()キャンプしたいって。なんならマネージャーさんたちも」

 

「      、  」

 

「…………その、御館様。……つまりは、総勢は」

 

「総勢ね、配信者(キャスター)で二十七人だって」

 

「「……………………」」

 

「……いや、さすがに一気には来ないでしょ。ユニットごとじゃない?」

 

「あの、そうはいってもですね……」

 

 

 

 せっかく『おにわ部』のみなさんが整備してくれた、贔屓目に見てすばらしいキャンプ地なのだ。一般公開することは不可能だとしても……知人友人であれば使ってほしいと考えるのは、別におかしなことでは無いだろう。

 とはいえ……先方にお知らせしたのは、まだほんの()()()だけだ。

 

 つい先日編集および投稿が完了した動画【『のわめでぃあ』全員集合! 真夏の林間キャンプ(プールもあるよ)編】に対して、直接熱烈な感想REIN(メッセージ)を送ってきてくれたⅣ期の洟灘濱(いなだはま)道振(ちふり)さん。

 とても羨ましそうな感情が文面からも滲み出ていた彼女に『よかったらキャンプしに来ますか?』『お誘いあわせの上ぜひどうぞ』と返事を送ったところ……それから三十分と経たない間に『にじキャラ』配信者の方々からの問い合わせが次から次へと立て続けにですね。いやおれが撒いた種だけど。

 

 挙句の果てには……大規模オフコラボの気配を感じ取った鈴木本部長から、直々に『商談』の予約(アポ)が舞い込む始末であり。

 ……そんな経緯もあった中なので、水洗トイレの整備はそこそこ急務だったわけだな。

 

 

 ともあれ、これならば『商談』を受けても大丈夫そうだ。

 ……いやまあ、その前に現場の進捗状況も一度見に行った方がいいだろうけど……受け入れが『できる』か『できない』かでいえば、おそらくは『できる』のだ。

 

 完成の日取りまではまだわからないけど、ざっくり『九月中旬から下旬』くらいの日付目安と、施設全般の情報提供くらいはできるはずだ。

 

 

 

「……御客様と在らば……丁重に歓待させて頂きましょう」

 

「ウーン……そだね。まぁなんとかなるか」

 

「テント張るスペースだけ地ならしすれば、まあ収容人数ふやせっかなって。最悪オウチの和室で寝てもらってもいいし」

 

「そうだね。……あの子たちなら、ボクも気が楽だ」

 

「油断しないでよね? 鈴木本部長撮る気満々だから」

 

「ホェェ!?」

 

 

 

 おれたち(というか『おにわ部』の皆さん)が手掛けた場所で、おれたちが大好きな配信者チームが、まちがいなく楽しいコンテンツを提供してくれる。

 

 そういうところに、おれたちは幸せを感じるんだ。

 

 

 たのしみになってきたな!

 

 



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446【晴天霹靂】奈落へ

 

 

 その報せは……八月も下旬のある日の晩に、突如として舞い込んできた。

 

 

 そのときおれは、おべんきょうを経て新たなレパートリーを身に付けた霧衣(きりえ)ちゃんのお料理シーンを、カメラ片手にガン見していたところだった。

 おれの好物の『はんばーぐ』を作ってくれるという彼女の申し出に、軽くテンションが振りきれていたおれだったのだが……突如けたたましい着信音を鳴り響かせるスマホに一瞬眉をひそめ、直後その画面に映し出された発信者の名前を認識し、瞬時に気を引き締め直す。

 

 

『――――夜分に大変申し訳』

 

「お疲れ様です春日井室長。()()ですか」

 

『ッ、…………三恵(みえ)南神々見(みなみかがみ)町、岸川工業団地です』

 

(ラニごめん、緊急。神々見(かがみ)行きの【門】おねがい)

 

「オッケー! 呼ばれて飛び出て……我は紡ぐ(メイプライグス)繋門(フラグスディル)】!!」

 

 

 心配そうにこちらを見つめる霧衣(きりえ)ちゃんをなだめ、引き続き晩ごはんの支度を進めておくようにお願いする。

 こうすることでおれのやる気が限界突破するので、副業(おしごと)のモチベーションと効率が跳ね上がるのだ。

 

 おれと同じように霧衣(きりえ)ちゃんのお料理シーンを観察していた(なつめ)ちゃんは、おれのただならぬ気配を感じ取ってか既に臨戦態勢を整えてくれていたが……彼女には申し訳ないが、今日はお留守番をしてもらおうと考えている。

 場所が場所なだけに、おそらく朽羅(くちら)ちゃん(と彼女越しのアラマツリさん)のほうが土地勘もあるだろうし……なによりも。

 

 

霧衣(きりえ)ちゃん一人ぼっちだと、ちょっと不安だから……(なつめ)ちゃんには霧衣(きりえ)ちゃんに着いてて欲しいんだ。……お願いできる?」

 

「にぅ………………我輩が力不足だから、では……ないのだな? 子兎めに我輩が劣っているわけではないのだな?」

 

「もちろん。大切な霧衣(きりえ)ちゃんを守ってもらいたいんだから……こんなの、おれが心の底から信頼できる(なつめ)ちゃんにしか頼めない」

 

「…………に。承った。…………わかめどのを頼むぞ、朽羅(クチラ)

 

「お任せくださいませ。小生の誇りに懸けて」

 

 

 

 実際のところは、霧衣(きりえ)ちゃんが襲撃を受ける危険はほぼ無い。護衛として天繰(てぐり)さんや『(カラス)』のお三方も居るのだ。

 こういうときのために詰所だって(『おにわ部』が)用意したし、霧衣(きりえ)ちゃんの術はもともと防衛向きだ。こと守りに限っていえば、並外れた堅牢さを誇るだろう。

 

 そこに加えて……いかなるときでも落ち着いている(なつめ)ちゃんが着いていてくれれば、霧衣(きりえ)ちゃんの不安も大幅に解消されることだろう。

 (なつめ)ちゃん(および(なつめ)にゃん)のもたらす癒し効果は、それはもう半端無い。おれが保証する。

 

 

 

 というわけで、オウチのことは心配いらない。おれたちは副業(おしごと)に専念する。

 おれとラニと朽羅(くちら)ちゃん……この三人のみでの出撃は初めてだが、いよいよ手が足りなくなったらラニに応援を呼び寄せてもらえばいい。

 

 神々見(かがみ)境内に開かれた【門】から飛び出て、おれは即座に【隠蔽】と【浮遊】を展開。静謐で重厚で荘厳な雰囲気を纏う森を飛び出し、南の方角へとかっ飛んでいく。

 

 

「お待たせしました春日井室長。現在神々見(かがみ)神宮内宮です。詳細お願いします」

 

『は!? ……っ、失礼しました。現状報告を読み上げます。『一七四五(17時45分)頃、岸川工業団地内『神々見(かがみ)バイオマテリアル(株)』にて大規模爆発事故が発生。怪我人の有無は不明。火災および周囲への延焼あり。現地消防に通達、消防・救急車輌急行中。なお現場付近にて()()()()()()()()()()()()()()()()()』……以上です』

 

「わかりました。……こちらでも黒煙を確認しました」

 

『えっ!? ……あぁ、なるほど。空からですか』

 

「ですです。コッチの火災は我々で消しますんで……『空飛ぶエルフ』の目撃情報とか出回っちゃったら、そのときはちゃんとそちらで()()()をお願いしますよ?」

 

『お任せ下さい。……お気をつけて』

 

「ありがとうございます」

 

 

 

 初めての空中散歩によって泣きそうな感情を迸らせている朽羅(くちら)ちゃん(※幸いまだ()()していない)の、小柄で華奢ながらちゃんと『おんなのこ』してる肢体と荒い吐息を堪能しながら、おれは遠く黒煙を上げる山の一角へと全速力で空を(かけ)る。

 境内に出たのにヨミさまに挨拶もせず飛び出てきちゃったけど……緊急事態だから仕方がない。たぶん朽羅(くちら)ちゃんを介して()()()だろうし、終わってから改めて頭下げにいけばいい。

 ……まぁ、そのために朽羅(くちら)ちゃんを連れてきたわけだけども。

 

 夜空を駆けるおれたちはぐんぐんと黒煙の発生源に近づいていき、やがてチラチラと赤い炎が見られるようになってくる。幸いというべきだろうか、事故の現場は山中に拓かれた工業団地のようであり、住宅地や市街地からはそれなりに離れている。

 しかしながら……やはりというか案の定というべきか、周囲の大気中の魔力濃度が一気に上がっていくのを感じる。

 おれにとっては多少やりやすくなるけども……それは決して、メリットばかりではない。

 

 

「ノワも気づいた? あれはどうやら……ただの爆発じゃない」

 

「たぶん、レウケポプラの魔力を使った……大気中に溶け出た魔力に、直接『爆発する』ことを強制したもの。その目的はおそらく……」

 

「そうだね。魔力の広域拡散……レウケポプラの栽培によって貯めに貯めた高濃度の魔力を、魔力そのものの爆発に乗せて広く広く拡げるための」

 

「…………本当にもう! やりたい放題だなぁもう!!」

 

 

 

 春日井さん情報によれば、『神々見(かがみ)バイオマテリアル(株)』はレウケポプラの栽培プラントであるという。

 扱うものは主として、植物であるはずのレウケポプラと水。……であればなおさら、爆発事故なんて起こり得ない。空調や発電機器の不備だとしても、建屋が吹き飛ぶなんて在り得ない。

 

 なによりも……この魔力の匂い。

 恐らくは魔力そのものを一部炸裂させて指向性を附与し、空間中の魔力を波に乗せて遠くへと拡散させる。……そのための、人為的な爆発。

 

 であれば、容疑者はおのずと絞られてくる。

 

 

 

 一気に高度を下げ、炎上を続ける工場建屋……おそらくは全天候型レウケポプラ培養施設だったものへと肉薄し、【探知】魔法を行使して生命反応を探し出す。

 さっきの春日井室長からの報告では、『怪我人の数は不明』と言っていた。当然『居ない』とは言っていないし、日頃から人の詰めている施設でこの規模の災害が起きて『居ない』はずがない。

 

 

 

『ボクはコッチ捜してくる』

 

「頼んだ。おれは火消す」

 

「ひぇっ……ひぇぇ…………」

 

 

 自身と朽羅(くちら)ちゃんに【炎耐性・大】と【情報隠蔽】を掛けながら、手当たり次第に【流水】を叩き込んで炎の勢いを殺していく。

 一方で全身鎧を身に纏った勇者(ラニ)は、おれたちと一時別れて逃げ遅れたひとの救助に向かう。

 

 工場従業員のほとんどは屋外に避難していたが、屋上や上層フロアには幾らかの生命反応が感知できる。崩れ掛けた壁をぶち破りながら退路を切り開き、勇者(ラニ)はてきぱきと彼ら彼女らを救出していく。

 

 

 やがて、おれがあらかた消火を完了させた頃、上層フロアの救助活動に向かっていた勇者(ラニ)が戻ってきた。再度【探知】を行い確認してみたが……どうやら逃げ遅れたひとは、全員屋外に避難できたようだ。

 真っ黒の瓦礫だらけとなった工場跡地には……他にもう()()()()は見られない。

 

 

 

 

「……朽羅(くちら)ちゃん大丈夫? ……お願いできる?」

 

「んぐぅ……っ、…………問題、ございませぬ」

 

「…………ごめん、辛いもの見せた」

 

「……ご主人殿が謝る必要など、とんと御座いませぬ。小生は誇り高き神々見(カガミ)の御遣いなれば……何時(いつ)如何(いか)なるときでも、己が為すべきことを為すまでに御座います……ッ!」

 

 

 

 可愛らしい顔を蒼白に染め、恐怖と後悔と悲嘆の感情に苛まれながらも。

 

 しかしそれでも並々ならぬ決意を湛え、自らの足で踏ん張り姿勢を整え……彼女は望まれた役割を全うする。

 

 

 

「――――通りませ、通りませ。我が身(しるべ)に……(うつ)しませ」

 

 

 彼女の目と耳は、周囲の情報を『主』へと送り。

 彼女と魂で繋がった、彼女が全幅の信頼を寄せる『主』は……彼女の身体を介し、その超常たる術を行使する。

 

 

 

「――――(いざな)いませ。【隔世(カクリヨ)・遷式】」

 

 

 

 遠く離れた『主』と、おそらくは全く同じタイミング・同じ声色で、彼女の唇が祝詞を紡ぐ。

 

 遠く離れた『主』の手による、超大規模な【隔世(カクリヨ)】の術が……この災害からの生存者を弾き出し、おれたちと()()()()()()()のみを別位相へと引きずり込む。

 

 

 

(……すごいね、クチラちゃん。いや、アラマツリさんか? ……どっちもか)

 

(あとでちゃんとお礼いわないとね。どっちも)

 

 

 

 白亜の全身鎧に身を包んだ勇者(ラニ)と、存在隠蔽魔法の付与されたローブを纏う正体不明の魔法使い(おれ)

 左手には弓を握り、腰には短杖を吊り……相棒は剣盾を携え、二人とも最初から()る気満々の臨戦態勢だ。

 

 もう許さない。逃がすわけにはいかない。絶対にここで止めなきゃならない。

 あの子のような幼げな少女に手荒な真似をするのは、正直いって気が引けるが……今更そんな悠長なことは言っていられない。

 

 

 今回の惨状は。この悲劇は。この犠牲は。

 これまで何だかんだと理由を付けて、あの子に強く出られなかったおれたちの……そんな優柔不断さが引き起こした結果でもあるのだから。

 

 

 



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447【晴天霹靂】炙り出せ

 

 

 巨大な建屋のなれの果て、壁や天井のあちこちを炭化させ、黒く濁った水を滴らせる、ボロボロの廃墟の周囲。

 脱出不可能の小さな異界に閉じ込められた『獣』どもは……その檻から逃れようと、()を壊しに押し寄せる。

 

 ……いや、どうやら今回は『獣』だけでなく、『鳥』も戦列に加わっているようだ。

 さすがだぞ指揮官。地上戦力だけではたとえ『龍』を投入したところでおれたちを制圧出来ないということを、ちゃんと理解しているんだな。

 

 

 

(…………ラニ、見つけた?)

 

(いや…………居ない? そんなバカな)

 

(たぶんだけど……空気を従えて『隠せ』ってやってる)

 

(ムチャクチャだよ! 本当にあのとき捕まえとくべきだった!)

 

(本当だよ。シズちゃんの介入があったからって……あそこで日和(ひよ)るんじゃなかった。おれのせいだ)

 

(そこまでだよ。その思考は何の意味も無い)

 

 

 

 今さら後悔しても……もう遅い。

 

 世界侵略性外来植物『レウケポプラ』――含光精油と高熱量ペレットを生み出す夢の植物――の栽培プラントを狙った爆破テロは、こうして最悪の形で実を結んでしまったのだ。

 

 

 冗談では済まされない。

 もう一切容赦はできない。

 

 そりゃあ別に、おれとて最初から遊んでいたつもりは無いけども……今日はなおさら、出し惜しみするつもりは全く無い。

 

 

 

 

(ことわり)を越えて来たれ。今ひとひらの力を示せ。わたしが望むわたしの姿、気高き稀なる強者(つわもの)よ」

 

 

 直接的な攻撃に限らず、隠蔽やら隠形なんかの搦め手を使うなど、()()()戦い方を学び始めているようだけど……いかんせんまだまだ未熟。しょせんは拙い付け焼き刃に過ぎない。

 半年以上に渡って非常識きわまりない戦いに身を置き続け、こう見えてもあれやこれやと戦法を練り続けてきたおれを…………おれたちを欺くには、練度が到底足りていない。

 

 

 

「……【『創造録(ゲネシス)』・解錠(アンロック)】。【召喚式(コード)・『飛耳長目の斥候(ヴァリアント)』】……来い」

 

「応よ。バカみたいに魔力を溢れさせたこと……後悔して貰おうじゃん」

 

『…………いやぁー……ノワも大概ムチャクチャだよね』

 

 

 四方八方から雪崩打って押し寄せる『獣』の群れを、頼りになる相棒が切り捨ててくれている間……そうして稼いでくれた安全な時間を【召喚式】に充て、新たな分身体(オルターエゴ)を召喚する。

 

 周囲に高濃度の魔力が溢れる環境下であれば、攻撃魔法の効率も大きく上がる。さらに勇者(ラニ)が同伴して護衛してくれるのならば、おれが火力や防御をこれ以上伸ばす必要は無い。

 よって、敵の指揮官たる【愛欲の使徒】の看破・捕縛・無力化に重きを置いた力を……縁の下の力持ちたる『斥候(おれ)』を、強く強く思い描く。

 

 

 

「さっさと終わらせて嫁の手作りハンバーグ食うんだ。気合入れろよ、斥候(おれ)

 

「任せとけ。つってもぶっつけ本番だが……フォロー頼むぞ、魔法使い(おれ)

 

 

 直接的な戦闘能力を削った代わりに取り揃えた、戦闘補助のための各種技能……【暗視】【指向性集音】【熱探知】【空間質量探知】【魔力探知】【魔力波反響探知】などの強化(バフ)および探知魔法を総動員し、隠れ潜みこちらを伺う敵指揮官を探し出す。

 たとえ自身の権能によってその姿を隠そうとも……それがどのような手段での隠蔽なのかはわからないが、何かしらの痕跡は残るはずだ。

 

 隠蔽の術の行使には『魔力』を使っているだろうし、呼吸すれば『大気』は揺らぐ。生きていれば『体温』を発するし、心音や血流の『音』を完全に消すことは不可能だし、神経には伝達用の『生体電流』が行き交っている。

 それらの情報、ひとつひとつは些細なれど……それら些細な断片を積み重ね『工場の瓦礫にはあり得ない地点』を導き出すことなど、この飛耳長目な斥候(ヴァリアント)にとっては造作もない。

 

 

 

「【戦闘技能封印解錠(アビリティアンロック)】【不可視の隠形(インビジブル)】」

 

「【加速付与(アドアルケート)斥候(オルターエゴ)】」

 

 

 

 ただでさえ速力と器用さに特化したステータスの斥候(おれ)に、更に魔法使い(おれ)の手で【加速】のバフを加える。

 戦闘技能(アビリティ)によってその姿を隠し、更に超超高速の機動力を備えた斥候(おれ)の動きに……まさか自分の所在が露見しているとは露にも思っていないだろう敵指揮官が対応出来るハズもなく。

 

 

 

「他愛なし……ってね」

 

「…………ッ!? クソッ! 離せよ変態!!」

 

「動かないの。もう逃がさない……よッ!」

 

「ゥぐ、があ゛…………ッ!?」

 

 

 

 魔法使い(おれ)勇者(ラニ)が、十や二十じゃ効かない規模の『獣』と『鳥』の群れを引き付け片っ端から処理している、その間に。

 不可視の帷を纏った斥候(おれ)は人知れず瓦礫の山を疾駆し、屋上の端に潜み眼下の戦況を窺っていた敵指揮官の身柄を押さえる。

 

 不可視の斥候(おれ)に奇襲を受けた『魔王の使徒』は、その華奢な身体を捻り必死に抵抗を試みるが……今度こそ、もう逃がすわけにはいかない。

 手荒な真似だという認識はあるが……うつ伏せに倒した彼女の背に体重を掛け、純粋な『痛み』によって異能の行使を阻害させる。

 

 そうして稼ぎ出した一瞬の時間。魔法使い(おれ)朽羅(くちら)ちゃんの護衛を勇者(ラニ)に一時預け、斥候(おれ)を追って天井の大穴から屋上へ。

 組み敷かれた痛みに顔をしかめながら、それでも『憎悪』も(あらわ)におれたちを睨み付ける使徒へと近付き……一切容赦無しでの【昏睡】魔法をお見舞いする。

 

 

 

 

「――――っ、……ぁ」

 

 

 

 おれが授かった魔法の力、知識(フレーバーテキスト)によると『魔王軍四天王をも昏倒させる』という触れ込みの魔法をお見舞いされては……未熟な彼女の精神では、到底抗うことなど出来なかったのだろう。

 敵愾心を垣間見せたまま、しかし瞼はどんどんと落ちていき……やがてその身体からは力が抜け、ぐったりと屋上に倒れ伏す。

 

 おれの知識(フレーバーテキスト)にあった『魔王軍四天王』が、どこの何者なのかは解らないままだが……現・おれたちの敵である『魔王』の使徒には、どうやら通用するようだ。

 

 まぁ尤も、同系統完全上位互換の権能を秘めた【睡眠欲】の使徒には……到底通用しないのだろうが。

 

 

 

「……沈んだ?」

 

「みたい。ラニ呼んで……ついでに護衛代わってきて」

 

「おいおい……われ斥候(スカウト)ぞ? 魔法使い殿は無茶をおっしゃいますなぁ」

 

「そこは『他愛なし』って言わないんだ?」

 

 

 

 苦笑しつつも斥候(おれ)は大穴へと消えてゆき、数瞬の後に白亜の全身鎧が跳び上がってくる。

 その小脇には身を縮めている野兎の少女が抱えられ、その後ろには斥候(おれ)が続いて姿を現し、周囲を駆け回りながら【対魔物用防御陣地(セイフティゾーン)】をテキパキと形成、加えて念には念をと【魔物忌避剤敷設(ホーリィシンボル)】も焚いていく。

 

 ……まぁ確かに、べつに一階にこだわる必要は無いもんな。遮蔽物や障害物の少ない屋上ならば、見通しも良い。

 仮設とはいえ安全地帯は確保できたし、『獣』や『鳥』程度の脅威度(レベル)ならば、この防御陣地を貫くことはできないだろう。

 

 

 

『ドコにする? カスガイさんとこかフツノさまか』

 

囘珠(まわたま)で。モタマさまのところに」

 

『おぉ? ちょっと意外。……まぁいいや。我は紡ぐ(メイプライグス)繋門(フラグスディル)】』

 

「ありがとラニ。じゃあ追手が来る前に行ってくるわ。朽羅(くちら)ちゃんを頼むぞ、斥候(おれ)

 

「まかせとけって。主戦力が他に居るなら話は別よ」

 

 

 

 自身に強化(バフ)魔法を施し、ぐったりと意識の無い【愛欲】の使徒を背に担ぎ、おれは『大神』モタマさまが座す囘珠宮(まわたまのみや)へと飛び。

 

 こうして……魔王の手勢の身柄を確保することに、とりあえずは成功したのだった。

 

 

 



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448【晴天霹靂】捕虜一名

 

 

「なるほどねぇ…………それでお母さんを頼ってくれたのね」

 

「…………申し訳ありません。モタマさまがお忙しいって、わたしも知っているのに」

 

「うふふふふ~~。大丈夫よ、大丈夫。最近知り合った可愛らしい()()()()()()のおかげでね、囘珠(うち)今とっっっても、えーっと…………いけいけどんどん? ……なんだから!」

 

「お、おぉー……そんなすごいお知り合いが居られるんですね。さすがです」

 

「…………うふふふ。そうでしょそうでしょ! お母さんすごいんだから。どうする? 若芽ちゃんも囘珠(うち)の子になる?」

 

「そっ、それは、その…………えーっと、あの……」

 

「…………冗談よ、冗談。……うふふ、ごめんなさいね。囘珠(うち)を頼ってくれたことが嬉しくって」

 

 

 

 ラニの【門】を借りて囘珠宮(まわたまのみや)第零会議室横へと飛んできて、金鶏(きんけい)さんを少々荒っぽい手段(全方向への魔力放射)で呼び出して、祭壇のある純和室へと()()ともども通していただき……おそれ多くもモタマさまへとお目遠しの機会を賜りまして。

 

 現在おれはこうして……相変わらずの可愛らしさを振り撒いてる最高神の一面『鼎恵(かなえ)百霊(もたま)世廻(よぐりの)(みこと)』その(ひと)と、言葉を交わさせて頂いているわけでございます。

 

 

 

「それで……要するに、その子が()()()出来ないようにしちゃえばいいのね?」

 

「……そうですね。正直いって、あまり気乗りがしないのは確かなんですけど…………でも、その子は」

 

「野放しにしておくには、ちょーっとばかし厄介なのよね。……いいのよ、若芽ちゃん。そういうのは本来、神様(おとな)の役目なんだから。お母さんに任せなさい?」

 

「…………ありがとうございます。モタマさま」

 

「うふふふ~~。……囘珠(うち)の子になりたくなった?」

 

「正直、ちょっとだけ。……ちょーっとだけ」

 

「も~~若芽ちゃんってばも~~!! 可愛いんだからも~~!!」

 

 

 

 

 以前おれたちがお力添えを頼んだ際、モタマさまは『布都(フツノ)ちゃんの紹介ならいいわよ』とアッサリ二つ返事で要請を呑んでくれたのだが……その中には【隔世】の奏上を担当する(なつめ)ちゃんの派遣の他に、幾つかの内容が込められていた。

 

 そのうちの一つこそが……敵対者の拘束に関する協力。

 神様に狼藉を働いた呪師(まじないし)や、()()()をしてしまった神使に反省を促すための……魔力(ここでいう神力)に類する異能の行使を阻害する、特殊な『座敷牢』の提供である。

 

 

 この宮の主である『鼎恵(かなえ)百霊(もたま)世廻(よぐりの)(みこと)』の手によって、直々に【神力霧消】の結界が施された六畳ほどの和室。

 入り口にはおれの腕よりも太い角材で頑丈な格子が作られ、窓も外の見えない天井付近に採光窓があるばかり。外からの施錠によって出入りが制限される構造はまぎれもない軟禁用の造りでありながら……入り口の格子の向こうにはミニキッチンやユニットバスや布団一式が備え付けられた、居住性のそれなりに高そうな設えである。

 

 窓から外が眺められず、部屋から出ることができないながらも……ワンルームの賃貸物件かビジネスホテルかと言われても、納得できてしまいそうな『牢』だった。

 

 ……少なくとも、おれは住める。

 

 

 

 というわけで。

 もともと『神力持ち』を軟禁するために用意されていた特注のお部屋に、昏睡したままの捕虜を運び込む。

 監視とお世話は囘珠(まわたま)の方が請け負ってくれるらしいので、あとはお任せでいいらしい。

 ……いや、本当ありがたい。女の子のお世話とかおれ無理だが。

 

 相変わらずぐったりとしたままの彼女は、幼げな見た目とは裏腹に危険きわまりない存在である。

 授けられたその異能【愛欲】に違わぬ妖艶さ……いや、幼艶さを醸し出しているが……今度こそ、その見た目に惑わされるわけにはいかないのだ。

 

 

 主義や主張や所属や来歴、異能を授かるに至った経緯、立場や下された命令の内容など、擁護すべき点は少なからずあるとはいえ。

 彼女の手によって引き起こされた事故によって……到底看過できない被害が生じてしまったのは、紛れもない事実なのだから。

 

 

 

………………………………………

 

 

 

 

「……()()()()ありがと、ラニ。……あれ、もう片付いた?」

 

『まぁね。斥候(ノワ)が意外とよくやってくれたよ』

 

「いやムリムリ。正面切っての殴り合いとか斥候(おれ)に務まるわけないって。罠とか道具とかラニの武器とか使いまくって()()()だったって」

 

「いや助かったよ。安全地帯とか」

 

「その通りに御座いまする! すばしっこいわかめどののお陰で、奏上に際しての安心感が段違いに御座いました! 小生からも……荒祭(アラマツリ)様からも、お礼をば!」

 

「いえいえー。……うん、ちゃんとお礼言えるようになったんだね朽羅(くちら)ちゃん。えらいぞー」

 

「えへっ、エヘへぇー!」

 

 

 

 囘珠(まわたま)さんの座標指針(マーカー)に開いてもらった【門】から、おれが再び現場へと戻ったときには……既に勇者(ラニ)斥候(おれ)の手によって、敵の駆除は完了していた。

 そんなに長い時間掛けたつもりは無かったのだが、厄介な部分を全部押し付けてしまった形になる。……申し訳ない。

 

 周囲一帯からは『獣』たちの反応が消え失せたので、朽羅(くちら)ちゃんの【隔世】も解除されたようだ。

 周囲にはいまだに煙がくすぶる工場の残骸と、駆けつけた消防や警察車輌の赤色灯。おれたちが今いる屋上は下から見えないが、ヘリとかが飛んでこないとも限らない。撤収は早めに済ませた方がいいだろう。

 

 

 

「んじゃそういうことで。斥候(おれ)そろそろ(かえ)るから」

 

『ありがとね斥候(ノワ)。後でお礼してあげるから』

 

「あー……楽しみにしてるね。……んじゃ、帰ろっか。ハンバーグが待ってる」

 

「うぅぅ……小生もうおなかぺこぺこにて御座いますれば、これは是非ともご褒美のいちごを所望する次第にて!」

 

 

 

 地上部分に集まっている人たちに気づかれないように……斥候(おれ)の身体を召喚解除し、思考リソースを元に戻す。

 ほんの数十分の出来事だったが……これまでとは比べ物にならないほどの大きな変化を強いられる、重要な事件だったのだ。

 

 今後おれたちが取るべき手段は。選択肢は。それに必要なことは。

 考えることはとても多くあるけれど……とりあえずは、身近なところからだな。

 

 

 

「いちごかぁ……今夏だからなぁ……フルー○ェでいい? 今度買ってくるよ」

 

「ぅえっ!? そ、そ、そん、っ…………よ、よもや……応じていただけよう、とは……」

 

『我々『のわめでぃあ』は、働きにはきちんと報いるホワイトな職場なのさ。……だからね……今後も期待してるよ? クチラちゃん』

 

「っ!! …………はいっ! この小生めにお任せくださいませ!」

 

(……実際に【隔世(カクリヨ)】奏上してるのは荒祭(あらまつり)さんって話だけど)

 

(それは言わないであげて。せっかくいい顔になったんだし)

 

 

 

 ご褒美の約束を取り付け、にこにこ笑顔になった朽羅(くちら)ちゃんを引き連れ、あとのことは春日井さんたちに任せておれたちは帰還する。

 現場検証や調査もこれからなのだろうけど……それよりなにより、霧衣(きりえ)おねえちゃんの手作り晩御飯が待っているのだ。これは最優先だろう。

 

 

 ……いや、ちゃんと報告はしますが!

 

 

 



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449【現状報告】この後どうしますか

 

 

『…………すみません、もう一度お願いします』

 

「神様に頼んで牢屋に入れて貰ったので、もう悪さ出来ないと思います」

 

『………………神様、とは……比喩では無いのでしょうね、恐らく』

 

「そうですね。二拝二拍手一拝する感じの神様です」

 

『……………………』

 

 

 

 春日井さんからの緊急連絡から始まった、一連の騒動(の一言で片付けるには色々とありすぎたのだが)を乗り切った、その晩。

 おれたちは普段通りを心掛けて霧衣(きりえ)ちゃん手づくりの夕食をいただき、普段通りを心掛けて片付けを済ませ、普段通りを装って自室へと戻り……こうして勤めを果たすべく、春日井室長さんに報告を行っていた。

 

 主な内容としては……『現場に出た『特定害獣』駆除の完了』『主犯格と思しき少女の捕縛・拘束』『その所在および現在の状況』といったところだ。

 さすがの春日井さんでも、連行先がほかでもない『神様』のところって聞いたときには、戸惑いを禁じ得なかったようだ。ふふん。

 

 

「とりあえず、魔法使って抵抗される心配は無さそうです。囘珠(まわたま)さんの神使……あーえっと、専門家の方々も協力してくれるらしいので、事情聴取は出来ると思います」

 

『助かります。情報に目を通した限りでは……我々だけでは到底手に負えない相手ですので』

 

「……もし、よろしければ…………わたしかラニが同席しましょうか? ……専門家ってわけじゃないですけど」

 

『そうですね……取り敢えずは、お気持ちだけ。あまりにも手に余るようなら、改めてご相談させて頂ければと』

 

「了解しました。……『魔王』がわの対応が気掛かりです。何かあったら遠慮なく声を掛けてください」

 

『重ね重ね、ありがとうございます。……そう言って頂けると、非常に心強いです』

 

 

 

 伝えるべきことをすべて伝え終えて、通話を終了する。

 取り調べに関しては部外者のおれがしゃしゃり出るより、本職である春日井さんたちに任せたほうがいいだろう。

 

 情状酌量の余地もあるだろうけど……今回のことは、損害の規模が規模だ。

 無罪放免というのは、さすがに少々難しい。

 

 

 

「……どう思う? ラニ」

 

「…………ステラちゃんは、メイルスにとって有用な手勢のハズだ。そのまま大人しく諦めるとは……到底考えにくい」

 

「だよねぇ。…………となると」

 

「……シズちゃんか」

 

「もしくは、()()()()か。…………うわ、言ってて思ったけどやばくない?」

 

「やばいね」

 

 

 考え得る最悪のパターンとしては……勇者(ラニ)をもってして『非常に危険』と評する【食欲】の使徒と、マトモな攻略手段が皆目見当つかない【睡眠欲】の使徒が、二人同時に襲ってくるということ。

 

 あの二人に真正面から喧嘩を売られたら、正直いって勝てるかどうか怪しい。

 たとえ騎士(おれ)が防御を固めたところで、あの【食欲】の侵食力に果たして抗えるかどうか。守りの上から囓り取られることだって有り得る。

 そして【睡眠欲】に至っては……例によって対処不可能の昏睡誘引が厄介だ。こちらが『睡眠』を必要とする生命である以上、抗いきれる保証はどこにも無い。

 

 

 おれたちが先んじている点といえば、捕虜の収監場所があちらに露見していないという点だろうか。

 現場からラニの【門】によって、人目につかぬように囘珠(まわたま)さんへと移送を行ったのだ。たとえ救出作戦を企てていたとしても、どこに捕まっているのかがわからなければ行動しようがないだろう。

 

 つまりは……すぐに反撃が始まるわけではない。

 …………たぶん。

 

 

 

「……とりあえず、いつでも行動に移せるように……覚悟だけはしとくよ」

 

副業(コッチ)に掛かりっきりにならないようにね。本業(アッチ)もまた騒々しくなるし……団体さんの来客、近いんだろ?」

 

「…………そうだね。 水曜日に一回『にじキャラ』さんトコ行って、オリエンテーションっていうか説明させてもらうかたち。そこで資料と見積書出そうかなって」

 

「なるほどねぇ……その資料ってボク見て平気?」

 

「んー無理。まだできてないから」

 

「えっ?」

 

「まだできてないから」

 

「…………………」

 

「…………しかたないの!! 作ろうとしたら緊急事態だったの!! おれは正義の魔法使いだから!!」

 

「あーあー、ごめんね。そうだね、ノワはえらい。ノワがんばってる。ノワいいこ。ノワかっこいい。ノワえっち。ノワやり手配信者(キャスター)。ノワかわいい」

 

「うん。…………うん?」

 

 

 

 晩ごはんとお片付け後のこの時間は、わが家では各々が気ままに過ごすフリータイムとなっている。

 一階のリビングでは本日の功労者である朽羅(くちら)ちゃんが、霧衣(きりえ)ちゃんと(なつめ)ちゃんに駄々甘えしていることだろう。

 

 まぁそんな中、おれたちは作業部屋(スタジオ)でおしごとに取り掛かるわけだが……たとえ別室で過ごしているとしても、同じ屋根の下であの子たちが過ごしているというだけで、こんなにもモチベーションが上がってくる。

 単身者世帯で、一人孤独で黙々と作業に没頭していたときとは……意欲も効率もまったく違うのだ。

 

 

 

「邪魔じゃなかったらさ、ボクも見てていい?」

 

「いいよお。むしろおれだけだと抜けがあるだろうから、意見ほしいかも」

 

「えっ? ノワで()()だって?」

 

「抜く竿が無いでしょラニちゃん……」

 

 

 健全な美少女たちにはとてもとても聞かせられない無駄話に興じながらも、おれは愛機(PC)を立ち上げてキーボードを乱打していく。

 文章がどんどんと打ち込まれ、膨大な写真データから適切なものがピックアップされ、完全会員制『わかめ沢キャンプ場(仮称)』の施設案内がどんどん形になっていく。

 

 

 コテージ(未満の休憩小屋)あり。屋外炊事場(未満の屋根下作業スペース)あり。テントサイト(にも使える広めの砂地)あり。水洗トイレあり(※当日までに完成予定)。温泉街徒歩(でもなんとか行けなくもない)圏内。二十四時間警備体制・コンシェルジュ((カラス)天狗)あり。

 

 こうして見ると、設備と環境はなかなか揃っているように思える。

 ただし炊事場をはじめ、まだ充分とは言いがたいものも幾つかあるので……水洗トイレを仕上げるついでに炊事場シンクや調理台、かまどスペースなんかも可能であれば整えたいところだ。

 

 

 そのあたりもふまえ、『現在の設備』と『当日までに整える設備』を記載しておけば……まぁ、あとは当日のおれの(ベシャ)り次第だな。

 最悪も最悪、このおうちの各種設備を解放すれば……まぁ、なんとかなるだろう。

 

 

 

「たのしそうだねぇ」

 

「そうだねぇ」

 

 

 打ち合わせから実行予定日まで、二週間程度は時間があるハズだ。

 なのであとは先方からの要望を可能な限り酌んで、当日までに設備拡充に務めていこうかと思う。

 

 単純に楽しみだし……正直、そこそこの収入が見込める催しなのだ。

 副業も慌ただしくなってきているが、こっちも是非とも気合を入れ……成功させたいものだ。

 

 

 



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450 あの世界を救うために

 

 

「…………『リヴィ』が……帰っていない?」

 

「…………、…………! ……、……!!」

 

「心配は解るが……落ち着いてくれ、『アピス』。…………『ソフィ』は、何と?」

 

「………………、…………。………………」

 

「成る程、さすがあの子は行動が早いな。……あの子にしては、少々働き過ぎな気もするが」

 

「…………? …………、…………」

 

「……そうだね。そもそも『ソフィ』の()()は『充分な休眠』であった筈だ。…………その望みを反故にしてまで、あの子は……私の指示以上に、働き過ぎている」

 

 

 

 

 浪越市中心部の某所、一等地に聳え立つタワーマンションの某上層フロア。ここは富裕層向けの分譲マンションの、以前よりも静けさを増したリビングスペース。

 そこは今や、都会的で小綺麗な内装を台無しにする程に多種多様なゴミで溢れ……見る影もなく荒れ果てていた。

 

 

 そんな混沌に沈むリビングにて向き合う、初老の男性と幼げな少女。

 不安を隠そうともしない少女の、声にならない嘆きに応えるのは……『魔王』メイルスをその身に宿す、彼女達の保護者。

 

 その名を、山本五郎。

 末期癌にその身を侵され、世間から見放され、自らが育て上げた会社の経営からも一度は追放されたものの……病から奇跡的な回復を果たし、自身を放逐した筈の経営陣()()()()()()()を得て、華麗に経営の第一線へと返り咲いた……異様ともいえる経歴を持つ『経営の神』。

 

 

 渋面を覗かせる老人と、悲痛な面持ちの幼げな少女。

 その二人を今まさに悩ませていることこそが……『仕事』を与えた()()()()が一夜開けても帰還せず、また連絡も取れない状況にあるという現状である。

 

 

 

「…………もどった。……おまたせ」

 

「……おかえり、『ソフィ』。無事で何よりだ」

 

「…………!! ……、…………!?」

 

「ん。…………現場周辺には、見当たらない。……だけど……『仕事』は、ちゃんとやってた。……貯まってた魔力、予定どおり……ちゃんと拡散」

 

「任せた『仕事』は問題無く済ませた。その後に、何らかの事態に巻き込まれたか…………或いは」

 

「ん。……痕跡、不自然に途絶えてる。……たぶん…………『勇者』に、捕まった」

 

「!? …………、……!!」

 

 

 

 ソファの上を占拠していた包装ゴミを払い落とし、帰宅したばかりの少女がその身を預ける。

 幼さ残る小さな唇から紡がれた、彼女の『妹』に関する調査結果は……この場にいる者たちが最も懸念していた、まさにその状況であったらしい。

 

 行方知れずの少女が携わっていたのは……『魔王』メイルスが画策している計画を、大きく進める重要な一手。

 この世界この国に『魔力』を広く厚く拡散させるために、人為的に造り出した『魔力溜まり』を炸裂させ、その魔力爆発の圧力で魔力を広域に拡散させる。

 他に魔力由来の現象が存在し得ないこの世界であれば、環境魔力や地脈によって減衰されることはほぼ無い。ひとたび指向性を付与されれば、大気分子の動きや風に影響されずにゆっくりと、しかし着実に拡がっていく。

 

 当初の目的こそ、予定通り事を進めたようだったが……しかし待ち受けていたのは、手勢のひとりが敵の手に落ちたという事実。

 

 

 

「…………ボクの、失態。……すてらの回収まで、ボクが受け持つべきだった。…………一ヶ所ずつ、確実に、万全で……潰すべきだった」

 

「いや…………状況を俯瞰した上で、最終的な決定を下したのは、私……()()()()だよ、()()。……大丈夫だ、()()()()()()()()

 

「…………ごめん。……ありがと、()()()

 

 

 

 

 

 山本五郎の中に巣食う『魔王』が望みを果たすための、その前提条件は……ふたつ。

 

 

 ひとつはこの世界が魔力で満たされ、人々を魔力に適応させること。

 

 そしてもうひとつは……【門】を開くための()()を確保すること。

 

 

 このうち魔力のほうは概ね計画通り、右肩上がりに増えていっている。カモフラージュとなる天然の魔物も、このペースだと近いうちに自然発生し始めるだろう。

 そうなれば、あとは時間の問題だ。『魔物』に対する対処を人々が学べば、異世界に送り込むための準備は整う。

 

 しかし、もう一方。【門】を開くための、充分な魔力を溜め込んだ人柱については……用意していた人柱(使徒)三名のうち一名は敵の手に落ち、一名は魔力を大幅に減じている現状だ。

 浪費してしまった魔力は『望み』を果たさせることで回復させるとして……しかしそれでも、手元に残るのは二人分。

 溜め込める魔力は……当初の計画の、ほんの七割程度。

 

 

 このままでは……計画に支障を来す。

 計画を進めるためには、何らかの対策を打たなければならない。

 

 敵の手に落ちた『リヴィ』を見つけ出し、回収するか。

 もしくは……喪失した『リヴィ』の代替品を、急ぎ工面するか。

 

 

 しかし……そんな事実は。そんな計画は。

 人柱本人たる娘たちは……当然、知る由もない。

 

 

 

「『ソフィ』…………拐われた『リヴィ』の所在は、判らないのか?」

 

「……探そうと、思えば…………ボクの【明晰夢(ルシッドドリーム)】なら……警察署、こっそり潜り込める……けど」

 

「相応に魔力を消費する、か。…………難儀なものだ。大気中の魔力を直接使えれば、どれ程楽なことか」

 

「……ボクが使う、には……まだ……濃度が、薄い」

 

「そうだね。……この程度の濃度じゃあ、まだ使()()には到底足りぬ」

 

 

 

 山本五郎は顎に手を当て、暫し考えると……自らの行動目標に、新たな項目を追加する。

 自身の持つ企業(チカラ)仲間(コネ)を有効に活用し、自身の計画の軌道修正を図るための応急処置を、内に潜む『魔王』監修のもとで次々に立案していく。

 

 たとえば……今や主力産業と化した独自素材『含光精油』を活用した、即効性の魔力充填用薬剤――いわゆる霊薬(ポーション)――の精製。

 これまでは魔力を回復させる需要など存在し得なかったが、今後は違う。

 

 これから先、幸いにして魔力に適応することができた人類用の……()()()へと放り込むニンゲン共に宛がう用の、各種装備品や消耗品。

 『ソフィ』の濃い疲労は……それらの製造に舵を切る、いい機会と言えよう。

 

 

 

 『人柱』の魔力補填のほうは、()()()()で問題ないだろう。

 そしてもう一方、()()()の確保に関しても……幸い、ある程度は目処がついている。

 

 

 

 

 

 親愛なる【天幻】の勇者、ニコラ・ニューポート……変わり果ててしまった彼が従者として引き連れている、長命種の雌個体。

 アレは……自らが仕立て上げた使徒にも勝る、極めて優秀な材料であると。

 

 

 

 その『材料』を確保するための好機が、着々と近づいているということを……『魔王』は知っていた。

 

 

 

 



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451【大口商談】二足のわらじエルフ

 

 

「…………えー、以上がですね、わが『わかめ沢キャンプ場(仮称)』の施設概要と、今回ご提案させていただくプランの概要となります。……ご質問はございますでしょうか?」

 

「では、僕から二点ほど。まず今回の『実在仮想(アンリアル)林間学校』においては、何名か撮影用スタッフを帯同させたいと考えてるのですが……近くに食事が摂れる飲食店、またはコンビニ的なものはあるのでしょうか?」

 

「近くの……えっと、徒歩で十五分くらいいった温泉街に食事処は幾らかあるので、そこで食べることは出来ます。あとは交渉と予算次第でしょうけど、お弁当を作ってもらうことも出来るかもしれません。テイクアウトもやってるっぽいので。……コンビニはですね、無くはないんですけど、温泉街の南がわ入り口のほうなので……徒歩だと三十分くらいですかね。車なら全然近い距離です」

 

「……なるほど、大丈夫そうですね。ありがとうございます。……では、もう一点。…………若芽さんが私的に整えたところにお邪魔する身ですので、大変失礼な物言いになってしまうのですが……」

 

「いえいえ、大丈夫です」

 

「……すみません。…………演者(タレント)組とは別に……撮影スタッフがテントを張れるような場所は、確保できるのでしょうか?」

 

「……………………あっ!!」

 

 

 

 まだまだ残暑も厳しい、本日は九月九日の水曜日。

 今月末に迫った『実在仮想(アンリアル)林間学校』に向けて、おれたち『のわめでぃあ』経営陣は『にじキャラ』首脳陣との打ち合わせに望んでいたのだが。

 

 ……さすが、こういったイベントを数多くこなしている超大御所事務所なだけはある。おれたちが気づかなかったような着眼点というか、計画の『抜け』をきっちりと探しだし、指摘してくれていた。

 

 

 

「えー、っと……そうっすね、最悪『おうち』に滞在して頂くことは可能かと思います。そちらのハデスさん始め『なかゲ(なかよしゲーム)部』の方々にご提供頂いた布団が十セットあるので」

 

「アッ、ごめんなさい……九セットです」

 

「九セットあります。えーと……広さも十畳が二間(ふたま)あるので、まぁそんな窮屈でも無いかなと」

 

「…………例えば、ですが……その二間を全日程、五日間の間、当方で借り上げることは……」

 

「んー、ふすまの向こうでうちの子たちが騒ぐかもしれませ…………十中八九騒ぎますが、それでも大丈夫なようでしたら……」

 

「嵩張る機材を置いといたり、あとはPC広げて出来るトコから編集進めたい……ってコトっすよね? 大丈夫みたいです。当然電源もお貸し出来ますし、回線もそこそこの速さの光が引いてあるんで、作業には困らないと思います」

 

「おぉ……至れり尽くせりですね。助かります」

 

「あとオプションプランで霧衣(きりえ)ちゃんがおにぎり差し入れしてくれるプランなんかも」

 

「見積りお願いできますか?」

 

 

 

 所属配信者の一人であるミルク・イシェルさんの件もあり、半ば『共犯者』であるところの『にじキャラ』さんとの打ち合わせは……幸いというべきだろうか、こちらの手の内をよく知っている配信者さんが多く居たこともあってか、非常にスムーズに進んでいく。

 

 ハデスさまやティーリットさまを始め、大御所配信者さんがおれたちのことを気に入ってくれたというのが、とても大きい。

 今回ふたたびわが家(の近くの私設キャンプ場)に遊びに来れるということもあって、その盛り上がりもひとしおなのだとか。

 一度遊びに来たことがある方々は、やはり皆さん楽しみにしてくれているのだというし……今回始めて遊びに来る方々は、それはそれは期待に胸を膨らませてくれているのだという。

 

 

 滝音谷(たきねだに)温泉での『なかゲ部』狂渦(きょうか)合宿のときは、カメラの回っていないところで遊びにいったり遊びに来てもらったりもしたのだが……そのときよりも更に更にパワーアップしているのだ。

 一見さんはもちろん、常連さんにも喜んでもらえるように、当日までにバッチリ施設を仕上げなければならない。

 

 

 

「…………ではキャンプ場の使用に関しては、こちらの見積書で進めさせていただきますので……お手数ですが、十畳間を二間(ふたま)と……霧衣(きりえ)さんのおにぎりを加えた見積のほうをですね、改めてお願いしたいのですが……」

 

「ン゛フッ。……差し入れプラン重要ですか」

 

「超重要ですね。実はスタッフにガチ恋勢が居まして」

 

「き、霧衣(きりえ)ちゃんはわたしの嫁なので渡しませんが! ……失礼しました。二間(ふたま)のほうは、一日あたりこれくらいでいかがでしょうか。のべ五日間で…………あ、電源と回線利用と、あとおトイレとか水回りとかぜんぶ込みで、これくらい」

 

「ははは……冗談でしょう。一部屋ならまだしも、二部屋でこの金額は有り得ませんって。……()してください、()

 

「んェっ!? ばば、倍はちょっとデカすぎやしません!? じゃじゃじゃじゃあ……ポッキリ! ポッキリで!」

 

「……それでも相場の半値以下な気がするのですが……若芽さんが良いと仰るのなら、お言葉に甘えましょう」

 

 

 

 おれにとっては、普段は正直持て余し気味のお部屋が収入になるというだけでおったまげなのに……五日間の貸しきりとはいえ、こんな額のお金に化けるだなんて。

 

 しかし元はといえば、おれがスタッフさんたちの滞在を全く考えていなかったばっかりに、先方はこうして余計な出費を強いられる羽目になったのだ。

 ならばせめて、滞在中はスタッフの皆さんが不便を感じることの無いよう、誠心誠意おもてなしさせて頂かなくてはならないだろう。

 

 

 そして勿論、キャンプ場利用の配信者(キャスター)の皆さんも、だ。

 水洗トイレと屋外シンクと炊事場に関しては、当日までに完成させると宣言してしまった。もう後には引けない(引く気はないが)。

 

 

 

「すみません……色々とご指摘やお心遣いいただき、ありがとうございます。ご満足いただけるよう頑張って準備します」

 

「いえいえこちらこそ。本当正直なところ、渡りに船でした。あの子たちを屋外でのびのび撮影させてやりたいんですが……如何せん、周囲の視線が」

 

「大騒ぎになるでしょうね……皆さん大人気ですし、知名度も高いでしょうし」

 

「それもそうなのですが……特に、ウィルムさんがですね……」

 

「あー…………なるほど。日本の山中で『邪龍』なんて出たら……」

 

「下手したら猟銃持ったおじさんたちが出動する騒ぎっすよね……」

 

「そういうことです。……部外者を完全にシャットアウトできるのは、非常にありがたい」

 

「恐縮です」

 

 

 

 その後も打ち合わせは順調に進んでいき、大まかな進行と主だった演目などが決まっていった。

 あとはそれら演目に伴う必要物の調達リストや、スタッフさんのお弁当の金額なんかの細部をいろいろと詰めていき……やがて双方『問題ないだろう』との合意のもとで、正式に契約を締結するに至った。

 おれの(借りている)おうちのお庭で、おれたち(というよりは主に『おにわ部』)が作った施設で、おれの『推し』たちがたのしいひとときを過ごすのだという。……それだけでもう、おなかいっぱいだ。

 

 現代日本にはそぐわない容姿の、しかし現代日本に存在する次世代の配信者(キャスター)

 多くの人々に『たのしい』を提供する、そんな『たのしい』皆さんの手助けになれるのなら……この程度の労力、お安いご用である。

 

 

 当日までは、およそ二週間。気を抜いてるとあっという間だ。

 

 がんばりどころだ……気合いいれてくぞ!

 

 

 



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452【決戦前夜】鬼が出るか少女が出るか

 

 

 おれたちが、とある一人の少女を捕縛してから……つまりは『とある爆発事故』が発生したあの日から、三日目のこと。

 囘珠(まわたま)金鶏(きんけい)さんから『あの子が目を覚ました』との報告が、おれたちのもとへと届けられた。

 

 囘珠宮(まわたまのみや)の中枢神域区域に位置し、超常たる異能の行使を阻害するための結界が張られた座敷牢、そこに収監されている人物こそ……『とある爆発事故』を引き起こした張本人。

 この世界の侵略を企てる『魔王』の、その使徒たる少女である。

 

 

 ……ちなみに、例の爆発事故…………多くの人々に炎と煙を見られ、また現場となった工場に勤めていたのはあくまで一般の方々であったということもあり、さすがに隠蔽しきるのは無理であると判断されたようで。

 しかしそこは報道規制と情報統制をバッチリ利かせ、とりあえずは『レウケポプラの栽培および燃料としての高熱量ペレット普及を快く思わない石油利権関係者による犯行』といった筋書で、実在しない人物を容疑者としてでっち上げる方針らしい。

 

 そちらのほうの『演出』に関しては、名護屋河(なごやがわ)署長はじめ警察署の方々がなんとかしてくれるだろう。

 なのでこちらはマスコミやら世間の声やらを気にすることなく、じっくりと取り調べに臨めばいい……ということらしい。

 

 

 ……まぁ、あくまで一時しのぎ……時間稼ぎの対処のようなので、なおのこと事情聴取が重要になってくるわけだな。

 

 

 ともあれ、三日間昏睡したままだった容疑者の意識が回復したこともあって。

 『魔王』の行動および目的に関して、極めて重要な手懸かりを秘めているであろう彼女の取り調べが……春日井室長たち特定獣害対策室によって、ついに始まろうとしていたのだった。

 

 それに伴い、『専門家』であるおれたちにも協力の要請が下ったわけなのだが……前向きだったおれたちの前に立ちふさがったのが、容疑者が軟禁されている場所の『特殊性』だった。

 

 

 

「………………そうじゃん、魔法使えないじゃん。ボク鎧着れないし……それどころか、翔べないじゃん……」

 

「うーわ、そうじゃんおれも【隠蔽】とか使えないじゃん。……ぇえ…………どうしよ」

 

 

 魔王使徒の抵抗を封じるための、神力(魔力)現象封印の結界。それは座敷牢たる部屋を中心に展開されているため……その範囲内へと踏み込めば、当然おれたちにも効果を及ぼす。

 正体バレを防ぐための【隠蔽】系統は使えないし、ラニも鎧を着込んで動かすための【義肢】はおろか、常用している【飛翔】魔法も使えない。

 ……まぁ、そうでもしないと拘束・無力化できないとはいえ……つまりあの子の事情聴取に同席するには、偽りのないおれ()()()()を晒さなければならないのだということであり。

 

 

 おれの正体を知らなかったとはいえ……敵対する関係にありながらも、それでも配信者(キャスター)木乃若芽(きのわかめ)』とその活動を応援してくれていた、親愛なる視聴者である彼女……佐久馬(さくま)(すてら)ちゃんに。

 これまで彼女の活動のことごとくを妨害してきた、忌々しい仇敵の正体が……自身が応援していた相手だったのだという、残酷な事実を。

 

 自分が応援してきた存在が、自分の存在意義の全てを否定する存在なのだということを……はっきりと突き付けることになるのだ。

 

 

 

 

「………………仕方がない……のかなぁ」

 

「ノワ…………」

 

「…………しょうがないよ。おれの個人的な感情で、得られたはずの情報を捨てるのもばからしいし。……それに一度、腹を割ってお話ししてみたいし」

 

「お話……あの子と?」

 

「うん。……面倒見が良くて、社交性もあって、やさしい心を持ってる(すてら)ちゃんが……一体どうして、この世界の敵である『魔王』なんかに協力してるのか。…………()()を、知りたい。()()はたぶん、春日井さんたちじゃ聞き出せない」

 

「…………ボクたちにも……教えてくれるか、わかんないよ?」

 

「だったら尚のこと、それだけで諦めるわけにはいかない。何度でも何度でも、しつこいくらい通って……ちょっとずつ打ち解けるしかない」

 

「このまま関わらずにいる、っていう選択肢は……無いんだね」

 

「そりゃそうだよ。……あの子だって、あんな異能を授かってるんだから…………全てを諦めて、絶望して、そこを『種』に付け込まれた……()()()()()()()なんだから」

 

 

 

 彼女が活動を開始していたのは……おれたちがミルさんと交友を深める、そのすこし前あたりだろうか。

 つまりはおれやミルさんと同じように、昨年末の大嵐の日に()()なってしまったのだと予測できる。

 おれには『配信者(キャスター)』という心の支えがあったから、こうして道を誤らずに進んで来れたけど……もしボタンをひとつでも掛け間違えていたら、おれが『魔王の使徒』と成り果てていた結末だって……勇者(ラニ)を助けず、逆にトドメを刺していた未来だってあり得たのかもしれない。

 

 そう考えると……(すてら)ちゃんたちのことが、とても他人事とは思えない。

 

 

 ある意味では願望を叶えてくれる『種』ではあるが……その行き着く先は、魔力の生成によるこの世界の環境破壊。

 このまま『魔王』の暗躍を眺めていては、世界をどんな混沌が包んでいくか想像も出来ない。

 

 

 使徒である彼女……(すてら)ちゃんが、おれやミルさんと同様の存在なら。

 そして……使徒でありながら、この世界の行く末を案じる気持ちがあるのなら。

 

 

 おれの話を聞いて、協力してくれるようになるかもしれない。

 

 

 

「やっぱ……決めたよ、ラニ。おれは……(すてら)ちゃんに、全部打ち明ける」

 

「…………気負いすぎないでね。ノワだけが全部背負わなきゃいけないわけじゃないんだから」

 

「ありがとう。……大丈夫だよ」

 

 

 スマホを取り出し、タップしてREIN(メッセージアプリ)を開き……春日井室長の要請に対し、覚悟を決めて返信する。

 そのままチャットで日程の調整を行い、事情聴取の日時が明日の朝九時に決定する。

 

 

 (すてら)ちゃんの説得を早々に完了させ、情報収集と協力の取りつけを早い段階で終わらせてしまい、後顧の憂いを断った状態で『にじキャラ』の皆さんの受け入れ準備に取り掛かりたい。

 水洗トイレを完成させ、炊事場を完成させ、薪や水タンクを用意して、おうちとの間の道をきちんと整えて……やらなければならないこと、やりたいことがたくさんあるのだ。

 厄介なことは、可能な限り早めに……できれば明日のうちに終わらせてしまいたい。

 

 そう願うのは、おれの一方的なわがままなのかもしれないけれど。

 勝手な願いだとわかっちゃいるけど……そう望まずにはいられなかった。

 

 

 

 

 







 しかし、まぁ……これもまたわかっちゃいたけど、世の中そう簡単にはいかないもので。

 事情聴取って、いうてお話するだけでしょ……などと考えていたおれの軽い気持ちを嘲笑うかのように、事態はとんでもない展開へと変貌を遂げてしまうのだった。




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453【説得作戦】失敗



お願い、やらかさないで木乃若芽ちゃん!

あんたがやらかしちゃったら、霧衣(きりえ)ちゃんとの約束はどうなっちゃうの!?

チャンスはまだ残ってる……この説得に成功すれば、(すてら)ちゃんから『魔王』の情報を得られるんだから!!






 

 

 

 ……結局、どう話を切り出せばいいのか、うまく考えが纏まらないまま夜が明けて。

 

 現在のおれはというと、未だ心の準備が整いきっていない心境で……囘珠宮(まわたまのみや)の応接室にて、お茶をいただきながら出番のときを待っていた。

 

 

 

「まったく…………気負いし過ぎるんじゃ無いわよ。少しは肩の力抜きなさい?」

 

「………………すみません」

 

「仮に貴女(あなた)が、あの子の説得に失敗したとしても……誰も貴女(あなた)のことを責めたりしないし、責任を感じる必要なんて無い。私達は、百霊(モタマ)様は、この囘珠(マワタマ)は、絶対に貴女(あなた)を見捨てない。……安心なさい」

 

「…………ありがとう、ございます。……金鶏(きんけい)さん」

 

「お姉ちゃんって呼んで」

 

「…………金鶏(きんけい)、おねえちゃん」

 

「っし!!(ガッツポーズ)」

 

 

 

 春日井室長はじめ対策室の方々は、昨日夜遅くに東京入りしたとのこと。

 昨日は昨日で愛智県警での会議や業務があったらしく、忙しいスケジュールをなんとかやりくりして東京まで出てきてくれたとのこと。……尚のこと、失敗したくない。

 

 現在は一足早く結界座敷牢にて、厳戒態勢のもと事情聴取が始まっているらしいのだが……やはりというか、なかなか難航している様子。

 やらかした事態(こと)事態(こと)なだけに、深く厳しく突っ込まなければならないのだろうけど……しかしそうはいっても、超常の力を振るう使徒とはいっても、容疑者は未だ幼さ残る少女なのだ。

 

 よく刑事ドラマとかでやっているような、成人男性に対して行っているような……大声や怒鳴り声を上げたり(スゴ)んだりといったことは、さすがに出来ないようだ。

 やはりこれは……おれの出番が来ちゃうかたちなのだろうな。

 

 

 

 

 

 

「……失礼します」

 

 

 扉を開けてくれた屈強な男性警官に会釈をし、立ち入ったその部屋。単身者用のワンルーム物件のようなつくりでありながら、ぶっとい木組みの格子で内外を隔てられた一室。

 重苦しい空気が立ち込めているだけではなく……ある一点を境に、明らかに身体が重くなったのを感じる。肩の上で姿を消していたはずの妖精ラニも『ぱちん』と軽い静電気のような音を立てて姿を表し、また浮き上がることさえできなくなったようで、おれの肩に座って襟にしがみついている。

 

 もはや……おれたちの姿を偽るものは、何一つとして存在しない。

 おれたちの正体を一切隠すことができないまま……おれたちは道を違えてしまった『同類』の前へ、その姿を晒す。

 

 

 

 

 おれに向けられた感情は、順に『疑問』、『困惑』、そして……思わずといった様相で立ち上がりながらの、『驚愕』。

 

 やはり……いつものおれの『感情』察知は、半ば無意識に【感情感知】の類の補正を掛けていたということなのだろう。エルフならではの種族特性(パッシブスキル)というのも無くはないのだろうが、少なからず魔法で補正がなされていたらしい。

 いつもよりかは、どこか霞掛かったかのような『感情』の気配だったが……少なくとも今は、表情から感情を推し量るのは難しくない。

 

 

 『警察の事情聴取に変なヤツが現れた』という疑問に始まり。

 『この変なヤツ、どっかで見た気がする』という困惑を経て。

 そして……『何故、どうしてこんな所に『木乃若芽』が』という、驚愕へ。

 

 

 そこから暫くの間は、表情に大きな変化は見られなかった。

 

 あまりにも予想だにしていなかった事態に、思考が追い付いていなかったのか。

 

 

 あるいは……とうに()()()()に辿り着いてしまったけれども、その現実を受け入れたくなかったのか。

 

 

 

「……『魔王』メイルスの……【愛欲(リヴィディネム)】の使徒で、間違いありませんね?」

 

「……………………」

 

「…………あの……」

 

「……なる、ほど……ね。……()()()()()()……だったの」

 

「っ、…………こうして、お会いするのは……初めてですね。…………わたしは……特定獣害対策室、実働部第零機動隊隊長の……」

 

「きの、わかめ…………ちゃん。…………ははっ。そっかぁ……()()()()()()……かぁ」

 

 

 

 大きく目を見開いて立ち竦んでいた姿勢から、力なくベッドへとへたり込み……乾いた笑いを浮かべながら天を仰ぐ。

 その全身・その口調から感じられるのは……決して小さくない、『落胆』の感情。

 

 もう、後戻りは出来ない。

 ここから先は、二つにひとつだ。

 

 この【魔王の使徒】を懐柔し、味方に引き入れるか。

 それとも……完全に袂を分かち、お互い永遠に顔を会わせることさえなくなるか。

 

 

 

「まず…………わたしたちは、あの『魔王』メイルスの手からこの世界を守るために行動しています。もしわたしたちに協力し、この世界を守るために力を貸してくれるのなら……決して、悪いようにはしません」

 

「脅迫のつもり? ……もしあたしが『そんなのゴメンだ』って言ったら? リスク回避にあたしを殺す?」

 

「…………そのときは…………恐らく、その異能を封じさせて頂くことになるかと。あなたの異能は危険なので……さすがに、命を取ることはしませんが……」

 

 

 彼女の所有する、称号にして権能……それは人間(ヒト)の持つ三大欲求のひとつ、【愛欲】の名を冠するもの。

 これまでに垣間見た限りでも、物体・非物体を問わず意のままに随える途方もない力を持ち……その上その異能は単独での潜入や破壊工作さえ行ってしまえることを、今回の件で立証してしまった。

 

 そして……極めつけは。彼女の持つ【愛欲】の、本領とも言えるものは。

 物体・非物体だけに限らず……知性持つ生命すらも、意のままに従えてしまうものであろう。

 

 人の『声』が、良くも悪くも国政に影響を与えるこの国において。

 彼女の異能を放置し、やりたい放題にさせることは……直接的な破壊以上に、危険なものなのだ。

 

 

 

「殺すこと()()()しない、ってことね。お優しいったらありゃしない。…………一生あたしを……この牢の中に、一人寂しく閉じ込める。つまりは、そういうことなんでしょう」

 

「…………あなたの外出が叶うよう、わたしたちも善処を」

 

「冗談じゃないわ。動物園のパンダじゃあるまいし、餌だけ貰って飼われるだけなんて…………孤独な余生なんて、死んでもお断りよ」

 

「では……力を貸して欲しいんです。『魔王』メイルスの侵略から、この世界を守るために。……多くの人々の命を、守るために」

 

 

 

 異能さえ封じてしまえば、ただの美少女である。

 少しどころじゃなく()()()かもしれないけど……こちらとて、世界の命運が掛かっているのだ。

 たとえ卑怯者の謗りを受けようとも、彼女を引き入れなければならない。

 

 こうして、一生の不自由と天秤に掛けられてしまえば……いきなり要求を呑むまではいかずとも、妥協点を探すためにも、こちらの話を聞かざるを得ないだろう。

 

 

 

 

「直接『魔王』と戦え、とは言いません。……ただ、教えてほしい……情報がほしいんです。この世界の侵略者である『魔王』が、いったい何を企てているのか」

 

「……………………………………だ」

 

「えっ……?」

 

 

 

 

 

 

 …………もし。

 もし、おれがあのとき……強引にでも彼女を組み伏せていたら。

 

 そこまでいかずとも、手錠か何かで身体の自由を奪っておけば。

 

 二者択一を迫ったつもりで、実質的な勝利を確信したりしていなければ。

 

 そもそも、この座敷牢に運び入れた時点で気を抜かず……『性的(えっち)な容姿だから』と気後れせず、しっかりと彼女のボディチェックを行っておけば。

 

 

 

 あんな痛々しく、禍々しい光景を……目にする必要もなかっただろうに。

 

 

 

 

 

「――――()()()()!! あたしを…………()()を見棄てて! 否定して! 踏みにじって! 『生きる価値が無い』ッて見限ったアイツらとこの国なんかのために!! 誰がこの身を捧げるもんか!!」

 

「っ!? ちょ……待って、落ち着い」

 

「こんな国に……こんなクソみてェな世界に、()()はなんの未練もありゃしねェ!! 世界が()()()なら万々歳、異世界の()()()()ってんなら……もっと痛快に決まってんだろ!!」

 

「――――――――ッッ!!!」

 

「ノワ止めて! ()()は!!!」

 

 

 

 憤怒の形相も(あらわ)に、幼げな身体で跳ねるように立ち上がった【愛欲】の使徒。

 

 彼女の手に握られていたのは……髪留ゴムの装飾に隠されていたのは、おれが絶対に見間違えるはずの無いもの。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……『()』。

 

 

 

「待てステラちゃん落ち着け! 早まるな!! ()()()()()をすれば……!!」

 

「この国を壊せないまでも、引っ掻き傷くらいは残せんだろ!? 上等(ジョートー)だ!!」

 

 

 

 人間(ニンゲン)に根を張り、この世ならざる異能を貸し与える代わりに理性を融かし、破壊と絶望をばら蒔く【魔物(マモノ)】へと変貌させる()()()()

 

 

 それを。

 

 手にした……それを。

 

 

 

「我が身を喰らえ! 【(コント)(ラクト)(・スプ)(ラウト)】!!」

 

 

 

 …………彼女は、呑み込んだ。

 

 

 

 



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454【制圧作戦】突入

 

 

 おれやラニや、恐らくはミルさんのような……この世界に居ながらにして、魔力を行使する(すべ)を会得した存在。

 

 その()()は、どうやら持ち主の高濃度の魔力が溶け出しているらしく……つまりは、上質な魔力素材となる。らしい。

 

 

 そう……体液。

 つまりは血液だったり、汗だったり、小水だったり……そして、()()()()()だったり。

 

 

 

「退避! 急げ!!」

 

「…………嘘でしょ……なんで」

 

 

 

 長らく休眠していた悪意の種は、高濃度の魔力に触れたことで目を醒まし、目にも止まらぬ速度で急激な成長を開始する。

 魔力現象によるものではなく、植物組織そのものの働きだと言いたいのだろうか。封魔の結界が施されているはずの座敷牢内であるにもかかわらず、『知ったことか』とばかりに物理的な体積を増していく。

 

 やがて混沌の植物組織は宿主を覆い尽くし、自らの内へと取り込み……ついには見上げんばかりの『巨人』と化し、天井に阻まれて窮屈そうに身を屈める。

 

 

 

≪―――遯ョ螻医□縲?が鬲斐□!!!!!!!≫

 

 

 ……いや、さすがにそんな小さな枷で封じられるほど……彼女の『決死』は(ヤワ)なものじゃないのだろう。

 

 歪に捻れた根や蔦が()り集まったかのような、ひどく不格好で不気味な腕を振りかざし……ちっぽけな採光窓しか開けられていない――構造的に脆弱な部分がほとんど存在しない――はずの、鉄筋コンクリート造の壁へと打ち付ける。

 

 

 建物全体を揺るがすような、重く響く衝撃音が……二回、三回。

 

 そして四回目の衝撃音と振動には、金属のひしゃげ千切(ちぎ)れる音や破裂音のような音、そして細かな何かが立て続けに地に落ちる音が続いていき。

 

 

 

 

≪―――繧ャ繧「繧「繧「繧「繧「繧「繧「繧「繧「繧「繧「繧「繧「繧「繧「繧「繧「繧「繧「!!!!!!!!!!!!!≫

 

 

 

 ちっぽけな戒めを強引に振りほどいた黒赤の『巨人』が……聞く者の魂に本能的な恐怖を刻み込む産声とともに、静謐な都心の森へと解き放たれた。

 

 

 

 

「ラニ…………ラニぃ……!」

 

『気をしっかり持って、ノワ。……まだ終わったわけじゃない』

 

「っ、……どうにか出来るの!? なんとかなるの!?」

 

『保証は無い。キミの……いや、ボクらの頑張り次第だよ。……見てごらん』

 

 

 

 

 さすがに都心の神域を守る護り手は、その動きも素早い。今や見上げるほどの巨体となった『巨人』だが……その姿が一般人の目に付くことは無いだろう。

 九月も後半に差し掛かろうかという、よく晴れたお昼前のひととき。不自然に薄暗く妙な静けさに包まれたこの神域は、今や位相を異とする【隔世】へと引き込まれている。

 

 現実世界の……多くの人々の安全を守るため、(わざわい)の原因を引きずり込み、人知れず祓うための特殊結界。

 悪意を閉じ込める檻でもあり、神力を振るうための処刑場であり、おまけに主神の座す神域結界の範囲内であれば。

 

 

 神の御遣い、神域(マワ)り方たる『与力(ヨリキ)衆』も……その力を十全に振るうことが出来るのだ。

 

 

 

≪―――縺医∴縺???ャア髯カ縺励>!!!!!≫

 

『……呆れたタフさね。頭吹っ飛ばす勢いで蹴り入れたんだけど』

 

「えっ!? ……金鶏(きんけい)、さ」

 

『おねえちゃん』

 

「…………金鶏(きんけい)、お姉さん?」

 

『……まぁ良いでしょう、ッと』

 

≪―――縺オ縺悶¢繧?′縺」縺ヲ!!!!!!!≫

 

『うるッさいわね。せっかく良いトコだったっての……にッ!!』

 

「『うぉぉぉ!!?』」

 

≪―――逞帙>繧「繧「繧「繧「!!!!????≫

 

 

 

 石畳の道路を盛大に砕き散らす巨大な拳を、危なげなく『ひらり』と躱し……目映い黄金の羽毛を持った大きな鶏(?)が、カウンターとばかりに跳び蹴りを叩き込む。

 

 たかが鶏の蹴りと侮るなかれ。陽光のような眩い魔力を纏った前蹴りは、地に突き下ろされた巨人の肘にピンポイントで着弾。

 うねった根や枝の走る腕表面を盛大に陥没させ、あっさりとへし折ってみせる。

 

 この手痛い反撃を喰らっては……さすがの『巨人』とて素面では居られなかったのだろう。どこが顔で何が口かも判らぬ頭部から、悲鳴のように耳障りな怪音を轟かせる。

 

 

 

『……ようやく配置に着いたようね。もう大丈夫でしょう』

 

「えっ? 配置…………あっ!」

 

 

 歪な角度に折れ曲がった腕をぶら下げる『巨人』の、その巨体を取り囲むように……おびただしい数の()()()()()()()()が散らばっているのを、今更ながらに気が付く。

 手に手に弓矢を携えた彼ら彼女らは、隊長と思しき者の号令以下、巨大な(わざわい)へ向けて一斉に矢を射掛ける。

 

 おそらく、ただの白木の矢では無いのだろう。

 聳え立つ『巨人』にしてみれば、それこそヒトの髪の毛ほどの存在感しか無い矢であろうが……そんな矮小な刺激とは思えぬほど、あからさまに『巨人』が悶え苦しみ始めているように見える。

 

 

 

『そりゃあ……ね。お母さん直々に加護を籠めた、特性の矢だもんね』

 

「ふぇぁ!!?」「も……モタマちゃん!?」

 

『うふふふ。先日ぶりね、若芽(わかめ)ちゃん。……と、らにちゃん。……それと、足止めありがとうね、金鶏(きんけい)ちゃん』

 

『いえ……この程度』

 

 

 謙遜する金色の神鶏に対し、労うように柔らかな笑みを見せる神様……鼎恵(かなえ)百霊(もたま)世廻尊(よぐりのみこと)

 古式ゆかしい儀装束に身を包んだ神様が、仰々しい手振りとともに唇を開くと……まるで陽の光を圧し固めたかのような温かさを放つ『陽光の(ツタ)』とでも言うべきものが、戦場と化した合歓木(ねむのき)公園のあちこちから勢いよく伸び上がる。

 

 神々しく目映い『陽光の(ツタ)』が、禍々しく赤黒い植生の『巨人』の四肢をガッチリと絡め取り、締め上げ、引きずり倒し……その暴力を無効化する。

 抵抗さえ封じられた『巨人』に対し、引き続き弓矢による制圧射撃が続けられ……見事なまでのワンサイドゲームと化しつつある。

 

 

 

「うっっそ……」「すっっご……」

 

『うふふふふ。布都(ふつの)ちゃんみたいに『切った張った』は苦手だけど……お母さん、悪い子を捕まえるのは得意なのよ。……なんだけど』

 

百霊(モタマ)様、やはりこれでは削りきれません。体組織の再生が予想以上です』

 

『あらあらぁ……やっぱりねぇ』

 

 

 金鶏(きんけい)さんの言葉に我に返り、おれも【魔力探知】を発動。

 するとやはり、体表面の損傷地点に膨大な魔力が流れていっており……雨のような矢による攻撃でも、有効打となるには至っていないようだ。

 

 ならばやはり、おれとラニも戦線に加わり……金鶏(きんけい)さんとともに、一気に畳み掛けるべきなのだろう。

 

 

 あの『巨人』を、跡形もなく……破壊し尽くすべきなのだろう。

 

 

 

 

『うふふ。……()()()よ、若芽(わかめ)ちゃん』

 

「えっ? も、もたま……さま、っ!?」

 

 

 (わざわい)たる『巨人』を滅する覚悟を――あの『巨人』の【魔力核】と成り果てた(すてら)ちゃんごと、跡形もなく消し去る覚悟を――唇を噛み締めながらも決めようとしていた、おれに。

 

 心地よい体温と、柔らかさと、おひさまのような香りが……背後からやさしく覆い被さる。

 

 

 

『……お母さんね、悪い子を正座させるのは、得意なの。どんな暴れん坊でも、怒りん坊でも……お母さんの前だと、こうして大人しくなっちゃうのよ』

 

「…………えっ、と?」

 

『うふふ。……だから、ね。一時間だろうと、半日だろうと。三日でも七日でも、もっともーっと長くても。お母さん、堪えて見せるから、ね。……心配は要らないから…………()()()()()()()?』

 

「……っ!?」

 

 

 

 この国に、世界に対し解き放たれようとしている、危険きわまりない(わざわい)に対して……おれが何を思い、どうしたいと考えていたのか。

 そのことを……声や態度になど出していなかった筈の()()()()を、明言こそせずとも当ててみせ……『大丈夫だから』『手伝うから』『やってみなさい』と、優しく後押ししてくれた。

 

 この、本来ならば最優先で『巨人』を消し去ることが『正しい』のであろう土壇場において、決して『正しくない』選択肢を望んでしまっていたおれのことを……『それでいい』のだと、赦してくれた。

 

 

 

『かわいい娘の『わがまま』だもの。……聞いてあげなきゃ、『神様(おかあさん)』じゃないわよねぇ』

 

「…………ッ、もた、ま、さま……」

 

「モタマちゃん……! 最高! 抱いて!」

 

『いいわよ。……ちゃあんと無事に帰ってきたら、ね』

 

「おほー!?」

 

「……ありがとう、ございますッ!」

 

 

 

 そう……わがまま。

 これはおれの、完全なわがまま……自己満足に過ぎない。

 

 だがそれでも、諦めたくはないのだ。

 諦めたくないし……応援、してもらったのだ。

 

 

 

「覚悟は良い? ラニ。……失敗すれば、アイツのう◯ちになるだけだよ」

 

「ジョートーだよ。成功させりゃ良いだけだろ、ノワ」

 

「……本当に心強いなぁ。期待してるぜ、相棒」

 

「任せとけよ。ソッチこそ頼むぜ? 相棒」

 

 

 おれたちの活動は。

 (すてら)ちゃんの世界は。

 

 

 こんなところで、終わらせない。

 

 



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455【制圧作戦】愛欲

 

 

『さて……じゃあ、私が道を()()ましょうか』

 

「キンケーちゃん? 開くって、どうやって……」

 

『任せときなさい。()()()()()()の対処法なんてのは、古来から大抵決まってるものよ』

 

 

 

 言うが早いか、この囘珠(まわたま)における実働部隊長……神域奉行である金鶏(きんけい)さんは、その輝く大きな翼をはためかせて翔び上がる。

 溢れ出る魔力を隠そうともせず、隠密には全く適していないその黄金の姿で接近すれば……そりゃ当然、あの『巨人』も対処に出るだろう。

 

 モタマさまの『陽光の(ツタ)』にて地に縫い付けられているその身において、ほぼ唯一残された直接攻撃手段……つまりは、巨大な頭部に()()()()と口を開ける顎門による『噛み付き』攻撃。

 食らえば当然、ひとたまりもないだろうが……そう簡単に食らうほど、神域奉行はヤワじゃない。

 

 

 

『……祭事奉納は金鶏(キンケイ)(くら)にて、然るに(くら)には神酒(みき)在りて』

 

 

 ひらひらと挑発するように宙を舞い、威圧的な魔力を発し続ける金色の神鶏。

 

 やがて鬱陶しげに頭部を振り回す『巨人』が、()()()と顎門を開くのを好機と見るや。

 

 

 

 

『貰ったッ! 【岩戸・開(ヒラケ)】!』

 

≪―――縺ェ窶ヲ窶ヲ菴輔□縺薙l縺ッ??シ!!??≫

 

『さぁ……私の秘蔵中の秘蔵、現代の八鹽折(ヤシオリ)、四十度越えの『越後武士(とっておき)』よ。よぉく味わいなさい!』

 

「や、ヤシオリ…………なるほど!」

 

 

 

 

 昔々(むかーしむかし)……まぁ細かいところはすっ飛ばすけど、九つの頭と龍の尾と巨大な翼を持った怪物が居りまして。

 

 その怪物をやっつけるにあたって、かつての大英雄が採択した手法こそが『醸造に醸造を重ねて作った超強いお酒を飲ませて、酔って無力化したところを殺そう』という、それはそれは大変()きょ…………効率的な手法でして。

 

 

 

『あー、()()()()してた頃の布都(ふつの)ちゃんね。お母さんもびっくりしたわぁ、まあ事情も色々あったんでしょうけど……まさか、寝込みを襲おうだなんて……ねぇ?』

 

 

 あぁ……やっぱりそうでしたか。危なかった。セーフですセーフ。

 ……いやさすがにフツノさまとて、そう易々と思考を読んだりはしないだろうけど……なんかこう、本能的な警戒感というかな。

 

 ともあれ……まぁつまり、たとえ神話クラスの大邪龍であっても、アルコールのもつ魔力には逆らえないのだということであって。

 ましてやその(アルコール)が……この日本の現代技術で作られた、トップクラスに『強力』な逸品であり、おまけに奉納品として仕上げるために神様の魔力(神力)を『これでもか』と浴びせていた『とっておき』であったのなら。

 

 手強いとはいえ、さすがに神話に語られる邪龍ほどではない『巨人』が相手なのであれば。

 その効果はこれまた……とてつもないものだった。

 

 

 

『……今よ! 若芽!』

 

「っ! はいっ!!」

 

≪―――鬆ュ逞――帙――>縲∬――協縺――励――>――≫

 

 

 眠るとまではいかずとも……動作伝達系の魔力網をずたずたに狂わされたその巨体は、今や完全に麻痺・沈黙し。

 

 おれたちはそんな『巨人』の、閉じきることなく地に付した顎門へと……意を決して飛び込んでいった。

 

 

 

 

………………………………………

 

 

………………………………

 

 

………………………

 

 

 

 

 

――――早く死ねばいいのに。

 

 

――――何でアンタみたいのが居るんだか。

 

 

――――せめてお前が■■■■い■の■だったらなぁ。

 

 

 

 ……うるさい。

 

 うるさいうるさいうるさい。

 

 何故……どうして、あたしがそこまで悪く言われなきゃならない。

 あたしが何をしたと言うんだ。

 ……あたしの何が悪いっていうんだ。

 

 

 

――――部屋から出てこないで。いやむしろ帰って来ないでいいよ、お■■ゃ■。

 

――――可哀想よねぇ、■■■って。私達とは根本的に住む世界が違うんだから。

 

――――ウケる。本当■って生きてる価値無いでしょ。ブッサイクだし汚ならしいし。

 

――――***や****と同じ種から、どうしてお前みたいなのが産まれて来たんだか。

 

 

 

 

 うるさいうるさいうるさい。

 

 

 黙れ。消えろ。どっか行け。

 

 あたしが何をした。あたしの何が悪い。

 ただ***や****と同じように……同じ母の股から、同じように産まれてきただけじゃないか。

 

 

 なんで、あたしが。

 

 あたし……だけが。

 

 …………()()だけが。

 

 

 こんな理不尽な扱いを……ひどい言葉を言われ続けなきゃならないんだ。

 

 

 

 

――――お姉さんも妹さんもあんなに可愛らしいのに……■■■はねぇ。

 

――――本当。***と****のことで手一杯だもの。■なんかに構ってる余裕無いし……ていうか、可愛くないし。

 

――――■って臭いし汚いし不細工だし。

 

――――お前が■じゃなくて、***や****みたいな……可愛い■の子だったらなぁ。……いや***達に失礼か。

 

――――可愛くない■のアンタなんか……産むんじゃなかった。

 

 

 

――――何よその目は。

 

――――本当アンタって……可愛くない。

 

 

 

 

 …………やめて。

 

 

 もう、やめて。

 

 

 

 

――――そんなんだから。

 

――――アンタが■に産まれたから。

 

――――アンタがそんなに可愛げがないから。

 

 

 

 やめて。やめて。

 

 やめてやめてやめて。

 

 

 

―――― 可 愛 く な い か ら 、

 

  皆 に 嫌 わ れ る の よ 。

 

 

 

 

 

………………………………………

 

 

………………………………

 

 

………………………

 

 

 

 

「…………これ、(すてら)ちゃんの」

 

「彼女が()()なった……この世界を恨むようになった、絶望の根幹……ってことだろうね」

 

 

 

 動きを止めた『巨人』の、その口内へと飛び込んだおれたちを出迎えたのは……いかにも生物の口内といったグロテスクな内壁、()()()()

 

 端的に言うなれば『異空間』のような、高さも広さも奥行きもわからない真っ暗な空間が……ただただ虚しく広がっていた。

 

 

 恐らくは……(すてら)ちゃんが内包していた魔力――世界そのものを憎む程に強力な『想い(怨み)』の力――が『種』によって解き放たれ、極めて濃い密度で停滞したもの。

 負の感情に起因する魔力で満たされた、まさに『混沌の領域』とでも呼称するのが相応しいであろう異空間では……幼い心をずたずたに引き裂くには充分すぎる言の刃が、後から後から降り注いでいた。

 

 

 直接向けられたわけでもないのに……一本一本がこれ程までに鋭く、おれたちの心をいとも容易く痛め付ける。

 

 こんな凶器(もの)を来る日も来る日も、面と向かって向けられ振るわれ続ければ。

 自分を『いらないもの』として扱うこの世界に絶望し、自らを殺し得る程の負の感情を抱いたとて……それは仕方の無いことなのかもしれない。

 

 

 

 

「ノワ、大丈夫? やられてない?」

 

「大丈夫。動ける。……いかないと」

 

 

 

 悪意と混沌の領域を一歩一歩進むたびに、濃密な悪意が身体に絡み付いてくるのを感じる。

 ……いや、どうやら絡み付く程度にとどまらず……実際におれたちを『侵食』してきているようだ。

 

 彼女が『愛されたい』『愛される存在になりたい』と強く願ったことで会得した……周囲に自身への隷属を強いる【愛欲】の権能。

 それがおれたちをも支配下に措こうと……いや、そんな生易しいものじゃないな。取り込み吸収してしまおうと、今もこうして精神干渉を試み続けている。

 

 もはや理知的な制御を失った【愛欲】は、宿主の内に秘めたる魔力の猛るがまま、侵入者たるおれたちを捻じ伏せようと押し寄せてくる。

 

 

 

「……っ、これ……ヤバイよ。急がないと」

 

「だね。おれたちも、だけど……(すてら)ちゃんも危ない」

 

 

 目指すべき地点、(すてら)ちゃんの所在はわからないけど……どっちにいるのかは、目を瞑っていてもわかる。

 濃密な『悪意』の発生源……つまりは、単純に『悪意』が押し寄せてくる方向を目指せば良いのだ。

 

 

 おれたちの心が『悪意』の奔流に押し潰されるのが先か。

 それとも……おれたちがこの『悪意』の根元を絶つのが先か。

 

 さあ……根比べといこうか。

 泣く子も笑う『正義の魔法使い』の本気を、とくと見せつけてやろうじゃないか。

 

 

 

 



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456 暗く醜い残酷な世界

 

 

 この国は、決して豊かな国なんかじゃない。

 

 

 情けは人のためならず、巡りめぐっていずれ自身に返ってくる。

 努力は必ず報われ、悪人は必ず罰せられ、他人を敬い正しい行いを続けていれば、いつか必ず幸せになれる……なんて。

 

 

 そんなものは、全くのデタラメ。全くの嘘。

 

 大人が『良い子』を騙して都合良く使うための……耳触りが良いだけの、ただの()()()()に過ぎないのだ。

 

 

 ……反吐が出る。

 

 

 

 

 

 あたしが()()()()を自覚したのは……小学校に上がる頃か、少し前くらいだっただろうか。

 

 

 あたしは……姉と妹に挟まれた真ん中。

 三人のきょうだいで唯一の■。

 

 活発な(威圧的な)姉と要領の良い(狡猾な)妹はとても仲が良く……ことあるごとに結託して、さも当然のように()()()を虐げていた。

 

 

 

 最初はほんの些細な……まだ可愛げのあるものだったはずだ。

 

 

 当時はまだ優しかった母親が『お土産に』と、有名パティスリーのケーキを貰ってきた日のこと。

 あたしが食べたかったのは、赤くて可愛らしいイチゴのショートケーキ。

 

 要領の良い(狡猾な)妹と狙いが重なってしまったことが……あたしの不幸とこの国この世界に対する怨恨、全ての始まりだった。

 

 

 

『やだ! わたしイチゴがいい! なんで■■■ゃ■は()()()()イチゴなの!』

 

『[縺イ縺倥j]は()()()()()()()()()()我慢しなさいよ。可愛い[縺イ繧√f繧]がイチゴがいいって言ってんじゃん』

 

 

 

 

 あたしの『しょうがないからじゃんけんで決めよう』との提案を一蹴したのは、要領の良い(狡猾な)妹のわがまま。

 妹と仲の良い活発な(威圧的な)姉は当然のように妹を庇い、あっという間に二対一。

 

 あたしは一瞬で少数派となり、残酷な『多数決』という民主主義によって沙汰が下され。

 あたしは全く抵抗を赦されずに……『■である』という理由だけで、食べたかったイチゴのショートケーキを取り上げられた。

 

 

 可愛い[縺イ繧√f繧]……要領の良い(狡猾な)あたしの妹は、それで味を占めたのだろう。

 

 きょうだいで唯一の■であるあたしが相手であれば。

 我が家の頂点に君臨する活発な(威圧的な)姉を味方に引き込めば。

 

 少数派であるあたしから……全てを取り上げることができるのだと。

 

 

 要領の良い(狡猾な)妹は幼いながらにして……この国の攻略法を、見つけ出してしまったのだ。

 

 

 

 三人だけのきょうだいの中での、過半数の票を押さえられてしまえば……この民主主義国家におけるコミュニティにおいて、当然あたしに勝ち目は無い。

 

 

 幼いながらに理不尽を感じたあたしは当然のように、深く考えずに唯一の親を頼った。

 

 …………が。

 愛想を振り撒き他人に媚を売ることを仕事としていた母にとって、可愛らしい二人の娘は何物にも代えがたい宝物だったようで。

 

 

 

 

『我慢しなさい。[縺イ縺倥j]は■■■ゃ■でしょ』

 

 

 

 

 またしても。

 あたしが『■だから』という理由だけで。

 

 母親は。あたしの唯一の親は。

 姉と妹が絡んだときに、あたしの味方になってくれることは……ただの一度も無かった。

 

 

 

 

 

 そこからは……まさに真っ暗な学校生活だった。

 

 

 活発な(威圧的な)姉と要領の良い(狡猾な)妹。人当たり良く愛想も良い仲良し姉妹。

 女手ひとつで姉妹を育て上げた、若々しく美人の母親。

 

 美しく可愛らしく輝かしい家族の中における……唯一の()()

 ■■■ゃ■であり、■であり……たったそれだけで全てを奪われ続けた、あたし。

 

 ただ独り可愛くなく、満たされることなく、味方なんて居らず……人権なんて無い。

 

 

 

 

『[縺イ縺倥j]ってば可哀想。■に産まれたばっかりに()()()んなっちゃって』

 

『今日友達来るから部屋から出ないでよね、■■■ゃ■。むしろ消えてくれるとありがたいんだけど』

 

『[縺??繧]も[縺イ繧√f繧]も人気者なのに、どうして[縺イ縺倥j]は()()()んなっちゃったんだか。長■が()()()だなんて……恥ずかしいったらありゃしない』

 

 

 

 幼少期に刷り込まれた絶対の上下間系は、小中と進学しても決して変わることはなく。

 家だろうと学校だろうと、所構わず全てを奪いに来る悪魔達(姉と妹)に怯え……あたしはさぞ挙動不審で、見ていて不愉快な子どもだったのだろう。

 

 そんな弱者の末路といえば……まぁ、考えるまでもない。

 

 

 

 あたしにも悪いところが……省みるところが全く無かったかと問われれば、それはもちろんたくさんあるだろう。

 

 ……だがそれでも。考えずには居られない。

 考えるだけ無駄なのだと、どうしようもないのだと、嫌というほど理解してるけども。

 

 

 もし、あたしが■ではなく……姉や妹と仲睦まじく過ごせていたら。

 人当たりが良く、性格も良く、容姿も声もトーク力も、ファッションセンスやら何もかもが優れていたら。

 

 あたしが……()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 姉に。妹に。母に。近所のおばさんに。本屋のおじさんに。コンビニの店員さんに。同級生に。先生に。母の取引相手に。

 

 この国、この世界に……愛してもらえたのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………結局のところ。

 

 あたしは……何も知らない、考えの浅はかな子供(ガキ)だった。

 

 

 

 あたしが……この家庭(コミュニティ)で最底辺の存在だったオレが、自分の身体の変化と()()()()()()()()異能に気づき。

 

 そして悪辣な子供(クソガキ)だったあたしが真っ先に思い付き、実行に移してしまったことは……家族への『仕返し』。

 

 

 これまであたしが受けてきた仕打ちは、昨日のことのように思い出せる。

 姉と妹と母を、異能(このチカラ)の実験台にすることに……何の抵抗も葛藤も疑問も、良心の呵責も浮かばなかった。

 

 

 

 

 【あたしを愛して(クレイドル・)ください(エンター)】。

 

 それが……あたしが初めて頼った、『魔』の法則。

 

 

 

 これまでの人生において築き上げてきた人格を真っ向から否定する、全く想定されていなかった命令を無理やり頭に叩き込まれて……三人の人格と思念は、それはそれは激しい抵抗を試みたらしい。

 

 『あたしを虐げなければならない』という思考と、『あたしを愛さなければならない』という命令。

 二つの思念情報が真正面からぶつかり合い、侵食し合い、互いに互いを削り合い……結果として競り勝ったのは、わたしの魔法だった。

 

 

 

 ……その結果、残ったものは。

 

 ボロボロの命令魔法(プログラム)にガタガタになった思考の中枢を占拠された、姉と妹と母は。

 

 

 

 

『[縺イ縺倥j]何nnnnでも命eeei令iiiしてddddd大aiaiai好kkkiきkikkkiだaaよ[縺イ縺倥j]私は[縺イ縺倥j]のことggggがa世界dでiiiiいiiちばん大切なnnnnnんだkkかkarrrら』

 

『おn■iiic■ゃ■nnndddddodoudouどうssしたannnnの[縺イ縺倥j]お■■iiiichhhゃnnn■nnnわたし何かお■■chhhゃ■を困rrrrらせrrrるuuuuことしちゃっtttたのgggogogごめんnnなaさsasaい謝mmmmarrるrrururuからkkkkik嫌いにならないでおねがiいおni■■chゃ■おgng願gggaい』

 

『hij[縺イ縺倥j]i[縺イ縺倥j]wa私aawaのkk可wawa愛い[縺イ縺倥j]k聞いttてteytyよ[縺イ縺倥j]今度****社長ggがhij[縺イ縺倥j]riにnini会ってmmみmtmtaたいnんだttっttてhihihii[縺イ縺倥j]rrrirの可kka愛さだdっatたらin[縺??繧]riよりもhhim[縺イ繧√f繧]yuriよりも人n気者noniiinになrerrれるwawわaa』

 

 

 

 

 

 あたしを……『[縺イ縺倥j]を愛する』という、彼女らにとっては有り得ない呪いじみた命令によって。

 

 あっけなく、こうも簡単に……()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 良い思い出なんてほとんど無いあたしには……これまでの生活に対する未練なんて、全くと言っていいほど残ってなかった。

 

 とっくに壊れていた[縺イ縺倥j]の人生を捨て、あたしが壊した家庭も捨てて……この世界に存在しないはずの存在になったあたしは、全てを捨てて家を出た。

 

 学校なんて、もうどうでもいい。[縺イ縺倥j]じゃなくなったあたしには、当然[縺イ縺倥j]が負うべき義務も存在しない。バグって壊れた元・家族がどうなろうと、知ったこっちゃない。

 だって……あたしはもう[縺イ縺倥j]じゃないのだから。

 

 

 それに、あたしは今こんなにも満たされているのだから。

 輝かしいあたしの人生に、[縺イ縺倥j]の影なんて在っちゃいけないのだから。

 

 

 やっぱり思った通りだ、可愛ければいくらでも愛してもらえる。

 こんなに簡単に。こんなに情熱的に。

 可愛いあたしは……こんなにたくさん愛してもらうことができるんだ。

 

 あの()()()は……まぁ、初めてだったから仕方がなかったとして。

 あれらの失敗のおかげもあって、少しずつ魔法の使い方にも慣れてきた。

 

 この力を上手く使えば……あたしはもっと、もーっと、多くの人に『好き』になってもらえるのだ。

 

 

 嘘みたいに心が軽い。

 あたしの心を曇らせるものは、もう何も存在しない。

 

 

 

 ただ……全ての過去を捨てたあたしは、同時にこの国の庇護を失った。

 当たり前だ。権利には義務が伴う。国民に課せられた義務を果たさずして、国民にもたらされる恩恵のみを享受することはできない。

 戸籍もなければ身分証も無い。バイトだって出来ないし、お金を稼ぐことができない。たぶん部屋を借りることもできないだろう。

 

 ……いや、お金を稼ぐことは出来るか。

 なんてったって……あたしはこんなにも可愛いのだから。

 

 

 ただやっぱり……何の後ろ楯も無いというのは、さすがに不安が残る。

 あたしはもうこの国の国民じゃないけど、そんなことを知らないおまわりさんには、あたしはただの補導対象だろう。

 身分証も無いとなったら……めんどくさいことになりそうだ。

 

 あたしの魔法で『好き』になってもらえば誤魔化せるかもしれないけど、永遠に使えるのかはわからないし……そもそも、あたし自身が『どうなったのか』さえわからないのだ。

 

 

 

 

 どうしたらいいのかもわからず、頼れる大人も知人もいない。

 

 そんなときに手を差し伸べてくれたのが……あたしと同じくらい可愛い小さな女の子を連れた、『魔王』を自称するおじさんだった。

 

 

 おじさんも女の子も、どうやらこの国をメチャクチャにしてやりたいみたいで。

 あたしが『特別な力』持ってること、そしてこの国に未練が無いことを見抜き……あたしを『この世界を壊す』同志として、引き入れようとしてくれたらしい。

 

 

 

 この世界を壊す、同志。

 

 つまり…………仲間。

 

 

 [縺イ縺倥j]の残骸だったあたしは……こうして『(すてら)』という新たな名前と、新たな家族と、新たな人生を手に入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 あたしにも悪いところが……省みるところが全く無かったかと問われれば、それはもちろんたくさんあるだろう。

 

 ……だがそれでも。考えずには居られない。

 考えるだけ無駄なのだと、どうしようもないのだと、嫌というほど理解してるけども。

 

 

 もし……もし、あのときあたしが『魔王』の手を取らず。

 この世界を壊そうとする侵略者に荷担せず。

 

 あんなにも眩しく可愛らしい()()()のように……多くの人々の笑顔のために、この生まれ変わった『佐久馬(さくま)(すてら)』を活かすことが出来ていたのなら。

 ()()()のようには振る舞えなくても……あたしがつくしちゃんに対して()()()()()ように、他人に対して心を開くことが出来ていれば。

 

 

 可愛くて、おもしろくて、一生懸命で……そんなところが大好きな()()()の『敵』にならなければ。

 

 

 

 この残酷な世界を……こんなに呪うことも、なかったのだろうか。

 

 こんなに苦しくなることも、無かったのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……もう大丈夫。心配しなくていいよ。

 

 

 おれたちが…………ついてるから」

 

 

 

 



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457【制圧作戦】到達

 

 

 一歩一歩、重い足を少しずつ進めていく間……おれの中に『誰か』の感情が、どんどん流れ込んできていた。

 おれの心をこんなにもかき回した『誰か』が、いったい何者かだなんて……この状況においてそんなことは、今さら考えるまでもないだろう。

 

 

 

 

――――もしあのとき、あたしが……姉や妹や母を、壊してしまわなければ。

 

――――もしあのとき、あたしが『仕返し』なんて考えず……家族に愛されることのみを望んでいたら。

 

――――もしあのとき、あたしが勇気を振り絞って……自分の足で、外の世界に踏み出すことが出来ていれば。

 

 

 

――――でも、もう遅い。

 

――――姉を、妹を、母を壊し…………あたしの魔法()で殺した事実は、覆らない。

 

 

 

 

 今までに流れ込んできていた感情は。

 おれが今まさに垣間見ている、この声は。

 

 赤黒い根で覆い尽くされ、羽化を待つ繭か蛹かのようになってしまっている……(すてら)ちゃんの感情に他ならない。

 

 

 

 

 

「…………後悔、してるんだね。自分が最初にやってしまったことを……今でも」

 

「優しい子だよ、ステラちゃんは。……やっぱりこの子は『こんな世界滅べばいい』だなんて、心から願っちゃいなかった」

 

「世界に未練が無いなら……ほんとに『滅んでもいい』って考えてるなら、おれや霧衣(きりえ)ちゃんにだって興味ないはずだもん。世界が滅んだら消えちゃうんだし」

 

「……そうだね。やっぱりこの子は……『悪人』と決めつけていい子じゃ、ない」

 

 

 

 あのときああしていれば。あのときああだったら。……そんな仮定に意味なんて無いけれど。

 

 もし非現実的(ファンタジー)な出来事に巻き込まれ、途方に暮れていた彼女に手を差し伸べたのが……『魔王』ではなかったら。

 おれたちが……彼女に寄り添い、不安を解消してあげていたら。

 

 彼女を、ここまで追い込むことは無かっただろう。

 

 

 

 

「……いや、まだ。まだ終わっちゃないよ、ノワ」

 

「…………そうだね。まだ終わらない。……世界も、(すてら)ちゃんも……終わらせない」

 

 

 

 『魔王』の行動を知るための手がかりだとか、『苗』の活動を抑制するためだとか……いくらでも理由付けは出来るだろうけど。

 動機はもっともっと単純だ。難しく考える必要なんて無い。おれが彼女に笑っていてほしいから。……それだけでいい。

 

 目の前で脈動する、不気味な繭。……根本を辿ればそれと同じ存在である『種』によって、それと近しい性質の魔力(ちから)を備えたおれの身体ならば。

 人間のうなじに根を張った『苗』を掴んで引っこ抜ける、おれならば。

 

 

 

 

「地道だけど……! もっとこう、『バァーン』ってかっこよくやりたかったけど!!」

 

「しょーがないよ! やりすぎてステラちゃんごとキルするわけにはいかないでしょ!」

 

「そうだけどぉ! 根っこブチブチ引きちぎるだけって! 映画とかアニメなら結構な見せ場来るタイミングのはずなんだけど! 最終局面でやることが『草むしり』て! 戦闘シーンですらないの!?」

 

「だぁーからしょーがないでしょ! ステラちゃんの安全が第一なんだから!」

 

 

 

 ラニとふたり、可能な限り明るくアホらしく声を掛けあい、気を抜くと心が押し潰されそうな感情の奔流に抗い続ける。

 時間と手間は掛かるが、しかし堅実で確実な方法。(すてら)ちゃんとこの『苗の巨人』とを繋ぐ大元さえ断ち切ってしまえば、魔力供給を絶たれた『巨人』は崩壊するしかない。……はず。

 

 ふつうの存在だったら、この『巨人』の中に取り込まれた時点で心が砕かれていただろう。おれたちの精神汚染に対する耐性が図抜けていたことが、『魔王』にとっての敗因に他ならない。

 

 

 

「……っ、見えた! (すてら)ちゃん!」

 

「生命反応はまだ残ってる! 間に合ったハズだよ!」

 

 

 

 効率良く魔力を与えるため、口内へと押し込まれた『種』……それは『巨人』を形作るまでに成育し、その巨体を維持する魔力を取り込むため、恐らく彼女の体内に根を張っているのだろう。

 あまりにも痛々しく、痛ましい光景だが……彼女の身体そのものの生命反応は、未だに健在だ。

 

 残る不安は……この身体に、彼女の意識を引き戻せるかどうかという一点。

 今や周囲を満たす『混沌の空間』に霧消してしまっている、彼女の意識や魂とでも言うべきものを……かき集めることが出来るかどうかだ。

 

 こればっかりは、わからない。

 『苗』を除去した際に起こる『巻き戻り』で、身体の損傷は治る可能性は高いけれど……これほどまでに規格外の変異とあっては、そこに意識が伴う保証は無い。

 不安が大きいけど……ここで躊躇すればするほど、望みは薄くなっていく。それはおれにだって理解できる。

 

 力なく開かれた口腔から伸びる茎に手を添え……覚悟を決め、がっしりと握る。

 信じろ。自分を信じろ。万能たる叡智の魔法使いの技量と、そこに籠められた願いを信じろ。

 

 

 精神汚染に抗いながらもなんとか心を落ち着け、両手のひらに魔力を籠め。

 

 茎を確実に()()ことを、強く強く意識しながら……(すてら)ちゃんから力いっぱい引き剥がし。

 

 

 悪意の苗を、引き千切る。

 

 

 

 

 

 

……………………………………

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

 

 









 心を擂り潰すかのような精神汚染がぱったりと止み、ただただ凸凹とした根に埋め尽くされた、真っ暗な木の()()

 先程まで心配になるほど痙攣し、涙や脂汗や涎を飛び散らせていた彼女の身体は……まるで死んでしまったかのように、力なく横たわっている。


 ……そう、死んでしまった()()()()()
 つまりは……死んでいない。生きているのだ。


 生きている……はずなのだ。




「……そろそろ起きようよ、(すてら)ちゃん。いい時間だし、一緒にごはん食いにいこう。……おれ、いいお店知ってるんだ。『ばびこ』っていう喫茶店なんだけどね、店内もおしゃれだし日替わりランチもコスパ高いんだ」



 巨人の骸の外では、もう戦闘は終了しているのだろうか。
 そんなに長い時間は掛かっていないと思うけど……例の『混沌の領域』に飛び込んでから視覚も聴覚も閉ざされてるし、精神汚染への抵抗をがんばりすぎたせいで体内時計もアテにならない。

 ただ……おれの身体の生理的な欲求が、こんなときでも可愛らしく『はらへった』と音を立てるばかりだ。



「…………この世界全部を、許せとは言わないよ。おれだって色々と思うことあるし、理不尽に感じることもいっぱいあったし。…………だけど」



 おれたちが生きているということは……まぁ、モタマさまならちゃんと把握してくれていることだろう。
 巨人が完全に沈黙したことから、おれたちが何かをやり遂げたのだということを、きっと理解してくれている。
 ……その上で、急かさず突っつかずに待ってくれているのだ。



「だけど…………大っ嫌いな世界の中にも、『好き』なものの一つや二つ、あると思うんだ。……たとえば、つくしちゃんとか……シズちゃんとか。もしくは、牛丼とかハンバーグとか、焼き鳥とか……しゃぶしゃぶとか。……この世界を壊すってことは、その『好き』なものも纏めて一緒に壊さなきゃいけなくなっちゃう。それはとても……とても、悲しいと思う」



 受け入れがたいこと、納得いかないこと、どうしても好きになれないこと。……世界はそればっかりじゃないはずなのだ。
 見たくないものは見なくていい。全てを受け入れる必要なんて、ない。

 今は『好きなもの』が圧倒的に少なくて、(すてら)ちゃんの世界を形作るもののほとんどが『嫌いなもの』だったとしても……世界にはまだまだ『知らないもの』に溢れてるはずなのだ。
 『知らないもの』に触れて、少しずつ『好きなもの』を増やして、好きなものだけ見て……もっと人生を楽しんでいいはずなんだ。楽しむべきなんだ。

 もちろん、一人だけの世界じゃあ……『知らないもの』にも限度がある。
 今までは、頼れる相手が居なかったのかもしれないけど……今はおれがいる。
 おれじゃ相談に乗れないことでも……頼れそうな人、相談できそうな人を、きっと見つけ出してみせる。

 自慢じゃないけど……今のおれの()()って、なかなかすごいんだぜ。



 …………だから、さ。



「もう大丈夫。心配しなくていいよ。おれたちがついてるから。…………だから、起き(グゥゥゥゥ……)アッ」

「ぇえ…………今めっちゃキメ顔してたのに……」

「し、しょうがないじゃん! 生理現象だもの! おなかグーは本人の意思じゃ止められないの!!」

「いや、でもさ…………なんでそんな残念なの」




「……本当よ、もう。……笑わせないで」


「「!!!!!!」」




 まだ異空間に囚われているのではと錯覚するほどに静かな、巨人の()()の中。

 おれでも、ラニでもない……どこか幼さを残しながらも妙に艶かしい、魅力的な少女の声。

 若干咳き込みながらも……それでもしっかりと、自ら身体を起こす身じろぎの音を響かせ。




「……おはよう、(すてら)ちゃん。……気分は、どう?」

「良いわけ無いでしょ。まだ色々と真っ暗だし。何がなんだかワケわかんないし」

「オ、オゥ……」



 がっくりと、あからさまに落胆して見せたおれの様子に。
 苦笑ではあるが……それでも確かに『笑み』を返し。



「…………良くはないけど…………まぁ、『推し』がおはようの挨拶してくれたわけだし……べつに『悪い』とは言ってないわよ」

「!!! すてら、ちゃん……っ!!」

「……はぁー…………とりあえず、シャワー浴びさせて。汗が気持ち悪いったらないし……お腹空いたわ」

「任せて!! おれごはん買ってくる! 何か食べれないのとか……食べたいのある?」

「じゃあ、サンドイ………………いや、肉料理がいいわ。牛丼とかハンバーグとか焼き鳥とか、あとしゃぶしゃぶとか……ね」



 おれの親愛なる『視聴者さん』でもある、可愛らしくてちょっとエッチな女の子……佐久間(さくま)(すてら)ちゃんは。

 邪気の抜けた朗らかな感情を……いつか混浴エリアで見せてくれたような純粋な『好意』を、再びおれに向けてくれたのだった。




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458【戦後処理】限界を越えて

 

 

 この世界の侵略を目論む『魔王』の配下、【愛欲】の使徒。

 

 かの『魔王』に従い、おれたちの知らない計画を進めるため……主に対外折衝や商談への同行、ならびに実働派遣と魔力の溜め込みを主任務としていた、彼女。

 

 唯一差し伸べられた手に(すが)るあまり、妄信的にこの世界を『嫌いなもの』と断じ、嫌いな世界もろとも心中を図ろうとした……ちょっとエッチで、とても可愛らしい女の子。

 

 

 

 彼女は……今。

 

 

 

 

 

「……っ、だめ……もうだめぇ、っ!!」

 

「大丈夫? 身体を楽に……力抜いて。ほら、深呼吸」

 

「ふぐぅぅぅぅ……っ! はーっ、はぁーーっ」

 

「すごいね……これ全部(すてら)ちゃんのナカに入っちゃったよ」

 

 

 

 幼げな(かお)に淫靡な雰囲気を纏わせ、紅潮した肌と潤んだ瞳はより一層の魅力を掻き立て、苦しげな息遣いと荒い呼気にはどこか健気ささえ感じさせ。

 

 三大欲求に纏わる能力(チカラ)を秘める彼女は……失われた魔力を取り戻す一環として、今まさに欲望を満たしているところであった。

 

 

 

「……ふぅ、……ふぅ、……ふぅ」

 

「苦しそうだね…………がんばって、じき楽になるから」

 

「ひとごと、だからって……! そもそも、あんたが無理矢理、っ!」

 

「だ、だって…………いっしょに楽しみたかったし」

 

「……っ、…………ズルいわよ、それ」

 

 

 

 自ら進んで、しかし限界以上のモノを受け入れさせられ……彼女は息も絶え絶えといった様相で、おれのことを睨み付ける。

 しかしながら……顔を赤らめ、涙を滲ませた表情で睨み付けられても……かわいらしいだけなんだよなぁ。

 

 

 

「さて、聞くまでもないだろうけど一応聞いとくね。……まだイケる?」

 

「イケるわけ無いでしょこの鬼畜エルフ!! 限界だって言ってるじゃないマジいい加減にしなさいよ!! 人畜無害で総受けな顔してるクセに!!」

 

「ホァー!? そ、そそッ、総受けは関係ないでしょ!! ……っていうかべつに総受けじゃないですし!? 局長ですし!!?」

 

「アンタ以外は総受けを望んでんのよ!! 観念してヒンヒン泣いてなさいよ! 可愛いんだから!!」

 

「か、かわ、ッ!!? …………エヘヘェー」

 

「…………そういうトコよ、本当。あーもう大声だしたらまたダメになってきた……あたしマジ無理だから、あとあんたが責任もって全部食べなさいよ」

 

「食事か―――――――い!!!!」

 

「「ワァ――――――!!!?!?」」

 

 

 

 けたたましい音とともに扉を開け放って突っ込んできたのは、囘珠(まわたま)の皆さんへのお礼と事情説明に派遣していたハズの、われらがアシスタントドスケベ妖精さん。

 思念を繋いでの相談も報告もないから何やってんだろうかと思ったら……おれたちが限界を越えてごはんを詰め込んでヒッヒッフーしている様子を、扉の外で聞き耳立てていたらしい。

 

 まぁ……そりゃね、現在の身体はふたりとも小さな女の子だもんね。

 牛丼とハンバーグを詰め込んだ時点で既に限界、ジャンボ焼き鳥としゃぶしゃぶ鍋セットはまだ手付かずで残っているのだが……誰ですかね、後先考えずに言われたもの全部買ってきたおばかさんは。どこのエルフですか。

 

 

 

「つくしちゃんだったら、これくらいペロッてたいらげちゃうから……あたしも感覚麻痺してたわ」

 

「…………そう、その『つくしちゃん』たちのことなんだけど……」

 

「あふぅー…………まぁ、しょーがないわよね。……アンタの手、握っちゃったんだもん」

 

「……お願い。おれたちも……全力を尽くすから」

 

 

 

 この取調室の鏡の向こう側には、春日井室長はじめ多数の対策室関係者が詰めているのだが……態度を軟化させた(すてら)ちゃんとて、そのことは知っているのだろう。

 

 

「……ま、あたしはシズちゃんと違って……全部を教えてもらったわけじゃないんだけど」

 

 

 知った上で……自分の行為が『魔王』一味への明確な反逆であると理解した上で。

 【愛欲の使徒】()()()彼女は前置きとともに……知る限りの情報を提供してくれた。

 

 

 

 

 

 

 (すてら)ちゃんはじめ、彼女ら【使徒】に下された命令は……大きくわけて、二つ。

 

 ひとつは、各々の欲求を満たすことで『魔力』を可能な限り溜め込み続けること。

 【食欲】のつくしちゃんだったらひたすらに『食べる』ことを繰り返し、【睡眠欲】のシズちゃんだったら『眠る』ことそのものがそれに該当し。

 そして【愛欲】の(すてら)ちゃんの場合は『愛される』ことなのだといい……要するに、えっと、つまり…………

 

 

(エッチなことしたんですか)

 

(ラニいま大事なお話の最中だから)

 

(エッチなことしたんですね)

 

(おいだまれぷに○な)

 

 

 ……ともかく。

 それぞれの方法で『魔力』を溜め込んでいくことが、彼女ら【使徒】の基本行動原理。

 だからこそ以前、緑地公園で勇者ラニとぶつかったときに……魔力回復の霊薬(ポーション)で手を打ってくれたわけだな。

 

 

 そして……(すてら)ちゃんが知る限りの、もうひとつの命令。

 それはやはりというか、おれたちが現場で想像した通りというか。

 

 

「……要するに、最終的にはこの世界を魔力で満たして…………つまりはよくある剣と魔法の『異世界ファンタジー』にしたい、ってこと?」

 

「ノワノワ、あくまでこの世界が染められるだけだから『異世界』じゃないよ」

 

「あと『剣』も無いわね。売ってるトコも実戦で使ってるのも……アンタら除いて見たこと無いし。『剣と魔法』ってよりは……銃とか爆弾とか、あとバールのようなものとか金属バットじゃない?」

 

「……………『銃と爆弾とバールと金属バットの地球ファンタジー』にしたいってこと!!?(半ギレ)」

 

「いや違うし……」「なにキレてんのさ」

 

「きぃーーっ!!!(ぼすんぼすん)」

 

 

 

 ともあれ!!(おこ)

 

 つまりは先日、南神々見(みなみかがみ)の工業団地で(すてら)ちゃんがやったように……現在日本国内に数ヵ所存在している『魔力溜まり』を炸裂させ、地球全体に『魔力』を行き渡らせる。

 これこそが、現在『魔王』が取ろうとしている行動なのだろう。

 であれば、やはり残された他の『魔力溜まり』……レウケポプラの栽培プラントが、今後『魔王』に襲撃されるということなのだろうか。

 

 しかし、実際に『苗』の系列である『葉』や『獣』であるならばともかく……(すてら)ちゃんのような使徒を我々の【探知機(レーダー)】で捕捉することは出来ない。

 毛髪を媒体とするラニの探知にしても、現状手の内にあるのは(すてら)ちゃんの髪だけだ。

 

 ……となると、現状即座に取れる選択肢は。

 人員を割いてもらって、警備を強化してもらう。……これしかない。

 

 

 幸いなことに、特定害獣の被害を憂いた民間企業から協力の申し出があったらしい。

 『含光精油』の精製を一手に受け持つ『ヒノモト建設』の協力会社で、主にプロ用のスポーツ用品を手掛ける化学繊維メーカーが重い腰を上げてくれたようだ。

 

 炭素繊維(カーボンファイバー)樹脂(レジン)を用いた各種防具……アメフトの着込むやつとか野球のヘルメットとかキャッチャーのプロテクターとか剣道の鎧とか、そういった感じの製品で培ったノウハウをもとに、対特定害獣専用の防具を作ってくれる……的な感じなのだろう。よくは知らんけど。

 専門家が造ってくれる防具に、鶴城(つるぎ)技研棟謹製の結界魔法道具が加われば……それはとっても心強い。

 

 

 

「……まぁ、そうそう無いとは思うけどね。『魔力溜まり』への襲撃」

 

「「えっ?」」

 

「なんかね、『魔力』ってそもそも触れられない存在っていうか、普通には干渉できないらしくって。……あたしが直接『爆発しろ!』ってやらなきゃ、魔力を吹き飛ばすことって出来ないみたい」

 

「………………もうやらないでね?」

 

「…………はぁ? やんないわよ。あんたに嫌われたくないし」

 

(すてら)ちゃんすき」「けっこんしよ」

 

「ちょ、っ…………何言ってんのよ……」

 

 

 

 頬を朱に染め、まんざらでもなさそうな表情で視線をそらしながらも、口元を緩めて足をぷらぷらさせる美少女。

 どうやら『魔王』の侵略計画における、重要な役割を占めていたらしい……(すてら)ちゃん。

 

 

 この子が心を開いてくれて……敵のままじゃなくって、本当によかった。

 

 

 



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459【戦後処理】待遇悪化と環境改善

 

 

 結局あのあと……警察署の取調室での事情聴取(という名目の女子(?)会)を終えた(すてら)ちゃんは、ラニの【門】によって再び囘珠(まわたま)さんに送り返されることになった。

 

 

 封魔結界の座敷牢は『巨人』の一件で盛大に破壊されたそのままだが、()()()した子を閉じ込める部屋は、幸いというかまだ他にも何部屋かあったらしく。

 以前のバストイレつきワンルーム座敷牢より、ぶっちゃけお世辞にも良いとは言いがたい環境だが……(すてら)ちゃんを匿う準備はできていたらしい。

 

 四畳半、トイレつき、洗面水栓あり……しかし風呂なし。

 お風呂や外出したいときには、監視(兼護衛)の神使に同伴してもらう必要があるので、利便性は格段に下がってしまった。

 ビジネスホテルから格安ワケアリ駅前旅館へと変わってしまったわけだが……とうの(すてら)ちゃんはというと。

 

 

 

 

「生活の面倒見てくれるなら、それだけで助かるし…………それに、アンタが遊び来てくれるんでしょ?」

 

 

 

 ……なーんて、意外や意外『けろっ』としていまして。

 そんな澄ました顔で、平然とこっ()ずかしいこと言ってくれちゃって……かわいいね!

 

 

 まぁ(すてら)ちゃん本人に関しても、どうやら囘珠(まわたま)の皆さんにそこまで悪い感情は持っていないようで。

 ぶっちゃけ監視下に置かれてるようなものなのだが……意外なほどに協力的といえた。

 ……まぁ、囘珠(まわたま)さんの神使は猫ちゃんが多いからな。猫つきルームとかむしろご褒美だし。

 

 

 とりあえずそんなわけで。

 今後彼女には囘珠(まわたま)さんで半軟禁生活を送ってもらいつつ、必要に応じて事情聴取に協力してもらいつつ……『魔王』がらみの騒動が一段落ついた暁には、改めて沙汰が下されることになるらしい。

 春日井室長は『事情が事情ですし、悪いようにはしません』と約束してくれたが……数十億規模の損害と、若干とはいえ人的被害を生じさせた責任は、何らかの形で負わなければならないのだろう。

 

 

 それら全てを理解した上で……あの子はこうして、大人しくしてくれている。

 少しでも早く自由の身にしてあげるためにも、『魔王』の計画を阻止しなければならないのだ。

 

 

 そして……可能であるならば、(すてら)ちゃんの『一生のお願い』も叶えてあげたい。

 

 彼女と同様、絶望的な境遇から『魔王』に引き上げられ、【使徒】としての立場にその身を(やつ)した……彼女の大切な姉妹のことも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 まあ、それはそれとして。

 『魔王』こと山本五郎氏の身辺調査や張り込みなどは、そのテの専門家であるおまわりさんに任せておくとして。

 

 人々に明日への希望を抱かせる専門家であるおれたちは、おれたちの本業に関してもそろそろ本腰入れなきゃならないわけでして。

 

 

 

「すみませんご無沙汰してます天繰(てぐり)さん! 進捗の方はいかがでウワァーーーーかまどだァーーーー!!」

 

「……おや。これはこれは。……御疲れ様で御座います、御館様」

 

「あっ御館様! どーですか手前の華麗なる煉瓦積みテクニック!」

 

「…………手前も……がんばった。ほめて」

 

「進捗は概ね順調に御座います。御安心を」

 

「おぉ…………いえ、ホント……ありがとうございます。すみません、お任せしっぱなしで……」

 

 

 

 いよいよ来週に控えた『実在仮想(アンリアル)林間学校』……それに備えた『わかめ沢キャンプ場(暫定)』の設備拡張作業も、われらがプロフェッショナル集団『おにわ部』の面々によって順調に進行中である。

 例によって作業の模様は固定カメラと天繰(てぐり)さんの手持ちカメラ(最新型・うらやましい)にて撮影して貰っているので、編集後に一般公開できることだろう。

 『スタジオえびす』の皆さん、いつもありがとうございます。今度菓子折でも持ってきます。

 

 

 最近ではDIY系の配信者(キャスター)さんから名指しでコラボ出演依頼が舞い込んでくるほど、界隈ではじわじわと支持者が増えてきているという噂の『おにわ部』みなさん。

 四人が四人ともキャラが立ってるし、みんな可愛いし、かっこいいし……一見すると作業に向かなさそうな格好(ロングメイド服と一本歯の下駄などなど)で平然と一流の仕事をやってのける様が、国内外問わず大人気なのだという。

 ジャパニーズクールテングメイドクラフターガールっつってな。相変わらず属性多すぎやろ。

 

 ……っていうかぶっちゃけ、海外の視聴者さんからの支持がすごいらしい。まぁDIY動画とかものづくり動画とかは、言葉がわからなくても何やってるのかわかりやすいもんな。

 それにアメリカとかカナダのほうとかはよくログハウスとか作ってるもんな、きっとみんなDIYが大好きな国民性なんだろう(※偏見です)。

 

 

 

「……それでは……御願い致します、御館様」

 

「了解です。……あっ、(しるし)の杭打ってくれてあるんですね。ありがとうございます」

 

 

 そんなこんなで大活躍してくれていた『おにわ部』のフォローに入るべく、おれもきちんと(カメラの回っていないところで)お仕事をこなしていく。

 今回の設備拡充計画の要でもある、水洗トイレ……その排水機構を埋め込むための、穴堀り作業だ。

 

 

「んーんーんー……深さこんなもんですかね? 天繰(てぐり)さん」

 

「…………念の為、もう少々掘り下げて戴いても宜しいでしょうか。排水勾配は砂利敷にて調整致します(ゆえ)

 

「了解です。んむぐぐぐぐぐぐ」

 

「「「おぉーー」」」

 

 

 この世界で(たぶん)おれのみに許された、地属性魔法を使っての土木工事。

 ユンボや転圧機(コンパクター)およびそれらの燃料を必要としないので、手軽に大規模な作業を行うことができる、まさに『チート』と呼んで差し支えない圧倒的時短テクなのだ!

 

 先んじて『おにわ部』の方々の手によって建てられたトイレ小屋の裏側に、排水を処理するための【転送筒】を埋め込む穴を掘り込む。

 小屋から出ていた排水パイプと【転送筒】を充分な長さの塩ビパイプで繋ぎ、ちゃんと流れるように勾配をつけて……きっちり固定して、埋め戻す。

 

 はたから見れば、地中に『行き止まり』を作っただけ。住宅設備や上下水道を多少なり理解している人からはツッコミの嵐だろうこの独特な構造だが……しかしこれで問題ない。はず。

 

 

 

「……受信側は、先んじて御屋敷の排水配管に組み込んで居ります」

 

「ありがとうございます。……すみません、大変なお仕事お任せしてしまって……」

 

「……いえ。……御館様に【浄化】の(まじな)いを施して頂きました故」

 

 

 受信側に加えて、送信側もセット完了。つまりはこれで準備が整った。

 あとは送信側の【転送筒】内に……えーっとあのーそのー、()()()()()()()()()()()()が流入すれば、【転送筒・送信側】内に溜まった物体を【受信側】へと転送、流してしまうことができるのだ。

 

 気になる魔力の供給手段に関してだが、当初はおれのおしっ…………おれが使うことで魔力を補充しようかと考えていたのだが、考えてみればこの水洗トイレの上水は屋根に降る雨水を有効活用したタンク式である。

 つまりは例の『含光精油』先生をですね、流す水を貯めるタンクにぶち込み差し上げればですね、おれがおしっこしに行かなくても【転送筒】を発動させてくれるってぇ寸法なわけですよ!

 かんぺきかな!!

 

 

 

「じゃあじゃあじゃあ御館様、さっそく試してみて戴けますか? ほら、お客様が使ったときに事故らないように」

 

「えっ?」

 

「確かに……御館様と頭領の計算に誤りがあるとは思えませんが、念の為動作確認を行っておいた方が宜しいかと」

 

「アッ、エット」

 

「……御館様、おしっこ……どうぞ」

 

「ファッ…………」

 

 

 

 

 

 

 …………はい。

 

 ちゃんと……作動しました。

 

 

 

 



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460【最終確認】今度こそ準備万端

 

 

 先日の商談の際に『にじキャラ』さんへと提案させていただいた設備拡張だったが……ちゃんと想定通りの動作をしてくれた水洗トイレの完成をもって、これにて無事に公約実現と相成った。

 

 つまりは、上水シンク(ポリタンク式)と炊事場スペース(調理台と(かまど)と薪置き場)……そして水洗トイレ(雨水利用)の住環境向上セットである。

 

 

 さすがに、一流どころのキャンプ場には遠く及ばないが……これならばまぁ、お客さんをお招きしても(さほど)問題ないレベルだろう。

 『にじキャラ』の配信者さんたちをお招きして、部外者の目を気にすることなく【変身(キャスト)】を行ってもらい、その姿のままキャンプに興じてもらい……そしておれはそれを特等席から後方主催者顔で腕組みしつつ堪能できるという、まさに神企画である。

 キャンプでキャッキャ戯れる推しをタダで堪能できる上にお金もらえるとか、得しかないじゃん。完全勝利かよ。バグかな?

 

 

 

 

「……ときに、御館様。少々気になることが御座いまして」

 

「なんでしょうか天繰(てぐり)さん? おむかえ準備を完璧に整えた『わかめ沢キャンプ場(暫定)』に気になるところですか?」

 

「……えぇ、まぁ。……差し出がましいとは存じますが…………電源は、如何程に?」

 

 

 ふっふっふ、電源ですか。よくぞ聞いてくださいました。

 確かにこちらの休憩小屋、水道や電気といったライフラインは引いてきておりませんとも。

 

 しかしですね、いやー技術の進歩ってすばらしいですよね。っというのも、モバイルバッテリーなんかとは文字通り桁違いの巨大容量をもつ充電式可搬電源(バッテリー)をですね、こちらご用意しておりましてですね。

 この子がいれば、夜間の照明機器やスマホの充電や、さらにはノートパソコンを持ち込んでの作業だって大丈ブイのスグレモノなわけですよ。ふふ、便利ぃ。

 

 

「…………成る程、承知致しました。……配信用のカメラやパソコンの電源も、そちらから取る形でしょうか?」

 

「ですです。充電しなくても二~三日くらいは持つ計算なので………………ッ!!?」

 

「…………お気付き頂けましたか、御館様。同時参加人数と、使用電子機器の総数と、総消費電力……そして何よりも、総稼働日数。……手前は仔細を存じませぬが、長時間の撮影および配信ともなりますと……蓄電池(バッテリー)のみでは、少々不安が残るかと」

 

「  。 、!  ?! 、」

 

 

 

 ヤバイヤバイヤバイ。そうじゃんなに余裕ぶってんの。足りるわけないじゃん大型企画やぞばかばかばかおれのバカ!!

 

 確かに……確かに、あの蓄電池(バッテリー)くんは優秀な子だ。満充填しておけば三日くらいは小屋にカンヅメになってても賄えるくらい容量はある。

 でも……でもそれは、おれ一人・カメラ一台・ノートパソコン一台の場合だ。

 

 今回の配信は一泊二日の日程を四連続、合計五日間の予定だ。

 Ⅰ期生やⅣ期生といったユニットごとに一泊二日してもらい、一番目の団体さん(ユニット)のチェックアウト後に、掃除やお水の補充などの小休憩を挟んで二番目の団体さん(ユニット)がチェックイン、同様に一泊二日してチェックアウトした日にまた休憩(メンテ)を挟んで三番目がチェックイン……という流れになるわけで。

 つまりは……けっこうな容量をもつ(=満充填までけっこうな時間がかかる)蓄電池を、充電しにいく時間がないわけで。

 

 それに、消費電力に関してもだ。少なくとも人数ぶんのスマホ充電と、日没後も活動できる明るい照明機器と、二台以上であろうカメラと、パワータイプであろうPC。

 ……おれ一人のときと比べ、消費電力の差なんて……考えるまでもないだろう。

 

 

 つまりは……やばい。

 どれくらいやばいのかというと……もれそうなくらい。

 

 

 

 

「…………まだ期日も御座いますし……手前にお任せ頂けますでしょうか? 御館様」

 

「ふぁい!?」

 

「……本職の電気工事士には及びませぬが……御屋敷から延長電線を引く程度であれば、可能かと」

 

「でんきひけるの!? すごい!!」

 

「……計画としてはあくまで『非常に長い延長タップ』に過ぎませぬ。……御屋敷の外部電源にプラグを挿し、地中に埋め込みつつ電線を這わせ、或いは木々の枝に掛けて小屋まで持って来ること自体は……恐らく可能かと」

 

「やって!! てぐりさんおねがいします!! それやって!!」

 

「……畏まりました。……其では暫しお時間を頂戴致します」

 

「うん!!!」

 

 

 

 おれの浅すぎた考えにより、危うく神企画が残念なことになるところだったが……そんな窮地を救ってくれたのは、われらが『おにわ部』頭領、ジャパニーズクールテングクラフターメイドガールこと天繰(てぐり)師匠。

 圧倒的強キャラである彼女は、ひとつ会釈をしてヒュババッと掻き消え……おそらくは早速『超ロング延長コード作戦』に取りかかってくれた。まじ神。

 

 

 

 

 

 

 

「…………なんてことがあってね……やっぱおれって、所々でポンコツなんだよなぁって」

 

「ご安心くださいませ、若芽様。たとえ若芽様が『とことろろでぽんこつなん』であろうとも、霧衣(きりえ)めがお手伝い致しますゆえ」

 

「き、きりえちゃん……!! ありがどうね!!」

 

「んっ、恐縮にございます。……えへへ」

 

 

 

 キャンプ場への電気引き込み工事をプロ(おにわ部)の皆さんにお願いして、おれは邪魔になってしまわないようにおうちへと撤退……引き続き別件の打ち合わせへと取りかかる。

 

 打ち合わせといっても、参加者はおれと霧衣(きりえ)ちゃんの二人だけ。

 ラニは(すてら)ちゃん絡みで囘珠(まわたま)さんのところだし、朽羅(くちら)ちゃんと(なつめ)にゃんはあたたかな窓際で仲良くおひるね中である。くそかわいいが。写真とっとこ。

 

 

 

「お夜食ですと……やはり『からあげ』や『だしまき』など、食しやすい献立のほうが喜ばれましょうか?」

 

「そこまで気を使わなくても大丈夫だと思うよ。昼夜はあまごやさんにお弁当頼むし、夜中にほんと小腹を満たすためにチョコッとあれば良いみたいから」

 

「左様にございますか。……では、やはりおにぎりと……付け合わせに数点お惣菜を、あとは温かい汁物をご用意致しましょうか? ……あっ、しかし夜分ともなりますと汁物が冷めてしまいます……」

 

「おっけーわかった任せてスープウォーマー買ってくるね! ……霧衣(きりえ)ちゃんごめんだけど、日にち(ごと)で必要な食材書き出しといてもらっていい?」

 

「かしこまりましてございまする。……ふふっ。大祭の支度のようで、わたくしも楽しみにございまする!」

 

 

 

 天使のように愛らしい霧衣(きりえ)ちゃんの慈愛のほほえみを浴びて、おれの身体のわるいところが一瞬で浄化されていくのを感じる。これはすごいぞ。

 

 

 近々お迎えするお客様たちに、安心してこのほほえみを堪能してもらうためにも……あと一息、最後まで気を抜かずに準備しなくては!

 

 もう『うっかり』はしないぞ。おりこうなわかめちゃんに任せとけって!

 

 

 



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461【企画初日】施設利用の手引き

 

 

 えー……月日が経つのは早いもので。

 現在はですね、少しずつ涼しくなりつつある九月も下旬の……某月曜日の朝ですね。

 

 愛智県東部の岩波市を拠点とするわれわれ『のわめでぃあ』でございますが……本日は諸用により、東京都は渋谷区の某所へとお邪魔しておりましてですね。

 

 

 

「えー、それでは……激闘(くじびき)(※決して忖度はありませんでした)を勝ち抜き一番槍の栄冠を手にした、Ⅰ期生の皆さん。おはようございます」

 

「「「「「おはよーございます!」」」」」

 

「お、おおぅ…………はい、みなさん元気いっぱいですね。とてもよいお返事です」

 

 

 

 最近すっかり顔を覚えられてしまった、株式会社NWキャスト内『にじキャラ』さん事務所、その会議室。

 そこへ集められたのは……Ⅰ期生の演者さんが八名と、大小さまざまな機材を携えた裏方(スタッフ)の皆さんが六名。

 

 総勢十四名……たいへんいい笑顔の、いい歳した男女の集団である。

 

 

 何が始まろうとしているのか……なんて、今さらご説明するまでもないだろう。

 紆余曲折を経て、どうにかこうにか充分な準備が整ったと自負している『わかめ沢キャンプ場(通称)』での、大規模同窓会コラボ配信……一泊二日が四連続で合計四泊五日にも及ぶ超おたのしみウィークが、いよいよ始まろうとしているのだ。

 

 

 

 

「えー、それでは僕のほうから。改めて今回のイベントについて説明しますね」

 

「アッ、おねがいします」

 

 

 今回()お留守番の立場だという鈴木本部長の口から、改めて企画概要が説明される。

 ……尤も『にじキャラ』のみなさんは重々承知の上だろうので、つまりはおれに対しての確認の意味も籠められているのだろう。『我々はこういう説明をしました』ってことだな。

 

 

「まず……今回は一部の例外を除き、常時『新世代演出技術』の使用を前提として配信を行って頂きます。皆さんには『実在仮想配信者(アンリアルキャスター)』として各々準備して頂き、そのままアウトドアレジャーを楽しんでいただく形となります。……こちらの、まぁ皆さんご存知でしょう木乃若芽さんのご協力により、部外者の目を気にせず済む環境を用意しました。存分に羽根を伸ばし、キャラになりきって楽しんで来て下さい」

 

「はい! 誠心誠意準備させていただきました! ……えーっと、キャンプ場のまわりにも充分な広さの山林がありますし、巡回警備スタッフもこちらで手配してあるので……部外者にパパラッチされる心配は無いと思います」

 

「ありがとうございます。カメラは合計三台、うち一台は小型カメラ(ゴップロ)を皆さんにお預けします。スタッフの二台と、皆さんにお預けする一台……それらを随時切り替えながら、極力『通し』でライブ配信を行っていただきます」

 

 

 

 今回の大規模同窓会コラボの、ひとつの特徴といえる試み……それこそ、この長時間に渡る『ぶっ通し配信』作戦である。

 

 キャラクターを演じて演目をこなすというよりかは、ありのままを視聴者の皆さんに見てもらい、場を共有してもらうことを主眼に置いたこの戦法。

 芸能人や有名配信者(ユーキャスター)の方々がよくやる『キャンプ配信』に近しいものがあり、実体としての姿を持つ『新世代演出技術』ならではの演目といえよう。

 

 とはいえ、さすがに常時見られっぱなしを意識しなければならないとなると、場合によっては体力の問題もあるだろう。

 いつもより大きな身体を操らなければならない『邪龍』のウィルムさんや、浮遊魔法の制御に集中しなければならない『天使』のセラフさんなんかは、特に注意が必要だ。

 休憩小屋の中をディレクタールーム兼セーフゾーンとして活用してもらったり、いざとなったらおうちに退避してもらったり、極力演者(タレント)の皆さんのストレスにならないよう留意する必要がある。

 

 

 まぁ……そのあたりは招待主(ホスト)である我々が、しっかりばっちりしっぽり気を利かせるべきところだろう。

 みなさんが楽しく過ごせるよう、手取り足取りいろいろとフォローさせていただこうではないか。むふふ。

 

 

 その後も鈴木本部長の説明は続き、どちらかというと技術的な説明に移っていった。

 なんでも、カメラの音声や映像は休憩小屋内の特設ディレクターブースに送られ、スタッフさんの手による調整を経て全世界へと公開される形となるという。

 

 

 ちなみに、やはり気になるネット環境だが……われらが職人集団(おにわ部)がやってくれました。

 件の超ロング延長コードを引き込む際に『どうせならば』と、バリバリ業務用の光ファイバーケーブルを担いできてくれた。

 更に、土魔法の使い手であるおれが居るわけなので……『せっかくならば』とPF管を地中埋設し、その中に電源ケーブルと光ファイバーケーブルを通し、おうちから小屋まで引き込んでしまおうということになりまして。

 

 つまりは、元は水遊びの更衣室として建てられた休憩小屋だったが……今となっては水洗トイレあり・電源あり・ネットワークコンセントありの、つよつよ仕事環境として生まれ変わったわけだな。

 

 

 まぁ、数日前には『多少の不便さが非日常感を演出して~』とか言っていた気もするが……御客様満足度のためならば、自分のこだわりなんて投げ捨てて見せますとも。

 

 

 

 

 

「……という形になります。つまりは配信が『休憩中』となっているとき以外は、常時皆さんの姿は全世界に晒されているものと考えて下さい」

 

「ちょ……晒され、って…………まぁそうなりますか。一応小屋の中とか、おうちとかはセーフゾーンとして休めるようにしてありますので、必要に応じて使ってください」

 

「ありがとうございます。……加えて、今回はあくまで『にじキャラ』としてのコラボ企画です。酷なようですが、今回『のわめでぃあ』の皆さんは施設管理者として、極力裏方に徹していただきます。……つまりは、配信中の接触禁止です」

 

「「「「「「ええーーーー!!」」」」」」

 

「いや、『ええー』じゃないですって。そういう話だったじゃないですか。何でそんな残念そうなんですか」

 

「じ、じゃあじゃあ! その『休憩中』とか……カメラが回ってないとことかじゃったら……」

 

「まぁ……施設管理者への問い合わせなんかもあるでしょうし、こっそりとであれば良いでしょう」

 

「やったぁ!!」「ちょっと!??」

 

 

 

 にぎやかなオリエンテーションは順調に進み、おれの口からも一通りの注意事項や『困ったときは何でも相談してくださいね』と言葉を添えさせていただき。

 

 これにて……第一陣であるⅠ期生の皆さんの準備が、いよいよ整ったわけだ。

 

 

 

「僕が付いてけないの、正直本当悔しいんですけど……でもその分は配信見て楽しませて貰うので、そのつもりで臨んで下さい。……では若芽さん、後のことはお願いします」

 

「おねがいされます!」

 

(まぁ働くのはボクなんだけどね!)

 

(ごめんて)

 

 

 

 窓のブラインドをしっかりとチェックして、部外者の目がないことを確認し、ラニに頼んで【門】を開いてもらう。

 高価な機材を抱えての、かなり大所帯の移動となるが……ラニちゃんのおかげで、目的地まであっという間に到着できるのだ。すごいぞ。いつもすまないねぇ。

 

 

(なんのなんの。ボクはボクでいつもノワに吸わせてもらってるし)

 

(どこを!?!!?)

 

(………………魔力のこと……なんだけど)

 

(…………………………し、しってたし)

 

(あ、もしかしてノワ、ボクに吸ってほしかったとか? おっぱ)

 

(さあ気合いれていこー!!!)

 

(誤魔化し方が露骨ゥー!!!)

 

 

 

 団体さんを送り届け、改めてとても残念そうな顔してる鈴木本部長にご挨拶し……最後におれたちも【門】へと飛び込む。

 ぐんにゃりした異空間を出た先は、山中特有のひんやりした空気に包まれた……われらが拠点『のわめ荘(通称)』の正面玄関前だ。

 ここから会場である『わかめ沢キャンプ場(暫定)』までは、徒歩でおよそ五分ほどになる。

 

 

 ……さて、それでは。

 われわれ『のわめでぃあ』一同、はりきって『おもてなし』させていただきましょうか!

 

 

 



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462【企画初日】ベテランチームワーク

 

 

(見て見てラニ! セラちゃんがほら岩に座って『ちょこん』ってア゛ア゛ア゛ア゛ちっちゃくてがわいいいい!!)

 

(ノワねえねえノワほら! ソリスちゃんとベルちゃんのおみあしがホラ!! アッ、もうちょっと! もーちょっとたくし上げてもろて)

 

(あっ、ティーさまきたティーさま! アッおみあしが!! アッ、アッ、ティーさまのおみあし!! もーちょっとたくし上げてもろて)

 

(見てごらんノワ、ハデスくんとエルくんガン見してるよ。Ⅰ期の女の子って露出控えめっていうか、ロングスカート多いもんね。いやーいやー、やっぱ足だけ入れる水辺用意しといてよかったわ)

 

(やっぱさすがだよなおれら)

 

 

 

 鈴木本部長さんからのお言葉であったように、今日われわれはあくまで施設を提供しただけの立場でありまして。

 もちろん招待主(ホスト)としてやるべきこと・気を配らなきゃいけないことはたくさんあるわけだが……それを差し置いても、そこまで忙しいというわけではない。

 

 なんてったって……今回おれたちは出演するわけじゃないのだから。

 だからこそこうして、既に全世界公開されている大御所チームのお祭りイベントを……特等席から俯瞰することができるわけだな。

 

 

 

(これはこれは……とーってもキャラがよく表れてる配置ですね。解釈一致ってやつだよ)

 

(ウィルムくんとオギュレくんの『悪役コンビ』が真面目にテントを立ててて、ティーちゃんたち女の子たち四人組はかしましくハシャいでて、エルくんとハデスくんの『宿敵コンビ』は仲良く鼻の下伸ばしてる……と。なるほど解釈一致)

 

(エルヴィオさんとか……パーティーの四分の三が美少女だもんな。冒険中でも絶対ムフフなことになってるって)

 

(ノワノワ、ちょーっと武力介入しちゃう? こう……『とらぶる』な感じで)

 

(んー、今回はやめとこ。ライブ中継だし。ティーさまの『ぽろり』とか『ちら』とか全世界公開しちゃった日には……)

 

(あー……しぬね、エルくん。ごめん、さすがに軽率だったわ)

 

(いいのよ。ぶっちゃけおれも本音いうと『とらぶる』なとこ見たかったし)

 

(ふふふふふ、そちもえっちよのう)

 

 

 

 もともと企画趣旨としては、『ゆるーくキャンプを楽しんでるところを配信する』といった感じの催しだ。特に『これをやらなきゃいけない』なんていうノルマもないので、各々が好きなように楽しんでもらっている。

 

 ……その結果が、先程の解釈一致配置となるわけだな。

 根が真面目な邪龍(ウィルム)さんと悪魔(オギュレ)さんがテントの設営を一手に引き受け、天使(セラフ)さんは岩に腰掛け爪先でぱしゃぱしゃと水を蹴飛ばし、王女(ティーリット)さまと聖女(ベルナデット)さんと魔法使い(ソリス)さんは衣装をふとももまでたくし上げてつめたい沢の水を堪能し、勇者(エルヴィオ)さんと魔王(ハデス)さまはそんな女子組を凝視している……という。

 

 現在の状況におけるMVPはというと、明らかに難易度が高いであろう巨体への【変身(キャスト)】に臆することなく、逆にその巨体を活かして設営に貢献しているウィルムさんと、小回りが利かなくなった彼のフォローに入るオギュレさん。このお二人だろう。

 プライベートでも仲が良いらしい彼らの、息の合った連携プレイによって……合計四つのテントが早々と立ち上げられたのだった。

 

 

 ここまでの映像をみた視聴者さんが、果たしてどういう感想を抱くのかはわからないが。

 たぶん、恐らく……今のおれと同じ感想を抱いていたことだろう。

 勇者仕事しろ。

 

 

 

 

「そういえば魚いるらしいんすけど……どうします? ウィルムこう、いい感じに取れたりしない?」

 

「いやぁ…………さすがに無理であるな。多少は腕が伸びたとて、人間に毛が生えた程度よ」

 

「伸びたわけじゃないですよね? 元からですよね?」

 

「う、うむ。我輩生まれたときからこの腕の長さで五千年生きてますので」

 

「生まれたときから今の図体なワケ無ぇだろアホ邪龍」

 

「く……クソァ!」

 

 

 

 おおっと、ここで全世界一億二千万人の視聴者さん(てきとう)のツッコミが届いたのだろうか。われらが勇者さまがプール兼生け簀に興味を持ったようだぞ。

 いいぞその調子だ、そこは上手く使えば女の子たちを巻き込んで水着姿を披露できるぞ。さあがんばれ勇者。全世界一億人の健全な男子(てきとう)の願いはきみの活躍に懸かっているのだ。

 

 

 背中こそ開いているものの、身体の前面は足先まで丈の長いローブで隠されていたエルフの王女さまを。

 幼げで小柄な体躯ながら、修道服の上からでもあからさまに見てとれるたわわな実りを携えた聖女さまを。

 大きく開いた肩口と腰まで入ったスリットがありながら、かたくなにそれ以上の肌色が許されなかった女魔法使いを。

 …………幼稚園児くらいの背丈でふわふわ浮かぶ天使ちゃんは、まぁ……うん。そう。そうね、かわいいよね。そうね。

 

 

 そんな彼女たちの、とびきりレアな水着水遊びシーンを堪能できるチャンスだったのだ。

 場合によってはおれたちも魚に【変身】して、彼女たちのおまたの内もものあたりに体ごと突撃することも辞さない構えだった。

 ちなみにおれはティーさま、ラニはベルさんを狙っていたらしい。

 

 

 

 ……まぁ、過去形になってるということはですね。どういうことなのか察していただけると思うんですけどね。

 

 

 

「じゃあ…………()()()ですね! まーかして下さいって! オレが全員分釣って見せますから!」

 

「魔王も働きなさいよ。さっきベルの脚ガン見してたのバレバレなんだから」

 

「俺様を見くびるなよ。乳もバッチリガン見してたぜ!」

 

「さすが魔王様……最低っすね」

 

「おい待てコラテメェにだけは言われたか無ぇぞクソ勇者ァ!!」

 

「じゃあせっかくだし……釣りバカ対決すっか? オレちょっと釣竿無いか()()()()()さんに聞いてくるわ」

 

「お願いね、おーくん。あとウィルくんごめん、わたしのカバンからタオル取ってもらってい?」

 

「婦女子の荷物を開けるほど落ちぶれては居らぬ。……鞄持ってくるので、それでいいです? アッ…………よいか?」

 

 

 

(ウーンやっぱ紳士的な邪龍よ。それはそれとして()()()の気配。ねぇラニ、釣竿って何本あったっけ?)

 

(四本だけど……貸しちゃうの? 水着チャンスだよ?)

 

(おれの直感が告げてるんだ。釣りバカ対決のほうがウケるって)

 

(???? …………そ、そう?)

 

 

 

 キャンプ場の外、カメラの死角へと抜け出し……なにやら周囲を『きょろきょろ』と見回している上級悪魔系配信者(キャスター)、オギュレ・カブラカンさん。

 いかにも(ワル)そうな風体とチャラっぽい言動に反し、気は利く空気は読める他者を立てると三拍子揃った『いい悪魔』である。

 

 先程の発言と今の行動、そして彼の思考パターンを推測すると……それすなわち。

 

 

「こっちですオギュレさん。四本ありますけど、二本で?」

 

「おぉ! ありがとね若芽ちゃん。……そうだなぁ、とりあえず二本借りていい? もしかしたらまた借りに来るかもしれないけど」

 

「大丈夫ですよ。わたしたちも楽しませてもらってますので」

 

「へへへ……いやぁ、本当ありがとうね」

 

「あっ、そうだ。もしわたしたちに要望とか、聞きたいことありましたら……今回みたいなのでもいいですけど、REIN(メッセージ)下されば」

 

「…………あぁ、そっか! ……いやぁ、この格好のときって……ホラ、スマホ持たないからさぁ」

 

「配信中ですもんね……」

 

 

 

 いやぁ……やっぱりいいひとだ。

 おれのような見た目ちんちくりん木っ端配信者(キャスター)に対しても、フランクではあるが礼節を欠かさない応対をしてくれる。

 どちらかというと『縁の下の力持ち』的なお方であり、配信中で目立つことはあまり無かったとしても……こういう潤滑剤的なメンバーの必要性も、おれはちゃーんとわかってるんだぞ。ふふん。

 

 

 カッコよい姿でカッコよい去りぎわの挨拶(『アデュー』とかそういう感じの)をおれに送りながら……小脇に『わくわく釣りセット』ふたつを抱えた上級悪魔は、キャンプ場へと戻っていった。

 

 ……ここだけ切り取ると、これだけでもめちゃくちゃおもろい絵面だな。

 

 

 



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463【企画初日】順調快調絶好調

 

 

「お前なんだ? 冒険者ギルドの奴か? 三組の勇者か?」

 

「やめろよそういうの」

 

「おい勇者ァ…………そのジャージ魔王軍のじゃねぇ? 返してやれよ」

 

「やめろって! オレ集中してんの! 魚逃げんだろ!」

 

「逃がそうとしてんだよなァ!」

 

 

 

 せつめいしよう。ここはわれらが『わかめ沢キャンプ場(暫定)』の渓流プール……あらため、生け簀エリア。

 現在は施設管理者から釣り道具の支給を受けた勇者(エルヴィオさん)魔王(ハデスさま)により、急遽ガチンコ釣りバカ対決が繰り広げられているのだ。

 

 釣り針に練り餌をくっつけて釣るタイプの、非常にシンプルな釣り方ではあるが……いい歳した大人の男性がこれまた楽しそうに、キャイキャイとはしゃぎながら真剣勝負と洒落込んでいた。

 

 

 

「やっぱホラ、人の影が映ると魚逃げんだって! だからほら、おまッ、おまえ! やめろ跳ねるな! 振動を与えるな振動をォ!」

 

「俺様魔族だしー? ヒトじゃねえしー? このままいけば五対一で逃げ切って俺様の勝ちだしー?」

 

「おッまえ! 露骨にきたねェぞ! それが魔王のやること…………やることっぽいか?」

 

「ぇえぇぇ……『魔王』の所業にしては……その、可愛らしいような気もしますが……」

 

「可愛らしいっていうか、幼稚って言うか……もう小学生男子みたいよね。セラちゃんもなんか言ってやりな?」

 

「わたしはおいしいお魚がいただけるならなんでもいいです」

 

「「「「かわいい」」」」

 

 

((わかる))

 

 

 

 女性陣からの熱い視線(※食欲由来)を受けて、年甲斐もなく騒ぎまくる勇者(エルさん)魔王(ハデスさま)

 非常にいろいろと白熱してる対決なんだけど……その理由が『勝者に進呈される缶ビール』なわけだから、そりゃまぁ確かに優勝したくなるもんな。やっぱり超有名仮想(アンリアル)配信者(キャスター)とてひとりの一般成人男性なわけだ。……いや『一般』ではないか。

 

 ……まぁ、小学生男子(勇者と魔王)が釣りに白熱するのは悪くはないと思うし、実際配信の向こうの視聴者さんも白熱してくれてるみたいなのだが……その影で上級悪魔(オギュレさん)が火付け用の(たきぎ)をせっせと集めに行ってるのを見て、本当にこの悪魔お兄さんはいい人だなって。

 

 

 

 

「おぉ? 二人とも良いペースであるな。何匹差になわーーーー!!?」

 

「おま、っ!? あ゛ーっ! あ゛あ゛ーーっっ!! あ゛あ゛あ゛ーーーっっ!!! アホ邪龍てめェ俺様の魚ァ!!?」

 

「ち、違うんだって! わがはい足の爪先(つまさき)とかまだ間合い慣れてなくって!」

 

「おっとぉ! いよいよ勇者オレが一匹差まで追い上げましたァー!」

 

「一匹差じゃねえよ!! 一匹差じゃねぇぇぇよ!!」

 

 

 

 

 

「いやーいやー……やはり期待を裏切りませんね、Ⅰ期の皆さんは」

 

「ははは。まぁ……魔王(ハデス)勇者(エル)も『大騒ぎすんのが仕事』みたいな所あるし、ね」

 

 

 

 魔王の絶叫というか悲鳴が響く山の中で、一人せっせと準備に勤しむチャラ男系上級悪魔……のガワを被った、極めて誠実な青年。

 彼の手にする袋には、焚き付けにもってこいな細い枯れ枝や乾いた枯れ葉などが詰め込まれ、そこへおれが持ち込んだもう一袋が追加される。

 

 

「いつもアフターフォローお疲れ様です、オギュレさん。……杉と松の葉、こんなもんで? ちゃんと乾燥させてあります」

 

「充分充分。ありがと。……手間掛けさせてごめんね、若芽ちゃん」

 

「なんのなんの。実際眺めてるだけよりも、ちょっとでもお役に立ちたいですし。……他に必要なものあります?」

 

「うーん…………贅沢言ってるのはわかってるんだけど……お茶とか、水分補給用の。お願いしてもいい……かな?」

 

「あっ……了解です! こっそり小屋の中に設置しときますね!」

 

「助かるよ。ありがとう」

 

「エヘヘー」

 

 

 

 絶叫と呼んで差し支えの無い悲鳴を上げる魔王さまと、大笑いしている女の子たちの喚声をどこか遠くに。

 

 おれは招待主(ホスト)として頼まれごとをきっちりこなすべく、おうちへと飛んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「わかめさまっ! わかめさまっ!」

 

「わかめどのー!」

 

「ごしゅじんどのー!」

 

(ヴッ!!! すき!!!)

 

 

 おれの一時帰還をリビングで出迎えてくれたのは、わが『のわめでぃあ』が誇るかわいいなかよし(?)三人組。

 霧衣(きりえ)おねえちゃんのタブレットでは今まさに『実在仮想(アンリアル)林間学校(※通称)』が配信中で、そこには奇跡の大逆転を遂げて万歳三唱している勇者と、まさかの敗北に男泣きしている魔王の様子が写し出されている。

 ……いや、ハデスさま可哀想すぎるやろ。あとでビール差し入れしてあげよ。

 

 

「きりえちゃんジャグちょっと借りるよ。冷たいお茶つくって持ってったげたい」

 

「そ、それでしたら、わたくしが! わたくしがお茶をお作りいたします!」

 

「いやいや、ここは我輩が! ちゃんとおてつだいできるところを見せてやろうではないか」

 

「…………じ、じゃあ小生も」

 

「「「どうぞどうぞ」」」

 

「ほぇぇぇ!!!?」

 

 

 

 いやあ……順調にエンターテイナーとして育っていってくれているようで、おれとしても鼻が高いですな。かわいいが。

 お茶目さを盛大に発揮してくれた霧衣(きりえ)ちゃんたちを『配信を見てお勉強するように』と宥めて着席させ、おれはキッチンの戸棚からウォータージャグを引っ張り出す。よく草野球のベンチとかに置いてあるアレだ。

 麦茶のパックを二袋いれて、あとはシンクの蛇口からお水をジャバーっといれて……トドメとばかりに冷凍庫から氷を取りだし、ドボドボと投入。これでつめた~い麦茶が十リットルできるというすんぽーだ。

 

 

「じゃあおれは現場戻るから、何かあったらREIN(メッセージ)ちょうだいね」

 

「はいっ! わかりまして御座いまする!」

 

「あー……あと霧衣(きりえ)ちゃん、ごめんねなんだけど……(和室で作業してる)スタッフさんに、お茶とか……軽く食べれるおにぎりか何か、差し入れてあげてもらってもいい? 長時間のおしごとって疲れるだろうし」

 

(うけたまわ)りまして御座いまする。(現場で撮影している方々も含め)すたっふの皆さまに、でございますね?」

 

「(皆さま……? あっ、何人か残ってたのか。なるほどな。)うん、そう。お願いできる?」

 

「吾輩もおてつだいするゆえ、安心するがよい」

 

「な、ならば小生も! 小生もお役に立ちましょうぞ!」

 

「みんなえらい! あとでごほうびをあげよう!」

 

「「「わあーい!」」」

 

 

 

 まだまだ催し物は始まったばかり。ほんの短い間の一時帰還ではあったが、おれは目的を果たしながらも充分に『かわいい』を摂取することができた。

 

 とりあえずはお茶と紙コップを、小屋内にこっそりと設置すべく……おれは【隠形】の魔法を纏い、今まさに世界中から注目されている『たのしい』現場へと戻っていった。

 

 

 



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【URcas】にじキャラ総合スレ Part.723【仮想配信者】



ばんぐみのとちゅうですが





 

 

 

0001:名無しのリスナー

 

■ようこそ

株式会社NWキャストがリリースする仮想配信者ユニット『にじキャラ』公式アンリアルキャスター達に関する総合スレです

―――――――――――――――

・sage進行推奨。E-mail欄に半角小文字で「sage」と記入

・次スレは>>950が宣言してから立てること。無理ならば代理人を指名すること

・中の人に関する話題やソースの無い推測は荒れる元なので禁止

―――――――――――――――

 

■公式サイト

・にじキャラ

htfp://nijicara_real.nwcast.co.jq/

・NWキャスト

htfp://vvvvvv.nwcast.oo.jq/

 

■公式つぶやいたー

・にじキャラ

htfps://twbyaiter.com/nijicara_abc

・株式会社NWキャスト

htfps://twbyaiter.com/NWcast_Ind

 

■公式キャスターつぶやいたーリスト

【公式・全体】にじキャラ全体

htfps://twbyaiter.com/nijicara_abc/lists/list00all

【公式】にじキャラⅠ期【FANtoSee】

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【公式】にじキャラⅡ期【私立安理有高校】

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【公式】にじキャラⅢ期【MagiColorS】

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【公式】にじキャラⅣ期【Sea’s】

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■にじキャラフォローボックス

htfps://www.picceeve.ne.jp/folbox/creator/240902

 

■にじキャラ非公式weki

htfp://wekiweki.jp/nijicara/

 

■前スレ

【URcas】にじキャラ総合スレ Part.722【仮想配信者】

htfps://ch_fiction/indextop/qawsedrftg202008nj/v6thy8jml/

 

 

 

0002:名無しのリスナー

 

>>1 助かった

スレ立て乙

 

 

0003:名無しのリスナー

 

>>1 乙

ふざけんな何だこのスレ消費速度

 

 

0004:名無しのリスナー

 

>>1 乙

冗談だろおいwww

なんで100そこらが一瞬で消し飛ぶんだよwww

 

 

0005:名無しのリスナー

 

勇者はたらけ定期

 

 

0006:名無しのリスナー

 

ドジっ子邪龍うぃるむたんはマジ癒し系だったか……

 

 

0007:名無しのリスナー

 

あんだけ騒いでも横槍入らないってことはやっぱキャンプ場貸し切りか?

近かったらスニークしに行くんだけどな……

 

 

0008:名無しのリスナー

 

しかし惜しいことを

夏真っ盛りだったら水着も有り得ただろうに

 

 

0009:名無しのリスナー

 

勇者と魔王ホンット仲良いよな……

悪友ポジすきだが

 

 

0010:名無しのリスナー

 

しょんぼりうぃるむたん可愛すぎか

 

 

0011:名無しのリスナー

 

うぃるむたん見た目あんなイカツイし声もイケボなのに真面目純朴癒し系だもんな

実体化してから更にドジっ子属性も追加されてマジたまらん属性盛りすぎやろ

 

 

0012:名無しのリスナー

 

>>7

あの尊ぇ空間に侵入を企てる部外者キモヲタとか普通に死刑やろ

有り金全部スパチャしてから○んでくれ

 

まぁ気持ちはわからんでもないが

 

 

0013:名無しのリスナー

 

>>7

残念ながら一般のキャンプ場じゃねえぞここ

部外者が侵入できる可能性は万に一つも無ぇから諦めろ

諦めて有り金全部スパチャして○ね

 

 

0014:名無しのリスナー

 

そりゃ普通のキャンプ場でファンタジー集団が車から降りてきたらみんなびっくりしちゃうでしょ

 

 

0015:名無しのリスナー

 

いいよなぁ尊ぇよなぁ

初日から既に尊さ致死量なんだけど

これがあと三日続くってマジしぬんじゃね??

 

 

0016:名無しのリスナー

 

すげーな、聖女様は包丁装備もいけるんか

 

腹かっ捌いてハラワタ引きずり出す聖女つよすぎやろ・・・

 

 

0017:名無しのリスナー

 

笑いながら串刺しにしてくティー様サイコっぽくて好き

セラたん小さなおててでお魚もつの可愛すぎて悶え死ぬ

焚き火眺めてご満悦顔のソリスたんふとももえちちです

 

でもやっぱエプロンと包丁似合う聖女様すっき……けっこんしよ……

 

 

0018:名無しのリスナー

 

上級悪魔「ヘルファイア!!(チャッカ○ン)」すき

 

 

0019:名無しのリスナー

 

ホンットまじめにはたらく悪役ペアすき

魔王様もちゃんと働いて

 

 

0020:名無しのリスナー

 

>>13

貴様何を知っている

詳しく聞かせてもらおうか

 

 

0021:名無しのリスナー

 

魔王様が労働なんかするわけないやろ魔王様やぞ

 

0022:名無しのリスナー

 

魔王様はお魚を2匹も釣っただろ

 

 

0023:名無しのリスナー

 

うぃるむたん窮屈そう

咆哮でゴバーーッて木々吹き飛ばしちゃいそう

 

 

0024:名無しのリスナー

 

まあ……さすがに火使う段階になったらね

しかたがないですね

 

 

0025:名無しのリスナー

 

お着替えか……しゃあない

 

我らが勇者よ……期待してるぞ

 

 

0026:名無しのリスナー

 

ナマ着替えしてくれるんですか(真顔

 

 

0027:名無しのリスナー

 

やっぱな、確信したわ

木乃若芽ちゃんって個人配信者の庭だここ

わかめちゃんの手勢が建てた小屋だわコレ

 

 

0028:名無しのリスナー

 

コメも「勇者凸れ」一色でわらう

 

 

0029:名無しのリスナー

 

個人配信者……

個人、ってなんだっけ(ふるえ

 

 

0030:名無しのリスナー

 

勇者行け勇者行け勇者行け

 

 

0031:名無しのリスナー

 

勇者ァーーーーー!!!

 

 

0032:名無しのリスナー

 

しってた

 

 

0033:名無しのリスナー

 

あーやっぱダメかー

 

 

0034:名無しのリスナー

 

  お ま た せ 

  久 し ぶ り 

安心と信頼の処刑用魔法

  し ね ど す 

 実家のような安心感

ま っ て ま し た

 粛 清 の 聖 火

 

 

0035:名無しのリスナー

 

あーあー真っ黒だよ

 

 

0036:名無しのリスナー

 

やっぱりダメだったか……

勇者……惜しい奴を亡くした……

 

 

0037:名無しのリスナー

 

魔王様笑いすぎwwwwww

 

 

0038:名無しのリスナー

 

コメ欄に刀郷おるやんけ

真っ黒さにドン引きしてて草

 

 

0039:名無しのリスナー

 

【NC2HS】刀郷 剣治:うわ真っ黒じゃんこっわ

 

いつものキミの姿やで……

 

 

0040:名無しのリスナー

 

今さらだけど結構NCメンバー配信見てんのな

やっぱ自分らのときのことが気になるのかもしれんが、ただただ単純に見てて楽しいもんな

さすがⅠ期やで

 

 

0041:名無しのリスナー

 

やっぱ初手にⅠ期持ってきたのはさすがだよな

本能的に配信映えするとこ持ってくるから強いわ

 

 

なによりも強いのはベルちゃんのおっp

 

 

 

 

 

 

………………

 

 

………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

 

 

 

0120:名無しのリスナー

 

休憩終わった!!

 

開幕ソリスたんドアップは草

 

 

0121:名無しのリスナー

 

はじまた

 

ソス子顔wwwwwwww

 

 

0122:名無しのリスナー

 

あ~~焚き火すき~~~~

開幕焚き火にデレデレなソス子かわええぞ

 

 

0123:名無しのリスナー

 

トロ顔ソリスちゃんのドアップから始まる第二部わらうじゃん

 

 

0124:名無しのリスナー

 

なんやなんやふつうのキャンプ衣装意外と似合っとるやんエエゾエエゾ~~~

 

 

0125:名無しのリスナー

 

そりすちゃん火だいすきだからな……

火属性完全特化だもんな……山火事とかやめたげてな……

 

 

0126:名無しのリスナー

 

そりすちゃん胸縮んでね?

あれパッド?パッドだったん??

 

 

0127:名無しのリスナー

 

ほっぺもちもちしてそう

 

 

0128:名無しのリスナー

 

普段着っぽい装いのファンタジー女子ええな……

新たな扉が開けそうだわ

 

 

0129:名無しのリスナー

 

ベルちゃんおっぱでっっっか

ロンT装備のベルちゃんおっぱでっっっっっっっか

 

 

0130:名無しのリスナー

 

上着脱いだらいつもの衣装以上にからだのライン出ちゃうじゃん……

えっちじゃん……

 

 

0131:名無しのリスナー

 

そうだよな、ブロンド美少女登山客とか見てもキュンとするもんな……

日本人離れした容姿のファンタジー美少女がキャンプ装束着てて興奮しないはず無いよな……

 

えっちしたい

厚着一枚一枚剥いてえっちしたい

 

 

0132:名無しのリスナー

 

セラちゃん……

 

 

0133:名無しのリスナー

 

ティー様の笑顔かわええよなぁ……

 

セラちゃん……それもしかしなくても…………子ども用……

 

 

0134:名無しのリスナー

 

サイズでいったら5才児とかそのへんか?

まぁ……そうだね……かわいいよね

 

 

0135:名無しのリスナー

 

一応今回の黒幕のプロフページ貼っとくぞ

NCスレからしたら部外者かもしれないけど今回の関係者だからええやろ

 

htfps://youscreen.com/user/cast/kinowakamedia

 

 

0136:名無しのリスナー

 

個人配信者のおうちの庭なんだって??

すげえよな……

 

 

0137:名無しのリスナー

 

まーだ個人勢名乗ってんのか

 

くろま3Dのときからもうズブズブなんだから早くけっこんしちまえよ

どんだけなかよし目撃報告されとる思ってん年

 

 

0138:名無しのリスナー

 

まぁ厳密にいうとスレ違いな気はするな、あくまでNCキャスターの総合スレだし

 

それはそれとして今回の場を提供してくれた恩は大いにあるとおもうのでぼくはチャンネル登録してきました

センキューエルフ

 

 

0139:名無しのリスナー

 

あーーーこの子アレか、ティー様が結婚申し込んでたロリエルフか

 

どんな私生活だよ、プライベートでキャンプ場作るとか強すぎだろ…………

 

 

0140:名無しのリスナー

 

ねえ何かきた

 

 

ねえ!!!だれかきた!!!!

 

 

0141:名無しのリスナー

 

誰wwwwwかわいいwwwwww

まってwwwwwwwめっちゃすきwwwwwwww

 

 

0142:名無しのリスナー

 

きりえちゃんじゃん!!!!!!

どうしたの!!!コラボなの!!!!!

 

 

0143:名無しのリスナー

 

差し入れwwwwwおにぎりじゃんwwwwww

 

 

0144:名無しのリスナー

 

BBQに備えて米の支給か

なんなのこの美少女……まじやさしい子じゃん……

 

すき……

 

 

0145:名無しのリスナー

 

おい魔王泣いてんぞwwwwww

 

 

0146:名無しのリスナー

 

働かない同僚に呆れる悪魔

 

おぐくんとうぃるくんがマジⅠ期の良心でなぁ……

 

 

0147:名無しのリスナー

 

B・B・Q!! B・B・Q!!

やっぱキャンプっつったらBBQよな!!

謎の美少女ファインプレーすぎない??

 

 

0148:名無しのリスナー

 

オッケーやっぱり肉か!!

肉買っといてよかったわ!!これで実質推しと一緒にBBQできるって寸法よ!!

 

 

0149:名無しのリスナー

 

ねえさっきの美少女だれ

 

おにぎりの美少女だれ!!!

 

 

0150:名無しのリスナー

 

あーあーあーぐだぐだだよwwww

おい勇者いい加減にしろwwwチーム悪役にこれ以上迷惑かけんなwwww

 

 

0151:名無しのリスナー

 

ティー様かわいいなぁ…………

 

 

0152:名無しのリスナー

 

さすが包丁聖女

 

 

0153:名無しのリスナー

 

>>149

今回の黒幕のロリエルフ配信者の嫁

 

 

0154:名無しのリスナー

 

「豚汁つくっていい?」

 

ベルナデット……オレの味噌汁も作ってくれ……

 

 

0155:名無しのリスナー

 

あーあー

確かに肉多すぎやろコレwwwww全部肉焼いたら大変なことになるぞwwww

 

 

0156:名無しのリスナー

 

ははーんなるほど豚肉

買いすぎた豚肉を豚汁にしちゃうってことね?

焼肉用ニクを豚汁にとか贅沢やな

 

 

0157:名無しのリスナー

 

ベルちゃんマジ理想の嫁じゃん……

おっぱいでっけえし家事万能だし……

あと多分えっちなのに多分奥手だし……

 

 

0158:名無しのリスナー

 

他の材料はあるんか?豚汁って豚肉だけ?

出汁とか味噌とかにんじんとかごぼうとかこんにゃくは?

 

 

0159:名無しのリスナー

 

あぁ鍋はあるのね

 

いや、鍋っていうかそれダッチオー………まぁいいか

 

 

0160:名無しのリスナー

 

さすが炎の魔術師やな!!完璧な置き火だ!!

肉が旨くなるな!!

 

 

0161:名無しのリスナー

 

あぁそっか、包丁聖女がハラワタ引き抜いた魚もあるんか

 

 

0162:名無しのリスナー

 

お肉焼いたりお魚焼いたりおにぎり食べたり

いいなぁ……めっちゃ豪勢じゃん……

 

 

0163:名無しのリスナー

 

あーそっか塩焼き!!

おさかなの塩焼き!!

 

 

0164:名無しのリスナー

 

魚釣り対決……嫌な事件だったね……

 

 

0165:名無しのリスナー

 

日が落ちてくるとまーたいい雰囲気だなぁ

 

 

0166:名無しのリスナー

 

まってwwwwwwだれかきたwwwwww

 

ねえこの声wwwwwww

 

 

0167:名無しのリスナー

 

おにぎりの子じゃん!!

 

 

0168:名無しのリスナー

 

おにぎりちゃん再び

 

 

0169:名無しのリスナー

 

あらぁ!にんじん持ってきてくれたのぉ!

かわいいねぇ!いいこだねぇ!

 

 

0170:名無しのリスナー

 

わかめちゃんの嫁じゃん

 

嫁にしたいが

 

 

0171:名無しのリスナー

 

みんなが一気にデレデレになるのすき

 

……まって、そんな家族ぐるみの付き合いしてんの?

Ⅰ期のみんなはおにぎりの子とそんなしょっちゅうなかよししてるの?

 

 

0172:名無しのリスナー

 

すげーな、何でも出てくんのな

バックアップ体制万全すぎない?

 

 

0173:名無しのリスナー

 

かたくなに黒幕エルフちゃん姿を表さないの逆に草生える

 

 

0174:名無しのリスナー

 

これたぶん嫁ちゃんが姿表すの想定外だったんじゃねwww

黒幕エルフちゃんこれ本当は終始黒子に徹したかっただろwwwww

 

 

 

………………

 

 

………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

 

 

 

0250:名無しのリスナー

 

はたらけ勇者

 

 

0251:名無しのリスナー

 

片付けぐらい買って出ろ勇者wwww

 

 

0252:名無しのリスナー

 

ソス子完全に火の番固定やな……さす火魔

 

 

0253:名無しのリスナー

 

今回「演じる」感が少ないから良いよな、ありのままのⅠ期見れる感じして

割とみんな解釈一致なのたすかる……やはりウィルムたんは萌え邪龍だった

 

 

0254:名無しのリスナー

 

魔王のワルガキっぷりと勇者のクソガキっぷりが遺憾なく発揮された回

 

 

0255:名無しのリスナー

 

いいねいいね、やっぱキャンプつったら焚き火囲んでぶっちゃけトークよ

 

 

0256:名無しのリスナー

 

腹を割って話そう

 

 

0257:名無しのリスナー

 

ねえwwwwおにぎりちゃんwwww

またきてくれたのwwww

 

 

0258:名無しのリスナー

 

嫁ちゃんじゃん!!

相変わらずなんつー格好してんだよ山んなかやぞ好きだが

 

 

0259:名無しのリスナー

 

おい魔王泣いてんぞwwww

 

 

0260:名無しのリスナー

 

魔王wwwwびーるよかったねwwww

 

 

0261:名無しのリスナー

 

そんなにビール飲みたかったのか……

ってだけじゃねえよな、この男泣き

 

 

0262:名無しのリスナー

 

わかめちゃんだろ

 

わかめちゃんからの差し入れだろ

 

 

0263:名無しのリスナー

 

みんなハタチ以上だもんな……お酒のんでても何もおかしくないよn……

いや聖女!!大丈夫なのか聖女!!!キャラとしてお酒のんでいいのか!!、!?

 

 

0264:名無しのリスナー

 

「酔ってやらかしたら即カメラ切るからな!!」

おっしゃる通りwwww

 

 

0265:名無しのリスナー

 

みんなテンション上がりすぎわらうじゃん

 

 

0266:名無しのリスナー

 

セラちゃんりんごジュースwwww

 

 

0267:名無しのリスナー

 

セラちゃんとウィルムくんだけりんごジュースwwwwww

かわいいかよwwwwwwww

 

 

0268:名無しのリスナー

 

「わかっ……施設管理人さんありがとう!!」

 

やっぱわかめちゃんじゃん!!!

 

やっぱわかめちゃんの仕業じゃん!!!

 

 

0269:名無しのリスナー

 

わかめちゃんっていおうとしたな今wwww

 

 

0270:名無しのリスナー

 

魔王様ポロリしちゃったかー

 

 

0271:名無しのリスナー

 

ァーーーー尊ぇ……尊ぇよォォ

 

 

0272:名無しのリスナー

 

実際わかめちゃんはよく気が利く子だからな、天然のヒトたらしだよあの子

 

 

0273:名無しのリスナー

 

魔王ロリコン説…………って言おうとしたけどぶっちゃけみんなワカメちゃん好きだよな、多分

 

 

0274:名無しのリスナー

 

そりゃこんな痒いところに手が届く楽しい場を提供してもらっちゃったら誰だって惚れるわ

 

 

0275:名無しのリスナー

 

魔王様はメイドスキーやぞ

 

つまり職人メイドを抱えているのわめでぃあは特効

 

 

0276:名無しのリスナー

 

しかし酒入ってんのに問題発言飛び出てこないあたり

さすがⅠ期はリスク管理しっかりしとんのやなって

 

あんなにクソガキじみてんのにな……

 

 

0277:名無しのリスナー

 

せやなぁ、さすがに大人数コラボだと場所がな……

ましてやこんな非現実的な容姿の一団だもんな

 

 

0278:名無しのリスナー

 

いま総勢30人くらいやろ?NCって

さすがに30人同時キャンプって収集つかなくなるやろし仕方無いんちゃうか

 

ユニットごとに割りきったのは英断だと思う

 

 

0279:名無しのリスナー

 

30人同時コラボとか何窓すりゃええねんwwww

わけてもろて正解だわ

 

 

0280:名無しのリスナー

 

27人だけどな

 

 

0281:名無しのリスナー

 

魔王様は青ちゃんと絡めないのが寂しいんかな

やっぱロリコンなのでは

 

 

0282:名無しのリスナー

 

いうてコメ欄に半分以上身内いる件

 

 

0283:名無しのリスナー

 

うぃるむくん眠そう……大丈夫??

めっちゃ働いてたもんね……

 

 

0284:名無しのリスナー

 

ぇえwwwwあのバカデケェやつウィルムくん専用だったのwwww

 

 

0285:名無しのリスナー

 

あの5人用テント一人で使うのwwww

 

 

0286:名無しのリスナー

 

疲れたところにお酒入れたらまぁ眠くなるわな

 

 

0287:名無しのリスナー

 

的確に焚き火を維持するソリスちゃんさす火魔

 

 

0288:名無しのリスナー

 

ティー様よー食べるな……まだ肉焼くんか……

てかエルフなのに肉食うんか……

 

 

0289:名無しのリスナー

 

ウィルムたんはりんごジュースだからお酒入ってないぞ

 

つまりただおねむの女児

 

 

0290:名無しのリスナー

 

ねむい子寝ていいよ宣言

夜更かしして楽しんでほしいけど無理しないでほしい

 

 

0291:名無しのリスナー

 

>>288

エルフが草食ってドコ情報よ

俺が知ってる幼エルフは好物ハンバーーーーグやぞ

 

 

0292:名無しのリスナー

 

ウィルムくん脱落

 

 

0294:名無しのリスナー

 

がんばってたもんな、しゃーない

お疲れ様

 

 

0295:名無しのリスナー

 

おやすみウィルくん

よーがんばった

 

 

0296:名無しのリスナー

 

さすがに風呂はなぁw

 

 

0297:名無しのリスナー

 

ベルちゃんさまの入浴シーンですか!!!!

 

 

0298:名無しのリスナー

 

さすがに風呂は無いやろ

てかキャンプ場ってそうそう風呂無いやろ

 

 

0299:名無しのリスナー

 

水洗トイレはあるのwwwwすげーなマジで

これ個人配信者の自作ってマジ??

 

 

0300:名無しのリスナー

 

近くに温泉あるんか

ロケーション抜群じゃん……

 

 

0301:名無しのリスナー

 

夜の山歩きは危ないぞ

やめときベルちゃん……キミに何かあったら大変……

 

 

0302:名無しのリスナー

 

肝試しwwwwwwww正気か勇者wwww

 

 

0303:名無しのリスナー

 

おい誰かこの酔っ払い勇者止めろ!!、!

 

 

0304:名無しのリスナー

 

お風呂は明日起きてから楽しんでもらって……

 

いやでも肝試し気になるんやが……危険無いんかな

 

 

0305:名無しのリスナー

 

「きいてみっか」

 

?????

 

 

0306:名無しのリスナー

 

「聞いてみっか」

 

誰にwwwwwwwwいま聞くのwwwwwwww

 

 

0307:名無しのリスナー

 

そんな軽率に対応できるもんなのwwww

 

 

0308:名無しのリスナー

 

「いいってよ!!!!」

 

マジかよwwwwwwww

 

 

0309:名無しのリスナー

 

おいわかめェ!!!

頑張りすぎやろわかめェ!!!!

 

 

0310:名無しのリスナー

 

肝試しって急遽思い付きで出来るもんだっけ……

 

 

 

 

………………………………………………

 

 

………………………………

 

 

………………

 

 

 

 

 



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464【企画初日】うわ、きも

 

 

 説明しよう。『肝試し』とは。

 

 日本の習俗のひとつであり、遊びとしての度胸試しの一種である。

 夜の森など『人間が潜在的に恐怖を感じる場所』を巡らせることで、参加者の勇気のほどを確かめながら、そこで起こる事象を楽しむ行事である(うぃきぺ先生より)。

 

 

 そこで起こる事象を『楽しむ』行事である。

 

 ……というわけでね。

 やや強行気味なところは否めませんが、存分に楽しんでいただこうではありませんか。

 

 

 

「えー、いささか突発的ではありましたが……準備のほどは良いですか? 皆さん」

 

「「「はぁーい!」」」

 

 

 元気よくヤル気満々の返事を返してくれたり、あるいは静かに闘志を漲らせたり。

 急な呼び掛けにもかかわらず集まってくれたのは、われらが『のわめでぃあ』の面々……霧衣(きりえ)ちゃんを除く、七名の美少女たちである。

 霧衣(きりえ)ちゃんはね、ちょっと重要なおしごとがあるからね。

 

 (なつめ)にゃんと朽羅(くちら)ちゃんのなかよし(?)コンビと、『おにわ部』部長の天繰(てぐり)さん、ならびにその舎弟(?)であるダイユウさんとカショウさんとクボテさん……そして愉快犯系アシスタントのラニ。

 中身はただの人間であるお客様を脅かすには、控え目に言って過剰戦力であろう面々が、こうしてやる気満々で集ってくれたわけで。

 

 

 

「皆さんにお願いしたいことは、きわめて単純です。お客様を脅かす。以上です」

 

「はいはい御館様! 神術の(たぐい)は許されましょうか? 主に【変化】や【(つむじかぜ)】や【浅霧】等に御座いますが」

 

「変化は現代日本に違和感無い動物とかなら許可です。他の術も……夜だし見通しも悪いので、証拠が映像に残らなさそうな範囲でなら許可します」

 

『――――に。やぬしどの、我輩の身を晒すのは許されようか?』

 

「うーーん…………あっ、ねこちゃんのほうで? なら大丈夫だけど、くれぐれも喋らないようにね」

 

「ご主人どの、ご主人どの! 御客人を脅かすにあたり、小生もこの身を晒してもよいもので御座いましょうか?」

 

「んー…………まぁいっか。霧衣(きりえ)ちゃんお披露目しちゃったし。裏方がおれたちだってバレてるだろうし、いいよ」

 

 

 

 

 てきぱきとミーティングを済ませ、細かな注意事項を確認。気合いも充分の七人の美少女(つわもの)たちは、それぞれ夜の闇へと消えていく。

 

 おれは『準備オッケー』の合図を勇者(エルヴィオ)さんのREINに送り、スタート位置を見下ろせる空中にて【隠蔽】魔法を纏いつつ待機だ。

 脅かし手はみんなに任せるとして……俯瞰で状況を把握する者も必要だろう。

 

 

 さてさて、今回の突発肝試しだが、ルールは簡単。……まぁそもそも肝試しに複雑なルールとかあんまり無いか。

 二人一組でカメラとLEDランタンを持たされた皆さんが、キャンプ地を出発。申し訳程度に整地して砂利を敷いた道を通り、おれたちの拠点(通称のわめ荘)を目指す。

 傾斜やカーブはあるけど目的地まではほとんど一本道だし、迷うことはないだろう。

 

 道中は七人の美少女たちがあの手この手で脅かしに入るだろうが……それらの妨害を掻い潜っておうち(のわめ荘)の縁側、蝋燭の灯りと共に待つ霧衣(きりえ)ちゃんのところに辿り着いたら、折り返しだ。

 

 紙コップになみなみと注がれた、霧衣(きりえ)ちゃん特製の『おいしいお茶』を持ち、帰り道の脅かし手に臆することなく平静を保ちながら、スタート地点であるキャンプ地へと戻ってこれたら、ゴール。

 ゴールした時点で『お茶をどれ程残せているか』が、そのまま勝敗を決めるものさしとなる。重量(※紙コップは除く)イコール得点となるわけだ。

 ビックリするあまり紙コップごと落としたり、お茶をこぼしたりしてしまったら、その分マイナスとなるわけだな。

 

 

 なお、参加者はウィルムさんとセラフさん――つまりは『おねむ組』――を除いた六名。

 

 ペア割は公平に(クジ)引きで決められたので……まぁ、()()()()()()もあるわな。

 

 

 

 

 

「俺様……ベルちゃんと一緒がよかったなぁ」

 

「うるせぇよ馬鹿。オレだってティー様と組みたかったわ」

 

 

 

 一組目。

 『勇者』エルヴィオ・ブレイバーさんと、『魔王』ハデスさま。何だかんだで仲の良い宿敵コンビである。

 

 ランダムである以上、男男ペアももちろんあり得るわけだな。……きっと配信の向こう側では、視聴者のお姉さまがたが大喜びしていることだろう。どちらが×(掛け算)の左か右かで盛り上がってるに違いない。

 

 

 

「一番目って情報なにも無ェもんな…………いやまって、待って、暗くない? 怖くない??」

 

「いやこれやめたほうが良くね? 熊とか出るかもしれねーじゃん。やっぱやめたほうがよくない?」

 

「そこんとこね。施設管理人さんによると、熊とか危険な動物は敷地内に入って来れないみたいなので……大丈夫ね。はーい行ってらっしゃーい」

 

「ソス子おまえ! 一番目じゃ無いからって! 覚えとけよチキショー!」

 

「やっぱ冒険者ギルドにはロクなヤツ居ねぇな!! おいオギュレ代われ! 一番手譲ってやるから!」

 

「いやいやいや。昼間遊んでばっかだったじゃん魔王様。今こそ本気見せたって下さいよ」

 

「魔王軍だってロクなヤツ居ねぇじゃんか! やーっぱお前人望無ェんだな!! 普段の行いってヤツだろこれ!!」

 

「テメェにだけは言われたく無ェよクソ勇者!!」

 

 

 

 ……いやはや、『恐怖』の感情ってすごいのね。こうもあっさりとヒトをダメにしてしまえるなんて。

 まったく……まだスタートしていないのにこの有り様じゃあ、先が思いやられますな。

 

 

(ラニちゃん。軽ぅーくやっておしまい)

 

(あらほらさっさー)

 

「「わああああああああああ!!!」」

 

「いや……風で茂み揺れただけじゃん……」

 

(大爆笑)

 

「皆さーん見てますかーこの二人が『勇者』エルヴィオと『魔王』ハデスでーす」

 

 

 

 

 夜の山林とざわめく風の音にビビり散らし、口汚く罵り合い、まったく歩を進めたがらない宿敵コンビであったが……ここまできてリタイアは認められない。だっておもしろいし。

 

 やがて二人は『抵抗は無意味』と悟ったのか、同期とスタッフの方々と視聴者コメントからの圧力に屈し……非常に渋々ながら、歩みを進めていった。

 

 

 

 

「……というわけでお疲れ様です。カメラお預かりしに来ました(小声)」

 

「アッ、お疲れ様です。ではこちらと……こちらインカムです。どうかよろしくお願いします(小声)」

 

「お任せ下さい。()()()()()()()()()()の実力お見せしましょう(小声)」

 

「あぁ、()()()()()()()()()()ですか。……なるほど、承知しました(小声)」

 

 

 

 スタッフの方からカメラとインカムをお預かりし、てきぱきと準備を整え、おれは再びひっそりと闇に消える。

 現在のマイク入力は牛歩で進む二人組のピンマイクに指定されているので、おれとスタッフさんの密談が拾われることは無い。

 

 また同様に、まだその背中が見える第一走者に声援を送っているティーさまたち皆さんにも……おれの出現を気取られることなく。

 ()()()()()()()()()()としての密命を帯びたおれは……『勇者』と『魔王』を生贄に、彼ら以外の『たのしい』を満たすため。

 

 

 おれにしかできないおしごとに、意気揚々と取り掛かるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

(そろそろポイントアルファ……いま)

 

「「わああああああああああ!!!」」

 

(今のは……羽音と、カラスの鳴き声? ……ダイユウさんたちかな)

 

(シンプルにビビるやつ~)

 

「なな、ななに、ななにな何この霧! 何でいきなり霧出てきたんだよこれオイこれ何!?」

 

「お、おい勇者……なんか寒くね? 俺様の気のせい? …………ちょっ、いややっぱ寒くね!?」

 

――――ガサガサガサガサガサッ!!!

――――ギァァァ!ギァァァッ!!

――――キキキキキキキキキキキキ

 

「「いやあああああああああ!!!」」

 

((大爆笑))

 

 

 



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465【企画初日】歓迎しよう、盛大にな

 

 

「やだァーー!! 聖剣ない! オレの聖剣ない! 無いよぉーー剣な゛い゛よ゛ぉーーーー!!」

 

「馬ッッ鹿なんで剣持ってきてねぇの!? やだァーー! なんかいるっでごれェーー!! 絶対(ぜ゛っ゛だ゛い゛)な゛ん゛か゛い゛る゛っ゛て゛ェ゛ー゛ー゛!゛!゛」

 

 

 

 第一の刺客。

 『おにわ部』所属の(カラス)天狗三人娘による、【変化】と【(つむじかぜ)】と【浅霧】の術。

 まあでもこれ、『第一の』というよりは『第一から第三の刺客』か。……どうでもいいな。

 

 クボテさんの【浅霧】によって不気味な霧を漂わせると共に体感温度を『ひんやり』と下げ、ダイユウさんの【(つむじかぜ)】がターゲットの周囲を駆け回り茂みを盛大に掻き鳴らし、大烏(オオカラス)に【変化】したカショウさんが威圧感たっぷりの羽撃(はばた)き音と鳴き声をばら蒔き……果たしてその効果は抜群だった。

 

 いつもの鎧と剣を失った山歩きスタイルの勇者(エルさん)と、同じくフィールドワーク用の服装でしかない魔王(ハデスさま)……一応シリアス畑のキャラ設定を持っているはずのいい歳した二人は、みっともなく絶叫を上げながら抱き合い震えていた。

 

 

 おれはその様子を――少し離れた位置から【隠蔽】と【静寂】と【浮遊】をふんだんに用いた『撮影ドローン』モードで――バッチリシッカリガッツリと、情け容赦なくカメラに収めさせていただく。

 役者(おどかし役)が予想以上に本気(ガチ)だったこともあり、ちょっと可哀想な気もしてきたけど……そもそも『肝試ししようぜ!』って言い出したのは勇者(エルヴィオ)さんなので、身から出た錆ということで我慢してもらおう。

 ティーさまやベルさんやソリスさんのときは、ちゃーんと手加減するよう役者(おどかし役)一同に申し伝えておくので、大丈夫だ。

 

 まぁそれはつまり……女子がいない今は、本気でやってもらうということなんだけどね!

 

 

 

「ちょっとおおおもおおおおおおお!! カラス鳴くなってばあああ!!!」

 

「なんでまだカラス鳴いてんだよぉ……もう夜中じゃねえかよぉぉぉぉ……!!」

 

 

 間違いなくノリノリであろうカショウさん(の(カラス)モード)から逃げるように、へっぴり腰で足をもつれさせながら進むターゲットの成人男性二人。

 頼りなさげに揺れるLEDランタンの光を追いかけながら、おれは内心ワクワクしながら次の刺客の行動を見守る。

 

 

 

 第二の……もとい、第四の刺客。

 疲弊したターゲットの心に忍び込む、不吉な黒猫(に見える錆猫)(なつめ)にゃんの(いざない)い。

 

 ……とはいえ、(なつめ)にゃん本猫(ほんにん)はそこまで脅すつもりはないらしい。

 

 

――――がさがさがさがさっ。

 

「「わああああああああああ!!!」」

 

『にゃ……にゃぉーん…………』

 

 

 ………………うん。

 

 (なつめ)にゃん本猫(ほんにん)()、そこまで仕掛けるつもりは無いとのこと。

 そのふかふかで愛くるしい小さな身体は、手酷く脅されたターゲット二人にとって、むしろ一時の癒しを提供することに繋がるだろう。

 

 可愛らしい猫ちゃんとしてターゲットの前に姿を現し、身体を擦り付けながら愛想を振り撒き、時おり意味ありげに後ろを振り向きながら夜道を先導していくだけだ。

 地獄(※言い過ぎです)に突然現れたフワッフワの癒しにゃんこを追い求め、あわれターゲットは周囲の確認がおざなりになったまま、視線を下に固定し進んでしまうことだろう。だってかわいいもんな。

 

 

 

「あーっねこ行っちゃうねこ」

 

「あーっあーっねこ待っ………………待て、おい……勇者オイ待てアレアレアレ!!」

 

「ッ!!? ………………ビッッッックリしたァーーーー!!! あー……びっくりした。あの子クチラちゃんでしょ、『のわめでぃあ』さんの」

 

「ぁ……あぁ、なるほどな。……あービックリし…………なんでこんなトコにいんの」

 

「………………………………」

 

 

 

 意味ありげにターゲットを先導する(なつめ)にゃんの進む先。

 真っ暗闇にぼんやりと浮かび上がる砂利道のど真ん中に、こちらへ背を向けて座り込む……第五の刺客。

 

 

 

 

「…………っ、……ぐす、っ、ひっ……く、…………ぐしゅっ、……ふぇぇ」

 

「「………………………………」」

 

 

 

 真夜中に、山の中で、地面にうずくまり、嗚咽を漏らし啜り泣いている……ふわふわの黒糖色の髪をもつ、和服姿の小さな女の子。

 

 どう考えても、()()()()。ここまでしておいて何もないハズは無い。

 ターゲットを(いざな)っていた(なつめ)にゃんも、すすり泣く少女の傍らまで歩を進め……ターゲットを振り返り、妖しく光る二つの眼で『じっ』と見つめている。

 

 

 

「ひっく…………ぐす、っ、……ひぅっ」

 

「…………魔王お前行けよ」

 

「ヤだよ勇者お前行けよ」

 

「バカお前押すなって! やめっ、やめろってバカ!」

 

「デケェ声出すなバカ! 気づかれちまうだろバカ!」

 

 

 

「  だ 

     れ

           に 」

 

 

 

「「わああああああああああ!!!」」

 

 

 

 大人げない罵り合いが始まろうとしていた、そのとき。

 ターゲット二人の注意がお互いに向き、おれのカメラもその二人の様子に狙いを定めた……その一瞬の隙を見計らい。

 

 敏捷性極振り系野兎少女朽羅(くちら)ちゃんは、顔を伏せたまま一気にターゲットへと急接近。

 小さく可愛いらしいお手々で二人の服の裾を『ちょこん』と……しかしながら『逃がさん』とばかりに握り締める。

 

 

 

「…………きづか、

        れる?

  だれ……   だれ、 に?

    …………わた、 し、の?

 ……きづか

      れ、き  づき、

   ……わたし、  が、に」

 

 

「ち、ちちちちちちち違うんだって。別にクチラちゃんに警戒のしてたわけじゃないでくきゅて!!」

 

「そ、そそそそそそそうそうそうそう! クチラちゃんが嫌なわけじゃないから絶対まじまじで!!」

 

 

「  ほ ん  とう

       の? …………わ たしは、

  に、 

    ある?  ……きら、 い、

        ちがく、に?

 あり、 て

     ……ちがい   は?

             ちがい?」

 

 

「ちちちち違う違う! キライ違う!」

 

「そそそそそうそう! 嫌わない嫌わない! 俺様可愛い子好きだし!」

 

 

「 か

      わ

    い

         い  ?」

 

 

 

 オッケーナイス演技。ナイス誘導。その言葉を待ってたんだ。

 

 決め手となるキーワードを耳にした朽羅(くちら)ちゃんは、ターゲットを『にがさん』と握りしめていた服の裾を手放し、俯いたままゆっくり一歩二歩と後ろに下がり……

 

 

 やがて。

 

 ゆっくりと。

 

 

 のっぺりとした、(かお)の無い(かお)を上げ。

 

 

 

「 か わ

     い

    い  ?

 

  () () で も ?」 

 

 

 

「「……………………………………ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」」

 

「ひゃわわっ!? っととと……」

 

 

 

 本日一番の絶叫を上げ……金髪碧眼イケメンと褐色肌有角お兄さんの仲良しコンビは、()(つまず)きながら全力疾走で逃げ去っていき。

 おれの持つカメラからは、二人の持つランタンの光が大きく揺さぶられながら、夜闇の中へと溶けていく様子が見てとれる。

 

 

 

「いぇーい! ぴーすぴーす」

 

「はいお疲れ様。良かったよぉー」

 

「えっへへぇー!」

 

 

 顔全体に『のっぺらぼう』の特殊メイクを施した(という設定の)朽羅(くちら)ちゃんは、『大成功』とでも言わんばかりの笑顔(たぶん)で、おれのもつカメラに向かって可愛らしいダブルピースを掲げて見せた。

 

 こちらにはマイク入力が無いので声までは届かないだろうが……彼女の可愛らしさは、配信の向こう側にも伝わったことだろう。

 『わかめちゃん家の庭にはマジで()()』とかいう噂になったら、それはまた厄介なことになってしまいそうなので……いちおうね、弁護の余地というかね。

 

 

 

 そんなわけで、一仕事終えた朽羅(くちら)ちゃんは、(なつめ)にゃんと少し休んでもらうとして。

 全力で駆け出していったターゲットのおふたりさんのほうは……そろそろおうちの近くに着いた頃だろうか。

 

 さて、それでは『超高性能撮影ドローン』であるわたくしめは、ちょこっと先回りさせていただいて。

 折り返しの『ひと押し』と、いかせていただきましょうか。

 

 



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466【企画初日】騙して悪いが




 『コントラクト・スプラウト』前回の三つのできごと!!

 ひとつ。われわれの拠点のお庭で、キャンプコラボ配信をすることになった『にじキャラ』Ⅰ期生の皆さん。

 ふたつ。晩ごはんを終え、いい感じにお酒が入った勇者(エルヴィオ)さんの提案(おもいつき)で、急遽『肝試し』をすることになった。

 みっつ。トップバッターに選ばれ(てしまっ)た勇者(エルヴィオ)さんと魔王(ハデス)さまコンビは……盛大に悲鳴を上げつつも、なんとか中間地点へと辿り着いたのだが。






 

 

「…………はいっ! 夜分遅くに、たいへんお疲れ様で御座いまする!」

 

「……お疲れ様で御座います、御客様」

 

「アアーー!!」「すきーー!!」

 

 

 

 心身ともに疲労困憊なターゲット二人を出迎えたのは……われらが清純派癒し系和装白髪狗耳尻尾美少女霧衣(きりえ)ちゃん、ならびに神秘系職人メイド強キャラ美少女大天狗天繰(てぐり)さん。

 単純に可愛らしいお出迎えだったり、あるいはツボを突いた『お気に入り』の子だったり……ここ中間地点がおうちのすぐ裏手、こわいのが出て来なさそうな安全地帯ということもあり、いい感じに脱力して(しまって)いるようだ。

 

 とりあえず駆けつけ一杯、疲れた身体の水分補給として、持ち帰るのとは別のお茶を振る舞って落ち着いてもらう。

 勇者(エルさん)魔王(ハデスさま)が、それぞれ霧衣(きりえ)ちゃんと天繰(てぐり)さんから手渡しでコップを受け取り、おいしそうに喉を鳴らして飲み干していく。

 

 

 ……うん、どうやら違和感を感じていない……気づいていないようだ。

 

 天繰(てぐり)さんのチャームポイントであり、いつもそのお顔を彩っている天狗の半面……それが今日このときに限って、顔全面を覆うものに変わっていることに。

 

 

 

「……はいっ! ご立派な呑みっぷりでございます。まだ道半ばではございますが……お疲れ様でございました」

 

「…………大層お疲れ様に御座います。……何やら、相当に慌てておられた御様子で」

 

「そう、そうなんえしゅわ。脅かし方がね……」

 

「なんてーか……もう、ガチ過ぎるんだよなぁ。いやすげーわ本当」

 

「ふふっ。……(なつめ)さまも、朽羅(くちら)さまも、ちゃあんと御勤めを果たせているようでございますね」

 

 

 

 優しげに微笑む霧衣(きりえ)ちゃんに、ついつい警戒を緩めてしまったターゲットお二人。おいしいお茶のおかげもあるのだろうが、呼吸も脈拍も落ち着いてきたらしい。

 残されたもう半分の行程を、復路をこれからこなすべく……その重い腰を、いよいよ上げようとしていたわけで。

 

 そのときを待っていたんだな、これが。

 

 

 

「それでは、こちら。『なみなみ』と注がせて頂きましたこちらを、すたあと地点までお持ち帰りくださいませ」

 

「こぼしちゃったら減点なんですよね。……おいクソ魔王お前持てよ」

 

「えっヤだよ俺様。お前持てよ。さっきだってアホ勇者のせいでクチラちゃんされたんだろ」

 

「は? オレのせいじゃねえだろアレは! むしろクソ魔王のせいだろアレは!」

 

「…………ほう、朽羅(クチラ)嬢が。……中々に刺激的だったご様子に御座いますね」

 

「そう! そうなんよテグリちゃん! いやーもう……俺様は『やめろ』っつったのにこのアホ勇者が!」

 

「オレのせいじゃねぇって! だって『のっぺらぼう』とか想像できねぇだろ!!」

 

 

「ほう……『野箆坊(のっぺらぼう)』」

 

 

 

 はい来ましたーキーワードいただきましたーさすがⅠ期生の売れっ子配信者(キャスター)さんですわーさすがわかってますわー!

 

 いやはや、特に打ち合わせとか示し合わせとかしたつもりは無いんですけどね、ここまでこちらの意を汲んだ言動とってくれると……さすがにテンション上がってきますね!

 

 

 

「……野箆坊(のっぺらぼう)。…………幸か不幸か、手前は此迄(これまで)お会いしたことは御座いませぬが」

 

「「………………………………」」

 

 

 

 

 うふふ、気づいたみたいですね。

 

 天繰(てぐり)さんの今日の装いが、顔全部を覆い隠す天狗面だということに。

 

 

 そのお面の下の顔がどうなっているのか……窺うことが出来なかったということに。

 

 

 

「……それは、野箆坊(のっぺらぼう)とは……もしや。

 

 

 () の 様 な (かお) で は 

  御 座 い ま せ ん か ?」

 

 

 

「「イ゛ヤ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!゛!゛!゛」」

 

 

 

 天狗面をゆっくりと外した天繰(てぐり)さんのお顔は……まぁ、のっぺらぼうだったわけで。

 先程の朽羅(くちら)ちゃんに続いての、二度目となるドッキリ特殊メイク(という設定)に、ターゲットのお二人は本日何度目かの絶叫を上げて駆け出していってしまった。

 

 

 配信の要である小型カメラ(ゴップロ)を、縁側の休憩場所に置き去りにしたまま。

 

 

「あっ! お、御客様ぁ!」

 

「……はて、如何致しましょうか」

 

(あー…………これおれが唯一の映像じゃん! 『撮影ドローン』頑張んなきゃ見失っちゃうやつじゃん!)

 

(しかたないね。あの二人はもう……オーバーキルだろうし。ボクがキリちゃんとこ行ってくるよ)

 

(おねがい。おれは二人を追ってるから)

 

「「わああああああああああ!!!」」

 

(……こっち、目ぇ離せないから)

 

(しかたないねー)

 

 

 

 復路に待ち構えていた(※ただ道のど真ん中に突っ立ってただけ)のっぺら朽羅(くちら)ちゃんに絶叫し、彼女の左右を風のように駆け抜け、その後もカラスの鳴き声やガサガサ掻き鳴らされる茂みや謎の霧に嗚咽を漏らしながら……

 

 ついに彼らは、ゴールまで辿り着いた。

 

 

 

 

「お疲れ様じゃよー! めっちゃ楽しそうじゃったな!」

 

「ここまで叫び声聞こえてきたんだけど……そんな怖かった?」

 

「だ、大丈夫か? 二人とも……割とガチで腰抜けちゃってる系?」

 

「とりあえずお茶飲んで落ち着いて…………あれ? そういえば得点計測のお茶は?」

 

「「…………………………」」

 

 

 

「お忘れものに御座い「「わあああああああ!!?」」…………ま、す?」

 

「あっ! きりえちゃんじゃ! やっほー!」

 

「きーりっと様。夜分に失礼致しまする」

 

 

 恐怖によるものとは別の理由により、顔面を蒼白に染めたお二方の背後から……わすれものを届けに、白髪狗耳和装美少女がひょっこりと姿を表す。

 本来ならば、われわれ裏方は極力出しゃばらないのが望ましいのだが……さすがにカメラは返さなきゃならないだろう。

 

 

「えるにお様と、はです様。中間地点にて、かめらのお忘れものが御座いましたゆえ、僭越ながらお届けに参った次第に御座いまする。……また、道中こちらの『かみこっぷ』が落ちているのを見掛けましたゆえ……もしやと思い」

 

「それって…………もしかして例の、得点計測用のお茶が入ってた?」

 

「左様に御座いまする。……微かでは御座いますが、『一颯(いぶき)』の香が残って御座いまする」

 

「「「「あぁー…………」」」」

 

 

 

 なんとかゴールしたものの、勇者(エルさん)魔王(ハデスさま)いずれの手にも無かった紙コップ。

 道中に転がっていた『とてもおいしいお茶』の香りが微かに残る、空っぽの紙コップ。

 

 まぁ……つまりは、そういうことなわけですね。

 

 

 

「えー、エルヴィオ・ハデス組。まぁわざわざ言うまでも無ぇだろうけど……〇点」

 

「ぐあーーー!!」

 

「ちくしょォーー!!」

 

 

 

 がっくりと項垂れるお二方をよそに……おれはカメラを【浮遊】させて定点撮影を行いつつ、スタッフさんのもとへと静かに駆け寄り手短に打ち合わせを済ませる。

 

 幸いなことに、『撮影ドローン』ことおれの撮影はなかなか高評価を頂いているようで、その調子でお願いしたいとのお言葉を頂きまして。

 また……勇者と魔王ペアが置き去りにしたカメラの回収に関しても、お礼の言葉を頂きました。

 

 なんでも……配信しっぱなしになっていたカメラを覗き込んだ霧衣(きりえ)ちゃんの至近(ガチ恋)距離フレームインによって、コメントの数がものすごいことになっていたのだとか。

 まじか。あとでアーカイブ確認しよ。

 

 

 ……というわけで、運営(おどかす)側である霧衣(きりえ)ちゃんにも『持ち場』に戻っていただいて、おれも再びカメラを回収して『撮影ドローン』状態に戻りまして。

 

 

(そろそろ第二陣いくよー。周知おねがい)

 

(あらほらさっさー!)

 

 

 ターゲットの方々にも、全体の流れを理解してもらえただろうなので。

 

 それでは……第二走者。

 はりきっていってみましょうか。

 

 

 



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【URcas】にじキャラ総合スレ Part.723【仮想配信者】その2




ばんぐみのとちゅうですが、





 

 

 

………………

 

 

………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

 

 

0557:名無しのリスナー

 

きりえちゃんだな……覚えたぞ……

 

っていうかあんな可愛い子なのに主役じゃねえの?さぶきゃらなの??

のわめでぃあ怖……

 

 

0558:名無しのリスナー

 

どじっこウィルムたんの肝試し見たかったなぁ……

 

 

0559:名無しのリスナー

 

がんばれティー様

期待してるぞティー様

 

 

0560:名無しのリスナー

 

ティー様とソス子ペアとか楽しみで仕方ない

 

 

0561:名無しのリスナー

 

ティー様落ち着きすぎでしょ

 

ティー様動じなさすぎでしょ

 

 

0562:名無しのリスナー

 

「めっちゃガサガサ言ってるんだけど」

「どうせ鳥とか猪とかじゃよ」

「なんか鳴き声聞こえるんだけど」

「実家でよく聞いた鳴き声じゃよ」

 

さすがエルフ……

 

 

0563:名無しのリスナー

 

魔法使いは怖いのダメか……

しかしティー様つよつよだな……

 

 

0564:名無しのリスナー

 

わちつよい……かっこいい……

 

 

0565:名無しのリスナー

 

悲鳴上げてるのソリスちゃんだけじゃん

 

 

0566:名無しのリスナー

 

エルフの国はどうぶつさんたちいっぱいいるからな……きっと慣れとるんやろな……

 

 

0567:名無しのリスナー

 

全く動じない女の子がいる一方で

動物の鳴き声にギャースカ大騒ぎしてた成人男性二人組がいるらしいぞ……

 

 

0568:名無しのリスナー

 

さすがにのっぺら幼女には悲鳴上げるでしょ

期待してるぞ……のっぺら幼女ちゃん……

 

 

0569:名無しのリスナー

 

あののっぺら幼女ちゃん見た目ホラーなのにノリが良いよな、ダブピとかしちゃうもんな

かわいい

 

 

0570:名無しのリスナー

 

くちらちゃんっていうんだよ

 

かわいいめすがきちゃんだよ

 

 

0571:名無しのリスナー

 

ティー様wwwwwwっwww

ねこちゃんだいすきか~~~

 

 

0572:名無しのリスナー

 

前へ進めwwwwwww

 

 

0573:名無しのリスナー

 

おやつwwwwwww

 

どっから取り出したそれwwwww

 

 

0574:名無しのリスナー

 

あーだめですねこれは

完全に足が止まっちゃいましたねこれは

 

 

0575:名無しのリスナー

 

お前らもかわいいよ

 

 

0576:名無しのリスナー

 

かわいいなぁ……………………

 

 

かわいいなぁぁぁぁ

 

 

0577:名無しのリスナー

 

なされるがままのねこちゃんかわいいかよ

「仕方ねぇな」って顔でずーっと撫でられとるが

良い子かな・・・・・・

 

 

0578:名無しのリスナー

 

なつめちゃんだよ。幼女にへんしんできるすごいねこちゃんだよ。すごいよね(棒

 

 

0579:名無しのリスナー

 

あーっカメラ近いです!!たすかる!!!ガチ恋距離にゃんこたすかる!!!

 

 

0580:名無しのリスナー

 

ぬこかわいいぬこ

ティー様ぬこ接写たすかる

 

 

0581:名無しのリスナー

 

大人しいぬこさまじゃあ~~~

 

 

0582:名無しのリスナー

 

いやぜんぜん進まないがwwwwww

何分経ったよwwwwww

 

まぁわかるけどwww撫でさせてくれるヌッコとか延々撫で撫でしてたいけどwwwww

 

 

0583:名無しのリスナー

 

どこみてるのぬこ

 

 

0584:名無しのリスナー

 

ぬこ名物虚空を見つめるムーブ

 

あぁ……何かいるんやなぁ……

 

 

0585:名無しのリスナー

 

【速報】ぬこついに動く

 

 

0586:名無しのリスナー

 

「あーぬこいっちゃうぬこ」

 

wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

 

 

0587:名無しのリスナー

 

くるぞくるぞ

がんばれのっぺら幼女

 

 

0588:名無しのリスナー

 

wwwwwwwwwww

 

さすがに予想外でしょおおおおお

 

 

0589:名無しのリスナー

 

なぁこれもしかしなくてもティー様気づいてないよね?

 

 

0590:名無しのリスナー

 

ティー様もしかして気づいてない??

ソス子顔面蒼白だけど????

 

 

0591:名無しのリスナー

 

エンカウント即ハグとかwwwww

疑問に思わないのティー様wwwww

うしろからハグだから顔見えないのかwwwwww

 

 

0592:名無しのリスナー

 

あーこれは気づいてませんね・・・・

かわいいくちらちゃんとしか認識してませんね

 

 

0593:名無しのリスナー

 

ドン引きソス子wwwwwwwwww

 

 

0594:名無しのリスナー

 

ソリスちゃんの表情がどう見ても「理解できないものを見る顔」なんですけど……

 

これ多分ティー様に向けられてる気がするんですけど…………

 

 

0595:名無しのリスナー

 

のっぺら幼女かわいそう

 

 

0596:名無しのリスナー

 

マイペースだなぁティー様……

 

 

0597:名無しのリスナー

 

「早く行っちゃえでございましゅぅぅぅぅぅ!!!」

 

かわいいwwwwwwwかわいそうwwwwwwかわいいwwwwwwww

 

 

0598:名無しのリスナー

 

あーあーあーガチ泣きしちゃったよ・・・・・

 

 

0599:名無しのリスナー

 

「どっかいけでございましゅ」wwwwww

かわいいがwwwwwwww

 

 

0600:名無しのリスナー

 

またねーじゃないんだよなぁ…………

 

 

0601:名無しのリスナー

 

ソリスちゃんのドン引き顔ありがてぇ

 

 

0602:名無しのリスナー

 

おにぎりちゃん毎度お疲れ様です

 

 

0603:名無しのリスナー

 

やっぱ可愛いよなぁこの子

めっちゃなごむ

 

 

0604:名無しのリスナー

 

かわいくておしとやかで家事万能でかわいいとか最高か

 

 

0605:名無しのリスナー

 

のっぺらメイドさんどうするんだろうな……

「こんな顔でしたか」言われても顔見てねーぞティー様……

 

 

0606:名無しのリスナー

 

ソリスちゃん明らかに警戒してるな、さすが宮廷魔法使い危機感のつよさよ

 

 

それに引き換え…………うん、

 

 

0607:名無しのリスナー

 

やベーぞニッコニコだわこの王女様

 

 

0608:名無しのリスナー

 

とてもなごむ空間

 

 

0609:名無しのリスナー

 

ソス子メイドさんガン見wwwww

 

いやまあわかるよww絶対ぇ何かあるもんwwww

 

 

0610:名無しのリスナー

 

ティー様wwwww

 

 

0611:名無しのリスナー

 

ティー様それ飲んじゃアカンやつwwwwっw

 

 

0612:名無しのリスナー

 

持って帰るやつって言ったじゃんんんん!!!!

 

 

0613:名無しのリスナー

 

ソリスちゃん硬直wwwww

 

 

0614:名無しのリスナー

 

おにぎりちゃんあからさまにあわあわしてるじゃんwwww

 

かわいいね

 

 

0615:名無しのリスナー

 

どうしようこれwwww

 

 

0616:名無しのリスナー

 

【審議中】

 

 

0617:名無しのリスナー

 

どーすんだwwwww失格か?

 

 

0618:名無しのリスナー

 

よかったwwwwwwwww

ナイス運営

 

 

0619:名無しのリスナー

 

まだ復路スタートしてなかったからセーフ、ってことか

安全地帯の中だからノーカンってことね

 

 

0620:名無しのリスナー

 

よかったねソリスちゃん……

相棒のせいで失格にならなくてよかったね……

 

 

0621:名無しのリスナー

 

めっちゃほっとしてるwwwww

 

 

0622:名無しのリスナー

 

うしろwwwwwwソス子うしろwwwwwww

 

 

0623:名無しのリスナー

 

のっぺらメイドさんwwwww

うしろwwwwwww

 

 

0624:名無しのリスナー

 

ソリスーーー後ろーーーー!!!

 

 

0625:名無しのリスナー

 

これおかわりさっそくぶち撒けるんじゃね……

 

 

0626:名無しのリスナー

 

wwwwwwwwwwww気づいたwwwww

 

そりゃ絶叫するわwwwwww

 

 

0627:名無しのリスナー

 

ティー様もさすがにのっぺらぼうはビビるよなwwww

 

最後まで悲鳴上げなかったらどーしようかと思ったわ……

 

 

0628:名無しのリスナー

 

よかった……ティー様もちゃんと肝試しでビビってくれる女子だった……

 

 

0629:名無しのリスナー

 

あんなに悲鳴上げてるのにちゃんとカメラ持ってるソス子優秀

この時点で勇者と魔王よりえらい

 

 

0630:名無しのリスナー

 

悲鳴かわいいなぁw

 

 

0631:名無しのリスナー

 

前の二人はギャーギャー絶叫してたからなぁw

可愛らしい悲鳴だから見てて和む

 

 

0632:名無しのリスナー

 

カメラ手持ちしてくれてるから取り乱しようがよーわかるわw

 

 

0633:名無しのリスナー

 

のっぺら幼女ちゃんふたたび

 

 

0634:名無しのリスナー

 

のっぺら幼女がんばれ!!

今なら行けるぞ!!!

 

 

0635:名無しのリスナー

 

のっぺら幼女ちゃんーーー!!!

 

 

0636:名無しのリスナー

 

ナンテコッタイ

 

 

0637:名無しのリスナー

 

「あれぇーーー!?」って聞こえたよな今wwww

 

 

0638:名無しのリスナー

 

これティー様のっぺら幼女気づいてねぇよなwwwww

のっぺら幼女をただの幼女としてしか認識してねえってwwww

 

 

0639:名無しのリスナー

 

ハグふたたびwww

 

 

0640:名無しのリスナー

 

ソリスちゃんドン引き再びwwwww

 

 

0641:名無しのリスナー

 

「メイドさんがのっぺらぼうじゃったのぉー!」

 

あのティー様……そこにいるんすけど……

 

 

0642:名無しのリスナー

 

ティー様あの、今あなたがダッコしてるその子ものっぺらぼーなんですけど……

 

 

0643:名無しのリスナー

 

くちらちゃん混乱してるのかわいいなw

 

のっぺらぼーなのに戸惑いの表情がわかる気がする

 

 

0644:名無しのリスナー

 

こっちが泣きそうなんじゃがwwww

 

 

0645:名無しのリスナー

 

ティーリットー!!目の前ーー!!!

 

目の前ーーーー!!!

 

 

0646:名無しのリスナー

 

あーもー……!!

やっぱダメですねこの合法幼女!!

 

すきだが!!!

 

 

 

 

………………

 

 

………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

 

 

0750:名無しのリスナー

 

おーくんとベルちゃん

 

ある意味一番安心感ある組み合わせだな!!

 

 

0751:名無しのリスナー

 

常識人と常識人のペアとか安心感しかない

 

 

0752:名無しのリスナー

 

クレーム防止棒wwwwww

 

 

0753:名無しのリスナー

 

クレーム防止棒www

なるほどね、防止棒を介して手つないでるのねwww

直接接触してるわけじゃないからねw

 

 

0754:名無しのリスナー

 

あーおさわりはこまりますあーっあーっ

 

 

0755:名無しのリスナー

 

ちょっと聖女どきなさいよ!おぎゅれきゅんの隣はアタシのモノよ!

おっぱいおっきいからって調子乗ってんじゃないわよ!!

 

 

0756:名無しのリスナー

 

勇者よりも紳士的なんだよなぁこの悪魔……

 

 

0757:名無しのリスナー

 

アタシのほうが!!おっぱいおっきいわ!!!

 

アタシのほうがおっぱいおっきいわよ!!!

 

 

0758:名無しのリスナー

 

あーーーー尊ェーーーー!!!

 

 

0759:名無しのリスナー

 

二人ともオトナの対応ですやん・・・・

ざわざわやカラスの鳴き声とか気にも留めませんやん

 

 

0760:名無しのリスナー

 

デッドラ得意だもんなぁおーくん

夜とか真っ暗闇そんな苦手じゃないんか

 

安心感が半端無いな……

 

 

0761:名無しのリスナー

 

悪魔に聖女をNTRれる勇者と聞いて薄い本が厚くなりますね???

 

 

0762:名無しのリスナー

 

のっぺら幼女はどうだ

さすがにのっぺら幼女ちゃんにはビビるやろ

 

 

0763:名無しのリスナー

 

ねこにデレッデレの二人かわいいかよ……

 

 

0764:名無しのリスナー

 

ベルちゃんの笑顔かわいい

 

でもおーくんの笑顔もっとすっき

 

 

0765:名無しのリスナー

 

さあどうだw

のっぺら幼女はどうだ!!

 

 

0766:名無しのリスナー

 

くちらちゃん今度こそがんばれ

 

 

0767:名無しのリスナー

 

くちらちゃん期待してるぞ

 

 

0768:名無しのリスナー

 

足が止まったwww

 

 

0769:名無しのリスナー

 

がんばれおーくん!!!!

 

 

0770:名無しのリスナー

 

チャラいんだけどなぁwww

こんなチャラ男じみてるのに紳士的なんだよなぁ

 

 

0771:名無しのリスナー

 

豚汁食べないwwwwwwww

 

 

0772:名無しのリスナー

 

「おじょーちゃんどしたん?話聞くよ?とりま豚汁食べない?」

 

そんな誘い方があるかwwwww

豚汁wwwww

 

 

0773:名無しの一リスナー

 

「お茶しない?」みてーなノリで「豚汁食べない?」いうなやwwwwww

 

 

0774:名無しのリスナー

 

ベルちゃんのお手製とんじるwwwww

これは殺し文句ですわーー

 

 

0775:名無しのリスナー

 

めっちゃ興味ありげですがwwww

 

 

0776:名無しのリスナー

 

「うわぁ!びっくりしたぁ!」

「うぉー……ははっ、へぇー」

 

……おわりかい!!!

もっとないんかい!!!!

 

 

0777:名無しのリスナー

 

「えっ?あっ、えっ?」

 

おどかす側が困惑しちゃってるじゃん!!!

 

 

0778:名無しのリスナー

 

めっちゃ冷静wwwww

 

 

0779:名無しのリスナー

 

「すごいね~。びっくりした~」

「な~。手ェ込んでるわぁ~」

 

どーですかこの余裕

勇者どもにも見せてやりたいですね

 

 

0780:名無しのリスナー

 

「ばいばーい」かわいいが!!

 

お手手振り返すくちらちゃんもかわいいが!

 

 

0781:名無しのリスナー

 

のっぺらぼうなのにしょんぼりしてる気がする……

かわいいかな

 

 

0782:名無しのリスナー

 

めっちゃスムーズに折り返し地点じゃん

おにぎりちゃんかわいいが

 

 

0783:名無しのリスナー

 

やっぱこの二人は安心感がすごすぎるな!

 

 

0784:名無しのリスナー

 

なごむわーーーー!!

おいしそうにお茶すするベルちゃんかわいいわぁーーーー!!

 

 

0785:名無しのリスナー

 

安心しきったところにのっぺらメイドさんだもんな

さすがにこれは効くやろ

 

 

0786:名無しのリスナー

 

気を抜いたところを狙うメイドさん

きっと忍者だろきたないなさすが忍者きたない

 

 

0787:名無しのリスナー

 

おーくんこぼすなよ~

誰かさんみたいに飲むなよ~~

 

 

0788:名無しのリスナー

 

飲むなよ??絶対飲むなよ???

 

 

0789:名無しのリスナー

 

「ゴールするまで飲まないでくださいませ」

「いや飲んじゃダメってわかるっしょw」

 

残念ながらソレがわかんなかった王女様がいるんだよなぁ……

 

 

0790:名無しのリスナー

 

飲むなよwwもう天丼はいらんぞwww

 

 

0791:名無しのリスナー

 

ねえ!!!平然!!!!!

 

 

0792:名無しのリスナー

 

「わあ!びっくりしたぁ!」

「おぉー……そう来たっすかー」」

 

うん……つええなぁやっぱ……

 

 

0793:名無しのリスナー

 

  し っ て た 

   さ す が

  優 良 悪 魔

安心と信頼のチャラ魔族

  優 勝 確 定 

 さんきゅーおーくん

 

 

0794:名無しのリスナー

 

精神年齢の高さがとてもよくわかる演目でしたね!!!

 

 

 

 

………………………………………………

 

 

………………………………

 

 

………………

 

 

 

 





やや短めでもうしわけございません。

責任とって局長が



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467【企画初日】よるミーティング

 

 

「えー……それでは『実在仮想(アンリアル)林間学校』第一部・一日目! お疲れ様でした!!」

 

「「「「「お疲れ様でした!!」」」」」

 

 

 

 現在時刻は……二十一時半を回ったくらいか。

 嬉しいことに大盛況だった(らしい)ライブ配信は、つい先程つつがなく配信終了し……つまり今は完全なオフモードである。

 

 おれたち運営サイドと、配信スタッフの方々と、そしてなによりも出演者であるⅠ期生の方々……のうち、まだ生き(起き)ている面々、合計十数名。

 彼ら彼女らはキャンプ場管理棟でもあるわれらが拠点『のわめ荘(仮称)』一階和室に集い、現在ミーティング兼ちょっとした『お疲れ様会』が執り行われていた。

 

 

 

「とりあえず……第一陣として一日やってみた感想とか、もしくはご要望とか……ありますか?」

 

「ははぁん? 感想。そりゃあ……ねぇ?」

 

「おうよ。控えめに言って『最高』しか無ぇっしょ」

 

「めっちゃたのしかったどすじゃよー!」

 

 

 演者代表としてこの場に参列しているのは、お三方……勇者(エルヴィオ)さんと魔王(ハデス)さまと、王女(ティーリット)さま。

 ちなみに邪龍(ウィルム)さんと天使(セラフ)さんは早々におねむしてしまっており、働き続けた悪魔(オギュレ)さんはさすがにお休みを希望し、聖女(ベルナデット)さんと魔法使い(ソリス)さんは来たがってたらしいけど厳選なる抽選(じゃんけん)に負けたためテントでふて寝してるという。

 

 まぁ……男性陣のリーダー的立場である(はずの)勇者(エルヴィオ)さんと、女性陣のリーダーである(と正直にわかには信じがたい)王女(ティーリット)さまがご参列あそばされているので、そこはべつにいいとしよう。

 

 

「釣りバカ対決も楽しかったし、肝試しも。言い出しといてなんだけど、正直できるとは思ってなかった」

 

「ウィルのドジっ子っぷりには困ったけど……まァおかげで()(だか)もなかなかだっただろ? 賞品のビールも差し入れて貰ったしな」

 

「あははははー! ハデスくんの悲鳴スゴかったどすねぇ……『このアホ邪龍!!』って! あとはほら、肝試しのときの悲鳴も!」

 

「ありゃあな……正直『してやられた』ってェか…………安全地帯かと思ってた所にテグリちゃんの『のっぺらぼう』はズルいって!」

 

「……恐縮に御座います。……楽しんで頂けたのなら、手前としても従者冥利に尽きます」

 

 

 ふつうの顔といつもの天狗半面に戻った天繰(てぐり)さんは、いつもどおりのクールな佇まいでありながらも照れくささを感じているらしく、ほんのりと頬に朱が差している。……ふふふ、おれのエルフアイはごまかせないぞ。

 ともあれ、天繰(てぐり)さんはじめ『おにわ部』の方々に整えていただいた環境は、お客様がたには大好評だったようだ。

 特に現場ディレクタールーム兼控え室(セーフエリア)として使っていただいてた小屋も、利用者であるスタッフさんから大変高い評価をいただきまして。電源と光ケーブルを突貫工事した甲斐がありました。

 まぁ、主に作業したのは天繰(てぐり)さんだけど。……いや、おれも穴掘ったり埋めたりは貢献したか。ふふん。

 

 

 

 

「では運営サイドから、簡潔に。途中の『休憩中』画面表示の……三十分かける二回を除いた総配信時間は、七時間と九分。長丁場お疲れ様です。そして最大同時接続者数ですが……およそ十四万と二千人ですね」

 

「「「「おぉーーーー!!?」」」」

 

「同僚からの報告によりますと、SNS(つぶやいたー)や某ネット掲示板なんかでも、結構な話題となっていたようで。スーパーチャージの合計額は……このように」

 

「「「「おぉーーーー!!!!」」」」

 

 

 

 正直行って、おれは同接数とかスパチャの合計額とか、そのへんの水準はよくわからない。今回の数字がどのくらいの評価なのかはわからないかったが……皆さんの顔色を見る限り、なかなかいい線行ったんじゃないかなと思う。

 配信のほうも、撮れ高や見所あふれる大変『おもしろい』映像になっていただろう。もちろんばっちりアーカイブ化してくれるらしいし、またそこから切り抜き職人が見所を抜粋してくれるだろうし……直接的な収益に加えて、()()()による知名度アップも見込めるだろう。『にじキャラ』さんがわにとってもプラスになってくれたと思いたい。

 

 

 一方おれたちにとっては、途中乱入し(てしまっ)た霧衣(きりえ)ちゃん、ならびに肝試しの一件のおかげもあり、ありがたいことに現在進行形でじわりじわりとチャンネル登録者数が増えてきている。

 『あの可愛い子はいったい何者なんだ!?』からの『あの可愛い和服美少女は『のわめでぃあ』所属らしい』からの『なんでも今回の会場を提供した集団らしい』ということで……おれの親愛なる視聴者さんが、各方面で宣伝してくれたということらしい。ありがてぇ。

 

 

 まぁ、そういうわけで。

 『にじキャラ』さんにとっても、おれたちにペイした費用以上の収穫を……早くも一日目でほぼ回収し終えてしまったらしく。

 また『今後の展開を考えていくためのいろんなデータも仕入れることができた』と、たいへん喜んでくれた。

 

 第一陣の一日目……企画全体においても初日となる今日を終え、あとは明日以降の後続に備えて、改善すべきところを洗い出す。そのためのミーティングとなる。

 お酒やおつまみ(霧衣(きりえ)ちゃんお手製)が並んでいるのは……まぁ、そういうこともあるさ。

 

 

 

「改善点、っていうか……思ったんすけど、『好きにしていいよ』ってなると、逆に戸惑うかもしれないんすよね」

 

「そうだなぁ。やっぱ俺様らって根っこのところで配信者(キャスター)だし……無意識に『楽しませよう』とアレコレ考えちまうんだよなぁ」

 

「逆にいっそ『本日のおすすめ』みたいのあると、みんなやりやすいかもしれないどすー。『魚釣り』とか『肝試し』とか、あと『木のぼり』とか『ターザンごっこ』とか『カレー』とか」

 

「あー……何ができるかを事前にリストアップしとく、ってことか? 一理あるな」

 

「オレらも思い付きで行動してたしなぁ、釣りバカ対決とか肝試しとか。……まっさか対応してもらえるとは正直思わなかったけど」

 

「えへへー。こんなこともあろうかと、準備させていただいてました!」

 

「「すげーよ」」「すごいんじゃー」

 

 

 

 スタッフのみなさんは頷きながらメモを取り、おにぎりや唐揚げやだしまきを摘まみながら、あれこれ積極的に改善案を提示していく。

 おれと天繰(てぐり)さんもまたいろいろと情報を提供しつつ、協力できる範囲で力になれることを探していく。

 

 木のぼりやターザンごっこやロープワークなんかは、そんなに高くまで登らなければ導入できるかもしれないけど……しかしやっぱり危険が危ないからな、みなさんに何かあっては大変だ。

 安全第一を心掛けつつ、実在仮想配信者(アンリアルキャスター)であるみなさんの魅力を余すところなくアピールできるアクティビティ……この大前提を蔑ろにするわけにはいかない。

 

 一方で、晩ごはんメニューのほうは選択肢を用意しといてもいいかもな。今日Ⅰ期のみなさんが堪能したバーベキュー以外にも、キャンプといえばカレーやダッチオーブン料理なんかも魅力的なのだ。

 選択肢をいくつか用意しておいて、その中からランダムで選んでもらうとかいうのも面白いかもしれない。籤引きとか……あるいは、サイコロとかで。

 

 

 そんなこんなで総合的に考えてみると、あらかじめ()()()()()をリストアップしておく『おすすめメニュー』作戦そのものは、結構いい考えかもしれない。

 漠然と『さぁキャンプしろ』って言われるよりも『この中で何がやりたいですか』って選択を迫られるほうが、やる側にとっても助かるだろう。

 

 

 

「うーん、『本日のおすすめ』作戦、良いとは思うんですけど……やるならパネルか何か用意した方が良いでしょうか。……若芽さんすみません、ものは相談なのですが、」

 

「あっ、プリンターですか? ご用意できますよ。さすがにA3までですが。あとラミネーターとかスチレンボードとかプラダンとかスプレーのりとか、ガムテープや極太両面テープもありますので、もしよろしければ」

 

「ぇええぇ…………ありがとうございます」

 

「待ってください金剛(マネージャー)さん何でそこでヒくんですか」

 

 

 失礼な。某即売会のポップや卓上什器を作るためのマストアイテムやぞ。モリアキのような神絵師ならまだしも、おれのようなヘッポコ作家は見映えするレイアウトで誤魔化すしかないんやぞ。

 

 ……まぁ、底辺サークルの涙ぐましい努力はともかくとして。

 おれのかつての商売道具が、明日明後日明明後日の『にじキャラ』さんのためになるのなら……それはとても嬉しいことなのだ。

 

 

 

「それでは、こんなところで……夜更かしも宜しくないので、終わりにしましょうか。演者の皆さんはお休み下さい」

 

「警備員いるので大丈夫だと思いますけど、何かあったらREIN下さいね!」

 

「了解っす。お疲れ様です」

 

「お疲れ様。明日もよろしくな!」

 

「おやすみじゃよー!」

 

 

 あたりは街灯もない真っ暗なので、安心と信頼の天繰(てぐり)さんに先導を任せ。

 手に手に懐中電灯やランタンを掲げ、きゃいきゃいと楽しげに語らいながら、ファンタジックな三人組はテントサイトへと戻っていく。

 

 ……そう、『また明日』。お昼までのわずかな時間とはいえ、彼らにはもう一仕事残っているのだ。

 一晩ぐっすりゆっくり休んで……また明日、おれ含め世界中のファンのみんなに、たのしげな様子を見せてほしい。

 

 

 

 

 

 …………と、いうわけで。

 こんなこともあろうかと、一階キッチン横のワークスペースに移設しておいたA3複合機を、『にじキャラ』さんの作業場所と化した和室へと持っていく。

 パソコンや編集機材の立ち並ぶ座卓の横にもう一台座卓を出し、ボードや印刷物用の作業スペースを整えていく。

 

 

「…………さて、じゃあ……始めますか」

 

「本当に良いのですか? 正直なところ助かるのは事実なのですが……」

 

「大丈夫ですって。なにせわたしは招待主(ホスト)ですし……みなさんもわたしのお客様ですので。徹夜や夜更かしなんてさせませんって」

 

「もう本当マジでありがとうございます」

 

「んへへー!」

 

 

 

 明日に備えなきゃならないのは、スタッフのみなさんだって一緒なのだ。

 少しでも早く眠ってもらうためにも……人手は一人でも多いに越したことはないだろう。

 

 

 なにしろ……おれにとっても趣味と実益を兼ねた、とてもたのしいおしごとなのだ。

 

 泣く子も笑う『のわめでぃあ』代表として、是非とも『お役立ち』させていただこうではないか。

 

 

 



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468【二日目朝】おはようございます

 

 

 キャンプの醍醐味のひとつ、焚き火でごはんを炊く、いわゆる飯盒炊爨(はんごうすいさん)

 

 電気炊飯器に馴染みまくったおれのような現代人にとっては、ちょっと敷居が高いようにも感じてしまうのだが……飯盒炊爨のみに専念できる状況であれば、そこまで難しいものでもないのだという。

 火元と飯盒の距離に注意しつつ、加熱時間と飯盒の様子に気を配り、手順に従い注意事項をしっかり守れば……それこそ、小学生でもごはんを炊くことができる……らしい。

 

 あとは、昨晩聖女ベルナデットさんが作ってくれた豚汁(※時間経過が停止するラニの【蔵】で(ダッチオーブン)ごと保管してもらっていた)を温め直し、やさしい上級悪魔オギュレさんがヘルファイア(チャッカ○ン)してくれた焚き火で川魚をじっくり焼いて。

 某エルフの王女様や某勇者様が、まだスヤスヤ眠っている間に……たいへん美味しそうな朝ごはんの準備が整った。

 

 

 すなわち……炊きたて白ごはんと、具だくさん豚汁と、川魚の塩焼き。

 そこに霧衣(きりえ)ちゃんからの差し入れであるカラ揚げとだし巻き(※昨晩霧衣ちゃん(シェフ)が張り切りすぎたお夜食ののこり)が加わることで……キャンプの朝食とは思えない、一汁三菜の豪華な朝定食となった。

 なお王女様と勇者はまだ起きてこない。

 

 

 

「「「「「「いただきまーす!」」」」」」

 

 

 現在時刻は……ざっくり朝の八時ころ。七時頃より始まった二日目朝の部は、朝食の支度の模様から絶賛配信中である。

 平日の朝であるにもかかわらず、視聴者さんの数はそこそこ多い。推しがワイワイ楽しげに取り組む飯テロ配信の様子は、コメント欄を見る限り大盛況のようで。……いやぁ不思議ですね、平日のはずなんですけどね。

 

 そんな平日朝とは思えぬほどの視聴者さんに見守られながら、Ⅰ期の皆さん(若干二名を除く)は西洋ファンタジックな外観に似合わぬ純和定食を、おいしそうに胃袋に収めていく。

 邪龍のウィルムさんと天使のセラフさんの体格差コンビは、それぞれ大きなスプーン(※たぶん本来はサラダとか取り分けるやつ)と小さなスプーン(※見るからに子ども用のかわいらしいやつ)を器用に使いながら、ちょっとだけお口のまわりを汚しつつも幸せそうな表情でがっついている。とてもかわいい。

 なお王女様と勇者はまだ起きてこない。

 

 

「ごはんちょっと固めでしたね。……固めもおいしいですね」

 

「なんだっけこれ……アマゴ? うわアユより好きかも」

 

「だし巻きヴッメ……ヴッメ……」

 

「でっかい豚肉しあわせでふ……」

 

 

 

 みんな口々に『うまい!』『うまい!』と呟きながら、のんびりとした朝のひとときは過ぎていく。

 この後はテントを撤収して、後片付けを行って、〆の言葉でクローズするくらい。やらなきゃいけないこともそんなに多くはないので、みんな早くも団欒ムードである。

 なお王女様と勇者はまだ起きてこない。

 

 

「結局さぁ……エルくんあの後何時まで起きてた? ……っていうか、何本飲んでた?」

 

「夜ミから帰ってからは……二本かね。俺様が寝た後に飲んでたら知らんけど」

 

「ティーちゃんはそんな飲んでなかったと思うんだけどなぁ……寝付きもよかったよ? こう……『スヤァ』って」

 

「なるほど、『スヤァ』」

 

「そう。『スヤァ』」

 

 

 ぱちぱちと控えめな炎と暖かさを発する焚き火を囲み、六人のファンタジーな配信者(キャスター)は箸や匙を進めていく。

 紙食器の後始末にも大活躍であろう炎は、やっぱり特殊な魅力を秘めているのだろうか。炎大好き魔法使いのソリスさんに限らず、どこかうっとりと眺めながら食を進め……あるいは食後のひとときを、のんびりと過ごしていた。

 なお王女様と勇者はまだ起きてこない。

 

 

 そんな長閑(のどか)な空気の中……いち早く自分の分の朝定食をたいらげた魔王ハデスの魔の手(わりばし)が、手付かずのまま少しずつ冷たくなっていくあわれな犠牲者(おかず)へと伸びていく。

 魔王の侵略から人々(朝定食)を守護するはずの『勇者』は、しかし未だ目覚めのときを迎えておらず……ついに最初の犠牲者の命(だし巻き)が、魔王の手によって奪われる。

 

 

「ちょっ、あっ!? コラ魔王!」

 

「あぁー! エルくんのおかずがー!」

 

「ハッハァー! 起きてこねーのが悪ィのよ!」

 

 

 そんな魔王の非道な行いに、勇者の心強い仲間である三人(のうちの二人)は『待った』を掛ける。

 勇者不在の間、魔王の狼藉を食い止め……これ以上の被害を阻止するために。

 

 その身を呈して、人々の命(勇者の朝定食)を守るために。

 

 

 

「じゃあカラ揚げ貰おっと」

 

「じゃあ私もだし巻きを」

 

「わたしはお魚もらっちゃお」

 

「ちょっ、セラ待った! 魚はさすがにえげつねぇって! カラ揚げにしとけ!」

 

「むーー……」

 

「ぇええ……待って、誰も止めないのこれ。我輩ちょっとドン引きなんだが……」

 

「ティーリットのメシに手ェ付けて無ぇだけまだ良心的なんだろうな……」

 

 

 あぁ、げに恐ろしきは魔王の軍勢。勇者の仲間たちの抵抗もむなしく、それどころか逆に手勢へと引き込まれ……筆舌に尽くしがたい蹂躙が、今まさに始まろうとしているのだ。

 もはや何者にも、人々(朝定食)の滅びを止めることは出来ない。哀れな犠牲者(カラ揚げやだし巻き)一人(ひとつ)また一人(ひとつ)命を落とし(かっ拐われ)ていく。おれはなにも見なかったことにしよう。

 

 

 

「ふぇー……おはようじゃぁー……」

 

「「「「ング、ッ!!?」」」」

 

「お、おはようである、ティーリット殿」

 

「おはよティーリット。早速で悪ィが朝メシ出来てっからな、ちょいと諸般の事情により今ちょっとばかしそれはそれは厄介なことになりつつあるんでカラ揚げとだし巻きだけ先に食っちまってくれん? カラ揚げとだし巻きだけ。それだけ先に腹ん中入れちゃって欲しいんだわ頼むマジで」

 

「……ふぇー…………およー? わかったぁー」

 

 

 

 口をモゴモゴさせている実行犯たちを疑問符を浮かべながらも一瞥するも、起き抜けマイペースなエルフの王女様は特に気にしないことにしたようだ。

 一汁三菜の豪華な朝午前に舌鼓を打ち、お口をもぐもぐさせながら目を細めて満面の笑みを浮かべる。

 

 オギュレさんの時間稼ぎ(ファインプレー)の意図を正確に察した侵略軍一同は……ティーさまが最後のカラ揚げをお口に運ぶや否や、カラ揚げとだし巻きが盛られていた紙皿を焚き火へと投げ込み、綺麗さっぱり証拠隠滅を図る。

 

 

 かくして、一汁三菜バッチリ揃った朝食の席に、『だし巻き』と『カラ揚げ』が存在していた形跡は跡形もなく消え去り。

 

 

 

「ゴメンゴメンゴメンまじゴメン、ホンットゴメン。おはようございま…………え? なに? どうかした? アッ、いや、その……寝坊しました。本当すみません」

 

「お、おう。やっと目ェ覚めたか勇者。ホラ朝メシできてっから食え食え」

 

「そ、そーだな。ホレ見てみろ、炊きたて飯盒ごはんと焼きたてヤマメの塩焼きと温め直したて聖女の豚汁だぞ」

 

「おぉーー! めっちゃ豪華じゃね? ……いやゴメンまじ本当ゴメン。片付けちゃんと手伝うから」

 

「…………あれぇ? エルくんのカラ()もごもごもご」

 

「カラぁーっと晴れた気持ちのいい朝だよな!! やっぱキャンプの朝って気持ち良いよな!!」

 

「ほ、ほ、ほらティーちゃん! おいしいお茶だって! ほらお茶だよお茶!!」

 

「アァーー風気持ちいィーー豚汁うめェーー」

 

 

 

 盛大に朝寝坊した勇者(エルヴィオ)さんは何一つ疑問に思うことなく、キャンプの朝の雰囲気と一汁一菜のおいしい朝ごはんを満喫し……

 

 

 

 勇者(エルヴィオ)さんを除く一同(スタッフさんを含む)の、土壇場での団結力が……ほんのちょっとだけ増したのだった。

 

 おれはなにも見なかったことにしよう。

 

 

 



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469【二日目昼】引継ぎメンテなんす

 

 

 見所も事件も名言も撮れ高も、いろいろと盛りだくさんだった『実在仮想(アンリアル)林間学校』第一部は、早いもので終了のときを迎え。

 正装に着替え直した勇者エルヴィオさんによって、クロージングのお言葉が告げられ。

 

 

「ゥお疲れ様でしたァーーー!!!」

 

「「「「「お疲れ様でした!!」」」」」

 

 

 Ⅰ期生八名による第一陣は……こうして無事、配信終了を迎えることができた。

 

 

 現在時刻は、午前の十一時。

 配信の中で後片付けと撤収も済ませてくれたので、この後は三時間程度の休憩ならびに施設メンテナンスを挟んで、第二陣であるⅢ期生【MagiColorS(マジキャラ)】の皆さんをお迎えにお伺いすることになる。

 第二陣だけど、Ⅲ期生だ。これは厳正なる抽選(くじびき)の結果なので、仕方がない。お間違えの無いように。

 

 

 というわけで、ひと仕事を終えたⅠ期生の皆さんは、そのときに『にじキャラ』さんの事務所へお送りする手筈になっていた…………筈なのだが。

 

 

 

「あっ、お構い無く。オレらここで良いんで。ありがとね」

 

「えっ?」

 

「近くにホラ、落水荘さんあるだろ? 俺様達が『なかゲ部』の凶禍(きょうか)合宿で世話んなったトコな。そこ三泊取ってあるんだわ」

 

「…………あっ、」

 

「せっかくの温泉に入らないで帰るって、それはそれで残念だし、ねぇ?」

 

「それに……オレらは肩の荷が降りたわけだし。完全に視聴者の側に立って、みんなの配信見てみたいし」

 

「な…………なるほどぉー?」

 

 

 

 なるほどなるほど……まぁ確かに、理にかなっていると言えなくもない気がしなくもない。

 

 ここから滝音谷(たきねだに)温泉街までは徒歩で行ける距離だし、せっかく温泉街の近くまで来たなら温泉を堪能していきたいところだろう。

 しかも昨晩は設備が充分とはいえないキャンプ場で一夜を過ごしていたので、身体を清めることができなかったのだ。焚き火やBBQのにおいも着いちゃってるだろうし、きれいさっぱりしたいのは当然だ。

 

 そしてそして、せっかくきれいさっぱり温泉を満喫したのなら……そのまま気持ちのいい畳のお部屋でゴロンしたいというのは、すべての日本人に備わる基本的な欲求なのだ(※一概にそうとは限りません)。

 

 

 梅雨の頃にミルさんをそそのかして無茶したお陰で、温泉街のシンボルである誉滝(ほまれたき)は、その雄々しい姿と水音を惜しげもなく振る舞ってくれている。

 紅葉が始まりつつある秋口の温泉街ともなれば、それはそれはリラックスできることだろう。

 

 

 

「……まぁ、そんなわけで。オレらは落水荘さんに移動して、温泉入ってノンビリして、あとは優雅に人気配信者(キャスター)のキャンプ配信でも堪能しようかなって」

 

「あそこWi-Fi飛んでるもんな。至れり尽くせりだわ」

 

「もし私たちに手伝えることがあったら、なんでもREINちょうだいね! 肝試しとか!」

 

「そう、肝試し! そんな楽しそうなことしてたなんて我輩聞いてないんだけど!」

 

「ウィルくんりんごジュース飲んで熟睡しとったからなぁ……」

 

「わたしも参加できなかった……くやしいー!」

 

「セラちゃんは見た感じおこさまだから、夜更かしは……ほら、ね?」

 

「『ね?』じゃないが!!!」

 

「わがはい……きもだめし……」

 

(邪龍かわいいかよ)

 

 

 

 

 ……こうして、ひと仕事を終えて『いい旅気分』になっているプロ配信者(キャスター)集団ご一行さまは。

 しょんぼり顔の邪龍の(なかのひと)と天使の(なかのひと)を宥めながら、たのしいたのしい二次会(温泉旅行)へ向けて、みんな仲良く旅立っていった。

 

 まぁ…………『肝試しとか』かぁ。

 もしⅢ期生の皆さんがご所望なら、そのときは相談してみようかしら。

 

 

 

 まぁともあれ、今は直近に迫ったタスクをこなさなければな。

 おれたち運営サイドがやらなきゃいけないことは……そんなに多くはないが、大切なことばかりだ。

 

 キャンプ場休憩小屋の清掃・整備や、水洗トイレの機構点検や、トイレ用雨水タンクおよび調理場シンク用上水タンクのチェック、場合によっては給水。

 管理棟(おうち)に続く砂利道に問題がないか再チェックしたり、出っ張ってる藪を切り払って歩きやすくしたり。

 あとは……引き続き業務をこなしているスタッフの皆さんにも、不都合がないかを確認しておいたり。

 

 

 

「御館様。補充分の薪割り、完了致しました」

 

「登り易そうな木も幾つか見繕いましたよー。まぁ人間さんが登れるかは解りませんけど」

 

「意味ないじゃん阿呆姉ぇ」

 

「はははは……ありがとうございます。こちらお礼のハー○ンダッツです」

 

「「「わーい」」」

 

 

 

「わかめさま! おつかい完了いたしまして御座いまする!」

 

「わかめどの、わかめどの。我輩ちゃんと『にんじん』と『じゃがいも』を探し当てたのだぞ」

 

「ごしゅじんどのー! 愛らしい朽羅(クチラ)めが戻りまして御座いまする!」

 

「ン゛ン゛ッ!! …………ありがとね、みんな。ご褒美のかきぴー(梅しそ味)だよ」

 

「「「わーい」」」

 

 

 

「ノワただいま! デンチ回収してきたよー!」

 

「おかえりラニ。金鶏(きんけい)さん何か言ってた?」

 

「いいや、特には。ステラちゃんも大人しくしてるらしいし。見張りのネコチャンシンシたちと一緒にキャンプ配信見てたって」

 

「おぉー、まじか。じゃあ尚のこと気合い入れないとなぁ。……はいこれ、お駄賃のたまごぼーろだよ」

 

「わーい」

 

 

 

「……御館様。……会場近辺の清掃、恙無(つつがな)く完了致しました」

 

「ありがとうございます。……すみません、小間使いみたいな雑用させてしまって……」

 

「……いえ、問題御座いません。……清掃は保守点検業務の基本に御座います(ゆえ)

 

「うぅぅ……ほんと助かります。こちら心ばかりではありますが、南国の泡盛です」

 

「ほぅ、これは。……有り難く頂戴致します」

 

「……………………」

 

「…………? ……何か?」

 

「…………いえ……何でもないです」

 

 

 

 そんなこんなで、『のわめでぃあ』の総力を挙げてメンテナンスを済ませていき……なんと、およそ一時間そこらで受け入れ準備は整った。手前味噌だが、みんなかなり手際がよかったと思う。

 

 

 ときをほぼ同じくして、管理棟(おうち)にお届け物が到着する。

 保温用のスチロール箱から取り出されたほかほかの()()は、のすぐそこの滝音谷(たきねだに)温泉街の食事処『あまごや』さんお手製の、仕出し弁当が十四人分である。

 

 原付バイクを駆って届けに来てくれた店主の息子さんいわく、『緑髪の女の子に紹介された』という八人組のお客さんも来てくれていたとのことで……お弁当と併せてお礼を言われまして。

 

 いやいやいや、こちらこそありがとうですし。おいしいお弁当を届けてくれて、おかげで我々は調理と片付けの時間を業務に充てることが出来るわけで。

 お代をお支払いして、夜の分のお弁当を注文して、お礼を言って息子さんと別れ……『のわめでぃあ』のみんなとスタッフさんとで、おいしいお弁当を堪能する。

 

 

 あと三十分もしたら、第二陣をお迎えしに『にじキャラ』さん事務所まで飛んでかなきゃいけないのだ。

 まったく。いそがしくて、いそがしすぎて……とても楽しくなってきちゃうじゃないか。

 

 

 

「配信スタートは……十四時だっけ?」

 

「そうそう。なので遅くとも十三時半には現場入りしてもらいたいし、ってなると『にじキャラ』さん事務所での説明時間とかも考えて……逆算して、十三時ちょっと前くらい? あっ、たまごやき。食べる?」

 

「たべるたべる! じゃあゴハン食べて、ちょっと休んで……四十五分くらいに出ればいい?」

 

「んー、そうだね。金剛さんにも伝えとかないと」

 

 

 Ⅰ期生マネージャーである金剛さんは、おれと一緒に『にじキャラ』さん事務所へと帰還する予定となっている。

 配信者(キャスター)の皆さん同様にひと仕事を終えた金剛(マネージャー)さんと入れ違いで、今度はⅢ期生のマネージャーである伊倉さんがスタッフ陣に合流する形となるので……行きは一名、帰りは六名をお送りするわけだな。

 

 

 そんなわけで、つぎのお客様は『にじキャラ』Ⅲ期生【MagiColorS(マジキャラ)】の皆さん……フリフリガーリーで可愛らしい、日曜あさ八時半チックな五人組だ。

 

 たのしいたのしい四泊五日の、第二泊目……はりきっていってみよう!

 

 

 



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470【第二夜目】まーじかまじか

 

 

 『にじキャラ』Ⅲ期生【MagiColorS(マジキャラ)】の皆さんは、可愛らしい声とコミカルな性格(※せいいっぱいオブラートに包んだ表現)を備えた、女の子五人組である。

 

 メンバーそれぞれに赤青緑黄桃のイメージカラーが割り振られ、そのカラーにちなんだ名前とデザインを授けられているため、割と『顔と名前が一致しやすい』ことが特徴でもある(※個人的な意見です)。

 そのためおれにとっては……なんというか、プリティでキュアキュアな感じというよりかは、どちらかというとレンジャー戦隊なイメージのほうがつよかったな。まぁ巨大ロボは無いんだけど。

 

 

 そんな女の子の五人組ユニットが、『実在仮想(アンリアル)林間学校』第二部のお客様なわけだが……さすがに基本衣装であるフリフリガーリーなドレスは山中での活動に不向きだろう。

 スカートの裾とか枝に引っ掛けちゃったら大変なものが見えちゃうかもしれないし、単純に肌を傷つけちゃう危険もある。キャンプには必須とも言える焚き火を行う際は、引火や火傷の危険だってある。

 そのため誠に遺憾ではあるが……オープニングのあいさつとキメポーズと漫才(じゃれあい)を終えてから、早々にお召し替えを行っていただく形となった模様。

 

 

 ……というわけで。

 ホワイトをベースにそれぞれのイメージカラーを随所にちりばめた、可愛らしい魔法少女ドレスふうの衣装は……現在はイメージカラーはそのままに肌の露出も少ないキャンプ向けの服装へと、堅実なドレスチェンジを行っている。

 

 女の子らしさを大幅に減じたデザインのウェアではあるが、それでも可愛らしさをほとんど損なっていないのはさすがというか、髪型を含めたキャラデザインと演者の優秀さのなせる技なのかもしれない。しらんけど。

 

 

 

 そしてですね、山中用装備に着替えた彼女達がですね。

 荷物を下ろしてテントを二張り設営し終え、例の『おすすめメニュー』をもとにアクティビティを選択し、今なにをしているかというとですね。

 

 

 

 

()ッッッテェーー!! チクショウ誰だゴルァみどかテメェぶっ(コロ)すぞオラァ!!」

 

「あ()ぁ!? ひ……ひどい!! 青ちゃんダウンしてるはずじゃん!?」

 

「みどが()られたようだな……あいつは【MagiColorS(マジキャラ)】の中でも総受け」

 

「青ちゃんに()られるのは……まぁ、いつもどおりだし」

 

「仲良いなお前ら。これ『自分以外みんな敵』なサバイバル戦のハズなんだけど」

 

「…………」「…………」「…………」

 

「「「おらぁ!!!」」」

 

 

 

 ……ちょっとだけ、ちょーっとだけ女の子らしからぬ怒声を上げながら……黒光りする物々しい物体を手に手に携えたカラフルヘアーの少女達が、木々を挟んで銃口を向け合い罵り合う。

 普段のガーリーな立ち振舞いとは(一部(あおいろ)メンバーを除いて)大きく異なる、荒々しく血生臭いその様子に……『貴重な本気(マジ)顔』やら『珍しく凛々しい表情』やら、あるいは『いつも通り』『解釈一致』などなど、視聴者さんからは大変好評の様子。

 

 

 

「んにゃろォテメー!! 誰だァいま撃ちやがったのはー! チョーシ乗りぁゃがってブッ(コロ)ォす!!」

 

「あだじじゃないっでばああああ!! あああやだあああああ!!!」

 

「痛い痛い痛い痛い!! ヒット!! ねぇヒット!! ヒットだって!! ねえ!? 私『まいった』って言ってんだけど!?」

 

「ふぅははー! 今宵のPS90は血に餓えてるぜー! ハイサイクルだぜー!」

 

「ちょっと落ち着けもも! ちくしょう三〇〇発マガジンはズルいって!!」

 

 

 

 …………はい。もうおわかりですね。

 白熱しすぎてそろそろ収集つかなくなりそうですが……彼女たちは厳正なる抽選(サイコロ)の結果、現在いわゆる『サバゲー』に興じているところでございます。

 

 女の子がバリバリ男の子っぽい遊びしてるのも……なんていうか、良いよね。ギャップもえってやつかな。

 

 

 

「オッケーこの試合ノーカンね! 仕切り直し! 無かったことにしよう!」

 

「だいたい青ちゃんのせいだって! 平然とゾンビすんだもん青ちゃん!」

 

「んだとテメェ生意気なくちききやがってよぉ! みどのくせによぉ!」

 

「ゲームになんないから! 今日のところはルールに従え! 青もみどもわかったか!? 晩飯抜きにすんぞいい加減!」

 

「わだじはわるぐないでしょおお!!」

 

「でも……きーちゃんもルール理解してなかったよね」

 

「……とりあえず撃てば良いのかなって」

 

 

 

 ……はい。以上がチュートリアルとなるみたいです。泥沼の試合なんて無かった。いいね。

 

 というわけで、いよいよゲームが始まろうとしているわけなんだけど……とはいっても参加者は五名だからね。どうしても二名対三名の組分けになるわけですが、そこは仕方無いと割りきっていただくほかない。

 

 今回はご覧の通り、山林フィールドでのチーム戦。敵陣の風船を割ったほうが勝ちというシンプルなゲームだ。

 通常はもっと大人数で()るのが楽しいんだろうけど……専門のフィールドってわけでもないし、あんまり広くもないからな。五名様ならちょうど良いくらいな気がする。

 

 

 

 

「おらおらおらおらァ! 行くぜ行くぜ行くぜ行くぜェ!! ドゥゥララララララララァァィ!!」

 

「がははー。三〇〇発ハイサイクルは伊達じゃねえのだぜー」

 

「もうやだこのチーム!!」

 

 

 キャンプ場エリアを中心に、沢の下流方面から攻めてくるのは、青桃緑の三人組……ノリノリでヒャッハーな感じの青樹(あおき)ちとせさんと百瀬(ももせ)ももさん、そんな二人の後ろを泣きじゃくりながら追従する花畑(かはた)みどりさん。

 戦略上の重要拠点であるキャンプ場を先に押さえるべく、数にものを言わせて三人まとめて突っ込んでくる。

 

 

 

「あー……思った通り、馬鹿正直に突っ込んできてるみたいね」

 

「だろうなぁー、あっちは数で勝ってるし。こっち二人なら別動隊とかも考えにくいだろうし。……とりあえず作戦通り、迎撃優先で」

 

「おk把握」

 

「それにしてもうるせぇなあいつら。てか青」

 

「草なんだがwww」

 

 

 猪突猛進気味の敵チームに溜め息をこぼしながら上流チーム(というかペア)の指揮を執るのは、Ⅲ期生【MagiColorS(マジキャラ)】の(一応)リーダーである赤嶺(あかみね)かえでさんと、貴重な常識人枠である黄島(きじま)みさきさん。

 こちらは無理に攻め込もうとはせず、風船を守りながら拠点に籠る迎撃主体の戦法のようだ。

 

 

 今回は参加総人数が少ないゲームなので、一人の脱落は大きな影響を与える。一人脱落で戦力が半減する上流チームは言わずもがな、全員で攻勢に出ている下流チームも下手な動きを取りづらいだろう。

 しかしながら、Ⅲ期生はそもそもが全員女の子だ。オモチャとはいえ銃を構えて駆けずり回るサバゲーなんて、全員が全員初めての挑戦となるわけだ。

 

 ……なので、まぁ……うまく物陰に隠れたつもりでも、じつは隠れられていなかったり。

 

 

「あ痛ぁ!! ひっとぉー」

 

「ああ! ももちゃんがやられ痛ァ!?」

 

「ちょっ!? おまっ……お前らぁ!? バカやろぉあとおれ一人だけじゃねーか! 真面目にあ()ぁー!!?」

 

 

「ヨッシャ」

 

「ナイスゥ」

 

 

 

 ……あー、うーん…………これはなんていうか、ある意味仕方ないっていうか。

 

 秋の色に染まりつつ山の中で、彩度マシマシのピンクやら水色やらがもぞもぞしていりゃあ……そら目立って当然というか。たとえキャップとフェイスシールドで防護してても、そもそも髪が長いんだもんな。仕方ない。

 本人たちはうまく隠れてるつもりだろうけど、青やらピンクやらといった彼女らの頭髪は、この山中にあってひたすらに目立つんだよなぁ。

 緑色は…………うん、そうだね。いきなり立ち上がればね、そりゃあ撃たれるよ。

 

 

 そんなこんなで、まぁ運も実力というべきだろうか。

 初めてのチーム戦サバイバルゲームの結果は、上流の赤黄チームが数の不利を覆しての勝利となった。保護色ってすごい。

 

 

 

「ちくしょぉ!! もっかい! もっかいやっぞ! このまま終われぬぇー!」

 

「ぜーっ、はーっ、ぜーっ、はーっ」

 

「みどちゃ…………し、しんでる」

 

「全速力だったもんなぁそっち」

 

「みど……大丈夫? ()()()()()()()()()飲んでくる?」

 

「う゛…………う゛ん……ちょっど…………いっでくる」

 

 

 

 はいはいはい。かしこまりましてございます。この木乃若芽ちゃんをお呼びでございますね。

 

 マウスやキーボードで操作できるFPSゲームとは異なり、実際のサバゲーは何気に体力を使うのだ。

 今回は早々にみんな撃ち取られてしまったが……身を屈めたまま走ったり、障害物から障害物へと動き回ったり、静から一瞬で動に切り替えたり、銃をホールドする上半身に力を入れすぎたりと、じつは結構疲れるわけで。

 

 かくいうおれも、昔ちょこっと知人と嗜んだときは……翌朝ね、寝床から起きれなかったね。金縛りかと思ったもん。

 

 

 

「お疲れ様です、みどりさん。エナドリします?」

 

「おねがいじまずぅぅぅぅ! ふとももやばいんでずぅぅぅぅ!」

 

「はいはい。げんきになーれ、げんきになーれ……【快気(リュクレイス)】、っと」

 

「あ゜あ゜あ゜あ゜あ゜あ゜」

 

 

 

 えぇ、けっして怪しいものではございません。副作用も後遺症も依存性もないので、安心安全でございますとも。

 

 安心安全合法なわかめちゃんはですね、こうしてセーフエリアでありカメラの無い休憩小屋の中でですね、疲労をPONっとトバすお手伝いをさせていただいております。……はい、ひととおり施術が完了いたしました。

 

 彼女たちはいちおう共犯者であり、おれたちのひみつを朧気ながら知っている半ば身内でもあるので、これくらいのお力添えなら問題ないとのこと。

 それに……あんなに小さな可愛らしい女の子の弱った姿を至近距離で堪能させていただけたので、おれとしても役得である。ふふふ、いくらでも頼っていいのよ。ウフフ。

 

 

 それにしても……涙目のみどりさん、正直めっちゃそそる。もっとキャンキャン泣かされてほしい。言えないけど。

 小さくて可愛い美少女たちのあられもない姿(※語弊あり)を、合法的にもっともーっと堪能させていただきたいので……欲を言うと、みんなもっと疲労困憊になっていただきたいものだ。

 

 ……あっ、いいこと思い付いた。

 ねえねえみどりさん。ちょっとお耳を拝借。

 

 

 

 

 

 

「ねえみんなー! 管理人さんから賞品の差し入れ! ダッツだって!」

 

「「「「まじで!!?」」」」

 

「まじまじ! ただし三つだけね! ダッツがみっつ、なんつって」

 

「「「「は?」」」」

 

「ヒッ」

 

 

 

 ふっふっふ……疲れた身体に濃厚バニラと芳醇いちごとすっきりチョコミントは、それはそれは効くだろう。

 魅力的きわまりない賞品を求め、みな精一杯たたかいあらそうがいい!

 

 そしてぞんぶんに疲労し、わかめちゃんの合法施術を受け、たまらん表情をするがいい!

 

 はーっはっはっはっは!!

 

 

 



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471【第二夜目】ふかく反省してます

 

 

「えーーー、っと……お疲れ様でした。赤嶺(あかみね)さんと、花畑(かはた)さん」

 

「「お疲れ様ですー…………」」

 

「あー……めっっちゃ疲れてますね。……ほんとお疲れ様です」

 

「「ですーー…………」」

 

 

 

 えーっとですね……早いもので、第二夜の収録・配信が(なんとか)すべて終わりまして、現在は反省会兼ミーティングのお時間です。

 

 一応ざっくりと『何があったのか』を軽ぅーくご説明させていただくとですね……まぁ、地獄でしたね。

 

 

 

 おれが『激しい運動で紅潮した美少女のお顔』と『合法疲労回復リラクゼーションを施される美少女』を満喫したいがために巻き起こした『ダッツ争奪戦争』によって……それはそれは泥沼の争いが繰り広げられた。

 

 数発どころか数十発のヒットを浴びても頑なに認めようとしない、色々と我が強すぎるメンバー数名による熾烈なサバイバル(?)戦は、そのとばっちりを受け半泣きになる数名――(みどり)さんと(かえで)さん――がリタイアした後も延々と続いた。

 

 もう賞品であるダッツを選ぶ権利は獲得しているのに、それでも三人は銃を撃つ手を一向に休めない。

 狂暴な笑みを浮かべながらトリガーを引きまくる(ちとせ)さんと、普段の眠たそうな顔に満面の笑みを浮かべる(もも)さんと、単純にエアガンを撃つことに快感を覚え始めた(みさき)さん。

 普段はガーリーで可愛らしいドレス姿の彼女たちによる、大変泥臭く血なまぐさい優勝争いは……おれが『合法疲労回復屋さん』として介入し(てしまっ)たばっかりに、まさしく泥沼の戦いと化したのだった。

 

 

 疲労顔の美少女を延々とムフフできるからって、後先考えずにやり過ぎた。完全におれがやらかしたわけだな。てへぺろ。

 

 

 

「えー、その件に関しましては……大変もうしわけございません……」

 

「いえいえ。まぁ視聴者さんたちにも好評だったみたいですし……あんまり気にしないで下さい」

 

「そうですよぉー! それに『お詫びの品』もみんなで楽しませてもらいましたし!」

 

「喜んでいただけて何よりです……ほんとすみません……」

 

 

 

 調子にのったお詫びとして……Ⅲ期生の皆さんには、特大の花火セットを『これでもか』とお届けさせていただいた。

 

 また晩ごはんのカレーに関しても、プラスアルファおいしそうな具材を奮発させていただいたので……みなさんの手で作りあげたおいしいビーフカレーを堪能した後、陽が暮れたあとなかよく(?)花火を堪能していただいたのだ。

 

 

 まるで子どものように(実際小さな子どもの背丈なのだが)花火を手に手にキャッキャとはしゃぐ彼女たちは……それはそれは、とても可愛らしかった。

 

 

 

「えぇーと……ではまず、我々から。なんというか、まぁ不幸な事故はありましたが……そのお陰と言うべきですかね? 数字のほうは良い感じになってますよ。ほら」

 

「「おほぉーーーー!!」」

 

「ほんとすみません……差し入れとかもう自重します……」

 

「あっ、大丈夫です。単純に気を遣って戴けてるのありがたいですし、多少騒動起きたほうが伸びるので」

 

「アッ…………な、なるほど?」

 

 

 Ⅲ期生マネージャーの伊倉(いぐら)さんからフォローもいただき、これで晴れてわたくしめは無罪放免となったのだが……しかしさすがに混乱を助長するやり方は良くなかったので、心を入れ換えることにする。

 そうとも……醜い争いを助長する個数ではなく、みんなに満遍なく差し入れをすればよかっただけの話なのだ。明日以降は気を付けよう。

 

 

 

「ところで、例の『おすすめメニュー』ですが……正直いかがでしたか? 昨晩ティーリットさんからの発案だったのですが……」

 

「あっ、ですよね。見覚えないボードいきなり渡されたので、ちょっとびっくりして」

 

「でも実際、確かにやり易かったですよ。ただ『自由にキャンプしろ』って言われても……正直、めっちゃ間延びしそうだったので」

 

「そうそう。抽選がサイコロでランダムだったし、行き当たりばったり感も出ててよかったなって」

 

「毎度サイコロ振らされる側の私は、プレッシャーけっこう半端無かったですけどね……」

 

「でもそんなハズレ目なかったから良いじゃん! 『深夜バス』とか書いてなかったし!」

 

「はぁー? オッケーわかった。みど今度サイコロコラボすっぞ。お前にもサイコロ振らせっからな」

 

「ぅええ!? やだあああ!!」

 

「だってよぉ! ゆるせねぇよなぁ!? そう思うでしょ若芽(わかめ)ちゃんも!!」

 

「エッ? アッ、ハイ」

 

「なるほどですね。では企画案として、上に提案しておきましょう」

 

「まああああああ!!?」

 

 

 

 美少女実在仮想配信者(アンリアルキャスター)五人組の『行き先ランダム旅企画』ですって……なにそれ見たい。めっちゃおもしろそうですやん。深夜バスお見舞いされろ。

 それにしても……なるほど、そういう『何ができるか』という点も、彼ら彼女らは手探りで探しているということなのだろうな。

 

 なんでも『にじキャラ』さん方にとってみれば、スタジオの外で【変身(キャスト)】を行使することなんて、数えるほどしか経験が無いのだとか。

 それこそ今回の林間学校コラボを除けば……半年ほど前の、実体化お披露目カラオケコラボくらいじゃなかろうか。

 あぁそういえば、ハデスさま主導での『なかゲ部凶禍(きょうか)合宿』もあったか。会場はそれこそすぐ近くの落水荘さんだったわ。……どちらにしろ室内か。

 

 どちらにしろ、数えるほどしか経験がないようだし……屋外での企画はやっぱり経験が少ないようで。

 今回の林間学校コラボに踏みきってくれた理由のひとつとして、やはり将来的には積極的に外へ出て企画撮影をしていきたい……そのためのテストやデータ収集をしたいというのも、少なからずあったのだろう。

 

 

 外部の目が無い屋外空間で、思い付く限りいろいろな演目を体験させ、どういった内容の配信であれば『実在仮想配信者(アンリアルキャスター)』の強みを活かすことができるのか。

 また、仮想配信者(アンリアルキャスター)の頃から追いかけてきてくれている視聴者さんは……どんなことを期待しているのか。

 

 それらのデータを集めるために、われわれ『のわめでぃあ』の存在は、いろいろと都合がよかったのだろう。ふふふ。

 

 

 

「……ではまぁ、それぞれ改善点も浮き彫りにできましたので……そろそろ解散としましょうか。何かありますか?」

 

「私は大丈夫です。サイコロコラボよろしくお願いしますね!」

 

「うぅ…………私も大丈夫……あっ、明日『だし巻き』食べたいです……」

 

「ふふふ。それも込みで、了解しました」

 

「「やったーー!」」

 

 

 

 とりあえずは、あと半日。

 寝て起きてごはんたべてテントを撤収し終えるまで、実在仮想(アンリアル)林間学校をがんばっていただき。

 

 その後も……もしご用命とあらば、みなさんの配信者業をお手伝いさせていただくことも、やぶさかではございませんとも。

 

 

 まぁ、とりあえずは……いろんな意味で疲れたであろう一日の、その疲労を抜くためにも。

 皆さんには、ゆっくり休んでいただきたいものだ。

 

 ……もちろん、スタッフさんも含めて。

 

 

 



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472【三日目朝】どうすればいいの

 

 

 どこかの誰かさんたちと違って、Ⅲ期生の皆さんは誰一人としてお寝坊することなく、翌朝の配信開始時刻を迎えることができた。

 

 お顔を洗って身支度を整えるのに手間を掛けたいがため、朝ごはんは火加減の難しい飯盒ごはんではなく、レトルトごはんをお湯で温めていたのだが……まぁ、そこに掛けられるカレーがそもそも神ってるからな。一晩寝かせた特製ビーフカレーだ。

 そこへ花畑(かはた)みどりさんのリクエストである、われらが霧衣(きりえ)ちゃんのお手製だし巻き玉子とおまけのゆで玉子をプラスして……なかなかにボリューミーな朝御飯が整いまして。

 

 大変満足そうな顔で、気持ちの良い『ごちそうさま』を聞くことができた。

 いやいやいや……めっちゃいいにおいだった。さすカレー。

 

 

 

 

「それじゃー、あっという間でしたが……『実在仮想(アンリアル)林間学校』第二部、これにて終了です! ご視聴ありがとうございました!」

 

「「「「ありがとうございました!」」」」

 

 

 片付けを終えて、撤収作業も終えて……ほぼほぼ予定通りの十一時、無事クロージングを行うことができた。

 

 さてさて、例によって我々はこれから施設メンテに入らせていただくわけで、それが終わったら今度はⅡ期生の方々をお迎えに行く予定である。

 全四部のうち半分を終えて、残すところももう半分……今日明日のⅡ期生と、明日明後日のⅣ期生だ。

 視聴者さんももしかしたら飽き始める頃合いかもしれないので、尚のこと慎重にいかなければならない。設備の不具合なんかでお楽しみに水を差すことは許されないのだ。

 

 

 ……っとまぁ、おれたちのメンテ作業は一旦置いといて。

 ひと仕事終えたⅢ期生の皆さんの送迎に関してですが……これはやはり、もしかするともしかする気がするのですが。

 

 

 

「えーっと……はい。私らも温泉堪能して、三日ほどゆっくりしようかなって」

 

「あの旅館めっちゃよかったからなぁー。お仕事気にせずのんびり満喫したかったんだよなぁー」

 

「昨日の先輩たちの配信、やっぱ私ら自分の番控えてたから……いまいち楽しみきれてなくてさ」

 

「お風呂上がりにごろーんしたいし……惰眠をむさぼりたい」

 

「ベルさまたち昨日からいるんでしょ? めっちゃ楽しそうだし!」

 

 

 

 ……とのことで、やはりというか『落水荘』さんにお世話になるご予定らしいです。はい五名様ご案内ー。

 

 ははーん、これはおれ読めましたわ。多分だけど明日Ⅱ期生の方々も終わったあと行くわ。みんなで集まってヤンヤヤンヤするつもりですわこれ。いいなー。

 なんならハデスさまあたり、大広間借りきってプロジェクターで配信見る会とかやりかねない気がする。あそこ地味に設備整ってるもんな。いいなー。

 

 まぁとにかく。おれたちとしても、すぐそこの滝音谷(たきねだに)温泉街が潤うぶんには大歓迎だ。

 おれが動画とかで大々的に宣伝すると拠点バレの恐れもあるので、直接宣伝することはできないけれど……知人(と思ってもいいのだろうか)にプライベートで使ってもらう分であれば、何の懸念もない。ついでに温泉街のファンになってほしい。そしてあわよくばオウチに遊びに来てほしい。

 そんな控えめな欲をひそかに抱きながら……おれたちは次のお客様をお迎えするため、施設メンテに取り掛かったのだった。

 

 

 お弁当を届けに来てくれた『あまごや』さんの息子さんから『女の子五人組が来てくれました』との情報を聞いたときには……こっそりほくそ笑んでしまった。

 

 

 

 

 ……と、いうわけで。

 Ⅲ期生マネージャーの伊倉(いぐら)さんと入れ替わりに、第三陣であるⅡ期生【私立安理有(あんりある)高校】所属の六名様がログイン(チェックイン)しました。

 

 生徒会長の日之影(ひのかげ)(ながれ)さんや書道部の刀郷(とうごう)剣治(けんじ)さんをはじめとする高校生チームであり、割と普段からこの六名であちこち遊びに行っているという仲良しチームである。

 

 

 とはいえ、【変身(キャスト)】の適応下でキャンプを敢行するのは、もちろんのこと初めてだろう。

 

 ぜひとものびのびと、羽目を外して楽しんで……またおれたちを楽しませていただきたいものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 



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473【第三夜目】マジ神ってる

 

 

 さてさて、Ⅱ期生の皆さんですが……まぁー皆さんね、とてもとても元気いっぱいですね。色々と無茶してくださいまして。

 

 おれたちの心配をよそにおもむろに木登りに興じ始めたり、ドームテントに加えてハンモックテントを設営してみたり、木の枝にロープを掛けてターザンロープにしてみたり、ブランコにして遊んでみたり。

 加えて……ついに話題として触れられた、警備員(ダイユウさんたち)の詰所でもあるツリーハウス……そこへ登るための梯子を使い、休憩小屋の屋根の上に登ってみたり。

 

 

 なんというか……『高校生』といういちばんエネルギッシュなお年頃をモチーフにしたからなのかはわからないけど、とにかく『体力の有り余った』一団だったらしい。

 あっけに取られながらも見守るおれだったが……スタッフさんが『いつもよりハシャいじゃってますね』『絶好調ですね』と苦笑混じりにつぶやいてたので、やっぱたぶん平常運転なんだな。

 

 

 ……あっ、ちなみに夜は盛大にキャンプファイヤーしてましたよ。即興セッションしながら。

 

 日之影(ひのかげ)会長さんが持ち込んだカホンをトンポコトンポコ叩き、落研所属の宮古(みやこ)風華(ふうか)さんがおもむろにジャンベをポコパカし始め、弟で漫研所属の影郎(かげろう)さんはクラベスをカシカシ鳴らし、軽音部だという木場(きば)弓弦(ゆづる)さんなんかはおもむろにケースからヴァイオリンを取り出し。

 書道部の刀郷さんと演劇部のレイルさんは特に楽器を持ってこなかったのか、それぞれなんというか原始的な歌声(というか叫び声?)を上げ始め……視聴者さんたちが『俺達は何を見せられてるんだ』と思わず困惑してしまうほどに、それはそれは見事な拝火の儀式が執り行われていた。

 

 ……いや、まぁ……即興にしては見事なものでしたけども。

 演奏を終え、『やりきった感』をこれでもかと滲ませてドヤ顔する木場(きば)さんは……まぁ、とても可愛かったけども。

 

 まさかね……いきなり演奏会が始まるとは、正直予想だにしてませんでした。

 

 

 キャンプの夜に、楽器の調べ……なるほど、そういうのもあるのか。

 まぁ雄叫びを『楽器』と評するべきかは悩むところだけど。

 

 

 

 

 ……というわけで、現在時刻は夜の十時。あんなにドンドコドンドコ盛り上がっていたキャンプファイヤーも、今やすっかり燃え尽きてしまっている。

 周囲を照らしていた明るさをすっかり失い、ほんのり赤く燻っている程度だ。

 すぐそこの沢から水を汲んではやさしく掛けて、ひとときの楽しさに感謝しながら、完全に鎮火させていく。

 

 そうして火の始末を済ませると……高校生男女六名に扮したⅡ期生の皆さんは、スタッフさんの持つカメラへ向かって二、三言葉を発し、それを合図に本日の配信が無事終了する。

 この後の予定だが……代表者数名は管理棟(おうち)にて夜ミーティングおよび反省会、その他の方々はテントにもぐってお休みの時間となるわけだ。

 

 

 真っ暗な中、ミーティング参加者の皆さんを安全にお連れするため(あるいは単純に特等席から眺めたかったがため)、おれたちは配信のときから付かず離れずで見守っていたのですが。

 

 そんなおれたちへ向け……おやすみ前の刀郷(とうごう)さんから、なにやらお呼びの声が掛かりまして。

 

 

 

「お疲れさまでした、皆さん。……どうかしましたか?」

 

「こんばんわわかめちゃん。……いや、そんな大した用じゃないんすけど……オレ反省会参加しないんで、オレ含め『代表者じゃないメンバー』からちょっと言いたいことあって」

 

「アッ、えっと? ……ハイ。うけたまわります」

 

 

 

 『にじキャラ』さんのご利用も、今日で三夜目だ。おれたちはもちろんおもてなしに手を抜いているつもりは無いが、そのあたりを判断するのはあくまでもお客様だ。

 もしかすると……『慣れ』からくるおざなりさのようなものが、おれたちの行動に出てしまっていたのかもしれない。

 

 

(やっべ、盗撮しようとしたのバレたかな)

 

(おいドスケベ妖精!! おま!?)

 

(いやまぁ、さすがにそれは冗談ですが……心当たりある?)

 

(……正直、ない。ないからこそ、真摯に受け止めないと。おれたちじゃ気付かなかったってことだから)

 

(そうだね。『剣筋の癖は自分じゃ気付けない』ってやつだよ)

 

(あー……なんとなくわかる)

 

 

 そんな気構えで彼らのお言葉を待っていたおれたちに、お客様たちから告げられた『言いたいこと』。

 

 それはずばり…………まぁ、おれたちが危惧してたこととは全く逆でして。

 

 

 

「多分オレらだけじゃなく……ウチ(にじキャラ)の全員、それこそマネさんや技術さんや、鈴木さんら経営陣(おえらいさん)も同じ意見だと思うんすけど……」

 

「………………はい」

 

「オレら仮想配信者(ユアキャス)に……新しい可能性、授けてくれて。……本当にありがとう」

 

「………………えっ? あっ、えっと……」

 

「前二日、ウチも視聴者しとったけどな。先パイらや魔女っ子らだけやなくて、視聴者みーんな大喜びしとったやろ? ……アレな、大なり小なり『わかめちゃん』に感謝しとるんやで」

 

「姉さんの言う通りだよ。僕ら……あぁ、『にじキャラ』だけじゃなくて、ユアの子とか……あと個人勢の子とか。あの『配信支援ツール』のお陰で、仮想配信者(ユアキャス)にいろんな可能性が出てきたわけで」

 

「えっ? えっと、でも……これは『にじキャラ』さんの」

 

「私の知り合いの個人勢の子も……レンタル使ってみたって。『配信支援ツール』。……すっごい喜んでたよ。『演奏してみた』簡単に撮れた~って」

 

「3Dモデルもフルトラ環境も、個人で準備すんのメチャクチャに厳しいからなぁ」

 

 

 

 あー、そうですね。そうですそうです。

 

 おれが画策し、神々見(かがみ)さんからの人員提供により設立した、例の【変身(キャスト)】デバイスレンタル会社ですが……()()()()していただいていた『にじキャラ』さんたちの宣伝のおかげもあって、応募倍率は三十倍近く、予約は五ヶ月待ちにもなっている大盛況なのだとか。

 新しい設備投資も必要だろうということで、ラニに備蓄素材を(おれのアレげな写真を代償として)吐き出してもらいながら……例の『龍』からもぎ取った『魔石』や『含光製油』など、この世界で採取できた素材を利用した改良版を試作しているところだ。

 

 ……まぁ、配信支援ツールのレンタル会社の件は、一旦置いておこう。業務好調です。

 

 

 

「ぶっちゃけると、昨今の『実在仮想配信者(アンリアルキャスター)』ブーム……主犯が『のわめでぃあ』だってこと、視聴者のほとんどは理解してるんすよね」

 

「おフ、っ!?」

 

「まぁそらそやろ。むしろ隠し通せるワケが無いねんな」

 

「お披露目が玄間(くろま)さんのおうたコラボだもんね。僕ら『にじ』以外からで唯一の参加者だったし……そりゃ一目瞭然っていうか」

 

「むしろ……バレないわけが無い、っていうか」

 

「『のわめでぃあ』さんの視聴者がな、あっちゃこっちゃで律儀に宣伝してくれてるんよ。『可愛い実行犯のチャンネルはこちら』って」

 

「まぁ、そんなわけで。……なんで、改めて言わせて貰いますけど……わかめちゃんの恩恵に(あずか)ってる下々の民は、配信者(キャスター)視聴者(リスナー)も含めて大勢、スッゴク大勢いるんすよ。『神』と崇めてる熱心な信者も居るくらいで。まぁオレもなんすけどね」

 

「んヒィ!? きき、きょうひゅくでひゅ」

 

「「「「かわいいー」」」」

 

(顔赤いよノワ~~)

 

(ひかたないでひょ!!)

 

 

 

 偉大なる先駆者であり、大御所の超有名配信者(キャスター)さんであり、ほかでもないおれの『推し』の一人である彼に、身に余る光栄な評価を頂き。

 おれはとても嬉しく思う反面、どちらかというと照れくささのほうが勝ってしまったのだが……仕方無いだろ、根が小市民なんだし。

 

 

「も、もぉぉぉ!! ミーティング! はやくミーティングいきましょ! 夜遅くなっちゃうじゃん!!」

 

「はいはい。じゃー私ら行ってくるから、(つる)ちゃん(ふー)ちゃんは先寝ちゃってて」

 

「はーい」

 

「いやー……寝る前に良いモン見れたわ。わかめちゃんほんまカワイイねぇ」

 

「んひュ、っ!? も、もぉー!!」

 

(そのカワイイムーブ……狙ってない、っていうなら相当だよ)

 

(なによお!!!)

 

 

 

 そんな照れくささを誤魔化すというか、こそばゆい話題から逃れるために……おれは大げさに手をバタバタしたりして、強引に話題を切り替えたりもして。

 やることをきちんとやり、招待主(ホスト)としての役割を全うするべく、本日最後の仕上げに取りかかるのだった。

 

 

 でも、まぁ……確かに気恥ずかしいし、過分な評価だとは思うけども。

 それでも、悪い気はしなかったよな。『神』とかな。……むふふ。

 

 

 



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474【第四夜目】大トリおーりとーり

 

 

「のわッッッ! ちゃァァァァアん!!」

 

「かめッッッ! ちゃァァァァアん!!」

 

「うわあーーーーーーーー!!!?!?」

 

 

 

 今週早くも四度目となる、東京都は渋谷区某所『にじキャラ』さん事務所。

 嬉しいことに各方面で話題沸騰大好評だという『実在仮想(アンリアル)林間学校』……その大トリを飾るⅣ期生【Sea's(シーズ)】の皆さんをですね、不肖この木乃若芽こうしてお迎えに上がったわけでございますが。

 

 会議室の扉を開けるや否や……可愛らしい女の子に急襲を受けましてですね。思わず悲鳴を上げてしまったわけですけどもね。

 いや、女の子相手に悲鳴上げるって非常に失礼なのかもしれないけど、これおれ悪くないよね。不可抗力だもん。

 

 

「ご……ご無沙汰してます。うにさん、くろさん」

 

「んへへェー」「んふゥー」

 

「オイこらそこのうにくろ。若芽ちゃん困ってるだろ。離してあげなさい」

 

「「はぁーい」」

 

「…………恩に着ます、彩門(あやと)さん」

 

 

 さて、今回のキャンプコラボでございますが、めでたく【Sea's(シーズ)】全員参加となったわけで……会議室の中にはカッコいい&かわいらしい男女八名が、今か今かと()()()()を待ちわびている。

 

 

 

「えーっと、では……恐らく鈴木本部長さんのほうから注意事項はご説明受けてると思いますので」

 

「そやで! 口頭でも書面でもバッチリやよ!」

 

「そやなぁ! それに先パイ達の配信ずーと見とったし!」

 

「待ちに待った、って感じですもんね。……ぼくも他人のこと言えませんけど」

 

「わ、私も……ここ一週間くらい、ずっと楽しみで!」

 

「じゃあもう……行っちゃいますか!」

 

「「「「「「いぇーーい!!」」」」」」

 

 

 おれたちの『副業』をミルク・イシェルさんに手伝っていただいてること、また『実在仮想配信者(アンリアルキャスター)』のお披露目第一号を玄間(くろま)くろさんに務めていただいたこともあり……『にじキャラ』所属の配信者(キャスター)さんの中でも、なにかと【Sea's】の方々との付き合いが濃い自覚はある。

 実際、うにさんやミルクさんなんかは度々遊びに来てくれてるので……もはや『勝手知ったる』といった感覚なのかもしれない。ありがたいことだ。

 

 というわけで前置きもそこそこに、わくわくを隠しきれないご一行様に【門】をくぐらせ、本日の会場である『わかめ沢キャンプ場』へとご足労いただく。

 マネージャーの八代(やしろ)さんもスタッフさんと合流し、スケジュールの最終確認を始めたところで……おれは改めて、設備のご説明や準備してある『おたすけアイテム』の説明を加えていく。

 

 

 

「『おすすめメニュー』のボードは、配信始まったらお持ちしますね。なんならサイコロもお付けします。興味あるの幾つか見繕っといてもらっても良いかもしれません。……あ、ロープとかブランコはⅡ期の方々が作って、そのままですが……」

 

「いや、いーよ。大丈夫大丈夫。ふつーにそのまんま遊ばしてもらうし」

 

「ウチらなぁ、カレー……ってか、お料理対決やろうって話してきてん。そんでな、ちょっとかめちゃんに相談なんやけんど」

 

「おお、『対決』はおもしろいかもしれませんね! じゃあ急いで材料買いに……あっ、多めに調達し」

 

「そう、そこなんですよ若芽さん!」

 

「てぅおおぅ!?」

 

「実はですね、こちらに食材もう用意してあってですね!」

 

「えっ!? この発泡スチロールぜんぶ!?」

 

「ふっふっふ。ちょーっとお耳を拝借やよ……アッ、みみ可愛(カワ)

 

「んヴーーーー!!?」

 

 

 

 

 ……なるほど、材料の種類を増やして。

 

 ……ふむふむ。さいころで。ほうほう。

 

 ……へえー。ボード八枚に六種類ずつ。

 

 なーるほど、八人が提案しあって公平に。

 

 

 …………いや、すごい。とてもおもしろそうだ。

 大人数ならではの企画ってものを、しっかり理解している。さすが『にじキャラ』の精鋭だ。

 

 ならばこそ、われわれ招待主(ホスト)としましても……全力でバックアップさせていただきましょうとも!

 

 

 

……………………………………

 

 

……………………………

 

 

……………………

 

 

 

 

「…………というわけで、取り急ぎボードの準備完了いたしました!」

 

「すみません若芽さん、ウチの子達が。……助かります」

 

「いえいえ。材料持ち込みしてくださったので、こちらとしてはむしろ楽でしたよ」

 

「後は……どう転ぶか、って所ですけど」

 

「いやあ、でも……どう転んでも面白くなりそうですもん。すごいですよこの企画」

 

 

 

 食材の搬入もあるので少し早めに現場入りしていただき、彼らの『お願い』を聞き届け、超一流の技量を誇るわかめちゃんの手によって必要な小道具の準備(※ボードのデータは作ってくれてあったので印刷して貼っただけ)が整えられ……持ち込み企画をおっ始める準備は整った。

 

 一方の主役である【Sea's】の皆さんは配信会場であるキャンプ場にて、もう間もなくである配信開始時刻を今や遅しと待っているところだ。

 

 

 

 ……というわけで!

 

 配信スタートの直前だが……ここで【Sea's】の皆さんによる持ち込み企画『お料理dice(ダイス)キ! 食の賽典(さいてん) ~Sea's(シーズ)フード紅白戦~』のルールについて、簡単にご説明させていただこう。

 

 このイベント、平たく言えば『二組に分かれてお料理対決をする』というものなのだが……もちろんそれだけじゃない。

 『(さい)』とか『ダイス』とかアピールしてるところから、なんとなーく想像できてしまうかもしれないのだが……このお料理対決において特徴的ともいえるルールが、『料理に使える食材はサイコロ頼み』という一点である。

 ただしごはんに限っては……まぁ、みんな危ない橋は渡りたくないのだろうな。お米は基本装備として配給されるらしい。

 

 

 用意されたボードは八枚、ボード一枚ごとにサイコロを振り、出た目の示す食材をゲット。つまりは八種類の食材が手に入るわけだ。ちなみにルウ以外の調味料はフリーらしい。

 『1.にんじん』『2.じゃがいも』『3.豚バラブロック』『4.たまねぎ』『5.カレールウ(甘口)』『6.キャベツ』『7.ホールコーン』『8.シーチキン』といった感じで……恐らくはこの組み合わせが理想形。

 運が良ければ、カレーとサラダが美味しく作れる食材がゲットできるのだという。

 

 しかしながら……引きによっては『3.豚バラブロック』が『3.メロンパン』になってしまったり、あるいは『5.カレールウ』ではなく『5.クリームシチューミックス』になってしまったりする可能性も当然あるので……サイコロの目によっては、果たしてシチューができるのか筑前煮ができるのかハンバーグができるのか、全くもって予想ができない。

 いちおう模範解答として『カレー』と『サラダ』は存在するが……食材を活かせるのなら、なにもゴールとなるメニューはこの限りではないのだ。

 

 料理の腕はもちろん、引きの強さや運だけではなくアドリブ(りょく)も求められるわけだな。

 ……いや、めっちゃたのしそうだが!

 

 

 

 

「……というわけで! 『実在仮想(アンリアル)林間学校』最終フェーズとなる我々【Sea's(シーズ)】八名! これから一泊二日、どうぞお付き合い下ァーさいっ!」

 

「うちら【Sea's(シーズ)】が最終フェーズってな。シーズのフェーズって」

 

「村崎は黙っとれ」

 

「ほァなォッ!!?」

 

「んふゥー。辛辣やんなぁ」

 

 

 

 ……おっと。どうやらあちらのほうでは、オープニングのあいさつが終わったみたいだ。

 この後はテントを拡げたり焚き付けを行ったりと『キャンプらしい』準備を整えたあと……ドキドキのチーム分けを行い、いよいよ『お料理dice(ダイス)キ! 食の賽典(さいてん) ~Sea's(シーズ)フード紅白戦~』が始まるわけだ。

 なお別にシーフードにこだわりがあるわけでは無い。

 

 紅白の組分けを行い、食材の抽選を行い、そこから作戦会議とメニューの設定を行い……いよいよもって、調理開始となる。

 タイムリミットは十八時。遅れたことによるペナルティとかは特に無いが、その分食事が遅くなるぞ。

 とはいえ時間は充分に確保されているので、ミーティングや作戦会議も重要になってくる。多少アレな組み合わせの食材でも、知恵を出し合えばなんとかなる……かもしれないな。

 

 

 

 ともあれ、まずはテントと焚き火けだ。男女に分かれ、また役割を分け、みんな一斉に動き出した。

 Ⅰ期生と同率最多となる『八名』という頭数を活かし、てきぱきと――それでいて楽しそうに――作業を進めていってくれている。

 

 

 みんなとてもたのしそうだ。もちろん見てるおれも楽しいぞ。

 

 がーんばれ、がーんばれ。

 

 

 

 



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475【第四夜目】運命の選択

 

 

 拾い集めた八本の枝のうち四本を、片側の端だけナイフで皮を削り取る。

 そうして印を付けた部分を、印の無い四本と一緒に握り込んで隠すことで……即席の組分け(クジ)が出来上がる。

 

 端の削れた組と、削れてない組。四名対四名にズバッと組分けを行うことができる上、しかも使い終わったら燃料にもなる。ハイテクだ(ハイテクか?)。

 

 

 

「なんか勝った気がしてきたわぁ」

 

「それ完全にフラグじゃないで…………ではないのか?」

 

「でも道振(ちふり)ん居るなら心強いよねぇ」

 

「いやいやいや、ういちゃんのほうが心強いでしょ」

 

 

 まずは一組目、暫定赤組。

 パンキッシュゲーマーガール『村崎(むらさき)うに』さん、水底領主男の娘『ミルク・イシェル』さん、アクティブアウトドアガール『洟灘濱(いなだはま)道振(ちふり)』さん、大正浪漫文芸(インドア)少女(ガール)文郷(もんごう)ういか』さん。

 若干(いち)うにを除き、家事や料理が得意そうな子が揃った実力派チームだが……なんというか、何かやらかしそうな子が(ひと)うにいるので、そこだけが不安だ。

 

 

 

「待て待て待て! マズいてこれ! 料理上手みんなあっち行ってもーてるやんけ!」

 

「し……失礼な! こっちにもちゃんと女の子二人居るだろうに!」

 

「ミズいいか、正直に答えろ。お前そんな料理自信あるか? そして何より……クロが料理得意だと思うか?」

 

「………………えっとぉ……」

 

「……? んにゅ?」

 

 

 一方こちら二チーム目、暫定白組。

 フィジカル面に自信ニキ『甲葉(こうば)こがね』さん、声がいい見た目美少年美少女『花笠(はながさ)海月(みづき)』さん、貧乏クジ引きまくる系リーダー『乗上(のりがみ)彩門(あやと)』さん、そして空前絶後のおうた女王若女将『玄間(くろま)くろ』さん。

 こちらもなんだかんだで有力選手が揃っている模様。【Sea's(シーズ)】の男性陣は全体的にハイスペックなので、どんな活躍を見せてくれるのかが楽しみだ。あと若干不安な(いち)くろの動きにも注目したいところだ。

 

 

 

「……まぁなんだかんだ良い感じに分かれたんちゃう?」

 

「そだな。あと食材ランダムだし……どうなるかわからんぞー?」

 

「ニンジンだらけのカレーとかなったらどうしよ……」

 

「いやそもそもカレールウ取れなかったら悲劇よ!」

 

「うち牛肉食べたぁい。すき焼き食べたぁい」

 

 

 

 赤組白組ともにこころの準備が整ったようなので、いよいよ試合開始となる。

 まずは抽選ボード八枚を持ち出し、使用する食材の抽選だ。ぶっちゃけ料理の(てい)を保てるかどうか、すべてがこの瞬間に掛かっている。

 

 ……というわけで、注目の第一投。赤組からは村崎(むらさき)うにさん、白組からは乗上(のりがみ)彩門(あやと)さんがスタンバイ。気になるボードの内容は……上から『にんじん』『だいこん』『シャウ○ッセン』『にんじん』『にんじん』『にんじん』となっている。

 恐らくはカレーの材料の一部であろう、第一の食材ボード。四五六番の執拗な『にんじん』推しがちょっと気になるが、一番のハズレだとしても『だいこん』なので、まぁ傷は浅いだろう。にんじんどもめ。

 

 

 

「頼むぞうにちゃん!! にんじんを! にんじんさんを!!」

 

「村崎やらかせ! やらかせ! だいこん引けだいこん!!」

 

「うっせぇ! ウェイこそだいこん引きやがれ!!」

 

「うち牛肉がええなぁー」

 

 

 なにがでるかな。なにがでるかな。

 両陣営の応援と配信画面のコメントが熱を帯びる中、ついに放たれた第一投。

 

 

 果たして結果は……赤組(うにさん)が三、白組(あやとさん)が六。

 

 

 

「まーまーまーまー。ほら、価格でいえば一番高いし?」

 

「ものは良いようだの……」

 

「いや、あの……うにちゃん」

 

「私らカレー作ろうとしてんだよなぁ!」

 

 

 カレーの材料ということを考えると、若干疑問は残るが……シャウエ○センを手にいれて何故かドヤ顔のうにさんと。

 

 

「まぁ確率三分の二だし。普通は取れるよね。日頃の行いかな?」

 

「ヒューッ! さすがリーダー苦労人!」

 

「さっすがパシられリーダー!」

 

「マヨラー!」

 

「褒められてる気がしねぇなぁ!? さっきからァ!!」

 

 

 こちらは順当にカレーへ向けて駒を進めたにもかかわらず、チームメイト(と配信画面のコメント)から散々な言葉を投げつけられる彩門(あやと)さん。

 実際その貢献はなかなかなのだが……なんだろう、いつか報われてほしい。そう思わざるをえないキャラクターだ。

 

 

 

 というわけでその調子で、どんどん食材をピックアップしていこう。

 残りの食材ボードはぜんぶで七枚、そして各チームメンバーは四名なので、必然的にみんな二回ずつサイコロを振ることになる。にげられないぞ。

 

 ちなみにだが……サイコロに選ばれなかった食材も当然出てくるわけで、つまりは結構な量の食材が余るわけだが、そのあたりの処分は我々『のわめでぃあ』が引き受けさせていただくことになっている。

 ラニちゃんがいれば賞味期限も気にならないし、最近レパートリーが増えてきたお料理担当霧衣(きりえ)ちゃんの手にかかれば、きっとおいしく料理してくれることだろう。

 

 

 

「次はぼくで…………んんっ。……次は余の番だな。大船に乗ったつもりでいると良い」

 

「今『ぼく』って言うたよな? ミル」

 

「言い直しても無かったことには出来ませんよ?」

 

「水底の領主なのに船に乗ってて良いんですかァー」

 

「ぐぬぬ……!!」

 

 

「……じゃあ、僕が行こうか。このまま波に乗っていこう。海月(くらげ)だけに」

 

「よっしゃミズ頼むで! じゃがいもや! じゃがいもさんやで!」

 

「いいな絶対にんじん引くなよ。絶対だぞ。倍にんじんとかいらんからなマジで」

 

「うち……牛肉…………」

 

 

 今後のお料理の方向性を左右する、大切な二投目。サイコロを握ったのは……赤組がミルさん、白組が海月(みづき)さんだ。

 気になるその選択肢は、上から『じゃがいも』『じゃがいも』『さつまいも』『さといも』『にんじん』『にんじん』となっている。

 ……うん、またしても謎のにんじん推し。しかもその確率は三分の一を占めており、模範解答であるじゃがいもと同率一位である。

 

 幸い、というべきか……さつまいもやさといもを引いても、カレーとして成立させることは出来るだろう。むしろにんじんを引いたとしても、そこまで深刻な事態にはならない。

 

 …………が。

 じゃがいもが入っておらず、代わりににんじんが山ほど投入されたカレーともなれば。

 さすがに【Sea's(シーズ)】の皆さんの中に『にんじんキライ!』なんて言う子は居ないだろうけど……だとしても、そこはかとなく残念なことになる……かもしれない。

 

 

 

 

「あっ!? おぉーー!!」

 

「んほぉー! やりおったやんミルぅぅ!!」

 

「ナイスゥ!!!」

 

 

「あぁ!? そんなぁ!!」

 

「う、うわぁーーまじかーー!!」

 

「やりやがったなこのロリコン!!」

 

 

 注目の一投。赤組(ミルさん)の出目は二、対する白組(みづきさん)の出目は……六。

 それぞれ狙い通りのじゃがいもと……ある意味で狙い通りかもしれない、にんじん(二倍量)である。

 

 

 

 

 この結果を受けて赤組は調子を取り戻し、白組は焦りを滲ませ……そのままの流れで迎えた三投目。今回はどうやら『お肉の部』ということらしい。

 選択肢は『豚バラブロック』『豚ロース薄切り』『牛ロース薄切り』『和牛特撰カルビ』『牛豚合挽き肉』『メロンパン』。命運を担う投手は……赤組ういかさんと、白組くろさん。

 

 

 その場の誰もが『メロンパン以外』を熱望した結果……まぁ、想うは招くとでも言うべきだろうか。

 

 軌道修正を図れそうだった赤組は、五番の牛豚合挽き肉。

 ダブルにんじんをお見舞いされた白組は……なんと四番、和牛特撰カルビ。

 

 

 見えていた地雷の回避には、見事に成功したはずの一同は……しかしながら、微妙に『これじゃない』お肉を手に入れてしまったことで、とても複雑な表情を浮かべていた。

 

 

 

 なお、そんな八人の中でただ一人。

 

 当初から牛肉を切望していた玄間(くろま)くろさんだけは……狙い通りの獲物を引き当て、満面の笑顔ではしゃいでいた。

 

 

 かわいいが。

 

 

 

 



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476【第四夜目】ビストロわかめ沢





お見舞いするぞッ!!







 

 

(…………っというわけで、ここからは解説の白谷さんも交えてお送りいたします。……早速ですが白谷さん。今後の試合展開に関しまして、率直にどう思われますか?)

 

(そうですねー、幸いにして単品で全てを台無しにする食材は回避できたので、今後どうやってリカバリーしていくかが見所でしょう。各チームの『料理つよつよ勢』の活躍に注目です)

 

(ありがとうございます。ちなみに白谷さん的には、どちらのチームに魅力を感じますか? こう……食材的に)

 

(うーーん……難しいところですね。やはり全体的に『たまご』みが足りないので、ここはひとつ運営側からのアプローチにも期待したいところです)

 

 

 なるほど……ありがとうございます。

 それではここで、全八回の食材抽選を終えた両陣営の食材(スターティングメンバー)を確認してみましょう。

 

 まずは赤組。シャウエッセ○・じゃがいも・牛豚合挽肉・にんじん・コンソメ・キャベツ・ホールトマト・マカロニ……以上の八点。

 ボード四枚目でにんじんを回収し、たまねぎこそ無いものの割と正統派(マトモ)なカレーに王手を掛けたかと思いきや……二順目第一投となるボード五枚目にて、われらが村崎(むらさき)うにさんがついにやってくださいました!

 二分の一、五十パーセントの確率を外し、カレールウを入手すること叶わず……もはやカレーの目は完全に潰えた模様。

 しかしその一方でキャベツとマカロニはゲットできたので、フリー調味料のマヨネーズや塩コショウとうまくあわせれば、サラダのほうは無難に仕上げられそうだ。

 

 対する白組の食材(デッキ)。にんじん・にんじん・和牛特撰カルビ・とうふ(もめん)・カレールウ(辛口)・レタス・うずらの卵・いかの塩辛……以上八点。

 にんじんを二枚重ねされたり、おとうふが入っていたり、お肉が煮込み料理には向かなさそうだったりと迷走しがちだが……それでもカレールウ(辛口)を手に入れられたことは大きい。これさえあれば何が入っていようともカレーになる、最強の武器なのだから。

 ただその一方で……レタスは良いとして、他の食材でどうサラダを用意するかがポイントになるだろう。そもそもサラダになるのだろうか。『うずらの卵を潰してマヨネーズで和えてタマゴサラダに』とかいうお声もチラッと聞こえてきたので……やはりこのあたりで、運営からの介入を考えるべきかもしれない。

 

 

 

(介入しちゃうか。いちパック持ってって分けてもらうくらいで良いかな?)

 

(いんじゃないかな。たまごって便利だし、焼くだけでも一品できるでしょ?)

 

(あって困んないよね。よし持ってこう。『たまご』みが増えるよ!)

 

(やったねノワちゃん!)

 

 

 ……というわけで。

 チームメンバーどうしで顔突き合わせて作戦会議の真っ最中ではあるが……ここで『おたすけ天使』の登場だ。

 

 休憩小屋外の調理台を囲んで会議中のみなさんのもとへ、カランコロンと硬質で雅な下駄の足音が近づいていく。

 聞きなれない足音の接近に顔を上げた【Sea's(シーズ)】の皆さんが目にしたのは……籐のカゴを大事そうに抱えた、とてもかわいい白髪和服美少女の姿。

 

 

 

「みなさま、ごぶさたしております。たいへんお疲れさまに御座いまする」

 

「ああー! きりえっちゃん!!」

 

「りえっちゃんやーん! まいど!!」

 

「こんにちは、きりえさん。……えっと、どうしたんですか?」

 

「はいっ。みなさま、ご機嫌うるわしう御座いまする。わか、っ……わ、わぅぅ…………うんえい様より、食材と……わたくしめから、お茶の差し入れに御座いまする」

 

「「「「「「おぉーー!」」」」」」

 

 

 

 初日の『おにぎり差し入れ事件』、および開き直って登場させていただいた『肝試し』の一件により、その容姿と性格の良さと言動の可愛らしさからたいへん高評価をいただいているらしい霧衣(きりえ)ちゃん。

 彼女を今ひとたび投入し、たまご(M玉・十個入り)をお届けしてもらい、また『皆さんでなかよく使ってくださいませ』と言伝てを頼んでおく。

 

 これさえあれば……マヨネーズ(フリー調味料)でタマゴサラダを作ることも簡単だし、ゆでてスライスしてカレーのトッピングにしたりもできるし、具材を混ぜて焼けばとりあえず一品作れるし、いろいろと応用の幅は広がることだろう。

 

 

「それでは、わたくしめはこれにて。失礼致しま」

 

「きりえっちゃん待って! 意見聞かせて!」

 

「わぅぅ!?」

 

「あっ、んにはんずるい! りえっちゃんうちらにも知恵貸してほしいねんけど!」

 

「わ、わうぅぅぅ!?」

 

 

(あー…………どうする? ノワ)

 

(うーーーん……まぁ、会議くらいなら許可する?)

 

(そだね。お話し合いだけ。……じゃあキリちゃんに伝えてくるよ。コッソリね)

 

(ありがとう~~)

 

 

 

 ……というわけで。

 今や和食だけでなく、洋食の知識も身に付けたわれらがお料理担当(※中華やスパイス料理はまだお勉強中らしい)の知恵を借りつつ、【Sea's(シーズ)】の八名は作戦を練っていく。

 果たして彼らは、カレーとサラダを作れるのか。いやカレーとサラダに限らずとも、無事お料理を完成させることは出来るのだろうか。

 

 なおこの相談の場は、当然のように『にじキャラ』さんのチャンネルでリアルタイム配信中なので……つまりは今まさにリアルタイムで、霧衣(きりえ)ちゃんのファンが増えていっているということだな。なぜなら霧衣(きりえ)ちゃんはかわいいので。

 

 

(ノワも程よいところで自己アピールしとかないと……知名度キリちゃんに越されちゃうかもよ?)

 

(んグゥー!? そ、それわやばい…………でも霧衣(きりえ)ちゃんにだったら負けてもいいかなって思っ)

 

(キリちゃんが悲しい顔するからやめなさい)

 

(アッ…………ッスゥー…………)

 

 

 

 おれよりも霧衣(きりえ)ちゃんが人気になることに関しては、おれは何も不満は無いのだけど……でも確かに、もしそうなると霧衣(きりえ)ちゃんのほうが『しょんぼり』してしまうことだろう。

 あの子は……おれなんかにはもったいないくらい、何かにつけておれのことを立ててくれる『とてもいい子』なのだ。

 

 やさしいあの子のことだ、もし何か数字で現れちゃうもの……たとえばSNS(つぶやいたー)(※霧衣(きりえ)ちゃんはやっていない)のフォロワー数とか、ファンスタ(※おれもやっていない)の『いいね』数とか、そういうのでおれよりも高い評価を頂いたときには。

 あの子は何も悪くないのに、『申し訳御座いませぬ』『お仕えする立場に在りながら分不相応な評価を』なーんて感じでしょんぼりしてしまうのは、想像に難くない。あの子はそういう子だ。

 

 

 ……なので。

 今回こうして、霧衣(きりえ)ちゃんの人気が跳ね上がる見込みが得られたのならば。

 単純に……彼女の『ご主人さま』であるおれが、もっともーっと大人気になればいいだけのことだ。

 

 そうすれば、霧衣(きりえ)ちゃんもモチロンおれも、いっぱい人々に知ってもらえて万々歳なわけだ。

 

 

 そのための布石は、抜かりない。おれだってここ数日、単なる伊達や酔狂で草むらにしゃがみこんで覗き見し続けているわけじゃないのだ。

 

 もちろん、いち視聴者(ファン)として特等席で眺めたいという下心が『無い』と言ったら嘘になる。

 しかしながらそれ以上に……プロ中のプロであり業界トップの演者さんたちによるエンターテイメント、そしてそれを成功に導く縁の下の力持ちな方々の働きっぷりを、間近で文字通り『見学』させていただいているのだ。

 

 

 そのまま企画をパクるのでは、単なる二番煎じになってしまうけれど……おれたちが企画を考えるときの参考にさせていただくくらいなら、おそらく可能だろう。

 

 またこの配信は、いつものおれたちの配信なんかとは桁違いの視聴者さんが見に来てくれている。

 なので『どうすればウケるのか』『視聴者さんは何を求めているのか』などといったとても有用なデータも、かなりの信憑性とともに手に入れることができるのだ。

 

 つまりは……この『実在仮想(アンリアル)林間学校』そのものが、おれにとってのキャリアアップ研修だったんだよ!

 

 

(な、なんだってーーーー!!?)

 

(はい。ラニちゃんが順調に知識を深めてくれてるようで、おれはとてもうれしいです)

 

(キリちゃんだってがんばってるんだもんね。みんなヒビセーチョーだよ)

 

(えらいぞ~~~~)

 

 

 

 そう……ここ数日は『おもてなし』に奔走していたおれたちだけれど、結局のところはわれらが『のわめでぃあ』の更なる飛躍のため。

 

 おれたちと『にじキャラ』さん双方にとって、非常に実りある催し物にするため。

 

 

とりあえずは……楽しんでいこうじゃないか。

 

 

 



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477【第四夜目】細かすぎて加わらない

 

 

「ういちゃんういちゃーん。にんじんこんなもんでええー?」

 

「えっ!!?? ちょ、(こま)か…………あっ、(ッスゥーーー)……大丈夫……です。……じゃあうにちゃん、次じゃがいもの皮剥いてもらっていい? ゆっくりでいいよ?」

 

「おっけーやよー!」

 

「…………ういか殿」

 

「ミルちゃんごめん。うにちゃんには悪いんだけど……微塵切りにして貰っちゃって……いい?」

 

「心得た。タネに混ぜ込むのだな?」

 

「うん……そう。道振(ちふり)ちゃんも、その方向でいい?」

 

「おっけー。……コッチのにんじんは無事だから。ちゃんと一口サイズだから」

 

「ごめん……ありがと」

 

 

 

 さてさて。まずはこちら、赤組のキッチンからお送りいたします。

 ちなみに食材をおさらいしておくと……シャウエッセ○・じゃがいも・牛豚合挽肉・にんじん・コンソメ・キャベツ・ホールトマト・マカロニ、そして卵。

 

 まずは厚手のポリ袋に牛豚合挽き肉を入れて強めに塩コショウを振り、そこに微塵切りにする羽目になったにんじん、そして支給品であるたまごを入れ……袋の上から道振(ちふり)さんの手によって、よーく練り混ぜられていく。

 

 その間にミルさんが沸かしていたお湯を二つの鍋に分け、片方では拡げて芯を少し削いだキャベツの葉を湯に潜らせ『しゃぶしゃぶ』する感じで、軽ーく熱を加えていく。

 もう片方のお湯には、幸いにして難を逃れたにんじんとシャウエ○センが、一口大にカットされて投入されていく。

 

 

「ういちゃーんおいも剥き終わったやよー!」

 

「うにちゃんありがと! じゃあつぎ、ミルちゃんたちとタネ巻いてって貰っていい?」

 

「お任せやよー!」

 

 

 細かく刻まれる前に救出したじゃがいもも、同様に一口大にカットして投入。そこへマカロニもざらざらと投げ込み、あとは塩コショウとコンソメを溶かし込んで味を整え、具材に火が通るよう煮込んでいけばいい。

 

 そして……ミルさんと道振(ちふり)さんが目を光らせる中、うにさんがお手伝いして出来上がった具材。

 それらは先程キャベツを『しゃぶしゃぶ』していた鍋(を空っぽにしたところ)へと並べられていき、ホールトマトをぶちまけた上からお隣の煮汁(コンソメ味)を注がれ、蓋をされ火に掛けられる。

 

 

 さてさて、一時はどうなることかと思ったけど……解答例であった『カレー』と『サラダ』をすっぱり諦め、ずばり『ポトフ』と『ロールキャベツ』へと進路変更を図った赤組。

 若干の不安要素であった一(うに)を見事に御しきり、あとは完成を待つばかりとなったのだった。

 

 

 

 

 かくして、もう一方のこちら。今度は白組のキッチンを覗いてみましょう。

 ちなみにこちらの食材は……にんじん・にんじん・和牛特撰カルビ・とうふ(もめん)・カレールウ(辛口)・レタス・うずらの卵・いかの塩辛、そして卵だ。

 

 

「とりあえず、もう和牛カルビはクロに任せっから……とにかく完璧に焼き上げてくれ。多くは求めねぇ」

 

「ぅん! まかせときー」

 

「ええなクロ、食うなよ? 絶対ぇつまみ食いすんなよ!?」

 

「…………………………もちろん?」

 

「アヤ君ごめん。やっぱ不安だわ」

 

「だろうねぇ!!」

 

 

 圧倒的に高級な食材なのは間違いないのだが、多分に扱いに困る和牛特撰カルビ。こちらはとりあえずくろさんに任せ、そのままフライパンで焼いていくようだ。

 

 またその隣ではカレー用であろう大鍋の底で、水気を切ったとうふ(もめん)の表面にカリっと焼き目をつけている模様。

 そして気になる大量のにんじんだが……その量を一対二くらいに分け、一のほうをサラダに、二のほうをカレーに利用するらしい。

 

 焼き色のついたおとうふ(もめん)を一旦取り出し、一口サイズにカット。にんじんの皮をむいて一口サイズに切り、まとめて大鍋へゴロゴロと投入。お水を入れて火にかけて、やわらかく火を通していく。

 あとはにんじんに火が通ったら、うずらの卵(ゆで)を具材として追加、さらに味の決め手であり最強ユニットであるカレールウ(辛口)を溶いて煮込めば……まぁ、ちょっと変化球だがカレーが出来上がることだろう。

 

 

 あとは残された食材……にんじん・レタス・いかの塩辛・卵を残すのみなのだが、どうやらこのままサラダを作るつもりらしい。

 

 まずは卵を茹で、にんじんは()()のように細長く刻んでいき、またレタスは分解(ばら)して水洗いして、食べやすいサイズにちぎって水に曝す。

 数分後、そろそろ茹で玉子が出来そう……というタイミングで、レタスの水気を切って大皿に移しておく。

 またついでに、細い針のようになったにんじんを軽く湯に通せば、柔らかくなるとともにより鮮やかな色へと変わるので、見た目にも華やかだ。

 

 あとは……厚手のポリ袋に殻を剥いた茹で玉子とマヨネーズを入れ、いかの塩辛と塩コショウを入れて潰しながらよーくにぎにぎして混ぜ混ぜ。

 出来上がった塩辛入りのタマゴサラダを、大皿に盛ったきざみレタスと細切りにんじんの上に盛り付けて……あらやだおいしそうやだぁ。

 

 

 

 

 

「「「「「「できたぁー!!」」」」」」

 

 

 食材の抽選に始まり、作戦会議を挟み、そして調理行程を経て……ついに二チームのお料理が出揃いました。

 一時はどうなることかと思いましたが、いわば『地雷』である食材を引かずに済んだことが幸いしてか、両チームともおいしそうな『料理』として完成にこぎ着けることができた。めでたい。

 

 あの食材ボードの選択肢は、事前に皆さんで設定したものだということなのだが……つまりは謎のにんじん推しも、なかなかシビアな模範解答も、ひっそり紛れ込んだ謎のメロンパンも、種を撒いたのは皆さん本人なのだが。

 いや……確かにまぁ、サイコロ振るときには非常に盛り上がりましたよ、特にメロンパン。でも本当に引いちゃったらどうするつもりだったんですか。さすがの霧衣(きりえ)ちゃん先生とてメロンパンを使った料理とかしらないとおもう。

 

 

 

「えーっと……それではまぁ、あとはこれから実食して採点していくわけなんですが……ご覧の通り、我々は全員が勝負の舞台に立っているわけで」

 

(んん!? …………あれ、着信?)

 

(どしたのノワ)

 

(いや、音声着信のバイブが。誰だろファーー!?)

 

(え、な、何? 誰?)

 

「お疲れ様ですお世話になってますどうしたんですか()()()()()()()(小声)」

 

(ファーーーーーー!?)

 

「……はい。…………はい。できましたねお料理。みなさん結構なお手前………………えっ!? ちょ、えっと…………それ、えっ!? あの……アッ、……………あっ、……はい。…………そういうこと、でしたら…………えぇ、わかりました。大丈夫です。……はい。お疲れ様です(小声)」

 

(えっ? な、何? スズキさんなんだって?)

 

(えっーと、ね…………)

 

「……ということで! 特別審査員さんを呼んでみようと思います!」

 

 

 妙にはっきりと耳に届く、乗上(のりがみ)彩門(あやと)さんの宣言を受けて。

 Ⅳ期生の皆さん八名の視線が、カメラスタッフの後ろの藪の中で身を潜めていたおれ(たち)へと注がれる。

 

 

 

「特別審査員である……『謎の施設管理人さん』でェす!!」

 

(……ってわけで、いってくるね)

 

(えっ?)

 

(だ、大丈夫。カメラには映んないらしいから。声だけ。ふじやんみたいな感じ)

 

(はい???)

 

(あのねー鈴木本部長さんね、おれに話すの忘れてたみたいで。めっちゃ謝られたし……断りづらくって)

 

(ファーー!?!?)

 

 

 

 えー、はい。あくまで顔も名前も出さない『なぞの施設管理人さん』というスタンスにはなるのですが……はい。

 

 わたくし木乃若芽(きのわかめ)……いささか急では御座いましたが、審査員の大役、仰せつかりまして御座いまする。

 

 

 

 こ、この恩は……高くつくんだからねっ!

 

 



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478【第四夜目】けっかはっぴょー!

 

 

 恩返しの気持ちにほんのちょっとの打算を織り混ぜ、審査員としての役回りを請け負った、『なぞの美少女エルフ管理人さん』ことわたくし木乃若芽(きのわかめ)ちゃん。

 

 とはいえ、おれが下手に目立って注目をかっさらうわけにはいかない。主役はあくまで【Sea's(シーズ)】の皆さんだ。われわれは裏方、そこんとこ勘違いしちゃならない。

 

 

 方針としてだが、なによりもカメラに映らないことが至上命題だ。ここんところは鈴木本部長はじめ『にじキャラ』のみなさんも理解してくれているというので、無理強いされることもないだろう。

 なのでつまりは……カメラではお料理を映しつつ、料理人の皆様に工夫した点などなどを喋っていただき、その間にカメラの死角でわたくし木乃若芽(きのわかめ)ちゃんが実食させていただき、両チームのお料理に対して採点を行う……といった形になるのだろう。

 

 場を同じくし、採点のためにお料理を味見させていただくが、声のみの出演。

 おれたちにとってわかりやすいイメージとしては……某北国ローカル局の超人気番組の、よく喋るおヒゲの魔神(ディレクター)な感じだな。

 

 

 

 

 

「……アッ、すほい。おいひ」

 

「…………お肉が挽き肉になっちゃったことと、あとルウがコンソメになっちゃったので……カレーはキッパリ諦めて、コンソメで出来る料理に絞りました」

 

「んぢゅる……はふ、あふ」

 

「…………コンソメ味そのままだとポトフとダブるので、ホールトマトでトマト煮ふうに。見た目と味の差別化は出来たかなぁ、と。卵は挽肉のつなぎに使わせていただきました」

 

「はふ、はふ。……アッ、おいもおいひ」

 

「…………ポトフのほうも、○ャウエッセンのおかげでいいダシが出たと思います。カレーとサラダからは遠ざかりましたが、いい感じに纏まったんじゃないかなぁと」

 

「ふぁい。……おいひいえひゅ」

 

 

 

 いちおうお仕事とはいえ……おいしい料理をごちそうになったおれの意識は既にいい感じに出来上がっており、有り体にいえばとてもアホそうな顔を晒していたのだろう。

 【Sea's】の皆さんはそんなポンコツなおれの姿を見て、なんとも複雑そうな表情を浮かべていた。

 

 ……いけない、これはいけない。

 心を強く持て木乃若芽(きのわかめ)。これはお仕事だ。たいせつなたのまれごとなのだ。

 

 正気に戻ったおれは、キリッと真面目な表情でひとつうなずき……続いて白組のお料理へと手を伸ばした。

 

 

 

 

「んふ、っ、んぢゅるっ、……あっ、あっ、はふ、はぐっ」

 

「……えー…………我々の食材ですが、まず和牛カルビがですね。こいつをカレーに入れて煮込むのは台無しになっちゃいそうだったので、開き直ってシンプルに焼きましてですね」

 

「あっ、うま……やあらか…………んふっ」

 

「…………カレーは肉抜きの野菜カレーになっちゃいましたが……代わりに和牛カルビ焼肉をですね、ライス部分にトッピングとして載せる形にしました。焼き肉丼的な」

 

「はふ、はふ……ア゛ッ! はーっ、はーーっ、うまっ……から゛、ッ」

 

「…………えっと…………あとは、ニンジンがめっちゃ多かったので、一部をサラダに回しました。見た目も鮮やかになったと思いますし……タマゴサラダにイカの塩辛混ぜてあるので、面白い風味になったかと。……好みが分かれるかもしれませんが」

 

「んぅっ……んふ、っ、……濃厚……おいひ」

 

 

 

 …………うん、わかってる。

 まわりからの視線がより一層複雑な感情を秘めはじめてるの、おれにはよーーくわかってる。

 

 でもね……でもね、仕方ないんだよ。おいしいの。すごく。

 これに甲乙つけなきゃならないなんて……どっちのほうがおいしいかを評価しなきゃいけないなんて、それはとても酷なことだと思う。なぜならどっちもそれぞれ趣向を凝らし、それぞれとてもおいしく仕上げているのだから。

 

 

 

「んぅーーーー…………ッ!」

 

「えっと……大丈夫? のわ、ッ…………審査員ちゃん」

 

「……!! (こくこく)」

 

「ヴッ!! …………じゃあ、そろそろ……結果発表のほうを、お願いしても良いでしょうか?」

 

「(こくん)(もぐもぐ)」

 

 

 堂々巡りに突入しそうになる思考をなんとか纏め、心苦しいが両チームの間に優越をつけ、結果発表の大役に備える。

 そうとも……この儀式を終えないことには、彼らが晩御飯を食べられない。せっかくの料理がおれのせいで冷えていってしまうなんて、そんな悲劇はゆるされない。

 

 おいしいごはんは、みんなで仲良く……温かいうちに食べる方がいいに決まってるのだ。

 

 

 

「正直、とても悩みました。どちらもおいしかったですし、工夫もすばらしかったのですが…………」

 

「「「「「「「…………」」」」」」」

 

「…………方向転換の思いきりの良さと、食材の活かし方。すばらしかったです。……よって、赤チーム!」

 

「「「「わぁーーーー!!」」」」

 

 

 おれが出した結論は……サラダ用として用意したキャベツを煮込み料理に転用する機転と、そのまま焼いたり茹でたりするだろうと思っていた卵をうまく『繋ぎ』に回した思いきりの良さ、同じコンソメスープ由来ながらもちゃんと別の味付けとして完成させた技量などを鑑みて……赤組。

 もちろん白組も、サラダの見映えや味付け、肉をあえて焼いて別口で合わせるやり方など目を見張るものがあったのだが……赤組の創意工夫の方が勝っていたと、個人的には感じたのだ。

 

 ……決して、からくちが苦手なわけではない。決して。おれバー○ントカレーのからくちとか余裕だし。

 

 

 

 かくして、惜敗した白組所属でありリーダーの彩門(あやと)さんから、優勝旗(A4サイズ)の授与が行われ。

 その後はみんなでお料理をよそって、それぞれのチームの料理を八当分して仲良く分け合い……賑やかなイベントの最終夜を飾る、賑やかで楽しげな夕餉の席が幕を開けた。

 

 

 

(どうしてこうなった)

 

(もう開き直っちゃっていいと想うよー?)

 

 

 ……特別審査員であったおれが撤収するのを待たず、また物理的に二人がかりで撤収を阻止しながら。

 

 つまりは……おれを盛大に巻き込んだまま。

 

 

 

 

 な、なにをするマァーーー!!

 

 

 

 

 

 



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479【第四夜目】ありがとう。そして

 

 

 いやあの待って、これ配信中ですやん。大事な大事な『にじキャラ』さんの催しに部外者混じってますやん。

 いくらカメラに映らない位置とはいえ、この(てぇて)ぇ場におれがいること自体とてもいたたまれない気持ちになるのだが……しかしこれは一体どういうことなのだろうか、配信者(キャスター)さんだけでなくスタッフの方々までもが、おれがこの場にいることに対してホンワカした『感情』を湛えている。

 

 これはいったいどういうことなんだろう。おれはどうすればいいんだろう。下がっていい?

 ……あっ、だめですか。まじですか。

 

 

 

 

「……それでは、楽しい楽しい晩ごはんの席なわけですが……せっかくなのでこのまま『管理人さん』も同席していただきたいなって」

 

「ふぁっ!?」

 

「そうやよー! まだあたしらちゃーんとお礼言えとらんし!」

 

八代(やしろ)んタブレットある? コメント出てるヤツ…………あんがとー!」

 

「まぁまぁまぁまぁわか……管理人さん。これでも見て落ち着いてください」

 

「ふぇっ!?? オヘェ!!?」

 

 

 マネージャーの八代さんから、ミルさん経由で差し出された配信モニター画面。……そこにはまぁ、現在配信に流れているカメラ出力と、視聴者さんからリアルタイムで寄せられているコメントが流れているわけだけども。

 そこに流れるコメントのうち、いくらかの割合で『とある言葉』が含まれているのを……動体視力に秀でたおれの視覚(エルフアイ)は、バッチリと認識していた。

 

 

 たぶんだけど……彼らは。

 幸運にもおれがお付き合いさせて頂いてる、たのしいたのしい配信者の一団は。

 

 ただの裏方であり、施設管理人であるおれたちに……律儀にも()()()()を伝えようとしてくれていたのだろう。

 

 

 

 

『のわめでぃあありがとう』『マジありがとう』『最高』『生きててよかった』『わかめちゃん見てるゥー!?』『ありがとう!!!のわめでぃあありがとう!!!』『わかめチャンネル登録しました』『お礼言わせろバカ野郎』『かめちゃんのおかげやで』『ありがとうのわめでぃあ』『振り込ませろ』『毎秒配信して』『ありがとう!!』

 

 

 

 

 …………ちょっ、あの…………ずるい。

 

 

 いや、でも……おれの目はごまかせんぞ。

 さっき【Sea's(シーズ)】の皆さんがおれを拘束しながら晩ごはんの準備をしてる中、なぜか小型カメラ(ゴップロ)を握って行方を眩ませた一名(いちミル)が居ましたね。

 

 さすがに盗み聞きするのはよくないかなって、耳をそばだてることはしませんでしたけども……そこでコショコショ話で視聴者さんをそそのかし、おれにお礼を言うようにけしかけたりしててもおかしくない。

 

 

 つまりは……これは。この『ありがとう』の奔流は。

 【Sea's(シーズ)】の、ひいてはにじキャラの皆さんの意に添ったものであり。

 

 そしてなによりも……ミルさんにそそのかされた視聴者のみなさんも、それに喜んで乗ってくれたということなのであり。

 

 

 配信の向こうも含め、この場に居合わせた方々みんなの『本音』ということなのだろう。

 

 

 

「ま、まぁ……わたしはただの『施設管理人さん』ですので! ちょっとなにをゆってるのかわかりませんが!」

 

「かめちゃん顔真っ赤やんなぁー」

 

「ぶュ、ッ!? だ、だれのことだかわかりませんが! わたし『管理人』さんですし! ただの『管理人』さん、です……けど…………」

 

「「「「「………………」」」」」

 

「うっ、…………んうゥーー!!」

 

 

 

 ……まぁ、でも…………たとえこの場に『のわめでぃあ』として介入するわけにはいかないとしても。

 

 それでも……ここまで『ありがとう』の感情を向けられて、知らんぷりなんて出来るはずもないわけで。

 

 

 

「…………その、『わかめちゃん』とやらに、代わりまして……あ、ありがたく……お言葉、頂戴しておき……まひゅ」

 

「「「「かわいいーー!!」」」」

 

「ワァーーーー!!?」

 

「おいコラうにくろ落ち着け。じゃー……みんなごはん食べるよ。わか……管理人ちゃんも『試食』といわず、たーんとおあがり」

 

「……はいっ!!」

 

 

 

 相も変わらず、なぞの美少女エルフ管理人さんであるおれの姿がカメラに収められることは無かったけれども……おれは【Sea's】の皆さんいわくの『感謝の宴』の席に、ありがたく同席させていただき。

 この場の演者さんからだけでなくスタッフさんからも、さらには配信の向こうからも数多寄せられる『感謝』の感情を一身に受け……おれの小さな胃袋だけでなく、心がとても満たされるのを感じていた。

 

 ……たぶん疲労かなにかで視界が滲んでしまった気もするし、おれの顔を見る皆さんがなんだか頬を緩めてた気がするけど……きっときのせいだろう。そうにきまってる。

 このおれが泣くわけが……涙なんて見せるわけがないじゃないか。なぜならおれはおとこなので。

 

 

 

 

 

 

「「「「「ごちそうさまでした」」」」」

 

 

 ごはんの間も、おれはおそれ多くもお喋りに参加させていただいたりもしちゃって。

 今後の実在仮想配信者(アンリアルキャスター)の可能性……つまりは『あんなこといいね』『できたらいいね』などのお話にも、めちゃくちゃに花が咲きまくったりして。

 そしてやっぱり……【Sea's】の皆さんの気遣いの上手さに、不覚にも目頭が熱くなってしまったりもしちゃったりして。

 

 そんなこんなで、やや突発的ともいえる座談会と夕餉の席を終えて。

 数えきれないほど多くの『たのしい』と『うれしい』に囲まれた、恐らくおれ史上において過去一(かこいち)しあわせな晩ごはんの時間は……やがて当然のように終わりを迎え。

 おれは改めてとなる『ありがとう』の言葉に見送られ、当初の予定通りカメラに姿を晒すことの無いまま、無事かんぺきにお役目を全うすることができた。

 

 

 というわけで、おれは再び傍観者の立場に戻り、あとかたづけを行う皆さんをニヨニヨしながら観察させていただく。

 目ではバッチリ(てぇて)ぇ絡みを満喫しながらも、腹心であるラニちゃんとはリアルタイム思念通話により意見折衝の真っ最中だ。

 

 最後の仕上げとなる今夜の仕込みに向けて、バッチリ細部も詰めておかなければ。

 

 

 

(んでんでんで~~、そろそろ配置に着かせていい? ハデスくんたちヤル気満々なんだけど)

 

(おっけー。ちゃんと【虫除け】の魔法掛けてあげてね。あとチーム『おにわ部』にも号令を)

 

(はいはーい! いやー楽しみだよ。みんないー笑顔だし。……あとテグリちゃんズね。いつのまにあんな大道具をね)

 

(たぶん脅かすときは、初日みたいにいろんな【術】も織り混ぜるんだろうけど……人形めっちゃ手ぇ込んでたもんなぁ)

 

 

 

 食後の片付けばほぼほぼ完了し……そろそろ本日最後のスケジュールに移ろうかというところだろう。

 これから彼らが、何をしようとしてるのか。……それは実をいうと、もう既にSNS(つぶやいたー)にて表明されていたりする。

 

 

 思い出すのは月曜の夜。第一陣であるⅠ期生の某メンバーが、みっともなく盛大にビビり散らしたあの夜のこと。

 そのビビり散らしていた某メンバーと仲の良いⅣ期生メンバーが、そのことを繰り返し繰り返し慰め(茶化し)ていたところ、『じゃあお前らもやってみやがれ!』とおキレになられまして。

 

 そこへ騒ぎを聞き付けた癒し系邪龍(ウィルム)さんや、彼同様参加できなかったことを悔やんでいた天使(セラフ)さんや、祭の気配を嗅ぎとった王女(ティーリット)さま、果ては(ちとせ)さんや刀郷(とうごう)さんや各マネージャーさんたちやスタッフの方々、そしてなによりも視聴者さんたちが『肝試しやるってよ』『マジかよやったぜ』などと盛大に期待の声を寄せたがため……だいたいその某Ⅳ期メンバーのせいで、引くに引けない事態へと陥ってしまったのだという。

 

 まったく、いったい誰崎だれさんのしわざなんだろうか。おれにはわからないけどⅣ期のみんなは災難だとおもう。せめて華々しく散ってほしい。

 

 

 

 

 

 というわけで!

 いよいよやって参りました『肝試し』大会その二!

 

 前回からコースもルールも一新、さらに『おにわ部』の手により仕掛けも大幅バージョンアップ。加えてひそかにⅠ期生の皆さんの協力を取り付け、脅かし手の数も単純に倍!

 より騒々しく気合いの入った仕掛けにてお客様をお待ちしております!

 

 CM(※ないです)のあといよいよ本番!

 チャンネルは……そのまま!

 

 

 

 

 








そして

 ● ぬ が よ い





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480【最終演目】覚悟の準備を

 

 

 単純に『夜の闇』というものは、それだけでもなかなかに恐怖が掻き立てられるものだろう。

 

 おれやラニみたいに『魔法』による探知魔法を使えるならばいざ知らず……単純に真っ暗だと見通しの悪いし、灯りがなければ何も見えない。

 おまけに聴覚に頼ろうにも、山の中の大自然ともなれば『ざわざわ』とか『がさがさ』とかの環境音が多すぎる。

 

 音で周囲の状況を探るのは難しいだろうし……場合によってはその環境音が、恐怖を掻き立てる結果となってしまう。

 

 

 

「オーケーオーケーオーケー怖くない怖くない怖くない」

 

「ま、まぁ……いうてそんな仕込みあらへんやろ。せいぜい先パイらのと同じ感じやろ……」

 

「な、なぁんだ……そっか、そういえば予習済みなんだよね私達」

 

「…………カラスの鳴き声せぇへんなぁ」

 

「「「…………………」」」

 

 

 

 おぉ、さすがくろさん。危機察知能力というか、カンが鋭いというか。

 

 こがねさんと彩門(あやと)さんが余裕ぶろうとして、海月(みづき)さんもそれにつられて気を抜いてしまっていたので……その心の隙をありがたく頂戴しようかなって思ってたんですけども。

 『先日とは違う』ということをいち早く察知したくろさんの働きによって、彼ら彼女らは気を引き締め直してしまったようだ。

 

 

(ドローンからフェアリーワンへ。間もなく所定の位置)

 

(フェアリーワン了解。カラスちゃんズも準備万端みたいだよ)

 

(おっけー。タイミングは任せますって言っといて)

 

(了解ー)

 

 

 

 いよいよ始まりました配信夜の部、暫定呼称『肝試し・バージョンⅣ』。

 チーム編成はお料理対決と同様、四人対四人の団体戦。現在は白組のターンである。負けちゃったからね。しかたないね。

 

 Ⅰ期生のチームワルノリの人員協力と『おにわ部』の技術力が加わった、なんとも豪華な一夜……その記念すべき第一手。

 この日のためにダイユウさんたちが作り上げた『仕掛け』が……ついにその牙を剥く。

 

 

 

「「「わああああああああ!!!」」」

 

「おぉー」

 

 

 

 幽鬼のようなぼさぼさの髪を垂らし、ボロ布を纏った亡者の人形。……とうの仕掛人たちは『あの程度、只の骨組みに過ぎませぬ』などとおっしゃられていたが、頭部があって毛髪が生えてて布を纏っていれば充分ヒトの形に見えてしまうわけで。

 

 そして……それが一気に三体。

 『逆さ吊りされたヒトのようなもの』が、いきなり背後に現れたとしたら。

 普通に考えて、めっちゃびびるよなぁ。

 

 

 

「ばっっか! ばぁーーか!! バーカバーカ!!」

 

「嘘やろ前あんなん無かったやん嘘やろ!!」

 

「無理無理無理無理無理無理!!」

 

「んふゥーー」

 

 

 

「ガァァァァァァァァァ!!!」

 

「「「うわぁーーーーー!!?!?」」」

 

「おぉー!?」

 

 

「じゃーーーーーーん!!!」

 

「「「オアーーーーーー!!!!?」」」

 

「んふゥーーー!!」

 

 

 

 (からす)ちゃんズによる逆さ吊り人形で逃走モードに入ってしまった、あわれなターゲット四名。

 注意を完全に『逆さ吊り人形ズ』に引き付けられ、周囲を警戒出来ないでいた彼ら彼女に襲いかかった次なる刺客は……チームワルノリのお二方。

 引きずるほどに長いぼさぼさのカツラを被っただけの、ハデスさまとティーリットさまである。

 

 

 

「いまハデス兄ィ見えたんだけど……ッ!! ちくしょう! 加害者がわ回りやがったチクショウ!」

 

「ティー様も居ったやろ今……あのヒトら何しとん……ほんまヒトデナシやん……」

 

『俺様魔族だもーーん』

 

『わちエルフじゃもーーん』

 

「そういうコト言っとると(ちゃ)うねんなァーー!!」

 

『『わはははははははは!!』』

 

「んふふゥーー! ええなぁーー!」

 

 

 Ⅰ期生の華麗なる裏切(ワルノ)りに気付き、怒りとも嘆きともつかぬツッコミを叫ぶこがねさん。

 高笑いする大御所仕掛人配信者おふたりに、物理的にも比喩的にも頭を抱えながらも……早くもダメになりそうな海月(みづき)さんを叱咤しながら、なんとか先へ進もうとする。

 

 

 そんな彼らの進む先に現れたのは、可愛らしい新たなる刺客。

 

 暗闇のなかにぼんやりと佇む……どこか儚げにも感じられる白無垢を着せられた、赤毛混じりの黒髪の少女。

 

 そしてその少女の傍らで、今にも泣きそうな表情で周りを見回している……ふわふわの黒糖色の髪の小柄な少女。

 

 

 

「……あっ! そこな旅のおかた! お願いが御座いまする!」

 

「「「……………………」」」

 

「ええよもごもごもごもご」

 

()ッッ鹿()クロお前!! 何も聞いてねェのに脳死返答すんなアホ!! 誰がどー見ても何かあるやろコレ!!」

 

「そこな黄金色(こがねいろ)のカッコいいお兄さま!」

 

「どしたんお嬢ちゃん。言うてみ? カッコいいお兄さんが力になるで」

 

「「「…………………」」」

 

 

 予想以上のチョロさで甲葉(こうば)こがねお兄さんの言質が取れたので……さっそく行動に移させていただこうと思う。

 

 今回の仕掛けとは、つまり『メンバーの分断』だ。

 気になるその筋書きは……『(なつめ)おねえちゃんがわるい邪龍のお嫁さんとして見初められてしまった』『嫁に寄越さなければ渋谷区碑実(ひじつ)(ざか)四丁目二〇二の四番地を滅ぼすと脅された』『邪龍を退治しようにも小さくて弱々しくて可愛らしくて儚くて可愛い小生ではとても敵いそうにない』『邪龍を倒せそうなカッコいい旅のお兄さんを探していた』……というわけだ。

 

 

「……なんでウチの事務所がピンポイントで滅ぶねん」

 

「知らんわ。妙に細かい邪龍だな。いったい誰ルムさんなんだろ」

 

「わからんなぁ。ドジっ子邪龍さんがこんな(コマ)いこと出来るとは思えんけど……まぁ、パッと行ってくるわ」

 

「頼むぞ、カッコいいお兄さん」

 

 

 朽羅(くちら)ちゃんの可愛らしい説明が終わり、思わずツッコんでしまった男性二人。

 やがて……白無垢の黒髪少女こと(なつめ)ちゃんに『つよそう』『カッコいい』『お話がおもしろい』などといい感じに煽てられてノリ気になったこがねさんが、『ちょっと邪龍倒してくるわ!』と棗ちゃんに手を引かれ、獣道を通って『邪龍のねぐら(※ただの藪の中)』へと消えていく。

 

 ……そこで残された三名へ、朽羅(くちら)ちゃんが爆弾を投下するわけですね。

 

 

「あっ! 小生思い出しまして御座いまする! 邪龍を倒すためには『聖なる剣』が必要にございますれば、此のままではあのカッコいいお兄様が顔以外地面に埋められてしまいまする!」

 

「なんて?」「なんで?」

 

「んふふゥーー!」

 

 

 

 ……というわけで。

 (なつめ)ちゃんに手を引かれ『邪龍のねぐら』へと連れ込まれた『おもしろいお兄さん』こと甲葉(こうば)こがねさんを華麗に放置。

 朽羅(くちら)ちゃんに先導され『聖なる剣』を探す旅に出た彩門(あやと)さん海月(みづき)さんくろさんの三人組。

 彼らは道中で待ち構えていた聖女(ベルナデットさん)勇者(エルヴィオさん)女魔法使い(ソリスさん)上級悪魔(オギュレさん)ら四天王(いずれもパーティー用お化けマスク装備)の妨害を退け、折り返し地点である管理棟(のわめ荘)に奉られる『聖なる剣』を守護する邪龍(ウィルム)さんのもとへと辿り着き……

 

 

 

 

 

「「「なんでここに居るの(おるん)!?!?」」」

 

「えっ? アッ、ご、ごめん……?」

 

 

 

 見るからに『わるい邪龍』であろうウィルムさんがコッチにいたことに、三人仲良く全力でツッコミを加えていた。

 

 

 

 ちなみに配信欄のコメントのほうも、綺麗にツッコミ一色だった模様。

 やったぜ。

 

 

 

 

 

 








「わっはっは! よくぞ来たカニ道楽! さあ早くわたしの嫁ちゃんをよこすのだ!!」

「ゥエエエエ邪龍!!? 邪龍なんで!? 何してんすかセラさん!?!?」

「ちがうのだ! 今夜のわたしは真理の天使エメト・セラフではなく『わるい邪龍』なのだ! わるいので勇者のおかずだって横取りしちゃうのだ! 『邪龍』とだけ聞いてウィルくんだとでも思ったか愚か者め!」

「ぐゥ……ッ、思ってもうたッ!!」

「わーっはっはっは! ……さあさ、早く嫁ちゃんをよこすのだ。わたし(なつめ)ちゃんに抱っこしてほしいので」

「ええんか?」

「だめなのである」

「ダメやって」

「ぬわーーーー!!」




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481【最終演目】帰りはエグい

 

 

 やさしい邪龍のウィルムさんから、本来は勇者エルヴィオさんの小道具である『聖なる剣』を借り受け……復路で再び待ち構えていた聖女(ベルナデットさん)勇者(エルヴィオさん)女魔法使い(ソリスさん)上級悪魔(オギュレさん)ら四天王(お化けマスク装備)を『聖なる剣』の力で蹴散らし。

 

 わるい邪龍のお嫁さんとして拐われてしまった(なつめ)ちゃんを救出せんと、朽羅(くちら)ちゃんの導くがままに邪龍のねぐらへと急行した、彩門(あやと)さん海月(みづき)さんくろさんの三人が見たものは。

 

 

 

 

「わたし天使ぞ! 抱っこしてくれてもよくない!?」

 

「しらすどの、いまはだいじな配信中だって我輩聞いてるのである。配信中は、あんまりほかのひとの迷惑になることをしちゃだめだって、わかめどのが言っていたのだぞ」

 

「大丈夫、ちょっとだけだから。ほら今カメラ無いし、カメラ無いから大丈夫だから。ちょっとだけ。ね?」

 

「だめなのである。わかめどのと『あとでいいこいいこしてあげる』って約束したので、我輩まじめにやるのである」

 

「ええーーいいなぁーーーー!!」

 

「…………おっ、戻ったかお前ら。何かよーわからんけどフラグ立ててきたんやろ。あの幼女先輩何とかしてくれ」

 

「「「………………」」」

 

 

 

 可愛らしい白無垢姿の棗ちゃんに詰め寄り、しきりに『抱っこ』をねだる超大手配信者事務所所属の大御所実在仮想配信者(アンリアルキャスター)であらせられる、セラフさん。

 まぁたしかに『あの三人が戻るまで適当にお話しして場を繋いで』とお願いしていたのだけど……もしかしなくともこれ、演技抜きで本人の願望がにじみ出てないかこれ。

 

 

「じゃあなあに!? 配信が終わったら抱っこしてくれるっていうの!?」

 

「それは構わないのである。わかめどのも『かめら』が『おふ』のときは思いっきり甘えていいよってもごもごもご」

 

「さ、さあ旅のお方! その『聖なる剣』にてわるい邪龍をビャーーッて追っ払っちゃうでございまする!」

 

「ヨッシャ。頼むでウェイ」

 

「やっちまえウェイ」

 

「ぇえ……俺ぇ? …………悪く思わんで下さいよセラフさん! ウオー(棒読み)」

 

「ぎゃーー! だずげでママーー!!」

 

 

 

「―――― お 喚 び で す か」

 

「「「「うわぁーー!!?」」」」

 

 

 

 ここに至るまでの脅かし手(四天王)がどうにも適当だったことや、現在進行形で進んでいる謎の寸劇……これらによってターゲットの四名様は、一時的に『肝試し』の最中であるということを忘れてしまっていたことだろう。

 

 

 …………そんな中。

 

 手持ちのランタン以外にロクな光源の無い、真っ暗だった夜の山中に……突如として朧気な『灯り』が姿を現す。

 

 

「ちょ、ちょっ……ちょっ!?」

 

「…………うそやん」

 

「待って、まって違うの」

 

「………………わぁ」

 

 

 

 不規則に揺れ、明滅を繰り返し、まるで意思を持っているかのように自由気ままに飛び回る、青白い小さな炎。

 『ひとだま』とか『鬼火』とか『狐火』とか呼ばれる()()だが……こうして見てみるとなかなかに不気味であり、仕込みがわのおれも背筋がゾクッてするほどだ。

 

 

 それもそのはず、この火の玉はまさに()()()()()()なのだという。

 術者の認識範囲を拡げるとともに、敵対者……というか見た者に【恐慌】のバッドステータスを付与する、戦闘補助用の術。これを展開しながら近接戦闘を仕掛ければ死角を無くしつつ相手の動きを削ぎ、つまりは戦闘を優位に立ち回れる……とは術者(ほんにん)の談。

 

 

 そんな【行灯】を引き連れ、天使……もとい、わるい邪龍の背後から、ひとつの人影が近づいてくる。

 からん、ころん……と、どこか雅さを感じさせる下駄の足音ともに姿を現したのは……恐らく彼ら彼女らには、その正体を察することは難しかっただろう。

 

 元は純白だったであろう着物の殆ど、そして白い顔の半分ほどを、赤黒い血糊(※文字通り演出用の血糊です)で()()()()と汚し。

 無秩序に伸ばされ腰に届かんばかりの黒い髪を、なびくがまま夜風に広げ。

 その右手には……真っ赤に染まったボロボロの刀を、地面に引きずるように携えて。

 

 

 

「――――うぅぅ、……ぅあぁぁ、

 

  あ ぁ ぁ ぁ ぁ あ あ あ !」

 

 

「「「わあああああああああ!!!」」」

 

 

 

 鬼気迫る表情で刀を振り上げ、挑戦者四名を追い立てる血濡れの女。

 暗がりに浮かぶ明らかにヤバイその姿と、周囲を飛び回る火の玉に追い立てられ……まぁ、当然だろうな。挑戦者四名はゴール目掛けて、一目散に逃げ帰っていった。

 なお挑戦者四名の中でただ一人……玄間(くろま)くろさんは心から楽しそうに、ケラケラと笑っていた。

 

 おれは一生懸命追いかけた。ほめて。

 

 

 

 

 

 

 

 …………ってな具合で、チームワルノリと『おにわ部』全面協力のもと生まれ変わった『肝試し』でございました。

 特に今回『緩急』つけることを主眼において()ってみましたが、いかがでしたでしょうか!

 

 

「「「……………………」」」

 

「んっふふゥーー!」

 

 

 おやおや、まさに(一名除いて)精も根も尽き果てたといった様子。

 気を抜いて守りを緩めたところに叩き込まれる一撃は、やっぱり効果抜群のようでございますね!

 

 (一名除いて)大変なことになってしまっている同僚の様子を目の当たりにし、次なる挑戦者である赤組の皆さんがいい感じに顔青ざめてますが……残念ながら撤退は認められません。

 わたくしどもも某大御所配信者(キャスター)さんから確固たる意思で作戦決行を頼み込まれてますので、引くに引けないわけでして。恨むなら某魔王配信者(キャスター)に煽り絡みしていた誰崎だれさんを恨んでくださいね。

 

 

 ということで、無事(?)帰還した挑戦者の方々の撮影は『にじキャラ』がわのスタッフさんにお任せして、運営スタッフであるわたくしはわたくしのお仕事を全うさせていただきましょう。

 それすなわち、進行上の小道具にして最奥地点到達の証拠品である『聖なる剣』の回収である。

 

 カメラの注目が出発を控えるチーム赤組に移ったところで、おれは剣を握りしめてへたり込んでいた彩門(あやと)さんへと接触を図る。

 

 

「ウッス。お疲れッス。剣回収に来ましたッス」

 

「…………もう、本当……いや…………お疲れ様」

 

「こちらのせりふですけどね。……どうでした? 天繰(てぐり)さんの迫真の演技」

 

「あぁー……やっぱテグリさんだったのね。…………なんというか、初めて見る素顔が()()っていうのが……」

 

「…………よかったら、また今度遊び来てください。歓迎しますよ」

 

「前向きに検討します。……ステキな御御脚(おみあし)でしたとお伝え下さい」

 

「…………脚フェチでしたか」

 

(なかなか見所あるね彼)

 

(おだまりなさいエッチフェアリー。……お願いね)

 

(がってんえっち)

 

 

 脚フェチ彩門(あやと)さんから回収した小道具(聖なる剣)をエッチフェアリーへとパスし、折り返し地点である管理棟(のわめ荘)へと運んでもらう。

 また道中、脅かし手の方々にスタンバイのお声かけもしてもらい……同時におれのほうも、例によって無音撮影ドローンモードへと意識を切り替えていく。

 

 

 やがて相棒から『準備完了』の思念が届き、おれはその旨を『にじキャラ』スタッフさんへと伝える。

 程なくして赤組のみなさんにも伝わったみたいで……『誰が一番ビビりか』で盛り上がっていた彼女らのテンションが、あからさまに下がっていくのが見てとれる。

 

 

 とはいえ、ミルさんはさほど取り乱すこともなく平然としているし、道振(ちふり)さんとういかさんは不安そうながらも、その口許はほころんでいる模様。どこか楽しそうにそわそわしている感じだな。

 ただ一方で、全ての元凶でもある村崎うにさんに至っては……もはや表情が完全に『無』だ。ミルさんの服の裾を力いっぱい、『逃がすもんか』とばかりに握りしめている。

 

 ……まぁ、本人たちの心境は置いといて。

 とりあえずコメントのほうは大盛り上がりらしい。

 

 

 

 というわけで、最終夜の最終組。

 全ての出演者と視聴者さんたち、みんなに『いい夜』を迎えていただくためにも。

 

 一同、張り切って行ってみましょうか。

 

 

 



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【URcas】にじキャラ総合スレ Part.725【仮想配信者】

 

 

 

0001:名無しのリスナー

 

■ようこそ

株式会社NWキャストがリリースする仮想配信者ユニット『にじキャラ』公式アンリアルキャスター達に関する総合スレです

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■前スレ

【URcas】にじキャラ総合スレ Part.724【仮想配信者】

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0003:名無しのリスナー

 

>>1 乙

それはそうとセラたんかわいい

 

 

0003:名無しのリスナー

 

>>1 乙

セラたんもう赤ちゃんだわ……

 

 

0004:名無しのリスナー

 

>>1 乙

天使がただの駄々っ子に……

 

 

0005:名無しのリスナー

 

女児に抱っこされたがるとかさすが立派な大人()ですわ

 

 

0006:名無しのリスナー

 

みんな死屍累々やん(ただしくろまを除く)

くろま何でそんな元気なん……

 

 

0007:名無しのリスナー

 

くろまホラー得意だったっけ?

 

 

0008:名無しのリスナー

 

あの血まみれ女マジで怖かったんだけど

あんなん夜に流すなや、おしっこ行けなくなったらどうすんだよ

まぁ俺はもう心配ないけどよ

 

 

0009:名無しのリスナー

 

ドタバタギャグ時空と見せかけといて単発高火力はズルいわ

 

 

0010:名無しのリスナー

 

あれセラたんしんだんじゃねえの?

 

 

0011:名無しのリスナー

 

始まるか

赤組はミルくんちゃんおるから余裕やろ

 

ただ村崎はオトシマエつけてもろて

 

 

0012:名無しのリスナー

 

ミルくんのアイアンハートはどこまで通用するのか

 

 

0013:名無しのリスナー

 

>>8

まさか…………お前…………

 

 

0014:名無しのリスナー

 

俺最初の人形降ってくるとこで泣き叫んでウンコ漏らす自信あるわ

 

 

0015:名無しのリスナー

 

うにたそ往生際悪いぞ

諦めろ、すべては自分が撒いた種だ

 

 

0016:名無しのリスナー

 

あんなに魔王pgrしなけりゃなぁ……

うにも煽らずば撃たれまいに

 

 

0017:名無しのリスナー

 

だいたい村崎のせいだったのでSeasがカワイソウかと思ったけど

見る分には楽しいので村崎gjだわ、往生しろよ

 

 

0018:名無しのリスナー

 

恨み言ひとつ漏らさないういちゃんとチフりんマジ良い子だよな……

そんな良い子をこれから恐怖のズンドコに叩き落とすんだぞ村崎。わかってんのか村崎。

 

 

0019:名無しのリスナー

 

wwwwwwwwwwwwwww

村崎もうダウンか??はやすぎない??

もっとちゃんと堪能して????

 

 

0030:名無しのリスナー

 

なんていった今wwwwwwww

 

ア゛モ゛ーーーーっつったか??wwwww

 

 

0021:名無しのリスナー

 

ア゛モ゛ーーwwwwwwwwwww

 

 

0022:名無しのリスナー

 

これからしばらくア゛モ゛ーーが流行るな

wikiの名言に追加されるレベル

 

 

0023:名無しのリスナー

 

wwwwwwwwwww

 

脊髄反射で暴言返すなwwwww

 

 

0024:名無しのリスナー

 

「ばあああああああ!!!」

「ウワアアア畜生しねばーかアーホばーか!!ウンコ踏め!!」

 

小学生かよwwwwww

 

 

0025:名無しのリスナー

 

めっちゃ口喧嘩するじゃん

ずいぶん余裕そうですね???

 

 

0026:名無しのリスナー

 

村崎・・・・ここぞとばかりにww

 

 

0027:名無しのリスナー

 

みるくんめっちゃ笑みひきつってるじゃん

 

 

0028:名無しのリスナー

 

放置食らってるティー様かわいそうかわいい

 

 

0029:名無しのリスナー

 

先進んでやれよwwwww

いつまで口喧嘩してんだよwwwww

 

 

0030:名無しのリスナー

 

ハデス兄貴めっちゃ余裕の表情なのじわるな

一方的に愉悦れるポジションだもんな……

 

 

0031:名無しのリスナー

 

うにちゃんおくちわるくてよ

 

 

0032:名無しのリスナー

 

「ゥワッチャァァ!!」つったな今

まだおよめさん何もしてねえぞ

騒々しい子だな本当wwww

 

 

0033:名無しのリスナー

 

およめさんフェーズきたか

 

それはそうとあの黒猫ちゃんとセラちゃんのベッドイン見たい……見たくない???

 

 

0034:名無しのリスナー

 

wwwwwwwwwwwwwwww

 

まぁそうだよな、パッと見た感じ男いねぇよなw

こんな可愛いのにぶらんぶらんしてるんだぜ、未だに信じられねえわ

 

 

0035:名無しのリスナー

 

ミルくんのミルくん見せたげて

 

ナマイキな子ウサギちゃんに理解らせたげて

 

ついでに俺らにも見せて

 

 

0036:名無しのリスナー

 

ちょwwwwwwwwwおはせwwwwwww

 

言っちゃったwwww大丈夫かコレwwwwww

 

 

0037:名無しのリスナー

 

「おはせがついてるでございますか!?」

 

俺日本語にそこまで詳しくないんだけど「おはせ」って多分アレのコトだよなwwwww

 

 

0038:名無しのリスナー

 

「おはせがついてるでございまするか!!?」

 

 

0039:名無しのリスナー

 

ちんちんのことかな(名推理

 

 

0040:名無しのリスナー

 

「かいらしい顔して夜はますらおにございまするか」

 

なななななななんてこと言いだすのかしら!!この子は!!!まったくもう!!!!

 

 

0041:名無しのリスナー

 

かわいいふりしてミルクわりとますらおだね、と

 

 

0042:名無しのリスナー

 

まぁミルくんのミルくんは確かにますらおだからな

長さも太さもそりゃあもうますらおだよ

ご立派さまだよ

 

 

0043:名無しのリスナー

 

「おはせ」な、覚えとこ

 

 

0044:名無しのリスナー

 

これだからのわめでぃあは

 

 

0045:名無しのリスナー

 

こんなエッチな子ウサギが居ていいのかよ(むらっ

 

 

0046:名無しのリスナー

 

村崎wwwwww

なにげに泣きそうな顔してる村崎wwwwww

 

 

0047:名無しのリスナー

 

ますらお連れてかれたwww村崎なむwwww

 

 

0048:名無しのリスナー

 

【速報】村崎うに終了のお知らせ

 

 

0049:名無しのリスナー

 

「い゛ぎ゛だ゛ぐ゛な゛い゛い゛い゛い゛い゛!゛!゛!゛!゛」

 

あーあーあー絶叫だよコレwww

 

 

0050:名無しのリスナー

 

子ウサギちゃん淡々と進めてくの草なんだが!!!!

村崎うにちゃんかわいそう!!がんばって!!!

 

 

0051:名無しのリスナー

 

うにちゃんおくちが悪くてよ

 

 

 

 

 

 

………………

 

 

………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

 

 

 

0120:名無しのリスナー

 

いいツッコミだ

 

 

0121:名無しのリスナー

 

さすが西のウニ

なかなか鋭いツッコミだわ

 

 

0122:名無しのリスナー

 

まぁ普通突っ込むよな、ここはな

さっき邪龍言うてたやん、ってなるよな……

 

 

0123:名無しのリスナー

 

二週目だからな、さすがにもう突っ込まんぞ

勇者らのことも邪龍のことも突っ込まんぞ

 

 

0124:名無しのリスナー

 

めっちゃいい笑顔だったよなぁ勇者……

やっぱ脅かされるがわ相当ストレスたまっとったんやな……

 

 

0125:名無しのリスナー

 

ドッキリもそうだけど仕掛ける側めっちゃ楽しいもんな

 

 

0126:名無しのリスナー

 

そういえば勇者……からあげのこと気づいたんかな……

いやでも能天気な顔しとったから多分気づいとらんよなアレ………

 

 

0127:名無しのリスナー

 

やさしい邪龍かわいいかよ

 

 

0128:名無しのリスナー

 

聖剣手にいれてハシャぐ村崎かわいい

 

かわいいけどこれ多分即わからせされるやつだろ

 

 

0129:名無しのリスナー

 

村崎うにちゃんかわいそう(素振り

 

村崎うにちゃんかわいそう(素振り

 

村崎うにちゃんかわいそう(素振り

 

 

0130:名無しのリスナー

 

調子に乗ってると痛い目見るんだけどなぁ

うにちゃんはいつになったら学ぶんやろか……

 

 

0131:名無しのリスナー

 

めっちゃ振り回してますやん

 

 

0132:名無しのリスナー

 

まぁこのへんはね、ギャグパートだからね

ドン底が楽しみですわ

 

 

0133:名無しのリスナー

 

出たなオバケ四天王

 

 

0134:名無しのリスナー

 

扱いが雑ゥ!!

 

まぁ復活怪人とかそんなもんよな

 

 

0135:名無しのリスナー

 

使い回し言うなしwwwwwwww

まぁマスクは使いまわしっていうかそのまんまだけど!!

 

 

0136:名無しのリスナー

 

煽るな煽るな

そんなんだからNC泣かせたいキャスターNo1ブッチギリなんだよ村崎ィ・・・・・・

 

 

0137:名無しのリスナー

 

これには子うさぎちゃんもドン引きである

 

 

0138:名無しのリスナー

 

くちらちゃん顔引きつってない?大丈夫?

 

 

0139:名無しのリスナー

 

そうだね、やっとついたね

 

どっかのクソウニちゃんが先輩煽り散らしてたからね

 

 

0140:名無しのリスナー

 

まぁツッコむよね(二回目

 

 

0141:名無しのリスナー

 

そうだよね・・・・・まずそこ突っ込むよね・・・・・

ここは関西人じゃなくても突っ込むよね・・・・・

 

 

0142:名無しのリスナー

 

ミルくんもう目が死んでない?大丈夫?

どこの天使にひどいことされたの???

 

 

0143:名無しのリスナー

 

なんでそんな抱っこにこだわるんだwww

ロリに抱っこされたいとかまーた濃い性癖だなぁw

 

 

0144:名無しのリスナー

 

この間の様子見れないの本当悔やまれるな・・・・

ミルくんちゃんの目からハイライト消すくらいやぞ・・・どんな混沌だったのかめっちゃ気になるやん・・・・

 

 

0145:名無しのリスナー

 

うにちゃんwwwwww

なんでそんな気合十分に剣振り回してんのwwwwww

 

 

0146:名無しのリスナー

 

いやーこれはセラちゃんじゃなくても怖いわ

 

 

0147:名無しのリスナー

 

「ぶっころころやよ~~~~」

 

こっわwwwwwwwww

 

 

0148:名無しのリスナー

 

オイ誰だよクソガキに武器持たせたの!!

 

 

0149:名無しのリスナー

 

これ多分セラちゃんの悲鳴、素だよね

剣ブンブン振ってくる村崎とか恐怖以外何物でもないわ

 

 

0150:名無しのリスナー

 

呼ばれて飛び出て最終兵器

さあギャグ時空よさようなら

 

 

0151:名無しのリスナー

 

>>144

わかめちゃんのチャンネルで肝試しの裏側配信してるぞ

感謝の気持ちを込めてスパチャしてこ

黄色以上ぶっこむと無料でお名前入り撮り下ろしボイスが貰えるぞ

 

 

0152:名無しのリスナー

 

ああ~~~~~いい悲鳴~~~~~~~

 

そしてミルくんはさぁ‥‥

さすがすぎるやろ・・・・

 

 

0153:名無しのリスナー

 

ミルくん置いてかれたwwwwwww

 

 

0154:名無しのリスナー

 

村崎さぁーーーお前さぁーーーーwwwww

 

 

0155:名無しのリスナー

 

>>151

初日は裏側配信してなかったよな

審査員として引っ張り出されたこともあるし、何やらの密約が交わされたのか

もしくは単に開き直っちゃっただけかもしれんが

 

どちらにしろ助かるわ、赤ぶっ込んでくる

 

 

0156:名無しのリスナー

 

「うわぁ本格的」

 

それだけ!?!??ミルくん!??!?!?

 

 

0157:名無しのリスナー

 

置いてかれたミルくんに会釈する血濡れガールかわいいかよ

 

 

0158:名無しのリスナー

 

これサブチャンネルのほうはお嫁ちゃんがカメラ持ってんのか

なんか視点低いと思ったわ

 

 

0159:名無しのリスナー

 

これ血濡れガール迫真の演技過ぎるけど誰だ??

日之影会長じゃねえよな???

 

 

0160:名無しのリスナー

 

3人でゴールする気かあいつらwww

 

 

0161:名無しのリスナー

 

わかめチャンネルがギミック説明し始めたんだがwwww

 

気づかれないように糸で吊って動かしてますって

そんな簡単にいくかよwwwwww

ふつうは糸ごと燃えて台無しになるってばよwwww

 

 

0162:名無しのリスナー

 

あーこれメイドさんじゃね

 

 

0163:名無しのリスナー

 

>>158

嫁ちゃん出てるか???

 

って思ったけど、わるい邪龍のお嫁ちゃんのことか

黒ネコちゃんのことだったんやな納得

 

 

0164:名無しのリスナー

 

セラちゃんwwwwww

抱っこをせがむなセラちゃんwwwww

 

 

0165:名無しのリスナー

 

どさくさ紛れにダッコをねだるなwwww

 

 

0166:名無しのリスナー

 

>>159

会長も宮古姉もつぶやいたーで大爆笑しとるから違うやろな

 

 

0167:名無しのリスナー

 

ゴールwwwwwwお疲れ様wwwww

まぁ一人足りませんがwwwwwwww

 

 

0168:名無しのリスナー

 

>>159

2期と3期は完全ノータッチらしい

青ちゃんが爆笑しながら悔しがってたわ

 

 

0169:名無しのリスナー

 

いいの!!?!?やさしい!!!!

てぐりさんやさしい!!!!!

おれもだっこして!!!!!バブオギャ!!!!!

 

 

0170:名無しのリスナー

 

あーっ!あーっ!!あーーーっ!!

いいなー!!だっこいいなーーー!!!

いいなー!!だっこいいなーーー!!!

 

 

0171:名無しのリスナー

 

「オギャ・・・・バブ・・・・・」

 

もうだめだこの天使

 

 

0172:名無しのリスナー

 

おいこの天使堂々とバブついてんぞ

 

 

0173:名無しのリスナー

 

心まで幼児になってしまったか・・・・

 

 

0174:名無しのリスナー

 

あーもーめちゃくちゃだよ!!!

 

ここまでめちゃくちゃになるとは思わなかったくらいにはめちゃくちゃだよ!!!!

 

 

 

………………

 

 

………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

 

 

 

0250:名無しのリスナー

 

いうてさすがにNCのスタッフも絡んどるやろ

これほどの規模のイベントをたかだか個人配信者が用意できるとは思えねーって

 

 

0251:名無しのリスナー

 

どうであれわかめちゃんが神であることに変わりは無いな

会場用意したのはわかめちゃんだし

 

つまりは俺たちがこの尊ぇ光景を拝めるのも、尊ぇ溢れる四日間を楽しめたのも

大なり小なりわかめちゃんのおかげなわけだよ

 

 

0252:名無しのリスナー

 

俺別にロリコンでもねえし、正直今回のキャンプイベあるまで『のわめでぃあ』とか大して興味無かったけど

でもここまでお膳立てしてくれたってのはさ、単純にめっちゃありがてぇって思うよ

 

 

0253:名無しのリスナー

 

Ⅳ期生は当然として、脅かし役のⅠ期生も勿論だけど

運営がわこそお疲れ様だよ

 

 

0254:名無しのリスナー

 

お疲れ様!!!

めっちゃ楽しかったぞ!!!

 

 

0255:名無しのリスナー

 

NCのみんなお疲れさま

わかめちゃんお疲れ様

 

 

0256:名無しのリスナー

 

ゆっくり休んでもろて

 

 

0257:名無しのリスナー

 

しっかしⅠ期の面々は楽しかっただろうなぁw

キャンプやって温泉旅館いって同僚脅かして・・・・

 

 

0258:名無しのリスナー

 

マジ神企画

マジ神運営

この一週間楽しかったわ・・・わかめちゃんマジ神

 

 

0259:名無しのリスナー

 

ここまでお世話んなっといて

恩返ししない訳にはいかねぇよなぁ・・・・

 

 

0260:名無しのリスナー

 

>>257

2期と3期も同じ宿泊まってるみたいぞ

なんなら現在進行形で視聴の集いやってるみたいぞ

・・・・ってまぁもう終わったか

 

 

0261:名無しのリスナー

 

俺はわかめちゃんならきっとデカいことやってくれるって信じてたぞ

 

 

0262:名無しのリスナー

 

お疲れ様だよ本当

NCの面々はそれぞれ一泊二日で終わりだろうけど、

運営側は四泊五日出ずっぱりやろ

 

 

0263:名無しのリスナー

 

夢のような一週間が終わる・・・・・

終わってしまう・・・・・

 

 

0264:名無しのリスナー

 

でも実際今回のテストのおかげでかなり色々やりやすくなったんじゃね?

ユアキャス実体化であんなことやこんなことが出来るようになるって前言ってたけど

結局いままで派手な動き出来てなかったし

 

 

0265:名無しのリスナー

 

とりあえずアーカイブお頼み申す

一期生の肝試しシーンもう一回見たい

 

 

0266:名無しのリスナー

 

本当マジで振り込ませろよ

振り込むわ

 

 

0267:名無しのリスナー

 

超絶規模のテストだった、って線はあるだろうな

屋内での企画は幾らかあったけど屋外での配信は無かったと思うし

着替えとか調理とか就寝とか、あとは全力運動とか

なんだかんだで色々と試行錯誤してたように感じた

 

 

0268:名無しのリスナー

 

マジキャラちゃんズのサイコロトラベル楽しみにしてるからな頼むぞ

 

深夜バス引いて絶叫するみどちゃん楽しみにしてるからな

 

 

0269:名無しのリスナー

 

今後のNCチームにやってほしい企画を上げていくスレ

 

 

0270:名無しのリスナー

 

わかめちゃんちがやってたけど

チームで仲良くキャンピングカーの旅とか楽しそうじゃんね

三泊四日くらいスケジュール取って北海道一周するとか

 

まぁ一期と四期は厳しいかもしれんけど・・・・乗車定員的に・・・・

 

 

0271:名無しのリスナー

 

深夜バスお見舞いされる魔法少女とか何それ見てみたいわ

 

 

0272:名無しのリスナー

 

野菜を育てて料理する企画とかどうだ

なんなら料理を盛る皿とか調理器具から作るのはどうだ

 

 

0273:名無しのリスナー

 

企画はこんな便所の落書きじゃなくて

ちゃんとNCにご意見送るんやぞ

 

 

0274:名無しのリスナー

 

>>270

キャンプイングカーはお猪口のロマンファカラナ

なんだかんだ需要はあると信じてるぞ

 

 

0275:名無しのリスナー

 

やっぱどうでしょうになるんだよな・・・・

 

 

0276:名無しのリスナー

 

>>270

あまり試される大地をナメないほうがいい・・・・

四日そこらじゃ一周どころか横断すら出来んぞ・・・・

素人集団なら猶更だ・・・・・

 

 

0277:名無しのリスナー

 

キャンプイングカーは耐えられた

お猪口のロマンもギリ耐えられた

 

ファカラナってなんだよwwwwwwwww

いや何言いたいのかはわかるけどwwwwww

 

 

0278:名無しのリスナー

 

あのおじさん四人組ってやっぱすごかったんだなぁ・・・

 

 

0279:名無しのリスナー

 

ていうか単純にさ・・・・・

 

 

わかめちゃんがやってきたことをパクりゃいいんじゃね・・・・?

 

 

0280:名無しのリスナー

 

もうNCそのものがタレント事務所みてーになりそうだな!

 

 

0281:名無しのリスナー

 

ブンブンの刑に処す

 

 

0282:名無しのリスナー

 

>>279

おま・・・・・・・

 

 

0283:名無しのリスナー

 

試行錯誤がんばってたもんね・・・・

 

 

0284:名無しのリスナー

 

>>279

そりゃあ・・・・・・そうだけど・・・・・

 

 

0285:名無しのリスナー

 

やっぱのわめでぃあは先見の明があったってことか

 

やっぱわかめちゃんは神だったか・・・

 

 

0286:名無しのリスナー

 

ありがとうのわめでぃあ

 

 

0287:名無しのリスナー

 

ま、まぁでも・・・・幸いっていうかNCと仲良さそうだし

 

リスペクトさせて、って断り入れればわかめちゃんも応じてくれるやろ・・・多分・・・・・

 

 

0288:名無しのリスナー

 

いうてわかめちゃんも多方面からパクr・・・・リスペクトしてるからね

色々とオリジナリティ出そうとはしてるけど

 

 

0289:名無しのリスナー

 

やっぱ就寝まで盛り込めるの強いよな

泊りがけの企画が打ち出しやすくなる

 

 

0290:名無しのリスナー

 

スリケンの旅はなかなかいいアレンジだと思ったぞ

番号対応式ならそうそう狙って当てられないだろうし

 

 

0291:名無しのリスナー

 

なるほど・・・ホテルの使用を前提として企画を立てられるわけか

 

 

ホ込で設定できるわけか

 

 

0292:名無しのリスナー

 

そういえばミルくんちゃんは一体どっちのテントに入ったんだ??

 

 

0294:名無しのリスナー

 

そいえばⅣ期生はテント入る前で配信終わっちゃったもんな

 

・・・・いったいどんなカップリングが繰り広げられたんだ?

 

 

0295:名無しのリスナー

 

あんなにかわいい子が女の子のわけないだろいい加減にしろ

 

 

0296:名無しのリスナー

 

ミルくんのミルくんを拝むまではますらおだって信じねえぞ俺は

 

 

0297:名無しのリスナー

 

なんでミルくんの話題になると毎回ものすごい勢いで変態が湧くんだろうな・・・・

ミルくん・・・・罪深い子だ・・・・・

 

 

0298:名無しのリスナー

 

でもミルくんってうにたそと仲いいよな・・・・

 

 

0299:名無しのリスナー

 

なんだっけ・・・・まらじゃなくてますらおでもなくて・・・・

畜生トリビア仕入れたと思ったのに!!

 

 

0300:名無しのリスナー

 

>>297

いきなり湧いてるんじゃねえよ

 

・・

いるんだよ、常にな・・・

 

 

0301:名無しのリスナー

 

おはせ?

 

 

0302:名無しのリスナー

 

>>299

おはせか

 

 

0303:名無しのリスナー

 

おはせwwwwww

 

 

0304:名無しのリスナー

 

ああそうだおはせだ!!!

ありがとう、これで気持ちよく眠れるわ

 

 

0305:名無しのリスナー

 

その貧相なシメジ仕舞ってもろて

 

 

0306:名無しのリスナー

 

今回はキャンプだったからズボン装備だったけどさ

いつものゴスロリ服だとご立派様が重力加速度で反復横跳びして暴れん坊将軍しちゃうのでは?

やっぱお殿様不在なのでは??

 

 

0307:名無しのリスナー

 

ミルクイ貝だっけ・・・・でっけぇよなぁ(呆然)

 

 

0308:名無しのリスナー

 

反復横跳び暴れん坊将軍とかいうパワーワード草

 

 

0309:名無しのリスナー

 

ご立派様が重力加速度で反復横跳びして暴れん坊将軍wwwwwwww

 

 

0310:名無しのリスナー

 

wwwwオイふざけんな>>306 wwww

なーにがご立派様が重力加速度で反復横跳びして暴れん坊将軍だよwwwwせっかくいい気分で眠れると思ったのによwwwwww

 

 

0311:名無しのリスナー

 

やっぱNCいち罪深いのはミルくんだと思いました(ひどい風評被害)

 

 

 

 

 

 

………………………………………………

 

 

………………………………

 

 

………………

 

 

 

 

 



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482【作戦終了】昼から大宴会




ながかった一週間もおわりまして





 

 

 月曜のお昼に始まり、金曜のお昼まで……ド平日を余すところなく費やした『にじキャラ』さんの大型企画『実在仮想(アンリアル)林間学校』。

 その最終章であるⅣ期生【Sea's】の配信が恙無く終了し、これでめでたく大団円を迎えることができた。

 

 

 

 

「それでは皆様……長丁場お疲れさまでした! 乾杯!!」

 

「「「「「「かんぱーい!!」」」」」」

 

 

 

 当然もうカメラは回っておらず、完全にプライベートなこの空間……旅館『落水荘』の大ホール『水月(みなづき)の間』にて、今回の催し物に携わった全員が思い思いに騒いでいた。

 それだけでなく……『にじキャラ』事務所から経営陣(おえらいさん)数名も(ラニちゃんに【門】を開いてもらって)駆け付け、直々に配信者(キャスター)やスタッフの皆さんを労ってくれている。

 というか何を隠そう、さっきの『乾杯』の音頭を取ったのは鈴木本部長さんだったりする。

 

 早々に自分たちのノルマを消化し、あとは温泉旅館満喫モードへと突入していたⅠ期生の皆さんだったが……最終日の全工程終了後のこのタイミングを見計らって、ひそかに『おつかれさま会』を画策してくれていたらしい。

 落水荘さんの厨房全面協力のもと、さまざまなお料理がビュッフェ形式で所狭しと並べられており、疑うまでもなく完全に『打ち上げ』の様相を呈している。

 

 

 そして……まぁ、そんな場ではあるのですが。

 われわれ『のわめでぃあ』所属の六名も、ちゃっかりご相伴に与らせていただいちゃったりしちゃってまして。

 

 

 

「わかめさま! わかめさま! おりょうりがたくさんでございまする! 初めて目にするお料理がたくさんでございまする!」

 

「すごいよノワみてみて!! グラタンっていうんだって!! これがねーまたトロッと濃厚で……ボク新しい扉開けちゃいそう!!」

 

「わかめどの、りんごじゅーすを持ってきたのだぞ。わかめどののぶんも持ってきたのだぞ。我輩と一緒に堪能するがよいぞ」

 

「ご、ごしゅじんどのぉー! 可愛らしい小生を数多の『すまほ』が狙っているでございまするーー! わあーーん!!」

 

「…………斯様に注目を浴びるのは……手前は、あまり慣れて居りませぬ故…………少々落ち着きませぬ」

 

 

 おれたち『のわめでぃあ』主要メンバーのみんなが、こうして盛大に歓待を受けることとなったわけでございまして。

 

 なお『おにわ部』所属の(からす)天狗三人娘、ダイユウさんとカショウさんとクボテさんだったが……『大勢のヒトの注目浴びるとか(こわ)』『下っ端がしゃしゃり出るものじゃないですので』『静かな山の中の方が好きだし』的な一身上の理由から、参加を見合わせる形となっていた。

 じつをいうと天繰(てぐり)さんも若干渋ってた。

 

 

 さてさて、この愉快な打ち上げの席ではございますが……このホールにいるのは全員、おれたちと浅からぬお付き合いをさせていただいている方々だ。

 なお配信者(キャスター)の方々に至っては『せっかくだから』と【変身(キャスト)】実行の上で楽しんでいるので、見ようによってはにじキャラオンリーコスプレパーティーに見えなくもない。まぁコスプレじゃなくて本人なんですけど。

 

 というわけで、『しらないひと』()()()()というのが大きかったんだろうな。

 最初のほうこそ先述のように、おれのまわりでキャッキャしていた子たちだけども……やがて配信者(キャスター)の方々に話し掛けられ、あるいは記念撮影をねだられ、まんざらでもない表情で交遊を深めている。ラニちゃんなんかも堂々と姿を晒して飛び回っている。……あっ、おれも写真とっとこ。

 

 

 

「こちら、宜しいですか? 若芽(わかめ)さん」

 

「ン゛ッ!! ……っ、…………(ごくん)っ。ふみません、大丈夫でふ」

 

「ありがとうございます。……楽しんでいただけてますか?」

 

「ほれはもう。わたし食べること大好きですし。……あの子たちも、皆さんに可愛がってもらってますし」

 

 

 隅っこのほうの席で、誰に話しかけようか悶々としていたおれのところに現れたのは……なんと『にじキャラ』最高責任者であらせられる、鈴木本部長さん。

 Ⅰ期生発案のこの『おつかれさま会』の費用を、経費として会社から出してくれただけでなく……お忙しい中であるにもかかわらず労いに訪れてくれた、たいへん部下想いの方である。

 ……スタッフさんに帯同できなかったこと、めっちゃ残念そうだったもんな。やっぱ『にじキャラ』配信者のみんなのことが大好きなんだろう。

 

 

「鈴木本部長さんこそ、どうですか? 飲んでますか?」

 

「いやぁ、飲みたいのは山々なのですが……まだ仕事が残ってるので」

 

「これは独り言なんですけど、酔い醒ましの魔法が使える緑エルフのかわいい魔法使いがいるらしいですよ」

 

「…………ッ! …………いやぁ、かなり揺らぎましたが……遠慮しておきます。やはり実際に法を侵す度胸はありませんので」

 

「ふふふふ」

 

 

 どうやらこの『おつかれさま会』が終わったあとも、事務所へ戻ってお仕事をこなさなければならないのだという。たいへんだ。

 ……いや、そっか。金曜日だもんな。平日だもんな。金曜の昼間っからごちそう食べて酒飲んでるほうがどうかしてたわ。

 

 しかしながら、その『平日』であるにもかかわらず……同時接続者数をはじめとする各種数字は、それはそれは大変なことになっていたらしく。

 そのことを簡潔に報告してくれて……また会場提供に関するお礼を、改めて丁寧に述べてくださった。

 

 

 

「屋外での企画を経験した配信者(キャスター)の子らも、また配信をこなしてくれた技術スタッフも、みな貴重な経験を積むことが出来ました。配信による単純なプラスは勿論ですが……これら『経験』という収穫を得ることが出来たのは、ひとえに若芽さんたちのお陰です。本当に有難うございます」

 

「そ、そんな! おおげさですよ、そんな。……まぁでも…………お言葉は、ありがたく頂戴しておきます。あとそうですね……サイコロトラベル、楽しみにしてます。深夜バスマシマシで」

 

「承知しました。完全包囲で仕掛けます」

 

 

『ちょっと!?? 鈴木さん!!!?』

 

『みど諦めろ。諦めて自爆しろ』

 

『そだそだ。()(だか)貢献しとけ。みどの悲鳴ウケが良いんだから』

 

『まぁ実際引いたら罵倒(バト)ってやっけどな』

 

『わだじが振るの確定なの!!??』

 

 

「楽しみにしてますね!(にっこり)」

 

「お任せ下さい。企画担当とⅢ期のマネージャーにもバッチリ通しておきましょう」

 

 

 

 どこかで緑色の女の子の悲鳴が聞こえた気がするけど、きっと気のせいだろう。こんなおめでたい場に悲鳴なんか上がるはず無い。

 今回のキャンプを経て様々な可能性が広がった『実在仮想配信者(アンリアルキャスター)』の、たのしさ溢れる次なる企画のおはなしだぞ。みんな待ち遠しいにきまってるよ。待ち遠しいっていえ。

 

 

 その後は僭越ながら『お外に飛び出した実在仮想配信者(アンリアルキャスター)』の先輩として、配信や撮影に関しての要注意ポイントなんかを(えらそうにも)お話しさせていただいたり。

 また……おれたちがこれまでいろいろと配信して、拙いながらもアレコレ培ってきたノウハウなんかを(えらそうにも)共有させていただいたり。

 

 そしてそして……今後の『にじキャラ』さんが『お外飛び出し』型企画に挑戦する際なんかは、第三者的なアドバイザー的な有識者として、微力ながらご協力させていただくことをお約束させていただいたり。

 

 

 ……まぁ細かい契約内容とかは、またうちの初芽ちゃん(マネージャー)も交えてお話しさせていただくと思うんですが……いわゆる『マネジメント料』的なものをご用意していただけるとのことで。

 業界大手のトップから名指しでお仕事入るとか……これはもしかしておれ、結構な勝ち組なのではなかろうか。

 

 

 そんなことをお話ししていながら、気付けばもうお時間となっていたらしく……鈴木本部長は、それはそれはとても残念そうな顔で、お仕事へと戻る身支度を整え始めた。

 

 

「ラニちゃーん。ちょーっとお願い」

 

「ンホェ!? も、もっも。もごごめ」

 

「なんて?」

 

「…………すみません、ラニさん。お手間お掛けします」

 

「ンッ、……(ごっくん)……ぷへっ。なんのなんの。こちらこそウチのノワがいつもお世話になってます」

 

「おい」

 

 

 

 こうして、平日のお昼休みになかなかハードな大移動をねじ込んだ鈴木本部長さん、ならびに事務所勤めのスタッフさん何名かは……名残惜しそうに【門】に飲み込まれていき。

 

 おえらいさんのお話が終わり、フリーになったおれとラニちゃんのもとへ…………機を窺っていた配信者(キャスター)の皆さんが、大挙して押し寄せてきたのだった。

 

 

 

 わ、わたしって人気者なのでわーー!?

 

 

 








おつかれさまでした





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483【恒常配信】夜も大さわぎ

 

 

 さてさて。

 

 長いようで短いようで、でも結局全部含めるとなかなかに長かった『林間学校』イベントでしたが……こうして無事終了にこぎ着けまして。

 当たり前と言えば当たり前なのだが、ここ数日われわれ『のわめでぃあ』は全員でおもてなし体勢だったわけでして。

 

 つまりは……自分達のチャンネル用の活動は、ほとんどできていなかったわけですね。

 

 

 動画の撮影も、スパチャへのお返事録音も、新しい企画会議も、霧衣(きりえ)ちゃんのお料理撮影も……なにひとつとして取りかかることが出来なかった。

 まぁ仕方ないもんね。月曜の昼から金曜の昼まで、ずーっと『にじキャラ』の皆さんとイチャコラしてたわけですし!

 

 

 まぁ、それも無事終わっ(てしまっ)たので……平常運転に戻していこうと思うわけです。

 なぜなら……そう、今日は九月二十五日の金曜日ですので。

 

 

 

 

ヘィリィ(こんにちわ)! 親愛なる視聴者の皆さん! 魔法情報局『のわめでぃあ』、定例配信『生わかめ』のお時間でーすーよー!」

 

「こ、こんばんわっ! ……で、ございまする! しんこう、あすすしたんとうの……きりえ、で、ございまするっ!」

 

「あしすたんと、ね。まぁそんなたどたどしいながらも一生懸命がんばる霧衣(きりえ)ちゃんがまた可愛いんですけどね」

 

「わわわわうわうわう……」

 

 

『へいりぃ!!』『へいりぃきちゃ』『謎の美少女エルフ施設管理人ちゃんだ』『へいりぃ!』『【¥10,000】にじキャラキャンプ配信ありがとう』『ヘィリィ!!』『林間学校ありがとう!!!』『NCキャンプ配信から来ました』『イェーイわかめちゃん見てるゥー!?』『管理人さんお疲れ様』『宿から見てます』

 

 

 

 Ⅳ期生の方々が企画を終えて、おつかれさま会が催された金曜日の……その日の夜。

 おもてなしモードから自立営業モードへと切り替えるためにも、おれたちはいつも通り『生わかめ』の配信を開始した。

 

 やはりというか……今日までの『にじキャラ』さんの企画配信(ならびにおれたちのチャンネルを宣伝してくれていた視聴者さん)のおかげもあって、生わかめ史上初となる開幕同時接続者数を更新している。

 おれはプロ配信者としての表情と挙動を取り繕いながらも、その内心はただひたすらにビビり散らしていた。

 またアシスタントとして機材の操作を担当してくれているラニちゃんも、今日の配信が『ただごとではない』ということを感じ始めているようで、先ほどから笑みがひきつっている。

 

 

 

「本日は諸事情により、(なつめ)ちゃんと朽羅(くちら)ちゃんはお休みさせていただいてますので、わたしと霧衣(きりえ)ちゃんとでお送りします」

 

「が、がんばりますっ!」

 

「がんばりすぎないようにね、霧衣(きりえ)ちゃんも疲れてるんだから。……ええとですね、まぁご存じの方も居られるでしょうけど……じつはちょーっと大きな案件がございまして。わたしのほうから明言は避けますが、良い経験をさせていただきました」

 

 

 我々のスタンスとしては、大っぴらに『にじキャラさん来ましたよ!!』と吹聴するつもりはない。

 彼ら彼女らの人気にすり寄り過ぎるのもよくないと思うし、裏方業務がメインだったので『配信者』としての実績にはならないと思ったからだ。

 

 ただ……まぁ、面と向かって言われたわけだが、おれたち『のわめでぃあ』が関与してるのはバレているわけで。

 わかるひとには何のことかわかっちゃうだろうけど……それくらいならいいだろう。

 

 

「というわけで無事一山越えましたので……こうして平常運転で! これからもがんばっていきますっ!」

 

「ま、ましゅっ!!」

 

「ア゛ッかわいい! …………えーと、というわけで……『のわめでぃあ』本日のお品書きは、こちらですっ! ドーン!」

 

「ぽーん!!」

 

「ヴッ!! ッ、ハァ……すき……」

 

 

『かわいい』『かわいい』『ぽーんかわいい……』『は??すきだが??』『これは限界不可避』『ましゅかわいい』『かわいい』『なにこれえ……しゅき……』『嫁ちゃんかわいい』

 

 

 

 

 ――――本日のお品書き。

 のんびりと雑談しながら雀心(ジャンシン).net(視聴者さん参加型)やるよ。

 

 ……以上。

 

 

 まぁそもそもこの『生わかめ』だが、いろんなお知らせとか活動報告とかがメインということもあるのだが……つまり最近『のわめでぃあ』として活動できていなかった以上、特にご報告できることもないのであって。

 

 なので……そんな『なんでもない日』に出来ること、しかも年少組がダウンしている現状できることといえば……まぁ、ある程度は限られてきてしまうのだよ。

 

 

 

「…………えー、そんなわけで。だらだらと麻雀打っていこうと思いますので……よろしければお付き合いください。脱ぎませんが!」

 

 

『ウオオオオオオ!!』『ヨッシャ!すってんてんにしてやらぁ!!』『わかめ……無茶しやがって……』『永久保存版』『祝・パンツ解禁』『今日こそ脱がす』『ッシャァァァァァ!!!』『のわめでぃあ健全伝説の終焉』『わかめちゃんかわいそう……』『絶対ぇ脱がす』

 

 

「脱ぎませんが!! わたしのようないたいけな少女を脱がして喜びますか!? かわいそうじゃないんですか!!」

 

 

 

 おれの必死さの滲む訴え(の演技)は、想定していた通りに華麗なるスルーを決め込まれ、圧倒的な熱量を伴い『脱衣』の二文字を押し通そうとする。

 

 ……いやぁー、相変わらずの視聴者さんに苦笑が漏れそうになるけれど……その形はどうであれ、おれを好いてくれていることに変わりはない。

 おれが(多少)恥ずかしい思いをすることで、そんな彼らにほんの一時(いっとき)の『わくわく』『どきどき』を提供できるのなら……おれたちのことを健気に宣伝してくれていた彼らへの『恩返し』となるのだろうか。

 

 

 

「……やってやろうじゃねぇかこのやろう! ただし『脱衣』とは言っても危ないところは見せませんからねなぜなら健全ですので! それと脱衣判定は一局ごとじゃなくて半荘戦いっかいごとでいいですね! 『四位になったら一枚脱ぐ』って形で! いいですね!? 返事は聞いてない!!」

 

「はわわわわわわうわうわう」

 

 

『後悔させてやろうな』『ずりぃwww』『汚いなエルフさすがエルフきたない』『言ったな?』『絶対ぇ脱がす……』『露骨に延命図りやがったなwww』『返事は聞いてないwww』『これがのわめでぃあのやり方かァ!!!』『まま……ぱんつ……』『【¥8,282】ぱんつ祈願』『言ったからには脱ぐんだよな??』

 

 

「ヒェッ」

 

 

 

 ま、まぁ……思ってた以上に本気でなぐられそうなテンションですが……とりあえずこちらの意見を押し通すこと()()成功したようだ。

 

 あとはなんとか戦いを引き伸ばして、配信終了の二十三時まで服を死守すれば良いだけだ。

 いうて半荘戦一回で三十分くらいは掛かるだろうし……連戦連敗でもしない限りは、生き残ることは可能だろう。

 

 プライベートルームを建てて、ルールを設定して、タブレットで参加する霧衣(きりえ)ちゃんを招待して……あと二人の参加者を募る形になる。

 そうとも、この卓を囲む四人のうち二人は、いわばワンチームなのだ。おれと霧衣(きりえ)ちゃんとの結束の前には、たとえだれがこようともかてるわけがないのだ。がはは。

 

 

 というわけで、募集を開始。口頭でパスワードを発表す……る前から入って来るとかどんな執念よ!!

 ま、まぁ……気を取り直してもう一名の参加者を募り、これでいよいよ対局開始だ。

 

 

 さぁ、おれの視聴者さんへの恩返し……という名目の話題作り配信に、せいぜい協力していただこうではないか!

 わっはっは!!

 

 

 

 







ぜったいに視聴者さんに剥かれたりしないよ!

なぜなら『のわめでぃあ』は健全だからね!





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484【恒常配信】welcome to ようこそ

 

 

「…………ずびっ、……ぐすっ、」

 

「わ、わかめさまぁ……わぅぅ」

 

「だ、大丈夫! 大丈夫だからね霧衣(きりえ)ちゃん! わたしは絶対エッチ視聴者さんなんかに負けたりしない……!」

 

 

『かわいそう』『【¥4,545】うーんセンシティブ』『わかめちゃんかわいそう』『これはこれで』『これはセンシティブ』『だ、大丈夫?BANされない?』『策士策に溺れた形?』『【¥4,545】御馳走様です』『永久保存版』『スク水魔王のSM配信が収益化通るくらいやぞ?余裕余裕』『こうきたか~~』

 

 

 

 視聴者さんたちにも大好評でお送りしています、本日の『生わかめ』……変則脱衣麻雀の会。

 ここで突然だが、他ならぬおれ自身が定めたルールを、もう一度確認してみよう。

 

 

 

 ひとつ。大前提として、危ないところは見せない(健全なので)。

 ふたつ。脱衣判定は一局ごとではなく、半荘戦一戦ごとで『四位になったら一枚脱ぐ』形式。

 みっつ。一局につき視聴者さん二人をお招きしての対局。

 

 なお諸般の事情により作戦を急遽変更しまして、おれが霧衣(きりえ)ちゃんタブレット、霧衣(きりえ)ちゃんがPCをつかってのプレイとなる。

 まぁ諸般の事情っていうか、おれの手牌を内緒にするためだ。こちとらパンツが懸かっとんのやぞ。

 

 

 つまりまぁ、こんなルールでやろうとしていたわけですが……ここでひとつ、視聴者さんに突っ込まれたポイントがございまして。

 

 それすなわち『霧衣(きりえ)ちゃんが四位だった場合、霧衣(きりえ)ちゃんが脱ぐことになるのか』という一点である。

 

 

 

 

「だ……大丈夫……まだあわてるような時間じゃない……」

 

「わうぅぅぅぅぅ……」

 

 

 

 結論からいうと……霧衣(きりえ)ちゃんが四位になったケースでも、おれの着衣を一枚剥くことになった。

 

 まぁ当然だろう、おれにとって霧衣(きりえ)ちゃんはとても大切な子なので、おいそれとはずかしめるわけにはいかないのだ。この子を破廉恥な目に遭わせるくらいなら、おれがそのぶんの破廉恥を喜んで被ってみせる。

 この子に恥ずかしい思いをさせるわけにはいかないし……それに、後ですまなさそうに『しゅん』とする霧衣(きりえ)ちゃんがめっちゃかわいいので、実は役得だったりもするのだ。

 

 

 というわけで、特殊脱衣麻雀が始まって早くも一時間半ほど。

 本日のおれの衣装(ライフ)は(絶対防衛線(敗北ライン)を除けば)『ローブ』と『半袖シャツ』と『ホットパンツ』と『オーバーニーソックス』と『レザーブーツ』なわけなのですが……えーっとですね、不思議なこともあるもんですね。

 

 おれの現在の格好、なんと『半袖シャツ』に『ホットパンツ』なんですよね。

 えぇ……既に三枚剥かれてるんですよ。不思議ですね。

 

 

 

「いや……まさか…………いや、やめとこう。なんでもないよ霧衣(きりえ)ちゃん。大丈夫」

 

「わかめさまぁあぁ……」

 

 

 

 ええっと……先ほどからですね、霧衣(きりえ)ちゃんがこんなにも泣きそうになっちゃってる理由なんですけどね。本日のハイライトともに振り返ってみましょうか。

 

 最初に言っておきますけど、おれに彼女を責めるつもりはこれっぽっちもないんです。ないんですけど……えっとですね、トんじゃったんですよ。霧衣(きりえ)ちゃん。まさかの初戦で。

 

 

 いや、でもあれは相手が悪かった。後になっておれの超人的な動体視力と認識力でコメントを拾ったところ、なんでも日本麻雀協会屈指の実力者……つまりはプロの職業雀士がまぎれこんでいたらしい。……うそでしょなんでプロが出てくんのよ。

 ともかく。霧衣(きりえ)ちゃんがなにげなく捨てた牌にピシャァンと雷が落ちてしまって、しかもそれはどうやら大きな三つの元になる強烈な一撃だったこともあり……かわいそうに霧衣(きりえ)ちゃんはライフを削りきられて泣いちゃった。ひどいぞ雀士先生。

 

 これにはコメント欄の皆さんも、そしてひどいことしたプロ雀士先生も思うところがあったのか……おれも含めみんなで霧衣(きりえ)ちゃんをいいこいいこしてあげて、おれもあたまをなでなでしてあげたりして、なんとか復活を果たした……その次の試合。

 

 

 はい。泣く子も笑う『のわめでぃあ』局長の、かしこい叡知のウィズダムエルフ木乃若芽(きのわかめ)ちゃんはですね。

 特筆すべきこともなく普通に最下位になりましてですね。

 霧衣(きりえ)ちゃんはなにも悪いことしてない状況でですね、普通にわかめちゃんがドベりましてですね。

 

 

 こればっかりは仕方ないなと、おれは『ローブ』に続いて『レザーブーツ』を脱ぎましてですね。

 ちなみにその脱ぐときの様子なんですが、何故かこれまた盛り上がりましてですね。

 

 

 

 こうして迎えた第三回戦。

 若芽ちゃんは局長の面目躍如(びぎなあずらっく)とばかりに堂々の一位を獲得しましてですね、そして『オーバーニーソックス』を脱ぐことになりました。

 

 よりにもよって南四局……おれが白いの三枚組を含む暗刻三セットにドラまさかの六枚をオマケした強力な一手をですね、よりにもよって霧衣(きりえ)ちゃんの捨て牌で上がってしまいましてですね。

 ワンチームであるはずの霧衣(きりえ)ちゃんに、一六〇〇〇点のDVビンタをぶちかましてしまいましてですね。

 

 

 これはさすがに『弁護の余地無し』と……再びカメラの前でストリップショー(※靴下のみ)する羽目になりましてですね。

 いやこれは正直自業自得だと思うので、霧衣(きりえ)ちゃんが気に病む必要は無いんです。ないんですけど……やさしい子だからね、この子はね。

 

 

 

 

「さて……というわけで、まさか早々に……というか、たった三回戦で追い込まれるとは思いませんでしたが……そんなわけでお送りしました変則脱衣麻雀、楽しんでいただけましたでしょうか! ではまた次の配信でお会いしましょうヴィーヤ(ばいばい)!!!」

 

「ふぇぇ!? わっ、わぅぅっ!?」

 

 

『阻止』『【¥10,000】に が さ ん』『ゆるされんぞ』『まだ2枚残ってますよね?』『さすがに無理があるかと!!』『早口ヴィーヤわらうwwww』『【¥4,545】いかないで』『いっちゃだめ』『ぱんつまだみせてないじゃん』『【¥10,000】パンツが拝めるかどうかの瀬戸際なんだ、やってみる価値はありますぜ!』『【¥4,545】ここまで来て逃がすかよォ!』『刀郷くんおるやんけ』『【¥1,000】あと一枚で人々の夢が叶うんだ!』『トーゴーおるやんけ』『トーゴー割と最低で草』『全校集会』『にげられないぞ』

 

 

(撤退は許可できない。繰り返す、撤退は許可できない)

 

(わかってるけどそれラニちゃん自分の欲望入ってないよね?)

 

(さて、じゃあ……あと一枚剥かれるまで耐久でもする?)

 

(ラニちゃん?)

 

(ノワがエッチな脱ぎ方してくれたおかげで同接すごいことになってるよ)

 

(ねぇラニちゃん?)

 

(やっぱ美味しそうなエサが目の前だとね、盛り上がるよね)

 

(おいえっち妖精)

 

 

 

 いやまぁ、さすがにおれも逃げられるとは思ってませんが!

 

 たとえ最初から続けるつもりだったとしても、こうして『視聴者さんの熱意に負けた』てきなアピールをすることで、わかめちゃんのやさしさを世に知らしめることができるわけだな。

 

 

 

「…………そんなに、ですか? そんなに、この年端もいかないエルフの少女を……剥きたいんですか? あられもない姿を見たいんですか、視聴者さん。…………変態さんですか? エッチなひとなんですか? ……わたし以外に、あんまり言わない方がいいですよ?」

 

 

『やさしい』『ママーー!!』『わかめちゃんならいいの!?!?』『ヴッッ!!』『ほめられた』『【¥45,454】ありがとう』『ママやさしい』『【¥10,000】最高のご褒美です!!』『チョロい』『やさしい……』『驚きのチョロさ』『土下座して頼んだらパンツくれるんじゃねぇか』『さすがに心配になるチョロさ』『わかめちゃんになら言っていいのか』『ありがとうのわめでぃあ』『今の変態さんのとこ誰か切り抜き頼む』

 

 

 

 ……まぁ、その副作用として『チョロい』とかいう評価にも繋がっちゃうのだろうけど……愛されキャラとして受け入れてもらえるのなら、悪い気はしない。

 

 そもそも最初に言った通り(まぁ実際に言ってはいないんだけど)、今回の配信は『お礼』の意も含んでいるのだ。

 視聴者さんたちに喜んでもらえるのなら……こちらとしても、願ったり叶ったりなのだよ。

 

 

 そう、なぜなら今日のおれには……とびっきりの秘策があるのだから!

 

 

 



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485【恒常配信】underground……

 

 

 配信開始からこちら、他責自責含む様々な事故により……現在のおれの衣装(ライフ)は『半袖シャツ』と『ホットパンツ』を残すのみだ。

 当然その下は、いわゆる最終防衛ラインなので……常識的に考えれば、これ以上の脱衣は認められない。

 

 ユースク(YouScreen)さんがいかに慈悲深い配信サービスだとしても、上半身裸だったりパンツ丸出しだったりな配信者なんて、さすがに追放(BAN)される危険が危ない。

 やらかし手が男のひとなら、もしかすると慈悲してもらえるかもしれないけど……身体が女の子だったらえっちなので、間違いなくアウト。おれはおとこなのに。げせぬ。

 しかしとはいえ、ここまで大切に育てた『のわめでぃあ』だ。さすがに危ない橋は渡れないし……ユースク(YouScreen)さんに迷惑は掛けたくない。

 

 

 ……などといった危機的状況であるにもかかわらず、どこか余裕さえ窺わせる立ち振舞いの若芽ちゃん。

 自分の立場を理解(わか)ってないのではないかと思わせるようなその余裕の正体、そして待ち受ける更なる強敵とは……ここから先は、キミ自身の手で確かめろ!

 

 

 

「はい勝ち~~~~!!(なぜなら三位は四位ではないため)」

 

「や……やりました! わかめさまっ! 霧衣(きりえ)めが一番にございまする!」

 

「えらいぞ霧衣(きりえ)ちゃん! 後で何でも言うこと聞いてあげる!」

 

「……!! わ、わぅぅぅぅ!!」

 

 

『ん?』『ん?』『エッッッ!!』『いま』『ん????』『キマシタワアアアア!!!』『ん?』『こっわ』『お前らじゃねえ座ってろw』『ん?』『あーっ!あーーっ!!えっちです!!』『#もっとイチャつけのわめでぃあ』『末永くなかよししろ』

 

 

 

 つまりは、おれか霧衣(きりえ)ちゃんが四位にさえならなければ良いのであって。

 このように三位を取ったとしても、それは当然『かち』といえるのであって。

 

 せっかくの脱衣チャンスを棒に振る形となった挑戦者二名が、視聴者さんから盛大にブーイングを受ける中……おれは素晴らしい活躍を見せた霧衣(きりえ)ちゃんとイチャつきながら、視聴者さんからの挑戦を募る。

 

 

 既に時刻は二十三時を回っており、どうやらいつもの定例配信の枠に収めるのは不可能そうなのだが……べつに『二時間』という線引きをしたのもおれなわけで、そこんとこを延長するぶんにはべつに問題ない。

 

 

 それに……ここまで盛り上がってくれているのだ。

 ここで水を差すような、それこそみんなが『興醒め』するような悪手は打ちたくない。

 

 

 

「しょぉぉぉがないですねぇー! そんなにわたしを剥きたいんですか視聴者さんは! でもいいんですかぁー? そんなんじゃいつまで経っても剥けませんよぉー? 朝になっちゃいますよぉー?」

 

「ぐぬぬぬ……会場のみんなぁー! このままだとノワが調子に乗ったまま終わっちゃうよぉー! 会場のみんなで麻雀戦士を応援して、(えろ)いノワをこらしめてあげるんだ!」

 

「おいこら(なん)つったエッチ妖精」

 

 

『うおおおおお!!』『がーんばれ!がーんばれ!』『プロ先生を……プロ先生の奇跡を再び』『もうゆるさねぇぞ……(イラッ』『がーんばれ!!がーんばれッ!!』『ラニちゃんひでぇwwww』『ゆるせねぇよなぁ!!』『ちょっと本気出す』『任せろ絶対ぇ泣かす』『まず部屋入れねぇんだよな』『麻雀に自信ニキ以外自重』『ここまで来て終われるかよォ!!』『ラニちゃんがコッチがわなの笑う』

 

 

「じゃあ……しょうがないですね。正直わたしも徹夜麻雀はちょっと厳しいので……次でラストにしましょう。……その代わり」

 

 

 最終戦の宣言を受けて、盛り上がりを見せると共に慟哭が散見されるコメント欄。

 ストレートな欲求と好意が大いに見てとれて……たまにちょっと『濃い』ひとはいるけど、おれは総じて嫌いじゃない。

 

 どうせ終わらせるなら……みんな満足してくれた上で、気持ちよく終わらせたい。

 

 

 ……よって、そんな彼らの期待に報いるため。

 更なる盛り上がりを期待するがため。

 

 

 

 

「その代わり、ラスト負けたら…………()()、いきます」

 

 

 

 おれは、特大のエサを取り付け……全力で竿を投げる。

 

 

 

 

『言ったァァ!!!』『プロ先生を!』『いいなお前ら空気読めよ!?自信ニキに任せろよ!?』『【¥11,082】祝・わかめちゃんぱんつ解禁』『これはワンチャンあるのでは』『二枚ってことは!!二枚ってことは!!』『いいの!?』『やべーぞ全裸エルフのパンツだってよ』『ちょっと拡散してくるわ』『すごい!タダでえっちみせてくれるの!?』『【¥4,545】』『ありがとうのわめでぃあ』

 

 

「ま、まだわたしが負けるって決まったわけじゃないですが!! アッ、それはそうとしてすぱちゃありがとうございます。仮にわたしが脱がなかったとしても大切に使わせていただきます。たぶん脱ぎませんけど」

 

「えー脱ごうよノワ、みんなよろこんでくれるよ?」

 

「何もなく脱ぐわけないでしょおばか! えっち! へんたい!」

 

「ありがとうございます!!!」

 

 

 

 ラニの盛り上げ(?)と視聴者さんたちの必死の牽制により、どうやら最終局の対局相手が決まったようだ。

 おれがメンバー募集を開始したと同時に入ってきたお二人は、ご両名ともなんか強そうな称号をつけている。たぶんだけど歴戦の証のようなものだと思うので……これはひょっとすると()()()()()()かもしれないな。

 

 ある程度予想していたこととはいえ、やっぱ自分(わかめちゃん)の柔肌が餌だと反響がすごいな……視聴者さんたちもさすがの食い付きだ。嬉しいんだけどなんか複雑。

 

 

 いや、うれしいんですが!

 

 

 



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486【恒常配信】来週もまた見て下さい

 

 

 おれは男だった頃から――まぁ今でもココロはおとこですが――ずーっと気にはなっていたんだ。

 

 女の子が海とかプールとかで泳ぐときに着る、ようするに『水着』。

 男性用の、ゆったりとしたハーフパンツ状の水着なんかとは異なり……特にセパレートタイプの、それこそ『ビキニ』とか呼ばれるタイプの刺激的きわまりないあの格好は、もうぶっちゃけほぼ『下着』なんじゃないのかと。

 

 そのほぼ下着姿にも等しい格好で、多くの人々でごった返す場に出るなんて……女の子はなんてココロが強いのだろうと。

 もしおれが女の子だったら、下着のような格好を衆目の目に晒すことに対し、抵抗を感じないものなのだろうか……と。

 

 

 

 ……まぁ、冷静に考えてですね。

 恥ずかしいに決まってるじゃないかと。

 

 

 

『ありがとう』『【¥10,000】』『ありがとう雀神』『ありがとう』『あーーっあーーーっえっちです』『大丈夫なのこれwwwww』『【¥11,081】ありがとうのわめでぃあ』『うーーーんwwwこれは健全wwwww』『のわめでぃあってえっちなんだぁ!』『スク水ロリ魔王だって四つん這い配信してましたし……』『ありがとうのわめでぃあ』『えっちです><』『【¥4,545】懲りないなぁわかめちゃんは』『【¥1,000】のわめでぃあえっち記念』『これはこれで』

 

 

「ふぐゥゥゥゥゥゥゥ……!!」

 

 

 

 この状況に至るまでにおれの脳内で試行されていた演算式は、以下の通りである。

 

 まず、女の子は下着のような格好の水着で水遊びに行ける。

 ↓

 下着(パンツ)じゃないなら、つまり水着であるならば恥ずかしくない。

 ↓

 ならばセパレートタイプよりも布面積の多い水着であれば、もっと恥ずかしくない。

 ↓

 よって……スク水だけ着ていても、べつに恥ずかしくない。証明完了。(Q.E.D.)

 

 

 

 ところがどうだ。

 この……ぴっちりと肌に張り付く、伸縮性に富んだ濃紺色の布地は。

 

 胸まわりや腰まわり、おしりやおまたのあたりまでをぴっちりと覆い……まるで何も身に纏っていないかのような錯覚さえ感じさせる、この頼りなさは。

 

 

 誰ですか、下着(パンツ)じゃなければ恥ずかしくないとか言いやがったやつは。おしおきしてやる。

 ええ、ええ…………クッッッソ恥ずかしいのでございますが!!

 

 

 

「ま、まんぞく……しましたかっ! 視聴者のみなさんは、これで、まんぞくなんですかッッ!!」

 

「はわわわわわわうわうわう」

 

 

 ぶっちゃけ恥ずかしい。めっちゃ恥ずかしい。穴があったら入りたいし、上着があったら羽織りたいくらい恥ずかしい。……何言ってるか自分でもよくわかんなくなってきたぞ。

 

 まぁ……だが、そのおかげで。おれが一人自爆して、恥ずかしい思いをしたおかげで。

 いつもよりも、多分に『省エネ』感の散見される『生わかめ』であっても……視聴者の皆さんに満足していただくことができたのだ。

 

 

 元々われわれ『のわめでぃあ』構成員は、今週いっぱい(というか今日まで)執り行われていた『にじキャラ実在仮想(アンリアル)林間学校』の運営に携わっていたため『お疲れモード』だったわけで。

 特に幼年組の(なつめ)ちゃん朽羅(くちら)ちゃんはそれが顕著だったため、局長ストップを掛けておやすみさせているわけで。

 

 じゃあ止めればよかったじゃんとも言われそうだが、それこそ『にじキャラ』さん(と視聴者さん)のお陰でチャンネル登録者数がググーンと伸びたこともあり、つまりはここが大事な正念場でもあったわけで。

 

 

 そんなこんなで『あまり疲れない内容で』『それでいて満足してもらえる』配信とは何があるかと考えた結果……前々から根気強くアピールされていた視聴者さんのご要望を、限定的とはいえ叶えて差し上げようかと思った次第でございまして。

 なおスク水はラニちゃんがいつの間にか用意してくれてました。通販サイトのロゴ入り段ボールに入ってました。サイズはピッタリでした。ラニちゃんちょっとあとで()()()()しようね。

 

 

「……ではッ! 皆さんの目標も達成できたことですしッ! 九月二十五日『生わかめ』、そろそろおわかれの時間が近づいて参りましたッ!!」

 

「わ、わわうわうわう」

 

 

『半ギレwwwww』『いかないで』『わかめちゃんがおキレにwww』『おまたえっち』『そんな格好でスゴまれても……』『格好がえっち』『【¥10,000】いかないで』『ありがとうのわめでぃあ』『【¥10,000】けしからんチャンネルですね?フォローします』『ゆっくり休んで』『いかないで、もうすこしでいけそう』『【¥1,919】あと600分だけまって』『どうしたのわかめちゃんご機嫌ななめじゃん』『せやな……マジで休んでもろて』

 

 

 

 時間的にも良い頃合いだろう。むしろいつもより結構足が出てしまっている。

 まぁもっとも……こうしてすぐにクロージングできることも織り込んだ上で、自爆することを決めたわけなのだが。

 

 『にじキャラ』さんのイベントは終わったが、もちろんわれわれ『のわめでぃあ』の活動は終わるわけがない。

 これまで付いて来てくれた視聴者さんを、そして今回新しく注目してくれた視聴者さんを楽しませるために――生きる活力と楽しみを与え続けるために――精力的に活動していかなければならないのだ。

 

 ……まぁ、なんだかんだいって楽しいからね。苦じゃないし。

 

 

 

「今日はちょっと、だれかさんが粘ったおかげで夜遅くになっちゃいましたが……今後の『のわめでぃあ』活動方針としましてですね、前回ご好評いただきました『せっかくとりっぷ』のですね、第二弾を計画中でして。その行き先抽選をですね、近々また行いますので。……いや、本当思った以上に麻雀で時間飛んでっちゃったので……」

 

「わ、わうっ! みなさまの、ご期待に沿う行き先がえらべるよう、霧衣(きりえ)めも気合いをいれて参りますゆえ!」

 

「はいっ! やっぱりウチの霧衣(きりえ)ちゃんはとてもかわいい! ……なので、また後日つぶやいたーで告知させていただきますが……恐らく来週の『生わかめ』にて、かわいい霧衣(きりえ)ちゃんのカッコいい見せ場を披露させていただく形になるかと思いますので」

 

「おまかせくださいませ、っ!」

 

「ヴッ!! …………というわけで、また来週もこの時間、よる九時からお待ちしております! それでは……『NOWA(えぬおーだぶるえー)IT(あいてぃー)NOWA(えぬおーだぶるえー)IT(あいてぃー)、こちらはインターネット放送局『のわめでぃあ』です。以上で今回の放送を終了いたします』。……それではまた! ヴィーャ(ばいばい)!」

 

「に、にーゃぁっ!」

 

「ア゛ッ!!」

 

 

 

 



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487【驚天動地】神様のいない月






はじめましょう







 

 

 激動のイベントを乗り切って、九月最後となる定例生配信を乗り切って……こまごまとした撮影やお返しボイスの録音・送信や、SNS(つぶやいたー)を用いての宣伝やコミュニケーションを順調にこなしていき。

 

 次なる『せっかくとりっぷ』の行き先抽選、それを行う『生わかめ』をすぐ間近に控えた……九月三十日の、深夜。

 

 

 

 九月(長月)から十月(神無月)へと暦が変わった……まさにそのタイミングで。

 

 

 

「………!!?」「っとおビックリしたぁ!」

 

 

 今まさに『おやすみ』しようとしていたおれたちを、突如けたたましい着信音が叩き起こす。

 警戒心を掻き立てるこの発信音は、『対策室』からの緊急コールにほかならない。

 

 

 

「お疲れ様です。()()ですか?」

 

『夜分恐れ入ります! 東京都渋谷区合歓木(ねむのき)神前町……合歓木(ねむのき)公園! 囘珠宮(まわたまのみや)です!』

 

「っ!!? すぐ向かいます!!」

 

『こちらも機動隊を向かわせます! お気をつけ下さい! ()()()()()()()()()!!』

 

我が意を繋げ(メィペネティス)! 【繋門(フラグスディル)】!」

 

 

 

 ここしばらく大人しくしてくれていたと思ったら……月が変わった途端に()()だ。フツノさまたちが懸念してたことがズバリ的中してしまったわけだな。

 

 普段は『大神』鼎恵(かなえ)百霊(もたま)世廻(よぐりの)(みこと)の加護によって護られていたはずの囘珠宮(まわたまのみや)に、異常ともいえる特定害獣反応。

 神様たちが出雲へと呼び付けられた隙を突いた……イヤらしい、それでいて効果的な奇襲。

 

 

「フツノさまも嘆いてたのにね。『適当抜かす法螺吹きのせいで出雲の爺共が調子づいた』って」

 

「コレ終わったら是非とも改革して貰うとして……行ってくる。あの子らをお願い」

 

「おっけー。……気は進まないけど『なるはや』で起こして追いかけるよ」

 

「頼んだぜ相棒」

 

「任せろ相棒」

 

 

 口では言葉を交わしながらも、相棒から貸与された装備をてきぱきと身に付けていく。

 いつぞやの写真撮影で大活躍した『エルフの弓使い』のときの、頭の先から爪先までの完全装備には何歩か劣るが……それでも『影飛鼬(シャルフプータ)脚衣(タイツ)』に胸当てつきチュニックと外套を羽織り、『聖命樹の(リグナムバイタ)霊象弓(ショートボウ)』と『銀檀の(サンタルム)片手短杖(フォロウロッド)』で武装したこの姿は、ただの特定害獣であれば後れを取ることはないはずだ。

 

 万全を期すための後方支援要員――ひと足早く『おやすみ』してしまった良い子ちゃん三人――のことを相棒(ラニ)に任せ、おれはひと足早く【門】に飛び込んで現場へと急行する。

 

 

 果たして、()()()()()()()が示された都心の緑地公園にして【神域】囘珠宮(まわたまのみや)は……余所者でもすぐに解るほどの厳戒体制、誰も彼もが切羽詰まった表情でばたばたと行き交っていた。

 やはりこんな時間まで詰めているということは一般の職員さんでは無いらしく、狩衣姿で弓を持った『神使』とおぼしき姿のひとがそこかしこに見られ……って!

 

 

「ちょ……あ、あのっ!? 【隔世(カクリヨ)】は!?」

 

「は、はいっ! いま現在も奏上中に御座いますが、一体どういうことか一向に術を結ぶ気配が見られず……」

 

「ッ……!? ありがとうございます!」

 

 

 おれの【探知】魔法は、もう()()()()といえる距離に複数の特定害獣反応を捉えている。

 にもかかわらず、この合歓木公園近辺にはいまだ【隔世(カクリヨ)】の結界が張られていない。

 

 それは、つまり……あの『特定害獣』の駆除作業を、一般の方々が目にしてしまうということで。

 

 

 

 

 

「……だからって! 静観する訳にぁ行かないんだよね!!」

 

≪―――縺ェ繧薙d縺雁燕!!!!!!≫

 

≪―――繧?k豌励°縺雁燕!!!!!!!≫

 

「どうかお静かにお願いします! もう真夜中ですの……でッ!」

 

≪―――縺舌o繝シ繝シ!!!!!!≫

 

≪―――縺ャ繧上?繝シ!!!!!!≫

 

 

 自身の纏う【隠蔽】効果つき外套のフードを目深に被り、念のために自前でも【隠蔽】の魔法を纏った上で……手近なところから、手当たり次第に『特定害獣』の駆除を開始する。

 一体や二体どころじゃない数が湧き出ているので、とりあえず数を減らさないことには話にならない。神使の方々や金鶏(きんけい)さんもあちこちで応戦しているらしいが……要であるモタマさまが不在なこともあってか、その処理速度はお世辞にも早いとは言いがたい。

 

 

「ふ、ッ!!」

 

≪―――縺ャ繧上?繝シ!!!!?!?≫

 

 

 おそらくは、現在進行形で何者かが【隔世(カクリヨ)】の術を妨害している。

 とりあえずは目につく限りの敵を倒し続けて、可能であればその妨害している張本人を排除する。

 

 そうすれば……とりあえずは、沈静化に向かうはずだ。そう信じたい。

 

 

 

(ノワ! みんな連れてきたよ!)

 

(!! わかった! ごめんラニ、霧衣(きりえ)ちゃんに【霧】お願いして! おれも合流する!)

 

(えっ? …………ッ!!? 了解!)

 

 

 行きがけの駄賃とばかりに『獣』を射殺し、おれは【門】の出現地点である倉庫へと急ぐ。

 するとおれにとっては非常に馴染み深い、温かく心地よい魔力(神力)の波とすれ違い……やがて合歓木(ねむのき)公園内の地面や樹木や池の水面そこかしこから、ゆらゆらと『霧』が立ち昇り始める。

 

 

 一般の人々が住まう世界からほんのちょっと異相をずらした異界に『異物』を引き込み、遭遇を回避する【隔世(カクリヨ)】の術ではなく。

 術者にとって馴染み深い『水気』を媒介とし、触れた者に一種の暗示を掛ける術。

 

 魔力抵抗を持たない一般の人々に対して『人払い』を掛けるくらいなら……ちょっとした『時間稼ぎ』程度なら可能だろう。

 

 

 なので、その間に……()()()をどうにかしなきゃならない。

 

 

 

 

「…………………………、………………。」

 

『感動の再会だってのに……ツレないねぇ? ツクシちゃん』

 

(やっぱり……出てくるよなぁ)

 

(多分だけど……この子のせいだね。このマワタマ神域の……()()()()()()()魔力の残滓が口元に)

 

(どんだけ規格外なのよ……)

 

 

 

 おれたちの合流を阻むように姿を見せた、この場には到底似つかわしくない小柄な姿は……残念ながらほぼ間違いなく、この襲撃を引き起こした張本人。

 この囘珠宮(まわたまのみや)合歓木(ねむのき)公園の結界をズタズタに食い荒らし、【隔世(カクリヨ)】展開のための魔力を奪い尽くしている、悪食の異能者。

 

 『勇者』の装いに身を包んだラニに、爛々と『敵意』に満ちた視線を向ける……【食欲(アペティタス)】を冠する魔王の使徒だった。

 

 

 



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488【驚天動地】都心緑地公園戦線

 

 

 魔王メイルス配下、【食欲(アペティタス)】の使徒。

 その権能は単純にして強力無比、とにもかくにも『喰らうこと』に特化している。

 

 彼女が『喰える』と認識したものであれば、食材や生物はもちろん鉄骨やコンクリートだろうと……そして『魔法』や『術』、そして『魔力』だろうと喰らってしまう。

 

 

 またどうやら、その権能の起点となるのは彼女の『口』だけではなく……自分の身体から離れた任意の地点に、いきなり『口』を開けることも出来るようで。

 いきなり闇色の魔力が滲み出て来たと思ったら『口』が出てくんだもんな。怖いわ。

 

 

 

(……なるほどね? ボクの【繋門(フラグスディル)】も傍目にはこう見えてたわけか。これはイヤらしい)

 

(やり難いったら無いね。遠距離攻撃がまるで用を為さないし……ッ!!?)

 

(…………距離を詰めたら詰めたで、いつどこに『口』が出てくるか、わかったもんじゃない。一応【防壁(グランツァ)】を喰わせて()()()()は出来るけど)

 

(じっとしてたら【防壁(グランツァ)】ごと齧り取られるよね、これ)

 

 

 

 悠然とその姿を晒したまま、ゆっくりと歩を進めてくる【食欲(アペティタス)】の使徒。

 その歩みを止めようにも……防御貫通の『口』がそこかしこに現れるというのなら、危険すぎてどうにも攻めあぐねてしまう。

 

 彼女を無力化するためには……あの『口』では喰らいきれないような規模での魔法をぶつけるか。

 あるいは……どうにか『口』を掻い潜って接近し、【昏睡】の類いの魔法を叩き込むか。

 

 

 もしくは……彼女を殺す気で仕掛けるか。

 

 

 

 

「……、…………ッ!! ………!!」

 

『ちょ、待っ!? ……っとォ!?』

 

 

 一歩一歩と着実に歩を進め、小さな身体に強大な脅威を秘めた少女がじりじりと迫ってくる。

 夥しい数の『口』を周囲に展開されてしまっては、こちらも迂闊に手を出すことができない。飛び道具は呑み込まれ、かといって近づけば削り取られるという……即死性のトラップをそこかしこに仕掛けられたようなものだ。

 

 しかも厄介なことに……そんな彼女の現在の標的は、認識阻害の【霧】の術を行使している霧衣(きりえ)ちゃんのようで。

 どうやら『魔王』と愉快な仲間たちは……神様が不在となるこの十月(神無月)中に、この世界の『神秘』を衆目に晒してしまおうと……取り返しのつかないところまでバラしてしまおうという算段らしい。

 

 

 そのために……この大規模な魔物の侵攻を、都心の合歓木(ねむのき)公園で繰り広げてくれたのだろう。

 まったく、やってくれる。

 

 

 

≪―――辟シ縺肴鴛縺!!!!!≫

 

≪―――阮吶″謇輔≧!!!!!!≫

 

(っ!? やっぱ『龍』出てくるよなぁ!!)

 

(マズいね……! キリちゃんの術は認識撹乱……物的被害は防げない!)

 

 

 現在、かろうじて『神秘』を守り通してくれているのは……霧衣(きりえ)ちゃんの【霧】の術のみである。

 

 この囘珠(まわたま)神域からではなく、おれの魂から魔力(神力)の供給を受けている(なつめ)ちゃんであれば、あるいは【隔世(カクリヨ)】結界を展開できるのでは……とも考えたのだが、現実はそう甘くはなかった。

 どうやら【隔世(カクリヨ)】を紡がんと、結界の発動基点を指定したその時点で、【食欲】の『口』によって齧り取られるらしい。

 

 結界が開かれようとして……しかしその直後術式が無惨にも食い荒らされる様を、この僅かな間に何度か目にしてきた。

 対【隔世(カクリヨ)】に特化した、彼女ならではの対策手法……『どういう魔力反応が生じたら食い荒らせば良いのか』ということを、恐らく彼女は学習してしまっているのだろう。

 

 

 

「……!! …………、……!!」

 

『ッッ! まぁまぁまぁまぁ、ちょっと落ち着きたまえよツクシちゃん! 仲良くしようじゃないか。何をそんなに怒ってるんだい!?』

 

「…………、ッッ! ……っ! ……!!」

 

 

 対策を講じられ【隔世(カクリヨ)】結界の展開が不可能な以上、霧衣(きりえ)ちゃんの術を解くわけにはいかない。

 そのためには彼女をこの囘珠宮(まわたまのみや)に留め置く必要があり……それはつまり、今まさに彼女を排除せんと向かってくる【食欲の使徒】に狙われるということであり。

 

 霧衣(きりえ)ちゃんたちが立て籠っている倉庫を守るため、じりじり侵攻を続ける【使徒】を足止めしなければならないんだけど……かといってあの『龍』を――しかも複数を――このまま野放しにするわけにもいかない。

 当然、金鶏(キンケイ)さんたち神使も迎撃に出ているわけなんだけれど……主であるモタマさまが神域から離れてしまっているせいか、どうにも本調子では無いみたいなのだ。

 

 

 

 だから……仕方ない。

 この場は()()()()のが最善手だ。

 

 

 

「…………【『創造録(ゲネシス)』・解錠(アンロック)】」

 

 

 足踏みをすればするほど、事態は刻一刻と悪化するばかりだ。

 未だ合歓木(ねむのき)公園内で暴れまわる魔物どもを蹴散らしながら、同時進行で敵の指揮官を足止め・無力化……あるいは、討ち取るためには。

 

 

 単純に、こちらの頭数を増やすのが、いちばん手っ取り早い。

 

 

 

「【召喚式(コード)・『飛耳長目の斥候(ヴァリアント)』】! ……この場は任せます、二人とも」

 

『オッケー。そっちは頼んだよ、ノワ』

 

「なる(はや)で戻ってこいよ? 魔法使い(わたし)

 

 

 

 突如として開かれる『口』は確かに脅威だが、何らかの魔法を代わりに突っ込めば無力化させることは可能だ。

 そのへんの器用さを優先し、単純な防御力に秀でた『堅牢強固たる騎士(インヴィンシブル)』ではなく()()()を選択。前衛はラニに任せて、厄介な『口』の無力化に専念させる。

 

 

 そうして……【使徒】の無力化作戦に、万全の体制で当たらせる一方で。

 

 魔法使い(おれ)が全力で、この都心に湧いた魔物を駆逐する。

 

 

 

 それで、この場はなんとか凌ぎきれる。

 

 ……そう思っていた。

 

 

 



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489【驚天動地】食欲の使徒攻略作戦

 

 

 長射程・防御無視・攻防一体の『口』だが……おれたちが分析した限り、幾らかの制約があるようだった。

 そうでなきゃ困っちゃう。

 

 

 まず第一に……おれたちの『眼』で見た限りでは、『口』出現の予兆を感知してから出現までに()()のタイムラグが存在するということ。

 わずか一秒程度の隙ではあるが……その『口』の予兆に投射攻撃を叩き込んで出現を潰すことなど、技量特化ジョブである今のおれにとっては造作もない。

 そのための『飛耳長目の斥候(ヴァリアント)』だ。

 

 そして第二に、その『口』自体は高度な思考パターンを持ち合わせているわけでは無いということ。

 何かしらの刺激を受けたら、すぐさま『齧り取る』魔法を発現させる。それが基本的なルーチンであり、つまりは狙った獲物じゃ無かったとしても『口』に突っ込まれれば反射的に噛みついてしまうわけだな。

 つまりは……おれたちの身体の代わりに、何かしらの魔法ないし攻撃を突っ込めば――まぁ、その攻撃は『捕食』され吸収されるだろうけど――『口』による攻撃を無力化することが出来るはずなのだ。

 

 

 

 

(とは言ってもラニ! ぶっちゃけ勝ち筋は!?)

 

(無力化して、直接【昏睡】を叩き込む! あとはマワタマさんの監禁結界を頼るしかないかなって!)

 

(……オッケー。じゃあまずは危険な『口』を減らさないと。これが本当の『口減らし』ってね)

 

(そういうことだね。……あちらさんの疲弊待ち、長丁場になる。頼んだよ、ノワ)

 

(……………………ウン)

 

(こちら魔法使い(おれ)。我が半身ながらドン引きだわ。言っとくけど駄々滑りしてっからね)

 

(やかましい! そんなん斥候(おれ)が一番わかっとるわ!)

 

 

 ともあれ、進むべき方向は決まった。

 魔法使い(おれ)からバトンタッチして譲り受けた『聖命樹の(リグナムバイタ)霊象弓(ショートボウ)』で、そこかしこに開こうとする『口』を片っ端から潰していき、その隙に前衛である勇者ラニが【食欲の使徒】本体に肉薄し、【昏睡】の魔法を叩き込んで無力化する。

 

 勇者(ラニ)が動きやすいように敵を牽制することが、斥候(おれ)に求められる仕事となるわけだ。

 

 

 

『それじゃあ…………いくよッ!!』

 

「っ、【集中(コンゼンタル)】【鷹の目(ファルカルグ)】【猛者の型(テラインゴニア)】!」

 

「…………、…………? …………??」

 

 

 斥候(おれ)の正体が露見する可能性を避けるため、これまで極力声を発することなく相対してきたけれど……さすがにこれは気付かれてしまったかもしれない。

 おれ(わかめちゃん)の配信を楽しんでくれている(らしい)彼女に正体を晒すのは、正直非常に気乗りしないのだが……不馴れな自己強化魔法は無詠唱で発動することが出来ないのだ。

 

 ……手早く片を付けなければ。

 彼女が……彼女の『敵』の正体に気づき、絶望に呑まれる前に。

 

 

 接近し、制圧し……無力化する。

 

 

 

 

「…………っ!? ………!!」

 

(っ! 見えた、四つ……ッ!)

 

『ナイス相棒! これで近付け』

 

(!? ラニ駄目! 足下!!)

 

『ッ!? っとォォ!!?』

 

「!!! ……、…………っ、……っ!!」

 

 

 

 斥候(おれ)の掃射で開かれた間隙に飛び込んだラニの、その着地地点を狙い澄ましたかのように。

 

 これまで中空に数多(あまた)姿を現していたものとは、規模も危険度も桁違いな『大顎』が、突如地面から飛び出し獲物の足に喰らい付く。

 

 

 小出しの『口』を目眩ましに、狙い澄ました本命の『大顎』を人知れず設置し。

 いつぞやラニの鎧の右腕をもぎ取ったときのように、何の前触れもなく飛び出させ、捕食させる。

 

 

 

『いやー…………まいったね。甘く見過ぎてたかな』

 

「……………………。」

 

(ラニ……ごめん。……発見が遅れた)

 

(気にしないでノワ。……そもそも、ボクの見通しが全然甘かった)

 

(…………ぐ、ッ!!)

 

 

 

 物質化させた魔力の身体である【義肢(プロティーサ)】もろとも、全身鎧の片脚をまるまる喰い千切って見せた『大顎』は……おれたちの希望的観測を覆して余りある脅威だった。

 

 中身である【義肢(プロティーサ)】はすぐさま再構成できるし、欠損した脚部も別の鎧で補繕すれば、とりあえず作戦行動に支障は無い。戦闘続行は可能だという。

 だが……僅かな時間とて補繕の際は無防備になるだろうし、別の鎧(リペアパーツ)とて無尽蔵ではない。

 

 時間と魔力と資源の大幅なロスになるのは明らかだし、そう何度も齧られるわけにはいかない。

 

 

 

 ……いいだろう。あの子に『舐めプ』で完全勝利できるとは、もう思わない。

 甘っちょろい考えはこの際キッパリと諦め、おれたちが確実に勝つために……容赦なく、大人げなく、本気で当たらせてもらおうじゃないか。

 

 

 

「【戦闘技能封印解錠(アビリティアンロック)】【加速(アルケート)(フォルティオ)】……ごめんね。【乱れ撃ち(ヴォルベラテンペスタ)】!」

 

『ちょっ、』

 

 

 

 ……何のことはない。

 もともと高い敏捷性を誇る斥候(おれ)に、更に上位の【加速】バフを掛け、あの子に()()の被害が生じる前提で、夥しい数の魔法の矢を雨あられと叩き込もうという……ただそれだけのことだ。

 

 

 もちろん、おれだって好んで血を見るような真似をしたかったわけじゃない。あの子は(すてら)ちゃんの大切な妹分だし、そもそもが小さくて可愛らしい女の子だ。

 できることなら……おれたちはもちろん、あの子も無傷のまま『勝ち』を収めかった。

 

 だが……おれたちが『負ける』可能性が濃厚になってしまった、今となっては。

 物騒で、野蛮で、暴力的であろうとも……確実性の高い選択肢を取らざるを得ない。

 

 

 ()()の怪我であれば、おれの治癒魔法で跡形もなく治すことは出来るのだ。

 矢の一本や二本……腕や脚の一本や二本は、この際一旦は『仕方がない』と諦めてもらおう。

 

 あの子のまわりの『口』や『大顎』を一掃し、ラニが【昏睡】で無力化させたら……おれが責任をもって、ちゃんと完璧に治療して見せる。

 

 

 

「…………っ!? ……ッ!!!」

 

 

 

 速度に速度を重ねたおれの針山のような一斉射が、雪崩をうってあの子に襲い掛かる。

 

 空中に漂う『口』は当然、地面に待ち構える『大顎』に至るまで、それぞれに充分以上の矢を叩き込んで消滅させる。

 

 急所は意識して外しながらも、それでも腕や脚は容赦なく狙い……身を守ろうと開かれる『口』の許容量以上の飽和攻撃を仕掛け、畳み掛ける。

 

 

 

 

 いきなり速度と密度を増したおれの攻勢に、さすがに目を見開き『恐怖』の感情を覗かせる【食欲】の使徒。

 

 禍々しい異能を授かった愛らしい少女の、その顔を苦痛に歪ませんとする『矢の壁』が……今まさに彼女に襲い掛かろうかというところで。

 

 

 

 

「【拒絶せよ(シェルター)】【吹き散らせ(コンフューズ)】……【実行(エンター)】」

 

「…………!!!」

 

 

 

『…………まぁ……出てくるよね』

 

「………………そう、だね」

 

 

 

 

 魔王の従僕【食欲の使徒】を傷付けんとする悪意(おれたち)から、可愛い妹分を守るように。

 

 大気の壁と暴風の腕を従えた【愛欲の使徒】……確固たる強い意思を秘めた少女が、おれたちの前に立ちはだかる。

 

 

 

 



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490 あたしはあの子の『姉』だから

 

 

 あたしが【魔王】の庇護を受け、浪越駅前の高層マンションで暮らすようになって……何日か経ったある日。

 【魔王】が突然、どこからともなく連れてきた、小さくて大人しくて可愛らしい少女。

 

 その子こそがあたしの同僚にして、血の繋がらない――けれど血の(呪いで)繋がった元家族よりも大切な――可愛い妹……『水田辺(みなたべ)つくし』ちゃんだった。

 

 

 

 家に連れてこられたあの子は、そんなに酷い有り様じゃなかった……というより、普通にメチャクチャ可愛らしかった。

 

 けれど、あの子がそれまで……【魔王】によって救い出されるまでに生きてきた環境は――とはいっても、あたしは【魔王】やシズちゃんに聞いただけだけど――とても『酷い』なんてものじゃ、無かった。

 

 

 外に出ることが許されず、薄暗い部屋に閉じ込められ、満足な食事さえ与えられず。

 色濃い『絶望』を嗅ぎ取った【魔王】が彼女を見つけ、()()に行ったときは……虚ろな目のまま、血だらけの口で缶詰のフタを齧っていたらしい。

 

 

 

 そんな彼女が、【何でも食べれるようになりたい】【お腹いっぱい食べたい】なんていう願いを抱くのは……まぁ、当然のことだろう。

 

 あたしたちの家で暮らすようになり、【食欲】の異能を身に付けた彼女は、これまでの鬱憤を晴らすかのように喰いまくった。

 あたしが作ったごはんや、【魔王】が調達してきた食料だけでは飽きたらず。食材の包装だろうと、家庭ゴミだろうと、それどころか空地の土や建築資材だろうと、【あらゆるものを喰らい、消化し、糧とする】彼女にとっては餌でしかない。

 異能を授かるにあたり(味覚)を棄て、何もかもを【喰らう】顎を授かった彼女は……それはそれは幸せそうな笑みを浮かべながら、手当たり次第の無生物を『口』に運んでいった。

 

 ……まぁ、さすがに食材以外を食べるのは『めっ』ってしたけど。

 

 

 

 実の親に見放され、誰にも助けて貰えなかった彼女にとっては、この世界に対する愛着なんて無いに等しい。

 自分を助けて……ううん、『食べ尽くせない程の()()』を与えてくれた【魔王】に懐き、難しいことは考えず。世間知らずで良くも悪くも無垢な彼女は、非常に単純な感情のままに【魔王】に従い……【魔王】の計画に必要な魔力を溜め込み続けている。

 

 

 それがこの世界の崩壊に繋がるなんて、あの子はたぶん解っていない。

 ……いや、もし理解したとしても……この世界にも、ともすると自分自身にも未練が無いあの子は、【魔王】の命令(おねがい)を忠実に守り続けることだろう。

 

 

 

 

 

「…………そんなの……嫌だもの」

 

『…………ステラちゃん?』

 

 

 

 片足を喰われた『勇者サマ』と、その後ろに佇む『わかめちゃん』。

 あたしの()()にして恩人である二人が、様子を窺うような視線で(二人とも顔は見えないけど)あたしのことを注視してくる。

 

 ……まぁ、当然だろう。

 あの子らにとってみれば、あたしはせっかくのチャンスをフイにした、ただの邪魔モノに過ぎない。敵として映ってもおかしくはない。

 

 

 

 だけど……あたしにだって、やりたいことがあるのだ。

 

 捕虜の身の上だし、あんまり好き勝手出来ないのもわかってるけど……この()()()()だけは、譲れない。

 

 

 

 

 あたしの大切な、手の掛かる可愛い義妹(いもうと)を……【魔王】の企みから切り離すため。

 

 この瞬間を、このチャンスを、あたしはフイにするわけにはいかない。

 

 

 

「……つくしちゃん。落ち着いて聞いて」

 

「!!! …………、……!!」

 

「…………うん、ありがとう。……でもね」

 

 

 

 ここで彼女を言いくるめるだけじゃ、駄目だ。

 

 ただ彼女を溺愛し、可愛がるだけじゃ……駄目なのだ。

 

 

 あたしの義妹(いもうと)を助けるためには。

 あたしたちの魂の生殺与奪を握っている【魔王】から、可愛いこの子を庇うためには。

 【魔王】の計画のための『生贄』という運命から……『水田辺(みなたべ)つくし』を解き放つには。

 

 

 

「でもね。…………あたしは、もう……帰らないから。……『さよなら』言わないといけないの」

 

「…………、……? …………?」

 

「…………だから、ね……『さよなら』なの。…………あたしは……『勇者サマ』たちと、一緒に行く」

 

「    、  」

 

 

 

 たとえ……大好きな義妹(いもうと)に嫌われる結果になろうとも。

 もしこの後の対処を間違え、あたしが喰われることになろうとも。

 神サマたちや……『勇者サマ』たちに、ものすごく怒られることになろうとも。

 

 

 この『わがまま』を諦めるわけには、いかないのだ。

 

 

 

 

 

「………………………………っ、」

 

「……………うん」

 

「…………ゥ、……、ゥ、ァ…………ッッ!!」

 

「………………うん。…………ごめんね」

 

「ギ、…………ッッ!!!」

 

 

 

 可愛い義妹(いもうと)の瞳に、憎悪が宿る。

 

 大切なあの子の憎悪が、真っ直ぐあたしに向けられる。

 

 

 

 まだ小さく、幼く、情緒も育ちきっていないあの子は。

 荒れ狂う感情のままに、当然とばかりに()()を握り締める。

 

 

 

 魔力を吸って爆発的に生育し、負の感情を暴走させ、やがては宿主をバケモノへと変貌させる……あの【魔王】からの贈り物。

 

 その名も……『(コント)(ラクト)(・スプ)(ラウト)』。

 彼女が今まさに齧り付いたモノは……紛れもない、その『種』だ。

 

 

 

 

「…………負けない。……絶対に、負けない」

 

 

 あたしの目の前……気色悪い根と蔦が、みるみるうちに義妹(いもうと)を包み、その姿を変えてゆく。

 今日に至るまでにあの子が食べ続け、貯め続けてきた魔力を存分に喰らいながら……『自分を見捨てた(あたし)を殺したい』というあの子の願いを叶えるために、最適な形を取ろうとする。

 

 

 感情の制御が得意とは言えないあの子は、全ての魔力を『種』に明け渡すことだろう。

 

 全ての魔力を使い尽くした【使徒】ともなれば、【生贄】として使われることも無いはずだ。

 【魔王】が必要としていたのは……あくまでも、大規模魔法の触媒として用いるための『膨大な魔力を溜め込んだ奴隷』なのだから。

 

 

 つまり、つくしちゃんの魔力を完全に消耗させれば、あたしの『勝ち』は確定する。

 ただひとつ問題だったのは……本気の憎悪があたしに向けられれば、無事でいられる保証なんてどこにも無かったという点なのだけど。

 

 

 

 

『…………まったく、無茶をする』

 

「つまり……(すてら)ちゃんのときと同じ感じ? 削りきれば良いの?」

 

『そのようだね。持久戦になるだろうけど…………術式を『喰う』術が消えたお陰かな? 幸いカクリヨの結界内には落とせたみたい』

 

「オッケー。そんじゃ斥候(おれ)も……()っとばかし、お手伝いしよっか?」

 

「お願いするわ。……この戦いに生き残ったら……次の配信で赤スパ上限ぶっ込んだげる」

 

「『やったーー!!』」

 

 

 

 

 だけど……悲観するのはまだ早い。

 

 今のあたしには。【魔王】の庇護(束縛)を拒絶した『佐久馬(さくま)(すてら)』には。

 

 

 とっても愉快で可愛らしい……心強い『正義の魔法使い』がついているのだ。

 

 

 

 

 

 



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491【驚天動地】獅子身中の蟲

 

 

 おれが【食欲の使徒】に攻撃を仕掛けた直後、彼女を守るように割り込みを掛けた……佐久馬(さくま)(すてら)ちゃん。

 

 溜め込んでいた魔力の大半を喪ったとはいえ、【愛欲の使徒】の肩書きを持つ彼女である。当初はまた【魔王】サイドへ返り咲いてしまったのか、とも思ったのだが……その後の(すてら)ちゃんの言動を見るに、その心配はどうやら杞憂だったらしい。

 

 

 そして同時に……彼女が何をしようとしているのか、また何を望んでいるのかを、賢いおれは理解することができた。

 

 

 

 かつての【魔王】をよく知るラニと、現在の【魔王】をよく知る(すてら)ちゃん。両者の証言をもとに推測すると……ろくでもない【魔王】の計画の全容が、朧気にだけど見えてきた。

 

 どうやらあの【魔王】は、自身の配下に魔力をしこたま溜め込ませ……それを起爆剤として【世界の境界を抉じ開ける魔法】を、再び行使するつもりであるらしい。

 

 

 およそ一年近く前、あの大嵐の日に……滅び行く『異世界』から、おれたちの住まうこちらの世界へと渡ってきたときのように。

 

 

 

 【魔王】メイルス本人が消耗していたせいか、はたまたこの世界の魔素(イーサ)が絶望的に乏しかったせいか……とにかく【魔王】単独では、世界を渡る魔法を再び行使することは出来なくなってしまったという。

 だからこそ彼は、大規模魔法を使うための外部リソースとして、(すてら)ちゃんたち三人の【使徒】を見繕った。

 

 ニンゲンの秘める中でもひときわ強力な願い『三大欲求』に基づく渇望を抱えた子を探し出し、その欲望を満たすための異能を授け、魔力を溜め込むための道具として仕立て上げた、三人の生贄(使徒)を揃え。

 いずれは自らの糧とし、世界跳躍魔法の触媒として使うために……魔力をひたすらに溜めさせ続け。

 

 

 その傍らで……この世界の環境を『異世界』に近付けるため、大気中に魔素を増やしたり魔物を増やしたりと暗躍していた、と。

 

 

 

 最後のひとつに関しては、悔しいが一手先を行かれてしまったけれども。

 もうひとつのろくでもない計画……世界跳躍魔法の行使に必要な触媒(イケニエ)の完成を阻止することは、まだ可能なのだ。

 

 

 だからこそ、(すてら)ちゃんは今まさに無茶をしようとしている。

 おれたちが【愛欲の使徒】にそうしたように……ともすると『暴走』と呼べる段階にまで【食欲の使徒】を追い込み、溜め込んだ魔力を一気に消費・放出させる。

 

 それはつまり……理性を失い一切の手加減を望めない【食欲の使徒】の本気に晒されるということであり。

 当然ながら、安全の保証なんて一切無いということなのだ。

 

 

 

『ボクが突っ込んで引っ掻き回す。二人は遠くから削って。安全第一だよ』

 

「了解。まぁあんなにデカい(マト)だもんね、撃ち放題の当て放題だよ」

 

「……ありがと。……気を付けてね。ラニ、ちゃん。…………全部終わったら、あたしが()()()()シてあげるから」

 

『ボクこの戦いが終わったらステラちゃんとエッチするんだ!!』

 

「おいバカやめろばか! 変なフラグ立てんな馬鹿えっち!!」

 

 

 

 威圧感が無いとはもちろん言えないが……幸か不幸か、()()と相対するのは二回目だ。

 かつて感じたときの恐怖や不安は、不思議なことに今日はそれほど感じていない。

 

 おれたち三人、力を合わせれば……たぶん、できる。

 

 

 

≪―――繧ャ繧「繧「繧「繧「繧「繧「繧「繧「繧「繧「繧「繧「繧「繧「繧「繧「繧「繧「繧「!!!!!!!!!!!!!≫

 

 

「…………前より……デカくない?」

 

『だよね? ちょっとヤバくない?』

 

「はは…………いっつも食べてたからなぁ、つくしちゃん」

 

 

 

 星さえ霞む真っ暗な真夜中。大都会ど真ん中の緑地公園を覆う、殊更に暗い【隔世(カクリヨ)】の天蓋の下。

 【魔王】の企みを挫き、また大切な仲間の妹を助けるための、一発逆転・一石二鳥・一球入魂の戦いが……

 

 

 巨大な拳が地面を砕く轟音と共に、騒々しく幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 















「………………結構な……お手前で」

「おそまつさま。……来てくれると思ってたよ、シズちゃん」

「…………ん。てれる」



 合歓木(ねむのき)公園内の各地にて、そこかしこに沸いて出てきた『獣』や『鳥』や『龍』を迎撃していた神使のみなさんをお手伝いして回る、エルフの上級魔法使いことおれ(わかめちゃん)

 手強そうな『龍』の駆除が終わったあたりで、人心地ついたおれの背中に……戦場には場違いなダウナーロリボイスが、突如として投げ掛けられた。


 とはいえ……彼女の出現ならびに関与そのものは、ある程度予想できていた。
 ここまで大規模で、色々と手の込んだ襲撃である。幹部格が【食欲の使徒】独りだけである保証はもともと無かったし、それなりのリソースを投じた大規模作戦であれば、なおのこと万全を期しておきたいところだろう。



「ちなみに……【魔王】って()()()()知ってるの?」

「…………ん。ボクたち……魔王の計画の【使徒】、だから。【感覚同期】の起点にされたら……拒めない」

「あー、うー…………朽羅(くちら)ちゃんを介してヨミさまが覗いてる、みたいな感じか」

「たぶん、それ。……筒抜け、だから…………気を付けたほうが、いい」

「かわいいおんなのこの私生活を覗くとか最低だ(うらやましい)な【魔王】め!!」

「…………さすがに……いつも、繋ぎっぱ……じゃ、ないから」

「あ、そうなの」



 九月から十月に、神無月になって……神様の影響力が落ちたタイミングを見計らっての、大規模な作戦行動。
 おそらくは(すてら)ちゃんの奪還を主目的としたこの襲撃は、やはり【魔王】本人の与り知るところであるらしい。


 神様が居ないから『神無月』……後世の歴史家が後付けで設定した一説とはいえ、広く人々に信じられてしまえば()()()()のだという。
 とはいえ実際のところ、翌年のお話をするには確かに丁度良い時期であるのは確からしく……つまりは現在囘珠(まわたま)のモタマさまはおろか、鶴城(つるぎ)のフツノさまも神々見(かがみ)のヨミさまも、それどころかそこかしこの神社の神様も、皆様こぞってお留守のようなのだ。


 つまりは、主神であるモタマさまの神力にちなんだ術――捕虜である【愛欲の使徒】を拘束する結界――も効力が低下しているらしく……【魔王】もそこを狙ったのだろう。

 神様不在の隙を突き、手駒を再び揃えたかった……といったところか。
 しかしながら現在、(すてら)ちゃんの魔力は大幅に目減りしてしまっているし、現にこうしてお留守番の神使でもある程度対処できてしまっているのだ。
 確かにビックリしたし、普段よりかは勝算がありそうなのものだけど……詰めが甘いというか、お粗末な感じが否めない。



 ……まぁそれは、この【睡眠欲の使徒】が、【魔王】本人から全幅の信頼を措かれていたことの現れでもあるのだろうが。
 恐らくは作戦が()()()()()()()、ブレーンを務めるシズちゃんが積極的に誘導を図ったのだろう。

 『神無月ってこういう月だから神様居ないし、狙うなら今だよ』とか囁いたのかもしれない。……やだ悪女だわ。


 最強の手札である彼女が、こうして意に反する行動を取るなど……あの【魔王】にとっては到底想定外であったに違いない。と思う。



「…………ん。……たぶん、キミが思ってる通り。キミたちは、【魔王】にとって……最大の障害。…………排除しに……動くよ、【魔王】。……覚悟は、いい?」

「………………怖くは、無いの? 別の手段は無いの?」

「無い。……すてら……は、未完成だったみたいだけど…………つくしが呑まれた『巨人』は……成長すれば、『核』の権能さえも使いこなす。…………ボクの【睡眠欲(ソルムヌフィス)】は…………理性の無い『巨人』が振るうには…………あまりにも、危険」

「……そっか。…………そう、だね」

「大丈夫。……ボク…………最近いろいろ、無駄遣いしてた……から。…………全盛期より、たぶん……(らく)



 魔法使い(おれ)の探知魔法が、斥候(おれ)たちがいる付近での急激な魔力反応を捉える。

 ほんの半月ほど前、奇しくも同じ囘珠(まわたま)神域で直面した事態と同じような……いや、そのときよりも濃密な【再誕】の気配。


 良くも悪くも無垢でまっすぐな【食欲の使徒】を『核』とした『巨人』が、今まさに生まれようとしており。

 その『巨人』を滅し、溜め込んだ魔力を霧消させ、呑まれた少女を助けるための戦いが、今まさに始まろうとしており。




「じゃあ、あとのことは…………ボクの、可愛い妹たちを……頼む、ね。『正義の魔法使い』さん」

「…………あっちは任せて。……ただまぁ、()()()は…………お手柔らかに頼むね」

「ふふっ。…………それは……【魔王】本人に言ってもらわないと」

「だよねぇー…………」



 おれが初めて目にする、宇多方(うたかた)(しず)ちゃんの可愛らしい笑顔。

 清楚で清廉で儚げで愛らしい、その微笑の向こう側。



 そこには……いったい、いつの間に姿を現したのだろうか。
 赤黒く禍々しい魔力の渦を迸らせた、優雅な佇まいの老紳士が。

 ……いや、老紳士の皮を被った【魔王】が。



 完全な『無』の相で、真っ直ぐこちらを凝視していた。




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492 ボクはもう諦めない

 

 

 『人間(ニンゲン)』という生物は、いったいどの程度までの乱暴な扱いに耐え得るものなのだろうか。

 果たして……どの程度まで酷使すれば、()()()ものなのだろうか。

 

 

 耐用試験、耐久テスト、反復試験、疲労調査、破壊試験。呼称や手順などは多々あれど、世の工業製品には必ずと言って良いほどに課されるであろうそれら試験。

 それをまさか……使用者たる『人間』である筈の、自分が課されることになろうとは。

 気高い志を抱き、懸命に勉学に勤しんでいた、世の不条理を知りもしなかった学生の頃の自分には……到底想像できなかっただろう。

 

 あるいは、敢えて目を向けないようにしていたのか。

 ……信じたくなかっただけなのだろうか。

 

 

 

 僕達が住まう日本国においては……厚労省の定める労働基準法において、一日あたりの労働時間は『原則』八時間と定められている。

 欧州等を始めとする他国の例を見てみても解るように、この『八時間』というのが、つまりは『一日に人間が働ける時間の上限』という認識で間違い無いだろう。

 国によっては六時間や……もっと短く設定しているケースも少なくない。

 

 

 というのも、労働時間が長引けば長引くほど、仕事の精度も目に見えて低下するためだ。

 人間とは働けば働くほどに疲労が溜まっていくものであり、当初のパフォーマンスを長時間に渡って発揮し続けていられるようには、残念ながら出来ていないのだ。

 

 陸上短距離走の世界記録保持者が、百メートルを十秒で走り抜けられるからといって。

 同じ人物が……例えば五千メートルの長距離走を五百秒で走れるかといったら、当然そんな理屈は通らないわけだ。

 

 

 『原則一日八時間』というものはあくまで『上限』の目安を定めるものであり、決してスタンダードである訳じゃない。

 三六協定で労働時間のあり方や残業の扱いに関する取り決めが示されたとて……そもそも『残業』なんてものはあくまで例外・特例であり、本来なら有り得ない筈の制度なのだ。

 それを前提としてスケジュールを組むことなど、あって良い筈が無い。

 

 

 

 そんな当たり前なことを……わざわざ法律にも示されていることを平然と無視して、貴重な人材を酷使する。

 

 法律に定められた労働時間の倍以上の仕事を押し付け、二人分以上の仕事を一人一人に押し付ける。

 

 深夜二時発の送迎バスに駆け込んで、死んだ目の同僚と共に寮に辿り着いて眠れる日は……まだ軽傷で済んだほうで。

 

 平均九時間の残業だけで仕事が終わらなければ、さも当然のように休日を返上して処理に当たり。

 

 百パーセント全力のパフォーマンスを十七時間ぶっ通し、週七日間維持し続けることを余儀なくされる。

 

 

 ……そんな非人道的なことが、日本国政府の御墨付きで罷り通っているのだから……全くもって救いが無い。

 僕達の現状を、振られている仕事量を知りもしない御上(先生方)の思い付きで……下らない仕事が来る日も来る日も際限無く湧き出てくる。

 

 

 そんな酷すぎる仕打ちを受け続け、身体と心を犠牲にし続け、この国のためにと働き続けても尚、『高給取り』『贅沢過ぎ』『税金の無駄』等と罵声を浴びせられ。

 

 そんな地獄のような職場に、そんな職場の存在を黙認する国に、そんな国にしか生きられない世界に絶望し。

 

 

 

 自ら命を断とうとする同僚も……実際に断った者も、決して少なくない。

 

 

 

 ()く言う僕も……そんな『自ら命を断とうとした』者の一人だったわけだが。

 

 

 ただ……まぁ、いったい何が何やらさっぱりなのだが……

 僕の場合、それはそれは……とても常識的には考え辛い事態となってしまったわけで。

 

 

 

 

「……以前の君、『宇多方(うたかた)鎮彦(ふみひこ)』は……既にこの世界に存在しない。……身も心も文字通り『生まれ変わった』気分はどうかね? ()()()()()()()

 

「……………これ、が…………ボク……」

 

 

 

 もう全てを投げ出して死んでしまいたいと、死んだように眠り続けていたいと……心行くまで健やかなる眠りを享受していたい、と。

 

 儚く、か弱く、無垢な幼子であれば……全ての義務から解き放たれ、ずっと微睡んでいても赦されるだろうに、と。

 

 

 年の暮れの、とある大嵐の日。

 そんな子どもじみた願いが、まさか叶えられてしまおうとは…………一体、この世の誰が予見出来ようか。

 

 

 先に旅立った先輩と交わした『歓迎会』の約束は……まだ当分、果たせそうに無さそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

………………………………

 

 

……………………

 

 

…………

 

 

 

 

 

『よくもまぁ……好き勝手やってくれたものだ。…………残念だよ、ソルムヌフィス』

 

 

 

 釘でも打ちこまれたかのようにズキズキと痛む頭に、直接響く【魔王】の声。

 どこか優しげで、温かみさえ感じさせる……優しい父親のような声色()()()()()()、【魔王】の声。

 

 

 好きでもないその名で何度呼ばれようと。怖気さえ感じさせる空っぽな笑みを向けられようと。

 どれだけ睨まれ、凄まれ、苦痛を与え、敵意も露にこの身を(さいな)んで見せようと。

 

 ボクの心には、微塵も響くことは無い。

 この国この時代に尚実在する、この世の地獄のような職場で鍛えられたボクにとっては……この程度の苦痛など、朝飯前の目覚め前だ。

 

 

 

『……痩せ我慢を。…………まぁ良い、悪い子への()()()()は……また後にするとしよう』

 

 

 

 ……なるほど。

 ボクの魂を苛むこの苦痛は、まだ全然『お仕置き』なんかでは無かったということか。

 

 この……身体中の血管に有刺鉄線でも巡らせたかのような、身体を引き裂くような苦痛には…………どうやら、まだまだ上があるということか。

 

 

 ボクの身体()()()()()の制御権は……既に『異世界からの侵略者』たる【魔王】の手へと渡っている。

 

 この一年近く、【魔王】本人に感付かれぬように色々と工作を施してきた……儚く、か弱く、無垢な幼子そのものの身体。

 元の身体とは何から何まで真逆となってしまったが、少なくない愛着を感じていた可愛らしい身体は……ボクの言うことを聞きやしない。

 

 

 今のボクは『山本五郎』の身体から抜け出た【魔王】に寄生され、溜め込んできた魔力もろとも身体を奪われ……そうして弾き出されつつある『残り滓』の意識に過ぎない。

 

 この(感覚が無い筈の)身体をバラバラに引き裂かれるような痛みに耐え続け、脳髄をドロドロに溶かされるような苦痛を受け続け……それでもこの身体にしがみついて踏み留まらねば、それこそ【魔王】の目的は達せられてしまう。

 ボクが諦め、この身体を完全に【魔王】へ明け渡したときが……【魔王】の目的が達せられるときなのだろう。

 

 

 

 

 ……上等だ。やってやろうじゃないか。

 

 異世界からの侵略者が何だ。世界ひとつを滅ぼした【魔王】が何だ。

 『お父様』に恩を売り、弱味につけ込んだ余所者ごときが……この国を好き勝手に出来ると思ったら大間違いだ。

 

 

 

 今や身体を乗っ取られたボクには、もはや打つ手は残されていないけれど。

 この国を……この世界を愛し、人々に笑顔をもたらす『正義の魔法使い』が、きっとなんとかしてくれる。

 

 この世界を、この国を、そして可愛いボクの義妹(いもうと)たちを……きっと纏めて救ってくれる。

 

 

 だからボクも……僕も。

 この国を、この世界を、今度こそ諦めるわけにはいかないのだ。

 

 

 



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493【驚天動地】魔王の本性

 

 

 おれが【魔王】メイルスと相対するのは、これで二度目だ。

 

 一度目は昨年末、浪越市の鶴城(つるぎ)神宮前。あのときは色々と慣れてなかったし、ぜんぜん訓練も洗練も出来ていなかった。

 おれとラニの二人掛かりで手も足も出ず、結局最後は霧衣(シロ)ちゃんの身体を借りたフツノさまがバチボコに無双して終わった。

 

 まぁしかし、結局アレはただの身代わりというか操り人形というか……つまりは【魔王】本体では無かったらしいけど。

 

 

 

 そして……二度目となる今回。今度こそ身代わりではなく【魔王】メイルス本人なのだろう。

 

 おれたちが【魔王】だと思い込んでいた老紳士、山本五郎さんの内から現れた……脈動する赤黒い繭のような、名状しがたい浮遊物体。

 そいつは背後で力無く倒れ伏す山本五郎さんを顧みること無く、自身の手勢()()()()少女へと取り付き、その身体を瞬く間に侵していく。

 

 

 【魔王】配下、第一の使徒として暗躍する素振りを見せながら、【魔王】に行動を逐一把握される立場でありながら、しかし監視の届かぬところで色々と手を回してくれていた少女を。

 

 おれに『獣』や『鳥』や『龍』への対処方法を睡眠学習で予習させ、世論や国を動かすために大々的な警察署襲撃を画策し、危機感を煽り対策を急がせるために方々への襲撃を後押しし……結果としてこの国が【魔王】に抗うためのお膳立てを整える手助けをしてくれていた、底の知れない少女を。

 

 

 自身の妹たちが【魔王】の依代とならぬよう、おれたちにけしかけて魔力を消耗させ。

 そして今、あとの全てをおれに託し、おれの目をじっと見据えながら【魔王】に呑まれていった……並々ならぬ意思の強さを秘めた、宇多方(うたかた)(しず)ちゃんを。

 

 

 

 

 

『…………成る程、さすがは【ソフィ】だ。……魔力の量も質も、申し分無いな』

 

 

 

 シズちゃんの……いや、シズちゃんを乗っ取った【魔王】メイルスが、小さな指を可愛らしく『ぱちん』と鳴らす。

 

 さも当然のように宙に浮かぶ【魔王】の周囲、合歓木(ねむのき)公園内の地面が盛大にざわめき始め……多くの『龍』と、更に多くの『鳥』や『獣』と、数えるのもアホらしい夥しい数の『葉』が、後から後から湧き出てくる。

 

 

 

 

(なるほどね! イチナン去ってまたイチナンってやつかなァー!?)

 

(またそうやって(ことわざ)を! ラニちゃんが賢くなるの斥候(おれ)は嬉しく思います!!)

 

(ラニごめん、全体の舵取りお願い。安全第一で。すてらちゃんとつくしちゃんは?)

 

(ツクシちゃんは眠ってるけど、たぶん無事。ステラちゃんに預けて、キリちゃんと第ゼロ会議室。神使のお兄さんが守り固めてくれてる)

 

(ありがと。頼んだ)

 

(危なくなったら全部なげうって助けに行くからね?)

 

(ヤバかったらちゃんと助け呼べよ? 魔法使い(おれ)!)

 

(はいはい)

 

(『はい』は一回!)

 

(どこで覚えて来たその返し!?)

 

 

 

 

 (なつめ)ちゃんたち囘珠(まわたま)神使と朽羅(くちら)ちゃん(を介する神々見(かがみ)奉行の荒祭(あらまつり)さん)によって、強固に張り直された【隔世】の結界。

 

 世間から隔絶された夜闇の下、遠く聞こえてくる異形の魔物の咆哮と、それを迎え撃つ者たちの(とき)の声。

 

 もう一方の『気がかり』を片付け、解き放たれた魔物の群れに向かってくれる相棒と、他ならぬおれの半身。

 

 

 そして……おれの目の前で余裕綽々と暗黒微笑を浮かべている、全ての元凶であり最後の懸念。

 

 

 

『……尻尾を巻いて逃げ出しても良いのだが……この戦力差を目にして、尚(あらが)うかね?』

 

「出来ることなら戦いたくないんで、その子の身体返してもらえませんか?」

 

『冗談にしては出来が悪いな。……()()()は元々、私の所有物(モノ)だ。棄てられようとしていた(モノ)を私が拾い、作り直し、再利用していた(モノ)だよ。『モッタイナイ』『リサイクル』と言うのだろう? 良い概念だ』

 

「…………モノ、って……! その子にも……シズちゃんにも、自我も願いもあるんですよ!?」

 

『それが何かね? 『仔』と分類される個体の自由は、『親』と分類される個体が司り、制御する。……君達『ヒト』と呼ばれる種族は、()()()()()()であると認識しているが?』

 

「…………っ!? じゃあ……だから『親』になったって、いうんですか? ……シズちゃんや……すてらちゃんや、つくしちゃんを……好き勝手に『制御する』ために!?」

 

『当然だろう。いずれは世界の境界に『楔』として打ち込み、私の願いの礎とするためだけの(モノ)だ。……都合の良い『親』の立場が手に入ったのは幸いだったが……まぁ、こと此の段階に至ったのなら仕方あるまい』

 

「……そうですね。…………もう、仕方ない。そっちの本音が()()だというなら……わたしは、全力で妨害して見せます」

 

『…………そうさな。この身体も中々に具合が良いが……君の身体こそ最高の素材であろう。……であれば、俄然手に入れたくなってきたよ』

 

 

 

 異世界からの侵略者。この世界の危機。人々を混沌に落とす『種』。頻出する魔物。増え続ける魔素(イーサ)。改編されていく『常識』。異世界化しつつある環境。全ての元凶である【魔王】。

 非常にわかりにくく、難解なものになってしまったここ最近の情勢が……ここへ来て非常にわかりやすい形に纏まってくれた。

 

 つまり……目の前の【魔王】を倒せば、全て解決するのだ。

 おれたちの世界に仇為す【魔王】の企みを挫き、シズちゃんも助け、魔物も駆逐し、みんながみんな万々歳で収まるのだ。

 

 

 なら……やったるしかない。

 おれの頑張りで、みんなが笑顔になれるなら。この世界のみんなの笑顔のために、おれにできることがあるのなら。

 

 おれが……『わたし』が、きっと解決してみせる。

 一人でも多くのひとを、わたしの手で笑顔にしてみせる。

 

 

 それこそが……『木乃若芽(わたし)』に込められた()()なのだから。

 

 

 



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494【驚天動地】『植生』の魔王

 

 

 使徒の身体を手に入れたことで、圧倒的な魔力量を備えるに至った【魔王】メイルス。

 本来は世界の境界を抉じ開ける大魔法のための魔力(リソース)だったようだが……このおれを唯一にして最大の障害であると認識し、その打破のために費やしたということだろうか。

 

 また魔力を貯め直すのだって大変だろうに……まったく、光栄なことだ。

 

 

 しかしながらこの【魔王】、おれのイメージにあったような、いわゆる†ダークパワー†的なものを操るのではなく……その力の根底を成すのは、やはり『植生』に連なるものであるらしい。

 

 そういえばいつだったか、ラニも言っていたような気がする。

 かつての『メイルス』は、いわゆる植物の魔物――トレントとかトリフィドとかエントとかドライアドとか――の一体(ひとり)だったらしく……後天的に膨大な魔力と知能を得たことで、【魔王】と呼ばれるほどに強大な存在へと変貌したのだ、と。

 

 よって、攻撃パターンも『植生』に関連深いものであることが予測できるし……おあつらえ向きとばかりに、()()はおれにとっても得意分野だ。

 

 

 まぁつまるところ、手の内は知れてるわけで。そりゃ負ける気がしませんが。

 

 

 

 

 

 

 

「っぐゥ、ッ!!?」

 

『おや……浅かったかな? 血肉を喰らい急成長を遂げる【磔刑荊(ベルソストゥロス)】の鏃種(ゾクシュ)だったのだが』

 

「ただの服じゃありませんから……ッ、づぅ!?」

 

『……成る程? 打撃は多少有効のようだね。【笞鞭蔦(ヴィペンデュラ)】を殖やすとするか』

 

「ひっ!? ぐ、【防壁(グランツァ)追従(アルス)】【加速(アルケート)】!」

 

『逃がさんよ。……咲き狂え、【昏冥花(アスフォデロス)】』

 

「!!? 【暴風(シュトルム)】【焼却(ヴェルプラング)】ッ! ……次から、次へと!! 多彩すぎでしょう!?」

 

『…………ははっ、君の魔法程では無いさ。自己強化に具現化魔力の防壁に、風と炎の属性元素(エレメント)……確か、水や氷や土に……草木も操っていただろう? ……良いな。実に魅力的だ』

 

「…………っ、っ!?」

 

 

 

 だれですか、【魔王】の手の内は知れてるとか言ってドヤってた痛い子は。おれが取っ捕まえておしおき(しりたたき)してやる。

 

 

 ……っとまぁ、ご覧いただいてわかるように……様々な属性の攻撃が立て続けに振るわれ、おれは必死の攻防を繰り広げているわけでして。

 

 鋭く尖ってご丁寧に()()()までつけられた弾丸(種子)を、まさに雨あられと打ち込まれたり。

 頑丈な服の上からいたいけな身体を打ち据える、クッソ硬い蔦を容赦なく振るわれたり。

 おれの本能が全力で警鐘を鳴らす程度にはヤバい代物であろう、明らかにエグい花粉をばら撒く花を咲かせたり……と。

 

 

 『植生』という括りの中にあっても非常にバラエティに富んだ、いちいち致死性の高い攻撃を繰り出してくる【魔王】メイルス。

 その攻撃を繰り出してくるのが、幼げで華奢で可憐な女の子ということもあって……見た目と危険度の乖離がまた、なんともいえない不気味さを醸し出してしまっている。

 

 

 オマケに――おれが無意識のうちに手を緩めてしまってるのかもしれないが――思っていた以上に、それこそ軽くふたまわりは守りが堅い。

 

 おれたちの世界にも、ときには『斧を折る』ほどに硬い木があるという。

 それに加えて、おれの知らない異世界の木の性質を備え、さらに強化魔法の類いを行使したとすれば……まぁみなまで言うまい。実際硬すぎて笑えてくる。

 

 頼みの綱の火魔法【焼却(ヴェルプラング)】でさえ――まぁ魔力を注ぎ【集束(フォルコス)】を掛ければまた別だろうが――木質部分へと直撃させたはずなのに、思っていたほど燃やすことは出来なかったのだ。

 ……まぁ、よくよく考えれば『生木(ナマキ)』って燃えないもんね。表面が軽くくすぶって煙が出た程度じゃ、ダメージは中枢組織まで届かないだろう。

 

 

 

 とはいえ、ここで諦める理由にはならない。

 【焼却(ヴェルプラング)】とて効果が無いわけじゃないし、他の攻撃魔法だって【魔王】の身体(の一部である樹状組織)に傷を付けているのだ。

 いうなれば、総体力(MHP)の値が大きすぎるだけ。ダメージはほんの僅かかもしれないが、諦めなければいつかは削りきれるはず。

 

 上等じゃないか。鬼畜(フロム)ゲーの低レベル縛りとか、配信者(われわれ)の業界じゃよく見る光景だ。おれはやったことないけど。

 偉大なる先駆者たちの歩んだ実績があるのだから……おれだって、やってやれないはずがない。

 

 

 

 

『……成る程。未だ闘志は挫けていないようだね』

 

「当然。わたしは絶対【魔王】ごときに負けたりしませんから」

 

『それは有り難い。私もこの身体と力を……存分に、心行くまで試してみたいと思っていたところでね』

 

「………………っ!? え、いや、その……ちょ、ッ!!?」

 

 

 

 膨大な総体力(MHP)を備える植生の魔王の、おれが魔法と弓を撃ちまくって必死に削った身体(の樹状組織)に……なにやら不吉な匂いのする魔力が巡り始める。

 

 樹皮のような凹凸とざらざらした質感を備えた、おれの攻撃で少なからず(いた)んでいだ()()

 

 脈動するよう表面が蠢き、傷んだ表皮がボロボロと崩れ落ち去った()()には……刃傷も矢傷も炭化した痕も見られない、生命力を感じさせる樹皮が現れる。

 

 

 ……そう、それはまぎれもない『再生』。

 『植生』の性質を備えているのなら、当然あって然るべきであろう……非常に厄介な能力だ。

 

 

 

『……君はなかなか頑丈そうだ。是非とも最期まで……壊れずに躍り続けてくれたまえよ』

 

「…………っ、……マジですか」

 

 

 

 はは……さすがは【魔王】を名乗るだけある。

 世界ひとつを滅亡に追いやり、あの【勇者】ラニをもってして『厄介だ』と言わしめるだけのことはある。

 

 

 …………反則だろ、こんなの。

 

 



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495【驚天動地】Light Party!

 

 

 おれの攻撃――さまざまな攻撃魔法や、弓矢による直接攻撃――だけでは……どうやら【魔王】に決定打を与えるには至らないらしい。

 

 並外れた総体力(MHP)とずば抜けた魔法防御(MDEF)を備え、更に自己修復さえやってのける。

 修復のリソースである魔力さえ尽きてしまえば、塵も積もればなんとやらでいつかは倒せるだろうけど……仮にも【魔王】と呼ばれる者に()()を期待するのは、さすがに酷な話だろう。

 

 

 一見すると『詰み』にも思える状況だが……まだ勝ち筋が消えたわけじゃない。

 今のおれ独り(ソロ)では勝ち目が薄いというのなら、複数人(パーティー)で当たれば良いだけのことだ。

 

 

 

 

『よう相棒! まだ生きてるか!?』

 

「手こずっているようだな! 手を貸そう!」

 

「遅かったじゃないか!! わかめちゃん泣いちゃうとこだったぞ!!」

 

『いや……これでも精いっぱい急いだんだよ? ゴローおじいちゃんだって捨て置けないでしょ。それに』

 

斥候(おれ)だって補助要員なのに『龍』二体仕留めたんだぞ? ……ラニは八体刻んでたけど」

 

「ごめんて!! あやまるからはやくたすけて!!」

 

 

 

 待ちに待った()()のおたすけキャラの参戦に……いままで独りっきりで【魔王】と戦わざるを得なかったおれは今、とても心が軽くなったのを実感する。

 

 

 からだも軽い。こんなに安心できる気持ちで戦うなんて初めて。

 

 もう、なにも……何も怖くない。

 

 

 

 突如、おれたちの周囲の地面が盛大に爆ぜ……巨大な顎を開いた樹肉の大蛇が四体、逃げ道を塞ぐように躍り掛かる。

 

 ヒト独りを易々と呑み込んでしまえる程の大口を開け、赤黒く蠢く肉と鱗をざわめかせ、生理的嫌悪感を抱かせる名状し難い光景が……逃げ道を塞ぎながらおれたち()()に迫り。

 

 

 

 

 

「今『なんでもする』って言いましたよね?」

 

「言ってないけど何かしらのお礼はするから安心して」

 

「じゃあぼくと結婚して下さい。わかめさん」

 

「オトモダチから始めさせてください!!」

 

「つれないなぁー」

 

 

 

 おれたち()()を護るように渦を巻く水に触れるや否や……四頭の樹肉の大蛇は絶叫を上げつつ苦しそうにのたうち回り、瞬く間にかさかさした土褐色へとその組織を変化させていく。

 

 並外れた生命力を秘める『植生』の魔王にとって、おそらくはとびっきり有効な特効属性。

 水は水でもひと味違う。浸透圧的な作用によって『植物』の水分を強引に奪い取り、細胞を死滅させる水。

 

 それすなわち……おそらくは、とびっきり濃ゆい上に魔力で特性を強化された、『塩水』。

 

 

 

「よくやった。……おいで、ノア」

 

「…………あんなカッコよかったっけ?」

 

「わかる。強者感半端無いよね」

 

『魅せ方をよく解ってるよね。ノワも見習った方がいいよ?』

 

「「なによお!!」」

 

 

 攻防に活用できるであろう大小多数の塩水球と、その身に流水を纏い自在に宙を往く大鮫の近衛兵(ノアくん)を従え。

 『魔法使い(おれ)』と『斥候(おれ)』に続く勇者パーティー四人めのメンバー、心強い『水魔法使い』の助っ人『ミルク・イシェル』さんが、この深夜にもかかわらず駆けつけてくれたのだ。

 

 おれが時間稼ぎ(まぁ有効打が与えられなかっただけとも言える)を行っている間、八体もの『龍』を駆除し終えた上で助っ人(ミルさん)を呼びに行ってくれた相棒(ラニ)には……感謝してもしきれない。

 

 

 

『……成る程? 此処まで優れた魔導師が紛れていたとは……この世界も、なかなかどうして侮れんものだ』

 

「…………はは。【魔王】ともあろう者に褒められようとは、恐悦至極というやつよな」

 

『ところで……私は今、大変な人手不足に陥って居ってな。……どうだね? 相応の報酬は約束しよう。我が軍門に(くだ)るつもりは無いかね?』

 

()れ者めが…………よくもまぁいけしゃあしゃあと。……()の大切な友人が、どうやら世話になったようだな。語る舌など持たぬ、たっぷりと礼をさせて貰うとしようか!」

 

(あかん……かっこいい……)

 

(わかる……惚れちゃいそう……)

 

(本当チョロいなぁこのエルフ)

 

((なによお!!))

 

 

 

 それにしても、なんという強キャラ感だろうか。日頃からのロールプレイのなせる技なのだろうか。

 その容姿こそまるで無垢な少女のように可憐でありながら、悠然と宙を揺蕩い【魔王】と舌戦を繰り広げるその姿は、威風堂々たる『領主』の姿。

 

 水底の民を守り、よき隣人を守り、この世界の平和を守る……とても心強い同業者(なかま)の姿だ。

 

 

 

 無下にフラれた【魔王】から、様々な殺意を秘めた『植生』の魔の手が一斉に向けられる。

 

 獲物の血肉を啜り体内で急成長を遂げる【磔刑荊(ベルソストゥロス)】の弩実が。

 強烈な衝撃を繰り出す鞭の如き(ツタ)を持つ【笞鞭蔦(ヴィペンデュラ)】の若木が。

 死に至る毒を秘める、危険な花粉をばら撒く【昏冥花(アスポデロス)】の妖花が。

 

 その他にも多種多様、様々な殺傷能力を秘める『植生』の魔の手が、次々とおれたち四人のもとへ伸ばされるが……果たして一つも辿り着くことなく、ことごとくを打ち払われていく。

 

 

 前衛と補助と後衛火力と、専門の回復役(ヒーラー)こそ居ないもののバランスよく編成された『勇者』一味(パーティー)の手によって、圧倒的な耐久力と再生力を備えた【魔王】がじわりじわりと削られていく。

 

 やっぱ四人揃えて挑んだ方が圧倒的に楽だ。ソロ攻略とかマゾのやることだ。何の情報もないのにソロ挑むとか頭おかしいと思う(※言いすぎです)。

 

 

 ともあれ、やっと適正攻略メンバーを揃えたおれたちだったが……そうはいってもやはり【魔王】、様々な媒体において最後の強敵(ラスボス)としてお馴染みの存在だ。

 形成が逆転し、じりじりと押され始め……そのまま黙ってやられてくれるような奴じゃない。

 

 この敵は。【魔王】メイルスは。

 今やおれの相棒となった、かつての『勇者』ニコラの世界を滅ぼすだけでは飽き足らず。

 

 

 

『…………『攻性体』の構築は……中々に疲れるので、ね。あまり遣りたくは無いのだが……そうも言って居られないようだ』

 

「「『「うそでしょ」』」」

 

 

 

 おれたちの暮らすこの世界をも滅ぼそうと画策する……危険きわまりない存在なのだ。

 

 

 






【よろしくお願いします!】
【ここに来るのは初めてです。】
【気楽にやりましょう!】
【ドマ茶】



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496【驚天動地】世界を蝕む大樹

 

 

 可愛らしい少女の姿を取った……いや、乗っ取った【魔王】。

 

 殺意に溢れる様々な『植生』を繰り出すおれたちの敵は、しかしおれたち『勇者』一味(パーティー)に押され始め……今やその姿を変えていた。

 

 

 

 それはさながら……幾本もの長大な()を備えた、巨大な樹。

 

 依代とされ()()()()()言葉を紡ぐ少女の背中から、赤黒い幹を四方へ伸ばし。

 わさわさと縦横に動く枝葉を、こちらを威嚇するように振り回し。

 回避はおろか移動さえもを諦めるかのように、大地にしっかりと根を下ろし。

 

 この地に溢れる魔力を吸い上げ我が物にしようと、敵対する(おれ)たちをこの場で叩き潰そうと、『植生』の魔王がその本性を露にする。

 

 

 

 

「防御と回復に特化させて、完全に迎撃主体に切り替えたってことね!」

 

「僕の【水】も…………くぅ、……あの腕っていうか、枝が曲者(くせもの)ですね。そこまで速度が出せないので、葉で叩き落とされちゃって」

 

『……攻撃が大味になったかと思い近づけば、あちこちからトゲがめっちゃ飛んでくる。魔法障壁を食い破るよう改良されてるみたいだし……近付くのも容易じゃないよ』

 

斥候(おれ)も同意。懐に飛び込むとトゲの種が飛んでくる。……近付くなら動き読まれないように、ずーっとちょこまか動き回るしかないわ」

 

 

 

 作戦会議とばかりに顔を突き合わせていたおれたちだったが、お話もそこそこに飛び退き散開せざるをえない。

 

 距離を置けばレーザーのような魔力砲(おそらく根から吸収した魔力を圧縮しただけのもの)が飛んでくるし、中距離では巨大なうちわのような枝葉が何本も振るわれてくるし、近距離では艦船の近接防御火器(CIWS)のごとき迎撃器官が猛威を振るう。

 戦闘スタイルを大きく変えた【魔王】は、以前にも増して殺意満々の攻撃を仕掛けてくる。

 

 

 とにもかくにも、足を止めるのはマズい。

 おれ(たち)やラニは運動力に自信あるけど、純粋な後衛火力であるミルさんは――水魔法の制御に専念するためにも――そこまで動き回れるわけではない。

 

 

 

 ……なので。

 

 現在の状況を鑑みまして……現パーティー編成から、構成と作戦を変更する。

 

 

 

 

「【『創造録(ゲネシス)』・解錠(アンロック)】……【上書(アップデート)】」

 

「オッケー任せろ、ミルさんはおれが護る。【装着式(モード)・『堅牢強固たる騎士(インヴィンシブル)』】!」

 

「惚れてもいいですか?」

 

「「いいですとも!」」

 

「わぁい」

 

 

 

 相手が動かないのなら、斥候(ヴァリアント)でちょこまか撹乱するよりも()()()だろう。

 恐らく最重要ダメージディーラーとなるミルさんを主軸に据えて、彼女()の安全を確保するために『護衛騎士(インヴィンシブル)』を配置。

 敵の攻撃が遠距離主体なのであれば、たとえ【魔王】の攻撃だろうと防ぎきってみせる。

 

 また……盾役(タンク)に護られた攻城砲(ダメージディーラー)からの遠距離攻撃と共に、もう一人のアタッカーが別方向から切り崩しに掛かる。

 ひとたび体内に潜り込まれたら相当エグい絵面になるだろう、魔法障壁さえ食い破るという(タネ)(やじり)でも、堅牢な全身鎧に身を包んだ接近戦のエキスパートであれば恐るるに足らずだろう。単純に物理防御がメチャクチャ高い。

 

 ミルさんからの塩水魔法に気を引かれれば、勇者印のなんかすごい剣でバッサリやられる。

 足元をちょろちょろと引っ掻き回すラニに注意を割けば、大ダメージの塩水魔法が叩き込まれる……という二面作戦だ。

 

 

 

『…………ッ、ええい……鬱陶しい!』

 

『ははっ! そう邪険にしてくれるなよメイルス。キミとボクとの仲だろうに』

 

『ならば大人しく……抵抗を止めて貰えると嬉しいのだがね』

 

『お断りだよ。『ヒトは諦めが悪い』って、教えただろ……ッ!』

 

『ぐ、ゥ!? おのれ……!』

 

 

 

 赤黒い大樹に接近して翔び回り、絶えず放たれる対空砲火をものともせず掻い潜り、かつて【魔王】と渡り合った【天幻】の勇者の剣閃が疾る。

 度重なる水魔法への迎撃に酷使され、末端から枯死が始まっていた巨大な()……そのひとつが断ち斬られ、木の折れる音と地響きとを響かせながら地に落ちる。

 

 

 『植生』を司る本来の姿を現した……並外れた耐久力と回復力を誇る【魔王】の身体()を、少しずつだが着実に削っていく。

 

 

 

『どうしたよメイルス。随分と大雑把じゃないか。……()()()()()に未練がましくしがみついてるせいじゃないのか? このド外道ガチペドロリコンツリーめ』

 

『…………ッ、好き勝手言ってくれる』

 

『まぁボクらとしてはヤり易いけどね。その鬱陶しい枝葉を一本一本伐り落として、丸裸のただの柱にに仕立て上げて……その()()()()()な弱点を斬り飛ばすだけだ』

 

『させると……思うのかね、ッ!』

 

『決まってる。やるんだよ、ボクが』

 

 

 

 ガチペドロリコンツリー……もとい、現在の【魔王】メイルスの姿。

 それを簡潔に表すと……『美少女(シズちゃん)の腰後ろから不気味な赤黒い大樹が生えたもの』といった感じだろうか。

 

 腰後ろというか背中から(ぶっと)い幹が生え、それが上下左右に枝分かれしている。

 上と左右に伸びた幹は細く細かく分かれていき、多種多様な攻撃および防御のための枝や葉を形成し。

 下に伸びた幹は次第に太さを増していき、ついには地面に突き刺さり、大地深くの魔力を吸い上げる。

 

 

 つまりは……『【魔王】の大樹』と『依代と化した少女』との間は、ごく短いとはいえ幹で繋がれているだけであり。

 幸いというべきだろうか、(すてら)ちゃんやつくしちゃんのように呑み込まれているわけでは無いのであって。

 

 

 

(まだだよノワ。まだメイルスは()()()()()にいる)

 

(……っ、…………ほんとに【魔王】……あっちの『樹』に移ってくれるの!?)

 

(断言は出来ないけど、可能性はある。アレは()()()()の…………アイツ本来の姿に近い。押されてるアイツが形勢逆転を図るには、元の身体のほうが都合良いハズだ)

 

(…………信じてるよ、ラニ)

 

(応えてみせるよ、ノワ)

 

 

 

『……良いだろう。君がそこまで言うのなら……その挑発に乗ってやろうではないか』

 

『全力で来なよ。ボクたちもまた、全身全霊で相手してやる。……今度こそ、逃がさない』

 

『こちらの台詞だ。……私の悲願を果たすためにも、君達は排除せねばなるまい』

 

 

 

 互いに睨み合い、互いを殴り合い、両者の間にいかにも『最終決戦』といった空気が広がりつつあるが……しかしおれはおれで、やらなければならないことがある。

 ほしいもの全部手に入れて一発逆転を狙う、おれたちの『よくばり作戦』最終段階。

 

 それこそ……【魔王】本体と依代との分断、および宇多方(うたかた)(しず)ちゃんの奪還作戦なのである。

 

 

 



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497【驚天動地】トロイの木馬



 【魔王】の依代と化した少女、宇多方(うたかた)(しず)の身体が……突如として糸の切られた操り人形のように『かくん』と力を喪う。
 腰後ろから生える幹で、その小柄な身体を宙吊りのように支えられてこそいるものの……傍目から見る限りでは、とてもそこに『魂』が宿っているようには感じられない。


 ときを同じくして……少女の腰後ろから繋がっていた異色の大樹が不気味にざわめき、脈動するかのように全身を震わせる。
 大きく伸ばされた枝の一つ一つ、葉の一枚一枚に至るまで、この『神域』から奪ったのであろう高密度の魔力が行き渡っていく。


 ぼんやりと光って見えるのは、表面に浮かんだ微細で緻密な魔法陣。
 あるものは【防御】、あるものは【結界】、あるものは【熱線魔法】……そしてまたあるものは【飛翔】と【爆破】。



 幹に、枝に、葉に、それら数多の魔法陣が一斉に(あか)りを(とも)していき……この世ならざる異界【隔世(カクリヨ)】の夜闇に浮かぶ明かりは、さながら神秘に満ちた神木のようで。
 しかしてその実態は……この世界の(ことわり)をぶち壊し、侵略を試みる異世界の魔手。



 かつて世界ひとつを崩壊させた、【魔王】と呼ばれる異界の大樹が。

 数えきれぬ程の【熱線魔法】を束ね、『勇者』たる白亜の鎧を撃ち落とさんと……殺意に満ちた目覚めの叫声を上げる。



(ラニ!!?)

(…………ッ!! ボクに構うな! ()()!)

(く、ぅ、……ッ!)



 本来の身体である大樹へと、その意識を戻したらしい【魔王】メイルス。

 つい先程まで身体を好き勝手弄ばれていた少女の、今や『がっくり』と項垂れるその身体のすぐ傍らで。


 おれはおもむろに姿を曝し……親愛なる勇者に託された()()()()を両手で掲げ、思いっきり振り下ろす。



「ぬェありゃァァァ!!!」

≪――――縺舌≦縺」!!!?!??!?≫



 攻城砲と化したミルさんによる大規模攻撃魔法と、足元をチョロチョロしながら煽りまくる因縁の相手……【魔王】にとってやっかい極まりないであろう、二つの懸念事項を隠れ蓑に。

 入念かつ執拗な【隠形】【隠蔽】【静寂】を纏い、相棒から伝家の宝刀を借り受けたエルフの魔法使いが……こうして、こっそりと『囚われのお姫様』へと近付いていたのだ。


 【魔王】の意識が『大樹』へと移った今こそ、依代となっていた彼女を奪還する最大の好機である。
 果たしておれたちの作戦通りに、接続部の幹を断ち切ることに成功。軽く華奢な少女の身体をしっかりと抱き止め、おれは追撃を警戒しつつ全速で撤退を図る。



『よくやったノワ! あとは任せろ!』

「い、一旦下がるから! 絶対に…………ぜったいに、気をつけてよね!!」

『ははっ! 誰に向かって言ってるのさ! 我こそは『勇者』……【天幻】のニコラぞ!』


 心強い相棒の声に背中を押され、おれは一時的に主戦場を後にする。
 奪還に成功した彼女の安全を確保し、身体と心のケアをするためにも……戦場と化したこの結界内で最も安全な場所へと急行する。




 それこそが……悪辣なる【魔王】の最後の策であると、ついに気づくことの無いまま。












 

 

 

 

 

『魔法使い殿は……【檻顎草(ディオナクラプトゥス)】は、ご存知無いかな? …………あぁ、なるほど。こちらの世界由来の植生(モノ)では……『ハエトリソウ』という(しゅ)が近しいか?』

 

「ぐ、ぎ、……っ! 誰が『ハエ』だ、失礼な……!」

 

『これは失礼した。……いや何、美味しそうな餌に釣られてふらふらと飛んでくる様が、ね。あまりにも滑稽だったもので』

 

「ぅぐァ……ッ!?」

 

 

 

 ……まぉ、おれが()()なった原因は……ひどく単純なものだ。

 

 全身を弛緩させた彼女の身体を落とさぬようにと、ぎゅっと()(かか)えて飛んでいたおれの身体を……突如()()()()()()()、ガッチリとホールドし返してきたのだ。

 

 一瞬感じた違和感、そして背筋が凍るような悪寒に、おれが行動を移す前に。

 幼げな少女の四肢でガッチリと拘束され、【飛翔】魔法の構築に失敗したおれの身体に……彼女の身体から現れたトラバサミのような葉が喰らい付く。

 

 

「『ハエトリソウ』は、こんな……握力強くなッ、…………ッ!?」

 

『そこはほら、【檻顎草(ディオナクラプトゥス)】と言っただろう? ふらふらと餌に近付く憐れな亡者を捕らえ糧とする……愛らしい女神の睫毛(まつげ)だよ』

 

「……ッ!? ちょ、……ッ!!」

 

 

 一本、二本、そして三本。勇者(ラニ)印の防具のお陰で皮膚を喰い破られることこそ無いが、その握力とトゲトゲのせいで逃れることは難しい。

 

 そうして完全に『捕まった』憐れなる獲物の末路は……まぁ言うまでもないだろう。

 思えば最初に会ったときから、あの【魔王】は度々口にしていた。

 

 

 おれのこの身体を……最上の素材を、計画のために是非とも手に入れたい、と。

 

 

 

 

『君のその身体があれば、『我等が世界』との跳躍は容易い。開かれし【門】は我が身のみならず、多くのヒトビトをも容易に送り込めるだろう』

 

「…………っ、ふ………ッ!?」

 

 

 

 おれの全身に十重二十重(とえはたえ)に絡み付く、【魔王】の全身から伸びる赤黒い(ツタ)

 みるみるうちに勢いを増し、次から次へと押し寄せてくる『植生』の末端器官。

 

 シズちゃんの身体もろとも、根っこの『繭』へと閉じ込められたおれの身体は……もはや身じろぎさえ叶わない。

 

 

 それに加えて……極めて遺憾なことに。

 この『繭』の中では、魔法の行使を阻害する結界のようなものが張られているらしく。

 

 おれが全力でヤれば、ブチ破れないことは無いかもしれないが……そうなるとゼロ距離で密着する少女の身体は、恐らく助かるまい。

 ……まぁ、こうして躊躇した隙を突かれて窮地に陥ってりゃあ、まるで格好つかないわけですけどね。

 

 

 

『……赦しは、乞わん。せいぜい恨み、呪ってくれたまえ。……だがそれでも……『この世界』にどれ程恨まれようと、私は…………()()()()を滅ぼした張本人である、私だけは』

 

 

 

 か弱いおれ本来の力では振りほどけず、頼みの綱の魔法でもぶち破れず。

 

 完全に()()の状況へと追い込まれ、今まさに身体を乗っ取られようとしているおれの耳に。

 

 

 

 

『…………他の何を犠牲にしてでも……()()()()を、()()()()()()を…………私が、元通りに直さねばならないのだ……!』

 

 

 

 

 

 

 ひとりぼっちの【魔王】の、さびしい勝利宣言(懺悔)が。

 

 とてもむなしく……届けられ。

 

 

 

 おれの意識が、塗りつぶされた。

 

 

 












※ネタバレ:逆転勝利します(主人公なので)






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498【驚天動地】ゴッドフェス

 

 

 ………………………

 

 

 

 ……………………………………

 

 

 

 

 

 …………は?

 

 え、何……どこここ。

 

 

 おれは確か……【魔王】に組み付かれて、繭に閉じ込められて。

 

 ……ということは、たぶん大変なことになってるんだけど……おれの混乱を更に助長する『声』が、どこからともなく聞こえてくる。

 

 

 

――――『前例が無い』から何だ、薄鈍(ウスノロ)耄碌爺(モウロクジジイ)共めが! 貴様等(キサマら)には現状が()えとらんのか!? (そもそ)も貴様等が()んな埃の被った茶会に(こだわ)った所為(せい)で在ろうが!!

 

――――わしの『眼』が信じられない……と。それはそれは。それはまた……面白く無いね。我が神々見(かがみ)本宗が嘗められたもんだし。わし以上に(わざわい)視透(みとお)せる(モノ)が居るなら、是非とも(ツラ)を貸してほしいものだし。

 

――――おうちが荒らされてるわたしとしては……やっぱり、一刻も早く決をいただきたいな、って。奉行からの連絡も芳しくないみたいだし、ここ数十年(さいきん)みんな平和に浸かっちゃってたし……対処が遅れれば遅れるだけ、復旧も隠蔽も難しくなるわよ? …………残念だけど、もう既に『隠しきれる』規模じゃないの。

 

 

 

 聴覚からではなく、頭の中に直接響くような……とてもふわふわした認識ではあるけれど。

 なんだか、白熱する議論のような空気が()()()()と伝わってくるような気がする。

 

 真っ暗闇の中で、身動きひとつ取れない状況で、自分の身体の存在さえもが不確かな中で……あの方々の声だけが、どういうわけか確かに感じ取れる。

 

 

 

――――くどいわ耄碌爺(モウロクジジイ)めが! 既にあ奴は貴様(キサマ)なんぞより多くの信仰を得て居るとも! 『(あき)つ柱の素質は在ろう』と幾度も申したでは在るまいか!

 

――――わたしたちが出雲(ここ)から出られない以上、ほかの(ひと)にお願いするしかないでしょう。……さすがにこれはちょっと、奉行や与力(よりき)じゃ手に負えないわ。……わたしが今すぐ帰っても良いなら、そりゃあ何とかしてみせるけど。

 

――――布都(フツノ)の言った通り、本件はそもそも、そちらに責任がある。わしが散々警告してきたにもかかわらず、大した対策も講じずに流したのは何処の誰。布都(フツノ)も、百霊(モタマ)も、勿論わしも、『もしも』に備えて布石は打ってきた。

 

――――そうとも! 此迄(これまで)我等が打ってきたその『布石』が! たかだか貴様等(キサマら)の感傷によって無為にされようとして居るのだぞ!? 喉元に刃を突き付けられて居るのだと何故解らぬ!!

 

 

 

 ……ここまでガチギレ……もとい、ご機嫌斜めな様子はお目にかかったこと無いが……まぁ、フツノさまで間違いないだろう。

 あとのお二方も、これまた間違えようがない。モタマさまとヨミさま。……つまりは、ありがたいことにおれが縁を繋がせていただいた、三柱(さんにん)の神様だ。

 

 

 

 

 そんな神様たちだが……現在はどうやら、嶌根(しまね)県は出雲地方へと出張中であるらしい。

 つまりは、十月――神無月(かんなづき)――の名に由来するアレコレなのだろう。

 

 

 しかしながらそもそも……『神様がみんな出雲に行っちゃって居なくなるから神無月』なんていうのは、ぶっちゃけ由来としては正しくないらしい。

 ただしかし、『わかりやすい』『それっぽい』といった観点から多くの人々がそう信じてしまったこと、また当の出雲の纏め役的な神様(ひと)が気に入って(調子に乗って)しまったことで……不本意ながら、本当に『出雲で会議をする』ことになってしまったのだという。

 フツノさまご本神(ほんにん)に散々愚痴られたのは、おれも記憶に新しい。

 

 とはいえ実際、翌年のことを話し合うには確かに都合が良い場だったことは事実なので……やや惰性的なところはあるが、これまで集会が行われてきたのだという。

 

 

 そして今回は、まさにその集会(こと)を利用されてしまったわけなのだけど……どうやらフツノさまたちはこの事態を把握しており、どうにか対処したいようだ。

 なるほど、朽羅(くちら)ちゃんが居るもんな。ヨミさまは朽羅(くちら)ちゃんの眼を間借りして、この戦場をリアルタイムで盗み見れているわけだ。

 

 

 そしてそして……どうやらフツノさまたちの勝手な行動を快く思っていない神様(かた)が居るようで。

 そんなわけでフツノさまたちは――別世界からの脅威を正しく認識しているお三柱(さんかた)は――(ふる)き体質に凝り固まった神々(かたがた)に対し、先程からひどくおかんむりなのだろう。

 

 

 それにしてもフツノさまたちは、いったい何を画策してるんだろう。

 恐らくは【魔王】対策なんだろうけど……ほかの神様たちがそこまで反対する布石とは、いったい。

 

 

 

――――あの子を……一時的にでも『神』に仕立て上げるのが、いちばん得策。わしが朽羅(クチラ)に繋げば、儀式は可能。

 

――――貴様等(キサマら)は何もする必要が無いと……あの(あき)つ柱めに『信仰』は『神力』と成り得るのだと、(ソレ)を伝えるだけだと()って居よう!

 

――――囘珠(まわたま)に被害が出ちゃってる以上、わたしはすぐにでも動きたいところなの。神域の存続が危ぶまれてる以上、ある程度のわがままは赦されるはずよね?

 

 

 

 ……そういえば、『おにわ部』の天狗さんチーム……テグリさんやダイユウさんたち。

 彼女たちは『のわめでぃあ』メンバーとして出演したことで、いわゆる『魔力』が大幅に増えたと言っていた。

 

 ネット越しとはいえ多くのひとに愛され、信仰されることで力を増す。

 それはすなわち……ひとびとの祈りと願いを糧に、その願いを叶えることで更なる信仰を得、ひとびとの生活と繁栄に寄り添わんとする『神様』の在り方に、もしかしなくとも近しいのではないか。

 

 

 

 …………もし、そうなのだとしたら。

 それは……もしかしなくても、おれにも当てはまることなのでは無いだろうか。

 

 

 フツノさまたちが画策していることが、果たして()()()()()()なのかは判らないけれど。

 

 魔力(神力)を備え、多くの視聴者さん(ひとびと)支持(信仰)され、彼ら彼女らの『また次の配信も楽しみたい』という願いを叶えるためならば。

 『この楽しい世界がこのまま続いてほしい』という願いを叶え……おれのことを信仰(フォロー)してくれている人々が住まう、この世界を守るためならば。

 

 

 そして……おれが信じるフツノさまたちが、少なからず期待してくれているのならば。

 

 

 

 

 おれは、もしかして…………もうちょっと頑張れるんじゃないだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

(っ!? な…………あり得ん……! 意識が戻った、だと!?)

 

 

 

 ……そうだ、思い出せ。思い出せ。

 

 おれは……()()()は、そもそも何のために生まれた(生まれ変わった)のか。

 

 

 

(馬鹿な!? 魔力を侵し、意識を封じ、身体を奪い……完全に支配下に置いた筈! 『ソフィ』もろとも【結実】の糧とした筈だ!)

 

 

 

 鶴城(つるぎ)霧衣(きりえ)ちゃんに、囘珠(まわたま)(なつめ)ちゃんに、神々見(かがみ)朽羅(くちら)ちゃんに。

 あの子たちに繋いでもらった『縁』は、何を願い結ばれたものだったか。

 あの子たちと共に神様から託された願いは、いったい何だったのか。

 

 

 この身体に込めた祈りは。ラニの決意に誓った願いは。モリアキと語らい夢見た未来は。

 お別れ配信さえ出来ず、視聴者さんに『さよなら』さえ告げられずに、こんなところで独り寂しく幕を閉じるような……そんな無様なもので良い筈が無い。

 

 

 

 

(くっ、……意識が戻ったところで、今の君に何が出来よう。未だこの身体の自由は取り返して居るまいに!)

 

(なら……力ずくで返してもらうだけだ)

 

(渡すものかッ!! 指の一本さえ動かせまいに! このまま【結実】の(ニエ)となるほか無かろうが!)

 

(…………って思うじゃん?)

 

 

 

 確かに……赤黒い『根』によってがんじがらめに固められたこの身体は、物理的な枷により動くことが出来ない。

 対攻撃魔法の結界が張られた『繭』の内部では、精密な魔法制御は望めない。

 加えて、現状は人質を取られたような形といえる。自爆覚悟の魔法は使えず……つまりは、内から『繭』を破ることは出来ない。

 

 

 

 なら……簡単だ。

 ()()()()()()()()()()

 

 

 きっとできる。やってみせる。むしろやれないはずがない。

 

 何故ならわたしは……人々に笑顔と希望を届ける、この世界の人々の願いを果たす配信者(キャスター)にして。

 

 世界の破滅と混沌の氾濫を否定する、この世界唯一にして最高の……超超熟練魔法使い(キャスター)であるからして。

 

 

 

(かわいくてカッコよくて優秀な『使い魔』の()()()()()! 持ってたって不思議じゃないでしょう!)

 

 

「…………そういうわけで! 今だからこそ実装叶った、本邦初公開の超稀少特別(SSSR)版、人呼んで『平穏を乞願う賢者(ウォースパイト)』! ……こちとら伊達や酔狂で長命種(オールドレディ)やってませんから!」

 

 

(…………そん、な…………出鱈目(デタラメ)な!?)

 

 

 

 

 あるときは、魔法放送局『のわめでぃあ』の敏腕局長。

 

 またあるときは、世界の守護者『勇者』の頼れる相棒。

 

 そしてまたあるときは……特例臨時『神様』代行(自称)。

 

 

 

 悪夢だって裸足で逃げ出す現人神(アラヒトガミ)(臨時)『木乃若芽(きのわかめ)』ちゃんなのだから!!

 

 

 

 

 







※ 速さは重視しないのと健全なので、スカートはバッチリはいています。

※ 悪しからずご了承下さい。




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499【驚天動地】長い長い悪夢の果て

 

 

 現在の【魔王】は、簡単にいうと意識を分割している形らしい。

 あの大樹に宿り、今まさに破壊を振り撒いているのも、まぎれもない【魔王】メイルスの意識のようだし……今現在魔法使い(おれ)の身体を抱き締めているシズちゃんに入り込んでるのも、分割された【魔王】の別意識のようなのだ。

 

 ……まぁ、おれも似たようなことやってるもんな。現在進行形で。

 

 

 

「というわけで。ヤらせて頂きます」

 

(おのれ……ッ!! こんなモノで!!)

 

「抵抗は無意味だよ。【検索(リブラリア)無境書庫(ウィズダムホルター)】【儀式(アルター)魔法創造(マギアクレートラ)】……完了(ロールアウト)

 

(な、っ!?)

 

 

 

 

 おれが()()ミルさんの魔法を参考に、今この場で作り上げた、対【植生の魔王】専用特効魔法【除草剤(ガンペストリス)】。

 この世界・異世界問わず、植物の生体組織を破壊することに特化させた……使い方を誤れば普通に危険な魔法である。

 

 しかしながら、その魔法を操れるのは賢者(おれ)だけだ。世に出る恐れは無いので、安心してくれたまえ。

 

 

 

(か、身体が……っ!? 何なのだ、これはッ!!)

 

「フェノキシ、ビピリジニウム、尿素、スルホニル尿素、脂肪酸、酸アミド、トリアジン、トリアゾール、ニトリル、ウラシル、カーバメート、アニリン…………他いろんな有効成分を魔法学的に調合し、トドメにミルさんの()()()ヤツ(※塩水)を配合したモノです。……どうです? 効果のほどは」

 

(……ッ!! が、ァ……っ!?)

 

(よくそんな化学知識持ってたな、賢者(おれ)

 

(賢者ですし。わたしはかしこいので)

 

(ぐぬぬ)

 

 

 

 とうの【魔王】(※の一部)はというと……やはりというか、ミルさんの【塩水】を食らったとき以上に効果覿面の様子だった。

 シズちゃんもろとも魔法使い(おれ)の身体を拘束していた赤黒い『繭』は、みるみるうちに痩せ細って乾燥した土色に変わっていき、あちこちにヒビが走り始める。

 

 やっぱり、異世界には科学的な除草剤の(たぐい)は存在していなかったのだろうか。いやそもそも存在していたとしても、到底抵抗(レジスト)できないほどに効果が高い代物だったということだろうか。さすが賢者(おれ)

 

 

 

「いいから……! 早く出して!」

 

「はいはい。今処置に入りますよ」

 

(なに、を…………ッ!?)

 

 

 根が痩せたことで拘束が緩み、やっと身じろぎ程度は取れるようになった『繭』の中で……おれはシズちゃんの身体をしっかりと抱え直し、賢者(おれ)へと()()()を促す。

 

 樹状組織が劣化したことで顔を覗かせた……シズちゃんの腰後ろから伸びる幹の中に隠されていた、赤黒く脈動する【魔王】の核。

 おれの腕の中で『ぐったり』としている彼女に、【魔王】の意識を植え付けている元凶。

 

 

 本来なら魔力を持った者にしか触れることの出来ない、別位相へと巧妙に隠されていた……『悪意の種』へ。

 

 

 

「……返してもらうよ。【除草剤(ガンペストリス)】」

 

「『ッッッ!! あ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!』」

 

 

 

 ほんの一滴。しかしその効果は……おれの腕の中で小さな身体を跳ね回らせる彼女の様子を見るまでもなく、明らかだろう。

 おれたちの身体ごと包み込んでいた『繭』を枯死させる程の【除草剤(ガンペストリス)】を、むき出しの弱点である『核』へと注がれる。

 

 ……例えるならば、体内に直接劇毒物を注射されたようなものだろうか。身体中の生体細胞を一方的に破壊されていくだなんて、到底耐えられるはずも無いだろう。まぁおれ劇毒注射されたことないからよくわかんないけど。

 【魔王】の分体は断末魔の(思念)を上げ、依代とされた少女もまた『巻き戻り』による苦痛と違和感と嫌悪感に絶叫を上げる。

 魂を撫で上げられるような、心の奥底を掻き回されるかのような本能的な恐怖感に……彼女は発声器官の限界を越えた悲鳴を絞り出し、小さな身体を震わせ続ける。

 

 

 

「あ゛ぁぁ、ッ!? ガぁぁあ゛ぁあああ!! っぐグアァあア゛ア゛ァァァぁああ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

 

 

 

 華奢で儚げで幼げな身体には似つかわしくない、まるで悪霊か何かが取り憑いたかのような痙攣を繰り返し。

 瞳はぐるんと裏返り、精緻なワンピースがくしゃくしゃになるのも厭わずにのたうち回り、喉が壊れんばかりの絶叫を上げ続ける。

 

 魔法使い(おれ)が【鎮静(ルーフィア)】を掛けていて尚、この暴れっぷりなのだ。どれ程深くにまで【魔王】の侵食が伸びていたのかは……想像に難くない。

 

 

 しかし……それでもこの暴れ方は、さすがにちょっとばかし不安になってくる。

 【魔王】の分体が枯れ果てて、侵食が巻き戻されて尚『身体』が問題なく生命反応を示してくれていたので、てっきり『意識』のほうも無事だと思ったのだが。

 

 考えたくはないが……もしかしたら、手遅れだったとでも言うのだろうか。

 

 

 小さく幼げな身体に強い意思を秘めた、姉妹想いのお姉ちゃんを……助けられなかったと言うことなのだろうか。

 

 

 

 

 

 

「【落ち着いて(カームダウン)】【もう大丈夫よ(オールレディオーケイ)】【元気になあれ(チアーアップ)】……【実行(エンター)】!」

 

「………………、……!! …………!!」

 

 

 

 暗い予感が脳裏をよぎったおれの横合いから、おれたちのものではない構造の魔法が飛んでくる。

 『他者を思うがままに従わせる』その魔法によって……無理矢理ではあるが、依代とされた少女は落ち着きを取り戻させられていく。

 

 魔法の飛んできたほうへと目を向けると、そちらには……両目いっぱいに涙を湛えた、可愛らしい二人の少女の姿。

 あちこちを土汚れでドロドロにしているけど、二人ともどうやら無事のようだ。

 

 

 仲睦まじい二人の義姉妹……かつては【魔王】に目を付けられて身体を作り替えられ、【使徒】という名の生贄とされる運命にあった彼女たち。

 【魔王】の魔の手から逃れた今、彼女たち本来の『願い』に従い……大切で大好きな『姉』を救うため、尊い決意を漲らせる。

 

 (すてら)ちゃんはなけなしの魔力を振り絞り、つくしちゃんは見覚えのある紙片(タグ)付きポーション瓶を握り締め……(しず)ちゃんを目覚めさせるため、ありとあらゆる手を尽くす。

 

 

 

 

「…………こっちは……この子らに任せて大丈夫そうだね。賢者(おれ)はあっち行ってくるよ」

 

賢者(おれ)がそう言うなら、そうなんだな。……あっちは頼む。(トゥルー)エンドに導いたってくれ」

 

「任せとけよ、魔法使い(おれ)。『神業(カミワザ)』ってやつを見せてやるわ」

 

「期待してるぜ。おれはもうちょっとだけ堪能してから行くわ」

 

 

 

 『しょーがねーな』と言わんばかりの苦笑を残し……『植生』の魔王に対するメタ的レベルな特効魔法を会得した賢者(おれ)は、全てに片をつけるために夜の緑地公園を駆けてゆく。

 

 泣きそうな美少女ふたりと、意識の無い美少女ひとりと共に残されたおれは……健やかな吐息をこぼす穏やかな美少女の寝顔と、ド好み(ストライク)な身体の柔らかさをしばしを堪能させて頂いていたのだが…………。

 

 

 

「…………えっち。…………お金、とるよ」

 

「「!!!!」」

 

「ふふっ。……おはよう、シズちゃん。せっかくだし…………言い値で払うよ」

 

「………………じゃあ…………しょうがない……にゃあ」

 

 

 

 途端に駆け寄ってきたのは……愛らしい目元から大粒の涙をボロボロと溢して唇を震わせ泣きじゃくる、心優しい二人の少女たち。

 

 シズちゃんがその身を呈して守り抜こうとした『妹たち』に、辛く険しい戦いを終え生還した『お姉ちゃん』を預け。

 

 

 

 心優しいエルフの魔法使いは……救われるべき『最後のひとり』を救うための、最後の作戦行動を開始したのだった。

 

 

 



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500【終着】世界はまだ終わらせない




 起死回生の一手を担っていたはずの『私』が……我が使徒【ソルムヌフィス】の中に潜んでいた『私』が、あっけなく死んだ。


 死んだ。……殺されたのだ。

 この【魔王】メイルスの、その一株(ひとり)が。




「行けノア!! ……今ですラニさん!!」

『ッ、だルゃァア!!』



 体表面に毒液を纏った忌々しい海洋生物が、私の()のひとつへと囓り付く。

 動きを強引に止められたその()が、ニコラの振るう剣によって呆気なく斬り飛ばされる。

 身体()のあちこちを毒に侵され、迎撃が間に合わなかったとはいえ……彼の身の丈よりも太い()を、こうも簡単に断ち斬ってくれようとは。


 さすがは【天幻】、さすがはニコラ。

 彼は、強い。本当に……本当に、素晴らしい『勇者』だ。




「やらせねぇよッ! 【戦闘技能封印解錠(アビリティアンロック)】【耐衝撃防御体勢(ランパート)】!!」

「……っ、恩に着る! 【生命(いのち)(はぐく)みし慈愛の海原よ、(わざわい)運びし不浄なる敵を討て】! ぶち()け、【海龍槍(ロングランス)】!!」



 加えて……この世界の原住民から、よもやこれ程までに強力な遣い手が現れようとは。


 あの騒々しい『神』が手を回したのか、はたまたニコラが何か仕出かしたのか……それとも真に素質を生まれ持った者だったのか。

 今となってはその出自を知る(よし)もないが……ここまで圧倒的な力の差を見せ付けられては、もはや『悔しい』という感情さえ沸いては来ない。


 ……あの若葉色の長命種に備え、この身体()には魔法に対する備えを施した筈なのだが。

 その守りの上から、力ずくで押し切られる。あるいは毒を打たれ、抵抗を許されずに穿たれていく。



 私の必死の抵抗も、もはや彼らを害することは不可能と言えよう。

 彼らごときでは私を殺しきれぬと高を括り、この地に根を張り移動を諦めたことが、直接的な敗因だろう。


 【熱線】、【鏃種】、【蔦鞭】、【顎葉】、【蝕花】……私の持ち得るいかなる抵抗も、鎧に身を包み槍盾を構えた()の者を崩すことは出来ない。

 となれば当然、その背後にて護られる水毒の遣い手を止めることなど出来やしない。


 加えて……縦横無尽に駆け回る、あの【天幻】のニコラには……()()()私ごときが敵う筈が無い。



 そうとも。私を護り、育み、知恵を与え、育て上げた彼に……そもそも私が勝てる筈が無いのだ。





(…………ここまで、か。……仕方あるまい)



 最初の頃は、それなりに上手く運んでいた筈だった。


 私が滅ぼした――人間種を絶滅させてしまった――あの世界からこの世界へと、ニコラの魔法を無理やり模倣し無謀な跳躍を試み……奇跡的に成功し。

 あまりにも希薄な、生きていくのも儘ならないほどに乏しい魔素(イーサ)をなんとか工面するため、『種』をばら蒔き。

 私と同様『このまま死ねない』『生きたい』と切望していた『ゴロー』の身体を借り、共犯者として契りを結び。

 帰還のための手段の模索と、労働力の確保を試み……自分達同様に死にかけていた者達を、手駒として作り替え。


 この世界に魔素(イーサ)が満ち、この世界の人々が魔力を備えるまでに進化を遂げ、あの世界でも生きて行ける程にまで仕上がったら……強引な手段を用いてでも、あの世界へと送り込むつもりであった。

 文明が滅びた世界へと送り込み、土地を拓かせ、町を造らせ、生活を送らせ。
 そうすれば、いずれは人々の営みを取り戻させ……かつて飽きもせず眺めていた尊い風景を、取り戻せるはずだった。






 ……だが、そうはならなかった。
 何よりも……『ゴロー』の心が、私から離れていってしまったのだ。


 自分を見捨てたこの世界に未練が無く、むしろ恨んでさえいた筈の彼は……自身を『父』と慕う娘たちに(ほだ)され、彼女らを捨て石とする私の計画に、密かな抵抗を試みていたのだろう。


 恐らくは……手懐けた筈の三人の中でも、群を抜いて聡い【睡眠欲(ソルムヌフィス)】と共に。
 全く、あの二人には驚かされる。よくもまぁ私の目を出し抜いたものだ。




 他の敗因はといえば……今更振り返るまでも無かろう。

 この世界の守り手たる長命種の少女と、()()ニコラ・ニューポートが……何処からともなく現れ、私の前に立ちはだかったためだ。


 責任感の強い彼は、間違いなく私の計画を止めようとすることだろう。
 この世界を犠牲にした『我等の世界の再生計画』など、心優しい彼が到底許容する筈が無い。

 だからこそ私は……たとえ彼に嫌われ、怨まれようとも、自分の力で計画を推し進めるほか無かった。
 彼の生存を、彼との再会を喜びたい本心を殺し……彼の敵となる道を歩む他無かった。



 それも結局は……こうして見事に阻まれてしまったわけだが。

 ……まぁ、仕方のないことだろう。




 親愛なるニコラと彼の仲間達によって、私は今日ここで討たれる。
 私の『罪滅ぼし』は、決して成就することは無い。


 私の傲りで滅ぼされた、私達の世界……ニコラが愛したあの世界は、ヒトビトの営みを取り戻すことは無い。

 文明は儚く崩れ去り、理性に乏しい魔物に溢れ、やがて新たな支配種による社会が形成されていき……かつて『人間』という種が存在した痕跡さえ、いつかは風化していくだろう。




 ……だが。その代わり。
 以前とは似ても似つかない可愛らしい姿で、生き生きと楽しそうに第二の平和な人生を歩もうとする彼に……最期に、大きな『花』を持たせることくらいは、出来るだろう。


 この世界を(おびや)かす最悪の植生。
 この世界に住まう人類全ての敵。
 恐怖と絶望を振り撒く侵略者。

 そんな【魔王】を討ち取った『勇者』ともなれば……この世界における彼の『勇者』としての名声は、間違いなく高まるはずだ。





「っ!? ラニさん! 恐らくアレが急所です!」

『!! なるほどね、っ!』

()じ開けろ! ノア!!」

『貰ったァァ……ッ!!』




 『君の世界を元通りに直す』という夢は、どうやら叶えられそうもないけれど。

 もうひとつの……『君に恩を返す』という夢は、どうやら叶えられそうだ。



 ベートゥラ。ローウィン。ウィルロー。ホースロン。カルヴァロ。アヴェレイア。ヴィナハ。マシア。ファル。
 先に散った彼らは――私が死に追い遣ったかつての同胞たちは――まだ私のことを、覚えてくれているだろうか。
 まだ私のことを……恨んでくれているのだろうか。

 許しは乞わぬ。詫びもせぬ。……気の済むまで恨み、呪ってくれ。



 そして……我が父、我が師、我が友。
 親愛なる【天幻】、ニコラ・ニューポート。



 どうか……どうか、末永く壮健で。



















 

 

 

 

 

 

 理屈としては理解している。既に幾度となく、イヤというほどに目にしてきたのだ。

 

 あの『種』による寄生・侵食作用を逆手に取り、今このときに限ってはむしろその作用を助長させる。『バッチコイ』ってしてやるわけだな。

 培地とするのはほかでもない、叡知を司る万能の美少女エルフ魔法使い木乃(きの)若芽(わかめ)ちゃんの、なんと三人に増えたうちの一人こと賢者(おれ)だ。特別だぞ。

 

 

 ギリギリで割り込んだおれの制止を受けて、全身全霊で急制動を掛けたラニによって……かろうじてド真ん中をブチ()かれる結末は免れた【魔王】の『核』。

 今まさに消え行こうとしている()()に、こちら側から逆に無理矢理アクセスを試みる。

 

 膨大な魔力を物質化させて人の形を作った賢者(おれ)ではあるが、そこにインストールされた『意識』はあくまでも、コピー元である魔法使い(おれ)の並列思考を当て嵌めているだけだ。

 他の『若芽ちゃん』とは完全に分割されているし、なんなら『若芽ちゃん』の意識だけを回収することだって出来るわけで……つまりは、魂の無い『容れ物』を用意することだって出来るわけだな。

 

 あとはこの……全てを諦めきって、今にも無に還ろうとしている【魔王】……いや、『メイルス』の意識を無理矢理ふん縛って取っ捕まえて、賢者(おれ)の意識もろとも『容れ物』に定着させる。

 『メイルス』の意識がどれだけ残っているかが成功の鍵であり、既に跡形もなく崩壊してしまっていたら……当然、彼を掬い上げることは出来ない。

 

 

 

 だが……しかし。ここはこの世ならざる異界、【隔世(カクリヨ)】の結界内だ。

 『神秘』に対する懐の深いこの環境ならば……たとえ肉体を失い、魂だけの存在となったモノであっても、暫くはその存在を留めていることさえあるという。

 

 それこそ……怪談なんかでお馴染みの幽霊(ユーレイ)さんなんかは、普段は【隔世(カクリヨ)】に住んでる彼らがふとした拍子に現世へと現れてしまったものなのだとか。

 

 

 

 まぁ要するに、だ。

 この【隔世(カクリヨ)】を解消してしまわなければ、勝算は充分にあるということなのだ。

 

 

 観察力や洞察力、思考力に応用力などなど……もともと賢い魔法遣い(おれ)よりも数段賢い『平穏を乞願う賢者(ウォースパイト)』であれば。

 

 おれと『縁』を結んだ朽羅(くちら)ちゃんを介して間借りしている、ヨミさまの『全てを見透す眼』の加護があれば。

 

 今現在この地に居らずともおれたちを包み込んでくれている、モタマさま直々の『温かな祈りの力』があれば。

 

 いつもいつでも自信満々なフツノさま譲りの、ここ一番での『勝負強さ』と強力な『自己肯定』の激励があれば。

 

 

 わたしの持つ『全てのひとを笑顔にする』設定(祈り)によって……みんなが笑っていられる、望み通りの結末を掴み取ってみせる。

 

 

 

 

 わたしは、人々に『しあわせ』と『たのしい』と『うれしい』をお届けする……この世界を絶望から遠ざけ、悲嘆と絶望を否定する叡智のエルフであり。

 

 この世界唯一の魔法情報局『のわめでぃあ』の、泣く子も笑う敏腕局長『木乃(きの)若芽(わかめ)』なのだから。

 

 

 

 

 

 

 



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ハロー・ワールド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 特定害獣種別、第二種……通称【四脚種】。

 

 僕達が対処を委託されている侵略性有害生物類の中では、最も格下といえる相手だ。

 

 

 

 動きが緩慢であり危険な武器を持たない、しかし頻度と数がそこそこ多い【人形種】は、専門の訓練を修めた現場の警官が対処することとされているが……一方で、この【四脚種】ならびに【有翼種】、そして【幻想種】に関しては、一般の警官にとってはさすがに手に余る相手であろう。

 

 よって、今回のように【四脚種】以上の害獣が出現した際は、専門の駆除業者である()()にお鉢が回ってくるというわけだ。

 

 

 

 

 

 

「……イチキューサンマル。『しろしば組』駆除終了」

 

「はい記録完了、オッケーです。ちなみに『ヒトキュー』ですよ隊長。ヒトキューサンマル」

 

「いいじゃないですか、別に自衛隊じゃないんですから。損耗特に無いですよね?」

 

二挺木(ニチョウギ)、大丈夫です」

 

三河(ミカワ)、ノーダメです」

 

「…………一法師(イッポウシ)、問題無し。帰還申請を」

 

「もうやってまーす。……あーよかった、なんとか『生わかめ』間に合いそうですね」

 

「よりにもよって金曜夜ですもんねぇー」

 

 

 

 

 不安や恐怖や絶望や怨恨などなど……人々の『負』の感情は、積もり重なれば『魔素』を取り込み、特定害獣こと『魔物』を受肉させる。

 

 『魔素』と呼ばれる不可視の、しかし確かに存在している新エネルギーが溢れた現代の日本では……それを用いた全く新機軸の技術が生活を潤す一方、先述の『魔物』の出現と対処がひとつの社会問題となっていた。

 新たなる産業革命を迎えた日本における、現代版の『公害』とも言えるのかもしれない。

 

 

 

 そんな『魔物』から一般市民を守るのが、警察機動隊や僕達の仕事だ。

 とある『謎多き美少女エルフ』や『全身甲冑の騎士』や『赤髪の美少女学者』ら有識者達によって、出現予測や訓練、専用装備品の開発・導入などが行われ、少しずつ体制は整えられているが……やはりまだまだ、一般人に任せるには至らない。

 

 僕達のように()()()()()で『魔力』を得、あの不気味な『魔物』に耐性を持つ者たちが『駆除業者』として奔走して……『どうにかこうにか被害を食い止めている』というのが現状である。

 

 

 

 対策が進められたとはいえ、やはりそれなりに危険もあるし、夜勤や急な呼び出しも有り得る業種ではあるのだが……その一方で幸いなことに、待遇は非常に良いのだ。

 残された住宅ローンの繰り上げ返済も順調だし、それに基本的には一日出れば二日は休みだ。ごく稀に急な招集が掛かることもあるが、それを差し引いても充分な余暇を満喫できる。

 

 シーズンともなれば、竜王だろうと白馬だろうと斑尾だろうと、毎週のように泊まり掛けで滑りに行けるのだ。

 

 

 

 ……それに。何よりも。

 

 

 

 

「やっほー『しろしば組』の諸君、お迎えに来たよ! さぁ帰ろうぜ!」

 

「お疲れ様です、ラニさん」

 

「「お疲れ様です!!」」

 

 

 

 急な呼び出しや、夜勤だって有り得る業務だが……こうして()()と言葉を交わし、労ってもらうことが出来るのだ。

 

 本当に……素晴らしい待遇の職場だと言わざるを得ない。

 

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

 

 浪越市南区の詰所へと一瞬で帰還し、おさげ髪が可愛らしい和服姿の事務スタッフへ報告を済ませ、既に出勤していた夜勤担当の『くろねこ組』にも引き継ぎと挨拶を済ませ……本日の業務を全て終えた僕は、一人職場を後にする。

 

 

 同じ『しろしば組』の若者二人、元百貨店販売員の二挺木(ニチョウギ)と、古参の『視聴者』らしい三河(ミカワ)は……どうやら『くろねこ組』の面々――三河(ミカワ)の友人である四谷(ヨツヤ)五島(ゴトウ)六郷(ロクゴウ)――と一緒に、詰所のテレビで()るつもりらしい。

 

 それも悪くはないのだが……どちらかというと僕は、自宅で誰にも邪魔されずに一人で観るほうが好みなのだ。

 自然と漏れてしまう声や吐息、ツッコミや笑い声を我慢しなくて済むし……自分のPCからのほうが、コメントもお布施(スパチャ)も投げやすい。

 

 

 

 車を三十分も走らせれば、まだ真新しい自宅へと辿り着く。

 地下鉄を使えばもっと楽に、そして安全に通勤できるのだろうが……あんな乗り物、好き好んで乗る気には到底なれない。

 

 僕が自宅へと辿り着き、仕事終わりのシャワーを浴びて、軽く食事を摂って視聴準備を済ませれば……あっという間に時刻は二十一時。

 僕達の()()であり、かけがえのない()()の、待ちに待ったライブ配信が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 …………の、だが。

 

 

 

 

『ヘィリィ! こんばんわっす! ……えーっと……魔法情報局『のわめでぃあ』、定例配信のお時間がやって参りましたァー! 本日の進行はわたくし、実在仮想(アンリアル)褐色美少女エルフイラストレーターおじさん、『木乃(きの)初芽(はつめ)』とぉー?』

 

『ご機嫌うるわしうございまする! 超絶大人気(だいにんき)愛され美少女、かわいいかわいいうさぎちゃんアシスタントの朽羅(くちら)にございまする!』

 

『調子に乗るな尻軽兎めが。……ぎじゅつあしすたんとの(なつめ)である』

 

 

 

 どうやら……我らが局長は、今日も多忙であるらしい。

 

 

 

 

 

 








 『しろしば組』を詰所へと送り届け、ひとごこち着いたと思ったら……今度はなんと久しぶりの『第二警報』ときたもんだ。

 ノワは開局一周年記念『生わかめ』直前準備の真っ只中だし、ミルちゃんは確か他配信者さんとのホラゲーコラボだというし……ならばボクが一肌脱ごうかと思っていたら、なんとノワが行くって言い出したもんだからさぁ大変!
 ……まぁ、そんな言うほど大変じゃないんだけどね。コトバノアヤってやつ。

 一周年の節目のたいせつな配信だし、大事をとって待機してた方がいいんじゃないかと思うんだけど……どうやらノワの決意は固い様子。
 まぁ、モリアキ氏とナツメちゃんをお留守番に置いておけば、万が一『ヘィリィ!』の時間までに戻ってこれなかったとしても、なんとか繋いでくれるだろう。


 とにかく、妙にヤル気満々の我らが局長。
 なんでも……今日が『記念すべき開局一周年』であること、また今日お呼びしている特別ゲストの正体が正体なだけに、珍しくハチャメチャにガッチガチに緊張しているのだとか。
 だから軽く身体を動かしてスッキリさせて、気分転換を図りたい……ということらしい。

 それにしても……気分転換に異能者の対処だなんて、さすがノワ。強者のヨユーというかなんというか。
 とにかく、『おそとに出たい!』と駄々こね始めたノワと、ノワが『いっしょじゃなきゃやだ!』と駄々こねて巻き込んだキリちゃんを引き連れて、ナミコシのチューオークの現場へと急ぐ。




 そうしてこうして、適切に『おつとめ』を果たしまして。
 細かいとこは割愛するけれど……ノワがお調子に乗ってしまったせいで色々と危ないところだったものの、なんとか大事にならずに済んだわけだ。


 それにしても、今回の『保持者』……いつものパターンに当てはめると、回復後に『ぽかぽか清掃社』の実働要員として勧誘したいところなのだが……今回ばかりは秘めたる『願い』が『願い』だ。しばらく観察する必要もあるかもしれない。


 そんな感じの後始末とか、『対策室』への報告や『保持者』の引き渡しとか、被害に遇った女の子(なんとノワの視聴者さんだった)のアフターフォローとか、オウチまで送ったりだとか……そうこうしているうちに、無情にも時計が二十一時を告げる。

 こんなこともあろうかと、モリアキことハツメちゃんやお調子者のクチラちゃんに、進行MCを教え込んどいてよかった。



 ……まぁ、それはそれとして。



「……はい! 改めましてこんばんわヘィリィ親愛なる視聴者の皆さん! ……へへ…………まさかの前スケが押してしまいまして! 大変ご迷惑をお掛けしました!」

「オッ、じゃあ勝負はここまでっすね。……というわけで緊急企画『どうぶつお絵描きクイズ』、勝者は…………圧倒的っすね。(なつめ)ちゃんっす」

「ふふん、当然よな」「そんなぁーー!」

「場繋ぎありがとねハツメちゃん! 記念すべき開局一周年生配信に遅刻(やらか)したノワには、ボクのほうからきつーくオシオキしとくから!」

「そんなあ!!?」



 お調子に乗って出しゃばった挙句、優先スケジュールをすっぽかしたどこぞの局長には……存分に『おしおき』されてもらうけれど。








「……ではでは、わたしは『おしおき』が気が気じゃありませんが…………気を取り直して、そろそろゲストさんをお招きしてみましょうか! 今日のゲストはですね、あの、ほんと、もう……すごいんですよ。世界的有名人ですよ!」

「勿体つけないで早く。既に時間めっちゃ押しちゃってるんだから」

「わ、わたしのせいじゃないで……あっ! いえ、あの! あれは不可抗力でして……あぅぅ、釈然としませんが…………こほん。

 ……えー、気を取り直して……それでは、お招きさせていただきます! 本日のすてきなゲスト! 魔素(イーサ)研究の第一人者にして、才色兼備のスーパーキャリアガールにして、特定害獣対策室首席研究者にして、物質魔科学のエキスパート! そして遺憾ながらわたしよりもかしこい!」



 あの日から……世界は、ニホンは、ちょっとだけ変わってしまったけど。

 ボクたちの夢は。願いは。基本方針は。
 一人でも多くの人々を笑顔にする、という『のわめでぃあ』の存在意義は……決して変わることはない。




「人呼んで【(キングオ)(ブマギア)(クラフト)】! 『はじまりの救世主』こと……プリミシア・セルフュロスさんです! どうぞ!!」





 ボクらとノワの挑戦は。
 ちょっと(いびつ)で、とても楽しいこの世界は。


 どこまでだって、続いていく。






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はじまりの救世主

 

 

 役目を終えて散る直前、ひときわ鮮やかに色付く木の葉のような、赤々とした長い髪。

 

 整った顔つきと綺麗な目鼻立ち、日本人離れしたその容姿に、常に楽しそうな微笑を湛え。

 

 日本はおろか、世界じゅうを揺るがす世紀の大発見……『異世界』ならびに『魔素』研究の第一人者。

 

 革新的な新技術・画期的な発明を数多く世に送り出した、キングオブマギアクラフト……【魔王】プリミシア。

 

 

 

 えーっとですね、恐らくもうお理解(わか)りだと思いますが。

 

 

 

 

 

「ふふふ。そんな熱い視線を向けないでくれたまえ。……惚れてしまう」

 

「………………ッス」

 

 

 

 

 ええ……【魔王】メイルス(のなれの果て)です。この娘。

 

 

 

 

 十月一日未明の、この世界の常識がまるっと更新されることになる大事件……誰が呼んだか『世界の始まりの日』。

 ……まぁ、確かにデッカイ樹の下だったからな。命の樹かどうかはわからなかったけど。あと聴こえたのは(くじら)たちの声の残響じゃなくて空飛ぶ(サメ)の唸り声だったけど。今はどこをさ迷い行くんだろうな。

 

 

 都心の緑地公園……日頃から利用者も非常に多いだろう合歓木(ねむのき)公園内に、一夜にして突如出現した異色の大樹。

 『核』であったメイルスが()()()()()以上、アレはもはや生命活動を停止させた『脱け殻』でしかないのだが……この世界のいかなる植物とも特徴を異とするあの大樹を巡って、それはそれは賑やかなことになりまして。

 

 世間では様々な憶測や陰謀論が飛び交い、テレビは毎日のように喧々囂々(ケンケンゴーゴー)の大騒ぎな日々だったわけですが……まぁ、およそ三ヶ月も経てばなんとか落ち着いてきましてですね(※落ち着いたとは言っていない)。

 

 

 

 フツノさまたちがバチバチにやり合っていた出雲の神様も、またその場に居合わせた全国各地の神様も……こんな事態ともなれば、さすがに重い腰を上げたようで。

 長ヶ田町(ながたちょう)のあちこちに配されている引退神使(コネクション)を最大限に活用し、どうにかこうにか沈静化に漕ぎ着けたようです(※沈静化したとは言っていない)。

 

 

 まぁ、『沈静化した』というよりかは……どちらかというと『それどころじゃなくなった』と言ったほうが、表現としては近いかもしれないけど。

 

 

 

 

「いやいやいや……しかし、お招き戴いたのは初めてだがね。噂に違わず、なかなかに素晴らしい住環境ではないか。静かで、広く、設備も整い、おまけに植生も濃い。……羨ましい限りだ」

 

「え、なん…………噂って、どこの……あぁ、(すてら)ちゃんとつくしちゃんですか?」

 

「それもあるが……どちらかというと、『対策室』の面々かね。あとは『研究室』」

 

「おフぁ……!?」

 

 

 

 あのとき……おれの分身(オルター・エゴ)の一人であった『賢者(ウォースパイト)』を核として、崩れそうだった『メイルス』の意識を自身と合一化・定着させるという『神業(カミワザ)』を見事に成し遂げ……こうして誰一人として喪うことなく、みごとに場を収めてみせたおれ。

 

 その結果として誕生したのが……日本国ならびに全世界へ向けて『異世界存在論』を提唱する、謎の赤髪美少女学者『プリミシア・セルフュロス』さんなのである。

 

 

 以前の『植生の【魔王】』としての権能は、多少劣化し(零れ落ち)たらしいけど。

 おれの持つ現代知識と『賢者(ウォースパイト)』としての思考能力を兼ね備えた彼……いや()()は、魔力で作られた『賢者(ウォースパイト)』の仮初の身体を『植生』の能力(チカラ)で受肉させてみせ、おれからの魔力供給を得ずに、かつ【隔世(カクリヨ)】外でも活動できる身体を得たのだった。

 

 

 

「いやほら、何。私は『契約』上、あまり()(まま)を言い難い立場だからね。大手を振って合法的に外出が叶う今日のことを、それはそれは楽しみにしていたわけだよ」

 

「合法的に」

 

「なので……折角の、久方ぶりに手に入れた『羽根を伸ばせる』時間だからね。心行くまで楽しませて貰おうかと」

 

「…………もう! 無下に扱えないじゃないですか!」

 

「はっはっは」

 

 

 

 

 彼女が新たな身体を手に入れてからというもの――まぁ話せばとてもとても長くなるのだが――紆余曲折、いろんな涙と笑いと涙のお話がありまして。

 結果『メイルス』改め『プリミシア』さんは、かつての自身が引っ掻き回してしまったこの世界への償いと自身の『願い』のために、誠心誠意働いてくれることになった。

 

 そこに至るまでには、ラニの……いや、ニコラさんの説得があったことは、想像に難くないだろう。

 他者を(おもんぱか)り、足並みを揃え、助けを求めることを学んだ彼女は……今度はちゃんとみんなの意見を聞き、ちゃんとみんなに助けを求めた上で、満を持して『とある計画』をふたつ、打ち出してきた。

 

 

 

 それすなわち……『魔法産業革命』と、『異世界開拓計画』。

 

 唯一無二の知識と技術をもって、その荒唐無稽にも見える二つの計画を積極的に推進し、あまつさえ様々な『結果』を残している彼女は……世界じゅうが今もっとも注目しているガールオブザワールドすごいパーソンといっても過言ではないのだ!

 

 

 

「いやぁ、リヴィ…………失礼。ステラやツクシが興味を抱いていたのは、情報として知っていたつもりだったのだが……なるほど、『配信』か。……こうして実際に体験してみると、なかなかに興味深いものだね」

 

「それはそれは…………まぁ、楽しんで頂けたようで……何よりです」

 

「あっはっはっは。…………いや、すまないね。()()やり過ぎた自覚はあるんだ。何故だろうね、『配信中』の私は何処か()()()()()ていた自覚はある。……奇妙な高揚感、とでも表現しておこうか」

 

「アレを『少々』と言い張るあたりは『さすが』と言って差し上げたいですが…………やっぱ、『核』になった賢者(わたし)の影響なんですかね?」

 

「恐らくは、ね。君の存在そのものを形作る『祈り』が、受肉を果たした私にも影響を与えたか。……実に興味深い」

 

 

 

 ひょんなことから、おれたちのチャンネルの生配信に特別(スペシャル)ゲストとしてお呼ばれしてくれることになった、今をときめく超有名人である彼女(プリミシア)

 日頃のストレスを発散、というわけでは無いのだろうが……普段の知的で大人びた言動とは打って変わって、少女らしい言動で周囲を騒がせていた。

 

 より正確に、詳細にお伝えしますと……霧衣(きりえ)ちゃんや(なつめ)ちゃんや朽羅(くちら)ちゃんや、そしてあろうことかおれ(若芽ちゃん)モリアキ(初芽ちゃん)に対して……ものすごく、あの、えーっと……グイグイ来たのだ。……いろいろと。

 

 

 

 

「まぁ私が思うに……恐らくは『性的な趣向』も、少なからず引き摺っているようだね」

 

「あーやっぱそうなりますかァー……! アァーー!! うがァーー!!」

 

「はっはっは。……そう悲観することでも無いだろう? 私は()の一側面を継承しているということは、だ。……君の懸念を払拭することにも繋がるだろうに」

 

「…………まぁ、そうですね」

 

 

 

 現在の『プリミシア』さんは……『核』となったおれの知識や記憶や能力の一部や、趣味趣向をある程度引き継いでいるのだという。

 

 それはつまり、おれの行動理念……いわば『願い』も、少なからず引き継いでいるということでもあって。

 

 

 精霊の愛し子、神秘の民、幼くも高潔な心を抱いた長命種。

 平和と静穏を愛し、不幸を見て見ぬ振りなど出来やしない。

 全ての人々に夢と希望を与える。そのための苦労は厭わない。

 

 そんな設定(願い)を少なからず引き継いだ……正しく、温かく、清い心を持った植生種の少女。

 それこそが、今の彼女なのだ。

 

 

 

「……改めて、宣言しておこう。……私は、私の持つ知識と技術その全てを、この世界のために用いよう。親愛なるニコラと、他ならぬ君と、君の大切な者の住まうこの世界のために…………我々の世界のために動いてくれる、この世界の皆のために。……私はこの身を、喜んで捧げよう」

 

「それが……今のあなたの『願い』なんですね?」

 

「あぁ、その通りだ。今の私の願いでもあり、『メイルス』の最期の願いでもある。……ふふ。一度は諦め、()てた命だ。生まれ変わったつもりで、有効に使わせて貰うよ。『モッタイナイ』というやつだ」

 

「…………素晴らしい概念ですよね」

 

「ははっ! 違いない。その通りだとも」

 

 

 

 かつてこの世界を脅かし、常識をぶち壊し、大混乱に陥れた 【魔王】メイルスは……もうこの世に存在しない。

 ここに居るのは『メイルス』の記憶と願いを引き継ぎつつも、他者との調和と対話の重要性を学び、おれと同様この世界の幸せを願う……プリミシア(はじまりの救世主)の名を授かった、新たなる【魔王】だ。

 

 

 これから変革を迎えていくこの世界が、おれや彼女を裏切ることがない限り。

 この世界の発展と進化が、彼女やラニの生まれ育った世界の再生に貢献してくれる限り。

 

 人類(おれたち)の友人となった、心優しい【魔王】は……いつだって力を貸してくれることだろう。

 

 

 

 

「……ときに我が盟友よ。君の土地には存分に水浴びの出来る水場があると聞いたのだが……私はいつ使わせて貰えるのだね? 『撮影』すれば投資(スパチャ)が増えるのであろう?」

 

「いま真冬ですよ!? もうすぐ大晦日ですよ!? それにあなたそんな暇じゃないでしょう!? 『ニチアサ計画』と『異世界フィルター』と『レベルアップ概念』の草案は出来たんですか!?」

 

「当然だとも。『賢者』たる私の叡知を()めないでくれたまえ。フィルター候補地のリストアップと各種数値の測定結果、簡単ではあるが私の所見と併せて纏めてあるとも」

 

「……………………ちょっと見せてもらってもいいですか?」

 

「構わんとも。……是非意見を聞きたい。(そもそも)がその名目で無理矢理『外泊許可』をもぎ取ったのだからね」

 

「なるほ………………え? 『外泊』?」

 

「うむ。『外泊』だ」

 

「は???」

 

 

 

 

 前【魔王】が無茶したおかげで、未だに各地で頻発している『魔物』被害に対する打開策。

 

 彼女たちの『異世界』を本格的に開拓していくにあたっての、調査坑兼安全設備の設計案。

 

 常識が書き換わってしまった現代を、人々が生き抜くために必要な『力』を身に付ける手法。

 

 

 彼女がいま精力的に進めているそれらは、いずれも『新たなる世界』に必要なものだ。

 それら計画を推し進めるにあたり、彼女が相談を持ち掛けられる相手なんて……世界広しといえども、おれたちしか居ないだろう。

 

 各研究期間や、古今東西のメディアや、政府関係者との会談などなど……表に出られないおれたちの代わりに、彼女が矢面(やおもて)に立ってくれているのだ。

 その恩は、返さなければならない。

 

 

 

「……はぁ…………霧衣(きりえ)ちゃんに『晩ごはん一人分多めに』って伝えてきますね。……もうすぐラニも『送迎』から戻ると思うので、したら資料見せてもらいます」

 

「ダシマキを頼むよ。彼女のダシマキは至高だとニコラが絶賛していたのでね」

 

「わかりましたけど……お布団は自分で敷いてくださいよ?」

 

「心得た。……お風呂は一緒でも構わないだろう?」

 

「ダメです!!」

 

「つれないなぁ」

 

 

 

 

 大っぴらにできない『裏稼業』は、今後に向けて考えなきゃいけないことも多いし……一方で、とうとう念願の金枠(ゴールド)入りを果たした『本業』のほうも、決して疎かにするわけにはいかない。

 

 どっちもがんばらなきゃいけないってぇのが……世界の守護者たる『勇者』一味、かつ新人の超一流(?)配信者(キャスター)の辛いところだな!(つらくない)

 

 

 

 









長らくここまでお付き合いいただき






本当に、

本当にありがとうございました。




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【大晦日】もうすぐおめでたいからおめでたい記念配信するよ【新年秒読み】



気がついたらあと1か月そこらで今年おわるじゃん……





 

 

「ヘィリィ! ご機嫌よう! 親愛なる視聴者の皆さ多くない!? 待って、まって、ひと多くない!? ちょっと!?」

 

「そりゃー告知バッチリだもんねー。……というわけで! 超有能実在仮想(アンリアル)アシスタント妖精(フェアリー)配信者(キャスター)、もはやシラタニと呼ばれることが絶無になったラニだよー! そしてぇー?」

 

「はいっ! おうちでは皆さまのごはんとお洗濯、そして『わうわう』担当の霧衣(キリエ)に御座いまする!」

 

「に。おうちではお掃除と、愛玩動物(ペット)の駄兎の(しつけ)……あと『にゃうにゃう』担当、(なつめ)である」

 

「おうちではお昼寝と味見と『ゆーすく』の調査とお昼寝と、あと『きゃるきゃる』担当! かわいいかわいい朽羅(くちら)に御座いまする!」

 

「今日は機材係なんで、声だけで失礼しますね。広報およびおじさん担当の初芽ちゃんっすよー」

 

「…………き、局長にょ、木乃若芽(きのわかめ)、でヒュっ!」

 

「どうして今さら噛むのさ……」

 

「だ、だってぇ!!」

 

 

 

 おひさしぶりです。親愛なる視聴者の皆様。泣く子も笑う金枠(ごーるど)配信者(キャスター)『のわめでぃあ』、今年最後(※作中時間)の配信のお時間がやって参りました!

 

 ほんじつはですね、なんとわたしたち『のわめでぃあ』がですね……先日から度々アピールしてきましたが、なんと登録者数がついにねんがんの百万人を達成しましてですね!

 つまりはですね、本日はいわば『金枠(ゴールド)』記念配信というわけなんですよ! とてもうれしい!

 

 

 世間は早いもので、あと六時間も後には新年を迎えようとしていまして。

 つまりはですね、今回はなんと『百万人記念配信』と『年越し配信』を兼ねてしまおうという、たいへん手抜き……もとい、おトクな配信をお送りしようという魂胆なわけなのですよ!

 

 

 チャンネル登録者百万人到達自体は、ありがたいことに数週間前には達成していたわけなのですが……なんというかですね、オフレコになるのですが()()()()()忙しくてですね、なかなかお礼配信のチャンスを作りづらくてですね。

 

 しかしながら、年越し配信はおれが是非ともやりたいと思っていたことだったので――去年は鶴城さんで巫女さん助勤(アルバイト)してましたので――どうせやるなら重ねてしまおう、さすがに年末年始くらいはゆっくりしても許されるだろう……という経緯から、本日の特大配信スケジュール開設へと至ったわけでございます。

 

 

 

 まぁつまりは……今日くらいはめいっぱい楽しんじゃおうぜ、ってことなんですな!!

 

 

 

「本日は年の瀬のお忙しい中、みなさん本当にありがとうございます! ……こんなにもたくさんの皆さんに遊びに来ていただけて、『のわめでぃあ』一同とてもうれしく思います!」

 

「そう、もう年末なんすよねぇ…………コミフェス行った人どうでした? 後でオレのSNS(つぶやいたー)に戦果送ってほしいんすけど……わかめちゃんのエッチブックありました?」

 

「ほグゥーーーー!!?」

 

「年をまたぐ瞬間は、みんな忙しいだろうし……なので他のヒトを巻き込める企画は時間あるウチにやっときたいよね。……というわけで! さっそくだけど始めちゃおっか!」

 

「ま、まって、わたしはまだエッチブックのショックからかいふくしてな…………ま、まって! 早い早い早い! ちょ、コラッ誰ですか発信しまくってる困ったさんは!? まだ受付開始してないでしょお!!」

 

「じゃあ開始しちゃおっか。ハイ(とつ)待ち開始しまーすノワの連絡先知ってるヒトお待ちしてまーす」

 

「開始する前からすごく着信(リンリン)してたんですが!?」

 

 

 

 そうそう……こういうの。配信者(キャスター)さんたちが節目の登録者数達成したときの、お約束みたいなの。

 ずーっと憧れてた。ずーーっと夢見てた。その光景が今まさに、目の前で繰り広げられようとしてるのだ。

 

 ほかならぬおれの手で始めた、おれたちの放送局(チャンネル)で。

 そんなの……嬉しいに決まってる。

 

 

 

 

 

『あんなに熱い一夜を過ごしたのに! ぼくのことは遊びだったんですね!?』

 

「語弊がありますしまずは名乗ってください!! あと領主キャラどこ置いてきたんですか!?」

 

「み、みるくどの! みるくどのであるか!」

 

『えっへへぇー! そうですよ(なつめ)ちゃん! また今度まぐろ持ってきますね! ……領主キャラはですね……ほら、今更っていうか』

 

「諦めないでくださいよ! わたしはミルさんの領主様キャラかっこよくて好きですよ!?」

 

『おフッ!? ……まぁ、褒められて悪い気はせぬな。余は実在幻想(ファンタジー)水底領主配信者、イシェル家当主、ミルク・イシェルである』

 

「はい自己紹介ありがとうございます! お客さま記念すべきお一人め! 『にじキャラ』Ⅳ期生【Sea's(シーズ)】より、最近キャラがぶれまくってる『ミルク・イシェル』さんです!」

 

『わかめさんに言われたくはありませんが!』

 

「口調」

 

『ぬ、ぐ…………ひ、卑怯であるぞ!?』

 

「がはは」

 

 

 

 配信者(キャスター)さんがよくやる『(とつ)待ち』配信では、通話を繋いでくれたお客様と『どんなお話をするのか』等のトークテーマを纏めた、俗にいう『デッキ』というものを組んで臨むことが多い。

 当然今回のおれもご多分に漏れず、おれだけじゃなく霧衣(きりえ)ちゃんたちみんなも巻き込んで『こんなお話をしたい』といった内容を(あらかじ)め用意していたのだ。

 

 

 ……というわけで、さっそく新アイテムをご紹介しましょう。

 

 セッティング担当の初芽ちゃん(モリアキ)が用意してくれたのは、壁に立て掛けるように設置された巨大な円盤。

 表面にゴム質のシートが貼り付けられ、そのド真ん中には釘が打たれ、その釘から周囲へ向けて放射状に直線が伸ばされた……まぁもういいか。ルーレットですわ。

 ちなみにこちらの大道具ですが……例の番組の動画を見せて『こんな感じで』とお願いしてみたところ、天繰(てぐり)さんたちがほんの三日そこらで仕上げてくれました。『おにわ部』パネェ。

 

 

 

「じゃあ霧衣(きりえ)ちゃん、お願いね」

 

「はいっ! ご期待に応えてご覧にいれまするっ!」

 

「アーカワイイ!」

 

 

 壁際に立て掛けられた巨大ルーレットが勢いよく回され、某車種名(パ◯ェロ)を連呼する独特な掛け声と共にドラムロールのSE(効果音)が鳴り響き……棒手裏剣あらため競技用のちゃんとしたダーツを手渡された霧衣(きりえ)ちゃんが、気合い充分のお顔(かわいい)で(マト)と相対する。

 

 果たして、彼女の可愛らしいおててから(多分に手心を加えられて)放たれたダーツは、幸いにもタワシ……もとい(マト)を外れることなく、細長い扇型に区切られた(マト)の一部へと突き刺さった。

 

 

 霧衣(きりえ)ちゃんが見事に射抜いたダーツの(マト)、そこに書かれていたものとは。

 

 

 

「…………えー、あの、えっと…………」

 

「はわわわわわわうわうわう」

 

「いきなり引いちゃったかぁ。…………『今日のパンツの色』……なん、です、けど」

 

『パンツですかぁ……黒ですねぇ』

 

「おフッ!? え、ちょっ!?」

 

「わ、わうぅぅぅぅ!!?」

 

『いえ、その……わかりますよ? ぼくってばイメージカラー真っ白ですし、突っ込みたいのもわかりますけど……』

 

「う、うん、まぁミルさんといえば白っていうイメージはあるんですけど、あの、でもですね、」

 

『そうなんですよ。でもですね、ボクサータイプで白いパンツってなかなか無くてですね、売ってるの大抵黒とかグレーとかが多いんですけど、』

 

「そこじゃないんだよなあ!!!」

 

『トランクスタイプだとやっぱほら、心許ないんですよ。不安定っていうか、ぶらぶらっていうか。だからといってブーメランはさすがにどうかと思いますし、なのでボクサータイプの』

 

「ま、まって! 待って! 待って!? 一旦落ち着いてくださいミルさん!! これ以上はわたしが事務所(にじキャラ)さんに怒られてしまう!!」

 

『じゃあ帳消しにしましょう。わかめさんの今日のパンツは何色なんですか?』

 

「ライトブルーです! ………………ちょっと!?」

 

霧衣(きりえ)ちゃんは?』

 

「は、はいっ! さくら色で「わあああああああ!! ンナアアアアアアアア!!?」

 

『ごちそうさまです!!!』

 

「ちょっと!!!?」

 

 

 

 けらけらと悪びれた様子もなく笑っている、公私共に非常に懇意にさせてもらっている配信者、ミルク・イシェルさん。

 自信満々に『今のでお咎め無しですよ』なーんて言っちゃってる彼だが……おれと同様リアル受肉を果たしてからというもの、随分とオープンな性格が(あらわ)になってきていたりする。

 

 以前の彼は、『領主』として(のキャラクターを演じて)振る舞わなきゃならない重圧(プレッシャー)によって、どちらかというと控えめでおどおどした性格だった。

 しかし……ほんにんの言葉を借りる限りでは、『若芽さん(おれ)』という理解者を得たことで自信に繋がった、ということらしく。

 

 特にここ最近は……もはや『男の娘』としての()()を隠そうともせず、平然と下ネタコメントを拾ってみたり、このように際どいラインを攻めてみたりとやりたい放題である。

 それがまた男性視聴者さんたちに大いにウケてましてですね、清楚で可憐な見た目(とお声)とちょっとエッチな本性とのギャップが新たなファンを獲得しているらしい。

 

 

 

「こ、この話題は危険です! 色々と危険です!! 霧衣(きりえ)ちゃんはやくつぎのダーツを! はやく!」

 

「は、はいっ! えいっ!」

 

『えー、もっとパンツのお話ししません? 視聴者さんきっと興味ありますよ?』

 

「ハイ次の話題はァー! 『いちばん尊敬している人物』! さぁどうですか!?」

 

『無理やりだなぁ』

 

「いいから!!」

 

 

 ミルさんに言われるまでもなく、好色なわれらが視聴者さんたちはパンツの話題に興味津々である。

 しかしながら、そこは小学生も見てる健全チャンネル『のわめでぃあ』である。センシティブな話題になる前に華麗に(ムリヤリ)軌道修正を図り、こうして事なきを得たのだった。

 ……いや、『ぶらぶら』とか言っちゃってたけど。まぁそれだけならセーフでしょう。……多分。

 

 

「いいから! 尊敬してるひとです、尊敬してるひと! ちなみに、わたしはですね…………手前みそで恐縮なのですが、ラニちゃんこと白谷(シラタニ)さん……です」

 

「『おぉ!?』」「「おぉー」」

 

「…………うん。やっぱそうですね。わたしがこうして、この日を迎えられているのも……ラニが一緒にいてくれてるからですし。もちろんモリ……初芽(はつめ)ちゃんや、霧衣(きりえ)ちゃんや、(なつめ)ちゃんや……『おにわ部』の皆さんも、みんなみんな尊敬してますけど」

 

「あ、あの……ごしゅじんどの? えっとあの、かわいい小生は」

 

「とても責任感が強くて、視野が広くて、面倒見がよくて、いい意味で諦めが悪くて、よく気が利いて。…………ちょっとだけエッチなとこありますけど、とても尊敬してる……大切な相棒です」

 

「ぅノワぁーーーー!!!」

 

「ぅごわァーーーー!!?」

 

『あぁ~~(てぇて)ェ~~~~』

 

「あ、あの、ごしゅじん……あの」

 

 

 

 もしもラニが……いや、ニコラさんが【魔王】メイルスの追跡を諦め、この世界に来なかったら。

 おれは敵の正体も目的も知ることなく、やがては【魔王】メイルスの目論み通り、『異世界』と不完全な合一を果たしてしまっていただろう。

 おれはそれを阻止しようとしたかもしれないけど、恐らくは勝てなかっただろうし……【使徒】として仕立て上げられた彼女たちの何人か、あるいは全員は、世界の境界を破るための爆弾にされて……その幼い命を散らしていただろう。

 

 世界は今よりもっともっと混乱していただろうし、社会の体裁さえ保てていたかわからない。

 こうして平和に……アホみたいな配信に興じることだって、きっとできなかった。そもそも、配信者(キャスター)業を続けることさえ叶うかどうか。

 

 この、ちっちゃくて可愛らしくて好奇心旺盛で、ちょっと破廉恥でえっちな妖精さんを……実はおれは、とても尊敬しているのだ。

 

 

 

『……まぁ、そんな尊い(てぇてぇ)やり取りを見せられちゃったら……ぼくも真面目に答えざるを得ないですよね』

 

「最初から真面目にやってくださいよ。あと口調」

 

『…………そこはまぁ、ほら。やっぱ今更ですので』

 

「グヌーーーー!!?」

 

『まぁ続けますよ。……こっ恥ずかしいんで、一度しか言いません。ぼくが最も尊敬している人物はですね…………世界初の実在仮想(アンリアル)配信者(キャスター)木乃(きの)若芽(わかめ)さんです』

 

「…………ヌ??」「おほぉーー!」

 

『彼女は覚えてるかどうかわかりませんが……およそ一年くらい前ですかね。一身上の都合で塞ぎ込んで……スランプだったぼくに、打開するきっかけを与えてくれました。悩みを聞いて、彼女ならではのアドバイスをくれて、親身になって接してくれて……外に連れ出してくれました。そのおかげで立ち(開き)直れて、配信者(キャスター)を楽しめるようになりました。……今のぼくがあるのは、間違いなく彼女のおかげです』

 

「…………忘れるわけ、ないですよ」

 

『………………えへへー』

 

 

 

 ……そうとも、忘れるわけがない。

 

 彼の存在はおれにとって、状況を大きく好転させるきっかけとなったのは、紛れもない事実だ。

 『苗』にまつわるアレコレで大きな助けとなっただけじゃなく、配信者業界大手の『にじキャラ』さんと深く関わることができたのも、彼らのおかげなのだ。

 

 ミルク・イシェルさんと、村崎うにさん(の(なかのひと))。当時まだまだ無名のイロモノ配信者(キャスター)だったおれたちに目をつけてくれて、一緒に遊んでくれて、大躍進するきっかけを与えてくれた。

 そこそこ忙しくなってからも、ことあるごとに気にかけてくれて……あれやこれやと手助けしてくれた。

 

 

 そんな存在が。おれが以前から憧れを抱き続けている配信者(キャスター)さんが。

 おれを『最も尊敬している』と評してくれたのだ。

 

 そんなの……うれしいに決まってる。

 

 

 

「……わたしも、ミルさんのこと……とても尊敬してますので。……今のわたしたちがあるのは……ミルさんとうにさんが、とてもよくしてくださったからだと思ってますので」

 

『わかりました。つまり両想いってことですね? 結婚してもらっていいですか?』

 

「んブぉ!? そ、そ、そ、それとこれとは話が違いますので! もぉーー……冗談も大概にしてくださいミルさん! 直結ですか!?」

 

『んふふ、半分は本気なんですけど……つれないなぁー。…………あ、海産物だけに?』

 

「いいかげんにしろ。どうも、ありがとうございました」

 

『ありがとうございました』

 

「「「「おぉーー……」」」」

 

 

 

 さんざん場を騒がせまくったミルさんだったが……そこはやはり登録者数五十万人オーバー、三年近く一線で活躍し続ける一流配信者(キャスター)さんだ。

 記念配信なんかにおける『(とつ)待ち』というものをよく理解してくれているらしく……あまり長時間拘束するのも悪かろうと考えてくれたのか、言いたいことを言うだけ言って()()()()と身を引いてくれた。

 ……いや、もしかしたら(チャット)で他配信者(キャスター)さんに急かされたのかもしれないけど。

 

 ともあれこれで、お一方(ひとかた)目が終了である。

 既にものすごい着信アラートが届いてるのを敢えて気にしないようにして、ホワイトボードに『①、ミルク・イシェルさん』と記入する。

 

 

 ……さて、そろそろ腹をくくろうか。

 次の通話相手が誰になるのか、それは器機操作担当の初芽ちゃん(モリアキ)次第である。

 

 『不安』二割、『楽しみ』五割……そして『嬉しい』が七割。

 限界を遥かに越えたおれは、今とても絶好調なのである!

 

 

 

 

 

 

 









『①、ミルク・イシェルさん』

初めてコラボさせて頂いたお相手の一人。また『正義の魔法使い』として共に活躍する間柄の、心強い同胞。

ここ半年くらいで一気に明るく、とてもアクティブになった。反面『領主』キャラはもはや風前の灯。視聴者さんも『にじキャラ』さんももはや諦めてる。
最近では下ネタにもバッチリ順応し、その可愛らしい容姿にもかかわらず同性ということもあり、中高生男子を中心とした分厚い支持層を築いている。

一人称視点(FPS)シューティングやアクション、ホラーゲーム系のほか、なぜか男性向けのえっちな同人ゲーム(※ただしセンシティブなシーンを除く)の販促配信がやたらと多い。




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【大晦日】もうすぐおめでたいからおめでたい記念配信するよ【新年秒読み】 その②

 

 

『んじゃーそゆことで、また飲みいこうズェ! わかめちゃんもみんなも頑張ってなー!』

 

「はいっ是非! 村崎うにさん、ありがとうございました!」

 

 

 

 つい先程までお話ししていた……あの勘違いされそうな言動で盛大に場を荒らし回ったミルさんとは異なり、非常にオーソドックスにお祝いと労いの言葉を掛けてくれた村崎うにさん。

 ダーツの刺さった話題『動物に生まれ変わるなら何?(答:猫)』『推しバーガーチェーンと推しメニュー(答:バー◯ンのスパイシーワ◯パー)』も当たり障り無く、それでいて視聴者さんを楽しませながら、見事な手際で消化していってくれた。

 

 ドあたま一発目の騒動を受けて警戒していたおれは、ほっと胸を撫で下ろした形になる。うにさんすき。

 

 

 最初の頃はどちらかというと、うにさんのほうがグイグイ来る印象だったのだが……いやはや、積極性の中にも確かな『空気読む力』を秘めた、さすがの一流配信者さんでしたわ。

 おれは鳴り響く着信音から目を背けながら、ホワイトボードに『②、村崎うにさん』と記入、振り返って腹をくくる。

 

 

 

 

『やったっ!! ……んんっ。……こんばんわ、『のわめでぃあ』視聴者の皆さん。(とり)の刻の長い待機画面を抜けると、そこは御伽の国だった。『にじキャラ』Ⅳ期の文学少女、『文郷(もんごう)ういか』ですっ!』

 

「!! ういか様っ! こんばんわにございまする!」

 

「こんばんわ、ういかさん! 来てくださってありがとうございます!」

 

『いえいえー! こちらこそお招き有り難うございます! そしてわかめちゃん、ならびに『のわめでぃあ』の皆さん。ゴールドランクおめでとうございます!』

 

「あ……ありがとうございます!」

 

 

 

 おぉ、なんて良心的かつ常識的なお方だろうか。うにさんに引き続き、どうやら今回も平和におしゃべりが出来そうだ。

 

 

 通話が繋がったのは……自他共に認める和服少女好きにして、自称・霧衣(きりえ)ちゃんの大ファン、文郷(もんごう)ういかさん。

 おれたちとの絡みは、中華屋さんでご一緒したのと大規模キャンプの二回だけだろうか。……まぁ、度々アプローチを受けてはいたのだけど、対外的にはあまり手広く活動できてなかったからな。絡みたいと思ってたし、また思ってもらってたみたいだけど、残念なことにろくに身動きがとれなかったのだ。

 

 ……和服少女コラボしたい、って言ってたもんなぁ。ちょっと悪いことをしてしまった。

 

 

 

『わかめちゃん、()()()()()忙しそうにしてたので……あんまり、っていうか、わたしの方から話しかけることって、なかなかできなくって』

 

「うグゥっ、……そ、その件に関しましては……ごめんなさい、せっかく『コラボしたい!』って言ってくださったのに」

 

『あっ、ううん! ちがくて! 責めてるんじゃなくって! ……わかめちゃん、忙しいのに……ちゃんと覚えててくれたんだね。お酒の席での雑談レベルだったのに』

 

「そ……ッ、……そりゃあ、あこがれの方々ですし…………霧衣(きりえ)ちゃんにも、とてもよくして下さってましたので」

 

「はいっ! わたくし、たくさん『なでなで』して頂きましたっ!」

 

『んふふふ。気持ち良さそうに喉鳴らしてたもんねぇ……今思い出してもぽかぽかしちゃう』

 

「アァーー見たかったァーー!!」

 

「わ、わぅぅぅ」

 

 

 

 古式ゆかしくもハイカラな、可愛らしい大正浪漫風の衣装もさることながら、その(なかのひと)の趣味特技もなかなか雅で趣がある彼女。

 かるたや花札なんかも得意らしく、うちの霧衣(きりえ)ちゃんと一緒に遊んでみたいと、度々口にしてくれていたのだ。

 

 

「……うーん……もうすぐお正月ですもんねぇ。かるたとか、百人一首コラボとか、旬といえば旬ですもんね」

 

『じゃあさじゃあさ! やろう! 百人一首コラボ! 明日やろう!』

 

「明日ァ!? ちょっ……正気ですか!? 元旦ですよ!? 【Sea's(シーズ)】ですごろくコラボやるんじゃないんですか!?」

 

『……あら、よくご存じで。でも大丈夫、すごろくは夜九時からだから。だから……夕方五時くらいから、どお? わたしのほうでも面子(めんつ)集め頑張るし!』

 

「うーん…………霧衣(きりえ)ちゃんが、いいなら……」

 

「は、はいっ! わたくし、やってみとうございまする!」

 

『やったー! んふふ、霧衣(きりえ)ちゃんの可愛さがあれば参加者の頭数とか一瞬よ! あー楽しみ! ……わかめちゃん忙しいだろうし、こっちである程度詰めとくね。後で詳細チャット送るから! じゃあね!』

 

「ま、まって! ういかさんお題! お題ひとつも消化してな………………マジかぁー」

 

「あわわわわうわうわう」

 

 

 

 あぁ無情、特製ルーレットによるお題トークを消化する暇もなく、和服美少女好き文学少女配信者(キャスター)ういかさんは颯爽と去っていった。

 ……まぁ、突発百人一首コラボの根回しに行ってくれたんだろうな。行動力よ。

 

 とはいえ、われらがジャパニーズトラディショナルお嬢様であらせられる霧衣(きりえ)ちゃんのスーパーかわいいつよつよシーンをお見舞いできる演目とあらば、こちらとしてもご一緒させて頂くことはやぶさかではない。

 この年越し配信は……多分、深夜二時とか三時とかまで続けるかもしれないけど、幼年組や霧衣(きりえ)ちゃんは最後まで付き合わせる必要もないだろう。程々のところでおやすみしてもらって、深夜パートは我々『チームおじさん』に任せてもらえばいい。

 つまり彼女たちに、一月一日を健康的なスケジュールで過ごしてもらうことは、充分に可能なわけだ。当然夕方からの『百人一首コラボ』も問題ないだろう。

 

 というわけで、演者(タレント)ちゃんのスケジュール的にはヨユーである。なにより本人がやる気なので、モチベーションに関してもまったく問題ない。

 あとのことは主催のういかさんに全てを委ねるとして……おれたちは、()()()だ。

 

 

 

「えー…………ちょーっとイレギュラー気味でしたが、『③、文郷ういかさん』っと。……というわけで、あした元旦夕方頃からの突発百人一首コラボ、よろしくお願いしますね! 詳細決まったらまたSNS(つぶやいたー)でお知らせしますので!」

 

「はいっ! がんばりますっ!」

 

「あねうえどの、あねうえどの。我輩もご一緒してもよいだろうか。骨牌(かるた)であれば我輩も嗜んでおるゆえ」

 

「し、小生も! 最近しもべたちの扱いがひどい小生にも! 何卒活躍とチヤホヤされる機会をぉ!」

 

「アッ、じゃあそのへんはオレの方から提案しとくんで、わかめちゃんは次の(とつ)待ち対応お願いしますね」

 

「了解です! オッケーですよ何者でも掛かってらっしゃい! 今宵のわかめちゃんはつよつよですので! 虎だろうと龍だろうとお題ルーレットで返り討ちにして差し上げますとも!」

 

 

 

 

『アッ…………じゃあ、お言葉に甘えて。よろしくお願いします……で、ある』

 

「…………マジで龍が出てくるなんて思ってないんですよこちとらァ!!!」

 

 

 

 はい、いらっしゃいませ。ようこそおいでくださいました。

 これまであんまり込み入ったお話をさせていただいたことが無いお方ですが、そういう方々ともお喋りできるのが記念配信における『(とつ)待ち』の良いところなわけですね。

 

 少なくともわたしは……そりゃあ、ちょっとばかしビックリしましたけど、とても嬉しいです。

 

 

 

『えーっと……やっぱ自己紹介した方がいい?』

 

「アッ、お願いできますか? 知らないひとなんていないと思いますけど、一応」

 

『それは言い過ぎじゃないかなぁ……ん゛んッ。…………我輩の名は、ウィルム・ヴィーヴィル。恐怖の権化たる邪龍にして、悠久の時を生きる偉大なる存在である……です』

 

「……ハイ。というわけで『にじキャラ』Ⅰ期生【FANtoSee(ファンタシー)】きっての癒し系、『見た目詐欺』『聖なる邪龍』『ドジっ子おじいちゃん』などの呼び声も高い『ウィルム・ヴィーヴィル』さんです!!」

 

『ちょっと!?』

 

 

 

 おれたちが彼の本領を目の当たりにし、また視聴者の皆さんが彼のイメージを確固たるものとしたのは……われわれの拠点(通称『のわめ荘』)にて行われた、大規模キャンプコラボでのことだろうか。

 

 禍々しく人間離れしたビジュアルでありながら、他者を立てる・気が利く・空気読めると三拍子揃った『やさしい邪龍』。

 容姿投影魔法【変身(キャスト)】を用いた際の体格ならびに重心が独特なため、要所要所で凡ミスをやらかしてしまう『ドジっ子』。

 常に気を張り続けていた反動か、ごはんを食べたらねむくなってしまう(※実際寝た)極めて健康的な生活習慣。

 

 凶悪な見た目から来る第一印象と大きく異なる彼のキャラクターは、『そんな()だとは思いませんでした。ファンになります』と老若男女問わず大人気(だいにんき)なのだ。

 

 

 

「ご無沙汰である、みるむどの! 先日の『干物』はみるむどのに頂いたものだと聞いておる! とてもおいしかったので礼を述べたかったところなのである!」

 

「そ、そう! あの(アジ)めっっっちゃ美味しかったです! みんな大喜びで! 本当にご馳走さまでした!」

 

『いやぁ、恐縮です。本当は初夏のモノのほうが美味しいんですけどね。『のわめでぃあ』さんには僕らも』

 

「口調」「である」

 

『ふぐ!? …………吾輩らも、そなたらには大層世話になったからな。…………えーっと……僅かばかりとはいえ、恩返しが出来たのなら、吾輩としても……えー、恐縮で…………ごめんなさいわかめちゃん、あの……そろそろ勘弁……』

 

「ほんっと癒し系邪龍ですよねぇ……」

 

「に。吾輩もそう思うである」

 

『ぐぬぬ』

 

 

 一人称(※キャラつくってるときに限る)が同じ『吾輩』だからだろうか、意外なほどウィルムさんに懐いている(なつめ)ちゃん。

 実際例のキャンプコラボのときなんかは、おれやカメラの目がないところで肩車(※邪龍ウィルムさんの背中に(なつめ)ちゃんが飛び乗ってただけ)している姿が何度か見られているという。……ちくしょうおれも見たかった。

 

 しかしそんな癒し系邪龍、いや『だからこそ』と言うべきだろうか。

 その性根は個性派(すぎる)配信者(キャスター)が揃っている『にじキャラ』さんの中でも極めて常識()ポジションであり、幅広い層の支持を受けているのだという。

 実際として……うちの(なつめ)ちゃんはもちろん、朽羅(くちら)ちゃんも目を輝かせてたりするんだよな。

 

 

 

 

「それでは最初のお題、『今後やってみたいこと』。これはまた定番なのが出ましたね」

 

『つまんないとか言わないで下さいよ? 吾輩だってボロ出さないように必死なんですから』

 

「もう手遅れだと思うので気にしないで下さい! さぁ己を解き放って!」

 

『い、嫌だ! 絶対アホ魔王とバカ勇者に弄られる! 実直にいきますので実直に!』

 

「えー」

 

『えーじゃないが。…………えーっと、『今後やってみたいこと』。……そうですね、吾輩は幸いにして()()()()なので、なんかそれを活かしたコトやってみたいですね』

 

「ほうほう。……たとえば? 何か構想あったりしますか?」

 

『うーーーーん……』

 

 

 

 先程も軽く述べたように、ウィルムさんの【変身(キャスト)】後の姿は、多分に人間離れしたものだ。

 漆黒の鱗に覆われた大柄な体躯と、世界的怪獣(G◯DZILLA)みたいに前に寄った重心と、これまた大きな手と長い尾と一転して可愛らしい翼を持つその姿は……まれにだけど、撮影の際に特別なスタジオを用意しなきゃならなくなるほどだとか。

 そんなデメリットがある一方で、逆にその姿ならではのメリットもあるはずなのだ。恐らく(今のところは)唯一の個性である『人外種族』を全面に押し出した演目……それは決して他者には真似できない、ウィルムさんならではの強みとなり得るわけだな。

 

 なるほど……人外種族。邪龍。黒い鱗。ドラゴン。怪獣。モンスター。……狩人(ハンター)

 

 

 

「……いっそ開き直って、邪龍アクション動画とか撮ってみたらどうですか?」

 

『じゃ、邪龍アクション動画……?』

 

「ですです。ほら、武道の達人がカッコイイ演舞したり、メイド服着て抜刀演舞してみたり、スーツ姿で妙にカッコよくビニ(ビニール)傘振り回してたり、ヌンチャク振り回してビール瓶の栓抜きしてみたり……なんかほら、そういうのあるじゃないですか」

 

『あぁー…………つまりは『邪龍の身体でカッコイイアクションを撮る』っていう? ……でもほら、吾輩そんなカッコイイアクションとかよく知らないっていうか……』

 

「そこはほら、たとえば……『にじキャラ』さんの企業力にモノを言わせて、プロの手を借りてみるとか。◯映(トーエー)さんとか◯宝(トーホー)さんとか、もしくはカ◯コン(CAPC◯M)さんの関連スタジオさんに、ドラゴンアクションの監修お願いしてみるとか。どうせ稼ぐモン稼いでんだろジャンプしてみろよおら!」

 

『やだこわい! このエルフ怖い!』

 

「コワクナイヨ。良心的ダヨ。ロケ地にウチのお庭提供しちゃうくらいには良心的ダヨ」

 

『アッ、それは助かるかもしれないです。人目につかない広い場所って限られるんで。……それはそうと、なんか吾輩に当たり強くないですか? 吾輩Ⅰ期ぞ? ういかさんとはえらい違いですけど』

 

「キノセイダヨ」

 

 

 

 配信者(キャスター)としてのキャリアや立場を考えてみれば、ともすると失礼に当たるかもしれない言動だという自覚はあるのだが……彼の人柄のなせる技なのだろうか、どうにも馴れ馴れしく接してしまいそうになる。

 もちろん彼ならびに『にじキャラ』の皆様は、それぞれが偉大なる先達である。尊敬の念は常に抱いているはずなのだが、それと同じくらい『(ウィルムさん)は弄られて輝くキャラだ』という印象が強いのだ。

 

 ……きっと、常日頃から彼を弄っている周り(Ⅰ期生)の環境が()()させているのだろう。つまりはおれはわるくない。

 

 

 

『……まぁ、楽しそうではあるので……マネージャーさんに相談してみます。またロケ地とか相談させて頂くかもしれません』

 

「心得ました。お待ちしてますね。……はいそれでは、ダーツ二本目! 霧衣(きりえ)ちゃんお願いします!」

 

「はいっ、……むー…………えいっ!」

 

「よっし刺さった! さぁー次のお題は…………おあ……」

 

『あー、『今日のパンツの色』ですか。……まぁいっか。赤のボクサーです』

 

「あら情熱的。…………ごめんなさい、はいてるんですね」

 

『そりゃそうですよ、今は人間で…………アッ、ちがくて。吾輩邪龍だけどオウチにいるときは服着てるますなので』

 

魔王(ハデス)さまー勇者(エルヴィオ)さーん見てますかー!」

 

『や、やめてー! やめてー! じじゃじゃ、じゃあ! (なつめ)ちゃんはどうなんですか!』

 

「んに? まっしろなのであ「オワアアアアアアア!!? (なつめ)ちゃん止まって! 見せようとしなくていいから!! ちょっとウィルムさん!? 誰に聞いたか解ってるんですか!?」

 

『あー、えっと、あの…………ごめん……』

 

 

 

 

 その後……『年端もいかぬ幼女のパンツに興味を抱いた罪』により、どうやら通話切断後も『にじキャラ』内裁判が執り行われ、心やさしいドジっ子邪龍に対する処刑(しねどす)が決まったらしいのだが。

 

 

 

 わたしは、なにも、しりません。

 

 

 さあ! つぎはだれかな!!

 たのしみだな!!!!!

 

 

 

 

 








『②、村崎うにさん』

ゲームつよつよ妖精ラニちゃんを見いだし、大躍進のきっかけを作ってくれた張本人。配信者(キャスター)活動におけるいちばんの恩人かもしれない。

そのグイグイ来る性格も相俟って、大規模キャンプ以降も度々おうちに遊びに来てくれている。というかプライベートで温泉街に遊びに来て『もしもし私うにーさん。今滝音谷(たきねだに)におるんやけど』をやってのける。でもこちらの都合がつかないときは、空気読んできちんと引き下がって更に労ってくれる。良心。
その積極性と社交性の高さと空気読むスキルは相変わらず健在。仲のいいくろさん共々、『にじキャラ』さんや他配信者(キャスター)さんに関する情報をもたらしてくれる、いわば業界の情報屋(※なお対価はおもてなし)。


『③、文郷ういかさん』

じつは霧衣(きりえ)ちゃんとけっこう仲良しな女性配信者(キャスター)。オフで遊ぶことこそまだ無いが、REIN(メッセージアプリ)で着付けコーデの相談や情報交換をよく行っているらしい。
なんだそれ羨ましいおれにも見せろ。

変身(キャスト)】技術の実装にともない、細かな動作を配信に乗せることが可能となったため、全身を映しての『名作読み聞かせ動画』はより一層の人気を博している。喜怒哀楽の表情を浮かべながら感情豊かに読み上げる朗読は、どこぞの小中学校の国語教材として用いられた……とかいう噂も。
……でもね、ういかちゃん。自分が描かれてるからって、同人誌(ウスイブック)(※全年齢)の音読配信はちょっとおじさんどうかと思うの。


『④、ウィルム・ヴィーヴィルさん』

じつは(なつめ)ちゃんが結構なついていた(らしい)男性人外配信者(キャスター)吾輩(わがはい)同盟(※非公式)。【変身(キャスト)】後の身体を見事に使いこなし、『ドジっ子』という新たな属性を獲得するに至った。つよいぞ。

Ⅰ期生の中では貴重な常識人であり、そのおかげで非常に弄られやすい。当初のキャラクターコンセプトであったはずの『傍若無人系邪龍キャラ』は……もはや跡形も無い。
以前にも増して見た目と内面とのギャップが取りざたされることとなり、ここ最近で登録者数と人気が急上昇。『コラボの先々で登録者数をガッツリ浚ってく』ともっぱらの噂。

遥か後日、『にじキャラ』所属として初の特撮作品出演を果たすことになるのだが……このときはおれ含め、まだ誰も知る由がなかった。






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【大晦日】もうすぐおめでたいからおめでたい記念配信するよ【新年秒読み】 その③

 

 

 とてもとても嬉しいことに……この大晦日すぺしゃる兼金枠(ゴールドランク)記念生配信の『(とつ)待ち』コーナーですが、現在までかなりの数のお客様をお迎えさせて頂いておりまして。

 

 色々と交遊が深い方々だけでなく……恥ずかしながらこれまでなかなか深く交流することができていなかった、ういかさんやウィルムさんを始めとするいろんな配信者(キャスター)さんたちに遊びに来てもらえて、たのしいひとときを過ごすことができたのだ。

 

 

 (とつ)してくれた方のお名前を記入するホワイトボードも、おかげさまで書き込みが順調に進んでいっておりまして。

 

 新たに『⑤、花畑(かはた)みどりさん』『⑥、百瀬(ももせ)ももさん』『⑦、甲葉(こうば)こがねさん』『⑧、木場(きば)弓弦(ゆづる)さん』『⑨、玄間(くろま)くろさん』『⑩、ハデスさま』『⑪、乗上(のりがみ)彩人(あやと)さん』『⑫、トールア・ティーリットさま』が書き加えられ……それでも未だに着信(リンリン)が収まる気配は見られないんだよな。とてもありがたいことだ。

 

 

 

 ……というわけで。

 さすがに全部を記録しておくとエラいことになりそうなので……ウィルムさん以降の(とつ)状況、中でも印象に残った方々を、軽ぅくダイジェストで記録しておこう。

 

 なおここに記してない方は『これといった騒動も問題も無く無事に終了した』ということだ。

 べつにつまんなかったというわけでは断じて無いぞ、むしろ問題行動を起こさないでくれたということだぞ。皆さん丁寧に労ってくれたので、おれはとてもうれしいぞ。

 

 

 

『⑤、花畑(かはた)みどりさん』

 

 パステルカラーで揃えた可愛らしい女の子五人組ユニット【MagiColorS(マジキャラ)】の緑色(グリーン)、Ⅲ期生どころか『にじキャラ』屈指の弄られ役、よくひんひん泣かされてるイメージな彼女。

 わたしにはどういう意味なのか全くもって理解できないんですけど、いわく『あたじとッッッても親近感(じんぎんがん)感じでてぇー!』とのこと。……どういう意味なんでしょうね。ちょっと何言ってるか理解(わか)りませんね。

 

 そんな彼女にルーレットダーツが下したお題は『もし自分が捕まるとしたら何の罪?』ならびに『最後の晩餐に選ぶメニューは?』と、なかなか彼女らしいといえば()()()引き。

 ちなみに回答はそれぞれ『わだじは無実だもん!』と『叙◯苑の特上焼肉弁当とビール!』とのことで……何故か全体通して涙声での通話でした。

 

 ……うん、そうだね……わたしでよければ、今度飲みにいきましょうか。色々と溜まってそうだ。

 

 

 

『⑥、百瀬(ももせ)ももさん』

 

 続きましての【MagiColorS(マジキャラ)桃色(ピンク)、癒し系天然トラブルメーカー、直接一対一でお話しさせて頂くのはみどりさん同様初めてとなる彼女。

 すました顔して平然とえげつないことしてくるピンクの魔物(※しかも本人に悪気は無いからタチが悪い)ともっぱらの噂。彼女以外のみんなが保護者だ、ちゃんと教育したげて。

 

 そんな彼女も、嬉しいことにおれとお話ししたいと思ってくれていたらしく……始終ほんわかした雰囲気ながら、にこやかに爆弾を投下していってくれた。

 

 お題一つ目の『もし自分が異性だったら着てみたい服装』には、まさかまさかの『海パン』とのご回答。予想だにしなかった『トップレス願望』疑惑に、画面の向こうで同人屋さんたちが湧いた気がした。なんなら初芽ちゃん(モリアキ)も配信に映らないとこで気持ち悪い顔してた。きも。

 二つ目はこちらも『最後の晩餐に選ぶメニューは?』だったのだか、回答は意外にも『でっかいピザ』。あえての『でっかい』部分に疑問を抱いていたところ、なんでも『最後はみんなと一緒に食べたいから』ということらしく……ちくしょうそういうとこだぞ本当。可愛がられるわけだよ。

 

 

 

『⑨、玄間(くろま)くろさん』

 

 実在仮想配信者(アンリアルキャスター)というものを世に知らしめる切っ掛けとなった『おうたコラボ』のお相手、カリスマ歌い手配信者(キャスター)であらせられる彼女、くろさん。

 いつものように飄々としていながらも、彼女にしては珍しく(※失礼)真面目なトーンで、お祝いのお言葉を述べてくれた。……とてもうれしい。

 『()()近いうちに遊びにいくから』との発言にコメント欄が盛大にざわついたが、おれは気づかなかったことにして無理矢理進行することにした。

 

 

 というわけで当たったお題は、なんというかこれまた癖が強い。『自分をゲームのキャラクターで表現すると?』そして『もしゾンビが街に溢れたら武器は何を選び、またどうやって調達する?』のふたつだ。

 

 一つめの回答は『吟遊詩人』。……なんでも『歌ってお金貰えるとか、ええやん?』ということなので、ぜひともにじキャラさんは彼女にいっぱい歌わせてあげてほしい。

 そして物議を醸した、二つ目の回答。なんとくろさんビックリなことに『お金持ちのおうちからキャッシュカードをもらう』とか言ってのけたのだ。マネーイズパワーには同意するけど色々と突っ込みどころ満載なので、にじキャラさんは彼女の手癖に注意しておいてほしい。

 

 ……まぁ、さすがに冗談だろうけど。……冗談だよな。

 

 

 

 

 そんなこんなで、順調に『凸待ち』は進んでいった。

 しかしながらハデスさまとかティーさまとか、ひょっとすると話が積もりまくるかとも思ったのだが……なんというか色々と()()()くれていたようで、どちらかというと控えめな感じで、早々と次の方へとバトンタッチしていってくれた。

 

 あ、もちろんお二人ともおれたちを誉めてくれて……『おめでとう』って言ってくれた。……とても嬉しいが。

 

 

 

 

 

 ところで、今回の『凸待ち』配信のルールなのですが……まぁ今さらではございますが、改めて確認させていただきます。

 

 メインに使っているのは毎度おなじみ会議通話アプリケーション、つまりはネット回線越しの音声通話でございます。

 当初お知らせさせて頂いたように、対象者は『おれ(のわめでぃあ)のアカウントを知っている方々』であり、つまりは日頃からやり取りさせて頂いてる方々が多いわけでして。

 

 そんなこんなで、本日ここまでは図らずとも『にじキャラ』さん所属の方々が多かったわけですが……まぁべつにですね、『(とつ)待ち』に(とつ)していいのは仮想配信者(ユアキャス)だけっていうわけでは当然なくってですね。

 

 

 つまりはですね、()()()()()()だって起こりうるわけです。

 

 

 

 

『⑬、(せき)俊一(としかず)さん(㈱三納オートサービス取締役)』

 

 ……ええ、初芽ちゃん(モリアキ)がやってくれました。なんか妙にニヤニヤしてると思いました。おのれ(ヤロウ)。チクショウめ後でおっぱい揉んでやる。

 

 通話を繋いだ最初は『誰だこのおっさん?』って感じの視聴者さんたちだったが……お相手がおれたちの移動拠点ハイベース号を貸与(提供)してくれている会社『三納オートサービス』の取締役だとわかると一気に態度を軟化させ、口々に歓声を上げ始めた。

 恐らくだが……反応してくれたひとの殆どは、例の『キャンフェス』あたりを観ていてくれた視聴者さんたちなのだろう。あのときはカードゲームにお昼ごはんにと、めっちゃ出演して貰ってたからなぁ。いち企業の取締役(えらいひと)なのに。

 

 突然の毛色が異なるお客様に、当初こそ混乱してしまったおれ(わかめちゃん)だったが……そこは配信者スキルカンストの金枠(ゴールド)配信者(キャスター)である。すぐさま平静を取り戻し、『のわめでぃあ』ならではの凸待ち配信を楽しげにこなしていった。

 なんでも――詳しい数字は伏せていたが――前年比の利益が二百パーに届きそうな勢いらしく……おれたちの営業活動に対するお礼をとてもとても丁寧に述べてくれた。取締役(えらいひと)なのに。

 

 

 ちなみに……引いたお題は『いちばん好きな家具(答・ロフトベッド)』と『今日のパンツの色(答・オレンジにトロピカル柄)』でした。

 ……うん、割愛させていただきますね。

 

 

 

 

 そんなこんなで、まさか『配信者(キャスター)』という枠を越えての(とつ)待ち配信に、視聴者とおれたちのテンションというかワクワク感が更に高まっていく中で。

 

 

 ついに、満を持して、本日いちばんの衝撃であろうお客様が……一万人以上の視聴者さん(とおれ)が見つめる中、堂々と名乗りを上げた。

 

 

 

 

 

『……直接お話しするのは、初めてになりますか』

 

「ッ!!? …………いやぁー……ぇえ? ……だ、大丈夫なんですか? 大晦日って、お忙しいんじゃ……」

 

『まぁ……それなりには。…………しかしながら、十分程度を捻り出すことくらい……まぁ問題無いでしょう。()()も納得済みです』

 

「そうですか……無理しないで下さいね。また今度、ちゃんと時間取りますので。……それでは、軽く自己紹介をお願いします。……恐らく、お声を聞くの初めてだってひとが多いですので」

 

『これは失礼。……(わたくし)は……配信者(キャスター)用仮想容姿投影デバイス貸与業務を行っております、『株式会社マテリアライズアクター』代表取締役社長……山本五郎、と申します』

 

 

 

 

 ふふん、視聴者のみなさんが驚いてるようで、とても鼻高々である。

 気鋭のベンチャー企業、実在仮想配信者(アンリアルキャスター)ブームの立役者……ならぬ立役()、謎に包まれたそのトップである。

 

 

 そうとも。何を隠そう……おれたちは。

 あの『経営の神』と名高いお方を味方に引き込むことに、バッチリちゃっかり成功していたのだ!

 

 

 



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【大晦日】もうすぐおめでたいからおめでたい記念配信するよ【新年秒読み】 その④

 

 

 おれたちの独特な容姿の隠れ蓑にするため、主に『にじキャラ』さんたちを盛大に巻き込んで展開した、仮想容姿投影デバイスによる『実在仮想配信者(アンリアルキャスター)』計画。

 

 その根幹を成す特殊デバイスの取り扱い――初期設定やチュートリアルやその後のフォロー、そして貸与関連手続きなどなど――を主な業務とする、各方面の助言のもとでおれたちが立ち上げた新設企業。

 

 

 それこそが『株式会社マテリアライズアクター』であり、その経営や対外折衝や人材管理を担って(丸投げされて)いるのが、何を隠そうこちらの山本五郎さんである。

 ……いやまあ隠してないけど。ホームページとかにバッチリ顔も名前も出してもらってるけど。言葉のアヤってやつ。

 

 

 

『それにしても……ここまで市場が拡がったのは、他でもない若芽さん御一行のお陰でしょうな。実在仮想配信者(アンリアルキャスター)の第一人者である若芽さんが、こうして記念すべき日を迎えたこと。……()()()()()()()、大変光栄です』

 

「こちらこそ! こんな心踊る革新的な技術を試みるにあたって、わたしたち『のわめでぃあ』に()()()()()()()……()()()()()()金枠(ここ)まで来ることができました! 本当にありがとうございます!」

 

『恐縮です。……あなたの後輩となる個人配信者も、順調に増えていっています。まさに順風満帆、実在仮想配信者(アンリアルキャスター)業界は、これからもっと盛り上がりますよ』

 

「えぇ……盛り上げていきますとも!」

 

 

 

 デビュー当初から各界隈で話題になっていた、()()()()()()()()()()()()()()緑エルフの美少女配信者。

 3Dアバターとはとても思えない、実在の人物としか思えない、しかし実在しているはずがない、そんな謎に包まれた配信者の正体は……なんとマテリアライズアクター社の手掛けた新型配信デバイスの、極秘先行モニターだったのだ。

 

 ……多少無理矢理感が否めないが、つまりはそういう筋書きである。

 おれ個人は得体の知れない存在なんかではなくて、とある企業がすべての元凶であり、立役()なのであり……要するにおれたちは()()()()()()()()()()()()()()()だけの、ただの個人配信者(キャスター)グループにすぎないのだ。

 

 

 そうすることで、ここ一年に渡っておれたちが繰り広げてきた、ある種の幻想的(ファンタジー)ともいえる演出の数々は……『全てMA社のプロモーション活動の一貫である』と、盛大に責任転嫁することができるのだ。

 

 加えて、プリミシア博士が提唱する『魔素』関連の理論。

 すなわち、おれたちの配信者活動はその実証試験の一環としての、暫定呼称『魔法』技術の試験(テスト)でもあった……というのが、今日現在までに突貫工事で築き上げたおれたちの立ち位置である。

 

 

 よくよく考えてみれば粗だらけだが、そもそも『魔素』じたいが全く新しい研究分野であるため、ウソがバレる危険は少ないだろう。

 万が一、面倒くさそうな(やから)に絡まれたとしても……吹けば飛ぶような個人勢とは違い、いち企業であればいろんな意味で()()()()に立ち回ることが出来るだろう。

 ゴローさんもそのテのことに強い味方(コネクション)はいっぱい持っているらしいし、実際『頼ってくれて構わないよ』と言ってもらった。つまり良い隠れ蓑になってくれるにちがいないのだ。がはは。

 

 

 

『唐突に我が社のプロモーションなのですが……先日、弊社の仮想容姿投影デバイスの登録ユーザー様、つまりは実在仮想配信者(アンリアルキャスター)がですね、なんと百名の大台を突破致しまして』

 

「おぉーー! すごい! おめでとうございます!!」

 

『ふふふ……ありがとうございます。……放送を御覧の皆様はご存じでしょうが、かの『にじキャラ』様や『netファン』様、『ユアライブ』様といった大御所の方々に始まり、特に最近はいわゆる『個人勢』のユーザー様が増えてきてまして』

 

「聞きました。日に日に増える申し込みに審査が全く追い付いてないって。……あの、お疲れ様です……ほんと」

 

『いえいえ。まぁ、なにぶん最新魔素技術の結晶ですので……貸与にあたっては、かなり慎重にならざるを得ない経緯がございます。……審査をお待ち戴いている配信者(キャスター)の皆様には、此の場をお借りして深くお詫び申し上げます。若芽さんが』

 

「んヒェ!? アッ、エット、あっ、ご、ごご、ご迷惑をお掛けしております!!?」

 

 

 

 おれたち『のわめでぃあ』が㈱MA社の関係者であることをアピールし、やんわりと宣伝しておくという姑息な(かしこい)作戦。

 事実、量産型デバイス貸与によって誕生した新たなる実在仮想配信者(アンリアルキャスター)のみなさんは……恥ずかしながらおれはあまり追っかけられてないのだが、皆なかなかの手ごたえを感じているらしい。よろこばしいことだ。

 

 

 そんな状況に、更なるテコ入れを企ててくれたということなのだろうか。

 本日の『(とつ)待ち』に現れたわれらが山本社長さんは、おれたちに()()()()()を持ちかけてきた。

 

 

 それすなわち、おれたちの後輩である実在仮想配信者(アンリアルキャスター)の子たちを――さすがに全員とは行かないだろうが――この『(とつ)待ち』の場に招いてあげてほしい。

 偉大なる先輩として彼ら彼女らと接し、話題に花を咲かせ、見所をつくってあげてほしい。

 

 つまりは……かわいい後輩が注目されるように、きっかけ作りに協力してあげてくれ、ってことだな。

 なるほどなるほど。それくらいならお安いご用です。偉大なる先輩ですので。

 

 

 

 

「アッ、じゃあ良いっすね? わかめちゃんにオッケー貰えたんで、繋ぐっすよ? ビデオ通話」

 

「えっ?」

 

『どうか宜しく頼む。本人たっての希望だからね……『どうか初コラボはわかめちゃんと』ってね』

 

「えっ? それは光栄です……えっ? あの、はつめちゃ」

 

「おっけーコンタクト取れました。今から通話繋ぎますんで、お相手ちゃんがメイン画面でわかめちゃんをワイプに入れます。では……心の準備はいいっすね?」

 

「は、はいっ!!!?」

 

 

 あれよあれよという間に言質を取られ外堀が埋め立てられ……㈱MA社取締役のテコ入れによって、後輩である実在仮想配信者(アンリアルキャスター)ちゃんと『わかめちゃん』とのビデオ通話の場が急遽設けられることとなった。……本当に急遽なんだろうな、手際よすぎるんだが。さては謀ったな初芽(シャア)

 

 

 とはいえまぁ、内容そのものに対しては別に不満は無い。おれの行動の大原則である『人々が未来への希望を抱くようにする』ためには、人々に『たのしい』を提供する同業者は多いに越したことはないのだ。

 

 なので……だったら、ちゃんと前もって言ってくれればよかったのに。

 こんなサプライズというか不意打ちぎみに持ってこなくたって、入念に打合せした上でプロモーションコラボとか設定すればよかったのに。

 

 

 

 ……なんてことを、ちょっとだけ拗ねながら考えてたんですけどね。

 なるほど……これは不意打ちありきですわ。はいはい、そういうことね。

 

 

 

 

『どもどもー! みんなネバってるー? メイ・グラツィオーソです!』

 

『どもどもどもー! サツキ・キーノートでぇーす! 二人合わせてぇー!』

 

『『となりのマブダチ『ねいばーベスティ』でーす!』』

 

「なるほどねーーーーーー!!」

 

 

 

 なんだかか聞き覚えのある声。

 どこか馴染みのあるテンション。

 まるで漫才か寸劇かのように息の合った、抜群のコンビネーションの女の子二人組。

 

 そしてなによりも決め手となった……彼女たちのモチーフである音楽用語を盛り込みつつも、なんだかどうにも引っ掛かりを覚える、その名前。

 ()イ・()ラツィオーソさんと、()ツキ・()ーノートさん。

 

 

 ……メグちゃんと、サキちゃん。

 おれたちが初めて、仮想(アンリアル)ではない配信者(キャスター)としての街頭企画に挑んだときの……なかよし女子高生吹奏楽部員コンビである。

 

 

 

()()()()()()わかめさん! このたびは金枠(ゴールド)達成おめでとうございます!』

 

『こんなおめでたい場に呼んでいただいて、ありがとうございますっ!』

 

「い、いえっ! あの、えっと……こちらこそ、ありがとうございます! えーっと……メイさんと、サツキさん?」

 

『メグです!』『サキです!』

 

「アッ、ハイ。……えっと、わたしは恥ずかしながら()()()()()()になると思うんですが……じつはですね、うちの子でめっちゃ目を光らせてる子がいるんですけど…………朽羅(くちら)ちゃん?」

 

「ぽェあ!? ふ、ヒゃ、ひゅゃいッ! ……す、すごい! ほんとうの……ほんものの『ねいベス』に御座いまする!」

 

『『……!!!』』

 

 

 

 えーっと……お恥ずかしながらわたくし木乃(きの)若芽(わかめ)、自身の後輩である実在仮想(アンリアル)配信者(キャスター)のことをですね、ぶっちゃけますとあまりよく知らなかったりするわけでして。

 ……えぇ、誠に恥ずかしい限りなのですが……なかなかね、彼ら彼女らを追えなかったりするんですよ。いやほんとお恥ずかしいのですが。

 

 まあ、その理由を『忙しいから』と片付けるのは楽なんだけど……おれの『願い』的にも、また立ち位置的にも、全く無頓着というのは色々とよろしくないわけで。

 

 

 そんな中で、わがやにおいて日夜ぐうたらしてる(あぐらかいてたり脚開いてたり着崩しちゃってたりと)いろんな意味でけしからん娘……だと思っていた、クソガキウサギこと朽羅(くちら)ちゃん。

 なんとなんと、彼女が四六時中眺めていたタブレット((なつめ)ちゃんとおそろい)に映し出されていたものこそ、大御所から新人までそれはそれは幅広い実在仮想配信者(アンリアルキャスター)たちの活動風景だったのだ。

 

 ぐうたら食っちゃ寝してたのかと思っていたが、その実自主的に市場調査や情報収集に臨んでくれていたということがわかったので、感動したおれはその日の晩ごはんのデザートにプリンを追加してあげた。

 後日、それら朽羅(くちら)ちゃんの情報収集は荒祭(あらまつり)さんの助言あってのことだったということを知り、おれは謎の納得と共に彼女の評価を元に戻した。

 

 

 

「は、は、は、はじめましてに御座いまする! 小生『のわめでぃあ』いちの愛され美少女、朽羅(クチラ)に御座いまする! 『ねいベス』の後両名におかれましては、小生いつも楽しく拝見させて頂いておりまする! 先日の『実在ゲーセン音ゲー堪能コラボ』も大変すばらしいものに御座いました!」

 

「なにそれめっちゃおもしろそう」

 

『えっ、あっ、えっ……ま、まじで!? 見てくれたの!? ……アッ、ごめんなさい! 見てくれたんですか!?』

 

『ウソ……だってウチ、まだ駆け出しで……知名度だって、全然…………』

 

「……ほお? ……ふむ…………小生、貴嬢らの『知名度』はよく存じませぬが……御主人殿より『実在仮想配信者(ゆあきゃす)はみんな仲間で友達で、同じ目的の同志だから』と仰せつかって居りますれば、御同輩の健闘は(これ)見逃さざるべきと心得まして御座いまするゆえ」

 

『……(ずびっ)』『……(ぐすっ)』

 

「ぅえええ!? な、な、な、何ゆえに!? ちょっ、あの…………ご、ご主人どの? 小生、また何やら……()ってしまって御座いましょう、か……?」

 

「…………うん、そうだね。間違いなく朽羅(くちら)ちゃんのせいなので……後で()()()()しててね」

 

「ホェェェェ!!?」

 

 

 

 最近はその性格もいくらか丸みを帯びてきて、(なつめ)ちゃんに邪険にされつつも仲睦まじい様子を見せる朽羅(くちら)ちゃんだが……彼女の性根そのものは、初めて会ったときから変わらない。

 

 構って貰いたがりで、イタズラや他人をおちょくることが好きで、そして『楽しいこと』『楽しそうなこと』に対する嗅覚がとても鋭い。

 おれの『実在仮想配信者(ユアキャス)みんな仲間』宣言があったとはいえ……彼女が興味を抱いたということは、それそのものが『おもしろい』保証となるわけだ。

 

 そんな鋭敏なアンテナを備えている朽羅(くちら)ちゃんは、暇さえあればユースク(YouScreen)に張り付いて『たのしい』の情報収集に取り組んでくれている。

 おれのかわいい(けど追いきれてない)後輩ちゃんたちのがんばりを見守り、面白そうな事件があれば教えてくれたり、またおれたちのことを話題にしていたらきちんと報告してくれたりと……まぁ、なんとか役に立ってくれてたりする。

 

 

 今回はそんな『ゆーすく調査担当』の朽羅(くちら)ちゃんのアンテナ(ロップイヤー)がビビビッと反応した、仲良しマブダチ美少女コンビ配信者(キャスター)のご登場ということで……先方にとても詳しい子が味方にいるっていうのはね、とても心強いですね。

 

 

 

「と、とにかく! 小生『ねいベス』御両名の御活躍と御健勝を、僭越ながら我が主神様に御祈り申し上げて御座いますゆえ! ……今後とも御活躍、楽しみにしておりまする!」

 

『う゛ん……っ! がんばるね!』

 

『ありがどうね……っ!』

 

「うーん、いいはなしだなぁー。……なんだかいい雰囲気で終わっちゃいそうですが……そうは問屋が卸さないんですよねコレが! 霧衣(きりえ)ちゃんヤっておしまいなさい!」

 

「はいっ! いざいざ、参りまする!」

 

 

 

 この場に来たからには、皆さん平等に話題ルーレットダーツの餌食となってもらいますので。

 ……いえ、若干一名の大正文学美少女配信者(キャスター)には逃げられましたけど。だからこそもう仕損じるわけはいかないわけでして。

 

 

 それでは……わたしたちのかわいい後輩にして、息ピッタリのマブダチコンビにして、前途有望な現役女子高生実在仮想(アンリアル)配信者(キャスター)のお二人、彼女らの『今日のパンツの色』と『最近ハマっていること』、そして嬉し恥ずかし極秘エピソードをですね、是非ともお聞かせ願おうではありませんか!

 

 

 たのしいよるはこれからだぜ!

 

 

 

 

……………………………………

 

 

 

…………………………

 

 

 

……………

 

 

 

 



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【大晦日】もうすぐおめでたいからおめでたい記念配信するよ【新年秒読み】 深夜の部

 

 

「いやーいやー…………こうして無事に年も明けまして。いやー本当おめでたいことです。もう本当にですね、視聴者の皆さんも本当ありがとうございます。今年もわれわれ『のわめでぃあ』と、そして実在仮想配信者(アンリアルキャスター)業界をですね、どうぞなにとぞ宜しくお願い致します」

 

「「よろしくおねがいしまーーす」」

 

「えー、それでは…………乾杯!」

 

「「かんぱーーい!!」」

 

「…………というわけで! これ以降はお酒入るので、おもしろいトークとかあんまり期待しないでね! 願望は出るだろうけど確定情報はたぶん出ないよ! たとえ旅行いきたいとか具体的な地名とか出てきたとしても早とちりして引っ越しとか土地購入とかしないでね!!」

 

「めっちゃ予防線張るっすね……」

 

 

 

 

 ……というわけで、夜の部である。

 

 さまざまな予想外のお客様と想像以上のはっちゃけっぷりに、どったんばったん大騒ぎだった『凸待ち』コーナー。

 今年の活動と人気動画を振り返りつつ、また今後の活動に対する意見交換を行った『行くのわ来るのわ』コーナー。

 そして……㈱マテリアライズアクター社という強力な後ろ楯を得たことで実現した、一般アーティストの方々の話題曲や超人気アニメソング等々をも多分に含んだ『カウントダウンおうたライブ』のコーナー。

 

 それら見所いっぱいたのしいいっぱな長丁場と、年越しの瞬間のカウントダウンと、みんなそろっての新年のご挨拶と中締めを経て……現在時刻は、深夜一時。

 霧衣(きりえ)ちゃん以下幼年組は、いい加減夜も遅いので一足先に『おやすみなさい』してもらいまして……現在はおれとラニとモリアキの三人(※内部的な通称『チームおじさん』)でお送りしている座談会、その名も『腹を割って話そう』のコーナーが始まったところである。

 

 

 ……いや、おれももっと早く幼年組をお休みさせるべきなんじゃないかとは思ったよ。いくら本当の小中学生じゃないとはいえ、あの子たちの見た目はどうみてもJSJCだもの。夜十時以降に働かせるのはコンプライアンス的にもよろしくないだろうし。

 だけどね……三人が三人、泣きそうな顔で渋るんだもん。『まだいっしょにいたい』って。そんなんおれ抵抗できるわけないじゃんおじさん何だって言うこと聞いちゃうよ負けるに決まっとるやろがい(唐突な半ギレ)。

 

 ……まぁ、もし労基署的なところから何か言われたとしても、おれたちには日本屈指の実力者であらせられる神様(とそちらに連なる強力な引退神使(コネクション))および経済界に多大なる影響力を持つ経営の神(と彼の可愛い秘書()三人)がついているので、もはやこわいものなしだ。

 わが『のわめでぃあ』は合法で健全です。なんだったら出るとこ出るぞおら。おなかとか出しちゃうぞおら。

 

 

 

「まーーた悪い顔して。今度は何を企んでるんでしょうね、このいやらしエルフは」

 

「い、いやらしエルフって!? いやらしいのは初芽(はつめ)ちゃんの領分でしょう! というかえっち妖精さんにだけは言われたか無いよ!」

 

「どもどもー褐色いやらしエルフの初芽ちゃんっすよー。イェーイみんな飲んでるー?」

 

「あっ、ハツメちゃんのソレなあに? おいしそうなにおい」

 

「ファジーネーブルっすよ。(ぺシェ)のリキュールをオレンジジュースで割ったヤツなんで、もう実質ジュースっす」

 

「えーいーなソレ! ちょっとひと口もらっていい?」

 

「いいっすよ~。ラニちゃんのひと口とかタカが知れてますんで」

 

「いぇーいハツメちゃん好きー」

 

「わたしを放置してイチャつかないでくれませんか!! いやらし呼ばわりしておいて放置とかいけず過ぎやしませんか!! わたしもなかまにいれて!! イチャイチャさせて!!」

 

「わたしのナカまでイれて!?」

 

「くちゅくちゅさせて!?」

 

「はいダメー! ダメですーブブーですー! わが『のわめでぃあ』は健全って言ってるでしょこの子たちはもー! お父さんそんなふしだらな真似許しませんよ!?」

 

「言動が女児なのによりにもよって自称『お父さん』は草」

 

「それな」

 

「きぃぃぃぃぃぃ!!」

 

 

 

 お酒解禁プラス深夜テンションということで、ついつい色々とタガが(ゆる)んで見えちゃいけない部分(トコ)が見えちゃいそうになっちゃってますが……そこはほら、小さなお子さまも安心して見れる『のわめでぃあ』ですので、局長であるわたしがビシッとNO(ノー)を突きつけてあげなきゃいけないわけです。

 こうして頼れる局長わかめちゃんのおかげもあって、健全なチームおじさん(※あくまで内部的な通称です)の酒盛り配信は大盛り上がりのコメント欄とともに順調に進んでいくわけです。さすがおれ。

 

 

「女児わかめちゃんは何飲んでるんすか? てかそもそもお酒飲めます? お酒はハタチになってからっすよ?」

 

「女児じゃないですし!! オトナなんですけど!? ふくし……じゃなくて、ぱそこんの大学通ってたんですけど!!」

 

「ねぇノワ、もしかしてそれもオレンジのお酒? ハツメちゃんのとはまた違うおいしそうなにおい」

 

「でしょーラニちゃんお目が高い! なんとこれ、沖縄の視聴者さんから頂きました地域限定のチューハイなんですよこれ! エ○ダーオレンジ味!」

 

「…………あー、ヤイマちゃんとミャークちゃんが推してた沖縄のハンバーガー屋さんですっけ、エン◯ー」

 

「そうーおきなわー! 行ってみたいねぇー! えへへ……青い海と白い砂浜……シャコとガンガゼとカツオノエボシ……」

 

「危険生物は充分に気を付けて貰うとして……良いっすねぇ、旅ロケ。今年はもっと遠くに行ってみたいっすよね、『普段なかなかお目にかかれないであろう、ちょっとリッチな非日常をお届けします』(てき)な」

 

「……なるほど? すっごく遠くなわけだ。それはまたハイベースくんが大活躍しちゃうやつだね!!」

 

「いや、さすがに無理」「っすね」

 

「ヌェェェ!?」

 

 

 まぁさすがにね、たぐいまれなる居住性と走破性を兼ね備えたハイベースくんでもですね、いくらなんでも海は渡れないわけですよ。

 これまでは㈱三納オートサービスさんからのご要望を鑑みて、旅といえば車旅が多かったわけだけども……おれたちの活動も二年目に突入し、また新しい年にもなったので、そりゃ新たなことにも挑戦してみたくなるだろう。

 ……いや、もちろんハイベースくんでの旅は続けていきますけど。そういう契約ですし。

 

 それに……せっかくラニちゃんもこの世界に染まってきてくれているのだ。今更だが、いろんな公共交通機関を体験させてあげても良いかもしれない。

 新幹線とか……それこそ、飛行機とか。きっとおくちあんぐりで驚いて(よろこんで)くれるに違いない。

 

 

 

「でもっすよ? せっかく飛行機とか沖縄とか考えるなら……ラニちゃんは勿論っすけど、プリミシア博士も巻き込んであげたいっすよね」

 

「…………そっか、行ったことないんですよね……沖縄」

 

「まぁオレもなんすけどね。……多忙かつ謎が多い方っすけど、意外とノリが軽いみたいですし。博士の理論の……『()()()()()()()()()であるわかめちゃんの頼みなら、聞いてくれるんじゃないっすか?」

 

「うーーん……でもめっちゃ忙しそうでしたし…………先日の一周年配信のときも、なんだか『特例で休暇貰えた』みたいなこと言ってましたし」

 

「ぇええ…………どんなブラック環境で働かされてるんすか博士……」

 

「なんか……色々と平行して進めてるみたいで……全然人手が足りてないんだとか」

 

「…………前人未踏の新技術っすからねぇ……魔法」

 

「『魔法』ねぇー…………」

 

 

 

 きょう現在において実現に漕ぎ着け、世間一般の皆様に対して周知されている『魔法』は、あらかじめ強く念じて思い描いておいた姿に容姿を投影する魔法【変身(キャスト)】、ならびに演出用の投影魔法のみ……ということになっている。

 つまりはこれからプリミシア博士の主導のもと、様々な『魔法』を研究・開発していくところであり、早くも各分野から期待と疑惑の声が寄せられているのだとか。

 

 ……まぁ『さもありなん』と言ったところだろうか。何てったって『魔法』である。

 ゲームやライトノベルやコミックが広く普及したこの国において、そのワードの示すものへの注目が低いわけがないのだ。

 

 そんな中で、大衆向けとなる『魔法』の第二弾として取りかかっているものこそ、ずばり【治癒】に類する回復魔法らしい。

 発言力と資産と社会的地位を得た方々は、やはりえてして健康や寿命に関する関心が高いのだろう。というかそれこそ『不老不死の魔法は無いのか』『若返りの魔法は無いのか』なんていう歯に衣着せぬ要望もあったらしく……プリミシア博士が苦笑いしていたのは記憶に新しい。

 

 

 待ち望む声が数多な『魔法』の開発と、現代における公害である『特定害獣』への対策……そして、調査人員を『異世界』へと向かわせるための『世界間調査坑』の構築。

 多忙きわまりないプリミシア博士のタスクは、てっぺんさえ見えないほどに山積みなのである。

 

 巡りめぐって自分たちの世界の復興に繋がるのだからと、労基も真っ青な勤務スケジュールで働いてくれているらしいが……さすがに息抜きは必要だろう。

 適当なところで連れ出さないと、不眠不休でぶっ倒れるまで働き続けてしまいかねない。強行手段も視野に入れておいたほうが良いかもしれないな。

 われわれ『のわめでぃあ』は健全でホワイトな優良チームですので。プリミシア博士もわれわれの関係者……もとい、提携先である以上、いずれはホワイトに染めてやらねばならないのだ。

 

 

 

「…………という感じで。モノは試しでやってみても良いんじゃないっすかね? 文章の雛形はオレ作るんで」

 

「へぇぇー! そんなことできるんだ! 楽しそう楽しそう! ……ねーえ、ノワいいよね? やってみようよ!」

 

「うん、そうですね。……ん?」

 

「「ヤッター!!」」

 

「………………んん!?」

 

「んじゃ、こんな感じで。大田さんに案件依頼出しますね。非日常的な気分を味わえる施設のプロモーション案件、できればリゾートホテル的な感じで。美少女エルフの水着姿が拝めますよって。はいメール送ったー」

 

「ホァーーーー!!?」

 

「さーびすが増えるよ! やったねノワちゃん!」

 

「まァーーーー!!?」

 

 

 

 

 おれたちの活動も二年目に突入し、また新しい年にもなったので……そりゃあ、新たなことにも挑戦してみたくなるだろう。

 われわれ実在仮想配信者(アンリアルキャスター)の可能性を拡げるためにも、おれが先陣きってやってみるべきなのかもしれない。

 ……まぁ、そういうことにしておこう。

 

 

 

 しかし……しかしですよ。わが『のわめでぃあ』は小さなお子さん含むご家族みんなで楽しめる安全健全な放送局ですので!

 

 その牙城だけは、最後の一線だけは、ぜったいに崩すわけにはいきませんからね!!

 

 

 

 こらそこ、残念そうな顔しない!!

 

 

 

 







おきなわ編の予定は未定です!

期待しないでください!!





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【祝勝会枠】コミフェス戦利品レビューしていく公務_2o2x.o1.o5【URcaster/ミルク・イシェル】



※ 作者の許可無く頒布物およびその内容を配信等で不特定多数へ紹介する行為は、多方面の騒動に繋がる恐れを多分に含みます

※ 実際のサークル名・作品名とは一切関係ありません。もし被ってしまってたらごめんなさい

※ 現地に行かれる方は安全第一でがんばってください。





 

 

 さて……壮健であるかな? 我が親愛なる同盟者諸君よ。

 

 

 余は辺境領イシェルバレー領主……イシェル家が当主、ミルク・イシェルである。

 

 其方らの訪問、我が領を挙げて歓迎しよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……………………というわけでですね! いやーコミフェスですよコミフェス。もう『待ちに待った!』って感じですよね。

 まぁとは言ってもぼくは毎度ながら通販メインなんですけど、今回はいつも以上に期待してたんですよ! 何がってそりゃあ神作家先生方の神スケブですよ同盟者諸君! ちなみにここで言うスケブはスケベブッフゥンの略です。

 

 ……紛らわしいですね。やっぱやめましょうか。勢いでテキトーなこと言うもんじゃないですね。薄い本です。特にスケベブッフゥンです。

 

 

 というのもですね、やっぱ昨今アレじゃないですか。()()()()のおかげで、今ユアキャス界隈めっちゃ賑わってるじゃないですか!

 なんか噂によるとユア関係のスペース数、前回のコミフェスに比べて倍近くまで増えたとか、そんな話も聞こえてくるくらい! もー半端ない右肩上がりですよ!

 

 

 あっ、『ゆるふわ部屋着かわいい』ありがとうございます! いやー照れますね! オシャレなの選んだ甲斐がありました! んへへっ。

 

 

 まーでも……実際あれじゃないですかね、今までユアに興味が無かった層の方々にも興味持っていただけてるっぽくてですね、チャンネルアナリティクスのほうでも見れるんですけど、今までとは明らかに手応えが違うんですよ、最近。

 ……例えば、Ⅲ期生【MagiColorS(マジキャラ)】の先輩方とか、明らかに(おさな)……いえ、若い女性のファン増えてるらしいんですよ。

 

 あー……あとは、ウィルムさんですかね。あの(ひと)は……ヒト? まぁとにかくウィルムさん……すごいですよね、どこをどうしたらユアキャスがアクションゲーム化するんですかね? 小中学生に大人気らしいですよ。

 まぁでも本人は……いえ、本()(?)は、相変わらずかすてら(ウェブコメ)に滅多打ちされてヒンヒン泣いてましたけどね。『吾輩飛べないから! メガフ○アも出ないから! わかるでしょ! 逆ドラゴンハラスメントやめて!』って……いやぁ、本っ当なごむんですよねぇ。邪龍キャラどこ行っちゃったんでしょうかね。

 

 

 …………え、『ブーメラン』『領主キャラどこいった』ですか?

 そんなんもう取り繕う必要なんて無いじゃないですか〜。同盟者諸君の前なんですから〜。

 余の政敵とか敵対派閥の貴族とか、うるさいこと言うやつらみんな滅ぼしたんで。威厳なんて示さなくてもいいんですよ、もうね。イシェルバレーではぼくが一番えらいので。

 

 

 まーそれでですね、ご存知の同盟者さんも居ると思うんですが……かく言うぼくの親愛なる(ママ)上どのもですね、嬉しいことにぼくを始めとする同輩(にじキャラ)イラスト本を出してくれましてですね。

 いやぁー………………もう、最高。好きです。(ママ)上。ほんと好き。ありがとうございます。

 

 

 ……あっ、やっぱ同盟者さんも? 手に入れました? 『最優先で確保しに行った』すばらしい! 素晴らしいですね! イシェルバレー名誉市民の称号を授けよう!

 

 『ユア島巡りめっちゃはかどる』『今年はユア本マジ豊作』そうなんですよ〜〜もう〜〜豊作で嬉しくって〜〜!

 

 

 

 まぁそんなわけで、そんなフルカラー神イラストブックを始め、今回けっこうな数の本をぼく通販したんですよ。

 ……ええ、さすがに現地には行けませんで……コラボ配信もあったし……イシェルバレーは神々見(かがみ)湾の底にあるので……。

 

 とにかく! それらがですね、つい先日うちに届きまして、そっからもー夢中で拝読いたしましてですね。……まぁ、それはそれはとてもとても素晴らしいものばかりでした! ので!

 

 

 今日はですね! それらをレビューしていこうと思います!

 

 

 なお作者の皆様には(あらかじ)めレビュー内容を確認頂き、ちゃんと配信で公表させて頂く許可を頂いてますので、そこんところはご安心下さいね。

 あとあと、もし同盟者諸君が気になる本あったらぜひぜひ通販して下さいね! 作家さんのモチベーションに直結しますので!

 

 

 

 ではまず一冊目は……こちら!

 (ママ)上どのの『にじキャラ』フルカラーイラスト本、『RAINBOW COLOR』です!

 

 

 

 

 

………………………………………

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

…………………

 

 

 

 

 

 

 

 …………それではですね、ここからは同盟者諸君お待ちかね、スケベブッフゥンの部に移ろうと思います。

 いやーいやー……ほんとね、豊作。グヘヘ……素晴らしい本がいっぱいでしたよ、本当。

 

 ……あ、ご安心下さい。

 さっきまでみたいに表紙もお見せしますが、ちゃんと大事なところに付箋(ふせん)貼って隠してあるので、あとはぼくが言葉に気をつければユースクさんの規約には抵触しません。セーフですセーフ。健全ですので。……ンフフッ。『ウチは健全な広報課ですので!』。……似てますか? ふふっ。

 

 

 さてさて、ではさっそく参りましょう十八冊目は……こちら! じゃんっ!

 サークル名『海底ニュニュンペルク』さんの『濃厚!わかめ汁(R-18)』です!

 

 こちらですね、ぼくが治める『辺境領イシェルバレー』……()()()()()()()()()()()()()()()()を舞台にした叡智本でございます。

 

 軽くあらすじを説明しますと……ある日街の視察に出掛けた領主がですね、路地裏でならずものに叡智なことされそうになってるわか……いえ、ロリエ…………えー、異国からの旅人、を見つけましてですね、こう……カッコよく助けるわけですよ!

 そしてですね、『自分の膝下で起こった事件だから』とお詫び代わりに領主のお屋敷に滞在させるわけですけど……まぁ叡智本ですからね、その後の展開は同盟者諸君のご想像にお任せします。期待を裏切らない展開です。素晴らしいですね。和姦です。

 

 こちらはですね……描き込み量がすごい。キャラクターはもちろん背景も細かいんですよね、描写が緻密で丁寧で。商業作品って言われても信じるレベルで綺麗です。

 そんな高解像度で叡智が描写されるわけで……しかもタイトルにあるようにですね、濃厚なんですよ。何がとは言いませんが、それは、もう、たっぷりと……濃厚なんですよ。素晴らしいですね。

 わかっ、ン゛ンッ。…………女の子のほうも、これまた大変可愛くてですね。冒頭でならず者に叡智されそうになってる怯えた表情もまたソソりますし、後半で優しく叡智されるときの安心して融けきった表情もですね、非常に可愛らしくてレベルが高い。

 もちろん実用性の方も抜群で、ビュースポットも満載。あまあまピロートークで〆るハッピーエンドで心も身体もポカポカで……これは『買い』ですよ視聴者さん! ……なんちゃって。

 

 ……というわけで『濃厚!わかめ汁(R-18)』でした!

 作者さんいわく電子版も各媒体で販売中とのことですので、『可愛らしいエルフの女の子とのあまあま同棲生活』シチュが刺さる同盟者諸君はですね、ぜひぜひ探してみて下さい! 

 

 

 …………はい! じゃあどんどん次行きますよ! スケベブッフゥンの部は健全の部の比じゃありませんからね!

 のんびりやってたらバレ……じゃなくて、日付変わってしまいますので!

 

 

 

………………………………………

 

 

 

…………………………

 

 

 

…………………

 

 

 

 

 

 

 えー……では次! つぎは……二十五冊目かな? 二十五冊目! じゃじゃんっ!

 サークル名『平坦(ぺったん)(あん)』さんの『エルヴン・ナーサリー(R-18)』です!!

 

 こちらはですね……これまで『ほのぼの』『いちゃらぶ』が多かったんですけど、打って変わってダークな雰囲気の表紙なわけなのですが……まぁ、そんな雰囲気のダークで叡智でファッパビリティ激高な一品ですね。

 タイトルからして理解(わか)る人には理解(わか)ると思うんですけど、まさに()()()()感じの展開です。ちなみにナーサリーという単語には『保育所』とか『育児室』とか『育種所』だとか……『苗床』って意味が含まれるらしいですよ。

 

 つまりはですね、わか、っ……ファンタジーな感じのエルフの女の子がですね、抵抗虚しく()()()()感じのナーサリーになってしまうという……ストーリー的には、まぁぶっちゃけると『救いが無い』お話ですね。

 

 お相手役はある意味定番の、ゴブリンやオークなんかの亜人種系。

 ここまで材料が揃ったら……(おの)ずと全体像も見えてきますよね。安心して下さい、まさにそんな感じです。期待を裏切りません。

 

 ちなみに個人的な感想としましては、やはりわか、っ…………エルフの女の子の、表情がですね、まー叡智なこと叡智なこと。

 健全なので深くは触れられませんが、ワードの選択がこれまた叡智でたまりませんね。セリフもモノローグも表現力が高くて、画力のほうも申し分無し。

 全体を通して非常識にハイクオリティ・ハイファッパビリティで、ビュースポット満載でした。

 

 いちゃあま派の同盟者諸君には少々オススメしづらいですが、実用性は非常に高いです。

 こちらも電子版公開中とのことですので、ソッチの方もイケる同盟者諸君はぜひぜひチェックしてみて下さい。サンプル部分のわか、っ……エルフの女の子の表情にときめいた(かた)、買って後悔はしません。

 

 ……ということで、以上『平坦(ぺったん)(あん)』さんの『エルヴン・ナーサリー(R-18)』でした!

 

 

 ちなみにこれ以降はわりとこんな感じの作品がほとんどですので……まぁこればっかりは仕方ないですかね、いちゃあま派・かわいそうなのは抜けない派の同盟者諸君は、リスク回避……回れ右していただいても構いません。

 NTRやBSSの過剰摂取は脳が破壊され性癖が捻じ曲がり性欲が暴走するおそれがありますのでね。こわいですね。

 

 あぁでも、お帰りの前に高評価は押しといてもらえると助かります!

 かわいそうシチュのことは嫌いになっても『イシェルバレー広報課』は嫌わないで下さい!

 

 

 

 えー……それではスケベブッフゥンの部、続けていきましょう! 二十六冊目!

 サークル名『地下室の扉』さんの『アズール・ナイトメア』です!

 

 

 

………………………………………

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

……………………

 

 

 

 

 ……以上、『炉瓶村(ろびんそん)九龍荘(くるーそー)』さんの『ようせいさんからダジをとる本(R-18)』でした!

 

 

 ………………ふぅ。…………いやぁ、けっこうご紹介しましたかね?

 今の本で、ひぃふぅみぃ…………えー、四十五冊ですか。うち叡智本が二十七冊ですか? 叡智率やばいですね。

 

 なにやらコメント覧が騒がしい気もしなくもないですが、きっと気のせいですね。気のせいに違いないですね。アーアー聞こえません聞こえません。機材トラブルですかねー。

 

 

 さて、どうやらさすがにバレ…………もといお時間のようですので、そろそろ終わりにしましょうか。

 今日ご紹介した作品、通販や電子媒体で入手できるものもたくさんありますので、興味が湧いたらぜひ購入して、作家さんを応援してあげてくださいね!

 皆さんの応援が作家さんのモチベーションアップ、そしてさらなる叡智本に繋がりますので……!!

 

 

 さてさて、それでは丁度いい時間ですので、今日の放送はこれまで。

 よろしければチャンネル登録と高評価グッドボタンのクリック、SNS(つぶやいたー)のフォローもよろしくお願いしまーす。

 

 

 では……またな、皆の衆よ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 










「アッ!! ちくしょう逃げた! 逃げられた! 逃がしませんよ叡智していいのは叡智される覚悟のあるやつだけなんですよ! ちくしょう物騒なモンぶら下げやがって! 逃がさんからな覚悟しなさいよあのヘッポコ領主ゥ!!」

「どうどうノワどうどうコール鳴らしまくるのやめなさいって。……いや、でもほら、『実在の人物とは関係ありません』って書いてあr」

「そんなん何の慰めにもならないの! もはや暗黙の了解なの! 他人の空似って言われりゃそれまでだけどさアアアアアもおおおおお!」

「そ、そう……大変だね……」

「いやー……しかし、まぁ…………こんなにあるもんなんすね、わかめちゃんの叡智本」

「わたしのじゃないですし! 他人の空似ですし!」

「じゃあ良いじゃないっすか。ただの『可愛らしいエルフの女の子が叡智される本』ってだけっすよ? 他人の空似なんでしょう?」

「ふグゥ…………!」

「それに……まぁ『他人の空似』なんっすけど、そのエルフの女の子が皆に愛されてるっていう証拠でもあるわけじゃないっすか。健全本は単純に嬉しいんでしょう? たとえそこが叡智本でも、そこに込められた『好き』は揺るぎないっすよ」

「………………そう、だよ……ね。…………おれ……じゃなくて、その『かわいい緑エルフの女の子』が、多くの人に好いてもらえてる……ってことだもんね」

「そうっすよ。わかめちゃんの視聴者さんは、ちゃんと実在と創作の区別付いてるじゃないっすか。いろんな欲望は全部創作のほうにぶつけてくれてるわけですし、実在わかめちゃんは何も心配いらない……むしろ、喜ぶべきことなんすよ」

「……………………そう、だな。……わかった」

((チョロいなぁー……))

「それはそれとしてミルさんは今度会ったら股間(ち○ち○)蹴る」

「「おいやめろばか!!!!!」」




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お客人どの、お客人どの。博識なるお客人どのに於かれましては、今年の『干支』など当然御存知のことと存じておりまするが、はてさて一体如何なる者にて御座いましょうや? …………ええ、ええ! 然り、此れ即ち



一日からしごとはじめだったのであちこち粗があるかもしれません。あらぽてと
また、時系列とかそのへんも深く考えてません。もしかすると齟齬ってる可能性もありますが、いうて所詮は閑話です。

あまり気にしないでくれるとうれしいです。






 

 

 

「…………はい。じゃそういうわけで、今いるメンツで反省会のほうをですね、始めてこうと思います。まだだよまだ。ステイ。みんなおはしはステイ。お席ついてー」

 

 

 

 ヘィリィ。ご無沙汰しております、親愛なる視聴者の皆さん。

 魔法情報局『のわめでぃあ』局長、自分と身内が題材と思しき薄い本は全部通販予約しました木乃(きの)若芽(わかめ)です。

 

 いやー……通販なんですよ、通販。できることなら会場の空気を満喫したかったんですけどもね。

 あとツテで言えば、それこそ壁やシャッター前常連の神作家先生おじさんの知り合いがいるっちゃいるんですが……最近われわれの活動に巻き込みすぎたせいで、ほんと久しぶりの祭典なもので。あんまり迷惑は掛けられませんで。

 ……ていうかまぁ、そもそも『主』が買いものに行けるわけないわけだが。

 

 

 とにかく、今回は冬の祭典は置いておこう。おれは勿論、ユアキャスのみんながフィーバーしてるのは自分のことのように嬉しいけれど……今日のメインは、そっち方面じゃない。

 というのもですね。私共ですね、何を隠そう祭典当日は『おつとめ』を頑張っておりまして……まぁ『こっち』に専念していたわけで、とても祭典に参加できるような状況じゃなかったんですよね。

 

 

 そしてその『おつとめ』の内容がですね、冒頭の『反省会』に繋がるわけですが……まぁ年末年始の『おつとめ』といったら、もちろんあれです。

 今となっては遠い昔のことのように感じられる、われわれが身に余る御縁を頂く切っ掛けとなった……愛智県は鶴城(つるぎ)さんの『助勤(あるばいと)』でございます。

 

 ……まぁ、とりあえず今年は常人レベルのスケジュールでした。

 うちの幼年組もいたからね、よかった。

 

 

 

「はい、じゃあまず霧衣(きりえ)ちゃん」

 

「は、はいっ! (わたくし)も久方ぶりのお務めに御座いましたゆえ、若芽様や巫女衆の皆様にご迷惑をお掛けしてしまいまして御座いまする。……わ、わぅぅ…………もっと『てきぱき』こなせるよう、精進して参る次第に御座いまする」

 

霧衣(きりえ)ちゃんのアレはオイタしてきた一般来訪オタクくんのせいなので気にしなくていいんだよ……!!」

 

「そうそう! ちゃーんとボクが追っ掛けて【混乱(コンフュ)】と【酩酊(ドランク)】ブチ込んでオトシマエつけといたから!」

 

「そんなことしてたのラニちゃん!?!? 境内で勝手したら布都(フツノ)様にバチボコにキレられるよ!!? ナミタチされちゃうよ!!!?」

 

「だぁーいじょうぶだって! …………フツノさま直々の指令だからね。阻害(デバフ)系に留めたのはボクの……せめてもの良心、ってヤツだよ」

 

「ヒュッ」

 

 

 おれと霧衣(きりえ)ちゃんはもちろん、完璧な巫女装束姿(&特別限定版黒髪美少女エルフ)姿にて、授与所の主戦力として大活躍だった。

 配信では拝めないそんな姿を撮影するため、画像や映像素材をラニちゃんに押さえてもらってたわけだけど……このぷに○な妖精ときたら、気がついたらプチ布都(フツノ)様とツルんで悪巧みしてるんだもんよ。マジ心臓に悪いですって。

 

 ……しかしまぁ、駆け出し配信者(キャスター)だったあの頃は、霧衣(きりえ)ちゃんとふたりで頑張ってたわけだけど。

 あれから月日が流れ、より多くの御縁を繋ぎ、にぎやかになった『のわめでぃあ』には……とっても心強くて可愛らしい、頼りになる仲間が増えたのだ。

 

 

 

「はいじゃあ、(なつめ)ちゃん」

 

「にっ。…………うぅむ……年始めの大祭は、此れ迄は吾輩(わがはい)警邏しか請けおったことがないのである。授与所のお務めは初めてであったし……たくさん迷惑をかけてしまったので、精進するのである」

 

「大丈夫に御座いまする、(なつめ)さまっ! 御品物の選定も、御代の勘定も、過ち無くこなされて御座いましたゆえ」

 

「そうそう、むしろ初めてであそこまで安心感あるのすごいっていうか、さすがっていうか。……まあ、確かに霧衣(きりえ)ちゃん先生に比べると手際の良さは届かないけど、それは比べる対象が『つよすぎ完璧かわいいおねえちゃん』だっただけで」

 

「わ、わかめさまぁ!?」

 

「えへへ……比べるのは失礼かもだけど、一般のバイト巫女さんよりうまくできてたと思うよ。ありがとね」

 

「わ、わたくしも! 棗さまにはたくさん感謝で御座いまする!」

 

「んふー」

 

 

 

 そう、何を隠そう(隠しはしないけど)今年のおつとめは一味違う。

 おれと霧衣(きりえ)ちゃんの経験者コンビに加え、小さくてもとってもかわいい新戦力がお披露目となったのだ。

 

 巫女さんのおしごとが初めてだったらしい(なつめ)ちゃんだが、持ち前の真面目さと『ねえさまだいすき』パワーに起因する観察力は、はっきりいってかなりのものだ。

 お隣でてきぱきと頒布に臨む霧衣(きりえ)おねえちゃんの手際を観察し、見よう見まねでバッチリ高速学習してみせた。

 

 まじめで、がんばりやさんで、澄ました顔での『ほめてほしい』アピールがとても可愛らしい。

 彼女が『ねえさま』と慕う霧衣(きりえ)ちゃんとのなかよしツーショットは、万病には効かないがそのうち効くようになると大好評なのだ。

 

 

 

 

「…………はい! じゃあ霧衣(きりえ)ちゃん(なつめ)ちゃんの『良い子ちゃんズ』および保護者のラニちゃんは、お務めお疲れ様でした! 鶴城(つるぎ)さんにケータリング頂いたので、美味しく召し上がりましょう!」

 

「わーい!」「は、はいっ!」「にっ!」

 

「あ、あのぅ…………ご主人どの? 小生は――」

 

「ん?」

 

「えっ? あっ、えっと……あ、あの、小生も……ごちそうを、その……」

 

「ん???」

 

「………………えっと、」

 

「じゃあそういうわけでね、改めてね、自分の口から言ってみようね……朽羅(くちら)ちゃん?」

 

「あっ、えー、えーーーっと、で御座いましてそのぉ…………あの、例のアレなる行為には深ぁーい理由が御座いましてその」

 

「言ってみよっか? 朽羅(くちら)ちゃんが何したのか。言ってみよっか?」

 

「アッ! ッスゥーーーー…………」

 

 

 

 連れ出されたネット弁慶のようにというか、借りてきた兎のようにというか、とにかく沙汰を待つ罪人のようにお座りしているのは……日本三大すごい神様の御一神(おひとり)であらせられるヨミさまよりお預かりしている野兎の神使、朽羅(くちら)ちゃんである。

 黙っていれば確かに愛らしい少女なのだが、その言動が()にも(かく)にも(※うさぎだけに)構ってちゃん気質というか、色々とお調子に乗りがちな困ったちゃん気質というか。

 

 

 つまりは……ええ、やってくれたわけです。この子は。年末年始の鶴城(つるぎ)さん助勤(あるばいと)の場面にて。それはもう大々的に。

 

 

 

 

「あ、あのっ、あの、で御座いましてですね…………ま、まず小生、斯様に愛らしいうさちゃん神使にて御座いますゆえ、」

 

「うん、そうだね。それで?」

 

「んに……あねうえどの、お飲物が無いのである。吾輩ねえさまに『おれんじ』を注いで差し上げるである」

 

「ふふふっ。ありがとうございます、(なつめ)さま」

 

「………………そ、それで、その…………聞くところによると、本年の干支は奇遇なことに【卯】に御座いますれば、それ(すなわ)ち小生も()れ『うさちゃん』にて御座いますゆえ、干支飾のように『ちやほや』されて然るべきにて――」

 

「ん??????」

 

「ヒュッ! …………え、えー…………えーーー、っと、その、えっと」

 

「あねうえどの、『からあげ』をどうぞなのである。吾輩あねうえどのが『おにく』すきだと知っているのである」

 

「わぅぅ、んぅぅ……! (なつめ)さまのような優しい子と、若芽様達のような素敵な御方々と御縁を頂けて……(わたくし)は大変、幸せ者にございまする……!」

 

「んふー」

 

「んぅぅぅぅ、ひグゥゥゥゥゥ……」

 

 

 

 われらが拠点『のわめ荘(通称)』ダイニングスペースにて、椅子の上でお手々を縛られた上で『きをつけ』ポーズを余儀なくされる朽羅ちゃんを傍らに、存分にいちゃつき『(てぇて)ぇ』を全面放射している二人の可愛(カワ)()ちゃんズ。

 そんな仲睦まじい絡みをチラチラ横目で盗み見ながら……一方で罪状を追及される兎ちゃんは、どうやら冷や汗が止まらない様子。

 

 かわいそうに、引きつった顔で奇声を上げて、小刻みにぷるぷる震えはじめてしまった。かわいそう。

 

 

 

「えー、それでは……盛り上がってまいりましたのでですね、このあたりで被告人朽羅(くちら)ちゃんの罪状をですね、これから読み上げていこうと思います」

 

「ワーー!」「わうぅ!?」「……ふん」

 

「ざ、罪状だなどとそんな大袈裟――」

 

「ん?????」

 

「ぴっ」

 

 

 

 ……そもそも今回、鶴城(つるぎ)さんで助勤としてお手伝いさせて頂いたおれたちだが……正直なところ、ほかのお宮さんからもお誘いのお言葉は頂戴していたりするのだ。

 

 

 東方の某大神様は『布都(ふつの)ちゃんばっかりずるい!』『うちでも巫女さんやってくれなきゃやだ!』『夏祭りはうちに来て!』と可愛らしくおへそを曲げ。

 

 一方で西方の某空神様は……なんというか、擬音にすると『ギンッ』とでも表せそうな目つきで、淡々とお小言を溢しておられました。うわヨミさま目ェ怖。

 

 

 

「は、反省はちゃんとしてるで御座いまする! ちゃんと小生心を入れ替えて、過去のことは水に流し明るく生きると心に決めたで御座いまする! だからこの手枷をそろそろ外して――」

 

「外すわけ無ぇだろ被告人うさちゃんがよぉ。生半可な『おしおき』は悦ばせるだけって知ってんやぞ。だからわざわざこうして拷問(メシテロ)に掛けてるわけで、よって御馳走はお預けです」

 

「しょ、しょんなぁ……!!?」

 

「…………なるほど、これが『かわいそうはかわいい』ってやつか」

 

「ただの自業自得なんだよなぁ」

 

 

 

 ……ともかく、そんなやんごとなき方々の光栄なお誘いを断ってしまった以上、生半可な覚悟で臨むわけにはいかない案件だったわけで。

 年末年始の大切な時期であるし、中途半端な気持ちで失礼があってはいけないと、みんなにもそう言い聞かせて円陣組んでエイオー気合入れていた……にもかかわらず。

 

 

 この困ったうさぎちゃんはというと……巫女装束姿の自分を『大層愛らしく御座いましょう!』と周囲誰彼構わず見せびらかし。

 

 かと思えば『小生幼少の(みぎり)より神々見(カガミ)の宮にて勤めてございますれば!』と唐突なキャリア自慢(?)を始め。

 

 何よりも酷かったのが……『干支(えと)に御座います【()】を尊ぶのならば、それ(すなわ)ち小生も尊ばれ然るべきにて御座いまする!』『ささ、ご遠慮めされるな、存分に小生を『ちやほや』なさいませ!』という、割とどうしようもない理論を手当たり次第に押し付けて回っていたことであり。

 

 

 ……まぁそれでも、ちゃんとおシゴトしてくれれば文句は言われないんだろうけど。

 

 連絡係の巫女さんたちや、参拝者の方々にも同様に『小生かわいい』および『うさちゃん小生をありがたがるべき』アピールを欠かさず。

 教えられていた言葉遣いや頒布応対の文面を一切無視し、いつも通りの少々独特な(ウザい)言い回しで『ちやほやしろ』と捲し立て。

 お守りを求める参拝の方々を待たせまくり、あまつさえお隣で真面目におシゴトに臨む(なつめ)ちゃんにちょっかいを掛けて困らせていたので。

 

 

 

「………………まぁつまりね、他所様(よそさま)での狼藉はね、罪ありき(ギルティ)なわけでして。さすがに反省してもらわないと」

 

「ぺうゥゥゥゥ………!」

 

「……(のわめでぃあ)の中なら、どんなに…………は、言い過ぎだけど、ある程度は『わがまま』も良いんだけどさ。さすがに他所様(よそさま)にまで迷惑掛けるのは、ちょーっと看過できないわけよ。あと今回は相手が悪かった」

 

「み゜ゃっ!?」

 

「そうだね。プチフツノさまあの場じゃ大笑いしてたけど、アレ目と雰囲気は笑ってなかったからね。今頃ヨミちゃんさまに苦情行っててもおかしくないよ」

 

「ひュゴほォ!?」

 

「あー……………………ご愁傷様」

 

「いん゛ッ……………!!?」

 

 

 

「あねうえどの、あねうえどの。吾輩きづいたのである。これなる『えびふらい』に『まよねーず』をつけるとおいしいのである」

 

「ふふっ。(なつめ)さま、えびさんの尻尾は『ぺっ』てしてしまっても構わないので御座いまする」

 

「大丈夫なのである。吾輩、えびさんのしっぽもおいしく、ちゃんと『ごちそうさま』するである」

 

「まあ。……そうで御座いますね。頂戴したお命には、ちゃんと『ごちそうさま』しないとで御座いまする。……(なつめ)さまは、大変ご立派に御座いまする」

 

「むふー」

 

 

 

 彼女の古巣であり、また慕っている者が居る神々見(かがみ)さんから『お叱り』が入ることを想像してしまい。

 

 また……目の前で繰り広げられている仲睦まじい食事風景を、弱り目にまざまざと見せつけられ続け。

 

 

 …………トドメに、さっき調子に乗って『おれんじ』を次々とゴクゴク入れていたその『結果』が、どうやら表れはじめてしまった様子で。

 

 

 

 

「…………ご、ごヒュじん、どの、あの」

 

「ちなみに漏らしたらおやつ一ヶ月抜きだからね」

 

「ヒュんんんんん!? ごごご、ごめんなさいで御座いまする! ごめんなさいで御座いまする!! もうお外で無礼かつ不相応な立振舞いは厳に謹むと御約束致しまする!! ……だッ、だから、あの、とり、とりあえず(かわや)に――」

 

「ほかには? 特に(なつめ)ちゃんに何か言うことあるんじゃない?」

 

「ななな(なつめ)どの! (なつめ)どのっ! ごめんなさいで御座いまする! 真面目にお務めに臨む(なつめ)どのの邪魔をして、あと未発達な『すっとん』体形と馬鹿にしてごめんなさいで御座いまする! あとあと『くりーむぱん』こっそりひとつ食べたのもごめんなさいで御座いまする!!」

 

「わかめどの、吾輩『くりーむぱん』のお話は知らなかったのである」

 

「だよね。(なつめ)ちゃん食べてないはずなのになんか減ってた気がしたから、とりあえず買い足してたんだけど…………やっぱり、かぁ」

 

「ヒュっ」

 

 

 

 

 …………まぁ、おれだって鬼じゃない。

 

 色々とクレームが入っても仕方ない体たらくだったとはいえ、それでも超繁忙期を乗り切った『おつかれさま』の場ではあるし……我が家のリビング、しかもお食事中に『おもらし』されるわけにもいかない。

 

 それに……うちに来た当初に比べれば、これでも『ごめんなさい』がスムーズに出てくるようになったのだ。

 朽羅(くちら)ちゃんの今後の成長に期待、ということで。

 

 

 

「…………ラニちゃん、解いたげて」

 

「はいはーい。おっけー劇場」

 

「ら、らにちゃんどのぉ……!」

 

「あ〜〜〜イイね、涙で潤んだ表情めっちゃソソる」

 

(……大人しくしてれば、実際かなり可愛らしいんだけどね)

 

(それねぇ………言動が……)

 

 

 

 

 ……ともあれ。

 

 ついに戒めを解かれ、ひとまずこの場での追及を終えた朽羅(くちら)ちゃんは、心なしかひょこひょこしながらお手洗い目指して一目散。

 ちなみにウチの一階お手洗いには現在、年末の祭典を乗り切り成し遂げた某神作家先生が住んでるぞ。なんでも打ち上げで牡蠣にアタった可能性が高いとかで、もう一時間は奮闘中の模様。

 入居時にタブレットとお水も持ち込んでたから、アレは当分出てこないやつだと思うんだけど……。

 

 

 

 

『ふなャぁーーーーーー!?!!?』

 

『きゃーーー!! 何ィーーーー!!!?』

 

 

 

 甲高い女の子の絶叫と、けたたましく扉を連打する音と、絹を裂くようなおじさんの悲鳴がどこ遠くで聞こえたような気がするけど……まぁ『水漏れ』のような音は聞こえて来ないから、たぶん大丈夫でしょう。

 

 いちおうウチには二階にもお手洗いはあるし、最悪すぐ近くにはお風呂場もあるので……詳しくは言わんが、まぁつよく生きてほしい。

 

 

 

(………………まぁ、ボクもたびたびやっちゃってるからね……おフロ)

 

(おれが魔法できれいきれいしてるから大丈夫よ)

 

(さすがノワ、助か…………いや、よく考えたらボクがやっちゃうのだいたいノワのせいじゃん! ひどい! マッチョパンツだ!)

 

(マッチポンプかな? いやいや、おれのせいって言うけどさ、その原因はそもそもラニちゃんでしょうに。また洗濯かごからパンツ盗んだの知ってんだからな?)

 

(さて、ボク一応くっちーの様子見てこよっかな)

 

(流さんからな?)

 

(なるほど、お手洗いだけに?)

 

(いいかげんにしろ)

 

(んへへ〜〜〜〜〜〜!!)

 

 

 

 

 …………まぁ、そうだな。

 たのしいがいっぱいなのは、それはとても嬉しいことなのだけど。

 

 同じくらい、いやそれ以上に……騒動もいっぱいなわけだけども。

 

 

 それでも……やっぱり、おれは『のわめでぃあ』のみんなが大好きだ。

 願わくばずっとこのまま、世界が平和でありますように。

 

 

 

 







新年、おめでとうございます。
今年は令和5年です(すぐ忘れそうになる)



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【目指せグランマ】クッキーフリーカー 〜つよくてかわいい新戦力〜【WD特別企画】_その1

 

 

 

 

 

「…………というわけで。……クッキー、作ってほしい。……めっちゃいっぱい」

 

「ごめん意味が全くわからない」

 

 

 

 

 長かった冬も終わりに近づき、まわりの山々も若葉が溢れ、少しずつぽかぽかしてきた三月の始め、ある晴れた日の昼下がり。

 人里離れた山あいの某別荘地、自宅兼スタジオのおしごとルームにて作業中だったおれに……突如として現れたダウナー美少女のお口から突如突拍子もない突然の要求が突如として唐突に告げられた。

 そりゃもう、突如も突如よ。

 

 

 

「……ごまかさない。……チョコ、貰ったんでしょ? 嫁たちから。…………お返し、作るでしょ?」

 

「いやまぁ、えーっと、そのエヘヘッ、まぁ…………うん。そりゃあ作ろうと思ってました……けど」

 

 

 

 そうなんですよ……聞いてくださいよ、いや聞いてくれなくても話しますねなぜなら自慢したいので。

 先日ですね、可愛いKAWAIIうちのなかよし三姉妹たちがですね、珍しくもったいぶっていじらしく可愛かったので『どうしたのかな?』と思ってたんですが……なんとなんとですね、なんと『てづくりチョコ』をですね、なんとプレゼントしてくれたんですよ……。

 

 なんでも二月十四日の例のイベントをどこからともなく聞きつけたらしく、『日頃お世話になってるノワにお礼をしよう!』とラニちゃんが陣頭指揮をとって密かに計画してくれていたらしくてですね……。

 なんとなんと……材料の買い出しから調理から、全てあの子たち(&みまもり万能アシスタント妖精ラニちゃん)だけで挑戦してくれていたらしくてですね……。

 

 

 それらの努力と愛情の結晶を、ちゃっかりバッチリ撮影された動画データ(おかいものシーン&おりょうりシーン豪華二本立て)と共に受け取ったおれとモリアキはですね……もう、あれよ、大号泣よ。あのとき多分おれら死んだわ。尊死したわ。尊死からの即再誕だったわ。

 おれなんかもう感極まってボロッボロ泣きながらテンションとやる気が限界突破しまして、徹夜で動画編集して翌日即公開させていただきましたわ。

 

 ちなみに動画編集のお供には、例の愛情たっぷりチョコをおいしく頂きました。

 たぶんだけど『作業の合間に(つま)めるように』って、コロコロ丸い形にしてくれたのかな。おそらく幼年組の二人が丸めたのであろうチョコはちょっと形が歪になっちゃってるけど、そこがまた可愛いね。悪気は無いからね。

 凸凹(デコボコ)してたり棒状になっちゃってるのもあったけど…………うん、ちょっとだけ、ほんのマジでちょっとだけ、茶色い凸凹(デコボコ)の棒状のものを摘まむのに抵抗感じちゃったりもしたけど……うん。これはちゃんとチョコだったよ。うん。これね。

 

 話は変わるけど、奈良県のご当地銘菓で鹿のアレを模したチョコ菓子があるとかないとか人気だとか。いや関係ないけど。ぜったい関係ないんだけど。

 

 

 っとまぁ、そんな尊さと()()()()に恵まれた大事件が巻き起こった次第でしたので、これはなんとしても翌月の『お返し』は頑張らないとな……と、ちょうど思っていたところなのですよ。おれは男なので。

 

 そう、なぜならおれは男なので(念押し)。

 

 

 

「……それにしても……よくわたしが『お返しを画策してる』ってわかりましたね?」

 

「…………あの子たちなら……まず、キミに送るかな、って思ったし……それにキミ、元は男でしょ」

 

「な゜ォ!?」

 

「……自覚あるか、わかんないけど……ときどき『おれ』になってたし。熱くなってるときとか。……まぁ、半分はカマ掛けだったけど……はっきりしたね?」

 

「   、  ?  、」

 

「……まぁ、だから、律儀な男なら『お返し』作るかなって……そのついで。……材料は、全部ボクが提供するから…………たくさん作れば、動画映えすると思うし」

 

「ま待マま待って、まって、待って。え? 待って何『たくさん作れば』って。……どんだけ作らせる気?」

 

「…………まず、薄力粉……ね。十キロの袋、買った」

 

「………………は?」

 

「…………あと、バター……五キロ。北海道産」

 

「は?」

 

「……それと、卵。とりあえず……五キロの箱、買ってきた」

 

「はこ!?!??」

 

 

 

 大慌てで一般的なクッキーのレシピを検索し、今しがたこの無駄に鋭い魔性の無茶振りロリから提示された材料の量と比較し、とてもかしこい頭脳で大雑把に計算。

 ……とりあえず大まかな完成予想量と、それに伴う映像を思い浮かべる。

 

 なるほど確かに、ただ単純にクッキーを作るだけでなく、これほどまでの量を一度に作るともなれば『動画映え』はするだろうし……まぁ、同業他者との差別化もできるだろう。

 

 

 ただ当然、完成品の量が半端ないことになるので……フードロス削減に全力で取り組む『のわめでぃあ』としては一瞬だけ悩んだのだが。

 

 

 

(……まぁ、お世話になってる『にじキャラ』さんにも配ればいいし……余ったらラニの【蔵】で保存してもらっても…………いや、まぁ……そっか。()()()()な)

 

 

 

 今のおれの交友関係と、そして目の前の美少女の()のことに思い至り、余る可能性なんて()()()()()ということに気がついた。

 

 であれば、全ての不安は払拭できる。確かにこまごまとした道具を買い足す必要はあるが、おれの目の前でこれ見よがしに積み上げられている食材に比べたら安いものだ。

 

 ……うん、なるほど……悪くない。

 楽しそうだし……色々と()()()()()だ。

 

 

 

「……わかりました。確かにウケそうではあるので……超大量クッキー生産、このわかめちゃんが引き受けましょう。ただし!」

 

「…………ただし?」

 

「型抜きとか成形とか、あと『焼き』の補助とか。……動画には映さないので、ちゃあんと手伝って貰いますからね? ()()()()

 

「…………………………えぇー……」

 

「いやいやいやいや『えぇー』じゃないが! ここまで来といて今さら何を面倒くさがってるんですか!! 手伝わないとクッキーわけてあげませんよ!?」

 

「…………しょうがないにゃぁ…………いいよ」

 

「んグゥ、ッ! ……ああもう、可愛いなぁ」

 

「…………こういうの、好きだね? ホント…………はぁ」

 

「アッためいき! アンニュイ!」

 

 

 

 ……こうして、いきなり家に押し入ってきた睡眠欲満たしまくり系ダウナー美少女使徒であらせられる、宇多方(うたかた)(しず)ちゃん(ぶっちゃけめっちゃ好み)からの依頼によって。

 

 

 おれとシズちゃん、可愛いKAWAII妹分たちが好きで好きでたまらない大黒柱ふたりによる、作ってびっくり撮ってびっくりあげてびっくり食べてびっくりなホワイトデー計画が……人知れず始動したのだった。

 

 

 

 

 

 

 






「それはそうと……よくウチの場所わかったね……」

「……ん。……後、つけてた。ストーキング」

「ほグぉホ、っ!?」

「……ボクの、分体……【夢遊病(ソウルウォーカー)】。…………希薄にすれば、たぶん……見つけづらい」

「なんでもありじゃん」

「……まぁ、本体じゃないし。魔力の塊だし。密度を増せば、こうして触れるし…………逆に落とせば、それこそ……壁抜けとか、盗聴とか」

「遊びに来るときはちゃんと存在感出してね!! こっそり来たり壁抜けや盗聴すんのも禁止!! じゃないともう口きいてあげないから!!」

「…………むう。……それは、やだ」







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【目指せグランマ】クッキーフリーカー 〜つよくてかわいい新戦力〜【WD特別企画】_その2




「じゃあ……適当に撮ってくんで、静かに見てて下さいね。…………いや別に見てなくてもいいですけど」

「ん……みてる。ばっちり」

「あぁ、そう……………………ハイッ」


 じゃあまあ…………気を取り直して。






 

 

 

 ヘイリィ! ご機嫌いかがですか? 親愛なる視聴者の皆さん!

 毎度お騒がせしております、泣く子も笑う魔法情報局『のわめでぃあ』局長、ひさしぶりのエプロン姿がとっても可愛らしい木乃(きの)若芽(わかめ)ですっ!

 

 

 

 ………………。

 

 

 ……………………。

 

 

 …………ええ、はい。そうなんです。

 

 

 本日なんですけどね、みんな大好きわうわうアシスタントのかわいい霧衣(きりえ)ちゃん、ならびにかわいい(なつめ)ちゃんおよび朽羅(くちら)ちゃんなんですけどもね……ちょーっとラニちゃんを抱き込んで、(ウソ)企画でお外に連れ出してもらってるんですよね。

 ……いえ、あの子たちを(ダマ)すのはやっぱ良心が痛みますが……しかし今日ばかりは、ちょーっとお家を留守にしてもらう必要があるのです!

 

 

 なぜかって? よくぞ聞いてくれました! それはですね……!!

 

 

 なんと本日!(二カメ)

 

 あの子たちが留守の間に!(三カメ)

 

 日ごろのお礼を籠めて!(一カメ)

 

 大量のクッキーを!(ニカメ再び)

 

 焼きまくっちゃおう!(三カメ再び)

 

 ……と思っているからです!! ワァーー!!(一カメ引き)

 どうですか視聴者のみなさん。お久しぶりの『わかめのおはなしクッキング(Extreme)』ですよ! どうですか嬉しいでしょう! 嬉しいって言え。

 

 

 

 こほん。……というわけで、視聴者の皆さんも大歓声あげて喜んでくれたことですし……さっそく進んでいきましょう!

 まずは材料! こちらに用意させていただきました! 見てくださいそして驚きわたしを褒め讃えてちやほやしてください!!

 こちらから順に……薄力粉(一〇キロ)、バター(五キロ)、お砂糖(四キロ)、卵(Sサイズ五〇個)、そして抹茶パウダーとココアパウダー、フリーズドライのいちごと食用色素(赤)をそれぞれ適量……以上です!

 

 これらを使ってですね……四色カラフルの『極・アイスボックスクッキー』を作っていこうと思います! 恐らくというか考えるまでもなく量がそれはすごくすごいことになると思います! たのしみですね! 極・製菓戦です!

 それでは……いざ、戦闘開始(スタート)です!

 

 

 

 まずはこちら、バター(五キロ)ですけども……こちらですね、室温でいい感じに柔らかくなってきてますね!

 これを漬物樽(ボウル)に入れまして、そこへお砂糖(四キロ)をまんべんなく入れまして……これをですね、こちらの電動撹拌機(ミキサー)(新品・洗浄消毒済)でよーーく混ぜていきます!

 

 

 この撹拌機、ものすごくパワーがある工事……あいえ、業務用のやつなので、こうして、トリガー……いえ、スイッチを、ですね、こう押してんででででてぺれれれれれべべべべべべ!?

 

 ちょ、ア!? ごれ………これ、っ! 振動(しんど)ぼぼぼぼぼんギギギギギああああ(たる)が動く(たる)が動く(たる)が! 動く!! アア!! あゝッ!!

 

 おのれ、おの…………ッ、だ、だだ、っ大丈夫ですよね!? これわたし大事なところ見えちゃってませんよね!? ちょっとお行儀悪いですけど健全なのにごめんなさいね仕方ないの(たる)が暴れるから!! 固定してないから!! わたくしで固定しないと!! わたくしの脚で(たる)を固定したげないと!!

 

 ……いや樽じゃないけど! ボウルなんですけど!? おかし? の材料まぜってるんですけど!!

 

 

 

 …………はーっ、はーーっ、はーーーっ!

 

 ………………こほん。

 

 

 

 さあ、白っぽくクリーム状になるまでバターとお砂糖をよーく混ぜたら、それでは次の工程へと進みましょう。

 ……いえ、これしき。全然つかれてません、なぜなら大丈夫なわたしは局長ですので。

 

 

 というわけで、お次はこちら……卵(Sサイズ五〇個)です。

 ……いや、すごいですね。わたし卵を初めて『箱』で買いましたよ。……こうやって入ってるんですねぇ(まあシズちゃんからの提供なんだけど)。

 

 えー、それでは……こちらの、卵をですね。先程の(たる)…………ん゛んっ。ボウルに! 割り入れていきますッ!

 

 

 

 

 こんこん。ぱきょっ。ぽちゃん。

 

 こんここん。ぱきょっ。ぽちゃん。

 

 こんこグシャァ「あっ」……ぽちゃん。

 

 こんこんこん。ぱきょっ。ぽちゃん。

 

 ズゴん、グシャァ「アッ殻入った!」

 

 こんこん。ぱきょっ。ぽちゃん。

 

 ……………………………。

 

 …………………………………………。

 

 

 

「……いや地味すぎるわこれ! オッケー編集で八倍速早送りしますわ。はーチクショウめ。何ぞこの単純作業。われ叡智のエルフぞ? 叡智のエルフが卵割り続けるとか何の刑罰ぞ? わかめちゃん泣いちゃうぞエッグエッグ。卵だけに」

 

「…………ぇえ………………うわ」

 

「さすがにそこまで冷たい目で見られるとココロに来るのですが……! もー、なんなんですかシズちゃん。ちょっと興奮したじゃないですか」

 

「…………………………」

 

「その可哀想なものを見る目やめてもらっていいですか。ちゃんと謝りますから。このとおりです」

 

「…………きも。変態?」

 

「ヴッ! ありがとうございます!」

 

 

 

 その後『おれ』はヒンヒン言いながらも、侮蔑の表情を隠そうともしないシズちゃんに(カメラに映らないところで)手伝ってもらいながら……やっとのことで五〇個のたまごを割り終え、殻の欠片の混入がないことを確認し。

 

 さてさて……早送りでオフレコになるのはここまでなので、再びお利口さんな『わたし』に引き継ぐとしましょう。

 

 

 

 …………はいっ! 卵ぜんぶ割り終えました!

 それでは卵をこの(たる)ン゛ンッボウルに入れて、これをまたよ〜〜く混ぜていきます!

 

 

 ッスゥーーーー……ハァ…………っ。……い、いきます、よ?

 

 スイッチ…………オん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛待っ待っ待っ待っ待っマ゜ッ! マ゜ッ! マ゜ッ! マ゜ッ!! マ゜ッ!!!

 

 やっぱり、やっぱりこうなった! やっっっっぱりこう! こう、なっ…………ッ!! マ゜ッ! マ゜ッ! っ、ッ、………よーしヨシヨシ……よし安定してる! ちょっとはしたないけど! はしたないけど健全だから大丈夫! ちゃんと安定してる! よくやったエライ! わたしのふとももエライ!!

 

 

 

 …………ヨシ! 混ぜ終わりましたね!

 何も危なげなかったでした。なぜならわたしは健全のエルフなので、それは叡智によって大丈夫していますからでして。

 

 

 …………はい! 次行きましょう!

 

 お次はこちら、薄力粉ですね。この……一〇キロの袋。どう見ても業務用ですね。本当にありがとうございます。

 こちらハサミで袋を切って、ぶちまけないように注意しながら、先ほどバターとお砂糖と卵を練り混ぜた(たる)にですね、金ざる(直径五〇センチ)を載せてですね……ふるいながら、入れていきます!

 

 

 よっ、こい…………しょ、ッ!!

 

 んふ……ほぉ、ッ!

 

 んぐゥ、ンフ、ぐピぎぎぎぎ………ッ!!

 

 が、がんばれ! がんばれわたし! がん、ッ、ばアァッ!?

 

 ………………っ、はーっ、はーっ、はーーっ、ンはーーーっ。

 

 

 

 ………………………はい!

 

 

 では続きまして、こちらの(タル)をですね、再びよーく練り混ぜていくわけなんですけどもね!

 練り混ぜ……混ぜ…………えっと、つまり……またあの、撹拌機さんの出番なわけですね……はい。

 

 しかしながら、さすがにもう心配は無用! なぜなら(タル)の中身が結構な重さになってきてるので、そろそろ自重で落ち着いてくれるはずですので!

 つまりはもうドッタンバッタン大騒ぎしなくて済む、と……そういうわけですね!

 

 

 なのでもう何も怖くありません! 負ける要素がありません! いざスイッチ()んブェっぽ!! オ゛プェ゛ェ゛ェっポ!! ぺゥ、ッ!? エ゜ッ!!

 

 待っ、待っ…………真っ、白…………エ゜ぇっポ!

 

 …………な゛んッ、も……もう…………ぺぉッ!

 

 

 

 ………はい、わたくし理解しました。学習しました。叡智のエルフですから。わかりました。

 

 これですね、あれですね。いきなり撹拌機ブワー回すとですね、ふるいに掛けたサラサラの薄力粉が風圧でブワーーするわけですよ。

 

 なのでですね……これ、まずバターとお砂糖と卵をまぜまぜしてペースト状になったやつをですね、あらかじめ薄力粉と混ぜ込んでですね……こう、棒でぐいぐいって、かきまぜて、です、ね……っ!

 こうして……まぜ、まぜて…………っ、……まず、粉っぽさを減らしてから……落ち着かせてから撹拌機するべきでしたね、これはね。ペぇッぽ。

 

 

 

 さてさて、こんなもんでしょう。……今度こそ撹拌機して大丈夫……な、ハズですので…………いきますっ!

 

 スイッチ…………オんおおおおおホおぉぉぉお゛お゛お゛お゛!!

 

 ふ、ぬ…………ぬグぅ、ぐぬぬぬぬ……ング、っ!

 

 ふーーッ、ふーーーッ! ぬおおおおお……!

 

 

 

 ぜー、はー、ぜー、はー…………ヒョら、どんなもんでひゅか!

 ごらんください、見るからにいい感じなクッキー生地ができてまヒュじゃございませんか! わあああい!

 

 ……ング、っ。……さて、無事に生地が纏まったので……もう撹拌機は使いません。いりませんね。二度と逆らうな。

 ではこれから、こちらの、このまんべんなく練り上がったクッキー生地をですね、(タル)から取り出して…………取り、だし…………

 

 

 …………えっと、あの、これ、

 

 

 …………もしかしてなんですけど、単純に……合計で二〇キロくらいありますよ、ね?

 

 

 

 ……………………

 

 

 ………………………………

 

 

 

 

 

「……え、やだ……なに、こっちみんな」

 

「だ、だってえ……!!」

 

「…………まぁ、うん……ボクも『この量で』って……(そそのか)した責任はあるし。……しょうがないにゃあ」

 

「うぅ……たすかる…………これは仕方ない、ここんトコ後でちゃんと編集で(つま)んどくから……」

 

「…………そこは……任せるから。そっち持って……いくよ? せー、のっ」

 

「よっ、こら、接骨院(せっこついん)

 

「は?」

 

「ごめんて」

 

 

 

 

 

 …………はい!(はいじゃないが)

 

 それでは、この…………この、っ、ダイニングテーブルにデカデカと鎮座する、このクッキー生地(二〇キロあまり)をですね! 分割していくわけですけどね……!

 

 

 ここでちょっと、ここまでで思ったよりも時間(文字数)かかってしまったので…………ちょっと休憩させて下さい……お願いします……いいですか…………ありがとうございます(答えは聞いてない)。

 

 続きはまた後で……えぇ、そんなにお待たせしないので。ちゃんと続けるんで…………えぇ、ホントスマセン……。

 

 

 

 



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【目指せグランマ】クッキーフリーカー 〜つよくてかわいい新戦力〜【WD特別企画】_その3

 

 

 …………はいっ! おまたせしました! 無事に生地を落ち着かせられた作戦の無事がどうやらぶじにせいこうしたみたいですね! わあ! さすがわたしです!

 

 そう、作戦! 作戦ですので! 視聴者さんの目には『局長が体力使い果たしてしんだ』ように見えちゃったかもしれませんが!

 これは作戦! れっきとした作戦でして、つまりはかんぺきなよていどおりというわけなのですよわはは!

 

 

 

「うざ。そのノリずっとやる気?」

 

「ちょホぉ! シズちゃん声! ……まぁ編集で(つま)めば良いんだけど」

 

「だって……いい加減そろそろウ」

 

「ごめんって! あやまるから! まじめにやるからゆるして! やさしくして!」

 

「最初から真面目にやって。今回はボクが依頼人(クライアント)。費用ボク持ち。材料費請求するよ」

 

「ハイ。申し訳ございません」

 

 

 

 

 …………と、いうわけで!(撮影再開)

 

 

 こちらに仕上がりました、およそ二〇キロのクッキー生地でございますが……次の工程はですね、まずは四つに分けていきます! はいエクソダス! ズドーン!!(にぎにぎ)

 

 だいたい目分量と持った感じで、大きい(カタマリ)を一つと小ちゃい(カタマリ)を三つ。割合的にはそれぞれ、四対二対二対二くらいですかね? いや小ちゃいほうでも重さ四キロはありますが。

 これでこの……大きい塊をプレーンの生地にしまして……小ちゃい塊はですね、それぞれココアと抹茶とイチゴで着色および味付けしていこうと思います!

 

 

 もうここまで来たら直接コネたほうが早いので、この……わたしのデクスタリィなお手手でですね、ラップを張った作業台でコネコネしていきましょうね。

 

 

 ではまずは……イチゴ味からいきましょうか! ピンク色のかわいい生地になる予定です! 

 こちら、フリーズドライのいちごをポリ袋に入れてガンガン叩いて粉々にしたやつなんですけど、これとクッキー生地を、コネコネして混ぜ合わせて…………あー、やっぱフリーズドライだけだと色味が足りないので、食用色素(赤)を少しずーつ少しずーつ加えて、色味を調整します。

 まんべんなく、均一にきれーなピンク色になるように……こんなもんですかね? ……うん、良さそうですね。

 ということで、これで『イチゴ味の生地』が完成しました!(ぺしーん)

 

 それでは同様に、ココアパウダーと抹茶パウダーで、それぞれ茶色と緑色の生地を作っていきましょう!

 

  

 コネコネ。

 

 コネコネ。

 

 …………もうちょっと足そう。

 

 コネコネ。

 

 ぐにぐに。

 

 ペーン! ペシーン!

 

 

 

 …………はい! 無事に四色の生地が揃いました!

 いやー、こうして並べてみると、やっぱきれいですね! これらの生地を使って、これから模様とか作っていくんですけど……えっと、その前に……ですね……。

 

 

 ………………この生地…………これから冷蔵庫で、冷やさなきゃならないんです、ね?

 

 

 

 

「…………は?」

 

「えっとあの、ですからですね……これから冷やして、固めまして」

 

「…………何分?」

 

「いやあのえっと、ええっと…………ゴメンナサイ、どうせなら切り分ける前じゃなくて、こっちで休憩取ればよかったです、ね……?」

 

「……………………何分?」

 

「だ、だって! だって……実際カラダ疲れちゃってたんだもん!」

 

「…………………………」

 

「……………………ろくじゅっ、ぷん、くらい……です」

 

「…………休憩……好きだね?」

 

「申ひ訳ございまひぇんッ!!」

 

 

 

 

 ……と、いうわけで……これから冷やし固めていきますよォー!(撮影再開)

 

 それではこれからですね、まずは生地をそれぞれ、平べったく()ばしていきます。

 とりあえずは冷蔵庫で冷やすための(なら)しなので、目安としては厚さ二センチくらいでしょうか? アホデカイままだと不便なので、小分けにしながらラップで包んで、SoYeah順番に()ばしていきますYo!

 

 …………ごめんなさいホントごめんなさい出来心で……ハイ……まじめちゃんになります……はい……ラッパー引退します……。

 

 

 ころころ。

 

 ごろごろグニグニ。

 

 ペーンペーン!

 

 ぎゅっぎゅ。

 

 ペチーーン!

 

 

 …………………………

 

 

 ……………………

 

 

 …………

 

 

 

 というわけで! アー! やっっとぜんぶ()ばし終えました! もー腕ぱんぱんなんですけど!

 

 

 えー、それでは、この、合計二〇キロの、小分けしてラップしたカラフルで平べったいクッキー生地を! ……一時間…………()()()()()ほど冷やしていきます!

 

 それではまた()()()()! お会いしましょう! でわ!!

 

 

 

 

「…………言い残すことはある?」

 

「いえあのその、エット、あの、わたし最初から六〇分()()()って予防線張って」

 

「二倍になると話違ってくるよね?」

 

「アッ、(ッスゥーーーー……)あの、大変申し訳」

 

「ていうか……冷蔵庫、入る? ()()()

 

「…………………………」

 

「…………………………」

 

「………………は、はいらな……むり、です」

 

「…………はぁ…………何でボク……あんな提案したんだろ」

 

「いえあのスンマセンほんと! できると思ったんですが! おもしろいと思ったんですが! どっこい確認不足でした! 申し訳ございません!! ……かくなる上は氷屋さんで板氷買ってきてミルフィーユ氷サンド作戦で」

 

「ていうか【魔法】使えばいいじゃん」

 

「アッ!!!」

 

 

 

 

 

 

「【空間掌握(キュリーアコンダクト)】【冷却(クルラグル)(レスル)】……ていっ!」

 

 

 調理用のスチールバット(※スポーツ用バットではない)に生地を並べ、またスチールバットを複数層重ね、それらを纏めて範囲指定して一括で【冷却】する。

 本来なら業務用大型冷蔵庫が必要そうな工程でも、こうしてラクラク冷やせちゃう。……そう、ノワチャーンならね。

 

 まぁさすがに魔法使ってるところは映せないので、そこは編集でなんとか誤魔化すとして……後付けで『板氷ミルフィーユ作戦しました!』とかデッチ上げりゃあなんとかなるだろう。

 

 

 

 というわけで、これで『クッキー生地の冷却』工程もクリア。あとは冷やし固められた生地をカットして組み合わせ、あの独特な市松模様を作っていくわけだ。

 そこまで行けば……ゴールは近い。二〇キロ超の生地から果たしてどれほどのクッキーができるのか、それは正直楽しみでもある。

 

 

 ……それではですね、例によってまた時間(文字数)の関係上ですね、この【冷却】の時間で小休憩とさせて頂きたいわけでございまして……ハイ。

 何がとか詳しい明言は避けますが、ちゃんと()()までにはメデタシメデタシするように間に合わせますので……ええ。

 

 …………もう少しだけ、お付き合い下さいな!

 

 

 

 



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【目指せグランマ】クッキーフリーカー 〜つよくてかわいい新戦力〜【WD特別企画】_その4




「…………確認なんだけど」

「ハイ! なんでしょう!」

「…………『焼き』工程、ちゃんと……大丈夫だよね? ……この量、普通のオーブンは……」

「……ええ、ご心配は(もっと)もです。正直わたし今までアレだった自覚はあるので」

「自覚あったの」

「アッ、いえあのそのえー、ハイ。……なのでもう、ほんと、なんといいますかご心配はご(もっと)もなのですが……そこんところは、ちゃんと大丈夫です。ウチの秘蔵兵器が秘密兵器をご用意してくれてますので」

「…………ふぅーん? ……まぁ、がんばって」

「ウッス! あと一息……ガンバリマス!」

「期待してるからね」

「アッ! えがお! すき!」

「………………きも」

「ヴッ!!!」








 

 

 

 大変長らくお待たせいたしました!

 

 ……ええ、本当に。まさかここまでもたつくとは思いませんでしたが……ここへきてやっと、注目の目玉である『成形』へと取り掛かることができます!

 まぁここからは正直『ご自由に整形してね』でも大丈夫なんですけど、参考までにちょこーっと撮影しておきますね。

 

 

 ここでご用意しますのは……こちら! アクリル角棒と……麺棒! 綿棒(めんぼう)じゃなくて麺棒(めんぼう)です!

 ちょっと音だけだと何言ってんのかわかりにくいですが、(めん)を延ばすときの棒、コットンではなくヌードル、ヌードルクラブです!(?)

 

 まずクッキングシートを敷きまして、そこへ冷やして固めたクッキー生地を適量。アクリル棒を左右に置いて、麺棒をこうして……橋渡しするような感じで、生地を伸ばしていきます。

 こうすることで…………ほら! アクリル棒の厚さでクッキー生地を均一に()ばせるわけですね!

 

 

 

 ……ころころころ。

 

 ……ぐいぐい。

 

 ……ころころころ。

 

 ……ぺたぺた。

 

 ……ころころ。

 

 

 

 これを、他の色の生地も同様に()ばしまして……とりあえず定番の、市松模様を作ってみましょう。四角が交互になってるやつです。炭焼きのお兄ちゃんの羽織の柄ですね!

 均一の厚さに延ばした生地を、今度は厚さと同じ幅で、包丁で棒状に切り揃えていきます。……要するに、クッキー生地の角棒を作っていくわけですね。

 

 

 

 ……すっ。

 

 ……とん。

 

 ……すーっ。

 

 ……すとん。

 

 

 

 別の色の生地も同様に、角棒で切り揃えまして……あとはこの角棒を、例の市松模様になるように四本束ねて、つぶれないように気をつけながら圧着していきます。

 クッキングシートで包んで、まな板のような平らな板で両側から押さえるようにするといいかもしれません。

 

 

 

 ……ぎゅっぎゅ。

 

 ……ぎゅむ、ぎゅむ。

 

 …………ぐいぐい。

 

 ……スッスッス。

 

 

 

 そうして四本束ねて、ニ色の太い角棒ができましたら……あとはこれを、五ミリくらいの厚さで輪切りにしていきます!

 

 

 

 ……とん。

 

 ……とん。

 

 ……とん。

 

 

 

 …………はい! こうして断面を見てみると……じゃーん! きれいな市松模様ができました!

 プレーンとココアとイチゴと抹茶、今回は生地を四色用意してあるので、いろいろ組み合わせるのも楽しそうです!

 定番の『プレーン✕ココア』『プレーン✕イチゴ』はもちろん、(ちまた)で話題の『ココア()抹茶()』も人気が出そうですね! 全集中で作っていきましょう!

 

 色の組み合わせパターンは……えっと、四色の重複しない二色の組み合わせになるので三の階乗で、えーっとえーっと……八通りですね!!(※ちがいます)

 それにちょうど四色ですので、いっそのこと四色全部束ねちゃって、カラフルクッキーなんかもおもしろいかもしれません! ……ちょっとウィンドウズみたいですけど。

 

 

 市松模様の他にも、うずまき模様とか同心円模様とか……それこそ『金太郎飴』みたいな感じで、絵柄を作ることも出来ちゃうかもしれません! 余った切れ端を束ねてマーブル模様なんかも作れそうですね!

 

 要するに『何色かを束ねて棒状の生地をつくる』『まとめた棒状生地をスライスする』のがベースになるので、それさえ満たせればそれ以外はどうでもいいんですよね。

 ……というかぶっちゃけ、あとは焼けばクッキーになるので、いつものように薄く伸ばしてクッキー型で抜いてもそれはそれで良いと思いますので……つまりは自由、フリーダムです! 楽しくやりましょう! お菓子作りですし、楽しいが一番です!

 

 

 というわけで、皆さんのクッキーの可能性に思いを馳せながら…………

 

 

 わたしはですね。

 

 この、大量のクッキー生地をですね。

 

 これからですね。

 

 片っ端からですね。

 

 成型していきますね。

 

 …………二〇キロですね。

 

 

 

 

 

 うおおおおおおおお!!!

 

 

 

 

…………………………………………

 

 

 

………………………………

 

 

 

……………………

 

 

 

 

 

 

「はぁ…………はぁ…………はぁ………………これで、やっと……」

 

「…………ん。……すごい量……いっぱいできたね」

 

「ング、っ…………手伝って……れて…………ありがと、ござます……」

 

「………………まぁ、さすがに……ね」

 

 

 

 ひたすら延々とクッキー生地の成型を続け、さすがに見かねたシズちゃんの手を借りつつ、なんとかかんとか全部やっつけることに成功し……気がつけば、そこそこ時間が経ってしまっていた。

 まぁ、量が量だもんな。二〇キロ(あまり)って。これは時間かかっても仕方ないわ。ご家庭で作る分量の軽く三〇倍よ。

 

 とりま成果としては、先述のようにかんぺきだ。スチールの調理バットに敷かれたクッキングシートの上にクッキーが敷き詰められ、その上にクッキングシートを挟んで更に敷き詰められ、そのさらに上にも同様に重ねられ……複層構造を採用し、バットそのものも数を増やし総動員させ、どうにかこうにかぜんぶやっつけた。

 

 なので……あとは、焼くだけだ。

 

 

 

 

…………………………………………

 

 

 

 

「ではこれから! こちらの(オーブン)で! クッキーを! 焼いていきます!!」

 

 

 

 先程から場所をやや移しまして、珍しくお目々を見開いてびっくり顔してるシズちゃんが見つめる先。

 おうちの隣、かつておれが砂利を敷き詰め造成した、露天駐車スペース兼屋外多目的ひろば((なつめ)にゃんとご近所猫さんのひなたぼっこスペース)の片隅に鎮座するのは……我らが技術者集団『おにわ部』の新作、うちの(おにわ)で採れた大小様々な石と耐火モルタルで作られた、本格的なピザ窯だ。

 

 つい先週完成に漕ぎ着けたばかりの、秘蔵の新兵器。モルタルはバッチリ硬化しているし、火入れも試し焼きも落成パーティーも済んでいる。ピザまじうまかった。

 天繰(てぐり)さんたちが撮り溜めてくれてた映像のほうは、現在進行形で鳥神(とりがみ)さんたちが編集してくれてるところだ。なので()()はまだ身内以外には公開されていない、まさに秘密兵器というわけだな。

 

 

 

「……お待ちしておりました、御屋形様」

 

「準備ありがとうございます天繰(てぐり)さん! 窯の具合はどうでしょうか?」

 

「……上々に御座います。……内部温度も頂いた資料を基に調整して御座います故、直ぐにでも焼き始められるかと」

 

「ありがとうございます!! ……というわけで、じゃあ量も量なので! どんどん焼いていきましょう! よろしくお願いします!!」

 

「「「御意」」」

 

 

 

 メイド美少女さんたち四名の手によって、アウトドアテーブル(『おにわ部』作)の上に運び込まれた大量のクッキー……の載ったスチールバットが、どんどん釜の中へと飲み込まれていく。

 さすがに一度に全部は入らないが、それでも家庭用オーブンとは比べ物にならないほどの容量を誇る。耐火レンガを使って上げ底にしたり、隙間を開けつつバットを重ねたり、縦方向をうまく使えばもっと詰め込むことが可能だ。

 

 薪を燃やして得られる熱は、ご家庭のオーブンに比べて火力も高い。もちろんコゲないように注意する必要はあるが、素早く一気に焼き上げることができるのだ!

 

 

 

「………………ふしぎなにおい……良い」

 

「これが『くっきー』に御座いますか! めっちゃ美味しそうですね! 御屋形様!」

 

「集中しろお前達。(これ)は御屋形様から御嬢様らへの贈り物である。失敗は赦されんぞ」

 

「「……ッ!!」」

 

「いえあのそんなガチになってもらわなくても大丈夫ですので!!」

 

 

 

 頃合いを見計らってスチールバットを引っ張り出し、焼き上がったクッキーをクーラーボックス(徹底洗浄・消毒済)へと丁寧に移し、また次の焼成前クッキーをシートごと乗せて、再び(オーブン)の中へ。

 練度充分、気合も充分な助っ人を得て、こんがり窯焼きクッキーがどんどん焼き上がっていく。

 

 ちなみに『クーラー』と名は付いているものの、コレは根本的には『断熱性能の高い蓋付き容器』だ。保冷剤と共に入れればひんやりを持続できるし、温かいものを詰めればほかほかを持続できるわけだ。

 あと何よりも量が入るからな。今回は特にそこが重要なのだ。

 

 

 

 ……っとまぁ、助っ人の手を借りたことで一気に効率を上げ、驚異のハイペースでクッキーを焼き上げてきたおれたちだったが。

 

 残念ながらというか、むしろよくここまで時間を稼いでくれたというべきか。

 おうちを挟んで向こう側、位置的にはおうちの玄関前、撮影現場からは死角になる位置にて……おれもよく慣れ親しんだ魔力の気配を感じる。

 

 おれがカメラをそちらに向けるかもしれない、と気を利かせてくれたのだろうか。シズちゃんが魔力の気配の反対側へ、音もなく移動していく。

 ……いや、うん。本当よくできたお姉ちゃんだわ。気配りとか空気読むスキルとかがすげーのよこの美幼女。

 

 

 

「……まぁ、時間切れみたいですね。……いえ、ここまでよく仕上げたというべきでしょう」

 

「……申し訳御座いませぬ、御屋形様。手前共が至らぬばかりに」

 

「いえいえいえそんな! ……大丈夫です、あの子たちに食べさせたげる分は……こうしてきちんと仕上げてくれたんですから」

 

 

 

「わかめさまっ! 霧衣(きりえ)めが只今戻りまして御座いまする!」

 

「わかめどの! わかめどの! なにやら(かぐわ)しい香が漂っているのである! 吾輩これおいしいやつだと知ってるのである!」

 

「ごしゅじんどのぉー! かわいい可愛い小生が『おかえり』の抱擁(はぐはぐ)慰労(なでなで)を所望して御座いまするぞー!」

 

(ごめぇんノワぁー……! さすがに引き止められなかったって……めっちゃ悲しそうな顔で『ノワに会いたい』って呟くんだもんこの子らぁ……)

 

(ヴッ……! いいのよラニちゃん! よく頑張ってくれたね……! ご褒美のクッキーいっぱい焼けたよ!)

 

(うぅ、ノワぁーー…………? う、うわァーーーー!? な、ななっ、なんじゃこりゃァーーーー!!!)

 

 

 

……………………………………………

 

 

 

………………………………

 

 

 

……………………

 

 

 

 










「…………ほんとに、これ…………あとぜんぶ貰ってっちゃって、いいの?」

「大丈夫ですよ。ウチのみんなは満足してくれたし、お持ち帰り分もちゃんと包んでたし、備蓄分も確保しましたし……わたしが各方面にお納めする分も、キレイに焼けたのをちゃーんと貰ってありますし。……むしろ、そんな……ワレとかコゲとか、ワケアリ品ばっかで」

「ん…………問題ない。すてらは……推し(キミ)からの、ってだけで喜ぶだろうし…………つくしは、味は判らない」

「…………やっぱり……そう、なんですね」

「……そう。…………あの子は、味()わからない、けど…………込められた、魔力……『想い』は、わかる。ちゃんと、味わえる」

「…………!!」

「だから…………うん。とても、喜ぶ。ありがとうね」

「アッ!! えがお!!」



 この世ならざる異能を持ち、しかし姉妹思い(でちょっとボケに対して冷徹)な小さなお姉ちゃんは……そうしてお花の綻ぶような愛らしい笑みを見せ。

 デッカいクーラーボックス(※クーラーじゃない)をシッカリと肩から掛け、愛する妹たちの元へと帰っていった。



「また、こんど…………遊びに来て、いい?」

「……っ!! もちろん! 大歓迎です、けど……」

「けど?」

「…………今度は、あの……わたしの部屋じゃなく、玄関から入って来て下さい……ね?」

「ん。わかった」

「アッあと事前予約もください! おもてなし準備とかあるので!」

「話が早いね。……今度は、二人も連れてくるから…………たのむね、ごはん」

「わかりまし………………ッ!!? ちょ、あのシズちゃん!? ごはんってまさか、つくしちゃ…………アァ!? きえた!! シズちゃん!!? ねえ!! つくしちゃんのごはんって!!?」



 去り際に……デッカい爆弾を落としていくことも、忘れない。

 ……まったく、本当に……本当にあの子は相変わらず、最後まで気が抜けない。



「ノワしずかに! キリちゃんたちが一生懸命お片付けしてるんだよ! 手伝おうと思わないの!?」

「だ、だってラニ! つくしちゃんが! ごはん!」

「『だって』じゃないんだよオトナでしょ! 娘たちにお手本見せなきゃでしょう! バケツだって汚しっぱなしじゃん!」

「ねえきいて! ウチの食費の! エンゲル係数の危機なの!! ……あとそれバケツじゃなくてボウルだから!!」




 ……はい! これは本格的にお仕事頑張らなきゃいけなさそうですね!
 依頼中の『おにわ部ピザ窯製作』動画と、今回の『おかえしクッキー焼きまくり』動画と……ほかにもまだまだお仕事しないといけなさそうです!!


 まったくもう! 次から次へと大変で大変で、忙しくて忙しくて!

 そんなの……そんなの、楽しくなってきちゃうじゃないか!




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