工作家提督in難易度ナイトメア (K*485)
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ちょっと長いプロローグ
とある民間エンジニアの日記


倉太 海晴(一般エンジニア)の日記

 

 

2013/C/07

 

前線の拡大に伴って前線よりの工場に転勤となったので、万が一に備え、遺書代わりに日記をつけてみようと思う。

本州、しかもそこそこ有力な工場のはずなのにとにかく人が少なかったが、ささやかながら歓迎会を開いてくれた。

よそ者の私にも温かい態度で接してくれる良い人たちだ。共に働けることをうれしく思う。

 

C/11

 

何故転勤になったのかの理由がはっきりしてきた。近々第三次反攻作戦が発令されるようで、そのために人員がかなり抜かれたのだ。

しかし、第一次・第二次の時と違って国民にその全容が知らされてないのはどういうことだろうか。

一抹の不安と不信感を持ちつつ、今日はもう寝ることにした。

 

C/23

 

民間向けの部品ではなく軍用部品しかラインに並ばなくなってだいぶ経つ。

今日、遂に第三次反攻作戦が発令された。

化学プラントでは爆薬が、金属加工ラインでは鋼鉄のパイプ、開発室では艦娘用のミニサイズの砲がずらり。

私の働きが、そのまま国を守る力になると思うと少し誇らしかった。

 

X/09

 

何故だ。夜も眠れぬほどの嫌な予感、いや気配?とにかく悪寒が止まらない。

第三次反攻作戦は全戦全勝、破竹の勢いで進んでいるというのに。

眠れないので少し開発室のほうへ顔を出そうと思う。

 

 

X/10

「そんなに不安なら戦況の分析でもしてみればいいじゃないか。お前は戦略家の才能があるからな!こんな工場にはもったいないぜ!ガハハハハ」

と開発主任に言われたので、第一次反攻作戦、及び第二次反攻作戦の被害と敵の情報を引っ張り出してきた。

第一次反攻作戦。残存艦艇の半分と引き換えに日本勢力圏を東南アジア方面に拡大した作戦。

敵等級は駆逐イ級・駆逐ロ級・軽巡ホ級

 

X/〃

第二次反攻作戦。初の艦娘実戦投入。日本近海のシーレーンの安定化に成功、大戦果を挙げる。

敵等級は駆逐ハ級・軽巡へ級。わずかながら重巡リ級及び軽母ヌ級を認める

 

そして今回の第三次反攻作戦。

戦果報告は駆逐イ級・駆逐ロ級・軽巡ホ級・軽巡へ級に重巡リ級。

 

・・・ちょっと待て、敵空母はどこに行った?

 

X/11

 

大本営発表の目撃・轟沈報告には空母の“く”の字もなかった。アカン。しかも主力艦隊は出払っている。ツーアウト。

これはうかうかしていられないぞ・・・本土空爆が来る。

 

X/12

 

畜生、主任の言葉は冗談だった。誰だよ真に受けてまじめに戦略考えたやつ。私ですね。

しかも分析結果は「何勝手なこと言ってんだ!デマ流すくらいならまじめに仕事でもしてろ、青二才が!」とぶん殴られ、一蹴された。

工場内の空気感は最悪だし、戦勝ムードに水を差す国賊のレッテルを貼られてしまったようだ。

私は諦めない、勝手ながら防空を固めさせてもらう。

 

X/15

工場内でのいじめが悪化してきた。自分の食費を削って対空砲開発に充てているので肉体疲労と精神疲労が半端ではない。

たかが3日でへばるとは、私も老いたな・・・まだ19歳だけど。

 

X/16

もう私はだめかもしれない。小人のような幻覚が見えるようになってしまった。

幻覚が自分を慰め、兵器開発の手助けをしてくれている。だいぶ精神的に参っているな、間違いない。

 

X/17

まるで自分の手が自分じゃないようだ。手元がおぼつかなく、気が付いたら砲身に魔法陣を刻んでしまっていた、技術屋がこれじゃいよいよもう終わりだ。

 

X/18

空襲だ。これは遺書代わりに記す。

多分私は精神を病んでいて、今後まともな生活を送れないだろう。私はこの自作の対空砲で弾が尽きるか砲身が焼け付くまで戦って、ここに骨を埋めようと思う。

最後の最後に書くことがこれでいいのかとは思うが、「だから言っただろ?」という結局主任に言うことができなかった言葉を残しておこう。

さて、逝くとしようか。




次回!倉太海晴死す!デュエルスタンバイ!


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とある民間エンジニアに憑依転生した男の日記

X/20

私――いや、俺としてこれから日記を付けようと思う。

今日に限っては状況整理のため、手ごろな紙がなかったのでこの日記帳をメモ目的で使わせてもらう。

俺は転生者だ。転生特典として「気配察知」「作成の腕」「翻訳(小)」「身体能力強化(小)」の4つをもらっている。

転生前の個人情報は記憶から抹消されているのでもう思い出せない。強い衝撃を受けるか憑依先の人格の消滅を機に表に出る、そう条件を付けられていた。

全身に火傷及び軽度の打撲、そして目の前にはひしゃげた対空砲とクレーター、勤務していた工場は見るも無残に破壊されていた。

 

統合された記憶とこの目の前の惨状からして、倉太 海晴は空襲に最後まで抗い、爆弾を近距離で受けて散ったのだ。

名乗るべき名もないのでこの孤独な英雄の名を今後も名乗ろうと思う。

 

X/21

 

食糧庫が無事だったのが不幸中の幸い、当面この工場跡を拠点に生活する。

「作成の腕」のお陰で雨風を凌げる場所は作れたが、このスキルは無から全てを生み出す万能さは持っていないらしい。「思い通りのものを作れる」が「材料と道具が必要」みたいだ。

トタン屋根の残骸、曲がった鉄パイプ、針金とペンチ。それだけで簡易拠点と呼べるものを作れたんだからまあチート・・なのか?いや、使える道具に依存し過ぎているので過信は禁物。

 

X/22

あのたこ焼き野郎絶対叩き墜とす!

 

X/23

4連装対空砲、一門だけまだ生きてて本当によかったよ畜生。

昨日偵察機と思われる敵たこ焼きが飛来して、拠点に対して機銃掃射しかけてきやがった。

対空砲が完全にお釈迦になってたら拠点ごとミンチだったよバカヤロー

2機撃墜、2機取り逃したが片方は黒煙を噴いていたので空母に帰るまでに墜ちていると思う。

まあ、ここに生き残りがいることはバレてしまっているだろう。

 

X/24

雪が降り出した。まともな防寒具もないので、新たな材料を探しに移動を始めなければ。

居場所がばれているので次は爆撃機隊が来ないとも限らないしな。

そうそう、中身が変わったことに怯えたのか離れていた妖精さんがまた姿を見せるようになってくれた。

幻覚扱いじゃなくなったことがうれしかったのだろうか?軽く擽ってやるとキャッキャとはしゃいでいた。

金平糖か飴を用意していれば、と思ったが倉庫跡にあったのはドロップ缶が2つだけ、本当に大事な時に渡そうと思う。

 

X/25

廃車となっていたトラックを妖精さんの手を借りて魔改造し、自走対空砲兼拠点兼移動倉庫の良くわからないものに仕上がった。これは何と命名すべきだろうか?仮称として汎用対空半装軌車とでもしておくか。

テスト運転時にハイになってここから俺の覇道が始まるのだ!と高笑いしたが、明確な目標すら持たずに覇道を唱えてなんになるっていうんだ。

ふと思ったのだが、この世界は艦娘の力で延命されているとはいえ、ゆっくりと死に向かっているのだろう。本土空襲にラジオから聞こえる大本営発表の本土決戦作戦。多分、日本という国が脱落するのにそう長くはかからない。

俺のスキル「気配察知」も敗北の気配をうっすら感じている。

 

X/26

昨日の命題を考えていたら妖精さんにどやされた。俺は難しく考えすぎているのかもしれない。

取り敢えず生きるとかそんなんでもい[判別不能]

 

X/27

日記を書いてるときくらいのんびりさせてくれよクソたこ焼きども。昨日の分書けなかったじゃねぇか。

 

ああ、俺は生きる、生きてやるとも。それもただ生きるだけじゃねぇ、全力で抗って死んでやる。

さしあたって焼け付いた対空砲の砲身をどうにかしないと。

やはり小さい的に当てるためにファイアレートを限界ぎりぎりまで上げたのが原因だろうか?

 

X/30

俺の訃報がラジオから流れてくるのを自分で聞いた。かなり複雑な気分だが、俺は死んだことになったらしい。

移動した後の大雪でハーフトラックの轍が埋もれたせいで移動してなお生きていることを伝える証拠が現場に残っていないのだろう。

通信機は作れるが傍聴とそれによる空襲のリスクを考えると無理して生存報告をする必要はなさそうだ。

 

Z/12

遥か彼方に人と艦娘の気配を感じる。やはり北上したのは間違ってなかった。

横須賀が陥落、東京の守りがなくなったから案の定といえば案の定、東京大空襲があった。

最後の有力な鎮守府は大湊鎮守府、とりあえずここを目的地にしよう・・・ここがどこだかわかってからだが・・・

 

Z/17

海に辿り着いてしまった。どうすべ




日記形式はここまで。次からほんへ・・・ではない。あと2話ほどお付き合いください・・・


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テクニカル漁船

俺こと倉太 海晴は困窮していた。

目の前には津軽海峡、うしろにはあと30kmも走ればガス欠の汎用対空半装軌車。

 

丸一日悩んだがこれからどうするか決まっていない。艦隊決戦が行われる大湊に到達するにはガソリンが足りない。海を渡って北海道に行こうにも船なんてない・・・いいや、あったとしても戦闘艇に改造して俺は戦うだろう。

不味い、厨二病を発症しそうだ。止まれ俺の妄想!

 

ポヤポヤポヤー

 

もし船があったら、それを機雷敷設艇に改造して海上封鎖に使う。

それも、陸奥湾に深海棲艦を引き込んでから陸奥湾と津軽海峡の間を封鎖、あとはそのまま機雷敷設艇で特攻して攪乱、もしくは大湊の艦隊と挟み撃ちにしてしまえばよろしい。

 

ねぇどう思う妖精さん?

 

「ヤッタレニイサン‼」「イケル、イケル、コレナライケル‼」「コレデカツル!」

 

え?・・・うん。いつの間に君たち3体に増えたの?それと戦艦が人型になったような奴相手に対人攻撃が有効だとは思えないよ?機雷も深海に潜って逃げられないようにかなりの密度で高性能なやつを敷設しなきゃだよ?

自分で言いだしたのに欠陥だらけじゃねぇかこの作戦。

 

「ヨウセイサンニマカセナサーイ」「イクゾカイセイ、ダンヤクノチョゾウハジュウブンカ?」「ナニモシナイトナニモハジマラナイヨー」

 

ああ、そうかよ。そこまで言うならやってやろうじゃねぇか!

「海岸沿いに南東へ、適当な漁港で船を徴発・・・接収・・・借りて決戦に備えるぞ!」

 

「「「オー!!」」」

 

エンジン始動、ギアをパーキングから1速へ。アクセルを踏み込んでハンドルを目いっぱい回す。ゆっくりと車体が動き出して、かなり大回りで旋回する。海沿いの道へ重たい車体を引っ張り上げて2速3速へとギアをあげていくと、キャタピラがアスファルトを削る音を響かせてハーフトラックは進みだした。

「頼むから燃料が切れる前に早いとこ見つかってくれ、漁港・・・!」

 

 

 

 

燃料は尽きかけ、5キロ以内にガス欠ってところでどうにか港に辿り着いた。厳密には既に避難が完了していて人の気配がない港跡地みたいなところだが。

空襲に遭ったりして船が全滅してければっとと、あるじゃん漁船。一番大きい奴借りまーす。

 

道中で妖精さんに聞いたが、対深海棲艦専用の対空砲弾を作ることができるらしい。艦娘が操るわけではないので威力は控えめだが、至近距離なら深海棲艦をミンチにできるそうだ。

機雷もそれ専用のものが作れるそう。ただし、必要な火薬他資材の量は持ってきた分をほぼすべて食い尽くす計算だ。

つまるところ、失敗したら後がない、一回きりの作戦になるということだ。いいねぇ、こういう博打的な行動、嫌いじゃないぜ。

 

対空砲をばらして、船の上に持ち込んで組み立てなおす。そんでもって後方にレールと倉庫をくっつけて、と。完成!仮装機雷敷設艇!

後は弾薬と機雷を生産するしかやることがない・・・そうだな、残ってるすべての船から燃料かき集めるか。一応借りることを書いた張り紙をしておいたので、やってること泥棒と変わらないんじゃないかとか考えちゃダメ。

 

 

 

 

 

3日後。

改造と補給が終わった仮装機雷敷設艇はブルーシートをかけて隠し、家屋の中でできるだけ光と音を外部に漏らさないようにしながらひたすら交戦開始を待つ。

少し前にイ級が湾内に侵入したのを確認している、あとはひたすらぼろ屋の中から双眼鏡で沖を睨みつけるだけだ。ああレーダーにソナーに偵察衛星が欲しい・・・。

 

続々と湾内に侵入する深海棲艦、散発的ながら砲撃音もする。まだだ、まだその時じゃない。湾内に押し寄せる深海棲艦が途切れた時を狙うんだ!

そろそろ夜だ。闇に紛れて移動できる・・・ちょっと待て、俺そもそも船動かせたっけ?免許ないし前世でも操船やったことないし。

 

「マカセトケ!」

 

良かった妖精さんは船動かせるのね・・・いや、艦娘の装備動かせるんだからこのくらい軽々できちゃうのかなぁ。あれ?じゃあ俺がわざわざ対空砲動かす必要なくない?今まで死にかけながらたこ焼き撃ち落としてた俺の苦労は?

 

「エットネー」「ムダムダムダァ!」

 

もうお前らに装備任せていいよな?

 

「チョットマッテ、アノネアノネ…」

 

何々?現在の妖精さん3人。うち一人対空砲の弾作ってて、もう一人機雷作ってて、最後の一人は操船中だから対空砲動かす人と機雷投射する人が必要?

あーね、なるほど。つまり俺の仕事は終わってないと。ううむ、仕事があることを喜ぶべきか仕事したくないと泣くべきか。

 

「イマデステイトク!」「テキカンタイ、ワンナイヘ‼」「ホンカクテキニセントウガハジマッタミタイデス」

 

うだうだ言ってる場合じゃないか。腹はくくった、賽は投げられた!

 

「抜錨!」

 

「イカリヲアゲー」「モヤイヅナハズシマシタ!」「コイツハイイエンジンダァ」

 

ディーゼルエンジンがうなりをあげて、無人となった漁港からいかにも漁船を改造しただけ感が漂う戦闘艇が征く。

「~♪」ポイッポイッ

 

鼻歌でフランス国家を歌いながら、起爆時に誘爆しないギリギリの距離に機雷をばらまく。

自滅信管は10日、威力は500㎏級で弱いながら追尾性能を持つ高性能機械水雷だ。夜なべして設計・開発した甲斐がある・・・複雑な構造してるから2回同じことやるのは流石に勘弁だけどな!

 

ものの2時間で機雷敷設は完了、これで陸奥湾は機雷原で封鎖された。フハハハハハ、深海棲艦ども!完全に袋のネズミではないか!

 

「征くぞ主戦場へ!覚悟はいいなお前らぁ!!」

 

「アイサー」「イエッサ!」「ヒャッハー‼」

 

「転進、これより敵後方を叩く!イクゾォォォォオオオオオ!」デッデッデデデデッ (カーン) デデデデッ




次回!倉太死す!(二回目)デュエ(ry


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陸奥湾海戦

ときは少し巻き戻り、場所は大湊鎮守府。ここは第二次大戦中に大湊警備府として建てられ、海上自衛隊大湊基地となり、今や日本最後の鎮守府になった。

旧横須賀、呉、佐世保、舞鶴の大艦隊から北方警備隊などの弱小艦隊まで、全ての艦娘が集結している。わずかに生き残りのイージス艦の姿も紛れているが、その艦上に翻っているのはZ旗。

もう後がないのだ。大艦隊の整備・運用を行うことができる「鎮守府」はここを除いて存在しない。残っている基地はドック1つを備える警備府が北海道にわずかにあるだけ。

 

「不安にゃしぃ…」

「大丈夫、きっと大丈夫だよ睦月ちゃん・・!」

励ましあう吹雪と睦月。前世で沈んだ時の記憶が言いようのない敗北の気配を訴えているのか、艦隊全体の士気は低い。

 

そんな中、長門が前に出てこちらへ向き直る。しんと静まり返る陸奥湾、遠くからの深海棲艦の呻き声とわずかな波の音が響くのみだ。

「聞けぇい!日本国の存亡は各員の奮励努力にかかっている!負けるから戦わないのか!?座して二度目の死を待つのか!?否!我ら護国のため舞い戻りし戦艦、総玉砕の覚悟でこの国を守るのだ!!」

 

「「「「「応!!!!」」」」」

鼓舞に応え、艦隊全員の顔つきが変わった。・・・まぁ後方にいる提督の半数ほどは青い顔をしていたが。

 

偵察機から敵発見の報が入ってきた。確認したすべての深海棲艦が湾内に侵入した瞬間、決戦が始まる。

「一番偵察機通信途絶!」

 

「蒼龍航空隊全滅!」「飛龍航空隊、被害甚大!制空権を喪失しました!」

航空戦は敗北、それもそのはず敵には空母軽空母合わせて8隻、に対してこちらは正規空母2隻。勝てるわけがないっ!

 

「来るぞ!総員、対空戦闘用意!」

空を埋め尽くすような・・・とはいかないが、100機を超えるたこ焼きの群れが艦隊に襲い掛かる!

 

「ぴゃぁ!?」

「ふぁっ!?」

「きゃぁあ!」

 

駆逐艦を中心に被害が拡大していく。が、彼女らの必死の奮闘によって主力艦への被害は最小限に済んだ。

「怯むな!敵艦隊を射程に捉え次第撃ち始めるんだ!・・・全砲門開け!撃て―!」

 

長門・陸奥・伊勢・日向の4隻の戦艦の主砲が一斉に火を噴いた。爆炎に包まれる敵艦隊、煙が晴れたときそこにあったのは、損害こそあれど艤装はほぼ健在で殺意をたぎらせる深海棲艦の姿だった。

その中にはタ級、ル級といった戦艦の姿もある。日は既に落ち、イージス艦から打ち上げられる照明弾と探照灯の明かりだけが頼りなので見逃している敵艦もいるかもしれない。

 

そんな中、勇敢な艦長が乗る一隻のイージス艦が増速し、敵艦隊へ突っ込んでいった。四方八方に照明弾を打ち上げてミサイルをありったけ撃ちまくり、敵艦隊と自イージス艦の姿をくっきりと浮かび上がらせて―――

集中砲火を喰らい、大爆発を起こして轟沈していった。

 

この時、遥か彼方で映し出された一隻の小さな船のことには誰も気には留めなかった。その前にいた30隻を優に超える深海棲艦に絶望し、戦意を滾らせ、勇猛果敢に攻めて散っていったイージスの敵討ちに燃えていたから。

 

一方そのころ。

「わーお、ヤマトダマシイ・・・探照灯点けて敵艦隊照らして集中砲火ってのどっかで聞いた話だな。なんにせよ南無南無。あとこっちの位置バレて無いよね?」

遥か彼方、湾の入り口の船の上。そんなことをつぶやきながら双眼鏡をのぞき込む一人の青年の姿があった。

「トツゲキィー」「カクレロォォォ」

妖精さんから相反することを言われているが、「はいはい、本格的に交戦始めたらねー。背後から奇襲しかけるよー」と返して虎視眈々とその時を狙う倉太 海晴、その眼には覚悟の炎が宿っていた。

 

 

そして、その時は来る。

 

「ちょっとまずったな…どうしよう」

「伊勢!大丈夫か!?」

「日向‼魚雷来てるよ!」

「回避!面舵!面舵だ!」

 

軽巡・駆逐は大半が戦列を離れ、戦艦でさえも損害が目立ってきた頃。満を持して主人公の登場だ。

 

 

 

side:倉太 海晴

 

「今だ!機関全速、焼けついても構わねぇ!目標、敵艦隊!突撃いいいいいい!!!」

「マカセロー!」「マッテタゼェ、コノトキヲヨォ!」「ヒトアバレシマスカ‼」

改造した集魚灯とゲーミングカラーのLEDを光らせ、爆音でパ〇レーツオブカリビアンのEDを流し、颯爽と現れた対空砲付き漁船。

敵艦隊後方、艦載機を飛ばせない空母を狙って12.7mm4門が鉄の雨を降らせる。

ダダダダダダダッ!ガッガガガガガガガガガ!

 

「敵空母撃沈を確認!次!空母護衛艦隊へ転進!」

 

そのままの勢いで空母護衛艦隊へ襲い掛かり、イ級の脳天を砕いて砲撃を避ける。機関から黒煙が上がるが、恐らく過負荷が原因だと思われるので無視!

装甲なんてないので近くに榴弾が落ちたら即終了のオワタ式システム・・・テクニカルとでも何とでも呼べ。事実だ。

 

「ヒャッハァー!最高だぜ!」ババババババッ

 

敵の弾を避けるため右に左に揺れる船体、狙いなんてあった物じゃないが誤射のリスクにさらされる味方などいない、むしろ四方八方敵なので撃てば撃つだけ当たる!

「魚雷だ!取舵一杯!」「アイサー」

 

気が付けば敵陣ど真ん中、ガラスは割れ船体にはわずかずつながら銃痕や焦げが増えてきた。

それでも撃つ、ひたすら撃つ。

 

キルカウントが20を超えたころ、艦娘側前線も押され気味だったのが膠着状態に。

倒した敵の数を数えるのをやめてすぐ、深海棲艦の湿った砲撃音に交じって艦娘のものと思われる乾いた音が混ざるようになってきた。

 

が、敵の再編成が進んだのか、機銃掃射や一斉射が増え、遂に―――

 

「カンビニヒダン‼カサイハッセイ、シュツリョクテイカ‼」

 

オーバーヒートしていた主機はあっと言う間に炎上、足が止まってしまった。そうなるともはやただの的である。

迫る無数の雷跡、砲弾も向かってきている。

「これまでか…総員退艦!」

そう叫んで、最後にお前だけは道連れにしてやると言わんばかりに一番シルエットが大きい敵艦に銃身を向けて引き金を引いた。

 

ゆっくり沈みゆく船体、すでにどこかから浸水しているのだろう。4門のうち一つが弾詰まりを起しているのに気づく。敵戦艦、いや巡洋艦か?どちらでも構わないが、恐らく海晴の命を奪うのに十分すぎる大きさの砲弾がこちらに飛んできている。着弾まであと3秒くらいか…?

そこまで思考して、ふとこの世界に来た時のことを思い出した。

(すまない倉太、君から継いだこの体、ここで使い潰s)ドカーン‼

 

side out

 

 

 

船体中央に直撃弾。敵が非装甲なのをわかっているのか、しっかり榴弾だった。

大きくえぐれた木造の船は、バッテリーが水に沈んで駄目になるまで集魚灯を灯し続けていた。

敵は旗艦を失い撤退に入る。追撃しようにも機関をやられて速力が出ない艦娘たち、このまま逃げ切られてしまうのだろうとだれもが諦めていた。

窮地を救った英雄の仇が取れないことを悔しがった、その時。艦娘にとっては不思議な―――この状況を作り出したものにとっては必然の―――ことが起こった。

 

撤退する艦隊が陸奥湾の出口に差し掛かったころ、深海棲艦は次々と触雷して爆散したのだ。生き残りの足が止まるがそこに追撃艦隊が到着する―――――

 

「なに!?あの漁船の生存者がいる!?重症なので一刻も早い処置が必要だと!!?くっ、追撃は中止だ!人命救助急げ!・・・何?陸奥湾を出る前に敵殲滅完了?今はいい、兎に角救護班急いでくれ!」

 

後に陸奥湾海戦と呼ばれる日本の反攻の第一歩。その立役者は妖精さんらの手助けもあり何とか一命をとりとめ、のちに提督として日本の前線を大きく押し上げることとなるが、それはまだ先のお話。



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廃港からのスタート
主人公の目覚め






目を開いたら知らない場所にいたとき、取り敢えず最初に言うこと。

「知らない天井だ。」

状況を整理しよう。

俺は確か、対空砲付き漁船で深海棲艦と戦って直撃弾を喰らって死んだ・・・いや意識を失ったのか?ってところまでは覚えている。

今視界に映っているのは包帯だらけの俺の身体、よくある病院の天井。ならばやることは一つだ。

 

「はいナースコールぽちー」

 

これに限る。

 

暫くして看護師さんが来て、記憶の混濁等の症状がないか一通り聞かれた。

 

頭は今までにないほど冴え渡っている。

身体は包帯等で少々動かしにくいがまあ問題なく動かせる。

 

とだけ伝えると、化け物を見るような目を向けられた。何故だ。

「いいですか!全身に重度の火傷と打撲、一歩間違えればミンチのような状態だったんですよ!?全治三か月、いいえそれ以上の――――」

 

・・・どうやら寝込んでいたのは3日、それも最初心肺停止の状態だったらしい。

良く生きてたな俺。

輸血用の血液が足りないから栄養点滴しかしてないはずなのに段々身体が治っていく様子は不気味でしかなかったそうだ。

身体能力強化(小)のなかに回復力強化とか生命力強化とか入っていたのだろう、多分。

神基準で“小”は人基準でバケモンだったよ・・・

 

「ちょっと!聞いてますか!?」

「勿論です、俺の身体が半ミンチからなんか不可思議なパワーで元に戻ったってとこくらいまで」

「最後のほう聞いてないじゃないですか!なんでも重傷を負うまでにやったことで海軍のお偉いさんから話があるそうよ・・・あっもう面会の時間!?じゃあ私は退室するから!傷が痛んだりしたらナースコールよ、いいわね?」

 

そう一息で言いきって看護師さんは退出していった。肺活量と活舌スゲーな、見習いたい。

 

 

 

待つこと数分、再び病室のドアが開いた。

そこに立っていた人物と目が合うと同時に、引き継いだ記憶がこのお方が誰なのかを教えてくれた。よく紙面にでかでかと顔が乗ってる、海軍元帥だ。

元帥・・・?

げげげ元帥殿ぉぉおおおおお!?!?

お偉いさんはお偉いさんでも一番偉いお偉いさんでした。やべーマジやべー(語彙力轟沈)

パッと見ただけではどこにでもいそうな近所の元気な爺さんに見えるが、覇気が!覇気が違う!

 

「ああ、そんなに固くならなくても構わん。取って食いやしないよ。」

思いっきり顔が引きつっていたようだ。

 

「えーと、失礼しました。一般エンジニアの倉太といいます。・・・何のご用件で?」

 

「謙虚は美徳だが行き過ぎると嫌味だぞ、救国の英雄殿?しかも、高い提督適性もあると長門から聞いているよ。」

提督適性ってあれか?妖精さんが見えるとかか?というか救国の英雄ってなんなの?いつの間に俺日本救ってたの?

 

「は、はぁ」

 

 

「そこで本題だ。君、提督になる気は無いかね?」

 

提督ねぇ。少し考えよう。艦これの世界で提督になるのはいわゆるテンプレだ。だが、この敗北寸前の状態で俺一人が提督になったところでどうなるっていうんだ?提督ということは鎮守府で艦隊を率いるんだろうが、そもそも動かせる艦はどれほど残っている?あの機雷作戦で深海棲艦の戦力を大幅にとはいかなくてもある程度は削っているはずだが―――

 

―――このタイミングでのぽっと出の新米を提督に着任させるなんて、普通はあり得ない。絶対に裏がある。主力再建までの時間稼ぎとか人身御供的なサムシングだろどうせ。

 

ここまでたっぷり5秒は使ったが、答えは最初から決まっていた。

 

「大いにあります、というか本当にいいんですか?ぽっと出の良くわからんエンジニアですよ?」

 

願ったりかなったなのだ。深海棲艦に、死にゆく世界に抗おうってのに後方でぬくぬくと安寧を甘受しているなんて考えられない。…艦娘に会ってみたいとか邪な気持ちが3割‥いや4割くらい入っているけど…

 

「そうかそうか!君ならそう言ってくれると信じていたよ!先の海戦で使える提督が半分ほど減ってしまったのでね、一刻も早い人員の補充が必要だったのだよ。さぁそうと決まればここと同等の病院設備を持った鎮守府に―――」

あれ?これ、裏とか無しにただただ人不足・・・?それはそれとして。

 

「あ、ケガならもう完治してますよ。」

「―――へ?」

 

包帯で半分ミイラのような姿だが、普通に布団から出て直立して見せた。ポカーンと口を開けた元帥殿の姿に内心爆笑していたのは内緒だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・よかったのですか?彼を前線へ送って。本来であれば要所警護の任に着けてゆっくり療養させながら育てる手筈ですが。これでは―――」

「よかったんだよ、あれで。彼奴らの思い通りになるのは気に食わんが、彼なら何か、大いなることを成し遂げられる。ワシは自分の勘を信じるよ。なにより、療養しようにも健康体ではないか!ハッハッハッハ」

 

一通りのことを決め終えた後、元帥と秘書官はそう話した。

 

―――提督が鎮守府に着任しました。これより、艦隊の指揮に入ります―――




リアルがクッソ忙しくて遅れに遅れた作者です。ホントウニモウシワケナイ
3か月ぶりなのでどういうスタイルで書いていたか半分くらい忘れてるけど違和感あったらドシドシ指摘オナシャス。
長らくお待たせしたことについては許してくださいなんでもしまかぜ


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大湊第二の始動

大湊第二(仮)、正式名称は大湊管区第二仮設鎮守府。ここは書類上にしか存在しない鎮守府である。

生き残っている住民はみな避難を終えたゴーストタウン、そこにはかつての港町の残滓…ドックや製鉄所といった設備があるだけの場所。

俺が配属された鎮守府だ。指令書によると・・・

 

「周辺からの物資徴用は無制限、要は現地調達でどうにかしろってことだよな。」

 

食料、建材、工具、戦略資源・・・全部支給されてない。あったとしても主力の補修に回されてるのでこっちに来るはずがない。あるのはスクラップに廃材に缶詰に・・・あれ?全部あるやんけ。

 

「というわけで!初期艦が着任する3日後までに鎮守府建てたいと思います!」

「マカセロー」「ホウシュウハ?」「カンミヲヨコセー」

 

報酬をねだる妖精さんズ、やっぱりご褒美がないと動けないのは人間も妖精も共通なのな。ふっふっふ、もちろん用意しておりますとも!

 

「ドロップ缶!二缶全部!これでよろしく頼む!」

決戦前に渡しそびれたやつなのは内緒。

 

「ヤッタァァァァァ」「マカセローバリバリー」「コレデミッカハハタラケルゼ」

 

 

 

支給された軍用トラックに廃工場から徴発した資材を積んで、港町によくある倉庫群にやってきた。

 

「ノックしてもっしもぉーし・・・返事がない。ただの空き倉庫のようだ。」

軽くバカやりつつシャッターをあげる。

 

先ず初めに工具群を運び込んで、適当に仕切りをつけて作業場工廠の出来上がり!

「コレハコウショウトヨンデイイノカ」「ワカラン」「ツギイクゾ、ツギー」

 

ドック周りは妖精さんにお任せして、隣の倉庫を見上げる。民謡の「シャボン玉飛んだ、屋根まで飛んだ」っていうのはもしかしたらシャボン玉が屋根の高さまで飛んだんじゃなくて屋根も飛んだって意味なのだろうか。とにかく、この倉庫、屋根がなかった。

・・・屋根の残骸は倉庫内にあったので単に砲撃か爆撃で崩れ落ちたのが正解のようだ。

 

排水用ポンプを改造して、専用のノズルと高圧対応パイプを取り付け、そんでもってこれを油圧リフト(防水仕様)の上に乗せ、移動できるようにローラーを取り付けようとして・・・台車に乗せるだけでいいことに気が付いて。

「簡易ウォーターカッター!本当はショベルカーに解体アタッチメントが欲しいところだけど、ないものねだりしても何も始まらないからね。」

 

ゆがんだ鉄骨の骨組みを切断して、代わりの鉄骨を溶接する。更に適当なトタン板や防水シート等を組み合わせて屋根を新造、仕切りや布団、クローゼット等を運び込んで艦娘寮(簡易)の出来上がり。

 

外見はぼろっちい倉庫一棟、屋根だけ新しい倉庫一棟、それに妖精さん謹製のドック(応急)これだけしか設備はないが、書類上の存在だった鎮守府が簡易的とはいえちゃんとした設備を伴うものになった。

妖精さんにドロップを配って、執務室に戻r・・・あ。俺の部屋、作るの忘れてた。

 

ショッピングモールから非常用にと持ってきたテントと寝袋でその日は夜を過ごした。人の明かりが消えた町から見える夜空は透き通っていた。

 

二日目。

 

今日やったことは工廠・ドックの試運転、それともう一つ倉庫を使えるようにして秘書艦控え室、提督私室、執務室を配置。家具は全部自作、THE・DIYスタイル。

それと、いくつか残っていた倉庫に資源を放り込んでおいた。製鉄所から鉄鋼、石油化学プラントからバイオディーゼルに重油、それにTNT等の薬品・・・弾薬を十分な量ではないが確保できたものの、アルミ資源が致命的なまでに不足していて、それらしいものはアルミ缶のスクラップ程度しかなかった。

夜遅くまで資源不足をどうするか妖精さんと話し合ったが、解決策は浮かばない。ボーキサイトを手に入れても、精錬のための電力が調達できない。ゲームの艦これではボーキを直接資源として使えるのだが、現実はそう甘くはないようだ。

 

三日目。

「アルミ缶がひとっつ・・・アルミ缶がふたっつ・・・ない・・・ない・・・全然足りない・・・ハッ」

唸りながら重い頭をあげ、時計を見る。

時計〈9:23やで

 

・・・艦娘の着任って9:30だよな?

布団に戻る。起きる。時計を見る。

 

時計〈だから9:23やで

 

布団に戻る。飛び起きる。時計を見る。

 

時計〈9:23…9:24になったで

 

「ほわぁぁっぁぁああああ!?」

 

バカやってる場合じゃねぇ、大急ぎで軍服に着替えて朝食をとってあと、後何をすれば!?

カロリーの友とカップスープで腹を膨らませて、大急ぎで敷地の端の指定された座標に向かう。

 

そこに立っていたのは青味がかった白の髪をたなびかせ、朱色の瞳の艦娘だった。



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初艦娘、初建造

「あんたが司令官?遅刻とはいい度胸ね。ま、芯の太さだけは認めてあげるわ。せいぜい頑張りなさい!」

前世でブラウザゲーの艦これをやっていた時の初期艦がこの世界での初艦娘とは、何かの縁を感じる。もしかして君、どこかで会ったような(ナンパの定型文)

 

「ああ、誠心誠意努めよう。…ようこそ、大湊第二(仮)へ。何もないところだが、最低限鎮守府として運用はできるはずだ。」

最初の着任なのであえて堅苦しい口調を使った。決して画面の向こうからこんにちはに感動してだとかリアルで見る叢雲が可愛すぎて緊張してたとかではない。断じて。読点どこやったって?オタク特有の早口だよ察しろ。

 

「ええと…確かここ、3日前に無理やり登録したばかりよね?なにもないのはわかるわよ。でも、鎮守府って…」

 

「まぁ見ればわかるさ。取り敢えず、と。妖精さん!全員集合!!」

 

「ムラクモノアネキー」「ハツカンムスガカノジョトハ、ワカッテマスナァ」

 

「よし、さっそく装備と艤装のメンテナンスを頼む。その間に叢雲に鎮守府を案内しておく。」

 

「アイサー」「リョウカイシマシター」

 

 

 

30分後

 

「…まぁ、何もないにしては頑張ったんじゃない?前線を張る鎮守府にしてはちょっと、いいえかなり無茶な感じだけどね。」

 

仮設どころか応急クラスだけどまあ好評。設備の不足については自覚はある、が、解決策はない。

 

「全力で時間稼ぎすればいいさ、主力艦隊の補修のための時間さえ稼げればどうとでもなる。多分。きっと。メイビー」

 

言ってて不安になってきた、本当に増援は来るのか?最悪、来ないってことも想定していつでも逃げれるように備えておきたい・・・

 

「本当に大丈夫なのよね?」

 

「わからん!だから手を尽くすんだよってことで妖精さーん!整備状況今どんな感じ―?」

 

「バッチリデスー!」「イツデモイケマス‼」

 

「よし。ではヒトマルヒトゴ、現時刻をもって駆逐艦叢雲を秘書艦に指定する!残存資源量を確認して最低値での建造を行い、叢雲及び新造艦で第一艦隊とする!以上!」

 

鋼材0.6t(標準インゴット20kg30個分)

重油30KL(200Lドラム缶30本)

トリニトロトルエン30kg!

アルミスクラップ600kg、これで残存は100kg!フハハハハハどうしよう・・・

 

とにかく!2tトラックの荷台に重油以外全部あるね、ヨシ‼(現場猫)

重油?タンクローリーですが何か?

 

簡易建造ドックの資材置き場に横付け、搬入用クレーンの真下に荷台が来るように位置を調整して…そんでもって建造開始!このレバーを引くんだよな?

 

ガシャン‼

 

「あ、あれ?動かないんだが。」

 

「デンリョクヒツヨウダヨー」

 

「しょうがない、ガソリンも無限ではないから節約したいんだが・・・接続完了、動いてくれよ~」

ガッ

ガップスンプスン

「動けこのポンコツが!動けってんだよ!」ガンッ

ガガガガガバチッチチチブルルゥン

「痛い(泣)」

 

「(本当に大丈夫かしらココ・・・)」

 

気を取り直して今度こそ建造開始!非常用ガソリン発電機持ってきておいてよかった。このおんぼろ発電機、起動音に不安しか感じないけど多分大丈夫だろう。きっと。

 

残り時間が「8:88:88」で動かない。いや、少々点滅している。

 

「1:22:04」

 

表示された。はて、この建造時間はどの艦種だっけ・・・?

 

まあいいや。ゲームの艦これの知識はリアル艦これの世界でどのくらい通用するかわからんしってそうか、羅針盤とマップ!

「ちょっと、どうしたの⁉みるみるうちに顔から血の気が引いてるけど!?」

 

「建設に夢中になってて海図とか深海棲艦の出現予測とか忘れてた・・・」

 

「え゛」

 

「仕方ない、こうなったら・・・妖精さーん!ヘルプミー!」

 

「ショウガナイテイトクサンデスネ・・・」

 

「おもちゃ屋から電子回路目当てでパクってきたラジコンにドローン、あとインスタントカメラ!これらを組み合わせて妖精さん用哨戒機を作る!パイロット妖精さんと工廠妖精さーん、手伝ってくださいお願いします。」

 

-暫く後-

 

「でけた」

「ええ・・・なに、この、ええ・・・」

「ヤッパリワタシッテバサイキョウネ!!」

 

4軸ドローン3機からローター8つとバッテリー3つ、制御回路3つを回収して2バッテリー6軸のドローンとバッテリー一つで双発の有翼機を構築。制御系はラジコンのモノからアンテナとアンプを取っ払って直付けしただけ。機体は前者はプラ製、後者に至っては発泡スチロール・・・本当に飛ぶの?これ。

キメラドローンと100均の玩具にペラ付けただけにしか見えねぇ。

 

「デンドウキトハマタ、ユメガアリマスナァ」

 

「リチウムイオンバッテリーだ。温度に気を付けろよ、爆発するぞ。」

 

「ジャ、サッソクハツヒコウトイキマスカ」

 

「ああ待った待った、建造が終わってるはずだからそっちが先な」

 

建造ドックの表示はだいぶ前に0:00:00になって―――

「あー!発電機落とすの忘れてたー!」

貴重なガソリンがぁ!

 

・・・まあいいや。

「艦隊に新しいメンバーが加わったようね。」

 

「はーい、お待たせ?兵装実験軽巡、夕張、到着いたしました!」

 

さて、このクソみたいな現状と己の紹介でもしますか。

「よく来てくれた、夕張。今日本は再び敗北の危機に瀕している。首都は陥落、現在は札幌新京に生き残りを収容し、大湊警備府を鎮守府に昇格して最後の抵抗を行っているところだ。」

 

「今の日本がかなりピンチなのは良くわかったわ。にしても日本最後の砦にしては規模が小さいような・・・」

 

「ああ、ここは大湊第二仮設鎮守府だ。全戦力を結集して前線を僅かに押し上げて、空いた隙間に建てられた主力補修のための時間稼ぎ兼穴埋めの壁。それがウチ。」

 

(もしかして結構やばい鎮守府に着任しちゃったのかも・・・)

 

「ああ、安心してほしい。玉砕するまで攻撃とか死守命令は出さない。艦娘が一人でも失われるのは大きな損失だ、ここが落ちても次がある。だから、安心して逃げ帰って欲しい。北へいけば大湊鎮守府がある。」

 

「アンタ、それって・・・」

 

「ん?如何した叢雲?」

 

「・・・いいえ、なんでもないわ。」

 

「そか。じゃあ、ささやかながら歓迎会と行こうか。まあ缶詰しかねぇがな、HAHAHA」

 

 

遅い昼食を兼ねた缶詰パーティーの後、哨戒機を飛ばしてみた。赤黒い海は、今日のところは静まり返っていた―――



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