たった一人の不死者の軌跡 (影後)
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奏でる死者

なんであっちの軌跡投稿しないでこれ書いてるんだ…?


俺は…死んでいる。

いや、死んでいたのが正しい。

神なんて信じて居なかったが、其奴は俺にダイスを振れと言ってきた。言われるがまま、俺はダイス振ると53と数が現れた。

 

「…良いね、君はジョーカーだ」

 

何も動けなかった。俺はブレイドのジョーカーアンデッドへと変貌してしまった。

 

「願いを5つ言ったあと、君を転生させるよ。転生先は……まぁ言わないけど」

 

「なら、1つジョーカーのデメリットを消して欲しい。1つ、ラウズカードを全て。1つ経験した事を忘れない記憶力。1つ経験を忘れない肉体。最後、53回今の人生を記憶を持ってやり直させて欲しい」

 

「…へぇ、なんで53回なのかな?」

 

「…俺がジョーカーだからだ。それに、それだけあれば沢山の経験が出来るだろう」

 

「良いだろう、ジョーカー。君の行く末に祝福を……」

 

俺は言われた通り53回、同じ親から生まれ別の人生を歩んだ。自衛隊となると決め、肉体を鍛え上げた道、医者になると決め医学を極めた道、とにかく経験を積みまくった。そして最後には俺は音楽に行き着いた。何故、音楽なのかはわからないが、俺は最後まで曲を弾いている。

 

「ねぇ…〇〇くんは凄いよね。色んな種類の楽器演奏出来るし、身体は鍛えてるし」

 

「……」

 

似たような会話をもう何度も聞いた。金も簡単に稼いでいる、株で稼いだ道も確かあった。それで今は普通に裕福な生活を送れている。

俺が途中で死んでも両親と家族はまともに過ごせる程度の蓄えもある。

 

「ちょっと…話かけてるでしょ!」

 

途中から俺は友人を作るのを止めた、理由は簡単だ。小中学校は知人が多い、俺が知っていたらおかしい事も多数あるからだ。だから、高校からしか友人は作らない。

 

「……高校まで来たか」

 

今まで通ったことのない高校を受験する。実家から離れる必要は出てくるが、それでも素晴らしい。53回目、つまり最後の高校生活ソコで友人を作り、大学へ進学した。俺は高校から有名になった。音楽学校生でもないのにコンクールで賞を取り、全国まで優勝した。

そして…最後まで生きた。

何度も経験した歴史を同じく経験し、子供と孫に看取られて死んだ。何度か同じ女性との結婚もし、大抵別人との結婚だったが、子供は同じ名前を使った。

 

「…演奏させて欲しい」

 

ベッドに寝たきりになりながらも、自分の死期は理解できた。最後に家族だけの演奏会を開いた。

 

「歓喜の歌」

 

俺は最後の力を使いベートーヴェンの交響曲第9番第4楽章を演奏した。アップライトピアノで最後の…最後の力を使……

 

「おじいちゃん?」

 

孫が俺に触れているのが解る、最後に……頭を撫でたかった。

 

 

 

 

 

 

「やぁ…53回目。どうたった?人生は」

 

「一つの選択で無限に広がる人生か。最後の53番目が一番充実していた」

 

「……プレゼントだ。君の葬式をに参加しなさい」

 

「何を!」

 

俺は浮遊感のあるからだで葬式に出ている。

家族が泣いている、自身の動かない身体を見るのは初めてだ。何故か…何故か愛用のアップライトピアノが運び込まれている。元々名のある音楽家だった俺の死はメディアが来るまでだ。

そして孫娘が話始める。

 

「…私はおじいちゃんの音楽が大好きでした。おじいちゃんみたいにピアノを弾きたい…でも、そのおじいちゃんはもう居ません。…もし、おじいちゃんの幽霊がここに居たら最後に私達に演奏してください」

 

何故か弾ける気がした。俺はアップライトピアノに座る。

 

「え?」

 

見えない彼らには恐怖だろう。だが…俺はこの曲を弾きたい。

ショパンの『別れの曲』ソレを最後に弾いた。

 

「…おじいちゃん」

 

曲を弾き終えると同時に拍手が起こる、孫娘からだ。あのこはこの曲の題名を知っているのだろう。

 

「…おじいちゃん、最後に!ありがとうございます!そして…さようなら!」

 

妻も、息子夫婦も、娘夫婦も、孫娘達も泣いてくれる。俺は最後にコレを弾けたことを後悔しない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わったかい?まさか、ポルターガイストするとはね」

 

「…もう、俺は満足だ。約束を果たそう」

 

「良いよ、君は見ていて楽しかった。何処に転生するかは不明だけど……頑張って生きてくれよ。ジョーカー」

 

 

 

俺の意識は暗転した。落ち行く身体、意識は段々と闇に呑まれる。この日、ジョーカーが誕生した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アイゼンガルド連峰

リィン・シュバルツァーはこの日、山に釣りに来ていた。妹のエリゼ・シュバルツァーと共に話に聞いたアイゼンガルドの主を釣るためだ。

 

「兄様、大丈夫ですか?」

 

「あぁ…エリゼも大丈夫か?」

 

二人は雪も溶けてきた登山道を軽装でゆっくりと進んでいく。魔獣も出るが、リィンの剣の腕ならば簡単に退治できる。

 

「兄様!」

 

「なっ!」

 

そう、出来るのだ。しかし、巨大な魔獣がリィンに襲い掛かってきた。

 

「くっ」

 

愛刀で受け止め、切り払う。

彼は初段といえど、八葉一刀流という刀の流派の門下生なのだから。

 

「エリゼ、逃げろ!」

 

倒せなくはない自身の実力ではギリギリのラインだ。しかし、妹を護りながらでは倒せない。

 

「兄様!」

 

目の前に巨大な拳が迫る。

 

(当たる)

 

リィンがそう思った瞬間、魔獣は倒れた。

 

「貴方は……」

 

助けてくれた存在は変わった鎧を身に纏って居た。弓の様な武器を持ち、どことなく昆虫を思わせるフォルム。

 

「…大丈夫か」

 

「…はい!お陰様で」

 

「……良かった」

 

《SPIRIT》

 

謎の音が聞こえると目の前の存在は鎧を外していた。しかし、ボロボロで今にも倒れそうだ。

 

「…本当に……良かった」

 

「!エリゼ、父さんを呼んできてくれ!起きてください、大丈夫ですか!大丈夫ですか!」

 

エリゼは恩人を助ける為に走った、兄に身体を任せ直ぐに父を呼ぶ。屋敷に入るなり、父親であるテオ・シュバルツァー男爵を大きな声で呼んだ。

 

「お父様!」

 

「どうしたエリゼ、リィンが何か」

 

「山にボロボロの男性が!」

 

テオは遭難者かとも考え、直ぐに馬に跨がりリィンの待つ場所まで向かった。リィンは男の身体にある打撲等の傷を治療している。

 

「父さん!大変何だ、この人が」

 

「分かった、直ぐに乗せるんだ!」

 

テオは動かない男を馬に乗せ、屋敷まで歩いた。

 

「……」

 

動かない男にリィンとエリゼは悲しむ目を向ける。

 

「大丈夫だ、今は気絶しているだけさ」

 

「ほら、二人は休みなさい」

 

魔獣に襲われた二人、リィンに至っては少なからず傷を負っている。母であるルシア・シュバルツァーは二人を

休ませた。

 

「……ここは」

 

「目覚めたか?」

 

 

 

 

俺が目覚めた時、身体は包帯だらけで動くに動かせなかった。

 

「……ここは」

 

「目覚めたか?」

 

「…そうだ、あのときの……ぐぅ」

 

「無理に動くな、体に障る」

 

「ここはどこですか?貴方は誰ですか?」

 

「ここは温泉郷ユミル。私はシュバルツァー男爵、君の名前は何だね?」

 

「……俺の名前」

 

(ジョーカー、君はジョーカーだ)

 

名前と言うのだろうか、俺の頭にすんなりと浮かんだのはそれだった。

 

「ジョーカー…と呼ばれていた気がする」

 

「ジョーカー?まるでトランプだな…しかしジョーカーか」

 

「……そうだ、あの二人は俺が助けた子供が」

 

「二人なら無事だ、君には息子と娘を助けてもらったからね。本当に…ありがとう」

 

目の前の…シュバルツァー男爵は俺に深々と頭を下げる。

 

「さて…ジョーカー。他に何かあるかい?」

 

「わからない、俺は……何だ?何故、ここにいるのか」

 

俺は自分が何者なのか理解できなかった。ただ、思い出そうとすると激しい痛みに襲われる。

 

「…俺は……」

 

アンデット、君はジョーカーアンデットさ。

人間じゃ無い、人間に擬態しているだけなんだよ。

 

自分が何者なのか頭に浮かんできた。

そう、俺は最後のアンデット。ジョーカーだ。

 

「…もし良かったらだが傷が癒えるまでユミルで過ごさないか?この時期には客足も遠のく。君の分位なら貯えから出せるさ」

 

「何故…良くしてくれるんですか?」

 

「……君が子供達の恩人だからだ」

 

この人達との出合いが無ければ俺はアンデットでありながら死んでいただろう、深い傷を負っていたんだ。カードになってもおかしくない。

 

「……ありがとうございます」

 

今度は俺がシュバルツァー男爵に頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ジョーカーアンデッド
仮面ライダーカリス
名無し 年齢不詳見た目から17と思われる。
装備
ラウズカード全種類

何故か記憶を喪っております、ジョーカーと呼ばれていた事しか思い出せない。
全てのラウズカードを所持しており、大抵の技は使える。


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鳳翼館の演奏家

ジョーカーはシュバルツァー男爵家に助けられ、温泉郷ユミルで過ごすことになる。


「名前か…」

 

何か無いものかと身体を探ってみると、首に見覚えのない銀色の小さなプレートがかかっていた。

ジョーカーは首に下げられている物を外し、確認する。

 

「ヤーレス・フィーネ・アンファング」

 

そう書かれた銀色のプレート、ドッグタグにあるのだから恐らくは自分の名前だろうとジョーカーは考える。

 

「ヤーレス」

 

充てがわれた部屋で布団に入りながら考える。

現在、過去、未来のことを。

 

「…考えても仕方がない、せめて。助けてくれたをこの1家に恩返ししないとな」

 

 

そのままヤーレスは床につく。そして日の出と共に起床すると、包帯だらけの身体を起こし、屋敷の外に出る。

 

「せめて…良い目覚めを」

 

リィンあの少年がヤーレスの品だと寝る前に渡してくれたフルートを奏でる。冷気漂う場に透き通る様な美しい音色。

さっきまで寝ていたと思われる子供や老人が続々と現れる。

ヤーレスはそれに気付くことなく、優しく透き通るメロディを奏で続けた。

やがて…曲が終わると自身の周りに数多の人が居るのを確認し、飛び上がる。

 

「なっ…何で起きて!まさか…そんな酷い騒音だったんですか!?」

 

慌て始めるヤーレスにテオは優しく言葉をかけた。

 

「君の演奏に皆が聴き入っていたんだよ」

 

ユミルの住人は皆テオと同じように頷き、アンコールと叫ぶ。ヤーレスは赤面しつつ、もう一度フルートを口につける。

同じ曲ではなく別の曲を、優しく曲ではなく弾む曲を。自身も楽しむように吹奏する。

簡単なダンス曲、それが解るのか踊り始める住人たち。リィンもエリゼと共に踊り始める。

住人は心行くまで楽しみ、曲が終わるとまた拍手が起こる。

 

「ありがとうございます」

 

ヤーレスは礼儀正しく返答し、小さな演奏会は終了した。日は既に上がり、住人はそれぞれの準備にかかる。

 

「そういえば…君は名前を思い出したのかい?」

 

「いえ…でも、ヤーレス・フィーネ・アンファング。このドックタグにそうあります、これが名前かはわかりません。でも…これからはヤーレスとして過ごします」

 

音楽を奏でるときとは違う、昨日の不安な顔とも違う。何かを決心した顔をテオはじっと見つめた。

 

「そうか…征く宛はあるのか?」

 

「…何もありません、お金も…ただこのフルートと力で何とか生活してみようと思います」

 

テオはそれを聞いて笑う、

 

「ハッハッハ!!!面白い!ヤーレス、良かったら鳳翼館で働かないか?君の曲は素晴らしい!」

 

ヤーレスは驚きつつも、その話に頷いた。

 

「…恩も返せてこの人達を笑顔に出来るなら」

 

この日から温泉郷ユミルの住人が一人増えた。

 

鳳翼館の仕事はヤーレスにとって始めての経験だった。ウェイターとしての動き、使用人としての動き、浴場当番としての動き、怒鳴られ叱られつつもヤーレスは直ぐに素人からプロへの階段を駆け上がった。そしてそんな生活を続けて3ヶ月。

 

「ヤーレス君!お願い!!」

 

「はい!」

 

愛用のフルートを奏で食事中の宿泊客の心を鷲掴みにするヤーレス、その評判は直ぐに伝わり鳳翼館や他の宿泊施設には連日客足が止まることがない。

 

「なぁ、偶にフルート意外もやってくれないか?」

 

一人の宿泊客がそう言ってバイオリンを渡す。見るからに粗悪品と解るが、客は嗤いながら聞かせろと言ってくる。

 

「わかりました」

 

ヤーレスは受け取ったバイオリンで見事な演奏をしてみせる。観客は粗悪品と理解しつつ演奏してみせる実力とその振る舞い。観客は拍手しつつ、そのバイオリンを渡した宿泊客を睨む。

 

「…すみません、貴方の演奏に近づけたでしょうか?このバイオリンを使い完璧な演奏が出来る貴方に比べれば、こんな演奏は無意味だったでしょう」

 

笑顔で心からの脾肉を告げるヤーレス、宿泊客はバイオリンを受取るとそそくさと部屋に戻った。

 

「…このように私はリクエストも受け付けています。演奏してほしい楽器等が有れば………」

 

持込品に楽器が増えるのは必然だっただろう。時には寄贈するという物好きやヤーレスを手に入れようとする貴族がまでも現れる。

 

「今より素晴らしい待遇を約束する」

 

しかし、ヤーレスは決して肯くことは無かった。

どんなに高待遇でも

 

「…私はシュバルツァー家の使用人となるべく修行中の身。私の忠誠はシュバルツァー男爵家に」

 

とまるで忠誠の騎士を思わせる言葉と風貌、強情な貴族も従者や身内に止められヤーレスを奪おうとすることは無かった。

しかし、裏の攻撃は行われる。しかし、それすらもヤーレスは跳ね除け彼自身の生活を歩んでいた。

 

「ヤーレス!」

 

「若様、どうしました?」

 

リィンは年の近いヤーレスを友人として扱っている。ヤーレスとしてはじき当主としてもうちょっと威厳が欲しいと感じているが。

 

「なぁ、ヤーレス。俺は……シュバルツァー男爵家を出ようと思ってる」

 

「…ソレはまた。妹様には話したのですか?」

 

「言えるわけ無いだろ」

 

リィンは自分が拾われ子であること、何故シュバルツァー男爵家がユミルにて社交界にも出ずに引き籠もっているのかを説明した。

 

「…若様、それが若様の選択なら、私は止めません」

 

リィンにヤーレスはハーブティーを入れる。とても優しい味だった。そして、リィンはもう一つの話を持ち出した。

 

「実は…トールズ士官学院を受験するんだ。そこで…父さんがヤーレスも受験するようにって」

 

「…記憶もなく、学もなく、ただの子供を助けるだけでなく……自分は」

 

ヤーレスはシュバルツァー家の優しさに涙する。

 

「受験させて頂くからには私は若様にも負けません。主席、取らせていただきます!」

 

「……ハハッ、忠義っていうかもう」

 

「若様の落第も私が許しません。さぁ、勉強会ですよ!旦那様の書斎から資料をお借りしましょう!さぁ、さぁ!」

 

「待てよ、エリゼ!そうだ!エリゼ、助けてく」

 

「…偶には兄様もマナー等を学ばれては?」

 

「さぁ、トールズ士官学院に行くまでにやれることをやりましょう!」

 

ヤーレスはリィンにとって必要なことを短い時間だがみっちりと教えた。スパルタ方式ではなく、効率良く、そして飽きない程度に。

 

「はい、では《槍の聖女》の本名を」

 

「リアンヌ・サンドロット」

 

「はい、彼女の率いていた鉄騎隊副長の子孫であるアルゼイド家の名前にはサンドロットつまりSが入っていますね」

 

「へぇ…ヤーレスは凄いな」

 

「そうですね、教え方も上手ですから」

 

「えぇ…(若様と妹様の子にもきちんと教育いたしますので)」

 

「ヤーレス!!!」

 

「うわぁ!エリゼどうしたんだ!」

 

ヤーレスは赤面するエリゼを見つつ、微笑む。エリゼ自身、何度もこのようなちょっかいを出されるが、ヤーレスに対しては色恋事がない為反撃も出来ない。

 

「では、若様、妹様、次は貴族家についてですね。妹様ももうじきアストライアへご入学なさる身です。学ぶ意味はありましょう」

 

「はい、」

 

「う…」

 

リィンはヤーレスの言葉に若干の不満を示すが、そのとおりであるため反対はしない。

 

「では、四大名門から始めましょうか」

 

ヤーレスは再び座学を始める。二人はみるみるうちにヤーレスの言葉を吸収し、テオとルシアは驚きを隠せなかった。二人の受験当日、何も問題は無かった。筆記試験においてもアストライア女学院首席入学エリゼ・シュバルツァー。当時、アルフィン・ライゼ・アルノール殿下もご在籍と話題になったが、それ以上に社交界から消えたシュバルツァー家の娘が主席と言うのが貴族家に大きな波紋を呼んだ。名門貴族からは田舎の一領主の娘に負けたと。そして、同じ事がトールズ士官学院でも起きていた。

 

主席エマ・ミルスティン

 

同列主席ヤーレス・フィーネ・アンファング

 

3位マキアス・レーグニッツ

 

貴族名門も何人かは上位に食い込んでいるが上位3名は平民であり、主席二人に至っては満点主席と言う類を見ない結果である。

 

そして…3/31日

トリスタへと向かう導力列車の中、リィンとヤーレスは話していた。

 

「そういえば、ヤーレスの持ってるそのトランプおかしいよな。ジョーカーが一枚も無いんだから」

 

「ですね、何処かに落としたのかもしれません」

 

リィンと話しながらトランプいやラウズカードを見るのを止め、ホルダーへとしまうヤーレス。

彼はラウズカードを覚えていない、しかし使い方は何故か理解できた。

 

「…若様、もうじきトリスタです。忘れ物はありませんか?」

 

「…はぁ、大丈夫だって。あと、トールズで若様はやめてくれよ?」

 

「…わかりました、リィン」

 

リィンは敬語も止めてほしいと考えていたが、ヤーレスはそれだけは譲らなかった。恩返しと敬を忘れないためと。呆れつつも、アナウンスで列車が止まることを理解した二人は荷物を持つ。

 

「さて…行くか」

 

「…ええ」

 

時代の中心となる少年と、記憶を失いながらたった一人残った不死者の軌跡が今始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 




ヤーレス 
本名?ヤーレス・フィーネ・アンファング

ジョーカーアンデッド
何処かの神によって創られたジョーカーアンデッドであり、バトルファイト外に居る存在である。
つまりは………

ラウズカード
何処かの神によって創られたラウズカード。
ジョーカー、ヤーレス専用のカードであるが、ヤーレス自体記憶が不鮮明であるため感覚でしか使えない。

武器
ブレードアロー
持ちて以外の弓の部分が鋭利な刃となっている。
中心には何かを填めるような場所が存在している。


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入学する死者

ヤーレスことジョーカーはリィンと共にトリスタに舞い降りた。これから起こる正史とは違う悪夢を突き進む為に。


列車から降りるとリィンは金髪のご令嬢とぶつかった。

 

「リィン、駄目ですよ。前見ないと」

 

「あっ…うん、ごめん、大丈夫か?」

 

金髪の御令嬢と会話を続けるリィン、ヤーレスは使用人としてはここで去らずに待つのが賢明であると判断し、近くにあるベンチに腰掛け、リィンの話が終わるのをじっと待つ。

 

「…ねぇ」

 

「どうしました?」

 

14歳ぐらいの少女がヤーレスに話しかけ、じっと顔を覗ここんでいる。

 

「…やっぱり違う」

 

ただ一言そう言って何処かへ駆けていく少女。小さなその姿は涙しているようにヤーレスには感じられた。

 

「ヤーレス!」

 

「…リィン、待ちましたよ」

 

赤毛の少年とも仲良くなったようで、ヤーレスは3人で校門を抜けた。係で武器を預け、入学式へ参加をする3人。同じ赤の制服を着用する生徒の位置には3つの空席がある。

それぞれ着席し、教師陣の言葉に耳を傾ける。

 

「最後に諸君に、ドライケルス大帝の遺した言葉を伝えたいと思う」

 

静まり返った講堂内に、厳粛とした声が響き渡る。整然と並べられた椅子に座る新入生の視線の先には、壇上のマイクの前で毅然と立つ巨大な老人、ヴァンダイク学院長であった。

 

「『若者よ──世の礎たれ』。…『世』という言葉が何を示すのか。何を以て『礎』とするのか。その意味を、よく考えて欲しい」

 

その言葉を最後に入学式は終わりを告げた。そのままアナウンスに従い、白と緑の生徒たち、つまり貴族生徒と平民生徒はそれぞれのクラスに向かっていくが、赤の生徒であるヤーレス達はただ立ちすくむばかりだ。いや、ヤーレスのみ席に座り何かが起こるのを待つ。

そして、桃毛の女性が手を叩く。

 

「はいは~い、赤い制服の子達は注目!」

 

全員がその女性に顔を向けると、鼻を鳴らす。

 

「どうやらクラスが分からなくなって戸惑ってるみたいね。実はちょっと事情があってね。君達にはこれから特別オリエンテーリングに参加してもらいます」

 

説明にはそんなのことは一切記載されていなかった。ヤーレスは警戒しつつ、自身の武器がないことを思い出す。

 

(しかし、もしものときはコレがある)

 

使い方を感覚で覚えている52枚のトランプ、ヤーレスはそのホルダーをギュッと握り締める。

 

「ま、すぐに判るわ。それじゃあ全員、あたしについてきて」

 

言われるがまま、ヤーレス達は女性の後をついていく。

 

「ぐっ…」

 

「君?大丈夫か!」

 

眼鏡をかけた少年が蹲るヤーレスに声をかける。

 

「すみません、大丈夫です。ご心配をかけましたね」

 

「いっ…いや、そこまで改まれると」

 

眼鏡の少年と共に先行を追いかける。

鼻歌交じりに歩く女性を追い掛ける仲で、ヤーレスは不意な気配を感じ振り向く。そして…じっと一点を見つめた。敵意は感じないが、此方を観察する様な気配にヤーレスへ警戒を強める。

 

「そこの!置いてくわよ!」

 

「今行きます!」

 

気配を忘れることなく生徒達に追い付くヤーレス。それを見つめる3つの影。

 

「…確実にバレてたな」

 

「うん、でないと此方をじっと見たりしないよ」

 

「…達人級が一人。……しかし、可愛い子達が多いね。是非お近付きになりたい」

 

「けっ…まーた幼気な女子がお前の毒牙にかかるってわけかよ。やってられねえぜ」

 

ヤーレスが見つめた先で4人の2年生がそれぞれ新しい顔に期待を膨らませていた。だが、1名、ヤーレスの事を裏ではっきりと警戒していた。

 

 

 

今にも幽霊でも出そうな雰囲気の旧校舎で、ヤーレス達は桃毛の教師に知らされていなかった事実を知らされることとなった。

 

「私は今日よりこのクラスの担任になるサラ・バレンタインよ、今から特化クラスⅦ組の特別オリエンテーションを開始します」

 

サラ・バレスタイン。ヤーレスは知っていた、だからこそ警戒を忘れない。入学前にトールズ士官学院の全教師を調べ上げ、経歴も知っている。

《紫電 エクレール》と言われる最年少A級遊撃士にして…北の猟兵の元団長の娘。ヤーレスは誰にも気付かれないよう、何か使えるものは無いかとあたりを見渡す。

そんな中で少女とは言えない三編みのグラマラスな少女が手を挙げ、サラに質問を行う。

 

「あ、あの…ここのクラスはⅤクラスしか無かったはずでは?」

 

「さすが首席で入学しただけあるわね。そう。今年から新しいクラスが出来たのよ。身分に関係なく集められた君たち特化クラスⅦ組が」

 

特化クラスと言う話はヤーレスが調べた限りでは一切無かった。つまり、急遽行われたか、それ程内密に計画されていたと言う事だ。勿論、このサラの発言は大きな波を産んだ。

 

「冗談じゃない!身分に関係ない!?そんな話は聞いていませんよ!?」

 

先程ヤーレスを気にかけてくれたを少年がサラに反発する。

 

「ええっと、確か君は?」

 

「マキアス・レーグニッツです!まさか、貴族風情と一緒のクラスでやっていけと言うんですか?」

 

レーグニッツ、帝都に置いて知らない人は居ないほど有名な苗字。帝都知事であるカール・レーグニッツの子息。それが血管が破裂するのでは無いかという程の剣幕で叫んでいる。

そして…それを見ながら鼻で笑う金髪の少年。

 

「…君。何か文句でもあるのか?」

 

「別に。平民風情が騒がしいと思っただけだ」

 

マキアスに睨まれた金髪の男子は呟き、それを聞いたマキアスが睨み返しながら口を開く。

 

「これはこれは…どうやら大貴族のご子息殿が紛れ込んでいたようだな。その尊大な態度…さぞ名のある家柄と見受けるが?」

 

「ユーシス・アルバレア。貴族風情の名前ごとき、覚えてもらわなくても構わんが」

 

また大きな名前が出てくる。四大名門のアルバレア公爵家の次男ユーシス・アルバレア。

 

再び凍りつく旧校舎。しかし、ヤーレスの行った溜息でマキアスが息を吹き返した。

 

「だ、だからどうした!?その大層な家名に誰もが怯むと思ったら大間違いだぞ!いいか、僕は絶対に…!!」

 

「はいはい、そこまで。色々あるとは思うけど文句は後で聞かせてもらうわ。そろそろオリエンテーリングを始めないといけないしね」

 

面倒になったのかサラが手を叩いて視線を集める。ヤーレスはリィンの障害になる可能性として脳内のブラックリストに二人の名前を記入する。

 

そんな中で、オリエンテーリングとは一体何なのか。金髪の女子と三つ編みの女子がそれぞれ質問するが、サラはニヤリと笑うばかり。嫌な予感にヤーレスは警戒し、腰のホルダーから一枚のカード。

 

CHANGEMANTIS

 

を抜き取り、自身が何故かラウザーと呼ぶものを腰に出現させる。制服でバレてはいない物の、サラはヤーレスの警戒心をはっきりと受けていた。

 

(何よ…こんな警戒心むき出しの癖に一切気配がないなんて)

 

サラ自身もヤーレスを警戒しつつ放たれた質問に応えた。

 

「もしかして…門の所で預けたものと関係が?」

 

「あら、いいカンしてるわね」

 

リィンの質問に笑顔で答えると、サラは後ろに下がる。

 

「―――それじゃ、さっそく始めましょうか」

 

壁にかけられたレバーが下ろされ、地鳴りとともに床が傾いた。

 

「ん。よっと」

 

「うわぁぁぁぁぁ!?」

 

少女がアンカーワイヤーの様な物を天井に放つ。

ヤーレス自身も特異の身体能力を生かし、天井の張へと飛び移る。

 

「…フィーは予想してたけど。やっぱり貴方もか」

 

「…これはなんの真似でしょうか?サラ・バレスタイン、いえ……紫電と呼びましょうか?それとも、北の」

 

「思い出したわ…何でアンタみたいなのがいんのよ……ヤーレス・フィーネ・アンファング」

 

ヤーレスは驚きを隠せない。教師でなら知っていてもおかしくないが、サラがまるで知り合いの様に話すからだ。

 

「貴女は私の過去を知っているのですか!」

 

「…はぁ?」

 

「いえ…私は記憶喪失でして…アイゼンガルド連峰で救出されてからしか記憶が無いのです。首にあるドックタグで名前は恐らくヤーレスだろうと」

 

サラは頭に手を当て、フィーと呼ばれた少女は悲しみつつも嬉しそうな笑み生む。

 

「…良いわ、オリエンテーションに参加してくれるなら説明してあげる。勿論、フィーも参加するのよ」

 

「…ムッ、サラ酷い」

 

少女のワイヤーが斬られ落ちていく。ヤーレスは過去を知れると喜びながら奈落へと飛び込んだ。

 

「…まさかフィーの兄貴分が居るなんて」

 

サラの言葉は虚空へと消えた。

 

 

 

 

 

 




次回は戦闘シーン入れれたら書きたいです



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旧校舎を突き進む不死者

地下での戦い、纏らない生徒達。
そして進むヤーレス、そして遂に奴等が姿を表す。


ヤーレスが着地すると頬に紅葉を作ったリィンがいた。状況が飲み込めず、生徒に対し戦闘態勢を取ろうとするが…

 

「…ヤーレス、悪いのは俺なんだ」

 

リィンからの説明書を受けヤーレスは大きな溜息をついた。

 

「…リィン、バカですか?それともアホですか?助けようとして彼女の下敷きになるのは解りますがね。なんで…胸を揉むんです?」

 

「いや…それは」

 

「言い訳は無用です。紳士らしく受けたのは褒めましょう。しかし、女性からしたら事故でも大問題なのです。ソレを貴方は」

 

「…いや、もう良いわ!良いから!」

 

金髪の御令嬢に止められるヤーレス、既に彼はリィンを侮蔑する目で見ている。

 

「…ごめんなさい」

 

ヤーレス達は松明で照らされた地下迷宮に落とされた。空気の流れが存在しているため一酸化炭素中毒で死ぬことはないだろう。

しかし、ヤーレス達がだだっ広い旧校舎の地下に取り残されている事に代わりにない。

あるのはサラから渡されたのは新型のARCUSと入学式の直前に生徒会に渡したそれぞれの武器のみ。サラはこれだけ与えて、後は各自、自力で元の場所まで戻って来いと言ってのける。

フィーと呼ばれた少女はそそくさと迷宮の中へと消え、ソレを追うように女子生徒組が出発しようとする。

ヤーレスは前衛になると思える大剣を背負う少女に話しかける。

 

「すみません、先行した少女を頼みます」

 

「…お主は行かないのか?」

 

「私には守るべきお人が居ます。それに…貴女の様に弓を扱う身。後衛はこれ以上必要無いでしょう。それに…緩衝材は必要でしょうから」

 

「え…えぇ」

 

「何でしょう…物語に出演していた様な振る舞いですね」

 

「分かった、私達は行こう。件の少女は任せてほしい」

 

何故か敬礼を取るヤーレス、大剣の少女を形を真似た敬礼をすると女性グループと共に進み始める。そして残った男子勢も固まる事が決定した。

余談だが、マキアスとユーシスは仲違いが加速し、単独で既に出発している。女性グループにヤーレスが頼まなかったのは、アレを抑えるのは難しいと理解していたからだ。かと言って自分ならて言えるが、何故か荒事には慣れていると身体が言っている。

 

「まずは、自己紹介だな。俺はリィン・シュバルツァー。エリオットとはさっき知り合ったばかりだ。ヤーレスとは士官学院に来る前からの仲だな」

 

「うん。で、僕はエリオット・クレイグ。君たちの名前は?」

 

ラッキースケベというか女性の敵であるヤーレスの主リィン・シュバルツァー。

服装さえ変われば少女と言っても過言ではないエリオット・クレイグ。

次に口を開いたのは黒髪で浅黒い肌を持つ長身の男子生徒だった。

 

「ガイウス・ウォーゼルだ。帝国に来て口が浅いからよろしくしてくれると助かる」日が浅い

 

「留学生かぁ…それにしても、その長いのって武器なの?」

 

 

 

 エリオットはガイウスの持つ十字の槍を不思議そうな目で見つめる。確かに珍しい武器だが、エリオットが持つ武器も中々珍しい武器だった。

 

 

 

「故郷で使っていた得物だ。そちらもまた、不思議なものを持っているな?」

 

「あ、うん、これね」

 

「杖…?いや、オーブメントなのか?」

 

「新しい技術を使った武器でオーバルスタッフって言うんだって。入学時に適性があるって言われたから使用武具として選択したんだけど…」

 

「なるほど…そんなものがあるのか」

 

エリオットはそう言って試しに杖を振って、青いエネルギー弾を発射してみせた。見た感じ威力は低そうだが、実体のない攻撃というのは色々と使いどころが多そうだとヤーレスは考える。

 

「最後は私ですね。ヤーレス・フィーネ・アンファング、鳳翼館にて演奏家をしています。リィンとは…しゅ…友人です」

 

主従と、言いかけるがヤーレスはリィンの意思を汲み取り友人と言った。

 

「ヤーレスって!あの四大名門ですら手に入れたいと言う演奏家かのヤーレス・フィーネ・アンファングさん!凄いや…僕貴方のファンなんです!サインいただけませんか!」

 

目を輝かせてヤーレスに詰め寄るエリオット、ヤーレスは握手しつつエリオットを観察する。

 

「どうやら、バイオリンをしているご様子。コレが終わり次第デュエットしませんか?」

 

「是非!」

 

役者の様な振る舞いを行うヤーレスにリィンは頭痛を覚えるが、ヤーレスは一切悪意がない。

 

「えっと…ヤーレス、エリオット?そろそろ出発したいんだが…」

 

リィンの言葉に失礼しましたと返答するヤーレス、大袈裟な動きでなく最小限のまさに使用人と言う動き。別な意味でリィンはまた頭痛を覚える。

 

「さて…落ち着いた所で、そろそろ行くとしようか?」

 

「ああ、警戒しつつ慎重に進んで行こう。まずはお互いの戦い方を把握しておかないとな」

 

「うん…!」

 

(…また)

 

頭に響く敵意、ヤーレスはブレードアローを構えながら…迫る悪寒に対しての警戒を強める。

四人はそれぞれ武器を構えて歩き出す。旧校舎は、まだまだ先が長い。

 

「いたぞ…魔獣だ…」

 

リィンが腰に差した刀を抜きつつ、後ろからついて来ていた三人に声をかける。それなりに慣れた足さばきを見せるガイウスとヤーレス比べて明らかにおぼつかない足取りのエリオットを見て、まずはできる限り慎重に進むべき、とリィンは判断した。ヤーレス自身はこのまま殲滅も可能だが、彼等のスタイルと能力も把握したいと言う考えから、一歩さがり弓を引く。

 

「まずは戦術を確認しよう。俺とガイウスが前衛で、エリオットが後衛。ヤーレスは…」

 

「今回は後衛に徹したいと思います。皆様、ご自由に戦闘なさって下さい」

 

ブレードアローを構えながら笑顔でリィンに頷いて見せるヤーレス、リィンもヤーレスの本気の実力は見たことは無いが、あの鎧があるかぎり最大戦力と言えるだろう。

 

「じゃあ、2人で前に出てエリオットとヤーレスに援護してもらうとしよう。エリオットもそれで構わないな?」

 

「うん。僕もやれるよ!」

 

「賢明な判断ですね」

 

オーバルスタッフを構えるエリオットは後衛に徹すると言っていたが、何か有ればヤーレスがなんとかしてくれると確信がリィンにはあった為安心出来るし、隣の十字槍を構えるガイウスもその練度が伺える。

 

「じゃあ、行こう!敵は三体!前衛は一人一体ずつで!!」

 

リィンの号令で魔獣に気付かれる。

リィンは愛刀で目の前のトビネコに自身の最高速で突きを繰り出すが、思ったほど速度が乗らない。最弱とも言えるトビネコだから良かった物の、もっと強い魔獣であれば避けられ逆に反撃を受けていただろう。そして、動きも到底『型』と言えるものではない。

それに対し、ガイウスは慣れた手付きで十字槍を構える。動くことはない、まさに不動と言える姿勢を見せ、飛びかかるトビネコの腹に十字槍を一突きし、消滅させた。

 

「ふう…」

 

「すごい…ガイウス!倒すの早いね!」

 

「なあに。この程度、どうということはない」

 

距離の離れたトビネコが近寄る際にエリオットがエネルギー弾をオーバルスタッフから発射する。

トビネコに当たると弾け、そのままトビネコを消滅させる。

 

「僕にも出来たよ!」

 

浮かれるエリオットの背中にトビネコが降りてきた。リィン達も反応が遅れ、もう駄目だと思った瞬間エリオットのすぐ上をエネルギーで出来た矢が通り過ぎる。そして、トビネコを貫いた。

 

「駄目ですよ、ほら沢山来てしまいました」

 

「あっ…ありがとうございます」

 

「…ここは私がなんとかしましょうか」

 

「しかし、この数は」

 

目の前にはトビネコが5体現れる。いくら弱い魔獣といえど、一人では苦戦すると考えたガイウスが十字槍を構えるが

 

「手出無用!」

 

と一言ヤーレスが威圧してくる。

ヤーレスの本気が見られるとリィンは当たりを警戒しながらただじっとヤーレスを見る。 

ラウザーをブレードアローに装着するヤーレス、リィン達は不思議がりながらそれを見る。

 

《TORNADO》

 

竜巻をまとったブレードアローでヤーレスはトビネコを連続して撃ち抜いた。リィン達は神技とも言える所業に言葉を無くす。

 

「…さて、進みましょう」

 

「あぁ」

 

ヤーレスの実力についてリィンは何も知らなかった。半年以上共に生活したが、ヤーレスについて何も知らない事を改めてリィンは理解した。

 

 

 

 

 




次回も戦闘シーンかけるかな?
簡単に終わる戦闘は……はぁ


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更に進む死者

《CHANGE》

速くカリス出したいな


「しかし…ヤーレスのその弓は導力を使用しているのか?」

 

ガイウスは歩きながらヤーレスのブレードアローに着いて質問をしている。その疑問にはリィンとエリオットも同じように感じているようで是非とも聞かせてほしいと言う雰囲気を醸し出す。

 

「…正直わからないが正しいですね。このブレードアローは僕がずっと持っていた品です。もしかしたら導力を使っているかもしれませんね」

 

リィンは思い出す。ヤーレスに一切の記憶が無かったことを。彼と妹のエリゼを救ったあの時なら覚えていたかもしれないが、今のヤーレスはこの半年間の記憶しか無い。

 

「自身の得物なのにか?」

 

「待て、ガイウス」

 

リィンはガイウスを止めようとするがヤーレスが話し始める。

 

「実は…ここ半年間の記憶しか無いのです。アイゼンガルド連峰で遭難しているところをリィンに救われたのですが…このヤーレスの名のあるドッグタグとブレードアロー。自分が何処で生まれてどんな家族が居たのかすら…もう忘れてしまいました」

 

「!…ソレは……済まない。不謹慎だった」

 

「いえいえ、むしろ記憶が無くとも別に不便な事はありませんよ。友人も居ますし、それに別に記憶何て無くても生きていけますし!」

 

そう言い切るヤーレスに3人は毒気を抜かれてしまう。事実、ヤーレスは記憶が無くとも知識は普通にあり、日常生活め難なく送れているのをリィンは知っている。だが…まさかここまで割り切っているとはリィンは考えていなかった。

 

(俺がガイウスを止めようとした気持ち、返してくれよ)

 

「っう」

 

「ヤーレス!」

 

エリオットの声でリィンとガイウスはいきなり頭を抑えて蹲るヤーレスに気づいた。

 

「ぐぅ…ぐぁぁぁ」

 

尋常じゃないその様子に三人はなんとかできないかと動こうとするが、それをヤーレスは静止した。顔色が悪い中、じっと三人をヤーレスは見る。

 

「行きなさい、私は少し休ませてもらいます」

 

「ヤーレス、なら俺たちも」

 

「速くいけ!」

 

「!」

 

リィンが聞いたことのないヤーレスの怒声。エリオットもその声に竦む。

 

「リィン、エリオット、行くぞ」

 

「でも…ガイウス!」

 

「…ヤーレスは大丈夫だ」

 

「何でそう言えるんだ!」

 

「…風が教えてくれる」

 

ガイウスは二人を連れて先に向う。ヤーレスはガイウスに感謝しながら、ブレードアローを杖代わりにして立ち上がる。先程から感じる頭痛、そして気配が大きくなっている。

 

「貴様…アンデットだな」

 

「…バットアンデット」

 

コウモリの祖となるアンデット。ダイヤのカテゴリー8、知らない知識が自身の頭に浮かんでくるのをヤーレスは不気味とは思わなかった。むしろ、それが正しいことだと感じている。

 

「バトルファイトは既に始まっている」

 

「…なら、やることは一つか」

 

《CHANGE》

 

ヤーレスは腰のカリスラウザーにシェンジマンティスをラウズする。するとヤーレスはマンティスアンデッドいや、仮面ライダーカリスへと変身した。

 

「マンティスアンデッドだと!」

 

「…バトルファイトの開始だ!」

 

カリスが脳波を出すと手元にカリスアローが出現する。ブレードモードに変形させ、カリスはバットアンデットの胴体を斬りつける。

 

「ぐあ!」

 

バットアンデットから火花が飛び散り、その身体は倒れる。

 

「だが!!」

 

しかし、バットアンデットは蝙蝠をカリスへとぶつける。

 

「くっ…此奴!」

 

カリスはカリスアローで蝙蝠達を斬り落とすが一向に減る気配が無い。そして、段段と肉体が蝙蝠に覆い尽くされていく。

 

「くっ!」

 

「くらえ!」

 

バットアンデットはカリスの背中に回ると首元にむけて自身の鋭利な牙を突き立てた。

 

「ぐぁぁ!」

 

緑色の血がカリスの首元から流れ、その量は段々と増えていく。

 

「さぁ…終わりだ!マンティスアンデッド!」

 

バットアンデットはカリスから牙を抜くと、地面に叩きつけ、低空飛行しながら引きずる!

 

「貴様!」

 

地面を抉りながらカリスは引きずられるが何とか左腕でカリスアローをバットアンデットの翼に突き刺す。バットアンデットの翼を貫通するカリスアロー、バットアンデットはその痛みに耐えきれずカリスを離してしまう。

 

「ぐぅ」

 

傷付く翼を何とかしようと、カリスから逃げるバットアンデット。しかし、起き上がったカリスはそれを許しはしない。

 

「よせ!」

 

カリスアローを引き、光熱の矢であるフォースアローを放つ。撃墜されるバットアンデットにカリスは止めを刺す。腰のカリスラウザーをカリスアローへとコネクトし、2枚のラウズカードをラウズした。

 

《Drill》《Tornado》

 

《スピニングアタック》

 

ドリルシェルとトルネードホークをラウズする。

すると、カリスの身体は高速回転しながら空中へと飛び上がる。

その状態からのスピンキックであるスピニングアタックがバットアンデットの胴体に命中した。

 

「ぐぁぁぁあ!!!」

 

バットアンデットは爆発し地面に倒れる。そして、腰のバックルが開いた。カリスはそれを確認すると慣れた手つきでホルダーから一枚のラウズカードを取り出す。

 

コモンブランク

 

スート、カテゴリーの決まっていないアンデットが封印される前のラウズカード。カリスはそれをバットアンデットへと投げた。コモンブランクがバットアンデットに刺さると、バットアンデットは光を放ちながらコモンブランクへ封印された。

そして、封印されたラウズカードがカリスの手へと戻る。ラウズカードをカリスが確認すると、ダイヤのカテゴリー8、スコープバットが完成していた。

 

「時間を使いすぎましたか…これは」

 

自身の気付かないうちにホルダーが増えているのにヤーレスは不思議がるが、何故か問題視はしなかった。

 

「まぁ、良いでしょう」

 

もう一つのカードホルダーに今手に入れたスコープバットをしまい、前から持っているホルダーからハートのカテゴリー2であるスピリットを取り出す。

 

《SPIRIT》

 

そしてベルトに戻したカリスラウザーにラウズし元の人間態へとカリスは戻った。

 

「速くしないと」

 

ヤーレスはリィン達に追いつくべく駆け出した。

 

 

 

 

「ねぇ、リィン。ヤーレス、大丈夫かな?」

 

「…あぁ」

 

リィンはエリオットの質問に気のない返事をする。半年間、彼処まで恐怖を覚えるヤーレスの顔をリィンは見たことが無かった。もし、さっきのがヤーレスの本当の姿だとしたらとリィンは変な不安にかられている。

 

「大丈夫だろう、おそらくだがヤーレスはまだ実力を隠している」

 

「ガイウス、解るのか?!」

 

「あぁ…似たような人に心当たりがある」

 

ガイウスは懐かしむ様に微笑む。彼がまだ故郷に居た際、手を焼いてくれた自身の師。性格も、立ち振舞も違えど、同じ実力者であり、厳しく言えど中には優しき言葉があるのは両者とも同じであった。三人が進んでいるとまた魔獣に遭遇する。

 

「5体か、数が多いな」

 

「でも…道はあそこだけだよ」

 

「やるしかない」

 

リィン達は魔獣と戦闘を開始する。先程とは違い、リィンも『型』と言える動きでトビネコを一匹仕留め、隣のガイウスは十字槍の柄でトビネコを壁に叩きつける。

エリオットもアーツで仕留めて行くが、戦闘に釣られたのか段々とトビネコだけでなく他の魔獣も増えてきた。

 

「消耗戦か」

 

「大丈夫か!」

 

増える魔獣の背中から先行したはずのマキアスのショットガンが放たれる。

それを受けた何匹かは倒れ、穴が開く。

リィンとガイウスは頷きあい、魔獣の中心へと踏み込んだ。

 

「はぁぁ!」「セェア!」

 

リィンは心を落ち着かせ、一太刀で仕留める様に動く。無理でも、マキアスとエリオットがいるという余裕があった。ガイウスの十字槍とリィンの刀、エリオットのアーツ、そしてマキアスのショットガンで魔獣の殲滅は終了した。

 

「はぁ…はぁ…たっ…助かったぁ」

 

「…中々厳しい戦況だった」

 

「あぁ、マキアスが来てくれなければ危なかった」

 

「3人?後の一人は」

 

「ここですよ」

 

ヤーレスは土汚れをはたき落としながら4人に合流した。先程とはうって変わり、健康そのものであり、おかしなところは見当たらない。

そして、ヤーレスの中で喧しい、警戒対象のブラックリストに乗っていたマキアスが口を開いた。

 

「さっきは身勝手な真似をしてすまなかった。いくら相手が傲慢な貴族とは言え、冷静さを失うべきじゃあなかった」

 

これまで散々から周りに当たり散らかしているイメージしかなかったマキアスの意外な素顔に若干驚くリィン達。しかし、ヤーレスは違った。

 

(傲慢な貴族ね)

 

過去に貴族関係で何かがあったのかもしれないが、ヤーレスは貴族であるシュバルツァー男爵家に命を救われ、仕えている。それを侮辱されるのであれは、容赦するつもりは無かった。

案の定、マキアスは直ぐに含みのある顔に戻る。

 

「ところで…済まないが、身分を聞いてもいいだろうか?含む所があるわけじゃあ無いんだが、相手が貴族かどうかは念の為にも知っておきたくてね」

 

(結局か)

 

予想通りの言葉にヤーレスは溜息を付きたいのを我慢する。

 

「あはは…取り敢えず、僕は平民の出身だよ」

 

「同じく。そもそも俺の故郷に身分の違いは存在しないからな」

 

ヤーレスはそういえばと考える。帝国にクレイグと言う将軍が居た気がすると思い出し、もう一度エリオットの姿を見る。

 

(…いや、あの赤毛のクレイグから男の娘が産まれるなんて考えにくいですね)

 

とふざけた思考を吹き飛ばす。

ヤーレスがそんな馬鹿な事を考えていたと同時に、エリオットとガイウスは真顔で貴族でない事をマキアスに伝えていた。マキアスめ、ほっとした顔になる。

 

「なるほど、留学生なのか。それで、君たちのほうは?」

 

「ああ…少なくとも、高貴な血は流れてはいない。そういう意味ではみんなと同じと言えるかな」

 

「そうか。それなら安心だ」

 

リィンの事をヤーレスは聞いていた為、何も言えなかった。士官学院卒業後は家を出るとも言っている、引き止めたいが、それがリィンの意思なら尊重したいという気持ちもある。

 

「…わかりませんね。実は記憶喪失でしてここ半年間の記憶しか無いんです」

 

「それは…なんと言うか………済まない」

 

「いえ、別に記憶がなくても生活出来てますし」

 

ヤーレスの返答にバツが悪くなったのかマキアスは物言いが悪くなる。だが、マキアスはそんな二人を気にする様子は無かった。

 

(…コレ、若様がシュバルツァー男爵家の嫡男だと解ったら絶対拗れますね)

 

合流した5人がある程度進むと分かれ道に当直した。どちらに進むかと言う相談を始めた矢先、左側の通路から女性グループが現れた。

 

「そなたたちは…」

 

大剣を背負った女性が此方に声をかけてくる。先行した小柄の少女は見当たらないのは合流できていないからだろう。そして…それ以上に気まずいのが金髪の御令嬢だ。リィンの顔を見るなり、顔つきが変わってしまう。これにはヤーレスも溜息をついてしまった。

 

「まったく」

 

「みなさんも…ご無事で何よりです」 

 

眼鏡の女子は安堵の表情でリィン達を見つめる。それにしても、グラマラスな体型だ。一体この年齢でどんな生活をしたらここまで成長するのだろうか、ヤーレスはある種の興味を抱いていた。

 

「ふむ、そちらの彼も少しは頭が冷えたようだな?」

 

「ぐっ…おかげさまでね」

 

大剣を背負った女性に尋ねられたマキアスは唸った後気を取り直して答えた。流石に自身が冷静で無かったことを理解しているのだろう、しかもそれを女性に指摘されたのだ。唸るのも仕方ない。

 

「――遅ればせながら名乗らせてもらおう。ラウラ・S・アルゼイド。レグラムの出身だ。以後、よろしく頼む」

 

リィンは気付いたようで驚きを隠せないでいる。

ヤーレスが入学前に教養の分野で教えていた貴族家、その御令嬢が目の前にいるというのは驚きしかない。

 

「レグラム…」

 

「えっと、帝国の南東の外れにある場所だったっけ?」

 

「アルゼイド…そうか、思い出したぞ!確かレグラムを治めている子爵家の名前じゃなかったか!?」

 

その時何かに気付いたマキアスは真剣な表情で声を上げる。マキアスの貴族センサーに反応があったらしい。ヤーレスは本気でマキアスに呆れ始めた。

 

「ああ、私の父がその子爵家の当主だが、何か問題でもあるのか?」

 

マキアスの言葉を聞いたラウラは頷いた後静かな表情でマキアスを見つめて尋ねた。

 

「い、いや…………………………」

 

ラウラに尋ねられたマキアスは口ごもった後複雑そうな表情で黙り込む。ここまで来ると筋金入りだが、ラウラ相手では分が悪かったようだ。

 

「ふむ、マキアスとやら。そなたの考え方はともかく、これまで、女神に恥じるような生き方をしてきたつもりはないぞ?私も、たぶん私の父もな」

 

「いや…すまない。他意があるわけじゃないんだ。そ、そちらの君は…?」

 

(他意はない?嘘でしょ、ありまくりだと思いますよ)

 

 ラウラの答えを聞いて、マキアスは他意有りかつ若干焦った様子で答えた後眼鏡の女子に視線を向けて尋ねた。

 

「エマです。エマ・ミルスティン。私も辺境出身で…奨学金頼りで入学しました。よろしくお願いしますね」

 

マキアスに視線を向けられた眼鏡の女子、エマは軽く頭を下げた後自己紹介をした。

 

「奨学金…そういえば教官が首席入学者と言ってたな。むむっ、まさか主席が女の子だったとは…」

 

今度は別ベクトルでセンサーを発揮するマキアス。このまま、目の前のエマに変な敵意を向けられでもしたら面倒だと、ヤーレスは動いた。

 

「貴方があのエマ・ミルスティンだったのですか!私はヤーレス・フィーネ・アンファング。次回の試験では同列という結果でなく、貴女に勝ちます」

 

ヤーレスは見れば人を魅了する笑顔でえまに挑戦した。様に見せかける、何故か女性陣が赤面しエマはオロオロと戸惑っている。ヤーレスはそれを不思議がりながら一言、

 

「皆さん、自分は何かをしましたか?」

 

と、言ってのける。

 

「…ねぇ、リィン。僕思うんだ、きっと鳳翼館ではヤーレスはかなり人気だったんじゃないかって」

 

エリオットの言いたいことを理解したのか、リィンは頷きながら額に手を当てる。この演技と言うか、なんと言えば良いのか解らないが様になってしまう動きを素で行うのがヤーレスであると、改めてリィンは理解した。

 

 

 

 




設定
この英雄伝説の世界ではかつてバトルファイトが行われた。
女神エイドス自体がバトルファイトを始めさせた元凶である為、統制者≒女神となる。

ジョーカー
女神エイドスが作り足したアンデット、どの種族の祖であり祖でない存在。ジョーカーが勝ち残ると世界は破壊され、新たな世界が精製される。

ヤーレスジョーカー
女神エイドスではなく全く別の存在が創り出したジョーカー。女神エイドスのバトルファイトの外にある存在である為、全てのラウズカードを所持している。ヤーレスが勝者となる場合、何も起こらない。

女神エイドスのラウズカード
54枚のラウズカード。全てアンデットとして復活済み。この世界ねオリジナル

ヤーレスのラウズカード
52枚、ジョーカーはなくアンデットが解放されることはない。能力は女神のラウズカードと同等。


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より進む死者

今更ながらヤーレスの容姿は










相川始と同じです!


先程の茶番劇(何故か絵になる)を見せられた一同、当初ヤーレスの目論見通りに進み、予想通りの反応を返した。

 

「君も首席だったのか!?」

 

「えぇ、温泉郷ユミル唯一にして鳳翼館の看板演奏家、ヤーレス・フィーネ・アンファングです。是非ともご宿泊をお待ちしています」

 

「………え?」

 

ヤーレスのいきなりの宣伝にマキアスは毒気を抜かれた。周りのリィン達以外の生徒はヤーレスを見て驚いている。

 

「まさかヤーレス、ソナタがかの有名な鳳翼館の演奏家だったとは」

 

「えぇ、良ければ帰還次第演奏しましょうか」

 

「いいんですか?」

 

「えぇ、まるで魔法にかけられた様な最高の一時を皆様に」

 

「…本当絵になるわね」

 

変に和んだ雰囲気だったのだが、リィンが金髪の御令嬢を見つめているのが本人にバレ、金髪の御令嬢はリィンを睨み返す。

 

(……どうずりゃ良いんだよ)

 

どうした?そなたも自己紹介くらいした方がいいのではないか?」

 

「…そうね。アリサ・R。ルーレ市からやって来たわ。よろしくしたくない人もいるけどまあ、それ以外はよろしく」

 

そしてラウラに促された金髪の御令嬢、アリサは自己紹介をした後若干の怒気を纏いながら目を伏せ、アリサの言葉を聞いたその場にいる全員は冷や汗をかく。どんだけリィンに対して怒っているんだろうか。ヤーレスは冷や汗はかいていないが、溜息を付きたいのを我慢している。 

 

「そ、そう言えば…あのトランクの中身はその弓だったんだな?面白い造りをしているけど導力式なのか?」

 

何とか喋る口実を求めてアリサとの出会いを思い出したリィンはアリサに尋ねる。だが、アリサは養豚場の豚でも見るような視線でリィンを見つめて返す。

 

「その通りだけど、あなたとは何の関係が?」

 

「うっ…」

 

(若様、勇気は讃えます) 

 

慈悲もなし。謝るどころか口を開くことすら許されていなかった。しかし、そんなリィンを尻目にヤーレスはさり気なくアリサに近寄る。そして、アリサにしか聞こえない声で喋った。

 

「何故、ラインフォルトの御令嬢が?」

 

「!」

 

「秘密にしたいのならもう少し反応を抑えるべきですよ」

 

そう、話し元の位置へ戻る。アリサは驚愕した表情のままヤーレスを見つめていた。

 

「そ、そういえばこれからどうしようか?せっかく合流したんだしこのまま一緒に行動する?」

 

その様子を見ていたエリオットは話題を変えるかのように、ラウラたちに尋ねる。

 

「そうだな、そちらは女子だけだし安全のためにも…」

 

エリオットの提案を聞いたマキアスも頷いた。

この辺、ヤーレスはマキアスよ決めつけが入っているのでは?と内心感じている。観察すれば解る、ラウラは鍛え抜かれた技があり、アリサは最新のラインフォルト製オーバルウェプン、そしてあのエマ、ヤーレスは彼女を酷く警戒していた。

 

「いや、心配は無用だ。剣には少々自信がある。残りの二人を見つける為にも二手に分かれた方がいいだろう」

 

「そうですね…あの銀髪の女の子もまだ見つかっていませんし」

 

ヤーレス自身、件の少女が弱いとは思っていない。あの動きは訓練された兵士、しかも正規軍ではなく特殊部隊や猟兵の動きだった、

 

「そういう事なら別行動で構わないだろう。お互い、出口を目指しつつ残りの4人も探して行く。それで構わないか?」

 

「アリサ、エマ。それでは行くとしようか」

 

「…そうね」

 

「また後で…それでは失礼します」

 

そしてラウラ達はリィン達から去って行った。

 

「はあ…」

 

ラウラ達が去るとリィンは疲れた表情で溜息を吐く。

 

「えっと…その、ご愁傷様だったね」

 

リィンの様子を見たエリオットは苦笑する。哀愁が漂う背中だった。

 

「不可抗力だったというのはこの際、関係ないんだろうな」

 

「いつかは許してもらえるといいですね」

 

「…慰めてるつもりなのか?」

 

リィンは更に落ち込みながらついつい弱音を吐いてしまうのだった。

 

ラウラたちと別れてしばらく歩くと、遠くの方から剣戟の音が聞こえてきた。五人が慌てて音のした方向に向けて走っていくと、その先ではユーシスが宮廷剣術で次々と魔獣を切り捨てていく所だった。一瞬助けに行こうとしたが、ユーシスは余裕の表情で魔獣を圧倒していく。どうやら助太刀の必要はないらしい。

 

「ふう…それで、何の用だ?」

 

「くっ…」

 

疲れた様子をみせない澄ました顔で自分達を見つめるユーシスの態度にマキアスは唇を噛みしめる。本当に忙しい人だ。

 

「いや…お見事」

 

リィンはユーシスの戦いを称賛した後、エリオット達と共にユーシスに近づいて自己紹介を始めた。

 

「リィン・シュバルツァー。さっきは名乗る暇もなかったから自己紹介をしておくよ」

 

「ど、どうも…エリオット・クレイグです」

 

「ガイウス・ウォーゼルだ。よろしく頼む」

 

「ヤーレス・フィーネ・アンファングです。ルーファス様には懇意にさせて頂いています」

 

「そうか…鳳翼館の演奏家。父が悪い事をしたな」

 

「いえ、ルーファス様が執り成して下さいました。それに、ユーシス様に非は御座いません」

 

ソコでユーシスは少し間を起き、改めて自己紹介をした。

 

「ユーシス・アルバレア。一応、改めて名乗っておこう」

 

ユーシスは主にリィンとヤーレスを見つめていた。関係者であり、シュバルツァーと名がつくのであれば誰でも予想は出来る。だが、それ以上に彼に向けられる敵意に気を取られた。

 

「なんだ?どうやらそこの帝都知事の息子様は言いたいことがあるようだが?」

 

「ぐっ…!」

 

「帝都知事…って、ああ!そっか、マキアスのお父さん、帝都知事のカール・レーグニッツ知事なんだ…」

 

「だ、だったらどうした!?父さんが帝都知事だろうとウチが平民なのは変わらない!君達のような特権階級と一緒にしないでもらおうか!?」

 

特権階級でも、慎ましく暮らすシュバルツァー家に害意を及ぼすならとさり気なくヤーレスは敵意を向ける。

そして、どんどん顔を真っ赤にさせて声のボルテージを上げていくマキアス。それに対して冷めた視線を送るユーシス。リィンがマキアスを抑えようとするが、マキアスはもう止められない程激高していた。おまけにユーシスも虫の居所でも悪いのか嫌味っぽい笑顔を浮かべて続ける。正直、ヤーレスの沸点も段々と限界に近付いている。

 

「だがレーグニッツ知事といえばかの”鉄血宰相”の盟友でもある”革新派”の有力人物だ。そして宰相率いる『革新派』と四大名門を筆頭とする『貴族派』は事あるごとに対立している。ならば、お前のその露骨までの貴族嫌悪の言動。ずいぶん安っぽく『わかりやすい』と思ってな」

 

「このっ!!」

 

堪忍袋の緒が切れ、怒りを抑えきれなくなったのかマキアスがユーシスに殴りかかろうと一歩足を進め、ユーシスも薄ら笑いを浮かべて迎え撃たんとする。

 

「待て…!!二人共落ち着け…!?」

 

リィンがマキアスの肩を掴んで止めようとしたその時、ヤーレスが消えた。

 

「…黙って聞いていれば貴様ら、死にたいようだな」

 

先程よりも更に低い怒声、強い殺気、誰もが呼吸が出来ずその場に立ち尽くしている。そう、現在ヤーレスは無意識の内にジョーカーアンデットとしての殺気をぶつけていた。冷たく、突き刺さるような殺気に誰もが口を開けない。

 

「ちっ…魔獣か」

 

「まて、ヤーレス」

 

「邪魔だ、さっさと行け」

 

大量のドローメ、トビネコ、コインビートルが現れる。が、それ以上にヤーレスが嗤っている事にリィンは恐怖した。

 

「ヤーレス、い」

 

《GEMINI》《SANDER》《DRILL》

 

ヤーレスが分身した、その事に一同は更に驚きを強める。そして、それを観察する一つの影は、確信を持っていた。

 

「はァァァァ!!!」

 

(やっぱり)

 

分身した二人のヤーレスは雷を纏う錐揉みキックを別方向に炸裂した。命中した魔獣から巨大な雷撃が巻き起こり、全ての魔獣を飲み込む。雷が終わる頃には、既にヤーレスは一人に戻っていた。

 

「さぁ、進みましょう」

 

先程とはかわり、普段の優しきヤーレス。リィンはどちらが本物のヤーレスなのか、判断がつけられなかった。




ヤーレス
怒るとジョーカーの攻撃的な性格が前に出る。
戦い方も情容赦無く、殲滅戦と言うに等しい戦い方をする。


サンダーディバイド
♡のカテゴリー5ドリルシェル
♢のカテゴリー9ジェミニゼブラ
♤のカテゴリー6サンダーディアー
の3枚をラウズすることで発動


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戦う不死者

実は…「ホ○と見る復活の橘さん」という動画がYou Tubeにありまして……作者は定期的に摂取に爆笑しないと身体に不調をきたすようになりました。皆さんも橘朔也伝説調べてみてね!



結局ヤーレスは周りの事を考え、一人で先行してしまった。誰も、リィンでさえヤーレスを止めようとはしなかった。

 

「……一体やつは何なんだ!?ただの演奏家ではないのか!?」

 

ユーシスの声にリィンは静かに答える。

 

「…演奏家だよ、心優しいね」

 

リィンはそう。ずっとそうだと思っていた、だから信じたい。信じていたかった。だが、先程の残虐に魔獣を殺す時の笑み、それが彼の脳内からケシたくとも消せなかった。

 

 

 

ヤーレスはたった一人、魔獣を仕留めながら前進していた。すべての魔獣がまるで仇の様にヤーレスを襲ってくる。ヤーレス自身、頭では理解していなかったが本能でわかった。

 

「…そこに居るのは?」

 

「…バレた?」

 

件の少女、ヤーレスはその姿をじっと観察する。

服装に綻びはなく、精々スカートに砂埃がある程度だ。ヤーレスは少女に近付くと無意識の内に頭を撫でていた。

 

「ん」

 

自身の記憶が蘇る様な気がする。昔からこうして誰かの頭を撫でて居た気がする。

 

「あっ」

 

「すみませんね、私はヤーレス・フィーネ・アンファング。鳳翼館という場所で演奏家をしています」

 

少女は一瞬、涙を見せると直ぐに笑顔になりヤーレスに自己紹介を行った。

 

「ん!…フィー。フィー・クラウゼル」

 

「……クラウ……ゼ…る?」

 

その時、ヤーレスの脳内にフラッシュバックが起きた。知らない場所で知らない男と自分が喋っている。

 

ーーお前、コイツラを一人で殺したのか

 

ーー団長?!何を

 

ーーーウゥ…ウォォォォ!!!

 

 

 

「ぐぅ…ルド………ガ」

 

「ヤーレス、大丈夫?」

 

「俺は……私は………ヤーレス、ヤーレス・フィーネ・アンファングだ」

 

頭を振り、一度整理する。立ち上がり、ヤーレスはフィーの方を向くともう一度頭を撫でた。

 

「……むぅ」

 

「…俺は君が誰かまだ思い出せない。でも…心が覚えてる。フィー、お前が俺達の宝だってこと」

 

ヤーレスは自身の口調が普段と違うことに気づかなかった。むしろ、自然に話しているようにさえ感じた。フィーは迷い無き笑顔でヤーレスを見ると、

 

「行こ!」

 

ただ一言、だがその一言はやけに弾んでいる様にヤーレスには聞こえた。

フィーの道案内で二人は地上へと続く階段を登っている。途中、フィーは疲れたと言ってヤーレスにおんぶを頼むと、ヤーレスは笑いながらお姫様抱っこを行う。ポカポカと胸を拳で叩くフィーだが、ヤーレスは抱きながら頭を静かに合わせる。

 

「……意地悪」

 

「…なんで俺はこんな事をしてるんだ?」

 

自身で自身の行動をおかしく思いつつも二人はゆっくりとゴールへの道程を歩いていった。

 

「そうだ、フィー。ゴールまで行ったんだろ?何が待ち構えてた?」

 

「…なぜ?」

 

「…元猟兵だろ、それが戻るって事は自分一人じゃ面倒な相手が居たってことじゃないか?」

 

「記憶は無いのに観察眼とか変わらないんだ。正解、奥に変な石像がいる。多分トラップ、でもヤーレスさえ居れば勝てる」

 

「それはどういう意味で?」

 

ヤーレスはフィーが自分を何処まで知っているのか確かめたくなった。おそらく、自分とフィーはかなり親しい関係だったのだろう、それこそリィンやシュバルツァー家、ユミルの人達よりも。

 

「カードありなら変身しなければちょい苦戦、変身したら……直ぐに決着がつく。カード無しでも……駄目。変に苦戦する未来が見えない」

 

変身、つまりフィーはカリスを知っている。ラウズカードの事も知っている。ヤーレスは自身の戦い方を知っていると考えている。だが、もし敵対しても負けるつもりはないが。

 

「来た」

 

念の為にカリスラウザーを出現させるヤーレス。

石像を確認する、魔除けであるガーゴイルを模した石像。それに近付くと息吹が宿った。

 

「グァァァァ!!!」

 

「ふっ…」

 

避けそこねたのか頬に傷ができ、直ぐに塞がる。

傷からは緑色の血が流れ、ヤーレスはそれを手で拭う。魔獣とは違う別のなにか。人工的に創られた生命体だろう。ヤーレスはカリスアローで振り下ろされる爪を弾くと一度距離を取る。

 

「フィー、やれるか?」

 

「ん」

 

フィーはブレードピストルから弾丸を放ち、ガーゴイルを牽制する。ヤーレスはその弾幕の中を駆け抜けながら、ガーゴイルの腹を切る。

 

「流石」

 

「まぁな、交代だ」

 

腰からカリスラウザーをカリスアローに装着し、トルネードホークをラウズする。

 

《TORNADO》

 

そしてガーゴイルの翼を撃ち抜くと、フィーは駆け出した。前から後へ、後から前へと二度すれ違いざまに切り裂くフィー。小柄だからこそできる技だ。だがガーゴイルはフィーに火炎を放つ。着地する寸前のフィーは避けきれない。

 

《REFLECT》

 

ハートのカテゴリー8リフレクトモスをラウズし、フィーにむけてフォースアローを放つヤーレス。フィーに命中すると守るようにバリアを展開した。

 

「あっ」

 

《BIO》《CHOP》

 

ハートのカテゴリー7バイオプラントとハートのカテゴリー3チョップヘッドをラウズするヤーレス。

カリスアローから触手が現れ、ガーゴイルを掴み引き寄せる。

 

「…はぁ!」

 

そしてエネルギーを帯びた右腕でそのままヤーレスはガーゴイルを打ち砕いた。

 

「…凄い」

 

「そうか」

 

ヤーレスが戦闘を終えるとクラスの面々が現れる。走ってきたりした生徒も居るのか息が荒れている。

 

「…ヤーレス」

 

「なんだ、ソナタが終わらせたのか?」

 

「…いえ、もう一体来ましたね」

 

ヤーレスとフィーが仕留めたガーゴイルとは別のガーゴイルが姿をみせる。

 

「…ほぉ、私とフィーは参加するなと」

 

「試験は合格って所?」

 

ガーゴイルはヤーレスとフィーに平伏すると腕を動かす。早く行け、そう指示するかの様なガーゴイルの意志を飲み、ヤーレスはフィーを連れ彼等の試験が見られる位置まで向う。

 

「…ヤーレス、ヤーレスは記憶本当に無いの」

 

「………俺は、この半年間しか覚えてない。あと、コイツラの使い方。今までは別にどうでも良かったんだがな、フィー。お前を見てると、シュバルツァー家に助けられた恩義よりも記憶を探したくなる」

 

フィーの頭をワシャワシャと撫でるヤーレス。フィーは頬を膨らませつつ一言

 

「止めて」

 

と話す。恥ずかしいのか嫌なのか、ヤーレスには判断がつかなかった。その割に擦り寄ってくるあたり、ヤーレスはフィーを野良猫だと考えた。

 

「…合流しても劣勢だね」

 

「ーー素人しか居ないんだ、むしろ最低限の連携が出来てることを褒めるべきだな」

 

 

「ん?」「ほぉ」

 

ヤーレスはもたついている生徒達に視線を向ける。彼とフィーは終わっているから関係ないが、

それでも何か有れば介入しようと考えていた。

しかし、まるで繋がったかのように生徒達は自身の持てる力を最大限に使い、最後は前衛達の一斉攻撃、最後にラウラの大剣がガーゴイルの首を斬り落とすことで、戦闘は終了した。

 

「ふむ、気のせいか…皆の動きが手に取るように視えた気がしたが…」

 

「…多分、気のせいじゃないと思うよ」

 

考え込んでいるラウラの疑問にフィーは静かな表情で答えると、エマもARCUSを取り出して呟く。

 

「ええ。恐らくこのオーブメントのお蔭だと思うんです」 

 

「そう。ARCUSの真価ってワケね」

 

するとその時サラ教官の声が聞こえ、ヤーレスは彼女に対しニヤリと笑みを浮かべる。

 

「いや~、やっぱり最後は友情とチームワークの勝利よね。うんうん。お姉さん感動しちゃったわ♪」

 

白々しく笑顔で言いながらサラは近づいてくる。当然ながら誰も何も言えない。そんな8人を見たサラは不満そうな顔になった。

 

「これにて入学式の特別オリエンテーリングは全て終了なんだけど…何よ君達。もっと喜んでもいいんじゃない?」

 

「よ、喜べるわけないでしょう!」

 

「正直、疑問と不信感しか湧いて来ないんですが…」

 

「あら?」

 

アリサとマキアスが全員の意見を代表して叫ぶ。サラはまたしても白々しく首をかしげた。

 

「単刀直入に問おう。特科クラスⅦ組…一体何を目的としているんだ?」

 

「身分や出身に関係ないというのは確かにわかりましたけど…」

 

「なぜ我らが選ばれたのか結局のところ疑問ではあるな」

 

ユーシス、エマ、ラウラがそれぞれの疑問を口にすると、サラは満面の笑顔のままでARCUSを指さした。

 

「ふむ、そうね。君達がⅦ組に選ばれたのは色々な理由があるんだけど…一番わかりやすい理由はそのARCUSにあるわ。現時点で、ARCUSは個人的な適性に差があってね。新入生の中で、君達は特に高い適性を示したのよ。それが身分や出身に関わらず君達が選ばれた理由でもあるわ」

 

「…新世代導力端末のテスターか。上の方から圧力か…面倒な指示でも受けたか?」

 

「…ヤーレス、本当に記憶ないのよね?なんで…私の知ってる性格が出てるのかしら」

 

「おや、これは失礼。何故か、フィーと貴女が居るとあの口調になってしまうようで、以後気をつけます。教官」

 

「……うわ、どっちにしろ気持ち悪いわ」

 

周りはどういうことかと首をかしげ、リィンはヤーレスの過去を知るフィーとサラ教官に驚きを隠せない、だが笑い転げるフィーを見るとヤーレスときっと親しい仲だったのだと感じる。

 

「さてと。約束どおり、文句の方を受け付けてあげる。トールズ士官学院はこのARCUSの適合者として君達10名を見出した。でも、やる気のない者や気の進まない者に参加させるほど予算的な余裕があるわけじゃないわ。それと、本来所属するクラスよりもハードなカリキュラムになるはずよ。それを覚悟してもらった上で”Ⅶ組”に参加するかどうか、改めて聞かせてもらいましょうか?あ、ちなみに辞退したら本来所属するはずだったクラスに行ってもらうことになるわ。貴族、皇族出身ならⅠ組かⅡ組、それ以外ならⅢ~Ⅴ組になるわね。今だったらまだ初日だし、そのまま溶け込めると思うわよ?」

 

しばらくの間無言が続く。だが、その中でリィンは一人だけ一歩前に出た。

 

「リィン・シュバルツァー。参加させてもらいます」

 

一人がまず名乗り出れば、次第に一人一人と名乗り出始めた。修練の為や、これも縁と考える者、今更カリキュラムから外れる気はない者、貴族間の茶番から離れたい者、そしてそれに対抗する者。

 

「これで八人」

 

「別にどっちでも」

 

「あんたは絶対」

 

「むぅ」

 

ヤーレスは考える、バトルファイトの事もある。変なカリキュラムに入るのも彼には面倒でしかない。だが、フィーやリィンの事もある。

 

「……入ったら私の知るアンタの事、話してあげる」

 

「参加します」

 

どうでもいい記憶が取り戻したい記憶に変わった。思い出せなくても、聞きたい。ヤーレスは自分自身がどう生きていたのか、ソレを知るために。

 

「…まじか、アンタだけよ。記憶の為に参加するの」

 

「理由は他にもありますよ、でも目の前に大きなメリットもあるんです。〘虎穴に入らずんば虎子を得ず〙ですよ」

 

「………マジでアンタが記憶失ってんのか確かめたくなったわね。ま、今はそれでいいか。これで十名全員参加ってことね!それでは、この場をもって特科クラスⅦ組の発足を宣言する。この一年、ビシバシしごいてあげるから楽しみにしてなさい!」」

 

この日、トールズ士官学院に特化クラスが設立された。しかし、彼等は本来とは違うより危険な戦いに身を投じる事となる。




解説
何故ヤーレスは変身しなくともラウズカードを使用できるのか。
これから現れるライダー達も変身しないと使用できません。しかし、ヤーレスはバトルファイトのジョーカーとは違いとある神が暇潰しに創り出した特別製のジョーカーです。ですから、カリスアローを常に具現させることが出来るのです。
それと元々がジョーカーアンデットの為、他のアンデットの力を扱う事は可能であると考えておいて下さい。
ガバ設定でした。


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聞く不死者と蠢く不死者

実は…これ書いてて思います。バイクどうしよ。
導力バイクって1だと結構後なんですよね。
かと言って馬ってのも、カリスに合わないし。
ウ~ン、どうしよ。



特化クラスⅦ組が結成された夜、ヤーレスはフィー、サラ教官と共に宿に食事をご馳走する変わりに自身の過去について聞いていた。

 

「…さて、話してもらうか。俺の過去を」

 

「未成年が酒頼むんじゃないわよ」

 

「そうか、俺はまだ未成年なのか」

 

「いや、知らないわ。フィー、どうなの?」

 

「ヤーレスは少なくとも未成年じゃない。私が拾われた頃から姿が変わらないだけ」

 

「18、19から変わんないってあんた何者よ」

 

「…アンデットか?」

 

二人は首をかしげ訳が解らないといった表情をする。ちなみにこの三人、他のメンバーが第三学生寮を作る中、さり気なく抜け出してきたのである。とりあえず、未成年出ない事が判明したヤーレスは心置きなく酒を飲む。まぁ、バレると問題があるためどの低いカクテルを一杯だが。

 

「まぁ、約束だし話すわよ。私とアンタはあまり接点は無かったわね、でも話だけは聞いてた。西風の旅団ルドガー・クラウゼルの息子。妖精の兄、ABランク遊撃士20人を一人で殺害。赤い星座の1個中隊を一人で半数を仕留めて闘神の息子と命の削り合い、他にも…」

 

ヤーレスは聞いていて笑いが抑えられなかった。自身がそこまで暴れていたとは予想外だったのだ。別におかしくはない、何か後ろ暗い事をしている可能性もあった。むしろ、はっきりと言われる方が落ち着くものだ。

 

「全部事実だよ、で団長と闘神の決闘の前に行方不明になった。皆で探したけど、結局死んだってなってた」

 

「…寂しがらせたか?」

 

ヤーレスはフィーに向かって声をかける。フィーはただ首を立てに降るばかりだ。

 

「ゼノもレオも皆居なくなった。…みんな私の前から消えて、でも、ヤーレスには会えた」

 

「はぁ……そうか」

 

ポンポンと頭を撫でるヤーレス、そんな二人を微笑ましい物を見るようにサラ教官は眺めていた。

 

「他に聞きたいことはある?」

 

「…いや、今は無いな。後々気になったら聞こう、それまではフィーから聞いて思い出すとするさ」 

 

西風の旅団、猟兵王ルドガー・クラウゼルによって纏めれれた最強の猟兵団。

ヤーレス・クラウゼル。

ヤーレス・フィーネ・アンファングの本名。

サラは二人が消えた場所をもう一度確認すると、呟いた。

 

「猟兵王の切札ヤーレス、はぁ……頼むから問題は起こさないでよね」

 

彼女は生徒達にある程度の被害が出ることは黙認している。だが、それでも極力子供が傷付くのは見たくなかった。

すでに部屋割は決まっていた事もあり、ヤーレスは自室へと入った。最初に詰め込んだだけの段ボールと荷物が運び込まれているのを、ヤーレスは5分をしない内に終わらせた。元々必要最低限の物しか持ってきていない為に、荷物は少ない。

 

「…偶には引きますか」

 

愛用のフルートを構え外に出る。教会の済、誰も立ち入らない様な雑木林の中でヤーレスはフルートを口につける。

 

 〜♪〜 

 

穏やかなメロディが夜のトリスタに吸い込まれるように流れていく。街ゆく誰もが一度止まり、その吹奏に耳を傾ける。誰が吹いているかは誰にも解らない、だがそのメロディだけはトリスタの人々の心に響いた。

 

「ヤーレス、ここにいたんだ」

 

「フィー、お前はこのフルートを知ってるか?」

 

「…うん、団長がヤーレスにプレゼントしたんだよ」

 

フィーはフルートをヤーレスから借りるとねじって見せる。するとカチッと言う音と共に西風の旅団を示すマークが刻印された部位が現れる。

 

「団長がね、ヤーレスはきっと猟兵じゃない道を歩むって。でも、俺達が家族なのは変わらないって。そう言ってた」

 

ヤーレスは思い出せないかつての仲間を想像する。顔は解らないが、大勢の仲間とフィーと共に馬鹿騒ぎをしている自分が浮かんでくる。

 

「…そうか、俺の元の居場所か」

 

ヤーレスがそう吐くと、フィーがヤーレスに抱きついた。

 

「ねぇ、ヤーレスは何処にも行かないよね」

 

「…あぁ、俺は何処にも行かない」

 

ヤーレスはフィーを強く抱き締める、妹を守るように。

 

 

 

 

とある夜、寝付けなかったエマは一人寝静まったトリスタの街を散歩していた。春とはいえ、冷たい夜風が肌に当たる。隣にはエマに寄り添う様に一匹の黒猫が歩いている。

 

「セリーヌ、大丈夫?一様、ヤーレスさんからご飯貰ってるみたいだけど」

 

「そうね、彼奴のご飯美味しいし……」

 

「はぁ…重くならないと良いけど」

 

セリーヌはエマの相棒として祖母に付けられた使い魔である、普段は黒猫として活動し情報収集しつつ、エマを献身的に支えている。

 

「でも、気を付けなさい。彼、エマの事かなり警戒してるわよ」

 

「…えぇ、ソレはわかってるわ」

 

ヤーレスは同じクラスとして関わる様になってからヤケにエマを警戒している。普段は紳士的なのだが、時折鋭い視線を向けるのだ。

 

「エマ!」

 

「!」

 

セリーヌに声をかけられ、エマは物陰に隠れる。ゆっくりと見ると、ヤーレスが第三学生寮から飛び出して行ったのが見える。

 

「セリーヌ、追いましょう」

 

「…気を付けなさいよ」

 

エマはヤーレスを調べる為に彼が向かった方向、街道へ付いていく。

 

「貴様…何者だ」

 

「…マンティスアンデッドか。カテゴリーA,」 

 

《CHANGE》

 

カリスラウザーにチェンジマンティスをラウズするヤーレス、そして仮面ライダーカリスが現れる。

 

「俺以外の、マンティスアンデッドだと?!」

 

「お前も封印してやる」

 

マンティスアンデッドはカリスアローを構えると、カリスにフォースアローを放つ。しかし、カリスはそのままカリスアローでフォースアローを斬り、マンティスアンデッドの装甲を切り裂く。

 

「ぐぁぁ」

 

「終われ、」

 

「まだだ!」

 

マンティスアンデッドはカリスアローを構えるとブレードでカリスに斬りかかる。カリスもカリスアローで受け止める。

 

《CHOP》

 

受け止めながらチョップヘッドをラウズするカリス。エネルギーが右腕に集まり、マンティスアンデッドの身体にむけてパンチを繰り出した。

 

「ぐっ…ぐぅぅ」

 

「…終わりだ」

 

《THUNDER》《SLASH》

 

《ライトニングスラッシュ》

 

スペードのカテゴリー6サンダーディアー、

スペードのカテゴリー2スラッシュリザードを

カリスアローにラウズする。

カードコンボによりカリスアローのブレードに稲妻が宿り、カリスはそのままマンティスアンデットの身体を切り裂いた。

 

「あっ…あぁ……」

 

「…眠れ」

 

カードホルダーからコモンブランクをマンティスアンデットに投擲する。そしてマンティスアンデットから光が放たれると、コモンブランクに封印された。ラウズカードが手元に戻る。カリスはそのカードを確認すると

ハートのカテゴリーAチェンジマンティス

と変わっている。カリスは2つ目のカードホルダーにしまうと1つ目のホルダーからスピリットを取り出し、腰に戻したカリスラウザーにラウズする。

 

《SPIRIT》

 

「…ぐぅ」

 

傷は受けてないとヤーレスは思っていたが、どうやら斬られていたようで胸の当たりが緑色の血に染まる。

 

「…寝るか」

 

ハートのカテゴリー9リカバーキャメルを使うためにもう一度カリスアローにラウザーを装着し、ラウズする。ヤーレスの身体は回復し、生なましい傷痕は既にない。

 

「…」

 

ヤーレスは静かに自室に戻ると鍵をかけて眠った。朝まで…まるで死人の様に。

 

 

 

 

 

エマは息を殺しながらカリスとマンティスアンデットの戦いを見ていた。

 

「バトルファイト」

 

セリーヌが言う、エマも知識では知っていた。1万年前に行われた女神エイドスによる繁栄戦争、それぞれの生命の祖が自身の種族の繁栄を望み戦った。それが目の前で起きている。

 

「…良い、エマ。事は大問題よ、同じアンデットは2体もいない、なのにヤーレスはアンデットになった。今回のバトルファイトは……異常よ」

 

「…姉さんを探すよりも、もっと危険な事になるなんて」

 

放って置くと最悪世界は滅ぶ。かと言ってバトルファイトの勝者が誰になるか何て、誰にも解らない。見習い魔女であるエマの受難はここから始まった。

 

 

 

 

 

 

 




ヤーレスとフィーのイメージは始さんと天音ちゃんです。剣崎はリィン、橘さんは☓☓。睦月はガイウス、こんな感じで想像してます。まぁ…多分皆さんの想像通りになると思いますよ。


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話し掛ける不死者

もし、チェンジマンティスを使うハートのライダーバックルがあったらどうなったのでしょう。
地味にそんなことを考えています。


ヤーレスは速く起きた。時間は日の出と共にだ、

普段のシュバルツァー邸の朝食はヤーレスが作っていた為、週間づいてしまった事だ。

 

「すみません」

 

「お?早いな〜買い物かい?」

 

「はい!可能でしょうか」

 

「おう、家が仕入れたばかりの食材だ!美味しいぞ!」

 

「では…」

 

そう言ってヤーレスは雑貨屋から食材を買う。そして、同じⅦ組の生徒が起きる前に厨房にたった。

 

「何を作りましょうか?」

 

朝と言う事もある、ヤーレスはフレンチトーストのモーニングセットを作る。余れば自身で始末するか昼食時に食べればいいと考え、つい全員分作ってしまった。

 

「…うぅ、シャロン?」

 

「アリサ様、どうしました?」

 

「お水頂戴」

 

「少しお待ち下さい」

 

アリサは寝ぼけつつもヤーレスの出した水を飲む。そして、自身の服装に気が付いた。

 

「え?アレ、ここどこ?」

 

「アリサ様、お待ち下さい。もうすぐ朝食のご用意ができます」

 

「え?」

 

「フレンチトースト、サラダ、チキンポタージュスープです。コーヒー、紅茶、ホットミルクも御座います」

 

アリサは同様しつつも紅茶をヤーレスに頼んだ。

 

「えっちょっと、ヤーレスさん?!貴方何してるの?!」

 

「いえ、皆様のご朝食をと思いまして、御口に合いませんでしたか?」

 

慣れた仕草でアリサの片付けをするヤーレスに、何故か知り合いとの既視感を覚えてしまうアリサ。食後の紅茶を貰った後

 

「美味しかったわ」

 

と食事の感想を述べた後自室に帰って行った。

そして、当のヤーレスはアリサが帰るとそそくさと朝食を済ませる。

 

「ん〜〜〜ヤーレス、ご飯」

 

「あるぞ、フィーはホットミルクだな」

 

出来立ての食事をフィーの前に起き、食器を片すヤーレス。フィーも元猟兵だった為かヤーレスと同じぐらい食事が速い。

 

「美味しい」

 

「それは良かった」

 

そして続々と第三学生寮の面子が起きてくる。

ユーシスは何も言わず食べるが、マキアスは

 

「何故そんな使用人みたいな事をするんだ」

 

とヤーレスに食って掛かる。

 

「いや、自分は元々鳳翼館の使用人ですから」

 

と何食わぬ顔で返すヤーレス。勿論、マキアスにもきちんと食事を出す。マキアスも出された食事に感謝し、素直に美味しいと言う当たりはまともなんだとヤーレスは感じた。

 

「アンタ、手馴れてるわね」

 

「鳳翼館の使用人でもあるからな」

 

最後に起きたサラの分を作り終え、食器を全て片す。そして玄関周りの片付け等をすべて終わらせ登校する。クラスに入ると一言お疲れ様です。とエマが声をかけてくる。

 

「いえ、日常ですから」

 

慣れ親しんだ週間と言うのは中々抜けない物だ。ヤーレスはそれをなんの不満なくこなしている。

 

「…かくして、ドライケルス大帝は帝都を開放したわけですね。このシーンを書いた教科書の挿絵は有名ですねぇ」

 

今日の一時間目はトマス教官の歴史学の講義だった。ただでさえ歴史学と言う興味のないものからしてみれば退屈極まりない授業な上に、トマス教官の間延びした喋り方は強烈な睡魔を招き寄せてしまう。その為フィーは早々から眠りこけてしまうのが常だったが、今回ばかりは珍しく真面目に話を聞いていた。

 

「…トマス教官、この怪人?はなんですか」

 

「ソレはアンデットと言われる謎の生物です。歴史上何度か現れ、絵も残ってはいるのですが、一体なんなのか、名前しか解らない謎の存在です」

 

ヤーレスはそこにかかれた黒いアンデットと白いアンデットを見る。遂になるように立ち、腰には緑色のカリスラウザーを付けている。まるで自身と同じ存在であるとヤーレスは不本意ながら感じていた。そしてヤーレスはトマスに本題をかける。

 

「…バトルファイトをご存知ですか?」

 

エマはヤーレスの口からその言葉が出たことに驚きを隠せない。何とか口を抑えて言葉は出さなかったが、アンデット本人がバトルファイトを口にするとはと言う驚きが強い。

 

「いえ、なにかの試合ですか?」

 

「いえ…何でもありません」

 

トマス教官とヤーレスの瞳が交差する。二人は含みのある笑顔を向け合うと授業を再開した。

瞬間、授業終了を示すチャイムがなった。

 

「……残念です、ヤーレス君とは是非ともお話してみたい事があったのに」

 

「ええ、僕も聞きたいことが増えましたよ」

 

トマス教官が出ていく瞬間、ヤーレスとこのような会話を交わしていた。クラスメイトは一体何なんだと、エマ以外疑問に満ちた顔をしていた。

 

 

 

放課後、ヤーレスは部活動である音楽部で活動していた。

 

「では…エリオット、行きますよ」

 

「はっ…はい!」

 

共にバイオリンを構えて同時に演奏を始める二人。ヤーレスの方が技術経験共に勝っているが、エリオットはそんなヤーレスに引けを取らない演奏で周囲を魅力してみせた。

 

「おお!」

 

慣れた手付きでお辞儀をするヤーレス。エリオットも同じようにお辞儀をする。

 

「素人とは思えないわね」

 

「これでも、鳳翼館の演奏家の肩書がありますので」

 

ヤーレスはこの肩書を気に入っている。演奏家と言う肩書が気に入っているのかは解らないが、個人的には好きだ。

 

「次はこれを!」

 

「トロンボーン?また技術が必要な物を……」

 

最初難しそうにするヤーレスだが、感覚を掴むと直ぐに完璧な演奏をして見せる。エリオットや音楽部のメンバーはヤーレスはきっとエイドスに好かれているんだとすら感じていた。

 

だが…一番はピアノだ。ヤーレスがピアノを弾こうとすると、空気が変わった。誰もが言葉を発する事が許されず、ヤーレスの土壇場となる。

惹き込まれ、魅了されるか言う演奏。荒々しく、美しいとまったく反対の感想が皆の心に湧き上がる。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

ヤーレスは立ち上がり観客達にお辞儀をする。

すると拍手が巻き起こった、偶然聞いていた廊下にいた生徒だけでなく教師までもヤーレスの演奏に聞き入り、最後に拍手を忘れない。

 

「……凄いや」

 

エリオットはただ純粋に目の前の偉大な演奏家を尊敬しつつあった。人が帰り片付けを行い始める部室で、エリオットはヤーレスに質問する。

 

「ヤーレスさんは、どうして楽器をあんな風に」

 

「…声だよ、」

 

「え?」

 

「音楽の声を聞くんだ。自分にしか聞こえない音楽の声を」

 

エリオットは馬鹿にされているのかとも感じたが、ヤーレスは至極真っ当だった。

 

「どんな風に演奏して欲しいか…何処にどれだけの力を加えれば美しいか。私にはそれが解る」

 

「僕も…なれるかな」

 

「解らない、私はエリオットではない」

 

切り捨てように言ってのけるヤーレスにエリオットは暗い笑みを浮かべる。確かに人は人だが、アドバイスぐらいはあっても良いと

 

「でも…音楽を聞いていて、行っていて楽しい。と言う気持ちはあるか?」

 

「うっ、うん、あるよ」

 

「なら…忘れるな。その感情が変わらないで音楽を続けられれば、きっときっと偉大な音楽家への道は開ける」

 

「あ…」

 

エリオットはそれがヤーレスからの激励だと理解できた。同じ音楽の道にいる存在だからこそ理解できた。ヤーレスはそそくさと片付けを終えると帰宅した。

 

 

「あら、ヤーレスじゃない。丁度いいわ、付き合いなさい」

 

「せめて、着換えてからだ」

 

ヤーレスは私服に着替えるとバレないように裏口からこっそりとサラ教官と共に宿に向かった。

 

「あら、連れてきたの?」

 

「あ?げっ…フィー」

 

「お酒飲むの?」

 

「あたしは飲むわよ」「俺はあまりな」

 

「むぅ」

 

フィーはしかめっ面をしながらヤーレスをポカポカと殴る。

 

「はぁ…フィーの分は俺が払うからな」

 

「やった!」

 

「アンタも甘いわねぇ」

 

三人は2回のテーブルに案内されると食事を取りながら雑談を始める。

 

「しっかし、変わんないわねぇ。二重生活してて疲れないの?」

 

「さぁな、昔から何かを演じるのはなれてる気がする」

 

「ヤーレスの場合、潜入任務も多かったから」

 

「古巣で鍛えられたって事ね」

 

雑談をしつつ三人は食事を楽しんでいると、サラ教官は不意にアークスを開いた。

 

『えっと…リィン・シュバルツァーです』

 

「グーテンターク。わが愛しの教え子たちよ。どうやら会長に夕食を奢ってもらったみたいね?」

 

急ぎ手元の時計を確認すると、時間はかなり過ぎていた。ここの時間までリィンに何か理由を付けて仕事をさせていたのかと、ヤーレスは呆れ返る。

 

「詳しくは言えないけど来週伝える『カリキュラム』にもちょっと関係してるのよ。誰かにそのリハーサルをやってもらおうと思ってね。生徒会が忙しすぎるのも確かだし、一石二鳥の采配だと思わない?」

 

『ひょっとして俺は人身御供ですか…』

 

 

核心を突くリィンの問いかけに黙り込むサラ教官。ヤーレスは声を殺してその様を笑ってみていた。

 

『クラス委員長はエマだし、副委員長はマキアスですよね?身分で言うなら、ユーシスやラウラも居る。ソレに…この手の仕事ならヤーレスなら多分10分で終わらせます。なのに、どうして俺なんですか?』

 

『ふふっ……それは君が、あのクラスの重心とでも言えるからよ』

 

「え…」

 

『中心じゃないわ。あくまで重心よ。対立する貴族生徒と平民生徒、留学生も居るこの状況において君の存在はあらゆる意味で特別だわ。それは否定しないわよね?』

 

「それは…」

 

リィンはサラの指摘に思わず言葉を濁している。どうやら、サラ教官はリィンの事まで詳しく知っているようだ。まあ、士官学院の教官なら当然か。そして目の前でジョッキに入ったビールを飲み干すサラ教官。

 

『って教官、何を飲んでるんですか?』

 

「ビールよビール。週末なのに部屋で寂しく一人酒に決まってるじゃないの。まったくもう、ダンディで素敵なオジサマの知り合いでもいたら一緒に飲みに行ってるんだけど」

 

『あのですねぇ…』

 

リィンは呆れているようだが、ここにヤーレスも一緒なって飲んでいると知ったらどう思うだろうか、ヤーレスはそんな考えをフィーを撫でる事で忘れる。

 

「ま、あんまり深く考えずにやってみたら?どうやら『何か』を見つけようと少し焦ってるみたいだけど、まずは飛び込んでみないと立ち位置も見いだせないわよ?」

 

そう言ってリィンとの通信を切るサラ教官、フィーは二人の酒気に当てられ寝入ってしまった。

 

「…サラ、俺とフィーの分は済ませておく」

 

「OK!じゃあね」

 

サラ教官に別れを告げたヤーレスは眠りこけるフィーを起こし、歯を磨かせた。

 

「んにゅ…眠い」

 

「歯を磨いて、着替えてから寝なさい」

 

フィーはそのまま着替えずにベッドに入る、ヤーレスは呆れながら部屋を出ようとするも腕を掴まれて出られない。

 

「Guten Abend, gut' Nacht,

mit Rosen bedacht,

mit Näglein[3] besteckt,

schlupf unter die Deck'!

Morgen früh, wenn Gott will,

wirst du wieder geweckt.

 

Guten Abend, gut' Nacht,

von Englein bewacht,

die zeigen im Traum

dir Christkindleins Baum.

Schlaf nun selig und süß,

schau im Traum 's Paradies.」

 

子守唄を歌うヤーレス。フィーの頭を撫でながら、完全に寝入ったのを確認するとフィーに布団を被せ、今度こそ部屋から出た。

 

「あっ…ヤーレスさん」

 

「…」

 

ヤーレスは不味い顔を見たと言う顔をエマに向け、その場を立ち去ろうとする。

 

「待って下さい、貴方は……アンデッ」

 

エマの首元にカリスアローが突きつけられていた。一歩でも動けば首と身体は離れ離れになるだろう。

 

「…貴様が何者かは知らない、だがリィンとフィーに何かしてみろ。その命、刈り取る」

 

エマは動けなかった。恐怖ですくみ、しゃがむ事すら許されない。その緊張はヤーレスが階段を降りていくまで続いた。

 

「…やっぱり、ヤーレスさんはアンデット」

 

エマは直ぐに自室に戻ると古文書を開く。祖母に連絡をし、急遽送って貰った本だ。

 

「…ヒューマンアンデッド、ヤーレスさんがこのアンデットである事を祈るしかありませんね」

 

全ての人間の祖、エマはヤーレスをそう信じた。だが、違う。ヤーレスは別の神が創り出したバトルファイトに関係ないジョーカーである。

それを知るのは、まだ当分先のこと。

 

 




次出すアンデット何にしようかと考えてます。
そして、次回から仮面ライダー関係の組織も出そうと考えています。


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試される不死者

うん、仮面ライダー関係の組織出そうと思いましたが……もうちょっと先になります。


また数日がたち、Ⅶ組のメンバーは朝礼を終えると校庭に集合させられていた。

 

「さてと、じゃあ今日は事前に告知してた通り実技テストを始めましょう。前もって言っておくけどこのテストは単純な戦闘力を測るものじゃないわ。『状況に応じた適切な行動』を取れるかを見るためのものよ。貴方たちの戦闘能力を確認するって意味もあるから、しっかりやりなさいよ?」

 

不敵に笑い、サラはリィンとエリオットとガイウスの三人をまず指名する。そして、テストの相手として何処からともなく宙に浮く人形を召喚した。

 

「これは…!?」

 

「ま、魔獣!?」

 

「いや…命の息吹を感じない!」

 

ヤーレスは不審な気配を目の前の人形から感じていた。古代遺物とは違う、自分と似たような気配。ヤーレスは不審感を懐きながらも観察する。

 

「ええ、そいつは作り物の動くカカシみたいなもんよ。そこそこ強めに設定してあるけど決して勝てない相手じゃないわ。たとえばARCUSの戦術リンクを活用すればね。それでは始め!」

 

サラの合図と共に、リィンたち三人をARCUSのリンクが繋がる。そして三人は、言葉を使わずにそれぞれタイミングを合わせて行動を始める。

リィンとガイウスが突っ込み、エリオットが後方から援護と言う基本姿勢は変えていないが、それでも明らかに特別オリエンテーリングの時よりも三者のコンビネーションは向上している。

エリオットのアーツをスレスレで回避しつつ二人が交互に人形を斬り付けていく。見惚れるほどのコンビネーションだった。

 

「そこまで!!うんうん、悪くないわね。戦術リンクも使えたし、旧校舎地下での実戦が効いているんじゃないの?」

 

「ははは…そうかもしれません…」

 

「ああ…私たちが死にかけていたときに…」

 

「いや変な目で見ないでよラウラ…」

 

三人はそれぞれ冗談を言うくらいの体力を残しつつ下がっていく。

 

「それじゃあ次!!」

 

そして順にⅦ組メンバーがテストとして人形と戦っていく。最初の三人と違い、まだARCUSの戦術リンクに慣れていないメンバーは上手く戦うことができず、サラはそれに対してあまりいいコメントは出さなかった。

 

「最後よ、ヤーレス!フィー!」

 

「ん」

 

「分かりました」

 

呼ばれた二人は武器を構えながら戦術リンクを繋ぐ。

 

「…二人のコンビネーション、どうなるんだろ」

 

エリオットの疑問はクラスメイト全員の疑問だった。一番最初のガーゴイル戦、ヤーレスとフィーは二人でガーゴイルを倒し、全員で試験に合格したわけでは無かった。実力があるからこそできる、ソレはクラスメイト全員が理解している。

 

「…始め!」

 

サラ教官の掛け声と共にヤーレス、フィーが駆け出す。フィーが先行するとヤーレスが太陽を背に飛び上がり、フォースアローをカカシへと放つ。

 

「ふっ」

 

命中と同時にフィーがダガーでカカシの装甲を斬りつける。そして、一気に跳躍しカカシとの距離を開いた。終わったと皆が思った瞬間、ヤーレスが上空から切り裂く。そして、直ぐに距離を取ると、フィーの射撃がカカシを襲う。

 

「ヤーレス、ラスト!」

 

その掛け声と共にヤーレスはカリスアローにラウザーを装着し、キックローカストとサンダーディアーをラウズする。

 

《KICK》《THUNDER》

 

「はぁ!」

 

「ちょっと!手加げ」

 

ヤーレスはカリスアローを一度掲げると地面に突き刺す。そして一度跳躍すると雷撃を纏ったキックをカカシへと放った。

 

カカシは付近の土手まで吹き飛ぶと、激しい爆発を起こしながらバラバラになった。

 

「そこまで!流石二人の連携ねって言いたいけど!誰が粉々にしろって言ったのよ!」

 

「…ヤーレスが壊した」

 

「いやぁ、この程度で壊れるとは思いませんでした。以後気をつけます」

 

サラから説教を受けながらも笑い合う二人、そんな二人をクラスメイト達はポカンとしながら見ていた。

 

「…今の動き、どうなんだ?」

 

「分からん…どちらもまるで風のように自由に動き回っていたぞ」

 

「一体どんな鍛え方したらあんな風に飛び回れるのだ…?」

 

「と言うかそもそも何で爆発したんでしょうか…?」

 

エマはそう言いつつも、ラウズカードが使用されたのを見ている。彼処まで露骨な行動をするヤーレスをどうしようかと思案しつつ、下手に手を出せば自身の身が危ない。

 

「さて。実技テストはここまでよ。先日話した通り、ここからはかなり重要な伝達事項があるわ。君達Ⅶ組ならではの特別なカリキュラムに関する、ね」

 

「いよいよか…」

 

「ふふ、さすがにみんな気になってたみたいね。それじゃあ説明させてもらうわ。君達に課せられた特別なカリキュラム。それはズバリ、特別実習よ!」

 

「と、特別実習…ですか?」

 

サラ教官の口から出た未知なる言葉を聞いてクラスメイト達と共に黙って考え込んだ後、クラスメイト達を代表するかのようにエマが戸惑いの表情で尋ねる。

 

「な、なんだか嫌な予感しかしないんだが…」

 

そして当然ながら入学式でのオリエンテーリングの事を思い出したマキアスは表情を引き攣らせる。

 

「君達にはA班、B班にわかれて指定した実習先に行ってもらうわ。そこで期間中、用意された課題をやってもらうことになる。まさにスペシャルな実習なわけね♪」

 

「…またどこかに出かけるの?」

 

「そうよ。それも、アンタたちだけでね。あたし達が付いていったら修行にはならないでしょ?獅子は我が子を千尋の谷にってね」

 

フィーの怠そうな質問に笑顔で返信するサラ、フィーは直ぐにどうでも良くなったのかヤーレスに肩車をせがむとそのまま寝入ってしまった。

 

「…あららフィーちゃん寝ちゃいましたね」

 

「大丈夫ですよ、30分もすれば起きます」

 

「…30分はそれで過ごすのか」

 

マキアスの突っ込みに的を得た突っ込みに何も言えなくなるヤーレス。別にころごろ肩車することには慣れているためどうでも良いのだが…改めて指摘されると微妙な気持ちになった。

 

「話を進めましょ。さっきも言った通り、君達にはA班、B班にわかれてもらうわ。さ、1部ずつ受け取りなさい」

 

そう言って一枚の用紙を配るサラ。そこに書いてあったのは、A班:リィン、アリサ、ラウラ、エリオット、ヤーレス(交易地ケルディック)。B班:エマ、マキアス、ユーシス、フィー、ガイウス(紡績町パルム)

 

「え」

 

「えええっ!?」

 

メンバー表に自分とアリサが一緒である事に気付いたリィンは呆け、アリサは驚きの表情で声を上げた。

 

しかしそれ以上に、B班の顔ぶれにユーシスとマキアスが顔色を変えた。

 

「ば、場所はともかくB班の顔ぶれは!?」

 

「あり得んな」

 

口々にクレームを出す二人。まあ正確に言えばマキアスが叫んで、ユーシスがそれを理由にこんな奴と組めるか、と言い放つわけだが。当然ながらそれで二人の怒りが膨れ上がっていく。そして遂に爆発するというとき、ヤーレスが動いた。

 

「サラ教官、ならば私がパルムに行くのはどうでしょうか?」

 

「駄目よ、既に決まった事だもの。変更はしません」

 

ヤーレスとしては妹分が面倒事に巻き込まれるのを止めたいのだが、教官であるサラにそう言われては何も言えない。

 

「ヤーレス、あんたがこのクラスで一番年上なの。素直に従ってくれる方が私としては助かるんだけど」

 

「…従いますよ。サラ教官、でも、せめて御二方のフォローは頼みますよ。コチラのフォローはある程度可能ですから」

 

サラとヤーレスは小さな声で話している。そして、問題であるリィンとアリサ。ユーシスとマキアスを見ると同時に溜息をついた。

 

「…まったく、ヤーレス。今晩付き合いなさいよ」

 

「…お前さ、明日出掛けるって言う生徒にそれ言うか?」

 

結局、放課後になるまで邪険なムードは変わらなかった。ヤーレスは音楽部の部室に入ると、これから起こる面倒事を考えてピアノを引く。

 

「…うわぁ、ヤーレスくんすっごい荒々しい演奏。エリオットくん、何かわかる?」

 

「あはは…」

 

エリオットは苛立っても音楽への乱れを決して作らないヤーレスを改めて尊敬しつつ、

 

(ヤーレスさんも、疲れてるんだ)

 

と同じ人間であると理解した。

部活終了後、ヤーレスは相変わらずフィーをつれて宿に来ている。

 

「…んん!このゲソだっけ?良いわねぇ!」

 

「摘み食い過ぎだ、ちゃんと主菜も。フィーは好き嫌いするな」

 

「むっ…ヤーレス五月蠅い」

 

「アンタねぇ、ちょっと過保護すぎない?」

 

ジョッキに入ったビールを飲みながらサラはヤーレスに話し掛ける。

 

「そうか……確かにな」

 

フィーに言い過ぎたと反省し、ヤーレスはフィーに即座に謝罪する。

 

「…でも、昔みたいだった」

 

「…ソレは俺が西風にいた頃か」

 

「いつも皆で構ってくれて、でもヤーレスが居なくなった時は」

 

フィーは当時を思い出したのか、ヤーレスの私服を掴んで涙を流す。

 

「…ねぇ、ヤーレス。この娘の家族、今アンタだけなのよ。ソレ、忘れないでね」

 

「忘れないさ、そして思い出す。必ずな」

 

フィーは泣き疲れたのかそのまま眠ってしまった。考えたら前もフィーは眠ってしまった気がする。

 

「悪いな、先上がるぞ」

 

「妖精姫を頼んだわよ」

 

「不死者と妖精か」

 

ヤーレスは一度笑うと第三学生寮に戻った。

前と同じ様にフィーをベッドに寝かせ部屋を出る。そして、エマ・ミルスティンの札がある部屋をノックする。

 

「はい…ヤーレスさん?!」

 

エマは突然のヤーレスの来訪に驚きを隠せなかったが、直ぐに部屋に入れた。

 

「どうしたんですか、一体」

 

「…お前は俺がアンデットだと知っているな」

 

エマはどう答えるべきか迷い、素直に答えた。

 

「はい、一体何のアンデットかはわかりませんが」

 

「…ソレはどうでも良い。話す理由も無いしな」

 

では一体何をしにきたのかと言う疑問がエマに浮かんだ、ヤーレスは真剣な顔で話しているからだ。

 

「……次の実習だが、臭う」

 

「臭う…とは?」

 

「予感、第六感とかそんな話半分で聞け。多分だがお前たちも俺達もバトルファイトに巻き込まれる」

 

エマはその言葉に血の気を失った。アンデットは人間が倒せる存在ではない、一応、アンデットを封印する力は人類にも存在するがそれは国家機密をこえる七曜教会と魔女の秘密だ。

 

「…俺は地図からアンデットの気配を感じられる。そして強いアンデットの気配、それがケルディック、パルム両方から感じる。今回のバトルファイトの舞台は帝国だ。アンデットは帝国でバトルファイトを行う」

 

エマは何故ヤーレスはそこまで話すのか理解出来なかった、でも次の言葉を聞いてヤーレスを信用しようと感じた。

 

「…フィーを頼む、俺が負ければフィーは今度こそ一人になるだろう。せめて、彼奴の友として居場所になってくれ」

 

慈愛に満ちたその瞳はエマの心を動かした。

 

「…私もできる限りを行います」

 

「感謝する」

 

ヤーレスはそれだけ告げると自室へと戻った。

 

「…驚きね、数日前とはまるで別人じゃない」

 

「ヤーレスさんは怖いのよ、封印されるのが。だから、私にフィーちゃんを頼んだ」

 

敵でも頭を下げるその姿勢にエマは信頼を、セリーヌは呆れをヤーレスに懐いた。

 

「…守るんなら死にものぐるいで守りなさいよ」

 

「セリーヌもロマンチストなのね」

 

「フー!五月蠅いわよ!!」

 

見習い魔女と使い魔はその晩、ゆっくりと眠ったのであった。




このヤーレスは西風の記憶よりも先に自身がどんなアンデットだったのかを思い出してしまいました。悲しいね、バナーぐぶだ?!


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旅する不死者ケルディック編1

この旅する不死者が個人的に気に入ったので、特別実習の時はこれをサブタイトルにしたいと思います。


ヤーレスは日の出よりも早く起床し、台所に立っていた。何をしているかと言われたら、クラスメイト全員分の朝食を作っている。ヤーレス自身、朝食の摂取は必須であると考えている為、弁当として渡そうと考えていた。

 

「よし、出来た」

 

肉、野菜、果物のバランスが取れたサンドイッチ。そして野菜ジュースだ。場合によっては籠も邪魔になるが、その時はその時だ。きっと大丈夫だとヤーレスは割り切っていた。

 

「あっ…ヤーレスさん、おはよう」

 

「おはよう御座います、アリサ様」

 

アリサとエマはヤーレスを何故かさん付けで呼ぶ。そこに含みは無いが、もう少しフレンドリーに話し掛けて欲しいと考えていた。

 

「その…アリサ様は止めてください」

 

「では、私への敬語はおやめください。ラインフォ」

 

「わかったわよ!ヤーレス、これでいいの?!」

 

「はい、お嬢様」

 

アリサはヤーレスが自分をおちょくるというか…姉代わりのメイドに似た良い性格なのではないかと考え始める。もしそうなら頭痛の種でしかない。

 

「冗談です。所でアリサさん、コーヒーですか?紅茶ですか?」

 

何処からともなくコーヒーと紅茶の瓶を出すヤーレス。アリサはもう考えることを放棄し、一言コーヒーを頼んだ。

 

「ヤーレスオリジナルブランドです」

 

アリサはこのコーヒーが嫌いじゃない、苦すぎず甘みもあるバランスがよく出来たコーヒー。

 

「ありがとう、じゃあね」

 

朝の目覚ましには丁度よいソレはアリサだけでなく、コーヒー好きのマキアスも虜にしている。

 

「…終わった」

 

全員分を作り終え、2つの籠にしまったヤーレスは自身の準備を始めた。愛用のフルートとラウズカードを持ち、鞄にはレポート用紙をしまう。そして、部屋に鍵をかけた。

 

「全員揃ったな」

 

「ヤーレス、そのバスケットは?」

 

「皆様のご朝食です」

 

「え?」

 

「…もしかして私が起きたときに作ってのってソレなの?!」

 

淡々とハイと答えるヤーレスに班のメンバーは笑いながらありがとうと述べる。ヤーレスの作る料理の腕は皆が知っている為、不安がられることはない。

 

「それで…こっちはB班のか。ヤーレス、御主は働きすぎではないか?」

 

「…どうでしょう。鳳翼館にいた頃はこれの10倍の仕事をしていたものです。正直、物足りませんよ」

 

本気か冗談か解らない言葉に皆が絶句する。

 

「では行きましょうか」

 

5人はトリスタ駅に到着する。フィーたち他のメンバーはもう既に到着していて、とっくの昔からマキアスとユーシスの険悪な雰囲気は始まってしまっていた。

 

「あ、皆さん」

 

「委員長…その…」

 

「フィー!」

 

「あっ…ヤーレス」

 

「ほら朝食だ、お前の嫌いなのは抜いてあるからな。皆で食べるように」

 

いきなりフィーに声をかけるヤーレスにまたも絶句する生徒達、しかしそんなことをお構い無しにヤーレスはフィーと雑談を行う。

 

「…ヤーレス、理解してる」

 

「どうでいいな、俺は今フィーと話している。良いなフィー、ちゃんと歯磨きはしろよ。薬はちゃんと」

 

「ヤーレス、私子供じゃない」

 

「…肩車で寝るやつが言うか?」

 

ほのぼののした会話を聞いてエマ達は微笑む。

しかし、ユーシスたマキアスの邪険ムードが直ぐに二人を侵食する。 

 

「…ぶっちゃけウザい」

 

「かわれればよかったんだがな」

 

フィーの頭を撫でつつ、ヤーレスは朝水筒に入れたコーヒーを飲む。

 

「飲ませて」

 

「ブラックだぞ?」

 

「ならいい」

 

端から見たら歳の離れた兄妹にしか見えない二人、リィンは自身の知らないヤーレスが居ることを改めて理解した。そしてパルム方面の列車がホームに入ってきたことを告げるアナウンスが流れてきた。

 

「じゃあ、私たちは行きますね」

 

「ああ…くれぐれも気をつけてくれ」

 

ユーシスとマキアスを再度確認すると、もう泣きそうな顔のエマを筆頭に、パルム組の五人は険悪な雰囲気のまま列車に乗っていってしまった。

 

「うぅ…フィー大丈夫でしょうか」

 

「随分フィーに肩入れするんだな」

 

「えぇ…フィーはたった一人の家族ですから」

 

記憶喪失だと聞いていた皆は驚きを隠せなかったが、それ以上踏み込む事が出来なかった。まるで邪魔するかの様にケルディック行きの列車来たからだ。5人は直ぐに列車に乗る。結局、ヤーレスの話を聞くのはまたの機会となった。

 

 

 

ケルディック行きの列車の中、ヤーレスたちはこれから行く町で待つ特別実習についてあれこれ思索していた。ヤーレスは旅と言う物の記憶がない、フィーとの会話で猟兵だった頃はどんな生活だったのかを薄っすらと思い出しては来たが、アレは旅ではなく遠征だ。ヤーレスは一人黄昏れ、窓の外を見ている。

 

「ヤーレスはケルディックについて何か知ってるか?」

 

誰もヤーレスに話し掛けない中、リィンが輪を広げようとヤーレスに声をかける。

 

「誰しも、音楽という安らぎを知っている。あぁ、呼んでいる。私にこの景色を奏でろと」

 

「は?」

 

リィンは思わず気の抜けた声を上げる。ヤーレスは立ち上がると、じっとエリオットを見つめるの。

 

「……僕も?」

 

「あぁ」

 

期待を込めた目でエリオットを見るヤーレス。しかし、当のエリオットはリィン達に〘助けて〙と視線で訴える。

 

「奏でよう…癒しの歌を」

 

フルートを急に吹き出すヤーレス、誰もが驚きヤーレスを見るがその吹奏が素晴らしいものだと直ぐに理解する。ヤーレスは吹奏しながらもじっとエリオットを見つめた。

 

「うぅ、わかったよ」

 

エリオットもバイオリンを取り出すとヤーレスと同じ曲を奏でる。フルートとバイオリンの列車内のコンサート。驚く乗客は直ぐに二人の学生の演奏に聞き入り、終わる頃は拍手喝采であった。

 

「はぁ…良いですね」

 

「うん…確かに。ポカポカして…何も言えない」

 

「そうです…エリオット、それが音楽の心です。それが感じられるのであれば、忘れてはいけません。その気持ち、自身が楽しいだけでなく、聞いてくれた観客さえも虜にする最高の演奏。先程は私と君でそれが行えた」

 

「はっ!はい!」

 

「…演奏会は良いのよ、エリオットも巻き込んで何してんのアンタは」

 

拍手しながらもそう言ってサラ教官が5人の前に現れる。

 

「…つい、吹きたいと言う衝動に駆られて」

 

「………病気なの?」

 

リィン、アリサ、ラウラの三人はそんなサラの答に頷いてしまった。エリオットは自身も演奏した手前、何も言えない。

 

「…鳳翼館の演奏家ですから!」

 

「肩書に頼るな!」

 

そんな茶番劇を行いながら5人はケルディックへと降り立った。教官であるサラとヤーレスは先に宿泊予定の旅館へと赴く。

 

「これ…後々文句が出るぞ」

 

「そっちの干渉は任せるわよ、私はこれからアッチの対処もしなくちゃいけないんだから」

 

 

ケルディックでの特別実習で宿泊するのは当然ながら町唯一の宿酒屋の『風見亭』。勿論、ある程度の有名所であり問題はないはずだったが、特別実習が始まって早々問題が起きた。

 

「どういうことですかサラ教官!!」

 

「どうもこうも、何か問題でもあるわけ?」

 

「問題しかないです!!なんで五人全員同じ部屋なんですか!?」

 

ヤーレスは事前にサラと確認し話し合っていたが、予想通りになったことを内心呆れていた。

 

通された部屋には五台のベッド。つまり男女五人で同じ部屋で寝泊りしろとのことだった。これにアリサが激怒。いくら草食系男子とは言え、前科持ちを一人連れた三人と一緒には寝られないとのことだった。あたかも当然のように前科持ちにされてしまったリィンは泣いてもいいかもしれないが、ヤーレスとしてはこのままでも面白いのでは?とリィンに主従とは思えない感情を抱く。

しかしサラはそんなアリサの怒りをにへらと笑って受け流す。と言うか既にビールを煽って飲んだくれている。ついさっき別れたばかりで既に頬が若干赤いうえ、何本が瓶が開けてある。ヤーレスは呆れを通り越し、尊敬の念を感じている。

 

「いいじゃない。この三人なら間違いは起きないでしょ?」

 

「ですが…!!」

 

怒りが収まらないアリサ。しかしここでラウラが口を開く。

 

「ここは我慢すべきだろう。そなたも士官学院の生徒だ。それを忘れているのではないか?」

 

「そ、それは…!!」

 

「…ならキャンプでもしましょうか。エリオットも安心して下さいね、近くに森林公園もあるみたいです。変わり代わり見張りを立てれば安心ですよ」

 

真顔で野宿を言ってのけるヤーレス、それに巻き込まれるのリィンとエリオット。エリオットは慌て、リィンはしょうがないと言う表情をするが…それ以上にアリサの心を抉る様な所業にサラは内心笑っていた。

 

(ヤーレス、あんた最低よ。子供の心を利用するなんてね)

 

そして、それを見かねたラウラが口を開く。

 

「ここは我慢すべきだろう。そなたも士官学院の生徒だ。それを忘れているのではないか?」

 

「そ、それは…!!」

 

「いえいえ、ラウラ様。アリサ様が嫌だとおっしゃるなら、我々男子生徒は夜の闇の中、魔獣の遠吠えに怯え、迫りくる魔獣と対峙し、身の危険に晒されながらも生活する所存です。言っていますか、不死者を。黒光する装甲を纏う人型の魔獣です。腕についた棘の様なもので人の肉を…グシャりと引き裂いては………」

 

ヤーレスが生々しい魔獣被害を淡々と口にする。食事中のサラは戻しかけるのを何とか防ぎ、エリオットは見るからに顔を青くしている。リィンはまた冗談をしてると呆れた顔を。

 

「…わかったから、大丈夫。大丈夫だから!」

 

これ以上聞きたくないのかアリサは白旗を上げた。流石に子供には生なましい話だったようだ。

 

「ありがとうございます」

 

「…ヤーレス、お主と関わってわかった。良い性格をしているな」

 

「良く言われます」

 

ヤーレス、リィン、エリオットはこうしてベッドで寝ることが許されたのである。余談だが、アリサは夜な夜な黒光りする人影に襲われる悪夢を見るようになったという。

 

 




黒光りする人影、一体どんな不死者なんだ。
まるでゴキブリみたいだな……
さて、近いうちにバトルファイト始まります!
新ライダー出せるかな!


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旅する不死者ケルディック編2

駄目だ…橘さん関係の動画見てて

恐怖心 俺の心に 恐怖心

を出したくてしょうがない


アリサを無理矢理納得させたヤーレスは女将に声をかける。サラから特別実習の指示書を受け取っているはずであるからだ。読んでみれば、ケルディックの町の住人からの三つの依頼が書かれていた。これらを五人で解決すること。ただし、どこまでやるかはあくまで自分たちの判断で決めること。ヤーレスとしては一人で片付けられる依頼であったが、下手に単独行動が目立てば後々言われるのは目に見えている。

 

(…あの皇子様は遊撃士がお好きなようだな)

 

最初こそ戸惑う4人だったが、自由行動日に同じようなことをしているリィンがてきぱきとこれからの行動を提案し、異論の無い4人はそれに乗ることにした。だが、ヤーレスとしてはとある皇子の下請け業者のようであると感じ、不満がある。

 

「手配魔獣の討伐は最後に回して、最初は薬の材料調達と街灯の交換だな」

 

「ならば、最初は教会に行くべきだろうな。町の中で済ませられることは早めに終わらせるべきであろう」

 

「…教会なら少し時間を頂いても宜しいでしょうか。御祈りをしたいので」

 

「…以外ね、ヤーレスは神は信じないと思ってた」

 

「…信じていません。でも、存在を知っています。(そう、誰よりもね)」

 

アンデットは神に作られた始まりの生命。そして、ソレはバトルファイトに属さないジョーカーであるヤーレスも同じ。女神ではないが、神に作られたと言う意味では同じだからだ。

ヤーレスは教会に入ると老神父と一度話し込んだ後、ステンドグラスの前でお祈りを始めた。

 

「…彼はまるで神に愛されているようです」

 

「はい」

 

「綺麗」

 

「凄い」

 

「…使徒」

 

ヤーレスの周りに太陽の光が差し込む。ステンドグラスからまるでヤーレスを撫でるかの様に見えるその光に全員が息を呑む。そして、光はヤーレスが立ち上がると同時に消えた。

 

「行きましょうか」

 

ヤーレスに翼が有ればとリィンは考える。だが、どうしても白翼というイメージがわかなかった。黒翼で世界に叛逆する堕天使。リィンは直ぐにそんなイメージを取り払った。

 

時は経ち、二つの依頼をこなし、残すは手配魔獣の討伐のみとなった。東の街道の奥の外れに高台があり、そこに手配されていたスケイリーダイナの前に5人が立つ。

 

「手配魔獣…(一体どのアンデットが祖だ?)」

 

ヤーレスがそんな事を考えていると、何を勘違いしたのかラウラがヤーレスに対し

 

「緊張するな」

 

と声をかけてきた、訳が解らないと言うヤーレス。ラウラも違うのか?と驚きの顔をしている。

 

「前衛は俺とラウラと、中衛にヤーレス、エリオットとアリサがアーツと弓で援護してくれ」

 

「分かってるわ。でも、弓よりアーツの方が効きそうな相手ね」

 

「中衛って…リィン、私に面倒事振りますね」

 

真っ先に戦闘準備を整えたリィンとアリサが息のあった様子で武器を構え、それをエリオットが生暖かい視線で見守る。

 

「なによ」

 

「いや、別に。なんか一日前とは違うなぁって」

 

「止めなさいエリオット、きっと昨日、校庭か何処かで、何か、あったのでしょう」

 

「…本当にソナタは良い性格だな」

 

思わず顔を真っ赤にするアリサ。これがエリオットとヤーレスでなかったら間違いなく手にした弓で脅していたことだろう。エリオットには何故かその気は起きず、ヤーレスにしても勝てるビジョンが一切ない。

 

「ふふ。さて、そろそろ向こうもこちらに気づく頃合であろう」

 

ラウラがそう言うと同時にスケイリーダイナが地面を踏みしめ咆哮する。だがこちらも準備は整っている。

 

「行くぞみんな!」

 

リィンが真っ先に飛び出し、スケイリーダイナのタックルを避けつつ居合抜きの要領で斬りつける。

 

(浅いか!)

 

リィンが予想したよりも手応えがなかった事に焦りを覚えるが、そのまま攻撃を続ける。

 

(リィン?)

 

ダメージを負った敵の頭の当たりにアリサが弓で狙い撃ちリィンへの反撃を阻止する。

 

「頭だけを狙うな!弓なら目など、より効果のある位置を撃て!」

 

ヤーレスはその言葉通り、スケイリーダイナの左眼を撃ち抜いて見せた。アリサはその神業に反論出来なくなる。スケイリーダイナは大きく仰反る。

 

「ふっ…!!」

 

その隙をつき、接近したラウラが大剣を振り下ろす。リィンが残した居合い切りの鮮やかな切り口と比べれば荒く派手な切り口ではあったが、それでも傷口の深さは圧倒的にラウラの方が上だった。しかし、スケイリーダイナもタダで切られた訳では無かった。ラウラへとその尻尾の薙ぎ払いが行われる。

 

「くっ、」

 

「ラウラ!」

 

リィンが叫ぶ、そしてゴギッと生々しい音と共にスケイリーダイナの尻尾が何者かに止められる。

 

「…警戒を怠ったな。未熟者だな」

 

「ヤーレス」

 

雰囲気が普段と違う、皆がそう感じた。だが、リィンとエリオットだけはこのヤーレスを知っている。

 

「……来いよトカゲ野郎、相手になってやる」

 

前程恐ろしい殺気ではない、だがさっきまで全員で攻撃していたスケイリーダイナに一人で立ち回っている。

 

「何してる!エリオット、アーツの用意!そっちのお嬢様も、アーツ位できるだろ!リィンはラウラを回収!一度立て直せ!」

 

「!わかった」

 

リィンはラウラを回収すると4人で陣形を立て直す。エリオットとアリサがアーツを駆動する。

 

「アーツ行くよ!」

 

「ナイスだな!」

 

ヤーレスは跳躍し、エリオットとアリサの元まで飛ぶ。それと同時に二人がアーツをスケイリーダイナに放つ。

 

「次は…」

 

「私達だ!」

 

大剣と刀、2つの攻撃を受けたスケイリーダイナはそのまま咆哮を上げることなく倒れる。

 

「死んだの?」

 

「確かめるさ」

 

ヤーレスはカリスアローを構えるとスケイリーダイナの右眼にフォースアローを放った。完全に両眼が潰れているのに動く気配はない。

 

「…仕留めたな」

 

「お、終わったぁ…」

 

動かなくなったスケイリーダイナを前にへたり込むエリオット。アリサも始めて手配魔獣を倒したことで緊張の糸が切れたのか呆けた顔だ。

だが、ラウラはどこか釈然としなかった。なぜ、リィンは本気を出さないのか。最初の一撃、アレが入ればよりダメージを与えられたはずだ。と考えているうちに、別の事を思い出した。

 

「ぐっ……つぅ」

 

「ヤーレス!」

 

「…問題ありませんね」

 

右腕を支える様に立ち上がるヤーレス、ラウラは直ぐに自身を庇ったのが誰なのかを思い出した。

 

「ヤーレス、ソナタは……」

 

言葉を続けようとした矢先、ヤーレスはまるで何かに取り憑かれたかのように暴れだした。

 

「あっ…ぐぁ!」

 

「ぐっ!」

 

支えていたリィンを振り払い、近くの岩に何度も何度も頭をぶつける。

 

「…こっちか」

 

そして何か喋ったかと思うと、あり得ない速度で走り出した。

 

「リィン!」

 

「ラウラはアリサとエリオットをつれてケルディックに戻れ!ヤーレスは俺が追う」

 

「馬鹿な、魔獣は」

 

「ラウラなら大丈夫だろ!俺は問題ない、行くんだ!」

 

ラウラはリィンの意思を汲み取り、ヤーレスの事を任せアリサ、エリオットと共にケルディックへ向う。

 

「一度報告したら、直ぐに向かうから!」

 

「ヤーレスの事!頼んだよ!」

 

「…リィン、気を付けよ。ヤーレスの目、普通では無かった」

 

「…大丈夫だ。ヤーレスなら」

 

リィンはそう信じた。だから、一人ヤーレスの元まで駆け出した。

 

 

 

 

「来たね…ジョーカー」

 

「……くっ…ここで出くわすか」

 

ヤーレスは自身の感覚、ジョーカーとしての戦闘本能をある程度理解してきた。ソレはアンデットが近くにいるほど強くなる。そのアンデットが強力で有ればより、そして今回のは最大限に酷いものだった。ある程度の予想はしていたが、それでも目の前の存在に今勝てるかと言われると危険だ。

 

「カテゴリーK、コーカサスビートルアンデット」

 

「…君を倒すよ」

 

「……やらせるか」

 

《CHANGE》

 

カリスラウザーにチェンジマンティスをラウズし、仮面ライダーカリスとなるヤーレス。カリスアローを構えながら、コーカサスビートルアンデットにフォースアローを放つ。

 

「無駄だよ」

 

ソリッドシールドでフォースアローを弾く。ヤーレスはそれでもと何度もフォースアローを放つ。

 

「無様だね」

 

「くっ……」

 

カリスアローで振り下ろされるオールオーバーを防ぎ、空いた胴体にむけてパンチを繰り出すカリス。しかし、コーカサスビートルアンデットは一瞬蹌踉めくのみで、直ぐに体勢を立て直す。

 

《TORNADO》

 

「はぁ!」

 

トルネードホークをラウズし、コーカサスビートルアンデットに放つ。しかし、それもいともたやすくソリッドシールドに弾かれる。

 

「…カテゴリーK?隣はいったい」

 

何者かが戦闘を見ているのを二人は理解した。だが、戦闘は止まらない。

 

《SLASH》

 

スラッシュリザードをラウズし、その刃でコーカサスビートルアンデットを斬りつける。

 

「お返しだよ!」

 

「ぐぁあ!」

 

しかし、カリスはオールオーバーにより倍以上のダメージを負ってしまう。

 

「ヤーレス!」

 

「リィン、来るな!」

 

「へぇ…」

 

「よせ!」

 

「邪魔!」

 

オールオーバーで斬り伏せられるヤーレス。胸の装甲から激しく火花が飛散り、カリスは動くこともままならない。

 

「させません!」

 

《Turn up》

 

チェンジケルベロスとかかれたオリハルコンエレメントを駆け抜ける女性。するとくすんだ灰色の仮面ライダーギャレンが現れた。リィンとコーカサスビートルアンデットの合間に立つと、何かをラウズする。

 

《BULLET》

 

ヤーレスはその目で確認した。バレットケルベロスとかかれたラウズカードがラウズされるのを。

彼は知らない、そのようなラウズカードの存在を。

 

「…人間の作ったアンデット」

 

「ご存知でしたか!ですが、貴方はここで封印します!」

 

女は3枚のケルベロスを取り出すとギャレンラウザーにラウズする。

 

《FIRE》《GEMINI》《DROP》

 

《バーニングディバイド》

 

「やぁぁぁ!」

 

コーカサスビートルアンデットはギャレンのバーニングディバイドをガードするためソリッドシールドを向けた。

 

(チャンスだ)

 

《FLOAT》《TORNADO》《DRILL》

 

《スピニングダンス》

 

カリスは天高く舞い上がるとコーカサスビートルアンデットに向かいスピニングダンスを放った。

 

「……やってくれたね」

 

人間態となり緑色の血を流すコーカサスビートルアンデット。その目には二人に対する憎しみが込められている。

 

「…ぐっ、じゃあね」

 

「まちなさ」

 

何処からともなく放たれる射撃に晒される3人。煙が晴れる頃には既にコーカサスビートルアンデットの姿は無かった。

 

「…貴方は何者ですか、何故ライダーシステムを」

 

ギャレンはギャレンラウザーを構えてカリスをじっとみる。

 

《THIEF》

 

カリスアローにシーフカメレオンをラウズし、姿を消すヤーレス。ギャレンはカリスを追うことはせず、じっとなにもない空間を見つめていた。

 

「あの…」

 

「貴方は…トールズ士官学院の生徒さんですか!」

 

「えっ?はい……」

 

先程の戦闘とはうって変わり、無邪気さを見せるギャレン。リィンはそのギャップに驚きが隠せない。

 

「あっ、今ときますね」

 

ギャレンが変身を解くとシスター姿の女性が立っている。タワワに実ったその果実にリィンは一瞬目を奪われる。

 

「はじめまして…クリス・リーヴェルトと申します。不束者ですが宜しくお願いします」

 

「待ってください!その挨拶は違います!」

 

「あれ?でも、お姉ちゃんの本には男性に挨拶するときはこう」

 

「それ、間違ってます!告白の挨拶ですよそれ!」

 

リィンは何故か戦闘よりも疲れていた。

 

「リィン、女性を口説くのは良いですがシスターとは……いえ、問題が有るわけでは」

 

「違う!違うんだ!ヤーレス、話を聞いてくれ」

 

「では、皆さんにも話していただきましょう」

 

リィンの顔が絶望に染まるまで、そう時間はかからなかった。

 




オリキャラ出せました!
設定
バトルファイトを知っている一部の組織はBOARDという教会の対アンデット対策部隊を設立。今回のバトルファイトにて人口アンデットを封印したラウズカードにて何体かのアンデットを封印する快挙を成し遂げている。そしてクリスが変身したギャレンは量産型。……つまり


クリス・リーヴェルト
クレアの双子の妹、ポワポワした性格であり姉のクレアですら氷の乙女ではなくなる。地味に自身のペースに持ち込むのが得意。本人は意識していない。胸はタワワに実ったメロン、可愛い物好き。姉とは違い教会に属している為、距離を置かれがちだが、自身は何故姉のクレアが距離を置くのかわかっていない。鉄血宰相の事は姉を引き取ってくれたオジサン程度の認識。男性人気が非常に高く、シスター姿を見るためだけに寄付金が貯まる。

「皆さん、良い信者さんですねぇ〜」

「…クリス、貴女はどうやったら……いえよしましょう」


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旅する不死者ケルディック編3

カテゴリーK出したは良いけど…倒すの何時にしようかと考えてます。はい、封印は確定です。


リィンを白い目で見ていた女性陣に必死の説明が終わると、それまでのほほんとしていたクリスが口を開いた。

 

「皆さんもはじめまして~クリス・リーヴェルトです〜。宜しくお願いします〜」

 

一同はクリスの喋り方とその雰囲気に飲まれていた。ヤーレスでさえ、内心うわっ…面倒事になる。と考えていた程だ。戦闘中の覇気は何処へ消えたのか。

 

「あの…さっきの化物はなんですか」

 

リィンの質問に驚く3人。ヤーレスつまりカリスとリィン以外はアンデットを知らないのである。

 

「…アレはアンデット。女神エイドスが創り出した始まりの生命です」

 

のほほんとした空気がうって変わり、緊迫した表情になるクリス、一同はクリスの案内で教会で話を聞くことになった。

 

「神父様、お部屋をお借りしますね」

 

「…BOARDですか。遂に時が来たのですね」

 

老神父は何かを察した様に十字を斬ったあと、教会の個室に案内した。

 

「ここは防音です。聞かれる事はないでしょう」

 

「ありがとうございます」

 

何故かという疑問が残った。普通の教会には防音の個室なんてない。ソレがケルディックの個室に何故か。

 

「…ここの神父さんはギャレンラウザーのテスターだったのです」

 

皆の疑問に先に答えるが如く、話し始めるクリス。

 

「…ギャレンラウザー、貴女が持っているその銃ですね」

 

「はい、正確にはノワールギャレンラウザー。オリジナルのギャレンラウザーを元にデチューンした量産型です」

 

「…量産型」

 

ヤーレスは口ずさんだ。彼としてはこのような組織がいるのならアンデット対策を任せても良い。だが、能力的にカテゴリー8あたりが限界だろうと予想をつけていた。

 

「では、アンデットから説明します。アンデットは先程も言った通り女神エイドスが創り出したあらゆる生命の祖となる存在です」

 

「つまり、進化論は間違いなんですか!」

 

「いえ、間違ではありません。あくまでもアンデットはあらゆる生命の祖。そこから進化し枝分かれしたことには違いありませんから」

 

自分達の常識が壊れていく事に驚きを隠せないリィン達、しかしそれ以上にリィンは落ち着いているヤーレスを不審に感じていた。

 

「アンデットは決して死ぬことはありません」

 

「ではどう倒すのだ」

 

ラウラが最もな質問をした。普通の人間にとってアンデットを倒す方法など解らないのだから。

 

「封印です。このコモンブランクとかかれたカードがあります。このカードにはアンデットを封印する力があるのです」

 

「では、簡単では無いか?」

 

「いえ、封印にもダメージを一定数与え、アンデットのベルトのバックルが開いた状態でアンデットに挿す必要があります。そう簡単ではないのです」

 

ラウラはそうなのかと納得していない表情をしながら思案にふける。

 

「ちなみに、システムは何種類あるんですか?」

 

「……初期型のギャレン、2号機ブレイド、3号機レンゲルが存在します」

 

リィンは思う、ならヤーレスの変身したあの鎧は違うのかと、リィンはそれとなく質問した。

 

「もしかしてですけど、ギャレンがダイヤなら、他も」

 

「はい、ブレイドはスペード。レンゲルはクローバーのスートを持っています」

 

「……では、ハートの戦士は」

 

「……ハートは存在していません」

 

「なら、あの時の」

 

「………わかりません」

 

ヤーレスは肝が冷えている。リィンはヤーレスがカリス(名前は知らなくとも)である事を知っている。下手に話されたら自身の身だけでなく、友人達も危ない。

 

「リィン、ハートの戦士とは何だ」

 

「俺を助けてくれたんだ」

 

それだけしか言わない。ヤーレスが変身した事も、詳しくは話せない。ヤーレスが望んでいないと理解できたからだ。

 

「あの!アンデットは何体いますか?」

 

アリサがクリスに質問する。間髪入れずに

 

「54体内、14体までは封印しています」

 

ガタッ!

激しい音で皆の注意がヤーレスに向く。

ヤーレスは驚いて態勢を崩してしまった。

 

「お気になさらず」

 

「…可愛いんですね」

 

笑ってるが目は笑っていない。クリスはヤーレスをじっと監視していた。勿論、ヤーレスは百も承知だ。ボロをつい出してしまったが、直ぐに平常心に戻る。

 

(マンティスとバット)

 

ヤーレスが封印したアンデットは2体のみ。残り38体がバトルファイトを続けていると思うとヤーレスは頭が痛くなる。特にジョーカーだ。自分以外の二人のジョーカー。ソイツ等を封印するのはヤーレスにとって必要不可欠である。逆に自身は封印されてはいけないという。仲間とは言えないが、バトルファイトを搔き乱す存在が増えたのは喜ばしい事だった。

 

「すみません、話しこんじゃいましたね」

 

「いえ、ありがとうございます」

 

「あの…この事はあまり公にはしないでくださいね」

 

クリスに上目遣いで頼まれるリィン、その視線はクリスのタワワに実ったメロンに向けられている。

 

「…今射抜こうかしら」

 

「止めなさい、殺るんなら人気のない」

 

「ヤーレス、ソナタはまったく」

 

「ヤーレス、悪ノリしすぎだよ」

 

「そういえば!ヤーレス、貴方は大丈夫なの!元気だから忘れてたけど、かなり苦しんでたじゃない」

 

「……フィーと話してて思い出したんですが僕はかなり厄介な持病持ちだそうです。定期的に薬を飲まないと行けないほどの」

 

「…ソレは、アンナに暴れまわるのか」

 

「わかりません、原因不明ですから。でも、ご安心を薬は飲みました。問題はありません」

 

そんな話をしつつ風見亭に戻ろうとした矢先、大声が聞こえた。 

 

「ふざけるな!!」

 

「それはこちらのセリフだ!!」

 

「コレは…酔払いの喧嘩ですか?」

 

「冗談言ってる場合か!」

 

大市の方角から誰かが怒鳴り合う声が聞こえてきた。 

 

「何だ?」

 

「行ってみよう」

 

5人が大市に乗り込むと、そこでは二人の商人が今にも殴り合いに発展しかねない勢いで口論していた。

 

「ふざけんなあっ!ここは俺の店の場所だ!ショバ代だってちゃんと払ってるんだぞ!?」

 

「それはこちらの台詞だ!許可証だって持っている!君こそ嘘を言うんじゃない!」

 

二人の言い争いを見て、リィンが近くの商人に訳を尋ねてみる。どうやら地元の商人と帝都からの商人が店を出す場所巡って対立しているらしい。一応、こういった事態を防止する機能はこういった場所にはあるはずなのだが。

そんなこんなで状況確認を進めていると、とうとう言い合っていた二人がお互いの襟元を掴み上げた。

 

「まずい…」

 

「止めるぞ」 

 

 リィンとラウラが止めに入る。

 

「事情はわかりませんがまずは落ち着いて下さい!」

 

「頭を冷やすがよい!」

 

二人に抑えられても落ち着くことはない商人たち。トールズの名前を出して僅かにひるませることには成功するが、それでも納得いかないのかジタバタしていた。ヤーレスが止めるためエリオットにニッコリと笑顔を向ける。が、直ぐに首を横に振られ、残念な顔をしながらカリスアローを構える。

 

「あのすみませんが……それ以上暴れるなら………貴様らの首と胴体を真っ二つにしてやろうか」

 

「「ヒッ!」」

 

二人の男はヤーレスの放った殺気に怯え、腰を抜かす。流石に何回か受けているⅦ組の特にリィンとラウラがヤーレスの頭を叩く。

 

「馬鹿者、何を考えている!」

 

「ヤーレス、やりすぎだろ」

 

「…いやぁ失敬、実は私の演奏で止めようかとも思ったのですが、エリオットに視線を向けた瞬間首を振られまして」

 

「嫌だからね!余計変な空気になるから!」

 

「何故!音楽は万病の薬、」 

 

「……ヤーレス、巫山戯るのも大概にするが良い」

 

ラウラの本気の怒気に流石におふざけが過ぎた事を謝るヤーレス。市民は三文芝居だったのかと驚きが隠せない。

 

「やれやれ、何をやっておるんじゃ」

 

「も、元締め…」

 

その時、騒ぎを聞きつけた大市の元締めがやって来た。その後は元締めの手腕もあってトントン拍子で話がつき、そのまま五人は元締めの家に誘われるのだった。

 

 

 

オットー元締めの家。ヤーレスたちはそこで元締めから話を聞いた。どうやら元締めはヴァンダイク学院長と旧知の仲であり、その縁があってここが実習地に選ばれたとのことだった。他にも理由はありそうだが、上の考えることに口出しはしない主義のヤーレスは考えを放棄する。

 

「それにしても、大市であんな騒ぎが起こるとは…」

 

「見苦しい所を見せたのう。本来は、こんなことにならないようにするのがわしらの仕事なのじゃが…」

 

「…上の上、もっと面倒な立場が邪魔をしている、コレはかなり面倒な事になりましたね。元締」

 

ヤーレスはすべてを理解した様にオットー元締に話し掛ける。4人はまだ解らないのかヤーレスをじっと見つめた。

 

「ヤーレス、何故面倒なのだ」

 

ラウラも貴族としてある程度、現状を理解しているのだろう。だが解らない、

 

「…領邦軍、動いてないでしょう?普通、ありえないんですよ。小さな問題でも介入しなければいけない。でも、それが無いと言う事は上から命令されている。この場合、大市で問題が起きても介入するな、気付きました?無法地帯と行かないまでも、結構面倒くさい事になってますよ」

 

「ふむ、そのとおりじゃ。実は先日、大市での売上税が大幅に上がってしまったんじゃ。売り上げから相当な割合を州に納めなくてはならなくなった分、商人達も必死になっていてな。先程のような喧嘩沙汰にまでなってしまうことも珍しくない。さらに増税への陳述を止めない限りは大市へは不干渉するとのことじゃ。おかげで大市が半ば無法地帯に近くなっておってな…」

 

「自分で無法地帯と認めますか」

 

ヤーレスとしては即座に帰還したい気分だった。介入すべきではないが、コーカサスビートルアンデット以外の気配もする。帰りたくとも帰れない。

 

「まあ、これはわしら商人が解決すべき問題じゃ。お前さんたちは、自分たちの実習に意識を向けると良い。明日の分ももう用意してあるのでな」

 

そう言ってオットー元締めは寂しげに笑った。

 

 

 

 

 

 

「…何かさ、流石に理不尽過ぎるよね」

 

「うむ…まさか、商人たちの生活はおろか人命まで蔑ろにしているとは…」

 

「州の政治や管理は領主の義務であり権利…帝国の政治がそうなっている以上、どうしようもないけど…」

 

エリオット、ラウラ、アリサが口々に言うが、それを届かせるべき相手が誰かも分からない。それ程までに、この問題が抱える根は太かった。

 

「…止めとけ、考えるだけ無駄だ。オットー元締も話したろ、コレは商人の問題だと」

 

ヤーレスの突き離す様な言葉にリィンが食って掛かろうとするがラウラが止める。ラウラの視線の先ではまるで視線で人を殺すかの様なヤーレスがじっと領邦軍の駐屯所を見ていた。

 

(素直ではないだけだ…ヤーレスは)

 

(…ヤーレス、人殺さないよな?)

 

リィンはそちらの心配をしてるが、ラウラとしては苦笑いしか返せなかった。

 

「人だけは殺さないでよ」

 

「サラ教官?!」

 

突然現れてヤーレスにそう声をかけたサラ、全員が驚く中ヤーレスはサラにそっと3万ミラ札を渡した。

 

「なにこれ」

 

「フィーへの土産代、あとBグループとパルム土産待ってます」

 

「…これから真面目な話するのに真顔でコレ、やめなさいよ。まあ後は君たちが君たちの判断でやるでしょ。せいぜい悩んで、何をすべきか自分達自身で考えてみなさい」

 

そう言って土産物を買いに出かけるサラ、終わり次第パルムへ向かうのだろう。

 

「エイドスの加護を。レポート、期待してるわよ」

 

 

 

 

 

 

夜。風見亭で夕食を食べ終えた五人は夕食後の団欒に励んでいた。まず真っ先に料理の満足度で、次にB班の想像するにあまりある寒々しい光景に全員で思いを馳せ、最後に全員のトールズに来た理由について話が及んだ。

 

「まずは私だな。私は単純で、目標としている人物に近づくためだ」

 

「それって、父親のアルゼイド子爵のことか?」

 

「ふふ、それが誰かは言わないでおこう」

 

ラウラはそう言ってはにかんだ。

ヤーレスとしては既に上級者の位置まで有るとラウラを評価しているが、かのアルゼイド子爵が目標ならと納得してしまう。

 

「そうね…色々あるんだけど自立したかったからかな。ちょっと実家と上手く行ってないのもあるし…」

 

「そうなのか…」

 

この中で唯一ファミリーネームを明かしていないアリサ。ヤーレスに対しては絶対話すなと剣幕を見せるが、にこやかに笑われるだけだ。

 

「うーん、その意味では僕は少数派なのかなぁ…元々、士官学院とは全然違う進路を希望してたんだよね」

 

「あはは、まあそこまで本気じゃなかったけど…」

 

ごまかすように笑うエリオット。しかし、ヤーレスは瞬時に嘘と見破った。あれだけの知識と腕前を持っていて、『本気じゃない』は通用しない。

 

「エリオット、何があったのかわかりませんが、卒業後音楽の道を歩んではどうでしょう」

 

「あはは、考えておくよ」

 

エリオットとヤーレス、共に音楽の道に踏み込んだからわかる気持ち、ヤーレスはゆっくりと頷いた。

 

「俺は…そうだな…『自分』を見つけるためかもしれない…ああいや、その。別に大層な話じゃないんだ。あえて言葉にするならそんな感じというか…」

 

中々口にできない臭いセリフを言い、周囲からロマンチスト呼ばわりされていくリィン。そこだヤーレスがまた場をぶち壊す。

 

「…天然なうえにラッキースケベで」

 

「…ヤーレス、覚悟は良いか」

 

リィンの怒気がくるそれにヤーレスは真っ向から勝負する。

 

「さぁ来なさい若様、妹様のは」

 

「言うな!」

 

リィンの刀を白刃取りするヤーレス、ラウラ達はリィンを何とか落ち着かせた。

 

「リィン…貴方も苦労してるわね」

 

似たような知り合いを持つアリサとしてはリィンの先程の姿は見覚えあるものだった。

 

「ヤーレスは?」

 

「リィンをおちょく……恩人に恩返しの」

 

「今、俺をおちょくるって言いかけたよな!言いかけたよな!」

 

「アッハッハ…そんなことありませんよ」

 

アリサ達は可哀想な者を見る目でリィンを見つめた。彼等の心の中は一つだ、〘憐れなリィン〙。

次第に五人が将来の夢の話で盛り上がり始め、やがてレポートのことを思い出して皆で二階の部屋に戻り始める。

 

「リィン、ヤーレス、少し良いか?」

 

リィンは女将に明日の朝起こして貰えるよう頼んで部屋に戻ろうとした所で、ヤーレスは外にフルートを吹きに行こうとした所で、なぜかラウラに呼び止められた。

 

「迷いもあったがやはり聞いておこう。そなた。どうして本気を出さない?」

 

「え?」

 

「リィン、そなたの剣、そなたの太刀筋…かの八葉一刀流で間違いないな?」

 

ラウラは静かな目つきで、それでいて微かな闘志を見せつつ聞いてくる。だが、リィンはその視線から思わず逃げるように目をそらした。

 

「剣仙ユン・カーファイが興した東方剣術の集大成とも言うべき流派。皆伝に至った者は理に通ずる達人として剣聖とも呼ばれるという」

 

「…詳しいんだな。帝国ではほとんど知られていない流派のはずなんだけど」

 

「我がアルゼイド流は古流ながら他の流派の研究も欠かしておらぬ。それに父に言われていたのだ。『そなたが剣の道を志すならばいずれは八葉の者と出会うだろう』とな」

 

ヤーレスとしてはリィンの流派は知っていたが、コレが何時ものリィンだと思っていた為に実力を隠すと言うラウラの言葉に驚いている。

 

「俺は…ただの初伝止まりさ。確かに一時期、ユン老師に師事していたこともある。だが、剣の道に限界を感じて老師から修行を打ち切られた身だ。だから別に手を抜いてるわけじゃないんだ。八葉の名を汚しているのは重々わかっているけど…これが俺の限界だ…誤解させたのならすまない」

 

我ながら、最低なことを言っていると言う自覚はあった。だが、こう言っておかないと、恐らくラウラはリィンに対して過剰な期待を抱いてしまう。それを解いておく方が、お互いにとっても最善のはずだった。

 

「そなた自身の問題だ。私に謝る必要はない…いい稽古相手が見つかったと思ったのだがな」

 

ヤーレスとしてもリィンのその諦めに何も言えなかった。言いたい気持ちはあるが、それを自分が踏み込むのはおかしい事だと感じているからだ。

 

「…ヤーレスは何故だ」

 

「本気を出す必要を感じません」

 

その言葉にラウラは怒気を含んだ声で叫ぶ。ソレは先程のリィンに対する声よりも酷くリィンに刺さっさ。

 

「巫山戯るな!その実力を出してこそだろう、それをソナタは!」

 

ヤーレスは表に出てカリスアローを構える。

ラウラにも意思が伝わったのだろう、大剣を構えヤーレスに対峙する。

 

「!」

 

「所詮、その程度なんですよね」

 

ラウラは動けなかった。何もされていない、だが身体が動くことを拒んだ。殺気も向けられず、ただヤーレスに対峙しただけで足が竦み、言葉も出せない。

 

「……わかります?コレが圧倒的な差なんです。ラウラのお父上なら僕も後悔しますけど君達のような無邪気な子供程度ならほら簡単に」

 

ヤーレスがカリスアローをラウラの首に当てようと言うとき、刀を抜いたリィンが邪魔をした。

 

「……なぜ動ける?」

 

ヤーレスはジョーカーとしての相手の生存本能に訴えかけ、動けば死ぬと伝えた。なのに、リィンは刀を構えヤーレスに対峙している。それが驚きだった。

 

「…ヤーレス、これ以上は止めろ」

 

「……震えていても、勇気かま勝ったか」

 

ヤーレスはカリスアローをしまうと癒やしのメロディを吹き始める。それまで緊張していたラウラとリィンの身体がゆっくりと確実に動くようになった。

 

「言いますが、僕は別に剣を侮辱しない。むしろ、素晴らしい事だ。諦めず、目標に進むこと。それを忘れなければ…きっと強くなれます」

 

ヤーレスはそのまま夜の闇に紛れる。

その夜ケルディックでは悲しげなメロディが流れ続けた。




解説
仮面ライダーノワールギャレン
仮面ライダーギャレンの量産型であり、基本的に人工アンデットケルベロスを封印したラウズカードを使う。女神のラウズカードも使えるが、元々のスペックが低いため使うと反動も酷い。

所持ラウズカード
チェンジケルベロス
ドロップケルベロス
バレットケルベロス
ファイアケルベロス
アッパーケルベロス
ジェミニケルベロス



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旅する不死者ケルディック編4

駄目なんです!ブレイド、(橘さん)ネタがありすぎて何処で出そうか迷っちゃう!



夜、ヤーレスはフルートを吹きながら街道に出ていた。フルートを奏でる人間に不思議なことに誰も話しかける事はしない。

 

「来たね…ジョーカー」

 

「キング、マジでやるのかよ。別にアンタも、俺もバトルファイトはどうでも良いだろ?」

 

「…ねぇ、エース。でも…面白くしようよ」

 

「くくっ……確かにな」

 

二人の青年。金髪と銀髪の双子の様な男。ヤーレスは直ぐにわかる、敵だと。ジョーカーの本能が叫ぶ。戦えと。

 

「はぁぁぁ!」

 

「さぁ、行くよ」

 

「…彼奴等を傷付けさせはしない」

 

《CHANGE》

 

カリスはビートルアンデットとコーカサスビートルアンデットは二人でオールオーバーの斬撃をカリスに繰り出す。何方かは防げるが、両方は防げない。

 

「ならば!」

 

《METAL》

 

カリスラウザーにメタルトリロバイトをラウズするカリス。装甲の強度が遥かに増し、2つのオールオーバーの斬撃を受け止める。しかし、シャドウブレストに切れこみが入る。

 

「ぐっ」

 

「へぇ、」

 

「肉を斬らせてか?」

 

「はぁ!」

 

カリスアローでコーカサスビートルアンデットとビートルアンデットの装甲を切るカリス。まるで血のように火花が飛び散るが、2体のアンデットはまるでダメージの無い様にカリスを同時に蹴り飛ばす。

 

「ぐぁ!」

 

「終わらないよ」「終わらせる」

 

二人のオールオーバーにエネルギーがチャージされる。そして二人は同時に駆け出した。

 

「くっ!」

 

このままでは倒される、ヤーレスの生存本能が叫んだ。

 

「ぐぅ……グァァァァァ!!!!!」

 

「目覚めたか」「…ここでか!」

 

カリスが黒い何かに侵食される。果てしない破壊本能、本来とある神により抑えられ1割程度しか出ていなかったヤーレスのジョーカーとしての本能が100%開放された。

 

「ガァァァァ!!!」

 

「ぐう!キング!」

 

「大丈夫だよ、エース」

 

右前腕部の鎌がビートルアンデットのオールオーバーとぶつかり火花を散らす。コーカサスビートルアンデットはソレを見るとジョーカーアンデットの後方に周りオールオーバーを振り下ろす。

 

「アアア!!!」

 

「なんだと!」

 

「くっ…進化してるだと……ジョーカーが!」

 

左前腕部にも鎌が形成される。そして、その鎌でビートルアンデットを切り裂くと直ぐに後方のコーカサスビートルアンデットを切り裂いた。

 

「ぐぅぅ」「がぁぁ」

 

鮮血のように2体のアンデットから火花が飛び散る。ジョーカーアンデットは鎌についた緑色の血を舐め取り、2体のアンデットをみる。

 

「エース、予想外だね」

 

「キング、一度下がるぞ」

 

2体のアンデットはジョーカーアンデットに同時にオールオーバーを投げた。

 

「ぐぅぅ!」

 

弾き飛ばすジョーカーアンデット、しかしその瞬間ジョーカーアンデットは蹴り飛ばされた。

 

「あぁぁぁ」

 

「撤退だ」「蹴りはつけるぞジョーカー」

 

二人の青年となったアンデット達は夜の闇に紛れ、消えた。

 

 

 

 

 

翌日、問題が2つも起きた。ヤーレスがベットに居ないことに気付いた4人はケルディックの人々の力をかりてヤーレスを探していた。今回も領邦軍は手を貸さない事に一同は怒りを覚えつつも、捜索は案外直ぐに終わった事に安堵した。

 

「居たぞ!トールズの学生だ!」

 

街道を巡回していた商人の一人がヤーレスを見つけた事に感謝し、直ぐにその場へと向かったが、そこに居たヤーレスの姿はボロボロだった。

 

「……酷い」

 

「これは……」

 

制服は所々破け、激しい打撲痕が目につく。川を流されていた所を救出されたらしいが身体はすっかり冷え切っており、死体と同じだった。

 

「…誰が……こんな」

 

「ねぇ、おかしいよ。ヤーレスのフルートがない」 

 

エリオットがヤーレスの荷物を調べていると叫んだ。ヤーレスは制服を改造し、フルートを入れる場所を作るほど大切にしている物だ。チャック式のポケットは破られた形跡もなく、そこから落ちたとは思えない。

 

「…狙った犯行?」

 

「だが、ヤーレスは強いぞ」

 

「……不意打ちなら?それか、ヤーレスよりも強い敵がいた」

 

リィンが想像するのはコーカサスビートルアンデットの事だ。ヤーレスより強く、一方的に嬲ることも出来るだろう。だが、フルートを取るとは思えない。

 

「……ヤーレスは寝かせておこう」

 

「うん、せめてフルートは見つけてあげよう」

 

エリオットはその決意を胸に抱いた。

しかし、問題は一つだけでは無かった。

ヤーレス失踪は片付いたが、大市でも盗難騒ぎがあったのだ。リィン達は直ぐに盗難事件の捜査に乗り出した。自分達の領分でない事はわかっていたが、怪しすぎる領邦軍、そしてタイミングの良すぎるヤーレスの負傷。リィン達はまったく関係ない事件2つを関係する物として考えた。

コレが、偶然であるが功をなしたのである。

クレーターの様になった街道、砕け散った木々。

自然公園に向けてルートで激しい戦闘があった事が理解できた。

 

「……ヤーレスのフルート」

 

「砕けているな」

 

「返すだけ返そう」

 

「そうね」

 

悲しむ様子が目に浮かぶが、それでもヤーレスは最後は笑って感謝はするだろう。

 

「……ねぇ、自然公園の近くまで来たから言えるけど考えたら自然公園って隠すのにもってこいだよね」

 

エリオットがルナリア自然公園を見ながら言う、南京錠が有りはするが鍵さえ有れば問題ない、むしろ隠すのにもってこいの場所である。

 

「………確かに」

 

ヤーレスの事で全員頭がいっぱいで、そんな簡単なことにも頭が回らないのにリィンは恥ずかしさを覚えるが、直ぐに立て直す。

 

「荷馬車の後だな」

 

「くっきりと残るって事はそれだけ重いって事だ。どうやら、当たりだな」

 

「でも、鍵がかかってるよ。合鍵なんか持ってないし…」

 

 

 

 エリオットが正門にしっかりとかけられた南京錠を見つけて呟く。確かに、これでは入れない。そう判断したラウラが剣を抜いた。

 

 

 

「下がるが良い。これは私が破壊しよう。少々音は出るかもしれんが…」

 

「いや。ここは俺に任せてくれ」

 

「リィン…?」

 

 

 

 しかし、それを制してリィンが前に出る。そして怪訝そうな顔をするラウラに対し、頭を下げた。

 

 

 

「言うタイミングを逸してしまったが…ラウラ、昨日は済まなかった」

 

 

 

 リィンに言われ、ラウラは微かに顔を背けた。そして、あくまでリィン自身の問題だから謝る必要はない、とだけ言い返した。しかしリィンはその言葉に頭を振る。

 

 

 

「いや、そうじゃない。俺が謝りたいのは、剣の道を軽んじる言葉を言ったことだ。『ただの初伝止まり』なんて考えてみれば失礼な言葉だ…老師にも、八葉一刀流にも。剣の道そのものに対しても。それを軽んじたことだけはせめて謝らせて欲しいんだ」

 

リィンの真摯な言葉に、ラウラは心の中がふっと明るくなるのを感じた。ずっと心の中に漂っていた暗雲に、ようやく一筋の光明が刺した気がした。

 

「リィン。そなた、剣の道は好きか?」

 

「好きとか嫌いとかもうそういった感じじゃないかな。あるのが当たり前で…自分の一部みたいなものだから」

 

「…私も同じだ」

 

リィンとラウラはお互いようやく、わずかながら笑顔を取り戻す。それを見て、アリサとエリオットも安堵のため息をついた。

 

「これで心残りは無い。今の俺の全力で…八葉一刀流『四の型・紅葉切り』!!」

 

一点の曇りもない、まっさらな心で振り抜いた抜刀術は一切の音を立てることなく、南京錠を真っ二つに分けた。

 

「流石だな」

 

「初段の技だけどな」

 

リィンはそう曇りない笑顔でラウラに返す。

 

「時間もない、犯人達の追跡を始めよう」

 

「えぇ…そうね。夕方くらいまでに犯人を捕まえれれば」

 

「何とか実習期間中に片付けられそうだね!」

 

「うむ、行くとしようか」

 

四人はそう言い、それぞれの武器を構えて自然公園へと突撃していった。

 

 

 

 

ルナリア自然公園、魔獣を倒しつつ進んだ最奥でリィン達は見つけた。管理人に扮しながら、盗品を確認していると見える4人。

 

「さぁて、何時でも離れられる準備を」

 

そう盗賊の一人が口ずさんだ時、アリサの弓が盗賊の足に当たった。

 

「ぐぁぁ」

 

「リィン!」

 

「ラウラ!」

 

リィンは峰打ちの筈だが、激しい痛みに襲われる盗賊。口からは泡を吹き、ソレが与えられた痛みの大きさを伝える。ラウラはその大剣の鞘ごと盗賊をきった。大剣は鈍器となり不意撃ちを受けた盗賊は盗品の山へと吹き飛ばされる。

 

「ひっ!逃げるん」

 

「逃さないよ」

 

氷のアーツが盗賊の足からゆっくりと身体を凍らせる。自身の身体の感覚がゆっくりと無くなる。

 

「知ってる、氷るとこんなに簡単に砕けるんだ」

 

エリオットは氷った葉っぱを盗賊の前で砕いて見せる。

 

「…ラウラ、あの大剣を構えた娘に今の足を叩かせたら……どうなるかな?」

 

エリオットの言葉に盗賊は涙を流しながら「助けてくれ」と懇願する、エリオットが怒っているのは砕かれたフルートを見たときから気付いていた4人は、ヤーレスとは違うベクトルでエリオットが怒るとヤバいと認識した。

 

「じゃあ、何で盗んだの」

 

「領邦軍の依頼だよ!大市で問題起こせって!他にも色々ある、話すから!話すから殺さないでくれ!」

 

エリオットはアーツで気絶させたあと、何時もの笑顔でリィン達の前に戻ってくる。だが、3人はソレが普通の笑顔とは違って見えた。

 

「ふぅ…怖かった」

 

「まっまぁ……」

 

4人が一息付いたとき、ソレラは現れた。

 

「ギチギチギチギチ」

 

「ギャァァァ」

 

氷漬けにされた盗賊の胴体が別れ、大量の血液が噴水の様に飛び出す。そのさまを見てしまった4人は言葉かでない。

 

「…お前!アンデットか!」

 

「ギチギチギチ」

 

まるで虫の様に付いた口いや顎を鳴らすその怪人にリィン達は恐怖心を抱いた。

 

そして、その怪人は真っ直ぐリィンに狙いをつけると有り得ない速度で左腕に付いた刃を振り降ろす。

 

「「リィン!!!」」

 

(エリゼ……ごめん)

 

リィンでさえ死を悟ったそれ程の相手だ。倒せない、勝てない。そう諦めた時、一人のアンデットが立ちはだかる。

 

「ぐぅぅ」

 

「ヤーレス!」

 

右腕を斬り落とされ、そこから緑色の血が大量に流れ出る。リィン達は驚く、自分達とは違う色に。

 

「……貴様、俺の大切な人に手を出したな」

 

「?」

 

ドォン

 

激しい衝撃と共に謎のアンデットは吹き飛ばされる。そして…ヤーレスは斬り落とされた右腕を切口に近付けると何事も無かったかの様に右腕が動き出す。

 

「……ヤーレス」

 

「何をしていたか俺は知らない、だがアイツが来る前にそいつ等を連れて隠れてろ」

 

「あっ…あぁ!」

 

ヤーレスはカリスラウザーを出現させるとホルダーからチェンジマンティスを取り出し、ラウズする。

 

《CHANGE》

 

カリスとなったヤーレスと謎のアンデット。トライアルAとの戦いが始まった。

 

「ギチギチ」

 

「はあ!」

 

左腕の刃とカリスアローがぶつかり合い火花を散らす。能力は同等だと戦いながらカリスは予想を立てる。

 

「らぁ!」

 

鍔迫り合いをしながらもフォースアローをトライアルAに向けて放つ。トライアルAの肉体が抉られる程の一撃だったが、まるで痛覚が無いかの様に動く。

 

「…違いすぎる」

 

トライアルAから一度距離を取ろうとするが、高速で詰め寄ってくる。ラウズカードを使う暇もなく、高速のぶつかり合いが続く。

 

「はぁ!」

 

「ギチギチギチ」

 

トライアルAの胴体を捉えたカリスの蹴りが受け止められる。そして、足を捕まれまるでフリスビーの様に振り回され、壁へと叩きつけられた。

 

「ぐっ…がは」

 

そして止まらぬ追撃、カリスのシャドウブレストをトライアルAは何度も何度も斬りつける。まるで血のような火花を浴び、感情がない人形の様にカリスを斬りつけながら見下ろす。

 

「…まだ…だ!」

 

《TIME》

 

タイムスカラベ、スペードスートのカテゴリー10。一定範囲内の時間を停止させるカード。それを一瞬の空きをついてラウズする。動きの止まるトライアルA、そしてカリスは動いた。

 

《ABSORBQUEEN》《FUSIONJACK》

 

本来ならばあり得ない姿であるが、ヤーレスはある神の遊びの為に創られた特製品のアンデットである。この姿もある意味納得であった。

カリスの姿が変わる。シャドウブレス、ショルダーブレスの色が金色に染まり、カリス・クレストは赤く燃える。そして、昆虫の様な翼が背中のインセクトアーマーの位置から現れた。仮面ライダーカリスジャックフォーム。存在しない力が今、カリスに宿った。

 

「これなら……決めるぞ!」

 

《TORNADO》《FIRE》

 

《バーントルナード》

 

トルナードホークとファイアフライをラウズするカリス。燃える竜巻を纏った矢がトライアルAの肉体に当たる。業炎と共に吹き荒れる竜巻の中でトライアルAは何も出来ず無慈悲に焼き殺された。

 

「……アンデットではない何か」

 

《RECOVER》 

 

変身を解く前にリカバーキャメルで回復をするヤーレス。失った血は消えないが、外傷はこれでほぼゼロとなった。

 

「………まだ、終わらないか」

 

ヤーレスはカリスアローを構えリィン達の方向へと歩みを進めた。

 

 




解説

仮面ライダーカリスジャックフォーム
本作オリジナルのカリス強化フォーム
通常とのカリスとの違いはシャドウブレス、ショルダーブレスの色が金色に染まり、カリス・クレストが全ては燃えるような赤に染まる点。
また背中のインセクトアーマーに翼が生えたことで空中戦も可能となった。
カリスアローの刃も金色に染まり、攻撃力は2.5倍になる。

トライアルA
とある組織が創り出した試作型人工アンデット。
原作とは違いアンデット細胞で創り出したただの人工アンデットの為、キングフォームで倒す必要はない。武器は左腕に備え付けられたブレードと短い距離を瞬時に移動出来る瞬間加速を組み合わせた近接戦である。

バーントルナード
ファイアフライとトルネードホークを使ったカードコンボ。
業火を纏った竜巻を宿すフォースアローを敵に撃ち込む技。

ヤーレス
ジョーカーアンデット以上の再生能力を持つことも証明された。これからⅦ組に居られるのかは解らない。

ビートルアンデット
バトルファイトに興味はなく、コーカサスビートルアンデットを兄弟と思いながら活動している。
コーカサスビートルアンデットと共にヤーレスを襲撃した。武器は破壊剣オールオーバーとソリッドシールドを使った剣術と格闘。コーカサスビートルアンデットとの連携でヤーレスを窮地に陥らせたが、ジョーカーアンデットとしての本能が100%開放されたヤーレスにより深傷を負い、撤退した。人間態はエースという不良青年。

コーカサスビートルアンデット
バトルファイトに興味はなく、ビートルアンデットを兄弟と思いながら活動している。
ビートルアンデットと共にヤーレスを襲撃した。
武器は破壊剣オールオーバーとビートルアンデットのソリッドシールドよりも強固な強化ソリッドシールド。オールオーバーとソリッドシールドを使った剣術、格闘術を得意としビートルアンデットとの連携でヤーレスを窮地に陥れるがジョーカーアンデットとしての本能を100%開放したヤーレスにより深傷を負い撤退した。


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旅する不死者ケルディック編5

強さ敵に言えば

カリス=ジョーカー(通常)

カリス<<ジョーカーアンデット(暴走)

って感じです。



大量の血を失ったヤーレスはカリスアローを杖代わりにゆっくりと、だが確実に前へと進んでいた。なれない力を使った事も原因だろうと結論付け、口ずさむ。

 

「…くそっ団長に稽古付けて貰った頃より強いんだぞ。俺は」

 

そこで不思議がる、団長とは一体誰か?いや、自分達、西風の旅団の団長。ルドガー・クラウゼル

の事だと。

 

「…まじか」

 

何処まで思い出したのかはわからないが、西風の主要メンバーは思い出せた。

 

「……戦い続ければ…いつか全て思い出せるのか?」

 

まるで封印された様な記憶たち。思い出そうにも靄がかかり、一部しか晴れていない。

だが止まらない、止まれない、彼はジョーカーアンデットであり、このバトルファイトをブチ壊す存在なのだから。

 

「……」

 

ヤーレスは重い足取りで森を抜けるとリィン達が武器を向けられているのを見た。

 

「…ソイツに……触るなぁ!」

 

「ヤーレス?!」

 

《CHANGE》

 

 

 

 

 

 

リィン達は捕獲した盗賊達を連行中、領邦軍に出くわした、犯罪者に仕立て上げられ武器を向けられている時、彼が現れた。

 

「…ソイツに……触れるなぁ!」

 

4人は見た。ヤーレスの姿が変わるのを。カリス、ハートの戦士、昆虫を模した様な姿の鎧を纏い、領邦軍の兵士がカリスによって斬られる。

 

「きっ…貴様!」

 

「……武器を構えたなら、死ね」

 

「待て、ヤーレス!」

 

銃も何も使えない。領邦軍の人間が斬られていく様を4人はずっと見せられるが、止められない。

 

「止めなさい!」

 

銃声と共にカリスの身体から火花が飛ぶ。その視線の先にはノワールギャレンがノワールギャレンラウザーを構えている。

 

「貴方は何者ですか!何故私達の知らないライダーシステムを」

 

「……その力、危険だな」

 

《SLASH》

 

スラッシュリザードをラウズしたカリスはノワールギャレンに突撃する。撃たれる銃弾を弾きながら、ただ只管に斬りかかる。

 

「キャァァァァァ」

 

ノワールギャレンのオリハルコンブレストから火花が上がる。そして、カリスアローに斬られた位置が黒く焦げ、大きな切り口となっている。

 

「弱いくせに、騒ぐな!」

 

「ぐぅ…そう言って、世界を滅ぼすつもりでしょう。ジョーカー!」

 

「……貴様、生きたくないと見えるぞ?小娘」

 

ジョーカーという聞き慣れない単語、ヤーレスがアンデットだとは先程の事で理解はしたがどんなアンデットまでかはわからなかった。

 

「…彼等を騙してなんになるんです!」

 

「少なくとも…バトルファイトに巻き込まずに済む」

 

「……ですが、貴方を今ここで封印します」

 

「良いだろう、なら本来の姿で殺してやる!」

 

「ヤーレス!」

 

リィンが止めようとしたとき、ヤーレスの姿が変わる。赤いハートの戦士と同じ様なカラーリングだが、その姿は禍々しいとしか言えない。

 

「ジョーカーでも、アルビノジョーカーでもない!貴方は一体何なんですか!」

 

「……俺は、ジョーカー。55体目のアンデットにして…女神エイドスのバトルファイトをブチ壊す存在だ!」

 

「まさか…そんな」

 

何かを知っているのかノワールギャレンが下がった瞬間、ヤーレスジョーカーは即座にノワールギャレンとの距離を詰めた。

 

「死」

 

「ですが!」

 

《GEMINI》

 

ギリギリの所で分身したノワールギャレンだったが、分身体が一撃で屠られたのを見て更に恐怖を募らせる。

 

「恐怖心があっても…私にはその倍の勇気があります」

 

「…黙れ!」

 

ヤーレスジョーカーはノワールギャレンへと近付くとその首を右腕で掴み持ち上げる。

 

「ぐっ…ぐぅぅ」

 

「恐怖心、それに任せて逃げれば良かったのにな」

 

左腕の鎌をノワールギャレンの首に当て、位置を調整する。そして、一度離し一気にノワールギャレンの首へと向ける。

 

「止めろ!」

 

「ぐっ…、ぐふっ……」

 

ヤーレスの背中から大量の血が流れ出る。誰も攻撃はしていなかった。だが、狙ったかのようにヤーレスジョーカーが撃ち抜かれた。

 

「ゲホッゲホ」

 

「クリスさん!」

 

リィンがクリスに近寄り、ヤーレスに刀を向ける。だがヤーレスはリィンを見てはいなかった。

 

「…お前か」

 

「面白い事になってるな、ジョーカー」

 

ビートルアンデットがヤーレス達の前に降り立つ。

 

「……リィン、その女を連れて行け」

 

「誰がお前の指示なんか!」

 

「…リィン」

 

アリサが悲しそうにリィンの名を呼ぶ。リィンはヤーレスに裏切られたと思っていた。親友だと、仲間だと。

 

「…ラウラ、貴様なら立場は理解できるな」

 

「………良いだろう。リィン、アリサ、エリオット、行くぞ」

 

ラウラは3人とクリスを連れて行こうとするが、リィンが邪魔をする。

 

「アンデットなんだぞ、ヤーレスはクリスさんを殺そうと」

 

「言ってる場合か!」

 

「…くぅ、わかった」

 

ヤーレスを一瞥するとリィンはラウラ達と共にケルディックへと戻った。

 

「ぎゃぁぁぁ」

 

「邪魔者は全て殺した。あとは…」

 

「「お前だけだ!」」

 

《CHANGE》

 

走りながらカリスへと変わる。オールオーバーとカリスアローがぶつかり合い、火花を散らす。

 

「楽しいな、ジョーカー」

 

「戦闘狂め、まぁいい。封印するだけだ」

 

オールオーバーを弾かれ蹌踉めくビートルアンデットの肉体にフォースアローを放つ。

 

「きかん!」

 

ソリッドシールドで防がれるが、カリスはそれを予測しさらなる攻撃を続ける。

 

《SLASH》

 

スラッシュリザードをラウズし、カリスアローの切れ味を上げるが、それでもオールオーバーには傷一つ付かない。

 

「なんだと」

 

「舐めるな、俺は強いんだ。貴様よりもな」

 

「知ったことか!」

 

何度も何度もぶつかり合う二人のアンデット。止まらない、血のように火花が飛び散り無惨な姿になりながらも戦いは終わらない。

 

「次だ」

 

オールオーバーを構え突撃してくるビートルアンデット。カリスはホルダーからトルネードホークを取り出しラウズする。

 

《トルネード》

 

「はぁ!」

 

振り下ろされるオールオーバーをその見に受ける。

 

「この距離なら、避けることも出来ないな!」

 

シャドウブレストが破壊される。それでも、カリスはビートルアンデットの胴体にフォースアローを放った。

 

「ぐっ…ぐは……ハハハハ」

 

「終わりだ」

 

《DRILL》《FLOAT》《TORNADO》

 

《スピニングダンス》

 

「はぁ!」

 

ボロボロの肉体で最後の力を振り絞りカリスはスピニングダンスをビートルアンデットに放った。

 

「……楽しかったぜ。ジョーカー」

 

その一言と共に爆発するビートルアンデット、カリスはコモンブランクを取り出すとビートルアンデットに投げた。コモンブランクから光が発せられ、スペードスートのカテゴリーAチェンジビートルとなり、手元に戻る。

 

「……俺は」

 

《SPIRIT》

 

ヤーレスはたった一人となりながらボロボロの肉体を引きずってケルディックへと戻ろうとした。

 

「そうか…鉄道憲兵隊」

 

視界の先では鉄道憲兵隊に保護されたリィン達の姿と此方に向かってくる兵士達が見える。

 

「…逃げるか」

 

「ん、おいそこの、大丈夫か」

 

隠れる場所を探す前に鉄道憲兵に見つかるヤーレス。彼等からしたらボロボロの青年が歩いていたとなるだろう。が、リカバーキャメルを使っていないヤーレスからは緑色の血が流れていた。

 

「アンデットだ!」

 

「……静かにしてくれよ」

 

ヤーレスの周りに兵士達が武器を構え、ゾロゾロと集まる。アンデットの存在を知ってると言う情報は吉報だが、そんなことよりも身の危険の方が大きい。

 

「……止めなさい」

 

「TMPの……クレア・リーヴェルトか。胸の大きさは妹よりも小さいんだな」

 

「……中々腹立たしいアンデットですね。これから貴方を連行しま」

 

「いや、ソレは我々BOARDの任務だ」

 

「あっ…タチバナ主任!」

 

「…クリス、連絡感謝する。そのアンデットは我々が追っている存在だ。君達には関係ないだろう」

 

「いえ…しかし」

 

「わかった。クリス、お前には休暇をやる、姉と楽しめ」

 

「ちょっと!」

 

「わぁ…お姉ちゃんの匂い……うふふ~」

 

「ちょ…離れなさいクリス!」

 

「…駄目なの」

 

「いえ、駄目とかそういう事ではなく」

 

「スンスン……お姉ちゃん!」

 

「どうしたの!」

 

「前より0.6kg痩せてるよ!食べてるの?!」

 

「そんな心配いりません!というより、何で解るの!」

 

ヤーレスと憲兵達は急に始まった痴話喧嘩というか、微笑ましい何かを見せられどう反応していいか解らない。

 

「ミハお兄ちゃんとも久し振りに話そうよ。イサラも一緒に」

 

「…ごめんなさい。クリス、ソレは出来ないわ。私はまだ二人とは」

 

「なんで!イサラだってお姉ちゃんと仲直りしたいはずだよ。ミハお兄ちゃんも」

 

雲行きが怪しくなってきた二人、流石に聞いているのも疲れたのかタチバナと言われた男が俺の前に現れる。

 

「…お前を連れて行く」

 

「わかった」

 

ヤーレスは橘が連れてきた導力車に乗せられた。途中、リィン達を見たが顔を合わせようとする者は居なかった。

 

 




タチバナ・サクヤ
主が名前を考えるのに疲れた為に決定した。
姿も声も橘朔也そのもの。BOARDの研究開発主任。
ギャレンラウザーの適合者の一人、場合によってはリミッター解除のされたライダーシステムを使いノワールギャレンに変身する。

クレア・リーヴェルト
鉄道憲兵隊所属の[氷の乙女]の異名があるが、双子の妹相手だとどうしても調子が狂わされる。
たった一人の妹を教会に入れ、自身は鉄血の子供になったことに負い目があるため。しかし、関係で言ったら
クレア→クリス(ごめんなさい)
クリス→クレア(お姉ちゃん大好き!)
であり、クリスは一切気にしてない。寧ろ、姉凄いと思ってる。

クリス・リーヴェルト
クレアの双子の妹、お姉ちゃんLOVE!が強すぎて匂いで体調まで解る。作者は書いてて結構気に入ったオリキャラ。


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不死者の仲間

…書いててブレイド見たくじゃなくて龍騎みたいなライダーバトル(剣版)が繰り広げられるような気がしてならないです。


ヤーレスは一人、教会の車両に乗っていた。目隠しをされ何処に向かっているかはわからない。かなりの距離を移動した後、降ろされる。

 

「ソレが例の?」

 

「…我々の希望か……絶望だな」

 

「……へぇ、顔はイケてるじゃん」

 

「教会の騎士団か?それとも僧兵か?俺の命は消えない、殺したければ封印しろ」

 

「食えないね」

 

ヤーレスには見えないが話しかけてきた女性が只者でないことだけは理解出来た。そして喋りはしないが氷のように冷たい視線を受け、ますます警戒を強める。

 

「…ここだ、目隠しを外していいぞ」

 

途中から足音はヤーレスと共にいたタチバナの物だけになっていた。彼は足音ではなく気配でも自分と彼だけだと理解していた。

 

「コレは……ライダーシステムか」

 

「そうだ、ジョーカーいやバトルファイトの外にいる存在」

 

タチバナはヤーレスをじっと見つめる。

そして、ライダーシステムの説明を始めた。

 

「オリジナルのライダーシステムはジョーカーアンデットの細胞を利用している。ケルベロスを作るときにはアルビノジョーカーの細胞を使用した。俺達はお前、つまりジョーカーアンデットの細胞を持っていた。だが、ジョーカー、アルビノジョーカー、両方の細胞を有している。そして…お前がカテゴリーKとの戦闘時に採取された細胞からはジョーカーに非常に似ているが正反対の細胞を採取した。その細胞は事もあろうにジョーカー細胞達を喰らい進化した。ジョーカーはどの生命体の祖でも無いのにだ。ラットに注射するとあり得ない進化を行い、人語を理解するまでに至った。…きかせろ、お前はなんだ」

 

ヤーレスは思った。実に面白いと、バトルファイトの外の自分が全てのアンデットを封印した先を想像すると鳥肌が止まらない。

 

「…俺はエイドスの作ったアンデットではない。第三者の介入で創られた第三のジョーカーアンデット。進化は知らなかった、俺自身バトルファイトに勝利しても世界のリセットがないだけだからな」

 

「本来いないはずの55体目、つまり最後の1体のアンデットが勝者だが、それとは別にお前は存在し続けられる訳か」

 

タチバナは思案にふけっているようだが、ヤーレスは言葉を止めない。敢えて自分の全てを話し、タチバナを自身の味方に引き込もうという算段だ。

 

「…みろ、第二のラウズカードを」

 

「……本物の様だな。これが第三者に創られた証拠か」

 

「生憎だが、誰が俺を創ったかは覚えてない。と言うより、消されてる。創られた記憶はあっても、《誰》がわからない。どうしようもない」

 

「俺に話して…どうするつもりだ」

 

「タチバナ、お前はギャレンラウザーのテスターだったな」

 

「あぁ…だがオリジナルは無いぞ」

 

「……あるだろ、量産型でありながらリミッターのハズされた物」

 

ヤーレスはタチバナを見つめる。

 

「…ダイヤのスート。カテゴリーAチェンジスタッグか」

 

《CHANGE》

 

「…俺の名前はカリス、せめてあの子供達が巻き込まれるのは見たくない。頼む、タチバナ」

 

タチバナは悩んだ末、ヤーレスから13枚のカードの束を受け取った。そして、ギャレンラウザーに入れていく。そしてギャレンラウザーの中央部ラウズリーダーのカードスロット部にチェンジスタッグを入れる。

 

《TURN UP》

 

オリハルコンエレメントが現れタチバナはソレを

ゆっくりと歩き抜ける。

 

「…良いだろう。俺はギャレンとしてお前の言う子供たちを守ろう」

 

見つめ合う二人の戦士、そして同時に変身を解き握手を行う。目的は同じアンデットの封印、ヤーレス自身は進化など二の次で良いと考えている。

フィー、リィンの安全、クラスメイト達の安全、ヤーレスは仲間は護りたいのだ。

 

「また目隠しをしてもらうぞ」

 

「わかった」

 

ヤーレスはもう一度目隠しを受ける。そしてまた警備達と共に車まで送られた。来るときに出会った女性は居なかったようで話しかけては来なかった。

 

「感謝はする」

 

「お前のアークスに俺の連絡先を入れておく、何かあれば俺に連絡してくれ」

 

その日、俺は空が赤くなる頃に第三学生寮に戻った。

 

「…ヤーレス!」

 

「………フィー」

 

帰るなりフィーが抱きついてくる。泣いていたのか目が赤くなり、涙の跡が見える。

 

「ココア、飲もうか」

 

「うん」

 

フィーはその日、ヤーレスの腕を決して離さなかった。周りの生徒達からも奇っ怪な目を向けられる事になるが、それでもヤーレスはフィー部屋で寝た。椅子に座り、フィーが寝付くまで、寝付いたあとも撫で寝かせた。初めて出会ったときのように。

 

ヤーレスは座りながら寝ていた。そして初めての出会いを夢として思い出していた。ヤーレスとフィーの出会いは急だった。紛争地帯、ソレは彼等にとって見慣れた風景だった。

 

「…」

 

「まさか?生きてるの奴が」

 

ヤーレスが死体の山を片付けている時、瓦礫とかした街から物音が聞こえてきた。彼は自身の部下を破壊獣と罠使いに任せ単身偵察をしていた。

 

「ひっ」

 

まだ幼い少女の悲鳴、彼はその少女を助けたい。そう思った、武器をおろしボロボロの少女に自身のレーションと水を与える。

 

「お前、名前は?」

 

「フィー、ただのフィー」

 

自分の名前だけ。それにヤーレスは反応した。自分と同じ様に家族は既に居ないのだと。少女、フィーの頭を撫でながらヤーレスは考える。

 

(このまま……いや)

 

子供を戦わせるのに不満が無いわけでは無かったが、ヤーレスはフィーを連れて猟兵団が宿営地とした場所に戻った。

 

「?」

 

「副長、随分なお荷物やな」

 

「…誘拐か」

 

いつものようにひょろい男と肌黒の巨漢が話しかけてくる。ヤーレスは呆れながらも返事を返した。

 

「まったく、誘拐なんかするかよ。俺はルドガーと話す」

 

ヤーレスはフィーを連れてルドガーのいるテントに入る、しかし入るなりルドガーはヤーレスへ一言

 

「駄目だ」

 

と言い切った。

 

「おいおい、話してねぇぞ?」

 

「ガキを団に入れられるかよ」

 

ヤーレスとルドガーの話し合いは平行線をたどる。しかし、フィーを差し置いて段々と話し合いが熱を帯びてくる。

 

「あ?新しい玩具を手に入れてご満悦ってか?」

 

「馬鹿みたいに突撃しか計画しない男に言われたくはない」

 

二人の視線が重なり合う。

 

「「先手必勝!」」

 

「また団長と副長かい!」

 

「くっ…流石に無理か」

 

「んなのどう止めるっちゅうんや!」

 

ルドガーの剣とヤーレスのカリスアローがぶつかる。遠距離戦はしない、二人の喧嘩は常に殴り合いか切り合いと相場が決まっていた。

 

「ウォォォ!」

 

「ヤァァァァ!!!」

 

互いに武器を捨てて殴り合う二人の男、そんな二人を止めたのはあろうことがフィーだった。

 

「二人共喧嘩は駄目!」

 

まだ少女は詳しく理解していなかったが、二人の男はそんな少女に諌められた事に何も言えなくなる。逆に幹部団員達がフィーの加入に賛同した。幹部でも関わりたくない二人の喧嘩を仲裁した勇気が讃えられたのだ。ヤーレスの行動とは裏腹にまったく別な理由でフィーは西風の旅団に加入した。そこからは知っての通りだ。フィーはすべての団員に可愛がられ、戦闘技術からトラップ等の作成、サバイバル技術を教え込まれて成長していった。

 

「…止めろ、殺さな」

 

「はぁ…無駄だよ」

 

赤い星座の分隊を殲滅しながらフィーは進む。死んでいく兵士達を尻目に自身の訓練官であるヤーレスを探す。

 

「ちっ…なんで猟兵王の切札がいやがるんだ!」

 

「ランディ兄、シャーリーちょっとまずいかも」

 

闘神の息子と紅き鬼の娘が満身創痍てヤーレスの前に立っている。

 

「…時間切れか、フィーよくやったな」

 

「…ヤーレス?」

 

フィーが見たことない程冷徹で哀しい瞳を向けられる。

 

「…お前達以外に生存者は…何人が生きてるな。さっさと助けて消えろ」

 

「…待ち……やがれ」

 

「じゃあな」

 

フィーはヤーレスに抱かれるとそのまま飛んだ様な気持ちになり、気付く頃には宿営地に着いていた。

 

「…流石だな」

 

「フィーの初仕事は終わったさ」

 

ヤーレスは哀しげな笑顔をフィーに向けると頭を撫でた。

 

「今日は眠れ、フィー」

 

フィーの意識は闇へと沈んだ。

 

 

 

 

 

「ヤーレス?」

 

「………」

 

自分の手を握りながら寝ているヤーレス、フィーはそれを見てクスリと笑うと直ぐに二度寝を始めた。

 

「ん…おやすみ」

 




ヤーレス・クラウゼル
ヤーレスが以前名乗っていた名前。
肩書西風の旅団副団長、猟兵王の切札、
フィーの兄、西風の台所番、西風の4バカ

西風の旅団副団長
ヤーレスがルドガーと共に結成した為

猟兵王の切札
やばいときにルドガーはヤーレスを使っていた為

フィーの兄
父親役はルドガーが努めた。ちなみにルドガーを親父とは言わない。

西風の台所番
なにげに一番西風の台所を使って料理していた。

西風の4バカ
フィーのことになるとルドガー、レオニダス、ゼノと共に馬鹿騒ぎをしていた。普段は止める約だが暴走すると他の3人以上に手がつけられなかった為、4バカのうち一番やばいと言われていた。

仮面ライダーギャレン
量産型ギャレンバックルにヤーレスの所持するチェンジスタッグを使い変身する。
13枚のカードが揃っているためジャックフォームにもなれるが、タチバナはアブソーバーを所持していない。
タチバナ+ギャレン=




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不死者と貴族

さて、久し振りの投稿!頑張りますか!


5月、4月に比べ生徒達は学園生活になれてきた頃である。家族との別れに不安がりつつも、少年少女は少なからず友人を作り、その私生活を安定させて行った。そして、Ⅶ組にも新たな仲間が増えた。

 

「教会のアンデット対策組織通称BOARDから君達へ出向する事になった、サクヤ・タチバナだ。よろしく頼む」

 

ヤーレス以外のメンバーは驚いていた。アンデットと言う存在は全員が良くも悪くも出会っている。そして、そのアンデットを倒す組織のメンバーの一人が教官として赴任してきた事に彼等は驚きが隠せなかった。

 

「…俺が教えるのはアンデットから逃げる方法だ。お前達では殺されるだけだから、そこの…ヤーレスを除いてな」

 

じっと外を見ていたヤーレスにクラスメイトの視線が重なる。4月の一件以降、ヤーレスはクラスから浮いた存在になっていた。今も話し掛けるのはエマ、フィーの2人だけだ。ヤーレスがケルディックで人を殺した事は既にクラスメイトの周知となり、皆が距離を置いていた。

 

「…まぁ、護れるなら護りますよ。身体が朽ちるまでね」

 

一言、ヤーレスはそうぶっきら棒に言ってのけると何かを感じたのか立ち上がり窓の外を見た。

 

「ヤーレス?」

 

「失礼、気の所為だ」

 

ヤーレスは再び席につくが、その目はただじっと学園の周りにある林へと向けられていた。

 

「まさか、気付かれたのか」

 

「…やはりアンデット。侮れないね」

 

帝国軍の制服を来た二人の兵士は直ぐに撤退を行った。敵対すれば自分達に勝ち目など存在しない。彼等は生き残る事を優先した。

 

「…ふふっ、実に楽しそうだよ」

 

「…お前は」

 

相方の笑いに頭を抱える兵士、このヘイシニ目をつけられたヤーレスの未来は明るいのだろうか。

場所は戻り、クラスの中へ。

 

「さて、新しい先生の紹介は終わりよ。さぁ、授業の準備なさい」

 

授業が始まる。彼らの午前の授業は導力端末を使用したレポート等の作成であった。ヤーレスは慣れた手付きでいち早く終わらせ、フィーの手伝いを行っていた。

 

「…ヤーレス、めんどい」

 

「まったく、駄目だ。ほら、ここ間違ってるぞ」

 

「そうですよ、フィーちゃん。きちんと終わらせないと」

 

「むぅ」

 

エマとヤーレスは最も進んでいないフィーを手伝いながら授業が終わるのを待っている。周りからは家族の様にも見られているが、ヤーレスはそんな事に興味はない。

 

「…ヤーレス」

 

「コレは、ユーシスどうしました?自身の家の兵隊が目の前の男に無惨に殺された事について、何か言いたいのでしょうか」

 

「……いや、なんでもない」

 

ヤーレスの皮肉めいた言葉をうけ、ユーシスはその場を後にする。先程はリィンを助けている様にも見えていたが、ヤーレスは純粋に興味が無いだけだ。

 

「ヤーレスさん」

 

「…俺はお前達をできる限り護るが優先はフィーとリィンだ。エマ、お前は知ってると思ったがな」

 

「ヤーレス、エマ、終わったよ」

 

二人で距離を置いて話しているとフィーから声がかかった。遅いながらも適確に纏められた資料を見たヤーレスはそのままフィーの頭をくしゃくしゃと撫でた。

 

「流石だなフィー」 

 

「ヤーレス、止めてよ」

 

顔を赤らめながら上目使いにヤーレスを見つめるフィー、その姿を見たエマはパルムでフィーと話した事を思い出した。

 

「ねぇ…エマは好きってわかる?」

 

「どうしたんです?」

 

「私ね、ヤーレスが死んだって思ってた。大好きなヤーレスが生きてたのは嬉しい。でも、わかんない。…ねぇ、私はヤーレスが好きだよ。でも、わかんない」

 

「…あの人も罪深いですね、大丈夫ですよ。フィーちゃん、いつか、いつか必ず」

 

あの日話した事をエマは思い浮かべながら、ヤーレスとフィーを見る。そして、不意に思ってしまった。

 

(そういえば、ヤーレスさんは何歳なのでしょう?フィーちゃんは14歳ですし、アンデットなら……もしかしてヤーレスさんからのフィーちゃんへの感情は孫を見守るお爺ちゃんなのでは)

 

エマはそんな妄想を膨らませていたが、直ぐに現実に戻る。フィーの様な感情をエマ自身、向ける相手が来るのだろうかと、自分も考える。

 

「フィーちゃん、頑張って下さい」

 

だが今はこの小さな友人の恋路を応援しようと思うエマなのであった。

 

 

放課後、ヤーレスは部活動を休みエリオットから受け取ったフルートを工房にて修理していた。

 

「ヤーレス君は音楽家なんだったね」

 

「…このフルートは私と、仲間達の絆です」

 

工房の主、もといジョルジュ・ノーム。ヤーレスはあまり関わりがないが、工房を借りるにあたり、ヤーレスは声をかけた。

 

「凄いね、手馴れてる」

 

「楽器を直しながら弾き続ける。演奏家から楽器を奪ったら…残るのはただの不死者」

 

「え?」

 

「なんでもありませんよ」

 

直したフルートに口を付け、音色を確認するヤーレス。元の音よりも若干下がってしまっているが、専門の設備がない士官学院ではコレが精一杯だった。

 

「凄い、完璧じゃないか」

 

「いや、駄目ですね。下がっている、でも、この下がった音でも完璧に演奏して見せてこそ、最高の演奏家と言うものです」

 

ヤーレスは制服の懐にフルートを仕舞うとジョルジュに感謝を述べ、工房を後にした。夕焼けの中、一人武器を持って街道へ出る。

 

「奏でろ、聞け。私の曲を!」

 

ヤーレスはフルートを荒々しく演奏する。怒りに任せ、憎しみを乗せ、哀しみを乗せる。魔獣達が凶暴化し、ヤーレスの周囲に集まる。

 

「…憎悪の唄はこうなるか」

 

襲いかかる魔獣を一匹残らず血祭りにあげ、セピスを回収する。

 

「…出てこい、気付かれないと思ったか」

 

「…ヤーレス」

 

出てきたのはリィンだった。彼はヤーレスが単身街道へ向かうのを見て、ばれないようひっそりとついてきていた。まぁ、ヤーレスにはバレバレだった訳だが。

 

「アンデットに何のようだ?」

 

「なんで、クリスさんを攻撃したんだ」

 

「攻撃されたからだ。俺達は殺し合いの中でしか戦ってこなかった」

 

ヤーレスの言葉に表情が固まるリィン。自身の知らない彼、そしてそこから発せられる言葉、短い思い出が全て砕かれる様な気持にさせられた。

 

「…演技だったのかよ」

 

「若様、私の言葉に嘘偽はありません。シュバルツァー男爵家には心からの忠誠を誓っています。しかし、それとこれとは別なのです。私が忠誠を誓う事と、俺が戦うことは別だ。それに、本来は俺が正しいんだからな」

 

本来の口調に戻ると、ヤーレスはカリスアローをしまい、トリスタに向けてあるき始めた。

 

 

 

 

 

 

自由行動日、ヤーレスは一人で士官学院の図書館にいた。何かしているわけじゃない、ただ黒猫と戯れていた。

 

「さて、使い魔様は喋ってくれるのかな」

 

「嫌よ、エマに頼みなさい」

 

皿に注いだ牛乳を飲みながら黒猫セリーヌはヤーレスと小声で話している。

 

「何でだよ、魔女様に会いたいだけだぜ?問題は起こさないさ」

 

「呪文もあるのよ、アンタは使えないでしょうが」

 

ヤーレスは確かに使えない、しかし魔女と会うのを諦める訳には行かなかった。

 

「頼む、魔女の里位しか思いつかない。前回のバトルファイトの記録、教会の本拠地に乗り込んで調べてもいいが、俺はアンデット態も割れてる。他のアンデットにもなれるが」

 

「アンタねぇ冗談は休み休み言いなさい!確かにアンデットの封印に力を貸す契約はしたわよ。でもそれ以上はこっちも教会に目をつけられるの!」 

 

「…くそっ…流石に協力者にこれ以上危ない橋を渡らせる訳には行かないか」

 

ヤーレスはセリーヌの背中を撫でるとそのまま何も言わず離れる。セリーヌも時間をおいて離れるだろう。彼女も普段は猫の真似事をしているのだから。

 

「あ…」

 

「武器を持って何してるんです」

 

リィン、エリオット、ガイウスがそれぞれの武器を持ちながら何処かに行こうとしている。

 

「関係ないだろ、エリオット、ガイウス行こうぜ」

 

「ちょっと…リィン」

 

「…良いのか?」

 

「…今はそっとしておくさ。ガイウス、リィンとエリオットを頼んだ」

 

ガイウスはヤーレスの言葉を受け頷くと、二人の後を追って先に進んで行った。

 

「…嫌われたな」

 

どうなるかはヤーレスにはわからない。殺すことが普通だった人間いや不死者だ。

 

「………お前かフィーになら封印されても良いんだぜ」

 

ヤーレスはリィン達の消えた方向へそう呟いた。周囲には誰もいない、ただ虚空へとその言葉は消えた。

 

 

 

 




セリーヌ
エマのお目付け役であり使い魔。
ヤーレスと魔女達の連絡役を務めている。
ヤーレスから何度も魔女の郷へ行かせて欲しいと頼まれているが、ジョーカーアンデットである事もあり了承はしていない。
ヤーレス自身、それで怒ったりは一切していない。



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不死者と試験

今回、ヤーレスは試験をどう切り抜けるのか!
変身するか!しないか!



あれから数日が経ち、二度目の実技試験の日がやってきた。

ヤーレスとリィン達一部のⅦ組との確執は治らず、またユーシスとマキアスの問題もあると言う、学級崩壊の危機に瀕していた。

学級委員長であるエマは何とか仲を取り持とうとしたが、ヤーレスの事は何とかマシになってもユーシスもマキアスは駄目だった。

ヤーレスの件もマシにはなったが、雰囲気は良いとは言えない。

エマ自身、何度溜息をついたかわからなかった。

それでも、実技テストはすんなりと進んでいった。

殆どがARCUSの戦術リンクをモノにし、さらに先月の実習と旧校舎の探索もあって実力も向上していた為、人形兵器ごときに苦戦することはないようにも思えた。

しかも、あいにくとこの二人のプライドの高さはその問題点に気づきながらも改善する気はさらさらないと言う。これにはサラも苦笑いだ。

初めて実技試験を観るタチバナ、そんな二人に言葉をかけた。

 

「馬鹿かお前ら!戦場でもそうやって歪み合うつもりか!」

 

「くっ…そのとおりです」

 

「…フン」

 

マキアスはタチバナの言葉に不満を持ちつつも、頭では理解しているためユーシスを睨みながら返事をする。しかし、ユーシスはそんな事はお構い無しに返事を返す。

 

「分かってはいたけど、これは酷すぎるわね。そこの二人は精々反省しなさい。この体たらくはあんたたちの責任よ」

 

サラの追い撃ちもうけ、二人のプライドはただの責任の押し付け合いに成り下がっている。

 

「じゃあ、今週末の特別実習の発表よ。受け取りなさい」

 

そう言ってサラはプリントを配る。書いてあったのは、A班:リィン、マキアス、ユーシス、フィー、エマ(公都バリアハート)。B班:ヤーレス、ガイウス、エリオット、アリサ、ラウラ(旧都セントアーク)。

 

「うわぁ…露骨だ…」

 

「何だと!」

 

エリオットが思わず呟く。ヤーレスもソレは同感だが、それ以上にアリサ、ラウラ、エリオットの視線を受けている。ジョーカーアンデットだとバレている上、エリオットは問題無いがアリサとラウラとは上手く行っていない。面倒臭さが上だった。

 

「冗談じゃない!!サラ教官、いい加減にしてください!何か僕たちに恨みでもあるんですか!?」

 

「…茶番だな。こんな班分けは認めない。再検討をしてもらおうか」

 

当然のごとく烈火のごとく怒り出す二人。しかしサラは笑顔で答えた。

 

「うーん、あたし的にはこれがベストなんだけどな。特に君は故郷ってことでA班からは外せないのよね」

 

そう言ってユーシスを見る。当然、この一言でユーシスは黙り込まざるを得なくなった。が、これでは納得いかないのがもう一人いた。

 

「だったら僕を外せばいいでしょう!誰かさんの故郷に行く事を比べると、他の土地に行った方が色々と勉強になって遥かにマシだ!翡翠の公都…貴族主義に凝り固まった連中の巣窟っていう話じゃないですか!?」

 

「だからこそ君をA班に入れたんじゃない」

 

サラはうんざりと言った顔を隠しきれない様子で答える。当然マキアスは顔を真っ赤にするが、反論できず口をパクパクさせることしかできない。

 

「なら、何故私はB班に?」

 

「あんたは先ず、アリサとラウラとの確執を直しなさい。次回は他のメンバーと一緒にするから」

 

「…不死者に何を求めてるんだよ」

 

ヤーレスが溜息をついているとサラは二人の方を向いて声を上げた。

 

「ま、あたしは軍人じゃないし命令が絶対だなんて言わないわよ。ただ、Ⅶ組の担任として君達を適切に導く使命がある。それに異議があるならいいわ。二人がかりでもいいから力ずくで言う事を聞かせてみる?」

 

そう言って武器のブレードと導力銃を取り出し、構えた。

 

「っ…!!」

 

「面白い…」

 

「止めとけ、恥を晒し負けるだけだ」

 

ヤーレスは無意味な戦いを止めようとするが、その言葉が余計に二人のプライドに火をつけた。

 

「女神に祈っとくよ」

 

「十字の切り方はこうだ」

 

「あ…タチバナありがとう」

 

十字の切り方を間違え、そこをタチバナに指摘されたヤーレスだが直ぐに間違いを訂正し、二人に十字を切る。

 

「二人だけじゃ勝負にならないし、リィンも参加しなさい!まとめて相手してあげるわ!!」

 

「りょ、了解です!!」

 

なぜ?と言う顔をして強制参加させられるリィン。しかし、マキアスの顔が一層強ばったのを見てサラがニヤリと笑うのを見て、ヤーレスは意地の悪い性格だと自分の事は棚に上げ、サラをそう評価した。こうして、実技試験は延長戦へと突入した。

 

「かなりの実力者だ…まずは…」

 

「君の指示など要らない!!」

 

「あの阿呆が…!!」

 

が、早速息が合わずにバラバラな動きでサラを取り囲む。リィンは警戒して距離を取っていると言うのに、ユーシスが真っ先に突撃していき、それに対抗してかマキアスも後方タイプとは思えないほど距離を詰めていた。

 

「はぁ…流石にセオリーくらいは頭に残ってると思ってたんだけど…それも抜け落ちちゃったか。これじゃ、中間テストは絶望的ね」

 

脇目も振らず接近してくる二人に、サラは呆れたように呟くと、まるで稲妻のような残像を残して高速移動する。ちょうど剣を振り抜いたばかりのユーシスと、引き金を引いたばかりのマキアスはいきなりターゲットが姿を消した為に、お互いの武器の向き先がお互いになっていることに一瞬では気付けなかった。

 

「なっ!?」

 

「ぶっ!?」

 

結果、ユーシスの全身には練習用の導力弾が着弾し、マキアスのメガネがユーシスの手からすり抜けた模擬刀によって吹き飛ばされた挙句砕け散ってしまった。

 

「二人共!!これじゃあ、どうしようもないじゃないか…!!」

 

「流石に分かってるわね」

 

リィンは接近してきたサラの初太刀を何とか剣で受け止めることには成功するも、その直後にサラの導力銃から放たれた銃弾には反応出来ずに吹き飛ばされてしまった。 

 

「あーあ。勝負にすらなってなかったね」

 

この惨状を見たフィーが、リィンに向けて同情をにじませつつ呟く。既にユーシスとマキアスの二人には目も向けていない。

 

「フフン、あたしの勝ちね」

 

「くそ…」

 

「馬鹿な…」

 

力尽くで納得させられた二人は、未だにお互いに向けて敵意と拒絶感をぶつけ合い続けていた。

 

「まぁ…不完全燃焼かしら?」

 

「…サラ、それ以上は止めとくべき」

 

「何だよ紫電。昔みたいに相手になろうか?」

 

猟兵時代の口調に戻ったヤーレスはサラに挑発を行うが、サラはソレを見るとゲンナリした表情へと変わった。

 

「…嫌よ、誰が好き好んでやるもんですか。アンタを倒せるのは父さん位よ」

 

「…バレスタイン大佐か。また懐かしい名前だな」

 

その見た目とは裏腹に感慨深い気持ちになるヤーレス。この当たりはサラとの関わりの為、フィーは何も言えなかった。

 

「所で、俺は合格かな?」

 

「…本気出せないでしょ」

 

「出す必要もない、5割で出来る」

 

啖呵を切るヤーレス、だが前回ヤーレスと同じ班だった者特にラウラは激しい怒りをヤーレスに向けている。

 

「なら…俺が相手になろう」

 

タチバナがヤーレスの前に立ち塞がる。言葉は交わさない、行動は直ぐに理解出来たからだ。

 

「……まだ俺の本気を見せる理由はない」

 

「そうか、気が向いたら模擬戦位は付き合おう」

 

ヤーレスとタチバナは一触即発の空気をすぐに解き、それぞれの場所へと戻った。

 

「あら、逃げるんだ」

 

「何?」「何だと?」

 

「いえね、BOARDの最強格と元最強格がここで逃げるってのは」

 

サラはいらない挑発をした。二人は変身コソしていないものの、ヤーレスはカリスアローを。タチバナはギャレンラウザーを構えている。

 

「邪魔するな」「此方の台詞だ」

 

「えっ…やば」

 

サラを狙うようにフォースアローが放たれてソレをギャレンラウザーから放たれたエネルギー弾が破壊する。

 

「貴様」「…倒す」

 

攻撃が消えたのを見た二人はそれぞれ睨み合う。ヤーレスがデッキからラウズカードを抜くのを見ると、タチバナもベルトに手を掛ける。

 

《CHANGE》《TURN UP》

 

「クソ!」

 

ギャレンバックルからオリハルコンエレメントが出現し、カリスへ変わったヤーレスを吹き飛ばす。そしてタチバナはオリハルコンエレメントを駆け抜ける。

 

「ウォぉぉ」

 

ギャレンラウザーを腰のホルスターにしまい、カリスの胴体を殴る。ヤーレスは起き上がった瞬間さらに吹き飛ばされる。

 

「く!」

 

しかし、吹き飛ばされながらフォースアローでギャレンの胴体を撃ち抜く。火花が飛び散り、ギャレンは吹き飛ばされた。

 

「はぁ!」

 

「舐めるなぁ!」

 

カリスアローの斬撃を白刃取りで受け止めるギャレン、二人の力は拮抗している。

 

「セェア!」

 

「ハァァ!」

 

カリスはカリスアローを投げ捨て、接近戦へと以降する。ギャレンはカリスの拳をマスクに受けると、瞬時にギャレンラウザーをカリスの胴体へと零距離で構えた。

 

「この距離なら避けられはしない!」

 

「ぐぁぁ!」

 

何度も何度も同じ位置にギャレンからの射撃を受けるカリス。距離が空いたのを確認するとギャレンは2枚のラウズカードをギャレンラウザーにラウズする。

 

《FIRE》《DROP》

 

《バーニングスマッシュ》

 

「はぁ!」

 

「ヤーレス!」

 

「フィー!」

 

フィーから投げ渡されるカリスアローにカリスも2枚のラウズカードをラウズする。

 

《TORNADO》《CHOP》

 

《スピニングウェーブ》

 

「たぁ!」

 

「ハァァァ!!!」

 

「たァァァァ!!!」

 

バーニングスマッシュとスピニングウェーブがぶつかり合う。しかし、勝負は一瞬の遅れが分けた。カリスがワンテンポ遅く出した事があり、完全には受け止めきれなかったのだ。

 

「ぐぁぁぁ」

 

吹き飛ばされたカリスは変身が解ける。頭からは緑色の血が流れ、軽い負傷をしている。

 

「…俺の勝ちだな」

 

ギャレンも変身を解いてヤーレスの前に立つ。

 

「…次は勝つぞ」

 

「俺達の実力は拮抗していた。次は…本気で戦いあいたい物だな」

 

タチバナはそう言うとにこやかに笑う。ヤーレスもそれに頷くと言った。

 

「まぁ…封印はされてやれないがな」

 

「暴走したら、嫌でもブランクの中だ」

 

二人なりの皮肉を言い合い、元の位置へ戻る。

Ⅶ組のメンバーの表情は変わっていた。特に前回のメンバーだったラウラはヤーレスが見せたことない表情に驚きを隠せていなかった。タチバナの話からもあれが本気でない事は理解出来た。彼女の中には前にヤーレスから言われた

 

「所詮、その程度なんですよね」

 

父以外に出会った圧倒的強者、本能から恐怖を感じさせる悪魔。ラウラはただ感情のない瞳でヤーレスを見つめた。




ギャレンはライダーシステム1号、ならば……次は


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旅する不死者セントアーク編1

完全にオリジナルです!作者もどうしようか悩んでます。


ヤーレスが朝早くコーヒーを飲んていると、身嗜みを整えたガイウスが食堂に入ってきた。

 

「軽食でも?」

 

「頂こう」

 

ヤーレスは二人分のホットサンドをつくり、ガイウスの前に出す。2、3口食べた頃ガイウスが口を開いた。

 

「ヤーレス、何があったんだ、それに…あの姿」

 

ガイウスはあの姿、つまりカリスの姿の事をヤーレスに聞いてきた。

 

「アレは…力ですよ。殺し、生き残り、護る為の」

 

場が静まる。しかし、ヤーレスが再び口を開く。

 

「ガイウスは兄弟はいますか?」

 

「あぁ…弟に妹が二人。しかし、いきなりどうしたのだ?」

 

「いえ、聞きたくなっただけです。ガイウス、世界には恐ろしい存在達がいます。アンデットは人間では太刀打ちできない。もし、見つけたら私に連絡を。家族と再会する前に死ぬ様な事はあってはならないのですから」

 

「…アンデット」

 

彼等もアンデットとは出会っていた。そのため、ヤーレスの言葉が深くガイウスの身体に染み渡る。不意にヤーレスの顔を見ると普段の陽気な顔ではなく、深く影のある笑顔でいた。

 

「…時が来れば、全てが」

 

ヤーレスはそれ以上を口にすることなく、一人で駅へと向かった。

 

それぞれの班が出る。ヤーレスの入っているB班も既に旧都セントアーク行の導力列車に乗っている。しかし、ヤーレスは誰とも話すことなくアイマスクを付けて眠っている…様に見える。

 

「…この際言うわね、ヤーレスはアンデットよ」

 

「私達も詳しくはわからないが、ヤーレスがアンデットなのは確かだ」

 

「…だね、信じたくなかったけどさ。昨日の実技テストの時も緑の血を流してたし」

 

「お前達、ヤーレスは学友じゃないのか」

 

ガイウスはようやく彼等がヤーレスと距離を取っているのを理解した。エリオットは同じ部活と言う事もあり、仲は悪くないがそれでも一線を引いている。ガイウスは学友を省くと言うのは考えられなかった。時折朝食を用意し、共に絵を描く事もある。アンデットとか、ガイウスにはどうでも良い問題だった。

 

「…ふむ、この実習中に仲直りが出来ることを願う」

 

 

ガイウス達はそれ以降はヤーレスの話をすることなく、列車に揺られる。さすがに長時間揺られていると暇になってくる。エリオットは何かないかと思いながら自分のバックを確認する。

 

「あっ…」

 

普段、ブレードを所持していたエリオットだが今日に限って忘れてきていた。その変わりにトランプが入っている。

 

「…トランプか、まぁゲームならばな」

 

「そうね、ただのゲームだもの」

 

エリオットがカードを配るとジョーカーが手元に残る。ジョーカー、ヤーレスのもう一つの姿にし、最強のアンデットの一角。

 

「…俺は……後何人殺せばいい………」

 

寝ているヤーレスが譫言の様に呟くその言葉。流石に全員が驚いた。

 

「…フィー……守るさ……お前は………お前……だけは……」

 

ラウラはそんなヤーレスに声をかけた。

 

「お主は何者だ」

 

「何者か…そんなのは解んねぇよ。コイツは生まれたときから、女神の敵として造られた。何年生きてきたかも知らない」

 

目を醒ましていたヤーレスがラウラの質問に答える。アイマスクを外したその目は激しい哀しみが浮かんでいる。

 

「…死ねない存在、お前らにも渡そう。コモンブランクだ」

 

ヤーレスはそれぞれにコモンブランクのカードを渡す。ラウラ達はその行動が理解出来なかったが、ヤーレスの顔を見て出せる言葉は無かった。

冷めきった哀しみに溢れた瞳、自分の存在すら理解出来ない激しい闇。

 

「…暴走したら、コイツを倒してくれ。そして、渡したカードに封印してくれ」

 

その時、ラウラたちを突風が襲った。開いた窓から偶然入った風、ヤーレスを見ると相変わらず眠っていた。起きていた様子は無い。それまでが夢いや、幻だったかのようにヤーレスは眠りコケている。

 

「何だったんだ?」

 

「幻?」

 

「だが、何故私達の手にカードが?」

 

4人は何が何だがわからないまま、列車は旧都セントアークへと到着した。

 

 

 

白亜の旧都。

セントアークはエレボニア帝国南部に位置する都市である。サザーランド州の州都であり、《四大名門》のハイアームズ侯爵家が治めている。

 

「つまり、何かと此方を目の敵にするパトリック氏の故郷と言う訳です」

 

「ヤーレス、言い方に棘ない?」

 

エリオットは苦笑いをしながらセントアークの解説をするヤーレスを見る。そして気付かないうちに持っていた楽器ケースらしき物を見て、不安に駆られる。

 

「…ラウラ、ごめん!」

 

「エリオット?!」

 

エリオットはガイウスを連れて離れる、ヤーレスは一言「逃げましたか」と口ずさんだ後、アリサとラウラの二人を見る。二人は額に手を当て、ヤーレスに言葉をかける。

 

「「楽器は無理(だ)(よ)」」

 

「では、歌いましょうか!」

 

「「何故?!」」

 

ヤーレスはフルートが修理中の為、トランペットを用意していた。

 

「皆様、私音楽家のヤーレス・フィーネ・アンファングと申します。二人のアーティストと共に奏でさせてもらいましょう!《明日への鼓動》」

 

ヤーレスが奏でる明日への鼓動。二人はなぜか歌詞が頭に浮かんでくる、知らないはずなのに、知っているはずの曲。違和感などなく、歌い始めた。

 

「「あなたには何が聞こえているの♪」」

 

アリサとラウラの歌声、ヤーレスのトランペットが響く。あたりには観客たちが急遽始まったパフォーマンスに驚きながら、歌声と演奏に耳を傾けている。そして5分程した後、曲は終了した。

歌姫二人と演奏家へ沢山の投銭と拍手が贈られる。

 

「それでは!」

 

《SMOG》

 

まるでマジックの様に煙と共に消える3人。観客達は最後まで拍手をやめなかった。

 

「流石貴族の街ですね、投銭だけで4万ミラになりましたよ」

 

「……恥ずかしい」

 

「なんで…私が」

 

ヤーレスから代金と1万ミラずつ渡される。臨時収入としては良いが釈然としない。

 

「って…ヤーレス、あんたが2万ミラなの?」

 

「いえ、ガイウスとエリオットに迷惑料として渡します。これから私は少しばかり単独行動しなければいけないので」

 

ヤーレスの雰囲気が変わる。二人は知っている、アンデットを見つけた時の様に気配が張り詰めている。ヤーレスはそれだけ言うと、楽器を背負ってそのまま何処かへと走り去ってしまった。

班行動と言う意味では破綻しているが、二人はヤーレスが…アンデットが居ないという安心感の方が強かった。

 

 

 

「…ふぁぁ、ったく気配はすれども姿は見えず」

 

ヤーレスは宿泊施設に制服を置くとさっさと私服に着替えて街の探索をしていた。

観光客の様な服装をし帝国らしい服装から巡回神父の様な服装になった。

 

「なんか既視感あるな、まぁ神父の真似事はできるから良いか」

 

聖痕は無いがライダーシステムモドキはある。ヤーレスは最悪な場合、全てをタチバナに擦り付ける算段もしていた。

 

「助けて!」

 

「全く…とことんトラブルがつきまとう!今行く!諦めるなよ!」

 

魔獣の大群に囲まれる15歳ぐらいの少年と一回り小さい少女。

 

「ち!」

 

《TORNADO》《DRILL》

 

《スピニングアタック》

 

「え?」「誰?」

 

「動くなよ」

 

カリスアローを構えたヤーレスは単身で魔獣達を仕留めていく。一匹一匹を確実に、一撃で仕留めていく。返り血が漆黒の神父服に染み渡る。その姿をみた二人はただその姿に見惚れていた。

 

「終わりだ」

 

《BIO》

 

バイオプラントが発動し、逃げようとした魔獣を捕まえる。そして、ヤーレスはフォースアローを放ち撃ち抜いた。燃える魔獣、肉の焼ける匂いが立ち込める。

 

「じゃあな」

 

ヤーレスはそれだけ告げるとスモッグキッドを使用しその場を後にした。




二人モブ
いつか出てくるかもしれない出ないかもしれない。多分モブで終わるキャラ


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旅する不死者セントアーク編2

\(^o^)/実はタトバキックが何故不遇なのか知らなかった作者です。え?撃破数0ってマジなの?
嘘でしょ?え?


ヤーレスは漆黒の神父服は血で汚れた。ソレを気にするほどの人物では無いが、血の匂いはより魔獣を引き付ける。ヤーレスからしたら、面倒だった。

 

「まったく、次から次へと」

 

魔獣を倒すたびに貯まる食材とセピス達。若干、楽しさまで覚えてきた。これがアンデット特有の闘争本能から来るものなのかはわからないが、楽しいのなら良いとヤーレスは割り切った。

 

「…ここらのは粗方仕留めたが、おかしいな。気配がわからない」

 

アンデットはバトルファイトの為に、大体の位置が判る。嫌な予感に駆られたヤーレスはジョーカーアンデットへと変身した。

 

「来てくれたのか、第三のジョーカー」

 

「…カテゴリーキング。タランチュラアンデット」

 

相手が悪い。まだジョーカーとして完璧な状態でないヤーレスに取ってタランチュラアンデットは危険な相手だ。カリスに変身すれば勝てるかもしれないが、わからない。と言うのが正しい。

 

「…私はライズ。ライズ・サン」

 

人間態となり、挨拶をするタランチュラアンデットを不思議がりつつ、自身も人間態に戻る。元より、バトルファイトの外にいるヤーレスにとってアンデットの闘争本能は簡単に制御出来る。ただ、ジョーカーになり命の危機に瀕すると暴走するだけだ。

 

「珍しいな、アンデットが俺を見て戦わないなんて」

 

ジョーカーアンデットは全てのアンデットにとって滅ぼすべき存在だ。統制者の駒であり、すべてを零へと巻き戻す。生物の始祖であるアンデットも何時か終わりが来ると理解している、だがその終わりはすぐではない。

 

「…君がバトルファイトの外に居る存在だと知っているからさ。だからな…第三のジョーカー。名前を」

 

「ヤーレス、ヤーレス・クラウゼル」

 

名乗ることのない名前、けして表に出すことのない名前。戦うことで過去を思い出していくヤーレスにとっての絆であり、罪である。

 

「…私には養子が居る。だが、バトルファイトがある限り私の子供も巻き込まれる。かと言って、私や他のアンデットが勝利しても喜ばしい事は無い」

 

「?ヒューマンアンデッドがいるだろ、奴は」 

 

「前回の勝者なら我々のジョーカーに封印されたよ」

 

「まじで救いようがないな」

 

「あぁ…私はバトルファイト等という物に興味は無いというのに」

 

虚空を見つめるライズ。ヤーレスは彼を嫌いとは思わなかった。むしろ、友でありたいとすら感じている。

 

「わかった、必ず統制者を倒す。お前も、俺と同じだ。アンデットではなく、人間として幸せを掴もうとしている」

 

「あぁ、ここに寝てみたまえ」

 

ヤーレスは言われるがままライズの寝っ転がる土手に寝そべる。見えるのは空だ、青い空、雲が流れ、鳥が飛ぶ。

 

「…私は、この空が、世界が好きなんだ。バトルファイトなんて要らない。もう、あれは過去の物で良いだろう」

 

「……そうかもな」

 

もう、バトルファイトは必要ない。だから、統制者を倒す。いや、倒せないだろうだが、終わらせる。

 

「君は…モノリスを知っているか?」

 

「モノリス?」

 

「あぁ…決して壊せない完全なる聖遺物。バトルファイトはこれから始まった。世界の何処かに存在し、バトルファイトを統制するために作られた物だ。それが、壊せれば」

 

「…バトルファイトは終わるな」

 

ヤーレスは目を閉じて考えた。どうする事も出来ない、だが全てのアンデットがライズの様に心優しい存在だろうか。今までのアンデットは全て人間をなんとも思ってはいない。

 

「…やるだけやるさ」

 

起き上がり、身体を伸ばす。大きな欠伸がでて、それなりなリラックスが出来たとライズに向けて笑った。

 

「…なぁ、俺はジョーカーだ。もし、暴走したらお前が…奴等BOARDに協力してくれ。俺を封印するために」

 

消えた。ヤーレスは風と共に。

 

「パパ!」

 

「やぁ、ルク」

 

「slex8p△✭」

 

小柄なブロンドカラーの少女がライズをパパと呼びながら現れる。背中には良くわからない、人形が飛んでいる。

 

「もぅ!サリィったら酷いの!私と遊んでくれなくて」

 

「∆√∆⊗∣∏∃」

 

申し訳ないとでも伝えたいのだろう。人形はルクと呼ばれた少女を抱きかかえると、ライズに頭を下げる。

 

「気にする事は無いさ。さぁ、旅を続けよう」

 

「何処に行くの?」

 

「友が進む道…かな」

 

3人?は進む。ヤーレスとは反対の道を。自分達が真に自由となれる未来を願って。

 

 

 

 

 

「もう、ヤーレスの奴」

 

アリサは急に消えたヤーレスに文句を言っていた。既に夕方に近い、最初居なくなった時は安堵した物だが、依頼の課題の内容が中々に厳しく、こんなことならば止めておけば良かったと後悔していた。

 

「ふぅ、しかし本当に疲れたな」

 

「うん、ヤーレスに1万ミラ貰ったけど……うぅ」

 

「まったく、だらしがないぞ」

 

アリサとエリオットがダウンする中、ガイウスとラウラは比較的元気だった。四人が雑談を楽しでいると、まるで歓声の様な声が外から上がる。

 

「何をしているんだ?」

 

「お祭り何て、予定には……」

 

エリオットは固まる。カーテンを開けて外を見る。顔から表情が消えた。ソレは、歓声ではなかった。

 

「逃げろ!逃げてくれぇ!」

 

「ギャァァァ」「嫌だ!死にたくない!」

 

「グハァ」

 

大量の怪人、アンデットが市民を虐殺していた。飛び散る肉片、増える死体。

 

「ちぃ!」

 

《TORNADO》《CHOP》

 

《スピニングウェーブ》

 

「くそ…俺もやるしかないのか」

 

「お前もBOARDの一員なら、手伝え!」

 

カリスは戦っていた。市民を一人でも助けようと、避けられる攻撃を避けず、体中に傷を負いながら。そして、一枚のカードを男に投げる。

 

「……クソ!変身!」

 

《Turn up》

 

「新しい、ライダー」

 

時間は一時間程巻き戻る。ヤーレスがライズから別れ、アンデットを探していると神父に出会った。ヤーレスと対になるような純白の衣装に身を包み、巨大な剣を背負っている。

 

「醒剣ブレイラウザーだったか」

 

「…ソレは醒弓カリスアロー。君がハートの戦士か」

 

ヤーレスは街に戻り、付近の喫茶店で珈琲を飲みながら目の前の神父と話をする。

 

「俺は…アイン・シュベールト。ライダーシステム2号機ブレイドを使ってる。タチバナさんから話は聞いてるよ。宜しく」

 

「そうか、宜しく。それで…聞きたい。俺はここでアンデットを探してるんだ」

 

「アンデット……すまない、ヤーレスのジョーカーとしての知識で教えてくれ。バッタみたいなアンデットって居るか?」

 

「…いる。バッタ、いやイナゴの始祖。ローカストアンデッドだろう」

 

「実は…バッタが人型になって人を襲う事件が多発しているんだ。教会は魔獣かアンデットか予想できなかった。だから、BOARDから俺が向かうよう言われたんだ」

 

ヤーレスは天を見上げる。ローカストアンデッドにそんな力があった記憶はない。いや作られた存在故、作者が忘れたのかもと思うがそれならどうしようもない。

 

「…カテゴリー5にそんな危険能力持ちがいたとは」

 

その時、事件は起こった。ヤーレス達の休んでいた二人を邪魔するように血に塗れた人型が入ってくる。

 

「大丈夫か?!」

 

「奴だ…助けて!」

 

男の声だった。酷く怯え、大量の血を流しながらも意識ははっきりしていた。そして二人は見た。大量のローカストアンデッドを。

 

そして

 

「手伝え!」

 

ヤーレスから渡されたのはチェンジビートル。これが何を意味するのか、アインには直ぐに理解出来た。

 

《Turn up》

 

オリハルコンエレメントを通過するアインの姿が変わる。スペードを模したオリハルコンブレスト。銀色と黒の戦士。仮面ライダーブレイドがこの世界に姿を表した。 

 

 

 

 

 

 

 

 




アイン・シュベールト
年齢21歳 男 所属教会・BOARD
容姿剣崎一真
アインはドイツ語で1
シュベールトは剣らしいです。
一と剣から取りました!
あと、ヤーレスが渡したチェンジビートルはヤーレスが封印した奴です。


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旅する不死者セントアーク編3

何気にオンドュル語等は作者が面倒臭がって出しません。作者の中で剣崎であり、ケンジャキじゃないんです。


《SLASH》

 

人造アンデットカード、スラッシュケルベロスをラウズしたブレイドは確実に一体ずつローカストアンデッドを仕留めていく。

 

「伏せろ!」

 

ブレイドを狙いキックを放ったローカストアンデッド。

 

「不味い!」

 

回避が間に合わず、ブレイラウザーで受ける。筈だった。

 

「やれる!」

 

少女の声と共に導力で作られた矢がローカストアンデッドを貫く。

 

「ありがとう!」

 

「お前たち!!」

 

ブレイドは感謝の声を、カリスは怒りの含まれた叫びを上げる。

 

「ラウラ!」

 

「あぁ!ガイウス!」

 

「僕も!カタラクトウェイブ」

 

ラウラの大剣とガイウスの十字槍が数多のローカストアンデッドを撃破し、エリオットの放ったカタラクトウェイブの濁流が飲み込む。

 

「…話はあとだ!」

 

数が減ったことに変わりはなく、カリスは3人を訝しげに見ながらカリスアローに3枚のラウズカードをラウズする。

 

《FLOAT》《TORNADO》《DRILL》

 

《スピニングダンス》

 

「俺もやる!俺も……ライダーだ!」

 

《SANDER》《MACH》《KICK》

 

《ライトニングソニック》

 

「ハァァァァ!!!」「ウェェェェェイ!!!」

 

カリス、ブレイドの両者のキックが残ったローカストアンデッドを撃破する。だが、その全てが爆発し、肉体が残る事は無かった。

 

「…不味いな、本体がいないぞ」

 

「…本体よりも戦闘力は低いのか?それとも、同じぐらいか」

 

ブレイドとカリスはそれぞれ向かい合いながら、現状を考えた。アンデットにより殺された人々、その家族が二人にゴミを投げて来た。

 

「なんで早く来てくれなかった!」

 

「うちの息子を返してよ!」

 

「ちょっと!ちょっとまってください!」

 

ブレイドは何とか人々の怒りを抑えようとするが、返って反感を買ってしまう。

 

「…知らん」

 

「は?」

 

「……逆に言おう、俺達はお前達を守る兵士じゃ無い。最悪、お前たちが殺され尽くしてから彼奴等を殲滅しても良かった。俺たちに文句を言うのか?領邦軍はどうした、生き残る努力をしたのか?お前達生きている者の中には、誰かを犠牲にして生き延びた者も居る。お前、お前、お前もだ!助けてと、行かないでと、叫ばれても無視し、自分が生き残ろうとしたからここにいる。俺達は助ける為に戦った、助けてと声を聞いて戦った!ソレにケチをつけ、挙げ句ゴミを投げられる筋合いは無い」

 

「!だが、お前達軍が」

 

「だから俺達は軍じゃない!ましてや帝国兵でも、帝国人でもない、俺達はボランティアで戦ってやったんだ。それ以上は黙らせるぞ!」

 

「…事実です、我々は帝国軍じゃない。でも、俺もコイツも貴方達を守る為に戦った。だから…すみませんでした!」

 

ブレイドは民間人に頭を下げた、カリスはそんなブレイドを掴むと叫ぶ。

 

「巫山戯るな!お前、死人まで背負うつもりか!死んだのは諦めろ、死人は死人だ!」

 

「…でも、俺達が」

 

「馬鹿野郎、まだローカストアンデッドは生きてるんだ。このレベルの進行がまた何度もあるかもしれないんだぞ!理解できないのか!」

 

カリスはすべてを背負おうとするブレイドを殴り飛ばす。

 

「……俺は………皆を助けたい!だから、仮面ライダーになったんだ!」

 

「仮面ライダー?…ぐ」

 

カリスが頭を抱えてその場にしゃがみ込む、自分の知らない記憶、自分と同じではない、ジョーカーの記憶。仮面ライダーと呼ばれた4人の戦士の記憶。

 

(何故俺に見せる!お前は誰だ!)

 

(俺は…始、相川始。ジョーカーだ。明日、パルムと呼ばれる地の先にある失われた村に来い)

 

カリスいや、ヤーレスが目を覚ますとそこは泊まっているホテルだった。隣にはクラスメイト達、そして…ブレイドである、アインの姿があった。

 

「…ここは」

 

「あ!ヤーレスが起きたよ!」

 

「大丈夫か、ヤーレス」

 

「…俺は、血を流したのか?」

 

ヤーレスは一番始めにソレを聞いた。意味を知る4人は口をつぐみ、ガイウスは流していないと答える。

 

「…ヤーレス、ローカストアンデッドだっけ?僕等も戦うよ」

 

「お前等、なんのために俺が……」

 

ダメージを受けた筈のない体に激しい痛みを覚えるヤーレス。しかし、よく見ると身体中に包帯やら、湿布やらがつけられている。

 

「…倒れたお主の身体を見た。そこら中に傷、それだけではない。お主、アンデットといえど既にボロボロなのだろう」

 

「…なんのことだ」

 

ヤーレスは本当に理解できていなかった。アンデットの再生能力により、肉体が朽ちることはない。怪我をしても直ぐに再生し、傷跡として残るのみで、ダメージは無いはずだった。

 

「理解していないか、アイン殿。あの人を」

 

「アンデットの事はアンデットに聞くのが一番だからな」

 

その声から10分ほど待つとタランチュラアンデッドであるライズ・サンが一人の少女と共に入室してきた。

 

!ぐっ……グゥルルル」

 

肉体が無意識にジョーカーへと変貌していく。しかし、最後の意識がソレを何とか防いでいる。

 

「その…ガキをケセ!……オレガ……保ててる時には!」

 

「…お兄ちゃん」

 

「ハッ……貴様……タランチュラアンデッド、なんの真似だ!よりにもよって……俺の細胞を植え付けたガキだと?!」

 

ヤーレスは自身のジョーカーの本能が少女を殺せと叫んだのを抑え込んだ。そして、触れられると同時に理解する。目の前の少女には自分と同じ細胞が植え付けられている事を。

 

「…正確には違うね、ヤーレス。君の他にもジョーカーは存在するだろう?君の事を第三のジョーカー、アナザージョーカーとしよう。…するならば、彼女にはこちらのジョーカーの細胞が植え付けてある、私がとある組織から助け出したのだよ」

 

「…お兄ちゃん」

 

ヤーレスが何かをしようとすると、それを邪魔するかの様にソレは現れた。

 

「サリィ、だめ!」

 

「∅∣∝⊂∨∏∶⊇∴」

 

「……そうか、そう言う事か」 

 

「……思い出したのか?800年前を」

 

「もっと昔もな、断片的にだが思い出した。そうか…そうか……オイ、小娘。名前は何だ」

 

「…ルク、お兄ちゃん?」

 

ヤーレスはルクの頭を優しく撫でると呟いた。

 

「…お兄ちゃんじゃないな、ヤーレスおじさんと呼ぶんだ。ソレがいい」

 

「うん!おじさん!!」

 

ライズはソレに対しで頷くとソレは姿を消した。

ラウラ達は急な展開に驚きを隠せていないが、ヤーレスが落ち着いた事で話を再開させる。

 

「それで?ライズ、俺の身体がボロボロとはどういう事だ。俺達は不死身の存在、アンデッドだ」

 

「…そう、我々は不死身さ。だが思い出してくれ、我々は怪我を回復させるだろう。そのシステムを」

 

ヤーレスは頷きながら、「そうか」と呟く。

 

「……確かにな。腕も斬り落とされ、連戦に次ぐ連戦だ。魔獣が相手とは違う」

 

「そうだ、それに君は何度かカテゴリーKやカテゴリーAと戦闘しているな?それどころか、謎の存在とも」

 

「聞いたのか?」

 

「皆ヤケに詳しくてね、言わせてもらおう。その体でローカストアンデッドとは戦うな。既に奴は私達の知る奴ではない、奴にはこのような力は無かった」

 

「待ってくれライズさん!なら俺がブレイドで」

 

「ブレイド一人では……殲滅は難しい」

 

「嘘…だろ」

 

アインはその場にしゃがみ込む様に座る。

 

「なら、他のライダー達も呼べば」

 

「…できないんだ」

 

「え?」

 

「ライダーシステムに適合できても、俺やタチバナさんみたいに戦えるとは限らない。それに…量産型じゃあたかがしれてる。クリスなら何とか出来るだろうけど……」

 

「クリス・リーヴェルトか……後で謝るか?いや、面倒臭いな、リィンも連れて生贄に」

 

その発言にラウラは呆れ、エリオットは苦笑い、ガイウスは誰だと言う顔をし、アリサは怒りをにじませる。

 

「…いないなら俺が戦うだけだ」

 

「…おじさん、だめ」

 

「なぁルクだったな。俺は不死身の最強のアンデッドだ。誰にも負けない、それに……世話の焼けるクラスメイトが暴走しかねんからな。云千年生きてる化物が気張らないとな」

 

「…ヤーレス、手伝えないのか」

 

「無理だな、お前等は殺されるだけだ。素直に諦めてこのホテルで寝てな」

 

ヤーレスは何事もないように起き上がると、大きな欠伸をする。

 

「今日は眠い、さっさと飯食って風呂入って寝させてくれ」

 

ヤーレスはそれ以上言葉を繋げなかった。かけられる声も無視し夕食をとる、そして死んだように眠った。

 

 




ついにヤーレスと始さんが邂逅します。一体どうやって…そんなのは簡単な話だ。

「私にもわからん」


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旅する不死者セントアーク編4

ついに動き出すヤーレス、ボロボロの肉体ながらアンデッドの封印の為に戦い続ける。


その時間、誰もが寝ているだろう。その中でそれはモゾモゾと動き出した。

 

「ヨンデイル」

 

ソレはベットから起き上がると静かにホテルを出る。ローカストアンデッドの被害を受けた町並みはまだ復興が済んでおらず、血痕や戦闘痕が生々しい。

 

「…ドコダ」

 

それは肉体を月明かりに照らされながら外道に出る。無知な魔獣達がそれを狙い襲おうとするが、無惨に引き裂かれ、物言わぬ屍と変わる。

 

「ドコダ…ドコダァァァ!!!」

 

それは暴れる、何を探しているのか、それすらも忘れ、ただ破壊していく。

 

(こっちだ)

 

「アァ」

 

返り血に染まった肉体で声の主の方へと進むソレはより醜悪な姿へと変わっていく。腕の刃はより鋭利な物へと代わり、見た目はより禍々しい物へと。

 

「来たか、ジョーカー」

 

《SPIRIT》

 

「お前が…俺を呼んだのか、ジョーカー」

 

それはヤーレスの姿に戻ると、自身と全く同じ存在に警戒心を抱く。

 

「…本能で暴走していたのか?」

 

「違う、アレは」

 

先程の動き、ヤーレスは記憶として残っている。暴れまわり、魔獣を惨殺したこと。それを知ればますますクラスメイトとの距離は遠くなるだろう。

 

「お前は…弱い」

 

「…何を、俺はジョーカー。最強のアンデッドだ!貴様にも…負けはしない!」

 

ヤーレスはジョーカー【進化】へと姿を戻す。すると目の前の存在に斬りかかった。人間なら避けれない一撃、だが弾かれる。

 

「何故…何故だ!」

 

「…俺は仮面ライダーだ」

 

《CHANGE》

 

「カリス、仮面ライダーカリスだ」

 

「仮面ライダーだとぉ!」

 

ヤーレスジョーカーは仮面ライダーカリスに両腕の鎌を振り下ろすが、カリスいや始はカリスアローでそれを弾くと、間髪入れずにフォースアローをヤーレスジョーカーの懐に撃ち込む。

ダメージに蹌踉めき下がるヤーレスジョーカー。

 

「無様だな、闘争本能に任せ、野獣に堕ちるか」

 

「ダマレぇえええええぇ」

 

意思など感じない獣の様な咆哮、そして始を殺すためだけに動く人形となる。

 

「お前も…仮面ライダーだろ!」

 

「グォォォォォォ」

 

カリスはヤーレスジョーカーを弾き飛ばすと一枚のカードをラウズした。

 

《EVOLUTION》

 

カリスラウザーにエボリューションパラドキサをラウズする。13枚のハートのラウズカードがカリスラウザーへと吸収される。

 

「はぁ!」

 

「がぁ!」

 

腰部のワイルドスラッシャーで始はヤーレスジョーカーを斬る。

 

「ぐっ…舐めるなぁ!」

 

ヤーレスは無意識だった。だが、一枚のラウズカードを構えている。

 

《CHANGE》

 

カリスへ変身するヤーレス、始のワイルドスラッシャーをカリスアローで防ぎ、トルネードホークをラウズする。

 

《TORNADO》

 

零距離でワイルドカリスへとホークトルネードを放つ。ワイルドカリスのハイグレイドシンボルから火花が飛び散り、吹き飛ばされる。

 

「くっ、」

 

ワイルドスラッシャー醒弓モードにするワイルドカリス。そして一枚のカードをラウズした。ハートスートのラウズカードが合体したカード、ワイルドをワイルドスラッシャーにラウズする。

 

《WILD》

 

「一度眠れ、お前も!」

 

「よせ!止めろぉ!止めろォォォ!!!」

 

ワイルドカリス最強の必殺技、ワイルドサイクロンを受けたヤーレスはそのまま弾き飛ばされる。

 

「ぐっ…グォォォォォォ」

 

ジョーカーラウザーが開き、ヤーレスはある恐怖に襲われる。

 

「俺が…俺が……」

 

「眠れ」

 

「ジョーカー!!!!」

 

コモンブランクがヤーレスの肉体に突き刺さる、すると眩い光と共にヤーレスジョーカーの姿は消えた。

 

「今は眠れ」

 

 

 

 

 

 

翌日、ホテルは大騒ぎだった。それに最初に気付いたのはガイウスだ。ヤーレスの寝ていたベッドに置かれた一枚のカード。

 

「ジョーカー、誰にやられたんだ」

 

「ヤーレスは死んだのか」

 

「いや、封印されただけだ。まってろ、今解放」

 

「駄目だ」

 

「!」

 

「ヤーレス…じゃないな」

 

突然に現れたカリスに警戒する一同。だが、そんな事はお構いなしにカリスは話し始める。

 

「…そいつは特殊なコモンブランクに封印した。今解放すれば……死ぬぞ」

 

「…それは」 

 

「…なら、俺がどうにかしてやる。俺も…ライダーだ」

 

そう言ってのけるアインに始はある人物を重ねていた。二度と会うことのない戦友、始の幸せの為に犠牲になったあの剣崎一真を。

 

「…なら、コイツラを使え。お前の持つ人工アンデッドよりはマシだ」

 

「何故お前が」

 

「その男の持つカードだ、安心しろ。応援は読んである。必ず来る、あの男ならな」

 

もう一人、自分の知っている男と同じ姿と名を持つ男を思い浮かべる始、橘は必ず来るはずだ。彼奴は、仲間を信じ、仲間に信じられた。

 

《SPIRIT》

 

「今だけだ、俺も協力してやる」

 

カリスから相川始の姿に戻ると周りの全員が驚く。それもそうだろう、相川始とヤーレスの姿が瓜二つなのだから。

 

「教えてやる、俺はこの世界のジョーカーじゃない。別の世界のジョーカーだ、ヒューマンアンデッドの姿が同じなのはただの偶然だ」

 

「え?どういうこと?」

 

エリオットは理解していないようだ。ライズは簡単な説明を始めた。

 

「今の世界になってからだが、我々アンデッドは普段人間に擬態しているんだ。一部の例外は除くがね、だが…ジョーカーだけは違う。ジョーカーは他のアンデッドになれる為か、人間への擬態が出来ないんだ」

 

「じゃあ、ヤーレスは」

 

「あればヒューマンアンデッドへ変身した姿だね。ヒューマンアンデッドのアレはもとの姿、だが何故か能力は低い」

 

「どういうこと?」

 

「…前回の勝者はヒューマンアンデッドだ。今回もそうだが、ヤーレスと君の扱うスピリットつまり、ヒューマンアンデッドの力はその程度なのか?私の知る彼女は中々の強さを持っていたが」

 

「…まて、この世界のヒューマンアンデッドは女なのか?」

 

「初耳かい?」

 

女性タイプもいるのではと始も考えてはいたが、まさかこの世界のヒューマンアンデッドが本当に女性だとは思わなかった。

 

「それで?」

 

「…はっきり言う。俺はヒューマンアンデッドを封印しきれていない。稀にコイツが表に出てくる、何故か俺のジョーカーの本能やらを封印してくれている」

 

「…だが、ヤーレスにはソレが無い。つまりヤーレスの持つヒューマンアンデッドは完璧な封印が施されているのか」

 

ヤーレスの持つラウズカードは外なる神が用意した特別なものだ。封印はけっして解けることはない、そんな事は知らない二人は思案に耽る。

 

「考えてもしょうがない、始!ローカストアンデッドは何処にいるんだ」

 

「…いいだろう、ここからパルムと呼ばれる街に行くまでに開けた場所がある。奴はそこを今の本拠地にしている」

 

「今の?」

 

ラウラは始めに確認を取る。まるで…他にも拠点があったかのような言い方だ。

 

「俺が潰した。奴は俺への復讐とここらの人間を餌にするために大量の分身と共にいる。はっきり言う、生きて帰れる保障はないぞ」

 

ラウラ、アリサ、エリオット、ガイウスは改めてアンデッドの恐ろしさ。死の恐怖を思い出した。だが、それ以上に目の前にある惨劇を無視したくなかった。

 

「…行きます」

 

一番気弱なエリオットが最初に名を挙げた。

 

「僕は…弱い、でも目の前で誰かが傷付いて居るのにここで待つのなんて嫌なんです!」

 

「…良いだろう、だが自分の身は自分で守れ」

 

その言葉を受けたエリオットは大きく頷いた。他のメンバーも覚悟は決まっている。

 

「行くぞ、ローカストアンデッドを封印しに」

 

 




相川始を出しました。本当に誰が連れてきたのかなぁ……


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旅する不死者セントアーク編5

始に封印された主人公、だが、そう簡単には終わらない。立ちはだかるローカストアンデッド、どうなる?


現れる魔獣達を倒しながら、Ⅶ組と仮面ライダー、その協力者は進んでいた。

 

「問題は今の所ローカストアンデッドを見ていない点だ。戦力をまとめているとか…」

 

アインの言葉に不安を述べるエリオット、

 

「まさか、僕たちと入れ違いになってセントアークに居るかか?」

 

「まさか、それはないだろう。私とジョーカーには感じるだろう。この強大な存在を」

 

始はカリスとなった姿でじっと先を見ている。感じるのだろう、アンデッドいやジョーカーの闘争本能、ヤーレスよりもジョーカーの闘争本能を支配できる始はそのままカリスアローを構える。

 

《TORNADO》

 

始はいきなりトルネードホークをラウズすると草陰にホークトルネードを放つ。始はこの技で何度もアンデッドを封印してきた。だが、今回は草陰が爆発するだけだ。

 

「…来るぞ!」

 

「隠れてたか!」

 

ブレイバックルのターンアップハンドルを回転させる。

 

《TURN UP》

 

音声と共にクリスタルエレメントがアインの前に現れる。

そして、アインらクリスタルエレメントを駆け抜ると、ブレイドへと変身した。

 

「ウォォォォォォ!!!」

 

ブレイラウザーを構えながら、迫るローカストアンデッド達を斬り捨てるブレイド、その姿に始は小さく呟いた。

 

「…お前がこの世界の剣崎何だな」

 

「これでえ!」

 

《SLASH》《THNDER》

 

ヤーレスの所持していたスラッシュリザードとサンダーディアーをラウズするとブレイラウザーの刃に雷が纏われる。

 

「ウェェェェェイ!!!」

 

ローカストアンデッドの群れの仲を駆け抜け、手当り次第に斬りつけ止まる。それと同時にブレイドの背中には爆発が広がった。

 

 

 

「数を減らす!」

 

《CHOP》《TORNADO》

 

チョップヘッドとトルネードホークをラウズし、周囲にいるローカストアンデッドへ向けて始はスピニングウェーブを出す。当たりにいるローカストアンデッドは爆発し、その中を始は駆ける。

 

…それを彼は中から見ていた。自分を必要としない仲間達、守るべきだと考えていた生徒たちですら

 

「エリオット!」

 

「うん!アイシクルファング!!」

 

「ラウラ、次だ!」

 

「任せろ、ガイウス!」

 

個人の力が足りないのなら、連携しローカストアンデッドを撃破して行く。ライダーシステムも使っていない士官学院生がアンデッドを倒しているのだ。

 

「ルク」

 

「パパ、ついてきて!サリィ、よろしく!」

 

「√⊂θοζη」

 

サリィはローカストアンデッドを投げる。すると、タランチュラアンデッドとなったライズが仕留める。

 

ヤーレスはそんな風景を封印されながら見ていた。何もできない無力感、自分は必要が無いという喪失感。彼等より強く、普通の戦士よりも戦える自分に酔っていた。

 

「…始、いや、ジョーカー」

 

ヤーレスには理解できた。彼が別世界の自分であると、姿形だけでない、何処か通じるものを感じている。だからこそ………赦せない。経験はアチラが上だ、ヤーレスよりも恐ろしい戦闘経験があるだろう。だから?ソレがどうした、負けた事には変わりない、自分は最強のアンデッドであるジョーカー。そして、バトルファイトを終わらせる存在。ヤーレスは自身に何度も言い聞かせる。

 

「…グゥ!グァァァァァ!!!」

 

自身を捕らえる鎖を何度も、何度も、何度も引きちぎろうとする。その度に、緑色の血が流れ、自分から反抗する気持を失わせる。だが、終わらない、ヤーレスはただ負けたくない。

 

「うっ……ギャァァァァァァァ!!!」

 

けたたましい悲鳴、それはヤーレスが発した物だった。まるで、繭から成虫が飛び出すように、ジョーカーの背中が割れる。

 

「アァァァァァァァ!!!」

 

この日、ジョーカーはより進化した。

 

 

 

 

「何が!」

 

「ガイウス!」

 

ガイウスが所持していたヤーレスの封印されたラウズカードが黒く、当たりに闇を振りまく光を放つ。冷たく、恐ろしく、そして温かい矛盾に満ちた光=闇だった。

 

「ぐっ!ウォォォォォォ!!!」

 

《SPIRIT》

 

カードから現れたその存在は何処からともなくスピリットのラウズカードを出現させた。それだけではない、現れた人物の腰にはカードホルダーがある。

 

「…ローカストアンデッド、お前の様なアンデッドは存在して欲しくないんだよ」

 

「貴様…ジョーカー?!なんだ、何なんだ!」

 

「…俺は理解できたさ、お前の力が。お前も、進化したんだ。そうだよな、一体誰が生物の祖先であるアンデッドが進化出来ないといった?あの時は不完全な進化だったが…今回は違う、俺は正真正銘新たなジョーカーへと進化した」

 

「ぐっ…」

 

ローカストアンデッドは偶然だがその力を手に入れた。今度こそ、バトルファイトで勝てる。そう、思えるほどに強大な力を。だが、それ以上の悪魔が眼の前に現れた。自分を封印するために。

 

 

「行くぞ?」

 

《ABSORBQUEEN》《FUSIONJACK》

 

ヤーレスが変身する仮面ライダーカリスジャックホーム。シャドウブレス、ショルダーブレスの色が金色に染まり、カリス・クレストは赤く燃える。そして、昆虫の様な翼が背中のインセクトアーマーの位置から現れた。

 

「たぁ!」

 

飛翔しながらローカストアンデッド(分身)を仕留めていく。フォースアローを放ち続け、それを止めると地面スレスレを飛びながらカリスアローの刃で切り裂いて行く。

 

「…まったく、」

 

《JOKER》

 

それはヤーレス自身の力の一部が封印されたラウズカードであった。すべてのラウズカードと同じ力を持つ、たった一枚のカード。

 

「…死ね」

 

「その程度!」

 

カリスアローの刃に漆黒の焔が浮かぶ。カリスはそのままローカストアンデッドを切り裂こうとするが、その腕で防がれる。

 

「…そうかよ」

 

「なっ!ラウズカードが?!」

 

ブレイドの持っていたラウズカードがカリスの位置まで飛んできた。

 

《SPADEA》《CLUBA》《HEARTA》《THREECARD》

 

 

「ぐっ…くくっ!……クハハハハ、まだ、まだ3枚か!だが、俺は超える必ず、必ずだぁ!」

 

「よせ、待て!」

 

「ラァァァァァ!!!」

 

ローカストアンデッドの肉体が2つに裂けると同時に爆発する。ヤーレスはコモンブランクを取り出すと、ローカストアンデッドの上半身に突き刺した。

 

「…くっ……女神だったか、覚えておけ!俺を…!消そうと…してもぉぉ!!無駄だぁ!俺は這い上がる、憎しみを糧とし、より進化する!そして……てめえの作ったバトルファイトを終わらせてやるからな!」

 

《JOKER》《TORNADO》

 

禍々しく、気高い炎を纏ったカリスアローをカリスは上空に向けて構える。誰もがそれを見守る、

 

「餞別だ!受け取れ!」

 

カリスがその言葉と同時に矢を放つと澄み渡る空が一瞬漆黒に染まった。それを見届けたカリスはホルダーからSPIRITを取り出し、カリスラウザーにラウズする。

 

《SPIRIT》

 

「ふぅ…さて、次はお前か?始」

 

「…いや、今は良い。もし、お前がその力に染まるなら、今度こそ完全な封印をしてやる」

 

「……嫌な奴だ」

 

ヤーレスはそのまま皆をおいて一人、セントアークへと帰路についた。

 

「…まさか、ヤーレスが自力で封印をとくとは」

 

「俺からしたら、女神様に喧嘩を売った事の方が問題だけどな」

 

「…アインさん、では報告するんですか?」

 

エリオットの質問に笑いながらアインは答えた。

 

「…彼奴は、優しい奴だよ。それに…俺と同じ仮面ライダーだから」

 

「そういえば、仮面ライダーとは?」

 

「…仮面ライダーは人の夢と希望を守る戦士だ。彼奴も…俺達も」

 

ラウラの問に答えたのはマゼンタのスーツを着た男だった。誰もが警戒する中、始はその男に近づく。

 

「…ジョーカーにはジョーカーだと思ったが」

 

「この役回りは俺じゃない、剣崎の方が適任だ。次があるなら、彼奴に頼め」

 

始の言葉と同時に二人の空間が揺らめく、

 

「じゃあな、仮面ライダーカリスの世界。また来る」

 

男がそういうと二人は揺らめく空間に消えていった。全員が顔を見合わせる、幻覚が、現実か、それは誰にもわからない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ジョーカー進化
見た目はジョーカーから仮面ライダー真に近付いた。能力は鎌を活かした斬撃と足に付いたスパイクによる打撃。


強さ
ジョーカー=カリス
ジョーカー進化=ジョーカー暴走=カリスJF
ジョーカー進化暴走=不明


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旅する不死者セントアーク編6+α

自力で封印を解き、ローカストアンデッドを封印したヤーレスだが、それだけで終わらなかった。彼はジョーカーとして新たな存在に進化した。
これからどうなるのだろう、それは誰にもわからない。


「また、思い出したか」

 

ヤーレスは再び自身に割り当てられたベッドに潜り、失っていた記憶を呼び醒ます。その記憶は、とある男との出会いの記憶だった。

 

「よぉ、お前が件の魔獣か?」

 

ヤーレスいや、ジョーカーの退治している男は若く20歳ほどの青年だった。何度も死線を潜り抜けてきたのだろう、その目はただ殺すためにジョーカーを見つめている。

 

「…人間か、何のようだ」

 

「ちょっと入用でね、何でもかんでも依頼を受けてる猟兵さ。お前を殺しに来た」

 

そういうと青年はジョーカーに対して長剣をふるう。それをジョーカーは腕で受ける。

 

「…すげぇな、お前」

 

「……はぁ」

 

「らぁ!」

 

振るわれる長剣を受け止め、弾く。それを繰り返す、ジョーカーは男を殺すつもりは微塵もなかった。

 

「てめぇ…俺を舐めてるな」

 

「舐めてない、ただ冤罪を晴らしたいだけだ」

 

「あん?」

 

「お前の言う魔獣はそこで寝ている、ほら……あれ?」

 

「なぁ、寝てたって……そこか?」

 

(やべやば)

 

「わりぃ、俺逃げるわ!」

 

「ちょっと待てよ!」

 

ジョーカーが逃げ出すと、後ろから見たことも無いような化け物が姿を表した。魔獣いや、魔物と言った方が良いかもしれない。

 

「てめぇ!違うなら違うと言え!」

 

「馬鹿野郎!勝手に攻撃を仕掛けてきやがって!こちたらまだ完全に起きてねぇんだよ!」

 

「んで!どうする!手は有るのかよ!」

 

「開けた場所より、狭き門より入れってな!」

 

《CHANGE》

 

「何だよそれ!かっけぇな!!」

 

「言ってる場合か!」

 

ジョーカーはカリスになるとカリスアローを構えた。そして、カリスラウザーをセットし、ラウズする。

 

《TORNADO》

 

「はぁ!」

 

ホークトルネードを受けて地上に落ちる魔獣、

 

「俺が決めるぜ!」

 

青年は魔獣に長剣を振るいそして、仕留めた。

 

「気持ち悪っ」

 

「お前はすげぇな」

 

《SPIRIT》

 

「人間じゃないからな、本来なら簡単に殺せたんだが……」

 

「人間じゃ無いって何だよ」

 

「アンデッドだよ、ほらな?」  

 

ジョーカーはカリスアローで自身の腕を切ることで、緑の血を見せる。だが、青年は怖がる素振りを見せず、笑った。

 

「ハハ!すげぇな、人間以外を見たのは初めてだ!俺はエドガー!エドガー・クラウゼル!なぁ、お前は」

 

「ジョーカーアンデッド」

 

「かぁ!ちげぇ、名前だよ」

 

「だからこれが名前だ!」

 

「なら、ヤーレス!ヤーレス・クラウゼルだ!今日からお前は相棒だぜ!なぁ!!」

 

「勝手に決めるなぁ!」

 

これが、ヤーレスと後に猟兵王となるエドガーの邂逅と長い猟兵生活の始まりだった。

 

 

「懐かしいな」

 

ふと目元を触ると涙を流していた。たった一滴の涙だが、ヤーレスはあの日々を懐かしく思っているのだろう。だが、演奏家として生きていた半年、彼がヤーレス・クラウゼルではなくヤーレス・フィーネ・アンファングとして音楽に生きたあの日々も捨てがたい。だが、彼は理解している。何方かを捨てなければ、これから生きて行けないと。クラウゼルを捨てれば自身を兄と慕うあの子も捨てる事になる。フィーネ・アンファングを捨てれば、最悪シュバルツァー家に受けた恩を仇で返す事になるかもしれない。ヤーレスはまだ選べなかった。

 

「僕は…なんてガラじゃない。俺が…両方取れれば良いんだけどな」

 

翌日、ヤーレスは書き置きだけを残し一人、先にトリスタへと戻った。誰にも別れも告げない。

そして…ヤーレスは姿を消した。

 

 

 

 

ヤーレスが姿を消してから、一番落ち込んだのは以外にもフィーではなくリィンだったかな

 

「……ヤーレス」

 

「ヤーレスにも思うところがあるのだろう」

 

ラウラのかけた声に反応することなく、リィンは持っているキーホルダーを見る。

 

「それは?」

 

アリサの問に答えるように、キーホルダーのスイッチを押すとシュバルツァー家の家族写真が現れた。

 

「…たった半年だけど、俺とヤーレスは家族だと思った。尊敬できる兄さんだって、でも…考えたらヤーレスは一回も写真を撮ろうとしたことは無かったんだ。考えたら記憶喪失も実は嘘で、全て…」

 

「リィン!」

 

「な!」

 

フィーはリィンの頬を打つと小柄な体で襟をつかむ。

 

「リィン、ヤーレスは大切だと思ったら全て守るの。そういう人なの…ヤーレスに守られていた癖に…嘘とか…ぬかさないで」

 

フィーはリィンを離すと「ごめん」と一言だけ告げて教室を離れた。

そして、行方不明のヤーレス本人はと言うと…

 

 

「あー…アイゼンシルトの野営地はここで合ってるか?」

 

「?どうしたんだ少年」

 

ヤーレスは少年と言われて思い出す、まだ若い姿だと。自身の姿をあの時まで老化させ、目の前のアイゼンシルトの猟兵を驚かせた。

 

「アイーダの小娘に伝えてくれ、あとあんたらの連隊長も呼んできな。でないと…何のためにここまで来たか…」

 

ヤーレスは現在、少ない情報から共和国に辿り着き、旅の音楽家をしながら金を稼いでここまで来たのだ。

 

「なんだい!って…げぇ!」

 

「どうしたアイーダ?」

 

「出やがったなぁ!小娘ぇぇぇぇえ!!!」

 

「副長?!なんで生きてんのさ!あんた飛空艇から飛び降りて死んだはずだろう!!」

 

「あれぐらいで死ぬかぁ!フィーの誕生日も俺だけ祝えなかったんだぞ!」

 

「知らないよ!」

 

アイーダは即座に逃げたいと言う気持ちに駆られた。彼女は表向きは古巣である西風のNo.2だが、本当は目の前のヤーレスだ。そして、今の状況を知っている。4バカの一番厄介な奴が暴走した時だ。

 

「?猟兵王の切り札がなぜここに!」

 

「お!アイゼンシルトの若造か!エレボニアの将校から此方か…まぁ良いんじゃねぇか!それよりもだ!てめぇ!フィー置いて何やってんだこのぉ!」

 

「いたぁ!」

 

ヤーレスはアイーダの頭を拳で殴る。

 

「フィー俺と会ったとき泣いたんだからな!誰も居なくなったあげく、よりにもよってバレスタイン大佐の娘に借り作りやがって!」

 

「いや、あれは団長のせいだからね!団長はフィーを猟兵にしたくないって」

 

「なら、俺が個人的に引き取ったわ!」

 

「死んでたでしょうが!」

 

「アンデッドが死ねるかよ!」

 

幼稚な言い争いを見るアイゼンシルトの面々、初めて見るアイーダの表情と伝説の猟兵王の切り札との邂逅が彼等を驚かせている。

 

「…さてと御託は終わりだ。アイーダ、てめぇ良い場所見つけたな、」

 

「?」

 

「ゲラント連隊長、うちの元メンバーを宜しく頼むぞ。」

 

「連れ戻さないのか?」

 

「何が笑ってるバカ娘を連れ戻すかよ!俺はな、西風の中じゃ最年長者だ」

 

「そりゃ世界が出来た時から居るアンテだからね」

 

「黙れ、兎に角!アイーダも俺からしたら…娘だ!そんな娘が笑ってるんだぜ!良いに決まってるだろうが!だがなぁ!最後の選別をおくらせてくれよ!てめぇら!最高に美味いメシ!食わせてやるよ!」

 

「よ!西風の料理長!」

 

「アイーダ!ジャガイモ剥け!」

 

「副長!食材何処から出したのさ!」

 

この日、アイゼンシルトと西風の副長の間に奇妙な縁が生まれた。

 

「敵同士じゃなけりゃただの人だ!メシ食って宴会だ!」

 

「「「「おお!!」」」」

 

こうしてヤーレスの共和国旅行は終わった。そして……

 

「フィー!土産だぞ、バニラゆべしだ!あと、アイーダにあったから手紙!」

 

「……なんで連れてってくれなかったの?」

 

その日から一週間、フィーはヤーレスと口を聞かなかった。また、被害を被った女性がもうひとりいる。

 

「あんたぁ!何が…古巣のメンバーに会いに行くよぉ…仕事溜まったじゃないのぉ!」

 

「悪かったから、お前なぁ……はぁ」

 

クラスメイトからも奇っ怪な目で見られながら、ベロンベロンに酔ったサラを介抱する。

 

「あ……ゼノ坊とレオ坊何処だよ。ガル坊、てめぇら、殴り飛ばすからな」




思いついたギャグ回です!
シリアスだと思った?
違います!ちなみにこれから元メンバー探しの度は始まります。
ちなみに行く予定なのは
【クロスベル】


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唐突な試験

クロスベルに向かうと言ったな

あれば嘘だ

わぁァーーーー

いや、時系列考えたらもう少し後じゃないととある人達との掛け合いが上手くいかないんすよ。


6月も半ばとなり、ジメッとした空気も段々と薄れてきた。マキアスとユーシスの対立も乗り越え、Ⅶ組は新たな門出を開いたのだが

 

「あ〜〜フィー、俺の昼取るな〜〜」

 

「むっ…食べてない」

 

「んじゃ誰だ〜」

 

気の抜ける声と共にだらけきり、机に突っ伏した男がいた。何があったのか、その身体からは眠そうなオーラが出ている。

 

「ヤーレス、どうしたんだ」

 

「…あっ…リィン、多分さぁ…進化だと思うのよねぇ……こう、脱皮?みたいなのさ、動きたくても、動けない。今朝はなんとかこれだけど、駄目だ、終わってる」

 

一応、ヤーレスはクラスメイトとの仲直りは済ませている。完全な蟠りが消えた訳ではないが、アンデットでありながら人間に協力していることは受け入れられた。

 

「駄目だ、戻る」

 

「は?」

 

ジョーカーアンデッド進化体に変身したヤーレスは机に突っ伏す。

 

「…ヤーレス、背中にヒビあるよ」

 

「まじかよ、本当に脱皮?進化したせいかな」

 

「…どんな見た目になるんだ?変化するのか」

 

「……くすぐったい、さわるな」

 

ギチギチと不気味な音がヤーレスの背中から聞こえてくる。その手が苦手な生徒は耳を塞ぎ、一部の生徒は興味深そうにヤーレスの変体を見ていた。

 

「…うわ…アンデットってこうなるの?」

 

「いや、俺も初めてだ。とても興味深いな」

 

ゆっくりと、ゆっくりとだが殻を破る様に新たな姿が見え隠れする。水分を多く含んだ翼のような物が背中にこびりつき、その肉体はぶよぶよしている。

 

「…うっ…ぐぅ……」

 

そして、ついに頭を破り粘液に包まれた頭部が姿を現した。しかし、ヤーレスは喋る事はせず肉体を乾燥させる、物凄い速さで肉体の水分が飛んでいき、赤黒く光沢する外殻を持ったジョーカーが姿を現した。

 

「…んで、人の全裸を見るのはどうかと思うぞ」

 

「服あったよな?」

 

「粘液まみれだよ。それに変体するときに破れるかも。せっかく脱いでたのにこれじゃあな」

 

ジョーカーアンデッドの姿でドロドロの粘液に塗れた自分の制服をみるヤーレス、心做しか溜息を付いている様にも見える。

 

「こんなのここ数百年なかったぞ、まったく」

 

「そういえば、アンタがアンデットなのは分かったけど実際いくつなの?」

 

「確かにな、第三のジョーカーの出現は確実なのはドライケルス帝の時代に起きた数体のアンデットの復活だ、それを食い止めたのは教会に残っているが」

 

「知らね、いちいち覚えてらんない。アンデットの気配があれば起きて、それ以外は寝てを繰り返してたからな。だが…まぁ、教えてやる。今回のバトルファイト、本当なら俺はもっと遅く目覚める筈だった」

 

「どういう事だ?」

 

「そういう事さ」

 

別に深くを語るつもりのないヤーレスはチェンジマンティスをラウズする、着替えるためだけに変身した事にゲンナリした顔をするⅦ組のメンバーだったが、ヤーレスはそんなことお構いなしに窓から飛び出そうとする。

 

「旧校舎で着替えている、何かあればアークスで連絡してくれ」

 

「いや、授業は受けるべきだ」

 

責任感の強いマキアスが呼び止めるが、それを一瞥する。

 

「粘液まみれ、ドロドロの戦闘服で如何にも何かありましたという服装で授業しろと?下着もさっきの粘液でおしまいだ。かと言って、シャワーすら浴びれない。そんな状態でやれと?」

 

「あっ!いや、すまない」

 

「わかればいい、それにな。お前達に教えれれている事の大半は経験したんだぞ?なんで今更おさらい」

 

「何だと?!」

 

「あん?…やべ、話すことじゃないな」

 

「アンタ、爺ね」

 

そこでとある魔女は考える、

 

(もしかすると、お祖母ちゃんの知り合いなのでしょうか。ドライケルス帝とも居たそうですし)

 

「すまない、ヤーレス!リアンヌ様とは」

 

「…あの甲冑糞女の話は止めろ、次あったら絶対ぶっ飛ばす。誰が巨大なゴ○ブリだと?あんな台所の迷惑な害虫と一緒にするな!」

 

「…そうなのか」

 

ヤーレスと槍の聖女リアンヌ・サンドロットの仲は決して悪くはない、だが彼女から受けた第一印象とその後所属した組織という違いが生じただけだ。過去を知る数少ない友人の事をヤーレスは久しぶりに思い出していた。

 

「じゃあな」

 

そそくさと消えるヤーレスに誰も声はかけなかった。そして、授業が終わってもヤーレスは戻らなかった。

 

「さて、アイツが居ないけど言うわね。予告してた通り、明日から中間試験になるわ。ま、基本は座学のテストだからあたしは何の力にもなれないけど、一応試験官として見守っていてあげるから、せいぜい頑張ってちょうだい」

 

完全に他人事の口ぶりでサラが言い放ち、一部を除き一斉にクラス中の雰囲気が重たくなった。ちなみにタチバナは何か質問が有ればくるようにと、担任よりも担任をしている。別に何かに成通している訳ではない、その手の専門教師には負けるが、タチバナは経験を生かし的確なアドバイスを生徒に行っていた。

 

そして、そんな雰囲気すらも他人事なサラは淡々と報告事項を続けていく。結果発表は来週の水曜に個人成績と共に張り出されることや、クラス平均も張り出されると言うこと。どれもこれもクラス間の対抗心を煽る目的が見え見えだった。ここにヤーレスがいれば、くだらない、と一言発したろうが現在件の御仁は居ない。

 

フィーは憂鬱な溜息を吐き出し、マキアスはヤーレスとエマをライバル視し、炎を燃やしていた。

 

「エマ君、僕は君とヤーレスには負けない」

 

「…マキアス、暑苦しい。あと、ヤーレスに勝てる要素ない、格好良い、強い、料理できる、添い寝してくれる、手を握っててくれる。マキアスが勝てる要素無し」

 

「それは君の考えだろぉ?!」

 

マキアスの発言もフィーにバッサリと斬り捨てられる。それよりも、エマはフィーを微笑ましい様に見守っている。

 

「フィーちゃんはヤーレスさんが大好きなんですね」

 

「うん、西風に居たときから皆お母さんって呼んでた」

 

その場にいた全員がコケた。ヤーレスお母さん、どんな想像をしたのかユーシスに至っては笑いをこらえている。ガイウスもどう反応して良いのかわからず、リィンに至っては吹き出していた。

 

「歯磨きしたのかとか、着替えは出したのかとか、ご飯は野菜も食べろとか、……怒ったら誰よりも強かった」

 

フィーが若干震えている事に驚く。Ⅶ組にとって、フィーの家族という印象があるヤーレスだが、フィーに対して怒った事は見たことがない。

 

「…何がそんなに怖かったんだ」

 

「………言えない、言ったら………消される」

 

(最低ね、ヤーレス)

 

女子達の中でヤーレスの評価が落ちていく、そしてとおの本人はと言うと

 

「…全然落ちねぇ」

 

自分が垂れ流した粘液が制服に染み付いた汚れと格闘していた。

 

「さて、まだ昼過ぎだけど今日のHRは以上よ。残って試験勉強でもするか寮に帰るかは君達に任せるわ。委員長、挨拶して」

 

「はい。起立、礼」

 

エマの号令が終わり、サラが鼻歌交じりに教室を出て行く。それを見届けたリィンたちは一箇所に全員集合した。今日これからの作戦会議だ。

 

「はぁ、どうしようかな。どの教科も心配だけど特に数学が厳しそうなんだよね」

 

「だったら僕が見てもいいぞ?復習をするつもりだったし、まあ、片手間でよければだが」

 

「え、ホント?やった!助かるよ!」

 

エリオットとマキアスが真っ先に指針を決めた。

 

「オレは帝国史がやや不安だな。一応、授業で習ったところは把握できているとは思うが…」

 

「よかったら付き合おう。代わりと言ってはなんだが軍事学の設問を手伝ってくれ」

 

次にガイウスとユーシスがペアを組んで指針を決める。この二人ならお互いの苦手分野をカバーし合えると言う判断だろう。

 

「…ヤーレス?」

 

誰かが口ずさんだ。

窓を見ると全身ずぶ濡れのヤーレスが校門に向けて歩いている。

 

「…まだ汚れてたのか」

 

状況を理解したⅦ組はそれぞれの話に戻った。

 

「エマはフィーと勉強するのか?」

 

「はい、フィーちゃんとしてはヤーレスさんとしたインでしょうけど、あの人は多分フィーちゃんを甘やかしてしまうので」

 

「あぁ…」

 

勉強と言いつつ、眠るフィーとそれに付きそうヤーレスが用意に想像出来てしまいエマの言葉に納得するリィン。

 

「あ、だったら私もご一緒させてほしいかも。古典がちょっと不安なのよね」

 

「ええ、喜んで。よかったらラウラさんもご一緒しませんか? 

 

そのままの流れでエマがラウラに声をかける。このまま女子全員でお勉強会の流れみたいだ。しかし、そうはならない。 

 

「いや…せっかくだが今日は遠慮しておこう。少々、個人的に復習しておきたい教科があってな。先に失礼する」

 

ラウラはそう言って立ち上がり、そのまま教室を出て行ってしまった。その時、ラウラがチラリとフィーを見ていた。

「どうしたのかしら…」

 

「いつものラウラさんではありませんでしたね…」

 

女子二人がラウラの行動に首をかしげる。リィンはラウラがフィーを見つめていたことに気づき、フィーをさり気なく視線で追っていた。とある保護者にバレたらどうなるかはわからないが。

 

「ちょっと私、ラウラを追いかけてみるわ。二人は一緒に勉強してて」

 

「あ、分かりました…」

 

そう言ってアリサがラウラを追って教室を出て行く。そしてそれを合図に、リィンたちもそれぞれ教室を出て行く。ラウラのことは気にはなるが、それ以上に切羽詰っているのも事実なのだ。そして、エマはフィーが寂しそうにしているのを確認した。即座にアークスを開き、とあるアンデットに連絡をする、

 

「フィーちゃんが」

 

「何処で」

 

「教室ですけど」

 

「1分で」

 

まだ寂しそうな顔をするフィーが笑顔になるまで30秒も掛からなかった。

 

 



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テストをする不死者

速くダディアナザンを使いたい作者です。


「つまり、この計算は」

 

エマとアリサは勉強を教えるヤーレスをゲンナリとした目で見ていた。教官レベルでフィーに対して勉強を教えている彼の姿は別に問題は無い。だが、何故か持ってきた籠いっぱいに入ったお菓子、味は一流パティシエの様にも感じる。それも良い、だが…

 

「ん!」

 

「良くやったぞフィー!流石だな!!」

 

とフィーが正解するたびにまるで自分の事のように笑い、フィーを撫でる。そのせいで、中々勉強が捗らないのだ。

 

「ねぇ、ヤーレスここの文書は」

 

「アリサ様、そこはこのように」

 

そして、アリサには従者の様に話しかけてくる。

解くたびに

 

「流石です、お嬢様!後で好物の」

 

「本当に止めて!いい加減にして!」

 

アリサは勉強を教えてもらう立場ではあるのだが、何故か言動が自身の姉代わりの彼女に似ているヤーレスに不満しかない、何時もの様に話しかけてこず笑うのは絶対楽しんでいる。とアリサは思い、睨み返す。

 

「あはは…ヤーレスさんは……」

 

「……アリサ、ヤーレスが巫山戯るのは気を許してる相手だけだよ。皆に巫山戯たりしてるから、友達や仲間って考えてる」

 

「…フィー、恥ずかしいからやめなさい」

 

若干赤らめるヤーレスにエマはくすりと笑う。

冗談を交わしながら、それぞれの勉強会は滞りなく進むのであった。

 

 

 

 

そして、夜。大人の時間である。ヤーレスは変わらず酒場で酒を飲んでいた。

 

「はぁ…なぁ……サラ、お前このまま遊撃士続けんのか?」

 

「はぁ?一体何よ」

 

「嫌な、あの小娘がここまで成長するとはと感慨深いからな」

 

「ざけんなアンデット!親でも無いのに心配するな!」

 

ヤーレスはサラの頭を撫でる。現在の見た目は18ではなく40代程度。渋いおっさんである、意図してなのかそれはサラの好みの姿であった。

 

「バレスタイン大佐には俺も…エドガーも世話になった。遥かな年上からだが、何か有れば頼りやがれ。俺の都合が付けば…手伝ってやるさ」

 

「アンタも…大概ね。娘の私にまで関わるなんて」

 

「……まぁ…な、俺としてはお前をフィーの姉の一人だと思ってる。俺達は…アイツを捨てたと同義だ。俺は、違う何て言えない。勝手に消えて……悲しませたんだからな」

 

そう言いながら、酌まれた酒を一気に煽る。酒豪であるサラからしても、その飲みっぷりはすごいものだった。

 

「あぁ…もう…何でアンタが酔い潰れるのよ!」

 

その日、珍しくサラがヤーレスに肩を貸して寮まで戻ったのだった。

 

 

そして、期末試験だが……はっきり言おうヤーレスにそんなものは必要ない。ヤーレスは知識だけなら無限に覚えられるのだ。

 

「…つまらない、簡単すぎる」

 

「いや、ヤーレスがおかしんだぞ!」

 

「うっ…確かにその公式なら簡単に」

 

「間違えがここと…あそこと……」

 

生徒達の悲痛な声を聞きながら、ヤーレスはカリスアローを出現させる。

 

「…俺を狙いに来たか」

 

「ヤーレス?」

 

「お前達…今回の戦いに参加するな。バトルファイトの邪魔だ」

 

「まて、俺も行く」

 

タチバナもギャレンラウザーを構えながら、白の法衣を脱ぎ捨てる。

 

「ちょっと、アンタ教師な」

 

「生憎だが、俺の本職はギャレンだ」

 

「元々猟兵だし、その前からバトルファイトを壊してきたんだ。今更……」

 

フィーが不安そうにヤーレスを見つめる。だが、ヤーレスは一瞥することなく窓から飛び降りた。

アンデットはもうトールズの敷地内に入っている。

 

《CHANGE》《TURN UP》

 

ヤーレスの身体が揺らめき変わる、マンティスアンデッドいや仮面ライダーカリス。

タチバナがギャレンバックルのターンアップハンドルを引くとオリハルコン・エレメントが現れその中を潜る。そして、仮面ライダーギャレンが現れた。

 

「バッファローアンデットか!」

 

「カテゴリー8か…面白い」

 

「言ってる場合か!」

 

ギャレンとカリスはバッファローアンデットに同時に飛び蹴りを行ったが、

 

「くっ…」「なんだと?!」

 

二人とも足を掴まれ、身動きができない。

 

「グォォォォ」

 

「うわぁぁぁぁ」「ガハッ!」

 

地面に叩きつけられ、仮面の下で血を吐く二人。

 

「なめ…るな!」「巫山戯るな!」

 

カリスアローとギャレンラウザーの同時射撃がバッファローアンデットに命中する。

 

「グォォォォ」

 

火花を散らしながら後退するバッファローアンデットだが、途中で動きが止まる。

 

「何…だと」

 

「ヤーレス!」

 

ギャレンとカリスは何かに吸い寄せられる様に、ジリジリとバッファローアンデットに近づく。いや、近づかされる。

 

「死ね!ジョーカー!」

 

「話せたんなら……最初から話せ!」

 

カリスアローを構えながら、踏ん張る姿勢をやめるカリスにギャレンが問う。

 

「何をするつもりだ!」

 

ギャレンラウザーを撃ちながらも、踏ん張るギャレンがカリスに問う。

 

「こうする!」

 

《DRILL》《TORNADO》

 

カリスはバッファローアンデットにスピニングアタックを放った。バッファローアンデットは吹き飛ぶが、まだ息をしている。バックルも開いておらず、封印はできない。

 

「やれ!タチバナ!」

 

「ウォォォ!!!」

 

ギャレンは3枚のラウズカードをギャレンラウザーにラウズする。それは、ギャレン必殺技別の世界線では数多の強者を封じてきた技である。

 

《DROP》《FIRE》《GEMINI》

 

電子音と共に音声がギャレンラウザーから流れるの

 

《バーニングディバイド》

 

「はぁぁぁぁ!!!ハァ!!!!!」

 

二人に分身したギャレンの無慈悲な一撃、バッファローアンデットは悲鳴を上げながら倒れ込んだ。

 

「倒したか」

 

「だな」

 

カリスはブランクカードを投げる、刺さったバッファローアンデットはブランクカードに吸い込まれ封印される。そして、スペードスートのカテゴリー8。マグネットバッファローとなった。

 

「…」

 

カリスとギャレンは苦戦しながらもアンデットを封印してみせた。しかし、それを悲しそうに見つめる一つの視線、それに…カリスが気付くことはない。 

 

(……楽しい)

 

「…どうした、ジョーカー」

 

「いや、アンデットはやはり俺と他のジョーカーの区別が付いていない様に感じる。別にそれは構わないんだが…こうも暴れられるとな」

 

《RECOVER》 

 

「そんな使い方もあるのか」

 

本来体力回復だけのリカバーキャメルであるが、カリスを通じて周囲までもが元通りとなる。

 

(ラウズカードが強化されている?ありえない、これが新たなジョーカーの力。もし、そうならヤーレスは滅びではなく再生のジョーカーなのか)

 

《SPIRIT》

 

制服についた埃を払い、ヤーレスは跳躍する。

 

「…さて、テストはこの際どうなるのかな?サラ・バレスタイン」

 

「…後からよ。てか、大丈夫なわけ?」

 

「舐めるな、まだ全盛期の力を取り戻してはいないが、カテゴリー8までならなんとかなる」

 

「それ以上は」

 

「…フィー」

 

「それ以上は!」

 

ヤーレスは答えない、答えられない。ただ、ゆっくりとフィーの頭に手をのせゆっくりと撫でる。

 

「…」

 

「……何で……何で………」

 

フィーの泣く姿を微笑みながら、ヤーレスは優しく抱きしめる。

 

「…お前は一人じゃないだろうが。サラや、このクラスの仲間がいる。たった一人、死ぬのねんて俺達にとっては当たり前だろう?」

 

優しさのない、狂気に染まるその目。フィーはただ恐怖し、動けなくなる。

 

「フィー、これが俺だ。お前達もな、所詮アンデット。人間じゃ……無いんだよ」

 

寂しそうに告げるヤーレス、Ⅶ組の仲間でありアンデット。蟠りは既に消えたと皆が思っていたが、ヤーレス自身が今度はクラスに壁を作ったのである。   

 

 

放課後、ヤーレスはサラの付添の下で一人テストを行っていた。幸い、ヤーレスの事を理解しているトマス教官のテストであった為に、放課後に持ち越せたのだ。

 

「…ねぇ、ヤーレス。アンタがフィーを拒絶するなんて、どうしたのよ」

 

テストの空欄を埋め終えた当たりで、サラが話しかける。ヤーレスは昔馴染みであるサラに打ち明けた。

 

「…バトルファイトを楽しいと。戦いが…破壊が楽しいと……感じてしまった。俺は……いつ理性が本能に負けるか、ソレが不安で仕方ない」

 

自身の本心、友人であるからこそ打ち明けられる。教師と教え子ではなく、戦友として話をするヤーレス。

 

「…ねぇ、ヤーレス。あんただけなのよ、フィーが、あの子が真に心を開けるのは」

 

「ルドガーがいる」

 

「…死んでる人間にそんな事」

 

「……知らないのか」

 

「何?」

 

「いや、良い。テストは終わった、悪いな。今日はもう部活に行かせてもらう」

 

ヤーレスはあまり顔を出さないが、吹奏楽部に参加している。というのも、部員と差がありすぎて周りが、良い意味で聞き入ってしまうからだだが、今日だけは違った。

 

「ヤーレス君?!」

 

「ミント、ピアノをかしてくれ」

 

緑髪の同級生にそう言うと、ヤーレスは周りに部員を集める。

 

「…魔王を弾きます。お願いします、付き合って下さい」

 

エリオットもヤーレスの顔が沈んでいるのに気付く。

 

「わかったわ、任せなさい!」

 

部長の掛け声のもと、〘魔王〙の演奏が始まった。終わりなき悲しみが音楽に綴られながら学院を駆け巡る。誰もがその魔性の音楽に魅入られ、言葉を失う。ただ、虚しいという感情だけが音楽と友に人々の胸に刻まれた。

 

 

 




次は馬鹿との戦闘だ!どうなるんだぃ?
ダディアナザンナゼ!


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怒られる不死者

さぁ、ケッチャコ……


水曜日となり、全ての中間試験が終わった。廊下には結果が張り出され、皆が同じ気持ちを味わう。しかし、その中でもⅦ組のメンバーは皆が笑顔であった。

 

首席ヤーレス・フィーネ・アンファング 500点

 

次席エマ・ミルスティン 499点

 

次席マキアス・レーグニッツ 499点

 

4位ユーシス・アルバレア 498点

 

7位リィン・シュバルツァー 491点

 

8位アリサ・ラインフォルト 490点

 

上位10人中6名に名を連ね、17位にラウラ、20位にガイウス。25位にエリオット、36位にフィーが居る。フィーはまだ入学適正年齢でないにも関わらず、クラスメイト全員が40位内という快挙を成し遂げたのである。サラは嫌味な教頭にネチネチ言われない事、逆に『貴族生徒でありながらうちのクラスに負けてますね』と日頃の恨みを込めた毒を返すほどだ。

 

「はぁ…ラウラ、いい加減にしてくれないか?」

 

皆が揃った教室でヤーレスの重々しい口が開かれる。何があったのか、大体のクラスメイトは理解できていた。

 

「俺とフィーが人殺しなのがいやか?剣聖の娘」

 

「なっ…それは」

 

「いうが、フィーはまだ始めてを終わらせてないぜ。いや……2、3人は殺したか?まぁ、その程度だ。まぁ、別に良いがな。俺はもっと殺してる。お前みたいな餓鬼も、お前の親父みたいな男も、赤ん坊すら、ヒューマンアンデットが勝ったときなんか、面倒だったぜ。俺を殺しにくる奴らばっかりだ。お前、自分でも魔獣殺してるだろ?何を今更、人間を殺して悪いのか?決めたのは…お前らだ。俺はアンデット、お前達の法に従う理由は本来ない。まぁ、多様性とか……色々あるけどな。ラウラ、お前の考えだけを押し付けるのは止めとけ、そのうち死ぬぜ?」

 

ヤーレスはジョーカーとなると、殺気を放ちながら鎌をラウラの首を撫でるように動かした。恐怖、それだけだ。ラウラの中には今ジョーカーに対する恐怖しかない。

 

「ヤーレス、駄目。馬鹿!嫌い!このスカタン!」

 

しかし、そんなラウラを救ったのはフィーの口撃だった。なんだかんだ言いつつ、ヤーレスにとってフィーが第一である事に変わりなく、

 

「……お~い?ヤーレス??」

 

「ラウラへの殺気が嘘のようだ。リィン、ヤーレスは気絶しているぞ」

 

「……は?」

 

まるで愛娘に嫌われた様に絶望の表情の様な、虚無に沈んだ様に見えるジョーカーアンデット。

サラはそんなクラスに入って思った。

 

(あぁ、今日は彼奴の愚痴を聞かされるのか)

 

と。ただでさえ、アリサの関係者と呼べるシャロンが知らないうちに来ていて管理人しているのだ。因みにシャロンはヤーレスを知らないし、ヤーレスもシャロンを知らない。コレはサラとクラスメイトで決めた事である。出会えば面倒になるからだ。ヤーレス自身、この頃はバトルファイトでピリピリしているため、一人増えた事に気付いていない。

 

「……ん?いや、喋ってる」

 

「ぬしか…死ぬしか………」

 

「いや、お前は娘ラブの親父かよ!」

 

「馬鹿野郎!俺にとっては命よりも大切だ!」

 

「ならなんで突き放す!」

 

「怖いからだよ!大切なんだよ!でもな!俺はアンデット!もし、もし…傷つけたら……俺は俺を許せない!おまえ達もだ!友人だと思えるやつが西風以外に出来た!守ろうと思うのは……あ」

 

「へぇ……あの、西風の副長がねぇ……あの堅物君がねぇ~〜」

 

「終わった」

 

周りから暖かな視線を受けるヤーレス、恥ずかしくなっているのか頬は赤く染まっている。

 

「ねぇ、ヤーレス」

 

「フィー?」

 

ヤーレスが吐露した本心、それにラウラも飲まれる。というより、知っている。娘を溺愛する父親の様な姿、それが自身の父親と重なるのだ。

 

(…まだ、私は受け入れきれない。だが、いつかフィーと仲直り出来ると)

 

だが、今回できたヤーレスに対する恐怖が消える訳では無い。

 

「まぁ、始めるわよって言いたいんだけどヤーレス!」

 

「なんでしょう、サラお嬢様」

 

「巫山戯んじゃないわよ!このロリコンアンデット!」

 

「貴様!俺はロリコンではない!娘を愛でて何が悪い!こちたら800超えてんだぞ!」

 

「爺じゃない!兎に角ロリコンは休みよ!アンタに壊されちゃたまったもんじゃない!」

 

「まて!サラ!ロリコンはやめろ!俺を社会的に殺す気か!完全に猟兵以外なくなる!頼む!酒奢るから!倒れるまで飲んでいいから!」

 

「離れろ!気色悪い!」

 

「誰のせいだ!」

 

そんな二人のじゃれ付を見ていたフィーの目が曇った。銃剣を構えるとヤーレスの額に向けて一発の弾丸が放たれる。

 

「……」

 

「ヤーレス、お仕置き」

 

「フィー、あんたそれ」

 

「ヤーレスが作ってくれたアンデット用麻酔弾。試験運用してないからって言ってたけどこれなら………」

 

「フィー、ヤーレスはお前の父親代わりだろ?」

 

「マキアスは黙って。それに父親は団長、ヤーレスはお母さんでお兄ちゃん」

 

「……何故それを素直に言えぬのだお前は」

 

マキアス、ユーシスの言葉を受けたフィーはそっぽを向いてしまった。あまり突っ込んで欲しく無いのだろう。

 

「〜…あっっ……くっ?アレ……俺何してんだっけ?」

 

「ヤーレス、起きた?」

 

「あぁ、変な夢見てた。たったまま寝るなんてな、アンデットの名が廃るか?」

 

記憶が失われたかの様に欠伸をしながら列に並ぶヤーレスに周りは困惑の表情を浮かべる。

そして何事も無かったかのように武器を構える。

 

「えと、ヤーレスそれは?」

 

「あれ?ヤベ、間違えた」

 

腕だけジョーカーとなる器用な真似をしたヤーレス。エリオットに指摘されるまでそのまま戦う気だったのかもしれない。

 

「よし、それじゃあ始めるわよ」

 

サラの掛け声と共にリィン、マキアス、ガイウスの3人が武器を構えた。しかし、それを邪魔するかの如く声を上げた男がいた。

 

「面白そうなことをしてるじゃないか」

 

何処からともなくパトリックが取り巻きを引き連れて現れた。怪訝そうな顔をするサラやリィンたちを他所に、パトリックたちは不遜な顔で武器のレイピアを構えた。

 

「トマス教官の授業がちょうど自習となりましてね。せっかくだからクラス間の交流をしに参上しました。最近、目覚ましい活躍をしているⅦ組の諸君相手にね」

 

「…死にに来たか」

 

小声ながら殺気がこもった冷ややかな言葉がⅦ組を包む。ヤーレスは機嫌が悪いようで普段の優しい目はしていない。かと言っても、アンデットとして暴走したときの様な目ではない。煩わしい羽虫を

 

「と、取り敢えず、練習試合をしたいと言う事ですか?」

 

エマの言葉に頷くパトリック。

 

「ふん。察しがいいじゃないか。。そのカラクリも結構だが、たまには人間相手もいいだろう?僕達Ⅰ組の代表が君達の相手を務めてあげよう。フフ、真の帝国貴族の気概を君達に示してあげるためにもな」

 

「ふふふ…」

 

「ふふふ…」

 

「うわぁ…きっちり息が合ってるあたりにも隠しきれない小物臭が…」

 

アリサは呆れて物も言えないと言った表情をし、

ヤーレスに至っては懐から飲み物を取り出し飲んでいる。

 

「おい!ここで飲むやつがあるか!」

 

「………」

 

ヤーレスはゴミでも見るような視線を彼等に向ける。

 

「あっあの……ヤーレス様!その…その視線を!その目を!私に!」

 

取巻きというか見学しに来てきた貴族の女子生徒の一人がヤーレスに近付く、ヤーレスは基本的に女子生徒に人気が高い。それは貴族も平民も変わらない。

 

「…あっ」

 

ヤーレスは侮蔑の目を向けたままその貴族生徒の前に立つ。

 

「…キスは好きか?」

 

「は?」「え?」「なっ?!」「ヤーレス?」

 

女子生徒の顎をくいっと軽く上げ、その唇を奪おうとする瞬間で女子生徒は意識を失った。

 

「…眠ったか」

 

「…………ヤーレス?」

 

ヤーレスは貴族生徒を芝生の上に寝かせる。グラウンドよりも汚れは少ないと予想したからだ。そして上着を脱いで上にまるで布団の様に被せた。

 

「これ、紳士的なの?え?」

 

「コレは……シチュエーションとしては良いですが」

 

「ヤーレス、寝ぼけてるわね」

 

カリスアローを出現させたヤーレスは女子生徒に向けた視線と打って変わり、パトリック達に武器を構えるヤーレス。

 

「…死にたいようだな」

 

「待て!フィー!この馬鹿を止めるのを手伝え!コイツだけは関わらせるな!」

 

「もう!フィー!アンタさっきの弾丸無いわけ!」

 

「知らない!ヤーレスがくれただけだもん!」

 

今にも変身しようとするヤーレスをユーシス、サラ、フィーで抑え込む。

何もしれない存在に見せる訳には行かない為、なんとかヤーレスを寝かせるために動く。

 

「ヤーレス、団長の方が……格好いい」

 

フィーのその一言、ヤーレスは項垂れるように沈む。メンバーが飽きれる中、リィンをリーダーに

ガイウス、エリオット、マキアスの4人が代表としてその場に立った。

 

「?その男は出ないのか??」

 

「…止めておけ、お前達らが全員束になっても勝てん」

 

ガイウスは槍を、エリオットは導力杖を、マキアスは導力ショットガンを。そして、リィンは刀を構え、模擬戦が始まった。

 



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不死者とカリス

「え……弱い?」

「……コレが貴族生徒の力なのか?」

「……お前達、不甲斐ないな」

リィン、マキアス、エリオット、ガイウスの四人は対面する貴族生徒を圧倒し、瞬く間に勝利してしまった。


「なっ……なぜ、勝てないんだ!」

 

「……ちょっと、私も想定外なんだけど」

 

サラとしては貴族クラスの生徒に勝てるのは当たり前、課外授業と称して魔獣の討伐等もⅦ組は行っていた為だ。

 

「……アンデットのせいだな。彼らは人間にしては強くなった。彼等より強い者は確実にいる、サラ。お前よりも弱いが、それでも死する可能性の中で強くなった。それこそ、実戦をこなすことでお前が強くなったようにな」

 

「やな事思い出させないでよ」

 

ヤーレスをジト目で見るサラ、しかしヤーレスはその視線を気にすることなくじっと貴族生徒を見ている。

 

「舐めるなぁ!」

 

「マートン?!」

 

パトリックの取り巻きであるマートンは何処から手に入れたのかギャレンバックルを手にしていた。いや、持ち主は一人しかいない。

 

「……あのバカ教師、なんて物生徒に盗まれてんのよ」

 

「お前、その力の意味を理解しているのか」

 

「関係ない!お前たちを倒せさえすれば!」

 

《Turn UP》

 

現れるオリハルコンエレメント。通常、適合者でなければ通り抜ける事は不可能な品だが、元々このギャレンバックルはデッドコピー品であり、誰でも変身できるようになっている。

しかしラウズカードはケルベロスではなく、とある神が作り出した第二のチェンジスタッグである。

 

「ぐっぉぉおま…ろ…くは…クハハハ!!!」

 

「……貴様、スタッグビートルアンデットだな」

 

「なんだと?!」

 

「…サラ、ここからは俺の仕事だ。ガキ共を避難させろ」

 

「まて、ヤーレス!!御主は」

 

「ラウラ、邪魔なんだよ。さっさと雑魚は消えやがれ!!」

 

《CHANGE》

 

カリスラウザーにチェンジマンティスがラウズされると、ヤーレスは仮面ライダーカリスへと変身した。

 

「来い、ジョーカーーー!!!!」

 

子供の声ではない、酷く濁った声がギャレンから聞こえてくる。

ギャレンラウザーから無慈悲な弾丸がばら撒かれる。

 

「きゃぁぁぁぁ!!!!」

 

「エマ!」

 

その弾丸の一部がエマに飛んでいく。

 

《REFLECT》

 

「はぁ!」

 

エマにリフレクトモスをラウズしたフォースアローが当たる。すると、エマを守るようにシールドが形成された。

 

「ヤーレスさん?!」

 

「貴様……俺が守ろうとしている者達に攻撃するとは……覚悟はできているのだろうな!!!」

 

「知るか!」

 

《FIRE》《BULLET》

 

ファイアフライとバレットアルマジロをラウズするギャレン。そして、カードコンボによる一撃がカリスに放たれた。

 

《ファイアバレット》

 

しかし、カリスもトルネードホークをラウズする。そして、放たれたフォースアロー。

しかし、

 

「何……何故、何故だ。貴様……一体、一体何処でそんなものを」

 

それはヤーレスは知識上で知っている。それが存在する事に関する驚愕と、それを同時に盗まれた

タチバナへの怒りを覚える。

 

《アブゾーバー》

 

それはギャレンとブレイドのみに許された強化アイテム。ラウズアブゾーバーだった。

 

《ABZORBQUEEN》

 

《FUSIONJACS》

 

「はぁ……良いもんだな。強くなった」

 

「舐めるなよ、ジャックフォームなら俺も」

 

「許すと思うか!」

 

カリスがラウズする時間を許さず無慈悲な射撃を続けるギャレンジャックフォーム。

 

「ならば!」 

 

カリスもカリスアローでギャレンに斬りかかるが、ギャレンはそれをギャレンラウザーの銃剣で弾く。

 

「なんだと?!」

 

「舐めるなよ…だったか……じゃあな、ジョーカー」

 

カリスの胴体に銃剣が突き刺さる。

 

「ぐっ……貴様…………」

 

《FIRE》《RAPID》《BULLET》

 

《バーニングショット》

 

3枚のカードコンボによる必殺技がカリスの肉体に無慈悲に襲いかかる。

カリスクレストから黄金の輝きは消え、その場に倒れた。

 

「ヤーレス!!!!」

 

「ヤーレスが……負けた?」

 

Ⅶ組のメンバーはヤーレスの敗北を受け入れられていなかった。特にフィーはギャレンがまだ居るというのにカリスに近付いた。

 

「起きてよ……起きてよ………起きろ!ヤーレス!」

 

涙を流しながらフィーはカリスを何度も叩く。

しかし、カリスは指一本動かす事はない。

 

「ジョーカー、死ね」

 

「させない!」

 

フィーはギャレンに向けて銃剣を撃つがまるでダメージが入らない。

 

「死ね、人間」

 

ギャレンが銃剣をフィーに振り下ろそうとした瞬間、フィーは目を瞑った。しかし、一項に振り下ろされる気配はない。だが、生暖かい液体がピタピタと頬に垂れてくる。

 

「貴様!」

 

「この子に……触れるなァァァァ!!!!」

 

それは咆哮だった。ギャレンを吹き飛ばし、カリスの姿は消えた。赤黒く光る悪魔、進化したヤーレスジョーカーだ。

 

「お前、いい加減にしろよ」

 

ヤーレスジョーカーの腕から刃が伸びる。

 

「何だそれは!」

 

ギャレンラウザーの銃剣を容易く砕き、ギャレンの胴体すら斬り裂いた。火花が飛び散り、地面を転がるギャレン。しかし、ヤーレスジョーカーは

止まらない。

 

「ウォォォォォ!!!!」

 

ギャレンの首を掴むと上空に打ち上げる。ヤーレスジョーカーは同じ高さまで飛ぶと、ギャレンを連続して斬りつけた。

 

「アァァァァ!!!!」

 

そして、地面に叩きつける。ヨロヨロと立ち上がるギャレン、そしてヤーレスジョーカーは着地するとエネルギーを腕の刃に送る。

 

「ハァァァ!!!」

 

名付けるなら、ジョーカーカッティング。

刃によって切り裂かれたギャレンはその場で爆発を起こすと変身を解いて倒れた。

 

「……ふぅ…」

 

落ち着かせるように呼吸し、血を払う様に刃を振る。そして、ヤーレスジョーカーはスピリットをラウズした。

 

《SPIRITE》

 

緑の血を流しながらも、ヤーレスは倒れた貴族生徒であるマートンを見る。

殺すべきだと、仕留めるべきだと。本能が叫んだ、殺さなければこの少年は永遠にアンデットに支配されたままだと。

 

「…無様な自分を恨むんだな」

 

「よせ、何をする気だ」

 

「タチバナか、アンデットに精神を持っていかれた存在は死ぬまでアンデットだ。ならば、解放してやるべきだ」

 

「他に方法はないのか」

 

「無いな、殺すしかない」

 

「……なら、俺がやる。俺が殺せば、アンデットの処理で済ませられる」

 

「待ってください!それでも…」

 

「リィン、救える命と救えない命を履き違えるな」

 

「……変身」

 

《Turn up》

 

チェンジスタッグを再装填したギャレンバックルからオリハルコンエレメントが現れる。

それをタチバナはゆっくりと通過した。

 

「俺の罪だ……俺が………背負うための」

 

もうすでにスタッグビートルアンデッドの意識はカードにはない。灰色となったチェンジスタッグでは、まともな力は出せない。だが…問題ない。

 

《DROP》《FIRE》《GEMINI》

 

《バーニングディバイド》

 

「待て…きさまぁァァァ」

 

マートンの姿が完全なアンデッドへと変貌を遂げた。だが、姿だけだとタチバナは理解する。

ヤーレスに倒されたせいか力もろくに戻っていないのだろう。

 

「終わりだ、アンデッド!!!!」

 

スタッグビートルアンデッドにバーニングディバイドが当たる。スタッグビートルアンデッドは校庭で再び激しい爆発を起こすと、その場に倒れ込んだ。

 

「再封印してやる」

 

タチバナはチェンジスタッグをスタッグビートルアンデッドに投げると色が戻ったチェンジスタッグが手元に戻った。

 

「マートン!マートン!!」

 

気絶いや、絶命したマートンを貴族生徒達は揺らし起こそうとするが、パトリックはじっとヤーレスを見つめていた。

 

「……アンデッド、君達は何度も戦っていたのか」

 

「そうだ、Ⅶ組のメンバーは何度もアンデッドと戦闘を繰り返した。死に近づき、絶望を何度も見た。パトリック、お前の故郷のセントアークでもアンデッドが多大な被害を出した。人が死に、戦わなければ生き残れない状況だ。俺達は、生き延びた、闘ってな。お前たちの様に生温い状況でないさ」

 

その言葉にパトリックは傷ついた様子はない、

 

「また…君たちに挑戦する」

 

そう告げるとパトリックは取り巻きを連れて校舎に戻った。

 

「……リィン様どうやら、パトリック氏の闘志に火が灯ったようですね」

 

「……ヤーレス、その話し方止めてくれ」

 

なんともしまらない、リィンはそう思う。だが、ヤーレスとタチバナを直視できない。

二人は命の切り捨てができた、自分もそうなるのかと、リィンの中で上手く言えない何かが渦巻いた。



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旅する不死者―――の大地1

マートンの一件はお咎め無しで終わった。
緘口令が敷かれ、マートンという生徒はアンデッドに殺されたという結果になる。
家族達にどう伝わるのか、それは誰にもわからない。確かなのは、復讐を考えれば死ぬのは彼等という事だ。

「ヤーレス様、休まれても宜しいのですよ」

「いえいえシャロン様、私めはシュヴァルツァー家に使える使用人でして、お暇を頂かない限りこの第三学生寮の使用人でもあります」

それはほぼ毎日起きる争いだった。
あたりは氷河に包まれ、出される料理の味すらわからなくなるほどの。

(もう……嫌だ、ヤーレス止めてくれ)

(シャロン……もう、恥ずかしい)

二人の使用人の無意味な争いは続くのだ。


「…ふっ、クルーガー女史は流石ですね。しかし、男子生徒の制服類まで洗濯するのは如何かと」

 

「いえ、私は使用人ですので、このような区別は必要ありません」

 

「えぇ、しかし彼等も男。恥ずかしいと感じる物はあります。勿論、私も女子生徒の下着類等は別にしてもらい業者に依頼しようかととも思いましたが……」

 

「使用人が手伝いを貰うとは…いえいえ、他家の使用人の事ですからね」

 

ヤーレスとシャロン、もとより二人は関わることなど無いはずだった。

しかし、なんの因果かシャロンは第三学生寮で管理人として共に過ごすと言い出したのだ。

勿論、普段から第三学生寮の管理人をしているヤーレスは立場を取られる事になる。

 

「いい加減にしてくれ!」「いい加減にして!」

 

ここで言葉を出したのは二人の主だった。

 

「ヤーレス、お前半分使用人とか忘れてるだろ!」

 

「いえ。ソンナコトハアリマセンヨ。タダ、女難二苛マレル、若様ガオカシイ……失礼」

 

「ヤーレス?!」

 

「シャロン!ヤーレスさんは私達の御飯とかも作ってくれて」

 

「お嬢様、可愛らしい事は宜しいのですがほっぺたに先程のムースケーキが付いています」

 

「!」

 

この使用人たち、共に良い性格をしているのだ。

 

「それに、私。別にヤーレス様を嫌ってはいませんよ」

 

「私も、シャロン女史を嫌ってはいません。むしろ、洗濯や女子生徒関連では感謝しています」

 

「私も、ヤーレス様には男子生徒関連でお世話になっています」

 

「なら、なんで二人が毎回そんな」

 

「……何故って、くっ………」

 

「彼は羨ましがっておりました。お嬢様を幼子の頃から知るというのは使用人として付き合いが長い、まさに家族であると」

 

「私もそれ程ながければ、若様の恥ずかしいエピソードの一つやふた」

 

「……えぇ、例えば」

 

「やめてくれ!!」「やめて!!!」

 

こうして、二人の関係が単なる勘違いだと周囲は知ったのだ。

だが、深夜誰もが寝静まった夜トリスタのベンチに二人の影がある。

 

「……死線のクルーガーがなんのマネだ、今朝のは助かったが」

 

「私としては貴方の方が不思議です、盟主だけでなく聖女様からも」

 

シャロン・クルーガー、いや死線のクルーガー。

ヤーレスは猟兵時代、彼等身喰らう蛇

〘ウロボロス〙と何度かやり合っている。

だからこそ知っている、シャロンの正体すら。

だからこそ知られている、ヤーレスの正体を。

 

「……私はお嬢様のメイドです」

 

「……良いだろう、敵対するなら殺すだけだ」

 

実力はシャロンを越えているヤーレス。

組織はここでシャロンが死んでも行動は起こさないだろう。

 

「じゃあな、俺は寝る」

 

ヤーレスは一人静かに第三学生寮に戻った。

 

「………ヤーレス、何処にいたの」

 

「フィー」

 

鍵をかけていたはずだが、どうやらピッキングされたようだ。壊れていない事を確認する。

 

「すこし、釘を差しただけだ。それよりも、フィー。部屋に」

 

「やだ」

 

フィーはヤーレスに抱き着くとそのままベッドに押し倒す。

 

「一緒に寝て」

 

「どうした、怖い夢でも」

 

「……ヤーレス、消えないよね」

 

ヤーレスは言葉を出せない、だからこそフィーを抱きしめた。

 

「今日はもう寝よう、フィー」

 

「ん」

 

フィーは抱き締められる息苦しさを感じながらも、ヤーレスの鼓動に耳を傾ける。

何度も何度も聴いてきた鼓動、兄であり、母親代わりの大切な人。

 

「私が…守るから」

 

それはヤーレスにも確かに届いた。

 

(そんな必要、無いのにな)

 

「……」

 

(俺は…あとどれだけ共に居られる)

 

その答えを俺は知らない。

俺はジョーカー……第三のジョーカーアンデッド。既に本能が覚醒し始めている、このまま行けば自分自身が厄災となるのは目に見えている。

だが……ソレでも、俺は共に居たい。

 

 

 

――――

翌日、今回の場所の説明は教室で行われた。

と言っても、課業後のホームルームでだ。

 

「前の事が一大事過ぎて渡しそこねた実習先の資料と班分けよ、確認して」

 

そこには3班に別れてある資料、大きく

 

C班 クロスベル

ヤーレス・フィーネ・アンファング

 

とフルネームで記入されている。

 

「クロスベル?何故だ」

 

「さぁね、今回のそれは私は関与してないし判んないわよ。兎に角、ヤーレスは書かれた内容的に今夜から出発して貰うわよ」

 

「……わかった、宿はどうするか……いや、そうだな」

 

そして俺は荷造りし、トリスタ駅に向かう。

 

「…ヤーレス」

 

「ごめんな、フィー。一人で寝ろよ?好き嫌いするなよ?布団は被れよ?寂しくなったらエマや」

 

「……うざい」

 

「フィー、ソナタはヤーレスが記憶戻ったあたりから容赦なくないか?」

 

「ラウラ、ヤーレスは良い。てか、こんなのばっかりだった」

 

ラウラの見たフィーは笑っていた。

年相応の少女らしい笑顔で、そして最強の猟兵団西風の旅団の副団長がこれなのだからと、フィーに甘いガタイの良い男達を想像する。

 

「……西風とは犯罪者の集まりでは?」

 

「ラウラ、大丈夫。皆、まともだった」

 

どうやらフィーも同じだったらしく、喧嘩も忘れて笑ってしまった。

 

「ほらさっさと行け!」

 

「何かあれば呼べよ!クロスベルから飛んでくるからな!」

 

「何故だろう、ヤーレスなら飛べる気がする」

 

「エリオット……流石に空は………呼べないよな?」

 

 

 

 

――――

ガタゴトと列車に揺られながらクロスベルに向かう。寝台なのはありがたい。

 

「クロスベルか……あいつ等への土産はみっしぃで良いとして……服は駄目かこれ」

 

それはトールズの制服ではなく、西風の制服であった。黒く、そして背にカリスアローを背負っている。

 

「偶にはいいか」

 

ゆっくりと眠り、翌日に備える。

シャワーも完備している個室タイプ。

移動費は自腹だ、問題ない。

 

「ふぅ……何もないと良いな」

 

 

 

――――

クロスベルは活気に溢れていた。

俺の貰ったレポート内容はずさんな物だ。

 

〘クロスベルで一週間自由に過ごせ〙

 

「っても、どうすりゃ良いんだよ……」

 

俺がクロスベルの地図を頭に被せてベンチに座っていると桃色髪の少女が話しかけてきた。

 

「あの……大丈夫ですか?」

 

「あ……大丈夫だ、嬢ちゃん。ありがとうな」

 

嫌な予感がするからと離れてみると案の定捕まった。

 

「それは大丈夫じゃない人が言うんです!」

 

「ちょっ…力つえーなおい!」

 

「取り敢えず、警察署に!!!」

 

「待って!」

 

なんて会話をしてたら栗毛の青年も来た。

 

「あれ?ユウナ、何を」

 

「待ってくれ、警察にはちょっと行きたくない!!」

 

「駄目ですよ!」

 

「すみません、ロイド・バニングスです。署までご同行願います」

 

「……なんでよ」

 

道すがら話していると警察署ではなく、別の場所に向かうことになった。

 

 

―――

 

「はぁ……あの、つまり言えば大の大人が道に迷って恥ずかしく、……まぁ、判らなくはないですけど」

 

「だろう?あんた、いい人だな。勿論、嬢ちゃんも」

 

ロイドとユウナは目の前のジャケットの男性が中々に面白い人なんだと思う。

 

「それに……クロスベルなら俺の知り合いがいるはずなんだ」

 

「誰です?」

 

「ガルシア・ロッシ」

 

「それってルバーチェの」

 

「あぁ……確かそんなマフィアになったとか聞いたな」

 

「あの……すみませんが、貴方は」

 

「ヤーレス、奴の古巣の仲間だよ」

 

それはロイドだからこそ理解できた。

 

「……猟兵ですか」

 

「元……な」

 

ユウナは驚き、ロイドはうなずく。

 

「何処に居るか知ってるか?もう…何人になるか10年以上会ってない」

 

「ガルシアは」

 

 

ロイドからの言葉はヤーレスが驚くには十分だ。逮捕された挙げ句、自分が逮捕したと名乗りあげるのだから。

 

「……そうか、すまない。俺の元部下がとんだご迷惑を」

 

「あの…ヤーレスさんは」

 

「そっか、警察学校生だもんな。それしか知らなかった、生きるための金だ。その生きるための金を稼ぐために殺す。昔はそうだったな」

 

ヤーレスの頭には朴念仁な若や大切な娘、友人達が浮かぶ。

 

「あの、会えるかわかりませんが打診してみます。面会なら」

 

「……ありがとう」

 

ヤーレスは心から感謝を告げた。

 

「あの、ランディ・オルランドって」

 

「若造も居るのか」

 

まるで老人のように懐かしむ姿に驚きつつ、ロイドはエニグマにて連絡を取った。

 

「そいつは……」

 

「あの、エプスタイン財団の」

 

「俺のはラインフォルト社製らしい。どこも新型だらけだ」

 

ユウナはだんだんと話している相手が老人なのではと思い始める。

数時間後、剽軽そうな赤髪の男が来る。

 

「ったく、何だよ………ロイド、お前」

 

「ヤーレス・クラウゼルさんだ」

 

「若造、良い仲間に出会えたみたいだな」

 

「………」

 

「何だよ」

 

「憎んでないのかよ」

 

「あのなぁ……気にすんなよ。俺は気にしない」

 

ヤーレスは笑いながら話す。そして、

 

「実はな、今宿すら無い。何処か、いい場所知らないか?」

 

「アンタ、何時から地図も見れなくなったんだ」

 

そんなヤーレスを3人は笑ってみていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




という事で、
旅する不死者クロスベルの大地です。
ノルドでも、ブリオニア島でも無くクロスベル。
此時のクロスベルは空白期間ですが、ロイドは確実に居たはずですし、ユウナがいてもおかしくない。訓練してたランディなら、来てくれるはず、という訳で

臨時の特務支援課
ロイド・バニングス
ランディ・オルランド
ユウナ・クロフォード
ヤーレス・クラウゼル

活動開始です!


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旅する不死者クロスベルの大地2

「満員……まじで」

ヤーレスの宿を取るため4人はクロスベル中を歩き回ったが、何故かどこも空いていない。

「うん……ねぇな」


「って事でここに1週間滞在か?ロイド、空部屋ねえだろ」

 

「あはは……」

 

「床で寝るさ、雨風しのげりゃ別に良いしな」

 

「まったく、変わらねぇな。アンタは」

 

「お前は丸くなったが……今の方が良いぜ。何度も何度も殺しに来る若造よりもな」

 

ヤーレスはセルゲイ、ロイド、キーア、ユウナ、ユウナの家族である母リナ、双子の弟妹のケンとナナ、ランディの8人と食卓を囲んでいる。

 

「しっかし…まさか……鳳翼館の演奏家が伝説の猟兵だとは……料理の腕も一流だし」

 

「本当に……ヤーレスさん、レシピって教えて頂いても」

 

「良いですよ、時間はありますから」

 

「もう、お母さん」

 

ユウナはそう言いながらも食べる手は止まっていない。

 

「……ねぇ、ヤーレス。ヤーレスは何で《人間の真似事》してるの?」

 

それは全員が食事を止めるには十分だった。

ロイドはキーアから出た言葉を未だに信じられない。

 

「はぁ……何年ぶりだ?」

 

「判らない、でも……貴方を知ってる気がする」

 

「おい、それってヤーレスのおっさんはまじで」

 

「……遙か昔の話をしよう。世界の覇権を握る54のアンデッドによるバトルファイト。そこに55体目のアンデッド、第三のジョーカーが乱入した。ヒューマンアンデッドが勝利したが、結局は第三のジョーカーに封印された。しかし、アンデッドは定期的に蘇り、その度に第三のジョーカーが食い止めるのを繰り返す」

 

「創世神話……特務支援課、俺の正体を見て……どう思うかな」

 

ヤーレスはその身体を変化させる、赤黒い光沢を放つ外殻を持ったアンデッド。ヤーレスジョーカーとなる。

 

「かっこいい!お兄ちゃん!格好いいよ!!」

 

皆が固まる中で、幼いケンはヤーレスジョーカーを格好いいと褒める。

 

「格好いい?格好いいか!よし、よしよしよし」

 

ヤーレスジョーカーは嬉しいのかケンを肩車している。

 

「すげぇ……」

 

「なんか……拍子抜けだな」

 

「あの姿見たら……な?」

 

「ちょっと!ケン!ヤーレスさんに迷惑かけちゃダメ!!」

 

「お兄ちゃん、私もやって!」

 

「ナナ?!」

 

「あらあら」

 

「ロイド、キーアも駄目かな」

 

「子供受けは良いんだな」

 

セルゲイは苦笑いをする。

 

「よし、もっと格好いいのを見せてやる」

「変身!」

 

〘CHANGE〙

 

チェンジマンティスをラウズし、カリスに変身するヤーレス。ソレを見たロイドすら目を輝かせる。

 

「すっ…すげぇ……あの、どうやって」

 

「いや…ジョーカーアンデッドの力なんだよね」

 

「アンタ、子供には普通に見せるのな」

 

「なんだよ、若造」

 

「俺とやり合った時はカードすら使わなかったのに」

 

「当時はお前の親父から鍛え上げろとか、頼まれたしな。覚えてないか?ルドガー、俺、闘神とで仲良く飲んでたの」

 

大人も笑うような話が続く、夜も更けてきた頃子供達は眠り始める。

 

「流石に話しすぎたか?」

 

「ケンもナナも疲れちゃったみたいです。あの…お話、ありがとうございました」

 

優しい言葉でお開きとなる夜、ヤーレスは食器をロイド、キーアと共に片付けていた。

 

「……!」

 

パリン

 

床に一枚の皿が落ちる、そして砕けた破片がヤーレスの足を切ると緑の血が流れる。

 

「なぜ………クロスベルに」

 

帝国ではない、ここは異国なのだ。

にも関わらず、気配がする。

バトルファイトは帝国で行われる筈なのに。

 

「ヤーレスさん、何か」 

 

「ロイド、キーアを守れ。良いな」

 

ヤーレスはカリスアローを出現させると外へと飛び出す。

 

「ヤーレスさん!」

 

「この気配は………」

 

〘CHANGE〙

 

ヤーレスはチェンジマンティスをラウズすると飛び上がる。家屋を駆け、星見の塔とよばれる地に向かう。魔獣を倒し、最上階に進む。

 

「……来たか」

 

「だまりなさい!」

 

それは二人の影である。

白いジョーカーと巨大なランスを持った白き女騎士。

 

「……まさか、貴女が生きていたなんてね、リアンヌ」

 

「……封印します、今ここで貴女に出てこられては世界が終る」

 

二人の戦士は同時にぶつかり合い、火花を散らす。

そこに異音が響く。

 

〘BLISSARD〙

 

ブリザードポーラーをラウズしたヤーレスのポーラーブリザードで二人の足場が凍る。

しかし、歴戦の戦士てある二人には無意味なことだ。

 

「……アルビノジョーカー」

 

月光でより鮮明に白き光沢が見えるジョーカーアンデッド。アルビノジョーカー。

カリスはフォースアローをじっと構える。

 

「久し振りの再開ですが、貴方は私に何もなしですか」

 

「息子に会え、本当の母親と名乗れ」

 

「馬鹿な!あの子の母親はカー…というより、何故知っているのです!!」

 

「……思い出したんだよ、時折感じたドス黒い気配をな。死なせてやれば良かったものを」

 

「貴方は……貴方は何故、そうも」

 

「死なせてやる優しさも必要だ!これからどれだけの苦難に巻き込まれるか!」

 

「ですが…コレは」

 

「ですがじゃねぇ……お前は」

 

「ドライケルスに言えるものか!打ち明けられたのも、死する寸前で」

 

「…俺は元々目覚めちまった数体のアンデッドの封印の為に動いてただけだ、別にドライケルスに思い入れもない」

 

「貴様は!」

 

「ちっ!お前!!」

 

カリスは振るわれたランスをカリスアローで防ぐ。女騎士!いやリアンヌは今怒りに任せてランスを振るっていた。

 

「くそ……アルビノジョーカーを倒すのが先決だろうが!」

 

「ドライケルスを……あの子を侮辱したことは許しません!」

 

「ちぃ…何故リィンまでの侮辱になる!そんなに心配なら、母親として過ごせば良かっただろうが!!」

 

火花が散りながら、カリスとリアンヌは向かい合う。その目は怒りを持ちながら武人として実に冷静だった。

 

「あの子の母親はカーシャと男爵夫人だけです。私は……」

 

「ちぃ……人間じゃないからか?甘ったれるなァァァ!!!」

 

《ABSORBQUEEN》《FUSIONJACK》

 

カリスの姿が変わる。シャドウブレス、ショルダーブレスの色が金色に染まり、カリス・クレストは赤く燃える。そして、昆虫の様な翼が背中のインセクトアーマーの位置から現れた。仮面ライダーカリスジャックフォーム。

 

「はぁ!くそ……お前と戦う旨味はない!アルビノジョーカーの方に」

 

「逃さない!ゴキブリ!!」

 

「お前言ってはイケナイコトをぉぉぉ!!!許さねぇぞ、ショタコン女ぁぁぁぁぁ!!」

 

「なっ!リィンを……あの子を見守ることは必要です!猟兵として生きていたロリコンに言われる由縁はない!」

 

「フィーは妹であり、娘だ!てめぇ……」

 

話す内容は低俗なものであるが打ち合いは既に音速を超えている。

 

「……えっと、私はどうすれば」

 

「「待ってろ!!!」」

 

「はひ」

 

アルビノジョーカーは逃げられない、たとえ自身を蝕むレベルの攻撃が飛んでこようとも。

 

「聖技グランドクロス」

 

「舐めるなぁ!」 

 

〘HEART ACE〙

〘HEART THREE〙

〘HEART JAC〙

〘HEART NINE〙

〘HEART TEN〙

 

〘FLASH〙

 

フラッシュのカードコンボにより、エネルギーがカリスアローに纏われる。

カリスは飛び上がるとリアンヌに向けて突撃をする。

 

「「はぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

その日、星見の塔で巨大な爆炎が上がったのだ。

 

「……まじかぁ……まだ完全じゃねぇ………」

 

装甲が砕け、緑色の血が溢れる。

ソレをヤーレスは無表情で眺めていた。

 

「完全体ではないのですか」

 

「力も……記憶も失ってる…やっとだよ。思いだし始めた。なぁ、リアンヌ。この世界、お前から見て美しいか?」

 

「……えぇ、美しいです」

 

「アルビノジョーカー、お前、世界滅ぼす気があるか?」

 

「……私も、ジョーカーも、そんなつもりはないさ。まぁ、バトルファイトを終わらせようとはしてるけどね。でなきゃ、人間に化けるなんてしないわよ」

 

「……そうだな」

 

「……取り敢えずだ、てめぇは消えろ」

 

「言われなくとも、貴男と出会ったのは偶然ですので」

 

「むかつく、歳下の分際で大人ぶりやがって小娘が」

 

「いつか私が仕留めます」

 

「取り敢えずだ、リィンに母親と呼ばれてみろ。嬉しいだろ、惚れてたドライケルスとの子だぞ?」

 

「……殺します」

 

リアンヌは最後に一撃を与えて闇に消える。

 

「んで、アルビノ野郎。てめぇはこっちだ」

 

「……ジョーカー。僕は死ぬだろうね」

 

殺さねぇよ?取り敢えず、警察とお話しようか。

 

 



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旅する不死者クロスベルの大地3

アルビノジョーカーは嫌気が差していた。
再開したヤーレスジョーカーの変わりように驚いているのだ。
かつては問答無用で殺しに来たうえ、封印もされた。
にも関わらず、今のヤーレスは何と

「あの小娘ぇ……人をロリコンだと?想い人の転生体とその息子に並々ならない気持抱いてるお前の方はどうなんだよって話だろうが!それに!こちたら、行方不明のドラ息子共が変な事してないか、兄弟の墓は何処かとか調べなきゃ行けねぇし、おい…聞いてるか」

「うん、取り敢えず特務支援課のビルに行こうよ」

「待て、まだ話は!」




「………もうやだぁ」

 

「……死ぬか?」

 

「もっとやだぁ!」

 

ヤーレスはアルビノジョーカーを連れて、特務支援課のビルへと訪れた。

途中、何故かユウナをアルビノジョーカーが呼びに行くという事があり、行きは1人で帰りは3人、という状況だ。

 

「えっと、何でヤーレスさんとシュネーさんが一緒にいるんですか?」

 

「ん?ユウナはこのクソ野郎と知り合いなのか?」

 

「クソ野郎って、口悪いですよヤーレスさん。このシュネーさんは6年前から生活してますよ、警察官として」

 

「……まじか?」

 

「あぁ、シュネーは巡査部長だけど」

 

「コイツはアルビノジョーカー、人類の敵だぞ?」

 

ヤーレスはカリスアローを出現させるとシュネーの首に当てる。

傷ついた皮膚からは緑色の血が流れ、その身が人間でない、アンデットである証明になる。

 

「そう、破壊と創生を司るジョーカー。その片割れよ、でも安心してよ。私達の目的は……バトルファイトを終わらせる事だから」

 

「……信じられんな、お前の様な存在は即座に封印」

 

「話を聞いてよ!私はね!私を助けてくれたこの子の為にクロスベルに居るの!貴方なら判るでしょ!」

 

「え?」

 

「そうね、まだ9歳だったもの。それに、あの時は血塗れだったし、身体も違った」

 

そう言いながらシュネーはより、20代後半から40代後半の姿になる。

 

「あの時の」

 

「クロスベル街道でジョーカーと戦って負けた私を助けてくれた少女、その子の為にクロスベルに居る!私はね、ユウナとその家族の為にこの命を使うと決めた!それが、それがアンデットである私が出来る恩返し、判るでしょ!西風で人間と家族として生きていた貴方なら!私にとって、クロスベルの皆は家族なの!私は、この家族を守りたい!」

 

「………つまりか、ジョーカーはまだ」

 

「判らないわよ、ただ教えてあげるわ。今回のバトルファイトは何かおかしい、私だけじゃない、お願い、話を」

 

ヤーレスはカリスアローを消滅させると、セルゲイ、ロイド、キーア、ランドルフを見る。

 

「……俺はシュネー先輩の人なりは知ってます。信用できる人です」

 

「俺もだ、シュネーは信用できる。たとて人じゃなくてもな」

 

「ロイド、セルゲイさん」

 

「なぁ、ヤーレスのおっさん。俺は仲間を信じるぜ」

 

ヤーレスは椅子に座ると話し合いを始める。

 

「特務支援課も聞く必要がある、クロスベルの事でもあるんだからな」

 

「……ありがとう!サードジョーカー」

 

「…黙れ、俺はヤーレスだ。シュネー」

 

それは、拒絶ではなく、自身と同じ存在だと認めた証である。ライズと同じなのだ、人間として幸せを掴もうとしている。

 

「お前が人類の味方だとして、ジョーカーは」

 

「待ってくれ、俺達にもバトルファイトについて」

 

「そうね、まずバトルファイトとは神話からも、歴史からも消された真の闇。女神によって作られた52の種族達の祖となるアンデットと、世界の創生と破壊を司る2体のジョーカーアンデットによる闘い。それがバトルファイトなの」

 

「トランプとは」

 

「トランプ自体がバトルファイトを下にして作られたの、カラーと黒白のジョーカー、そして4つのスートと13枚のカード、驚いたわよ。目が覚めたらこんなお遊びに私達が使われていたんだから」

 

「トランプの起源は知らんが、ラウズカードで遊ばれていたんだ。あの時のアンデット達の怒りは酷かった。自分の尊厳を捨てられている様な物だ。だが、ポーカーアレは、恐ろしい」

 

「あぁ、カードコンボだったか。当時の奴等が創り出したライダーシステム」

 

「まぁ、俺はカリスとして戦っていたがな」

 

「驚きていたさ、マンティスアンデッドが2体も。最初は3体目のジョーカーだったくせに」

 

懐かしむように話す二人に周りは実は良い仲なのではないかと思い始める。

 

「兎に角だ、アンデットは人間が勝てる相手じゃない、いくら腕に自身があってもライダーシステム使うかしないと倒せないって訳だな」

 

「えぇ、どのアンデットも祖として強い。通常の人間なら殺されてしまうが、まぁ……人外レベルの強者が居るんだよねぇ……一部には」

 

「例を上げるならお前の親父と叔父、あと俺等の団長だ」

 

「……あぁ」

 

ランドルフは赤毛を掻きながら頷く。

今の人間はかつての人間よりも技術では劣っているが、個人の力という意味では狂っている者達が多い印象を受けてしまう。

無論、眼の前のランドルフも例外ではないが。

 

「んで、俺はクロスベルでやることはガルシアにあってぶっ叩いて、よぉ!って挨拶する位だ」

 

「本当に何も計画してなかったんですね」

 

「まぁな……なんつうか………俺が仕事できすぎるから休暇言い渡されたぐらいだし」

 

「しっかし、こんな時間まで悪かったな」

 

クロスベルも真夜中ともなれば歓楽街以外は暗い。街灯が照らしてはいるが、その程度だ。

 

「ふわぁぁぁ」

 

「キーアの嬢ちゃんはオネムか、ユウナ、お前は俺とシュネー、どっちに」

 

「私が送るわよ、手を出さないでよね!」

 

「はいはい」

 

「おっ?なら、おっさん、俺達で夜の街にでも」

 

「ランディ!」「ランデ先輩!」

 

「悪かったよ」

 

「ハハハッ、坊主。女ってのはてめぇの色気によってくるのさ。それに、お前を憎からず思ってくれてる女がいんじゃねぇのか?」

 

「止めろよ、おっさん、くそ……その見た目で言われちゃきちいな」

 

「え!見た目変わって?!」

 

老化させ、ランドルフの姿よりも年老いたヤーレス。だが……その肉体はより引き締まり、相手に威圧感を与える風貌へと変わる。 

 

「さてだ、夜の街も嫌いじゃない。良い飲み屋教えろや、奢ってやるからよ」

 

「まじかよ、太っ腹だな」

 

「ロイドも来な、聞かせてくれや。コイツの警察としての働きをな」

 

ヤーレスにとっても、ランドルフは子供の頃から殺し合いをしてきた知り合いである。

時に同じ陣営で戦い、時に殺し合う。

だが、いざ戦場から離れれば共に酒を飲む仲なのだ。

 

「キーアは任せろ、お前たちは積もる話があるんだろ」

 

「課長、ありがとうございます」

 

そして、ロイド、ランドルフ、ヤーレスの3人は夜のクロスベルを歩いている。

 

「……おっさん、気付いてるよな」

 

「……ったく、なんで行く先々でトラブルが来るんだろうな」

 

あからさまな敵意、ヤーレス達を監視するような気配。

 

「ランディ、ヤーレスさん、此方に」

 

ロイドが案内したのはクロスベル・ジオフロントへの入り口だ。

 

「……挨拶してやるさ」

 

ジオフロントに入れば、一本道であった。

ある程度進んだ先に、3人は罠を張る。

 

「まず、殺さない、気絶させる、情報をえる」

 

「大丈夫だ、殺さない戦いも慣れている」

 

「やるぞ、おっさん」

 

3人を追いかけて来たと思える5人程の青年、犯罪者というよりも一般人に見える。

 

「俺を探しているのか」

 

「!」

 

逃げようとするが、正面通路をヤーレス。

背後の通路をロイドとランドルフに塞がれる。

 

「まったく、その動き諜報員だな」

 

「だまれ、倒すだけだ」

 

「…クロスベル警察、ロイド・バニングスです。それ以上は公務執行妨害とみなし」

 

ロイドが警察手帳を示そうとした瞬間、導力拳銃から弾丸が放たれる。

しかし、誰にも当たらない。

いな、トンファーがソレを弾いた。

 

「…公務執行妨害、殺人未遂、これより貴方方を緊急逮捕します」

 

「やるぜ、ロイド!おっさん!」

 

「あぁ!」

 

「若造共、死ぬんじゃないぞ!」

 

気絶で終わらせる必要があるため、変身して切り刻む事や撃ち抜くのは御法度だ。

ヤーレスはカリスアローからフォースアローを放つ。

 

「どうした?動きが悪いぞ!!」

 

「ぐは」

 

「くそ!属国の分際で我々を」

 

「そんな言い方は嫌いなんだよ!」

 

「殺人未遂をしている癖に何を!」

 

ロイドのトンファーとランドルフのスタンハルバートを受けた二人が壁に吹き飛ばされ、俺のフォースアローを受けた奴はその場に崩れ落ちる。

 

「特殊部隊かと思ったが、練度は低いな」

 

「一撃で伸びるとは思わなかったぜ」

 

「……ランディ、ヤーレスさん、猟兵としての視点から聞かせて下さい。これが本命だと」

 

「ロイド、でもなぁ…コイツラだけだぜ?」

 

「小僧も気付いてたか。俺は気配に敏感でな、追跡者は少なくともコイツラだけだったぜ……だが、」

 

「あぁ……待てよ?」

 

「どうしたんですか?」

 

「昔だ、人間爆弾とか言う糞っ垂れな」

 

その時、俺達を中心に激しい爆発が起こった。

 

 

 

 

 

 



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旅する不死者クロスベルの大地4

ジオフロント内で爆発がおきた。

それは即座にクロスベル警察に伝えられ、警官隊が侵入する大事件となった。

 

「くっ……くそ……」

 

「ロイド!ランドルフ!」

 

「俺達は大丈夫だ、けど」

 

ランドルフが視線を向けた方向で、ヤーレスがロイドに懐抱されている。

緑色の血を流し、身体中に破片が突き刺さっている。

 

「他の奴等にもそいつの事は口止めしてある、安心しろ」

 

「そうか、悪いな課長」

 

「なんだよ、それよりもだ。どうしてこんな」

 

《RECOVER》

 

自身の傷を回復し、ソファに座る。

 

「これ以上は警察の捜査に任せる。だがな……これは帝国のやり口にしては杜撰すぎる。だが……アレは確実に帝国の工作員だった」

 

「人間爆弾です。俺達を追跡していた何処かの工作員が……」

 

「ちぃ…腕の破片とか見つけたってきたもんな。兎に角だ、事情聴取は明日にしてやるから一旦ビルに戻れ。そいつもだ」

 

「悪いな……あと、多分帝国だ。気いつけろよ、今年にはアレもあるだろうに」

 

「アレか……ったく」

 

ヤーレスから警告を受けたセルゲイは苦々しい顔をしながら、歩きさる三人を見送った。

 

「くそ……やってくれたぜ」

 

「おい……おっさん大丈夫かよ」

 

ランドルフはヤーレスを支えていた時、流れ出た大量の血を見ている。

リカバーで直したはずだが、完全ではなかったようだ。

それに失った血も考えれば、本来は立ってるのも不可能のはずなのだ。

 

「くそ……ランドルフ、てめぇあれ……ベルゼルカーどこ行った」

 

「なっ…今それは」

 

「持って来い……それぐらいの相手なんだよ」

 

「すみません、そのベルゼルカーが何かはわかりませんが……ヤーレスさん、そのレベルとは」

 

捜査官であるロイドは理解できていないようだが、ヤーレスは質問に答えるべく話す。

 

「敵はな、遠隔で爆破したんだよ。俺達は意識を確実に刈り取った、なのに爆発した。言うぜ、俺もプロだ気絶してる、気絶してないの区別はわかる。詰まりだ、俺達に気付かれないレベルで此方を監視、抹殺しようとしたやつがいる。ランドルフ、ロイドの他に信用できるやつはいないか」

 

「……あー……居るにはいるけどなぁ」

 

「くそ……なら、ここにいる3人だけだ」

 

重苦しい空気が特務支援課を包む、これはテロではない。

前回と同じレベルの脅威が目の前に存在しているのだ。

 

「特務支援課、ロイド・バニングスとしてヤーレス・クラウゼルさんに捜査協力を要請します」

 

「おい、ロイド!」

 

「ランディ、僕達がやらなくちゃいけないんだ。こんなの…許しちゃいけない」

 

「……GOODだ、西風の旅団副長。ヤーレス・クラウゼル。特務支援課、こちらこそ捜査協力を頼む」

 

ヤーレスは本気だった、見た目を40代程にすればランドルフが見慣れたヤーレスだ。

 

「マジで驚くからやめてくれ、おっさん」

 

「アハハ……凄いんですね」

 

ランドルフとロイドは急に姿が変わったヤーレスに苦笑いをしながら、翌日の準備をする。

そして、翌朝。ロイド、ランドルフ、ヤーレスの3人は装備を整え、支援課のビルから出立する所だった。

ランドルフは前日に回収していた巨大なアタッシュケースを持っている。

 

「ロイド!キーアも」

 

「キーアは」

 

「いや、居てもらおう。安心しろ、至宝には指一本触れさせんさ」

 

それぞれの支度が終われば、クロスベルの土地勘のないヤーレスではなく、ロイド達支援課が中心となり、行動を開始した。

 

「さて、取り敢えず腹ごしらえだ。俺の奢りだ、何でも食べろ」

 

「良いの?!」

 

「おう、お祖父ちゃんに任せなさい」

 

「お祖父ちゃんって……」

 

「マジで孫にダダ甘えする駄目ジジイだな」

 

「仕方ねぇだろ、マジで孫みたいな存在だぞ」

 

ヤーレスはロイドに案内されたカフェで朝食を奢った。

 

「お祖父ちゃん……良いよ、キーアは大丈夫だから」

 

「ゴメンな、つい……可愛がってた娘を思い出しちゃって…………すまん」

 

「ロイド、これキーアか何か欲しいとか言えばくれるんじゃねぇか?」

 

「駄目だろ、それより、ヤーレスさん。どうです」

 

ヤーレスはアイスコーヒーのストローで見えないように3滴、机に垂らす。

これは事前に決めていたアイズだ、常に前線に立ち、人の視線と気配を知っているヤーレスだから出来ること。

 

「3人、ランディ」

 

「あぁ…俺も3人だと思う。ロイド、あの親子を見ろよ」

 

「……おかしくは」

 

「子供の顔だよ、笑ってるが……あの目、当たりをキョロキョロと、おかしくないか?あんな子供が」

 

「…それは」

 

「まぁ、無理だ。諦めろ、下手に手を出すほうが危ないんだよ」

 

ヤーレス達は素早く食事を終えると会計に移る。

監視されているのはわかっている為、どうにか目眩ましが必要だ。

 

「……ちっ………面倒だが」

 

「なにする気だよ」

 

「ジョーカーで暴れる、あくまでも傷つけるのは諜報員だ」

 

「!」

 

「ロイド」

 

「…駄目です、俺達なりの方法で撒きましょう」

 

ロイドば何か確信があるようで、ヤーレスを止めた。

食事を終えた一行はロイドの案内で進んでいく。

 

「こっちへ」

 

案内された先にはジオフロントの入口があった。

 

「前にジオフロントに潜ることが何度もあって、ここなら追跡は巻けます」

 

「それだけじゃない、ジオフロントの入口は沢山あるんだ。俺も未だに全てを覚えてないしな」

 

「俺に付いてきて下さい、ジオフロントのマップは頭に叩き込んであります」

 

ロイドに案内されながら迷宮の様なジオフロントの内部を進んでいく。

目印もなく、ヤーレスは大丈夫かと不安な空気になりつつ、その不安が無必要だった物であるとわからされた。

 

「人の気配がまるでない、すごいな……ロイド」

 

「いやぁ、実はこの出口がここに繋がってるなんて知らなくて」

 

「へ?」

 

「…ロイド」

 

「一番入り組んでいる出口で外の情報は無かったんですが」

 

「ここからすぐにクロスベル警察学校、そして拘置所がある。おっさん、アンタの目的地だぜ」

 

「……ガルシア」

 

「俺の権限でなら何とかできます、いきましょう」

 

追手を撒いたヤーレスはロイド達の案内の下で拘置所へと向かった。

 

「特務支援課がなんの………」

 

「……お前の目は変わってねぇな。腑抜けてたら一発殴ろうかと思ってたぜ」

 

ヤーレスの前で恐縮したようにガルシア・ロッシは立っていた。

 

「副長、懐かしいな。アンタが面会に来るとは」

 

「…固くなってるぞ、どうした」

 

「……ざけんな、昔アンタに死ぬ一歩手前にされた時からだ」

 

「そうだったな、そんな事もあったな」

 

強化プラスチックで遮りながらも、二人は再会を懐かしむ。

 

「ガル坊、アイーダの小娘にあったぜ」

 

「ガル坊?」

 

「忘れろ!副長もそれやめろ」

 

「んだよ、ガキのくせに」

 

「そりゃぁ世界の人始まりから居るやつに比べればガキだわ!」

 

「今アイーダと同じこといったな、まぁ……言い。ガルシア、ゼノ坊とレノ坊は来たか?」

 

「いんや、何だよ」

 

「……共和国に向かった時だ、猟兵時代の友人と会ってな。ルドガーの馬鹿を見たったって奴が居たんだ」

 

「なんだと?」

 

ガルシアの顔が強張る、そしてルドガーを知っているランドルフは驚愕している。

 

「……お前、ルドガーが死んだのはマジか?」

 

「……少なくとも、そこの親父と殺し合って相打ちなのは確かだ。第一、死んだ人間は蘇らない。それが自然の摂理っつぅもんだ」

 

「あぁ、だな」

 

だが、ヤーレスは知っている。人間ならざる者となった女を。

ヤーレスを『人類の迷惑な隣人である〘G〙』

と同列視する戦友…悪友の女を。

 

「……ガルシア、何か入り用があれば俺を頼れ。良いな?」

 

「……頼らねぇ!俺は、俺はアンタに何度も助けられた!!もう!アンタの手は煩わせねぇ。良いな、俺はルバーチェの若頭だ!西風のキリングベアじゃねぇ」

 

「……そうか、判った」

 

ヤーレスの言葉は何処か悲しそうだった。



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旅する不死者クロスベルの大地5

キリング・ベアとの再会を終えたヤーレス一行。
だがわまだ不穏な空気は残ったままである。


「……西風はさ、俺とルドガーが作った」

 

「何だよ、おっさん」

 

「聞けよ坊主、お前も何時かなるさ。

俺は、彼奴等に頼られ、世話してきたんだが……こう、息子みたいな奴らに面と向かって『お前の力はいらない』って言われるのが辛くてな、だが……嬉しいんだよ。自分の足で歩いてんのがな」

 

「そうか、ヤーレスは西風のお父さんなんだ」

 

「……そうか、しっかしどうすっかなぁ。このまま後4日を帝国の諜報員との追いかけっこも正直嫌だ」

 

「……なら、やることは一つだな」

 

「追い詰めてやるぜ、だろ?特務支援課さん」

 

「あぁ、その通りだ」

 

ロイドはヤーレスに頷き、エニグマを使いクロスベル警察との協力を始めた。昨夜の事件の証拠品を回収し終えていたようで、来てほしいとのことだった。

 

「簡単な変装はしよう」

 

「だな、キー坊もだぞ?」

 

「うん、ランディ!」

 

「事情は警察学校の方に話しました、ヤーレスさん。変装の用意はできました」

 

クロスベル警察学校の備品を使わせてもらい、変装を行う。

メイクを得意とする生徒に化粧等をしてもらい、4人の姿はまさしく別人と呼べるものになった。

 

「……ロイド、格好いい!」

 

「すげぇな、悪い男って感じだ」

 

「ランディは……なんて言うか観光客?」

 

「あぁ、言いたいことは判る。んでまぁ……おっさんは」

 

「なんだよ」

 

「いや、なんつうか普通だなってな」

 

「えぇ、クロスベルに来る観光客そのままです」

 

「ここの学生が良いんだ、まったく……クロスベル警察は安泰だな」

 

「全くですね」

 

帰りはバスでクロスベル市までもどり、そのまま警察署へと向かった。

そこではセルゲイが皆の帰りを待っていたのだ。

 

「……見てくれ、これが昨晩の証拠品だ。集められるだけ集めた。見せる訳にはいかない奴は居ないしな」

 

ヤーレスの事だろう、だが何も言わないことに感謝しながら証拠品を見る。

燃え残った破片、そうとしか言えない。

まともな証拠品は流石に無いのだろう。

 

「おかしいな」

 

「ヤーレスさん、どうしたんですか?」

 

「いや、これらの証拠品を見てるんだが………覚えてるか?俺達が見た時、爆発ベストのような物を着ては居なかったはずだ」

 

「確かに、着てたら即座に自爆ぐらいはするよな」

 

ランディとヤーレスの猟兵としての視点からのおかしさ、そしてロイドはさらに二人に問いかける。

 

「……ヤーレスさん、ランディ、人間爆弾だとして」

 

「腹の中にプラスチック爆弾しかないだろうな」

 

「あぁ、それにあれだけの爆発だ。確実に証拠ごと消し去るつもりだったはずだぜ?」

 

「そう言えば、腕の破片があったと言ったな。見せてくれないか」

 

「あぁ、破片というか左腕そのものだが」

 

ランドルフはキーアの目を塞ぎ、ロイドとヤーレスが調べる。

そこで、ヤーレスは不意におかしな事に気づいた。

 

「……これ、人間か?」

 

「どういう事だ」

 

セルゲイがヤーレスに質問すると、ヤーレスは即座にメスを左腕に突き刺した。

 

「……こいつは」

 

「ヤーレスさん、これは」

 

「………まじか」

 

左腕はメスが入った瞬間、その傷がゆっくりとだが再生したのだ。

そもそも左腕が綺麗な状態で発見されたのがおかしいな。

自爆で粉微塵になってもおかしくないのに簡単な火傷しかないのだ。

 

「あり得ない、この腕はまだ生きてる」

 

「そんな……あり得ない!」

 

「人工の……アンデッド」

 

人間ではない、人間に限りなく近いアンデッド。

不死ではないしかし、そんな物があるのはまずい。

だが、不死に近い存在となれば別だ、傷が治り、戦う兵士。

戦争で、これほど恐ろしい軍隊はないだろう。

 

「……下衆が」

 

「……命を……命を何だと」

 

「………セルゲイ課長、この腕は処分しろ」

 

「ヤーレスさん?!」

 

「残しちゃまずい、お前達は悪用なんてしない。でもな、人間が持ってちゃ良いものじゃない」

 

「………」

 

「帝国に帰ったら俺は……クソッ!知ってやがったな!俺を…俺をクロスベルに向かわせたやつは、こいつの存在を知ってた!だから俺を入れたんだ。だが……誰なんだ」

 

「………これは処分しておく、ロイド、ランドルフ、キーア、お前らはビルに帰れ」

 

「話はそこでする、その前にシュネーも呼ばせてもらうぞ」

 

「あぁ、おっさん」

 

 

ヤーレスはロイド、ランドルフ、キーア、シュネー、何故かユウナもいるがヤーレスは窓のカーテンを全て閉め、簡単な家探しをしたのち話し始めた。

 

「そんな!帝国がここを」

 

「ユウナ、大丈夫。もし帝国が攻めてくるなら私はこの命に変えてもクロスベルを守るから」

 

「俺もだ、人工アンデッドの技術は必ず消す。そして…ロイド、ランドルフ、シュネー、ユウナ、はっきり言う。これ以上関わるのは不味い」

 

そう言いながら、ヤーレスは紙とペンで文字を書いている。

 

〘カメラはなかったが、盗聴されている可能性がある。簡単に書く、俺の連絡先だ〙

 

ヤーレスは会話と同じ速度で自身の連絡先を書いてみせた。

ロイドとランドルフ、シュネーとユウナまでもヤーレスの連絡先を登録しておく。

 

「俺も忘れる、お前達も忘れるべきだ」

〘俺は帝国の方で動いてみる、ロイド、ランドルフ、今年はアレがある。表向きはこの件で動かない方が良い〙

 

「……そんなの!」

 

ユウナの悲痛な声が上がるが、シュネーが抑えた。

 

「やりようがないんだ」

〘表向きだ、裏から頼むぞ。特務支援課〙

 

「そうですね……くそ」

 

「あぁ………不甲斐ない」

 

ロイドとランドルフは悲しげな声を上げながらも、顔は笑っていた。

 

「俺は明日の便で帰る、今夜が最後の晩餐だな」

 

そう、帰るはずだった。お別れパーティー、ヤーレスの自費での晩餐だ。

クロスベルでお世話になったメンバーを入れてのパーティー。

しかし、それが解散特務支援課ビルのソファで眠ろうとした矢先、それは起きた。

 

「……どうした…ユウナ?」

 

「へやが……部屋が荒らされて……お母さんも、ケンとナナも連れて行かれて」

 

ヤーレスは即座に二人を起こしに向かった。

 

「ロイド!ランドルフ!」

 

「どうしたんだよ…こっちは眠たくて」

 

「ユウナの家族が誘拐された、俺に連絡が来た!いくぞ!!」

 

「ちぃ…ユウ坊、ロイド!」

 

ランドルフは寝巻きにベルゼルガーを背負い、ロイドも寝巻きにトンファーを持っている。

 

「キーアは任せろ、ロイド、ランドルフ、頼んだぞ」

 

「はい、課長!」

 

「行ってくる!」

 

3人は走り、ユウナの下へと向かった。

そこでは泣き崩れるユウナとそれを支えるシュネー。

現場は揉み合った形跡などが残されている。

 

「……シュネー、お前が居たんだろ?」

 

「………動きが速かったわ、それこそ特殊部隊のソレ。私とユウナが買い物をして帰ろうとした時には既に………」

 

「この方向に真っ直ぐに逃げたか、幸いなのは跡がある事だ。月明かりがある家に追うぞ!」

 

「はい!」

 

「ユウナ、君は」

 

「ロイド先輩、お願いします!攫われたのは!わたしの…わたしの家族なんです!」

 

「行くぞ!この場に足手まといは居ないんでな」

 

ロイドの答えを聞くよりも早く、ヤーレスが叫んだ。

 

「ヤーレスさん!」

 

「だが、俺達も護りきれるかわからんぞ。シュネー!お前がやれよ!」

 

「わかってる!」

 

5人は走り、足跡の続く先へと向かった。途中、魔獣の気配が一切ない事にロイドが不安がったが、二人のジョーカーが口を開いた。

 

「命の危機をわからない生命はないさ、ここには破滅と再生を司るジョーカーが2体も居るんだからな」

 

「普通の生き物は出てこない、行くわよ!ロイド、ランドルフ!」

 

「わかった、シュネー!」

 

そしてたどり着いたのはウルスラ街道にある開けた場所だった。

そこは宿営地となり、帝国の特殊部隊と思える者たちが警戒している。

 

「……偵察は間に合わない、やれるのは」

 

「正面突破だけか、ロイド、シュネー、ユウ坊、行けるな」

 

「はい、ランディ先輩!」

 

「覚悟決めろよ、俺が先行する。ついてこい!」

 

《CHANGE》

「変身」

 

「ハァァァ……良くも………お前達は!」

 

ヤーレスは仮面ライダーカリスへとシュネーはアルビノジョーカーへと姿を変えた。

 

「アンデッド!」「カリス?何故ここに」

 

「俺達も居るんだぞ!」「ハァァァ!」

 

カリスとアルビノジョーカーは容赦がない。

殺さないようにしているが、それでも二人に吹き飛ばされた人間は壁にぶち当たる度に血を吐き、場合によっては枝が肉体に刺さりもする。

 

「くっ……せめて、コイツラは」

 

「やらせない!」

 

人質を射殺しようとした一人をロイドがトンファーを投げ、邪魔をする。

そこにランドルフが続き、ベルゼルガーの裏で殴り飛ばす。

 

「お母さん!ケン!ナナ!」

 

「ユウナ」「「お姉ちゃん!」」

 

家族を抱きしめるユウナを守るように激高したシュネー[アルビノジョーカー]、ヤーレス[カリス]、ロイド、ランドルフが立ち。指揮官と思える男に武器を向ける。

 

「クロスベル警察特務支援課ロイド・バニングスです。貴方方には爆弾テロ、殺人未遂、誘拐、拉致の容疑で現行犯逮捕します」

 

その言葉を聞いた指揮官はリモコンの様な何かのスイッチを押した。

 

「ちぃ……属州風情が…………やれ、殺せ!ハハッ……これでいい、私も、死ぬなら貴様らとクロスベルも道連れだ!」

 

男と倒れていた者達が起き上がる。まるでゾンビのように、目には生気はなく真っ黒な瞳が何処かを向いている。

 

「ありえねぇ、重症だぞ。木に刺さった奴も」

 

「見ろよ、奴等はアンデッドもどきだ」

 

人間から生物的な機械の様な姿に変わる。醜悪なそれはヤーレスは知っている。アンデッドを貶める存在、そして、強力な存在だと。

 

「ベルゼルガー!!」

 

実弾の入ったベルゼルガーによる連続攻撃、しかしアンデッド?は緑色の血を出すのみで切り裂けれても、風穴を開けられても、塞がり、ランドルフに高速で迫った。

 

「ランディ!」

 

「ちっ…悪い、ロイド」

 

ロイドはトンファーでアンデッド?を吹き飛ばす。吹き飛ばされ、落下する。頭から受け身も取れず、首が変な方向に曲がる。常人なら死んでいる。

だが、アンデッド?は首を治すこともせず曲がったままで襲ってくる。

 

「お姉ちゃん…怖いよ」

 

「大丈夫だよね?」

 

「ケン、ナナ」

 

ユウナも怯えていた。こんなのB級映画でもない、死なない存在。

それには意志はなく、ただ此方を殺そうとする殺戮マシーン。

 

「ユウナ!」

 

「お母さ」

 

ユウナを吹き飛ばしたのは母であるリナだった。アンデッド?の攻撃が迫っていたのだ。しかし、リナは力ない一般市民、だが親だった。子供の安全を守るのが親なのだ。

 

「私の大切な者達に触れるな……下郎が」

 

それはアルビノジョーカーだった。だが、そのアルビノジョーカーの姿が変わっていく。爪が両腕部になり、より鋭利になっていく。

肉体がまるで硬い甲殻に包まれていくように、アルビノジョーカーは変化する。月光に照らされ、くすんだ白だった見た目は純白へと変貌する。

何者にも染まらない純白の白、恐ろしい見た目よりもユウナ達は美しさと気高さを見た。

 

「ジョーカー…カッティング」

 

両腕部の爪にエネルギーが集約され、X字にアンデッド?は斬られた。

すると、緑色の炎を出しながらまるで紙が燃えるように消滅した。

 

「ロイド!ランドルフ!下がれ、コイツラは腐ってもアンデッドらしい。俺かシュネーじゃないと殺せない!」

 

「頼みます!ヤーレスさん!!」

 

『TORNADO』

 

ホークトルネードを受けたアンデッド?は無慈悲に消滅していく。

人間にとっての脅威でも、真のアンデッド二人にとって眼の前の存在達は所詮、露払いに等しいものだった。

 

「……アンデッドの模造品、こんな……こんなものまで」

 

「シュネー」

 

アルビノジョーカーから人間態へと戻ったシュネーは怒りに震えている。

ヤーレス自身も、人間に対する憎悪が増すばかりだ。

 

「だが……滅ぼせはしない、わかっているな。アルビノジョーカー」

 

「それは此方の台詞だのサードジョーカー。たとえ、女神の作ったシステムでも、私はもう、バトルファイトはしない。統制者モノリスを破壊する」

 

翌日、ヤーレスはクロスベル駅に居た。貰った時間は多いが、それ以上の問題が起こった為だ。

 

「ヤーレスさん、私達を助けてくれてありがとうございます」

 

「短い間ですけど、ヤーレスさん。本当にありがとうございました!」

 

「おじさん!また!変身見せてね!」

 

「またね!」

 

ユウナ、ナナ、ケン、リナがヤーレスに頭を下げる。思い出すのは善意の押し売りから始まった出会いだ。

 

「ユウナ、俺は君のお陰で昔の部下に会えた、ありがとう。ナナ、ケン、必ず見せてやるさ。だから、良い子で待ってろよ。リナさん、気にしないで下さい。むしろ、巻き込んでしまい此方が謝ることです。ロイド、何時かまた一緒に捜査とかしてみたいな。ランドルフの坊主、いい仲間だ、キーア、体調には気をつけるんだぞ」

 

「だろ、おっさん」

 

「ヤーレスさん、また会いましょう」

 

「うん、お祖父ちゃん!」

 

「お祖父ちゃんか……せめておじさんが良かったな」

 

キーアの頭を何処か不満げな笑顔で撫でるヤーレス、それを皆は笑いながら見ていた。

 

「サードジョーカー」

 

「アルビノジョーカー、いやシュネー、帝国の事は俺に任せろ。必ず破壊する。約束だ」

 

「……じゃあな、サードいやヤーレス」

 

西風のジャケットを身に纏う。すると、帝都行きの列車の時刻が迫るメッセージが流れた。

 

「また会おう、クロスベルの勇士たちよ」

 

ヤーレスは最後にそう言い残すと、列車の自分の席まで歩く。

窓の外では短いながら関係を築いた皆が手を降ってくれている。

窓は開けられないが、ヤーレスは手を振り続けた。新たな仲間との絆ができた日だ。

ヤーレスはそれを忘れることは無い、『人間の心』が残っているうちは。

闇は少しずつ、彼を蝕んでいくのだ。

 

 



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