麦わらの一味の一人「一夏」 (un)
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一話 出会いと、別れ

 人里から離れた夜の工場。

 

 工場の中で複数の人間が銃の引き金を引き、複数の火花が放たれる。

 

 「うわ!!あぁぁ!!」

 

 物影に隠れていた織斑秋人が悲鳴をあげ秋人の口を誰か塞ぐ。

 

 「落ち着け!! 」

 

 秋人の口を塞いでいたのは、同じ年である兄の織斑一夏だ。一夏は秋人を落ち着かせるため声をかけるが

 

 「で、でも... ボク達...もう、姉さんに...」

 

 秋人の目は絶望に染まり、生気がない。実は、さっき二人を誘拐した犯人達の口から姉である千冬が自分達を見捨て大会に出場したと聞かされたのだった。

 

 秋人はそれを聞き諦めていたが、一夏は隠し持っていた針金で手錠を開け犯人の隙をついて秋人の手錠も外して二人で逃げ今に至るのだった。

 一夏は千冬の名を聞き、険しい顔をして秋人の肩をつかみ目を合わせる。

 

 「そんなの知るか!! 例え、あの女が見捨てたとしても、俺は生きるんだ!! 生きて、生きて俺の存在を証明するんだ!!」

 

 「兄さん...」

 

 

 「はぁ!! 何ガキ二人も仕留め切れてねぇんだよ!!」

 

 突然女の声がしたと思えば、倉庫の壁が崩壊し一体のISが出現する。そして、ISのセンサーが隠れている一夏と秋人を感知して誘拐犯もろとも攻撃した。

 

 「クソ!! 味方もかよ!! 走れ!!」

 

 一夏は秋人を立たせ二人は倉庫の出口まで必死に逃げるが、女性は二人に向けグレネードを発射した。

 

 「クソ!!」

 

 一夏は自分達にグレネードが発射さてたのを見て、前を走る秋人の背中を強く押し工場の外に出し、扉を閉める。

 

 「兄さん!?」

 

 「...生きろよ...例えあんな姉の下で生まれても、お前はお前だからな...」

 

 一夏は秋人にそう伝えて扉に鍵をかける。そしてグレネードの弾が一夏の真後ろで爆発した。身を焦がす程の熱風が背中の皮膚を焼き、衝撃で身体が宙を舞う。

 

 (...あぁ、ここで俺死ぬのか...結局、俺は何もできなかったな...夢もない人生だった...あぁ、クソ)

 

 一夏達を攻撃していた女性は既に脱出し、誘拐犯達も殺されていたため誰も気づかない。一夏の目の前にブラックホールのような穴が出現し一夏の姿が消えた事を。 

 

ーーーーーーーー

 

 (・・・海?)

 

 気がついた一夏が見たのは、広大な海だった。どこかの港なのか、木製の船がいくつも並んでいる。

 

 (俺...そうだ、なんか変な穴が出て来て、それで...)

 

 意識を失う前に起きた事を思いだし、立ち上がろうとするが身体が傷だらけで力が入らない。

 

 「ーーさん!!あそこ!! 人が倒れてます!!」

 

 一夏の耳に、かすかに人の聞こえ首を動かす。ピンクの髪をした誰かが近づき。その後ろにはーー

 

 「なんだ? 腹減ってんのか?」

 

 麦わら帽子を被り顔に傷をつけた青年が近づいてくる。

 

 これが、後に海賊王となる男と、異世界からの少年の出会いだった。

 

 そして、数年の時が流れーー

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 数年後

 

 東の海のとある王国 「ゴア王国」

 

 今は貴族達の横暴はなく。平和と自由の国へと変わっていた。そして、この日世界中の人々がある事に注目していた。

  

「おい、歩け」

 

 王国の中央にある高台。その高台の階段を死刑執行と共に歩く男がいた。黒い外套を羽織り顔に傷を持った男だった。

 男は台を最後まで上り座り込む。傍にいるピンクの髪を持ちいくつもの勲章を服につけた男が声を上げる。

 

 「これより!! 海賊王「麦わらのルフィ」の処刑を行う!!」

 

 

 「ルフィ...」

 

 処刑場から離れた時計塔。そこに、一夏やこれまで旅をしていた仲間達が彼の最後を見届けようとし集合した。

 全員、今にも助けに行こうとする衝動を抑えており。先日の船長命令により、一味は解散し彼の最後に姿を見届ける為にここにいるのだった。 

 

 「海賊王...最後に言い残す事、は...?」

 

 ピンク髪の海軍元帥は、唇を噛み締め涙をこらえる。そんな彼をみて、麦わら帽子を脱いだ彼は笑うのだった。

 

 「おい!! 海賊王!! 」

 「おまえの財宝はどこなんだ!?」

 

 大勢の民衆が彼に声をかけーーそして彼は答えた

 

 「俺の財宝か?...欲しけりゃくれてやる!! 探せ!! この世のすべての底に、俺は置いてきた!!」

 

 彼が民衆に、そう答えた瞬間。

 

 ザク

 

 処刑執行人の持つ剣の刃が彼に突き刺さる。大量の血を流しているのにも関わらず彼は痛みを気にせず、最後まで笑を浮かべていた。

 

 彼の死刑が終わり、人々はこれで平和な時代が訪れた。これで安息の日々が送れる、と思っていたはずだったーー

 

 「「「「 うあぁぁあぁぁぁぁぁあぁぁぁ!!!!      」」」」

 

 突如、民衆が叫び港へ走る。あるのもはドクロの旗を掲げ。

 あるものはその手に剣を持ち震え上がる。

 

 「・・・始まったんだ・・・」

 

 急激に振り始めた雨に打たれ、一夏は港を見る。既に何千とも船が動きこの時、人々は海へと駆り立てられていた。

 

 「新しい時代が・・・あの人の意思を引き継いで、夢を求める時代・・・」

 

 一夏はこの光景を目に焼き付け、忘れないようにしてた。異世界の人間であり、自分を仲間にしてくれた彼が創ったこの時代を、そして今をーー

 

 「新しい、大海賊時代が!! 始まったんだ!!」

 

 一夏は叫び、新たな時代に涙を流しながら身守る。後ろにいる仲間達も涙を流し、愛した船長の最後と、これからの時代を見守るのだったーー

 

    



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二話 天災との再会

 海賊王処刑から数日後。

 

 東の海にある、小さな孤島にて

 

 「逃がすな!!」

  

 「周囲を囲め!!」

 

 

 何人ものの海軍兵士が走り、一人の男を追っていた。

 兵たちがライフル銃を連発するが銃弾の嵐は男に何故か当たらない。

 

 

 「クソ!! なんだってバレたんだよ!!」

 

 黒の外套を羽織り、腰に剣を帯刀する少年...一夏は叫びながら逃げる。

 

 

 「逃がさんぞ!! 麦わらの一味の一人 一億八千万ベリー「雑用のイチカ」!! 」

 

 「雑用は余計だ!! 畜生!!」

 

 指揮官らしき白いコートを羽織る男性に突っ込みを入れるが無視されてしまう。

 

 「いいぞ!! そのまま追い込め!!」

 

 兵達が一夏を海岸へ誘導するように次次と銃や大砲で攻撃する。木々が倒れ、燃え盛る中を一夏逃げて森を抜けた先の海岸には

 

 「観念するんだな!! もうこの島は我々が包囲したぞ!!」

 

 海には軍艦が待機し、浜辺にも武装した海兵が待ち伏せていた。

 

 「げっ!?」

 

 既にハメられたことに気づくがもう遅い。後ろからも海兵が迫り前後に逃げ場は無かった。

 一夏が慌てて辺りを見ると、小さな洞窟が見え一夏は洞窟の方に走り中に入る。

 

 「ふはははっっ!! まさに袋のねずみだな!! 砲撃用意!! 存分に打て!!」

 

 

 軍艦から大砲が、兵からのバズーカが洞窟を狙い岩が崩れて行く。

 

 「まじで、ピンチだな...」

 

 

 このままここに入れば、生き埋め。外に出れば海兵に捕まり死刑。どっちにしても最悪な結末には変わりはない。

 

 「あ~こんな事だったらもっとコーラ、飲んどくべきだったな...」

 

 ため息混じりに、腰の剣を触れる。どうせ捕まるなら。最後は海賊らしく抵抗して散ってやるか

 

 そう覚悟を決めた時だった。

 

 フィン

 

 「!? こいつは!!」

 

 突然、一夏の正面にブラックホールのような穴が出現する。そして、それは紛れもなく、元の世界からこっちの世界へ来たきっかけとなった物だった。

 

 「なんでコイツが...まぁ、今はありがたいか!!」

 

 数年前、惨めだった自分が住んでいた世界。

 本当はもう帰るつもりなんて無かったが、一応あの世界でやり残した事や、気になる事は幾つかあり...一夏はブラックホールに飛び込んだ。

   

 「打ち方やめ!!」

 

 洞窟を完全に破壊し、海兵達が突撃する。誰もが一夏の確保を確信していたが現実はそうではそうでは無かった。

 

 「何!! 奴の姿が見当たらないだと!! もっとよく探せ!!」

 

 その後、洞窟だけでなく島全体を血眼に探すが一夏の姿は見つからず、もしかしたら、砲撃の際に木っ端微塵になったのでは? と考えられ数日後の新聞の記事にはーー

 

 

 「麦わらの一味 「雑用のイチカ」 死亡」

 

 と大体的に書かれていたが、実際はーー

 

ーーーーーーーーーー

 

 「ふふふ~ん。 おや? 何かおかしいぞ?」

 

 研究資材が大量に置かれたとある部屋。部屋の中央にはブラックホールが出現し、それを観察する奇妙な女性が声を上げる。

 

 うさぎの耳のような機械を頭につけ、端末のキーボードを高速に操り、画面に食いつく。

 

 「ん~? この穴から何か、生体反応が近づいて...」

 

 ドン!!

 

 突然ブラックホールから爆発が起こる。幸い、穴の周辺には強化ガラスが敷かれており、回りの機材や部屋に危害はそこまでなかった。

 

 「!?っ な、何!? え、エイリアン!?」

 

 女性が驚いてあたふたしていると、強化ガラスの中に出現していたブラックホールは消滅し、代わりにーー

 

 「いてて...俺は、生きてんのか?」

 

 黒い外套を羽織った男が立ち上がった。

 

 「え,まさか...いっくん?」

 

 女性が、束が力なくつぶやき。目に涙を浮かべながら男。一夏に近づいた。

 

 「いっくん!!」

 

 束の声で、一夏も彼女の存在に気づき、口を開いて・・・

 

 「ん? あんた、だれだ?」

 

 ズルッ

 

 見事に、天災の博士はずっこけたのだった。

 

 「いてて、い、いっくん。私の事、分かる? てか、もしかして忘れたの?」

 

 「あ...あぁ!! そうか、あんた」

 

 やっと思い出してくれたと思い、束は立ち上がり一夏に抱きつこうとするが

 

 「桜さん家の、○子か」

 

 「違う!!」

 

 「え? それじゃ...あぁ、わかめか?」

 

 「全然違うよ!? なんで日曜のあれなの? もう!!」

 

 このままでは拉致が開かないと思ったのか、束は空間ディスプレイを出し、一夏に画像を見せる。

 

 「これ、昔撮った写真だよ? 箒ちゃんといっくん。それにチーちゃんや、あっくんも...」

 

 「道場の...」

 

 次次と画像が切り替わる。

 

 剣道の鍛錬中の画像

 

 夏休みに祭りに言ったときの映像

 

 みんなで、鍋を囲って食べた記録

 

 それらを見て一夏は

 

 「そっか、そうだった。俺、マジで忘れてたわ...」

 

 次第に涙が流れる一夏を、後ろから優しく抱きしめる束。そして、この時始めて、自分が元の世界に戻って来たと実感したのだった。

 

 「ただいま...」

 

 不意に口から漏れ、今の気持ちが言葉に出て

 

 「うん...お帰り、いっくん」

 

 束は理由も聞かず、ただそう返事をして、暫らく一夏を強く抱きしめるのだった。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 同時刻。

 

 ここはIS学園の屋上。

 

 「そ、その久ぶりだな。秋人」

 

 「うん、久ぶりだね箒」

 

 休み時間、幼馴染みの箒に呼ばれ一夏の弟。秋人も返事をする。

 

 「その、元気だったか?」

 

 「まぁ、一応ね」

 

 意気消沈する秋人を見て、箒は内心どう彼を元気づけたらいいのか必死に頭を回転させるが、思い浮かばない。だが、原因は分かっている。

 

 「一夏の事だが...」

 

 その時、運悪く予鈴により箒の声がかき消される。秋人は一言いれ、屋上から去る。残された箒は唇をかみしめて

 

 「一夏の事が、今もなのか秋人?」   

 

 

 箒はそうつぶやき、屋上から立ち去った。

 授業が終わり、担当である千冬がクラスの全員に代表を決める旨を告げた。

 

 一人の代表候補生が、回りから推薦される秋人に納得が行かず。流れで決闘をする羽目になる。

 

 だが、後にこれが思いもよらない出来事になるとは。誰も知る余地もなかった。

 

ーーーーーーーーーー

 

 「ふ~ん?つまり、いっくんは、今まで海賊になってた訳か~~」

 

 過去の画像を見てから、少し落ちつき束ねにこれまでの事を話ていた。

 

 海賊の一味になった事や賞金首になった事。世界政府を倒し、船長の宿敵達を倒し秘宝を手にした事等だ。

 それらを話し終えて、一夏は「俺、悪党になってしまったんですが・・・」と言うと。

 

 「大丈夫!! どんなに悪い事しても、いっくんは、いっくんだし!!」

 

 と笑顔で受け入れてくれたのだった。

 

 今度は束の話しになり。一夏が消えた後の話しを聞く。

 

 千冬は実は一夏達を見捨てた訳ではなく。大会関係者から、誘拐の情報をもみ消されてしまって知らなかった。事態に気づいたのは、優勝トロフィーを受け取って数時間後。

 

 爆破された工場を見かけた一般人からの通報で警察が駆けつけ、軽傷の秋人が保護されたことにより、やっと千冬も気づいたのだった。

 そして、一夏がどうしたのか聞き、秋人はありのままを--自分をかばって扉を閉め爆発に巻き込まれた事を伝えた。

 

 その時、千冬は涙を流さず秋人を抱きしめただけだったと言う。

 

 

 「結局、あの姉は...」

 

 「け、けど!! チーちゃんはいっくんの事を今でも!!」

 

 さらに話しは続く。千冬の態度に秋人は我慢できず、どうやら彼女を避けているらしかった。

 

 「はぁ~~なんか、変な事しちまったかな」

 

 「...」

 

 束は何も答えず、一夏は一度あくびをし外套を体に巻いて横になり目を閉じる。

 

 「え? ちょ?」

 

 「すみません、かなりきついんで。お休みなさい」

 

 すぐに寝息を立てる一夏。そんな彼に呆れるように肩をすくみ

 

 「もう、お休みなさい。いっくん」

 

 寝ている一夏の頬に軽く唇を近づけるのだった。

    




 おや? うさぎの様子が・・・?

 


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三話 秋人の戦い

 コメントやお気にいり登録ありがとうございます!!

 キノ×ISも進めていく予定です。


 IS学園の道場にて、秋人の試合まで残り三日ーー

 

 

 「さぁ!! こい!! 秋人!!」

 

 防具を装備し、竹刀を構える箒と秋人。

 

 ISに関して素人同然の秋人が勝つために、箒が特訓を買って出たのだが。それが何故か剣道だった。

 

 「あのさ箒? IS乗らずに、なんで剣道なのさ?」

 

 「うるさい!! ともかく来い!!」

 

 もはや箒には言葉が通用せず、いきなり竹刀が襲いかかる。

 

 「く!!」

 

 秋人は箒の攻撃を竹刀で防御し、一旦箒から離れてからーー

 

 バシン!!

 

 「な!?」

 

 秋人は素早く接近し箒の小手を狙い竹刀が床に落ちる。

 

 「小手だよ、これで一本だね?」

 

 「くっ!! まだまだ!!」

 

 竹刀を拾い再び力任せに竹刀を振るう箒。秋人はそんな箒の剣を冷めた目で見つつ防御する。

 

 「どうした!? 手が出ないのか!!」

 

 「もう、やめにしよう」

 

 再び竹刀が床に落ちる音が響く。秋人が軽く竹刀を振るった体勢で箒が固まる。

 

 「ごめん。僕のためにしてくれるのは嬉しいだけど、君の剣はそんなのでいいのかい? それじゃ単なる暴力だよ」

 

 それだけを告げて秋人は箒に背を向け、道場から出て行くのだった。

 

ーーーーーーーーーー 

 

 道場の更衣室。

 

 既に部活動生が出ていき、急遽造られた男性専用室でシャワーを浴びる秋人。

 

 「違うんだ今の僕じゃ、ダメなんだ...」

 

 秋人の身体は、同年代とは思えない程鍛えられており。所どころにある体の傷は無茶をしたのは一度や二度では無い事を物語っていた。

 

 「もっと、もっと力を...誰かを守る力を!!」

 

 力強いつぶやきを口にし、その声は更衣室に侵入している一人の女生徒に聞こえていたが秋人は気づかない

 

 「...」

 

 青髪の少女は真剣な眼差し彼の後ろ姿を見て静かに部屋から離れるのだった。

 

ーーーーーーーーーー

 

 「で、どうですか?」

 

 「うん!! とっても美味しい!! これ、あっちの世界の料理なんだね?」

 

 テーブルの上に豪華な食事を並べられており、一夏と束が椅子に座っていた。

 

 「まぁ、コックがいたから手伝いして行くうちに覚えたんですけどね?」

 

 一夏は頭の中で、黒い足で敵をなぎ払い。女性に対して紳士になるコックの姿を思い浮かべる。

 

 「そうなんだ~~」

 

 「たく、口にソースがついてますよ?」

 

 ナプキンで束の口についたソースを拭き取る一夏。傍からみれば、まるで親子の食事風景だった。と、そこで機械音が流れ。空中に画面が浮かぶ。

 

 「束様」

 

 「ん? くーしゃん?」

 

 口に食べ物を入れたまま返事をし、一夏は始めてみる女性に顔を向ける。

 

 「束様、そちらの方は?」

 

 「ん、ごくんっ...ああ、いっくんだよ!! 最近戻ってきたんだ!! あ、いっくん、この子ねクーちゃんって言うんだよ?」

 

 「始めまして。私は束様のサポートとして動く、クロエと言う者です」

 

 「はぁ、どうも」

 

 感情を変えず挨拶する彼女にどう話したらいいのか迷っていると、また別の画面が出現する。

 

 「束様。先日掴んだ情報ーーテログループが日本に集結していると言う話しですが。どうやら事実のようでした」

 

 「ふぅん?」

 

 「テロ?」

 

 二つ目の画面には様々な兵器の図面が表示されて行く。

 

 ミサイル等の爆発物。さらに自動拳銃や刃物。さらには科学兵器までも大量に表示されていた。

 

 「あのね、いっくん。この間話したとうり。今の世の中では女尊男卑が広がってるの。そんで、たまにこの社会を変えるためにこんな馬鹿な事をしでかすのがいるんだ」

 

 「ISが原因でか」

 

 肯定。束が頷く。

 

 ISは女性しか使えない兵器。そのせいで日本の社会だけでなく、世界中で女が偉いと勝手な思想が生まれ、差別される者が生まれてしまった。

 

 ある者は職を失い。または、家族から見捨てられ。さらに国のために命を捨てて戦う兵士までもだ。

 

 

 「いっくんはさ? こんな束さんを許さない?」

 

 「...俺は海賊なんで、なんとも言えませんよ」

 

 二人はそこで会話をやめて、クロエからの情報を目を通す。

 

 その中には、三日後。日本のある場所を襲撃する事が書かれており

 

 そこは。被害に合った者たちにとって復讐の対象であるーーIS学園だった。

 

ーーーーーーーーーー

 

 三日後ーー

 

 とある港にて武装した集団が倉庫で待機する。

 

 「皆、集まってるな」

 

 その中で、サングラスをかけた男性が台に乗り集団を見渡す。

 

 「今まで我々は祖国のため。そして家族のために戦ってきた。仲間を大勢失い、これが皆の未来のためと、苦しんだ」

 

 サングラスの男性。恐らくリーダーらしき男性はここにいる仲間を、同士達を見て大きく口を開け

 

 「だが!! どうだ!? ISなどと言う物ができ、我々には何が残った!? 戦場を奪われ!! 今まで戦ってきた兵を切り捨て!! さらに!! 家族までも、守ってきたはずの者たちに裏切られたのだ!! これがいいはずがない!! 」

 

 「そうだ!!」

 

 「我々が何故!! このような扱いを受けなけらばならない!?」

 

 「社会を!! 世界を正すんだ!!」

 

 集団が声を上げ、不満を。これまで受けてきた痛みを、悲しみを出す。

 

 「諸君!! 今日こそが!! 今まで耐えてきた我々の苦労が報われる日に!! 

 

 自由と平等を手にするために!! 戦おう!!」

 

 「「「 正しき世界を!!!!!! 」」」

 

 

 かくして、反乱を起こそうとする者達が動く。

 

ーーーーーーーーーー

 IS学園アリーナ

 

 

 「さぁ!! 私のブルーティアーズの力を思い知りなさい!!」

 

 「まだだ!! 僕はまだやれる!!」

 

 青いISと白いISが宙を舞う。青いISの傍から放たれるレーザーを回避するも白いISは追い込まれるが、ピット兵器を少しずつ落として行く。

 

 「秋人!!」

 

 待機所で箒が声を上げ不安げに見守り、アリーナのコントロール室で副担任の山田が真剣に身守る。

 そして、椅子に腰掛ける女性。

 

 「お、織斑先生。秋人君は?」

 

 「心配するな、アイツは自力で何とかする」

 

 一夏と秋人の姉であり、世界大会を二度制覇した女傑。

 

 織斑千冬だった。

 

 千冬は苦戦する秋人を見るだけで、顔色を変えない。 

 

 「はぁ、はぁ...」

 

 装備が剣一本しかない搭載されていな白式で、秋人は諦めず構える。エネルギーは余裕はなく。何とか接近して攻撃を続けて行くうちにセシリアの装備はライフルしか残ってなかった。

 

 「僕は、絶対に諦めないんだ!!」

 

 「くっ!! 私だって!!」

 

 代表候補生ーーセシリアがライフルを秋人に向け、引き金に指をかけた時だった。

 

 ドォォォン!!

 

 学園のどこかで爆発が起こり、気づけば緊急避難の警告が出されて、生徒達は悲鳴を上げ混乱していた。

 

 

 「何があった!? 状況を!!」

 

 「せ、先生!! 学園の一部で爆発が!! それに、こちらに向かってくる複数の物体が!!」

 

 スクリーンが出て学園の上空が映される。

 

 上空には何十機もの戦闘機が飛びミサイルが学園めがけて向かっていた。しかも、そのうち数発がアリーナに接近する。

 

 「くっ!! 」

 

 セシリアが残ったライフルでミサイルを打ち落とすが、先ほどの戦闘でエネルギーも余裕がない中でミサイルを打ち落として行く。しかし、セシリアの背後からもミサイルが接近していた。

 

 「セシリア!! 危ない!!」

 

 秋人が叫びセシリアに近づく。セシリアの背後から接近するミサイルを切り裂き爆発が起こり二人は地上に落下していく

 

 「うわっ!!」

 

 「きゃああ!!」

 

 二機のISが地面に叩きつけられるが操縦者を守るシールドが働き秋人もセシリアも怪我がなかったが、二機のエネルギーが底をつく。

 

 生身の二人に向け上空から新たなミサイルが迫る。秋人は少しでもセシリアをかばうため腕の中で抱いて、セシリアも恐怖のためか目に涙を浮かべ秋人に抱きつく。

 

 

 「あ~あ、何時の間に彼女なんてつくったんだ?」

 

 そんな軽口がした瞬間。二人に向かっていたミサイルが爆発し上空に太陽を背に一体のISが舞う。

 

 「それにしても、随分な花火だな。こいつは?」

 

 

 二人が恐る恐る見上げると、秋人の白式に似た剣を持った黒いISが出現したのだったーー

 

 

 

  

 

 

 

 

 

  

 

      




 長くなりました、何かあれば感想等よろしくお願いします。


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四話 黒騎士

 アリーナの上空に浮かび全身装甲で漆黒の剣を持つISに、秋人だけでなく今だ避難する一部の生徒や千冬達がおどろいていた。それは勿論、戦闘機を駆るテロリスト達も同様だった。

 

 「新手か!!」

 

 「だが、たった一機で!!」

 

 戦闘機からミサイルが放たれ黒いISに向かって飛ぶ。

 漆黒のISに乗る一夏は特に逃げる様子もなく、手に持つ剣を見てつぶやいた。

 

 「まさか、俺がこんなの使うとはね?」

 

 刃が漆黒で柄が金の装飾をされた太刀。

 

 かつて、冒険をしていた時にいた世界最強の剣士が使っていた剣と似ており。

 

 一夏は当初名も無きこの剣にある名をつける。

 

 刀剣として最大級の大物とされる12工の内の一つ

 

 黒刀 「夜」 と

 

 

 「そんな剣なんかで!!」

  

 

 テロリスト達が剣しか出さない正体不明の機体を見て笑い、一気に囲んでしまえば完全に撃破できる、と確信した時

 

 一夏が漆黒の太刀が振る。

 

 ザン!!

 

 向かって来たいくつものミサイルが全て真っ二つに分かれ連鎖的に爆発を起こす。

 

 「な!?」

 

 「何が起こった!?」

 

 「くそ!! だったらもう一発!!」

 

 「よせ!! 奴よりも先に!! IS学園を!! 誘導部隊もそろそろ限界だ!!」

 

 

 「 で、でも!! うわっ!!」

 

 一夏が黒刃を振るい戦闘機の翼が切れた。翼をなくした戦闘機は煙を上げて海へ落ちそこからは一方的だった。漆黒の刃が振るわれる度に、他の機体も同じように翼を失くしあるいは、機体自体を真っ二つにされ次次と戦闘機が堕ちる。

 

 「ば、馬鹿な、なんなんだ....なんなんだ!! アレは!?」

 

 残り一機となった戦闘機。コックピットの操縦桿にサングラスを置いた男が目の前の現実に叫びを上げる。

 

 今回の作戦は、地上と上空の二段での攻撃でIS学園に大規模な傷跡を残す計画だった。

 迎撃のISが出る前に、弾頭を使い尽くし。最後には機体もろとも特攻し死に花を咲かせる覚悟で来ていた。

 

 だが、現実は違った。剣のみを使うISのせいで学園に対したダメージを与える事ができないでいた。

 

  「誘導部隊!! 応答しろ!! おい!?」

 

 男が通信で地上の仲間と連絡するが、応答がない。となると、そちらの仲間も最悪な状況に追い込まれているとしか考えられなかった。

 

 「ここまで、なのか...だが!! せめて、私だけでも!!」 

 

 弾頭を使い果たし。機銃を打ちながらアリーナに特攻を仕掛ける。試合場に今だいる秋人とセシリアに弾丸の嵐が襲いかかるが、一夏が二人の前に立ち「夜」で銃弾を弾く。

 

 「え?」

 

 「あ、あ....」

 

 自分達を守ってくれた漆黒のISに二人は驚く中、一夏が久ぶりに見る弟を見て一瞬声をかけたくなったが。すぐに上空を見ると再び特攻してくる飛行機に向け、太刀を振るい斬撃が機体の翼を切り捨てた。

 

 「クソ!! 私は、私は諦めんぞ!!」

 

 コックピットが開き、男がパラシュートを開き脱出し戦闘機は海の方に落ち爆発が起こった。

 一夏は降下する男に何をする事なく、ISを浮上させその場から立ち去ろうとすると

 

 「待て!!」

 

 管制室から千冬が静止の声が聞きこえ、自分を睨む千冬が見えたがすぐにIS学園から離脱する。が、進路の先に複数のISが待ち構えていた。

 

 「そこの機体!! 直ちに止まれ!!」

 

 「...今さら来たのかよ」

 

 呆れた一夏は太刀を振って斬撃を出し、銃を構えていたISの装甲を切る。見えない攻撃に女性達が動揺する中。一夏は速度を上げてその場から離脱する。

 

 

 ーー学園で襲撃が起こった日。

 

 世界中でIS学園が襲撃された事件が報道されていた。

 

 幸い死者はおらず、負傷者は少なかった事や

 

 テログループのほとんどは元軍関係者が多く、長い時間をかけて今回の計画が行われたのが発覚。逮捕した一部の者から、今だリーダーは逃走中の事で現在も調査中と報道される。

 

 さらにもう一つ。

 

 かつて、最初のIS。白騎士を思わせるような謎の機体が出現し。テログループを撃退したとの情報が関係者から分かり調度、IS部隊とはちあわせするが逃走される。

 

 後日、この謎の漆黒の剣を使うISは白騎士の再来を思わせる事からいつしか

 

 「黒騎士」

 

 と名づけられるようになるのだったーー

  



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五話 旧友

 


 学園の襲撃から一ヶ月程経った頃。IS学園にて

 

 「秋人さん、これから私と訓練を...」

 

 「いや!! 私とだ!!」

 

 ISを装着した少女達。セシリアと箒が言い争い秋人はため息をこぼしつつ別の事を考える。

 

 先日。特攻覚悟でこのIS学園を襲撃してきたテロ達を撃退したあのISについてだった。

 

 ほんの一瞬、相手は顔を隠していたが目が合いその時、頭の中である人物の顔が浮かんだのだった。

 

 (兄さん...いや、そんなはずは...)

 

 「おい!! 秋人!!」

 

 「聞いてるのですか!?」

 

 「あ、あぁすまない...」

 

 考え事をしていた秋人は二人に謝罪しつつ、後でできる限り黒騎士について調べようと考える。

 

ーーーーーーーーーー

 

 「いや~それにしてもすごかったよ!! いっくん、いつの間にあんな事できたんだ!!」

 

 「あ、別に斬撃だしただけなんですけど...」

 

 学園での戦闘映像を見て、興奮する束に相槌をしつつ一夏は端末を操作する。襲撃事件が終わり、どうやら世間では自分の事を黒騎士と読んでいるらしく、ふと 何かに気づき顔を上げる。

 

 「束さん、このIS? なんで秋人のISと似てるんですか?」

 

 「ん? ああ、そういえば言ってなかったね。実は...」

 

 束が空中ディスプレイを出現させ何かが表示される。

 

 「いっくんの機体はね、束さんが初めて作ったIS「白騎士」の次に生まれた機体でチーちゃんにすら教えてない機体なんだ。何しろ、この機体ワンオフ・アビリティーがまだ出来てないから正直、欠陥品なんだよね~~」

 

 「ワンオフがない?」

 

 「そう、この機体...まぁ、黒騎士って呼ぼうか。黒騎士は他のISと違いコアが不安定だから、かなり操縦に不安があったんだけど、なんでいっくんが操縦しても問題なかったのか不思議なんだ」

 

 「まぁ確かに...研究所の中迷子になって、偶然触れたら機動したのが不思議でしたからね、それにあの黒剣も束さんの話だと、黒騎士が俺の記憶を読み取って作り出したんですよね?」

 

 「多分そうだと思うけど...ねぇ、いっくんがよければ束さんが新しいIS作って上げてもいいだよ?」

 

 一夏は束の提案を丁寧に断る。

 黒騎士が欠陥品だと聞いて、昔自分も姉と弟の欠陥品と言われた事を思いだし、黒騎士にどこか自分と似た所があると思ったからだった。

 

 「大丈夫ですよ、俺はコイツを...黒騎士を気に入ったんですから」

 

 と束に告げ、腕につけている黒いガンレットをさすり短くよろしくと告げる一夏。そして、ガンレットがほんの一瞬。一夏の返事に答えたかのように光った事に二人はきずかなかった。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 「たくっ!! 事務所ってどこよ!!」

 

 小柄な少女が悪態をつきながら学園の廊下を歩いていた。少女は大きなバックを持ち、手にある紙を見てうなだれる。

 

 「あ~もアイツ、どうしてるのかな?」

 

 ポケットからペンダントを出し、中には子供の頃の少女と秋人。さらに赤髪の少年や一夏が写った写真を見つめた。。 

 

 「...」

 

 少女は何も言わずペンダントを戻し、再び地図を睨み悪戦を続けるのだった。と、少女の後ろから一人の人物が歩く。

 

 

 「だめか、どこも大した情報はないか...」

 

 スマホを片手に歩き、前を向いてないせいで少女とぶつかってしまい。二人は顔を見て声を上げた。

 

 「!!っ 秋人!?」

 

 「え!? まさか、鈴!?」

 

 「そうよ、全く、何であんたがIS動かせてんのよ? テレビ見て驚いたわよ...?」

 

 「いや、僕も突然の事でさ...」

 

 「まぁ、いろいろ話をしたいけど。まずは、事務所どこかしらない?」

 

 「あぁ、それなら...」

 

 秋人が事務所を案内し鈴は後をついて行き建物に入って行く。そして、その光景を見ていた箒の目が大きく見開き唇をかみしめていた。 

 

  

 「なんなのだ、あの女は!?」

 

 女の嫉妬からか、まともな考えも浮かばないまま箒も建物に入り二人の跡を追ったのだった。

 

ーーーーーーーーーー

 

 再び、束と一夏の場面に戻る。

 

 秘密基地の格納庫。

 

 一つのISが組立られているが、通常のISと違う事が一つ。人の入るスペースが存在しなかった。

 

 「で、この人形で少しは実践してもらおうと?」

 

 「そうそう、いつ命狙われるのか分かったもんじゃないしね? 箒ちゃんの方も対策はしてあるから大丈夫だよ」

 

 「なるほど。で、いつ動かすんですか? これ?」

 

 「そうだね...一週間後かな?」

 

 のんきな会話をしている中。一機の不気味なISが完成して行く。

 

 そして。一週間後ーーーーー

 

 

  「秋人謝る気になった?」

 

  「だから、何を謝ればいいんだよ?」

 

 クラス対抗試合日。クラスの代表同士の戦いが行われるこの日まで、秋人と鈴の仲は何故か悪かった。

 鈴が学園に来てからいろんな異変が起こっており、それはーー

 

 秋人の部屋にて、部屋を変えて欲しいと迫る鈴に不機嫌になる箒。

 さらに、騒ぎを聞きつけたセシリアまで不機嫌になる始末。

 

 さらに、黒騎士にしか意識していなかった秋人は彼女たちに何もフォローもしていなかったからなおさらだ。

 

 「とにかく!! この試合で私がかったら殴らせろ!!」

 

 「意味がわかんないよ!?」

 

 秋人が突っ込むが無情にも試合開始の音声が重なり鈴には聞こえなかった。

 

 

 「くらいなさい!!」

 

 鈴の機体から見えない衝撃の弾丸を放たれ、秋人はどう対処したらいいのか分からずまともに受けてしまいエネルギーが大幅に消費する。

 鈴が放った攻撃。龍砲は空気を圧縮して放つ射撃武器であり、鈴の乗る甲龍(シェンロン)が白式を追い詰めて行く。 

 

 

 秋人も距離を取りつつ、何とか近づき二人が接近戦の武器で何度もぶつかっていると

 

 ドォン!!

 

 突如アリーナの天井が爆発し、黒い影が忍び寄る。

 

 



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六話 異世界の剣術

 突然の襲撃に合い、秋人と鈴の二人は不気味なISと対峙していた。

 

 「なんなのよ!? こいつ!!」

 

 不気味で全身が装甲に覆われたISがレーザーを連射し二人は回避をする。

 

 「鈴、エネルギーは!?」

 

 「ヤバイわ!! もう、そろそろ限界よ!!」

 

 「...分かった、なら賭けに出るしかない!!」

 

 レーザーの攻撃を躱しつつ、秋人が鈴に作戦を伝える。鈴からは ”そんな無茶はするな” と言われるが。今はこれしかない事を強く言い彼女を納得させる。

 

 「わかったわ...でも、絶対成功させなさいよ!!」

 

 空気が振動する音が聞こえ始め、甲龍の肩にある砲口にエネルギーが溜まっていく。

 

 攻撃を躱しつつ秋人は接近し、鈴の前に秋人が移動した時ーー

 

 「秋人ーーーーーーー!!!!!」

 

 突如、箒の声が鳴り響く。二人が視線を放送室に向けるとマイクを握りしめ叫ぶ箒の姿があった。

 

 「箒!?」

 

 「あの、馬鹿!!」

 

 謎のISが目の前にいる秋人達から視線を移し、放送室にいる箒を狙いを定めーー

 

 「やらせるか!!」

 

 ザンッ!!

 

 空気の弾丸を背に受け一気に加速した状態の白式の剣が振るわれ謎のISは胴体が二つに別れる。だが、機体の中に人の姿はなかった。

 

 「え? 誰も乗っていない?」 

 

 「嘘、まさか? 無人機だとでも言うの? っ!! 秋人!! 上!!」

 

 鈴が叫び、ISのセンサーが何かに上空から来る物に反応し二人の前に複数のIS出現した。今度は先ほど倒した無人機のISと違い、現れたのはちゃんとした人が操っているものだった。

 

 「侵入成功」

 

 「織斑秋人を発見・・・」

 

 「これより、捕獲する」

 

 顔を隠した女性達が三人。量産型であるリヴァイブを駆り秋人達を包囲する。箒が逃げるように叫び、千冬が動ける者がいないか呼びかける中ーー

 

 ドン!!

 

 突然、一機のISが持っていたライフルが切られて爆発が起こり天井から漆黒の刃を持ったISが出現した。

 

 「あ、あれは!?」

 

 女達は突然の敵に驚き、火気を乱射するが。黒いISが黒刀「夜」を振り斬撃で弾丸を切った。

 

 「くそ!! 動くな!! 直ちにISを解除しなければ、こいつらの命はないぞ!!」

 

 女性の一人が、何時の間にかエネルギーが切れISが解除されている秋人と鈴に向け銃口を突きつける。

 

 (人質かよ、どんだけ面倒なんだ、こいつらは?)

 

 一夏は内心で悪態をつきつつ、顔を隠す装甲以外を全て解除し生身の状態になる。そして女達はためらいもなく一夏に向け引き金を引く。

 

 「あっはははは!!」

 

 「馬鹿なやつめ!! 貴様のISは我々が有効に使わせてもらうぞ!!」

  

 「おらおらおら!! 」

 

 叫びを上げながら銃器を乱射するが一夏は特に何も驚かずに足に力を入れーー

 

 「剃!!」

 

 一夏の姿が消える。乱射していた三人が消えた一夏に驚いているとセンサーの反応に気づき後ろを見ると人質として取っていた秋人達がおらず

 

 「弾の無駄使いどうも」

 

 何時の間にかアリーナの端に二人を両脇に抱えて立つ一夏がいた。

 

 (な、何なの、この感じ、声...どこかで?)

 

 (この声って、まさか)

 

 抱えられていた二人はそれぞれ何かを思い、一夏に話しかけようとするが地面に下ろされ一夏は再びISを起動させ黒刀を振り斬撃を放つ。

 まずは、一機目のISに直撃させ壁まで吹き飛ばし残り二体にも同様に攻撃しようとするが、一発の弾丸が黒騎士の手に当たり黒刀が手から離れてしまう。

 

 「動くな」

 

 天井から新たなリヴァイブが出現しスナイパーライフルを構え一夏を狙っていた。武器をなくした一夏を見て二体のISが銃弾の嵐を放つ。

 剣を失った黒騎士はISを装備していない秋人と鈴の盾になり徐々にエネルギーが消失していく。

 

 「テロリストの癖に、何体持ってんだよ? 仕方ねぇ」

 

 秋人と鈴の盾になっている一夏が何かを思いつき、後ろにいる二人を見てーー

 

 

 「秋人!! 鈴!! お前らの剣、俺によこせ!!」

 

 「え?」

 

 「な、なにを」

 

 「いいから、全部よこせ!!」

 

 身動きできない一夏に、今度はブレードを展開し三人が一斉に襲いかかる。

 秋人と鈴は剣をよこせと言われ戸惑ったが、懐かしく聞いた一夏の声に心が動きそれぞれの剣を一夏に渡し、千冬や箒が黒騎士がやられると思った時ーー

 

  

 ガギン!!

 

 「「「 何!?   」」」

   

 両手を交差させ、鈴の持つ双天牙月を両手に。口に秋人の雪平弐型をくわえた黒騎士の姿が存在した。

 

 

 「二刀流・・・いや、三刀流・・だと?」

 

 千冬がこれまで見た事のない剣のスタイルに目を大きくし驚いていると、黒騎士はブレードを弾く。

 

 「パクリで悪いが!!」

 

 両手を再び交差させ、腰を低くし突進する。そして、幻覚なのか一夏の後ろに鬼の顔が一瞬見え、技の名を口にする。

 

 「鬼斬り!!」

 

 まずは一体。リヴァイブの装甲を切り、操縦者を守るシールド働き操縦者にはダメージはなかったが機体はエネルギー切れを起こし待機状態に姿を変えた。

 

 「う、うぁぁぁっぁあぁ!!」

 

 やられた仲間を見て接近するのは無謀だと判断し、二人目が銃を乱射するが一夏は攻撃を受け流しつつ、三本の剣を振るうーー

 

 「三刀流...狼流し!!」

 

 柔の剣より繰り出された技で銃を持った腕ごと切られ爆発を起こし二体目のリヴァイブは次々とブースターや足も切り落とされ鉄くずに変えられてしまい、女性は死の恐怖で気絶していた。

 

 「ば、馬鹿な、剣だけで我々を...な、何なんだ。何なんだおまえは!?」

 

 一夏の黒刀を弾いた四機目のリヴァイブがブレードを捨てライフルを乱射する。目の前にいる未知なる存在に我を忘れ、引き金を無我夢中に引き続けるが当たらない。

 

 「そんな狙撃、当たるかよ」

 

 弾丸は一夏をかする事なく通りすぎ、一夏は両手の剣を体の前に出し高速に回転させる。

 

 「見よう見まねだけど...三刀流、奥義!!」

 

 「く!! 来るな!!」 

 

 風車のごとく回る刃を見て、ライフルを投げ捨て女性は涙を流しながら逃げようと背を向けるが

 

 「三・千・世・界!!」

 

 技が完全に決まり、最後に残ったテロリストのISを切り捨てる。

 

 「う、うわぁぁぁぁ!!」

 

 切られたISが爆発を起し、パイロットは地面を転がり完全に気絶した。

 

 

 「...真似しただけで倒せちゃったよ...まぁ、元と比べればかなり劣化だけども」

 

 一夏は船員の中にいた、三本の刀を使い剣士を思いだし本来の威力はこんな物ではないと思いつつ三本の剣をその場に落とし、近くに落としてしまった黒刀を拾う。

 

 「止まりなさい!! 」

 

 いつの間にか、青いISを操縦しているセシリアが銃口を一夏に向けていた。しかし彼女の声は震えており、一夏がセシリアに向け殺気を向けただけでセシリアはひっ と短い悲鳴を上げ彼女がひるんだ隙に一夏は逃げる。

 

 セシリアもその後を追いかけようとするも千冬に止められてしまい、黒騎士を見逃すのだった。

 

 

 

 

  




 

 


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七話 その者達の名

 

 IS学園の二度目の襲撃事件により世界中の報道機関やマスコミからの電話対応に一部の学園の教員が追われる中。学園内にある会議室では理事長を始め学園の重要人物達が集まり千冬の姿もそこにあった。

 

 (あのIS...まさか束のやつが? それに、黒騎士の操縦者...あの声は...)

 

 千冬は黒騎士の事を考えながら手元にある書類に目を通す。内容は、二度の襲撃がとある組織が関わっている事が書かれており千冬が開いたページには

 円の中にドラゴンのような生き物が描かれた紋章が印刷されていた。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 「クソ!! 失敗しただと!!」

 

 椅子を蹴り上げ息を荒くするサングラスの男。

 

 「しかも、またあのISに!!」

 

 この人物はIS学園を襲撃した戦闘機のリーダをーしていたサングラスの男であり、一夏に最後に撃墜された人物だった。 

 

 「お、落ち着いてください...」

 

 傍に栗色をした眼鏡をかけた女性が声をかけ、彼に近寄る。

 

 「はぁはぁ...すまないエレン」

 

 「大丈夫ですか? やはり、一度休まれては...」

 

 「心配するな。それに、そんな暇はないのは分かっているだろ?」

 

 男が席に戻り、机に置かれた書類に目を通す。

 

 内容は、二度にわたる襲撃失敗の損害についてだった。

 世界中から集めた同士が捕まり、別の所でどうにか戦力補給の為に手に入れたIS四機を失うなど損失は大きかった。

 

 「隊長...」

 

 「だが、諦める訳には行かないんだ...この世界を正すために」

 

 今も窮地にあるはずなのに、男は静かに呟きその様子はまるで迷いはない。

 

 「はい」

 

 エレンも力強くうなずき簡単な報告を部屋を出る。

 

 首元にかけているペンダントを開け、中には小さな男の子と女の子が笑って写っている写真があった。

 

 「アレックス...待っててね。お姉ちゃん、世界を変えて見せるから」

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 一方で

 

 「あ、そういえば束さん」

 

 「ん? 何? いっくん?」

 

 台所に立ち、同じ柄のお揃いのエプロンを着て二人は食器を洗い。一夏が最後に後片付けをしてタオルで手を吹き上げる。

 

 「この間ISに乗っていた連中って、なんだったんですか? 」

 

 「ん? あ~いっくんが三刀流でやっつけた奴ら?」 

 

 「もしかして、俺と秋人を誘拐した奴らですか?」

 

 「ん~ん、違うよ」

 

 束がはっきりと違う事を言うと、空中に画面が出現する。円の中にドラゴンのような生き物が描かれた紋章が出現した。

 

 「こいつはね、いっくんが居なくなった後にできた組織でね...」

 

 紋章が消え、今度は別の画面に切り替わる。そこには、大破したISの画像やIS関連の企業・操縦者やその家族が襲撃された事件などが次次と流れ彼らの名が表示される。

 

 

 

 「...革命軍」

 

 その名はかつて、一夏を助けてくれた今は亡き船長に関係した物と同じ名だった。

 

 

 

    



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八話 転校生と黒き穴

 六話を少し修正しました(7月4日)


 革命軍による襲撃から数日が経ちーー

 

 学園内の秋人のいる教室では生徒達が騒いでいた。

 

 「ねぇ、これ例のアレの画像?」

 

 「いいな~~私にも頂戴よ!!」

 

 「それにしても、カッコイイわ・・・」

 

 

 教室のあちこちで何人かの生徒が集まり、手に持つ携帯の画像を見せ合い画像には、漆黒の剣を振るうISが表示されていた。

 

 どういう訳か、革命軍の飛行機部隊が襲撃した時の映像がどこからか漏れており、IS学園だけでなく日本、さらに全世界の人達が戦闘の映像を有名な動画サイトで閲覧していた。

 

「それにしても、こんな剣どこで作られたんだろ?」

 

「一体誰が操縦してるのかな?」

 

 十代の女の子達は思い思いに、未知なる存在に妄想をふくらませ話しが進む中。

 

「...兄さん」

 

 ただ一人席に座り考えごとをして、ため息をする秋人。

 

 頭の中はでは黒騎士と接触したい事で一杯だった。革命軍のISから自分と鈴を見たことのない剣術で守ってくれた際に聞いた声。

 

 絶対とは言えないが、聞き覚えのある声だった。

 

 事件が終わった後、仲を取り戻した鈴に中国の方で黒騎士についての情報があるか聞いたが何もないとの事にさらにため息をつく。

 

 とそこで調度HRのチャイムが鳴り始めた。

 

「おはようございます、皆さん」

 

 笑顔で挨拶しつつ教室に入る麻耶。そして、その後に千冬も入っ来て秋人はなるべく視線を下にしつつ千冬と顔を合わせないように話し千冬の話を聞く。

 

 「今日は皆さんにお知らせです。今日から転校生がーー」

 

 教室の扉が開かれ、金髪の男性の制服を着た人物と銀髪の少女が入って来たーーーー

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 とある日本から離れた海にて。

 

 「お、あったあった」

 

 海面の真上に小さなブラックホールのような穴が出現しており、黒騎士をまとった一夏はブラックホールに右手を向けた。

 

 黒騎士から怪しい闇が生まれ、ブラックホ-ルは小さくなって粒子と化して黒騎士に吸収されて行く。

 

 謎の粒子が黒騎士に集まった事により機体の内部にあるコアが強く光輝き始めており、一夏が何をしているかと言うと

 

 

 数日前の事ーー 

 

 

「つまりね、いっくんが出てきたあのブラックホール。黒騎士だとそこから特殊な粒子が出て、それが黒騎士を強くさせるのに必要なの」

 

「? なんで黒騎士が?」

 

「あ~ごめん、説明は後。穴は時間が経つと消えちゃうからできれば早く行ってほしんだ」

 

 理由が分から無いまま束に調査を依頼された一夏。

 ここ何日か一夏はあちこちを飛び回ることになり、既に十箇所以上の穴を見つけ粒子を集めて移動していた。

 

 

「さて、次は」

 

 

 一夏はマップを見つつ次のポイントまで移動するのだった。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 IS学園内。 

 

 

「どうした? その程度か?」

 

「くっ!!」

 

 アリーナ内で対峙する黒と白のIS。

 

 片方は秋人の白式で、もう片方は今日転校してきた少女「ラウラ」の黒きIS「シュバルツェア・レーゲン」だった。

 

 秋人はラウラのISに搭載されたAICと呼ばれる機能を使われ、動きを完全に封じされレールカノンが向けられる。

  

 

「秋人さん!!」

 

「秋人!!」

 

 ボロボロとなって座り込む鈴とセシリアが叫びも虚しく、現状は何も変わらない。

 

「所詮は雑魚か」

  

ラウラは秋人を侮蔑した目で見つめながら話を続ける。

 

 「黒騎士とやらが来ると思いこの国にきたのだが、どうやらソイツもおまえみたいな奴と一緒で、取るに足らん存在のようだな」

 

「!! おまえ!!」

 

 もしかしたら兄かもしれない人物の悪口を言われ感情的になる。そして、カノンの弾丸が発射される寸前。

 

「そこまでにしておけ、貴様ら!!」

 

 接近ブレードを持った千冬がIS用の刀で砲口を叩き弾があさっての方向に飛んで行く。

 

「き、教官!?」 

 

「姉さん!!」

 

 突然の乱入者に驚いていると、千冬は二人に死闘を行うのを禁止する事を告る。さらに、もし戦いたいのなら次のタッグマッチで周りに迷惑をかけないようにすることも強く二人に注意する。

 

「分かりました、教官がおしゃられるなら」

 

 教官である千冬の言葉をラウラは聞きそのまま退場するが、秋人は不満な表情を浮かべ千冬を睨む。

 

「どうした? 織斑? 何か不服か?」

 

「いいえ」

 

 千冬から顔を背けた秋人はそう短く答えビッドに戻って行く。

 

(僕に、僕に力がないのがいけないのか!?)

 

 ISを解除した秋人はロッカー部屋につくとロッカーを殴り怒りを隠せきれないようだった。

 様々な不満や理不尽が多すぎて頭が整理できず暫らくしてから秋人は、ラウラにより怪我を負った二人の様子をみるため保健室に向かうのだったーー

 

 

   

 

  

 

 

 

 

 

   




 今回、一夏がしたことはワンピのとある能力を使うための準備です。

 

 
 


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九話 出会い、そして水の淑女

 一部修正しました7月11日


  

 IS学園から離れた街にある、とある店にてーー

 

 「はい、予約をしていた更識です」

 

 店員から箱を受け取り代金を渡す人物。眼鏡をかけた私服姿の彼女はアニメ専門店を出て、外で待つ親友と合流する。

 

 「あ、かんちゃん~~」

 

 「ごめん、本音、待った?」

 

 本音と呼ばれた少女は気にして無い様子で 大丈夫 と答え。二人は歩きだす。

 

 「かんちゃん、それって?」

 

 「ん? あぁ・・・」

 

 少女。簪が箱を少しだけ開け見せる。中はDVDでパッケージの表面には、とある剣士の主人公が活躍する内容のアニメだった。

 

 「ねぇ、その主人公も黒い剣使ってるね? まるで、黒騎士見たいだね~~?」

 

 「黒騎士...」

 

 今学園内で誰もが噂している謎のIS。漆黒の剣を使い二度もIS学園に現れ、テログループを撃退している。

 簪も画像で見た事もあり、とても気になっていた。

 

 「そうだね...」

 

 昼間の街を歩く二人。そして、その二人を影から追ういくつかの人影がいたーーーー

 

 

 

 

 「え~と、次の穴は?」  

 

 麦わら帽子を被り、伊達眼鏡をかけた一夏が端末を頼りに街を歩く。

 

 (それにしても、誰も俺には気づかないもんだな...)

 

 一応、世界最強の姉の弟のはずなのだが、誰も一夏だと気づかない。やはり、誰もが千冬しか見ておらず、その家族ーー弟はどうでもいいのだろう。

 

 「まぁ、そのほうがやりやすいけどな、ん?」

 

 目の前にある店から突然二人の少女が走って来て、人気のない道に走って行き、その後から黒服を着た複数の男女が店から出て来た。

 

 「くそ!! ターゲットは裏に入った!!」 

 

 「B班!! 裏に道に入れ!! このまま挟み撃ちにする!!」

 

 通信でどこかと会話し、すぐに道に入って行く。

 

 「こんな昼間っから、なんだよ?」

 

 ため息をつきながら、一夏は足を一回屈伸させ 

 

 「剃」

 

 と言った瞬間、その場から姿を消す。  

 

 

 

 「はぁ、はぁ!!」

 

 「頑張って!! 本音!!」

 

 後ろから追ってくる黒服達を睨み一本道を走る二人。簪はどうして自分達が追いかけられているのか心当たりがあった。

 

 簪の家である「更識家」

 

 古来より日本を守る暗部の家で、当然敵も存在する。恐らく、後ろの黒服達もその敵だろう。

 

 

 「ISさえあれば...」

 

 簪も日本の代表候補だが、運悪く現在彼女はISを持っていおらず、ただの少女でしかない。もちろん本音もだ。

 

 

 「いたぞ!! 更識の妹だ!!」

 

 前から別の黒服達が向かって来て二人は足を止め、後の連中にも追いつかれてしまい囲まれてしまった。

 

 

 「大人しく、ついてこい」

 

 一人の黒服が懐から銃を出し向ける。本音は悲鳴を上げ簪に寄り添い目を閉じる。

 

 「安心しろ、麻酔だすぐに終わらせてやる」

 

 男が言い、引き金に指が触れてーー

 

 

 「何が安心しろだ」

 

 ドン!!

 

 銃を持った男が吹き飛ぶ。

 

 簪も、周りにいた黒服達が驚きの顔になり固まる。

 

 何故なら、いつの間にか簪達の前に拳を突き出し、麦わら帽子を被った少年が立っていたのだった。

 

 

 

 「え!?」

 

 簪が驚いていると、少年...一夏は帽子を上げ簪と本音を見る。

 

 「大丈夫か? つか、こいつら、何?」

 

 「貴様!!」

 

 一夏が質問していると、男達がスタンガンや特殊警棒を手に持ち何人かが襲いかかる。

 

 「に、逃げて!!」

 

 「あ?」

 

 簪が一夏に逃げるように言うが、その場から逃げない。そのまま無残な姿の彼の姿に覚悟した瞬間。

 

 一夏は逆立ちになって回転し、蹴りを入れ込む。

 

 

 「がっ!!」 

 

 「うわっ!!」

 

 「うぐっ!!」

 

 「ぶっ!!」

 

 足技で男達を吹き飛ばし、逆立ちの状態から戻る一夏。残った三人の黒服女は突然のことに驚きの声を上げるしかない。

 

 「女性に、武器むけんじゃねぇよ」

 

 あの世界で、女性に対しての騎士道を学んだ一夏はそう吐き捨て、女性達を睨み拳を壁に叩きつけーー

 

 

 ドォォン!!

 

 コンクリートでできた壁に穴が空き、ヒビ割れる。

 

 「あ、あああぁぁぁぁぁあぁ!!!!!!!」

 

 女性達は一夏がしたことを見て、すぐに理解してその場から叫びを上げ逃げだした。

 

 

 

 「まぁ、これでいっか」

 

 逃げ出した奴らを追う事なく、一夏は後ろにいる腰を抜かし座り込む簪達を見る。流石に、壁をぶち抜くなどしたら怯えられるか と内心思い、その場から立ち去ろうとする。

 

「ま、待って!!」

 

 何とか口を開き、立ち去ろうとする一夏を止める簪。

 

 

 「あ、ありがとう...」

 

 「ん、あぁ・・・ところで自分で立てるか?」

  

 

 一応彼女たちに聞くが、二人は首を横に振る。そして、気づけば辺りが少し騒がしくなり、人が集まり始めていた。

 恐らく、壁を破壊した時の音で気づかれたようで、近くからパトカーのサイレンが聞こえ始めた。 

 

 「めんどうだな...仕方ねぇ!!」

 

 即座に簪と本音を脇に抱え「口閉じてろよ、舌かむから」と言い、上に跳ぶ。

 

 「月歩!!」

 

 足を高速に動かし、三人分の重力があるにも関わらず。一夏は・・・宙を舞っていた。

 

 「え?」

 

 「す、すごい!! と、飛んでる~~~~!!」

 

 ISもなしに生身で飛び、二人は驚きで声を出し。やがて、傍にある店の屋上に辿りついて二人を降ろす。

 

 「い、今のは?」

 

 「あ、その、単なる体術だから。そんじゃ」

 

 どう言い訳したらいいからからず、一夏はそのまま立ち去ろうとして、簪が思わず手を掴む。

 

 「ま、待って!! 助けてくれてありがとう...その、貴方は...?」

 

 「俺か?」

 

 流石に自分が死んだはずの人間だと言う訳には行かず、このまま手を離してくれそうにもない彼女に一夏はどう答えたらいいのか悩んでいると

 

 「あら、私も是非聞きたわね?」

 

 と、気づけば一機のISが空に浮かび、簪に似た青髪の少女が槍を一夏に向けていた。

 

 「ね、姉さん!?」

 

 「かんちゃん、離れて...そこの貴方、一緒に来てもらうわよ?」

 

 突然の人物の登場で一夏から手を離す簪。一方で槍を向けらた一夏はどうしてこうなった? と肩を落としーー

 

 「悪いけど、嫌だ」

 

 その場から消えたような速度で屋上の出口まで走る。

 

 「!? 速い!!」 

 

 センサーのおかげで一夏が出口に向かっていることに気づいたIS使い。

 

 簪の姉である楯無は一夏を追う。

 

 「止まりなさい!! さもないと、撃つわよ!!」

 

 槍にある四つの銃口で狙いを定め、一夏は止まる事なく扉に走るーー

 

 のでなく、傍に落ていた鉄パイプを拾い楯無に向かい、一夏の手と持っていたパイプが黒く変色し楯無の槍とぶつかる。

 

 

 ガギン!!

 

 「うそ...!!」

 

 目の前で信じられない光景に簪も本音も大きく目を開いた。ISは世界最強の兵器であり、もちろん使っている装備だって簡単に人を殺せる物のだがISをつけてもいない生身の人間が、鉄パイプごときでISの槍を受け止めたことにその場にいた少女達が驚く。

 

 

 「っ!! ば、馬鹿な!!」

 

 「悪いけど、俺は行くからな」

 

 一夏はパイプから手を離し、黒く染まった左手で殴り、ISを吹き飛ばす。

 

 「そんじゃな!!」

 

 パイプを捨てて、扉を開けて逃げ殴り飛ばされ体制を立て直した楯無は追いかけなかった。

 

 「し、信じられない...」

 

 素手での一擊を食らったが、ISのシールドに守られた楯無は無傷だったが、今さっき起こった現実に驚きが隠せないでいた。

  

 

 「これは...ただの、鉄よね?」

 

 先ほどまで一夏が持っていた鉄パイつをつかみ、触るがどこも変な所なぞない。なら、あの黒くなったのは? と答えの出ない、いろんな疑問が頭の中に広が、

 

 「ふふ、不思議ね? また会える気がするわね」

 

 怪しい笑を浮かべ、開けっ放しになった扉を見て、簪も見た

 

 「また、あえるよ、ね?」

 

 簪も、まだ名も分から無い彼の姿を頭の中で浮かべ呟いたーー

 

 

 

 一方で、逃走中の一夏は

 

 

 「げ、穴消えてるし」

 

 目的地の裏通りに入るが、既に穴が閉じていたらしく。がっくりと 肩を落とすのであった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 数時間前。

 

 

 一夏が簪達と遭遇した時。

 

 裏どうりを通る一人の男が、秋人が歩いていた。

 

 「だめだ!!」

 

 頭をかきむしり、気分転換が全くできていなかった。

 

 「どうしたらいいんだよ、僕は?」

 

 ベンチに座り込み、肩を落とし顔を上げると・・・

 

 「!? な、なんだあれは!?」

 

 いきなり目の前に、黒い穴が出て来て思わずISを起動させてしまう。

 

 白式の剣を腕ごと穴に入ってしまい、思わずワンオフ・アビュリティーを発動してしまいーー

 

 黒い穴が消失して粒子と化しす。そして逃げる暇もなく秋人は粒子を浴びてしまう。

 

 「う、うわぁ!! な、なんだこれ?」

 

 粒子を浴びてしまった体を見るが、どこにも異常は見られない。得体のしれない事が起こり、秋人はISをしまい、そのまま走って逃げる。

 

 この時、彼はまだ自身の変化に気づいていなかったのだったーー

 

 

 

 

   

 

 

 

 




 一応、秋人が強化します。


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十話 見聞の力

「只今、束さん~~」

 

「あ、お帰り!! いっくん!!」

 

 ラボに入った一夏を出迎える束。一夏は収集したブラックホールのデータを渡し、早速解析に取り掛かる。

 

「そういえば、束さん」

 

「ん? どうしたの?」

 

「あの穴なんですけど、なんで黒騎士の強化に必要なんですか?」

 

「そういえば、言ってなかったね~~ いっくん。黒騎士でブラックホールを吸収したら光が出たでしょ? 」

 

「粒子? 騎士が吸収した?」

 

「そうそう。あれね人間に当たると、その浴びた人間の潜在能力を何故か引き出す事ができるみたいなの。不思議だよね? そんでもって、黒騎士のISコアにはその粒子の塊が使ってあるんだよ」

 

「なっ? 何のために、そんな?」

 

 一夏がまさかの答えに戸惑っていると、束は笑顔でーー

 

「あのブラックホールを制御する為だよ...黒騎士をより強くするためにも、ね?」

 

 かくして、まだ浅いISの歴史で、最も強く、そして最凶のISが誕生しようとしていた・・・

 

ーーーーーーーーーーー  

 

「秋人...」

 

「大丈夫だから...シャル」

 

 頭を抱える秋人を心配そうに見つめるシャルル...だが、今の彼には本来男性にはない胸に膨らみがあった。

 

 ほんの二日前程、偶然同室にあるシャワー室に入っていたシャルを見て、彼いや彼女の正体をしる事となる。

 

 企業の社長の愛人の子。

 父より秋人のデータを盗むために男装したこと。

 

 それらをシャルが話し、その顔を絶望に染まっていた。そして、この学園から立ち去ろうと口にしたとき。

 

 「それで、いいのかよ!?」

 

 秋人が怒り、シャルに自分の事、そして兄の事・・・一夏の事を語る。

 

 誘拐され、身代わりになって行方が分から無い一夏。そして、一夏が最後に秋人に伝えたあの言葉。

 

 「生きて自分の存在を証明する」

 

 それを聞き、シャルがここにいていいのか? と聞き

 

「もちろんだ!!」

 

 秋人は力強く受け入れ、シャルは彼の胸に飛び込む一晩中泣きじゃくったのだったーー

 

 

 

 そして、現在。

 

 タッグマッチの対戦当日になり、一回戦の相手。箒とラウラのペアに当たる。

 

 開始まであと数分の所で、突然秋人がフラつきベンチに座り、今に至るのだった。

 

「大丈夫。行こうか?」

 

 少しフラつきながら秋人は立ち上がり、通路を進む。その後ろ姿を見てシャルは何も言えず後を追うしかなかった。

 

 

 

 

「ふん、逃げ出すかとおもえば。わざわざ負けにきたのか?」

 

 ISを装着したラウラが鼻で秋人を笑い、となりいる箒が睨むが気にもしていない。開始まで後、数十秒になるも、秋人の目はどこか遠くを見ていた。

 

 (なんだろ...頭にへんな声が...)

 

 頭の中でざわつくはっきりとしない声がさっきから止まらない。どんなに耳を塞いでも意味はなく。集中できない中

 

 

 ビッーーーー!!

 

 ついに試合開始の合図が鳴り始める。

 

 

「まずは貴様からだ!!」

 

 一番目に動いたラウラの機体から複数のワイヤーが発射され、一歩出遅れたシャルが銃を装備し秋人を援護しようするが、箒がブレードで切りかかりシールドで防ぐ。

 

「くっ!!」

 

 完全に出遅れた秋人は剣を出そうとするが、先にワイヤーにより機体を拘束され動けなくなる。どうにか逃げ出そうとするも、衝撃が襲いかかる。

 

「このまま無様に敗北するがいい!!」

 

「ぐぁぁぁ!!」

 

 レールカノンを打ち込み、ワイヤーで身動きがとれず的になっていた秋人に全部命中し壁に吹き飛び激突した。

 

「はははははっ!!! 所詮、雑魚はその程度だ!!」

 

 ラウラが高笑いし、これで秋人はリタイアだと思い込んで。そのままシャルの方に向かおうし背を向けた時ーー

 

 瓦礫の崩れる音がし、ラウラが振り向くと秋人が立っていた。

 

 「死にぞこないが!!」 と叫び今度こそ確実に仕留めるため、ワイヤーを飛ば逃げられないようにするが、秋人は少しだけ機体を動かしただけで、避ける。 

 

「何!?」

 

 攻撃がまさかの失敗に終わり、驚いたものの今度は確実に仕留めるためプラズマの手刀で攻撃するが

 

「...」

 

 秋人は体を横に動かし無言で避ける。

 

「くそ!! かわしてばかりで!!」

 

 手刀だけでなく、射撃武器やワイヤーを使い、時にはフェイント等をして攻撃するが、当たらない。それどころか、傷一つすらつけられない。

 

 秋人のまるで、先読みのような動きに観客席にいるセシリアと鈴も驚きが隠せない。

 

「な、なんなのよあいつ...」

 

「す、すごい...まるでラウラさんの攻撃がどこからか来るのが分かっているみたいに・・・」

 

 誰もが注目し、近くで既に箒に勝利したシャルはどう援護したらいいのか迷って近づくことができないでいた。

 

「くそ!! 何故だ!? 何故当たらない!?」

 

(なんでだ? どうして、ラウラのしようとする事が、わかるんだ?)

 

 さっき壁に激突した時、異変が始まっていた。

 

 頭の中にあるざわつきが、今度ははっきり聞こえ、それがなんなのか秋人は自分でも分からずにいた。

 

 だがその声は...今周りにいる人間、観客席にいる人間の声だった。

 

 そして、もちろんその中には目の前で攻撃してくるラウラも含んでいた。

 

「何故、何故、何故だ!!!!!!!!」

 

 今、ラウラから感じるのは 焦り 怒り などで、もはや平常心ではなく冷静な判断ができず横から接近してくるシャルに気づく事ができず銃撃を受ける。

 

「まさか、ボクを忘れてないよね?」

「き、貴様!!」

 

 ひるんだ隙に盾を構える。すると盾に備え付けられている杭の一擊をまともに受けてしまい。そこから大きなダメージを与える事ができた。そして、それはエネルギーだけでなく、ラウラの精神にも及ぶ。

 

(そんな!! 私は、こんな奴らに!!)

 

 負ければ、また弱者と呼ばれる。そうなれば、あの人に、教官に見放される

 

(そんなの嫌だ!! 私は、負けたくないんだ!!)

 

 彼女の黒い感情に答えるように、ISに異変が起こる。プラズマを起し、真っ黒な何かにつつまれ始めた。

 

 突然のことに、建物内部で避難警報が発動され生徒や観客達が避難していく。

 

 そして、黒い塊は徐々に形をつくり、一人のある女性の姿へ変貌する。

 

「姉さん!?」

 

 千冬の姿をした何かは、剣を取り出し秋人に襲いかかるが、さっきと同じようによける。

 

(なんで姉さんに? それにラウラは...苦しんでる?)

 

 黒い千冬の中から、声が。ラウラの苦しそうな声が聞こえた。

 

「たすけて」

 

 小さなそんな声を確かに聞き、秋人は剣を構え光輝く。白式に搭載された、このISだけの能力であり、今の状況を打開する力ーー

 

「零落百夜!!!!」

 

 すべてのエネルギーを使った一擊と、黒い千冬のもつ剣がぶつかりーー

 

 少女の黒い感情から生まれた異形は、崩れさる。

 

 そして、あとには目を閉じ、涙を落とすラウラが無事な姿で倒れているのだったーー

 

 

 

 

 

 

  

   

 

 

 

 

 

 

 

 




 


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十一話 予兆

 試合中にラウラが見せたISの事件より一日ーー

 

 教室でボードの前に立つ一人の女生徒。

 

 シャルルと名乗っていた彼、いや彼女は本来の自分の名前「シャルロット」を皆に伝える。

 

「シャル...」

 

 彼女を安心したように見つめる秋人。そして、自体は急変する。

 

「ねぇ、昨日って入浴室、秋人君使って無かったけ?」

 

「え?」

 

「まさか!?」

 

 全員の目線が秋人に集まり、つい最近。周りの気配に敏感になった秋人は、教室の中で感じる二つの殺気の内、一つから出た何かをかわす。

 

「おほほほ、かわされてしいましたわ」

 

 ISの銃を構えるセシリア。そして、その近くには刀を持った箒が睨む。

 

「秋人、貴様!!」

 

「ご、誤解だーーーー!!」

 

 教室から出ようと走るが、突如。廊下から殺気を感じ、ドアが開けられた。

 

「秋人!!」

 

 ISを装備した鈴が怒りを表し、肩にある砲台が音を上げる。

 

 (ここで、撃つのか!?)

 

 もはや怒りで理性を失っているのを感じた秋人は、最後の手段として窓から飛び降りようと覚悟を決めたーー

 

 その時。窓から誰かが入り込み秋人の前に立つ。

 

「うるさいぞ、貴様ら」

 

 一つの声が上がり、その瞬間。鈴から放たれた弾が教室を破壊することは無かった。

 

「ラウラ!?」

 

 ISを一部だけ展開し、殺気を出してない彼女を見て戸惑う秋人。

 

「あ、ありがとう...」

 

 とお礼を伝えた瞬間。彼女がいきなり接近し、唇を塞いだ。

 

「む、むぐ!!」

 

「...ふむ」

 

 ラウラが秋人から離れ、秋人を指差しーー 

 

「今日から貴様は私の嫁だ!! 異論は認めん!!」

 

 と謎な宣言をしでかすのだった。

 

「な、何を...?」

 

「この国では、気に入った物を嫁を言うのだろ?」

 

「い、いや言わないし、それに...うわっ!!」

 

 再び殺気を感じ、その場にしゃがむ。すると頭上を弾丸がかすり行った。

 

「ははは、もう秋人ってば...何をしてるの、かな?」

 

 ISの銃を構えたシャルが秋人を狙い、同時に四人の少女も獲物を向ける。

 

(...兄さん、僕。もうじきそっちにいきます...)

 

 心の中で遺言を残し(実際には生きてるのだが)迫りくる暴力に覚悟していた時だったーー

 

「何をしている、お前ら?」

 

 鬼神。

 

 手に持つ出席簿がまるで妖刀に思えたぐらいの、威圧を放ち教室に足を踏み入れる彼女。

 

「この、馬鹿者共どもがーーーーーー!!」

 

 

 負けなしの女傑の怒鳴り声が学園中に響き、その日六人は地獄を見ることになり。

 

 翌日の朝には屍のような秋人達がいたのだった。

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「その、始ましてクロエさん」

 

「そう、かしこまらなくて結構です。一夏様。それに、私の事はクロエとお呼びくださいませ」

 

 まるでお見合いのような空気の中、二人は向かい合って座る。

 

 何かの調査を終えたクロエが秘密基地に戻り、束から二人でここに待機するように言われ、数分になっていた。

 

 (こんなに気まずいのっていついらいだ? 檻に入れられた時ですら、こんなのなかったぞ?)

 

 もっともその時は、国を乗っ取られそうになっていたので、そんな余裕は無かったのだが...

 

 

「やっほ~~ どう、自己紹介してた?」

 

 と、ここで雰囲気をぶち壊す束が出現し、一夏は内心で一息ついた。

 

「束さま、いかかでしたか?」

 

「うん、くーちゃんが集めた粒子、結構多かったよ~~もう、無理しちゃって・・・」

 

「いえ、この位大したことではないので。」

 

 頭を下げるクロエ。束はそんなクロエの頭をなでて、下を向いた彼女も顔を赤くするが何も言わない。

 

「さてさて、さっきくーちゃんには馬鹿どもを殲滅してくれたし、後は...」

 

「馬鹿ども?」

 

「あぁ、またアイツ等がさ、やらかしてさ・・・今度はISの中に変な機能つけて暴走したんだって、けど、あっくんが止めてくれたから大丈夫!! しかも、どこも怪我してないから、心配はないよ?」

 

 ちなみに、そのアイツ等とは誰何か、一夏は口調からして察して、質問をしなかった。

 

「そうですか...」

 

 秋人の事も、束が大丈夫と言えばきっとそうだろうと信じ。慌てた様子がなかった。

 

「さて、さて...ここでいっくんにお願いがあるんだけどダメかな?」

 

「お願い? 粒子を集める事ですか?」

 

「違う、違う。それは、もう二人が集めてくれたから、後はシステムを作るだけ。お願いって言うのはね...箒ちゃんの練習相手になってほしんだ?」

 

 練習? それはどうゆう事かと聞くが。ラボに来るように言われ二人は部屋を出る。

 

「実は、さっき箒ちゃんから連絡さってさ、ISを専用機が欲しいって言われてね?」

 

「箒...あいつか、で専用機どうするんですか?」

 

「もちろん、あげるんだけどこのまま渡してもな~~って思って」

 

 やがて三人はラボに入り、奥に紅いISが置かれていた。

 

「紅椿。これが、束さん特製第四世代のISなんだ~~」

 

「第四世代...ん? そういえば、俺が使ってる黒騎士って」

 

「黒騎士は白騎士と同時に生まれた機体、ですので第一世代の機体となります。」

 

 後ろからクロエが補足し始める。

 

「そうなんだよね...いっくんの黒騎士。まだ第一世代の性能のままだから、早めに改修するから待っててね?」

 

「あ、それはいいんですが。俺、旧式で戦ってたんだ」

 

「さらに言えば、一夏様は黒騎士を使いこなし、いや完全にコントロールされておりますので、これは私の考えですが、一夏様の力は代表候補、いや。国家代表クラスの力があると思われます」 

 

 クロエの真面目な意見に、少し照れながら礼を言う一夏。束はディスプレイを出し、一夏の声をかける。

 

「ところでいっくん? 改修するに際に、何か希望する武器とかある? 今は剣とナイフしか装備してないしさ?」

 

「装備か、う~ん」

 

 画面に写しだされる黒刀を見てうねりを上げる。偶然とはいえある人物に似ている剣を見て、とある事を思いだす。

 

 その人物が所属していた、ある物に

 

「じゃ、これなんかどうですか?」

 

 一夏は思いついた事を言い、束がキーボードを打ち込みそれぞれ、何かの形になる。

 

 ある物は、蛇のような顔をし

 

 ある物は、小さなコウモリの形を

 

 さらに、手の部分には熊のような大きめ装備と

 

 細い何かかが手から飛び出す。

 

 最後に、機体の一部が動き回る。

 

 

「うん、了解!! 先に、能力の開発の方進めるから遅くなるね?」

 

「よろしくお願いします」 

 

  

 紅椿を待機状態にして厳重に保管し、さらに何かが創られようとしていた。

 

 

 そして、一夏・秋人が再び出会うのは

 

 そう遠い日ではなかったーーー

 

 

 

 

 




 

 本当にコメント。お気に入り登録など、ありがとうござました!!


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十二話 臨海学校

 
 今回詰め込みすぎましたので、戦闘は次の回になります・・・


 ーーそれは、簪が一夏と出会った日の夜に起こった出来事であった。

 

 「...」

 

 キーボードを打ち終え目の前に置いてあるISを不安な顔で見る簪。

 

 「...やっぱり...私だけじゃ...ダメなの?」

 

 ため息をこぼし、彼女の目から涙が落ちる。

 

 昔からいつも天才の姉に比べられ簪がどんなに頑張っても何一つとして姉・・・楯無には全く勝てずにいた、しかも

 

 「貴方は弱い」

 

 そうはっきりと言われた事があり、それが原因で簪の心が折れてしまい姉を拒絶してしまっている状態だった。

 

 簪は涙をぬぐい、ディスプレイの画面を切り替える。そこに写し出されているのは一枚の画像で、麦わら帽子を被った一夏の顔があった。実は一夏に抱えられた際、咄嗟に端末で撮った物だった。

 

 「...また、会えるよね?」

 

 じっくりと映像の一夏の顔を見つめる簪。子供っぽいが、正義のヒーロー等が好きな彼女にとって今日助けてもらってまるで自分が物語のヒロインになった気になり、簪は一夏と会いたい気持ちで一杯だった。

 

 暫らくして時計が深夜を表示しているのに気づきそろそろ整備室から出ようと片付ける。当然、今整備室には彼女一人しかいないため片付けに大分時間が経ち最後にISの状態を確認するため、右腕だけ一部展開した時異変が起こる。

 

 「ッ!? 」

 

 フォン

 

 突如、彼女の目の前に大きな黒い穴が出現し穴に吸い込まれそうになる。ISを装着している簪はなんとか踏み止まりブラックホールに向けて射撃武器を放つが弾丸は穴に吸い込まれるだけで変化が見られ無かった。

 何度も、何度も引き金を打ち続け穴を破壊しようとするがやがて弾丸が空になり、さらに穴の吸引力も増していた。

 

「いや、いや...イヤ!!!!!!」

 

 真っ暗で底が見えない穴を見て恐怖し 死にたくない と頭の中ではただそれ一つしかなくパニックになっていた。やがて穴が大きくなりISの腕が穴に入った瞬間。ISのエネルギーが全て空になり、ブラックホールが消滅し大量の粒子が部屋中に舞う。

 

 まるで、光る雪のような光景を最後に簪はその場で意識を失う。そして彼女は大量の粒子を一晩中浴びる事になり異変が起こるーーーー

 

 

 

 数日後が経ち、簪はたった一人で専用機である「鉄打二式」を完成させる事となり戦う力を得た彼女と一夏が出会うのは、そう遠い日では無かった。

 

  

 

                    ○

 

 そして日が変わり、とある快晴の日。

 

 IS学園から出たバスが海に近づき生徒達がはしゃぎ出す。

 

 そう、この日は彼女達の臨海学校が始まる日だった。

 

 

 

「うはっ!!」

 

「気持ち!!」

 

 青い海 雲のない空の下で乙女達が、騒ぎ遊ぶ。もちろん、その中には

 

 

「暑い~~」

 

 気だるく肩を落としながら歩く秋人もいた。水着姿で海を満喫する彼女達の声がどんなに遠くても聞こえてしまい、耳を塞ぎたくなっていた。

 突然芽生えた、気配を感じる力をなんとか自分なりにコントロールをしており最近は制御の訓練に集中して疲れていたのだった。

 

「こら~~秋人!! 何て顔してんのよ!!」

 

 ビーチボールを持った鈴が叫び、傍には水着姿のシャルやタオルを全身に巻いたラウラが立ち、秋人は苦笑しながら彼女達に近づき

 

 

「かんちゃん~~~どこいったの~~?」

 

 本音がどこかに行ってしまった幼馴染みを必死を探していた。  

 

 

 

 

 

「...気持ちいい」

 

 場所が変わり秋人達がいる海から少し離れた岩場に座る簪。

 

 風に当たり波の音を聞きながらどこまでも広がる海を見ていた。人がいるとどうして落ち着かず、今こうして離れていても遠くで海で遊ぶ彼女達の声がはっきりと聞こえてしまう。

 

「...」

 

 再び場所を変えようとし立ち上がった時、後ろにある森に続く道で僅かに音を感じた。普通の人間なら、そんな音はISでも使わない限り聞こえないはずなのだが今の彼女は普通では無い。

 

「誰か、いるの?」

 

 

 簪はそのまま森の入り口まで歩く。しかしさっきまで感じていた気配が消えてしまい、簪は仕方なく皆がいる所まで戻るのだった。

 

 

 

「...なんで分かったんだあの娘? まさか、覇気を...そんなわけないか」

 

 去って行く彼女の後ろ姿をはるか上空で月歩を使って飛ぶ一夏が呟くのであった。その後、簪を探していた本音と合流し二人は旅館に戻り、秋人達は夕食が始まるまでずっと海で遊び、やがて夜になりーー

 

 秋人と千冬の部屋では

 

 「「「「「 す、すみませんでした!!   」」」」」

 

 

 五人の生徒 箒 セシリア 鈴 シャル ラウラ が正座をし、椅子に千冬が座り見下ろす。 

 

 今は秋人は一人だけ入浴しており部屋にはおらず、その事を知らずのこのこと五人同時に入って見つかってしまったのだった。

 

「まぁいい。おまえらには聞きたい事があった所だ、最近の秋人なんだが」

 

 千冬の質問に、彼女達も疑問に思っており箒達も心当たりのある事をすべて千冬に話した。

 

 時々。呆然とする事や一人になる事が多くなり

 

 さらに、黒騎士について調べている事を挙げる。

 

 彼女達も秋人に何かあったか聞いたが 「なんでもない」 としか返事が返ってこず、そこから一歩も踏み込みきれないでいた。もちろん千冬もだ

 

「秋人...」

 

 彼女達はこの部屋にいない人物の事を想うが、秋人がその想いに気づくのはまだまだ先の事だった。

 

 

 

 同時刻

 

 日本から離れたとある島にてーー

 

 

「警備異常はないか?」

 

「問題ないです。それより、明日行われる新型ISについてですが...」

 

 警備兵らしき二人の男が会話し明日のスケジュール等を手元にあるタブレットを操作し確認する。

 

「しかし、こんなに警備を厳重にしなくてもな?」

 

「ですが、油断は禁物です。最近IS学園が襲撃されたの忘れたわけではないでしょ?」

 

「はは、相変わらずおまえも真面目だな~~まぁ、肩の力少しは抜けよ~~そんじゃ、お休み~~」

 

「ははは、気をつけますよ。お休みなさい」

 

 先輩らしき男があくびをしつつ部屋を出て行く。そして、残った真面目と言われた方の若い兵はタブレットを真剣に見つめ、別の端末を取り出しどこかにメールを送る。

 

「...決行は、11:50。例の物を手にすれば我が軍の力になる...」

 

 兵の持つ端末には、ドラゴンの紋章が描かれていた。それは、二度もIS学園を襲撃した組織ーー革命軍の物だった。

 

 

 そして夜が明け、再び戦いが起こるーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    




 水着買うシーンはカットしました。

 早く戦闘シーン書きたい所です。

 


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十三話 白と黒

 時刻11:40

 

 臨海学校に来ている学生達がISの訓練をしている間

 

 専用機を持つ秋人達(簪を除き)と千冬。さらに専用機を持たない箒も旅館から離れた海岸にいた。

 

「あの、なんで箒まで?」

 

「それはね~~~私が呼んだからだよ!!」

 

 突如、ハイテンションな声を上げ奇妙な格好をした女性が出現する。

 

「た、束さん!?」

 

「うんうん、元気そうだねあっくん? そして~~~箒ちゃんも!!」

 

「ど、どうも...」

 

「うんうん、特に箒ちゃんはお胸とお尻が...」

 

 ガッ!!

 

 箒がどこからか出した木刀の強烈な突きをまともに受け、束が吹き飛ぶ。顔を真っ赤に染めた妹は息を荒げ束を睨み付け、千冬も睨みながら束に近づく。

 

 

「束、さっさと要件を言え」

 

「もう、ちーちゃんたら、もう少しお話しようよ...」

 

「さっさとは・な・せ!!」

 

 額に青筋を浮かべた千冬を見て、これ以上ふざける事が出来ないと判断し束が空を見上げ。何かが振ってきた。

 

「さ~~て、ご覧あれ!! これが、箒ちゃん専用機...紅椿だよ!!」

 

 「紅、椿...これが、私の...IS」

 

 念願の新型機を手にした箒とその場にいる者達の意識が紅椿に向いている中。束だけが別の事を考える。

 

(さ~て、いっくん。後で無事に合流しようね♪)

 

 心の中で、一夏の事を思いつつ箒の紅椿の設定をするのであったーー

 

 

 

 時刻 11:50

 

 

 施設の最重要部。

 

 そこには、大量のコードにつながれた一体のISが置かれ、周りの職員が忙しく走り回る。

 

「システム構築異常なし、火気システムコントロールOK」

 

「後は登場者の設定のみ」

  

「いよいよか...」

 

 完成間近となり緊張した雰囲気の中ーー

 突然、扉が開かれISスーツを着込んだ栗色の髪をした女性が銃を発砲する。

 

「動くな!!」

 

 女性が発砲し、職員が警備の者に声をかけるが異変が起こる。その場にいた警備兵が全員銃を構え、同様に一部の科学者も隠し持っていた銃を取り出し突如、重要部を制圧された。

 

「な、なんだお前ら!!」

 

「なんのつもりだ!!」

 

 突然の事で叫びをあげる科学者達。兵士が彼らの足や肩を銃で撃ち抜き悲痛な叫びが幾つかでて、撃たれる恐怖に誰も彼らに逆らおうとしなくなる。

  

「銀の福音。起動急げ!!」

 

「外部との連絡遮断完了、基地の重要箇所の爆破を準備を!!」 

 

「機体の設定をエレン様に合わせろ!! 」 

 

 エレンと呼ばれた女性が、銀の福音と呼ばれる機体を装着しシステムを確認する。この女性、エレンはIS学園を空爆した男の副官を務めており、どうやらこの作戦の要でもあった。

 

 そして、機体の設定を合わせ終わったのか機動し始める。 

 

「システム、オールグリーンーーいつでも行けるわね」

 

「エレン様、基地に接近する物体が複数確認しました」

 

「流石に気づかれたか。私が敵の注意をひきつけます。その間に貴方達も脱出しなさい。もちろん、ここにあるデータを本部へ届けるのを忘れずに」

 

 兵士にそう伝えると、天井が大きく開き始め機体はそこから上空に飛ぶ。

 

「さぁ、世界の変革の為に動いてもらうわ!! シルバリオ・ゴスペル!!」

 

 

 基地の上空まで飛ぶと、二体のIS「ラファ-ル・リヴァイブ」が接近しているのが見え、エレンは機体にある36の砲口をリヴァイブに放つ。

 高エネルギー弾の嵐を回避運動をとるが何発か命中してしまいリブァイブにダメージを与える

 

「くっ!! ただちにISを停止せよ!!」

 

「でなければ、撃破する!!」

 

 二人の操縦者が警告を発し銃を取り出す。だが、エレンは忠告を無視し高速に動き二体のリヴァイブに接近する。

  

「撃破? 本当にできるの? これ、結構費用使ってるのに?」

 

 軽い挑発をしつつ高エネルギー弾を放ち、敵をどんどん追い込んでいく。量産型の機体と軍用ISの性能の違い、さらにエレン自身の能力も高いようでさっきから応戦する二機の攻撃にかすりもしていなかった。

 

「くっ!!」

 

「テロリストの手に渡るぐらいなら!!」

 

 明らかな格の違いを見せつけられても、彼女達は撤退する事なく福音を睨み付け、エレンは容赦なく

 

「そう...だったら死になさい」

 

 二人に死の宣告を与えた直後。二機のISは爆発し海に落ちるのだったーー   

 

 

 時刻 14:30

 

 旅館の一室にて、海岸で集まっていた秋人達と、千冬。そして先ほどまでいなかった簪もその場にいた。 

 既に革命軍により新型ISが強奪されたことをIS委員から連絡を受けその対処のために緊急会議が開かれたのだった。

 

「そんな、新型ISがテロリストの手に渡るなんて...」

 

「信じられませんわ...」

 

 シャルとセシリアが驚きの声を出し、ラウラが奪われた機体のデータを求め表示される。軍事用に開発されたISだけあり、スペックが高性能でうかつに手が出せないため、どのように近づくか話合うも膠着状態になりーー

 

「は~い、何かお困り見たいだね?」

 

「貴様はさっさと帰れ」

 

 緊張した空気を破壊した兎を冷たく一蹴する千冬。突然現れた彼女に秋人達が目を丸くすると

 

「奪われた機体の事でしょ? もう、また革命軍~~?」

 

「帰れと私は言ったはずだが?」

 

「いや~~私も何か協力しようかと...」

 

 バン!! 

 

 「織斑先生!! 大変です!!」

 

 ふすまが壊れるかと思うぐらいの勢いで開き、息を荒げる麻耶。

 

 そして彼女の口から福音が見つかった事と、

 

 黒騎士が現在交戦中という報告を受け、全員が固まった。 

 

 

 

「くっ!! また、私達の邪魔をするの? 黒騎士!!」

 

 漆黒の剣「夜」を構え、エレンの行き先を邪魔する黒騎士。

 

「けれど!! この機体のテストには調度いいわ!!」

 

 福音からエネルギー弾が雨のように発射されるが、一夏は黒刀を振り上げ斬撃を放ち、弾を切り裂き攻撃を防ぐ。

 

「くっ!! だったら、射程はこっちが上よ!!」

 

 うかつに接近すれば切られる事を恐れたエレンは、黒騎士から離れ再び弾を発射しようとしーー突然右の翼が切り落される。

 

「なっ!?」

 

「...そこも俺の射程距離だ」

 

 一夏は彼女にそう告げ、再び刃を向ける。一夏は残っている左の翼を切り落とそうとし剣を振り上げるーー

 

 が、センサーが急速に近づく何かを感知し一夏がその方向を見ると。紅い機体が高速に接近し刀で一夏に切りにかかる。

 

「はぁ!! 黒騎士!!」

 

(っ!! 箒か!! こんな時に!!)

 

 紅椿の二刀流を受け流しつつ、一夏はさっきまで戦っていた福音を見る。すると福音は白い機体と交戦しており、その機体は秋人が乗る白式だった。

 

「邪魔だ!! どけ!!」

 

「負けるか!!」

 

 弾幕の軌道を読み、秋人は白式の能力である零落白夜を発動し迫りくる弾丸を回避し一気に福音に叩き込む。

 

「がぁ!!」

 

 まともに受けてしまった福音はエネルギーが無くなり完全に沈黙して、ISが解除されたエレンは落ちる。

 

「くそ!! 間に合え!!」

 

 エレンを何とか回収しようと、秋人が手を伸ばした時。どこからか一体のリヴァイブが飛んできてエレンを捕まえた。そして何時の間にか近くに一つの船が存在していた。

 

「まさか、革命軍の空母なのか?」

 

 秋人はそのまま、謎の船を追跡しようとするが突如。後ろの方で箒の声が聞こえ振り向く。

 

「貴様、馬鹿にしているのか!?」

 

 息を切らし、黒騎士を睨む箒。今、黒騎士が持っている武器は黒刀「夜」ではなく十字架のようなナイフ一本だけだった。

 刀二本を持つ箒の方が有利に見えるが、実際はどんなに箒が攻めても、二本の刀は決して当たる事がなく、小さなナイフに全て彈かれてしまっていたのだった。

 

(馬鹿な!! そんな馬鹿な!! このような物に、私の剣が!! )

 

「ふざけるな!!」

 

 野獣のように叫ぶ箒。彼女はひたすら剣を振るい猛攻を繰り返すが、どれも当たる事はない。一方で攻撃を防いでいる一夏はと言うとーー

 

(つまんねぇ、こいつの剣は単なる獣だな)

 

 心のそこから箒に冷めた目を向け、拳に力を入れ殴りつける。シールドに守られた箒自身に傷はないが、体勢を崩し機体が落下していく。

 

「箒!! 畜生!!」

 

 怒りにとらわれた秋人が剣を握り締め黒騎士を睨み接近する。一夏もナイフから黒刀に持ち替えて切りかかる秋人を向かい打つ。

 

 「黒騎士!!」

 

 「白式!!」

 

 

 ギン!!

 

 二つの剣が交わり、二人の間に剣同士がぶつかった事で生じた火花が生じ拮抗する。

 

 「おまえの目的はなんだ!? 誰なんだ、おまえは!?」

 

 秋人が叫んで問うが、一夏は答えない。沈黙し続ける黒騎士に苛立ち、秋人は白式のブースターにエネルギーを入れるが、突如機体から危険を知らせるアラームが鳴る。

 

 「!? エネルギーが!?」

 

 勢いが弱くなった白式を押し出し一夏はこれ以上ここにいる必要はないと判断しさっさと離脱しようとするが。

 ここで、思いもよらない人物が出現するー

 

 「待って!!」

 

 一体のISが急速に接近し打鉄に似た機体を操縦する青髪の少女ーー簪が一夏に向けて声を上げる。

 

「...あの時、助けてくれた人でしょ!? なんで、なんで...正体を、隠すの!?」

 

「正体を、隠す?」

 

 秋人は簪の言葉がどうゆう事なのか分からず呆然とし、簪はポツリ、ポツリと口を開く。

 

「変なの...貴方のISから声が聞こえて、貴方が誰なのか教えてくれた。ねぇ、顔を見せて...」

 

 後ろを向いたまま一夏は黙って簪の話しを聞き、そして簪は彼の名を

 

「織斑、一夏君...」

 

 そこで、死んだはずの人間の名前が告げられるのだったーー  

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 




 長い話しになってしまいました。

 誤字、脱字がないように確認しましたが・・・かなり不安です。

 


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十四話 進化

 他に書いている二次作についてですが

 ネタがしっかりしてから書き始めます。

 更新遅くなりますので、すみません。


 簪が黒騎士の操縦者の名を告げ、秋人が大きく目を開き黒騎士を見る。

 

「そんな...に、兄さん...本当に?」

 

 一方で、一夏は何も答えず簪を見る。何故自分の正体を彼女が知っているのか? そして、簪がさっき言っていた黒騎士が教えてくれたとは...?

 

 この時、一夏の頭の中である事がよぎる。あの世界の冒険の中、”万物には命が宿る”事そして、あらゆる万物の声を聞く事ができる者がいることをーー

 

(まさか!? 聞こえるのか...万物の声を!?)

 

 三人は動かず、緊張した雰囲気でいると紅い機体が秋人に接近した。

 

「秋人!! 手を、私の手を!!」

 

 反射的に箒の手をつかみ、機体が光に包まれ白式に異変が起こる。先ほど戦闘で消費したエネルギーが一気に回復したのだ。

 

「箒!! ありがとう!!」

 

 箒に礼をいい、秋人はブレードを構え黒騎士に接近する。一夏は黒刀「夜」で秋人のブレードを弾き距離をとる。

 この時、一夏は秋人が何をしようか気づいていた。自分の正体を確認する為顔を隠しているバイザーを破壊するつもりだ。

 

「はぁ!! 顔を見せろ!! 黒騎士!!」

 

(誰が見せるかよ!!)

 

 白式から逃げようとするが、箒が再び刀を振り上げて切りにかかる。箒も今度は負けない と気合があり、さっきの戦闘よりも落ち着いた様子で攻める。が、戦況は一夏が有利である事は何も変わらない。

 

 機体の性能では第一世代を使う一夏が不利なのだが、個人の基礎戦闘能力では格が違っていた。並の人より運動能力が少しだけある秋人と、剣道だけの実力がある箒だけでは、海賊王の船で雑用をして過酷な海を超えた一夏には勝てない。そう、二人だけだったらーー

 

 「一夏君...」

 

 先ほどから戦闘に参加していない簪。彼女の持つ力を使えば、勝てたかもしれない。しかし、秋人と箒は完全に簪の事を忘れてしまい戦闘に夢中になる。

 

 

 

(さて、そろそろ箒の奴がエネルギー切れかな?)

 

 一夏が箒の方をみると、箒の顔から余裕がなくなっているのが見えた。いくら、第四世代とは言え、そのエネルギーは無限じゃない。

 一方で、秋人達が来る前から戦闘を行っていた一夏だが、黒騎士の武装が剣とナイフのみのため、余った容量を全てエネルギーの増設で改造していたため、まだ戦闘は続けられていた。

 

「このままじゃ...」

 

 何度目かの斬り合いになり、秋人の額から汗が流れる。一夏から感じる遠い何か。すぐ近くにいるはずなのに、何故か遠く感じる距離に精神が不安になって行く。

   

(このままじゃ負ける...負けたくない...負けたくない!!)

 

 再び高速に接近する白式。いい加減戦いを終わらせようとし、一夏が黒刀を頭上に振り上げた時、異変が起こる。

 白式が突如光を放ち、その姿を変えて行くのだった。さらに、秋人の精神に誰かが呼びかける。

 

(貴方は何を求めますか?) 

 

 姿のない綺麗な女性の声に、秋人は何も疑問を持たずーー

 

 「知りたいんだ、あれが本当に兄さんなのか、僕はもう...何も分から無いままなんて嫌だ!!」

 

 秋人のそんな思いに答えたのか、光が大きくなり気づいた時には白式の姿が変わっていたのだった。

 新たな力を得た秋人。セカンド・シフトを果たした白式の剣と黒騎士の剣がぶつかった。

 

「はぁぁぁぁ!!」

 

「な、まさかセカンド・シフトだと!?」

 

 急激にパワーアップした秋人に驚き、ついに押し出されてしまう一夏。

 秋人は距離をとり、白式に新たに装備された射撃武器が放たれその弾丸が黒騎士に直撃し機体にダメージを与える。

 

「こんな時に進化しやがって!!」

 

 一夏も射撃を回避するが、秋人のまるで動きを読んでいるような正確に弾丸が何発も直撃してしまう。

 攻撃から逃れるため、一夏も速度を上げ躱すが機体が悲鳴をあげ始める。

 

 「ちっ!! 機体が」 

  

 機体のあちこちが損傷し、アラームが鳴る。そして、それらの原因は実は攻撃によるものだけでなく、他に理由が存在していた。

 身体の能力が既に超人の域まである一夏。だが、並外れた操縦のせいで機体に負担をかけてしまいいつの間にか、一夏の操縦に黒騎士がついて来れなくなっていたのだった。  

(流石に逃げるしかないな!!)

 

 そろそろ引き時 と判断し、白式に構わずその場から撤退しようとした時、一発のレーザーが機体をかすった。

 

「逃がしませんわ!!」

 

 青い機体が銃口を向け待機していた。そして、近くから複数のISの反応があり一夏は囲まれてしまう。

 

「あれが、黒騎士...」

 

 オレンジのリヴァイブに乗るシャルがつぶやき、鈴とラウラも注意を払いながら黒騎士の前方を塞ぐように待機する。 

 

「無駄な抵抗はやめろ!! 既に我々が包囲した!! 」

 

 ラウラが警告を伝え、投降を呼びかける。一夏が周りを見ると、後ろから進化した白式と、エネルギー切れが近い赤椿、そして戦闘に参加していない打鉄二式が後方を囲む。

 

 夕陽が徐々に落ち、辺りが暗くなる中。一夏は六機のISに囲まれてしまう。

 

 一夏な内心で、この状況からどうやって脱出するか思考する。こんな状況は何度も海軍や悪党の海賊に何度も囲まれた経験があり、しかもそれらは自分を殺そうとしているのに、目の前にいる少女達は捕獲しか考えていないようだった。その証拠に剣を構えても彼女達は銃を打たない。

 

 (さて、どうするかな? やっぱり、突破すんだったら!!)

 

 後ろを振り向き斬撃を放つ、秋人と簪はその攻撃が来るのを感じ離れるが、回避が遅れた箒が直撃しエネルギーがついに底をつき、海に落ていく。落下していく箒を秋人が急いで飛び彼女を捕まえている間に一夏はそのまま最高速度でその場から離脱する。

 

 「に、逃がすか!!」

 

 ラウラ達は黒騎士に向かい射撃をし、弾丸が命中し黒騎士の操縦者の顔を隠すヘルメットが一部砕け左目と顔の一部が露出し、鈴と秋人がその顔を見て確信した。

 

「一夏!!」

 

「兄さん、兄さん!!」

 

 二人の声は逃げて行く一夏に聞こえず、黒きISは完全にその場から去るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    



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十五話 それぞれの思い

 前回、所どころに白式が百式になってたのが多々ありました。

 すみませんでした。早速修正行いました。


 新型ISを強奪され、さらに黒騎士を取り逃がしてしまい旅館に帰還した秋人達。教員達は誰も彼らを責めず、副担任である麻耶は心から秋人達に労いの言葉をかける。

 千冬からは、今回の作戦の失敗については咎はない事と、旅館に待機するように伝えられ秋人は布団に横になり天井を見つめていた。

 

(兄さん...)

 

 既に深夜になっているのだが、秋人は眠れずにいた。原因は頭の中で何度も蘇る黒騎士の操縦者の顔。間違いない死んだと思っていたはずの兄だった。

 

 生きていてくれたのは嬉しい。けど、どうして、自分達の前に姿を出さず、しかも黒騎士なんて物を使っていたのか? 

 怒りや、悔しさが混じった感情が自分の中で大きくなり、今すぐにでも大声を上げたい程秋人は胸を苦しめていた。  

 

「どうしてだよ、どうして、何も教えてくれないんだ?」

 

 唇を噛み締め、目から一筋の雫が流れ布団を濡らした。その時

 

「秋人、起きてる?」  

 

 突然。ふすまが開けられ、そこにいたのは旅館の浴衣を着た鈴だった。彼女の顔も沈んでおり、恐らく秋人と同じ思いのようだった。

 鈴は「海、見に行かない?」と秋人を誘い二人は旅館から出て行き、偶然近くを通っていたセシリア・シャル・ラウラは気づかれないように追跡を開始した。

 

 

 もうすぐ夜明けが近い中。一般の生徒達は入眠しており、教職員達もそれぞれ作業が山積みで、海を眺めている二人に気づく余裕は無かった。

 

 

「ねぇ、やっぱりさ...あの黒騎士って...」

 

「うん、違いない。兄さんだったよ...」

 

 二人の間に沈黙が数秒生まれ、何か話さないと と思い秋人が口を開いた時。先に鈴が話し始める。

 

「あのさ、この際言っておくけど...」

 

 鈴は一度言葉を切ってから、秋人に真っ直ぐ顔を向ける。そして真剣な眼差しで伝える。

 

「私、あんた達兄弟、好きだったんだ...小学の時さ、周りに馬鹿にされてた時あんた達二人が良く助けてくれたじゃない。そこからなの...」

 

「鈴...?」

 

「私、中国に戻ってさ気づいたんだ。 一体自分は一夏と秋人。どっちが好きなんだろうって、ずっと悩んでたけどさーー」

 

 鈴の声が小さくなって行き、秋人はただ真剣に鈴の声に耳を傾け、聞き漏らさないようにしていた。

 

 

「一夏が、死んだって聞いた時...私、死のうと思った、そんでさぁ、暫らく荒れた後、今度はあんたが学園に行くって聞いたから。もしかしたら、昔みたいに戻れるかなって、あんたと一緒なら、寂しくないかなって。馬鹿な、事考えてさーー」

 

「鈴、もう、いいから...」

 

「だけどさ!! 一夏が!! 一夏が生きてた事、知って!! 分かったんだ!!」

 

 涙を拭き取り、呼吸を整える。鈴は覚悟を決めた眼で秋人を見つめそして、今自分が抱いている思いを口にした。

 

 

 「私は、一夏が、一夏が大好きなのよ!!!!!!」

 

 

 人気のない砂浜で声をあげる鈴。そして、その会話は後ろで聞き耳を立てていたラウラ達にも届いていた。

 

 

「鈴...」

 

「鈴さん...」

 

「鈴...」

 

 

 シャル・セシリア・ラウラが涙を流す彼女をISを使い見つめる。今彼女達の心の中では、これで秋人を狙うライバルが消えた、などと邪な考えは一切なく。変わりに、鈴に対して敬意を感じていた。

 

 同じ、片思いをする少女として。

 

「そうだったんだ...始めて知った...」

 

 秋人は、鈴の思いに口出しする事なく受け入れる。どんな顔をすればいいのか分からず、秋人は苦笑いをし、鈴を見る。

 

「だったら、なおさら聞かないとね、兄さんにさ?」

 

「うん!! そうよ!! なんでこそこそしてんのか、ぶん殴ってでも聞き出してやるんだから!!」

 

 既に泣き止み、笑顔になった鈴。拳を空に向けると太陽少し見えた。

 

 

「もう朝なんだ、ふぁ~~眠い。先に戻ってるね?」

 

 あくびをし、目の涙を拭いて背を向け鈴は旅館に歩きだす。そして、秋人は登り行く太陽を見つめながら、涙を流した。

 

「たく、兄さんは、会ってちゃんと話さないと、ね...」

 

 ここにいない人物に対し呟き、次第に涙が溢れていく。

 

 

 一方で、歩き去った鈴も

 

「くっ...ご、ごめん秋人...」

 

 涙を流しながら、秋人に謝る鈴。

 

 そして、夜が明け二人の少年と少女は新たな道にそれぞれ進むのであったーー。 

 

 

 

 




 今回の話について 

 鈴は一夏が好きなのを秋人に伝え、甘えるのをやめるためにけじめをつけた話しでした。

 


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十六話 ひと時の夏

 日本のとある孤島。

 

奪われた福音が島の中央にある隠されたラボに運び出され、革命軍の研究チームがデータの解析を行っていた。

そして、操縦者である女性。エレンが熱心に機体のデータに目を通していると一人の男が近づく。

 

 「ご苦労だったな、エレン」

 

 「!! 隊長!!」

 

「肩の力を抜いたらどうだ? それに、私にだって”ブラッド”と言う名ぐらいはある」

 

サングラスをかけた男ーーーブラッドは少し笑みを出し、彼の様子を見てエレンは口元を緩める。今回の新型ISの強奪と、ほんのわずかだが史上初の男性IS操縦者との戦闘データが採れた事で、二度の失敗に対するストレスが多少和らいでいたようだった。

 

「しかし、また黒騎士かーー奴の目的がわからない以上、今は兵力を整えつつあの計画を進める必要がある」

 

「はい」

 

エレンとブラッドは別の画面を見る。基地のどこかの部屋の映像だろうか、金属の部屋の中央に一つのカプセルが設置されており、その中には人口呼吸器等の医療機器を取り付けられ、カプセル内に流れる粒子を浴びて眠る赤毛の少年が写し出されていた。

 

「もうじき彼の調整も終わると報告がありました」

 

「うむ、そうか」 

 

画面の端には成功体「333」と表示されていた。そこで二人は次の作戦について話し合うため、部屋から出て行く。

そして、次もまた一ヶ月後にIS学園が戦場と化し、今は眠る赤毛の少年が後に秋人達に衝撃を与える。

 

 

一方。IS学園では、既に夏休みに入っており生徒はいない。外国から来た生徒などは一時帰国したりするが、青髪のこの少女は真剣にある物を見つめていた。

学園傍の海、そこで何かが建設されており、いくつもの船が作業を行っていた。

 

「学園際までには間に合いそうね」

 

手元の資料をチラリと見て、表紙には学園際特別ステージと書かれていた。が、これはあくまでも表向きであり、真の目的は別にある。

船が運ぶ機材の中には、何故か膨大な水も一緒に運ばれているのだった。

 

「ナノマシンの数も増やさないと。あぁ~~これで私の夏休みがなくなちゃったわ~~」

 

残念そうな顔をし、手に持つ扇子を広げる。そこには「残念無念」と書かれており、彼女の口元が緩む。

 

「...けど、また貴方と会えるなら、それもいいかも。ねぇ、黒騎士?」

 

まるで、楽しみを持った子共のようにわくわくさせながらその場を立ち去るーーが、彼女の幼馴染みであり、従者である虚と言う少女にすぐさま捕まり、膨大な雑務をさせられる事となった。

 

 

 

そして、一夏の弟である秋人はーー

 

秋人「せ、セシリア!! その赤いのはダメ!!」

 

セシリア「? ですが、このたこ焼きと言うのは中に赤いのが・・・」

 

鈴「それはタコの事よ!! なにタバスコ入れようとしてんのよ!!」

 

ラウラ「うむ? そういえば何故我々はたこ焼きを作る事に・・・?」

 

シャル「いや、ほら...秋人が台所の奥から見つけたからって事になって・・・」

 

箒「おい、果物なども入っているが?」 

 

突然押しかけた専用機持ちと一緒にたこ焼きパーティを行う秋人。何故かテーブルにはタコ以外のお菓子等も置かれており、もはやなんでもありだった。

秋人も昔、姉弟三人でこうやって楽しんだ事を思い出し笑ってしまう。

 

 「...」

 

そして、彼らのパーティを気づかれないように身守る千冬は、音を立てずに家を出て麻耶に電話を入れて数分後。近くのバーに二人で入るのだった。

 

「そうだったんですか...秋人君、皆と仲よくなって良かったですね~~」

 

「あぁ、そうなんだが...」

 

千冬は酒を飲み干し、一息ついてから話し始める。

 

「最近、秋人...いや、凰の奴もだが何か私に隠している気がするんだが...」

 

千冬がそれに気づいたのは、福音の奪還が失敗した時だった。最初は任務失敗で落ち込んでいたのかと思っていたのだが、時間が経つにつれ、それが別のものだと感じ始めた。

だが、いざ聞き出そうとしようとしたら、秋人の目が時々自分を見る目が、まるで他人を見ているようでそれが怖く、聞き出せないでいた。

 

(秋人、そんなに一夏を救えなかった私が、未だ憎いのか...)

 

千冬は、いつか必ず弟が心を開いてくれると信じ、グラスを一気に飲み干すのだった。

 

 

 

そして、様々な陣営から注目されている一夏は・・・

 

「「 カンパーイ!! 」」 

 

居間で束とクロエと一緒にコーラを飲むのであった。

 

「ぷはぁ~~」

 

「夏はやっぱり、炭酸だよね~~」

 

一夏が一気に飲み干し、束も美味しそうに飲む。ちなみにクロエはちびちびとコーラを口に入れる。

 

ーー事の始まりは一夏が「熱い…そうだ、コーラ飲もう!!」と軽いノリから始まり、店をいくつも渡りコーラを買い占めた。その後、一夏が「一緒に飲もう!!」と誘い、どうせならとクロエを無理やり呼んで、乾杯し始めたのだった。

 

 

「いや~~まさか、あそこで秋人のISがセカンド・シフトするなんて~~」

 

「もう!! 束さんもびっくり!! あれだね、主人公補正って奴だね~~」

 

「...」

 

何故か酔ったようにテンションが高い二人を呆れたように見つめるクロエ。そして、コーラを主体とした夜の飲み会? は次第に一夏の冒険の話しとなっていた。

 

「そうなんですよ~~もう、船大工がですよ? 全裸でポーズ決めて、かっこいいセリフ言って...」

 

「しかも、魚人島に入ってすぐに俺逮捕されて...」

 

「敵の本拠地入ってすぐにおもちゃにされて災難でしたよ...」

 

既に何十本もの瓶を飲み干し、束も一夏の話しを真剣に聞き、クロエも夢中になっていた。やがて、話しが船長の一夏を助けてくれた人の最後の話しになり、一夏は涙を浮かべる。

 

「あの人...最後まで、本当に自由気ままで...俺もあの人みたいに生きて見たいと本当に思ったんだ...」

 

そこで、一夏が目を閉じ眠り…束は彼を起こさないように傍で一緒に眠って、クロエが布団を持ち二人にかける。

 

「ありがとね?」

 

「このくらい、大した事では。ところで、束様。束様は、一夏様の事を...」

 

「うん、好きだよ...大好きだよ...」

 

そこで、二人は数秒見つめあい、クロエが少し笑みを浮かべ「分かりました」と言い部屋を出る。そしてクロエが出て行ったドアを見つめ「ごめんね」と短く呟くのであったーー 

 

 

 やがて、夏が過ぎ季節は秋ーー

 

 学園際で再び、彼らは出会うのだったーー    

 

 

  



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十七話 陰謀が走る学園祭

 夏休みが終わり数日後、生徒達が様々な機材等を運び三日後の祭に向け準備を行う。

 

 喫茶店をやるクラスもあれば、定番のお化け屋敷。さらに、ちょっとした射撃のゲームまで用意されていた。

 放課後から夜遅くまで残り、準備を進める中ーー

 

 「くっ!!」

 

 「よし、それじゃ、今日はここまでね」

 

 アリーナの地面に膝をつく白式。そして傍にはこの学園の長である更科楯無が立っていた。実は数日前、突如部屋に侵入してきた彼女に稽古をつけてやる と言われ最初は秋人も断るも受け入れられず、仕方なくISで試合をした。結果は秋人の敗北となり、楯無の訓練を毎日受ける事となった。

 

(...それにしても、この子、相手の動きに敏感、いやそれ以上に反応した動きだった...何かあるのかしら?)

 

「はぁ、はぁはぁ...」

 

 息を切らし、座りこむ秋人。そして彼の調査をもう一度しようと考える楯無の二人を遠くから見つめる簪。

 簪は秋人を見つめてからアリーナを出て、整備室へ入り機体の整備を入念に行う。既にクラスの準備はほとんどできており、時間に余裕があった。

 

「今度こそ、あなたに会いたい...」

 

 彼女が呟き、簪は黒騎士こと一夏と会える事を願いつつ、打鉄二式に耳を傾けるのだったーーーー

 

 とある高級ホテルにて

 

 二人の女性がワインを飲みながら、ソファにくつろぐ。金髪の女性が、目つきが鋭い女性に声をかける。

 

「オータム、作戦は例の通り、彼らが行動中に例のあれを」

 

「分かってるよ、スコール」

 

 目つきの鋭い方の女性。かつて、一夏と秋人の誘拐を行った一団にいたIS使いの女性だった。

 二人の傍にある小さな机には、書類が置かれておりーー表紙には竜の紋章が印刷されていた。

 

 

 場所が変わりとある町の定食屋ーー

 

 「あ、お兄!! 」

 

 「おう、蘭。ただいま」

 

 赤毛の男ーー五反田弾が何日かぶりに定食屋でもある実家に戻り蘭が出迎える。背にはリュックを背負い、家族には仲間とキャンプをしていたと言っていた。

 

「キャンプどうだった?」

 

「まぁまぁだな...飯がまずくて腹が」

 

 「全く」

 

 腹を抑える弾を見て、蘭が自然と苦笑する。一夏がいなくなった後、荒れた兄を心配していた蘭だが、今の様子をみて一安心した。

 そして、思い出したかのようにIS学園への招待状を見せた。

 

「これね、秋人さんが送ってくれたんだ!! お兄も一緒に行こうよ!!」

 

「...あぁ!! もちろんだ!! IS学園っていえば女子高だろ...だったら...」

 

 と鼻の下を伸ばし、チケットを受け取り自室に戻る弾。蘭は彼に「変態」と罵声を浴びせるが、彼は何も気にも止めていないようだった。

 そして、部屋に戻り荷物をおろし中身を取り出した。

 

 銃と弾薬。他にも、折りたたみ式で頑丈な十手や爆薬等まるで戦争を行う兵士のような装備を取り出し弾は携帯端末を操作した。

 

「三日後、例の組織と行動。13:10に内部へ...」

 

 弾の目はさっきまで妹と会話していたのと違い、何かを決意した目をし、自分の手を見つめ腕が黒く染まるのだったーー

 

 

「やっとできた!!」

 

「? 何がです?」

 

 ラボにて大きく手を上げる束。そして、黒騎士の傍にいた一夏が彼女に近寄る。

 

「黒騎士の能力だよ!! ブラックホールの制御が難しくて時間かかったけど、これで黒騎士はISの中で最強のISになったよ!!」

 

 一夏が不思議に思い、画面を見ると黒騎士の設計図にある一文字が大きく表示されており「ダークネス」と書かれていた。

 

  

 

 そして、あらゆる者が目的のため水面下で動き三日後ーー

 

 この日、IS学園にて世界を揺るがす事件が起こる。

 

 

                    ●

 

 11:00 

 

 次次と、来客が増え学園内が大きく賑わう中、入り口で弾と蘭がチケットを職員に見せ中に入ると執事姿の秋人が走って来る。

 

「弾!! 蘭!!」

 

「おう!! 久ぶりだな!! 秋人!!」

 

「お久ぶりです...秋人さん」

 

 弾は笑顔で手を振り、蘭は少し顔を赤くし下をみてうつむく。そこから、二人を案内し三人で回る事となって、とあるクラスに入るとーー

 

「いらっしゃいま...て、弾!!」

 

「うわっ!! 鈴か!? 久ぶりなぁ~~」

 

 チャイナドレスを着込んだ鈴が、突然の知り合いの出現に驚いていると、傍にいる蘭に気づき目を細める。

 蘭も若干、目をきつくし鈴の体を見て

 

「お似合いですよ? 鈴さん?」

 

「それは、どうも」

 

ぎこちない挨拶をする二人に秋人が戸惑っていると、弾が仕方ないといったように肩をすくめるのだったーー

 

 

「あぁ~~久しぶりの祭だな~~」

 

右手に、わたあめ・りんごあめ・アイスを、左手にフランクフルト・ポテト・唐揚げを持った麦わら帽子を被った一夏が廊下を歩く。

 一応、秋人と鈴に正体はバレているのだが、本人は「まぁ、何とかなるだろ~~」と考えるのをやめ、手に持つ食べ物をすぐさま食べ終えて祭を楽しむ。

 

 校舎を歩いていると、ある教室が目に入り足を止める。看板には「射撃場」と書かれており中に入ると、何人かの客がおもちゃのライフル銃で景品を撃ち落とそうと狙いをつけていた。

 生徒の一人が一夏に話しかけ、いかかですか? と銃を見せられ、一夏は代金を払い景品に向け銃口を向ける。

 

 商品の中に鹿? のような可愛いぬいぐるみを見て、何故か一味にいた船医を思い出し、一夏は絶対に手に入れようとし弾を全弾命中させるが棚から落ちない。

 

「仕方ねぇ...」

 

 一夏は新しい弾を用意してもらい、狙いを定める。周りにいた客も生徒も、どうせ無理だろ…という空気を出すが、一夏は無視し、手に持つ銃に覇気を込め

 

「うそ...」

 

 生徒の一人が、棚から落ちるぬいぐるみを見て驚くのだった。

 

 

 12:00

  

「さて、ここからどうするか...」

 

 一人になった弾が校内をウロウロし、どこか身を隠せそうな場所を探していると一人の女生徒が目に入る。

 

「っ!! 」

 

 大きな荷物を抱えた彼女が体のバランスを崩し、倒れそうになり弾が彼女を支える。

 

「え?」

 

「あの大丈夫、ですか?」

 

 眼鏡をかけた女性と、弾の目が合い互いに顔を赤くしたまま沈黙が起こりーーー

 

「あの、それ俺が持ちましょうか?」

 

 弾が彼女の持つ荷物を全て持ち、二人は歩く。

 

 

 11:30

   

「山田君。現状の報告を」

 

「今の所は異常なしです」

 

 学園内の秘密部屋。複数の画面が学園の内部を写し出し、警戒中だった。常に警備の者と連携をし連絡を取り合う等して徹底をしており、もし不審な者を見かけたらいつでも確保できるようにもなっていた。

 

「IS部隊、いつでも出られるよう待機しておけ。これ以上、ここで奴らの好きにさせるなよ」

 

 千冬が指揮を取り、教師陣に気合が入り緊張した空気が流れる。千冬は傍に立てかけている二本の刀を一瞬だけ見て、視線を画面に変えた時ーー席から突然立ち上がり、画面を操作し始める。

 

(ば、馬鹿な...今のは!?)

 

 画面に食らいつき千冬が見たのは、麦わら帽子を被りぬいぐるみを持つ一夏だった。

 

「そんなはずは...」

 

 画面に映る一夏を見て何度も自分にあれは一夏ではないと言い聞かせ、まるで金縛りにかかったように千冬は画面を見つめ続けるのだったーー 

 

 

 12:40

 

「ありがとうございました」

 

「いえいえ、俺こそ迷子になってた所を...」

 

 女生徒ーー布仏虚が弾に礼を言い二人は資料室から出る。最初はぎこち無かった二人だが、すこしだけ会話もできるようになっていた。

 

「すみません、来客の方にあんな事をさせてしまい...」

 

「いえ、俺は大丈夫ですんで、気にしなくていいですよ...」

 

 互いに頭を下げ合いになり、次第に祭に関する話しになり笑顔も見られてきた。そこで、虚は時計を見てから弾に

 

「実はですね、このあと体育館で劇の方がありまして、よければ見に来てくださいね? それでは...」

 

 虚がそう告げて、どこかに去り。残った弾は人気のない道を進むのだった。

 

 

 13:00

 

 体育館にて劇--いや戦争が行われたいた。

 

 とある巨大な王国の秘密を握る王子。その秘密は王子の頭にある王冠に隠され、秘密が世界に漏れる前に世界を創世した貴族達(乙女達)が王冠を奪い秘密を抹消し、王子を我が手にすると言う無茶苦茶な設定で、王子・・・秋人は絶賛追いかけられている所だった。しかも、学園の女子達に

 

「な、なんでこうなるんだ!?」

 

 舞台を走り、後ろから来る弾丸や弓矢を避けながら舞台裏に入ると突然誰かに掴まれそのまま秋人は姿を消してしまう。

 そして、10分後学園内で爆発が起こるのだったーー

 

 

 13:15

 

 突然の爆発に、建物から緊急の警報が鳴り響きスタッフが安全な場所に誘導を行い、警備が手薄になった、関係者以外は入ってはならない扉に覆面をした弾が侵入する。 

 端末を持ちあらかじめ手に入れた地図を頼りに通路を走ると一体のISが進行方向先に立ち止まり銃を構えていた。当然、動くなと警告するが、弾は聞き入れず折りたたみの十手を取り出し、突如、腕ごと黒く染まった十手でISを吹き飛ばしたーー

 

 

 13:20

 

「さて、間に合うかな...?」

 

 混乱を利用し内部の通路を走る一夏。今は祭にあった骸骨のお面を被り、ゲームで使っていた竹を手に高速に移動していた。

 

 学園の中枢部に通じる道を走り、やがて大きな部屋に辿りつくと部屋の中心にある巨大な機械の前に立ち覆面を脱いだ弾が振り向き一夏を見た。

 

「!? 誰だ!!」

 

 弾は高速に移動し一夏に殴りかかる。一夏は弾の拳を受け止め...攻撃をしてくる男にどこか懐かしさを感じ、一夏は頭を動かすが...

 

「クソ!!邪魔をするなら!!」

 

 黒く染まった十手を弾が振り、一夏は持っていた竹に覇気を纏わせ、黒色に染まった竹を使い防御すると、まるで金属同士がぶつかる音が響く。

 

「なに!?」

 

 弾は思わず驚きの声を出してしまうが、すぐさま気持ちを切り替え十手で連続して攻撃、一夏は反撃をせず竹で防御をする。

 

(こいつ...まさか!! )

 

「弾...」

 

 一夏が呟いた瞬間。一夏の顔面に弾の武装色を纏った拳が入る。ドクロのお面が一部壊れ弾は拳に確かな感触がしこれで倒したと思い口元を緩める。

 

「こいつでどうだ...っ!? 」

 

 だが、一撃をいれたはずの弾の表情が変化する。確かに攻撃が入ったはずなのに何故か目の前の敵は倒れない。一旦後ろに下がり、体勢を整えると今度は一夏の攻撃が始まり十手で防ぐ。

 

「ぐっ!!」

 

 一つの攻撃がとても重く、捌く度に体力を持っていかれていく。戦況はさっきまでと逆になり、そして一夏の持っていた竹の一撃が十手を折り、弾の腹部に命中し吹き飛ぶ。

 

「がぁ!!!! 」

 

 壁に激突し、意識が飛びそうになるのをなんとかこらえ顔を上げる弾...

目の前に立つ男が半分壊れたドクロのお面を剥いで・・・数年ぶりに見る親友の顔を見て大きく目を開いた。

 

「う、うそ...だろ...? い、一夏...?」

 

 さっきの攻撃で頭がおかしくなったのか? と疑問を持ちつつ、恐る恐る聞く弾。

 

「そうだ、俺だ...その、久しぶりだな?」

 

 一夏も弾を見てうなずいて答え、弾は何度も何度も首を振り目を開け、これが夢ではないと改めて自覚し口を開く。

 

「一夏...一夏......生きてた、そうか...生きていたのか...」

 

 顔を両手で隠し彼の目から涙が溢れ出す。一夏は今彼にどう説明したらいいのか、そしてここまで心配してくれた彼にどう謝罪すればいいのか迷いながら、彼に近づくとーー

 

「動くな!!」

 

 突如後ろから一人の女性の声がし...入り口に二本の刀を持ったこの学園の最強にて姉である千冬が殺気を放ち近づく。

 

「貴様ら革命軍の者か? 抵抗せず、大人しくし、ろ...」

 

 一夏が振り向き顔を見せる。すると彼女の動きが止まり、数年ぶり再会した千冬と一夏は見つめ合う。 

 

「いち、か? 」

 

「千冬姉...」

 

 一夏は彼女を見ながら言葉を発す。千冬は体を震わせ一夏を睨みつけ叫ぶ

 

「なぜ、なぜだ!! なぜ今さら、私の前に現れた!! 私はずっと、おまえの事を!! おまえのせいで、秋人がそれだけ心配したか!! 今までどこにいた!! 答えろ!! 一夏!!」 

 

「ごめん今は答えられない...」

 

 質問に答えない一夏に千冬の怒りが爆発し抜刀する。一夏は硬化させた竹で二本の刀を受け止めるが...切り捨てられ、バラバラになる。

 

(切りやがった...!? 武装色の覇気を纏わせたんだぞ!? どんだけ、容赦ねぇんだよ!!)

 

 本気に殺しにかかる千冬を見て一夏は待機状態にしている黒騎士から一本の剣を取り出し鞘を抜く。

 

 西洋の両刃で柄が太陽を模した装飾がされ刃が光に当たり反射して輝く。

 

 冒険の中で手にしたこの剣。

 

 黒刀「夜」同様 最上級大業物12工の一にてその名は...

 

  光剣 「太陽」

 

 一夏は太陽の刃を千冬に向け、一方で千冬は見た事のない剣に驚きを隠せないでいたが、すぐに呼吸を整え構えた。

 

 

「全てを話してもらうぞ!! 一夏!!」  

    

「行くぜ、千冬姉...これが、俺の力だ!!」

 

 太陽を両手で持ち構夏が千冬に接近する。千冬は高速で近づく一夏の剣を二本の刀を交差させ防ぎ、衝撃が辺りに走る。

 

(ぐっ!! な、なんだこの力は!?)

 

 一夏のたった一撃の剣を受けただけで手が震え、額から汗が流れ始める。一夏を押し出し、今度は千冬の二刀流が迫り一夏も光剣で千冬の剣を防ぎ反撃をする。

 

「はぁぁぁぁ!!」

 

「うおぉぉぉ!!」

 

 もはや二人の動きは剣道の試合等と格は違い、本当に相手を殺す気で剣を振るう真剣勝負だった。

 その光景を見ていた弾は信じられないと言ったような顔をする。この学園、いや世界一のISの強さを誇る無敗の乙女とも言われる千冬と互角に戦う一夏の姿をずっと見つめていた。

 

「くっ!!」

 

「はぁ!!」

 

 何度も、何度も剣がぶつかり二つの刀に徐々に傷が増えて行く。このまま行けば折れてしまい、敗北するの察した千冬が一度距離を取り、呼吸を整える。

 

「...」

 

「...っ!!」

 

 

 二人が剣を構え互いに睨む事数秒。千冬が先に動き出す。

 

 篠ノ之流古武術裏奥義 「零拍子」

 

 相手が動くより先に素早く動き出す技で千冬は刀を振るい。遅れて動いた一夏の光剣とぶつかりーー

 

 パキン

 

 千冬の刀が二つとも同時にくだけ散り勝負が確定し力なくその場に座り込む千冬。 

   

「そんじゃ俺は行くから...」

 

 一夏は千冬に背を向けながら短く言い剣を収め、千冬に顔を見られないように弾に覆面をかぶせ肩を貸しその場を去ろうとした時ーー

 

「な、なぜ私が、負けた...? 一夏...おまえは...」

 

「ごめん、話しは今度な。今は秋人をどうにかしないといけないし」

 

 弾と共に部屋を出て行く一夏。千冬は床に散らばる刀の残骸を見つめ目から涙を流すのだったーー

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

   

 

 

 

     




 今回かなり長くなってしまい、見づらいかもれません・・・

 修正等行いましたが、まだできてない部分もあるかもしれないので、何かあればコメントをお願いします・・・・

 後、光剣「太陽」について、オリジナルで考えた剣です。
 
 


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十八話 再会

 学園の機密区域で千冬との戦いが終わり、一夏が弾を担ぎ通路を進む。

 

「なぁ、一夏...聞かないのか?」

 

「ん、何がだ?」

 

「俺が、なにをしていたのか、さ」

 

「別にいいよ、俺だってお前に話さないといけない事があるからな」

 

 弾が口を閉じ、顔を伏せる。一夏は特に追求せず弾を見ずに話しを続けた。

 

「お前が何も考えないで馬鹿な事するわけない。何か理由があってやったのはわかるさ」

 

「一夏、俺は...」

 

 自分を責めない親友の言葉を聞き、弾は思い思いに口を開きーーこれまでの事を話し始めた。

 

 一夏がいなくなり、学校の人間は特に何も思っていなかった事。ISが目立ち、差別社会のせいで一部の人間が理不尽に苦しんでいる姿を見て心が痛み、ある事件が起こった事。

 

「学校の裕福層の奴らが、俺や周りの男をまるでおもちゃみたいに扱い始めたんだ…それに耐え切れずに、何人かが自殺したんだ...」

 

しかも、自殺した生徒の遺書には裕福層達の名前が書かれており、証拠も一緒にあったのだが、隠滅されたのだ。しかも、学校側もグルになって。

 

「正直俺も、何度も死にたいって思ったんだよ。こんな世界で、自由に生きられないんならって、そしたら出会ったんだ…あの人に」

 

 それは自殺した同級生の葬式の日の事。死んだ子共の名前を泣き叫ぶ母親の声で心が痛くなり葬式場から離れ、弾が一人になった時。

そこで一人の男と出会ったのが始まりだった。彼に声をかけられた弾はてっきり親族の人間だと思い、自殺した同級生のことを話し、涙を流しこう告げた。

 

「俺は、こんな...こんな世界に生まれて...嫌だ!!」

 

「そうか...」

 

 男は弾の話を聞き、弾の肩に優しく手を乗せると

 

「ならば共にくるか? ...この世界を変えるために私と…」

 

 手を差し伸べられ、弾は最初は戸惑ったが男の声にどこか安心さを感じ、涙を拭いて弾は男の手を取ったーー 

 

 

「それで、革命軍に...」

 

「そうさ、俺はとある実験で体を強化された…数少ない成功体としてな」

 

二人が話していると通路の先に一つの扉があり。扉を開けるとそこは劇に使われていた建物だった。

 

「そんじゃ、手助けしてくるから...後は大丈夫か?」

 

「あぁ、すまねぇ。一夏」

 

「お前に会えて良かったよ。じゃ、話は今度な?」

 

「ああ、俺は...待ってるからな?」

 

 弾を椅子に座らせ、二人は軽く言葉を交わし一夏はその場を去る。残った弾は安心した顔をして眠りにつくのだったーー

 

  

 

 一方、更衣室ではーー

 

「クソが!! なんで当たんねぇんだよ!!」

 

 秋人と謎のISとの戦闘が行われており、女性はひたすら銃器を乱射し回避する秋人を狙う。秋人には女性...オータムの動きが分かっていたのでダメージは一切ない。が、秋人の頭の中は冷静ではなかった。

 

 

(あいつが僕らを、兄さんを!!)

 

「あ~あ!! 面倒くせ!! てめえら兄弟はよ!! あんとき兄の方だけじゃなくて、お前もくたばってりゃ、こんな任務しなくていいのにな!! 」

 

「っ!? ふざけるな!!」

 

 オータムの挑発に秋人が乗ってしまう。ライフルの弾薬が切れたオータムを見てチャンスだと思い、秋人が近づきブレードを振り上げるが、突如蜘蛛の糸に拘束される。

 

「なに!?」

 

「ははは!! クソガキ!! やっとつかまえた!!」

 

どうにか拘束から逃れようと機体を動かすが、糸は強力で逃れられないでいた。そしてオータムが動かす機体「アラクネ」が近づき何かの機械を取り出した。

 

「まずは、機体をぶんどってからお前を殺してやるからよ!! 楽しみにしてな!!」

 

取り出した機械を白式に取り付けようと近づくオータム。秋人は恐怖を感じ、声も上げる事もできずに震えていた。

   

 

「おいおい、誰を殺すだって?」

 

 

突然何者かの声がし、気づけばオータムが持っていた謎の機械が真っ二つになっていた。オータムがセンサーの反応に気づき振り向くが、突如機体が吹き飛ばされ、大きな音をたて壁に激突するアラクネ。そして、秋人の前にはーー

 

「に、兄さん...?」

 

 呆然とする秋人の前にいた一夏は、手にしている光剣で秋人を捕縛している糸を切って秋人を解放し、気まずそうに視線をそらす。

 

「大丈夫か?」

 

「ほ、本当に…本当に兄さんなんだね!!」

 

秋人が目に涙を浮かべ、今にも一夏に抱きつきそうになるが、壁に激突したアラクネが起き上がる。

 

「てめぇ!! 誰だ!? 私の邪魔をしやがって!!」

 

「お前のほうが邪魔だ」 

 

剃で接近した一夏は、アラクネを覇気を纏った拳で殴りつけ装甲を大きくへこませた。かなりの衝撃がオータムに襲いかかり一瞬気絶しかけて目が虚ろになる。

 

「ぐぅ!!」

 

「そうか、思いだした。こいつは、あん時の...」

 

一夏が呟く、数年前自分と秋人を殺そうとしていたISを操縦していたオータムを思い出し怒りが湧き出る。そして両手を黒く染めて覇気で剣も硬化させ、アラクネに襲いかかりアラクネの腕を切り落とした。

 

「お前にも味わわせてやるよ…死の恐怖をよ!!」 

 

怒りを露わにした一夏が覇気を纏った剣と拳でアラクネを破壊していく。装甲が切り裂かれ、複数あった足がもぎ取られ、蜘蛛を模した機体が破壊されて行く。そして、生身の人間にISが破壊されている現実に思考が追いつかず、彼女は壁を爆破し逃走し始めた。

 

「クソ!! 何なんだあいつは!? 」

 

ブースターを全開にして狭い通路を通って逃げるが、後ろから高速で一夏が追跡をする。機体のセンサーが一夏を捉え距離が縮まっていき、オータムはこれ以上近づかせないように、後ろにグレネードを放ち通路を爆破して、出口に辿りついて劇場の建物の外に出てきた。

 

「あら、いらっしゃい~~」

 

 のんきな声と共にアラクネに銃弾が襲いかかり、気づけばランスを構えた蒼いISが狙いをつけていた。

 

「あら? どうして、そこまでダメージを...?」

 

 楯無が半壊しているアラクネに疑問を抱いていると、センサーが新たな反応を示し、煙が上がっていた通路から誰かが飛び出す。

 

「畜生、爆破しやがって...」

 

「あれは!!」

 

 通路から出てきた一夏を見て楯無が驚いていると、そこにちょうど援軍に来た専用機持ちの五人が集結した。そして、鈴と箒は一夏を見て驚きの声を上げる。

 

 

「あ、アレは!! まさか!?」

 

「一夏!!!!」

 

「箒、鈴か? しまった、会うつもりはなかったのに...」

 

 一夏がこの状況からどう逃げるか考えていると、アラクネが再び動きだし機体の一部を切り離しオータムが離脱する。

 楯無が皆に避難を呼びかけた瞬間。アラクネから切り離された部品が爆発がする。そして、煙にまぎれ一夏は黒騎士を展開しその場を離脱した。

 

「あれは、黒騎士だと!? 」

 

「一夏、待ってよ!!」

 

 箒と鈴。さらにセシリア達も逃げる黒騎士を追いかけようとするが、突然楯無から止められる。

 

「皆待って!! こっちに未確認のISが接近しているわ。何人かは学園の護衛に向かって!! 残りは私と一緒に来て。打ち合わせどうりに黒騎士を特設会場に誘導するわよ!!」

 

 楯無からの指示を受け、シャルとセシリアが未確認のISの迎撃に行き、残る箒 鈴 ラウラが一夏を追う。

 

 

「たく、革命軍だけじゃなく亡霊(ファントム・タスク)までいたのかよ」

 

 IS学園の上空を移動しそのまま逃げる一夏。だが、三体のISが周りこんで囲まれてしまい黒・紅・桃のISが武器を展開し、一夏を睨む。

 

「黒騎士!! 」

 

 この中で唯一、一夏と面識のないラウラが射撃をし後から箒が接近戦に持ち込む。

 

「一夏!! どういう事だ!! 何故、その機体にお前が乗っているんだ!? 」

 

「答えるつもりは、ねぇよ!!」

 

「ふざけないでよ!!」

 

 鈴が叫び、衝撃砲を向け鈴の目には涙が流れていた。

 

「私がどれだけ心配したか...生きてたんならそう言ってよ!! 馬鹿!!」

 

「鈴...ごめん!!」

 

 一言謝り、一夏は箒を押しのけ逃げる。三体は後を追いかけつつ、一夏を特設会場と呼ばれる海の上に浮かぶリングのような人工島に誘導すると

 

「ふふふ、いらっしゃい!!」

 

 突然。楯無の声が聞こえ機体の背後から爆発が起こり一夏が会場の上に落下するとリングのあちこちから噴水が流れ一夏は上空にいる自分を見下ろす人物を見てその名を呟く。

 

「あんたは...更識、楯無...」

 

「あら、私の事知ってたの? 嬉しいわ♪」

 

 パンフレットに名前が書かれていたのを思い出した一夏。そして蒼いISミステリアス・レイディを纏う楯無が怪しく微笑む。

 

「さてと、貴方には一杯聞きたい事があるけど、まずは投降してくれないかしら?」

 

「残念だけど、俺は捕まる訳には行かないんで」

 

 黒刀を取り出し刃を楯無に向ける。が、楯無は余裕の笑を見せる彼女に違和感があった。そしてーー

 

「そっか~~ところで...なんだか熱くないかしら?」

 

「っ!? 」

 

 清き情熱(クリア・パション)

 

 指が鳴らされた瞬間。衝撃と熱が一夏に襲いかかる。爆発のダメージを受け、急いで上空に避難しようとするが、一夏を逃がさないように、今度は目の前で爆発が起こり、リングに再び落下した。

 

 「ほら、逃がさないわよ?」

 

 立ちあがる一夏に、今度は蒼流施(そうりゅうせん)から放たれるガトリングが襲いかかり黒騎士のエネルギーが消費していく。一方的な攻撃に反撃しようとし黒刀を振り上げるが、再び爆発が起こり黒刃が手から離れてしまった。

 

「やばっ!!」

 

 急いで剣を取ろうとし動くが、今度は機体が突如動かなくなる。気づけば一夏の周りだけ空間が沈んでおりこれが原因だった。

 

「いかがかしら? 私のISの力...水は?」

 

 水を纏い一夏の上を飛ぶ楯無。既に強力な結果に封じられた黒騎士を見て傍に待機していた箒達もこれで戦いは終わりだと確信していたがーー 

 

「...確かにな、あんたのISは強いが...」

 

 一夏はこの状況を打開すべく黒騎士に備わった力を解放する。

 

「俺も、負けてらんねえな...」

 

 突如、黒騎士からドス黒い霧が生まれリングに広がって行く。異質な霧に箒達も、そして楯無も身構えた。

 

「更識。お前のISの力が水なら...俺のISの力は闇だ」

 

 異質な闇が海の上で生まれる中。ここに史上最強で最悪のISがその力を見せつけるのであったーー   



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十九話 闇と水

 

 リング上に光さえも遮るような闇が広がっていた。楯無は、霧に触れないように上空に飛び、拘束が消え自由に動く一夏を警戒する。

 

「...闇? 面白い事言うわね?」

 

ポーカフェイスの笑みを見せ、さっきまで一夏を拘束していた水のナノマシンが消失した事を元に、あの霧が何かの推測を立てる。あの霧も自分のIS同様ナノマシンによる物なのか? もしくは、電子機器の働きを阻害する特殊兵器か? 予想がつかず、彼女は自身のISの水の力を使い突如、楯無が六人に増えた。

 

 

「じゃ、その闇の力を見せてもらおうかしら!!」

 

 アクア・ナノマシンにより作りだされた、自分の姿を模した五体の人形がランスを構え接近する。一夏は特に驚きもせず、襲いかかる彼女達見つつ床に手を向ける。

 

「ブラック・ホール!!」

 

 突如、足元にあった霧が動き出し一夏に近づいていた五人の楯無が吸い込まれて行く。人形達が必死に抵抗し霧から逃れようとあがくが、数秒もしないうちに全て吸い込まれてしまう。

 

「なっ!?」

 

「すげぇな…黒ひげのやつこんなの使ってやがったのかよ...」

 

 闇の力に驚きで声をあげる楯無を無視し、一夏はかつての冒険でいた最凶の敵の姿を思い出し、改めてこの闇がどれだけ強大なのか認識する。

 

「...何なのだ、あのISは?」

 

 リングの傍に待機していたラウラが声を震わせ未知なる力に体を震わせる。そして、隣にいた紅い機体。箒がリングに接近する。

 

 

「一夏!! なんなのだ、そのISは!? 貴様は一体、なんなのだ!!」

 

 恐怖を振り払うかのように声を張り上げ刀を向け睨む箒は話を続ける。

 

「貴様がいなくなって、秋人がどれだけ心配していたか、貴様にはわかるか!? 戻ってこい!!」

 

「...箒。俺はやることがあるんだ、だからまだ戻るつもりはない」

 

「!! この!!」  

 

「!! だめ!! 箒ちゃん!!」

 

 ついに抑えがきかず、楯無の忠告を無視し刀を振り上げ接近する箒。そして、うかつに近づく彼女に、手を向け

 

「黒渦!!」

 

 突然、強力な力を受け体勢を崩した箒が一夏の方にまるで吸い込まれているかのように近づき黒騎士が紅椿に触れた瞬間、箒の前に画面が現れ紅椿のエネルギーがどんどん減少していた。

 

「何!?」

 

急いで機体を動かし、エネルギーの残量が一桁になった所で一夏が手を離し、紅椿が飛び上がる。次いで援護に入っていたラウラにも手を向け、また同じように引き込まれ掴まれてしまう。

 

ラウラはゼロ距離になり、機体のAIC、停止結界を発動し黒騎士を捕獲しようとするが、予想外の事が起きる。

 

「!! 馬鹿な!? AICが、発動しないだと!?」

 

驚愕の声をあげた時、箒と同じようにラウラの機体にも異変が起こり、機体のエネルギーがどんどん減少していく。

 

「すまんな」

 

一夏はラウラに一言あやまり、センサーが警告を鳴らしロックオンされていることに気づいた一夏は、ラウラを解放し後ろから迫る弾丸を躱す。

楯無が二人の無事を確認し、先ほどのラウラの発言と二人のISからエネルギーが消失している事に気づき一夏を見た。

  

「これが、闇の力って事?」

 

「そうだ、闇ってのは引力で全てを引き込む力だ。そして俺が触れたISは...」

 

「引力...?」

 

話しながら、楯無に手を向け黒い霧が動き出す。

 

「触れられた瞬間、能力は一切無効になる!!」

 

 黒渦

 

二人を掴んだ時と同様、楯無にも引力に引かれ一夏に吸い込まれて行く。何とか体勢を保ち、アクア・ナノマシンを一点に集中させ一本の槍を形成する。

 

「くっ!! ミストルテインの槍!!」

 

機体の防御を捨てた技が放たれ、全てを引き込む力のせいで回避する事ができず、黒騎士の胴体に命中し刺さる。能力の発動をやめ、一夏は水の槍に触れた。

 

「ぐぁ!! 畜生!! 水の槍か!!」

  

刺さった槍を引力で吸い込む事で消し、その隙に楯無は一夏と距離を取り頭を回転させる。黒騎士の危険な能力を放置する訳にはいかず、どうにかここで捕獲するしかないと判断し水の操作を行う。そして一夏の辺りの温度が異常に上昇しいくつもの爆発が起きるーーー

 

 

 

 一方で、学園に侵入した機体と交戦するセシリア・シャル。

 

ビット攻撃を得意とする敵に苦戦していると、学園の側で大きな爆発が起こり、二人の意識がそっちに向いた瞬間、侵入者は逃走する。

セシリアが悔しそうに唇を噛み締め、逃げていく機体を睨み、二人は爆発のあった場所にいくのだったーー

 

 

 

そして、避難シェルター前で生徒の避難を手伝う簪も爆発に気づき立ち止まる。教員から中に入るように声をかけられるが、簪は無視しISを機動させ爆発のあった所を探す。

嫌な胸騒ぎをし、いくつかの集まった気配を感じ近づくと、リング上に膝をつく姉と、顔隠すバイザーが壊れ素顔をさらした一夏を見るのだったーー

 

 

 

リング上で二人は息を切らし、互いに見つめ合う。機体もそれぞれ多くの傷がつき、それがどれだけ激戦だったのかを表していた。

 

「はぁ、はぁ...」

 

「これで、分かったろ? 闇の力ってやつが」

 

一夏もこれ以上の戦闘は機体を壊しかねないと思い、早く離脱したかったが、目の前にいる彼女がそれをさせてくれない。そして、この学園の長は立ち上がり真っ直ぐに一夏を見る。

 

「舐めないで欲しいわね、私は更識楯無でこの学園の長よ!!」

 

「まだやるのかよ、くっ!!」

 

 今だ戦意を失わない楯無は、画面を切り替え何かを操作する。すると海からいくつものパイプが出現し、大量の水が発射された。

 水の中に含まれている膨大のナノマシンが、彼女の意思の通りに動き発射された水がやがて一つに集まり、巨大な雫と化した。

 

「これが私の最大の攻撃...」

 

楯無が考え出した自らのISの最大攻撃。その名は水帝。 

 

 太陽の光に当たり、輝く巨大な雫を右手に持ち一夏も闇の霧を大量に出し、機体のあちこちから危険信号が鳴り始める。 

 

「上等だ、水か闇か...」

 

「勝つのはどちらか一人...」

 

 箒や簪、そして遅れてきたシャル達がこれまで見た事のない戦いに声も出ず見ていると二人の最後の攻撃が始まった。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

 

 水と闇がぶつかる。

 

 一瞬、時が止まったかのように静まった瞬間

 

 とてつもない衝撃と爆発が起こり、海が激しく揺れ津波が起こる。

 

 二機のISの戦い。

 

 後に、ISの歴史にも語られるこの戦いは

 

 世界に混乱を引き起こすのだったーー

     

 

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 



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二十話 混迷

 


病室のベットに横たわり、体に包帯を巻いた楯無がテレビのニュースを見てため息をつく。ニュースの内容はIS学園で起こった大爆発についてだった。

 

事件から数日経ったと言うのに、どのチャンネルも同じような内容を取り上げられていた。しかも偶然現場近くにいた報道機関のカメラが捉えた二体のISの戦いを何度も、何度も飽きるほどに放送していた。

 

巨大な雫を作り上げる青いISと漆黒の煙を出す黒のIS。

 

青いISの操縦者である楯無は、現在マスコミ等から身を隠すため実家の息がかかった病院で治療を受けており、彼女はテレビの電源を消し天井を見つめた。

 

「...はぁ」

 

深いため息をつく楯無。今彼女の頭の中は黒騎士である一夏の事で一杯だった。

IS委員会は謎のISとその操縦者を突き止めるため学園の辺り一帯を血眼に捜索していた。

 

もし生きていたとしても委員会が、いや世界中の人間が二人目の男のIS操縦者である一夏を放っておく訳はない。戦闘中の映像には、一夏の素顔ははっきりと写っており、世界中の人間が彼の顔をテレビで見ているはずだ。

 

楯無は、ふと戦闘中で起こったある事を思い出し、思考を切り替える。

 

「...アレはなんだったのかしら?」

 

楯無は力なく呟いて目を閉じ、一夏との戦いの事を思い出す。

 

 

 

 

 「はぁぁぁぁぁ!!」

 

 「うぉぉぉぉぉぉ!!」

 

水と闇がぶつかり、凄まじい衝撃が生まれ、二人に襲いかかる。とてつもない攻撃のぶつかり合いに先に耐えられなくなったのはーー

 

 「ちっ!! 機体がもたねぇ!!」

 

黒騎士からどんどん装甲が剥がれ落ち始め、そのせいでコントロールが不安定になり機体から出ていた黒い霧が消え水帝が一夏に向かって行く。

 

 「!! 逃げて!!」

 

楯無が一夏に叫ぶが、機体がバラバラになり腕や足が取れてしまっていて今の黒騎士は飛ぶのがやっとの状態で回避は不可能だった。

急いで水帝をコントロールしようとするが、あまりにも膨大なナノマシンと水を使い過ぎてしまい、コントロールが複雑になってすぐに停止ができない。

 

「このままじゃ...っ!?」

 

水帝が一夏と重なって彼の姿が見えなくなった時異変が起こる。突如、鼓膜が破れるかと思う程の音が、まるで巨大な生き物の叫び声が鳴り響き、水帝が崩れ始める。

 

「え...?」

 

一体何が起こったのか? 一夏がどうなったか確認するため、楯無は彼の所に行こうとするが機体から警告音が鳴り始める。

ISのエネルギーが底を尽きかけており、急いで特設ステージの残骸に着地し楯無が空を見上げるとーー

 

巨大な翼を持った何かがはるか空に飛んで行く姿が目に映る。楯無はこれは夢かと何度も自分に問いただし呆然としていた。なぜならーー

 

 

「本当に、あんな生き物がいるなんて」

 

   

未だに信じられないと言う風に、何度も首を横に振り再び彼女は悩み続けるのだったーー 

 

 

 一方。とあるホテルにて

 

 「クソが!!」

 

部屋を無茶苦茶に荒らす女性。亡国企業の一人であるオータムは一夏に与えられた屈辱にとてつもない怒りを感じていた。

 

「落ち着きなさい、オータム」 

 

「スコール!! けど!!」

 

スコールと呼ばれた美女が荒れ狂うオータムをなだめ始め、時間をかけオータムの怒りが静まった所でスコールは話しかける。

 

「ところで、本当なの? あの織斑一夏が生きていた話」

 

「あぁ、間違いねぇ。あいつは確かに死んだはずなのに...」

 

 と、二人の会話中にドア越しで二人の会話を立ち聞きする人物が存在していた。その人物は一夏と秋人の姉である千冬によく似た少女だった。

 

 「織斑...一夏...」

 

一夏の名を口に少女ーー組織ではMと呼ばれた彼女は静かにその場から立ち去るのであった。

 

 

 

 

 

「あの、もう大丈夫ですって・・・」

 

「い、いえ!! 手伝わせてください!!」

 

楯無のいる病院の一階。松葉杖を使って歩く弾から荷物を取り上げ一緒に隣りを歩く虚。気のせいか彼女の顔は少し赤くなっていた。

 

「もう!! お兄たら、こんな怪我して」

 

「蘭...」

 

弾は顔を二人に顔を見せないようにし、早く歩き外に出る。心の中で二人に嘘をついている事に息苦しさを感じ、弾は大きく息を吐く。

 

「俺は、どうすればいいんだ...一夏?」

 

 ここにはいない親友の名を言い、後ろから来る自分の身を案じてくれる二人の少女を見て、弾は作り笑顔を浮かべるのだったーー

 

 

 そしてーー

 

 ガツガツガツガツ

 

「よく食べるね・・・」

 

うさぎ耳の天災が目の前にある空になったいくつもの皿と、それらを平らげている人物を見て呆れる中、クロエがどこからか食事をどんどん部屋に入れていた。

 

「ん・・・ごくっ」

 

やがて数分かけて、部屋においてあった食事を全て食べ終えた男。一夏は満面の笑で

 

「うまかった~~~!!!!」

 

 と叫び、横になって寝息を立てるのであった。

 

ちなみに束からは「早!!」と突っ込みを入れられた。彼女の手には鹿を模したぬいぐるみと、黒騎士のISコアが握られている。さらに、隣りの部屋では黒騎士に似た、新しい機体が組み立てられている途中だった。

 

 

 

 




 久ぶりに執筆しましたので、誤字脱字が多いかもしれませんが

 これからもよろしくお願いします。


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二十一話 奇襲前

 


IS学園にある地下施設にて一人の女性が検査機器を操作していた。その女性はあくびを何回もし、目をこすりながらも徹夜の眠気と戦い作業を進めていた。

 

女性は、秋人のクラスで副担任をしている山田麻耶であった。麻耶は目の前の部屋に置かれた一夏の機体。楯無との戦闘後に回収されたバラバラの黒騎士を検査しその結果に驚きの声をあげる。

 

「そんな、この機体は...」

 

 機体に使われていた部品等が今の第二、第三世代のISが使っている物より古いタイプのが使われており、これらのデータから黒騎士が第一世代の旧型だと結果が出た。

 

「第一世代の...IS」

 

一機の旧式機体だけで、専用機持ち達と互角に戦闘を行っていた事に驚き、麻耶は呆然と保管されている漆黒の剣を見つめるのだったーー 

 

 

 

 場所が変わり、とある病室でーー

 

「隊長、お元気そうで安心しました」

 

手に花束を持ち、軍服を着込み眼帯をした女性がラウラに向かって綺麗な敬礼をし、ベッドに横になっている病院着姿のラウラは突然の来客に驚きながらも敬礼し返す。

 

「クラリッサ...どうして...?」

 

「隊長が負傷したと聞き、急いで駆けつけました...ご無事そうで、本当に良かったです」

 

 クラリッサは安心したように笑みを浮かべてラウラを見つめる。一方で、自分の身を心配してくれた彼女に視線を合わせず、うつむきながらーー

 

「す、すまなかった...心配を、かけた...」

 

小声で告げ、恥ずかしかったのかすぐに咳払いをし、ラウラは顔を上げクラリッサを見る。

 

「と、ところで、なぜクラリッサがここにいるのだ? それに、部隊は今どこに?」

 

彼女はドイツの特殊部隊に所属する人間であり、いくら隊長が負傷したと言え軍人が勝手に本国を離れ日本に来る事などできるはずはない。ならどうしてここに彼女がいるのだろうか?

 

疑問に思っていると、クラリッサが廊下を見て誰もいない事を確認し小声で話し始める。

  

「...我々は今、IS委員会よりある任務を受けており、こうして来られたのです...」

 

「ある任務?」

 

「はい、現在部下達がIS学園に向かっており私もすぐに向かわなくてはなりません...私は部隊を代表してお見舞いに来ました」

 

今この部屋には二人しかいないのだが、注意深く周りを警戒し会話を続ける。

 

「詳しい事はあまり分かってはいないのですが...何やら重要物を運び出す…と噂されています」

 

 「重要...物...?」

 

任務の内容を聞き、この時ラウラの脳裏に浮かんだのは。漆黒の剣を振るうあの機体だった。

 

 

 

 視点が変わり、病院の屋上にてーー

 

柵に体を預け、青空を見つめる秋人がいた。まるで上の空と言った感じで、呆然としてるとーー

 

「そんな所にいたら、取材とかでまたうるさくなるわよ?」

 

秋人の隣りまで歩き、鈴は空を見つめる。秋人は小さく「ご、ごめん...」と謝りうつむく。

 

実は秋人だけでなく鈴・ラウラ・セシリア・箒達も同じ病院にいた。ここは楯無のいる病院と違い普通の大きな病院であった。

 

事件の事で連日、取材者等が駆け込み一時期混乱があったため外に出る事ができず、秋人達は現在も病院に軟禁状態だった。

 

「...あいつ、生きてるわよね...」

 

鈴がペンダントを取り出し、自分と秋人、さらに一夏が映った写真を見つめ、秋人も鈴の持つペンダント見る。

 

「...生きてるよ...必ず」

 

「そうよ...生きてなかったら...殴れないじゃないの」 

 

鈴が拳を空に向けて、秋人は苦笑しつつ手の平を太陽に向け握りしめる。秋人は鈴に声をかけ

 

「もっと・・・もっと、強くならなくちゃ」

 

「...うん!!」

 

決意を口にし、心地の良い風が吹き二人を包むのだった。

 

 

  

数時間後…日が暮れ、空に満月が登った頃。今だ修復中のIS学園に複数のISが警備を行っていた。その中にはもちろん、眼帯をした女性、クラリッサも自身のISを装着し辺りを警戒しつつ学園の倉庫から出されたコンテナを作業班がワイヤーを使いヘリにつなぎ始める。

 

「...」

 

ヘリの近くで金髪の女性が、どこか遠くを見つめていた。この警備にあたっている女性の名はナターシャと言い、革命軍に奪われた機体「銀の福音」のテストパイロットであった。

愛着を持っていた機体を奪われた事によりショックを受け塞ぎこんでいたのだが、委員会の任務で仕方なくこの場にいるのだった。

 

 (どうして、あの子が...)

 

何度も、何度も大きなため息をつくナターシャは、今から飛びたつヘリを呆然と見る。隣にいるイーリスが心配そうにナターシャを心配そうに見るのだった。

 

やがて、飛び立ったヘリを囲むようにIS部隊が飛ぶ。誰もがドイツ・アメリカなど他国の実力者が警護するこの状態を襲うの者がいるのであろうか? と疑問に思いつつも任務に集中し空を移動する。

 

「動いたか...そんじゃ、忘れ物を取りに行くか」

 

満月に照らされたヘリとISを見つめる一つの人影が呟く。剣を腰に携えた彼は、その場から消え、ヘリを追いかけるのだったーー

 

  

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

    




 誤字・脱字気をつけてますが、何かあったらすみません...


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二十二話 黒刀奪還

 


「一夏...」

 

病室のベランダで風に当たりながら一夏の名を呟く箒。気分を変えようとしてここから見える夜の街の景色を見つめるが、ある事が脳裏に浮かびため息をつく。

 

(一夏...おまえは、秋人のことも...私や千冬さんの事など気にもしないと言うのか?)

 

自分の手を見つめ、臨海学校で剣を交えた事を思い出す。一夏は箒に対し黒刀ではなく、ナイフだけで紅椿を相手し、格の違いを見せつけられた。さらに文化際では、見たことのない異形な力を出していた。

 

「あの人なら...」

 

箒は携帯を出しある番号にかけるが、繋がらない。二、三度同じ番号にかけるが電話の相手は出ない。 

 

(くっ!!...一体、何がどうなっているのだ!?)

 

携帯を強く握りしめたまま、箒が顔を上げた時。街の上空で爆発が起こるーー  

 

 

 

「きゃあぁぁぁ!!」 

 

一機のリヴァイブが撃墜され地上に落下し、IS部隊が装備を手に警戒を強めていると、どこからか改造されたリヴァイブが複数接近してくる。

 

「くっ!! 」

 

クラリッサが操縦するシュヴァルツェア・ツヴァイクと他の黒兎部隊のIS。ナターシャとイーリスの機体が敵機体と交戦し、残った機体はヘリの護衛につきその場から急いで離れる。

 

「こんな所で!! ...?」

 

戦闘中に突然ナターシャが、離脱して行くヘリを見て顔をしかめる。

何故、今目の前にいる敵はヘリを追って行かないのか? そもそも、被害の出やすいこのルートを何故自分達が行く必要があったのだろうか?

 

「きゃぁぁ!!」

 

突然、後ろからイーリスの声が聞こえナターシャが振り向くとある機体がおり

 

「そんな!!」

 

そこにいたのは、とある組織に奪われた機体「銀の福音」だった。そして福音は砲口をナターシャ達に向けて放ち、町の上空にいくつもの爆発が起こったーー

 

 

 

IS部隊と離れたコンテナを積んだヘリが本来のルートから離れ山の中に作られた着陸地に降り、森に隠れていた者達が姿を現す。

 

「例の物は手に入れたのか?」

 

「あぁ、問題ない。邪魔な護衛は引きつけている所だから大丈夫だ」      

 

 ヘリの操縦者や作業員達が森に隠れていた者達と話し、素早い動きでヘリにつないであるコンテナを開いているとさっきまで戦闘をしていた福音が着陸する。

  

「これが、黒刀ですか」

 

福音の操縦者である革命軍の兵士。エレンがコンテナに入っている黒刀「夜」を見つめた。

 

彼女達の作戦の目的は黒騎士のデータ及び、機体の残骸や装備の回収が目的だった。

コアは既に一夏の手で抜き取られ、残っていたのは機体の残骸と黒刀だけだがこれだけでも、黒騎士を狙う者達からすれば十分価値のあるものだ。

 

 

そして、エレンが黒刀をコンテナから出そうとした時ーー  

 

 「はぁぁぁぁ!!!!」

 

ナターシャが半壊した機体で、ライフルを構え突入する。が、福音からの射撃が直撃し、小さな爆発を起こし墜落した。

 

「くぁ!! ぁ、あぁ...」

 

「まさか、ここまで追いかけてくるとは...」

 

エレンがナターシャに砲口を向けながら近づき、ナターシャは殺気を込め、睨みながら吠える。

 

「貴方なんかに...その子を、汚させるわけには!!」

 

「汚す? それは貴方達の事では? 私達はこの汚れた世界を修正しようとしているだけよ。」

 

砲口を向け、確実に仕留めるため至近距離で撃とうとするエレン。ナターシャは目を固く閉じ、福音からエネルギー弾が放たれようとした時...斬撃が飛び砲口が爆発した。

 

「がぁ!!」 

 

福音を操るエレンが突然の衝撃に息を吐き出し倒れる。辺りにいた同士達が騒然としていると…一つの影が一機のISに近づき、月の光に照らされた剣で兵士の武器やリヴァイブの腕を切り落とす。

 

「きゃあぁぁ!!」

 

 仲間の悲鳴を聞き、エレンは敵の攻撃だと気づいた時。

 

「俺の剣、返してもらうぜ」

 

そんな声が聞こえ、いつの間にかコンテナの傍には黒騎士に似たISが黒刀をつかみ刃をエレン達に向けて立っていた。

 

「敵だ!! 撃て!!」

 

 エレンが謎のISを撃つように指示し、まだ無事な兵とリヴァイブ達が銃口を向けようとするが、

 

「な!!」

 

「か、体が!!」

 

「う、動かない!?」

 

 突然、金縛りにあったかのように兵やISが動かなくなり誰も引き金が引けない。

 

 地面に倒れて血を流しているナターシャが突然現れた黒いISを改めて見ると、その黒のISは怪しげに指を動かし、一瞬だが指先から何かが見えたが、それよりも驚いたのは

 

「まさか...その機体は!?」

 

「ば、馬鹿な!! 黒騎士だと!!」

 

新たな黒騎士を見てエレンが急いで福音の砲口を向けに放ち、接近してくるエネルギー弾を、一夏は黒刀を軽く振り斬撃で切り落とす。

   

「さぁて、行こうか...」

 

一夏が黒刀を握りしめてつぶやく。コアは変わらないが束によって新たに作られた黒騎士が空に飛んでいく福音を追いかけ空に飛ぶのであったーー        

 

   

 

   



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二十三話 新たな黒騎士

 


 

倒れているナターシャの上空では二体のISが戦っていた。

一つは弾幕を張り距離を取る福音と、黒剣を振るい迫り来る弾丸を切り捨てる黒い機体。

 

「いくら新型と言え剣しか使えない貴様など!!」

 

これまでの戦いで一夏が剣しか使わない事を知りエレンは距離に注意しながら戦うが、一夏は斬撃を放ち福音の翼が一部切り落される。

 

「な!?」

 

「忘れたのか? そこも俺の射程距離だって前にも言ったぞ」

 

以前海の上で初めて戦った際も、斬撃で翼を切られた事を思い出すエレン。近づけば切られ、距離を取れば斬撃で切られる。しかも、先ほどからエレンも攻撃しているのに一夏には一発すら当てる事ができないでいた。

 

(ちっ!! 同士達は!?)

 

エレンは地上の方を向き、ISを装着している革命軍兵を見るが彼女達は動かない。いや、一夏が現れてから何故か福音以外の機体がまるで金縛りにあったように動けないでいた。

 

IS学園の楯無との戦いの映像で見た黒騎士の能力かと最初は思ったのだが、黒騎士から不気味な煙が出ていない。なら何故? とエレンが再び一夏を見る。

 

「悪いんだけどさ、それ降りてくんないか?」

 

不意に一夏から声をかけられ福音から降りろと言われた事に怒り出して「ふざけるな!!」と一夏に向かって叫んだ。

 

「俺だって切りたくないもんはあるんだよ。それ降りたらさっさと仲間と一緒に帰っていいからさ」

 

「どこまでも、馬鹿にして!!」

 

腹を立てたエレンの様子に「言い方まずかったかな?」と呟く一夏。そして、再び砲撃を始めた彼女を見て、一夏は装備を変える。

左手にまるで熊の手の形をした部品が装備され、熊の手が飛んできたエネルギー弾を弾く。

 

「え!?」

 

はじかれた弾丸に慌てて回避し距離をとるエレン。攻撃がはじかれた事もだが、黒騎士が剣以外の装備をした事に驚いていると、突然衝撃が襲いかかった。

 

「がぁ...」

 

体に痛みが走り落下して行くエレン。気づけば機体の胴体に肉球のような形が作られている。

 

「この!! 私は、私は負けるわけにはいかない!!」

 

落下する機体をどうにか操作し態勢を整える。反撃にエネルギー弾を放とうとするが、機体の残りエネルギーが危険を知らすアラームが鳴りエレンは舌打ちした。

 

「エレン様!! もう機体のエネルギーが!!」

 

「クソ!! 動け!!」

 

 エレンが危険なことに仲間たちが叫び、一夏は指から出た糸を解除した。

 

突然、機体が動くようになり黒騎士にライフル弾やミサイルなど全弾打ち尽くす攻撃がくるが、一夏は右手にも熊の手を装備し、つっぱりをするように手を動かし大気を弾く。

ミサイルは爆発し弾丸が弾かれ、強烈な見えない攻撃により兵士達に見えない衝撃が襲いかかった。

 

「さっさとここから離れろ!!」

 

一夏が叫び、次次と衝撃が生み出されて行く。一方的に攻撃され、指揮官であるエレンは

 

「ちっ!! 撤退だ!!」

 

「その前に、そいつを返してもらうぞ」

 

兵士達に叫ぷエレンに向け、一夏が近づき福音に小さな機械を取り付け、電気が流れると福音が待機状態になり一夏は福音を取り上げ空中で落ちそうになるエレンを捕まえた。

 

「き、貴様!!」

 

「暴れるな、落ちるぞ」

 

エレンをそっと地面に降ろす一夏。兵達はエレンの機体を取り戻そうと攻撃をしてくるが、再び大気の弾丸を兵達に当てないように攻撃し、兵達はエレンを連れ撤退していく。 

「やっと行ったか...それじゃ、こいつは返すぞ?」

 

「あ、あなた...」

 

一夏は黙ったまま待機状態の福音を倒れているナターシャの前に置いた。

黒騎士のレーダーが何かが近づいている事を知らせ、何体かのISが近づいていた。恐らく軍の増援だろうか、一夏はその場から離れる。

 

「ま、まって!!」

 

ナターシャが声をかけるが、既に飛びたった黒騎士を止める事ができず、目の前に置かれた福音を胸に抱き「ありがとう」とつぶやき彼女の目から涙が流れて福音に落ちた。

 

一ーー

 

 

 

 数時間後。

 

「ただいま戻りました」

 

「おっかえり~~」

 

秘密基地に戻った一夏を束が笑顔で出迎える。「上手くいったね」と束が聞き一夏も「束さんが用意してくれたおかげですよ」と笑顔で答える。

 

「リパームでしたっけ? あれ、用意するの大変だったでしょ?」

 

「ううん、別に~~あんなの、束さんにかかれば十個でも百個でもすぐに用意できちゃうよ」

 

「いや、そこまでは...」

 

IS操縦者からISを切り離す機械がそんなに作られたらかなり驚異だな…と内心呟く一夏。一応、彼も覇気でISと戦う事はできるため問題はないのだが。

  

「さてさて、今日は疲れたでしょ? お風呂にする? ごはんにする? あ、それとも...」

 

束が一旦黙まり、怪しい目で一夏を見る。一夏は嫌な予感がするが、先に束が着ている服を脱ぎ、裸エプロンになる。

 

「私がいいかな~~!!」

 

「ちょ、束さん!?」

 

再び抱きつく束を引き離そうとするが、彼女の怪力で離れる事ができず、暫らくの間、基地の中では一夏の叫びと束の笑い声が響くのだった。

 

 ーーちなみに

 

「撮影良好」

 

束の補佐でもあるクロエが一部始終を影で撮影している事に一夏は気づくこともなかったのだった。

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

  

 

    

 

 

 

 

 

 



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二十四話 ワールド・パージ 1

「秋人...」 

 

「本当に、早く帰ってきて欲しいね?」

 

学生寮にある食堂の席にて、ぼーっとする鈴と、その姿を見て苦笑するシャル。とある戦闘により学園にかなりの被害が出てしまったが、幸いにも寮等の一部の施設はすぐに使用ができていた。現在では復興作業が大分進み、ISの実技の授業も行われている。

 

「秋人の事やっぱり心配?」

 

「まぁね、秋人って戦闘訓練とかしたこと無いしさ、それに私達のISも結構ガタがきてたから修理中だし」

 

鈴が腕につけているブレスレット。甲龍(こうりゅう)の待機状態を見る。実は鈴だけでなくシャルや箒達も同様に現在ISが使えない状態だった。

 

秋人のISも整備が必要と言う事で、学園の外にある倉持技研と言う施設まで行っており、今現在彼女達を守る力がない状態だった。 

 

「もし、またどこかの組織が襲撃してきたらまずいね...」

 

「大丈夫よ、何かあったら一夏が...」

 

鈴は一夏の名前を出してしまい慌てて口を閉じ、そこでシャルが前から疑問に思っていた事を口にする。

 

「ねぇ、その一夏って人…秋人のお兄さんだよね...?」

 

「やっぱり、分かってたんだ?」

 

シャルはもともと秋人のISのデータを盗むために男装までして秋人に近づていたため、当然秋人の個人情報も目を通していた。兄である一夏は既に亡くなっていた事も知っていたのだが、シャルもまさか生きていたとは思わず驚いていた。

 

鈴は目を一度閉じ、息を吐いてからシャルを見て話し始める。

 

「昔からの知り合いでね、よく子共の頃遊んだわ。なんで今はあんなISに乗っているのかは知らないけどね」

 

「そうなんだ、鈴はその人の事が...!?」

 

突然、明かりが全て消え、防御シャッターが降りる。ガラス窓が全てシャッターに覆われたせいで辺りが真っ暗になり、暗闇が生まれて数秒が経つが一行に予備の電源が入らない。 

「...一体どうなってるの?」

 

シャルと鈴はISにあるセンサ一とレーダー機能を使用し、辺りの様子を見ていると突然通信が入り、相手はラウラとセシリアだった。

それぞれの状況を報告し、これからどうするか話していると、そこで新たな通信が入る。

 

「皆さん、大丈夫ですか!?」

 

その声はシャルやラウラのクラスの福担任である麻耶だった。麻耶は皆の安否を確認し安堵の息を出した後、一年の専用機持ち達をある場所まで誘導するのだったーー

 

 

 

「ふぅ~~ここが倉持技研...」

 

額の汗をぬぐい、目の前にある施設を見る秋人。IS学園に再び何かが起こっている事も知らず、ドアの前で立ち尽くす秋人に魔の手が迫っていた。

 

「いらっしゃ~~い!!」

 

 ぎゅ!!

 

「うひゃ!!」

 

突然尻を触れられ、慌てて後ろを向くとサングラスをかけISスーツを着た女性がにやにやして秋人を見ていた。しかも何故か水浸しになっており、手にモリと魚を持ち、さらにISスーツの胸元には「かかりび」と名札があった。

        

「ふふふ、お姉さんといいことしようか?」

 

と、こんな発言をする女性を見て秋人は大きなため息をつくのであったーー

 

 

 

「皆さん、集まりましたね?」

 

箒・セシリア・鈴・シャル・ラウラの五人にさらに楯無と簪までおり、皆の前に麻耶が立ち、傍では千冬が静かに壁に体を預け立っていた。

今現在彼女達がいるのは学園の内部にある地下施設で、一般では知られていない場所だった。初めて足を踏み入れた事で多少は緊張する中、麻耶が本題に入る。

 

「現在、IS学園ではシステムが何者かにハッキングを受けています。今のところ敵の目的はわかりませんが、システムを戻すため皆さんにはこれよりアクセスルームに入りISコア経由で電脳ダイブをしていただきます」

 

「で、電脳ダイブって...」

 

「確か、個人の意識をISと同調させ電脳世界に入るって言う...」

 

これまでにない体験に少女達が困惑していると、先ほどから静かに見守っていた千冬が箒達を見て

 

「この作戦は電脳ダイブが必須となる、嫌なら辞退しろ」

 

と冷たく言い睨まれた彼女達は渋々了解し部屋を移動する。後に残った楯無に千冬が「後の事は頼んだぞ」と短く伝え、楯無も「了解しました」と微笑み部屋を出て行く。千冬も楯無が出た後部屋から出るが、千冬の目には生気がなく誰も彼女が精神的にも肉体的にも疲労している事に気づかない。

 

   

一方でアクセスルームと呼ばれる幾つか機械のベッドが置かれた部屋に入った箒達。そして簪の指示の元ベッドに横になった彼女達はやがて意識が遠くなり電脳世界に入るのだったーー

 

 

 

「さてさて、彼は来てくれるのかしらね?」

 

廊下を歩きながら一人呟く楯無。扇子には再会と文字が書かれており、いつも神出鬼没なとある人物を思い出し、口元を緩める。

 

 ドン!!

 

目の前で突然爆発が起こり、壁に大穴ができたそこから特殊装備をした侵入者達を睨みつけ、楯無が指を鳴らし爆発を起こすのであった。

  

 

 



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二十五話 ワールド・パージ 2

 皆様、明けましておめでとうございます。

 新年初の更新ですが、よろしくお願いいたします。


学園のシステム復旧のため電脳世界にダイブした箒達。まるで宇宙空間を思わせる世界に驚いていると、彼女達の前に五つの扉が出現しオペレーターをしている簪から中に入るよう言われ五人はそれぞれの扉に入ったーー

 

 

 

「ん? ...ここは?」

 

黒のセーラ服を着た鈴が席から立ち、今いる場所が中学の時に通っていた教室だと気づき手首に装着していたISを確認するが、何時の間にか消えてしまっていた。

 

(まずいわね...何かの罠ってことかしら?)

 

鈴は行動を起こそうとし教室から出ようとするが、教室のドアが勝手に開き一人の学ランを着た男子生徒が...本来ここにいるはずのない一夏が入ってきた。

 

「おう鈴、今帰りか?」

 

「!! 一夏!? あんた、なんで!?」

 

「なんでって、さっきまで先生の仕事手伝ってたから遅くなったんだよ」

 

いや、そうじゃなくて…と首を横に振り。一夏にいままでどこに居たのか、そしてどうして黒騎士なんてISに乗っていたのか。等聞こうとしたがーー

 

(アレ? 私、何言おうとしたっけ?)

 

 さっきまで聞こうとしていた事が頭から消え、何を言おうとしていたのか思い出そうとしていたが、突然一夏に手を引かれ慌てて走る。

 

「急ごうぜ鈴? 今日、夕方から雨降るってテレビで言ってたぞ」

 

「う、うん...」

 

鈴と一夏が誰もいない廊下を二人が走り、外では夕立が振り始めるのだったーー

 

 

 

 

豪華な執務室にて金髪の少女がテレビ電話の相手に向かって難しい顔をして話ていた。

 

 「ですから、もう少し連絡を密にしてですね...」

 

彼女はオルコット家の跡取りである少女セシリア・オルコット。若くして財閥を指揮し、今では頼りになる執事と共に働く女性だった。

 

「とにかく、今度の報告では...はい。では」

 

テレビ電話の画面が切れ、セシリアは椅子にもたれてため息を吐く。そして、机に置いてあるベルを鳴らし、ドアが開かれとある人物が中に入る。

 

「お呼びですか、会長」

 

執事服を着込んだ男性。一夏の弟である秋人が紅茶が乗ったお盆を持ちセシリアの前に立つ。セシリアはまるで火が出そうに顔を赤くしうつむき呟く。

 

「もう、二人の時はセシリアって読んでくださいまし...」

 

「あはは、そうだった、ごめんね、セシリア?」

 

秋人が机に紅茶を置き、セシリアは幸せそうに紅茶を口に運び頬が緩む。実はこの日、一週間の中で唯一の楽しみがあり彼女は喜びに満ちていた。

紅茶を飲み干したセシリアは秋人を見て、「では、行きましょうか」と声をかけ二人は部屋から出て行ったーー

 

 

 

「ふ~~んふふ~~ん♪」

 

鼻歌を歌いながら脚立に登りガラスを拭き上げるメイド服のシャル。彼女は織斑家に使える使用人であった。働くシャルの後ろから一人の男性が近づき、手にモップを持ちシャルのメイド服の短かいスカートをたくし上げる。

 

「きゃ!?」

 

「おやおや、随分可愛い声だね? シャル?」

 

バスローブを着た秋人が意地の悪い笑みを浮かべ、涙目になるシャルを見る。シャルは必死にスカートを抑え「ご、ご主人様...」と呟くシャルを秋人はお姫様だっこをしてベッドに投げる。

 

「あ、な、何を...?」

 

「おいおい、メイドが主を喜ばせるのは当たりまえだろ?」

 

屋敷のプライベート部屋にて、顔を赤くするシャルに目を怪しく光らせた秋人がきわどい服を取り出し、シャルに見せるのだったーー

 

 

  

「ふむ、分かった。その件は後程に」

 

携帯端末を置き、特殊部隊の隊長であるラウラはため息をついていると彼女の夫、いや彼女の嫁が台所から出て来る。

 

「おいおい、どうしたんだよラウラ? 可愛い顔が台無しだぞ?」

 

「む? そ、そうか?」

 

エプロンを着た、いかにも主夫と言った感じの秋人がコーヒーをラウラに手渡す。ラウラは照れ隠ししながらコーヒーを飲んでいると、秋人がポケットから何かを取り出す。

 

「そうだ、この間の結婚記念にもらったこれ、使ってみようかな?」

 

「なぁ!? それは!?」

 

紙には「肩たたき券」ならぬ、「なんでもおねだり券」と手書きで書かれており、二人はそれぞれ何枚か持っていた。 

 

券を使用し、これまでにラウラは秋人の前でナース服やドレス等を着て彼を喜ばせ、逆に彼女も券を使い彼に癒されていた。

 

「こ、今度はなんなんなのだ?」

 

「ふふふ、それはね?」

 

秋人が券をひらひらさせながら、ラウラはこれから起こる事に身を震わせるのであったーー  

 

 

 

 「皆...」

 

コントロール室にて簪が電脳ダイブをした五人と連絡の手段を探しパネルを必死に操作するが変化がなく時間だけが過ぎていた。

一方で地上では楯無と千冬が襲撃者達を撃退しており、秋人もいない状態で誰も助けに行くことができない。

 

 (お願い...来て。今はあなたしかいないの!!)

 

簪が心の中である人物の事を思っていると、IS学園に急速に向かう一つの影があったーー  



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二十六話 ワールドパージ 3

 いきなり楯無と一夏が理由なく共闘するのが違和感があり、

 その話についての番外編を出す予定です。


 ドン!!

 

 学園に近づいていた謎の影は、学園の建物に激突し建物の瓦礫から一人の人間が出て来る。黒の外套を羽織り赤い上着に青いズボンを穿いたその人物は咳き込みながら辺りを見渡し首をかしげる。

 

「げほ、げほ!! ここ、どこだ?」

 

 一夏は学園のマップを展開し今自分がどこにいるのか確認する。一夏のいる場所は簪達がいる部屋から離れた所だった。

 一夏はIS学園で何かが起こった事に気づき文字どうり飛んで来たのだが...

 

「どこ行けばいいんだ...? ん?」

 

 近くで爆発の音が聞こえ、一夏は剃で煙の上がった場所に近づく。そこには一人の青い髪をした少女が見え一夏は足を止めて苦い顔をする。

 

(あれは...更識? ここで会うと面倒だな...)

 

先日の戦闘と、偶然町で会った事を思いだし冷や汗を流す一夏。そのまま立ち去ろうとするが、少女の後ろに特殊アーマーを着込んだ謎の兵がおり彼女の背に銃口を向けている事に気づいた一夏は

 

「やめろクソ野郎!!」

 

 怒りで叫び剃で楯無が気づく前に銃を構えていた兵に近づき蹴りを入れ込む。鍛えあげられた蹴りはアーマーをへこませ兵を吹き飛ばして壁に突きささる。

 

「!? あなた!?」

 

「下がってろ!!」

 

 楯無の前に立つ一夏。さらに通路から先ほどの兵と同じ装備が一団が近づく。しかも兵達は楯無を見るなり「ロシアに国籍を変えた尻軽」等言い放ち銃を構え一夏のこめかみに青筋が浮かぶ。

 

「テーブルマナーの悪い奴には...」

一夏がそれだけ言い一団達に向かって走る。接近する際に彼の足が空気中の摩擦で、燃え上がった。

 

「悪魔風足(ディアブルジャンブ)!!」 

 

 燃え上がる炎の足が敵の特殊装甲を溶かし襲いかかる。

 

 ある者は恐怖で悲鳴を上げる前に容赦ない蹴りを受け気絶し、ある者は壁を突き抜け外まで吹き飛ぶ者がいた。

 

「な、な!? 」

 

「あ、熱い!!」

 

 兵達は一夏に反撃しようとナイフや特殊棒を取り出し接近戦を仕掛けるが

 

「徹底的にマナーを叩き込む!!」

 

 一夏の声を最後に、何人が燃え盛る蹴りをくらい気絶し無傷の者達は仲間の無残な姿を見て逃げ出すが、彼らに突如爆発が襲いかかる。

 

「うわ~~驚いたわ? 足、大丈夫?」

 

 心配そうに今も燃え上がる一夏の足を見つめる楯無。一夏は大丈夫 と答え足を軽く周りに敵がいない事を確認してから足にまとっていた炎を消した。

 

「ねぇ、それどうやってやったのかな? お姉さん君に興味持っちゃったから、教えてくれないかしら?」

 

「断る」

 

「え~~」

 

 まるで子共のような振る舞いをする彼女だが、目が明らかに何かを含んでおり、かつて一味の中で金品に対し誰にも負けない程の強欲を持った航海士を思い浮かべてしまい苦い顔をする。

 

「ところで、秋人はどこか知らないか?」

 

「あぁ、彼なら今学園の外にいるわよ。それと織斑先生も侵入者の撃退に学園のどこかにいるけど、貴方にはやって欲しい事があるの...とても重要な事を」

 

 楯無は侵入者であり先日戦ったはずの一夏にダイブルームを場所を教えて向かわせる。去って行く一夏の後ろ姿を見て顔を赤くし「本当にまた会えちゃった」と呟き笑を浮かべる楯無だった。

 

 

 

 「...!!」

 

 研究所内部で白式に乗った秋人が何かを感じ整備室を見渡すが誰もいない。研究員達は隣りの部屋でモニターを真剣にみており、誰も秋人に声をかけた様子はなかった。

 

(今のは...一体...?)

 

 原因が分から無い胸の焦燥感を感じながら、秋人は白式に写し出されモニターに目を通すが、内容が頭に入る事はなく時間だけが過ぎて行くーー 

 

 

 

「こんな部屋があったのか...」

 

 一夏が楯無から教えてもらった道を進み一つの部屋に入ると、キーボードーを打ちこんで簪がいた。突然一夏が入ってきた事で手を止めて顔を赤くして驚くがすぐに急いでメッセージを打ち込み一夏に見せる。

 

 内容は「電脳ダイブをした箒達と連絡が取れず、こちらから操作ができない状況」である事と、もう一つ「誰かが電脳ダイブを行いシステムを復旧させる必要がある」と書かれていた。

 

「誰かがって...もしかして?」

 

 こくん と簪が頷き、箒達の傍にある余った一つのべッドが動き出す。「俺、初めてなんだけど...」と不安げに言うが、簪の強い視線を受けて覚悟を決めベッドに横になる。様々な機械音が聞こえた後、カウントダウンが零になった瞬間。一夏の意識は真っ黒になる。 

 

 

「う...?」

 

 うっすらと目を開き、気がついた一夏の目の前には五つの扉があった。周囲がまるで宇宙空間のような背景を見渡していると

 

「ダイブは成功です。今、貴方の前にある扉の先に篠ノ之さん達がいます。気をつけて...」

 

「ここが、電脳世界ってやつか...まぁ、魚人島行った時みたいに暗くはないからましか」

 

  簪の忠告を受け、一夏は扉に近づきドアを開いた先には豪華な屋敷が建っていた。玄関の前に立ち少し混乱する一夏。そこで彼はある事に気づいてしまう。

 

「そういえば、俺。箒と鈴しか知らないけど...誰探せばいいんだ?」

 

 二人以外の少女とは会話すらしたことすらなく。彼女達にあったらどうすればいいのか考えるが。まぁいいか と気分を変えて屋敷の門を開き足を踏み入れた瞬間。

 

 

 

 「ワールド・パージ 異物混入。排除開始」

 

 屋敷から武装した黒服の集団が現れ取り囲まれてしまう。一夏は待機状態の黒騎士にある剣を取り出そうとしたが、そこで待機状態の黒騎士がない事に気づく。

 

 さらに黒服の持つ銃から銃弾が襲いかかり剃で移動しようとするが、いつもどうりに足を高速に動かす事ができず何発かの弾丸が体をかする。

 

 「ぐっ!! 嘘だろ!?」

 

 仮想世界にてまさか武器だけでなく体術も使えない事に驚く一夏。

 さらに自分にある「とある能力」で姿を変えることもできず、覇気で体を硬化する事さえできなかった。

 

 あらゆる力を封じられてしまい地面に膝をついていると屋敷のベランダから二つの影が一夏を見下していた。

 

「い、一体何事ですの?」

 

 バスローブに身を包んだセシリアと、執事服を着込んだ秋人の二人だった。

 秋人はセシリアを後ろに下がらせ、どこからかロケットランチャーを取り出し一夏に狙いを定める。

 

「侵入者め!! セシリアには指一本触れさせはしない!!」

 

 秋人はためらいもなく引き金を引きロケット弾が一夏に迫る。周りの黒服達が邪魔で逃げ出す事ができず、一夏は秋人ーーではなくセシリアを見ていた。

 

 あぁ、青いISのやつか と心の中でセシリアの事を思い出した時ロケット弾が爆発し炎が襲いかかる。

 

 青いIS 迫る炎 

 

 この二つが一夏の頭の中である物が連想し、彼に変化を与える。

 

 

「はははは!! これで邪魔者はいなくなったよ? セシリア?」

 

「っ!! い、いや!!」

 

 使用人ごと一夏を吹き飛ばした秋人に恐怖を感じ怯えるセシリア。狂気の顔を浮かべた秋人がセシリアの腕をつかもうとした時。

 

「誰が邪魔者だって?」

 

 爆炎の中。体から青い炎を生み出す一夏が無傷で立っていたのだったーー

 

  

 

 

 

 

 

 

  

 

  

 

 

 

 

 

 

 




 


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二十七話 ワールド・パージ 4

 「青い...炎?」

 

 庭に広がる爆炎の中。青い炎をまとい平然と立つ一夏を見てセシリアが驚く。隣りにいる偽秋人も侵入者の異常な体を見て動揺したが、宙に両手を伸ばし歪んだ空間から二丁のサブマシンガンを取り出し一夏に向かって引き金を引く。

 

「クソ!! これで!!」

 

 何十発もの弾丸が一夏の体を貫くが、その傷は蒼炎により再生されマシンガンの弾が切れ全弾打ち尽くしても体からは一滴の血も出ていない。

 

「どうなっている...あの体は!?」

 

「今のはかなり効いたぞ...うおぉぉ!!」

 

 一夏が声を上げ蒼炎が全身を包みと青い鳥の姿に変化し飛び出す。接近してくる一夏に再び銃器を出し撃ち落とそうとする偽秋人。

 

 だが、いくら攻撃しても不死鳥の再生力の前では無意味であったようで、すぐに目の前まで来た一夏の蹴りをまともにくらいその場で消えた。

 

「っ!? なんだ!?」

 

 偽秋人を倒した瞬間。周りの風景がぶれ気づいたら一夏とセシリアが五つのドアの前にいた。周りに敵がいない事に安心して一夏は体から今も出る蒼炎を見つめ目を細める。

 

(この力...たしか。確か不死鳥の...)

 

 一夏が思考に没頭していると、後ろからセシリアの悲鳴が聞こえて振り向くとーー頭を一筋のレーザーが貫通し再生の炎が激しく燃え上がる。

 

「ちょ!! おまえ!?」

 

「み、見ないでくださいまし!! 今、見たら打ちますわよ!?」

 

 セシリアは身につけている薄いローブで必死に体を隠しながらピット兵器の銃口を一夏に向けるのだった。「いや、既に打っただろうが!!」と突っ込むが、セシリアは聞く耳を持たずレーザーを打ち続けて、その度蒼炎が辺りに飛び散る。

 

「うぉ!! 打つな!!」

 

 レーザーの嵐から逃げるため一夏は扉を乱暴に開けて中に逃げた。

 

 この時、一夏から飛び散った蒼炎がセシリアの体に入って行った事に誰も知らないままーー

 

 

 

 「ふぅ...」

 

 セシリアからの攻撃から逃げ延びた一夏はさっきとは違う大きな屋敷の前に立っており表札には織斑の名前が書かれていた。

 

 「次はここか...」

 

 さっきのセシリアがISを出した事を思いだし、黒騎士を呼び出そうとするが、何も変わらない。

 

 どうやら、扉の内部の世界ではISや能力を使う事ができないらしいと理解したが、さっきの不死鳥の力はどうやって使う事ができたのだろうか?

 

 

「ん...出ないな...」

 

 再び不死鳥の力を出そうと頭の中で、とある船の船員を思い出すが炎が全くでない。

 

 仕方なく今度は別の人物を思い出す。その人物は船長の事を先輩と呼び慕っていた男であり、一夏の目の前に見えない壁が出現した。

 

「おぉ、出た出た!! 」

 

 

 一夏はバリアの壁が出た事に喜び屋敷の二階の窓が空いている事に気づいて壁を使って階段を作り登って行く。

 

 そして、二階から侵入するとーー

 

 「ご、ご主人様...」

 

屋敷の主である秋人の命令で露出度の高い服を着たシャルが顔を赤くしながらベッドに横になってローブを着た秋人がベッドににじり寄る。

 

「シャル...随分と可愛いじゃないか...」

 

 ローブを脱ぎ捨て下着一枚となった秋人が固唾を飲み込むと、大きく飛び上がりベッドにダイブする。

 

「シャル~~ぶげっ!!」

 

 突然、秋人が変な声を上げ床に崩れ落ちる。鼻血を出し起き上がった秋人がシャルに抱きつこうとするが、目の前にある見えない壁のせいで指一本すらシャルに触れる事ができない。

 

「な、なんで!?」

 

「そりゃ、おまえが変態の風上にもおけないやつだからだな」

 

 気がつけばシャルの後ろには一夏が両手の指を結んだ状態立ち秋人を見下ろしていた。部屋の窓が開いている事に気づいた秋人はすぐに警備を呼ぼうとするが体が何かに潰されて動けない。

 

「ぐ、がぁぁぁ!!」

 

「おまえ、いくら弟の偽物だろうが。俺が今まであってきた変態には、そんな事する奴はいなかったぞ!!」

 

 一夏はこれまで会って来た変態達を、海パン一つの機械人間や敵でありながら男気があり、ハードボイルドなおしゃぶりとよだれかけを付けた男達を思いだし、彼らに失礼だぞと怒りを表す。

 

 見えない壁で秋人を押しつぶし、偽秋人はシャルの名前を叫びながら粒子と化して消滅し、二人は五つの扉の前に着くのであった。

 

「バリアって便利だな」

 

 この能力の便利さに感心し、傍にいたシャルの様子をみるが

 

「っ!? 君は!? て、きゃぁぁぁぁ!!」

 

 自分の着ている物に気づいたシャルはISの銃器を一夏に向け放つが、強固なバリアにより弾丸が一夏には届く事はなかった。

 

「たく、次の奴は誰だ...? 箒か? 鈴か?」

 

 攻撃に気にする事なく一枚のバリアだけ残し次の扉に入って行く一夏。そして、残されたシャルは外部にいる簪の操作で仮想空間から脱出しその際一夏が張っていたバリアも消えた。

 

 

「よ、嫁...これは、一体...」

 

「何って、エプロンだよ? 」

 

 顔を赤くしたラウラがエプロン一枚だけの姿で秋人の前に立つ。秋人は笑いながらラウラをお姫様だっこしリビングのソファに横にして顔を近づける。

 

「よ、嫁、な、何を...」

 

「今度はラウラがおねだりする番だよ、ほら。何か言ってよ?」

 

 秋人が「なんでもおねだり券」を取り出しラウラに見せつける。一瞬、目を大きく開けて何か叫ぼうとするが、ラウラは視線をそらし何かを呟く。

 

「...したい」

 

「ん。よく聞こえないな...? ほら、はっきり言わないと、やめちゃうよ?」

 

「!!っ わ、私は嫁と...」

 

 ピンポーン と家の中でインターフォンが鳴り二人の動きが止まる。外から男の声がして、ラウラは秋人に待つよう伝えて静かにソファから降りテーブルの下に隠してある銃とナイフを取り出し玄関に近づく。

 

「どこの者だ? 階級と名を答えろ」

 

 ラウラが玄関の向こうにいる人物に詰問すると「え? 階級? じゃ、大将で」と返事がきて、ドアに向け銃を撃つ。

 

「うおぉ!!」

 

「何者だ!!」

 

 エプロン姿の少女がドアを蹴破り、打ち尽くした銃を捨てナイフを構えると、目の前にいたのは、両手を鎌に変化さて銃弾を防いでいた一夏がいたのだった。 

 

 

 

 

  

    



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二十八話 ワールド・パージ 5

 一ヶ月以上空けてしまいました。

 相変わらず、誤字とかには気をつけてますが。

 意味不明になっていたらすみません。
 


 「あ、あぶね!!」

 

 腕を鎌に変化させ銃弾を防ぐ一夏。ドアを蹴破りナイフを構えるエプロン姿の銀髪少女に文句の一つを言おうとするが、ナイフを鎌で防いで目の前で火花が散る。

 

「よくも私と嫁の邪魔を!!」

 

「そんなの知るか!? しかも、嫁って誰だ!?」

 

 玄関前にて、ナイフと鎌が何度もぶつかり合い金属音が響く。ラウラのナイフをさばきながら一夏はどうやって彼女を黙らせるか考えていた。

 

 戦闘慣れしているラウラの動きに隙がなく、慣れない能力での戦いで一夏が後ろに下がって行く。

 

「ラウラ!! 頑張れ!!」

 

 と、家の玄関から一人の男。偽秋人が立ちラウラを応援し始めた。ラウラは秋人の声援を受け、最初は笑みを浮かべ一夏と戦うが

 

「戦え!! 戦え!! 戦え!!」

 

 と、声援がいつの間にか戦えに変わりラウラに異変が起こる。

 

「わ...私は...」

 

 耳を塞ぎその場で膝をつくラウラ。秋人の声から逃れようと必死に耳を塞ぐがそれでも声は聞こえて、戦え戦え戦え戦え戦え戦え戦え戦え...そう何度も繰り返される声に叫び声を上げた。

 

「...てめぇ...」

 

 一夏は、ラウラの後ろで壊れたラジオのように繰り返す偽秋人を睨み両手の鎌を消し体全体をミサイルに変化させ偽秋人に向かって叫ぶ。

 

「いい加減にしろ!! こいつにばかり戦わせやがって!!」

 

 ミサイルと化した一夏は真っ直ぐ飛び人形のように立ち尽くす偽秋人に直撃し爆発するのだったーー

 

 

 (うっ...? 暖かい...?)

 

 扉のある空間で黒い外套に包まれたラウラが目を覚まし傍にいた一夏を見つけ警戒する。

 

「貴様!? 黒騎士!!」

 

「おいおい、またかよ...」

 

 三度目のことで、シャルやセシリアの時と同じくISをまとうラウラ。だが、扉を素早く開き一夏はさっさと逃げてしまう。

 

「...くっ!!」

 

 先に逃げられ扉を睨むラウラだが、まとっている衣類から一夏の匂いがし思わず鼻を押し付ける。

 

(この匂い...嫁と同じだ...そういえば、黒騎士は嫁の...)

 

 一夏が秋人の兄だったのを思いだし、顔を赤くする。そして小声で

 

「お、お義兄さん...」

 

 と、呟くのだったーー

 

 

 

 残り二つの内、一夏が選んだ扉の先には一つの中華店があった。雨に打たれながら一夏はその店と看板を見て、自分は昔来たことがあるのを思い出して、ここに誰がいるのかも分かってしまった。

 

「...鈴」

 

 雨の冷たさとは違う。体を震えさせながら一夏は恐る恐る店に足を踏み入れる。

 

「...懐かしいな...」

 

 誰もいない店の中を見渡す。異世界に長らくいたが、この店には何回か来たことがあり記憶には残っていた。

 

「...仮想の世界じゃ何も変わらないけど、現実じゃ何もかも変わってしまうもんだな...」

 

 異世界で海賊となり、様々な冒険をして強くなった。けれど、こっちの世界に戻っても自分だけが何故か取り残された気がした。

 

 千冬は学園の教師をし、秋人と箒はIS学園に入学し。鈴は代表候補生になっていた。さらに、親友だった弾が革命軍の一員になりテロをしていたなど。

 

 一夏以外の何もかも変わっていた。

 

「...さて、鈴を探すか」

 

 気を取り直し店の奥に入って行く。廊下を進み二階の方で物音がして階段を上がる。 ドアの隙間から光が漏れている部屋があり、一夏がその部屋を覗くと

 

 

「い、一夏...」

 

「ほら、力を抜いて鈴?」

 

 ベッドの上で、学ランを来た一夏が鈴の制服を脱がせている所だった。そして、偽一夏の手が鈴のスカートに伸びた所で

 

「何してんだ!! てめぇ!!」

 

 ドアを蹴破り、中に入る一夏。

 

「なぁ!?」

 

「え? い、一夏?」

 

 一夏が二人になり、混乱しながら二人に何度も視線を移す鈴。一方で、偽一夏に異変が起こる。

 

「異物確認、排除を開始する」

 

 

「っ!! あ、痛い!!」

 

 偽一夏が機械的な声を出すと突然、鈴が頭痛に襲われる。

 一夏は鈴に近づこうとするが、偽一夏が机の上にあるハサミやペンなどを投擲してくる。

 

「くそ!! 邪魔だ!!」

 

 一夏の手の平に肉球が生まれ、投げられたハサミを弾き壁に刺さる。次次にくる凶器を弾いて防ぎ今度は大気を弾き、偽一夏に向け放つ。

 

 ドン!!

 

「う、うわぁぁぁ!!」

 

 大気の弾丸をくらった偽一夏は叫び声を上げながら窓を突き破って落ていく。一夏はすぐにベッドの上で頭を抱える鈴に近づき声をかけた。

 

「鈴!! 大丈夫か!? 鈴!!」

 

「あ...あ...い、一夏」

 

  

 混乱して体が震えている鈴に一夏は優しく彼女を抱きしめる。

 

「一、夏...」

 

「その...ごめん。いろいろと、本当に...」

 

 鈴に謝罪の言葉を繰り返す一夏。抱きしめられた鈴は久しく感じる一夏の暖かさと匂いで次第に落ち着きを取り戻し、目から涙が落ちる。

 

「...本当に、一夏なんだよね? 本当に!! 生きてるんだよね!?」

 

「あぁ、俺は生きてるし。ここにいる」

 

 確かに、そうはっきりと答えた。

 

 鈴は目の前にいる彼こそが本物だと感じ、昔と違い顔つきも体格も大分たくましくなった一夏の目を見つめた。

 

 

 ドン!!

 

 と、階段を駆け上がる音がして。さっき下に落ちた偽一夏が手に包丁を持ち部屋に入ってきた。

 

「この!!消えなさいよ!! 偽物!!」

 

 鈴が叫び甲龍(シェンロン)の肩に装着された衝撃砲が放たれ偽一夏はその場でバラバラになって消える。

 そして、突然辺りが光だし気づけば二人は五つの扉の前にいた。

 

「...っ!!」

 

 一夏が鈴に声をかける前に、ISを解除した鈴が一夏に抱きつく。まるで、もう離さないと言わんばかりに強く、体をくっつける。

 

「今まで、どこにいたのよ!? いきなり現れて、しかもISに乗って...」

 

「鈴...」

 

 言葉の変わりに鈴の頭を優しくなでる一夏。

 一夏は鈴だけでなく、秋人や千冬達にどう説明したらいいのか悩んでいた。

 

 海賊をしていたこと

 

 束と共に行動していること

 

 そして、今していることを。

 

「約束して」

 

 目に涙を浮かべ、一夏を見上げる鈴。

 

「ここから出たら、ちゃんと話してよ...今までのこと」

 

「...わかった。箒で最後だから...連れ戻したら、俺も後から戻って話すよ」

 

 鈴の涙を拭い去り、彼女から離れ。一夏は最後の扉を開き中に入って行ったーー

 

 

 

「てぁぁぁ!!」

 

「はぁぁぁ!!」

 

 剣術道場にて、箒と秋人の竹刀が交差する。道場の中で暫らく竹刀の音が鳴り響き、やがて

 

「てあっ!!」

 

箒が気合の声を上げ、秋人から一本取る。

息をあげながら、二人は互に礼をし防具を外した。

 

「腕を上げたね、箒?」

 

「あ、あぁ...これも、秋人のおかげだな」

 

「おいおい、俺も手伝っただろうが」

 

 黒い袴を着た一夏が入り二人に向かってタオルを投げる。

 

「一夏...見てたのか?」

 

「まぁな、まさか秋人に勝つとはな~~箒も成長したな?」

 

「なっ!! ほ、褒めても何もでないぞ!!」

 

 一夏と秋人から褒められて顔を赤くする箒。

 

(な、何とか秋人には勝てたが。一夏は秋人より強い...だが、必ず勝ってみせる!!)

 

 自分の中で新たな決意をし、会話をしている秋人と一夏を見る箒。昔からの幼地味と共にこうして剣を交え、日々成長していく事に幸せを感じていた。

 

(もし...私が二人の内どちらかを決める事になったら...っ!! な、何を考えているのだ私は!?)

 

 顔を赤くし、箒は二人に湯浴みに行くといいその場から立ち去る。そして、箒がいなくなった所で道場に残る秋人と一夏に近づく人影があった。

 

(今度は俺と、秋人の偽物が出てきたか...それにしても、箒のやつ何顔を赤くしてんだ?)

 

 箒の様子を気にしながら道場に入る一夏。そして、偽物の兄弟が竹刀を持ち襲いかかる。

 二つの竹刀を回避し、土足のまま道場の中を走り壁にかけてある三本の竹刀を持つ。

 

「さて、とっとと終わらせるぞ!!」

 

 口に竹刀を加えた一夏に偽の兄弟二人が来る。一夏は、その場から動かず両手の竹刀を背にし、一瞬。背後に虎が見え竹刀が振り落とされる。

 

「虎、刈り!!」

 

 パシッ!!

 

 

「ぐわっ!!」

 

「ぁあ!!」

 

 虎の牙を思わせる攻撃に偽の秋人と一夏が道場の壁まで吹き飛ばされる。

 

「よし、後は箒をここらか...って、まだかよ」

 

 道場から出ようとする一夏。だが、壁まで飛ばされてた二人は立ち上がり、手には竹刀ではなく刀が握られていた。 

 

「異分子を」    

  

「排除する」

 

 感情がなく、機械のよう声で再び一夏に迫る二人が真剣で手にした竹刀を引き裂く。

 

「うおっ!? 」

 

「排除」

 

「排除」

 

 口にくわえていた竹刀を持ち。今度は竹刀が壊されないように注意しながら胴体・頭などを狙って攻撃するが二人は倒れない。

 

「こいつら、しぶとい!!」

 

 刀の攻撃を回避し、偽の秋人の胴体に一撃いれるが。背後に回った偽一夏が刀を振るう。

 

 ザッ!!

 

「くそ!!」

 

 横に飛び避けるが額がかすかに当たり床に血が流れる。額の血を拭いながら二人を睨むと、道場の入り口で箒が立ち尽くしていた。

 

「い、一夏...が二人?」

 

「箒、ちょうど良かった」

 

「こいつは、俺たちの敵だ」

 

 偽一夏は、何もない空間から刀を取り出し箒の足元に投げる。

 

「な、何を言ってるだんだ? 二人とも、やめてくれ...」

 

「だめだ、この男は殺さないといけない。僕たちがいつまでもここにいるためには」

 

「だから、一緒に俺たちと戦ってくれないか?」

 

 足元に落ちている刀と、いつもと様子が違う兄弟を見て箒は混乱していた。

 

 どうして、あの二人は人を傷つけることを?

 

 何故、一夏が二人なのか?

 

 それらを聞き出そうとして、突如箒に頭痛が襲いかかりある光景が浮かび上がる。

 

 口に剣をくわえ、三本の剣でISを倒す一夏

 

 黒いISに乗り、紅い機体に乗った自分を戦う姿。

 

 どこかで見覚えのある光景だが、思い出そうとすると頭痛が強くなり。秋人と一夏の声に促され、刀を手にした。

 

 

「わ、私は...」

 

「箒!!」

 

 一夏が箒を呼ぶ。額から流れる血にも構わず一夏は笑みを浮かべ箒を見る。

 

「お前は、お前の剣を振るえ。そいつらの言いなりになって剣を振ってそれでお前はいいのか?」

 

「!?っ」

 

 一夏の言葉を聞き、刀を持つ手から少しずつ震えが消えていく。そして、偽一夏と秋人はいつまでも動かない箒から視線を外す。

 

「箒、仕方ない。俺たちで殺してやるよ」

 

「行くよ、兄さん。今度こそ奴を殺すんだ」

 

「違う...」

 

 箒が小さく呟く。険しい目で偽の兄弟を睨み、すぐに血を流す一夏を向き

 

「私の...私の知っている二人は人を傷つけたりはしないんだ!!」 

 

 持っていた刀を一夏に向かって投げる箒。

 

 偽兄弟が走りだし、一夏は笑みを浮かべ迫る二人に向けて持っていた竹刀を投げ、刀に手を伸ばす。

 

 竹刀はすぐにバラバラにされ、一夏が刀の柄を掴んだ時。二本の刃が目の前まで迫る。

 

「一刀流、居合!!」

 

 鞘から刃が抜かれ、一瞬で二つの刃が砕かれ、気づけば一夏は二人の後ろに膝立ちでおり、ゆっくりと刃を鞘に収める。

 

「獅子歌歌」

 

 技の名前を言い、刀を収めた瞬間。立っていた偽一夏と秋人がその場で倒れて、ガラスのように割れて消える。

 

 そして、道場の中が歪み気がつけば一夏は電脳ダイブ用のベッドの上で目を覚ます。

 

「あ、起きたみたいだよ?」

 

 シャルが一夏の様子に気づき、その場にいた鈴や先に起きた箒が緊張して恐る恐る一夏に視線を移す。

 

 

「あ、あの...」

 

 

 セシリアが声をかけるが、一夏の目はぼんやりとしておりーー

 

 

「ふぁ、ねむ...」

 

 再び眠りにつく一夏。そこに、簪を入れた六人が突っ込まれて。渋々としたように一夏が起きる。

 

「俺、疲れてんだけど...」

 

「ダメ、あなたには聞きたいことが、たくさんある」

 

 簪に二度寝は却下され、一夏はため息をつく。

 

 「わかった、話すから逃げないよ」

 

 観念して、事情を話すことにした一夏。だが、そこに

 

 「た、大変です!!」

 

 突如、通信で麻耶の声が部屋に響き

 

 「織斑先生が負傷してしまい、現在。更識さんと織斑君が保護を...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

    

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      

 

 

  

 

 

 

 

 

 

      



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二十九話 戦いが終わりーー

 ワンピースの新しいOP早速聞きました。

 お気に入り確定です。


  

 一夏が電脳ダイブを行い箒達五人を仮想世界から救出した頃。

 

「お、織斑先生!! しっかりしてください!!」

 

「姉さん!!」

 

「う...ぐっ」

 

 学園内の施設の廊下にて背中から大量に血を流す千冬を抱きかかえる秋人がいた。傍にいる麻耶が涙目で必死に応援を呼ぶが学園のシステムがまだ回復しておらず医療班との連絡が繋がらない。

 

「血が...血が止まらない...」

 

 秋人の体と床が千冬の血で染まって行く。秋人は一刻も早く医務室へ連れて行きたかったが肝心の医者がおらず、ここからISを使い千冬を病院に連れて行こうとしても大量出血している千冬の体力がそこまで持てるか分から無い。

 

 

「ど、どうしたら...」

 

 秋人や麻耶には医療知識など無く一刻一刻とただ、時間だけが過ぎていく。

 

「お願いします!! 誰か、医者を!! このままじゃ、織斑先生が!!」

 

「どうしたらいいんだよ...兄さん...」

 

 麻耶が泣き叫び、秋人の涙が千冬の顔に落ちた時ーー

 

「おい!! 秋人!!」

 

 

「!?っ に、兄さん!?」

 

 

「今から、千冬姉を医務室に連れてこい!!」

 

「え? な、何を...」 

 

「いいから連れてこい!! 千冬姉は俺が治す!!」

 

 一夏の言った事に混乱する秋人。だが、大事な姉の危機に迷う暇などない と覚悟を決め白式のブースタを最大にし千冬を抱え医務室へ急ぐーー

 

ーーーー

 

「...ここは...?」

 

 気づけば千冬は花畑の中に立っていた。澄み切った空に心地の良い風が千冬の髪を優しく揺らす。

 

「そうか...ここが天国と言うものか」

 

 千冬はここに来る前に学園で侵入者と戦っていた事を思いだし、その際に受けた背中にあったはずの傷がない事に気づく。

 

「秋人...」

 

 守ると決めた弟や、教え子達を残し先に自分が逝ってしまった事に無念で心が苦しくなる。そして、永遠に一夏と会えない事に自然と涙が溢れていた。

 

「一夏...」

 

 もはやどんなに願っても叶わない夢に千冬が絶望に泣き崩れた。

 

 

「あぁぁぁぁ...」

 

 千冬が泣き声をあげ、彼女の声が花畑に響く中。花畑に一つの影が近づき千冬は気づかない。

 

「ん? おめぇ腹減ってんのか?」  

 

 急に声をかけられ千冬が慌てて顔を上げると、一人の男が立っていた。顔と胸に傷を持った男を見て一瞬、あの世の使いが来たのか? と思ったのだが、目の前に立つ半袖半ズボンの人物はそんな風には見えなかった。

 

「ほっといてくれ...私はもう、弟に...一夏には会えないんだ...」

 

 もはやどうでもいいと自暴自棄になる千冬。だが、彼の口から思いもよらない事を聞かされる。

 

「へぇ、アイツ知ってんのか? あいつおもしれぇ奴だな!! うちのコックの料理作れるわ、船医とかもできてよぉ!! なんでもできたんだぜ?」

 

「!? 一夏を...知ってるのか?」

 

「あぁ、俺の仲間だ。いや~~それにしても他の皆どうしてっかな~~? 」

 

 まるで懐かしむように言う彼が一夏を知っている事に驚く千冬。彼が何者なのかそして、一夏とはどんな関係なのか聞こうとしたが

 

「千冬姉!!」

 

 突然、一夏の声がして後ろを向くと。小さな光が花畑の上に浮かんでいた。そして、光の中から声がしてよく見てみると、手術室で寝ている千冬に声をかけメスを握りしめる一夏の姿があった。

 

「千冬姉!! 生きろ!! 戻ってこい!!」

 

「一夏...」

 

 必死になる一夏の姿を見て立ちあがり光に手を伸ばすが、手が途中で止まってしまう。

 

「だめだ、私は...姉失格だ。今更、何を言えば...」

 

「んなもんお前が決めんなよ」

 

 再び後ろにいた男に声をかけられる。

 

「アイツ、俺たちと旅をしてる間姉に会いたいって言ってたんだぞ。だから、行ってやれよ」

 

「...っ!!」

 

 男の言葉に突き動かされて、千冬は再び光に手を伸ばし花畑から千冬の姿が消える。

 

「にししし!! さぁて、腹減ったな~~」

 

 そして千冬を見送り、名を語らなかった彼は花畑から離れるのだったーー 

 

 

 

  

「ぅぅ...」

 

「!? 織斑先生!?」

 

 意識が戻った千冬に気づき、麻耶が慌てて病室から出て行き誰かを呼びに行く。

 

「...私は...生きている、か?」

 

 背中の痛みを感じながら胸に手を置いて、心臓が鼓動しているのを感じ深く息を吐きだす。そして、花畑の事を思いだし彼の名前を聞くのを忘れていた事に気づいた。

 

 

 そして、千冬が目を覚ました頃。

 

 

「一夏、いままでお前は何をしていたのだ?」

 

「一夏。約束よ、話して」

 

「あ、あのですね...あの黒いISは何なのですか?」

 

「ねぇ、黒い剣ってどうなってるのかな?」

 

「嫁の兄よ、貴様は何故そこまで強いのだ?」

 

「あ、あの...」

 

「そういえば、学園祭の時に見たあの姿って何かしら?」   

 

「兄さん」

 

 千冬の治療から二日が経ち。学園内も落ち着き始めた頃一夏は質問責め受けていた。上から箒 鈴 セシリア シャル ラウラ 簪 楯無 秋人 が順に聞いてきて

 

「だぁ!! いっきに聞いてくんな!! 俺と秋人は千冬姉に輸血するために大分血ぬいたんだぞ? 少しは休ませろ!!」   

 

 少しだけ顔色を悪くした一夏が声をあげ、同じように顔色が優れていない秋人がすかさず聞き出す。

 

「それにしても。兄さん、どこでそんな医術を習ったの? 姉さんを診た先生が言ってたけど。こんな高度な技術は見たことないって...」

 

      

「ん、あぁ...うちの船医に習っただけだ」

 

「船医?」

 

「俺、海賊やってたから」

 

 海賊。一夏から発せられた単語に七人の少女達が首をかしげる。

 

「...仕方ない。話すって約束だったもんな? アレは、俺らが誘拐された時だがーー」

 

 一夏は秋人と共に誘拐された日の事から話始める。

 

 爆発に巻き込まれた後、自分は大海賊時代の世界に飛ばされていた事。

 

 その世界で様々な仲間と出会い、過酷な海を旅をし力をつけた事。

 

 そして、大秘宝を手に入れ船長が処刑された後、海軍に追われている途中で穴に入り、気づいたら束の研究所にいた事までを話す。

 

「...すごい」

 

「な、なんだか信じられない話だけど...」

 

 未だに信じられない と表情に出す者がいるが。秋人と簪だけが驚いたいた。

 

「兄さん...僕、その穴見たんだけど...」

 

「私も」

 

「何? そうか、だからお前ら二人に見聞色の...」

 

 一夏の呟きに、秋人が聞き返すが一夏は一人ごとだ、とだけ言い

 

「とにかく、その穴見つけても手を出すなよ? 何が起こるかわからんしな」 

 

 と、一応注意をする。

 

 もし、ブラックホールにエネルギーを入れそこから出る粒子が人間の持つ力を目覚めさせる事を知れば、何をしでかすか分から無いからだ。

 

「一夏、その...姉さんと一緒にいたのか...」

 

「あぁ、それにしても相変わらず元気だよな? あの人は」

 

「黒騎士も姉さんからか?」

 

「まぁな」

 

「一夏、貴様…姉さんと一緒に何をしておるのだ?」

 

「...それも、言わないといけないか?」

 

「あたりまえでしょ!! アンタねぇ!!「織斑君!!」 」

 

 鈴が怒りで声をあげると、突然麻耶が部屋に入り込む。そして、彼女から千冬が目を覚ました事が告げられ、一同は急いで病室へ走るのだった。

 

「姉さん!!」

 

「馬鹿者。織斑先生だ」

 

 いつもどうりの彼女の姿に思わず嬉し涙を流す秋人。秋人だけでなく、千冬の姿を見て楯無・簪を除き箒達は安堵し涙が出ていた。

 

「...」

 

 一夏は無言で部屋の外に立ち気まずそうにしていると。

 

「行こう」 

 

「ほら、行きなさい」

 

 

 簪が一夏の手を引き、楯無が背中を押し一夏が部屋に入る。

 

「!! いち...か...」

 

「あ、その...具合悪いとこある? 血は俺と秋人の輸血したから大丈夫だと思うけど何かあったら...」

 

「一夏君~~?」

 

 後ろから怒りを含めた楯無の声がし、一夏は黙る。一夏と千冬が視線を合わせる事なく部屋の中に暫らくの間沈黙が生まれる。

 

「...お前が、私を治してくれたのか?」

 

「あ、あぁ...」

 

「そうか...ありがとう」

 

 素直に感謝の言葉を述べる彼女の姿に、一同が驚き。一夏は

 

「その、ごめん。いろいろと」

 

「!?っ 謝るのは、私のほうだ...すまなかった。お前の話も聞かずに、私は姉失格だな」

 

「違う!! その、俺こそ何も話さずにいたからいいんだ!!」

 

    

「そ、それは...うっ!!」

 

 傷から痛みが走り息を荒げる千冬。その後、学園の医療班が来て処置を行い、一夏ら一同は病室から出て行く。

 

「ねぇ、一夏君。暫らく学園にいない?」

 

「更識、一体何を?」

 

「楯無って呼んで。暫らくの間、先生の傍に居てあげて。それと今学園を守れる人もいないから、今は貴方が頼りなのよ」

 

「俺なんかいていいのかよ? この間、アンタと俺、敵だったんだが?」

 

「でも、この間戦った時…貴方は私を殺さないようにしてくれたんでしょ? それにあの姿についても聞きたいしね」

 

「そうかよ...」

 

 また面倒が増えたとため息をつく一夏。と、そこで楯無がどこからかの通信に応答し少し困った顔をして

 

「まだ食堂しまってるんだって、流石に何日も続くと生徒達の生活に支障がでるわね

...」

 

「なら、私が腕をふるって」

 

「いや、セシリア。あんたやめなさい!!」

 

「でも、どうしよう? 今から外に出ると大分かかるし...はぁ、また備蓄されている非常食かな?」

 

 鈴がセシリアの料理を全力で却下し、シャルが昼食をどうするか考えていると

 

「仕方ない、材料はあるか?」

 

「「「 え? 」」」」

 

「一応、コックから料理学んだからな、まぁ。味は合うかどうかはわからんけどな?」

 

「そう? じゃ、お願いしようかしら?」

 

 一夏の提案に楯無が承諾する。他の生徒や教員達にバレないように食堂に移動し早速調理が開始された。

 

  

 ーー数時間後。

 

 この日。学園の学食はいつもよりも生徒達が集まっていた。

 

 

「お、美味しい!!」

 

「な、何なのこれ...いつもと違う!!」

 

「お、おかわり!!」

 

 いつもどうりに食堂に入る生徒達。だが、いつもより味が格段に美味しく。それが噂になり学年に関わらず多くの生徒達が食堂に押しおせていた。      

 

「だぁ!! なんで人が集まるんだよ!?」

 

「そりゃ、アンタ...こんだけ美味しいのが出れば当然よ...」

 

「あれだけの者は誰だって食べたがるだろうに」

 

 調理室で忙殺されている一夏を横目に野菜を切る鈴と箒。二人は一夏の料理を食べており、「料理の腕が格段、いや数十倍に上がってる!?」と思わず言ってしまう程驚いていた。

 

「でも助かったよ、俺一人だと流石に無理だったからな」

 

「おまえもまだ体の調子が悪いのだろう...それに、助けてもらった恩もある」

 

 箒が顔を赤くし呟き、調理室に秋人が入って来る

 

「兄さん、次の注文来てるよ?」

 

「はいはい」

 

 調理室から出る事が出来ない一夏は鈴と箒の三人で調理をして、残りのセシリア ラウラ シャル 秋人が生徒達に配り、簪と楯無が会計をしていた。

 彼女達の助けもあり、食堂の回転がスムーズに進み昼を過ぎた頃には大分生徒達の姿が少なくなっていた。

 

「お疲れ様です皆さん!! 織斑君...あ、確か一夏君でしたね」

 

 秋人のクラスの副担任である麻耶が調理室に入り労いの言葉をかける。麻耶から夕飯前に調理師達が学園に到着すると連絡が入ったのを知らされる。

 

「それにしても皆さん美味しいそうに食べてましたよ!! 生徒だけでなく、教師の方々も満足していたみたいで!!」

 

「それは、何よりだ」

 

 「もう少しですので頑張ってくだい」とだけ言い、部屋から出て行く麻耶。彼女の言動を見て一夏は内心善人だなと思った。

 あの世界では、悪行を行うが根がいい者がいれば、権力に腐り人の尊厳も命もなんとも思わない人間もいた。最も、この世界でも同じように差別と権力があるが。

 

 

 

「どの世界も同じか...って、あんた何してんだ?」 

 

「一夏君の料理が待ちきれなくて、来ちゃった♪」

 

 表で会計をしていたはずの楯無がいつの間にか調理部屋に入り、一夏の背後に立っていた。箒と鈴が驚き声をあげるが、一夏だけは気にしない。

 

「食堂の方は大丈夫なのかよ?」

 

「大丈夫、秋人君たちが頑張ってくれたおかげで回ってるから。それと、少しだけ話いいかな?」

 

「? 何だ?」

 

 いつもの軽い雰囲気ではない彼女目を向ける一夏。楯無は、一夏と目をそらしながら話す。

 

「さっき言ってた海賊の世界なんだけど...昔、変な夢を見たのよ」

 

「夢?」

 

「うん、子供の頃…家の家業がいやで家出したことがあって。その時、海で溺れてたら海軍の人に助けられたの。で、その人の事知ってるかなってさ」

 

 

 楯無が昔の事を語り、そしてその海軍にいたと言う者の名を告げようとするが。次の注文が入ってしまい、声が途切れてしまう。  

 

「今は無理みたいね。じゃ、私戻るわ」

 

 気まずくなってか厨房から出て行く楯無。一夏は頭に? を浮かべつつ。そのまま料理を作り続けて行き、やがて生徒達が出て行った後。

 

「疲れた」

 

 調理室でイスに座りクタクタになる一夏の姿があった。

 秋人達は食堂で一夏の料理を食べているが、侵入者である自分は人前にでる訳にはいかないため出れない。

 

(ひとまずクロエさん...クロエが暮桜のコア持ち帰ったはずだから。革命軍と亡国機構を探さないと、連中を放置してると秋人達が危ないし...)

 

「一夏?」

 

 険しい顔をする一夏に声をかける鈴。食べ終えたのか、空の食器を水につける。

 

「おう、鈴?」

 

「...まだ、隠してる事でもあるの?」

 

「...まぁ、一つ、二つぐらいかな?」

 

「はぁ...まぁいいわ。無理に聞き出しても、答えてくないんでしょ? あ、そうだ。これ覚えてる?」

 

 話を切り鈴がポケットから写真入りのペンダントを一夏に渡す。

 

「これは...」

 

「アンタが作ってくれた奴よ。昔から一夏、変な所で器用だったから」

 

「そうだったな...図工で余った奴で作ったんだったな...っ!?」

 

 ペンダントを見る一夏の様子が変わり、鈴がどうしたのか声をかけるが返事がなく、何かを呟く。

 

「なんで...この印がこれに?」

 

 鈴から渡されたペンダント。蓋には刻まれた三本の蹄の印があった。

 

 

 

 そして、病室で眠りにつき夢を見ている千冬。

 

 「父さん、母さん...」

 

 夢の中で幼い千冬は、家の中で両親を必死に探す。母の部屋を開けると一人の女性が背を向けており、その背中には三つの蹄の焼印がされたいた。千冬が母に声をかけようとするが、そこで目が覚めてしまう。

 

「夢...か?」

 

 窓から見える赤く染まる夕陽を眺め、夢の中で見た物を思い浮かべる。

 

「母さんのあの背中は、一体...」

 

 母の背中にされた紋章。それがなんなのか千冬が知るのは長くは無かったーー 

 



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三十話 明かされる印の意味

 「くそ...あいつら...」

 

 夕方。自室で端末を操作していた弾が舌打ちをし、いくら連絡しても返事がないことに苛立ち端末を放り投げ畳に横になる。

 

 「俺はもう、用済みって事かよ?」

 

 先日の学園際の際、亡国機構との協同任務で失敗し、組織から何も連絡が来ない事に弾は苛立ち、腕を武装色で硬化させる。

 

 学園際で秋人に誘われる事は計算内だった。その後は、怪しまれる事なく学園の中枢まで侵入し破壊活動を行うだけだったのが、任務は失敗し自分は負けたのだ。

 

「まさか、一夏に負けるとはな...」

 

 しかも自分を負かした人物が何故か行方不明になっていたはずの親友、一夏だった。

 

 最初は互に仮面をかぶり分からなかったが、戦っている内に相手が一夏だと分かり、思わず涙を流してしまった。そして、その後予想もしなかった事が起き、侵入者を撃退に来た千冬と一夏が戦い始め、一夏が勝ってしまったのであった。

 

「それにしても...あいつ、どんだけ強いんだよ?」

 

 今だ硬化し真っ黒になっている自分の腕を見つめ呟く弾。革命軍に入り様々な訓練と肉体強化の処置をされ超人となった自分を倒した一夏。彼がどうやって強くなったのか聞きたくなり端末に手を伸ばす。調度その時一件のメールが入る。

 

「...っ!? これは!!」

 

 メールは革命軍からの物で内容を見た弾は顔をしかめる。そして、すぐにある人物に連絡を取り始めるのだったーー

 

 

「兄さん? どうしたの?」

 

 

 学園の寮にて、秋人の部屋の空いたベッドに横になる一夏。呆然とする彼に、心配になり秋人が声をかけるが生返事しか帰ってこない。同じく部屋にいる箒や簪達も一夏の様子が変に思っておりちなにみ、楯無だけは学園の破壊された物やIS委員会の報告などで席を外していた。

 

「一夏?」

 

 鈴が気になって話しかける。一夏の様子がおかしくなったのは、昔彼にもらったペンダントを見せた時だった。鈴は問題の原因と思われるペンダントを取り出し一夏に見せようとするが、箒がそれは何だと聞き出し、鈴が昔一夏にもらった物だと答えた。

 

「私はそんなものもらってないぞ!?」

 

「そんな事私に言われてもね」

 

 鈴が眉をひそめ箒を睨み。鈴の手にあるペンダントを秋人やシャル達が眺める。

 

「あ、懐かしい。昔の写真だね?」

 

「ねぇ? この表面にある印ってなんなの?」

 

「まるで動物の蹄みたいですわね?」

 

 ペンダントと写真。そしてペンダントの表面にある印に感想を告げ箒や簪は内心自分達も作って欲しいと思っていると 

 

 「その印は奴隷の証だ」

 

 起き上がった一夏がペンダントを見つめて告げる。いきなり奴隷と単語が出て困惑する彼女達に一夏は説明を続けた。

 

「それは竜の蹄で、俺が冒険した中で天竜人って奴らが使っていた紋章だ」

 

「てんりゅう...びと?」

 

 再び初めて聞く単語につぶやいた簪だけでなく、他の少女達は黙って話に耳を傾ける。

 

「そいつらは貴族で、自分達の権力をいいことに人を物のように扱ってたんだ。そして自分達の所有物である奴隷にはその印の焼印を体に刻み込められる。しかも、気に入らなければ女子供だろうが容赦なく殺す事をためらわない最悪の奴らだ」

 

「なっ!?」

 

「ひどい...」

 

 異世界の貴族の事を聞き、あまりにもひどい事に驚きの声が上がる。

 

 この世界でもISでの差別があるものの、それらはすぐに飢えて死ぬわけでもなく、ましては奴隷として焼印をおされる事がないが、どこの世界でも差別による悲劇があるんだなと、冒険中に一夏は何度も思っていた。 

 

「実際、俺の知り合いが人間オークションで売られそうになった時も、そいつらがいて危うく知り合いが殺される所だったんだが」

 

 大いなる航海(グランドライン)の後半の海の玄関口。そこで、奴隷として売り出される寸前で一味が駆けつけ救出した事を思い出す。そして、そこである人物と出会い、一味に大きな影響を与える事になったのを思い出し笑みを浮かべる。

 

「? 一夏?」

 

「あ、いや。ちと、懐かしいのを思い出しただけだから、気にすんな」

 

 簪にそう返事をして、再びペンダントを見る一夏。何故、異世界の印を昔の自分はこのペンダントに刻んだのか? どこで、これを知ったのか記憶をたどるが思い出せない。

 

 

「...ねぇ、兄さん。僕、これ見たことある..」

 

 無言になっていた秋人がそう言い、一同の目線が秋人に集まる。

 

「何!? 本当か!?」

 

「う、うん...確か、昔この絵を書いて姉さんにすごく怒られたのを覚えてる。もしかしたら、その絵がまだ家にあるかも」

 

「そうか...千冬姉はまだ怪我が治ってないし...仕方ない、家に探しに行くか」

 

「って、もしかして今から行く気なの?」

 

 秋人が、ベッドから離れ部屋から出ようとする一夏に声をかけるが、無視して扉を開けると楯無が待ち構え一夏を部屋から出さないようにする。

 

「どこに行く気かしら?」

  

「さっきから部屋の前で聞いてたろうに...家にだよ」

 

 見聞色で楯無が部屋の前で立ち聞きをしていた事に気づいており、一夏は楯無を軽く睨むが彼女は気にせず話を続ける。

 

「ふぅん...で、貴方は家の探し物が終わったらここに戻ってきてくれるのかしら?」

 

 楯無は目を細くし一夏を睨む。彼女の手に持つ扇子は「逃走?」と書かれていて扇子を一度閉じて一夏につきつける。

 

「戻るって...ここはもう安全だろうが?」

 

「貴方自分の立場を分かってるのかしら? 女子高に勝手に侵入して暴れて、君が壊した物…どうしてくれるのかしら?」

 

「箒達とあんたを助けただろうが!!」

 

 楯無の姿が、強欲な航海士の姿と重なり思わずため息をついてしまう。このまま彼女のペースに巻き込まれてしまえば、いつまでもここにいるハメになるため、もう無視して行こうとも考えていると。

 

「...織斑先生は心配じゃないの?」

 

 楯無からそんな一言が聞こえ足を止めてしまう。その時、一夏の脳裏には学園際で見た千冬の涙と、病室で自分に謝る彼女の姿が脳裏に写り一夏は顔を上げる。

 

「...千冬姉が元気になるまでだぞ」

 

 とだけ言い部屋のベッドに横になる。去ろうとする一夏を見てハラハラしていた秋人達は笑顔になり目を閉じる一夏を見るのであった。

 

「姉さん...ありがとう」

 

「ふふふ、どういたしまして」

 

 簪が楯無に感謝の言葉を述べ、楯無は扇子で口元を隠しながら一夏に感謝していた、何時の間にか妹と距離が縮まってこうして会話できた事に。その礼なのか、楯無は一夏が学園にいることを委員会に報告せずにいた。

 

(さぁて、これから楽しくなってきたわねぇ...!!)

 

 まるで楽しみができたかのように笑顔で部屋から離れる楯無。そして残った箒達も、いつまでいるかわからないが、一夏と話せる事に嬉しく思っていると携帯の着信が鳴る。

 

「あ、ごめん僕だ...弾から?」

 

 学園際から一切連絡がこなかった親友に疑問を抱きながら秋人が電話に出る。

 

「秋人か!? 」

 

「弾、今までどうしてたんだよ? 怪我したって、蘭から聞いたんだけど...」

 

「その話はいい!! 一夏の連絡先は知らないか!?」

 

「え? に、兄さん?」

 

 すぐ傍に本人がいるのだが、果たして変わっていいものか? 秋人が考えていると、彼の携帯を一夏が取り上げる。

 

「に、兄さん!?」

 

「弾? どうした?」

 

 自分が世間で追われているのにも関わらず、普通に会話する一夏を見て周りは心配するが、電話相手である弾が一夏が出た事に驚いた様子だった。

 

「一夏!? そこにいたのか?」 

 

「あぁ、また学園が襲われたから飛んで来た。んで、どうしたんだよ?」

 

「実は...お前と話がしたくなってな...」

 

 つまりは電話で言えない。誰がか盗聴している可能性があると一夏は気づき、二人はとある場所で落ち合おうのを決めやがて、夜になり月が登る。

 

 IS学園から離れた、近くの公園で茂みに隠れ辺りを警戒する一夏。やがて、公園に誰かが入り、それが弾だと気づいて茂みから出て姿を現す。

 

「...一夏」

 

「よう、弾」

 

 二人は軽く会話をしてから公園の奥に進み人気のない所に来てベンチに座る。弾は真剣な表情をし、視線をそらし話を始める。

 

「一夏...その、来てくれて、ありがとな?」

 

「何言ってんだよ、来るに決まってんだろうが」

 

 弾は自分が革命軍の兵であるにも関わらず一夏が自分を信じてくれた事に嬉しく思い笑みを浮かべる。そして、お互いの緊張が解けた所で夕方の電話の話を続ける。

 

「実はさ、革命軍と亡国機構が手を組んでまた攻撃を仕掛けるってメールが来たんだ...」

 

「攻撃? 学園でか?」

 

「いや、今度は一ヶ月後にIS学園のイベントで行われるキャノンボール・ファストって奴だ」

 

 キャノンボール・ファスト。 

 

 ISの高速のバトルレースであり、普通のレースと違い他の選手に攻撃をし妨害するのが許された物だった。

 

「レースねぇ...」

 

 妨害ありのレースと聞き、海賊どうしのなんでもありのレースを思い出すが、話の方に意識を切り替え集中する。

 

「どのぐらいの勢力で攻めるのかまでは分から無いが、その中の一つにイギリスから強奪した新型がいるそうだ」

 

「強奪って...まさか、福音を奪ったやつがくるのか?」

 

 これまでに二度戦った女性の事を思いだしため息をつく。福音に乗って戦った事で彼女がただで引き下がる性格だとは思わず、できれば二度と戦いたくないとも思っていた。

 

「いや、その機体を奪ったのは副官のエレンのはずだ。その新型はファントム・タスクの連中のだ」

 

「そうか...それにしても。いいのか? そんな事俺に言って?」

 

「さぁな...けど、なんだろ…これをお前に話さないといけない気がしてな…」

 

 言葉では表せきれない衝動にどう説明したらいいのか悩む弾に、一夏はただありがとうと感謝を述べ、いつの間にか二人の間にはわだかまりはなく、二人は笑顔で会話をしていた。

 

 一夏は、異世界で海賊になり世界一周をしたこと。そして、その後、束と共に行動し黒騎士が自分に反応し操縦できた事を話す。

 

 弾は、革命軍に入り訓練や強化実験をしてこれまでの罪を話す。

 

「でもよ、まさかお前も覇気が使えるなんて。とんでもない実験だな?」

 

「? はき?」

 

 弾の様子に一夏は腕を出し硬化させる。一夏の黒く染まった腕を見て弾が驚いていると一夏から説明が入る。

 

「覇気ってのは全ての人間に潜在する力の事で。おまえの力は「武装色」の覇気と言い、鍛えればISの装甲だって砕く事ができる」

 

「武装...色? 」

 

「そうだ。他には気配を感じる見聞色があって。これがあれば敵の位置や数を察知するだけでなく、相手の動きまで読めるようになる。どうやら、お前は俺と同じ武装色のほうが得意みたいだな」

 

 

 武装色 見聞色 革命軍の間では弾のような強化された者の持つ力は今だ解析ができておらず、一夏から聞かされた覇気の力を自分が使っていた事に驚く弾。

 

 だが一夏は、あと一つ存在する覇気を話さないまま説明を続ける。

 

「覇気は引き出すのに時間はかかるもんだが...革命軍の奴らどうやって短時間でお前に力を与えたんだ?」

 

「さあ...俺は実行部隊だから。それに、研究している側はどうにも機密保持だって言って詳しく話さない」

 

 弾は何度も、自分の力はどうやって得られたのか? 疑問に思い上に話したが、機密が外部に漏れるのは避けたいの一点張りで誰も教えてくれなかった。

 

 一夏が言ったように覇気の習得には時間がかかる物で、二年の修行で六式の一部をとある人物達に教えてもらう中で覇気に目覚め、新世界で様々な強敵達と戦う中で覇気を磨いて行った。 

 

(もしかして、俺みたいに世界の移動をした奴が革命軍にいるのか? そいつが、覇気を知っていてこの方法を思いついたのか?)

 

 もし、本当に世界を行き来している人間がいるなら。その人物はあっちの世界でどこに所属していたのか?

 

 名のある海賊か

 

 もしくは、実力と地位を持った海兵か

 

 あるいは、革命家なのか

 

(とにかく、連中を指揮してる奴に合わないとな...)

 

「お、おい? 一夏?」

 

 考え事に夢中になり、自分を心配している声に気づき顔を上げなんでもない とだけ答え満月の空を見上げると一夏は眉をひそめ何かの気配を感じた。

 

(...一人か、俺らを見てるな...) 

 

 自分達を見ている気配は様子を見ているのか、全く動かない。一方で弾の方は未だに何も気づいた様子もなく自分に話しかけるだけだった。

 

「? どうした?」

  

「ん? いや別に...っと。すまんな、内緒で抜け出してるからそろそろ俺寮に戻るな」

 

「お...おう」

 

 長くなるとうるさい奴がいるから と言い話を急に切り替えその場から立ち去ろうとするが弾が呼び止める。

 

「そ、その...暇があるときでいいんだ。学園にいる虚って人元気にしてるか、見てきてくれないか?」 

 

「? あぁ、わかった」

 

 その言葉を最後に一夏は公園から離れ、後に残った弾が顔を赤くし夜空に浮かぶ満月を見上げるのだった。

 

 

「...そろそろ出てきたらどうだ?」   

 

 公園から離れた建物と建物の間の細道で一夏が後ろを振り向くと、外灯の灯に照らされ顔を隠した一人の少女が姿を現した。

 

「何が目的だ? さっきから俺だけに殺気を向けやがって」

 

 殺気をまとう少女に問いただすが、少女は静かに銃口を一夏に向け引き金を引く。乾いた銃声と共に弾丸が一夏に向うが体を僅かにそらし弾を回避し弾丸はあさっての方向に飛んで行く。

 

「どういうつもりだ? いきなり撃ってくるなんて切られても文句言えんぞ?」

 

「答えろ...貴様は、本当に織斑一夏なのか?」

 

「だったらなんだよ? っ!!」

 

 再び銃の引き金が引かれ、一夏は光剣を取り出し迫る弾丸を全て切り裂く。銃の残弾がなくなった所で少女は銃を捨て濃い青色をしたISを装着し一夏に向けライフルを向け叫ぶ。

 

「黒騎士っ!!」

 

「くそっ!! 月歩!!」

 

 銃剣から放たれたレーザーを飛んで回避し空中に逃げる。だが、青いISが一夏の目の前まで迫り手にしているナイフで刺そうとし、一夏は剣で防ぐのが間に合わないと判断して左手を武装色で硬化させ腕でナイフを防ぎ金属同士がぶつかる音が響く。

 

 キィン!!

 

「何!?」

 

 まさか生身でISのナイフを受け止められるとは思わず少女から驚きの声が上がる。その隙を狙い、光剣で顔を隠しているバイザーを切りつけると少女の素顔が現れその顔立ちは千冬に似ていた。

 

「な!? 千冬姉!?」

 

 少女の素顔が千冬に似ている事に驚き、一夏の声がカンに触ったのか今度はビットを出現させいくつものレーザーが襲いかかる。

 

 いつまでも月歩で回避し続けるのが難しくなって一夏はついに黒騎士を呼び少女から離れる。

 

「そうだ、そのISで私と戦え!!」

 

 千冬似の少女は、まるで一夏が黒騎士を使うのを待っていたように叫びビット攻撃を再び仕掛ける。何故、この少女は千冬姉に似ているのか? どうして、自分をここまで狙うのだろか?

 

(って、考える暇はねぇか!!)

 

 これ以上周りに被害を出さないよう戦闘を早く終わらせるため黒刀を抜き斬撃を放とうとするが、少女は一夏の行動を見てさらにビットを増やし、黒刀を使う暇を与えないように攻撃してくる。

 

「えぇい!! クソ!! だったら...」

 

 回りを高速で飛び交うビットを見て新たな装備を出現させた。それは、周りを跳ぶビットより少し大きく、何故か蛇を思わせる目や牙らしき物がつけられており、そしてこの装備の名は

 

 「いけ!! スネークビット!!」

 

 二つの蛇がまるで獲物を喰らうがごとく動き出す。蛇を模したビットの牙が、敵のビットを噛み砕き、また口から特殊な電磁波を流しビットを無力化させ次々と落としてていく。

 

「なっ!? BT兵器だと!?」

 

 これまでの黒騎士は剣しか使っておらずここにきてBT兵器を巧みに操る一夏に少女は唇を噛み締め何かを呟く。

 

「ありえない...私が、あんなのに負けるなど!!」

 

 何かを否定するように首を振り、引き金に指をかけ後ろを向けている一夏に向けレーザーを放つが、後ろを向いたまま肉球のような手だけを動かしレーザーを弾き彼方の空に飛んで行った。

 

 そして、少女を無力化するため黒騎士が黒刀を振ろうした時、どこからか炎が飛び黒騎士を包みこむ。

 

「M、何を勝手な事をしているのかしら?」

 

「くっ!! スコール」

  

 金色のISに乗った女性。スコールは千冬似の少女、Mに問いただす。この戦いは、彼女達が所属するファントム・タスクの指令とは関係なく、これはMの独断による物だった。

 

「それにしても、まさか黒騎士が出るなんて...まぁ、いいわ。あの機体を持ち帰ることにしましょう...!?」

   

 ザンッ!! 

 

 黒騎士を囲んでいた炎が切り裂かれ、中から無傷の黒騎士の姿が現れる。「いきなり燃やしやがって...」とぼやきながら、一夏は黒刀を構え、ビットを近くに呼び寄せMとスコールを睨む。

 

「驚いたわ、さすが噂どうりと言うことかしら? 黒騎士...いや、織斑一夏」

 

「って、やっぱりバレてたか...」

 

 学園際の楯無との戦闘中に、顔を表してしまいその映像は既にニュースに流れてしまっていたので黒騎士の操縦者の正体は既にバレていたのも当然だった。

 

 名と顔を知られたせいで、以前のようにブラックホールの調査がしにくくなっている事にため息をついていると、騒ぎを聞きつけた軍のISが接近しているのに気づく。

 

「M、ここは撤退するわよ」

 

 スコールの命令を聞かず動かないまま、Mは一夏を見つめ口を開く。

 

「私は...織斑、マドカ...次は必ず、貴様を殺す」

 

 短くそう告げて二体のISはその場から撤退し、後に残った一夏は去って行くマドカと名乗った少女の後ろ姿を呆然と見ていた。

 

「マドカ...? それに織斑って...」

 

 軍のISがすぐそこまで来ており、面倒を避けるためスピードを出しその場から逃げる。そして、学園の近くで黒騎士を解除し剃と月歩を使い寮に戻るのであった。 

 

 

 



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番外編 1 一日教師の一夏

 麦わらの一味の一人「一夏」が出て一年が経ちその間感想やご指摘などをいただき本当にありがとうございます!!

 この作品はまだしばらく続く予定ですので何卒よろしくお願いしたします。

 (後、五月投稿できなくてすみませんでした。話の修正やらリアルでの事で忙しくこれからも投稿は未定です。本当にすみません)

 
 それと今回の話は、もし一夏が学園の教師になったら? の話です。
 ちなみに夢オチです。


「と、言う訳で一夏君には一日教師をしてもらいます!!」

 

 学園寮で秋人の部屋で寝ていた一夏は、突然楯無に起こされ不機嫌になる。

 

「...おい、さっさと部屋を出て行くかそれとも俺にたたき出されるかどっちか選べ」

 

「いやん、そんな事言わないで?」

 

 可愛く言って怒りをなだめようとするが、一夏から闘気を感じ楯無は額に汗を流しながらさっさと要件を言う事にした。

 

「じ、実はね? 最近の騒ぎの処理とかで先生達がいないのよ。それで、このままだと授業ができないって事で一夏君に白羽の矢が立ったわけよ」

 

「なぁ、何も俺じゃなくても...」

 

「大丈夫よ♪ 参加する人は絞ってるしそれに一夏君の事は黙っているように誓約書を書いてもらったし大丈夫よ」

 

 実はその誓約書と言うのは「最強のIS。黒騎士の操縦者が行う授業」と大きく書かれた物で。契約書の細かい部分には参加者はデータ等の記録を禁じ破れば厳しい罰があると書いてあった。

 

「ちなみに箒ちゃんや、秋人君も参加するから。お願いね」

 

「秋人もか? ...っ、仕方ない」

 

 弟や幼馴染みも参加すると聞き、これまでにいろいろ迷惑をかけてしまった事を思いだし仕方なく引き受ける一夏。だが、この一日教師の裏に隠された陰謀をまだ一夏は知る良しもなかったーー

 

 

 場所は変わり実技が行われるグランドにて、ISスーツを着た秋人ら生徒達の前に借りた学園の制服を着た一夏が立つ。

 代表候補生や箒以外の生徒達は、一夏を見て緊張する者がいれば黒騎士を使ってみたいなど小声で話す者もいた。

 

「って、授業ってどう進めればいいんだよ...?」

 

「それは、一夏君の自由で構わないわよ」

 

 補佐として隣りに立つ楯無に聞くが自由にしていいと言われてしまう。そこで、楯無が生徒達に質問があれば聞いて良いと言い出し、次次と手が上がり質問がくる。

 

「先生!! 黒い剣見せてください!!」

 

「私も、剣触ってみたいです!!」

 

「織斑君、操縦教えて!!」

 

「彼女いますか?」

 

「黒騎士貸してください!!」

 

 

 と、明らかに授業とは関係ない質問がきて、特に彼女の質問に対して二人の候補生は殺気を放ち一夏を睨む。

 

 とにかくこのままでは収集はつかない。とりあえず、質問には適当に答え、黒騎士と黒刀は使わせないのと、彼女はいない事を告げる(それを聞き、鈴と簪の殺気は止んだ)

 

「そんじゃ、まずは軽く練習試合でもするか?」

 

 今目の前にいる生徒達は一年生だけで、未だにISに慣れていない者もいることから軽く戦ってもらおうと判断し、その授業は一夏と楯無の指導が入っての模擬戦となる

 

 銃の扱いとかは楯無が補助し、剣や接近では一夏がアドバイス等を送る。

 時折、一夏と戦いたいと申し出があり仕方なく戦うが結果は火を見るよりも明らかだった。

 

「せ、先生...」

 

「ひ、ひどい...私、一歩も動いてないのに、やられた...」

 

「つ、強すぎる...」 

 

 一夏は黒刀しか使わず斬撃も放って無かったが、それでも生徒達とは力の差がありすぎて圧勝してしまう。ちなみに、その戦いの後秋人ら専用機持ちも一夏と戦いたいと言い出すが、それでは他の生徒達の授業にならないと楯無から却下される。

 

「はぁい、文句言わないの。一夏先生は指導で忙しんだから」

 

 そう言いつつ、彼女は一夏の腕にしがみつきわざと自分の胸を押し当てる。柔らかい感触が伝わり顔を赤くする一夏だが、すぐにまた鈴と簪から殺気が放たれ急いでその場から離れ他の生徒達の指導を再開した。

 

「って、あんた離れろよ」

 

「えぇ? この状態でも指導はできるでしょ?」

 

 とにかく腕から離れろと言い、引き剥がそうとするが楯無はしつこく離れない。傍から見ればじゃれているカップルのように見え、二人に羨望や殺意等の視線が集まる。

 

「ねぇ、あの二人...殺っていいよね?」

 

「うん、そうね...」

 

 目から生気をなくしている鈴と、ISの薙刀を構える簪。これはまずい と思い秋人が止めに入ろうとするが、彼女達の威圧に押し負けすぐに引き下がる。このままでは、兄が殺されてしまう。と思い誰か止めれる人間はいないか探していると

 

「ほぉう? 授業が全く進んでいないようだが貴様ら?」

 

 いつの間にか一夏と楯無の背後には威圧を放つ千冬が立っており、二人が背後を見ようとした瞬間。出席簿が二人の頭に直撃しパァン!! と大きな音がグランドに響くのであった。

 

「「痛いっ!!」」

 

 「この馬鹿者共が!! 授業の様子を見に来れば、何を関係ないことを。そんなに騒ぎたいなら、私と一緒に試合でもするか?」

 

「!! い、いえけ、結構です!! 間に合ってますから!!」

 

「って、なんで俺もだよ?」

 

「問答無用だ!! 行くぞ!! 織斑!! 更識!!」

 

 ISのブレードをどこから持ち出し二人に接近する千冬。楯無はすぐさま思考を走らせ目の前にいる鬼神から逃れる術を思いつき行動に出る。

 

「で、では!! これから織斑先生対一夏先生の試合となりますので、皆さんしっかり見学しましょ!! 」

 

「って!? おい!?」

 

 一夏を前に押し出し全速力で逃げる楯無。そして、ブレードを振り上げる千冬に一夏は黒刀で防ぐ。

 

「ほおぅ、それが噂の黒刀か? 相手にとって不足はないな」

 

「ちょとまて!! 千冬姉ねぇ!! あんた、まだ怪我治ってないだろうが!?」

 

「こんな倒しがいのある相手を逃すか!!」

 

 この間再開したばかりの姉が何時の間にか戦闘狂になってた事に軽くショックを受け、しかもその姿が一味の中にいた最強の剣士と少しかぶりすぐにでも逃げたい気分になった。

 

「てぁ!!」

 

「うおぉ!!」

 

 ブレードと黒刀が何度も激しくぶつかり、二人の戦いに誰もが見とれていた。世界最強の乙女である千冬と、片やその弟で無敗のIS。黒騎士を使う一夏との戦い。

 

 

「うわぁ...逃げてよかった...」

 

 二人の激しい戦いを見て楯無がつぶやき内心ヒヤヒヤする中、何度目になるか白と黒の刃が混じり火花が飛び散る。 

 いつしか一夏は逃げる選択肢を捨て、本当に千冬と戦い。いつの間にか二人の表情はゆるくなり純粋に戦いを楽しんでいる様子だった。

 

「あ、秋人...何とかあの二人を止めれないか?」

 

「箒...僕に切られてこいって言ってるの? それ?」

 

 もはや剣士の戦いを誰も止める気がなく、その戦いは授業終了のチャイムがなるまで続いたのだった。

 ちなみに、その戦いを見ていたとある生徒達の感想は

 

「あんな嬉しそうな教官を見るのは初めてだった...」

 

「あれは人間同士の戦いじゃないよ」

 

「あ、あれが秋人さんのお兄様の力...」

 

「一夏...あんた、人間やめたの?」

 

「す、すごい...まるでアニメのヒーローみたいだった...」

 

 と感想を述べ、さらに補佐をしていたとある女生徒は

 

「良かった、ちゃんと逃げれて」

 

 と、身の危険を感じたそうだった。

 

 それと戦いが終わった後、一夏は様々な授業に参加するのであった。

 

 家庭科の料理の授業では、見たことのない料理を作り生徒達には絶賛され

 

 音楽の授業では、何故か参加した者のテンションが上がり演奏会になり

 

 さらに、もう一度行われたISの授業では剣を教えてほしいと懇願されたり

 (その際、交際して欲しい等言われるが断っている。それでもしつこい場合は楯無が会長権限でその生徒を追い出していた)

 

 とにかく忙しいまま時間が過ぎ、そろそろ一日教師が終わろうとした頃。

 

「って、なんでまたISの授業しないといけないんだよ?」

 

 楯無より、最後の授業をすると言われ一人アリーナの中央に立っていた。一夏はため息をつき目を閉じて今日の授業の事を思だす。

 

(今日は忙しかった...秋人の奴いつもどんな風に学校で過ごしてたんだろうな...)

 

 誘拐されたあの時。もしも、あの世界に行ってなかったら自分も秋人のような毎日を過ごしていたのだろうか? 海軍や、同じ海賊に命を狙われる事なく穏やかで平和な毎日を、もしかしたら普通の生活があったのではないか? と考えてしまう。

 

(だけど、あの海で俺はあの人と出会って多くの冒険をして仲間と出会って来たんだ。悔いなんてあるものか)

 

 もし麦わら帽子を被った彼に出会わなかったら、今の自分はおらずそのまま姉と弟の板挟みで苦しむだけだったかもしれない。 

 

 だが、海賊になり自分は変わることができたのだ。自分の置かれた環境に苦しんでいた少年が様々な強敵や困難を仲間と共に戦い、いつしか一人の男になる事ができたのだから。  

 

(何考えてんだろうな俺? ここに居すぎたか?)

 

 この一日教師が終わったら、束の所に戻り再び姿を隠そう。そう決めた時、楯無から通信が入る。

 

「一夏君。待たせてごめんなさいね? 皆の準備に時間がかかって...」

 

 準備とは何の事か聞こうとするが、楯無は一夏の声を無視して話を続ける。

 

 

「ねぇ、一夏君? 相談なんだけど...このままIS学園にいてみない?」

 

「はぁ?」

 

「いや、教師って事だけでなく。もちろん入学って方もあるんだけど...今日の参加した子達の様子を見て、あなたは皆に頼りにされてるって思ったの」

 

「なんでそうなるんだよ? それに、俺は海賊だし自由にやるだけだ、勝手に決めるな」

 

「で、でも!! これからの戦いは貴方一人だけでは無理よ!! 一緒にいれば、安全だし、それに秋人君達だって...」

 

「断る」

 

 今にも泣きそうな声で話す彼女にきっぱりと断る一夏。内心では感謝しているのだが、これ以上秋人達に面倒をかけさせたくないのと自分の身をこうまでして心配してくれた楯無の事を思い断るのだった。

 

(すまないな、ならず者の俺がこんな所にいたら迷惑だろうに...)

 

 と、申し訳ない気持で一杯だったのだが

 

「ふぅ~~作戦失敗かぁ、仕方ない。作戦B発動!! 皆出て来て!!」

 

 と、突如明るい声になった楯無の合図と共に無数のISが出現しアリーナを囲んでしまった。そして、ISを装着し集団を指揮していると思われる楯無が一夏を見下ろし。

 

「あぁ~~もしかしたら作戦Aで成功すると思っただんだけどな...仕方ない!! 作戦B 一夏君を捕まえろ作戦開始!!」

 

「お、おい!! ちょ、まて!!」

 

 一夏の静止の声を聞かず、次つぎと訓練機のISや専用機が近づいてきた。前に来たISを避け、その後に着た二体の打鉄を光剣で切り、操縦者を傷つけないように動きを止める。

 

「ごめんね一夏君? そのまま貴方を返したら、いろいろ不都合なのよね~~主に授業とか、食事とか食事とか」

 

「なんでそこで二回も言うんだよ!?」

 

「いいから!! 細かい事は気にしない!! 大人しく捕まりなさい!!」

 

 実はこの一日教師の狙いは、どうやって一夏を学園にとどめる事ができるのかであり、幾多の会議の結果「彼に学園を楽しんでもらい、そのままいてもらおう」と言う事で楽しんでもらった後、もしも楯無の説得(演技)がだめだった場合。最終手段として力ずくで学園にいてもらうことが作戦Bだった。

 

「一夏!! 大人しくしなさい!!」

 

「貴方はここにいるべき!!」

 

 

 と、ここに来て共闘し始めた鈴と簪が武器を振り回し。余り乗る気ではない秋人も背後に回る。ISによる一体多数の戦いが始まり一夏は

 

「ふざけんなぁ!!!!!」

 

 キレて、次次と装備をフルに使い落として行く。

 

 攻撃を肉球を模したアームで防ぎ弾き返し

 

 見えづらい糸で動きを封じ

 

 蛇を模したBT兵器で相手の武器を破壊して無力化させ

 

 黒刀の斬撃で次々と落とし

 

 

「おらぁ!! 今度はおまえだ!!」

 

 

 黒刀を大きく振りかぶり、斬撃を放とうとしたところで....一夏の目が覚める。

 

「んぅ!?」

 

 ベッドから慌てて起き上がり部屋を見渡し、そこでさっきまでのことが夢だった事に気づいた一夏は

 

 「なんだ...夢かよ...」と大きなため息をつき、そこで手が何か暖かい物に触れ一夏が見ると。

 

「んぅ...なぁに? 大きな声だして...」

 

 と、のんきにあくびをし上半身だけパジャマで下は穿いていない楯無が起きてそこで彼女は気づく、一夏が殺気を込めた目で自分を見ていることを。

 

「...え、えっと...へ、部屋を間違えちゃって、その...てへ」

 

 可愛く舌を出しごまかそうとするが、一夏は額に青筋を立てたまま

 

「...おい、さっさと部屋を出るかそれとも俺にたたき出されれるかどっちか選べ」

 

 夢の中で言った事と同じ事を言い、さすがにヤバイと感じ楯無はすっ飛んで部屋を出て行くのだった。

 

「...たく」

 

 部屋に鍵をかけ、一夏は再びベッドに横になり眠り入る。そして、床に落ちている楯無が脱いだ寝巻きのズボンと共に「入学手続き」と書かれた書類が落ている事に一夏は気づかないまま、再び夢へ入る。

 

「...ルフィ...みんな...」

 

 そして今度は、かつての仲間達の夢を見るのであったーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみに

 

 「? お姉ちゃん、どうしたの? なんで下穿いてないの?」

 

 この日の朝、学園の生徒会長が何故か寝巻きの下を脱いだまま妹の部屋に駆け込みその妹のベットに入り身を震わせていた。

 

 「ご、ごめんなさい...もう、しません...」

 

 と、誰かに向け謝罪を繰り返すばかりで彼女の妹とその従者の女生徒は首をかしげるのだったーー

 

 

 

  

 

  

 

 



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三十一話 大会に向けて

 「キャノンボール・ファスト?」

 

 朝の食堂にて箒達と会話していた秋人が首をかしげそれをセシリアやシャル達候補生がISを使ったレースだと簡単に説明する。

 

「本当だったら、学園際が終わってすぐに開催のはずだったんだけどね...」

 

「? あ、なるほど...」

 

「ま、まぁ確かにな...」

 

 シャルの言葉を察した秋人と箒が眉をひそめる。先日行われた学園際で潜入していた一夏と学園最強である楯無との戦い。これにより起きた学園の被害が大きく復興に時間がかかったのと、学園のシステムが乗っとられた騒ぎで教師である千冬の負傷などいろいろあったために行事が大分変更になりその調整に教師達やとある生徒会長が多忙で汗と涙を流している事に生徒達は知る良しもなかった。

 

「あぁ、そういえば忙しくて気がつかなかったけど...僕と兄さんの誕生日過ぎてたな...」

 

「「「なっ!? なんですって!? / そ、それは本当なのか!?/ そ、そうだったの!?」

 

 セシリア・ラウラ・シャルが一斉に秋人に顔を近づけ真剣に見つめる。

 

「う、うん、そうだけど...僕も最近いろいろあったからすっかり忘れててさ...」

 

 

 秋人の何気ない小さくつぶやきが周りにいた少女達の雰囲気を変え騒がしくなる中、何時の間にか話が誕生日会をしようと流れになり、日にちは大会が終わったにやることになった。

 

「じゃ、場所は知り合いに頼んでみるから...後は鈴と兄さんもだね」

 

「? そういえば鈴はどこに?」

 

 箒の一言でいつまで経っても鈴が来ない事に気づく。一方、鈴はーー

 

 

「へぇ...シャボン玉が浮かんでいる島ねぇ...」 

 

 秋人の部屋にてベッドに座る一夏と、鈴。そしてイスには何故か座り簪もいて黙って一夏の話を聞いている。

 

 朝早くに一夏の所になんとなく足を運んだ鈴だが、部屋の前で偶然簪と鉢合わせし仕方なく二人で一夏を訪ねた。だが何を話せばいいのか迷っていると簪から海賊をしていた時の話が聞きたいと言われ一夏の冒険の話にいつしか二人は夢中になっていた。

   

 最初は、倒れてた町の港で船長と会い、町で介抱された後処刑寸前だった剣士を一緒に助けてから無理やり海賊に入れられた事から話は始まる。

 

 東の海での事や赤い壁を乗り越えた先の海で砂の大国を救い。空に浮かぶ島や仲間を取り返すために世界政府所有の島を落とした後、魔の海域を抜けグランドライン後半への玄関口に辿りついたところまで話が続く。

 

 

「...あの頃は六式なんて使え無かったし俺弱かったからな...」

 

「六式? 確か、さっき話にあった体術の事?」

 

「そうだ、簪は見たことあるよな? 初めて会った時に空飛んだの覚えてるか?」 

 

 そう言われ簪は初めて一夏に出会った時、幼馴染みの本音と共に腕に捕まり、宙に浮いた事を思い出し顔を赤くする。

 

 六式とは、体を極限まで鍛え人体を武器に匹敵させる体術の事で、その名の通りに

 

 鉄塊・指銃・剃・嵐脚・月歩・紙絵 と六種類あり

 

 この中で一夏は、地面を十回以上蹴り瞬発的に移動する「剃」。強力な脚力で空を蹴り移動する「月歩」。そして、この世界ではまだ一度も使っていないが蹴りでかまいたちを起こす「嵐脚」の三つが使えた。

 

「まさか、飛ばされた先であいつらに教えてもらうとはな...」

 

 一夏はそうつぶやき、ある一団の事を思い浮かべる。とある七武海の一人にはるか彼方の島に飛ばされた先。そこで肩に鳩を乗せた男と超人達の事を。

 

 コンコン

 

「ん?」

 

「おはよう~~一夏君、かんちゃんいる?」

 

 目を細め見るからに眠そうな楯無が部屋に入り、無断で空いているベッドに横になり手にしていた書類を床に落とし一夏が拾い上げる。

 

「キャノンボール・ファスト?」

 

 秋人と同じように首をかしげる一夏。鈴と簪も気になり一夏の両隣に移動し、一夏の持つ書類に目を通す。内容は、大会の開催日や会場の簡単な図。さらに進行の手順や選手の名前も書かれており、一年の専用機持ちのみのレースにはもちろん秋人や箒そして、ここにいる鈴と簪の名前もあった。

 

「で? これをわざと俺に見せて何がしたんだよ?」

 

「ぐぅ~~」

 

 明らかに寝たふりをする楯無に一夏は右手に覇気をまとう。何かただならぬ雰囲気を感じた楯無は慌てて起き上がり自白し始める。

 

 大会中にまたファントム・タスクや革命軍が攻めて来た時のために一夏の力が必要との事で、もちろん答えは

 

「いやだ」

 

 即答で断った。だが、両サイドにいる簪と鈴が悲しい表情になり一夏を見つめる。

 

「一夏...」

 

「また、どこかにいっちゃうの?」

 

「一夏君...」

 

 三人の少女が迫り後ろに下がるが背に壁がついてしまう。六つの眼差しに見つめられ一夏は強く否定できず

 

「...ぁあ、分かった!! 分かったから、そんな目で見るな!!」

 

 結局流されてしまい、悲しい表情をしていた少女達が笑顔になるのだったーー

 

 

 

「てぁ!!」

 

「はぁぁ!!」

 

 その日の昼。貸切となったアリーナにて二体のISが試合を行っていた。一人は白式を纏う秋人でもう一人は打鉄弐式を操る簪だ。

 

 二体のISは空中に飛び白式の荷電粒子砲「雪羅(せつら)」と弐式の背中にある春雷(しゅんらい)から粒子砲が放たれるが、どちらの弾もあたらない。 

管理室にいる楯無と隣りに座り黙って見ている一夏。

 

(あの動き...二人は見聞色の方が向いてるようだな)

 

 まるで相手の動きが分かっているかのように避ける二人。既に開始十分以上経っているがどちらの機体もかすりもしていない。

 

「すごい...ラウラの時もそうだったけど。秋人の動きってまるで相手の動きが分かってるみたいだよ...」

 

 空いた観客席に座るシャルがつぶやき、隣りにいるラウラも頷いた。

 

「あぁ、初めて戦った時何故か私の攻撃は全て躱された...あの力は一体...」

 

「秋人さんと言い、簪さんのあの動き。何か、特殊な訓練でもされたのでしょうか?」

 

 

 観客の空いた席にて感想を言い合う中、箒が黙って秋人を心配そうに見つめる。そして、ただ一人何かを考えている鈴だけが管制室にいる一夏を見ていた。

 

 (一夏...あんた、何を考えているの? )

 

 実はこの試合を提案したのは一夏だった。大会中の護衛は引き受けたが、もしもの為にと訓練をすると言い出し最初に選んだのが秋人と簪だった。

 

 何故この二人が? と一夏に聞いたがはぐらかされてしまう。しかし一夏が「もしかしらた覇気が...」とつぶやいたのが聞こえていた。

 

 やはり一夏は何かをまだ隠している。だが、どうやって聞き出せばいいのか考えていると爆発が起き、気づけばエネルギーを大分消費し地上に降りている秋人と簪がいた。

 

 秋人は呼吸を整えながら雪平を両手で持ち、簪も接近武器である薙刀を構える。このま

ま遠距離で戦っていてもエネルギーの無駄と分かり二人は接近戦に変え二つ刃がぶつかる。

  

(さっきまでの動きといい、やっぱり更識さんも僕と同じ物を?)

 

 ラウラとの戦闘で覚醒した未知の物を目の前にいる少女も持っている事に気づく秋人。そして、同時に簪も同じ思いを持っていたが二人は武器を下ろす気配がない。

 何故か二人はこの戦いを何時の間にか負けたくない思いが生まれ、互に全力で戦っていた。

  

(このままじゃ先にこっちのエネルギーが持たない...なら!!)

 

 打鉄弐式のミサイルポッドから最後のミサイルが発射され白式に向かう。ロックオンシステムにより追尾性を持つミサイルが迫ってくるが秋人は逃げる事なくミサイルを切り捨て爆発が起こる。 

  

 

「なっ!?」

 

 秋人の予想外の行動に動揺し、煙に包まれた中センサーを使い白式を追う。そして、煙の中に光る剣が見え簪が薙刀を振るうが、そこには雪平しかなかった。

 

「!? どこに!!」

 

 簪が驚いていると背後から白式が現れる。背後の気配を感じ彼女が振り向こうとした瞬間雪羅の荷電砲が発射し二式のエネルギーを0にした。

 

「「試合終了 勝者 織斑秋人!!」」

    

 試合終了の合図が鳴り秋人は白式を解除し座りこんでいる簪に近づき手を伸ばして

「良い試合でした」と声をかけた。

 一瞬手をとるのをためらう簪だが、すぐに秋人の手をつかみ立ちあがる。

 

「ありがとう、その...敬語はもういいから」

 

「そ、そう?」

 

 かつて専用機の開発を後回しにされた事で秋人に怒りを持っていた簪だが、この戦いで少しは解消し笑みを浮かべていた。

 

「はーい、二人ともお疲れさま。いろいろ話したい事はあるみたいだけど、まずはそこからどこうか?」

 

 スピーカーから楯無の声が聞こえ、気がつけば観客席に座るシャル・ラウラ・セシリア・箒が殺気を込めた目で睨んでおり急いで控え室に走り簪もその後を追うのであった。

 

 

「で、君は何がしたかったのかな? あの二人を戦わせて、そろそろお姉さんに教えてくれていいんじゃないかな?」   

 

 管制室でマイクの電源を切り目を細め一夏に問い詰める。これは流石に言わないといけないと判断し、秋人と簪が持つ力「見聞色の覇気」について話を始める。

  

「あらゆる動きや気配を察知する力...」

 

「恐らく、例のブラックホールから出る粒子を浴びたからだろうがな。本当なら習得するのに何年もかかるの物なんだが...」

  

 

「ブラックホール...ねぇ、一夏君。これ、見てくれるかな?」

 

 突如空間にディスプレイが出現し、ブラックホールの画像がいくつも写し出された。

 

「そのブラックホール…表向きには内緒にされているんだけど、実はあらゆる国でも同様な事が起きていて調査中なんだ。けど、その粒子にそんな力があるってまでは解明されていないわ...もし、人を強くするのが分かってしまったら...」

 

「間違いなく悪用されるな、しかもISを嫌っている連中からしたらかなり便利なもんだ。どんな奴でも強くなれるからな」

 

 

「そうね...」

 

 二人は頷き、控え室で待っているだろう秋人達に会うために部屋を出て行く。

 

 

 そして、その日の夜。

 

 

 IS学園から離れたとある町にて。

 

 薄汚いスーツ姿の男が人気のない道を歩き何かをつぶやいていた。

 

「女...くそ女ども...」

 

 呪詛のようにつぶやき、殺気を放ちながら歩いていると派手な格好をした女性に呼び止められ荷物を持つように命じられる。男は首を軽く横に振り拒絶の意思を現すと近くにいた警察を呼ぶ。

 

「この男を逮捕してください。私に乱暴をしました」

 

 理不尽な事を言い悪意がこもった笑を浮かべる女性。そして事情を聞かず警察官が男を連行しようとし突如悲鳴が響く。

 

「女の言いなりになりやがって...」

 

「うぁぁぁぁ!! う、腕が!!」

 

 

 ありえない方向に曲がった腕の痛みに倒れる警察官を見て男が吐き捨てるようにつぶやき悲鳴をあげる女性。すると黒服を着た、恐らく女性の護衛らしき屈強な体をした男が二人が現れた。

 

「あ、あいつをどうにかしなさい!!」

 

 護衛の男達に命ずる女性。男達は命令どうりに取り押さえようと近づくが数秒後二つの悲鳴が響き、二人の護衛が血を流し倒れていた。  

 一方でスーツ姿の方の男は痩せた体型をしており特別な武術を使っているわけではないのだが、実は見えない硬い鎧を体にまとっていた。

 

(どいつもこいつも、女の言いなりになりやがって...)

 

 男はつい先日まで中小企業に勤めていたごく普通の人間だった。だが、ある日普通に道を歩いていたら見知らぬ女性に荷物を持てと命じられ、断ったら警察を呼ばれ逮捕されてしまったのだった。何を言おうが誰も聞いてくれない、家族も信じてくれず何もかもを失った、しかし今は力を手にした。この世界を腐らせた元凶共を駆逐する力を。

 

「や、やめて!! お願い!! お金なら上げるから!!」

 

 

 怯えている女性の声を無視し髪を引っ張り無理やり立たせる。

 

「こ、ころさないで!! 助けて!!」

 

「...お前みたいのがいるから...」

 

 拳を振り上げ容赦なく女性の顔面を殴り顔の骨が折れる。

 

 ベキッ!!

 

「ぎゃぁぁぁぁ!!!!」

 

 骨の折れた音がしそれでも男は殴るのをやめない。心の中でこれまで失った物を数え殴り続ける。

 

 家族と友人との信頼。 

 社会における地位

 そして、男としての尊厳や止まる事のない憎しみ。

 

「が、ぎゃ...」

 

 殴り続けて顔が潰れた女が気絶しているのを見て道端に投げ捨て男は止めを刺さずその場から立ち去る。命を奪わなかったのは男の慈悲ではなく、人前で出れない顔で一生苦しめと酷い仕打ちであった。

 

「まだだ、まだこれだけじゃ社会は変わらない...もっと、もっと力を...」

 

 再びつぶやきながら道を歩き立ち去り翌日の新聞やニュースに出ていたが実は同様の事件があちこちで起こっていた。

 

 被害者は主に男性をアゴで使っていた女性がほとんどであり、犯人が特定でき逮捕しようとしても返り討ちにあって死亡者も出ていた。ついには軍隊も出現し怪力で次次と兵を殺す犯人をやもなく射殺する事態も起こっていた。

 

 そして、犯行をしていた者達の背には不思議な焼印がーー竜の蹄の紋章があり謎は一層深まるばかりだった。

 

 

 

 

 

 



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三十二話 キャノンボール・ファスト 1

 



 IS学園から離れた競技場にて、大勢の観客やIS関連の企業の者。さらに、護衛のため軍所属のIS操縦者等が集まる中ISによるレースが本日行われ、控え室で待つ一年の専用機持ちや、別室で待機する秋人らは、短い間に一夏により行われた訓練を思い出し調子を整えるのであった。

 

(兄さん、ここにいるのかな?)

 

 辺りの気配を探り、一夏が近くにいないか確認するがいない事にため息を出す秋人。会場に入る前に楯無に一夏がどこにいるのか聞いてみたのだが「秘密」とだけ答えられ、それ以上は何も答えてはくれなかった。

 

 一方で、警備室にて監視カメラのモニターを見る楯無がいた。監視員が通信で連絡を取り合い、電話のコール等が鳴り響き、緊張した中で落ち着いた表情をする楯無。

 

(今の所は何も起こっていないわね...やっぱり秋人君や簪ちゃん達の専用機が狙い?)

 

 敵がいつ襲ってくるか、その勢力はどのくらいなのか未知数だが、彼女には何故か不思議と不安がなかった。

 その理由は、すでにこの会場には楯無が最も信頼している切り札がいるからであった。

 

 

「畜生...」

 

 会場の地下室にて機材が入った大箱から静かに出て来る一夏。

 

(何が特別な方法で入れるだ!! 人を荷物扱いしやがって!!)

 

 厳重な警備の中、指名手配を受けている一夏が安全に入る方法として楯無から提案され、会場の機材と共に大きな箱の中に入っていた。

 

 トラックで運ばれ何時間も揺られる中、一夏は途中で束にお願いしてハッキングしてもらい、偽の個人情報を作ってもらって変装して入れば良かったのでは? と気づき、何度も自分の馬鹿さ加減に呆れてため息をついてしまった。

 

(とっとと終わらせて束さんとこ戻ろう。また暴走して何しでかすか分かったもんじゃない...)

 

 先日の束の裸エプロンの事を思い出し頭を抱えた後、事前に渡されたスタッフ用の制服を着て部屋を出る。会場の地下は意外と広く一夏はマップを確認しつつ長い廊下を歩きながら、最近起こり始めた暴行事件を思いだす。

 

(最近起こった事件...なんであの紋章が?)

 

 被害者は主に男卑女尊に染まった者達で、ある者は顔面を陥没するまで殴られ、又は手足の骨を折られ自由を奪う等、とにかく酷い物ばかりだった。

 

 犯人達の共通点としては、犯行を行う何日か前まで行方不明になり突然現れたかと思えば人間離れした怪力と反射神経を持ち、どこからか入手したのか銃器等の武器を使い逮捕しようと駆けつけた警官や機動隊が次々と殺されてしまっていた。

 

 そして、不思議な事にやっとの思いで捕まえた犯人達の背には、何かの生き物の蹄らしき大きな焼印がされていた。

 

(一体何が起こってんだか...ん?)

 

 廊下を歩いていると何か人の声が聞こえ、一夏は声がした部屋のを覗く。中には何人かのスタッフがおり、皆殺気だった目で何かを話ていた。

 

「いいか、我々は組織から渡されたアレを使い警備のISや専用機を無力化する。そしてファントム・タスクが侵入次第、こちらも行動を起こす」

 

「この作戦が成功すれば世界を変える一歩となるだろう」

 

「あぁ、だがまずは...そこにいる奴を消してからだ!!」

 

 サイレンサーを付けた銃や刃物を持った男達が扉を開き一夏を囲んで、一斉に襲いかかるーー

   

 

「「まもなく、一年の専用機によるレースが行われます 」」

 

 会場の中に司会進行役である麻耶の声がし、秋人や箒達六人が姿を現す。選手達の実力や機体の性能を見逃さないため企業側の人間は注意して目を細め、軍のIS乗りもまた新型がどのくらいなのか周囲の警戒をしつつ秋人達に目を配る。

 

 やがて六人は所定の位置につき、レース開始のカウントが開始される。

 

 3

 

 2

 

 1

 

 カウントが0にりブザーがなった瞬間、六体のISが一斉に飛び出しレースが開始されるのであったーー

 

 

「うぉぉぉ!!」

 

 最後の一人となった男が一夏めがけ拳を振るうがよけられてしまい拳が壁に当たり壁が大きくへこむ。

 

(こいつら、見聞色だけじゃなくて武装色も...だが、この程度なら)

 

「がぁ!!」

 

 自信の拳にも覇気をまとい、一撃を入れ男を気絶させる。武器を持って襲い掛かってきた連中を倒し床に伏せている彼らの上着をまくると全員の背中に竜の蹄の紋章があった。

 

「こいつらもか...ん? あれは...」

 

 一夏は部屋の端に置かれた箱に気づき中を見るとどこかで見覚えがある小さな機械が何個か入っておりその中の一つを手に取る。

 

「これは...剥離剤(リムーバ)?」

 

 学園祭でファントム・タスクの一人。オータムが秋人の白式を奪おうとし使っていた物が箱に入っており手に取り眺めていると、傍にあった通信機から声が聞こえ一夏が手に取る。

 

「こちらブラッド。そちらの状況はどうだ? 報告しろ」

「あ~こちらクソレストラン。ご注文は何にされますか?」

 

「!? 貴様何者だ!?」

 

「そうだな...Mr.プリンセスとでも覚えとけ。それかMr.0の方が恰好いいかな?」

 

 どこかで聞いた事のあるコードネームで答え一夏はニヤリと笑う。

 

 「ふざけた事を!! 同士達はどうした!? 」

 

「同士って、さっき俺が倒したけど? それと、箱の中にあった剥離剤といい、こいつらの力は一体どうなってんだか? ...って、通信切りやがったな」

 

 通信が切られた事に気づき、通信機を投げ捨て箱にあった剥離剤を破壊して行く一夏。そこで何かに気づき

 

「あ、連中から情報聞き出せばよかった...」

 

 と激しく後悔し、まるで八つ当たりするかのように音を立てて次次と剥離剤を壊すのであったーー

 

 

「はぁ!! 」

 

「そこですわ!!」

 

 セシリアのライフルから放たれたレーザーをかわす秋人。近くでは簪と箒が順位争いをし、互いに牽制し合う高速の戦いが繰り広げられていた。

 レースも後半に入り誰もが夢中なった時、突然事態が変化する。競争をしている秋人らに一つのレーザーが発射され会場を襲う。

 

「!? あ、あれは!!」

 

 セシリアが上空では紫色をした機体に気づき唇を噛み締める。その機体はブルーティアーズの後継機でありファントム・タスクに強奪された機体「サイレント・ゼフィルス」でセシリアは冷静さを忘れ飛び出す。

 

「せ、セシリア!!」

 

 セシリアの先行に気づきシャルとラウラが援護に入ろうとするが、どこからか悲鳴が起きる。気づけば観客席には武器を持ったスタッフ達がおり、彼らを抑えようと護衛のISが近づくが彼らが投げた剥離剤に触れてしまいISが奪われてしまう。

 

「そんな!? ISが奪われるなんて...」

 

 目の前で起こる混乱と、耳を塞ぎたくなる程の悲鳴を前に簪は身を震わせ「助けて」と、ここにいないとある人物にたいして小さくつぶやいたーー

  

「一般人とVIPの避難を急げ!!」

 

「軍に援軍を要請しろ!! 敵はISだけじゃない!!」

 

「くそ!! 武装した奴らが警備室に来てるぞ!?」

 

「早くバリケードを作れ!!」

 

 警備室では怒号や叫びが飛び交い、監視カメラには武装した一団の姿があちこちに写し出され、楯無は顔をしかめ唇を噛み締めた。

 

 敵のやり方は明らかに一般人も巻き添えにしているテロそのもので、犠牲者を出さないために一刻も早い対処が必要なのだが、敵が剥離剤を使用しており既に護衛の何体かがやられてしまっているため下手に手がだせない。

  

 だがこれ以上、敵に時間を与えればこちらの不利になる。そう思い楯無が部屋に迫り来る敵を迎撃しに部屋を出ようとした瞬間。

 

「動くな!!」

 

 と、警備員達が銃を発砲し楯無に銃口を向ける。

 

「...これは、どういう事かしら?」   

 

「貴様が知る必要はない。ただ、貴様は我々の理想の礎になるだけだ。ありがたく想うがいい」

 

「礎? 貴方達、本当にそんな馬鹿な理由でこんな事をしたの!?」

 

「馬鹿な理由だと? ふん、所詮歪んだ社会の中で飼われた雌には分からなかったようだな? おい、アレを使ってISを奪え。それと、分かっていると思うが妙な真似をしたら他の奴は皆おまえのせいで死ぬからな?」

 

 両手を上げているオペレータの女性の頭に銃口を突きつけ脅し始める。その光景を見て「卑怯者」と楯無がつぶやき、人質のせいで抵抗できない彼女にリムーバを持った男が近づく。

 

 この時、誰もモニターを見ておらずモニターに一瞬何かの影が写った次の瞬間、部屋の扉が激しい音をたて吹き飛ぶ。

 

「な、なんだ!? ぐぁ!!」

 

 かまいたちの刃が剥離剤を持った男の胴体に直撃し、部屋に高速で動く何かが次々と敵を切り捨てる。「てめぇら!! 女に銃向けてんじゃねぇ!!」そんな怒号の声が部屋に響き、騒ぎが終わる事には敵は全滅していた。

 

「くそ、こいつらうじゃうじゃと数だけは多いな」

 

「あら、来るの遅かったじゃないの?」

 

「仕方ないだろ、この部屋に来るまでにいた奴ら相手してたんだから」

 

 モニターを見れば警備室の前だけでなく地下室や、出入り口にいた武装集団はボロボロになり倒れているのを見て「さすがね、頼りになるわ」とつぶやきオペレーターの女性を介抱する。

 

「で、あんたが提案した方法なんだけどさ、色々言いたいことが...」

 

「今はそれどころじゃないわ。今、会場の方で秋人君達が敵ISと交戦中よ、悪いけどそっちの方に行ってくれないかしら?」

 

「て、まだいたのか...ここはいいのかよ? 連中の大半はIS使っていないとはいえ、明らかに覇気を使ってたんだ。流石に一人だと大変だろ?」

 

「あら? 私を誰だと思ってるのかしら? 学園の長であり、最強のお姉さんなのよ」

 

「はいはい、そうでした...」

 

 呆れたように部屋を出ようとする一夏、だが楯無に呼び止められ振り向いた時ーー

 

 キュ

 

 頬に柔らかく暖かかい物を感じ、数秒して自分はキスされたと気づき一夏は慌てて離れた。

 

「お、おい!?」 

 

「これはお姉さんからのささやかなご褒美よ? もし、この戦いが終わったらもっといい事してあげるから頑張ってね? 一夏君?」

 

 笑顔でウインクする彼女に何も言えず、一夏は顔を赤くし黙って部屋を出て行くのであった。そして、部屋に残った彼女も

 

「...やっちゃった...」

 

 とつぶやき、顔を真っ赤にするのであったーー 

 

    

 

「っきゃぁぁ!!」

 

 サイレント・ゼフィルスと交戦中のセシリアが悲鳴をあげ地面に激突する。

 

「...ふん、雑魚の分際で...」

 

 マドカは、セシリアに銃口を向け止めを刺すため引き金を引き、発射されたレーザーがセシリアに向かって行く。

 

(こんな、こんな所で...私は...)

 

 迫り来るレーザーを見て、もうだめだ と彼女は目を閉じ爆発が起こる。

 

(...? 痛くない? っ!! これは!?)

 

 目を開けたセシリアは自分のISが青い炎を出している事に気づき驚く。そして、頭の中で一瞬、見たことのない男が鳥のような姿で蒼炎をまとい空を飛んでいる光景が見えた。

 

 この炎は何だ? 今、頭の中に浮かんだ男は誰だ? 疑問を抱くが、セシリアは己のすべき事を思い出し、蒼炎を纏ったブルーティアーズで飛翔した。

 

「な、何だ!?」

 

 倒したはずの敵が蒼炎をまとい現れた事にマドカが動揺し、セシリアは笑を浮かべていた。

 

「まだ、まだ私は終わっていませんわ!!」

 

「くっ!! 雑魚が!!」

 

 レーザーや、ビット攻撃で的確にブルーティアーズを狙い撃つが、蒼炎の装甲により守られセシリアは唯一の接近武器「インターセプター」を持ち一気に接近しサイレント・ゼフィルスの装甲を切りつけた。

 

  

 

 「動くなよ、クソ女」

 

 観客席で逃げ遅れた人を人質に取る男達を前にISを解除したシャルと鈴が動けないでいた。

 

 そして、男達がシャル達に向け剥離剤を投げシャルが思わず両手を胸の前に組んだ時、突如見えない壁が二人の前に出現し剥離剤から防御する。

 

 さらに、鈴にも異変が起こり一瞬、大柄で手に肉球をつけた男が見えたと思ったら、気がついたら鈴の手に肉球がついており、同時に使い方まで何故か頭に入ってくる。

 

「なんだか知らないけど、くらいなさい!!」

 

 肉球で弾いて出た小さな弾が武装した男達だけにあたり気絶させて行く。

 

「く、クソ!! こうなったら人質を!!」

 

「させんぞ」

 

 ISを解除したラウラが何時の間にか接近し、鎌になった腕で銃を破壊し男のみぞおちに一撃入れ気絶させた。人質達は自信が助かった事を感じ、急いでその場から立ち去っていく。

 

「二人とも!? その手はどうしたの!?」

 

「私だって聞きたいわよ? 」

 

 手の肉球を見せ困ったような顔をする鈴。ラウラも自信の変化した腕を見つめ力を込めると、今度は銃の形に変化した。 

 

「何故だか、この腕が変化した時メイド服を着た女が見えたのだが...」

 

「あ、ボクも変な髪型の男の人が見えた気が...」

 

「私も、大男が見えたわ...」

 

 少女達が自分の体に起きた異変に戸惑う中、亡国機構と革命軍による攻撃はまだ続くのであったーー 

 

 



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三十三話 キャノンボール・ファウスト 2

 

「くそ!! 邪魔をするな!!」

 

「奴を止めろ!!」

 

「爆薬をくれ!! こうなったら、道連れに!!」 

 

 光剣を抜き、革命軍の兵士を次次に倒していく一夏。倒れていく同士の姿を見て兵達がやけになり、自爆覚悟で手榴弾を持ち一夏に近づくが、斬撃を放ち爆発させる前に切り裂く。

 

(こいつら、味方もろとも死ぬ気かよ!?)

 

 兵達は一夏を倒すために手段を選ばなかった。味方を盾にしてまでも接近し、手足が折れても武器を手放す事をやめず歩く。一夏は彼らを殺さないように行動不能にして倒すがそれでも彼らは立ちあがる。

 

「ここ、で…奴をのばなしには、でき、ない...」

 

「そうだ、この歪んだ社会を元に戻すために...」

 

「我々は何度でも、立ちあがる!!」

 

 体を改造し、もう二度と普通の生活ができない体になり元に戻ることができなくても、彼らの持つ執念が限界を超えさせていた。

 

 これまで与えられてきた苦痛を、失った悲しみを、そして、自分達が正義だと信じ散っていった同士達の屍を超えて、全てを糧にし彼らは立つ。  

 

「ふざけんな...確かに、この世界も、あっちの世界でも最悪な事は一杯あったんだ!! でも、俺だって決めたんだ!! この世界とも、そして家族とも向き合うんだって!!」

 

 一夏も自分の持つ信念を口にし、死ぬ覚悟を持つ彼らに向かうのであったーー 

 

 

 

 

「くっ!! この!!」

 

 マドカは蒼炎を纏い接近するブルーティアーズに苦戦していた。レーザーで撃ち抜こうとも、ビッドで動きを封じようとしても蒼炎により防がれマドカの不利になっている。

 

「はぁぁぁぁ!!」

 

 インターセプターだけで戦うセシリア。本来、彼女は接近戦は苦手であったのだが、短期間の一夏の教えのおかげか、上手く接近しダメージを与えていた。

 

 セシリア自信も、この蒼炎がなんなのか始めは気にしていたが。今は目の前にいる敵に集中する。

 

「「M、何をしているのかしら?」」

 

「!? スコール!?」

 

「「もう引きなさい。専用機達が予想外の力を出しているせいでこれ以上の作戦は継続は無理よ」」 

 

「くっ、だ、だが私は!! ぐわっ!!」

 

 突如かかってきた通信に夢中にり、セシリアの攻撃を受け装甲が削られてしまう。そして、エネルギーの方も既に危険域に入ろうとしており。スコールの言う通り撤退するしかなかった。しかし。マドカは納得しておらずスコールの命令を無視して戦闘を続けようとするも

 

「「マドカ、これは警告よ。今すぐ撤退しないなら、あなたを廃棄するわよ」」

 

「くっ...!!」

 

 最後の警告を言われ、ついにマドカはその場から撤退する。逃げるマドカをセシリアが追跡しようとするが、突然エネルギー切れのアラームがなりセシリアは慌てて観客席に着地しブルーティアーズが待機状態に姿を変えた。

 

「...今の力は、一体...」

 

「セシリア!!」

 

「無事だったんだね!!」

 

 と、シャルと鈴が近づく。気づけば鈴の手には動物の肉球のような物がついており、それはどうしたのか? と聞こうとする前にひとまず安全なところに避難する事にした。

 

「セシリアが敵の相手をしてくれたおかげで、何とか観客達を逃がせたわ。ありがとう」

 

「え、えぇ...けれど...」

 

「うん、多分セシリアもボク達と同じ事を思ってるかな? 確かに、ボク達のISが変な事に」

 

「だが、この力のおかげで。敵を制圧できたのは事実だ」

 

 いつの間にかラウラまでおり、手は鎌と銃になっていたがすぐに元の手に戻す。

 

「敵の数は大分減っている。それにもうすぐ軍からの増援が来るだろう」

 

「そうだね。敵も流石にこれ以上戦闘ができると思えないし...」

 

「うぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

 戦局的には自分達が有利な事に安堵するが、突然剥離剤を持った男がセシリア達に向かって走りだすが、どこからか水が飛び男を拘束する。

「ダメじゃないの、最後まで油断しちゃ」と、水を周囲に展開していた楯無が注意し、男の持つ剥離剤を槍で破壊した。

 

「敵は一夏君が制圧してくれたとは言え、まだ潜んでいるんだから気をつけなさい。それと、貴方達のISについては考るのは後よ」

 

 「は、はい!!」

 

 シャル達は気を引き締める中、楯無は先ほど見たセシリア達のISの状態を見てある心当たりがあった。内心で、彼に聞けば分かるだろうと思い敵の残党を探すのであったーー

 

 

 

 一方で場所が変わる。一夏達が戦っている会場から離れたビルの屋上にて二人の人間がいた。

 

「くっ...Mrプリンセスだと? まさか、奴が?」

 

「そうです。今の男が黒騎士の操縦者...織斑一夏...」

 

 革命軍の幹部であるブラッドと、その補佐をするエレンが会場を眺める。部隊との連絡が途絶え既に十分以上が経ち、さらに先ほどファントム・タスクのISが離脱したと報告を受け最悪の事態が起こってしまう。

 

「何故だ...今回は研究側から渡された剥離剤(リムーバ)と...例のアレを使い兵達は人を超えた力を手にしたと言うのに...」

 

「隊長...ここは撤退しましょう。これ以上は...」

 

 声をかけたエレンが目を伏せると、ブラッドの手から血が流れ床を赤く染めていた。サングラスをして、無表情だが心では悲しんでいた。

 共に命をかけ、その手を血で染めてきた仲間...同士が倒れる事に。

 

「すまない...おまえ達の事は忘れない...だから、安らかに眠ってくれ...」

 

 ブラッドはその場で敬礼をし、会場を背にしてエレンと共にその場から去るのであった。 

 

 

   

 「いい加減に、しろよ...おまえら!!」

 

 一夏が吠え、振りかぶった鉄パイプを切り、覇気を纏わせた拳で顔面を叩き吹き飛ばす。

 

 「あと、何人だ...」

 

 床には何人もの兵達が倒れ、意識を失っていた。既に一夏を囲んでいた男達の数は減っているが、彼らの戦意はまったく衰えていない。

 一夏の方も流石に集中力が削られ体のあちこちに傷ができていた。

 

 

「いいぞ、このまま奴を攻撃...!?」

 

 再び攻撃が始まろうとした瞬間。男の体がどんどん粒子と化して消えていく。

 

「な、何だこれ...なんだよこれ!?」

 

「い、嫌だ!!」

 

 

 その場にいる兵達が叫ぶが、粒子化は止まらない。一夏も突然の事で驚き、そしてこの粒子には見覚えがあった。

 

「こいつは、ブラックホールの...」

 

 一夏が一時期集めていていたブラックホールから出る粒子。今、男達の体から出ているもの何故か同じだった。

 

 何が起こっているのか? と一夏が考えている間にも次次と彼らの姿が消えていく。

 

「い、嫌だ...お、俺には家族が...待って、るんだ...」

 

 やがて最後の一人が涙を流しながらつぶやき、その存在を消してしまう。

 この現象は一夏の前だけでなく、会場中でも起こっていた。

 

 

 

「!? な、なに?」

 

 水で拘束していた男が消えた事に驚く楯無。

 

 

「あ、秋人...ど、どうなっているんだ...」

 

 銃を持ち、交戦していた男達が粒子となって消える光景を見て呆然とする箒と秋人。そして、その身に粒子浴びた事のある簪が自信を抱きしめ震えていた。

 

 

「な、なんなのよ...この光...」

 

 セシリアを守りながら進んでいた鈴達も粒子を見て足を止める。輝き宙を舞う光に見とれていた。

 

「ねぇ、様子が変だよ...」

 

「あぁ、この粒子もだが。何よりも敵が何時の間にかいなくなっている」

 

「撤退したのでしょうか?」

 

  

 何時の間にか戦闘が終わっていた事に安堵するが彼女達も浴びてしまっていた。

 

 

 ーーそれから間もなくして、軍の応援が到着し救助や敵の捜索が開始される。

 

 警備や会場スタッフに紛れていた兵に殺された者や、重症者が多く出てこの事件は世界中に知れ渡る事となる。

 

 さらに、敵が大量の剥離剤を生産していた事が分かり。これに危機感を感じてかIS委員会は近日、重要会議を開く事を決める。

 

  

   

「ただいま、束さん。クロエさん」

 

 会場から撤退した一夏が、秘密研究所に戻り束とクロエが出迎えてくれた。

 

「おっかえり!! 無事だったんだね!!」

 

「お帰りなさいませ、一夏様。これ、冷やしたコーラです」

 

 クロエから冷えたコーラをもらい飲む一夏。二人に、学園で起こったハッキングと、会場で起こった事を話す。

 

「...一夏様。こちらを」

 

 と、クロエが画面を出し。画像を一夏に見せる。竜の紋章が描かれた数体のISがブラックホールを囲んでいるのを見て束を見る。

 

「どうやら連中も気づいてる見たいだね。粒子の特性に」

 

「まさか、連中。粒子を使って...それで覇気を引き出していたのか...」

 

「だけど、気になるよね? 倒した連中の体が粒子になって消えたってのは」

 

 様々な謎が浮かび、一夏は黙ってしまう。

 

「だったら聞きに行こうか? 一番情報持ってる奴らからさ」

 

 束が沈黙を破り、一通のメールを見せるのであったーー

 

 

 

「ったく!! 一夏ったら!! またどっかに行って!!」

 

「り、鈴、落ち着いて」

 

 夜になってやっと学園の寮に戻ってきた秋人達。戦った後に、軍や委員会に報告などで既にクタクタになり、全員秋人の部屋に集合してある事を話す。

 

 セシリアを始め、鈴・シャル・ラウラに起きた異変

 

 革命軍の兵達の異変

 

 そして、一夏が何かを知っている事を

 

「一応聞くけど、ラウラとかは報告したの? その、ボクらのISの異変の事」

 

「いや、本来報告すべきはずなのだが...」

 

「私もしてないわね。言ったら面倒になりそうだったから」

 

「私もですわ」

 

 実はシャルも能力については報告せずにいた。一方で、何も起こっていない箒達。最初は信じられなかったのだが鈴の手についた肉球。腕が変化したラウラ。蒼炎をまとうセシリアや見えない壁を出現させるシャルを見て既に信じていた。

 

「やっぱり兄さんは何か知っているのかな? でも、どうやって合えば...」

 

 と、話は一行に進まず、ただ時間が過ぎていくのであったーー

 

 

 そして、一夏はと言うと。束とクロエ達と共にとある店にいた。

 

「いかがですか? わざわざ貸切にして用意したのですが」

 

「う~ん、イマイチかな? いっくんの料理の方がとっっってもおいしんだけどね~~」

 

「その割にはかなり食べてるじゃないですか...」

 

「一夏様、ここにはコーラがないのでしょうか?」

 

 豪華なドレスを着た女性。ファントム・タスクの一人であるスコールが目の前にいる三人を見て眉をひそめる。既に近くに待機している仲間達とMとオータムが動けるよう睡眠薬を仕込んで置いたスープを見る。

 

「ところで、先日は失礼しました。まさか、私とMの攻撃を受けて無傷だったとは正直驚きましたわ」

 

「ん? 別に? お前以上に火を使える人のと比べたら対した事ないけど」

 

 気にした様子もなく一夏が肉を食べる。実際あの世界には火を使う者が様々にいたため、スコールの火は対した物ではないのは事実だった。

 

「そうそう、いっくんは強いんだぞ~~あ、ちなみにその睡眠薬入りのスープはいらないからね?」

 

「ずずっ え? そうなの? ぐが~~」

 

「って!? 言ってる傍から!?」 と寝てしまった一夏に束が突っ込んだ。これ以上は時間の無駄だとため息をつき、スコールは本題に入る。

 

 スコールは束に新型ISの提供の話を進め、その話を束が拒否した瞬間。

 

「だったら死ねぇ!!」

 

 と、ISを装着したオータムが店を破壊し寝ている一夏めがけて突っ込むが、持っていた武器が切られて床に落ちる。

 

「なぁ!?」

 

「ふぁ~~なんだよ」

 

 光剣「太陽」を抜きあくびをする一夏。と、さらに二機のISが入り一夏に攻撃しようとするが、一夏は黒騎士を部分展開し指先から出る糸を二機のISに絡ませ動きを封じた。

 

「さっすがいっくん!! よし!! 私もやるぞ!!」

 

 と、武器も何も持っていない束が動き一夏が動きを抑えていたISを解体した。一夏を見て学園祭での敗北を思い出したのか動く事ができず、スコールが助けに入ろうとした瞬間。

 

「動くな」

 

 と、サイレント・ゼフィルスを装着したMーーマドカが一夏に接近し捕まえようとするが。黒騎士を解除した一夏は覇気を纏わせ黒く染まった光剣で胴体の装甲だけを切り捨てた。

 

「ぐぁ!!」

 

 ISが解除され床に転がるマドカ。それでも彼女は立ち上がりナイフを抜いて一夏に戦いを挑むがナイフを握る手を捕まえられた。

 

「く、そ...私は、まだ...」 

 

「はぁ、いろいろ聞きたい事はあるが、もうやめろよ...」

 

「うるさい!! 私は、私はおまえを殺すんだ!!」

 

「ふぅん? 君が織斑マドカかぁ~~クローンだから本当にちーちゃんとそっくりだね」

 

 束の言葉に一夏が驚き、マドカを見る。今だに殺気を込めた目の奥には一夏に対する恐怖があり、一夏は剣を収めそこで束からマドカが千冬の血から作られたクローンだと知らされる。

 

「そうだったのか...で、おまえらはこいつに何をしたんだ?」

 

「ふん、決まってんだろうが!! あの世界最強の血を持つそいつはかなり使える道具なんだからな!!」

 

「てめぇは、黙ってろ」

 

 一夏が怒りをこめ睨んだだけでオータムが黙る。いや。目に見えない圧倒的な威圧の前に、声どころか息をするのがやっとの状態だった。そして、怒りを抑え改めてマドカを見る。

 

「おまえ、一人なのか? こいつらは本当に、お前の仲間か?」

 

「貴様、何を...」

 

 突然訳の分から無い事を言い出す一夏。そして彼は「こいつは連れて行く」と言い出し、スコールが止めようとするが

 

「私もその子には興味があったんだよね~~そうだ、その子の分と、あと適当に新しい機体あげるから、ついでに革命軍の情報ももらおうかな」

 

「なっ!? しかし...」

 

「じゃ、ここで全滅したい? 私だけでも十秒あれば...お前らをバラバラにするなんて簡単なんだよ」

 

 束の脅しにスコールも黙ってしまい、何も言えなくなってしまう。

 そして、数分後…スコール達を残し半壊した店から一夏達とマドカの姿はそこには無かった。  

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 



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番外編 2 織斑マドカ

 「死ね!!」

 

 「おいおい、これで何回目だよ...」

 

 束の研究所にて、一人の少女が包丁を持ち一夏に襲いかかる。

 

 一夏はうんざりとした様子で皿をテーブルに置き、蹴りで少女の持つ包丁だけを狙い包丁が床に刺さる。

 

 二日前、ファントム・タスクの誘いに乗りそこで連れて帰ってきた少女ーー織斑マドカは自分を無理やりここに連れてきた一夏を激しく睨む。

 

「たく、もうじき食事だから待ってろよ」

 

「うるさい!! さっさと私のISを返せ!!」

 

「だから、それは修理中って。それに、お前ここに来てからロクに何も食べてないだろうが...」

 

 再び調理の準備を再開する一夏。マドカは地面に刺さった包丁を抜き一夏の背中と包丁を見る。

 

 実はこの二日間。マドカは執拗に一夏を殺そうとし何度も挑んだのだが、全て返り討ちに合うか、今みたいに適当にあしらわれてしまっていた。

 

 夜中に部屋に忍びこみ喉元を切ろうとするも、持っていたナイフを折られ部屋から放り出されたり、束達と食事をして油断している隙を狙い背後から狙うも叩き潰されてしまい何一つ傷を負わせることができなかった。

 

「くっ!!」

 

 マドカは包丁を持ったまま台所から出て行き、外に出る。どうやらここはどこかの孤島らしく近くには飛行機や船などは通っていない。研究所に忍びこみ仲間に連絡を取り助けを呼べばいいのだが、マドカはそれをせずひたすら一夏を狙う事だけ考えていた。

 

(なぜだ? 奴は何の目的で私をここに、それに何故私は奴ばかりを...)

 

「おーい、飯ここに置いとくぞ?」

 

 と、一夏がマドカに声をかけお盆をその場に置いて中に戻る。マドカは用意された食事には手をつけず、ずっと海を眺めるのであった。

 

 

「たく、あいつ包丁ぐらい返せよ...」

 

「いっくん、あの子どう?」

 

 通信機から束の声が聞こえ、一夏は言葉を濁し「まぁまぁ」だと答える。

 

「でさ、あの子のISなんだけどいいの? 黒騎士に使う予定だった装備使って?」

 

「いいですよ、多分アイツは中途半端な物は嫌がると思いますし。それに、アイツを...マドカを連れてきたのは俺の責任ですんでなんとかします」

 

    

 そう言って一夏は通信を切り、夕陽に照らされる海を眺めるマドカの後ろ姿を見るのであったーー

 

 

 いつしかマドカは眠りにつき夢を見ていた。

 

 織斑千冬の血から作られ、クローンとして生まれたマドカに待っていたのは道具としての扱いだった。組織から戦闘に関する訓練からISの操縦まで、休む間もなくマドカを人間扱いせず鍛え上げ、さらに命令違反や脱走を防ぐため体内にナノマシンを入れられるなど命まで握られ、孤独の中マドカは苦痛と恨みの矛先をいつしか千冬や秋人に向けるようになり、本格的に心まで人でない道具と化していた。

 

 しかし、突然現れた一夏のせいでおかしくなってしまう。

 

 まるで自分を人として接する一夏を見て胸が苦しくなりマドカは目を覚ます。

 

「私は...ただ、与えられた任務を遂行する道具だ...それ以外の何もないはずなのに...」

 

「お前は道具じゃない」

 

 と、一人ごとをつぶやくマドカの隣りに一夏が寝そべっていた。マドカは慌てて離れ包丁を構える。

 

「き、貴様!!」 

 

「束さんやクロエさんからお前がクローンだって聞いた時は驚いたよ、本当に千冬姉ぇそっくりだな」

 

「だからどうした!! 私は織斑千冬を殺し、お前たち兄弟も殺すんだ!!」

 

「...なぁ、それでお前は満足なのかよ?」

 

 一夏が立ち上がりマドカに近寄る。

 

「例え俺達を殺したとして、お前には何が残るんだよ? それが、本当のお前の希なのかよ?」

 

「う、うるさい...」

 

「お前の本当の事を言えよ!! お前はどうしたいんだよ!? 」

 

「うるさい!! 貴様には関係ない!!」

 

 マドカは大声を上げ包丁を握りしめ一夏に接近する。そして、一夏は避けもせず包丁が脇腹に刺さり、血が流れる。

 

 マドカは一夏が何故避けようとしなかったのか疑問に思っていると

 

「関係なくはない、俺とお前は兄妹だろうが!!」

 

「きょ、うだい?」

 

「お前の血は千冬姉のもんだろ? だったら兄妹見たいなもんあろうが...」

 

 脇腹に刺さった包丁を抜き、一夏はマドカを強く抱きしめる。マドカは一夏の暖かさに触れ二人はしばらく抱き合うのだったーー

 

「...」

 

 温め直した食事を黙々と食べるマドカと、脇腹に包帯を巻いている一夏。

 

「そんじゃ、食べたら部屋戻れよ」

 

 と言い、一夏は傍に置いてある酒瓶を一瞬見た後、その場から去る。そして、久ぶり食事を摂ったせいかマドカは再び眠りにつくーー

 

 

 「...なんだ、ここは?」

 

 マドカは何時の間にか花畑の中心に立っており、呆然としていた。また夢なのかと思いつつ花畑を静かに歩く。

 しばらく歩き続け誰もいない、まるで自分だけが世界に取り残されたかのように思いにマドカは身を震わせその場に膝をつきーー突然背後に何かが落てきた。

 

 ドォン!!

 

「!?っ」

 

「うはっ!! 俺の肉が!!」

 

 大きな風呂敷を背負い、手に肉を持った男が叫ぶ。マドカは目の前にいる男が敵なのか迷っていると、男がマドカに気づく。

 

「ふぐ? ふぁえだ、おふぁえ (ん? 誰だ、おまえ?)」

 

 肉を食いながらしゃべり何を話ているのか分から無い。なんなんだ、この男は?

と思っていると、男の背負う風呂敷から酒瓶が落ちマドカの足元に転がり拾う。

 

 酒瓶は調度一夏が持っていたのと似ていて眺めていると、肉を飲み込んだ男がマドカに

近づく。

 

「わりぃ、わりぃ。それ俺のだ。昔エース達と盃で飲んだのと似ていたからな、ありがとな」

 

「盃?」

 

「あぁ、一緒に酒を飲むと兄弟になれるんだぞ!! そんじゃな!!」

 

 と名も知らぬ男は去って行く。そして、残されたマドカは男が言った盃の事と、一夏が持っていた酒を思い出し、何かを考えたところで目が覚めてしまう。

 

 

 「...アレは、夢なのか?」

 

 花畑の事の事を思いだし、部屋の隅に置いてある酒瓶を見るマドカ。

 

 「おいおい、そんなところで寝たら風邪ひくぞ?」

 

 二つの盃を持った一夏が声をかける。そして、一夏は酒瓶を持ち視線をそらしながらマドカに声をかけた。

 

「その、なんだ...知ってるか? 一緒に酒を飲んだら兄妹になれるってさ。昔知り合いに聞いたんだ、だから...」

 

「分かった」

 

 マドカは短く答え一夏から一つ盃を取る。一方で予想外なマドカの反応に呆然とする一夏だが、すぐに笑を浮かべ酒瓶を開け自分とマドカの盃に酒をついで二人は盃を飲み干した。  

 

「よし、これで俺達は本当の兄妹になったんだ。だから、もうお前は一人じゃないからな? マドカ」

 

「...あぁ」

 

 そっけいない態度だが、道具として作り出された少女の心は人に戻ろうとしておりマドカの表情には小さな笑が浮かんでいたーー 

 

  



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番外編3 クロエとコーラ

 「...」

 

 束の研究室にある一室。

 

 そこは食料等を置いている貯蔵庫であり、束の手により生み出された少女「クロエ」は手にあるコーラ瓶を見つめ喉を鳴らす。

 

 そもそも、貯蔵庫にはコーラなど初めは無かったのだが数ヶ月前。とある人物が現れここで暮らし始めた事がきっかけで今では大量のコーラが棚に並んでおりクロエはその人物と始めてあった日の事を思い出すーー

 

 

「始めまして、一夏様。私は束様の補佐をしておりますクロエといいます」 

 

「はぁ、どうも...」

 

 束様が調査中のブラックホールから出現した男性。束様の友人である織斑千冬の弟である織斑一夏が目の前にいた。

 

 彼の話だと、あのブラックホールは別の世界に繋がっておりそこでは海賊や海軍などがおり、彼も海賊の一味だったと言う。クロエはそんな話を最初は信じる事などできず興味など無かった。

 

 しかし、彼が研究所で迷った際倉庫で放置されていたISを機動させてしまい誰も扱う事ができないと束が言ったその機体を乗りこなしIS学園を襲撃した革命軍を撃退。

 

 二度目のゴーレム投入後に侵入した四機のISの内、三機を三刀流と呼ばれる剣技で再度撃退に成功する。

 

 さらに、革命軍により奪われた福音や、第四世代の機体である白式と束の妹である箒の持つ新型IS「紅椿」との戦闘を行うも被弾せずにいた。

 

 これまでの戦闘データや操縦者である彼、一夏の身体能力は明らかに常人をはるかに超えた物で、その力は国家代表の力を超えていた。

 

 そして、箒の紅椿との戦いが終わった後ーー

 

「「かんぱーい!!」」

 

 コーラを手に一夏と束が笑いながら会話をしていた。内容は一夏が海賊になったきっかけから始まりそこで、コーラを内蔵して動く改造人間(サイボーグ)の話になったところでクロエは目の前に置いてあるコーラが気になり。そこで始めてコーラを口にしーー気づけば彼女の傍にはいくつもの空き瓶が並んでいた。

 

 それからと言う物、時折クロエは最近増えた住人と共によくコーラを飲むようになり。頼まれた冷えたコーラを束に届ける為研究室に入る。そこでは、”黒騎士”の新装備を開発中であった。

 

「束様。コーラをお持ちしました...ところで、そちらの装備は?」

 

「あ!! くーちゃんありがとう!! うんうん、やっぱコーラは冷えてないとね!! あ、この装備はね、いっくんの持っている技術を利用して作ってて、すごい威力があるんだよ!!」

 

 一夏様の技術? と思いつつ、ライオンのような形をした砲台の設計図を見る。

 なるほど、ISのエネルギーではなくコーラを大量に使って発射するのなら戦闘中でエネルギーを切らす不安がない。

 

「ただ、一発撃つのに結構コーラ使うから...貯蔵庫のコーラ全部使っちゃうかも」

 

「え....?」

 

 思わず声を漏らしてしまうと、突然束様が「な、泣かないで!! コーラならドンッと補充するから!!」と慌てられ私に抱きつかれ私も自然と頬が緩んでいるのに自分でも感じていた。 

   

 一夏様が来られてどうやら束様だけでなく、私もどこか変わってしまったようだ。今もまた、どこかに行かれてしまいましたが。戻られたら四人でまたコーラを飲もうと思うのであったーー 

   

 



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三十四話 IS学園の日常

 


「てぁぁぁぁぁ!!」

 

「はぁぁぁぁぁ!!」

 

 学園のアリーナにて、鈴の甲龍(シェンロン)と、秋人の白式が飛び交う。甲龍の肩にある龍砲から放たれるが、砲弾を察知した秋人が回避し、雪片を握りしめ接近する。

 

「くっ!? なんでさっきから当たらないのよ!?」

 

 攻撃が一切当たらない事に焦りを感じつつ、両刃の青龍刀、双天牙月を持ち、白式の雪片と何度かぶつかり互に引かない。

 

「僕だって!! 少しは強くなっているんだ!!」

 

「私だって負けないわよ!!」

 

 互いに声を上げ戦意を見せるが、二人の顔には笑みが浮かんでいた。

 

鈴は幼馴染みの成長を心から嬉しく思い、秋人はやっとISの戦闘で鈴達に追いついた事を実感し、同時に彼女達に心の中で感謝をしていた。

 

「行くぞ!! 鈴!!」

 

「来なさい!!」

 

 白式を第二形態移行(セカンドシフト)させ、雪羅(せつら)の荷電粒子砲を構え二人の戦いはさらに激しくなり、結果はーー

 

 

「くぅ...エネルギー切れで負けるなんて...」

 

「でも、操縦はかなり上達してると思うよ」 

 

 夕陽に照らされ、学園の屋上でベンチうなだれる秋人を慰めるシャル。

 

 白式はもともと燃費の悪い機体で、しかも第二形態になってからはさらに燃費が激しいのだが、秋人は勝負を焦りエネルギーの残量を考えず戦ってしまい。エネルギー切れで敗北。

 

「だが、相変わらず嫁の動きは異常だ。なぜそこまで相手の動きが読めるのだ?」

 

「それは...」

 

 試合中に見せた、相手の攻撃を完璧に避けれる秋人にラウラがうなる。

 

 まだ、一夏から覇気の力について聞いていない秋人や、今はここにいない同じ力を持つ簪もわからず、未だに困惑していた。

 

「って、いけない。そろそろ面会時間が...」

 

 秋人が何かを思い返し、箒達に一言告げ屋上から出て行く。

 

「そういえば、千冬さんの退院もうすぐだったな...」

 

「そうですわ!! 先生の退院をクラスでお祝いしませんか? 例えば、皆で料理を振舞うとかはいかかでしょうか!?」

 

「「「「いや、それはダメだ!!」」」」

 

 セシリアを除いた、四人の少女達の反対する声が屋上に響き、段々と日が傾く。

 

 

 

 そして、秋人は学園内にある医療施設に入り、千冬のいる病室を軽くノックし、中に入る。

 

「姉さん、調子はどう?」

 

 イスに座り外の景色を見ていた千冬が秋人に気づき、彼女は大丈夫だと告げる。

 

「もうすぐ退院だって聞いたけど、何か必要な物ってあるかな?」

 

「あぁ、大丈夫だ...それにしても。弟にここまで心配されるとは、私も落ちぶれたな...」

 

 力なく笑う千冬を見て、慌てて秋人が話題を変える。

 

「そ、そんな事言わないでよ...そ、そうだ!! 今度、皆で僕らの家に行くんだけど、何か取ってくる物ってある?」

 

「家に、だと?」

 

 千冬が眉をひそめ秋人を見る。と、ここで千冬が一夏が海賊をしていたまでは知っていたが、天竜人のシンボルについてまだ知らないのを思い出し、病室にあったメモとペンを持ち、竜の蹄を描き千冬に見せた。

   

「でも、未だに信じられないよ...異世界で、海賊だなんてさ...? 姉さん?」

 

「これは...」

 

 千冬の目が大きく開かれ、何かに驚く。彼女の脳裏には幼い頃の記憶蘇っていた。

 

 母の背中にあった同じ焼印。そして、今は顔もまともに思い出せない父の持ち物にもまた同じ印があった事をーー

 

 その後、面会時間が終わり、様子がおかしい千冬の病室を後にする秋人。あの絵について何か知っているのか聞きたがったが、千冬から戸惑いを感じ、聞くべきではないと思い聞かなかった。

 

「あら、秋人君」

 

 自室に戻ると楯無があたりまえのように、椅子に座っていた。手に持つ扇子には「おかえりなさい」と書かれており、とりあえずなんでここにいるのか? 聞いてみたが軽く無視されてしまう。

 

「ところで~~…一夏君から何か連絡きてないかしら?」

 

 何故か楯無は、秋人と会う度にこの質問をしてくる。自分から一夏の居場所でも聞き出そうとしているのか…とにかく、こちらから一夏に対して連絡手段がないため、正直に返事をすると、楯無はがっかりしたように目をそらした。

 

「えっと、用事はそれだけですか?」

 

「ううん、もう一つ…秋人君にも伝えようと思って。ねぇ、秋人君。最近起きてる事件の事知ってるでしょ?」

 

「あ、はい...異常な力を持った人達が襲ってるて...」

 

 

 事件と言うのは、主に女尊男卑に染まった女性。又はIS関連の権力者達が次々と襲われている事だ。犯人達は、ISにより地位や名誉を失ったり、被害を受けた者が中心で、彼らは異常な身体能力を持ち、事件は世界中でも広まっていた。

 

 

「でね、これなんだけど」

 

 と、楯無がどこからか書類を取り出し秋人に見せる。 

 

 書類には事件について書かれており、拘束した犯人達にはいくつか共通点があった。 一つ目は、事件を起こす前まで行方不明になっていた事。二つ目は彼らの背には、ある焼印がされていた。

 

「この印は...」

 

「そう。一夏君が話してくれた竜の蹄と同じ...これって偶然かしら?」

 

 まるで問い詰められている気がして、無意識に拳に力が入り秋人は「知らない」と一言だけ言い、首を横に振る。

 

「ごめんなさいね? もしかしたら、何か知ってるかなって思って...」

 

「いえ...」

 

 そこから二人は無言になる。秋人は、視線を合わせないよう書類をみつめ、楯無は息をのみ何かを伝えようか迷っている様子だった。

 

 書類には続きがあり、異常な力を持った者達が武装した状態でISを落としている事も記載されていた。

 

 生身の人間が、世界最強の兵器を倒すなどあるのだろうか? と思った瞬間。生身でISの剣を使い、三体ものISを撃破した人間を一人思い出し声を上げた。

 

「気づいたと思うけど…生身でまともにISと戦える人間。そして、彼らの背にある印を知る人は...」

 

「兄さん...」

 

「...ごめんなさいね、私帰るわ」

 

 空気が重くなり、書類を持ち部屋から出る楯無。一人、残った秋人は深刻な表情を浮かべてベッドに腰かける。と、ドアがノックされ秋人が立ち上がり、扉を開くと

 

「箒...」

 

「だ、大丈夫か...」

 

 秋人の疲れている顔を見て心配する箒…秋人は「大丈夫だよ」と短く答え、箒を部屋に入れる。

 

「それで、どうしたんだよ急に?」

 

「あ、いや...その...一夏から、何か連絡はきてないか?」

 

 楯無と同じ事を聞かれ、秋人は黙って首を横に振り答える。

 

「そ、そうか...と、ところで秋人、もうすぐ千冬さんの退院するだろ? それで、クラスで...」

 

「ごめん、箒...今、一人にしてくれないか...」

 

箒の言葉を遮り、秋人が気だるそうに告げる。様子のおかしい彼に、どうしたのかと聞くが。

 

「ほんとにごめん。今、考える事が一杯で...」

 

「...わ、わかった...」

 

 秋人を心配して見つめ、箒は部屋から静かに去る。一人になった秋人はベッドに横になり大きく息を吐き出し目を閉じる。

 

「...何やってんだろ僕は...」

 

 偶然触れた事でISが動き、そのせいでIS学園に入学して。そして、姉である千冬が初めて教師なのを知り、しかも担任になった時はかなり気まずかった。

 

 誘拐された時。兄と自分を見捨てたわけではなく、政府から誘拐の事を伏せられて知らなかったのは聞いたが、それでも最初は許す事ができなかった

 

 学園生活の中、自分を助けてくれた一夏をまるで忘れたかのように振舞う千冬を見て怒りが湧いたが、千冬が瀕死の状態になった時には、死なないで欲しいと強く願い、それ以降は少しだが、千冬を許すようになっていた。 

 

 そして、死んだと思っていた一夏が生きており、自分と同じくISを使っていた。しかも異世界で海賊をしていたと話を聞かされた時はかなり驚いてしまった。

 

「兄さんと一緒にいた人達ってどんな感じだったんだろ?」

 

 三本の刀を持った剣士、長い鼻をした狙撃手。さらに、強欲で子供に優しい航海士や料理を担当するコック。さらに、一夏を海賊へと導いた船長。

 

 兄の話を思い出すうちに、秋人はいつしか眠りについていたーー

 

 

「...ん? あ、あれ?」

 

 秋人が慌てて起きると、そこはベッドの上でなく。花畑の中だった。 

 

 「ここ、どこ? ...まさか、夢?」

 

 すぐに夢だと気づき、秋人は目が覚めるまでどうしたらいいのか と考えていると

 

 「ん? 誰だおめぇ?」

 

 後ろから声がして振り向くと、赤い上着に胸に✖の傷をつけた男が立っていた。不思議な夢だな…と、秋人が思っていると、目の前の男が

 

「ん? おめぇ、イチカか?」

 

「!? 兄さんだって!?」

 

 「兄? ...あぁ、そういえば…アイツ、弟がいたって言ってたな...まぁ、いいか」

 

 目の前の男から予想外の事を聞き、呆然となる秋人。

 

「それにしても、アイツに似てるな、おまえ。」 

 

「え? ちょ、ちょっとまって!! あなたは一体? それに、ここはどこなんですか?」

 

「あぁ俺か、俺は...」

 

 と、ここで秋人の視界が歪み。目を開け慌てて起きるとべッドの上だった。

 

「...やっぱり夢だったんだ...」

 

 真っ暗な部屋の中、夢の事を思い出し秋人は

 

「ルフィ...」

 

 と、男の名を口にするのであったーー

 

 

 

 そして、場所が変わり。

 

「ったく、あいつらから手に入れたデータ。役に立たねぇし...」

 

 森の中にある半壊した建物から、黒騎士を展開し立ち去る一夏。実は先日、亡国機構(ファントム・タスク)から手に入れた情報を元に、革命軍を追っていた。

 だが、情報のあった隠れ家についたのだが、既に建物には「処置」がされており、何も手がかりを得ることができなかった。

 

「流石に一人じゃ探すのキツいな...けど、アイツのISはまだ完成してないし。それに束さんに頼んだ新兵器もまだだしな...」

 

 一夏はマップを展開し、唸る。革命軍に関わる場所は世界中に無数に点在しており、これらをしらみつぶしに探していたらキリがない事にため息をつくと、

 

 ぐ~~っ…

 

「...腹減った...」

 

 漆黒の夜空に腹の虫の音が響く。「とにかく先に飯だな」とつぶやき、一夏は日本のとある場所に向かうのであった。

 

 

 

  

 

 

    



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番外編 4 予告(未定)

 大分期間が空いてしまいましたが、これで今年最後の投稿になります。
 来年も、皆様よろしくお願いいたします。


 突然、どこかに飛ばされた一夏。

 

 そこは、モビルスーツがISのように存在する世界だった。

 

「なんだここ? ISが戦っている? 」

 

 戸惑う一夏だが、ザク・グフの機体達が一夏に銃口を向け。一夏は黒刀を抜きその場にいたザク・グフの部隊を切り伏せその場から立ち去った。

 

 この時から黒騎士の噂が広まる事となった。

 

 武力で民間人を苦しめていた軍を一人で壊滅させ、戦争を引き起こす傭兵達を相手に生身でせん滅した。そして戦いで傷ついた人々を敵味方関係なく治療し施すなどして、あらゆる勢力から注目を浴びるようになっていた。

 

 

 時には、正規軍のモビルスーツ達に囲まれそれらを斬撃で撃墜し。

 

「はぁぁぁぁ!!」

 

 

 人の感情を持たないモビルドール達を指先から出た糸でバラバラにし

 

「五色糸!!」

 

 

 恨みを買い執拗に狙ってくる組織をボコボコに返り討ちに

 

「悪魔風脚(ディアブルジャンブ)!!」

 

 

 そんな日々が続いた。

 

「だぁ!! どいつもこいつもしつけぇ!!」

 

 だが、海賊で追われる事に慣れていたおかげか、次第に彼にも仲間ができていった。

 

 撃墜したジムやビルゴ等の部品をジャンク屋や部品回収をするバルチャー達に売り渡す内に親しくなった者もいれば、世界から紛争を根絶する組織や、平和を守ろうと剣を持つ者達ともいつしか絆ができていた。   

 

ガロード「って、また売った金でコーラ買ったのかよ...」

 

刹那「黒騎士...これは、ガンダムなのか?」

 

キラ「あのモビスーツ。剣を持ってる...」

 

そして、この世界での旅をする内に。異変を起こしている存在に気づきその存在に近づくが、次次と現れる敵達が道を塞いでくる。

 

シャア「見せてもらおうか!? 黒騎士の力を!!」

 

ゼクス「我々の戦いに、ライフルなど必要ないのだ...」

 

クルーゼ「私にはある!! 世界を、人を裁く権利がな!!」

 

シャギア「貴様には消えてもらうぞ!!」

 

ぜハート「私には成さねばならない事があるんだ!!」

 

 赤くファンネルを搭載した機体、白く騎士を模した機体や神秘の名を関した漆黒の機体。さらに、世界を滅ぼそうとする兄弟や優れた者のみを選ぶ選民思想の指導者。

 

 数々の強敵達の力と様々な思惑や意思に苦戦するも。仲間達と共に何度も困難を乗り越えて行き、一夏はついに黒幕に近づく。

 

一夏「おまえが...おまえのせいで、世界がおかしくなっていたのは!!」

 

 謎の空間で一夏は全ての黒幕と対峙し、この世界で出会った仲間達の思いを胸に、そして元の世界に戻るために黒刀を握りしめて最後の戦いが始まるのだったーー

 

 

 




 皆様、来年もよろしくお願いします。


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三十五話 少女の見た夢

 更新遅くなりすみませんでした!!

 今回の話は、投稿するかどうか悩み時間がかかりました。
 ちなみに、今回はとあるキャラが出ます。



 この話は、一夏が海賊になるより前の話であったーー

 

「ひぐっ…なんで、なんで…」

 

 幼く青髪をした少女が、海辺の傍で一人泣いていた。

 

 彼女は、とある日本の特殊な家系の生まれのため、幼い頃から満足に友達と遊ぶことや好きな事をする自由がなく、さらに、家の決まりで当主になるものは自身の名前とは別の名を継ぐ事となり、周りの者は彼女を継いだ名でしか呼ばなくなっていた。

 

(私だけ…なんで、自由がないの? おかしいよ…)

 

 妹と違い、自分はただ家のために武術や勉学ばかりをやる人生。例え、好きな人ができても家の都合で勝手に相手を選ばれ、さらにやるべき事も全て決められて、そんな不自由な自身の生まれを毎日憎み、ついに少女は家を飛び出した。だが、彼女の家は特殊なため、すぐに追跡者が来て家に連れ戻されるのは分かっていた。

 

(…ごく)

 

 少女は涙をぬぐい、夕陽に照らされて輝く海を見る。もし、海に落ちれば嫌な事を全て忘れて自由になれるかもしれない。そんな事を考え、少女は足を動かし一歩踏み出せば深い海に落ちる所まで近づき、風に青髪が揺れる。

 

「…っ、やっぱり、いや…」 

 

 死ぬのが怖くなり、来た道を引き返そうとする少女。だが、突風が吹き。少女は体のバランスを崩し、海に落ちた。

 

「ぷは!? げほっ、げほっ!! え? な、なんで!?」

 

  幸いにも泳ぎの鍛錬もしていたおかげで溺れずに済んだのだが、空を見た少女は困惑していた。さっきまで夕陽が登っていたはずなのに、何故か太陽が真上にあり。しかも辺りにはさっきまであった陸がなかったのだ。

 

「ど…どうなってるの…さっきまで夕陽が!?」

 

 少女が何かに気づく。目の前に巨大な何かが海から出現し少女を見ていた。それは、サメよりも何倍の体を持ち、その海を航海する者なら誰もが知っている生物。海王類と呼ばれる生き物だった。

 

 海王類は、怯える少女を見て口を開き襲いかかる。そして、少女は目を閉じる。

 

(いや!! 死にたくない!! 誰か、助けて!!)

 

 少女は死ぬ間際にずっと昔から憧れていた、自分を助けてくれるヒーローを思い出す。いつしか、自分にも来てくれると思っていたが、家の教育と社会の人間の汚さを知りいつしか忘れていた思いを心の中で願う中。海王類に食われそうになる瞬間――

 

「あらあら、どうしたんだ? 嬢ちゃん?」

 

 そんな声が聞こえ、少女が恐る恐る目を開けると。海上なのに自転車に乗った白いコートを羽織った長身の男がおり、その背後には、何故か口を大きく開けたまま氷った海王類がいた。

 

 少女は、何が起こったのか混乱していると。長時間泳いでいたのと、未知なる生き物に襲われた疲労で気を失うのであったーー

  

「んっ…」

 

 少女が目を覚ますと、目の前に焚き火が見えた。あたりは暗くなっていつの間にか夜になっており。少女は白いコートがかけられていた事に気づく。疲労の中なんとか起き上がり何とか記憶をたどる。

 

「そうだ。私、海に落ちたんだ…ここは、どこなの…?」

 

「やっと起きたか」

 

 と、少女が慌てて振り向くと。気を失う前に見た長身の男が果物などを持って少女に近づく。

 

「それにしてもおまえさん。どうして、こんな偉大なる航路(グランドライン)の、しかも凪の帯(カームベルト)に近い所にいたんだ?」

 

 長身の男が、少女の前に果物を置き質問をした。少女は、男が言う偉大なる航路(グランドライン)と言う、初めて聞く単語を聞いて戸惑ったが、お腹の虫がなり。少女は顔を赤くしたまま、目の前の果物に手をつけた。

 

 その後、少女が落ち着くのを待ち、少女は、答えられる事だけ伝える。自身は、家の家業が嫌になり、家を飛び出し。気づいたらあそこで化物に襲われた事を。

 

「家出ね…で、まぁ俺も軍の仕事が面倒だから黙って散歩してた所だし。ふぁ~~」

 

 男はその場であくびをして、のんきに横になる。男のふてぶてしい態度に、少女はどう言っていいのかわからず困惑するしかなかった。

 

「ところで、おまえさん。名前は?」

 

「わ、私は…更識。更識楯無よ…ところで、あなたは…」

 

「あぁ、俺か…俺は、そうだな~~周りからは大将やら、青キジとも言われてるが、まぁ好きに呼べよ」

 

 二人は焚き火を挟み、いつしかお互いの事を話すようになっており、楯無の顔にはいつしか笑顔が見えていたーー

 

 

 

 「ん…」

 

 学園の寮にある自室にて、楯無が目を覚ましベッドから起き上がる。

 

「…随分昔の夢を見てたわね…」

 

 寝巻きのまま起き上がり、机の引き出しの中から、一枚のカモメのマークがついたバンダナを取り出す。

 

「また、会えるわよね…青キジ…」

 

 懐かしい夢を見て微笑むが、今日はとある用事があるため、楯無はバンダナをそっと引き出しに戻し、支度をするのであったーー

 



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三十六話 手がかり

 

 休日の昼時。織斑家の前にて不思議そうな顔をする秋人。その理由は、彼の後ろにいつの間にか追跡して来た七人の少女達の事だった。

 

「なんで皆もついて来たのさ?」

 

「わ、私がいて邪魔なのか?」

 

「いや、箒。そこまでは言ってないんだけど…」

 

 同学年である、箒や簪達が来るのはまだ分かるとして、何故、楯無が当たり前のようにいるのか? そんな視線を送ると、楯無が笑顔で答える。

 

「あら、私だけ仲間ハズレにするつもり? ひどいわ…」

 

 と、何を言ってもダメだと悟り。秋人はさっさと家に入る事にした。

 

「夕方までには寮に戻らないと行けないから、何か見つかればいいけど…ん? 鍵が…?」

 

 何故か家のドアの鍵が開いており、玄関には誰かの靴が置かれているのを見て全員警戒し、静かに家の中に入る。

 

 侵入者がもし、革命軍かファントム・タスクだったら戦闘が避けられない事に秋人達が緊張していると居間の方から香ばしい臭が漂う。

ここで、秋人達の中である人物の事が浮かび上がり、居間の扉を開くとーー

 

「って、お前ら!?」

 

 そこにいたのは、たこ焼き機を使って多くのたこ焼きを作っていた一夏がいた。

 

「に、兄さん!?」

 

「「一夏!!」」

 

「あら、こんな所で会えるなんて♪」

 

 秋人は思わず肩の力が抜け、箒と鈴が叫び、楯無が頬に手を当てて喜んでいた。

 

「え~~…お前ら、なんでいるんだ?」

 

 たこ焼きを食べながら、呆然とする秋人達に質問するが、秋人は「それは、こっちのセリフだよ…」と、秋人は大きなため息をつくのであったーー

 

 

 

「って、おい!! おまえ、何入れようとしてんだよ?」

 

「え、何をって…美味しくなるように、唐辛子を…」

 

「アホ!! そんな事したら、はっちゃんにタコ殴りにされるぞ!!」

 

「はっちゃんて誰ですの!? 」

 

 たこ焼きに変な物を入れようとしたセシリアに突っ込む一夏。織斑家では、急遽たこ焼きパーティが開催され、賑やかになって皆楽しんでいた。

 

「…美味しい」

 

「それにしても、何故コーラが大量に…」

 

 簪が、たこ焼きの感想を述べ、ラウラが大量にあるコーラを見てつぶやき、コップに入れてあるコーラを飲んで滅多に飲まないジュースが気に入ったのか満足な笑みを浮かべる。

 

「それにしても、まさか秋人のお兄さんがいたなんて…」

 

「本当、突然出たり消えたりでしょうがないわね…」

 

 コーラを片手に話をするシャルと、ふてくされるように視線をそらす鈴。だが、顔が赤くなりちらちらとたこ焼きを焼いている一夏を何度も見ている。と、たこ焼きを飲み込んだ秋人が、一夏に声をかけた。

 

「ところで兄さん、どうしてここに?」

「あぁ、腹減ったから。家に何かないかなって思って」

 

 世界中から注目されている男がしれっと答える。昔と違ってしまった兄にショックを受け、うなだれる秋人。と、一夏の後ろから楯無が抱きついてくる。

 

「ふふふ、捕まえた。ところで、一夏君。あの子達のISが変になった事について聞きたい事があるんだけど?」

 

「はぁ? 変って….つっ!!」

 

 一夏が脇腹の痛みに顔をしかめると、楯無はすかさず上着に手をかけ脇腹に巻かれた包帯が見えてしまう。

 

「い、一夏!?」

 

「あんた、それ!?」

 

箒と鈴が悲鳴に近い声をあげ、一夏に詰め寄る。一夏は「まぁ、なんだ。刺されただけだ」とだけ答え、楯無を引き剥がしコーラを飲む。

 

 この傷は、先日ファントム・タスクから連れてきたマドカに刺された物だが、一夏はそれを言わず、これ以上詮索されるのが面倒だと思い話を変えた。

 

「ところで、ISがどうしたって?」

 

「あぁ、そのことだが…」

 

 先にラウラが言い、指先を刃に変化させる。他にも、鈴の手の平に肉球ができ、シャルの目の前に見えない壁が出現し。セシリアだけは屋外に出て体の一部から蒼炎を出して一夏に見せた。

 

「こいつは…電脳世界で俺が使った能力だな…でも、なんでお前らのISに…? まさか、電脳世界で俺が能力を使ったせいか?」

 

「能力? ISの装備の事なのそれは?」

 

 シャルが一夏に質問をするが、ここで一夏は

 

「いや、これはISの能力とかじゃないが…てか、お前誰だったけ?」

 

「え!?」

 

「ちょっと、兄さん? この間学園で紹介したよ? …まさか、シャルだけでなく、他のもんなの名前も…」

 

「あぁ、忘れた」

 

 何の負い目も感じず一夏が答え、仕方なく改めて自己紹介をしてから(簪・楯無を除いて)能力についての説明に入った。

 

 一夏の冒険した世界には、海の悪魔の化身が宿るとされている「悪魔の実」と呼ばれる不思議な果実が存在する。それは、海の秘宝とも言われ、その実を一口かじるだけで異能の力を得る事ができた。

 

 そして、海で名を上げている海賊は、ほとんどがこの悪魔の実を食べた「能力者」が多い。能力には変なものもあるが、逆にとてつもない力を持つものがあり、力が欲しい者にとっては喉から手が出る程のまさしく宝のようなものだ。

 

 しかも、実は滅多に手に入らない希少な物であり、一つ売るだけで最低でも一億で売れる程であった。

 

 冒険の話は一夏からはある程度は聞いていたのだが、一部の者は悪魔の実についてはここで始めて聞くのであった。

 

「で、俺が使った能力だけど…」

 

 一夏がラウラを指差す。

 

「確かその能力はドフラミンゴのところにいた…そう、全身を武器に姿を変える事ができる「ブキブキの実」の能力だ 」

 

「武器だと…? 確かに、銃や刃物になると思ったらそういう事だったのか…」

 

 納得したラウラを見て、今度はシャルを見て話す一夏。

 

「そんで、次は…バリアを張る事ができる「バリバリの実」の力だな」

 

「バリア?」

 

「そうだ、ニワトリの奴が使っていたからな…そいつは、壁だけじゃなくて、使い方によっては階段やら、手に覆って攻撃したりすることができたな」

 

「へぇ…えっと、こんな感じかな?」

 

 見えない壁のバリアを動かし、バリアの形がまるで椅子のようになり、バリアの椅子に座るシャル。傍から見れば空気椅子をしているかのように見えるが、実際にシャルの尻の下にはバリア製の椅子が存在し、能力を持たない秋人達が驚いていた。

 

「で、次は鳥に変身できる奴だ。しかも、その力は不死鳥だ」

 

「不死鳥ですか?」

 

 不死鳥と聞き、セシリアが自身の体を見つめる。普通、不死鳥と聞けば赤い炎なのだが、なぜ蒼炎なのか一夏に質問するが「そこまでは知らない」と答える。

 

 さらに、セシリアの不死鳥の炎は敵や物を燃やす事は出来ないが、その変わり驚異的な回復力を持ち、あらゆる攻撃を防ぐ事ができる利点があるとの事だった。

 

「そんで、最後に鈴の能力だが…こいつは肉球であらゆる物を弾く能力だ」

 

「弾く?」

 

「あぁ、二キュ二キュの実の力で、触れた物を弾く事ができる。」

 

 一夏は黒騎士の腕だけを部分展開させ、肉球のついた熊の手を装備する。机の上にあったスプーンを肉球に乗せ、スプーンが肉球の上で何度もバウンドしてはねる。

 

 試しに、鈴も一夏と同じように角砂糖を肉球に乗せバウンドさせ、肉球の使い方に慣れてきたのか、角砂糖を増やし両手を使い始めた。

 

「…」

 

「? どうしたの?」

 

「あ、いや…その力を見ていると昔を思いだした。なんでもない…」

 

 一夏は、この力の元の持ち主である。鉄の体をした、かつて一味を救い二年間の修行の時間をくれた七武海を思いだし、心の中で感謝を述べた。

 

 

「だが、一夏。私だけは何も能力がないぞ?」

 

「? そうか、箒の時は能力使って無かったからか」

 

 箒は自身に力が付いてない事に肩を落としてしまう。電脳世界では、箒の前では能力ではなく剣で敵を倒したため、どうやら彼女には能力がつかなかったようだった。

 

「まさか、電脳世界で使ったその力が影響して、皆のISに...?」

 

「だが、この力は悪くはない」

 

 電脳ダイブしていなかった簪が冷静に皆の能力を分析し、ラウラが手を銃に変化させ満足していた。実際に、この間行われたキャノンボール・ファストでは侵入してきた武装した革命軍の兵相手にIS無しでも十分戦えたからだ。

 

 と、ここでバリアの椅子に座っていたシャルが

 

「でもさ、これって周りにバレたらまずいよね…」

 

 と言い出し、もし委員会にでもバレれば研究所行きがすぐに予想が付いて一夏も頷き、さらに重要な話が続く

 

「ちなみに、悪魔の実は食べると異能の力と引換にカナズチになるから、海とか水のあるところは注意しろ。入ってしまったら、二度と上がることができず沈むからな」

 

「そ、それを早く言いなさいよ!!」

 

一夏から能力の欠点を聞き、角砂糖で遊んでいた鈴が言い、手の平から角砂糖がバラバラと落ちて行き、慌てて皆が拾い集める。

 

 そんな中一夏は「いくら強い力があっても、そこには穴や弱点がある」と口にする。この言葉は幾多の強敵達と戦う内に一夏が学んだ一つであり、この言葉が後に彼女達にどう影響するかは今はわからない。

 

「ところで、お前らはどうしてここに来たんだよ?」

 

「それは…」

 

 砂糖を集め終えたところで一夏が質問し、秋人が答える。例の竜の蹄の紋章の事が気になり、もしかしたら何か手がかりが家に残っていると思い、探しに来た事。

 

 そして、自分達はIS委員会より近日行われる世界会議(サミット)の護衛を命じられており、任務の準備などで今日の夕方までには学園に戻らないといけないため、余り時間がない事を告られる。

 

「サミット?」

 

「そうよ、今世界中で様々な事が起こってるでしょ? 革命軍、ファントム・タスク、そして…黒騎士とか」

 

「おいこら、なんで俺なんだよ」

 

「それらに対しての会議で、IS委員会や各国の主要人物が集まるため、IS学園にも会場の護衛任務が入ったのよ。」

 

「って、無視すんなよ。それに俺は関係ないぞ」

 

いや、あんたは暴れ過ぎだよ…と、心の中で全員が突っ込む。一夏は、面倒だな~~とぼやいて、たこ焼き機を片付け始める。

 

「ほれ、これ片付けたらさっさと手がかり探すぞ。俺だって、まだ飯しか食ってないんだからな」

 

 これにも、箒達はあんたが飯を食べに来たんだろうがと思ったが、黙って片付けを手伝うのであった。

 

 ――その後、七人の少女と、二人の少年が家の中を捜索し、数時間が経ってしまう。秋人と一夏の部屋はもちろん、千冬の部屋や物置。さらに、昔両親が使っていた部屋も探すがこれと言った成果がないまま、外では夕陽が登り始める。

 

「どうしよう、もう時間が…」

 

 今、秋人と一夏は自分の部屋におり、時計を見るとそろそろ学園に戻る頃だった。だが、明日からは授業や世界会議(サミット)の準備とかがあり、次に来る機会は会議が終わってからのため、なんとしてでも今日中に何かを見つける必要があった。 

 

「うわぁ、懐かしいなこれ」

 

 一方で一夏は、自分の机から出た数冊のノートを見て懐かしみ、ページをめくると鍵開けのやり方などが書かれていた。実は、このノートは昔、千冬と秋人にコンプレックスを持っていた一夏が、二人よりも優れたいと思い、様々な技能を身に付けようと努力した証だった。

 

実際に、秋人と二人で誘拐された際、鍵開けの勉強をしていたおかげで手錠を外し逃げる事ができていた。

 

「兄さん…」

 

「悪い悪い。けど、なんにも出ないな…」

 

「そうだね…姉さんが父さんと母さんに関するものは全て捨てちゃったから…はぁ、結局ダメだったのかな…」

 

 押入れのダンボールを床に起き秋人がため息をつく。と、ドアがノックされ部屋に簪と鈴が入って来る。

 

「秋人、そろそろ」

 

「鈴…うん、わかってる。一度、皆を呼ぼうか」

 

 疲れた顔をして鈴と秋人が部屋から出ていき、簪と一夏だけが部屋に残る。一夏は、再びノートを広げ読み、簪は一度呼吸を整え声をかける。

 

「ん、どうした?」

 

「そ、その…ま、また会えるよね?」

 

「? まぁ、そうだな。」

 

「だったら、これを…」

 

 簪は顔を赤くし、自分の連絡先を書いたメモを一夏に渡し「待ってるから!!」と言い部屋から慌てて出て行く。そして、一夏が部屋のドアを睨み

 

「で、あんたも何のようだ?」

 

「あれ? 気づいてたんだ?」

 

 隠れていた楯無が一夏の前に出てくる。一夏は、面倒だなとため息をつきノートに目を通そうとするが

 

「はい、これ。私の連絡先だから。いつでも、遠慮なくかけてね」

 

「安心しろ、連絡する気は全くないから」

 

「もう、意地悪…」

 

 一夏に無視され、頬をふくらませながら彼女は背に優しく抱きついてくる。流石に、しつこいと思い、注意しようとすると耳元で声をかけられる。

 

「ねぇ、一夏君は本当は何をしたいの?」

 

「俺?」

 

「そう、異世界で海賊やって。やっと戻ってきたのに、秋人君や織斑先生にまともに顔を合わせずにずっと一人で。寂しくないの?」

 

「...確かに、二人には済まないってのはあるが…まぁ、今はマドカの事とかあるしな…って、おまえこそ何がしたいんだよ? 」

 

「私? 私はただ一夏君が気になるだけよ? なんなら、この間のお礼にお姉さんがもっといい事してあげてもいいけど?」

 

 この間の事とは、キャノンボール・ファストの事で、その事を思い出し楯無と一夏の顔が赤くなる。楯無は服をはだけて、胸元を見せるようにするが。一夏は視線をそらし「お断りだ」とだけ答える。楯無は「あら、ご褒美いらないの?」と言うが一夏は答えない。

 

 楯無は仕方がない、と言う風にため息をついて、一夏から離れ部屋から出て行く。残った一夏は、二人から渡された連絡先を見てため息を吐き出したーー

 

 

「結局、兄さんは家にいるって言ってたけど、大丈夫かな…」

 

「大丈夫なんじゃない? それにしても、アイツかなり変わったわね…」

 

 IS学園行きのモノレールに乗り込む秋人達。と、席に座りモノレールが動き出したところで楯無と簪の端末にメッセージが入り、二人は慌てて見る。

 

「まぁ、一応登録したからよろしく」

 

 短く、そんな事が書かれていたが、簪は笑みを浮かべ急いで返信を送る。

 一方で、楯無には「何かあったら連絡しろ」と書いてあり、喜びながら返信を返すのであったーー

 

 

「…何やってんだろ、俺は…」

 

 女の子二人に連絡を入れ、一夏は両親の使っていた部屋に大の字で横になる。すでに外は暗く、電気をつけようとして一夏があることに気づく。天井の一部が、色が違う事に、

 

「あれは…」

 

 色の違う部分を叩くと板が外れ、天井裏を見ると古い一冊の本を見つけた。本にたまった埃を払い、ページを開きページを進めて行くと…一夏の顔が驚きに変わり、古びた本を床に落とすのであったーー

 



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三十七話 銀騎士

 久しぶりに更新しました。
 
 明日からゴールド上映ですが、私は仕事のためすぐに見に行けません...

 ちなみに、キノ×ISとか他の作品も更新中です!!


 

「いっくんの考えた装備とかもつけてみたけど、すごいでしょう?」

 

「これが…私のIS…」

 

 研究所の一角にて、マドカと束が銀色に輝く一体のISの前に立っていた。

銀のISは姿形は一夏の二代目黒騎士に似ていたが、マドカは特に嫌そうな顔をせずまだ名も決まっていないその機体に搭乗した。

 

 マドカはシステムをチェックし、装備も使用可能状態であるのを確認し開いた天井から飛び島の周りを驚くべき速さで旋回した。

 

「「どう? なかなかすごいでしょ!!」」

 

「あぁ」

 

 興奮する束に対し、マドカは短く返事を返す。だが、内心では前の機体であるサイレント・ゼフィルスよりも性能が段違いであることに少しは驚きながらも彼女はそのまま機体の稼働テストを続けた。

 

 銃剣であるスターブレイカーⅡ(セカンド)の射撃で的を落とし、別の的を剣で切り切り裂く。

 

 さらに、前機よりも改良されたBT(ビット)兵器や、機体の指先から糸のような物を出し海上にあった的を確実に破壊して行く。

 

(…奴は、まだ戻っていない、か…)

 

 操縦しながらマドカは、まだここに戻らない人物の箏を思いため息をついた。先日、兄妹の杯を交わし、世界最強の女性の遺伝子から作られた自分を家族として受け入れた彼は世界中にある革命軍の基地を探していた。

 

 彼は何故かマドカは所属していたファントム・タスクよりも革命軍を探す箏に固執しているように見え、もし近いうちに戻ってきたら聞いてみようと思いながらエネルギーに余力があるのを確認しマドカは研究所に戻った。

 

 この時彼女は気づいていなかった。前の自分であったならばこの銀の機体を奪ってファントム・タスクに戻る選択をしていたかもしれないことに。そして、一夏たちと一緒にいる箏が心地よくなっていたことや彼女自身が変化したことにまだ気づいていなかった。

 

「お疲れ!! いや~~なかなかいい動きだったよ!! けど、残念だね、アレのテストもしたかったけど、さすがに使ったら研究所が壊れるかもしれないし」

 

 束の言葉を聞いて、さっきのテストで使わなかったとある装備を思いだす。その装備も一夏の考えをもとに作られたのだが、その威力は今まで見てきたどの兵器よりもとんでもない破壊力をしており、こんなところで使えば島が無事で済まないのもあたり前だ と思いながらマドカはISから降り、部屋を出るのであった。

 

 部屋を出て、マドカはシャワーを浴び何故か大量に置かれたコーラ瓶の一つを取り飲み始める。組織にいた時はこんな物を飲む箏はなかったが、この島に来て一夏に勧められてから彼女も毎日飲むようになっていた。

 

「あいつは、一体どこにいる…」

 

 イラつきが混じりながら、マドカが傍にある端末を使い一夏に連絡しようとした時だった。鍛えられた耳が遠くからの物音に気付き、マドカは顔を上げ慌てて部屋を出る。

 建物から出ると、黒い機体が島の浜辺に降り彼がこっちまで歩いて来ているのが見えた。

 

「…遅かったな…」

 

 視線をそらしながら、目の前まできた一夏に声をかける。だが、一夏の方はいつもとどこか様子が違っていた。体にはどこか負傷したところは見られないが、何故か心あらずといった感じで「あぁ」とだけ返事を返して建物の中に入っていく。マドカは、様子がおかしい彼の背を見ながらゆっくりと後を追うのだった。

 

「いっくーーん!! お帰り!!」

 

 普段より三倍以上テンションが高い束と、コーラ瓶を持ったクロエが出迎えるが。一夏は疲れた様子で部屋に戻っていく。

 

「いっくん…」

 

「一夏様…」

 

 閉ざされた部屋の扉を見て束が不安になり、クロエもいつもならすぐに飲み干してしまうコーラを手に取らない一夏に同じく不安になっていた。

 

 一方で、一夏は自室のベッドに横になり古い本を眺めページをめくる。

 

「…」

 

 織斑家の両親の部屋に隠してあった本を何度も読んだ後、本を傍に置いて目を閉じた。

 

(親父…お袋…これに書いてあるのは本当なのかよ…だったら、俺は、いや俺たちは…)

 

「何があった」

 

考え事に夢中になっていると、ノックもなしにマドカが部屋に入っていた。いつもなら見分色の覇気であたりの様子などすぐにわかるのだが、今の一夏は覇気に集中する余裕もなく、こうしてマドカの侵入を簡単に許してしまっていた。

 

「まぁ、いろいろとな」

「...それが、原因か?」

 

 マドカの言うそれとは、ベッドに置いてある本の箏だろう。マドカは一夏の断りもなく本のページをめくる、すぐに本を閉じ一夏を見る。

 

「なんなんだこれは?」

 

「親父達の部屋にあった。どうやら親父の日記らしいけどな」

 

「意味が分からんぞ、どうしてこんな物でお前がそこまでなる」

 

 本の内容はわかっていないが、マドカは自分より圧倒的に強いはずの一夏がこんな状態になった箏に怒りながら問い詰める。こんな古ぼけた本、いや日記がどうしてこの男をこんなに悩ませているのか。マドカは理由が聞きたくていつの間にか一夏の胸倉をつかんでいた。

 

「…前に話したような、俺が海賊だったの。そん時にな、金と権力に腐った連中がいてな、そいつら世界を作った家族とかなんやらでとにかく最悪の奴らだった」

 

「それと、今のお前とどう関係する?」

 

「もしかしたら、俺たちはーー」

 

 

 夕暮れの部屋の中、一夏がマドカに何かを告げた。

 

 マドカは、一夏の言葉を聞きいつの間にか胸倉をつかんでいた手を放しベッドに力なく横になっている一夏を見る。

 

「…それが、どうした…」

 

マドカが口を開く。

 

「そんな箏関係あるか…お前が海賊だろうが何だろうが、私よりも力があるだろうが」

 

「マドカ?」

 

「そんなお前が、そんな無様な姿を…私を馬鹿にしているのか!!」

 

 怒りとどうしようもない気持ちがこもった叫びを放ち、マドカは部屋を飛び出した。そして、一夏は見てしまった。マドカの目に涙が流れて、いたことに。

 

「…たく、女泣かせちまった…」

 

 一味の中で女性に紳士であり、足技の元となった人物に心の中で謝罪するが。頭の中で怒りを露わして炎上しているコックと何故か女子供に人一倍優しい航海士の怒りの顔が浮かんでいた。もし、今の状態を二人に見られていたら、きっと怒るよな と思いベッドから起き上がる。

 

 マドカが何故泣いていたのか、理由はわからないがこのまま放置していては杯を交わした意味がない。もう一夏とマドカは敵同士ではなく家族なのだから。

 

 一夏は、マドカの部屋の前に立ち。彼女が中にいる箏を気配で感じ扉をノックした。数秒返事がなく、一夏はため息をつきながら扉を開いた。

 

「…なんの用だ…」

 

 ベッドの上で目を赤くし、視線をそらすマドカ。一夏は、マドカの前に立ち頭を下げた。

 

「すまん」

 

マドカは頭を下げた一夏を無視したが、すぐに口を開く。

 

「やめろ…そんな見苦しいものは見たくはない」

 

「その、俺も悪かった…あちこち行っておまえとあんまり話す機会がなかったから…それに、お前の中にあるナノマシン。束さんに解除の方法を頼んでいる」

 

「何?」

 

「俺も、連中の基地回って情報は集めていたけど、もう少しで何とかなりそうだから…」.

 

  申し訳なさそうに話す一夏を見て、マドカは驚いていた。先ほどの一夏の部屋で話した箏でなぜ彼が革命軍を追っていたのか理由が分かったが、まさか自分の中に仕込まれていたナノマシンの制御方法まで調べていた箏を知りマドカは

 

「おまえは…馬鹿だな」

 

「は、何?」

 

 突然の罵声に一夏がマドカを見ると。マドカの顔は笑顔だった。ここに来て初めて見せるマドカの笑顔に一夏は驚くが、すぐに彼も笑顔になっていた。その後、二人はベッドに腰かけいろんな話をした。

 

一夏は、冒険で起こった箏だけでなくこの世界に戻りしてきた箏を

 

マドカは組織にいたときの話を

 

 二人の間には緊張した空気がなく、まるで長年連れ添った兄妹のように見えた。そんな二人を部屋の外にいた束とクロエは安心した様子で見守るのであった。

 

 

 翌日。一夏達はマドカのISのある部屋にいた。

 

「こいつが…マドカのIS…」

 

「そう、いっくんの黒騎士の妹分である機体だけど、まだ名前が決まってないんだよう。ねぇ、何かないかな?」

 

「俺が決めていいのか?」

 

 操縦者であるマドカは何も言わない。一夏は少し悩んだ後、

 

「銀騎士…ってのはどうだ?」

 

 新たなるISの名を告げ、マドカは軽くうなずく。

 

 こうして、秋人達が知らないまま。兄妹の絆は深まり、新たなるISの名が決まるのであったーー

 



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三十八話 学園の日常 1

 三ヶ月以上更新遅れてすみませんでした!!

 


 「う~~終わった!!」

 

 この日の最後の授業が終わりニ組にて、席に座り背伸びする鈴。鈴は荷物を手に取り、いつものように隣の一組に入り秋人を中心にして集まっている箒やセシリア達に声をかけた。

 

「秋人、行くわよ」

 

「分かった。皆行こう」

 

 秋人達は教室から出て行こうとしたがクラス女子達に「どこに行くの?」と声をかけられ秋人は先生に呼ばれてと 適当な事を言い皆と共に教室から出る。

 

「それにしても、こう毎日打ち合わせばかりで大変だな…」

 

「仕方ないですわよ秋人さん。これは委員会からの命令ですので…」

 

「それに、この件には我が軍だけでなくあらゆる戦力が動いている。それほど今回の任務は重要と言うことだ」

 

 ため息をつく秋人にセシリアとラウラが仕方がないと言った感じで答えた。

 

「けど、まぁ私達候補生っていろいろ訓練してるからいいけど」

 

「秋人や箒はこういう任務って始めてみたいだからね…」

 

 歩きながら話す鈴とシャル。

 

 彼女達の話す任務とは近々IS委員会本部で開催されるサミット(世界会議)の護衛任務の事だった。

 

 近年動きが活発している革命軍、裏で暗躍する亡霊。さらに世界初の二人の男性操縦者の発見と白騎士を思わせる「黒騎士」の登場など様々な問題について対策を講じる場であるのだが、委員会の幹部や各国の首脳など重役を一箇所に集めれば当然狙われる。

 

 そのため、今までにない警備と護衛を会場に敷くため委員会からIS学園の専用機を持つ生徒全員に護衛を命令し、そのために秋人達は放課後になると会議室に集まりサミット当日のスケジュールや配置などを話しあっていた。

 

「しかし敵は来るのか? いくら奴らでも今回は手出しはできんだろう?」

 

「箒…」

 

 箒は頭の中で当日の警備状況を思い出していた。会議に参加する国の軍を総動員するだけでなく学園にもあるISを総動員させた馬鹿げた戦力を前に果たして戦いを挑む者などいるのであろうか?

 

 箒の言うとうり、この戦力に向って行くなど自殺行為に等しいのだが、秋人は納得できない顔をしていた。

 

「例えそうだとしても、敵は普通じゃないんだ」

 

 まっすぐな目をしてつぶやく秋人。秋人は胸の中にある不安と、今までの敵の事を思い出し自分の中ではっきりとした答えが出ていた。敵は必ず来る と。

 そして、自分や皆が敵に倒されてしまった時は、黒の切り札が最後の希望になる。

 

 「ん?」

 

 秋人はふと、考えるのをやめ窓の外を観た。整えられた中庭の木々が見え、そこから何かの視線を感じたのだが、鈴達に声をかけられ慌てて秋人は会議室に入って行く。

 

「…やっぱりあいつは見聞色よりか…」

 

 木の枝に乗っていた一夏がつぶやいていた。

 

「さて、これからどうしたもんかな、っと」

 

 六式の月歩と剃を使い木の上を移動する一夏。ふと視界の端で何か動き足を止めて身を潜めた。

 

 見ると庭の端で土の入っている袋をもった初老の男性がおり、男性は額に汗を流しながら土入りの袋を持って歩く。しかし数歩歩いたところで体のバランスが崩れ男性が倒れそうになり、一夏が剃で駆け寄り男性の体を支えると。

 

「なぁ、これどこに持っていけばいい?」

 

「え?」

 

「面倒だろ、一気に持って行くよ」

 

 呆然とする男性から袋を取り一夏はさらに地面に置かれていた他の袋を全て持ちあげた。男性は一夏に戸惑うが、礼を言って花壇の方を指指し一夏は袋を運ぶ。

 

「なんだか頼んでしまってすみません」

 

「いいよ、すぐに片付けるから」

 

 一夏が言うとうりに、たった数秒で全ての袋を花壇まで運び終えてしまい。男性はお礼にと缶コーヒーを奢り、二人は花壇の傍で腰かけた。

 

「いやぁ、どうもありがとうございました。私は轡木十蔵(くつわぎじゅうぞう)と言う者で、この学園で用務員をしている者です」

 

「ふぅん」

 

 頭を下げる十蔵を見て一夏は、庭の整えられた草木を見る。

 

「これ全部一人で?」

 

「お恥かしい話し、この歳になりますと余り趣味が少ないもので…それと、こう言ってはなんですが、他の生徒達に見つかる前に早く行かれた方がいいと思いますよ…織斑一夏君?」

 

「あぁ、やっぱり知ってたか…」

 

「それは世界的に有名ですからね、それで今日は一体何の御用でこちらに? 織斑先生でしたらまだ病室ですが」

 

「そっちは後で行くけど、まずは弟の様子を見たくてね。」

 

 一夏はいつ見つかって通報されるか分から無い状態と言うのに男性に何も隠さず話してからコーヒーの礼を言って庭から離れようと立ちあがる。すると十蔵が声をかけた。

 

 「あなたにあったらお礼を言いたいと思ってました。何度も生徒達を守っていただいてありがとうございました。これからも、この学園の生徒達を守ってください」

 

 「って、なんであんたが頭下げるんだよ?」

 

 十蔵は深々と一夏に頭を下げ礼を言う。実は、この男性こそがこの学園の理事長であるのだが一夏はその事を知らない。十蔵は顔を上げ、真剣な目で一夏を見つめる。

 

「こんな質問は失礼かと思いますが。あなたは誰の味方なのですか? 秋人君や織斑先生がいるからこの学園を守ってくれたのですか?」

 

 「俺か? 俺は海賊だ。自由気ままにやるだけ、だから誰かの味方とかじゃない」

 

 一夏はそれだけを言いその場から立ち去る。そして残った十蔵は笑を浮かべ

 

「海賊ですか…ふふふ、面白い少年だ」

 

 とつぶやくのであったーー

 



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三十九話 学園の日常 2

 久しぶりの投稿になりました。

 今年は他の作品を出したりして時間がかかってしまいましたが、感想や指摘などを本当にありがとうございました!!

 今年最後の更新ですが、来年もどうかよろしくお願いします。


 

 夕方。会議が終わり、秋人はアリーナで白式を展開し三機のリヴァイヴに囲まれていた。

 

 理由は会議の後、上級生達がサミット(世界会議)の情報を教えるように言い出したのが原因だった。サミット(会議)では各国の首脳だけでなくIS委員会の人間も参加しており、これで自分の存在をアピールすることができ自信の将来のためになると考えがあった。

 

 専用機持ち、そして男である秋人が目障りなため情報を手に入れるだけでなく警備に参加できるチャンスを得ようと後輩を潰す事にしたのだった。

 

「最近調子乗ってるよね、男の癖にさぁ」

 

「先輩として、ここは指導してやんなきゃね」

 

「さっさと負けなさいよ」

 

「なんでこうなるんだ…? 」

 

 秋人は面倒と思いながらため息をつき、三人は先ほどから自分達は偉いとかなんとか言っているが、全て無視した。無視された事で女達は怒り、試合開始のブザーがなると同時に三機は白式を囲ってライフルを連射する。

 

 秋人はあらかじめ、彼女達の動きが分かっており。まずは、近くにいた一機に向け銃弾の動きを感じながら避けライフルを切り捨てる。距離をとり背後から二機が迫るが、後ろを向かず上昇し後ろからの攻撃も回避した。

 

「な、なんなのよあいつ!?」

 

「どうして当たらないのよ!!」

 

 女達が狙いをつけ撃つが、一発も白式に当たらない。前に一夏が教えてくれた見聞色の使い方が身についたのか、秋人は焦った様子もなく今度は弾丸を弾きながら接近する。

 

「はぁぁぁ!!」

 

「きゃぁ!!」

 

 単一仕様能力である零落白夜(れいらくびゃくや)を発動させ、一体目のリヴァイヴのエネルギーを0しISが解除される。試合が始まってたった数分で仲間がやられた事に驚きつつも、残った二人は笑を浮かべ秋人を見る。

 

「…ん?」

 

 アリーナの端の方で、何かの視線を感じ姿は見えないが人の気配があった。だが、センサーには何も反応がなく、どういうことか? と考えていると再び二機の攻撃が始まる。

 

ブレードとライフルをそれぞれ持ったリヴァイブが白式の周りを飛ぶ。秋人は次の攻撃

に備え構えるが敵の二人は何故か笑を浮かべており、違和感を感じた時。自分に向けて殺意を感じ咄嗟に機体を動かすと機体にライフルの弾がかすった。

 

「なっ!?」

 

 どこからか放たれるライフル弾を回避し。二機のリヴァイヴが攻撃してきた。

 

「はははっ!! どうしたの?」

 

「ぐっ!!」

 

 ブレードを弾き、どこからかライフル弾が自分に向ってくる。センサーには何も反応はない、だが人の気配は確かにしている。

 

(!! まさか!!)

 

 秋人は、二機から距離をとり気配のする方に向かう。ライフルの弾丸が前の方から向ってきて切り捨て、アリーナの壁に向け刃を立て切りつけると、一体にリヴァイヴの姿が現れた。

 

「やっぱり!!」

 

 秋人は、姿を隠していたリヴァイヴに零落百夜を発動し一瞬で戦闘不能にし。後ろから迫ってくる二体に向かい、能力を発動したままの雪片の刃で一瞬で二体を倒してしまった。

 

「そ、そんな…」

 

「こんな馬鹿な…」

 

 負けた上級生達は信じられない と言った顔で秋人を見るが。秋人は、傍に落ていた布のようなものを持ち眺めていた。

 

「なんだこれは…?」

 

「それは、IS用のステルス装備だ」

 

 気づけば観客席にいたラウラが説明し、傍には箒達もいた。

 

「今はまだ軍でも実験段階と聞いていたが….」

 

「え? じゃ、なんでこの人達そんなの持ってたの?」

 

 秋人が倒れている上級生達を見る。いくらIS学園の生徒といえど、私用の試合でISのセンサーまでごまかせる物を使っていいものか、そもそもどうやってこの装備を手に入れたのか… 秋人が考えていると、教員達が駆けつけ事情を説明する羽目になった。

 

 後に試合をしてきた上級生達は取調べと何かしらの処罰があると聞かされるが、この時まだ秋人達は後に起こる事件の前触れであることに気づくことはなかった…

 



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四十話 魔の海域

久しぶりの投稿と一つ報告。

 この麦わらの一味ですが、もうじき終わる予定です。

 理由としては、私用で遠くの方に行くためその前に一区切りとして完結させたいと思ったからです。

 相変わらず誤字や間違いが多いかもしれませんが、最後までよろしくお願いします!! 


  バミューダトライアングル

 

 日本から離れた海域で、その海域を通ると船や航空機。さらに乗っていた人間も消えてしまうとされ別名「魔の三角海域」とも言われている。

 

 一部のオカルトや超常現象の研究家達の間では、この海域には人を食らう怪物がいる、実は秘密組織のアジトである、別世界への入口になっているなど噂が流れているが、宇宙進出を目的としたISなどの高度な技術が世界に広がっているこの世界では誰も信じようとは思わない。

 

 だがこの日、この奇妙な海域に三隻の軍艦が今まさに入ろうとしていた。

 

 軍艦の甲板にはISを展開し待機している一団の姿があり。その中に、ラウラが隊長をしている部隊の副隊長をしているクラリッサ。さらに、アメリカ軍所属で、福音の元操縦者であり今は量産機のリヴァイヴに乗るナターシャと同じ軍所属で専用機ファング・クエイクに乗るイーリスの姿があった。

 

「…不気味ね」

 

 濃霧により視界が悪くなる中、ナターシャがつぶやく。彼女達がこの不気味な海域に入る理由はIS委員会直属の命令からだった。近日に行われる世界会議(サミット)のため世界中の軍は今不穏分子の排除で動いており、世界各地でテロや犯罪組織との交戦が続いていた。

 

 ナターシャ達がここに来たのも、不穏分子の調査と排除が目的であり、しかも各軍のIS部隊を集めた精鋭達がここにいる事はこの任務の危険度を表していた。

 

 (革命軍…!!)

 

 ナターシャ唇を噛み締め、拳に力が入っていた。数ヶ月前、自身の乗る予定であった機体を奪い世界を荒らした犯罪者達に彼女は怒りと憎しみを抱いていた。その機体にはまるで家族のような愛情を注いでいたため、とある任務で気がついた時に自身の手の中に帰ってきた時は大粒の涙を流した記憶は今でも覚えていた。

 

(そういえば、彼は…)

 

 あの後、福音は敵に奪われた事から凍結が決まり軍に厳重に保管されてしまったがナターシャはある人物の事がずっと気になっていた。以前に黒騎士の黒剣を本部に送る任務が失敗して以来、福音を黙って返してくれた黒騎士の事。

 

 調べていくうちに、操縦者があの死んだと思われていた織斑一夏だった事に驚き何とかコンタクトが取れないか試したが神出鬼没で現れるため連絡の手段など取れるわけがなかった。

 

 しかも、黒騎士はISに乗れない男性だけでなく、軍の女性にもファンがいるらしく時折クラリッサや別の部隊の者と黒騎士の事でいつしか話題が弾んでいた。

 

「「まもなく、作戦開始時刻です。各員警戒を厳に」」

 

 オペレーターからの通信を聞き、気を引き締めるナターシャ達。三隻の船が魔の海域に侵入する。

 

「こちら異常なし」

 

「引き続き、警戒を行う」

 

 甲板上や上空を警戒をするIS部隊。船は何にも阻まれる事なく進み、辺りからは鳥の声はなく不気味な雰囲気が漂う。

 

(…静かだ)

 

 クラリッサが内心つぶやき、上空から船を見ていた。もし敵の基地があるとすれば既に敵は自分達の存在を感知し何かしらの迎撃があってもおかしくはない。なのに、船が進んで一時間以上は経つが何も起こらない。

 

 もしかしたら、始めから敵はいなかったか。もしくは、わざと自分達を進ませているのか…

 

「!?っ 」

 

 クラリッサが船に停止を命令しようとした時、辺りに強烈な光が発生し船の周りにいた全ての機体が動かなくなり、数分後三隻の船から火と煙が上がっていたーー

 

 

「どうやら邪魔者は網にかかったみたいね」

 

 暗い部屋の中空間ディスプレイに浮かぶ、沈んでいく三隻の船を見て呟くエレン。

 

「エレン様、世界各地にいる同志達から定期連絡です…D地点、反乱軍の勝利です」

 

「さらに、O地点も我らが加勢した組織が軍を撤退させました」

 

「それは何より、ですが…「勝利に酔うな。油断するなと全ての同志に伝えろ」 っ!!」

 

 エレンの背後には、サングラスで顔を隠した男。ブラットが立ち、エレンの言葉を遮った。

 

「これは戦争だ…そう、世界を正しくするための戦争だ」

 

「全ての同志達に伝えます…後は黒騎士を…」

 

「手は打ってある、例えあの海で奴を落とす事ができなくても、今度は世界の全てが奴にとって敵になる」

 

「はい…それでは」

 

「強化兵士の配置を急がせろ、対IS用兵器もだ。我々も、IS本部へ向かう。これからが本当の戦いだ」

 

 ブラッドの後をついていくエレン。研究所兼基地の中を二人が歩いているとエレベーターの前に赤毛の女性が立っていた。

 

「奴はここに来るのか」

 

「恐らく来るでしょう。何度も我々を邪魔してきたのですから。期待していますよ、アリーシャ・ジョセスターフ」

 

 赤毛の女性は睨むが、エレンは気にしないままブラッドと共にエレベーターに乗る。 

 

「織斑千冬に負けた女を信用してもいいのですか?」

 

「心配するな、あの女の思想は我々とは違うがアレも戦士だ。例え倒れようとも、傷の一つや二つはつけるだろう」

 

 三角海域の中心にある島から、一機の高速戦闘機が飛び立ちそこにブラットとエレンの姿があった

 

 そして魔の海域に向かった部隊との連絡が途絶え三日が経ち

 

「バミューダか、あっちでも影とられて面倒だったな…」

 

 黒のISが魔の海域に入っていく。この時世界会議(サミット)まで残り三日ーー

 



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四十一話 霧の海と疑問

「しかし、深い霧だな~~」

 

 霧がかかる魔の海域にて、黒騎士を操縦する一夏がぼやきながら進む。以前、ファントム・タスクのオータムとの取引で手に入れた革命軍の情報を元に世界中を回っていた。既に廃棄された研究所や人目のつかない秘境に作られた基地に潜入したりした。

 

「連中の狙いはサミットだが…ここに、仕切っている奴がいれば…」

 

 既に革命軍の次の狙いは分かっていたが、そちらは別の方に任せると判断し霧の奥に進むと、黒騎士に異変が起こる。ディスプレイの表示に歪みが生まれ、機体が安定せずどんどん降下していく。

 

「何!? っしかたね!!」

 

 機体の操作が不能になる前に、一夏は黒騎士を解除し体術の一つである月歩で空中を移動する。突然のことで驚きつつも海に落ちなかった事に安堵しながら足を高速で動かし一夏は進んだ。

 

「あぶねぇ…海に落ちたらまずかった、一体何が起きた…ん?」

 

 海上に煙をあげ、沈みかかっている軍艦を見つけ一夏は艦の上に着地した。束に連絡を取ろうとしたが、通信が入らない。ISの製作者である束の黒騎士や端末が作動しないとなるとそれほど強力な何かに妨害されているのに気づき舌打ちをする。

 

「やっぱり罠か」

 

 月歩を使いこの海域を抜けるには遠すぎる、かといってこの今にも沈みそうな船を使っても近くの島まで行けるか分から無い。移動手段を失い、ため息をつきながら船の中を探索してみた。

 

 倉庫には脱出用のボートはなく、船室には船員達の物や備品があちこちで散乱しており

誰一人もいない船の中は不気味だった。やがて、荒れ果てた操舵室に入り電源が生きていたPCの記録を見てみた。

 

「「敵襲だ!! IS部隊、応戦を!!」

 

「「せ、船長!! ISが、ISが作動しません!! 」」

 

「「それどころか、操縦者達が海に!! 早く救助を!! うわぁぁ!!」」

 

 映像には、どこからか攻撃を受け慌ただしく走る船員達と悲鳴の声が聞こえた。さらに、船の上空で待機していた数機のリヴァイヴが力なく海に落ちる姿まで映っている。

 

「「だ、だすけて!! き、機体が動かない!! 」」

 

「「いっ、いや!! み、水が!!」」

 

「「き、機体から出れない!!  」」

 

 水中からの防御機能まで動いてないせいで、操縦者達は鉄の塊を身につけたまま海に沈んで行く。仲間であった他の二隻の軍艦は霧の中からの攻撃により爆発を起こし音を立てながら沈む。それから、艦長らしき人間が退避命令を下し操舵室が爆発した所で映像が終わる。

 

「機体が動かない…船にいた人間は全員…!?」

 

 突然船が大きく揺れ、一夏が外を見ると島があった。さっきまでこんなに近くには島などなかったはずだが、実は島の方が船に向って動いていた。島の港に当たる所から大きなアンカーが放たれ、船を捕まえると船は引っ張られ島の方に動いていく。

 

「畜生、嫌な事思い出したじゃねぇか!!」

 

 動く島と引っ張られる船の中で、一夏は影を奪う海賊の事を思い出しながら声をあげたーー

 

 

「…やっぱり、サミットか…」

 

 自室のベッドで端末にあるメールを見てため息をつく弾。

 

「ちくしょう、俺はどうしたらいいんだよ…」

 

 弾の頭の中では、自分の所属する組織と戦っている親友の姿があった。学園祭で再開した親友は、自分が犯してきた罪を告げても軽蔑も差別もせず昔と変わらず接してくれた。

 それなのに自分は世界を変える力を与えられ、任務をひたすらこなした。世界を、歪んだ社会を変えるために。だが、弾の中では大きな疑問もあった。

 

 こんなことをいつまでも続けてもいいのか?

 

 最近の革命軍は強化兵の実験が成功したせいか、自分と同じ境遇または社会などから捨てられた者を強化し世界中の戦いに送りこんでいた。限界まで強化された者は、体が耐え切れず粒子となり、開発した研究側は人が消えてしまう事に悲しいなどの言葉を口にはせず、どうでもいい使い捨ての道具をみる目をしていた。

 

 自分は一体何をしてきたのか疑問に思い、悩んでいるとスマホの方に電話がかかり応答すると

 

「「あの、おはようございます…虚です」」

 

「え!? あ、お、おはようございます!!」

 

 思いもよらない人物からの電話に背を正す弾。

 

「「あの、もし無理ではなかったら…一緒にどこかにいきませんか?」」

 

 電話が終わると、弾は慌てて寝巻きから着替え髪を整えて外に出る。家の方から妹の蘭が声をあげるが弾は気にせず走り続けた。強化された体が役に立ち数分でIS学園へ行くモノレール駅に辿りつきそこには私服姿の虚がいたーー

 



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四十二話 虚と弾

「…」

「…」

 

 休日の町中は人が多く、あたりは騒がしかった。弾と虚は無言のまま歩きお互いに何から話した方がいいか悩んで時間が過ぎていく。

 

(あ~~何話せばいいんだよ…映画、いや、そもそも何観ればいいかわかんねぇし…)

 

 弾はため息をつき髪をかきあげる。と、建物に設置されている大型テレビを見て目が止まった。

 

「「――世界各地にて、テロ組織の動きが活発化しており軍はIS部隊を現地に派遣しているとの事ですが…」」

 

「「ISがあるのだから、たかがテロ組織など余裕でしょう」」

 

「「しかし、噂ではテロ組織との交戦中にISが機動しなくなり操縦者が殺されているとも聞いているんだぞ!! それに、生身でISと戦える兵士もいるとも聞いている!!」」

 

「「ふん、どうせデマか何かでしょ? 余計なことに惑わされてこれだから、男は」」

 

「「な、なんだと貴様!!」

 

 何かの生討論の番組がテレビに映り、スーツを着た女性が年をとった男性に向けくだらない発言をしたのがきっかけで、男女に分かれて互いを責め立てていた。

「男は何もできない」「女は黙って、子供をつくればいい」など、次第に子供の喧嘩のようになり画面が切り替わりCMが流れる。

 

(ISが機動しない…あの兵器か。確かにアレを使えばサミットにいる護衛ISは無力化できる)

 

 組織の研究チームが作りあげていた対IS用兵器。サミットで行う作戦にもこの兵器を使う事は知らされており、世界中の紛争で使える程の数を揃えていた事も知っていた。

 

(だが、隊長達はサミットの参加者を人質にとった後何をするんだ? ただ、IS委員会を潰すだけでは…)

 

 「あの…」

 「え? あ、すみません」

 

 CMの流れるテレビから目をそらし虚に謝る。今は作戦の事を考えている暇ではない、せっかく誘ってくれた虚を飽きさせないようにしようと映画館があるデパートに入る。

 弾は彼女に、どんな映画を観るか、趣味は何かなど顔を赤くしながら質問しぎこちないまま話しをする。

 

「ちょっと、まじうざいんだけど」

 

 二人が服売り場の近くを通ると、高価な服を着た女性が安物のスーツを着た男性にガンを飛ばしていた。女性は男性が持っていた靴を投げ飛ばし「これ、私の欲しい物じゃない」と大声で叫び、男性はひたすら謝る。

 

 ISの登場によりこういった光景があり、周りにいる人間は無視するか、好奇の目で二人の男女を見る。

 

「っ!!」

 

 弾は顔をしかめ、靴を慌てて拾う男を見る。昔、クラスの女子達に迫害を受けた自分の姿を思いだし、力強く拳を握る。今すぐにでも女の方を殴りたいと思った時、男の目が一瞬だけ、怪しくなったのが見えた。

 

 男は投げ捨てられた靴を片付け持っていた大量の紙袋を女性の傍に置きどこかに行く。そして、残された女性は舌打ちをし紙袋を拾うとした時ーー

 

 ドンッ!!

 

「「きゃぁぁぁぁ!!!」」

 

 紙袋から爆発が起こりあたりに人々の悲鳴が広がる。

 

「な、何…」

 

「っ!! くそ!!」

 

 呆然とする虚をかばいながら弾は舌打ちをした。爆心地の傍にいた女性だった黒い物を虚に見せないようにし、パニックを起こし逃げ惑う人々の中からさっきまで女性にコキ使われていた男性がいた。そして、右手には銃を持ち引き金を引く。

 

「くそ女ども!! よくも俺を奴隷みたいに扱いやがったな!! 」

 

 男は手当たり次第に目に映る女性に向け銃を向け引き金を引き続けた。床に赤い液体が流れ、銃声が起きるたびに誰かの苦痛の叫びが聞こえた。

 

「や、やめろ!!」

 

 男に向って飛び出す弾。男の持っていた銃を叩き落とし、鳩尾に一撃を加え男が口から唾液を流しながら倒れる。

 

「ぐふっ!!」

 

「なんでこんな事しやがる!? なんで、人をそんなに傷つけられるんだ!!」

 

「ふぅふぅ…お、おまえに分かるか!! あの、女は私の全てを奪った!! 金も家も全てだ!! 私の人生を踏み潰した女どもに制裁をしてなにが悪いんだ!!」

 

 男は床に落ちた銃を拾おうと手を伸ばすが、弾が足で踏みつけ銃を破壊し男を睨む。

 

「関係ない人間を巻き込んで、なにが制裁だ!! ふざけんな!!」

 

「ガキがふざけるな!! 私は正しいんだ!!」

 

 既に正気を失った男はポケットから何かのスイッチを取り出しすぐに押すと、建物が揺れた。一階の入口や各階の階段で爆発が起こり火と煙が逃げていた人達を襲う。

 

「クソ!! まだ爆弾を!?」

 

「女なんて、女なんて皆死ねばいいんだ!!」

 

 男は懐からナイフを取り出し走る。走った先には、壁にしがみつき座りこんでいる虚がいた。「やめろ!!」と弾が叫び、男を捕まえて床に叩きつけナイフを持った手を踏みつけ何かが砕けた音がした。

 

「あぁぁぁ!! 腕が!!」

 

 腕を砕かれ、悶える男を見て弾は表情を変えず男の体を踏みつける。足や腹部などから嫌な音が聞こえ、男は完全に痙攣をし気絶をしていた。そして、弾は男の顔に向け足をあげ振り落とそうとしたーー

 

「やめて!!」

 

 虚が弾の体にしがみつく。虚は目に涙を浮かべながら顔をあげ

 

「もうやめてください!!」

 

「でも、こいつは人を殺したんだ。こいつには生きている価値も…」

 

「人の価値は誰かに勝手に決めてもらうものじゃない!! それに、これ以上やったらあなたが人殺しになってしまう!!」

 

 燃えるフロアの中、二人は目を合わせる。弾は足をおろして、下を向きながら話し始めた。

 

「悪い、俺は既に人殺しさ」

 

「え?」

 

「こいつと同じ、女性やこの社会が憎くて体を改造していっぱい殺して…俺も生きている価値なんて本当はないさ」

 

「な、何を…きゃ!!」

 

 虚と男を抱え走る。階段をすっとばし、高い場所から飛び崩れた通路を進む。やがて、外の光が見える所まできて弾は二人を下ろす。

 

「…その、すみません。こんな目に合わせて…今日の事、俺の事はもう忘れてください」

 

 弾はそう告げ、煙の中に入り姿を消す。虚は後を追おうとしたが駆けつけた救助隊に止められ男と一緒に外に避難をしたが心あらずのまま歩き、その後身元の確認などが終わり彼女が学園の寮に戻ったのは夜の事だったーー

 

「…あ~~あ、やっぱり俺には普通の恋なんて無縁だった」

 

 自室のベッドに横になって呟く弾。その目には涙が浮かび、次次と涙が溢れでるのであった。

 



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四十三話 共闘

 霧深い魔の海域を巨大な人口島が進んでいた。島のあちこちには植物や建物などの居住ペースがあり、港では沈没寸前の軍艦の姿があり整備士らしき人間が船の中を調べていた。

 

「どうだ、生き残りはいたか?」

 

「いや、生体反応はない」

 

「残りは島に隠れているやつらだけか、まぁ。強化兵がいればすぐに掃除は済むさ…おい、残っているデータはとっておけよ」

 

 整備士たちが作業をする中、船の外にある森の中に一つの人影があったがそれに誰も気づく事はなかった。

 

 

 ダン!! カチカチ

 

「くっ!! 弾が!?」

 

 弾がなくなった銃を放り捨て、ナターシャは木々の後ろに隠れる。周りにいる少数の生き残りたちがそれぞれ数少ない武器を使い敵に応戦するが、一人、また一人と血を流して倒れて行く。

 

 霧の海でISが動けなくなって襲撃を受けた時、ナターシャら一部の操縦者は機体ごと海に沈む前に機体を捨て、船から脱出した仲間と共に島に上陸し敵に追われていた。ISも船に積んでいた武器・弾薬もほとんど海に沈んでしまい、わずかな装備で数時間も応戦していたが弾もなくなり限界が来ていた。

 

「こんなところで…隊長…」

 

 クラリッサは岩を盾にし狙いをつけ引き金を引く。

 

 しかし、防弾チョッキを着込んだ敵兵はまるで予知したかのように弾丸を避け近づいてくる。訓練されたIS部隊の副隊長をしているクラリッサやその他の生き残りたちも敵が化物に見え恐怖すら感じていた。実際に味方の何人かが素手での攻撃を受けただけで骨が砕け、中には悲鳴をあげる暇もないまま絶命したものもいた。

 

「だ、誰か…」

 

 ナターシャは銃弾の嵐の中呟く。今この場に来てくれるか分から無い、黒のISをまとった人物の事を思った。

 

「ぐぁぁ!!」

 

 傍で援護していた一人の仲間が、上から飛び降りて来た敵に襲われ動かなくなる。そして、ナターシャの背後にも敵がおり彼女は背後に気づく前に気を失ったーー

 

「うっ…」

 

 天井の眩いライトに気づき、ナターシャは目を開けた。

 

「ナタル!!」

 

 と、傍にいたイーリスがナターシャが起きた事に気づき声をあげる。

 

「っ…ここは?」

 

 気づけば、周りにはほんの数人の仲間たちがいたが皆持っていた武器がなく顔に生気がなかった。そして、今自分がいる窓一つもないドアが見当たらない白い壁の部屋にいる事に気づき自分たちは敵に捕まったと気づいた。

 

「「さて、IS部隊の諸君。少しは落ち着いたかな?」」

 

 天井に窓が出現し、そこに白衣を着た集団が姿を現す。その中で一人、メガネをかけた男性がマイクを持って話しかけた。

 

「「何も、我々はむやみに命を無駄にはしたくはないと考えている。ただ、この場所に委員会に入られると厄介だし、ここは取引と行こうじゃないか?」」

 

 ナターシャたちは話しかけている男を見て驚いていた。その男はかつて科学者であり一時世界に名を広めていた男だったのだが。男の立場を回復させるためISに変わる発明をした所IS委員会から目をつけられ、科学の世界や社会に居場所がなくなり誰も姿を見なくなり死んだと噂されていた。

 

 そんな科学者がどうして、この島に? 革命軍の施設にいるのか疑問に思っていたが、男は彼女達に提案を言う

 

「「君達の持つ情報をこちらに提供してもらおう、そうすればその部屋から出してあげようと思うが、いかがかな? 」」

 

 仲間達は小声で話し合い、一人、また一人と男に向け要求を飲むと声が上がる。クラリッサら専用機持ち達はそんな仲間にこれは罠だと声をあげるが、ここから助かりたいと思う者達の耳には届かない。やがて、白い壁の一つが開き銃を持った兵達が姿を現す。

 

 男の提案に乗った数人が兵と共に部屋から出て扉しまり、要求を拒み残ったナターシャ達は天井の窓から自分達を見下す男を睨む。

 

「「そんな顔をしなくても、君達も彼らと共に行けばいいと思うのだが。君達はまだ若い、命は無駄にするものではないだろう?」」

 

「ふざけんな!!」

 

「彼らをどうする気なの!?」

 

「「彼らの事より、自分の心配をしたまえ。それでは、私は忙しいので」」

 

 それだけ言うと天井の窓が消え、部屋の扉も閉まる。やりきれない悔しさからイーリスは壁を蹴り、彼女の声が部屋に響くのであった。

 

「教授、部屋から出した捕虜達はいかがしましょうか?」

 

 先ほどまでナターシャ達と話していた教授と呼ばれた男が、白衣を着た部下に声をかけられ少し考えてから口を開く。

 

「必要な情報を全て吐き出させたら、例の粒子の実験に。どうせ生かす必要のない敵ですから今度は肉体の限界まで注入しましょう。」

 

「よろしのですか?」

 

「私は「部屋からは開放してあげようと」としか言ってはいない」

 

「では、残った専用機持ちの操縦者は…」

 

 別の部下からの声で教授は再び思考し始める。専用機持ちの女性は肉体も精神も丈夫で研究材料には利用できる。だが、いきなり使い潰してはもったいない、もっと何か…そう、自分を社会から追い出した女どもに屈辱と絶望を…

 

「そうですね…彼女達には見せしめに使わせてもらいましょう。ガスと映像の用意を」

 

 教授の指示を受け部下達が準備をしマイクを持ちナターシャ達のいる部屋に声が響く。

 

「「これが最後の警告です。我々に協力してくれるのでしたら。今すぐに…」」

 

「くたばりやがれ!!」

 

 男の声に怒りが燃えイーリスが上を向いて叫ぶ。一度ため息をついて他の専用機持ち達に要求を飲むか確認するが全て拒絶された。教授は部下達に指示をあたえ、再びマイクに向け話しかけた。

 

「「全く困ったものだ、ISと言うくだらないもので女性がここまで堕ちぶれるとは…せめて来世ではまともな人間になりなさい」」

 

 それだけ言い、マイクの電源を落とす。そして、部屋の空気調整から紫色の霧が徐々に出てきた。

 

「ど、毒ガス!?」

 

 誰かが、叫びパニックに陥る中毒ガスはどんどん部屋に充満されていくーー

 

「…ここで強化兵を作ってた訳か…」

 

 研究資料がまとめられた部屋で一夏は端末を操作しこの島で行われていた研究のデータを眺めていた。世界中にあちこちに出現する黒い穴。

 

 そこにエネルギーを加えると人の潜在能力を引き出す高エネルギーの粒子を採取し多くの被検体達を使った強化兵の作成。さらに高エネルギーを解析し、剥離剤の技術を応用して作られた対IS用兵器「グングニール」は一度発動すると広い範囲でISを展開できなくなる機能があり既に量産され世界中の紛争で使われていた。

 

「グングニール、こいつのせいで黒騎士がおかしくなったのか…他には…っち」

 

 さらに情報を引き出そうとしたが、アクセスができなくなり一夏は資料室から素早く去り近くまで武装した兵が近づいていた。

 

 その後、身を隠しながら施設の中を進む。基地の奥で機動されているグングニールを破壊しないとこの島では黒騎士は使えないし脱出もできないが

 

「まぁ、自力で飛べば帰れるか…ん?」

 

 一つの部屋の前に複数の見張り達がいた。彼らは壁に付けられた端末を見て何かを言いながら笑っており一夏が部屋の気配を感じると、人の苦しんでいる気配を感じた。

 

「さて、そろそろガスが充満する頃だが」

 

「へっ、女なんざISがなかったら弱いもんだな」

 

「今まで俺達をコキ使いやがって死んで侘びやが、ぐへっ!!」

 

 背後から足技だけで見張り達を気絶させる。男達がみていた端末には紫色のガスが充満した部屋で人が倒れているのが映り一夏は光剣を抜き、分厚い壁を切り壁が倒れ紫色のガスが外に流れた。

 

 毒ガスのせいで部屋の中で倒れていた者達は突然部屋の壁が崩れたのに驚き顔を上げるとそこには光輝く剣を持った一夏の姿があり。部屋にいた全員が呆然としていた。

 

「おい、生きてるか?」

 

「だ、だれ…」

 

「そ、外に、外に出れるぞ!!」

 

 部屋から出れることに気づくと気力が残っている者が倒れている仲間を支え部屋の外に出て大きく咳き込む。と、少しだけ落ち着きを取り戻したナターシャが一夏の方を見て

 

「あ…あなたどうして…」

 

「まぁ偶然通ってたら…って、とにかく逃げるか」

 

 基地内部で警報がなり、どこからか声や足音が聞こえた。このままここにいても捕まるだけと判断しクラリッサ達は一夏が倒した兵から銃や無線を奪いその場から逃げようとするが毒ガスのせいでイーリスら何人かが足がふらついていた。

 

「仕方ねぇ、行くぞ!!」

 

「な、何を!?」

 

 イーリスや何人かを抱えて走る一夏。突然年下の男に体を持たれて普段女性らしい事はしないイーリスの顔が赤くなり、他の抱えられた者も同様の反応をしていた。

 

「いたぞ、やつらは…ぐはっ!!」

 

「邪魔だ!! どけ!!」

 

 現れた敵兵を蹴り飛ばし、突き進む。手が塞がっているため蹴りのみで応戦し、背後からクラリッサらが敵から奪った銃で援護をするなどして進む中、彼について来ている女性達の心の中ではーー

 

(彼が織斑一夏…織斑教官の弟であの黒騎士の操縦者…)

 

 後ろからついてきているクラリッサが冷静に一夏を見て何故彼がここに? どうして自分達を助けてくれたのか分析するが、人を数人抱えながら自分達が苦戦していた敵をほとんど一撃で黙らせている足技に驚く。

 

(つ、強え…)

 

 抱えられているイーリスが、次々と倒されている敵兵と一夏を見る。人を抱えているのに汗も息すら切らせていない。しかも、敵が撃った弾が自分達に当たらないように動き理由は知らないが守ってくれていた。IS乗りの一人として、世界中を騒がせていた黒騎士とは戦って見たかった彼女だが、その気持ちが別の物に変わろうとしていた。

 

(…やっぱり、優しいのね)

 

 イーリスとは反対の手で抱えられているナターシャが呟く。福音を革命軍の手から返してもらい、さらに自分と仲間達の命を救ってくれた一夏を思うと胸が熱くなる。福音を返してくれた礼も言いたい。けど、今は一夏の事をもっと知りたい。

 

 敵の基地を駆け巡る中、各国のIS乗りの女性達は一人の海賊に夢中になるのであったーー

 

 

「驚いた、あなた医療知識もあったのね」

 

「船医に結構教えてもらったからな」

 

 薬の保管庫らしい部屋で一夏は薬棚にあった薬を使い毒ガスで苦しんでいるナターシャ達の仲間の解毒をしていた。どうにか安全な場所を見つけ身を潜めてこの島からの脱出方法について話し合うが

 

「グングニール…そんな兵器がこの島で」

 

「まさか世界中で起きている紛争も、やつらが…」

 

 革命軍が開発した対IS用兵器を知り、愕然とした。剥離剤以上の効果を持つこの兵器がある以上この島からの脱出や外部との連絡などできない。そもそも、今彼女達はISを持っておらず、この島にいる強化兵達とまともに戦っても勝目はない。一人を除いては。

 

「とにかく、グングニールを破壊しないと俺はともかく、お前らが出れないからな…」

 

「え? 黒騎士は使えないはずじゃぁ…」

 

「俺は自力で飛べるからいいんだよ」

 

 一夏の言葉に彼女達は疑問に思った。自力で飛ぶなど、一体どういう事か聞こうとするが一夏は部屋の奥に行って薬品棚をいじり答えない。と、ナターシャが一夏の隣に立つ。

 

「ねぇ…」

 

「ん?」

 

「その、お礼がまだだったわ。本当にありがとう」

 

「別に、助かったんだから気にすんな」

 

「今の事もだけど、あの子を、福音を返してくれてありがとう…ところであなたの目的ってなんなの? それに、あなたは今までどこで何をしていたの?」

 

 一夏の顔を真剣に見つめる。そこには、国家代表としてのナターシャではなく、ただ一人の女としての彼女がいた。背後では隠れて聞き耳を立てるイーリス達がおり一夏は聞き耳を立てている事に気づきながら答えた。

 

「海賊やってた。今でもそうだ、船員達とは別れたけど、俺の冒険は終わっていない」

 

「海賊? 冒険?」

 

 一夏の顔は真剣でふざけて答えている気配がない。

 

「それに、俺にはやることがあるしな。そのためにもここまで来たんだが…」

 

 そこ言葉を切り、無言になる。喋りすぎたかと眉をひそめてナターシャから目を背け薬棚に手を伸ばそうとした時

 

「その、あなたのやるべき事が終わったら…私と一緒に軍にこない?」

 

「冗談、俺は海賊だ、海賊は自由にやってこそなんだよ」

 

 なんのためらいのない返事をし、いくつかの薬を持ってイーリス達の所で戻る。聞き耳を立てた者は慌てて横になる。一夏から渡された調合した薬を使い苦痛や疲労を和らげイーリス達は動けるようにまでなった。

 

「なぁ、あんた。どうしてそんなに強いんだよ?」

 

「言っただろ、俺は海賊だって。それだけだ」

 

「で、では私達に協力を…」

 

 元気なったとたん、イーリスやクラリッサらから質問が飛ぶ。一夏は適当に答えるが、その他の者から「助けてくれ」「私達の仲間に」など声が上がり、勝手に作戦会議に参加させられる。

 

「やはりグングニールの破壊を…」

 

 

「まずは装備と、我々のISの奪還、そして本部への連絡手段を確保を」

 

「ミスター織斑の情報によると…」

 

「それと、他の隊員達の救出もだ」

 

 敵地の中でまともな戦力も援護もない状態なのに、彼女達の顔には絶望の色はなかった。基地の構造を頭に入れながら作戦の内容ができ、一夏は仕方ないと諦めた様子でため息をつき行動を開始する。

 

 一夏から得た基地の情報を元に彼女達は二つのチームに別れる。一つは自分達のISや装備を確保し残りの仲間達を助けるクラリッサが担当するチーム。もう一つは基地内部にあるグングニールの破壊をする一夏のチーム。

 

 グングニールは基地に最新部にあり、もっとも警備が厳しく慎重に進むべきだが

 

「おらっ!!」

 

 一夏は通路の壁の壁を切り裂いて突き進む。迎撃にくる兵士達を容赦なく蹴り、殴り一人でどんどん先に進んでいく。

 

「…むちゃくちゃだわ」

 

 保管庫から出てきたナターシャが呟く。破壊作戦に行くはずの彼女達は一夏に置いてきぼりにされてしまった。恐らく彼女達が足でまといと思い、一人で行ってしまったのだろうが、いくら一夏が強いと言っても数が違いすぎる。

 

「行くわよ!! 彼だけにやらせる訳にはいかない」

 

 僅かな装備を手にし、ナターシャ達は一夏の後を追う。

 一方で、一夏が起こしている騒動に基地にいる革命軍達は焦っていた。

 

「くそ!! こいつは化け物か!!」

 

「強化兵を出撃させろ!! 奴を抑えろ!!」

 

 司令室では、怒鳴り声と警告音がなる中。ある男女だけが冷静に監視カメラに映る一夏を見ていた。赤毛の女性、アリーシャは腕に抱いている白猫を優しく撫でながら怪しい笑を浮かべながら部屋を出ていく。

 

「ふむ、あれが黒騎士のパイロット…強化兵を相手にしているあの力…調べたい物だ…」

 

 教授は一人、何かを考えてつつ部屋を出るアリーシャの後ろ姿を見て。

 

「まぁ、最悪死体でも検査する価値はあるか…」

 

教授はカメラに映る基地の奥地まで来ている一夏の姿を見て呟いたーー

 



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四十四話 竜の力

 

「ぜぇ、ぜぇ…ちくしょう、かなりの数だった」

 

 いくつもの防護壁を切り、迫りくる武装した強化兵達をなぎ払い基地の奥まで一夏は一人で来ていた。目の前には分厚く巨大な扉がありこの奥に目当ての物があるのかと思い、剣を構えるが、突如扉が勝手に開き中から誰かが来る。

 

「なんだ?」

 

「ふふ、待っていたサ…」

 

 赤い髪に着物のような服を着た美女が笑を浮かべながら扉を潜ってきた。

 

 アリーシャ・ジョセスターフ。これが彼女の名で、かつて一夏が誘拐されたモンド・グロッソにて千冬の決勝大会の相手であり、千冬に敗北した女性。

 

 一夏は彼女の事はしらないが、剣を下ろし「あんたも革命軍か?」と声をかけるが

 

「そんなことは関係ないサ、私はただ…」

 

 腰にある刀を手にし、抜刀し襲いかかる。

 

「おまえと戦いたいだけサ!!」

 

 カキンッ!!

 

 刀と剣がぶつかり、火花が生まれた。アリーシャは刀を高速で振るい、一夏は光剣で防ぐだけで反撃はしない。

 

 「どうした!? 何故、足を使わない!?」

 

 「この足は女を蹴るもんじゃねぇ!!」

 

 アリーシャは、一夏の答えに眉をひそめ刀に力を込め刃が一夏の頬を掠め血が流れる。

 

 今までに戦ってきた強化兵達以上に目の前の女侍は強く、また女性相手にやりづらいと思いながら、アリーシャの背後にある部屋を見ると、巨大な卵のような機械が動いていた。既にデータを見ていた一夏はあれがグングニールだと気づきアリーシャとグングニールを見る。

 

「さぁ、どうした!!」

 

 再びアリーシャが迫り、アリーシャの刀だけでも折ろうと剣を武装色の覇気で硬化させることで黒剣となり、刀と剣が再度ぶつかった時。金属同時がぶつかる大きな音がしアリーシャの刀は黒く染まって折れていない。

 

「な!?」

 

「どうだ、これが私が…織斑千冬を倒すために手に入れた力サ!!」

 

 二つの黒く染まっている刃がぶつかる。二人は高速で動き周り、壁や機材など部屋中に戦いの跡が作られていく。もはや人間離れした二人の激しい戦いを見て、部屋の前に隠れて待機していたナターシャ達は唖然としていた。ISではない剣を使った生身の人間同士の戦闘を前にこれは夢なのかと現実を疑った。

 

(だが、今なら…)

 

 一人の女性隊員が敵から奪ったグレネードを震える手で構えた。奥の部屋にあるグングニールを狙い引き金を引きグレネード弾が発射し一夏が戦っている部屋を通り過ぎ奥の部屋に入り爆発が起こる。

 

「あなた、何を!? っ!!」 

 

 勝手な行動をした仲間に怒声をあげるが、爆発が収まるとグングニールは無傷だった。実はグングニールの周りには特殊な強化ガラスが張られており、通常兵器ではそのガラスに傷一つすらつけられないほど強固だった。

 

 アリーシャはグレネードを撃った隊員を睨み、「邪魔をするな」と言って、一夏から距離を取りナターシャ達に向け刃を立て急接近する。ナターシャ達が拳銃やグレネードで応戦するがグレネードの一つを刀で打ち返され彼女達の近くで弾が爆発した。

 

 「ぐっ、う…」

 

 爆発のダメージで気絶し動けない彼女達にアリーシャは刀を立て接近し、誰かの体を刃が貫き床に血が流れる。

 

「なっ?」

 

「ぐぅ…」

 

 倒れた彼女達をかばうように立つ一夏の脇腹にアリーシャの刀が刺さる。

 

 一夏は吐血してその場に膝立ちになり、アリーシャは一夏に刺した刀を引き抜き、冷めた目で刀を振り上げる

 

「雑魚を守るために身を犠牲にしたか…この程度とは残念サ…」

 

 アリーシャは残念そうにつぶやき一夏に向け止めの一撃を容赦なく振り落とす、が

 

「なっ!?」

 

「まだだ…」

 

 刀を掴んだ一夏の手に異変が起きる。手だけでなく体中に鱗のような物が出て、服を引き裂き背から翼と尻尾が生まれた。

 

「俺は…さっさと行かないといけないんだよ。だから、どけ…」

 

 顔を上げた一夏の額に角が生え、口から鋭い牙が見えた。異形となった一夏を見てアリーシャだけでなく、倒れていて意識が薄れているナターシャも驚く。

 

 この姿を知る者はこの世界においてはIS学園で黒騎士の機体が自壊した時コアを持って脱出した際に姿を見た楯無や既に説明をしている束達しかいない。

 

 (なん、なの…あのすが、た…)

 

 気絶しまうナターシャに誰も答えないが、この力こそ、あの世界では悪魔の実で自然系(ロギア)より希少とされる幻獣の力。ヘビヘビの実「モデル・ドラゴン」の人型形態だった。

 

「くっ!!」

 

 アリーシャが能力者の姿となった一夏に再度刀で斬りかかる。一夏は剣でなく鱗がついた片腕のみで攻撃を受け止める。鱗には傷一つもなく、腕を振り上げてアリーシャを吹き飛ばし彼女は壁に激突し倒れる。

 

(なんだ、なんなのサ!! あの姿は!? あの力は!?)

 

 千冬を倒すために手に入れた力を入れた彼女は刀を杖変わりにして体を震えあがらせながら立ち上がり目の前にいる異形の姿をした化け物をにらむが、一夏はアリーシャを無視し奥の部屋に入りーー

 

「うぉぉぉ!!」

 

 力を込めた拳で特殊ガラスを一撃で粉々にし、グングニールを光剣で一刀し金属片が大きな音を立て床に落ちた。これでこの島でISを使うことはできるし別行動しているクラリッサ達がISを回収すればここから何とか脱出でき、もうサミットまで残された時間は数時間しかない。

 

「ま、まて!!」

 

 アリーシャが一夏に掴みかかる、見れば彼女の右腕は義手でありしかもISの技術を元に作られた義手は並外れた力で一夏の腕を強力に掴むが一夏は何も反撃せずアリーシャを見る。

 一夏の腕を破壊しようと力を入れながら、アリーシャは一夏にその姿はなんだ? その力は? おまえは何者だと? 次々と質問攻めをした。

 

 この時、彼女は一夏に恐怖を抱いている訳ではなく、一夏のことを知りたがっていた。自身が負けた千冬を倒すため、世界最強の称号など興味なくただ力のみを求め、事故で失った腕を強力な義手にし、世界を変えようとする革命軍に入り体を強化し多くの戦いを潜り抜けてきた。

 

 そして千冬と同等、いやそれ以上の相手が見つかりアリーシャの中では一夏を倒すことそして、女性としての本能か一夏を自分のものにしたいと激しい欲望が生まれていた。戦闘欲と愛欲が混じった感情のまま、アリーシャが武装色をまとった刀で一夏を切ろうとするが、気づけば刀が粉々に砕けアリーシャは静かに倒れたーー

 

「…嫌になるな、女を殴るのは」

 

 大量の血を流しながらつぶやき、一夏は人型形態から巨大なドラゴンへと姿を変えて気絶させたアリーシャやナターシャ達を背に乗せ崩れて行く基地の外に出ると島のあちこちで火の手が上がっていた。

 

 一方で火の手が上がる島から少し離れた海にてーー

 

 

「…あ~あ、なんだか面倒なことになってんな…」

 

 火の手が上がる人工島の傍を、海の上で自転車をこいで進む人影があり。その人影は、氷の道を作りながら人工島に進むーー

 

 

 



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四十五話 サミット前日

 

 「な、なんなんだあれは…」

 

 大きなダメージを受けた人工島の司令室では退避の指示を受け兵達が部屋を後にする中一人白衣を着た教授だけが小さな画面をずっと眺めていた。なんども、なんども「これは、現実なのか…」とつぶやき、異形となった一夏がアリーシャを圧倒した映像が繰り返し流れる。

 

 自身が研究していた強化兵も、ISを無力化するグングニールもすべてこの男に破られた。この事実が教授の神経を刺激し、同時に科学者としての知的好奇心がうずき笑を浮かべていた。

 

「素晴らしい、彼こそが私の理想とする力…化け物だ」

 

 教授は端末を片手に司令室から逃げ、エレベーターを使い研究室へ入る。そして。研究室の壁には、カプセルに入れられた多くの若い男女の姿があり教授は端末を操作し部屋が振動する。

 

 カプセルの中にいる彼らは、粒子を限界まで注入され手術にて理性や自我を取り除かれた強化兵であり、死すら恐れない操り人形だった。これらは既に人としての倫理を捨てた教授が手がけた作品の一つだった。

 

「さぁ、動け。私の実験体ども….」

 

 カプセルの蓋が開き、生気のない目をした操り人形達が目を覚ますーー

 

 

 

「総員、IS起動!!」

 

 警告音が鳴り響く施設の中で、別行動をしていたクラリッサのチームがISを回収して施設の壁を破壊して外に出る。空は夕日が傾き、島のあちこちで火の手が回っていた。

 

「隊長、指示を!!」

 

「まずは、あっちのチームと合流をする!! いいか、誰一人も死ぬな!!」

 

 兵や研究員たちは島から退避しようと港に集まっているおかげで、ほとんど敵に遭遇せずに島の中を進むことができた。島に来た時にグングニールを発動され起動できなかったおかげか、エネルギーも弾薬も十分に余裕がある。

 

 ――そして時を同じく、島の森林地帯にて

 

「う…」

 

「やっと目覚ましたか」

 

 大樹の根本で寝かされていたクラリッサが目を開けると、何故かどこからか手に入れた革命軍の服を着た一夏がアリーシャの治療をして慌てて体を起こし「な!? なにをしてるの!!」と声をあげ横になっているアリーシャに向け銃を向けるが、一夏が銃口の前に動いてアリーシャをかばう。

 

「やめろ、こいつは今治療中だ」

 

 クラリッサの声で気づいた他の隊員たちも、アリーシャに敵意を出すが一夏は彼女達をにらみ再び治療を再開する。一方で、一夏の治療を受けているアリーシャは不思議そうに一夏を見て口を開く。

 

「なんで…」

 

「ん?」

 

「たすけ…た? 私は…」

 

 敵であったアリーシャの疑問に一夏は「理由なんざない」とだけ言い、施設から持ち出していた医療道具で処置を続ける。壊された右腕の義手には布がかぶせられ体には包帯がまかれすでに痛みがなかった。

 

(…暖かい…)

 

 一夏の手のぬくもりを感じ、表情が安らぐ。今まで千冬を倒すことだけを目指し自身を鍛え改造してきた毎日では感じることがなかったぬくもりが体ではなく心を癒す。気づけば、彼女は一夏の手を強く握りしめた。

 

 と、一夏がアリーシャから目を離し身の回りを険しい顔で見ると草木を踏む音があちこちで聞こえ、白い病衣をきた男女の集団に囲まれてしまった。その集団は手にそれぞれ斧や小銃など様々な武器を手にして生気のない目をして不気味だった。

 

「あぁぁ…」

 

 一人の男がまるでホラー映画にでも出るゾンビのようなうめき声をあげて斧で襲いかかる。隊員が銃で急所を一発撃つが、男は出血しながらも倒れるどころか悲鳴も上げず近づいてきて、持てる火器を使いクラリッサ達は謎の敵達に向け発砲した。

弾丸が若い少女の胴体を貫き、グレネードの爆発で双子らしき子供が吹き飛ぶ。それでも彼らは自分の命など気にせず。そして痛みもなく本当にゾンビのごとく襲いかかってくる

 

「こいつら、どうなってやがる!!」

 

 アリーシャを守るように足でこん棒を手にしていた男を蹴り飛ばすが、男は再び立ち上がる。今まで基地で相手をしていた兵たちとは違う存在に一夏が戸惑っていると「そいつらは人形サ」とアリーシャが答えた。

 

 彼女から、この敵は教授と呼ばれている男が特殊粒子を使い強化しさらに人格までも消して作った死を恐れない「人形」達だと告げられる。

 

「畜生!! パシフェスタ並みに面倒じゃねぇか!!」

 

 政府が開発したレーザー攻撃を可能とした機械兵器よりはましかもしれないが、今目の前にいる人形達は数が多い。ひたすら覇気と足で近づく敵を倒していくとアリーシャから

 

「…なぜ、ISを使わない…それに、あの力を…」

 

「ここで全員運ぶのは無理だ、それとあの力のことは誰にも言うなよ」

 

 能力のことを釘を刺しアリーシャを見る。一応革命軍であるアリーシャに攻撃してくるかわからないが。ここで黒騎士を使い全員運ぶのは難しいし下手に攻撃すれば隊員たちに当たる危険がある。どうすればいいのか悩んでいると突然上空から銃弾の嵐が降り注ぎクラリッサらIS部隊が降りてきた。

 

「あなた達!!」

 

「我々が援護します!! 今の内に撤退を!!」

 

 味方のISの出現により歓喜の声があがるが、次の瞬間数発のグレネード弾が降り注ぎ、グレネードランチャーなどの大型火器を持った人形の一団が近づく。

 

 「くそ!!」

 雨のごとく振ってくる弾をにらみ一夏が能力を使おうとしたその時――

 

「あ~~ら、久しぶりの顔だな」

 

 のんきな声が聞こえた次の瞬間。目の前の景色が凍った。一夏達を除く人形達や森。さらに発射されたグレネード弾までも凍って爆発しなかった。

 

「な!?」

 

「敵の新兵器か!!」

 

 サングラスをかけた大男を見てクラリッサ達が驚く中、一番驚いていたのは一夏だった。

 

「な、なんでおまえが!?」

 

「さぁね? 俺だって聞きたいぐらいだって…つか、なんだお嬢ちゃん達は変なのつけてんな?」

 

 男はISのことを知ら口ぶりをし、クラリッサ達は男のことを知っている一夏を見て

 

「青キジ…」

 

 とつぶやくのが聞こえたーー

 

 

 

 そして、一夏が青キジと出会ったその時、IS学園ではーー

 

「では、明日のサミットの警備について最終確認を行います」

 

 防音や盗聴対策がされている会議室で司会をしている教員と、席についている秋人ら専用機持ちがいた。各国から集まる首脳、IS委員会の重鎮達が集まるだけあり会議の場所となる日本海にあるIS学園と同じように作られた人工島にあるIS委員会本部にはIS部隊だけでなく、世界中の軍も警備に入る。

 

 サミットの史上初とも言えるほどの力が集結し、今まで一度も襲撃などなかったのだが今年のサミットは今までとは事情が違う。

 

 世界を裏で動く亡霊・そして近年になって姿を現した革命軍の存在。特に、今世界中では反IS派やもともと過激であった組織達の勢力が変わり、しかもISを無力にする兵器もあって鎮圧ができていない。

 

 本来なら警備につく軍隊などは、紛争の鎮圧のため派遣すべきだが。IS委員会などの権力が働き、あらゆる不満を強引にだまらせてしまう。それが余計に、IS委員会や保身しか考えない首脳たちに対してどのような感情が出たのか言うまでもない。

 

「サミットの始まりは10:00より。来場者は、入念な調査をしてから中に通るようになり、こちらはIS委員会の警備が担当します。我々はIS部隊と共に会場の周辺を警護、当日は許可のない船舶・飛行物体は即撃墜の許可がでており、可能なら拘束を…」

 

 司会の教員の言葉に秋人と箒が眉をひそめた。いくら、サミットと言え、近くを通る船などを沈めていいのか? と疑問に思うが、軍に所属していない二人からすれば上からの命令は絶対などの常識がなく疑問に思うのは仕方がない。

 

 逆に、セシリアやラウラなど国の代表候補生や軍出身の者は顔色を変えずに話に集中していた。

 

「なお、サミットでは襲撃の可能性は否定できず…特に革命軍そして黒騎士」

 

 黒騎士の単語が出て、鈴と更識姉妹が肩を震わせる。

 

「これら危険要素は特に注意し、発見次第部隊全員に報告を」

 

 冷たく放つ教員に向け、秋人達は冷たい目を向けた。この教員が悪意を持って言ったかは定かではないが、何度も学園や生徒達を守ってくれた一夏を敵と見なしていた。その後も打ち合わせが続き、秋人らが会議室を出たのは空が暗くなった頃だった。

 

「たく、なんで一夏が敵ってことになってんのよ!!」

 

「落ち着いてください、鈴さん」

 

「そうだよ、ボクも嫌だけど、これは委員会で決まったことだし…」

 

 納得いかない声をあげる鈴に向け、なだめるセシリアとシャル。一夏と少しだけ関わりのある彼女達も一夏が悪だとは思っていないが、上からの命令ではどうしようもない。

 近くにいる簪と箒も、一夏が敵ではないと言う。

 

「…」

 

「? ラウラ、どうしたの?」

 

「あぁ、いや…最近私の部隊の者と連絡がつかなくてな」

 

「任務中じゃないの? ほら、サミットでみんな動いてるからさ」

 

 部下たちの心配するラウラだが、そのクラリッサ達が今一夏といることは誰も知らない。

 

「はぁ~もう、どこにいるの?」

 

 一人、楯無が端末を片手につぶやく。もしかしたら、サミットに来るかもしれない一夏に注意を促すメールを送るのだが返事がこない。本来ならサミットの情報を外部に、しかも危険と言われている一夏に送るなど重罪だが特に気にしていない。

 

 同時に、簪も同様ですでに一夏にメールを送っており姉妹ともサミットのことより、一夏のことが気になっていた。

 

「あら、簪ちゃん? もしかして…」

 

「あ、うん…周りには内緒」

 

 口に指を当て内緒とつぶやく。この姉妹と同じようにすでに箒もメールを送り返事が来ないことにため息をつく。

 

(みんな兄さんのことが…)

 

 彼女達のやりとりを見て秋人はため息をつく。誰もが強い兄の事を信じ夢中になっていたが、それと同時に何か負の感情もあった。

 

 昔は、兄よりも優れた自分が見られて、誰からも必要にされ自分の居場所があった。いろいろ言われていた兄を時には助けたりしたが今では立場が逆になっていた。

 

 誘拐された時自分の命を助け、その後海賊になり束からもらった黒騎士に乗り、自分達を誘拐したファントム・タスクや世界で動く革命軍を相手に一人で戦っていた。自分よりも強く箒たちから大きく信用されている一夏を思うと、自分の中にあった自信が揺らいでいた。

 

「さて、これからどうする秋人? 秋人?」

 

 箒が声をかけるが、すでに秋人はどこかに行ってしまっていた。寮の自室に先に戻った秋人は、サミットのことや一夏のことよりも。自身の居場所がなくなる不安を抱きながら一人暗い部屋でベッドにうずくまったーー

 



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四十六話 終わる魔の海域

 

 一夏やアリーシャ達を除いたクラリッサ達は敵のいない指令室にいた。

 念のため罠などがないか確認してから端末に残っているデータを調査していると

 

 「ずいぶんと詰めが甘い…」

 

 クラリッサがつぶやく。革命軍の人間はよほど脱出に焦っていたのか、グングニールの設計図や、革命軍に関係していると思われる組織や企業などのデータなどが残されているのを見て敵は素人なのかと疑うが実際にはそうだった。

 

 革命軍の構成員は、元傭兵や名のある研究者。さらにバックについている資産家などもいるのだが、その他の大半はIS社会から切り捨てられたり嫌気を感じて革命軍に入れ戦闘経験もない素人を強化した一般人がほとんどだった。そのため、あらゆる経験が不足している者が多くこうした証拠隠滅などができていないのもそれが理由だった。

 

 (なんだ、この暗号は…)

 

 ふと、気になるデータを見つけたクラリッサはISに搭載している解読プログラムを使い暗号を解読した。あらゆる軍でよく使われている暗号だったのですぐに解読が終わりデータの中身を見ると

 

 「IS委員会…これは、サミットの警備情報!?」

 

 クラリッサが叫び、部屋にいた隊員たちが集まりデータを見た。

 内容はサミットの警備情報だけでなく、参加者の細かい素性から会場の見取り図。さらに、一部の者にしか知らないはずの会議の内容などサミット全体の重要な情報がすべて記録されていた。しかも、データの一番下にはIS委員会のマークと誰かのサインまで書かれておりこれが本物だと疑う余地はなかった。

 

 「まさか、IS委員会と革命軍がつながっていた…!!っ 隊長!!」

 

 クラリッサは、自身の部隊の隊長であるラウラも警備に参加している事を思いだし、ISの通信システムを作動させるが、すでにラウラ達は会場におり警備中に余計な通信が入らないよう通信に制限がかけられて応答がない。

 

(くっ!! サミットで通信に制限が!! なら軍に報告を…いや、だめだ!!)

 

 首を横に振り、軍に報告しようとした隊員の手を止めた。そもそもサミットがあると言うのに新設された合同のIS部隊を調査に向かわせたのは誰か? そして、自身の所属する軍を簡単に動かせる存在は――IS委員会だった。

 

 サミットの警護を削ぐのが目的だったかもしれないが、IS委員会が自分の抹殺を図ろうとしていたのははっきりした。だが、軍は一体どこまで関与しているのか? まさか、知っていて自分達を見殺しにしようとしたのか? 何にしても、軍に報告し救助を待っても証拠隠滅のために抹殺される可能性が出て誰も結論が出ないまま時間が過ぎていくーー

 

 

 

 朝日が昇らないまだ暗い港で二人の男がいた。

 

「新聞じゃ死んだってあったが…なるほど、ここはお前のいた世界ってことか」

 

 青キジの言葉にうなずく一夏。強い風吹く中一夏と青キジが互いのことを話していた。一夏はこの世界のことを、青キジは自分がどうしてこの世界に来てしまったのかなど。

 

 「まぁ、あれだ。元の世界にいたってやることないし。戻れるまでこっちの世界でのんびりするさ」

 「相変わらずだな…」

 

 コンクリートの上で寝そべる青キジを見て一夏がつぶやく。まだ一味と冒険していた中で出会った青キジことクザンは海軍で大将の地位にいた男だった。かつて三大将と呼ばれ軍の強力な戦力の一つであったが、ある戦争の後に起きた決闘に敗北し軍を去った後でも新世界で何度か会った。

 

 「はぁ、ところでお前さん。こっちの世界でも海賊してんの?」

 「まぁな…そっちこそどうしてたんだよ?」

 「やることないから、世界をぶらついていた。海軍も黒ひげもお前と麦わらたちのせいでいろいろあったからな」

 

 新世界で起きた最後の戦いのことを言っているのだろう。新世界で起きた歴史にも残る最後の戦いがあった。元大将で当時元帥であった赤犬率いる海軍と四皇と呼ばれる大海賊の一人黒ひげの勢力と、麦わらの一味とその傘下の勢力の三つ巴の戦争があった。

 

 かつて起きた元四皇白ひげと、海軍ならび王下七武海の戦争以上に激しく多くの海賊や海軍が戦い、元帥である赤犬が倒れ凶悪な黒ひげを倒し戦争を終わらせて世界の真実を広げ世界を変え、そして海賊王が残した大秘法を手にしたのは今はもうこの世にはいない麦わらの一味の船長だった。

 

「そうか…確かにいろいろあったな…」

 

 黒騎士から古びた麦わら帽子を取りだし眺める。海賊王となった彼が自ら自首をする直前、一夏に渡した物だった。海賊王となった彼もこの帽子を持ち海賊への道を進み、この帽子は彼から一夏に受け継がれた、受け継がれる意思だった。

 

 一夏は目を閉じると数々の冒険が頭をよぎる。初めて出会った町で腐敗した海軍を目の当たりにし、魚人と呼ぶ種族が支配する町を解放するため命がけで戦い。グランドラインに入る際に知らずに悪魔の実を食べ能力者となった。

 

 その後も、グランドラインに入り砂の国で王下七武海の一人が組織した犯罪組織から国を守り、未知の空の世界や政府と戦って、次第に強くなったが一度一味とはぐれ船長のメッセージを受け取り二年間修行をして、最後の海に一味と共に入った。

 

 最後の海、新世界でも王下七武海や四皇など強豪たちと戦いと冒険の連続を終えて今に至る。

 

「で、お前さんは今からどうすんの?」

 

 青キジに声をかけられ、我に返り帽子をしまう。今島には敵はおらずもはやここには用はない、敵の目的はサミットなのは傍で聞き耳を立てているアリーシャからすでに聞いているためサミットに行きたいのだが、問題があった。

 

一つは厳重な警戒の中うかつに近づけば迎撃される危険があり、すでに一夏もIS委員会から敵と見なされているのは知っていた。ヘタをすれば、秋人や箒たちと戦うことになるため正面からの侵入はさける。二つ目は、この島にいるアリーシャやクラリッサ達のことだった。

 

「ISあるから自力で帰れるかもしれないけど…あいつらどうしたらいいんだ?」

 

 聞き耳を立て木の後ろに隠れているアリーシャのことを思いため息を吐く。怪我はまだ治っておらず、クラリッサ達に任せても捕まえられるだけで、革命軍にいたナターシャを安心して任せるわけにはいかない。そして三つ目はーー

 

「たく、二人して何隠れてんだよ」

 

 アリーシャだけでなく、ナターシャも隠れていた。クラリッサ達には怪我を理由に一人だけ一夏の後をついてきて話を聞いていたのだが、話の内容はアリーシャ同様理解できていなかった。

 

(何なの… 海軍? グランドライン? 異世界だなんて…)

 

 異世界などあるわけがないと思うのだが、実際に一夏の生身の異常なまでの強さと、突如現れた青キジと呼ぶ大男の異能の力。新兵器の類を持っている様子もなく数時間経っても彼が凍らせた森と人形達はまだ凍ったままだ。あの時、なぜ自分達を助けたのか一夏が問いただすと「お嬢ちゃんが襲われるのは、目覚めが悪い」とだけ言い、一夏は何故か納得していた。

 

「ナターシャ!!」

 

 と、指令室にいたはずのクラリッサから通信が入りナターシャが慌てて通信に応じた。クラリッサから、指令室で見つけたものを告げられ慌てた様子で一夏達の前に姿を現す。

 

「た、大変よ!!」

「わかってるよ、通信聞こえてた」

「あ~~わり、俺も聞くつもりはなかったんだが、耳に入っちまった」

 

 と、ついでにアリーシャも姿を出し。「IS委員会のことだろ、聞こえてたサ」と、耳が異常な三人に面くらうが、アリーシャはクラリッサ達との通信を開いたまま話しを続けた。

 

「「隊長に早く伝えなければ!! 」」

「「そ、そうだ!! IS委員会ではなく軍に報告すれば…」」

「「今からでもIS委員会に連絡を…」」

 

 指令室にいる隊員達の声を聞き、一夏はため息を吐き、アリーシャは鼻で笑い、青キジは目を細める。そんな彼らの態度を見てナターシャは怒りではなく、何を考えているのか疑問を浮かべていた。

 

「やめとけ、委員会も軍も連絡したらお前ら死ぬぞ」

「まったく、…今更情報を回したとこで信じられると思っているのか?」

「まぁ、今はどこかに隠れてのんびりしとけ」

 

 と適格な判断を告げた。軍も委員会も信じられないこの状況で彼女達が下手なことをして巻き添えを食らう前に釘を刺したのだが、それが逆に一部の者達の感に触ってしまう。

 

「「何よ!! 横からでしゃばって!!」」

「「私たちは命がけで戦ったのよ!! 」」

 

 指令室にいる隊員が怒りの声を出し、一夏達をけなす。そもそも、命がけで戦ったのも、毒ガスで死にかけたのを助けたのは一夏なのだが、これまでの疲労や救援が望めない絶望から半自暴自棄になり、革命軍の基地を制圧した功績を自分の物にしようと実は軍と委員会に報告を入れてしまっていた。

 

後は増援が来て一夏とアリーシャを引き留めて売り渡せば、自分達の評価が上がる。輝かしい将来が来ると思い笑みを浮かべ、異変に気付いたクラリッサが彼女達が触れていた端末を調べ舌打ちをした。

 

「お前たち!! っ!!」

 

 突如島に振動が走る。島に近づく艦隊からの遠距離狙撃が島の一部に当たり爆発が起こり全員がISのセンサーを起動させると島を囲むように五隻の艦隊から無数の戦闘機とIS三機が出撃し島を攻撃し始める。クラリッサやナターシャ達は味方の識別コードを出すが軍隊は攻撃を止めない。

 

「「ねぇ!! 私たちは味方よ!! 攻撃をやめて!!」」

「「この島のデータと、機密情報は手に入れた!! これを委員会に!!」」

 

 状況を理解せず、自分の保身のために通信を開く隊員にクラリッサは怒り、彼女達を気絶させ黙らせる。ISでどんなに通信を入れても無視され、SOS信号などあらゆる手段で艦隊に告げているが何も応答がない。つまりーー

 

「私たちを敵と見なしているのか…」

 

 唇をかみしめるクラリッサ。信じていた軍や委員会に裏切られ、拳を強く握りしめる。ここで応戦すれば誤解が取れず自分達は革命軍の一員と疑われたままで、例え武装を解いて投降しても助かる見込みはない。

 

「隊長、すみません。私は、どうしたら…」

 

 力なくクラリッサがつぶやき、普段から冷静であった彼女の目に涙が浮かんだ時、画面に映っていた一機のISが撃ち落とされた。

 

「「たく、女泣かせやがって…」」

 

 回線が開いたままだと気づいて、慌てて目を拭いていると島の港では黒剣を持った一機のISがいた。黒騎士が空いている手をかざし見えにくい糸を出し警戒して飛んでいた二体のISが動かなくなる。

 

「「あ~~これじゃ、寝られないな…」」

 

 海から魚雷が近づく中、片手を海につけ青キジは

 

「「アイスエイジ」」

 

 次の瞬間、まるで氷河期のように海だけでなく魚雷や五隻の戦艦が凍りついた。突然の事に敵も味方も自分の目を疑ったーー

 

 

 

「お前、いいのか?」

「本当なら関わる気なんざなかったが…まぁ、無視しても目覚め悪いからな…」

 

 口調は緩いがその目は、真剣だった。残った戦闘機部隊は二人に攻撃を定め接近してきた。青キジが目の前に巨大な氷塊を作りだし、一夏が力いっぱいに氷塊を砕くと、氷の破片が接近してきた戦闘機部隊に襲いかかる。マグマでも溶けにくい頑丈で強固な氷の破片は翼やエンジンを潰し、たった一撃で残存勢力を削るがまだ残っている。

 

「まかせて」

 

と、ナターシャが前に出る。自身のリヴァイブを展開しサブマシンガンを取り出して残りの戦闘機を撃墜させた。そのことにクラリッサが声をあげナターシャに声をかけると

 

「もういいのよ、軍とか委員会とか。どうでもよくなったわ。ねえ、クラリッサ、あなたはどうしたいの?」

「「どう、とは?」」

「もう私たち、軍からも捨てられて行く場所もないし…だったら、私は私の戦いをするだけ。あなたは、これからどうするかはよく考えなさい」

 

アリーシャの言葉に目を閉じクラリッサは考えた。自身は何のために、戦ってきたのか? 国のため、信用でき背中を預けられる仲間のためそして…

 

「「隊長…」」

 

 何か吹っ切れた顔をしたクラリッサを見て、ナターシャは笑みを浮かべた。そして、朝日が昇り氷の世界を背にしている一夏と青キジを見て

 

「そういうわけだから、よろしくね」

 

 と告げ、彼女達の新たな道が生まれた。

 

そして、その日。世界中が注目しているサミットが始まり、それがさらなる世界の混乱の始まりでもあったーー

 



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四十七話 サミット

 IS委員会本部。日本海に作られた人工島に設置され、各国のISの管理や配備などを決める権限を持つだけでなく世界の軍や政治も動かせるほどの大きな組織でもあった。

 

この組織に所属している者はほとんどが女性で、よくテレビや議会などで姿をみかけるが彼女達の中には自身の持つ絶対的権力を元に自身のことしか考えていない者も少なくなかった。

 

 そして、この日。委員会本部で行われるサミット(世界会議)が開始される。ある国の政治家達はサミットを女達の無駄話と愚痴をこぼし、ある国の人々はこれからの世界の行く末について話合い。そして、ある組織達はすでにサミットの議事上の様子を見て笑っていた。

 

「ですから!! 革命軍など野蛮な組織などISで十分なのよ!!」

「それに、軍はいまだにテロを鎮圧できてないじゃない!!」

「たく、軍なんて金の無駄なのに…」

 

 大きな議事上ではすでに、会議が開始され騒がしかった。議題の内容が革命軍について話始めると、ISだけでは対応できないと誰かの発言から、軍が役に立たない、ISが封じられるなどデマなど まるで子供の言い合いのような光景を見て、変装をしていたファントム・タスクの一人。スコールがあざ笑う。

 

「こんなもんがサミットかよ?」

 

 同じく、変装しているオータムがスコールに聞くが黙ってその場から立ち去り、オータムも後を追う。二人の胸にはサミットの関係者を現す認証カードがあり、周りからは誰も疑われていない。

 

「オータム、彼らが動いても私たちは待機よ」

「はぁ? 」

 

 納得していない様子のオータム。実は、内心スコールも革命軍にあまりいい印象をもっていない。最近の世界中で起きている紛争は革命軍が作りだした強化兵と対IS用兵器グングニールがあらゆる国や組織に流していたのが原因だった。ファントム・タスクも最初は利害の一致などから一応協力をしていたが、最近の革命軍の動きは異常だった。テロリストも犯罪組織も革命軍の行動で被害を受け仕返しした者もいるが、逆に壊滅され捕まえた人間は何かの実験に使われたと噂が広がり、いつしか得体のしれない組織として誰も彼らに逆らおうとしなくなった。

 

 「くそ!! あいつらなんなんだ? 私たちの獲物まで奪いやがって」

 「それはすまないと思っている」

 

 と、二人の背後から警備服を着た男。サングラスをかけた、革命軍の一人ブラッドが静かに姿を現し、二人が身構える。

 

 「よせ、今はまだ動く時ではない」

 「そうね、でもいきなり声をかけたのはそっちでしょ?」

 

 「すまない」と再度謝罪するブラッド。オータムが殺気を出して睨む中ブラッドはもうじき自分達が動くのと、グングニールを使用中はISが使えなくなるため早めに退避するように忠告し静かにその場から立ち去った。

 

「くそ!!」

 

 舌打ちをするオータムをよそにスコールは目を閉じた。グングニールが発動すれば自分達のISも使えなくなり脱出できなくなる。強化兵もいない自分達ではどうすることもできないと考えた時、ふとある事を思いだす。数か月前に、一夏に連れていかれたマドカのことを。マドカには反逆防止のナノマシンが投与されているのだが、いつの間にか反応がなくなぅていた。おそらく束が解除したのか、または殺されたと思いしばらく気にとめていなかった。

 

「どうすんだよ!? スコール!?」

「…もう少し、様子を見るわ」

 

 二人は人気のない場所に行き、その後彼女達の姿は誰にも目撃されず時間が過ぎていくーー

 

 

 

 「A地点異常なし、引き続き警戒にあたる」

 

 会場の周辺を監視する秋人。箒たちとはバラバラで行動することになり、今はどこかの軍に所属しているIS乗り達と行動をしている。彼女達は顔には出さないが、内心では秋人を観察したり、男がISなんて などの感情があり秋人はそれらを無視しながら辺りを見る。

 

 会議が始まり一時間以上が経つが大きなトラブルはない。あるとすれば大勢のテレビ局が押し掛けたり、反IS派のデモが会場から離れた港や世界のあちこちで行われているなどだ。 

会場にいるほとんどの人間は「敵なんてこない」と口にするが、すでに敵が会場にいることに誰も気づいていない。

 

 秋人は内心、もし敵を倒すことができなかったら一夏が と考え首を横に振った。誰もかしもが一夏のことを頼り、もはや自分を頼ろうとする人なんていない。それに、まだ安静にしている千冬のために自分がやらなければと気合を入れていると

 

「「緊急通信、IS部隊は所定の位置にただちに移動し状況を把握せよ!! 繰り返す!! ただちに…」」

 

 会場の周りにいた全てのISに緊急通信が流れ、それぞれの場所に急行する。

 

 そして、会場ではーー

 

「た、助けて…」

 

 議事上では悲鳴と苦痛の声が響き、多くの血が流れる地獄と化していた。先ほどまでISがあれば大丈夫と発言した者や、軍は役に立たないと発言した者達は額に一つの風穴が空き倒れている。

 

 「な、なんなの!! こ、こんなことをして、ただでは!!」

 

 一人、IS委員の女性が武装した一団に吠えるが短銃の弾丸を浴び大きな音を立てて倒れる。既に制圧された議事上の中心でブラッドはマイクを片手にまだ生きている者達に告げる。

 

「この会場は我々がすでに占拠した。貴様らには社会を歪めた罪を償うためその命を使わせてもらう」

 「ば、馬鹿を言うな!! IS部隊が来るぞ!!」

 「そうよ、私たちが償うことなんてない!!」

 

 反論する声に応えず、ブラッドは議場のモニターを部下達に操作させる。モニターには島とその周辺が映り、海から何かが出現した。

 

「グングニールを起動させろ」

 

 そう一言告げ、海から出てきた五つの卵の形をした機械が動きだした。島の異変に気付きどこからか来たISが突如動きを止め、そのまま海に落ちていく様子を見て会場にいる生き残り達や外にいるテレビ局や野次馬達が騒ぐ。

 

「これで分かっただろう、もうISなど必要はない…外との通信を開け」

 

 世界に向け回線を開き、ブラッドは会場を占拠したことや人質の存在を告げると、相手の声を無視して要求を述べる

 

「一つは、社会の歪みの根源であるISとIS委員会の即時解体。二つ目は 国民の血税を貪る「IS学園」の解体。そして、三つ目は…黒騎士と織斑一夏の身柄を要求する...これらの要求が応じられない場合、まだ生かしている委員達の死を世界中の者が目にすることになる。我々はテロリストではない。この世界を正す者だ」

 

 そこで、通信が切れ世界中が混乱と化した。革命軍がサミット会場を占拠したことはすでに世界に知れ渡り。報道機関は全て島に関する情報を発信し、ネットの世界でも事件についての書き込みがされていた。

 

「すげぇ!! IS委員会の本部を制圧だって!!」

「しかも、ISとIS学園の解体も要求って。無理だろこれ」

「まぁ、これでうるさいおばさんたちはいなくなるってことだな」

「でも、革命軍の言ってることは正しいよな。ISのせいで世界は歪んでしまったし」

 

 ほとんどが革命軍に対しての賞賛が多く、逆に革命軍に対して不信な発言をした者はすぐに叩かれる状態になり、事態はネットの世界だけでなく現実の世界にまで発展していく。

 

 とある国のIS広告の事務所では、ISは悪の象徴だと主張する団体から火を放たれ建物が焼き崩れ、ある学校ではIS関係者が家族にいることを自慢していた女生徒や教師たちが襲われるなど同様の事件が世界で起きていた。ISに関わった者、女が偉いなど歪んだ社会の思想を持つ者は排除せよと人々の意識が大きくうねりを上げ動いていた。

 

 ブラッドの要求からたった数時間しか経っていないが、世界は間違いなく狂気に侵されつつあり、どこかの宗教団体も「IS時代の終わりと新たな時代の始まり」と言い出し大規模な暴動も起き人から人へと狂気が止まらない。

 

 そして、革命軍の出した三つ目の要求にあった一夏の身柄要求を受け軍や諜報部員が動き、ネットでも発見したと書き込みもあったがすべてデマかウソだったが、世界中が一夏を血眼に探していた。

 一方でーー

 

「くっ!! 白式が動かない!!」

 

 会場の敷地内にいた秋人らのISが動かくなったことと、突然の革命軍の出現に戸惑っていると武装した強化兵たちが現れ銃を突きつける。

 

「織斑秋人がいるはずだ、出てこい」

 

 ブラッドの副官であるエレンが前に出る。隊員達が自分達をどうする気だと声をあげるが、いくつかの銃声と力なく倒れる隊員を見て残りの者は口を閉ざす。

 秋人は覚悟を決め、エレンの元に歩き。すぐさま強化兵たちに拘束され白式を取り上げられた。

 

「貴様が、あの男の弟…」

 

 エレンは秋人をにらむ。秋人はエレンに臆せず隊員達はどうする気だと聞くが

 

「奴らはこれからの正しい時代に必要ない。この穢れた地と共に礎にするだけだ」

 

 とだけ告げ、秋人は気絶させられた。他の場所でも、会場の敷地に集められたIS部隊の者達がつかまりどこかに連行されていたが、一部だけ抵抗があった。ISが使えなくても異能の能力を得た鈴たちが次々と強化兵たちを倒し隠れ家を探す。

 

「くっ!! 敵がこんなにいるなんて…」

 

 バリアを張り迫る弾丸の嵐を防ぐシャルがつぶやく。こんなにも多くの敵が会場にどうやって入ったのか疑問に思うが、今は戦いに集中し、手を銃に変えたラウラと背中合わせになる。

 

「まずは、ここを突破する!!」

「うん!! セシリアと鈴も行くよ!!」

 

 蒼炎をまとうセシリアと、大気を弾き敵を圧倒する鈴もうなずきその場から移動する。

 その光景を、どこかで監視カメラの映像を見ていたオータム達や近くにいるブラッドが見ていた。

 

「ほう、あれが報告にあった異能の力か…」

 

 ブラッドの傍にいたガスマスクをした兵たちは枷がついた鎖を持ち出し、鈴たちに襲いかかったーー

 

 



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四十八話 弟の闇

 サミット占拠事件が世界に知れ渡った時を同じくして、誰にも知られていない束の研究所にて。

 

「二人とも調整終わったから、いつでもいけるよ!!」

 

 二つのISが出撃準備を整えクロエとマドカは機体のデータを確認する。

 

「二人は馬鹿どもが残した島で回収をお願いね、それで…」

 

 と束が言い終える前に先に出撃するマドカ。残ったクロエも後から出撃し後を追う。

 

「…わかっていると思いますが、私達は一夏様の依頼で人員とデータの回収を行います。ですが…」

 

 クロエは一度言葉を切り、マドカに話を続ける。

 

「回収は私一人でも十分可能ですので、どうか一夏様の元へ」

 

「…勝手にさせてもらう」

 

 マドカは短く言い、クロエから離れる。クロエも短い間だが一夏と杯を交わしたマドカのことが少しだけわかっていた。

 

 本当なら、魔の海域にもついていこうとしたが一夏に止められて苛立っていたのにも気づき今回マドカに単独行動を許した。そもそも、マドカの体内にあった監視用のナノマシンは取り除いておりすでに自由の身でもあった。

 

「…妹様、どうかご無事で」

 

 どんどん離れていく銀色のISに向けつぶやき、クロエは魔の海域に向け速度を上げた。

 

 一方で残された束も、二人を見送った後。移動用のロボに乗り日本に向け発進していた。

 

「やっぱりいっくんのことが心配だったんだね…」

 

 モニターでマドカが単独行動をとったのをとがめる様子もなく、束は世界中のネットを検索する。あらゆるサイトでは革命軍の話がもちきりで「ISを廃絶せよ」のワードを見て悲しい顔を浮かべた。

 

「たくっ、本当に世界も人間もくだらないよね…束さんはこんなくだらない人間がいない世界が見たかったのに…」

 

寂しくつぶやき、通信を開く。相手は数回のコールでやっと開き

 

「やっほ~~久しぶり!! ごめんね、お見舞いに行けなくて!! こっちもいろいろあって…」

 

「さっさと要件を言え」

 

「ごめん、ごめん!! で、頼まれた装備と侵入経路だけど…今からそっちに行くから待ってね、ちーちゃん!!」

 

 ステルス機能を持つ移動ロボが海の上を高速で飛ぶ。革命軍が動いたことで、一夏だけでなくあらゆる人間が動きだそうとしていた。

 

 数分後、病室で束から合流地点を聞き体に巻かれていた包帯を外す千冬。いつものスーツを着てテレビに映るサミットの情報を見ていると誰かが入ってくる。

 

「…いかれるのですか?」

 

 と、真耶が質問した。

 

「まぁな…連中を好きにさせるのは気に食わん。君はどうする?」

 

 千冬と真耶の目が合う。そして、二人は言葉を介さず病室を抜け学園から一機のリヴァイブが飛んで行ったーー

 

 

 

 「な、なんなのよこの鎖!!」

 

 「ち、力が…」

 

 サミットの敷地で強化兵達に囲まれた鈴達四人は頑丈な枷がついた鎖を巻かれ地面に倒れていた。鎖に触れていると体から力が抜け、しかも能力まで使えなくなりISが使えない彼女達では鎖を破壊することはできない。

 

 

 抵抗できなくなった鈴達を見てブラッドは考える。グングニールが発動している今ISは完全に使用できない、とすれば彼女達の力はISの物ではない別の物だ。だが、なぜあの鎖をつけられてあそこまで弱っているのか…

 

「どうやら、私にも知らされていないことがあるみたいだが、教授?」

 

 物影から、一夏達がいた島から脱出していた白衣を着た男こと教授が姿を現す。

 

 「いえ、正直に言われますと私も何も…ただ、あの方より異能の力を持つ者はその鎖で封じよ とだけ言われたもので…」

 

 「あの方が…」

 

 二人は「あの方」と口を揃え、少し考えた後、兵達に鈴を運ばせるよう指示を与え二人は建物の中に入る。ブラッドは、頭を切り替えこれからの指揮を思考し。教授は鈴達が能力を使って強化兵達と戦っていたのを分析していた。

 

(あの鎖と力との関連性は…彼女達の力はあの男と関係しているのか? 分からない…だが、確かめる方法はある。何せサンプルが四体もあるのだから…)

 

 教授はシステムの確認をすると言い、ブラッドから離れようとしたが「今は作戦中で、研究は後にするように」と忠告され、二人は別れる。教授は「わかっている」と答えるが

既に、頭の中は研究がしたいと思いつつ速足に立ち去る。

 

 

 ブラッドは、そんな教授の考えなど読んでいたが、それ以上何も言わず入ってきた通信に応答する。

 

「「隊長、織斑秋人を捕獲しました。今、――地点にて拘束しISも回収しました」」

 

「あぁ、今行く」

 

 エレンの応答に応え、ブラッドは離れた建物の屋上に二つの影があったのに気づかず去る。

 

「くっ!! 秋人…」

 

「…お姉ちゃん…」

 

「大丈夫、もう少し様子を見ましょう」

 

 屋上に三人、身をひそめている楯無と簪そして箒達はISが使えず鈴達みたいな能力がないため隠れて様子を見るしかできなかった。

 

 島の周辺に現れたグングニールのせいでISが使えなくなったのはすでに海に落ちたISを見て分かっており、ISが使えないとすれば兵を侵入させるしかないが革命軍の強化兵達の前では無駄に戦力を散らすだけだ。

 

 しかも、侵入するにしてもここは陸から離れた人工島。空と海には革命軍だけでなく世界中の人が注目しておりすぐに何かあれば見つかり、人質の命が危ない。

 

 ISも使えない、救援が来ないこの状況で三人はいつも助けてくれる一夏を思うがいくら彼でも助けにくるのは難しいとすでに分かっている。ブラッドの要求は島の内部にも伝わっており、一夏は世界中から狙われていてまともに動けない状態でいた。

 

「一夏…」

 

「一夏…」

 

「一夏君…」

 

 三人が、一夏の名をつぶやいたその時。赤い髪をした男が二人の背後に立ったーー

 

 

「ぅう…」

 

会場の地下にある取り調べ室にて秋人が目をさめると、手錠をつけられパイプ椅子に座らされていた。窓等もない部屋で自身の状況を把握し、慌てて立ち上がろうとした時、部屋に誰かは入ってきて警戒する。

 

「どうやら君は奴と違って化け物ではないようだな」

 

 秋人を見てブラッドがそうつぶやく。これまで一夏に苦渋を味あわされたせいか弟の秋人にも警戒し、ブラッドは後ろに麻酔銃を装備させた兵を連れていたが、秋人の様子を見て安心したのか兵を下がらせタブレットを持って秋人と二人になった。

 

 一方で、秋人は内心、恐怖と不安で押しつぶされそうになっていた。

 

 これから自分は何をされるだろうか? まさか、一夏の居場所を聞き出そうとしているのか? もしくは、男でありながらISを起動した自分を実験に使うつもりなのか 何にしても秋人にとって安心できることは一つもなかった。

 

「そう警戒するな…と言っても、無理はないか。私は危害を加えに来たのではない、話をしに来ただけだ」

 

 話をしにきた と聞き秋人が目を細めると、ブラッドはタブレットを操作する。タブレットには秋人に関する情報が映っていた。生年月日から、通っていた学校と成績。さらに、友人関係など細かくあった。

 

「成績優秀で、誰かも慕われていたか。ISなどがなければ…織斑千冬がいなければ君の人生はそうとう変わっていただろうに。国からIS学園などと牢獄に入れられず、世界中から貴重な存在として狙われずに済まずに平和に暮らせてた思わないか?」

 

「そ、そんなこと…」

 

「だが、現実はどうだ? 今の君はこうして国の命令で死ぬかもしれない戦場に当たり前のように使われて、唯一安心できるのは窮屈で鎖に繋がれた学園しかない。それに家族である姉が世界最強の称号を得るためにもう一人の家族を犠牲にして君は何も思わなかったわけではないだろう?」

 

 千冬が一夏を見殺しにした 秋人は口をきつく閉じ何も反論できなかった。一夏を失ってから秋人は千冬に対し「自分も見殺しにされるのではないか?」と疑問と不安をいつも抱えていた。だから、自分には価値があることを知らしめるため様々な努力もしたし、IS学園でのISの成績も上を狙っていた。

 

「そして、今度は君の兄。織斑一夏が出てきたことで君に何か良い事はあったか? 奴は確かに強い。何度も我々の邪魔をしてきた。だが、奴は君の居場所を奪ってはいないのか? 家族は、仲間は皆奴と君を比べて勝手に自分達に都合のいいことしか言ってないか?」

 

「そ、それは…」

 

「違うと言い切れるか? 」

 

 一夏が現れてから、確かに昔からの知り合いだった箒や鈴だけでなく、学園で知り合った簪たちもいつしか一夏の話しかしなくなった。危険な時になれば自分も含め周りの人間も助けを求め、そしていつも助けてくれる「ヒーロー」の存在が自分の存在を小さくしていたことに胸を痛くしていた。子供のころは、自分の方が優秀でヒーローだったはずだったのに。

 

 考えこむ秋人にブラッドは背を向けると

 

「君はどう思う? ISなどと言う。女しか操ることしかできない兵器のせいでこの世界はどうなった? これまで国を守ってきた兵は喜んだか? いや、ISがあるから兵は無駄と言われて捨てられた!! ISが出て社会は、治安は良くなったか? 違う、人の心が荒れ悪化しただけだ!! もはや、この世界は病に覆われているんだ!! 」

 

 ブラッドは次々と感情を表し、その姿を見て秋人もブラッドが演技などでなく真剣に世界や人のことを考えている人間だと感じていた。

 

「そして、君にもその資格はある。私と同じように国や人の勝手に使われた者としてだ」

 

「な、何を言って…」

 

「正直に言おう、君のその力を革命軍に生かしてみないか?」 

 

「な、何を!?」

 

「たとえここを出ても、君に待っているのは黒騎士のことしか見ない者達と、国の用意した牢獄の中で生きることだけだ…果たして、それが自由といえるか?」

 

 自由 その言葉を聞き秋人は目を閉じる。学園では、セシリアのようにISがあるせいで他人を差別し、女生徒や教師たちも姉である千冬しか見ていない。元の場所にいても自分がいる場所に自由なんて、人としての尊厳などどこにもない気がした。

 

「学園に…この世界に、自由なんて、ない…」

 

 目が虚ろになっている秋人を見て、ブラッドは部屋に兵を呼びどこかに運びこまれる。

 

「聞こえるか? 今から一人、粒子の注入を…そうだ、最新の強化薬を」

 

 抵抗しない秋人を見てブラットは笑みを浮かべ、「待っていろ、黒騎士。今度こそ」とつぶやき、部屋に弾が入りブラッドに詰め寄る。

 

「隊長!! あいつを、秋人をどうするつもりなんですか!?」

 

「大丈夫だ、君の友人もまた、この世界の差別に苦しんでいた一人だ。我々の同士になる資格はある」

 

「しかし!!」

 

「持ち場に戻れ、いつ敵が来るかわからん」

 

去っていくブラッドを見て弾はうつむき唇をかみしめると、急いで移動し地下を抜け客室の部屋に入ると、箒・簪・楯無の三人がいた。

 

「どうしたの弾君?」

 

「はぁはぁ…秋人が、秋人が強化兵にされ、てしまう!!」

 

「な、なんだと!!」

 

 弾の言葉に箒が驚き、部屋から飛び出しそうなのを楯無が止めた。

 

 屋上で身をひそめていた三人を見つけた弾は「見つかると厄介だ、ついてこい」と言い使われていないこの部屋に匿った。弾が革命軍の一人だと知った時は警戒したがその際、楯無は何故助けるのか理由を聞くと「虚を悲しませたくないと」 と言いそれだけだが彼信じることにした。

 

 弾は呼吸を整えて声を小さくし事情を三人に伝えた。

 

「秋人君を強化…」

 

 楯無は何故か嫌な予感がした。秋人が強化されてどうなるか心配もあったが何故かそれ以上に大きな不安が、何かを失う嫌な感じがして落ち着かない。

 

「お姉ちゃん?」

 

「大丈夫…一応、現状を確認しましょう」

 

 胸の不安が消えないまま、四人に今自分達がすべきことを確認し合う。

 

 秋人を助けないといけない。だが、能力を封じられ捕獲された鈴達も救出しなければならないが戦力が乏しい。弾は強化兵、箒は剣術・楯無は万能に戦えるが簪だけが戦う術を持っていない。正直言って手も足もでない状態だった。

 

 と、楯無はここである事に気づく。弾だけでなく革命軍の兵達はどうやって厳重な警備の中で侵入できたのか、弾に聞いてみると、一度ためらう顔をしたが

 

「島の地下には海底の通路があって元は用心の脱出やらで作られてた。だから、外の奴らもほとんどこの通路の存在は知らないと思う」

 

「秘密の通路…もしかしたら」

 

 楯無は一人つぶやき、一人希望を見出していたーー

 



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四十九話 動き出す力

「ここが隠し通路の入り口か」

 

 四本の刀とボディースーツを装備した千冬が会場からかなり離れた小島にて木々に隠された通路を見てつぶやく。

 

 傍で束が端末を操作し中で作動している防御システムを解除し真耶が装備の準備をしていた。

 

「ずいぶんと手の込んだ真似を…」

 

「けど、ここが唯一の侵入路だけどね。それと、後からいっくんと…もう一人来るからね」

 

 もう一人と言うのはマドカのことで、束は一応彼女が千冬クローンである事は伝えてある。千冬は自身のクローンを勝手に作られて怒りがあったが、マドカ自身に対しての怒りは なかった。

 

「心配するな…私の敵は、お前の生み出した物を冒涜するものだ」

 

「ちーちゃん!!」

 

 束に声をかけた後、千冬は真耶と共に隠し通路に入った。中の通路は用心の脱出などのためか頑丈な作りになっており空調システムもしっかりと稼働していた。通路には罠などもなく二人は長い通路をひたすら進む。

 

「あの、織斑先生…」

 

 真耶が声をかける。二人は小声で話しながら辺りを警戒しつつ進む。

 

「やっぱり、一夏君ってすごいですね…学園や生徒達を何度も守ってみんなから慕われて…でも、未だに海賊だった話は信じられなくて…」

 

「確かにな…」

 

「それで、この戦いが終わったら。先生は秋人君たちと三人で暮らされるのですか?」

 

「さぁな…それはあいつ次第だろう」

 

 短く答える千冬。こんな態度をとるのは別に一夏のことが嫌いとかではなく、一夏に会った時に何を言えばいいのか戸惑っているからだった。

 

 一度刃を交わし、重傷を負った時には少ししか話せなかったが、これも夢の中で会った“あの男”のおかげだろうか?

 

 と考えていると、遠くの方から複数の足音が聞こえて、真耶がリヴァイブを起動させた。ここはまだグングニールの効果が及んでいないようで装備した強化兵達が銃口を向ける前にリヴァイブの両手に持つサブマシンガンが火を噴く。

 

「ちっ!! 下がるぞ!! グングニールの近くまでくれば、ISなど…」

 

 無力になる と言いかけたところで隊長らしき男が気絶する。抜刀した千冬が峰内で敵を無力にし、真耶もサブマシンガン内にある実弾ではなく敵を気絶させるだけのスタン弾で強化兵の数を減らす。

 

 数では兵達の方が上だが、彼らも所詮はただ強化されただけの素人であり、たった二人の侵入者を前に数分もせずに壊滅させられた。

 

 「…ふん、この程度か」

 

 汗一つも流さず、刀を鞘に戻す千冬。応援を呼ばれる前に倒せたが、向かわせた部隊からしばらく連絡がなければ当然敵が来るため、急ぐ必要があった。

 

「…もうじき会場につく。ここから先はISは使えないから君はもう戻れ」

 

「し、しかし…」

 

 弾もエネルギーも十分にある。だが、グングニールの効果範囲に入れば、真耶も無力となり千冬の足でまといになるのはわかっていた。真耶は千冬の体を心配しもう少しだけ護衛にいる と告げようとした時、傍の壁が開きガスマスクをした兵三人が現れる。

 

「強化兵か」

 

 不気味な三人に向け千冬が言葉をかけるが、反応がない。

 

 三人はそれぞれ、刀、鞭、大砲と武器を構え素早い動きで襲いかかる。刀を持った兵が千冬と交戦し、残りの二人がリヴァイブに乗る真耶に接近する。

 

「は、速い!!」

 

 先ほどの兵達とは比べものにならない動きに驚き、マシンガンを撃つが当たらない。

 

 鞭を持った兵と、大砲を持った兵は何度も壁や天井を蹴りスタン弾をかわす。と、両手のマシンガンの弾が切れ、鞭を持った兵がリヴァイブの右腕に鞭を巻きつけた。

 

「くっ!?」

 

 鞭を引き離そうとするが、兵はしっかりと鞭を持ち動かない。反対側から大砲を持った兵が構え対IS用の弾丸が放たれ真耶はとっさにシールドで防ぐが、大きな爆発と共にシールドが粉々になりエネルギーが大幅に減ってしまう。

 

「貴様ら!!」

 

 ボロボロになったリヴァイブを見て二刀流で鞭の兵に向かうが、刀の兵が立ちふさがる。何度も、何度も千冬の二刀流と兵の特別性の刀がぶつかり火花が暗い通路を照らす。

 

 真耶は何とか、立ち上がり反撃しようとブレードを出すが鞭で弾かれ落としてしまう。

 

「これが、強化兵…」

 

 真耶は息を何度も吐きながらつぶやく。人間にISを足止めできるほどの力なんて本来ならないはずだが、革命軍のこれまでの研究により人間がISを超えるために、例え人間としての尊厳や心を消し去ってしまってもいい思想が生んだ産物は着実に進化していった。

 

 ガスマスクをつけたこの兵達は、魔の海域で一夏が出くわした人格を消した人形達をさらに強化した人形以上に思考し命令を遂行する機械であり、もはや人間ではなく元はどんな人間だったのか今となってはわからない。

 

(マシンガンの弾はない…残りは…)

 

 リヴァイブに残された武装は、いくつかの銃器とショートソードだけ。こんな狭い場所で火力のあるものを使えば千冬を巻き込む可能性があり、ショートソードと短銃を手に応戦する。

 

 鞭も特殊につくられリヴァイブの装甲にダメージを与え、大砲も頑丈で何度も真耶をつぶそうと大砲で叩こうとして接近してくる。

 

 リヴァイブの装甲が限界に近づくが、反撃しようとショートソードで鞭を持った兵に接近するもショートソードを素手で捕まれ粉砕されてしまう。刃のかけらが床に落ち、呆然とする真耶の背後で大砲を両手に持ち、真耶をつぶそうと大砲をハンマーのように振り落としーー

 

 

 大砲を持った兵が吹き飛ばされた。

 

 「え?…」

 

 真耶が目を開くと、目の前に一人の黒いISを解除した少年が足を燃やしながら立ち、大砲を持った兵は大きな音をたて壁にめり込む。もう一人、鞭を持った兵にも少女がナイフを突き立て攻撃していた。

 

「こいつら、島で見た奴らと違う…っな!!」

 

 蹴り飛ばした兵が起き上がる兵を見て一夏が再度攻撃をしかけ一夏の足技に兵も格闘技で応戦する。

 

 一方で、マドカも鞭の攻撃を回避し急所を狙うが刃を何度もよけられてしまう。

 

(一夏君!? それに、もう一人は…)

 

 いきなり現れた二人に驚くが、真耶はマドカを見て驚いていた。千冬に似ていて、他に兄妹はいないはずと だが、今は戦闘中であることを思いだしリヴァイブをどうにか動かすが、生身で戦う三人の姿を見てうつむく。このまま自分がここにいても役に立つのか? 

 

「うおぉぉ!!」

 

「はぁぁぁ!!」

 

「邪魔だ!!」

 

 千冬の刃が、一夏の足が、マドカのナイフが、異形と化した強化兵達とぶつかる。

 

 



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五十話 三姉弟VS強化兵

 地下通路の戦いは激しくなる。

 

 一夏が悪魔風脚(ディアブルジャンブ)で何度も大砲を持っていた兵にダメージを与えるが、強化された強固な肉体のためか倒れない。マドカも鞭の攻撃のせいで接近するのが難しくなり、千冬も兵の持つ特別性の刀のせいで自身の刀にヒビが入っていた。

 

 一夏もマドカもISがあり使えるのだが、ここはすでに海の底であり下手に攻撃すれば海水が入り通路が水没する危険があって下手な攻撃ができない。

 

「いい加減に倒れろ!! 粉砕(コンカッセ)!!」

 

 鉄をも砕くような足の一撃を受け、兵が再び壁にめり込む。

 

「はぁ!!」

 

 ナイフを投げ、兵の動きを止めると新たに取り出したナイフで兵の腹部を刺す

 

「…」

 

 千冬もヒビの入った刀で兵の体を切り裂く。血を流し倒れる兵と同時に、持っていた二本の刀が折れて地面に突き刺さった。

 

「こいつら…どんだけ強化してんだよ…」

 

一夏がつぶやく中、マドカと千冬が向かい合う。

 

「…」

 

「おまえのことは束から聞いている…」

 

 マドカは何を言わず千冬を見つめ千冬はマドカに近づき

 

「だが、おまえも私の…いや、私達の家族だ」

 

 マドカの頭を優しくなでる。

 

「ね、姉さん…」

 

 マドカと千冬のやりとりを見て安心する一夏。正直、こんな形で二人を合わせるのは不安だったようだが、杞憂に終わり安堵した。

 

「さて、こっからどうやって進むか…なっ!?」

 

 一夏が倒した兵がいつの間にか大砲を構えていることに気づき一夏が飛び出すが、足に鞭が絡みつき大弾が発射される。

 

「こいつら!!」

 

「させない!!」

 

 真耶が短銃で大弾を撃ち落とし爆発が起こり通路全体に振動が響く中、マドカは新たなナイフを、千冬は残った二本の刀を構えると三人の兵はダメージを負っているはずなのに通路の先をふさぐよう立ちふさがる。

 

 普通なら死んでいるはずの傷を受けていても侵入者を通さないためそれでも戦う姿を見て二人は

 

「人形ふぜいが」

 

「どこまでも邪魔を…」

 

 同じように悪態をつく。真耶に助けられた一夏は、真耶に礼を言い二人の真ん中に立ち光剣を抜く。

 

「これ以上もたついていられねぇ」

 

「あぁ、さっさと終わらせる」

 

「行くぞ!!」

 

 千冬の言葉に一夏とマドカが動く。刀を持った兵に一夏が交戦し、鞭を持った兵に千冬が大砲を持った兵にマドカがつく。

 

 鞭を持った兵にマドカがナイフを投げ、その隙に千冬が攻撃し。一夏と千冬が近くにいた時は互いに敵を交換し戦うなど敵を変えていく。

 

 流れるような動きで戦いをしていくうちに戦況に変化が起こる。マドカが鞭と大砲の兵を相手にしている時、刀を持った兵が一夏の攻撃を防御しようとすると、一夏の背後に死角になって隠れていた千冬が兵の腕を切った。

 

 さらに、一夏と千冬がマドカの援護に向かい高速で動く鞭をマドカが交わす中。

 

 黒く染まった光剣で鞭をバラバラにし、武器を失った兵に向けマドカ前から千冬が後ろから兵の体を刺し兵が倒れる。最後に残る大砲を持った兵は、仲間が倒れたことに何も反応もなく、また発砲しようとして

 

「私のこと、忘れてませんか?」

 

 真耶の放ったグレネードが大砲を直撃し、爆発が起こるが兵はそれでも倒れない。しかし体には重度の火傷があり戦闘でのダメージが効いてきたのかよろめく。

 

「悪魔風脚(ディアブルジャブ)!! 」

 

 動けない兵に向け一夏が再度足を燃やし急接近した

 

「画竜点睛(フランバージュ) ショット!!」

 

 兵の体をさらに蹴りと炎が襲いかかり、衝撃と共に壁にめり込む。壁に埋め込まれる程の蹴りを三度目になり、ついに兵は動かなくなり一夏は大きく息をはいた。

 

「やっと終わったか…つぅ!!」

 

 一夏は腹を抑え、体に巻いていた包帯に血がにじんでいた。ここに来る前に魔の海域でのダメージが残っていて、そのせいで傷が開くが千冬たちに気づかれないよう声を殺す。

 

「山田先生」

 

「はい、わかってます…」

 

 真耶は、千冬の言葉にうなずく。これ以上ついてきてもグングニールの範囲に行けば自分は邪魔になることはわかっており、悔しい気持ちでいる真耶に一夏は

 

「さっきは本当にありがとうございました、けどこれから先は俺達が何とかしますから…あなたは、あなたのできることをしてください」

 

 

 

 一夏の言葉に真耶は力強くうなずき通路を戻った。真耶は内心、さっきまでの戦いを思いだし強化兵達と一夏達との違いは、連携が取れていることや戦術を見ているなどではなく、そこには心がつながった家族が、信頼しあった兄妹だからできた戦いだったのではと思いながら

 

「どうか、ご無事で…」

 

 真耶は小さくつぶやき、リヴァイブを全速させ離脱して。三人は先に進んだーー

 

 



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五十一話 狂気に染まる世界

 一夏達が秘密通路を抜けている間、地上でも変化が起きていた。ブラッドの要求を受け、急遽作られた対策チームがどうにか事態の収拾をつけようと交渉をするが

 

「ほぉ? つまり、我々の要求には応じられないと?」

 

「「と、とにかく先に人質の解放を…怪我人もいるだろうし、そうすれば少しは…」」

 

 モニターに映る交渉人から視線をそらしブラッドは部下にハンドサインで指示を与え部下の一人が倒れている女性委員の頭を打ちぬく。

 

「「なっ!?」」

 

「こんな無駄なことをしている暇があったら、要求どうりにしろ。ここにいる怪我人が、死人になる前にな」

 

 それだけ言い、ブラッドは通信を切る。頭を打ちぬかれた女性委員は議事上の端に集められた人質たちの前にほうり投げ悲鳴があがり、何人かが失禁し気絶した。

 

 人質たちの周りには、複数のカメラが設置されネット配信で全世界に向け配信されていた。そして、地獄と化し死体が転がる議事上を見て人々は

 

「うぉ!! いきなり死体が出てビビった!!」

 

「あ、このおばさん死んだんだ?」

 

「いいぞ!! このままIS委員全員殺しちぃまえ!!」

 

「おいおい、皆殺したら人質いなくなるぞ?」

 

「いいな、俺の知ってる女どもも一緒に殺してくんねぇかな?」

 

 ネットの書き込みもますます増えていき、逆にISを支持する者や革命軍のやり方に異議を唱える者達が意見を述べ、書き込むが炎上を招くことになりこれ以上の混乱を防ごうと対策チームが動くもまったく効果がない。

 

 時間が過ぎていく間にも警察や軍隊が暴動を抑える事態にもなり、IS学園にもその波が迫ろうとしていたーー

 

 

「「我々の血税を貪る学校など必要ない!!」」

 

「「IS学園などなくしてしまえ!! 」」

 

 学園に繋がるモノレール駅に暴動達が集まっていた。拡声器を持ち、大きなプラカードや旗を持ち今まで溜まっていた負の感情を爆発させる。

 

 警察や軍だけでなく学園の警備兵やISまでも出て、市民といつ衝突してもおかしくない状況で、学園にいる生徒や教師はいつ自分達が襲撃を受けるか恐怖にいる者や、すでに事態を見て逃げ出した者もいた。そんな中、理事長室では

 

「警備につく者は市民に怪我をさせないよう徹底を、それと生徒達の安全を最優先で…」

 

 轡木十蔵(くつわぎじゅうぞう)と、彼の妻である理事長が各組織に指示を与えていた。

 

 革命軍の起こした事件のせいでISに関わるもの。その象徴ともいえるここIS学園が狙われている今、生徒達を守ることを優先にするが今ネットでは生徒達の顔写真やプロフィールがどこからか流出し「国民の血税を貪る生徒達を狩る」と名目で生徒だけでなく、生徒の家族までも被害を受ける事態にまで深刻になっていた。

 

「このままでは日本が、いや世界が危険だ…」

 

 十蔵は険しい目つきで、ニュースで報道されているサミットの会場を見てつぶやく。この状況を解決するには会場にいる革命軍をどうにかするしかない。そんなことができるは…

 

「この世界を頼みましたよ…一夏君…」

 

 

 

 

「な、なによこれ…」

 

 寮のある部屋にて、サミットが起きる前に秋人達に因縁をつけ試合でステルス装備をしていた上級生が顔を青くしながら何度も端末を操作し電話をかけるが相手から応答がない。

 

(なんで!? サミットの情報をくれたら私は助けてくれるって、企業に紹介してくれるって…)

 

 実は彼女はISの知識だけでなくPC関連の、主にハッキングなどの技術に精通しておりそこを革命軍に買われ学園内でスパイをしていた。

 

 ISを嫌う革命軍だろうが彼女は自身の未来のためならとサミットの情報を革命軍に渡すことで秋人とその周りにいる候補生たちを陥れ、IS学園での地位を得ると考えていた。

 

 だが、彼女が思っていたよりも状況が変わってしまった。このままでは自分の身が危ない。急いでISスーツに着替え警備のため人がいない整備室に入ると修理中の打鉄に乗り、ハッチをこじ開け飛び立つ。

 

「私は生きるのよ…私の未来は、私の未来は…」

 

 何度もつぶやく彼女に向けどこからか対空ミサイルが飛び直撃して修理中で飛ぶことしかできなかった機体はそのまま海に落ちてしまう。どこからか飛んできたミサイルと、撃墜されたISを見て人々が驚くその中で

 

 

 パンッ

 

「なっ…!?」

 

 警官の一人が一番前で看板を持っていた男に向け突如発砲し血が流れる。さらに、市民の一人が笑みを浮かべながらバックに隠してある銃で警官に向け発砲し次々と銃声が鳴り響いた。

 

「「こちらαチーム!! 警官が撃たれた!! 市民が銃を所持している!!」」

 

「「あれは!? 港付近にいる暴動の中に重火器を持った市民がいる!!」」

 

「「ま、まて市民に発砲するな!!」」

 

 軍と警察が武器を所持した市民と衝突した。人が倒れ多くの血が流れる中、IS部隊も市民を止めようとするが、市民の数が圧倒的に多く数体のISでは完全に抑えきれない。

 

「「本部!! 市民の数が多すぎる!! 支給応援を…」」

 

 ISに乗る教員の誰かが応援を要請した時、隣にいた打鉄が持っていた短銃を市民に向け発砲した。まだ若い数人の男女が血を流し倒れ、教員が発砲した同僚を押さえようとしが反撃をくらい倒れる。他にも二体、三体と警備についていたリヴァイブ達がマシンガンを発砲し一方的に市民を逆殺していく。

 

 この暴動とISが市民に向け発砲した状況はネット配信で流れ、ISによる虐殺を見ていた人々の感情が動く。ISは悪だ、ISと言う悪を許すな。

 

 ISに対する憎しみの意識を共有し武器を手にした市民たちは警察・軍・IS部隊と完全衝突した。

 

「世界が変わる…」

これでもう、ISは終わりだ」

 

「ついに、我々の苦労が報われる」

 

 市民・警察・軍隊さらにIS部隊に潜りこんでいた革命軍の兵士達は目の前の戦争と化した状況を見て喜びを感じていた。今までISにしか見ていなかった社会への罰を与えることに成功したと思い、口にするが彼らは気づいていない。

 

 自らが招いたしまった、破滅の道への始まりだとーー

 

 

 

 一方で、秘密通路を抜けた先。会場の地下フロアにて多くの倒れた革命軍の兵がいた。

兵の持っていた端末を奪い一夏は秋人達の居場所を探す中、千冬とマドカは武器の調達のため倒した兵から拳銃などを奪う。

 

「人質の解放にグングニールの破壊、それと革命軍どもをどうにかする…やること多いな」

 

「愚痴をこぼす暇があれば、手を動かせ」

 

 千冬に注意され、一夏は黙り端末を操作する。一人、マドカはあたりを警戒し進んでいると何かの気配を感じ銃のロックを解除し銃口を向けると

 

「久ぶりね、マドカ」

 

 スコールが笑顔で挨拶するが、マドカは警戒し銃を降ろさない。さらにもう一人、オータムも姿を現し持っていたマシンガンをマドカに向ける。

 

「てめぇ、まさか裏切るのか? だったら…」

 

「マドカ、何かあったか…あ?」

 

 マドカの後ろから、一夏と千冬が姿を現しオータムとスコールが警戒した。

彼女達はまさか、こんなところで一夏だけでなく、世界最強の称号を持つ千冬までもがいることに驚きを隠せずにいた。

 

「な、なぜこんなところに!?」

 

「てめぇ!!」

 

 以前学園祭の時に屈辱を味あわされたオータムはマシンガンを発砲するが、一夏が光剣で銃を切り裂く。

 

「やめろ、今俺達はこんなことを…下がれ!!」

 

 オータムを押し倒し、一夏が光剣で飛んできた槍を弾いた。槍が飛んで方から地下通路で戦った時と同じガスマスクをつけた兵がおり、さらにもう一人。体中に鎖を巻いたガスマスクの兵が姿を現す。

 

「まだいるのかよ!!」

 

 一夏が叫ぶと鎖の兵が、一夏に向け鎖を投げ一夏の腕に巻き付くと突然力が抜け一夏がその場に膝をつく。

 

「こいつは海楼石!? 」

 

 能力を封じる海の力を持つ石の存在に気づくが槍を回収した兵が一夏に向け槍を向け動き、千冬が一夏の前に立ち刀で槍を防ぐ。どうにか腕に巻き付いた鎖を外そうとするが、きつく巻かれているせいで外れず膠着(こうちゃく)していると。

 

「どいつもこいつもなめやがって!! 死ねぇ!!」

 

 オータムが切れ、鎖の兵と槍の兵に向けマシンガンを放つ。千冬たちは巻き添えを食らう前に退避し、二人の兵が高速に動き弾丸を回避する。さらに、オータムの背後からグレネードを持ったスコールが援護射撃をして爆発が起きた。

 

「スコール!! なんなんだあの気持ち悪いのは、私は聞いてないぞ!!」

 

「私もよ…どうやら、私達も消すつもりだったようね」

 

「ちくしょう、ISが使えれば…」

 

 空になった銃器を捨てる二人。このまま一夏達が通った通路を使い脱出すればいいが、このまま徹底してもこのままでは彼女達の気が収まらない。

 

「貴様らが、秋人と一夏を…」

 

 すでにマドカから聞いており、一夏達を誘拐したのが彼女達だということは知っていた千冬は刀を握り二人殺気を出すが鎖を解いた一夏が前に出て千冬を止める。今はこんなところで争っている場合ではない と告げ光剣を構えていると鎖の攻撃が飛んできた。

 

「厄介な物だしやがって!!」

 

 鎖を光剣で弾き、もう一人槍の兵をマドカが押さえた。このまま三人でこの二体を相手にしていては時間がない。既に敵にはこっちの存在は気づかれているはずで、応援などを呼ばれれば厄介だ。

 

「いい加減にどけ!!」

 

 鎖を掴み、体に力が抜けるが。それでも、鎖を引き寄せ兵の胴体に拳を一撃入れる。さらに、弾を補充したスコールが銃弾の嵐を兵に向け体中に風穴を作るがそれでも倒れない。

 

「いい加減にくたばりやがれ!!」

 

 叫ぶオータムを一夏が見ると、大きなガトリング砲を両手で持ったオータムがおりガトリング砲の火が吹く。

 

「死ねぇ!!」

 

 大量の弾丸が排出され、連続した発砲音が鳴り続けた。ガトリング砲の弾が空になるまで打ち尽くしオータムはガトリングを放り捨てると「借りは返したぞ、クソガキ!!」と叫び一夏は「巻き添えになるところだった」とつぶやいてかつて人の形をしていた肉片と、血だらけになった鎖を見る。

 

(なんでこの世界に海楼石が…やべ!! 鈴達も、クソ!!)

 

 能力者は、海に落ちると能力が使えなくなり沈むが、他にも弱点として海の固形物と呼ぶ「海楼石」がある。これは加工が難しいが能力者に対し有効のため、手錠から兵器まで様々な道具があの世界では開発されていた。

  

(あの世界から来た奴がいる…こいつは…)

 

 槍の兵と戦う千冬とマドカを見て一夏は自分の知ることを秋人や千冬に打ち明けるか悩んだ。この秘密は、罪は家族たちに背負わせる必要はない と考えているとスコールが槍の兵に向けボウガンを向け放つが、槍で弾かれる。

 

「一夏!! 先に行け!!」

 

「ここで時間を無駄にしている場合ではない!!」

 

 千冬とマドカが叫ぶ。そして、新たな銃を手にしたオータムが「行けよ」とつぶやき槍の兵に向け発砲した。千冬、マドカ、オータム。スコール。本来なら敵同士の者達が共通の敵を倒すため力を合わせていた。

 

 一夏は四人に「先に行く!!」と言い、一人地上に向かう階段を上がっていく。

 

 かつて、冒険の中でも敵だった者がいつの間にか強大な敵を倒すために力を合わせた経験があり、その原因である“彼”はもういないはずなのに不思議だな とつぶやき笑みを浮かべて出口の扉を開いたーー

 

 



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五十二話 流れる血と涙

 

「秋人!! 秋人!!」

 

 医療用ベッドに寝かされていた秋人の体を叫びながら揺さぶる箒。周りには、弾が倒した革命軍の兵士達が倒れ、楯無と簪が辺りを警戒する。

 

「う…うぅ」

 

 箒の声で目を開ける秋人。弾達は秋人が目覚めたことに喜び体に異常はないか聞いてきて秋人は首を横に振る。

 

「そうか…とにかくここを出よう。どうやら、改造される前に間に合ったみたいだな」

 

 弾は秋人がまだ改造されていないと思い秋人に肩を乗せ部屋を出た時、弾が箒達に告げた。

 

「頼みがある、地下の通路を使って秋人と一緒に逃げてくれ」

 

「あなたはどうするの?」

 

「俺は鈴達を助ける、それにISの使えないお前らがこれ以上ここにいても危険なだけだ」

 

「なっ!?」

 

 箒が顔を赤くし弾に反論しようとしたけども楯無が止めた。弾の言うとおり、今の自分達では弾のように強化兵は倒せない。今は秋人と自分達の安全を確保するしかない と告げ箒は唇をかみしめて黙る。

 

「…それじゃ、後を頼む」

 

 弾はそう言い走り去っていく。残された四人は既に入手した端末で身を隠しながら警備に見つからないように会場の中を進む。弾が騒ぎを起こしてくれたおかげか、簡単に地下フロアへの扉まで近づけたが、秋人の様子がどこかおかしいため四人は柱の影に身をひそめた。

 

「秋人、本当に大丈夫か?」

 

「うん…」

 

 箒は何度も、何度も秋人に声をかけるが彼からは生返事しか返ってこない。

 

 箒と秋人のやりとりを聞きながら、簪と楯無が辺りを警戒し「このまま見つからずに済めばいいけど…」楯無がつぶやき、簪もうなずく。

 

 楯無は、今から自分達の向かう地下通路に一夏がいる事を予感していた。このまま合流できれば、なんとか外部と連絡を取り対策を、と思考している時、ふっと顔を上げた。

 

 秋人は何故、弾を見て何も言わなかったのか? さっき弾が秋人を助けた時何故、「弾がここにいる」ことに疑問を持たなかったのか? 既に彼自身から事情を聞いている彼女たちはですら驚いたのに、秋人は何も聞こうとしなかった。

 

「っ!! まさか!?」

 

 楯無が背後を振り向くと秋人の姿がなく、箒が倒れていた。

 

「箒ちゃん!!」

 

 気絶させられた箒を介抱し、簪と楯無が物音がした方に顔を上げると地下フロアに行く扉が開いていたーー

 

 

 地下通路の階段から出口にたどりついた一夏は、見張りもいない部屋の床に座りこんでいた。

 

「これは、ちとまずいかな…」

 

 目の前がくらみ、息が荒い。魔の海域での強化兵やアリーシャとの戦闘。さらに地下の異常な強化兵達との戦闘で蓄積された疲労やダメージがたまり限界に近づいてきた。

 

 一夏がいくら伝説の海賊の一人とで、まだ十六の少年で生身の人間であることに変わりはない。戦闘が続けば嫌でも疲労が残ってしまう。

 

「ここコーラあるか…それか肉食いてぇな…」

 

 つぶやいて目を閉じる。地下に残してきた千冬やオータム達のことを思うが今ここで引き返すわけにはいかない。自分は彼女達に託された。だから進むしかない。

 

「ちっ、敵か?」

 

 近づいてくる気配に警戒し、光剣を抜くと入ってきたのは

 

「あ、秋人!?」

 

「に、にいさん…」

 

顔色の悪い秋人を見て一夏は剣を鞘に戻し近づく。

 

「おまえ、どうして…」

 

「突然ISが使えなくなって、それで何とか逃げてきたんだけど…箒や楯無さん達がつかまって…急いで助けないと!!」

 

「箒と…楯無が!!」

 

 二人の名を聞き、秋人に地下へ逃げるように告げ一夏が部屋から出ようとすると突然背中に痛みが走った。

 

「なっ!?」

 

 後ろを振り向く一夏。大型のナイフを持った秋人が一夏の背中を刺しさらに力を込め刃が体の中に入る。

 

「ぐぅ!!」

 

背中からの出血がナイフと秋一の手に流れて床に溜まっていく。と、地下の方からマドカが、秋人が入ってきた扉から箒達が同時に入ってきた。

 

「あ、秋人…?」

 

「貴様!?」

 

 箒が呆然とし、先に事態に気づいたマドカが急いで秋人を引きはがす。千冬に似たマドカのことに箒達も驚くが、床に流れる血を見て簪が悲鳴をあげ一夏は口から血を吐き出しその場に膝をつき楯無が叫んだ。

 

「あなた、何をしたのかわかっているの!? 自分の兄を…」

 

「わかってる!! わかってるさ!! けど、こうしないと皆の命が危ないんだ!!」

 

「ど、どう言うことだ?」

 

 箒がつぶやき。秋人は泣きながしながら話し始めた。要求に答えない一夏は、人質の命など考えずに革命軍を倒そうとしていること、捕まっている鈴達を救うには自分が革命軍に協力するしかないと。そして…

 

「兄さんは、僕の…僕の居場所も何もかも奪おうとしているから…皆を助けて英雄にならないと、僕は…」

 

「そんな理由で!!」

 

 秋人の言葉に怒りを表す楯無。拳を握りしめ、今にも秋人を殴ろうとした時一夏が動く。

 

「一夏君!?」

 

「大丈夫だ、秋人…」

 

 背に刺さったナイフを抜いて捨て秋人に寄る。背中からの出血が床に流れ、それでも倒れない一夏に恐怖し、秋人は殺されるのを覚悟した。

 

「言いたいことは、それだけか? それが、お前の本音か?」

 

「あぁ、そうさ…どうせ、この先、誰も僕を見てくれない…どうせ、皆は兄さんや姉さんしか…」

 

 言葉は続かず一夏が秋人を強く抱きしめた。

 

「え…?」

 

「あっちの世界行っててお前も千冬姉ぇも守れなくて本当にごめん…お前の気持ちはよくわかる。いろんな奴から、勝手なこと言われ嫌だったたんだろ…俺にも分かる。自分の居場所なんてない、誰に怒りをぶつければいいのか分かんなくて死にたくもなる…けどな」

 

 一夏は秋人の頭を優しくなでた。一夏からは自分を刺したはずの秋人に対し怒りも敵意もなく、優しい目でみつめていたのに驚き呆然とした。何故怒らない? 自分勝手な理由で刺したのに、何故敵意すら向けないのか 疑問に思っていると

 

「けど、お前は一人じゃない。マドカや千冬姉ぇ、ここにいる箒や楯無達、そして学園で会った仲間もいる…だから、安心しろ。お前は一人じゃない!!」

 

 力強い一夏の言葉を聞き、大粒の涙を流す。それはまるで今までの溜まっていた負の感情が洪水のように流れるかのように。しばらくして秋人が落ちつた頃、一夏はマドカや楯無達に背を向け応急処置をしていた。

 

「まったく、貴様は無茶をするな…」

 

「まぁ、これぐらいは…」

 

「良くないわよ!! かんちゃん、何か使える物をさがして」

 

「う、うん」

 

 一夏の無茶なことに呆れながら、それでも一夏の事を認めている少女達は内心秋人に怒らず受け入れたことに安堵していた。

 

 一方で未だに泣いている秋人には、いつの間にか箒が秋人にそっと近づき抱きしめた。

 

「すまん…私は、お前の気持ちを知らずに…本当に、すまない…」

 

 箒もまた姉の束のことから国の勝手で窮屈で寂しい思いをしてきた。誰にも分ってもらえず、ただ人から勝手に言われ続け居場所のない孤独を彼女も知っていて涙を流し秋人に詫びた。

 

「だから…だから、もうその手を血に染めないでくれ…」

 

「箒…」

 

一夏の血で染まった秋人の手に箒の手が重なり、その手に箒と秋人の涙が落ちた。

 

 この日、血と涙が流れた戦場にて海賊である兄と普通の少年である弟は和解した。

弟は兄に心からの声と刃を向け、兄は血を流しながらも弟の刃も声を全て受けとめて許した。

 

 だが、後に再び別れが来ることに今は誰も知らないーー

 



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五十三話 反撃と覚悟

 地上にて一夏と秋人が和解した頃、時を同じくして地下ではーー

 

「死にやがれ!!」

 

 オータムが叫びながら折れた槍をガスマスクの兵の胸に突き刺しガスマスクの兵は声を上げずに倒れ大きな地下部屋には銃弾や矢が壁に突き刺さりこの戦闘がどれだけのものだったのか物語っていた。

 

「さて、邪魔は消えたところで後はお前らか」

 

兵を倒し終え千冬が残り一本になった刀をオータム達に向けた。オータムは弾が残り少ないアサルトライフルを千冬に向けて構える。

 

「ふざけんな!! 今すぐに…」

 

「待ちなさい、オータム」

 

 スコールがオータムの前に出る。一瞬だが、二人は合いアイコンタクトをしてスコールが千冬に向く。

 

 数年前の誘拐事件。ある国が千冬のモンド・グロッソでの辞退を狙って一夏と秋人の誘拐を企てた事。さらに千冬の遺伝子を入手し自分達の組織で役に立つ兵を作る目的で、二人の捜索で借りができたドイツで教官をしていた時に遺伝子情報を採取したことなど、揺さぶりをかけるためスコールが話す。

 

 スコールの背後ではオータムが引き金に指をかけいつでも撃てるようにしていたが

 

「何を今さら、そんなものはとっくに知っている。それに、こんな所に貴様らがいるということは、どうやら亡霊もすでに用済みと言うことか」

 

「なっ?」

 

「どうゆう事かしら?」

 

 二人の予想を裏切りすでに知っていた千冬は冷静だった。

 

 束達の調査で既に、革命軍があらゆる組織に深く入り込み裏で糸を引いている事も知っていた。

 

 ナターシャ達、IS部隊を魔の海域に送った軍の上層部。

 

 さらに、巨大な権力を持つIS委員会や世界的犯罪組織。

 

 そして世界の闇で活動するファントム・タスクも同様に革命軍の手のひらで踊らされている真実が千冬から語られた。

 

「ふざけんな!!」

 

「そんな話を信じろと?」

 

 話を信じる気がない態度を見て、千冬は一度ため息をつき。情報端末をオータム達に向け投げた。二人は投げられた情報端末を見て

 

「こいつは!?」

 

「組織の機密情報が…」

 

 端末には、ファントム・タスクの機密情報だけでなく世界中の軍やIS委員会の今回のサミットに関する重要度の情報があった。

 

 さらに、一夏が島から手に入れた情報から今回のサミット襲撃にあたり必要なくなった戦力――ファントム・タスクを含めたいくつかの組織も消すのが計画されていた。

 

 二人は千冬の話を信じたのかオータムは千冬に向けていた銃を降ろし、悪態をついて壁を強く殴った。

 

「クソがっ!! なめた真似しやがって!!」

 

「そんな、組織が…」

 

 革命軍により後ろ盾も何もかも失い戦う気がない二人を見て「さっさとここから消えろ」とだけ言い千冬は地上への階段を上っていく。

 

(…私も甘くなったものだ)

 

 家族を誘拐した敵を殺さずしかも真実を教えてしまった。今までの自分ではしなかったことに自分が変わったのだと感じつつ千冬は扉を開いた。

 

「なっ!?」

 

「織斑先生!?」

 

 突然入ってきた千冬に、一夏に寄り添っていた簪と楯無が驚く。

 

「千冬さん!?」

 

「ね、姉さん…」

 

 一夏の血で染まった手で握り合う箒と秋人の二人は目をそらし、マドカが千冬の前に動き二人の姿を隠すように無言で立つ。

 

「無事だったか千冬姉ぇ」

 

「あたり前だ、その傷は」

 

「敵にやられた、それだけだ」

 

 秋人に刺された傷をごまかし、介抱してくれた姉妹から離れる一夏。

 千冬は何か言いたそうな顔をしたが、ため息をつき追及しなかった。

 

「連中をこれ以上好きにはさせん、更識姉妹、秋人、箒。お前たちは逃げたいならそこの地下から今すぐに逃げろ、止めはしない。」

 

 千冬の言葉を受け四人は

 

「私は、逃げません」

 

「私もやらせていただきます」

 

「僕は、もう逃げたくない」

 

「わ、私もやります!!」

 

 四つの迷いなき答えが出て千冬は口元に一瞬笑みを浮かべ、マドカは一夏に近づく。

 

「無理はするな、戦闘は私が全てやる」

 

「大丈夫だ、まだやれる…それと、さっきの事は言うなよ?」

 

 秋人のつけた背中の傷のことを言い、一夏は顔色の悪いままマドカの頭に手を置きマドカは顔を赤くした。

 

 既にマドカの事は秋人達には伝えており、最初は驚かれたが一夏は強くマドカを「家族」だと言い、最初は戸惑ったが秋人は何も言わず頷いた。

 

「一夏君~~?」

 

「何しているの?」

 

 一夏の背後にて二人の少女が迫りくる。二人もマドカと同じように撫でて欲しいと目で訴え、一夏はため息をつき二人の頭をなでる。

 

「これでいいか?」

 

「うん…」

 

「やっと女の子の気持ちが分かってきたわね?」

 

 一夏は両手から感じる柔らかい感触と甘い匂いを感じ、すぐに手を離した。

 

 傍で箒がそんなやり取りを見るが不思議と怒りも嫉妬もなく、納得した顔をして秋人に寄り添った。

 

 千冬がわざとらしく咳払いをしつつ、ポーチからウサギの形をした情報端末を取り出し箒に渡す。

 

「あの、これは…?」

 

「束の奴から渡された、そいつはお前にしか使えないようにしてある」

 

 姉の名前を聞き箒がウサギ型の端末を強く握りしめる。束に言いたい事は山ほどあるが、今はやるべきことをやるしかない と覚悟を決めて顔を上げた。

 

「まずは敵を排除し、奴らのーー」

 

 千冬からの作戦指示を受け、一夏達は行動を開始した。

 一方で別の部屋ではーー

 

「ふざけんじゃないわよ!!」

 

「誰が貴様らに協力するか!!」

 

 大部屋にて鎖を巻き付かれ、兵に囲まれた鈴達が白衣を着た男「教授」に向け吠えた。

 

「はぁ、まったく…IS乗りというのは」

 

 教授は一度ため息をつく。彼は鈴達の持つ能力に興味を持ち、その力をどこで手に入れたか? それともISの進化で得たものか? と質問攻めをするが彼女達は答えない。

 

 教授は研究のために彼女達に「協力」をお願いするが、拒絶されてしまい

 

「この手は使いたくはなかったのですが…おいアレを用意してくれ」

 

 兵に指示を与えると、部屋のモニターに電源が入る。

 

 モニターにはどこかの部屋に閉じ込められたIS委員の女性幹部と政府関係者。さらに警備にいた操縦者たちの姿が映し出された。

 

「あなた達IS乗りはさもあたり前のように、自分達より下の人間を見下したがる。その結果、社会がおかしくなり女尊男卑なんてものができてしまった。例えばミス・オルコット。あなたは確か学園で織斑秋人君を侮辱するような事を言ったそうだが?」

 

「そ、それは…」

 

「それだけではない、ラウラ君も日本人を平然と侮辱した。この当たり前のためにどれだけの人が苦しみ、死を選んだか分かるかね? 君たちは償わなければならないのだよ、私を含む大勢の者に…死という謝罪をもって」

 

 モニターに映る部屋に怪しい色をしたガスが放たれる。これは魔の海域でナターシャ達にしたのと同じで、ISに乗った女どもに死と地獄を味わせる教授が気に入っている処刑方法だった。

 

「「やめて!!」」

 

「「死にたくない!!」」

 

「「助けて!! 私だけでも!!」」

 

 悲鳴が上がり死にたくない一心で他人を押しのけガスから逃げようと閉ざされた扉を必死に叩くが強固なセキュリティシステムで閉ざされた扉は開かない。

 

「どうだね? 散々見下していた男に殺される気分は? これは自業自得だ。今君たちの醜い姿は世界中に配信している、最後の時間を楽しみたまえ」

 

 教授がマイクを使い、毒ガスから逃げる人々に言い放った。

 

 実際にこの状況は世界に配信され、毒ガスから逃げたくて涙と叫びをあげる委員達を見て

 

「社会のゴミ一掃」

 

「毒ガスなんて本格的だな~~」

 

「革命軍万歳!!」

 

 と、まるでアニメを見ているかのような感覚で人々が書き込みをしていた。

 

「や、やめなさい!! こんな事おかしいわよ!!」

 

「おかしい? そうさ、おかしくなった社会を正すために我々はこうして戦っているのだよ? それに、君たちIS乗りが全ていなくなれば世の中はとてもきれいになる。とてもいいことだ」

 

 人の命を何とも思わない、何か狂気に取りつかれた教授を見て叫んでいたシャルが

「狂ってる」とつぶやいた。

 

「そうさ、奴らが私の全てを奪った!! 今度は私が奪い、蹂躙する番だ!!」

 

「き、貴様ら!!」

 

「おかしい…こんなのって、おかしい…」

 

「あなた達はもはや人じゃありませんわ!!」

 

「ひどい、こんな…」

 

 ガスが充満していく部屋を見て満足な顔をしている教授に向け ラウラが怒り、シャルが目の前の現実に涙を浮かべ、セシリアが目の前にいる外道たちに叫び、鈴は恐怖した。

 

「ひどい? 今まで私達にしてきた事なのに何を今さら? まだですよ、まだ償いは足りないのですから」

 

「や、やめてっ!!」

 

 鈴達の静止の声聞こえず教授による憎しみを満たす「処刑」が止まらない。

すでに心が耐え切れなくなった鈴は涙を流して目を閉じた。

 

(助けて…助けてよ、一夏…)

 

 鈴が心の中でつぶやいたその時、換気口から流れていた毒ガスが止まった。

 

「な、なんだ!? 何故ガスを止めた!?」

 

 教授が異変に気付き叫んでいるとモニターに映る部屋に、さらに異変が起きる。

 

 突然、扉がバラバラに切り裂かれ「悪趣味なことしてんじゃねぇよ!!」とモニターから聞きなれた声がした。

 

 鈴が顔を上げると、人質達がいる部屋に三つの人影があり

 

 一人目は黒い外套をまとい、手に西洋の剣をもった男。

 

 二人目は、ボディースーツを着込んだ日本刀を持つ長身の女性

 

 三人目はナイフを持った少女の姿があった。

 

「一夏!?」

 

「お、織斑先生!?」

 

「それに、あの方は…」

 

「教官に似ている…?」

 

 一夏と隣にいる千冬とマドカを見て、人質や鈴達が驚いていた。さらにこの映像の配信を見ている外の人間たちも処刑が中断され次々と書き込みをしていく

 

「織斑一夏!?」

 

「まさか、黒騎士だと!!しかも、ブリュンヒルデまで!!」

 

「おい、あの娘。ブリュンヒルデにそっくりだぞ!?」

 

「おいおい、これからいいところなのに邪魔だ!!」

 

 一夏達が破壊した扉から人質たちが我さきに逃げていき、一夏は部屋にある監視カメラに向けて剣を向けると

 

「いい加減にしやがれ!! そんなに女が憎いのかよ、教授!!」

 

「たかが地位を失った程度でこれか」

 

「所詮はクズだな」

 

 一夏達の言葉に冷静を失った教授は怒り狂い、部屋のガスを再度流そうと操作するが何も起こらない。

 

「馬鹿な、何が起こって…っ!?」

 

 突然、世界中に配信していた映像が消える。数秒してから再び映像が蘇るが表示されていたのは教授の顔が映った写真と彼の全てのプロフィールが流れていた。

 

 教授の本名から生まれた年。さらに、地位も名誉もあった研究機関に所属していたが、ささいなきっかけでIS委員の女性たちに目をつけられ、研究機関から追い出されたことまでまさに彼の全てが世界中に流れてしまった。

 

 そして、それを見た者達はーー

 

「なんだ、だせぇおっさんがこんな事してたのかよ」

 

「こんなんただのの八つ当たりだろ? 」

 

「え~~そんな理由でガス使ったりしたのかよ? うけるww」

 

 

「おさっんなんかどうでもいいから、さっさと女どもの悲鳴を聞かせろ!!」

 

 さっきまで革命軍を支援する姿勢から手のひらを返した書き込みが流れ教授が力なくその場に座りこんだ。

 

 自身の全ての情報が世界に流れ取り返しがつかなくなっただけでなく、映像を見て革命軍を支持していた者達からの侮辱とあざけりに教授の心が音を立てて崩れていった。

 

「それと、さっきから映像見て書き込みしてり奴ら!! 笑ってんじゃねぇ!!」

 

 映像が一夏を映し彼の怒りの怒声が響くと画面を見て書き込みをしていた世界中の人間が一夏に恐怖した。

 

 まるで心臓を握りつぶされるような威圧を感じ女の悲鳴に笑っていた者達は命の危険を感じて我先に端末の電源を消していく。

 

「一夏…」

 

 モニターに写る一夏を見てさっきまで怒りと絶望の表情を浮かべていた鈴達の顔色が変わった。そして、一夏は

 

「待ってろ鈴!! 今から助けにいく!! 死んでも俺は助けてやるからな!!」

 

 一夏は叫び光剣でモニターを切り画面には何も映らなくなったーー

 

 

 

「もう、死んでも助けるなんて。私には言ってくれないのかしら?」

 

 4、5人の兵士達が倒れている通信室にて先ほどの一夏の言葉にふてくされる楯無。

すでに制圧した通信室にて、箒あてに束が作りあげた端末を使い世界中に配信していた映像を停止させ、教授のプロフィールを流すなど全ての通信システムや毒ガス装置のコントロールを得ていた。

 

「簪。他の人質達も解放するぞ」

 

「了解…扉を解除」

 

 箒と簪がコンソールを動かし閉じ込められている部屋の扉を解除していき人質達を解放していく。

 

「どう? 秋人君?」

 

「はい、さっき兵達の端末に中庭に集合するよう連絡を入れました。けど、グングニールの操作している装置はここには…」

 

「やっぱり別の場所にあるか…それさえ破壊できればいいんだけど…」

 

 ISを展開できなくするグングニールさえなければ外部にいるIS部隊が救援に来て形成を変えることができるのだが、こうして会場のシステムと人質を解放できたのは大きな反撃の一歩だ。

 

 千冬からの作戦で、一夏達が囮と敵の排除をし秋人達がシステムのコントロールを奪い敵のかく乱と役割を分けて動いていた。

 

「後はグングニールをどうにかすれば…頼んだわよ一夏君」

 

 楯無は祈るようにつぶやき、監視モニターに映る人質達を誘導する一夏に向けつぶやいたーー

 

 

 

「一夏の奴…もう来たのか」

 

 島の中心にある重要物を納める金庫部屋にて弾がつぶやいた。島のあちこちから聞こえる銃声や人質達の声を聞き、一夏が来たことを察し弾は作業を進める。

 

 今、彼の目の前には白く強大なタマゴの形をした機械「グングニール」が置かれてあった。

 

 このグングニールは特別でISの妨害電波はもちろん。島の周辺に置かれたグングニールの制御装置を兼ねていた。

 

「こいつを破壊すれば、この戦いは終わる」

 

 手元にある爆弾の準備を終え、グングニールに取り付けていく。

 

 これは明らかな裏切りなのだが、今の弾には迷いはなかった。

 

 革命軍に入り、世界の歪みを正そうと暴力に手を染めてきた。だが、学園祭で一夏と再会し、戦いとは無縁な虚との出会いを得て彼の心は変わろうとしていた。

 

(これ以上犠牲を出してたまるか…今のままじゃ一夏にも虚さんにも何もできねぇ!!)

 

 爆弾の設置を終え、弾は起爆スイッチを持つ。

 

「何をしている」

 

 弾が背後を振り向くと、サングラスをかけた男が部屋の入口に立っていた。

 

「ブラッド、隊長…」

 

「貴様、一体どういうつもりだ」

 

「隊長…隊長はこのままでいいですか? 女達は確かに俺達から多くの物を奪ってきた、けど関係ない人まで巻き込んでこのまま戦い続けて本当に正しいんですか!?」

 

「何を馬鹿な事を、ISという毒に侵された社会を正すには「血」が必要だ。それもより多くの血で毒を洗い流すことでこれまで犠牲になった者達の魂は救われるのだ」

 

「しかし、今世界中で戦いが広まっているんですよ!? このままじゃ世界が…」

 

 弾の言葉を無視しブラッドは起爆装置を渡すよう告げるが、弾は拒みスイッチを入れようと指をかけると

 

「ふっ」

 

「くっ!!」

 

 ブラッドの攻撃をぎりぎり回避するが弾の手から起爆装置が落ちてしまう。

 弾は十手の警棒を取り出し、ブラッドは傍にあった手すりを引きちぎり鉄棒を振るう。

 

「うぉぉ!!」

 

 警棒と鉄棒の二つが激しくぶつかり火花が散る。

 

「何故裏切る? お前も、この世界を憎んでいたはずだろうに?」

 

「あぁ、確かにそうだったさ!! こんなふざけた世界に生まれたのを何度も呪ったさ!! けど…」

 

 弾は十手から手を放し拳がブラッドの顔に入る。

 

「憎いからって戦争を起こすなんておかしいんだよ!!」

 

 肉体強化された弾の攻撃を受けブラッドは倒れない。サングラスの奥にある冷たい瞳で弾をにらみ、ブラッドは口を開く。

 

「残念だよ。昔声をかけた時はまさかこんな形で裏切られるとは思わなかった」

 

 まるでダメージがない様子を見て弾が距離を取り気づけばブラッドの持つ鉄棒が黒く染まっていた。

 

「行くぞ」

 

「っ!?」

 

 先ほどと違い、ブラッドから強力な攻撃が襲いかかり弾は後ろに下がり防御する事しかできない。一夏と戦った時かそれ以上の重い攻撃が黒く染まる十手を持つ手に響いた。

 

「うおぉぉ!!」

 

「遅い!!」

 

 弾の反撃の一撃を軽くいなし、逆に黒の鉄棒の一撃が弾を壁まで吹き飛ばした。

 

「わかっているはずだ。戦闘経験も肉体改造も全て…私の方が上だと」

 

「く、くそ…」

 

 弾は口から血を吐き出し十手を杖にして立ち上がる。予想以上の力の差を前にしても弾は逃げるそぶりを見せず、ブラッドの背後に落ちている起爆スイッチを見る。

 

 このまま戦っていてもまともに勝てる可能性などない。ならばーー

 

「うぉぉぉ!!」

 

 弾は叫び、ブラッドに向かって突進した。最悪、起爆スイッチを押しこの部屋を爆破すればブラッドを倒せるかもしれない。

 

 捨て身の覚悟で走る弾だが

 

「無駄ということが分からんのか!!」

 

 ブラッドの怒声と共に繰り出された一撃をまともに受け弾は倒れてしまった。

 

 

 



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五十四話 目覚める力

 更新だいぶ遅れてすみませんでした!!

 私情の方が少し落ち着き、更新できました。


 一夏達が、楯無達と合流した後の事。

 

 千冬が地上に向かった後、地下に残されたスコールは端末で組織と連絡を取るがつながらないことに苛立ち、オータムは既に動かなくなったガスマスクの強化兵に向け引き金を引き続けた。

 

「クソが!! ふざけやがって!!」

 

 千冬から既に自分達の組織が革命軍に支配されていた事と、自分達が捨て駒にされた事を聞き戦う意欲が既に失っていた。この二人もまた、それぞれの事情から世界を変えようとやり方は暴力的だが戦ってきた。

 

 命乞いをする者に引き金を引き、罪のない市民たちを焼き人々からテロリストと悪名を付けられようとも、無知な犠牲の上にできた平和を壊すために手を血に染めてきた。だが、いつの間にか現れた連中が勝手に世界を荒らしただけでなく、自分達のこれまでの思いを踏みねじった。

 

「はぁ、はぁ…」

 

 全ての弾を撃ち尽くし、銃を乱暴に投げ捨てるオータム。

 

「オータム」

 

 スコールが何かを決めた目をし、端末をしまう。

 今、彼女達にある選択は二つ。一つは、一夏達が入ってきた通路を使い脱出する。そしてもう一つは…

 

「行くわよ」

 

 息を切らすオータムとスコールは、千冬が上って行った階段を見つめ歩き始めた。

 

 

 

 

 

 「捕虜が逃げた!! 」

 「通信も破壊された、上との連絡がつかん!!」

 「敵はどこだ!?」

 

 会場内では、閉じ込めていた人質たちが次々と解放され混乱が起きていた。

 

「…さて、私達ができるのはここまで見たいね」

 

 先ほどまで通信室を占拠していた楯無達は、救出した人質達を地下道の方へ誘導していた。ISがまだ使えない自分達では、強化された兵相手では勝てず一夏達に頼るしかないことに歯がゆい気持ちになるが、箒と秋人はこらえる。

 

「秋人…」

 

「大丈夫、箒。もう、僕は馬鹿なことはしない」

 

これまでの二人なら、この状況でもなんとかしようと無茶な行動をしていただろうが。

一夏に心の声を伝え、受け入れられたことで二人の心は成長していた。

 楯無は二人を見て心配ない と判断し息を吐き出し、傍にいる妹に声をかける。

 

「簪ちゃん、どう?」

 

「まだ人質達の何人かが残ってる…」

 

「そう…」

 

 敵がこちらに気づいたら対処できない。とにかく時間がなく逃げる者達の中には怪我をしている者もおり、動ける者で協力して動いてもらうが中には我先にと身勝手な事をする者まで出て、余計な混乱を生んでいた。

 

「あんた達!! 私の弾よけになりなさい!!」

「ふざけんな!! 元は、お前たちのずさんな警備のせいでこうなったんだろうが!!」

「ISに乗っているせいで目が節穴になったのか? それとも、居眠りでもしていたのか!!」

「なんですって!!」

「男に癖に!!」

 

 役員の女性が、自身の保身のため周りの男に命令し、次々と問題が連鎖していく。

 今回の事件の責任のなすりつけや、既に殺されたIS委員の席を狙い生き残ろうとする者。さらに、普段からためていた怒りや憎しみがここで爆発し止まらなくなる。 

 

 楯無は舌打ちをし、近くにいた議員にやめるよう声をかけるが、何故早く救出しなかったと怒りをぶつけられてしまう。

 

「…なんで、なんで皆、自分の事しか考えていないんだよ…」

 

 身勝手な者達を見て、秋人の中で何かが大きくなる。これではISが使えないのに、傷つきながらも助けにきてくれた一夏達が報われない。本当に、今目の前にいる者達は助ける 必要があるのか? これでは、革命軍の言っている事が正しく感じてしまう。

 

「まぁいいわ、黒騎士が囮になっているなら。ここで、連中と死んでくれれば助かるわ」

 

 豪華なスーツを着た議員の一人が、一夏の侮辱した発言をして秋人の中で何かが目覚めた。

 

「ふざけるな…ふざけるな!!」

 

 秋人が叫び、女性議員に掴みかかろうとし箒が止める。

 

「な、なんなのよあんた!! そういえば、あんたあの男の弟だったわね。兄弟そろって

野蛮だわ。あんたも、さっと私を…」

 

 一発の銃声が鳴り、話していた女性の肩に小さな穴と赤い液体が飛び散る。

 

「くっ!!」

 

 楯無が廊下の向こうを見ると銃を構えた複数の兵が見え、簪と箒が撃たれると目を閉じた時

 

「やめろ!!」

 

 秋人が叫ぶ。銃の引き金に指をかけていた兵達は秋人の叫びと、彼から出た何かに精神が揺さぶられ、力なくその場に倒れ、叫んでいた人質達も倒れていた。

 

「え…?」

 

「な、なんなんだ、今のは…」

 

 傍にいた箒と簪は倒れることはなかったが、秋人から出た何かのせいで体の震えが止まらない。叫んだ本人である秋人自身も突然のことで驚き先ほど撃たれた女性の安否を確認し傷は浅く気絶しているだけと知り安堵した。

 

「秋人君、今あなた何をしたの?」

 

 震える体を支えながら楯無が聞くが

 

「え? その、自分でも分からなくて…ただ、さっき言われた事でカッとなって…」

 

 本人も分から様子で、楯無が考えこむ。いくつもの戦闘や暗殺経験がある彼女だから感じたことだが、今のは「威圧」だった。しかも、今まで感じてきたことのないほど強力で人を気絶させるなど見たことがない。

 

 可能性があるのは、一夏から聞いた覇気の力だ。だが、覇気には武装・見聞の二つに大きく分かれており、さっき秋人が見せた力は二つに当てはまらない。

 

(やっぱり、まだ私が知らない力があるみたいね)

 

 一夏はまだ何か隠していることに気づくが、今は問いただす事はできずそれよりも先に気絶した人質達の介抱と移動を4人がかりで始めた。

 

 

 

「邪魔だ」

 

 日本刀で、ライフルを真っ二つにし兵士の一人を峰内で気絶させる千冬。彼女の背後ではマドカがライフルを乱射し敵の足を止めていた。

 

「しつこい奴らだ」

 

 弾が切れたライフルの弾倉を交換し、マドカは近くにいる一夏に声をかけ、振り向いた一夏の顔は血の気がないのか、少し青かった。

 

「やべぇ、血がたんねぇな。どっか肉ないか?」

 

「ふざけた冗談を言っている場合か、これではきりがない」

 

 マドカがぶっきらぼうに言い、千冬が一夏を観察するように見る。

 

「その体ではもう無理だ、おまえは下がれ」

 

「いや、まだ何とか...」

 

「ここでおまえに倒れられると、邪魔だ」

 

 同じ顔をした姉妹に言われ、苦い顔をする一夏。ここまで連続した戦いで疲労とダメージがたまり動きが悪くなっていた事が既に二人は気づき彼女達もこれ以上一夏を傷つけたくない思いで、一夏を下がらせるが

 

「悪い、まだ俺にはやることあるんでな!!」

 

 そう言うと、一夏は剃で移動し弾丸の嵐を駆け、蹴りや拳で敵を黙らせていく。

 背後で、二人の声が聞こえるが一夏は答えず前に進む。

 

「待ってろ、鈴...」

 

 一夏はつぶやき、背中の包帯が血でにじみ、痛みをこらえながら戦い続けたーー

 

 

 

 

 

 

 

 




 余談ですが、最近ISのスマホゲーム出ましたが進めるの難しいですね。


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五十五話 新たな動き

 気づけば5月に入ってしまい、まともに投稿できず、すみませんでした。

 また番外編とか出すかもしれませんが、なるべく本編の方進める予定です。


 戦場と化したIS委員会から離れた、ある国の宇宙開発基地にて。

 

「エレン様、ISが数機。こちらに向かってきています」

 

「分かりました。敵は私が引き付けますので、あなた達は作業を続けなさい」

 

 緑色の長い髪を揺らし、いつの間にか会場から抜け出していた実行部隊の副官であるエレンは部下達に指示をし、一人基地の外に出て、エレンは撃墜された戦闘機やISの残骸を避け歩く。

 

 この基地は、宇宙に行くシャトルの開発や人工衛星の操作などが行われ、各国からの技術や資金提供もあり必然的に防衛にはISが使われていた。見張りの兵ですら、軍の最新装備が与えられるほど強固な守りがされていたが、たった一機のISがそれらを壊滅させてしまった。

 

「…アレックス、もう少しよ。もう少しで、この世界を…」

 

 エレンは首にかけているペンダントを掴み、目を閉じる。

脳裏に映るのは、蒼い空を駆けて町を爆撃する戦闘機。そして、悲鳴を上げ逃げる人々に向け銃口を向ける兵隊達。

 

 国の裕福層の者が自分達の事しか考えず、国民の貧困化が深刻となり、いつしか裕福層の者達を倒し自分達の平和を作ろうと国民が武器を取り紛争が起きた。国のあちこちで銃声や爆発が絶えることなく、まだ幼かった自分と弟のアレックスは瓦礫の山に身を隠し、何日も、何日も震えていた。

 

 両親は既に死に、姉弟は時には盗みや、爆破に巻き込まれた死体をあさり、生き抜くために互いに支えて生きていた。いつか自分達も平和に生きることができ、飢える事なく、学校に行って勉強もあたり前にできる、そんな世界が来ると信じていた。

 

 そして、ある日紛争が終結した。最悪の結果として。

 

 国の上層部は、自分達に歯向かう国民を一掃するため、友好国に軍隊の要請をした。

「凶悪なテロ組織撲滅」の名目の元、裏取引で要請を受けた友好国の軍隊による総攻撃で、町も人も消え去った。

 

 エレンとアレックスがいた瓦礫の山も、消え去りエレンが気づいた時にはアレックだったものがあり、幼いエレンはまるで獣のような叫びを涙と共に出した。

 

「来たか…」

 

 エレンが目を開け、自分に向かってくるリヴァイブ達を見てつぶやき

 

「行くわよ、アレックス。私達で、この世界を変えましょう!!」

 

 握っていたペンダントが輝き、蒼く翼をつけたISが出現した。数分後、基地の異変に気付き応援に来たリヴァイブの消息が消えた。そして制圧された基地内部で事態が動くーー

 

 

 

「はぁ!!」

 

 千冬が刀を一閃し、敵兵の武器を破壊する。背後ではマドカも慣れた手つきで兵士を黙らせていた。

 

「これで、だいぶ片付いたよな…」

 

 膝をついている一夏がつぶやき、三人は今、会場の議事堂にいて、あたりには革命軍兵士達が倒れているが全員生きていた。

 

「ちっ、勝手に動くな」

 

 マドカが一夏を睨み舌打ちをし、折れたナイフをその場に捨て、近くに落ちている兵士達の装備を取る。大勢の強化された兵士達との闘いで一夏達は武器弾薬はもちろん、体力もだいぶ消耗していた。

 

 特に一夏は、秋人に刺された傷から血が流れ座りこみ、千冬とマドカも汗をかき息が荒い。

 

 敵は一体どのくらい残っているのか? 鈴達は無事なのか? 時間が過ぎていくごとに不安が高まり、一夏は立ち上がろうとするがマドカに止められる。

 

 そして、千冬はもう敵がいないのを確認し刀を持ったまま、一人かすかに動いている兵士に見下ろす。

 

「お前たちの目的はなんだ? 派手に占拠して、それで終わりなわけがないだろう」

 

「ふぅ、う…お」

 

 千冬の声を聞き、若い革命軍兵士は焦点の合わない目を千冬に向け、口からよだれと泡を吐きながら口を開く。

 

「もう、すぐ…おまえたち、はおわる。I、Sのない、世界は、もうすぐ…」

 

 兵士はそう言うと、息を引きとり異変が起きる。男の体が粒子化し消えていき、やがて千冬たちが倒した他の兵士達も同様に粒子化し、議事堂では粒子が漂っていた。

 

「これが、力の代償か」

 

 千冬がつぶやく。兵士達を強化していた、ブラックホールから出る粒子は、高エネルギーの塊で人を確かに強化していた。しかし、体に入れられる量を超えて注入すると、体が耐え切れず細胞が崩壊してしまう危険性もあった。

 

 一部適切な量で、時間をかけ莫大な費用を使い改良を重ねた上で強化された兵は、弾やブラッドなど実行部隊の幹部や、地下で遭遇し、人形と化したガスマスクの兵ぐらいで、それ以外は「使い捨て」として許容範囲を超える粒子を入れられていた。

 

 議事堂では、粒子がきれいに空を舞う。しかし、これが人の命を弄び、そして何も知らず戦わされた哀れな人形達の末路と知っていた三人は何も言わない。

 

 一夏は待機状態である黒騎士を出すと、粒子が集まり出し吸収していく。だが、グングニールがまだあるせいで、粒子を吸収しても黒騎士は展開はできない。

 

「はぁ、このままだとまずいよな…」

 

 やるせないため息をつき、一夏がぼやいた。

 

「あぁ。それに連中がこのまま黙っているわけがない」

 

「やはり、グングニールを破壊すべきか…」

 

 ISの展開を阻害するグングニールを破壊できれば、外からの応援部隊が来て状況を変えることができる。だが、会場の外にあるグングニールは強固な装甲で作られており、IS以外の兵器の攻撃では破壊できず。さらにダメージを負っている今の一夏では能力を使って全てを破壊するのは難しい。

 

 三人は、兵達の持っていた端末を操作し情報を整理して作戦を練る。優先すべきはグングニールの破壊と、鈴達の救出。さらに。先ほど尋問していた兵が言った言葉。

「おまえたちはおわる」の意味が、一体何なのか知る必要がある。

 

「鈴…」

 

 今にも駆けだしそうな一夏を見て、千冬がため息をつきながら奪った端末を操作しマップを出す。マドカも、別の兵から奪った端末で情報を集め、これからの動きを模索する。

 

人質がほとんど解放されたとは言え、未だISの使えない状況では外からの援護など当てにはならい。やはり、ここにいる3人でどうにかするしかない。

 

「マドカ」

 

 千冬はマドカを呼び、傍に寄る。一方で、突然呼ばれたマドカは体を固くし、千冬を見つめる。

 

「私の変わりに…一夏を頼むぞ」

 

 千冬の言葉に、一瞬呆然となるが、マドカは力強く頷いて返事をし部屋から出て行こうとする。

 

「千冬姉ぇ?」

 

「お前は、お前の戦いをしろ。後は私がやる」

 

 千冬は、自分がどう説得しても一夏が止まらないのは分かっていたし、鈴達を助けるまで無茶をするのは見えていた。なら、教師として。姉として少しでも助けになるように千冬は動く。

 

「ちょ、待って!! 千冬姉ぇ!! そっちだってもう無理してるだろ!? それに、武器だって...」

 

「おまえが言うな」

 

 マドカが一夏に言い、一夏はマドカと千冬の顔を見てから

 

「はぁ、分かった。けど…」

 

 一夏は、傍にかけてある鞘に納められた光剣を手に取ったーー

 

 

 

 グングニールの制御室で、血を吐き出し床に伏せる弾。目の前で、起爆装置がブラッドに破壊され、何とか立ち上がろうとするがダメージのせいで体に力が入らず、目の前がかすむ。

 

「ぐぅぅ…」

 

「裏切ったのは、あの男のせいか? 昔の知り合いにあって、気が変わったのなら残念だ。お前なら、この腐り切った世界を変えた後の世界で「英雄」になれたかもしれない。」

 

「っ、はぁ…はぁ…」

 

 弾は首を横に振り、息を荒くして

 

「ちがう…これは…俺の、決めたことだ!!」

 

 弾は残った力で叫び、ブラッドを見つめる。これまで、革命軍の兵士の一人として、体を改造し、人の命を奪ってきた弾は、一夏と再会した。そして、心から許せる女性と出会い人としての「心」を取り戻すことができた。

 

 それが、今目の前にいる、無力だった自分を導いてくれた男を裏切り、人々から革命軍にいた悪人だと言われても、そして。この場で死んでも、友を助けようと行動した今の自分に誇りを持っていた。

 

「そうか、ならせめて私の手で終わらせてやろう」

 

 ブラッドは武装色の覇気をまとわせた鉄パイプを振り上げる。

 

 (すまねえ、一夏…鈴…虚さん…)

 

 弾が死を覚悟して目を閉じ、黒色の凶器が弾の頭に振り下ろされーー

 

 ドンッ

 

 銃声が鳴り、ブラッドが鉄パイプで弾丸を防ぎ銃口を向ける人影を睨んだ。

 

「…一体、何のマネだ?」

 

「とぼけんじゃねぇ!! 」

 

「私達に変な物を送ってよく言うわね」

 

 部屋の出入口に立っていたのは、地下空間で千冬と別れたオータムとスコールだった。

 

 倒れている弾は、一応二人の事は資料で知っていたが何故ここに? と疑問に思っていると、オータムが再度引き金を引き、ライフル弾が連射で発射されブラッドに向かう。

 

「そんな物で、私を倒せると思っているのか!!」

 

 ブラッドが吠え弾を鉄パイプではじく。さらに、超人並の足で走り、壁を蹴って回避する。

 

 「ちっ!! 化け物が!!」

 

 オータムが悪態をつくと持っていたライフルの弾が切れ、弾を補充する間、スコールが代わりに前に出て、サブマシンガンで牽制するがこれもかすりもしない。

 

 「くっ!!」

 

 手持ちの弾が無くなる中、ブラッドの動きが地下で戦ったガスマスク達以上だと分析し舌打ちした。ISが使えず、武器もろくにない。本来なら、千冬の忠告どうりに逃げるべきだったが、既に組織は革命軍に取り込まれてしまい戻る場所などない。それに、このまま尻尾を巻いて逃げる事は二人のプライドが許さなかった。

 

「愚行だな、どうやって生き延びたかは知らんが。何故逃げなかった?」

 

 高速で迫る弾丸を軽く体をひねってよけるブラッドが聞き、

 

「決まってんだろ!! てめぇをぶち殺すんだよ!!」

 

 と、オータムが叫び最後のマガジンを装着したライフルを構え、引き金を引いた。

 

「…まったく、ISと言うものはやはり、人を腐らせてしまうようだ」

 

 二人の射撃を受けながらブラッドは、つぶやき。それには怒りがこもっていた。

 

 カチン

 

「クソッ!!」

 

「弾が!!」

 

 最後の弾が切れ、ついに二人は攻撃手段を失ってしまった。

 

「遊びは、ここまでだ」

 

 ブラッドが上着を脱ぐと、体が漆黒に染まって筋肉が盛り上がっていた。手に持つ鉄棒を地面に何度も叩きつけ、穴が大きくなるごとに地響きが強くなる。

 

「そ、そんな…」

 

 オータムとスコールは後ずさり、弾は全身武装色に染まったブラッドを見て唇を噛みしめた。自分やオータム達が戦っていた時は本気でなかった事、そして。今の姿を目の当たりにし、もう誰もブラッドには勝てないと絶望した。

 

「まずは、お前からだ!!」

 

 ブラッドが弾に向け高速に移動し、弾はあきらめて目を閉じた。そして、黒色の凶器が弾を狙うが。

 

 キィィン

 

 鉄同士が激しくぶつかる音が響き、弾が目を開けると、刀と西洋の剣を持った女性が、ブラッドの一撃を防ぎ立っていた。

 

 「なっ!?」

 

 「織斑千冬!?」

 

 その場にいた者達が驚く中、ブラッドはその場から下がり

 

 「まさか、お前がここに来るとは思わなかったぞ。ブリュンヒルデ」

 

 「ずいぶんと弟と生徒達に厄介をしてくれたな...」

 

  千冬が構え、ブラッドが走り出したーー

 

 

 

 

 

 




 久しぶりの投稿で、表現がおかしくなってたらすみません。

 


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五十六話 姉と復讐者

 大分遅い更新で申し訳ありませんでした。

 


 ギンッ!!

 

 千冬の持つ刀と光剣。そして、ブラッドの持つ鉄棒がぶつかり金属音が響く。

 

 「はぁ!!」

 

 「なめるな!!」

 

 二人は叫び、互いの獲物で攻撃しながら人間離れをした動きで部屋の中を動く。千冬の剣が壁や床に大きな切り傷を作り、ブラッドの武装色をまとった鉄棒が壁や床に大きなクレーターを作る。

 

 そんな二人の戦いを見て、オータムとスコールの二人は化け物とつぶやき。床に伏している弾は、自分がさっきまで戦っていたブラッドは本気ではなかった事を知り唇を噛みしめた。

 

 (俺は、俺は...何もできないのかよ...いや、まだだ...)

 

 少しだけ体力が回復した弾は、床をはいずりながら爆弾を仕掛けたグングニールに近づく。この部屋にあるグングニールは会場にある全てのグングニールの中枢となっており、これを破壊すれば全てグングニールが機能停止になりISが使えるようになる。

 

 (ただで死んでたまるか...せめて、一夏のために...)

 

 ゆっくり、ゆっくりと這いつくばり前進し、数珠のように繋がれた爆弾を一つ手に取る。起爆スイッチは破壊されたが衝撃を与えれば連鎖で爆発が起きる。

 

 「一夏...鈴すまねぇ」

 

 弾は友人たちの名前をつげ、心の中で一人の女性。虚の事を思いながら目を閉じ、爆弾を握りつぶそうとしたーー

 

 「何しんだよ、クソガキ」

 

 右手に痛みが走り、気づくとオータムが弾の手を踏みつけていた。さらに、スコールが弾から爆弾を取り上げてしまう。

 

 「な、返せ!!」

 

 「馬鹿かテメェ。あたしらも巻き添えにする気か」

 

 オータムは弾を睨む。さらに、スコールが弾に肩を貸しオータムも手伝い三人は部屋の出入り口に向け進む。

 

 「な、なんで俺を...くっ」

 

 「さぁ、気まぐれだと思ってくれていいわ」

 

 そんな事を言うスコールやオータム自身も、弾を助ける理由が言葉にできなかった。弾が部屋を爆発させブラッドを巻き込めばそれで良かったはずなのだが、今はそんな気分ではなかった。

 

 原因は一体何だろうか?

 

 何度も一夏に挑み敗北したからか?

 

 弟達を誘拐し、恨みがあるはずの千冬が自分達を助けてくれたからか?

 

 このもやもやした気持ちの答えは見つからないまま、二人の戦いを背にし三人は進む。

 

 

 

 「...流石だな、世界最強の女と言われる事はある」

 

 「ふん、そんなくだらない事を言う余裕があるのか?」

 

 一旦、距離を取り二人が口を開く。お互いに息は上がっておらず、戦いはまだ続く様子だった。

 

 「このくだらない、茶番をしてさぞかし満足だろうな。そんなにISが憎いか? 

隊長?」

 

 「...貴様」

 

 束のくれた情報の中にはブラッドの事もあり、既に彼の過去を知っていた。

 

 某国の兵士であり、英雄であった事も。ISの登場により国から不要とされ切り捨てられた事から、社会や世界に対しての復讐者になり今に至る。

 

 ブラッドが額に青筋を浮かべ、大きな音を立て壁に穴を開ける。

 

 「ふん、ISが憎いくせにISを盗んでは使っての連中の思想など、所詮ガキの考えだろう? 不当に扱われただけで泣き叫ぶガキだよ、お前らは」

 

 「黙れ!!」

 

 千冬の挑発であり本音にの言葉に、ブラッドはポケットから怪しい色をしたアンプルを取り出し、自らの首に刺す。

 

 「貴様だけは...」

 

 ブラッドの筋肉がさらに膨れ上がり、武装色の漆黒の色がさらに増す。

 

 「貴様だけは、俺の手で!!」

 

 「ぐっ!!」

 

 ブラッドが叫び、次の瞬間。千冬が吹きとばされたーー

 

 

 

 

 



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五十七話 逃げ行く者

 更新遅くなりすみません。

 忘れられていると思いますが、一応最後はどうするかは決めていますので

 最後までやって行きたいと思います。

 何卒、よろしくお願いいたします。


対IS用兵器「グングニール」のコントロールルームにて、千冬とブラッドの戦いが起きる中。会場内での戦況は大きく変わりつつあった。

 

 「お、おいどうすんだよ…」

 

 「知るかよ!! 俺だって、こんなことになるなんて聞いてないぞ!!」

 

 会場に残る革命軍兵士達が、自分達が追い込まれていることに不安を感じて声を荒げた。

 兵士達全員は超人に強化はされているが、訓練はほどんどされていない。指揮権を持つ、ブラッドはこの場におらず。副官であるエレンも不在だった。

 

 この場にいる唯一権限を持つ教授は、束の手により個人情報が世界中にばらまかれた事に怒り、兵を指揮するどころではなかった。

 

「とにかく、俺はこれ以上は嫌だ!!」

 

「何が、世界を変えるだ、ふざけやがって!!」

 

「な、何をする!?」

 

 悪態をついた兵士達は、白衣を着た研究員達に銃を突きつけ何かを奪い取る。黒く、拳程の大きさがある石。それは、一夏のIS黒騎士の中にある「黒穴(ブラック・ホール)」の粒子が凝縮されたのと同じ物だった。

 

 兵士達は、黒石を傍にある装置に埋め込み、彼らの前に大きな黒穴(ブラック・ホール)が生まれた。

 

 黒穴(ブラック・ホール)はエネルギーを加えることで、高エネルギーの粒子を出し消失する。そして、粒子を浴びた者は秘められた力を得ることができ、実際に秋人と簪は覇気の力を使えるようになった。

 

 一方で革命軍では粒子を集め、人体実験を行い。弾のような強化人間だけでなく、ラウラの部下であるクラリッサ達を追い詰め、一夏達が会場地下でガスマスク兵のような戦闘マシーンを生みだした。

 

 そして今、革命軍が新たに開発した黒穴(ブラック・ホール)は、集めた粒子の塊を使い、空間移動が可能となり、この黒穴を通ったことで革命軍達は厳重警備のこの会場の中に侵入することができた。

 

 そして、現在宇宙開発基地にて作戦を遂行しているエレンが会場の外に出れたのは、この技術があったためだ。

 

「お、おい!! 逃げるのかよ!?」

 

「仕方ないだろ!! あんな化け物どもと戦えるわけねぇ!!」

 

「わ、私だって!! こんなところで捕まるなんて嫌よ!!」

 

 一人、また一人と黒穴(ブラック・ホール)に足を踏み入れ逃げていく。自身の保身のため、あるいは力を得て優越に浸っていた者達の集団はまとまりがなく、黒穴に消えていく。

 

「きょ、教授!! 兵隊が勝手に装置を使って…教授!! 」

 

 研究員達が、逃げていく同士たちを前に教授に報告するが返事がこない。何度も、何度も通信機のスイッチを入れ、声を張り上げるが頼みの人物が出ることはなかった。

 

「教授、教授!! 」

 

研究員達の悲痛な叫びは届かず、教授は大部屋にてガスマスクの兵を連れて、注射器型の銃を手に拘束している鈴達の前に立っていた。

 

「…使えんやつらめ」

 

 監視モニターに写る黒穴を使い逃げる兵士を見て悪態をつく教授。

 

「そんな…千冬さんが…」

 

「教官!!」

 

 コントロールルームにて、ブラッドに追い詰められている千冬を見て鈴達が叫ぶ。

 

「やはり、使うなら人形でないとな…」

 

 教授は、一夏達を苦戦させたガスマスク兵を見てつぶやく。強化に強化を重ね、人格を消し命令どうりに動く「人形」は最高傑作であった。そして、教授は新たな人形を作ろうと鈴達に向け注射器型の銃を向ける。

 

「貴様ら女はISがなければ何もできない。だが、私は違う。どんなに無能だろうが、私の手にかかれば良い人形ができる」

 

「っ!! 悪趣味だね…」

 

 シャルが教授を睨み悪態をつく。体に巻かれている海楼石の鎖のせいで力が抜けており、鈴も、セシリアも、ラウラも抵抗できない。

 

「貴様のようなクズの人形になる気などない」

 

「そうですわ!! もう、貴方たちの負けは見えていますわ!!」

 

ラウラとセシリアが教授に吠え、強気な態度を見せる。人質になっている彼女達の中では、自分達を必ず救ってくれる兄弟を信じており、臆した様子がなかった。

 

「ふん!! あんたこそ、人形がなかったら何もできないじゃない!!」

 

「この、くそガキ共が…」

 

 最後に、鈴が吠え教授は鈴達を人形にするために注射器型の銃の引き金に指をかけーー

 

 「そこかぁ!!」

 

 「うぁぁぁ!!」

 

 突如、壁が吹き飛び同時に教授も部屋の端まで吹き飛ばされた。

 シャル達は、突然の事で呆然としたが。一人、鈴だけは聞き覚えのある声を聞きーー

 

 「一夏っ!!」

 

 「鈴!!」

 

 鎖に巻かれている鈴達を見て、一夏が近づこうとする。が、ガスマスクの兵が一夏を殴り飛ばし、壁にめり込んだ一夏に容赦なく拳や足で襲いかかる。

 

「ぐっ!? まだいたのか…」

 

 地下で千冬たちと共に戦った強化兵を見て、舌打ちをし。連戦で消耗していた一夏は、反撃できず防御をし、壊した壁からマドカが後から入ってくる。

 

「マドカ!! 鈴達を頼む!! こいつは俺が…」

 

 俺がやる と言い終える前に、一夏の顔に拳が入り壁にめり込む。そして、一夏の防御が薄くなったところで、さらに一夏に攻撃を続け床に血が流れていく。

 

「くそ!! 一夏!!」

 

 マドカはナイフを投げ、ガスマスク兵の背に深く刺さる。が、痛みを感じていないのか一夏を殴る手をやめない。

 

「や、やめて…」

 

 先ほどまで一夏の姿を見て笑みを浮かべていた鈴が、目を伏せつぶやく。助けにきてくれた希望がいきなり打ち砕かれ、シャルやマドカの表情に絶望が浮かんでいた。

 

「ふははっ、どうだ? 私の人形、は…」

 

 吹き飛ばされたが、なんとか立ち上がる教授。容赦なく攻撃され、床を血に染める一夏を見て笑いを浮かべた。

 

「島での戦闘は見せてもらった。あの姿はとても興味がわいたよ。生きたまま解剖したかったが、まぁ死体で我慢するとしよう!!」

 

バキッ 

 

 教授の狂い笑いが大きくなる。中、突如何かが砕ける音がした。始めは、一夏の骨でも砕けたのかと思われたが、一体のガスマスクの兵の両手が変な方向に曲がり血が流れ倒れていた。

 

 

「へ…?」

 

 教授の口からおかしな声が出る中、さらにもう一体のガスマスクの兵は窓を突き破り海へと叩き落とされた。

 

 グァァァ…

 

 獣のようなうねり声がなり、一夏の姿に異変が起きる。それは、魔の海域で戦ったアリーシャの前で見せたドラゴンの姿だったーー

 



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五十八話 モンスター

大分更新遅くなりました。

今やっている革命軍との闘いはなるべく短めにして次に移る予定です。





ヘビヘビの実モデル「ドラゴン」の人型形態になった一夏は、教授の護衛にいたガスマスク兵をあしらい、マドカ達は一夏の姿を見て驚愕していた。

 

 グアァァ…

 

「ひっ、ひぃ!!」 

 

 アリーシャとの戦闘を見ていたはずの教授は一夏の変貌した姿を見て腰を抜かし、後ろに逃げるが壁に背がつき逃げ場を失う。

 

 「い、一夏…なのか?」

 

 初めて見る一夏の能力を見てマドカが何とか言葉を発する。一夏から、悪魔の実については聞いていたが、ここまでの変貌とガスマスク兵を圧倒するとは予想外だった。

 

一夏は何も答えず、壁際に逃げた教授を睨み、足を一歩進める。

 

「く、来るな化け物!!」

 

教授が叫び、その声に反応したのか一夏に両腕を折られたガスマスクの兵が起き上がり、背後から一夏に襲いかかる。強化したことで痛みも感情もない人形兵は教授のために武器を持つことのできない状態でも、体当たりして一夏に攻撃をする。

 

「邪魔だ… 」

 

 鋭い爪を生やした手で、ガスマスク兵の顔面をマスクごとつかみ床に叩きつける。ものすごい音の轟音がなり、両腕を失い顔面を床に埋めた人形は赤い液体をまき散らして動かなくなった。

 

「くぅ…わ、私の人形が…」

 

 ドラゴンの姿になった一夏に人形がつぶされ目の焦点が合わなくなる。多くの犠牲を得てできた強化兵が一夏に通用せず、教授にはもはや打つ手がなかった。

 

いや、最後に一つ。教授自身の手に希望があった。

 

「はっ、はっ…」

 

 教授は、鈴達に使おうとしていた注射器型の銃を汗ばむ手で握りしめる。

 一歩、一歩と近づくドラゴンの一夏と注射器を見てーー

 

「わ、私は…私はこんな所で終わりたくない!!」

 

 自分の首筋に注射器を当て引き金を引く。中にあった液体が体の中に浸透していき、教授の意識が薄れていく。

 

「ぐぁぁぁ!!」

 

「な、なんだ…?」

 

 教授の異変に一夏が止まり警戒する。マドカは鈴達を守るように立ち臨戦態勢を取る中、教授の体が変化していく。

 

小柄だった体が大きくなり

 

皮膚がドス黒く変色していき

 

目の色が緑色に染まる。

 

「な、なんなの…アレ…」

 

 囚われているシャルがつぶやき、ラウラとセシリアは心の中で化け物の単語が浮かんだ。

 教授が今自分に使った薬は、ブラッドや弾に使ったブラックホールの粒子をさらに研究・改造した物だった。

 

 一夏のISのコアに使われるブラックホールの粒子。穴にエネルギ―を与えると粒子が発生し、浴びた生物の能力を上げてくれる効果がある。秋人や簪は偶然の事故で、覇気を使う事がきた。そして革命軍では、この粒子を使い強化兵達を作り世界に戦いを挑んだ。

 

 しかし、粒子は一定量以上浴びてしまうと肉体が耐え切れず、やがて肉体も粒子化して消えていくデメリットがある。そのため何百人もの犠牲をだし、どこくらいの粒子を人体に投与すれば粒子化しないか調べた。

 

その結果、強化兵やガスマスク兵より強く、そしてISをも超えた存在を作るこの薬品は

「モンスター」と名付けられ、その生みの親である教授自身が今まさに化け物となってしまった。

 

ァァァアア

 

 うなり声のようなものを上げ、大きく肥大化した足が床を揺らす。大きく開いた口から人間の物ではない牙が見えた。

 

「こいつ、自分で薬を…っ!!」

 

 轟音が起きたと思った、次の瞬間。化け物となった教授が高速で動き、一夏に体当たりしてきた。異常なまでの強化の力と一夏が疲弊しているせいもあって不意打ちのタックルを受ける。

 

「ぐぅっ!!」

 

 一夏は教授のタックルを抑えきれず、部屋の壁に激突する。しかし、勢いが止まらず壁を壊し二人は部屋の外に出た。

 

 「ウガァァ!!」

 

 薬のせいで知性が無くなった教授は、一夏の顔を掴み廊下の壁に叩きつける。

 

「がっ、あっ!!」

 

 ドンッ ドンッ 抵抗する暇を与えずひたすら一夏は壁に叩きつけられ、血が床に流れていく。

 

「てめぇ…」

 

 一夏は、低い声を出し深紅の目で教授を睨み、顔を掴んでいた教授の腕を引きはがし、顔面に一発。覇気をまとわせた拳を入れる。

 

 普通の人間はくらっていたら死ぬほどの威力だが、皮膚が強固なのか、または痛みも感情も無くしたのか、口の端から血が流れていた。

 

「いい加減にしろ!! こんなバケモンになりやがって!!」

 

 教授に向かって叫び、一夏が突撃する。

 

IS委員会の建物を次々と破壊しながら二人の怪物がぶつかり合う。科学が作った化け物と悪魔の実から生まれた人型のドラゴン。

 

 元教授だった者は、怪力を使いひたすら殴る・蹴る。さらに、壊した建物の破片を投げて攻撃する。悪魔の実でさらに希少とされる幻獣種の力を持つ一夏もひたすら殴り・蹴りをするが、時折距離を置き嵐脚で遠距離攻撃をする。

 

 瓦礫が剛速球でなげられ、脚力から生まれたかまいたちが瓦礫を切り裂く。

 

ドラゴンの鋭い爪が、大木の腕の皮膚を刺すが致命傷にならない。

 

まるで映画を見ているかのような戦いは、次々と建物を破壊していく。気づけば、二人は建物の外に出て、両者とも息を切らしていた。

 

「ウガァァ…」

 

「ぜぇ…ぜぇ…くそ、こんな所で…」 

 

 一夏は目の前の教授を見て吐き捨て頭の中で戦いとは関係ない事が浮かぶ。

 

 自分から醜い姿になったこの男も、IS優遇の社会のせいでこんな事になった。

 いや、教授だけではない。強化人間になった弾や革命軍の兵士達は社会から理不尽な扱いを受け、苦しんできた「海賊になる前の自分」と同じではなかったかと頭に浮かんだ。

 

 「確かに、俺もこんな世界も社会も何もかも嫌だった…消えてしまいたいって毎日考えてたさ」

 

一夏は言葉が通じないと分かっていても、多くの人を傷つけ、鈴達を拘束した相手のはずだが一夏は話を続けた。

 

「俺もあんたと、いや。あんた達と同じだ。けどな…」

 

 教授たちと一夏は違う。違っていたのは自分を織斑千冬の弟でも、IS社会でみじめに生きている子供でもなく「一夏」として受け入れ共にいてくれた仲間がいたから、歪まずに自分の自由で生きる事ができた。

 

「俺の仲間に手出したことは、許せねぇ!! お前らは絶対に止める!! そんで、アイツを引きずり出す!!」

 

 一夏が教授にではなく、誰かに向かって叫ぶ。

 そして、教授は再度一夏にタックルをしかけてくるが、二人に向かって何かが飛んで爆発した。

 

「何!?」

 

 一夏が教授から目を離すと、離れた場所から一人、バズーカを持った男が見えた。逃げ遅れた革命軍兵士だろうか、恐怖におびえながら一夏達に向かって砲弾が襲いかかる。

 

「し、死ね!! この化け物ども!!」

 

 かつて自分の指揮官だった化け物と、一夏の周りに弾が着弾し地面が崩れる。

 

「っ、やべぇ!!」

 

 一夏は翼を広げ飛び立とうとする。下は海、悪魔の実の能力者である一夏には致命的だ。落ちれば助からない。

 

「ガァァ!!」

 

 教授は足場が崩れていても必要に一夏を追い、足を掴み離さない。

 

 「クソ!! こんな時に!!」

 

一夏は足にしがみつく教授の重みで落下する。このままでは海に落ちる、そう思い教授を振りほどくとしたが、教授の体が粒子化して消えて行く。

 

「なっ!?」

 

 強すぎる薬のせいで、ついに限界が来たのか。教授の体は足から胴と消えていき、それを見て動き止めてしまい一夏は海に落ちてしまったーー

 



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五十九話 決着と新たな問題

 一年以上更新途絶えてすみませんでした。

 私事や他のサイトでの小説執筆などで気づいたらこんなに...


 これからも不定期ですが更新していきますので、よろしくお願いします。



「やべぇ、ごぼぉ!!」

 

海へ落ちてしまった一夏はそのまま沈んでしまった。能力者の弱点である海に落ちてしまえば、脱力に襲われそのまま沈む。

 

(ぐぞ、くる、じぃ…)

 

 一瞬の油断のせいでどんどん深い海の底へ落ち、手を精一杯伸ばしても何もつかめない。いくつもの泡が手をすり抜けていく。

 

 仲間に出会う前はひたすらいろんなスキルを磨き、手錠の鍵をあけて秋人を救った。

 海賊で自身を受け入れてくれら船員らの知識や技をまねて、強敵たちとの闘いで強くなった。

 

(まだだ、俺は、だれも守れて、ねぇ…)

 

 一夏は無念のまま、意識を失った。

 

 

 

 革命軍が占領した会場では未だに闘いが続く。

 

 ISを無効化させるグングニールのコントロールルームにて、

 

「ぐはぁ…」

 

 ブラッドの覇気を纏わせた鉄パイプの一撃を食らい地に伏す千冬。すでに弾薬切れで抵抗の手段のないオータムやスコールが屈辱に顔を歪め、先にブラッドに闘いを挑み敗北した弾は絶望に涙を流した。

 

「もう、あきらめろ。ISの時代は終わりだ。これからの世界は我々が導き、よりよい世界を築く。まずは、裏切り者からの粛清だ」

 

 ブラッドはすでに立つ気力すらない弾に向け歩く。

 

口の端から血を流し、千冬は立ち上がろうとしたが力が入らない。

 

「ま、てぇ…」

 

 千冬はそう呟き次々と走馬灯が浮かぶ。

 いつでもやさしくしてくれた両親。秋人と一夏が生まれて、血を分けた弟たちを守ろうと思った幼い自分。いつまでも続く幸せが突然崩れ、いなくなった両親を恨みながら過ごす日々。

 

 守ると決めた弟たちは自分の元から離れ、こうして自分は敵の目的を阻めず地に伏している。

 

(私は、ここまでなのか…)

 

 そう思い、瞼を閉じると不思議な声が聞こえた。

 

「アイツ、俺たちと旅をしてる間、姉に会いたいって言ってたんだぞ。だから、行ってやれよ」

 

 いつしか瀕死になって花畑の中で出会った男の言葉が浮かび、千冬の中にあった何かが目覚め刀を握る力もなかったはずなのに立ち上がった。

 

(そうだ、まだ私は秋人に、一夏と…)

 

 弟たちと再会するまで死ねない。それだけで、姉は立ち上がる。

 

「なぁ!?」

 

「ほう、さすが戦乙女…」

 

 今にも止めを刺そうとしていたブラッドと弾が驚く。

 

「おいおいまじかよ」

 

「あの傷でまだ動けると言うの?」

 

 オータムとスコールが立ち上がった千冬を見て信じられないと口にした。

立ち上がったとしても、この改造された怪物を倒すことなどできない。

 

 瀕死の千冬に向け、ブラッドは鉄パイプを強く握りなおす。

 織斑千冬を打ち取ればISを支持する者の心を打ち砕くことができる。

 

「ISを広め、世界を歪めたその罪…死をもって償え」

 

 千冬は何も言わず刀を下に向けたまま脱力している。目を閉じ、自分の中に出た何かに集中する。

 

(鎧…そうだ、全てを守る鎧…)

 

 自身がかつて乗っていた白騎士をイメージすると、刀が白と対の黒色と化し硬化する。

 

「これで、貴様もISも終わりだ!!」

 

 千冬の体を砕くため勢いよく突進してきたブラッド。

 

「ふぅ!!」

 

 千冬は短く声を出し、刀を横に一閃してーー

 

 カラン

 

 床に力なく鉄パイプの先が落ち、大量の血を流し倒れるブラッド。

 

「ば、ばかな…その力は…」

 

 千冬の武装色の覇気により刀身が黒く染まる。覚醒した理由はわからないが、千冬はそのまま刀を振るい卵を思わせるIS妨害兵器「グングニール」を難なく切り捨てた。

 

 「おいおい、完全にバケモンじゃねえか…」

 

 オータムがつぶやく中、戦況は大きく変化した。

 千冬が破壊したグングニールは、海上に設置されたグングニールの制御も兼ねていたためすべて停止した。

 

 「っ!? これは!! 」

 

 箒が待機状態にある赤椿に鼓動を感じ、展開。秋人らのISも展開する事ができ、千冬の作戦成功に喜ぶ。

 

「一夏君!!」

 

 一人、楯無が監視モニターから一夏が海に落ちたのを気づき霧纏いの淑女(ミステリアス・レディ)を展開して、壁を破壊し飛び去る。

 

「っ!? 姉ちゃん!?」

 

 飛び去った姉に驚き、簪も向かおうとしたがそばに置かれた謎の計器類から警告音が流れ目をそちらに向けると「EMERGENCY」(エマージェンシー)と表示が出ていた。簪はすぐのその計器類を操作し、海上に置かれた5つのグングニールから異常なエネルギーを発しているのを見て。

 

「まさか、自爆!?」

 

 ISが使え好転に思われたとたん、新たな問題が起きていた。

 





描写説明なくて補足。

 千冬は武装色に目覚めた。

 以上。


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番外編 5 ロシアとサーカス、彼と彼女の共闘。


更新だいぶ遅くなり申し訳ありません...



この番外編は24話のワールド・パージ編の前日談となります。

皆からご指摘のあった、学園祭で戦った一夏と楯無が急に共闘したのは何故? の
話になります。


「ふぁ~~」

 

 ロシア行きの飛行機の中、楯無は大きなあくびをした。

 彼女は学園で戦った一夏について、ロシアのIS委員会から報告するようにと呼び出しを受けて一人でいた。

 

(もう…彼のせいで学園の修繕やら上への報告やら…最悪…)

 

 元凶である一夏に向け悪態をつく。自身のISのリミッターを解除した最大の攻撃を黒騎士から発せられた闇とぶつかり、被害は大きかった。後処理の仕事での疲労もそうだが、これまで暗部の人間として一流のIS操縦士としてあった自信が揺らいでいた。

 

 見たことのない技でテロリストたちを撃破し、妹やその友人たちの心をつかんだ一夏の存在に胸の奥がざわつく。

 

 もし、次に出くわしたら最悪引き金を引くかもしれない。

 楯無は落ち着かない様子でずっと飛行機の空を眺めていた。

 

 そして、ロシアのある町にて。

 この日、巨大なテントが張られ中ではサーカスが開催されていた。

 

「レディース&ジェントルメン!! ようこそ!! 夢の国サーカス団へ!! 」

 

 太った団長ピエロが観客たちに向けお辞儀をした。

 ISがあり科学技術の発展した現在で今時珍しいサーカス団は注目の的だった。

 

 命綱なしの空中ブランコや綱渡り。

 動物たちを使った手品などで観客たちは喜んでいた。

 

 「さぁ~て!! ここで、新しい団員のご紹介させてください!! 先日、飛び入りで入団した、若き期待のホープ!! その名は~~バギー」

 

 

 団長が指を鳴らすと幕の中からライオンが飛び出した。

 観客たちは突然現れた猛獣に驚く。さらに猛獣の上に赤く大きな鼻をしたピエロが観客に向け手を振っていた。

 

「さぁ!! みなさん!! 盛大な拍手を!! 」

 

 団長と観客の拍手を受け、バギーと呼ばれたピエロの男はライオンから降りる。

 

「リッチ、お手」

 

 バギーはライオンに向けお手をする。

 だが、リッチはバギーの顔面を強く叩いた。

 

「げふぅ、り、リッチ。おかわりだ…」

 

 再度バギーがおかわりと手を出すが、リッチに顔面を叩かれる。

 

「こ、このやろう…」

 

 ピエロとライオンのやり取りに観客たちから笑いが飛ぶ。

 あのライオン、よくしつけられてるな~ ピエロもすごい演技だ。と声が上がる。

 

「ようしぃ、リッチ…ちんち…」

 

 バギーの頭にリッチがかぶりついた。

 観客も団員達もこれはまずい。と顔を蒼くそめ悲鳴を上げた。

 

「よぅし、よしよし…」

 

 だが、バギーは何事もなかったかのようにリッチの口をこじ開けて、口から脱出した。

 バギーは笑みを浮かべながら「いい子だぁ、いい子だぁ」とリッチをなでる。

 その場にいる者達は皆「なんだぁ、演技かぁ~」と安心した次の瞬間。

 

「いてぇぞ!! この馬鹿ライオン!!」

 

 

 バギーはブチ切れリッチの頭を叩いた。

 

「ぎゃうん!!」

 

 バギーに叩かれたリッチは気絶してしまった。

 

「あぁ、くそぉ!!」

 

 頭をかじられたバギーはため息をついた。

 

「やっぱ、サーカス団に入ったのは失敗かぁ~~」

 

 ロシアへ潜入するために赤鼻の海賊の名前を使い、偽装した一夏がつぶやいた。

 



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番外編 6 ロシアとサーカス、彼と彼女の共闘。 2

 お久しぶりです。

 
 とりあえず、番外編で一夏と楯無の再開(和解)投稿して
 また革命軍とのバトル再開してその後、最終章へ~

 と流れ考えてます。

 


 

 

「はい…黒騎士との戦闘報告は以上です」

 

ロシアのIS本部にて楯無は委員会の上層部達に向け一夏との戦闘を報告を終えた。

 

報告中に黒騎士が放った闇を見て未知なる力に恐れる者やどこかの国の新兵器か? 

と楯無の心配など全くしていなかった。

 

(まったく…この大人達の頭は利益しかないわね…)

 

 他国よりも先に黒騎士を手に入れてその力を得たい。

 

そんな利益しか頭のない大人達に向け冷ややかな目を向けた。

 

「ふむ、ご苦労だった…君の専用機の修理にはまだ数日かかる…まぁ、その間はゆっくり休みたまえ」

 

「ありがとうございます。では、これで失礼します。」

 

 一応労いの言葉をかけられるがその言葉の中には

 

「できれば破片でも持ち帰ってくれよ」

「あれだけ費用をかけたのにこれだけしか情報を得られなかったのか」

「まぁ、所詮代表といっても日本の小娘には荷が重かったか」

 

 など冷ややかな含みがあるのに楯無は気づきながらも平静を保っていた。

 

(まったく、これも全部彼のせいよ…)

 

 本部の長い廊下を歩きながら楯無の頭の中は一夏のことでいっぱいだった。

 

 お偉いさんへのしんどい報告の最中も一夏の事が頭から離れない。

 

 妹の簪の窮地を救いIS学園に襲撃してきた革命軍のISを見たことのない剣技で打ち倒しただけでなく、ロシア代表である自分と互角、いやそれ以上の力を世界に知らしめた。

 

 

 未知のISに乗り世界で二人目のIS操縦者という珍しさ以上に「男」として大きな魅力を感じて胸の奥が熱かった。

 

 

(いや、いやいや!! そんなまさか!! )

 

 

 楯無は一人首を横に振る。今自分が感じている物がテレビや映画で見る物だと気づいて否定する。

 

 

「あら、代表? そんな所で何をしてるのかしら?」

 

 背後から背の高い青い髪の少女が姿を現した。

 

「…あら、グラキ、久ぶりね」

 

 かつて楯無とロシア代表の座を奪い合った少女グラキがヘラヘラと楯無に寄る。

 

「聞いたわよ? あなた、男に負けたってね?」

 

「さぁ? あっちは逃げていったんだから、私の勝ちじゃないかしら?」

 

 とぼけたように答えるが、グラキの敵意に内心嫌気がさしていた。

 

 このグラキは氷のように冷たく自分の敵には容赦がない。彼女に反感を買った者や気に入らない者は社会的立場を追われたり、蒸発したりと悪い噂が絶えなかった。

 

「ふ~ん? まぁ、男がIS乗っても雑魚なのは変わりないし、後専用機も壊れて今持ってないようだけど…」

 

 グラキは含みのある笑みを浮かべる。

 

「せいぜい男に襲われないように気をつけなよ~~近頃人がよく消えてるって聞いてるしね」

 

 笑いながら立ち去るグラキ。去り際に

 

「黒騎士なんて雑魚に負けてダサ」とつぶやいたのを楯無は聞こえいてた。

 

 

 (まったく…本当に嫌な子ね…)

 

 黒騎士に敗北したわけではない。むしろ一夏は黒騎士を乗り捨て逃げた。

 

 黒騎士の残骸や黒剣を回収もでき周囲の者も楯無の勝ちと言ってくれている。

 

 だが、楯無は自身の勝利に難癖をつけられたことよりも一夏を馬鹿にされた怒りの方があった。

 

 (なんなのよ…なんで、彼の事を…もう…)

 

 悩みの答えに気づいている自分に戸惑いながらも楯無は本部から出て一人都会をぶらつく。

 

(2人…いや、3人ね…)

 

 

 背後から数人の人影がいるのに気づきながら都心から離れていく。

 

 現在、ISを持っていない楯無は手に持てる通常の武器しかない。

 

 どこか身を隠せる場所はないか捜していると、大きな公園にテントが張られているのが見えた。

 

(サーカスか…)

 

 子供連れの家族たちがテントに入っていくのを見て楯無は人混みに交じりテントの中に入る。さすがにこんな所で敵も暴れないだろうと思いチケットを購入する。

 

 楯無を追っていた男3人は慌てて楯無を探しているのが見えた。

 通信機を取り出しどこかと連絡しており男達の唇の動きを読む。

 

(女を見失った…どうしたらいい…か。どうやら素人だったようね…まったく、チケット代が無駄になっちゃったじゃない…) 

 

 追跡者をまくために入ったため席に座らず楯無はそのまま別の出口に行こうとした。

 

 

 途中、劇を楽しみにして笑顔で話す親子の姿を見て何かを思い出す。

 

(そういえば、こんな所一度も来た事なかったわね…)

 

 日本を影で守る一族に生まれてから毎日修行と勉学を送る日々で家族と遊ぶことはほとんどなかった。

 

 しかも、今は学園の生徒会長でありロシアの代表と責任ある立場となり自分の時間など取る暇などなかった。

 

 

 この先、自分は誰ともどこかに行って遊んで笑顔でいるなんて未来はないと思いつつテントを出ようとした所で照明が落ちた所でサーカスの開始の合図が…

 

「てめぇ!! リッチィ!! 俺の飯の肉盗りやがって!!」

 

 

 猛獣が口に肉を咥えステージに出てくると、猛獣の後を赤鼻のピエロがフォークとスプーンを持ち追いかけてる姿を見て観客たちが笑い出した。

 

 

「あっははは!! 赤鼻ピエロさんだぁ!!」

 

 

「あのライオンとピエロは本当に仲がいいなぁ~~」

 

 

「えっと、ライオンはリッチでピエロはバギーって名前だったな…」

 

 

 観客たちの話に耳を立てる楯無。

 

「な、なんなの…あれ…」

 

 ステージで謎の鬼ごっこを始める一匹と一人はどうやら有名らしい。

 

 ライオンはホログラフでもないし、ピエロのバギーは本当に人間か? と思いぐらいライオンに何度噛まれても平気でそんなコミカルな雰囲気が観客の心をつかんでいた。

 

「がうぅ! がぁぁ!!」

 

「おらぁぁ!! 肉返しやがれ!!」

 

 

(ふふふ…変なの…獣相手に必死になって、まるで子供みた…っ!?)

 

 一人と一匹の謎の鬼ごっこに楯無はクスリと笑みをこぼしていたがピエロの声に目をはっとさせた。

 

(この声…まさか!?)

 

 

 楯無がピエロの正体に気づいた所でテントの天井が破れ2体のリヴァイブが姿を現した。

 

 



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