ゼノブレイド2 A New Future With You (ナマリ)
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プロローグ

「嫌だ」

何故だろう、これまでにないぐらい涙が溢れ出てくる。

「君が居ない世界なんて」

 

 

 

天突く巨大な世界樹。その上には神の住む楽園と呼ばれる豊饒の大地が広がっていた。夜を昼に変えることも、雨を晴れに変えることも自由自在。まさしく神の世界であった。

しかし、何故か人はその楽園から追われ、滅びゆく雲海の世界「アルスト」へと追いやられてしまった。

 

嘆く人々を哀れに思った神は巨神獣(アルス)と呼ばれる大地の如く巨大な生命体を遣わした。そこは人々の住む大地となった。

木々は巨神獣の上で育ち、幾万もの命が生まれた。そして作物を育て、家畜を飼い、生き続けていった。しかし長い年月を経て巨神獣は次第に死んでゆく。そうなれば別の巨神獣へ移り住むしかない。しかしそれでも巨神獣達は死んでいく。時が経つにつれてさらに多くの巨神獣が沈んでいき、人々の住める土地は減っていった。

このまま全ての巨神獣が沈んでいくのを黙って見ることしかできないのか…… 人々は先の見えない時代に見ないふりをしたまま幸せを感じて生きていた。

 

しかし中には楽園の夢を諦めきれず、世界樹を登ろうとするものが現れる。何人もの冒険者が世界樹を、そして楽園を目指していった。

もし楽園を見つけることができたのなら、人類は滅びゆく運命から放たれる。国々が残った巨神獣を奪い合う争いも終わる。

しかしそれは簡単なことではなかった。様々な障害があり、楽園にたどり着く者は誰一人として現れないとまで言われた。

だがしかし、数多の苦難を乗り越えてついにその楽園へ到達する者が現れた。

 

「これで終わらせる―――そして進むんだ…!」

 

「未来に!」

 

翠玉色に輝く大きな剣が、光を纏って振り落とされた。

 

「これが私にできる最後の手向けだ―――後は託したぞ、わが子達よ―――」

 

 楽園に到達した少年は、雲海の底に沈みゆく世界を救った。雲海の消えた世界には海が広がっていた。真の楽園は深い深い雲海の底にあったのだ。

まるで凍り付いていた時が流れ出したかのように、明けるはずのない夜が明けたかのように。

巨神獣は雲海から海へと生息地を変え、特に巨大なものは一つに繋がり巨大な大地へと変わった。

人々はその大地へと移り住み、新たな未来を生きていく。

 

世界を救った少年は英雄と讃えられ、人々から崇められるが、彼は世間から姿を消した。自らの相棒である“天の聖杯”と共に。

その少年の名はレックス。本に残る最後の記録の中では、彼は天の聖杯と共に旅に出たという。

今の彼らがどこにいるか、それは誰も知らない。

 

 

世界の変化から20年。俺は世界が「新生アルスト」となった後に生まれた。正直、前の世界がどうだったかはよく知らない。母さんがたまに前の世界の話を聞かせてくれる、そのぐらいだ。

世界は前に比べて平和にはなっただろうが、それでもまだ絶対の平和ではない。戦争だって無くなったわけじゃないし、飢えに苦しむ子供は多くいる。

 

絶対では無くても、この世界が人の想いから生まれたのは紛れもない事実だ。だから俺はこの世界を守らないといけないし、救わないといけない。戦わないといけない。

きっとそれが俺の贖罪なんだろう。繋がれた未来を繋ぎ続ける……

 

だけど、俺は嫌だ

たとえ自らの全てを犠牲にして世界を繋げたとしても

 

多くの人の笑顔を守って、英雄として崇められても

 

世界を滅ぼす怪物という不名誉を晴らしても……

 

俺にはどうでも良かった。

 

ただ俺は

 

 

 

「君と一緒にこの世界で生きていたかった」

 

 




ゼノブレイド2.5の作者のナマリです。旧作の設定をいくつか改善したり、変えたりしたいわばリメイク作品です。温かい目で見ていただけたらと思います。

とにかくゼノブレイド3発売までに完結させる勢いでやらないと!!!!!
発売時から考えてるネタが奪われてしまう前に!!!!!

高評価・コメントよろしくね~ 貰うと嬉しい


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第一話 出逢い
“サルベージャーの一団”


ゼノブレイド2発売から半年も経たない間に構想したストーリー、ちまちま続けていたら気付けばゼノブレイド3が発表されていました。時が経つのって早いですね。あの時はまだ高校1年生だったのに

でもなんとか3発売までには完結……できなくても終盤まで行かないと……

ペースがぐちゃぐちゃにはなると思いますがよろしくお願いします!!!!



 

 

神暦4079年―――――

アルストが今の姿をとなってから20年。

世界の主要巨神獣(アルス)のほとんどは一つになり、大きな大陸となった。それをアルスト大陸と人々は呼んでいる。

雲海が無くなり、多くの巨神獣が一つになったことによる影響はとても凄まじいものだった。沈む世界に怯えることはなくなったことは良かったが、雲海が無くなったことによるサルベージャーの混乱、国が接続されたことによる国境や混乱の中でのクーデター、内紛…… それらは想像よりも恐ろしいものであった。しかし、何もできないまま沈む世界よりは良かった。荒れる時勢の中で人々は新たな道を見つけたのだ。

 

巨神獣もすべてがすべて一つになったわけではなく、島ほどもない小さな巨神獣や巨神獣船は未だ運用されている。国も争いの果てに新たな形となったところも多い。

特に一番この時代の恩恵を受けたのはサルベージャーであった。

最初は不気味な大きな湖ともいえる海に対し、一人のサルベージャーが青い海に勇気を出して飛び込むと、そこには雲海では見つからなかった新たな技術、旧文明の遺産が残っていた。結果サルベージャーは過去の職業となることはなかった。むしろ、より発展することとなった。多くのサルベージャーや商人を擁するアヴァリティア商会も巨大となり、大国の一部に吸収され、アルスト随一の商会となった。

先の見えないこの新たな時代に生きる者達は手探りで道を探していく。たとえその果てにあるものが絶えない悲しみだったとしても。

 

 

ほのかに木々の間から射す光だけが、唯一の光源となるこのグーラの深い森の中。

サルベージセットを乗せた大きな台車を運ぶ、一人の少女が居た。彼女の前には同じようなスーツを着込んだ者たちが5人ほど。つまりはサルベージャーだ。

「例のサルベージポイントまでまだまだだな。この調子で行けば明日の昼には着く」

「ええっ、まだそんなに時間かかるんですか!?」

 先頭に立つスキンヘッドの男性に、最後列の少女が叫んだ。このスキンヘッドの男性がサルベージャー達のリーダーらしい。

「だとしてもそろそろ交代してくださいよリストさん……。前の交代から2時間ぐらい経ってますよ?」

「ルーキーとはいえその程度でへばるんじゃあまだまだだなミント。男でも女でもブレイドでも、その倍はやって当たり前だぞ?」

「さっき1時間半で交代したのに何言ってんだか……」

ミントと呼ばれた少女は小声で愚痴を呟いた。結局交代することになり、そのままサルベージポイントを目指してグーラの深い森を進む。

 

 

彼らがサルベージポイントを見つけたのは、アヴァリティア商会本部にあるとある掲示板であった。アヴァリティアで活動するサルベージャーや商人など、様々な者たちが利用する情報掲示板。アルストが今の姿になってからは分からないことだらけで、互い互いが新たに見つけた情報などを共有するため、助け合いのために利用しているのだ。

そんな掲示板の前に立つ、一人の細身ながらも筋肉質な男。なでつけた金髪を触りながらその掲示板に貼られている一枚の掲示を見つめている。そこには「マル秘 グーラサルベージスポット!」と大きく書かれていた。

そこに腰を大きく曲げた老人が現れ、その掲示をはがし棒をつかいながら丁寧に剥がしていく。

 

「なんでそれを剥がす?」

金髪の男が老人に聞いた。老人はやれやれと首をコキコキ鳴らしながら金髪の男へ顔を向けて淡々と話し始める。

「ガセ情報だよ。最近サルベージャーを狙ったモノが多くてね。上からこれはガセだと情報が入ったから剥がせと。全く助け合いの精神はどこに行ったんだろうねぇ。まぁ私は仕事があって退屈しないからいいんだが」

老人は小さく鼻歌を始め、その掲示を剥がし終わる。

「なるほど、随分考えるヤツらだねぇ」

金髪の男は満足そうな顔でその場をそそくさと立ち去って行った。

 

 

そんなことを知らぬまま、サルベージャーの一団は森の中を進んでいく。何の問題も無く進んでいても、日は落ちる。ただでさえ暗い森の中、いくらなんでもこの中を行くのは危険だ。

「さて、そろそろキャンプにするか」

サルベージャーのリーダー、リストがそう言うと、一斉に歩く足を止めて休憩。キャンプの時間となった。

「ふぃー……」

ミントが疲れた足を崩してその場に倒れるように座り込んだ。ずっとここまで歩きっぱなしであったため、さすがに疲れるだろう。途中に少しの休憩が何度か入ってはいたが、ほんの数分では完全回復できない。

「さてと……」と、持ってきた水筒に口をつけようとした瞬間、近くの草むらからガサガサと何かの音がした。ここはグーラの奥地。まさか…… その正体は当たった。飢えたカエルのモンスターがよだれをたらしながらこちらに狙いを定めている。しかも一体だけではない。ミントたちサルベージャーを囲むように。

そのうちの一体がついにこちらにとびかかってきた。粘液のまとわりつくこのモンスターに襲われれば、まず逃げられないだろう。しかしそのモンスターに一閃。光と共に真っ二つになり、ぬかるんだ地面に落ちた。

 

「すまない、大のほうも出ちゃって……」

チャクラムのような武器、ツインリングを片手に持つグーラ人が目の前に立っていた。彼のそばには、黒い毛が凛々しい、胸に青い宝石を持つ獣型のブレイド。

「ほんと困るわよね。依頼されてるのにトイレ行ってて遅れるなんて……」

「仕方ないだろ、中途半端な状態で戦えるかっての!」

そう自らのブレイドに反論した後、グーラ人のドライバーは両手のツインリングを指で回しながら、モンスターの群れへと突っ込んでいく。

一匹のモンスターがドライバーのもとへ飛び掛かる。攻撃を躱し、ツインリングでカウンター。モンスターの左半身を切り裂く。しかしそれを見て仲間も黙ってはいない。今度は2体が舌で彼の足を引っかけて転ばす。倒れた衝撃でツインリングを落としてしまう。

「えいやっ!」

それを見ていたミントは、腰に携行していたダガーでカエルモンスターの舌を貫く。痛みのあまり舌を引っ込ませたことで、なんとか動ける状態となり、ツインリングを手に戻した。

「サンキュッ!いくぜクロヒョウ!」

「まったくドジ踏まないでよね……」

ドライバーはツインリングを投げ、クロヒョウと呼ばれたブレイドの前へと移動した。バブルリングのようにクロヒョウの前にツインリングが浮かんだ。

「ランディックブラスト!」

そう叫んだ途端、リングの中を通った空気が硬い石や土へと変質し、大きな渦となってモンスター達を吹き飛ばした。

「ま、ざっとこんなもんかな」

ドライバーはツインリングを手にし、腰からぶら下げた。

「いやいや助かったよリリオくん。さすがドライバーさんだ、護衛につけていて良かった」

「ははっ、どうもどうも!今後ともアニマ傭兵団をよろしく頼みます!」

「まだこれで終わりじゃないっての。帰るまで依頼してるんだからね」

手を出したリリオに、リストは握手で返す。それを見て「トイレで遅れてたのに……」と白い目でミントは見ていた。

ふと、崖の上からガサガサという音が聞こえた。ミント以外には聞こえていないらしい。ふとそこに目をやると赤い、何かを背負った誰かがこちらを見ていた。

 

 

「さすがにここならモンスターも来ないだろう。キャンプにするぞ」

先ほどモンスターに襲われたところでキャンプをするのはさすがに危険だった、あれから少し移動し、木々と崖に囲まれた場所でキャンプをすることになった。

「ふぅ、ようやく休憩だ!」

ミントは腕を伸ばしながら、地面にひいたシートの上に倒れこむ。

「さてと、腹減ったなぁ……」

リリオは腹をさすりながらサルベージャーの間で交代しながら運んだ台車を漁る。

「あー、ちょっと待ってちょっと待って!そういえば今回の食事当番私だったんだ!」

リリオをはねのけ、ミントが台車の中から様々な料理道具を出していく。鍋にフライパンにいくつかの皿、そして大きな肉の塊を取り出した。

「おっ、もしかして何か作るのか?」

「もっちろん!私の腕すごいんだから、見てなよ~?」

ミントはフライパンを手にリリオの方を横目に見つめた。ちょっとだけ引くリリオ。

 

コンロも準備し、早速ミントは料理にとりかかる。さっと包丁を取り出し、肉塊を大きく7つに分け、油を撒いたフライパンの上に載せる。火を強めて肉からある程度油を出したら、今度は弱火にしてじっくり焼いていく。豪快ながらも考えられたやり方だ。ジュージューと焼かれる音と共に良い匂いが辺りを満たす。

「ん~、良い匂い……。なぁクロヒョウ、この匂いにモンスターが釣られて来たりしないか?」

「大丈夫よ。この辺りのモンスターが好きなのは血の匂いだから。」

ミントはマヨネーズと塩と胡椒、醤油を油の中に放り込む。特製タルタリソースだ。

「今日はタルタリ焼きか。ミントの得意料理だな」

リストがよだれを垂らすリリオに語りかける。

最後に焼いた肉とソースを絡ませて皿に乗せる。いくつかのハーブのミックスをふりかけてついに完成。ミントとリリオとクロヒョウを含めた8人でキャンプの焚火の前を囲む。

「それじゃ、いただきまーす!」

「「「いっただきまーす!」」」

 

ミントの合図の後に全員でいただきますの挨拶を行う。この旨そうな香りは食べずにはいられない。一斉にタルタリ焼きにがっつく。

「すげぇ旨いな……お前サルベージャーの前は料理人か?」

「それ褒めてる? 貶してる?」

「褒めてるんだよ。こんな美味いのはそうそう食ってないな」

「リリオ、自炊してもいつも中途半端なものばかりだからねぇ。傭兵団も賃金低いし」

クロヒョウの余計な一言に「んなこと言うなっつの!」とつっかかるリリオ。ミントも自分の料理ながらよく出来たと思い、タルタリ焼きを食べ進める。

「でもまぁ仕方ないだろ。うちの傭兵団安いのが取り柄みたいなもんだし」

「安い分、トイレで遅れたりするんだね……」

ここでミントが小さな皮肉を言った。

「あれはたまたまだって! それに俺強かっただろ? ま、大手のフレースヴェルグに比べたら劣る傭兵団なのは否めないけどさ」

「でも恩があるからねぇ。なかなか辞められないのよ」

クロヒョウが苦い顔でリリオの方を見つめて言った。リリオは作り笑顔をミントのほうへ向けながらタルタリ焼きを食べ進める。

「リリオはさ、どうしてドライバーになったの?」

「ん、そうだなぁ、昔の仲間への仕送りのためかな。前はサルベージャーやってたんだけどドライバ―の方が何かと安定するからさ」

リリオは何か思うようにして、胸から下げたロケットペンダントを開き、その中を見た。

「俺の両親。故郷含めてもう亡くなっちゃったけどさ」

「そう、なんだ……」

ミントは食べていた手を止めてしまった。

 

「あぁ、ごめん湿っぽい話になっちゃって。昔の話だし、今は充実してるから良いんだよ。もっと明るい話にしようか?」

「え?ああそうだね。出来たらそっちのほうが良いかな~」

ミントは再び食べる手を進め始めた。リリオも笑顔で話を続ける。

「そんな俺に手を差し伸べてくれた人が居てさ。サルベージャーでドライバーだったんだ。その人のおかげで今の俺があるんだ」

リリオはそう言うと感極まったのか立ち上がって言葉をつづけた。

「いつか、俺はその人を超えたい。サルベージャーとしてもドライバーとしても」

「それじゃあまずは依頼が終わるまでしっかりドライバーとして働いてね? またトイレで居なくならないように!」

ミントはリリオの手を引いて座らせた。

「そりゃもちろん!」

 

そうした会話を続けるうちに、やがてタルタリ焼きは全て無くなった。リリオ、リストら他のサルベージャー達は満腹となって重い腹をさすっている。ミントはみんなの汚れた皿を手に取り、台車の中へと雑に置いた。

「皿洗いするか?」

リストがミントの肩を叩く。

「あ、明日朝起きてからやるから大丈夫です!」

「そうか。それじゃそろそろ寝る時間だし、テント張って体を休めるとしよう。ミントもあまり無理しないようにな」

「そう言ってまた明日台車やらせるんじゃあ……」

「ミントに限らず全員そうだろ」

もう日が落ちてから随分と立つ。夜更かしする理由もないため、今日は早く就寝することに。テントを台車から取り出してその場で作り、グーラの奥地であっても寝苦しくない寝袋を取り出してすぐに寝る準備は整った。しかしミントは寝る前に小さなオルゴールをポーチから取り出した。]

 

「ん、どうしたんだそのオルゴール?」

「あ、これアヴァリティアで売ってて。良い音色だなって思って買ったんです」

ミントはオルゴールの奏でる綺麗な音色に耳を澄ませている。

「この曲、グーラの子守唄だな」

オルゴールの音を聞き、リリオが隣のテントから現れた。

「うわっ、びっくりした! グーラの子守唄?」

「ああ、昔母さんがよく歌ってくれたなぁ。グーラじゃ有名な曲で、グーラ人なら幼い頃から聞かされてるんだ。遺伝子に刻まれてるっていうか」

「へー、だからこんな心に沁みるのかな……」

「俺も昔トリゴの町のトリゴリウト弾きが歌ってたの聞いたことあるな」

「私も一度本物聞いてみたいなぁ」

「ま、とにかく今日はもう寝たほうが良い。明日は今日の倍は歩くだろうからな」

「げっ、そんなに歩くんですか……」

「サルベージャーには朝飯前だぞ。しっかり休んで体力回復しとけ」

リストは寝袋を閉じ、そのまま寝床についた。ミントもオルゴールの音色を聞くのはまた明日ということにし、大きなあくびをしてから寝袋の中へと入った。

「おやすみなさーい……」

明日のため、眠い目をこすりながら眠りにつこうとする。しかし、何か足音が聞こえる。他のサルベージャー、もしくはリリオだかが外で散歩でもしてるのか、トイレにでも行っているのか……

こういうことにどうしても気になってしまい、眠れないのがミントの最近の悩みだ。

ズザッ、ズザッ―――――

少なくともこの足音は、モンスターのものではないだろう。人のものらしき、丁寧な歩き方に聞こえる。まるで、忍び足をしているような…… 

テントから見えるその影は人の姿。少し体を起こして周りを見てみるが、仲間のサルベージャーではなさそうだ。

「確かこのテント……」

声から察するにそれは少年だった。誰も起こさない様に小さな声で何かを探しているようだ。ミントは目を閉じて眠るふりをしながら、少年の動きを探る。

「あったあった……」

少年はミントのカバンの中をガサガサと漁り、あのオルゴールを手にした。これが目的のようだ。用事を終えた少年はゆっくりと、忍び足でテントの外へと……

 

 



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"謎の少年"

最近は進撃の巨人を見てます。
コニーの声が下野さんなんですね。色んな作品を見ていると「あっ、●●の声優だ」ってなるから楽しいですよね



 

「誰ぇ?」

ミントが威嚇のため、少年に聞こえる程度で声を上げた。少年は驚いて飛び上がる。しかし、なんとかテントの外に出ていたことから姿は見られてないと思い

「にゃ、にゃ~ん……」

猫の声マネをした。

「なんだー、猫か……」

少年は胸を撫でおろし、そのまま去ろうとする。

「――――猫がこんなところにいるわけないやろがい!」

声を張り上げ、ミントはテントから飛び出て少年へと飛び掛かった。

「うわぁっ!? 起きてたのかよ!?」

その姿を見て少年は即座に逃げ出す。

「こら待てドロボー!」

逃げる少年を逃がすまいと、靴をしっかり履いてから追いかける。

 

深夜の森の中はとても不安定だ。ところどころに木の根っこが飛び出し、しっかりと目を凝らさなければつまづいて逃がしてしまう。どちらも転ばないよう集中しながら走っているからか、追跡と逃走のスピードはどちらも遅いようだった。

「はぁはぁ、待てーい!」

段々とミントはスピードを上げ、ようやく少年へと追い付いた。腕を掴んで、大きく後ろに投げる。

「どりゃー!」

「ぐふぉっ!?」

少年は背中に背負っていた剣が、投げ飛ばされた勢いで強く背中に叩きつけられたせいか、少し息ができないほど苦しんでいるようであった。

「い、いきなり何すんだよ……っ!」

わずかな月明かりが少年を照らす。銀色の髪の毛。背中の剣は赤色をしていた。

「私のオルゴール盗ったからでしょ! まったくなんでこんなものを盗むの?」

少年が手から落としたオルゴールを拾い上げる。

「第一、それ俺のなんだよ」

「どういうこと?」

「いや、アヴァリティアで落としたら、変な商人が拾い上げてさ。それを売るもんだから……」

「買いなおせばいいじゃん」

「いや、その金が無くて……」

「だから買われた後に奪えばいいと? 全く……。私はちゃんとお金払って買ったんだからね!」

「とにかく! それは俺のだ! どっちかというとドロボーはそっちのだろ、返してくれよ」

「ちゃんとお金出してくれるなら返してあげてもいいよ、サルベージャーの合言葉その2、買ったものは自分のもの!」

「嘘つけ、“助けられたら助け返せ”だろ」

「ありゃ?そうだった……っけ?」

少年は一瞬の隙をつき、ミントの手からオルゴールを奪い取り、そのまま走り闇の中へと消えていった。

「ああっ、逃げんなドロボー!」

しかし時すでに遅し。彼が走り去る音だけが聞こえるものの、姿はもう完全に見えなくなってしまった。

「あーあ、逃げられちゃった……。まぁ、こうなったら仕方ないか、早く戻って寝よ……」

もはや追いかける気力も失くし、そのままテントへと帰ることとなった。

 

キャンプへと帰るミント。しかしどうにも様子がおかしい。キャンプから何かが聞こえてくる。うっすらと、明かりも見える。

不思議に思うが、さきほど出て行った騒ぎでパニックにでもなっているのだろうか。しかし不審に思いながら、キャンプへとだんだん近づいていく。やがてそれが仲間のサルベージャー達の者ではないことに気が付いた。さきほどから見えたこの明かりは、キャンプが燃えていることによるものだった。

「どういうこと……?」

更に近づくと、聞こえてきた音が次第に喧噪へと変わっていった。その中で、仲間のサルベージャー達の叫び声が聞こえてくる。物陰からそっと見ると、そこには赤いブレイドを連れた一人のドライバーと、3人ほどの野盗、そして10匹ほどのターキンが仲間たちを襲っていた。

 

「野盗に……ターキン!? ど、どうして……」

見つからない様に隠れるミント。気づかれてはいない。襲われるサルベージャーの前に、クロヒョウと共にリリオが立ちはだかる。ツインリングを手に謎のドライバーに斬りかかるが、軽くあしらわれ、転んだ隙に背後に忍び寄っていたターキンに頭を叩かれて気絶してしまう。クロヒョウも野盗に捕まえられ、簀巻きのようにされてしまう。

「ど、どうしよう……!?」

慌てるミント。今の自分にできることは何もない。すると、捕まっていたリストがミントの方に気が付いた。

「ミント……!? 逃げろ!」

「あぁ……?」

リストが声をかけてしまったことで、おそらくこの野盗のリーダー格であろうドライバーの男がミントの方に気が付いた。

「俺たちの事はいい! 早く逃げろ!」

「チッ、まだ一人残ってたか。ターキンども、あいつを追え」

「いや…っ! 来ないで!」

ドライバーの男がターキンに命令。ターキンたちは弓矢や剣を手にミントの方へ近づいていく。ミントも来た方向とは逆に逃げていく。ターキンたちの足は速くないが、弓を持っているのが厄介だ。

ドライバーでもなく、戦いに長けているわけではない。しかもターキンを数体相手にするのは無理である。ミントは今逃げるしかなかったのだ。

しかし、ターキンの放った矢の一本がミントの足に直撃してしまい、ミントはその場に倒れこむ。

「……っ! 痛……」

刺さったところから、血がだんだんと溢れてくる。痛さのあまり、立ち上がることもできない。しかしこのままではターキンに襲われてしまう。腰につけているダガーを手にし、とにかく追い払うように振り回す。

「来るなっ! 来るなっ!」

しかし、ターキンたちは意にも介さない。むしろミントのダガーを弾き飛ばした。

「こんなところで……」

ターキンの一体が短剣をミントに向けて大きく振り上げた。もうおしまいだ―――――

 

その時、突然どこから舞い上がった炎がミントを狙うターキンを包みこんだ。燃え上がったターキンは、近場の水で消化し、どこかへと逃げる。

一体何が……? そこには、赤い剣を持つ銀髪の少年、さきほどオルゴールを奪った彼が目の前に立っていたのだ。

「あ、あんたなんで……?」

「おい、大丈夫かよ!」

「い、いや、ちょっと大丈夫じゃなくて……」

「ったく、仕方ねぇな……」

少年の前にはまだターキンが何体か残っており、弓矢や剣で襲い掛かる。少年は攻撃を避けながら、剣を大きく振りかざしてターキンたちを倒していく。

「数が多くてめんどくせぇ、なら!」

赤い剣の刀身と柄の間の炎上の部位に「転」という文字が浮かび上がる。そして剣を投げ飛ばす。投げられた剣はターキンたちの前で回転しながら炎を纏っている。

「フレイムノヴァ!」

炎がターキンたちを喰らうように襲う。この攻撃に怯えたのか、ターキンたちは次々と逃げていく。

「また来ると厄介だ、逃げるぞ!」

「え? 逃げるってどこに?」

「どこでもいいだろ! このままじゃまた奴ら来るぞ!」

 

少年はミントの手を掴んで走り出す。目指すのはとにかく奴らが追っては来れない場所。木々をかいくぐりながら、時に枝を切って道を開けながら逃げていく。後ろを振り返ると、次第に燃えるキャンプの光が薄くなっていく。3分は逃げた後、少年に連れられミントは小さな岩場へと隠れる。

「ここまで来れば奴らは追って来ない」

「ちょ、ちょっと待って…… ちょっと待ってよ!」

いまだミントの手を握る少年の手を振りほどいた。

「助けに行かないと、このまま逃げるなんてできない!」

「嫌だって、厄介事には巻き込まれたくない」

「そんなこと言わないで! みんなは私の大事な仲間で、師匠だって居るの! このまま逃げるなんてできない!」

「そんなこと言われても…… 俺には関係ない」

少年はその場に座り込んで、剣を置く。

「まぁ、確かにそうなんだけどさ、でもさっきあんたの戦い見てたけど、随分強いじゃん? だからお願い! 一緒に助けに行ってくれない?」

ミントが手を合わせ、頭を下げて頼み込む。

「そんな風に頼まれたって……」

「はぁ、しょうがないな…… じゃ、これは返さないけどいいの?」

そう言うと、ミントは懐に入ったポケットからあのオルゴールを取り出した。

「にゃっ!? なんでそれお前が持ってるんだよ!?」

「さっきターキンとの戦いで落としてたから、拾ってあげたの」

「お前、サルベージャーの前職は盗人か?」

「うっさい。とりあえず返してほしかったら一緒に助けに行くこと。いい?」

「横暴だなぁ。分かったよ。助けに行けばいいんだろ、助けに行けば」

少年は苦い顔をしながら返答する。

「そりゃもちろん! 話が分かっていらっしゃる!」

ミントはオルゴールをポケットに入れ、握手のために手を伸ばす。

「ただし、助けに行く以上の事はしないからな。護衛とかは自分でちゃんとしろ」

「分かってるって! 案外優しいんだね?」

「脅されただけだっての。母さんの大事なオルゴール捨てるわけにはいかないしな」

そう言うと少年は不貞腐れながらも、ミントと握手を交わした。

 

「よし! それじゃさっきのキャンプまで戻って…… 痛ッ!」

歩き出そうとした瞬間、足に強い痛みが襲った。さきほどターキンの矢が刺さったところだ。

「お前怪我してたのかよ…… ちょっと見せてみろ」

少年はしゃがみこみ、怪我をした足をまじまじと見つめる。

「こりゃ随分な怪我だな……」

そう言うと、持っていた布で怪我部分を巻いた。

「あ、ありがと……」

「それで、今からあのキャンプに戻るか? いくらなんでも正面から突っ込んでいくのは得策じゃないと思うけど」

「うーん…… いや、夜が明けるまで一旦待ってから行こう。きっと奴らの跡がまだ残ってるだろうし」

夜の闇の中での戦いは勝算が薄い。もうすぐ日が明けるのを待ってキャンプへ戻ることとした。

 



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“野盗のアジトへ”

前書き、書くことが無くなってきました……


 

焼かれたキャンプへと戻ってきた。ところどころに血が垂れているのが見える。しかし死体は無いことから、野盗に攫われたものだと推測できる。

「ヤツら、サルベージのアイテムまで盗んでいってる…… というか、テント以外ほとんど何も残ってない。フライパンすら」

「奴らの狙いはサルベージセットか? だったとしたら最近噂のヤツかもしれないな……」

「最近噂のヤツって?」

「トリゴの町で聞いた事があるんだよ。又聞きだけど、どうも嘘のサルベージスポットを貼りだして、そこに現れたサルベージャーを襲うとか……」

「まさか私たちまんまと嘘の情報に騙されたってわけ!?」

「どうだろうな、だったとしたら初犯じゃない。きっと何か証拠が残ってるはずだ」

「くーっ! あんな奴らに騙されて悔しい! というか、第一そのサルベージスポットの情報を最初に知ったのが私だから…… 私のせいじゃん!」

ミントは頭を抱えながら地団駄を踏む。少年はそれを見てやれやれと頭を振りながら、黄色い花をミントに渡す。

「……いきなり花貰っても……ありがと」

「何言ってんだ、そういう意味で渡したんじゃない」

「……ああーっ! 変に勘違いしちゃったじゃないの!」

ミントは顔を赤くしながら花を少年に戻す。

「ヒマワリローグ。この花はこの辺りでは咲かないんだ。おそらく野盗が持ってたヤツだろう。とにかくこれで大体のヤツらの居場所は掴めた」

「えっ、花一本で分かるもんなの?」

「ま、俺はグーラにはそこそこ詳しいからな。ついてこい」

少年は花を胸にしまって、焼けたキャンプ地を後にする。ミントは最後に何か残っていないか確認してから少年の後に続いていく。

 

グーラ奥地、つまりは下層。巨神獣の下半身はなにかと複雑な地形をしている。ここまで来るときは安定した道を選んで進んでいたが、それは遠回り。今は時間が惜しいので高低差のある近道を進んでいかなければならない。ミントはその途中で3回ほど下に落ちかけたが、少年に何度も助けられる。

「ごめん、これで3回目……」

「助けた分ちゃんと後でお礼してくれよ」

「覚えてたらね」

「何だよそれ……」

「でももう落ちる心配は無いって。ほら、もうすぐ大平原」

ミントが少年の後ろに指をさす。そこからは奥地では感じられないほどの鮮やかな光に照らされている大きな平原があった。その名はゴルドア大平原。

「なんだか久しぶりに陽の光浴びたって感じ! ずっと暗いと生活リズムおかしくなる」

ミントは伸びをして、この光を全身で受け止める。

「そんなことしてる場合か?進まなきゃいけないんだろ」

「ああごめんごめん! ところでどこに向かうの?」

「この花がよく咲いてる花畑があるんだ。平原を横切って、小さな洞窟の中に入る。その洞窟の中にこの花が群生してる場所があってな。そこの可能性が高いと思う」

少年は花を手に平原を進み始める。ミントも遅れないように進んでいく。しかしどうしても足を怪我しているために早く進むことができない。

「ちょっと待ってよ、足が痛くて全然進めないの!」

少年はため息をついてミントの方へと振り返る。

「無理すんなよ、助けに行くのにお前が居ないんじゃ話にならない」

「じゃあもうちょっと遅く歩いてよ」

「しょうがないな」

少年は剣を置いてミントの方へと歩み寄る。

「危ない!」

ミントの後ろには獣のモンスターが迫っていた。少年は再び剣を持ってミントの後ろのモンスターに斬りかかった。

「怪我してんだから後ろに下がってろ!」

「わ、ごめん!」

ミントは後ろに倒れ込んで姿勢を低くする。少年はそれを確認した後、剣に力を込めて思いきりモンスターに突き刺した。刺したところから炎が流れ込み、獣は苦しみながら息絶えた。

「まったく、後ろには気を付けろよ……」

剣を再び背中に装備し、そそくさと歩き始める。

「ありがと……ってだから待ってって!」

怪我をしている足を掴みながら、少年に追い付けと続く。

「アイツの剣、一体何なんだろう」

ミントの興味は少年の持つ赤い剣にあった。今のモンスターを倒した時、そして自分をターキンから助けた時、どうして炎を出したのだろうか。何らかの属性攻撃を出せるのはブレイドだけ。もしかしたら彼はブレイドなのだろうか。いや、彼は「母さん」と言っていたはずだ。ならばブレイドではない? 謎は深まるばかりだが、今は唯一頼りになる存在。不思議な少年に付いていき、ようやくお目当ての洞窟へとたどり着く。

 

「ここがその洞窟だ。この先を進むとコイツの咲いてるところに出るはずだ」

「そこに野盗とうちの仲間がいる?」

「だと思う。アジトにするならこの洞窟はちょうどいい場所だしな……隠れろ」

そう言われてすぐさま物陰に隠れる。洞窟の奥から二人の野盗が現れた。

「アイツらの顔、確かに昨日襲ってきたヤツらだ……」

「静かに」

野盗は話をしているらしい。耳を澄ましてよく聞く。

「しかし、これで本当に金貰えんのか? 前回はドライバー居なくて役にも立たねぇサルベージセット手に入れただけだぜ?」

「けど今回は一人だがドライバーがいる。少なくとも報酬は前回よりはあるだろう」

「しかしもっと効率的な方法あると思うんだけどなぁ、コアクリスタル手に入れるだけなら街のドライバーでも襲えばいいってのに」

「それじゃ目に付いちまうだろうが。ともかく俺たちは雇われなんだ。黙って従ってりゃ悪いようにはされねぇさ」

 

「アイツらの目的はサルベージャーじゃない……?」

「本当の狙いはドライバーってことか…… 用心棒に雇われたドライバー狙いなんて回りくどいヤツらだな」

「それでどうする? 戦う?」

「もう少しだけ話を聞こう」

 

「そんで、お前ボトル持ってきたか?」

「ああもちろん。水汲んで雇い主サマに献上しないとなぁ」

二人の野盗はそのまま洞窟を去っていく。

「この隙に奥に進もう。足音に注意しろよ」

「そのぐらい分かってるって」

 

洞窟の中の壁にはところどころ松明が設置されていた。やはり野盗たちはここをアジトにしているのだろう。それもかなり前から。

「良い雰囲気の洞窟だったのに、今じゃ悪党の汚いアジトか……」

洞窟のあちらこちらには木の破片などが転がっている。古びたコップなども散らばっている。薄明りの中を進んでいくと、野盗とおぼしき話し声が聞こえてきた。

「ドライバー捕まえたんだからとっとと始末すればいいのによ、雇い主はどうしてまだ殺してないんだ?」

「ソレハキット ドライバーカラ ドコノショゾクカキクタメ」

「聞いてどうする?」

「キイテ ソイツラヲ ワナニハメテ コアクリスタルガッポリダ」

ターキンと話しているようだ。こちらには気づいていない。しかもちょうどこちら側は相手の背だ。少年はチャンスと見て、剣で思いきり野盗とターキンの頭を叩く。一人と一体はそのまま地面に倒れ込んだ。

「えっ、まさか殺した!?」

「峰打ちだよ。母さんに習った」

野盗は倒れる時に鍵を落とした。恐らくサルベージャー達が捕まっているところのものだろう。

「なるべく戦わずに逃げたい。行くぞ……ってまた何やってんだ」

ミントは落ちていた木の棒で倒れたターキンをつんつん付いていた。

「ほんとに気絶してるだけだ」

「いいから行くぞ」

少年はミントを無理やり連れてさらに先へと進んでいく。

洞窟のさらに先は少し開けた場所だ。そこでは何人かの野盗とターキンが輪になって何かを囲んでいる。その中にはあのドライバーも居た。

「それで、獣型のドライバーさん、あんたはどこの所属だ?」

「それを聞いてどうするつもりだ?」

輪の中心にいたのはリリオとクロヒョウであった。既に殴られているようで、頬には痣が見える。

「お前一人のコアクリスタルじゃあ、金をかけた意味が無くなってしまうんでねぇ。お前傭兵団のヤツだろ? 教えてくれりゃあ命は助けてやる。お前の傭兵団のドライバー達のコアクリスタルと引き換えにな」

「悪いが教えない、いくら拷問されても、殴られても、絶対に教えない!」

「ったく頭かてぇヤツだなぁ」

「私はコアクリスタルに戻ったってアンタたちには従わないから!」

「なんだ猫ちゃん、ブレイドは同調したドライバーに従うってルール知らないのか?」

野盗のドライバーのブレイドがクロヒョウを煽る。

「よせよバクエン、相手にしなくたって時期にコイツは俺たちの道具になるんだからな」

「ならとっとと殺してコアクリスタルに戻してやろうショット。これ以上問い詰めたってコイツは何も出さないだろうしな」

 

「ショット、バクエン……」

「お前知ってるのか?」

「知ってる、と思う」

物陰からこの様子を見ている二人。ミントは気づかれない様にこの二人の名前を思い出そうとする。

「分かった、コイツらペルフィキオのヤツらだよ」

「ペルフィキオ?」

「それは知らないんだ…… 最近あちこちでコアクリスタルを狙ってるっていうテロリストの連中だよ。まさか雇い主ってのがそれだったなんて……てか、早く助けないとアイツ殺されちゃう!」

「随分ヤバい連中に喧嘩売ることになるな……この鍵はお前に渡す、捕まってるサルベージャー達を助けて逃げろ!」

少年は鍵を手渡し、剣を構えて野盗たちのもとへと突っ込んでいく。

「えっ、まさか一人で行く気!?」

 

「うおおおおおっ!!」

その赤い剣に炎を纏わせ、思いきり敵のドライバーへと斬りつけようとする。しかし既に相手の体は反応していた。

「なんだてめぇ、どこから来やがった!?」

ショットと呼ばれたドライバーは、腰から刀を取り出して攻撃を防ぐ。

「そいつを離せ!」

「気を付けろショット! そのガキ、奇妙な感じだ」

「なんだって?」

バクエンは頭を抱えて、少年から感じる不思議な気を訝しむ。

「ブレイド……いや、にしては人の臭いが強い」

「ともかく邪魔するんなら容赦しねぇぞォ! ガキィ!」

刀を鞘に戻し、思いきり振りかざして今度は少年へと攻撃を繰り出す。周辺の野盗とターキンも戦いに入る。

「さすがにこの数はキツいな……」

「おい野盗ども、助けに入らなくたっていいぜ、お前らは牢屋に行ってろ、コイツは俺一人でもなんとかなる」

それを聞いて野盗たちは戦いから離れ、牢屋のあるところへと向かっていく。

「マズい、牢屋のある方向にはアイツが……」

「何よそ見してんだぁ!?」

ショットはさらに刀を三回連続で振りかざす。少年の持つ剣はショットの刀よりも大きいため、合間を縫って攻撃を放つことが難しい。

「スラッシュブレイズ!」

ショットから刀を受け取ったバクエンが、炎の刃を大きく振りかざす。ブレイドの攻撃はドライバーの攻撃よりも強力。この攻撃で思いきり壁に叩きつけられてしまった。

「背中をやられた…… だがこの程度すぐに治る!」

今度はこちらの反撃だ。剣にエネルギーを込め、炎の弾をショットへと放つ。刀でそれを弾くが、そのうちの一発は肩に喰らってしまう。

「くっ…… 今の一撃はなかなか手痛いな」

「けどこっちは炎属性、相手も炎属性。同じ属性ならば受けるダメージは軽減される」

「ああ、それは相手も同じだ」

「なら勝負を分けるのは?」

「経験ってヤツだ!」

 

 



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"ショットとバクエン"

結構旧作からはストーリー展開なり、きっかけを色々変えているのですがどうでしょうか?
初めて読む方にも楽しんでいただけたらと思います


 

ショットと少年が燃える刃を鍔競り合っていた頃、ミントは洞窟の奥にある牢屋へとたどり着いていた。

「見つけた! リストさーん!」

「ミント!? どうしてここに?」

牢屋の中にはリーダーであるリストを含めた他のサルベージャー達が捕まっていた。見る限り全員居ることから誰も殺されてはいないようだ。

「どうしてって、助けに来たに決まってるじゃないです……かっ!」

牢屋の鍵穴はなかなか古く、鍵が硬かったがなんとか力を入れて開錠することに成功する。扉を開けてその中からサルベージャー達が出ていく。

「しかし一人でこんな危ないことするなんて」

「大丈夫ですよ、強い助っ人が居ますから!」

そう言ってグッドサインを見せつける。なんとか全員出ることが出来たが、後ろから野盗たちが迫ってくる音が聞こえてきた。

「まずい! まさかここまで来たのがバレた!?」

野盗たちはナイフを手にこちらへと次第に迫ってくる。サルベージャーは戦闘をする仕事ではない。弱いモンスターなどであれば戦うことができるが、戦い慣れた相手には勝てない。

「クソッ、ここまでかよ!」

一応は護身用のナイフを手にするものの、このまま野盗にやられるのを覚悟する……しかし、突然こちらに迫る野盗たちは吹き飛んで壁に叩きつけられた。土煙と共に。

「この攻撃……」

「リリオだ!」

野盗たちの後ろにはボロボロになりながらもツインリングを手にクロヒョウと共に立つリリオの姿があった。まだ動ける野盗はリリオに向かって襲い掛かるが、ドライバーとただの野盗、相手になるはずもなく一撃で倒されてしまった。

「おい、お前ら大丈夫か!?」

「大丈夫……ってそれはこっちのセリフだよ、そんなボロボロになってるんだから」

「あの少年と敵のドライバーが戦ってる隙に逃げてきたんだ。クロヒョウもなんとか解放してな」

「ええ。ドライバー相手には難しいけど、ただのチンピラ程度屁でもないわ」

「ありがとうリリオ、全く金以上の仕事をしてくれるな」

「いやいや、むしろ攫われるなんて傭兵として失格だ。今回はタダでいいですよ」

「ともかく、今はここから逃げましょう、他に何人野盗が居るか分かりませんし」

サルベージャーの一人が怖気付いた声でリストに話しかける。

「そうだな。ここから出るまでの間の護衛も頼むリリオ」

「もちろんだ。行くぞクロヒョウ!」

リリオを先頭にサルベージャー達は洞窟から脱出する。

 

「コイツ、本当に強い……」

少年はショットに押されていた。それもそのはず、世界各地の様々な場所を襲いコアクリスタルを力づくで奪っているテロリスト、ペルフィキオの一員なのだから。実力も単純なパワーもこちらより上。さらに同じ属性。こちら側の攻撃の威力が半減される。

「なんだよ、喧嘩売ってきてその程度か? せっかくの仕事が台無しになるんだからもっと楽しませろよッ!」

刀によるさらに強い一撃が剣に叩きこまれる。しかしこのまま何も打たずに剣が壊れるまで防ぐわけにはいかない。

「ダブルスピンエッジ!」

次の攻撃はかわし、その勢いで思いきり回転斬りをショットに打ちこむ。しかしその攻撃も防がれ、相手のダメージにはならない。

「随分面白いアーツじゃねぇか、誰に習った?」

「母さんとひいじいちゃんからだ……これでも戦いには自信がある!」

「ほう? にしては随分と押されてるみたいだなぁ!」

ショットは剣で防ぎながら、思いきり少年の腹を蹴り上げる。ガハッとツバを吐いてその場に少年は倒れ込む。今の一撃ななかなかだったらしい。

「さて、そろそろ終わらせてやるよ」

刀を振り上げ、倒れる少年に振りかざす。その瞬間、どこからかナイフが飛んできた。

「やめろーっ!」

ナイフを投げたのはミントであった。投げたナイフは簡単に弾かれてしまったが、野盗から奪ったものがもう一本ある。ショットに向かってそのまま突進する。

「おいやめろ、来るな……」

少年が止めようとするが止まりはしない。ショットが困惑している間に加速し、思いきりその腹にナイフを突き刺す……

 

ことは叶わなかった。ショットはミントの手を掴み、そのまま奪った。

「無茶しやがって、仕方ねぇなァ!」

ショットは奪ったナイフを抵抗のできないミントの胸へと突き刺した。そして投げた。

胸から血をドクドク流しながら、ミントは苦悶の声を上げる。

「あ…う…」

「この……野郎!」

再び剣を持ってショットに挑む。しかし歯は立たないままだ。

「まったく面倒くせえんだよ! やれ!バクエン!」

少年の攻撃を弾き飛ばし、遠くまで離れたのを確認しショットは再びバクエンに刀を投げて渡す。

「ああ、とどめ刺してやる!」

バクエンは刀に自身のエネルギーを込める。それを空中に浮かべ、少年の周りで回転させる。やがて刀から炎が噴き出し、その炎は竜巻のように渦を巻き始める。

「これは…!?」

「同じ属性でも、さすがにこの攻撃には耐えられない!」

渦はやがて炎の肌の焦げるような熱い竜巻へと姿を変え、逃げ道をふさぐように少年を包んだ。そしてそのまま黒焦げになってしまう……

 

否、そうはならなかった。刀がショットの手元に戻った瞬間、炎の竜巻は流れるような激流の竜巻へと姿を変えた。少年を包む炎は水へと突然変化したのだ。

「何だ!?」

竜巻の向こう側に見える少年。彼の持つ剣の中心の円には「水」という文字が浮かび上がっている。

「あんまりこの力は表に出したくないってのに……!」

水の竜巻は形を変え、荒れる波へと姿を変えてこちらへと向かってくる。すぐさまショットは炎の力で水を蒸発させようとするが突然のことで力が追い付かない。

「ぐああああーっ!」

バクエンも水の攻撃を受けて苦しみだす。火の天敵は水である。

「バカな、アイツの属性は炎だったはずだ! 水の攻撃などできるはずが無い!」

「違う、属性を変えたんだ!」

ショットは再び刀を構え、水を操る少年に向かっていく。

同じ炎の力なら勝てない。だが反する属性である水の力ならこの状況を打開できる!

「アクアスラスト!」

ショットが最も自分に近づいたタイミング、そこで思いきり剣から水を放出し、その勢いで吹き飛ばした。

予想外の攻撃にショットは狼狽える。刀をまずは置いて少年の動きを見る。

「どうするショット!?」

「チッ、野盗どもは使えねぇし…… 仕方ねぇ、このまま力を削られて戦ったって分が悪い。退散するぞ。それにちょうどいい仕返しもできることだしな……」

ショットの手の中にはあのオルゴールが握られていた。

「それは!? お前いつの間に俺のオルゴールを!?」

「さっきそこのガキが近づいてきた時にくすねたんだよ、これってお前だったのか?」

「それを……返せ!」

感情のままに剣を振りかざす。しかしさきほどと違って考えたうえでの動きではない。簡単に避けられてしまった。

「悪いな、コイツだけでも取って俺たちは逃げさせてもらうぜ?」

「待て! 逃がすか!」

「おいおい、こんなオルゴールより大事なもの、あるんじゃねぇのか?」

ショットの指を指した先には血を流して倒れているミント。一体どちらを優先すれば……

数秒の思考の末、ショットのほうを睨もうとするが、既にそこにショットたちの姿は無かった。完全に逃げられてしまった。

 

「……まったく! おい、大丈夫か!?」

今から追えば間に合うかもしれないが、やはり放ってはおけない。倒れたミントの近くへと行く。

「ごめん、私のせいであんたの大事な……オルゴール……」

「喋んな! 傷口が開くだろ!」

少年は着ていた上着を脱いで少女の胸の傷に押し当てる。

「もう遅いみたい。わざわざあんな無茶頼んだりして、ごめんなさい……」

言葉を紡ぐ間に何度も咳をする。口からも血が流れる。

「待てよ、俺は目の前で人を死なせたくないんだよ! 目を閉じるな! 意識をしっかり持て!」

「私は……いいの、これで。サルベージャーになってそこそこ楽しかったし、短かったけど今までの中だったら一番マシだから……ようやく、パパとママに……会えるから……」

次第に声が小さくなっていく。

「でも、最後に人に迷惑かけて死ぬのだけは……嫌だな……」

 

 

少年は必死に少女の手を握るが、その手はこちらをもう握らなかった。

 

 



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“旅の理由”

第一話はこれで終了です。第二話以降は不定期更新になりますがよろしくお願いします~

良かったら感想などもぜひお願いします!


 

なぜだろう、パパとママに久しぶりに会えると思ったのに、まだ会えないなんて。あんな連中ばかりの世界じゃ嫌なのに。

 

目を開くと、青い球のようなフィールドが自分と少年を包んでいる。少年は服を脱いで、私の胸に手を当てている。少年の胸には金色のコアクリスタルが在る。

「ねぇ、それって……」

「動くな。傷が上手く治らないだろ」

次第に胸の痛みが引いてきた。いや、それどころかナイフにより空けられた穴が塞がっている。血も溢れ出ることは無くなり、完全に傷が治った。

だがしかし、傷が治ったよりも驚くことがある。確かにあのまま意識が薄れて、死んだはずなのに……

 

 

 

「ふぅ、今日はいい天気だね!」

二人は洞窟を出て陽の光の下に出ていた。遠くにはあのゴルドア大平原が見える、見晴らしのいい場所だ。伸びをするミントを横目に少年は剣をタオルで磨いていた。

「ところでさ、助けてくれてありがとう」

そんな彼の前に顔を出す。少年はミントとは目を合わせない。

「死にそうな人放っておけるわけないだろ。当たり前の事したまでだ」

「にしても、自分から厄介事には首突っ込みたくないとか言ってたわりには自分からさっき突っ込んでいったじゃん?」

「あのまま突っ込まなきゃドライバーさん死んでただろ。それも放っておけないってやつだ」

「なるほどねぇ……」

ミントは地面の石を蹴りながら少年と会話を続ける。

「それで、あんたのドライバーさんはどこにいるの? まさかはぐれたとか?」

「は? ドライバー?」

「いや、だってあんたの胸のそれ」

少年の胸には金色のコアクリスタルが付いている。コアクリスタル……それは人間は持ちえない、ブレイドである証のようなものだ。

「ま、不思議に思うかもしれないけど俺はブレイドじゃない。だからドライバーも居ない」

「へ? どゆこと?」

「胸のこれは確かにコアクリスタルだけど、まぁ色々複雑な事情でさ」

「あー、確かに前にお母さんとかなんとか言ってたしね。まぁあんまり詮索はしないけど」

「まぁ、旅に出てから何年も会ってないけどな」

覗き込んだ少年の目はどこか悲しい目をしている。

「旅ねぇ。……どうしてあなたは旅をしてるの?」

 

「――――父さんを探してるんだ。俺が幼い頃に急に消えたんだ。最後に居たのは、あの世界樹の楽園なんだってさ」

少年が指を指したのは、アルストの中心にある巨大な樹、世界樹であった。昼夜問わず常に不思議な輝きを放っている。

「だから俺は母さんと約束したんだ。必ず父さんを探して連れて帰るって」

「そうなんだ…… 会えるといいね」

「ありがとな。それじゃまた」

そう言うと少年は剣を背負い、ミントに背を向けて歩き始める。

「えっ、ちょっとどこ行くの!」

「もうお前の仲間は助けたんだし、俺の仕事は終わりだろ? 俺はオルゴールを奪ったショットって奴を追う。お前はトリゴに帰って仲間を探してこい」

「ちょちょちょちょっと待って!」

ミントは去っていく少年の腕を掴んだ。

「まだあなたにお礼してない! それに結局オルゴール盗られちゃったわけだし……」

「そんな、そこまでしなくていいって」

「いいや! こっちが落ち着かない! 命助けてもらったわけだし! だからオルゴール取り戻すの協力する!」

「だからいいっての……」

「うーん……それじゃ、世界樹まで連れていく! それじゃダメ?私前に一度行ったことがあるから! 案内できると思う!」

「マジかよ……」

「その性格じゃ、世界樹なんて行けないんじゃない? さしずめ行き方もあまり知らないとか?」

「なんだよ、だったら悪いかよ」

少年はどこか照れながら頭を掻く。

「サルベージャーの合言葉その2!“助けられたら助け返せ”だからね。私一応はサルベージャーなんだから」

「……正直助かる。一人は結構心細いし」

「ほら、正直になればいいのにっ」

ミントは握手の手を出した。

「ほら、よろしくお願いってサイン。えーと……」

ミントは少年の名を呼ぼうとしたが、そういえば名前だけはまだ聞いていない。

「名前なんだっけ?」

「リュウギだ。ってかそっちの名前ははっきりはまだ聞いてない」

「私はミント。見ての通りサルベージャーだからね!」

「ああ、よろしくなミント」

「よろしく、リュウギ!」

 

二人の後ろには、淡く光る世界樹が立っている。しかしそれはどこよりも遠い目標であった。

だが彼らの後ろにあったのは世界樹だけではなかった。武装した兵士が二人の下へと向かっていた。



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第二話 コアクリスタル盗難事件
“ガーン”


執筆してる時の悩みは、間と間の展開をどうするか……ということです
そこさえなんとかすれば詰まないんですけど……


 

モンスター達の群れをかいくぐり、森の中へと逃げ込んだショット。大きな木の根元に寄りかかり、左腹を抑える。あの少年の水の攻撃……一体なんだったのだろうか。

「ったく、ブレイドはいいよな、傷が回復できて」

「しかし痛いものは痛いぜ、随分と強がっていたようだがショット、結構ギリギリだったんじゃないか?」

バクエンはショットの左腹を見る。傷と青い痣が出来ているのが見える。少年の一撃で受けたところだ。

「何、ちっと休めば問題ねぇよ……」

「なら心配無いんだが。お前が死ねば俺だって死ぬことになるんだからな」

ブレイドとドライバーは一心同体。それは世界が新しくなっても同じことであった。ブレイドを生み出した人間が死んでしまえば、ブレイドも同調してコアクリスタルへと戻ってしまう。

他の人間が戻ったコアクリスタルに触れればブレイドは元に戻ることができるが、記憶と経験だけは引き継ぐことができない。コアに戻ると言うことはある意味人間の死と同義なのだ。記憶こそが命なのだから。

「分かってるって。今一番大事なのは上がどう思うかだ。結局収穫はほとんど無し、野盗だって倒されちまったんだからな……」

「まったくだも。お前のためにかけた金が無駄になるも!」

突然の渋い声に驚くショットとバクエン。ふと上を見上げると、木の枝の上に一体のノポンが立っていた。

 

「まったく、このままじゃあボスに合わせる顔が無いんだも!」

ノポンは枝の上から地面へと降りてきた。わずかな光に照らされた彼は、緑色の毛並みと黒いひげが特徴的であった。さらにノポンのくせに悪人面をしている。

「仕方ねぇだろ、まさかの邪魔が入ってきたんだからよ」

「多少邪魔が入ることぐらい、想定しておけも! 大体、策がガバガバすぎるんだも!」

緑のノポンは地団駄を踏みながらこちらを睨みつけてくる。

「第一、お前部下の癖になんで俺に偉そうなんだも! 上司には敬語使うべきなんだも!!」

「はいはい、分かりましたよガーン様」

「ももーっ! 無理矢理言わされてる感マシマシだも!」

「ったくめんどくせぇな……」

「めんどくさいって言ったも! めんどくさいって言ったも!」

「今は口喧嘩するより大事なことあるんじゃないですか? ガーン様」

バクエンが二人の面倒なコントを遮って話を始めた。

「何よりも今回の件が失敗したということは、報告するべきガーン様の責任にもなる。もちろん俺たちにも責任は問われると思うが、そこの点どう考えてるつもりで?」

「もももも…… どうしてお前らの失敗を俺が肩代わりしなきゃいけないんだも」

「それが上司の責任ってもんだろ?」

ショットがニヤつきながらガーンのほうを睨んだ。

「ま、幸いなことに予備の計画ならしっかり考えてあるも。俺はやはりペルフィキオの幹部だから頭が良いんだも!」

 

ガーンは頭から生えた髪の毛だか手だか分からない部位を得意げに動かしながら説明を始める。

「これはアルジェントからの情報なんだけども、今グーラの軍港にはスペルビアから来たコアクリスタルの輸送船が停泊しているんだも。あと1週間ぐらいは動かない予定だからまずはそこを襲撃してコアクリスタルを奪ってくるんだも!」

「思ったんだが、なんでそこまでコアクリスタルを集めてんだ? あんたにはブレイドと同調する資格が無いはずだろ?」

「俺が同調するわけじゃないも。これはペルフィキオの兵力を高めるためだも。例の件以降規模がかなり縮小したから時間をかけてちまちま上げていかないとダメなんだも。それにこちら側にはアリアとツナヨシっていうブレイドとの同調に制限が無い人材が居るから、これを利用しない手は無いんだも!」

「なるほどな。そりゃあ考えられたハナシだ」

ショットは傷ついた腹を木におしつけながら、ぶっきらぼうに拍手をする。バクエンもそれを見て拍手を続ける。

「ま、それを明日なり今日の夜なり、襲撃してきてほしいだも。それができなきゃお前も俺もおしまいだも!」

「はいはい、分かりましたよガーン様…… その代わり報酬ならたんまり貰うからな」

「欲しいならそれ相応の働きをするんだも!」

ショットはようやく壁から背を離し、刀を腰に携える。

「それでガーン様、一応俺怪我してるんで、傷薬もらえたら嬉しいんだが」

「まったく手のかかる部下だも……」

 

 

「パクス様! 逃走してきたサルベージャー達から連絡のあった、グーラで暗躍している野盗共を捕まえてきました!」

グーラに在るトリゴの町。そこの中心に存在する領事館にて一人の兵士が上司に報告をしていた。

「ここ最近、何人も野盗に襲われたという事件が多発していたからな。ようやくか」

領事であるパクスの前に、捕まえてきたという野盗が二人連れられてきた。奇妙なことにどちらも子供であった。片方は銀髪の少年、そしてもう一人がサルベージャーの少女である。

「まさかグーラを騒がせた野盗がこんな子供だったとはな……」

「あのー、領事さん? お言葉なんですけど……」

連れてこられた野党のうちの片方の少女が声を上げた。

「私たち、勘違いして連れてこられただけで、野盗じゃないんです……」

「何を言っている! お前らは野盗のアジトとされる場所に居ただろう!? それものんびりと!」

領事が言葉を発する前に、二人を連れてきた兵士の一人が勢いよく喋り始めた。

「確かに俺たちはのんびりしてたけど、あれは野盗と戦って休憩していただけで……」

二人が弁解しようとするが、どうも兵士は聞き入れてくれない。それどころか二人を野盗だと決めつけている。

「そう言って罪を逃れようとする野盗は何人もいるのだ! 騙されんぞ!」

「うーむ、本当にこの二人が野盗なのか?」

「証拠ならあります! この少年の持っていたこの謎の赤い剣、これはそうそう見ないブレイドの武器! きっと危険でしょう!」

そう言うと兵士は少年から奪取した赤い剣を見せる。

「あっ、それ俺の! 返せ!」

「まさしく危険分子! どう処遇しましょう!? まずは牢屋にぶち込んで……」

二人の少年と少女を完全に無視して話を勧めようとしている。

「ど、どうしよリュウギ……」

「まったく、これから出発するって時に勘違いして捕まるなんて……。全く俺は運が無いよ本当……」

その時、領事館の扉が叩かれ、別の兵士が入ってきた。

「パクス様! さきほどのサルベージャー達が領事館の前に来ていますが」

「要件は何か言っていたか?」

「二人は例の野盗ではないとのことで……」

 

 



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“輸送船襲撃”

ゼノブレイド3まであと六か月かぁ、終わるかなぁ
ひと月で二話ずつ終わらせれば行けなくはない!?


 

 

領事館に入って行くリュウギとミントの姿を見たリストの証言によって、なんとかリュウギとミントは野盗疑いから晴れることとなった。二人を野盗と疑っていた兵士も苦い顔をしながら二人に謝罪した。

「まったく、こんな純真無垢な少女が野盗なわけないでしょ? 第一サルベージャーの格好してるし。そっちはまだ分かるとして……」

「なんだよ、俺が野盗みたいだって言うのか?」

「いや、そういう訳じゃないけど……」

ミントはリュウギから目を反らして答える。

「まったく、兵士たちがとんだ無礼を働いたよ。俺たちを助けてくれたって言うのにね」

リストがリュウギの顔を覗き込むようにして現れた。

「君が俺たちを助けてくれたっていう子だね。本当にありがとう。サルベージセットは失ったし損害は大きいが、命には代えられないよ」

「まぁ、俺は半ば脅されて行ったようなものですけど……」

リュウギがそっとミントのほうを見つめるが、ミントは口笛を吹いてごまかしている。

「それでさ、これからどうする? まずは奪われたオルゴールを取り返しに行かないとだけど……」

「ああ。少なくともヤツはまだグーラからは逃げてないはずだ。とにかくグーラを探し回って見るか……」

「おいおい、それって今すぐ行かないといけない話なのか?」

リストからの言葉に、リュウギは言葉を返そうとするが、それよりも先に腹の鳴る音が響いた。

 

「ほら、腹減ってるみたいじゃないか。それに疲れてるだろう? 何よりもまずは休むことが大事じゃないか?」

「確かに……。昨日の夜から何も食ってないし、ろくな休憩も取ってなかったしなぁ……」

思えば、昨日の夜に野盗がキャンプを襲撃してからはミントと共にサルベージャーを救出しに行ったので、ほとんど休みが無かった。さらに野盗と勘違いされて拘束され、解放はされたもののもう夜となってしまった。

「サルベージャーはまずどこかのサルベージポイントに行く前にあらかじめ行きと帰りの宿をとっておいてあるんだ。ちょうど帰りの宿なら取ってある。今晩は一旦そこで休憩するといい」

「ありがとうございます」

「いいんだって。助けられたら助け返せ、それがサルベージャーの合言葉の一つだからな」

リュウギとミントはリストに連れられ、トリゴの町の入り口にあるという宿屋へと行くこととなった。

 

トリゴの町の宿屋、森林亭。かつては「フォレスト」という名前の宿屋だったが、ここ最近のトリゴの町の発展計画から、周辺の店を吸収して大きな宿屋へと姿を変えた。アルストが今の形に変わってから、トリゴの町は以前よりもより多くの人々が訪れるようになった。というのもちょうどどの国からも渡りやすい、経由地点として絶好のポイントに固定するようになったからだ。

「ここの宿、思えば初めて入るな」

リュウギが大きなこの宿屋を見て、はっと声を出した。

「ま、サルベージャーは結構儲かる仕事だからね~。こんな良い所にも泊まれるんだ!」

ミントが自慢気に腕を組んでリュウギのほうを見るが、リュウギは「ミントの金ではないだろ」と軽くあしらう。

「既に何人か仲間たちが中で泊まってる。そうだ、せっかくのお礼はちょっとした宴みたいな感じにしてみるか? ちょうどここのキッチンは解放されてるみたいだし」

「良いですね~! じゃ、私の出番かな!」

ミントは腕をまくってリュウギのほうを見る。

「出番って……、何するんだ?」

 

森林亭の貸し出しているキッチン。ミントはサルベージャーの仲間たちが近くの肉屋で買ってきてくれた巨大な肉塊を取り出し、鮮やかな包丁さばきでそれを7つに分ける。分けられた肉塊はほどよく脂身が乗っており、焼く前の状態でもよだれが垂れるほどだ。さっそくこれらをフライパンで焼き上げる。町で買える一番安い油をまわして、そこに肉を載せる。安いとはいえどんな食材も作り手の技量で絶品のものに仕上がる。強火でまずは外側を焼いたら、今度は弱火にする。肉の中をじっくりと焼くためだ。ある程度弱火で焼いたら、焼いている間に仕上げた特製タルタリソースを肉からあふれ出た脂に絡ませる。肉とソースがよく絡み、キッチンには肉とソースの良い匂いが充満している。

皿の上に焼きあがった肉を載せ、ソースをかけた後に香草を載せれば、ミント特製タルタリ焼きの完成だ。

「はいっ! どうぞ!」

「これって……俺の大好物のタルタリ焼きじゃないか!!」

リュウギはいままで見たことが無いほど輝き、それを見る目はまるで子供のようであった。

「大好物なのか、それは随分と運が良い。ミントの作るタルタリ焼きはサルベージャーの間でも話題になるぐらいの絶品だからな!」

リュウギは溢れ出るよだれをナプキンで拭き取った後、勢いよくフォークを肉に突き刺し、そのまま口の中へと放り込んだ。

「なんだこれ…ッ! 上手すぎる…ッ! なんちゅう美味さだッッッ!!!!」

まさしく至高のタルタリ焼き。その上これ以上ないほど腹が空いているのもあって、まさしく極楽であった。食事を超えた食事である。

「えへへ、喜んでくれて良かった!」

「お前、もしかして前職は料理人か!? それも五つ星の!」

「いやいや、そんな大層なものじゃないよ。私の得意なことなんて料理ぐらいしか無いから、とことん伸ばそうと思っただけだよ」

ミントの言葉を聞きながら、次々と肉を口に運ぶ。もちろんリュウギだけでなく、他の仲間たちもほっぺを落としながら絶品タルタリ焼きを食している。しかしリュウギだけは他と比べて少々汚い食べ方だ。

「おいおい、もうちょっと丁寧に食べてくれよ」

それを見ていた仲間のサルベージャーの一人が注意した。

「いいじゃないか、長い間あまり飯を食べてなかったみたいだし、その上ミントのタルタリ焼きが美味しすぎるんじゃないか?」

「またまた~」

食事に大事な物。それは美味しい料理だけでなく、楽しいという環境も必要なのだ。

「……本当に美味しい」

リュウギの顔をふと見てみると、彼は恍惚とした笑みをしていた。

 

サルベージャー達に歓迎されるリュウギ。それと同時刻。

トリゴの町にはスペルビアの基地が存在する。未だにグーラはスペルビアの領地。だからこそ他の国に奪われない様に、テロリストなどに襲われない様に基地が残っているのだ。さらにグーラは経由地点としても使われており、それも存在する理由のひとつである。そこの港はトリゴの港とは異なり、特に重要な貨物を運ぶ船がやってくる。例えば、コアクリスタルの輸送船などだ。

 

「総員、コアクリスタル保管室を死守せよ!」

グーラ、スペルビア基地。停泊しているコアクリスタル第二輸送船の中から銃声が響いた。

「止まれ!出なければ発砲する!」

大きな扉の前で、6人の兵士が機関銃を迫る一人の男に向ける。しかし男は立ち止まる気配が無い。

「もう一度警告する! 武器を捨てなければ発砲する!」

「撃ちたいならどうぞ」

男は武器を捨てるどころか、こちらを煽ってくる。男が腰の刀に手を伸ばしたのを見て、兵士たちのリーダーと思しき兵士が「撃て!」と命令する。その掛け声とともに六発の銃声が響く。

「お前らじゃ俺には敵わないだろ? ドライバーと、そうでもない兵士じゃ格が違う」

男の前には黄色いバリアが張られていた。ブレイドの持つバリアの力だ。彼の後ろには胸に青いコアクリスタルを持った男が居た。この男たちはドライバーとブレイドだ。

「次はこっちからだ」

ドライバーの男は走り出した。攻撃が無効化されたことに怯えて動けない一人の兵士に向かい、その刀を振りかざした。

 

「こちらコアクリスタル保管室前! 謎のドライバーの男が襲撃……」

輸送船の中に取りつけられている伝声菅の先の声はその言葉を最後に途絶えた。伝声菅の先は輸送船の運転室。

「こちら運転室、保管室前どうした? 応答しろ!」

「今のを聞く限り、まさか輸送船に侵入者が!?」

ひとたびパニックになる運転室。運転室に居る者は基本的に操縦を中心とする兵士。戦い慣れしていない者が多い。戦闘員は基本的に保管室や輸送船の前で警備をしている。こちらは向かっても足手まといになるだけだ。この部屋にいる、一人の女性を除いては――――

「監視装置で確認せよ、そのドライバーはまだ保管室前に居るか?」

女性が運転室のリーダーの兵士に確認した。

「いえ、既に運転室の扉は破られ、中にいるとのことで……」

「ならば事を急がねばならないな。一部の者はグーラの領事館にこのことを報告せよ。襲撃したドライバーは私が相手をする」

女性はその腰に携えたサーベルに手を載せ、運転室から出ていく。彼女のブレイドも共に。

 

「いくらなんでも派手にやりすぎなんじゃないかショット?」

「構わねぇよ、ここの兵士共は相手にならねぇ」

黒焦げになった兵士を足蹴に、二人はコアクリスタル保管室の中へと入った。大量のコアクリスタルを収容するためのこの部屋はとても広い。しかしライトのようなものはついていない。なぜならこれだけのコアクリスタルの数。青く光るコアの光で眩しすぎるほどだからだ。

「いやはや、最初からサルベージャー狙わずにここ来れば良かったんじゃねぇか?」

手に取ったコアクリスタルを上に投げて、キャッチしながらショットは呟く。

「しかしここに輸送船が止まるのは月に一度、数日間だけだ。それに直接スペルビアに喧嘩を売るようなもの、何度もできることじゃない」

「けど、こうやって簡単に来れただろ? あとは持ち帰ればいいだけだ。これでガーンもろとも“ボス”からクビにされなくて済む」

ショットがコアクリスタルを入れるための袋を取り出した途端、その袋に火が点き、燃え始めた。しかしこの炎は自分たちのものではない。赤い炎でなく、蒼い炎だ。

「何だ!?」

蒼炎の軌跡はコアクリスタル保管室の外から続いていた。その先には、軍服を身にまとった、二刀のサーベルを持つ女性。その後ろには蒼く燃え上がる髪をしている細目のブレイドの女性。この特徴、まさか……

「マジかよ、“炎の輝公子”がこの船に乗ってるなんて聞いてねぇぞ!?」

「随分と大胆な犯行だな。貴様らが暴れたせいで大事な兵士を失った」

炎の輝公子と呼ばれた女性は燃え上がる刀をこちらに向けて迫ってくる。彼女から感じるオーラはただのドライバーのものではない。

「メレフ様、この者、手配犯です」

メレフと呼ばれた彼女のブレイドが、ショットの顔を見てそのことに気づく。

「ペルフィキオのショット。炎のブレイド、バクエンを連れて様々な場所、様々な方法でコアクリスタルを奪う……。噂には聞いていたがまさかこれほど大胆なやり方とはな」

メレフは蒼炎のサーベルをしならせて振りかざし、ショットとバクエンを炎で囲んだ。

「行くぞ、カグツチッ!」

「はい、メレフ様!」

「チッ、やってみろよ!」

飛び上がり、サーベルをこちらに向かって振り下ろすメレフ。ショットも黙って喰らう訳には行かない。刀を手に攻撃を防ぐ。その時にぶつかったサーベルと刀が強風を生み出す。保管されているコアクリスタルが吹き飛ばされて地面に転がる。

「クッ、さすがはスペルビア一のドライバー。そこらの兵士とも、ドライバーの連中とも格が違う!」

ショットは隙を探して攻撃を叩き込もうとするが、メレフの攻撃は早い。そして重さも違う。一撃一撃がまるでハンマーのように強く、刀の形がだんだんと変わっていくのが分かる。このままでは押されるままだ。こちら側からの攻撃することは一旦考えず、まずは攻撃を避けることだ。

メレフの攻撃を一度跳ね返し、後ろに下がる。まずは態勢を立て直さなければ。

「まったく、伊達じゃねぇヤツだぜ……」

メレフはサーベルを手に再びこちらへと向かってくる。しかしメレフはこの状況に置いて油断はしていない。こちら側のブレイドは帝国の宝珠とも呼ばれるほどの強力なブレイド。普通のドライバーであれば太刀打ちできないはずだ。これほどの身のこなし、弱くはない。

「そちらこそ、さすがはペルフィキオの一員といったところだな」

「褒めてくれてどうも、貴公子様」

「一つ質問なのだが、なぜコアクリスタルを狙う? もっともコアクリスタル狩りは珍しい話ではないが」

メレフはショットにサーベルを構えて問いただす。ショットはため息をついて刀を地面に突き刺す。

「そりゃあ仕事だからに決まってんだろ。それ以外に理由がいるか?」

「仕事だから……か。もっとまともな仕事が今のアルストには溢れているぞ。20年前以上にな」

「これが俺の天職なんでね」

「それで、あなたに仕事を与えているペルフィキオのボス、一体誰なのか教えてくれない? こう面と向かってペルフィキオと会うことはそうそうに無いから」

カグツチが顎に手を触れて質問する。

「俺の直属の上司はガーン。手配書で10万Gの懸賞金かかってるノポンだ。まぁアンタらはもう知ってるだろうがな。どうだ? つまらない情報だろ」

「そのガーンより上に居るペルフィキオの“ボス”とやらを教えろ。そうすれば罪を軽くしてやっても構わない」

蒼く燃えるサーベルを手にショットを脅すメレフ。しかし彼の反応は意外だ。にやついて話し始める。

「取引しようってのか? 嬉しいが『言うな』というのが絶対条件でね。それにアンタが知ったらきっと自暴自棄になっちまうと思うぜ?」

「取引に乗るつもりは無いか……。ならば覚悟しろ!」

メレフはサーベルでもう一度ショットに切り込む。だがショットは攻撃を避ける。いくらやっても避けられてしまう。だがショットは反撃のチャンスを持たないため、このままでは避けることだけしかできない。こちら側から攻めることは不可能だ。何か策は無いのか?

「奴は只者ではありません。しかしこちら側に攻撃できるほどの技量は無い」

「ならばここでケリを着けるぞ。カグツチ!」

メレフは二本のサーベルをカグツチに渡した。両手ががら空きとなってしまうが、次の一撃で決めれば問題は無い。

「燐火!」

カグツチはサーベルを両手に回転し切りつける。蒼炎が波状となってショットを襲う。

「アチィなッ! だがこれで隙が出来た!」

「何だと!?」

ショットはすぐさまバクエンに刀を渡す。ブレイドの必殺技で出来た隙を狙っていたのだ。

バクエンは渡された刀を空中で回転させ、炎の竜巻を生成させ、メレフの方へと放つ。カグツチはすぐさまメレフにサーベルを渡し、ブレイドのバリアで竜巻を防ぐ。

「このままでは…っ!」

メレフはサーベルに力を込め、竜巻を二つに分けるように切り裂いた。メレフは切り裂いた炎の無い隙間に向かい回転しながら思いきり切り込む。

しかしそこにはショットとバクエンの姿は無かった。そこにあるのは炎の力で焼き切ったであろう大きな穴だけであった。

「クソッ!」

メレフはすぐさま穴に向かって走り出す。そして穴の向こうに逃げたショット達を追おうとするが、もう完全に消えてしまっていた。

「逃げられたか……」

「申し訳ありませんメレフ様。私があの時敵の意図を理解していれば……」

「いや、隙を見せてしまった私の責任だ。結局私は彼に油断してしまった。力量が違うと甘く見てしまった」

メレフは地面に転がってしまったコアクリスタルを眺める。様子を見るに、ショットはいくつか盗んでいったようだ。

「明日の出航は取り止めだな……」

メレフは壁に空いた大きな穴を見て呟いた。



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“渡航禁止命令”

気付いたらもうすぐ4月ですね。早すぎて嫌です

時間が欲しい


 

カンカンカンッ!

突然耳元で金属のぶつかり合う音が聞こえた。それも3回も。

「起きてー! 朝だよー!」

ミントが耳元でフライパンをおたまで叩いていた。

「起きてる! 起きてるって! ってかうるさいっ!」

リュウギは布団を思いきり投げて起床した。

「だって、2時間前から起こそうとしてるのに全然起きないんだもん」

「疲れてるからしょうがないだろ?」

「でも12時間だよ? それに、そろそろ出発する準備しないといけないから」

 

宿屋森林亭の朝。宿の個室はトリゴ特有の文化を示した木製の内装。部屋の中に入るだけでそのぬくもりを感じられる。そんな中でもっと寝ていたいと思っていたが、ミントに連れられて行ってしまった。

眠たい目をこすり、朝食の用意されている机の前に座る。昨日の夜と同じ、サルベージャー達と共に食卓を囲む。

「おはようリュウギくん。よく眠れたかい?」

隣に座っているのはリストだった。既に朝食を食べ終え、コーヒーに口をつけている。

「はい。疲れも大体取れたみたいで」

「それは良かった。ほら、今日もミントが朝を作ってくれた」

リュウギの前には少し冷めてしまったアンカーテールのグリルが並べられていた。冷めているとはいえとても良い匂いが漂ってくる。

「いただきます……。旨い!? 本当に冷めてるのかこれ!?」

「ま、これもタルタリ焼きに負けず劣らずの得意料理だからね~。このためにそこで結構いい素材買ってきたんだよ?」

「マジかよ、もっと早起きすれば良かった」

リュウギはフォークを手にガツガツと口に運んでいく。朝だというのに随分な食べっぷりだ。

「とりあえず、食べ終わったら食器とかは片付けといてね、店の人がやってくれるみたいだから。それが終わったらオルゴール探しの旅に出発しないとね」

たった1分でリュウギは食べ終わってしまった。しっかりと両手を重ねて、空になった皿に向けてお辞儀をする。「ごちそうさまでした」ミントに言われた通りしっかり皿を片付けた。

「いや、本当に旨かった……。人生最高の朝食って感じ」

「褒めたって何も出ないよ。ほら、早く準備」

ミントは微笑みを返し、リュウギの肩を軽く叩いた。少しは機嫌が良くなったみたいだ。

 

「それで、ミントは彼に付いて行くのか?」

「命を助けられたし、何よりも私のせいで彼の大事なオルゴールが盗られてしまったんです。だから一緒に探すことが必要なんじゃないかなと思って」

「そうか……。それで、サルベージはどうするんだ?」

「心配しないでください! ちゃんとすぐに終わらせてアヴァリティアに帰りますから!」

ミントはリスト達サルベージャーと一旦の別れを告げていた。その頃リュウギはポーチと剣のみという少ない持ち物ながらもしっかりと準備を進めていた。

ミントと握手をするリスト。

「あっ、そういえば傭兵のリリオ、昨日から見ませんけど……」

そういえば彼の姿が見当たらない。たしか仲間たちを連れてこのトリゴの町まで逃げてきたはずだが……

「ああ、彼ならもうグーラから出たよ。仕事はあくまでサルベージとトリゴの町まで帰るまでの護衛。もちろん報酬はしっかり払った。そのせいで残金が帰る分しか残ってないが」

「そうだったんですね。お別れ言うまで待ってくれれば良かったのに」

「ははっ、またどこかで会った時に挨拶すればいいさ」

まもなく正午。もうまもなくアヴァリティアに向かう船が出航する。そうなれば再びサルベージャー仲間たちと会うことはできない。はずだったが……

 

「何? 今は出航が禁止されてるって?」

「はい、というよりグーラ全体に一時渡航禁止命令が出されているようで……」

部下のサルベージャーからの報告にリストは唖然としていた。このままではアヴァリティアに帰れない。

「渡航禁止って、いったい何があったんだろう……」

その言葉を聞いて不思議に思うミント。ちょうどリュウギが準備を終えて宿から出てきたところだ。

「俺はもう準備できたけど……、って何かあったのか?」

少ない荷物を手にリュウギが目の前に現れた。

「トリゴの町を含めたグーラ全体の渡航禁止命令が出されたんだって。理由はまだ分からないけど」

肩を落とすリスト達。アヴァリティアへと帰るための船を予約しておいたのに行けなくなってしまった。足止めされている分やどの代金なども嵩むため、ただでさえ野盗に襲われて金が無いというのに最悪の状況である。

「せめてもう少し安い宿に泊まっていれば良かったか……」

「仕方ないですよ、まさか渡航禁止になるなんて誰にも予想できませんし」

部下のサルベージャーがリストの肩を叩きながら慰める。

「とりあえず、港の方を見にいってみたらどうだ? このままここで頭を抱えてるより、何か補償とかあるかもしれないし」

リュウギのその言葉を聞いて、ミント含めたサルベージャー達はとりあえず港の方へ向かうこととなった。

 

港の方には、おそらく今日出発する予定であった客たちでごった返していた。中には困惑する者も、大声で怒鳴る者もいた。仮面をかぶって素顔を隠しているスペルビア兵が、押し寄せる人をなんとかなだめている。

「あの様子じゃ、補償は何もなさそうだな……」

「思ったんですけど、グーラって20年前にアルスト大陸になってから他の国とは地続きになったんですよね? だったら陸路で行くこともできるんじゃないですか?」

ミントがリストに提案するが、リストは苦い顔をしている。

アルストは20年前に雲海が消え、国が建てられているような巨大な巨神獣はほとんどが一つになり、巨大な「アルスト大陸」となった。グーラももちろんその一つである。

「確かにその案もあるかもしれないが、グーラはスペルビアやアヴァリティアと違って隣の国への陸路がとても厳しい。繋がっている部分が高所にあるせいで高い壁を越えないといけない」

「あー、確かにそれじゃ厳しいですね……」

結局どうしようもないことを知ったミントとサルベージャー達は落胆した。このまま解除されるまで待たなければならないのか。

その時、人がごった返している向こう側に、一人のスペルビアの要人とおぼしき人が現れた。人々に押されている兵士を後ろにかくまって、人々の最前に立つ。

「皆様、この度は私たちの不手際によりこのような処置となってしまい申し訳ありません。説明が十分になされていないことに混乱しているようなので、スペルビアの執権官である私から説明させてもらいます」

「あの人って……まさかスペルビアのメレフ特別執権官!?」

ミントがその人物に驚いた。彼女はスペルビアの特別執権官。いわばスペルビアのナンバー2だ。それほどの人がなぜここにいるのだろうか。彼女は大きく息を吸い込んだ後、ハキハキと騒ぎをなだめるように演説を始めた。

 

「昨夜、スペルビアからこちらに到着したコアクリスタルの輸送船がペルフィキオの者に襲撃されました。その際、我々の兵士が数人殺害されました。我々はグーラからの逃走を防ぐためにこのような渡航禁止措置を急遽取りました。現在グーラに駐屯している兵士たちと共にすぐに彼の者を捕まえます。それまで申し訳ありませんが今しばらくお待ちください。もちろん今回の件による損害は我々で補償させていただきます」

全て述べ終えると、メレフは深く人々に向かって頭を下げた。スペルビアの要人がここまでしているのを見たからか、騒いでいた人々は落ち着きを取り戻した。

「なんとか補償が出るみたいだな。一安心ってところか」

リュウギはメレフのこの言葉を聞いてどこか突っかかるところがあった。コアクリスタルの輸送船を襲撃したペルフィキオの者……

「まさか、その犯人って……ショットか!?」

今、グーラに居るペルフィキオと言えばショットしかいないはずだ。明確にヤツがこのグーラの中にいると分かった。

「じゃあまだグーラの中に居るってことか……。よし、ちょうどいいし探しに行こう!」

ミントがリュウギに提案するが、リュウギは苦い顔をしている。

「確かにオルゴールを持ってるのはショットだけど、また危ない目に遭わせるわけには……」

「言ったでしょ? オルゴール取り戻すの協力するって」

「だけど……」

「大丈夫、今度は危険な真似しないし!」

ミントはグッドサインをリュウギに見せるが、リュウギは変わらず苦い顔をしている。

「そうだぞミント。相手はテロリスト、それも兵士を相手にして勝つようなやつだ。彼についていくのはいいがそんな危険なことは認められない」

リストはミントに厳しくそのことを叱る。しかしミントはムスッとした顔で納得行っていないようだった。しかし、何かを思いついたのか突然どこかへ走り出していった。

「あっ、おいミント!」

リストが追いかけようとするが、ミントはすぐに帰ってきた。一枚の手配書を手にして。

「ほら! ペルフィキオのショットを捕まえるのに貢献した方には賞金10万G! 危ない事はせず、ショットの居場所突き止めるだけなんで! 賞金も貰ってくるので! お願いします!」

ミントはリストに対し頭を下げた。ミントがここまで深く頭を下げるのは珍しいことだ。

「そこまで言うなら……ただし、本当に危ない真似はするなよ? お前の身はコルレルさんからしっかり預かってくれと頼んでるんだからな?」

「もちろんです!」

「いいのかよ……。ってか、ショットは捕まえずにスペルビアに引き渡す形にするのか?」

「直接戦ったって勝算無いし。あんただって結構ギリギリだったでしょ?」

「ま、そうだな……。オルゴールさえ取り戻せればどんな形でも良い」

ミントはリュウギとリストからついにショットを追う許可を貰った。もちろん危険なことはしないことを条件にだ。

せめてこれを持っていけとリストはミントに小さなシリンダのブローチを貰った。サルベージャーのお守りとしてサルベージャーならば誰でも持っている物。ミントはまだ新人なので持っていなかったのだ。このお守りにはサルベージで良い物が引き上げられるように、事故に遭わない様にという願いが込められている。

「それじゃ、行ってきます! なるべく早めに帰ってくるんで!」

 

 



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