射手としてこの世界を旅してみようと思います。 (名無しの射手)
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射手の少女とお誘い

「はぁっ……はぁっ……なんなんだ、あれは」

 

 NWO第四回イベント。ギルド同士による対抗戦。そこにあったのは、彼女達と敵対するプレイヤーにとっては地獄だった。

 

 空を見上げればここが仮想現実だとは信じられないほどの光景がある。暗闇の夜空に輝く幾つもの星々、月光は大地を照らしそれだけ見れば地獄とはかけ離れた目を奪うような光景と言えるだろう。

 

 だが、今この瞬間。それは敵対者たるプレイヤー達にとっては地獄の象徴そのものだった。

 

 星空から降り注ぐのは流星のような、青白い閃光。それは幾重もの光の矢となりて大地へと降り注ぎ、破壊をもたらす。

 

 逃げなければならない。"彼女"と敵対したプレイヤー達はそう判断して撤退しようとするが、それを彼女は許さない。

 

 

「な……に……?」

 

「嘘だろ……どれだけ距離が離れていると思ってるんだ!?」

 

 

 逃げようとしていたプレイヤー達、彼等は見た。視界の中、少し離れた先で自分達と同じようにして逃げようとする一団が極光の矢。その着弾による爆発で消し飛ばされたのだ。

 

 自分たちが敵対したことを後悔した相手。その少女が居る【楓の木】の拠点付近からはかなり離れている。しかも、木々や地形、暗がりによって自分達を視認することなど不可能のはずだ。

 

 だというのに、現実はどうだろうか。そんな不可能など関係ない、というように拠点を襲撃したプレイヤー達は次々と倒されている。

 

 本来なら美しいと思えるような夜空。そこに存在する星々が牙を剥く。降り注ぐ蒼き流星は大地に破壊をもたらし、自分達を襲う。一際大きな蒼き流星の矢が、必中の如く飛来して他のプレイヤーを消し飛ばす。

 

 そうして、誰も居なくなった。【楓の木】、そして彼女に対して敵対したプレイヤー達は一人残らず彼女の弓と星々の怒りによって滅ぼされ、残ったのは静寂。そして、ただ夜空に輝く星と月だけだった。

 

 この惨状は、一人のプレイヤーによって引き起こされた。プレイヤーネーム『リオ』。【楓の木】所属であり、敵対したプレイヤーは彼女のことをこう呼んだという。

 

 

 『星輝(ステラデウス)』、と。

 

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 

「ねぇ、やろう?絶対に面白いからさ」

 

「はぁ……珍しいね、姉さんがそこまで勧めてくるなんて」

 

 都内某所の一軒家。白峯理沙の自室には二人の姿がある。一人は部屋の主、理沙。そしてもう一人は、彼女とよく似た。だが、雰囲気はまるで違う少女だった。

 

 サイドテールにした栗色の髪、その髪色と同じ色の瞳。活発な理沙とは対照的に、落ち着いた雰囲気の彼女は、『白峯(しろみね) 理緒(りお)』。理沙の双子の妹であり、同時に溺愛の対象でもあった。

 

 活発な理沙と落ち着いた理緒。対象的な姉妹だと昔から言われてきたが、姉妹仲は決して悪くなかった。理沙ほどのゲーマーではないしても、理緒もまたゲームもする。過去に姉妹揃って大会に出たりして結果を出したりもした。ただ、高校入学を期にゲームというものに触れる機会は減ったが。

 

「そもそもの話だよ?まず私はゲームをもっていない。それに、私がやるってことは姉さんが持ってるあのゲーム機、もう一台要るってことだよ? ……私、流石にこの前散財したしソフトとハード買うお金はもうないよ?」

 

「あ、それなら大丈夫。お父さんにお願いしたら次の試験で10位以内を条件に買って貰えた」

 

「えぇ……お父さん何してるの……?というか10位以内って姉さんの学力だと相当厳しいような……。前回私が結構教えたけど18位だったし」

 

「そこはほら、死ぬ気で勉強するので出来る我が妹に教えていただければと」

 

「私が知らないところで色々と状況が進んでいてすごく困惑しているんだけど。はぁ……」

 

 実際のところ、理沙は秘密裏に両親に頼み込んだだけである。そしてこの10位以内という条件もまた、理沙が自分で言った結果である。白峯家の両親というのは、そこまで厳しい訳ではない。確かにテスト前などは煩く言うことはあるが、普段はそこまで何かを強要したりはしない。むしろ、両親もあまり言わなかったが理緒は高校に入ってからどこかストイックになり、昔ほど趣味に打ち込まなくなったことを心配しており、何かしらの形で息抜きができるような趣味を持ってくれればと思われていたほどだ。

 

 だからこそ理沙が頼み込んできたのはいい機会だと両親は思ったのだ。真剣に勉学に打ち込んでくれるのはいい、テストや模試でいい結果を出すことについても喜ばしいことだ。だが息抜きもなしでそんなことを続けていれば、いつかは限界が来て駄目になる。出来るだけ子供の意志を尊重するため、今まで口出しすることはなかったが、今回ばかりは親心からか昔のように趣味で打ち込める何かを見つけてくれれば。そう考えた結果でもあった。

 

「……それで。どうしてここまでして勧めて来るの?」

 

「んー……なんていうのかな。別に深い意図はないからね?単純に昔みたいに一緒にゲームして楽しめればなって思っただけ。NWOってすごく広い世界だから、そんな世界を理緒と、それから一緒にやってる楓と冒険できたらきっと楽しい、そう思ったから」

 

 そこまで言われて拒否する理緒ではなかった。別に、ゲームが嫌いなわけではない。とある一件で"自分がゲームから逃げた"というだけなのだ。その結果としてゲームに触れる機会は減り、今の現状がある。確かに最近色々と根を詰めていたのは事実だろう。過去の一件から逃げるようにしてゲームを遠ざけたのも事実だ。といっても、そうなったことについては姉にさえ打ち明けていないが。

 

 全てゼロからはじめる。そうして今度は姉と、自身と姉の幼馴染である楓。本条楓も居る。なら、もう一度ゲームに触れてみるのもいいのかもしれない。

 

「別に、ゲームが嫌いなわけじゃないよ。それに、姉さんがそこまで言うのなら興味はある」

 

「本当!?あ……でも私が誘っておいてあれだけど、そっちの学校は大丈夫なの?ほら、色々学校側で勉強面厳しくない?」

 

「これでも成績優秀で通ってるから大丈夫。むしろなんていうのかな、うちの学校にも姉さんと同類みたいな人はいるから。お嬢様口調?なのに投げがどうのとか、ボタンとクソキャラがどうのとか言ってる人居るし。しかも成績私よりいい」

 

「あれ……?理緒の学校ってわりと厳しい所だよね……?いや凄くその人興味あるけど」

 

「きっと姉さんとは仲良くなれるよ。今度紹介しようか」

 

 思わず苦笑いを返してしまう理沙。二人は姉妹ではあるが通う学校は違う。といっても、基本的に帰ってくる時間などは殆ど一緒のため特に何かあるというわけでもないが。

 

「今聞いたけど、楓も一緒にやってるんだね」

 

「え?ああ、うん。楓も私が誘って一緒にゲームやってるんだけど……なんというか、うん……色々規格外さに驚かされてる」

 

「楓は確かに天然だけど、そこまで変なことしないと思うけど。え?姉さんが目をそらすようなことやったの……?」

 

「是非とも我が妹にもその規格外さを見てもらいたい」

 

「なにそれ怖いんだけど」

 

 その言葉の後、クスリ。と理緒は笑って告げた

 

「また姉さんと、か。そうだね、姉さんがそこまで言うんだしやってみることにしようかな。お父さんとお母さんに頼み込んで、私のために準備してくれたんだしね。……私もちゃんとお礼言わないとだね」

 

「ほ、本当!?よし、これでまた理緒とゲームが出来る!」

 

「ち、ちょっと姉さんいきなり抱きつかないで……もう」

 

 嬉しそうに抱きついてくる姉は暖かく、そしてまた一緒にゲームがしたいと言われたことに嫌な気分はしなかった。むしろ、あの出来事を振り切る機会になるかもしれないし、何よりその冒険に期待してもいいかもしれないと思い、姉に抱きしめられながらも理緒は笑っていた。

 

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 

 ひとまず妹に必要なもの一式を渡し、理緒が部屋に戻った後に理沙は安堵のため息を付いた。『良かった』そう思ったからである。

 

 高校入学直前、中学最後の春休みの終わり。あの時以降、妹はあまりゲームをしなくなった。当時は妹が行く進学先が結構厳しい所だから控えたのかなどと思っていたが、高校に入ってしばらくしてからそれは違うのだとすぐにかわかった。何か理由があるのは間違いないのだろう。だが、いくら姉だからと言って個人のプライベートに踏み込むのは褒められた行為ではない。だから、理沙はどうして妹がそうなったかをひたすらに考えた。

 

 しかし、思い当たる原因に行き着くことはなかった。ただある時期をもって突然ゲームに対しての意欲がなくなった、というよりは何処か避けるようになっていたということだけがハッキリとしていた。

 

 妹はゲームが上手かった。むしろ、数々のゲームの大会などで結果を出したり、妹と共に結果を出した大会などを通して感じたのは絶対に敵にしたくないという思いだった。ゲーマーとして、特にVRでの対人戦においては自信があった理沙だが、もし妹が敵に回ればと思うとぞっとした。

 

 現在プレイしているNWOでもそうだが、基本的に自分は短剣二本などの機動力と攻撃性を重視したバトルスタイルだ。対して、妹も似たようなスタイルではあったが一点だけ異なっていた。

 

 妹の扱う武器は、『弓』。そして、持つのは恐ろしいまでの観察眼に状況判断能力と弱点狙撃。つまり、対人戦で言うなら必中に近いヘッドショットを行う能力だ。自分が遊撃型の戦士としての戦い方ならば、妹はスカウト寄りの遠距離射撃手といっていい。

 

 どうして妹がゲームを避けるようになっていたのか。それはわからない。だが、姉として何か力になってあげたかったし、何よりもう一度妹とゲームがしたいと思ったのも事実だ。だから両親に無理なお願いを通してまで妹を誘ってみたのだが、それは無事成功で安堵した。

 

 今日は金曜日。妹は暫く初期設定と慣らしの為に触ってみると言っていたので、暫く掛かるだろう。なので、理沙は今の嬉しさと妹がNWOを始めるという報告をするために、楓へと連絡をした。

 

『もしもし、理沙?どうしたの?』

 

「あ、楓?ちょっと報告しておきたいことがあって」

 

『え?何々?随分機嫌良さそうだけど、それにも関係してるの?』

 

「あはは、まあ関係してるかな。理緒がね、NWOを始めることになったんだ」

 

『えっ、理緒が!?でも確か、高校入ってからはあまりゲームしなくなったんじゃ……?』

 

「うん、まあ色々あってそうなんだけど理緒と遊びたいって頼み込んだらオーケーしてくれてね。暫く一人で触ってから合流するって言ってたんだけど、一応その報告」

 

『そっか。でもそれは嬉しいなぁ、理緒とも一緒にNWOができるんだね。あ、でも理緒の学校って結構勉強厳しいところだよね……大丈夫なの?』

 

「自分で言うのもなんだけど、よくできた妹だからそのあたりは多分大丈夫。むしろ、私がゲームに夢中になって勉強関係は理緒にお世話になりそうな感じかな、あはは」

 

『うーん……でも理沙、前回学年18位でしょ?結構成績上がったよね……私も理緒に勉強教えてもらおうかなぁ』

 

「楓は元々頭はいいんだから、これ以上成績上がると普通に5本の指とかに入りそうだなぁ……」

 

 その後、翌日は休みということもあって通話をしながら色々なことを話していた。他愛のない雑談、次の第二回イベントのこと、理緒と合流したら何をするのかなど。

 

 暫く会話をして、時間も遅くなってきたのでこの日はそこまでということで通話を切った。理沙の中では、これからの期待と楽しみで胸が一杯だった。

 

 

 そうして日曜日。そんな思いを抱えながらも、理沙はある意味の想定外に遭遇することになる。

 突然の展開で、正直話を聞いた時は固まってしまったほどだ。

 

 その話は、まさかの相手。妹からもたらされたものだった。 

 

 

 

 



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射手の少女と吟遊詩人

メイプルには同じ武器種の使い手としてクロムという導き手が居ました。なので、リオにもそのような人物をご用意しました。


「ひとまず初期設定はこんな感じかな」

 

 土曜日の午前中。特に予定もなかったため理緒は『NewWorld Online』の初期設定を姉に言われた注意点を気にしながら順調に進めていく。

 

 初期設定中、頭に疑問符を浮かべることが何度かあった。気になって自室のパソコンでNWOのとあるwikiを見てみれば、『新規はまず気が付かない罠』という項目に初期設定についての言及が書かれていた。曰く、操作性が一部とても悪い。曰く、明らかに新規に設定させる気のない細かいユーザーインターフェースなど。ゲームをやっていた人間からすると気になる点ではあるが、気にしても仕方ないと割り切ることにした。

 

「まぁ気にしても仕方ないか……。よし、それじゃあ次はっと……ああ、プレイヤーネームかぁ」

 

 基本的にある程度の説明は姉から受けている。だからどの武器を使うだとか、ステータスはどんな方向性にするのだとかというのはある程度決まっている。姉である理沙は機動力に特化した【AGI】型の近接型。楓は話だけだが、"一応"大盾主体のタンクだという。何やら姉の言葉に含みを感じたが、とりあえず気にしないことにした。

 

 ならば自然と自分の方向性も決まる。というより、自分の戦い方は決まっている。暫くゲームを触っていないが、かつて姉と共に大会に出たりしていた時のもので問題ないと判断していたからだ。

 

 姉が短剣、楓が大盾。とすれば、足りていないのは遠距離に対する対抗策である。ならば、それは自分の得意とするところだ。『弓』を主軸とした【DEX】と【INT】の複合ビルド、それこそが自分にとって最も馴染んだスタイルだ。だからこそ、もしやるならばこれだと決めていた。

 

 【AGI】特化型の弓と【DEX】【INT】複合の弓では戦い方が違う。簡単な例としては、【AGI】特化型は特化することで機動力を確保でき、弓と軽量武器。短剣や小剣なども扱うことが可能であり、近接・遠隔どちらにおいても素早い対応が可能である。対して【DEX】【INT】の複合弓は、その近接戦闘時における対応策である軽量武器が扱いにくい。その代わり汎用魔法と簡単な支援魔法が使用可能である。基本的に理緒は弓しか使わないため、後者を選択したのだ。

 

 さて。方向性は決まっているのだから名前である。姉は『サリー』という名前だそうで、安直に自分の本名を逆さにしてそこからつけたのだという。ならば、ここは姉に習って自分もそのようにしてみようかと考えたが、自分の名前を逆さにしてみてもどうにも変な名前になる。暫く考え込んだ後に

 

「まあ、今時まさか本名そのままでプレイしてるなんて思う人も少ないか。名前入力で……プレイヤーネームは『リオ』っと」

 

 結局、ある意味姉以上に安直に名前を決定する。名前を設定し、キャラクタークリエイトを確定させる。続けて装備選択だが、ここは迷う必要性がない。と、思ったのだが。

 

 

「……あれ、弓に種類がある?」

 

 

 武器選択の内容を確認すれば、弓というカテゴリーの中には複数種類の武器がある。まず、一般的な弓。そして大弓に、片手で取り扱い可能なクロスボウ。迷ったので一度パソコンで調べてみると、そもそも弓という武器種はあまり人気がないのだという。扱いが難しく、立ち回りも高度であることが理由だそうだ。武器種としては弓と大弓が複合ビルドだと使用可能のようで、クロスボウは純粋に【AGI】型のサブウェポンのようなもののようだ。弓と大弓は発射間隔が違うだけで基本要求値が同じであったため、もし何かあれば変えればいいという判断で通常の弓を選択した。

 

 最後に初期ステータスの割り振りである。初期で割り当てられている100のポイントの内、50を【DEX】、30を【INT】、20を【MP】へと割り振る。

 

 ひとまずこれで準備完了である。後は、NWOという仮想現実に旅立つだけなのだが。

 

「――いいん、だよね?私がゲームを楽しんでも」

 

 ふと。自分以外誰も居ない部屋に理緒のそんな言葉が木霊した。

 

 それは一体誰に向けたものなのか、恐らく知るのは本人だけなのだろう。暫く俯き気味になっていた彼女は、息を吸い、目を閉じた後に開けると。

 

 

「よし、じゃあ行こう」

 

 

 自分に言い聞かせるようにそう言って、仮想現実へと旅立った。

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 視界が明確になるとそこにあったのは多くの人。会話をしたり、どこかに向かおうとしたり、行動が個々によって様々なプレイヤー達とファンタジー世界を思わせる風景だった。

 

 大きめの広場に噴水、本でしか見たことがないようなレンガ造りの建物。足元には石畳の道があり、他のプレイヤーたちが歩いたり、走ったりする度にそれは足音を鳴らしていた。

 

 正直驚いている。VR系のゲームは過去に幾つかやったことはある。だが、それでもこのNWOという仮想現実はまさに現実と言っていいほどのリアリティを感じさせていた。確かに姉からはあらゆる感覚がリアルに再現されているとは聞いていたが、ここまでとは思わなかった。

 

 念の為にステータス画面を表示して確認する。最初に割り振った状態は問題なく反映されており、アイテムバックの中にはゲーム開始時に配布されるアイテムなのか、何種類かのポーションや消費アイテムが存在した。

 

 さて。特に問題はないようである。ならば次にやるべきことは、この仮想現実でどれだけ自分が動けるかである。かつては姉と共にゲームをしたこともあったが、ここ最近というより結構長い期間こういったゲームには触れていない。ちゃんと動けるかどうかの確認をしなければならないので、どこか近くのエリアにでもと考えていた時だ。

 

「……あ」

 

 ふと。近くに居たプレイヤーと目があった。相手もどうやら同じようで、気まずそうにしている。どうやら、こちらを見ていたようだ。

 

 身の丈近くある巨大な弓を背に、例えるなら吟遊詩人のような服装の男性プレイヤー。その人物に見られていた、ということは何かしら意図があったということだろう。少し警戒しながらも、その人物に声をかけてみることにした。

 

「その、何か御用でしょうか」

 

「ああ、これは失礼しました。初期装備で弓を選んでいるプレイヤーというのは珍しくて、つい。特に他意はありません。気分を害されたのなら申し訳ありません」

 

 芝居がからない丁寧な口調でそんな言葉を返される。最初に気まずそうな顔をしていたところを見ると、恐らく嘘ではないのだろう。

 

「いえ、大丈夫です。 ……あの。その背中のそれは大弓、ですよね?弓使いのプレイヤーさんですか?」

 

「ええ、ご明察通りです。先程もお話しましたが、弓使いのプレイヤーは多くありません。自由度は高いのですが運用が難しく、そういった事情から手に取るプレイヤーは少ないのです。ですから、初期装備で弓を選択されているのはとても珍しいと思い、同じ弓使いとして目に留めてしまいました」

 

 やはり事前知識通り、弓は不人気なのかと思う。しかし、そんな中でこうしてたまたま弓使いのプレイヤーと接触できたのは運が良かったかもしれない。何も情報なしでただフィールドに出て動きを確認するより、既存の弓使いのプレイヤーから何かを聞いてからの行動するほうがよほどいいだろう。

 

「実は、昔やっていたゲームでも弓を使っていて、今回NWOが久しぶりにやるゲームなんです。こっちでも弓を使い続けたいとは思ってるんですが、よければ先達としてアドバイスを頂けませんか?」

 

「私で教えられることならいくらでも。弓の使用者が増えるというのは嬉しいですからね。 ――おっと、失礼しました。まだ名乗っていませんでしたね。私はウィルバートと申します」

 

「リオです。まだはじめたばかりの初心者ですが、よろしくお願いします」

 

 自己紹介を終えると、ウィルバートが近くの初心者向けの狩場まで案内してくれるということになり、道中雑談やNWOについての話をしながら移動した。

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

「……これほどとは、凄まじいですね」

 

 ウィルバートは目を疑っていた。弓使いとして普段より常に冷静さを心がけているつもりの彼だが、この時は思わず目の前の光景が信じられず、その光景に胸が熱くなるのを感じた。

 

 それは、驚きと歓喜という感情だ。本当にたまたま、初期装備で弓を持っているプレイヤーが珍しかったからつい見てしまったらこれまた偶然その初心者と話をすることになって。聞けば、別のゲームでも弓を使用していたというではないか。彼としては、『将来有望な弓使いだろうから大切にしなければならない』程度だった。

 

 しかしそれがどうだろうか。目前の光景をもってして、ウィルバートの中でその認識は間違っていたと理解した。違う。期待の新人などではない。この少女は逸材であると。それも、もし育てば間違いなく自分に届き得るか超えていくだろうと確信が持てるほどの逸材だ。

 

 彼女の放つ矢は美しい。放たれた矢は迷いなく無慈悲に飛翔してモンスターの弱点を一撃で射抜く。それは、どれだけ距離が離れても変わりない。かなりの距離があるモンスター、空中を飛ぶモンスター、相手がなんであろうとその矢はただの一撃で弱点を居抜き一撃でモンスターの命を刈り取っていく。

 

 そして、彼が注目したのはその弓の扱いや射撃精度だけではない。彼女の眼、それもまた彼を歓喜させた。弓を構えて、相手を見ている時の彼女の眼。一切の感情を捨てたような冷たい眼と観察眼。それは、とても研ぎ澄まされていて。冷たく、美しかった。

 

「――素晴らしいですね」

 

 思わず、そんな言葉が出ていた。その言葉に彼女、リオは気がついたようで手を止めてこちらを向きながらキョトンとしたような顔をした。

 

「えと、どうかしましたか?」

 

「ああ、いえ。とても素晴らしい動きだと思って思わず感嘆の言葉が出てしまっただけです」

 

「ありがとうございます。……でもやっぱり少し、違和感はありますね」

 

「ふむ。何か問題が?」

 

「その、どうしても武器が馴染まないというか……違和感があって、色々ズレちゃうんです。弾道調整とか、偏差撃ちとか色々と……」

 

「ああ、なるほど。ブランクがあると話されていましたよね?それも原因だと思いますが、一番の原因は武器だと思いますよ」

 

 確かに彼女の射撃はウィルバートからすれば素晴らしいの一言に尽きる。しかし、傍から見ていての違和感というのは感じ取れたし、その原因についてもすぐに見当がついた。

 

 NWOの初期装備というのは基本的に店売りされている汎用品である。誰にでも問題なく扱えるように調整されたもので、かつ安価で手に入るものだ。

 

 つまるところ、"彼女の動きに対して武器がついていけていない"ということだ。

 

 ウィルバートもまた彼女と似たような戦い方をする。精密射撃については全て自分のプレイヤースキルのみで行い、殆どスキルやシステムの干渉なしで行っている。だが、それはプレイヤースキルだけで成立するものではない。その自身のスキルをより最適化するためには、自分にあった武器というものが必要だ。実際にウィルバートも、初期武器でいつもの自分と同じ芸当が全く変化のない精度でできるかと言われると、正直難しいと言わざる得なかった。

 

「スキルを使用しての射撃ならば、システム側の補正などが入りますから問題ありませんが見させていただいた限りではリオさんは精密射撃時にスキルを使用していません。ですから、システム側の補正もなければ制約もない状態です。恐らく武器がリオさん、貴女についていけていないのだと思います」

 

「武器、ですか……でも私、始めたばかりでお金もないですし、当面はこの武器でなんとかするしかないですね……」

 

「ですが、もしリオさんのプレイヤースキルについていける弓となると、恐らく並の制作品でも厳しいとは思います。私もかつては同じような問題に直面したのですが、結局解決できたのは今のこの大弓。ユニークシリーズと呼ばれる武器ともう一本だけでした」

 

「ユニークシリーズ、ですか?」

 

「ああ、そうでした。説明し忘れていましたね」

 

 道中、NWOについての話をした際にある程度の知識についてをリオはウィルバートから聞いていた。だが、ユニークシリーズというものについては初耳だと思い疑問を投げかけると説明をしてくれた。

 

 単独でかつボスを初回戦闘で撃破しダンジョンを攻略した者に贈られる攻略者だけの為の唯一無二の装備であり、獲得できるのは一ダンジョンに一つきり。取得したプレイヤーは装備を譲渡出来ないというものであり、つまるところ特別な装備というもののようだ。

 

「しかし、ユニークシリーズは現状かなり数が少ないのです。そして弓のユニークシリーズ保持者は私以外では見たことがありません。ですが、私の使用している弓が存在しているのですから確実に何処かにあるとは思いますが……」

 

「あー……ええと、これってマナー違反なのかな……」

 

「どうかされましたか?」

 

 ふと、リオが何か悩んだようにしていたのでどうかしたのだろうかとウィルバートは問いかけた。

 

「えーと……マナー違反だったらごめんなさい。ウィルバートさんって、道中で話されていた物理弓、なんですか?それとも魔法弓なんですか?」

 

 物理弓なのか魔法弓なのか。つまり、他プレイヤーのビルドの話である。本来、相手のステータスが相手からの公開以外で視覚化されないゲームにおいてはステータスの秘匿というのは一般的である。ステータスが見えるということは、そのステータスから相手の弱点などを推測できるからである。なので、基本的にこのような情報はあまり公開しない。ビルドについてはプレイスタイルから推測がついてしまうのでステータスほどではないが、それでも他人にすすんで話すようなプレイヤーは多くない。

 

 リオもそれについて聞くことはマナー違反である可能性がある、そう考えていたが自分の疑問を問いかけるにはそれを確認しなければならなかったため、申し訳なく思いながら問いかけたのだが、返ってきたのは

 

「ふふ。いえ、構いませんよ。リオさんはかなりの逸材だと思いますし、ビルドについてなら話してもいいでしょう。……そうですね、私のビルドはどちらかと言えば物理寄りですね」

 

「すみません、やっぱりマナー違反でしたよね……その、実は私複合型なんです。自分にあったのがこれだと思ってそう割り振ったんですが、ウィルバートさんのお話を聞く限りだと珍しいんですよね?もしそうなら、そんな複合型向けの弓なんてあるのかな、とか思って」

 

「複合型、つまり物理と魔法両方にステータスを割り当てているタイプですね。 確かに珍しいといえば珍しいですね、NWOでは弓使いは基本的に物理型が大半なんです。というのも、物理型ならば【AGI】との競合が出来て機動力の確保や他の武器種を取り扱うことが出来るようになりますから。勿論、複合型が居ないわけではありません、ただ……複合型向けのユニーク装備が存在しているのか、というのは実例を聞いたことがないのでわかりません」

 

「そう、ですか……」

 

「ああ、そんなに残念そうにしないで下さい。そうですね……これは雑誌のNWOの開発者インタビューでの話なんですが、NWOではあらゆる可能性を考慮して装備、アイテムなどを実装していると言っていました。なので確認されていないだけで、存在はするとは思うのですが ――そうだ」

 

 やや落ち込んだようにしているリオを見て、なんとかしてあげられないかと思ったウィルバートはゲーム雑誌のインタビューの話をしてみたが、ふと。その時あることを閃いた。

 

 

「少し前に、弓使いの間で話題になった不思議な話があるんです。弓を使用するプレイヤーにだけ見える、流れ星という話が」 

 

 



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射手の少女と流れ星





 

 土曜日の夜。リオは幾つかのアイテムと、ウィルバートと別れる際に受け取った彼が以前使用していたという弓を持ってNWOの第一層。プレイヤー達の間では『星見の丘』と呼ばれる場所に来ていた。

 

 『何か困ったことがあればいつでも連絡して下さい』と、ウィルバートからはフレンド登録を送ってもらい、更には以前使っていたという大弓まで譲り受けてしまった。出来は極めて精巧で、違和感を感じさせないほどのかなりの高性能品である。どうやら、彼の言っていた違和感を消すことができたという武器の一つらしい。流石にとんでもないものなので弓については貰えない、と思ったのだが、

 

『期待の新人への餞別です。性能は保証しますので、遠慮などせず使って下さい』

 

 などと言われ受け取ってしまった。

 

 そして、その彼からも面白い話が聞けた。それは、『弓使いにしか見えない流れ星』という話だった。

 

 リアルの時間とNWOの時間、その両方が夜の時間で一致している時にだけ、第一層にある『星見の丘』で流れ星が見える。そんな話だそうだ。弓使い以外では流れ星は見えず、星空が見えるだけ。しかし、弓使いがこの丘で空を見上げると、流れ星が見えるのだという。ただ、これまた不思議な話で、一度流れ星を見た弓使いは二度とその流星を見ることが出来ないのだそうだ。

 

 弓使いの間で最近話題になった一種の話題の種だそうで、最初は特定の武器種にしか見えないということから多少騒がれたが現在ではただの不思議なエリアギミックという認識になっていた。というのも、話題になったのが第一回イベント前だったこと。そして、ただ流れ星が見えるだけでアイテムなどの直接的な関係性が見えないこと。このような理由が相まってすぐにその話題は消えていったのだ。

 

 しかし、ウィルバートはそうでなかったらしい。噂を聞いて、真っ先に何かあると疑った。なので彼もその流れ星を見て、周囲を探索したのだがその途中、リアル事情で中断せざる得なくなったのだという。一度見た流れ星は二度と見えない、だから恐らく何かあるにしても自分にとっては既にそのフラグが消失していると判断していた。

 

 何かがあるのは間違いなく、だがそれを自分が手に入れることは叶わないだろう。だからウィルバートはその弓使いにしか見えない流れ星の話と、自分が調べたことについてリオに話したのだ。弓使いにしか見えないならそれは恐らく弓に関わることの可能性がある、そして一度見えたら二度と見えないというのだから、希少なものの可能性もある。それを手にするならば、彼女のような逸材こそが相応しいと彼は思ったのだ。

 

「時間は……現実だと22時だし、今の状態はNWOでは夜。間違えてないよね。後は流れ星が見えるってウィルバートさんが言ってた丘の上に行くだけ。 ――でも、姉さんには悪いことしたかな」

 

 姉からNWOのソフトとハードを受け取ったのは金曜の夕方。確かに、色々と調整したいため一人で少しやらせて欲しいとは話した。しかし、それだけなら1日もあれば十分だっただろう。姉からはログイン前に一緒にどうかと誘われたが、どうしても理緒はウィルバートから聞いた話が気になってしまい『もう少しだけ待って欲しい』と言ってしまった。そのことを彼女は申し訳なく思っているのだが、実際のところは理沙としてはやる気になってくれていることが嬉しいようで、しかも理緒の言葉から何かやりたいことを見つけたのだと察して更に嬉しくなっていたのだがそれを理緒が知る由はない。

 

 夜空に星が輝くNWOの夜のフィールドを教えられたとおりに進み、流れ星が見えるという丘に到着した。流れ星は一度見ると二度と見えない。つまりチャンスは一度しか無いということだ。思わず緊張と、何かに挑戦するという高揚感で心臓の鼓動が早くなる。それを落ち着かせるようにして息を吸い、譲られた弓の感触を左手で確かめる。

 

 とてもいい弓だ、譲り受けた弓に対しての感想はこれに尽きた。大弓であるに関わらず軽く、それでいて弦を引く動作が素早く可能であり、全体的に極めて取り回しがいい。聞けば、ウィルバートの知人がかつて色々と試行錯誤して作ったものだという。威力についてもその弓専用の矢筒に入った弾数無制限の大弓用の大矢を用いるため、大型モンスター相手でも致命を取ればかなりの威力を発揮するという。

 

 目を閉じ、自分を落ち着かせる。覚悟を決めて空を見上げると、そこにあるのは満点の星空だった。月明かりがフィールドを照らし、星々が輝いている。思わず目的を忘れて魅入ってしまいそうになるほど、その空は仮想現実だとは思えないほどに美しかった。

 

 そうして、どれだけの時間を待ったのか。気がつけば、自分は星空に見とれており、ついこのまま眺めているのも悪くないかと。そう思っていた時だ。

 

 

「ッ……!蒼い、流れ星!?」

 

 

 星が、堕ちるように星空を横切った。

 

 

 それは蒼の軌跡を描く光であり、間違いなく話に聞いていた流れ星だった。呆けていた頭をすぐに切り替える。走りながら思い出すのは、ウィルバートが自分で調べたという内容だった。

 

 ――『星が流れたら、まず星が堕ちた方角に向かって下さい』

 

 草原を走り、広大な丘を進んでいく。方角は間違えていない筈だ。

 

 ――『ただ、慌てて暗闇の中を走らないように。あそこのエリアは丘ですが、あそこは地面に巨大な亀裂があって崖になっているんです』

 

 そう。だから慌てて星を追おうものなら、暗闇に飲まれて足元を奪われる。つまり、崖下への転落である。

 

 だから途中、一度足を止めて事前に用意しておいた店売りのランタンで足元を照らす。そうして、思わずぞっとした。

 

「こんな所に気が付かないで転落とか、考えたくないな」

 

 ただ前だけ見ていれば気が付かない巨大な亀裂。恐らく明るいときでも気が付きにくく、この夜闇の中ではまず注意していなければ落下するだろう。ランタンを片手に覗いてみれば、そこに広がるのは底の見えないような暗闇だった。試しに近くの石を落としてみたが、その石が地面に当たるような音は聞こえなかった。つまり、相当に深いということだろう。

 

 そして、ここで彼の最後のアドバイスを思い出す。

 

 ――『身体能力には自信はありますか?  ああ、あるのなら大丈夫です。かなり怖いかもしれませんが、あの亀裂。実は崖に突起している岩があってそこを飛んでいけば下に降りれるんです。私はここの途中で事情があってリタイアしたのですが、恐らく下まで続いています。この亀裂の深層、そこに何かあると私は思っています』

 

 店売りのスカウト向け装備。腰にあるツールベルトにランタンを固定すると、その明かりを頼りに崖下を確認すれば、あった。確かに少し下に飛んだ所に、人が一人くらい乗れそうな岩の突起が。

 

 正直、かなり怖いし緊張もする。下は暗闇、もしミスして転落しようものならおそらくここまでにあった全てのフラグが消滅する。しかし、ここまで来て引くわけに行かないのだ。

 

 少なくとも、姉と同じくらいには身体能力には自身がある。といっても、姉のような近接技能のセンスはないが。息を吸い、見えている足場を見定めて降りる。

 

「これ、かなり怖っ……でも、確かに下に続く足場がある」

 

 思わずこのエリアを設計した製作者はプレイヤーの嫌がることをよくわかっていると思ってしまった。次の飛ぶべき足場、そこは今いる足場に飛ばなければ暗がりで見えないようになっていたのだ。しかも、付け加えるなら崖の他の岩に隠れるようにして存在しており、もし慌てて別の似たような岩に飛ぼうものならそのまま転落ということになるだろう。

 

 慎重に足元を確認して、次に移動すべき足場を見つけて亀裂の底。何かがあるだろうというその深層へと向かう。かなりの時間降りなければならない、とは聞いていたので途中足を止めて休んだりしながら降りていく。

 

 少なくとも30分以上は足場を探しては降りる、ということを繰り返しているだろう。上を見上げれば、そこにあるのは真っ暗な暗闇だけ。最初に自分が居た丘の平原はもう見えず、見上げていた星空も暗闇によってもう見えない。足元も未だに暗闇が続いており、腰のランタンを除けば周囲は全て暗闇だ。どうにかなってしまいそうな気分だったが、ここで焦れば全てが水の泡だ。そう自分に言い聞かせて更に下へと降りていく。

 

 そして、更に数十分。足場となる岩場へと飛び移ると、それは見えた。

 

 

「地面……?ということは、ここが最深部?」

 

 足元を見れば次の段差は存在せず、下には地面があった。つまり、ここが最深部ということになる。最深部に降り、周囲を確認する。やはり暗闇だらけであり相変わらず上も真っ暗だ。

 

 そして、なにか無いかと探していると――見つけた。

 

「あれは……何?」

 

 見渡した数メートル先。そこになにか光るものがあった。念の為に足元を照らしながら慎重に進み、その近くまで行くと、そこは洞窟の入り口だった。

 

 それもただの洞窟ではない。光っていたのは、白い鉱石だった。それ自体が光を放っており、洞窟の中に入ると内部を照らすように、点々とその白い鉱石は存在した。

 

 ランタンが必要ないほどに洞窟内部は明るく、暫く進むと遺跡のような人工物で作られた部屋に到着した。

 

 そして、そこにあったのは巨大な扉。左右には巨大な馬に乗った騎士の石像があり、それぞれが岩で出来た弓を持っている。

 

 前に進み、扉の近くに行けば、あるものに気がついた。

 

「これは……石碑?ええと、『星を視る者だけが蒼き星を射抜くだろう 星々の加護があらんことを』これ、多分重要なメッセージだよね……」

 

 意味深な石碑に、いかにもという感じの巨大な石扉。扉の左右にはこれまた立派な騎士の石像ときた。自分だって暫くゲームは触っていなかったがゲーマーだ。こんな明らかになにかあるというもののオンパレードと来れば、何があるのかは予想ができる。

 

 間違いなくボスである。それも、星が関わっているということは恐らく探していたものはここで間違いがないのだろう。

 

 ここまできたのだ。何が何でもこの先にあるものを手に入れてみせる。それに、未知に挑まないなどゲーマーではない。そう思うと覚悟を決め、石扉に触れる。

 

 すると、左右の騎士像が回転するように駆動し、それにあわせて淡く光りだした石扉が開いていく。

 

 本番はここからのようだ。

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 石扉の先。そこには幻想的な風景が広がっていた。

 

 足元は石畳であり、上を見上げると暗黒が広がっているが、そこにはまるで星のように輝く光が点々と存在した。それは道中で見た鉱石のようで、その星にも見えるそれの光が今いる場所がとても広い円形状のエリアであり、所々に何かの巨大な残骸があるということを教えてくれていた。

 

 空ではなく、亀裂の最深部。地下に存在するその星空に目を奪われる。地上で見上げたあの夜空の星々に負けないほどに美しい星空が、この場所には存在した。

 

 だが。そんな光景を楽しんでいる暇はないぞ、というようにそれは現れる。

 

 突然背後の石扉が閉じる。その音に驚くが、それと同時に現れたものがあった。円形広場の中心部。そこに現れるのは、蒼い光。それは最初に見た流れ星と同じ色をしており、その光は弾け。ある形を取った。

 

 

「あれは……入り口にあった石像と同じ、弓の騎兵!?」

 

 それは、巨大な騎士と鎧を纏う馬のような何かだった。騎士は全身青黒いフルプレートの鎧であり、左手には蒼の色をした、光の巨大弓。 そして騎士を乗せる二本角の生えた馬のような生き物もまた青黒い馬鎧を装備している。

 

 形を成した騎士のプレートヘルム。その眼の部分からふたつの蒼の光が灯る。それと同時、騎士を乗せる馬が咆哮し、騎士が弓を構えた。

 

「なるほど――姉さんみたいだけど、これは燃えてきた。負けられないよね」

 

 洞窟の中に存在する星空という幻想的な光景に、その場を守護するように現れた騎兵。最高の舞台ではないか。これで燃えなければゲーマーではない。そう思い、リオもまた譲り受けた弓を構えた。

 

 戦闘開始だ。

 

 



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射手の少女と星の射手

今回執筆にあたり聴いていた曲は、魔法使いの夜から「Five」と「First star」、「星が瞬くこんな夜に」でした。


 轟、と。とてつもなく大きな風斬りの音が木霊した。

 

 それは、このフロアのボスである弓の騎兵が放った一撃が原因だった。騎兵が光の弓に番えて放ったのは、同じ色、蒼の光の巨大な矢である。放たれたその矢は戦闘開始だと言わんばかりにリオへと飛翔した。だが、それを彼女は着弾地点を誘導することで回避する。

 

 嫌な予感がした。もし自分があの騎兵なら、安直に敵対者の居るその地点だけを狙って撃つことはしない。狙うなら、移動先や行動を予測して矢を放つ。だから開幕、リオはあえてフェイントをかけた。汎用スキル【クイックステップ】。即座に任意の方向に素早く移動する、というスカウト向けの汎用スキルを使用して、わざとスキル硬直を作る。そして、それと同時に同じく汎用弓スキルである【スライドショット】という、矢を放ちながら一定距離移動するというスキルを使用して攻撃を行いつつその場から離れる。

 

 その結果が轟音である。騎兵の放った光の矢は、【クイックステップ】によって生み出されたスキル硬直の発生地点。つまり、一度リオが回避行動を起こした先に放たれたのだ。

 

 この初動で明確になったことは2つある。まず、あの騎兵はプレイヤーの回避行動や移動にあわせて攻撃を放ってくる可能性が高いということだ。そして、もうひとつは。

 

「攻撃が、届かない!?」

 

 そう、攻撃が届かないのだ。

 

 【スライドショット】は、移動しながら対象に対して矢を撃ち込むというスキルである。スキルによるアシストが発生しているため、致命や弱点狙撃は取れないがそれでも当てることは出来る。だが、放たれた矢は騎兵に届くことなく壁のようなもので弾き飛ばされた。

 

 攻撃が届かない。恐らく攻撃力が低すぎるというわけではない。ウィルバートから譲って貰った弓は、性能としては一級品だと彼は言っていた。そして、その性能についても自分も確かめている。この弓は極めていい弓だ。威力と連射性、それを両立させた極めて優秀な逸品だろう。その攻撃がダメージを与えられないどころか届かなかったということは、何かしらに原因がある筈だ。

 

「ああもう、かなりの精度の射撃。しかも着弾地点で爆発する上に高威力、それでもってあの馬みたいな生き物の機動力を活かした回避狩りに加えてこっちに近づけば馬が蹴り飛ばしてくるなんて流石にきっついなぁ……!昔やった死にゲーを思い出すよね、避けられなくはないけど!」

 

 攻撃が通らない以上、対策を考えながらの逃げの一手だ。その間、回避に徹しながら騎兵の攻撃モーションについて分析する。

 

 まず、騎兵の防御手段。盾などは保持しておらず、攻撃を阻む謎の障壁。そして、騎兵の纏うフルプレートの装甲が防御手段になる。障壁をなんとかできたとして、あのフルプレートを抜く方法を考えないといけない。

 

 次に攻撃手段。これまたこの騎兵は、とても多彩かつプレイヤーにとって嫌な方法であらゆる行動を狩ろうとしてくる。

 

 硬直や回避、そこを狙った光の矢による高精度の着弾地点を一定範囲薙ぎ払う高威力射撃。距離を取ろうものなら馬のような生き物の高高度からの踏みつけのために飛び上がると同時、走るこちらを狙って矢を連射してくる制圧射撃。

 

 高高度からの馬の踏みつけと見せかけて、空中で馬が二段ジャンプすると更に高い高度から高性能の追尾矢を間隔を開けて3発撃ち、その後こちらにめがけて急降下による踏みつけ。その場で立ち止まったかと思えば、4本の巨大な光の矢を弓に番え、それをプレイヤーの居る地点周辺に3回連続でばらまいてくる。

 

 正直言ってしまえばこれは理不尽の固まりである。まず並大抵のプレイヤーなら成す術なく倒されているだろう。

 

 しかし、今戦っているのはそんな理不尽に対抗できるプレイヤーなのだ。姉である生粋のゲーマー、白峯理沙。サリーに届き得る人物なのだ。

 

 あらゆる行動狩りに理不尽な攻撃モーション、それを持つスキルや今まで培ってきたセンスで回避しながら、冷静さを保っている頭で考える。どうすれば勝てるのか。どうすればあの障壁を破れるのか。正直、このままでは埒が明かない。いつかは集中力の低下や疲労で押し切られかねない。

 

 考え、騎兵の行動パターンが頭に入り、多少の考える余裕ができてきた時だ。

 

「――石碑の、文章」

 

 石碑の文章にはなんと書かれていた?そう、『星を視る者だけが蒼き星を射抜くだろう 星々の加護があらんことを』だ。星を視る。このエリアの空はまるで星空のようだった。そして、騎兵が扱うのは蒼の光であり、あのプレートヘルムの中に見えた眼のようなものも蒼だった。

 

「……そうか、上か!」

 

 騎兵の馬による空中からの踏みつけを回避すると、次のモーションを警戒しながらも空を見上げる。すると、あった。輝く星々のような白い光、その合間の闇に紛れるように、幾つかの丸い球体が。それらは全部で5つ確認できた。白、緑、黄、紅、黒の5色であり、その球体を突き刺すように何かが刺さっている。

 

 そして、遠目であり暗がりでしっかりと認識もできなかったが――それは、矢に見えた。

 

「なるほど、そういうこと。理不尽な攻撃モーションにこんなものまで隠してるなんて、本当このエリアの開発者いい意味で大馬鹿ね」

 

 中々面白い仕掛けとボスギミックを同時にやってくれる。そう思うと、不意に口元が笑っているのに気がついた。ああ、そうか。今自分はゲームを楽しんでいるのか。そう、リオは思った。

 

「反撃開始といきますか」

 

 譲り受けた大弓に矢を番える。既にボスのモーションは把握した。どの攻撃の後に短時間の隙ができるのかということももうわかっている。だからリオは硬直が発生するタイミング。馬による踏みつけの直後に、ボスを狙わず近くの頭上にある球体。まずは白色のそれに向かって矢を放った。

 

 しかし、その行動に対してボスも対応した。なんとボスは硬直を発生させずに行動したのだ。だが、騎兵はリオを狙わずに高速で弓を構えるとリオの放った矢に向かって光の矢を放ち、攻撃を防いだ。

 

「なるほど。やっぱりあの球体が鍵ってことね」

 

 その行動を見て確信した。今まで硬直が発生していたモーションが、突然あの球体を狙った瞬間硬直をキャンセルして球体を護るような行動をとったのだ。こちらの球体を狙った攻撃に対する反応速度は速い。普通の弓ならあの防衛手段を取られて成すすべはなかっただろう。

 

 だが、今の自分にはこの譲り受けた弓がある。

 

 再びボスからの攻撃が来る。それを回避しながら、特定の位置へと誘導する。そして再び、今度はその位置から遠くの球体を狙って矢を放つ。当然、ボスは防衛行動に入る。しかし、リオの狙いはそれだった。

 

 ボスが光の矢を放った直後、もう一発の矢が飛翔して別の位置の球体を穿ったのだ。

 

 騎兵が防衛行動を取れるのは、恐らく一度の球体に対する攻撃につき一度のみだ。通常の大弓ならば、発射間隔が長く騎兵に次の防衛行動を許してしまう。通常の弓ならば、恐らくあの球体を破壊できない。しかし、この譲り受けた弓は極めて攻撃的な性能に調整されている。大弓で使用する大矢を可能な限り速い速度で連射できるように調整されている、そうウィルバートは話しており、実際にそうだということもリオもまた自分で撃ってみて確認している。

 

 だから、本来の大弓の射撃間隔より遥かに速い速度で二発目を放ち別の球体を破壊できたのだ。そしてその破壊による効果はすぐに現れた。突然騎兵が苦しみだしたのだ。弓を持っていない片腕で胴体を抑えるようにして苦しんでいる。

 

 明らかにチャンスだろう。すぐにリオは破壊した球体の真下。何かが落下した場所へと走りそれを拾い上げる。それは、錆びたような巨大な矢だった。一瞬なんだこれは、と思ったがすぐにまさかとあることを考えた。

 

 矢として使用するサイズではないだろう。もしかしたら【STR】不足で不可能かもしれない。しかし、これは矢だ。だとするなら、その用途は決まっている。一か八か、そう思いその巨大な錆びた矢を弓に番えると、突然それは破壊した球体。黄色の光を放ち、持ち上げようとした時の重さが嘘のように軽くなった。

 

 考えるのは後だ。そう思い、頭をクリアにしていつもの射撃をする時と同じ感覚に切り替える。スキルアシストやシステムの介入がない純粋な一矢。ただの一撃で相手を射抜くことだけを考え、そして

 

 

 ――矢を放った。

 

 

 苦しむ騎兵の頭部。そこを狙ったその一矢は、騎兵を護る障壁に阻まれる。だが、変化はあった。障壁にヒビが入ったのだ。一撃では駄目だった。とするなら、残る4つの球体も破壊して今と同じようにする必要がある。

 

 すぐさまリオは行動した。騎兵も動き出してきたが、謎解きの答えがわかってしまえば最早こっちのものである。再び同じ要領で球体を破壊する。球体を破壊すると、騎兵が苦しみだすのでその隙に錆びた巨大矢を放つ。その動作を全ての球体が破壊されるまで繰り返すと、まるでガラスが割れるような音とともに障壁が割れた。

 

 そしてエリア中央。その真上に出現するのは、蒼の球体。今までと同じで、錆びた矢が刺さっている。もう攻撃のチャンスは与えない、というように即座にその球体を射抜くと、錆びた矢を回収。それを弓に番える

 

 そうして、今度こそ。無慈悲に放たれたその矢は騎兵の頭部を居抜き、騎兵と馬は光となって消滅した。

 

 

 

「……終わっ、た?」

 

 

 

 周囲を見渡すが、あるのは静けさだけである。見上げれば変わらず星空のような天井が広がっており、ボスだった騎兵はもう居ない。

 

 

 

 

「つっかれたぁ……!」

 

 

 

 思わずそう叫んで、安堵と共にその場に座り込む。一気に身体を襲うのは疲労感だったが、同時に押し寄せるものもあった。それは、達成感だった。間違いなく言えるのは、ウィルバートから譲り受けた弓がなければ成すすべはなかったということだ。必ずお礼を言おうと決めて、深呼吸の後に空を見上げる。

 

 

「本当、綺麗。――流れ星に導かれた先にあったのは、空ではない場所にある星空だった。なんて、最高の冒険だよね。本当ここのエリア作った人はとんでもなくロマンチストなんだろうね」

 

 

 見上げるとそこにあるのは、空ではない場所にある星空だ。とても幻想的で、どうしてこんな亀裂の深層に星空を作ろうなどと思ったのだろうかとも思う。この体験は、姉にも話そう。そしてきっと、これからは姉と、親友の楓とこんな冒険をしたいと思う。

 

 暫く休憩しながらその星々を眺めた後、立ち上がる。ボスが居たのだ、まさかなにもないということはないだろう。エリアを見渡しながら歩くと、中央付近。ボスが最後に倒れた場所に何かがあった。

 

 それは、一本の地面に突き刺さった矢。自分が騎兵に対して放ったものより、遥かに大きな、もはや槍と称していい大きさのそれと、その目の前にある蒼色の宝箱だった。

 

「さて、何が入ってるのかな」

 

 宝箱を開く。すると、まばゆい輝きとともにアイテム獲得のメッセージが表示された。

 

 

――――――――――

 

 

【ユニークシリーズ】

 

 単独でかつボスを初回戦闘で撃破しダンジョンを攻略した者に贈られる攻略者だけの為の唯一無二の装備。獲得できるのは一ダンジョンに一つきり。取得した者はこの装備を譲渡出来ない。

 

 

 

星輝装(ステラギア) アルテミス』

【DEX+30】【INT+30】【MP+20】【破壊不可】

 

 

『輝星のコート』

【DEX+15】【INT+15】【MP+25】【破壊不可】

 

 

『輝星の衣』

【DEX+10】【INT+10】【MP+15】【破壊不可】【上下セット装備】

 

 

『輝星のブーツ』

【DEX+5】【INT+5】【MP+10】【破壊不可】

 

 

――――――――――

 

 

 腰くらいまでの長さのコートは夜の闇を思わせる青黒い色であり、それにあわせたような色の黒のショートパンツと灰色の服にのブーツ。デザインはスカウト向けのようなものであり、装備してみたが違和感はなく、むしろとても動きやすい。

 

 しかし気になるのは、この『星輝装 アルテミス』である。見た目はただの青黒いブレスレットだが、装備枠は武器になっている。説明を確認するために概要欄を開き、確認をしてみることにした。

 

――――――――――

 

星輝装(ステラギア) アルテミス』

 

武器種︰大弓(特殊装備)

 

星々の祈りと祝福が込められた聖遺物の腕輪。MPの最大値から5割消費することで、星輝装アルテミスを使用可能にし、以下の特性を得る。

 

・この武器は自在に収納と展開が可能であり、使用する矢は魔力矢となり、弾数の制限はない。また、魔力矢は威力を【INT】参照とする『爆裂』の特性を持つ。魔力矢に対して他の攻撃属性の追加や付与を行うことは出来ない。

 

・攻撃による判定を全て物理・魔法両方の属性のものとして扱う。また、致命攻撃の判定が発生した場合、その全てのダメージを【DEX】の数値を参照として発生させ、防御力無視の物理ダメージとして扱う。

 

・展開された星輝装アルテミスは、ゲーム内部時間24時を過ぎると強制的に解除される。再展開をすることで再使用可能となる。

 

・この装備を展開中は、通常射撃以外の射撃スキルが全て専用スキルに入れ替わる。レベルの上昇により、使用可能なスキルが増える。

 

・この装備は、武器スロットを使用せず装飾品として装備することも出来る。装飾品として装備した場合、装備展開時に装備している武器とこの武器を入れ替える。収納を行うことで元の装備に戻る。

 

――――――――――

 

 

「展開式の武器……?そんなのあるんだ。とりあえず展開してみようかな ―――アルテミス」

  

 MPが消費され、装備を外して腕輪を付けた左手に展開されたものを見て思わず目を見開いた。それは、あの騎兵が使用していた弓だ。蒼の光で形が成された大弓は重さを感じさせず、魔力矢についても頭の中で展開をイメージするだけで弓を持つ手とは逆の手に現れた。

 

 極めて扱いやすい。それも、ウィルバートから譲り受けた弓と比べても同じくらいには扱いやすいのだ。しかし、光で構成されている魔力弓だからか、隠密行動には向いていない。だから通常戦闘ではアルテミスを。隠密行動では譲り受けた弓を。使い分けができるのはとてもいいと思った。

 

「苦労しただけあって、凄いものが手に入って ……あれ、まだ何かある?」

 

 見れば、まだアイテムの獲得通知メッセージが残っていた。

 なんだろう、そう思い確認する。

 

――――――――――

 

『星騎獣の指輪』

 

種別︰装飾品

 

かつて星の騎士達は星騎獣と呼ばれる神獣と共に幾多の戦場や大地を駆けたという。装備することで霊馬『ケイロン』を呼び出すことが可能になる。ケイロンはダンジョンと特殊なエリア以外の場所で騎乗可能であり、飛び上がった時に一度だけ空中を蹴り再度飛ぶことが出来る。また、固有の体力を持ち、敵対している対象に対して突進や蹴りによる攻撃を行うことが出来る。体力が無くなると霊体が消滅し、一定時間呼び出すことができなくなる。

 

――――――――――

 

 

 

「……あれ、もしかして?」

 

 先程のアルテミスはあの騎兵が持っていた弓だった。つまり、この指輪で呼び出せるのはもしかすると。そう思い呼び出してみると、リオの前に現れたのは予測していた相手だった。

 

 二本の角と耳。やわらかな毛並みをした、馬のような生物。そう、馬鎧はつけておらず、鐙に馬鞍。手綱に、背中側にツールバックのようなものを装備しているだけだが騎兵が騎乗していたあの生き物だ。

 

 身体の高さは凡そ160センチ半ば程度だろうか。自分より大きいが、騎乗できない高さではない。見とれていると、その霊馬。ケイロンがじっとこちらを見ており、暫くすると頭を擦り寄せてきた。どうやら、嫌われているということはなさそうだ。

 

「ふふ、いい子。そっか、つまり君と色んな場所を旅できるってことだね。……よろしくね、ケイロン」

 

 馬の鳴き声のような声で嬉しそうに鳴くのを見て、頭を撫でる。暫く堪能すると、霊体へと戻してもう一度周囲を見れば、そこには緑色の転送魔法陣が現れていた。どうやら、『星見の丘』に転送されるもののようだったので、それを使用して転送される。

 

 光が晴れると、そこは最初に自分が訪れた星見の丘だった。空はまだ暗く、星々が輝いていた。流星を見ることはもう叶わないが、その夜空と月は、まるで自分を祝福してくれているように感じた。

 

「姉さんにどう報告しようかな」

 

 問題はここまであったことを姉にどう報告するかである。それを考えながら、ひとまず今日は疲れ切っているということもあってログアウトした。

 




 リオの装備やバトルスタイルのテーマのひとつは星と神話。射手と騎兵を使い分けて、射撃制圧戦と高機動戦闘の両方を行う感じです。作者イメージとしては、某フロムゲーの弓騎兵版の聖樹騎士ローレッタ。多分そのうちラダーンのアレも撃つかもしれない。

 そんな作者の脳内イメージですが、実際のメイプル・サリーと組んでの担当はサポーター。足りていない遠距離を担当するのもそうですが、後方からのスキルによる制圧射撃とプレイヤースキルによる精密射撃による支援によって相手にプレッシャーを与えつつ二人を動きやすくさせるという役割。

 ひとまずユニーク装備獲得まで。これからメイプル・サリーと組んで大暴れしつつも冒険と旅を繰り広げていくれることでしょう。

 感想などもらえると作者がとても喜びます。それでは、また次回お会いしましょう。



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射手の少女と管理者達の評価

 今回は管理者視点でのお話。職場環境については原作やアニメと同じ。負けるな管理者さん達。

※2022/3/22 追記
管理者Aについて、原作の管理者と名前が競合していました。分かりづらくなることから、名前を変更致しました。


「さーて今日も元気に勤労勤労。なんだか最近睡眠不足な気がするけど、不思議な栄養ドリンクのお陰で頑張れて仕事がハッピーだぜぇ!」

 

「おい、それ不味いやつだから流石に休暇通せー?身体壊すと仕事も何もないぞ」

 

「むむっ、それは困る!NWOの運営開発は俺の仕事でありながら命を懸ける対象!身体を壊して、ましてや命が危なくなってしまえばこの仕事に命は懸けられない!いいこと言うなぁ北……じゃなかった同僚K!」

 

「お前オンラインゲームの運営してんのにたまにテンション上がると仮想現実で人の本名出そうになるの本当直せ。というか命懸けるために命大事にってなんだそのパワーワード。……とにかくお前は一度休暇取れな、俺からも主任に話は通す」

 

「そういえば最近はほぼ本社で生活してるようなもので自宅には溜め込んだアニメの録画とか積んでるゲームやら色々あったなぁ。うん、休暇取ろう」

 

 

 世界の中心に青色のクリスタルが浮かぶ場所。周囲の空間にはゲーム内の映像や、様々なパラメーター情報。数字やプログラムが羅列されている画面が投影されているその世界。

 

 管理者がNWOを管理し、統制するための管理世界を浮かぶ足場で移動しながら会話するのは、二人の管理者である。

 

 一人は管理者K。運営専用の管理者マスコットで呆れたようなモーションをしており、もうひとりは管理者M。やたらとハイテンションな管理者であり、NWOの運営開発こそが自信のライフワークであると言うほどに熱血な人物である。

 

 最近のNWO運営は忙しい。というのも、発売以前から注目されていたものが発売直後に更に人気が加速しプレイヤーが爆発的に増加。それによってサーバー負荷が物凄いことになり増設と強化を余儀なくされた。加えて、調整項目にバグの修正などと同時進行で次のアップデートの開発やデバックなど、俗に言うデスマーチ状態だった。そのせいで手が回らないことや、後で見落としが見つかったりもするのだ。メイプルの獲得した【絶対防御】の取得条件や【悪食】の仕様などがその例である。

 

 そんな忙しさを乗り切るために今日も出社である。日曜日だがそんなことは関係がない。ここ最近は忙しすぎて休みの日が平日だったり週末だったりとスケジュールによって度々変化するがもう慣れたものだ。そうしてこの二人がいつもより早めに出社すると、そこには朝からとんでもないことになっていた。

 

 

「か、管理者S!?」

 

「どうした、何があった!何故真っ白になって『我が生涯に一片の悔い無し』みたいな感じで拳を天に掲げているんだ!?」

 

 出社して管理者アバターで管理世界に入ると、そこに居たのは自分達より早めに出社していた管理者S。真面目だが管理者Mと同類であり、NWOの運営開発の中でもバトル関係。特に極めて難しいレベルに該当するダンジョンやボスを担当している人物であり、運営陣からは『いい意味で外道』『プレイヤー泣くぞこれ』『丁寧に心を折りに行ってそれをモニターで見ながら愉悦する開発者の鏡』などと呼ばれている人物である。

 

 いつもならば早めに出社している時は『フゥーハハハハハハ!!!そこでその行動はだめだなぁ!狩られちゃうぞぉ!』などと明らかに悪役が発しそうな声でそんな台詞を言いながらゲーム内部のライブモニターやリプレイ映像を観ているのだがどうにも様子がおかしい。いつものようなテンションでもなければ、むしろ天に拳を突き上げて震えている。ご丁寧にアバターが真っ白になるエフェクトつきだ。わざわざ作ったのかと観ていた二人は思う。

 

「おぉ……MとK、おはよう……。今俺は、感動に打ち震えている……!そう、これは感動だ……!製作者として、これはひとつの最高の感動であると言えるッ……!感動ッ……歓喜ッ……あぁ、かのプレイヤーに祝福を……Congratulationッ……!」

 

 明らかに様子がおかしい。しかし、この管理者Sがこのような状態になりそうなことに二人は心当たりがある。

 

 それは、彼の作ったコンテンツ。開発陣のテストプレイでさえ罵倒や汚い言葉が飛びに飛んだ鬼畜コンテンツを踏破したプレイヤーが出た時だ。しかし、未だに彼が作るコンテンツを踏破どころか、見つけ出したプレイヤーは居なかったはずだ。恐る恐る二人は管理者Sに詳しい話を聞いてみることにした。

 

 

「それで、何があったんだ?お前がそんな状態になるのなんてNWOサービス開始からは無かっただろ。お前が別のゲーム開発やってた頃にはあったけど」

 

「あー懐かしいな。あれ何年前だ?2年、3年だっけか?Sが作った超絶鬼畜難易度のレイドボスを半年かけてやっとクリアチームが出た時だったよな?」

 

「そうそう。それで、クリアチームに雑誌に載せる用の開発者からの匿名インタビューした時はまさかの姉妹で参加してるプレイヤーが居て驚いたってことがあったアレだな」

 

 『懐かしいよなー』『あの子ら元気にしてっかなー』などと、二人が話しているとむくり、と。やっと管理者Sが動き出して再起動した。

 

「ああ……懐かしいな……あれはよき思い出だ……。俺の最高傑作のひとつでもあったあのレイドをクリアされるとは当時思っても居なかったからな……。思えば、あのレイドチームには人間やめてそうなプレイヤーしか居なかったなぁ……。 ――すまん、あまりの感動に色々頭バグってた。その。ほら、あれだよ。NWOに実装した俺が作ったやつ、覚えてるか?」

 

 そう言われて二人は考え込むが、すぐ何かわかった。

 

「んー?ああ、確か……開発ネームは『星の射手』だったか?あの鬼畜レイドほどでないにしても、ソロ専用でしかもボス自体がプレイヤーの行動予測して回避狩りに行動狩り、アイテム使おうものならその硬直も狩りに来るしなんなら高機動で攻撃モーションも正直汚い言葉がうちのメンバーから出まくったあれだろ?」

 

「いやあれ並のプレイヤーだと無理だし心折れるだろ。つーかあれ、まず見つけること自体がほぼ不可能だったじゃん。何だよプレイヤーのクライアントで一度しかフラグは発生しない、それでいて目的地までの過程がこれでもかってほど陰湿な殺意の塊でもあって、更に言うなら弓限定じゃん」

 

「武器種限定はともかくとして、マジで道中が悪質過ぎる。リアルさを忠実に再現したNWOであの命がけの暗闇アスレチックとか怖すぎるし、あれひとつでも降りる場所間違えたら転落か戻れなくなってアウトって道中だけで心折りに来てるだろ。まあ、その代わりにボス討伐時のクリア報酬はかなり破格なものに設定してたんだっけか」

 

 極めて『心折設計』に調整された、管理者Sの制作したコンテンツ。その内容は二人も覚えていたが、それがどうかしたのかと思う。

 

 

「『星の射手』なんだけどな……クリア者出た」

 

「は?それマジ?」

「お前冗談は制作するコンテンツだけにしろよ」

 

 冗談も大概にしろ。そう思った二人だが、どうやら管理者Sの様子を見ていると嘘ではないらしい。

 

「クリア者が出ただけじゃないんだ……クリアしたプレイヤーの言葉がな、もう……本当に最高で……いや本当、何なんだあの子……しゅき……一生推す……」

 

「映像あるのか?あのバケモノ倒したとかいう映像あるなら観てみたいんだが」

 

「ああ、あるが……もしかしたらもう一度尊死するかもしれん ……ほら、ボスの開幕からスタートだ」

 

 映像が再生される。すると、管理者Mと管理者Kは討伐されたということが半信半疑だったが、すぐにその映像に釘付けになった。

 

 戦っているのは、弓以外は店売りの装備の少女だ。

 

 ただ装備を見ただけでは、到底勝てると思えない。しかし――その戦い方と動き、それは常軌を逸していた。

 

 既存の汎用スキルを組み合わせてのボスの攻撃を誘導、まるで先が視えているのではないかというレベルでの回避行動はボスの攻撃が勝手に避けていくようにも視えた。そして。俯瞰する視点だからこそ二人の管理者は気がつく。この少女は、"一度たりともボスから視線を外していない"。

 

 回避、捜索、反撃。全ての行動において少女の視線はボスを捉えている。まるで、絶対に逃しはしない。というように。そうして、映像の中で少女が何かに気がついたようにして、不意に口元が笑ったのだ。

 

 

『なるほど、そういうこと。理不尽な攻撃モーションにこんなものまで隠してるなんて、本当このエリアの開発者いい意味で大馬鹿ね』

 

 

 

「はぅっ!ごふっ、ほんぎゃらざっぱぁぁあああ!!!」

 

 突然、管理者Sが意味不明の叫び声のようなものをあげて痙攣し始めた。

 

「どうした急に……ああ、そういうことか……」

「多分いつもの発作だ」

 

「いや、だってな?こんなかわいい子に好戦的で楽しそうな笑みを浮かべながらこんなこと言われたら、もう最高じゃね?」

 

 開発者冥利に尽きる言葉に、高難度コンテンツを制作する人間としてあれだけ好戦的で楽しそうにされれば、まあ嬉しくなるだろう。それはわからなくもない、と二人は思いつつも続きを見ていく。

 

 その後、少女はギミックを特定。ギミックを解かせないための防衛機構も用意していたのだが、それも手に持っていた弓の性能をフルに活かした立ち回りで突破。最終的には見事にボスを撃破してしまったのだ。

 

 集中力が切れたのか、その場に座り込む少女。それを観て管理者二人が思うことがあった

 

「プレイヤースキル化け物かよ……しかも、おい……あの射撃って……」

 

「ああ、回避手段に使ってた汎用スキルでの攻撃以外はマニュアルによる射撃だからシステムもスキルも介入してない。つまり純粋な射撃能力ってことになる。 ……やっべぇなこの子。射撃能力、観察眼、状況対応能力。どれとっても化け物だ」

 

 映像に再び目を移す。すると、そこでは少女が休憩しながらそのエリアの天井を見つめているところだった。

 

 

『流れ星に導かれた先にあったのは、空ではない場所にある星空だった。なんて、最高の冒険だよね。本当ここのエリア作った人はとんでもなくロマンチストなんだろうね』

 

 

「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ッ……!」

 

「あ、まただ」

「いやまあわからなくはないけどさぁ……」

 

 再び管理者Sが、今度は呻くような声を上げながら痙攣し始めた。

 

「そう、そうなんだよ……!それがこのボスと一緒に考えた開発コンセプトだったんだよ!ボスが星にまつわるもので、じゃあ空がない場所に星空を作れば面白くない?って思って考えて作ったんだよ! ――ああもう本当にこの子最高だ!俺の開発した要素全てをこれでもかってほど堪能してくれる!」

 

「いやまあ、確かにここまでお褒めの言葉を貰えばそうなるのは気持ちはわからんでもないなぁ」

 

「しかもこの子、道中でも星空を見て景色楽しんだり、ボス部屋でも最後休みながらその空を眺めて結構長い時間楽しんでくれたりしてもう最高で……ああ、しゅき……」

 

「おーい戻ってこーい。そうだよなぁ、ここまでこの世界を楽しんでくれてると俺らも嬉しいわ。ちょっと涙出そうになったもん」

 

 実際、管理者たちからすれば少女。リオがここまで歩んできた過程はどれも開発者としては最高の喜びが詰まっていた。

 

 世界の景色を楽しみ、戦いの中でそれすらも楽しむように笑い、クリアした後は達成感に満ちた表情で楽しそうにしてくれる。少なくともここに居る三人の意見は一致していたのだ。本当に最高である、と。

 

 

「そういえばさ」

 

「ん?どうした管理者M」

 

 ふと。何か思い出したように管理者MがSへと訪ねた

 

「『星の射手』の報酬って何だっけ」

 

「そういえばそうだな。特別な装備とだけは聞いてたけど、具体的に何入れたかは聞いたことなかったな」

 

「あれ、話したことなかったか?あのボスに仕込んだのは、かなり特殊な部類のユニークシリーズでな ――『星輝装(ステラギア)』。そう名付けたユニーク装備だ」

 

 特殊な部類、そう言った管理者Sの表情は楽しそうでありも真剣でもあった。一体何が仕込まれているのか。興味本位で管理者二人が尋ねると、彼はこう返した。

 

 

 

 

「『星輝装(ステラギア)』は弓専用のユニークシリーズで。使用者と共に成長、つまりスキルや能力を変えていく特殊な装備なんだよ」

 

 

 




 管理者大多数がメイプル推しの中、管理者S達はリオ推しになったようです。コンテンツ担当なので今後度々出てくる。

 


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射手の少女と二人との合流

 メイプル、サリーと合流回。


 日曜日の夕方過ぎ、NWO第一層。そこにある宿屋の大きめの一室には三人の姿がある。

 

「妹が目を離した隙にとんでもない規格外になっていた件について。しかも知らない間になんか凄い冒険して、空に存在しない星空なんて言うロマンチックなものまで見てきてるなんて羨ましすぎるんだけど?」

 

「ね、姉さん……なんでそんなにじりじりと距離を詰めてくるのかな……?」

 

「説明して」

 

「え、あの、だから」

 

「説明を、要求します。私は今冷静さを欠こうとしています」

 

「た、助けてメイプルぅ……」

 

 真顔で、しかもとてつもない威圧感で距離を詰めてくる姉。サリーから助けを求めるようにして、リオは近くにいるこれまた苦笑いしている楓。NWOではメイプルと名乗っている親友に助けを求める。だが悲しきかな。メイプルでも今のサリーをどうかにする手段はない。

 

 正直な所、サリーがこうなっているのはいつの間にか妹がとんでもないことになっていたというのもあるがそれ以上に、知らないうちに話を聞くだけでもワクワクするような光景を見てきていたということのほうが大きい。メイプルでさえ、夜空ではなく地下深くに存在した星空など、話を聞くだけでも思わず『私も見たい!』と言ったほどだ。

 

「うん。頑張ってリオ!」

 

「神は死んだぁ!」

 

 助けを求める声は通じず、そのままサリーに前後に身体を揺さぶられたり『ずるいずるい!』などと言いながら体をホールドされながらゆらゆらと左右に揺れ始めたり、最早どうしていいかわからないので諦めてされるがままになることにした。

 

 そうして暫く、やっと開放されるとサリーは咳払いをして

 

「まあ、羨ましいけど仕方ない。これからは私達と一緒に冒険して、負けないくらいの景色を見ることで許してしんぜよう」

 

「ありがたき幸せー」

 

 完全に茶番である。直後にいきなり二人は笑いだして、『何この茶番』『姉さんから始めたんでしょ』といつもの姉妹のやり取りをしていれば

 

「やっぱりこっちでも二人はいつもの二人だね」

 

 楽しそうにしながらメイプルに言われて、キョトンとする二人。

 

「リアルでは見慣れた光景だけど、こっちで見ると新鮮だなーって思って。それに、いつもの私達でこれからいろんな冒険ができるなんてすごく楽しみ!」

 

「うん、そうだね。リアルと同じで、私とメイプル、そしてリオが居る。この広い世界をいつもの三人で楽しむ。きっと最高に楽しいよね!」

 

 確かに、現実では三人でいることはよくあった。けれど、メイプルはオンラインゲームをNWOをやるまでやったことがなかったということもあって、確かにこうしてゲームの世界で三人揃うのはとても新鮮に感じた。

 

 そうだ。これからは自分達でこの世界を楽しむのだ。そうしてそれがきっと――自分が逃げていた、過去の出来事に向き合うことにも繋がるとリオは思った。

 

「うん、私も同じだよ。 ――だから、これからよろしく。姉さん、メイプル」

 

 ここからまた始めるのだ。全てゼロから、今度は自分の心に嘘なんて吐かずに。

 

 新しい決意を胸に、二人と同じようにリオは笑ってみせた。

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

「さて。じゃあそろそろ現実逃避は辞めて色々と話を聞こうと思うんだけど。結局、リオの手に入れた諸々ってどんな感じなの?ここなら人も殆ど来ないから、遠慮なく見せてくれていいよ」

 

 宿屋を出た三人は、第一層の街からかなり離れた場所。人気のない平原エリアに来ていた。というのも、リオのスキルについて実際に見ることが目的であり、サリーとしてはそれをあまり多くのプレイヤーに見られるのはよろしくないと考えたからである。

 

「うーん……どう説明したものかなぁ……。あ、でも多分メイプルのよりは姉さんの心的負担少ないと思うよ」

 

「ええっ!?私は普通!普通だよー!普通にゲームしてたらこうなっただけだよ!」

 

 ここでの姉妹共通の内心は、『いや絶対それ普通じゃないから』だった。実際にリオはメイプルのスキルを直接見たわけではないが、姉からログイン前に概要だけは聞いている。曰く、盾に触れるだけで相手が倒せる。曰く、常軌を逸した防御力でダメージがほぼ通らない。これまた曰く、超強力な状態異常を広範囲にばら撒くスキルを複数保有している。

 

 それを聞いたリオはといえば、『いや私なんて全然マシでしょ』と思ったという。

 

「とりあえずまずこれかな。 ……よっと」

 

 そうしてMPをコストにして左手に出現させるのは、蒼の光で構成される魔力弓。大弓の部類ではあるが、重さを感じさせないほどに軽く、暫く二人に見せた後片手でくるくると手の中で回してみせる。

 

 それをみたそれぞれの反応はといえば、メイプルは『すごーい!光の弓だ!かっこいいね!』と無邪気な感想で、サリーはといえば『魔力弓なんて聞いたこと無いよ……?それに、大弓なのに片手で軽々と扱えるって……』と、真剣に武器を見ていた。

 

「一応この武器、アルテミスって言うんだけど。任意で展開と収納が切り替えられるみたい。こんな感じに」

 

 そう言うと、左手に持っていた魔力弓を光の粒子にして消し去ってみせる。そしてその後、再度左手に展開する。

 

「大型武器、特に大剣や槍、大弓もだけど探索とかでは行動を阻害することもあるから自在に展開と収納が出来るのは便利だね。というか……魔力弓なんて本当聞いたこと無いよ。もしかして、NWOで唯一なんじゃない?」

 

「やっぱり珍しいの?私も変わった武器だと思ってたから、今度知り合いの弓使いの人に聞いてみようとは思ってたんだけど」

 

「え?もう弓使いの知り合いの知り合いがいるの?」

 

「うん。ウィルバートさんって人なんだけど、偶然知り合って凄く良くしてもらった。礼儀正しい人でね、このアルテミスにまつわる話とか、後はかなりいい弓を譲って貰えたりしたんだ。私としては、アルテミスに負けないくらいいい弓だから使い分けようと思ってる」

 

 話の途中、左手の装備枠が空欄であったためアイテムバックから譲り受けた弓。色々あって概要を確認する余裕がなかったが、落ち着いてから名前を確認すると、『天狼弓「試作」』という名前の弓だったそれを装備してみせる。

 

「私も大盾使いの人と知り合って色々よくしてもらったよ!クロムさんって言うんだけど、アイテムとか装備とか、後制作をやってる人を紹介して貰ったりしたよ」

 

「メイプルも同じ武器種の知り合いさんが居るんだ。本当、同じ武器種の先達さんが居るとありがたいよね、色々と話も聞けたし」

 

 何やらワイワイと話し込むリオとメイプルだが、サリーはその装備してみせた弓に釘付けだった。しかも、とても真剣な表情で。それに気がついたリオは、どうかしたのかというようにして、サリーを見る

 

「姉さん?どうかしたの?」

 

「……リオ。その弓、使ってみた?」

 

「え?うん、使ったけど……むしろ、アルテミスを入手する時に戦ったボスはこれがなければ多分勝てなかったよ」

 

「違和感とかあった?」

 

「――全く無かったね」

 

「そう、ならきっと"凄くいい弓"だね」

 

「ちゃんと近いうちにお礼しに行こうとは思ってるよ」

 

 メイプルは意味がわからなくて首を傾げていたが、リオはサリーの言わんとする事を理解できた。つまり、この武器はユニークシリーズではないが明らかに異常であるということだ。

 

 この弓は使っていて違和感がない。つまり、自分の扱いに対して問題なくついてこれるということだ。それどころか、この弓は極めて攻撃的に調整がされている。扱っていて違和感はなかったが、正直底の知れない何かを感じて自分が武器に振り回されているのではと思ったほどだ。

 

 しかも、この武器には『試作』とついている。一体この武器は何なのか。ユニークシリーズである『星輝装アルテミス』に引けを取らないほどの高性能で底の知れないこの弓は何なのか。それをちゃんと確認するためにも、近いうちにウィルバートにはお礼とこれについての話を聞くつもりで居た。

 

 

「……うん、ならいいか。それでー?まだ何かあるんでしょ?」

 

「なんで姉さんは面白そうなことについてはそこまで鋭いかなあ……」

 

「ほら、早く出して出して」

 

 少し真面目な空気になってメイプルが戸惑ってしまったため、サリーが話題を変える。そして、言われたようにまだ見せるべきものはある。

 

 

「えーっと……武器とかではないんだけど。強いて言うなら、私の相棒?かな」

 

「リオの相棒は私だと思ってたのに姉としては悲しい」

 

「姉さんは姉さんでしょ。大丈夫、ちゃんと姉さんは大好きだよ」

 

「うちの妹が天使すぎる。まあおふざけさておき。相棒?」

 

「うん、今呼ぶから。 ――ケイロン」

 

 すると、リオの隣に突然現れるものがあった。

 

 二本の角にピンとした耳、灰色のやわらかな毛並みのその生き物は、ヤギのようだが大きさはかなりあり、顔つきからも考えると馬にも見える。手綱、そしてその背には鐙と黒の馬鞍があり、背中側の背にはツールバックのようなものが固定されている。

 

 その生き物。ケイロンという名の霊馬は呼ばれると、すぐに嬉しそうにリオへと近づく。彼女もまた、その頭を撫でるようにしていた。

 

 それを見て、思わずサリーは目が点になった。対してメイプルはといえば目を輝かせて『かわいいー!』と叫んでいる。

 

「ねぇリオ、触っても大丈夫!?」

 

「ちょっと待ってね。……ケイロン、いい?」

 

 一応主ではあるが、大切な相棒の意見は尊重しなければ。そう思い、言葉を投げかけてみると暴れることなく頭を縦にふるようにした後メイプルへと近づいた。

 

 すると、メイプルもリオがやっていたように撫でてみるが特に抵抗することなくそれを受け入れていた。

 

 傍目でメイプルがケイロンと触れ合っているをリオは見ていると、サリーが近くに寄ってきた

 

「頭の理解が追いつかないんだけど、あの子は一体何?」

 

「名前はケイロン。一応、呼び出すための指輪の説明を見ると、霊馬っていうものに分類される神獣なんだって。人の言葉理解してるんじゃないかってくらいには凄く賢い子で、一部のエリア以外では騎乗できるよ。後、後ろのツールバックには持ちきれないアイテムとかが入れられる結構な容量のバックになってるみたい。それと、騎乗してると攻撃もしてくれる」

 

「つまりリオはそのケイロンが居ると、スカウトとしての射手だけじゃなくて高機動力の騎兵とても動けるってことだよね?」

 

「まあ、うん。そうなるかなあ。だから機動力の確保もそうだけど、旅での頼もしい相棒ができたっていうのも嬉しいね。あ、そうだ。  メイプル、何ならちょっと乗ってみる?」

 

「えっ、いいの!?」

「他のプレイヤー乗れるの!?」

 

 メイプルは先程以上に楽しそうに目を輝かせ、サリーは『そんなのアリ!?』というように驚いてみせた。

 

「ケイロン、ちょっとだけメイプルを乗せてここの草原を軽く走ってほしいんだけど、お願いしてもいい?」

 

 すると、まるで『任せろ』と言わんばかりに鳴き声が返ってくる。その声の後、その場でメイプルが乗りやすいようにしてくれたのかしゃがんでくれ、恐る恐るメイプルが背中に乗る。

 

「手綱しっかり握っててね、メイプル」

 

「う、うん。こうかな……? わ、わわっ!」

 

 手綱をメイプルが握った瞬間、ケイロンが走り出した。そのまま加速していき、遠目に見える場所からはメイプルの『わー!はやーい!』『風が気持ちいいー!』などという声が聞こえてくる。

 

 暫く走り回り戻ってきたケイロンは再び降りやすいようにとしゃがみ、メイプルが背から降りる。彼女が『すごくはやいね!楽しかった!』と言うと、当然だとでも言うように鳴いて見せていた。

 

 

「ありがとう、ケイロン。ゆっくり休んで」

 

 召喚を解除する。光の粒子になって消えたケイロンを確認すると、リオはサリーを見る。もう本日何度目になるのか、またもや驚いたような顔をしていた。

 

「……思ったんだけど、私達かなりいい構成じゃない?タンクのメイプル、回避盾と遊撃担当の私、遠距離射撃と高機動戦闘ができるリオ」

 

「そう言われてみると、確かにどの距離にも対応できるし戦闘だけじゃなくて探索や隠密とかも出来るから大抵のことできちゃう構成だよね」

 

「うん、そこで私は二人に提案したいんだ。 ――次の第二回イベント、三人で組んで思いっきり楽しみたいと思うんだけど、どうかな?」

 

 その言葉に顔を見合わせるメイプルとリオ。当然、二人の答えは決まっていた。

 ほぼ同時に、『意義なーし!』と。リアルで何かをやる時によくやった受け答えのように、そう言った。

 

 

 




 リオの作者脳内CVは小倉唯さん。戦闘時以外の普段はゴブスレの女神官みたいな声のイメージ。魔力弓とかでの戦い方は崩壊3rdのエリシアをイメージしてます。

 そんな作者の脳内はさておき。ということで、無事二人と合流しました。前衛のメイプル、遊撃のサリー、サポーター兼後衛のリオ。サリーが回復とか使えることも考えるととても理想的な編成になりました。

 これで冒険開始です。その前に幾つか他のキャラクターとの合流はありますが、まずは第二回イベントから三人の冒険が始まることでしょう。


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射手の少女と掲示板


掲示板回。ちょっと短いので、深夜帯にでももう一話投稿するかもしれません。


【NWO】メイプルちゃんを見守りたいスレ【雑談もいいぞ】

 

125:見守る名無しのプレイヤー ID:mwqq5OFvY

 第二回イベント近づいてきたけど、おまいら進捗どうですか

 

126:見守る名無しのプレイヤー ID:xjqANcQCi

 やめてくれ>>125。その攻撃は俺にとても効く やめてくれ

 

127:見守る名無しのプレイヤー ID:nPfQ+k9fy

 おい瀕死者出てるぞ、まあ割とこのスレその関係のことしてそうな奴らいそうだけど

 

 第二回イベントなぁ、俺は今回パスだわー

 元々生産職メインだしリアル忙しすぎるわ、睡眠時間くれ

 

128:見守る名無しのプレイヤー ID:KBNSVq+Oc

 ちゃんと寝てもろて 体は大事にしろよー?

 まあ運営がイベント中にピックアップライブ配信するみたいだし、合間にそれ見るのもいいんじゃね?

 

129:見守る名無しのプレイヤー ID:nPfQ+k9fy

 そんなのやるのか、じゃあ合間に観戦することにするわー

 仕事中にスレも見とくから実況頼んだ

 

130:見守る名無しのプレイヤー ID:Y6Elz36L6

 実況ならこのスレには実況ニキいるし大丈夫やろなあ

 

131:見守る名無しのプレイヤー ID:oDAYjc/lO

 呼んだ?

 

132:見守る名無しのプレイヤー ID:ELAKQ+1Z/

 実況ニキはまだ座ってて

 それでメイプルちゃんの新情報ないんか?

 クロム、クロムを呼べ 

 

133:名無しの大盾使い ID:lIWBCMtmC

 いや居るけど特に話すようようなことないぞ

 というか俺もイベントに向けて準備とかしてるから最近話してない

 

134:見守る名無しのプレイヤー ID:Aqx0MWNkO

 律儀にコテハンにしてまで情報教えてくれるクロムじゃん、居たのか

 まあ多忙はしゃーない 今イベント参加予定者は忙しいだろうしな

 

135:見守る名無しのプレイヤー ID:9+HaKvVEH

 メイプルちゃんだけど、前に仲良さそうな友達と居たって話題があったろ?

 

 ついこの前、多分その友達と後もう一人と一緒に歩いてたぞ

 

136:見守る名無しのプレイヤー ID:G0W3IKrrF

 kwsk

 

137:見守る名無しのプレイヤー ID:mzx5oTYdP

 服脱いだ 正座した 精神統一した

 さあこい

 

138:見守る名無しのプレイヤー ID:dhTJM2/l5

 服は着ろ定期

 確か前に別スレで話題になったのは短剣装備の子だっけ?その子とは別ってことだよな?

 

139:見守る名無しのプレイヤー ID:9+HaKvVEH

 別の子、というよりはなんというか・・・うーん・・・あれ姉妹じゃねえかな

 

 いや前話題になった短剣の子は俺見たこと無いんだけど、一人が短剣だったから多分その子が話題になってた子

 

 で、その子とは別でその短剣の子とそっくりな子が一緒に居たんだよ ちな武器は大弓。背中に身の丈くらいはある大弓背負ってた

 

140:見守る名無しのプレイヤー ID:5Vqc9EntC

 弓かよ

 

141:見守る名無しのプレイヤー ID:IXOzAgVig

 新規で弓とか絶滅危惧種じゃん

 

142:見守る名無しのプレイヤー ID:i+vXxeMnj

 まあまだなんかありそうじゃん?

 ほらもっと情報吐け、見た目とかどんな感じだったとか

 

143:見守る名無しのプレイヤー ID:9+HaKvVEH

 見た目は栗色の髪でサイドテール、青黒い腰くらいまでのコートに黒のショートパンツに灰色のシャツ、見たこと無い防具だけどスカウト向けかなあれ?

 

 なんというかすごく上品に笑ってる子で落ち着いてる感じがした

 

144:名無しの大盾使い ID:lIWBCMtmC

 あれ、なんか見たことあるぞその子

 

145:見守る名無しのプレイヤー ID:qikBz+LPn

 クロムお前も吐くんだよはやくしろ

 

146:名無しの大盾使い ID:lIWBCMtmC

 いや俺はたまたま用事の時にちらっと見ただけなんだが・・・

 第一層の初心者向け狩場あるよな?あそこで似たような子と知り合いが一緒にいるの見たんだよ

 

 見た感じ知り合いに色々教えてもらってる感じだったな

 

147:見守る名無しのプレイヤー ID:5tm8As4Mv

 クロムの知り合い 弓使い 検索

 ランカー詳しいニキ頼んだ

 

148:見守る名無しのプレイヤー ID:/LH6PmXcJ

 今ラーメン食べてるんだが まあいいか

 第一回イベント入賞者に弓使いは居ない でも、化け物みたいな弓使いには心当たりはある

 

 多分ウィルバートじゃねそれ

 

149:見守る名無しのプレイヤー ID:vOYDA07p1

 誰それ

 

150:見守る名無しのプレイヤー ID:y56XQwZ+d

 知らないな そもそも弓の使用者自体が少なすぎる

 

151:見守る名無しのプレイヤー ID:VF2Q4qY/u

 でもランカー詳しいニキが言うってことは相当じゃね?

 ニキもなんでも知ってる博識ランカーじゃん

 

152:見守る名無しのプレイヤー ID:/LH6PmXcJ

 何でもは知らないよ、知っていることだけだ

 俺みたいな魔術書ばかり集めてるのがランカーな訳ないだろ

 

 さておきだ。ウィルバートはイベント入賞というよりは参加をしてない。だが、初期プレイヤーでは割と知られている奴だ

 

 といっても、弓以外の情報は殆どない。マジで事故みたいなもんで弓の情報も確認されたくらいしかないしな

 

 一応判明してるのは、人間辞めてるレベルでの精密射撃。スキルの照準補正なしで致命射撃当たり前のように取る

 

 後は恐らくだけどとは言われてるがあいつも持ってる弓が現状唯一の弓のユニーク武器

 

 他にはそうだな、全く情報のない奇抜な見た目のプレイヤーと組んでいるってことくらいか これについては本当に情報ないからこれ以上なんとも言えん

 

153:見守る名無しのプレイヤー ID:34jx5bI09

 は?

 

154:見守る名無しのプレイヤー ID:U/J83raJL

 いや待て待て、スキルの照準補正なしってことはシステム側でやってること全部自分のスキルだけでやってるってこと?

 それでほぼ確定致命?ヤバすぎない?

 

155:見守る名無しのプレイヤー ID:L8ayDpwc7

 付け加えるなら、射撃系のスキルはアシスト乗るけど乗せると精密射撃できなくなるって問題があるんだが本人に対するバフはそれが関係ない

 

 つまり本人への強化バフであればその化け物じみた精密射撃にバフの効果とか倍率全部乗るぞ

 

156:見守る名無しのプレイヤー ID:AiBEs5YC3

 弓が不人気なのって、攻撃倍率の低さとアシスト効くけどそれのせいで致命取れないってのが大きい理由だったよな?雑に矢撃つくらいなら魔法ぶっぱのほうがお手軽火力って言われてて初期で大半流れたんだよな

 

 プレイヤースキルだけでその問題全部解決してるってのがヤバすぎる 確か弓の致命倍率って全武器中トップクラスだろ

 

157:見守る名無しのプレイヤー ID:UwWVFIm3v

 弓スレの話題っぽくなってきたから話を戻すけど、つまり恐らく短剣の子の姉妹?が、その化け物みたいな弓使いと一緒に居て色々教えてもらってたってことだよな?

 

 もしかしてその子もとんでもないんじゃね?

 

158:見守る名無しのプレイヤー ID:9F7cuTWoy

 ありえるな、そもそもの話メイプルちゃんの関係者だし・・・それでいてそんなとんでもないプレイヤーにレクチャー受けてるって・・・

 

159:見守る名無しのプレイヤー ID:se2tyj8yf

 前話題になった短剣使いの子もだけど、今回の子も詳しい戦闘風景とか確認されてないからまだはっきりしたことはなんとも言えないな

 

 可能性の話として、もしメイプルゃんみたいな子が三人居たらとんでもないぞ

 

160:見守る名無しのプレイヤー ID:AcMRVEZzY

 短剣のメイプルちゃん、弓のメイプルちゃん、いつもの大盾メイプルちゃん

 

 お好きなバリエーションから選べるぞやったじゃん

 

161:見守る名無しのプレイヤー ID:hG5Y0QzN7

 わーい倒されるパターンが選べるなんて嬉しいな―

 いや地獄すぎるだろそれ

 

162:見守る名無しのプレイヤー ID:eel32ujbn

 そ、そもそもまだメイプルちゃんと同類と決まったわけじゃないし・・・

 

163:見守る名無しのプレイヤー ID:KvNXoeV+I

 ともかく、第二回イベント次第だよなぁ

 そこでハッキリするだろうけど、果たして鬼が出るか蛇が出るか

 

 

 

 

 

 ひそかにリオの存在は確認されており、少しずつ話題になり始めていたことを本人は知る由もなく。姉妹揃って注目されながらの第二回イベントが近づいてきていた。

 

 

 

 



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射手の少女と弓の正体

 とある人物との合流兼、重要情報回。
 


 第二層のとあるエリア。現状で実装されているの中でもかなりの高レベルに分類されるモンスターが跋扈するそこを徘徊するのは、一匹の巨大な熊だ。

 

 凶暴なモンスターであり、プレイヤーを発見するとすぐに襲いかかる。それでいて逃げようとしてもどこまでも追ってくる上にこのエリアでも強い部類のモンスター。ボスよりは弱いが、通常のモンスターよりは遥かに強い『エリート』と呼ばれるクラスのモンスターである。

 

 そんな極めて凶暴で普通のプレイヤーならば逃げの一手を取る者も多い相手である大熊。徘徊しているそれを突然襲うものがあった。

 

 それは、風切の音を殆どさせずに飛来する。ただまっすぐに、その大熊の命を刈り取るようにして飛ぶ、純粋な殺意の塊。

 

 巨大な矢だ。

 

 それは純粋な目的だけのために飛翔し、大熊の頭部を貫きただの一撃で絶命させる。何が起こったかさえ理解できない大熊は、敵対行動の開始となる咆哮すら出来ずに、物体が飛翔してきた方向すら向けずにポリゴンとなって消滅する。

 

 

 

「随分と調子が良さそうじゃないか、ウィル」

 

 

 

 大熊をただの一撃で倒した本人。ウィルバートは視界の先。完全に標的が消滅したことを冷たい感情の籠もらない目で確認すると、目を閉じる。それと同時。近くから彼にとってはよく知る声が言葉をかけてくる。

 

「私には狙撃の知識はないが、いつもより冴えているように感じたよ。……さては、私がログインしてない時に何かあったのかな?」

 

「私はいつもどおりですよ、リリィ」

 

 振り向き、いつもと変わらない余裕を見せる顔と瞳でそんな言葉を返すが、だが相手。己の相棒と言っても差し支えないほどの相手は楽しそうな笑みを崩していない。

 

「おや、それは本当かな。……実は先日、知り合いから面白い話を聞いてね。どうにも、私がログインしていない時に君が一層の初心者向け狩場で弓使いの初期装備プレイヤーと一緒に居たというじゃないか。そういえば、ウィルの射撃がいつもより冴えているように感じ始めたのもその直後くらいだと記憶しているね。ああ、ちなみに知り合いというのはクロムのことなんだが」

 

 思わず頭を抱えそうになった。確かに今思えば第一層のあんな場所で会話をして、初心者向けの狩場で一緒にいればプレイヤーの目にはつく。だが、まさか知り合いに見られているとは思いもしなかった。確かに知人、クロムは最近素材集めや、詳しくは知らないが他の理由で第一層に居ることが多いらしいがそれでも想定外だ。

 

「……少し有望な逸材を見つけた、それだけの話です」

 

「ほう……!君のお眼鏡に適うほどのプレイヤーが居るとは驚きだ。少なくとも、私の知る限りではNWOにおいて君以上の弓使いは居ないよ」

 

「いつも言いますけど、過大評価ですよ」

 

「いや、こればかりはそうでもないさ。そう私は思っているのだからそうなんだよ。それで、どうなんだい?その逸材というプレイヤーは」

 

 ウィルバートとしては、知り合った相手。リオについては逸材であり本人が望むなら支援を惜しまないつもりでいた。だからどちらにしても、遅かれ早かれこの相棒と例の彼女は会う可能性はある。そう考えると、ため息の後に『そうですね……』と呟いた。

 

「逸材、天才、いえ……言葉じゃ表現が難しいと言ってもいい程ですね。リリィ、私は彼女の射撃を見て恐ろしくなりましたよ。もし、あれが自分に向けられたと思うと恐ろしくもあり――同時に、面白くもあります」

 

「ほう、ほう……!いいね、すごくいいね!何だか私も興味が湧いてきたよ、ウィルをそこまでさせるそのプレイヤーについて。……ん?しかも彼女ということは、女の子かい?ウィル、頼むからナンパなんてことをしてハラスメント判定で運営のお世話になんてなるのはやめてくれよ?」

 

「あのですね……私は常に礼儀を尽くしているつもりですよ。それとも、リリィには私がそんなことをするように見えますか?」

 

「いいや、見えないな。何、ちょっとした冗談だよ」

 

「……では、少し冗談ではない話を。私のあの弓、彼女に譲りましたよ」

 

 楽しそうにしていたリリィの表情。それが突然真面目なものになった。

 

「――只事じゃないね。ウィル、それはどうこうことか理解してるのかい?」

 

「ええ、勿論ですよ。理解していますし、彼女ならと思って託したんです。 ……どのみち、あれは私の道ではこれ以上どうにもならないモノ。なら、新たな希望に託そうと思ったんですよ」

 

 真剣に返された言葉だった。リリィは暫くウィルバートに真面目な視線を向けるが、訂正されるような素振りもない。むしろ、彼もまたそれが正しいことなのだと言わんばかりに視線を返してくる。

 

「そうか、そこまでか。なら、本当にとんでもないプレイヤーなのだな。更にそのプレイヤーに興味が湧いたよ、是非私も会ってみたいな」

 

「もし今度会う機会があれば紹介しますよ ――おや?噂をすれば、というものらしいですね」

 

「うん?どうかしたのかい?」

 

 ウィルバートは何やら確認するような動作をする。リリィから見れば、何かの操作をしているようにしか見えないが、彼が確認しているのはメッセージボックス。そしてそこには、新着のメッセージが一件到着していた。

 

 差出人は、リオ。その内容は

 

 

 『こんにちは、突然申し訳ありません。先日のお礼とご報告、それからお聞きしたいことがあるのですがご都合の方如何でしょうか』

 

 このメッセージを見せたときには、それはリリィは喜んだという。『グッドタイミングというやつだね、是非会わせて欲しい』と食い入るように言い、ウィルバートはそれも合わせて返信。後日、とある場所で会うことになったのだ。

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

「えっと、ここ……だよね?」

 

 第一層の人気カフェ『ラディッシュ』。より現実に近い世界観を実現しているNWOにおいて、カフェのロールプレイをしているプレイヤーが立ち上げ、その味や一層のファンタジー世界感を残した店内のデザインが人気呼んでいるとある店。その店の前で、リオは足を止めると周囲を見渡した。

 

 ウィルバート。NWOを始めてから最初に知り合った弓使いの先達であり、今装備している『輝星』防具シリーズと、『星輝装』と呼ばれる武器を入手するための手がかりをくれた人物であり、謎の多い弓を譲ってくれた相手。彼に連絡をして、お礼がしたいと言うと返ってきたのは

 

 

――『週末であれば、いつでも。一人リオさんに会いたいと言う人物、私の相棒のような相手が居るのですが一緒でもよろしいでしょうか?』

 

 

 そんなメッセージだった。特に問題はなかったし、それに彼の言う会いたいと言う人というのも気になった。なので金曜日の夜の予定を調整し、姉と楓には個人的な予定があるとだけ伝えた。

 

 そうして現在に至る。約束の時間より少し早いが、どうにも先程から周囲の視線が気になる。どうしてなのか思い当たる節はなく、少し戸惑い思わず早く待ち人に来て欲しいと思ってしまう。

 

 

「おや……?5分前に到着したつもりでしたが、どうやら待たせてしまっていたようですね。申し訳ありません、リオさん」

 

 そんな願いが届いたのか、不意に声をかけられた。声の方向を見ると、そこには知る姿。そして、知らない姿がそれぞれ歩いてきていた。

 

 一人は吟遊詩人のような格好をした人物、ウィルバート。そうしてもうひとりは知らない人物であり、リオからするとその姿はなんとも奇抜と言わざる得なかった。

 

 長い黒髪に赤色の左目と薄黄緑色の右目のオッドアイ。クラシカルなメイド服に身を包んでは居るが、その雰囲気は何処か高貴で気高さを感じさせるような不思議な人物だった。

 

 

「あ、こんにちはウィルバートさん。いえ、私が早く来すぎてしまったというだけですから……。今日はありがとうございます、お時間作って頂いて。……ええと、そちらがお話されていた?」

 

 戸惑いがちに言葉を返すと、メイド服の女性が前に進み出てくる。

 

「やあ、はじめましてになるね。私の名前はリリィ。そこの彼、ウィルとはそれなりの付き合いの腐れ縁で相棒といった所かな?どうしても君に会いたくてね、今日は同行させてもらった」

 

「は、はじめまして。リオと言います、ウィルバートさんには色々と良くして頂いてます。よろしくお願いします、リリィさん」

 

「ああ、よろしく頼むよ。リオ、でいいのかな?」

 

「はい、大丈夫です。ウィルバートさんもリリィさんも、多分年上の方だと思いますからお好きに呼んで頂いても」

 

「ウィル、どうしてこんないい子を捕まえてきたんだい?今私はあまりにいい子で感動しているよ」

 

 そんな言葉を投げられたウィルバートは『リリィ、お願いですから落ち着いて下さい。リオさんが困っていますよ』と呆れ気味に返し、リオもそれを苦笑いして眺めていた。

 

「コホンッ。……失礼したね、思わず感動して不躾な振る舞いを見せてしまった。ともあれ、よろしく頼む。ウィル共々、何かあれば遠慮なく頼ってくれて構わない」

 

 フレンド登録を送られ、それを承認する。リオとしては頼りがいのある先輩が増えたという程度の認識なのだが、実はこの人脈はNWOの上位ランカー勢から見るととんでもないコネクションなのであるが、それを彼女が知る由もない。

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 店内に入り、席を探しているとリオはウィルバートに『ああ、こちらです』と手招きされた。そのままついていくと、彼が店員になにか話しており店の奥側にある広めの専用ブースへと案内された。席についてから聞けば、色々と話もあることだしということで事前にブース席を確保してくれていたという。

 

 ブース席は周囲の会話が聞こえず、内部の会話も外に漏れない。注文はテーブルに座ると使用できる専用のタッチパネルから行うことが出来る。リオは自分から時間を取ってもらえるように頼んだのに申し訳ない、と言ったのだがリリィから『何、使えるコネを使っただけさ。気にしないで欲しい』と笑いながら返されてしまった。

 

 それぞれ注文を追えて、頼んだものが到着すると、リオは本題を切り出すことにした。

 

「その、今日はありがとうございます。早速なんですが、ウィルバートさん。色々ご報告があるんです」

 

「はい、聞きましょう。焦らずゆっくりでいいですよ、どうせ私もリリィも今日は暇ですから」

 

「むっ、暇ではないぞウィル。リオと会いこうして話をするという重要な予定があるじゃあないか」

 

「そうですねリリィ。 すみませんねリオさん、どうにも今日のリリィはテンションが高いもので」

 

 苦笑いを返した後、リオは話し始めた。ウィルバートのアドバイス通り、星見の丘で流れ星を見て、その先の亀裂の最深部まで降りて。その先で正直自分でもかなり不味いと思うほどに苦戦したボスと戦い、譲り受けた弓のお陰でなんとか勝利を収めたこと。そして、ボスを撃破して獲得したもののことについても全て話した。

 

 途中、リリィが『待った。装備情報の公開というのは弱点を晒すようなものだぞ?いいのかい?』と、念を押したがリオは『ウィルバートさんの協力がなければ獲得はできませんでした。それに、お二人相手なら別に情報を公開することは問題ありません、信用していますから』と返した。その言葉に対してリリィは、呆れながらもリオのことを本当にいい子だと思ったという。

 

 全ての話を終えてブースに流れるのは、とても真剣な空気だった。

 

「確かに、複合型向けの装備があるかも知れない、とは話しましたが……まさかあそこに実在するとは。しかも、魔力弓という聞いたこともない武器に展開と収納が自在で"他の武器スロットに存在する弓と共存可能"というのはとんでもないですね……。それに、NWOで騎乗可能な生物がいるというのも聞いたことがありません」

 

「私も驚きすぎて、どこから聞けばいいのかわからなくなるほどに混乱しているよ……。そうだね……確かに、友好的な行動をするモンスターが居るという報告は上がっているらしいが、それでも自在に呼び出し可能でかつ共に戦ってくれたり騎乗ができる動物というのが居たというのは驚きだね」

 

「ええ、リリィの言うように驚くべきことです。ですが……私はそれ以上に、魔力弓という存在に驚きを隠せません」

 

「その、やっぱり珍しい武器なんですか?この武器は」

 

 暫く目を瞑り、考えるようにした後にウィルバートは、何やら言葉を選ぶようにした。

 

「間違いなく、と言い切れます。騎乗できる生物、というのは友好的なモンスターの事例がある以上他に存在する可能性も考えることは出来ます。ですが……これでも私やリリィは情報収集には力を入れていますが、それでも魔力弓、というのはそれに関係しそうな情報が出たことは一度もありません。確かに、弓というのは使用者が少なく、ユニーク武器も私のもの以外は確認されていません。なので情報の絶対数が少ない、というのはありますが……それでもです。それに、これは推測ですが武器種が限定されていて、恐らくプレイヤー一人につき一度しか発生しないフラグ。お話を聞く限りでの道中の難易度や、ボスの強さ。それを考慮すれば、その武器が唯一無二であってもおかしくはないと思います」

 

 ただ珍しいのかもしれない、その程度に考えていたリオだったが想定以上の言葉が返ってきて言葉を失ってしまう。

 

 恐らくNWOにおいて唯一無二の武器。そう言われてしまい、とんでもないものを手に入れてしまったのだという認識が自分の中に広がり、思わず体に力が入る。

 

 

 

「ウィル、ウィル。……それではまるで脅しだよ、怖がらせてどうするんだ」

 

「え?あ、いえ!そのようなつもりは決してありませんよ!?すみません、真面目に、客観的に考察するとこのような考えになってしまい……申し訳ありません、怖がらせましたか?」

 

 リリィにジト目で睨まれながら言われたウィルバートはすぐにはっとなって、訂正するように大慌てで謝罪をする。そんな慌てるウィルバートの姿を見て目を瞬かせると、思わずリオは体の力が抜けて笑ってしまった。

 

「ごめんなさい、なんというか、その……すごく真面目で完璧な人だと思っていたので、そんなリアクションもするんだなって思って」

 

「私も人間ですからね、何でも完璧にとは行きませんし慌てたりもしますよ。 ってリリィ?いつまで笑ってるんですか?」

 

「いや何、ウィルのそんな反応は久しぶりに見たと思ってな……!ふふっ、これは中々に愉快だ……!飲み物を飲んでいなくてよかったよ」

 

 呆れたようにため息をついた後、ウィルバートはコホン、と咳払いした。

 

「リオさん、その弓は使ってみましたか?」

 

「え?は、はい。何度か使用してみましたが……」

 

「どうでしたか?違和感はなかったとか、使いやすかったとか。そういった使用感は」

 

 聞かれ、考えるとその答えはすぐに出てきた。

 

「違和感はないですし、性能も私のステータスやビルドにあっています。なので、とても使いやすくていい弓だとは思います」

 

「なら、それで十分です。難しいことを言ってしまいましたが、それは貴女の武器であり、半身です。そうですね……今後、その武器のことでもしかしたら何か言われることもあるかも知れません。ですが、自信を持ってこう思って下さい。これは、自分にしか使いこなせない武器だと。少なくとも、私は貴女以上にその武器を使えるプレイヤーは居ないと思いますよ」

 

 その言葉には、自信が籠もっていた。慰めでもなんでもなく、そうであると言い切るような自信。そうまで言われてしまえば、リオとしては色々軽くなった気がした。

 

「……この武器は、私だけのもの、ですか。 ――ありがとうございます。もう、余計なことは考えません」

 

「元々は私が不安を煽るようなことを言ってしまったのが原因ですが、そう思ってくれると嬉しいです」

 

 大体の報告は終わった。だが、まだ聞いていないことが一つだけある。

 

 

「その、もうひとつだけいいですか?」

 

「ええ。予想はついていますが、どうぞ」

 

 『天狼弓「試作」』。譲って貰った弓についてだ。ウィルバートの言葉から、やはり何かあるのかと思いつつもリオは最後の疑問を口にしていく

 

 

「譲って頂いた弓がなければ、私は勝てませんでした。……でも、あの弓からは底が知れない何かを感じるんです。教えて下さい、あの弓が一体何なのかを」

 

 すると、ウィルバートが視線をリリィへと移した。すると、リリィは『リオならいいだろう』と一言だけ言った。それを確認したウィルバートはしっかりとリオを見据えて、常に浮かべていた余裕を崩さない表情ではなく、真面目な顔でこう言った。

 

 

「それは、その武器をお渡しする時に少し言いましたが私のある知り合いが作った武器なんです。今、それに付け加えて言うなら……それはユニークシリーズを超える、最強の弓。それを目指して作り出された、夢の始まりとも言える武器です。 ――そして、その製作者はもうNWOには存在していません」

 

 

 

 

 




 ということでリリィとも合流しました。NWOでのとてつもないコネがとんでもない速度で形成されるリオ。尚、本人はこの二人と知り合いであることがどれだけ凄いことかというのは知る由もない。

 関係ありませんが、原作13巻の特装版買いました。大変ドラマCDが素晴らしかった。内容も素晴らしいのですが、創作のネタがとても詰まっていた。

 一応、この作品は第二回イベント終了までは添削済みです。加筆したりしてちまちま投下する予定。それ以降のは大分進んではいるんですが、未添削。基本的な方針としては、オリキャラは主人公のリオ以外は極力出さない予定。出してもネームドじゃなかったり、基本的に本筋にはほぼ絡ませない予定。理由はありますが、原作キャラとの絡みや物語を重要視したいというのが理由でもあります。

 感想などもらえると作者がとても喜びます。それでは、また次回お会いしましょう。


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射手の少女と生産職

「理緒?……理緒?りーおー?」

 

「……え?あ。ご、ごめん姉さん!?ええと、なんだっけ!?」

 

「だから、ここの問題。これであってる?って話なんだけど……どうしたの理緒、なんか昨日から変だよ?」

 

 理緒の自室。室内に置かれている丸い中型の丸テーブルを囲むのは、理緒と理沙、そして楓である。

 

 月曜日。いきなり学校で突発のテストと宿題を言い渡された理沙と楓はこれをなんとかしなければと思い理緒に連絡。そして、急ぎ片付けるために白峯家に集まることになったのだ。理緒は頭がいい方である。少なくとも通う学校では成績優秀な生徒として通っており、人への教え方も心得ている。

 

 だから昔から、学校の宿題で困ったらいざという時は理緒を頼ろう、というのが理沙と楓の中では定番になっており、今回もそれと同じである。

 

 ……しかし、どうにも理緒の様子がおかしいことは二人からしても明白だった。

 

 というのも、時折考え込むようにしていたり、ぼーっとしていたり。声をかけても、すぐに反応をしなかったり。明らかにいつもとは違う。いつもの理緒ならば、こんなどこか抜けたような感じではないし、勉強を教える時ももっとハキハキとしていたはずなのだ。

 

 理緒はぼーっとしていたことに慌てるが、丁度理沙のやっていた部分でとりあえずのやるべきものは全て終わりである。ため息とともに理沙が机の上のノートと参考書を片付けると、やや心配そうに理緒を見た。

 

「とりあえずやるべきものはこれで全部。ありがとう理緒、でも……本当にどうしたの?何か悩み事?」

 

「悩み事なら私も聞くよ!あ……でも、助けになれるかはわからないけど、あはは……」

 

 視線を向けられる。それは、明らかに心配しているという視線だ。自分の考え事のせいで二人には心配をかけてしまった。そう思いながらも、頭を回転させる。

 

 

 

 ――『それはユニークシリーズを超える、最強の弓。それを目指して作り出された、夢の始まりとも言える武器です。 そして、その製作者はもうNWOには存在していません』

 

 

 

 昨日言われた言葉が、頭をよぎる。

 

 結局、それについて理緒はウィルバートとリリィに詳しく聞こうとしたが、それを教えてくれることはなかった。申し訳無さそうに、どこか哀愁を感じさせるような顔で。けれど、ある言葉だけを言われたのだ。

 

 

 ――『私では至れないと思いました。でも、リオさん、貴女ならきっと到れる。そう思ってお渡ししました。どうか、その弓を使ってあげてはくれませんか?』

 

 

 ユニーク武器。最近知った言葉だが、それがどんな存在かは理解しているつもりだ。NWOにおいて、唯一無二の装備であり、最高クラスの装備でもある。それを超える、最強の弓。そんなとんでもない言葉が出るなど、思っていなかったのだ。加えて、詳細については一切不明。何かを知るだろう二人は一切を語ろうとせず、ただ使ってほしいと頼み込んできた。ウィルバートのことは信用している。そして、リリィのこともだ。だが、そんな二人から託されたものについては一切が不明。理緒の思考のリソースの大半を支配していたのは、あの弓が一体何なのかということに尽きた。

 

 どう二人に相談すべきか。暫く考えた後、最終的には思い切って二人には全てを話してしまおうと決断した。

 

 

「その、悩んでるのは実はNWOでのことなんだ」

 

「NWOのこと?まさか……うちの妹に手を出そうとしている不届き者が居るとか!?守護らないと……大丈夫だよ理緒、お姉ちゃんに全部任せておきなさいって」

 

「姉さん、早とちり早とちり。うーんと……その、話す前に約束してほしいことがあるんだ」

 

「うん?約束してほしいこと?」

 

「……二人には、これから話すことを誰にも言わないでほしいんだ。多分、簡単に広めていい話じゃないから」

 

 そんなことを言われて、真剣そうな理緒を見ると冗談ではないのだと理解する。

 

 しかし。それでも。二人の答えは決まっている。

 

 親友が。妹が悩んでいるのだ、ならそれの助けになるために自分達も覚悟せずとして何とするのだ、と。

 

「約束するよ、誰にも言わないって」

 

「私も約束するよ。口にチャック、だね!」

 

 二人に感謝しつつも、理緒は昨日聞いた話の概要を伝えた。譲ってもらった弓が何なのか、自分はその弓について知りたいということ。

 

「……話だけでもゾクっとした。確かに、私も最初その弓を見た時得体の知れない何かを感じたけどまさかそんなとんでもないものだったなんて……。でも、ユニークシリーズを超える、最強の弓?そんなものが作れるの?」

 

「ユニークシリーズって、確かその人にとっての唯一無二の装備、だよね? ……つまり、それを超えるってことはもしかしてその弓も、『誰かのための唯一無二』のために作られたってことなのかな?」

 

 楓のその言葉に対して、理沙と理緒が目を見開いて楓を見る。視線を向けられて楓は大慌てして驚いてしまうが、二人の頭の中には衝撃が奔っていた。

 

 そうだ、楓の言うとおりだ。どうしてその考えに至らなかったのたか。そう二人は思いながらも、楓の考えたの柔軟さ。天性の才能とも言える直感に驚いていた。

 

「あの弓が、誰かのための唯一無二、か……」

 

 そう呟いて思うのは、弓を譲ってきたウィルバートのことだ。もしかすれば、あの弓はウィルバートのために作られた唯一無二。それも、ユニーク装備を超えることを目的とした唯一無二だったのかもしれない。だが、そう考えると新たな疑問が生まれてくる。仮にそうだったとして、どうして彼は弓を自分に渡してきたのか。そしてこうも言っていた。『自分では至れなかった』と。

 

 一歩進んだように感じたが、また謎が生まれてくる。ちらりと姉を見れば姉も同じようで何やら考え込んでしまっている。どうしたものか、そう思っているとふと。あることに気がついた。

 

「あれは、誰かの手によって作られたもの」

 

「理緒?」

 

 二人の視線を向けられる。頭の中ではバラバラになった莫大な大きさのパズル。その最初のピースが埋まったように感じた。

 

「――そうか、誰かの手によって作られたものなら、同じ道の人に聞いてみればいいんだ!  あ。でも、私生産主体の知り合いなんて居ないし、かつこのことを内密にしてくれそうな人なんてなると……厳しいなぁ」

 

 そのあたりに居る生産職のプレイヤーに話していいことでもない。それに、もし話すならば生産職でも熟練者。かつ、内密に話を聞いてくれる相手でなければならない。

 

 残念なことにそんな相手は居ないのだ。ひとまず、弓の謎についてはここまでかと。そう思っていると

 

 

「腕のいい生産職の人? ……居るよ!私、知り合いにすっごく腕のいい生産職の人が居るよ!」

 

 またもや唖然としてしまう理緒。『居るの?』というように視線を姉へと投げると、暫く考えたようにした後にはっとした表情が返ってきた。

 

「もしかして、前に話してたイズさんって人?」

 

「うん!大盾使いのクロムさん、この前話した人に紹介してもらった生産専門の鍛冶師の人!すっごく腕がいいってクロムさんも言ってたし、私もお世話になってるんだ。そういえば、理沙はまだ会ったことなかったっけ?」

 

「そうだね、まだ会ったことはないかな。……でも、楓がそこまで言うなら、間違いなく信用できそうな感じはあるよね」

 

 楓の直感はよく当たる。それは人間相手に対しても同じだ。この人は怖い、この人は信用できる、この人は優しい人だ。そういった直感がとても優れていて、それがほぼ的中することは理沙と理緒も知っている。

 

「楓、そのイズさんって人に紹介をお願いできないかな?」

 

「うん、いいよ!帰ったら連絡して、友達を紹介したいのと大事な相談があるって話してみるね!」

 

 本当に楓の直感には助けられっぱなしだ。そう二人は思うと、夜にどうするのかを話し合うことにした。

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

「いらっしゃいメイプルちゃん!それと、そちらが話していたお友達かしら?」

 

「はじめまして、サリーっていいます」

 

「リオです。よろしくお願いします」

 

 その日の夜。三人はメイプルの紹介でイズの工房を訪れていた。

 

 メイプルが連絡してからの段取りはスムーズに進んだ。イズもメイプルに話したいことがあったようで、しかもメイプルからの紹介ともあって喜ぶと楽しみに待っていると返信をしてくれたのだ。

 

 カウンターを挟んでイズに自己紹介をすると、彼女もまたとても嬉しそうに言葉を返す。

 

「これはご丁寧に、私はイズ。メイプルちゃんには言ったけど、生産職主体で、その中でも鍛冶を専門にしているの。二人はそっくりだけれど、もしかして姉妹かしら?」

 

「はい、私が姉で」

「私が妹です」

 

「あらあらー。かわいい知り合いが増えて、それも姉妹なんて嬉しいわー。これからよろしくね、二人とも」

 

 フレンド登録を済ませ、暫くイズはメイプルと何やら頼んでいたものについての話をした後に再び二人を見る。

 

「さてさて。色々とお話するのも楽しいけれど、メイプルちゃんの話だと何か大事なお話があるのよね?私で力になれることかしら?」

 

「……はい。メイプルからイズさんはとても腕が良くて信頼できると話を聞きました。それで、是非とも見て頂きたいものと、ご相談したいことが」

 

「そこまで評価して貰えてるなんて嬉しいわね。まあ、鍛冶師としての腕には自信はあるわ。これでも、生産職プレイヤーの中では結構いいものが作れると自負してるのよ?」

 

 その言葉を聞いて、覚悟を決めたようにするとリオは装備スロットにある弓を外すとそれをカウンターの上に置いた。

 

「これを見て頂いてもいいですか?」

 

「あら?変わった色の弓……それも大弓ね。でもおかしいわね、こんな色合いの木材なんてどこかにあった――」

 

 丁寧に置かれた弓を確認するようにして調べるイズ。最初こそ変わった弓だ、そう言うだけの反応だったのだが。

 

 突然、真剣な表情に変わった。

 

 

「ち、ちょっとごめんなさい!」

 

 

 突然大慌てで何やら操作をするイズ。それは、自身の工房に関する操作であり、大急ぎでコンソールを操作すると、店の入口にロックを掛け、内部が見えないようにカーテンをクローズして店内の明かりをつけ。店頭の扉にかかっている看板の表記を『CLOSED』に変更する。

 

 その操作を大慌てで、できるだけ急いでやった後。イズは深呼吸をすると、弓の持ち主。リオを見た

 

「リオちゃん、単刀直入に聞くわね。 この弓、どこで手に入れたの?」

 

「詳しくは、言えません。ごめんなさい。……でも、それはある信頼できる知り合いから譲り受けたものなんです」

 

「なるほど……いいの、詳しくは聞かないわ。そうね、ちょっと私も動揺しているけれど……うん……まずは、相談について話を聞こうかしら」

 

「相談というのは、この弓が一体何なのか、ということなんです。これを譲ってくれた人は、これがユニークシリーズを超える最強の弓。それを目指したその夢の始まりだと言っていました」

 

「そう、そうなの……。なるほど、つまり、これがそうなのね。 ――まさか、実在したなんて」

 

 何か知っていそうな様子を見せたイズに、思わず焦ってどういうことなのかリオは聞いてしまいそうになったがとどまった。しかし、イズには動揺した顔が見えていたようで、『少しだけ、落ち着かせてくれるかしら』と言われる。暫くの間イズはじっ、と。カウンターに置かれた弓を見た後に息を吸った。

 

「リオちゃん、この弓。使ってみたことは?」

 

「え?は、はい。あります。 ……すごく使いやすくて、違和感もなくて。でも、底知れない何かを感じるような、そんな弓だと思いました」

 

「なるほどね。底が知れない、というのはあながち間違いではないわね。 ……鍛冶師としても、これはとてつもなく底が知れない。いわば、伝説のような存在だから」

 

「それは、どういう」

 

 『そうね』と、イズは呟いた。そうして彼女は、その名前を告げる。

 未だ誰も至ることのない、頂の武器。その名を。

 

 

「極一部の生産職だけが知る、話の中にだけしか存在しないとも思われている伝説の武器。『ミスティックウェポン』、それがこの弓の正体よ」

 

 



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射手の少女と未完の武器

キリがいいのでちょっと短め。

次回あたりから第二回イベント突入予定、恐らく8万字前後で第二回イベントは終わります。


「ミスティックウェポン、ですか?」

 

 聞いたことがない言葉。リオがメイプルとサリーを見れば、自分と同じようで疑問符を浮かべたような顔をしている。

 

 しかし、イズの表情は真剣そのものだ。

 

「生産職。それも、各分野のトップレベルにまでになるくらい熟練した生産職の中にね、一種の伝説みたいなものがあるの。いえ、むしろ笑い話の種といったほうがいいかしら。ユニークシリーズ、最初にそれが確認された時に、ある生産職が途方も無い挑戦をしたらしいわ。それが、生産職の手による、ユニーク装備を超越する装備の制作だったらしいの」

 

 息を呑んだ。イズのその言葉、それはまさしくウィルバートの言っていた言葉と同じだからだった。

 

「曰く、不可能だと笑われた。曰く、無謀で無駄なことだと言われた。それでも挑み続けて、そしてその挑戦者は至ったらしいわ。……けれど情報が全く無くてね、しかも信憑性のある裏付けもない。更に言うなら、一体誰が挑んだのかもわからない。だから本当に話だけで、作り話とも思われるものだったの。私もそう思っていたわ、この弓を見るまでは」

 

「でも、そこまでとんでもないものだったなら……私がこれを装備して、背中に背負っていれば人目について、イズさんみたいに気付きそうなものですが」

 

「そうね、見た目が特殊な武器や防具なら街中で見られれば一発でバレるわね。――そう、見た目が特殊であれば、ね」

 

 首をかしげる。そんな自分達を見て、言葉が足りなかったと思ったイズは『うーん……そうねぇ』と、言葉を置いた後、

 

「この弓はね、見た目が派手でもなければ特殊でもない。機能性だけを追求されたような、とてもシンプルなデザインなの。ユニーク装備は私も知り合いに装備してる人が居るから知っているけれど、割と見た目が派手だったり特殊なの。そんな特徴的な装備に対して、この弓はシンプルそのもの。ぱっと見ればただの既製品の大弓にしか見えないの」

 

 ここまでは大丈夫か、そう確認したイズは再び言葉を続けていく

 

「変わっているとしたら、この弓に使用されている木材の色。それから、この弦ね。熟練した生産職なら、見ただけで違和感は覚えるかも知れない。でも、その程度よ。弓という武器は他の武器に比べて装飾や意匠が少ないから、特に判断がつきにくいわ。私だってもし街中で見た程度なら、『変わった弓ねー』くらいにしか思わないと思うわ。だから、街中で担いでいて何か思われるってことはないと思うわ。 ……でも、それは見た目だけの話」

 

 イズが熟達した生産職であるというのはメイプルからも聞いていた。そんな人間から、見た程度ではまずわからないし熟達者でも違和感程度。そう言われてホッとするが、まだイズには続きがあるようだ

 

「生産職にはね、専用の制作専用UIがあるの。といっても、オーダーメイドが受注できるレベルの熟達したプレイヤーにしか使えないけれど。生産装備のデザインを入力したり、装備の性能を調整したり、後は武器や防具をメンテナンスしたり、結構細かいことが色々できるものなの。簡単に言うと、装備の詳細をより細かく見れる、という感じかしら。……それで確認したら、本来ないはずのものがこの弓にあったの」

 

「本来ないはずのもの、ですか?」

 

「ええ。NWOの装備は基本的にそれ単一で完結するわ。例えば、私はゲームをNWOくらいしかしないからあまり知らないけど、クロム……ああ、メイプルちゃんに大盾について教えてる人なんだけど。その人から聞いた話だと別のゲームでは武器を強化して別の武器に、なんてことも出来るそうじゃない?」

 

 その言葉に対して頷きを返す。確かに、そういったことができるゲームを中学の時に姉とやったことがある。確か、大型モンスターを倒して、集めた素材で武器や防具を強化。そうすることで全く別の武器になったり、見た目が変わったりすることもあった。

 

「現時点でそういうのはNWOでは不可能のはずなのよ。正確には、公式が明言しているわけじゃないから言い切れないけれど、一切確認されていないから不可能と思われていた、が正しいわね。この武器にはね、インターフェース上で確認できるものがあるのよ。進化先、というものがね」

 

「この武器は、NWOにおいてあり得ないと思われていた形をとっている……?」

 

イズが頷く。

 

「話を戻すわね。本来、生産職の作るものでユニークシリーズを超えることは不可能だと言われているわ。でも、それを超えるために挑んだ誰かが居た。今までそれはただの伝説で、存在すらも怪しかったのだけど――この弓でそれが実在することの証明になったわ。性能はこの時点でユニークシリーズと遜色ないもの、それでいて強化先という私も知らない要素が入っている。 ……私達の間ではね、この存在すらしないと思われていた装備を、こう呼んでいたの。ミスティックウェポン、と」

 

 しかし、イズはそこで難しい顔をした。

 

「ただ、強化先が存在しているのは間違いないのだけどその素材、条件、必要な要素が一切不明なのよ。内容を確認しようとしても、【条件を満たしていません】って表示が出るだけで、他には何も書かれていない。……本当、生産職からしても底が知れないわ、これは」

 

 極めてその武器は異質だった。イズから見ても、前例のない武器。性能は現時点でも一級品、だがまだ先がある。彼女にとってもこれはとんでもない存在なのだ。だから、あることを決めた。

 

 

「リオちゃん、貴女はメイプルちゃんの知り合いだし、私としては色々してあげることができればいいなと思っているわ。……でも、それとは別で生産職としてのイズとして、お願い。いいえ、提案があるの」

 

「提案、ですか?」

 

「この武器の強化。それを私にやらせてほしいの」

 

 思ってもいない提案だ。この弓がどんな存在なのかはイズから話を聞い理解した。しかし、元々これは生産されたもの。話の中で強化が可能という内容があったが、リオ達は生産職の心得がない。

 

 そんな中での提案だ。イズの腕は間違いがなく、NWOでもトップクラス。しかもリオから見ればこの弓に向き合う姿勢が真摯で、とても信頼とも思った。

 

「願ってもないお話ですが、あの、私まだお金とか全然なくて……提示できるものなんて何も」

 

「この武器だけで十分よ。そうね、ついでだからポーションとかの消耗品、それから弓だとかなり使用頻度のある【ビン】なんかも特別価格で作っちゃうわ。品質はNWO内部でも最高レベルと思ってくれていいわ」

 

 それは極めてありがたいことだ。弓という武器は、放つ矢に対して状態異常の属性や他の攻撃属性を付与できる。しかし、リオの使用する魔力弓には制約としてそれが不可能になっているというものがある。

 

 だが今話題になってる弓は通常の弓と同じであり制約がない。よって、状態異常と属性の付与が可能である。更に言うなら、使用するのは通常の矢よりも大きな大矢。しかも性能上、その大矢を極めて速い速度で連射可能である。

 

 殲滅能力に優れた魔力弓、そして威力に優れた物理弓。遠距離からの極めて攻撃的かつ多彩な攻撃手段、それを持つのが今のリオである。しかし、問題がないわけでもない。それは、燃費の問題である。

 

 魔力弓の爆裂属性の魔力矢、大弓の通常射撃には【MP】の消費はない。しかし、スキルの使用においてはどちらの弓であっても【MP】の消費が発生する。流石のリオといえど、全ての攻撃を精密射撃でという訳には行かない。対多数などの場合、スキルを使用したりもする。

 

 スキルだけでなく、強化系バフについても同じだ。時限制のバフは、場合によっては頻繁にかけ直す必要もある。【MP】というのは魔法職で必要とされると考えられているが、【MP】の総量とはつまり相手や状況に対して切れる手段の総数である。特に弓においては、あらゆる状況を想定してバフを使用するため頻繁にスキルを使用する。よって、ポーションというのは魔法職ほどとまではいかなくともかなりの頻度で使用するのだ。

 

 弓独自の問題だけで言えば、矢に付与する攻撃属性や状態異常もまた消耗品である。弓は武器を右もしくは左装備枠に装備する。そして、残った側の枠に対して別の軽量武器、もしくは【ビン】と呼ばれる、弓に対して属性を付与するための消耗品を装備する。この消耗品の減る速度が極めて早い。物によって1本あたり凡そ何発に付与できるというのが決まっており、かつ弓の使用者にとっては必需品でもある。

 

 この必需品である【ビン】は、NPCも販売しているが生産職でも作ることが出来る。そして、生産職が作るものは基本的にNPCのものより性能がいい。加えて、生産職の作るものの品質によって1本あたりの使用可能数が増えたり、より強力な状態異常や属性を持つものを作る目ことも出来る。

 

 イズはNWOでもトップレベルの技術を持つ生産職である。そんな彼女の作るポーションとビンとなれば、それは最高の品質であると同時に極めて高い効果を発揮する。それを特別価格でとなれば、リオの消耗品問題はほぼ解決されたと言っていい。

 

 

「どうしてそこまで……?」

 

「そうね、いわばこれば生産職としての意地。それから、挑戦と夢のためかしらね」

 

 挑戦的な笑みをイズが見せた。それは、リオもまたよく知るものだ。

 

 武器を手にし、強敵を目の前にした時の高揚。いまだ踏破せぬ頂を目にした時の欲。

 

 それは、ゲーマーとしての性とも言えるそれととても良く似ていた。

 

「これは、未だ完成していない最強の武器のひとつへと至る器。誰も成し得ていない、頂への道標。――私は、成し遂げたい。この未完の器を、真のミスティックウェポンへと至らせたいの。伝説と言われ、存在まで不明確だった存在。それを前にして、挑まないなんて一流の鍛冶師じゃないわ」

 

 誰も成し得なかった偉業に挑む。そのための方法も、具体的な計画もない。だが、それでも尚挑むのだ。最初から不可能だと諦めていれば、頂への到達など不可能なのだ。それに、

 

「諦めは可能性を殺すわ。きっと、この武器を作った誰かもそんな無茶や無謀なんて関係ない。そう思ってこれを作ったんだと私は思うわ。なら、私はその未完の器を頂へと至らせることを諦めない。私が、これを作った誰かの意思を継ぐわ」

 

 覚悟の籠もった言葉だった。そこまで言われてのリオの返答は、決まっていた。

 

「……私も、もっと強くなってその頂を手にしてみたい。そう思います。よろしくお願いします、イズさん」

 

 こうして、リオは弓使いとして。イズは生産職としての挑戦が始まった。前人未到、誰も成し得ていない頂への道への挑戦が。

 

 

 



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射手の少女と第二回イベント開始

第二回イベント突入。
今回は後書きありです。


 第二回イベント当日。イベントの集合地点である広場では周囲を見れば、多彩な装備のプレイヤー達が目に留まった。

 

 そんな中でイベント開始を待つのは、いつもの三人。メイプル、サリー、リオである。

 

 イベント当日までの間、やるべきことは色々とあった。弓についてはイズが協力してくれることになった。しかし、すぐに進捗が現れるわけもなく。まずは目の前のことについて考えようということになり、次のイベントに向けての準備を取り掛かった。

 

 第二層には二人に獲得した装備を見せた日のうちに到達していたので、やるべきことはレベル上げと素材集めが主である。その中でもリオにとっては消耗品の制作に必要な必要となる素材集めが急務だった。

 

 第二回イベント。今回のイベントは探索型であり、現実時間では2時間。しかし、ゲーム内部時間では7日間開催される。よって、時間加速があるとはいえ仮想現実で7日間過ごさないといけない。今回のイベントは公式の告知内容では、メダルを集めるのが主目的であり、メダルは広大なフィールド内に隠されていたり落ちていたりする。また、イベントフィールド内部には特別にアイテムも少数配置されているらしく、是非探してみて欲しいとも書かれていた。

 

 そして、もうひとつイベントにおいて重要なことがある。今回のイベントでは対人戦が許可されている。基本的にNWOにおける対人戦は、お互いの承認による決闘システムによって行われ一般フィールドでのプレイヤーキルは禁止されている。だが、特例として許可されるケースが有る。それが、イベントでの許可、もしくは特殊フィールドによる許可があった場合だ。今回は専用のフィールドを使用しており、この全域では対人戦が許可されている。よって、公式からも告知は出ているのだが他のプレイヤーを倒してのメダルの奪取が可能なのだ。

 

 そうなるとリオにとっては必要なものが出てくる。大量のポーションと特殊強化薬である。常に魔力弓で戦うわけでもなく、純粋な火力制圧や隠密によるプレイヤーキル。つまり対人、対モンスター両方を想定しなければならないため余裕を見るならかなりの量の消耗品が必要である。リアルのスケジュールと素材集めの時間確保、それをなんとか調整し、時には姉や楓に頼んで協力してもらいなんとか余裕のある量を確保できたのだが、かなりのハードスケジュールでもあった。だが、制作されている消耗品はイズの作ったものである。その効果や性能はそれだけで戦況に関わってくるレベルのものでもあるのだが。

 

 

「遂にイベント開始、楽しみだね!」

 

「緊張してない?忘れ物とか大丈夫?」

 

「うん、大丈夫。 ……って、流石の私もそこまで抜けてないよー!」

 

 サリーにからかわれてメイプルは言葉を返す。イベント開始までの間、これから始まる冒険のことに対する期待を胸に三人で話をする。そんなことをしているうちにも参加者は広場にどんどん増えていき、気がつけば周囲は見渡す限りの人だらけになっていた。

 

「凄い人だね……第一回イベントの時もこんな感じだったの?メイプル」

 

「うーん……確かに第一回イベントの時も人は多かったけど、ここまでじゃなかったよ?」

 

「大規模イベントなのと、景品が豪華だからかな?後は……NWOのプレイヤーが急増してるってのもありそうだけど。この前、姉さんとテレビ見てたらバラエティー番組で特集してたし」

 

 リオの言葉に同意するようにしてサリーが首を縦に振り、『あー、それは確かにあると思う』と返す。NWOは現在人気が鰻登りのタイトルである。しかも、この先そう簡単にこのタイトルを超える作品は出ないだろうとまで言われているレベルである。大々的に広告に特集番組、芸能人がプレイしたり人気のある配信者がプレイしたりというのも人口増加の理由ではあるのだが、別にも理由がある。

 

 人口増加中のNWOのプレイヤー数が一時、右肩上がりではなく上に跳ね上がった時期があった。それは、第一回イベント直後である。確かに第一回イベントは数々の活躍を見せるプレイヤーが居た。圧倒的な実力と装備でダントツ一位だったペイン。目立った活躍こそなかったが、素早く的確に、まるで風のように相手を倒し、しかもそれを悟らせないほどの隠密プレイを見せたドレッド。大火力の魔法で一切のプレイヤーを寄せ付けず、凛とした立ち振舞で敵対するもの全てを焼き払ってみせたミィ。ランカーと呼ばれる中で主に観衆を沸かせたプレイヤーはこのプレイヤー達なのだが、もうひとりランカーでもなんでも無いプレイヤーで、恐らく最も話題になったプレイヤーが居る。

 

 

 そう、メイプルである。

 

 

 サリーは直接メイプルから聞き、そしてリオは後に姉からそれを聞いて、どちらの反応も一時的に頭が理解することを拒否するレベルで理解できなかった内容ではあるが、メイプルのやったことは異常の一言に尽きた。盾に触れるだけで相手が倒される、モーニングスターで頭を殴ってもダメージが通らないどころか弾き飛ばす、広範囲に対しての凶悪極まりない麻痺や毒の散布、その他諸々。とにかく当時の中継映像を見ていたプレイヤー達は唖然として言葉を失った。

 

 イベント後のインタビューもまた別の意味で話題になった。突然インタビューされ、慌てながらも恥ずかしそうに。しかも途中で噛んでしまい赤面を見せてしまうというワンシーンは多くの観客の心を掴んだ。

 

 そうしてその直後に起こったのが、プレイヤーの一時的な跳ね上がり。そして、極振りプレイヤーの増加である。

 

 メイプルはその防御力と動きの遅さ、大盾という武器から【VIT】極振りではないのかという推察が当時飛んだ。それはひとつのスレッドに留まらず一瞬で拡散され、本人は知らないがまとめサイトに掲載されたりもした。そして遂には一部の人気配信者が『最強無敵!ダメージゼロでぶっ壊れのビルドやってみた!』などという、新規で作成したキャラクターのステータスを【VIT】極振りにしてプレイするという動画まで出る始末。これら全ての要因が重なって、極振りユーザーが一気に増えた。

 

 メイプルを模倣しようとした【VIT】極振りユーザーだけではない。【STR】、【INT】、【DEX】、【AGI】。攻撃や戦闘に関わってくる各ステータスの極振りユーザーというのも増え、つまるところ『極振りすれば楽して最強になれる』と考えたのだ。全てがそうではないが、大半がそうであった。

 

 だが、そんなプレイヤーは基本大成しない。極振りというのはメリットも大きいがリスクも大きいのだ。しかも、VRMMOというゲームにおいてはデメリットが大きくなりがちである。結局、極振りに走ったプレイヤーの大半はキャラクタークリエイトをやり直し、テンプレと呼ばれるビルドに流れることになる。ここで引退者が殆ど出なかったのは、純粋にNWOが楽しいゲームであったということ、まだ序盤でキャラクターを作り直しても取り返しがつく段階であったことが大きかった。結果として、NWOは新規プレイヤーを確保できたのだから。

 

「うーん……それに、何か見られてる気がする」

 

「それは気の所為ではないと思うなぁ……メイプルは有名人だし。イベントにも入賞してるし、それでじゃないかな」

 

「そうなのかな?  ――あ、クロムさん!」

 

 ふと。メイプルが話していたリオの背後。そこに知る姿を見つけた。言葉を投げられた本人もすぐに気がついたようにして、人の良さそうな笑みを浮かべるとこちらへと歩いてくる。

 

「お久しぶりです、クロムさん!」

 

「おお、久しぶりだなメイプル。イベント準備で会えなかったが、元気そうで何より。 っと、そっちが噂の……あー、コホン。友達か?」

 

「「噂の?」」

 

「あ、いや!なんでもないんだ、ははは……」

 

 大慌てして訂正するクロム。それに対して訝しげにクロムを見るサリーとリオ。二人は情報サイトなどは見るが、掲示板までは見ていない。なので、今自分達が一部からはどう注目されているのかを知らないのだ。

 

「ああ、すまん。本当に気にしないでくれ。 俺はクロム、メイプルとはそうだな……成り行きで知り合った大盾仲間みたいなものだ。よろしく、二人共」

 

「うーん……何か気になりますけど……。サリーです、よろしくお願いします」

 

「リオです、よろしくお願いします」

 

「一応これでも大盾以外のことでも色々知ってるつもりだ、何かあれば遠慮なく聞いてくれ」

 

 

 

「おやおや、それはとてもいいことを聞きました」

 

 

 

 突然、声がした。それは近くからのものであり、この場にいる内二人は聞き覚えのある声だった。

 

 覚えのあった二人の反応はそれぞれ違う。リオは嬉しそうに、クロムは引きつった笑みでその人物を見ている。

 

「ウィルバート!?」

「ウィルバートさん!」

 

 ほぼ同時に言ったその言葉に対して彼は『こんにちは』とだけいつもの礼儀正しい態度で返すと、まずはクロムを見た。

 

「クロムさん、是非とも貴方には色々聞きたいことがあるんですが ――主に、私の相棒についての話など」

 

「あ、いや、あれはだな……たまたま話の流れでだな……」

 

「はぁ……できれば今後は気をつけてくださいね。でないと私、うっかり何処かのイベント中に手が滑って頭を射抜きそうになるので」

 

「いや本当お前に狙われるとか勘弁してくれ!?」

 

 楽しそうに悪ふざけをしているように見えた二人のそれは、中のいい知り合いだったのだろうか。そうリオに思わせた。どうやら一区切りついたようで、ウィルバートがこちらへと視線を向けた。

 

「こんにちは、リオさん。そちらのお二方ははじめましてですね。私はウィルバートと申します、よろしくお願いします」

 

 丁寧な口調に、雰囲気からも感じられる真面目そうで柔和な態度。メイプルとサリーも挨拶を返すが、サリーは内心であることを思っていた。

 

 

 ――『この人、相当強い』 

 

 

 ウィルバート。名前だけは妹から聞いていた。ゲーム開始時に知り合った弓使いであり、その道にとても精通しているということ。そして、先日イズに見て貰いとんでもないことが判明した弓の元々の所持者でもある。初めて会ったが、サリーとしては思わず気圧されそうになった。

 

 ゲーマーとしての直感と言うべきなのだろうか。ゲーム、特に対人戦も好んでやる自身としては、相手を見ればどの程度の脅威になるのかというのが大体分かる。このウィルバートというプレイヤーは、その中でも最高レベル。極めて警戒に値するレベルで強い、そう感じたのだ。

 

 しかし、恐らく自身と同じ感性を持つ妹はとても楽しそうに彼と会話している。警戒の対象ではなく、あれは信頼している態度だ。ならば悪い人間ではないし、いつかイベントで敵対した場合には最重要の警戒対象としよう。そう考えた。

 

「ウィルバートさんもイベントに参加されるんですか?」

 

「ああ、いえ。私は今回のイベントには参加しませんよ。リリィも今日は居ませんし、実はもう暫くしたらログアウトするところなんです。イベントに出ると話されていましたし、せめて応援にでもと思いまして。正直、今回参加できないのはとても残念なんですが、ライブ配信やピックアップ配信もされるらしいのでそれを見て楽しむことにします。頑張って下さい、よい結果になることを祈っています」

 

「ありがとうございます、色々とご指導頂けたウィルバートさんの期待にも応えられるよう頑張ります」

 

「ふふ、そんなに気負うこともありませんよ。気楽に、イベントを楽しむことを最優先にするのが一番です」

 

 その時だ。突然、広場の一角から歓声が上がった。

 

 周囲のプレイヤーもそこの視線を向けていたようで、釣られて全員が視線を向ける。

 

 そこには、ある集団が居た。

 

 ほぼ全員の装備が赤色基調で統一されたプレイヤー達。しかも、数十名居るであろうそのプレイヤー達は綺麗に並んでおり、ひとつひとつの動きも洗礼されている。まるで、軍隊のようだった。そして、その赤基調のプレイヤー達の装備。それもひと目見るだけで一級品とわかるものだった。

 

 何やら最前列でその集団に対して鼓舞するように演説するプレイヤーが存在し、それを見たウィルバートとクロムが反応を見せた。

 

「これは想像以上だなぁ」

 

「ええ。噂には聞いていましたがここまでの練度とは思いませんでした。結束力、連携能力、あの装備から見ても戦闘能力も高いでしょうしこれは厄介かもしれませんね」

 

 どういうことか、と。メイプル達三人は首を傾げる。それに気がついたクロムとウィルバートは、配慮が足りなかったかなと思いつつ言葉を続けた。

 

「あー、悪いなおいてけぼりで。あれは最近頭角を現してきてるグループなんだよ。グループ名は【炎帝ノ国】、第一回イベント4位だったミィっていうプレイヤーを筆頭に最近規模も大きくなっているグループだ。あのミィってプレイヤーのカリスマ性に魅入られたプレイヤー達がどんどん増えていっていて、しかも統率力や装備水準も高い。あれはイベント中に出会いたくないな」

 

「付け加えるなら、彼女のグループにも前回入賞者が数人居るという話です。……さて、ではここでリオさんに質問です」

 

 何やら悪戯をするように、楽しそうな笑みを浮かべたウィルバートはメイプル達三人へと問いかけた。

 

「イベント中、あのグループと鉢合わせする可能性はあります。もし、対人戦をしなければならないかもしれない場合、どうしますか?」

 

 考える。単純に戦う、逃げる。勝つ、負けるの話ではない。それが回答になるとも思えない、そうリオは判断して。

 

「……状況にもよりますけど、突発的な遭遇戦以外での場合は敵対のリスク。それがリターン以上なら相手にしません。イベント後半、6日目とかまでなら相手にせず撤退。6日目以降なら、状況次第。こんな感じになると思います」

 

「その回答はとても理にかなっています。そうです、遭遇戦以外だとどんな相手であろうともリターンが見込めなければ相手にする必要はありません」

 

「弓兵は最も状況が見える立ち位置に居る、だからこそ冷静で居なければならない。ですね?」

 

「ええ、そうです。 ――おっと、そろそろ時間ですね。私はそろそろ行きますが、大切なのは楽しむこと。健闘を祈っていますね」

 

「ありがとうございます、それではまた」

 

 ウィルバートがメイプル達にも軽く会釈すると、そのまま広場を離れていく。その後、クロムもまたパーティーメンバーと合流するということで言葉をかわした後去っていった。

 

「礼儀正しい人だね、ウィルバートさん」

 

「うん。NWOでの弓のお師匠様みたいな感じの人かな?」

 

「リオがそこまで言うとはねー……。ねぇリオ、もしあの人と戦うとしたら、勝てる?」

 

 不意に姉から言われた言葉。その言葉について脳内で思考するが、現時点での答えは明確だった。

 

「……今の時点だと、厳しい。いや、それは烏滸がましいかな。 勝てない、と思う」

 

 サリーは驚いた。妹の実力はよく知っている。ブランクがあるとはいえ、その実力は自分でも恐れるほどのものだ。

 

 まず距離を取られて優位を確保されればどうしようもない。そう思うほどの妹から、明確に『勝てない』という言葉が出たのだ。

 

「多分だけど、ウィルバートさんは私より経験が豊富だし知識も上。それでいて、実力を隠してる。知ってる情報から推察するだけでも一対一なら、今の時点では手が遅くて私が負ける。多数戦なら……間違いなくリリィさんが居ることを考慮しないと駄目だから、更に厳しい。むしろ私としては、できればウィルバートさんやリリィさんと戦うような状況にはなりたくないかな。実力だけじゃなく、手札も隠してる。 ……まずはもっと強くなって、あの人に至るのが私の目標だよ」

 

 リリィという人物についてサリーは知らない。だが、妹のその人物について話す時の様子は実力を信用しているようだった。

 

「でも」

 

「でも?」

 

「きっともし戦うなら、姉さんやメイプルと一緒の時だよ。その時は、負けないよ。だって  ――大好きな姉さんと、大切な親友が一緒なんだから」

 

 言ってくれる。それに、妹がそこまで強敵として認めている相手とは、いつかその時がもし来れば全力で戦ってみたいとも思った。

 

 だが、まずは目前のイベントだ。気がつけば、ドラぞうと呼ばれるマスコットキャラクターがイベントの説明を終えており、転送のカウントダウンが始まっていた。

 

「イベント、楽しもうね。リオ、メイプル」

 

「うん!」

 

「勿論!」

 

 期待を込めて返されたその言葉と同時。転送が開始された。

 

 




 ちょっとメタな話+今後について少し触れているので観覧注意。

 ということで第二回イベント開始です。ここからちょっとだけ長い、前話でも書いてましたが多分8万字くらい。書き上がってはいるので、ちまちまと投下していきます。

 ただ、作者のリアル事情につき凡そ隔日での投稿が途中厳しくなる可能性はあります。もし投稿頻度が下がったら、作者が忙しくなったのだなとでも思っていただければ幸いです。

 


 さて、今回はちょっとした作中のキャラクターパワーについてのお話。簡単に言うと、ぶっ壊れキャラだとかそうでないとか、どれぐらいの性能を持つのかというものになります。

 一応、拙作で現時点で明確に強化が入っていると言えるのはウィルバートとリリィの二人。特に、ウィルバートの弓でのスタイルについてはかなり強化しています。そして、主人公でもあるリオですが、彼女については明確なぶっ壊れレベル(メイプルレベル)での強化は行わないつもりで居ます。

 というのも、彼女はサリーの妹。プレイヤースキルについても、ほぼ彼女と同等のものと設定しています。得手不得手、ゲーム内ステータス差などはありますが、それでもリオにメイプルレベルのぶっ壊れを与えてしまうと、高PS+ぶっ壊れスキルということになりかねません。

 よって、作者の予定としてはメイプルレベルではないが強いスキルは獲得しますが、それでも単純にそういった強スキルの押しつけや武器の押しつけだけでは作中のサリーやウィルバートには簡単に匹敵できず、PSを含めないと届かないくらいのバランスとする予定です。

 長々と書きましたが、要するにバトルスタイルはサリーと同じです。基本的にPSで回避や戦闘を行ってチャンスを見つけてスキルを叩き込む。リオの場合、それがサリーと違って後衛になってるというイメージになります。

 さて、これくらいにしまして。
 次回から暫く、三人の第二回イベントでの冒険が始まります。

 感想などもらえると作者がとても喜びます。それでは、また次回お会いしましょう。


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射手の少女とエリア探索

 

「うわぁ……」

 

「すごい……綺麗……」

 

「これ、見える所全部行けるんだよね……」

 

 イベントが開始され、三人が転送されたのは開けた平原の訓中だった。

 

 周囲を見渡せば、空には重力の影響を受けずに浮遊する幾つもの島々。遠くには雪の積もったとても高い山、幾つもの山が連なる山岳地帯、木々が生い茂る森が見えた。空を見上げれば、遥か高く。浮遊する島々の周囲を竜が優雅に飛んでいる光景も見えた。

 

 そこは、大自然とモンスター達の理想郷。どこまでも続くように思える、広大な自然世界だった。

 

 暫く歩いてみたが、のどかなものでプレイヤー一人にも出くわさない。それどころか、時々小動物や、見たことのないかわいい生き物を見るくらいで敵対モンスターにも出会わない。このままピクニックと洒落込むのもいいだろう。だが、世界を楽しむことも大切だが自分達には主目的がある。メダルの捜索である。

 

「確か、配置されているメダルの総量は増やされてたんだったよね」

 

「え?そうなの?」

 

「メイプル……ちゃんと確認した?って私昨日聞いたよー?」

 

「えへへ、一応告知ページには目を通したんだけど……見落としてみたい」

 

「これはいつもの楽しみすぎて、流し読みしたやつですなー?中学の時の修学旅行の時とかもそうだったもんねー?」

 

「あ、あの時のことは恥ずかしいから言わないで!ごめんってサリー!」

 

「あはは、ちょっとからかっただけだよ。リオは確認してるよね?」

 

 頷き。そして、『ちゃんと確認したよ姉さん』と言葉を返した。

 

「NWOのプレイヤー急増により、第二回イベントは想定以上の参加者が見込まれるため、それにあわせて配置されるメダルを300枚から500枚に変更するって告知だよね。それに伴って、フィールドをさらに広大化させて、フィールドギミックとかも増やした、とも書かれてたね。 ……あ、でも少数だけ配置する詳細非公開の特殊アイテムについては変更なしだったね」

 

 NWOのプレイヤーは急増している。それも、極めて速い速度でだ。運営としては、サーバーの拡張や負荷対策、サポートの充実や初心者向けの解説コンテンツなどの制作に追われある意味では嬉しい悲鳴をあげている。イベントについても参加者急増に伴って仕様の変更が数日前に告知されたのだ。

 

 第一回イベントは色々な意味で盛況に終わった。波に乗っている今、第二回イベントも大いに盛り上げようという運営の考えなのだ。

 

「うーん……じゃあイベントの目標、どうしよっか?」

 

「確か銀のメダル10枚で金のメダル1枚相当だったよね?じゃあ、三人分で30枚なんてどうかな! ……ちょっと厳しいかな?」

 

 イベントで獲得できるメダルは、終了後に装備やスキルと交換できる。途中でリタイアした場合は、所持していたメダルとアイテムは破棄されるというのが今回の仕様だ。そして30枚というのは総数500枚の内だと結構な数字である。少なくとも今回のイベント参加者は第一回イベントと比べてかなり多い。そんな中でこの広大なフィールドを探索し、30枚を集めるというのは中々にハードである。

 

 しかし、そんなことは関係ないのだ。

 

「いいんじゃない?目標は大きいほうがいいしね」

 

「うん、そうだね。そっちのほうが面白い」

 

 サリーとリオが面白そうだ、と同意する。そう、やってみなければわからないし、それをやるのもまた楽しいのだ。

 

「よし、目標は銀のメダル30枚!さて……目標は決まったけど、どこに向かう?」

 

 目標は決まった。ならば次は、目指す目的地である。現在位置である草原からは様々な場所を確認できる。森に進むのもいいし、山岳地帯を目指すのもいい。雪山を目指してみるのもいいし、何なら空に浮かぶ浮遊大陸に行く手段を探してみてもいい。

 

 三人は『うーん……』と、考え込むと、暫くして反応を見せたのはメイプルだった。

 

「私、あの雪山に行ってみたいな!ほら、私達都内住みで、雪なんてもう何年も見てないし……。多分私最後に見たのは小学生の頃に家族で北海道に旅行に行った時」

 

「雪かぁ……確かに、私も長いこと積もった雪なんて見てないかな。私達は最後に見たのいつだっけ?確か石川の叔父さんの所行った時にスキー行ったきりだよね?」

 

「あー……多分それ3年前だよ姉さん。雪だるま作ったり、かまくら作ったり。私と姉さんがムキになって、叔父さんところのお兄さんと雪合戦して遊んでもらったり。楽しかったな。雪、そうだね……久しぶりに見てみたいかな」

 

 思わずそれぞれが最後に降り積もる雪を見たときのことを思い出す。三人は全員が都内在住であり、基本的に都外へ行くことはあまりない。そんな環境下ということもあって、雪というのはとても珍しいのだ。

 

「私はメイプルの意見に賛成。リオは?」

 

「私も。あ、でもメイプルが雪にシロップでも掛けて食べないか少し心配かも」

 

「そんなことしないしシロップ持ってきてないよー!」

 

 あはは、と笑う。ひとまず目的地も決まった。まずは雪の積もる山を目指して歩こう、そう決めて三人は歩き出した。

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

 

 風斬りの音がする。

 

 放たれ、飛翔するのは蒼の光の矢。連続で三度放たれたそれは、目標に対してただひとつの目的だけを持って飛翔する。

 

 それは、純粋な殺意の塊だ。

 

 メイプル達三人は雪山の方向へと進み、暫くすると草むらが生い茂る平原へと地平に変化した。そこで現れたのは、3匹の大きなカラスと、数匹のゴブリンだ。

 

 すぐさま三人は武器を構えてそれを迎撃したのだが、ゴブリンの一匹が角笛を持っていた。それは、周囲の仲間を引き寄せるものであり、どんどんモンスターが沸いてくるという状態になっていた。

 

 だが、ゴブリンとカラス程度では三人を止めることは不可能である。空を飛び回るカラスはメイプルとサリーの後方に居るリオの放つ魔力矢によって頭部を射抜かれ、固まっていれば魔力矢の特性である『爆裂』によって一網打尽にされる。ゴブリンも中には棍棒だけではなく古めかしい剣や盾で武装していたものも居たが、奇襲をかけようとしていた短剣ゴブリンはサリーによって全滅させられ、前衛だというように構えていた大盾ゴブリン達はメイプルの【毒竜】によって倒されてしまう。

 

「何か変じゃない?」

 

「うん、それは思った」

 

「え?何々?どういうこと?あっ、また来た!【毒竜】!」

 

 違和感を感じたのは、サリーとリオだ。メイプルもどうかしたのかというように、襲ってくるゴブリンとカラスを迎撃しつつ二人を見る。

 

「地形が変化したからといっても流石にモンスターが湧きすぎじゃない?あの角笛を吹かれてからここまで絶え間なしだよ?」

 

「それに、さっきから同じ方向からしかモンスターが沸いてこない。……もしかして」

 

 リオが突然、狙う目標を変えた。それと同時、現れた瞬間撃ち落とされていた大量のカラスがノーマークになり、三人へと襲いかかろうとする。

 

「ごめん姉さん、あの鳥お願いしてもいい?」

 

「はい任されたっと ――【ウィンドカッター】、【ファイアボール】!」

 

 上空のカラスに対してはサリーが魔法攻撃で牽制を、地上のゴブリンはメイプルが【毒竜】と、それによって発生した毒沼によって処理していく。そして、リオが狙うのは自分達の背よりも高い雑草の合間。モンスター達が固まって現れる場所だ。

 

 狙うのはモンスターではない。特定の場所だ。故に、致命を取る必要もない。必要なのは、魔力矢の特性である爆裂による狭範囲の薙ぎ払いだ。

 

「"あいました!" ――なんてね」

 

 放たれた矢は空を駆け、ただ目的の場所へと飛来する。

 

 そして狙った場所、草木の先へと着弾すると、青白い光を伴って爆発した。

 

 すると、変化が現れた。突然襲いかかってきていたモンスター達が何かに転送されるようにして消えたのである。突然のことに驚くメイプルとサリーだったが、すぐに爆発地点へと近づいて確認すると、そこには

 

 

「これは、遺跡の柱?」

 

「地面に書かれているのは魔法陣だね、多分これで無限に仲間を呼び出してたんだよ」

 

「うわえっぐ……無限湧きギミックをこんな平原に設置するなんて運営いい性格してるなぁ……」

 

 リオとサリーが言葉をかわしていると、遅れてメイプルが合流してきた。

 

 倒しても倒しても湧き続けるモンスター、それに対してリオとサリーは疑問を持った。全く同じ方向から現れて襲ってくるモンスター、それらは特定の方向へ進行するのを阻むように立ちふさがっており、その背後には背の高い雑草。加えて、突然エリアの環境が変わったといえ、落ち着いて見渡してみると草木が生い茂っているのは自分達のいる場所だけ。明らかにおかしかったのだ。

 

 だからリオは、その守るようにしていた草木の中に攻撃を打ち込んだのだ。何かあるだろう、そう見込んで。それは正しかった。隠されていたのは、地面に描かれた魔法陣と、その真ん中に置かれた幾何学的な模様をした石柱だった。それを破壊すると、今まで現れていたモンスターは嘘のように消えてしまった。

 

「でもリオ、さっきのあれって……もしかして前に勧めた小説と、そのアニメの真似?」

 

「一度やってみたかったんだよね。後、『拍手』って言葉の代わりに何かリアクションしてくれるペットとか欲しくなるよね」

 

「……いや、多分他のプレイヤーがリオの戦闘風景見たら普通に『ズドン巫女』ならぬ『ズドン射手』とか言われそう」

 

「え?何か言った?姉さん」

 

「なんでもないよ、うん ……あれ?ねぇ、あれ見て」

 

 今後の妹に対しての外部からの評価についてサリーは考える。実際、彼女の予想は的中することになるのだが今それを知る由も無い。ふと、サリーが近くを見れば、薙ぎ払われた地面の一部に地下へと続く階段があった。

 

「地下への階段、だね。どうする、行く?」

 

「勿論。あー……でも私、洞窟とか狭い場所では完全に無能になるから後は任せた……」

 

 そう、プレイヤースキルだけで精密射撃を行い当たり前のように致命を取るリオだが最大の弱点がある。それはある意味遠距離職の性でもあるのだが狭い場所では殆ど何も出来ないということだ。

 

 本来のリオの立ち位置は、基本的にメイプル達より後ろ。その場所から状況を見定めたり、二人が動きやすいように狙撃や制圧射撃を行うのが基本だ。状況によって立ち位置を変えるし、戦闘中は動き回ることもある。狭い場所だとそれら全てが困難になりがちなのだ。

 

 加えて、今回のイベントでNWO運営が設定したルールでは、フレンドリーファイア。味方への攻撃が有効である。

 

 リオはサリーと同様に本気モードと本人が呼ぶものを持っている。極度の集中状態に"意図的に"入るというものであり、この状態のリオはサリーをもってして『こっちも同じ状態で接近しないと無理ゲー』と言うほどである。その状態であれば、例えば狭い場所でも前にいるメイプルやサリーの手や足の隙間、頭の横に射撃を通して対象を狙い撃つとう芸当は可能である。

 

 しかし、この本気モードにはデメリットが有る。というのも、とにかく疲れるのだ。平常時の集中力ではなく、自分の持つ最大限度の集中力を持続させるため疲労感が尋常ではない。よって、そう何度も使える訳でもないし、ずっと持続できるものでもない。リオとサリー両者としても、『疲れるからできればやりたくない』という程だ。

 

 加えて、狭い場所での隙間を通すような射撃についても問題がある。というのも、メイプルやサリーから前に一度やって苦情が出たのだ。実力は信頼してるがそれでもやっぱり突然自分の横を矢が横切るのはとても心臓に悪いので出来るだけやめてほしい。そう言われてしまった。

 

 よって、狭い場所では基本的にリオは殆ど何も出来ない。【AGI】にポイントを割り振ってもいないので、姉のような軽量武器を持つことも出来ない。むしろ、リオは近接武器の扱いを極端に苦手としており、持ったとしても戦力外レベルで扱えない。なので、基本的にこうなってしまうとメイプルやサリーに頼るしか無いのだ。

 

「じゃあ一番前は私が行くね!一番硬いし!」

 

 念の為に、とメイプルが盾を【白雪】と呼ぶ大盾から【闇夜ノ写】へと変更する。実はメイプルは今回のイベントでは、直前のメンテナンスによって弱体化を受けていた。それは、【悪食】の弱体化である。

 

 第一回イベントでその猛威を奮った悪食だが、流石に暴れすぎたのだ。触れただけで何でもかんでも問答無用で吸収されてしまうことが余りにも強力過ぎて一方的になりすぎたため、運営の判断で修正され、1日10回までの回数制限が設けられた。更に、どんな些細な攻撃であってもスキルを付与した武器に触ると問答無用で発動するという内容も追加された。

 

 なので、【悪食】をいざという時の手段とするためにメイプルはイズに大盾の作成を依頼した。それが、真っ白な色をした大盾、【白雪】である。ステータスの割り振りは全てが【VIT】極振り、性能も一級品である。基本的にメイプルはイベント中はこちらを装備して、いざという時だけ装備を変えている。

 

「じゃあ私、後ろ見ておくね。姉さん、明かりは持ってる?」

 

「明かり?あっ……ないかも」

 

「はい、じゃあこれ。私は後ろ見ておくから、メイプルが進みやすいように照らしてあげて」

 

「ランタン?おお、助かるなー。こういう細かいところで必要になりそうなもの、今回持ってこなかったからなぁ……今度から持ってこよう」

 

 姉に手持ちにランタンを渡すと、そのままメイプルを先頭にして進んでいく。暫く階段を降りて、地続きの道を進む。ここまでモンスターの襲撃はなく、だが警戒を怠らない。

 

 そうして更に進むと、開けた場所に出た。その最奥には古めかしい宝箱が一つ。警戒しつつ近づいてみたが特に何も起こらない。もしかしたら転送罠かもしれないと身構えつつ、メイプルが箱を開けた。

 

 

 ……結局の所、罠は無かった。

 

「メダルが一枚、だね」

 

「あー緊張したぁ……昔リオと死にゲーよくやってたから、悪質な罠でもあるのかと心配したよ」

 

「私も絶対なにかあると思ってたけど……まあ、何もなくてよかったということで」

 

 箱の中にはメダルが一枚。どうやら、メインのギミックは最初の無限湧きだけだったようだ。もうひとつ入り口の階段を隠すギミックが実はあったのだが、リオが射撃した時に爆裂によって地面が抉られ、そのギミックが破壊されてしまっているのだがそれはまた別である。

 

「とりあえずこれで一枚だね! あ、見て二人共。あそこに転送陣が出てるよ」

 

 見れば、緑色の転送陣が出現していた。転送先を確認すれば、どうやら平原を超えた先の森林地帯の入り口あたりのようだ。

 

「とりあえず一枚!行き先は雪山の方角みたいだし、このままこれで移動でもいい?」

 

 『意義なーし』と、サリーとリオから返答が返ってくる。

 

 まずは第一歩目のメダル。それを手に入れて、三人は改めて雪山を目指すことにした。

 

 





 リオは【楓の木】のズドン担当

 ということでイベント序盤です。リオがノリでやったのは、あるライトノベル(鈍器)の同じ弓使いから。某氏の作品は作者自身大好物です。

 将来的に【楓の木】の後方支援兼ズドン担当になるので、そのうち他のプレイヤーから『か、【楓の木】のズドン射手だ!逃げろ!』などと言われるようになる。


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射手の少女とホラーエリア

「これは困ったね」

 

「あはは……ど、どうしよう?」

 

 転送陣を使用した先は鬱蒼とした森の入口の前だった。だが、視線を上げて遠くを見れば目的地としている雪山がそびえ立つのを確認でき、少なくともこの森を抜けなければならないということがわかる。

 

 森に入って暫く。トラブルが発生した。その結果が、現在リオの背中にしがみつき隠れるようにしながら涙目になっているサリーである。

 

「姉さん、いい加減離してくれないと動きづらいんだけど……」

 

「だ、だって……どうやってもこういう雰囲気苦手でぇ……」

 

「……よく考えたら、VRなら大丈夫じゃない?と思ったけど、リアルにより近くてしかも直接的に見なきゃ駄目なVRだとリアルのホラー映画とかより余計に駄目だよね」

 

 天性の才能にNWOでも最高レベルの実力。そんなサリーだが最大の弱点がある。それは、ホラーやお化けのたぐいが極端に苦手であるということである。

 

 妹のリオは別で苦手なものはあるもののサリーほどのことはないのだが、とにかくサリーのホラー系に対する苦手意識は常軌を逸している。こうなってしまうと最早いつものサリーの実力は一切発揮できない。声は震えており、涙目。それでいてメイプルかリオの後ろにくっついて服の裾を握りしめたまま絶対に離れないという状態である。

 

「でも姉さん、お化けは駄目なのになんでケイロンは大丈夫なの?あの子、一応霊だよ?」

 

「ホラーと神秘的な生き物は別枠だよ……そ、そうだケイロン!ケイロンに乗せて!あの子の近くなら安心!ほら、神獣だし!?」

 

「とても言いにくいんだけど、今回のイベントではケイロン呼べないみたいなんだよね。多分制限のかかる特殊フィールド扱い」

 

 サリーの中では神聖な生き物とホラーは別枠である。ケイロンのようなフレーバーテキスト内部で『霊馬』と称されるものは問題がないようで、しかもその見た目からはホラーっぽさが微塵も感じられない。そして彼女の中では、そんな神聖な生き物でかつ自分やメイプルに友好的、しかも攻撃までしてくれるケイロンに乗っていれば安心なのではと思ったが、それは打ち砕かれてしまった。

 

 そうして淡くも期待が打ち砕かれた瞬間、近くからボッという発火音が聞こえた。突然の音に警戒しながらもその方向を見れば、そこには青色の炎の球。俗に言う人魂が数個現れており、こちらにゆらゆらと近づいてきているのだ。

 

「こ、ここはゲーム……ここはゲーム、ここはゲーム……っ!よ、よし大丈夫!」

 

「いや大丈夫じゃないからねそれ」

 

「もうやだぁ……おうち帰るぅ……リオぉ……おうち……」

 

「駄目だこの姉さん早くなんとかしないと」

 

 人魂は敵対モンスターでは無いようで、ゆらゆらと浮かんでいるだけである。

 

 こんな状態のサリーに対して、メイプルはといえば。

 

「わあすごい!赤、緑、蒼、紫。色んな色があるんだね!あっ、向こうでは円を描くみたいな配置で回ってる!踊ってるみたいだね!」

 

 大絶賛このホラーエリアを楽しんでいた。しかも、何やらリオがどうするか悩んでいるうちに複数の色の人魂と戯れるようにくるくる回っており、それがギミックだったようでメダルを一枚回収する始末である。これでメダルは2枚、残り28枚である。

 

 しかしリオとしては現時点だけではメダルより姉についてどうするかである。ゲーム内部時間は初日の夜に入ろうとしており、ホラーに対して一切の耐性がない姉はこのままではろくに戦えないどころか動けない。

 

「リオー、ちょっとこって来てー」

 

「ん?どうしたのメイプル?」

 

 最後の手段だが、姉をおぶってでも引き返すべきか。戦闘についてはメイプルに任せてしまうが仕方ない、そう考えていると突然メイプルから呼ぶ声があった。

 

 どうかしたのか、そう思いながら姉にコートの裾を握られたまま二人でメイプルの場所まで行くと、そこには

 

 

「ボロボロだけど、小屋があったよ!とりあえず、今日の探索はここまでにしてここで休むのなんてどうかな?」

 

「ナイスメイプル! ……ほら姉さん、もうちょっとだから歩いて。小屋で今日は休んで ――ッ!」

 

 突然、小屋に向かおうとしたリオが足を止めた。

 

「リ、リオぉ……?」

 

「ごめん、なんでもない。 ……もうちょっとだから、頑張って姉さん」

 

 再び小屋の前でこちらに手をふるメイプルの元へと向かうリオ。

 

 この時、サリーはいつもの状態ではなかった。だからこそ、気が付かなかったのだ。

 

 リオの目が、何かを警戒するようにしていたこと。

 その目が、矢を撃つ時の、とても冷たい目だったということ。 

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

「……おい、一人出ていったぞ」

 

「戻ってこられると不味いし、別働隊に倒してもらうか?」

 

「ああ、そうしよう。厄介なのはメイプルだけだ、他はどうとでもなるだろ」

 

 その一団は、愚かだった。

 

 総勢10名で構成されたそのプレイヤー達は、全てが最近NWOをプレイし始めた者達だ。

 

 ゲームを始め、運良くそれなりにいい装備を手に入れ。第一層に居る初期装備のプレイヤー達や新規プレイヤーを見ながら、自分達は流れに乗って強くなっていると思っていたプレイヤー達なのだ。

 

 それなりに情報収集も行った。いくら調子がいいとはいえ、ろくに情報がないままだと不味いと考えたからだ。だから、ネット上にまとめられている情報、話題になっている話、それだけを調べた。

 

 10人居たメンバーを2つの部隊に分けた。片方になにかあった場合、連絡して報告やフォローをするためだ。そうして、リーダー格の男がいる部隊。それがたまたま、メイプル達を見つけた。

 

 最初は何か声が聞こえた程度のものだった。身を隠し、機を伺った。一人の様子がおかしく、どうにも本調子でないように見えたのだ。様子を見ていると、古い小屋に向かっていくのが見えた。これはチャンスだろう。早まったメンバーの短剣使いが、武器を抜いてしまった。

 

 オーダーメイドとまでは行かないが、刀身が美しく輝き、切れ味もいい武器だった。だが、そこでリーダー格の男が言った。わざわざ小屋に入ってくれるのだから、中に入った所を叩こうと。

 

 狭い小屋の中で数の暴力によって押せばメイプルだろうとなんとでもなる。そう言った男の言葉に異論を唱えるものは居なかった。そのほうが確実だろうと思ったからだ。

 

 だが、ここである出来事が発生する。三人居たうちの一人。それが突然、小屋の外に出たのだ。隠れ、様子をうかがった。聞き耳を立てれば、出てきたプレイヤーが部屋の中に対して『ちょっと周りを見てくるね』と言っているのが聞こえた。ある意味好都合だ。プレイヤー達はそう思った。

 

 出ていった一人はメイプルではない。ならば、たいしたプレイヤーではないだろう。もうひとつの部隊に連絡して、倒してもらえばいい。自分達はメイプルと、調子が悪そうだったもうひとりだ。調子が悪かった方もランカーではない、ならメイプルだけ押し切ってしまえばいい。

 

 これで金のメダル。あわよくば銀のメダルも手に入るだろう。

 

 

 そう思い、思わず笑みがこぼれてしまった。

 自分達がどれだけ愚かだったのかもわからないままに。

 

 

「……よし。おい、そろそろ行くぞ」

 

「へへっ、待ってました」

 

「今頃出ていった一人を他の奴らが始末してる頃だろ。こっちもやりますか」

 

 やはり自分達は勢いに乗っている。このまま金のメダルを手に入れて、メダルを集め続け。そうして強い装備に強いスキルを手に入れてランカー入りするのだ。そう思い、全員が草むらから立ち上がった瞬間だ。

 

 後ろに居た魔法使いと短剣使い。その二人が突然、しかもほぼ同時に倒れたのだ。

 

「おい!どうし―― なっ!?」

 

 慌てて見れば、その二人はポリゴンになって消える瞬間だった。そうして、二人にあった共通点。それは、二人共頭が無かったということだ。

 

 部位欠損。確かに、NWOにはそんなシステムがある。威力の高い、切断力があるなどの条件で攻撃によって身体のいずれかの部位にヒットした場合かつ、クリティカル。致命判定だった場合、その部位を欠損状態にするというものだ。これは、体力を戻せば欠損状態も回復するが今回は訳が違った。

 

 一切の反応ができないというレベル。まさに刹那の時間での部位欠損によるプレイヤーキルだ。

 

「一体どこから!?」

 

「く、くそ!」

 

 慌てた前衛の大剣装備と槍装備が明かりをつけ、周囲を見渡して敵を探そうとする。

 

「馬鹿っ、よせ!明かりなんてつけたらいい的に」

 

 手遅れだった。リーダー格の片手剣使い。その目の前で次の瞬間起こったのは、矢。それも、大型の大矢によって頭部を部位欠損扱いで消し飛ばされ、先程と同じようにポリゴンになっていく仲間達だった。

 

「不味い、このままじゃメダルがっ」

 

 瞬間、暗闇から矢が飛来した。

 

 それはリーダー格の男の頭を同じように飛ばし、その場にメダルを三枚落とした。

 

 

 

「――これはラッキーかな?」 

 

 

 ストン、と。暗闇の中、上空から降り立つものがあった。

 夜の闇にも似た青黒いコート。そして、一切目が笑っていないリオだ。

 

 リオは落ちているメダルを回収すると、まるで呟くように言う。

 

「貴方達は姉さんとメイプルの敵だった。ただ、それだけの事」

 

 リオは気がついていた。複数名のプレイヤーが、弱っているサリーと小屋に入っていくメイプル。そして、自分を狙おうとしているだろうということ。嫌な予感がした、というのもあったがそれを決定づけたのは相手のミス。ナイフが反射する光が見えたことだ。

 

 だからリオは敵対者達を釣った。意図的に外に出て、暗闇に紛れるようにして。別働隊がいるかも知れないということも可能性として頭に入れて。

 

 もし自分が小屋から離れて、誰も仕掛けてこなければそのまま背後から小屋を狙った集団を殲滅。もし別働隊が居るのなら、連絡を取らせないようにして殲滅。

 

 どちらにしても、彼女は誰ひとりとして逃がすつもりはなかった。

 姉と親友を狙った。それだけで理由としては十分だった。

 

 別働隊から小屋の方の部隊に連絡をさせないため、別働隊に自分を見つけさせた後、暗く、夜になったことで真っ暗闇とホラー系モンスターの巣窟になった環境を利用して高所に移動し見失わせる。相手の練度は高くなかった。慌てて見失ったと叫びながらその場で立ち往生していたため、全員の最も反応しにくい場所。視界の死角から頭を狙い撃ちして全滅させた。

 

 部位欠損攻撃はクリティカルでなければ発生しない。しかし、NWOにおいて人型の相手であれば確実にそれが発生する場所が何箇所か存在する。それが、頭。そして軽装甲の場合に限るが、喉と心臓だ。

 

 プレイヤーは防具をつけている。その種別によって防御力の高さも変わってくるのだが、リオの装備ではそれがあまり関係ない。相手が相当性能の良い防具。それこそイズの作るものレベルのプレート防具か、ユニークシリーズのプレート装備でもつけていない限り、物理に特化した弓。『天狼弓「試作」』の標準矢である大矢で抜くことが出来る。今回、意図的にリオが頭を狙ったのには理由がある。それは、致命倍率の高さ。そして、相手に連絡を取らせないということを考えたためだ。

 

 胴を抜けば、最悪生き残って連絡を取られる可能性もある。なら、狙うなら喉か頭だ。高所からの高威力狙撃。それで最も狙いやすく、一撃で相手を倒せ、一切行動を許さない。そう考えた場合、頭を狙うのが最も良かった。相手は5名、こちらを見失って明かりをつけながら探していたため、狙うのは簡単だった。

 

 そうして一切の連絡を許さず、別働隊を全滅。そして同じ方法で全く警戒していなかった小屋の近くの残りも全滅させたのだ。

 

「……それで。貴方も私の敵ですか? さっきから見てる人」

 

 メダルをアイテムインベントリに仕舞うと、リオは警戒を解かないまま暗闇に対してそう言った。

 

 本来なら言葉が返ってくるわけもない。だが、今回は訳が違った。

 

「はぁ……マジかよ。いつから気がついてた?」

 

「最初から。具体的に言うなら、私が森の奥で別働隊を全滅させてる途中、あなたがこちらを見ていた時からでしょうか」

 

「なるほどなあ。おー怖……。 おい無言で弓構えるのは辞めろ、しかもお前俺の位置見えてないか?」

 

「……?場所ならわかってますよ?高位のハイドスキルで姿消してみるたいですけど、私の今の立ち位置に仕掛けられる場所なんて検討はついていますので」

 

「藪蛇かと思ったらとんでもない龍が出てきたなぁこれは ――こっちには敵対する気は今の所ねぇよ。ほら、これでいいだろ」

 

 リオの目前、数メートル先。木の上から何かが降りるような音がした。それと同時、透明になっていたスキルが解除され、一人のプレイヤーが現れる。

 

 緑色のバンダナに全身を覆うような緑色のマント。その人物は、ため息とともに両手を上に上げてみせた。

 

「相手全員の頭を一撃で部位欠損、しかも上手く弓の音まで消してるときた。環境利用も大したもんだな」

 

「……お褒めに預かり光栄です。それで、敵じゃないということはご用件は? むしろ、貴方は誰ですか? あなたこそ、只者じゃないですよね。"なんで私が弓を構える前に自分の居場所を狙うとわかったんですか?"」

 

「ほぉ。随分鋭いな……末恐ろしいわ。別に、ただの直感だよ。木の上からそっちを見てたらとてつもなく嫌な予感がした、ただそれだけだ」

 

 思わずリオは冷や汗が流れるように感じた。

 

 ただ直感だけで自分の動作の前に行動が予測できた。方向性は違うが、それと似たものを自分は知っている。

 

 姉の、サリーのプレイヤースキル。それと似ていた。

 

 姉は自分の経験と戦術眼に基づいての理論的な立ち回りだ。対して、この人物は別方向。第六感、シックスセンスとでも言うべきなのか。それによって危険を判別しているということになる。

 

 間違いなく強敵。ここで戦闘になって、親友や姉に感づかれるのは避けたかった。どうする。そう考えていると

 

 

「俺はドレッド。知り合いとパーティーを組んでてな、ちょっと遠くまで偵察に行ってみたらたまたまそちらさんの戦闘に遭遇したってだけだ。別に覚えても覚えなくてもどっちでもいい」

 

「……リオです」

 

「これはどうも。ま、別に敵対する気もねぇし、俺はこれで立ち去ることにするわ。 ……中々凄いもの見せて貰った礼だ。森を抜けた先に、霧の出る川辺がある。そこには行かないほうがいいぜ。中々性格が悪いものがあるからな」

 

「それ、素直に信じるとでも?」

 

「好きにしろ。言っただろ、礼だって。 それじゃ、せいぜい敵対しないことを祈ってるぜ」

 

 それだけ言うと、ドレッドと名乗ったプレイヤーは再びハイドスキルを使用すると闇へと消えていった。

 

 一体何者だったのだろうか。そう考えていると、小屋の方からメイプルが自分を呼ぶ声が聞こえた。

 

 思考を中断し、ひとまず情報として頭に入れておこうと決めると、急いで小屋に戻ることにした。

 




 ドッペルゲンガーくん、君との遭遇はカットです。

 先に補足だけ書かせて頂くと、リオがNWOを開始したのはサリーより後。リアルのほうで頻繁にサリーほど情報なども集めていないので、第一回イベント入賞者も断片的にしか知りません。なので、ドレッドについても名前を聞いてランカーだということはわかりませんでした。

 実はドッペルゲンガーとの交戦でリオが偽サリーと戦うことになってブチギレして本気モードで戦闘するというネタもあったんですが、今回のイベントだけでかなりの文字数使うのでカット。そのうち本筋とは関係ない余談話として作るかもしれない。

 リオもまたサリーほどではないですが、とにかく苦手なものを持ってます。これは本筋でそのうち出ますが、その時は逆にサリーとメイプルが助けてくれることでしょう。


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射手の少女と雪山登山

「遅かったねードレッド。 ……どうしたの?なんか顔青いよ?」

 

「戻ったのか。どうしたんだ、何かあったのか?」

 

「変なものでも食ったんじゃ、ってそんな感じでもねぇな。おいおい、マジでどうしたんだよ」

 

 メイプル達が初日の休息を決めた小屋から距離が離れた場所。森を抜けた、川辺の平原。そこには恐らくイベント参加者が遭遇すれば最悪だと思うだろうメンバーが居た。

 

 ペイン、フレデリカ、ドラグ、そして今しがた戻ってきたドレッドである。三人は戻ってきたドレッドの様子を見て明らかにおかしいことら気が付き、何かあったのかと聞いたのだ。

 

「……お前ら、リオって名前に聞き覚えはあるか?」

 

「リオ?女の子の名前っぽいけど……聞いたこと無いなぁ」

「俺もないな、ドラグは?」

「こっちもねぇな。なんだ?そいつがどうかしたのか?」

 

 三人から返ってきたのは、知らないという返答。それを聞いて、ドレッドは乾いた笑いの後、息を吸ってキャンプ場所の焚き火の前に座った。

 

「あれが、あんな奴が無名だと……?はは、ヤバすぎるだろ……」

 

 その言葉には様々な感情が入り混じっていたのだろう。恐怖、畏怖、それだけではない。強者を見たという歓喜、それもまたそこには混じっていた。

 

「何があった、ドレッド」

 

「ちょっとだけ落ち着かせてくれ」

 

 ドレッドは暫くの間無言で、時折自分を落ち着かせるようにアイテムバックから水を取り出して喉に通す。その間、ペインは何も言わず。普段茶化したり冗談を言うフレデリカやドラグさえ、ただ言葉を待っていた。

 

「向こうの森に偵察に出たらな、とんでもない化け物を見た。俺の直感が全力で警告するような、そんな化け物だ」

 

 ペイン達が目を見開いた。ドレッドの実力はよく知っている。第一回イベントで第二位。範囲系スキルを殆ど持たない中、メイプルより多くのプレイヤーをキルして最後まで生き残った。

 

 それだけではない。ドレッドの持つ直感。それもまた驚くべきものであるということも知っていた。

 

 本人曰く、常に動いているわけでもなく。本当に重要な時、危ない時にだけ働く危険回避センサーのようなものだという。それは極めて高い精度で的中し、本人も『これを疑ったら俺は終わり』と言うほどのものだった。

 

 そんなNWOでもかなりの凄腕。ランカーの中でも上位に入るドレッドが、顔を青くするほどの相手が居たという。思わずペイン達は息を呑み、続きを待った。

 

 

「そいつは、弓使いだ。しかもとんでもなく隙がねぇ。状況判断、観察眼、戦術実行能力、加えて精密射撃能力。少なくともこれらをどれ取っても超一流だ。……実際、俺は最初から様子見てたのがバレてたみたいでな。そのうえで見逃されて、そいつは相手にしたプレイヤー全員を上手く自分の思い通りに誘導するだけじゃなく、全員頭部の部位欠損による一撃で倒して見せてたよ。それだけじゃない、あいつ、こっちが高位のハイドスキル使ってるのにそれをスキルもなしに見破りやがった。 ――何よりも俺の直感が不味いと告げたのは、あいつの眼だ。こっちの心臓に、冷たい刃を突き刺されるような感覚。間違いなくあれはペイン、お前と同等かそれ以上のプレイヤーだ」

 

 ドレッドが冗談を言っているようには思えなかった。確かに彼はめんどくさがりではあるが、やることはやり遂げるしこういったことで嘘なども言わない。それに、今のドレッドの状態を見てそれは真実なのだろうということも感じ取れた。

 

「俺と同等か、それ以上、か。 ……なるほど。少し会ってみたいね」

 

「やめとけ、少なくとも今回のイベント中で最優先はメダルだ。それに、あれはすすんで敵対していいような奴じゃない。間違いなく奴もまだ手札を隠してるだろうし、それにもし会えば容赦なくお前を撃ち抜きに来るぞ」

 

「はは、それはそれで面白いかも知れれないな」

 

「このバトルジャンキーが……。悪いが俺はイベント中の交戦は御免だぞ。最優先は、」

 

「メダルだろ?わかってるよ。とても残念だが、今回の主目的はメダルだ。それに、イベントの後に探すことも出来るだろう」

 

「おいこいつ目を輝かせてるぞなんとかしろよフレデリカ」

 

「私に投げないでよー。というか、ペインのバトルジャンキーっぷりはここにいる全員がよく知ってるでしょ?」

 

 違いない。そうドレッド、ドラグも思う。

 

 ペインは名実ともにNWOにおいて現状最強と言われているプレイヤーだ。実力においてはドレッドとドラグが自分達が束になっても勝てない、という程であり、戦術指揮や戦略眼といった集団戦においての運用にも優れる。スキルにおいても隙のない布陣であり、まさに万能のオールラウンダーなのだ。

 

 そんなペインだが、弱点。というよりは本人も自覚しているものがある。それが、強い相手に対する興味、戦ってみたいという欲、未知に対する好奇心。バトルジャンキーと俗に言われるものだ。

 

 とにかくこの人物、強いプレイヤーに目がない。第一回イベントでは、自ら『俺より強いやつに会いに行く』スタイルで様々な場所に歩き回ってわざと見つかって戦闘をしていたほどだ。あまりにもフィールドが広大すぎて、メイプルと接触することは出来なかったが。

 

「しっかし、NWOは広いなぁと思ったわ。……第一回イベントではそれなりの結果も出した。実力についてもまぁそこそこの自信はある。だから敵になるとしたらランカーレベルとしか思ってなかったが、世界は広いな。イベントのメイプルも大概だったが、まさかあんな化け物が無名で存在してるとは思いもしなかったぜ」

 

「ドレッド、もっと詳しくそのプレイヤーについての話を」

 

「ペーイーンー?」

 

「だめだこりゃ、フレデリカ諦めろ。完全にスイッチ入ってるわこれ。 ……まあ、ドレッドからのそのリオって奴の総評もっと聞いとくのもいいかもな。今日はこのまま野営だし、情報はいくらあってもいい」

 

 より期待を込めた視線を向けられたドレッドは『げっ……』と呟くがもう遅い。フレデリカとドラグも止めようとしたが手遅れだった。仕方ない、というように自分が遭遇した相手のことにいて更に話すことにした。

 

「大体のことはさっき話したぞ。……まあ、強いて気になってるとしたら弓使い、ってことか。NWOで弓使いは少ない、その中にあんな化け物が居たとして、今まで話題にすらならなかったのは妙だな」

 

「確かにそれはそうだな。弓使いでたまに話題に上がるのはウィルバートくらいのものだしな」

 

 NWOにおける弓の使用者は少ない。全武器中最下位のあたりを争うレベルで少ない。操作は難しい、基礎攻撃倍率は低い、矢は初期武器だと有限でコストもかかる、サブウェポンの選択肢が軽量武器一本持ちという選択しか無い。主だった原因だけでもこれだけあり、しかも派手でもなければ前に出るような華形でもない。正直、魔法職で魔法を俗に言うぶっぱしていたほうが強いし、魔法職なら支援もできる。

 

 そんな武器種の中でたまに話題に出るのはウィルバートくらいのものだ。それも事故に近い形で実力が判明したようなもので、本人もその人柄や自分の情報をあまり外部に対して出さないということもあって、未だに謎が多いプレイヤーだ。それ以外であれ程のプレイヤーが存在していれば話題になるはずだ、そうドレッドは思ったのだ。

 

「……まさか。あのリオって奴もメイプルと同じ新規プレイヤーじゃないか?」

 

「そんなまさか ――とは言い切れないな。メイプルはイベントの映像からも初心者だというのは間違いなかった。最近プレイヤー人口が増えていることを考えると、本当に新規かもしれない」

 

「新規であれ、か ……末恐ろしいな。ま、もしやるなら全員で囲みでもしないとヤバいぜあれは」

 

「リオ、か。覚えておこう」

 

 こうして、リオはNWOでもトップランカー達に目をつけられることになったのだが、そんなことを本人が知る由もなかった。

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 イベント2日目。まだ日がある時間帯、メイプル達は雪山の山頂を目指していた。翌朝、アンデット系モンスターが全て消えて静かになった森を進み、抜けた先が分かれ道になっていた。

 

 片方は、雪山に続くが川の下流へと進む道。もうひとつは、少し遠回りすることになるが草原の道。

 

 メイプル達は草原の道を選んだ。というのも、リオからそっちにしようと提案されたからだ。元の状態に戻ったサリーとメイプルとしてはそれを拒む理由もなかった。多少遠回りになるが、またのんびりと草原を歩くのもいいだろうとう認識程度だった。

 

 ただ、リオとしてはある理由があった。それは、昨夜のこと。自分達を狙おうとしていた一団を全滅させ、その後に遭遇したプレイヤーの言葉だ。

 

 ドレッド、そう名乗ったプレイヤーのことは二人には話していない。もし話せば、自分が何をしていたのかバレて余計な心配をさせると思ったからだ。

 

 だから、小屋に戻った後も『たまたまギミックを見つけてメダルを回収できた』と言って、メイプルにメダルを三枚渡したのだ。姉はホラー系モンスターと環境のせいでいつもの調子ではなかったし、メイプルも純粋にその言葉だけで納得してくれた。

 

 ドレッドというプレイヤーは、霧の出る川のほうには行くなと言った。素直にそれを信じるべきかどうか、確かに迷った。だが、あの時の相手からは悪意のようなものは感じなかったし、どこか飄々としながら純粋に警告だけをしてくれたようにも思えた。そうして、案の定とも言うべきか。森を抜けた先には川へと向かう道があった。

 

 もし近道である川の道を選んだ場合、彼の言っていたとても質の悪いものに遭遇する可能性もある。最終的にリオはその警告を信じ、二人にそれとなく草原の道に進もうと提案したのだ。

 

 結果。それは正しかった。草原の道では特にトラブルもなく、多少時間はかかってしまったが無事雪山の麓まで到着。そうして現在、頂上を目指して雪山を登っているのだ。

 

「ま、待って二人共ー!」

 

「がんばれーメイプルー」

「足滑らせないようにね」

 

 やや後ろから息を切らせながらもこちらに向かってくるメイプルに対してサリーとリオが言葉を投げる。二人の運動神経は極めていい。だが、対してメイプルはそうでもない。天然気質なことも相まって、リアルでも特に運動が苦手である。

 

 暫く待つと、メイプルが追いついてきた。『ちょっと休憩ー……』と言うと、その場に座って、雪山に積もる雪を手にとって見ていた。

 

「雪なのに冷たくないんだね」

 

「まあ、NWOでは痛覚のカット率は大きめに調整してるけど、いろんな感覚を違和感がない範囲で調整してるみたいだからね」

 

「うーん、ちょっと雪で遊んでいきたいけど……それはまた今度だね」

 

 少しの休憩の後、メイプルが立ち上がると少し名残惜しそうに地面の雪を見た後歩き出す。頂上まではもう少しだ。だから、再びサリーは前、リオはメイプルの後ろの方を見ながらも頂上への道を歩く。

 

「メイプルは最後に雪を見たの、北海道だっけ?」

 

「うん!もう何年も前かな?家族で北海道旅行に行って、その時に見たのが最後。その時はサリーやリオみたいに雪だるまとかかまくら作れなかったし、ちょっとやってみたいなーって思っただけ」

 

「なるほど。今回はちょっと諦めてもらうしか無いかなぁ……。あ、でもNWOにも雪のエリアがあるかもしれないし、それに季節によって変更可能なフィールドの環境も変えるらしいよ。なら、冬には雪が降るってことじゃないかな」

 

「おおっ、それは楽しみだなー!じゃあその時まで楽しみはとっておく、ということで」

 

「メイプル、好きなものは最後に食べる派だもんね」

 

 リオとメイプルがそんな話をしていると、前を歩くサリーが足を止めた。

 

「到着みたいだよー」

 

「やっと着いたー……」

 

「お疲れ様、メイプル」

 

 山頂は、綺麗な円形だった。そこそこの広さであり、その中央には何やら祠がある。そして、その祠の前には緑色の転移魔法陣。やはり何かあったか、そう思い三人が中央に近づこうとした時だ。

 

「姉さん」

 

「わかってる、数は多分4。後衛が居た場合そっちの対処任せた」

 

 サリーが短剣を抜き、リオが魔力弓。アルテミスを構えて矢を番え、二人同時に特定の方向を見た。突然のことに大慌てするメイプルだが、二人は警戒状態のまま視線をその方向から離さない。

 

 その直後だ。メイプル達が登ってきた方向とは逆方向。そこから足音がして、数人のプレイヤーが現れた。数は4人。大盾、大剣、魔法使いが2の構成であり、自分達が武器を向けられているのがわかった瞬間交戦状態に入ろうとした。

 

 しかし。

 

 

「クロムさん?」

 

「お?メイプルか。ここで会うとは思わなかったなあ……。あー、待て。サリー、リオ、俺達に交戦意思はない。咄嗟のことで驚いて武器を抜きそうになっただけだ」

 

 しかし、そうは言うもののリオはサリーは警戒状態を解除しない。いきなり戦闘に入る、ということらはならなかったが警戒したままクロムの一行を見ている。

 

「サリー、リオ。クロムさんもああいってるし……それに、できれば戦いたくないし」

 

「……ま、そうだね。私達も消耗はしたくないし」

 

「メイプルがそう言うのなら、わかった」

 

 メイプルのその言葉でやっと二人が武装を解除する。サリーとリオとしてはいくら知り合いであろうとイベントはイベント。敵対するなら交戦する、というスタンスだ。

 

 そして今回のイベントではクロムは少なくとも味方ではない。よって、排除もやむ無しだったのだがメイプルが待ったをかけたことでそれはなくなった。

 

「クロムさん達もここを目指してたんですか?」

 

「ああ。初日は散々でな……何も見つけられなかった。二日目こそは何か見つけようと思ってこの山に登ることにしたんだが、どうやら先客が居たようだ」

 

 イベントエリアは広大だ。いくらメダルの枚数が増やされて500枚になったといえど、広大なフィールドにそれが散らばっていたり隠されていたりすることを考えれば、初日で見つからないこともあるだろう。そして、今回のイベントは探索型であると同時にプレイヤー同士のリソースの奪い合いだ。転送陣は1つ、つまりどちらかしか使用できないということになる。

 

「んー……。サリー、リオ。転送陣、クロムさん達に譲っていい?」

 

 その言葉に驚きを見せたのはクロム達だ。対して、サリーとリオはメイプルらしい、というように笑って見せていた。

 

「まあ、メイプルがそれでいいなら。ただし、後から後悔はナシだよ?リオもそれでいい?」

 

「私もそれでいいよ」

 

 二人としてもメイプルの人の良さは知っていた。クロムの名前はメイプルの口から度々出てきており、ゲームを始めた時に知り合ってお世話になったのだという。それだけではなく、イズを紹介してくれたのもクロムだという。もし、メイプルがクロムと知り合っていなければリオの弓についてのことでイズを頼り知り合うことも出来なかったし、そう考えると少し気が引けたのだ。

 

 

「いいのか?普通、こういうのは早い者勝ちだと思うんだが……」

 

「いいんです!ほら、沢山クロムさんにはお世話になって何も返せてませんし! ――ええと、そうだ!サリーとリオの気が変わらないうちに早く行っちゃって下さい!」

 

 

 『いや変わらないから』

 『メイプルは私と姉さんをなんだと……』

 『えーと……戦闘になると容赦がない!』

 

 

 そんな会話を見ながら、クロムは三人に対して

 

「すまん。なら、お言葉に甘えさせてもらう。譲ってもらってなんだが、三人のイベントでの成功を祈ってる」

 

 そう言うと、転送陣に近づき、最後に大きな声で『本当にありがとうな!』と言った後に転送されていく。

 

「さて、と。どうする?」

 

「うーん……ここからだと周囲の景色がよく見えるし、ちょっと休憩しながらどこに向かうか考える?」

 

「あっ、じゃあ私休憩しながら雪だるま作りたい!転送陣は譲っちゃったけど、折角ここまで来たし!」

 

 これからどうするのか。折角だから休憩して遊んでいこう。これからどうするのかを考えながら話していると、突然。ブォンという音が聞こえた。見れば、先程クロム達が使用した転送陣が復活しているのだ

 

「ど、どういうこと!?」

 

 大慌てするメイプルに対して、驚きはしたもののサリーとリオは冷静だった。

 

「原則として、一度使用した転送陣は二度と出現しない。……例外があるとすれば、転送先でパーティーが全滅した場合」

 

「でも姉さん、まだクロムさん達が突入して1分とかくらいしか経過してないよ? つまり、その短時間で全滅した、ってことになるね」

 

「多分、その可能性が一番高い。どうする?」

 

 その言葉を投げかけられたメイプルは少し考え、そして。

 

「行こう。……入ったら私がまず大盾を構えるから二人は後ろに。【悪食】も使えるようにしておくね」

 

 覚悟は決まったようだ。幸い、他のプレイヤーは来る様子がなかったため、幾つかの作戦を話し合うと三人は転送陣を使用して内部に突入した。

 







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射手の少女と【銀翼】 前編

 

 転送の光が晴れる。そうしてメイプル達が最初に見たのは、辺り一面が氷の壁に覆われた円形広場だった。

 

 地面も雪が僅かに積もっており、天井はドーム状で、中央だけが吹き抜けになっている。壁や吹き抜けていない部分の天井には巨大な氷柱が存在している。

 

 

 

 周囲を警戒する。だが、

 

 

 

「何も居ないね……どういうことかな」

 

「メイプル、気をつけて。絶対に何か居るのは間違いない。 ……リオ、どう?」

 

「多分、今の所このエリア内部には何も居ないと思う。隠れてるわけでもなさそうだけど」

 

 何もない。だが、そんな筈はないのだ。

 

 クロム達はここで全滅した。それは恐らく間違いがなく、転送陣の再出現がそれを裏付けていた。

 

 サリーが周囲を見渡し、サリーよりも遠距離に対しての索敵や探索に長けたリオも遠くを見るが、敵の姿はない。

 

 しかし、周囲を見ていたリオが何かに気がついた。

 

 リオの指差す先をサリーとメイプルがが見れば、

 

 

 

「……鳥の巣?」

 

 

 

 指差す先。氷の壁の出っ張りに見えていたのは、枯れ草で作られたような鳥の巣だ。

 

 それもかなり巨大な。少なくとも、現実世界ではありえないほどの大きさであろうと推測できるサイズの鳥の巣である。

 

「あんなところに鳥の巣?あそこを調べろってことなのかな?でも、どうやって――」

 

 

 メイプルが一歩、壁へと見出した時だ

 

 

 ――ギャァァアアアアオ!!!

 

 

 突然。空間に甲高い鳴き声が木霊した。それは、吹き抜けになってる天井。その遥か上、空からのものだ。

 

 それと同時、3人に降り注ぐものがあった。

 

 先端は鋭利な、尖った氷の楔。それが雨のように集まっている場へと放たれる。

 

 

 

「二人はそのまま!私が受ける!」

 

 突然の攻撃。それを回避しようとするサリーとリオだったが、先にメイプルが動いた。二人の前に立ち、押し付けるように【闇夜ノ写】をサリーに預けるとそのまま二人の前に出て両手を広げて攻撃を受けたのだ。

 

「メイプル!?」

 

「大丈夫っ……貫通攻撃じゃない!」

 

 メイプルの防御力は常軌を逸している。いくらメンテナンスで防御無視攻撃が実装されたとはいえ、それ以外の攻撃では簡単にはその防御力を突破することは不可能である。今の行動でわかったのは、少なくとも広範囲に対する氷の礫は貫通攻撃ではなく、メイプルが直接受けてもダメージはないということだ。

 

 

「ありがとうメイプル。はい、これ」

 

「あっ、ごめん!咄嗟に押し付けちゃって」

 

「いいよいいよ、メイプルのお陰で分散されずに済んだし」

 

 サリーがメイプルへと【闇夜ノ写】を返すと、武器を抜く。それと同時、空を見上げたままのリオも魔力弓を構えた。

 

 

「――姉さん、メイプル。来るよ」

 

 リオが空を見上げ、それに続いてメイプルとサリーも空を見上げる。

 

 そこに存在したのは、巨大な鳥だ。

 

 

 エメラルドグリーンの翼に、白の体毛。鳥、と言うにはあまりにも大きく。それは、怪鳥と言ってよかった。バサリ、と。その翼を羽ばたかせながらフィールドから突き出すようにしている巨大な氷柱の頂上にその怪鳥は留まると、3人を視線に収めて再び吠えた。

 

 

「あれが間違いなくクロムさん達を倒したボスだと思う」

 

「なるほど。いいね、強敵登場って感じで燃えてきた」

 

 間違いなく言えるのは、あれだけの短時間でクロムのパーティーを全滅させたということは、ただのボスではないのだろうということだ。強敵。それもとびきりの。だが、そういった相手にはお約束があるのだ。

 

「こういった敵にはレアアイテムがお約束、ってね! リオ、メイプル、無理せず確実に、作戦通りに!」

 

 

『了解』『わかったよ』という返事がサリーに返される。

 3人と怪鳥。その戦いが開始される。

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 氷柱の上の怪鳥が吠える。それと同時、姉妹の動きは早かった。

 

 サリーが薄く雪の積もる地を駆け、怪鳥へと肉薄しようと試みる。リオがその場でメイプルと姉、そして怪鳥全てを視界内に収めながらアルテミスの弦を引き絞る。

 

 ちらり、と。ほんの一瞬だけ姉妹の視線が交差した。それだけで十分だ。ずっと共にあり、共に歩んできた。だからこそ、それだけでどう仕掛けるのか、それが理解できた。

 

 怪鳥は他のモンスターより賢く、初動でメイプルに対しての氷の礫が通らなかったのを理解した。だからなのか、動きを変えてきた。それは、複数展開していた魔法陣を一つにまとめてきたのだ。

 

 氷の礫の収束攻撃。それが怪鳥の次のアクションだった。礫のように即時の発動ではないが、それは収束していき短い時間で巨大な氷の礫となる。

 

 それの標的は、今最も怪鳥にとって攻撃の脅威となるサリーだ。

 

 しかし、対してサリーは動かない。そのまま加速して更に怪鳥へと接近を試みる。並のプレイヤーなら血迷った行為だ。巨大な礫は直撃すればそれこそ大ダメージは確定。しかも、【VIT】が皆無のサリーなら一撃で倒されるだろう。

 

 

 だが。それは当たればの話だ。そしてこの場、サリーは一人ではない。

 

 

 巨大な楔が放たれる。それでも尚、サリーは加速する。

 そして、それと同時。リオが動いた。

 

 放たれるのは、連射される蒼の魔力矢。一撃で数メートルはあろうかという巨大な楔を破壊することは難しいと判断し、真正面から数発魔力矢を叩き込んだ。着弾と同時に爆裂。それを数度繰り返し、空中で巨大な礫が砕け散った。

 

 怪鳥もまさか、礫が発射直後に撃墜されるとは想定していなかったのだろう。極めて大きな硬直を作った怪鳥は無防備であり、そこにサリーが飛び込んだ。

 

 

「メイプル!」

「うん!【カバームーブ】!」

 

 今度はメイプルが仕掛ける。【カバームーブ】、本来味方の近くに即時移動して防御するというスキルなのだが、それをメイプルは応用を利かせた使用方法を考え付き二人に話していた。更にこの方法は、メイプルほどの防御力があれば【カバームーブ】のデメリットである一定時間被ダメージ増加のデメリットも余程の相手でない限り皆無である。なので、その使用方法を聞いた時リオとサリーは唖然としていたのだが極めて優秀な移動スキルと化していた。

 

 そして、それは今敵対する怪鳥に対して使用される。サリーは3人の中では機動力が最も高い。怪鳥に接近し、メイプルを同じ位置まで運ぶ。そして、同時に仕掛ける。それがサリーの狙いであり、どんな相手の場合でも使用できるものとして事前に考えていた作戦の一つでもあった。リオの役割は後方支援。もし、怪鳥から対処の必要がない攻撃や行動があった場合そのまま遠距離から撃ち抜くつもりで居た。

 

 そうして。大きな隙を作ってしまった怪鳥の真下、そこにメイプルとサリーが潜り込んだ。怪鳥も慌て、足の爪によって二人を切り裂こうとする。しかし、間に合わない。更にメイプルが殴りつけるように構えた大盾攻撃は、【闇夜ノ写】である。

 

 叩きつけるようにした大盾に触れたことで【悪食】が発動する。それにより、怪鳥の爪を足ごと消し飛ばした。更に攻撃は続く。サリーが【ダブルスラッシュ】により追撃、加えて

 

 リオが最初の位置。そこから膝をつき、持ち替えた『天狼弓「試作」』による狙撃の体勢からの一矢。それが、怪鳥の片目。右側の目を射抜いた。しかも、今のリオの右側の武器スロットに装填されているのは強力な毒の特殊薬のビンである。

 

 相手はボスレベル。そんな相手の頭部を狙った所で対処される可能性がある。仮に直撃したとしても、一撃で倒すのは不可能だろう。だからリオはあえて致命の取れる別の部位。眼を狙った。弓も対集団に対しては魔力弓、対単体に対しては物理威力に優れる天狼弓をと使い分けていたため、対ボスであることを考えて持ち替えたのだ。

 

 一斉攻撃によるダメージでひるみを見せた怪鳥。そこに、これでもかと言わんばかりに追撃が入る。

 

 空中へと飛んだサリーがそのまま怪鳥の背中に乗り、【大海】を発動。これにより、怪鳥の【AGI】を低下させて動きを鈍らせる。それによって暴れだす怪鳥だが、もう遅い。

 

 

「【毒竜】!」

 

 【大海】によって水で濡れた怪鳥に対して放たれるのは、三つ首の毒竜。サリーが退避すると同時にそれは標的である怪鳥に絡まるようにして拘束し、毒のブレスと液体となった毒によって包み込み、蝕もうとする。

 

 メイプルの【毒竜】と、リオの物理矢に付与されている毒はデバフとしては別枠扱いである。同時に、どちらも極めて強力な毒だ。それによる二重のDOTダメージ、サリーの連撃によるダメージと【大海】による【AGI】低下、リオの攻撃によって致命ダメージに加えて片目まで奪った。そうして、メイプルの【毒竜】による拘束。

 

 毒の液体により飲み込まれ、身動きを取らなくなった怪鳥を三人は警戒しながらも眺めている。

 

 それは正しい。なぜなら、まだ終わっていないからだ。

 

 突然、それは起こる。メイプルの【毒竜】による拘束。怪鳥を覆っていた毒の液体が一瞬にして氷漬けになったのだ。

 

 そうして、パリン。という甲高い音と同時、凍ってしまった覆っていた毒の液体は砕け散り、そこに現れたのは片足。そして片目を失って尚まだ闘志が消えていない怪鳥だった。

 

「HPバーが3割しか減ってない!?」

 

「嘘……あれだけ攻撃を叩き込んでこれ……?」

 

「悪い冗談だと思いたいなぁ……!」

 

 思わずその体力を見て絶句しそうになる。だが、まだ戦闘は継続している。怪鳥は今度はこちらの番だと言わんばかりに空へと飛び立つと、今までより甲高く吠えた。

 

 それと同時。円形フィールド全体が魔法陣に覆われる。極めてまずい状況だ。このタイミングで全体攻撃は、最悪回避ができない。

 

「リオ!サリー!早くこっちに!」

 

 直感で真っ先に動いたのはメイプルだった。とにかくこの攻撃は不味い、そして大抵の攻撃を受けても耐えられるのは自分しか居ない。そう判断して二人に集まるように叫び、急いで大盾を構えた。

 

 二人が急いでメイプルの場所へと集まった瞬間。発動したのはフィールド全体に対して連続で隆起する巨大な氷の氷柱だ。しかも、この攻撃は質が悪い。初撃、メイプルのいる場所に隆起したと思ったらその後はすべての攻撃が連続でメイプルの周辺から隆起して来るのだ。

 

「不味いっ……【挑発】!ごめん、【悪食】使うね!」

 

「メイプル!何やってるの!?」

「そんなことしたら攻撃が全部っ」

 

 メイプルの後ろに居たサリーとリオが突然のメイプルの行動に対して驚愕とともに悲鳴を上げる。

 

 それはそうだ。メイプルが使用した【挑発】は相手の敵視を自分に向けるスキル。この状況下で使用すればどうなるのかは明白であり、それは自殺行為とも言えた。

 

 そう。怪鳥の攻撃対象は一定時間にメイプルに固定され、今発動している全体攻撃は全てがメイプルを狙う。

 

「だい、じょうぶ……!貫通だけど、なんとかする!」 

 

「なんて無茶を……【ヒール】!リオ、回復ポーションありったけメイプルに!」

 

「了解、ごめんねメイプルっ……」

 

 連続隆起する氷柱は威力の高い貫通攻撃である。だが、メイプルはそれを【悪食】を使うことにより消し去り、攻撃を防ぐ。

 

 だが、それも全てとはいかない。これからの攻撃に向けての【悪食】の回数の温存、それを考慮した上でメイプルはその氷柱の隆起を自分で受けた。

 

 一撃でメイプルの体力が1割ほど消し飛ぶ。なんとかメイプルは回復スキルである【瞑想】を使用して回復を行いながら攻撃を耐える。それに合わせて、後ろのサリーが【ヒール】、リオが持ち込んでいた回復ポーションを連続使用して絶対にメイプルを落とさせないようにして耐える。

 

 何故メイプルがこんな無茶をしたのか。それは、彼女の中である可能性を考慮していたからだ。それは咄嗟のものであり、ゲーム慣れしている二人の姉妹のように経験や理論から成り立つものではなかったが。

 

 結果としてそれは優れた判断だった。メイプルは、怪鳥の全体攻撃が全員を狙うものではないのかと考えたからだ。もしそうなら、いくら自分の後ろに二人が居ても全体攻撃の直撃を狙われる可能性がある。だからメイプルはその、本来二人を対象とするはずの攻撃全てを自分に向けたのだ。そうすれば、直撃狙いの攻撃が二人を狙うことはなくなる。

 

 だが、怪鳥の攻撃それで終わらない。全体攻撃が終わる間近、突然空高く飛翔した怪鳥は、その翼と身体を漆黒のオーラに包み、メイプルへと突進したのだ。

 

「させない……絶対に、ここは通さないんだからッ!【カバー】!」

 

 

 

 それは、メイプルの勇気だった。

 

 

 

 痛いのは嫌だった。昔から予防接種などの注射ですら怖くて、小さい頃はそれだけで大泣きしていたくらいだ。少しだけ大人になった今もそれはマシにはなったものの変わらない。

 

 でも。それでも。今はそれ以上に怖いものが、きっとそうなったら耐えられないほど心が痛いものがある。

 

 自分は盾だ。パーティーを守る、盾。

 そんな自分が誰かを守れなかったら。大切な誰かを守れなかったら。

 

 きっと、それは自分の感じる痛みより痛くて。とても怖いのだ。

 それだけは嫌だった。守れないのは、守られてばかりなのは嫌だった。

 

 だから、痛みから逃げるのをやめたのだ。

 そして、メイプルの勇気は形になる。

 

 

「う、あっ……」

 

 

 黒いオーラを纏った怪鳥。その巨躯の突進が、メイプルの大盾と鍔迫り合いの状態になる。全体攻撃は続いており、体力は物凄い勢いで削れていき、1割を切ることもあるがサリーとリオによってなんとか体力を戻し耐える。

 

「いかせ、ないんだからぁぁああああ!!!」

 

 決死の覚悟のメイプルが鍔迫り合いになっていた怪鳥を押した。そして、残っていた最後の【悪食】によって体力を更に削り取る。

 

 だが、その瞬間。ある事態が発生する。

 

 怪鳥もまた抵抗したのだ。弾き飛ばされる瞬間、片足の爪によってメイプルを引き裂いたのだ。直撃。しかも、大盾は砕け、鎧も砕けてしまった。【破壊成長】によりそれはすぐに回復するが、ダメージは免れない。

 

 地面の魔法陣が消え、全体攻撃が終了する。地面へと叩きつけられたメイプルに慌てて駆け寄る二人だが、予想よりメイプルの消耗は激しかった。

 

 メイプルの体力は残りわずか。それも、体力バーがギリギリ視えている程度だった。そして、手持ちの回復ポーションは全員が全て使い切ってしまっていた。そう、サリーの【ヒール】とリオの手持ちだけでは回復が追いつかなかったのだ。だからサリーは、【ヒール】の合間にメイプルを対象として回復ポーションを使用した。それと同時でメイプルも攻撃を受けながら合間にポーションを使用。それでこのギリギリという状況なのだ。

 

 だが、怪鳥もまた損傷がないわけではない。ここで三人も想定していなかったのは、怪鳥に叩き込んだ毒。【毒竜】の毒とリオの矢の毒がまだ残っていたのだ。それにより体力は全体攻撃中にも減り続け、残り5割まで減っていた。

 

 三人も想定していなかったことだが、怪鳥の状態異常はこの【毒竜】とリオの毒矢の毒によって悪化していたのだ。毒には確認されているだけで三種類あり、毒・猛毒・劇毒の3つである。そして、メイプルの【毒竜】のレベルは猛毒クラスに該当し、リオの毒矢も猛毒レベルに該当する。プレイヤーたる三人は知らないが、この怪鳥は幾つか耐性がない状態異常がある。そのうちのひとつが毒だ。

 

 結果、二人の毒の効果は別枠で発生。そして、耐性を持っていなかった怪鳥は二人の毒の効果が終了後、悪化した劇毒に感染。その感染タイミングが全体攻撃の発動時だった。つまり、怪鳥は全体攻撃中常に更に強力な毒、劇毒によって体力を削り取られていたことになるのだ。加えて、メイプルの渾身の【悪食】直撃である。かなりのダメージを与えたことは確かだった。

 

 

「メイプル、ごめんね」

 

「良かった、二人が無事で……。でもごめん、ちょっと限界、かも」

 

「いいよ、気にしないで。むしろ、守ってくれてありがとう。 ――さて」

 

 サリーが空に浮かぶ怪鳥を睨みつけた。そして、隣の妹。リオへと言葉を紡ぐ

 

 

「リオ。 ――全力、いける?」

 

 

 その言葉だけで十分だった。姉に投げられたその言葉が何を意味するのか、それを理解してリオは

 

「私も頭にきてるよ。 ……全力で、あの鳥を叩き潰す」

 

 メイプルは戦闘続行は難しかった。それほどの状態になるまで、全力で自分達二人を全体攻撃と怪鳥の必殺とも言える突進を全て一人で受けきったのだ。それだけではない。メイプルは、最も恐れていることから逃げなかった。痛いのが嫌で、怖くて。でも、それから逃げなかった。

 

 ならばこそ、今度は自分達を守ってくれたメイプルを守る番だ。

 極度の集中状態。姉妹揃って同時にその状態に入る。そして、

 

 

「残り5割。……全力で削るよ」

 

 次にメイプルを狙われたら間違いなくメイプルは対応できない。

 だからこそ、ここで決着をつける。そう決めて、二人同時に動いた。

 

 戦いも終盤戦。本気になった姉妹が動き出した。

 



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射手の少女と【銀翼】 後編

 サリーとリオは同時に動いた。

 

 勝利条件は明確だ。まず、怪鳥の残り体力5割を削り取ること。加えて、メイプルに対して攻撃をさせないこと。メイプルはこれ以上継続しての戦闘は不可能。回復アイテムはゼロ。よって、迅速な勝利が必要になる。

 

「リオ」

 

「ん。……わかってる」

 

 怪鳥は空中でホバリングしている。かなり高い高度であり、スキル【跳躍】を使用しても届かないだろう。だが。それでもサリーはボスへと走った。そしてそれはリオも同じだ。

 

 違うとすれば、方角だ。サリーはボスの左側。リオはボスの右側へと走る。ボスの右目は最初の連続攻撃によって潰れている。つまり、今の怪鳥には視認できる視野角が半分しかない。

 

 それがボスの浮遊している理由なのだ。怪鳥は賢い。他のボスとは比べ物にならないほどに高度なAIを搭載している。体力が残り少ないこと、空中であれば驚異となるのは弓持ちだけということ、そして高く跳ぶことで失われた視野の半分を補おうとした。

 

 事実、怪鳥の行動は正しい。メイプルは継続戦闘が不可能。サリーの攻撃は遠隔攻撃では威力不足で高威力の【スラッシュ】系列のスキルは届かない。こうなれば、警戒すべきなのはリオだけなのだ。そして怪鳥も既にかなり消耗していた。全体攻撃、それと同時の最大火力攻撃、それらを使用しても敵対者は健在であり、消耗が大きく激しい行動ができない。

 

 だが、まだ手がないわけでもなかった。

 

 サリーが走る中、リオも走る。怪鳥は潰された右側のリオを警戒しており、リオに対して動きを牽制するようにして礫の雨を放つ。それを走り抜けるように回避して、リオが矢を放つ。放つのは、魔力弓による爆裂矢。それを走りながら正確に狙い定めてある部位を狙う。

 

 それは、怪鳥の翼だ。

 

 怪鳥の攻撃。特に魔法攻撃を発動する時、翼の前に魔法陣が出現していたのを確認していた。そこから考えられるのは、翼が怪鳥の使用する魔力制御を司っている可能性があるということだ。そして、翼を破壊できれば怪鳥を地面へと引き摺り下ろせる。狙うのは部位破壊。威力重視で部位破壊には向かない物理弓から魔力弓へと持ち替えると、翼への爆裂矢によっての損傷を狙う。

 

 

 だが、怪鳥も対策してきた。

 

 

「ッ……矢が、凍った!?」

 

 翼を狙った連射した3発の矢。それが全て、翼への着弾前に凍結して弾け飛んだのだ。見れば、怪鳥は狙った翼にだけ白いオーラのようなもの。冷気を纏っていた。

 

 続けて、怪鳥は冷気を纏った翼を横薙ぎにすると、横幅の広い氷の刃が出現し、リオへと飛来する。

 

 

「面倒なことを……!」

 

 毒づきながらそれを空中へ飛び、バック中の状態で空を回転しながら再び矢を放つ。だが、届かない。翼の前で凍結されてしまい、破壊には至らない。

 

「姉さん!」

 

 ハンドサインを送る。サリーから返ってきたのは、了解の返事。

 今度はサリーが連続攻撃を仕掛け、ターゲットがそちらを向く。

 

 考える。どうすれば怪鳥を地面へと叩き落とせるか。あの翼の冷気は最初はなかった。つまり、体力の減衰によって発動するギミックということになる。

 

 対策を考えながら姉を見れば、やはり【ファイアボール】や【ウィンドカッター】も着弾前。それも、翼を狙っていなくとも氷漬けにされてしまう。

 

 遠隔攻撃は殆どが氷漬けにされてしまう。だが、それを通さなければ怪鳥を地面へと引き摺り下ろせない。見れば、姉の表情にも少しづつだが焦りが見えている。同じように自分も焦っており、なんとか冷静さを維持して対策を考える。

 

 

 そして、ふと。あるものが目に入った。

 

 

 それは、フィールドの天井。吹き抜けになっている中央部以外以外のドーム型の天井、そこに存在する水晶の氷柱だ。怪鳥はそれに気がついていない。狙うのは姉のみであり、全く天井を気にしている気配がない。

 

 

 そうか、と。リオは閃いた。

 

 

 しかし、どう伝えるか。単純な動きだけならハンドサインやアイコンタクトだけで可能だが、これは実際に言葉を伝えないと伝わらないだろう。

 

 考え、リオはある手段に出ることにした。集中状態の姉の邪魔をしてしまうためあまりやりたくないのだが、仕方がないと考えて。

 

 

「遠距離攻撃全部ダメとか本当このボス汚いなぁ……! ――っ?リオ?」

 

 

 ターゲットを自分に対して向けるサリー。猛攻を回避しながらもボスに対しての悪態をついていると、突然メッセージの着信があった。それは、リオからのものだ。集中状態を維持して、ボスから視線を外さないようしながらもメッセージを開封して内容を確認する。

 

 

『冷気の刃 ファイアボール 蒸発』

 

 

 それだけで何を言わんとするかサリーは理解した。集中状態の自分にメッセージをしてまで伝えたのだ。つまり、何か策があるということだろう。

 

 怪鳥からの攻撃を回避すると、サリーは早速実行に出た。

 

 

「【ウィンドカッター】!」

 

 狙いはつけない。目的は別にあるのだから。

 

 怪鳥はやはりこちらの遠隔攻撃を凍結させ、それと同時。カウンターとして冷気を纏った翼から横薙ぎの冷気の刃を放ってくる

 

 今だ。そう思ってサリーは冷気の刃に対して【ファイアボール】を数発叩き込んだ。すると、ジュッという音の後に発生するものがあった。それは、蒸発霧だ。

 

 一時的にといえど、それは広がり怪鳥の視界を奪う。ただ、それだけ。だがこの状況下ではそれは致命的なチャンスとなった。

 

 

 視界を奪われた怪鳥に飛来するものがあった。それは、魔力矢だ。完全に視界を奪われたわけではない怪鳥は、飛来するそれを確認すると翼に冷気を纏いまた凍結させようとする。

 

 だが。狙うのは怪鳥ではない。

 怪鳥の頭上。ドーム上の天井だ。

 

 怪鳥のAIは何を、と思う。だが、そう考えた瞬間にはもう手遅れだった。

 

 天井に直撃して爆裂する魔力矢。小規模の振動がフィールドを伝う。

 それと同時。空から降るものがあった。

 

 

 巨大な、水晶の氷柱だ。

 

 

 爆裂の発生した地点、そこにあった2本の巨大な水晶の氷柱はそのまま真下へと落下する。その落下先に存在するのは、怪鳥だった。

 

 

 ――グォォォオオオオ!?

 

 

 悲鳴にも似た怪鳥の叫びが響き渡る。落下した水晶の氷柱は、そのまま怪鳥の片翼と胴体を貫いた。そのまま地面へと磔の状態にされる怪鳥。更に、これによって体力が2割まで減少した。

 

 暴れ、動こうとする怪鳥だがそれは叶わない。胴体と左側の翼に突き刺さり、地面に杭打ちされるようになった水晶の氷柱は強固でビクともしない。空を飛ぶというアドバンテージが失われ、遠距離攻撃を無効にする手段も翼が潰されたことによって使用できなくなった。ましてや、一切の身動きが取れない。

 

 こうなってしまえば、もう決着は着いたと言っても良かった。

 

 

「リオ!」

 

「うん!終わらせるッ!」 

 

 

 最後の攻撃だ。そう言わんばかりに怪鳥の視界の中でリオが魔力弓を構え、サリーがリオの近くから走り出すのが見えた。

 

 まだだ。というように怪鳥が吠えると、真っ直ぐに走ってくるサリー、そして射撃体勢に入ったリオ。その二人を直線上で捉え、口を大きく開く。

 

 放たれるのは、極光。極太のレーザーだ。怪鳥の視界の中には、表情が驚愕に染まる二人が見えた。極光の光が直線上の広範囲を飲み込む。怪鳥の最後の足掻き、それが二人を飲み込んで、儚く消えていった。

 

 

 そう、まるで幻のように。

 

 

「私のとっておきはどうだった? ――いい悪夢(ユメ)見れた? なんてね」

 

 

 怪鳥が攻撃したのは幻。サリーのスキル【蜃気楼】によって生み出された幻想だった。

 

 そして、本当の二人はといえば、別の場所にいる。

 

 

「これで」

「終わりだよ」

 

 サリーは磔にされた怪鳥の上空。そして、リオはメイプルの前に存在した。互いに最大火力のスキル、その発動状態に入っていた。

 

 サリーは上空で【パワーアタック】の構えを。そしてリオは、メイプルを守るようにしてその前で魔力弓を構えている。

 

 異なるとすれば、リオの弓の大きさだ。ただですら大きな魔力の大弓が更に巨大化しており、番えられている魔力矢も巨大な槍と言って差し支えない大きさのものだ。

 

 特定条件下でしか使用が難しい、リオの精密射撃以外。スキルを使用した最大火力。番えられるのは極光の槍。大槍と言っていいそれを番え、引き絞る。

 

 放たれるそれは、大気を揺らす。破壊という名の暴力と殺意を持ったそれは一条の光。まるで、流れ星のように流れ飛翔する。

 

 

 

「【パワーアタック】!」

「【サジタリウスアロー!】」

 

 渾身の力を込めた一撃。【パワーアタック】の直撃の後、その場から飛ぶようにして退避するサリー。

 

 その直後、極光の矢が怪鳥の胴体に穴を開け、突き刺さる。突き刺さったその矢は直後に広範囲を薙ぎ払う光となって、怪鳥を飲み込んだ。

 

 

 光が収まる。見れば、怪鳥の体力はゼロになっており、ポリゴンとなって消滅する瞬間だった。

 

「終わっ、た……?」

「疲れた……寝たい……」

「私も、今日はもう休みたい……」

 

 三人それぞれがボロボロの状態。しかし、自分達はやったのだ。

 

 極めて強敵と言っていい相手、怪鳥に激戦の末に勝利することが出来たのだ。

 

 勝利の達成感を噛み締めつつも、三人は疲れた表情で、それでも、楽しそうに笑って見せた。

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

「なんとか終わったけど……でも、メイプルのあれにはびっくりしたよ。心臓止まるかと思った」

 

「うん、私も。まさか全体攻撃全部自分で受けて、しかもその直後の必殺技みたいなのまで受けるなんて思ってなくて、かなりヒヤッとした。姉さんの回復と私の回復、それからメイプルの回復も合わせてギリギリだったからヒヤッとしたよ……」

 

 フィールド探索も必要だったが、その前に三人は休憩を取ることにした。メイプルはボロボロで動けないくらいの状態、サリーとリオは極度の集中状態に入ったせいで疲労困憊。すぐに動くというのは難しかった。座り込みながら話すのは、先程の戦闘のことだ。とにかくサリーとリオが驚いたのはメイプルが全体攻撃のすべての攻撃と怪鳥の必殺を一人で受けたということである。

 

「なんていうのかな、あれで分散するとかなり不味い気がして。だから、一番防御力も体力もある私が受けないとって思って咄嗟に……ごめん、心配掛けて……」

 

「謝らなくてもいいよ。多分、あれをメイプルが受けてくれなきゃ相当不味かった。 ……でも、よく耐えれたね?最後相当マズかったと思うんだけど」

 

 サリーの言葉の通りでもあった。怪鳥の全体攻撃は、エリア全体を覆う魔法陣を出現させ、連続で氷の氷柱を地面から隆起させるというものだった。これは、突入したメンバーの数で規模が変化し、そして全員に対して回避しても続けて追尾して隆起する氷柱を発生させるというものだった。もし分散していれば、全員が追尾する氷柱の隆起に襲われることとなり、加えて怪鳥が黒いオーラを纏っての突進が追撃で入るため最悪誰か一人は相当まずい状況だった可能性があるのだ。

 

 それをメイプルが全て一人受けすることで封じた。とはいうものの、【悪食】を使い更には【瞑想】、サリーの【ヒール】、それぞれのありったけの回復ポーションでメイプルの体力が減っては回復しての繰り返しになるほどに追い詰められたのだが。しかも、数度は体力1割を切り、最終的には体力が僅か1ミリで耐えたのだ。

 

「えーっとね……その、ね?実は怪鳥に突進される直前にスキルが取れたみたいで……。【不屈の守護者】って言うんだけど、一日に一度だけどんな攻撃を受けてもHP1で耐えるスキルで、それでギリギリ耐えれたみたい」

 

「ああ、なるほどね。 ……ん?あれ?ということは今メイプルHP1!?」

 

「えっと、うん」

 

「わぁぁあああああ!?【ヒール】【ヒール】【ヒール】!リオぉ!ありったけMPポーション!」

 

 大慌てでサリーが【ヒール】を連打し、同じように慌てたリオがあたふたしながらサリーに対してMPポーションを連続使用する。

 

 その御蔭でメイプルの体力は全快まで回復したのだが、動揺している二人はそれでもヒールを掛け続け、メイプルが『も、もう大丈夫だよー!』と言っても暫く止まらなかった。

 

 やっと落ち着いた後、今度はリオの話題になった。

 

「そういえばリオ、最後のアレは?いつもスキル無しの精密射撃ばっかりだから、スキル撃つの初めて見たかもしれない」

 

「いや、別に私攻撃スキルがないとかそういうのじゃないからね姉さん?単純に普段は普通に撃ってるほうが火力出るってだけで」

 

「まあスキルは基本的に致命取りにくいからねー。 ……で、あれなに?リオの魔力弓って爆裂矢だから攻撃の後退避したけど、とんでもない爆発でびっくりした」

 

「あれはアルテミスに持ち替えた時の専用攻撃スキルの1つで、【サジタリウスアロー】って言うんだ。ただ、色々使い勝手が限定されるから、あまり使うタイミングが無いんだよね……。今回は怪鳥があんな状態だったし使えたけど」

 

「へぇー。ちなみに、何か制限でもあるの?あれだけとんでもない威力なら対集団とかなら精密射撃よりあっちのほうが威力でそうだけど」

 

「瞬間火力だけならそうなんじゃないかな。……【サジタリウスアロー】は、矢が防御力無視の特大ダメージを【INT】参照として与えて、更に着弾地点で広範囲爆発して同じく防御無視の【INT】参照特大ダメージを与えるってスキル。ただ、MPの消費がかなり重いのと、これ、発射まで5秒かかるんだ。しかも発射待機状態だとキャンセルして動くことは出来るけど、基本発射待機中は撃つまで動けない。まあ、有効射程が尋常じゃないくらい長いから固定砲台向けのスキルだね」

 

「うーん、確かにそれは使うタイミング限定されるね……。一方的に遠距離から撃てる状況ならかなり強そうだけど」

 

「まあ特定の地点に対する砲撃とか、拠点防衛向けだね」

 

「やっぱりうちの妹、ズドン射手では……?」

 

「姉さん?なにか言った?」

 

「ナンデモナイヨ」

 

 思わずサリーの中では遠距離から一方的に【サジタリウスアロー】による砲撃を行う妹が浮かんでしまう。実際、ほぼ必中。防御無視、高威力で広範囲を薙ぎ払う。そんなものを手が出せない位置から打ち込まれるなど悪夢でしか無い。今の所そんなことはないが、後々状況やイベントによっては普通にやりそうだなとサリーは思った。当の妹はキョトンとしている。

 

「まあ今回使ってみて、色々と使いみちは思いついたから今後は使っていこうかと思うよ」

 

「……私、敵に同情するわ」

 

「うん?何言ってるの姉さん、"的"に遠慮する必要はなくないかな?」

 

「いや本当リオ戦闘に入ると私よりえげつない」

 

 この先妹と敵対するプレイヤーに同情しつつ苦笑いする。

 暫くの間休憩しながら話をした後、エリアの探索に入った。

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 その後、エリアの探索に入った。

 

 まず見つけたのは、怪鳥の素材。メイプルの防御力すら抜いた黒い爪が4つ、そして怪鳥の羽が3つ。それらはどうやら最後のリオの一撃によって吹き飛んでいたようで、なんとメイプルが【毒竜】によって作り出した毒沼の中に落ちていた。リオはこれについては素材を吹き飛ばしたことについて『ごめん、本当にごめん!』と平謝りしていた。毒沼に落ちた以上、サリーとリオには回収できないのだ。結局じゃぶじゃぶと平然とした顔で毒沼の中を歩いたメイプルが全て回収した。

 

 怪鳥の素材はどれもが最高品質の素材と言ってよかった。少なくとも、メイプルの防御すら抜いたという爪はとても価値がありそうだった。3人で相談して、それらの素材についてはイズの所へと持ち込んで何かに使えないか相談してみようということになった。

 

 そして探索をすること暫く。メイプルは高所への移動ができないため、フィールド内部の探索。サリーとリオがフィールドの崖の上あたりの探索を行っていると、サリーが何かを見つけたようだ。

 

 

 

「ん……これは?メイプルー、リオー、こっちまで来れるー?」

 

 

 

 崖の上、氷の壁の出っ張りにある巣の上からサリーが二人を呼ぶ。メイプルは【カバームーブ】によりサリーのもとまで瞬間移動。リオは近くの崖を探索していたため、そのまま足場を飛んで巣まで移動した。

 

 巨大な鳥の巣。そこにあったのは、

 

 

「3つの卵と、それにメダルが10枚!?おお、これは凄いね!」

 

「これは大収穫だね、でも……」

 

 サリーとメイプルがそれを見て喜ぶ。メダル10枚はかなり嬉しい。目標が30枚、現時点で5枚だったためこれで15枚。半分を達成したことになる。かなり目標へと近づいたことで喜ぶ三人。

 

 だが、不思議に思ったこともある。それは、この卵だ。

 

 卵は全部で3つ。1つは緑色の中くらいのサイズの卵、1つは淡い紫色の中型の卵。そして、最後の1つは灰色の大型の卵だ。

 

「これ、なんだろう?」

 

「怪鳥の卵かな?でも、それにしては色も大きさもバラバラだし……ちょっとアイテムの概要欄確認するね」

 

 サリーがアイテム説明を確認して、頭の上に疑問符を浮かべたような顔になった。どうしたのだろうかと思っていると、それを見せるようにメイプルとリオにも見せた。

 

「モンスターの卵、温めると孵化する……これだけ?」

 

「情報が少なすぎる……」

 

 説明には、孵化するとしか書かれていない。情報が少なすぎて三人揃ってうーん、と考え込んでしまう。そんな中、最初になにかに気がついたのはサリーだった。

 

「ただモンスターが孵化するだけだったら嫌だけど、テイムできるかもしれないしなぁ……」

 

「あー……それはあるかも。ウィルバートさんに聞いた話なんだけど、プレイヤーに対して友好的なモンスターは居るんだって。だから、その可能性はあると思うよ」

 

「え?それ本当?んー……だとするなら、多分テイムっぽいかな。怪鳥の討伐難易度考えたら、ただモンスターが孵化するだけって考えにくいし」

 

 そうなると、どの卵を誰が持っていくかということになる。ふと、サリーがリオを呼んで何やら耳打ちをする。それに対して、リオは面白そうだという顔をして頷いていた。

 

 

「さて、じゃあ……メイプル、ここに3つの卵があるじゃろ?」

 

「……くっ、ちょっ、まって。想像以上に面白い。確かに小さい頃にやったゲームで最初の博士がそんなこと言ってたけど」

 

 突然、サリーがなにかの声真似のようなことをして、かなりツボにきたのかリオが思わず顔を背けて震えながら笑いをこらえていた。

  

「リオ、リアルに戻ったら覚えてなさいよ……。コホン、ここに3つの卵があるじゃろ?好きなのを1つ選ぶんじゃ」

 

 リオは遂に堪えきれなくなって大爆笑。メイプルはといえば、困惑してしまっている。

 

「まあ、メイプルが居なきゃかなり危なかったし。一番きつい思いしたのもメイプルだから。リオと話して、メイプルに最初選んでもらおうってことになったの」

 

「くっ……ふふっ、ごめん、まだ笑いが。 まあ、そういうことなんだ。だから遠慮せずに好きなの選んで、拒否は認めません」

 

 そこまで言われてしまったら、遠慮することも出来ない。少し考えた後、

 

「じゃあ、私この緑色のにするね。緑色好きだし」

 

「それじゃあ……リオ、先に選ぶ?」

 

「私は最後でいいよ。結局一番負担少なかったの私だし、姉さんは終盤タゲずっと取ってたでしょ。好きなの選んで」

 

「いいの?そんなこと言ってもリアル戻ってから弄るのは中止しないよ?」

 

「……ダメかぁ。まあ、冗談さておき。いいよ、遠慮せずに好きなの選んで」

 

「んー……じゃあこの紫色のにするね。なんかティン!ときたんだ」

 

「じゃあ私はこの大きい奴ね」 

 

 それぞれが卵を回収して、再び周囲を確認する。

 すると、アイテムを回収したからか、転送陣が3つ出現していた。

 

 それぞれが違う場所につながっているのは間違いなさそうで、できれば三人としては戦闘が少なく、今日はのんびりとしたかった。こういう時の直感はメイプルが一番頼りになる。そう思ってメイプルの直感に任せ、1つ選んでもらった。

 

 その転送陣を使用して移動する。残されたのは、激戦があったことを物語るフィールドと静寂だけだった。

 

 




 ということで【銀翼】戦をお送りしました。無事に卵獲得、さてリオの卵の中身は……?

 原作でもこのあたりや対抗戦までだと最もメイプル達を苦しめていたのは、【銀翼】か後は拙作ではカットしましたがドッペルゲンガーくらいの印象。まあドッペルはそれぞれメイプルとサリーの能力を劣化と言えどコピーしてますからそりゃ強いといえば強い。【銀翼】は単純にパワーと性能の暴力で、あれペインでもきついんじゃない?という印象。メイプルの防御を抜き防具破壊まで持っていき、しかも莫大な体力と飛行や機動力というアドバンテージを持ってるのは本当強い。

 拙作の【銀翼】は、とある管理者の手によって強化されています。そのあたりについても次回触れます。

 感想などもらえると作者がとても喜びます。それでは、また次回お会いしましょう。


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射手の少女と卵の中身

 世界の中心に青色のクリスタルが浮かぶ場所。周囲の空間にはゲーム内の映像や、様々なパラメーター情報。数字やプログラムが羅列されている画面が投影されているその世界。

 

 その世界では現在進行系で、第二回イベントの様子がリアルタイムで流され、バグや不具合などがないか管理者達が確認しながら見守っていた。

 

 

 そんな中、突然それは起こった。

 

 

「ああぁぁぁああああ!!【銀翼】がやられたぁ!」

 

 突然、一人の管理者が叫んだ。それに対して全員が反応を示し、数名を除いて信じられないという反応を示した。

 

「この人でなし!あれ、なんか違うな。『銀翼』がやられた?あいつは現行のプレイヤーが簡単には倒せるような設定にしてない筈だろ?」

 

「ああ、ありとあらゆるステータスを高めに設定して、スキルも殺傷能力が高いものを詰め込んだ。……しかも最近、管理者Sがやたらと気合い入れて追加要素入れたろ」

 

「あー、なんか弄ってたな。ちょっとしたギミックだけ入れるとか言って、動作に追加だけ加えた奴だろ?」

 

「そうそう。控えめに言って純粋なSの作成コンテンツ程とまで行かなくてもかなりのクソゲーにした筈なんだよな。……で、誰にやられた?」

 

「今確認する ――げぇっ!?メイプルぅ!?」

 

「ジャーンジャーンジャーン! ってふざけてる場合じゃなかったわ! いやいやおかしいだろ!?流石にメイプルでは機動力が……あぁぁ!!!!」

 

 ガクリ、と。詳細を確認していた管理者がうなだれた。

 

「なんだこの一緒にいる二人……ば、化け物だ……。メイプルも確かにやってること大概だが、この二人動きがおかしいぞ!?」

 

「一人は高機動で当たり前みたいに攻撃避けてるし、もうひとりもなんだこの射撃精度……え?これマニュアルだよな!?」

 

「プレイヤーネームは……サリーに、リオ。うーん、純粋なプレイヤースキルだからシステムの干渉余地なしだしそもそも変なスキルの使い方してるわけでもない。とんでもない化け物ってだけだ!なんだこれ……えぇ……なんだこれ……」

 

 大騒ぎしている管理者たちから少し離れた場所。そこで映像を確認しているのは、何やら達観したようにしている一人の管理者と呆れたようにしている管理者だ。

 

 管理者S、そして管理者MとKである。

 

「流石だ……俺の最推しならやってくれると信じていたぞ……やはり最高だ、あぁ尊い……しゅき……」

 

 完全に俗に言うファン状態であり、Sはとても嬉しそうにしていた。しかもそのまま語彙力が崩壊してこのままでは『ヒョワアアアア!?』や『ヒョエエ!!』などと叫びそうだったため、近くに居たKが咎めた。

 

「おい語彙力。つーか、リオはわかるけどもうひとりの子誰だ?サリーって子」

 

「それはK、あれじゃね?姉妹、とか?ほら、二人共髪型違うけど顔が瓜二つじゃん。 ちょっと待てよ、一応確認してみる。……あー、アクセス元一緒だな。姉妹なのは間違いなさそうだ」

 

「おいM、お前今ゲームハードのアクセスログ確認したな?ここだから何も言わんが外には絶対漏らすなよ、俺らだからできることなんだからなそれ」

 

「わかってる。……ん?あれ?おい、この住所。 は?はぁぁあああああ!?マジか!?」

 

「なんだよお前まで、どうした急に」

 

「こ、これ!おいKとS、これ!」

 

 突然興奮しだした管理者Mの対して一体どうしたんだと思いながらKが。続けて、現実に戻ってきたSもMがそんなに慌てているのが珍しく、指し示すデータを確認した。そして、それを見た二人もまた唖然とすることになる。

 

「おい、おい。S、これってあれと同じじゃ」

 

「ヒョェェエエエエエエ!?あっ……もう無理……耐えられない……しゅき……」

 

「あっ駄目だこいつ完全に尊死しやがった。まあ暫くすれば起きるだろ……。でも、マジか。こんなことが」

 

「いやこれ、信じられないけどよ。でも、確かにこれなら色々と納得ができるぞ。確かに、あの人外レイドチームに居た姉妹なら納得だわ」

 

 かつてこの三人、SとKとMはNWOの開発に携わる前に別のゲームでのコンテンツを制作していた。そのゲームはVRゲームであったが、キャラクターはNWOのようにリアルの容姿が強く反映されるゲームではなかった。

 

 そのゲームにおいて、Sが作った中でも『最高傑作の1つにして最悪最凶のレイドボス』と本人が言うレイドボスが実装される。まさに無理ゲーを体現したようなコンテンツであり、なんと半年間クリアチームが出なかった。あまりの難しさに、ユーザーからは『無理ゲー』『クリアさせる気がない』『運営テストした?』などという言葉が飛びまくって弱体要望も出たが一切弱体はしなかった。

 

 だが、出たのだ。クリアチームが半年後に。それはもう当時そのゲームの中ではデマだろうという話も広がったが、運営が正式にクリアチームが出たことを公表したことで誰もが信じられないと言った。

 

 そして、そのクリアチームに匿名でのインタビューが行われることになった。クリアチーム全員からは快く『キャラ名と実名出さないのであれば』という条件のもと許可が出た。そして、当時の運営がインタビューを行うため、開発本社にチーム全員を招待することになった。その過程で招待状や記念トロフィーを郵送する必要があり、全員の住所が確認されていたのだ。

 

 そのうちの二名。それが全く同じ住所であり、匿名インタビューでは姉妹であるということを話していたプレイヤーが居た。それが今回、NWOにおいて『銀翼』を討伐したプレイヤーのアクセス元と同じだったのだ。そう、その姉妹というのがサリーとリオである。

 

 まさかのまさか過ぎてこれには三人揃って唖然である。

 

「くはっ……くくっ……なるほど。これは最高じゃないか」

 

「おやおや珍しい。いつも落ち着いてるKがそこまで楽しそうにするなんて」

 

「いや、これは面白いだろ。あの時の姉妹が巡り巡って、今度はNWOを最高に楽しんでくれてる。あー……嬉しいよなぁ」

 

 今後のあの姉妹が楽しみだ。そう思って再びKは仕事に戻ろうとする。

 その途中、あることを思い出した。

 

 

「おい起きろS、そろそろ仕事戻るぞ」

 

「……む?お、おお。それもそうだ。色々語りたいがそれは仕事が終わってからだ!今日は奢るぞK、M!」

 

「マジかよじゃあありがたくご馳走になるわ」

「店?それともSの嫁さんの飯?」

 

「なんだようちの嫁の飯が食いたのかよ。休憩時間に聞いてみるわ」

 

 『イエーイ』『よっしゃ』と、KとMが反応を示す。そして、そこでKはあることを聞いた。

 

「所でなんだが。 ……お前、『銀翼』に追加でデータ入れた時ドロップも弄ったよな?」

 

「……ナンノコトカナ」

 

「ふーん……。【銀翼】のデータ弄ったのはいつだっけ?」

 

「ええと……先週、だな」

 

「俺のデータストレージにアクセスしてもいいかって聞いてきたのは?」

 

「……先週だな」

 

「もうひとつ質問いいかな? ――俺のデータストレージにあった第七層が構想段階の時に作ったサンプルデータの卵、どこやった?」

 

 

「……お前のような勘のいい同僚は嫌いじゃないぞ」

 

「お前ぇぇええええ!?」

 

 

 今度はKが頭を抱えた。一体どうしたのかと、Mが声をかければ

 

「こいつ、やりやがった……!」

 

「何だどうしたK、お前らしくもない」

 

「とんでもないものを【銀翼】に仕込みやがった……!しかもピンポイントでもっていったのがリオだぞ!?」

 

「いやあ運命感じるよなぁ、きっとあの子に懐くと思うぞ。いやあこれからが楽しみだなぁ!」

 

 楽しそうに言うSを見て、Kはとんでもないことをしてくれた。そう思ってため息をついたが、だが不思議とこうも思ったという。

 

 彼女になら確かに、あの気高い生物が懐くだろうなと。

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 三人が転送された先。そこは、穏やかな高原地帯だった。

 

 時間は昼過ぎ。空を見上げれば青空が広がっており、暖かな日差しが高原を照らしている。

 

 暫く歩くと、大きな湖畔が見えた。近くには木々があり、日陰ができている。敵対モンスターも殆ど居ないようだ。居るのは小動物くらいで、とてものどかな場所だった。

 

 

「姉さん、表示されてるアイコン見て。ここ……安全区域だよ」

 

「本当だ……メイプルの運に感謝だねー……」

 

「えっへん!」

 

 どうだというように胸を張るメイプルだが、本当にこれについては二人としては感謝である。本気の最大集中状態、あれはかなり疲れるのだ。

 

 今回のイベントでは敵対モンスターが現れないエリアがあるとは告知されていた。どうやらこの湖畔はそのひとつらしく、のどかそのものである。

 

 しかも、周囲にプレイヤーの姿はない。これも助かった。正直、既に疲れ果てている身としては、暫く戦闘は避けたかったのだ。

 

「正直ヘトヘトだし、今日はこの周辺探索でもいい気がするね」

 

「それもいいね。のんびり釣りしたりして、キャンプするのもいいかも!」

 

「私も二人に賛成。いや本当身体がきつい……」

 

 サリーの提案に全員意義はなかった。既にメダルは15枚、目標の半数は集まっている。メダル集めの重要性は理解しているが、それでも休息もなしで続けられるものでもない。それに、一番大切なのはこのイベントを楽しむことだと三人は決めていた。なので、2日目はここでゆっくりすることに決めた。

 

「ってリオ?何してるの?」

 

「いや、折角持ってきたし使おうかなと……あったあった、これ」

 

 そんな言葉の後に地面に置かれるのは、幾つもの道具とキャンプ用品。思わずそれを見てサリーは『えぇ……?』という言葉が出てしまった。対してメイプルは物珍しいようで楽しそうにしていたのだが。

 

 

「まず釣り竿一式、焚き火セットにクッカーセット、寝袋、それから……」

 

「待て待て待ちなさい我が妹。……え?リオ?あえて聞くけどこれは何?」

 

「何って、キャンプ用品だけど?初日は小屋で寝泊まりしたし使わなかったけど、今日野宿になりそうだし」

 

「見ればわかるようちにもあるし。なんでそんなものがNWOに?」

 

「弓で使う特殊ビンの制作のためにイズさんの所に行って、イベントに参加するって話をしながらあったらいいですよねーって話をしたら翌日には作ってくれた」

 

「イズさぁぁぁああん!?あの人なんてものを……というか、NWOでこういうの作れたのね……」

 

「曰く、初めての試みだったけど割と制作は自由が効くから大抵なんとかなりそうだって言ってたよ。ただ、道具系はいけそうなんだけどテントとかは現実みたいにポリエステルとかポリコットンがNWOにはないらしくていいのが作れないって嘆いてたね。今後の階層追加で代用素材出たら普通に作りそうだけど」

 

「そのうちイズさんがアウトドア用品店も併設しそうなんだけど……」

 

「あー、それはやりそう」

 

 なんでも作れそうだなあの人は、などと思いつつため息をつくサリー。その後、積まれたアウトドア用品を見て『まあ、折角だし色々楽しもう』と決めたという。

 

 結局、その後は平和に釣りをしたり、野宿の準備をしたりして穏やかな時間が過ぎていった。

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 暫く釣りや釣った魚を調理して食べたり、のどかな湖畔地帯をただぼーっとしながら眺めていたりしていると、随分と時間が立っていた。

 

 途中、ただ何をするわけでもなく座って話をしている時に出たのは手に入れた卵の話だ。

 

 そういえば温めないと孵化しないということを思い出し、途中からはそれぞれ卵を取り出して抱きかかえるようにしながら話を続けていた。そうすると自然と卵についての話題にもなった。

 

 

「何が生まれてくるんだろう、楽しみだなー」

 

「うーん……私のが紫で、メイプルが緑、リオのが灰色だから……、メイプルのは草食系で、リオのは卵の色としては珍しくないから予想が出来ない……。私のはなんだろう」

 

「紫色……毒……【毒竜】?」

 

「いやぁそれはできれば勘弁してほしいかなぁ……。私毒耐性とか無いし、できればかわいいのがいい……」

 

 

 その後暫く、これがいい、これはちょっと勘弁して欲しい、など。わいわいと卵に対しての想いを馳せながら会話を続けていた。

 

 なんだかんだ、生まれてきたのがどんなモンスターでも優しく育ててあげようとそう思っていた。

 

 そんな三人の思いが届いたのか。

 

 卵にピシッ、と。ヒビが入った。

 

 

「えっ!?割れちゃった!?」

 

「違うよメイプル!とりあえず地面に卵を置いて!」

 

「いきなりでびっくりしたよ……っと、卵置かないと」

 

 

 慌てて卵を地面にそっと置く。

 

 そして遂に卵が割れて、その中から三匹のモンスターが姿を表した。

 

「おー!」

 

「生まれたねー!」

 

「すごい、今ちょっと感動してる」

 

 3人が嬉しそうに笑う。

 

 生まれてきたのは、三匹のモンスター。

 

 

 メイプルの緑色の卵からは、卵より少し小さい緑色の亀。動きはゆっくりとしており、じっとメイプルを見ている。

 

 サリーの淡い紫色の卵からは、雪のような白い毛を持つ狐だった。紫色の炎を宙へと浮かべ、それを確かめるように動いている。

 

 そして最後。卵の中でも一番大きかったリオの灰色の卵から生まれたのは、

 

 

「大型の、鷲……?しかも、これって大型種……イヌワシ、かな?」

 

 大型で黒と茶色の交じる羽毛。凛々しい黒い眼に、同じ色の鋭い黒い爪と嘴。それは、昔図鑑で見たことがある猛禽類の中でも大型種に分類される鷲、イヌワシによく似ていた。

 

 じっとその鳥。鷲と思われる相手と見つめ合っていたが、ふと近くを見ればメイプルとサリーは既に自分のペットとコミュニケーションを取っていた。メイプルは亀を抱き上げ、くすぐったそうにしており、サリーは狐を撫でながら『んーもふもふ』などと言ってご満悦である。

 

 

 ひとまず、その鳥に対して手を伸ばしてみた。猛禽類だが大丈夫だろうか、とも思いつつ、おいで、というように。

 

 すると鳥は大きく一度鳴くと、そのまま翼を羽ばたかせ飛ぶと、そっと爪をたてないようにして自分のコートの肩へと着地し、嬉しそうに身体を擦り寄せてきた。 賢い子だな、ケイロンと仲良くしてくれるかな、などと思いつつ頭を撫でる。

 

 そして、卵のあった場所を見ればそれぞれが光り輝き、紫と緑、黒の指輪へと変化した。3人は近寄りそれを確認してみれば、それはスキル付きの装飾品だった。

 

 

――

 

【絆の架け橋】

 

装備している間、一部のモンスターと共闘可能になる。共闘可能モンスターは指輪1つにつき一体。モンスターは死亡時に休眠状態となり、一日の間呼び出すことができなくなる。

 

――

 

 

 倒されても消滅するわけではないというのを確認して安堵する。もしそんな仕様であれば迂闊に戦闘には出さないつもりでいた。各自で指輪を装着する。すると、生まれてきた三体のステータス画面が確認できるようになっていた。

 

 そこに表示されるのは、レベル1時点のステータス。そして、使用可能なスキルに加えて名前の表示だ。それぞれの名前欄に表示されるのは、『ノーネーム』。つまり、まだ名前がないということだ。

 

「名前、名前かぁ……よし!」

 

 三人で名前を考えること10分ほど。その間、各自自分のペットと遊びながら考えていたのだが、どうやらサリーとメイプルは決まったようだ。

 

「じゃあ私がメイプルだから……シロップ!二人合わせてメイプルシロップだよー!」

 

「じゃあ私は朧にしようかな。 リオは?決まった?」

 

 嬉しそうに飛びついてくる自身のペットと戯れる二人。

 そしてリオはといえば、考えたようにしていた。

 

「そうだね……鷲で、気高そうな子だし。 ――フレス、なんてどうかな?」

 

 鷲は古来から強さや勇気の象徴として知られている。また、近年でも空の王者や頂点捕食者と呼ばれるほどに力強い生き物である。そんな強く、気高い存在の名前を考えた時、リオはある名前が浮かんだ。

 

 それは、北欧神話に現れる鷲としても知られている。強く、気高く、全ての風を司る存在としても知られているもの。そこから名前をとったのだ。フレス、という名前を。

 

 肩に乗る鷲に対して確認してみると、元気な鳴き声が返ってきた。それで構わないということだろう。

 

 名前入力欄に『フレス』と入力して確定させる。

 

 その後、レベルの低い相手で三体に戦闘を行わせてレベル上げをしてみたり、色々ステータスについて考えてみたりした。ともあれ、三人はそれぞれ自分のペットが将来どう成長していくのか楽しみで仕方がなかった。

 

 



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射手の少女と遭遇戦

 

 イベント3日目、メイプル達は休息をとった湖畔地帯を後にして別のエリアに来ていた。

 

 卵からそれぞれのモンスターが孵った後、色々なことを試した。レベルの上がり方、どんな感じに成長するのか、どんなスキルを持ってるのかなど色々と確認をした。

 

 どうやらテイムしたモンスターには【覚醒】と【休眠】というスキルが必ず備わっているようだ。これは、持ち主の判断で発動でき、【覚醒】はテイムしたモンスターを召喚するスキル。【休眠】は召喚を解除して休ませるスキルものだった。【休眠】中は装備している指輪の中に戻るようになっており、その間は体力を回復する。

 

 レベルの上がり方については、やや遅めという印象だった。少なくともプレイヤーよりは上がりにくい傾向。特にレベルが上がりにくかったのはリオのフレス。メイプルとサリーのシロップと朧がレベル3になったあたりで、やっとレベルが2になったというくらいには遅く、これにはサリーがある仮説を立てていた。

 

 卵はプレイヤーが孵すことが出来てテイムもできるが、元々はモンスターの卵。つまり、その元となっているモンスターによって強さが変わり、レベルアップに必要な必要経験値が変わるのではないのかということだ。そこから考えると、シロップも朧もレベルの上がり方が遅く、強いモンスターが元になったと考えられる。そして、それ以上にレベルの上がりが遅いフレスは、とてつもなく強大なモンスター。それこそ、あの怪鳥クラスの何かが元になったのではないのかとサリーは推測していると二人に話していた。 

 

 そうして、2日目は湖畔でテイムしたそれぞれのモンスターのレベルを上げ、それから探索に勤しんだ。結局敵対プレイヤーは現れることもなく、安全地帯ということもあって平和そのものだった。サリーが湖畔に潜っての探索によって、湖畔の底付近で宝箱を発見。そこからメダルを2枚見つけたという出来事もあり、手持ちは17枚。目標までは後13枚である。

 

 テイムしたモンスターと戯れ、湖畔でのキャンプでゆっくりと休み3日目に三人がすすんだのは、湖畔エリアの先にある森を抜けた場所。砂漠地帯だった。

 

 イベントも3日目に入り、そろそろ後半戦。既にメダルを入手したプレイヤーも増えてきており、各地では熾烈な争奪戦となっていた。それは、3人に関係のないことでもない。メイプルは金のメダルの保有者であり、既に銀のメダルも手元にはそこそこの数がある。ここまで対人戦も何度かあったものがこれからより激しくなる可能性がある。そう3人は覚悟していた。

 

 

「本当なら脱水状とか熱中症とかになっちゃいそうだよね」

 

「熱くないのは本当に助かるねー」

 

「まあ、歩きにくいのがあれだけど……」

 

 

 三人がそれぞれ砂漠の感想を漏らす。

 

 このゲームに脱水症状は存在していない。暑さでどうにかなるということもない。だが、砂漠であるが故、足元は悪く砂に足元を取られる。それが原因で探索は快適とは言えないが、着実に広大な砂漠を進んでいた。

 

 テイムした3匹は今は出していない。というのも、一度は出したのだが色々問題があったからだ。まず、シロップは砂丘をまともに登れなかった。それを見ていたたまれなくなったメイプルがすぐに戻した。朧については、行動は問題がなかったものの、体毛が砂まみれになって時折ブルブルと体を震わせて砂を落としていたので、流石にまずいと判断して戻した。唯一行動に問題がなかったのはリオのフレスだが、やはり砂まみれになっているのを気にして指輪へと戻した。

 

 ひたすらに進み、砂丘を越える。歩いていると、最初に見たサボテンの姿をしたモンスターだけではなく、頭の上に王冠を持つとてつもなく大きなサボテンのモンスターも見かけた。

 

 だが、戦闘は本能的にとてもまずいかもしれないと思った。幸い、攻撃をしない限り戦闘にならないモンスターだったようで、近くまで行ってのんびりとそのモンスターがくるくる回って踊る姿を見たり、遠くで全速力で走っていくものを見たりした。サリー曰く、あれは【超加速】を使用した自分なんかより遥かに早いとのことだった。

 

 

 探索と観光をしながら進むこと更に暫く。何度目になるかわからない砂丘超えをすれば、そこには

 

 

「あった、あったよオアシス!」

 

 

 

 緑の木々に、石造りの柱や人工物。遠目で大きめの水辺も確認できた。

 

 やっと一息つける。そう考えて3人は進んだが、途中でサリーとリオが足を止めた。

 

「……どうしたの二人共?」

 

 メイプルが疑問を浮かべるが、それに対してサリーが一度止まるように指示した。

 

 

「姉さん」

 

「分かってる ……人がいるね」

 

 突然武器を抜いた二人に対してメイプルは困惑したが、武器を抜いたことがどういうことなのか理解は出来た。

 

 人がいるのだ。

 

 

「……まさか、こんな所で出くわすとはな」

 

 

 女性の声がした。凛とした、大人びた女性の声。

 

 言葉の後、オアシスにある柱の陰から一人のプレイヤーがゆっくりと姿を表す。黒の長い髪、桜色の羽織に紫の袴。和服姿のプレイヤーであり、腰には一本の日本刀。

 

「前回イベント3位のメイプルか。ここで会えるとは僥倖だ」

 

 現れたその相手に対してサリーは即座に双剣構え、リオも物理弓を構え、いつでも撃てるように準備した。

 

 

「が、三人が相手なら分が悪い。ここは見逃してもらえないか?」

 

「……好戦的にしておいて、それはないんじゃないですか?」

 

「ふっ……確かに3人相手は無理だろう。しかし、もし戦うなら一人くらいは道連れにしてみせよう」

 

 

 女性の視線はサリーへと向けられていた。恐らく、逃げた所で一番追ってくる可能性が高いのは双剣使いであると考えたのだろう。全員が武器を構えて一触触発の状態。緊張が走り、暫くの間睨み合いが続いた。

 

「……ふっ」

 

「諦めが付きました?私達も、ここであなたを逃がすわけには行きませんし」

 

「いや、覚悟ができただけだ。 ――【超加速】!」

 

 動いたのは、刀を持つ女性プレイヤーだった。

 

 一気に加速し、3人の内誰かに対して肉迫するものと思っていた。

 

 可能性として一番高いのはサリーだ。メイプルは鉄壁の防御力を持ち、リオはその近くにいるためカバーの対象になる。

 

 だが、女性の取ったのは 撤退という選択だった。

 通った道に砂嵐が吹き荒れ、僅かにメイプルとリオの行動を止める。

 

 

 しかし、サリーはそれを読んでいたかのように、

 

 

 

「【超加速】!」

 

 

 同じスキルを使用し、凄まじい速度でそのプレイヤーを追撃に入った。

 

「……砂煙さえなければ当てれたんだけど。って、メイプル?」

 

「私、二人を追うよ!リオはここで待ってて!戻ったらここで休憩ってことで!」

 

 遅い足ながら、全力でサリー達の行った方角へ向かうメイプル。むしろ追いかけるなら自分ではないかと言おうとして、それを止めようとしたが既に走り出していた。

 

 オアシスに一人残されたリオは、ため息をつくとひとまず自分が少し休もうと考え、サリーとメイプルが戻ってくるのを待つことにした。

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

「ふふ、くすぐったいよフレス」

 

 姉とメイプルを待つこと暫く、ゲーム内時間でそこそこの時間が経過しているはずなのだが、未だに二人は戻ってこない。二人が負けた、とは考えにくかった。だとすれば、何かしらのフィールドギミックに巻き込まれた可能性が考えられた。そう考えれば迂闊にここを動くわけにもいかない。二人を待つ間、とにかく今の所平和なのだから警戒しつつ身体を休めようと考え、オアシスにある人工物の石に座るとリオはフレスを呼び出した。

 

 オアシスは外ほど砂嵐がひどくない。緑もあれば水辺もある。なら、出しても問題ないだろうと判断して指輪からフレスを呼び出す。呼ぶと、すぐ嬉しそうな声を上げて肩へと乗り身体を擦り付けてくる。かわいいな、と思いながらもそれを撫でる。

 

 近くに落ちていた小さな木の実を試しに投げてみれば、それをすぐさまフレスは羽ばたき、咥えた後に自分の所に戻ってくる。そうやって遊んでいるだけでもとても楽しかった。

 

 とにかく、今は二人の帰りを待つしか無い。それまではここでフレスと遊んでいても大丈夫だろうと思い、次は何をして遊んであげようかなどと考えていると、

 

 

「――っ! フレス、戻って」

 

 

 即座にフレスを指輪へと戻す。足音がするのだ。それも、複数人の。

 

 岩陰に隠れて見れば、オアシスの外にある砂丘から歩いてくる影が見えた。プレイヤーだ。

 

 数は、確認できるだけで5人。全員が赤い色の似たようなデザインの服で統一されていて、PTの武器編成も悪くない。魔法使いが2、大盾が1,剣使いが1に槍使いが1。恐らく、魔法使いの内1人はヒーラーで、一人は攻撃型であると推測できた。

 

 嫌なタイミングだ、思わずそう思った。

 

 あの特徴的な一団には見覚えがあった。イベント開始前、転送地点で演説をするプレイヤーの前に居た集団とものと同じだ。

 

 つまり、あの一団は【炎帝ノ国】グループということになる。開始前にクロムとウィルバートが厄介だという話をしていたことを思い出し、警戒度を引き上げる。

 

 影からもうすぐオアシスに入るだろうかという所まで来ている一団を観察する。常に槍使いが周囲を警戒している。二人の魔法使いは背後、それをカバーできる位置に大盾。剣使いは陣形の周りを自由に動き回りながら遊撃の体制を取っている。

 

 

 どうするか、リオは考える。

 

 

 この場を離れるという選択は厳しい。周囲は砂丘であり遮蔽物がない。それに、いつここに二人が戻るかも不明だ。合流場所を無くすのは不味い。

 

 ならば、隠れてやり過ごすか。これも駄目だ。このエリアは自分達も探索をしていないし、あの一団も探索を行うだろう。そうすれば見つかるのは確実。

 

 話し合いをする、これは論外だろう。既にイベントは後半戦に入ろうとしている、全員血眼になってメダルを探している。そんな状況で見逃してくれるとは到底思えない。

 

 だとするなら。

 

 方法は1つしか無い。あの一団を全滅させて、このエリアに留まること。

 

 

 

「……それに、」

 

 

 それに、もし仕掛けるなら早いほうがいいかもしれないという予感もあった。"相手は5人"。つまり、NWOにおける最大PT人数である8人のフルPTではない。あんな統一性のある明らかに手練の一団が、本当に5人PTだろうか?フルPTでないにしても、もしかしたら後続がいるかもしれない。そう考えるなら、早急に仕掛けて全滅させるべきだ。

 

 建物の影に隠れ、魔力弓を展開する。まだ弓のライトエフェクトは見えていないはずだ。こっそりと移動し、建物の影をつたい、一団の背後の近くまで接近する。警戒はしているようだが、まだ気が付かれては居ない。

 

 ライトエフェクトが漏れないように隠れ、だが視界には軽く散開している一団のうち、背後に居る魔法使い二人。そして、背後を取れている大盾使いを狙う。致命を取れば、魔力矢による致命判定のダメージに加えて爆裂によって一気に数を減らせる。だからまず、構成的に厄介な相手を潰す。

 

 だからリオは、迷わずに一団の魔法使いが固まっている場所。そして大盾使いを対象として仕掛けた。

 

 壁から見を翻した瞬間、番えていた魔力矢を放つ。

 

 それは真っ直ぐに目標へと飛翔。背後から固まっていた魔法使い二人の胴体を貫通し、地面に刺さった魔力矢が爆裂。そして、同時に放ったもう一発の矢が大盾使いの頭。プレートヘルムを貫通して地面に刺さった後に爆裂した。

 

 全てが致命ダメージである。更に、爆裂の追撃。それによって一瞬で3人のプレイヤーが倒されたことでこちらに気がついた残り二人が慌てて武器を抜いて応戦しようとするが、もう遅い。第二射の準備が整うのと、相手が接近するのではリオのほうが圧倒的に速い。戦士のプレイヤーは重装甲ということもあって動きは遅く間に合わない。

 

 続けて、相手に反撃を許さず第二射が放たれる。それは同じように、二人の頭を射抜いた。

 

 

「……よし」

 

 メダルはなし。だが、脅威は排除することができた。

 できれば、後続がないことを祈りたい。そう思っていたが、

 

 

 

 

「【炎帝】ッ!」

 

「ッ……おっと!」

 

 

 声が聞こえた。それは、少女にも、女性にも取れる声。

 

 突然の背後からの攻撃。それを左に飛びながら回避し、空中で身を翻し攻撃の来た方向へと弓を向ける。

 

 そしてそこには、ある意味最悪だとしか思えない相手が存在した。

 

「……だから先行するなと言ったのだ!」

 

「――まさか、ここで鉢合わせとはね」

 

 

 燃えるような背中まであるかどうかの紅の髪、紅玉とも呼べる瞳。

 

 赤のマントと、それに合わせたような魔術師向けの赤の防具。

 

 リオはこの相手を知っていた。この相手もまた、イベント開始前に先達である二人が話していた人物なのだから。

 

 第一回イベント4位にして、その多大なカリスマで【炎帝ノ国】というグループを統率する人物。

 

 

 【炎帝】と呼ばれるプレイヤー。ミィの姿がそこにはあった。 

 

 






 


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射手の少女と【炎帝】

ちょっと長め。キリのいいところまでやったらいつもの大体2倍になった。
一応今回は原作13巻特典のドラマCDネタを含みます


 

「なるほど、先程の人達はあなたのPTメンバーでしたか。 ……【炎帝】ミィさん?」

 

「……お前がうちのPTメンバーを壊滅させたのか?」

 

「状況説明が必要ですか?」

 

「いや、必要ないな。どちらにしても、やることは決まっている」

 

 その容姿や装備の如く、炎にも見える小ぶりのフランベルジュに似た武器の切っ先をこちらに対して向けてくる。【炎帝】ミィ。前回イベント四位であり、熱狂的なファンを高いカリスマで統率しているプレイヤーだということはイベント前に聞いていた。

 

 相手は恐らく魔法使い。対してこちらは弓。単純な火力では魔法職のほうが上だろう。こちらが範囲攻撃や瞬間的な広範囲火力に乏しいのに対して、恐らく相手はそれを意図も容易く展開できる。しかもトップランカーだ。簡単に致命を取らせてくれるとも思えない。厄介な、そう思う。

 

「ここで倒させてもらうぞ。うちの精鋭を壊滅させたんだ、メダルくらい持っているだろう?」

 

「さて、どうでしょう。逆に聞きますけど、そちらこそ金のメダルを持っているんでしょう?前回4位なんですから。ついでに言うなら、銀のメダルも」

 

「……試してみるか?」

 

 先程全滅させた5人はメダルを持っていなかった。おかしいと思ったのだ、もしあれがフルメンバーなら、誰か一人がメダルを持ってるはず。なのにそれがなかった。ということは、やはり後続が居るとは思っていたが、その相手がまさかの相手だ。だが、これで間違いないだろう。あの一団が集めた全てのメダルを保有しているのは、ミィだ。

 

「言葉は不要か」

 

「それはこちらの台詞でもありますね」

 

 刹那の時間の後。二人が同時に動いた。

 

 リオが戦闘するのにあたって選択したのは魔力弓であるアルテミス。相手は単体、しかも大きな一撃を取れれば一気にゲームエンドまで持っていけるキャスターが相手だ。物理弓での一撃必殺も視野だったが、それをリオはしなかった。

 

 相手はトップランカーだ。当然、致命対策をしているのは間違いなく、何かしらの手段があると見た。だからリオは弱点に対する狙撃だけを重視せず、射撃による制圧戦を選択した。

 

 

 そして、それは正解だったと言える。

 

 

「【炎帝】ッ!」

 

「かなり無理矢理な対策だなぁッ……!」

 

 開幕で少なくともミィの動作より早く撃った魔力矢3発。今の自分が同時に撃てる最大の発数のそれを、ミィは対応してみせた。

 

 【炎帝】の炎を正面ではなく、やや斜め上に向けて撃ったのだ。結果、対峙している状態から放たれた3発の魔力矢はミィに到達する前に【炎帝】の炎に直撃、弾け飛びその地点で爆発した。

 

 面倒な相手だ、思わず内心で舌打ちしたくなる。

 

 リオの得意とするのは、遠距離からの致命射撃による一撃必殺、または大ダメージだ。アルテミスでの遠距離からの制圧射撃、天狼弓による長距離からの高威力狙撃と特殊ビンを装填した状態異常狙撃、これらを使い分けて相手を倒すのが基本的な戦い方になる。だが、それが成立しなかった場合、リオのアドバンテージは一気に崩されることになる。

 

 今の状況がそのひとつだ。遭遇戦、しかも相手は中距離を維持しており、こちらが距離を開けようとしてもそれを許さず追撃してくる。こういった相手が一番厄介なのだ。並のプレイヤーなら追撃してきた所をカウンターショットによって仕留める、ということが可能だが相手はトップランカー。そんなことを許すはずもなく、更に言うなら相性も悪い。

 

 距離を離すことが許されない以上、中距離での機動射撃戦になる。だが、そうなると不利なのはこちらだった。リオには魔法攻撃による広範囲攻撃が無い、だが相手にはそれがある。こちらの放つ矢はミィの【炎帝】や【爆炎】によって攻撃を炎に吸われ、ミィに届かない。

 

 攻撃を通す手段がないわけではない。ミィの炎を貫けるほどの威力を持った高威力射撃。それならば、ダメージを通せる。そして、リオにはそれを可能とするスキルがある。【サジタリウスアロー】だ。防御力を完全に無視し、超高威力の魔力ダメージを与える、怪鳥の胴体に大穴を開けるほどの攻撃。だが、それを使用できる状況でもない。このスキルは、発動に5秒必要とし、発射態勢に入ると攻撃をキャンセルする以外で動く方法がなくなるのだ。中距離を維持しているミィに対してそれは使用できない。そんなことをすれば自殺行為であり、一瞬にして距離を詰められておしまいだろう。

 

 どうする。そう考えながら、ミィからの攻撃を回避する。攻撃を通す手段がなければどうしようもない。何か方法はないか、そう考えて――

 

 ふと、先程の女性プレイヤーが撤退した時の砂煙。そのことを思い出した。

 

 

「……一か八か、やるしかないか」

 

 

 リオは賭けに出ることにした。

 

 今の戦況を確認する。自分とミィが戦闘を行っているのは、オアシスの外だ。このまま回避を続ければ戦闘はオアシス内部に突入するかもしれないが、まだその外。砂丘だ。

 

 ミィの【炎帝】が飛来する。それを回避した直後、行動に出る。

 

 思いっきり地面の砂をミィの方向へと蹴ったのだ。更に同時。魔力矢を3本番えると、それをある地点めがけて狙いをつける。

 

 狙うのは、ミィの方向。だが、ミィではない。

 ミィの正面、僅か先、そこにある砂の地面だ。

 

「なっ……砂がっ」

 

 蹴った砂。そして、3本の魔力矢が地面の砂に直撃したことで爆裂し、それによりおびただしい量の砂が舞う。それは砂塵となって、互いの視界を奪う。

 

 どういうつもりだ、ミィはそう思った。これは目くらましだろう。だが、一時的に視界を遮断するほどの砂塵が舞えば互いに場所はわからなくなる。相手が弓を使用するのはわかっている、とするならばこれは自身の視界すら奪うことになる。距離を取った所で、この砂塵の中でこちらは動ける以上位置は把握できない。何が狙いだ、そう思っていると。

 

 

 

 ゾクリ、と。ミィの背筋に冷たいものが奔った。嫌な予感がした。とてつもなく嫌な予感だ。咄嗟に後ろを振り向いたミィは見た。

 

 自分の背後。それも真後ろで姿勢を低くして、三本の蒼の光の矢を番える、相手の姿を。

 

 対してリオは思った。『捕まえた』と。

 

 遠距離戦には持ち込めない。砂塵を張って距離をとった所で相手の位置が不明になる以上、【サジタリウスアロー】で撃ち抜くこともできない。ならば、相手の虚を突くしかない。そして、それが作れるのは――相手の判断という選択が、錯乱している時だ。

 

 ひとつの行動選択を出来ない状況、それを作り出すしかない。そう考えて、一か八かリオは砂塵による目眩ましという手段に出た。相手が愚直でなければ砂塵の中を無理に突破しようとはしないはずだと考えた。そんなことをすれば、もしこちらが距離をとっていた場合砂塵を抜けた瞬間に狙撃に晒されるからだ。

 

 そして、ミィは愚直ではなかった。冷静な判断ができる、優れたプレイヤーだった。だからこそ、その虚が生まれた。相手のその堅実さをこちらの愚直で撃ち貫く。それが、リオの賭けによる作戦だった。

 

 ほぼゼロ距離。この状態では回避は不可能だろう。加えて、3発の魔力矢だ。全力で砂塵を駆け抜けたため、狙いを定める時間はなかった。だから、ミィの背後が見えた瞬間、胴体を狙った。ゼロ距離からの魔力矢による胴抜き3発。この直撃を通せば、致命傷になる。そう思ってリオは矢を放った。

 

 

 その瞬間、リオは見た。ミィが何かを呟いたことに。何を言ったのかは聞き取れなかった。だが、不味いと思った。だからそのまま後ろにバックステップして回避をした。

 

 直後、ミィの周辺に巨大な爆発が起こった。爆音が響き、耳に不快な音がする。視界は砂塵から炎の爆風に変わり、思わず視界を塞ぐようにした。

 

 

「うっそでしょ……」

 

「くっ、ぅ……中々に効いたな、今のは」

 

 ありえない。そう思わざる得なかった。

 

 確かにミィの背後から矢を三発、胴抜きでしかも致命を通したはずだ。にもかかわらず、ミィはまだ立っている。ボロボロで片腕で身体を抑えるようにしているが、現存している。

 

「捕まえた、そう思っただろう?私も捕まえたと思ったのだがな」

 

「……そんなバカな。ゼロ距離での高威力射撃、それを3発全部通したのに倒れないなんて。   ――まさか」

 

 ありえない。そう、通常ならありえないのだ。ダメージエフェクトの発生は見ていた。間違いなく致命判定のエフェクトだったのもあの爆発の前に一瞬だったが確認している。

 

 つまり、ミィはそれに耐えきったということになる。そして、それを可能とするスキルを知っている。

 

 メイプルの持つ【不屈の守護者】。それと同じような食い縛り系のスキルだ。確かにそれなら可能だ。どれだけダメージを与えても、一度だけ耐えきる。そして、ミィはその瞬間を狙ってカウンターを仕掛けてきたのだ。

 

 それがあのとんでもない威力の爆発だ。咄嗟に全力でバックステップして距離をとっていなければ、やられていたのはこっちだった。

 

 

「さあ、続きと行こうじゃないか。 ……もう小細工は通用しないぞ」

 

「それはこっちの台詞。さっきの騙し討ちみたいな爆発も、もう通じないよ?」

 

 

 どうする、思わずリオは考える。もう小細工は通じない。だが、攻撃を通さなければ不利なのはこちらだ。

 

 対してミィも焦っていた。切り札のひとつを使わされてしまった。その上、一日に一度しか発動しない食い縛りスキルまで使う羽目になった。これで、もう誤魔化しは効かない。

 

 対峙する二人。再び二人が同時に動き出そうとしたその瞬間。

 

 

「なっ!?」

「えっ!?」

 

 突然、オアシスの中央にある建物が輝き出した。そしてオアシスとその周囲に現れるのは、白い魔法陣。突然のことで理解が出来ない二人は、そのまま光に飲み込まれる。

 

 後に残ったのは、誰も居なくなったオアシスだけだった。

 

 

◆  ◆  ◆

 

 

 そこは、古代遺跡を思わせる空間だった。

 

 古びた遺跡というわけではなく。周囲の壁には壁画が描かれており、壁に打ち込まれた台座には光源となる様々な色をした発光体が固定されている。

 

 地面は灰色のタイル。劣化を感じさせないそこは、ファンタジー世界の綺麗な遺跡を思わせた。

 

 そんな場所に転送された存在が一人居た。背中ほどまである炎の如き髪に、紅玉の瞳。それと同じような赤の装備に身を包むプレイヤー。ミィだ。

 

 ミィはキョロキョロと周囲を確認した後、息を吸い込んで、

 

 

 

「あぁー!もぉぉおおお……!私の切り札ひとつ使わされて、食い縛りまで使わされた……。本当あの子なんなのぉ……」

 

 

 

 今まで押さえつけていたようなものを吐き出すように叫んだ。

 その姿はは先程までリオと戦っていた時のものとは全く違い、

 

 

『あんなの反則だよ!おかしい!反応速度と射撃精度が!攻撃精度も怖い!』

 

『本当に背後取られた時は怖かったぁ……。獲物狩る眼してたよぉあれ……』

 

『うぅ……みんな頑張ってくれてたのに、私は結果出せなかったよぉ……ごめんね……だめなリーダーでごめんねぇ……』

 

 

 などとぼやき始めた。

 

 

 地団駄を踏み、悔しそうに時折大声を上げてみたり。

 時々変なポーズをしてみたり。

 時折いきなり落ち込んで涙目になりながら自責をしたり。

 

 先程とは明確にギャップがありすぎるミィの姿がそこにはあった。

 

 

「うぅ……私にリーダーなんて無理だったんだよぉ……ちょっといい所見せようって頑張ったらこんなことになっちゃって……でもみんなの期待は裏切りたくないし……あうぅぅぅぅ……」

 

「あー、あのー……」

 

 

「私が頑張らなきゃだよね……!うん、どこかわからないけどここから出て、また頑張ろう!」

 

「ええっと……もしもーし?」

 

「メダルはとられてないし、次は絶対に ――ふぇ?」

 

 

 

 ミィは気づく。一人で色々とぼやいていたら、途中から別の声が聞こえたことを。

 

 ギギギ、と。まるで油の切れた機械のごとく鈍い動きで背後を振り返れば、

 

 

 

「あー……なんか、邪魔してごめんなさい……」

 

 とても申し訳無さそうにしているリオの姿があった。

 

「ふぇ……」

 

 

 涙目になり、情けない声を出し、半泣きになってしまう。

 

 見られた。完全に見られたのだ。

 

 最初は居なかったのだから恐らく時間差で転移してきたのだろう。だが、どこから見られたのかは不明だ。だが、少なくとも"素の自分"を見られたことに間違いはない。

 

 申し訳無さそうな茶色の瞳と、自身の瞳が合った。

 

 

「――もうやだぁぁああああ!!!自滅しておうちかえるぅぅうううう!!!」

 

「ああ待ってストップストップ!分かった、私が悪かったから落ち着いて!自滅はやめて!お願いだから!」

 

 そこには、半泣きになっている先程の姿からは考えられないミィと、それを見て色々と困惑しているリオの姿があった。

 

 

◆  ◆  ◆ 

 

 

「えーっと……落ち着きました?」

 

「うん……おちついた……後、敬語はいい……同い年、なんでしょ?」

 

「じゃあ、そうさせてもらおうかな。 もう大丈夫?後、ほら ――キャラ作りとか」

 

「うん、大丈夫。キャラももういい……見られちゃったし、理由も話したし……」

 

 ミィをなだめること大凡20分。やっと落ち着いた二人は、ひとまず現状を把握する。現在地は不明。恐らく、戦闘中に何かしらの要因でギミックが誤作動して転送されたと思われる。そして自分達二人にはあるデバフがついている。それは、

 

 

――

 

【束縛の鎖・小】

 

対象のプレイヤー同士が鎖で繋がれた呪いの状態。

 

どちらかか死亡すると、もうひとりも死亡する。破壊不可能。

 

――

 

 

「うーん……ロールプレイかぁ……。確かに、それは気を使うよねー……」

 

「そう、そうなの! あ、えっと、名前」

 

「ああ、そういえばまだだった。私はリオ、ひとまず今は休戦ということでいいかな」

 

「うん、それでいいよ。私はミィ。よろしくね」

 

 先程まではお互い全力での戦いだった。どちらかを倒さなければ終わらない、という状況だったが今は状況が違う。このダンジョンと思わしきエリアを抜けるまでは少なくとも協力をしなければならない。

 

 一時的な休戦、なのだが。ミィはどこか安堵したような感じになっていた。

 

 

 ミィを落ち着かせる過程で、リオは色々と試しに話題を振ってみていた。姉から教えてもらったゲームの話題や、イベントの雑談。怪鳥の話や、自身がその結果としてかわいくて頼れる鷲の相棒をテイムしたこと。とにかくなだめるのに必死だった。なにか話題を振り、それで場が和めばと思って話をしたのだ。

 

 結果、ミィも色々と話をするうちに落ち着いてくれた。その中で色々と教えてくれたのだ。実は自分と同い年だったということ、本が好きということ、ロールプレイをしているうちに取り返しがつかなくなって普段は指導者プレイをしているということ。実は家では猫を飼っており、ミィという名前はそこからとったのだということ。ゲームが大好きで、VRゲーム以外だと音ゲーが大好きだということや、好きな音楽は雑食だが『ボカロ』や『歌ってみた』が好きだということ。

 

 演技中のミィはリオとしてはなんだか近寄りがたさを感じていたが、こうして素のほうで話をするととても好感が持てた。実際、前に姉とプレイしていたVRゲームでは様々なロールプレイをしているプレイヤーも居た。当時の知人の廃人による地雷装備でプレイしながら華麗に敵を倒すという『セット装備太刀プレイ』、奇抜な超重量鎧一式に身を固めた数人での『玉葱騎士団プレイ』、街を出たすぐの場所に大抵居て、初心者に時限性のバフをかけまくる『辻バフプレイ』。他にも様々なロールプレイが存在していて、今思えば懐かしいなと思う。

 

 それに他のゲームや本が好きというのもとても好感触だった。音ゲーについての話題はついつい盛り上がってしまったし、猫の話などは特に盛り上がった。

 

 

「でもテイムかぁ……私も欲しいなぁ、探してみよう」

 

「多分、ゲームシステム上どこかにはあるとは思うよ」

 

「私も絶対かわいい子をテイムしてみせる……! あ、えっとねリオ」

 

「うん?どうかした?」

 

 

 歩きながら話をする。

 

 最初、ミィが大暴れして自滅しそうになったのだが、実はそもそもの話それはこのエリアでは出来なかった。

 

 このエリアは、全てスキルが使用禁止になっている。つまり、探索と謎解き専門のエリアなのだ。

 

 だからリオも何も出来ないし、指輪の中で休んでいるフレスを呼ぶこともできない。デバフから考えると、恐らく戦闘不能になるのは謎解き系のギミックだろうと目星をつけて二人は探索していく。

 

「今の私が素だってこと、秘密にして欲しいの」

 

「元々言いふらしたりなんてするつもりはないけど……でも、何て言うのかな……疲れないの?」

 

「……疲れるよ。皆に期待されて、その期待を裏切ったらって思うと怖くて。最初はね、頑張ってちょっといいところ見せたいだけだったの。それがいつのまにか、こんなことになっちゃって、引っ込みつかなくっちゃって」

 

 

 リオが何気なく言ったその言葉。それは、ミィがある意味求めていたことだった。自分を理解してくれる人がほしい。普通に接してくれる人がほしい。崇拝や信仰、狂信めいた期待などではなく、ただただ普通の人間関係。本当はこんな重圧なんて捨てて普通にプレイしたい。遊びたい。けれど、既にそれができない状況になっていた。そして、それとは別のものも自分の中に感じていた。

 

「本当は今みたいに普通に話したいし、遊びたい。でもね、同時に私は思うの。【炎帝】としての私も捨てたくないって。みんなが信じてくれる。期待してくれる。その期待を裏切りたくないって気持ちもあるんだ。 ……わがままな子だね、私」

 

 

 素で楽しくプレイする自分と、周りから期待される自分。

 

 その両方をミィは大事に思っていた。無くしたくないと思っていた。

 

「私にはロールプレイっていうものがあまりよくわからない。でも、どちらのミィも大切にしたいなら、切り分ければいいんじゃないかな?」

 

「切り分ける?」

 

「うん。演じている皆から頼られるミィと、今みたいな楽しく素を出してるミィ。それを分けてプレイすればいいと思うんだ。信頼してくれてる人達の前では【炎帝】としてのミィを、友達とか知り合いとか、素を出せるような、心許せる相手には素のミィをって感じで」

 

「……難しそう。それに、今の所私にはそんな相手だって殆ど居ない気がするし」

 

「自分の心でこの人は信じられるって思った人でいいんだよ。きっと、素のミィを受け入れてくれる人が身近に絶対いると思う」

 

「そうかな……。じ、じゃあ。あのね、リオ!」

 

 

 呼ばれ、反応すれば見覚えのあるウィンドウが送られてきた。

 

 それを見てリオは、思わず驚いてしまった。

 

 

「え? これ、いいの? ……私、さっきまで思いっきり敵だったんだよ?」

 

「今の私は、素のミィ。さっきの私は【炎帝】としてのミィ。 えへへ、こういうことだよね?」

 

 

 確かにその通りだ。少なくとも、今のミィは敵ではないし、彼女の言うところの素のミィだ。飛ばされたのは、1つのウィンドウ。フレンド登録の通知だ。 

 

「ここまで素の自分を出したのなんて、ゲームでは多分初めてだから。 ……それに、今の私はリオと話してて凄く楽しい。ここを出たら、私は【炎帝】としての私に戻る。そうしたらまた戦わなきゃ駄目だけど、でもイベントが終わってからとか、普段は"友達"として接しさせて欲しい。駄目、かな?」

 

「ううん、そんなことないよ。私も話をしてて凄く楽しかったし。 ……じゃあ、よろしくね、ミィ」

 

 

 通知に対して『YES』のボタンを押す。

 

 互いのリストにはお互いの名前が追加され、ミィは嬉しそうに笑った。

 

 その後、エリア内部を探索した。やはり謎解き型のエリアだったようで、所々にパズルや古代の石版でできた神経衰弱などが配置されており、それを制限時間内に解いて進んでいくというものだった。

 

 遺跡とは思えない部屋を幾つも見た。天井が海の中だったり、夕焼けの空だったりする部屋。足元が透けており、そこに様々な風景が見える部屋。ミィもリオも頭はかなりいい方であった為か、特に問題なく不思議な部屋を回り、部屋ごとに置いてある謎解きを解いていく。

 

 かなり奥まで進んだ頃だ。各部屋では色の違う小さな結晶体を6つ集められており、用途不明のまま奥まで進んでいた。

 

 そして、歩くこと暫く。今まで連続して出てきた謎解きギミックは出てこなくなっており、左右の壁には大空の雲の上のような風景が映されている長い廊下を二人で進むと、開けた行き止まりに行き着いた。

 

「行き止まり? ……でも、ここ以外で道なんて」

 

「うーん……あれ?リオ、これ見て」

 

 ミィが何かを見つけたようで、指差す先を見れば行き止まりの壁には6つのくぼみがある。それぞれのくぼみには何やら絵が書かれており、それを見てリオはもしかして、と思った。

 

「ミィ、さっきから拾ってる色付きの結晶を出して」

 

「え? ……あ、そっか! はい、これ」

 

 ミィから6つの結晶を受け取ると、絵柄を確認してそれぞれに結晶をはめ込んでいく。描かれている絵は、炎や水などをイメージした絵。つまり、そのイメージに合致する結晶をそこに置いていけばいいということだ。

 

 予想は的中しており、6つの結晶を置けば、ゴゴゴ、という轟音を立ててその壁が開かれる。壁の先は階段だった。それは、短い階段であり、宝箱まで続いていた。

 

 二人で宝箱の前まで行けば、ついていたデバフが解除される。どうやら、これでクリアのようだ。そして宝箱の後ろには転移門が2つ出現する。行き先が表示されているようで、1つは元いたオアシス。もう一つは別の場所への転移門だった。

 

 

 

「やった、これでクリアだね! ……あ、」

 

 喜んだのもつかの間。すぐにミィが寂しそうな顔をした。

 

 

「……これで、ここを出たらまた敵同士だね。 うん、切り替えなくちゃね! イベント中、もしまた会ったら今度は私が勝つから!」

 

「それはこっちの台詞。決着、ついてないしね。でも、イベントが終わったらまた話したりしようね、ミィ」

 

「……! うん!」

 

 

 嬉しそうに、笑顔でミィはそう答えた。

 

 宝箱の中身を確認する。中身は、銀のメダルが4枚。一度ミスすれば壊滅ということもあって、かなり枚数は多めのようだ。

 

「銀のメダルは……2枚づつでいい?」

 

「それでいいよ、途中の幾つかのパズルとか、私じゃ解けなかったし。何なら全部持っていっていいよ!」

 

「ちょっとそれは……。じゃあ、2枚づつで」

 

 アイテムの分配は終わった。後は、転移門をくぐり外へと出るだけだ。

 そうして、ミィが選んだのは、オアシスとは別の転送先だった。

 

「さて、じゃあ私はこっちの転移門を使うね」

 

「……私と同じオアシスじゃなくていいの?【炎帝】のミィとしては、私を倒さなきゃならないんじゃない?」

 

「今の私は、素のミィだから。それに言ったでしょ?もし、次会うことがあれば倒すって。だから今は、"今の私"の選択をさせて」

 

 

 ミィは笑っていた。楽しそうに、だが、次は負けないというようにも。 

 

「……じゃあ、先に行くね。 "またね"。リオ」

 

「うん、またね。ミィ」

 

 

 転移門をくぐるミィを見送る。その後、リオもまたオアシスに戻る転移門を起動させて、ダンジョンを去った。

 

 




※今回の後書きには作者の好みがふんだんに含まれ、かつドラマCDの内容に触れています。ご注意ください。








 今回のお話の中にあった、ミィにまつわること。猫を飼っていること、ミィという名前は飼っている猫からとったということ、音ゲーが好きで音楽もよく聞くこと。特に、ボカロや歌ってみたが好きで、本も好きだということ。後、フレデリカとミィはメイプルとサリーと同い年。

 これらは特典ドラマCDからの内容になります。フレデリカがいい子すぎて浄化された。いや本当に13巻のドラマCDはとてもよかった。メイプルとサリー、フレデリカとミィがオフ会してキャッキャウフフしているなどこの世の楽園。作者は『キマシタワー』『ビュオオオオオオウ!』などと叫んでいた。女の子同士がキャッキャウフフするのはいい。フレ×ミィやサリ×フレはいいぞ。勿論メイ×ミィもいい……。

 なお作者はかつて友人に『結城友奈は勇者であるって作品は女の子同士でキャッキャするほのぼの日常系だからおすすめやで』と言われて食いついて沼に嵌まり更に友人に激怒したという余談。勇者の章の友奈ちゃんが泣いたシーンは本当に辛かった。おのれタカヒロ。

 拙作では曇らせ描写はほぼありません、多分。もしかしたらリオちゃんのサリーに対する依存的描写はあるかもしれない。

 ちなみにドラマCDではクロムのご職業も判明したのだがそれはおいておく。そのうちネタにする。

 
 感想などもらえると作者がとても喜びます。それでは、また次回お会いしましょう。


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射手の少女と第二回イベント終了

前回に引き続きちょっと長め。作者としては一話平均を多くても6000字くらいにしたいとは思っているんですが、今回で第二回イベント終わりなのでそこまでやったらこんなことに

実は掲示板回入れると1万字超えたので分けたというのは別の話。


 

 転移の光が収まると、そこは見覚えのある場所だった。

 

 最初の自分とミィの戦闘により所々がボロボロの瓦礫になったオアシスだ。メイプルとサリーはどうなったのだろうか。そう思い、オアシスの中央あたりへと足を進めた。

 

「リオ! 良かった、心配したんだよ……!」

 

「私達もダンジョンに飛ばされちゃって、急いで戻ってきたんだけど戻ったらオアシスはこんな有様で……」

 

 心配した、というように駆けて来たのは、メイプルとサリーだった。

 

「ごめん、私もちょっと他のプレイヤーと戦闘になって。その時に理由はわからいんだけど、別のダンジョンに飛ばされたみたいで……でもなんとか無事。こうして戻ってこれたし、メダルもあるよ」

 

 『2枚だけだけど』と言ってメダルを見せてみる。

 

「心配させてごめん。 ……戦ったプレイヤーはメダルは持ってなかったみたい。だから戦利品はメダル2枚だけかな」

 

 リオは二人に申し訳ない気持ちになりながらも、嘘をついた。ミィは敵対を選ばなかったし、それにここであのミィと戦闘になったと話をして二人に心配をかけるのもどうかとも考えたからだ。

 

 二人の状況についても聞いてみれば、やはり交戦した和服の女性。カスミというプレイヤーとともにダンジョンに飛ばされたらしい。そこで色々あって、結局最終的に和解。メダルも2枚と、後ドロップ品が幾つか回収できたとのことだった。

 

 見れば、空は星空だった。転移に巻き込まれる前はまだ日があったのでそこそこの時間飛ばされていたことになる。ともあれ、今日はオアシスで休んで明日からは砂漠を越えて別のエリアに向かおうということとなった。

 

 

◆  ◆  ◆

 

 

 その後の旅路は、途中またメイプルがとんでもないことをやったものの穏やかなものだった。

 

 

 砂漠を越えれば、豊かな滝のあるエリアに出た。そのエリアの滝壺に洞窟が有り、そこにメダルが隠されていたり。荒野のエリアの廃屋でメダルを見つけたと思ったら、それが偽物で見つけたメイプルが悔しそうにしていたり。水辺のある平原エリアで釣りをして、サリーが大物を釣り上げてその魚がメダルを持っていたり。休憩しながらテイムした3匹を遊ばせていると、リオのフレスがどこかに飛んでいき、戻ってきたと思ったらその嘴にメダルを咥えて戻ってきたり。

 

 

 新たな出会いもあった。海辺のエリアを探索している時に、カナデと呼ばれるプレイヤーと知り合った。とても頭のいいプレイヤーで、サリーが海を探索している間にメイプルとリオの二人が知り合った。オセロで対戦してみたのだが、メイプルで1勝。リオは一度も勝てないほどに強かった。

 

 そのカナデからお近づきの印に、と貰った書物からは海辺のエリアのダンジョンへ入るためのヒントが書かれていた。それをサリーとリオは読んで、方法はすぐに判明した。だが、ギミックを解くために手が足りないとなった時に、メイプルが発想を逆転させ、まさかの水の代わりに【毒竜】を使うという方法でそれで突破。

 

 その先に居たのは、巨大なイカの姿をしたボスだった。かなりの強敵で、本体以外を殴っても体力が削れない。だが、本体は海の中という状況。流石のサリー単騎で長時間海の中での戦闘は厳しいものがあり、リオも普通の矢は水の中を通せないし、魔力矢は水中では威力が大幅に減衰する。万事休す、そう思っていると、

 

『なら、こうだね!【毒竜】!きれいな海を、毒の海にー!』

 

 海の中に対して連射される【毒竜】。それを見た姉妹は言葉を失った。綺麗な海が【毒竜】によって汚染されていく。泳いでいた魚は死に絶え、青かった海は紫色へと変わる。

 

 そしてボスは毒に侵食され、悶え苦しむように暴れた後に息絶えた。

 

 

 確かに手段を選んでいられない状況だったかもしれないが、それにしてもこれはあまりにもひどい。しかし既に二人も慣れていた。『メイプルだから』。と自分を納得させ、報酬を確認することとした。

 

 報酬は転移先の海の中、七色の珊瑚が輝く海の中であり、息ができた。その綺麗な景色に感動しながら、3人の前に浮かんでくる泡を見れば、そこには5枚のメダルがあった。

 

 

 多くの場所を旅した。

 

 

 旅をして、楽しくて笑い、時に協力して謎を解き、戦い。着々とメダルを集めた。

 

 

 全滅を覚悟した怪鳥ほどの強敵とは出会わなかった。とても穏やかで、楽しく、幸福な冒険の時間が過ぎ去り、遂に6日目の後半を迎えていた。

 

 

◆  ◆  ◆

 

 

 

「ちょっとまずいかもしれないね、これ」

 

「うーん……そうだね、まずいかも」

 

 

 海岸エリアの近く。海辺の岩場にあった横穴で頭を悩ませているのはサリーとリオだ。現在は6日目後半。日は落ちかかっており、外は暗くなりつつある。

 

 

 既にイベントも終盤ということで、イベントエリア各所では局所的に規模は違えど対人戦が発生していた。その原因はメダルである。今回のイベントは、メダルを集めることが主な目的。500枚という有限なリソースは取り合いとなるのは必然だった。

 

 確かに、今回運営は参加者数の大幅増加を見込んでそれにあわせてのメダル枚数を調整した。だが、実際の所今回のイベント参加者は運営の想定していた数より遥かに多かった。その莫大とも言える参加者の間でメダルの奪い合いが発生しており、500枚という枚数では足りず熾烈なメダルの争奪戦になっていたのだ。

 

 

「今は全部合わせて金1枚、銀26枚。目標まで4枚足りない」

 

「多分だけど、今の時点ですぐ見つかりそうなところは全部探索されてそうだね。 ……となると、後残ってるのは高難度か、相当発見が難しい場所か」

 

 タイムリミットまではもう時間がない。最終日と6日目の残りで後4枚を探し出すというのは中々に困難だった。仮に、探そうとしてもほぼ確実に対人戦が発生するだろう。そうなれば、一度の戦闘からネズミ講のごとく戦闘が続き泥沼化しかねない。なので探索は避けたかった。

 

「……こうなったら、仕方ないか」

 

「どうする気?姉さん」

 

 覚悟を決めたような目で立ち上がるサリーに対してリオは問う。

 

「プレイヤーを狙う。多分、ここまで来ると規模的な戦闘が発生してるはずだから、そこを奇襲してメダルを奪ってくるよ」

 

「でも、そうするにしても4枚は厳しくない?」

 

「そ、そうだよ。それに……私は別に集められなくてもいいかなって。3人で冒険できただけで大満足だよ」

 

 笑いながら言うメイプルをリオとサリーは見る。

 

 わかっているのだ。その笑顔に、どこか申し訳無さが混じっているのも。自分達に無理してまで結果を残そうとしてほしくない、ということも。

 

 最初の目標はメダル30枚。そして、現在はそれに数枚届いていない。しかし、サリー一人で対人戦を行ったとして集めるのは厳しい数ではある。

 

 

 だから。

 

 

 

「……私も出るよ」

 

「リオ!? 確かに、リオの実力は信頼してるよ。でも、ここで暴れたら多くのプレイヤーに目をつけられる可能性もあるんだよ?」

 

「あは。いいね、それ。……姉さんわかっていってるでしょ?それに、それは姉さんにも同じことが言えるよ。 ……大丈夫、どれだけの相手に目をつけられても、私は姉さんやウィルバートさん以外に負ける気はないから。それに、ここで一気に仕掛けてメダルを回収しないと、多分守勢に入られる。そうなったら、どこかに隠れられたりしてもうメダルは狙えない」

 

「はぁ……まったく。オーケー、ならもうこの際だし、思いっきりやっちゃおうか」

 

「容赦なく目についた相手は全員、でいいんだよね?」

 

「うん、時間もないし本気でいいよ」

 

 やることは決まった。全力で他プレイヤーからメダルを奪いに行く。

 

「と、いうことで。……私達は打って出ようと思うけど、どう?」

 

「うん、わかったよ。メダルは絶対に守り抜くから、二人も気をつけて」

 

「念の為に朧を置いていくね」

 

「じゃあ私もフレスを置いていくよ」

 

 リオとサリーが指輪を渡し、それをメイプルが装着した後三匹を呼び出した。

 

 メイプルに『行ってくるね』と二人は告げると洞窟の外へ出た。

 

 空には月が出ていた。まるで後半戦の苛烈さを物語るような、赤い月が。

 

 

「さて、と。 ……二人で暴れるのは久しぶりだね」

 

「本当に久しぶりだね。最後に暴れたのは、ああ……前やってたVRゲームの時かな? 心配掛けてるメイプルには申し訳ないけど、ちょっと楽しみだよ」

 

「それは私も。 ……よし、じゃあひと仕事やっちゃおうか、リオ」

 

 サリーは短剣を、リオは掃討戦を想定して魔力弓を装備する。

 

「私は東側のほうをあたってみるから、西側をお願い」

 

「了解。行ってくるね」

 

 二手に分かれて移動を開始する。サリーは足の速さを生かしてそのまま加速。そしてリオもまた行動を開始した。

 

 

 この後の二人の行動が、とあるスレッドでは

 

 

 『イベント6日目の悪夢』

 

 『イベント6日目の天災』

 

 などと呼ばれるのだが、この二人は一切知る余地がないのは別の話である。

 

 

◆  ◆  ◆

 

 

「よ、よしメダルだ!やった、やったぞ!」

 

 

 あるプレイヤーが別のプレイヤーを倒しメダルを獲得する。周囲は乱戦状態であり、既に誰も彼もがメダルを奪い合っている状態だった。

 

 このイベントでは銀のメダルは10枚集めなければ意味がない。だからこそメダルを奪っては奪われ、また奪っては奪われの繰り返しが局所的に起こっていた。

 

 枚数の少ないプレイヤーは、ここまで来ると他のプレイヤーを倒して奪おうとする。だが、メダルをまだ持ってないプレイヤーは逆だ。数を持っているプレイヤーを倒そうとする。

 

 それが誰なのかはわからない。ランカーは顔が割れているので見つければ即座に狙うのだが、この場にその姿は見当たらない。だからこそ、ひたすらに敵プレイヤーを倒し、メダルを奪うしかなかった。

 

 そんな血で血を洗う争いが繰り広げられているある場所。"どれだけ戦闘してもメダルの数が中々増えない"という状況など、そこの全員は理解できない。ただひたすらに相手を倒す、そしてメダルを奪う。それだけしか頭にないのだ。

 

 

「悪く思うなよ……こっちもメダルが欲しい、 がはっ!」

 

 

 再び何処かで誰かがメダルを奪い、それを手にしてほくそ笑んだ瞬間別の誰かが襲う。

 

 誰かが別の誰かを倒して倒され、そしてまた倒す。奪い奪い合うまさに地獄。それを空の赤い月が照らしていた。

 

 

 

 そして、そんな地獄に終わりが訪れる。

 

 

「ん?なんだあれ、流れ――」

 

 

 そのプレイヤーの言葉は最後まで続かない。なぜなら、言葉が終わる前に極光によってその周囲一帯を更地にされたからだ。強いて言うなら、そのプレイヤーが見たのは流れ星だった。

 

 それは、有象無象の区別なく。ただ飛来し、定められた目的地に破壊をもたらすもの。ただ一人の意思によってそれは空を駆け、目的地に飛翔し、何もかもを喰らい尽くす。

 

 その暴力の化身は続けて降り注ぐ。

 

 最初の一発目、それによって着弾地点の大地が抉り取られたようになり、何も残らないその惨状。それを見て突然のことで唖然としている他のプレイヤー達にもその滅びは訪れるのだ。そして、そのプレイヤー達もまた見たのだ。自分達に終わりを告げる、流れ星を。

 

「な、何だ!?」

 

「一体何だってんだよ!?」

 

「星が、星が落ちてくる!」

 

 ただですら乱戦だったその地域に混乱が齎される。それまで争っていたプレイヤー達の中には訳が分からず混乱して手を止めてしまうもの、呆然と立ち尽くしてしまうもの、正常な判断ができなくなり誰であろうと構わず襲いかかろうとするものなど、混沌を極めていた。

 

「に、逃げ――」

 

 

 

 

「逃がすわけないじゃないですか」

 

 

 

 逃げようとした男はランカーではなかった。だが、常に装備やスキルを磨き少なくとも中の上くらいの実力者でもあった。そして、この場において逃げるというのは選択としては間違ってはない。

 

 だが。それを狩人は許さない。決して、逃さないのだ。

 

 走り出した瞬間、頭を飛ばされる。部位欠損に加えて致命。そのプレイヤーはポリゴンになった。 

 

 トン、と。上空からその戦場に降り立ったのは、一人の狩人。青黒いコートに、左手には蒼の輝きを持つ光の弓。紅の月を背景にしてその狩人は舞い降りた。

 

「な、なんだよ……弓使いじゃねえか。 わざわざ遠距離武器、それも弓使いが戦場のど真ん中になんて、初心者か?」

 

 愚か過ぎる、そう思ったプレイヤーは少なくなかった。だが、その狩人は口元に笑みを浮かべた。

 

 それが、死刑宣告でもあり終わりの始まりでもあった。

 

 次の瞬間、リオを囲んでいたプレイヤーが一気に倒れる。その全員が部位欠損、頭がない者、胴に穴が空いているもの、一切の反応を許さない致命攻撃。

 

「おい、こいつだ!こいつの弓の色……あの流れ星と同じ色だ!きっとこいつがあの攻撃の元凶だ!」

 

 その言葉で周囲全員のターゲットがリオに固定される。そうして開始されるのは総攻撃。

 

 

「……ッ!隊列を組め!盾持ちは一箇所に集まってヒーラーはそいつらを回復しろ!近距離武器は陣形を背後にして総攻撃だ!争ってる場合じゃねぇぞ!」

 

 勇気のある者が居た。大声で生き残った全員を鼓舞し、守りの布陣を敷く。今は争っている場合ではない、そう理解をして。小盾や大盾を持つ者達が一箇所に集まり、補助魔法が使える者がそれに対して補助をかけていく。遠隔攻撃が可能な者や、近接主体の者は盾持ちの後ろに隠れながら攻撃。

 

 

 それは、極めて良い判断だ。その布陣に文句のつけようなど無い。もしこれが普通の対人戦ならこの勇気あるプレイヤーの判断は極めて高い効果を発揮しただろう。

 

 

 だが、そんなもの彼女には無意味なのだ。

 

 

 クスリ、と。空から舞い降りた少女が再び笑ったのだ。何がおかしいのだ、この布陣を突破できるわけがない。そう、勇気あるプレイヤーは思った。 

 

 

 前衛プレイヤー達が総攻撃を仕掛ける。だが、その尽くは彼女に届かない。どれだけ攻撃しても、どれだけ立ち向かっても。まるで攻撃が自ら回避していくようにして、攻撃が一度も当たらない。

 

 そんなプレイヤー達を次々と蒼の矢が貫いていく。彼女は、まるで距離など関係がないというように矢を放つ。攻撃を回避しながら矢を番え、近距離からでも的確に動くプレイヤー達の急所を狙い撃ち、踊るように。舞うようにして次々と倒していく。

 

 後方からの魔法攻撃も駄目だ。近接陣の攻撃の合間に、当たらないようにして放たれた援護攻撃。彼女は近距離攻撃を回避しながら、それも予知していたというようにして全ての魔法攻撃を回避する。気がつけば、前衛は全滅していた。

 

 

 

「大丈夫、一人も逃さないから」

 

 

 続けて防御を固めているプレイヤー達を見た彼女はそう言った。

 

 その狩人は誰ひとりとして逃さない。自分達に向けられた笑顔が、残った者達には死刑宣告に見えた。

 

 後日。この出来事は『イベント6日目の天災』という名でスレッドで話題になったという。

 

 

◆  ◆  ◆

 

 

「ただいま。ってあれ、姉さんもう戻ってたんだ。 はい、戦利品。ごめんね、2枚だった」

 

「うん、さっき戻ったよ。こっちも2枚だね」

 

「おかえり二人共!これであわせて丁度30枚だよ!」

 

 

 かなり二人揃って大暴れしたが、これで目標数を確保できた。後は最終日の時間切れまでにこれを守り切るだけだ。

 

 メイプルから指輪を返してもらい、ある疑問についてリオは聞いてみることにした。

 

 

「それで……そちらは確か、砂漠で戦闘になった人、だよね?」

 

 

 現在拠点にしているこの洞窟には自分達以外にもうひとりの姿がある。和服に刀を持ったプレイヤー。それは、リオの記憶では砂漠で戦闘になったプレイヤーだった。確かに和解したとは聞かされていたが、どんな経緯でここに居るのかが疑問だった。

 

 

「挨拶がまだだったな、すまない。私はカスミ。戦闘の意思はないので安心して欲しい。最終日なので身を隠そうと思っていたら、途中でサリーと会ってな。そのまま一緒にここまで来て、メイプルからここで時間切れを待とうという提案を貰えたのでお言葉に甘えさせてもらっている」

 

 

「なるほど、そうでしたか……リオです、よろしくお願いします」

 

「敬語は不要だ。メイプルとサリーにもそうしてくれと言っている」

 

「じゃあ……よろしく、カスミ」

 

 その後、フレンド登録を済ませて、今夜はここで籠城することにして各自で得た情報について話すことにした。

 

 

「……なるほど、やっぱり局地戦闘が多発してたか」

 

「うん、かなり規模が大きいところが多かったね。少なくとも大半が中規模以上じゃないかな」

 

「我が妹、我が妹。それを平然と壊滅させてるんだけどそこのところどう?」

 

「対戦ありがとうございました! それ言うなら姉さんだって同じことが」

 

「はーい対あり対あり。まあ、ランカーと鉢合わせしなくてよかったよ。正直、時間がない中でランカーを相手にしてる余裕もないし」

 

 どうやら、各地でメダル争いが本格化しているのはカスミの情報からしても間違いなさそうだった。そんな中、なんとか目標枚数を確保できたのは本当に良かったとサリーとリオは安堵した。

 

 しかし、この洞窟もいつかはプレイヤーが調べるかもしれない。そうなってしまえば、ここに金のメダル保持者であるメイプル、そしてカスミが居るのがバレて一気に敵が押し寄せてくる可能性もある。

 

 

「……そうだ、いいこと考えた!」

 

 

 突然のメイプルの言葉。その言葉に対して固まったのはとサリーとリオだ。カスミはといえば、まだメイプルがどれだけ規格外なのかわかっていないため、『どうしたんだ?』と普通に返事を返している。

 

 

 

「ちょっとまっててね……  【毒竜】!からのー、【ヴェノムカプセル】!」

 

 

 

 突然メイプルが歩いて出口の方面に行ったと思ったら、まず【毒竜】を出口方面に発射。何やらグシャという変な音がしたが、二人は聞かなかったことにした。そのまま出口へと歩いていき、【ヴェノムカプセル】を発動。入り口を完全に封鎖してしまった。

 

 

 

「……聞いていいか二人共」

 

「諦めて」

 

「受け入れて」

 

 カスミが状況説明を求めようとしたが、二人から帰ってきたのは虚ろな目をした返答だった。結局、その後は今日は休もうという話になり、二人ずつ交代で休息を取りながら最終日を迎えることとなった。

 

 

◆  ◆  ◆

 

 

 最終日。長かったイベントも遂に終わりを迎えようとしていた。

 

 メイプルは預かっていたメダルをリオとサリーへと分けて手渡すと、時間切れまでどうするかという相談に入る。

 

 

「流石に一日じっとしてるのも暇だね」

 

「確かにな」

 

「なら、メイプルの持ってきた遊び道具で時間を潰すっていうのは?」

 

「賛成。……私、テーブルゲームとかだとメイプルにはあまり勝てないんだよね」

 

 リオもサリーもゲーマーである。ゲームの大会出場、世界大会入賞、ワールドレースでのレイドチーム入賞、全世界初のレイドチームとして表彰など多くの結果を残してきた。

 

 だが。それでもなお、メイプルとのテーブルゲームにはあまり勝てないでいた。

 

 とにかく強い。特に運の絡むゲームは勝てない。トランプなどのカードは特に駄目なのだ。だが、それでも立ち向かうのがゲーマーである。二人は何度もメイプルに挑戦するのだが、結果はあまりよろしくない。

 

 

「メイプルは強すぎるからねー……って、あれ?」

 

「くっ……私の負けだ……!」

 

「わーい私の勝ち!」

 

 

 ふと見ればメイプルとカスミがゲームを開始しており、その決着もついていた。結果はメイプルの勝ち。盤面の殆どは黒に覆われており、圧勝だった。

 

 その後、カスミが『こ、今度はカードだ!』と言って対戦したが惨敗。サリーとリオは『あ、その選択はまずい……』と思ったが遅かった。

 

 サリーもやってみたが惨敗。姉の仇は自分が取るとリオもメイプルにカードで戦いを挑んだが惨敗だった。

 

 

「……いや、メイプル強くない?」

 

「リアルラックの差がここまであるとは……流石にだめだよこれ、勝てない」

 

 と、そんなことをしていたら遂に終わりは訪れる。

 

 イベント終了のアナウンスをマスコットキャラクターであるドラぞうが知らせる。それを聞いて遂に終わったのだ、という気持ちになるが。終わってみれば、とても楽しかったとも思う。

 

 

 

 冒険の中で沢山の景色を見た

 

 冒険の中で沢山の出会いがあった。

 

 冒険の中で沢山の笑顔があった。

 

 その全てがとても楽しかった。現実時間にしてみれば僅か2時間の出来事だが、ゲームの中では1週間3人でこの世界を旅したのだ。

 

 

「イベントお疲れ様、みんな!」

 

 メイプルのそんな言葉、それに対して、『お疲れ様、楽しかった』と、三人は笑顔で返した。

 




 ということで第二回イベントが終了です。割と長かった、なお第四回イベントはこれよりも長い予定。

 特に内容としては原作とほぼ同じなのであまり書くことがありません。強いて言うなら、原作でサリーがやったのと同じようなことが別の場所でリオがやっていたというくらい。

 作者的余談としては、ある程度話が進んだらメイプル達三人とミィやフレデリカ、そこに後はベルベットやヒナタを加えたオフの話を描きたいとも思ってます。サリ×ベルはいいぞ。

 さておき、そもそもの話ベルベットとの合流がまだなのでリリィやウィルバート同様原作より早めて登場させる予定ではいます。アニメでは第三回、第四回イベントに【thunder storm】の名前があるので一応時期としてはその辺りの予定。

 感想などもらえると作者がとても喜びます。それでは、また次回お会いしましょう。


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射手の少女と第二回イベント後の掲示板


 かなり短め。


【NWO】メイプルちゃんを見守りたいスレ【雑談もいいぞ】

 

345:見守る名無しのプレイヤー ID:VSYd+AC+D

イベントおつおつ

お前らどうだった? 俺は駄目だったよ、メダル3枚……

 

346:見守る名無しのプレイヤー ID:PlMRWG578

メダル手に入れてるだけマシなのでは?

つーかメダル持ち越しで終わったってことは最終日の戦争生き残ったのか、やるじゃん

 

347:見守る名無しのプレイヤー ID:GToLckzRT

いや、たまたまいい隠れ場所見つけて震えながら隠れてただけ

流石にあの激戦区の中に飛び込む勇気はないわ

 

348:見守る名無しのプレイヤー ID:UeW6ZYfi5

まあそれが賢い

そういえばなんか別スレとか騒いでるけどイベント中なんかあったんか?

実況ニキおる?

 

349:見守る名無しのプレイヤー ID:5MWi2RQs9

おるで

まあ色々と騒がれてることはあるけどうちのスレ絡みの内容ピックアップするわ いくぞ

 

・例の弓使いちゃん【炎帝】ミィと引き分ける

総合スレに湧いたグループのやつからの情報、ミィのPTが探索中に例の弓使いちゃんと交戦。結果、ミィ以外は全滅してミィも痛み分けで互いに撤退したらしい。曰く本人が言ってたらしいから間違いない

 

・『イベント6日目の悪夢』と『イベント6日目の天災』と呼ばれる事件が発生

前者は例の短剣使いの子が大暴れしたらしい。数十人規模の大規模戦闘地域に現れて全員全滅させた。それも複数箇所。

後者は例の弓使いちゃんが暴れたらしい。前者同様に数十人規模の大規模戦闘地域を幾つも全滅させたって。

 

で、ここからは色んなスレでの情報まとめたやつな。主に倒されたやつの証言がソース。

 

まず二人の共通情報なんだけど、交戦したやつ曰く攻撃が勝手に避けていくらしい。いや、チートとかの類じゃなくてむしろPSチートっぽい。どれだけ攻撃してもそれが全部当たり前みたいに回避されて、未来予知でもしてるんじゃないのかってレベルであたらないらしい。大人数で殴りかかる+後方からの魔法攻撃とかでも駄目。まったくあたらんかったってさ

 

短剣使いちゃんはとにかく機動力がおかしかったみたいだ。単騎で激戦区に切り込んできて次々にプレイヤーを撫で斬り。

弓使いちゃんも遠距離からの砲撃?で数減らした後に切り込んで平然と攻撃回避しながらミドルレンジの射撃決めまくってたみたい。しかも全部致命かつ部位欠損。

 

弓使いちゃんの武器はなんか弓だったけど珍しい武器。矢が着弾地点で爆裂するんだとよ

後、やっぱり見た目が瓜二つだから姉妹じゃねっとて言われてたな

 

350:見守る名無しのプレイヤー ID:Ws9q+VsY9

短剣使いちゃんと弓使いちゃんがフィールドに・・・来るぞドラぞう!

 

351:見守る名無しのプレイヤー ID:RqGwWa2YP

こねーよ

というかなんだその化け物みたいなPS・・・しかも短剣と弓揃っててマジで隙がない

 

352:見守る名無しのプレイヤー ID:uiyA/q2G5

メイプルちゃんがトンデモなのに対して、二人はトンデモPSか

 

353:見守る名無しのプレイヤー ID:KtV9Y7F4/

公式のイベントハイライトさっきあがったな

メイプルちゃん達のハイライトもあったけど、確かにこれはやべーわ・・・

 

354:見守る名無しのプレイヤー ID:fx6sJcgfG

今見てきた

なんだこれ・・・え?いやマジでなんだこれ・・・

いやPSもだけどマジで見た目そっくりで姉妹じゃん

 

355:見守る名無しのプレイヤー ID:9VblCMavE

主にハイライトされてんのは最終日のやつだなこれ

短剣ちゃんが撫で斬りしまくってんのもおかしいけど弓ちゃんもなんだこの攻撃

遠距離からの高威力射撃か?しかも着弾地点更地にする威力の

 

356:見守る名無しのプレイヤー ID:e2Bw7Klt4

まさにズドン射手

 

357:見守る名無しのプレイヤー ID:tmChljYRd

やめーやwww

でもやってることがズドンなんだよなぁ・・・

 

358:見守る名無しのプレイヤー ID:6u7hsYyrE

つーかいい加減名前知りたいよな

クロム クロムはおらぬか

 

359:名無しの大盾使い ID:GqUQ7rwUj

いるぞ

あー、まぁ名前くらいならいいのか・・・?

 

360:見守る名無しのプレイヤー ID:7CYpci19J

このスレ基本的に見守るやつしかいないしいいんじゃね

というかどっちにしてもランカー入りしたら名前割れるし、あの二人なら時間の問題だろ

 

361:名無しの大盾使い ID:GqUQ7rwUj

まあ、名前くらいならいいか

短剣使いの子はサリー。メイプルちゃん曰く姉のほう

弓使いはリオ。こっちが妹のほう

まあお前らの予想通り友達なんだってさ

 

362:見守る名無しのプレイヤー ID:py+hVUfFW

やっぱり姉妹か

とんでもない姉妹だよなあ

あの三人が一緒にいる状態で戦ってまともに戦える奴とかおるんか?

 

363:見守る名無しのプレイヤー ID:j78Gdmgrs

サリーちゃんはランカーに該当者おらんからわからんけど、あの動き方見るにペインレベルじゃないと無理そう

リオちゃんは弓だけどこっちも動き方と射撃能力が化け物じみてるから戦えるとしたら・・・よく知らんけど前ランカー詳しいニキ言ってたウィルバートくらいじゃね?

メイプルちゃんはそもそもあの防御どうやって突破すんの?貫通あってもかなりきっついぞ

 

364:見守る名無しのプレイヤー ID:gvLcy7wFP

そもそもあの姉妹も攻撃あたらないって考えたらマジで一般プレイヤーには無理

 

365:見守る名無しのプレイヤー ID:QJ6fEsblR

ミィですら痛み分けって話だしなぁ・・・相性的には魔術師有利だけど、それ覆すレベルでPSあるのは間違いないから本当とんでもない

 

366:見守る名無しのプレイヤー ID:4r74X/Mce

お前ら大事なこと忘れてるぞ

そもそもハイライトの映像とスレの情報が真実だとしてそれが全力じゃないことも考えられる

加えて今回のイベントでメイプルちゃん達が強化されることも考えられる

 

367:見守る名無しのプレイヤー ID:r8Unq2SXB

いやまさにそれじゃん

末恐ろしいわー・・・

 

368:見守る名無しのプレイヤー ID:OilzA5tTU

大変申し上げにくいのですが、メイプルちゃんについての続報が

 

369:見守る名無しのプレイヤー ID:3fQTeyVHf

おいなんかとても嫌な予感がするぞ

 

370:見守る名無しのプレイヤー ID:Ea+EC3rQz

服脱いだ 精神統一した 覚悟完了

さあこい

 

371:見守る名無しのプレイヤー ID:V1xjOfCPy

服は着ろ定期

後覚悟完了もするな

 

372:見守る名無しのプレイヤー ID:uHOdf5QVj

メイプルゃんなんだけど、俺の目撃情報ですまんけどあの子イベント後にでかい亀に乗って空飛んでたぞ

毒の雨降らせてモンスター倒してた 

 

373:見守る名無しのプレイヤー ID:1rvZsv/+d

は?

 

374:見守る名無しのプレイヤー ID:CPpF32390

ちょっと何言ってるのかわからない

 

375:見守る名無しのプレイヤー ID:PM0si/1t3

空を飛ぶ亀?つまり、モンスターに乗ってたってことか?

それってもしかしてちょくちょく報告されてた友好的なモンスターのアレとかか?

考えられそうなのはモンスターテイムだけど

 

376:見守る名無しのプレイヤー ID:C1l7uCyse

テイムっぽいよな

でも他の目撃事例がない以上、考えられるのは今回のイベントでなにか拾ったってことだな

運営がなんか超レアアイテム少数だけ配置したって話だしそれ見つけたとかか?

 

377:見守る名無しのプレイヤー ID:0ysj9ubyK

ありそう

とするならもしかしてあの姉妹もなにか手に入れてるとか?

 

378:見守る名無しのプレイヤー ID:4nhZqNuuZ

あー、友達なら今回組んでた可能性あるもんな

一応確認するけどクロムどうなのそこ

 

379:名無しの大盾使い ID:GqUQ7rwUj

イベント前に話したけど組んでたな

 

380:見守る名無しのプレイヤー ID:eV7csA6In

はい確定

何かテイムしてそうだなこれ

 

381:見守る名無しのプレイヤー ID:FuHKJFkY+

さ、流石にメイプルちゃんほどトンデモじゃないやろあの二人は・・・

 

382:見守る名無しのプレイヤー ID:pxO5xmUtT

トンデモじゃなくてもPSトンデモだから何かテイムしてたらそれこそやばそうなんですが

 

383:見守る名無しのプレイヤー ID:S2A9+9D95

どうあがいても絶望

ただし敵対プレイヤーに限る

 

384:見守る名無しのプレイヤー ID:ehG8H9+oc

俺達には問題ないってことだな!

俺達は見守り影から助ける側!

 

385:見守る名無しのプレイヤー ID:MilV8fK5X

まあそうだな

というかメイプルちゃんが亀に乗って空を飛ぶってそれもう浮遊要塞じゃん・・・

 

 





 ということで5日間ほど空いてしまいましたが作者です。出来るだけ隔日で更新予定だったのですが、色々とトラブルが発生。

 まず、作者が多忙期に入りました。なので実質執筆できるのが週末のみになりました。今後の更新も考えて不定期更新をタグに追加するつもりです。

 また、ここ数日音沙汰がなかったのが多忙だったというのもあるんですがちょっと病院に行ってました。別に流行りのアレだとか、重大な病気とかではないんですが、リアルでちょっと怪我をしてそれで色々と慌ただしくしてました。

 一応日数明けてしまって、かつ今回かなり短めだったので土日中にもう一話更新予定。


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射手の少女とギルドの相談

「うーん……」

 

 第二回イベント終了後、リオは悩んでいた。行きつけのカフェ。第一層にある『ラディッシュ』のブース席、運良く空いていたそこで今日はのんびりとしているのだが、リオは注文したカフェオレに手を付けず何やら展開した投影ウィンドウを見ていた。

 

 そんな妹に気がついたのか、頼んだケーキを味わうのを辞めてサリーが疑問を放つ。

 

「どしたのリオ、それスキル画面?何か問題でもあったの?」

 

「問題というか、なんというか……。ほら、イベントの報酬あったでしょ?メダルで取れるやつ」

 

「ああ、うん。あったね。私は【追刃】ってスキル取ったけど、そういえばリオは後で決めることにしてたよね。結局何取ったの?」

 

「【チャージアロー】っていう弓のスキルにしたんだ。弓のスキルについては慎重に選びたかったから、ウィルバートさんの所に行って相談して、リストの中ではスキル使用での戦闘において強いのはこれって言われたから取ったんだけど」

 

「外れスキルだったとか?でも、あの人弓使いのトップランカークラスでしょ?それに、リオの先生みたいなものでもあるし」

 

「うん。外れ、ではないんだ。むしろ大当たりのスキルなんだけど……」

 

 なら問題ない気もするが、一体どうしたのだろうかとサリーは思う。そんなことを考えていると、リオがスキルウィンドウを自分に見えるようにこちらに向けてきた。

 

――

 

【チャージアロー】

武器指定︰弓・大弓

弓で射撃を行う時、チャージが出来るようになる。チャージすることで威力が上がる。

 

弓での対象を照準時、その状態を維持することでチャージ段階が上昇する。照準時0.3秒毎に一段階チャージ段階が上昇し、最大三段階までチャージ可能。

 

――

 

「これがどうかしたの?」

 

「うん、これが私の交換したはずのスキル」

 

「えっ?」

 

 何やら変な言葉が聞こえた。今、リオは交換したはずのスキルと言ったのだ。

 

「今私、アルテミスを装備してない状態なんだけど」

 

「それまたなんで?いつも装飾品で装備してるでしょ」

 

「見てもらえば多分分かると思う」

 

「うん?」

 

 するとリオは青黒い腕輪、装飾品扱いの場合その見た目になる『星輝装アルテミス』を見えるようにして見せて、左腕に装飾品装備した。

 

「さっきのスキルがなんだけど、これになるんだ」

 

――

 

【アルナスル】 パッシブスキル

武器指定︰大弓・大弓(特殊)

20秒ごとに『サジタリウス・チャージ』バフを獲得する。既に最大スタック数の場合、バフの蓄積が停止する。このバフは最大5スタックする。『サジタリウス・チャージ』バフを消費して射撃が可能になり、その場合威力が上がり攻撃性能が以下に変化する。

 

・大弓

通常射撃に防御無視の属性を付与し、基礎攻撃倍率を上げる。【ビン】が装填されている場合、その効力を大きく上昇させる。チャージ時間を要するスキルを『サジタリウス・チャージ』1つの使用につき1度チャージ時間を無視して使用可能にする。

 

・大弓(特殊)

魔法矢の着弾時爆裂範囲を拡大し、基礎攻撃倍率を上げる。『サジタリウス・チャージ』を消費して専用スキルを使用した場合【MP】消費が下がる。チャージ時間を要するスキルを『サジタリウス・チャージ』1つの使用につき1度チャージ時間を無視して使用可能にする。

 

――

 

 

「えっ……なにこれ」

 

「私が聞きたいよ」

 

 確かに、書いてあることは元々の【チャージアロー】と似ている部分はあるが、かなり凶悪になっている。それだけではなく、スキル説明には何やら穏やかではないことも書かれているのだ。

 

「え?なんでこんなことになったの?というか、チャージ時間をコスト払ってなしに出来るってつまり現状だと【サジタリウスアロー】だけだけど、あれが硬直時間なしで撃てるってこと?」

 

「うん、そうなるね」

 

「いやそうはならんでしょ」

 

「なってるんだよねー……」

 

 チャージ時間をコストを払うことでゼロにできるという項目に目が行きがちだが、他に書いてあることも大概である。そもそもの話、どうしてこんなことになっているのだろうか。サリーはそれがわからなかった。

 

「現実を見よう。なんでこんなことになってるの?」

 

「多分、なんだけど。アルテミスの説明文に、『この装備を展開中は、通常射撃以外の射撃スキルが全て専用スキルに入れ替わる。レベルの上昇により、使用可能なスキルが増える』ってあるんだよね。イベントで結構レベルが上ってたから、それで変化した可能性は考えられるんだけど……イベント後に獲得したスキルが変化するのはちょっと疑問に思って、一応サポートには問い合わせた」

 

「ああ、既に問い合わせはしたんだ。それで、回答は来たの?NWOのはまだ使ったこと無いから知らないけど、大抵のオンラインゲームのサポート窓口って結構回答まで時間かかると思うけど」

 

「それがね、来たんだ。翌日に」

 

「対応早すぎない?」

 

 二人のオンラインゲームのサポート窓口に対する印象はあまり良くない。昔やっていたゲームではテンプレートの返答まで2週間など当たり前だったし、問題解決に一月などかかることもあった。当時の二人の知り合いは、テクニカルな内容を連絡して音沙汰なし。などということもあったくらいだ。だから翌日にはテンプレート文章ではなく回答が来ていたということに驚きを隠せなかった。

 

「しかもなんというか……うん。開発の割と偉い人から。メールに『NWO運営開発本部第一開発チーム 佐渡』って名前があったよ」

 

「NWOの開発部署の一番上の部署の名前書いてあるんだけど!?あれ、しかもその人の名前って……。雑誌でNWOについてのインタビュー受けてた人の名前じゃない?それで、肝心の返答は?」

 

「要約すると『仕様ですので一切キャラクターの挙動については問題ありません』だって。一応アルテミスの仕様についても解説してくれて、アルテミスのスキル獲得についてはレベルアップ及びレベルアップ後、もしくは特定条件達成後に対象になるスキルを獲得するとそれが変化するもの、らしい」

 

「正常な挙動だったんだ。ならよかったじゃない。 むしろ、なんかとんでもない人が出てきたのが一番びっくりだよ」

 

「うん……私もそれが一番悩みの種。なんでこんな偉い有名な人が出てきたのってちょっと困惑してる」

 

「普通サポート窓口に出てくるかなぁって人だもんねー……」

 

 この佐渡。もとい、二人は知らないが管理者Sは開発チームの中でもMとKと並んでかなりの重役ポジである。エンドコンテンツの主導開発者であり、NWOの各ダンジョン及びスキルチェックなどもやっており、ゲーム業界でも前に担当していたVRゲームでの偉業のこともあり度々ゲーム雑誌に出てくる。

 

 そんな一番偉い人からの問題はないという回答なのだ。どうしてそんな偉い人が出てきたのかはわからないが、動作に問題がないならとりあえずいいのだろう。二人はそう思うことにした。

 

「そういえば、メイプルは?今日私のほう早めに帰宅だったから、帰ってやることだけやってログインしたけど姉さんのほういつもよりちょっと遅かったよね?何かあった?」

 

「あー……うん……あったといえば、あったね」

 

「メイプルになにかあったの!? って、その反応はなんか違う方かな。何かやった?」

 

「流石我が妹、よくわかってるね。 まあ、実はね」

 

 そしてサリーは話し始めた。朝、学校が別々であることから登校時に妹と別れて、その後何があったのかを。

 

 最初こそうんうん、と話を聞いていたのだが話が進むにつれてどんどんリオの顔色が真顔になっていく。というのも、姉から聞かされた内容が理解の追いつかないものだったからだ。

 

 曰く、授業中に居眠りして起きた瞬間『見張り交代ー?』と言った。曰く、体育の授業中に【カバームーヴ】と叫んだ。曰く、廊下の途中で大盾を構えるポーズを取った。

 

「いやー……ゲーム内でも味覚があるって本当すごいわー……これでいくら食べても問題ないなんて最高だね。あははー」

 

「姉さん、現実逃避はやめよう。それで、メイプルはどうなったの?」

 

「数日間NWOは休むって。流石にリアルとネットが混同するのはちょっとアレだったし、私も休むこと勧めた」

 

「まあ、それがいいかもね。……それで、メイプルのことはわかったけど今日の本題は?なんか私の携帯にメールしてたよね」

 

「あー、うん。メイプルが休んでる間にできるだけのことはやっとこうかなと思ってリオにも協力してほしくて。ほら、ギルドのこと」

 

 今日の本題はこれだった。メイプルがログインを自粛し始めた最初の日。NWOでは遂にギルドの要素が実装された。それに伴い、ギルドホームという要素も追加になった。

 

 実装後からフィールドにはランダムで『光虫』という金色の虫が出現するようになり、それを倒すと確定で『光虫の証』というアイテムがドロップする。これを入手すれば、町に存在している侵入不可能の建物。それをギルドホームとして購入することが出来る。

 

 そして今日はその初日。リオがログインした時点でかなり町の中はあわただしく、急ぎ足で駆けていくプレイヤーも大量に見かけた。

 

「うん、告知とかまとめとかの情報は見てるだろうけど、ギルドとギルドホームが実装された。それでね、今のうちにギルドホームを確保して、メイプル驚かそうと思って」

 

「実装されたらギルドを作ろうって言ってたもんね。でも、ギルドホームの絶対数には限りがあるんじゃなかった?確か、今ある建物の数しか【光虫】は湧かないんだよね」

 

「そう。だから外とかで沢山のプレイヤーが早足でそのリソースの取り合いをしてる訳」

 

「……それ、私達にも言えることじゃないの?ギルド設立自体はホームがなくてもできるけど、ギルドホームがないとステータスアップの恩恵が受けられないよ?」

 

 その言葉に対してサリーは『ふっふっふ……』と不敵に笑う。そして何やらアイテムを取り出すと、それをテーブルの空いているスペースに置いた

 

「もう手に入れてある。といっても、最低ランクのやつだけど」

 

「早くない?え、もしかしてログインして私と合流する前に確保したの?」

 

「その通り。まあ運良く見つけただけなんだけど」

 

「事前に言ってくれれば探しておいたのに……私、今日早帰りって言ったでしょ」

 

「実は思いついたのが実は帰り際だった」

 

「姉さんもうちょっと計画性を……」

 

「あはは。でね、【光虫】は私が確保したからリオにお願いが」

 

「お金ならないよ、前回のイベントの消耗品ですっからかんだよ」

 

「ホーム購入資金は私が集めてあるから大丈夫。実は、ちょっとケイロンとフレスを借りたくて」

 

「うん?それまたなんで?」

 

 疑問に思いリオがサリーに詳しく聞くと、どうやらギルドホームの争奪戦はかなり厳しいらしい。【光虫】は確保できたが、家自体はまだだ。だが、立地の良い場所というのはとにかく競争倍率が高かったり値段がとんでもなかったりして手が出ないのだそうだ。ギルドホームとして利用可能な建物は各地に散らばっており、街中だけではなく街周辺の建物もギルドホームに出来る。かなりの広さであることから、単純な足の速さだけではこの競争倍率の中で候補地を探すことは困難かもしれない。そこで、より足の早い手段で探すことができればと思ったのだそうだ。 

 

 そこでケイロンとフレスである。ケイロンは足が早く、少なくともサリーが普通に走るよりは速い。なのでサリーはなんとか乗せてもらえないかと考えたのである。リオとしても、一度ケイロンと姉は顔を合わせているし、通じているかはわからないが『私の姉さんだよ』とは言っている。メイプルを乗せていた事例もあるので、恐らく大丈夫だろうとは思った。フレスについても、空中から良さそうな場所を探してもらえれば効率は格段に良くなる。

 

「まあ一応、姉さんとメイプルは大事な親友と姉さんだよってあの子達には言ってあるし、賢い子だからいけるとは思うけど……。わかった、じゃあこの後町の外で呼ぶね。私が帰還させない限りずっと居るから、終わったらまた連絡して」

 

「助かるよー。 ……さて、ギルドの結成にあたってだけど。ギルドマスター、誰にする?」

 

「姉さん、そんなの決まってるでしょ」

 

 楽しそうにお互いに笑った。そして、ほぼ同時に息を吸うと。

 

「「メイプルがギルドマスターのほうが絶対に面白い!」」

 

 考えることは姉妹揃って同じのようで、思わず笑ってしまう。

 

 互いに分かっていたのだ。姉妹揃って、考え方がどちらかといえば理屈に寄った所がある。だが、メイプルは違う。天然さというか、明るさというか。そういったものでそこに居るだけで周囲を明るくする。そして、何を起こすかわからないから一緒に居て楽しいのだ。

 

 メイプルは自粛は3日間と言っていた。だから、2日後にはログインしてくるだろう。

 

 その時に既に自分達が準備済みだと言えばどんな反応をするだろうか、ギルドを作るとして、どんなギルドにしたいと言うだろうか。

 

 そんなこれから始まる新たな冒険と期待に二人はただ胸を膨らませた。

 

 

 




 リオが本格的にズドンになりました。メイプルの範囲防御や浮遊シロップと合わせるとあら不思議、チャージ時間制ではあるものの固定砲台の完成。【アルナスル】の名前は射手座から。

ネトゲのサポート窓口の評判についてはMMO経験者とかなら割とわかるかもしれない。返信に数週間、最悪返信なし。対応に1ヶ月や半年なんてこともある。


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射手の少女と勧誘トラブル

 その夜、夕食とそれぞれの学校での課題を終わらせたサリーとリオはNWOへとログイン。話し合っていた通り、ひとまず第二層の町の外でケイロンとフレスを呼び出した。

 

 リオが『姉さん乗せてほしいんだけど、いい?』と言葉をかけると、元気な鳴き声が返ってきた。特に問題はなく、サリーはケイロンに騎乗できた。

 

 そのままリオに暫く借りていく、と言うとそのままギルドホームの候補探しに走っていった。ひとまず今日は特にやることもなく、やろうと思っていたギルドホーム探しも姉が行ってくれることになったため、のんびりと町中を歩くことにした。

 

 どうしようかと考える。イベントも終わったし、例の弓について考えるためにイズの所に行くのもいいだろう。最近の情報を聞くために、ウィルバートとリリィに会いに行くのもいい。

 

 イベント後にこっそりと会ってフレンド登録したミィの所、とも考えたが彼女は大規模グループのリーダーだ。今ギルド関係で慌ただしくなっている状況下では、忙しいかもしれないと考えた。

 

 ふと、なんとなく歩いていると街の賑やかな場所まで来ていた。見れば、周囲では他のプレイヤーが別のプレイヤーに声をかけたり、大声でギルドメンバーを募集したりしていた。

 

 やはりギルド実装直後ということもあってか、慌ただしいと思った。ホーム関係のことなのか、大慌てでフィールドへ走っていくプレイヤーの姿もあった。

 

 

 

 ギルド関係で活気づいているな。そう思いながら歩いていた時だ。

 

 

「あの、もしかしてリオさんではありませんか?」

 

 

「へ? あ、はいそうですけど……」

 

 突然声をかけられた。驚いて声の方を見れば、そこには赤い見覚えるのある制服をしたプレイヤーが一人。

 

 どうして名前を知っているのだろうか。そう思ったが、ふと思い出す。

 

 イベントが終わった後に知ったことだが、最終日限定で活躍したプレイヤーの戦闘がハイライト配信されていたのだという。そこに写っていたのが自分と、そして姉だ。プレイヤーネームも公開されており、自分達以外だとペイン、ドラグ、ドレッド、ミィ、フレデリカ、クロムなどの名前があった。

 

 そこで名前を知ったのだろうと推測する。しかし、何用だろうか。

  

 ふと、相手の服を見る。その制服には見覚えがあった。イベントの時、砂漠で交戦したプレイヤーがが着ていたものと同じだ。 

 

「やはりそうでしたか!実はお話を聞いていただきたくて声をかけさせていただきました!」

 

「は、はぁ……」

 

「あなたは我がギルドのマスター、ミィ様と引き分けたと聞いています。ミィ様もあなたを『敵ながら見事な実力だった』と高く評価されていました!なので、是非我々【炎帝ノ国】に加入して頂けたらなと!」

 

 ギルドマスター?と聞いて少し考えたが合点がいった。ギルド実装前のミィのグループの名前は【炎帝ノ国】、つまりやはりミィはギルドを結成したのだろう。

 

「……高く評価して頂けているのは光栄ですが、ごめんなさい。私もう先約があるので」

 

「そう仰られずに!既にミィ様の元に集う仲間はかなりの数になっています。我々が大規模ギルドになるのは目に見えています!なので加入して頂ければあなたにもメリットが――」

 

 

 しつこいな。リオはそう思っていると、

 

 

 

「褒められた行為ではありませんね、無理な勧誘は迷惑行為では?」

 

 

 言葉こそ丁寧だが、威圧感を含ませる言葉。そんな言葉が聞こえて振り向けば、そこには二人の姿がある。

 

「ウィルバートさん、リリィさん」

 

「こんばんわ、リオさん」

「やあリオ、こんばんわ」

 

 吟遊詩人のような服装に、メイド服のプレイヤー。周囲のプレイヤーの大半はこの二人、そして【炎帝ノ国】のメンバーであろうプレイヤーがいる状況でざわつき始めるが、一部のプレイヤーはこう呟いたという『これ、不味くない?』と。

 

 

「何なんですか貴方達は。今私は、我が【炎帝ノ国】の更なる繁栄とミィ様のために、」

 

「明らかに彼女は嫌がっているようですが?マナーを無視してまで行うのが勧誘ですか?」

 

「そういうそっちこそ、有名プレイヤーの勧誘じゃないんですか?横取りだってマナー違は、」

 

 

「横取り?いえ、それは違いますね。私の教え子に嫌がることをするようなので、辞めていただければと」

 

 

 周囲の喧騒が激しくなった。対して、【炎帝ノ国】メンバーの表情は険しい。

 

 それもそうなのだ。今やリオはメイプル、そしてサリーと並んでの有名人。第二回イベント最終日での大暴れは既にNWO内に広がっている。中には、ランカー以上なのではないのかとも評する人間も居るくらいで、注目されてるプレイヤーなのだ。そんなプレイヤーを教え子と言った人物が現れたのだ。つまり、有名になる前から色々と教えていた人物ということになる。

 

 そして。更にそのプレイヤーに対しての追い打ちが発生する。

 

 

 

 

「何をしている」

 

 

 

 

 聞こえたのは、聞き覚えのある声。だが、どこか苛立っているような。怒っているかのような声だ。

 

 振り返れば、周囲のプレイヤー達が一人の人物を注視している。そして、その注視されている人物には覚えがあった。

 

 

 

「あれ、"ミィ"?」

 

「ああ、イベントの後以来になるな。"リオ"」

 

 

 その言葉を聞いてリオに声をかけていたプレイヤーの顔が更に青くなる。

 

 

「ミ、ミィ様……これは、その……」

 

「……強引な勧誘はするなと通達していたはずだ。過度なものはハラスメント行為に抵触すると厳しく言ったはずだが」

 

「い、いえこれは! ミィ様が高く評価されていてたプレイヤーなので、是非加入して頂ければと……」

 

「……そうか。言い方が甘かったか。連絡していなかった私のミスでもあるな」

 

「それは、どういう――」

 

 ガタガタと震えるプレイヤーに対してミィは明確な怒りを滲ませて言葉を続ける

 

「イベントでは敵として戦ったが、今の彼女は私の友だ。勧誘をするな、とは確かに言っていないが貴様のそれは行き過ぎなものではなかったか?」

 

 言葉を失い、遂に何も言わなくなったそのプレイヤーに対してミィはため息をつく。

 

 そして一度リオを見た後、

 

「……私のミスでもある。だが、お前のその行き過ぎたものは見過ごせない。ギルドホームに戻り、沙汰を待て」

 

 何も言い返すことのできないプレイヤー。何か言い訳をしようとしているのか、懇願するようにミィを見ていたが。

 

「ミィ様」

「お呼びでしょうか」

 

 固まっている間にミィが個人チャットで呼んだのか、別の【炎帝ノ国】メンバーが二人現れる。しかも、固まっているプレイヤーとは違い、かなりの重装甲装備。赤を基調としたフルプレートアーマーにサーコートとナイトヘルム。背中にはそれぞれ紅蓮の刀身を持つ特大剣、そして大槍のプレイヤーだった。

 

「この者はギルド勧誘にあたってのマナーに違反が認められた。手間をかけるが、ホームまで連行を頼めるか」

 

 その言葉に対して、プレート装備の二人は了承の返事を返すと、リオに一礼した後に両手を拘束して連れて行く。

 

 一礼をされて、『あれ、何処かで会ったのかな?』とリオが思っていると、ミィがため息の後自分達の方に近づいてきた。

 

 

「すまないリオ、うちの者が迷惑をかけた。 ――それから、そちらの二人も。私の友を助けてくれて感謝する。ウィルバートとリリィで相違ないな?」

 

「おや、有名な【炎帝】ミィさんに名前を知られているとは光栄です」

 

「ウィルはともかくとして私のことも知っているのか。ふふ、興味深いね」

 

 ウィルバートとリリィは何やら興味深そうにミィを見た後、再びリオを見た

 

「さて、私達はこれで。 ……ああ、リリィ。リオさんにあのことだけ連絡しては?」

 

「おっと、そうだったね。実はねリオ、私達もギルドを作ったんだ。ああ、勧誘とかではないよ? ただ、ギルドホームがメインの活動場所になるから、もし私達に会いに来る時はホームを訪ねてくれればと思ってね。後ほど場所を書いたメッセージを送っておくから、確認しておいて欲しい」

 

「お二人が、ギルドを?」

 

「そうなんだよ。まあ、その話はまた後日にでもしようじゃないか。 それじゃあ、また会おう」

 

 それだけ言うと二人は立ち去ってしまった。驚きだったのは、二人がギルドを結成していたということだ。

 

 知り合いのギルドというのには興味がある。ミィの所しかり、二人の所しかり。だから、今度是非ホームを訪ねようと思った。

 

「少し歩かないか、リオ。どうにもここは人が多すぎて落ち着かない」

 

 ミィはすまなさそうにしてリオへと『少し歩こう』と言い、リオはそれに従った。

 

 

◆  ◆  ◆

 

 

「うちの者が迷惑をかけた。すまない」

 

「あはは、いいよ。気にしてない。……大変そうだね、ギルド」

 

 素と演技。両方のミィに対しての言葉と受け取ったミィはため息つく。

 

「あー、っと……そういえば、あのフルプレートのお二人さんは?一礼されたけど、私何処かで会ってたかなって思ったんだけど」

 

「ああ、あの二人はうちのギルドの中でもかなり精鋭のメンバーでな。元々、グループとして活動していた頃からの古参だ。実力もかなり高い。リオとはそうだな……イベントの時、オアシスで倒した二人が居ただろう?大剣使いと、槍使い。それがあの二人なんだ」

 

「えっ!?あー……じゃああれ、もしかして『次に戦う時は容赦しないぞ』的な一礼だったりする?」

 

「うん?いや、違うと思うが……。むしろ、あの二人はリオのことを称賛していたぞ」

 

「称賛?」

 

「ああ。砂漠での奇襲からの制圧は見事という他言いようがなく、先行したにも関わらずクリアリングが甘かったこと、致命対策の甘さを実感させられたと言っていたな。最近あの二人は実力の向上に向けてかなり頑張っているらしい。 ……ここだけの話、あの二人の成長速度はとんでもなくてな。最早うちの幹部でも手がつけられない事になっている。ユニーク装備まで手に入れ始めたし、ギルド内部では『炎剣のふたり』なんて呼ばれ始めたし、本当に化け物になっていってるぞあれ」

 

「待って待って。情報量多すぎて頭混乱してるんだけど。というかとんでもない成長速度のフルプレート騎士装備二人とか怖すぎるんだけど。昔別の死にゲーで似たようなの見たけど本当地獄」

 

「まあ、うちとしては強力な戦力が増えるのはいいことだ。……いやあリオに感謝だな」

 

「感謝しているのなら目をそらさず言って欲しい」

 

「もう手がつけられないぞあれ」

 

「なんか本当怖いんだけど、対策万全のフルプレートユニークとか相手にしたくない」

 

 

 そこでミィは苦笑いをしながら、話題を変えるようにして言葉を続けた 

 

 

「まあ、それはさておきだ。ギルドを作って、皆が私を信頼してくれている。だから私はそれに応えてみせるさ」

 

「……さっきの人みたいに『入ってくれ』とは言わないんだね」

 

「私にとっての【炎帝ノ国】のメンバーのように信を置ける者が居るように、そちらにも信を置ける者が居る。なら、それを無理に捻じ曲げるのは最低だろう。友の選択を捻じ曲げてまで私はギルドに入れたいとは思わないよ」

 

「そっか。 ……ありがとう、ミィ」

 

「何故礼を言う?私は自分の信念に従ったまでだ。 ……だが」

 

 

 ミィはふと、声のトーンを落としてリオにしか聞こえないくらいの声で言った。

 

「もし、もしたらればがあるなら。私も仲間に入りたかった、と思うことはあるさ」

 

「……別に、ギルドが違うからもう会えないとかそういうのじゃないんだから。私はこれからもミィの友達だよ?一緒に冒険して、笑って、色んなものを見ていきたいって思うよ」

 

 

 受け取ったその言葉。それに大してミィは何かを思ったのか、目を見開いた。

 

 その後『ああ、そうだな。それは私もだ』と嬉しそうに呟いた。

 

「リオ、何か予定はあるのか?」

 

「え?うーん……特に急ぎはない、かな?」

 

「なら、もう少し話さないか。2層にも人気のカフェがあるんだ。先程の詫びも兼ねて、私が奢ろう」

 

 なんだか今日は知人や友人と話してばかりだな、と思う。

 

 だが、それも悪くない。とても楽しくて心地が良い。

 

 そう思ってその誘いに対して了承の返事をした。 

 

 

 

◆  ◆  ◆

 

 

 

 

「うぅぅぅ……本当にごめんねリオぉ……」

 

「いや、本当に気にしてないから。ほらもう自棄でひたすらカフェオレ飲むのやめよう?」

 

「こっちでいくら飲んでも大丈夫だし飲まないとやってられないぃぃ……」

 

 まるで現代社会のストレスに負けた社会人のようにひたすらカフェオレをストローで飲んでは注文して、また飲んでは注文してと繰り返しているのはミィだ。この店は匿名性がウリなので、注文した商品は自動でテーブルの上に現れる。

 

 ここは二層のとある場所にあるレンガ作りの家のカフェ。数人で入れる個室でスペースを区切っており、周囲を気にせず会話ができて食べ物もおいしいと評判の店だ。

 

 そんなとある一室で声が他のブースに聞こえたりすることはないからということで、先程からは考えられない様子で自棄になっているミィに対して、それをなだめるようにリオが対応していてる。

 

 

「みんなにちゃんとお願いしたつもりだったのに私が抜けてたせいでこうなったぁ……ほんとにごめん……」

 

「本当にもう謝らないで、ミィ。あーそうだ。折角今日はゆっくりできるんだし、最近のこと話そうよ」

 

「……!う、うん!リオとお話いっぱいしたい!」

 

 元気になったミィを見て苦笑いする。やはり、ギルドマスターとして大変なのだなと思いつつ、息抜きはしっかりしてほしいなとも思った。

 

「あ、そうだ。リアルの話になるけど、飼ってる猫さんは元気?」

 

「うん、元気だよ。最近は私がNWOにログインしてる時は、ずっとダイブ中の私の横で寝てたり遊んでたりするんだ。夜とか寝る時も布団の上で丸まったりしてるんだ」

 

「いいなぁ、かわいいなぁ……うちはペット禁止だから、ちょっとそういうの憧れちゃうな。姉さんとはよく飼うならこれがいいとか話してるんだけどね」

 

「お姉さん? ……あ、もしかしてピックアップライブで写ってたリオにそっくりな短剣使いの子? 似てるなーとは思ったけど、やっぱり姉妹なんだ」

 

「ああ、そっか言ってなかったね。うん、サリーっていうんだけど、私が妹の方。犬と猫は姉妹揃って好きなんだけどどっちかというと姉さんが犬好き、私は猫好きって感じかな?」

 

「犬ならうちでも飼ってるよ。ミィ……あ、猫のほう。ミィととっても仲良しなハスキー犬でね、賢い子なんだ」

 

「犬猫揃い踏みとはうらやましい……。でも、NWOの中では私もペット連れ歩けるからそれは嬉しいかな」

 

「前に話してた鷲だっけ?猛禽類だけど大丈夫なの?」

 

「うん、すごくいい子だよ」

 

「イベント終わってから私も情報調べてみたんだけど、やっぱり有力なものはなかったなぁ……私もNWOでテイムしたいなぁ」

 

 実を言えばミィは、イベント後に色々とテイムについての情報を調べ回っていた。なにかと演技をしなければならない彼女だが、大の動物好きである。そこでそれとなく同じギルドのミザリーやマルクス、シンに情報を求めてみたのだがこれといった情報は得られず。それでもなお絶対にテイムをしてやるという気概で居た。

 

「うーん……まぁ、イベント終わったし別にいいかなぁ言っても……今のミィ、イベントで敵対関係でもないし」

 

「何か知ってるの!?」

 

「ち、近い。近いよミィ。そんなに目を輝かせなくても」

 

「私ね、テイムのためにすごく頑張ったんだ!でも、有力な情報はなくて……。でもね、動物は好きだから諦められなくて」

 

「わかった、わかったから落ち着いてミィ。そのね、うちのフレス……ああ、鷲の子ね。あの子はイベント中に見つけた卵から孵ったんだ」

 

「卵?あ、もしかして……運営が告知してたイベント内に少数配置される希少アイテム?確かあれって、告知では実装予定のアイテムの先行実装だよね? ああ、そっかなるほど」

 

 ミィが何かに気がついたようにする。

 

 NWO第二回イベントでは、少数だが希少アイテムが配置された。その数は総数5つ。イベント後の運営レポートでは、その全てのアイテムは回収されたと報告している。入手プレイヤーは公開されないが、このうち3つがリオ達だ。それらが配置されていたのは巨大な雪山の山頂、そして天空に浮遊する浮遊島の最も大きな島。

 

 既にイベントは終了しており、別に話しても問題はないだろうと思ったリオはどこで手に入れたのかを話す。すると、光明が見えたのかミィの表情は明るくなった。

 

「つまり、後々アイテムの先行実装って訳だね。よーし、なら今後階層追加のたびにしっかりと探索して、卵を探そう!」

 

「やる気だねぇ。うちのフレスとかでよかったら、いつでも遊んであげてほしいかな。私の知り合い関係には基本暴れたりしないし、あの子、結構元気だから」

 

「本当!?その子が嫌がらないなら是非遊びたいな。 ……そういえば、街中では出してなかったよね」

 

「あー、うん。ちょっと姉さんに探索のためにケイロン……馬の子と一緒に貸してて。今日は私一人」

 

「馬も居るの!?いいなぁ……いいなぁ……!」

 

「本当に動物が好きなんだね。今度ケイロンのほうも紹介するよ。でも、もしミィがテイムするなら何がいいの?」

 

「うーん……動物は基本的になんでも好きだけど、会ったことがないような動物がいいかな? そうだなぁ……御伽噺とかにしか出てこないような動物がいいかな」

 

 テイムについての話題を話していると、ふと。ミィが何かを思い出したようにしてリオを見た。

 

「そういえばリオ。ちょっと聞いていい?」

 

「うん、どうしたの?」

 

「うーんとね……【集う聖剣】。ペインが成立したギルドなんだけどね」

 

「ペイン?ああ、第一回イベント一位の?私はよく知らないけど、名前くらいは」

 

「うーん……反応からして知らなそうだけどなぁ……」

 

「え?どうかしたの?」

 

 何やらミィは考え込んだようにして、言っていいものなのか悩んだようだ。

 暫くして、意を決したミィは

 

「まぁ、いざとなったらなんとでもなるか。私も何かあった時は出来る限りのこと駆使して力になるしリオはあのウィルバートやリリィとも知り合いみたいだし」

 

「ちょっと何か不穏な感じなんだけど。え?本当にどうしたの?」

 

 

「うん。……ペインがね、リオのこと探してるって話があるんだよね」

 

 

 思わず固まった。理解が出来ない。そもそも、自分はペインと会ったことすら無いはずなのだ。

 真顔で固まってしまい、なんとか絞り出せた言葉は

 

 

「ほえ?」

 

 

そんな、間の抜けた言葉だった。

 




 第二回イベントで配置された卵は5つ。さて残りを手に入れていたのは……?

 【炎帝ノ国】の名も無き新戦力の"炎剣のふたり"。主要キャラではないのですがかなり強いネームドモブのミィの近衛兵。リオが真正面から対峙したら全力で逃げるレベル。

 某フロムゲーの二人組にオンスモを足した感じと言えばイメージしやすいかもしれない。なお、サリーでも正面接敵なら全力で逃げ、ミィが考えることをやめたレベル、恐らくフロムゲーにおいて例の二人やオンスモで『ふざけるな!』と思った人も多いかもしれない。


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射手の少女と話題の謎

お久しぶりです、生きています。


 

「理緒ー?どうしたの、また深刻そうな顔して」

 

「え?あ、うん。……ちょっとね」

 

「ふーん……? あ、ギルドホームの候補地ね、いい場所見つけたんだ。明日にはメイプル戻ってくるだろうし、戻ってきたら見に行こうよ」

 

「うん、わかった。夜でいいよね? ……はぁ」

 

「本当どうしたの。お姉ちゃんにも言えないこと?」

 

 無事にギルドホームの候補地を理沙は見つけた。メイプルの好みというのは長い付き合いで理解していたし、それを基準としてよさそうなギルドホームの空き家を見つけることが出来た。最悪、そこが明日までに誰かに取られていたとしても他にも幾つかの候補地は見つけてある。

 

 ギルドホームの競争倍率は高い。だが、ホームを買える買えないは別問題である。ホームは最低ランクでも数百万ゴールドはする。そして、中規模クラスになると数千万、大規模クラスなら数億ゴールドかかる。更に言うなら、立地などのことも関係してきて、各階層のホームタウンの中であればあるほど高くなるし、俗に言う等地が高ければ高いほどまた値段も上がる。

 

 よって、ほしいと思っている人間は数多く居ても買える人間は限られてくる。理沙の場合、早い段階から実装情報を確認していたため、貯金していたのだ。メイプルや妹が居ない時に効率のいい狩場でレベル上げと金策を同時に行い、それで貯めた金額は結構な額である。運が良ければ、街の外にある中規模クラスのホームも買えてしまえそうな金額である。

 

 準備は万端。それもこれも、とてつもなく足の早いケイロンと場所探しに空から探してくれるフレスを貸してくれた妹のお陰でもある。だが、その妹の様子がおかしい。とにかく妹大好きで大事にしている理沙としては気になってもいたし心配で仕方なかった。

 

「実は、NWOで目をつけられてるみたいで」

 

「詳しく話しなさい」

 

 穏やかではない。つまり、自分の妹がNWO内部で誰かに狙われているということだ。それはストーカーとも取れるし、今の時期なら無理な勧誘とも取れる。だが、大抵の相手なら妹だけでもあしらってしまうはずだ。にもかかわらず妹がこうなっているということは、相手は相当に違いない。

 

 守護らなければならない。大切な妹を狙う不届き者をいかなる手段をもってしてでも成敗しなければならない。

 そう思い理沙は真剣な表情で妹へと詰め寄った。

 

「どこの愚か者が私の妹に手を出したの?大丈夫だよ理緒、お姉ちゃんが全部なんとかするからね? ――絶対生かしてはおけない」

 

「姉さん、そんな必殺仕事人みたいなモードにならなくていいから。 ちょっと、ね。ミィからある話を聞いて」

 

「ミィって、あの【炎帝】の? あー……そういえば、イベント途中で交戦して、色々あったけど終わった後にフレンド登録したって言ってたよね。じゃあ昨日私がケイロンとフレス借りてる間に喫茶店で会ってたのってミィなんだ」

 

「うん、最近のことでちょっとお話しようってなってそれで。そこで色々話したんだけど、ちょっと変な話を聞いちゃってね……」

 

 リオはミィの素については話していない。ただ、イベント中、姉と楓が別エリアに飛ばされている間に【炎帝ノ国】と交戦。その過程でミィとも戦闘になり、そこから事故で別の場所に転移したということは話してある。そして、イベント後にフレンド登録していることもだ。

 

「今最も勢いのあるギルドの1つのギルドマスターからの話なんて、結構大事?」

 

「うん、実はね……なんでかはわからないんだけど私、【集う聖剣】のペインさんに目をつけられてるんだってさ」

 

「ちょっと【集う聖剣】にカチコミしてくる」

 

「待って待って落ち着いて姉さん」

 

「止めないで。【炎帝ノ国】と並んで有名ギルドでホームの場所はわかってるから。理緒はゆっくりリアルでお茶でも飲んでてくれればいいよ。本気モードでカチコミするだけだから」

 

「姉さんの本気は本当に不味いから落ち着いて」

 

「仕方ない。とりあえず少しだけ命を先延ばしにさせてあげることにしよう。 ……で。またなんで目をつけられたの?」

 

「うーん……それがね、心当たりないんだよ。私、ペインさんのことは知ってるけど会ったこと無いし。そもそも、あの人の周り関係ってよく知らないし」

 

 そう、リオからすれば心当たりが無いのにいつの間にかとんでもない相手に目をつけられていた状態なのだ。ギルドマスターであるペインと交友はない、ペインの周辺人物についてもあまり心当たりがないし、どうしていきなりこうなったんだ状態である。

 

 実は、ミィとしても原因不明でなんとか力になってあげたいとは思っていたのだが、様々な理由で少なからず昨日のギルドメンバーのように理緒をギルドに引き込みたいと考えている層は居るようで、現時点ではまた問題を起こしかねないのでギルドの情勢が落ち着くまでは迂闊に【炎帝ノ国】のホームでは匿えないのだ。これについて本人はとても申し訳なく思っているのだが。だが、いざという時は全力で力を貸すと約束してくれた。

 

「ミィでもわからない、か。んー……なら他に何か知ってそうな人とかは ――居るじゃない」

 

「え?」

 

「昨日の夜、ウィルバートさんがギルドをリリィさん?って人と作ったって話してたでしょ。なら、ここは思い切って頼ってみたら?」

 

「うーん……迷惑じゃないかな?」

 

「でも、このまま問題を放置するよりいいと思うよ」

 

 確かに理沙の言うとおりでもある。現状、この件についてなにか知っているかと聞けそうなのは理緒の交友関係だとクロムかウィルバート、リリィ辺りである。クロムはイベント後に楓と挨拶に行ってフレンド登録をしたが、最近はフィールドに出っぱなしのようで街には戻ってこないようだ。

 

 だとするなら、頼れそうなのはウィルバートとリリィくらいだ。二人がNWO初期ユーザーであることは知っていたし、もしかしたらペインについて何か知っているかもしれない。

 

「そうだね、確かに黙ったままで問題が悪化でもして心配掛けるのも嫌だし、相談するだけ相談してみようかな」

 

「うん、それがいいよ。後、私もちゃんとウィルバートさんには挨拶もしたいし。いつも妹がお世話になってますってね。リリィさん?って人にも同じで」

 

「わかった。じゃあ、晩御飯食べたら連絡取ってみるよ。ギルドホームの場所は聞いてるから、一緒に行こうか姉さん」

 

「ちなみにだけど、ホームの場所何処?」

 

「……第二層の一等地」

 

「わぁ」

 

 そんな言葉しか出なかった。第二層のタウン一等地となると数億という金額がかかる場所だろう。もしかすると、【炎帝ノ国】や【集う聖剣】のようにとんでもない隠れギルドだったりするのだろうかと理沙は思う。

 ともあれ、二人は相談だけでもしてみることを決めた。

 

 

◆  ◆  ◆

 

 

「やあやあよく来てくれたね!こうしてホームに遊びに来てもらうと、なんだか新鮮な気分だよ」

 

「リリィ、嬉しいのはわかりますが落ち着いて。良い紅茶があるので、お淹れしましょう」

 

 その日の夜、サリーとリオはとあるギルドホームへと足を運んでいた。

 

 ギルド【ラピッドファイア】。現時点でのメンバー数はトップギルドである【集う聖剣】や【炎帝ノ国】には劣るが、全体的に質の高いプレイヤーが集まるギルドだと二人はリリィから聞かされた。

 最初に教えられた場所に足を運んだ時、二人はそのホームの大きさに思わず唖然としてしまった。

 

 第二層の住宅専用区画にある、洋風のホーム。例えるならよく物語に出てくるお屋敷とも言える巨大なホーム。屋敷周辺は塀で囲われており、入り口には巨大な扉。そこを恐る恐るノックすると、扉の奥からギルドメンバーと思わしきプレイヤーが現れ、名前を告げてウィルバートとリリィと約束があると告げるとすぐさま中に通された。

 

 サリーとリオの知名度はこの【ラピッドファイア】にも伝わっているようであったが、同時にギルドマスターであるリリィからは名前を伝えられた上で『もしこのプレイヤーが訪ねてきたらすぐに通してくれ』と言われていたそうだ。

 

 中に通され、応接間に案内される。そこに待っていたのはリリィとウィルバートだった。

 設置してあるとても高級品のようなテーブルセットに座るように勧められ、それに応じるとサリーがまず二人に挨拶をしていく。

 

「はじめまして、サリーです。妹がいつもお世話になっています」

 

「なるほど、君がそうか。リオから話は聞いているよ、自慢の姉だとね。よろしく頼むよ、何かあれば遠慮なく頼ってくれ」

 

「ありがとうございます。ウィルバートさんも、挨拶がまだでしたので。いつもリオがお世話になっています、よろしくお願いします」

 

「こちらこそよろしくお願いします。私としても、教え甲斐のある教え子で楽しくさせて頂いていますよ」

 

 幾つか話をした。イベントは楽しめたかだとか、ここ最近のNWOについてだとか。自分達のギルドも中々に大変だが、いいメンバーが集ってきてくれているなど、そんな話をした。その中で、勧誘についての話は一度も出なかった。少なくともこの二人はそのあたりについて弁えており、礼節のある人達なのだなとサリーは思った。

 

「色々とまだお話したいですが、本日はご用件があるということで。リリィ、そろそろそちらを伺いましょう」

 

「ああ、そうだね。リオがこうして姉のサリーと訪ねてきてくれるのは嬉しいが、メッセージでは相談があると言っていたね? 私達で力になれることかな?」

 

 サリーとリオが顔を見合わせる。

 そして、リオが最近の自分についてのことを話し始めた。

 

 どうやら自分が【集う聖剣】のペインに探されているということ。だが、それについて心当たりが一切ないということ。

 情報がなさすぎて不安だったので、何か知らないかという相談に来たこと。

 

 それを話すと、リリィとウィルバートは『ふむ』と。考え込んだ。

 

「どうにも解せないな。私達もその話は初耳だ ……ミィはなんと?」

 

「ミィは、たまたま【炎帝ノ国】と【集う聖剣】のトップが話し合う場があったらしくてそこでと言ってました。といっても、その場は重いものじゃなくて、メンバー勧誘についてのマナー徹底の意見交換や、新規受け入れの際の指導マニュアルについてとか、後は消耗品関係の相談とかだったらしいんですけど、たまたまそこで本人から聞いたらしいんです。『リオという名前に心当たりはないか?』と」

 

「ふーむ……ウィル、どう見る?」

 

 『そうですね』とウィルバートは間をおいた後

 

「個人的にはペインとは多少の交友はあります。ですが、彼が強引にリオさんを探そうとするようには思えません。まあ確かに、バトルジャンキーの気はありますが、それでも彼も上に立つ人間として立場や礼儀は理解しているとは思うんです。それに、これは推察ですが……【集う聖剣】というギルド単位ではなく、ペイン個人が探しているように思えます」

 

「つまり、ミィと会った時に話したのはギルドとしての話ではなく、個人としての話だったということですか?」

 

「そうではないのかな、とは思います。個人で探していると推察して、問題はどうしていきなりリオさんを探し始めたかです。彼がもしイベント後のお二人の知名度や話題を耳にして探している、というのはちょっと腑に落ちません。彼は噂や情報だけでは動かない人のはずなので。……とすれば。彼の性格から考えて、より詳しい情報。例えば、イベント最終日以外のリオさんについての情報をより詳しく聞いて、それで興味を持ったという可能性があります」

 

「それは、どういう……?」

 

「彼はまぁ、バトルジャンキーです。強い相手に目がありません。ですが、ただの噂や話題程度では動かないでしょう。例えばの話ですが、イベント中に彼と行動していた誰かがリオさんを目にして、そのことについてペインに話した。それで興味を持った。これならば有り得そうですが……イベント中、メイプルさんやサリーさん以外で接触された方は居ますか?会話をされた方、とか」

 

 考える。出てくるのはカナデ、カスミ、クロム、ミィ。だが、この中で戦闘風景を見られているのはミィだけである。クロムとは交戦になってないし、カナデとはゲームをしただけ。カスミとも戦っていないし、直接しっかりと話したのはイベント後半だけだ。

 

 他に誰か居ただろうか。そう考えて――居た。一人、戦闘風景を見られている人物が。

 

「居ます、一人だけよくわからない方が。 あの人はドレッド、と名乗っていました」

 

「それですね、間違いなく」

 

 キョトン、とリオは首を傾げた。だが、リオ以外の反応はそれぞれ異なっており、サリーは驚いたような顔を。リリィは腑に落ちたようにしていた。

 

「えと、あの人が何かあるんですか?」

 

「……リオ。リオは私ほどまとめ記事とか見てないから知らないだろうけど、ドレッドは第一回イベントの二位だよ」

 

「ほえ? えぇっ!?」

 

 リオはサリーほどNWOの情報を集めていない。ペインの名前だって、たまたま第一回イベントの一位はペインというプレイヤーだったと聞いたくらいだ。ミィの名前も同じで、イベント開始前にウィルバートとクロムから前回四位だったと聞いていたから知っていたのだ。

 

 メイプルが三位、ペインが一位、ミィが四位。それぐらいしか知らなく、他の入賞者の名前は知らなかったのだ。

 

「というか、私そんな話聞いてないよ?いつ会ったの?」

 

「……まさかこんな大事になるなんて。実は、姉さんが二日目にダウンしてた時、あのエリアで敵対プレイヤーと交戦して。その時に会った」

 

「あー……あの時かぁ。つまり、その時にドレッドとも戦ったの?」

 

「ううん、あの人は私の戦闘を見てただけ。それに……ちょっとあの場で戦うのは不味い気もしたし、すぐにあの人撤退もしたんだ」

 

 合点がいった、というように今度はウィルバートが推察を述べていく

 

「ペインは第一回イベントの入賞者や知り合いと組んで第二回イベントに参加していたらしいです。つまり、そこにドレッドさんが居たのでしょう。リオさんと接触してその後に撤退、戻った後にその話がペインにいったのでしょう。そして、イベント後にペインがリオさんに興味を持って探し始めた。大体こんなところでしょう」

 

 大体の予想はついた。だが、どうしたものかとリオは考える。

 ドレッドからペインに話が言ったのは間違いないだろう。そして、ペインが個人的に自分を探している、ということも。

 

 このまま放置してもペインと鉢合わせするのは時間の問題だろう。もし、彼が自分に要件があるなら早めに済ませたい。

 話を聞く限り、ペインは礼節を弁える人なのだろう。だからギルドの力は使わずに、出来るだけ自分の力だけでこちらを探しているのだとも取れた。

 

 もし、【集う聖剣】がギルド単位で自分を探していればそれは大事になっていたかもしれない。だが、そうしないように彼は配慮してくれているのだろうとも取れた。

 この問題についてどうすべきか。リオは考えていると

 

 

「教え子が困っているのです。なら、私も動きましょう」

 

 突然、ウィルバートがそんな事を言った。そして、リリィを見ればやれやれといったようにしていた。

 

「どうでしょう。ここは、私とリリィも同行するのでペインに会ってみませんか?」

 

 問題の解決案として、彼はそんな方法を提示した。

 





 一月と少しくらいぶりでしょうか、お久しぶりです。作者多忙期突入、加えて別件でも忙しくなり書き溜めすら投稿する余裕が取れず。なんとか少し時間を取れたので更新をしました。もう暫く多忙期が続きそうです。その間に投稿はできずとも、ストックは添削前のものだけでも作れたらなぁ……と思っている次第。 休 み を く れ 。

そんなこんなの作者の生存報告。防振り二期までに第四層の終わりまでかければなぁとか思っていましたが、あまりの多忙さにちょっと難しくなってきたかもしれない。とはいうものの、なんとか本腰を入れたいところ。




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射手の少女と【集う聖剣】

 なんとか生きてます


 

「変に不安にさせてしまったようで、本当にすまない」

 

 目の前の光景、それに対してリオは困惑もしたし、なんとも言えない気持ちになった。

 

 それもそうだろう。今、目の前であのペインが。NWO最強と言われてる人物が申し訳無さそうに謝罪し、頭を下げているのだから。

 

「い、いえ!私も話だけ聞いて、早とちりして勝手な解釈をしてしまったので……。あ、頭を上げて下さい!」

 

 結論から言うと、ペインは別にリオに対してなにか変なことを考えているということはなかった。そして、【集う聖剣】のギルドとしての力を使ってどうこうということも一切なかった。むしろ、そう思わせ不安にさせたことに対してペインは深く申し訳ないと思っていた。

 

 サリーとリオがウィルバートとリリィに相談した後、ウィルバートはいっそのことペインに直接問いただそうと提案をした。そこに交友のある自分、そしてリリィが同行することで最悪の場合の抑止力にもなるし、何よりウィルバートは教え子を不安にさせた知人に対して怒っていたのだ。だから、要約すれば『殴り込みはしませんけどちょっとお話聞かせて貰えますか?』という状態だった。殴り込むことも考えていたサリーですら、笑顔で『ちょっとペインとお話をしましょうか』と言っているウィルバートには少し気圧された。有無を言わせない迫力もだが、とにかく怒っているというオーラが凄まじかった。

 

 結局、四人で【集う聖剣】のギルドホームに向かうことになった。同じく第二層の住居区画の一等地。【ラピッドファイア】のホームからはすこし距離があったが、到着して入口の前まで行くと幾人かのギルドメンバーからは驚き困惑が混じったような顔をされた。それはそうだろう、吟遊詩人にメイド服。加えて、第二回イベントで話題になった二人である。ギルドメンバー達はペインがリオを探しているということを知らないため、どうしていきなり有名な二人が訪れたのだろうかと困惑するばかりであった。

 

 だが、そんな中で顔を真っ青にする者も居た。比較的初期からプレイしているギルドメンバーである。そのプレイヤー達は、内心慌てながらも冷静にペインの居るギルドマスター室へと走った。

 

 【集う聖剣】のギルドホーム入り口は困惑と動揺に包まれていた。しかし、そんな状況をなんとかしてくれる人物もまた居るのだ。

 

 

 ――『あれ、ウィルバートじゃん。どうしたの急に』

 

 

 そんな陽気な言葉とともに現れたのは、金髪のサイドテール。赤とピンクの衣に白のコートという姿をした、女性だった。

 

 フレデリカ。彼女の名はそう言った。

 

 彼女もまた初期プレイヤーであり、ウィルバートとは顔見知りである。結局その後は彼女のコミュ力もあって、話が進みペインの居るギルドマスター室に案内され、ウィルバートが笑顔でどういうことか尋ねると、ペインもまたどんなことになっているのか理解したようでリオに謝罪した、という状況である。

 

「ペインさぁ……流石にこれは擁護できないよー。女の子不安にさせるとか最低」

 

「返す言葉もないな……。ミィがイベント中に彼女と激戦を繰り広げた、という情報が流れていて、ついギルド同士の会談の時に聞いてしまったんだ」

 

「どうせまたいつものバトルジャンキーっぷりが発動したんでしょ?それで本人に迷惑掛けてるんだから、反省しなさいよ。それに、ペインには乙女心ってものに対する理解が――」

 

 目の前では割と本気で怒っているフレデリカ。そして、説教されながらもとても申し訳無さそうにして小さくなっているペイン。

 

「フレデリカさん、それぐらいで。彼も反省しているみたいですし。リオさんももういいと言ってますし、これくらいで」

 

「いいの?ウィルバート。ペインのバトルジャンキーっていう病気は絶対に治らないから、きっつく言っとかないとまたやらかすかもよ?」

 

「ふふ、大丈夫ですよ。その時はその時ですので ですが……ペイン、対人イベントでは気をつけることですね。不幸な事故というのはありますから」

 

「ウィルバート、本当にやめてくれ、今回の件は俺の配慮が足りなかったと猛省してる」

 

 ともあれ、ペインに悪意がなかったのは事実だ。リオは不利に対して『ほ、本当にもういいのでこれくらいで……』と言った後ペインを見る。

 

「ええと、色々ありましたけど初めまして。私がリオです。よろしくお願いします」

 

「ペインだ。君のことはドレッドから話を聞いて、一度会ってみたいと思っていたんだ。 ……だが、本当に今回はすまない」

 

 話してみると、本当に普通の人だった。NWO第一回イベントの一位や最強と言われていて少したじろいでしまったが、礼儀正しく真面目な人物だった。

 

 むしろ、会話の波長があっているといってもいい。ペインは対人戦が好きなようで、本人曰く先程のようにフレデリカや身内に怒られてしまうことはしばしばあるが、強い相手との戦いや交流にとても興味があるのだという。

 

 ある意味、それはサリーやリオと同じだ。強い相手との戦いは楽しい。まだ見ぬ頂、それに対する飽くなき挑戦。それは、自らの全てを懸けるほどの価値があるくらいに面白いことだった。 

 

「そういえばウィルバート、リリィ。次のイベントと階層追加についての情報はもう見たか?」

 

「ええ、確認してます」

「見たよ。中々に盛りだくさんで、こっちのギルドも大変さ」

 

 ふと、ペインから出た話題はサリーとリオの知らないものだった。次のイベントと階層追加。そんな情報あっただろうかと顔を見合わせる。

 

 それに気がついたフレデリカが、『あ、もしかして』という言葉の後二人を見た

 

「サリーとリオは、まだ情報見てない感じ?」

 

「うん、でも公式にそんな告知あったっけ……?リオ、知ってる?」

「私も見た覚えないなぁ……」

 

「まあ、公式の告知情報じゃなくて生放送での情報だからねー。あれやってたの昨日だったかな?」

 

 そう言われて、それなら確かに知らないと二人思った。基本的に二人の情報源は、公式告知とたまに見るまとめサイトくらいだ。それらを見る頻度もそんなに高くもない。

 

「要約するとね、第3回イベントが近々開催されるってのと、第三層の追加がその後に決まってるんだってさ。で、第三回イベントはアイテム回収系。各階層のエリアに専用のイベントモンスターが湧いて、それを倒すとイベントアイテムがドロップする。それを集めると、色んな景品が貰えるって内容だね。ただ、次のイベントはギルドごとにアイテムが集計される。ギルドに所属してないプレイヤーは専用のグループに所属して、そのグループをギルドとして扱う。イベント終了後にギルド所属者はギルド用アイテムを、未所属者はグループの総討伐数に応じた景品が獲得できる。 ……まあ、こんなところかな?」

 

 かなり重要な情報だ。特に、イベント報酬がギルド専用アイテムが含まれるということと第三層の実装はそれだけで今後の動き方が変わってくる。これはメイプルがNWOに戻ってきたら色々と相談しなければならない。

 

「そういえば。 ……あー、先に言っておくとウチも勧誘とかそんなつもりないからね? 二人はギルドとかもう組んでるのかなって思って」

 

「そんなに気を使わなくていいよフレデリカ。うーん……姉さん、話してもいいかな?」

 

「まあ、いいんじゃない?どうせこのままだと数日のうちには広まりそうだし……。この話自体は、前々から話してたしね」

 

 メイプルとはギルドについては前々から話していた。実装情報自体はかなり前から出ており、3人で冒険する中で実装されたら三人でギルドを組みたいという話をしていたのだ。

 

 どちらしても、明日にはメイプルが戻ってきてギルドが結成される。そうすれば、大ギルドにはすぐ情報がいってわかることだろう。遅いか速いかの違いなら、話してもいいだろうと考えた。

 

「一応組む予定、かな。ちょっとメイプルが諸事情で数日来れないから、戻ってき次第ギルドを組む予定」

 

 その言葉に対して、それぞれ反応を見せた。ウィルバートとリリィはやはりか、という反応。ペインとフレデリカは驚いていたが、期待の籠もったような目で二人を見ていた。

 

「メイプルのギルドか。今後はギルド単位でのイベントも増えるという話だし、もし対抗戦などがあれば中々に手強そうだ」

 

「同感。しかもそこにサリーとリオかぁ、怖いなぁ」

 

「もし戦う時は、全力で挑ませてもらうね。フレデリカ、それにペインさんも」

 

「うーん……できれば夜道で後ろからサリーにサクッとされたり、リオに頭撃ち抜かれるのは考えたくないかなー」

 

「俺は楽しみだよ。その時はこちらも全力で行かせてもらう。相手がメイプルだろうと、二人だろうと。強敵と戦うのは楽しいからな」

 

 またペインの病気が出たよ、とフレデリカにからかわれたりしつつ、話は進んでいく。ギルド結成前ではあったが、こうしていつの間にかサリーとリオの周りには【炎帝ノ国】、【集う聖剣】、【ラピッドファイア】というギルドに対するコネクションが出来上がっていた。

 

 

◆  ◆  ◆

 

 

「ええっ!?もう準備しちゃったの!? すごいよ二人共!」

 

 

 三日間の間、自主的にNWOへのログインを自粛していたメイプルがログインしてきて、二人から居ない間に追加された内容について聞いて示したのは興味だった。

 

 ギルドに、ギルドホーム。特にメイプルのギルドホームへの興味は強く、だが【光虫】の絶対数には限りがあることや、実は既に乗り遅れていることを話すと少しショックを受けたようにしていた。

 

 しかし、そのメイプルに対してサリーとリオは揃って何か企んでいるような笑顔を浮かべると、【光虫の証】を見せ、既に確保済みであり購入資金も準備してあるので後は家を決めるだけと伝えた。結果、返ってきたのはメイプルからの賞賛と感謝の言葉だ。

 

 そして、既にギルドホームの候補地も見つけてあった。サリーが見つけたという候補地は幾つかあったようだが、その中でも最もメイプルの好みに合いそうなホームへと向かった。

 

 運良くと言うべきか、まだそのホームは空き家だった。そこは階層のホームタウンからは少し離れており、周囲は木々ばかりの森。足元は石畳の道であり、周囲の森は生い茂っているわけではなく、空から陽の光が森へと降り注いでいる。鳥の鳴き声や風の音が聞こえ、とても心地が良い場所でもあった。

 

 サリーに案内されて暫く歩くと、メイプルが足を止めた。足を止めたのは、一軒の家の前だった。そして、その空き家こそサリーが見つけてきた、最もメイプルが好きそうな候補地でもあった。

 

 森の中の石造りの階段を少し降りた先にある、扉には僅かに装飾がされた家。見た目は大樹を思わせ、屋上にテラスが有り、太陽の光が降り注いでいる隠れ家的な雰囲気を漂わせている。

 

 メイプルが目を輝かせて家の中を覗いてみれば、中は木造で、大樹の中央部分には大きなテーブルと椅子。そして、ギルド管理用のモニター。二階も存在しており、更にそこから屋上にあるテラスに続く階段もあった。

 

 一通り見た後に二人がメイプルを見れば、どうやらメイプルはここが大いに気に入ったようだった。

 

「どうかな、一応メイプルの好きそうな所見つけてみたんだけど……もしあれだったら別の候補地も見てみる?」

 

「ううん、ここ……ここがいい!すっごく落ち着くし、家の周りも私が好きな感じ!」

 

 メイプルとしても、二人が見つけてきたこの家はとても気に入った。周囲の森は静かで、日の出ている時間は温かい日の降り注ぐ穏やかな場所。耳をすませば喧騒はなく、聞こえてくるのは風の音や鳥たちの声。何より、一番気に入ったのはこのホームの見た目だ。大樹を思わせる、大きくて安心するような家。

 

 メイプルとしても大満足のようだ。ならば、ここで決まりだ。そう言わんばかりにサリーは【光虫の証】を取り出し、それを扉に押し付け購入に必要な金額を入力して確定のボタンを押す。すると、白い輝きが路地を埋め尽くし、扉には淡く光る紋章が浮かび上がった。

 

 

 こうして、気に入った物件見つけた三人は、無事ギルドホームを確保したのだった。

 





 かなり久しぶりの更新となりました。生きてます、なんとか生きています。ここ暫くの間仕事の多忙、やっているとあるゲームのエンドコンテンツへのチームでの取り組み、生活環境変化と慌ただしくしていました。

 お盆休みは長めに取ることができたので、暫くは執筆を再開していく予定。


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射手の少女とギルド結成


 時間とおやすみをください。
 今回は2話同時投稿。後書きとかは次の話の最後にて。


 

 

 ギルドホームを購入し、中を一通り見た。広く、日当たりはよく、デザインもいい。不便さを上げるとすれば街への利便性くらいのものだった。

 

 自分達がテイムした三匹を放し飼いできるのも大きかった。流石にずっと指輪の中に閉じ込めて、たまに外に出すというのは三人としてはあまりにも忍びなかったためだ。

 

 そして、ギルドについて。ギルドホームの詳細を確認すれば、50人までなら登録できると表示されていた。なので、せっかくなので知り合いを誘ってみようという話になった。

 

 色々と話し合った結果、メイプルからある人物を数人誘いたいという話が出た。それは、サリーとリオもよく知る人物で、カスミとカナデである。第二回イベントで知り合った二人とは、イベント後にフレンド登録している。親しい知人がもし入ってくれれば嬉しい限りでもあるし、二人揃って頼れる人材でもある。

 

 カスミは第一回イベントでは第6位。しかも、第二回イベントではソロで参加し金のメダルを奪われることなく最終日まで生き残った。リオは戦闘風景を見ていないので知らないが、サリーから見ればカスミの実力は相当なもので、『本格的な戦闘にはならなかったけど、最初の【蜃気楼】での騙し討ちの後にやりあってたらかなり強い相手だったと思う』とリオに言ったほどだ。

 

 カナデもまた逸材でもある。こちらはサリーは探索に出ていたため知らなかったが、メイプルとリオが二人がかりでゲームに挑み惨敗。しかも、二人同時に別々のゲームを相手にするということをやってのけ、それで二人が惨敗である。サリーはあまりテーブルゲームが強くないのだが、リオとメイプルはこの手のゲームにとにかく強い。リオは理詰めで相手を追い込むタイプの強さ、メイプルは運と突発的なひらめきで勝っていくタイプなのだが、その二人が揃って負けている。しかも、イベント後に聞く所によると本人曰く、とんでもなく難解なパズルやギミック満載のダンジョンをソロでクリアし、特殊な装備まで獲得していたという。

 

 早速メイプルが連絡をとってみれば、二人から数分後には連絡が返ってきた。返答に緊張しながらも確認すれば、二人共了承の返事が返ってきていた。

 第二層の広場で落ち合うことになり、それぞれ準備をして向かう。現地に到着すると、そこには見知った姿が既に到着していた。

 

「カスミ、カナデ!」

 

「メイプル。ギルドへのお誘い、ありがとう」

「僕も誘ってくれて嬉しいよ」

 

 早速ギルドへの招待を送信。二人がそれを受諾する。

 これで、正式に二人がギルドメンバーとなった。

 

 折角合流したのだし、ということで暫く雑談をすることにした。他のギルドについて、次のイベントについて、階層追加についてなどの話だ。

 その過程で、サリーとリオが大ギルド複数とコネクションを持っているということをカスミとカナデが知り、メイプルとは別の意味でとんでもないと思ったという。

 

 ふと。話をしているとメイプルがなにかに気がついたようだ。

 視線をメイプルの観ている方向に向けけると、広場に向かって歩いてくる二人の姿があった。クロム、そしてイズである。

 

「クロムさん!お久しぶりです!」

 

「おおメイプル、それにリオとサリーも。……って、そっちはもしかして第一回イベント6位のカスミさんか?それからそちらは」

 

「私の友達のカナデ!」

 

 紹介されると『よろしくね』とカナデが言い、クロムとイズもまたそれに対して挨拶を返す。

 

「クロムさんとイズさんは素材集めの帰りですか?最近、クロムさんずっとフィールドワークでしたよね」

 

「ああ、そうなんだ。ちょっとめずらしい素材を探しててな、最近はずっとフィールドだった」

 

「でも、その素材もなんとか見つかってよかったわー。流石クロム、アイテムのリアルラックはかなりいい方よね」

 

「そうは言うが割と不幸な事故とか初見ギミックで死にまくってるぞ俺……」

 

 リオに尋ねられ、やや疲れたようにクロムは返答した。彼の運はいい。だが、とても悪いとも言える。とにかく確率の絡むアイテムや運要素のあるものについてはかなりの高確率で引き当てるのだが、逆に初見のフィールドやダンジョンでは運がない。本人が高レベルの狩場や自らタンクを引き受けているというのはあるが、変な運の悪さも相まって既に死亡回数は4桁を超えている。

 

 だが、その死亡回数とは即ちモンスターやフィールド、様々なものに対する現場的な見解の総数でもある。あえて危険な場所に飛び込み、挑戦し続けるクロムは現状大半のモンスターやギミックに対して見識を持つのだ。『このモンスターはこの攻撃を貰うと危ない』『こいつはこの行動の後こう動く』『このエリアは時間によって足場が脆いから、注意してないと下に落ちる』。こういった知識を持ち、それを経験として活かせる。実際に前に立ち、危険に飛び込まなければ得られない知識を持つクロムは、ランカーからも尊敬されていたし注目されてもいた。

 

「まあそんな俺の不運はさておきだ。広場に集まって何かやってたのか?」

「もしかして、今話題のギルド結成とか?」

 

「はい!……そうだ、よければクロムさんとイズさんも入りませんか?」

 

 その言葉に対して驚きを見せるイズとクロム。メイプルとしては、二人を誘うのはダメ元でもあった。クロムは第二回イベントでは他のプレイヤーとパーティーを組んでいたし、イズもギルドについての話はしていなかったが、もしかすると生産職寄りのギルドにもう決まっているかもしれないと思ったからだ。

 

 だが、そんなメイプルの心配を他所に返ってきたのは

 

「いいのか?メイプルが誘ってくれるなら喜んで入らせてもらうが……」

「私も嬉しいわ。是非参加させてもらおうかしら」

 

「本当ですか!?ありがとうございます!」

 

 ひとまず、メイプル案内でギルドホームに向かいそこで全員の自己紹介。その後にギルドの設定登録を行う。

 

 サリーとリオの企みどおり、メイプルがギルドマスターに決まった時は、多少メイプルは慌てていたものの他のメンバーからもメイプルがマスターのほうがいいという声が上がりそのまま引き受けた。

 

 そうなれば、後はギルドの名前だけだ。メイプルは少しの間悩んだようにしていたが、暫くして『うん、決めた!』と言って名前を入力した。

 

  

 

 『楓の木』

 

  

 

 メイプルが名付けたこのギルドは、少人数で活躍していく。

 

 そして、後に『人外魔境』や『天使も悪魔も人外もズドンもPSお化けも居てとにかくやべーものが沢山いるやべーギルド』と呼ばれるのは、まだ先の話である。

 

 

 

◆  ◆  ◆

 

 

 

 数日後

 

「結構、人居るなぁ……」

 

 周囲を見れば、かなりのプレイヤーが居た。てっきり、第二層の開放で殆ど人は居ないものと思っていたがそうではないらしい。二層と変わらないほどの活気で賑わっており、恐らく新規参入者などかと推測する。

 

 姉の話では、どうやらメイプルに誘発されて『極振り』のビルドをするプレイヤーが増え、また新規プレイヤーも増えているらしい。一時期同じようなことが起こったらしいが、それが最近また起こっているのだという。といっても、メイプルが明らかに異端なだけであって、ほぼ極振りのビルドは大成しない。誰もがメイプルのようになれるわけではないし、メイプルの天性ともいえる直感やセンスを他人が簡単に真似できるとも思えない。

 

 VRMMOにおいての『極振り』とは、とにかくデメリットのほうが大きい。それぞれのステータスに特化してしまうと、必ず弱点が生まれる。例えば、【STR】なら防御力、【INT】なら防御と【MP】問題、【AGI】ならトリッキーに動かなければ火力不足、【DEX】なら致命前提になるのでPS必須、【VIT】ならただ硬いだけ。

 

 特に大きな問題は、パーティープレイが困難になることだ。基本的にMMOの野良パーティーは安定や効率を重視される傾向になる。それによって、ビルドが指定されたりすることもあるし、特定スキルを持っていなければ入れないこともある。『極振り』をしてしまうと、野良パーティーに入るのが困難になるのだ。よって、もし『極振り』をするならそれに対して理解のある身内が必須となる。

 

 新規プレイヤーでそういった人材を確保できるものは少数だ。結局、大半が心を折られて辞めてキャラメイクをやり直す。だが、大成した『極振り』の活躍を見ればまた現れるのだ、それに憧れたり、欲を抱いたりする者が。

 

 

 そんなことを考えつつも、特に用事があるわけでもなく。ただ、少しだけ一層を散歩して、ギルドホームに戻ろうというくらいの考えで歩く。

 

 既に周囲からの視線も慣れたもので、特に気にはしていない。既に自分がそれなりの知名度があるということは理解しているし、第二回イベントでの動向についても知られていることは理解していた。特に、6日目の戦闘は姉共々派手にやりすぎたとも自覚していた。

 

 だから、時折向けられる周囲の視線など一切気にせず。ただ散歩感覚で一層の町並みを見ていた時だ。

 

「うう……またPT参加断られちゃった……やっぱり極振りってだめなのかなぁ……」

「元気だしてお姉ちゃん!きっと、どこかに入れるPTがあるよ」

 

 ふと。足を止めた。

 

 見れば、そこには小さな背のプレイヤーが二人いた。

 

 一人は落ち込んでおり、もうひとりはそれを励ましている。ほぼ初期装備の服装に、初期武器。だが、二人の背格好は同じで、髪色が異なるだけで顔も瓜二つ。見ただけで双子だと思える二人だった。

 

 極振りのプレイヤーは珍しくはない。それだけでは目を留めることもないのだが、その二人のやり取りが、リオにあることを思い出させた。

 

 それは、まだ小さかった頃。昔は今より人見知りで。気弱で。ずっと姉の後ろに隠れるようにしてついていっていた。

 

 どこに行くときも同じだった。何をする時も一緒だった。姉が居て、自分がいる。幼かった頃の手を引いたくれたのは姉であり、いつも一緒で。それは、今も変わらない。

 

 だからなのか。二人の頑張ろうとする姿が、自分と姉のそれと重なった。気がつけば足を止めていて、暫くその二人を遠くから見ていた。

 

 何度かパーティーへの参加を試みたようだが、断られていた。それでも諦めず、片方がもうひとりを励まし、もうひとりも諦めないというように次のパーティーを探していた。

 

 だが、どこもダメだったようだ。結局二人は噴水の近くまで戻ってきて、焦りを見せる表情で休憩にはいっていた。

 

 胸の奥が熱くなるのを感じた。あれは、かつての自分と姉とよく似ている。

 二人で頑張ろうとするその姿。それを見てかつての昔日を思い出し、それに重ねる。

 

 どうしても放っておけなかった。それに、『極振り』でありながらあそこまで根気よくやろうとするのは何かあるのではないのか。そう思った。ふと。そこであることを思い出した。それは、昨日クロムから打診された意見だった。

 

 

 ――『みんなももう知っているかもしれないが、先日の生放送についての情報が運営から内容追加と正式告知があった。第三層の追加についてと、第三回と第四回のイベントについてだ。第三回イベントは一週間後、期間限定のモンスターが現れて、そいつを倒す。まあ、シンプルな企画だな。今回、皆と話し合いたいのはその後。第四回イベントについてだ』

 

 ――『第四回イベントはギルド対抗戦。第二回イベントと同じで時間加速があるらしい。だが、【楓の木】は少数ギルドだ。メイプルの意向はわかっているつもりだが、少数名ギルドメンバーの追加を検討してみるのも手だとは思う。あくまで俺個人の意見だから、最終的な判断はメイプルに任せる。だが、一度検討してみてほしい』

 

 

 そんな話があった。メイプルとしても、少数名なら問題がないということで、もしそれぞれの知り合いなどと何かしらの縁があれば誘ってみようという話になったのだ。リオは少し考えて、メッセージ画面を表示した。送信先はギルド専用のチャット欄であり、そこに発言するのは

 

 『昨日話してた少数名追加の話なんだけど、ちょっと声かけて見たい相手がいるんだけどいいかな?』

 

 そう発言すると、メンバーそれぞれからは問題ないという返答が返ってきた。

 確認も取れたので、立ち止まっている二人へとリオは歩いていき、声をかけた。

 

「こんにちは、ちょっといいかな?」

 

 二人の視線がこっちを向き、それと共に向けられたのは困惑。そして驚きの表情だった。

 



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射手の少女と双子の初心者


本作では他ギルドメンバーもかなり強化されています


 

「えっ……な、なんですか?」

「わ、私達初心者で、レアアイテムとかなんて何も持ってません……」

 

「あ、いやそういう変なのじゃなくて……。ええと、ごめんね驚かせて?」

 

 二人の表情にあるのは困惑。それはそうだろう、自分達は初心者で初期装備、レアアイテムやゴールドなどろくにもっていない。そんな相手に対して突然、いかにも汎用装備ではないような装備のプレイヤーが話しかけてきたのだから。

 

 対してリオも驚かせてしまったと反省しつつ、二人に対して悪意もなけれれば変なこともしないと言って、警戒を解いて貰えるように試みる。

 

「実はね、今ギルドメンバーを探してて。その途中で二人を見かけてたまたま気になって。そしたら、極振りがどうのとか聞こえてきて、思わず声をかけたんだ。 ……あー、そうだ。良かったら近くの喫茶店で話を聞かせてもらえないかな?何か力になれるかもしれないし」

 

 後でリオが冷静になって自分の発言を思い返してみれば、明らかにこれは怪しいキャッチそのものである。そんな気はないにしてもそのことについて後日顔を真っ赤にして猛省し、姉から『どうしたの急に』と言われるのはまた別の話。

 

 二人はリオに悪意がないのを感じ取ったのか、喫茶店への誘いを了承した。自分と姉を重ね合わせたこともそうだが、とにかく放っておけない。そう思いながらリオは二人を行きつけのカフェへと案内した。

 

 

◆  ◆  ◆

 

 

 

「……なるほどね」

 

 二人の名前はマイ、そしてユイ。リオが予想した通り双子のプレイヤーだった。そして一層のカフェ。そこで二人から聞いたのは、ある意味最近よくある悩みでもあった。 

 

 極振りのビルドは簡単には大成しない。故に、それを志したプレイヤーの大半は心が折れてしまう。

 

 NWOにおいて一般的に人気が高いのは、テンプレビルドと呼ばれるある程度の結果を確実に出せるビルドだ。その大半は極振りではなく、ステータスポイントをそのビルドに応じて丁寧に割り振られている。近接型なら、『鯵天(AGIテンプレ)』、『ストライカー(STR・HP型)』など、遠隔型なら『エンチャンター』『メテオWIZ』『支援魔法師』などであり、中には異色のビルドの『魔法剣士』や『グラップラー』などもあるが、それはどれも結果を残しているビルドなのだ。

 

 基本的に最終的に安定したスキル構成を練れて、自由度もあるビルドが選ばれやすい傾向だったのが最近になって変化してきた。極振りにすればメイプルのように無双できるのではないのかと考えたプレイヤーが多く現れ、テンプレの安牌を選ぶ傾向から極振りの傾向へと変化しつつあるのだ。

 

 マイとユイの二人もその選択をしたプレイヤーだった。しかし極振りのプレイヤーというのは基本的に野良パーティーでは歓迎されない。【AGI】が低く足が遅いことによる進行の遅延、特化による弊害で一撃で倒れてしまったり、逆に火力が極端に低かったり。テンプレビルドでできることができないことにより、野良ではそれが邪魔者扱いされることが多いのだ。

 

 結果、どうなるかといえば。腫れ物のような扱いを受け、PTにも入れず、レベルも上がらない。ソロや特化型だけでの進行は難しく、こちらも同じ結果になる。

 

「頑張ってるんですが、上手く行かなくて……」

 

「中々上手く行かなくちょっともう駄目かなって思い始めてて……」

 

 二人を引き止めてよかった、そう思った。

 

 このまま放置していればほぼ間違いなく引退コースだっただろう。ここで引き止められたのは良かったと思った。

 

「気になったんだけど、なんで二人は極振りを?」

 

「私達、リアルでは身体が小さくて、力もなくて……それで、こっちではそういうのができたらなって思って」

 

「うぅ……【STR】極振りって、やっぱり厳しいんでしょうか……」

 

 どうやら、話を聞く限り二人はメイプルの影響を受けたわけではないようだ。それに、極振りを選択した理由も以前メイプルから聞いていた理由と少し似ている。どこか似ているな、と思った時。あることを閃いた。

 

 メイプルは【VIT】極振り、対してこの二人は【STR】極振り、つまり。場合によっては途方も無いシナジーがあるのではないだろうかということだ。

 

「そんなことないよ。私の友達も極振りでプレイしてるし、まぁ……うん。色んな意味で成功してるね」

 

「そうなんですか!?」

 

「うん、その子は【VIT】極振りなんだけどね。 ……ねぇ二人共、良かったらうちのギルドに入らない?」

 

「え?ギルドって……ついこの前実装された、あのギルドですか!?」

 

「でも……私達弱いですし……。それに、極振りだから迷惑を掛けると思います……」

 

「迷惑とか全然そんなことないよ。それに、うちの【VIT】極振りの子と絶対相性はいいし、物理攻撃方面完全特化のプレイヤーってうちに今居ないんだ。といっても、今の所確定してるのは私を含めて7人しか居ないんだけど」

 

「……な、なら。よろしくお願いします!」

 

「いっぱいご迷惑おかけすると思いますが、よろしくお願いします!」

 

 こうして、リオはマイとユイの二人の勧誘に成功した。二人のやり取りを見ていると、本当に昔の自分と姉のやり取りを思い出す。そしてそれを見ていると、とても微笑ましく思うのだ。

 

 合流後、二人は快く迎え入れられた。特にメイプルは大歓迎といった感じで、早速二人と仲良くしていた。二人の加入後、折角なのでということでクロムから全員に対しての話があった。

 

 それは、マイとユイが加入してくれたので、ひとまず第四回イベントまでに戦力強化を図ろうというものだ。レベリングやスキル集めについてはメイプルが立候補した。というのも、【VIT】極振りと【STR】極振りでの動き方を確認したかったというのもあったようだが、とにかくこの2つの極振りは相性がいい。最大火力の矛と、無敵の盾。まさにそれが運用できれば心強いものであった。

 

 しかし、問題はプレイヤースキル面である。マイとユイの武器は大槌。【楓の木】には両手武器を扱うプレイヤーが居ないのだ。そして、完全に火力に寄ったプレイヤーも居ない。サリーは【AGI】寄りのバランス、リオは【DEX】と【INT】複合の遠距離、カスミは【STR】と【AGI】の複合ではあるが武器が刀である。両手武器に対する心得がないメンバーが大半であり、そのあたりのことについてどうするか。そう悩んでいるとねリオはあることを考えた。

 

 一応、イベント前だしダメ元にはなるが知り合いに頼んでみよう。そう思って、メンバーに提案した。

 

 そして後日ではあるが、『第四回イベントの1週間前までなら』という条件のもとあるプレイヤーが二人の指導をしてくれることとなった。

 

 メンバーが集まり、まずは一週間後の第3回イベント。それに向けての準備が始まった。

 

 

◆  ◆  ◆

 

 

 それから数日後。実はこの間にメイプルのマイとユイのパワーレベリングの過程で色々とギルドメンバーが頭を抱え、『ああ、これはメイプル化か……』と思った出来事が起き、とんでもないスキルを二人は獲得していた。【破壊王】と【侵略者】と呼ばれる、火力に特化したスキルであり、この2つが備わったことで二人は常時『【STR】が二倍になり、両手武器を片手で持てる』という状態となった。ただですら火力が高いステータスに、攻撃力の高い両手武器を一人あたり2本。しかも、現在の武器はイズ謹製の特大ハンマー2本である。二人合わせてそれが4本。その火力は凄まじいの一言に尽きた。

 

 その光景を見たサリーとリオは

 

 『特大二刀流』

 『普通にジャンプ攻撃のアレできそうだから怖い』

 

 と言ったという。

 

 そんな尋常ならざる火力となった二人は、現在プレイヤースキル向上のためにあるプレイヤーから指導を受けていた。

 

 

「――お姉ちゃん!」

 

「うん!いきますッ!」

 

 

 

 古い古城を思わせるフィールド。そこには三人の影が存在する。

 

 黒の髪の少女、マイ。白の髪の少女、ユイ。

 

 そして、その二人から攻撃を受けている人物がいる。

 

 

「……ほう、いいねぇ。息があってきた、いいことだ。だがッ!」

 

 

 

 プレート装備に背中には両刃大斧の大男。不敵な笑みを見せたそのプレイヤー、ドラグは踏み込んできた二人を一瞬だけ確認する。

 

 そして、動いた。

 

 マイは頭上から、そしてユイは背面から攻撃を行った。しかも、そのタイミングはほぼ同時。メイプルとのレベリングで獲得した【破壊王】と【侵略者】による基本的な火力増強、その火力を乗せてイズに作ってもらったクリスタルハンマーに付与されているスキル【体積増加】を発動し、攻撃を叩き込んだ。

 

 普通ならば、同時に二箇所への対応を要求され、しかも二人は【STR】極振り。まだレベルが低いと言っても、スキルの効果で数値上はかなりのものとなっている。その一撃を貰えば並大抵のプレイヤーではひとたまりもない。

 

 

 だが。

 

「え、きゃあっ!」

 

「わ、わわわっ!」

 

 

 ドラグはそれに対応してみせた。しかも、"武器を抜いていない状態で"。

 

 まずドラグは地上から攻撃してきている、ユイの攻撃。クリスタルハンマーを素手で受け止めた。正確には、槌の部分を回避して手持ちの部分を力任せに押し返した。そのまま押し返すようにしただけで、ユイが弾き飛ばされ、地面に尻餅をついた。そしてマイもまた、空中で振り下ろしたハンマーを残った片手で止められ、そのまま空中で揺さぶれられ。『わー!わー!揺れるー!』と暫く叫んだ後、まるで猫などでも降ろすように地面へと降ろされた。

 

「うぅ……今のはいけるかなと思ったのに……」

 

「相手はトップランカーのドラグさんだよ……そう簡単に行くわけないよお姉ちゃん……。でも、いい感じだったと思ったんだけど……」

 

「ははっ、そんながっかりすることないぜ? 最初に比べると格段によくなってる。あー、まあ。あれだ。確かに掛け声は大切だ。味方や自分の相方を鼓舞することに繋がるし、俺もたまにやる。けどな、それは同時に相手に対して情報を与えるんだよ。すぐにとは言わねぇが、将来的には目の合図だけで今の連携を出来るようになるといい感じだな。まあ、二人の息の合い方はすげぇいいからすぐできるようになるだろ」

 

「は、はい!」

 

「がんばります!」

 

 何故ドラグが二人を指導しているかといえば、数日前に遡る。それは、リオが二人の指導役としてドラグに頼めないか、とペインに相談していたからだ。

 

 リオは紆余曲折あったが、大型ギルドとのコネクションを持っている。現在トップギルドと名高い【炎帝ノ国】に【集う聖剣】。ランカーギルドとして最近勢いを見せる【ラピッドファイア】。そして現在はイベントなどでの敵対状態ではなく、平時だ。【集う聖剣】は加入条件に一定レベルと装備を条件としており、【炎帝ノ国】もまた条件付きである。だが、だからといって新規プレイヤーに対して何も考えていないわけではない。それぞれのギルドでは最近のNWO新規層が増えて、良くも悪くも魔境化していることに思うことがあって、大規模ギルドとして何かしらの取り組みを考えていたほどだ。

 

 そんな中、突然リオからの連絡が来てペインは驚いた。リオやサリーと仲のいいフレデリカが『なんで私じゃなくてペインなのー!』と変な所で怒っていたりしたが、『ギルド関連だからペインさんのほうがいいかなって……』と返される一面もあった。そんなこともあったが、突然頼みたいことがあると言われてギルドホームに来て貰えば、その内容は『ドラグさんにお願いしたいことがある』だった。というのも、ランカーレベルでの大型武器の使い手がドラグしか居ないのだ。しかも、彼に近いバトルスタイルのプレイヤーもランカーに居ないという状況だった。

 

 ドラグもまたリオのことをペインとフレデリカから聞いて知ってはいた。実際にリオが顔を合わせてみると、熱血な兄貴肌という印象であり、すぐに打ち解けることが出来た。そこでリオが頼み事をしてみれば、ドラグは第四回イベント一週間前までという条件、そして『まあ、後は今度高レベル帯の地域の探索に協力してくれりゃそれでいいか。いいよなペイン?』という話が出て、ペインがそれを了承。リオも断る理由がなかったため、それを了承した。

 

 そして、ドラグが協力して貰えることになってドラグの教えを聞き逃すことなく忠実に二人は聞いていた。リオから紹介された時は最初、とても怖くて二人抱き合って泣きそうになっていた。流石のドラグもその時はそれを見て『……俺、そんな怖いか?』と、困り、同時に少しショックだったという。

 

 しかし、実際に話し、教えてもらっているといかにドラグというプレイヤーが親切で心優しいプレイヤーであるのかを二人は理解してきた。戦い方こそ豪快そのものだが、自分達の動きをちゃんと見てくれており、それを基にしっかりと向き合ってアドバイスしたり、持ち味を活かすにはどうしたらいいのか考えてくれる。マイとユイがこの指導役を信頼するのに、そう時間はかからなかった。

 

「おっしちょっと休憩しながら座学だ。いいか?お前達二人の最大の武器は、その息の合い方だ。連携ってのは狩りでも対人でも両方において重要だ。それが自然体で極めて高い練度で出来ているのは非常に強い武器だし、実際俺もイベントであたったらこえーな。考えてみな、相手がもし一人ならばお前ら二人の攻撃力をほぼ同時に受けることになるんだぜ? 並大抵のタンクであればそれは耐えられないし、その突破力はありとあらゆる状況下で強力な武器になる」

 

 

 そして、と続けていく。

 

 

「まあ、お前達はまだ未熟だ。けどな、未熟ならその最大の武器を使ってそれを補えばいい。一人でできないなら、もうひとりが力を貸す。相手が強敵ならば、さっきみてえに息を合わせて、相手の対応先を増やし、混乱させ叩き潰す。極端な話だがよ、【STR】極振りってのは、体力とかにステータスを回してる両手武器ビルドとかと違って一撃当たればお終いだ。だからお前達なら最大の力を、最高の速度で、最善のタイミングで叩き込むことが理想だな」

 

 

 ドラグはは更に知識を教えていく。そして、この二人はきっといい人材に育つだろうと感じた。いつかは自分の敵になるかもしれない。だから何なんだ、と彼は思う。

 

 自分が教えて、後続がそれを活かしてもっと強くなってくれれば嬉しい。そして、そんな後続が自分に向かってくると考えればきっとそれは面白い。これでは自分もペインのことを言えないな。そう思ってドラグは苦笑した。

 





 ということで、マイユイ加入とイベント直前くらいまでお送りました。本作では他ギルドメンバーも強化されています。単純に作者の中では対人戦やMMOでのトッププレイヤーというのは、才能がぶっ飛んでいるか知識と実力と経験でそこまで上り詰めたかのどちらかだと思っています。そう考えると、NWOトップランカー陣は才能やセンスの面でもかなりしっかりしていてもおかしくないと思った結果がランカー陣の強化。

 マイユイはスキルがぶっ飛んでいても経験、才能、知識が全くない状況なのでまあメイプルレベルの規格外でもない限りランカーとは対峙してもきついだろうなという結論。実際、ドレッド相手にいい線は行っても敗北しているというシーンもありました。

 まあ、経験と実力が反映されている本作トップランカー陣に教育を受けてトンデモにはなるんですが。


 続けて作者の近況。いややっぱり時間がほしい。前にお盆くらいに時間とれてやったーと思ってたらまた多忙な日々。もう年末ってうせやろ?

 まあそれでもやりたい構成とかは色々あるので、ちまちまと書いて行けたらなぁと……。これからも不定期更新ですが、どうぞよろしくお願いします。

 感想・評価などもらえると作者がとても喜びます。それでは、また次回お会いしましょう。


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射手の少女と戦力強化/掲示板の民達、公認になる


 ――さあ、世界の深淵を目指しに行こう。






 

 第3回イベントを目前にしたある日。サリーとリオは既に『とても嫌な予感がする』と口を揃えていっており、クロムとカスミも内心とても嫌な予感がしていた。尚、まだメイプルのトンデモ具合がよくわかっていないカナデとマイとユイは楽しそうにしている。

 

 イズに頼んでいた装備のお披露目をしたい、というメイプルからの話を受けて連れてこられたのは第二層の平原エリア。周囲にプレイヤーが居ないことを確認すると、メイプルは装備を変更する。

 

 白い鎧に短刀、大盾とティアラ。それは全てイズが一切の妥協なく作り上げたものであり、装備の補正値自体も最高峰のものだった。性能値は体力に特化しており、その合計値だけで1100というとてつもない数値となっていた。

 

 その装備を身にまとうメイプルはまさに騎士、という印象が強い。

 

 性能もさることながら、それを纏うメイプルにはとても似合っていた。

 

 どちらかといえばイメージは騎士ではなく天使だろうか、などと見ている全員は考えた。

 

「それで、メイプル。装備のお披露目だけならギルドホームでも出来たと思うけど、どうしてこんな人気のない平原エリアに全員集めたの?」

 

 遂にサリーが意を決して本題に入った。

 

 そう、装備のお披露目だけなら別にギルドホームでもいい。なのにメイプルは平原に全員を集めた。これは必ずなにかあるとしか言いようがなかった。

 

「ふっふっふ……。じゃあ行くよ!【身捧ぐ慈愛】!」

 

 メイプルがスキルを発動する。すると、彼女の体からダメージエフェクトが発生する。

 

 何事かと全員思うが、その直後の出来事でそんなことなど考えられなくなった。

 

 ダメージエフェクトが消えた瞬間、メイプルを中心として半径10メートルほどの範囲がうっすらと輝く。そして、メイプルの背中からは純白の2つの翼が生え、頭の上には天使を思わせる金色の輪が現れた。それだけではない。メイプルの髪は金色に変化し、目は青色へと変化した。

 

 ポカン、と。全員唖然とするが、リオはすぐに我に返る。そして――既にその心は現実を見ることを諦めていた。

 

「わぁメイプル、綺麗な羽だね!その真っ白な鎧も丁度マッチしててすごくいいと思うよ!」

 

「我が妹、そうやって現実から逃げるのやめない?ほら、現実を見なさい」

 

「……姉さん、流石にこれは私も現実逃避するよ。メイプルから目を離して色々やって戻ったらメイプルが天使になっていた。自分でも何言ってるかよくわからない」

 

 サリーが引きつった笑顔で現実を見ろというが、十分に見ているとリオは思う。理解する、ここに呼ばれた時にイズが覚悟をしておけと言った理由を。

 

 絶対にこれだけで終わるはずがない、体力ゲージを犠牲にまでするようなスキルが見た目を変えるだけのはずがない。そう思っていると、

 

「あ、丁度いい所にきたね!」

 

 現れたのは数体のモンスター。思わず攻撃をしようとするが、

 

「あー……いいわ、みんなちょっと見ててね」

 

「イズさん!?回避を ――えっ?」

 

 思わず慌ててリオが弓を抜こうとする。しかし、攻撃の手が止まった。

 そして、目の前の出来事がどういうことなのか理解できない。

 

 イズがモンスターの前に出て直撃を貰ったと思ったら、体力ゲージが減少していない。それどころか、まるでイズはダメージを受けていないかのようにそこで棒立ちしている。

 

「ダメージがない?え、どういうことですかイズさん!?ま、まさか不正行為に手を……」

 

「いやそんなこと私しないからね!? ……これが、メイプルちゃん新しいスキル【身捧ぐ慈愛】の能力よ」

 

 聞けば、このスキルが発動中は範囲内全員に対して【カバー】と同じ効果が発生するとのことだ。そしてメイプルの【VIT】は既に1000を超えている。これには全員言葉を失った。もし、その防御力を抜けるとすれば、超火力の防御無視スキルくらいしかいないのではないのかというくらいにはその堅牢さが伺えた。

 

 

 そしてここで、リオはある意味閃いてはならないことを閃いてしまう。

 

 

「メイプル、そのスキルってメイプルの防御力を抜けない限りダメージが入らないんだよね?」

 

「うん、でも防御無視とかの攻撃はそうも行かないと思う。でも危なそうなのはかなり高い防御貫通ダメージくらいだと思うから基本大丈夫」

 

 

「……思ったんだけど。これだけの範囲があるなら、私がその範囲内で動き回れるしメイプルは私の立ち位置をほぼ気にしなくて良くなるから【毒竜】とか撃てる頻度も上がるんじゃない?私も立ち位置を気にしなくてよくなるから、攻撃頻度上がるしこれ実質火力スキルじゃない?」

 

「言われてみれば確かに……。うん!私の防御力を抜けない限りみんなはやられない、範囲も広いから攻撃頻度も増える、仮に外に出ても【カバームーブ】ですぐリカバリーが出来る!」 

 

「うん、だから戦闘地域だけの運用ならこれとんでもなく強スキル…… って、皆どうしたの?」

 

 見れば、全員が更に頭を抱えている。サリーに至っては、『どうしてそれに気がついてしまった』と言わんばかりの顔になっている。

 

 

 

「――そうか。姉さん、あれだよ。昔やったロボゲーの、ほら。 スピリット・オブ・マザー、」

 

「それ以上いけない。というかなんでそれを思いついたのリオぉ……あえて言わなかったのに……! いや本当にあれみたいことできそうだから怖いわー……完全に安置から一方的にズドンされるってそれ地獄でしかない。まあ、私達も生存率上がるからいいんだけどねー……」

 

 メイプルを中心として安置となる陣地を形成できる上、生半可な攻撃を通さず、超遠距離範囲まで高威力の狙撃と砲撃が襲ってくるという地獄絵図である。

 しかも、日を重ねるごとに強化されていく鉄壁要塞など洒落にならない。

 

 その後、帰り際にクロムが打ち明けたことがあった。実はメイプルやサリーとリオについて、スレッドに書き込んだことがあると打ち明けた。

 

 しかし、実際には今のところ流れている情報は流れて問題ないものばかりだし、今回の【身捧ぐ慈愛】についても範囲型のカバーと考えれば、スキル自体は普通である。問題なのはメイプルの防御力であって、それが知られた所で今更だからだ。

 

 サリーについても、知られた所で回避力が落ちるわけではない。逆に、確定要素のない詮索や考察が流れることはサリーにとって好都合だった。第4回の対抗戦、それにおいて誤った情報を掴まされて信じ込むプレイヤーが増えれば、少人数の【楓の木】は有利になる。

 

 リオについても問題なかった。既にリオの実力はサリー共々大半のプレイヤーに知れ渡っており、推察から姉妹だということもバレているので今更隠すこともない。そして、少なくともランカークラスでなければこの姉妹と戦うことは不可能なのだ。

 

 ただ、サリーがクロムに対して釘を差したのは『今後切り札になりうるスキルが出てきた場合それを絶対に書き込まないこと』ということであった。その情報流出は明確な致命傷となりえて、もし知られれば対策をうたれかねないからだ。クロムも流石にそれは承知していたようで、その類のものは絶対に流さないし、そのつもりもないと回答。とももかくとして、【楓の木】は新たな戦力となるスキルを確保したのだった。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 

368:名無しの大盾使い ID:Y66bOkH3b

おまえら久しぶり

色々と報告がある

 

369:見守る名無しのプレイヤー ID:95aNU/Hm/

お、クロムじゃん

最近スレにも現れなかったからなんかあったのかと思ってたぞ

 

370:見守る名無しのプレイヤー ID:fRNLwTNwd

生きとったんかワレェ!

時々忙しそうにフィールド走ってく姿は見てたけどやっと落ち着いた感じなんか?

 

371:見守る名無しのプレイヤー ID:GWl+e+4in

ランカー詳しいニキもギルドに引っこ抜かれたらしくて最近顔出せないとか言ってたしスレがちょっと寂しくなってたところだ

まあ今の時期大抵のプレイヤーは忙しいんだろうが

 

372:見守る名無しのプレイヤー ID:nK4ajad2k

ギルド関係で盛り上がってるもんなー

俺はしがない生産職だからのんびりやってるが

 

373:見守る名無しのプレイヤー ID:t8cy4uHIs

クロムが顔だしてくれたことも嬉しいが、つまりきたってことはあるんだろうな?

そう!メイプルちゃん達の情報だ!

 

374:名無しの大盾使い ID:Y66bOkH3b

まあそれも含めて色々伝えることがあるんだが・・・

とりあえず落ち着いて聞いて欲しい いくぞ

 

メイプルちゃん達のギルドに入った

 

 

375:見守る名無しのプレイヤー ID:j9hYSoCqF

は?

 

376:見守る名無しのプレイヤー ID:OmU+rLV0/

え?

 

377:見守る名無しのプレイヤー ID:C2dr/hK9n

?????

 

378:見守る名無しのプレイヤー ID:4PaIHPYlb

ファッ!?

 

379:見守る名無しのプレイヤー ID:c8r4WXUZs

せつめいしてください

わたしたちはいま れいせいさを かこうとしています

説明しろクロムゥ!

 

380:名無しの大盾使い ID:Y66bOkH3b

いや、単純に知り合いの手伝いしてたら二人一緒に入らないかって誘われた・・・

後、流石にギルド入って勝手に内部情報垂れ流しは不味いから掲示板についてのこともサリーとリオには話した

 

まあ、そしたら別に話していいことは今後話してもいいってさ

 

381:見守る名無しのプレイヤー ID:9V2NMMEvP

一応公認になってて真顔になったぞ

え?てことはあの姉妹とかメイプルちゃんスレ見てるの?

 

382:名無しの大盾使い ID:Y66bOkH3b

いや、メイプルはそういうの見ないってさ

あの二人はスレは見ないけどまとめ情報とかは見てる程度って言ってた

曰く、スキルとか対人イベントとかに関わるようなことは不味いけど日常的な話なら別にネトゲでは話題にされるのよくあることだしいいよ、だってさ。

 

383:見守る名無しのプレイヤー ID:Aczlfb4id

速報 俺ら公認になる

 

384:見守る名無しのプレイヤー ID:s5gSkp+0T

ええんか?もし本人ら嫌がってんのなら普通にスレも閉鎖するぞ

俺らは見守りたいだけであの子らに迷惑かけるのは論外なんや

 

385:名無しの大盾使い ID:Y66bOkH3b

さっきも言ったがそこらへんも含めて別に自分達に実害無いなら別にってあの姉妹は言ってたな

むしろおまえらのことも悪い奴らじゃないって話といたら

 

「影から応援してくれる人もいるんだね、これからも頑張る・・・って言い方は変だけどNWO楽しむね」

 

「まあ、そういう人らにはありがとうだよね でも対人であたったら容赦しないからよろしく」

 

って言ってたな

 

 

386:見守る名無しのプレイヤー ID:icpvh2Bvf

天使じゃん でも敵対したら殺戮の天使

 

387:見守る名無しのプレイヤー ID:QBaGpGai+

しゅき・・・影から一生推す・・・

 

388:見守る名無しのプレイヤー ID:yAFaIXaCL

俺はサリーちゃん推しだ!対抗戦で余裕を見せる不敵な表情から真っ二つにされたい

 

389:見守る名無しのプレイヤー ID:cP23FDYiV

なら俺はリオちゃんだね!対抗戦で敵対してゴミでも見るような目で倒されたい

 

390:見守る名無しのプレイヤー ID:gWiaYC0tu

俺は王道を征く・・・メイプルちゃん、ですかね・・・

 

391:見守る名無しのプレイヤー ID:Vzb0ec1bg

こいつらだめだなんとかしないと・・・

まあ、見守ってるだけだし公認してくれてるならこっちも直接的に関わらない範疇で色々助けるってスタンスでいいかもな

 

392:見守る名無しのプレイヤー ID:D60w1nzrq

んだな

もしあの子ら困ってることあったら言えることなら言ってくれ、力になれることもあるかもしれん

 

393:見守る名無しのプレイヤー ID:MNbz+AYqr

このスレ世界観考察と探索専門ニキも居たよな

 

394:見守る名無しのプレイヤー ID:be7KhbaRs

おるでおるで

コテハン要る?

 

つっても俺知ってるのマジで探索系のこととNWOの階層の世界観考察とかそんなもんよ

 

395:見守る名無しのプレイヤー ID:gMoikId7z

あんたのマジで詳しいから一応頼むわ

 

396:名無しの探索者 ID:be7KhbaRs

これでええかな?

 

まあ戦闘関係はからっきしでなんもできないけど、探索系とフィールド埋めとか階層考察だけはやってるから何かあったらレスしてくれ

 

397:見守る名無しのプレイヤー ID:tZY06Fh7P

じゃあ折角だしなんか珍しい知識をひとつ

 

398:見守る名無しのプレイヤー ID:Sk1M8C4QK

無茶振りすぎて草ァ!

 

399:名無しの探索者 ID:be7KhbaRs

んー、そうだな

あくまで考察だけどいい?その考察までの過程クソ長いから省略するけど

 

400:見守る名無しのプレイヤー ID:PFZNP5BiR

マジでしてくれるのか 聞きたい

 

401:見守る名無しのプレイヤー ID:E5l0rZwNj

このニキの考察ガチだからなぁ・・・

 

402:名無しの探索者 ID:be7KhbaRs

んじゃあここで話をひとつ

 

お前らNWOって現状二層までだけど、そもそも全体的な世界構造がどうなってるか考えたことはあるか?

 

第一層から第二層には階層ボスを倒して、『階段』を上がって上に行くんだよ

つまり、階層っていう世界の上に別の世界があるってことになる。全く異なる別の世界がな

 

その大きさや規模なんてのは運営のみぞ知ることだが、こうは考えられないか?

 

階段を上がって上に行くってことは階層が積み重なってるってことだ。じゃあ、その積み重なってる階層の根本や一番下はどうなってんだろうな

 

第一層のフィールドには、色んな場所に巨大な亀裂とかがある。俺はフィールド回ったりしてある仮設を立てた。第一層も、もしかしたら何かの階層、もしくは何かの上に成立しているんじゃないかなと

 

そうだと仮定して、その下に何かがあるのなら、そう考えて俺はその下の世界をこう呼称することにしている

 

『第零層』 ってな

 

ま、あくまでただの考察だよ

 

403:見守る名無しのプレイヤー ID:I5lTHmFkA

夢物語みたいなあれだけど、確かに言われてみると・・・

 

404:見守る名無しのプレイヤー ID:PirAsdcx4

でも運営は何も言ってないし、探索ニキの言うように考察や妄想止まりってのはあるな

 

405:見守る名無しのプレイヤー ID:mnr0ABxtL

でもその仮設から考えると、確かに一層の地下なんて殆ど調べてるやつ居ないだろうしないとは言えんな

夢が広がる

 

406:見守る名無しのプレイヤー ID:ca+wPo/s6

まあ、とりあえず頭の中にでも入れとく噂話程度だな

 

407:名無しの探索者 ID:be7KhbaRs

あくまで俺の考察とか妄想だし、そう考えてくれ

 

408:見守る名無しのプレイヤー ID:lYST39vOK

とりあえず今後は影から見守りつつ極力直接関わらない範囲で力になるって方面で行こう

 

 





 お久しぶりです、生きています。あいも変わらず多忙な罅割送っていますが、執筆は少しづつ続けていました。

 『第零層』は完全にオリジナルの要素になります。一応物語のサイドストーリーとなる、一種のエンドコンテンツエリアと認識いただければと思います。

 ひとまず、生存報告までに。


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射手の少女とイベント準備





 

「おかしい……ね、ねぇフレス?まさかメイプルの影響受けたとか、ないよね……?」

 

 キュイ?と、不思議そうに目の前。ケイロンの背中にある馬鞍にとまったフレスがかわいらしい鳴き声とともに首を傾げる。対して、飼い主であるリオは困惑気味であり、ケイロンもどこか達観したように遠くを見ている。

 

「どうしてこうなった……私の育て方が悪かった……?いや、別にこれは悪いことではないけど、なんで……?」

 

「リオ、現実を見よう。……もうこれ、いい方向に捉えるしか無いよ。いや、いい方向のことなんだけど」

 

 第三回イベントが目前に迫った今、ギルド【楓の木】メンバーはそれぞれレベリングや素材集めなどに奔走している。最近はマイとユイはメイプルとのパワーレベリングが終わった後は、その足でプレイヤースキルについての指導を受けているドラグのもとへ。

 

 彼自身も子供に懐かれるのは嫌ではないらしく、その兄貴肌の人柄もあってか真剣に指導してくれている。その御蔭もあってマイとユイの成長は凄まじい。

 

 ギルドメンバーで言えば、イズは素材集めと制作。カスミとクロムはそれぞれ適正エリアでのレベリング、カナデはイズを手伝いつつ、自分のスキルが特殊であるゆえにスキルの貯め置きをしていた。

 

 そしてサリーはといえば、妹のリオとレベリングである。そして現在、姉妹揃ってここ最近何度目になるのか困惑しつつも苦笑いをしているところである。

 

 その原因はフレス。リオのテイムした鷲にあった。

 

 フレスはメイプルのシロップ、サリーの朧と比べてレベルがかなり上がりにくい。現時点でも結構なレベル差が2匹とは開いており、だが卵から孵った時にサリーも考察したようにかなりステータスの上がり幅が大きかった。今後のイベントにおいても貴重な戦力となるため、フィールドに出る時は基本的にリオはフレスを出して共に戦うという形をとっていた。

 

 そうして、レベルを上げること暫く。今日もこうして姉とフィールドに出て、フレスと朧のレベリングも兼ねて活動していたときた。ふと、フレスのレベルが上った。

 

 だがその時にあまり聞き慣れない音をリオは聞いた。表示されるのはウィンドウであり、なにかアイテムを獲得したのかと思った。

 

 それを見て、例えるならそう。宇宙猫のような顔になった。

 

――――――――――――――

 

【嵐征鳥の眼】

このテイムモンスターが対応している【絆の架け橋】の持ち主を中心として、周囲一定範囲内を効果範囲とする。

このスキルを保有しているテイムモンスターが敵対モンスター・プレイヤーを捕捉した場合、テイムモンスターの持ち主のマップに対象の座標を一定時間表示し続ける。

捕捉時間は1分間持続し、効果時間中に再度テイムモンスターに捕捉された場合時間が更新される。

 

【ストームスラッシュ】

翼と爪に狂嵐を纏い、最大2回連続で対象を攻撃する。

このスキルは風属性の高威力斬撃扱いとなり、翼・爪それぞれからの攻撃によってモーションが変化する。

 

・翼

狂嵐の力を翼に纏い、対象へと高速で飛翔する横薙ぎ払いの風属性斬撃攻撃を行う。この攻撃は、攻撃した相手の魔法防御力を一定時間下げる。

 

・爪

狂嵐の力を爪に纏い、対象を風属性斬撃で切り裂く。この攻撃は、相手の防御力を一定割合無視し、攻撃した相手の物理防御力を一定時間下げる。

 

【サークリング】

一日に3度まで使用可能。このスキルはテイムモンスター所有者の指示以外では使用しない。

このテイムモンスターが対応している【絆の架け橋】を所有するプレイヤーの上空一定範囲を一定時間旋回飛行し、捕捉した範囲内の敵対モンスター・プレイヤーの防御力を下げる。

更に捕捉した全ての対象に対して、【狂嵐の災厄】デバフを付与する。

 

【狂嵐の災厄】 効果時間︰10分

【サークリング】によって付与される。付与されている限り、距離に関係なく位置情報が付与したテイムモンスターの保有者に表示される。

このデバフを持った状態で攻撃を受けると、周囲一定範囲を暴風が薙ぎ払う完全防御無視の風属性特大ダメージの追撃を受ける。この追撃の起動は、他のパーティーメンバーによる攻撃でも可能。

追撃が発生した場合、【狂嵐の災厄】デバフは消失する。

 

――――――――――――――

 

 

 とにかくフレスが獲得していたスキルを見て唖然とした。試しにレベリングの狩場に居るモンスターに対して姉と組んでこれらのスキルを使用してみたが、とにかく強い。しかも、フレスが元々頭のいいこともあってかなりえげつない使い方までしていた。

 

 まず【嵐征鳥の眼】。モンスターを見つけてフレスを上空を飛翔させて発動してみたが、マップ上に敵が赤い丸のマーカーで写っている。モンスターが移動したりしても、同時にマップ上に表記される赤丸も移動しており、レーダーとしての機能が期待できた。

 

 【ストームスラッシュ】は、とにかく強力な攻撃スキル。翼と爪で攻撃が異なっていたが、翼の攻撃は以前リオとサリーが見た怪鳥の最終フェーズの攻撃に似ていた。横薙ぎの斬撃を相手に飛ばすというもので、速度も早い。しかもフレスは意図的に致命部位を狙っているのか、相手の頭などの部位を狙ってそれを撃っていた。爪についても同様で、空中からダイブするようにしてモンスターに降下し、凄まじい速度からの風属性斬撃を放っていた。こちらもフレスは飼い主であるリオを見習ったのか、基本的に致命となりうる部位を積極的に狙っていた。

 

 えげつないのが、この【ストームスラッシュ】のフレスの使い方である。小型や中型程度の対象であれば、フレスは爪で簡単に持ち上げることが出来る。フレスは意図的に逃げられないように首を足の爪で掴んだり、爪を食い込ませたりして空中に引き上げ、その状態で【ストームスラッシュ】を発動することもあるのだ。相手は空中に拘束されている状態で逃げられない。そのまま成すすべなく攻撃の直撃を受け、その後に地面へと叩きつけられるという始末である。

 

「飼い主に似るとはまさにこのことだよね」

 

「飼い主としてはとても複雑だよ姉さん」

 

 シロップにしても、朧にしてもどこかしら飼い主を習っている部分がある。それを考えればわからなくもないのだが、なんとも言えない気持ちである。

 

 尚、【サークリング】についても姉と二人で試してみたがかなり強力だった。範囲は【嵐征鳥の眼】の捜索範囲よりだいぶ狭いが、それでも局地戦なら対象全てを捉えられる範囲である。

 

 その補足した対象を攻撃すると爆発する。その周囲をかまいたちのようなもので一定範囲切り裂き、薙ぎ払うのだ。使用回数限定とだけあってかなり強かった。

 

 とにかくスキルだけを見れば喜ばしいことだ。索敵系のスキルはかなり強力であるし、これだけ強力なスキルが有ればイベントでも打てる手段が増えるだろう。そう考えることにして、休憩がてら双撃に姉とともに腰を下ろす。

 

 ふと見れば、フレスと朧が遊んでいる。それを見守るようにしてケイロンも草原に寝そべっている。最初はちゃんと仲良くやってくれるかどうか不安だったが、その心配はもうないようで安心した。むしろ、フレスとケイロンはとても仲良しである。

 

「ちょっと休憩っと。でも、だいぶNWOも盛り上がってきたよね、昨日第一層行ったらびっくりしたよ。とにかく人だらけで街の中歩くのも一苦労、色んなギルドが新規ユーザーの勧誘とかもしてたね」

 

「第一層もそんな感じなんだ。私も最近だと……ミィとかペインさん、それからリリィさんの所で色々話聞くけど、大規模ギルドも大変みたい。なんでもひっきりなしに加入希望者が来るらしくて、それを処理するのに悲鳴あげてるとかなんとか。大規模はどこも加入条件つけてるらしいんだけど、それでも中々処理しづらいほどの数が申請されるんだってさ」

 

「まあ、人事関係で対応できる人なんて少ないからねー……そういう人居ないギルドもありそうだし。【ラピッドファイア】はウィルバートさん、【集う聖剣】はペインさん、【炎帝ノ国】は……あれ、あそこって人事できそうな人居るんだっけ?」

 

「一応居るらしいよ。ええっと……ミザリーさん、だったかな?それから、名前は知らないんだけど『炎剣のふたり』って呼ばれてる人達が実力については見てるらしい。 ……私、この二人とはできるだけ会いたくないなぁ」

 

「それまたなんで?リオが嫌いな部類の人とか? ……でも、ミィが変な人材ギルドに入れるとは思えないけど」

 

「あー……違うよ姉さん。顔を合わせたことはあるし、礼儀正しい人達、だとは思うんだけど……。なんか、ミィが虚ろな目するくらいにはメイプル化してるらしい」

 

「……は?」

 

 サリーは思わず耳を疑った。最近では、メイプルのように突然変異のようにとんでもないプレイヤーが発生することを一部では『メイプル化』と呼んでいるのだが、それは自分達の身の回りだけのことだと思っていた。それがどうだろうか、今妹の口からは他ギルドで似たようなことが起こっているという話が出たのだ。

 

 この『炎剣のふたり』だが、とにかくミィが演技のガワの上からでも目を虚ろにするほどの状況であり、現状【炎帝ノ国】では接近戦においては最強レベルという有様なのだ。

 

「詳しくはギルド対抗戦控えてるからミィからは何も話さなかったけど、『理解が追いつかない』『もうどうにでもなれ』って感じらしい。一応わかってるのは、フルプレートのユニーク装備持ちで、武器がわかってるだけでそれぞれが赤黒い大剣と黒と金色の……なんていうのかなあれ。十字槍? それからユニーク取得前らしいけど、前に一度私に倒されてから致命対策ガチガチにしてる前衛職」

 

「絶対相手にしたくない。しかもその武器のチョイスとてつもなく嫌な予感がする ……黒と金色の十字槍?昔のゲーム動画で見たような。オーンスタ――いやまさかね。赤黒い大剣だって……いやいやまさか、それこそありえない。もしそうだったら最悪ってレベルじゃない……。」

 

「ね、姉さんどうかしたの? ……後、聞く所によると私が倒してから致命対策だけじゃなくて警戒スキルやプレイヤースキルも磨いてるらしくてもし接敵したら相性最悪」

 

「というかそれ、大半の人が相手にしたくないやつでしょ。機動力がないだけまだマシだけど ――もし予想あたってたら最悪だけど」

 

「しかも情報が殆どない。ただ硬いだけでミィがあんな虚ろな目するとは思えないし」

 

「第四回イベントでは要注意かもねー……」

 

 ため息をつく。だが、まずは目前のことからだ。

 

 第三回イベント。既に二日後に迫ったそれは、アイテム収集系イベント。ギルドとしての初めての共同イベントであり、景品もステータスアップに関わるというものだ。【楓の木】としては、是非手に入れておきたいアイテムでもある。

 

 だから現在戦力の増強を行っているのだ。イズのアイテム関連の供給、マイとユイの目まぐるしい成長速度、サリーとリオとしては目を背けたくなることもあるがメイプルの新スキル獲得。イベントに向けての準備は整いつつあった。

 

「イベント、成功させようね」

 

「うん。まずはここから、そして次の対抗戦も……みんなで結果を出せたらいいなって思ってる」

 

「おっ、流石我が妹。気合はいってて姉としては嬉しい限り」

 

「姉さんと私でメイプルの手綱握ってないと大変なことになるんだから、勿論道連れだよ」

 

「まあ、それは頑張ろうか、お互いに……」

 

 あはは、と笑う。サリーが思うのは、こうしてメイプル。そして妹とゲームが出来て、新しい仲間が増えて。楽しくゲームが出来ているのはとても嬉しいということだ。

 

 しかし、そんな中で思うこともある。

 最近はそんな顔を見せなくなったが、どうして妹は時折『辛そうな顔』をしていたのかということだ。

 

 間違いなく言えるのは、自分が知らない何かが。傷が妹にはあるということだ。

 それが恐らくゲームを避けていた理由で、最近は見せなくなったが辛そうにしていた理由なのだろう。

 

 NWOをプレイし始めたことによって、その傷が消えてくれればいい。今のようにずっと笑ってくれればいい。それがサリーの求めるものだ。

 だが、しかし。ずっと信じて、共に居る自分ですら知らない何かというのは何なのか。そんなことも気になりつつ、それを気にするのは余計なことだとサリーはそれを押し殺し、妹へと笑顔を見せた。

 

 第三回イベント。それが始まろうとしていた。

 

 

 





 なんとか生きています(生存報告)
 なお、10年ぶりに傭兵稼業へと行くため次回はまた不定期の予定。
 アーマードコアの新作とか“幻想”じゃねえよな!?

 炎帝ノ国のやべーやつらはわかるひとにはわかるやつかもしれない。神肌のあいつらとか四騎士のあいつとかの複合体コンビです。正直サリーとリオは相性が絶望的。







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