領域の支配者 (ルルーラ・ランドー)
しおりを挟む

禪院家編
一話 禪院家に弟子入りしました


その日、禪院家に珍しい人から電話があった。

直毘人の旧友であり非術師ながらも剣術道場の師範をしている『桐ヶ谷 文幸(きりがや ふみゆき)』からの着信であった。

 

「久しぶりだなぁ!!まだ足ついてるか!?」

 

「ああ、おかげさまで俺は元気だ!」

 

『桐ヶ谷 文幸』は『桐ヶ谷流剣術』の師範にして禪院直毘人が実力を認める最強の非術師の一人である。 過去に躯倶留隊の体術の手ほどきをお願いしたこともあり、非術師に教わることに異を唱えた炳の連中に『切られた』幻覚を見せるほどの殺気を見せるほどの手練である。

 

「どうした?いきなり電話なんてしてきやがって、酒飲もうとしてたのによぉ」

 

酒ならとっくに入っている

 

「もう飲んでやがるじゃねえか、ちょいと頼みたいことがあってな?」

 

「てめえが頼み事とは珍しい、なんだ?」

 

「今、一人だけ住み込みで育てている弟子が居るんだが、そいつを預かってくれねえか?」

 

「ああ?うちは合宿所じゃねえぞ?」

 

「先日、家内が倒れて入院しちまってな……俺も歳だから道場閉めて家内とゆっくり生きようと思ってよ」

 

「そうかい……で、そいつ、歳はいくつだ?」

 

「12だからこんど中学上がる」

 

「真希真依の一個下か……いいぜ、お前の技は教えてあるんだよな?」

 

「もちろんだとも、俺の約70年分の人生で積み上げた心技体全てを習得させた。しかも多分おめえらで言うところの『呪術』ってのも扱えてるみてえだ、本当なら3年後に高専入れるつもりだったんだけどよ」

 

「はっはっはっはっ、なんだ術師か、非術師が育てた術師には興味がある!!、3年間みっちりしごいて高専に入れてやるわ!!」

 

「そうかい、助かった。あとは頼んだ。」

 

「おう、ゆっくり休め」

 

「ありがとうよ」

 

数日後、禪院家の門を少年が叩いた。

 

「ごめんください、『桐ヶ谷 (みやこ)』です。」

 

「旦那様ー、京くんがいらっしゃいました。」

 

京は座敷に上げられ躰倶留隊全員と一部任務に出ている炳に囲まれていた。

 

「お世話になります、『桐ヶ谷 京』です。京都のきょうで『みやこ』って読みます。よろしくおねがいします。」

 

京は正座で深々と頭を下げた

 

「よく来たな!!『文幸』から話は聞いている。きっとヤツのことだからしっかり修練は積んでいるだろう?道場のときと変わらず過ごしてもらって構わん、好きにしてくれ。」

 

「ありがとうございます。」

 

もう一度深々と頭を下げた

 

「それで……おまえさん、術式が使えるんだってな?」

 

「????」

 

京はキョトンとした顔をしていた。JUTSUSHIKI?なにそれ?

 

「あーー、そうだな、まちなかでバケモンみたいなの見たことあるか?」

 

「あります。師匠から見て見ぬ振りをするように習いました」

 

「そうか、それならいい、着いてそうそう悪いが力を見たい、立会できるか?」

 

「はい、大丈夫です。」

 

場所を座敷から中庭の広いスペースに移された。

日頃躰倶留隊が修行する場所である。

 

そこで彼は何も持たず自然体に立っている

 

「剣は持たねぇのか?」

 

「はい、剣は持ちません」

 

「じゃあそこのお前やってみろ」

 

「はい!」

 

直毘人が指さした躰倶留隊の一人が出てくる。

 

「死なねえ程度にやっていい、それでは、はじめ!!」

 

「剣士が武器なしとは、ガキが舐めやがっ」

 

このときその場にいる『全員』が京がその躰倶留隊士の首を手刀で飛ばす幻覚をみた。

 

「フンッ……!!」

 

京渾身の蹴りが躰倶留隊士の脇腹を襲った。

 

「あっちゃー、もろ入っちゃった」

 

「こいつぁ、こいつはすげえ!!投影呪法とでも名付けようか!!影を操る禪院家の相伝の術式に近いがどれとも違う。」

 

「え??」

 

「京って言ったか?お前さん、手刀で……例えばあの岩を切れるか?」

 

直毘人は隅にある大きな庭石を指さした。

 

「はい。できますよ」

 

京は庭石の前に立つと素手で抜刀の構えを取る。

 

「(こいつはたまげたなぁ、自然体で呪力操作してやがる、しかも『呪力操作だけ』で手に刃を作ってやがる、術式なんかじゃねぇ、文幸め、本当に全部この年のガキに教え込みやがった)」

 

「ハァッ!!!」

 

右腕を引抜くと岩の上半分が切れ地面に滑り落ちた。

 

「ハッハッハッハ!!もう既に2級相当だな。よし!!明日からは俺が稽古をつける!!真希!!真依!!てめえらが使ってる離れにこいつも入れてやれ、お前らでこいつの生活の面倒を見ろ。いいな!」

 

「はい。」「……チッ……はい」

 

「それでは解散!!京は双子に部屋を案内してもらえ!!」

 

「それでは改めてお世話になります。」

 

拝啓 お師匠様

気難しい人だと聞いていた直毘人さんに気に入られました。

何とかやっていけそうです。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

二話 術式の理解

朝5時、真希と真依は焦っていた。

何故なら世話を頼まれた年下の男子が朝起きたら布団を畳んで行方不明なのである。

 

「………どうする?」

 

「ヤバい………めっちゃ怒られる」

 

あーでもないこーでもないと二人で話してると部屋の扉が開いて行方不明な男子が帰ってきた。

 

「すげー!!裏山超広い!!」

 

裏山とは禪院家の裏にある山であり。日頃、修行に使われている場所である。

 

焦っていた二人はあっけらかんとした少年の顔にうなだれた。

 

「おいおい、朝起きてどっか行くなら先に言ってくれよ」

 

「え?自由にしていいって聞いたし走ってきた!!腹減った!!」

 

「朝ごはんはこれからみんなの分も一緒に作るから待っててね」

 

「私は躰倶留の朝稽古に行ってくる」

 

「まじで!!俺も行く!!」

 

「とりあえずもう遅れそうだから走るぞ!」

 

「わかった!」

 

躰倶留隊の稽古は朝のランニングに始まり

瞑想、素振り、型、組み手等がある。

飛び出した二人はランニングコースである裏山に向かった

 

「ああー!!真夏のジャンボリー!!!レゲエ砂浜ビッウェイ!!」

 

「うるせぇ!」

 

殴られた、何が悪かったんだろうか、山の中で湘○乃風は良くななっただろうか?

 

「なんでランニングしながら大声で歌えんだよ!!」

 

「え?元気だから?」

 

「もう、走ってきたんじゃないのかよ!!」

 

「走ってきたけど元気なだけだよ?」

 

「ここ来る前も歌いながら走ってたのかよ」

 

「うん、熊よけのためにベル鳴らしながら歌ってた、襲われると面倒になるし」

 

「ああ、そうかい。じゃあいいよ」

 

「いいたいことも言えない世の中じゃああ、POISON!!」

 

「(なんか、選曲が古くねえか?本当に年下か?)」

 

このあと、隊長(信郎)さんに怒られた……

真希さんもなぜか怒られてた、すっげえ睨まれた。

朝の鍛錬から戻るとご飯が用意されていた。

 

「おかえり、ご飯できてるよ」

 

「ありがとうございます、いただきます」

 

「「いただきます」」

 

数分後、双子の妹、禪院 真依は米を炊いていた。

禪院家は才能豊富な成長期男子の食欲を舐めていた。

桐ヶ谷 京は1升あったおかわり分の米をすぐに食べきってしまったのである。直毘人は大笑いしながらもう一度炊いてくるように頼まれた真依は台所に走った。まだ私食べ終わってないんだけど、人の心とかないんか?と思いつつも禪院家が何となく雰囲気が良くなったのが悪くはなかった。

 

炊いた米消失騒動の後

直毘人と京は稽古場にいた。

 

「『呪術』……おまえさんたちが言うところの『気』について理解を深めよう」

 

「よろしくおねがいします。」

 

彼はペンとノートと机を用意して座学を受ける気満々だった。

 

「………一応は門外不出なんだ…………ノートは稽古後に書庫にしまうことになるが構わねえか?」

 

「承知しました。」

 

「よし、では桐ヶ谷流剣術では『気』を何と学んでいた?」

 

「感情の振れ幅で増減するものです、精神を研ぎ澄ますことで『気』を研ぐことができます。」

 

「その結果文幸は無刀に至ったわけか」

 

「そうです、あと、剣士が刀を握ってるときだけが戦いになるとは限らない、全局面に対応するならば剣を握らずとも同じ力を発揮せねばならない……と聞いております。」

 

「おまえさんの異常な精度の『呪力操作』の權現はわかった、では、その先、『呪術』の解釈を進めよう。」

 

「わかりやすく言うと『呪力』が電気、『術式』が家電だ、これは高専でも習うことだ。ここからはその『術式』の解釈を広げてできることを増やそう」

 

「はい」

 

「わかってる限りの『術式』を使ってみろ、どうせあの幻覚以外にもあるんだろ?」

 

「わかりました。」

 

そう言うと京は無刀で構えを取る

 

「『陣』!!」

 

「(こいつはすげぇ、新陰流の簡易領域に近いがこいつの場合天然物だ……、何よりまだ術式が付与されてねえのに呪力操作だけで形にしてやがる)これで何ができるんだ?」

 

「『陣』の中の相手の動きを察知しやすいようにしてます。」

 

「ありがとうよ、これは呪術の最終段階、『領域』に近えもんだな、京、まずはこれから『術式』の解釈を広げてできることを増やす!その次に『縛り』、所謂『ルール』を作ることで『術式』を補強する!!最後にこの『陣』に術式を付与して『領域』を完成させよう。」

 

「まずは実際に術式がどんなもの確認してもらおう、『陣』は続けておけ」

 

直毘人は構え、術式を使った。

『投射呪法』である。一秒間を24枚の動きに分けてアニメーションを構築することで動きを再現させる術式、アニメーションを破綻なく作らないと1秒間動けなくなる代物である。普通の人ならば見抜けないからくりを感知能力を上げる『陣』の中でやるとどうなるのであろうか?

 

「アニメーションですか?24fpsなのでフルアニメーション……」

 

「ふっふっふ、俺の術式もおまえさんの領域の中だと筒抜けか……」

 

「これ、自分も適用されるんですか?」

 

「そうだ、予め自分の動きを自分の視界を画角にして24枚のセル画にせにゃならん」

 

「予め……なるほど自分動きを予め……自分の技と一緒ですね」

 

「そうだな、お前さんの場合、予め自分の作った動きを映画のように投影してるだけだがの」

 

「なら別に映すの一人じゃなくてもいいですね」

 

「ほう?」

 

「映画の登場人物も一人とは限らないし、編集や撮り方次第では分身だってできるじゃない?」

 

「『編集(ディレクト)』と『代役(サブ)』か……」

 

「サブよりスタントマンのほうがいいな」

 

「名前なんぞ自由につけろ、で、できそうか?」

 

「やってみます」

 

「いや、待て、やる前に縛りを作ろう……そうだな…映す人数は3人まで、大量にある行動のうち事前に見せるのは3人まで、そして、3人のうち1人だけお前さんが同じ動きをする。相手の対応を1/3にすることで呪力の強化をしよう」

 

「……選択肢以外の攻撃をしたら呪力を込めないようにする」

 

「それもいいな、京の力なら呪霊を祓うことはできずともダメージぐらいは喰らうだろう」

 

「そこまでの『縛り』を課せば……術式『編集(ディレクト)』『代役(スタントマン)』」

 

3人の京が直毘人に襲いかかる、一人は足払い、一人は首を跳ね、一人は後ろから心臓を一突き

 

『落花の情』

 

「ゴフッ」

 

直毘人の膝のカウンターが京の顔に入った。

もろに入った京はその場に仰向けに大の字で倒れ込む

正解は足払いだったがオートで迎撃する『落花の情』の前では無意味だった。

 

「前が見えねえ……」

 

「……領域の対処と変わらんな、だがこの術式を領域に付与できれば或いは……今はこの術式について理解を深め解釈を広げるようにしろ」

 

「はい………」

 

「あとは灯の奴らに稽古をつけてもらえ、そいつらの『落花の情』の練習にもなるだろ」

 

このあとめちゃくちゃ灯をボコした

 




京くんが来て一日目、禪院家はどうですか?

躰倶留隊員A「直毘人さんの機嫌が良くて助かる」
躰倶留隊員B「扇さんも妙に機嫌が良いのが怖いけど助かる」
躰倶留隊員C「俺たちの朝ごはんの白米が消えてたことは許さんけどな」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

三話 禪院家での裏話と任務

京が禪院家に来て半年、京は直哉に連れられて任務の同行に行っている。意外にも直哉からの京の評価は悪くはなく、というより京には皮肉が通じないというのと、男尊女卑より強い完全実力主義という直哉の考え方に京が懐いているというものもある。獲物を持たない主義なのも良いのかもしれない。京は跡取り問題の軋轢も無い外部の人間というのもあるだろう。お互いの力を高めるため良く組手をしている。躰倶留隊の人からも直哉の機嫌が良いと女中たちへの皮肉や悪口が少なくなり、結果的にご飯が少し美味しくなったり八つ当たり稽古が無くなるため本当に助かってる。

 

二人がいない間に禪院真希と真依が義父直毘人と実父扇に呼び出されていた。座敷では直毘人は何時もどおり酒を飲んでいて、双子の母親もいた。そこで扇が口を開いた。

 

「京を口説き落とせ」

 

「は?」

 

「どっちでもいい、京を口説き落とせ、何なら二人共でもいい奴の子供を産め」

 

「待ってください!!まだ二人は中学生ですよ!!体ができてないうちの出産はきけ「黙れ!!」

 

「この際あの術式が手に入るならお前らは死んでも構わん、飯に薬を持って夜襲っても構わん」

 

「駄目だ…」

 

飲んでいた酒を置いて直毘人が話し始めた。

 

「文幸と『縛り』を設けている、本人の同意なしには術式の継承はできないようになってる。」

 

「な!!奴は非術師ではないのか!!」

 

「奴は非術師ながらも『呪術』の本質をよく理解できてる。もし、奴がもし徒手空拳なら呪術師なら準一級、呪具を用いれば一級相当だろうな。この俺に『手紙』で縛りをかけやがった、まあここまでの実力がなけりゃ俺が躰倶留隊への稽古をお願いしねえよ、だから」

 

「お前ら二人に任せる、そのために世話係を任せたんだ。嫌ならやらんでもいい、お前らがどうせ行きたいという高専に行くまでのあと一年半は自由に過ごせ。奴も高専に行くんだ、そこでやっても構わん。扇ほどではないが奴を婿養子にするのは俺も期待している。年齢的には直哉の後釜になるかもしれんからの」

 

「あと扇、話があるって言うから集まったんだが、真希と真依はもう俺の子供になってんだ、真希真依が京の子供を産んでもそいつは俺の孫だ。今更てめえが捨てた子供にてめえが期待してんじゃねえよ」

 

「………くっ!!」

 

扇は居づらくなったのか部屋から出ていってしまった。

 

「ふう、で、二人共、京はどうだ?俺としても奴を婿養子にして禪院家の血を継がせたいと思っている。」

 

「ふん!!強えけどただのバカなときがあるからそんな好きじゃない。ただの弟だ、何より女を禪院家繁栄の道具にしてるのが気に食わん」

 

「……私も、なんか弟って感じがしてます。」

 

「男としてなしか?」

 

「「はい」」

 

「そうか……では別の者にするか」

 

「またそうやって女を道具にするのか!「やめなさい!!」

 

殴りかかった真希を声で制したのは母親だった。

胸ぐらを掴まれたまま直毘人は話す。

 

「まあ、奴が高専に行ったら良くも悪くも目立つようになる、あの歳で『領域』に片脚突っ込んでるのは五条悟に次ぐ天才だからな、そうしたら奴の術式を得ようと御三家だけでなく呪術師の家系ならば奴を狙うだろう。もちろん呪詛師も例外じゃない。その面倒事を事前に防ぐために囲っておこうってわけだ。」

 

「真希、矛を収めなさい、これはあの子のためでもあるのよ」

 

「あと、真希、癇癪起こすのは扇にそっくりだ、そこは直せよ」

 

「ぐぬぬぬぬぬ………わかりました。」

 

その日、京がいないところで行われた人生を左右するかもしれない会議は終わった。

 

「っていう話があったって蘭太さんから連絡がありました」

帳の中で話すのは九州の片田舎に任務で来ている京であった。

帳の中の状況は基本的に外からはわからない。密会密談をするならば帳の中が一番良いだろう。二人は灯の人間に帳を降ろさせて中に入り目標の潜む建物に向かって歩いていた。

 

「なんや、そんなこと隠れて話し合うために態々俺ら二人で九州まで来させられたんか……」

 

「まあ、跡取り問題は血を見ますから……甚壱さんも別任務で出てるところで行われたみたいです。終わったら美味しい博多ラーメンでも食べて帰りましょう」

 

「そうやな、で、あの双子はお前から見てどうなん?」

 

「まあ、ありがたい話ではありますけど………二人共、姉みたいな感じですね……」

 

「はああああーー、枯れとるなぁ、まあ生意気な姉の方は俺も好かんが……」

 

「僕は強さを求めて禪院家に来たんです。家督が欲しくて来たわけではありませんから」

 

「京くんのそういうところ、お兄さん好きやで」

 

「ありがとうございます」

 

「ほんと、甚壱さんも扇さんもわかっとらんわ、術式なんて祓うための道具にすぎひん、大切なのは術者が強いかどうかだけやねん、弱いやつは家系を強化するための道具になるだけや、個人が強くなるためのもんやない。だから親父(ぱぱん)が当主になってんねん」

 

「それで、お願いがあるんですけど……」

 

「なんや?」

 

「一度、特級術師の五条悟に会ってみたいんですけど……」

 

「……たしかに、本当に強いやつに会うのはいい経験かもしれへんな、俺もガキの頃、甚爾君に会ったときに『本物』の強さを知ったからな、いいで、こんど学校見学も兼ねて高専に行ってみるか」

 

「ありがとうございます……ここですね」

 

二人の目の前には小さな教会があった、鍵は錆びていて簡単に壊せそうだ。

 

「高専から委託された情報によると一級が一体、二級が複数体、少なくとも4体が確認されています。」

 

「お手並み拝見や、今の京君なら『陣』でこの建物ギリギリ覆えるんじゃない?」

 

「どうでしょう……立体物を外からは初めてなので……やってみますね……『陣』!!」

 

何時も通り無刀の抜刀の構えで『陣』をする。

 

「うーん、ギリギリ後ろ1/4入っとらんわ、まあええわ、中に何体いそう?」

 

「1級相当が1、2級相当が4……だと思います。」

 

「せやな……でも正解は外に追加で2級が2や!!」

 

直哉が脚で京を飛ばしてから呪霊からの攻撃を回避する。

二人のいたところに呪霊の触手が突き刺さった。

 

「ぐっ……すみませんありがとうございます。」

 

「行くで!!」

 

「はい!!」

 

『投射呪法』

 

「『投影呪法』『編集(ディレクト)』『時間(デュレーション)』『圧縮』!!」

 

バシュバシュッ

直哉の拳と京の手刀が呪霊を貫く

 

「あとは中のやね。このまま行くで!!」

 

「はい!!」

 

直哉は投射呪法で加速し錆びた扉を破壊し突入する。そのまま一級呪霊を後ろの壁ごと打ち抜き祓った。

 

「あとは雑魚だけや」

 

「『投影呪法』『編集(ディレクト)』『代役(スタントマン)』!!」

 

京の幻影に呪霊の動きが止まる。そのまま一匹ずつ祓っていく、手刀で蹴りで踵落としで、最後の一体は頭突きで祓った。

 

「すごいですね、自分は『陣』をしないと数までわからなかったのに」

 

「ここら辺は経験や敵の数の把握は呪術師の基本や、確かに『陣』は便利やけどそれだけに頼ってると今みたいに『陣』の外からの攻撃で足元をすくわれるで」

 

「はい。」

 

「あと、術式は口に出さずにできるようになればええな。これに関してはそのうち出来るようになる、出来るようになれば『声に出す縛り』を作ることで威力を増すことができるからそれもボチボチやな。」

 

「勉強になります」

 

「ほな、ラーメン食って帰ろかー」

 

「やったー!!」

 

このあと直哉の奢りでラーメンを食べに行った

京が替玉を27個を食べた。

直哉は「30個は覚悟してたけど流石に行かんかったなぁ」と言いながら支払っていたらしい。




禪院直哉は投射呪法と投影呪法が似ていることからお互いに術式の研究をすることで術式の理解を深めることができるため彼の成長が自分の成長につながると思っています。
なにより、自分に合うと突っかかってくる妹と萎縮して話にならん妹より話しになる弟分を気に入ってます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

四話『本物』

「おい、京」

「直毘人さん何でしょう?」

「このノートにまとめといた術式を組んでおけ、いずれ役立つ」

「???」


「東京行くで」

 

夏休み期間中のある日、直哉の憎たらしい声に叩き起こされた真希は直哉の右肩に抱えられていた。左肩には真依が目を擦っている。現在4:30、外はまだ暗いのだがこの男は何を言っているんだ?

 

「喜べ、真希ちゃんの学校見学や」

 

「は?」

 

「東京の高専に見学行くで」

 

「それじゃあ、許可出たんですね」

 

「おはようさん、京くん」

 

「おはようございます。直哉さん」

 

「出た出た、向こうも歓迎してくれるみたいやし、五条悟とも会えそうや」

 

「いやちょっと待て!!何の話だ!!あとケツ触んな!!」

 

「いやあ、こんな家に籠もってばかりで高専入学を目指してるかわいい妹のためにお兄ちゃん頑張って東京高専の学校見学する権利をもらってきたんや、しかも俺がケツ持ちで同伴するのが条件で…ケツの1つや2つ触らさてもらってもバチは当たらんと思うのよ……」

 

「ねーさんたちは着替ぐらいはさせてあげてもいいんじゃないですか?電車で行くんですよね?」

 

「まあ、確かに朝ごはんは外で食べるから、はよ着替えてきなあと30分で出るで、荷物は準備させといてあるから」

 

「「グヘっ」」

 

肩から落とされた二人はカエルが潰されたような声を出していた

 

「ぜってえ寿司か焼肉奢らせてやる!!」

 

「久しぶりの外出な気がする……東京始めていく。何着てこうかな?」

 

二人共、直哉同伴といえど外出、東京の響きは良いらしい

 

「自分もシャワー浴びて着替えないと!!」

 

京は朝のランニングの汗を流すために風呂場へ向かった。

 

それで………

 

「東京だー!!」

 

東京駅についた

 

それから………

 

「高専だーー」

 

東京都立呪術高等専門学校についた。

 

「すげぇ田舎!!」

 

「田舎からわざわざ出たのにまた田舎……」

 

「まあ、こんなもんだろ?」

 

「一応、五条悟が案内してくれるようになってるけど多分遅刻してくるな……いつものことやねん。少しの休もかー」

 

「それにしても夏の繁忙期に良く許可が出ましたね」

 

「五条悟のアポは何時も大変やねん、問題は俺やな帰りに東京と名古屋の一級何体かついでに祓ってったるわって事で許可降りたんよ、だからこのあと原宿と新宿、千住、あと府中の方を回ったりした後は高専の施設に泊まるで」

 

「明日は名古屋に行って祓いまくって帰宅や、ホンマ辛いで」

 

「「「ありがとうございます」」」

 

そんな話をしているうちに

「いやあ、遅れてすみませ~ん」

 

五条悟が背後にいた先日の任務から呪力の気配を探ること絶えず行っていたが、全然気が付かなかった。直哉も同じく全く気が付かなかったらしく小声で「ホンマモンはやっぱ違うわ……」と呟いた。

 

「わざわざ禪院家当主の御子息達が見学に来てくださるなんて光栄ですー」

 

「悟、変な敬語はやめーや」

 

「そうだね、何しに来たの?」

 

「表向きには妹の学校見学の同伴、実際は特級呪術師をみんなで見るためや」

 

「ふーん、そう、君等が禪院家の双子ちゃんと噂に聞く非術師が育てた呪術師ねぇ……」

 

五条悟がじっくり舐め回すように三人を見始める。

 

「直哉さん、あの人目隠ししてて見えるんですか?」

 

「『六眼』って言ってな、千里眼みたいなもんや、あれしてないと見えすぎるらしいで」

 

「なるほど、特級は術式以外も凄いですね」

 

二人でコソコソ話してると五条悟が話し出す

 

「よし、君ら、戦おうか」

 

「「「え?」」」

 

「ええやん、やってきな」

 

「私もですか?」

 

「うん、高専入るんでしょ?」

 

「いや、私は」

 

「私は「やってやろうじゃねえか!!」

 

「私の「願ってもない話ですね!!やってやりましょう!!」

 

「んじゃ、あとは頼んます。自分、夜蛾さんと話してきますんで」

 

「はいはい任されたよー、じゃあ運動場まで飛ぶから捕まっててね」

 

三人を小脇に抱えると体が垂直に飛び上がった。

 

「ひいいやああああああああああ」

 

真依の悲鳴が木霊した。

真依は移動だけでダウンした。

真希は無断で借りてきた呪具を振るう前に腹パン食らって倒れた。

 

『投影呪法』

「『編集(ディレクト)』『代役(スタントマン)』」

 

三人の京が五条に襲いかかるがすべてをかき消される

 

「ふーん、面白い術式だね…」

 

『投影呪法』

「『編集(ディレクト)』『時間(デュレーション)』『圧縮』」

時間圧縮して無刀抜刀術の溜めを短縮

 

「『編集(ディレクト)』『移動(スライド)』」

溜めの構えのまま移動

 

『閃』←無刀抜刀術に直毘人さんが名前をつけてくれた

 

首を捉えたと思える抜刀術の刃は届かなかった

 

「うんうん、十分強いねでもまだまだ。」

 

(マジかよこの人、こっちは全力でやってんのに全然底が見えねぇ)

 

「『陣』」

 

「あ、それヤバいかも」

 

編集(ディレクト)』『停止(ストップ)

 

「おろ!?」

 

ここに来る前日、直毘人が仕込んだvs五条悟のための安全装置、『陣』で領域内の五条を覆う無限を知覚してしまうとそのまま六眼の無い京は脳死してしまうため直毘人に処理の無限ループが起きないように仕込まれていたのだ。その代わり本人は強制的に気絶するが五条悟が近くにいるなら命はなんとかなるだろうという考えである。

 

「止まっちゃった……どうしよう?おーい!おーい!」パンパン

 

顔の前で手を叩いても起きそうにない。

 

「よし、ふんっ!!」

 

呪力で心臓と肺を無理やり動かしてみた

 

「ごっふぇい!!…………ん???何が起きた?」

 

「君、僕の無限を知覚しちゃって気絶しちゃったのよ。気絶してなかったらヤバかったよ」

 

「マジか……そしたら直毘人さんすげぇわ、前に変な術式のノート渡されたんだけど、そういうことね。」

 

「あははははは、ぶっつけ本番で命がけの新術式成功させたのかい?しかも、使用用途が超限定的なやつ!!」

 

「今は成功なのか失敗なのか全然実感沸かない。」

 

「よし、じゃあお互い術式なしで戦おうか」

 

「はい!!よろしくおねがいします!!」

 

五条悟は感じていた。彼は既に『イカれてる』側の人間だ、自らの技術向上のために命を簡単にかけられる人。

 

『桐ヶ谷流抜刀術』

久しぶりにやる術式を用いない戦い。

「『閃』!!」

五条は紙一重で回避する。

「見えない刃を避けるのは目の力ですか?」

 

「そうだねー、次は僕から行くよ」

左ジャブのフェイントからの右フック。

「(術式なければ投射呪法のほうが早っ『黒閃』バコンッ

 

完璧なガードをしていた京が吹っ飛んだ

 

「おっ?今日は一発で決まったかー!!大丈夫ー?」

 

「……いってぇ……大丈夫でーす」

 

「今のが『黒閃』拳のインパクトと呪力のインパクトのタイミングを誤差0.000001秒以内にすると起きる現象ねー、威力は通常の2.5乗、普通はこんな簡単に出ないんだけど今日は君が面白いから一発で出ちゃった!」

 

「……なるほど。……なるほど。ちょっと思いついたことあるんで試してもいいですか?」

 

「いいよー」

 

『投影呪法』

「『編集(ディレクト)』『時間(デュレーション)』『伸長』……よし、行きます」

 

「なるほどね……その発想はすごいかも、でも。」

 

五条悟が舌を巻くほどの術式、それは人為的な『黒閃』

すべての攻撃をガードしつつ術式を紐解いていた。

京が行っているのは呪力のインパクトの時間を伸すことで必要タイミング誤差0.000001を広くしていくというもの。衝撃が長く続くというのも不思議な体験だが徒手空拳をメインに鍛えている京の『黒閃』は相当の威力である。だが、それも全て五条悟は受けきってしまった。10発の黒閃を打ち切ったときには

 

「もう無理、呪力切れ……タフ過ぎ、勝てねーよ最強」

 

「そうだね、僕最強だからね〜♪んじゃみんな集まってー」

 

夢中で気がついていなかったが、姉さん達は起きて見ていたようだ。

 

「では、総評を言わせていただきます。眼鏡の方、高専来るならうちに来なさい。君みたいなタイプは京都校だと腐らされる確率が高いからね、思い当たる節はあるでしょ?」

 

「はい」

 

「そして眼鏡じゃないほう。君はもう少し護身術などを身につけて衝撃に耐える練習をしなさい。僕ほどとは言わないけど御三家は呪詛師から狙われるからねーもう少し人から命を狙われる危機感を持ちなさい」

 

「……はい……」

 

「そして最後にサムライボーイ!!ズルして『黒閃』が出せてもダーメ!『本物』と同等の威力は出るけどガス欠が早すぎ!!『黒閃』の旨味はコスパなの。ただ、練習には良いかもしれないので鍛錬の一環としてイメトレに使いなさい。最後に『陣』に僕を巻き込むのは禁止。イイね?」

 

「はい……」

 

「というわけで、グレートティーチャー五条の特別授業終了!!」

 

「おつかれさん。途中から見とったけどなんか掴めたか?」

 

「……一瞬『陣』で見た無下限呪術と六眼、あと、直に食らった『黒閃』……なんか、呪術の真理に触れた気がします」

 

「もっと強くならないと……」

 

「……………」

 

「そうか、とりあえずご飯いこかー、京もいるし回る寿司の食べ放題で勘弁なー」

「やったあああ寿司だあああ「五月蝿いねん」ゴッ

 

「二人共、あそこの高専の車で行くからそこまで京を頼むわ」

 

「「わかりました」」

 

寿司の力は偉大だ基本的に直哉に負の感情しかない双子が異を示さずしたがって引きずっていった。

 

「悟、あいつはうち(禪院家)のや、絶対に渡さへんで」

 

「だろうねぇ、あの年であそこまでなのは僕や傑以来かもねー」

 

「腹立つけどそうなんや、ただ、あいつといると呪術の真理に近づける気がするんや………お前にとって傑君がそうだったようにな……俺は今でも甚爾君を手放した親父たちは馬鹿だと思ってるで」

 

「そうだねぇ僕もそう思うよ…つくづく本当に……じゃ、寿司行くんでしょ?僕も行っていい?」

 

「………お前の会計はお前でやれよ。」

 

「やったーー」

 

このあと京の食べっぷりに五条がドン引きしたのを『五条悟にまつわる笑い話』として得られた直哉は上機嫌だった。

 

 




まだ『領域展開』はできない。
支配者になるのは高専入学後になると思う


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

五話 一年が過ぎて

京の技術の説明回


京が禪院家に来て一年が経った春のある日

禪院家の書庫で京は座学に励んでいた

 

半年前、『最強』五条悟と対面してから『呪術』の理解を深めることに努めた。

扇さんや甚壱さんなどの炳の上部メンバーとの手合わせを経てもあのときの高揚感と理解度に勝るものに至れず、手合わせから座学へとシフトしていた。特級相当の相手と戦うことで理解度が深まると考えたが今の所、準一級相当扱いの京では任務の許可が降りず駄々をこねたのはここだけの話。

 

真希真依との関係も変わった。

正確には京には真希真依の住んでいた離れから母屋の一室が与えられ世話係の女中が専用に付くようになった。名前を禪院琴音(ぜんいんことね)と言う。母親が禪院家の分家の人で父親は元高専生の準一級呪術師だったらしい。

何故『らしい』なのかというと3ヶ月前に呪詛師に呪殺されたため本家で引き取ったとのことだ。怖いよ禪院家、本当に相手は呪詛師だよな?

 

琴音も呪術師志望であるが術式を持っていないため『陣』や『閃』などの術式を使わない技術を教えたりしている。

分家の女性であるため躰倶留隊への入隊義務も入隊権利も無いらしい。いずれは両親を殺した呪詛師を祓うことが目標だそうな。

 

そして、現在、京は十種影法術について学んでいた。

影を自在に操り影写しを実現させる術式は自分の術式に活かせないか考えていた。

書物によると昔の六眼と無下限呪術を扱った五条家の人間と十種影法術使いの禪院家の人間が差し違えたことがあるらしい。

あのチートみたいな奴と刺し違えるって何だよ?と思いながら十種影法術についての書物を読み勧めている。

 

気になっているのは『調伏の儀は何人でも参加できる』という一節、結果として摩虎羅の調伏には何人がかりでも出来なかったそうだが逆に考えれば自分の術式の縛りを相手にも強要することができるのではなかろうか?

『縛り』は『術式』を補強するための『ルール』であって『術式』ではない。未だに『領域』に『術式効果』を付与できていない京にとっては十分試す価値のあることであった。

 

試しにやってみた。

相手は直毘人さん。桜を見ながら暇そうに酒を飲んでいる。

 

「『疑似領域展開』」

とりあえず目の前に立って展開してみた

 

『落花の情』

すぐに対応された。酒飲んでても呪力操作完璧なの普通なのかな?

 

「……………」

 

「……………」

 

「京よ……なんじゃこれは……?」

 

「『領域内では術式の使用を制限する縛り』だけを付与した領域です。」

 

「ふむ、そうか、まだまだ『縛り』が甘いな……」

 

「え?」

 

『投射呪法』

 

ドカッバキッボコッ

 

たんこぶで済んで良かった。花見酒してる直毘人さんに攻撃しかけるのはやめておこう。

『縛り』とは自分に手札がいっぱいなければ補強されない。2枚ある手札の1枚に絞る縛りより10枚ある手札を1枚に絞る縛りの方が『術式効果』が上がるのだ。今の縛りでは直毘人さんクラスだと無理やり術式を使われるし『最強』ならば今の京の机上の空論の『疑似領域』では上書きされて終わりである。

 

「呪術の本質かー琴音はどう思うー?」

 

「すみません、私には『術式』が無いためわからないです。私にできるのは呪力操作と帳を下ろしたりする簡易なものだけですから」

 

「…………自分にできることか……琴音、道場に行こうか」

 

京は自分にできることを思い返すことにした。

道場に移動して琴音に巻き藁を用意させて久しぶりに木刀を握る。

 

「『桐ヶ谷流剣術』『閃』」

 

「『桐ヶ谷流剣術』『断』」

 

『閃』は呪力の刃による抜刀術

『断』は呪力の刃で上段から面を打つように一刀両断する技

なんとか2回の攻撃に耐えた木刀が崩れ落ちる

これは桐ヶ谷流剣術が無刀に至った理由、己の力が武器に与える負荷が強すぎて武器が攻撃後にボロボロになるのである。

木屑で汚れた手を払ってから無刀抜刀の構えをとる。

 

「『桐ヶ谷流剣術』『陣』」

 

桐ヶ谷文幸が到達した『簡易領域』領域内の全てのモノの運動を認知できる。

ここからが自分の術式

 

「『投影呪法』『編集(ディレクト)』『代役(スタントマン)』」

 

まだ残っていた巻き藁に影で作った分身三人が攻撃を仕掛ける幻影を作る。

そのうち一体と同じ攻撃をすることで威力を向上させるというもの。

分身は実際はもっと出せるが『3人に縛り』と『幻影に答えを混ぜる縛り』と『幻影以外の攻撃には呪力を乗せない縛り』の3つの縛りを付けることで経験の浅い京でも戦うことができていた。

 

「『投影呪法』『編集(ディレクト)』『時間(デュレーション)』『圧縮』」

 

これは『投射呪法』の真似事、自分にしか術式効果は無いが予め作った自分の動きを圧縮して再生することで動きを加速させる術式。体への負荷と『時間(デュレーション)』の呪力消費量が多いため短期決戦用である。無理して1.5倍、普通に使うなら1.3倍が限度。

 

「『投影呪法』『編集(ディレクト)』『時間(デュレーション)』『伸長』」

 

呪力のインパクトの時間を伸ばすことで『黒閃』の0.000001秒の誤差範囲を無理やり広げて『黒閃』を無理やり引き出す技。

1000倍の0.01秒まで広げているため呪力消費量が凄まじい。

 

これまでに自分が解釈し使えるようになった技術を並べてみたがどこをどう拡張すべきか?やはり自由で柔軟な発想というものは屋敷の中では生まれそうにない。高専入学までは今ある術式を磨くべきなのかもしれない。

 

片付けを琴音に任せて自分は鍛錬の汗を流すために風呂場に向かった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

六話 交流戦見学

1年が過ぎ、また春になる。京も中3になって背が伸び現在175cmとなっていた。まだまだ成長期である。

双子の姉が高専に行った。

真希は東京高専に、真依は京都高専に。

二人共楽しくやっているが姉の方に特級術師が転校してきたらしい。少なくとも『最強』より話になるだろうってことで東京高専に行っていいか許可を取りに行った。

 

「駄目だ」

「なんでさ!!」

 

「禪院家は乙骨の秘匿死刑肯定派だ、真希は家出していることになってるがお前さんは禪院家預かりになっている以上俺が東京高専への見学を許可した場合『禪院家が送り出した執行人』として会わねばならん。そうしたら乙骨のケツモチをしてる五条悟と乙骨本人の特級二人を相手にしないといけねぇ、おめえじゃ無理だ諦めろ」

「うーん、そこをなんとか?」

 

「夏まで待て、夏になれば本人が交流戦のために京都校に来るだろう、交流戦中ならば『執行人』ではなく『学生』として見学させてもらえるだろうからそれまで待て」

 

「……なるほど?わかりました(毎回丸め込まれてる気がする………ま、いっか)」

 

それから月日が流れて交流戦当日

ウッキウキになりながら琴音を引き連れて会場である京都校に向かったら変な男に絡まれた。

 

「少年!!お前はどんな女が好みだ?」

 

「何いってんだこのゴリラは?」

 

「(傍から見れば京もゴリラでは?)」

琴音は言うと京がいじけて面倒なので心のなかで留めた。

2年の『東堂葵』というらしい、真依姉さんからは「関わるとバカになる変態だから近づかない方が良いゴリラがいる」と言われていたが京は近づかなくても相手から来るなら回避できなくないか?と思った。

 

「…………???うーん?スタイルに自身がある人???」

 

「ほう………まあ、悪くないな……少年!!、来年高専に入るなら京都校に来い!!」

 

「……考えておきます」

 

会話を終えるとゴリラ先輩は歩いていってしまった。

琴音は禪院家の血筋なのか真希真依と同じぐらいのスタイルの良さなので心のなかでガッツポーズをしていた。何となく京にバレるのが腹立つからである。

会議室に着くと学長や先生方が集まっていた。

 

「本日は見学の許可をいただきありがとうございます。」

 

「ほう、君が桐ヶ谷の孫かね?」

 

「はい、師匠の桐ヶ谷文幸は父方の祖父にあたります。」

 

「禪院家の方からも話を聞いておる、既に准一級相当、若いうちから日々鍛錬に努めていると。」

 

「あれれー?歌姫ー?中学生に追いつかれちゃったねー?」

 

「五月蝿い!!」

 

「ありがとうございます、入学時には一級になれるように日々努めて参ります。」

 

「今日は先輩たちの戦いを見ていくが良い。」

 

「はい………琴音」

 

「直毘人さまから寸志を頂いております。御口に合うかわかりませんが和菓子を用意させていただきました。」

 

「ありがとう。三輪、お茶を入れてきなさい」

 

「はい!!」

 

「琴音もついていきなさい」

 

「はい」

 

二人はお茶を入れに給湯室へ出ていった

 

「サムライボーイ!!女の子の扱いなれてるじゃなーい!!禪院家に毒されちゃった??」

 

「兄姉貴分がこういうの苦手すぎるから任されるんですよ」

 

「確かに直哉君はこういうのやりたがらないだろうし、真希がこんなに改まって話してたら病気を疑うからねー!!」

 

「ソウデスネー」

 

『陣』

 

だる絡みしてくる五条と話しながらも五条を避けて呪力を隠すように『陣』をしてみた。

すごいな、学長二人と銀髪の女性と金髪メガネの七三男性は気がついた。

 

「サムライボーイ!僕を避けて隠しながら簡易領域展開とはとっても器用になったね。でも術者を簡易でも領域内に入れるのは威嚇射撃より悪質だからダメだよ、そこんところ禪院家じゃ教わらなかったかなー?」

 

「そうなんですか?直毘人さんからは相手が術師ならいつ何時でも仕掛けていいって言われてます。既に数え切れないほどボコボコに殴られてますが……」

 

「一般的な術師に術式や呪力を使った攻撃をしたら駄目、この簡易領域は攻撃と見なされるから面倒事を起こしたくないやらないほうがいいよ?おじいちゃんびっくりして心臓止まっちゃうかもしれないなら。」

 

「勉強になります」

 

「「「「「(あの五条がちゃんと指導してる!?)」」」」」

 

「あと今の全然気が付かなかった歌姫は術式探知能力磨こうねー!!」

 

プチッ「うるっさいわねーー!!あんたは一言余計なのよ!!!」

 

「お茶が入りましたー」

 

会議室は和やか?なムードで進む交流戦であったが、会場は凄まじいものであった。乙骨が攻め、乙骨が守り、乙骨がポイントを奪っていく。加茂家の術師と先程のゴリラがなんとか相手になっていたが殆ど蹂躙だった。

 

「凄いですね、特級過呪怨霊、ワンサイドゲームだ……」

 

「京くんはどうやって対処しますか?」

金髪メガネ七三術師が話しかけてきた。

 

「ナナミンさん「七海です。ナナミンはバカがつけたあだ名です」七海さん、もし自分一人だったら逃げますかね、他に人が……五条さん以外がいたら逃がすために戦いますかね……何分持つかな……?」

 

「それは他にいる人がここにいる五条悟以外全員いてもですか?」

 

「そうですね……その場合は一級術師がこれだけいるなら准一級以下の術師は自分が引きずってでも逃げますね、今の所『呪霊』相手は格上は禪院家の炳が倒してくれるので格下しか戦ったことのない自分では経験が浅すぎます。誰がアレのヘイトを買うかわからないので追撃の心配がありますし」

 

「………正解です……………」

 

「もう、保護者同伴の任務は必要ないんじゃない?」

銀髪の術師冥冥が会話に混ざってくる

 

「自分もそう言っているんですけど……禪院家のおかげでここに居ますし、任務も禪院家に来たものですから何も文句言えませんよ。」

 

「高専来たらバンバン行かせるからねー!!東京校来なよー!」

 

「考えておきます……このあと学生と話せますか?」

 

「未来の先輩たちと話したいんだ?いいよ、一緒に行こうか」

 

「まてバカ五条、私も行く!!」

 

京と五条と歌姫が部屋を出ていく。

五月蝿い人たちがいなくなり沈黙が続いたが唐突に楽巌寺学長が気がつく。

 

「京都校の連中は気絶してるから、京は特級過呪怨霊に喧嘩売りに行ったな歌姫では止められん……夜蛾……今すぐ行って止めてきなさい。」

 

「……あのバカが………」

 

夜蛾学長は怒りで拳を握りながら部屋を出ていった

 

「私はいいのかしら?」

 

「お前に頼むといくら請求されるか分からん」

 

「あら残念」

 

「禪院琴音と言ったかね……なぜ君は京についていかなかった?」

 

「私がついていくより京様が生き残る可能性が高いことが先程の会話でわかったので……一級術師が多く居るこの校舎内にいれば少なくとも巻き込まれることはないと思いました。歌姫先生は……五条悟がいれば無事でしょう」

 

「そうか……たしかにな……」

 

「かなり良い着眼点を持っていますね……彼は経験の少なさというハンデはありますが、戦いに関してはかなり良い目を持っていますから彼の意見を参考に危険に見を投げ出さないのは良い判断です。貴女は術式を持っていないと聞きましたがそれでも良い術師や補助監督になれますよ。」

 

「ありがとうございます……お茶おかわりいりますか?」

 

「貰おうかの」

 

「私もお願いします……長くなりそうですから……」

 

「じゃあ私の映像は交流戦って契約だったけどこれからの戦いは追加料金必要だけどどうする?交流戦の半額でいいけど?」

 

「わしが払おう」

「毎度ありー」

 

「三輪はしっかり見ておきなさい、シン・陰流とは違う方法剣士の境地じゃ。」

 

「はい!」

 

 

 

 

先生たちから総評をもらうために乙骨は校舎に向かって歩いていると先生二人と見知らぬ少年がこっちに向かって歩いて来るのが見えた。

 

「先生!!終わりまし……」

急に領域に入れられた、なんで?

 

「憂太をォォ」

 

「ちょっと!!里香!!出てきちゃだめだ!!」

 

『投影呪法』『編集(ディレクト)』『代役(スタントマン)

 

『幻影』によるフェイントに怯んだ乙骨の顔に一発殴りを決める。

 

「いじめるなぁあああああ」

 

特級過呪怨霊 『折本里香』完全顕現

 

術式省略(ショートカット)』『圧縮』『伸長』『縛りなしの代役(スタントマン)

動きの加速、人為的『黒閃』、縛りをなくした『幻影』によるフェイント

今持つフルパワーを目の前の『最高の獲物(特級術師)』にむけて放つ

 

が、すべての『幻影』を里香が消し去り加速により威力を倍増させた『黒閃』20連撃もすべて受け切られてしまった。

 

「(すげぇ!!やっぱり特級すげぇ!!!)あはははははは」

 

「きみ!!急に何するんだ!!里香も辞めるんだ!!」

 

「特級相手なら真理に触れられるかもしれない!!」

 

「何言っているんだ!!」

 

「縛れ、『疑似領域展開』-------」

 

「な!!」

 

「五条!!早く止めんか!!!」

 

『領域展開』〜無量空処〜

京の『簡易領域』が五条悟の『領域』に上書きされていく

 

「はい、それ以上はダメー。そして、かなり出来のいい『領域』だけど、『術式を付与しない領域』だと完成度が低いね。まだまだ『縛り』が足りないなー」

 

「憂太は相手が誰であろうと自分でやり返す!!って心持ちでいないと里香ちゃんが暴走するから里香ちゃんがやる前に憂太が殴り返さないとまた暴走するよーごめんねー里香ちゃん、今から領域解くけどその後この子が憂太に謝るから許してね?」

 

「………あ"い"」

 

「返事ができて偉いねー、では」

 

深々と頭を下げる京。

 

「……喧嘩売って……すみませんでした……真希さんから聞いてたので、五条じゃない特級なら勝てるかもと思いました。」

 

「いやいや、いいよ。もしかして真希さんの実家で住み込みで就業してる子って君?」

 

「はい、桐ヶ谷 (みやこ)って言います。今後とも宜しくお願いします。」

 

「そうなんだ!僕は乙骨憂太、真希さんとは同級生なんだ。よろしく!!」

 

二人は握手を交わす

 

「里香、これで僕らは『友達』だからね…………」

 

この一件を見ていた一級術師と特級術師 五条悟により『黒閃』の連続記録の大幅更新により『特級術師』に推薦された。

 




「彼の力は想定以上だ、百鬼夜行のときは悟と彼の対策もしないとねぇ、ミゲル、彼と五条の相手同時に相手して15分持つ?」

「無理に決まってるだろ!!『黒縄』は術式しか乱せないんだぞ!!五条対策が使えない!!」

「だよねー、彼と悟はお互いに術師としては相性を対策を補完してる、別の対策を考えないとなぁ」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

七話 百鬼夜行

2017年12月24日 京は京都校の面々と一緒に京都にいた。

 

「君だね、交流戦のとき僕らが医務室に行ってる間に乙骨君に喧嘩を売って怒られていた中学生とは」

 

「あははははー有名になってましたかー」

 

「マイ・ブラザーよ乙骨に挑むとは……わかってるじゃないか!!」

ゴリラ先輩に抱きつかれつつも話を続ける

 

「今日はよろしくおねがいします。ていっても、僕の『疑似領域』は入るとよっぽどのことがない限り『術式』の使用を制限してしまうんで殆ど別行動ですけどね。東堂先輩、三輪先輩、よろしくおねがいします。」

 

「よし、マイ・ブラザー共に祓いまくるぞ!!」

 

「………え?私っ!!」

 

「『術式』しか縛らないので『シン・陰流』は術式じゃないんで『疑似領域』でも使えるんですよ、相手も『領域展開』をやり返してくるんで対処できそうな人だけを借りていいって言われてます……加茂先輩はバランスを見てです。」

 

「それで琴音は連れてきてないのね……」

 

「彼女は等級も無いですから……家にお留守番ですね、真希姉さんも東京高専に幽閉されてるみたいです」

 

「では、自分たちは西の方に行きます。皆さん無事なら後ほど合流地点で会いましょう」

 

補助監督の人に車を出してもらうと東堂と京が乗り込む

 

「………………」

 

三輪は涙目になりながらも全力で行きたくないオーラを出してるが目で((早くいけ))と伝える級友と先輩の無言の圧力に屈した

 

「大丈夫です。やばくなったら三輪先輩だけ逃しますよ。」

 

「そうだな!!」

 

「三輪ちゃん、ガンバっ」

 

「………ぴえん」

 

補助監督の激励が三輪の心に染みた

 

 

 

そして日が暮れ………百鬼夜行が始まる。

 

 

 

大量の呪霊が放たれる

 

「『陣』」

 

「これは桐ヶ谷流の『簡易領域』です。『目立つように見える縛り』と『出入り自由の縛り』を課すことでかなりの範囲をカバーできるようになりました。術式付与をしてないんで必中でも必殺でもないですが領域内のすべてを認知出来ます。簡単に言うとレーダーです。ここから合流地点に向かいつつ大物を見つけるまでは三輪先輩と東堂先輩には討伐をお願いします………2時の方向、2級が3、3級が5」

 

「よしきた!!フンッ!!」

 

「はい!!」『シン・陰流』『簡易領域』〜抜刀〜

 

殴りと抜刀術で呪霊を祓っていく

「9時の方向に1級が1、5時の方向に3級が4!!一級はここで僕のところまでひきつけます。二人は先に3級の方をお願いします」

 

「おう!!」

 

「はい!!」

 

二人と別れると無刀抜刀の構えを取る

 

三輪先輩を引き抜いてよかった。『シン・陰流』を『陣』の中で見ることで理解することができた。

 

『陣』の中にもう一つ小さな『陣』を作るイメージで『簡易領域』を作る。

 

「ふぅーーーーーーー」

 

内側の『領域』の中に敵が入ることに集中する

待て

 

待て

 

待て

 

待て

 

来た

 

『桐ヶ谷流』『簡易領域』〜閃〜

 

バシュッ

ドゴーン!!

 

まるで落雷のような音と地響きが京都に響いた。

 

「やるなあ!!流石はマイ・ブラザー!!」

 

「東堂先輩走るの早いです!って、うわっ!!」

 

「……やべぇ……領域に集中しすぎて出力間違えました……」

 

商店らしき建物の膝より上が一級呪霊と一緒に消し飛びました。

 

「すみません、後で一緒に怒られてください」

 

「はっはっはっは、俺もさっきポストを破壊したから大丈夫だ!!三輪も電灯を呪霊ごと切っていた!!」

 

「そ、そうですよ!!私も呪霊がやったって証言します!!」

 

二人から励まされながらも合流地点に急ぐ。

少し走って気がつく。呪霊が全然いない。かなりの広範囲の陣にも引っかからない??なぜ?すぐにその理由がわかった。

 

「6時の方向、特級1体………三輪先輩走って合流地点に向かってみんなに暗闇には入らないように言ってください……」

 

その場で後ろを向き抜刀の構えを取る

 

「え?でもっ!!」

 

「いいから走れぃ!!!」

 

東堂の怒号に驚きながらも走り出す三輪が十分に離れるのを確認すると東堂も構える。

 

「そういえば先輩術式の内容よく知らねえや」

 

京は位置を入れ替えるぐらいしか知らない

 

「術式の内容は今はいい、とにかくお前は俺を信じろ」

 

「……わかりました……」

 

外灯や信号の光が『奴』かいる方からポツポツと消えていく。

京都を暗黒の領域が侵食していく。

 

「生得領域の暗闇で姿を隠してて見にくいですが人型です」

 

「暗闇か……感覚だけで戦うのか……」

 

「『陣』も一瞬で塗り替えられていってます。先輩が領域使えないなら感覚だよりの戦いになります。あと、自分の術式は影を利用するので影のできない暗闇の中だと一部使えません。」

 

「それでもやるぞブラザー!!我々は戦わねばならない!!それが呪術師だ!!」

 

「はい!!!」

 

二人を暗闇が包み込む

 

「『桐ヶ谷流』『簡易領域』展開」

 

「すぅーーふぅーーーーー」『簡易領域』展開

 

二人は構え、呼吸を続ける。

 

互いの一定に続く呼吸だけが聞こえる。

 

『奴』の気配だけがゆっくり、着実に近づいてくる。

 

ゆっくり

 

ゆっくり

 

ゆっくり

 

ゆっくり

 

ゆっくり

 

まだまだ気配は遠い

 

ゆっくり

 

ゆっくり

 

ゆっくり

 

ゆっくり

 

ゆっくり

 

〜閃〜

戦闘の火蓋は切って落とされた

 

「後ろ!?……浅いです!!」

 

シン・陰流の真似事簡易領域のおかげで急に後ろにいた相手に対応できた。

浅いが相手に攻撃することができた。

 

パン!!

 

東堂と京の位置が入れ替わる

特級呪霊の領域に生身にいる緊張感と底しれぬ暗闇の死への恐怖が東堂葵の本領発揮を促す

 

「フンッ!!」『黒閃』

 

パン!!

 

省略(ショートカット)』『伸長』「『断』」『黒閃』

 

パン!!

 

「うぉおおりゃああああ!!」『黒閃』

 

もっと乗せる!!今ならできる!!

省略(ショートカット)』『圧縮』『伸長』『簡易領域』『移動(スライド)

 

パン!!

 

〜黒轟閃〜バチチッ

 

ドゴーン

 

時間圧縮による加速とインパクトの伸長による人口黒閃、カウンターである『簡易領域』を術式で無理やり自分の座標を高速移動させてその加速も技に盛り込む技、もちろん東堂の不義遊戯もあるためクリーンヒットした。

 

 

「ぐふっ」ドサッ

 

最初に血を吐き膝をついたのは東堂だった。

 

「東堂さん!!」

 

「京!!『簡易領域』をおこたるな!!」

 

領域を解き近づこうとした京を止める。

 

「こいつの術式の本質は『暗闇』ではなく『侵食』だ…先程一瞬緩めてしまったら魂のほうにダメージを受けてしまった……すぐに簡易領域を展開したからダメージもこれで済んでいる……俺は大丈夫だ……敵を見ろ」

 

「はい……」

 

敵には大きなダメージを与えているはずなのだが、生得領域が消えないということはまだ祓えていないということ。敵はまだ健在である。東堂はまた立ち上がり構える。

 

「キシシシシシシシシシシ」

呪霊が急に笑いだした。そして、

 

「キシシシシシシシシシシ「キシシシシシシシシシシ「キシシシシシシシシシシ「キシシシシシシシシシシ「キシシシシシシシシシシ「キシシシシシシシシシシ「キシシシシシシシシシシ「キシシシシシシシシシシ「キシシシシシシシシシシ「キシシシシシシシシシシ「キシシシシシシシシシシ「キシシシシシシシシシシ」

 

気配が一気に増えた。

京の心は限界を迎えていた、これまで戦ってきた呪霊は常に禪院家の一級術師が同伴であり常に勝てる相手としか戦ってこなかった。相対した特級は五条悟と乙骨憂太であり、どちらも『最強』五条の保護下であった。何処か『自分は死なない』と錯覚していた。だが今回の戦いは誤魔化しの効かない本当の特級との払い合い(ころしあい)。命のやり取り、自分のミスが人の死に直結する。現状不利なら今ここで到達せねばならないまだ練習でも成功したことのない呪術の境地へ……

 

簡易領域を解き、構えではなく印を結ぶ

 

魂を侵食されるがむしろそれでいい己の魂を痛みで認識できる。

 

縛りによる偽物ではない本物の自分の領域

 

術式をもっと自由に!!

 

術式をもっと大胆に!!

 

術式をもっと丁寧に!!

 

 

 

 

「『領域展開』〜戦場の映画館(ヴァルハラシアター)〜」

 

 

 

 

領域(ここ)支配者()は俺だ!!」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

八話 戦場の映画館《ヴァルハラシアター》

動画っていろんな媒体、いろんな形式、いろんな視聴方法があるよね。


「『5』」

 

「『4』」

 

「『3』」

 

『2』

 

『1』

 

照明(ライティング)

 

大量の灯りが東堂を照らす

 

主役(メインキャスト)

東堂葵は特級呪霊に取り囲まれ絶体絶命のピンチ。

そんなときに思い出す走馬灯。

娘役(ヒロイン)

高田ちゃんと過ごした青春時代が東堂葵脳裏を駆け巡った。

 

場面切り替え(シーンチェンジ)

「高田延子です♡よろしくおねがいしまーす!」

高田ちゃんとであったあの春!!

 

 

場面切り替え(シーンチェンジ)

道化(ピエロ)

弟分である桐ヶ谷京に「東堂先輩!!高田先輩にアタックしましょう!!絶対脈アリっすよ!!」と言われて告白しOKを貰ったあの夏!!

 

場面切り替え(シーンチェンジ)

「あおいくん!フォークダンス踊ろ!」

高田ちゃんと学祭を周ったあの秋!!

 

場面切り替え(シーンチェンジ)

「メリークリスマース!!」

高田ちゃんと聖夜を過ごしたあの冬!!

 

場面切り替え(シーンチェンジ)

そして、今朝

「絶対に……生きて帰ってきてね……絶対だよ……」

高田ちゃんとした約束

 

場面切り替え(シーンチェンジ)

この約束を破るわけにはいかない。

漢、東堂葵はまた立ち上がる。特級を前にしても生きて帰らねばならぬのだ。」

 

「そろそろ吐きそうな恋愛模様考えながら『語り手(ナレーション)』するの面倒なので起きてもらっていいですか?」

 

「マイ・ブラザー、俺は高田ちゃんと付き合っていたのか?」

 

「……目の前の『敵役(ライバル)』特級呪霊祓うならどっちでもいいです。」

 

東堂は起き上がり砂を払い戦闘態勢に入る

 

「そうか……では始めようか」

「よーい、『場面開始(スタート)』」

 

パン!!

 

同時に腕を槍のように伸ばして攻撃してきた呪霊たち、一体と自分の位置を交換して同士討ちにより一体を祓うと攻撃後の隙に一体を『黒閃』で祓う。

 

パン!パン!

 

高速入れ替えで一組の同士討ちと一匹を『黒閃』で祓うと残りは8体

 

示威運動(デモ)』『戦闘(アクション)

大量の民衆が様々な呪具を持って影から現れる。

 

メガホンをもった京が路駐されている車の上に乗って一言

 

「我々と家族の自由のためにーーー!!!突撃ーーーー!!!!」

 

暗闇の特級呪霊は最初こそ民衆を潰していたが多勢に無勢、呪具を持った市民たちに轢き潰されていく。

 

そして最後の一匹と東堂葵が相対する。

 

「貴様で最後だ!!」

 

「キシシシシシシシシシシ」

 

「貴様のおかげでマイ・ブラザーの呪術への理解を深めることに繋がった……感謝する。呪霊は呪霊として祓い清められ新たな命となって生まれることを願おう。」

 

「キシシッ」

 

腕槍の攻撃を紙一重で交わしカウンターパンチをキメる

バシュッ

拳が呪霊の胴体を突き抜ける

 

「ありがとう、さようなら。」

東堂葵は涙していた。

 

「はい『場面終了(カット)』!!」

 

領域が閉じると二人共でもその場で崩れ落ちる

 

「生きてるかマイ・ブラザー京」

 

「もう無理。立てないです。」

 

そんなこと二人で話していると

 

「せんぱーい!!東堂せんぱーい!!京くーん!!応援連れてきましたー!!」

 

「二人とも大丈夫ですか?」

 

三輪先輩がナナミンと加茂先輩を連れて帰ってきた。

 

「むしろ他が大丈夫なんですか?」

 

「あの領域外の呪霊はすべて祓いました。むしろあのレベルの生得領域を展開している特級呪霊を二人て祓ったんですか?」

 

「もち」

 

「ろん」

 

「あー、体動かねえ、そうだ真依姉さん久々にパシろう」モシモシ−

何とか動く体を動かして電話をする京

 

「いい夢だったなぁ。京、あれは夢だったのか?」

 

「あぇ?あれは僕が(真依姉さんから聞いて)考えた先輩がやる気出しそうなシナリオですよ」

 

「そうか……夢か………」

何故か生き残ったのに悲しい涙を流す東堂葵

 

特級呪霊同時13匹討伐という偉業を成し遂げた英雄の姿はなんともみっともないものだった。

 

「なんとも締まらない奴らだ」

 

加茂家次期当主は級友と後輩の無事を笑いながら呟いた




恋愛映画、青春映画、デモ映画、アクション映画。いろんなジャンルがあるよね?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

卒業試験編
九話 旅立ち


朝、起きると布団をたたみ着替えを済ませ京を起こしに行くが京は既に寝床にいない。何時もの朝のランニングに行っているのであろう。他の女性たちと混ざり台所で食事の準備をする。京の比類無き食欲を満たすために今日も専用の炊飯器でご飯を炊く。

 

朝の鍛錬を終え身を清めた京が食事処に入ってくると私は配膳を行い、私は京のおかわりに対応出来るように少し後ろに座る。京の食事が終わると自分の食事を手短に済ませ食器洗いに混ざる。

 

午前中、京は道場にいた。百鬼夜行で領域展開に成功したもののそれ以降領域展開ができないそうだ。彼曰く「あの時は魂の扉を相手も一緒にこじ開けてくれたからできた。まだ俺は自力で開けることができない」らしい。術式が刻まれていない私にはよくわからないことではあるが彼が言うからにはそうなのであろう。

 

京は半紙をばら撒いて呪力で作った刃で切る。

 

「お見事です。」

 

落ちた半紙を集めるとすべて切り方が違えど2等分になっていた

 

「まだまだだ、切るときに半紙が弾かれていた。切れ味が悪い。」

 

百鬼夜行以降、京は『呪力操作』の鍛錬に没頭していた。私が話しかけても気が付かず、二日間何も飲ますわ食わずでいたこともある。その時は直毘人様に頼んで起こしてもらったことがある。

 

本人的には1~2時間のつもりだったらしい。

 

半紙を2等分に切る鍛錬を続けていると直毘人様が道場に入ってきた。

 

「おい京!!」

 

「あっ、はい!!何でしょうか?」

 

「おめぇ、後1ヶ月でここを出て高専に行くじゃねえか。そのための卒業試験を用意した、受けてくれるか?」

 

直毘人が高専から来た任務の依頼書を手渡す。

無言で依頼書を読み進める京、途中で一瞬眉をしかめるがすぐに何時もの表情に戻り。その場で正座をする。

 

「……慎んで受けさせていただきます。」

 

そのまま一礼した。

 

「……おめえは既に特級だ、この任務に『誰を使うか』、『誰を連れて行くか』、『何が必要か』お前が決めて俺に言え。書面上はお前が行ったとおりに手配してやる、実際にやってくれるかは別だがな。」

 

「承知しました。」

 

「じゃあな、期日までにやれよ」

 

最後にそう告げると道場を出ていった。

その場で何も言わなずに直毘人様が出ていった方向を見続ける京

 

「書類、お預かりしますね」

何時も通り預かってファイリングしようと近づくと

 

「いや、もうちょっと読み込みたいからいいや、これについては書類も集めないといけないから新しく用意しよう」

 

「承知しました、次の買い出しの際に買ってきます。」

 

「いや、すぐに欲しいから一緒に買いに行こうか」

 

「はい?」

 

「二人で外に出る準備をお願いします、外泊許可もらってくる」

出ていった直毘人様に追いつくために走って道場を出ていった

 

「一緒に外泊…………?」

私は理解が追いついていなかった。

 

 

 

 

 

 

部屋に戻ると外泊の準備をしようとするが何処に何泊するのかがわからないため取り敢えず二人3日分の着替えや生理用品を準備してそれぞれスーツケースにまとめている。これまで京の準備は急な任務で日本全国を周っていたためもう慣れたものであるが、急なものは私は無かったため驚いている。きっとなにか特殊な事情でもあるのであろう。私の両親も急に出ていっては何週間も帰ってこないこともあった。呪術師とはそういうものである。

 

「外泊許可取れたよ……って何泊するか言ってなかったね、多分一ヶ月ぐらいかかるからホテルの洗濯機を借りたり最悪その場で買おう。長い間帰らないから他の女中への挨拶に行ってきなさい」

 

「……承知しました。」

私は奥様方に報告に向かった。

 

 

 

 

「で、今度はどこに行くのかしら?」

京は任務で遠出をするたびに現地のものを土産に買ってくるため奥様方から少し期待されてたりする。そういえば今回は目的地を聞いていなかった。

 

「………何処に行くんでしょうか?」

 

「そんなの私達が知るわけないじゃない」

 

奥様方は笑っていた。

 

「ま、目的地を知らない二人旅なんて、なんかロマンチックじゃない?」

 

「やーだまだ中学生よ?どうせ誰かついていくんでしょ?」

 

「………誰が保護者なのか聞いてません。」

 

「あはははは、もしかしたら任務に託けた二人旅かもねー、卒業旅行だと思って行ってきなさい!」

 

「ありがとうございます」

 

任務内容を確認している京の表情は引っかかるが私を同行させるということは『安全』が保証されているのであろう。これまで危険な任務の同行はずっと許されていなかったため今回はそうなのだろう。私は疑問を飲み込み部屋に戻った。

 

 

 

 

 

「挨拶は済んだかい?」

 

「はい……あの、今回の任務の内容って教えてもらえないんですか?」

 

「んーー、極秘任務だからダメだね。今後の予定もまっ白の出たとこ勝負、とりあえずこれから京都高専に行くよ。今日はそこに泊まるから。」

 

「承知しました………そういえば車は?」

 

「タクシーお願いしてあるから駅までそれで行くよ」

 

「はい………」

 

こうして中学生二人の流れ旅が始まった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十話 女子三人以上が集まると起きること

駅に着くまでの間、京は任務については一言も喋らなかった。極秘任務というのだから私に話すことができないのであろうと思い私も聞こうとはしなかった。最寄り駅につき会計を済ませるとケータイショップでスマホを買った、初スマホである。その後、文具屋でファイルとペンと日記帳を買った。今回の任務期間中に私が見聞きしたもの記録に残すように言われたためである。先程の奥様方との会話も可能な限り書き出すように言われた。あと、他の人に見られないようにとも、面倒ではあるが指示に従う。

 

ガラガラの電車の中、記憶の限りノートとにらめっこしていると京都高専の最寄り駅に着いた。

 

「任務のことは内密に………今回は東京と京都、どちらの高専に行くかを決める最後の見学ってことになってるから……」

 

ほとんど誰も降りない電車のホームでボソッと告げられた。

駅でタクシーを拾って京都高専に向かう。

 

タクシーの中では先程買ったスマホの設定をしていた

 

「まさかスマホが買っていただけるとは思いませんでした」

 

「保護者いないと何かと不便だし連絡用にも必要だからね…禪院本家と直毘人さんとお兄さんとお姉さん方には番号とメアドの連絡をしておいたから………あとの親戚連中は今は知らんでもいいでしょ。一応分家の電話番号だけ入れておこうか」

 

「ありがとうございます」

 

「あと、直毘人さんや他の禪院家の人にも言ってあるんだけど、警察に職質されたときにもしかしたら電話するかもしれない、そのときは直毘人さんか奥様方に代わってもらってお父さんとかお母さんとかそんな感じ言ってね、説明するの面倒だから」

 

「……確かに」

 

中学生の二人旅も異常なのに実家に電話して親を様付けで呼ぶのは不自然である……

 

そうこうしているうちに京都高専についた。

 

 

 

「急な訪問に対応いただきありがとうございます」

 

「いやいいよ、儂としても君にはこちらに来てほしいからの。部屋も用意してある。いくらでも自由にしていきなさい。歌姫、部屋に案内してあげなさい。」

 

楽巌寺学長に挨拶を済ませると歌姫先生に連れられて学生寮を案内された。

 

「こっちが男子寮であっちが女子寮、桐ヶ谷くんはメカ丸が寮の案内をするように頼んであるからそっちで聞いてね、禪院さんは私が案内するわ」

 

「わかりました」

 

「え?」

 

「ん?どうしたの?」

 

「私が一人部屋ですか?」

 

「そうよ。それがどうしたの?」

 

「家では京様付けで同室だったので……」

 

「そうだったの?」

 

「……ここだけの話……禪院家のやり方ですよ……彼女が来るまでは真希姉さん真依姉さんと同室でしたし……」

 

「はぁ………子供相手に何やってんだか……ここに来たからにはこちらのルールに従ってもらうわ」

 

「「ありがとうございます」」

 

京と別れると女子寮を案内された。

 

「談話室がここ、これ部屋の鍵。部屋番号はタグに書いてあるから、真依さんの隣の部屋ね。お風呂場があっち、洗濯機もあるから自由に使っていいわ」

 

「………京様の衣類の洗濯は?」

 

「そんなの男に自分でやらせなさい!!」

 

「……はい……」

 

「じゃ、詳しい話は先輩たちに任せるわ〜」

 

にこやかに笑う先生の視線の先には真依姉さんと三輪先輩と金髪の先輩がいた。

真依姉さんに案内されて部屋に荷物を置くと談話室に連れてかれた。

 

 

「真依ちゃんと髪色は違うけど目鼻立ちの鋭い典型的な禪院顔ね……」

 

「私は鏡みても姉さん思い出して苛つくから髪色違うだけで随分マシよ」

 

「交流戦の際にはお手伝いいただきありがとうございます」

 

いつの間にか先輩方に囲まれていた。

 

「京は炊事洗濯全部自分でできるから大丈夫よ」

 

「……そうなんですか?」

 

「あいつ、自分でやると私らが母さんたちに怒られるからやらなくなっただけよ」

 

「なるほど」

 

「大変なんですね禪院家って……」

 

「古典的な男尊女卑って嫌ーな感じー」

 

「………ある意味、本家では一般的な価値観の京の所有物扱いのうちが一番楽かもね…直毘人様のお気に入りの京のモノだからお母さん達から無駄にイビられる事も無いし、野郎どもから適当に扱われることもないから……嫌じゃないなら結婚可能になったら早く結婚して分家に出ちゃいなさい。あいつは本家を継ぐ気なんてサラサラないし……金だっていっぱい稼げるんだから」

 

「はあ……」

そういえば自分が京の保護下でないときの本家の人たちに会ったことが無い。

 

「京様が来る前は大変だったんですか?」

 

「……そうね……私ら宗伝の術式を継げなかったって理由でクソ親父に捨てられて本家に養子として迎えられたんだけど、主に姉さんが何かと口答えしてそのたびにクソ親父や直哉にボコボコにされてたわ……ほとんど呪力のない姉さんは本当にボロ雑巾みたいな扱い。私も宗伝を継いでないからって居ないモノ扱いよ」

 

術式の無い私がどういう扱いになるか、考えただけでもゾッとする話である

 

「京が来てからは私達の扱いは変わったわ、私達に利用価値が生まれたの。あいつの術式を禪院家の物にするためにね。ここだけの話、クソ親父に呼ばれて言われたの、薬盛って二人であいつの子供を作れってね。」

 

「うっそ!!まだ中学生でしょ!!」

 

「本当!?というか薬!?」

 

「私らが死んでも構わんって言い出したから流石のお母さんも反対したわ、怒鳴られて黙ったけど。そしたら意外な人から私達に援護射撃が来たの……それが京のお爺さん、非術師なのに手紙で直毘人さんにそういうことしたら術式を継ぐことのできないように『縛り』をかけてたんだって」

 

「非術師にそんなことできるんですか?」

 

「直毘人さんが言ってただけから本当か嘘かは知らないけどね……まあ、禪院家的にもやろうとしてる事がクソ過ぎたらしく直毘人さんがキレてクソ親父に言ったの『てめえが捨てた子供にてめえが期待してんじゃねえ』って」

 

「ああ、スカッとしたわ!あの爺さんも言うね!」

 

「あの酒飲みのお爺さん酒飲んでるだけじゃないんだ…」

 

「クソ親父が出ていったあと私らに京のことを聞かれて弟分ですって答えたからあんたが本家の養子になったってわけ」

 

「そうだったんですね……」

 

「……あとそうね……その話があってすぐに直哉に姉さんと一緒に東京高専に拉致られたこともあったわね、朝5時前に叩き起こされて、姉さんが直哉にケツ触られたって騒いでたけど……どこからか姉さんが高専に行こうとしてる話を聞きつけて東京高専に見学に連れてってもらったわ……実際は直哉と京が『バカ』に会うための口実だったんだけど……私は高専に行く気なかったから術師としての稽古なんてしてないし『バカ』の高速移動に巻き込まれてダウン。その後のことは京が寿司食いまくって『バカ』がドン引きしたって話ぐらいね。夏休みの繁忙期に無理に行ったから直哉が東京や名古屋の任務押し付けられたりしてたらしいけど私らは宿にいたから詳しいことは知らないわ」

 

「五条先生ってドン引きすることあるんですね……」

 

「霞……誰も『バカ』が五条だとは言ってないわよ」

 

「あっ………」

 

「ともかく!!あのクソみたいな本家の中にいる間だけでも嫌な思いしたくなければより強い男の半歩後ろ歩いてれば何とかなるわ。姉さんのように口答えしたら駄目よ。」

 

「わかりました…」

 

「そういえばあの京って子、特級なんでしょ?百鬼夜行の時は確かに驚いたけど、他に何かヤバいエピソードないの?」

 

「……シン・陰流の『簡易領域』を見ただけで似たようなことされました……」

 

「術式無しの手刀で岩を真っ二つにしたわ」

 

「最近は半紙を空中にばらまいてすべてを2等分に切るという鍛錬をしていますね。」

 

「呪力操作だけでそんなことできるのね……2等分って……化け物?」

 

「私は剣使ってもむり」

 

 

 

 

その後、仕事を終えた歌姫先生も混ざって『特級術師伝説』の話や恋話に花が咲いたがそれはまた別の話



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十一話 漢同士の会話

「よう、マイ・ブラザー京!!」

 

寮の談話室に東堂がいた、あとメカ丸先輩もいた。

 

「東堂ガ案内スルナラ任セテモイイカ?」

 

「任されよう!!」

 

「京クン、鍵ニ部屋番号ガ書イテアル」

 

メカ丸先輩は鍵を渡すと部屋に戻っていった。

東堂に案内されて部屋に荷物を置こうとすると東堂も入ってくる。

 

「荷物をおいたな京!!早速校庭で手合わせ願おうか!!」

 

「……いいですね……色々試したいんですよ。動きやすい服に着替えますね」

 

「そうか!!では下で待っている!!」

 

「はい」

 

校庭に向かう途中歌姫先生が二人を見つけてすっ飛んできた

 

「あんたら勝手に何しようとしてんのよ!!」

 

「友情の確認だ」

 

「手合わせです」

 

「はぁ……私が帳を降ろすからその中だけでやりなさい」

 

そういえば百鬼夜行のときに建物ぶった切ったりしていたのを忘れていた。その時の音は京都市中に響いたらしい。

 

「ありがとうございます」

 

「音聞こえないから終わったら二人でジェスチャーしなさい」

 

「はい。」

 

歌姫先生は帳を下ろすと上着とホッカイロと温かいお茶を用意してベンチに座った

 

 

二人は戦闘を開始し殴り合いを始める

 

「で、話があるから来たんだろ?」

 

「………先輩の野生の勘が怖いです……話があってきました。帳は先生が来なくとも自分が下ろすつもりでした」

 

「そうか、早く内容を言え」

 

「先輩は呪詛師を祓ったことはありますか?」

 

「ほう……そうか……お前もついにか……俺はあるぞ、そいつは子供を2人呪い殺したクソ野郎だった」

 

「では、身内の人間を祓っことはありますか?」

 

東堂先輩の拳が止まる

 

「………もしかして禪院家の……」

 

「躰具留隊の人間でした……何度か話をしたこともあります」

 

「同じ釜の飯を食った仲か…………辛いな……」

 

「その………まだ……」

 

「それでとりあえず出てきたわけか」

 

「直毘人さんの個人の密偵が調べたところ、他所の呪詛師との繋がりもわかりました。そして、琴音本人は面識がないようでしたが両親友人で二人の呪殺にも関わっていたらしい」

 

「…………彼女が知らぬうち呪われている可能性がある……か?」

 

東堂が攻撃を再開するが呪力を込めない

 

「そうです。そして、これは他の御三家に内密で行わねばなりません」

 

「………思ったより根が深いのか?」

 

「はい、容疑者リストに『五条悟』を含めた25歳以上の分家を含めた御三家の人間の名前すべてがありました。自分に任務を任さた直毘人さんもその中にありました。すぐに思考から消しましたが……」

 

「御三家持ちの密偵も信用できないからお前が探偵みたいなことをせねばならんと……そうか……これまで一緒に居た人間、世話になった人間を疑わねばならんのは辛い…………しかし!!」

 

東堂の右ストレートが京の顔面を捉えた

 

「我々は成し遂げなければならない。呪術師として。呪詛師を許してはならんのだ」

ふっ飛ばされた京は顔を拭いながら立ち上がる。

 

「……はい」

 

「そして、お前は俺に何をしてもらいたい?」

 

「信用に足る人物かどうか聞きたいんです。加茂先輩について教えて下さい、加茂先輩は御三家の現体制を憎んでいると思いますか?」

 

「御三家の現体制を快く思っていない人物は沢山いる、京の姉たちが良い例だろう。加茂もその一人だ。だが、奴は選ばれたからこその責任と使命感がある。加茂家をより良い方向に導こうと努力している。女の趣味はつまらんが、信用できる男だ」

 

「ありがとうございます。」

 

「次にごじょ「その必要はない、『五条悟』が呪詛師ならば俺達は全滅している。考える必要はないな」

 

「たしかにそうですね……明日、東京高専で五条先生に五条家の事を任せようと思います」

 

「加茂家は加茂先輩と東堂先輩にお願いしようと思います。禪院家は……」

 

京は息を整えしっかり構えを取る

 

「俺がやります。殴られて一発良いのをもらって目が覚めました」

 

男同士の殴り合いをクロスカウンターによる相打ちで終わらせる

 

終了のジェスチャーに先生がスマホを見ていて気が付かなかったため帳を先輩と叩き割ったら怒られた



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十二話 意外な名前

女子会をして次の日、皆さんに別れの挨拶をして京都高専から東京高専へ向かう

 

「『バカ』に絡まれて大変かもしれないけど頑張るんだよ」

 

「生きて帰ってくるんだよ」

 

まるで戦地に赴くかのような感じで先輩からハグと涙の別れになった。

 

「それでは加茂先輩、東堂先輩、よろしくおねがいします。」

 

「おう」

 

「任されよう」

 

「楽巌寺学長、貴重な体験をさせていただきありがとうございました。」

 

「まあまあ、東京高専に行ったときはくれぐれも『五条』と『乙骨』に無駄に喧嘩を売るでないぞ。」

 

歌姫先生に聞いたが昨日、東堂先輩と組み手と称して殴り合いをしていたらしい。いつものことである。

 

「……気をつけます」

 

嘘だろう。

 

「ハッハッハ、『五条』とやるならしっかりとどめを刺せよ」

 

バレてるし

 

「五条先生に勝てる自信ありませんよ、今の所全敗ですし」

 

「そうじゃの……琴音君も入学を楽しみにしているよ」

 

「私ですか?」

 

「『術式』が無くとも呪術師になれる。呪術界は万年人手不足じゃ」

 

「考えておきます」

 

タクシーが来たので乗り込む。

 

「それでは、ありがとうございました。」

 

皆に見送られながら京都高専を後にした。

タクシーの中で男子寮で先輩たちとどのような事を話していたのか聞いた。

 

「え?ああ、加茂先輩には今度加茂家の書庫に入らせてもらえるように頼んでたんだよ。東堂先輩は高田ちゃんのLIVEdvdを貸してくれるんだ」

 

「え?高田ちゃんってあの高身長アイドルの?」

 

「そう、昨日深夜まで見せられたんだけど、アイドルってのもなかなか良いものだね」

 

「そう………ですか………」

 

そうこうしているうちにタクシーが最寄り駅に着く

電車が来るのを待つために駅のホームのベンチに座る

 

『陣』

 

「防音の結界を貼った、聞きたいことがあるんだろ?」

 

「任務は順調ですか?」

 

「ああ、加茂先輩と東堂先輩の協力を取り付けた」

 

「真依姉さん達には頼まないんですか?」

 

「だめ、今回のは生半可な呪術師には頼めないんだ、まだ姉さんは弱いからだめ」

 

それならばなぜ私は任務の同行を任されたのだろうか?

聞こうとしたら電車がついたため京は『陣』を解く。

 

「それなら京都駅で扇さんと会食の予定だから」

 

「へ?」

 

意外な人物の名前に変な声が出てしまった。

 

 

 

 

 

11時、早お昼になるが新幹線の時間もあるため仕方がない。

私は料亭の個室に一人で座っていた。

二人は別室で食べている。

 

京が店を貸し切っているらしく好きなものを頼んでいいと言われている………何頼むのが正解だろうか?とりあえず読めた料理、『海鮮丼』を頼んだ。

運ばれてきた海鮮丼の上では伊勢海老が動いていた。

スマホで写真を撮ったあと、冷静になり女将さんに食べ方を聞くことになった。味はとても良かった。

 

 

 

「それではよろしくおねがいします。」

 

「ああ、いいだろう。」

 

「急にお呼び立てしてしまい申し訳ございませんでした。」

 

「君等は先を急ぐのであろう?早く行きたまえ。」

 

「すみません。それでは失礼します」

 

………いつも大量に食べる京にこんな料亭の食事で足りたのだろうか?

結局、新幹線に乗る前に弁当屋の前で

 

「この棚のここからここまでください」

 

どうやら足りてなかったようだ

結局大量の弁当を持ち込むことななった

 

「うまい!!うまい!!」

 

早くは無いが一定の早さで増えていく空き弁当に同乗したおばさんには驚かれたが育ち盛りなんだとスルーされた。

その後電車とタクシーを乗り継ぎ日が傾いてきた頃、東京高専に着いた。私は来るのが初めてだ。

 

「京、琴音、よく来たな」

 

「お久しぶりです真希姉さん、乙骨先輩」

 

「やあ。久しぶり」

 

「あと、その……」

 

「パンダだ、よろしくな」

 

「しゃけ」

 

「パンダはパンダのパンダ、こっちは狗巻棘」

 

「呪言師ですか」

 

「そう、だから語彙をおにぎりの具に絞ってる」

 

「よろしくおねがいします」

 

パンダってなんだ?疑問に思いつつも京は気にしていないようなのでスルーすることにした。

 

「真依から話を聞いてる、『バカ』は任務で明日帰ってくる。寮を案内すっから琴音はついてこい、野郎どもは京を頼む」

 

「そうだね、行こうか」

 

京達と別れ真希姉さんと二人になる

 

「……………京が迷惑かけてないか?」

 

「いえ、京様からはむしろかなり気を使われていると思います。」

 

「そうか……そうだな……私もそうだったからな……よし、ここが女子寮だ!!部屋の鍵はコレ!荷物置いたらこのジャージに着替えて校庭に来い」

 

「はい?」

 

「練習相手になれ」

 

 

 

 

どうして?

私は真希姉さんのジャージを着て校庭にいた。

 

「何か護身の術は?」

 

「京様から『桐ヶ谷流剣術』の手解きを受けました。」

 

「ん、じゃあ、これ使え」

 

木刀を投げ渡された。真希姉さんは薙刀を構える。

私は上段の構え、ジリジリと間合いを詰める

 

『陣』

 

「そういえば『桐ヶ谷流剣術』の剣術を見るのは初めてかもな」

 

「そうなんですか?」

 

「アイツは来たときから徒手空拳で戦ってたからな」

 

互いの間合いに入った瞬間

 

『桐ヶ谷流』『簡易領域』『斬』

 

「チッ」

 

縦斬りをギリギリで横に避けられ回し蹴りを背中に受ける。

前に突っ伏す形になった。

 

「……その小賢しい小テクは京の入れ知恵か?」

 

「イテテッ、『簡易領域』の悪いところは使っているときに動けないことと間合いを見せることだから『陣』で間合いを読み切ってから使うほうが良いとのことでした。」

 

「なるほどね……じゃ、もう一回やろうか」

 

このあと真希姉さんの気が済むまで相手をすることになった。

真希さんとシャワー浴びて部屋に戻って気がついたらねてしまった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十三話『疑似領域』

早朝、落雷のような音と地響きで目が覚めた。

目をこすりながら部屋を出ると真希さんがいた。

 

「おい、琴音、早く顔洗って着替えろ!!『バカ』が帰ってきた!京を回収しに行くぞ!!」

 

何となくすべてを察した私は急いで着替える

案の定校庭に巨大なクレーターができていて真ん中に京が刺さっていた。

 

「いやぁ、頼まれ事はわかったよ。それでにしてもまだまだだねぇ、京」

 

「おい『バカ』!!校庭どうすんだよ!!」

 

「おはよう真希!琴音くん!早く彼を回収してね!直しとくから」

 

真希姉さんと引っこ抜くとクレーターの外まで引きずり出す

 

「だーめだー勝てねー」

 

「昨日おじいちゃんから喧嘩は駄目って言われなかったかなぁ?」

 

「せんせとやるならちゃんとトドメ刺せって言われました」

 

「それはそれは、やっぱりお年なのかね?」

 

「……元気そうに見えましたけど……ダンブ○ドアと同い年になるまでは死ななそうですよ?」

 

「言えてるかも……じゃ!!」

 

五条悟は垂直に上に飛んでいった。

いつの間にか校庭のクレーターは消えていた。

 

「まったくお前は………」

 

「大丈夫ですか京様!!」

 

「怪我はしてないよ。無理もしてない。朝ごはん食べたら学長に挨拶しに行こうか」

 

「はい」

 

「はぁ、まあいいや。」

 

惨状に比べるとピンピンしていた京に安堵した私を引き連れて食堂に向かう。ご飯を大量に食べ(京都高専から連絡があったらしい)満足した京に連れられて夜蛾学長のいる建物に来た。

 

「桐ヶ谷 京、君はなぜ呪術高専に入る?」

 

「??己を高めるため??別に強くなるんだったら高専じゃなくてもいいよ。」

 

「そうか……そういえば君はそうだろうな」

 

「禪院 琴音、君はなぜ呪術高専に入る?」

 

「私ですか?」

急な質問に私も驚いた。 何故私は高専に入るのだろうか?考えもしなかった。

 

「そうだ、君も春から高専に入るのであろう?」

 

「私は………」

 

「呪いを学び、払う技術を身に着け、その先に何を求める?」

 

「私は……最初は両親の仇を討つために呪術を学びはじめました。今は私のような人間を減らすために強くなりたいです」

 

「そうか……二人共合格だ……どちらの高専を選ぶかは君等の自由だが、東京校を選んだときは最大限の歓迎をしよう」

 

「「ありがとうございます」」

 

 

 

 

二人で挨拶を済ませると校庭で組手をしている先輩たちと合流した。

京は真希姉さんに組手の相手を頼まれたが

 

「今朝で呪力使いすぎたからやめとく」

 

と言ってベンチでノートを広げて考え事を始めた。

これは呪術を深めるための座学である。

今は『領域』について研究を進めているそうだ。

本家にいた頃からやっていたが本家の資料とその時のノートは本家の書庫にしまってあるため、新しいノートで再スタートしている。

 

「やはり中々アイデアが浮かびませんか?」

 

「うーん、今朝も試したんだけどやっぱり『疑似領域』は『縛り』が足りないみたいなんだよね」

 

「二人共おはよー」

 

「おはよー、お?何やってんの?」

 

乙骨先輩とパンダ先輩が話しかけてきた。狗巻先輩は禪院先輩に捕まって組手をしている。二人曰くじゃんけんで決めたらしい。

 

「『疑似領域』の強度を補強するための『縛り』を考えてるんですよ」

 

「たしか、『縛り』って簡単に言うと『ルール』だよね?このノート見てるとなんだかスポーツやゲームを作ってるみたいだよね。」

 

「それだ!!」

 

「なんで気が付かなかったんだろう!!コート、点数制度、ファールによるペナルティ!!全部『縛り』じゃないか!!格闘技じゃダメだ、平等な『縛り』では弱すぎる、『疑似領域』はお互いに平等にしながらも不平等なルールのスポーツってないかな?」

 

「うーん、攻めてる方が不利なスポーツってこと?オフサイドはいろんなスポーツである気がする、あとキーパーは手足使えるのはある種の『縛りだよね』」

 

「それさーカバディはどう?」

 

「ああ!!カバディ!!教科書に載ってたやつ!!」

 

「………???」

 

「調べました。12.5×10のハーフコートで行う。攻める側は敵陣に入る間は『カバディ』と言い続けて息をついたらアウト。その間に相手チームの選手をタッチして体の一部でもいいから自陣に戻ればポイント。」

 

「『境界』を作り『敵陣では術式を使えない縛り』を課す……平等に不平等な縛り……これならできそう……よし!!」

 

ノートを閉じると京は立ち上がり走り出す

 

「ねえさーん、狗巻せんぱーい、実験に付き合って下さーい」

 

「え!?やだ!!」

 

「高菜!!」

 

「狗巻先輩、ありがとうございます。では」

 

『疑似領域展開』〜鬼陣闘技場〜

 

「この領域は真ん中にある『境界』で『敵陣』『自陣』に分けています。『自陣』では縛りはありません。『敵陣』では『術式』が使えませんが呪力量を増大させます。」

 

そう言うと『境界』を行き来する。

 

「うん、出来てる。狗巻先輩!!こっち来て僕に『座れ』言ってみてください!!」

 

「しゃけ?」

 

「うんうん」

 

恐る恐る『境界』を超えて『敵陣』に入る

 

「ツナマヨ?」

 

「『座れ』ならそんな問題はないっしょ?」

 

「…………『座れ』……」

 

何も起きない

 

「よっしゃあああああああ、後はこの『領域』を磨くだけだ!!」

 

「ありがとう京くん。これで言いたかったことが言える。パンダ、憂太、真希、いつもありがとう……あと、2日前寮の冷蔵庫の俺の3個入りプリン全部食べたやつぜってえ許さねえから」

 

前半の『ありがとう』で感動していた空気が一瞬で凍る。

先輩方は全員目をそらしていた。

 

「真希、パンダ、憂太、組手やろうか………」

 

術式が無くとも呪言師の言葉の重みは常人のものとは違うようだ

 

「先輩……領域解きますから気をつけてくださいね」

 

「しゃけ」

 

霊異記が解けた瞬間、狗巻先輩は真希姉さんに距離を詰める

 

「ちが、私は誰のか知ら」ゴスッ

 

真希姉さん、撃沈

 

「棘はマジだ!!憂太逃げるぞ!!」

 

「う、うん!!」

 

犯人を追って狗巻先輩は走っていってしまった。

 

「………姉さん、生きてる?」

 

「何とか……いてぇ」

 

「ま、姉さんなら大丈夫でしょ、琴音、姉さんを寮まで連れて行ってあげて」

 

「はい……大丈夫ですか。」

 

「悪いね……」

 

私は真希姉さんのに肩を貸して校庭をあとにした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十四話 挑戦状

任務で禪院家を出てから一週間が経った。

私達は現在宇都宮で直哉様と一緒餃子を食べている。

 

「『疑似領域』中々おもろいやん、俺でもやな?」

 

「技術的には問題ないですけども、『縛り』がなかなか厳しいんで、普通の『領域』対策なら『落花の情』の方が強いと思いますよ」

 

「そうか?『熱』みたいなのにはこっちのが良さそうや」

 

「……たしかに……」

 

「まあ、その情報量と今日のお手伝い料や好きに食え、琴音ちゃんもガンガン食えよーコイツほどじゃなくてもいいけどねー」

 

「ありがとうございます。」

 

今日、二人は直哉の任務に行っていた。私は宿に残ろうと思ったが京に言われて本家に送るお土産選びと手紙を預かったためそれを投函するために観光のようなことをしていた。

 

「本家に送るお土産、何かええの選べたんか?」

 

「宮乃餅と大量のお煎餅を送りました。」

 

「本家の連中は甘いもんより塩っぱい物の方が好きそうやからそれで良さそうやね」

 

「はい、ありがとうございます」

 

「これから、俺は東北周るねんけど京は来るか?」

 

「いいですね。行きます」

 

「よっしゃ、助かるわー店長さん!!おかわり三枚!!」

 

「やったああああ!!」

 

私は当分の間、餃子食べなくていいかな………

 

 

 

 

宿に戻ると明日からの動きについて準備をする。

 

「こっちの任務については直哉さんには伝えてあるから」

 

「はい……」

 

着信音が鳴る…京に電話が来たようだ

 

「はい、もしもし………五条先生…………はい………これから一週間ほどかけて直哉さんと東北周ります……はい…ちょっとメモとります……ありがとうございます………はい………わかりましたー。はーい」

 

五条先生からの着信だったようだ。

 

「五条先生からのお使い、東北周るときに岩手に行ったらこの住所の場所に行って物を受け取ってきてほしいんだ、東京に戻ったら高専に届けるよ」

 

「承知しました……」

 

「あと、明日自分が任務に行っている間に洗濯をお願い」

 

「はい…」

 

「じゃあ寝ようか……」

 

 

 

 

次の日、福島に移動した。

京と直哉様が任務に行っている間にコインランドリーに来ている。あと、時間を潰したら宿のご飯だけだと絶対に足りない京のために何か食べ物を買いに行こう。洗濯機を回している間に黒髪の女性がランドリーに入ってくる、その圧倒的呪力量に私は動けなくなった、彼女が隣に座る。

 

「やあ、君が禪院琴音だね?」

 

「………!!!」

 

「僕は君らが言うところの『特級呪霊』、君なら僕の気分次第で自分が死ぬことはわかるはずだよね……だから黙って話を聞くんだ……」

 

「…………」

 

「はい、落ち着いたね…………君は利口な人間だ……」

 

「………私に何か………?」

 

「君の御主人様が探っている任務について『挑戦状』を届けに来たのさ……」

 

「『挑戦状』?」

 

「君らの任務の目標は僕の可愛い子達の討伐、祓えたら御主人様の勝ち、祓えずに任務完了したら僕の勝ち。百鬼夜行のときに僕の可愛い子供たちを殺されたからね……ちょっとした復讐さ……君ならわかるだろ?復讐するって大切だよね」

 

「………呪霊が何を………」

 

「僕が勝ったら御主人様の『大切な物(トロフィー)』をいただくから……あ、そうだ!名前無いと報告が難しいよね、僕の名前は『漆姫』楽しいゲームにしようね!」

 

そう言い残すと特級呪霊『漆姫』は己の影に消えていった。

洗濯機が周る音だけが聞こえる。

早まる心臓の鼓動が治まると京に電話した。

どう説明したか覚えていないが帳に入る前に間に合ったらしくすぐに迎えに来るそうだ。それを聞くと安心してしまい、無人のランドリーで意識を無くした。

 

 

 

 

 

気がつくとホテルにいた。

隣でハンバーガーの山を黙々と崩す京の姿があった。

嗚呼、マックの店員、R.I.P.

 

「京様………?」

 

「あ?起きた?」

 

「はい……私は……」

 

「ランドリーで倒れてたのを回収した」

 

「そう……ですか………」

 

「今後の予定が変わって、任務には基本的についてきてもらうことになったから」

 

「はい、すみません」

 

「で、岩手のお使いは追加で一泊して自分も一緒に行くことになりました。岩手は最終日の予定だったから帰りは直哉さんと別行動になります。」

 

「…………はぁ………」

 

「んまぁ、避難させてない市街地で言葉を話せる『特級』と戦う方がアウトだから今回は『何もしない』が正解かな……」

 

「上への報告は僕の方から済ませたから、ゆっくりしてていいよ………食べる?」

 

「………はい……いただきます」

 

適当に取ったハンバーガーにかぶり付く

 

「…………かっらっ」

 

辛いやつだった………踏んだり蹴ったりである、泣きそう。

 

「冷蔵庫に甘いものあるよ」

 

部屋備え付けの冷蔵庫を開けるとコンビニスイーツで埋っているのを見て固まった。え?あの山消えたあとにこれ食べるの?

 

「………」

 

「残ったやつ全部食べるから好きに食べていいよ」

 

シュークリームを三種類取り出し食べ始める。

甘みが口に広がり幸せである。

嗚呼、クリームに包まれて幸せであった。な

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十五話 東北の魔女

「ごめんくださーい」

 

私達は直哉さんのお手伝いを終え、五条先生からのお使いのために岩手県某所に存在する高専と契約している呪具製作者のもとにお使いに来ていた。

 

「おお!よく来たね……悟から話は聞いてるよ…あがんな」

 

湯婆○みたいな老婦人が出迎えてくれた。

明らかに魔女の家らしい西洋風の建物の内部に入ると机の上に一つの木箱があった。見るからに封印されているのがわかるが『呪力』を感じない。

 

「他の人に開けられないように『完全』に封印してるけどアイツなら解けるから関係無いさね……あいつに頼まれたもんはとりあえず固い封印しとけばいいから楽さね、ふぇっふぇっふぇ。わしブレンドの紅茶飲むかい?」

 

「では、お願いします」

 

「私も…」

 

台所の方で紅茶を入れ始める婦人。その間に京に確認をする。

 

「……京様、そういえばお名前って……」

 

「不知火婦人……で通ってるみたい。『婦人』って呼べばいいらしい。」

 

「なるほど……」

 

そんな話をしているうちに紅茶とシフォンケーキを用意してくれた。

 

「こんなど田舎に若い子供が来てくれると嬉しいわ、旅のことも聞いてるわ。話せることでいいから聞かせてちょうだい。」

 

「そうですね……出発は2週間前…」

 

この旅の事を話し始める京、私は「いただきます」と言ってシフォンケーキを食べる。ベリーが練り込んであって甘酸っぱくて美味しい。続いて紅茶をいただく。ミントの香りと磯の香り……しょっぱっ!!

 

「ゲホッっ、ゲホッ、婦人!!塩と砂糖間違えてます!!」

 

「本当かい!?ごめんなさいねぇ、今入れ直すよ」

 

そそくさとお茶をさげて入れ直す婦人

 

「大丈夫か?」

 

「ゲホッ、ミントの香りと磯の香りがしました。」

 

「……うーん、エキセントリック……」

 

「たしかに……エキセントリックな味でした。ゲホッ、変な汗出てきた」

 

「はい、まず水」

 

「ありがとうございます」

 

水を一気に飲むとやっと落ち着いた。

 

「わしも年かのぉ、最近ボケちゃって」

 

「大丈夫です。落ち着きました」

 

新しく入った紅茶を京が飲む

 

「うん……ミントの香り、美味しいですね、琴音、今度は大丈夫そうだよ。」

 

「そうかい、今度は大丈夫だね。」

 

私も紅茶に口をつける

 

「おいしぃ……」

 

「良かった良かった!!ケーキはおかわりもあるから好きなだけ食べていきなさい!!」

 

京が話している間、口直しのためにシフォンケーキもたくさん食べた。

京は流石に自重してた。

 

 

 

 

「京都から遠路はるばる来てくださってありがとうね」

 

「では、また任務近くに来たら立ち寄らせていただきます」

 

「シフォンケーキも紅茶も美味しかったです」

 

「今度レシピを手紙で送るよ」

 

「ありがとうございます」

 

「気をつけて帰るんだよ…」

 

「「はい!」」

 

こうしてちょっとした別世界の体験は終わった。

 

その後、盛岡から東京までまた新幹線である。

隣では駅弁の抜け殻を量産する京。

 

「牛タンうめえ!!カキフライうめえ!!」

 

共に過ごし初めてもうすぐ2年にもなるが知らないことがあった

 

「京様って嫌いな食べ物あるんですか?」

 

「どうだろ?……多分ないよ…?」

 

「……例えば激辛料理とか食べれるんですか?」

 

「……辛いものは人並み食べれるぐらいかなぁ……」

 

「そうですか……」

 

質問に答えるとまた抜け殻を量産する作業に戻る。

今後、不満があったらご飯が赤黒く染まることが決まった。

到着まで時間があるため私は眠ることにした。

 

 

 

 

 

 

五条悟の電話に着信があった。

 

「もしもし~、あ、不知火のおばあちゃん」

 

「悟に言われたあの子、やっぱり呪われてるさね。しかもかなり前から……」

 

「そっかー、何度か会ってるけど僕の目では確認できないほどか……」

 

「解呪のための道具は持たせたから、あとはそっちでやんな」

 

「ありがとうねー、今度菓子折り持っていくよ。」

 

「土産はいらんから他の若い子を寄越しておくれ、お前が来ると血圧上がって死にそうじゃよ」

 

「そう?残念、また誰かを送るよ。じゃーねー」

 

「頼むよ、ではの」

 

通話を終えると五条も東京高専へと向かう

 

「さぁ、鬼が出るか蛇が出るか此処から先は出たとこ勝負だ、頑張るんだよサムライボーイ」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十六話 解呪

二人は東京高専に到着した。荷物をまた寮に置き頼まれた木箱を持って事前に言われた高専の地下の一室へと持っていく。

 

「サ ム ラ イ ボ ー イ!」

 

「五条せんせーい!」

 

地下の廊下で待っていた五条と京がお互いに呪力をぶつけ合う

 

「今日もバチバチだね!!」

 

「はい、ではお願いします。」

 

五条は琴音のデコを突くと琴音は気を失った。

琴音を抱きかかえながら木箱を渡す。

 

「五条先生、これが『例の物』です。お願いします。」

 

「じゃ、部屋まで運ぼうか。」

 

 

 

 

 

京は窓のない部屋の診察台に琴音を置き、拘束する。

 

「はぁ、反転術式でも治せないものはあるからね……あんまり期待しないでよ………」

 

「大丈夫だよ硝子ぉ、反転術式は使わないと思うから」

 

「よろしくおねがいします」

 

「じゃあ、やるよー」

 

五条は呪具の封印を解き始める。

バキッ

箱を破壊して中を開けた。

 

「え?」

 

中身は紅茶と香草とレシピが入っていた。

 

「私はコーヒー派なんだけどなぁ」

 

レシピ通りに紅茶を入れる京

 

「…………レシピ通りに『料理』させることで他の人に使わせる『術式』ですか……」

 

「そうだねぇそれを誰かに飲ませることでも『術式効果』を発揮できる。魔女だねぇ。」

 

「呪術は深いですね……できました。あと、3分蒸らせば完成です……余った茶葉は施術後に砂糖多めで飲みなさいだそうです。」

 

「……………」

 

「……………」

 

「君らが静かだとなんか気持ち悪いね」

 

「……………硝子……これすごいよ」

 

京も『陣』でお茶の完成を見ている。

 

「……………」

 

「……………」

 

「……………」

 

「……………」

 

「……………」

 

「……………いや、私にはわからんよ……」

 

中学生と学校の先生と保険医がまるで理科の実験を見るかのように机の上の透明なティーポットに釘付けになっていた。

見えてる二人が何を見ているのかというと。

茶葉や香草に込められた『呪力』が混ざり合い『術式』になっていく。それぞれの『呪力』の濃淡により弾けたり、混ざったり、呪力が気泡のようになったり……見ていて楽しい。

 

スマホのタイマーが鳴る

 

「よし、完成です、レシピでは牛乳で割ったり、砂糖を入れてもいいが一気に全部飲ませろとのことです」

 

「牛乳とシロップはあるよ」

 

「いただきます」

 

大きなコップで牛乳とシロップをスプーンで混ぜて琴音の口にろうとを指しこみ鼻を摘む。

 

「いきます!!」

 

口の中に『紅茶』を流し込む。

途中で琴音が起きて暴れ出すが拘束されているため動けず、吐き出そうとするが『紅茶』の『術式効果』なのか喉を通り抜けていく。

 

すべての『紅茶』を飲み干すのを確認すると五条は拘束している紐を切る。京は琴音を起こして流しで下を向かせる

 

「ゲホッ、ゴホッ、ゴポッ」

 

琴音の口から黒いナメクジのような『呪霊』が吐き出された

 

「『呪い』や『縛り』を『呪霊』として抽出する『術式』か……魔女だねぇ……」

 

五条は出てきた『呪霊』を捻り潰した

 

「………思い出しました…………女中の『ユキ』さん………あの人に『呪い』と『縛り』をかけられてました……」

 

「どうだい京………ビンゴ???」

 

任務ファイルを確認する京

 

「件の躰具留隊士の奥さんですね。子供もいます。今5歳ですね」

 

「待って!!ユキさんはお父さんとお母さんの友人で……私がひとりになったときも優しくしてくれて……嘘だ!!………嘘だ!!!」

 

「これは……『紅茶』を大量に追加注文しないとね」

 

「自分も禪院側の協力者がこの手の呪いを受けている可能性があるので自然に呼び出せるように夜蛾学長と話してきます」

 

二人は部屋を出ていく

 

「野郎共はここで女の子を放って置いて任務優先するかね?」

 

「嘘だああああああああああああ!!」

 

信じていたものに騙されていたこと、親の敵を知らずに恩人と思っていた自分の滑稽さをあいつらに笑われていたことに彼女は潰されそうになっていた。

 

 

 

 

 

「事情はわかった。禪院家の跡取り問題の第三者を混ぜた会議として禪院家からは『禪院直毘人』『禪院直哉』『禪院真希』『禪院真依』『禪院扇』『禪院甚壱』加茂家から『加茂憲紀』を呼び出そう。場所は京都校になるが良いな?」

 

「ええ、問題ありません」

 

夜蛾学長は連絡のため部屋を出ていく。

口裏を合わせるためのメモを見る。

 

「『禪院琴音』の懐妊が発覚、桐ヶ谷が当主になるって言い始めたから『五条悟』が拘束、京都校に輸送。桐ヶ谷は拘束中であるとしても『五条家』から当主候補が乱立している『禪院家』に対して問題提起………琴音には誰が付くんです?」

 

「僕が付くよ、あと、サプライズゲストもいるからヘイトもそんなにないと思う」

 

「…………あと、手足縛られて姉さんと同じ車で輸送されるんですよね……僕、姉さんに殺されないですよね?」

 

「まあ、パンチとキック一回ずつぐらいは覚悟しておいたほうがいいよ」

 

京のスマホが鳴る

 

直哉「いま、神奈川におるねん、これから向かう。あとで『お話』しようや」

 

「………………直哉さんからメッセとんできました。これから高専に来るそうです。」

 

「………………」

 

 

 

「ゴルァ京!!!琴音○せたってのはほんとかゴルァ!!!」

「ヤバイって刀はまずいって!!棘!!いざというときは呪言使って!!」

「高菜!!」

 

 

遠くから真希姉さんの怒号が聞こえる

 

「………僕生き残れまゴスッ

 

京を一発でおとすと踊るほど手慣れた手付きで簀巻きにし

真希の前に弾き出された。

武器や暗器の類を全部取り上げられた真希は標的を見つけてストップが効かなくなる

 

「ゴルァ死に晒せぇ!!!」

 

狗巻棘としても1発や2発ぐらい殴らせてもいいかと思っていたので少し殴らせた

 

「『落ち着け』」

 

「はぁ………はぁ…………ごめん棘」

 

「なんや、もうやっとんたんか?」

 

メッチャキレてる直哉が術式を使って既に到着していた。

大人の術師の本気の殺気に学生達は息を呑む。

流石に直哉にボコられると京が死んでしまうため。五条は止めに入る。

 

「直哉くん、『例の件』だよ。」

 

「あ?なんやそういうことか!!焦ったでホンマ」

 

「いい感じボコボコの方がリアルだから放っておいたのよ」

 

「ずびません。姉さん、琴音とはやってないです……はい……」

 

「はぁ!?」

 

「色々あって人を集める必要があったんです。そのための芝居です……………五条先生にボコられるよりマシだったかもしれないので……多分………………前が見えねぇ、姉さんと直哉さんは同じ車で行くんですけど……会議室に入るまでは終始イライラしててください……姉さん、現地についたら事情を話します。」

 

「じゃ!これから岩手まで飛んでくるよ」

 

そういうと五条はものすごい勢いで跳んでいた

 

「……はぁ………今日は泊まってくわ…こいつの部屋余っとるやろ?」

 

「………事情は聞かねえけど明日は真依にも1発殴らせるから覚悟しておけよ」

 

直哉が足を結んだ紐が長く伸びているので手に持って引きずって行く……

 

「痛い、痛い痛い痛い痛い!!!」

 

「聞こえへんなぁ!!」

 

「姉さん!!琴音は地下の医務室に家入さんといますけど、接触は明日までNGです!!!!直哉さん痛いって!!」

 

「おう、わかった!!」

 

「棘もパンダもゴメンな?」

 

「いや、問題なかったからいいけどよー。うん、真希の行動は悪くなかったと思うよ」

 

「しゃけ」

 

それぞれ部屋に戻り『会議』の準備をそれぞれ進めるのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十七話 家族会議

「おい、直哉、何故こいつがまだ生きている?」

 

「甚壱さん……それ俺と扇さんの甚壱さんで3回目や……まあ落ち着いて座ろうや」

会議室に入ってきた甚壱に京の足から繋がっているヒモを掴んでいる直哉が応える。

最後の招待客を迎えた会議室は閉じられる。

 

禪院家から『直毘人』『直哉』『甚壱』『扇』『真希』『真依』『琴音』

加茂家から『憲紀』

五条家から『悟』

会議の立会人として『楽巌寺学長』『庵歌姫』

大罪人『桐ヶ谷京』

スペシャルゲスト『伏黒恵』

 

顔真っ青で抜け殻のようになっている『琴音』と既にボコボコに殴られている『桐ヶ谷京』、泣いている『真依』となぐさめる『真希』、なんとも言えない顔の『直毘人』、いなくなった『甚爾』にそっくりな『伏黒恵』

何も知らない人であれば通達にあった『家族会議』であることを疑わないであろう。

 

「『役者』は揃ったなぁ……」

 

「まずそいつをどうやって殺してくれようか?」

 

「まあまあ、高専側がうちらのために場所を用意してくれて、歌姫せんせがせっかくお茶入れてくれたんや、飲んで落ち着こうや……うちじゃ珍しい紅茶やで……パパンも酒以外のものも偶には飲もうや」

 

直哉が飲むように勧めつつ自信も飲む

 

「……………ミントの香りでうまいやん」

 

直哉が飲むことを確認して皆一応に甘い紅茶に舌鼓する。

 

「………………………………………京くん……全員シロや」

 

「オッケーっす。あ、琴音とはやってないです。今の紅茶は飲んだ人が呪われているかどうかを見破るための『術式』を混ぜた紅茶です。はい、あのーすみません。五条先生、彼は誰ですか?」

 

「彼はね、現代の『十種影法術』使いにして、禪院甚爾君の息子の『伏黒恵』君です。甥っ子ですよ!!」

 

「いや、すみません。僕は本家内にいる呪詛師に呪われている人がいないか探るための口実で『家族会議』をしたのであって。本当の『家族会議』をするために呼んだわけではないのですが」

 

「………京……なんだ、孫はまだ見れんのか……」

 

「直毘人さん!!分かっていってますよね!!」

 

「ちょっと待て!!本家に呪詛師ってどういうことだよ!!」

 

ありかとう真希姉さん

 

「はい、順番に説明します、歌姫先生資料を全員に配ってください」

 

全員に資料が配られる。これは京渡された任務資料に任務の間に得た情報が追加されたものである。

 

「こいつは……躰倶留隊の……」

 

「今の所、僕が調べた限り、本家に存在する呪詛師です。」

 

「『ユキ』さんまで……」

 

「少なくとも両名が琴音の両親の呪殺に関与したと思われます。琴音にかけられた呪いを解呪してわかったことなのですが、この呪いは『禪院』性の人間にだけかける縛りを用いられていて、『あと3日』で起動します。」

 

「事情を説明して協力を得るために騙すことになってしまうのですがこのような場を用意させていただいたんですけども…………Why? Gojo .Why?」

 

「まあまあ、いいじゃないの、彼、4月から東京高専だからヨロシク!」

 

「…………………気を取り直しまして、禪院家の本家分家全員を一箇所に集める方法が欲しいです。具体的に言うと自分の『陣』の中にいるようにしたいです。あとは、『特級呪霊』『漆姫』と繋がる内通者の裏切り者を炙り出します。」

 

「…………そんなもん簡単じゃねえか……『琴音』が身ごもってることになってるんだろ?婚約発表すりゃいいじゃねえか?」

 

「は?」

 

「シナリオはこうだ『家族会議』が行われた結果、『桐ヶ谷京』は『当主にならない縛り』をして開放、分家として琴音との婚約発表なら、彼『伏黒恵』の顔合わせも含めて丁度いいだろう」

 

「よし、それしかねえな真依!琴音!!、これから京都校の連中と京都市内の呉服屋行って着物を出来合いでもいいから仕立てるぞ」

 

「京のは俺のお下がりでええな」

 

「恵くんのは甚爾の奴がまだあった気がするな……」

 

「はぁ………」

 

「加茂家は自分と東堂がなんとかします」

 

「五条家は僕がやるからね」

 

「え?いやちょっと待ってフギュっ「これ運びやすくていいわ、みんな本家帰るでー」

 

直哉は未だに簀巻き状態の京を引きずって出ていく。

ほんっとうに黒幕が直毘人さんじゃねえよなぁ!?

 

 

 

 

 

「では、あとは若い者同士でごゆっくり………」

 

京と琴音は久しぶりの自分の部屋にいた。

家族会議後、琴音は姉二人と歌姫先生、桃先輩、三輪先輩に着せ替え人形になっていた。恩人が裏切者であったショックからは大分立ち直れているみたいだ。

京は『まあ、よく耐えたほうだよね』みたいな扱いを本家で受けていた。ボコボコにされた京を担いで帰ってきた後継者候補の連中と「明日、京と琴音の婚約発表を行う。分家の連中も全員集めろ」という直毘人の鶴の一声でみんな察してくれたらしい。

 

そろそろ二人でゆっくり話したいので『陣』をする。

この様子なら勝手に解釈してくれるだろう。

 

「……ユキさん…子供がいるんですよ……5歳になります……」

 

「ミキちゃんだっけ?」

 

「はい……私のような人間を増やさないためにも呪術師になることを目標に高専に入ると決めていました……私は………」

 

「皆まで言うな…………この任務を受けたとき……俺も最悪のシナリオで考えてたんだ…………何より最初に琴音を疑った……」

 

「え?」

 

「『呪い』と『縛り』で操られている可能性を考えて渡したスマホに色々細工してたんだ、一応、コインランドリーを見つけられたのは結果オーライだったけどな…………直哉さんや扇さん、甚壱さんと密談してたのもそのためだ。」

 

「甚壱様ともしていたんですね……」

 

「……直哉さんと同じで東北に駆り出されてた。そして、『扇』さんと『甚壱』さんとは今回の一見で禪院家の人間を疑い祓うことに対する覚悟として『当主に目指さない縛り』を課した。代償は己の命で……そしてこうとも言った。『琴音の両親の呪殺の件が禪院家の意志によるものならば禪院家は分家もろとも斬り殺す』って。これに関しては『直哉』さんと『直毘人』さんにも言った」

 

「え?」

 

「今回の事件の黒幕の第一容疑者は『直毘人』さんだったんだ。俺の『投影呪法』を狙ってのものだと思っていた。でも偶々だった……禪院の体質が悪いのかもしれない………もっと根の深い問題だった……」

 

「この家の女性たちは禪院家ではより優秀な術師の血を禪院家に引き入れるための道具のように扱われている。…………ユキさん………子供産めない体だったんだ…………旦那さんは平の躰倶留隊士、本家での彼女の扱いはすぐにわかるね」

 

「殺しの理由は本人達にしかわからない…………けど。俺が書庫で見つけた資料によると『近縁の人間の血』が『呪胎』を産むための条件の一つらしい。それで、お前の両親が過去に受けた任務にねユキさんの妹さんが呪殺された事件があったんだ。多分、証拠の隠滅だろうね。」

 

「これは禁書で俺が『特級』になってから見れるようになった情報だから他に言うなよ…………」

 

「待ってください!!じゃあミキちゃんは!?」

 

「俺もその子なことを話にしか聞いてねえし、信じたくねえけどもよ。その子………呪胎だ……」

 

「……祓うんですか?」

 

「まだ決めかねてる…………人が呪霊の子供を産んだ話は過去にはあるがそれは異形に生まれたと記録されていた、だからバックにいるのはあの『漆姫』だと思っている……奴の眷属たちは人の形を取っていたからな。」

 

「あの子供に自由意志はあるのか?あったとしてそれは人なのか?呪霊なのか?これまで危害を加えていないなら生かすのか?今後危害を加えるかもしれないから祓うのか?俺にはまだわかんねえ」

 

「…………私は………あの子は………『人』だと……思います……私は……あの子を生まれたときから知っています……妹のように接してきました……もし、『呪胎』であったとしても……『人』として……生きてほしい……です……。」

 

「……明日、子供たちは姉さんたちが外に連れ出すことになってる………その間に祓うぞ」

 

「……はい」

 

「今日はもう寝よう」

 

「そうですね……」

 

 

そして、決戦日を迎える



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十八話 卒業試験

決戦の日、二人の婚約発表と伏黒恵の顔合わせはつづが無く終わった。

典型的な禪院顔の伏黒くんはすんなり受け入れられた。

姉さんたちと伏黒くんは子供たちを引き連れて外に出ていってくれた。高専にも応援要請をして保護監督の人たちにもついていてもらっている。何かあればこちらに連絡が来るであろう。

 

化粧直しと称して二人は戦闘服に着替える。その間に電話があった。

 

「やー。サムライボーイ!!婚約おめでとう。『五条家(うち)』からは米俵『5 』俵を御祝儀として送ったからたらふく食べてね!!」

 

「マイ・ブラザー!!今度貸す約束をしていた『高田ちゃんLiveDVD』『3』枚組を送ったから見てくれよな!!」

 

どうやら五条家も加茂家もなんとかなったらしい。

あとは禪院家(うち)だけだ。

決心すると二人で舞台袖で待機する

 

「注目!!」

 

直哉さんの一声で壇上に立つ直毘人さんに視線が集まる。声と同時に『陣』を張ることで意識をそらさせた。

京は『陣』で全員の心臓の鼓動。筋肉の緊張を観察していた。

 

「どうやら、この中に、禪院家を潰そうと画策した馬鹿が京の他にもいるらしい。そのものは我々を欺き、そして、琴音の両親の呪殺に関与した。京にはその者の調査をしてもらっていた。京と婚約の条件として『禪院家』はその『けじめ』をつけなければならん。二人共出てきなさい……」

 

『陣』に集中している京の腕を引いて出てくる琴音空いた手には呪具の刀が握られていた。

 

そして部屋の出口は扇と甚壱に固められ、廊下にいた女中たち全員、直哉が部屋に押し込んだ。

 

「京様、ご指示を……」

 

「灯、ショウタさん……」

 

「『捕えろ!!』」

 

信朗さんの激が飛ぶ

 

「ユキさん。」

 

「キャア!!」

 

近くにいた直哉さんが腕を捻り上げる

 

「うわぁあああああ!!」

一人の躰倶留隊士が走り出す。

 

「躰倶留隊、ジュンイチさん」

 

逃げ出した隊士は甚壱に捕まえられ

 

「以上です」

 

三人が二人の前に差し出される。

 

「お聞きしたいです。何故私の両親は死ななければならなかったのでしょうか?」

 

「……………」

 

「……………」

 

「……………」

 

「『応えんかぁ!!』」

信朗さんに殴られジュンイチが応え始める

 

禪院家(ココ)じゃあ術式が絶対だぁ!!男は術式が無ければ自由がねえ!!女はより強い術式の子供を産めなきゃ人権がねぇ!!それが禪院家だ!!ユキは子供が産めない体だったんだ……だから………だから……なんとか強い子供を作ろうとしたんだ…………弟のショウタと……一緒に禁書棚に忍び込んだんだ」

 

「………わかりました。もういいです。では貴方たちが『契約』した『呪霊』の名前を答えなさい」

 

「………『うるしさま』と呼ばれてました……」

黙っていたユキが答える

 

「私からの質問は以上です。京様、ありがとうございました」

 

「ではこれから三人を祓います。中庭に出ましょう。」

 

三人は引きずられながら中庭に出される

 

「取り押さえている方々……ありがとうございました。もういいです。」

 

中庭に残るは5人のみ

 

「『術式』がそんなに大切ですか?」

 

「ああ!!そうだ!!ここで生きていくにはそれしかねえ!!」

 

「そうですか………琴音……」

 

「はい……」

 

『疑似領域展開』〜鬼陣闘技場〜

 

琴音が『疑似領域』を展開する

 

「これは『境界』で『敵陣』『自陣』に分け、敵陣では『術式』を使えない代わりに呪力量を上げ、自陣では術式が自由に使える『縛り』のみで作った『領域』です」

 

琴音は刀を『敵陣』に渡す。

 

「私がこれから10数えたら僕がそちらへ行きます。その刀は『死地』へ自ら踏み込む『勇気』です。貴方達の子供のためにも『戦士』として死んでください」

 

「10」

 

「9」

 

「8」

 

「7」

 

「6」

 

「5」「そっちになんかぜってえいかねえぞ!!この刀があれば『術式』のねえてめえを殺せる!!」

 

「4」

 

「3」

 

「2」

 

「1」

 

「0」

 

「残念です……」

 

京はユラリと『死地(敵陣)』へと赴く

 

 

ジュンイチを呪力で轢き潰す。

彼は赤黒い平なモノになった。

 

「うおおおおおお!!」

 

『断』

 

指で練った呪力でショウタの首を落とす。

 

「助けて!!助けてえええ!!」

 

なんとか逃げようと領域の外の人間に助けを求め、『領域』の壁を叩く。

 

「………『桐ヶ谷流』……」

 

「京様…待ってください……」

 

「………そう……好きにしなさい」

 

「ありがとうございます。」

 

京は自陣に戻り琴音が敵陣に入り無刀で抜刀の構えを取る

 

「琴音ちゃん!!助けてぇ!!」

 

泣きながら懇願するユキ

 

「………汚らわしい……」

 

『閃』

 

琴音の顔は返り血に染まった。

 

 

 

 

 

領域が解けると京は琴音に駆け寄り抱きしめる。

 

「直毘人さん……もういいです………俺が言える立場ではないんですが………遺体は………墓に埋めてあげてください…………」

 

「そうだな……そのようにしよう……これにて『ケジメ』は終わり!!」

 

「お前ら!ガキが帰ってくる来る前に遺体を片付けて元通りにしろ!!」

信朗さんが躰倶留隊に指揮を出す。

 

女中の人たちは泣いている人が多かった。

 

「おつかれさん、二人共、あとのことは大人に任せて風呂入ってきな」

 

「ありがとうございます……行こうか……」

 

琴音は何も言葉を発せなかった。

京は二人の体中についた血をなんとか洗い落として湯舟に浸かる。

 

「………終わりました………私の復讐……………私はミキちゃんになんて言えば良いんでしょうか?」

 

「………もしかしたら……もう会わないのが正解なのかもしれないな……」

 

「…………それはできません……私は……彼女の『お姉ちゃん』でなければありません。彼女は直毘人様が引き取ります………」

 

「………そうだね………………」

 

「彼女も私のように『使われる』のでしょうか?」

 

「………それが『禪院家』だ……嫌ならば俺や甚爾さんのように強くなってねじ伏せるしかない……だが、彼女の未来にその必要が無いことを願うよ……」

 

「……私は……貴方に付いてきて良かった……」

 

湯船で心を落ち着かせた二人は着替えて外に出る。

玄関からは子供たちはの声が聞こえる。みんな帰ってきたみたいだ。恵はそのまま東京校に帰ったらしい。ゴタゴタに巻き込んでしまったんだ今度なにか持っていこう。

 

「二人共、お疲れ様」

 

「琴音ちゃん!!」

 

「真依姉さん!?」

 

真依が琴音を泣きながら抱きしめる。

 

「さっきみんなで『紅茶』を飲んだで。女中の数人以外全員シロやった……クロだった奴らも『解呪』できた。これで全部祓えたで……」

 

「京よ……有り難うよ……これは俺達ではできんかった………三人は手厚く葬らせてもらった…………これで任務終了だ………」

 

「……はい……」

 

京の卒業試験は終了した。

 

「お姉ちゃんどうしたの?」

 

泣いている琴音を心配したミキが話しかける

 

「ミキちゃん!?ごめんね……ごめんね……ごめんね……」

 

琴音はミキを抱きしめながら懺悔した。

 

 

 

 

 

 

 

「『罰ゲームだよ』」

 

黒い槍が琴音の体を貫いた

直哉はミキを『琴音』から引き剥がす。

 

「きゃあああああああああああ!!」

 

真依の悲鳴が響いた

 

「『答え合わせをしよう。』」

 

「『禁書の存在をショウタに教えたのは。琴音の父親』」

 

「『琴音の父親が殺されたのは同じ方法で先に生まれた彼女が『術式』を持たない出来損ないだったからさ』」

 

「『そして、君が祓い損ねた可愛い我が子は禪院琴音』」

 

「『私の名前は『漆姫』』」

 

「『また会おうぞ可愛い子どもたちよ』」

 

そう告げると『漆姫』は影に消えた

 

「琴音!!!」

 

力無く崩れ落ちる彼女を京は受け止める。

他が騒いでいるがどうでもいい。

まず、『陣』で怪我の状況を正しく把握する。

肺を貫かれているのがわかった。まず助からない。いや助ける。

 

怪我の回復……やったではないか百鬼夜行のときに。

 

開けろ!!魂の扉を!!

 

もっと術式を自由に!!

 

もっと術式を大胆に!!

 

もっと術式を繊細に!!

 

『領域展開』〜戦場の映画館(ヴァルハラシアター)

 

「『5』」

 

「『4』」

 

「『3』」

 

『2』

 

『1』

 

照明(ライティング)

 

娘役(ヒロイン)』琴音を抱きかかえる『主役(メインキャスト)』京

 

恋愛(ラブロマンス)

 

「……やるべきことは考えるまでもねえ……」

 

二人の唇を重ね合わせる。

 

音楽(BGM)

 

場面終了(カット)

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十九話 新生活の準備

京は新生活の準備をしていた。

 

・『呪胎』について知っていたことを黙っていたこと。

・その『呪胎』を禪院本家に預けようとしたこと。

上記2点により俺と琴音は禪院家により秘匿死刑になりかけたが。俺祓うためには『五条悟』に頼まねばならず『五条家』への情報漏洩を防ぐために代替え案が出された。

 

・『呪胎』を祓う縛り

・ 既に養子になっている『琴音』が『呪胎』であることを口外しない縛り

2つの『縛り』により禪院家でよ二人の扱いは現状維持となった。見ていた人間が少なかったことも幸いしたと思う。

 

共謀した二人への戒めを含め『琴音』の目の前で『呪胎』を祓った。それ以来『琴音』は心を閉ざしてしまった。既に彼女は高専内の施設で療養中であり。彼女の荷物は事情を知っている真依姉さんにも手伝ってもらっている。

 

「すみません、姉さん。迷惑をかけてしまって」

 

「大丈夫よ。あんなことがあったんだもの。ここを出るなら早いに越したことはないわ」

 

「ありがとうございます。」

 

荷物をまとめて向かう先は『呪術高等専門学校京都校』4月からお世話になる学校である。迎えに来た高専の車に乗り込む。

 

「今は『二人が無事』だったことを喜びましょう……京、貴方、彼女の前ではかなり無理してるでしょう。運転手さんも事情を知ってる高専の人だから少しはぶっちゃけてもいいのよ」

 

「………………『呪術師として呪詛師を祓う』って言葉を変えていっていますが、所謂、裁判を必要としない『私刑』じゃないですか……今、自分は何が正しくて何が間違いなのかわからないです……俺は……………あの三人がやったことが悪いと思います……でも、俺は奴らを断罪し殺していいほど綺麗な人間で居られません。」

 

社内に沈黙が訪れる。

沈黙を破ったのは運転手だった。

 

「私は君がしたことは『人間』として『当然』のことであると思いますよ。」

 

「え?」

 

「私には妻と君が祓ったという子供と同い年の子供がいます。子供の保育園の送迎もやったりするのですが。もし、その保育園の他の子供と自分の子供、天秤にかけるとするならば私は自分の子供を取ります。迷いもせずにね。人によっては迷う時間に大小あれどすべての親がそう答えると思います。それが『愛』です。」

 

「そういう『愛』による取捨選択の先に生まれる『恨み嫉み辛み』が集まり『呪霊』になる。それを祓うのが我々『呪術師』です。だから君がしたことは『立派』だと褒めようとは思いませんが『当然』なことです。だから君が気に病むことはありません。」

 

「『愛より歪んだ呪いは無い』……ね……」

 

「………ありがとうございます。なんかスッキリしました。」

 

「いえいえ………私は大人で君達は子供です。もう少し大人を頼っていいんですよ。例えばこの運転とかね……」

 

「本当ですか?今度『中国』と『四国』行きたいんですよね〜」

 

「……………車は勘弁してください………」

 

「あははは、冗談ですよ……」

 

「何時もの調子に戻ったわね」

 

「聞いてもらってありがとうございます。」

 

その後、高専に着くまで談笑を続けた。

車を降りるとよく知る人物の顔があった。

 

「よう!!京!!元気そうだな!!」

 

「師匠!?」

 

『桐ヶ谷流剣術』『師範』『桐ヶ谷文幸』その人であった。

 

「楽巌寺に少し話があっての……あと、ほれっ」

 

一振りの刀が渡される。

 

「おめえの力でもぶっ壊れねえように鍛えられた刀だ。知り合いの鍛冶屋に無理に作らせたんだ。老木の爺が無くさねえように名前まで掘られちまってるから。名前は『文幸』だ。」

 

「…………これ『呪具』ですけど……」

 

「その道50年以上の人間が『魂』を込めてモノを作るとこうなるんだとよ……うちで言うところの『気』だな!!」

 

「なるほど……」

 

「よし!!京!!試し斬りだ!!あの雲を切ってみよ」

 

遠くの雲をに指をさす

 

「はい!」

 

『桐ヶ谷流剣術』

 

京の周りに風が渦巻く

「やっば、ちょっと車の陰に隠れるわよ!!」

 

『抜刀術』

 

溢れ出る『呪力』に気がついたのか補助監督官も慌てる

「は、はい!!」

 

『白雲切』

 

渦巻く風の中から剣圧が飛ばされた。

飛ばされた斬撃は遠くの空の雲を2つに切った。

 

「おー、切れた。やっぱりおめえは『術師』ではなく『剣士』だな……根っからの。」

 

「…………いいですねこの刀………本当良い………」

 

「………やっぱり桁違いね」

 

「まるでマジックですよ」

 

省略(ショートカット)

 

術式の中にしまう。

 

「わかってねえ俺からすると術式(それ)の方がマジックだよ。よし、元気なのはわかったから俺は直毘人の所に行ってから帰るぜ、どうせ朝から酒飲んでんだろ?」

 

「はい」

 

「んじゃ、俺も飲むか!!あばよ!!」

 

頼んであったと思われる補助監督官の車に乗って去っていった。

 

「………嵐のような人ね……」

 

「『師匠』ですから」

 

「………向こうから、歌姫先生が鬼の形相で走ってくるけど理由分かる?」

 

「………………高専って結界術張ってあるんでしたっけ?」

 

「私知らないわよ……」

 

「…………怒られてきます………」

 

このあとメッチャ怒られた



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

京都高専編
二十話 新生活


おはようございます。

呪術高等専門学校京都校一年 新田新です。

 

楽しいクラスメイトを紹介します!!

 

『特級術師』『禪院家の懐刀』桐ヶ谷京くん

 

『二級術師』『禪院家の末娘』禪院琴音さん

 

お二人は婚約関係です。

以上!!!さようなら!!

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

続けなくちゃだめっすか?

クラスの空気は死んでるっす。。

唯一の同性である桐ヶ谷くんに話しかけたいんすけど、禪院さんがメッチャ!!もうメッチャ!!桐ヶ谷くんのこと見てるっす。

桐ヶ谷くんはそれを意に介さず前を向いてニコニコしています。

先輩方は新入生が気になるのか廊下からコッソリ見てるっす。

胃が痛いっす。ダメ、もう無理っす。

 

「……お手洗いに、行ってきまーす」

新田新は教室を逃げ出した。

外で待っていた先輩たち(西宮 真依 三輪)は「お前は頑張った」と慰めてくれた。

新田新は先輩にパシられ飲み物を買いに行った。

先輩たちは再び中の様子をうかがう。

 

「……………」

 

「……………」

 

「……………」

 

「……琴音……言いたいことは口にしなさい……」

 

「京様……………………私の下着の中に奇抜なのがあったのは京様の趣味ですか………?」

 

「え?」

 

「「「ブフォッ」」」

外にいる先輩たちが吹き出す………

 

「アハハハハハ、腹痛い!!!」

 

「マジで真依ちゃんアレ入れたの!!」

 

「クスス……二人共笑うのは……プフッ」

 

 

 

「え?何の話?」

 

「違うんですか?私、履いてきちゃいました……」

 

「「「アッハハハハハハ!!」」」

 

「履いた!?マジ!?」

 

「超極々でスケスケの下着を学校に!!」

 

「フフッ私は好きなひとに着ろと言われてもあれは勇気出ません!!」

 

「お前たち………登校時間に教室にいないで楽しそうに喋ってるじゃないか?」

朝礼にいない三人を見つけて怒る歌姫先生が合流する。

 

「ちょっ、歌姫先生!聞いてください!!」

 

事情を説明される歌姫。

 

「…………マジ?」

 

「マジマジ!!」

 

 

 

 

「………真依姉さんですね……」

 

「………真依姉さんだね……」

 

「……………」

 

「……………」

 

「……その………見ますか………?」

 

「「「「「ブッフェィ」」」」」

 

「ちょっと待てぃ!」

 

「教室!!学校の教室!!」

 

「嘘でしょ!!」

 

「ダメダメ!!」

 

「フフフフッ答えによっては止めに入るわ……」

 

 

 

「ふーーーー↑ふーーーー↓」

 

京は深呼吸をして応える

 

「真依姉さんの趣味が気になるから後で頼むわ……」

 

「はい………」

 

「ちょっと待ちなさい!!」

 

歌姫先生が先輩方を引きずって教室に入っていった。

 

「私が混ぜました」

 

「私が発案しました」

 

「私が選びました」

 

三輪先輩のセンスだったらしい。

 

「先輩たち!!飲み物買ってきたっす!!言われた通り多めに買ってきたっす!!」

 

「ご苦労!!」

 

「……………聞かれてたんですか……」

 

顔を真っ赤にしてぷるぷる震えている琴音

 

「うん。うちらは全部聞いてた」

 

「??何の話っすか?」

 

「新くんは知らんでいいことよ」

 

「……………ま、俺は全部『陣』で最初から外の様子から何まで全部見えてるんですけどね………」

 

バチンッという音共に

『特級術師』が宙を舞う。

着地を待たずして琴音は教室を飛び出していってしまった。

 

「てめこら、セクハラだろうが!!」

 

「変態!!」

倒れ込む京を踏みつける歌姫と西宮

 

「先生が暴力はまずいですって!!」

止める三輪

 

「…………ここにいる全員の下着の色……当てましょうか………」

 

先輩と先生と一緒に踏みつけ始める三輪

 

「アハハハハハハハ!!」

それお見てまた笑い転げる真依

 

地獄のような教室の光景に新田新は先を思いやられるのであった。

 

 

 




ボコボコにされてボロ雑巾のように放り出された京に真依が近づく

「『陣』なんてしてなかったでしょ?」

「………流石にバレてましたか……」

「お姉ちゃんにはお見通しよ」

「………」

「………」

『陣』

「姉さん、スタイル良いんだからもう少こゴスッ………

真依の拳が京の顔に刺さった。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

二十一話 実技演習

血の入学式を終えて2日目

一年生は男子はグラウンドにいた。

目の前には東堂葵、その隣にはのびている新田新。

いつもの女の好みの件を失当したのである。

 

「マイ・ブラザー京!!どんな女が好みだ!!」

 

「………???…スタイルが良いピク○ン?」

 

「やっぱりお前は面白いな!!お前のすべてを見せてみろ!!」

 

「はい!!」

京はジャージを脱ぎ捨て前に出る

『陣』

 

『桐ヶ谷流』『簡易領域』

無刀で抜刀の構えを取る

 

『投影呪法』

時間(デュレーション)』『圧縮』『伸張』『移動(スライド)

 

パンッ

 

〜黒・轟・閃〜

 

無刀での最大出力の技を『不義遊戯』でかわされる。

 

「次!」

 

時間(デュレーション)』『圧縮』

 

『桐ヶ谷流』

 

パンッ 『固定(クリップ)

一瞬すべての動きがその場に貼り付けられる

「なっ!!」

 

『断』

 

「甘いわ!!」

腕の振り下ろしのトップスピードに入る前に受け流される。

 

「術式を打ち消したか!!!」

 

「場所を無理矢理固定しただけですよ。そんな繊細なもんじゃないです。さて、3年間の修行の成果もありますよ」

 

『投影呪法』『投射(アニメーション)

 

京は自らの動きを24コマのアニメーションに描きあげる。

加速!!加速!!加速!!加速!!

亜音速に到達する。

 

「いいぞ!京!こい!!」

 

『閃』パンッ!!

東堂の天性の勘によりコンタクトのタイミングを見切られ回避される。

 

ズドドドドドドドゴーン

空振った京は止まれず、着地に失敗した。

 

「いってぇ!!」

 

仰向けに寝転がる京に近づく東堂

 

「お前の強さはまだまだこんなものか?違うだろう?」

 

「『領域』は考えるの面倒なんで簡単なのでいいですか?」

 

「……手抜きは許さんぞ……」

 

「勝ってから言ってくださいって言いたいんですけど東堂先輩だと俺、普通に負けそうなんだよな………」

 

『疑似領域展開』〜鬼陣闘技場〜

 

「中央の『境界』で隔てて『敵陣』『自陣』に別れています。

『敵陣』では『術式』が使えない代わりに『呪力』が増えます。以上」

 

「『縛り』の開示も『縛り』か?」

 

「御名答、どっちから始めます?」

 

「もちろん俺からだ。」

 

東堂は自ら『敵陣(死地)』に赴く。

 

『投影呪法』『投射(アニメーション)

 

コマ打ちによる加速を始める。

小さな領域下での加速は旋風を巻き起こし、東堂の視界を狭くする。

 

「フンッ!!」

 

正拳突き一つで風を消し飛ばす。

そして、もう一度正拳を構える。

 

「来いっ」

 

『閃』

 

手刀と拳がぶつかり合った瞬間、黒い稲妻が走った。

お互いの『黒閃』 により吹き飛ぶ両者。

『領域』の壁に叩きつけられる。

 

「『自陣(そちら)』に押し戻しましたよ。……次は俺の番だ…」

 

「今のは効いたがお前もそうだろ?」

 

「こっちはさっきから限界なんすよ……」

 

代役(スタントマン)

 

狭い『領域』の中では『自陣』の中だけという制約があったとしても幻影の効果は増す。3人の京の幻影が左右真ん中の3つに別れて『境界』とその先の東堂に向かって走り出した。

 

「面白い使い方だ!!」

 

右の幻影と共に境界を超える直前

省略(ショートカット)』名刀『文幸』

刀を手にする。

 

そして『侍』は『敵陣(死地)』へ赴く。

 

右の壁を3歩ほど駆け上がったところで構えを取る

『桐ヶ谷流剣術』『抜刀』『斬』パンッ

基本の形、素早い抜刀術で相手の胴を斬りつけ用とするが空振り、想定通り。

そのまま左の壁に着地し上に2歩ほど駆け上がる。

『桐ヶ谷流剣術』『抜刀』『月落し』パンッ

相手に背を向けて壁に登り宙返りしたところで首を落とす技。

『不義遊戯』で入れ替わったお互いの位置を予測し次の技へ

『桐ヶ谷流剣術』『抜刀』『天地返し「グフッ」

自分の体が空中にあるとき、腰の回転のみで抜刀する技。この攻撃は一回転するため間合いの中ならば『不義遊戯』を使われても当たるはずだったが。抜刀直前の右腕を蹴られ不発。迂闊に相手の間合いに入るのも良くない。

『桐ヶ谷流剣術』『抜刀』『白雲切り』パンッ

キンッ

斬撃を飛ばしてみるが相手と位置を入れ替えられたため受ける。

『敵陣』の真ん中に来たとき。刀を両手で握りしめる。

 

『桐ヶ谷流剣術』『上段』『天照』

 

「(来る!!何っ!!動かない?なぜ体が動かない?)」

 

このとき東堂は京あまりの美しい上段の構えからのゆっくりとした切り下ろしに体を動かすことができなかった。

刀が東堂の額に触れたとき。京は『領域』と『構え』を解いた。

 

「俺の勝ちです」

 

「京……今のはなんだ?」

 

「今のはですね、誰でも起きうる生理行動ですよ。」

 

「……なるほど、息をつかせぬほど早い連撃のあとに緊張感を高めるゆったりとした所作で斬りつけようとすることで酸欠を誘ったというわけか」

 

「今のでわかる先輩が怖いです」

 

「……もしあのタイミングで息をつくとどうなる?」

 

「首を飛ばします」

 

「実践剣術『桐ヶ谷流』恐るべしだな!!」

 

「いやぁ、師匠から良い進学祝いをもらいました、鍛錬中刀が毎回壊れるから途中から徒手空拳で鍛錬を積んでたんですけど。腕が鈍ってなくてよかったですよ」

 

話しながら『省略(ショートカット)』に刀をしまうと何時からかベンチから見ていた琴音と三輪に話しかける。

 

「琴音ーー!!途中から『陣』で見てたよねー?今年中に『桐ヶ谷流』の技、全部できるようになってねー!!」

 

「無理でーす」

 

「三輪先輩も遠距離技欲しくないですかー?『白雲切り』教えますよーー」

 

「無理でーす」

 

普通の人間は『呪力操作』と『力』だけで刀から斬撃を飛ばすことはできないことを京はまだ知らないのであった。

級友新田を起こして琴音たちとも合流する。

 

「京様、いつの間に『投射呪法』を覚えたんですか?」

「あれは『投影呪法』の解釈を広げて、『投射呪法』を受け続けた結果できるようになった。『偽物』だよ。呪力消費量半端ないし、相手には影響ないから『投射呪法』のようにトリッキーな使い方はできないよ。自分の他の加速方法より倍率が良いから使うけどさ。さてご飯だ早く食堂へ向かわねば」

 

「参りましょう」

 

勇み足で食堂へ向かう京の後ろをついて回る琴音

 

 

 

 

「………ああ、スタイルの良いピ○ミン!!」

先輩方と一緒にゆっくりと二人の後を追う新田新は級友の扱い方が少しわかった気がした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

二十二話 初任務

春の風が首筋を撫でる午後。

 

「スピーー」

 

座学の授業を京は爆睡していた。

教鞭を執るのは庵歌姫女史。

舐めた態度に一週間前は青筋を立てていたが、無駄に煽ってくるわけではない『五条悟』と割切り、気にしなくなった。

寝ていれば他の二人を邪魔しないから楽なものである。

 

「新田くんと琴音ちゃんは真面目に受けてくれて助かるわ」

 

たまに心情を吐露しつつも本日の座学が終わる。

 

「京を起こしなさい」

 

琴音が京をゆすり起こす

 

「…………もう食べれない……」

 

「!?、京様!!京様が食べれなくなるほどの料理ってどんな量ですか!?」

 

「………ん?あ、終わった?」

 

「そんなことより夢の内容を詳しく!!」

 

「………本マグロ一匹寿司ダブル3人前」

 

「参考になります」

 

メモる琴音を無視して歌姫は話し始める。

 

「では、初任務の説明をします」

 

 

 

 

 

 

その日の夕方、市街地の廃墟に来ていた。

京は『陣』を廃墟全体に張り巡らせる。

 

「…………確かにいますね……呪霊」

 

珍しく京は外でお留守番だった。

歌姫先生と一緒に建物の外から眺めている。

 

「琴音もちゃんと『陣』を絶やしてないな」

 

「桐ヶ谷のソレ、便利すぎない?」

 

「『気配』で中の呪霊の数が大体わかる先生たちのほうが便利スキルな気がしますよ。『呪力』使わないし」

 

「たしかに………なるほどねぇ」

 

 

 

 

 

外の二人の視線の先の廃墟の中。

琴音と新は静かな進軍を続けていた。

 

「そういえば禪院さんの『術式』って何なんですか?」

 

「私は『琴音』で良いです、姉さん達と被るので。私は『術式』持ってませんよ?新田さんはどうです?」

 

「俺の『術式』は手で触れたものの状態を保持する能力です。傷に使うと悪化を防ぎます。」

 

「……………」

 

「……………」

 

新田は疑問に思った。

・琴音の等級は3級、新田新は4級である。

・桐ヶ谷は歌姫先生が「お前が言ったら外から廃墟を更地にして任務終わらせようとするから留守番だ」と言われてしまい外で待機している。

「え?今回の任務、MAXで2級の呪霊が出る可能性があるけど、どうやって祓うの?」

 

「………止まってください、この壁の先2匹うごめいてます。『簡易領域』を張るので石を投げて壁にぶつけてください」

 

「わかった」

 

琴音は壁に向かい抜刀の構えを取る。

 

『桐ヶ谷流剣術』『簡易領域』

 

新田は落ちていた石を壁にぶつける

コツンッと壁に当たると『呪霊』達がこちらに気が付き襲いかかってくる。

 

『斬』

 

先に襲いかかってきた方を切り祓う。

 

「もう一匹!!」

 

『桐ヶ谷流剣術』『中段』『裂』

 

『斬』の動きから一回転しもう一匹の呪霊の胴を切り裂く

 

「………これであと一匹の予定ですね。気を緩めず進みましょう。」

 

「はい」(どうしよう、何もしてない)

 

「そういえば、2級以上に出会ったらどうしようって言ってましたけど、出会ったらもちろん逃げますよ」

 

「………え?」

 

「我々は3級と4級で相手は2級、近くに准一級と特級がいます。助けを求めるが正解です。」

 

「でも先生達はついて来ませんでしたけど?」

 

「あれは多分私達を試してるんですよ。『相手を見極めて逃げるか?』って、それぐらい任務要項の等級表示は大切なものです。」

 

「………たしかに……本気で任せるなら四人で帳の中にいる必要ないもんな。」

 

「我々のように等級の低い術師は逃げることも覚えましょう…………いましたね……メインターゲット。報告より大きくなってる…………廊下の突き当たりです……」

 

二人の間に緊張が走る。

 

 

 

 

 

 

その頃、廃墟の外ではある提案をしていた。

 

「件の『2級呪霊』、報告より育ってますね……」

 

「そうね……二人共挑まずに逃げてる?」

 

「二人共逃げようとはしてますね」

 

「………先生、別に俺は『お留守番』で『建物を破壊しない』って理由でここにいるわけだからここから何しようが勝手ですよね?」

 

「貴方また何かやる気なのね?」

 

「……大丈夫ですよ。二人共助けますし建物も破壊しませんよ……多分……」

 

「私は今から二人の救援に向かうから好きにしなさい」

 

「はい。」

 

『投影呪法』『操演(マリオネット)

 

「新田くん!!おつかれ」

 

「琴音さん!?」

 

急にフレンドリーになった琴音に驚く新田

 

「桐ヶ谷だよ。ちょっと琴音の体を操ってるだけ、今先生もこっち向かってるから君は逃げな。後は俺がやるから」

 

「大丈夫なんですか?」

 

「俺は術式無しで2級相当の男だよ。無理しなくても余裕だよ」

 

「わかりました、あとは頼みます。」

 

「はいはーい」

 

逃げる新田を背に刀を構え相手を見る、やはり聞いていたより大きくなってる。

助走距離もあるからこの体でも使える『剣術』を考えながら走り出す。

相手がこちらに気がついた。が構わず速度を上げ距離を詰める

 

相手の間合いに入った瞬間、相手の攻撃を自分の身を小さくして股下に滑り込み回避する。前に調べた『カバディ』で使われる技『ドゥッキ』、小さき『戦士』が大きな相手と戦うための技術である。

速度を保ったまま立ち上がりそのまま突き当りの壁を駆け上がる。

 

『桐ヶ谷流剣術』『抜刀』『月落し』

 

『呪霊』の首が池の水面に月明かりを落とすかのごとく落下した。

 

「いまのが『月落し』ね。感覚を覚えておくように」

 

走ってきた歌姫先生を確認すると術式を解除する。

 

「大丈夫?琴音ちゃん?桐ヶ谷がなんかしたみたいだったけど」

 

「大丈夫です。ただ、後で詰めます。」

 

「報告にあった呪霊は今ので最後ね………帰りましょうか」

 

こうして京都校1年ズの初任務は終わった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

桐ヶ谷流剣術講習①

「これから『特別授業』を始めます。」

 

GWを間近に迫る中、京は生徒を集めて『桐ヶ谷流剣術』の特別授業を行っていた。

入学前に師匠が来ていたのはこの件についてだったようだ。

 

「前提としてなんでもいいんで体術が強くなってください。あと、対人を前提とした話が多いため『呪術』とは少し異なります。」

 

「まず『気』を認知します。『呪力』ですから皆さん問題ないでしょう。」

 

「今回学ぶのは『陣』です。『シン・陰流』の『簡易領域』に近いものですが。『陣』は相手との間合いを正確に測ったり、相手の武器や流派、癖、気の流れを見極めるために考案されました……手練になると隠し持った『暗器』なども見つけられます。」

 

「はい先生!!女の子の下着の色もわかるって本当ですか!?」

 

「三輪くん良い質問ですね………衣服というものは暗記を隠す宝庫です。例えば男性なら誰もがつけてるベルトは『呪力』を流し込めばそのまま武器になります。ベルトに沿ってワイヤーを隠し持つことも可能です。真希姉さんに頼んで衣服に暗器を仕込んだ物を用意しました。」

 

琴音が高専の女子制服を着たマネキンを台車で運んでくる

 

「まず、上着の裏は基本的に何でも長物以外銃でも何でも仕込めます。次に靴、今回はブーツタイプですので鉄串を数本。ボトムズはスカートですが太モモにナイフなんかも仕込めますね。ベルトにワイヤー、ホルダーをつければ銃や刀も持ち歩けます。胴体は鎖帷子を使ってナイフ程度の攻撃は避けれますね。これを外すとインナーとブラジャーですが。ブラジャーを改造してワイヤーを硬いものに変えとくとこれも十分に人を殺せる暗器になります」

 

改造されたブラジャーからワイヤーを取り出し、自分で弾いたコインを切って見せる。

 

「長髪の場合、髪にも隠せます。髪留めや簪なんかに仕込みます。持ち物だと鉄扇なんかもいいですね。………ここら辺全部『陣』で見ようとすると。体重の変化とか大体のスリーサイズとか下着の形だとかが副産物的にわかります。口外するとろくな事がないためしませんが………色まではわかるってのは僕のジョークです。わかったかな?」

 

「わかりました!!対策はないですか?」

 

「過去に『領域』と『呪力』で輪郭をぼやかすという方法でわからない敵と戦ったことがあります。『無限』を『陣』に入れると術師の脳が処理しきれなくて最悪死ぬので使えません。どちらも特級でした。自分も特級です。がんばってください」

 

「ありがとうございます、頑張ります。」

 

「呪力感知能力の低い自分の場合バレないように効果を弱くした『陣』は常に使っていて呪力感知能力の低さを補うようにしています。」

 

「逆に『陣』の内と外の隔たりを強くしたり、音や光などの特定の情報のみの通さない『縛り』を用いて密談をしたりします」

 

「この『陣』の最終到達点が『疑似領域』になります。自分が開発した『鬼陣闘技場』はお互いの『生得領域』をそれぞれ『自陣』『敵陣』とし、『境界』で線引することで形を作り、様々な『縛り』を課すことで領域を補強しています。この先の詳しい縛りの内容はすみませんが御自分で考えてください。」

 

「先生、どうやったら『陣』が使えるようになりますか?」

 

「はい、西宮さんも良い質問ですね。あそこにある桜の木があるじゃないですか……」

 

教室の外に生えている桜の木を指差す。

 

「あれを木刀で切れるぐらいの『呪力操作』ができるようになれば呪力のあるものを認知する程度の『陣』が使えるようになります。呪力を持たない『暗器』を探るなら手刀で切れるようになってください。自分レベルになるなら指で払うだけで切れるようになってください。直毘人さんに伺ったのですが、『術式』を持っていて術式に頼らず手刀で岩を切れればそれだけで『2級』相当だそうです。頑張ってください。」

 

「実際に切る方法については次回お話します。ありがとうございました」

 

このあと木刀と丸太を用意してみんなで斬ろうと試してみた。

みんなが切れない中で東堂先輩が僅か3回で斬ってて自分と琴音は苦笑いするしかなかった。

三輪先輩は50回まで粘ってなんとか半分まで切ることに成功していた。頑張れ三輪先輩。

 

もっと小さかったといえど俺は2年、琴音は1年かけてるよ!!

 




ご拝読いただきありがとうございます。
駄文をここまで読んでいただき恐縮なのですが。
高評価とお気に入り登録をしていただけるとテンション上がります。

今後もつらつらと書き続けていきます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

二十三話 甘い誘惑

GWという呪術界の繁忙期の一つの波を乗り越えた京は加茂先輩の取り計らいにより加茂家の書庫に正式な来客として訪れていた。

 

加茂先輩の同行を条件として禁書の棚も見させてもらっている。目的は『呪胎九相図』を含めた『呪胎』についてである。

琴音については勿論黙っているが『特級呪霊』『漆姫』が『呪胎』を作る技術を持っており、対策をしたいと言ったら快く引き受けてくれた。

 

書庫の内容はほとんど『加茂憲倫』によるものである。

几帳面な人であったのであろう、書物にはしっかり見出しが作られておりわかりやすくなっている。その中から目当ての書を探す。

 

『後天的天与呪縛』

 

双子という言葉に惹かれなんとなく手にとってみた一冊であるが内容はかなり興味深いものであった。

 

『双子は呪術的には同一であるが体と命がそれぞれ別々にある。生得領域もそれぞれ持っているが、それはそれぞれが『魂』を『認知』しあっているからであり、その『魂の認知』を失えば一つになる。このときに大量の『縛り』を課しその後に2つ分け『生得領域』に『境界』を作ることで『魂の認知』を再開させ。片方に『縛り』による負債を背負わせ、もう片方に『縛り』による利益を与える、こうすることにより後天的に天与呪縛を生み出すことが可能である。』

というもの。

黙々と読み進めていた京につられて加茂や琴音が除きこみ内容を理解する。

「これって……」

 

「『双子の術師』と『操演(マリオネット)』と『疑似領域』があれば今日にでもできるな………加茂先輩、後で『ここで見たものを他の者に口外しない縛り』を3人で課しましょう」

 

「元よりそのつもりだから問題ない。」

 

「ありがとうございます。」

 

礼を言う京は書物選びに戻る。

 

『呪力操作』

 

なんともシンプルな名前であるが気になるため読み始める。

内容は現在、呪術高専で学ぶ事を例えを古くして解説しているようなものであったが一箇所だけ気になるところがあった。

 

『他者を利用した呪力操作の補助』の項である。

 

『他者の『魂』を制御下に起き、その者に『呪力操作』の補助をさせることで莫大な量の『術式』を同時に扱う、また『呪力』もその者から供給させることも可能である』

というもの。………これは……使えるな……覚えておこう。

 

何事もなかったかのように京は棚に書物を戻した。

3人で手分けして探していると目当ての物を見つけた。

 

「ありました『呪胎九相図』」

 

絶対にこれだよなってタイトルをつけられていた。

読もうと書物を開くと書物は黒く塗りつぶされていた。

 

「…………これって…」

 

「炭ではなく『漆』………だね…………」

 

「『漆姫』と我々の因縁は我々の思っている以上に深いのかもしれんな。」

 

「それがわかっただけでも十分な成果かもしれません。」

 

「他に無いかもう少し探そうか。」

 

その後も書物を物色するが目ぼしいものは見つからず、3人は『縛り』を課して加茂家をあとにした。

 

 

 

 

帰り道に立ち寄ったカフェの中で小さな『陣』を使い密談をする。

 

「………双子の呪詛師……ですか………?」

 

「うん……加茂先輩と琴音には悪いけど、双子天与呪縛について、姉さんたちのためにも少し研究を進めようと思うんだ。」

 

「…………私に異論は在りません。どうせ祓うのでしょう?」

 

「片方は祓う、というより施術の過程で死ぬかな、二人分の『縛り』を一身に受けてね、生き残った方は一生『操演(マリオネット)』かな……………」

 

「私は問題ありません」

 

「そう?本当に?」

 

「…………………ただ、やるときは協力させてください。呪詛師を祓うときは私もやります。」

 

「そう?琴音は聞き分けが良くて助かるよ」

 

「お待たせしました。」

 

京は『陣』を解くと店員に出された大盛たらこパスタを食べ始め。琴音は運ばれてきたタワーになっている巨大なパンケーキを少しずつ切り崩す。

 

メニューには『大人数の女子会にピッタリ スペシャルビッグタワーパンケーキ』と書かれていたこのタワマンの様な物体を『カップル割』で頼む和装の二人組という冒険的な行動に店内の空気は異様なものとなっていた。

 

中には二人に許可を得てから写真や動画に撮る者までいた。

 

「ネット上げるときはスマイルマークで顔隠してくださいね…………………琴音、これ、味変できるの?」

 

「階層ごとに違う味なのですが、各種フルーツソースと各種クリームを追加注文すると小皿で持ってきてくれるみたいですね」

 

「すみません店員さん、フルーツソース全種とクリーム全種追加でください」

 

「京様は話が早くて助かりますね」

 

「気が済むまで食べたら言いなさい」

 

「わかってます」

 

結果1/4まで掘り進めたところで琴音のナイフとフォークは止まり飲み物を頼むために店員を呼ぶ

 

「タピオカミルクティーと山盛りフルーツの盛り合わせをください」

 

「……………かしこまりました」

 

店員はなにか言いたそうだったが、あまりに自然な追加注文に何も言い出せなかった。

店員が頼まれたメニューをテーブルに運ぶ頃、残りが1/4になっていた。一瞬のうちに巨大なタワマン全体の半分が消し飛んだのである。

ナイフとフォークを持つのは先程から京に変わっている。

 

淡々とナイフとフォークと口を動かし続ける京、それを眺めながらタピオカミルクティーと口直しのフルーツ盛り合わせのフルーツを齧る琴音。

 

結局、フルーツ盛り合わせも殆どを京が食べ尽くした。

カップル割のおかげで会計は4桁で済んだ。

 

京にバトンタッチしてからの動画がTi○TokとTwi○terで拡散され先輩の目に止まり。後日、西宮と真依に引きずられて『呪術高専京都校女子会残飯処理係』としてもう一度来店することになるがそれはまた別の話。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

桐ヶ谷流剣術講習②

「『特別授業』を始めます。」

 

呪術界的にはまだまだ繁忙期だが任務の合間を縫って授業を行う。

 

「第二回である今回は『刃の無い物で物を切る』と『呪力による身体能力強化後の身のこなし』です。」

 

「まず、『呪力』の基本は『イメージ』をしっかり持つことです。日本刀で実際に居合を行い『物を切る』イメージと『刃』のイメージをしっかり持ちます。次に刃の無い刀で居合を行い、刃があると思い込む練習をします。これで切れるようになったら次は木刀。最後に手刀となります。自分は呪力を飛ばすだけで切れるようになりました。」

 

「はい先生!!手っ取り早くできる方法ないですか?」

 

「三輪くん良い質問ですね。全裸でその手に持ってる刀を抜き身で抱いて寝てください。血だらけになって下手すりゃ死にますがそれを3ヶ月ほど続ければ日頃刀を振るっている人なら手刀で丸太を切れると思います」

 

「はい先生!!自分には無理です!!」

 

「はい、新田くん頑張って練習しましょう…………次に『呪力による身体能力強化』です。琴音……」

 

琴音が隣に立ち右腕を前に出す。

 

「はい、筋肉は人並みで二の腕ぷにぷにな腕ですが。」

二の腕をぷにぷにする

 

『桐ヶ谷流』『断』

 

琴音は前に出した右腕を京に向かって振り抜く。

京は振り抜いた右腕の手の甲の上に乗る。

 

「はいこのように、『身体能力強化』をすれば自分を支えるぐらいの『力』を発揮することができます。」

 

降りた京は『術式』を行使する。

 

『投影呪法』『操演(マリオネット)

 

「「ここからは俺がやると信用されないと思うので琴音でやります。」」

 

「東堂先輩、壁の前で構えてもらっていいですか?」

 

「おう!!いいだろう。」

 

「では……『身体能力強化』は皆さん無意識のうちにやっていると思いますが実際、どのくらい『強化』できてるか曖昧かと思います。そのため実際はもっと動けるのに『殴る』『蹴る』ときの威力を上げてるぐらいにしか使ってないとも思います。」

 

説明しながら助走距離を確保すると東堂に向かって軽く走り出す。

 

「よし!!来いっ!!」

 

東堂の間合いに入った瞬間、左右のフェイントから懐に入り込んだため琴音の姿が東堂の視界から消える。

 

「ほう………そこっ!!」

 

東堂は振り返り右ストレートを叩き込もうとするがその拳の上で琴音は逆立ちをしていた。

 

「まあ、皆さんも『呪力による強化』をしているとここまではできなくとももっと動けるのでちゃんと動きましょう。」

 

急に『操演(マリオネット)』を解除して琴音が東堂の腕から落下するが身体を翻して脚から着地する

 

「ま、これぐらいのことを皆さんも実は既にできるのでもっと活用しましょうという話でした。今回は自分らはこれから任務なので以上です」

 

二人は教室から出て廊下に出る。

 

「自分は少しぷにぷにな方が好きなんだけどねえ」

 

「後で真依姉さんから真希姉さんに報告が入ると思います」

 

「怖いねぇ」

 

軽口を叩きながら楽巌寺学長の元へ向かう

本来ならば新入生3人での任務が多くなるのであるが既に数多くの任務を受けていて『特級呪術師』である京には『指名』の任務が来ることがある。

学長に呼ばれるとはそういうことなのだろう。

偉い人から頼まれる任務にはろくな事がないので憂鬱だなと思いながら歩を進めるのであった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

二十四話 電話の呪霊

楽巌寺学長から任務を受けた京は琴音を連れて新幹線に乗っていた。

 

「『特級呪物』『宿儺の指』の回収ですか?」

 

「そう、東日本は五条先生が、西日本は俺がやるんだとよー」

 

「それで中国地方なんですね」

 

「そういうこと、なんだか今年に入ってから日本全国回りそうだな…………五条先生、俺が高専上がるまで一人で全国カバーしてたんでしょ?すごいわ『最強』」

 

「どうして今になってバラバラに封印された物をわざわざ回収するんでしょうか?」

 

「封印が弱まっているから回収して封印を強化してまた再設置するんだとよ、一箇所にまとめても危険だから一本ずつ持ち帰らんといけないから向こうについたらホテル泊まって朝回収でトンボ返りだから遊ぶなら今夜だね」

 

「…………何食べますか?広島ですよね?」

 

「お好み焼きかなぁ、尾道ラーメンも食べてみたいなぁ?」

 

乗る前に買った旅行雑誌を読みながら新幹線の中を過ごした。

 

 

 

 

結局、量を食べれそうなお好み焼きを選んだ。

 

「よく食べるお兄さんだねぇ、卵おまけしちゃう」

 

「ありがとうございます!!」

 

京は5枚目の攻略に取り掛かると琴音が話し始める。

 

「女将さん、最近変な噂とか聞きませんか?私達オカルト研究部で活動をしていまして。日本全国を周っているんですよ」

 

「そうねぇ……オカルト話、オカルト話……そういえばお昼のお客さんが『神社に行ってからイタズラ電話がいっぱい来る』って話をしていたわね、それから何組かそういうお客さんが来ていたわね。」

 

「ほんと?他にもいたの?」

 

後ろで食事をしていた夫婦の奥さんが反応する

 

「あ、また来た。」

 

鳴り出したスマホを取り出しうんざりという顔をする。

 

「すみません、見せてもらってもよろしいですか?」

 

琴音はスマホを借りて手に取るとすぐにわかった。

 

(呪われてる………)

 

画面には非通知の文字。

 

「非通知は出ないようにしてるんだけど小道の小さな神社に行ってから定期的に来るようになったのよ」

 

「そうですか……出てもいいですか?」

 

「良いわよ、イタズラしてくるやつにガツンと言ってもらいたいわ」

 

「じゃあ俺がやるよ。奥様、お借りしますね。電話の間に女将さん、おかわりもう一枚!!」

 

「はいよーー!!」

 

スマホを受け取ると呪いが漏れ出さないように自分だけを『陣』で覆う。

 

「はい。もしもしー??」

 

『(意味不明な言葉の羅列が聞こえる)』

 

音を通じて『呪い』が伝わってくるが、右手の『呪力』だけで祓う。

 

「うん、ミヤコは無事なんですか?はい、奥さん、おとうさん、僕が事故ったみたい。ははっ、はい………切れたよ、オレオレ詐欺だったみたいですね。これで当分の間は来ないんじゃないですか?気をつけてくださいね?変な幽霊よりよっぽど人のほうが怖いですから。」

 

京はスマホを奥さんに返すと出来上がった6枚目を食べ始める。

 

「すみません。今の出来事、名前を伏せて記事にさせてもらってもよろしいですか?」

 

「ありがとうね。良いわよ。」

 

「では、今の電話はどの神社に行ってから来るようになったのですか?」

 

観光雑誌の神社仏閣の書いてある地図を見せて教えてもらう。

 

「うーん、ここにはないわね、たしか、この道とこの道の間の交差点の手前に海へ出れる小道があって、その途中にあったわね。小道の写真取ってあるわ。」

 

スマホに写った写真を琴音は写真に撮り感謝を述べる

 

「ご協力感謝します………」

 

「女将さん、お勘定!!」

 

6枚目をたいらげた京はお金を支払い、二人は外に出ると走り出す。

 

「………思ったより狡猾だね、このままその神社に行くよ」

 

「はい」

 

「『非通知』なのは自分を明かさないためのものじゃない。『非通知』で『警戒させて出る人間にのみ標的を絞る縛り』かなぁ」

 

「普通に出てたらどうなってたと思いますか?」

 

「死んでたんじゃない?多分、今頃数人死んでるんじゃないかな?俺だって非通知で電話が何回も来たら一回ぐらい出ると思うし」

 

「………急ぎましょう……」

 

「そうだね」

 

言われた小道に入り海の見える方に走る。

 

「鳥居が見えました!!そこです。」

 

神社に入るとそこは一面の水だった。

波紋は自分たちが動いたときだけ起きる。

水は深くなく3cmほどである。

 

「水面を覗くな、ここは『呪霊』の『生得領域』だ、何が『呪い』に繋がるかわからん」

 

「はい」

 

どこからか、電話の音がリンリン鳴っているのを聞こえる。

 

「お前は振り返るなよ………」

 

舌打ちをしてから京は振り返るとそこには着信が来ている公衆電話ボックスがあった。

 

「………琴音、俺は知らねえんだけど公衆電話って着信したっけ?」

 

「…………すみません、私、公衆電話使ったことないのでわからないです。」

 

「俺もボックスに入ってるの見るの殆ど無いかも………」

 

二人は道場、屋敷に籠もって鍛錬をするか京の世話をするか料理をするかである。

任務と外に出るときはスマホを持ち歩いていた。

公衆電話は大人の昔話か教科書か画面の中だけの話である

 

「………とりあえず……こっち見ていいよ」

 

琴音も振り返る。

 

「すごい、電話ボックスだ……」

 

「だよね。どうしよう……………切るか」

 

『桐ヶ谷流』『抜刀』『閃』

 

崩れ落ちた公衆電話ボックスだったものから叫び声が聞こえる

 

「キイイイイイイイイイイ!!!」

 

『投影呪法』『投射(アニメーション)』『時間(デュレーション)』『圧縮』

ボックスの残骸の周りを加速のために公転を始める。

 

『断』

 

手刀でもう一度叫び声がする公衆電話に叩き込むが、手応えがない。

 

「琴音、後ろだ!!」

 

操演(マリオネット)

『桐ヶ谷流剣術』『抜刀』『天地返し』

 

琴音では間に合わないと気がついた京は操演を始める。

水面から現れた電話の呪霊を身体のひねりと腕の振りだけで切るがまた手応えがない。

 

琴音に駆け寄り『術式』を解く。

「……はっ、はぁ、はぁ、ありがとうございます。」

 

「宿儺の指は甘く見ていた、あいつ取り込んでやがる」

 

どうせ相手は『呪霊』なんだ消し炭に変えても構わねえな

 

『領域展開』〜戦場の映画館(ヴァルハラシアター)

 

「『5』」

 

「『4』」

 

「『3』」

 

『2』

 

『1』

 

主人公(メインキャスト)』桐ヶ谷京は『最強』の戦士である。

 

今回の『目標(ターゲット)』は『電話の呪霊』

 

娘役(メインヒロイン)』の禪院琴音と共に戦っている。

 

切っても切った感触の無い奴を倒す方法。

 

それは。

 

「京!切れない奴をどうやって倒すのよ!!」

 

「大丈夫だよ琴音、こういうときのための対処方法を考えてある」

 

省略(ショートカット)

 

おもむろに懐からスイッチを取り出す。

 

「『発破』………この手に限る」

 

スイッチをONにすると二人の周りのすべてが爆発を始める

どこからともなく現れたヘリから降りてきた縄梯子に捕まり上空へ退避する。

 

「………爆発オチなんてサイテー」

 

場面終了(カット)

 

 

 

二人は小さな神社にいた。

 

どうやら祓えたらしい。

京は境内に落ちている『宿儺の指』を回収すると簡易な封印を施し、ホテルへの帰路につく。

 

「もっと良い『脚本(シナリオ)』書けないんですか?」

 

「いや、いいでしょ?俺は好きだよ爆発オチのベタな展開。意外性なんて映像の絵で見せる演出を軽視クソだよ、アクション特撮の花はかっこよさと火薬だよ。マイケ○・ベイのトラ○スフォーマーを見てみろ、演出とかっこよさだけで視聴者を飽きさせない巨匠だよ」

 

「いやそれは巨匠に失礼でしょう?」

 

「疑ったな?今日からトランスフォーマー全作品見せるか」

 

「……これ、総上映時間10時間超えじゃないですか……」

琴音はスマホで調べた情報に絶望する。

「まあまあ、今度続編やるし、とりあえず敵味方も全部頭空っぽにして見てればいいからさ、ポップコーン買って帰ろうか……」

 

このあとめっちゃTRANSFORMした。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

二十五話 虎杖悠仁

6月を迎え、宿儺の指の2本目を集め、高専へ戻ろうとしていたところ。呪術界に激震が走る。

『宿儺の器が見つかった』

すごいね人体。びっくり人間もいたんもんだ。

 

この件に関してすぐに直毘人さんからも連絡があった。

 

「『五条悟』が宿儺の器の秘匿死刑を渋ってやがるんだが。てめえが今持ってる指持って確認しにいけ、お前の意見を聞いてから『禪院家』の方針を変えるかを決める。ヤバいと思ったらお前が執行しても構わん。俺が責任を取る。」

 

「わかりました」

 

電話を切ると琴音に行き先変更を伝える

 

「東京に向かうぞ。『宿儺の器』に会いにいく」

 

 

 

 

 

東京高専に着いたら『五条悟』が出迎えてくれた。

 

「うぇるかーむ!!東京へ!!」

 

「すげぇ、五条先生が時間通りにいる!?」ヒソヒソ

 

「京様、気をつけてください、偽物かもしれません」ヒソヒソ

 

「一回切っとくか?」ヒソヒソ

 

「それがいいです」ヒソヒソ

 

『閃』

 

「やっぱり血の気が多いねぇ??」

 

京の手刀は無限に阻まれる

 

「あ、本物か!お疲れ様です。五条先生」

 

「ご無沙汰しております。五条先生」

 

「僕が言うのもなんだけど、サムライボーイは手を出すの早すぎない?」

 

「楽巌寺学長からも『喧嘩を売っても許してやれる先生は五条先生だけ』って触れ込みですからね。やっぱ先生は心が広いですから」

 

「で、今日はなんのよう?」

 

「『宿儺の器』を見に来ました。指と一緒に」

 

「だろうね、来な、案内するよ」

 

高専の寮へと案内される

 

「彼はあそこのベンチに座ってる、事情何も話してないから行きなよ。『一人』でね……」

 

「………私は人質ですか?」

 

「いいや、指を取り込んで理性を失ったら、京じゃ、キミを守りきれないでしょ?」

 

「確かに……今回はきつそうですね……琴音、五条先生と一緒にいなさい。」

 

二人と別れて『宿儺の器』虎杖悠仁の元へと向かう。

 

『陣』

 

最大限注意しながら歩を進める。

横に並びたち。ベンチに座った。

 

「君が虎杖くんだね?俺は桐ヶ谷京、君と同じ一年生なんだけど、僕は姉妹校の京都校なんだ。よろしく。」

 

「よろしく??」

 

「ガキがこの鬱陶しい膜を払え!!」

 

「すごい!宿儺は今喋れるのかい?」

 

「なんかすっげぇうるさい」

 

すんなり『陣』を解くと話を続ける。

 

「宿儺さん「様をつけろ」

 

「宿儺様、貴方の膨大な知識量にお伺いしたい。虎杖悠仁が貴方を封じ込めている現状に対して『呪術的な観点』からどう考察されていますか?指一本分答えてもらっていいですか?あと、自分も宿儺様の指を集める担当なのであと数本は間接的に届けられると思いますよ?」

 

「お前………たぬきだな……」

 

「僕は狐派ですよ?」

 

「例えの話だ………そうだな……いいだろう、答えてやる。こいつは自然発生か人工的なものかはわからんが『呪胎』だと思っている、それ以外に説明がつかん」

 

「え?ジュタイって何?」

 

「虎杖くんは黙っててな?」

 

「俺が言えるのはここまでだ。早く指をよこせ」

 

「わかってますよ、虎杖口開けて……はい」

 

虎杖の顔に文様が浮かびだし、京に緊張が走る。

 

「まっずいなぁこれ」

 

「ありがとうございました。宿儺様、今度会ったときは1000年前の呪術界について話を伺っても良いですか?」

 

「駄目だと言っても来るのであろう?」

 

「ええもちろん」

 

「『復活したら(五条)の次にお前を殺してやろう』」

 

「宿儺様に狙われるのは光栄ですね。その時は僕も一人の『呪術師』として挑んでみたいです。虎杖君もありがとう。伏黒や真希姉さんによろしく伝えてくれ」

 

「お?おう。わかった」

 

青空の下で行われた面談は終了した。

虎杖悠仁と別れて五条と琴音と合流する。

 

「使えるかわかりませんが何とか『五条先生の次に俺を殺す縛り』を取り付けました………彼は危険です。が、1000年前の呪術界を知る貴重な情報源であり、そして、地球上でもっとも『呪術の真理』に近いと思います。自分は彼の話をもっと聞きたいですね。その旨を直毘人さんに報告したいと思います。」

 

「この短時間で『縛り』の構築とは流石だね、どうする?今日は泊まってく?」

 

「いや、今日は帰ります。正直、琴音を近くに置くのは危険すぎます。何なら2級以下の術師はすべて近づくべきでないと思います。それほどまでに虎杖悠仁は危険だと思います」

 

「そっかー、そうだね。」

 

夜蛾学長への挨拶も手短に済ませ。

今度こそ京都高専への帰路につく。

 

新幹線の中で琴音が話し始める。

 

「彼ってそんなに危険でしたか?」

 

「彼、多分『呪胎』だ………今現在『呪胎』については『加茂憲倫』の『呪胎九相図』と『漆姫』の『ミキちゃん』のニ種類しか見つかってないの……三種類目の可能性が見つかると厄介事が生まれかねない。」

 

「…………そうですか…」

 

琴音はそれ以上のことは聞かなかった。

 

「直毘人さんにはもちろん即死刑側でいてもらうよ。但し、五条悟に何かがあった場合という条件付きでね……」

 

「それは……」

 

「……どうせ五条先生になにかあったら乙骨先輩か俺がやるんだ、自分が執行人の方がやりやすいだろ?」

 

「はい……」

 

「生まれながらにして死ななくちゃいけない命なんてないはずだと俺は思っているよ。」

 

 

翌月、虎杖悠仁が死んだという話を聞いて少しホッとしていた自分を京は憎んだ。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

桐ヶ谷流剣術講習③

桐ヶ谷京と禪院琴音は東堂葵と禪院真依の襲来の後、交流戦への機運が温まっている東京校へ呼ばれていた。

 

「はい、『特別授業』を始めます。」

 

「はい!せんせー!!先生に彼女いるんですかぁ!?」

 

「はい、五条くん……それはね…………ひ・み・つ……」

 

「きゃーーー」

 

「…………真希さん………あいつら殴っていいですか?」

 

「釘崎やめとけ、どうせ当たんないから。」

 

「呪力による身体能力強化の重要性がわかるものを用意しました。この写真は真希姉さんに頼んで用意してもらった暗器マシマシの服を着て潰れたカエルみたいになってる真依姉さん」

 

「………なんで真依はメガネかけて後ろで髪をまとめているんだ?」

 

「続きまして呪力による強化を行っている真依姉さん」

 

「………なんで真依は目が腫れているんだ?」

 

「なんだか写真撮られるの恥ずかしいって言われたので動けなくなった真依姉さんを先輩たちがデコリはじめて結局真希姉さん偽造バージョンのコレでOKされました」

 

「…………憶えとけよ真依………」

 

「ちなみにフルデコバージョンはこんなんです。」

 

写真には金髪でツインテールになっている眼鏡を掛けた動けなくなって涙目になっている真依がいた。

 

「なんで眼鏡はそのまんまなんだよ!!」

 

「シャケ……フスッ……しゃけけ」

 

「………(これ下手すりゃイジメでは?)」

伏黒は訝しんだ。

 

「眼鏡外したのもあります」

 

完全に動けなくて泣いてる真依

 

「腫れてる目は泣いてたのか……」

真依マジ泣きに真希と釘崎はいたたまれない気持ちになった。

 

「このように『身体能力強化』を正しく行えば真依姉さんみたいな力のない人が真希姉さんみたいに暗器が大量に仕込まれた何十kgもある服を着て動けました。だから、今回は身体能力強化した殴り合いの特訓をしましょう」

 

『疑似領域展開』〜鬼陣闘技場〜

 

チーム1年ズ 監督 桐ヶ谷

 

琴音 伏黒 釘崎

 

チーム2年ズ 監督 五条

 

真希 狗巻 パンダ

 

「この『領域』の『縛り』は『敵陣』にいるときは『呪力量』が倍増する代わりに『術式』が使用できなくなります、逆に『自陣』に居るときは自由に攻撃できます。

追加で『縛り』をもう二つ。『敵陣』に入れる人はお互いのチームを合わせて一人まで。『敵陣』への侵入は交互に行う。

 

攻撃を受けるチームは『攻撃手(レイダー)』が完全に『境界』を超えたら『敵陣』に押し返すことで攻撃が交代するよ。」

 

「『縛り』の開示で補強したね?」

 

「『天与呪縛』と『呪言』と『十種影法術』ですよ?ここまで補強しないと暴れられたら壊れますよ」

 

「そうだねぇ」

 

「では、先攻後攻どうします?」

 

「私が行く」

 

真希が自ら志願する。

 

「じゃ、始めようか」

 

 

 

 

結果、禪院真希 完勝

気絶している3人を起こし、反省会をする。

 

「伏黒と釘崎ってさ。接近戦、戦ったこと殆ど無いでしょ?」

 

「「…………」」

 

「東堂先輩は『術式』なしの徒手空拳でも真希姉さんより強いよ、君らは『術式』に頼りすぎ、特に伏黒は『こちらは術式が使える』というのを優位だと考えすぎ『呪術』はもっと自由だよ、釘崎は『術式』の使用に道具が必要になるんだからそれを取り上げられたときに戦えないのは致命傷。交流戦までに姉さんに仕込み服考えてもらえ。最後に琴音」

 

「………はい………」

 

「いい加減、構えなくても技を使えるようになりなさい。」

 

「はい………ありがとうございます」

 

「あの……次、俺が行く。今のでなにか掴めた気がする。」

 

伏黒が『攻撃手(レイダー)』を志願してきた。

 

 

 

伏黒は『自陣』の中央に立ち深呼吸する。

『境界』の手前30cmの位置に『影のカーテン』を作り『自陣』の様子を隠す。

 

「ほう、動きを読ませない作戦か……やるねぇ」

 

五条悟は教え子の成長を喜ぶ。

 

伏黒はもう一度大きく深呼吸をすると『脱兎』を出して左右に分けて進行させ……

 

「真希!!『呪力』が左右に別れた!!」

 

「チッ、どこからでも来やがれってんだ!!」

(どっちから来る………?)

 

影のカーテンが揺れ

 

「真希!!上だ!!」

 

琴音と釘崎に上の方に投げ飛ばしてもらい上から強襲を仕掛ける伏黒。対応の遅れた真希の後ろを取り……

 

「だから天才は嫌いなんだよ!!」

 

真希が遅れながらも対応し後ろの伏黒を薙刀で払うが空を切る。

 

強化された伏黒の『呪力』が領域に広がる。

その呪力は真希の目にも見えるほどに黒く染まっており伏黒は『呪力』の煙幕の中に溶け込んだ。

 

完全に気配を消した伏黒はパンダの意識を刈り取ると

視界も悪く自分の呪力で充満した『領域内』では狗巻の『呪言』も封じていたため、伏黒は後ろから狗巻を絞め落とす。

 

最後に真希と対峙する。

『視覚』から『感覚』に思考を移した真希は強かったが、領域により強化された『呪力』による『身体能力強化』は強く。最終的には真希の得物を奪った伏黒が勝利した。

 

「コングラッチュレーション!!!」

 

「すごいよ伏黒!!」

 

「交流戦で准一級は確定だろうね!!」

 

「じゃあ次行こうか!!」

 

五条先生が2年ズを起こすと。次は狗巻、釘崎、パンダ、琴音と続いていくが。

1年ズ 1-3 2年ズ

 

1年ズは伏黒しか勝てなかった。

一年ズの交流戦までのそれぞれ目標が決まった。

釘崎は暗器服の作成

伏黒は視界を妨げる『黒い呪力』の活用方法の模索

琴音は『桐ヶ谷流剣術』の技の習得をして手札を増やす

 

それぞれの目標を確認し解散する。

 

 

 

「ゴフッ………」

 

「京様!!」

 

京は目と口から血を流す

 

「ごめん琴音、家入先生読んできて……」

 

指示を聞いた琴音は走り出し、入れ替わりで五条悟が近づいてくる。

 

「京はさ……無理しすぎなんじゃないの?」

 

「『最強』目指すなら『無量空処』に慣れねえといけないから無理をしますよ。」

 

「それで『陣』に僕をいれて認識してたわけね。無理した収穫はあった?」

 

「そうですね………CPUだけじゃむりだから、良いグラボがほしいかな?」

 

「………それ、やったら呪詛師だよ……」

真顔になった五条が応える。

 

「わかってますよ…………もしやるときは先生にもバレないようにやります」

 

「まあ、君が呪詛師になったら容赦しないからね?」

 

「アハハハハハハハ、冗談ですよ…………………負荷きっついわぁ」

 

家入が琴音に引っ張られて校舎から出てくるのを見た京は意識を失った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

二十六話 大海の木片

『刻印』に関しては察せ


この日、京と琴音は非番で東京観光のために原宿・表参道に来ていた。

 

京と琴音は『山盛りのかき氷』を頼むと見知らぬJK二人組が無断で同席してきた。

 

「『桐ヶ谷 京』と『禪院 琴音』だな?」

 

「お前らと取引がしたい……」

 

「…………今日は非番なんだ。仕事の依頼は明日以降に高専通してくれないか?」

 

防音の『陣』を張る

 

「「夏油様を救ってほしい」」

 

「………夏油is誰?」

 

「……………京様、百鬼夜行の主犯です。五条悟が祓ったはずです。」

 

「今、夏油様は『呪霊』に身体を乗っ取られている」

 

「私達は夏油様の体と魂を救いたい」

 

「………祓ってほしいってことか?」

 

「そうです、もう、夏油様を休ませてほしい」

 

「五条悟ではダメだった、だから貴方にお願いしたい。」

 

「………………そう………で、君等は何者?」

 

「私は枷場美々子」

 

「私は枷場菜々子」

 

「あなた達が言うところの『双子』の『呪詛師』」

 

顔を見合わせる京と琴音

 

「…………祓ってもいいけど、君等は何を差し出す?」

 

手に持っていたスプーンに呪力で長い刃を作り黒髪の方の首筋に当てる。

 

「………………」

 

「………………」

 

「何もないのに『特級』を祓えっていうのは調子が良すぎるんじゃない?」

 

「………………」

 

「………………私は…………自分の……首を………差し出します…」

 

「私も!!」

 

「………いや、別に君等の命の主導権はもう俺が握ってるんだよ?『君等の命に価値は無い』交渉のテーブルに乗せるならもっとマシな物にしな」

 

「………………」

 

「………………」

 

「………お前ら『術式』はなんだ?」

 

「……『縄術』です。」

 

「……『写真を利用した魂への干渉』です。」

 

また、顔を見合わせる京と琴音。

 

「……………そう。じゃあ君等には俺の実験を手伝ってもらうよ……」

 

「では!」

 

「夏油様を救ってくれるんですか?」

 

「まあ、『呪詛師』を祓うのは構わないよ、君らに頼まれなくてもやるさ」

 

「お待たせしましたー『ウルトラスーパーDXカラフルかき氷山盛り』になりますぅ。取皿置いて置きますねぇ」

 

「………………」

 

「………………」ジュルル

 

「………………」グゥーー

 

「………………はぁ…、君らも食べたいなら食べていいよ」

 

彼女らはお腹が空いていたのだろうか?

遠慮なく食べ始める。

話を聞くと数日ほど食べてないらしい。

三人が山を平にする作業をしている間に京都校に連絡して非番の延長を頼んだ。

このときアイスを食べる双子の呪詛師はまさか目の前『特級術師』が宿敵『羂索』の過去の実験を自分らで試そうと考えているとは夢にも思わなかった。

 

 

 

 

 

四人は高専の目を逸らすため熱海に移動した。

学生四人で旅行と行ったところか。だが、四人が現在いるのは京が個人で所有しているマンションの一室である。

操演(マリオネット)』の条件の『術式の刻印』を済ませ二人は身を清めている。

その間に実験の準備を粛々と進めていた。

風呂からあがった二人に京は儀式の内容を話し始める。

 

「君らは『祓われる』覚悟があるんだね?」

 

「「はい」」

 

「そう……なら問題ないね……、君らはコレから俺の『術式』で意識を失う。その後気がついたら良くて『片方が死んでる』、悪いと『両方とも死んでる』…………覚悟は?」

 

「「……はい」」

 

「そう、じゃあ始めようか、琴音、帳を降ろして」

 

操演(マリオネット)

 

美々子と菜々子は意識を無くし傀儡となる。

 

『『疑似領域展開』』

 

二人の『生得領域』を自分の魂を媒介に一つに合わせていく。

 

ゆっくり

 

ゆっくり

 

ゆっくりと混ぜていく。

 

混ざりあった『領域』に様々な『縛り』を足していく。

 

『一人の体と魂を差し出す』代わりに『呪力の増強』『術式の譲渡』

 

『縛り』を課し終えると『領域』を『境界』で割っていく。

 

 

ゆっくり

 

ゆっくり

 

ゆっくりと割っていく。

 

『境界』を完成させると美々子と菜々子を向かい合わせて『操演(マリオネット)』を解除する。

 

「「え?」」

 

二人がお互いを認知した瞬間。

美々子の足から体が溶け始める。

 

 

 

「美々子?美々子!!!」

 

菜々子は美々子に近づこうとするが『境界』に阻まれる。

 

「美々子!!!美々子!!!!!」

 

『境界』を割ろうと叩く拳に『呪力』が宿る。

 

操演(マリオネット)

 

「これ以上は本当に割れちゃうからだめだよ」

 

美々子が完全に溶けきると京は菜々子の体で美々子だった残骸を片付ける。

 

処理を終えると菜々子を『術式』を解く。

菜々子は猛烈な頭痛と吐き気によりトイレに駆け込んだ。

 

吐き終えた後、ふと鏡に写った自分の顔を見ると、自分の顔よりよく見た黒髪の女の子がいた。

 

「美々子……?」

 

「………どっちがどっちか知らねえけど………このスマホで『術式』使える?」

 

渡された自分のスマホで『術式』を使うと問題なく使用できた。

 

「使えます……」

 

「そう……『操演(マリオネット)』」

 

省略(ショートカット)

 

京は自身の『生得領域』に菜々子?をしまった。

優秀な『画像処理装置(グラフィックボード)』を手に入れた。

 

「………儀式は成功したけど、魂を少し持ってかれたな……」

 

操演(マリオネット)』で『縛り』をしたため、京も『縛り』に少し巻き込まれていたのである。

 

「琴音、夕飯は出前でいいかい?」

 

「………はい………」

 

「…………『お義母さん』もいいかな?」

 

ダイニングでティーセットを広げて紅茶を楽しむ『漆姫』に話しかける。

 

「僕はピザより寿司がいいなぁ、琴音もそうだろう?」

 

すぐさま斬りかかろうとする琴音を京が制して話を続ける

 

「琴音は寿司の出前をしなさい。…………で、いつから見ていらしたんですか?」

 

「君等のことはずうっと見ているよ、そりゃあ勿論、君が『刻印』しているときもね?」

 

「それは趣味が悪いな」

 

「婚約者に手伝わせて目の前でやる君が言うことではないでしょう?」

 

「………琴音………どうしよう?………返す言葉が無い…………」

 

「今更ですか?」

 

「琴音は電話に集中しなさい………………それで、なんの用ですか?」

 

「………僕は娘の顔を見に来ただけさ。すぐに帰るよ」

 

「寿司は食べてかないのか?」

 

「それは食べていくとも」

 

『特級呪霊』『呪胎』『特級術師』という不思議な三人は寿司を食べている間は確かに家族であった。

食卓は殺人現場であるけども。

 

その後、呪詛師 美々子と菜々子は京が祓ったということで処理された。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

二十七話 カフェオレ

先輩になった三輪です。

 

私は今、後輩を連れて任務に来ています。

 

 

すみません、少し盛りました。

後輩に『連れられて』任務に来ています。

 

私を連れてきた後輩は桐ヶ谷くん。

等級はなんと『特級』

真依や西宮先輩からは『生意気』だと言われていますが、癖の多い先輩方(加茂先輩と東堂先輩)より素直で話しやすいです。

 

私の隣にいるのは琴音ちゃん。

この年にして既に桐ヶ谷くんと婚約関係になっている『禪院家』のお姫様です。術式の無い『剣士』ということて私と同じ戦闘スタイルです。

 

補助監督官の方が帳を降ろしてくれました。

 

目の前には今にも崩れ落ちそうな廃洋館があります。

 

桐ヶ谷くんは指で四角を作り画角を決めています。

 

『範囲指定』『縮小(リサイズ)

 

目の前の廃洋館が一瞬で1m×1m×1mのブロックになりました。

 

『シン・陰流』『抜刀』

 

私がブロックを一刀両断すると補助監督の運転する車に乗り込み高専へと帰る。

 

本日3回目の1級呪霊を祓う任務でした。

 

流石は『特級術師』、やっている事は化け物じみてます。

 

彼曰く「『五条悟』の『術式』を攻略するために対策を練っていたら『呪術』の真理に触れられた」そうです。

 

やっぱり『生五条』ってすごかったんだなぁ。

写メ撮れてよかったぁ。

 

最近、桐ヶ谷くんの凄味が増した気がします。

 

「三輪先輩にお聞きしたいんですけど………」

 

「はい、何ですか?」

 

「コーヒーとミルクとガムシロップを混ぜて半分飲んだら残りの液体はなんですか?」

 

「……………カフェオレ?」

 

「ですよねぇ………はぁ……」

 

抹茶ラテを飲みながら深くため息を付き考え事をする桐ヶ谷を不思議に思いましたが、彼が少し変なのはいつものことなので気にしないことにした。

 

「今日は琴音ちゃんは戦闘に参加しないんですか?」

 

着いては来るが無言で戦闘に参加しない琴音を心配するである。

 

「あーーーーーー、今日は俺の術式の調整中みたいな?」

 

「そうなんですね。『操演(マリオネット)』ですか?」

 

「まあ、そんな感じです……」

 

「へえ……今も術式中ですか?」

 

「そうだよ」

 

「琴音…」

 

「はい。何でしょう?」

 

「???『操演(マリオネット)』じゃないんですか?」

『操演』は喋ることも含めて桐ヶ谷くんが操っていると聞いたので驚く。

 

「今回の『術式』はうーん『俳優(アクター)』………『女優(アクトレス)』かなぁ?」

 

「凄いですねぇ」

 

琴音を顔をふにふに触る三輪

 

「気安く触るな………」

 

「あ、すみません」

 

「はぁ………琴音、口を慎みなさい」

 

「大変申し訳ございません」

 

急に話し始めた琴音さんに驚く

 

「………すごいですね……まるで別人じゃないですか」

 

「そうだね……『解』」

 

桐ヶ谷くんが『術式』を解くといつもの何考えてるかわからないけど柔らかい表情に戻る

 

「………あっあーー、はい、戻りました。すみません三輪先輩」

 

「いえいえ、大丈夫ですよ」

 

戻った琴音ちゃんと話しているうちに京都校に着く。

 

「三輪先輩、ご協力感謝します」

 

「私は切ってただけなんで何もしてないですよ」

 

「そんなことないです。普通の人と喋ることが一番の成長なので……」

 

あ、任務そっちのけで『術式』の調整やってたな?

でも、自分の実績に繋がるので気にしないことにした。

 

「また誘ってください」

 

「はい、では………」

 

桐ヶ谷くんと琴音ちゃんは他の人達に比べてやはりいい子だなと考えつつ三輪は寮の部屋に戻った。

 

 

 

 

 

京と琴音は寮に戻らず空き教室に来ていた。

 

省略(ショートカット)

 

『生得領域』に琴音を入れると京は席に座り自分と向き合う(『生得領域』に入る)

 

 

「さて、君は菜々子か?美々子か?」

 

「私………菜々子?でも私を見てる記憶もあるし、美々子を見ている記憶もあって……」

 

「いやもういい……………はぁ………やっぱり俺も混ぜられてるなぁ、そうだよなぁ、俺も変な記憶混ざってるし……」

 

「………どうしますか?京様、始末しますか?」

 

「いや、いいよ、死んでもらうと『最強』に挑戦できるかわからんし、『魂』の方は琴音の身体に入れておいて、『身体』と『術式』は俺が使ってれば問題ないだろう、そのための調整だったわけで」

 

「わかりました」

 

「とりあえず、君の名前は暫定で菜々子ね?」

 

「はい……」

 

『投影呪法』『女優(アクトレス)』『封』

 

琴音に『菜々子』の魂を入れる。

 

「身体の主導権は琴音に持たせてるから『やりたいこと』があったら……」

 

「私の身体をどうするの?」

魂を抜いたはずの人形が話し出す。

 

「………なるほど?二人共生き残ってたのか」

 

「正確には私が生き残って、菜々子が消えかかってて不安定だったから『魂』の輪郭を保持するために表に出してた」

 

「そう………僕の知識か……参ったね………でも、二人共生き残れたならそれはそれでいいや。魂の量が多い方がやれること増えるし…………君も菜々子と一緒に琴音の身体を使うかい?」

 

「いや、いいよ。私はここで自分の体を守ってるよ。そこの女に世話とか任せるつもりだってでしょ?」

 

「そうだね、自分でやってくれるのは助かるよ」

 

「菜々子をお願い。私は眠らせてもらうよアンタの『術式』の処理は疲れるの、双子といえど私の『術式』じゃないからね」

 

「ゆっくりと馴染ませていくから安心してね、お休み」

 

「お休み」

 

「琴音、自分らも寮に戻って休もうか」

 

「はい」

 

Q.人はカフェオレをコーヒーとミルクに分けられるだろうか?

 

A.特級なら何やかんやでできるんじゃね?五条先生なら完全に分けられそう。

 

少年少女たちは新たな知見を得た。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

二十八話 姉妹校交流戦開幕

姉妹校交流戦のため何度目かの東京校への遠征。

 

『特級術師』は“指名”されるため、全国を飛び回るという特異な存在であるため東京校と京都校で滞在時間はあまり変わらない。

 

「あれ?乙骨いねぇじゃん。」

 

「わざわざ、お出迎え?気が利くわね」

 

「うるせぇ、手土産よこせよ、八ツ橋葛切りそばぼうろ」

 

「しゃけ」

 

「釘崎さん、向こうの美味しい和菓子を買ってきたので後で食べましょう、直毘人様のお気に入りの高いやつです。」

 

「なんだよ琴音ぇ、気が利くじゃねえか」

 

「………あそこの和菓子か……よく、ここまで持ってこれたな。京は食べなかったのか?」

 

「大福1ケースで足らせました」

 

心配する真希姉さんに得意げな顔をする琴音

 

「あれ?五条先生は?」

 

「またバカは遅刻なのね?」

 

「バカが時間通り期来るわけねぇだろ?」

 

「おーーまたせーーー!!」

 

和やかなムードで交流が進む二校をぶった切るように五条先生が巨大な箱の台車を転がして登場する。

 

「京都校のみんなにはお土産があるよお!!僕ね、最近海外に行ってたからねー、そのお土産!」

 

「東京校のみんなには…………………故人の『虎杖悠仁』君です!!!」

 

空気が……………………凍った………………

 

しょぼくれる虎杖、しょぼくれた虎杖をゲシゲシ蹴る釘崎。

 

「え?虎杖生きてんの?まじ?じゃあ、学長!俺も出るわ、いいよね?」

 

「宿儺の器!?どういうことだ?」

 

「楽巌寺学長ー!良かった良かった、びっくりして死んじゃったらどうしようかと心配しましたよ。」

 

「糞餓鬼が!!」

 

「……半年前の京の嘘のおかげで耐性ついたかもしれない」

 

「あら姉さん、珍しく意見が合いそうね」

 

騙されてボコボコにした人と泣きながらビンタした人だ面構えが違う。

 

 

京都校ミーティング

 

「宿儺の器、虎杖悠仁を殺せ」

 

「じゃあ俺は交流戦パス、行こうぜ東堂先輩、琴音も姉さんも行くよ」

 

「おう」

 

「待て東堂、桐ヶ谷、学長の話は終わってないぞ」

 

「禪院の意思は伝わっているはずだ、アレを祓う気なら先に『五条悟』の首を取ってこい、話はそれからだ。」

 

「謀略策略勝手にやれ」

 

「……はぁ、もうアンタら行っていいわ」

 

「真依まで何を言っているんだ?」

 

「私と琴音で残って話聞いて後で話すわ……二人がいないほうが話が早く終わりそうだし……どうせあんたは真っ直ぐ行ってぶっ飛ばすしか考えてないでしょう?」

 

二人がその場を去ると楽巌寺学長もその場を去り、本当の意味での京都校ミーティングが始まった。

 

「加茂先輩、お願いします」

 

「では………まず、虎杖なんだが。全員でかかろうと思う。相手は狗巻を気にしてバラけてしまう方が相手の思うつぼだと考えている

相手は『武器使い』1 『格闘家』2 『術師』2『呪言師』1

こちら『剣士』2 『格闘家』1『射撃手』2『術師』2

残念ながら向こうのほうが人数は少ないが粒ぞろいで単純な出力の方は相手に歩がある。1vs1になったら勝てない者が多いだろう。」

 

「ダカラ可能ナ限リ東堂ヲ利用シタイカ?」

 

「私らは東堂についていけば勝手に勝ってるわよ、乙骨いないんでしょ?」

 

「それは、さんせーい、宿儺の器のトドメなんてその時手が空いてる人がやればいいのよ。」

「一年生にやらせるわけにはいかんし、真依はどうせ呪力が持たんだろうしな」

 

「チッ……」

 

「はいはい、仲間同士で煽り合わないのすぐに本番なんだから。」

 

歌姫先生が場を締めると各々武具の調整をし始めるのであった。

 

 

 

その頃東堂と別れた京は会議室にいた。

 

「今日は喧嘩売らないのねぇ。つまらないわぁ」

 

「…………冥冥さんに売ると安く買われて高く転売されそうなので嫌です。売るならいつものトップレートで買ってくれそうな東堂先輩や五条先生に売りたいですね」

 

「私はちゃんと古物商許可申請してる友達に売るわよ?」

 

「古物商許可申請してても呪詛師に売られると困るんですよ」

 

「そうねぇ………最近物騒だもんねぇ」

 

「……………去年の俺の喧嘩は高く売れましたか?」

 

「売れなかったわぁ、君強すぎ、『五条悟』や『夏油傑』『伏黒甚爾』の再来なんて言われているわね。すぐに喧嘩売るのは『五条』にそっくりよ」

 

「五条先生より弱くて俺より強い呪詛師っていないんですか?言い値で情報買いますよ?」

 

「そこまで強かったら君から隠れてないし呪詛師って呼ばれないのよ………」

 

「確かに、違いないですね……………」

 

京と冥冥が話していると先生方が集まり始める

 

「冥冥さん。桐ヶ谷さん。本日はよろしくおねがいします。」

 

「『公平』な判断してねー?」

 

「「わかってるよ」」

 

こうして交流戦は開始した。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

二十九話 認識のトリ

「やっぱり東堂先輩突っ込んでったなぁ、五条先生、虎杖ってどんぐらい強いんですか?」

 

「そうだね……『術式』無しの殴り合いなら君や東堂と同じぐらいだよ」

 

「………じゃあ2級相当じゃないですか」

 

「まだ経験と知識が乏しかったからね、これからだよ」

 

「うっわ、えっぐいの入ったなぁボコボコじゃん。」

 

「彼ね、世にも珍しい逕庭拳の使い手なの。」

 

「そうなんですか?後で受けに行こう」

 

他の連中が合流し仲違いを始める京都校

 

「………あれ?琴音は別か?」

 

「琴音君は一人で黙々と呪霊を切ってるわよ」

 

「あの子ら……全くもう……」

 

「あ、また殴り合い再開した…………さっきのボコボコタイムあってピンピンしてるならどうやってあいつ倒すんだ?宿儺の器であのレベルなら宿儺も硬いんだろ?」

 

「どうしようかね?京ならどうする?」

 

「まず、宿儺が復活したと仮定して、『呪術』への理解度と『領域』の洗練度は宿儺に勝てねぇから『術式』で戦うしかねえな。あとは『桐ヶ谷流』の技を一つずつ上から試してくけど……ほとんど効かねえだろうな。首切って倒せるかな?器がこれほど硬いとは思わなかった」

 

「……みんなバラけたね」

 

「三輪先輩、完全にやり込められてる……」

 

「パンダとメカ丸が戦ってるよ?」

 

「いやもう、ビジュアルが『特撮』なんよ」

 

「野薔薇も3年相手によくやってる」

 

「…………………お!!落とした!!…………………真依姉ちゃんに撃ち抜かれてる」

 

 

 

 

 

「よぉ?助け呼ばねえのか?私は2vs1でも構わねえぜ」

 

「楽しみ方ってのがあんのよ。アンタは一人で楽しみたいのよ」

 

「姉ちゃんって呼べよ、妹」

 

二人の対決が始まる。

 

「何笑ってんのよ!!」

 

「ちょっと昔のこと思い出してた」

 

(1)

 

(2)

 

(2発か……あと4発)

 

(距離取って死角に入った?距離取るとか馬鹿じゃっ)

 

真依が立っていた木の枝が切られる

 

(下かよ!!)

 

(3)

 

ゴッ(4)

 

腹部を蹴られる真依と捨て身の銃撃をギリギリで躱す真希

 

(5)

 

(6)

 

(6発打ったな)

 

(6発打ったなって思ってるわよね、だから今しかないの。私のすべてを今ここに賭ける……あんたを倒すためにずっと黙ってた……初恋も、術式も……)

 

『構築術式』

 

存在しないはずの7発目が真希を襲うが……

 

「いってぇ!!手で取るもんじゃねえな……」

 

真希の刃が首筋に触る

 

「決着ってことでいいな?」

 

「……なんで家を出たの?」

 

「あ?言わなくてもわかんだろ?オマエだって高専来たんじゃねえか」

 

「私は呪術師になんてなりたくなかった!!アンタが頑張るから私も頑張らざるを得なくなった。努力も恐いのも痛いのももうウンザリ!!適当に雑用こなして……京の隣で守られて生きてたっていいじゃない……今はもう彼の隣にはあの子がいる!!…なんで、私と一緒に落ちぶれてくれなかったの……」

 

「……オマエ…………、ごめんな………………アイツが来てからの禪院家は確かに私達に優しくなっていたのかもしれない……でもな私はあそこにいたら私が私を嫌いになっていた………それだけだよ……」

 

「…………嘘つき………」

 

「真依姉さん!!!」

 

『桐ヶ谷流剣術』『抜刀』『斬』

 

琴音の斬撃を真希は森林の木を利用した三角跳びで避け距離を取る

 

「大丈夫ですか?………真希姉さんに泣かされました?」

 

「大丈夫よ……あと、私は棄権したから。」

 

「そうですか……わかりました。では、私は真希姉さんを取りに行き…………え?」

 

この時、琴音の『陣』にナニかが入る

 

「琴音!!大丈夫?目と鼻から血が出てる!!」

 

「ヤバいです、姉さん今すぐ全力で後ろを振り返らずに逃げて…………」

 

「でもアンタは!?」

 

「いいから早く!!!真希姉さんも逃げて!!!」

 

「…………!!…………乗っかれ真依!!」

 

真依琴音が背にする木の向こう側にいるナニかを感じ取った真希は真依連れて逃げ出す。

 

 

 

 

「ウッ」

 

「ゴホッ」

 

冥冥が目から血を流し京は吐血する。

映されていた画面はすべて赤く染まった。

 

「五条先生!!家入先生を呼んでください!!『特級』です!!しかも、『認知したら魂に干渉するタイプ』です!!」

 

「君はどうする!?」

 

「……チッ……帳が降り始めてます。俺先に向かいます!!では!!」

 

『投影呪法』『編集(ディレクト)』『交換(スワップ)

 

京が座っていた椅子には琴音が座って血を垂れ流していた。

 

「ミルナ、キクナ、ミルナ、キクナ、ミルナ、キクナ、ミルナ、キクナ、ミルナ、キクナ」

 

呪咀の言葉だけが会議室に響き渡った。

 

 

 

「京……これ処理しきれないかも……」

 

「そうだね……でも何とかしないとね……『陣』と『六眼』対策だな?……ゴホッゴホッ」

 

目と鼻と口から血を吐き出しながら『圧倒的な情報』の呪霊と対峙する。

 

「ただ、琴音の体がヤバそうだから」

 

『投影呪法』『編集(ディレクト)』『女優(アクトレス)

 

美々子を琴音の体に移す

 

 

 

「ちょ!!!お前はどうすんの!!」

 

呪咀の言葉を繰り返していた琴音が急に普通に戻ったため。会議室の全員が驚く。

 

「……………今、この体の主、禪院琴音を休ませるために眠ってもらっています。アレは『六眼』で見ても危険なものなので京様一人で祓うそうです」

 

急に琴音の体に飛ばされた美々子は血を拭きながら説明する。

 

「もうバカは行っちゃったわよ!!」

 

「京様の説明でわかっていると思うので大丈夫でしょう。私は回復のために休眠モードに入ります。皆さんは生徒たちを助けに行くと思いますが。絶対にアレを見たり聞いたりしてはいけません。」

 

「わかったわ」

 

 

 

 

 

「よし……やろうぜ……『トリ』さんよぉ『生得領域』まで出しやがって……」

 

まだ、真っ昼間のはずの東京校が夕日で赤く染まっていた。

遠くでカラスが鳴いている。

自らの『生得領域』にある『外部画像処理装置(グラフィックボード)』は目鼻口から血を流し痙攣してる。

 

手で印を結び、一歩ずつ『トリ』に近づく足が地面にめり込む。

 

「重ぇ……重ぇ………!!血が止まんねぇ!!」

 

間合いに入る前に左膝をついてしまう。

 

「ハァ………ハァ……まだ……まだまだ……」

 

それでもなお近づこうとするが脚が動かない。

 

「キシシシシシシ、僕の力は必要かい?」

 

後ろから『漆姫』が抱きついてくると『情報』の処理が軽くなる。

 

「………いえいえ、お義母さんの力を借りるほどの事ではありませんって……」

 

「そうかなぁ?もう君には駄目だと思うけど?私はアイツの影響受けないやり方を知ってるし…」

 

「ゴホッ………『黒塗』と『かぐや消し』ですか?…………生憎……俺は『無修整』の『生データ』が大好きなんですよ……………直毘人さんにこっそりジ○リの原画見せてもらったりするぐらいにはね?………ディレクターズカット版とか円盤買って見ますよ。」

 

「でも、このままだと君、脳が熱で固まって死んじゃうよ?」

 

「…………その前に祓います……」

 

「そう、じゃあ」

 

『漆姫』は京の頭を掴むと顔を『トリ』の前に近づけて離す。

 

「『生得領域』のこの子は琴音の治療に使うから、あとはズルせず『一人』で頑張ってね♡」

 

「…………そうですか……琴音を頼みます……」

 

『漆姫』が影に消えると目の前に圧倒的な情報の『トリ』が視界を埋め尽くした。

 

「目はくれてやるよ」

 

死力を尽くして腕に呪力を貯める

 

『閃』

 

その『トリ』は祓われた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

三十話 交流戦二日目

美々子in禪院琴音です。

結果だけ言うと団体戦は中止になりました。

現在、琴音と菜々子は魂の修復中です、『生得領域』に誰かが私達の体を入れてくれたおかげで大量の『情報』の処理が進んでいます。

 

京は現在手術中となっており、集中治療室の前には私と五条悟と庵歌姫がいます。

 

「……………君、傑のところにいた双子の呪詛師でしょ?」

 

「はい…………」

 

「五条、じゃあ呪詛師と繋がってたのって……」

 

「いいや、繋がってたなら彼はこんなことしないね」

 

「いま、琴音と菜々子は魂の修復中……私達は夏油様を救うために動いている」

 

「…………傑は僕が祓ったはずだよ?」

 

「貴方が祓いきらなかったから夏油様の体が何者かに操られている………私達は桐ヶ谷京に頼るしかなかった、私は夏油様を祓うために桐ヶ谷京に祓われることを選んだ、私達は死んだ人間。呪霊と繋がっている可能性のある貴方達に話すことはない」

 

「…………まさか呪詛師に言われるとはね、彼女の言ってることが本当なら呪詛師と繋がっている人は上層部にまでいることになるよ」

 

「………アンタと関わるとろくな事がないわね………」

 

集中治療室の扉が開く。

 

「……眠い………悪いけどあたしゃ寝るよーー」

 

集中治療室から仮眠室に吸い込まれていった家入

 

「生きてるー!!!!」

 

治療室から目隠しをつけた京が出てくる。

 

「おかえり京、僕とペアルックじゃん」

 

「わかんねえけど俺の目、『陣』が止めらんなくなっちった。見たものの情報が即入ってくる。目隠しないとうるさくてダメだね」

 

京の目をしっかり『理解』するために目隠しを外す五条悟

 

「…………君の目『呪力』消費してないね。『陣』じゃないでしょ?」

 

「わかんね……感覚的には『死角』のある『陣』って感じ」

 

「………人間の脳には使ってない領域があるって聞くけど、そこを無理やりこじ開けたんじゃないかな?凄いね人体」

 

「お腹すいた……行こうか琴音……」

 

「はい……京様」

 

「待ちなさい!!あなたには……」

 

「やめようか歌姫……彼らは我々、大人の失敗を押し付けられただけさ……双子の呪詛師は残穢から死亡が確認されてる、それで終わりだよ。」

 

「悪いけど偽夏油は俺が祓うよ、やっと見つけた『本気』で戦っても良い『特級』の人間なんだ。」

 

 

 

 

食堂に行くと学生たちがいた。

みんな包帯やガーゼをつけている。

伏黒はそこそこ重症で医務室で寝ているらしい。

 

「よ!!」

 

「「京!!」」

 

双子の姉たちが京に駆け寄ってくる

 

「いやぁ『特級』は強えわやっぱり……」

 

二人にもみくちゃにされながら話を聞くと『トリ』の他にも特級が二体と『呪詛師』数人が居たらしく、補助監督官の人や高専警備の術師が何人かがやられたそうな。今、正確な被害の報告を待っているらしい。

 

「目が見えなくなったと思ったら前より見えるようになったよ、すげえよこの目、例えばこちらに背を向けてる加茂先輩の視線やパンダ先輩やメカ丸先輩の中身まで見える見えるけど……負荷がやばい。目隠しつけよう」

 

「京、まるで悟だな」

 

「マイ・ブラザー!!京!!元気になったか?」

 

「元気だよ……お腹すいた……」

 

「ピザ頼んであるわよ、一杯残ってるから食べなー」

 

西宮先輩が指さした先には

1~3ピースだけ抜けて大量に残っているピザが山になっていた。

 

「うん、みんな俺のことをカ○ビィやカ○ゴンだと思っていない?」

 

「カビ○ンなんて生易しくねえだろ?イビル○ョーだよイビ○ジョー」

 

「落ちてる肉、変色した肉も食べてないよね?」

 

「そんなことはしないよ………………ピザ食べるか……腹減ってるし」

 

ピザを食べる京はどことなくスッキリしていた。

 

 

 

 

 

「かっとばせー!!きょ う と!!ピッチャーぶっ飛ばせー!!」

 

次の日、京は外野席から野球の応援をしていた。

琴音は辞退して隣で座っている。

 

「西宮先輩、ルールしらねぇなこれ。歌姫先生めっちゃキレてるじゃん」

 

「……………京様、戻りました。」

 

「おかえり琴音、あれはきつかったね」

 

琴音の『生得領域』に入っていた『外部画像処理装置(グラフィックボード)』を回収する

 

「ミミナナも聞こえてるかい?」

 

「聞こえてるよ………聞こえてる」

 

「どっちかこちらに戻れるかい?」

 

「わたし、菜々子が戻ります」

 

「そう……『解』」

 

「美々子もお疲れ様、ゆっくり休みなさい」

 

「はい…………」

 

二人が眠りにつくと応援に戻る。

今、東堂がデットボールを受けている

 

「ナイスP!!」

 

スタンディングオーベーション

結局、今年の交流戦も虎杖のホームランで東京校が勝利した。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

三十一話 先輩からの勧誘

場所は名古屋、廃ビルの中で呪詛師と京が戦っていた。

 

「ふっざけんなよなんでアイツがここにいるんだよ!!」

 

呪詛師の男は目の前の理不尽()への憤りを口にしていた。

 

『閃』

 

呪詛師の足元の床が切り落とされて階下に落下する。

そこに居たのは京である。

 

「くっそぉ、何なんだよお前!!」

 

『断』

 

「…………五月蝿いな」

 

指を軽く振ると呪詛師の首が落ちる。

返り血を拭きながら京は補助監督官に電話して後処理を任せる。

廃ビルを出ると琴音に迎えられる。

 

「お疲れ様です。本日二人目になります。」

 

「残りは?」

 

「市内に呪霊祓いが一箇所、市外にて呪詛師の目撃情報か一人います」

 

「菜々子………負荷はどれぐらい?」

 

「まだまだ問題ないよ」

 

「ありがとう。では次に行こうか」

 

「はい」

 

補助監督官の車に乗り込み次の現場に向かう。

 

「そろそろ正午ですが……」

 

「………お昼か……………朝は何食べたんだっけ?」

 

「……目玉焼きとソーセージとご飯ですね」

 

「そうか………昼何食べようかな……」

 

交流戦を終えて京は通常の任務の他に『呪詛師狩り』をしていた。

呪詛師と言えど人を祓わねばならないことに対して京は精神をすり減らしていたが、それでも祓わねばならない理由があった。それは今後起きるかもしれない『宿儺の復活(Xデイ)』に向けて多くの術師や呪霊を祓い、その魂を糧に自らの『呪力』を補強する必要があるためである。

 

命を取りに来ている狡猾な呪霊ではなく本気で生きるために逃げる人間を祓うのはほとんど狩りであり。ある程度慣れている呪詛師が側にいなければ心が壊れていたかもしれない。そう思いながら日夜狩りを続けている。

 

「呪霊は楽でいい、ほとんどの呪霊は逃げようとしないから……」

 

「そうですね……」

 

「すみません……そこのファミレスに入ってください」

 

補助監督官がファミレスの駐車場に車を停める。

 

 

 

 

「何食べましょうか?」

 

「………コーンスープとオムライスとカルボナーラとチョコパフェ」

 

「……噂通りよく食べるねぇ……相席大丈夫かな?」

 

「貴様!!!」

「………美々子、菜々子、不用意に動いたら消すよ」

 

「はい………」

 

臨戦態勢になった双子を諌めて質問を始める

 

「で、先輩は何しに来たんですか?」

 

「少し僕のフォロワーが気になってね」

 

向かい合っている琴音の隣に『夏油傑』が座る。

 

「……………先輩………もしかして……『加茂憲倫』?」

 

「アッハッハッハ、それも私の名前の一つさ」

 

「…………なるほど……………彼女らには悪いことをしたな」

 

「僕は彼女らにあの儀式を行って『呪力』を抽出しようと思っていたんだがね………儀式を君みたいな使い方をするとは思わなかったよ……長生きするもんだね………それでだ………

 

君、こちら側に来ないか?」

 

「…………勧誘するなら、まず自分の目的からだろ?」

 

「桐ヶ谷!!話が違うぞ!!」

 

「美々子……黙れ……テメエも目の前のコイツも呪詛師である以上は同じ穴の狢だ…………」

 

琴音の体で喋り始める美々子を呪力で縛り付ける

 

「女の子相手に怖いねぇ、それでも『正義の呪術師』かい?」

 

「………俺の『正義』はあの子を祓った時から存在しないよ………でアンタらの目的は?必要ならば『縛り』を作るけど」

 

「いいや、いいよ、君はどうせ喋らないでしょ?」

 

「そりゃどうも」

 

「僕の狙いはね、現行の体制の崩壊さ。日本を人間が支配する国ではなく『呪術師』と『呪霊』が支配する国にすること」

 

「…………その先は?………いやいいや、別になんでも………呪術高専の上層部にも言ってるんだけど『五条悟』が自由な限りは『呪詛師』になるつもりはないね……」

 

「そうかい?じゃあ『五条悟』がいなくなったら?」

 

「そうしたら考えるよ…………」

 

「…………そう、いいことを聞いた、君の今日ターゲットの呪霊と呪詛師はここにいるよ」

 

偽夏油はニコッと笑うとメモをおいて席を立つ

 

「午後は非番にしてあげたからコーヒーは奢りにしておいてくれよ、ゆっくりお昼を食べてくれ………あと、姫によろしく伝えておいてくれよ…………」

 

手をひらひらさせて店を出ていく夏油は店の外に消えていった。

 

「……………美々子、あの偽物は『五条悟』対策を何してるか聞いているか?」

 

「…………」

 

「…………」

 

「じゃあ、菜々子を………」

 

「待って!!!………私達は知らない………私達は『宿儺の器』に宿儺の指を食わせるとある程度『抑制』のできる『宿儺』が復活するとしか聞いてない」

 

「そう……琴音に戻して………………琴音、今から補助監督の安否確認とか色々しておくから、俺のぶんも先に注文しておいて…………」

 

「わかりました」

 

「菜々子も琴音の中に入れておくから3人で好きなものを選んでおきなさい」

 

「………………はい」

 

指示を出した京も足早にスマホを出しながら店の外に出る。

 

「キシシシシシシ、ちょっと双子に厳しいんじゃない?」

 

「五月蝿い少し黙れよ」

 

影から少し顔を出した『漆姫』を蹴り潰しながら車へ向かう。

補助監督官に頼んで応援を頼みメモの場所に送ると呪詛師の死体と呪霊の残穢があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まあ、禁書棚の儀式を人体で試したり呪詛師を祓わず匿ってる時点で俺ももう『呪詛師』なんだよなぁ……」

 

京は二皿目のオムライスを食べながら独り言を呟いた

 




仕事の関係で更新頻度が下がります。
お気に入り登録と高評価で私の筆が乗ります。
誤字脱字報告も熱心に読んでいただけているのがわかってやる気になります。
何時に読んでるかわからないけどお休みなさい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

渋谷事変編
三十二話 ハロウィン


21:40

 

ハロウィン当日、京と琴音は夜蛾学長と家入さんと一緒に後方待機を命じられていた。

 

「…………どうして……………」

 

バリバリ前線で戦う気であった京は仮設テントの隅でいじけて丸くなっていた

 

「…………私も彼がここにいるより前線で暴れさせたほうが良いと思うんだけど…………」

 

「上の連中は『五条悟』と『宿儺の器』が『特級呪霊』達と相打ちすることを望んているんだろう……まだ、禪院の息がかかった彼が生き残ったほうが良いという考えだろうよ……………」

 

「…………俺も戦いたかった…………『精霊』と呼ばれるほどの『特級』と……」

 

「いい加減、機嫌直してください、護衛任務も立派な任務なんですから」

 

「『五条』が前線いる時点でもう終わるじゃん、何から家入さん守るのさ」

 

「……じゃあハロウィン限定のスイーツ食べてのんびり待ちましょうよ、美味しいですよ?栗とサツマイモのクレープ……………五条先生がこっちに寄越すのは弱い呪詛師だけでしょうから」

 

「クレープは美味しいんだけどね?………それほとんど学長一人で十分じゃない?」

 

「五条先生にもし万が一何かあったら飛びだせばいいじゃないんですか?」

 

「いや、ねぇだろそんなこと」

 

Prrrrrrr

 

スマホが鳴る

 

「????虎杖?………はいもしもし…………」

 

「やっと繋がった!!!虎杖だけど!!五条先生が封印された!!俺はナナミンと合流する!!学長と家入さんに伝えて!!」

 

「………わかった、連絡ありがとう虎杖……宿儺さんもお手柔らかに頼むよ……」

 

「え?なんですく…ピッ

 

「………学長……家入さん……五条先生に何かあったみたいなんで………」

 

ザクッ

 

「『呪術界』、切らせてもらいますね………」

 

名刀『文幸』が夜蛾学長の腹を貫く

 

「…………桐ヶ谷…………お前…………」

 

「家入さんいるし死ぬことないし、俺に刺されたなら言い訳も立つでしょ?『呪傀』何個か壊させてもらいますね」

 

夜蛾の呪傀を何体か呪力で捻り潰す

 

「京様!!どういうことですか?」

 

「琴音もミミナナもこれからは邪魔だから」

 

交換(スワップ)

 

琴音の姿は消え、指輪が2つ落ちる

 

「………私は刺さないのかい?」

 

「家入さんは夜蛾学長を治療してここで待っててください、どうせ生きてるか死んでるかわからないけど沢山戦闘不能の人が来ると思うから」

 

「………そうか……………君も行ってしまうのか……」

 

桐ヶ谷は落ちた指輪を拾うと家入の言葉を待たずに帳に向かって飛び出していた。

 

 

 

 

22:00

 

桐ヶ谷は帳の近くをゆっくりと歩きながら入れそうな場所、切れそうな場所を探す。

 

「キシシシシシシ………本当にいいのかい?」

 

「ああ、帳を破ったら『陣』の中にいる『術師』と『補助監督官』以外の人間を食え……間違えて真希姉さん食べるなよ?」

 

「君は本当に面白いね………『呪霊』の私とも『刻印』を結ぶだなんて」

 

「………ずっと琴音の中にいたならお前も『刻印』が自動でついてると考えただけだよ……術師じゃない人間は、件の虎杖とナナミンが戦った『特級呪霊』が人間を改造するからな、いるだけ無駄な被害を生むだけだよ。他の『呪霊』に食われたりするよりマシだろう……」

 

「なんだ気がついてたんだ」

 

「『コトネ』はお前が産んだ『魂』だろ?『漆姫』お前が本物の『禪院琴音』だ」

 

「正解!!東北で婆さんにアノお茶呑まされた時は焦ったけどね!!」

 

「そうかい……………とりあえず今日は頼むよ『琴音』」

 

「はいはーい!!アイシテルヨ、ダーリン」

 

『漆姫』(禪院琴音)は双子の体を借りて京の影から『生得領域』に潜っていった。

京は目隠しを外し『すべて』を見渡す。

 

『桐ヶ谷流剣術』『中段』『月穿』

 

助走をつけた打突で帳に力尽くで穴をあける

 

『陣』

 

「『範囲』は指定したよ」

 

(あら、こんなに食べていいのね)

 

『領域展開』〜漆黒暗影庭〜

 

帳の中と外に作られた領域内に影が蔓延り非術師を飲み込む

 

(……………ごちそうさまでした……美味しくないのも混ざってたけど………あら、今頃帳が上がってるじゃない)

 

「……ちっ、他の『術師』に悟られないように………」

 

この時、その場にいた『術師』と『呪霊』の強者達が誰一人気がつかない中で唯一。京だけが『呪力』の概念の外の気配を感じ取る

 

「…………やべえ…『琴音』………ひさしぶりに興奮してきた………」

 

(どうしたの?)

 

「『本物』が近くにいやがる………」

 

(ふーん、そう。)

 

「しかもこっちに来やがった。」

 

「……てめぇ………『術師』か?」

 

「………その顔………全く無い呪力………やっと会えたぜ……『本物』の一人………『禪院甚爾』……………」

 

「俺を知ってる奴ってことは『術師』だな?死んでもらうぜ」

 

「………『琴音』は手を出すなよ……折角の『本物』の味が落ちる」

 

省略(ショートカット)

刀をしまうと構える

 

禪院家の『本物』と禪院家の『懐刀』が拳を交える。

 

 

 

 

 

 

死合を続けて何分が経ったのであろうか。

時間の感覚を無くすほどの充実した時間。

本気で殺し合っても許される相手に夢中になっていた。

 

(あのさぁ………楽しんでるところ悪いんだけど……)

 

時間(デュレーション)』『圧縮』

 

(これ以上の『圧縮』は難しいよ)

 

(うるせえ、久しぶりの『本気』なんだ黙ってろ)

 

時間を圧縮して既に30回を越えて亜音速に達していた

それでも対応する『禪院甚爾』に驚きつつもお互いの打撃をぶつけ合う

 

(…………あと…………直毘人さんと真希姉さんとナナミンが特級と接敵して『領域』に入れられたわ……)

 

「はぁ!?マジかッぐふぉっ!!」

 

甚爾の蹴りが脇腹に決まりビルの壁に叩きつけられる

 

「痛ぇええええええ!!『琴音』ぇ!!」

 

(仕方ないわね)

 

『反転術式』で修復される。

 

「悪いがアンタの親戚連中が大変そうなんで、逃げさせてもらうよ」

 

『漆黒霧雲』

 

『投影呪法』『編集(ディレクト)』『投射(アニメーション)

 

桐ヶ谷は黒い霧の中、全力で駆け出す………が。

 

「………やべぇ………普通じゃほとんど見えない霧の中、見えない速さで逃げてるのに、距離は離せているけどこっちに付いてきやがる……」

 

(ダーリンの目より優秀かもよ?)

 

「………そうかもね……怖いねぇ『天与呪縛』」

 

井の頭線渋谷駅に突入する

 

「あ!!伏黒!!」

 

「桐ヶ谷!!領域内に先輩たちが!!」

 

「知ってる!!『領域』使えるか!?」

 

「ああ!!」

 

「んじゃ突っ込むぞ!!あとで、ゲストも来るから期待しててね!!」

 

「何いってんだ!!早く行くぞ!!」

 

『『領域展開』』

 

二人の若きの天才が戦地に赴く。




渋谷事変、時系列間違えてたらゴメン


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

三十三話 桐ヶ谷 格る

格る
いた|る

物事の真理に達する。


〜嵌合暗翳庭〜 〜戦場の映画館(ヴァルハラシアター)

 

(暗闇と光、どちらも『影』を扱う術師の共闘の『領域』か…)

 

「真希さん!!」

 

伏黒の影を伝って特級呪具『遊雲』が真希のもとに届く

 

「ほんっとうに!!『天才』は嫌いだ!!」

 

「みんな生きてる!?」

 

「京ぉ!!遅えぞ!!!腕一本どうしてくれるんだ!!」

 

「直毘人さんも元気そうで何よりだよ!!」

 

救出に来た後輩たちに安堵するが

 

「直毘人さん!!あと数十秒で甥っ子が来るから!!!!」

 

「はぁ!?」

 

京は『甚爾』を招き入れるためにできるだけ大きな穴を開けておく。

 

「桐ヶ谷……直毘人さんの甥っ子って?」

 

「『禪院甚爾』だよ……」

 

このときその場にいた全員が目にする桐ヶ谷が開けた穴から現れる。

 

全てを捨て去った者の剥き出しの肉体のその躍動を!!

 

甚爾が入った瞬間、一か八かを賭けて京は呪力を抑える

 

奴は『呪力』の量でターゲットを取っているのではないか?

 

圧倒的な速さと霧で撒こうとしたのに撒けなかった、そのカラクリを京はこう考えていたのである。

 

そして、その推理は当たり、ターゲットは『特級呪霊』へと向く。

 

「甚爾…………」

 

「………え?」

 

『遊雲』を持った真希がふっ飛ばされる

 

「………嘘だろ……ジジィ、あいつ何もんだ?」

 

砂浜に着地した真希が直毘人に問う

 

「……………奴は……ただの『亡霊』だ………」

 

直毘人は応える。そしてその直毘人の後ろに恵体を隠す男、京が補足する。

 

「どっかのバカが『甚爾』さんを降霊して受肉させやがった、さっきまで殴り合ってたんだけどコッチがヤバいって気がついて救援に来たんだけど………撒けなかった、俺が領域再開するとこっち狙い出すから伏黒頑張れ、父親を勝たせたれ」

 

「…………集中したいんで気になる話するのやめてくれませんか?」

 

「伏黒くん、今は耐えてください。そして禪院家の皆さんも黙ってください……………彼に賭けます」

 

ギィン ギィン ギィン ギィン

 

「すげぇ!!!呪力なんか見えてねえはずなのに呪具に込められた『呪力』を研いでやがる」

 

圧倒的な甚爾の存在感に逃げようとする『特級呪霊』を直毘人が蹴り落とすと甚爾がトドメを差す。

 

バリンッ

 

『領域』が消えると同時に甚爾がその場から消えていた。

 

「恵!!!」

 

「くっそ、ヘイト管理間違えた……」

 

「バッカ何やってんだ…………っ!!」

 

「逝ったか陀艮」

 

新たなる圧倒的な強敵の出現に

京は一人だけ心の底から悦んだ。

 

「百年後の荒野でまた会おう……」

 

「おい火山頭」

 

「なんだ?貴様は?」

 

「お前、前に『五条先生』が言っていた『精霊』に近い呪霊だろ?」

 

「ふっ、それがどうした?」

 

「手合わせ願いたい……俺の持てるもの全力で……」

 

京の影が駅に広がっていく

 

「…………お前……本当に人間か?」

 

「……………ノーコメントで……」

 

漏瑚と京が話している間に他の三人はその場を離れる

真希は直毘人を連れて家入の元へ向かい、七海は五条救出に向かう。

 

「『火礫虫』!!」

 

無数の虫が京に向かう

 

代役(スタントマン)

 

代役が虫に振れると虫が爆発する

 

「ははははは!!いいねぇ!!」

 

『投影呪法』『編集(ディレクト)』『時間(デュレーション)』『圧縮』

 

『漆黒泥沼』

 

影が沼となり漏瑚の足を取る

 

省略(ショートカット)

 

懐から『文幸』を取ると構える

 

『桐ヶ谷流剣術』『抜刀』『斬』

 

「ちぃ!!!」

漏瑚は足元に新たに大地を作り跳んで回避する。

 

 

「もっと『自由』に祓い合おうぜ!!」

 

『漆黒蟒蛇』『添付』『文幸』

 

『漆黒呪法』『桐ヶ谷流剣術』『ヤマカガチ』

 

京は黒く染まった刀身を振るう

 

「舐めえおってぇ!!」

 

駅が爆発した。

 

 

 

瓦礫となった井の頭線渋谷駅の中心で立っている漏斗

そこへ近くのビルの影から京が現れる

 

「もう一度聞く………貴様は人間か………?」

 

「そうね……俺は『呪霊』を目指してる人間かな?『最強』目指すなら『五条』レベルになるか『呪霊』にでもならないと無理でしょ?」

 

漏瑚の左腕が黒く染まっていく

 

「……………避けたと思ったんだがな」

 

「『ヤマカガチ』は刀身が動くんだよ。」

 

「貴様の『術式』は『投影呪法』ではないのか?」

 

「『投影呪法』だよ、中に入ってるフィルムを回してるだけさ」

 

「そうか……この腕はもういらん」

 

黒く染まった腕を切り捨てる漏瑚

 

「お前、本気で『呪霊』を目指しているんだな?」

 

「ああ」

 

「………そうか、そういうやつもいるのか………先にコレを渡しておく。好きに使え」

 

漏瑚を宿儺の指を固定した巻物を投げ渡す

 

「え?あ、ありがとう?」

 

「よし!!よいだろう!!儂の呪術の『最強』の技を見せてやる!!」

 

「おう!!」

 

極ノ番・『隕』

 

空に隕石が現れ京と渋谷ストリームを襲う

 

「うっそだろ!!『呪詛師』も『術師』もやり合ってないでさっさと逃げ「その必要はないんだよね」

 

「桐ヶ谷!?」

 

「長谷川先生、剣で隕石を何とかしたら呪術剣士として誉れじゃないですか?」

 

「京?お前何言ってるんだ」

 

長谷川先生と逃げもせずその場で刀を構える桐ヶ谷

 

「皆さんはその場を動かないでくださいね……下手に動くと切っちゃうかもしれません」

 

『領域展開』〜漆黒暗影庭〜

 

渋谷にまた、漆黒の帳が降りる

広大に作られた領域は渋谷全体を包み込む

 

『漆黒呪法』『付与』『黒澄』

『投影呪法』『投射(アニメーション)』『時間(デュレーション)』『圧縮』『圧縮』『圧縮』『範囲指定』『分割(セパレート)

『乗算』

 

 

『桐ヶ谷流剣術』『抜刀』『黒影閃』

 

「『空間分割(グリッド)』」

 

降りかかる隕石がすべて細切れになる。

 

「ふぅ!!!気持ちぃいいい!!」

 

 

 

 

 

 

京が『隕』を打ち破っている間に『生得領域』を自由に移動した『漆姫』は虎杖悠仁のところに来ていた。

 

「……やっぱり『宿儺』にも紹介しないとね」

 

京が持っていた『宿儺の指』と漏瑚から貰った『宿儺の指』を虎杖に食べさせる

 

「………なんだ………お前か………久しいな!!」

 

「まあ、『同窓会』もいいかなって、君が気に入った『伏黒』君も凄いね!!あの年であのレベルの術師なのはすごいよ!!」

 

「お前の『桐ヶ谷』もやるじゃないか……最初は殺してやろうと思っていたがな……お前を通して人間を喰らうとはな…現代の術師の中では骨のあるやつだ」

 

「キシシシシシシ、じゃ、私は戻るよ」

 

「俺は…………桐ヶ谷の遊んでやるか……」

 

「お手柔らかに頼むよ………」

 

「…………それは、俺の気分次第だ……」

 

 

 

 

「次は俺から行くぜ」

 

『投影呪法』極ノ番『トウエイ』

 

「なっ、これは…………!!」

 

『領域展開』〜無量空処〜

 

「すごいでしょ?五条先生から聞いてるよ、一度君はこの技を食らってるって、俺も………まあ、何度か食らってるんだ」

 

「……………」

 

「無限なんか扱えないよ!!『有限』だとしても君の脳に負荷を掛けるには十分な物は交流戦のときに仕入れられたからね」

 

「……………」

 

「それを使って再現してるかだけ…………さて……多分蓄えてる『呪力量』的にそろそろかな………」

 

「……………」

 

「『琴音』…………コイツを喰らえ………」

 

「はーい、いただきま~す」

 

影から大きな口が開き、影が動けない漏瑚を喰らう

京の顔に2つの目が開く

 

「……………凄いね……『呪力』を喰らうと本当に目が増えるんだ……」

 

「格ったか……小僧………」

 

覚醒した宿儺が巨大なモニターに腰掛けながら話しかける

 

「あ、『宿儺』さん、どうも………本当に目が増えるんですね」

 

「格れた褒美だ……少し相手してやろう……構えよ」

 

「………一人の『術師』として……その『褒美』……謹んで受けさせていただきます。」

 

地面に膝を付き深々と礼をすると。

そのまま構えるを取る

 

示威運動(デモ)

 

大量の人間が渋谷の街に現れる。

 

戦争(バトルウォー)

 

大量の兵士と兵器が導入される。

 

殺し殺されの地獄絵図。

 

溢れる『殺気』に京は身を隠す。

 

「あーーーはっはっはっはっは!!!良いじゃないか。『呪詛』と『殺気』を隠すために場を地獄絵図で埋め尽くしたか。それでこそ『呪術』の本質、さあ、始めるぞ。呪い会おう小僧!!!」

 

二人の『呪霊』の『戦争』が始まった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

三十四話 命の天秤

桐ヶ谷は都庁の上層階を貫通して吹き飛ばされていた。

 

人から『呪霊』に格ったと言えど『宿儺』とは格が違った。

 

家電量販店の屋上に着地する桐ヶ谷。

 

「『琴音』……もっとだ!!モッと喰わせロ!!」

 

「はーい、おかわり入りまーす」

 

『領域展開』〜漆黒暗影庭〜

 

まだ客の多い飲み屋街を漆黒の帳が包み込む

 

『投影呪法』『時間(デュレーション)』『操作(コントロール)

 

飛んでくる『宿儺』の時間を縮め、自らを伸ばすことで『加速』をつける。

 

発破(ボム)

 

接敵する寸前に爆炎が宿儺を襲うが宿儺は気にせず突っ込んでくる

 

「良い『解釈』の広げ方だ!!だがまだまだだ!!」

 

蹴りにより桐ヶ谷は夜の新宿駅に叩きつけられる

 

「小僧はいい目を持っているから『見せる』のも良いな!小僧!!よく『見て』おけよ」

 

新宿駅の上で宿儺は印を結ぶ

 

『領域展開』〜伏魔御厨子〜

 

それは『範囲』に閉じ込めない『領域』

『画角』という『縛り』から開放された『領域』

薄れゆく意識の中で桐ヶ谷はまた新しい『呪術の真理』に触れるのだった。

 

 

 

 

 

 

後方待機している家入の元に『術師』や『呪詛師』が集まっていた。

 

『呪詛師』の全員が家入の命目当てではなく、仲間や自分の怪我を治すために来ていた。

 

忙しなく働く家入の手伝いをする禪院真希の元に電話がくる。

 

「はい。もしもし!!!琴音!!今どこいるんだよ!!」

 

「………今、禪院家の自分の部屋に居ます……」

 

「はぁ??なんで?」

 

「五条先生が封印されたため……京様が逃してくれたんだと思います」

 

「え?どうして?」

 

「『宿儺を復活させる』からだと思います」

 

「はあ?なん………」

 

「女……コイツを寝かせておけ……」

 

一瞬だけ現れた『宿儺』の圧、存在感により一瞬その場にいる全ての人間の時間と息が止まった。震える真希はその声に従うしかなかった。

 

「…………京!?家入さん!!京が!!」

 

宿儺が姿を消すと全員が息を吹き返す。

京の身体は胴体が二つに切れていた

 

「……寝かせとけば治るよ………」

 

「はぁ!?何言ってるだよ!!体が真っ二つだぞ!!」

 

「………だってこの子、もう『呪霊』だもん……」

 

「えっ………」

 

「………やっぱり……」

 

「あ、琴音!!大丈夫か?」

 

「大丈夫です……大丈夫なんです………はい……でも……少し休ませてください……」

 

「ああ、わかったから休め!!母さんたちにも伝えとくから!!」

 

電話が切れると本家に電話する真希

これまで断片的であった『五条封印』の影響が『宿儺』の登場により皆が自覚し始める。

 

暫くして、渋谷の一部が灰塵と化し、『伏黒恵』が待機所に連れてこられていた。

 

「恵!!!」

 

真希は恵を待機所のベッドに乗せると隣のベッドに寝ていた京が起き上がる。

 

「京!?お前大丈夫なのか?」

 

「よし、生きてるね……おはよう真希姉さん。俺は『特級呪霊』になった。人も万単位で喰った。これから『呪術師』から全力で逃げるから。じゃ!!」

「ちょっと待て、少しは説明しろ!!」

 

京は真希の静止を振り切って走っていった。

 

「もう!!何なんだよ!!!!」

 

真希の叫びが廃墟だらけになった渋谷でこだました。

 

 

 

 

「………五条先生を!!返せ!!!」

 

京は偽夏油に叫ぶ虎杖を見つける。

 

「よう……『偽物』」

 

「君は無事になれたんだね?じゃぁ、話そうか……これからの世界の話」

 

「そうだね……、話してもらおうか。面白ければ乗ってやるよ先輩」

 

「クククッ本当に君、『呪霊』になったんだね………」

 

「さっき『宿儺』にボコボコにされて真っ二つにされたけどね」

 

「それは勿体ないことをしたな……実は『呪霊操術』の極ノ番にはとても良い副産物があってね……準一級以上の呪霊を使用した場合、その術式を『抽出』できるのさ。」

 

小さくまとめた『真人』を飲み込む夏油。

 

「……はぁ………私が気が付かないとでも思っているのか?」

 

偽夏油は西宮の合図で飛んできた血の矢とライフルの弾丸を避ける。

 

『シン・陰流』『簡易領域……

 

極ノ番『うずま……『終末(アルマゲドン)』……き』

 

「先輩たち……少しは話を聞こうよ」

 

夏油は頭上に現れた『うずまき』をぶつけるが圧倒的質力に粉砕される。

その膨大な呪力の固まりに全員が空を見上げ立ち尽くす。

 

一時停止(ストップ)

 

「…………流石にあれが頭上にあったら落ち着いて話せないんだけど?」

 

「そう?舐めたこと話したら落とそうかなっておもってたんだけど」

 

『範囲指定』『切り取り(カット)

 

「てめえら何やってんだ!!!全員引くぞ!!!」

 

一瞬で現れた歌姫先生と長谷川先生が学生たちを回収する。

 

「加茂憲倫!!!!!よくも!!俺に弟を殺させようとしたな!!」

 

「身をわきまえろ三下」

 

腸相が偽夏油に殴りかかるが裏梅に止められる。

 

場が乱れたことに乗じて『獄門疆』を取り返そうと動く『術師』達。

 

京はつまらなそうに地面に瓦礫の破片で『印』を描く。

 

『領域展開』〜漆黒暗影庭〜

 

一体に漆黒の帳が降りる。

その場にいた全員が影に縛られる。

 

「落ち着いて……話をさせてくれないかな?」

 

「………いやぁ、ありがとうね…隕石よりこっちの方が助かるよ」

 

「私も混ぜてもらおうか………」

 

九十九由基が現着する。

 

「覚えているかな?世界から『呪霊』を無くす方法、どんな手段を取るにしろ人類は一つ上の段階に進めることになる、人類の未来(ネクストステージ)は」

 

「呪力からの"脱却"だよ」

 

「違う、呪力の"最適化"だ……君もそう思うだろ?未来(ネクストステージ)に格った桐ヶ谷くん」

 

「……………禁書棚漁って、『天与呪縛』の人体実験して、実際に"最適化"に格った俺から言わせてもらえば………」

 

「どっちも無理があるってのが本音かな?理想論だけじゃ半端者は迫害され、力無き者には死が与えられる。"最適化"も"脱却"も『命の天秤』を自由に傾けられるのはアンタらや俺みたいな一部の『特級』だけだよ」

 

「ほう、それで君はこれからの世界、『五条悟』のいない世界をどう生きる?」

 

「俺は『思想家』じゃないよ、アンタらが何しようと関係ないね、気に入らないなら『切る』だけだよ。自由にしなよ」

 

偽夏油の拘束を解いて『自由』にする。

 

「おい!!桐ヶ谷!!何やってんだ!!」

 

「君は僕が考えている以上に僕側の『ニンゲン』で助かるよ…………既に『術式』の『抽出』は済ませてある………」

 

『無為転変』

 

上空に巨大な『印』が描かれる。

 

「いま、僕がマーキング済みのニ種類の非術師たちに、遠隔で『無為転変』を施した。虎杖悠仁のように『呪物』を取り込ませたもの、吉野順平のように『術式』を持ちながら頭の構造が非術師のものそれぞれの脳を術師の形に整えたんだ…………これなら君も楽しめると思うよ桐ヶ谷京、1000人の『虎杖悠仁』が世に放たれたよ……」

 

「……そう、それは楽しみだよ……」

 

ニンマリと笑う桐ヶ谷京。

 

「私が配った呪物は千年前から私がコツコツ契約した術師たちの成れの果てだ、だが私が契約を交わしたのは術師だけじゃない、まあそっちの契約はこの肉体を手にした時に破棄したけどね。」

 

「まさか」

 

「これがこれからの世界のだよ」

 

偽夏油の影から大量の呪霊が放たれる

 

「じゃあね、虎杖悠仁、桐ヶ谷京、君等には期待しているよ。」

 

再び呪術全盛の平安の世が訪れる。

 

「悪いねみんな……俺は自分勝手に『天秤』を傾けることにしたよ……………」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

双子儀式編
三十五話 虎杖と桐ヶ谷とお兄ちゃん


呪術総監部より通達

 

一、夏油傑生存の事実を確認

同人に対し再度死刑を宣告する。

二、桐ヶ谷京を『特級術師』から『登録特級呪霊』へ登録を変更『一級』以上の術師は見つけ次第それを祓うこと。

三、五条悟と桐ヶ谷京を渋谷事変共同正犯とし呪術界から永久追放かつ五条悟の封印を解く行為も罪と決定する。

四、夜蛾正道を五条悟と夏油傑、桐ヶ谷京を唆し渋谷事変を起こしたとして死罪を認定する

五、虎杖悠仁の死刑執行猶予を取り消し速やかな死刑執行を決定する。

六、虎杖悠仁の死刑執行役として特級術師乙骨憂太を任命する。

 

 

 

「だってよ……どうするの?」

 

京の『生得領域』で『ナナコ』は問う。

京が食らった人間の体に魂を『女優(アクトレス)』で定着させた受肉体『ミミコ』と『ナナコ』は京の『生得領域』内に作った海と砂浜でバカンスを楽しんでいた。

 

「私はどっちつくにしても京様について行くよ」

 

『琴音』は『漆姫』を受け入れまた一体となった。

それにより琴音は『漆姫』の術式が刻まれた。

 

「………結局夜蛾さんはアウトか……今はとりあえず姉さんたちを助けに行かないと………」

 

「やっぱり、京のお姉さんたちもあの儀式されるかもなんだ?」

 

「ああ、俺も『後天的天与呪縛』の書物があんなに見つけやすいところに置いてあったのが気になってたんだ……それで、探りを入れたらビンゴ……上層部は直毘人さんの入院中にあの儀式を行う気満々だった………渋谷事変が無くとも何かしらの理由をつけてやる気ではあったんだろうね……ちなみに候補には君達の名前もあったよ……双子の術師は珍しいからね」

 

「そう………で夏油様はいつ開放するの?」

 

「時期を見ては本気で殺し合うかな。『五条悟封印』の役目は終わったし。彼の言う『死滅回遊』の準備が終わったら。参加してやればそのうち行き着くでしょう?」

 

「九十九派はどうする?」

 

「乙骨先輩とは戦いたいなぁ。どうせ虎杖は殺されないと思うし……真希姉さんと真依姉さんの現在地掴めてないし合流するなら虎杖探せばいいか……」

 

思い立った京が立ち上がると『領域内』の『幻影』も消えて黒塗りになり。

マンションの一室に変わる。

 

「みんな水着から着替えて出発しようか」

 

 

 

 

 

ところ変わって病室には横たわる直毘人と見舞いにきた直哉が居た。

 

「で、アイツは『呪霊』になっちまったと……」

 

「ああ、俺も待機所で寝転んでるときに見たけど完璧に呪霊になってたぜ、真っ二つにされた胴体も少し眠っただけでくっついていたりもした。」

 

「へぇ……やるやん……で『禪院家』はどうする?」

 

「『禪院家』は『我関せず』だな。………建前上はアイツは既に『呪術高専』の管理下だったからな、本当なら『禪院家』本家の子供と婚約関係にあった高専生が呪霊になっちまったんだから責任追及してもいいんだけどよ、アイツが『禪院家の懐刀』で名が通っちまってるからな。お互いにそこの責任は追求しねえだろよ。」

 

「んじゃ、お咎めナシか………『親父』はどうしたいんだ?」

 

「………可能ならぶん殴って、あいつが殺した人の家族に一人一人一緒に謝って回るかの………」

 

「………喧嘩して怪我させたガキの親かよ…………そういえば………京の両親って何してはるん?」

 

「京の親は亡くなっとるよ」

 

「は?」

 

「京の親はアイツがまだ生まれて間もないときに『不慮の事故』により『受肉体』になってしまったから『呪術界』に秘匿死刑が行われている……アイツにはガス爆発の事故に巻き込まれて死んだって教えられてるけどよ。」

 

「『ガス爆発』って、またベタなこと、アイツも気がついてんじゃね?………………ん?………『不慮の事故』って?」

 

「上層部が現役術師に黙って行っていた『受肉体』を『使役』する実験に手違いで選ばれて『受肉』させられちまったんだ 、書類を間違えた奴はその場で死んじ待ってるから真実は闇の中……」

 

「………そのことあいつは知らんのやろ?」

 

「アイツは知らねえだろうけどよ……他の『上層部の連中』は今、生きた心地はしねえだろうな………『夏油』の『桐ヶ谷』に命狙われながら『宿儺』も受肉してるのは……『乙骨』は過去に『秘匿死刑』を言い渡してるし、『九十九』は助けてくれって頼んで助けてくれる訳ではない、『五条悟』は封印され、『禪院家』に『桐ヶ谷』の件は頼めねえ…………何なら『加茂憲倫』の書物を見せた『加茂家』も他の『上層部』は信用できなくなってる…………実際のところ京は気にも留めてないだろうけどな」

 

「なるほどねぇ……なんで親父が責められずにのんびり入院できんのか合点がいったわ」

 

「それでよ………俺が入院している間はお前が『当主代理』だからよ……真希と真依の事を頼みたいんだ……」

 

「………?なんでなん?」

 

「あの二人は上層部の人体実験の対象になっとる……」

 

「…………『宗伝』の術式を継ぐ可能性を可能な限り減らしたくないと……」

 

「わかってるじゃねえか……甚爾の息子の件もあるからな。」

 

「……任されたよ……ゆっくり寝ときなよ〜ゆっくり寝てる間に俺が当主になっといたるわ~」

 

「おう……頑張ってくれよ……」

 

 

 

 

 

 

渋谷のビル街の真ん中で手を叩く虎杖。

 

パンッ!パンッ!パンッ!

 

音に釣られて沢山の呪霊が群がる。

その光景をビルの上から眺める京と琴音とミミナナの四人組が見下ろしていた。

 

「ちょっと『虎杖』に真希姉さんがどこにいるのか聞いてくるから」

 

京はビルから飛び降りると同時に虎杖に襲いかかる呪霊の半分を祓う。

 

「桐ヶ谷!!テメェ!!」

 

「虎杖!姉さん達がどこにいるか知ってる?」

 

「あんだけ人を食っといてどうして平気な顔をしているんだよ!!」

 

虎杖は桐ケ谷に殴りかかる

 

「てめえも同じぐらい殺してんだろうが!!」

 

桐ケ谷も応戦する。

 

「そうだよ!!だからなんで平気な顔してられるんだよ!!」

 

虎杖の『逕庭拳』が桐ケ谷の顔に決まる寸前で回避する。

 

「エゴを通しておいて死人に悪びれてたらテメエは満足かよ!」

 

桐ケ谷の『閃』を振り抜く寸前で弾く。

 

「そういう話じゃねぇ!!」

 

虎杖の振り抜いた拳が回避した桐ケ谷の後ろにあったコンクリの塊を破壊する。

 

 

 

「なんで、みんな、人を殺しても心が傷んでねえんだよ……」

 

 

 

「…………オメェ、『五条悟』に護られて、最初から『宿儺』と『偽夏油』に作られた強靭な体と強さを持ってるからわかんねえんだよ……」

 

「は?」

 

「力が無いと守りたいものを守れねえ!!!テメエは自分で守れるかもしれねえけどよ!!自分も守れねえ『術師』がどれだけいると思う?そいつらのほとんどは『五条悟』に護られてきた!」

 

「テメエが守ろうとしてた『呪術界』は本当にテメエの友人を助けてくれるんかよ!エゴを通すなら力を持つしかねえ!!」

 

「そんなこと!わかってんだよ!!それでも……それでも……俺は平気な顔をできねえ……殺してしまった人達に対して最期まで真摯に向き合って生きたい」

 

「そうだな……悪いけど俺の『天秤』は1万の命じゃなくてエゴに傾いただけだよ。オメェはオメェが守った人間に自分の殺した犠牲も背負わせんのかよ。」

 

「俺はそんなつもりはねえんだよ………でも………」

 

「…………だよな……虎杖はいいやつだもん。」

 

二人は互いの矛を収める

 

「悠仁!!大丈夫か!?」

 

脹相が駆けつける

 

「貴様!!俺の弟から離れろ!!」

 

『赤血操術』『刈祓』

 

飛ばされた血の手裏剣を桐ヶ谷ははたき落とす。

その時、『陣』に禍々しく圧倒的な『呪力』が入る。

知ってる、この呪力は奴の……乙骨の呪力である。

 

「えーっと、赤髪の方が虎杖くんで、そっちが桐ヶ谷くんだよね………とりあえず今日は悪いけど虎杖くんだけ祓わせてもらうよ……」

 

「貴様も悠仁の命を狙ってきたのか!?」

 

「…………なるほどっ」

 

桐ヶ谷が脹相へ攻撃を仕掛ける。

 

「邪魔をするな!!」

 

「まあまあ……俺もアンタとやってみたかったんだ。」

 

桐ケ谷は脹相の体に拳を振り抜くとそのまま五反田の方まで一緒に跳ぶ

 

「ふ〜ざ〜け〜る〜なあああああたああ」

 

真っ暗なコンクリートジャングルに木霊した。

 

脹相を大型商業施設屋上の看板に叩きつけると。手刀を叩き込む。

 

『桐ヶ谷流』『抜刀』『閃』

 

脹相は『百斂』で受ける

 

「この練度の『閃』を受けられのは初めてだよ!!」

 

「俺はお兄ちゃんだぞ!!そんな攻撃を通すわけにはいけないのだ!!」

 

弾かれた京は空中で留まり抜刀の構えを取る

 

「そうっすか!!」『省略(ショートカット)』『文幸』

 

『桐ヶ谷流剣術』『抜刀』『天地返し』

 

空中で体の捻りを使った抜刀を脹相は宙返りで回避すると距離を取る。

 

「………あのさ、『受胎』に家族愛ってあるの?」

 

「??何いってんだ、産まれ出た生物である以上、家族への愛情は備わっているものだろう?」

 

「………そうか…………ありがとう。そろそろ終わってるだろうし戻るかー。」

 

「…………待て…貴様、なぜ俺にそんなことを聞く?」

 

「ちょっと気になっただけさ……さて……そろそろ戻ろうか」

 

千駄ヶ谷に向けて力強く大地を蹴る桐ケ谷とそれを追う脹相。

先程戦っていた場所に着くと乙骨が虎杖に『反転術式』を施していた。

 

 

「乙骨先輩……少し話したいことがあって……」

 

「奇遇だね桐ヶ谷くん、僕も話したいことがあるんだ……」

 

 

二人はゆっくりと『お話』しながら『虎杖』を探しているであろう『伏黒恵』の到着を待つことにした。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

三十六話 捜索

甚壱さんの立ち位置を完全に誤解してた。
すみません、本当にすみません。
覚えてる限りは修正しましたが。修正忘れてるところを見つけたら教えて下さい。



「良かったぁ!!」

 

虎杖が目を冷ますと自分を刺殺した相手が笑いながら話しかけてきた。

 

「え?……なんで?」

 

「虎杖……

 

 

「伏黒!!」

 

「何してんださっさと高専に戻るぞ」

 

「でも…俺は!!」

 

「渋谷のアレは俺達のせいだ、俺達はヒーローじゃねぇ『呪術師』だ、俺達呪術師を本当の意味で裁ける奴なんか存在しねえ、俺達は存在意義を探してひたすら救い続けるしかねえんだ……だから、まずは俺を助けろ。加茂憲倫が仕組んだ呪術師による殺し合い“死滅回遊”に津美紀が巻き込まれた。お前の力が必要だ………あと、桐ヶ谷も頼む………力を貸してくれ」

 

「…………別に構わねえけど……姉さん達どこに居るか知らない?」

 

「……真希さん?真依さん?」

 

「どっちも。」

 

「真希さんは渋谷事変で直毘人さんに付き添いで病院に行ったのを見たのを最後に見てない。真依さんは京都校の人達と一緒に京都に帰ったと思う。」

 

「…………そうか……ありがとう。」

 

「今、高専の結界はかなりゆるいから虎杖みたいな人なら入っても問題ないんだけど……『呪霊』はなぁ」

 

「……たしか……夏油先輩の『呪霊操術』や虎杖みたいに取り込んだ『呪霊』ならバレねえんだよな…『琴音』!!」

 

京の影から琴音が現れる

 

「はい……」

 

「ちょっと、止まっててね」

 

導入(インストール)

 

琴音の影の中に吸い込まれていく京

 

「これなら問題ありませんね?っと言っています。」

 

「そうだな、今は気配が人間になってる」

 

「………まて、彼女は俺と同じ……」

 

「…上層部には伏せてますが…私は貴方達と同じ『呪胎』です。」

 

「……そうだったのか……君らも大変だな」

 

「私のことは京様もそうですが直毘人様や直哉様も庇ってくれています……」

 

「…………教えてくれてありがとう。今はとにかくみんなで合流しようか」

 

 

 

 

 

「やあ。諸君、来てくれてありがとうね」

 

「九十九さん!!」

 

「禪院琴音さんも来てくれたか……ならば丁度良いな……君を探していたんだ……もし連絡が取れたら真希くんや真依くんに伝えてほしいんだが……」

 

「直毘人さんが昨夜、呪殺された」

 

「え……………?」

 

操演(マリオネット)

 

「あ、テステス、『特級呪霊』のキリガヤです。」

 

「……君も来てたのか……」

 

「直毘人さん呪殺の件は本当ですか?」

 

「本当だよ……昨日の夕方、直哉くんがお見舞いに来て、彼が帰ってその後の深夜に何者かによって『呪殺』された。今朝彼と一緒に死体を確認したよ。彼は大分焦っていたね…。」

 

「………非常に不味いですね……すみません、自分ら皆さんに協力できません」

 

琴音(京)は出口へ向かう

 

「………どうして彼も君もそんなに焦ってるんだい?」

 

「上層部は姉さんたちを使って『制御できる五条悟か伏黒甚爾』を作ろうとしています!!」

 

それだけ言い残して京は高専から飛び出した。

高専の範囲から出ると京は琴音から出て琴音を影にしまう。

直哉に電話をする。GPSで場所がバレるかもと思っていたがな背に腹は代えられない。

 

「もしもし、京か?話は聞いたか?」

 

「九十九さんから聞きました。姉さんたちの情報が全然掴めません。」

 

「俺も今『高専』関連の施設全部直接見て周ってるねん。全然居らへん!こうなること予測して計画してやがる!」

 

「………本当は奴ら、直毘人さんを『渋谷事変』で殺して、真依姉さんと真希姉さんを死んだことにする予定だったのを自分が『偽夏油』と交渉して真依姉さんを外してもらったんですよね」

 

「……ちょいまち、上層部は今の『禪院家』を潰す気やったんか?」

 

「………結果的に言うとそうですね。多分内部にも裏切り者がいますね……」

 

「こんなことになると俺らが走り回るのを知ってて………」

 

「直毘人さんに恨みを持ってる人物………」

 

「「扇だ!!!」」

 

「……分家も巡ったんやけど誰もおらへんでな………本家か!!みんな葬式の準備中で地下なんて誰も見とらんで!!」

 

「最速で向かいます!!」

 

「せやな!!」

 

二人の最速の術師は音速に近い速さで家に帰る。

 

 

 

 

粛々と直毘人の葬式の準備をする禪院家に二人が帰宅する。

 

「おかえりなさいませ直哉様と………京様!!」

 

「みんな話は後や。これからここは戦場になるかもしれん。女、子供は全員、逃げな。」

 

「ですが、直毘人様の葬式の準備が………」

 

「当主命令や全員ここから失せろ。戦場に女、子供がいても邪魔だけや!!」

 

「!!………かしこまりました。皆さん!!今準備してるものを全部おいて分家の方に移動します!!」

 

二人は慣れた足で進んでいく。

よく見知った場所。地下訓練施設に目当ての人物達がいた。

 

床に描かれた『呪印』の上に双子は寝かされている。

京の場合『術式』と『呪力操作』によって術式を簡略化することに別の儀式として成功させていたが通常は違う。膨大な呪力を対象に流しこむ事で器の中の『魂』を薄め、それぞれが『認知』できなくなるまで希釈し続けるのである。完全に薄まると2つの対象は一つになり、その後ほとんど『呪霊』に近くなった対象に大量の『縛り』を施し、一つになった魂を片方の対象の器で『覚醒』させることで『認知』を再開し、魂の強さで負けたほうが全ての『縛り』を受け入れもう片方の器で死を迎える。

 

「その人たちはどうしたん?扇さん……」

 

「彼らは生贄だよ……。尊い犠牲だよ。我々『禪院家』が強くになるには必要な犠牲だ」

 

直哉の視線の先には禪院家の分家の人たちの亡骸が山になっていた。

 

「分家の家が留守が多いのは葬式の準備に来てると思ってたんやけどな……ホンマやってることクソやで……」

 

「君なら理解できるだろう?桐ヶ谷くん。人を食らって『呪霊』になった君ならね、正しい行いをするには犠牲はつきものだろう?」

 

「………何言ってるんだ?俺は行動に『正しさ』を求めてねえぞ?」

 

「そうかい、でももう手遅れだ『儀式』は『完成』する。」

 

「させるわけないだろ?そのために帰ってきたんだから」

 

「『禪院家当主』として特別一級術師『禪院扇』を呪詛師に認定………」

 

術式開放『焦眉之赳』

 

「貴様らの速さなんぞ直毘人で対策済みだ!!」

 

『落花の情』

 

『投射呪法』『(あらため)

 

投射(アニメーション)』「圧縮」

 

戦いの結果は一瞬だった。

 

名実共に『最速』の称号を得た二人の『呪術師』の攻撃は『落花の情』の誘発速度を上回り扇の体を引き裂いた。

 

「『親父』の速さで考えてたら遅えよ、だから『当主』に慣れへんねん……………京、今の状態から二人に分離できそうか?」

 

「………そもそも成功するほうが珍しい禁術です。普通は両者死にますが……死力(ベスト)を尽くします」

 

「任せたで……「「『ヒトリニシナイデ』」」………うぉっ!!」

 

直哉は急に目の前に現れた2体の『呪霊』に驚く

 

「………こいつは……双子の呪霊………?」

 

「……コイツら『呪物』取り込んで『特級』になってます。気をつけてください直哉さん。自分はこれから高度な『領域内部』で作業します。結界の効果はないので絶対に双子を入れないようにしてください。」

 

「はぁ、ホンマ……任されたで…………」

 

ため息を付きながら構える直哉

 

「行くで……」

 

『禪院家の天才』が『本物(アッチ)』に到れるかどうかの戦いが始まる。




直哉も京と鍛錬を積みより多く『五条』の戦っているところを見ることで『本物』に少しずつ近づけています。

『改』の内容は次回。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

三十七話 普通の女の子

「………2vs1かぁ、やりにくいなぁ」

 

「『ヒトリニシナイデ』」

 

「しかも女かよ……ほんまやりにくいなぁ」

 

「『ヒトリニシナイデ』」

 

『投射呪法』『改』

 

京と稽古するとで『呪術』の本質、『魂』の輪郭を把握することに成功していた。そして、アニメーションの高速戦闘の技法『中割』の採用により効率的な加速を可能にしていた。そして近代になり現在の24fpsになった『投射呪法』を直哉は30fpsに改造、フレーム数を増やすことでとある『副産物』を使えるようになっていた。

 

呪力強化で身体強化し接近戦をする『赤い着物を着た呪霊』と呪力で球を作り投げ飛ばしてくる『青い着物を着た呪霊』

 

『青い呪霊』の攻撃を躱した直哉に『赤い呪霊』の蹴りが当たると思ったがすり抜ける。

 

「モン○ンポータブルの世代やねん。『フレーム回避』はお手の物や……」

 

京の『投影呪法』の解釈の広げ方を見て直哉も解釈を広げることに成功した直哉は30フレームのうち、完全に攻撃を受け付けない『完全回避』のフレームを1つ打ち込むことに成功していた。

 

『青い呪霊』が薙刀を作りだし『赤い呪霊』に渡す。

 

「チッ………ホンマに!!やりにくい呪霊やなあ!!!」

 

圧倒的な集中力と打ち込み量で加速を始める。

 

加速を終えた直哉は2体の呪霊に突っ込む

『赤い呪霊』がカウンターを合わせるが『フレーム回避』する。

 

「おにいさんとお外で遊ぼうや!!!」

 

2体の呪霊を掴むとそのまま上に向かう。

地上へ出ると『赤い呪霊』を裏山に投げ飛ばす。

 

「まずは『物作る』の方や!!」

 

『術式』に打ち込み、音速に達する拳の連撃を叩き込む。

 

『黒閃』

 

直哉は京とは違うアプローチで『黒閃』に達した。

一撃にすべてを込めて『黒閃』を狙うではなく。回転率を上げて手数を増やし『面』で制圧することを意識した。その結果、誤差0.000001秒の壁を圧倒的速度と試行回数で打ち破ったのである。

 

「……今のが『黒閃』か…………」

『青い呪霊』を擦り潰すと『赤い呪霊』を祓いに裏山へ向かう。

 

「『アア、アアアアアアアア!!ヒトリニシナイデェエエエエ』」

 

「………少しは『独り立ち』しろっつちゅうねん!!」

 

『呪霊』と肉薄する。

 

『投射呪法』『改』

 

空中から薙刀で切りかかってくる『呪霊』に拳を腹部に叩き込んだあと、一瞬で後ろに回り込み踵落としで地面に打ち付ける。

 

fpsを上昇させたことにより『加速力』が上昇した『投射呪法』でに『フレーム回避』そして、呪霊の攻撃を動きの途中で『呪力』で相手の攻撃を完全に『防御』する。

 

「予め動きに数フレームの防御を決め打つ『ガードポイント』や……上の奴らは新しいものを取り入れようとせんからアカン……」

 

『呪霊』を組み伏せる

 

「『ヒト……ヒト………リ、ニ』」

 

「消えろドブカスが……」

 

足で踏み潰して祓う。

 

「京は分離に成功したんやろか?」

 

直哉は屋敷を目指して歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

禪院真希と真依は砂浜を歩いていた。

 

「お姉ちゃんは好きな人できた?」

 

「……気になってる奴はいる……」

 

「そう……良かった………」

 

「真依は……?もちろん京はナシだぞ?」

 

「私は………まあ、一緒にいて悪くは無い人はいるかな……」

 

「それは良かったよ……」

 

「まだ、当主目指してるの?」

 

「そうだな……まだチャンスはあると思ってる。1級にも推薦されたし。真依は何か目標とか無いのかよ」

 

「私は……普通にウエディングドレス着て結婚して……普通に子供産んで……普通に子育てして……子供と喧嘩したりして……そして………………」

 

 

 

「普通に死にたい……」

 

 

 

「………難しいな……」

 

「そうだね……私の夢はもうとっくに諦めてるもん。」

 

「姉さん!!」

 

京は『生得領域』に入ることに成功する。

 

「京!!」

 

「姉さん達を今から『分離』します!!」

 

手で印を結び『生得領域』に『境界』を作ろうとする京を真依が止める。

 

「私はもういいから……………『呪術』の世界じゃ双子は同一のものとして見られる、お姉ちゃんが頑張っても私が足を引っ張ってたら意味ないのよ……」

 

「真依!!何いってんだ!!」

 

「『縛り』は私が全部持っていくから………」

 

「真依姉さん!それ以上言っちゃ駄目だ!」

 

「『私をもう楽にさせて』」

 

京の『領域』が消えると真依が砂浜に倒れる

 

「真依!!」

 

「真依姉さん!!」

 

二人が真依に駆け寄る

 

「おい!!バカ野郎!!お前も残るんだよ!!」

 

「姉さん!!行っちゃだめだ!!」

 

「京、ありがとう。直哉さんにも、前に連れて行ってもらった東京は楽しかったって伝えといて」

 

真依の魂が『縛り』より徐々に消滅していく

 

「お姉ちゃんは私と同じで美人なんだから…泣かないで……大丈夫、もうこれは要らないからこれももらっていくね」

 

真依は真希の眼鏡を外す

 

「待てよ……私を一人にしないでよ……」

 

『生得領域』から真依が完全に消滅した。

 

「………もうこれ以上は失わせない………ギリギリで魂の輪郭を掴めたました。真依姉さんの『縛り』を自分が肩代わりして遺体だけでも残します。」

 

「……………ああ……頼む…………」

 

京は真希を触媒に真依の肉体に繋げ『縛り』を自らの肉体に移す。

 

(真依姉さん……『術式』をいただきます………)

 

『縛り』と『術式』を自分に移す。

 

「移動に成功しました。戻りましょう。」

 

「………ああ……そうだな……」

 

『生得領域』が閉じると同時に『桐ヶ谷京』は吐血する。

 

「ゴファッ………やっぱり……やべぇや、『呪霊』になってなかった即死だった……」

 

「京……お前………真依から『術式』盗っただろ?」

 

「…………バレました?……今は死にそうなんでお手柔らかにお願いしたいんですけど……」

 

「あいつは普通の女の子になりたかったんだ……真依に『術式』はいらねえよ、だからよ……コイツにドレスを作ってくれねえか?」

 

「…………わかりました……」

 

『投影呪法』『構築(コンストラクト)』『衣装(コスチューム)

 

京と真希は冷たくなった真依を連れて屋敷の離れの部屋に戻る。

 

「………そうか……」

 

直哉はその様子を見て屋敷の外に避難していた家の者達を呼びに行った

 

 

 

 

 

 

 

白いドレスに身を包んだ真依がいる

 

真希が化粧を施している間に京は部屋を出ると同時に西宮が訪れる。

 

「真依ちゃん!!!」

 

先輩の泣き叫ぶ声を後ろに聞きながら京は廊下を歩く。

 

「…………直哉さん……もう俺を見逃さなくていいですよ……」

 

「……今は喪中やねん………」

 

「………それにしては仕事が速いですね……」

 

直哉の右手には上層部と繋がっていたと見られる禪院家の人間の死体が掴まれていた。

 

「……………家事は別や……………お前……全員殺すつもりやったやろ?」

 

「…………まあ……そうですね……今は手加減できないかもしれません」

 

「そんなことされたら『禪院家』としてお前を祓わなあかんくなるからな…………ほとんどの『術師』にお前を祓うのは無理やねん」

 

「……………ありがとうございます…………」

 

「ウチの人間が先導してやった以上ウチらは何もできひん…………ただ、『禪院家当主』に喧嘩売ったねん。」

 

「………わかってますよ………俺は『呪霊』ですよ………言われなくてもやりたいことをやりたいようにやる………それが『呪霊』じゃないですか…………」

 

 

 

 

 

 

 

 




死滅回遊編に行きたいのですが原作を追い抜くことができないので番外編を始めたいと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

三十八話 その後の話とその前の話

禪院直毘人と禪院真依、禪院琴音の葬儀は粛々と行われた。

 

禪院琴音は『特級呪霊』『桐ヶ谷京』に呪殺されたことになった。

上層部からは『桐ヶ谷京』が現れた場合を考え何人かの術師が派遣されたが、現れることはなかった。

 

葬式が終わり待ちに待った『当主』の座についた直哉は考えていた。

 

『桐ヶ谷京』の強さの本質は何なのか?

 

何故『桐ヶ谷京』は呪霊に至ったのか?

 

『桐ヶ谷流剣術』の対人戦闘に対する完成度が高すぎるではないか?

 

考えているうちにある1つの仮説を考えて、葬式会場に残っていたある人に話しかける。

 

「お師匠さん……お久し振りです」

 

「おう、直毘人の跡取りか、久しいな」

 

要注意人物として現在『上層部』からマークされている桐ヶ谷文幸である。

 

「………今現在、お弟子さんって何人ほどいらっしゃるのですか?」

 

十数年前、文幸が『禪院家』に武術指南に来ていた頃、直哉の記憶では道場にいた弟子は200人以上いたはずである。

 

「え?あー、今は京の一人だけだぜ」

 

「………他のお弟子さんは?」

 

「京が5歳のときに全員斬り殺したよ」

 

直哉は絶句した。

 

「俺たちは戦うための『戦士』で『剣士』だぜ?本気の死合するならどちらかが死ぬに決まってんだろ?」

 

直哉の感じていた違和感は確信へと変えていく。

思い返してみると親父の最初の言葉『死なない程度に』京向けての言葉だったんじゃないか?

京が持っていた『剣士』や『術師』でないものは斬らないというストッパーを『卒業試験』で壊してしまったのではないか?

俺はとんでもない『化け物』の手綱を離してしまったのではないか?

 

「本気で刀を極めるんなら人の血は流すのも必要だよな?俺だってそのために海外の紛争中の場所に行って切りまくったりしてたんだから………じゃ、俺は帰るから。」

 

『要注意人物』『桐ヶ谷文幸』は禪院家をあとにした。

 

その後、『禪院家』は炳二人と灯二人を失ってしまったため、立て直しが終わるまでは『上層部』からの通達に応えられないことを伝えた。

 

真希と伏黒恵の行動に関しては『黙認』という形に決まった。

 

 

 

 

 

 

「自分の葬式を見るのは変な感じしますね」

 

京と琴音は葬儀を影の中からずっと見ていた。

終わったあとファミレスに入っていた。

 

「っていうか、高専お抱えの術師、私らの気配気が付かなかったね〜」

 

普通の人からは琴音とナナコのJK二人が夜にファミレスで駄弁ってるようにしか見えない。

席には何故か圧倒的な威圧感により近寄りがたいのだが。

 

「………あのレベルの術師で師匠は止まらないと思うけどね…………俺は後で食べるから好きに食べな……」

 

「……………やっぱり人って若い女のほうが美味しかったりする?」

 

「…………受性が豊かな思春期の奴が美味い……………特に気にしたことがないけど『呪力』の基本は負の感情だから………元気スッキリ健康体の奴より鬱憤が溜まってる奴、後はメンヘラとかは美味いんじゃね?」

 

「………食事のときに聞かなければよかった……」

 

「………?そうですか?」

 

美味しそうにいちごパフェを食べる琴音

 

「……………琴音はなんでご飯のときにパフェ喰ってんのよ……デザートじゃないの?」

 

「???…………デザートにサンデーが来ますよ?」

 

「栄養の偏りとかは『呪胎』には関係ないのかよ……」

 

「ナナコももう『呪霊』だから関係ないんだけどね」

 

「そういえば二人の昔話気になるな〜。あんまり話さないし……」

 

「私も私が来る前の話をあんまり聞かなかった気がします。」

 

「………そうだね……、少し語ろうか。直毘人さんや真依姉さんの話もあるし、故人を偲んでゆっくりと…………」

 

なんとなく頼んだポテトを齧りながら桐ヶ谷京は語り始める。




アンケートご協力ありがとうございます。
票が多いものからゆっくりと書いていきます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

昔語り編
少し双子に優しくなった禪院家


桐ヶ谷京が禪院家に来てすぐの話。


AM05:00

禪院真依の朝は早い

起きて布団を畳み顔を洗って着替えて台所に行くと既に母さんたちが朝ごはんの準備をしている。

 

「おはよう御座います」

 

「おはよう真依、早くご飯の準備をしなさい」

 

京君が来てから専ら私の朝の仕事は米を炊くことである。

 

業務用の炊飯器で…正直キツイが鍛錬でボコボコ鍛えられているお姉ちゃんに比べれば楽なものだろう。

 

京君は他の禪院家の人たちに比べるとかなり優しい。

屋敷の周りにいる『呪霊』は見つけるたびにその都度祓ってくれるので怖がりな私は助かっている。

 

炊飯器をセットしたらおかずを作り始める。

今日はお母さん達は鮭を焼いているので私は卵焼きの方を手伝う。

だいぶ上手に作れるようになった。

作ったものが京により一瞬で消えるのは少し悲しいが、何時も美味しそうに食べてくれるのでやりがいはある。

 

 

AM07:00

今日も沢山の卵焼きを焼くことに成功した。

食堂に食事の準備を終える。

 

「ごっはっん♪ごっはっん♪あっさごはんー♪」

 

謎の歌を歌いながら朝の鍛錬を終えた京がやってくる。

お姉ちゃんの顔にはアザがありかなり不機嫌な様子。

何かあったんだろうか?

 

「おつかれお姉ちゃん……顔、何かあったの?」

 

「……なんでもねえよ……」

 

「暗器の鍛錬中にすっ転んでできたアザだよ」

 

「オイこら京ぉ!!テメエもできてなかったじゃねえか!!」

 

「ヤッベ、逃げよ。」

 

「うるせぇぞガキども」

 

信郎に怒られると京は鼻歌交じりに食事を続け、お姉ちゃんはすごく嫌そうな顔をしながら私と一緒に皆が食べ終わるのを待つ

 

「おい真希!!おかわりだぁ!!」

 

「真依ちゃん!おかわりお願いします。」

 

京君が来てからそれまで区別すらされてなかった私達を名前で呼ぶようになりました。

 

お姉ちゃんは他の女中よりおかわりが届くのが早いのでよく呼ばれるみたいです。

 

男衆が食べ終わると我々も朝食をとります。

 

このあと食器洗い、掃除、洗濯に分かれて家事を済ませていきます。

たまに買い出しや任務のための荷物の準備などを任されることがあるが基本的には家事を行います。

 

ですが私達は義務教育のため学校に登校します。

 

AM08:00

 

登校中

主に我々姉妹のやるべきことは京の奇行を止めることです。

まだ、任務以外で市街地の呪霊を祓うことを禁止されています。

が、京は現在進行系で破ろうと街角の廃ビルに入っていきます。え……

 

「ちょっと待って「ちょっと待てやゴルァ!!」

 

お姉ちゃんも後を追って走り出しました。

私はどうせ間に合わないので無視して登校を続けます。

 

ボコボコにされた京君を背負った姉ちゃんがスッキリとした顔で追いついてきます。

 

「お姉ちゃんお疲れ様、よく入れるね、あんなところ」

 

「……私にはあんま関係ねえかんな」

 

「いけるとおもったんだけどなぁ」

 

ダメです。やめてください。私は死んでしまいます。

『呪霊』の見える私は『廃ビル』や『病院』『学校』は恐怖の対象でしかありません。

 

登校すると。屋上に巨大なトカゲのような『呪霊』が佇んでいるのが見えましたが、ウチの学校は屋上は入れなくなってるので問題ありません。

 

AM11:00

 

 

後で家に帰ったら報告しよう。

そんなことを考えながら受ける3限目国語の授業中、外で体育をしている生徒の姿を見ていると京君が下から上に通り過ぎていきました。

 

「…………先生、気分悪いので保健室行ってきてもいいですか?」

 

「いいぞ~」

 

小走りで廊下に出ると急いで屋上を目指す。

 

「あのバカ!!なにやってんのよ」

 

この時間お姉ちゃんは体育館で授業中であるため私が止めに行くしかない。

 

外から登るなんて無理。

 

屋上に出る踊り場まで来ると何時もは『呪霊』が屯してる場所にも関わらず全ていなくなってました。

 

理由は明白、屋上の特大『呪霊』に食われたのでしょう。

 

『構築呪法』で鍵を作ると扉を開ける。

 

「無理無理無理!!!姉ちゃん!!!!帳降ろしてぇ!!」

 

バカが大きな『呪霊』に追いかけられていた。

 

「何やってんのよ、まったくもう!」

 

私が帳を降ろすと京は印を結ぶ。

 

「『投影呪法』『代役(スタントマン)』」

 

3人の京に分かれて追いかけてきた『呪霊』に距離を詰める。

 

『呪霊』は3人の京を尻尾で薙ぎ払うがすべて幻影であった。

 

本物の京は『縛り』によって『呪力』を失った踏みつけ攻撃で『呪霊』の頭を踏みつけて高く飛ぶ。

 

「『投影呪法』『代役(スタントマン)』『桐ヶ谷流』『抜刀』…………」

 

京は同じ軌道の攻撃の代役を3人作り時間差で幻影を見せ、攻撃のタイミングをずらす。

 

『閃』

 

巨大な『呪霊』が2つに割れ崩れ落ちる。

 

「よかった……」

 

そういえば、『術式』を使うと大量の呪力を消費するのにその後、帳なんて降ろしたら………

 

私の意識はそこでなくなった。

 

 

 

 

PM03:00

 

気がついたら保健室でした。

保健室の先生の話によると廊下で倒れている私を授業をサボっていた京が発見し連れてきたそうです。

 

隣のベッドでは京くんが寝ていました。

顔が少し変形していますがこの状態の京を昼休みに姉が抱えてきたそうです。

 

「前が見えねえ」

 

私はこの後の授業受けるのも面倒になったのでそのまま寝ることにしました。

 

 

 

 

PM04:00

 

両脇を姉妹で挟み込んで京を引きずって帰る

登校時に入ろうとした廃ビルに近づくとお姉ちゃんが腕の関節キメたため京くんが悲鳴を上げたためうるさいので肘を入れたら黙った。

 

 

 

PM06:00

 

今日の出来事の報告を済ませて夕食の配膳をしていると報告後にシバかれていた京が食堂に入ってくる。

頭にはサーティー○ンのトリプル雪だるまみたいなタンコブができていた。

後ろから甚壱さんが入ってくる。

 

今日は甚壱さんにシバかれたらしい。

 

「どぼじでごんなめに……」

 

泣きながら山盛りのご飯を頬張る京を見て、あと一週間は落ち着いてくれるかな?と考えていた。

 

先月、授業をサボって隣町の空き地で勝手に『呪霊』を祓い、依頼を受けて現場に来ていたクソ親父にシバかれていた。

 

先々月は直哉さんにボコボコにされていた。

夜中に台所に忍び込んで全員用のバケツアイスサイズのアイスを空にしたらしい。これに関しては私もお姉ちゃんと一緒に蹴りを入れた。

 

それにしても懲りない奴である。

お姉ちゃんも自分以上の反骨精神の持ち主を前に少し冷静になっていた。

 

「私も流石にあそこまで無謀になれねぇ」

 

男衆のおかわりを盛るお姉ちゃんがそう呟いていた。

 

 

PM09:00

 

皿洗いを済ませると風呂に入り大体9時に自室で就寝する………ことになっている

今は髪を乾かしながら宿題をやっている。

お姉ちゃんとはクラスは違うが学年は一緒なためほとんど同じような宿題が出るため二人で先にやった方の答えを写す形で楽をしている。

 

既に京は夢の世界に旅立っていた。

 

「宿題とかってやってんのかな?」

 

「………まあ……勉強でこいつが出来ないところ見たことねえし大丈夫だろ?」

 

学期末、京の保護者として呼ばれた母親に学校で会い、授業をサボるにも関わらずテストの点数はすべて70点以上なのに宿題を何一つ出していなかったため私達も母親にこってり絞られるのを私達はまだ知らない。

 

いや、授業サボりは対処できないって……




しばらくの間、こういう話が続きます


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

双子と行く特別一級呪術師お仕事見学①

中学生の京、真希、真依は直哉を保護者として『最強』五条悟を見るために夏休みを利用して東京高専に来ていた。
直哉は真夏の繁忙期に休暇?のような小旅行を強行する代償にいくつかの任務を請け負うことになったのである。


「ほら起きろ、仕事や……」

 

高専の車を降りる。

寿司屋で『最強』とは別れて原宿に来ていた。

表通りを一本入ったところにある会社が入っていたような建物が現場である。

 

「今日はこれから長いで…さっさと終わらせようか…」

 

『投射呪法』

 

一瞬で視界から直哉さんが消えた。

 

 

 

 

 

ホコリを払いながら直哉さんが建物から出てくる。

 

「終わったで」

 

「早すぎてわっかんねぇ」

 

「私もだよ……」

 

「……移動か〜…タピオカ飲みたかったなぁ……」

 

「あ?飲みたいんか?金渡すから全員分買ってきな。俺はコーヒーで甘いのが良い」

 

「………ありがとうございます」

 

中学生3人はタピオカ屋に走る。

 

「すげぇ!!生クリームとかのせれんの!!」

 

「私チョコチップのせる!!」

 

「私は抹茶で」

 

直哉にはとりあえず全部のせてみた。

 

 

 

 

 

「なかなか美味しいやん」

 

次の現場へ向かう車の中で3○Sを開いている直哉は初めて飲むタピオカの感想をつぶやく。

 

「「「…………」」」

 

「……………?なんや?」

 

「何やってるんですか?」

 

「『うご○モ』や……『術式』の練習になるからやってんねん」

 

「…………珍しいですね」

 

「せやな……昔は和紙に筆で描いてたのが親父の代でペンとノートになって、俺はコレや……文明の利器は使わんとな、京だって映画見まくっとるやろ?」

 

「………たしかに」

 

「本家にいると『伝統』に縛られ過ぎやねん。新しいものを取り込まねえと先に進めへん。このタピオカの味知っとる禪院家の人間が何人いるか?新しい物事に挑戦すればそれが経験になり選択肢を増やす、それだけの話や」

 

「扇さんも甚壱さんもぜってえ飲まねえだろ」

 

「それじゃ『当主』になれねえだろうよ」

 

直哉は描いたアニメーションを再生しながらタピオカをすする

新宿の現場に到着すると直哉は車から降りて京に告げる。

 

「『陣』であの建物覆ってみな、大体この間の任務で行った教会と同じぐらいのサイズや………」

 

「『陣』………!!」

 

現場に指定された物件を『陣』で覆う。

 

『投射呪法』

 

「よう見とけ……」

 

直哉はその場で貯めの動作を付けたあとに加速し建物へ入っていく。

 

 

 

 

 

 

「はい、おしまい」

 

直哉が屋上から飛び降りる

 

着地の瞬間に『投射呪法』で無理な動きをコマ打ちすることで動きを一時的に止めて着地する。

 

「いや見えねえよ!!」

 

「『当主』目指すんなら視えなきゃ無理やで、『甚壱』も『扇』のおっさんも対処できずともちゃんと視えとるで」

 

「今の着地がすごいですね………『物理法則』ガン無視じゃないですか……」

 

「止まるなら、止まることを利用すりゃええねん。次行くでー」

 

既に真依は車から降りることを放棄して車で待っていた。

 

「次は俺は見てるから3人で祓ってもらうで」

 

 

 

南千住のオフィスビルの階段を登る

 

「以来があったのはこのビルの三階や帳は今降ろしてもらってる。休館になっとるけど他のフロアにはオフィスが入っとるから建物に傷をつけたらアカンで。」

 

「真依…そろそろ諦めろよ……」

 

真希が見上げた先には真依のすごく嫌そうな顔がある。

行きたくないと愚図ったため直哉に担がれて運ばれているのである。

 

「視えるなら、最低限の『呪霊』は祓えるようになってもらわねえと危ねえからな。京もいるし大丈夫だろ?今のうちに慣れとけ」

 

三階に着くと真依をおろしベンチに座る直哉。

 

「『陣』」

 

京は気配を探し始める。

 

「居ますね…………4級3体です。」

 

「一人一体で終わる終わる」

 

「………」

 

「真依、行かねえといそうな場所に投げ飛ば「行きます」

 

「で、『呪具』は?」

 

「何言うてんねん、『術師』の基本は徒手空拳やで?」

 

「…………真依………私も行きたくなくなってきた……」

 

「京は先行ったで?」

 

「ちょっと待て私らを置いていくな!!」

 

「待ってええええええ!!」

 

双子が走って京を追いかけるのを見届けると、直哉は3○Sを開きアニメーションの確認をする。

 

「……………壁何枚で済むかなぁ?2枚ぐらいで済めばええけどなぁ?」

 

数分後

 

パリンッ

 

「ぎゃああああああああああああああ」

 

真依が走ってきた。

肩で息をしながら直哉に報告をする。

 

「………京が2体祓いました。もう一体は窓から外に飛び出したためそれを見て京も飛び出しました。真希姉さんは上から指示を出しています。」

 

「んじゃもう終わるかな。真希ぃ!!終わったかー?」

 

「終わったよ。」

 

真依が出てきた部屋から真希も出てくる。

 

「被害は窓一枚で済んだよ」

 

「それなら上出来やな。俺らも降りようか」

 

緊張の糸が途切れた真依その場にへたり込む

 

「…………立てない………」

 

「真希、真依を頼むわ〜」

 

「わかった、行くぞ真依」

 

「うん……」

 

真希は真依をおんぶして降り始める。

 

「………真希……暗器は常に何か仕込んどけ」

 

そう話す直哉は懐から『呪具』のナイフを取り出す。

 

「………徒手空拳が基本じゃねえのかよ……」

 

「『己が持つ武器をすべて使わない』ってのも『縛り』の一種やねん。あといざというときの保険や、『呪力』が錬れなくても戦えないといけないときがいつか来るかもしれへんからな。高専入る前に考えとき」

 

「………ありがとうございます。」

 

「はぁ、今日はあと1件やぁ………」

 

既に日は暮れそうになっている。

これからは『呪霊』の時間である。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

双子と行く特別一級呪術師お仕事見学②

府中

〇〇城跡

 

「うわぁ、めっちゃ居そう、っていうか『城』無くてただの森じゃん」

 

「『居そう』じゃなくて『居る』んよ」

 

「真依!引っ付くな動けねえだろ」

 

「無理無理無理無理無理無理………なんで私まで……」

 

「今回は二人は動かんほうがええで下手に動くと死ぬから、京は二人の護衛や。こういうのもあるからなー」

 

「わかりました」

 

「じゃっ、俺は『一級』相手にしてくるから。残りは頼んだ。」

 

直哉は『投射呪法』で加速して消える

 

「『陣』」

 

「どれぐらいいるんだ?」

 

「『陣』範囲内でも結構いるけどそんなに強いやつはいないね。だからそこを動かないでね。間違えて切っちゃうかもしれないから」

 

「わかったここにいる、というか動けねえ!!」

 

「私は目を瞑ってるから!!」

 

『陣』を狭めて集中する。

 

「『桐ヶ谷流』『抜刀』」

 

 

 

 

 

 

「『閃』」

 

 

「『断』」

 

 

 

 

 

『術式』を用いずコスパのいい無刀剣術で近づいてきた『呪霊』のみを祓い続ける。

 

「……………姉さん達……悪い知らせがある………そろそろ『呪力』が切れそう」

 

「はぁ!!」

 

「あわわわわわわわっ」

 

驚怖に真依は気を失いその場でをへたり込む

 

「真依!!……………よし、私も動けるぞ!!」

 

「いや、真依姉さん起こしてよ!!真希姉さん『呪具』無いと戦えないじゃん!!」

 

「くっそぉ!!起きろ真依!!小さくてもいい!!なんか作れ!!」

 

「……ふぇ?」

 

「『ふぇ?』じゃねぇ!!なんか『術式』で作れってんだよ!!」

 

「『構築術式』……」

 

『構築術式』で小さな指輪を作る

 

「この大きさで限界……」

 

今度は呪力切れで気を失った

真依の『呪力』の籠められた指輪をはめると真希は立ち上がる

 

「これで戦えるだろ!!」

 

「『呪力』感じられるからいけると思う!」

 

「三級が一体来た、祓える?」

 

鳥のような『呪霊』が真希目掛けて飛び込んでくるがそれを指輪をはめた拳で叩くと祓うことができた。

 

「祓えた!?………祓えた!!」

 

「よーーし、じゃあまだ何とか耐えられるな!!!直哉さん早く帰ってきてくれー!!」

 

 

 

 

 

 

「やっぱ無理だわ………」

 

『呪霊』に囲まれた真ん中で呪力切れで京は意識を失う。

 

「京!!」

 

 

 

「なんや、思ったより減ってるやん」

 

『投射呪法』

 

『一級呪霊』を祓った直哉が帰ってきた。

囲んでいた3級と4級を祓うと倒れている京と真依を肩に抱える

 

「ほな、帰ろかー」

 

真希も緊張の糸が解れたのかその場で座り込む

 

「……………なんや……ビビッて立てへんくなったか?」

 

「…………そんなんじゃねえよ……少し疲れただけだ……」

 

「しゃーないなー」

 

京を肩から落とすと真希を小脇に抱える。

動けない真希は借りてきた猫のように黙っている。

 

「………あのー自分はー?」

 

「お前さんは昼あんだけ食ったんや歩けるやろ?両腕埋まってんねん這ってでも車までこいよー」

 

京を置いて直哉は駐車場に向かう。

 

「ちくしょおおおおおおとおおおお」

 

叫び声を背後に聞きながら歩みを進める

 

「真希……初めての『現場』はどうやった?」

 

「……………」

 

「怖かったやろ……その気持ち忘れたらアカンで……」

 

「……………」

 

アイツ()はそこのところぶっ壊れてる。……どんな方法でもストッパーやれねえなら身を引いて正解だと思うぜ。」

 

「………知ってたのかよ………」

 

「今度アイツに充てがうための女子が分家筋から選定されたって話が来たんだよ……」

 

「……………」

 

「お前らのせいとちゃうで……その子の両親が呪詛師に呪殺されたから本家で引き取ることになったんや」

 

「……………おい、それ………」

 

「お前もそう思うよなぁ…………でもちゃうねん。親父が一番驚いてたわ」

 

「……………」

 

「まあ、俺はアイツのストッパーができるなら誰でもええねん、アホみたいに格上に喧嘩売って、そのまま死んでもらったら困るからな」

 

「…………zzZ」

 

「寝言かいなぁ……まあええわ」

 

抱えていた二人を車へ放り込むと自分も乗り込む。

這って駐車場に現れた京を補助監督官が見つけたのは数十分後になる。

 

 




名古屋編はまた今度


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ピク○ンが来た!!

絶対に真似しないでください



京は双子と同室ではなく新たな部屋を与えられたことに歓喜していた。

一人部屋になってルンルン気分で部屋の襖を開くとよく知ってる『禪院顔』だけど知らない女子が着替えていた。

 

「ごめんなさい……」

 

謝罪をし、襖を閉じるともう一度、部屋の確認を行う。

 

「いや、間違ってないよな?」

 

もう一度襖を開けると先程の女子が正座をして頭を垂れていた。

 

「見苦しいものをお見せしました。本日より京様の世話役の付き人となります。『禪院琴音』と申します。何なりと申し付けください。」

 

「………一人部屋………」

 

「私は物としてお使いください………」

 

「…………あっそう………………じゃあ『術式』はもってる?」

 

「………?……私は『術式』を持っていません」

 

「そう…………俺のものは?」

 

「すべて棚にしまってあります」

 

「………そう…………」

 

京的確認事項を終えると走り出す。

 

「………部屋もらえるって言ったじゃん!!……一人部屋だと思うじゃん!!!何でルームシェアなんだよぉ!!!どぉしてだよぉおおお!!」

 

本家の廊下を走る京の叫び声は任務から帰ってきた直哉に足払いされるまで続いた。

 

京の苦悩は続く。

見知った『禪院顔』なのに常に毎朝死んだ目無表情で朝から気分が上がらない。

双子は着替えるときは目隠し用のカーテンを使用していたのに気にせずそのまま着替える。

後ろをずっとついてくる。

怪我を放置する。

 

「ピク○ンかよ………というか、世話されてんのか世話してるのか、わかんねぇよこれ……」

 

鍛錬で捻挫した琴音の足をテーピングをする。

京は憤りを感じながらも。

「琴音を『禪院家』の人間としてお前と一緒に高専に入れるから他の家の連中とは戦えるようにしておけ」

という命令を遂行していた。

 

鍛錬に同行させたり、骨格の研究したり、『呪術』における男性と女性の性差についても研究した。

 

直毘人の目論見通り。

『理論』ではなく鍛錬という『反復』による慣れから使っていた『桐ヶ谷流剣術』の『理論』化は彼の『呪術』への理解度を飛躍的に進歩させた。

 

彼が『理論』を形にする頃には琴音にも変化があった。

感情が顔に少しずつ出るようになってきた。

『陣』により表情筋を観察するようになっていた京は確信していた。

『陣』無しでも何となく判るようにはなっていた。

 

変化があったのは彼女だけではない。

京の身長も出会った頃は琴音と変わらなかったが京の身長が伸びた。

 

体格が違えばリーチも違う。

戦闘における技の選択、立ち回りについて同じ仮想敵でも違うことに京の頭脳は喜んでいた。

 

「京様………2月に水着用意させて何するのかと思っていたのですが……………滝行ですか?」

 

「そう、滝行。寒いね。やっていこうか」

 

来ていた修行着を脱いで水着になると京は滝壺に向かう

 

「『呪力』で強化すれば『温度』や『衝撃』に耐えることが出来るんよ……午前中は俺がやるから午後は琴音ね……」

 

「……………はい………」

 

「顔引きつっているよーー」

 

「はい!喜んでやらせていただきます!!」

 

「はい良き返事!!」

 

京は滝壺で構えを取ると『身体強化』と『陣』を同時並行で行う。

京の滝行が始まった。

 

 

 

 

 

 

滝上から落ちてくる丸太を『閃』で両断する。

琴音は自分がこれこらやることの難易度と危険性に青ざめていた。

 

 

 

 

 

京の滝行を終えると二人は琴音の作ってきたお弁当を食べる

『生姜料理』をリクエストされていたので『生姜焼き弁当』を作ってきたが現在進行系で寒い琴音は『焼け石に水』ではないだろうか?と考えていた。

 

食事を終えて少し休んでから琴音の修行に入る

 

「上から落ちてくるものは俺がなんとかするから『身体強化』に集中してね」

 

水着姿になった琴音は恐るおそる水に足をつける

 

「冷たい通り越して痛いです」

 

「がんばれー」

 

レジャーシートの上で横になって応援している京を見て修行の拒否を諦め全力で『身体強化』に集中し、滝壺へと向かう。

 

滝壺の修行場に立つ。

痛い痛い痛い痛い痛い

 

|ドッドッドッドッドッドッドッドッ《「これ私、辛いんでやめたいんですけど!!」》

 

「何?聞こえなーい!?」

 

ドッドッドッドッドッドッドッドッ(「私!!これ!!!無理!!」)

 

「あんだってぇ?」

 

ドッドッドッドッドッドッドッドッドボンッ(「あっ」)

 

水圧に耐えきれず流される

 

「やっべ」

 

京は川から琴音を引き上げる

 

ガタガタガタガタガタガタガタガタ(死んじゃう、コレ、私、死んじゃう)

 

「そうかなぁ、俺はこれで『身体強化』覚えたんだけどなぁ」

 

震えでまともに動けない琴音の体を代わりに拭く京は『普通』を学ぶ。

 

ガタガタガタガタガタガタガタガタ(寒い寒い寒い寒い)

 

寒さ対策に用意したテントに琴音を押し込んで着替えさせる。

 

 

 

「………落ち着きました。」

 

大量に用意した布団に包まりながらテントから顔を出す。

 

「じゃあ出「嫌です」………」

 

「死んでしまいます」

 

「だめかー…」

 

「無理なものは無理」

 

「じゃあ、そこで温まってていいよ、俺は続きやってくるから」

 

(人間なんですかね?この人………)

 

 

 

結局、滝壺の修行台に17時まで立ち続けた。

 

着込む琴音と道着の京。

二人は荷物を持って下山する。

 

「次は長時間サウナかなぁ」

 

「…………何時間やるんですか?」

 

「8時間」

 

「……………私もやるんですか?」

 

「そうだよ?」

 

「…………………私、死なないですか?」

 

「多分大丈夫だよ。『身体強化』がしっかりできればね……」

 

何でこんな人を師事しなければならないのだろうか?

禪院家の修行の方が楽ではないだろうか?

そう考えてながら次の日を迎える。

 

「ここは……?」

 

「高専所有の宿泊施設」

 

「……なぜ?」

 

「サウナ8時間入る修行するならどこでできる?って聞いたらここを案内された。何かあってももみ消せるから良いって」

 

「『何か』ってなんですか?」

 

「何だろうね?」

「…………昨日の今日で本当にやるんですか?」

 

「過酷な環境に見を置くことが『桐ヶ谷流』の『身体強化』の近道だしなぁ。俺は5歳のときには『完成』させてたよ?大丈夫、大丈夫。代謝を良くして無駄な脂肪を落とすぞー!!オー!!」

 

琴音は勝手に二の腕をつまむ京に人を殺せそうな目を向けるが、京は気にせずサウナを目指す。

 

昨日に引き続き水着姿になる二人

可愛い水着を選ぶ必要なかったなと思いながらサウナ室に入る。

 

 

 

 

 

 

ドテッ

 

10分で意識が飛んで気がついたら借りていた施設の部屋の一室で寝ていた。

 

上着を羽織りエントランスに向かい管理人に話を聞くとまだ京はサウナにいるらしい。

 

既に5時間が過ぎている。

心配になりサウナに向かうとそこには汗一つ掻かずに目を瞑り座禅を組む京の姿があった。

 

「………琴音……部屋でゆっくりしていていいよ…」

 

「いいえ………私も続けます。」

 

結果だけ言うと一時間は耐えれるほどの『身体強化』をすることに成功した。

代償として可愛い水着が駄目になり三日間寝込むことになった。

 

無理無茶はやってはいけない。

サウナも滝行もプロの意見を参考にやろうね!!

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

不遜な来客

思ったより投票が多くてビビってます。
適当な順番で勧めますし今回みたいにアンケート外の話もありますが自分が単行本派なので死滅回遊終了までだいぶ時間がありそうなのでゆっくりとお待ち下さい。


ファミレスで過去の話に花を咲かせる桐ヶ谷達の席にスーツの二人組が訪れる。

 

「特級呪霊『桐ヶ谷京』とその一派だな。」

 

「………そうだけど……おたくらは?」

 

「我々は高専から派遣された『術師』だ。貴様らを祓わせてもらう。」

 

「そう、そうかい、それで『ここ』でいいの?」

 

「『市民』を巻き込んでも問題ない。尊い犠牲になるだけだ」

 

「いや、そうじゃなくて………」

 

「あのぉ〜お客様〜?」

 

「済まない今とりこ………」

 

女性定員が持った包丁が片方の『術師』の体に突き刺さる。

 

それと同時に隣のテーブルに座っていたカップルがもう片方の『術師』を取り押さえる。

 

「おい!!何だコイツら!?『術式』つかえねぇし!!体も動かせねえぞ!!」

 

「わかりやすくしてあげたんだけどなぁ……残念だよ………」

 

「何しやがったんだ!!」

 

「『領域』だよ……ここは俺の『生得領域』の中……」

 

その店にいた人間すべてが二人の『術師』の方を向く

 

「ここでは俺の許可なく『術式』を使うことは許さない………そして呼吸も……」

 

「そんなこと……」

 

『天照』

 

京の放った呪力の圧だけで二人の術師は呼吸を忘れる。

 

「こっちは死んでもいいな」

 

女性定員に刺された方の首を『呪力』でねじ切る。

刺されていない方の背中に軽く触れて呼吸を再開させる

 

「ゲホッ、何のつもりだ!!」

 

「伝書鳩は必要だろ?上層部には俺はのんびりアンタラの首を取りに行くから『先輩』の対応に集中しとけって伝えといてくれよ」

 

「チッ………」

 

走って逃げ出す『術師』を見送ると『店員達』が死体の処理と清掃を始める。

 

「………料理が冷めちゃったじゃん……」」

 

「申し訳ございません。作り直しますか?」

 

「………そろそろミミコの体を仕入れとくか……」

 

話してきた若い女性店員の口にミミコを流しこむ。

 

「お………ご………ゴボボ…………」

 

悶る女性店員が動きを止める。

 

「ゴホッ……ゴホッ……うん……定着した……」

 

店員の服を着たまま体がミミコになるとテーブルの席につく。

 

「さて………続きを話そうか……」

 

「『桐ヶ谷流』の無茶な鍛錬をもっと聞きたいな」

 

「そうだねぇ………じゃあ」

 

京は机に『術式』を行使する。

 

 

 

その日、琴音は寝不足であった。

無刀の剣術を会得するために抜身の刀を抱いて寝ているためである。

驚怖で眠れるわけもなく二徹を終えてフラフラである。

 

本人曰く

 

「刃の感覚を体に刻みつけるんだ。刃への驚怖、刃への畏敬、刃への尊敬。すべてを刻みつけるには抜身の刃と常に身につけておくのが一番」

 

とのことである。

おかげで体中切り傷だらけである。

学校では刀から開放されるため授業中に保健室のベッドを占領して寝ることになる。

 

保健室で安眠していると京がこっそりクロススクリーンをの間からベッドに近づく

 

「…………………」スヤスヤ

 

すやすやタイムを横に見ながら竹刀入れから日本刀を取り出す。

 

保健室の先生は多分疲れが溜まっているのであろう、いすに座って夢の国に行っている。

 

「おーとなになれない僕らのー、強がりを一つ聞いてくれぇ」

 

小さな声で歌いながら日本刀を抜くと布団の中に抜身の刀を忍ばせる。

 

「逃げも隠れもしないから〜笑いたいやつだけわーらーえー」

 

小さな声で歌いながら『ピク○ン育成ノート』にチェックをつける。

 

「せーめて頼りない僕らの〜自由の芽を摘み取らないで〜」

 

小さな声で歌いながらクロススクリーンの上で大道芸のよう逆立ちをする

 

「水を上げるその役目を〜はーたせばいいんだろー」

 

倒立しながらくるくる回る

 

「デデデデデデッデッデデン」

 

京は最後のギターに合わせて『ジョーダン』を決める

 

 

 

 

「ちょっと待って下さい………」

琴音は『術式』により机に投影された映像を止める

 

「なんだい?」

 

「私の『保健室(オアシス)』で何やってんですか?」

 

「…………………いや、『修行』はちゃんと完遂させないと……既に2回失敗してるし………」

 

「日本刀を平時の学校に持ち込まないでくださいよ……」

 

「結果として『刃』の感覚は掴めたから良いじゃん」

 

「そういう問題ではありません!!危険なものは持ち込まないでください!!」

 

「いやいやいや、ツッコミどころはそこじゃないと思うよ!!」

 

「『クロススクリーン』って保健室に置いてあるカーテンの付いた仕切りのことを言うんだ……」

 

「『身体強化』を含めた高度な『呪力操作』はきっかけさえあれば極められるからね。君らもやるかい?抜身の刀と同衾」

 

「遠慮しとく」

 

「嫌です!!じゃなくて、あれ?私がおかしいのかな?」

 

「ナナコうるさい」

 

「……えぇ?……私がおかしいのか……」

 

「おまたせしました。フライドポテトになります。」

 

「お、ありがとー」

 

京はバスケットで届いた揚げたてのフライドポテトを齧る。

 

「………この修行って実際に京はやってたんだよね?最初からできたわけじゃないでしょ?禪院家に来る前の話を訓えてよ。」

 

「…………余り面白いものではないよ?」

 

そう言うと京は机にかけた『術式』を操作して映像を流す。

 

「…………………聞いたことを後悔するなよ……」

 

小さな声で彼は呟いた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もっと昔の話

僕は今じいちゃんとばあちゃんに引き取られました。

 

じいちゃんは『剣術道場』の先生をしていてとても強いです。

 

その日からじいちゃんを『じいちゃん』と呼ぶと殴られるようになりました。

 

『師匠』と呼ぶそうです。

 

両親は弱かったから死んだそうです。

 

だから僕は強くならないといけない。

 

剣術道場で修行を初めて一週間後。

 

僕は山奥に刀一本と一緒に置き去りにされました。

 

山ではイノシシやクマなど危険がいっぱいででしたが『気』を習得するためには過酷な状況に見を置くのが良いそうです。

 

最近見えるようになったよくわからないものは無視するようにしました。

 

刀を抱いて寝ました。

 

二週間後、何とか仕留めたイノシシやシカなどの食料も尽きて倒れていた僕は回収されました。

 

燃え盛る火の竈のある洞窟に大岩で入り口を閉められ刀一本と閉じ込められました。

 

押し出すか、切り崩すか、打ち砕くかをしないと死ぬと思いました。

 

死ぬ気で切り続けてなんとか切り崩すことに成功しました。

刀を握り続けた手のひらは血だらけになっていた。

 

次は滝の流れを変えろと言われました。

 

実際に滝壺の修行場に立つと滝の流れを変えると言われた理由がわかりました。

 

俺だと水を切り続けて流れを変えないと流されますと考えましたが。

 

既に腕や手のひらがボロボロで刀を振る力を失っていた俺は必死に立ち続けるしかありませんでした。

 

そのような修行が半年ほど続いた後、僕は道場に連れてこられました。

 

「最後の一人が見つかった……死合をしておけ」

 

師匠は僕含めた弟子全員にそう告げると道場から出ていく。

 

兄弟子たちが刀を構える。

 

生き残るために自らも刀を構える。

 

僕は斬り続けた。

 

刃を失った刀で斬り。

 

刀身を失った刀で斬り。

 

そして最後の一人を斬る頃には無刀に至っていました。

 

「ほう………お前だけ残ったか………他のやつは期待外れだったな……」

 

今思えば互いに切合う『死合』は『呪術』的には『儀式』の側面が強かったのかもしれない。

 

僕は朦朧とする意識の中で道場に立っている人間だった師匠に斬りかかろうとして転んだ。

 

「……ほぅ………オメェ……こりゃぁ『術式』じゃねえか……」

 

その日から師匠は俺に『剣術』を教えるようになりました。

 

 

 

 

 

 

数年後、道場の刀が全部壊れた。

 

刀を構えて力を込めて振るうと壊れてしまう。

 

そのため、修行が『剣術』から徒手空拳の『格闘術』にシフトした。

 

『身体強化』で水の冷たさも炎の暑さも感じなくなった。

 

森の中では『陣』で動物の気配を感じ取れるようになった。

 

木の頂上で見上げる星空が好きになった。

 

焚き火の炎に映る影で絵を描くのが好きになった

 

空腹に悩まされるようになった。

 

師匠が練習相手をしてくれるようになった。

 

「京、俺らみたいな『戦う術を身に着けた人間』意外を斬ってはならねえ、それを斬るときはお前が『人間の枠』から飛び出しちまう。そこから先は『邪道』だ。真っ直ぐ進めると思うなよ。」

 

この頃はどういう意味なのかわからなかった。

 

師匠と五分五分で戦えるようになったとき

僕は師匠の知り合いの家に預けられることになったのである。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

禪院家の日常

琴音が無刀剣術を習得した頃

 

扇さんに稽古を見てもらっていた。

 

「やはり君は筋がいいな……」

 

地下の鍛錬場で躯倶留隊を相手に組手をする。

 

「………何故『禪院家』では『死合』をしないのですか?」

 

「『試合』か?試し合いをやりたいのか?」

 

「いや、命のやり取りの『死合』です。」

 

躯倶留隊士たちに緊張が走る

 

「………家のもの同士で殺し合う必要はそこまで無いだろう?なぜ疑問に思う?」

 

「呪詛師と対峙したときのために斬りなれないとイップスになる術師も居るんじゃないかなって」

 

「確かに……実際に自らが手を下さずとも任務に同行するだけで体調を崩す軟弱な『術師』は多い」

 

「別に………躯倶留隊士これだけいるなら半分ぐらいにしても良いと思うんですけど。」

 

隊士達の緊張感が増す。

 

「『術師』は常に人員不足だ……人は多い方がやれることが多いのだよ……」

 

「そうですね……」

 

隊士達の緊張が抜ける

 

「………今あくびした奴、京の次の相手してやれ」

 

泣きながら前に立つ躯倶留隊士を『剣術』も『術式』も用いずに相手をする。

 

拳と柔術を用いて叩き潰す。

 

地面で伸びてる隊士を片付けさせる。

 

「………………戦意も力もない人間とやっても鍛錬にならんのですよ」

 

「そうか……そうだな、私もそう思う。」

 

扇の眼光に隊士の背筋が伸びる。

 

「信郎に隊士たちの士気が低いと伝えよう」

 

信郎の地獄のしごきが決まり、より一層の緊張が隊士に走る。

 

「死ぬ気が足りてないと思うんですよ………やりませんか?一日寒中滝行と耐久サウナトレーニング」

 

「………信郎に話を通しておこう。」

 

隊士たちは二人が鍛錬場を出ていくまで嫌な汗を流し続けた。

 

 

 

夕飯の時間。

京は食堂で皆と夕飯を取る。

席もこれまで躯倶留隊と同じ下座であったが、今は炳と同じ上座に座っている。

おかわりを盛る琴音も京専属となっており。驚異の回転速度を叩き出している。

これまで一升炊きであった専用炊飯器は二代目になっており。

禪院家で本来使っていた業務用三升炊き炊飯器と同じものになっている。

一代目は女中さんたちの五穀米を炊くのに使っているらしい。

ヘルシーでダイエットになるとかなんとか。

 

目の前に作られた卵焼きのピラミッドを削りながら京はおかわりを要求する。

琴音はラーメン丼ぶりサイズのご飯茶碗に白米を盛り付ける。

 

「うまい!!うまい!!」

 

「やはり、タ○ガーの業務用炊飯器を買ってよかったですね」

 

「次はスープジャー買ってカレー無限に食べてぇ!!」

 

この年のサンタクロースに頼むクリスマスプレゼントが決まった。

 

「………京、新しい修行の件なんだが……」

 

信郎が京に話しかけたとき。

隊士達の箸が一瞬止まる。

 

「…………よくないですか?一日寒中滝行と耐久サウナ」

 

「………確かに良いものだ今度からに組み込もうと思う」

 

「高山ランニングも追加しましょう」

 

「確かに」

 

少しずつ足されていく地獄の修行に隊士達の食欲は落ちていく。

 

「よくもまあ文幸さんはこれだけの修行内容を思いついたね……」

 

「戦場で生き残る『術』は『武術』だけにあらず。生き残るためならこれまでの『型』なんていくらでも捨てますし、言葉で相手を出し抜くための『話術』や絵や音で相手を出し抜くの『芸術』も必要じゃないですか?」

 

「おもろいこと話してるやん?」

 

任務で帰りが遅れていた直哉も食堂に現れ話に混ざる

 

「僕の『術式』も京の『術式』も単純な強さ以外の要素がだからね……京くんなら……『無下限呪術』の『術師』はどんな伸ばし方があると思う?」

 

「自分は勉強が得意というわけではないですが、座学で『無限』に対する概念の解釈を広めるんじゃないですか?『五条悟』は既にかなり広げてると思います。」

 

「そうやね………じゃあ『禪院家宗伝』の『術式』は?」

 

「『投射呪法』も『十種影法術』もベースは『何かに撮す娯楽』という点がベースです。『投射呪法』にはコマ打ちの技術だけでなく『アニメーションの進化』に対しても理解度を深めるんじゃないですか?直哉さんがやってたう○メモとかfpsイジったりとか?」

 

「確かに、直毘人さんはよく愚痴りながら最近のアニメも見てるよなぁ」

 

「『十種影法術』は………なんで『十種』に絞ったんでしょうかね……『十種』という『縛り』は戦いの場で選択肢が少ないのか多いのかわからない中途半端じゃないですか。自分なら『一種』に絞って補強しますし、十種に縛らずに戦うと思いますよ……使い手を自分が知らないので文献からだけですけど。」

 

「ほう………

 

 

 

じゃあ『肉体強化の天与呪縛』はどう鍛えると思う?」

 

 

 

食堂にいた大人たちに今日一番の緊張が走る。

 

「……………うーん。『暗器』と『体術』を極めた上で……座学で『呪術』や『術式』について学びますね。見えてる世界が違うのならば相手の視点と自分の視点の2つを理解して出し抜かないと死にますから…」

 

「そやね………その結果が『甚爾』くんやね……彼は躯倶留隊で『呪術』と『術式』を学んだからね。」

 

「………灯と炳にの修行にも寒中滝行と耐久サウナ加えるか……」

 

「それいいじゃねえか」

 

話を聞いていた直毘人の発言に甚壱が同意する。

ただでさえ地獄のメニューに炳の方々が同行することが決まった隊士達は夕飯が喉を通らなくなる。

 

「………あれ?夕飯めっちゃ余ってるじゃん。貰うわ」

 

タイ○ー JH○-5400の中身を空にした京は『禪院家』の釜から白米を奪う。

 

「………お前はそのコスパの悪さをなんとかせなあかんな」

 

「…たしかに!!……今後の課題ですねー、あはははははは。鮭うめえ」

 

禪院家の人間がお膳を下げていくなか彼の食欲は釜を空にするまで続いた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

桐ヶ谷流剣術講習④

多分、漫画本編始まって9月ぐらいの出来事


「桐ケ谷ー!!」

 

「よ!!虎杖!!」

 

姉妹校交流戦の後、桐ケ谷京は再度東京校に訪れた。

道場に人が集まると京が話を始める

 

「特別演習を始めます。」

 

「今回は体の使い方について学んでいきましょう。」

 

「真希姉さん。パンダ先輩より大きい呪霊と相対するときどうしますか?」

 

「……等級は?」

 

「3級と仮定しましょう。パンダ先輩、虎杖を肩車してください。虎杖!これ使え!!」

 

虎杖に2本の長めの木刀を渡す。

 

「………まあこんな感じで。一応目は顔に思しき場所にあって腕は2本ってことで」

 

「私の得物は何が使える?」

 

「グローブ渡しときます」

 

真希にはクッションのついたグローブを渡す。

 

「足技無しでお願いします。」

 

「おっけー、じゃあ、やってきましょう」

 

グローブをつけた真希は小刻みにステップをしながら距離を詰める。動きに反応した虎杖は木刀を振りパンダは後方に跳ぶ。

 

細かいステップで木刀を回避すると真希は跳んでいるパンダの着地を狙う。

 

「ハイ。ストップ!!」

 

真希の拳がパンダの顔に当たる寸前に待ったをかける。

 

「完璧な模範解答。ここでのポイントを伏黒!!」

 

「……現在、真希さんは現在一級に推薦されてる実力ですから、逃げるという選択肢を取る必要はありません。次に相手のリーチがこちらより長いため懐に入る必要があります。でも相手の能力が不明なときに一気に距離を詰めると反撃を食らうかもしれないので小刻みにステップを踏んで近づいたところですかね?」

 

「正解!!こちらも模範解答ですね。」

 

「………というわけだ!!野薔薇!!今回はお前のための授業になるぞ。」

 

真希の発言に校舎にとまるカラスを見ていた釘崎は驚く。

 

「わたしぃ!?」

 

「東京校で体捌きとかメインで扱ってないの野薔薇だけだし。」

 

「しゃけ」

 

「そだねー」

 

「確かに」

 

皆に同意されると釘崎はすごく複雑そうな顔をしながら集中する。

 

「まずは武器だよね。ゴムハンマーで真希姉さんに実演してもらうから」

 

真希はクローブを外しハンマーを持つと構える。

 

「まずはフットワーク。常に一定で前後して上半身は動かさない。上半身が動いてるとジャンプと一緒で着地狩りされるから跳ばない」

 

真希は軽くステップを刻む。

上半身がほとんど動かない美しい足さばきに真希のポニーテルはほとんど揺れていない。

 

「剣道とか日本の武術だと摺足がメインになるんだけど、お互いの『間合い』がわかってて『同じ得物』で闘うならば摺足で対応できるけど『間合い』がわからないなら細かいステップを刻んだほうがいいです。達人レベルじゃないと摺足で『術式』に対応なんて無理です。」

 

「私からもいいか?」

 

「どうぞ」

 

「ここだけの話…………このフットワーク出来るようになると………スタイル維持に役立つぞ」

 

「マジですか……」

 

「ああ……よく著名人が『ダイエットでボクシング』って聞くだろ?アレの中身だと思って聞いとけ。プロに習うと金取られるけどコイツは金取らねえから」

 

釘崎の顔が真剣になる

 

「先生、続けてください」

 

「フットワークができたら次は『槌術』、今回は釘は使い尽くしたという前提で話すと。『対呪詛師』の場合は八の字を描くように常に槌を動かし続けて相手が攻撃しにくくするのが良いです。」

 

真希はフットワークを続けてながらゴムハンマーを肘を基点に∞を描くように振るう。

 

「釘崎さんなら槌と槌を持った腕全体に呪力を込めることで相手の牽制程度の攻撃なら避けずとも受けられると思いますが、『呪術』の基本は『回避』です。可能ならすべての攻撃を回避してください」

 

真希は徐々にパンダ&虎杖に近づく。

 

「攻撃するときは動きに逆らわず振り抜いてください。上半身はハンマーのに流されても良いですがフットワークは乱さずに続けてください。」

 

ゴッ‼

グヘッ!!

 

京の説明の終わりを待たずに腕を振り抜くとパンダの脇腹に当たりだるま落としのようにパンダだけが吹っ飛び虎杖が地面に落ちる

 

「ゴムハンマーは俺が依頼して『呪具』にしておいたから当たるとよく跳ぶよ」

 

「京ー!!先に言えよー!!」

 

頭から壁にめり込んだパンダは抜け出すと文句を言う。

 

「『避けろ』って言ってるじゃないですかー」

 

「………今、振り抜く瞬間全然見えなかった……左に振り抜いたと思ったらパンダ先輩が右に跳ん

ッ!!!」

 

「コレ気持ちぃい!!」

 

虎杖を壁にめり込ませると真希は持ち前のフットワークで他のメンバーを狙う。

 

「……おかかっ!!………おかっ!!」

 

一度はしゃがんで回避するがフェイント込みのアッパーを食らった狗巻は天井に突き刺さる。

 

「ちょっ、真希先輩!!待って下っ!!」

 

細かい動きで左右に揺れながら距離を詰めると伏黒も跳ばざれ虎杖の隣に刺さる

 

「………ふう………はい、これ返すよ……」

 

「真希姉さん、やりすグィっ!!」

 

不意打ちアッパーが完璧に顎にキマると京も天井に刺さる

 

「うぅーーん!!スッキリした!ハイ野薔薇」

 

「ありがとうございます?」

 

バーサークしていた先輩にゴムハンマーを渡され困惑する釘崎を尻目に真希は檄を飛ばす。

 

「よーし!野郎共!!!今から野薔薇が一人ずつぶっ叩いていくから道場内全力で逃げろ!!」

 

このあと真希司令塔の元、全力で鬼ごっこした。

 

「今日も平和だ……」

 

琴音は道場の隅っこで講習の様子を見守るのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

京都校の日常

こんにちはっす

新田新です。

 

今日、久しぶりに桐ヶ谷くんと禪院さんが登校しました。

彼らは任務で出ていることが多いので顔を合わせるのは久しぶりです。

 

「よう、新田!!おひさ」

 

「桐ヶ谷くん久しぶり、禪院さんもお久しぶりです………で、君は何やってるの?」

 

「『斬る』イメージのない物に『刃』を増築する練習」

 

桐ヶ谷くんは教室で手に持ったピコピコハンマーとにらめっこをしていました。禪院さんは飲み物を机の上に置きながら難しそうな古書を読んでいます。

 

「というと?」

 

「これまで自分が『刃』を付けてきたものや『刃』を増築させてきたものって刃がつくイメージの付きやすいものばかりだったんだ……手刀とかね……だから、叩くイメージの強い槌でも刃を増築させることができるんじゃないかって思ってやってみてる」

 

「なるほど……それって何か意味ある?」

 

「少し知恵のある相手なら間合いをごまかせるから有利に物事を進められるなって」

 

「BLEA○Hの市○ギンみたいな?」

 

「それそれ、見た目と実際の間合いをごまかすのはかなり有用なんだ。ってのは知ってたんだけど実用レベルの使い方は禪院扇さんに教わったんだ」

 

「へ〜、それって俺でもできるかな?」

 

「出来るんじゃない?術式使わんし」

 

新田新は京に渡された刀身の無いナイフとにらめっこを始める

 

 

 

 

 

 

「マイ・ブラザー京ぉ!!高田ちゃんのライブ限定応援うちわを持ってきたぞ!!」

 

東堂が乱入してきた。

 

「新田と禪院もいたな!お前らにもやろう!」

 

勝手にうちわを配り始める東堂。

 

「ほう……『術式』に頼らず物を具現化させる鍛錬か……新田よ……お前はナイフを扱ったことはあるか?」

 

「一応………キャンプで物を切るぐらいには……」

 

「そうか……ならば、ナイフで物を切る鍛錬も追加すると良い、あとナイフを使った戦闘術も学ばんとな」

 

「勉強になるっす」

 

「この手の技術はほとんど腐ることは無いな。俺は余り使わんが……」

 

そう話すと手刀で試し斬り用の藁巻きを斬った。

 

「案外できるもんだな、あっはっはっはっは」

 

「え!?ん!?…!ごっふっ。んんん!!!!」

 

琴音は飲んでいたペットボトルのお茶を吹き出し言葉にならない文句をつける。

 

「やっぱり『術式』持ちは『呪術』の『真理』に近いぶん、習得が早いなあ……新田も術式の理解を進めればすぐに習得できると思うよ」

 

「私の修行って何だったんですか!?」

 

「………『呪術』の真理をいち早く知るための特効薬。ある意味こういうところで『術式至上主義』の考えは間違いではないんだけどね」

 

「へぇー修行があるんすねぇ、どんなことやるんすか?」

「寒中滝行と耐久サウナと抜身の刀を抱いて寝る」

 

「……………『術式』の理解に務めるっす……」

 

「あるならそっちのほうがいいよ」

 

琴音は納得がいかない顔で読書を続ける。

 

 

 

 

 

 

キーンコーンカーンコーン♪

 

チャイムにより昼休みが始まる。

 

気が付くと京の姿が消えていた。

 

開けられた窓を琴音が閉めると一言

 

「私達も食堂に向かいましょう」

 

 

 

食堂に到着すると『僕は食堂のご飯を全部食べようとしました』と書かれたフリップを首から下げ猿轡を嵌められボコボコにされた京がいた。

 

食堂のおばちゃんにやられたらしい。

 

『特級術師』を無力化する食堂のおばちゃん何者っすか?

 

シンプルに不思議な光景を脇目に新田はお昼をもらう。

 

「今日はさば味噌だよ!!ご飯どんぐらいたべる?」

 

「普通盛りで!」

 

「育ち盛り何だから大盛りにしておくよ!!」

 

毎度のことなんすけど何故聞いた?

 

最早挨拶にもなっている会話を済ませると席につく。

 

先輩たちも食堂に続々と到着する。

 

「お先にいただいています。」

 

「フフフッ、新田!!アレどうしたの?」

 

「気がついたら教室から居なくなっていて、ここに来たときには『ああ』なってたっす」

 

「んーー!!!ん!!んーーーー!!」

 

「ナニイッテルカ分カラナイカラ猿轡ハ外イインジャナイカ?」

 

「どうせ『飯ー!!』としか言わないでしょ?無視で良くない?」

 

「ル○ィですか?あ、お姉さん、ご飯大盛りで」

 

「はいよー」

 

京を無視して先輩達も席について昼食を取り始める。

口では心配していたメカ丸も食事は取らないが先に席について京を見ているだけである。

琴音も「開放するのは自分が食べ終わったらでいいか」と黙々とサバを食べている。

 

「オー、マイ・ブラザー京よ………どうした?何かの修行か?」

 

東堂が到着して京都校の生徒たちの気持ちが「余計なことするなよ東堂」で一つになる

 

「んーー!!!ん!!んーー!!」

 

「そうか……『高田ちゃんのうちわ。ありがとう』か、そうかそうか、今度お宝ポスターをやろう。」

 

「ん!!!ん!!!!んーーー!!」

 

「そうかそうか嬉しいか。よーしよしよし」

 

東堂は京の頭を撫で回すと自分の食事を取りに行く。

 

京は諦めると黙り込む。

 

「……………」

 

「………琴音」

 

「はい、真依姉さん、そろそろ開放しないとあとが怖いので……みなさん食事は行き渡りましたね」

 

全員が自分の食事を取ったことを確認すると京を開放する。

 

「琴音……後で覚えとけよ………」

「独り占めしようとする京様が悪いです。」

 

黙って食事を取りに行く京に不気味さを感じたがとりあえずスルーする。

 

「ごちそうさまでした〜、自分、この後の他学年合同授業のことで庵先生から頼まれごとあるんで失礼するっす」

 

新田新はこのあとここが地獄になるのを知らずうちに脱出に成功する。

 

その地獄は京の

「琴音……ここ一ヶ月体重増減(自主規制)だよね………」

という一言から始まった。

 

 

 

 

 

 

合同授業になかなか来ない先輩と同級生を新田は呼びに来る。

 

「みんな何してるっすか?先生マジギレ……」

 

「「「女の子の体重は?」」」

 

「りんご3個分です」

 

「お姉ちゃんのウエストは?」

 

「片手でつかめるほど細いです」

 

「西宮先輩は?」

 

「セクシーで色気のある先輩です」

 

「高田ちゃんは?」

 

「JKです」

 

「まだまだりんご18個分しか荷重かけてないんだから腕立て伏せ出来るよなぁ!!!」

 

「………いや、机ぶんおも……」

 

「なにか言いましたか?」

 

「何でもないです」

 

ひっくり返した机に琴音、三輪、真依、西宮、食堂のおばちゃんの5人を乗せそれを背に腕立て伏せをする京の姿があった。

メカ丸は隅っこでシャットダウンしていて東堂は窓から遠くを眺めていた。

 

「何があったんすか?」

 

「新田よ……お前は知らんほうがいいことがある……ただ、レディはすべからく丁重に扱わんとああなる」

 

「……なるほどっす」

 

何となく察した新田は先生に惨状を伝えに行く。

触らぬ神に祟りなし。

どうせ怒られるなら全員巻き込もうと判断した。

 

「桐ケ谷ぁ!!片手腕立て伏せもできたよなぁ!!!」

 

「え?いや、流石におもす……」

 

「あ!?」

 

「軽いです。余裕でやらせていただきます」

 

西宮は三輪の刀を机の上から京の顔の近くに突き立てる。

 

このあと歌姫先生が到着し京に食堂の原状復帰の罰則を与えるまで惨状は続いた。

 

「キ○ィちゃんすか……?」

 

新田はその日、寝る前に一人部屋で呟いた。

 

その後、京都校では『食堂のお姉さん』呼びが定着した。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

かつて鈍器と言われていた据え置きゲームがあるらしい(伝聞)

かなり短いネタ話に


「GQ無かったから、W○iで我慢しような」

 

京は何故か男子寮の自室に琴音を連れ込んでGQコントローラーを握らせていた。

 

「これが話に聞いていた『ピク○ン』ですか?」

 

「カラフルな『ピ○ミン』を育てて、投げて、時には敵に食わせて進めるアクションパズルゲームだよ………」

 

京は攻略本をめくりながら答える。

 

「………もしかして………京様も未プレイ?」

 

「…………うん…………というかゲームほとんどやったことねぇし、初代は俺たち産まれてねぇ」

 

「………そうですか…………」

 

 

 

 

 

 

「………あっ、死んだ……」

 

「え、これむずくない?」

 

「我々初心者がやるゲームじゃなかったのかもしれません」

 

同じステージで死にまくる二人はW○iの電源を切りSwitchの電源をつける。

 

「スマ○ラでピク○ン使うかー」

 

「原作知らなくても楽しめる『ス○ブラ』すごいですね」

 

二人はかなり古めかしい家庭環境で育ってはいるが、現代っ子であった。

 

「ス○ブラ初代の時点で生まれる前のゲームだしなぁ」

 

「………ゲーム得意でない私達はCPUにボコされてるんですけどね……」

 

「…………もはやグロ画像だろこれ……最初からCPUレベル6は強すぎたな……」

 

マ○オでバーストされた二人はすぐに違うゲームに移る。

 

「ポケ○ンですか?」

 

「イー○イver.でございます。」

 

「これも、リメイク前は私達生まれてないですよね……オープニングのイ○ブイ可愛い」

 

「これ、イー○イの髪型とか変えられるらしいよ」

 

「あ、可愛い」

 

「……♀だとしっぽの柄がハートになるらしいよ」

 

「……へー……選べるんですか?」

 

「厳選が必要らしい」

 

「やってみましょう」

 

 

 

 

 

 

「出ました」

 

「カワイイ」

 

「カワイイ」

 

「声優さん付いてるらしい。ピカチュウ版はもちろんピカチュウの声がついてる」

 

「…………ブイブイ!!」

 

「なんて?」

 

「なんでもないです。」

 

「そう……」

 

『ブイブイ!!』

 

「…………」

 

『ブイブイ!!』

 

「…………」

 

「…………」

 

『ブイブイ!!』

 

「録音してたんですか?」

 

「うん………」

 

「……………」

 

「もう少し恥ずかしがると思ってたんだけどそうでもないね」

 

「今更何を恥ずかしく思うんですか?」

 

「姉さん達に拡散お願いしたから」

 

「そうですか…………やっぱり恥ずかしいんでやめてもらっていいですか?」

 

「大丈夫だよ、誰にも送ってないよ」

 

「そうですか」

 

何故かドヤ顔をする京

 

「やっぱり顔にイラッとしたんで、総評の返信してもらう文言を含めて拡散してもらってもいいですか?」

 

「マジ?」

 

「マジです」

 

その後京都校LI○Eグループに『カワイイ』スタンプが多く押された。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

不遜な来客再び

ベテラン補助監督官の佐藤は特級呪霊『桐ケ谷京』を監視する任務についていた。

 

逃げ帰ってきた術師から聞き取りを行い報告書をつくる。

 

「呪霊『禪院琴音』『ミミコ』『ナナコ』を確認。『桐ケ谷京』はサイ○リヤ ○○○○○店を『生得領域』として占拠。中にいた21名の店員と客は全滅していると思われます………と………」

 

話を聞くだけでも帰りたくなる惨状に無言になる。

術師がファミレスに入ってから出てくるまで5時間経過しているのである。

報告を聞く限りでは5分かそこらだろう、つまり、何かしらの方法で術師を欺いていたのか、それとも、時間の流れ自体に干渉しているのか……

 

領域内での時間の流れへの干渉はほぼ対抗策が無いともいえる。

 

ベテラン佐藤の知っている知識……『落花の情』も『簡易領域』も領域内部で必中になる攻撃をカウンターする技であるが、時間の流れそもそもに干渉された場合の対処方法が無いのである。

 

「面倒な呪霊を『五条悟』任せだったツケか……」

 

『領域展開』ができる術師は限られているが優秀な人材は皆夏油による『死滅回遊』の終息に駆り出されているため『特級呪霊』一体のために動かせる人員が足りないのである。もう今日は無理だなと帰り支度をしていると、

 

「オイオイ、何帰ろうとしてんだよ……」

 

話しかけてきた男は一級術師の『坂木』である。

大型の鎚を武器とする術師であり実力はあるが素行の悪さが目立つ術師であったが、任務中に帳に残された一般人に故意に怪我をさせたとして収監されていたはずである。

 

「出られていたんですね」

 

「猫の手も借りたいってところなんじゃねえの?で、中は?」

 

「気をつけてください術師が二人、捻られています。」

 

「中の奴らは全員死んでるんだろ?」

 

「………そうです。」

 

「じゃあ、呪霊に殺された死人は秘匿処理だよな……」

 

「………ええ、そうなります。」

 

「じゃあ何してもバレねえよなぁ」

 

「…………はぁ、何とかできるなら好きにしてください。」

 

 

 

「ご注文のフライドポテトになり……ドシャッ

 

注文を運んできた店員の頭部が潰れる。

 

「ご注文は死体ですかー?」

 

「……はぁ……やめてくれよ……ポテトが血で味が変わるじゃないか……」

 

「フンッ!!」

 

坂木は大鎚を振るうが空を切る。

いつの間にか大座敷に移動していた。

 

上段の間には琴音に膝枕をされてミミコとナナコに大団扇で扇がれる京がいる。

 

「全く…………邪魔しに来るのか……」

 

「っていうか腕疲れるからやめていい?」

 

「いいよ」

 

京の言葉を聞いてミミコとナナコは壁に寄りかかりながらスマホを開く

 

「現代っ子だねえ………………さて、ようこそ、俺の『領域』へ……」

 

「テメェ何しやがった」

 

「『呪霊』の『生得領域』が姿を変えるのは普通だろ?」

 

「いや、俺は『簡易領域』を使ってたはず。」

 

「別に君に攻撃してるわけでもないのに『簡易領域』は関係ないだろう?」

 

「俺がこの『領域の支配者』だからね………すべての常識、自然現象は俺が『定義』する…………君は何時まで『天井』に立っているんだい?」

 

坂木は天井に落ちた。

 

「………『簡易領域』が効かない?」

 

「効いてるよ。ホラッ」

 

ナイフを『簡易領域』に投げ込むと大鎚で弾かれる

 

「『簡易領域』でも重力が操れるわけではない、領域で隔てたところで酸素がなければ死んでしまうだろ?」

 

「そういうことかよ……イライラするなぁ」

 

「………貴方の『簡易領域』は粗野な言葉遣いと違って緻密で繊細だもはや芸術だよ……せっかく外に出られたんだ……俺に付かないか?」

 

「残念だが『縛り』の関係でそれはできねえ。祓わねえと俺が死ぬ」

 

「………そうかい……じゃあ……呪い合おうか……」

 

『疑似領域展開』〜鬼陣闘技場〜

 

「これが噂の『疑似領域』かよ……」

 

「知っててくれて嬉しいよ……」

 

「俺から行くぜ……」

 

坂木から『死地』へ赴く。

彼も1級術師、その中でも武闘派である。彼の術式『重々境地』は持っている武器の遠心力を倍増されるものではあるが術式の副産物で圧倒的なピンチ力と握力が生まれた。

その結果、掴むだけでその部位を破壊するほどの技として完成していた。

勿論『陣』で見えている京には全て避けられる

 

「逃げてんじゃねえよまずは握手からはじめようじゃねえか?」

 

「……その手は駄目だよね……本当に危険っ!!」

 

左手のつかみと右上段蹴りをフェイントに使った大鎚での一撃が脇腹を襲う。

 

「次ぃ!!!!つーかまーえたー!!」

 

よろけた京の左手を掴んだ坂木はそのまま握りつぶそうとするが

 

『閃』

 

「残念……その手じゃ掴めないね」

 

ボトリッと坂木の右手が落ちる

 

「いってえ!」

 

『代役』

 

『構築』『鉄の処女(アイアン・メイデン)

 

二人の京が坂木をアイアン・メイデンに押し込むと閉じられる。

 

「うああああああああああ」

 

『斬』

 

アイアン・メイデンを切るとアイアン・メイデンは崩れ落ちる

勿論中身も真っ二つになっている。

 

「彼の術式と『領域』はキレイに見えたんだけどなぁ……ま、いっか、こいつは死んでもいいやつだったし。」

 

その光景を横から見ていたミミナナが気がつくとファミレスに戻っていた。

 

隣の席には坂木の死体が乗っている。

 

「申し訳ございません。清掃いたしますね」

 

店員たちが死体の処理を始める。

 

「つーか、これ、まだまだ来るのかなぁ?」

 

「……やだなー、めんどうだなー、もっと頑張ってくださいよ先輩…………」

 

「そんなことよりもっと昔の話聞きたいな」

 

「はぁ……まだまだ、話はあるから………

 

 

そうだな、次は………」

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

いつも脱走する京

お久し振りです。
忘れてたわけじゃないです。
でも設定とか忘れてるかもしれないです。


この話は主人公、桐ヶ谷 京(きりがや みやこ)が中学2年生、禪院姉妹が中学3年生、琴音が禪院本家に来た頃の話。

 

 


 

 

「うぃーあーふぁいてぃんぐどりーまー!! 高みを目指して」

 

「うるさい」

 

「ふぁいてぃんぐどりーまー!!なりふりかまわず 」

 

「うるさい」

 

「ふぁいてぃんぐどりーまー!!しんじるがままに」

 

「うるさい」

 

「おーりおりおりおーじゃすごーまいうぇ…「うるせえっつってんだろうがよ!!」ゴフッ」

 

早朝山中ランニング中、真希の踵落としが脳天に突き刺さる。

 

「痛いじゃんか……」

 

「うるさいのよ朝っぱらから!!」

 

「朝は元気なほうが良くない?」

 

「さっきから信郎さんが後ろについてすごい形相で見てんのよ!!」

 

「真希、勝手にやるなよ俺だって殴りたかったんだから」

 

「マジじゃん、やっべ、逃げろ!!」

 

京はランニングコースから離れ山肌を滑り降り始める

 

「あっ、待てコラ!!」

 

信郎もそれを追いかけて滑り降りる

 

「………はぁ………やっと静かになった……」

 

その後、朝の鍛錬を無事に終えた真希は汗を洗い流して朝食を食べるために食堂に来た。

 

ボコボコにされて変形した顔の京と思われる物体が山盛りのご飯を崩していた。。

 

「で、どこから食べてんの?」

 

「口に決まってるだろ?何いってんだ?」

 

口が見えないんだよ。

 

「ことねー、おかわりー」

 

「かしこまりました。」

 

琴音が空になった丼にご飯を盛り付ける。

 

「琴音ちゃん、もっと雑に山にしていいのよ。」

 

「はい……」

 

「そうそう、京のはもっと雑でいいの。」

 

「ありがとうございます。」

 

琴音の表情は変わらない日本人形のようである。

無理のもない任務で両親が呪い殺された彼女は本家に京の結婚相手として拾われたのだ。

 

食事を終えると学校に登校する。

 

気を抜くと直ぐに脱走して呪霊退治に向かってしまう京を双子が両手を持って宇宙人のように登校するのは風物詩であったが最近は京の背が少し伸びたので二人に関節をキメられながら通学するのを琴音が後ろから着いていく。

 

「真希姉さんも真依姉さんも今日も一段とキレイっすね………あのぉ……もう少し関節緩めてくれないですか?」

 

「じゃあ、私が琴音と代わるわね。いい?琴音。しっかり脇に挟み込むのよ」

 

「こうですか?」ミシミシミシミシミシ

 

「いてええええ!!!!加減しろ馬鹿!!!」

 

「うるせぇ関節キメながら歩くの大変なんだよ!!」ミシミシミシミシミシ

 

「ぎゃああああああああ!!!ギブッ!!!ギブギブ!!!」

 

登校をして退屈そうに従業を受けていると3年の教室に琴音が駆け込んできた。

 

「真希さん!!!真依さん!!!京様が消えました!!!」

 

「「はぁ!?」」

 

既に出席日数ギリギリの京。京が進級できなければ世話係の琴音は勿論、同じ学校に通う姉妹も怒られる。

 

「すみません、先生、探してきます!!!」

 

「またですか…早く行ってきなさい。」

 

「ありがとうございます!!!」

 

受験生だが進路が決まってる二人には直ぐに許可が出た。

 

美人の禪院姉妹に面倒を見られていて、途中から琴音も世話係に追加された京は禪院家のお嬢様3人を侍らせる謎の大物として学校内では有名人になっている。

 

「あのバカ……たしか隣街で任務の話があったからそこを見てくるよ」

 

「わかった。私は校舎内を探すから琴音は校舎の外をお願い。」

 

「わかりました。」

 

二人と別れると真依は屋上に向かう。

屋上には正門から出ていく真希を眺める京の姿があった。

 

「やっぱりここにいた」

 

「あ゛………真依姉さん……」

 

「早く授業戻んなさいよ」

 

「いやぁ……呪霊祓いたくて……」

 

「あんたがバカみたいにはしゃぐから負の感情を元に集まったり生まれたりする呪霊が学校内で出来にくくなってんのよ」

 

京がいつも呪霊を探すために学校中をふらついているため過度なイジメが起きにくくなっている……陰湿なものは続いているがその陰気に載せられてきたまだ育っていない呪霊を京が片っ端から祓っている。

 

「琴音はどんな感じ?」

 

「え?今体育倉庫の裏にいるみたいだけど」

 

「違うわよ一緒に暮らしててどうなのって話。」

 

「家で家事してる時と変わらないと思うよ。まるで人形。たまに感情が出るようになったけどね」

 

「まさかあんなことになるとはね」

 

「弱ければ死ぬ。それだけだよ。俺はそうならないように琴音を強くしなければならない。」

 

「……はぁ………私、高専行きたくないなぁ……」

 

「俺からは何とも言えねえ……」

 

「はぁ……双子の呪いかー………」

 

呪術界では双子の術師は二人で一人という扱いを受ける。

一人分の呪術の才能を二人で分け合うためその呪術の才能(呪力量や術式)も半分になる。そのため双子の術師は大成しないと言われ、ある種の呪いとして双子は語られている。

 

「……あと少し、あと少しで呪術の真理に到れると思うんだ。そうしたら姉さんたちが自由になれるように……双子の呪いを無くすことだってできるんだ。」

 

「……どうせ、自分が強くなるためでしょ?」

 

「まあね……そろそろ、琴音は回収しようか。」

 

 

 

 

琴音は京を探すフリをする。

『陣』を使う京を見つけることは私には無理だろう。

すでに諦めている。

 

問題児の京を手懐けるのは無理であるのは大人たちも分かっているのでそんなに怒られないが、注意としていちいち小言を言われるのは嫌である。

 

「バカ京」

 

悪態もつきたくなる。

私が拾われてから彼の自由さに巻きこまれている。

 

授業中に勝手に抜け出したり。ご飯をつまみ食いしたり。直毘人様のコレクションを持ち出して見たり………もう、めちゃくちゃである。

 

彼の世話を頼まれているので炊事洗濯掃除だけだと思っていたが剣術も教えてもらいながら面倒事に巻き込まれる。

術式を持たない私が禪院家で生き残るには京に付き従うしかない。

 

でも、勝手に学校から脱走するのはやめてほしい。本当に。

私も授業をサボりたいので誘ってほしい。外でポテトフライ食べたい。

 

「………何やってんだろ…私……」

 

「よっ」

 

「どこにいたんですか京様。」

 

「屋上、真依姉さんが手を振ってるよ、おーい。」

 

確かに真依さんが手を振っている。

 

「一緒にサボろっか。」

 

京が琴音の手を引いて走り出す。

 

「………行ってらっしゃい」

 

屋上に居た真依は走って校外に逃げる二人を羨ましそうに見つめていた



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

死滅回遊編
三十九話 恩師


庵歌姫はとある教え子の資料を確認していた。

 

桐ヶ谷 京は幼い頃に両親を亡くし、祖父で超実戦的剣術の桐ヶ谷流剣術の師範、桐ヶ谷 文幸の元で暮らしていた。

 

教えることを教え尽くした文幸は術式を持つ彼を旧友、禪院直毘人の元に預ける。

 

禪院家で呪術について学ぶ中で彼は呪術の本質に触れていく。

 

呪力操作と縛りのみで領域を展開する『疑似領域』

 

彼の術式『投影呪法』

 

領域『戦場の映画館』

 

加茂家に羂索が残した研究資料から得た知識で

 

『双子の呪い』の解呪と『術式の抽出』

 

「交流戦の時にはもう既に双子の呪詛師を従えてたのよね……」

 

認識するだけで多大なダメージを与える呪霊(推定特級)を一人で祓っていた。

 

そして、渋谷事変にて大量の人間を喰らい『呪霊化』

 

千年前、最強の呪術師、宿儺が至った境地に足を踏み入れる。

 

現在『特級術師』から『特級呪霊』となった彼は特級呪霊『漆姫』の子供であり器の呪詛師。禪院琴音を引き連れている。

 

特級呪霊『漆姫』、御三家に入り込んで自らの眷属を増やしていた呪霊。術式は侵食術式。影のような黒いナニカがすべてを侵食する

 

「はぁ……ふたりとも大丈夫かしら……………なんて言えないのよね……」

 

現在、彼女は書類整理という建前で保護と言う名の軟禁状態を命ぜられている、死滅回遊のルールが開示されても開放の見通しが立たないのは緩やかな死刑である。それも全て特級呪霊と呪詛師を在学中に排出してしまった責任を取ってである。

 

今はそれどころじゃないのに。

 

歌姫は彼の祓った呪霊の報告書をさらに詳しく見直す。

 

 

 

京都百鬼夜行にて東堂と共に祓った『侵食』の特級呪霊『漆齧(しげつ)

『漆姫』の産み落とした呪霊と思われる。

 

高専入学前に遭遇した禪院家に入り込んでいた特級呪霊『漆姫』

 

交流戦にて祓った『認識のトリ』、某SNSの『認知』と『情報量』の呪霊。

 

『双子の呪詛師』禪院家にて■■■■………

 

「あれ………?」

 

「お疲れ様です歌姫先生。」

 

一人しかいないはずの資料室、それの机の対面に件の学生、京が座ってコーラを飲んでいた。

 

「……あなた!!何処から!?」

 

「普通に入り口から入ってきただけですよ先生。俺は呪術高専の生徒じゃないですか?」

 

「貴方は呪術師から呪詛師に変更されてるわ。高専生ではないのよ」

 

「まあ、そうでしょうね。おかげで『真依』の試し斬りができました。」

 

京の後ろに立つ琴音は血の滴る日本刀の呪具を持っていた。

 

「……………貴方……それって………」

 

「構築術式で作ってみたんですよ。やはり身体(ハード)が良いと術式(ソフト)の出力が違うなー。姉さんの身体ではここまでの業物は中々作れるものではないでしょう。」

 

「…………術式の抽出?」

 

「姉さんに術式は必要ないからね………」

 

庵歌姫はここで思考を巡らせる

 

(学長が出払っている時間に来たのか。先程の死霊の黒塗りを見る限り既に漆姫の術式の影響下にある……少しでも時間を稼いで………)

 

「お手上げよ……何しに来たのかしら?」

 

「先生には仲間になって欲しいんですよ。」

 

「どうしてかしら?」

 

(術式の抽出ができる彼にとって目的は私の術式でしょう。私の術式を貴方がうまく使えるとは思えないけど……)

 

「脚本を書いてくれる作家が欲しいんですよ。」

 

「……………………は?」

 

「俺の術式って『物語』が合ったほうがいいんですよ。だから物書きできる人が欲しいなーって」

 

「はぁ………」

 

彼の予想外の返答に歌姫は飽きれてしまった。

 

「あ、術式使おうとしてもこの『領域』内だと使えないと思いますよ。」

 

「なっ!!!……、■■■■■、■■■■■■■…………」

 

「でしょ?別に先生にとって悪い話でもないと思うんですよ。」

 

「……………」

 

「先生、このままだと死滅回遊に参加できなくて死んじゃうと思うんですよ。それに、今の呪術界に思うところがあるのは先生もそうでしょ?俺に乗っかってみませんか?」

 

「………一つだけ条件があるわ………」

 

「何でしょう?」

 

「貴方も琴音も『誰一人高専生は殺さない』で………」

 

庵歌姫にできる唯一の抵抗であった。

 

「…………努力しますよ」

 

「そう……ありがとう。」

 

歌姫の体は黒い影に侵食されていく。

 

「心配しなくていいですよ。大丈夫ですよ最初からそのつもりです。ちゃんと寝れてないでしょう。」

 

『今はゆっくり休んでね。せんせ』

 

歌姫は消えゆく意識の中で居ないはずの生徒を幻視した。

 

「京様、どうしますか?」

 

「面倒だけど死滅回遊参加しないとなー、何処のコロニーに行こうかな?」

 

「どこへでもお供します。」

 

「東京は宿儺いるんだろ?少し離れたところ行ってみるか…………コーラ飲まねえとやってらんねえな。」

 

京は必要な資料を回収したあと静まり返った建物を切り倒し外へ出る。

 

空は曇天、青空一つない。今にも雨が降りそうである。

 

「今日も天気がいいな」

 

「そうですね。」

 

「…………とりあえず姉さんたちに合流しようか。」

 

「ええ。」

 

二人の姿は影に消えた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

四十話 投射呪法 極ノ番

「うち、まだ喪中なんやけど」

 

「そんなこと言える状況か禪院直哉、貴様は禪院家当主代理でもないただの呪術師でしかないんだぞ。」

 

直哉は上層部に呼び出されていた。

 

「特級呪霊、『京』の祓いと呪詛師『禪院琴音』の呪殺を命ずる。」

 

「………はぁ……」

 

「縛りを設ける」

 

「ほんま人使い荒いねん。」

 

直哉は承諾せざるを得ない。

丙と灯、禪院家の術師の首が会議室に並び。

禪院本家の数少ない生き残りが人質にされているのである。

 

縛りを結び直哉は外に出る。

 

(甚一の首だけなかったな………)

 

「帰って家に誰も居へんのは寂しいやんなぁ………もしもし?」

 

『直哉さん。どうしたんですか?』

 

「これからお前祓いに行くから居場所教えてくれへんか?」

 

『……………桜島で真希姉さんに会う予定です。』

 

「真希も居るならちょうどええわ。今の家の話少しだけ話したいねん」

 

『やるときは本気ですよ』

 

「勿論や。んじゃまた後で」

 

「対象に連絡を取るって貴方は喧嘩を売ってるんですか?」

 

呪力を込めた槍を背中に突きつけられて直哉は両手を上げる。

お目付け役兼直哉が裏切った時の秘匿処刑執行役

 

おさげ髪に丸メガネ

二級術師

土御門 フミ

 

(舐めとんのか?)

 

「なんで准一級でもない奴が付き人やねん。」

 

「付き人ではありません。監視者です。仕方がないでしょう。上の命令なんですから。」

 

「特級呪霊祓いに行くのに死んでも知らへんで。」

 

「私の術式は………端的に言うと『道連れ』です。縛りを結んだ相手に私が受けた傷を相手にも写します。私から5km以上離れると呪力コントロールができなくなります………」

 

「なるほど、聞いたことあるなぁ。その術式、領域持ちに使えへんから二級止まりやんな。」

 

「でも、貴方には効きますよね。」

 

「そやね。」

 

パシンッ!!!

 

直哉は一瞬で背後に周り尻を引っ叩く。

 

「いったぁい!!!」

 

「いってえ。」

 

確かに傷を共有しているようだ。

 

「まあ、その大きな尻に免じて鹿児島まで運んでやるわ」

 

「殺しますよ?」

 

世界が加速する。

 

「着いたで」

 

「え?」

 

「コンビニで雉落としてくるわ」

 

フミはコンビニの店名を確認する。

確かに鹿児島まで来ていた。

 

「嘘でしょ………報告書と全然違うじゃない……」

 

その移動速度は五条悟の速さに近い。

呆然と立ち尽くすフミ。

 

「なんや?早く行くで。桜島コロニーや」

 

次の瞬間、上空に飛ばされる。

目の前には呪霊。

 

「ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あああああああああああああああああ!!!」

 

空を飛ぶ呪霊に捕食されそうになったとき。

 

『白雲切り』

 

斬撃が目の前を通り過ぎて呪霊を祓う。

それを見た直哉がすぐに飛んでくる。

 

「着地できるか?」

 

「……………」

 

「これでノックアウトかいな…………京、ちょっと待ってな」

 

「いいっすよ。下に誰もいない喫茶店あるんでそこで会いましょう。」

 

「お前もここまで何顔出してんねん。他の泳者に狙われんぞ」

 

「そういう奴は姉さんと加茂先輩が片付けてくれましたよ。」

 

「そうかいな。」

 

誰もいない喫茶店、そこにフミを運び込み座席に寝かせる。

 

「で、俺が処刑になったって………今更っすか?」

 

「そうやねん。俺はやる気起きへんのやけど……コイツ、死ぬと俺も死ぬねん。ついでにコイツが本部に連絡すると本家の連中が全員処刑される。コイツから5キロ以上離れると呪力ねれなくなって多分呪霊に殺される。今も危なかったんや……はーあ、クソゲーやな………」

 

「やる気ないっすね。」

 

「そりゃそうやねん。伏黒くんぶち殺して禪院家当主になろうって思ってたときに呼び出しや………そりゃヤル気もでぇへんわ」

 

「んで……こいつどうします?」

 

伸びてるフミをつついてみる。

 

「おお……、これは……中々のおっ…゛っいだだだだだ!!!!」

 

琴音に耳を引っ張られる京。

 

「女はちゃんと躾けなきゃあかんで。…………桜島まで呼んでもらって助かったで。監視の目もコイツだけやし。早う真希と合流しとこか」

 

二人は禪院家の生き残りを集めることにした。

 

「それにしても、えれぇお荷物連れてきちまったなぁ……」

 

その後、真希達と合流するために移動する道中、フミが直哉の肩の上で目を覚ます。

 

「ん……………?」

 

「重いねん、自分で歩きや」

 

ドサッと地面に落とされたフミは視界がぼやけていることに気がつく。

 

「あれ、メガネ…………」

 

「コレは預かっとくで」

 

直哉はメガネを持っていた。

 

「ちょっと……返してください!!!………槍は?」

 

「折って捨てた」

 

「何やってるんですか!!?」

 

「呪具でもないんやからギャーギャー喚くなや」

 

「私戦えないですよ⁉呪霊に会ったらどうするんですか⁉」

 

「あん?呪術師なら素手で戦うんは普通やろ!?武器になんざ頼るなや!!」

 

「そ゛ん゛な゛こ゛と゛ぉおおおおお」

 

「ああもう鬱陶しいなぁ。メガネは返したるから静かにせぇや」

 

フミは押し返されたメガネをかける。

 

「………うぅ……これから死滅回遊をどっやって戦え………ば……………」

 

「どうも〜」

 

メガネをかけるまで気が付かなかったが、右前を歩く人は特級呪霊で、その特急呪霊がにこやかに挨拶してきた。

 

「ど、どうも〜」

 

フミはにこやかに返すしかできなかった。

隣の呪詛師の視線が怖いけど……

 

直哉と京が急に歩みを止める。

 

「真希は掃除もまともにできへんのか……」

 

「上からですし新しい泳者じゃないですか?」

 

呪霊と術師の新たな泳者がコロニーに入ってきた。

 

「どっち相手します?」

 

「んー……………俺が呪霊やりにいくで。そっちの方が楽そうや」

 

「じゃあ自分が術師ですね」

 

京と琴音が影に消えるとフミは直哉に抱えられて飛び立つ

 

巨躯の呪霊。

何の呪霊なのか分からないが今の直哉に関係は無かった。

 

呪術師においての到達点は3つある。

 

一つは呪力操作の到達点『黒閃』

打撃と呪力のインパクトを誤差0.000001秒以内に収めることでその打撃を何倍にも跳ね上げる奥義。

 

一つは術式の到達点『極ノ番』

術式の奥義。己の術式を理解し鍛錬し研ぎ澄まされた技の完成形。

 

一つは呪術の到達点『領域』

生得領域に他者を引きずり込み自らの技を必中必殺にする呪術師の完成形。

 

直哉は京との鍛錬の中で『領域』を諦めていた。

生得領域に他者を入れることを彼は拒絶していた。

それ程までに彼は他者を嫌っていたのである。

だからこそ『術式』を極めることに集中した。

父のように相手に『術式』を押し付けるのではなく自らの強化に特化させた。

 

それが今の彼の強さにつながる。

 

「クエストスタートや」

 

四足歩行の呪霊を蹴りで地面に叩き落とす。

 

「こないな速さで蹴られるのんは始めてやろ?」

 

「離してください!!!特級呪霊逃していいんですか!?」

 

「連絡手段ないねんやから今はお前守ってりゃええねん。」

 

「………圏外になってる………」

 

「あとお前重すぎやねん。少しは痩せろ」

 

「なぁああああああああ!!!!」

 

煽られて殴りかかろうとするがすり抜ける。

 

「うるっさいわ。死にたくないから動くやないで」

 

既に呪霊に追撃を始めていた。

(絶対に殺してやる……)

そう思いながら戦闘中の直哉を見守る……というか、目で追えない。何が起きてるかも不明である。

 

(仕事中にあんなうるさくてよう二級になれたなぁ)

 

『陣』

 

直哉は過去に桐ヶ谷史幸に指南を受けている。

その上で投射呪法を極めた。

父・直毘人のように相手には適用せず呪力を自らの術式に集中する。

 

アニメーションで使われる中割の技術。

中割を学ぶ上で自らの魂の形を変える技術にも触れることができたがこれまで利用するのをためらっていた。

 

そして、今日、土御門 フミの術式によって縛られたことで魂を観測され続ける、その結果、自らの魂の輪郭を完全に把握することができた。

 

(ほんま感謝しとるで。まさかこんな方法があったとは思いもしなかったで)

 

第三者に常に魂を観測させ続ける。

過去の自分では絶対に掴めなかった感覚。

 

横たわる呪霊の周囲を廻りながら加速する直哉。

 

圧倒的な速度は自らの魂の輪郭を変形させ操作し、人の形を捨てる、こうして直哉は圧倒的な速さを手にしたのである。

 

直哉の『黒閃』の発動条件、打撃と呪力の誤差0.000001秒の壁に対する回答は呪力を纏った攻撃を光の速さで行うことであった。

 

『投射呪法』〜極ノ番〜『雷光』

 

「呪術を知れば知るほど、京や宿儺が人を捨てた理由がようわかったわ………」

 

『黒閃』バチンッ

 

「人のまま力を得てるアイツラ(五条悟や禪院甚爾)がバケモンなだけや」

 

『黒閃』バチンッ

 

「呪霊になって力を得てるお前らのほうがよっぽど俺等よりや」

 

『黒閃』バチンッ

 

「でもな、まさかこんな方法があったとは思いもよらなかったわ。」

 

『黒閃』バチンッ

 

「ただ、俺もアイツラの仲間入りや」

 

『黒閃』バチンッ

 

「…………ま、聞いてないか。」

 

1級相当の巨大な呪霊が祓われ消し炭になり、直哉は人の形に描き直される。

ここまでの時間わずか10秒、直哉は300枚のコマを描ききった。

 

「ほな行くで」

 

「………報告書と強さが違くないですか?」

 

「そうか?じゃあ、書き直しとき。」

 

今の直哉は『最強の一級術師』と言ったところだろうか。

『落花の情』以外の領域対策ができれば特級術師になるだろう。

 

『閃』

 

泳者が縦に切り裂かれるのを遠目に見る。

 

「直哉さん。こっちも今終わりました。戦いに気がついて姉さんたちもこっちに来てます」

 

「そうかい。んじゃまっとるわ。」

 

「禪院直哉、なんで任務を遂行しないんですか?」

 

「あんねぇ、一人で足で纏い連れながら特級呪霊祓いに行けってそれ体のいい死刑宣告やろ?何でそんなの従わなくちゃならんねん。お前も死刑宣告されとるんや。なにかの心あたりあるんやないか?。」

 

「それは………」

 

土御門 フミは高専卒業後8年間、秘匿死刑の執行人のお目付け役として働いていた。そのため呪術界の悪い面も多く見てきたのである。おそらく彼女も離反すると考えられていたのだろう。

 

「それでも、ずっと世界が良くなる任務だと思ってやってきましたよ……」

 

秘匿死刑の現場をよく見てきた彼女は任務を受けた時点で圧倒的な力量の差を感じ取り違和感をずっと覚えていたのである。

 

「上層部の人達、だいぶ疑心暗鬼になってるな。五条先生降ろそうと必死になってたのに居なくなったら居なくなったでコレかよ。」

 

「まあ、おそらくウチの人質はあらかた殺されてるやろなぁ。」

 

「そ、それは………子供までいたんですよ!?」

 

「アイツラにとっては禪院家は特級呪霊に操られてるかもしれない非術師や、どうせアイツラにとっては禪院家は消える予定やし生かしとく価値ないやろ。」

 

フミは俯いたまま納得するしかなかった。

 

「…………」

 

「まぁまぁ、ええわ。そろそろ真希も来るやろ」

 

「そうですね……」

 

一行は合流を待つことにした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

四十一話 愛の呪

窓窓窓窓窓
フミ□直哉
真希□加茂

 京 琴
 □ □
 空 空
 席 席


いろんな媒体でちゃんと出てくれるかわからない席順。
語られる呪術理論は京が独自解釈したものです。


「で、(お前)の目的は何なんだ?」

 

「それについては俺からも聞きたい」

 

加茂先輩と真希と合流した一行は無人のファミレスで会議をしていた。フミは手を拘束されて猿轡をしている。

 

「なんや、己等も聞いてへんかったんか。」

 

「あー…………そうですねー……………」

 

京は言うか迷ったが口を開く。

 

「琴音が生きていていい世界を作る………ですかね………」

 

ここにいる全員が共有している情報。

 

『禪院琴音は呪胎である』

 

この問題はかなりシビアなものになっていた。

 

「今もうすでに上は知ってることだと思うんですけどね……上層部は五条先生がいたからできなかった呪術界の異物の排斥をどんどんする気なんですよ。だったら羂索や宿儺に乗ったほうがまだマシ。呪術全盛上等じゃね?ってところです。」

 

「琴音の件はもう耳に入っとるやろなぁ……。ウチは今や分家と宗家が入れ替わっとるし………」

 

伏黒が当主になったこと、本家から呪詛師を排出したことにより禪院家のパワーバランスが崩壊、現在の当主は伏黒恵であるが実権は甚一が握っている。

 

「だから、この戦いには参加しますけど………琴音の影に入ったままコロニーに入ったら一緒の参加者扱いになっちゃったんですよね……完全に失敗した。マジでやらかしたぁ…俺も参加したかったー。俺もコガネほしー」

 

「これ可愛いですよねー」

 

「せやろか?」

 

「んで、お前は何しにここまで来たんだ?」

 

「…………俺、五条悟の封印を解くの反対なんだよね」

 

その瞬間、加茂と真希の首筋がヒヤリとする。

 

「俺としては九十九派と共闘する気は一切ないよ。六眼も無下限呪術も生きたまま封印すべき。これまで手にしていたのが『五条悟』だったから良かっただけさ。他の者が手にする可能性があるならば先生は永遠に封印しておくべきだね、あの人なんやかんや保守派だし……それで………」

 

その瞬間、その場にいた全員がコロニーに入る巨大な呪力を察知した。

 

「それで?」

 

「ちょっとまって……何だよこの呪力………」

 

「苛つく呪力やな……」

 

「近づいてますね」

 

「別に気にしなくていいわよ」

 

「そんなこと言っても真依ねえ………さ………ん」

 

京は声の方を振り向くと座っていたテーブルの対面に真依が座っていた。

 

「なっ!?」

 

「何?わたしの顔になにか付いてるかしら?」

 

領域展開バリンッ!!!!

 

ファミレスが真依?の生得領域に包まれた。

 

「あっぶねぇ、冗談きついで………」

 

「我々も領域対策を本気で考えなくては………二人共大丈夫ですか?」

 

「いてててててっ………なんとか……」

 

「私はなんでもない。で、あのバカはどうした?」

 

真希は京にぶん投げられた琴音を受け止め、窓からファミレスを脱出していた。

 

「多分あいつはあん中やな……お前は何でもかんでも気絶し過ぎや!!!」

 

フミに平手打ちをするが起きる気配がない。

直哉は深くため息をついて謎の領域に気を回す。

 

ファミレスは生得領域で覆われている。

 

「真希、入ろうとしたらアカンで」

 

直哉が石を投げ込むと一瞬で溶けた。

 

「凄い熱量………」

 

「おい、琴音、京にどんだけ残った?」

 

「ちょっとまってくださいね。」

 

琴音は印を結び生得領域から式神を呼び出す。

 

「久しぶりだな二人共」

 

「庵」「歌姫」「「先生!?」」

 

まんじゅうのような手足のない一頭身の式神。

 

「なんや、歌姫せんせ、軟禁じゃなかったんやな」

 

「軟禁とは名ばかりの処刑だったのを助けてもらったのよ。」

 

「せ、先生?それ体は大丈夫なんですか?」

 

「むしろこうなったおかげでコレ(死滅回遊)の泳者にならずに済んでるのよ。それより不味いわ、京、今は刀以外を全部あなたの中に置いてきてる状態だわ。」

 

「そうか……アイツなら問題ないやろ」

 

(死ぬなよ京、まだ話は終わってないで………)

 


 

「アナタ、色んな女から愛されていたみたいねぇ」

 

「そりゃ、禪院家だと周りが酷すぎて愛され枠だったかもしれないけど」

 

呪霊の顔がよく知る人たちの顔に次々と変わっていく。

 

禪院家の奥様方、分家の子供たち、二組の双子、琴音、京都校の先輩たち、庵先生。

 

「………つーか、アレか、愛って『友愛』や『家族愛』も含めるんか。」

 

「そうよ〜」

 

「………呪力を持つ人間が『愛』による感情の変化によって漏れ出た呪力の塊」

 

「正確には人を愛するばかりからの怨み辛み嫉み憎みが私を構成するの」

 

「そうかいな。」

 

話しながらも京は思考を巡らせる。

恐らくこの領域はかなり狭い範囲で限定的に発生させる縛りによって強度を高めている。

 

取り込む相手の術式有効範囲はテーブル一つ分といったところだろうか?

 

「さっきっから領域に入れたのにお喋りばっかりじゃねえか。」

 

「気になったのよ、ここまでいろんな人から愛される呪術師なんてそんなにいないからね。」

 

「そりゃ、俺は別に呪術師である必要あんまりないし。」

 

「それなのにその才能、恨まれて当然だわね。」

 

「………いやマジ何しに来たの?」

 

「そりゃぁもう羂索に頼まれて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

呪い殺しに来たの

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真っ暗なファミレスの窓が外から赤い光を取り込む。

 

何もなかった空間から包丁や5寸釘などの刃物が現れ京を襲う。

京は陣にて領域効果を打ち消すがそれでも飛んでくる刃物を避ける。

 

「なんか、めっちゃ多い!!!!」

 

「それはあなたに何らかの愛情を持つ女のから零れ出ていた思いの総量よ。特にあなたに救いを、思いを向けられることを願っていた者が多いと多くなるわ」

 

「ああ、そりゃ多いだろうねぇ!!!!」

 

京はクソみたいな禪院家の環境を嘆いた。

 

(とうする?避けててもジリ貧だぞ?かと言っていま手元にあるの刀だけだし………)

 

自らを手の内は『投影呪法』と自らが構築した刀『真依』しか手元にない。

 

あと、まだ目を通していない歌姫先生描き下ろしの台本である。

これを試すのはまだ早い。

 

(………ああそうだ、アレを試してみるか。)

 

「『投射(アニメーション)』『敷写(トレース)』………一刀流……………」

 

京は『真依』を取り出し彼のよく知る、いや誰もがよく知る構えを取る。

 

「『獅子歌歌』」ジャキンッ

 

納刀の音だけが残される抜刀術は『愛の呪霊』の領域を切り裂いた。

 

「何っ!?」

 

「まだ終わってねえぞ!!!『敷写(トレース)』『威国』!!!」

 

振り上げの衝撃波で再構築されつつあった領域を完全に破壊して彼はファミレスから飛び出す。

 

「京っ!!!」

 

「京様!!」

 

「琴音、俺だけで大丈夫だ!!!『月牙天衝』!!!!」

 

京は斬撃を飛ばし、『愛の呪霊』に自らも近づく。

 

「『飛天御剣流』」

 

『龍翔閃』

 

(浅い………)

 

相手を浮かせることに成功したが手応えが薄い。

 

「『牙突三式』ってぇええ!!!」

 

包丁が京の背中に刺さり剣先がズレる。

 

「京様!!!」

 

「やっべぇなにこれ!?呪力が練れねえ!!!わりぃ、やっぱりバトンタッチする!!『導入(インストール)』」

 

駆けつけた琴音の中に入り京は自らの魂を回復させる。

 

「逃さないわ」

 

「『桐ヶ谷流』『抜刀』『斬』」

 

琴音は『文幸』を振るう

 


 

琴音の生得領域の中で治療を施す。

 

「大丈夫?」

 

「余裕よ」

 

「汗すごいけど?」

 

「余裕よ」

 

グィイイイ

 

「痛゛い゛痛゛い痛゛い゛痛゛い゛」

 

「油断しないの、あんたが死ぬと私達も道連れなんだから。あとまた捻くれて変なこと言ってるんじゃないよ。」

 

歌姫は京の傷口に薬を塗って包帯を巻く

 

「いや、だって、顔真似してた相手って全員弱いし………痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い」

 

「にしてもアレは何?なんか見たことある気がするんだけど?」

 

「多分アニメで出てた技じゃない?」

 

「術式でアニメの再現してたんだと思う」

 

「途中から普通にやってたけど………」

 

ミミコとナナコはわかったらしい。

 

「今なら剣八名乗れるかもしれない。」

 

「調子のんな」

 

「あの、手伝ってくれませんか?」

 

琴音に言われてミミコとナナコは戦闘に集中する。

琴音に刻まれた術式。

 

『侵食術式』は相手を黒く飲み込んでいくのだが、未だに使いこなせているわけではない。

 

だからこそミミナナや数多くの体を喰らい大量の人間の脳を演算装置に変えている京を術式で飲み込み演算装置として借りている。

 


 

「急に動きが良くなったじゃない」

 

『断』

 

琴音は無言で振り抜くが紙一重でかわされる

大量の刃物が彼女に降り注ぐが琴音は回避せず突き進む。

 

「まだまだ…」

 

呪力を込めた斬撃の連続。

京のように一撃必殺の威力は出せないため手数で勝負する。

降り注ぐ刃物は全て黒く染まり琴音から溢れ出る黒い呪力に飲み込まれていく。

 

「『天照』………」

 

あからさまな連撃の中で始めてとる上段の構えから振り下ろされるゆっくりと美しい縦斬りは呼吸を忘れさせる。

 

もし、相手が呪術師ならば避けることはできなかったであろう、しかし相手は呪霊である。

 

愛の呪霊は体をひねらせてそれを交わし腕を鋭く変形させて突き刺してくる。その切っ先が琴音の右肩に触れようとしたとき、肩から腕が飛び出しその腕を掴んだ。

 

………いただきます………

 

呪霊を琴音の影に投げつけると影が呪霊を黒く侵食する。

 

「何よこれ……私が……溶けて……………いやぁああああああああああああああ!!!!!!」

 

黒く染まった呪霊は溶けて消える。

 

「あっぶねぇ…………」

 

京は琴音の生得領域から外に出てくる。

 

「助かったぜ琴音…………琴音?」

 

ザクッ

 

「は?」

 

「彼は貴方の対策するに決まってるじゃない。あなた彼の後追いでしょ?」

 

琴音の刀が京の体を突き刺さる。

 

「「京!!!」」

 

「来んじゃねぇ!!!!」

 

京を助けようとする三人を京が制止する。

 

「ハハッ………『侵食』を逆手に取って乗っ取ったか………まるで『トロイの木馬』だな……」

 

「ええ、でも、あなたが悪いのよ………わかりやすく呪術体系をノートにまとめさせてくれるなんて。この子にはとてもとても特別な時間になったそうよ……」

 

五条悟は呪術師を家電と捉えていたが、もっと進んで京はパソコンと捉えていた。

 

彼が呪術を学ぶ中で感じたことは『術式とはアプリケーション』である。

他の特級術師の話しや御三家宗伝の術式とその成り立ちを学ぶ中で彼は呪術の根幹はもっと近代的であると考えたのである。

というより、非術師が術師に科学で追いついてきたというのが近いだろう。

 

脳を含めた肉体がハードウェア、術式や領域をソフトウェアと捉え、術師と非術師の違いはそのハードがソフトを使用できるかどうか?の違いに過ぎない。

 

乙骨のリカを見て『外付けバッテリー兼2ndPC』、六眼は『無限』を処理できる『超高性能CPU』といったところだろうか。

 

だからこそ京は琴音やミミナナを使って彼女らを自らの術式の演算に使えないか試した。

 

答えは成功。

 

特に琴音は受胎であることも含め最高のCPUBoxに、ミミナナはグラフィックボードになってくれた。渋谷で大量に喰らった人間は性能の高いCPU基盤になってくれている。

 

彼の『術式』である映像制作に必要な他のアプリケーションを探した。それが真依と歌姫である。

 

彼は呪術の根本はPCとアプリケーションであるとしてそのPCを強化して映像制作アプリを作り上げ、そのアプリで作った映像を領域として使用していたのである。

 

彼はいわば監督兼編集者。

 

画角の中では彼が王であり神、『領域の支配者』である。

 

「………動かない!?」

 

「やっぱり、琴音には何も言わないが正解だったな………PCにはウィルス対策しとくのは常識だろ?」

 

『ウィルスを検知しました削除します。』

 

琴音は呪霊を自らの体から分離させた後に刀で斬り伏せる。

 

「ぎゃああああああああ」

 

「琴音が俺より弱いと思って狙ったのかもしれないけど。琴音の方が術師として処理能力が高いに決まってるじゃん」

 

CPU本体と出力デバイス。

どちらが処理能力高いかと言われたら一目瞭然である。

 

京は自分をテレビだと思っている。

決まったチャンネルしか映すことができないが外部から入力することで色んな映画、ドラマ、アニメ、ゲームを映すことができる。

だからこそ外部入力機として琴音PCを作ったのである。

 

黒に侵食された呪霊は消滅していく。

 

「羂索がもう少し現代にカブれてたら負けてたかも」

 

「その傷は大丈夫なんか?」

 

「余裕余裕。俺呪霊だし。これぐらいなら中で休んでりゃ治るよ」

 

「そうかい、寝る前にお前の目的を言え」

 

「俺は現体制を壊し俺が新体制を作る。トップには宿儺でも羂索でも乙骨先輩でも五条先生でも誰でもいい。一番強い奴を据える。可能なら俺がやるけどね。挑戦受け付けてます。その気なら琴音に攻撃仕掛けてみてくださいよ。」

 

京は琴音の影に消えた。

 

「相変わらずやなぁ。」

 

「言ってること羂索の野郎と変わんねえじゃねえか」

 

「京様はこう言ってますけど、羂索も宿儺も倒すつもりらしいですよ。五条先生も次の最強が生まれないことに努めてくれるなら良いらしいです。あくまで次の『最強』が五条先生ほど優しくない可能性を危惧してるだけなので。大丈夫です。今、そのことで歌姫先生に怒られてるので。」

 

「ああ!!もう!!!最初っから素直に話せよ!!!」

 

「なんとも彼らしいな。」

 

「で、処刑人さんとその見届人さん。京様と私の首を取りますか?」

 

「俺はパスやで。」

 

恐らくここで琴音に攻撃すれば周りの術師が本気で殺しにくる。そう考えた土御門フミは決断する。

 

「わ、私は上層部を裏切ります!!!」

 

通信用のケータイを破壊した。

 

(チョロいな)

 

(チョロい)

 

(コイツ……ほんま大丈夫か?)

 

こうして京と直哉は九十九派と協力することになった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【座学】呪術の基礎【過去編】

箸休めの為の過去話

『二十三話 甘い誘惑』

の後ぐらいの話


京は先輩たちが任務で居ないのをいいことに京都校の食堂でスマホと大量のノートを開いて勉強をしていた。

 

「京様、それどうしたんですか?」

 

「コレは……………加茂先輩の家の倉にあった書物のPDFデータを印刷したやつ。」

 

「それって良いんですか?」

「勝手な持ち出し禁止って言われてたからスマホで撮影してPDFにした。」

 

「何してくれてるんですか?」

 

「先輩にバレずにやるの大変だったんだよ?」

 

「はぁ……何やってるんですか………………」

 

「まぁまぁ………………それよりクイズやろうか。ここからの話は天与呪縛に関して考えないものとします。

 

Question1.狗巻先輩の呪言は聞こえれば発動します。では電話やスピーカーで聞いた場合。発動する?Y/N」

 

「発動しますよね。答えはイエスです」

 

「正解!これは有名な話よね。じゃあ次は………

 

Question2.電話で聞こえる声は本人の声ではなく機械で合成された音であるため電話とリアルでは声が違うことがあります。このことから分かることは?」

 

「………………?」

 

「正解は呪術は概念的に同じとされているものならば現代の物と相性がいいってことだよ。複製されたコピーでも何でも………例えば『リング』って映画の貞子が良い例じゃない?」

 

「それって確かホラー映画ですよね?」

 

「『映像』を使って呪い殺したり乗り移ったり………映画の元ネタになった高橋貞子って超能力者じゃなくて呪術師だったんじゃないのかなって。」

 

「呪いは複製可能…………」

 

「それもそうなんだけど。重要なのはそこじゃないんだ。」

 

「はい?」

 

「逆にさ、そこまで簡単に呪術→データ→呪術の変換ができるなら呪術師も機械化できんじゃね?って。」

 

「つまり?」

 

「呪術師をPCと見立てて考えるならば、呪力は電気。呪術はアプリケーションソフトになるわけじゃん。」

 

「???」

 

「まあ聞いててな。スマホやパソコンってOSがあるんだけどそれがアプリケーションが動かせるやつじゃないとアプリが動かないんだよ。例えばiPhoneでAndroidのアプリが動かないみたいに。これが呪術師と非術師の違い。でもバッテリーは其々持ってるから電力……つまり呪力は存在してる。」

 

「………なるほど?」

 

「呪術………アプリケーションを使って外部出力デバイスに働きかけることで見た目にもわかる呪術が発動する。じゃあさ、受肉体ってどういうことだと思う?」

 

「それは……OSとアプリケーションを無理やり書き換えてる?」

 

「おそらく書き換えてるだろうね。そして、乙骨先輩のコピー術式はすっげー高性能のエミュレーターなんだと思う。」

 

「????」

 

「わかんなくていいよ。じゃあさ、『領域』ってなに?」

 

「うーん???」

 

「答えは物理的にPCboxの中だったり、記録媒体の中だったりするんじゃないかな?サーバー上のデータを弄るより一度ダウンロードしてからのほうが扱いやすいし。」

 

「…………?????」

 

「わかんなくていいや………

 

Question3.六眼ってどういうこと?」

 

「これはわかりやすく超高性能なパソコンってことですか?」

 

「そう、正解、正確には『超高性能CPU』を使うことで演算に時間や処理能力を使わないからこそ電力の消費を抑えてるんじゃないかなって………で、俺は何をしようかというと。俺はグラフィックボードを積みたい」

 

「????」

 

「映像や画像の処理専用のCPUを積んで処理の負荷を低減したいんだよ。」

 

「それって……」

 

「『映像や画像に関する術式』を持った呪詛師の体と術式がほしい………取り出し方がここに載ってる。」

 

「…………………………」

 

「最終的には琴音にPCboxになってもらおうと思うんだ。俺は外部出力デバイスでいい。できるだけ自分での処理を簡略化して戦闘に集中したい。」

 

「そういうことですか……私はいいですよ」

 

「許可貰わなくてもやるんだけどね………そうか。帳や陣とかの生得術式以外の術式みたいなものってアプリケーションを使わずに直接入力して使ってたのか………そうか………ああ、じゃあ『縛り』ってコマンドみたいなものなのか。そうか、予め色々仕込めるのか………」

 

京は完全に勉強モードに入っている。

この集中力を学校でも発揮していただきたいものである。

 

「そーか、グラボだけじゃなくてアレだ。映像取るなら衣装とか美術さんとかほしいし脚本家や作家もほしいな。あとは特撮や合成編集できるアプリケーション。夢が広がるなぁ!!!」

 

「そうですねー」

 

テンションが爆上がりしている京に対して琴音は軽く流すのであった。

 

今後、体や術式や領域を勝手に魔改造されるのを知らずに………



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

四十二話 人の業と二人の刀馬鹿

〈土御門 鷹綱〉
土御門フミの祖父。
総監部の人。
呪術界の闇の煮こごりみたいな人。



夜、桜島の術師達は息を潜め体を休める。

夜闇の漆黒の帳の中でフミは寝れないでいた。

 

「はぁ………………」

 

土御門フミは名門『土御門』家の長女である。

 

それなのになぜ危険な任務を任されるのか。

 

それも全て家からは『死んでも問題ない人』として扱われているからである。

 

土御門フミは約10年前、高専時代に癌を患い子宮の摘出手術をしたのである。その時の手術費は家に借金と言う形になり、危険な任務を任されるようになった。

 

「私ってなんで生きてるんだろう……?」

 

彼女の命には多額の生命保険がかけられている。

任務に失敗すると事故死のカバーストーリーが作られるため生きて任務を遂行し続けても失敗して死んでも家にお金が入るようになっていた。

 

死後にすら彼女に自由はなかったのである。

 

「フミさん、眠れませんか?」

 

深夜の飲食店の中

順番で見張りのために起きている琴音に話しかけられた。

 

「琴音ちゃん…………そうね……………聞いたことあると思うんだけど、色々あって子供産めないの………」

 

「それは……お聞きしています…………」

 

「だよね……家では私はもう死んでるの。手術が終わって退院して帰ったら、家にね……居場所がなかったの……。父親からは殴られたわ。『なんてことしてくれたんだ』って、その後に『土御門家への借金返済しろ』って言われて、『土御門』の名前があれば任務を受けやすいからって理由で名字はそのままなんだけど名前は変えられちゃった。昔は『土御門 (ゆい)』って名前だったんだけどね………今は姪っ子の名前になってるの……あの子達は大丈夫かな?」

 

まだ小学生に上がるぐらいの親戚もこの『死滅回遊』の『泳者』になっているかもしれない。

 

「なーんか、話してたら。ぜーんぶ、どーでもよくなっちゃったー」

 

「……………」

 

「ごめんね。かなり重いよね。」

 

「私も術式を持ってなくて『禪院の女』ってことだけで京様にあてがわれたので……想像に難くないです………」

 

『より強い子供』『より強い術式』『より強い術師』

それを産み落とすのは結局は女にしかできない。

 

その為に琴音の母は呪霊と契約し『呪胎』として彼女を産み落としたのである。

 

「おい琴音、交代の時間や。お前は寝ときや」

 

交代の時間になり直哉が起きてきた。

 

「あの……」

 

「早う、ねーや。」

 

大丈夫かな?この人と二人きりにしたらフミさん朝には首吊って冷たくなってないかな?

 

『琴音、寝ろ、ハードの長時間の稼働はこっちにも影響が出る。』

 

「………わかりました。」

 

琴音は心配だが体を休ませることにした。

残ったのは直哉とフミ

 

「…………………」カチャナチャカチャカチャ

 

「…………………」

 

「…………………」カチャナチャカチャカチャ

 

「…………………」

 

「…………………チッ………」カチャナチャカチャカチャ

 

「……………あの」

 

「なんや?」

 

「何やってるんですか?」

 

「ゲームや」

 

「いや、それは見てればわかります。」

 

「スマブラや」

 

「え?」

 

「格ゲーやな。」

 

「へぇ………」

 

「ゲームはアニメーションをプレーヤーがコマンドで選んで画面に反映させる体感型の映像作品や。投射呪法はこれを書き込みと打ち込みからやっとるや。めっちゃ良いお手本やでゲームって。」

 

「………教えるんですね………」

 

「昔は術式の事、練習の事を教えへんかったやろな。ただ、それじゃぁ強くなれんのや。」

 

「え?」

 

「手の内明かして術式の補強するんも、隠して奇襲するんも駄目なんや。術式も戦い方も明かしたうえで戦えるようにならんと。『本物』になれへんのや」カチャナチャカチャカチャ

 

「………………」

 

「手の内隠して騙し合いは雑魚と遅れてるやつがやったらええ。正々堂々とも言わへん、ハンデがあろうが術式が割れてようが関係なく勝ち続けるのが『本物』や」カチャナチャカチャカチャ

 

直哉の脳裏には悟と甚爾の顔が浮かぶ。

二人共術式や戦い方は皆に知れ渡りながらも戦い、勝ち続ける『本物』であった。

 

「御三家の人って土御門家(うち)と同じ感じの人ばかりだと思ってました。」

 

「土御門ねぇ………御三家でもないのに総監部の既得権益に執着する三流の家やん。体のこともお金のことも聞いとるで。それ、騙されてるわ」カチャナチャカチャカチャ

 

「………はい?」

 

「術師やその家族の病気の治療は国とうちら御三家から補助金が出てんねん。人手が足りひん仕事やからなぁ。だから土御門家は殆ど払ってあらへんで。」

 

直哉はゲームをしまって真面目に話し出す。

 

「当主って別に子供うまんでも関係あらへん。強けりゃええねん。元々あんさんが当主の予定やったやろ?」

 

「ええ…、まあ……私がなる予定でした。」

 

「等級は二級やけど、本当は准一級ぐらいやな、極端に弱くなるのはこの術式の縛りみたいなもんやろ?」

 

「………よくわかりましたね。」

 

フミは術式を解くと術式に使われていた呪力が戻ってくる。

 

糸結(しゆう)術式』は自らの『身体能力と呪力の低下』を縛りにして対象に呪いをかける。

 

術式を使わずに呪力を込めて戦えば准一級といったところである。

 

「私も寝ますね。」

 

「おう、寝とき寝とき。」

 

夜は老けていく。

 


 

「刀ぁああああああああああ!!!」

 

「相撲だあああああああああ!!!」

 

「うるせぇえええええ!!!!」

 

「おめぇがうるせぇ!!!!」ドゴォ

 

おはようございます。朝5時です。

 

「おはようございます……京様、なんなんですか?」

 

「かーたーなぁあああああああ!!!!」

 

「すぅもぉうううううう!!!!」

 

「わかんねぇ。めっちゃうるせえ。あと脇腹痛え」

 

「ちょっ、私の刀取んじゃねっ」

 

ゾクゾクゾクッ

 

その場にいた術者はただならぬ悪寒を感じた。

ただ、一人を除いて。

 

「……………『桐ヶ谷流』」

 

『斬』

 

キンッ

 

謎の剣士は京の抜刀術を涼しい顔で受け流す。

 

「ことねぇ!!!!コイツ強いぞ!!!」

 

「良い太刀筋!!!これでこそ日本男児だ!!!!この刀は妖刀か?面白い。」

 

「ちょっと遊んでくる!!!」

 

名も知らぬ剣士とともに京は駆け出す。

 

「私も行きます!!!」

 

琴音も追いかける。

 

「いいぞ!!!走りながらでも上半身がブレない!!!」キンッキンッ

 

「爺さんこそ、年齢感じさせねえじゃねえか!!!さっきっから殺気で肌がヒリヒリするぜ。」キンッキンッ

 

「ハッハッハッハッまだまだ序の口!!!」

 

謎の剣士、大道鋼の大振りに見せた一振りは急激に加速する。

 

「うおっあぶねえー!!!」

 

京は体を反らして回避する。

 

「これを避けるか!!!」

 

「すげぇ!!!すげぇよ!!!爺さん!!!!」

 

周りに何もない交差点の中心で二人は足を止めて見合う。

 

「『桐ヶ谷流』」

 

『斬』『七連』

 

キンッキンッキンッキンッキンッキンッキンッ

 

大道は全ての抜刀術を受け流しそれでいてカウンターも行う。

 

京はその全てを掻い潜る。

 

『天照』

 

「剣先がブレとるわ!!!!」

 

「ちぃいいいいい!!!!!」

 

一瞬だけ大道は動きを止めたが流石は最強の武人。

京のブレに気が付き息をついて反撃してきた

 

「まだ使いたくなかったんだけど!!!」

 

京はもう一本の刀を取り出す。

 

『真依』と『真希』

亡き姉の呪力と呪力を失った姉の呪力を其々自らの呪力と重ねて鍛え上げた二刀一対の刀である。

姉の名前をつけたのはイメージしやすいからである。

 

「今度は二刀流か!!良いぞ!!!どんと来い!!!」

 

「『桐ヶ谷流』『春嵐(はるあらし)』」

 

体の回転と捻りで繰り出す連続の斬撃は受け止めた大道を弾き飛ばした。

 

「『桐ヶ谷流』『夏陽(なつのひ)』」

 

日本の刀で横に並行にした胴切り。

その追撃を大道は飛び上がり回避すると後ろにあった信号機が両断され倒れる。

 

「やっと避けた!!!」

 

「おうおう!!良いぞ良いぞ!!!」

 

「『桐ヶ谷流』『秋月(あきづき)』」

 

2連続の高速の突きで空に飛んだ大道に追い打ちをかけるが体の捻りで一気に急降下した大道にしゃがみステップで回避され距離を取られる。

 

「嘘だろ!!?」

 

「喉を狙った良い突きじゃ」

 

冬雪(ふゆき)

 

京は無言で刀を交差させて切り開く。

 

「浅いわ!!!」

 

大道は交差の中心に刀をはさみ振り抜くことでお互いに距離を離そうとする、その攻撃を受けて京は日本の刀を捨てて懐に潜り込む。

 

『閃』

 

京の無刀の抜刀が大道の胴を切り裂く。

 

「ふんっ!!!」グサッ

 

大道は刀を持ち替えて京の背中に刀を突き立てた。

 

「京様!!!」

 

「ごっほっ!!!ストップ琴音!!!」

 

「見事。今の攻撃、あそこからよく急所を外したな。」

 

「ははははは………真依姉さんじゃなかったら祓われてた………」

 

「この刀の作り手はお主の姉か?通りで言う事を聞かんと思ったわ。……それにしてもお主、本気じゃなかったな?」

 

「そりゃあ、ねぇ。呪術師としてじゃなくて剣士として戦いたかったし。」

 

「あの手刀も本気で切れば体を両断していただろう?なぜしなかった?」

 

「なんか他人な気がしない。」

 

「そうだな。お前は分かるやつだ。」

 

「戻るぞ琴音」

 

「………………はぁ………わかりました………」

 

「爺さん、これ使えよ。それ姉さんの形見なんだ。」

 

「そうか、それは悪いことしたな………コレもなかなかの業物じゃないか?」

 

「『文幸』っていうんだ。俺の爺ちゃんが友達に打ってもらった刀なんだ」

 

『文幸』は京の呪力で呪具になっている。

 

「そうか、有り難く使わせてもらおう。」

 

「じゃ、俺は傷を癒やすよ。爺さんまたやろう。」

 

「おう!!!」

 

京は琴音の影に消えた。

 

「なんと!?彼は妖の物だったのか?」

 

「京様は……そんなところです。私と同い年ですけど。」

 

「妖の剣士かぁ!!!今の若いもんは進んでるなぁ!!!」

 

「………………そうですねー」

 

琴音は説明を放棄した。

 

二人が戻ると何故か残った人たちがみんなで相撲していた。

 

「俺もやる!!!」

 

「休んでろ」「バカ」

 

生得領域から出ようとする京をミミナナが引き戻すのだった。




大道鋼は直系ではないが京の遠い親戚ってことでよろしく。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

四十三話 『呪力回線の共有』テザリング

術者の脳はCPU(OS)である。

術式はアプリケーション。

 

アプリケーションがOSに対応してなければ動かない。

 

逆に言えば脳がその術式を使えるならあとから組み上げることができるのでは?

 

琴音は禪院家の生まれである。

投射呪法は使うことができなかったが、十種影法術ならば、『鬼陣闘技場』のように一から組み上げれることができれば扱えるのではないだろうか?

 

京と琴音はずっと出力を抑えて十種影法術の再現するための準備を続けていた。

 

それが今完成した。

 

「かわいい!!!」

 

ゲームのキャラクターになって。

 

「………………」

 

「「ごめんなさい」」

 

「可愛くていいんじゃない?使うのは琴音でしょ?」

 

「…………うーん???ありか???」

 

『ギョッケンくん』と『ダットちゃん』

 

琴音が既に調伏した2体の式神は見たことのあるキャラクターになっていた。

 

「ええ………無理して省エネで戦ってたのに…………コレ?」

 

「ワン!!!!」

 

「いや、かわいいのはいい。なんでポケモン?」

 

「ギョッケンくん可愛くないですか?」

 

「そうだね………ルガルガンかわいいね」

 

「ミミっ!!!」

 

「ダットちゃん可愛くないですか?」

 

「そうだね、ミミロップかわいいね」

 

「他の式神は何なんだよ、特に鵺。」

 

「鵺はトゲキッスだよ」

 

「うわっ。めっちゃ強そう」

 

「天の恵み臆病CS252@スカーフだよ」

 

「じゃあ摩虎羅は!?」

 

「アンタだよ」

 

「はぁ?」

 

「…………私達が最初に作ったのはアンタだよ」

 

ミヤコの体がインクになり溶け始める。

 

「あぁ……そういうことね………」

 

完全に溶けきったミヤコだったモノはそれを見ていた琴音の影に取り込まれる。

 

「疲れたぁ」

 

「もうヤダなんだけど。」

 

「ありがとうございます。」

 

「ホンマモンの京はどこにいる。」

 

直哉と真希、加茂にも聞かれていたようだ

 

「京様は………何処でしょう御三家の血を絶やさないために私達を隔離するって言ってましたよ。」

 

「それどういう意味だ?」

 

「私達と五条悟以外の御三家の術師と総監部を全員殺して直哉さんか五条悟を代表に組織を組み替えるそうです。その頃に契約を結ぶのが総理なのか羂索なのか宿儺なのかはわからないですけど……、土御門さんが来てしまったのは予想外でしたけど……」

 

「私達はまたアイツにノセられたのか………」

 

「京様が言うには先輩と姉さんのでは宿儺と対峙して狙われたら生き残れないそうです。直哉さんは逃げ切れるかもしれませんが。他の生き残った術師を納得させるのに宗家の血と術式は必要です。」

 

「ちょっとまて、伏黒は?」

 

「さぁ。彼の才能なら生き残れるんじゃないですか?」

 

「お前、どこまで堕ちてんだ?」

 

「私は………別に堕ちてませんよ。ただ、五条悟が居ない今、他の特級が宿儺の相手をしないといけません。なので、京様は強い術師の近くで鍛錬を積むことにしたんですよ」

 

「んで、それは誰なんだ?」

 

「そりゃ、宿儺ですよ。今接触してるみたいですよ」

 


 

『東京第一コロニー』

 

「よっ!!」

 

「「桐ヶ谷!!!」」

 

「伏黒くん彼は?」

 

「タメで………特級術師……いや、特急呪霊の桐ヶ谷京です。」

 

「どうも〜、渋谷で五千人ほど呪殺した殺人犯です〜」

 

高羽と天使は身構える。

ここはホテルの一室、気配のないところから先程まで戦っていた相手より圧倒的な存在感の男が現れたのである。

その男が仰々しい名のりもしたのだから敵認定されていた。

 

「どうしてお前がここにいるんだ?禪院さんはどうすんだよ?」

 

「琴音のことなら問題ないよ。そんなことより俺はより多くの過去の術師にあって戦いたい。そしてその人の呪術の解釈を知りたい。それならより多くの人が住む東京のコロニーの方がいいだろ?」

 

「……あの………コイツは悪い奴では……いや、悪いやつなんですけど、強くなるためなら色々ネジがとんでる奴なんで。適当強い奴と戦わせとけば無害なはず………です。」

 

「そう……なの?」

 

「うんうん俺は無害だよ〜」

 

「あのさ桐ヶ谷、その目隠しスタイルなのなんなの?五条先生のパクリ?」

 

「いや、『陣』って簡易領域みたいなもんだし、あと、見たらアウトの術式対策にちょっと制限してる。」

 

(あと、今は宿儺にも喧嘩売りたくないしね)

 

「それなら五条先生の六眼みたいなもんだな。」

 

「そうそう、六眼が写輪眼なら俺のは白眼って感じ。」

 

「それすっげえわかりやすいな。」

 

「まあまあ、荒事は任せてくださいよ、俺って天才特級呪霊なんですから。」

 

「それならば丁度良い、私の目的は受肉した泳者の一掃だ」

 

「そりゃいいわ。友達に慣れそうだぜ。(そうかじゃぁ。コイツは殺さないといけないな)これからよろしく頼むよ来栖さん、天使さん………あと……」

 

「見ての通りのヒーローだ!!」

 

「芸人さんだよね。」

 

「俺のことを知ってるのか!?」

 

(………コイツはコメディフリークになれる……)

 

「うーん…前に旅行先のホテルのテレビで見たことある気がする。ローカルの奴」

 

「それなら話は早い、ピン芸人の高羽だ。よろしく。」

 

「よろしく。」

 

(あとは、頼むぜダブル主人公、ヒロインは来栖ちゃん居るし。これなら台本書きやすいだろ先生。)

 


 

「何しとんの?」

 

琴音はコガネに呪力で作ったケーブルと自分を繋ぐ

 

「………回線の共有をしてプロテクトをかけた暗号通信をしてるらしいです。てざりんぐって京様は言っていました。『投射呪法』の応用で自らの視界を画角に収めて情報を共有しているんです。」

 

さらにスマホに映像を出力した。

 

「なんや。変態な男と、女の子と……伏黒くんと虎杖くんやね、テロップは何や?」

 

『虎杖伏黒、天使と合流しました。』

 

「あいつら、無事天使とも合流できたみたいじゃねえか」

 

「これなら、あと少しで五条先生を復活できるな……」

 

「………ノックされとるみたいやね」

 

「京様が行くみたいですね。」

 

『やっと見つけた』

 

目の前には顔に大きな傷を負った同い年ほどの女の子が立っていた。

 


 

「お前ら来るんじゃねえ、俺の客だ!!!巻き込まれんぞ!!!」

 

『領域展開』〜卓上遊戯〜

 

「俺に何か用だ」

 

「………私ね、お兄ちゃんがいたの…………」

 

「へぇ」

 

「お兄ちゃんとカードで遊ぶのが好きで………あの日も………カードショップで遊んで……

 

メノマエデアナタ達ニ食ワレタの………」

 

(…!?渋谷新宿辺りに居たのか?……にしても俺達があれやったって誰の入れ知恵だ)

 

「私の名前はユウカ・ガーフィールド・高橋。貴女にも同じ気持ちを味わってもらうわ。」

 

『デュエルを開始します。』

 

「さあ、デュエルを始めましょう。ルールは簡単だからね」

 

〜卓上遊戯〜

 

1.己の戦闘技術、術式、領域、交友関係は全てカードとしてデッキにする。

 

2.使用条件を満たせぬ上記の4種は使用できない。

 

3.コストを支払い戦闘技術、術式、領域、交友関係を使用することができる。

 

4.1ターンに一度、手札を一枚マナエリアにセットする事でマナにすることができる

 

5.最初の手札は7枚、ターンのはじめにドローする。先行プレーヤーは最初のターンはドローできない。

 

6.クリーチャーは出たターン攻撃することはできない。プレーヤーはターンに一度戦闘することができる。

 

7.カードの効果はルールを無視することがある。

 

8.お互いにライフ20点を削り0以下になったプレーヤーを敗者とする、また、デッキからカードがなくなったプレーヤーを敗者とする。敗者の命は奪われる。

 

「つまり取捨選択が必要ってわけね……」

 

「そういうことだよ、分かってくれてありがとうね」

 

(デッキリスト見れてよかったけど……………デッキの枚数多いな……どうすんだこれ………)

 

「わお!!すっごいデッキの枚数。なにそれバベルみたい。」

 

「そりゃどうも。」

 

(…………他の人居なくてよかったぁ……)

 

手札にあるのは『宿儺』と『羂索』のカード。

2枚とも桁違いに高い召喚コストが設定されており使えた物ではない。

 

「私のターン。私はマナを一枚セットして、『強欲な壷』を発動するよ」

 

「え?」

 

人の顔が施された坪からカードが2枚落とされる。

 

「2枚ドローするわ」

 

「ズルくね?」

 

「呪術人を呪い殺す呪詛師が何をいうか、私は1マナを支払い『太陽の指輪』を唱える。」

 

光り輝く指輪が彼女の指についた。

 

「そして2マナを使い『音奏 プーンギ』を召喚するわ」

 

(………なんか手札のカードのコストが一部増えてるんですけど)

 

「ターンエンドよ。さあ、アナターのターンよ」

 

「俺のターン、ドロー!!!」

 

(引いたカードは……『一級術師 東堂 葵』………決め顔してんじゃねえよ)

 

「………おれはカードをマナに埋めてターンエンドだ」

 

「私のターン。ドロー!私はカードをマナにセットして『リスティックの研究』をエンチャントするわ。」

 

(リスティックの研究はこちらがなにかカードを使用したとき、マナコストを追加で支払わせる。支払わなければ相手はドローする………面倒くせぇ………)

 

「ターンエンドよ」

 

「………にしても気になることがあるんだけどよ」

 

「なに?」

 

「『サイドボード』ってなんだ?」

 

「それは、今は使えないように『追放』されたり『異次元』に飛ばされていたりするカードのことよ。もしもBO3ならサイドチェンジがあるのだけれど、お互い命は一つだけだから関係のないことね」

 

「へぇ……ちなみにサイドボードのカードを使うカードってあるの?」

 

「ええ。あるわよ」

 

「そうか……それはいい話を聞いた」

 

(サイドボードの『五条悟』……これは使えるかもしれない)

 

「君を殺す理由ができた。俺のターン、ドロー!!!」

 

(コイツは喰おう。もっと見させてもらうぞこの領域の仕組みを……)

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

四十四話『死者蘇生と免許皆伝』

2ターン目

引いたカードは『〈天与呪縛(フィジカルギフテッド)〉禪院 真希』

 

コスト0のユニットであった。

 

「よっしゃ、流石姉さん、この『領域(ルール)』でもバグってるね。カードをマナに埋めるよ」

 

宿儺と羂索の地雷2枚をマナに埋めることに成功した。

そろそろ、映していいな、どうやら見たらアウトな類でもなさそうだし。

 

「『〈天与呪縛(フィジカルギフテッド)〉禪院 真希』を唱えるよ。……ってクリーチャーじゃないから1マナなのか………」

 

 

 


 

「やっと映った。………真希姉さん呼ばれてますよ」

 

「私!?」

 

真希が居た場所に誰もいない

 

「なんや、京、もう相手の領域に干渉しとるやん」

 

「相手の術式の解釈を勝手に拡張して領域の外にまで干渉する………まさに神業だな。」

 

「テロップが出たで」

 

『ちょっと使えそうなカードかき集めて』

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

(((桜島で?)))

 

「カードってどこに売ってるんだ?」

 

「スマホで調べましょう…………ああ、使えないんだった……」

 

「はははっ、とにかく売ってそうなオモチャ屋でも探そか」

 

『なんか、死んだやつ扱えればなんでもいいや』

 

「アニメで見たことある気がする」

 

「『死者蘇生』やな。」

 

「そんなカードがあるのか……」

 


 

「『術師の思い刀』との共闘。共闘先のカードを手札に加えるぜ。」

 

「京!!てんめぇ!!!また騙しやがったな!!!」

 

「まあまあ、姉さん。怒んないでよ。ほら敵は向こうだよ」

 

「それもお前が馬鹿なことしただからだろうがよ!!!」

 

「ほらほら戦闘に入るよ。」

 

「ちっ……」

 

真希は戦闘を行うとき、手札から呪具を装備することが出来る。

手札の『術師の思い刀』を装備した状態で場に出てくる。

 

真希は敵のクリーチャー、プーンギを切り裂いた。

 

「くっ……何なのよ!!!他の術師は何もできずに死んでいったのに……」

 

ユウカが戦った術師や呪霊は呪文……所謂、術式のコストを延々と重くされて轢きされていったのである。

 

「偶々だよ。ターンエンド。」

 

「私のターン。ドロー………手札をマナにセットして『天災デドダム』を召喚。デッキの上3枚から手札マナ墓地にそれぞれ送る。」

 

「だからズルいって。」

 

「2マナで『アメジストのとげ』を唱えるわ」

 

クリーチャーでない呪文のコストを1増やす

 

「「うわっ」」

 

「まだライフは有るのよ……カードをセットして。ターンエンド……」

 

(………なんだよアレ…予めカードをセットして構えを見せることで効果を強化する呪文ってことか?わけわかんねぇ。)

 

「俺のターンドロー………」

 

(引いたカードはあの2人か。)

 

「マナをセットして『ミミコとナナコ』を唱えるぜ」

 

現れるのは琴音の体に収まっていた双子である。

ここではクリーチャー扱いではなく。コストを軽減するアーティファクトである。

 

「お前ら……、京、お前やっぱり呪詛師と繋がってやがったな゛」

 

「こっちだって色々あるのよ。」

 

「まあまあ、姉さん。敵はアッチだからさ。戦闘入るよ」

 

「………トラップカード発動、『和睦の使者』このターンダメージを受けないわ。」

 

「「「ちっ……面倒な……」」」

 

「ターンエンドだ」

 

お前ら本当は仲いいだろ?

 

「私のターン。ドロー。……私はマナをセットして……手札から『ボーラスの城塞』を唱えるわ……これでおしまいに……」

 

「待った!!手札から『投影呪法・切り取り』を発動するぜ。」

 

「!?」

 

「相手の術を破壊するぜ。」

 

「『アメジストの棘』の効果は?」

 

「あたしらが軽減してるっしょ。」

 

「『ミミコとナナコ』は投影呪法のコストを最大-5するんだ」

 

「ぐぬぬぬ……ターンエンドよ」

 

「さーて、ここからだ。ドロー!!!………っし、やっときた。」

 

「………何なのよ!!」

 

「俺は『投影呪法・省略』を唱えるぜ。デッキから好きなカードを手札に加える。………さーて、ここからがマジでテストだぞ。」

 

「まだなにか隠してんのかよ。」

 

「手札から『死者蘇生』を発動するぜ」

 

「な!?何でそんなカードが山札に入ってるのよ!!!」

 


 

「あー……構築済みデッキがコンビニに売っててよかったぁ」

 

「『死者蘇生』が丁度入っていたな。」

 

「アイツ、誰蘇らせるつもりなんや?親父か?」

 

「京様の交友関係で一番強い人………」

 

「心当たりあるんか?」

 

「直毘人様は第一候補なのですが、甚爾さんも降霊されて戦ったと聞きました……後は………誰でしょう?」

 

「琴音さんに心当たりがないとわからんな。」

 

「これ以上呪詛師との繋がりをみせんといてくれよ〜」

 


 

光とともに死者蘇生の紋章が降り立つとフィールド割れ大きな棺が現れる。

現れたのは高専の制服を身にまとったロングヘアの男。

 

「いやぁ。まさか君が僕に助けを求めるとは思わなかったよ…!」

 

「俺は墓地から『最強の片割れ 夏油傑』を召喚するぜ!!!」

 

京が召喚したのは特級術師、夏油傑であった。

 

「久しぶりだね、美々子、菜々子。あと、禪院のなり損ないのフィジカルギフテッド」

 

「「夏油様ぁ!!」」

 

「ああぁ!??」

 

「桐ケ谷くんはいつまで遊んでいるんだい?この程度の領域、君なら簡単に押し勝てるだろう?」

 

「実験ですよ。どこまでやれるかの……………っ!?」

 

今からだってのに……

 

「…………」

 

「…………」

 

戦闘そっちのけで夏油泣きつく双子とコチラの様子をうかがうユウカ。

それとは対比的に京、夏油、真希は足元、領域の外から発せられる圧倒的な存在感に気がついた。

 

「………早く決めようか桐ケ谷くん。」

 

「すごく嫌な予感がする夜でコンバット入ります。姉さん借りるよ」

 

「コンバットせんげ……」

 

ゴトリッ

 

京は真希から装備品を奪うと一瞬で距離を詰めユウカの手札を切り裂き、刀で山札を貫き。腕を振り抜くと頭が地面に落ちた。

 

取得(ダウンロード)

 

勝負は一瞬だった。

そもそも、特級相手にぽっと出のおそらく一級相当の術師が相手になるわけないのである。

 

崩壊する領域の中で説明不足にキレた真希が殴りかかって来るが、その拳が届く前に領域賀消えたので助かった。

 

「姉さん。ここでの話は外では内緒だよ」

 

(ここまでできるなら。五条先生も使えるんだろうな。ウチ等だけで奪えたのは良い……………それよりも爺ちゃん、殺気飛ばし過ぎだよ)

 

部屋に戻ると四人が窓の外に向かって臨戦態勢を取っていた。

 

「戻ったよ。」

 

「桐ケ谷、相手は?」

 

「羂索からの刺客だったから殺した。持ち点もくれねえケチなやつだったよ」

 

「そうか……」

 

「………おい、桐ケ谷、何なんだよこの殺気………」

 

「うちの師匠、禪院家に出入りして武器を用いた戦闘訓練を施すアドバイザー。『最強の非術師』かもしれない」

 

京の祖父、桐ケ谷文幸は術式を持たない、また、呪力量は覚醒前の真希と同じぐらいであるがフィジカルギフテッドというわけでもない。

その少ない呪力を己の剣術と共に磨き上げた結果、傭兵として刀の一本で戦場を渡り歩き大戦後の現代で人斬りを続け、老後にはその技術や理論を京に叩き込んだ爺さんである。

 

バチンッズッズッズッズッズッズッズッ

 

停電と共に床が揺れる。

 

「飛び降りっぞ!!!」

 

「階下を一太刀で袈裟斬りにしやがった!!!」

 

「んなアホな!?」

 

「『鵺』」

 

(こういうときの虎杖の判断早くて助かるわ。)

 

虎杖が真っ先に窓をぶち破り退路を作り飛び出すと伏黒が突然のことで動けない来栖と高羽を鵺に乗せて飛び出した。

 

京もそれに続き窓から空にダイブすると空を蹴り殺気の発生源へ急行する。

 


 

桜島ではダウンロードされた『卓上遊戯』とその根幹となる術式、そして、それを行使していた脳の解析が続けられていた。

 

夏油の肉体の開放ではなく、新たに夏油の蘇生という目的とその手段が手に入りつつある双子はかなり上機嫌であり、対象的に百鬼夜行の一件がある真希と歌姫はかなり不機嫌だった。

 

「琴音、いつの間に会ってたんだ?」

 

「私も初耳です……」

 

「……んああああああ!!!また誰にも何言わずに勝手にぃいい!!!」

 

「………ああ、何で気が付かへんかったんやろ…………そうだわ……」

 

「直哉さん、なにか知ってるんですか?」

 

「ガキの頃、アレだけ最強に拘ってたやつが五条にだけ会いたがってて、何でまだ国内に居るであろう夏油に会おうとしなかったのか…………。アイツは元より夏油に会ってたんやろ。理由とかはわからんけど。宿儺からも加茂呪詛師からも学ぼうとする馬鹿が特級に会おうとしない訳がねえ。独り立ちしてから隠れて会ってたんやないか?」

 

「???それだとおかしくね?時間が合わねえだろ?」

 

「確かに、やるやん真希」

 

「…………………………………………ああ、わかったわ…」

 

「先生?」

 

「私、資料室に軟禁されてたから、過去の資料を漁ってて知ったんだけどさ。京くんの親が亡くなった上層部の行った実験の事故。その後始末したのが夏油で桐ケ谷流を知って勧誘に行ったとか?…………おそらく御祖父様の方を………」

 

「「「………………」」」

 

「夏油と京ら最初からグルっ……てわけでもなさそうだよな。」

 

「師匠は断ったんだろ、それでも会って何かで気に入られたから『交友関係』には当たる。」

 

「真希姉さん。京様と合流したら。私が後ろから羽交い締めにします。」

 

「アイツには報連相という文化がないのか?」

 

「ねえ、いつの間にか京の視界共有消されてるんだけど?」

 


 

「よう京、楽しんでるか?」

 

「師匠……やはり来てましたか」

 

「良いな死滅回遊、ここは敵が勝手に湧いてくる」

 

「………コガネ、目の前の泳者のポイントは?」

 

『37Pです』

 

「一般人も斬ってるじゃねえか」

 

「ここなら斬っても問題ねえんだろ?」

 

「そうだけどさ。ビジュアル考えろよ」

 

「何、甘いこと考えてるんだ、俺は本気で現代で人斬りやりてえって始めた男だぜ?コレぐらいしないと俺を仲間にしてえとか言い出す甘ちゃんが出てくるぜ?」

 

文幸の衣服は返り血を浴びて赤黒く染まっていた。

 

「始めよう。最後の稽古だ。」

 

「……………そうかよ…………」

 

二人の殺気と圧倒的な存在感が一瞬で消える。

その様子を別の建物の屋上に避難した虎杖たちは見ていた。

 

「伏黒、助けに行かなくて良いのかよ」

 

「駄目だ、行っても邪魔になるだけだ」

 

『小僧』

 

『何だよ宿儺』

 

『俺は構わんが、まだまだ離れたほうが良いかもな』

 

『…………』

 

「伏黒、それなら、もうすこし離れっぞ」

 

「どうしたんだ?」

 

「宿儺が珍しく危険信号出した」コソコソ

「………今すぐ離れよう」

 


 

次に京の視界が繋がった時に目の前にあったのは右腕を切り落とされ壁に横たわる老人の姿であった。

 

「京様!!大丈夫ですか!?」

 

『なんとかね。どれぐらい経った?』

 

『18時間ほどです。』

 

そう、京と文幸の戦いは、ほぼ1日掛かっていた。

恐らく虎杖達と合流するのは難しいだろう。

 

『私達をお呼びください。今の状態で一人は危険すぎます。』

 

「大丈夫。ただ、少し寝るから。」

 

京は瓦礫だらけになった池袋から移動し『帳』を降ろすと眠りに着くのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

四十五話『領域の再現』

書き始めたときは思いもよらなかったけどさ。
自分が考えていた『呪術』の理論が合ってると嬉しいよね。


「起きろ」

 

「……あと2時間……」

 

「いいから起きろってんだろ」

 

京はキリモミ回転をしながら壁に突き刺さった。

 

「………いてぇ」

 

どうやら声の主は真希のようだ。

 

「聞きたいこともあるけどそれは後だ。伏黒が姉を死滅回遊から抜けさせ……『ルールが追加されました。』

 

『〈総則〉12 泳社は結界を自由に出入りすることができる。』

 

「マジか、助かるわ」

 

「………どういうことだ?」

 

ゾクゾクッ

 

圧倒的な存在感を二人は感じ、それに向けて走り出す

 

「「宿儺だ!!」」

 

どうやら想定外が連鎖しているようだ。

 

ドゴンッゴッゴッゴッ

 

何かがビルの上から吹き飛ばされてビルを貫通し上空を通り過ぎていった。

 

「ああもう!!!何なんだよ!!!京、またなにかやったのか!?」

 

「いやいやいやいや、しらんしらんしらん」

 

『鵺』

 

「「はぁ!?」」

 

向かう二人を嘲笑うかのように現れた超巨大鵺に、二人は足を止めて攻撃をやり過ごす。

 

こっちは良い。別にさほど本気じゃなかったから。

京をビビらせたのは次の攻撃だった。

 

出力最大の『邪去侮の梯子』

 

「ぎゃあああああああああああああああああああ!!!!!!!」

 

宿儺に向けて放たれたその技の余波に京が巻き込まれたのである

 

京は虫の息になりながら回れ右して全力で逃げる

 

(ヤバイヤバイヤバイヤバイっ)

 

構築(コンストラクション)

 

『投射』に使うコマ打ちができないほど冷静さを失っていた京は『構築』で翼を生やし全力で影響外へと飛び去った


 

福島上空。

 

「あっぶねぇ。死ぬかと思った……………ッ!!」

 

「ふんふんふーん♪何着ようかなぁ♪…………ッ!!」

全力で逃げた京は先に仙台へと飛び去っていたデート前乙女気分の万に追いついていた。

 

そして、偶々並行飛行していたため目があったのである。

 

((誰?))

 

勘違いの始まりである。

 

「お姉さんもアレから逃げきた感じですか?」

 

(そういえば……、高専の学生さんよね?要注意人物とか言われていたかしら?)

 

京は津美紀の事を見たことがあったがその時は眠っていたことと、彼の止まらなくなった『陣』の眼が過去に出会っていた津美紀とは違うと伝えているのである。

 

「まあ、そんなところよ。その翼。あなた、もしかして構築術式の使い手かしら?」

 

そして、万も京が手刀で丸太が切れるとか、任務で建物ごと叩き切ったとか『剣士』としての京の逸話しか聞いておらず、呪術師として京を知らなかった。

 

「そうっすねぇ。お姉さんは虫の力使う感じかな?」

 

「ええ、私の術式は……………そう、『装甲虫』よ」

 

((もちろん嘘だけどね))

 

「おねえさんもしかして過去の術師ですか?」

 

「ええ、私はあなた達が平安という時代を生きて…「お姉さん

!!」……な、何よ…」

 

「過去の話を聞かせてください!!!」

 

(何なのこのガキ……)

 

「いやぁ。全盛期の宿儺がブイブイいわせていた平安の呪術界知ってる人に話聞きたかったんだよなぁ。昔の宿儺のリアルな伝説♪現代だと『すごい術師だったけどヤバすぎた』ぐらいの話しか知らないんだ。」

 

「へぇ。宿儺に興味があるんだ……」

 

「一度、うん。稽古つけてもらえたぐらいだけど?すっげぇ強かった。」

 

「あの宿儺が稽古?」

 

「密かに目標としていたことが実行できてテンション上がってるときに顕現してたから喧嘩売ってみたらなんかボコボコにされたあとに『殺されなかった』んだ。多分なにか期待されてるんだと思って…………そうだ、宿儺の領域って見たことあります?」

 

「……ええ、見たことあるわよ」

 

「あの宿儺の領域って閉じない縛りで威力と範囲を拡張してるじゃないですか。コレ、俺もできるかなって試しにやってみたんですよ。」

 

「そう……、宿儺が来るまでにも時間がかかるかもしれないし、少しだけなら付き合って上げてもいいわよ」(いざとなったは殺せばいいかしらね)

 

「やったー」

 


 

福島の山中にて

 

京は『陣』を使う。

 

「これは『帳』かしら?」

 

「『陣』っていう…桐ヶ谷流の『簡易領域』みたいなものです。接近戦ための間合いとりに使います。コレ…………閉じてない領域なんですよ。」

 

「ふーん。」

 

「おそらく、『伏魔御厨子』は『閉じる』領域を『閉じない』ことで成立させている………そこで、お姉さん、収斂進化って知ってますか?」

 

「…………?」

 

「生物進化の過程で全然別種の生物が同じ環境に適応するように進化していくうちに同じような形状や生態に進化するというものです。」

 

「…………なるほど、元々、閉じない『簡易領域』を改造して再現するのね……………良いわよやってみなさい。」

 

「では、まず、下地になる『疑似領域』を張ります。」

 

『疑似領域』〜白紙の台本(クリアノート)

 

その瞬間、視界がすべて白く染まった。

 

『白紙の台本』は京が『投射呪法』を元に作った。

 

『すべての縛りを無くした領域』

 

である。

 

 

 

誰かが線を描かなければ地面もない。

 

何かを落とさなければ重力もない。

 

究極の自由。

 

そのに何ものかに一本線が描かれることで地面が発生し。

 

『万』

 

『桐ヶ谷京』

 

名前が描かれることで登場人物が現れる。

 

「あ、万さんって言うんだ」

 

「………貴方、これ、生得領域じゃないわね?」

 

「ええ、これは飽くまで呪術の基本。『縛り』だけで組み上げた『疑似領域』ですよ。呪術を扱える人間には殆んど効きません。『ちゃんと名前を言えれば』ですけど…………ただ、真っ白じゃ味気ないんで、『背景』ももとに戻しましょうか。」

 

真っ白だった世界が一瞬で山間部の風景に戻る。

 

「ああ、『音』も戻しておきましょう」

 

虫たちの鳴き声が戻っていた。

 

「というわけで、これから『縛り』を何個も追加して『伏魔御厨子』を再現します。」

 

「わぁ〜い。」パチパチパチパチ

 

「まず、この『領域』は『閉じてません』……ですので普通に出入りできます」

 

一応、『可視化』する縛りにより境界線ははっきりとわかるが出入りは自由である。

そして、空間内にあるオブジェクトに『切断』を付与して実行。

 

バシュンッ

 

手始めに自分の腕が輪切りになったので止める。

万さん大爆笑。

 

「えっと、万さんと自分を対象から外して実行と…………」

 

……………………

 

「おろ?」

 

「出力足りてないじゃない。切れたのは葉っぱぐらいかしらね………」

 

「やっぱり宿儺ってすげぇわ…………」

 

「領域の強度を下げてみたら?」

 

「………たしかに。」

 

京は徐々に『領域』の『強度』を下げていく。

 

やっと木の枝が切れたとき。

 

バリンッ

 

『領域』が壊れた。

 

「コレが『生得領域』との差か……」

 

「宿儺と貴男の差よ。」

 

「でも、なんか、掴めそうな気がする………ねえ。万さん強い?」

 

「ぜひ手合わせしたいんだけど、私これからデートの準備しないといけないの。」

 

「じゃあ仕方ないか………」

 

「でも、仙台には強い術師がいるんじゃないかしら?」

 

(彼が暴れてくれたら私はゆっくり準備ができそうね。)

 

「まあ、乙骨先輩がいるけどさ……」

 

「コガネ。……………あらあら、烏鷺が居るじゃない。」

 

「強いの?」

 

「私と同じ時代を生きた術師の女よ」

 

(宿儺に何も出来なかった女だけど……)

 

「どうしようかな。……いろいろ試したいし………」

 

「ちなみに術式は……「言わなくていいですよ」

 

「そう?」

 

「名前だけ知れれば十分。あとは自分でなんとかします。では急ぎましょう。」

 

「ええ。」

 

(私はゆっくり御色直しができそうね)

 

このとき、万は呑気に考えていたが烏鷺が彼の進化のラストピースになることを知らない。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

四十六話『呪いの組み立て』

仙台コロニーの前に到着する。

 

ちなみに道中で気がついたことだがいつの間にか乙骨は仙台から出ていた。

 

「乙骨先輩、東京に戻ったな……………じゃあ自分先に入りますね。」

 

「ええ、彼女なら貴方が入れば様子を見に来ると思うわ」

 

京はコロニーに侵入する。

 

どうせやることないので見晴らしのいいマンションの上で座って待つことにした。

 

「あ、もしもし?俺です。京です」

 

『京様、いま仙台ですよね?』

 

「うん。そうだけど。」

 

「今、真上にいます。」

 

「はい?」

 

声の方を見上げると琴音が鬼の形相でトリコロールカラーの鵺の上から見下ろしていた。

 

「…………と、とりあえず、弾丸ツアーおつかれ……」

 

「日本海上空って寒いんですよ」

 

ここで、琴音はあるミラクルを起こしていた。

呪力をかなり用いて全速力で日本海を横切った琴音。

おそらく東京コロニーに向かっていれば宿儺と裏梅と鉢合わせていただろう。

 

幸運にもコガネからコロニー外に出ているという情報を得た彼女は他の強者を探して別のコロニーへ行くと当たりをつけていたのである。

 

そうなると、次に向かうのは乙骨が居た仙台コロニー。

他にもポイントを多く持つ泳者が多い仙台はマストで行くだろうと予想し、向かうべく日本海を通ったことで東京から『浴』のために京都へ向かった宿儺の探知から逃れられたのである。

 

そんな事を二人は知る由もなく。

 

「無事で何より」

 

「今は何してるんですか?」

 

「強いやつ待ってる」

 

「………乙骨先輩は東京向かいましたよ」

 

「しってっしー…………平安時代の術師に会いたいんだよ」

 

「そうですか。」

 

「…………」

 

「…………」

 

「結構、派手な鵺に乗ってきたんですけど、誰も来ませんね」

 

「スポ狩りするような奴らは乙骨先輩が始末したんでしょ」

 

そんな話をしていると、マンションの階段口のドアがガチャリと開く。

 

「スウィートな気配を感じたと思ったら……デート中だったかい?」

 

「違うけど……」

 

「コガネ、目の前の泳者のお名前を教えてください。」

 

『石流 龍』

 

「待人はこの人で合ってますか?」

 

「いや、違う。俺が合いたいの女性の術師だ。」

 

「はぁ………………また女性ですか……」

 

「……たしかに」

 

「良い男っていうのは何人も女作ってなんぼだろ。」

 

「………いや、そういう話ではなくて。」

 

「んで、俺はやる気ないんだけど?戦う?」

 

「いや、俺は食後のタバコ吸いに来ただけだ。見晴らしが良い所で吸いたくてね。烏鷺に会いたいなら大きな声で呼ぶと良い。どうせ何処かから見てるだろう………例えば上とか。」

 

「んな、アホな…」

 

京は呆れて石流を警戒するが琴音は釣られて空を見上げる。

 

「…………………コガネ。全裸女の名前を教えて」

 

『烏鷺亨子』

 

「マジ?……………あ、本当に全裸のねえちゃんが浮かんでる…………?」

 

「嘘でしょ」

 

「烏鷺!!……コイツらが会いたがってるぞ。」

 

石流の呼びかけに烏鷺は降りてきた。

 

「何?わたしに何か?」

 

「烏鷺さんに現代に蘇った最強の術師『宿儺』と平安時代の呪術について聞きたくて………その前に服着ませんか?」

 

「今なんて言った?」

 

「服着ませんか?」

 

「違うその前」

 

「平安時代の呪術について……」

 

「もっと前!!!」

 

「現代に蘇った最強の術師『宿儺』」

 

「嘘でしょ……何でアイツも蘇ってるのよ……」

 

「ちなみに万さんが初デートに誘ってココに来ます」

 

「何してくれてんのよ………早く逃げるわよ」

 

「はい?」

 

「逃げないと殺される………」

 

「じゃあ、隠れ家にちょうどいい場所があるのでそこにいきましょう。」

 

「石流、お前はどうする?」

 

「お前さんがビビるほどの大物ならいっぺん見てから死ぬのも悪くねえなぁ」

 

「あっそう。」

 

「では行きましょうか。」

 

京は烏鷺を連れてある場所に向かう。

おそらく現在、高専よりも安全な隠れ家。

東北の魔女の家。

 

到着してノックするも返事はない。

 

「婦人は不在ですかね?」

 

「そうかも?人の気配もしないし……」

 

バリンッ

ガチャッ

 

「鍵は空いてる……」

 

「今、結界壊しましたよね?」

 

「触ったら割れただけだからセーフだよ。」

 

「変なことには巻き込まないでくれよ……」

 

中に入ると机の上に置き手紙があった。

 

『勝手に入った京へ。今年の冬は寒くなりそうなのでハワイで冬を越そうと思います。家は休憩に使っていいけど棚には触るなよ。

 

琴音ちゃんは好きに使っていいからねぇ。

 

10/28 不知火』

 

 

 

「…………………怖っ……」

 

「死滅回遊回避してたんですね。よかった……」

 

「ありがたく使わせてもらおう。ここはある意味高専よりも隠れてるから。琴音、お茶を頼む。烏鷺さんはどうする?」

 

「…………日本茶はあるかしら?」

 

さて、ココからが本題である。

 

「お茶が入る前になんで宿儺が復活したのかを話せ。というか復活させたバカは誰だ。」

 

「えっと………俺も聞いた話なんだけど………」

 

宿儺の変遷

 

羂索が作った器の虎杖が自ら取り込んで制御

なんか使えるから指集めてから処刑ね by 現代の『無下限』使い

『無下限』使い封印

現代の『十種の影法術』使いの伏黒に乗り移る

 

「何やってんのよ……」

 

「知るかよ。俺同期だけど高専違うし……」

 

「はぁ……現代ならアイツの影に怯えずに暮らせると思ったのに………」

 

「そんなにヤバかった………んだろうねぇ。」

 

「………呪術師も非術師も関係ない。アイツにとっては同じなんだ。村も街も奴の前では塵に消える。皆、宿儺を崇拝し、機嫌を取ることしか出来なかったんだ……」

 

椅子の上で頭を抱えて小さくなる烏鷺は宿儺が平安の世に残した伝説の数々を語りした。

 

うつむいて話し続ける彼女に声がかかる。

 

「そんなに俺が怖いか?」

 

聞き覚えのある声に驚き顔を上げると、机の対面に恐怖の象徴。

宿儺が座っていた。

ゴミを見るような表情。殺気。圧倒的な呪力量が目の前にいるのが宿儺だと認識させてくる。

 

「…………あ…………あ…………」

 

「お茶が入りました」

 

「ありがとう琴音。」

 

一瞬瞬きをすると座っていたのが京だと思い出す。

 

「烏鷺さんもどうぞ。どうです?似てましたか?」

 

「宿儺じゃない………!宿儺じゃないんだな……」

 

「………俺の術式、『投影呪法』はね。ただただ、『映す』だけなんですよ。俺が見たもの、誰かが作ったものを『映す』だけ。

 

だから、何か映す『映像』を作る必要がある。

過去の文献にあったんですよ。烏鷺さんの術式。

『空』でしたっけ?」

 

さて、ここで京の術式『投影呪法』と呪術の考え方について明らかにしていこう。

 

まず、呪術師とは『精密機械』である。

大体を

『肉体』→『ハードウェア』と『メカ部品』

『術式』→『ソフトウェア』と『アプリケーション』

の大きく2種類に分けることが出来る。

 

『肉体』で言うところの目は『カメラ』に耳は『マイク』にといったところだろうか。

 

過去にも語ったかもしれないが、一般人はハードウェアとソフトウェアが噛み合っていない人を指す。

 

M◯cのパソコンのCPUをWind◯wsやLin◯x対応の器物に乗せても動作しないのと同じである。

 

その場合アプリケーションである『術式』を持っていたとしても意味をなさない。

 

京の術式は『投影呪法』はカメラ(目)で写し取ったものを再生するのが元々の力である。彼の呪術の飲み込みの早さは彼の術式の補助と努力あってのものである。

呪力を鋭く研ぐことが出来るのは過去に『宿儺の指』を取り込んだ呪霊と対峙したことがあるからである。

 

両親が無くなった日

彼もその場にいた。そして、まだ高専生だった夏油に命を救われたのである。

 

宿儺の斬撃を真似ていた呪霊を真似てでき上がったのが無刀による居合であった。

 

彼の術式の価値に気がついた直毘人は禪院家で『投射呪法』と共に『あらかじめ脳内で動画を作る』ことを学ばせる事とし禪院家に加えようとしたのである。

 

結果、新たな特級術師が生まれた。

 

でも五条や宿儺、甚爾の域には届かない。

そこで考えたのが映像だけを作る術者を帯同させること。

 

当初、双子の姉で試そうとしたがスペックが足りないだろうと諦めていた。そこに現れたのが琴音である。

 

『修学旅行』で発覚した『器』としての才能は最高の編集用PCにできることを意味していた。

 

対象の術師を『生得領域』に取り込み、『術式』を解析し、時に自らのスペックやOSが合わない時にハードウェアとしてその術師を飲み込む。

 

こうして京は琴音をインプットするだけならば自分以上の術師に組み上げたのである。

 

「………烏鷺さん。ごめんなさい。」

 

薄暗い部屋の影が烏鷺を包み込む。

 


 

「………流石は平安の術師。容量がもう殆どありません。歌姫先生を出してきて正解でした。」

 

「あ、うるさくないと思ったらそうだったのか。」

 

「ミミナナさんも一時的に圧縮してますけど……」

 

「取り込んだ人格はもう削除しよう、ハードとアプリケーションあれば補助はもう必要ない。」

 

「………わかりました。」

 

「これからが仕上げだよ。」

 

「本当にやるんですか?」

 

「そりゃ、それが目的だもん。」

 

「リスクに対して成功率が低すぎます。」

 

「いいや、絶対に成功するよ。裏付けのために資料室襲撃したんだから、あと、聞いた話だけど日車さんみたいな術師も居るんだ。

 

『我が日本の法律は呪術にも適用される』」

 

「………そういうものですか?」

 

「昔、ノイマンやジョブズが呪術師であり、彼らが呪術を元には電子計算機とかこういうのを作ったんだって言ったろ?結果として君は最高の術師になったし、『十種の影法術』だって組み上げられたじゃないか。最初に法律を作った時に呪術師が絡んでる………もしかしたら羂索が絡んでてもおかしくない。」

 

「………だとしても……」

 

「大丈夫、琴音なら出来るさ。さあ、先ずは市役所行こうか」

 




烏鷺は宿儺の影響でメンタルやられてデバフがかかっています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。