光る風を超えて (黒兎可)
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ST1.時空を追い越した!

いくつも星が流れ いくつも月が巡り
罪なき貴方が示した方へ
声なき私は泣き叫ぶ




ST1.Over Spacetime

 

 

 

 

 

 生と死の境界を越えて……、などと風流(オサレ)なことが言えれば良かったのだが、生憎、私はそんな性質の人格ではない。

 ツンツン頭にくりっとした無邪気そうな目。身長は十二歳くらいで止まった低め。顔立ちは女顔……、というか童顔。雰囲気は陽の性質。でも浮かべた表情は酷くやる気がない。こころなし、目にも光が宿っていない。

 

 そんな病院の洗面所の鏡に映った顔を見ながら、ため息をつく。世に「魔法」が大々的に知られても、当たり前のように人は死ぬ。奇跡的に「生まれ変わって」生還しても、そのあたりは何も変わらない。

 とはいえ生まれ変わった漫画の主人公はちょっと特殊で、早々に死ぬことはないだろうが。

 

「しかしマジか、何でよりにもよって『ネギま!』世界なのか……」

 

 近衛刀太、現時点で十二歳。それが私の転生先というか、憑依先というか、そういうのらしい。といっても私はともかく、刀太本人の記憶らしい記憶はない。二年前に事故に遭って以来、すべてを失くしていた。

 とはいえその素性に心当たりがない訳ではない。少なくともここは漫画の世界だ。なにせ私の爺ちゃんらしいと言われている名前が「ネギ・スプリングフィールド」と来ている。魔法が存在する世界でその名前。おまけに私自身の刀太という名前に容姿。もう間違いなく「UQ HOLDER!」の世界だ。色々混線したような魔法バトル少年漫画の世界。ついでに言えば「魔法先生ネギま!」のパラレル続編のような作品であった。

 

 さてこの主人公、いきなりネタバレしてしまえば色々と遺伝子操作をされた人造人間(文字通りの意味)であり、その血筋には前作主人公とメインヒロインの遺伝子情報も含まれている。世代的にはそこから何世代か経由していたり、代理母がまた別に居たりということもあるのだが、総じて孫みたいなものである。その事実は変わらない。そしてまた、二つの血筋がベースにあることもあり色々な意味で方々様々な組織や相手から命を狙われる。

 しかし、困った。困ってしまった。こんな世界に放り出されても特に何かやりたいことがあるわけではない。よく転生もので「あの悲劇を救う!」とか「最強になる!」とかそういう目的をもった主人公が多いが、その意味では私自身、不適格だろう。物語冒頭の刀太もやりたいことが明確になくフワフワしているため、似通っていると言えば似通っているのだが。

 

「刀太、倒れていないか? 大丈夫か?」

「おーけぃおーけぃ」

 

 廊下から心配する声がかかる。アニメで散々聞いた覚えのある声だ。保護者である雪姫はその声の通り、一切の差異なく原作通りの偉大なる吸血鬼の真祖だろう。その彼女に保護されている今の状況は悪くない。お陰でこの身の特殊性が故にすぐさま命を狙われるということは起こらないだろう。

 だがそれも時間の問題、二年といくらかの歳月を経過すれば、いわゆる原作が始まる。

  

「痛いのは嫌なのだが」 

 

 色々と要素がごちゃ混ぜになったような魔法と物理のバトル漫画世界である。おまけにこの身は不死身の身体。腕は飛ぶわ首は飛ぶわ、痛みに関しては人間の限界値をはるかに超える。それに対する作中の扱いは「慣れろ」の一言で決着できた。正気か魔法世界? 正気なら戦争など起きないか魔法世界……。

 かつて角のある赤い人は言っていた。当たらなければどうと言うことはないと。エースパイロットの中でもトップクラスの発言、一般人は当てにしてはいけない。いけないのだが、幸か不幸かこの身は不死身、おまけに強靭極まりないと来ている。鍛えれば鍛えた分だけ素直に成長するセンスを(原作通りならば)持っているはずだ。

 とするならば、その方向に鍛えるとして…………。確か原作において、UQホルダーに加入する際に重力剣、自重を自在に操る武器を手にしていたはずだ。あの刀の黒いシンプルなデザイン、私が求めたい「速さ」という方向性。これらを勘案して目標というか、方向性は決まった。

 

 卍解(オサレ)である、否、〇鎖斬月(オサレ)である。

 

 いきなりBLEA○H(オサレ)全開で申し訳ないが、それも所謂初登場時の、猛烈な速度で相手を翻弄するほどの天〇斬月(オサレ)である。ホ○ウ化(オサレ)とかそういうのはいらない、あの方向性で伸ばしていったらおそらく作品の中でも天鎖〇月(オサレ)自体にもっと大きな意味合いが増したことだろうと思っている。それは刀太も同様で、重力剣が後半使ってこそいたが存在感を消滅させてしまう展開は、インフレに置いて行かれた結果なのだ。ぴえんというやつだ。結局内蔵されてる人工精霊の名前すら出てこなかったし、回収されない伏線というよりはもう関わる描写すらなくなっていたのだろう。

 幸いにもコートのようになった死覇装(オサレ)に該当する物もその気になれば作れそうだ。外見的にも、ますますと言えばますますの天鎖斬〇(オサレ)だ。原作的にも、そういうパロディはやって不思議じゃない世界観ではあるので、違和感はほぼないだろう。名前とかは色々考えないといけないが。

 

「まぁでも、それを踏まえても割に合わないからな。主人公でなければ、ことあるごとに意味深なことを呟く主人公たちが通う喫茶店のマスターのようなロールプレイでも出来たものを……」

 

 前途が多難なのはもはや確定して揺るがない。であるならば、少しでも身の安全は図るべきだろう。誰しもが地上生まれの所謂ニュータイプのように実戦で磨かれるわけでも、不自然なまでの戦闘適性を見せるわけでもないのだ。

 それにこの程度の差異なら、極端な原作ブレイクにもなるまい。最終的に村を離れることになるのは予想がついているので、その範囲での誤差は後々に影響は出ないだろうと踏んでいた。

 

 

 

 さて早々に何をするべきかと言えば、まず刀の扱い方を教わるところからだろう。生き残る術を教えてくれと雪姫を「母ちゃん」呼ばわりして拝み倒すこと数カ月。お前は何を目指しているのだと訝しがられながらも、軽いしごきから始まった。

 だが私自身すっかり忘れていたことがある。不死の魔法使いたる彼女は基本的に、どんな相手にも手を抜かない。つまり何から何まで全く心得の無かった私にとってはスパルタに等しい行いだった。

 原作では真正面から、それこそぶつかり稽古のごとく猪突猛進だった刀太だったが、それが私に置き換われば疲弊の度合いも段違いである。

 

 しかし生来の面倒見の良さもあり、スケジュール、トレーニングの実効性、効果については色々と検討を重ねてくれているらしい。ギリギリ、本当に私の心が折れない程度を見極めながらのしごきである。辛いと一言いえば「では止めるか?」と煽ってくる。止めたいのは山々だが、この程度で止めると後が酷いことになる。それこそ身体が欠損するレベルのダメージを引き受けてたまるかと、私は奮起した。……好き嫌いはともかく。

 

 魔法については完全に独学というか、それこそ一日に瞑想の時間を作るようにして、自らの内の何かと引っ掛かりを覚えるのをずっと待っている。……完全に思い込みというか、独学の方向性が間違っているかもしれないが、それでも何か、あと少しで何かが出そうな感覚があるので、それを掴むために諦めず続けている。

 

 もちろんそんな日々も、村の学校にも普通に通わされている。ちなみに雪姫も学校に先生として赴任している。毎日毎晩のように肉体的にも扱きながら勉強を叩き込む姿勢、鬼か? 吸血鬼だから鬼だった。気質もどっちかと言えばSだし鬼要素しかないと言える。

 勉強自体、地理以外はあまり難しくは感じないのが救いと言えば救いだが、このハードスケジュールで身が破滅しないのは不死身の肉体の再生力的なものも働いているのだろう。なお地理の担当が雪姫であるため、私の地理に対する苦手意識は二倍となっているのも億劫さに拍車をかけていた。

 

 そんな私にも友達は出来た。原作中にも出てくる巨漢(やんわり表現)の田中、クールな白石、名前が全体的に宇宙世紀の艦長でもしてそうな眼鏡の野和、微笑みを絶やさないメカクレ三橋だ。もっとも原作と違って私が私であるために、彼らのフォローに回るのが切っ掛けで友達になったのだが。

 よくある上京したい若者、というポテンシャルでは言い表せない、その横のつながりは全員がどこか村から浮いているというのもあったのだろう。それぞれがそれぞれに明確なビジョンを持つ。例えば田中なら料理、三橋なら歌といった具合に。中学生にしては全員、きちんとしたビジネスプランというかキャリアプラン的なものも検討をしていたくらいだ。精神的には社会人先達みたいな所はあるので、失敗時の挽回方法というか、リカバリー方法についてつい口を出してみたくなったのだ。

 

 だがそうこうして過ごしている私たちに、最大の壁が立ちふさがる。言うまでもなく大人の壁、最難関は雪姫だ。村長からの依頼で、村を出る条件が打倒雪姫という風に学校で彼女が宣言したのだ。

 

「私を倒せば都への許可証を渡そうという話だが、問題はそこじゃない。

 いくらお前らがそれを真剣に検討したとしても、そこには楽観が大きいのを忘れるな。

 都会に行っただけで人生バラ色になるわけではない! 環境を変えて成功するのは並々ならぬ才能があるか、成功するまで続けられるだけの財力が元からあるかのどっちかだ。

 今時、成功するまで貧乏暮らしを都でできるなどと思うな! あっという間に新興宗教か悪い大人の餌食だぞ!」

 

 要するに、変な夢を見て道を踏み外さないように監督をしているということらしい。私の立場では実際よく判る話だ。この時代のこの世界、つまりは私が生きていた時代からすれば近未来……という範疇よりちょっと進んでいる気がするが、世界情勢を見てもより色々な要素が先鋭化し、治安も両極化しているのだろう。そんな場所に無鉄砲で力不足(物理)な子供をみすみす追いやる訳にもいかないというのは、大人として妥当な判断と言えば妥当な判断だ。

 だが、それで子供の意志全てを封じるつもりがないというのが、ある意味で「打倒」という条件に掛かってくる。仲間内は全員が「物理的に打倒!」と考えているようだが、私はあえてその勘違いを「まだ」指摘しない。

 おそらく彼女の言う打倒には、雪姫を説き伏せ納得させられるだけのプランを見せられるかどうかというのもかかっているのだろう。私程ではないにしろ雪姫に挑み続けた結果、四人とも身体能力、技能は上がっている。腕っぷしもある程度で目途が付けば、そちらの話を向こうから振ってくるだろう。

 

「しかし動かないなぁ、橘先生」

 

 十四歳の夏。そして間もなく原作開始か、既に原作が開始されて過ぎた時期であるにも関わらず。最初の敵である橘某は、いまだ一手も打ってこず、さわやかな教師の顔を浮かべて古文の授業を行っていた。

 

 

 

 ※  ※  ※

 

 

 

 戦う術を教えてくれ――――。

 刀太が私にそんなことを言ってきたのは、一体いつ頃だったか。

 

 あの日、フェイトすら予想外の形で、しかし奴の意図通りに追撃された刀太。

 育ての二人がしっかり愛情をもって庇ったのは予想外だったのだろうが、ぼーやと分かり合えたのだからそれくらい理解していろと言いたい。

 そういう所が甘いというよりも、やはりまだまだ傲慢だ。

 私が言えた義理ではないが、子供とか育てるのには向いていないぞアイツ。

 

 そんな経緯もあって、結果として私が刀太を引き取ることにした。

 表面的には私の車両との事故……実際に車両自体は、刀太を乗せた車が突撃して私の車と正面衝突したので間違ってはいない。

 書類上、対向車線に飛び出した車との正面衝突ということになっている。

 もちろんそれで恨まれもするだろうと思ってはいた。

 だがそれ以上に愛情を注ごうと思った。

 

 元よりぼーや達やA組の忘れ形見のようなものだし、それに…………。

 まぁ私自身の感傷はともかくとしよう。

 

 でも引き取った刀太は、思ったよりもしっかりと落ち着いていた。

 

 以前に見た時のような無邪気で無鉄砲で、それこそまっすぐな子供のような雰囲気はナリを潜め。

 ぼーやともナギとも違う、どこか遠くを見てるような、何かを諦めてるような顔をしていた。

 

 だから、そんな刀太が自分から、戦う術を教えてくれと来たのには驚いた。

 

「わからないんだけど、このもどかしさって言うのかな……。埋まらない胸の奥の何かがあるんだ。それはたぶん、事故の時とかに出来たやつなんだと思うけど。別にそれは雪姫が悪いとかは思わない。事故った当時の記憶もない俺が言えた話じゃないし、こうやって母ちゃん代わりやってくれてる訳だし。

 でもだから、このままじゃいけないんだ。きっとこのままだと、毎日ずっとただ当てもなく、生きてるって実感もなくダラダラダラダラと過ごして、年取って、死んじまうような。それって生きてるって言えるか? 違うと俺は思う。

 だからまず、自分だけでも生きれるように。ずっと雪姫の世話になりっぱなしになるのも悪いから、俺の中での指標として、立派な大人になるために――――武術を教えてくれ、『母ちゃん』」

 

 青少年の思春期にありがちな、自立 (自律)しようという意識の萌芽にしては、最終的な結論が蛮族極まりなかった。

 このあたりはナギの血だろうか……。

 いやでも、ぼーやもアレで慣れると結構体育会系なところもあったし……。

 

 でも私は張り切った。

 お前は一体何を目指してるんだとか、お前の中の立派な大人のイメージって何なんだとか、色々言いたいことはあったが。

 あの一カ月ずっと悶々として、覇気もなかった「息子」が、前を向いて意欲を出したのだ。

 当たり前だ、「母ちゃん」としては何か力になってやりたい物だろう。

 

 ……ま、まぁ、ぼーやの時ほど無茶はさせなかったが、若干やりすぎた感もあったが。

 

 友達も出来て、その全員が都会に行きたいと言って。

 いずれ刀太もそういう気配を見せてくるかと思った。

 

 でも、それに関しては一切欲を出さない。

 

 この日、ふと思いついて私は聞いてみた。

 お前は友達たちのように夢はないのか、何か大きいことをしたいとか、そういうのはないのかとか。

 

 刀太は苦笑いしながら、しかし明確に語った。

 

「別に都じゃなくてもいいんだよ。ちょっと山下った駅前とかで出来そうな夢だし」

「駅前?」

「アレアレ、よく映画とかでいっつも本読んでたりする喫茶店のマスターで、意味深な発言をさっとしたりとかして、お客さんの悩み解決したりするような。そんな感じのことがしたい」

「どんな夢だ…………、回転率で言うとあまり儲からんぞ? 今時、喫茶店は。中華関係なら、かろうじて知り合いの伝手があるが」

「そういうのじゃなくって。それで、こう、皆でそれぞれ何年かしてまた集まるんだよ。で近況話したり、あの頃は楽しかったなぁとか、くさしたり懐かしんだり喜んだりテレビ見たりさ。

 そういうような場所を提供できるようになりたいのが、俺の夢というか、まぁそんな感じかな? 連絡がつくなら場所は問わない。食ってけるなら場所は問わない。生きてさえいれば、会えるってのが大事だと思う」

 

 その言葉に、私は少し胸の奥が痛くなる。

 既に刀太は不死身の肉体――――私やぼーや同様「金星の黒」が、その身に強い闇の魔術と不死性を与えている。

 

 だからその夢の実現は不可能に近いと……。

 楽し気に話す刀太に、私は何も言えなかった。

 

 

 

 

 

 



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ST2.原作の玉突き事故

未来は 姿無きが然し
それを恐れず


ST2.Origin Pile Up

 

 

 

 

 

 いつまで経っても原作第一話のイベントが進行しないと思っていたら訳はない、私が私であるが故に相手が全く身動き取れなくなってしまっているのだと気づいた。

 

 問題の相手は橘という教師。年若い方だがおそらく三十代だろう。村の学校に赴任して半年程度だが正体は賞金稼ぎである。雪姫ことエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの首、その賞金を狙い潜む新手の魔法使いだ。

 腕としては一瞬とはいえ、最強クラスの雪姫が不覚をとる程度には熟達している。また潜入中は一切の不信感を抱かれなかったことからも、その腕の良し悪しが伺える。

 

 そんな彼が何故手をこまねいているかと言えば、ひとえに雪姫が強すぎるからだ。今朝だって私の目の前で、いつもの四人が川に放り投げられている様をちらちら伺ってはいるものの、全く襲い掛かる気配も、殺気すら出していない。わずかに一瞬、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる程度だ。

 

「予想以上に私の原作ブレイクが影響してしまったということか、ままならない……。だが最終ラインは変わらないだろう、そういう意味ではまだ大丈夫だ。原作知識によるトラブル対策もとれるだろう。

 しかし橘……、大前提として、雪姫は隙が全然無いからなぁ……」

 

 当たり前である。言うなれば普段慢心するのが常のボスキャラが、庇護する対象が発生したことでその慢心を捨て去り、手加減はするものの警戒だけは全力全開で行っているのだ。この場合の庇護対象とはすなわち私であるが、彼女の警戒は結果的に自分自身の身を守る事にもつながっている訳だ。

 様々な名前を持つ古い時代からの吸血鬼……。見積もった感じ5世紀以上は軽く生きて居そうな彼女だが、当然それだけの年数生き延びられる程度には強大な吸血鬼であり、魔法使いである。闇と氷の魔術を得意とし、その気になればこんな小さな村どころか都市部まで壊滅させても平然としてお釣りがくる。どれ程優れた魔術師が襲い掛かったところで、返り討ちどころか鎧袖一触ですらない。

 だからこそ橘は、雪姫を抑えるためにいくつかの手を講じる。その決め手になるのが、彼個人の手製らしい封印術……、魔術の発動そのものを封じる術なのだが。そもそもそれを、どうやって雪姫に仕掛けるかという話だ。

 

 例えば近衛刀太もまた打倒雪姫を掲げているのなら、近づくのは容易だし、中学生くらいの男子をそそのかすのも簡単といえば簡単だったのだろうが……。

 

 帰りのホームルームでも、教室内で雪姫が他の生徒たちに講釈を垂れている。大体週に一回くらいは繰り返している、若者の無謀な上京指向を抑え込む説教だ。私は特に響くものはないので思考を逸らすが、あまり露骨にやるとチョークが飛んでくるので聞いているポーズはとっておく。がこちらの思考などお見通しとばかりに「帰ったら説教だ」と言わんばかりの良い笑顔(と青筋)を浮かべていた。

 

 放課後になると、私はとりあえず山に向かった。ここ最近は毎日だが主に刃禅(オサレ)……もとい瞑想をして魔力を感知したり、そういった系統の技能のきっかけになるようなものを探している。いるのだが…………。いまいち切っ掛けらしいものがつかめない。

 ため息をつき家路につく。家に帰って夕食を食べたら、そこから一時間は剣術、あと勉強に充てることになるのだが…………。

 

 その帰り道、雪姫が早々に襲撃に遭っているのを目撃することになった。

 剣で上空から斬りかかった少年……いや少女か? 身体的にどちらとも断定が難しい。長い髪を束ね、片方の目が隠れている。顔立ちはすっきりと整っており、こちらも男性とも女性ともつかない。

 

「時坂九郎丸……? 馬鹿な、早すぎる!?」

 

 不死のバケモノ狩りを主とする神鳴流の剣士の一人。雪姫こと“闇の福音”エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの抹殺を命じられた相手だ。

 本来なら原作3、4話くらいの時期で遭遇するはずなのだが、まだ1話すら始まっていないかもしれない現段階での強襲である。……しかし考えてみれば道理か、原作で九郎丸自身、雪姫の命を狙ってこちら方面に向かってきていたのだ。いつまでも村でモタモタしてればこちらが先に合流する。

 もっとも対する雪姫は余裕しゃくしゃくといった風で往なしていた。そして当たり前のように心臓を抜き手で貫いた――――!

 

「…………見ていたのは流石に気づかれているだろう、ここで出て行かないわけにもいくまい」

 

 死して背中から倒れた九郎丸。それを投げ捨て、ちらりとこちらの方向を一瞥する雪姫だ。肩をすくめながら足を進める私を前に、「見たか?」と聞いてきた。

 

「何かわかんねーけど、あっちの茂みに投げ飛ばされた奴が雪姫襲ったのは……って、あれ? 雪姫、気のせいじゃなかったらだけどさっき、その血まみれの右手でアイツの心臓を貫つ―――」

「トリックだ、気にするな」

「いやそれ無理があるだろ」

「思っても指摘するんじゃない! 全く変なところで鈍感だなお前は……。とはいえメイ〇リクスと対決したベネ〇トだってそれで生き残ったのだから案外馬鹿にできないぞ?」

「それ最期パイプに貫かれて確実に殺される奴だろ……って、あれ? コイツ胸のあたり服は破れてるけど、傷はないな」

「当たり前だろ? ふふん」

 

 とりあえず担げと言われたので、へーへーと適当に応じながら九郎丸を背負う。先ほどの戦いについて追及する――――フリをする。ある程度の所で、不審な点を言及しない。

 近衛刀太、現時点で不死者という概念も彼女の正体も知らない立場であり、また襲撃者のプロフィールについても同様だ。だから「殺された程度で死なない」という事実など、茂みに放り込まれてからしばらくして傷が回復したなどという事実は、知らないことにする。

 

 そういえば雪姫、何故山の中にいたのだろう……。

 

「ひょっとしてだけど、俺が山で修業してるのずっと見に来てたのか?」

「…………、な、何の話だ?」

「いや誤魔化すの下手か。フツーに考えりゃわかるだろ、なんか知らないけどあんな俺と近い所で襲撃? されてたっぽいの、どう考えても元から俺の近くに居た可能性高いじゃん」

「それは短絡的な結論だな。私はたまたま、本当にたまたまだなぁ」

「いや別にいいけど。ちょっとアレだ、なんだっけ魔法的なやつのきっかけにでもなればって思ってさ」

「何だ、お前もアイツらみたいに知りたいのか。魔法」

「あくまで興味本位の範囲で、さ。いずれ本格的に何か教わったりする必要があるんじゃないかなーとは思ってるんだけど、なんとなく」

「ふぅん……。

 というか話題が尽きた。

 熊よけに歌え、刀太」

「話題の誤魔化し方本当に下手か!?」

「黙れ鈍感!」

 

 とか言いながらも、嫌がらせがてらアニメOPをしれっと適当に歌う。原作側でハピマ〇が歌われた描写はないはずだが、メタ的な影響か微妙な顔になる雪姫。元をたどれば彼女が大好きな3-Aの面々と縁が深い歌だ、本能的に何か嫌な意図を察知したかもしれない。

 

「なんだ、その、カラフルだのハッピーだの止めろ、よくわからないんだが私の何か奥深い所に効く」

「そうか? じゃあ……」

 

 適当にOPがEDかを選ぶが、そちらもストップがかかる。そんなメタレベルでの皮肉と言うか嫌がらせもどきはともかくとして。雪姫が「やることがある」と一度別れる。そのまま歩き、家の玄関のあたりで九郎丸が意識を取り戻した。

 

「き……!? 君は何者だっ」

「いや落ち着けって。とりあえず玄関開けるから待ってろ……」

 

 自力で立てそうなので降ろしてから、鍵を開けて家に招く。御客一人増えるくらいでは大した問題にならない広さをしているので、後で雪姫が来ても狭いという話にはなるまい。それはそうと九郎丸の表情が青い。うなされている様子はなかったが、夢で実家を追われた時のことを思い出したのかもしれない。

 ボロボロなのは流石にどうかということで、有無を言わさず私のシャツを手渡した。と、今は男性体だろうに変な照れ方をする九郎丸。コーヒーを淹れにいくと、胸元を隠しながら着替えはじめた。ちらりと見た感じ、腰のあたりにくびれは見られなかったが肩は丸いし幅も狭い。学ラン風の恰好だが、本当に中間と言うか、まだ性別が無い状態のようだ。

 湯呑のブラックコーヒーを勧めると、素直に飲む。毒物を疑ってはいないらしい。そして一瞬苦い顔を浮かべたが文句は言わなかった。ぶぶ漬け的対応と思われたろうか?

 

「あー、アレだ。なんか、お前が雪姫襲ってたのは見たんだけど、とりあえず家に連れていけって言われたから連れてきた」

「……っ! 君はエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの仲間か!?」

「ぅぇ、あ、ああ? 何? ヱヴァ〇ゲリヲ〇・A・T・マ〇真〇波?」

「エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルだ! ……いや、待て、知らない? 君は一体……」

 

 咄嗟に俺が一緒に持ってきた刀に手をかけようとしていたが、外したボケ方に困惑している。とりあえず名乗るならまず自分から言えと諭すと、それもそうかと咳払いをして正座する。変に素直だな、生真面目か! いや生真面目だったな時坂九郎丸。

 お互いに軽く名乗る。と、すっと手を差し伸べる俺。

 

「な、何のつもりだい?」

「いや何っていうか……、俺と同い年であんなに動ける相手って素直に尊敬するっていうか、そんな感じ。リスペクト的な?」

「よくわからないんだが……」

 

 そう言いながらも握手を返すあたり、やはり生真面目だ九郎丸。こちらの意図としては少しずつ距離を詰め、中途半端に仲良くなって襲い掛かられるリスクを下げようという意図があるのだが、そういった腹芸とは無縁らしい。

 

「雪姫……だったか? 彼女は君の――――」

「一応カア(ヽヽ)ちゃんかな? 義理なんだけど。二年くらい前に事故って両親がいなくなって、そこを引き取ってもらった感じ」

「そ、そうなのか……」

「まぁ俺も当時の記憶ってないんだけど……でもアレだ、なんとなくその時の経験から、いざってときに何でも出来て一人でも生き残れるような人間になるのが、目下最大の目標。で今時何あるかわからないしスラムとかもこの先の人生で行くかもしれないから、戦う力というか、そういう技術も学習してる感じ」

「意外と自律してるんだね、考え方が……? あ、なるほど。だからさっき」

「そそ。純粋にすげーよお前! って感じで、感動した」

 

 母親代わりを襲われてもかい? と聞いてきたが、基本的に私の中の認識で雪姫は最強クラスの吸血鬼。それこそラスボス級の相手でもない限りそうそう後れを取ることはないと考えているので、演技とはいえ心配するのを装うのは難しかった。なので事実を織り交ぜつつ、彼女が実際に強いことをエピソードとして語りながら。

 

「どっちかっていうとお前の方が殺されそうかなってヒヤヒヤしてたけど。雪姫ケッコースパルタだからなぁ。クローマルは何だ、武者修行中か?」

「そ、そんな所だね。……いや、嘘は良くないな。特に君も関係者だ、僕の気が済まない」

 

 改めて咳払いをしてこちらに向き直り、経緯を話し出す。ある人物を探し倒さなければいけない。倒さなければ故郷の地へ戻ることが二度と許されていないと。……本当に腹芸下手かこの九郎丸は? 原作での好意性別含めて隠し通すのは確かに下手だったが。

 

「君が雪姫と慕う彼女……、最強の吸血鬼、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。僕は彼女を倒さなければいけない」

「ん、んんん……? 倒すってどういうことだ?」

「……殺すってことだよ」

 

 す、と。俺が何か反応する前に、腰の刀に手をかけ立ち上がる九郎丸。

 

「だから、さっきああ言われて悪い気はしなかったけど……。僕は君の敵だ、関わり合いになるべきじゃな――――」

「いや俺の服着たまま出ていこうとするの止めろって、全然恰好がついてないから」

「っ!? い、いや、僕は真剣な話をして――――」

「そんなコテコテの誠実さムーブかまされても困るっての。大体、たぶんアレだろ? 道なき道を歩いてきて途中でたまたま雪姫見つけて襲い掛かったとか、そんなテンプレな流れだろ? こっちでの拠点とか、協力者とか誰もいないだろ? 聞いた感じの話だと着の身着のまま放り出されたみたいだし、そんなんでこの微妙に狭い村周辺に住み着いていられるのか? 目撃情報次第じゃ普通に不審者というか警察補導対象だろ」

「あ、あ、う、う――――っ」

 

 わ! と浴びせた情報量に頭が混乱する九郎丸。こういったところは女子らしい微妙な慌て方だ、顔の赤らめ方とか脚が内股になってるのは完全に女子だ。あえてそれは指摘せず、ぴ! とテレビをつけた。

 

「とりあえず雪姫来るまでどうするか、考えるくらい訳ねーだろ? あと外から来たっていうなら、色々話聞かせてくれないか? 俺、そういうの全然知らないし、テレビで見てる感じ以上のことって全然わからねーからさ!」

「あー……、はぁ。仕方ない」

 

 肩を落として座り直す……、と完全に内股で座ってしまったのに気づき、正座に座り直すあたりの仕草含め、本当に性別が定まっていない感じが強い。

 

 時坂九郎丸。彼、あるいは彼女は「八咫の烏族」という種族がベースになった、呪術的な超回復能力を持つ不死者だ。経緯としては詳細こそぼかされているが、おそらく彼女の実家にある秘宝であった「神刀」と存在の根源的なところでつながり、精霊的な領域にある場所から無尽蔵の回復力を受けているのだろうが、そんなことはともかく。

 彼、あるいは彼女と表現するのは、九郎丸自身どちらの性別か未だ決定されていないからだ。というのも血筋の亜人の源流からして、成人(おおよそ15、16才ほど)するまで自らの性別が存在しない身体をしているらしい。実際背負っていた時も女性らしい柔らかさこそなかったが、男性的な角ばりもなかった。

 で、本人はどちらなのかということについて考えるのを避けている気配がある。私自身、それを言及したりいじったりすると面倒な怒り方をされそうなので、あえてこちらからはそれに触れないでいた。

 

 ちなみに原作だと、祖父ネギ並みの女難体質なのか気質のせいもあってか、刀太のそれに晒された九郎丸は見事に女の子化していた。私個人としては……、別に彼女?本人が好みではないので、流れに身を任せよう。こーゆーのは色々無理してフラグを立てようとか折ろうとするとロクなことにならないと知っている。それにどちらかというと本家「ネギま!」に出てきた大河内さんの方が好みなのだが(性癖)。

 

「何かぶしつけな視線を向けられたきがするんだけど」

「いや、気のせー、気のせー」

 

 テレビを回しながら適当に会話する。といっても九郎丸自身もまた神鳴流以外に関して箱入りに近い所があり、道中のゴーストタウンの多さや、意外としっかり残ってる田舎の駅前についてなどの話題で盛り上がった。

 しかし確かに、不思議と馬の合う感覚がある。身体のテンポというか、話題の共感性というか、そういう要所要所において話していて違和感がないのだ。気質的にもおそらくそうなのだろう、原作で出会って早々に刀太が親友認定したがったのも納得だ。

 

「おう、今帰ったぞ?」

「お帰り雪姫……、って何それ」

「寿司だ。あ、それから……九郎丸だったか?」

「っ⁉ 何故、僕の名をっ」

「そう警戒するな」

 

 言いながら卓袱台の中央に、どこからか買ってきた持ち帰りの寿司の桶を置くと。私と九郎丸の顔を見てから、シニカルに微笑んだ。

 

「お前、しばらくウチの村の学校に通え。手続きは済ませてきた」

「はぁ!?」「えっ!?」

 

 こっちが色々気を遣っているのに、メインヒロイン直々に特大の原作ブレイクかますの止めろ! キティの時に優しくしてやんないぞ! ってそれも特大の原作ブレイクだから脅迫にならん!?(自爆)

 

 

 

 



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ST3.一月以上かかる第一話

お気に入り、誤字報告などなどありがとうございます!


ST3.Episode1 Take A Month

 

 

 

 

 

 九郎丸が学校に編入することになっても、意外と影響が少ないという事実に驚かされた。

 いやそもそも例によって「男なのか」「女なのか」の問題でもめるかと思いきや、あっさり男性であることを受け入れた我がクラスである。何だこの順応性の高さとツッコミを入れたいが、しかし「打倒雪姫」を掲げる連中を受け入れてる時点で大分蛮族か。あまり気にしないというか、頭ケボ〇ンだとでも思っておこう。

 

「しかし、いよいよ行き詰った……。いわゆる精神世界? とかで対話でもできればまた話が別なのだろうが、生憎と『火星の白』も『金星の黒』も人格らしいものはない」

 

 考えてみれば当たり前の話である。大前提として魔力的なものを感知する糸口がいよいよなく、これは一度くらいは死んでその時のショックで発動するしかないかと最近思い始めているが、それ以降の、つまり〇鎖斬月(オサレ)に至るための道筋が見えてこないのだ。

 近衛刀太の肉体は遺伝子的に調整されて生まれてきているが、いわゆる「失敗作」と言われる程度には欠陥がある。運が良いのか悪いのか「金星の黒」を発動する前の肉体はどちらかと言えば病弱であり、またその肉体自体も「火星の白」、いわゆる魔力無効化のような類の能力を持つ細胞とが、体でいびつな形にミックスされている。失敗作とはいえこの完成までに七十一人のクローンが存在しているのだが、それらも含めておおよそこの二種類の魔力が競合することによって、すんなりと魔法を練ることが出来ないのだ。

 

 これに対する解決策として、原作では『回天』、魔力を遠心分離機みたいに超高速回転させることで二つの属性を撹拌、分離させた上で魔法を行使していた。がしかし自分が目指すのは天〇斬月(オサレ)、しかも天鎖〇月(オサレ)の極致のような速度重視だ。おそらくそういった形で運用することは難しい……というより回転する暇があるなら月牙天〇(オサレ)じみた技を考える。

 とはいえこれがないと何も始まらないのも事実。つまり取っ掛かりがない私としては、いかに現時点で「魔力を回転させるイメージ」を想像しながら瞑想したところで、限度があるということだ。

 

「問題は現状から魔力を自覚しても、おそらくすぐ分離できないことか…………、いっそのことNARUT〇のように分身でもして、それぞれの分身に白と黒との魔力を分散して練らせる……、いやそれだと一体一体の能力的な密度が下がる、最高速度が出せないとなると回避に後れを取る可能性がある。どうしたものか……。いっそのこと最初っから、まずは『金星の黒』に直接手をかけて、『火星の白』は後回しにする手もあるか? 本家BL〇ACH(オサレ)のよう……、ん?」

 

 ぶつぶつ呟きながら瞑想をしていると、ふと背後に気配を感じる。体勢を解いて立ち上がれば、九郎丸が木々の間から現れた。すっかり私同様にワイシャツ、学ランの制服が似合っている。

 

「またここに居たんだね、刀太君」

「ルーチンワークだからな。どうした?」

「ほら、田中君から差し入れ……というより試食かな?」

 

 す、と九郎丸の出してくるおにぎり。ラップにくるまれているが見た目からして既に米粒が立っているあたり、美味しそう感が強い。実際美味しいのはほぼ確定しているので、一つ受け取り九郎丸にも食べることを勧めた。

 山を下りながら近況を聞く。学校に慣れるのは意外と早かった九郎丸だが、いまだ戸惑いながらという所も大きいようだ。

 

「まさか抹殺に来て早々、弟子入りしろと言われるとは思ってなかったよ……」

 

 学校に通えとはどういうことだと詰め寄った九郎丸に、早々にゲンコツを喰らわせて雪姫は嗤った。

 

「そんなに帰りたいのならそもそも私を倒せるようになってからにするべきだろう。まぁ何年かかるか分かったものじゃないが、な? せっかくだ、お前も弟子になれ。そこの刀太のように」

 

 その言葉を覆す前に動揺しまくった九郎丸。状況的に完全に混乱してたのを逆手に取り、私と雪姫は厨房に立った。料理をする間に背後から襲い掛かるような卑怯さはなく、しぶしぶといった様子で九郎丸はテレビを見ていた。

 その後はまぁ想定以上の順応性を発揮したクラスに巻き込まれ、もはや普通の男子中学生もかくやという有様だ。強いて違和感を上げるなら、よくありがちな美形転校生男子に女子生徒が黄色い声を上げてファンクラブ的なのが出来たりして、大勢から詰め寄られても何か違和感を感じる表情を浮かべているあたりか……。このあたりは原作の修正力か何かだろうか。やはり女性の側に偏っているのだろうか。まさか私の刀太に当てられたせいということはあるまい。そういうフラグを立てかねないモーションは一つも行っていないし。

 

「まー、何か考えあるんじゃねーの? なんだかんだ雪姫に俺だって世話になってるし」

「…………そもそも君も君だ、何であんな普通に、命を狙ったような相手を自宅に引き入れてるんだい? しかも扱いが……その……」

「いやお客様だし、何か知らないけどお前、例えばだけどあー、あんまり肌とか見られるの好きじゃないだろ? テキトーにだけど多少は気を遣うって。あんま男らしくねーなって思ってるけど」

「ら、らしくない!?」

「フツーそういうのあんま気にしないんじゃね? って、あー、もしかしてお前ソッチの人だったりすr――――」

「僕はノーマル、だ! フツーだからね!」

 

 ノーマルと言いつつ「男だ」とか「女の子が好き」だとか言わない時点で半分くらい自白してるというか、どっちの性認識に寄っているか察してしまえるのは如何ともしがたい所である。

 その後も世間話が続くが、ふと何故修行をしてるのかという話に……もっというと何で魔法を学びたいのかという話になった。

 

「まぁ特に理由はないんだけど、自分が知らない理由でアドバンテージとられるのはどうかと思ってさぁ」

「アドバンテージ……? 嗚呼なるほど、君にできないことで相手が有利に振舞ってきたら困るという事か」

「そーそー。なんか分かんないんだけど、俺自身、何か身に付けないといけないというか、胸に穴の開いた感じがしてさぁ」

 

 下山ついでに墓参りをする。といっても適当に周囲を掃除して帰る程度なので、あまり真面目に墓参りをしていないのだが。もっともそれはネギ・スプリングフィールドの墓に対してが主ではあるので、決して間違いだとは思っていない。なにせ肝心のネギ先生は――――。

 

「……そういや(ネギ先生で)思い出したけど、九郎丸お前、ケッコーモテてるよな?」

「へ? あ、うん。……嫌味みたいだけど、そうだね」

「いじめられたりしてない? いや、まぁ俺たち五人と絡んでてなかなかそういう話にはならないとは思うけど、一応」

「大丈夫だよ。というより何を警戒してるんだい? 別にいじめられた程度で、民間人に流派の技とか振るったりはしないさ」

 

 どちらかというと性別関係でバレると問題かと思っての確認だったが、杞憂だったようだ。鼻を鳴らして得意げな表情だ。……ただちょっと、九郎丸の頬が少し赤らんでいるように見えるのに、嫌な予感を覚える私は考えすぎだろうか。色々。

 そんな懸念事項を抱えながら、自宅で夕食の支度をする。九郎丸もこの家の勝手がわかったようで、自分が食べたい食材を冷蔵庫から取り出し、すっと手渡した。

 

「れんこん?」

「大丈夫かい?」

「いや、いい趣味だ」

 

 ついでだから根菜を他のも入れて、クリームシチュー風にしてしまおう。あまり長時間煮込まないクリーム煮だから味の染み方はたりないだろうが、その分チーズなどを入れて誤魔化すか……。

 帰宅した雪姫は、九郎丸を借りるぞと連れて行く。一応夕食前に修行をつけてやろうという、食べた物を吐かせない程度の気遣いだろう。それを見送りながら、私は瞑想の時と同様に技の詳細を詰める。

 

「コートもそうだが、月牙(オサレ)も考えなければならないか。原作を前提にすれば血を媒介とするのが一番妥当なんだろうが……、序盤はウォーターカッター的な形で飛ばすのがせいぜいか?」

 

 というよりも、どれくらいのレベルで実現できるかわからないので、完成度を早々に上げたいものの前途は多難だ。明日は休日とはいえ、限界が見えてる瞑想修行を辞めたとして次に何をするべきか……。覚えてる限りのBLEA〇H(オサレ)に関係する情報をリストアップするとかだろうか? 雪姫に見つかったら中二病だ何だと大笑いされること必至だろうし、詳細をこの世界の魔法とすり合わせて考えたメモにでもすると「何故お前がそれを知っている」と訝しがられる扱いになりそうだし。色々とこの生活も縛りが多い。

 

「だがやらねばなるまい。……それはそうとやはり、一度は死なないとダメだろうか」

 

 どうにもこうにも、私の中の主問題として何一つ能力的な切っ掛けをつかめていないのだ。こればかりはどうしようもないだろう。しかしそれがいつになるかと言うのを、楽しみにすることはない。常識的にも感覚的にも痛いのは嫌だし、ましてや一度死ぬなど御免こうむりたいのだが……。それをせねば世界が滅ぶとあっては、個人の感情だけでどうこうできる話ではないのだろう。

 

「ある意味、それが最適解……、最速チャートというところだろうか」

 

 肩をすくめながら、私はクリーム煮の味見をして、少しむせた。

 

 

 

  ※  ※  ※

 

 

 刀太君の家族が亡くなった話を詳しく知ったのは、彼のクラスメイトたちから聞いてからだ。

 彼とよく集まって話し合っている四人。そのうち田中君以外は知っていたらしく、たまたまその話題になったときに僕含めて教えてもらうことになった。刀太君はその時ちょうどトイレに行ってたのもあって、簡単にではあったけれど。

 エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルが乗っていた車と正面衝突……、対向車線に出ていたのは刀太君側の車と聞いた。それが切っ掛けで彼女が彼を保護する形になってるのだと。

 

「前に刀太に聞いたことがあるんだよ。雪姫先生のこと恨んでるのかって」

「刀太君は何て?」

「あー、何だったっけ? 『事情は分からないけど道交法守れなかった両親が悪い』」

「随分ドライな言い方だね……」

 

 記憶がないことも手伝ってか、刀太君は彼女をあまり恨んでもいないらしかった。

 だが、どうしても疑念を抱いてしまう。賞金六億の伝説の吸血鬼が、わざわざその程度の事故で責任を感じて彼を保護する物だろうかと。

 ここ一月ほど過ごして、なんだかすっかり刀太君とは友達という感覚になったけれども。それでも、だからこそあの吸血鬼がなんの意図をもって刀太君の母親をしているのか。……少なくとも表面上は、確かにあの二人は親子として見えるし、そういう愛情のようなものも感じられる。朝倉さん曰く「ちょっとマザコン?」。僕は、そこまででも無いと思うんだけどなぁ……。

 だけど、だからと言ってその全てを信用することは出来ない。僕は知ってるのだ、時々刀太君が、あの気だるげな顔から想像もつかない程真剣なまなざしで何か思い詰めているのを。

 彼の中にだって、絶対、解決できないわだかまりのような感情があるはずなんだ。

 

 でも彼女を倒さなければいけない、という感覚とは別に、躊躇してしまう自分がいる。傷を受け入れ前を向こうとしている彼の姿に、胸が苦しくなる。この疑似家族を壊すべきかどうか。

 壊すべきだ、道義的には。でも…………、それじゃ刀太君の心の行き場はどこになる? たとえ僕が「責任をとった」としても、彼がそれで浮かばれるだろうか。答えは出ない。出ないからこそ、ぬるま湯のようにかの吸血鬼に弟子入りしている生活が続いている。

 

 いい加減いけないと思っている、そんな時だった。賞金稼ぎが接触してきたのは。

 

「やぁ、時坂君。この後、少し時間があるかな?」

「…………僕も、貴方に話があります」

 

 いつもの四人にマジックデバイス、簡単な魔法を発動できるアプリとその対応端末を手渡した橘先生に、僕は違和感を覚えた。彼をじっと目で追っていたのに、向こうも気づいたらしい。柔和な笑みを浮かべてはいたけど、その目は酷く冷たいものだった。

 誰もいない教室で、彼と話す。相手はエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルその人の首を狙っている賞金稼ぎだ。日本の、呪術系の家柄から外れた男らしく、独自の術を多く持っている。

 

「だからといって、ああも簡単に子供に過ぎた道具を渡すのは、やり方としてダメだと思います」

「ええ。だから私も本意じゃないんですよ。しかし何だかんだ教師生活も楽しいですし、彼らのことも応援してあげたい…………、賞金はともかくとして、そこは本音なんですよ。

 だからそれとは別に、お願いしたい。『神鳴流(しんめいりゅう)』の不死殺しである貴方に」

 

 当然のようにこちらの素性を察している相手に、少し苛立ちがする。その言葉がどこか空々しいのも、拍車をかけていた。何を、と問い返すと、彼は腕輪を三つ。

 

「これを、彼女の腕に付けて欲しいのです。つけるのは一つで構わないのですが」

「何ですか? 一体」

「ちょっとした封印具…………、彼女の魔術を封印する道具です。原理としては、かの吸血鬼が魔力を練った瞬間、外部から阻害し逃がして雲散霧消させる、という仕組みになります。

 これを明日、あの四人が雪姫先生と対決する前に彼女の腕に付けてもらいたいのです」

 

 確かに何かしらの封印術が刻まれているのはわかるけど、詳細までは判らない。だからこれは、相手の言葉をどこまで信じて良いか、という点に繋がってくる。 

 困ったように笑う相手に、僕はどこまで信じて良いか判断ができないが。とりあえず言われるままブレスレットを手に付ける。確かに、何か異常があるわけではない。

 

「三つあるのはどうして?」

「貴方なら丁度一月、彼女らの家で世話になっているのでしょう? ならプレゼントと言う形で良いじゃないですか。何事も、仲良くなるにはしっかり手を回さないと」

「別に僕は……」

「でも近衛君や彼らと一緒にいる君は、すごく楽しそうに見えましたよ」

 

 そう微笑む彼の言葉は、確かに教師らしいもので。半年の教師生活が楽しかったというのに、ある程度の説得力を持たせていた。

 

 了承し帰りに刀太君を迎えにいった後、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル直々に稽古のような可愛がり(嗜虐)のようなものを受けた後。僕は彼女に腕輪を手渡した。

 

「何だ? これ」

「………… 一月お世話になりましたから」

「ご機嫌取りという訳でもないだろうが、律義な……。どっちかと言えばそーゆーのは刀太相手にやった方がいいぞ? アイツ結構そういうのには弱いだろうから」

「べ!? べ、別に刀太君の分もありますし、もっと言えば僕の分もありますから何も変じゃありませんけど!!」

「誰も変とは言ってないのだが、ん-? んん?」

 

 ニヤニヤと何とも嫌な感じの笑みを浮かべる雪姫先生。い、いや、別にもともとが貰い物である以上は僕のセンスとかじゃないわけで渡すのにためらいはないし、実際感謝の印と言えなくもないのだから問題はないはず……、だから何なのだろうそのからかう様な見守るような変な視線は! っていうより顔が熱いよ!? 何で!!?

 

「ま、気楽に使うさ。ありがたく貰っておくよ。

 さぁ早い所帰ろう。アイツの料理は意外と美味いんだ」

 

 そう言って腕輪を付け背を向ける彼女の後を、僕は追えなかった。

 わけもなく熱を帯びた顔を両手で押さえて、落ち着くのに精いっぱいだった。

 

 

 

 

 



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ST4.死解(始解)

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ST4.Blood Boomerang(Swastika Boomerang)

 

 

 

 

 

「――――へ? あっ、あっ……!

 と、刀太くん……!?」

 

 手に伝わる感触と、流れる血。僕の思考は、完全に停止した。まるで走馬灯のように、今日の映像が脳裏をよぎる――――。

 

 

 

 休日早々、朝。一人室内で瞑想する刀太君を置いて、雪姫先生ことエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルと僕は買い出しに出向いた。国道沿い、近隣では数少ない飲食店の「ラーメンたかみち」よりもかなり先にある小さい無人スーパーだけど、物品の供給は都から定期的に行われていて、軽い買い物程度で無くなるようなレベルではない。僕は荷物持ちということで同伴になっていた。……正確に言えば「刀太が何か悩んでるからなぁ。一人で解決する時間も必要だろう」という彼女の言葉に従ったというのが正しい。

 雪姫先生は、僕、刀太君、自分の三つの腕輪を見て少し楽しそうだった。

 

「なんだか変におそろいで家族みたいだなぁ九郎丸」

「家族…………」

「お前の事情は多少『知ってる』が、まぁ気楽にしておけ。ここでは私も刀太も、ただの田舎の人間だ。お前も気張らないで過ごしていいだろう。そうだなぁ……、義理の母とでも思って精々アピール頑張れ?」

「あ、アピールって何ですかアピールって一体ぜんたいなにのはなし!?」

「ハハッ! 知らぬは本人ばかりなり、か? まさか単に共同生活してただけで堕としかけるとは流石に私も予想してなかったが……」

「だから何の話ですか!? ……って、それより僕の事情?」

「嗚呼。そもそもお前の――――ん?」

 

 途中、そのまま転移魔法(デバイス)を使って現れた田中君たち四人に魔法で拘束された雪姫先生。まさかと笑っていたけど、ここまでは余裕があった。

 解呪するためだろうか、魔法の起動キーを口ずさんだ彼女だったけど、その呪文が魔法を形成することはなかった。聞いていた通り、橘という賞金稼ぎの仕掛けが作用し、彼女のブレスレットが魔力を霧散させたらしい。

 

「今だ皆!」

「おう!」「甘くみさせませんぜ!」「やってやりますよズバり!」「俺たちのホンキ見せてやるぜ先生!」

 

「ハハっ! 何だお前の差し金か。随分馴染んだものじゃないか九郎丸!」

 

 口々に自分たちを奮起させる言葉に、雪姫先生はちらりと僕を見て楽しそうに微笑んだ。とはいえそれを苦笑いして訂正しようとして。

 でもその前に、辺り一帯が「人払いの結界」に包まれた。

 

「――――見事、頑張りましたね。ご苦労様です皆さん」

 

 突然現れた橘は、四人にそれぞれ一撃入れて気絶させた。手際の速さは、賞金稼ぎとしての能力の高さを察させるもので。

 雪姫先生が顔をしかめるのを他所に、彼はせせら笑った。

 

「さて、ここからは大人とバケモノの時間です。…………いやはや6億の賞金首、伝説の怪物といえど子供には甘いですか。それともイレギュラーが現れたから警戒心が薄れましたかね?」

「……なるほど、半年気づかせないとはなかなか腕が良いな、橘、お前」

「正直大変でしたよ。ですがすべては今この時の為――――」

 

「っ、何故彼らの邪魔をしたんだ! 貴方は教師として、応援したいと言っていたじゃないか! それは賞金稼ぎのそれとは別に!」

 

 思わず叫んだ僕に、橘は肩をすくめる。と同時に無数の槍が現れ、雪姫先生に――――! 彼女は腕で庇い、頭などは無事だが地面に縫い付けられた。

 

「良い演者とは自ら『変心』させるもの。確かに間違いではない、あなた達に対して勉強を教えていた橘と言う教師も、私の一部であるし、この半年の忙しさや毎日は確かに充足感『のようなもの』を覚えることもありました。でもね?

 ――――それだって全部、いつでも捨てられるものでしかないんですよ」

「それが、貴方の本心か」

 

 おっと動かないでくださいね、と橘は雪姫先生に視線をやる。その手にはマジックデバイスの力で生成されただろう、長刀が一つ。僕を見やり、彼は言う。協力して事に当たろうと。

 

「何を言って……」

「もともと不死身のバケモノを殺すのが貴方の使命。対して私も賞金こそ頂きたいですが、彼女を殺す目的に変わりはない。ここは共闘戦線と行きませんか?

 不死身の吸血鬼相手に余裕こいて返り討ちに遭うような真似はしたくないもので。

 いいじゃありませんか、事情は知りませんが、彼女を殺したいのでしょう? そうしなければならない程に、つねに彼女の隙を観察していたのですから」

「…………気づいていたのか」

「これでも『生徒のことはしっかり見てる』んですよ。一応『教師』でしたから」

 

 確かに今の状況は好機だ。

 実際、橘の拘束はあのエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの身動きを完全に封じていた。でも彼の攻撃では、彼女は殺すに至らない。

 でも今なら僕だって、あの伝説の吸血鬼を殺すことが出来るだろう。

 二人分の協力があって初めて倒すことが出来る……可能性がある。

 

 でも、僕の頭に浮かんだのは違うことだ。

 

 刀太君と過ごしたこの一月ちかくの学校生活。喜怒哀楽、そして表現できないような、やりきれないような顔を時々浮かべていた刀太君の顔。

 その心情に、不思議と何故か近づいてしまったような感覚が僕にあった。それは普通の友達とはまた違う距離感のそれで……、でも具体的に言葉にするのが難しい、そんな感覚。

 

 その感覚が言ってる。僕は――――僕は、まだ迷ってる。 

 だから刀を抜き、橘に向ける。

 

「おや? 何か気に障りましたかね」

「………わからない。だけど、刀太君はたぶん納得しないんじゃないかと思う。だから僕は、まだ彼女を殺すべきじゃないと思う!」

「やれやれ面倒くさい……では仕方ありませんね」

 

 彼も手元の剣を構える。と、その刀身が鞭のようにしなり、分裂して僕に襲い掛かる。

 その程度――――! 

 

「――五月雨斬り!」

 

 身体が軋む……、不死身の肉体の限界速度で手首を切り返しながら、一発一発の鞭をはじき落とし斬る。それに驚いたような顔をする橘。

 僕は刀を構えて走る。まずは右腕――――マジックデバイスを動かしている側の腕を狙い、突きの構えをして前進し。

 

 

 

「残念――――――!」

「――――んっ」

 

 

 

 その一撃は「刀太君の心臓を貫通した」。

 

 

 

「――――へ? あっ、あっ……!

 と、刀太くん……!?」

 

 突然現れた刀太君。彼もまるで、突然わけのわからない状況に放り込まれたみたいな、そんな呆然とした顔をしていた。

 ただ、そんなことは関係なく、僕の刀は彼の胸の中央を貫通していた。どくどくと、血が、流れる。不死身でも何でもない、刀太君の、その血が――――!

 

 血が、血が……、脈拍が、ゆったりと刀越しに伝わる。熱い、生きてる人間の脈と、鮮やかな赤だ。それが、嗚呼、だって、一体何で――――!

 

「その腕輪、あらかじめいくつか魔法を仕込んでありましてね。封印術のほかに転送術も。つまり今、君の攻撃のための盾にしようとしたわけですね……」

「あ、ああ、あ……」

「おやおや、動揺のし過ぎで会話になってませんね。ひょっとして素人ですか? ――――人を殺すのは初めてですかァ?」

 

 橘の顔が、ひどく歪む。歪んで笑う。

 刀太君は、驚いた顔のまま、僕にもたれるようにがくりと動きが止まり……、僕は徐々に弱くなる彼の脈動に、腰が抜けて、立てなかった。

 腕が、ふるえる。

 

「橘、貴様――――ッ」

「何いっちょ前に人の親ぶってるんですかねぇ、虫唾が走る。優勝劣敗、弱肉強食が世の摂理であるのは貴女が一番体現しているでしょうに」

 

 橘は僕らを蹴り飛ばした。刀太君が覆いかぶさる形で、僕らは遠くに投げ飛ばされる。そして腹に、背中から槍。僕はこの程度では死なない、死ねないけれど、でもただでさえ心臓に致命傷を負ってる刀太君にとってそんなものは――――。

 震える手が、刀から離れない。力を緩めることも、何もできない。ただただ全身が固まったように、動くことができない。

 金縛りにでもあったような……、それこそこの体になる前の、病弱だった頃のように身動き一つ――――。

 

「ご、……、ごめ、……ごめん、刀太く……、あ、僕は、何てこと………」

 

 言葉もうまく出ないや、いや、そもそも自業自得だったのかもしれない。そもそもこんな身となって、一族から放逐されたことも。あの優しかった兄様にすら見捨てられたことも。

 

 嗚呼でも、そんな僕を、命を狙ったのに受け入れてくれた刀太君すら、この手に、自らの手で殺してしまうなんて……なんで、一体、こんな、あんまりだよ……。

 

 橘と雪姫先生が何かしゃべってる。それも、耳に入ってこない。でも血が飛び散る音と貫通する音が聞こえる以上は、あのエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルですら劣勢なのだろうことは察せられてしまって。

 

「僕が、来なければ、よかった……、こんなのって……」

 

 心が死にそうだ。いや、本当はもっと前に死んでいたのかもしれない。ただそれでもダラダラと惰性で生きていたような。だからこんな死に方をするんだ、こんな殺し方をしてしまったんだ。

 思考がどんどん闇に堕ちていくような、重い泥に沈んでいくような感覚で、それが酷く気持ち悪くて。でも僕にはきっとそれはお似合いで――――。

 

 

 

「…………心臓はともかく、腹はオーバーキルだろうに。全く」

 

 

 

 聞こえた声に、僕の意識は嘘みたいに現実に引き戻された。目を開け、顔を上げ、その先を見る。

 それこそ土色になって、今にも死にそうというかもう死んでるんじゃないかって顔で。でも刀太くんは、仕方ないなとばかりに苦笑いしてた。

 

「なんで、そんな……、刀太君、君は……」

「わかんねーけど、まぁなんか大丈夫だなコレ。っていうかアレだ、たぶん色々ショック大きすぎて神経がマヒしてるなぁ……。後で絶対悲鳴上げるか気絶する奴だぞこれ」

「なんで、そんな君は冷静なんだい……」

 

 いつも通り、訳も分からないけど、それでも生きてるような……、そんな彼の様子に、僕は安堵から全身から力が抜けて、目の前が曇る。

 そんな僕の目元を、刀太君は指で優しくぬぐった。

 

「あー、安心してるっぽいところ悪ぃんだけど、アイツ、どうにかしないとダメだろ」

「アイツ……?」

 

 横眼の刀太君の視線の先、胴体だけで転がされてる雪姫先生を尻目に、橘は四人の方に歩いて行った。

 

「もともと、雪姫の目撃証言を消し去るために町も何割か殺して回るつもりだったみたいだし、アレ完全にダメな奴だろ。お前も見る目ないなぁ九郎丸」

「よ、余計なお世話だよ! って、そうじゃない、止めに行かないと……っ」

 

 背中を貫通して、地面に釘打たれてるような僕の状況だ。痛みは耐えられる。けど、上手く力が入らない……! 情けない、刀太君を殺して動揺して、今安堵して気が抜けて、完全に体が戦える状態じゃなくなってる! 心なしか動かし方も何か変と言うか、慣れないような変な感じが……。

 

「一つ頼みたいんだけど、いいか?」

「何をだい、刀太君」

「コレ、いっせーので抜いてくれね? たぶん、それで何とか出来る」

「何とか出来るって……!」

「たぶん俺、雪姫と『同じようなもの』なんだわ。今分かった気がする。だから『それの』『使い方が分かれば』、どうにかできると思う」

「君は、雪姫先生の正体を知って――――」

 

 いや知らないけど、と刀太くんは苦笑いする。でもその目は、百パーセント真実を語ってるわけでもないような、そんな微妙なものだった。

 

「頼むぜ、九郎丸。今は俺を信じろ――――殺した責任くらいしっかり持て」

「どんな、言い草だよ君は……っ」

 

 でも。

 

 腕の奮えは止まった。深呼吸をする……刀太くんの臭いが、血の臭いと何か安心できる匂いが混じって、なんだかこんな状況なのに変な気分になりそうだけど。それでも。

 

「いくよ、刀太君」

「ああ。

 いっせー、の――――痛!」

 

 

 

 次の瞬間、真っ黒な洪水のようなものが刀太君の傷跡の前後から噴き出し、僕は弾き飛ばされた。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 やはり人間、下手に楽をするものではない。否、むしろ欲張りすぎたせいか。慎重に慎重を期する必要はあるということか。

 九郎丸がいるから早々、例の橘お手製の封印術式程度でどうこうなる話ではないとタカをくくって一切介入するつもりもなかったのが良くなかった。まだまだ原作イベントを後ろに倒せるだろうと慢心したのが良くなかったのかもしれない。まさか私自身が巻き込まれガードベント(直喩)されることになるとは思ってもみなかった。これもバタフライエフェクトなのだろうか……、バタフライエフェクトだろうなぁ、明らかに雪姫も九郎丸も動揺した顔してるから。空間転移で呼び出して動揺を誘うか人質にするかって手段は考えていたのだろう。

 一撃、完全な貫通ではあったがこれはたぶん「いしのなかにいる」みたいな理屈で呼ばれたのだろう、一切刀が胸骨を切開するような感覚を覚えなかった。痛みも何もなく、ただただ熱が胸から噴き出すようなこの感覚……、気持ち悪いこと極まりなかった。

 

 あまりに驚き全く思考が働かなかったが、しかし九郎丸共々弾き飛ばされて、腹にも槍が刺さったことで我に返った。既に痛みがキャパシティを超えてしまってるのか、アドレナリンがバンバン出ているのか痛覚は一切感じない。衝撃と、破損した内臓やらからどばどばと延々と血が出てくる感覚だけが私の身体を支配している。

 皮膚感覚が冷たくなっていくのと同時に、しかしそれでも意識が途絶えない―――――途絶えないというか、何と言うか「押し上げられている」ような感覚と言うか。嗚呼これが不死身ということかと分かったような分かってないようなことを考えながら、九郎丸を適当に励ます。

 腕輪は早々に外したので、早く正気に戻ってもらって、胸の刀を抜いてもらいたいのだ。

 

 どうやらこの刀、ある程度の不死性を断つ効果でもあるのか、どうにも腹部に比べて胸部の再生が追い付いていない感じがする。それでも失血多量などで死なないのは流石に魔術的な不死身ということなのか、そういう考察は後回しだ。

 

 どうにも………、どうにも、である。何かうまく言えないのだが、何かが「ある」のだ。

 

 例えるならBLE〇CH(オサレ)でいう霊絡(オサレ)だろうか。自分の胸部から、それが二つ。どこか遠い所に伸びているような感覚があるのだ。そして少なくとも、片方から何かが私の身体に入って満ちて、異物を排除しようとしている感覚がある。

 

 はっきり言ってこの感覚、得体の知れないもので気持ち悪いことこの上ないのだが。おそらく設定上でいうところの「金星の黒」、すなわち裏金星(魔界)から溢れてくるエネルギーの類のそれなのだろう。

 それを始点に太陽系全土からエネルギーを引っ張ってこなくても良い。少しでも意識的に、「魔界」の魔力を引っ張ってこれれば、現状に対する打開策にはなるはずだ。

 

 つまるところ、原作で言う「マギア・エレベア」を少し先取りしてやろうということだ。

 

 意識的に出来るかはわからないものの、やる価値はあるだろう……、というのも、どうにも九郎丸の身体がこっちに寄りかかってる感じ「女の子」のものになってしまっているからだ。この状態、普段は男性よりの肉体らしいので戦い慣れてない九郎丸には相当重荷になっているやりとりが原作でもあった。それを意識的に再調整することをしていないはずなので、今の九郎丸は本人が思っている以上に動けまい。

 

 ある意味でピンチ。だがある意味で逆転(オサレ)しろと言わんばかりの展開だ。

 ここまでくると私自身より、この近衛刀太の運命力的な何かを信じる他ないだろう。

 

 

 

 賭けには……、勝った。

 ただ、阿呆みたいに痛いのだが。

 

 

 

「いや、体が再生すると同時に痛覚まで標準に戻るとか馬鹿か、加減しろこの体!」

 

 思わず誰にでもなく悪態をつきながら心臓を抑える……、刀が抜かれた瞬間「金星の黒」の側に意識を集中した結果か、猛烈な速度で再生と同時に、黒い魔力が物理的な衝撃を伴ってあふれ出した。勢いの余り腹の槍すら弾き飛ばしている。それらは未だ再生途中の傷から噴き出す血と混じりながら、私の全身にまとわりついている。

 何だろう、闇の魔法としての「マギア・エレベア」になっていない……? 何かしら悪魔的な要素を持った、いわば(オサレ)化でもしていそうなビジュアルを想定していたのだが……。なんとなく刀身のない〇現術(オサレ)第二形態じみているような気もする。まぁそれにしてはグロさと鉄臭さが酷いが。

 

 突然の状況変化に、橘もこちらを見ていた。その表情は完全に予想外のそれである。というより、私の有様がおどろおどろしいのか完全にバケモノを見る目だった。……もっというと吸血鬼ものの映画で吸血鬼を見るような目と言うか。いや我ながら意味が解らん。

 

「何だ、それは……? 近衛君、君は一体……ッ」

 

 そんな橘を無視しながら、何か今の状態でできる武装を考える……、不定形の、血の、魔力の、液体みたいな、というあたりでふと思い浮かんだのが、今のビジュアルに引きずられてではないだろうが完〇術(オサレ)第一形態である。と、腕を構えると同時に手首のあたりからまさにプロペラというか、鍔の変形したような何かがどろどろと這い出てくる。

 

「意外と私の意識通りにやってくれるってことか? って、あっ」

 

 油断大敵、適当に検証していたら右腕を切断され、しかも燃やされる。

 勝ち誇ったような笑みを浮かべる橘。だがなぁ、それは悪手だぞ。OSR(オサレ)がそもそも足りない。

 

 腕を欠損したまま私は走る。馬鹿が、と嘲笑いながら連続攻撃を決めるが、残念ながらそちらの方が甘い。

 一応この、血のコートみたいなものはある程度こちらの意図を汲んでくれる。つまり何が出来るかと言えば、そもそも全身を硬化させることが出来るわけだ。血中の炭素だの何だのを上手いことどうこうすれば固くなると鋼〇錬金術師(名作)でやってた、あのイメージを踏襲する。

 するとどうだろう、橘のしなる斬撃は、いっさい私の身体に傷を与えられずに弾かれる。これには流石に動揺した橘だが、態勢を立て直し私自身を燃やし尽くす方に決めたらしい。だが――――遅い! 既にこちらの間合いに入っている。

 

「全力でガードしろよ、先生――――たぶん手加減できねぇ!」

「ッ!!?」

 

 私は「急速に回復した」右腕から、ブーメランでも投げ飛ばすイメージで、血と魔力で形成されたプロペラのようなものを投げつける――――おそらく人体の限界を超えた速度と威力で。明らかに今の私のこれは、私自身制御出来てない。つまり初回の月牙〇衝(オサレ)のような威力が出てる可能性もある。下手すると殺しかねない。

 なので最低限の警告をした上で放ったのだが…………、まぁ、酷いことになった。

 

 とっさに剣を構えたのが功を奏したのだろうが、受け流しに成功したらしい。成功したらしいが、そもそもの衝撃で橘は吹っ飛び、トラックに激突し、貫通し、足があらぬ方向に曲がっていた。………身体強化でもしていたのか五体がバラバラにならなかったのが救いと言えば救いだ。もっとも粉砕されたトラックが爆発して火を噴いてるので、早い所どうにかしないといけないが。

 肝心のプロペラの方はといえば、道路に巨大なクレーターというか、えぐれた跡を作っていた。否、巨大と言うか、一体どれくらいの大きさ長さなのかちょっとわからない。奥の方の、田舎道にありがちな間隔と感覚が離れている信号機が二つ三つ壊れている。つまりあと一歩間違えると、民家とか田んぼとかのところに軽く侵入してなお被害を発生させかねなかった訳だ。

 これは……、酷い。黒崎一〇(チャンイチ)が思わず委縮して、以降全力で出せなくなるのも納得するようなレベルの酷さだ。全然作品違うがちょっと共感してしまう。

 

「ままならぬ……」

 

 それ以上の言葉を続けられず、気が付けばいつの間にか背後に立った雪姫が、私の頭をポンポンと叩くように撫でていた。

 

 

 

 

 




※戦闘中、九郎丸は死神の力を奪われたルキアめいたモノローグをしています


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ST5.意識改革

各話、英文タイトルを入れてみました!


ST5. Renewing Innercircle

 

 

 

 

 

 橘が警察に連行された後。おおむね予想通りと言うべきか、あの後「村に居られない!」という話に早々なった。雪姫自身が賞金首であることもそうだが、私、九郎丸含めて一般人からすれば不死身のバケモノである。引き上げは適当というか、周囲に迷惑をかけられないというごく当たり前の判断だった。

 仲の良かった四人と別れる際、私自身それはもう泣いてしまった。てっきりもっとドライな性質かと思っていたのだが、いかんせん本来の素性を話せないにしても、彼らと夢を語ったり色々馬鹿やったりフォローしたりという日々は、生活に潤いや、楽しさ。そして毎日を鮮やかなものとしてくれていたらしい。気づけばもう感情が溢れて、色々おさまらなかった。

 原作主人公ならまずありえない湿っぽさを発揮した結果、全員に伝染してそれはもう男泣きに泣く五人組となってしまった。オロオロする九郎丸に苦笑いする雪姫。都、こと新東京での再会を誓いながら、べそをかきながら笑顔で手を振る私たちであった。

 なお「いいなぁそういうの……」とボソっとつぶやいた九郎丸であるが、声質が完全に女の子のものであったため、そういうのはちょっと止めてもらいたい。好みでなくても意識してしまうので、今後の生活に差し障る。

 

「刀太、事情を話した時もそうだが意外と驚かなかったな」

「いやだって、フツーに考えて雪姫みたいな美人でめっちゃ強い奴、こんな田舎にフラフラ流れ着くもんかね? 絶対何か厄介ごとがあると思うって」

「いや、私が吸血鬼であるということもそうだが。それ以上にお前が……」

「雪姫に血を吸われて出来た吸血鬼だって? あー、まぁ結果的に生き残ったのそのお陰だし、今更どうこうってことでもないだろ。むしろ結果的にだけど、そういう意味でも親子ってわかってホッとしたというかさ、カアちゃん」

「親子……、うん、まぁそうだな、親子だ」

「何だよ?」

「いや、何でもないさ」

 

 空気を読んでか黙っている九郎丸には悪かったが、そんな訳で。私たち三人は UQ HOLDER 本拠地を目指すことになった。もっともその話は雪姫本人の口からされてはいないので「ツテを辿る」と言われているばかりなのだが。

 九郎丸も私も、とりあえずそんな彼女についていく……、というより九郎丸は何か、妙に私を目で追ってくる。その視線が妙に湿度の高いもののように感じられて、違和感と言うか不安がある。原作を知る身としては特に()()()にしてしまうようなアクションをとった覚えがないので、なんだか一歩間違えると病みかねないような、微妙な気配は不気味と言えば不気味だった。そういう思いみたいなのは内側にため込む性質の相手なので、どこかでその話を聞かないといけないと思うが、さて……。

 

 そんなこんなで数日。廃棄された高速道路やボロボロになった国道沿いを歩き続け、無人施設で宿泊したり野宿したりを繰り返しながらな私たちである。位置的にはまだ県をいくつか跨ぐか跨がないかといったところで、思ったよりもスローペースだ。村が熊本であったことを踏まえると道のりは長い。

 当然だが理由はある。移動を兼ねながら、雪姫との戦闘訓練じみたことをしているからだ。このあたりは原作通りなところもあるが、どうにも私のアレ……、結果的に血装(オサレ)なんだか完現術(オサレ)なんだかな武装を使いこなさせるのが目的らしい。

 

「ホラホラどうしたどうした! 遅いぞ刀太も九郎丸も――――!」

「いや少しは手加減しろって何全力で氷魔法ぶっ放してんだよ! ってア゛ー! 九郎丸ゥ!」「きゃあっ!」

 

 悲鳴が完全に女の子だというツッコミは置いておいて。この時点で原作より強度が上がっている関係か、攻撃一つ一つに容赦がない。九郎丸は丁度胴体が弾き飛ばされて転がり、私は私で胴体に風穴が開いた。

 座して死を待つ(死なないが)のも癪であるし、一矢報いなければ訓練に終わりはない。とっさに転がりながら「心臓のあたりに」「右手をあてる」。九郎丸に刺された胸部はほんの少し刀傷が残り、そこを起点に血と魔力を体外に排出できるようになっていた。理屈の上では再生しない胸部を延々と再生し続けてるため、魔界由来の魔力と血が延々と渦巻いているということか……、意図せず小さい「回天」のような現象が起こっているらしい。

 事故的なものなのだろうが技を使うたびに毎回身体を切開しなくて済むので、そういう意味では痛みが少ない。実に私好みである。皮肉ではないが、九郎丸は良い仕事をしてくれた。

 とは言え私自身、最近はイメージが多少安定したのか出せる形状は完現術(オサレ)第一形態、十字型なんだか卍型なんだかというような不定形のナニカである。それを握って振りかぶり、構え――――って平然とこちらの首を刎ねやがったぞあの母親!? もっともこちらもモーションは途中で止まらず、ブーメラン的な要領で投擲はしたのだが。一応魔法アプリで簡易的なバリアを張っているらしいが、流石にそれくらいは貫通した。

 もっともそれを指でつまんで止めるのは、どう考えても人間技じゃない。少しだけ楽し気に、血の回転兵器を「一息で」飲み込んだ………………、ってそれ食べれるのかい!? 吸血鬼か! 吸血鬼だった。

 

「首をもがれても投げるのを止めないのは全くもって問題ないぞ? 問題はない。

 ただこう、フリスビーみたいに投げる関係でどうしても隙が大きいな。

 前にも言ったが弾丸とかみたいな形状で撃てないのか刀太」

 

 講評とばかりに私の首をくっつけたり、九郎丸の外れた肩を戻したりしながらの雪姫である。正直に言えば厳しい。最終的には「黒棒」を併用した〇牙天衝(オサレ)じみたものを想定しているので、刃系のモチーフ自体は失いたくないのが一つ。そしてもう一つは……。

 

「…………単体の射撃だと狙った方向にちゃんと飛んで行かなくって」

「ふむ?」

 

 とりあえず実演とばかりに、輪ゴム鉄砲のように指を銃のような構えにして、先端に血と魔力を集める。そしてボロボロにさびた看板に狙いを定めて狙撃――――! と、それはあらぬ軌道を描いて上空に飛んでいき、いつの間にか見えなくなった。漫画とかなら「キラッ」と星にでもなってそうなノーコン具合だ。

 ふむ、と訝し気な雪姫。

 

「お前のそれは(知り合い)のものと、ある意味で似た発現の仕方をしてるからな……。下手に混じってしまったせいか、別な要因でもあるのか。

 まぁ予想でしかないが、無意識の影響でも受けているんだろう」

「無意識?」

「明らかに普通の軌道じゃなかったろ? さっきのは。二次関数のグラフめいて上昇していったじゃないか。そう考えると、むしろお前の潜在意識にある『銃は嫌だ』みたいなみみっちぃ拘りでも反映されてるのかとな」

「みみっちぃって何だよカアちゃん……」

「別にそれ、必殺の一撃でも何でもないだろ? 性質的に」

「真空〇動拳じゃなくて波〇拳みたいな?」

「何だその例え……? ともかくだ、今はまだ使い慣れてないというのもあるだろうが、どこかで使い勝手にロックがかかってるということだ。荒治療でもいずれどうにかせねばな……」

「お、お手柔らかに頼むぜ」

「ちょっと何言ってるか聞こえなかったなぁ、厳しくいくぞ」

「絶対聞こえてただろ!?」

 

「……あ、れ? 僕は……」

 

 意識の戻った九郎丸ともども、その後も当然のように襤褸雑巾のように蹴散らされる我々である。それでも雪姫いわくの「ロック」が中々解除されないのか、弾丸とかのような運用は少し難しい。

 訓練終わり、廃墟になってる販売所の奥に転がっていた非常食を「もったいないから」という理由で山賊のごとくかっぱらってきた雪姫。中に入っていたレトルトカレーを湯煎しながら、俺と九郎丸は雑談していた。

 

「レトルトカレーが十五年前の奴なんだけど……、それでも賞味期限あと一年くらいあるってヤバいな現代技術」

「食べて大丈夫だよねこれ……」

「まぁ皆不死身だから腹下して死ぬことはないだろうけど。でもこーゆー所くらいちゃんと整備しろって思わなくもないなぁ政府」

 

 現代社会においては急激な環境変化に伴う資源不足や地域紛争、日本など先進国はそれに加え少子高齢化が加速したり技術発展の影響もあり、ほとんどの人口は都市部に集中しており、過疎化が致命的に近いレベルで進んでいた。首都圏を除くとゴーストタウンが散見され、スラムが発生するまでもなくそもそも人が居ない。

 田舎の方に自給自足で生活している人々もいるが、それだって都市部との経済的なやりとりが必須である。これは魔法技術の公開によるインフラの局所自給自足、技術発展の影響で自動トラックなど物資のやり取りの高速化など様々な要因あってのことだろう。もっとも民間的には、かろうじて一日に数本の電車が行き来するかしないかくらいだ、やはりその断絶は大きい。

 

 結果的にこうして廃墟のようになってしまってるコンビニとかも多く、そして割とその食材とかも「電気が通ってる状態で」放置されていたりするものもあった。

 

「しかしアレだなー、やっぱ銃弾は無理だなぁコレ…………」

「銃弾…………、刀太君のアレだよね、えっと、なんか黒くて赤い光みたいなのが混じった……」

「名前まだ決まってないんだ、悪ぃ。とりあえず『血風(けっぷう)』とか呼んでるけど」

「血風……、良いんじゃないかな。カッコイイと思う」

「そうかぁ? 自分じゃよくわからないけど……」

 

 とはいえ隙だらけと言われてしまえば、確かにその通り。私としても何か対策は考えないといけないのだろうが……。

 これはどちらかというと、やはり初回のアレの威力というか、被害規模で私自身が怖がってるということなんだろうか。銃火器イメージになるとそれこそ連射できそうだし、あの威力を連発となると躊躇うのも頷ける。

 取るに足らぬ……訳ではないが痛みに対する恐怖心だけではない、周囲に被害を与えること、命を奪いかねないことへの恐怖心だろうか。完全に〇護(チャン一)じみた悩みだ、別にそこまでリスペクトしている訳ではないのだが……。

 

 慣れる他ないと言えば慣れる他ないのだろうが、中々に難しい話である。

 

「――――た君! 刀太君! 手! 手、燃えてる!?」

「っておわ!?」

 

 ぼうっとしすぎたせいか、コンロに腕が近すぎて引火したらしい。何だろう慣れた訳ではないんだろうが、一度死んだせいかそのあたりの警戒心が薄くなってるのか……? とはいえ、次の瞬間には「ぞぞっ」と血が箇所を覆って鎮火させてるあたり、我ながら生存本能は強いと見えた。

 

 

 

 ※  ※  ※

 

 

 

 夕食を食べ終わった後、刀太君は一人瞑想にふけっている。「なんか疑似人格でも出て来てくれりゃもうちょっとやりようがあるんだが……」とか言ってたけど、一体何の話だろう……? 先に入っていいと言われたので、宿泊施設のシャワーを先に借りた。

 

「はぁ…………、まだ慣れない」

 

 雪姫先生……、いや、雪姫さんは僕の身体の事情も何故か知っていた。僕が今「女の子の身体」になっていることも。多少からかいながら「良い機会じゃないか」と笑っていた。今の身体でも戦闘に慣れておけば、いざというときにどちらでも戦うことが出来るだろうと。

 

『それは確かに、そうですけど…………』

『まぁ何十年かかるかわからんが、私を倒すつもりなら精々……、どうした?』

『……僕は』

 

 そう、元々僕は彼女を、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルを殺すために来たのだ。でも刀太君たちと友達になって、なんだか分からなくなった。

 そして何より……。

 

『僕が来たから、刀太君は不死身になってしまった、ってことなんですよね』

『……気休めは言わないが、結果的にはそうなる、かな?

 間違いなく、お前がアイツを一度殺した……、殺し直したことで、アレの奥底にあるものが動いてしまったとも言える』

『刀太君は、その、普通の男の子だと思ってました。今でもそれは思ってます。僕らみたいなものの世界に来ちゃいけない、そんな人だって。だから……』

『「自分のせいでそうなってしまった」。だからそれが負い目か。

 …………責任感があるというか、律義と言うか。

 じゃあどうするんだ? 責任とって結婚でもするか? 丁度女の身体だし』

『け……!? い、いえそんなそれこそ無責任というかですね、明らかに問題があるというか、そ! そもそも僕は、刀太君の友人で!』

 

 思い出して、訳もなく顔が熱くなってゴンと壁に頭をぶつけた。雪姫さんはニヤニヤとしていたなぁ……。揶揄っていたのだろう。

 

『やれやれ…… (愛が重いな、刹那(アイツ)みたいにならんよな)。

 まぁあまり自分を追い詰めるな? 意外とアイツはそういう所は見ている。

 むしろそれが、アイツの側の負い目になるかもしれない。下手に責任を背負わせてしまったという』

『そんな! だってそもそも僕が……』

『そのあたりは何かあれば相談に乗ってやるから、気楽に話せ? 私としても弟子だし、「息子」の友達だからな。そう曇った顔をするな』

 

 雪姫さんはそう言ったけど。でもやっぱり、彼がああなってしまったのは僕がきっかけで。

 だからこそ、それについては僕自身が何か結論を出さないといけないと思う。

 

 少なくとも、何もなしで許されて良いはずはない。

 

 だからこそ。それが何か見極めるまで、結論が出るまで。僕は刀太君の傍に居よう。雪姫さんを殺すのは、それまで止めだ。

 

「……で、なんでこんなに心臓がバクバクいってるんだろう……」

 

 それでもあの時、死にかけてたのに僕に笑いかけてくれた刀太君の顔が意識にちらつき、僕はしばらくシャワーから出ることが出来なかった。

 

 

 

 

 




師匠作画のUQホルダーをテキトーに考えてみた。
 
・刀太:たつきちゃん系
・雪姫:目つきを鋭くした織姫に乱菊さん的なニュアンスを添えて
・みんな大好き九郎丸:白夜とルキアを足して侘助で割った感じ
・夏凜パイセン:ネムと砕蜂と1:1でカクテルして最後に雛森を搾る
・キリヱ:ちびリルカ(系)
・忍:清音っち系か雛森系
・みぞれ:わ か ら ぬ


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ST6.原作雪崩

それはいついかなる時も側にあるもので
人によって形が違うものだから
それが例え貴方を傷つけるものであれど
私はそれを与え続けるでしょう


ST6.Avalanche Of Storys

 

 

 

 

 

 頼んだらレクチャーしてくれたので、九郎丸に瞬動術を習うことにした。もっとも本格的な事を言えば「気」すなわち本人の生命エネルギーの運用が重要になってくるので、あくまで「どういう理屈で動くか」という理詰めの部分だけである。ただ、正直後悔した。こんなもの話で聞いて判るものではないというか、そもそも物理的に説明が出来てるかすら微妙なんじゃないかと思わなくもない。

 

『基本的な話をすると、まず自分の踏み込み……、この場合は蹴りだしかな? 地面を蹴る一発、それ自体を完全に地面に伝えることが出来る必要があるんだ。こう、土踏まず含めて全体の体重を正しく地面にぶつけられるかってところだね。

 本来の身体能力だと大して影響は出ないけど、これが気を運用するようになればまた違ってくるんだ。一発の踏み込みに掛かる荷重と威力がそのまま運動速度に影響して――――』

 

 このあたりでなんとなくの理解ではあるが、実感がわかないのに変わりはないとしか。ただ瞬歩(オサレ)とか響転(オサレ)とかよりは物理的な原理原則で出来ていることがわかる話でもある。ただ現時点での習得速度でいえば飛廉脚(オサレ)に関してならそれに近いことが出来そうな気もしているので、このあたりはおいおい段階を追ってということになるだろう。

 とはいえ下手に武器の形で安定してしまったせいもあってか、逆にこれはこれで運用が厳しい面もあったりなかったりなのだが…………。具体的に言えば応用が利きづらいというか。「血風」のブーメランというか巨大卍というか、その形状にどうしても寄ってしまうのだ。このあたり、明らかに私の修練度不足なので修業あるのみという結論になるのだが、出来ればあんまり痛くない方法で修業がしたい…………。

 

「と、刀太く――――――」

 

 具体的に言うと、今まさに上半身裸にされて(摩擦で服が消し飛んだ)、胸部から上がポーンとはるか遠くに飛ばされている状態である。

 まぁ例によって雪姫との組手というか殺し合い一歩手前のそれなのだが、どうにも加減を間違えたらしく「あっ」と何か失敗を察したような顔をしていた……、その微妙な顔も既に遥か彼方なのだが。九郎丸の叫び声も遠い……、というか私の胴体、ソニックブームを起こしながらどっかに飛んで行っているのは正直如何なものだろうか。いくら何でも遠慮がなさすぎるというか、ことフィジカルに関してネギ・スプリングフィールド相手以上に損壊に対してスパルタなのではないだろうか。ドSかな? まぁドSなのだが。

 

 ともあれ音速飛行する私のバストアップカット(迫真の物理)であったが、意外と余裕がある自分が色々と恐ろしい。このレベルで身体破損するとキャパを超えて一時的に痛覚がマヒするのも影響しているだろう。しているだろうが、以前のぶり返したように再生直後に襲う痛みの酷さと言ったら無いので、出来れば止めて欲しいのだが……。

 やはり早い所高速移動術の類を身に着ける必要がありそうだ。私の精神的安寧のために。

 

 眼下に見える港町手前、ジャンク品が転がっているのがなんとなく見える。とそこに原作で見覚えのある小さいシルエット。

 あれは忍では……? ホバーバイクの修理をして一生懸命な姿はボーイッシュながら可愛らしいものがあるが、いかんせん幼かった。というかそうか、私の側が遅れに遅れても彼女の所在地は早々変わらない……、原作主人公が順当に進めば遭遇する程度には歴史の修正力みたいなものが働いているのだろうか。

 だとしたら拒否したいところだ。将来的に私の苦痛回避のための戦略が、丸々無意味なことにされかねない。痛いのからは全力で逃走を試みる。

 

 そして、あれよあれよという間に重力に引かれ、猛烈な速度で落下した。幸いにも水場だったため腕とかが四散することはなかったが、ドボンというより津波でも起きるんじゃないかという水しぶきが高く上がったのが頭上に見える。そしてその頭上の水が、物理法則に従って猛烈な速度で私を襲った。

 

『――――!? っ! っ!』

 

 呼吸が出来ない。体が一気に再生して足がつくようになったものの、全裸でいきなりの水場、頭からどっぷりと呼吸器水浸しは、いくら不死者でも痛いと見た。急いで立ち上がり何度も咽る。

 

「いや、死ぬって! 今回ばかりはガチで死ぬだろコレ! 一体何考えてるんだあのカアちゃんは――――――、はぁ、はぁ」

 

 ある程度水を出し終われば再生も早いのか、やっと呼吸できるようになった。……なったけどまだ変な感じだ、下手に深呼吸しまくったせいで呼吸の仕方に妙な癖がついてしまっている感がある。脈拍を落ち着ける意味もあり、心臓の傷跡のあたりに手を当てた。

 

「ここは、森? いや、滝か? …………いや、そうか。九郎丸か」

 

 膝をついたまま肩から上だけをだし、荒い息のまま周囲を見回す。何やら見覚えがある風景である。浅い所でも大体下半身が漬かり切る程度には深く、水自体は澄んでいる滝と川と池が合体したようなエリアだ。

 そしてこの風景は、記憶が確かなら近衛刀太が九郎丸と初遭遇する場所であったはずだ。何やら変な展開での遭遇だったことは覚えているが、何故私だけここに飛ばされたのか……。雪姫が狙ったわけもあるまいに。そう考えるとそれこそ歴史の修正力のような何かが働いていると見るべきだろうか――――っ! 肺、痛っ!

 

 再びせき込む私だが、バランスが崩れてガボガボといってしまいそうになっていた。流石に辛い、とはいえ立ち上がるだけまだ回復もしていない。さてどうするかと考える余裕もなくせき込みながら軽く溺れていると。

 上方の方から、ばしゃばしゃと誰かが走ってくる音。どなたか先客がいらっしゃったのかとか、何故接近してくるのかとか、そんなことを考える暇もなかった私である。が、相手はすっと私に肩を貸して、持ち上げた。

 

 それはまさに救いの主に他ならない。ことこの場において、痛みから遠ざけてくれる相手である。私は深い感謝の念に包まれた。

 

「ハァ……、ハァ……、」

「――――大丈夫? あなた、溺れていたみたいだけど……て、子供?」

 

 そして乱れた呼吸のまま隣を見た訳だが、そんな私の感謝の念は一瞬でフリーズしてどこかに飛び去ってしまった。

 

 ショートヘア、きりっとした目。表情はクール目だがこちらを気遣う色がある。年で言えば私よりいくらかは上だろうが、高校の制服とかが似合いそうな雰囲気をしていた。

 

 ()()は、結城夏凜(かりん)。UQホルダーのナンバー4にして、ある意味で私の天敵とも言える存在だった。詳細は省くが、間違いなく私にとって、様々な意味で責め苦を負わせにくるだろう少女である。

 そんな彼女、である。

 

 原作で言えばUQホルダー本拠地にでも行かないと遭遇することもないはずの彼女が、なんでこんな場所に居るのか? という話だ。

 …………もっと言えば何か? 原作九郎丸のようにこの場で水浴びでもしてたのか全裸、おまけに人命救助を優先したのか身体をタオルで隠そうともしていない。堂々たる母性と人間性の権化である。ちょっと何言ってるか自分でもわからないが内心平静ではいられないことだけは自分でもわかっている。

 感謝の念が一瞬にして恐怖に覆われ、しかしその凛とした顔に死の危機(死にはしないが)を救われた吊り橋効果でも働いたのか妙に脈拍が早くなり。あまつさえ原作ヒロインの中でも抜群な方のプロポーションが直に触れている。

 

 必然何が起こるかと言えば………………、彼女の目が私の腰から下に向いて、きょとんとした表情になった。さもありなん、申し訳ない。生憎と肉体的には男子中学生でしかないのだ。

 

「……あー、えっと、ありがとうございます」

「そう。じゃあ…………、お休みなさいっ!」

 

 かくして鳩尾に一発蹴りを喰らい、今度こそ私は失神した。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「訓練みたいなのをしてたら魔法アプリを使われて音速で空中に吹っ飛ばされてその際に衣服から何から何まで破損して全裸のまま滝壺に叩き落とされた、と。……荒唐無稽すぎてジョークにしても信じられないわね。逆に真実かと疑うくらいの話の酷さなのよ? あなた」

「どう解釈してもらっても良いですけど、好き好んで未開の地の蛮族みたいなファッションしてた訳じゃないってことだけご理解をば。

 あ、あとタオルとかジャージ貸してくれてサンキューっす」

「……流石に文明人で、しかも子供を全裸のまま放り出すのも忍びないですからね」

 

 呆れたような、ホッとしたようなため息をつく夏凜に、私は平身低頭であった。

 

 KOされた後で意識が再覚醒した時点で、私は制服姿の夏凜に全身を拭かれていた。ご丁寧に上も下もと余裕しゃくしゃくで、このあたりは酷く世話慣れている感じを受ける。もっとも再度生理現象が()きそうになった瞬間、表情が険しいものになったので、慌てて離れた。

 その後は色々と恥ずかしがりながらも借りたタオルで頭を拭き、彼女手持ちのジャージを借りている。……どう見ても麻帆良学園のジャージだった。なお彼女の現在の恰好も麻帆良学園の赤いブレザー制服なので、ひょっとしたら普段から何着か持ち歩いてるのかもしれない。夏凜の不死身能力は衣服にまで適応されてなかったから、そのあたりは妥当な予想か。

 

 恐縮し続ける私に苦笑いを浮かべ、彼女は私の頭を撫でる。完全に子ども扱いだ。実年齢十四歳というのを考えるといささか……? いや、そういえばこの身体は十二歳から成長していないのだ。事情を知らなければ、その可愛がり方も十分あり得るか。

 もっともいつその手が握られて私に暴力をふるってくるかわかったものではないので、戦々恐々としているのだが。

 

「私は、夏凜(かりん)。結城夏凜です。君は?」

「あー、か……、神楽坂(かぐらざか)菊千代(きくちよ)

 

 まずい、慌てていたのもあって適当に名乗ってしまった。特にそれに感想は持たず、キクチヨ君ねと微笑む。こういう子供の面倒を見ている顔だけ見れば母性的で魅力的なお人だが、いかんせん私の腕は震えていた。単に私が怯えすぎだろうか。だが言い訳をするなら金的こそされなかったものの、痛いものは痛いのだ。その事実は揺るがない。

 滝を離れて公道に向かいながら、私たちはお互いに情報共有を……いや、私が妙に警戒してるせいもあってなかなか話は進まないのだが。

 

「まあ貴方の事情は大まかにわかりました。近隣の子供ということね。

 ……飛ばされた方角がわかれば、良かったら送っていってあげましょうか?」

「そこまで面倒みてもらわなくてもいいんだけど……」

「いえ貴方、お金も服も何も持ってないでしょ? 方向がわからないならしばらく私が保護するっていうのも考えないといけないし」

「それ言われると痛いっス。えーっと……、すんません、夏凜ちゃんさん」

「なんで敬称を二回付けてるの……。何か緊張でもしているのですか?

 って、ひょっとして……」

 

 す、と膝を上げる夏凜。若干スカートがギリギリだが、しかし思わず腹部を抑えてしまう私であった。ばつが悪そうな顔をする夏凜だが、まぁこれについてはどうしようもない。

 

「あはは……、まぁ、お互い不幸な事故ってことで、それはもうノータッチで」

「事故とはいえ、蹴り飛ばしたのは謝りますけど……、もう少し気楽にしても良いんですよ? 流石にそんな、常時狂戦士のように殺意を振りまいている人間ではありませんし」

「いやまぁ、そりゃこっち大分面倒良く見てもらいましたから。なんとなくはわかるっス。ただそれとこれとは別ってことでさぁ、へへぇ」

「……なんでそんな三下というか舎弟というか下っ端みたいな口調になってるのかしら」

 

 いまいち調子がわからないらしい夏凜であるが、生憎こちらもそれは似たようなものだった。女性の柔肌を生で見てしまったことに関してはともかくとして、私自身の立場が色々と彼女に警戒を抱かせる。

 基本戦略として、夏凜とはある程度距離をとって、お互い不快を発生させない程度の関係で接する。これが私的な彼女との住み分け作戦だ。それはもう、転生当初から色々と想定した対策案である。

 

 理由については……、まぁその、何だろう。ひとえに彼女が「愛の戦士」であることに起因する。

 

 結城夏凜、あるいはイシュト・カリン・オーテ。「神に愛された/呪われた娘」。十三の数字を背負うもの。いわゆる宗教的な側面から不死身となってしまった者であり、神の恩寵、ないしは呪いとされる「生きたまま死なない」という自罰的な性質を持つ不死身だ。性格的には一見クールだが、地は優しく感じやすい。それゆえ一度隙が出来るとあっという間にボロボロになる防御力の弱さを持ち、しかし普段はそれを表に出さないよう精一杯虚勢と使命感でもって生きているような人である。

 

 つまりは色々と面倒くさい人である(語弊)。

 

 そして彼女は、雪姫ことエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルを愛している。敬愛というレベルではなく信仰、アイドル、あるいは母であり自らの師であった誰かの面影であり、様々なものを雪姫に投影している。彼女にとって雪姫はまさに唯一絶対の存在であり、個人としてみるなら特別な関係同士でありたいと思っている。割と行動原理が自分のその愛に忠実なので、それが他の人間関係にも大きく影響していたりする。

 

 ……かと思えば恋愛観は一般的とか言う訳の分からない人物なので、そういう意味でもやはり面倒くさい(語弊)。

 

 ちなみに前世ではその面倒くささ含めた背景設定ビジュアルその他もろもろキャラ造詣が非常に私のお気に入りだったりするが、いざ身近な人物として現れるとその好感度が脅威度として反転する。好意的だった分理解度が高いから、より詳細にその危険さを理解できると言うべきか。

 

 原作でもそうだが、彼女にとって近衛刀太とは「二年間、最愛の雪姫様の時間を拘束し」「あまつさえそれに甘え」「おまけにずっと一つ屋根の下で暮らしてきた」嫉妬の対象である。その執着ぶりと一気呵成さたるや完全にクレイジーサイコレズの領域だ。雪姫をして「愛が重い」と言われるくらいには激重感情である。とっとと雪姫から離すために九郎丸やらキリヱ(そのうち遭遇するはず)やらをけしかけて雪姫から離そうとする程度にはアレだが。

 彼女を何故そんなに警戒するのかと言えば……。私が原作の近衛刀太ではないからに他ならない。しっかり原作譲りの戦闘センスを持ち合わせて居ようと、私自身は全くもって別人格だと思う。つまり近衛刀太として十全に能力を発揮できない。

 

 すると何が起こるだろう。

 無慈悲な嫉妬と暴力の坩堝に晒されること間違いなしだ。

 

 関係が改善すれば多少なりともマシになるとはいえ、そこもあの刀太だからこそ改善できたものだと思っている。私など、所詮は少年漫画から離れられなかった一般人でしかない。九郎丸は特殊な例として、波長をそこまで合わせられるかの自信がないのだ。

 

 君子危うきに近寄らず。当たらなければどうということはない。身構えてる時に死神は来ないもの作戦だ。

 

「で、夏凜ちゃんさんは何でこんな辺鄙な所に? 地元民じゃないだろ?」

「まぁ仕事と言えば仕事ではありますか。

 ……私の上司、いえ、オーナーが数年ぶりに私の所属する組織の拠点に帰ってくるという話があったのだけれど。そのオーナーがいつまで経っても帰ってこないから、居てもたってもいられず迎えに出てきたの。幸いその連絡が入ったときに一仕事終わった直後だったから、バサゴの足なんて待ってられないし……。

 って、フフ、ごめんなさい? キクチヨ君。勝手に話してしまって。あんまり興味ない話でしたか?」

 

 おそらく私は今、天国でも見通すほどに遠い目をしているはずだ。それを困ってる顔と誤認してか、謝りながらも楽し気に微笑む夏凜である。

 

 つまりはこれも、私のやらかしというか橘の優柔不断さというかが引き起こしたバタフライエフェクト。原作1話開始イベントの時間が伸びた結果起こったことだろう。

 全体がずれた結果として夏凜の仕事のスケジュールに空きが出来、本来なら拠点で待っていたはずの彼女が喜び勇んで迎えに来たという事か。水浴びをしていた理由は正直わからないが、まぁあまり聞いても大した話にはならない気がした。

 

 それよりも恐ろしいのは、おそらく雪姫たちも私を探しに来るだろうということで、方向的に直近で顔を合わせると何が起こるかと言えば……。思わず足が震える。武者震い? そげんわけない、単に恐怖だ。

 

 と、そんな風にストレスにさらされたせいでもあるまいが、ぐぅ、と腹の虫が鳴る。夏凜は私の方を見て少し思案し、ポケットから銀の包装に包まれた携行カロリー食を差し出した。

 

「食べかけでよければどうぞ? 味はともかく、お腹は膨れますから」

「…………あ、はい」

 

 常ならぬほどにニコニコして完全に子供の面倒を見るお姉さんの図であるが。この優しい表情がいつ牙をむいて来るか、鬼が笑う程の時間もかからないだろう恐怖を感じながら私は包装を剥がし、もそもそと食べた。

 

 気分のせいか、味のないジャリの塊でもかじってるような感覚だった。

 

 

 

 

 




※逃げ腰はOSR値が下がることに気づかないガバ


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ST7.BGMの大切さ

感想、評価、お気に入り、誤字報告などなどありがとうございます! ということでちょっとサービスなのかサスペンスなのか回・・・?
 
色々なBGMで話の調子が変わる感じのはずです汗


ST7.Importance Of Back Ground Music

 

 

 

 

 

「13Km(キロ)や」

 

 あまりに衝撃的な事実に思わず私も口調がおかしくなったが、いきなり何が13キロメートルなのかと言えば、秒速がである。夏凜に現在位置を確認した際、不思議そうな顔をして「京都から琵琶湖の方に上ってしばらくしたあたりですけれども」と返された。びわこ、びわこ。数度反芻したものの、私の脳は少々理解を拒んだ。

 もともと私たち雪姫一行、熊本発で福岡を出るか出ないかといったところだったはずだ。

 にもかかわらず私だけそんなエリアまで吹っ飛ばされたのだ。目を丸くするなという方がどうかしている。なにせ私の体感では5秒か6秒くらいしか空中を飛来していないのだ。夏凜の持っていた携帯端末で地図を出してもらい、空中を飛行してた時間を加味して適当に概算したところ、おおよそ秒速13キロメートルで私は撃ち出されていたのだ。音速の500倍は出てないマッハ300前後とはいえ、いくら何でも一体どんな魔法をミスしたらこんな結果になるんだ雪姫!? なるほどそれは服が消し飛ぶのも納得の威力である。

 やっちまったなとかそういうレベルじゃなくスケールが違う違いすぎた。……いや考えればこの後出会うだろう甚兵衛あたりも、二年間くらい平然とオシオキとして地下に監禁されていようが適当に過ごしていたくらいだ。どうにも不死身となった者の時間感覚やら何やらは、崩壊する傾向にあるらしい。

 

 というか九郎丸との遭遇は確か広島とかそのあたりだったはずだから……、我ながら洞察のガバガバ具合に力が抜ける。全然違うじゃねーか! いや、そんな現実逃避はともかく。

 

「どうしたの? どこか打ち身でもして……、あるいは内臓でもっ」

「あー、いや、大丈夫ッス。ちょっと信じるにはまだ早いと言いたい現実に心と肉体が敗北してるだけっすわ……」

「どういうことなの……? どちらかというと頭を打ったかどうかを診ないといけないかしら」

 

 真剣な顔でぶつぶつとそれはそれは真面目にこちらの健康を気遣ってくる夏凜には悪いのだが、いやホントどうしたものか。どうやら夏凜の携帯端末には雪姫の番号が登録されていないらしく(ひょっとして鬱陶しいから番号変えたのか?)、そちらに連絡を取ることもできない。いや、もともと取るつもりもなかったが状況が酷すぎれば酷すぎるほど物事の優先順位は変わるのだ。

 流石に無一文無私物、借り物を返せば全裸の野生児と化すのは色々厳しいものがある。後で再会したら一体どうしてくれようか…………、いやそんなことすれば確実に夏凜がクレイジーサイコレズ(サイド)に堕ちてしまう、八方ふさがりこの上ない。

 

 出来ればこのままずっと頼りになるお姉さんで居てください本当に頼む。

 

 そんな祈りを捧げながら事情を共有すると、さて不死者として雪姫以上の経歴たる彼女ですらも目が点になっていた。仮契約失敗で出てくるスカカードみたいな顔をしている感じだろうか、さもありなん、私もそう変わらない顔をしていることだろう。

 冗談で言ってるわけではないんですよね? と念押しされる。冗談だったら良かったのになぁ、と出来る限り笑った。こころなし涙が流れてしまったが、私は絶対悪くない。

 

 あまりにもその様が哀れすぎたのか、ぽんぽんと頭を撫でられた。

 

「……えっと、気分転換に温泉にでもいきませんか?」

「気持ちは有難く受け取っときますけど、先、急ぐんじゃないッスか?」

「急ぎたい気持ちもなくはないですけど……、流石に忍びないというか。方向も近いですし、それだけの距離を飛ばされたのですから。外見上無傷でも、変なところにダメージが残っていたり、問題があるかもしれませんから。

 身体が無事だから、おそらく魔法的な防御がかかっていたのだとは推測できるけど……」

 

 気遣ってくる力の抜けた笑みが非常に綺麗だ。だがそこにふとした拍子に何かこう、(クレイジー)(サイコ)(レズ)(サイド)に堕ちた無表情にこちらを殺しにかかる姿も幻視してしまって居た堪れない。

 少なくとも近隣……といってもそれなりに距離はあるが、人里まで行けば医療器キットくらいは置いてあるだろうということで、簡易検査も含めて下山することになった。かつては整備されていたろう道も今や面影なく、アスファルトはボロボロで陥没している。ガードレールの感じからするとかつてはあの滝、観光地か何かだったのだろうか。

 もっとも歩きで降りているため、下山する頃には時刻はすっかり夕方である。不死者らしく休みない全速前進でもすればそんなに時間など全然かからないだろうが、向こうは私を一般人だと思っている訳である。いくら運動が出来るような雰囲気と言え、無理はしないでくださいねと気遣いながら、時に険しい道を手を引いてくれたりしていた。この面倒見の良さはどこかこう、元祖ネギま! の大河内アキラを思わせる安心感があり、色々とクるものがある。あるのだが…‥、やはり生命の危機がかかっているせいか、どこか気が抜けず変な緊張をしている私であった。

 

「うわぁ……、温泉街とか初めて見た。全然人いるじゃん」

「こういう観光地は都市部から離れていても、そちらの人間が遊びにくるのよ。……高齢化も一段落したとはいえ、そっちの人たちが多いですね」

 

 行き交う人々は皆浴衣。割合で言えば若年層より老齢の方が多いには多いのだが。少なくとも転生してからとんと村では見なかったほどの人口密集率だ。テレビの世界の話である。もっとも病院施設がなく医療キットを有料で借り受けるくらいしか出来ないのが、現代社会を如実に表しているのだが。

 流石にわくわくお上りさんみたいな顔はしなかったが、変な感慨深さがあった。

 

 かなり高めの温泉宿を一つ「おいでやす~」の挨拶に食い気味でとるなり、夏凜は私の上着を脱がせに掛かった。いや自分で脱げるからと言ったものの、何故か無表情で「何があるかわかりませんから」と強引に引っぺがしてくる。こう、面倒見の良さから派生した危機感に基づく行動なんだろうが、この表情でこの行動力は色々と怖い。原作でもちびっ子に怖がられていた描写があったので、そのあたりは間違いないだろう。

 

「この傷……、かさぶたですか?」

「あー、ちょっと最近やってな。あんまり気にしないでくれ。別に死にはしないから」

 

 軽く流すように夏凜に笑う。……実際これは軽く流してもらわないと、表と裏で傷痕が貫通しているという事実に気づかれてしまうので色々と危ない。夏凜が一体どこまで雪姫から私、というか刀太のことを聞いているかわかったものではないので、わずかな情報も共有させないようにしなければ。

 実際私が軽く応対したせいもあってか、夏凜も気にはしていなかった。がこう、入念に頭とか骨とか腹部とかのスキャンやら痛い所がないかの調査やらをされて、変な気分になる。ちょっとひんやりとした美人のお手々によるソフトタッチは、男子中学生の肉体にはそこそこ劇物だった。時々身じろぎしながら騙し騙ししているが、そのあたり場合によって全裸でも無頓着な彼女は抜けているのかもしれない。

 いや、抜けていたところで彼女本人をどうこうできる相手がそう居ないというのも理由なのだろうが。

 とりあえず簡易ではあるが問題はなさそうということで、私は先行して温泉に。借り物のジャージを籠に置いて軽く掛け湯をすると、わずかに胸元から黒い煙のようなものが漏れ出した。慌てて抑えて深呼吸すると落ち着いたようだが、再生してるようなしていないような状態を保持できないと見るべきか否か……。エクストリームに色々とあったせいで、流石に疲れているのだろうか。そういう意味では温泉は有難い。身も心もリフレッシュされるかどうかはともかく、一人の時間が出来る…………、常に命の危機的な(被害妄想含む)ものを感じ取らないで済む。

 

「はぁ…………、ままならぬ」

 

 湯につかりながら、深い深いため息。表情が死んでいる自覚がある。修行どころではない、色々と精神的にダメージを受けた一日だった。敵(敵ではないが)も一人己も一人ではあるが、色々と躊躇うというか、まずもって絶対勝てない自覚があるのが悪い。人間が気楽に生きられるのは死を知らないからであって、死を知るからこそなお酷く現状に恐怖が湧くというのもあるだろう。

 眠ってしまいそうだ。星空を見上げる。視界の端に軌道エレベーターの柱が伸びているが、それは置いておいて綺麗な星空だ。人口が少なくなったのもあって排ガスやら何やらも減ったりしたからこそ、環境問題も嫌な理由で多少改善されているらしい。周囲を照らすランプ的な照明も、魔法技術の産物だったりクリーンな電気エネルギーだろうと考えると、本当に知らない場所に生まれてしまったのだと改めて思った。

 

 ……それにしても考えたら、雪姫すらいない状態で一人放り出されるというこの状況。転生してから二年ずっと一緒に居たこともあって、実際かなり心細いものがある。寂しくないと強がることはしない。むしろ強がらず寂しいのを寂しいと認められるくらいの精神年齢なのだ。ほう、と遠くを見ながら一息ついた。

 

「カアちゃん大丈夫かなぁ……。まぁ大丈夫なんだろうけど、どっちかというと九郎丸の方が大変かもしれねぇ……」

 

 おそらくだが自分でぶっ飛ばしておいて「急ぐぞ!」の一言と共に、これも修行だと完徹でこちらまで行脚させられてるのだろう。刀太くーん! と悲鳴を上げるそんな情景が浮かんで苦笑い。果たしてその過酷な日々を経由して、その身体は男女どちらに寄ることだろうか……。体力的なことを考えれば男性か? いや確か持久力というか、芯の部分での強さというか生命力は女性の方が高かったか、さてどちらに落ち着くか……。

 

「女性と言えば夏凜ちゃんさんだよなぁ……。なんかこう、フツーにいい人だし、美人さんだし、ずっとああだとこっちも安心して胸を借りられるというか、頼ってしまいたくなるのだが……。流石に甘えがすぎるか」

 

 

 

「…………そうストレートに言われると照れるわね」

 

 唐突に意識の外から声がした。一瞬「きゅっ」と心臓が止まってしまいそうな衝撃に思わず胸の傷跡を抑えて、大慌てで振り返る。

 そこには特に体を隠すものをつけず、少し困ったようなように苦笑いを浮かべる夏凜の姿があった。いくら湯が若干濁っているからとは言え、全身のシルエットがほんのり見えている自覚があるのかこの女!? それでこちらが性欲を持て余したら早々に鉄拳制裁してくるだろうに、どんなマッチポンプを仕掛けてきやがる! 本当は私が刀太だとちょっと気づいてて、あえて殴る口実を無意識に作り出そうとでもしているのか!

 そんな内心の動揺は表に出さないように、局部を隠しながら思わず後退した。いつの間に入ってきた…、っていうか痴女か!!?

 

「いやいやいや、は? いやここ男湯じゃ――――」

「貸切ったわ」

「貸し切り!?」

「ここ、結構値段が高かったもの。一応山を下りてる途中で、片手間にそういう、時間帯によって貸切るサービスがある場所を探しましたから。

 ちゃんと時間も調整してたから、一時間程度は特に問題ないですよ?」

 

 何だその都合の良い設定……、いや時代的にむしろそういった変なサービスでも盛り込まないと客が入らないという事情もあるのかもしれないが、そんな現実認めてなるものかと私の理性が叫んでいた。

 

「で実際、何でその一緒にお風呂って流れに……?」

「キクチヨ君、貴方もっと自分が相当危険な状態にさらされたっていうことを自覚しなさい。ちょっとこっちに来て……、ほら抵抗しないっ」

 

 丁寧語を大きく崩しながら、私は夏凜の膝の上に乗せられ背中から抱きしめられるような配置に。左肩よりほんの少し高い位置に彼女の頭が来る……何だこの拷問? 背中に触る感触やら耳にかかる息やらほんのり甘い匂いやら何やらで鼓動が早くなり、後の色々発覚した際に何が起こるかという恐怖心で更に鼓動がバクバク加速する。

 温泉でそんなに脈拍上げると湯あたり必須なのだが、いくら不死者といえど気分悪くなるだろうとツッコミを入れたい。

 ‥………入れたが最後すべてが終了なので、クリティカルなことは一つも言えないのだが。

 

「あの……、めっちゃ恥ずかしいんスけど」

「私も少しは恥ずかしいですけど、それで気を抜いた瞬間にふっと貴方が倒れでもしたら、やりきれませんから」

「あー、なるほど……。気を遣わせて悪いッス」

「そういう素直なところは、お姉ちゃんは好きですよ?

 ええ、そのまま立派な大人になってください」

 

 大変申し訳ないが神楽坂菊千代という経歴には身の安全のための嘘というか「嘘は言わないけど誤解を招く表現」が多数含まれているので、立派な大人にという言葉は素直に頷けず……。

 

 そうか……、彼女からしてみれば私、刀太というか菊千代は、秒速13Kmで九州から近畿の滝壺にシュウウウウウウウトッ! 超ッ! エキサイティンッ! された一般人の子供なのか……。なるほど確かに、そんな子供が検査で問題なくとも一人で風呂に入るとか、絶対何か事故りそうで気が気ではないか。危なっかしくて目が離せず、監督がてら一緒に入って様子を見るくらいは彼女の性格的にやりかねないか。

 

 その心遣いは嬉しい。嬉しいのだが、こう好意的なフラグが積み重なれば積み重なるほど、後での崩壊時にジェンガが音を立てて崩れ去るような恐怖を覚えるのは決して気のせいではあるまい。気分はちょっとしたデスノ〇トというか古畑〇三郎の犯人というかである。気が重い……。

 

 そんなこちらの心境は判らないまでも落ち込んでるのを察してなのか、ごくごく当たり前のように頭を撫でてくる夏凜である。…………いっそ一度開き直って、この恐怖心が振り切れたらもっと安心感があるのだろうが。色々な要因が現実逃避を許してくれない。まぁそのお陰で生理現象も萎えてきてくれたので、殴られるフラグが一つ減ったと前向きに考えよう。はぁ(クソデカため息)。

 

 その後、頭を洗ってもらったり、背中を流しっこしたり(なお普段の夏凜の背中はシミひとつない綺麗なものだった)を表情筋が死んだまま行った。彼女に言われるがままの挙措なので、我に罪無しと自分で自分を免罪しておく。というか免罪させて欲しい……。

 

 あと流石に風呂を上がるのは時間をずらしてもらえたが、扉越しにじーっとこっちが倒れてないか穴が開くように視ているのを察してしまって、少し息が詰まった。

 

「雪姫でも九郎丸でもいいから誰か助けて……、いやあっちと遭遇したら夏凜のスイッチがオンになるから完全アウトか。現実が手に負えなすぎるな」

 

 とはいえ少なくとも一人で雪姫たちと合流を目指すよりは、二人で向かった方が色々と助かるのは事実ではあるのだが……。考えたら明らかに私、この世界では生活力が足りないのだから、ここはプラスというか、刀太本人の主人公力的なラックに助けられたと思っておこう。

 

 

 

 ……でもひょっとしてこれ、忍と遭遇するのは夏凜とのコンビでになるのか? と。

 うっすら感じるバタフライエフェクトがまた波及しそうな気配に、再び私は深く息を吐いた。

 

 

 

 

 



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ST8.星の尾を逃すな!

評価、お気に入り、感想、誤字報告などなどなどありがとうございます!
 
ちょっと本作の設定というか技(予定)整理とかをしてたのですが、やはりOSR師匠は偉大だということがよくわかります。でもおかしいな、UQとかネギま関係の情報よりOSR関係の情報ばっか整理してる気がするゾ・・・?


ST8.Chase Rolling Star Around!

 

 

 

 

 

 神楽坂菊千代という子供を拾った。

 一見するとヤンチャそうだ。最初はわからなかったけど、少し世間話をしていて気が付いた。その目の奥に、嫌な感情が見える気がする。

 

 私はその目を、良く知っている。ここ十数年ほど仕事柄、多くの地域で色々な人に手を差し伸べてきた。

 もちろんそれ以前からもそうだけど、ホルダーになってからは雪姫様の情報網もあり、より多くの場所を渡り、より多くの人を知り、そして――――。

 

 より多くの子供たちが、その笑顔が、いのちが、この手から「零れ落ちた」。

 

 親を亡くした子がいた。家族を亡くした子がいた。初めから何もなかった子がいた。食べるものがなかった子がいた。尊厳をずたずたに奪われた子がいた。家族のために自分をからっぽに売り飛ばした子がいた。命を奪うことを当然と思っていた子がいた。皆、皆……。

 

 それでも、スラムの子供たちは前を向いている子が多い。今ある状況に、それでも生の活力が勝っている。

  

 そうでないのは、死を、心か身体の死を前にした目だ。

 それと同じだ。この子の目はそれと同じだった。

 

 まるでこの世界で一人だけ、自分以外のだれも信じられないというような、そんな目だった。周りを拒絶することはない、でもどこか踏み込ませない。

 さらけ出すこともない。只一人静かに「そんなものだ」と噛みしめる、そんな目だ。

 諦めの目だ。そして寂しそうな目だ。

 

 十歳かそこらくらいだろう、だんだんと自分が出来てくる年頃だ。

 でもそれにしたって、一体どんな過去があればこんな痛々しい目をするのか。

 飛び抜けて不幸という顔じゃない。今時、不幸なんてそこら中にありふれてる。

 

 でも、それをほぼ完ぺきに取り繕えてしまえているっていうのは、ちょっと、普通じゃない気がする。

 

 救えた子もいた。救えなかった子もいた。救った笑顔と同じくらい、救えなかった笑顔があった。それでも最近は救えている数が多い。それは偏に、救った笑顔を糧に立ち上がってきたから。

 

 だからふとした時、わかってしまった。

 会話してて笑った風の顔をしてる時も、どこか遠くを眺めている時も、その目は、心はずっと遠いところにあるのがわかる。

 遠い所にあって、ここにない――――もう死んでるような、それでも死を目の当たりにしてるような目。

 

 温泉につかっていた時に夜空を見上げていた時の顔。あの時の何もない顔、目。あれがたぶん、キクチヨ君の根っこだろう。

 見てて、そのままにして良い目ではないような気がする。

 

 それもあって、私は彼を放り出せずにいた。

 本当なら早々に雪姫様の下に参上したいところなのだけど……、それでも、せめて少しでもこの無垢な子供が、自由でいられるよう、笑っていられるよう。

 

 つい、少しふざけてしまって、遊んでしまって。ただこの子もどこかで寂しいのだろう。私を邪険にすることはない。

 だから、ふとその困ったような表情が解けた時、素直に喜べた。私も、素直に笑顔が浮かんだ。

 

「――――少しでも元気になってもらったのなら、お姉ちゃんは嬉しく思います。

 子供は無邪気に笑っていられるのが、一番幸せだと思うので」

 

 それに照れたように顔をそむける様が少し心を開いてもらえたように感じて。

 どうしてか、それが可笑しくて笑った。

 

 

 

  ※  ※  ※

 

 

 

 普通に浴衣姿が似合っていた湯上り夏凜やら、割と温泉卓球でも勝負ごとに容赦のない夏凜やら、緊張で味のしなかった夕食に私の顔を心配そうに見る夏凜や、朝起きたらこちらの頭を抱きしめ撫でながら寝ていた夏凜やらといった一連の流れは置いておいて。……置いておくほかないだろう、一体何があった昨晩の私は、というか夏凜は! 私の人格にも刀太の雰囲気にもそこまで猫可愛がりされる要素がどこにもないだろうとツッコミを入れたいのだが、一体全体どうしてこうなった!

 その後、当たり前のような流れで、衣服の新調を夏凜の手で行われてしまった。

 当然経済的な理由が大半である。すかんぴんすらまだマシというレベルで何もなかった私であったが故に、衣服については多少着せ替え人形になりながら色々試された。温泉街を散策したついでにである、明らかに私が気落ちしている様子であるのに気を遣ってのことだろう。

 悪いが半日一人にしてもらえれば立ち直れる自信があるのだが、現在位置が京都であることを踏まえるとそうも言ってられない。慣れない人間を迷子に誘う地形はこの時代でも健在であり、必然私は夏凜から離れられず、手を繋がれていた。完全に迷子になる子供扱いである。仕方ないと言えば仕方ないのだがどんな顔をして良いかわからない……、命の危機的な意味でというか、揺り戻し的な意味で。

 だが人間恐ろしいものだ、意外と緊張状態は解けて来てる自覚がある。……解けているというよりは、開き直ってるというか居直っているというか、死を目前とした小動物が捕食者を噛みつく勢いで威嚇してるような心境というか。どうにでもなれ! でもなってほしくはないなぁ……くらいの意志薄弱さであった。

 

「ふむふむ……、キクチヨ君カジュアルな感じは似合わないかしら、意外と。見た目はヤンチャそうですから、もっとファンキーな感じに……」

「いや京都の呉服屋でファンキー狙うのどう考えても場違いすぎるから。っていうか似合わない禁句ッスよー」

 

 ……あと野郎で着せ替え遊びなどしても楽しくもないだろうにと。その話を聞けば「意外とリアクションが良いので」と微笑まれた。

 

「なんだかんだ言って逃げませんしね、貴方。気質もあるのでしょうが、そういう付き合いの良さ、みたいなものは育ちが大きいと思いますから。良い両親なんですね」

「あー、はは……」

「?」

 

 どこまで情報を公開しようかと少し思案したが、何か察したのか労わるような顔をして、すっと頭を撫でられた。……別に撫でられたからってポッと惚れるようなことはないのだが、ホントにこの人との接触は、気恥ずかしいやら薄ら寒いやらである。

 その後二転三転して、結局最後は私好みということで落ち着いた。星のあしらわれた黒い和服……、ちょっと読み切り版〇LEACH(オサレ)めいているが、どうせ合流したら学生服に戻る流れだろう、今だけは全力で遊ばさせてもらいたい。

 どうせそのうち後で夏凜ちゃんさんから「人様の金でずいぶんと楽しかったですねぇ近衛刀太……!」とでもブチ切れられるだろう予想はついている。

 

「あざーっすわ夏凜ちゃんさん。マジで命の恩人というか、そういう感じです」

「どういたしまして。……やっと笑いましたね」

「へ?」

 

「こう、眉間のあたりがずーっと困ったように寄っていたというか。何かはわかりませんが、分かりやすく思い悩んでいるように見えたもので。少しでも元気になってもらったのなら、お姉ちゃんは嬉しく思います。

 子供は無邪気に笑っていられるのが、一番幸せだと思うので」

 

 ……………………。

 

 そもそもの原因は夏凜だと言えば夏凜なのだが、そうストレートに嬉しそうに微笑むの止めろ! 一連の出来事を踏まえて刀太というか中の人の私を堕としにかかるな! そういうのは原作主人公が貴様相手にやってることだろうが!(混乱)

 いや、もしかすると逆か? 逆なのか? 私自身が夏凜から一定の距離を置こうと警戒しているせいで、原作補正というか世界の修正力的な何かが働いて夏凜の方から距離をつめてきているとでもいうのか? 好意の反対は嫌いでなく無関心という話もあるし、原作展開を考えればこれの行きつく先は……。

 

 いや、そんな上手い話がある訳はない! そもそも私自身、既に果てしない不死身坂を上り始めさせられてしまっているのだ。そんな希望的観測はナンセンス極まりないだろう。

 今考えるのは止めだ、こんなことずっと考えてたら頭がおかしくなる。警戒、警戒、色々な意味で警戒を忘れてはいけないのだ。戒め続ける他ないだろう。

 

 ……まぁその後、テンションが狂ったまま散策を続け、最終的に赤いマフラーと古来からの修学旅行名物・お土産の木刀(大体先生に怒られる奴)を入手した私である。マフラーは完全に趣味だが木刀は実践的な理由もあっての購入だ。これについては夏凜も「扱い慣れてる武器なら、それが良いのでしょう」と普通に購入してくれた。

 かくして多少なりとも装備が確定したのだが、京都を出て私たちは南下……というか広島方面を目指す。理由としては一応、私が福岡から飛ばされたという話をしていることと、もう一つ。

 

「……何っすか? そのドラゴ〇ボールでも探すみたいなレーダーみたいなアプリ」

「レーダーじゃなくて、GPS探査アプリですよ。大分古いのだけどウチの新入りからもらったので。どうしてか不幸な事故が重なったのか、あのお方の連絡情報が一切なくなってしまったので、携帯端末に紐づいてる情報だけでもと思いまして。そこからまず捜索しようかと!

 嗚呼、早くそのご尊顔を目に焼き付けなければ……! しかし何故未だ山口にもさしかかっていないのか……」

「…………あー、はい」

 

 言いながら悩まし気に、体をクネクネさせて変なテンションで語る夏凜である。初めて間近で見る原作的な雪姫大好きムーブ、しかも本人がいないせいかタガが外れた仕草は、ちょっとキモかった。そんな心無い感想はおいておいて、ともかく。雪姫たちとの合流と、このデコボココンビの解消は存外早く来るかもしれない。

 あとそれはそうとして、ひょっとすると忍との遭遇はスルーされてしまうのでは……? いや居なくても本編的に大きく影響はしないかもしれないが、でも原作最終局面と最終回を踏まえるとそれはかなり危険な原作破壊の可能性が……。

 悩む私の姿など目にもくれず、夏凜は自分の世界に入ってその場で延々と雪姫語りというか妄想の垂れ流しをしていた。

 

 

 

  ※  ※  ※

 

 

 

 さて何日かかったことか。体感では一週間もかからず広島に差し掛かる勢いだ。明らかに行軍速度がおかしいだろう。これについてはどうも、私が寝ている間に夏凜がおぶさって延々歩き続けているのが理由らしい。休みなしとは言わないが、かなりの無茶である。夏凜自身そういう系統の不死身ではないので、スタミナ的には結構大変なはずだが……。

 

「お姉ちゃん、鍛えていますので」

 

 さもありなん、無表情ながら得意げに口が笑ってる。と、そんな風に数日、時折身体を労わられながら(あと慣れない和服の着付けを携帯端末で見せてもらい学びながら)ときに人工道を、時に獣道をかきわけ歩いて、たどり着いた広島と山口の境近くである。

 なおここまで不審がられないよう、修行やら鍛錬やら瞑想やらは一切行えていない。お陰で体がなまるというか、逆に体が元気すぎて気持ち悪い。ただそういう理由は語れず「何か寝付けなくて」などと言おうものなら、早々に「寂しいのですか?」とか言ってそっと抱きしめて頭を撫でてきて寝かせようとしてくるので、正直困る。そういうのじゃないと言っても彼女の中で「そう」だと結論が出てる以上、こちらの言葉は強がりにしか聞こえないのだ。一体何がどうしてこう甘やかされているのか。後に特大の地雷が仕込まれているというか、未だに拡大中というか……。

 

 い、いや、怖い話は置いておいて。流石に現在位置まで全く二人に遭遇せず来ると、流石に違和感がある訳だが……。それは夏凜の方も同様であるらしく、携帯端末とにらめっこしながら膝を抱えている。

 

「あー、夏凜ちゃんさんどうしたっスか?」

「聞いてくれます? オーナーのGPS情報が取得できなくなってしまって……。一体どうしたのかしら」

 

 それは貴女が面倒くさがられてるからでは、という説が一瞬脳裏を過ったが口にはしない。流石に数日一緒に過ごしていたのだ、いきなり殴られるようなことはあるまいが、こっちもいくらか気を遣うようになっている。それは生活的な態度はもちろん話題についてもである。あくまで無関係である私と会話を繋ぐためなのだろうが、色々ギリギリボカしてるようなボカせてないようなUQホルダーの話がポンポン出てくるので、色々ヒヤヒヤものだ。

 

 窮地を助けてくれた男(おそらく獅子巳(ししみ)十蔵(じゅうぞう)だろう)が何でもかんでも斬って物事を解決しようとして放浪先現地でよくトラブルを起こした話だったり、オーナー (雪姫)との感動の再会の話だったり、キャラが被ってるようないけ好かない顔をした新顔が居たり(おそらく源五郎パイセンか)旧知の仲の男がよく倉庫の品を無断拝借して雪姫にオシオキを喰らっている話とか(これは甚兵衛だろう)。

 

 ここでポロっと原作でも出てない話が来たり、あるいは私がガバを起こして正体以前に何故それを知ってるという話になりかねない情報を出しそうになったりしないか、という形である。ただ明らかに雪姫の話をし終えた夏凜のテンションは高く、たまーに私をお姫様抱っこして(!)スキップスキップしたり、数分して「でもやっぱりどこなのでしょう……」と落ち込んだりと……。

 

 まぁ面倒くさい人だ(語弊)。

 

「でも真面目な話、ひょっとしてですけど入れ違いとかってありません?」

「入れ違い? ……ええ、確かにあるかもしれませんね。鳥取側を回ってならお互い反対に行っても不思議ではありませんか。

 しかしそうなると打つ手が……。やはり位置情報が欲しいです……!」

「願っても降っては来ないんだよなぁ……」

「ほら、キクチヨ君も祈ってください! 位置情報、位置情報……!」

「何に祈れって話っスか!?」

「んー……、インターネットの神様? いえ精霊……、妖精……?」

「めっちゃ疑問形ッスね……」

 

 というかそれに該当しそうな人物が一人UQホルダーに在籍していたはずだが……? そういえばこの時期だと一応あっちは新人扱いか。夏凜とそこまでお互い親しい訳でもないのかもしれない。

 まぁこれも付き合いと言えば付き合いだ。私も手を合わせて、むむむ、と何かに祈る……、何に祈るべきか? ここは夏凜と正反対の神にでも祈るしかあるまい。なにせ彼女のそれが達成されるということは、すなわち私の命の導火線が一歩また縮まるということに他ならない訳で……。

 せめて原作ブレイクをこれ以上起こさないように起こさないように起こさないように起こさないように起こさないように起こさないように起こさないように起こさないように……、いやもう、だいぶ玉突き事故のごとく展開が崩壊していて、この調子だとこの後も延々影響が出るかもしれないと思い始めているが、それはそうとして起こさないようにと祈るほかない。あまりに原作から展開が外れ過ぎたら、未然にトラブルを予測しておくことも難しく、つまり死ぬ(死にはしないが)。つまり痛い(確定)。痛いのは嫌だ、痛いのは嫌だ、痛いのは――――。

 

 

 

「――――っぉ、わ、わああああああああああああああ!!!!」

 

 

 

 と、そんな祈りが通じたのか通じてないのか。少女らしい声が聞こえて、私と夏凜は共に顔を上げる。視線は上空、なんだか飛行機雲みたいに延々と回転している……何だアレは? 目を凝らすと飛行バイクのように見えるが動きすぎて焦点が定まらず、細かくは見えない。

 

「可愛い声ね」

「へ?」

「女の子が助けを求めてる声がしたのだけれど、さて……」

「って、おぉっ!!?」

 

 す、と収納アプリを展開して、剣を取り出す夏凜。日本刀かと思えば両刃だし、鍔のところが平たい独特の構造。見ればそれが十字架を表しているのがわかるが、なるほどこれを構えた無表情の夏凜は初対面の時に鳩尾を蹴り飛ばした時よりも「戦士」らしい顔をしていて――――。

 

「来るわよ、キクチヨくん!」

「へ? あ――――」

 

 どいてくださーい! という絶叫と共に、飛翔体だったバイクらしき何かがこちら目掛けて飛んできていた。見ればエンジンがごうごう変な音を立てている。このままだと向こうは私たちの場所に激突コース、当たっても当たらずとも三人まとめてそのまま手前の海外に横たわることになるだろう――――。

 と、夏凜はぶつぶつと呪文らしき……聖書の引用? を唱える。身を助けるとかどうのこうのと聞こえた瞬間、叫びながら剣を袈裟斬りのように一閃――――。

 

「――――“霊の剣(スピリトス・グラディウス)”!」

 

 瞬間、鳴り響いていたエンジン音が止まった。と思ったら座席部分とエンジン部分が分離し、前後で変な回転をしてバラバラ、少女が投げ出され……ってまずいだろ!?

 

 夏凜も別に手をこまねいている訳ではなく、少女を受け止めようと動こうとしたのだが。

 タイミングというか……、位置的な問題で、その少女は私目掛けて飛びつくような形で落ちてきた。

 

 げふ、と息が漏れて、勢いのまま背中から倒れた。頭痛っ! 絶対状況次第じゃこれ脳震盪か頭蓋骨潰れてるぞ止めろこういうアドリブ! 速度重視したい以上そっちの方面での能力を上昇させるつもりはさほどないんだ、痛いのを私に強制するなこの世界!(威嚇)

 刀を取り落として「キクチヨ君!?」と駆け寄ってくる夏凜。私は私で他に大きな損傷がないかを確認しつつ、腕の中の少女を見た。

 

 短めの髪、ボーイッシュながら可愛らしい顔。どこか小動物を思わせる雰囲気で身長がおおむね私と同じくらいで……。というか雪姫にぶっ飛ばされたときに見覚えのあった顔だ。

 

「しの…………、シ〇ビラー?」

「いっ……、へ?」

 

 ごまかしにしては酷い発言が飛び出たがそれはともかく。まさか回避されるかと思っていた原作二話で遭遇の「結城(しのぶ)」である。夏凜や九郎丸もそうなのだが、こっちが動かなかったり違う場所にいる場合はそっちから来るのか!? やはり存在するのか原作の修正力!!? ということは真祖「貴族」の下での修行で私は…………。

 

「痛いのは、嫌なのだが」

 

 何が待っているか予想したくない、地獄のような「死にまくり修行」を幻視し、その未来に怯え私は気絶した。

 

 

 我ながら貧弱な精神であるが、実際何度も死んでるのでどれくらい痛いかを知ってるのだ、それくらいは大目に見てもらいたい。これも誰に対する懇願なんだか……。

 というか、あれ? ひょっとしてこの私の話も師匠(まだ遭遇すらしてない)に見られて……?

 

 

 

 

 




(ニタリ)


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ST9.さらば、おやすみ

評価、お気に入り、感想、誤字報告などなどなどなど大変ありがとうございます!


ST9.See You Again SHINOBU, See You Around KIKUCHIYO

 

 

 

 

 

「結城、忍です」

「って、あら? 私と同じ苗字ね。結城夏凜よ」

「夏凜さん……、キレー……」

「っ」

「あーホラホラ緊張して顔固くすんなって夏凜ちゃんさんも……。で、忍は一体――」

「ってわー! わー! 唯一残ってたボディフレームパーツが真っ二つ!? わー!」

 

 どんな手法を使ったのか夏凜の手で一瞬で覚醒させられた後、自己紹介もほどほどに。

 夏凜が破壊したバイクというかスクーターの残骸を前に、忍は放心状態になった。命の危険があったから仕方ないと言えば仕方ない所はあるのだが、どう声をかけたものかというところだ。私でさえこうなのだから夏凜に至っては表情が完全に無表情となっており、どうしようもない有様である。

 

「……あの、でも、助けてくれてありがとうございます」

「あんま無理しなくていいから、な? 事情わかんないけどたぶんアレだろ? スクラップの廃材か何かで組んで試運転みたいなのをしてたっていうか、たぶんそんな感じ」

「う、うん」「……意外と鋭いですね?」

「でも弁償じゃねーけど、代用品くらいは何か考えないといけないよなぁ……。夏凜ちゃんさんもホラ、手伝って」

「わ、私もですか!?」

「その、無理は、しなくていいです、あは……」

 

 覇気のない笑顔が痛々しい……。一体どうしたものか。流石に夏凜ちゃんさんの手で新品のパーツを買いそろえるのはちょっと厳しいというか、そこまで依存するわけにもいかないだろうという理由がある。

 そんな訳で向かった先は海岸手前、違法投棄された資材やら機材やらがごった返している所である。ここなら何かフレームくらい見つかるだろうとタカをくくっている。道中で事情を聞くと、どうやらレース用の飛行エンジンの試作というか組み込みでどれくらい動くかを検証してみたらしい。エンジンパーツについてはいくつか手持ちがあるらしく、収納アプリから物を取り出していた。

 

「それ全部、違法投棄されたものですよね。安全性は大丈夫なのですか……?」

「なので、実際どれくらい動かせるかっていうテストしてたんです。一応ぱっと見て、動くのはわかったんですが……」

「出力がやべー感じだったと。いやぁしっかし、スゲェわ忍。俺も友達にそういうの詳しい奴いるけど、フツーにそいつと同じかそれ以上にできてる気がする」

「や、やめてよ、チビのくせにっ」

「身長そんな変わんねーじゃん……っと、確かに髪は無神経だったか。悪ぃ」

「むぅ……」

 

 思わず頭をいい子いい子してしまったが、ちょっと心がささくれてるのか、忍の口調がトゲトゲしい。一方夏凜は子供同士の戯れを見ているようで微笑ましい目をしていたが、忍が視線に気づいてちらりと見るとムッとした顔になってしまう。人見知りする猫か何かでいらっしゃって? まぁ私は初対面からアレで多少慣れたのもあるかもしれないが、基本的に子供には怖がられやすい人ではあるから、ちょっと緊張してしまうのはあるのだろうが。

 しばらく探してると運が良いのか、廃材で大きめの飛行バイクのフレームが見つかった。大体大人二人乗り、これは観光地での遊覧用か何かだろうか……。他に見当たらないので、それを元に修復を実行することに決めた。

 先ほど破壊されたパーツを収納アプリから再度取り出す。外装を工具借りて二人で手分けして分解し、ニッパーやらナットやら何やらで基盤とか駆動パーツやらを取り外した。

 計測器で抵抗値やら何やら測りながらああでもないこうでもないと話す私たちに、夏凜は興味はありそうだが声をかけるにかけられないらしい。

 

「けっこうわかるじゃないですか!」

「いや、分かるって言っても全然素人ですらないレベルだし……」

「それでも、みんなよりはお話できる」

「…………」

「えーっと、これ……たぶんアレだな、サイズは合ってたけど、飛行用のエンジンだろ? 水陸両用のやつ。だから規格というか出力がヤバかったんじゃないかなぁ」

「出力……、爆発でもするのですか?」

「それはないかなって、思います。夏凜お姉さん。さっきの時点で火を噴いてはいなかったので……」

「俺もあんまり詳しくねーけど、んー、アレじゃないか? これはエネルギー少なくてもめっちゃパワー出る奴だから、この本体の重量とか制御装置だと動かすのにパワーがスペック超えててヤベェみたいな」

「バカっぽいけど、そんな感じだと思う」

「いやストレートだなぁ!? 見た目があんま勉強してなさそうってのは、否定はしねーけど」

「あっ! そうじゃなくって、その、言い方がってことで、うん」

「あー、頭悪そうな言い回し、みたいなことか」

「うん、そう……」

 

 だんだんと忍も慣れてきたのか、笑顔が浮かんできて何よりである。夏凜もほっこりしてるが、専門用語が飛び交いだすと目を白黒させていた。さすがにメカニック系の話は専門外か。

 とはいえ自己申告済だが、私もそこまで得意なわけではないので偉そうには言えないのだが。せいぜいが熊本時代、野輪から色々聞いた雑学やら模型作成やら実際のパーツいじりを横で見ていたくらいのぺーぺーである。なので出来ても言われた通りにパーツを配置したり組み合わせてつなげたりと言った程度で……、流石に今横で忍がやってるように、回路図やら仕様書やらをダウンロードして展開し、時に半田ごてとか取り出して接着したりといったところまでは網羅しきれない。

 というか動きが凄い早いというか迷いがない。基本この子はフツーの女の子な印象ではあったが、原作でも機械いじり関係スペックは確かに高かった。とはいっても実際の工作を見た訳ではないので、どれくらいかは不明だったのだが……。

 

 丁度お昼を過ぎる頃には修理も完了し、路面を走らせることが出来そうな程度にはなった。とりあえず思ったのは、さっきのスクーターもどきだとエンジンメーターの表示と実際の出力が一致していなかったのが根本的な原因っぽいくらいか。初歩的なミスの話だが、初歩的すぎて頭が回ってなかった様子である。

 

「ありがとうございました。二人とも。その、何もお礼ができなくって……」

「いえ、命が無事で何よりです。何でしたら送っていきましょうか?」

「流石にそこまでは。それじゃあ、大分に来たら何かお礼を……?」

 

 エンジンをふかしている忍だったが、不思議そうに頭を傾げる。もっとも「気のせいかな?」って顔をしてハンドルを回し、公道に向けてバイクを走らせ――――って、いやいや、早いぞ? どうした、忍が慌ててる。と思ったらハンドルが再びあらぬ方向に向いてしまい、高速で蛇行し始めた。

 

「あれは拙いのでは? ……やはり壊すか」

「って、待った待った待った! 理由はわからないけど、今度こそアイツ落ち込んで立ち直れなくなるって絶対!」

「しかし、人命に替えられるものではありませんし……」

 

 原作の、忍が「アレ」にかける夢の大きさを知っている身としては、出来れば両方ともどうにかしてやりたいところである。というか流石にここで足が無くなると忍も帰るに帰れないだろう。私はともかくとして、準備も何もしてなかったあの子に一日二日ずっと歩きっぱなしという、退屈かつ体力を強いる状況は厳しいことこの上ない。アプリで次の電車も確認してるので、次の時刻と比較するとおそらく歩いた方が到着が早い事情もあるし、あっちもあっちでせいぜいがお小遣い程度しか持ち合わせが無かろうから寝泊り数日も厳しいだろうし。

 へ? 夏凜に二人そろってお世話になれと? 一体それでどんな原作ブレイクが引き起こされると思っているのだ、これ以上アンコントロールさせるんじゃないいい加減にしろッ!(威嚇)

 

 右手を顔の横に一瞬持ち上げ、開き、そして心臓のもとへ。傷痕を抑え、わずかに感じる「自動回天」から、血と魔力を意識する。

 大丈夫だやればできる。今のうちにできるようにならないとこれから遭遇するだろう師匠(未遭遇)相手に大変なことになるのが目に見えているので。痛いのは嫌だと気絶した自分が幻視したそれはもうあり得るだろう酷い修行のオンパレード(ジェットコースターで下半身ぷらぷらしてるような映像とか)を思い浮かべながら、自分自身に危機感を煽る。……いけるいける、大丈夫、大丈夫。ちょっと首筋が寒くなって嫌な汗をかいてきた気がするが、まだ平気――――。

 来た! 現金な私の生存本能が刺激されて、血と魔力が和服の下を通って靴の裏側に一枚、薄い板のようなものを形成する。これならいけるだろう、なんとなくの理屈はB〇EACH(オサレ)の方で説明されてるのはわかってる。使用する材料が空中に漂う霊子(オサレ)でなく私自身の血というだけだ。

 

 ただそれを、出来る限り瞬動術っぽく見せる、カモフラージュする必要はあるのだが……。出来て直線距離だな、上方に移動するのは絶対バレるし、そもそも虚空瞬動についてはまだ九郎丸から聞いてないので理屈もわからない。

 

「要はエンジン止めて、ハンドル回せばいいわけだ。ちょっと頑張るから、失敗したらフォロー頼む!」

「いえあの、キクチヨ君は一体何を―――!」

 

 やったこととしては、つまり飛廉脚(オサレ)である。自分の意志で動く足場を形成し、それをコントロールして自由自在に移動するというものだ。ただクラウチングスタートからのダッシュでそう見せてるので、出来る範囲としては直線距離が限界である。

 とはいえ流石に血風と違い「命を奪う可能性が低い」使い方だ。私の目論見はぶっつけ本番にしては上々。おそらく「疑似」吸血鬼的な身体能力も発揮されたのか、ほぼ一瞬で想定通りにバイクの所まで移動できた。

 ……少々勢い余って通り過ぎてしまったが、それでもハンドルを必死に切って事故を回避しようとしてる忍の顔が見える程度には、近い距離に来た。

 

「あ、君!」

「ちょっと待ってろ!」

 

 忍の左手を覆うようにハンドルにつかまり、そのまま無理やり搭乗する。無理に制御している忍のそれを手放させ、こちらが主導権を握る。

 加速自体はしていない、速度は一定が出ている。そのまま公道に一度出るが、周囲に他の車はいない。

 

「とりあえず鍵外せば何とか……、って抜けねっ!?」

「その、デジタルタイプだからロックが……」

「あー、もう! こういう時にアナログじゃないのが恨めしっ、エンジンもマニュアル切り替えじゃねーし!」

 

 幸いブレーキは反応しているので、思い切り切る。速度がだんだんと落ちていくが、しかしそれでも夏凜との距離がどんどん離れていく……。

 結局止まったのは県境を超えて、公道を飛び出し砂浜手前である。横転したバイクから投げ出された忍を庇いながら、二人して転がった。

 

「あ……っ、す、すみません!」

「いや、まぁ大丈夫。あれ……二人で乗ったら姿勢は安定したから、何だろう。バランス崩してエンジンいっぱい吹かせちまったのはなんとなくわかったんだけど」

「たぶん、姿勢制御とかの回路の数値がおかしいんだと思います。最低重量の閾値が高すぎたのかなって……」

 

 推測交じりの会話を交わしながら、立ち上がりキーを抜く忍。

 

「ま、失敗は誰にでもあるってことで! とりあえず大事なくって良かった良かった。

 ……って、どうした?」

「…………こんなんじゃ、全然ダメだ……」

 

 何がだよ、と促すと。地面に座り直し、忍は話す。軌道エレベーターの上の向こう、宇宙の先。そこでいつか、太陽系を一周するのが夢だと。

 

「太陽系オリンピックなぁ。いーんじゃね? 夢でっかくて」

「なんか、興味なさそう。えっと、君……」

「あー、名前言ってなかったか? 刀太って言うんだけど。

 悪いなぁ、あんまりスポーツとかそこまで興味はないんだ。メカとかいじったり見たりするのは好きなんだけど、あくまで趣味の範疇というか」

「やっぱり、無理だよね。皆そう言うし……」

「いや? 別にそうは思わないけど」

 

 意外そうな顔でこちらを見る。何だ、馬鹿っぽいとさっき言っていたがそういう風にへらへらと初対面の相手も馬鹿にするような雰囲気が漂っているのか私。夏凜のことは割とボロクソに面倒くさいと内心形容しているが(集約)、伊達に夢追い人を四人も友達に持っていない。それに……、夢追い人には、持論もある。

 

「俺、すごい仲良い友達四人いるんだけどさ。そのうちの一人、歌手になるのが夢なんだ。世界的にめっちゃ有名になる感じの! 全盛期のQUE〇Nとか目じゃない感じの」

「は、はぁ……」

「でその最終目標ってのがさ。地球をバックに衛星軌道上、開会式とか閉会式で一千万人を目の前に歌う。もっといえばテレビ中継されてる全世界に、自分の歌を届けたいって言うやつ」

「それは……、大きい、ですね」

「だろ? で、それを自分の店で、あーでもないこーでもないって中継見ながら、お客さんとか友達とかと話して楽しみたいっていうか。そんな感じのが、俺の夢」

「お店……?」

「喫茶店か何かがいいんじゃないかって思ってる。だからさ、そこで忍が火星とかをバックに走ってる姿だって見ることが出来るかもしれない。もちろんそうじゃなくって、俺の店にお客で来てるかもしれない。一緒に映像見ながら、駄目だったなーとか出たかったなーとか、悔しいなぁとか、そんなこと言いながらさ。

 でも、どっちにしてもそういうのって、大事だと思うんだよ」

「大事……」

「まぁインドのスゲーお偉いさんというか、昔の偉人さんみたいなくらいまで突き詰めたことは言えねーけどさ。それ言っちゃうと俺、割と逃げてばっかだし、その場その場で流されてるし、生活力もまだまだ全然ないし、十二歳より昔の記憶もとんとねーけど。それでもさ」

 

「生きるってさ……、自分の人生を生きるって、そういうことじゃん?」

 

 忍は、目を見開いた。大したことを言った覚えはない。ただ単に、右往左往するのも、自由も不自由も、それも人生だというだけだ。

 原作ならガンジーの引用でもするところだが、生憎と私はそこまで切羽詰まって人生生きてきた覚えはない。ひたすらに逃避と明日もまた生きることが出来るだろうという怠惰が精神を支配している自覚がある。修行してるのだっておそらく悟〇さ(修行のプロ)に言わせれば「好きでもねぇことを無理にさせるのは本当の修行じゃねえってオラ思う!」くらいは言われそうな感覚で取り組んでいるところがある。

 ただそれでも、それでもいいと思うのだ。だって人生ってそういうものだろう。もちろん初めからどうせダメだと諦めるということじゃない。もちろんそれも否定しないけど、でも、そういう一つ一つのエピソードが、歴史が、それを踏みしめるのが人生なのだ。

 

 だから、自分の意志を強く持って、夢に向かって歩くそれを、一体だれが否定できようか。

 

 しいて言うなら、そういう相手と一緒の時間を共有して、話したり、感情をぶつけあったり、慰め合ったり、懐かしみ合ったり。悔しがったり、楽しがったり――――そういったことが、生きてさえいればできるそういったことが、好きなのだ。

 

 語彙が足りないからうまく説明できないが、そんなことを忍に苦笑いして語った。

 心無し元気が出てくれたようだが、すっと私の手をとったのは一体何なんだろう。

 

「……ありがとう、ございます、刀太センパイ! ちょっと、決心ついたかもです!」

「お、おお? おお」

 

 琴線に触れたのか、だいぶ懐かれた感があった。いや、多少は慰めるのを意識していたとは思ったが結構突き放したような物言いでもあったと思うのだが……。これはどちらかと言えば、忍本人のなかでもある程度決心がついていたということの表れだろう。後を押したというより、行っていいんだ! と言ってもらえたことが嬉しかったと見える。

 

 その後、夏凜が走ってきて合流し。今度は三人で乗ったりしてテストしながら安全性を見た上で、連絡先を交換してから忍を見送った。夏凜からは「苗字もそうですがこれも縁ですし。都で働き口に困ったら、ここを頼ってください」と名刺を手渡していた。

 

「はぁ……。なんか疲れた」

「ええ。私も驚きました。まさか未完成とは言え瞬動術を使えるとは……」

「一応修業的なのはしてたって言ったろ?」

「いえ、その話もどこまで真実かわからなかったのもありますが。っと」

 

 ぐらりと倒れる私を背中から抱き留める夏凜。これはアレだ、数日ずっと使ってなかったせいで、金星の黒と血の使用によって軽く貧血を起こしている感じか……? 再生力がなまってると言えばなまっているのか、飛廉脚(オサレ)もどきの使用で使った血が戻っていないのか。

 

 と、ぼうっとしていたら頭の後ろが妙に柔らかくなり、夏凜の顔が逆さまに映る。というか頭上に見えるのは下から見た夏凜の制服の校章で、これはつまり……。

 

「……膝枕?」

「疲れているようでしたので」

 

 ところで、と夏凜は私の頭をなでながら、顔を覗き込み。

 その表情は一片の感情も読み取れない真顔で。

 

 

 

「――近衛刀太」

 

 

 

 思わず反応して目が開いてしまった。

 

「さきほどあの子とのやりとりで刀太(ヽヽ)と呼ばれていました。ひょっとして、アレですか? 雪姫様と二年間もずーっと一緒に暮らしていた羨まし……、いえ身の程を弁えていない子供の名前だと聞いていますが。

 どういうことですか? それは事実ですか? キクチヨ君?」

 

 金縛り、蛇ににらまれた蛙ではないが。息が詰まり、身動きが取れない。そんな私に今まで見たことも無いような綺麗な、そして感情の乗ってない満面の笑みを浮かべた夏凜は、再度問いかける。

 というか、違う、これは私がつい忍を元気づけるために気を抜いたせいであって、別に何かが悪かったわけではないだろうというか、私は悪くねぇ!?

 

「何故偽名を名乗ったのですか?

 キ ク チ ヨ く ん ?」

 

 真実って言葉は、命を刈り取る形をしているだろう?(錯乱)

 

 

 

 

 



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ST10.雨のように泣く

ちょっと今回推敲甘いので、後で改稿多発するかもしれませんがスミマセン汗


ST10.Tears Like Unstoppable Rain

 

 

 

 

 

 いや知らないし、というのがまず私の口から出た言葉だった。

 大前提として私と夏凜とで、雪姫を中心にした情報共有は行われていないのだ。この一言で状況を整理する時間くらいは稼げるだろう。実際その判断は正しかったらしく、夏凜は数秒思案してくれた。

 もっともその後、食い入るように私の目に向けて自分の目を近づけてきたのだが。距離感近いの止めろ! ヘンな動悸がするわ。

 

「知らない、とは? 雪姫様から何も聞いていないとはどうい―――」

「近い近い近い近い近いから! 身じろぎしたらデコにチューしちゃう距離だから!」

「あら、これは失礼」

「……って、雪姫って、いやカーちゃんの話だったのか? 話しぶりからしてさっきのオーナーって…‥。全然知らないんですけど夏凜ちゃんさん」

「夏凜ちゃんさんは止めなさい、近衛刀太。それにしても、母ちゃん……?」

「えっと、俺、一応二年間、雪姫の養子だし」

「詳しく聞かせてもらいますよ、近衛刀太……隙を見て逃げようとしない! というより何故偽名を!?」

 

 言いながら私の顔面を両手でロックして覗き込んでくるこの威圧感。無表情に渦巻いている内心が全く読めない。好感度というかがどれくらい今CPL(クレイジーサイコレズ)(サイド)に堕ちているか不明であり、首が、寒い。ねじ切られそうな恐怖感が強い。とはいえ膝枕のまま首を絞めにかかってこないあたりは温情措置とみるべきか裁判中と見るべきか、どう判断したものかというところである。

 一応さっきの忍との途中会話から、私が二年前の記憶を失っていることも把握はなんとなくしたらしく、その後についておおまかに。どのあたりまで話すべきか迷いながらだが、おおまかにこれまでの経緯をざっくばらんにと伝えた。……偽名については知らない人相手に咄嗟の判断だったとしたが、実際鳩尾一発した負い目があるのか追及はされなかった。

 

「ふむ、つまり……、その九郎丸という()も引っ掛けたと?」

「いや、九郎丸という()は普通に友達なんッスけど……? 引っ掛けたって何、普通に男っスよ?」

「いえ、なんとなく口ぶりからそんな感じがしたのだけれど、気のせいだったかしら……?」

 

 ひょっとしてそれってば、カンの良さ的なのじゃなく私の九郎丸に対する表現にガバがあった的な話かこれは? まぁ良いわと流してくれたので追及はされまいが。その間ずっと瞬きせずに私の目を見つめてるんだか睨んでるんだか数分経過し(怖い)、ようやく頭を上げた夏凜である。

 

「ど、どうしました?」

「…………あー、デッドロックです。頭がぐわんぐわんします」

「はい?」

「怒りというか、悲しみというか、喜びというか、色々な感情がカクテルされて、珍しく私の心が溺れています。どう判断を下したものか。

 それに…………」

 

 こちらをちらりと一瞥し、何やら思案する夏凜。無表情が解けて少し気が抜けてるように見えるが、口調が完全に丁寧語一本で警戒度自体は上がっているのだろうか……。まぁキリヱとは別ベクトルだけど貴女けっこうクソ雑魚メンタルなところあると思いますよ? と。思いはしたが何も言わない。

 がスパーン! と上からデコピンを一発かまされた。

 痛いんスけど!?

 

「失礼、何かぶしつけな視線を感じたもので。

 …………こういう時は、雪姫様にならいましょうか。いわゆる」

「ならいましょうとは」

「ケジメというやつです」

 

 私の肩をもって起こし、対面に向かい合い。

 

 

 

「一つのケジメとして、これまで私たちの間に培ってきた感情や、私や貴方がそれぞれ抱いていた感情を全部整理します。つまり―――― 一度殺し合いましょう。それで今までの関係はリセット、新しい関係を構築します」

「あの、俺にあまりにもメリットないんスけど……」

 

 

 

 一体全体どんな話を教えた結果こうなったんですかねぇ伝説の吸血鬼さんよぉ?(現実逃避)

 

 

 

  ※  ※  ※

 

 

 

 

「なんでそんな穏やかじゃない話に……」

「詳細は省きますが、私はあの方の組織の一員…………、これでも不死身の身の上です」

「そりゃ、話の展開的に予想は付いてましたけどさぁ」

 

 雪姫様の眷属ならそのくらい余裕でしょう、と当然のように言ってくる夏凜の圧に負けた訳ではないが、買わせてもらった木刀を背中から降ろして構える私。一方の夏凜はといえば、原作でもよく見た例の小さく長いハンマーを収納アプリから取り出して、軽く構えている。

 

 場所は星空が海に映る砂浜。すっかり時刻は夜と来てる。瞬動術がわずかなりとも使い辛いだろう状況なのは相手のハンデなのだろうか。それを見れば多少は手加減してくれてるのだろう。もっとも手加減以前に殺し合いに至る発想がそもそもおかしいことにツッコミを入れるべきだろうか。

 と、こちらの様子を見て夏凜は首を傾げた。

 

「不満そうですね、近衛刀太」

「不満というかついちょっと前まで面倒見てもらってたお姉さん相手に、そういう殴り合え的な感情向けろって言うのはちょっと難しいというか……」

「安心しなさい、私も似たようなものよ」

「なら何でそんな非文明人みたいな結論に至ったんスか!?」

「貴方を可愛がってた感情と貴方をズタズタにして殺したい感情が正面から殴り合ってるからよ。だから一度、実際に縊り殺し殺された方が楽なのです」

「それ夏凜ちゃんさんのストレス解消に付き合えって話なんじゃ……って、あーつまり自分じゃ自分は殴れないから、罪悪感を消すためにお互いドンパチしてくれ、と」

「実際無理強いはしてる自覚はありますけど、貴方、やっぱり付き合いは良いみたいですからね。……本当に死んでしまうようなら付き合うどころではないでしょうから。そういう所は、嘘をついていた訳じゃないみたいで」

 

 そうやって無表情ながら口元だけ少し微笑むのは可愛らしいが、嫌な汗が止まらないことに変わりはないのだが。と、私から視線を逸らし「どうしてもというのでしたら」と視線を合わせず……、気のせいでなければちょっと照れてるように、彼女はこう続けた。

 

 

 

「勝った方の言うことを負けた方は何でも聞く――――みたいな条件を付けた方が、モチベーションが上がりますか?」

「女の子がそんなこと(みだ)りに言わないの」

 

 

 

 マジレスだ。秒でマジレスである。ほぼ脊椎反射のようなマジレスであった。

 武器を構えたまま、何か不満なのですか? みたいな風に首を傾げる夏凜を見るに、ひょっとすると以前そういう迫られ方でもしたことがあるのだろうか。絶対圧勝してカツアゲでもし返してる絵面しか思い浮かばないくらいには頼もしいのだが、とはいえ無防備なのは良くない。

 

「女の子という程の年でもないつもりですが……」

「夏凜ちゃんさん、雪姫相手にそういうこと言う奴いたらどうする?」

「消し炭にします。…………なるほど、貴方から見ればそう大差ない感情と」

「そこまで過激にはならないっスけど、まー、綺麗で頼りになるお姉さんって感じだったんで。夏凜ちゃんさん」

「ちゃんさんは止めなさい。しかし、そうですか。ふむ……」

 

 顎に手を当てて、こちらに背を向けて何やら考え込んでいる様子の夏凜である。どうにも殺し合い自体は回避できないようなので、この隙間時間を使って自分にできることが何かを思い起こす。血の卍型巨大ブーメラン風の血風(けっぷう)、あとさっき即興でやった飛廉脚(オサレ)もどき。原作の彼女のスペックを思い返しながらこの手札でどう立ち回るかって言うと………………、いくら何でも時期尚早すぎである、勝てるわけがない。せめて黒棒手に入ってからにして欲しいのだが(懇願)。

 そんな無理筋な希望を打ち砕く、夏凜の無表情である。こちらを向くと、私の目を見据えて言った。

 

「では、えっちなのは要相談で」

「初めからそういうの言うつもりないんスけど、なんで相談次第で応じる姿勢なんッスか……」

「貴方の中のえっちラインと私の中のえっちラインが異なる可能性もありますので。そのあたりは考えておいてください」

「それで応じるとは言った覚えないんスけど…………、逆に夏凜ちゃんさんが、それで俺に命令したいことでもあるんスかね?」

 

 原作通りなら雪姫様の下から去れとか平然と言い放ちそうなこの時点(コミックス1、2巻前後)の夏凜であるが、一週間くらい共同生活して無駄に甘やかされた結果、既に未知の領域に突入している。今だって無表情に怒りの感情を浮かべるわけでもなく、かといって面倒を見てもらっていた時のような慈愛も感じられない。本当に無というか、内心で感情同士が相殺し合ってストレスだけ溜まってる状態なのだろうか。

 

「ええ。ありますとも。キクチヨ君。いえ、近衛刀太。貴方が――――」

 

 と、私の言葉に。夏凜は人差し指を立てて、こちらに突き付けて言い放った。

 

 

 

「――――貴方が『雪姫様にすら』隠してることを、私は知りたい」

 

 

 

 瞬間、時が止まったような錯覚を起こした。彼女が何を言ってるか、理解できなかった。隠し事って何だよと言えば、確信を持っているのか夏凜は一歩一歩、こちらに近づきながら続ける。

 

「先ほど話を聞いていて、そして今までの貴方を見ていて、思ったことがあります。貴方の言葉は、どうにも食い違っている」

「いや、食い違ってるって……」

「貴方は、子供です。例え今が何歳であれ、その身の時点で不死身となったのなら、基本的に子供でしかないはずなのです。それにしては、妙に一線を引いている。まるで、自分に踏み込ませないように」

「大人っぽいってこと? でもそういうのって、大人しい子供とかなら……」

「というより、聞き分けの良い子供『ではない』。

 もっと何か大きなものを抱えて、誰にも明かせず誰にも話せず自分一人で押しつぶされそうになって、それでも今を誤魔化しながら生きている、そういう目です」

「…………」

 

 それは……、ある種、正鵠を射ているのかもしれない。確かに私には、そういうものが確実にある。そもそもOSR(オサレ)目指してるとか喫茶店のマスターとかの時点で相当の食い違いがあり、そしてその根底には近衛刀太の中の人たる「私」の存在が大きい。

 

 だが、こんなものは話せない。話せたものではない。当事者が聞けば眉唾であり狂人の戯言であり、また真実を痛感してしまったものなら間違いなく正気が消し飛ぶ。この人のメンタル的な脆弱さだと間違いなく今の人格が崩壊しかねないレベルの情報のはずだ。前向きに開き直れればそれで良いのだろうが、生憎私の人格に、そういった強い陽性(ポジ)の性質はないのだ。こういった部分で、やはり原作主人公がうらやましい。

 ……そもそも原作主人公そのものではないからこういう悩みが発生するという前提はあるのだが、それは置いておいて。

 

「…………そんなこと言われて、話すと思ってるっスか?」

「ほら、今、否定はしなかった」

「反応しちゃったから今更否定できるものじゃないっていうか……」

「それでも誤魔化すことは出来たけど、明確に、貴方は一線を引いたということ。それはつまり、知られることが貴方にとって『致命的なこと』かもしれない」

 

「――――――――そんなことを知ってどうするというのだ?」

 

 思わず素が出てしまった。それに一瞬驚いたのかきょとんとした顔の夏凜。彼女は目を閉じて、手を胸元に当て、ぐー、ぱー、と繰り返し、見開く。何かを決心したようなその目に、私は少し気圧された。

 

「どう、したいのでしょうかね。でも、知らないでいるのは、良くないと思いました。

 貴方は本当は、そんな顔をするべき人間ではないと。そんな気がするから」

「…………」

「ただの我儘と思ってください。それでも、私は貴方に勝ちましょう。近衛刀太」

 

 徹頭徹尾、こちらを気遣った言葉だった。いたまし気な目だった。無理に、断るのが難しい目だった。表情が歪む自覚がある。生存本能とは別なところで、私の中の何かが一歩動き出す感覚があった。これは大した話ではない。しかし――――。

 

 守るための戦いだ。

 何を? 彼女の心をだ――――。

 

 木刀を構え直し、左手を袴のポケット的な所へ。変な構えである自覚はあるが、頭の中は天鎖斬〇(オサレ)のトレースに入っている。こちらのやる気に応じ、夏凜もハンマーを肩に担ぎ、構え直した。

 じり、じりと一歩ずつ詰める夏凜。その間、じわじわと意識して足の裏側に血を通わせる私――――、瞬間、夏凜が動いた。猛烈な砂ぼこりが立つのを認識した瞬間、木刀を斜めに構える。と、そこに夏凜が左の拳を握ってボディブローしてきた。ハンマー使わないのか!

 ぎりぎり木刀の柄で受けたものの、持ち手全体に亀裂が入る。威力に驚いている暇はない、すぐさま飛廉脚もどき(オサレ)で後方にスライド。と同時に私の胴体があったところを横に凪ぐように、ハンマーが高速スイングされる。

 

「痛いのは嫌なのだが!」

「これでも手加減してるわ!」

「だとは思うがなぁ! 思うだけだそれは!」

 

 左手に木刀を持ち換えて、右手を心臓の傷跡に当て、血風のための血液を右手に蓄える。ハンマーを投げ捨てると、夏凜は両手をボクシングスタイルに構えてこちらに接近。その後は右左を不均一に使い胴体や顔めがけて殴る。

 速い……、速いが、これくらいはギリギリ躱せる。目で追える速度でなくとも、雪姫に何度か「殺された」経験のせいか、致命傷に関しては嫌な感覚が分かるため、木刀で受け流すことができていた。

 もっともそれとて完ぺきではない、付け焼刃とは言わないがプロには及ばない剣術ではこの程度といわんばかりに、べきべきと木目が裂け粉砕されていった。

 

「『干からびた骨(オゥス・エクシィカッタ)』――――!」

 

 言ってるそばから神聖魔法らしきものを全身にまとった夏凜である。明らかに物理法則に違反してそうな速度で後退するこちらに追いつき、あまつさえオーラ付きの拳で――――熱い!?

 手元が「じゅわ」っと音を立てて焦げる。瞬間、木刀から手を引き右手を前に。

 

「『血風(けっぷう)』!」

「ッ!」

 

 眼前でバリアのごとく展開された回転する卍型のそれを、夏凜は輝く拳で殴りつける――――と、そこを起点に私は体感的に「死んだ」。

 

 

 

 体感的に死ぬ、という表現は著しくおかしいが、他に形容のしようがない。もともと血風の基点になるのが心臓とは言え、そこから投げつけるまでは胸部の傷から腕に沿って、血の脈のようなものが出来ている。つまり投げつけるまで、血風と私の身体とは繋がっている、体外に出てこそいるがあれもまぎれもなく私の「体内の」血ということだ――――。

 だから、その血を介して人体が内側から「蒸発させられる」錯覚を覚えた。

 

「――――た! 大丈夫、刀太!?」

「――――!?」

 

 ホワイトアウトした視界が回復するさ中、夏凜の驚いた顔が見える。そんなことするつもりはなかったと言わんばかりの目だが、こちらだってこんなことになるとは思っていなかった。

 痛みが全身に及び、内臓は完全にグズグズになっている。腕もまだまともに動かないが、脚部はかろうじて免れた。どういう理屈だこれは……、ともかく全力で、生命の危機にストッパーが外れた腕力で砂浜を殴り飛ばし、砂煙を立て後方に猛烈に後退した。

 

「はぁ……、はぁ……」

「……無理をせず、負けを認めてもいいんですよ?」

「そしたらさっきの話、全部撤回してもらわないと無理だ。こっち一発も入れてない以上、負け扱いは確定だろうに」

「それは……」

「雪姫に育てられたから、実力高く見てもらってるのだろうが。生憎、こちらも少し前までは人間の範疇を逸脱はしていなかったのだ。私とて、今の自分の力は持て余してるし、使い慣れていない。事故は十分起こり得るのだ」

「『私』、ですか……。それが貴方の素ですか? 近衛刀太」

「おっと……、悪いッスね。ちょっと余裕なくて、頭の中直に外に出てましたわ」

「…………別に、良いじゃないですか。その程度話しても。だって貴方、『痛いのは嫌』なのでしょう? さっきも言ってましたし……、ずっと、寝てる時に言っていたもの。怖いって、痛いって。『一人にしないで』って。

 覚えてはいなくても、事故に遭った時の記憶が、貴方には残ってるのだと思って……。だから、そんなに痛いことになるとは思ってなくって、でも……。

 …………私が、謝るのもおかしいですね。私がそもそもこんな話をしたせいなのに。すみません、私も、ちょっといつもの自分じゃない気がします」

「――――――――」

 

 情緒がぐちゃぐちゃになってる夏凜にすら言われるほどひどいのか私は。

 それよりひょっとして、気が付くと夏凜が添い寝していたりしたのは、彼女が言ってたそれが理由か? 確かに痛いのは嫌いだ。だが夢にまで見るほどだったろうか…………。いや夢には見ていたかもしれない。なにせ命の危機を自分で自分に煽っただけで「金星の黒」を引き出せてしまうのだ。原作の修行後ほど死に慣れている訳でもないのにそれが出来るということは、普段からよほどその恐怖を意識して、緊張しているということに違いないだろう。原因のいくらかに夏凜と一緒にいたせいもあるだろうが、それでも。

 

 それでも、九郎丸の剣に貫かれた時の言いようのない気持ち悪さは、今でも生々しく胸に「残っている」。結果的に感謝することになっているとはいえ、怖い事実に違いはなく。

 痛いのは、嫌なのだ。

 

「…………でも、それでも言いたくないッスよ。言ったら、夏凜ちゃんさんの方が落ち込みそうで」

「だったらなおさら、それを貴方一人で抱えるのはおかしいでしょう? 私はそんなに、頼りないお姉ちゃんでしたか? 貴方と一緒に旅した、この一週間」

「……あー、そうじゃなくってですね」

 

 寂しそうな顔をする夏凜に、言葉を選ぶ私。下手に言うと気恥ずかしいし、変な意味にとられかねないが故の話ではあるが。それでも。ある程度は本心を交えないと、彼女はこちらの嘘というか、心を隠した表情を見抜いてしまうかもしれない。だから…………。

 手元に何かが集まっている感覚がある。血風ではない、それこそ持ち手のようなものが形成されている感覚が…………、あと少しで何かがつかめそうな、そんな感覚が。

 

「夏凜ちゃんさん、子供は無邪気に笑ってるのが幸せっていったじゃないですか」

「言いましたが、何か?」

「それ話してる時の夏凜ちゃんさん、すげー、綺麗だったっていうか。だから俺も、夏凜ちゃんさんには笑ってて欲しいんスよ。そのためなら、少しくらいは気張りますって。だから話さない。

 夏凜ちゃんさんだって、絶対、笑顔で居た方が幸せだと思うから」

「―――――――――――――――」

 

 呆然としたように、夏凜は手を下ろしてその場に立ち尽くした。

 

 …………おや? 何だその反応は。何か言葉を間違えたか? 決して嘘を言ったわけではないのだが。

 夢追い人の仲間四人も、忍も、九郎丸も、夏凜も、それだけじゃない、雪姫含めて誰だって笑っている方が良いのだ。こんな場外からマウントとってぶん殴ってくるような立場の人間の暴露話を聞いて、いちいち曇ったり一喜一憂するような必要はない。

 そしてそれを、出来れば近いような遠いようなところから、それとなく話をしながら見聞きする――――それが、一番良い。そういうものに、私はなりたい。

 だからあくまで生存戦略として、ちょっとだけ本心の吐露であったのだが。

 

 呆然としたまま、夏凜は突然両手で顔を隠す。……だから先ほどから何だというのだそのリアクションは、まるで照れた乙女が自分の顔を隠すような仕草だが。乙女という年ではないと自分でも言っていたくせに(語弊)いちいちその可愛いリアクションは一体こちらの情緒をどうしようというのだ?(逆ギレ)

 やはり面倒くさい(語弊)。

 

 

 と、目を見開いて手を顔から離し、夏凜は猛烈な速度で私を庇った。

 上空から何かが降ってきて、先ほど彼女が居た場所めがけて振り下ろされていた。

 

 砂煙が開けると、そこには長ラン風の学生服の少年か少女。長い髪を後ろに束ね、片方の目が隠れている。その目は私を見据えた上で、夏凜を睨んだ。

 

 

 

 九郎丸である、時坂九郎丸である。

 

 

 

「彼から、離れろ!」

「不死殺し……? いけません、刀太。貴方は私が守ります」

 

 私を背後にかばう夏凜と、そんな夏凜から私を取り戻そうとする九郎丸という、原作を知るものが見れば二度見不可避、当人頭痛で頭が割れる事案が発生していた。

 

 …………いきなり訳の分からない修羅場止めろ! というか雪姫、九郎丸の向こう側で絶対事情おおまかに把握してるだろうその薄ら笑い、いいから動けない私に代わって割って入れ! 夏凜も夏凜で雪姫を目に入れないくらい九郎丸警戒してるのは何だ一体!

 何が悲しくて野郎をめぐった女子による争奪戦(殺傷兵器アリ)みたいな構造が発生しているんだ! 特にそういうフラグを立てた覚えはないぞ! 絶対私のせいじゃないだろ!

 

 

 私のせいじゃ…………、ない……、だろ?(疑心暗鬼)

 

 

 

 

 

 




(確信犯じゃないのでコレっていうのは業が深いねぇ・・・、とりあえず痛い死亡訓練の追加は確定っと)


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ST11.一寸先に空の傷

感想、ご評価、お気に入り、誤字報告、ここ好きその他諸々大変ありがとうございます!
 
今回から一部技の解釈とかに独自解釈入るのでタグ追加となります。



ST11.Who Knows What May Happen Be The Sky

 

 

 

 

 

 正直、意外な組み合わせに驚いた。

 夏凜と刀太という組み合わせはそれだけしっくり来ない。

 別に母親としての嫉妬とかそういうのじゃない、単に夏凜の性質と合わないと思っていたからだ。

 

 もともと夏凜は私を異様に慕っている……。いや、もともとアイツが救いを求めていたタイミングで、たまたま都合が良かった私と出会ってしまった。

 あいつはそれを運命だの何だの言うだろうが、ぼーやと似たようなものだ。あり合わせのものが、あまり物としてその場にたまたま揃ったというだけ。

 ただそれでも、一度比重を置いた気持ちがそう簡単に動かないだけの頑固さは持ち合わせている。そんな奴にとって、刀太など良い嫉妬と怒りのぶつけ先だろう。

 実際私もそう思っていたし、直前の光景を見てもまさにその通りだ。

 

 ……だからそんな夏凜が刀太を庇い前に出るという姿は、あまりに予想の斜め上を行きすぎだった。

 

 船の上、列島本州側の砂浜に九郎丸と二人で刀太を見つけた。

 丁度その時、夏凜が奴を拳でラッシュし襲っている姿を見た。

 次の瞬間、一切の迷いなく九郎丸は虚空瞬動を駆使して超高速接近、からの超高速墜落唐竹割りをしかけている。

 

 私が夏凜について話をするよりも前に、それはもう子猫が危険な目に遭ってるのを見た親猫のような敏捷さだった。

 そしてあまりにも余裕のないその様と、その直後の夏凜の振る舞いとが意外過ぎたのだ。 

 

 笑ってしまった私は悪くないだろう、ウン。

 ゆったり近づいてしまうのも、ちょっと楽しくなってきたせいじゃないぞ? ウン。

 

「いや笑ってねーで止めろって。俺、動けないんだからカアちゃん」

 

 そう言う刀太は砂浜に膝を突き、全身から煙を上げていた。

 夏凜の神聖魔法にやられたのだろうが、どうにも妙だ。

 

「いやー、済まない。思ったよりややこしいことになっているようだからな。

 ……というより外傷はないようだが、どうした? 身体の内側に毒でも入れられたように」

「毒かどうかは知らないけど、血風に直接、あのめっちゃ眩しい奴ぶつけられた」

「嗚呼、ならそうもなるか。お前の血装術は完成度が高くないからな」

血装(ブル〇ト)?」

 

 何故ドイツ語だ? 思わず頭を傾げたが、刀太なりのジョークかさもなければ思春期(ちゅーに)だろう。

 まぁ本当に中二(ちゅーに)だし、その辺りは仕方ないか(中三だが)。

 妄言の類だと流してやるのも、出来た母親というものだ。

 

「体内の血を媒介に魔力をもって武装として取り扱う術。およそ、悪魔や不死身の吸血鬼が扱う戦闘技法だ。

 魔法が使える以上はあまり必要のない術だが、私とて心得はある」

「はぁ」

「お前の……、血風(けっぷう)といったか。

 アレはお前の内に内在する『力』と、お前の不死人としての血、それからわずかに風魔法が混ざってるものだ」

「へっ、そうなの? 特に風魔法」

「ああ。精度はガタガタだが、風系の武装解除魔法だろう。

 魔法アプリのバリアを貫いたり破壊して貫通するのは、そのあたりが原因だな」

「へぇ……」

 

 感心したように頷く刀太。語彙が消滅して、ただただ赤べこのように首が上下する。

 自分の使っている得物のスペックを把握しきっていない、こういうところはまだまだしっかりしてない子供だ。少し可愛げがある。

 

 生活力というか生存力についてはかなり低いが、根っこのところはぼーやのように妙な芯を感じるので、年相応というか、そういう雰囲気を見るのは中々レアだった。

 

「この血装の完成度は、体外にある自らの血をいかに自らとつながった血と同様に扱うかという点にある。お前はその扱いが上手くないから、投げる直前まで体とつながっているんだろう?」

「うん」

「ということは、そこに神聖魔法……、『悪しきもの/敵対するもの』を『浄化/殲滅』するという方向性に特化した魔法に当てられたんだ。

 何が起こるか予想がつくんじゃないか?」

「…………レンジでチン?」

「体内をチン! だな」

 

 血の気が引いて「痛いのは嫌なのだが」と小さくつぶやく刀太。

 

 嫌だと言ったところで、この程度はほんの序の口なのだが……。

 大体夏凜や私程度、あの「狭間の魔女」などと比べて明らかに易しいレベルのものでしかないというのに。

 

「いやしかし、酷いなぁまるで犬も食わぬケンカなんてカワイイものじゃない――――」

 

「――――『まわる(フラミウム・グラディウム・)焔の剣(アトク・ヴェルサティレム)』!」

「――――神鳴流(しんめいりゅう)竜破風塵乱舞(りゅうはふうじんらんぶ)!」

 

 明らかに殺意の乗った無数の光の剣による夏凜の一斉射撃。

 対する九郎丸は、上段振り下ろしから突きに転じる動きでその剣をことごとくはじき返している。

 威力的には夏凜がやや優勢か……、神聖魔法の浄化作用が剣越しに九郎丸にも及んで、ある種毒のような効果を発していた。

 

 九郎丸の顔が歪む、しかし夏凜もそこまで余裕はないらしい。

 なにせ私と刀太の方を確認する暇もないのだ、もしそれが出来ればとっくに九郎丸ともども戦闘は終わっているだろう。

 つまりそれだけ集中する理由があるということで、ふむふむ……? ほうほうほう?

 

 いや止めてくれって、と疲れた様子の刀太だったが、私は甘やかしはしない。

 

「ならお前が頑張って止めてみろ。もうあらかた再生はしただろう?」

「確かに腹の中が裏返ったみたいな痛みが『戻った』から、臓器自体の再生とかは終わったんだろうけど、無茶言うなぁ……。というか夏凜ちゃんさんとか、雪姫出たら一発で止まるだろ。大好きみたいだし」

「いや、だって、面倒臭いし」

「面倒って……、夏凜ちゃんさん泣くぞ?」

「悪い奴じゃないんだが、どうにも愛が重くてなぁ……。

 でもお前も少しくらいはそう思ってるだろ?」

「それも味かなって」

「お前、日和ったな? ま、どちらにしてもここはお前が行くのが適任だろうに。戦っている原因はお前だろう。生憎、馬に蹴られて死ぬ趣味はない――。

 いや…………、この場合は種馬なのか? しかし普通なら『出来ない』だろうから……」

「何真剣な顔で変な話してんのかさっぱりわからないんスけど……。なんかどーっちを止めに行っても角が立ちそう、というか普通に俺、死にそうなんだよなぁ……」 

 

 仕方ないと。刀太はその辺に転がっていた、木刀の破片のうち、まだ原形を留めている方の柄を握った。

 

「ホントはもうちょっとまともな武器を手に入れてからイメージするつもりだったんだけどなぁ……」

「ん?」

 

 目を閉じた刀太は、一度左手を胸の中央あたりにもっていく。と、数秒してから見開き、両手で柄を握った。

 瞬間、柄が血装されて、赤黒い木刀のような姿になった。本来折れる以前の長さの再現でもしているのか、長いとも短いとも言えない。

 ……修学旅行で買うような木刀サイズか、流石中学二年生(現中三)。

 

「で、ここに血風を添わせる……」

「おぉ、鍔みたいになったなぁ。意外と……、風情がある?」

 

 小さな卍型の鍔のようなものが、刀太の手元でゆっくりぐるぐる回転している。と、それを刀太は構えて、下から切り上げ――――!

 

 

 

「――――血風(けっぷう)創天(そうてん)、習作!」

 

 

 

 今まさに、お互い距離を置いた九郎丸と夏凜の間を、巨大な「血の斬撃」が通過した。

 ぶん、と振り回した瞬間、卍がプロペラのように高速回転し、剣先に血を一気に供給する。

 扇風機の風で物が押し出されるような風に、剣先がしなり、血で出来た刃がうなり、伸び、あたかも軌跡が斬撃の後を追うように。

 

 ひゅー、と口笛を吹いた。なんだ思ったより「それっぽい」ハッタリの利いた技を考えるじゃないか。

 派手だし、吸血鬼らしいし、威力もある。……弱点は据え置きだが。

 さっきも思ったが、それは一言で言うと巨大な斬撃だった。

  

 それが砂浜を斬り、海に届くとかき消える。

 驚いた顔でこちらを見る九郎丸と夏凜だが、同時に私の顔を見て「雪姫様!? いつの間に!」と剣を仕舞い飛んでくるあたりはいつも通りだ。

 

 いつも通りだが……、あれ? コイツ、今の今まで私の存在に気づいていなかったのか?

 ん? それはひょっとしてアレかー? んんんんんん-?

 あの夏凜だぞ、本気と書いてマジで言ってるのか?

 

 思わず隣で失血死してる刀太を、変な目で見てしまう。

 干からびたりはしていないが、さっきの一撃でかなりの量の血を使ったらしく、造血というか再生産が間に合っていない。

 これは……、なまっているな。私が仕込んでいた時ならせいぜい貧血程度で済んでいたはずだが。

 

 ちなみに死後硬直で持っている木刀の柄は、血の濁流に耐えきれなかったのか既に粉砕されていた。

 

 そんな刀太に駆け寄る九郎丸は、もう今にも死にそうな顔だ。

 それくらい心配してる顔といえる……。そうだよなぁ、私が間違って刀太に反重力的な計算方式で加速するような魔法(本来は空中浮遊するためのもの)をぶつけてしまったせいで、あらぬ方向に飛ばされた刀太にだ。ことの原因である私を恨まず協力を仰ぎ、笑顔一つなく毎日毎日心配し、ちょっと目からハイライトが無くなっていたくらいだものなぁ。

 その上で再会したのだ、そんな顔にもなるか。

 

「刀太君、大丈夫? って、冷たっ!?」

「ちょっと血を使いすぎただけだ。九郎丸、少しどけ」

「は、はい、雪姫さんっ」

 

 親指の先を少し噛み切り、刀太の口に垂らしてやる。と、私の血を鍵に「金星の黒」への接続を意識的に強めてやった。一時的にだが再生力がこれで戻るだろう。こっちは良いのだが。

 

 

 

「雪゛姫゛さ゛ま゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ」

「怖っ! どうした夏凜、情緒不安定かお前!」

 

 

 

 私の脚下でひれ伏してる夏凜がちょっと、いや、かなり鬱陶しかった。

 聞けば、私がすぐ近くに居たのにその存在を無視して私情を優先した自分が許せないらしい。いや、そんなこと別に気にはしないが……。

 って、お前ちょっと汚いから、せっかく似合う制服が砂で汚れてるじゃないか。あーもう……。

 

「えっと、雪姫さん、こちらの人は……」

「あー、話せば長く……はならないのか? 私のツテの一人、結城夏凜だ。

 コイツもお前や私たちのように、不死人だ」

 

 ぐずったまま、夏凜ですと自己紹介する様に九郎丸は困惑していた。

 もっとも夏凜もさるもの、収納アプリから取り出したティッシュで鼻を噛み、何事もなかったような無表情に戻る。

 

「形状記憶合金か何かッスかねぇ、夏凜ちゃんさん」

「あ、刀太君!」

 

 と、九郎丸に起こされながら、まだ貧血気味な顔をする刀太が掌をひらひらと軽く振った。

 立ち上がった夏凜は二人の顔を交互に見てから問う。

 

「……キク、いえ、刀太。ひょっとしてそっちの子が時坂九郎丸ですか?」

「あー、はい、そうです。友達、友達」

「なるほど。…‥良い子ですね」

「へ?」「はい? ……あ、ど、どうも」

 

 困惑したような刀太と九郎丸に、夏凜は何故かうんうんと頷く。

 

「特に敵と見なした瞬間に容赦なく斬りかかる姿勢は、中々見どころがあるかと、雪姫様」

 

 あー、うん夏凜、こっちに話をふるな。ややこしくなりそうな気配がする。

 

「それはともかく、お前たちどうしてこっちに? 私たちが四国と本州の海上を行ったり来たりしてたから良い物を」

「海上……あー、ってことはひょっとしてずっと電源切ってた?」

「ああ。無線関係の違反になるからな」

 

 刀太たちの話と並行して、私たちの足取りも共有した。

 

 私が全力とは言わないまでも、衝撃波を伴うレベルで刀太を飛ばした事実は九郎丸の顔から笑顔と感情を奪い去るのに十分だった。

 あまりに見て居られず修行どころではないと、刀太が投げ出された方角をまっすぐ追うことにしたのだ。

 とはいえ目算から角度をつけて、かろうじて無理にという移動である。

 船は私の魔法で作った氷の船だし、推進力も同様に魔法。

 小舟で凍えながらも刀太の姿はないかと、連日海沿いをくまなく探していた九郎丸の執念じみたものには、頭が下がった。

 

 これには謝罪と感謝の言葉を素直に口にした刀太。いや、大したことはないよと照れる九郎丸は、その表情が完全に恋を知った乙女のようなものだと指摘してやりたいレベルだ。

 ……そんな二人を後方から理解者面めいた頷きをする夏凜は何なのだというツッコミも入れたい。入れたいが、なんだか言ったが最後泥沼に巻き込まれそうな気がしてきたので、そのあたり詳しくは後で聞き出そう。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

「いや、事前にホルダーに連絡を入れていたせいで、お前が来たと知ったときは刀太を何度も惨殺してるものだと思ったぞ」

「流石にそこまで狂犬じみては……、ては…………?」

「悩むな、愛が重い」

「雪姫さま!?」

 

 動揺が激しすぎる……、悪い奴じゃないが相変わらず面倒くさいなコイツ。やっぱり。

 運よく温泉付きの宿があったので、四人部屋を一つ取った。

 

 部屋割として私、夏凜、九郎丸と刀太の2部屋で分けようとしたら、約二名から猛反対にあったせいだ。

 

『ぼ、僕は男なんですからどうして雪姫さん達と同じ部屋なんですか!』

『それは知らないけど、目を離すと刀太はまた魘されそうな気がするので、しっかり確保しておきたいです』

『魘され……? 夏凜さん、ちょっと詳しく話を聞かせてもらっても――――』

 

 その話自体は刀太がわめいて打ち切りになったが、ともかく。

 私と夏凜が女湯、おそらく今は九郎丸が男湯に入っていることだろう。なんだかんだ、刀太は九郎丸との生活サイクルを分けている節がある。

 そのあたり九郎丸は気付いているのかいないのか……。

 

 というか薄々、女の子か何かだって察してるだろ刀太の奴。

 

 まぁ、むしろその扱いのせいで完全に女の子になってしまった気もするが……。

 

「それで、刀太は一体どういう経緯で不死身に?」

「はは、さっきも思ったが何だか随分仲良くなってるみたいじゃないか」

「…………直前に殺しかけたりしましたが」

「あの程度で死ぬようなヤワな鍛え方はしたつもりはないぞ? いくらか鈍ってたのはあるだろうがな。

 まぁどっちかといえば、むしろ気質的なせいかもしれないが」

「気質…………、痛いのは嫌い」

「そう、それだ。多かれ少なかれ、私たちはそういう『人間的なしがらみ』から脱するのを受け入れざるを得ない境遇が多い。だから自らの力をふるい、自らの性能のままに生きることを、ある意味で強制される。

 その点、アイツはまだまだ成り立てだし、その段階にないんだろう。いずれその無限の再生能力を、自らのものだと受け入れる日が来るはずだ」

「……………………」

「どうした? 何か不満がありそうだが」

「いえ……、解釈が違うと思ったまでで」

 

 ほう? 夏凜、中々興味のあるようなことを言ってきた。

 詳しく聞こうと促すと、だが夏凜は少し視線を上に向け、頭を左右に振った。

 

「いえ、これはヒミツですので」

「ほうぅ? この私相手に隠し事だと? これでもアイツの義母(ははおや)のつもりなんだがなぁ」

「だったら、なおのことです」

「ふむ……、ならば強硬手段で吐き出させるまで!」

「ひゃんっ!? ちょ、雪姫さま、くすぐるのは、っちょっと、……あっ!」

 

 背後に回り首だの耳の内側だの、普段滅多に他人に触られないだろう箇所を色々とくすぐってやる。

 ちょっとした拷問みたいなものだが、さて何分耐えられるか……、ん?

 

「お前、胸のここのところ、虫刺されか? …………へ? いや、状況的に、そうか? あれ? ちょっと待て、お前ひょっとして――」

「な、何の話ですか? 別に何もやましいことはありませんけど?」

「いや、私は何も言っていないのだが……」

「大方、寝相が悪かったのです。あの子と、添い寝はよくしていましたので」

 

 ぴしゃり、とこの話は終わりとばかりに断ち切る夏凜。

 珍しく私相手に一線を引いている。いや私も流石にマジでそういう話だと思って話題を振った訳じゃないのだけれど、その反応は色々と問題があるだろう。本当にナニもなくても。

 

 それにしても、添い寝か……。完全に子ども扱いされてるな刀太。

 

「まぁ、刀太とは長い付き合いになるだろうからな、特にお前は。仲良くしてやってくれ、その調子で」

「長い付き合いとおっしゃられますと?」

「不死身の強度……、根本的な部分としては、お前とアイツがおそらく地上で二強だ。刀太は私や、私の知る『偉大なる魔法使い(マギステル・マギ)』すら超えるだろう。人が滅亡しても、お前たち二人だけはずっと地上に残るかもしれない」

「……つまり、アダムとイブ的な?」

「まぁ子供は産めんだろうがな」 

 

 どちらにせよ人類は滅んでいそうだ、と笑うと。夏凜は無表情ながら何か検討するような、思案するような風に「むむむ……」と唸る。

 ……何だその反応は、てっきり少しくらいは嫌がるものと思ったが。肌の露出は能力の関係上適当なところもあるが、テリトリーというか、パーソナルスペースというか。そういう境界をしっかり分ける女のはずなのだが夏凜は…‥。

 

 そのことをそれとなく聞いてみると。夏凜は私から視線を逸らし、どこか慣れない風に。

 

 

「――――まぁ、将来的にはその、そういうのも悪くは、ないような、そうでもないような、と」

「……お前たち、本当に何もなかったのか? お義母(かあ)さん心配なんだが」

「誓って、雪姫様に恥じるようなことは。大体犯罪じゃありませんか、子供相手には」

「私はナニがドウとは一言も言ってないけどなぁ……」

 

 後それにしてはこう、夏凜のその、居室の方に向けて送った流し目は、なんだか妙に色っぽいものがあった。

 

 

 

 

 ※注:合意がないのでやってません



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ST12.黄金の右手

ほぼギャグ回? です。

######################

故に何度も立ち上がる
その横顔の傷は見えない


ST12.Hunter's Holly Right Hand

 

 

 

 

 

 早朝、明らかにイタリアンマフィアかヤクザもかくやといった黒塗り車総出のような出迎えが一般民宿温泉旅館手前に集まる絵面は、あまりにも酷いものがあった。暴力的な「危なさ」がプンプン漂っており、このご時世風評被害待ったなしだろう。そういった補填などには一切頭を回していないのだろうか、やはり不死身に近いというのは社会性を大きく損じるらしい。瞑想もどきの修行が板についてきた(様な気がする)私であるが、そういうところはいつまでも新鮮に、一般人的感性のままでいたいものだ。

 なお抗争でも発生したかのような黒スーツサングラスの男共が入り口周辺を占領している様を見て「追いつかれた……、もう少し話せる時間を取りたかったのに」と舌打ちする夏凜は中々に恐ろしいものがあり、ちょっと原作のCPL(クレイジーサイコレズ)を思い出す。もっとも私が見ていることに気づくと、顔を両手で隠し数秒、デフォルトのような済まし顔に戻る。やはり形状記憶合金か何かで? そのクールなお顔。

 

 兎にも角にも都方面、つまり新東京(しんとうきょう) 天之御柱(あまのみはしら)市を目指す大型ボートの上。私と九郎丸はほどなくUQホルダーという組織について、雪姫たちから聞くことになった。私の左側に夏凜(距離を詰めてくる)、右隣に九郎丸(負けじと距離を詰めてくる)、デッキ手すり手前の私の背後に雪姫(名状しがたい訝しげな顔)という配置は、なんだかオセロの失敗した角取りのように囲まれていて落ち着かない。割って入れそうなのは誰だろうか。迎えに来た男衆筆頭のバサゴはといえば、夏凜と雪姫がそろって話している空気に立ち入ろうともしない。完全に舎弟のそれだ。

 結果として私は挟み込まれている訳で……。そんな男女比に関する悲しい話はともかく。

 

 ()()資格者(ホルダー)。曰く人外どもの相互扶助組織。不死身により近い者どものが集まったある種のマフィア的な一家。ちなみに民営らしく、普段は旅館やら何やらと色々商売に手を出しているらしい。

 

 傭兵稼業とは言わないが、その関係で困り事や世界の危機を救うこともある。このあたりは当然原作で把握している流れなので、私にとってはおさらいだ。

 

「あの、不死者ってそんなにいるんですか?」

「良い質問ですね、九郎丸。貴方は不死狩りの一族だと聞いています、気になるのも当然の話でしょう。

 でもそれに対する答えは、否。それなりに探せばいるでしょうけど、ホルダーに集まっているのは大概は『死ににくい』者たち。妖魔よりも長い者、魔族、魔人、妖精……挙げればキリはありませんが」

「あと、一般人か?」

 

 九郎丸と夏凜が私を見る。

 

「あー、ほら、忍に名刺渡してたろ? 夏凜ちゃんさん。ああいう感じで……って訳じゃないけど、縁のあった身寄りのない子供とか、行き場がなくなってどうしようもない人たちとか引き取ってるんじゃねーかなって。で、たぶんそーゆー連中は人外だろうと人間だろうと関係なく働いてる、みたいな?」

「ほー、それは夏凜を見ての考えか? 一体夏凜の何を見ての考えだ? ん?」

「普通に話してた感じから、そうじゃねえかなって言う……、何だよ? カアちゃんその顔」

 

 何故か雪姫が半眼を向けてくるが、意味が分からない。いや原作知識だと言ってしまえばそれまでだが、流石にそう言うことは出来ない。ならば情報ソースとして挙げられそうなのは夏凜だけなので、まぁそうと言えばそうなのだが……。

 二年近い付き合いの中、雪姫が今みたいな顔をしたのは確か、つい出来心で頭を脱色しオレンジ(オサレ)に染めようとしたのが見つかった時くらいか。あの後しこたま折檻されたせいか、一月経たず髪の毛が完全に黒に戻っていたのを覚えているが、それはともかく。

 

「忍……?」

「そのうち来るから分かるわよ、九郎丸」

「えっと、夏凜さんそれは……」

「まぁ悪くない子よ。貴方みたいな意味でではないけれど」

「はぁ……」

 

「――もともと私とある男が作った組織なんだが、要するに……、アレだ。不死身の力を使えば、世のため人のために様々なことが出来る、という奴だ」

「はぁ」

「…………興味なさそうだな?」

「別に全くないって訳じゃないけど、スケールが大きすぎてどんな反応をしたら良いか。

 だって、たぶんアレだろ? 古いダンジョンから出てきた悪の魔法使いみたいなのとか退治したり、火星人の戦争に介入して和平に導いたり、宇宙怪獣とかが地球に襲来する前に止めたり」

「宇宙怪獣はまだだが、他はまぁ、それなりにだな」

「マジで?」

「母ちゃんウソつかないぞ?」

「いや結構ついてるだろ。まぁ別にいいんだけど、家族だし」

「……、そうだな」

 

 例えば、本当は料理が凄まじく上手なのに、私相手にはけっこう適当な代物を出してきたりといったことは当たり前のようにやっている。経緯を知らなければダメ人間に見えるくらいに、雪姫のイメージと吸血鬼エヴァンジェリンのイメージは(初見だと)ちょっと離れていた。

 まぁ元々が十歳くらいの少女メンタルのまま世界の絶望に向き合い、ダラダラ生き永らえてきた母ちゃんである。気を抜いてる相手には全力でダメ人間な姿を見せるのも、普通と言えば普通か。いや、そこまで気を抜けない、私生活がある意味でないというのは、それなりに辛いものがあるかもしれない。傲慢な吸血鬼もまた彼女の全てではないのだろうと、ここは納得するのが出来た息子というものだろう。

 

 そうこう話している内に、徒歩で行くよりも圧倒的な速度で新東京、海面上昇により大部分が水没した関東のあった場所に例の軌道エレベータが見えてき……、見え……?

 

「いやデカすぎるッ」

 

 遠くから見ていて距離感が崩壊するはずである。新東京湾中心に「新ユメノシマ」とでも言うかの如く、軌道エレベータ付近もまた人工湾岸都市だ。水没した大陸から無理やり色々小細工をして、コンクリやら鉄筋材やら私的にわけのわからん近未来技術の物質やらで出来ているだろう大地と、そこから雑にたくさん生えるビル群である。

 もっともだからと言って経済都市のように見渡す限り背の高い建物という訳でもない。むしろ浅草雷門のように一部の施設は移転可能なものを移設したり水没後にイミテーション化したらしく、観光業で盛り上がっているとテレビでやっていた。

 そう、つまり。あれだけいかにも遠くから見るとメトロポリスと言わんばかりの施設だというのに、実際はかなりバラエティに富んでいる。つまりそれを乗せるだけの土地があそこにある訳で、一体どれくらいの広さなのか考えるだけでスケールの違いに神経が苛立つ。

 もっと言うとそのうちのエリア全域を覆うように張り巡らされてる道路やら何やらが、もうすでに私の知る道路やら線路網の幅をはるかに超える。車とか一体何車線用だ……?

 

 そこから段々と遠ざかり、沖合10km(キロ)。道中の深い霧などものともせず、目的とするエリアたる「仙境館」の島に。原作やアニメで見た通り、高級旅館やら宿泊施設やらがごった返していて、それでもリゾート地として体裁が整った風の建築物は…………。

 

「いやこっちもデケぇって……」

「そうかしら? 学園都市程ではないと思うけれども」

「何というか何処と比較してるのかちょっとわかんないッスけど(※本当は判っている)、アレだな……、やっぱ人類、減ったんだなぁ……」

 

 こういう巨大なスケールで物事が出来上がって回っているのを見ると、それ以前の文明にあったはずの、日本で言うなら人口密集率の高さのようなものに感傷を覚える。

 

 そうだ、考えればここから「すら」更に減るのだ。「減らされてしまう」のだ、人類は。それでも立ち向かい、順当にいけば宇宙文明にまで発展するにしても。それでも失う命、取りこぼす命というのは大きい。

 

「刀太君?」

「あー、いや、悪い……、何でもねーから。ちょっと船酔いしたかな? 吐くほどじゃねーけど」

 

 考えるだけで鬱屈してくる…………。流石に今の私の心境を吐露することは出来ないので、九郎丸は不思議そうではあるが「無理しちゃダメだよ」と気遣ってくる。なお夏凜は何も言わず、私の頭を軽く撫でた。

 …………そういえば夏凜相手には素の部分が少し表出してしまったのか。下手なことは何も言っていないと思うのだが、少なからず何か察されてしまったのかもしれない。それは、大変よろしくない……。夏凜がいつまた私にその話を追及してくるか、わかったものではないフラグ的なものが継続しているというのは、正直止めて欲しい。

 

 前回はなんとか誤魔化せたが、私のメンタルはそんなに強くない。近衛刀太(主人公)であればむしろ「何もない」からこそ、何もないなりに何かを得ようと踏ん張れるのだろうが、私は割と我欲もあるし性欲も持て余すし鳩尾を蹴り飛ばされれば気絶するくらいには弱い(死にはしないが)。

 

 うっかりポロって言っちゃうかもしれないし、それこそ泣きわめいてどうしようもなくなる可能性も……。キャラ崩壊ってレベルではない。ましてや何度も全身爆散させられるような死に目に遭わされるようなことなどにでもなったら…………。胸元の傷がうずいた。

 ……ん? 今ひょっとして何かのフラグを踏んだか? いやフリではないから、そこは是非お手柔らかにお願いしますとも。まだ見ぬ顔も知らぬ我が師匠よ。

 

 砕けて言うとマジでお願いします! (???『相変わらずのガバっぷりじゃないか』)

 

 さて到着早々、雪姫に旅館側のスタッフたちが群がった……完全にダボハゼである。迎えに来た男衆たちも似たようなことをやっていたので完全にデジャビュだが、流れとしてはアニメ版と原作版とを両方併せたような歓迎のされっぷりだった。

 

「完全に姉御というか姐さんというか、当主扱いなんだよなぁ……」

「雪姫さん、確かに似合いそうと言えば似合いそうだものね……」

「でもいやー、人気者っすわなカアちゃん。……俺もここじゃ『雪姫様』とでも改めた方がいいのか?」

 

 と、ぬっとどこからか現れたバサゴが私の両肩を掴んで、テンション高めに叫ぶ。

 

「そうですとも! ええ何を当たり前のようなことを、いくら雪姫様が気の迷いで拾われたからと言って、ましてや眷属など畏れ多いのです! だから君もまず我らが女主人(ミストレス)に傅く立場に――――あ痛っ!?」

 

 口早く語る。剣幕含めて完全にヤクザ屋さんの手口だ。男衆の中では多少背が低いものの私から見れば十分高いので、つまりこうも詰め寄られれば「お、おう」と数歩引くことになるのは当たり前である。

 もっとも背後から夏凜にカラテチョップを喰らったあたり、何とも言えない空気がある。

 

「気にする必要はありません、刀太。男の醜い嫉妬です」

「えぇ……」

 

 そもそもバサゴの立場からすると、いくら雪姫が可愛がっていた子供だからといっても特別扱いしないという意見表明で、圧はともかく振る舞いはおかしなものではないような……。後うめくバサゴをぴしゃりと切り捨てているが、割と夏凜も醜い女の嫉妬で私と殺し合いを演じていたような気がするのだが……。

 そんな感情が顔に出たのか、原作を思わせる渋面を一瞬浮かべられた。思わず頭を左右に振って「何も覚えてない」のジェスチャーをすると、これまた普段の無表情に戻って首肯一回。

 

「少なくとも貴方は間違いなく、雪姫様の息子です。気質含めこの私が保証します」

「いや、そんな似てもないと思うんだけど……」

「あー、でも……、確かに」

「どうした九郎丸?」

「刀太君、けっこうこっちのことを見て考えてくれてるところって言ったらいいのかな? そういうのとか、スッて何気なく距離感保って、そのまま気遣ってくるところとか。そういうの雪姫さんっぽいかなって。確かに親子っぽい感じはするかなーと」

 

 それは普通の事では? と。思ったことを聞いてみれば、二人は揃って頷いてくる。

 ……嗚呼、だから先ほど考えていたのと一緒か。不死身になるとそういう感情豊かな人間性みたいなものがささくれて削れていく訳か。九郎丸に関しては育ちの問題もあるだろうが、夏凜の場合は罪悪感やら厭世的なものも相まって、雪姫に出会うまでは普通に鬱だったろうし。

 

 ネギま! 時代より雪姫も丸くなっているのもあるだろうが、やはり3-Aやネギぼーずの影響は大きいらしい。

 

 と、そんな風に話していると、館の方から驚いた声が聞こえる。服のシルエットに見覚えがあるが、果たして予想通りに真壁(まかべ) 源五郎(げんごろう)であった。夏凜のようにクールな顔をした成人男性。外見は橘より若く見えるのは私の感性の問題か。実物の彼は、エプロン姿に一見すると物静かな雰囲気がよく似合っていた。

 ……もっともその顔が珍味でも味わったようなすっとんきょうな見開き方をしているので、初対面早々どんな顔をしていいかわからないのだが。

 

「…………これは意外だ。女主人(ミストレス)至上主義を掲げる夏凜が、首を落として×××()ぎ捨てる、とまで言い放っていた相手と仲良くなって帰ってくるとは」

 

「え゛っ、えぇ……」「はいっ!?」

「なっ!? 何を話しているのです源五郎、そんなものは過去の話です! 今の振る舞いを見ればそんなこと関係ない程度、十分判るでしょうに!

 ちょっと、刀太! やめて引かないで下さい! あ、あれは私も気の迷いで……!」

 

 いや、×××()ぎ捨てるって……。アニメのあの可愛らしいのを張り詰めさせてクールに仕上げたような声そっくりそのままが、普段から私の耳に聞こえる夏凜の声そのものなので……。何だろう、人を相当倒錯した趣味にでも目覚めさせようとしに来てるのかな? 

 

 なお九郎丸は「もぎ取るって……、アソコってもげるものなの……?」と自分のズボンと手元に視線が行ったり来たりしている。嗚呼これも何か声をかけるとややこしくなる話だ、そっとしておこう。

 もげないからきっと今のお前の身体には生えていないだろ? と言ってやりたいのは我慢だ。九郎丸が今、女体であることを知っている暴露に繋がる。

 

 流れに、流れに身を任せるのだ。

 

「えっと……、夏凜ちゃんさんの性癖というか話は置いておくとして「そんな性癖などあってたまるものですか刀太!」……あー、まぁ置いておくとして。

 近衛刀太っす。こっちの顔立ちめっちゃシュッとしてるのは時坂九郎丸で「……っ!?」、えっと……名前聞いてもいいですか?」

「うん。構わないよ。真壁 源五郎だ。よろしく」

 

 す、と握手を求められたので、こちらもそれに応じる……、ってかなりガッシリしてる。しっかりしてるな、握力というか握り方一つで判る程度には堅い。見た目、肌は白い方なのに。

 確か、元々裏社会でホンモノのヤクザ稼業的なものに関わっていた経歴だったはずだし、その武骨さは当たり前と言えば当たり前なのだろうが。原作戦闘力を見ても、決してインテリでも何でもなく生粋の武闘派(ゲーマー)だし。

 

「…………『光る風を超える者』、か」

「へ?」

 

 私の頭上をぼんやり見てそんなことを呟く源五郎パイセン(ヽヽヽヽ)。…………相当なネタバレしてしまうと、彼はこの世界を「異世界転生した際にプレイしていたゲームのシステム概念」を持ち込んできているような立場の人間だ。そんな彼のこの仕草、私の情報を読み取った上での発言なのだろうが……。

 

 何だそのOSR味(ポエミー)な、かつハッピー☆でマテリアルでもかかりそうな称号的なものは。話を聞こうとすると夏凛が割って入る。これ以上余計な話をさせてなるものか! とでも考えているのか、食い気味さが必死だ。心が泣いた。

 

「ところ! で! 真壁源五郎、飴屋(あめや)一空(いっくう)はどうしました?」

「嗚呼、彼なら………、アレは悲しい事件だった」

 

 悲しい事件? と私と九郎丸が疑問符を浮かべ、夏凜はぴしり、と固まった。

 

女主人(ミストレス)が熊本を出る頃にテレビ通話した際、君の話が出てね、近衛刀太。その際、嫉妬にかられたどこかの信徒が神聖魔法を暴発させ、施設の一部を破壊したんだよ。

 壊されたのは電子機器関係が多かったから、彼の得意分野だったのだがね。二週間ちょっとくらいで修理やら再購入やら開発やらは終わったけれど『デスマーチはもう御免だー』と、一週間くらいサボってる」

 

「…………後で雪姫様に給料泥棒として突き付けます」

「いや、まー夏凜ちゃんさんやらかしたのを口実にサボってるのはアレだけど、一応先に謝ろ、な? 俺も一緒に行くからさ」

 

 九郎丸から夏凜へのバタフライエフェクトの波及効果が高すぎて、キリヱに至っては果たしてどこまで影響が出ているやら……、心配というか、頭痛の種でしかなかった。

 

  

 

 

 



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ST13.我が剣を求める旅

感想評価誤字お気に入りその他などなどなどなど有難うございます・・・!
前回共々、脳内夏凜ちゃんが全力全開すると話が思ったように進まないやつ定期
 
※第一話前書きに、称号に関係するようなしないような・・・なポエム追加しときました。


ST13.BLADE Is The First And Last Event Of Life

 

 

 

 

 

 夏凜、九郎丸と共に探した一空であったが「しっそうちゅー」と適当に書かれた張り紙が部屋には張られており、どうやら本格的に初対面は後になりそうな気配があった。ちなみに一瞬舌打ちしそうな顔になった夏凜ちゃんさんであったが、やはり私や九郎丸の目があるせいか咳払いをしてクールな顔を取り繕っていた。

 

 再び表に出た私たち三人。源五郎パイセンは携帯端末でゲームをしながら時間を潰していたらしく、私たちの姿を見るとすっと仕舞って木陰から立ち上がった。と、何故か私の服装をじっと見るのは一体何だ……。まぁ服装がわざわざあつらえたような黒和服に赤い長マフラーなので、気になると言えば気になるのだろうが。

 

「その恰好…………、良いね。良いと思う。誰のセンスだい?」

「あー、お金は夏凜ちゃんさんに貸してもらっ「あげたつもりですが」、いや流石にそこまで甘えるのも。夏凜ちゃんさんに借りて、京都で買ったやつです」

「うん。……そうだな、君とは良い酒が飲めそうだ。今度一緒に呑みに行こう。ジュースくらいは出す」

「はぁ……、わかりました、お願いします」

 

 まぁ確かに相手の経緯を考えれば、恰好のセンスというか、遊び具合というかは源五郎パイセンの趣味に合うのかもしれない。

 

「で、えーっと……俺たち、どうしたら良いんだ? 普通に下っ端……あー、語弊があるなぁ、男衆でいいか? とかの一員になるには、特に俺とか色々しがらみ多そうだし……。

 九郎丸も抵抗あるんじゃないか?」

「えっ!? い、いや、僕は別に、だって男だし……」

「ふむ……、ハァ」

 

 ちらりと九郎丸を一瞥すると、源五郎パイセンは「なら頼むよ」とも言わずに頭を左右に振った。おそらく性別不定であれ現在がどちらの性別であるかは能力的に見抜けるはずだ、そこのところ察して無理と思ったのだろう。少し肩をすくめながら、軽く会釈しておいた。

 夏凜はと言えば、ふむと一息つくと何やら指先で中空に文字やら何やらを書いている。月々の金額がいくらだとか計算めいたのをしているが、一体何の検討をしているのやら。計算結果でも出たのか、頷くと私の肩を後ろから掴んで引き寄せた。……抱き寄せすぎだ、首の後ろに「むにゅん」とでも形容できる感触が、変形していた。何度も言うが一体何だその距離感の近さはッ!?

 

「では、そうですね。処遇が決まるまで、しばらく私の小間遣いのような形で引き取りましょうか。刀太も九郎丸も、まずはここの面々に慣れてもらった方が良いでしょうし。子供二人引き取るくらいの経費は、私の給金からすれば問題ないですし。こちらで寝泊まりしなさい」

「は、はい!?」

「何か問題でも、九郎丸?」

「い、いや、だって女一人に男二人部屋なんてそれは……」

 

 言いながらちらちらと私の顔と、指同士をつんつんしている手元で視線が行ったり来たりしていた。……そんな色々ヘンな九郎丸の顔を、夏凜はじっと穴が開くように見つめる。無表情の視線に謎の圧を感じたのか、気づいた九郎丸は一歩引いていた。

 

「その程度でどうこうされるほどヤワではないです。大体二人ともまだ子供だし、気を遣うものではありません。大人が頼れと言っているのですから、ある程度は甘えて良いです」

「で、でも……」

「それに貴女(あなた)は刀太と一月以上寝食を共にしていたと聞いています。今更では?」

 

 だって部屋とかも全然別でしたし、みたいなことを言う九郎丸だがまず気づくべきは夏凜の言った「アナタ」のニュアンスである。私的には女性が女性に向けるような気安い物言いに聞こえたのだが、九郎丸本人は気付いているのか、それとも気づかないくらいに違和感がないのか……。源五郎パイセンも顎に手を当てて「ほぅ」とか言ってしまってるし。

 

「ふむ。女主人(ミストレス)が帰ってきたから、正式な採決はあちらになるだろうが。一応その前提で話を――――」

 

 

 

「――――ダメだぞ? 刀太と九郎丸は不死身衆(ナンバーズ)に入ってもらう」

 

 

 

 と、私たちの頭上、微妙に近いとも遠いとも言い辛い距離感から声が降ってきた。瞬間、警戒して刀を構えながら見上げる九郎丸。表情は見えないが私の肩を握る手に力がこもる夏凜(痛い)、クールなまま顔を上げる源五郎パイセン。

 あと、さんざんアニメとかの方で聞き覚えのある声なので特に驚きもせず顔を上げる私。

 

「えーっと、雪姫か?」

「なんだー? 詰まらん。

 せっかくだから驚かせてやろうと思ったのに」

 

 そこにはフワフワと浮かんでいる、袖のないセーラータイプの服を着ている雪姫……というか、皆大好き? エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル(本体)(十歳)の姿があった。「ネギま!」時代からよく見る袖のない黒セーラーとミニスカートの組み合わせである。丈が短くひらひらしているが、中身が絶妙に見えないのはもはや一種の伝統芸かもしれない。

 いや、ネギぼーず相手には割と堂々と見せていた記憶もあるから、そういう意味では実際のところ意図して見せてるのか隠しているのかというのは……、業が深い話な気がしてきたから一旦それは置いておいて。

 

 当然のように小さい雪姫に驚く九郎丸であるが、ここで例によって簡単な事情(小さい姿が本体)説明をしながら「年齢詐称薬」を口に放り込む。いつもの雪姫の姿に瞬間で戻ったのだが、相変わらずこの薬の使い勝手は良いらしい。

 

「すごいですね雪姫さん。それに元々の姿も可愛かったし……」

「嫌味のない素直な言葉は良いぞ九郎丸、気分が良い。

 しかし刀太は意外と驚かないな?」

「吸血鬼とか言ってたから、姿かたちに何の意味もないとか言って不定形だったり自由自在だったりするんじゃとか思ってはいたけど。いや、薬で姿誤魔化してるのはちょっと予想外だったけど……」

「フフン、笑い事じゃないぞ? お前たちだって余程のことがない限り、身体の成長率はそのサイズで固定だ。『大人になる』代替手段の一つや二つ、あっても損はないだろう」

「それもそうなんだろうけど……、で、何でその、ナンバーズ? というか、ナンバーズって何かって話か――――」

 

「そうです雪姫様! どうしてこの子たちをいきなり、責任が重い立場に引き入れるのですかっ!」「苦しい、苦しいから夏凜ちゃんさん、ギブギブ……!」

 

 声を荒らげながら、ぎゅううう、ともはや一切の躊躇いなく私を後ろから抱きしめた夏凜である。九郎丸は目を白黒してるし、源五郎パイセンは「悪感情をこそ好感情に反転させたのか、やるね…‥」などと小さく呟いている。私はと言えば胸首頭そろってロックされて締め上げられているような状態なので、もはや乳の柔らかさ的なクッションなど意味をなさない有様であった。

 

「ナンバーズは、言うなればウチの幹部級用心棒みたいなものだ。

 特にホルダー加入者の中でその不死性/不滅性の高いメンバーを厳選している。

 能力だけで言えば間違いなく二人ともナンバーズ待遇が必要だと思っているのだが……」

 

 雪姫は目を半眼にし「……ホントにお前ら何もなかったんだよな?」とか言ってから、ため息一つ。

 

「九郎丸に関しては知り合いのツテで頼まれている。コイツは人体実験によって不死身と言えるほどの超強力な再生能力を得ているが、その根底、不死性を『保証するもの』自体は全く別のものだ。

 それが『上の連中』にとって重要なものであるらしくてな。殺されて解放されるのを待ってるような連中に、みすみすくれてやるのも癪だ。是非その力を使いこなせるくらいに成長し、存分に力を振るってもらいたい」

「っ!?」

「上の連中って上役とかじゃなくって物理的に上って意味か……」

 

 軌道エレベータから沿って指を空に向ける雪姫の言い回しである。彼女の立ち姿の決まり具合もあってか、ビシッとしているというか、OSR(オサレ)師匠の一枚絵にでも起こされそうな決まりっぷりだった。

 

 一方の九郎丸は、自分のことを誰が依頼したのかと雪姫の言葉で混乱しているが……、まぁ直に察するだろうから、私は肩を叩こうと……、って身じろぎするたびにハグを強めるな、息の根が止まるわ夏凜ちゃんさんよォ!(不服)

 

「刀太に関してはもっと酷い。私の眷属としての吸血鬼性と、コイツ自身の血縁関係が問題になってくる」

「血縁と言いますと……」

「元を辿れば高名な“偉大な魔法使い(マギステル・マギ)”の血筋に行きつくし、他にも色々……、本当に色々と面倒なことに、色々な血筋が入り混じっているんだ。

 そんな万能細胞みたいなコイツが私並かそれ以上の吸血鬼性を得てみろ? 利用しようとする勢力はアホみたいに増えるだろう。

 少なくともココとていつでも万全という訳にはいかない。一人で対抗できるだけの力を養う必要はある」

「なんかさらっと俺も知らない俺の血縁情報とか出すの止めろよ、後で詳しく教えろよカアちゃんよぉ……?

 まぁ、色々横に置いとくとして、実地訓練しろって感じか……。『自分だけでも生きれるように』っていうのは、俺の考え方と合ってるからいいんだけど……」

 

 何か不満かと聞かれたので、夏凜の腕を首から少し引きはがしながら理由を……、「このためにでっち上げた理由を」言った。

 

 

 

「…………なんか親のコネで入社してるみたいで、カッコワルイ」

 

 

 

「嗚呼……」「確かに」

 

 身体的には年が近いせいか、九郎丸は私の不満に納得がいくらしい。源五郎パイセンもその正体というかを考えれば似たような結論に至るのだろう。なお夏凜は何も言わず私の頭上に自分の顎を乗せた……、いや、もう何も言うまい。

 

 と、雪姫はツボにはまったのか大声で笑った。

 

「な、なるほど? 確かに恰好が付かないのは問題だよなぁ刀太、我が息子よ!

 不死者としてハッタリやら恰好付けは結構大事だからな。面子、という程ではないが、それを気にする姿勢は悪くない」

「なんか魔王サマっぽいポーズとってるの何なんだよ……」

「だが、そんなお前らに朗報だ。ナンバーズに関しては、ちゃんと試験がある。簡単な面接じゃない、不死身さを確認するし、戦闘能力も併せて確認になるからな」

 

 ほれ、と。気が付くといつの間にか、夏凜の腕の中から引き抜かれ、私は雪姫に首根っこを掴まれていた。見れば九郎丸も同様であり、驚いた顔をしている。

 

「な、何だ? 時間停止でもしたのか?」

「体術、武術、そのあたりを齧ればそれなりには、だな。

 さて…………、うん、長々と期間をとっても良いが、あまりダラダラすると張り合いがないだろう。私の目がないとお前はサボるというか、現実逃避を始める傾向があるからなぁ刀太」

「えーっと……、何? 話の意図がわかんねーっていうか」「雪姫さん……?」

 

「よし、期間は一月としておこう。一月以内に『出て来れたら』クリアとする。それなら親の依怙贔屓だの何だの言う輩も出ないだろう」

 

 いやだから話をしろ、何を勝手に進めるんだと。そもそも「出て来る」ってどこからだとツッコミを入れる間もなく、私と九郎丸は「突如開いた地面の穴」の底に、投げ捨てられた。

 

「わあああああ、と、刀太君!?」

「あの母ちゃん何も説明なしに放り棄てやがったぞ!? どうしたそこまで段取りガバガバ人間だったか!」

 

 このあたり、もうちょっと穏便な流れと状況説明を受けた上で「地下迷宮」に落とされるだろうと原作知識から踏んでいたのだが、一体どうした雪姫。私のガバが移ったか? いや、もし移ったのだとすると今後の事を考えて恐怖以外の何物でもないのだが、それはともかく。

 落とされること自体は元から想定していたので、当然対策の準備もある。

 

 胸の中央に右手を当て、例によって飛廉脚(オサレ)もどきを形成する。……そろそろまともな名前考えないといけないなこれも、いや、それはともかく。作成した足場は普段よりも大きく、魔法の絨毯とか移動昇降床のように広げて離れた九郎丸もキャッチする。

 

「と、刀太君、これは……?」

「応用編、みたいな感じか? とりあえずこれで一気に上に戻って、雪姫に文句付けてやらないとな。大体俺の服とか私物全部ぶっ飛ばしたくせに、携帯端末の替えもまだ買ってくれてないし……」

 

『リク・ラク・ラ・ラック・ライラック――――』

「――って冗談じゃねぇぞあのカアちゃん!? ガチで氷魔法ぶちかまして来やがる!」「と、刀太君――――!」

 

 火山噴火の落石がごとく大量に落ちてくる氷塊に、思わず顔が青ざめる。

 と、床の形成で手いっぱいの私の前に、剣を構えて九郎丸が立つ。そのまま目にもとまらぬ速さで剣戟を()めるのだが、いかんせん数が多い。いくつかは私や九郎丸の身体に刺さり、移動床もどきも粉砕して下方向に落とされた。

 

 

 

 いや、元から「黒棒」を入手したいからここには来る予定ではあったが、いくら何でも滅茶苦茶が過ぎる……。

 もしこれが歴史の修正力的な何かであるのなら、俺は……、いつかこれを仕組んだ神的な何かをぶっ飛ばす。

 

 黒棒を使った完成版の血風創天(けっぷうそうてん)を一発お見舞いしてやる……!

 

 だから、今は仕方ない。せめて打撲のダメージだけでもどうにか出来ないかと、血液操作で何かをやろうと……っ、氷塊が胸部の傷のところを上手いこと貫通して覆ってしまい、上手く血と魔力が放出できない!?

 

 

 

 まずい、このままだと――――――――あっ。

 

 

 

  ※  ※  ※

 

 

 

「…………変われば変わるものというか、恐ろしいものを見たかもしれない。甚兵衛(ジンベエ)さんなら、もしかしたら何か知ってるかもしれないけれど」

 

 普段、あれだけエヴァ様(ミストレス)に忠誠を誓い崇拝しているクールぶったカリンが、あれだけ取り乱し余裕なく彼女に詰め寄っている。もっともその表情はデレッとしたものと、子供を取られた姉か母のような剣幕とを行ったり来たりしていて、本人も感情の整理がついていないような有様。

 見ているこっちまで変に頭が痛くなってくる。確かにカリンは刀太に対して、以前のテレビ通話の情報の時点で般若と化していた。嫉妬の鬼だ、その後の有様は、関わる気を失せさせるものがある。

 

 それがいざ来てみたら、何だ? 逆・光源氏のようなものでも狙ってるのかという有様で溺愛してると来たものだ(少なくとも僕にはそう見えた)。エヴァ様(ミストレス)も遠からずなのか、対応に困っている風でもあった。

 ギャルゲーじゃないんだからと思わないでもない勢いで堕とされている様は、流石に想定外である。

 

 少し頭を冷やせと、頭上に氷塊を受けて倒れるカリン。

 …………「ぎゃふん」とか現実で初めて聞いた。

 

「源五郎、後を任せて良いか?」

「どちらに行かれるので?」

「せっかく戻ったんだから、今サボってる奴の折檻でもしてやろうかってな。

 ……丁度今、なんかわからないけどムシャクシャしている所だし」

「かしこまりました」 

 

 触らぬ神に祟りなし。首肯した後、どういう理屈か澄ました風の表情に戻って気絶してるカリンに肩を貸す形で持ち上げた。お姫様抱っこは常々「雪姫様専用です」と絶対零度で公言している彼女だった、僕も無駄に「残機」を減らす趣味はないので、それに倣う。

 

「しかし、まさかこの世界(コッチ)でもああいうパロディ的な格好を見ることになるとは……。丁度『厨二(ちゅーに)』ぐらいだし、コミック的な趣味をしてるのも、僕も覚えがあるけど。こっち側で『そういう性質』を帯びている子なんだろうから、こちらのボロを出さないように気を付けないとな。

 しかし…………」

 

 休憩室に彼女を運んで適当に寝かせた後、僕は思い出す。エヴァ様(ミストレス)の子供として連れてこられた、近衛刀太のステータスウィンドウを。

 僕が「この世界で」生を受けてから、その時点から持っている「ゲーム的なシステムを」「僕や世界そのものに対応させる」能力。その代表格たるステータス画面に、少し妙なものがあった。

 

 称号も例えば「中二病」「むっつり」「PRAY人生」「メンタルクラッシャー」あたりは判る方だが……、いやちょっとよくわからないのもあるが、それでも先頭にあった「光る風を超える者(クィスペラ・ヴェントゥスルーシャス)」の方が意味が解らなかった。何故ラテン語のルビが振られているのか……。

 でもそれ以上に――――。

 

 

 

「何故本名が『二つあった』んだろう」

 

 

 

 今まで見てきた人間の中で、この表示を見るのは初めてだった。

 例えば悪霊に憑依されている人の場合は、その人間のステータスと別に憑依している相手のステータスが出るようになっている。二重人格なら状態異常に記載されるし、偽名などは通称の欄に併記されることが多いのだが。

 彼の場合はそういうものではなく、本名の欄で横一列に併記されていたのだ。

 

 

 

 つまり――――本名:近衛刀太/神楽坂菊千代 、と。

 

 

 

 

 



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ST14.心、目覚めたばかり

感想、ご評価、誤字、お気に入り、ここ好きなどなどなどなどあざます!
 
しばらく九郎丸のターン・・・のはず。


ST14.Heavy Love , Immediately After Waking Up

 

 

 

 

 

 気が付くと目の前に九郎丸の顔があった。

 

「――――――――?」 

 

 判然としない意識のまま。目の前に目を閉じた九郎丸の顔だ。わずかに唇が開かれ、頬が上気している。中性的というよりはやはり表情の作り方が女性的で、夏凜ともまた違った雰囲気である。視界をよく見ればどうやら私の額と顎にそれぞれ両手をあてて、気道を確保しているらしい……、とここまで見て気づいた。どうやら人工呼吸しようとしているらしい。

 思わず右手で九郎丸の額を軽く突くと、はっとした風に目を開く。大きく開いた九郎丸の目には私の顔。距離はちょっと手違いがあればキスしかねない程に近い。

 

「わ、わあああああああ!? と、刀太くん! お、起きたんだね、良かった……」

 

 上体を起こすと違和感。見れば左腕がない。和服の袖なのでひらひらして気づかないが、肘から下が物理的に存在しなかった。周囲を見回すと想定通りに真っ暗で広大な空間。わずかにある岸以外の足元は水浸しだが、うっすら光ってるのか視界はゼロではない。なんとも不気味だ。

 と、そんなことを考えた瞬間に下っ腹に横一直線、まるで太刀でぶった切られたような激痛が走った。飛び跳ねて転がる私に駆け寄る九郎丸。大丈夫と言ったものの、少し吐いた。何か色々異物として液体でも大量に入っていたのか…?

 

「ごめんね、刀太君。上半身だけは取り戻せたんだけど…………」

「…………あ、あー、悪ぃけど、状況が分かんねーわ」

「? 覚えてないのかい? 僕らは……」

 

 九郎丸の説明を聞き、なんとなく思い出した。地下空間に落とされて早々、お互いの無事を確認した私たちだったが、妖魔の類なのかガ〇ラ(亀の怪獣)の甲羅なんだか鮫なんだかワニなんだかみたいなシルエットが横切った。当然のように警戒して収納アプリから刀を取り出した九郎丸だった。

 そしてこれが原因で、私たちはあの怪獣のようなバケモノに延々と追われ続けることになったのだ。

 

 つまり端的に言えば、黒棒のことばっかり意識してたものだから地下に落ちてからの話をすっかり忘れていたのが原因だった。

 

『ご、ごめん刀太君、なんか仲間呼んじゃってるよアイツら――――!』

『いや仲間呼ぶのは想定外なのはわかるからな! ええっと、あー、仮称!「飛蹴板(スレッチ・プレッチ)」!』

 

 飛廉脚(オサレ)もどきの名前を適当に付け、私は九郎丸を咄嗟にお姫様抱っこで持ち上げる。きゃっ、とか悲鳴が聞こえた気がするのは全力で聞かなかったことにし、そのまま上空へ逃げた。

 流石に空中までは追ってこれないだろうと判断していたのだが、考えたら奴ら腕は持ってるし知能もそこそこ高い。私も冷静に原作を思い出す余裕がなかったせいもあって、つまり「投擲してくる」くらいの知能があるだろうという判断をすることが出来なかった。

 結果何が起こったかというと、奴らの仲間のうち小さいものを、私たちめがけて何体か放り投げてきたのだ。小さいとは言ってもそのサイズは推して知るべし、ざっと10メートル以上かつ数トンはあると思う。

 

「……で、直撃受けたところまでは記憶にあるんだけど、そっから先頼むわ」

「わかった。その後、刀太君は血風を左手でやろうとしたんだけど……」

 

 地面に叩き落とされた私たち。九郎丸も離れ孤立した状態で、私は折れた右手を庇いながら左手で血風の構えをとったらしい。が投擲のモーションをする瞬間、背後から上半身ごとガブリと食われたそうだ。

 

「刀太君の足がばったり倒れて、でも全然再生しなくって……。もしかしたらそういう、不死殺しみたいな術が施されたバケモノなのかと思って、心配で心配で……。

 血風が中で爆発したのか、刀太君を食ったバケモノの腹が内側から斬れたのはわかったから、そいつを滅多切りにして、中から引っ張り出したんだ」

「で、左腕がないのは……」

「引きずり出した後、ここまで逃げてくる途中で……、ごめん、僕が軽率だったばっかりに」

「あー、いやだから流石に予想外すぎるだろ。ほら泣くなって。男だろ?」

「で、でも……」

 

 自らのふがいなさというか、仲間の私を不注意で殺しかけたのがよほど堪えたのか涙ぐむ九郎丸。……えーっと、確かここの怪物共は、アレだ、食った相手の身体を溶かし魔力に変換する性質を持っていたはずだ。つまり「魔力を使用して」「肉体のパーツを」「再結合させて」復活する私など、良いエサでしかない。そこまでの情報は知らないまでも、けっこう危険な状態だったのは理解してたのだろう。原作でもそんな状況だったら、流石に泣くか。

 確か取り込まれたら30年はそのまま胃袋の中とか言ってたような……、と。それを言っていた相手に遭遇しなかったと思い周囲を見渡す。

 釣り人らしい姿は見えない。……つまりはいつものアレである。原作がビリヤードみたいに玉突きした結果、ここに居るはずの宍戸(ししど) 甚兵衛(じんべえ)が別な場所に移動したのか。

 

「刀太君、どうしたの?」

「へ? えっと、カアちゃん……、いや、アレだなマザコンみたいだって言う奴出るか。

 えーっと、雪姫が試験の詳細とか、全然説明しないで突き落としたろ? 俺たち。ってことは、誰かここに案内する奴がいるか、そういう情報がある拠点の施設みたいなのがあるんじゃねーかと思ってさ」

「それは……、そうかもしれないね」

 

 うんうんと頷き周囲を見渡す九郎丸には悪いのだが、そんなことないのは私が一番知っていた。一応それに該当する人物はいるのだが、雪姫本人は彼をこの場に落としたことをすっかり忘れているのだった。つまり私たちをこの場にほぼ何の説明もなく落としたのが、雪姫のガバでしかないということであって…………、い、いや、でも黒棒が封印? されている施設の方は実際に残っている訳で、原作だと確認してなかったけどあそこに情報がある可能性はまだある……。

 大丈夫、私のガバガバ人生が雪姫に感染したわけじゃないだろ? 大丈夫。もしそんなことになったら今後のストーリー展開で私が一体何度死ぬことになるやら…………。

 

「大丈夫、刀太君? なんかすごい顔色してるけど」

「い、いや、大丈夫。腹、痛ぇのも治ってきたし……。とりあえず何か探すか。確か『出ろ』って言われてたわけだし、何かあんだろ」

「そうだね。ここは広大なようだけれど、僕らは不死者だ。数日で探索を終えるくらいはできるはずだ」

 

 まぁ本題は探索し終えてからになるのだが、流石にそれは言えまい……、とととっ。少しよろけながら、九郎丸の手を借りて立ち上がった。悪い悪いと謝罪をすると、問題ないよとばかりにサムズアップしてきたので返す。

 ……その後、私を引き上げた手を一瞬見つめて、少し嬉しそうに微笑んだ顔は見なかったことにして。九郎丸が手元で点灯させた火を頼りに、水辺に降りたり、時に人工物の橋やら何やらを渡ったりして索敵していく。

 しかし、歩いても歩いても何も見当たらない……。方角としては都の方なのは、九郎丸がコンパス系のアプリを持っているので何とかわかるのだが。しかしそれにしても……。

 

「心もとねーなぁ……」

「そうだね、雪姫さん……、いや、雪姫様がいないから」

 

 どうやら九郎丸も考えていることは似てるらしい。なんだかんだ夏凜のもとまで超! エキサイティンッ! されるまでの間、私と九郎丸はずっと雪姫の保護下にあったのだ。その間修行をつけながらも、迷いなき足取りで歩いていた姿は、異様な頼もしさがあった。……たとえ実態が十歳程度の少女に先導されている絵面なのだとしても、我々は未だ子供というかひよっこなのである(不死者的意味合いで)。

 絶対的な人生経験が足りない以上、判断一つ一つで命取りもあり得るのだ。

 

「そういえば再合流前、夏凜さんと一緒に旅してたんだよね。どうだったんだい?」

「あー、夏凜ちゃんさんがUQホルダーだとか、そういう話も全然聞いてなかったからなぁ。というかお互いがお互いに気を遣って、正体バレないよう振舞ってた感じか?

 あと借金」

「借金?」

「初遭遇時、服も私物も全部消し飛んで全裸無一文だったし。そっから宿屋とかこの服とか買ってもらったりしてっから……。いやマジで頭上がらねーわ。本人は『あげたのです、気にしなくて良いですからね?』って言ってるけど。スルーするには格好つかねーし」

「あはは……、でも、無事で何よりだったよ」

 

 そう言って微笑む九郎丸。…… 一瞬話してる時に目のハイライトが消えていたような気がしたが、きっと気のせいだろう。同居生活でもトラブルらしいトラブルは起こさなかったし、その後も良い修行仲間というか、そのくらいの距離感は保ってきたつもりだ。

 

 別に問題はない。 (???『殺した責任とかで思い悩んでいた乙女相手に普段通りに気遣っていたら内心で何が起こるか、わからないものかねぇコイツは』)

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 その後、ぽつぽつと会話をしながら移動した。時に他のバケモノっぽいのに見つかって、飛蹴板を用いて高速移動して振り切ったり、二人そろって息をひそめてやり過ごしたりを繰り返してだ。一つ思ったのは、やはり私はこういうのに向いていないらしい。内心ビクビクしながら脈拍が上がると、シャツの胸元から血が滲んできていた。おそらく回復力を上回るレベルでバクバクと鼓動したせいなのだろうが、九郎丸の表情が曇って元気づけるのに忙しくて仕方ない。

 実際、これのお陰で戦う手段を得たようなものなので感謝しかないのだが、ある程度、原作主人公のように明るく伝えても、返される笑みに力がないのだ。

 どうしたものか、いっそ雪姫に相談するべきか…………。

 

「そういえば刀太君って、気は全然使わないけど何でだい? 血風とか、あと一昨日使ってたやつ。僕と夏凜さんの戦うのを止めた時の大きい斬撃みたいなのとか。気を乗せたらもっと楽に放てるだろうし。

 見た感じ基礎は出来てると思うから、ちょっと疑問に思ったんだけど……」

「んん? えっと、別にそういうの直接教わったって訳でもないからなぁ……。って待て、楽に放てる?」

「うん。前にも触りだけ話したから、もうちょっと詳しく言うね。

 気って言うのは東洋魔術の概念にあるもので、例えば僕が今使ってるこの火とかもその系列なんだ。内容的には生命エネルギーを魔力に転化させて使用する術。えっと、術とは言わないまでも、体術とかの補助に使ったりもするかな」

「んんん? 聞いた感じなんとなくだけど、それって普通の魔力……、西洋魔術の魔力とかと打ち消し合ったりしねー?」

「察しが良いね。だから本来は、もし併用するならそれなりの技術が必要なんだ……けど。

 僕が見た感じ、刀太君もなんとなくのレベルでそれが出来てるように思う」

「あー、そうか?」

 

 確かに咸卦法自体が使えるかどうかと言えば、私の血筋にそれを使っていた人間がいるのは確実だと原作でも言及されてるので、使用できるのだろうが。

 ……いや、考えたらそもそも血風を投げつけるのって単に私の腕力でやっていたな。最終的な物理的原理としてはウォーターカッターのような理屈で切断効果があるのだと思っているが、なるほど。確かにマッハの速度で回転させてぶん投げるのは、私の体躯だと筋肉のリミッターが外れていても、補助がなければ難しいか。

 

 とはいえ自覚的にやっているレベルではないので、私は「ネギま!(前作)」ヒロインであるところのアスナさんが如くには行けないのだろうが。

 

「というか……、疲れねー? たぶん1時間くらい全然景色の感じ変わらねーし」

「3時間だね。話題も尽きてきたし」

「まるで子供が死んだ後に送られるという賽の河原……」

「ちょっと! 怖い話止めてよ! 大丈夫、僕らまだ生きてるから!」

「まーそうだな。腹も減ってくるくらいだし。……何か食い物持ってる?」

「一応、カロリーバーがあるけど……」

 

 瞬間、脳裏を過る夏凜が差し出した、食べかけのカロリーバー。……どうにも私の脳も疲れているらしい、あの時は軽く流してしまったが、ひょっとして間接キスなのでは? とかどうでも良いことを考えてしまった。

 頭を左右に振り、バー 一つを半分ずつ分けてもらい食べる。プレーンシュガー派か……、良い趣味をしている。

 

 

 

「……おー、食い物の臭いがするな」

 

 

 

 どこからか声がし、九郎丸が口にカロリーバーを咥えたまま刀を抜こうと警戒する。「こっちだこっち」と下の方から声がして、私たちは崖の下に視線を送った。

 小さい木製ボートのようなものに、赤茶けた髪の男が寝っ転がっている。無精ひげ、へらっとした表情、ボロボロの旅装束のような恰好は時代の違う風来坊のような見た目だったが、そのマントというかローブの下にはコンビニ店員の制服が着こまれていてイマイチ締まらなかった。

 

「君たちアレか? ウチの新人? わざわざこんな所に送られたってことは入団テストだなー。ご苦労サンっ」

「あー、(アン)ちゃん誰ッスか?」

「お? はは、オッチャンを兄ちゃん呼ばわりたぁ嬉しいこと言ってくれるじゃねーの。

 俺は、宍戸 甚兵衛っていう者だ。預かりだがUQホルダーのリーダーやってる」

 

 その言葉に驚く九郎丸と、そういえば原作でそんなこと言ってたなぁと回想する私であった。結局リーダーらしい活動をした甚兵衛をほとんど見たことはなかったのだが、今、預かりと言っていたな。

 つまり雪姫が一線を退いていた間に、代理でリーダーをしていたということか。そうでなくともココでの歴は夏凜より長いのは間違いないので(下手するとネギぼーずと面識があるレベル)、リーダーでなくともサブリーダー的なことはしているのだろうが。日常編でも仕事の振り分けを相談している場面があったような、なかったような……。

 

「そりゃ良いんだけど何か食いモンない? 地上の食い物」

「「地上の?」」

「ここに落とされて二年くらいまともなモン食ってなくてさー。お腹が空いて頭があんまり回らねーって感じだ」

 

 二年もいるんですか! と私に代わり叫んでくれる九郎丸が有難い。こう、本当は原作主人公なら素直にリアクションをとれるのだが、いかんせん色々知ってしまってるので表情を取り繕うので限界だ。

 なお経緯については原作と大差なく、秘蔵の沖縄酒と通販で買ったらしい高級地鶏の焼き鳥串を全て平らげたのが逆鱗に触れたらしい。時期から見て私と会う直前、つまりここを一時去る直前だったのだろう、おそらく大分奮発してたろうことは想像に難くない。

 まぁ確か冗談のようなノリで落としはしたがすっかり忘れていたのが原因っぽいから、怒り自体はそこまで長く持続はしなかったようだが。

 

「ど、どうしよう刀太君。あんな体勢でも隙が全然ないくせに、私生活は隙だらけのオッサンだよ……!」

「というか二年もここに落ちてたんじゃリーダー全然仕事してないんじゃね?」

「おー? オイオイそれを言っちゃぁオシマイよ。大体俺だって好き好んでいる訳じゃないんだぞ? 食い物だってまともなのが無ぇし。

 なんか目のない深海魚の親戚みたいな奴とか、巨大な目玉持ってるナマコみたいなヤツとか、あとデケー蜘蛛だな。毛を処理したら意外と食えたけど、まぁちょっと匂いがなぁ」

「「そういう食レポは」」「結構です!」「いらねーって!」

「固いコト言うなって、オッチャンも仲間に入れてくれよー。タンパク質くらいなら奢るぜ? タンパク質ぐらいなら」

「今の前後の発言で、全くそそられるものがないんですけど!」

「タンパク質しか言わねーの実質自白じゃねーか、材料のグロさ……」

 

 そんなことを話ていると、瞬間移動のように私たちの背後に甚兵衛が突如現れた。気配もなく一瞬で場所を「イレカエ」られたことに驚く九郎丸だったが、ポケットからすっと残りのカロリーバーの箱を取られた。

 

「プレーンシュガーか。オッチャンもうちょっと風味が強い奴の方が好きなんだよなぁ、メープルとか。まあこの際、色々贅沢言う話じゃないか」

「い、いつの間に……!」

「ま、コレの代金って訳じゃねーけど。付いて来いよ、色々教えてやる」

 

 ひらひらと手を振りながらこちらに背を向け歩き出す甚兵衛だったが。

 

 

 

 ……原作で見るより実物で見ると、こう、なんだか数段と息を呑む凄み(オサレ)な振る舞いに思え、そりゃ源五郎パイセンも心酔するわと結構共感を覚えた。

 いや、実際心酔したのは別な理由なんだろうが。

 

 

 

 

 

 




※プレーンシュガー味なのはわざわざチャン刀の味の好みを雪姫に聞いて準備したから


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ST15.戦う少年少女

チャン刀ついにお待ちかねのアレ・・・!

※期間が1月設定したと思ってたのに1年になってた特大ガバがあったので修正しました汗 ご指摘どもですナ
以降はその前提でオナシャス!


ST15.Show Must Go On

 

 

 

 

 

「へ? 一月でここクリアしろって? しかも事情説明無しで放り込まれた?

 マジか、あのロリババァついにボケたか?」

「割と前からボケてはいそうッスけどね……、色ボケなら」

「刀太君っ」

「はは! 母親相手に随分言うじゃねえか坊主」

「いやだって、全体の話からすると絶対俺って、雪姫の知り合いの血筋だろってのは思うし。引き取って面倒見てるって何かこう、そういう義理的な感情がスタートだろって疑惑がなんとなく……。

 まぁ今更別に良いんだけど、家族だし」

「おう、そうか。そういうのは本人相手に言ってやれ」

「たまに言ってるッス」

「…………うン? おう、そうか」

「にしても何だろうこの味、何かに似てるような…………、マグロ、馬刺し? 煮ているのに生っぽい味がするのはどーゆーことなん……?」

「馬刺しか…‥、熊本思い出すね。僕が刀太君の家に厄介になったとき、雪姫様に歓迎会だって奮発してもらったっけ」

「ほー、そうかそうか。ちなみに今食ってるソイツはト――」

「「詳細は知りたくないです!」」

「何でぇ何でぇ、命に貴賤なしってよく言うじゃねぇの。食っちまったら腹の中では皆兄弟」

「いや死生観どうなってるんスか……」

 

 甚兵衛の拠点……というより、ネギま! 時代から更に圧倒的な崩壊をした某所の外れ。彼の手料理(曰く「地底人(ピクト)の大地(鍋風)」)を食べながら、それぞれの事情やら自己紹介やらと親交を深めていた。 

 九郎丸の自己紹介において、不死身歴五年、という言葉に一瞬違和感があった。確か四年とどうこうとか原作だと言っていた覚えがあったが……? いや、要は原作から半年とは言わないまでもずれ込んでいるということか。

 例によって確実にビリヤードされているというのが証明された訳だ。影響度の見積もり、ちょっと無理だなこれ……。大体、今頃刑務所に繋がれてるだろう橘センセが悪い(責任転嫁)。

 

 その後、甚兵衛の自己紹介が原作通りの流れで入る。

 千四百年前、今でいう福井県あたりで人魚の肉を喰らい不死身化。時に仲間を作り、時に子供を拾い弟子に取り、時に女と出会い色恋から死を看取り、時に護国のため気まぐれに従軍し…………、とちょっと待て、明らかに原作で語られてるエピソードより量が多いぞ。

 

「いや意外と聞き上手だな坊主。なんか要らんことまで話しちまった」

「へ? あー、そっすか?」

「おう。なんかこう、変に相槌がいいのか知らんが、上手いことこっちの懐に入ってくる感じだな。経験だが、情緒不安定な奴とか依存しやすい奴なら一発でグズグズのメタメタになっちまいそうなすり抜け具合だから、気を付けとけよー。

 特に女」

 

 ――――脳裏に浮かんだのは、温泉浴衣の胸元をはだけさせたままそこに私の頭を挟み抱きしめ妙に優しく撫でつつ「大丈夫だから、お姉ちゃんに甘えていいから、もう怖くないですよ……」とか寝言でほんのりウィスパーな感じでささやく旅館早朝の夏凜……。

 今更、心当たりしかなさすぎるアドバイスを言われた。

 遅い!(無茶振り)

 

 ちなみに九郎丸は、甚兵衛の過去話に細かいエピソードが入るにつれて涙が止まらない様子だ。特に家族や仲間、恋人やら軍の友たちとの別れについて。今の所そういう機会は私たちも未経験だが、彼の言葉に含まれる寂寥感に思う所があったのだろう。

 なおこれでも、雪姫関係の話については結構スルーしてるので伏せられている部分はまだまだあるような気がするが。ポーカーフェイスなのか大した話だとでも思っていないのか、彼は肩をすくめて頭をかいた。

 

「しかし一月とかマジで厳しいな。送り込んだってことは出来なくもないんだろうが、下手すると睡眠時間は計算に入ってないかもしねぇな」

「あー ……、(頭が)痛いの嫌なんスけどねぇ」

「だ、大丈夫! 刀太君が寝てる間は僕が頑張るから!」

「いやそれってお前、最終的に寝てる時間無いんじゃね? 九郎丸。

 別にこーゆーのは、誰かが大変な思いする話でもないだろ……、って、結局試験ってどういうことなんスか? センパイ」

「まぁ、そうだな。一応話してやるか」

 

 この場所が新東京の地下からホルダーの拠点まで伸びている迷宮であること、クリア条件は無限のように湧く妖魔共をある程度まで減らすこと。

 

「本館の倉庫の奥からも、ココまで道は伸びてもいるんだが、あそこ開けるとバケモノ共がまとめて地上に湧くようになっちまうからなぁ。出入口が地上に近すぎるのがイカン」

「け、結構無茶なスケジュールなんですね」

「無茶じゃないだろ。流石にそこまでボケちゃいねーと思いたいが、雪姫も……。いやむしろ息子びいきか? あの雪姫でも。こりゃ帰ったらイジれるネタが増えてる系かねぇ」

 

 さて、と立ち上がる甚兵衛。腕を組みなおし、にやりと笑った。

 

「とりあえず今どれくらい出来るか直にみてやるから、付いてこい。先輩の腕って奴を見せてやるわ」

 

 自信満々な言葉に、私と九郎丸は顔を合わせて、少し笑った。雪姫ともまた違うが、なんとなく頼りになるこの感じに、安心感を覚えたからだ。

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 拠点からそこそこ離れた、開けた場所。滝が近くでダバダバと水音を立てているのを背後に、甚兵衛はカロリーバーを齧っていた。

 

「一緒に掛かってきて良いぜ。って言っても、九郎丸の嬢ちゃんは補助以上の『気』は使わないこと。地形変わると住める場所が減る」

「嬢ちゃん…………、だと……?」

「だ、誰が! 女ですかッ!!」

 

 言いながら早々に切りかかる九郎丸だが、軽くあしらわれている。昔は剣を齧っていたという言葉に偽りなく、ローブを適当に脱いでひらひらと闘牛のごとくかわしている。……が原作では確か上半身裸だったと思ったのだが、どうして地上のコンビニ制服など着用しているのか真面目に謎だ。

 あ、左腕を切られた。

 

「もらった――――!」

「動きは悪くねぇが、ちょっと素直すぎンな」

 

 ひゅん、と。瞬時に切り飛ばされた腕と、九郎丸の剣の位置を「イレカエ」る甚兵衛。その手が九郎丸の鳩尾を殴ると同時に、空中の剣を掴んで適当に構えると、ちゃきり、と峰に返した。

 すかさず反動で体を返して徒手空拳に移る九郎丸だが、それも慣れたように往なし、時に蹴りを交えて蹴り飛ばし――――ここだっ!

  

 待機していた右腕で「血風(けっぷう)」をアンダースローのように投げる。とこちらを見ていなかったろうに剣の峰でそらし、地面に叩き伏せた。

 それを黙ってみている私ではない。すかさず「飛蹴板(スレッチ・ブレッチ)」(仮称)を形成して、投げた姿勢「のまま」接近。意表を突かれたのか「はぁ!?」と驚いた声を上げる甚兵衛に、そのまま前方前回り飛び蹴りをかます――――。

 

「血装術たぁ渋いねぇ。意外性も悪くねぇけど、まだまだだな」

 

 と、その瞬間で私と甚兵衛の座標が「イレカエ」られた。

 だがそれも想定済。既に右腕に「血風」の準備は終えており――――。

 

「えらく物騒だなぁ。何だ? さっきの戦い方見て作戦立てたのか」

「!?」

 

 ――――いつの間にか復活していた左腕を使って、私の右腕の座標を「イレカエ」、自分の手元でつかんだ。痛みすらなかったぞどうなってるんだあの能力!?

 

 UQホルダー・不死身衆ナンバー2、宍戸甚兵衛。不死性は人魚の肉による強化再生であり、戦闘に使うのは本人いわく「イレカエ」と呼ばれる、仙術由来の瞬間移動および物質転送、空間置換能力だ。本人が認識した範囲と範囲を、おおざっぱな理解ですら意図したとおりの状態に「イレカエ」る。それに加え、本人が今まで生きてきた十四世紀ほどにおよぶ戦闘経験から手を出した、経験した武術や闘術、およびそれらの知識や蓄積に由来する勘所。戦闘力や能力に限ってではなく、総合力で最強と数人が名を上げている(まぁいくらか贔屓もありそうな二人だが)。

 速い、というよりまるで「見ていないのに」「見えている」ような動きと準備の良さ。こちらの動きを初見含めて一瞬で判断してるか、瞬間の条件反射で対処していることになる。一体どんな蓄積度があればこう動けるのか……。それをすまし顔で行い、呼吸一つ乱れず汗もかかない。

 

 つまり底が知れない強さ(オサレ)だ。

 

「――――っ!」

「おっと! いや爆弾仕込みやがったか!」

 

 とはいえ、それを前提にしているので私にも対策の打ちようは多少ある。奪われた腕で待機状態になっている「血風」を、遠隔で起動させた。……嘘だ。厳密には「飛蹴板」で移動した跡に少し血液を残し、線になるよう形成し飛び散らせていたが正しい。

 つまり甚兵衛の足場に散ってる私の血を持ち上げ、切り離された腕に接続し、遠隔で起爆(ヽヽ)したということになる。

 

 流石に少し予想外だったのか、袈裟斬りされたようにぐらりと上半身が傾き――――次の瞬間、何事もないよう「接続された」。

 

「今のは冷や汗かいたぜ。ちょっと『奥の手』使っちまった。……あー、成程。お前まだ完全に自分の身体を『バラバラになった状態で』掌握しきれてないんだなぁ。いや、眷属成り立てっていうのならこれが普通か? むしろ雪姫の方がおかしいのか」

 

 ほいっ、と言いながら周囲の散った血を「イレカエ」、どこかへと散らした甚兵衛。すぐさま私の腕をその場に落とすと、九郎丸の剣で掌を貫通させ固定――――いや新しい傷が残ったらどうする痛いぞアレ絶対!? 今直接の接続がされてないから痛覚ないけど! 嗚呼可哀そうに海から引き上げられた魚が必死にもがくように痙攣してて……、我が腕ながらキモい。(語弊)

 九郎丸が拳を構えながら私の横に並ぶ。

 

「悪い、両手なくなっちまったわ」

「悪いとか、それどころじゃないよ刀太君! 大丈夫?

 それに、一体アレは……」

「詳細は判らないけど、まぁ見たままじゃね? 視界に入ったものを入れ替えられる、的な」

 

「当たりだぜ、俺はこれを……『イレカエ』と呼んでいる」

 

「……そのままだね」「だな」

「ネーミングってのはシンプルなのが良いんだぜ若人。ウチにそういうのメッチャ凝りたがるどっかの真祖様もいるがぁ」

 

 知ってた、と答えるわけにもいかず、九郎丸の解答に追従した。まぁ当人は一切気にしていないらしい。

 もっともその厄介さは既に二人そろって折り紙付きだ。その気になれば人体をバラバラにすることも出来るだろうし、かと思えば私たちの座標も瞬時にバラバラにできるだろう。つまり戦闘に際して、思考する時間を与えてはいけないということだ。

 

「刀、なくてもいけるか? 九郎丸」

「神鳴流には一応、体術系統もあるけど、それでも剣の方が得意かな?」

「じゃあまず取り戻さないとな……、よっと! 捕まれ!」

 

 再び飛蹴板を足場に形成すると、一度猛烈な速度で接近し――――と、それも瞬間「刀に刺さった腕の位置」と置換させられた。

 何でもありか「イレカエ」!? 運動速度が乗せられた、切り飛ばされた腕が彼方へと飛んでいくと同時に、足場の飛蹴板が粉砕されバランスを崩す私たち。

 

 そこを見逃すことなく「鉱石のように黒々と光る腕で」手刀を振り下ろした。

 

「ッ、神鳴流(しんめいりゅう)拡散斬光閃(かくさんざんこうせん)!」

 

 帯のようにゆらめく気を帯びた刀身で、その手刀を下から迎え撃つ九郎丸。反動で弾き飛ばされる際、私をお米様だっこ(※肩担ぎ)して距離をとった九郎丸。

 ついでとばかりに再生した右手で血風の準備をする私だったが――――。

 

 

 

「――――おし、大体わかったわ。はい終了!」

「えっ!?」「ホラーのメインクリーチャーじゃねぇんだから……!」

 

 

 

 距離をとって甚兵衛が居た方を振り向いた瞬間、その背後から声をかけられれば心臓も止まりかねないというもの。腕を組んで「ははっ」と笑う甚兵衛に、私と九郎丸はその場で脱力した。

 

「ま、場数は踏んでるんだろう。チームワークとしても悪くはなかった。後足りないのは、極限の臨場経験かね……。ま、まだペーペーに求めるにゃハードル高いわな。

 九郎丸はもうちょっと変則的な戦い方も学べ。型がしっかりしすぎてて、ある意味で『先の推測が付きやすい』。練度を下手に落とさないようにするためには、それだけ同様の練習が要るだろうが……、とりあえず刀太の動きみてりゃ覚えるだろ、コイツ得物のせいか下手な素人より発想が自由みたいだし」

「は、はい!」

「刀太の方はなんというか…………」

「何っすか?」

「あー、何か板作る奴は良かったな。足場に板作るやつは。どう見ても後退するような姿勢のまま前進してくるのはちょっとホラーの怪物みたいで威圧感あったわ。スリラーとかやってるM.J.みたいで」

「いや判るッスけど何っスかその例え……」

「でもその分、あの回転する奴は隙が大きいな。その気になったらビームみたいに出せるんじゃねーか? なんでわざわざトマホークみたいにしてんだ」

「ビームは無理ッスね……、というか血の再生力が追い付かないッス」

 

 飛蹴板については瞬動術とそのうち併用することが前提にする予定なので、これについては使い勝手含めてそう言われるのは中々嬉しいものがあるが、血風については言い訳の仕様がない。

 と、何やらうずうずしていた九郎丸が会話にカットインしたそうにこちらを見ていたので、視線で促した。

 

「えっと、前に確か斬撃を飛ばすみたいな使い方をしてたよね。さっき僕がやった拡散斬光閃みたいな形で。あっちの方が使いやすいのかなって思って」

「まあ実際、それ想定してる技だからなー。

 でも残念ながら武器の強度が…………」

「「強度?」」

 

 元々「血風」は「血風創天」の前段階的な意味合いが強い。構成として例えるなら斬月(知らないオッサン)月牙(オサレ)完現術(誇りの思い出)月牙(オサレ)くらいの違いがある。当然威力は刀を用いて振るった方が強いのだ。

 強いのだが……、最初に「血風」があの形になった時点で、あの後少し一人で試したのだが。そこら辺にあった木の棒に血風を「まとわせて」放つと、外部を覆い、また内部に浸透した血と魔力が音速を超えて射出されるせいか、一瞬で内側から自壊する結果になった。元々黒棒での使用を想定してるとはいえ、いくらなんでもこれは…。

 あの時点でこれは通常運用は無理だと判断し、以降は血風自体を使うのを重点的に練習していたのだ。……というか、あれの使い勝手が思ったより悪かったから、イメージが血風で固定されてしまったんじゃって今思った。

 

「要はアレか。液体が浸透できる隙間があると、その隙間を起点に一気にぶっ壊れると」

「雑に言うとそんな感じッス」

「なるほど。ソイツは……、ある意味で持ってこいか?」

 

 へ? と。疑問符を浮かべる九郎丸と、おおよそ展開の予想がついたというか、もしかして? もしかして? と誕生日プレゼントを前にした子供のように、内心テンションが上がっている私。年甲斐もないとは言うまい、一応まだ十四歳なのだ(公称)。

 

 こっちだと促す甚兵衛の後に従い、やってきたのは甚兵衛のボロボロ拠点とは似ても似つかない施設。城壁かダムの一部か、あるいは橋か。レンガ造りというのに劣化の気配がないのを見るに、魔法的な施工が施されているのだろう。

 というか、ネギま! でおなじみな、どこぞのチキンでも売りさばく店頭に笑顔で立っている白いお爺ちゃんを改悪したような怠惰そのものを自称する司書が居た隠れ家施設だった。

 甚兵衛から軽く紹介されても、まぁおおむね予想通りだ。個人的にはその屋上部分から内部に入る流れだったので、ちょっとした聖地巡礼である。ちょっとわくわくしてるというか、きょろきょろしてるというか、この後の一大イベントが待っているのもあって、落ち着かない。

 九郎丸にもそのテンションがわかるのか「なんか楽しそうだね?」と不思議がられているが、私の様子に微笑ましいような笑みを浮かべる九郎丸も悪いが気にならないくらい、普段から平常を欠いていた。

 

「刀太、お前のさっき言ってたのに対する正解は、たぶん質量だ」

「質量?」

「そう。電気と似たようなものって言ったらわかるか? 抵抗が強ければ強いほど、流体は抵抗がより少ない方に流れる。その点で言えばお前さんの……、『血風(けっぷう)』だったか? シンプルでいいネーミングじゃねーの。その血風の速度に耐えられないで壊れるっていうのなら、速度で撃ち出せないくらいの質量を持っているブツを使えばいいいってことだ。

 そうすりゃ流体は隙間から全部出て、本体を壊さない……、と、それだ」

 

 指をさす台座に刺さった、黒い刀。持ち手、鍔は薄く、どこか幾何学的な模様とダイヤルのようなものが持ち手に彫り込まれている。

 

「そいつはさっき言ってた邪悪なる魔法使い、アルビレオ・イマっつーヘンなのが鍛造した、強力な魔法剣だ。巨大な質量を持つそれを、重力魔法を駆使して自在に操る……と聞く。

 ま、扱いが難しいってんで雪姫の奴もずっと放置したままにしてる訳だな」

 

 そもそもアイツ、剣を使うってガラじゃねぇだろうし、と。そんな言葉を聞きながら、私と九郎丸は近寄った。

 黒棒である……、原作刀太の愛すべき長い付き合いとなる武器である。

 

「グラヴィティ・ブレード……、重力剣?」

「おー、それっぽい……! へ? っていうかこれジャストじゃね?」

「だね、やったね刀太君!」

 

 いえい、と思わずハイタッチする私たちだったが。ふと気になって、その台座をよく見た。

 その下には、何かポエムめいたものが掘られていた。

 

 

 

 グロス=ドリクト、我が友の子とその仲間達を守りたまえ。

 クウネル・サンダース

 

 

 

 いやそっちの名前を残してるのかよと、思わず前半の文章やら見知らぬ名詞っぽいものより、筆記者の名前の方に意識が行ってしまった。

 

 

 

 

 

 



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ST16.在るべき所に或るべき物が有るように

※黒棒については原作+アニメ+独自解釈をOSRで割った感じになる予定ですので、色々とあらかじめご了承ください


ST16.We Are In The Right

 

 

 

 

 台座から抜けないと言われていた重力剣だったが、このあたりは一切合切原作通りの軽いノリで対応して引き抜いた。いや、原作だといわゆる腕試し的なニュアンスを残した上での話だったから、黒棒自体の詳細は語られていなかったのだが。今回に関しては明確に質量のある重い武器で、私向きの武器だと教えられた上での話。原作知識の行使に一切の躊躇いなく、ダイヤルを「軽」の方へ回転させた。「なん………………、だと…………?」と私の持ち込み概念(オサレ)が浸透でもしたかのようなリアクションをした甚兵衛を尻目に軽く振り回す。 

 抜いた後の黒棒は体感として、こう、おもちゃの剣の拡大版だ。ソフビというか中に空気が入ってそうなやつみたいな、そんな異様な軽さである。九郎丸にも持たせたが一切しっくり来てない顔をしていたことからも、それが伺える。

 

「これでセンパイの話が正しけりゃ、すげー重いんだろ? 本当は。魔法ヤベェなぁ……」

「確かに重力を操る魔法って、すごい高度なものだからね。

 ………………で、でも気だって凄いんだよ刀太君! きっともっと重い状態のその刀だって、鍛えれば自由に扱えるようになるし!」

「いや何でそんな食い気味なんだよ……」

 

 苦笑いしながら謎のプッシュをしてこちらに詰め寄ってくる九郎丸の肩を押さえ……、押さえ……、コイツ「気」を使って無理やり接近してきてるんじゃないか? 一体何なんだこの圧、夏凜でもこう物理的に強くは迫って来ないぞ!?

 

「おーおー、二人ともイチャついてるところ悪いが話、続けていいかー」

「だ、誰がイチャついてなんか!?」「あー、はは……」

 

 大慌てで顔を赤らめて甚兵衛に抗議する九郎丸と、視線を疲れたように逸らす私。このあたりで大体お互いの認識がどういう状態にあるか察したらしい甚兵衛は「ほうぅ……?」と何とも言えない半眼でニヤリと笑った。絶対地上に帰った後もからかわれる奴だ。

 

「抜いただけじゃダメだっていうのは、流石に判ってるんだろ? どれ、いっちょやってみろ」

「やってみろと言われましても……」

「とりあえずそうだな……、あそこに蜘蛛見えるか? めっちゃデカいやつ。アレ切るくらいバーン! ってデケェの出せるか?」

 

 あそこ、というのは施設から見て遠方、山というか丘というか微妙な地形の上にうごめくタランチュラ的シルエットを持っている妖魔である。目算で100メートル以上は遠いので、おそらく甚兵衛からしてもイレカエの射程範囲外なのだろう。とはいえ手もないわけではないだろうから、気まぐれに引き寄せられる可能性はある――――。

 とか考えていたら、私が100メートル先の座標に「イレカエ」られていた。雪姫とは別次元でスパルタじゃないかあのオッサン!? いや、絶対すました顔してるからスパルタというよりも若者をからかって遊ぶ老人の類なのかもしれないが。見た目はともかく不死身歴は雪姫以上なのだ、精神もより老成してるとみていい……、いや違う、絶対老成などしていない。もっと子供じみた遊び半分の戯れ交じりだ。

 

「って、いや距離、微妙に近いなコレ」

 

 突如現れた私の気配に、ぎらりと複数の赤い目がこちらに向けられる。どう考えてもエサを見つけた捕食者の目だ。なんとなく夏凜の顔が思い浮かんだが走馬灯か何かだろうか。出来れば全力で逃走したい。

 もっとも相手とてそんなことをさせる暇は当然与えてくれないわけで、猛然と迫ってくる巨大蜘蛛など相手にしていられない。早々に「血蹴板」を形成して上空に逃れる。逃れた先に明らかに粘性の糸を射出してくるのは、ここに降りてきた直後の経験と見た目から予測済。左手に準備していた「血風」をバリアのように前方へ展開して、高速回転する羽根のような卍がバラバラに糸を切り裂き散らした。

 

 私は血風を込めながら、黒棒に声をかける。

 

「…………まー、こーゆーのは初めが肝心って言うし。

 俺は、近衛刀太。これからお前をビシバシ使って、スタイリッシュに戦っていく所存なんでヨロシク!」

『…………スタイリッシュとは大きく出たな。

 いやそれ以前に私の中に血を入れるのをやめてもらえないだろうか。いくら外形とはいえ錆びそうだ』

 

 おっと、二人きりのせいか黒棒本人にかかっている「持ち主と二人きりでなければしゃべらない制約」が適用されているらしい。しれっとしゃべってきたのに驚きながら、そのまま空中で一度後退。

 いやしかし、しみじみと黒棒の全体を見回す……。

 

「いや、カッケェ。しゃべんのもそうだけど、デザインやべぇ」

『ホゥ………………? 君、見る目があるな』

「めっちゃカッケェ、いやカッケェわマジで。めっちゃ斬〇(オサレ)じゃね? いやカッケェわ」

『語彙が貧困荒野で配給待ちか君は……』

 

 素が出たにもかかわらず、口調が崩壊していた。この辺りで私のテンションの上がりっぷりが自分でも良くわかる。実際問題、ナイフを拡大したようなデザインにダイヤルと家電のようなモールドとでも言えば良いか、そんな組み合わせの見た目は武骨にも黒鉄色をしている。実際問題、中学二年生が見たらテンション爆上げ間違いなしだと思わされるくらいには格好良い見た目をしていた。

 こんな格好良いデザインの武装を見てテンション上がらなかった原作主人公は、本当にああ見えて心に空虚な何かを抱えていたナイーブな人格だったのだ。心境に思いをはせると、ちょっと悲しくなる。そんな私のことなどお構いなしに、黒棒は爆弾情報を放り込んできた。

 

『まぁ良い。礼儀には礼儀だ、自己紹介を返そう。

 私は――――「αの三角(グロス=ドリクト)」。

 3-A関係者を助ける者のため作られた、この武器に宿る人工精霊だ』

「ええ!? いや、アレ、なんか走り書きみたいに彫られてたけど名前だったのかよ!? マジか、それも良いな……、なんかポエムめいてたし、てっきり隠語か暗号でも潜んでるのかと思ってたけど……、って、3-Aって?」

『まぁ偽名なのだが』

「ってオイ!? 礼儀どこ行った!」

『気にするな、何故なら――――そっちの方が恰好良いだろう』

 

 しれっと原作情報でも出てなかった重大事案が出てきたかとヒヤヒヤしたのに、いきなり梯子外すの止めろ! お前、絶対作り手に性格似てるからな! アニメの方で九郎丸散々からかってたの間違いなく子は親に似る的なアレだぞ? 私の緊張と感動を返せ!

 

『気楽にグロス殿とでも呼んでくれ』

「んんー、ダ〇イで」

『私渾身のネーミングに何か不満でもあるのか刀太。止めろ、そういう色々とネタを狙ったのは私の製作者の専売特許だ。決して私は怠惰者ではない』

「面倒くさいから黒棒でいいや」

『おい、勝手に決着をつけるな。振りかぶって血をしみこませるな、まだ話は終わっていな――――』

 

 話し足りないらしい黒棒を一度無視して、形成した小さい「血風」の鍔を回転させ、刀身に纏わせた血と魔力の奔流を放つ――――!

 意識的に量を絞ったものの、血が一瞬足りなくなり足場が形成できなくなった。地面に降りた後、技が決まったのを確信してからその名を言う。

 

「――――血風創天」

 

 振り返る。これは……、やった! 見た目だけなら理想的な月牙天〇(オサレ)だ! ただ内容は限りなく物理的なそれでしかないのだが。血と魔力の奔流自体は刀の斬撃の軌跡をなぞり、しかし遠心力と加速して射出されたそれは、例によってウォーターカッターの原理で蜘蛛の足を切断し――――。

 いや? 切断「されていない」? 表面に傷は付けられたがそれだけだ、貫通、切断までは至っていない。これは一体……?

 

『当然だ』

「黒棒?」

『……その呼び名には不満があるが、一度置いておこう。君のその「飛ばす斬撃」だが、現状唯一絶対的に欠けているものがある。何かわかるか?』

「まぁ見た感じからしてパワーが足りないのは判らないでもないけど――――血風!」

 

 傷つけられたことに不満があるのか、名状しがたい絶叫を上げて突進をしかけてくる巨大蜘蛛。それに向かって、歯車に使っていた小さい血風を大きく展開して飛ばす。ノリとしてはバットを振ってボールを打つような使い方だが、うん、これもなかなか悪くないと自画自賛したい。気持ち得物が長いせいか、普段よりも早く振れてる気がしていた。

 とはいえそれも顔面に当たって牽制にしかならない。本格的に反撃される前に「血蹴板」で相手の頭上を回り、背後に回って距離を取った。

 

「速さについちゃ俺の練度不足とか言われても、これ以上やりようがねーぞ? パワーだってそりゃ、この移動速度で特攻かけりゃそれなりに威力は出るだろうけど、それでもあのバケモン退治できる気はしないって言うか……」

『カンは悪くないが実戦経験が足りていないな。先ほどパワーと言ったが、一番近いのはそれだ。切断力に直結するもの、すなわち重さだ』

「重さねぇ…………って、そういえば今一番軽い状態だったか黒棒」

 

 先ほど引き抜いてから重量ダイヤルを回していなかったことに気づいた私である。重さが足りないと言われれば、確かにそれは重さが足りない一撃にもなろう。血風自体は「魔術的な」ウォーターカッターに、雪姫いわく「風の武装解除」が組み込まれているらしいのだが。おそらく射出元がそれなりに高い威力をもって打ち出さないと、撃ち出された対象も威力が軽くなるみたいな理屈か。

 ……と、まことに今さら気づいたのだが、風の武装解除ってひょっとしてアレか? ネギぼーずがくしゃみと同時に発動する、衣服武器装備防具やらを弾き飛ばしたり花弁にして使い物にならなくしたりする奴なのでは? 一歩間違えると夏凜や九郎丸とかも全裸に剥いていた可能性があったということか……?

 

『どうした刀太、やりきれないような変な顔をして』

「何でもない……、いや、そこまで効果がなかったことを今は喜ぼう! ウン!

 話は戻すけど、それでどうすりゃ良いんだ? 俺、気とか全然使えないし、たぶんお前を重くしても自由自在には振り回せないぞ?」

『何も振り回す必要はないだろう。言っておくが、私は質量兵器だぞ?』

「…………? って、あー、そういうことか……、いや、確かに出来るんだろうけど、確実に俺の腕、ミンチ確定なんッスが……」

『不死身の肉体をしている癖に小さいことに拘るな、君は』

「いや、痛いのは嫌だし」

『ふむ……? まぁ、成りたてならそういうものか』

 

 あくまで自分は武器という領分を逸脱する気はないのか、雪姫みたいにあんまり煩く言ってこないのには感謝である。もし雪姫に言おうものなら地獄のような筋トレが待っていたかつての熊本での日々よ……。その割にあんまり体は育たなかったが、実質十二歳で身体年齢が固定されているのだから仕方ないか。

 ん? でもそれにしては原作後半での身長には違和感が……。確か普段でも、夏凜よりも大きくなっていたような記憶があるような、ないような。

 

『来るぞ』

「おっと!」

 

 ちょっと気を抜きすぎたせいか、周りを囲まれているのに気づかなかった……、いやいくら黒棒を手に入れてテンションが上がっているからとは言え、隙が出来すぎである。こんなに私は迂闊だったか? ……迂闊だった、かもしれない。脳裏によぎる様々な想定外の光景やら原作のビリヤード具合から考えても否定出来る要素がなかった。

 しかし「血蹴板」を使って周囲から逃れるのだが、本当に使い勝手が良すぎるぞコレ……。目に見えない速度での攻撃には対応できないが、それ以外に関してなら上昇下降前後左右加速減速角度調整自由自在。パロディ的な技ですらこれなのだ、そりゃYH〇H(知らない千年前のオッサン)〇護(チャン一)に教えたがるはずである。

 

 

 

「――――刀太君!」

 

 

 

 上空から九郎丸が「駆けてくる」。いわゆる虚空瞬動という奴だが、要はここまでくると瞬歩(オサレ)みたいなものである。私の横に並ぶと、黒棒は律義に息をひそめた。

 助太刀に来たと笑う九郎丸だったが、あれ? そもそも私がこの場に放り込まれたのって黒棒を使う訓練的な意味合いがあったのだと思っていたのだが…………。私のその質問に、九郎丸は一気に表情が死んだ。

 

「……いっぱいいるから、今晩のおかずにするんだって」

「…………」

『…………』

 

 二人と一振り(一振りは表情こそわからないが)、何も言わずに蜘蛛たちに向けて構えた。

 

「いや、まぁ仕方ねぇと言えば仕方ねぇか。タンパク質ないだろうしここ」

「……確かに修行でそういう極限環境での生活っていうのもあったけど、何かこう……、凄く……、大きいよね。気圧されるっていうかさ」

『少女よ、その「凄く……」あたりからの台詞をもう一度頼む』

「!? だ、誰だ今の声!」

 

 オイオイと思いながら黒棒を見るが、すぐさま何事も無かったかのように沈黙の姿勢を貫いている。こういう女の子で遊ぶところは間違いなくクウネル・サンダース由来なんだよなぁ……。お前、人型にすらなってないのにそういう機微があるのかと問いたいが。

 ん? そもそも人型があるのかこの黒棒。一応、人工精霊だとは名乗っていたが……。

 

「まぁいいか。えーっと……、とは言っても、まぁ、どうしたもんか……」

 

 試しに腕周りに血装でグローブのような出来損ないの、不定形のどろどろとした物を作った。それで黒棒を手に取り(心無し嫌がってるような気がしたが無視)、意識しながら重量を上げていく。…… 一応カウンターのように今何倍かという表示こそないのだが、ダイヤル自体には雑に目盛りが書かれているため、おおよそ想像は付く。

 で、問題。二百倍の時点でもうすでに重い。振れないわけではないが、重心が完全に振り回されるというか、全く安定感がないというか…………。血装された腕の腕力を「魔力で補って」持ち上げていても、全然維持できていなかった。

 

 

 

 そんな私の横から、九郎丸が覆いかぶせるよう手を重ねた。

 

 

 

「へ?」

 

 突然の行動に驚く私に、九郎丸は少し緊張しながら、何故か慌てて答える。

 

「えっと、僕ならほら! 『気』が使えるから。重くしてるんだよね。だったら、一緒に振るよ! 刀太君!」

「いや、それは助かるっちゃ助かるんだけど、何ていうか…………」

「どうしたの?」

 

 男同士がやる体勢ではない、というか。ケーキ入刀みたいな状態になってるとか指摘したら絶対に腰を抜かすだろうし、とはいえ九郎丸の手を借りなければどうしようもないのは事実であって…………。

 まぁ良い、サポートしてくれるのなら、重量をもっと上げられる。五百倍、一千倍。このくらいで九郎丸の足が震え出したので、少しだけ下げた。

 とりあえず横一文字に振るとだけ言うと、九郎丸が私の腕を引き込むようにしながら構える。こころなし服の下の感触が以前より柔らかくなってるような気がするが、きっと気のせいだ。気のせいということにしよう、うん。

 

「うわ! ……なんか、すごい。濃い色してるのがドロドロして、うわぁ…………。

 って、ちょっ、なんかま、回ってる!? きゃっ」

「落ち着け! っていうかお前、絶対狙ってるだろ九郎丸!?」

「な、何の話!」

 

 そういえば、実際に血風がどう発動しているのかを間近で見るのは初めてか。その驚きっぷりには納得するが、お前の声とテンションでの発言がきわどいし隙が多いしでこっちのメンタルをどうする気だ……! 好みでなくともこちとらここ数日分の性欲は有るんだぞ、どうしてくれる、ぶつけるわけにもいかないだろ大体貴様、性認識自称男だろ、もう少しそれらしく振舞え!(無理)

 

「って、わー! い、いっぱい近づいてくる!」

「いいか? いち、にの、さん! で横に振るんだぞ? いいな?」

「う、うん……、いち」

「にの」

「「さん――――!」」

 

『――――血風創天(けっぷうそうてん)

 

 いや嫌がってた割にはお前が技名言うのかよ黒棒!?

 そんな心の声はともかく、私の血自体はそんなに多くなかったのだが。それでも一撃は、黒棒本人の申告通り非常に「重い」ものになった。

 

 

 

 なにせ横一文字、巨大蜘蛛共の頭から胴体、視界に見える範囲全てを「一刀両断」である。

 

 

 

 上下にずれ、ばたりと倒れた怪物たち。半固形の液体だか内臓だかが微妙に噴き出しだしたりする様に、九郎丸は慣れているようだが私はちょっと頭を抱えた。まぁ膝をつきはしない、流石に今のテンションの九郎丸を前にそれをすると、もう九郎丸の性別が確定してしまいそうな気配が強いからだ。

  

「おー、なるほど。こりゃ頑張れば、確かに一月でどうにかなるかもしれねーな」

 

 と、いつの間にやら背後に甚兵衛の声が、ひどく遠かったというか。

 

 今だけ、今だけ真面目な話、この五臓六腑をシェイクするようなグロさというか気持ち悪さというかを慰めてはもらえないでしょうか夏凜ちゃんさん殿……。

 甘えられる所が……、全力で甘えられるところが欲しいです…………。

 

 

 

 

 

 




(???「アタシに赤飯の準備でもしろってのかい?」)


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ST17.纏う!

感想、ご評価、誤字報告、お気に入り、ここ好き、毎度ありがとうございます!
 
九郎丸は(夏凜と比較して)素直に話を進めてくれて助かる……。


ST17.Transformation!

 

 

 

 

 

 甚兵衛からの評判は、なんともいえない結果に終わった。賛否両論、そして私からしてもどちらともに納得しかない話である。

 

「元々、技の方向性自体が完成してたのもあんだろうが、思った以上に酷い組み合わせだな……。えげつねぇぞ威力。

 でも完全に技と武器に振り回されてるじゃねぇかお前、そりゃダメだぞ坊主」

「自覚はあるッス」

「あー、ならアレだな。とりあえず使いこなすためにも、しばらく特訓しないとならねぇか? とはいえ一月だろ? 一月。年単位だったらまだ色々やりようがあるだろうし、アイツらに食われても問題ないだろうがなぁ……」 

 

 あいつら、という話についてそういえば聞いていなかったことを思い出した。私と九郎丸の会話だけでは、おそらく不死に対する耐性のようなものを持っているのだろうという推測で終わっていたが、実態であるところの「長い時間かけて魔力を消化しつくす」といった事実で唖然となった九郎丸である。

 

「た、大変だよ! 早く取り戻さないと!」

「落ち着けって。三十年くらい消化に掛かるって言ってたろ? 一月目標なんだからまだ大丈夫だろ」

 

 そう言って九郎丸をなだめてる私なのだが、一体何なのだこの立場。原作だと主人公の方が大慌てで、九郎丸は言葉を出せない雰囲気だったろうに。

 いや、確かに本来なら慌てる立場が私なのはわかっているが、ここに関してはどうにも緊張感が薄い……。腕を切断された(食われた)時の記憶がないせいか(ショックで健忘したか?)、それとも腕先の感覚が未だになんとなく生きているのがわかるせいか。

 とはいえ判るからと言って自由に動かせるようなものでもないし、体内で血風を発動するような滅茶苦茶が出来るわけでもない。つまりはどうしようもない訳で、地道に強くなって行くほかにないのだろう。

 

 しかし一月、という期間の短さはやはり甚兵衛をして「マジか……」と何度も連呼するだけの短さであるらしい。よしわかったと左掌に右こぶしをぶつけ、私たちにニヤリと笑いかけた。

 

「とりあえず三日だ。三日で、お前たちを今の五倍強くしてやる」

 

 いきなり大きく出たなと思わなくもなかったが、そういえば〇護(チャン一)卍解(オサレ)習得まで三日だったかと認識を改める。原作主人公の才能に不死身の肉体。全てを使いこなせなくとも、なにかしらそのレクチャーで得るものはあるだろうと思い直した。

 

 さて。九郎丸共々頭を下げたのだが、夕食の蜘蛛を食べた後(ちなみに味はカレーで煮込んだ鶏肉みたいだった)やることとしては二つに分かれた。

 

「刀太は俺と刀で試合な。九郎丸はそれを見稽古しろ。

 血風のでけぇ斬撃はナシ、重力剣は二百倍以上にしないこと。九郎丸は見稽古中、武器を手に取るのも禁止だ、他のことを何もするな。いいな?」

「僕たちに言った話の延長上ですよね。わかりました!」

「お願いします。……って言っても、甚兵衛さん素手でやるん?」

「お? はは、いや確かに今は素手の方がメインだが、これでも昔は浪人というか侍しながら、ふらふら東へ行って西へ行ってバケモノ退治をしていた頃もあるからなぁ。剣術始めて百年にも満たない赤ん坊にゃぁ負けねーよ」

 

 百年単位で計測されたら誰だって赤ん坊なのではと思わないもないが。と、九郎丸が手渡そうとした刀を「いらんいらん」と笑って拒否し、す、と片手を構える。

 

「――――『断空剣(だんくうけん)』」

 

 次の瞬間、彼の掌からライ〇セイバー(フォースの導き)みたいに、ゆらめいた鈍い光が伸びた。おぉ! と驚く私や九郎丸だったが「ま、今考えた技なんだがな」と続いた一言に思わずスッ転んだ。いや、九郎丸は純真無垢なのでともかく、私まで普段よりも明らかにノリが良くなっている……。よほど黒棒を手に入れたことが嬉しいと見える。

 だって控えめに言って今の私の恰好は〇覇装(オサレ)長い赤マフラー(オサレ)武骨な刀(オサレ)である、このジェットストリームアタックを前にテンション狂わない方がどうかしている。

 

「はは、こちとら、まともに刀握って戦ったのなんて随分前だからなぁ。玩具みたいなものだし、このくらいはハンデハンデ」

「それって、イレカエってのの応用っスか?」

「そう、正解。常に座標をこの状態でイレカエ続けてる感じだな。本当は見えない刀にしてやるつもりだったんだが、それじゃ流石にフェアじゃねーかと思ったから、わかりやすくしたわ。

 ちなみにだが――――」

 

 黒棒を構えて距離を取った私を、瞬間、何かがかすめた。気が付けば甚兵衛が目の前にいて、つまりその一撃の断空剣に痛みは全くなかったのだが。

 

「――――斬れてもなーんも感じないから、そこだけ注意な」

『はっ」?」

 

 言い終わる前に私は脳天から真っ二つに割け崩れ落ち、刀太くん!? と大声で叫んで慌てる九郎丸の声が「左右に分かれて」聞こえた。

 

 

 

  ※  ※  ※

 

 

 

 甚兵衛さんとの特訓が始まって二日目の夜……? たぶん夜。「風呂など無ぇわ!」という甚兵衛さんの堂々とした断言に、比較的綺麗な水場を探して体を流した僕たち。途中、刀太君に先に入ってもらうか僕が先に入るかでもめたけど(刀太君の残り水で体を洗うとか心臓がどうにかなっちゃいそうだし、僕の残り水で刀太君が体を洗うなんて頭がどうにかなっちゃいそうだし)、結局同時に入ることで決着した。ま、まぁ僕も一応男だから何も問題はない。

 途中、刀太君が困ったような笑いというか、呆れたような顔をしていたのはよくわからなかったけど、堂々としていればいいんだ、堂々として。

 …………まぁ、身体は上着で隠してたけど。

 

 そして水浴びが終わった後、刀太君と今日の特訓の反省会。……反省会として今日の話をお互いにしながら、僕は刀太君の「気」の訓練をみていた。

 肉体の限界を超える形で、その状況でなお生じる「生きる」という意思……、身体から溢れてくる生存本能、魂すら揺さぶる熱。それこそが気であり、生命エネルギーの根幹に触れるということ。

 流石に三日間の特訓でそこまで至るとは思わないので、重力剣の重量を底上げして素振りするとか程度に落ち着けながら話をしていた。

 

「九郎丸、アレどー思うよ」

「どうって?」

「いや俺さ? 見える範囲だったら血蹴板(スレッチ・ブレッシ)でどうにか出来るんだけどよ。アレ実体が全然ないせいか全く捉えようがないって言うか……鍔迫り合いもできないし」

「そうだね、気のせいじゃなければ、質量自体がないようにも見えた、かなぁ」 

 

 甚兵衛さんの「断空剣」。本人は思い付きだって言っていたけど、実際強い。純粋に力が強いというよりも、剣を使う相手にとってかなりやり辛い武器なことは間違いない。なにせ一日ずっと斬りかかったり回避する刀太君相手に、甚兵衛さんはあの「断空剣」を片手に一方的に切り飛ばしていた。

 血蹴板で背後に回った刀太君の脳天を軽く貫通させたり、鍔迫り合いなどさせるかとばかりにひらりと重力剣を透過して袈裟斬りにしたり、気が付いたらいつのまにか刀太君の首をもって余裕で笑ったり、血風をバリアみたいにして展開して防ごうとしてもどうやったのかわからないけど腕を粉みじんにしたり……。

 

「痛くねぇのは助かるっちゃ助かるんだけど、なんか釈然としねーっていうかさぁ……」

「僕も見稽古しかできないから、歯がゆい気持ちが強いよ……」

 

 僕は僕で、そんなピンチの刀太君に助太刀することが出来ずに、不満が溜まっていた。見稽古は確かに勉強になってる自覚がある。特に雪姫様仕込みと思われる、刀太君の基本的な動きに対する、血風とかの混ぜ方だ。

 甚兵衛さんに良いようにやられているように見えて、実際刀太君の攻撃もけっこう……その、えげつないっていうか、容赦ないっていうか。首を切られても死なないと聞いてからは、足を斬り飛ばして首を狙う様な動きをしたり、あるいは血風に血蹴板を併用して乗って接近したり(!)、血装術で作った鎖っぽいもので重力剣を投げ縄みたいに振り回したり。

 どれも甚兵衛さん相手に決定打に欠けてはいるんだけど、それでも基本の動きから自由な発想で行われる動きは、見ごたえがあった。

 

「一番怖いのは、アレでハンデとか言ってるってことで、しかもアレで剣術はとっくに止めて最強でも何でもないって言ってることだよなぁ……」

「実際、断空剣使ってる時って甚兵衛さんイレカエやってないからね。一歩も動いてないし」

「不死人、底が知れねぇ……。伊達でも酔狂でもなく本当にリーダー代理だって話なんだろーな」

 

 そういってる刀太君も、まだ始めたばかりだって言うのにちゃんと重力剣を一千回素振りすることが出来ているのだから、凄いと思う。血装術を併用していない素の刀太君の腕力は、気を使えないせいもあってそこまで強くないのに。それでも腕を振り続けられるのは、やっぱりその手の才能がある証拠だと思う。

 そうやって褒めても、ありがとうと言いはするけど考えるのを止めない刀太君。こう……、すごいストイックに見えて、かっこいい気がする!

 

「実際、どうすりゃ良いと思う?」

「そう、だね。……外から見てる感じだけど、甚兵衛さん、刀太くんの血蹴板とかも、ちゃんと目で追ってるように見えた」

「マジか? あれ結構速い自信あるんだけど。もっとやべーのを知ってるのか? 知ってそうだな……。対応してくるってことは」

「僕の『五月雨斬り』も半分くらいは見てたし、凄いと思う。でも、逆に言うと『半分は』見えてないんだと思う。今思えば、イレカエか何かで弾いていた気がするし」

 

 色々と話し合った分をまとめると、ある一定速度までの分は「見て」対応している。でもそれ以外についてはたぶん経験とか、殺気とかで判断して対応しているのではないか、ということに落ち着いた。

 

「理屈から言えばもっと速く動ければ対処方法があるって話か。って言ってもなぁ……。血蹴板をもっと速く動かすと、足と胴体が分離しちまうし」

「え゛、それは、実体験なの……?」

「うん。というか、甚兵衛パイセン相手に一回やって、三枚におろされた」

「あれか…‥、確かに胴体だけ残ってたけど、そういうことだったんだね」

 

 単純に防御力を上げる話でもなんでもないし……、と唸り続ける刀太君を見ていて。ふと、僕は一昨日のアレを思い出していた。隣の刀太君が握った重力剣から溢れる、深く、濃くて、赤い…………。

 そしてその赤い血を「初めて見た時のことを」僕は思い出していた。

 

「……そういえば、最初に使った時ってコートみたいになっていたけど。あれってどうなのかな?」

 

 僕が刀太君を「殺してしまった時」の、あの赤い血と、刀太君の臭いに包まれた時のことを思い出し、少し顔が熱い。刀太君はそんな僕の顔を見ずに、目を閉じてあの時の事を思い出しているらしい。

 

「どうって? まぁ、今なら確かに使い慣れてきたし、似たようなのは作れそうと言えば作れるけど………。まぁ基本は防御にしか使えないだろうし……」

「そうじゃなくってさ。血蹴板って、血と魔力とを混ぜて作った、血装術の足場だよね?」

「まぁ、そういう話なのか? ん?」

 

 僕と刀太君の目と目が合う。

 彼の表情に、理解の色が浮かんだ。

 

「――――血蹴板と同じ! そうだ、何も防御に限る話じゃなかったんだ!

 そうだよ、やろうと思えば足場のそれと『同じ速度で動かすことが出来るんだ』!

 めっちゃ良い着眼点じゃねーか九郎丸!」

「と、刀太君、近い、近いからぁ!!?」

 

 僕の手を掴んでぶんぶん振り回す、年相応、見た目相応に楽しそうな刀太君。引き寄せられたりして、かなり珍しいものを間近で見てしまい、思わずドキドキする。……て、何を考えてるんだ僕は、これじゃ本当に雪姫様が言っていたみたいじゃないかっ!

 

「ってことは頭も覆わなきゃならねーな、高速移動で首ちょんぱとか完全ギャグだろ……。よし、ちょっとアイデア出すから手伝ってくれ。あとネーミング」

「ね、ネーミング?」

「うん。血蹴板(スレッチ・ブレッシ)ともそこまで行くと違う話だし、何か新しい技名考えないと」

「け、結構こだわりがあるんだね……」

「ちなみに今までのはこう書く」

 

 そういいながら砂浜みたいなところに、重力剣で文字を書く刀太君。……血蹴板と書いてスレッチ・ブレッシと呼ぶのは何かよくわからないハイセンスさを感じて仕方なかったり。あとちょっとわからない由来が出てきたりもした。

 

「けっぷうは血の風かなって思ってはいたけど、そうてんの創は?」

「きず」

「えっ?」

銃創(じゅうそう)の創。で、これを天まで伸ばすから、創天」

「…………刀太君、ひょっとしてけっこう前々から似たような技の名前みたいなのとかって、考えてたりしたんじゃないかな。こう、なんかすごい恰好良い感じのやつとかさ」

 

 明らかに一瞬で出て来る技名というか、その複雑さではない気がする。だって素直に格好良い感じだし。絶対授業中のノートとかに、そういうのがびっしり書かれてたんじゃないかな。

 思わず微笑ましいものを見る顔になってしまった僕に、刀太君は「そ、それより早くデザイン考えようぜ!」と話題を逸らす様が、ますます可愛く見えてしまった。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「おう、何か良いアイデアが出たって顔してんな」

「まーなー。九郎丸が良い仕事してくれた」

 

 そう言われると照れてしまってまともに刀太君の姿を直視できなくなっちゃうから、出来ればそういうことは言わずに、戦って欲しいかなぁ……?

 三日目の朝一番、甚兵衛さんと顔を合わせて早々にこんな会話が交わされた。刀太君の自信満々な言葉に「ほーぅ?」と、なんだか近所のお婆ちゃんが初々しい小学生のカップルにでも駄菓子を上げるときみたいな生温かい目を向けられてる気がするのは何なのかな……!?

 

「まぁそこはどうでも良いか。とりあえず一本くらい入れられるようになってくれっと、オジサンは嬉しいねぇ……」

「いや、その割には全然勝たせる感じじゃなかったしっ」

「でも、攻略法のヒントは出したぜ? ちゃんとその通りに準備してきてるか、楽しみにしておく」

 

 距離をとり、断空剣を生成する甚兵衛さん。

 

 彼を前に、刀太君は重力剣を左に持ち替え、右手を心臓に当てた。

 また血風か? とニヤニヤ笑う甚兵衛さんに、刀太君は「ちげーよ」とちょっとわくわくした感じで言った。

 

「血装――――!」

「お?」

 

 言った瞬間、いつかのように刀太君の胸元から、血と魔力が溢れかえる……、まるで僕が彼を殺した時のように。それが卵のように円形の幕で彼の周囲を覆う。鉄臭さとただならぬ雰囲気に、甚兵衛さんも訝し気な顔で一歩後退した。

 

「コイツは……」

 

 やがて渦巻く血に、黒い刃が内側から生えて、切り払った。飛び散ったはずの血はすべてなびく形へと再形成され、刀太君の恰好は先ほどまでと大きく変化していた。

 裏地が白と赤、漆黒の全身を覆うコートのようなもの。裾の部分は液体の名残かボロボロとしてるように見えて、首元にはフードのようなものが出来上がっている。足元もスニーカーじゃなくてブーツ、髪も血で湿気ったのか、少し跳ねが落ち着いていた。

 胸元、傷痕から「×」のように伸びる、血の十字――――。

 

「――――死天化壮(デスクラッド)

 

 技名というかを名乗る刀太くん。うん、ネーミングは……実は僕なんだ!

 刀太君が漢字を出して、デスなんとかにしたい……って言っていた。アーマーだとかコートだとかそういうのはしっくりこないって言ってうんうん唸っていたところ、だったらクラッドで良いんじゃない? って声をかけて、それだ! と。

 ……あまりにもテンションが上がりすぎて、やっぱり顔が近くて、どうしてかどぎまぎした。

 

 甚兵衛さんは、そんな刀太君にニヤリと笑みを向けた。

 

「いい感じにハッタリ利いてるじゃねぇの。いいねぇ、ハンデしてるのがもったいなくなるじゃねぇの――――ん?」

 

 刀太君がフードを被った次の瞬間、彼は甚兵衛さんの目の前に現れて、その腕を斬り飛ばしていた。宙を舞う右腕。右手に形成されていた断空剣が消え、オイオイ、と彼も冷や汗をかいていた。

 無音で、当たり前のような動作で重力剣を彼の首元に添える刀太君。

 

「これでまず一本。……満足してくれました?」

「へっ、上等じゃねぇか!」

 

 切られた右腕を「イレカエ」で寄せた甚兵衛さんは、刀太君の胴体を蹴り飛ばして距離をとり、接合。再び断空剣を右手に構えるけど、刀太君の速度の方が速い――――!

 驚いた顔で背中に構え「鍔迫り合いをしながら」、甚兵衛さんはどうやら何をやっているか正体がわかったようだった。

 

「オイオイオイ、やっぱあの足場作る奴、ちょっと反則じゃね? 流石にハンデありでやるには、ちょっと大変だぞ」

 

 わかりましたか、と得意げな刀太君は、僕の方をちらりと見て笑った。……なんでか顔が熱くなるのは置いておいて。つまり、刀太君は今、全身に纏った血のコートで血蹴板を発動しているようなものなのだ。

 移動の基点は脚だけらしいけど(このあたり僕も聞きかじりだから、感覚的な話しか聞いていない)、その足の動きに合わせて全身が同時に、一気に、一瞬で動く――――つまり「移動」ではなく、それこそイレカエに負けないくらいの「転移」みたいな、異常な速度が出るという事らしい。

 瞬動と違い初動らしい初動がなく、気が付いたら移動している……、しいて言えば踏み込みとかがない分、瞬間的な馬力が足りないくらいか。でも、気を使いこなしていない刀太君にとって、今できる精一杯の速度対策だ。

 

 ……防御だけじゃないと言ったのはそういうことで、血蹴板の応用らしいと言えば応用らしいけど。それにしたって、刀太君のそれは妙に完成度が高すぎる気がする。まるで最初から「完成形を想像していたみたいに」、それに合わせてピースをくみ上げてるような、ちょっとびっくりするような技の作り方だった。

 

「でも甚兵衛さんのハンデを前提にしなきゃ、こんな無茶やりませんって」

「それもそうか……よっと」

 

 切り結びながら、甚兵衛さんは刀太君から距離を取ろうとする――――この間、不自然なほど「イレカエ」による距離の異常な跳躍をしていない。

 

「ま、察してるとは思うがな? これってば、剣で色々出来るよう『お遊び』をしまくってるせいで、本来のイレカエに気を遣う余裕がないんだわ。ただ――――」

「それ以上に甚兵衛さんの剣術がすげーってのは、十分知ってますよ」

 

 甚兵衛さんの背後に回った刀太君に、負けじと「わきの下から」一瞬を狙いすまし、心臓を貫通した断空剣。

 一本とり、とられ。再び距離を離した刀太君と甚兵衛さん。

 

「楽しそうだな…………」

 

 外で見てる分には、始点と終点がわかるのでまだ相手をしてる本人よりはわかりやすい動きをしているだろう刀太君と。それでも見えないなりにしっかり対応して切り結ぶ甚兵衛さん。

 

 

 

 結局その後、お昼までずっと楽しそうに戦っていて、なんだかこう、何とも言えないんだけど、僕は「むっ」とした感情を持て余していた。

 

 

 

 

 




※死天化壮時の恰好は、完現術後の胸十字がついたような感じで、天鎖斬月(知らないオッサンの若い頃)みたいなコートだと思うとイメージが付きやすいかなって思います
 


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ST18.楽園は青い鳥のようなもの

今日はちょっと早めだから深夜の更新はないんじゃ、ゴメン!


ST18.Paradise Is Nearby Mind

 

 

 

 

『いやぁ参った参った、ぎっくり腰ぎっくり腰。……不死者がそんなもんになるかって? いやまぁ俺はお前らより回復能力無えからな。流石に千年前みたいにゃ上手くはいかんさ。

 でもそれだけ速く動けりゃ、何とかなんだろ』

 

 あの後、甚兵衛はそう言うと、どこかから呼び出した杖を使って、色々と心配になる歩き方をして拠点に戻っていった。曰く「威力がある程度で充分だが、それ以上に速さがあれば一月クリアも夢じゃないだろう」とのことだ。

 要するに訓練の目的……というか意図するところとしては「威力のある武器で」「いかに高速に動くか」という双方の手段を得られるかどうかであったらしい。その観点でいえば私は合格点をもらえたということだ。

 

 

 

 もっとも、楽しいかどうかは別にする。

 能力を作ったときはそれはもうテンションが上がりに上がったが、訓練が明けて二週間前後の現在、デスマーチのように来る敵来る敵を斬って捨てて斬って捨ててを繰り返し続ける今はそれどころではない。心の波が削り取られて、段々と感性がやさぐれていく感覚を味わっていた。

 

「血風創天――――!」

『……ふむ? なるほど。「気」はないから、振り下ろす一瞬だけ重量を底上げしてるのか。五百倍にも満たないが、連続で叩き込むならそれが無難か』

「とは言ったって、全然お前振り回せないからやっぱりそれ所じゃないわな。それに…………数が多い!」

 

 黒棒と適当に話しながら私は血風を使い延々とバケモノ共を刈っている訳だが、九郎丸の補助なしだと、死天化壮(デスクラッド)併用とはいえ一撃で仕留めることは難しい。つまりは一度に何発か血風を叩き込む必要がある訳で、それでようやく脚やら切断したり胴体に傷をつけたりといったところなのだ。そりゃ、痛みにあえいだ敵が増援を呼ぶのを防ぐ手段もないし、下手に超高速移動できるものだから致命傷をもらうこともなく、デスマーチは終わらないでいた。

 いや確かに、これが本来予定していた使い方でもあるし趣味装備(オサレ)の満漢全席で特に文句もないと言えばないのだが、いかんせん初陣以降の場としては悲しいものがあった……。いや、修行だと割り切れば悪くはないのだが、刃禅(オサレ)の時間すら取れないのは個人的に悲しいものがある。

 

 九郎丸がいればまだ一時的に引き受けてもらったり、一緒に逃げる隙を作ったりもできるのだが、現在は私一人で対応中だ。九郎丸は九郎丸で、一昨日から現在、別途口頭で色々教わっているらしい。というのも、どうにも私にばかり気を張りすぎていて自分の訓練というか、見稽古について疎かになっていたとか。

 ……確かに原作からして九郎丸そういう所あるが、お陰でクリアできたような立場の者としては何も言うことができない。お前主人公の事大好きかよぅ!?(信者) 悪いけど頑張ってくれ、と頭を下げた私に、大丈夫! と両手をガッツポーズみたいにしてやる気満々の姿は、何とも言えない可愛らしさがあって頭が痛かった。

 

『だが悪くはないんじゃないか? こうして極限状態に君自身を追い込むことで、自動的に「気」の訓練にもなる。期間を短縮している訳だな、意図せず』

「まー確かにデスクラってば、維持するのだけなら全然リスクねーけど、これに振り回される中の肉体はかなり疲れるしな……、かれこれ八時間くらいはずっと出しっぱなしだし」

『六時間だ』

「こ、細けぇことは良いんだよ! っていうか黒棒、お前なんで九郎丸相手にしゃべらないんだ? そしたら色々と話が簡単って言うか、省略できそーなもんなのに。お前視点も交えてデザイン作るのに、わざわざ九郎丸に頼んで一人きりの時間つくらなきゃならなかったし」

『まあ一応「そういう制約」自体はあるのだが……、しいて言えば、突然しゃべったときに見られる女の子の驚いたリアクションや顔は、良い物だ』

「趣味じゃねーか!?」

『趣味だが何か!』

「いや趣味は大事だけどさぁ……」

『やはり良いセンスをしているな、そういう所は嫌いじゃない』

「そりゃ、どーも! オラッ!」

 

 血風を左手――――あの後アザラシなんだかドラゴンなんだか得体の知れない連中を刈ってる途中で戻った――――で雑に投げて牽制し、ひるんだ隙に血風創天を数発叩き込んで後退。もはや一種のマシーンにでもなったような心境だった。

 しかし黒棒、やっぱり作り手と考え方が完全に一緒の思考回路をしているらしい。それでも嫌がらせのレベルがあそこまでではないように見えるのは、黒棒自身が当のクウネル(なにがし)に散々いじめられ続けた反面教師か。まぁ感じ入ってた気もするがそれは思い出さなかったことにして……。

 

 と、唐突に炎が私の周囲一帯を焼き払う。「刀太君!」と名前を呼んで降りてくるのは、ご存じ相棒な九郎丸ちゃんくんである(最近くんちゃんかもしれないと怪しく思い始めているが)。見たところ私のような明確なパワーアップはないようだが……。

 何を教わってきたんだと聞けば、ちょっとねと苦笑いする九郎丸。

 

「少なくともすぐにどうこう出来る感じじゃなかったかな。でも、方向性については相談出来たって言うか……。

 あっ! その、別に刀太君が頼りないから相談できなかったとかそういうことじゃなくって! 純粋に不死者としての先輩の慧眼みたいなものがあったっていうか!」

「いや何のフォローだよ、別に気にしなくても――――!」

 

 話しながら黒棒を頭上で一回転させ、血の円を描く。そしてそこを起点に巨大な血風を展開し、後方に放り投げた。それで隠れてこちらの隙を伺ってた「蜘蛛の子供」らを蹴散らし、九郎丸の首根っこを掴んで引っ張る。

 

「な、なんか随分、使い慣れたね……! 僕、そういうのいいと思う!」

「そうかよ! 九郎丸もやっぱいると安心感が違うから、ちょっと遊べるってのはあるけどな!」

「え!? そ、それは……、うん、ありがとう!」

 

 

 

 そうこう話しながら期間ギリギリな二十八日目。いい加減、逆に魔物がどこにいるか見つからなくなり家探しし始めたころ「流石にこれはレギュレーション違反だわな、逃げる奴相手に可哀相か」とか言って「イレカエ」で、地面の底に隠れてたモグラのような魔物を引きずり出した甚兵衛の助けもあったりしたが。無事一月以内で妖魔共の退治は終わった。

 …………ちなみに訓練以降のデスマーチによる期間の睡眠時間は、総合で7時間弱である。九郎丸はピンピンしているがおそらく私は今ものすごい顔をしているはずだ。睡眠不足は変なミスの温床になるから、出来ればもう二度とこういうことはしたくないのだが……。

 

 

「いや、お疲れさん! このモグラもどき美味いから食っとけ食っとけ。味はウニを砂糖で煮っころがした感じだが、意外と――――」

「いやー、その……、そろそろ地上の飯が食べたいっスわ」「僕も……」

「おっと、そりゃそうか。さて……、よっと」

 

 言いながら甚兵衛が、イレカエを連発する。私と九郎丸を伴って延々と転移を繰り返した先は、石造りの階段と、その先にあるレンガ造りの塔のような何か。上は何かで厳重に封印が施されているのか、わずかな光こそ見えるが「空気が流動していない」ことがなんとなくわかってしまう。

 これはアレだな、原作であった井戸の底がこういう構造をしているのか……?

 

「本来なら一通り終わった後、この出口探すのとか、出口からこの垂直な壁を上っていくの含めて最後の試験なんだが……、お前さんやっぱそれ反則だわな」

「押忍!」

「褒めてる訳じゃねぇんだが……、はは」

 

 黒棒を片手に、既に足場には血蹴板(スレッチ・ブレッシ)を形成している私である。今回は完全にサーフボード的なイメージでだ。いい加減使い慣れてきた。九郎丸を本人の了承なく適当に肩担ぎ(お米様抱っこ)し、頭を下げてから急上昇。

 

「と、ととと刀太君! 僕、自分でいけるから!」

「固いこと言うなってー。って、ならアレだな? あの天井というか壊すのはお前に任せるわー」

「わ、わかった! えっと…………、斬鉄閃!」 

 

 言いながら牙〇零式(ゼロスタイル)みたいな構えをした九郎丸は、そのまま予想通りの動きで刀を突きだした。と、その衝撃に合わさり、見えない波動的な何かが回転しながら打ち出される――――激突! しかし何かしら結界でも張られているのか、蓋はびくともしない。

 一度空中で停止したあと、二人そろって蓋を触る。……どう考えても木造りだった。こんこんと叩いた感じでも、只の木の板でしかない。

 

「何だろう……? 刀太君、血風(けっぷう)でやってみて?」

「おう。えっと……、こんくらいで行けるか?」

 

 黒棒で小さく円を描き、底を起点に小さな血風を発生させて上に投げる――――結果として、只の血文字のような「卍」が描かれただけだった。ダイイングメッセージか何か?

 どうやら魔力やら気やらは分解する性質でもあるのだろうか……、考えれば甚兵衛がここまで連れて来ておいて、一足先に上に登らない時点で察するべきだったかもしれない。何かしらそういった力を封じる効果があるのだろう。そうでもなければ「金星由来の」魔物どもが地上に徘徊しかねないか。

 だがまぁ、結論は簡単だ。要は物理で破壊すれば良いというだけ。このあたりは原作通りだが……、いや?

 

「黒棒使えないか? これ、下手すると重力魔法無効化されて真っ逆さまに……」

「こ、怖いこと言わないでよ刀太君!」

 

『――――問題はないな、私の魔法はあくまで剣の内部で完結しているから、外界の影響は受けないぞ』

 

 ひぃ!? と幽霊でも見たような声を上げる九郎丸には悪いが、私は苦笑いしながら「そうかい」と、黒棒片手に天井を斬りつけた。…………、全然切れなかった。へ? いや、切れ味悪ぅ!? 思わず二度見したが、よく見れば刀身に私の血がいくらか付着していた。いや、これまさかとは思うが血風の使い過ぎで武器としてメンテナンスしてなかったせいで錆びたのか……? 魔法的な効果か何かでそういうのとは無縁だと勝手に思っていたのだが。

 

「ええぃ、なにくそ!」

 

 がん! がん! と。八つ当たりのようにぶん殴り続けた私だったが、苦笑いした九郎丸が「僕がやるね」と、刀で何分割かして終わってしまった。……そりゃ気を纏わせなければ、十分普通の刀だったなソレは……。

 上からさす久々の太陽光に一瞬目が焼かれる私たちだったが、血蹴板でぬぅ、と様子を伺いながら上昇する。井戸を出て九郎丸を下ろした時点で、和服の女の子たちがこちらを涙目で見ているのに気づいた。

 

「あー、確かこれって原さk――――」

 

 

 

 原作だとどういうシーンだったかと思い出すよりも圧倒的な速度で、私は横から突撃してきた何者かに捉えられ、締められ、転がされた。意識の外をつかれすぎたせいで、思わず黒棒を転がしてしまう。すまぬ相棒! でもいや、その……、こう言うと非常に誤解を招きかねないのだが、服装こそ違うものの顔面の下を覆う柔らかさと匂いで誰か察した。

 きゃあああ! とさっきの浴衣姿のちびっ子たちの黄色い声があがる、と、私の頭上からさも今気づいたような労いの声が聞こえた。

 

「あっ、貴女もいましたか九郎丸。無事でよかったです」

「いや、刀太君に何をいきなり、何やっちゃってるんですか!?」

 

 夏凜である。圧倒的に夏凜ちゃんさんである。

 いや一月ぶりの夏凜であったが、距離感というか行動に一切の躊躇いなくこちらを確保しに来るこれはアレか、餌の小動物を前にした捕食者か何かで? 原作を知る身としては怖い以外の何物でもないのだが……。

 九郎丸が慌てて黒棒を拾ってくるのに合わせ、すっと表側ではなく私を正面に向けて後ろから抱きしめる形に。……その、何というか久方ぶりの再会で思う所がないわけでもないのだが、出会いがしら早々に私のメンタルにダイレクトアタックかますの止めてもらえないだろうか。こちとら悶々とする暇もない一月だった訳で、おまけに睡眠不足であるため普段より理性のタガが外れているのだが?(威圧)

 

「雪姫様が言ったこととはいえ、本当に二人で一月終えてしまうとは……。頑張りましたね」

 

 そう言って九郎丸に微笑む夏凜であったが、言いながら私の頭撫でるの止めて! 止めてよぅ!(逡巡)

 

「あ! はい、それはもう……ってそれはそうと、いきなりぶつかってきたら危ないじゃないですか! っというか刀太君を離してあげて……」

「いえ、そうもいかないでしょう。見れば随分と疲労の色が濃い。不死者的にも貴女よりまだまだ後輩なのです、いつ気絶してもおかしくないコンディションでしょう。早々に寝かせて上げるのが良いかしらって思って」

「寝かせるって……! ちょ、そういうのは良くないと思います!」

「……何が? いえ、何を想像したのかちょっとお姉さんに話してみなさい。大丈夫、貴女が多少むっつりでもそういうのは需要が――――」

「何の話ですか!」

 

 言いながら九郎丸が私の腕を引き、夏凜は特に姿勢を変える様子が見られない。ちびっ子たちから「これってアレだよね」「しゅらば!」「どっちも頑張れー!」「かりん様あんな顔するんだ……」とか色々聞こえた気がするが、生憎と確かに夏凜の言う通りであって、実際こう緊張の糸でも切れたのか、私の意識はぐらんぐらん不安定となっていた。

 

 と、そんなところで頭の横で、私にささやく夏凜。

 

「…………がまん、しなくて良いのよ?」

 

 ――――色々な感情やら何やらが同時にわっ! と押し寄せ、私は言葉通りに我慢せず意識を手放した。

 オヤスミ!(気絶)

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「あー …………、色々と見逃しすぎて何かガバがないか気が気でない……」

 

 結局、私の意識が回復したのは深夜を過ぎていた。旅館は既に本日の運営終了状態。見れば服はしばらくぶりに浴衣に着替えさせられており(着付けがしっかりしてるので九郎丸か誰かか?)、それはそうと全身なんとなく気持ち悪かったので温泉へ向かった。

 場所は本館か別館か分からないが、どうもお客様フロアであるらしかった。九郎丸の姿は見えなかったが、不思議と違和感や恐怖心はない。要はそれだけ私自身に、精神的な余裕が出来たということだろう。その場に置いてあった黒棒を「血装」で作った紐で結いつけ背負った。

 清掃中と書かれた看板を開けると、夏凜が更衣室ではたきを使ってるのに出くわすも「今なら誰もいないので『無理もしないで』いいですから」とか言われてしまった。……やはり夏凜相手に素を出してしまったのは特大ガバの一つかもしれない。明らかにこちらを気遣う視線は、どう見ても刀太に嫉妬して斬りかかるCPL(クレイジーサイコレズ)のそれですらなかった。

 気のせいでなければ、終盤の夏凜すら想起させる、普通の女の子の顔である。

 

「結局あの後、何が起こったのだろうか。……おそらく合格はしたのだろうが、一空もパイセンも見かけなかったし。甚兵衛はきっと出てきたのだろうが、さて……。

 黒棒の手入れ問題もあるし、中々順調とは行かな――――」

 

「――――失礼するわ」

 

 がらがらと風呂の戸が横にひかれ、現れたのはいつかのように当然のように夏凜だった。……いや、さっき遭遇した段階でそういうのしてくるかとは予想もしていないではなかったが、ホントお前一体どうしたんだってばよ(情緒破壊)。もっとも今回はバスタオルを体に巻いているだけ、当時より正気と見るべきか。

 

「………… 一応、男湯っすよね。いや、あれ? 時間制でしたっけココ」

「大丈夫よ。結界張ったから電子機器の類も問題ないし、どちらにせよこの時間はそもそも誰もいないはずだから」

 

 やっぱり正気じゃない念の入れようだった。お前ホント、お前何なんだお前!?

 背中くらい流すわ、と言われる彼女に促され(というか逃げられる気もせず)、腰にタオルを巻いて上がる私だった。

 

 椅子に座った後、石鹸スポンジで私の背中をいたわるように撫でる夏凜。

 

「まぁ、とりあえずお疲れ様……、お帰りなさいの方が良いかしら?」

「距離感おかしくないっスかね? 距離感。夏凜ちゃんさん、まだ菊千代名乗ってた時のアレ引きずってます?」

「引きずっていないと言えば嘘になるけど、貴方個人に嘘がないことは判ってるつもりですので。それに…………、少し『素の貴方』とも話しておきたかったから」

「…………」

 

 どう反応したものかと思い、私は言葉が出なかった。それを特に不快に思ってもいないのだろう、少しだけ微笑んだような息遣いが聞こえる。

 

「……別に、踏み込もうとは思わないわ? それは刀太、貴方の問題なのでしょうから。貴方のことを何も知らない私が、それを聞くカギをもっているわけもないです。

 話さない理由を聞いてもどういった事情なのか、さっぱり見当がつかないけれども。だからこそ、それを話さない貴方をどうすれば、もっと心の底から無邪気に笑えるようにしてあげられるのか、私にもわからないから」

「…………私は……」

「だから、任せます。貴方がもし一人で抱えきれなかった時に、それを少しでも話してくれる、頼ってくれるのであったら、私は嬉しく思うから。あれだけ貴方に変なことを言った私であるなら、なおさら。

 まぁ、それがたとえ感情を肉体的にぶつける手段であったのだとしても、えっと、その……、相談次第で受け入れなくもないというか、まぁ、そんな感じだもの」

 

 ……そんな言い回しどこかで聞いた覚えがあるのだが。私の背中を洗いながら、夏凜はしれっと告げる。

 

「(……49、50、ヨシっ!)結局、まだえっちな相談はされていませんし」

「茶化すの下手かアンタ!?」

 

 途中までのシリアスな空気どこに飛んだ!? いや、夏凜の不気味だったスタンスがある程度明らかになったまでは良い。要はちゃんと、お姉ちゃんしようとしてくれる立場に回ったというところだろう。夏凜はCPLでも反省できるCPLだった訳だ、そのあたりは命を狙われる可能性が減るので色々と助かる。

 だからこそ最後のそれはいただけない。無効試合だから話自体がそもそも流れたろアンタ!?

 

 思わず素のまま叫んだ私に、くすくすとからかう様に笑う夏凜。いくら何でも心臓に悪い話だぞそれは……。

 

「いえ、あの勝負自体は私の負けだと思ってますもの。結局雪姫様たちが来てタイムアップでしたし」

「そもそも何でも言うことを聞くという条件自体、私が受けた覚えがないのだが…………。それ以前にタイムアップなら引き分けだろうに」

「そこはハンデのつもりですが、何なら覚えておいてくれれば結構かしら」

「……あまりそういうことを言われると、私も男なので色々と困るのだが」

 

 あら? と背中に湯をかけながら。私の困った様子を見て、夏凜は背後で突然タオルを取って――――いや待て、貴様何をやらかそうとしているっ。そのまま彼女は私を抱き寄せ、耳元で。

 

 

 

「何ならその時は、私が責任をとってあげても良いけれど?」

 

 

 

 ……………………………………。

 は?

 

「なんて、冗談です」

 

 くすくすと、一瞬何か私のメンタルが崩壊しかねない現象が起こった気がしたが、きっと気のせいだろう。思わず振り返った私に、特に胸元とか隠すこともない夏凜。気遣って足元に落ちたタオルを向けながら顔を逸らすが「今更じゃない」などとちょっと何言ってるか分からない。夏凜が何言ってるかわからないし、私もちょっと何言ってるか分からないが、流石にそろそろ看過できないレベルに入ってきてるのではないだろうかこれは。

 

「まぁ今日はこのくらいにしてあげましょう。……今度は刀太が私の背中を洗ってください」

「へいへい……」

「ちゃんと50回、ごしごしするんですよ」

「へいへい……」

 

 既に色々と情緒が破壊されている私であったがためにイエスマン状態、諦観と流されにより言われるがままに彼女が使ってたスポンジでその綺麗な背中をごしごしとする。考えたら旅館に泊まった時以来なので、これはこれで懐かしいような気がするし、そうでもないような気もするし……。

 

「思えば遠くまで来たものだ」

 

 何が恐ろしいかと言えば未だ原作二巻の半ばに過ぎない点であり。ビリヤードから派生するこれから先のことを想像しようとして、何もかもが見えるような視えないような重い気持ちが私の背中にのしかかる。深いため息をついてしまった私を、夏凜が大丈夫かと気遣った。

 

 

 

 

 

(???「自分から外堀を埋めていく趣味でもあるのかねぇこの子は。まぁ50回背中洗うのにどういう意味があるかとか全然忘れてるんだろうけど」)

 

 

 



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ST19.趣味人たちのベルト

毎度ご好評、ありがとうございます。
投稿遅れ言い訳じゃないんですが、甚兵衛をぎっくり腰にしたせいか、私もぎっくり腰になるという・・・(でも書きはする)
 
割と黒棒周りとか、原作で言及されない箇所は個人解釈となります汗


ST19.Hobbyist Foederatio

 

 

 

 

 

「そうか、速度特化にしたのか。

 まぁ再生は疲れるし、面倒と言えば面倒だからな。半自動とはいえ。

 しかし、何もそういう所の感性まで似なくても良いと思うんだが……」

「あー、で話題変わるんだけどさ。ちょっと相談あって」

「どうした? お義母(かあ)ちゃんちょっと忙しいんだが」

 

 コーヒー片手に紙資料をめくりながら、雪姫は半眼でニヤリと私に微笑んだ。

 早朝、朝食も適当にして。試験の結果がどうなったかを聞きに行くのと、後別件もあり、夏凜に案内されて雪姫のもとに向かった。幅の広い特別客室棟、その上階に雪姫の私室はある。ちなみに最上階ではない。最上階在住がキリヱなのは原作で知ってるのだが、そこのところも気になって、おはよう早々に理由を聞いてみた。相手の名前については言及しなかったものの、『甚兵衛が居ない間の一部業務の指揮やら、金銭面で負担をしてもらっていたようだしな。それに、そんなに狭量ではない』とのこと。

 まあ試験結果については当然のような口ぶりで合格だぞと笑われた。期間内でクリアできたのもそうだったが、あの甚兵衛をぎっくり腰にしたというのが意外と周囲から評価されたらしい。どういう方法をとったのかと言われたので、死天化壮(デスクラッド)についてだけふわっと説明をした。

 

「――――雪姫様、九郎丸を連れてきました」

「し、失礼します!」

 

 遅れて、夏凜に案内されて九郎丸が来ていた。…………いやちょっと待て。服装を思わず二度見してしまった私のリアクションに決しておかしなところはあるまい。雪姫も同様らしく、九郎丸の恰好を見て大笑いしていた。状況が呑み込めていない九郎丸、おそらく仕立て人だろう無言首肯の夏凜。流石に言わないとはアレかと思い、私が九郎丸に指摘した。

 

「お前、たぶん寝ぼけたまま来たんだろうから一応な? 服装」

「へ? …………あっな、何で!?」

 

 思わず自分の身体を抱きしめるしぐさが完全に女の子のそれだが、しかし見た目上の違和感は普段以上にない。夏凜同様、和装風な使用人の恰好で、要するに和風メイドじみた服装をしているのだ。つまり当然女物。似合っているし可愛らしいし、そういえば原作ではついぞ見なかった恰好だ。

 何故着込むまで気づかなかったというのは野暮だろうか。後、無言で何度も首肯を繰り返し納得している夏凜が怪しいどころではなく真犯人確定だった。

 

「いや夏凜ちゃんさんも、何遊んでるんスか」

「似合うかと思いましたので。それにしても、ぼんやりしていたとはいえ手渡してからここに来るまで本人が違和感を覚えなかったことは、逆に違和感があります」

「九郎丸、割と勢いと押しに弱い所あるからなぁ……」

 

 とはいえ真実は、もはやそこに疑問を抱けないような本人の気質が根底にあるということなんだろうが……? いや、何か見落としているような感じがするが、深掘りするための情報が足りていない。これは、私が気絶している間に何かあったのだろうか。

 ちなみに九郎丸が来た理由は、正式に組織に所属した初日だからという事でのあいさつだった。律義な……。

 

「律義な……」

 

 あ、雪姫と感想が被った。

 会話を一度切ると、雪姫が私の相談事に話を戻した。夏凜、九郎丸の視線が私に向くが、そう大したことではない……、はずである。背負っていた黒棒を〇護(チャン一)的な感じで振るいたい、というだけだ。

 

「これ何とかなんね? 錆びてるのか知らねーけど、全然斬れねーんだわ」

「これは…………、嗚呼、タカミチとかが使っていた奴だな。そうか、甚兵衛がお前に渡したのか……」

 

 タカミチ? と首をかしげる私たちに、昔の話だと雪姫は肩をすくめた。いやまぁ、私個人のみで言えば誰かわかっているが、むしろ困惑より驚愕が勝る。

 タカミチ・T・高畑。ネギま! 時代の麻帆良学園教師であり、ネギぼーずの先輩、先達。その立場は色々な側面もあるのでスルーするが、咸卦法――高度の「気」と「魔力」の運用による技術――を極めた武術の達人であり、エヴァやクウネルたちとは旧知の仲でもある。

 そんなタカミチが使っていたとか、その情報、原作で出てたものではないのだから私としてはコメントに困る他ない。……いや、確かに黒棒が作られた経緯から考えてタカミチが使っても何ら不思議はないのだが、彼はそもそも無手での戦闘に相当特化していたはずだ。黒棒を手に戦う絵面というのがどうにも想像できないのだが……。

 

 私の手から黒棒を渡されると、ふむ、と雪姫がハンカチで血塊を払い、少し振り回した。

 

「あー、なるほど、こういう構造をしてたのか。

 ……斬れなくて問題はないぞ? 刀太。もともと、コイツはこういう武器だ」

「へ?」

「つまり切れ味で物を切断するのではなく、質量で物を叩き切る武器ということだ。

 もっと言ってしまえば、重い木刀を高速で動かして物を切断するイメージが近いか……。

 外見は東洋の刀のくせに、設計理念としては西洋の剣みたいな作りになってる訳だ。……このひねくれ具合、明らかにヤツのせいだな。お前も色々大変だろう」

『痛み入る』

 

 ぼそ、とつぶやかれた黒棒の声に、一瞬驚いた顔をする夏凜と、いい加減「もしかして……」という目を向ける九郎丸。私は苦笑いする他ないが、絶対こいつそのうち臆面もなくよくしゃべる奴になるだろ……。

 しかし納得だ、黒棒は棒だった訳だ(暴論)。そういえば原作でも鞘らしい鞘もなく布でも巻いて(オサレ)仕舞ってるでもなく、腰に直接ぶら下げていたし。私のそんな感想にでも気づいたのか『違うぞ?』と少し威圧するような声の相棒であった。

 

「とは言え、別に切断能力自体も問題にならんだろう。そもそもコイツ本来の使い方は重力操作じゃなく、………………ん? うん? まだ言わない方が良いか。そうだな、ステップアップしていった方が無難か」

 

 オイ待て、原作でも言及されてないような話をいきなりブッ込んでくるな、ただでさえガバガバな速度極振りチャートなのにこれ以上何を累積させようとする気だお前ら! 原作が牙をむいてくるこの人生よ、一体どうしたらいいんスかね師匠。(声なき声) (???「せいぜい今のうちだけ気楽に踊っておきな」)

 

「錆が問題ないとは言え、実際久々に娑婆の空気に晒したんだから、メンテナンスくらいしてやれ。意味は、わかるな?」

「と、刀太君、刀の整備方法なら僕、教えられるよ! 僕の『夕凪』だって――」

「いや、そうは言ってもコイツ、分解しようにもそういうの出来る構造になってないし。正直どうしたら良いかわかんねーんだけど…………」

「じゃあ一空にでも相談しておけ。奴自身、自分用の研ぎ機くらいは用意してあるだろ」

 

 後半の言いぶりも、私に投げて渡したところもそうだが、急に黒棒の扱いが投げやりになった。……いや、どうも小声で雪姫とやりとりしていた時に顔を少ししかめさせていたから、からかいでもしたのか。全く、そういうムーブを発揮するからお前はクウネル(作り手)と同類に思われるのだろうに。

 

 

  

 その後、部屋を出てからずっと夏凜に案内されるまま、全体の施設を紹介されている私たちである。道中で一空と遭遇するだろうと、ついでとばかりにオリエンテーリングといった塩梅だ。なお朝食は甚兵衛が働いているコンビニで軽く購入と言う流れだった。「よ!」と相変わらず気さくに手を挙げてくるものの、未だに杖をついてる彼の姿に変な哀愁があった。

 

「ありがとうございます、夏凜先輩」

「先輩……? あー、じゃあ、俺も夏凜ちゃん先輩って呼んで良いッスか?」

「どうしてもちゃんは外したくない拘りでもあるのかしら貴方……。いえ、そういうのはもうちょっと、職場に馴染んできてからにしなさい」

「了解ッス、夏凜先輩」

 

 一瞬九郎丸が「ちゃん付け……?」と味のある顔を浮かべた気がするが、きっと気のせいだ。……いや、羞恥の視線に耐えられなかったのか早々に長ランに着替え直していたのだが、それならそれでその変なリアクション止めとけお前。(戒め)

 

 ちなみに夏凜の話を聞く限りしばらく私と九郎丸は、旅館では彼女の小間使いのような仕事を任されるらしい。この感じだと原作初期通りに、単純な雑用による下積み時代になるのだろうか。不死身衆としての私や九郎丸の立場は、幹部級用心棒、と言いはしたが幹部とは言っていないのがミソである。要するに、幹部がこなすような大仕事をこなせないのなら中々心もとない扱いなのだ。

 せめて時給は200円は切らないで欲しいところである。

 

「娯楽施設は営業時間外に定額まで使いたい放題ですが、何かやりたいことでも?」

「いや、単にモノ買いたいっていうか、練習したいというか。珈琲自分でちゃんとそれっぽく淹れられるように拘りてーだけっスよ」

「刀太くん、淹れるの上手いよね結構」

「なるほど……。なら早いうちに待遇上昇できるよう相談をしましょう」

 

 言いながら私の頭を撫でる夏凜。……いや、もうこの距離感についてはコメントの仕様がないのだが、隣でやきもきした顔してる九郎丸は何なのだ。その、嫉妬してる内心があるような、でも僕は男だからそんな想いを抱くのはおかしいし、みたいな葛藤をしているような雰囲気は。どう見ても乙女のそれだと指摘するのは簡単だが、私も真綿で自分の首を絞める趣味は無いので、苦笑い一つである。

 そんなこんなで庭先と言ったらいいか、日中は子供たちが遊んでいる外の広場で、何やら話し込んでいる二人の姿が見えた。一人はシルエット的に源五郎パイセンだが、もう一人は……。

 

「あれが、飴屋(あめや)一空(いっくう)よ」

「はぁ…………」

「……何を驚いているのですか? 刀太」

「いや、何でもないッスけど」

 

 その正体を知る身としては、にこにこ微笑みながら源五郎パイセンと談笑してる白衣の青年に、驚きを禁じ得ない。なにせあの肉体は原作通りなら全身ロボット、その精神は広大なネットを中継して本体である肉体から動かしている状況にある。

 つまり外見上そこらに居てもおかしくないイケメン兄ちゃんと言わんばかりの容貌は、すべて人工物なのだ。にもかかわらず表情の取り方、動き一つにおいて違和感、いわゆる「不気味の谷」が発生していない。

 中身が本物の人間であることも大きな理由だが、現代技術の進歩具合に改めて驚かされる。本当、知らない場所に生まれ直してしまったのだと少しだけ気が滅入った。……それを察してか夏凜がまた頭撫でてくるが、今はされるがままにさせてもらおう。

 

「ん? あー、刀太君だっけ。君、起きたんだ! 合格おめでと!」

「おはよう三人とも……、ふむ、また何かフラグでも立てたのかい?」

 

 フラグ? とよくわかってない九郎丸と夏凜はともかく。明らかに両者の顔を見比べた上で私の顔を見て肩をすくめている源五郎パイセン。……いや、流石に転生者というか憑依者というかまではバレてないだろうが、少なくとも「そのテの話が通じる」相手だとは認識されているらしい。苦笑いを浮かべる私に、「ご愁傷様だね」と皮肉なんだか労わられてるんだかわからない一言が投げられた。

 一空と初対面な私だが、九郎丸は昨日の内に出会っているらしい。どうも話を聞く限り、気絶こそしていたがほぼ原作通りなやりとりがあったらしく、私の顔通し自体も既に終わっているとか何とか。つまりあの場に一空もいたのだろう。

 展開上そう差異がないなら、特大のガバとかはなさそうだし一安心である。 (???「そうだね、その後誰がお前を運ぶかで女二人で取り合いになって、キティが結局運んだやりとりさえなけりゃあね」)

 

「刀剣とか刃物系のメンテナンスか……、ちょっと間が悪かったね。今丁度、その関係の機械をメンテナンスに出しているところでさ。銃火器ならいくつか用意があったけど、そういう訳じゃないんでしょ?」

「銃火器か……、興味はあるッスけど、戦闘スタイル的に無理があるッスね。マジで興味はあるんスけど」

「カッコイイからかい?」

 

 秒置かず反射での首肯。

 

「カッコイイからッスね」

「なら仕方ない」

「うん、大事なことだね」

 

 私、一空、源五郎パイセンの間に趣味装備(オサレ)の連帯感が生まれた。

 一瞬、二丁拳銃で死天化壮をした私がガ〇=カタ(芸術は精神の解放)風な動きでコートを翻しながら血風を弾丸に変えて打ち出す姿を幻視した。それも中々良いなとか浮気心めいたものが作用するが、結局弾丸だと狙いが逸れる問題が解決していないため、あえなく断念であった。無念である。

 と、「か、刀だって恰好良いよ刀太君!」とか私の肩を押さえて身を乗り出してくる九郎丸。お前も大概距離感おかしいが、そういえばこっちもそのうち雪姫に相談しないといけないか……。

 

「そうだ、その話だったら刀太君。少し時間をもらえると嬉しいんだが」

「時間? って何を……」

 

「――――甚兵衛さんは僕にとって師匠みたいな人でね。だから、彼が痛手を負うまで戦い続けられた君のファイトスタイルに、ちょっと興味がわいた」

 

 一試合してくれないかな、と。非常に楽し気に、どこからか取り出した日本刀を構えた。メンバー間での私闘は、確か原作だと禁止されていたような……? いや、練習試合、というより訓練程度なら大丈夫という判断か。

 大体原作の場合はCPL(クレイジーサイコレズ)と化した夏凜が悪いところあるし。

 

 一瞬「何か?」と含みのある視線を私によこしてくる夏凜の勘の良さはともかく、私もさっきの連帯感から、練習試合をすること自体に異論はなかった。

 

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「では、私は九郎丸の方を見ましょう。考えてみれば、変な因縁が付いたままでしたし、親睦を深める意味でも……」

「あ、その、夏凜先輩。僕もその、相談みたいなのがあって……」

「……ん? そうですか。では一度場を外しますか」

 

 夏凜先輩はそう言いながら、刀太君たちに少し移動する旨の話を伝えた。そのまま本館の裏庭側と言ったらいいのか、表よりも狭い庭の方に案内された。

 

「さて、ここなら誰も居ませんから。思う存分に話しましょうか。女同士」

 

 思わずズっこけた。

 

「お、女同士!? い、いえ違います、僕は男だから!」

「今更隠さなくても良いでしょう。何、肩の幅から腰の括れ方や初対面から今日その日まで完全に同性であるのは察しております。本当ならタコ部屋みたいに貴女と刀太が同室になるところを、乙女的に厳しいだろうと気を利かせて部屋を分けた程度には。

 とはいえ隣の部屋になってしまったのはあきらめてください。生活音がお互いに聞こえてしまうのは―――」

「あれ、夏凜さんがそう言ったんだ……、って、そ、そういう話じゃなくて! いや別に生活音程度で何も気になりませんて!」

「本当に? 神に誓って?」

「なんでそんな無表情で迫ってくるんですか!?」

「あら? いえ、私もよくわからないのだけれど……」

 

 なんでか妙に疲れさせられて、思わずぜいぜいと肩で息をする。夏凜さんは無表情ながらにやっと口元が動いていた。揶揄われてるんだろうか、まったく……。変な汗が出て来るのと、意味が解らないけど顔が熱くなるんで、本当、止めて欲しい。

 

「まあそれはともかく。女同士の話でないのだとすると、一体何を聞きたいので? てっきり私が刀太とべたべたしてるのに不満でもあるのかと思ったんですが」

 

 自覚あったんだ……って、そういう話じゃなく。いや、それも気になってはいるけど、そっちよりも!

 

「その、僕の不死身に関係することなんですけど…………、甚兵衛さんからアドバイスがあって、それをどうしたものかなって」

「そういう話ですか。……良いでしょう。とはいえどこまで力になれるかわかりませんが」

 

 腕を組みながら優し気に微笑む夏凜先輩に、僕は自分の不死身の根幹―――― 一族の秘奥について、かみ砕いて説明を始めた。

 

 

 

 

 



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ST20.戦らないか

感想、評価、誤字報告、お気に入り、ここすき 他毎度ご好評ありがとうございます!
 
今回ちょっとルビがいつも以上に読みにくいかもですが、ネタ的に回避不能なんでご了承を汗


ST20.Can I Be Your Essence?

 

 

 

 

 

『おかしいとは思わなかったか? 今のお前の能力と、刀太の現状とを見比べて』

 

 課題クリアを刀太君に任せたまま、甚兵衛さんは僕と手合わせしながらアドバイスをしてくれてた。その際、投げかけられた中で一番、頭の中で引っ掛かりを覚えたやりとりだ。

 あの何だか格好良い鈍い光の剣を受け流しながら、僕はそれに疑問を返す。

 

『何が、おかしいんですか?』

『アイツの胸の傷、お前が付けたんだってな』

 

 思わず剣筋が鈍ったのを甚兵衛さんは見逃さない、ごくごく当たり前のような動きで、僕の上半身と下半身は両断された。転がる僕に「警戒が甘いぞ?」とニヤニヤ笑ってから、腰を押さえて膝をついた。……そう、甚兵衛さんはぎっくり腰状態のまま僕の手合わせをしてくれていた。いくら不死身だとはいえ、無理があると思ったのだけれど。気の使用を封じられた程度では、彼の防御は崩せないらしかった。

 

『すげー動揺すんのな、お前。完全に雌の顔してるぞ……』

『メス?! いや、僕はそんなんじゃ――――』

『しかも相当依存度が高いタイプだな。ありゃ吉原をぶらっと回ってたときにゴロツキから助けてやった奴がいてなぁ、ソイツがえらい「あんさんに嫁ぐ運命(さだめ)でありんす」なんて言ってストーカーまがいのことを仕掛けて―――――』

『僕はそんなんじゃないって、言ってるじゃないですか!』

 

 甚兵衛さんの語るエピソードに興味はあったけど、それを聞いていたら僕が同類扱いされてしまいそうで、思わず待ったをかけていた。何が楽しいのか、そんな僕をからかう様に大笑いする甚兵衛さん。

 

『まぁ何が言いたいかって言うとだな。お前、流派の技は見事なもんだが、まだ不死殺しとしての技術を「習得していない」だろ。にもかかわらず、アイツはきっちり不死者として「死んでいる」。

 延々再生を続けてるから死んでないように見えてるだけで、それこそ不死身の元栓みたいなモンを止められちまったら、完全に死ぬ奴だぞ』

『死…………ッ』

『本人が気に入ってるみたいだからまだ言わねぇけどな。胸の傷から血を取り出すって「制約」を作ることで、技とかの形を安定させているように見えるし』

 

 あーゆー独特な「能力」みたいな形にまとまっちまった戦い方っていうのは、それこそ儀式めいて来るからなぁ、と。甚兵衛さんの言葉に、僕は納得してしまった。刀太君は、何かの拍子に普段の胸の傷からすら「出血する」。それも鮮血、心臓から今にも元気に出力された、生きた血を。

 

『そのうち俺とか雪姫とかで塞ぐ手段を探さないといけねぇんだが、それはそれとしてだ。

 お前自身、俺に指摘されるまでそのことには気づいていたか?』

『…………その、深くは考えていませんでした』

『考えてなかった、というより俺には「違和感がなかった」ように見えるがな。刀太についてがじゃないぞ? お前自身が、不死殺しの力を振るうってことにだ』

『………………』

『まぁ深くは聞かねぇけど、俺の見立てでは、だ。どうにも刀太の心臓は、不死が殺されたとかじゃなくって、再生を「妨害されている」ような感じがする。あそこに変にいびつな力が存在し続けることで、再生自体を封印してるって寸法だ。

 それは言うなら、不死に限らない。お前が持っているだろうその力っていうのは、使いこなせていないその力っていうのは、もっと幅広く別な事にも使えるはずだ。と、まぁオッチャンはそう考えるわけだ』

『刀太君の、血風とかみたいに……』

『いや、そこまで自由度があるかどうかは知らねぇがな。アイツのアレはどっちかというと趣味だろ。デザインとか名前の漢字とか。無駄に洗練しようとしてるやつ』

『カッコイイですよね』

『えっ?』

『はい?』

『…………いや、まぁ、個人の趣味の話は置いといてだ。(蓼食う虫も好き好きだなコリャ)』

 

 結局、甚兵衛さんにはその詳細について話すことはなかったけれど。頭の片隅に入れながら、刀太君と一緒に試験の中で戦い続けてた。 でも、そこでふと気づいた。この戦いの中ですら、いつ刀太君が死んでもおかしくない事実に。

 例えば僕が傷をつけた心臓、そこを起点に攻撃されて死んだ場合――――。雪姫様の魔法で周辺の血が凍っただけでも能力を使えなくなったのだから、きっとその規模はけた違いに酷いことになる。

 地上に上がって緊張が解けた刀太君が気絶した姿を見た時もそうだ。不死身の強度で言えば僕と同じくらいかそれよりも強いように見えるのに、それに伴う生命力のようなものが足りない――――足りないというより、まるで変に制限がかかっているように見えた。

 あれだけの魔術的に強力な再生ができるのならば、本人はもっと余裕がないといけないはずだ。あそこまで疲労困憊といった風でいるのがおかしいように思った。それこそいくらデスクラッドでの慣れない戦闘を続けていたのだとしても、だ。

 だから、僕は相談することにした。……夏凜先輩相手なのは、なんて言ったらいいだろう。少なくともこの人は、僕や刀太君をそういう意図で害する人じゃない気がしたから。もちろん雪姫様たちにだって、相談しなければいけないんだけど、何故かそっちにはまだ決心がついていなかった。

 

 つまりもしかしたら、刀太君にかかった不死殺しを、僕だけの力で解けるかもと言う可能性について……。

 

 

 

「……僕の中には、一族、流派が脈々と受け継いできた『神刀』、その核とも呼べるものの力が眠っています。

 かつて僕自身が受けた不死身化実験っていうのは、最終目的としてその核を分離するた――――」

「ちょっと待ちなさい、自分の中だけで色々決着した上で話を切り出すんじゃありません。

 ちゃんと、一から事情を説明なさい。貴女の流派って言うのは……えっと……、何もかも情報が足りないわ」

「はい?」

 

 意を決して話し出した僕だったけど、夏凜先輩は「気が逸りすぎよ」と頭を撫でて諭した。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「実は源五郎パイセンとは、一回やってみたかったんスよねー」

「そうか。……ところでそのパイセンというのは止めてくれないか、まだそこまで仲良くないだろう」

「いやー、でも、パイセンはパイセンですし」

「甚兵衛さんは?」

「甚兵衛さん先輩」

「夏凜は?」

「夏凜ちゃん先輩」

「…………ホント、なんで僕だけパイセンなのか」

 

 とは言われても、私の中で源五郎はパイセン以外の何物でもないのだ、そこは仕方ないと思ってもらいたい。呼称に特別妙な親しみがあるのは、彼が公的な意味でも、そして私的な意味でも先輩と言えるからだろう。

 なにせこの真壁 源五郎、早々にネタバレするなら「この世界」をフィクションと捉えた場合の「現実世界」――――メタなことを言えば「UQ HOLDER!」の世界の外側からの「転生者」のようなものなのだ。そりゃ普通の意味で先輩と呼ぶのに違和感が出てしまうのも仕方ないだろう。とはいえ大先輩と呼ぼう物なら、甚兵衛さんをそう呼ばせようと強要してくることは原作的に目に見えている。

 なので、他の先輩たちより大きく親しみを込めて、パイセン。

 いくら困惑されても、私自身のスタンスを崩す予定はなかった。

 

 庭で距離を取る私たち。剣を構えながら肩をすくめる源五郎パイセンと、黒棒片手に左手を心臓に当てる私。一空はといえば建物の壁に背中を預けて、完全に観客を気取っていた。

 

「君とはそう多く話したわけでもないのだけれど、なんだか妙に懐かれた感じがするな。やれやれ……、僕も変なフラグを踏んだかな?」

「そういう訳じゃないかと。いや、まー、俺が踏んだわけでもないって言うか、どっちかというと――――」

「――なるほど。こういう話、好きかい?」

「嫌いではないッスかね。そこまで詳しい自信もないっていうか。

 ゲームとか全然、カアちゃんにさせてもらえなかったんで……、アプリは通信速度悪いから実質できないし、テレビ使おうにもカアちゃんが独占してたし」

「フッ、今度部屋に遊びに来ると良い。色々、選り取り見取りだ。布教用を貸してあげよう。

 今の君の格好だと、時代劇系オープンワールドゲーに丁度良いのがあってね。もちろん真っ黒な和服に赤いマフラーなんて装備も噛ませられる」

「そりゃ良いッスわ!」

 

 一空が「ずるいなぁ、僕も連れて行ってよ!」とか話していたので、軽く手を振ってこたえる。さっきもそうだったがこの男三人、なんだかそれなりに分かり合えるものがある気がする。仕事に直接関係ない範囲なんだろうが、出来れば仲良くやりたいものだ。

 

「ルールを決めよう。①相手を殺すのは禁止②建物や施設に被害の出る能力や技の禁止③今日の業務に差し障るレベルで回復できないダメージを与えることの禁止、あたりでどうかな」

「大丈夫じゃないッスかね。じゃあ……、俺だったら血風が使えない感じか」

「僕なら銃火器になるかな」

 

 まぁそんな感じで、と。勝利条件としては「ある程度のダメージで負けを認める」と合意が取れたので、早々「血装!」と叫ぶ。

 感覚としては「回天」している血と魔力、胸の内で収まっているそれを一瞬緩めると言えば良いか……。意識しないでも常に張っているような状態のそれを、むしろ意識的に緩めてやることで、胸の表裏から一気に血液と魔力を噴き出させる。噴き出したそいつらを血蹴板(スレッチ・ブレッシ)の要領で動かし、周囲に回転させる。この状態だと発動を妨害しようと接触しても、強制的に弾かれるので「変身」(迫真)完了までは多少時間稼ぎが出来るわけだ。

 そして次の段階として、外を覆う膜のように回転させてるそれを、徐々に徐々に首のマフラーとかを起点として、コート状に再形成する。この時ハッタリを利かせるため一度、血の幕を破裂させて衝撃波みたいなのを放っても良いし、黒棒で斬り払ってただ事ではない雰囲気を出しても良い。何にしても無味無臭のまま出てはいけない。味気ない(オサレポイントが下がる)

 とはいっても、今回は周辺に被害を出してはいけない縛りがあるため、上空に向けて黒棒で描いた円を起点に「血風」を放つ。放った血風に従って円運動が円柱のような形に変化し、徐々に消えていくのに合わせてコートの形成へと回す……。この演出が地味に大変というか、一気に完成したように見えないよう、でもそれなりに高速で完了するよう練習するのが大変だった。

 

「――――死天化壮(デスクラッド)

 

 渾身の発動モーションは果たして。一空は口笛を吹き、源五郎パイセンは眼鏡のつるを抑えた。きらりと光り視線が見えない。

 

「じゃ、準備も終わったんで……、やりますか」

「…………」

「源五郎パイセン?」

「……いや、僕もそういうのを考えておけば良かったかなってね」

「あはは……」

 

 いやとはいえ、貴方ってば要するに若い桐〇ちゃん(レジェンドドラゴン)な立場に転生したのだから、そういうジャンルとは無縁なのではと思わなくもない。下手に脱がれて入れ墨でも出されたって困るし。ゲーム演出って意味では、どっちかといえばメスキ〇グ(子供向けアーケードの飽くなき限界挑戦)とかならまだ分からなくもないが、そのあたり私の前世ともズレた世界なのだろうから、上手い表現を言えないので励ましようもない。(寂寥)

 

 とにもかくにもそこからの勝負は、驚くべきことにほぼ一瞬で決着した。

 

「――――っ!」

 

 死天化壮のフードを下げたと同時に高速移動で背後に回ろうとした矢先、彼は自分の「腹部を刀で貫いた」。一瞬の出来事に一空も、そして私も頭が真っ白になる。事前に彼の不死身がどういうものか原作で知っていたとは言え、あんまりにもあんまりな、いきなりすぎる躊躇いの無さだった。

 源五郎パイセンの能力というのは、不死身能力自体もそこに依存しているものである。いわゆる異世界転生小説にありがちな「スキル」――――「この世界で」観測できる範囲で言えば、ゲームのロジック、スキルやシステムを現実世界に適用、転用できる能力だ。

 例えばゲームのステータスウィンドウ。その気になれば彼の目には私や、私だけじゃないその他様々な情報が大量に羅列されていることになる。名前、年齢、通称、所有能力、称号、身体能力などなど、テキストだったり数値化されていたりするものがだ。

 それと同様に、彼は残機制を採用している――――。つまり、死んだら今の残機を一つ減らし、好きな形で再開することが出来るのだ。いや、だからと言って自分で自分を殺すのはルール違反じゃないからとか、やはりこの人も普通かと思いきや正気じゃないか!?

 

 今回は「死んだ自分の身体を」「完全な状態に戻して」リスタートとなったらしい。そして全身にほんのり緑のオーラを纏っていて、胸元には文字のエフェクトが浮かんでいる。3.00と描かれているそれは、彼のリスポーン時点での無敵時間3秒を現しているのだ。

 しかし、いくらこちらの能力的なものを読んだからとはいえ、躊躇いがなさすぎるぞ! まだ残機に余裕があるのだろうが、そうポンポン勝手に死ぬんじゃない、気楽に死なれて致命的なガバが発生したらどうするんだ、責任とれないだろアンタ! いい加減にしろ!(恐怖)

 

「――――もらった」

「っ!」

 

 そして彼は、その無敵状態のまま意表をついた私に、それこそ〇突(Your head belongs to me!)としか言いようのない突撃をかましてくる。

 見てから反応できない速度ではないが、そこで「斬」より「突」を選択するところの意地が悪い。受け流し辛い間合いに入った状態で動くものだから、瞬間的に混乱し判断に秒単位の遅れが――――。

 

「こなくそ!」

「っ!」

 

 とはいえ私自身も大概、諦めが悪かった。その姿勢の状態で無理やり足場を、未だ出来損ないの「瞬動術」で蹴る。ブーツ状に形成されていた血蹴板を無理に蹴り飛ばし、しかし死天化壮での加速を殺しきることはできず、あらぬ方向に私は飛んで行った。

 それはもう、ギャグ漫画みたいなぶっ飛び様であったろう。ほんの少し雪姫に京都まで飛ばされた時のことを思い出すような、そんな無重力感だった。とはいえ秒も持たず、あっという間に庭先に鼻先から激突して転がりまくった。…………いやいや待て痛い痛い痛いっ! 顔面とかにジャリだの石だの刺さったり入ったりしまくってるっての!?

 起き上がりながら異物を吐き出しつつ、あっという間に再生する私であったが。勢いで解除された死天化壮やらもあり尻もちをついたような状態では、流石に太刀打ちできない。す、と首元に源五郎パイセンの剣が当てられ、勝負ありであった。

 

「なるほど。…………不死者なりたてという意味じゃ、確かに悪くはないかな。でも君のそれだけで甚兵衛さんの『イレカエ』を防げるとは思わないけれど……」

「あー、一応ハンデっていうか、教導のために新技つくってましたね。甚兵衛さん。『断空剣(だんくうけん)』とか言ったかな……、それで黒棒の使い方とか、技の使い方とか見てくれました」

「何…………、だと…………?」

 

 何それカッコイイ、とかぼそっとつぶやきが聞こえた気がするが、それはともかく。実際これに遠距離範囲攻撃みたいなのを織り交ぜてると話すと、源五郎パイセンは納得したように手を貸してくれた。……私を引き上げてから急に空中で指をすらーすらーとでも言うように上下に動かしてるのは、明らかに今までの甚兵衛相手のログでも辿って「断空剣」関係のログでも見ようとしているな。本当、師匠好きすぎかこの人? まぁ好きなんだろうこの人。

 何とも言えない顔をしていると、一空が「やーやーやー」と楽し気に腕を広げて、まるで歓迎でもするように歩いてきた。

 

「やー、結構面白かったね。制限ありだからジャンケン勝負みたいに一瞬だったって風に見えたけど、スローカメラで見たら結構高度なことしててびっくりだ。で、先輩としてアドバイスと言うか、そういうのはしてあげたらどうですかね?」

「そうかな? うん。……、剣を使ってはいるけど、戦い方だけで言えば君は銃器か、そうでなければ弓をつかってるようなものだね。話を聞く限りこう、遠距離で延々と壁ハメし続ける感じまでは行かないにしても」

「鋭いと言えば鋭い!」

 

 源五郎パイセンの講評に思わず素で答えてしまった。いや、そもそもベースになった斬〇(知らないオッサン)〇月(ホワイトな兄ちゃん)が意図しただろう設計としてまさにそういう運用前提なのだが。もっともその弾丸とか矢に該当するものは霊子(オサレ)だったりするので現実のそれに当てはめるのは難しいのだが。

 

「いきなり死んだものだから、かなりびっくりしたッスよ……」

「すまないね。でも、この通り。僕の不死身は『残機制』をとっている。ある条件で増える残機を一つ消費して、その分の生命をこの世界に出現させると言った感じだ」

「とはいえ、目の前でポンポン死ぬのは止めて欲しいッスよ」

「あれだけ大量に血を出していた君がそれを言うか…………。いや、でも、そうだね。

 話題はずれるけど、さっきの最後は瞬動術が完成していたら、また違った戦い方が出来たんじゃないかなとは思う」

「あー、それはやってて俺も思ったッスね。たぶん、ちゃんと瞬動できるんなら、高速移動したベクトルも全部意図した方向に転換できるんでしょうし」

 

 負けたとはいえ収穫もあった。これが命のやりとりを伴っていないというのが何よりうれしく……、そして顔面に刺さったジャリが新たなトラウマだった。あの痛さは、ちょっと忘れられない。生えて来はしたが前歯も一気に全部削られて無くなったし、正直二度と勘弁してほしいタイプの痛みの一つだ。

 悔しくないわけではないが怒りは伴わず、しかし心はささくれ立っていた。

 

 二人の先輩たちと別れると、視界の端で目と目が合う。夏凜と九郎丸がいつの間にか戻ってきていた。私に気づくと、夏凜はにこりと柔らかい笑みを浮かべ……だからそうダメージを負った心相手にそんな顔向けるな、好きになっちゃったらどうしてくれるッ!?(混乱) 一方の九郎丸は、どこか落ち着かない様子で長ランの裾を握っていた。

 

「あー、どうしたんだ? 九郎丸」

「……と、刀太君……っ」

「何だよ、何かあったか? 夏凜ちゃんさんに女だってバレたとか、男じゃないってバレたとか、チン〇付いてないってバレたとか」

「ぜ、全然違うから! っていうかチン〇言うな!」

 

 よしよしその調子。一瞬怒鳴って元気が出た九郎丸だったが、しかし顔をより赤くさせて、目を下に向けてしまった。一体どうしたというのか。背後でそっと、夏凜が九郎丸の耳に何事か囁く。びくん、と震える様はまるで悪魔の囁きか何かなのだが…………。

 そして九郎丸は、私の両肩を掴み。

 

 

  

「刀太君、ぼ、僕と……僕と、ぱ、魔法使いの仮契約(パクティオー)しないか?」

「……は?」

 

 

 

 私の思考回路が、ガバの音を立てて崩壊した。

 原作……、原作ドコ……?(迷子)

 

 

 

 

 

(???「これは、流石に可哀相だね……」)

 



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ST21.原作とUMAとボンボンのジェンガ

毎度ご好評ありがとうございます!
今回独自解釈オンパレードですが、タイトルで何が起こるか察してもらえると凄い助かります汗


ST21.Worldview Jenga

 

 

 

 

 

「おおむね判ったわ。つまり九郎丸、貴女の中にある不死身の核の力を、もっとうまく引き出したいという事ね。

 だったら最初からそう言えば良かったのです、中途半端に実家の話を途中で経由するからややこしかった」

「す、すみません……」

「そういう素直な所が可愛いんでしょうが。刀太も慣れない反応をしていますし」

「えっ!?」

 

 突然の夏凜先輩の発言はともかく、おおむね僕は自分の経歴と、その力の根幹について話し終えた。流石に刀太君の胸をつらぬいた話についてまでは話していないけれど、結果としてなんだかちょっとからかわれてる様なことになった。ただ夏凜先輩は無表情のままなので感情が読めない……。

 ふむ、と顎に手を当てて、彼女は思案した。

 

「とはいえ問題ですね。確かに早々、不死身を封じられることはないからとは言え、貴女自身の『不死殺し』の力を自由に操れないというのは。何かの拍子で発動しても解除できないというなら、訓練中での事故も十分あり得るでしょうし……」

「その、夏凜先輩の場合だとどうなんでしょう」

「私? 私は…………、すみません、参考にならないわね」

 

 私のこれって、ある意味で外付けなんでしょうしと。無表情ながらどこか自嘲気味な夏凜先輩。

 

「私の不死の根幹の正体は、正直な話、私自身でも確定はできていません。雪姫様や甚兵衛と推測らしい推測は立てたことがありますが、あくまで仮説段階です」

「それは一体……」

「――――神、というものを貴女はどう思いますか?」

 

 桃源神鳴流であろうと京都神鳴流であろうと、もともとは平安の京を妖魔の手から守るために作られた剣術と聞く。成立経緯から考えて、古い時代の荒ぶる神を鎮めたことも当然あるはずだ。だけれど、それが僕の中における神のイメージに結び付くかどうかは別で……。

 僕の中にある神のイメージは、きっと今、僕の内に眠る「ヒナちゃん」のことなんだろう。

 

「……分かりそうで、分からない、近いようで遠い存在、でしょうか」

「……そうね。『今となっては』私にとっても、そんな感覚が近い。私の不死性というのは、そういう神が常に私を『視ている』からこそ起こり得るような、そんなものなの。

 だからこれは引き出そうと思って引き出すというより、そうね…………。この国の言葉に合わせるなら、願い、奉って、降ろしてもらうというのが正しいのかもしれないわ」

「願い、奉る……」

「ごめんなさいね、あまり参考になれそうになくて」

 

 いえ! と。力なく笑う夏凜先輩に、ちょっと僕は慌てた。むしろ参考になったかもしれない。彼女の言う神の捉え方と僕の捉え方は違うかもしれないけど、でも根っこの所にあるものは似ているのかもしれないと。不思議と夏凜先輩に親近感が湧いた。

 ただ一つ問題があるとすれば……、「ヒナちゃん」は、僕の内で眠っているというより「もう僕」なのだ。僕らにもはや境目がない、というより「ヒナちゃん」自身が、それを意図していたんじゃないかって思う。

 生きるのに飽いた――――あの時、そういって僕に命を譲ってくれたように。

 

「僕は……、頑張れるのかな、ヒナちゃん」

 

 

 

「――――何だか面白い話をしているなぁ、お前たち」

 

 

 

「えっ?」「雪姫様!?」

 

 上空から聞こえた声に視線を向けると、上から雪姫様が降りてきた……、スーパーヒーローみたいな三点着地をして。姿はあの十歳のもので、服装はこう……、チェーンとかジッパーとかが多くて、なんか、こう、すごかった。

 ロックな感じって言ったらいいのかな、すごいカッコい感じだった!

 雪姫様……、えっと、そうだ、小さい方はエヴァ様って呼ぼうか。エヴァ様は僕の視線を受けて「なるほど、こういう趣味か……」とニヤニヤと笑っていた。

 

「いや何、修羅場でも始まるかと思ってちょっと仕事の傍ら『人形』に監視させてたんだが、いつまで経っても何も変わらなかったから詰まらなくなってな。

 私闘が始まったら散々からかってやろうと思っていたがそうもならなかったし。

 こうして直にどんな話をしてるか、聞きに来た塩梅だ」

「修羅場って何ですか修羅場って!」

「そうです雪姫様、九郎丸と私では求める所が大きく違います!」

「ほう何が違うのか……、ちょっとお義母(かあ)さん知りたいところではあるが。

 いや真面目な話だったようだから、普通にアドバイスしてやろう。

 パワーアップのための作戦会議としては、中々いじらしいしな?」

「い、いえぁお、いじま……?」

「雪姫様、言語回路が崩壊してます」

「そう言いながらお前は私の頭を撫でようとするな、何だそのわきわきとした手の動きは……。

 撫でるなら九郎丸にしてやれ、というか慰めてやれ可哀そうに」

「いえあの! 絶対雪姫さんのせいですよね!?」

 

 思わず叫んだ僕に、かかか、と大笑いするエヴァ様。前にも思ったけど長い髪がすごいサラサラで綺麗で、ものすごい可愛らしい。

 

「で、そうだな。お前の不死殺しだが、察してるとは思うが『お前の兄』の『不死払い』とは根本で違うだろう。自覚はあるようだから、細かくは言わないがな」

「……あの、雪姫様はひょっとして兄のことを……」

「さぁて、な? 細かく言うのは野暮というものだろう。

 話を戻すが、熊本からこっちに来る間の訓練を見る限り、お前の不死身を支えるギミックは二つ。どちらも肉体をある一定の状態まで再生することに長けているな。

 一つはお前に施された呪術的な超回復。もう一つは、神刀を核とした『健全な状態に』回復させるもの、といったところだろう。

 聞いた限り、前者の『呪式不死化実験』自体では、今の状態まで健康体になることは難しかったはずだ。

 このあたりは後者の要因が大きいと見える。…‥推測だが、おそらく因果律とかそういう高次元からの干渉になってくるんじゃないだろうか。

 例えば…………、『死する運命を常に覆し続けている』とか」

「高次元から……?」「……っ、そんな大掛かりな話なんですか? 九郎丸の力は」

 

 驚きを露わにする夏凜先輩に、エヴァ様は肩をすくめる。

 

「大なり小なり不死身の『モトネタ』は厄介なものが多いがな。カリン(ヽヽヽ)、お前のそれだって、ある意味似たようなものだろ。任意では振るえるものではないにしろ。

 で、だ。九郎丸、現時点でお前がその力を引き出すとっかかりについて思いつかないというのは、なんとなく判る。こればっかりはおそらく鍵になるものが全く見当たらないというのがあるだろうからな。

 そこで、私から提案なんだが――――」

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「――――ネオ・パクティオー …………、だと…………?」

 

 九郎丸の唐突な、原作にピッケルでもブッ込んでハンマーを打ち下ろすような破壊宣言じみた「(仮契約)やらないか」発言により崩壊した私の自我が回復するまでに数分。途中、九郎丸に揺さぶられたり夏凜に抱きしめられて頭撫でられたり、二人そろって耳元で息を吹きかけられたりと言った謎挙動はあったものの、正気に戻った私が雪姫(というかエヴァちゃん)から聞いたのは、耳を疑う発言だった。

 

「ああ、ネオパクティオーだ。通常のパクティオーより、九郎丸の目的には合致しているだろう。元来パクティオーの概念について少しふれると、元来古くから魔法使いは、呪文詠唱の際にどうしても隙が大きかった。それを補うために作られた概念が『魔法使いの従者(ミニステル・マギ)』。魔法使いの剣となり盾となり、魔法使いが戦う間を守護するのが目的だ。とはいえ昨今の魔法アプリ氾濫に際して、詠唱時間そのものが――――」

「いや、そっちの話を詳しくされたって意味わかんねーって……。えっと、そういう歴史とか概念とか抜きで言うとだ。魔法使いと、その従者の仮契約、だっけ? それで従者の方に魔法使いとかに応じたアイテムを、そういうのを大量に管理している所から貸与するっていう話?」

 

 そしてその仮契約の証明となるアイテムこそ、パクティオーカード。

 パクティオーカードと言えば、元祖ネギま! でおなじみのアレである。縦横比16:9、手のひらからはみ出るサイズの魔法具で、それぞれの契約者(契約従者)の決めポーズだったり決めコスだったりの絵が描かれているもの。劇中での活躍は私の言った通り、作中のヒロインたちに自分の足で立ち、時に戦う力を与える道具である。原理原則的に厳密には私は「魔法を受け付けない」ので適応外のはずだが……、いや? 傷痕でずっと起動している「自動回天」のお陰で、こういうのを受けることは出来るのか(私から仕掛けることは難しいだろうが)。

 さておき、メディアミックスにおいては様々な形態で販売だったり配布だったり同梱されたり、強烈なファンアイテムの一種でもある。流石にライト層の私はほぼ持っていなかった……、大河内さんだけは例外にして(自爆)。

 ……そしてネオパクティオー、ひいてはネオパクティオーカードと言えば。夕方放映したアニメに合わせて作成された、公式による狂気の沙汰であった。なにせ基本的な話だけでもパクティオーカードがネギぼーずのクラス31名それぞれに1枚ずつが最低保証されていたところに、ネオパクティオーはカードの性質として3倍、つまり93枚になる訳である。コンプリートした人は正直勇者だと思っているし、それだけ揃えられたのならさぞ圧巻だったろう。

 当然ライト層な私は、こちらもほぼ持っていない……、大河内さんを除いて(再爆)。

 

 そんな与太話みたいなことを考えてる私など知る由もなく、雪姫は解説を続けていた。

 

「貸与だったり召喚だったり、あるいは魔法だったりするかな? 本人の性質やら能力開花は一応魔法のカテゴリーになるだろう」

「いや、それは今聞いたばっかだから知らねーんだけど……。で、ネオパクティオーっていうのは?」

「自動化された仮契約の魔法といったところか? 要するにパクティオーを更に手軽にしたものだ。通常の仮契約と違い『遊び要素』があまりに多すぎるが……」

「「「遊び?」」」

 

 疑問符を浮かべる私たち三人に、雪姫が面倒くさそうに上を見ながら続ける。

 

「もともと世界パクティオー協会という組織がその関係を管理していたのだが、昨今の社会情勢やら2050年代の火星動乱の影響もあって、規模が縮小されたらしくてな。私の知り合い……、まぁ、アレでも知り合いか、あたりからその話を聞いたのだが、その結果通常のパクティオー業務の規模が縮小されたらしい。

 というか管理に関してはほぼ自動化されて、なんだっけ……、ネットとかに依存してるとか言ってたか」

「ネットに依存……」

 

 そういえば原作で、刀太のパクティオーカードの権限を使われて手元から奪われたことが一度あったか。あれも「そこに至る経緯」を考えると、割合納得がいきそうなところである。

 

「そこで、その隙間を埋めるためにやり始められたのが、ネオパクティオーだ。確かカードが三種類に分かれるんだったか……。これに関しては完全に自動化されてるらしいのと、あとはランダム性が強い」

「あー、縮小したって言っても通常業務はやってはいるんだろ? なんでわざわざその新しい方に?」

「今回に関しては、このランダム性がポイントになるからだ」

 

 指を立てて「良いか?」と胸を張るパンクファッションな十歳児が教師ぶる姿には色々とどんな顔をしていいか分からないが、ここは心を無にして話を聞こう。ちなみに九郎丸はそわそわしていて……何だ、あんな恰好がお前趣味か何か? 夏凜の方は「雪姫様直々にこんな丁寧にお話を……」とか目が涙ぐんでいた。……実物として、夏凜のCPL(そういう)姿を見るのが初めてかもしれない感覚に襲われるが、なんだか原作とも違う情緒不安定っぷりな気もしないではない。何があったアンタと聞いてしまいたいが、なんだかそれもガバの温床な気がしたので、特に聞くことはしないでおこう。

 

「なんだっけか? あまり良い思い出はないのだが……。アーマーカード、コスプレカード、スカカードの三種類。

 このうちアーマーカードが通常のパクティオーカード相当の効果に準じる。潜在解放の最大化、アーティファクトの貸与もこれにかかる。

 次にコスプレカードだが、コスプレ自体はまちまちだが廉価アーティファクト、ないし部分的な潜在解放が行われる」

「えっと、スカカードは?」

「スカだ」

「「スカ……?」」

「いや、まぁ、スカはスカとしか言いようがないだろうからなぁ……」

 

 顔がギャグマンガ調にでもなってそうな、不思議そうな九郎丸と夏凜であるが。なるほど、どうやら仕様としては、ネギま!? のネオパクティオーを本家ネギま! に寄せて設定を再調整したように見える。……というかこのメタな意味でのバランス調整具合、ひょっとするとひょっとしなくても、未だ見ぬ偉大な美をまとうお師匠が関わっていらっしゃらない? 導入に関しちゃ絶対趣味だろお師匠。(名推理)

 どこへか向けての私のツッコミはさておき、なぜネオパクティオーを勧めるのかというのがわかった。

 

「つまり通常のパクティオーよりも、潜在解放する可能性が高いって話? それを切っ掛けに、九郎丸自身で何かそういう能力的なのをつかむ取っ掛かりにしよう、的な」

「物分かりが良い息子でお義母(かあ)ちゃん嬉しいぞ? ……う、嬉しい、ぞっ」

「いや、わざわざ小さい姿のまま頭撫でようとしなくて良いからさ」

 

 どうやら普段通りの感覚で腕を伸ばそうとして失敗したらしい。……いや? 待てよ、アレって別に幻術ベースの術だから実体としての本体サイズとかはたぶん変わっていないわけで、そうなると雪姫自身が動きに違和感を生じさせてるのって普通におかしいのでは……? 原作見てた時は漫画だからで流していたが、実物としてやりとりするときにこの矛盾に気づいてしまった。

 いや、まぁ枝葉末節だし、魔法だから本人の認識すらいじってると言われてしまえばそうなんだろうが……。

 

「本来ならオコジョ妖精とか、そういう類の力を借りるのが定石なんだが、今回は私が行おう。丁度、十二個簡易スクロールを持っている」

 

 す、と両手を胸の前で交差させる雪姫。その指の間には小さな巻物が現れており、さながら手品師がナイフでも投げそうな絵面だ。それを半眼で得意げにニヤリと笑う様はちょっと可愛いものがあるが、こう、何だろう……、義母相手に言う話ではないがすごい微笑ましかった。

 と、そんな私の感想でも察したのか「何だその生温かい目は!」と蹴りが顎にッ!

 

「ぅ゛、え、えーっと……。で、何であんなに九郎丸が落ち着かない様子なんだ?」

 

 私としては詳細を知っているが、あえてここは話を振っておこう。解説が終わりに向かうにつれて段々とさっきのように、顔を赤らめて落ち着きが無くなる九郎丸……。完全に女の子の仕草だと指摘してしまっても良いのでは? いい加減、動きとしてむしろ男を気取られる方に違和感が出始めているレベルなのだが。

 そして案の定の解答が雪姫の口から放たれた。

 

「基本的にパクティオーは、キスだからな。というかキスが最速で終わるから大体がキスで行うようにしている」

 

 わあああああああ! と。顔を真っ赤にして膝を抱えてうずくまって、そのまま転がりだした九郎丸だった。いや生娘か! いや生娘か……。娘でない可能性も含めて生娘だったな(意味不明)。そんなことを考えていて、ふと原作での九郎丸過去周りを思い出してみたが、そういえば本当に本当の箱入り娘的なところがあった。熊本で一月一緒に暮らしてだいぶ馴染んでいたから忘れていた。

 こういうのがガバの温床なんだろう……、気をつけねば。

 

「あー、男同士でか……。雪姫とかじゃダメなのか? 相手」

「――――いくら刀太でもそれは許容できませんよ」

「おー? おー、おー、夏凜先輩が超怖いわ!」

「なんで嬉しそうなの、刀太君……?」

 

 す、と私の首に両手を添えて、当然のように頸動脈に指をあてる夏凜。声が絶対零度で、原作夏凜を思わせて、ちょっとだけガバが解消されたような錯覚が出来て少し嬉しい。まああくまで錯覚なので、実態はもはや原形がほぼ残っていないのだが、少しだけ精神安定である。

 もっともパクティオー関係自体は、雪姫本人に否定される。

 

「仮契約時に考慮されるのは個人同士の相性だったり、お互いへの想念だったり、あとは魔力量とかにも関係するからな。より良いものを引き当てたいなら、お互いの感情を育むべし、だ。その意味では私よりお前の方が付き合いも良いだろうし、年代も近いし、相性は良いはずだ。……まあお前の場合は、私くらい相手でもないと大体の相手をその魔力総量とかから『従者』扱いにしてしまうだろうから、一長一短ではあるだろうが」

「あー、まぁそういう意味じゃ、雪姫か俺かって話になるか……。でも男同士のファーストキスを男同士のファーストキスで奪い合うって、正直どうなん?」

(刀太に関してはファーストキスではありませんが)

 

 ちょっと待て、今なにかボソッと私にすら辛うじてしか聞こえない声量で、とんでもない発言が聞こえた気がするぞ!? 思わず首に添えられた手を引きはがして背後を振り向くと、夏凜が全力で私から視線を逸らしていた。……いや、聞き間違いだよな? そうだと誰か言ってくれないかな……、言ってくれない?(懇願)

 …………いや、まぁもし仮にそれが錯覚だとして、事実だと認めてしまうのなら。一応最低限は、そういうのをしても良いという体面にはなるのか……? まあそもそも今の九郎丸は女性側にだいぶ振れてる訳で、組み合わせとしてはそこまで問題にはならないだろうが。

 それにここまで大量のガバもといバタフライエフェクトにより、原作から色々と軌道が変形している可能性はある。パワーアップできるフラグが私の意図の外からとは言え、用意されてるのなら備えるのが正しい判断だろうか。身構えてる時には何とやらである。

 

 後は本人の気持ち次第だろうに……。とはいえ、原作ですら18巻くらいから怒涛のパクティオーが行われている流れなので、そこまで好感度やら何やらを蓄積していない今の状態でやることに意味があるのか? という疑問はある。

 あるのだが九郎丸は腹でも括ったのか、ぺしんと両頬をはたいて立ち上がった。

 

「…………僕は、強くなりたい。でないときっと、刀太君を守れない」

「お、おう……」

 

 発言にこもった感情が重い……、重くない?(困惑)

 

「だからその、刀太くん……! ぼ、僕と、その…………」

「いや、そう思いつめて言われると断りようもないし、いいけど……。やっぱお前女だろ」

 

 別に虐めてるわけではないのだが、咄嗟に言ってしまった。もっともこれには「ち、違う……、違うもん……」とか完全に抵抗値が超絶低下した九郎丸の反応が返ってきたので、私もリアクションには困ったのだが。

 

 

 

 ともかくこの後、雪姫主導のもとに魔法使いの簡易仮契約(ネオパクティオー)が行われたのだが。その結果はある意味、私にとって呆然自失を引き起こす、衝撃以外の何物でもなかったのだった。

 

 

 

 

 

(???「アタシを知り合いと言うのに随分不満がありそうじゃないかキティ? それはそうと、衣装が増えるのは良いことじゃないか刀太。女は服でいくらでも化けるものさ?」)

 

 

 



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ST22.君の名を僕だけが知っている

ちょっと推敲甘いので手直しちょこちょこ入るかもですがご了承願います・・・(展開が展開なので中々上手くまとまらない)
 
誤字報告とか感想とか評価とか・・・毎度毎度ありがとうございますナ(再度テールの誤字は流石に酷かった・・・)


ST22.Your Name Is "Lost Memory"

 

 

 

 

 

 仮契約(キス)自体は一瞬で済ませた九郎丸だったが、その後しばらく地面にうずくまって誰の声にも反応を示さなかった。まるで石だ、石のようだった…………。流石に可哀相になったのか夏凜やら雪姫やらがなぐさめて事なきを得たようだが、先ほどまでの失態(本人いわく)を取り戻す勢いで、雪姫からカードの使い方を聞いていた。

 どうやら扱い方は本当に原作に寄ってるのか、ネギま!? と違い従者本人がカードを使用する、つまりドローする形式がとられるらしい。

 

我が身に秘められし(オステンド・ミア)力よここに(・エッセンシア)――――来たれ(アデアット)!』

 

 詠唱が始まった瞬間、九郎丸の胸元から光が三つ現れ、それぞれ周囲に虹色に輝くカードとなる。それらが高速で円を描くように回転し、さながら変身バンクのようにも見えた。実際アニメでの使われ方も変身ヒロイン的な扱いのそれなので、間違っている演出ではないのだろうが……、いざ背景に仙境館の建物をすえると、何とも名状しがたい気持ちになる。

 そして「アデアット!」の言葉と共に、右手を前に突き出す九郎丸。と、その手に何か自動的にカードが一枚収まり、ばりばりと音を立てて虹色が剥げていった。

 

 

 

 ・11

 ・すかかーど

 ・「けんけーん!」

 ・とくいわざ:いちず

 ・すきなの:しゅぎょー、とうたくん

 ・くろうまる ときさか

 ・みずなきどりぞくあほうどりか

 

 

 

 

「あれ、何これ――――わっ!」

 

 煙と光を伴い、一瞬のうちに九郎丸の頭身が低くなる。まるでゆるキャラか何かのように圧倒的な小ささになったその姿は、毛先が黒い白い鳥……の着ぐるみを着用した、ゆるキャラのような姿になった九郎丸だった。

 小さくなった九郎丸に、雪姫は大爆笑。夏凜は「か、かわいい……!」と何か戦慄するような顔。あと気のせいでなければ、ものすごい大きな声で遠方からきゃっきゃとしたものが聞こえたのだが、ひょっとしたらキリヱだろうか。いまだ面識がないので確たることは言えないのだが、出来れば今回はスルーして欲しい所である……、頼むからこれ以上ガバにガバを上塗りしないで。(懇願)

 きょとんとした顔の九郎丸。仕草は幼児めいているが、そのままきょろきょろと周囲を見回して私を見上げると、愕然としたように叫んだ。

 

「と、とうたくんすっごいそだってる!」

「お前が小さくなったんだよなぁ……」

「そ、そんなばかなっ!?」

 

 やはりいつ見ても世界観崩壊どころの騒ぎじゃないんだよなぁ……。

 あと「大きくなってる」じゃなく「育ってる」と形容したところに、世間擦れしてない小さな女の子らしさを感じて何故か涙が浮かんだ。

 

「ま、ま、まあぁ、それがスカカードだ、ハハハ、全く想像以上に酷いなぁ、ハハハ!」

「雪姫様、つまり……」

「要はハズレのカードだ。

 通常のパクティオーでも失敗した際に生成されるカードはああした『へちょむくれ』だが、ネオパクティオーカードの場合は強制的にその姿を本人、周囲へ『幻術として』機能させる訳だ。

 結果、当人の能力は劇的に制限されて、場合によっては精神まで幼児化するのだが……、流石に不死者だからか、意外としっかりしてるな」

「ゆ、ゆきひめさん! これ、もどらない……!」

「嗚呼、一応通常のパクティオーカードと同様に『去れ(アベアット)』で終了することは出来るが、それなりに魔力を持っていかれるからな?

 まぁ後は、ちょっと腹が減るくらいだ我慢しろ」

「なんでおなかが……、えっと、去れ(アベアット)!」

 

 全身が光り輝き、再び九郎丸の姿に。尻もちをついた状態の九郎丸の周囲に、飛び散った光が収束して左胸のポケットに吸い込まれた。

 どうだったかと雪姫がからかう様に問いかけるが、九郎丸は引きつった表情で胸ポケットから「ネオパクティオーカード」本体を取り出した。

 

「…………確かに、これは遊びの要素が強すぎて戦闘には向かないですね」

 

 カード自体は原作UQホルダーで見た九郎丸本人のパクティオーカードなのだが、カードの下地が深い寒色系。魔法陣の模様がどこかバーコード風で、かつ上部中央、下部二か所にオーブのような模様が描かれていた。 

 私の手元にある九郎丸のカードもそう差がなく、なるほど確かに通常のパクティオーカードとは違うとよくわかる。一歩間違えるとデータカードダス系なのではと疑ってしまうような、変な凝り方だった。オーブのところだけ微妙にラメが入ってたりするし。

 

「まあでも、意外と空気は読んでくれると聞くぞ?

 私の知り合いの『偉大なる魔法使い(マギステル・マギ)』もお試しでやってたがな。

 私生活じゃそこそこの頻度でスカを引いてチュパカブラになっていたりしたが、実戦においては無問題だったし」

「「チュパカブラ?」」

「えっと、雪姫、たぶん二人には伝わらないんじゃね? アレアレ、UMAというか、幻獣というか、そんな感じの奴。あんまり可愛くない」

「まぁ現代吸血鬼のイメージとしては確かに酷いものの一例だな。

 …………さて、もう一回やってみろ。連続でスカを引くほどお前、運悪くないだろうし」

「ほ、本当ですよね……?」

「断言はせんが、別にアレもアレで良いじゃないか。かわいくて」

「僕としては結構真面目に修行というかがしたいんですけど……」

 

 そう言いながらもちゃんと立ち上がり、次のアデアットの準備に入る当たり九郎丸は押しに弱い。伊達に原作でも「何でも言うことを聞く」勝負に負けた時に「へ、変な事か? 変な事でもするのか!?」とか新手のくっ殺(プレイ)じみたことを言い放ったりしていない。

 

我が身に秘められし(オステンド・ミア)力よここに(・エッセンシア)――――来たれ(アデアット)!』

 

 だが今度は空気を読んでくれたのか。カッ! と目を見開いてドローした九郎丸のカードは、虹色がべりべりと剥がれて光となって消えながら現れたそのカードは。

 

 

 

・ARMOR CARD

・KUROUMARU TOKISAKA

・RANK:Lightning Sword

・EQUIP:Sacred Sword HINAMORI

 

 

 

「おぉ、二回目とはいえ早速アーマーを引くとはやるなぁ……(私の時は全然スカしか来なかったのに)」

 

 雪姫が感心したように言いながらボソっと恨み節みたいなのを呟いていた。残念ながら聞こえるんだよなぁ……。というか雪姫というよりエヴァンジェリンのスカカード? 確か黒ウサギだったか、一体誰相手に仮契約をしたものなのやら。

 

 そしてカードが一瞬光り輝き、九郎丸の全身を包み込むと……、白い王子様風なんだかロックミュージシャン風なんだか判断が難しい感じの姿。フリンジ袖から垂れているのがめっちゃひらひらしてて、しかし下半身はロングスカートタイプで袴にも見える。全体に走るラインは深い緑で、どっかで見たことあるようなないようなという雰囲気もあって……、デザイン誰だこれ。(素朴な疑問)

 背中には長い太刀が一つ。髪型は普段のサイドテールとは別に金色のサイドテールが反対側から垂れていて、ツインテールじみて見えるなんとも言えない塩梅だった。

 

 しばらく自分の身体を見比べて、足元に落ちていた普段の刀を拾って軽く素振りする九郎丸だったが。

 

「……なんか、身体が軽すぎて気持ちが悪いです」

「まあ下手に鍛えてるせいで普段と勝手が違いすぎるんだろうな」

 

 なんだか本末転倒みたいなことを言い出したが、それ活かすことが出来ないのだとするとお前、ファーストキスのし損になる気がするが良いのか……? いくら原作前後のレベルとか、現時点での好感度に色々疑念を抱いている身であるのだとしても、流石に罪悪感がわいてくるのだが。

 

「とはいえ背中のそのアーティファクトを見てみろ。きっと通常のパクティオーよりも、よりお前の本質に近いものを引き当てられているはずだ」

「本質……? あれ?」

 

 と、九郎丸はその太刀を一目見て、愕然としていた。本当に、あまりに驚きすぎたのか微動だにしない九郎丸に雪姫も夏凜も不審げに、心配そうになる。私は私で先ほど九郎丸が呼び出したカードのデータを見ようと、変身に合わせて変化したネオパクティオーカードの主側を見ていた。

 

「…………えっと、聖なる剣、ひなもり……、は?」

「ヒナちゃんだ、ヒナちゃんがここに居る……、でも眠ってるのかな……」『(やっぱりそう思うよね……、そうか、でもこうなるんだ)』

 

 ぼんやりと語る九郎丸に、夏凜も驚いたように九郎丸の刀を見つめていた。「ではそれは……」と反応する彼女に、九郎丸は首肯する。

 

「……神刀『姫名杜(ひなもり)』。失われたはずの、桃源神鳴流が秘宝です。そして」

 

 僕の不死身の根幹をなす、生きた霊なる剣です。

 九郎丸の言葉に、雪姫の頬が引きつった。…………いや、私に関しては言葉も思考も一瞬完全に消し飛んでしまった。大体さっきの「は?」以降の全てである。

 

 だってそれって……、いやお前、それさぁ九郎丸ちゃんよぉ、お前それ主人公が最後の最後で身に着けるような類の武装だぜ間違いなくよぉ、何いきなりそんなラスボス戦においてトドメにすら使われるレベルのブツこんな序盤から引っ張り出してるんスか、マジで大丈夫かこの世界!? こんなの早々に出してラスボス強化フラグとかじゃないよなマジでお前ホントどうなってんだオラ!(疑心暗鬼) ギミック武器を通常使用品にするのどう考えてもガバだろいい加減にしろ!

 

 神刀『姫名杜(ひなもり)』。九郎丸たちの流派に伝わる宝刀であり、特殊な力を持たずして一撃で不死身を斬り払える力と、金星の黒「程度」では一切傷つかない物体としての完全性を誇る刀である。加えて言うならば本来そこにあった人格というものは、その力の全てを九郎丸に譲り渡して消滅か何かしており、それが切っ掛けで九郎丸は「神刀を破壊し」「あまつさえ不死殺しであるのに不死身となった」という身分から、一族を追放されているのだ。

 原作後半において、ある事情からその力を九郎丸は真に使いこなすようになるのだが、その神刀がである。こんな簡単にこの場にぱっと現れてしまってその……、何か色々と世界観が崩壊してはいないだろうか(今更)。

 

 いや、でもアーティファクトは基本的に(例え未来の代物であれ)現代ないし過去に記録された物の「模造品」なり何なりに該当するはずだ(確かそんな設定だったはず)。例え件の神刀であるのだとしても、決して本編自体ががらがらと音を立てて崩壊するレベルの劇物的な代物という訳では……。

 でもそう言ってしまうと、いくら何でも九郎丸がそれを間違えるかどうかということにも疑問符が浮かんでしまう。大体嗚呼、刀を前に膝をついておんおん泣き出してしまって、夏凜に慰められている有様だぞコレ……。

 

「いや、あり得ん。本物が存在するだと? しかし現在の『ネオパクティオー』の仕組みについてアイツが一枚噛んでいるし、こういうことも全く起こりえない訳では……」

 

 雪姫は雪姫でしかめっ面のまま色々と推測を口にしているが、んー、実際そこのことろどうなんですかねぇまだ見ぬお師匠様や。もしアレが本物だとすると、パラレルワールド、あるいは過去から呼び寄せた逸品の可能性が高いと思うのだが。

 あれこれ考えたところで結論は出ないが。一つだけ言えることとして、少なくとも九郎丸のパワーアップ的な何かがそれなりに見込めるだろうということだ。

 

 少なからず当初雪姫が意図していた「何かしら自分の力に関係するものを引き当て、修行の取っ掛かりにする」という条件を完全に満たしてしまっている。ある意味で九郎丸自身(自分自身)の武器を取り出してしまったような状態なのだ。少なくともその扱い方を学ぶことで、自分自身についても知ることが出来るのではないだろうか。

 この辺り一概にどうこうは言えないが、試してみる価値はあるのではないだろうか。

 

「大丈夫か九郎丸……」

「と、刀太君…………、ぼく、僕はぁ…………」

 

 泣きながら刀を抱きしめる姿から色々とリアクションに困るのだが……。夏凜もそんな「何か気の利いたことでも言ってあげたらどうです?」みたいな世話好きお姉ちゃんみたいな視線を寄越すのは止めてくれ。こっちだって状況がエクストリーム過ぎて鏡花〇月(いつから使ってないと錯覚していた)されてるような心境なのだ。

 しかし九郎丸はそう簡単にへこたれる人物ではなかった。涙を拭い、目を赤らめながらも笑顔に変えて、そう気合を入れたように立ち上がり叫ぶように私を呼んだ。

 

「…‥刀太くん、刀太くん!」

「おう? お、おお、どうした……? いや目の前だからな、いきなりそんな叫ばれても――」

「その、僕と模擬戦してくれないかな!」『(!?)』

 

 いきなりだなと思いはしたが、笑いはしていても九郎丸の目からは涙が流れている。おそらくだが、九郎丸も九郎丸で色々なことが一気にありすぎて、頭の中が瞬歩(オサレ)の反復横跳びみたいな状態なのだろう。何かをして吐き出さないといけない。どうにかして今の自分の感情を外に出したい……、いや、ある意味で「友達にぶつけたい」というか、「友達に受け止めて欲しい」的なそれか? というか何故それを察せるのか私は、そんなに九郎丸と仲良しだったか? ……まぁ一月寝食を共にしてるし、原作知識に基づく洞察もある、仲良しと言えば仲良しか。

 むしろそんなもの全部すっ飛ばして「私」に気づいた夏凜の方がおかしい。(断言)

 

 でも九郎丸よ、その距離感は大丈夫かお前。絶対普通の友達に向けて良い感情の重さ軽さのレベルを超越してやいない……?(良心)

 

 まぁ模擬戦自体は吝かではない。実際、今の状態の九郎丸がどれくらい強くなっているのかとかには興味はある。…………あるのだが、とりあえず神刀は使わないでくれと真顔で頼む他なかった。絶対今の状態じゃ使いこなせないの必至だろうし。これには夏凜、雪姫そろって頷いていた。なお九郎丸本人からは「当たり前だよ、僕、刀太君殺したくなんてないからね!」と、気持ち慢心してるっぽい発言を受けてしまった。

 別に気にはしないんだが…………、色々とちょっと、なんか黒棒と私自身を弱く見られたみたいで、ちょっと、ほんのちょっとだけカチンと来た。

 

 まぁそれはそれとしてだ。

 

「へ、ヒナちゃんを見たいの? うん、いいよ。大事に持ってあげてね?」

 

 原作におけるUQホルダー側の最終兵器でありながら、とある事情から決して刀太(原作主人公)が手にすることのないこの武器。果たしてどんな具合のものなのかと、一原作ファンとして非常に興味深い。

 そして頼んだそれに九郎丸は嬉々として手渡してくる……、いやお前久々に神刀と再会したせいかもしれないが男の子的振る舞い方を完全に忘却しちゃいないか? 流石にそろそろ指摘しようかと思ったところで、前方、雪姫に呼ばれて駆け足で行く九郎丸。なにやらアドバイスと言うか、どういう風に今後修行するべきかという話し合いが持たれてるようだが、いくら何でもこの武器をそのまま放置するのって拙いだろうよ。いくら鞘に収まってるとは言え。それだけ信用されていると言えば、きこえはよいのかもしれないが。

 

 すっと抜いてみる。…………ダメだ、もともと黒棒をメインウェポンとして使用すること以外何も考えていなかった弊害だ。武器の良し悪しが全く分からない。刃こぼれがないとか、綺麗だとか包丁みたいな色してるとかそんな感想は出て来るが、もっと専門的(オサレ)それっぽい雰囲気(オサレ)なことが何も言えない自分が悲しかった。

 だからと言って今から勉強しても、そもそも興味のある分野ではないし……。なんか聞いたら九郎丸は嬉々として見学だの勉強会だのめいたのを開いてくれそうな気もするが、これ以上接触機会を意図的に増やすと嫌ぁな予感が抜けない。絶対抜けない。既に高水準で抜けていないのにこれ以上のフラグというかガバというかを重ねるのはナンセンスだった。

 

 もっと美しい方法(オサレ)で……、美しい最適解(オサレ)な生き方がしたいです……。

 

 

 

 ――――と。そんなことを考えていたのが原因かもしれないが。

 ふと、まさかそんな、という可能性がよぎって……、つい出来心で、私は口を開いた。

 

 

 

「お前、ひょっとしてだけど……『九郎丸』だったり、する?」『(――――)』

 

 

 

 かたかたり、と。私の言葉に、神刀はわずかに震えた。……というか熱い! 持ち手がなんかいきなり熱くなってきたぞコイツ、気持ち刃本体から湯気っぽいの出てるし、漫符じゃねぇんだぞ隠す気ゼロか!

 

 いやちょっと待て! は? 何? そうなの?

 

 

 

 お前さぁ、神刀のレプリカとか過去の神刀本体とかじゃなくて――――「未来の」九郎丸本人かよォ!? 原作後半のネタバレとか完全に無視したチャート組むんじゃない!(キャパオーバー)

 

 

 

 

 

『(本当に? でもそんな……、本当に、僕、刀太君……僕は……、嗚呼、あ……、――――ありがとう)』

 



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ST23.僕が君に出来ること

どうやら水曜日前後は体調不良になるフラグでも建つらしい・・・皆さんもお気をつけてナ!
 
毎度ご好評ありがとうございます! 
※前話と今話、ちょっと手を加えたので見比べてみると何かわかるような、わからないような・・・


ST23.Heart Sword Kinds You 

 

 

 

 

 

 何なのだコレは……! 

 こんなのどうやって対処すれば良いんだ!

 

 U Q HOLDER! 自体の原作が多次元宇宙理論、要するにパラレルワールドの理屈を採用していることは知っている。UQホルダーとネギま! とがパラレル続編であるのはここに起因しており、すなわち「ある要因が欠けたことによって」「他の歴史でまた違った影響が発生した」という流れだ。それが片方では完全無欠のハッピーエンドであれば、もう片方はビターで痛みを抱えながら今を生きる話になっているかもしれない。

 私たちのこの世界は、何方かと言えば後者の側だ。

 

 だからこそ、そこから更に酷い結末……、ラスボスに負ける歴史とか、あるいは例えば「九郎丸が」「神刀に改造されて」「そこから自らの意志の力で元の姿に戻る」「ことが出来なかった」、本編のバッドエンド的イフの歴史が、あるのかもしれない。

 未だ見ぬ師匠の収集癖は、当該する歴史に影響のない範囲で「本来なら失われるもの」を手元に置いておくというものである。であるならば、九郎丸、否、神刀が師匠の手元にあるというのは、すなわちそういう事情があるのだろう。

 

「マジかー ……」『(刀太君、何で分かったんだろう……?)』

 

 バッドエンドの歴史が存外近くにあることに、私は軽く精神的ダメージを負っていた。……いや、こういう時は前向きに考えよう。前向きに考える要因が例えなくてもその前提を横に置いておけば前向きに考えられるので(人生再走は)ないです。(と言うか出来ない)

 

「人の姿には戻れないのか? いや詳細とか全然知らねーけど」『(それは……、ごめん、無理なんだ。ダーナさんとの約束だから)』

 

 そんなことを聞くと、神刀は煙を上げるのを止めて沈黙した。おそらく不可能か、何かしら師匠により制限がかけられてるとかなのだろう。タイムパラドックスものとかパラレルワールドもので、異なる歴史の同位体というか同一人物が顔を合わせた時にトラブルが発生するという事案もあるし。そういった問題を回避するには、本人に自分自身であると認識させないのが一番のはずだ。

 

「しかしまさか、お前そのまま召喚されるとか……、〇魄刀(オサレ)では? いや破〇(オサレ)斬〇刀(オサレ)かもしれんが。…………まぁ何にしても、これからもよろしく頼むぜ? 『こっちの』九郎丸共々、な?」『(うん……、うん……! ――大好きだよっ)』

 

 私の言葉に、刃からつぅっと水滴が滴る。これは……、泣いているのか? 今の台詞程度でこのリアクションということはこの九郎丸、元々いた歴史は原作本編よりはるかに酷いことになっている世界線なのかもしれない。

 ともあれ、刀を鞘に戻して、こちらの様子をうかがっていた夏凜に手渡す。…… 一応聞こえない程度の声量には気を遣っていたが、特に彼女のリアクションに変化がないので大丈夫だよな……? 形状記憶合金じみた鉄面皮なのでいまいち判断がつかないが。

 

「重いですね。流石神刀というべきでしょうか」

「ん、そうか? 黒棒の通常ウェイトよりは確かに重いかもしれないけど」

「いえそうではなく。何かこう……、歴史と言うか、編み込まれている想念といいますか。上手くは言えないのですが」『(……こっちの夏凜先輩、なんだか刀太君と仲良さそう? しかも凄い……)』

 

 何やらじっと神刀を鞘越しに見つめる夏凜だが、しばらく持っていてくれと言ってから九郎丸のもとに向かった。原作だとバーベキューパーティーやら何やらがよく開かれている砂浜である。そこには大人の姿になった雪姫と、普段の刀を片手にやる気満々といった風な九郎丸の姿が……。どうでも良いがあの格好で大人になった雪姫の服装は、中々アヴァンギャルドな感じになっていた。念のためということなのか雪姫から「訓練だから許可を出す」ということを再度言及される。二人そろって了解と言い、私は「死天化壮(デスクラッド)」を展開した。今回は刀を前に突き出した状態から軽く斬り払うモーションだ。背中を向ける奴は訓練とかじゃなく実戦で使いたいし。(拘り)

 ……そしてそれを見て一瞬、顔が曇る「こっちの」九郎丸は、一体何なのだ。お前別にこの装備に関しては何もそんな顔する要素はなかったはずでは?

 

「いくよ、刀太君。大丈夫だよね」

「おう特に問題ねーけど……、どうした?」

「…………ううん、何でもない」

「やけに変な感じで匂わすなぁ……、まぁ別にいいけど。友達だし、よっぽどじゃなければ隠し事の一つや二つ」

「ッ!」

 

 ちょっと待て、今の発言で何か被ダメージする要素あったか? 一瞬悲しそうな顔をして視線を伏せる九郎丸に、私もどう対応して良いか分からない。

 わからないなりに気にするなと声をかけて、黒棒を構えると向こうもそれに応じた。

 

 ――――刹那、剣閃。

 

 私が認識するよりも早く、瞬間移動じみた速度で移動してきた九郎丸。動き自体は識別できなかった訳ではないものの、上手く言えないのだが「捕捉することが出来なかった」。は? いやお前、それ響〇(オサレ)か? 〇転(オサレ)じゃねーか! 全然原理説明されてないけど識別できない移動法って完全にそれだろ!

 ぎりぎり黒棒で受けることが出来たが、それにしたって次の瞬間にまた九郎丸が距離を取っている。速い訳ではなく、しいて言えば「上手い」のだろうか。完全に私の感覚を把握されでもしているのか、上手いこと意識の死角を突かれている感じがする。

 

 もしこれが神刀の力ないしネオパクティオー効果だというのなら、確かにランダム要素のデメリットを甘んじて受けるだけのメリットがあるかもしれない。その技法(技法だよな)を修行なりで身に付ければ、わざわざアデアットしないでも使うことが出来るのだ。思っていた以上に効果絶大である。

 なお当の九郎丸本人は突然赤面して「すごい、視えるしわかる……、わかっちゃうよ僕!」などと(のたま)っているが。大人気スウィーツでも前にした女子高生じみたテンションの上げ方やめろ!(偏見)

 

 その後何度切り結んでも、速度は私の方が速いのだが九郎丸の方がこう、一手先を行くような読まれ方でもしてるのか、一撃をしれっと入れてくる。

 

「何か毎回、意表を突かれてるみたいな感じがするな……。どうしたんだ九郎丸?」

「う、うん! なんか僕もわからないんだけど……、刀太君の動き『だけ』は手に取るよう予測がつくというか、視えるって言ったらいいのかな。そんな感じで、その通りに動いてみたら……」

「あっハイ……」

 

 …………それひょっとしなくても神刀というか「あっちの」九郎丸さんからの経験値フィードバックか何かでいらっしゃられて? 私自身が刀太(原作主人公)ではないという前提はあるが、基本的に私の戦闘技術というのは原作主人公のそれをベースにビルドしているのは間違いないし……。思わず夏凜の方を見るが、彼女の持つ神刀は沈黙を貫いていた。まあ仕方ないというか、おそらく本人も人間の姿だったら素知らぬ顔をしてるだろうイメージが湧く。

 ついでとばかりに夏凜からにこりと目と目が合った瞬間に微笑まれてしまってどんな顔したら良いか分からなくなってしまったが、それはともかく。

 

「頑張ってね刀太君! 僕、もっと強く出来るから! いっぱいケガさせちゃわないようにね!」

「…………」

 

 発言に原作でも見られないような慢心というかが見え隠れしてるのは、テンションが上がってるせいかそれとも何か別な要因なのか。

 なんとなく嫌な予感を覚えつつ、私は再び黒棒を構えた。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「あれは……、酔ってるな」

「酔ってるといいますと?」『(我ながら情けない……、あの時もこうだったのかな?)』

 

 夏凜の疑問に対して、私はどう説明するか逡巡する。

 

 ……こう言うと偏見になるかもしれないが、最近の夏凜はよく周りを見ている気がする。

 九郎丸しかり刀太しかり。もっと言えば他のメンバーにも目を向けている余裕があるというか。

 刀太が切っ掛けでそうなったとしたら、誰かの生き方に安心や反省を促せた息子に少しだけ嬉しいものがあるが……。いまいちコイツの内心は、表面から読み取れない。鉄面皮というやつだな。

 

 まぁそれは置いておくとして。

 

「お前の場合は完全に『不死性』が外付けみたいな部分があるから経験自体ないかもしれないが……。

 いわゆる暴走状態といったらわかるか?」

「暴走? 理性はあるように見えますが」

「だからこそなお厄介と言うか……。精神のタガが外れた状態が近いか」

 

 ばさぁ、ばさぁ、と砂浜が煙を上げ、地面を削りながら地面や空中で切り結ぶ二人。

 デスクラッドだったかを身に纏った刀太と、超高速戦闘を繰り返し続けるアーマー九郎丸。

 

 戦い続ける中、刀太以上に九郎丸が嬉しそうだ。

 

 あの顔は……、拉致監禁でもして部屋の隅で男を飼い続ける女のような顔というか。ちょっと、ほんの少し共感するところがあるので判るのだが、外から見る分にはそれなりに恐ろしい物が有る。

 

「手にはしていないが、お前が今持っている神刀から、おそらく何かしら力を引き出して身に纏っている状態なのだろう。

 形質から何から何まで違うが、ある意味刀太のデスクラッドのようなものか。

 そしてその熱に浮かされて、普段は理性で抑えている精神的な部分が表出しているんだ」

「つまり…………、映像を撮っておけば後でからかう材料になると」

「いきなりカメラの準備するのは止めてやれ。

 そもそもの前提としてだな。九郎丸は反抗期に入るよりも前から、それなりに抑圧された環境で育っていたらしい。

 その中で自分に『仕方ない』とか『あきらめろ』とか、言い聞かせて過ごしてきた期間が長かったことだろう。

 つまりそんな地雷原に、遠方から火炎瓶でも投擲したら何が起こるか……」

 

 

 

「止めます。お互いのためになりません」『(か、カッコイイ……!)』

 

 

 

 特に何ら疑問符を持たず、神刀をその場に突き刺して夏凜が乱戦に突入していった。

 どうした夏凜、お前、その、何と言うか……、判断が早いぞ!?

 

 やっぱりお前、刀太と何かあったんじゃないか? アレか、ヘンなことか? ヘンなことでもあったのか!?

 

 母親としてのまっとうな疑問を口にする暇もなく、三者入り乱れた状況は混沌と化した……、おそらく刀太の顔を見るに。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「強いでしょ? 強いよね僕! これなら刀太君だってもっと頼ってくれるよね!」

「いやいっつも頼りにしてるだろお前!?」

「うそ。だって刀太君、気が付くとふっと夏凜先輩のことばっかり見てる! やっぱりおっきいおっぱいが良いの!? おっぱいが良いの!!?」

「お前ちょっと自分が何言ってるか一度振り返ってみやがれ、ええぃ!」

 

 しかし夏凜ばっか見てる? なん…………、だと…………? いやそんな馬鹿な、きっと九郎丸の気のせいだ。それだとアレじゃないか、まるでちょっとスキンシップされただけでコロッと堕ちてしまったみたいな妙なチョロさじゃないか。実際なんか旅館寝起きの時の彼女の照れた様子からしてもっと凄いことがあったかもしれないが、そんな私が認識していない事実は認めぬ、認めぬぞ! 夏凜による私の攻略チャートが始まっていたみたいな仮説を提唱するんじゃない! 堕ちてェないから!?(戦々恐々)

 

 内心で色々わめきながらも、九郎丸の剣閃に向けて剣先から「血風」を盾のように展開―――と同時に移動。背後に回って「置き血風」に合わせるように、もう一つ「血風」を放つ。

 

「はい? ――――きゃっ!」

 

 これは流石に意外だったのか、前方はともかく背後の方の一撃を受けて空中から地面に叩きつけられ、砂浜に膝をつく九郎丸。……色々見た結果、どうも近衛刀太(原作主人公)がやらないタイプの戦い方に関してなら勝機があると見える。つまりは少年漫画的な戦い方を逸脱する――――斬月(ホワイトな兄ちゃん)が教えてくれる戦い方ということだ。

 このあたり私の頭の中のBLEA〇H(オサレ)を総動員して戦い方を検討する。回れ、我が思考回路――――。

 

「…………こんなのじゃダメだ、もっと、もっと頑張らないと。もっと使いこなさないと。刀太君の胸の……だって治せないし、全然、力不足だ!

 刀太君が誰よりも頼ってくれるような僕にならないと!

 刀太君が誰よりも見てくれるような僕にならないと!」

 

 えぇ……(困惑)、お前さん一体何があってそこまで病んだんですかね? というよりも心なしかさっきから髪が全体的に淡く山吹色に光り出してるし、ひょっとしなくても原作における『姫名杜』から人型に戻ったときの、お兄様曰くの「反抗期」か何かで? それまで抑圧されていた感情が全部暴力を伴って放出されてる的な……。

 その感情ベクトルが全部私に向けられているのにはひたすらに納得がいかないのだが。私別にお前落としちゃいないだろォ! 病む理由に他人を使うな!(無茶)

 

「ままならぬ…………、はっ!?」

 

 当惑している私なんて放っておいて、九郎丸の背後に剣やらハンマーやらと完全装備な夏凜が現れる(多分瞬動で)。そしてそのモーションは明らかに九郎丸の首を狙ったもので。

 

 思わず間に入り、黒棒でその一撃を受ける――――重いな!? いくら荷重3倍程度状態とはいえ、後ろを向いていた九郎丸ともども巻き込まれて跳ね飛ばされた。

 少しだけびっくりしたような顔をした夏凜は、目を閉じてから例の無表情に戻る。

 

「と、刀太君……?」

「あー、一体何があっていきなり乱入した感じッスかね? 夏凜ちゃん先輩」

「ちゃん先輩は『まだ』止めなさいと言っています。……いえ、むしろ刀太。あなたが九郎丸を庇ったことの方が疑問なのですが」

 

 それはまたどうしてかと尋ねると、右手のハンマーで九郎丸の方を指し。

 

「今の九郎丸は明らかに普段の九郎丸ではありません。そんな暴走状態で戦っていたら、今はまだ理性が利いていますがいずれもっと酷いことになるかもしれません。それこそ今、雪姫様のところに置いてある神刀本体を手に取ったりして」

「いや、流石にそこまでは行かないんじゃ…………。だよな? 九郎丸」

「へ? う、うん……、刀太君がそれを嫌がるなら」

「ってうォいッ!?」

 

 そこの判断基準すら私に依存するか、そうか……。見た感じ「あっちの」九郎丸と記憶までは共有していないにしても、原作後半並みかそれ以上の重さを感じるコイツ、何なんだろうね。(目そらし)

 ほら見なさいと、促す夏凜に否定する要素のない私であった。というか否定できない私であった。

 

「とりあえず九郎丸は、早い所解除しなさい。能力の使い方については、後で雪姫様も交えて――――」

「――――いや、です」

 

 つぅ、と。夏凜の目が細められた。ほうとか言っちゃって、ハンマーと剣を独特な形で構える夏凜。対する背後の九郎丸は、普段の刀を腰に据えて抜刀術のような構えを……。いや、あの、これ私もう帰っていいかな?(現実逃避)

 

「これは、刀太君と一緒に得た力だから……、刀太君が『くれた』力ですから。夏凜先輩に言われて止めたくないです! っていうか先輩はずるいです! 刀太君と二人っきりで一週間も旅行なんてして!」

「ほぅ…………、仕方ありませんね。思えば貴女とはまだゆっくり話す時間を持ったことはありませんでした。それがそのような齟齬を引き起こすというのなら、先輩としてしっかり『教育』する必要があることは、認識しています」

 

 なんか段々と変な空気が漂い始めているんですが、これって一体どうしたら良いのか誰か最適解持っていないですかね……。発言も何か色々うかつというか危険域かなっていう。ここまで割とガバガバチャート人生だった気もするが、そんな私の本能が全力で「ヤベェ」とアラートをかけているわけで……。

 

 

 

 結局この後、アーマーカードの効果時間が切れるまで。夏凜と九郎丸はそれはそれは凄惨な斬り合いをしていた。…………その場に居合わせた私を巻き込みながら。お互いがお互いに私を奪ったり奪われたりを繰り返していやキツイっす。

 

 

 

 お手玉とかバスケットのボールって、こんな気持ちなんだね?(直喩)

 

 

 

 

 

 



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ST24.胸の傷の真の意味と理由

今日も深夜更新は・・・ナシ!(健全?)


ST24.Secret of the Heart

 

 

 

 

 

「あの、えっと……、ごめんなさい」『(僕ってあんなのだったっけ……。あ! じゃあまたね、刀太君♪)』

 

 謝罪早々の九郎丸と夏凜、あとついでに私を待っていたのは、雪姫からのペナルティ宣言であった。考えてみれば当然で、既にビーチは元の綺麗なレジャー施設らしい風情が見る影もなく穴ボコボコである。必然として、後片付けと相成った。

 

「やれやれ、何ともひでえ有様じゃねえか。まったく呆れたもんだ」

「――――何か?」

「い、いや、何でもねぇよ。ほらっ」

 

 私、九郎丸、夏凜全員が「反省」というゼッケンのついた体操着姿で、ビーチの整備をしている姿を、甚兵衛がからかいにやってきた。…………いまだに歩行補助用に杖をついて。まだ治ってなかったのギックリ腰!? いや流石にこれがまた特大のガバに繋がったりはしないはず……、しないだろ?(疑心暗鬼)

 夕方のビーチ、三人で砂均ししてる様を笑いに来たらしい甚兵衛だったが、ブルマ姿で「何か文句でも?」と威圧する夏凜にひいたのか「差し入れだ」とペットボトルを投げてよこした。……紅茶だった。しかもリンゴ味の凄まじく甘いもの。個人的にはスポーツドリンクとかの方が嬉しかったりするのだが、気遣ってもらったのには素直に頭を下げた。

 

「と、刀太君……? さっきのアレは、あの、ちょっと僕も変だっただけだからね? 大丈夫?」

「いや何に対するフォローだっての……」

「フォローすればするほど墓穴を掘ることもありますが」

「夏凜先輩!?」

「いえまさか私ごときに嫉妬などしてあそこまで暴走するとは思っていなかったというばかりですが……。乙女と言うのは大変ですものね」

「だから僕は男ですってば! ……何なのさ二人そろってそのしらじらしい目は!?」

 

 涙目で絶叫する九郎丸に、何とも言えない生温かい視線を送る私と夏凜。とはいえいよいよ揶揄われすぎて精神的に限界になったのか「ネオパクティオー」を取り出しかけた時点で二人がかりでストップをかけたのだが。

 後ろから私に羽交い絞めされて、顔を真っ赤にし、夏凜にカードをとられては「可愛いわね」なんて感想を言われたりして傷口に塩塗ってる我々はともかく。

 

「……まあ確かにまたヘンなことになると、僕も色々持たないので今はまだいいですけど。

 でも僕はともかく、夏凜先輩はその、しないんですか?」

「? パクティオーと言う意味でしたら、必要ありませんが。

 暴走した際に頭から抜け落ちてしまったかもしれませんが、あくまで貴女のパワーアップ……みたいな意味合いが強いものですから」

「いや、それはそうなんだけど……」

 

 ちらちらと九郎丸の視線が私と夏凜の間を行ったり来たりするのは何なのか。原作レベルで考えるなら後半雑に全員パワーアップさせるためにパクティオーを連発したりはしていたが、それだって必要に迫られてだ。いたずらにガバをガバガバにするフラグを立てるの止めろ九郎丸。

 ……もっとも原作だと、パクティオー結果の潜在能力解放やらアーティファクトやらよりそのまま戦った方が強いとかいうトンデモ理屈で生存確認くらいにしか使われなかったオチもあったのだが。あくまでパクティオーは魔法使いの従者(ミニステル・マギ)を十分戦闘に耐えられるよう調整する役割が大きく、レベル1をレベル30には出来てもレベル70をレベル100に出来るアイテムではなかったということか。

 そういう意味では九郎丸のネオパクティオーも、将来的に神刀の力を使いこなした際の上限から比べればまだまだ低いということだろう。実際刀太くん大好き(ヤンデレ)と言わんばかりの先読みさえなければ、速度では私の方が上回っているのだ。

 できればもっと健全に強くなって欲しいのだ。いや本気で。

 

 そんな私の考えを知ってか知らずか、夏凜は一人「なるほど」と納得した。

 

「別に今すぐ必要という訳でもありませんし、雪姫様と刀太と両方持つのは浮気者のようで」

「へ!? 夏凜先輩、雪姫様と仮契約してるんですか!?」

「いえ全くありませんが、畏れ多い」

 

 ずっこける九郎丸と半ば予想通りなので苦笑いの私である。

 

「それは同様に刀太の方も言えることでしょう。九郎丸と『そういう』つもりはないにしろ、あまり(いたずら)に増やすのも節操がないのでは?」

 

 そして続く夏凜の発言、雪姫の耳に入ってたら絶対変な顔してたことだろう。私も苦笑いが引きつってしまったが、そのあたりはジッサイ仕方ない。せっちゃんとかネギせんせーとか色々問題がありと言えばありなのだろうが、魔法世界の制度とかカモくんのノリなど他にも悪いところもあるし……、結局本命以外はきっぱり切ってるので、原作世界線ではちゃんとしてるはずである。

 

 とはいえ「ネギま!」本編最後の仮契約、大河内アキラ、照れ顔プライスレス……!

 

「まあその辺りはツッコミ入れると色々問題が出て来る相手もいそーだし。でも必要になったら、その時はお願いしまっす」

「ええ、問題はありませんし――――楽しみにしてますから」

「あ、はは……」

「ふふふ……」

 

 間髪を容れずの即答は流石に私も笑ってしまうのだがそのえっちな感じの流し目止めろ!

 そしてそんな我々を見やる九郎丸の視線も何か怪しいというか、内に秘められてる感情が暴露された結果ちょっと私もどう対処して良いかわからないのだが。そんなに女慣れしていないわけでもないし、二年間は雪姫というかエヴァンジェリンの色々とダメな姿も見て来ていたし、そういう苦労と縁が遠いかというのとは別にして。何か一歩取り扱いを間違えると、九郎丸ルートのバッドエンドでもありそうな気配がしてきて、ちょっとその前に師匠の所で相談させてもらえませんかねェ……? 「あっちの」九郎丸とか他にも色々聞きたいことはあるし。(嘆願)

 

 一通り片づけ終わった時点で既に夜。食事はもう何度も続けてになるがコンビニ「Famous store」(通称フェイマ)で夕食を買って食べ、その後は九郎丸に案内されながら自室へ。位置的にはさきほど私たちが均していた近くらしく……、そしてどうやら彼(彼女)とは別の部屋、というか隣部屋らしい。原作と違うだと……?

 

「意外とここ余裕あるんだな、下っ端相手に個室用意するとか」

「へ? あ、う、うん! そうだね! ははは……」

 

 今の九郎丸のリアクションで察した、おそらく夏凜が手を回したのだろう。原作よりも最初の段階から九郎丸と接触してる期間が長かったこともあり、彼女の中では「男装の少女」認定になっているらしい。

 性別について詳細バレたら一体どういう話になってしまうのか……。諸々の懸念点を一度頭から追い出し、自室で私は黒棒を膝にのせて座禅を組み、腕を添えた。

 

 言うまでもなく刃禅(オサレ)である。わざわざこれをしたところで内面世界というか精神世界というかにダイブ出来る訳でもないのだが、こういうのは気分である。実際黒棒と対話するときにずっとこの姿勢を貫いてきたせいか、黒棒側からも特に何かツッコミらしいツッコミは入らなくなっていた。もはや一種の様式美と言うか、儀式のようなものである。

 

『…………怖いな、女子』

「いやいきなりどうしたって……」

『今日のアレを見てそう余裕な態度を崩さない君の方が私からするともっと恐ろしいかもしれないが……、きっと鈍感か現実感がないのだろう』

「いやだから何の話!?」

『決まっている。綺麗な女子を二人も侍らせてお互いに引っ張られ続けてる間に、君自身何度死んだと思ってる』

「いや死んではいないはずだけど……」

『ショック死だからすぐ生き返ってるだけだろう。脈が消えたり戻ったりを繰り返していたから外見からは判らないだろうが、君自身、肝を鍛えた方が良いかもしれない。耐性がないと大きな隙になるかもしれない』

 

 黒棒からもたらされた衝撃事実に、思わず私は姿勢を解いてひざをついてしまった。

 何だと? そんなにあのキャッチ&リリースというには暴力的だったアレは危険行為だったのか? というかそれに気づかなかったのか私、一体全体どうした!? 痛いのは嫌だろうに私! 受け止め方とか感触がソフトだったからって騙されていたのか?

 それを実行してくるあたり、二人もなんだかんだで常人の感性を超えているのだろうが。危険だったという事実に気づけなかった私自身も、ひょっとしたらその感性を逸脱しつつある……?

 

『どうした、顔色が青いぞ』

「いやお前、目とか全然付いてないだろって。よくわかるな……」

『まあ本体は刀じゃなく精霊だからな。ある意味、今日呼び出された神刀「姫名杜」に通じるところがあるかもしれない』

「そんなものかねぇ。……っというか、お前もアレ気づいたのか?」

『君が背負っていた以上は会話は丸聞こえなのだが。ま、同じ刀のよしみだ。何か事情があるのは、あの号泣っぷりから察する物もあった。特に言いふらしはしないさ』

「そりゃ助かるわな。下手すると、もう呼び出せなくなる可能性もあるレベルだし」

 

 にしてもどうして九郎丸はあんなに病んだものか……。普段から接している九郎丸はそこまで思いつめていないと思うのだが、夏凜とはまた別ベクトルで恐ろしいものを感じる。

 その話を黒棒にふと聞いてみる。私とは違う個人であり、私とは違う感性であり、そして九郎丸とか他の面々とかは別にして一番信頼を「置くべき」我が刃に。

 

 もっとも、回答は酷くシンプルなものだった。

 

『今までの発言を省みるに、おそらく君を傷つけたことだろう』

「傷つけたって? いやメンタル的な話とかはねーだろうし……、ひょっとしてこれか?」

 

 すっとマフラーを外して胸元を開き、九郎丸に付けられた刃の刺し傷を露出する。見た目だけで言えば既に単なる浅黒い傷痕にしか見えないのだが、内側ではいまだに「自動回天」が発動しており、金星の黒の魔力をいつでも引っ張り出せる状態にあった。

 

『君も気づいていないのか? 今の九郎丸といったか、彼女の能力でその傷を残し続けることは出来ないだろう。現に君の右手に、貫通した刀傷は残っていないし』

「あー、そういう話か…………。刃自体に不死殺しみたいな特性はないってことか? 胸のこれは便利すぎるもんで今まで全然気にもしてなかったんだが、何かまずいか?」

『再生を止められたらずっと死んだままになるだろう。心臓が破壊された状態で固定されるのだから、万一の事態でどうしようもなくなる』

「……………………その発想はなかった」

 

 あまりにもトントン拍子でうまく進んでいたこともあってか、気にも留めていなかったが、なるほど確かにその事情があるなら九郎丸もああなって不思議ではないか…………、そしてそれ以上に、何故パクティオーなんて話になったか察しがついてしまった。つまりこの傷痕の状態をどうにかしたいと九郎丸が願った、イコール自らがうちの神刀の力を使いこなさなければいけなかった、という流れになったか。

 しかしどうしたものか。このあたりは原作を鑑みると師匠に相談案件になるのか……? 私としては代用が欲しい所ではあるが、実際血と魔力を発動するためにはこれくらいには準備が必要だったわけで。割と師匠は修行関係は王道させてくる印象があるので、こういった回り道は許してくれない疑惑がある。

 

「困ったな、いずれ治す治さないって話にしても……、そうなったときの戦い方考えないと」

『私としては錆びるので止めてもらいたいのだが』

「いやそれは悪かったって。あの後、色々聞いてたろお前も。そのうちメンテしてやっから」

 

 言いながらふと、私は胸元に手を当ててみる。そういえばまるで気にしていなかったのだが、一つ疑問符が浮かんだ。

 

「…………俺の中ってさ。二つ、なにか力みたいなのがある気がするんだよ。でも今の所引き出せるのって、黒い側の方だけでさ」

『ふむ……?』

「理屈から言ったら両方使えてもおかしくない気がするんだが、何か理由があるんだろうか……」

 

 そう深い考えがあった疑問ではなかったのだが。私の疑問に、黒棒はまたしても相当クリティカルな言葉を返した。

 

『むしろ私としては、魔力と血だけでいきなり血装術を使えてしまう君の方が色々と謎なのだがな。そもそもあれは半分『闇の魔法(マギア・エレベア)』を「支配している」し』

 

 それは……、一体どういう意味だ?

 

『傷が治らないというのも、本来の理屈で言えば「死に続けている」から、普通は死んでいるだろう。私は奇跡などそうそう信じる性質ではないからこそ、君自身にも他の要因があるのではと指摘させてもらう。

 おそらく、君が君自身として一人で立つためには、まだいくつも知らない真実があるのだろう。君が前へ進むためには、まず己自身が何であるかを知る必要があるだろう』

 

 ちょっと待てその感じのやりとりは原作7巻であったから、早い早い早い! お前もか、お前も私渾身の安全チャート破壊者かッ! 一体全体何のために血風の使い方を一月近く鍛えたと思っているんだおい止めろ!?

 

『とはいえ今の君の疑問に対して、私は回答を持ち得ていないのだが』

 

 本能でどうこうできる技術の範疇を超えている、と。黒棒はそんなことを私に言う。

 

 言われても困るというか……、しかしそこに疑問を抱こうと思えば、確かに疑問は抱ける。私自身はマギアエレベア派生の能力か何かだと認識していたのだが、黒棒の言が正しければそれを「上位から操る」類の域に達しているとか。状況的に原作後半の主人公はそれに該当する域に達していたかもしれないが、それだってそこまでの研鑽やら何やらが大前提にあった上でとなる。

 つまり、この時点の私がさも当然のように、しかも心得の全くない「私」が使えるのは、おかしいのだ。

 

「人生怖いなぁ……、出来れば痛かったり、苦しかったりするのは嫌なのだが」

『せいぜい背中を刺されないよう気を付けるんだな、女子に』

 

 そう変なフラグを立てるのは止めてくれと言ってやりたいところではあったが。何故かその嫌な予感自体はずっと消えずに、その日眠るまで続いた。

 …………そもそもキリヱ関係で下手を打てば蹴り飛ばし必須なのもある、そういう意味でも注意していかねば(戒め)。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

『――――いやぁ、やはり黒棒は別格だ。あの夏凜ちゃんですら気遣って言及を避けかねない話題に、普通に迫ってくるんだものなー。その辺り人の心がねーっていうか。まぁ刀だしなー』

 

 どことも知れぬ場所、あるいは未だ「形の定まっていない場所」で。

 黒と白のローブを身に着けた、背の小さい「何者か」は、苦笑いを浮かべていた。

 甲高い声のまま、何者かは空を見上げ――――そこに映る「近衛刀太」を見続ける。

 

『でも血装術からか。そこからルーツについて辿る思考になられてもなー。今更使えていたものを使えなくするわけにも行かねーし……。というか本人もやり方覚えちまったろうし。どうしたもんか……』

 

 自分の胸に手を当てて、いぶかしげな顔をする刀太。そんな彼に「不敵な」笑みを浮かべ、その誰かはサムズアップを向ける。

 

 

 

『――――早い所「こっち」に気づいてくれよ? 気付いてくれたら、もっとスゲーこと一緒に考えようぜ!』

 

 

 

 その声は当の相手に届いているのか、いないのか。

 ただ目をつむった顔が、一瞬渋面になったことに違いはなかった。

 

 

 

 

 



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ST25.ようやくの貧民街守護

今回ちょっと短め・・・というか夏凜の暴走抑制汗

####################

岐路に立つ言葉
帰路を見ぬ言葉


ST25.Go To Protect The Slums ASAP!

 

 

 

 

 

 

 朝方早々、夏凜先輩が勢いよく僕の部屋の扉を開けた。思わず「ひゃい!?」みたいな変な声を上げてしまった。だってこっちはシャワーから上がった直後、全裸にタオルしか身に付けていない状態だ。

 先輩の表情は変わらず冷たいまま。思わず身体を庇ってしまい、夏凜先輩は「なるほど」と一言。

 

「やはり女の子でしたか」

「いや! だから違……っ! 違うんです、これには事情が――――」

「つまり心は男と……言うには無理がありますね」

「はい!?」

 

 言いながら夏凜先輩はじろじろと僕の身体を見て……、って、な、何してるんですかセクハラじゃないですか!? 思わず反抗の意を示してネオパクティオーカードを手に取ろうとすると、流石にため息をついて一歩引いた。

 

「まぁその話は今更の確認なのでどうでも良いのです。早い所服を着てください、仕事に向かいますよ」

 

 仕事? と聞くと彼女はA4用紙の紙を僕に手渡した。

 

 

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 下っ端生活についてだが、テキトーに過ごす分には意外と慣れた。もともとギャンブルなどすることもないし、亜人の構成員な方々とはパシられない程度に軽くやり取りしつつ過ごしている。…………もっともそれがバサゴの癪に障るのか、微妙に恨みがましい目で見られたりもするのだが。いやそんな目で見られずとも十分酷い目には遭ってる自覚あるので、容赦してください。(懇願) まぁ源五郎パイセンとインド人を右に曲げたりして遊んだりはしていたが。(意味不明)

 もっとも個人的に一番困るのは、孤児だったり引き取ってる寺子屋の子供たちともそれなりに仲良くやっているのだが、そのうちの女子数人から「誰が本命なの?」とか聞かれることだ。夏凜、九郎丸、雪姫と比較に出す相手が相手であり、私個人としてどうこう下手に言うことが出来ないでいる。反応に困ってる私を見て、それをネタにまたあの時九郎丸がどうこうとか夏凜が私の方を見て微笑んでいるとか、色々私の知らない情報がポンポン飛んできて正直どうしようもないのだった。女の子はこう、いつになってもそういう話好きネ。(達観)

 

 原作だとそろそろエヴァンジェリンにかつて助けられた時の夢でも見そうな頃だと思うのだが、生憎とこの「私」の記憶には引っ掛からないのかそう言った類の事を思い出すことはない。その代わり見た夢としては〇護(チャン一)精神世界で斬〇(初手YH〇H名乗ってた疑惑あるオッサン)と初めて対面していた時のやりとりの夢だ。別に何かそういう示唆的な能力を持っているわけでもないので、純粋にB〇EACH(オサレ)を楽しめたという意味で楽しくて仕方なかった訳だ。……もっともその寝起きのテンションを九郎丸に見られて、不思議がられたりもしたのだが。

 しかしこれはこれで困ってしまう。なにせあの夢見というのは一種の目安と言うか、これから次のイベントに進行するのがわかる指標に近い。それがいつまで経っても来ないというのは、下手をしなくても私のガバの影響で話が前に進んでいない説とかも検討する必要があるだろう。とはいっても、自分から「(スラム警護の依頼)まだ時間かかりますかね?」とか言ったらまず間違いなくガバそのものである。

 

 何とかならないものかと考えながら、雑巾がけの代わりに床拭きワイパーで適当に廊下をふいていると。どたどたと何処からか駆けてくる音が聞こえる。音の感覚からして歩幅が短い、つまり身長はあまりない相手だろう予想は立つのだが、はて……?

 

「――――っと、居た居た! って、きゃっ」

「おっと」

 

 私よりも背の小さい女の子が、走りながら私に指を突き付け――――たと同時にバランスを崩して転びかける。流石に相手が相手だったのでこちらも気を遣い、指していた手をこちらに引き、体幹が寄ったのを確認してからバランスをとるためその場で一度回転させて、最後に両肩を押さえて安定させた。流れとしてはちょっとしたフィギュアスケートのペア競技的なノリになったが、このあたりは遊び心(オサレ)もあるので致し方なし。

 というより走っただけでこの有様というのは、いくら何でも体力が無さすぎるんじゃないだろうか……。

 

「よっと。大丈夫か? あんまスリッパで走んなよー。そんなに滑る訳じゃねーけど、運動神経ないと、な?」

「あ、アリガト……って、何ヒトの事運動音痴みたいに言ってるのよ!」

 

 かっ! とやや理不尽な怒りを顔に出した彼女は、自己紹介されるまでもなく私の方で正体を把握していた。ハチミツよりもオレンジがかった髪色に目、ワンピースタイプのブラウスにミニスカートと細い脚。身長は私の胸あたりなので、忍よりも低いくらいだ。

 桜雨キリヱ、UQホルダー不死身衆ナンバー9。とある事情から(源五郎パイセンとはまた別な理屈で)この世界にゲーム的な法則を適用させることが出来る少女だ。原作曰く見た目年齢は13歳らしいのだが、ちょっとサバを読んでいるんじゃないか疑ってしまうくらい小さい印象がある。もっともこのあたりも別な理由があるので、具体的にどうこう掘り下げるのは気が引けるが。

 

 なお彼女の登場に際して私に去来した感想としては「ハイハイまたいつものアレかな」というものでしかないのだが。今回は原作がどういう風に突き飛ばされた結果、変な形でドミノ倒しされたのかという状況把握に努める必要があるわけだが。私がどうこう言う前に、キリヱがびしりと指をさす。

 

「アンタでしょ、この間入ってきた二人のうちの一人って。確かえーっと……」

「人違いッスわ、拙者、神楽坂キクチヨと申すあてのない旅の剣―――」

「いや雪姫から聞いてるし今更変な設定しゃべんな!」

「そういう其方は一体どこの――」

「キャラ設定引きずるな! 別に誰だっていいでしょ誰だって!

 アンタあれ、なんかヘンな和服着て黒い刀背負ってる、いまいちやる気のない感じの方! 近衛とーた!」

「ヘンな和服……、だと……?」

 

 キリヱの言葉の中で、何よりも一番傷ついたのはそこだった。だってこれ、アレだぜ? 〇護(チャン一)リスペクト以外の何物でもない服装なんですよほら、黒い和装のここ、袖のところの白抜き星マークとか。黒棒を固定する紐にそれっぽいのを使えなかったから、代用として赤いマフラーをつけて色要素もバッチリだし。頭こそオレンジ色に染める度胸はもうないが(トラウマ)、出来る限り今の自分にできるそれっぽさ(オサレ)全開のつもりだというのに、ヘンな和服、だと……? しかもコイツら夏凜に買ってもらった都合上、結構なお値段が張っており、早々お金を返すことも出来ず未だに頭が上がらない立場だというのに、それを……?

 

 膝をつく私に、キリヱは「あれ?」と何か拙いことでも言ったかしらと言わんばかりに取り乱し始めた。

 

「ちょ、ちょっと大丈夫? アンタいきなり落ち込み始めたけど」

「だいじょばない。ていせいしろ」

「な、何をよ?」

「へんなわふく、じゃない」

「そこなの!? 拘るところそこなの!? もっと他に色々怒るところあるでしょーが!」

「いやこれ貰いモンだし、あんまり貶されるのは悲しいっていうか……」

「そ、そーだったんだ……。ま、まぁ、悪くはないんじゃない?」

「うん、それでいいッスわ!」

 

 で何の用だよ、と立ち上がった私に「はいっ」とA4用紙束を差し出すキリヱ。UQホルダーのロゴマークと、何かしらの計画書なのか依頼書なのか色々と記載されており……。

 

「貧民街の警護……?」

「そ! これからもう片方の、えっと、時坂だったっけ? そっちからも言われると思うけど! その後たぶん夏凜ちゃんが何か言ってくると思うから、それでこの依頼を受けるの止めないこと! いい? 絶対、ぜーったい止めたらダメよ!」

「お、おう。まぁ別にいいんだけど……、あー、ありがとう?」

 

 ふん、と鼻を鳴らしながらどこかドヤ顔めいた笑顔を浮かべて、キリヱは悠然と去っていった。

 

 ……今の話と原作2巻のこの時系列辺りで整理して、えーっと、つまり? 夏凜に対する私の好感度が原作と違った形で色々おかしな方向に飛んでいることもあり、おそらく最初の任務としてスラムの警護を任せない方向で雪姫と話を合わせたか何かしたのだろうか。その結果、彼女の「予知」もどきで良くない未来が見えたと。それを修正するために直接その依頼書を私の方にもってきて…………、最後の念押しを考えるに、そこからもまた何回か失敗したのでは?

 ということはつまり……?

 

「リカバリー要因か何かであらせられませう?」

 

 これはつまり、私が起こしたガバを(文字通り)引き受けて、その身に受けたバッドエンドなチャートを覆すため最速で私の所に修正案を届けてくれるという、つまりは女神か何かなのでは?(錯乱) 真面目に私の失敗をリカバリーしてくれるという意味で、この世界にとっても女神以外の何物でもない可能性が微レ存……? 原作でも割とその特異なスキルの影響度が高すぎた部分もあったので、あんまりにもあんまりかなと思い積極的に頼るつもりはなかったのだがこれは……。

 

 ありがたや、ありがたやと。思わず去っていくキリヱの背中に、ご利益を期待して私は両手を合わせた。

 

 彼女さえいれば私のガバチャーによるバッドエンドもなんとか回避できる……、かもしれない。少なくとも保険であることに違いはない訳だ。基本的にガバとリカバリーはセットであるのが理想論であり、失敗したチャートをどこかで補填して意図したとおりの結末に導くのが正しい在り方だろう。

 だからといって意図的に彼女をリセットのために殺したりと言ったことはしない……、人道的に当然ないのと、そもそも利用するという発想がこの主人公にはなかったはずというロールと、外見的に今の私より年下の少女相手にそういうことを試みるのは明らかに外道の所業だろうという考えだ。

 だから今は好感度を上げるターン……、出来ればちょっとでいいのでガバをリカバリーして欲しいかな? くらいの。正しく奉る、キリヱ大明神に対する現時点での私の確定した振る舞いだった。

 

 

 

 なおこの後、キリヱの宣言通りに確かにちょっと面倒なことになった。

 

「今の貴方は行くべきではありません。危険です、刀太」

「そ、そうだよ! 僕だけで充分だから刀太君!」

 

 まさかのダブルパンチによる拒否だった。それも確認したって具体的な理由は言ってくれないと来ている。流石にそれで納得するわけにもいかないと話を続けようとしたら、ならば力づくでという形になりかねない有様。一体どうしたこの現実!? もっとわかりやすいチャート分岐か何かを知らせてくれませんかねぇ……。

 

 と、そんな私に助け舟を出してくれたのが誰かと言えば。

 

「ま! 落ち着きなよ二人とも」

「飴屋一空」「一空先輩……?」

「事情はよく分からないけど、行きたいっていうなら行かせてあげたらいいじゃない。距離としてもここからそんなに遠くは離れて居ないわけだし、何かあっても僕が『見張っておく』から、大丈夫さ」

 

 小型ドローンか何かを飛ばして状況を観察し、何か事態が急変したら助け舟を出すという事らしい。確かに原作での描写を見てもそう違いはないのだろうが、それにしたって出て来るタイミングが良すぎるような気がしないでもない……。感謝の言葉は口にしたものの、視線でちょっとだけ疑うような意思を向ければ、彼は彼で楽し気にウインクするばかり。

 さては確信犯か、状況を見計らって一番効果的なタイミングで出てきたということか。

 

「しかし……、下手をしなくともまた死にますよ? 刀太。それで良いのですか? だって貴方は……」

「いやでもなぁ……。そこら辺はまぁ、向こう行ってからも修行する話しかないかなって。気だってまだ九郎丸に習い続けてますし」

「……では、仕方ありませんか」

 

 ため息をつき、こちらへと私を呼びよせる夏凜。何をするかと思えばそのまま問答無用のハグであり、九郎丸が唖然として一空が「わぉ大胆」などと言っている。一体何をと聞こうとすると、夏凜の手がすっと私の背中に回され、ちょうど傷痕のある個所の当たり、つまりは心臓の鼓動がダイレクトに感じられるだろうところにあてられる。そんなことされても脈拍上がってちょっと出血しちゃうだけなので、正気に戻ってもらいたいのだが…………。

 どくどく、が、ばくばく、に変わるくらいの微妙な時間。夏凜は自分の胸元に私の胸元を押し当て、まるで鼓動を同調でもさせるように聞かせてくる。正直今回はだいぶ余裕があるのでその何とも言い難い柔らかさをしっかり感じ取ることが出来てしまい、私としてはもはや何が何だかという状態なのだが……。アンタこんな公衆の面前じゃないところでやらかしたら襲うぞ! ……襲っても大して態度が変わらないイメージしかわかない現状が恐怖以外の何物でもなかった。

 

「…………これで良いでしょう」

「一体何がしたかったんっスか…………」

「おまじないの様なものだと思ってください。では、行きましょう――――」

 

 かくして、ちらちらと私の方に顔を赤くしながら視線を向けてくる九郎丸を引き連れて、私たちは問題の現場へと向かうことになったのだった。

 

 

 

 

 



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ST26.原作のバギーホイップショット

ちっと余裕が出来たので更新……


ST26.Same Surname

 

 

 

 

 新都・天御柱市の周辺地域には廃墟同然の建物群が並び、そこはさながら貧民街となっている。これは新東京に限らずどこの地域でも、それこそ田舎でもない限りは割合似たような具合である。2050年代の火星混乱期を経た現在は、本来ならば首都圏と言って差し支えの無かったような地域ですらかつての見る影もなくボロボロの有様だ。

 技術発展や魔法自体の公開の横でこういった問題が並行しているのは既に思い返したような覚えもあるが、当然ながら人の欲望は尽きることがない。そういった周辺地域ですら自分たちの思い通りに、新たに再開発しようという欲望が湧くのも必然と言えよう――――そこに今現在住んでいる人間たちを完全に無視した形で。

 

「驚きました……」

「上の方は違うのかしら。今時どこでもそう変わりないもの。かつて豊かさを誇ったこの国だって例外ではない」

「テレビで流されてるの大体、新東京の映像とか多めだったからなぁ。こういうのってあんまり問題にしないように、政府とか裏から手を回してそーな気もするし」

 

 この辺りの社会情勢的な話は、九郎丸の方が驚いていた。原作通りと言えば原作通りだが、そういえば私と一緒にいた一月の期間でもこのあたりの話はあまり話題に出なかったせいもあるだろう。基本的に原作ブレイクなど考えず、ひたすら普通に、否、備えて(オサレに)過ごしていただけだし。

 

 さておき、依頼としては非合法的な手段での地上げ屋に対する、スラム地域の警護である。地上げといっても土地の権利書を持っている訳ではなく、そこを脅しつけて奪い取るところからの、それはそれは「ご丁寧な」地上げだ。今時三下かと言いたくもなるようなレベルのアレな気もするが、実際仕事の内容としてもクズ商売と原作で言われるレベルなので推して知るべしである。

 

「で、それはそうと刀太君、黒棒と一緒に背負ってるそれって……」

「? 見て分からねー? ギターケース」

「それは判るけどどうして持ってきてるのかなーって……」

「いや本当はサックスとかあると良かったんだけど、レンタルさせてもらえなかったし」

「楽器、弾けるのですか? 刀太」

「まー手慰み程度に。熊本時代に仲間内で色々やってみてたッスからなー」

 

 そういうことを聞いてるんじゃ、という顔の九郎丸はともかく。

 ボート移動で岸まで着いた後は、原作通りに6キロのマラソンをすることに……なったのだがいい加減ちょっと面倒くさかったので、夏凜と九郎丸も乗れるよう血蹴板(スレッチ・ブレッシ)を展開した。単体で展開したのはちょっと久々だが、さておき。慣れないバランスで私の左腕につかまる九郎丸と、初見に近いだろうに完全に乗りこなして私の右腕を抱きしめる夏凜という妙な配置となっていた。雪姫でもいれば完全に一月くらい前のボートに揺られていたような状態を思い出すくらいなのだが、思えばあそこから今日までそこそこ遠くまで来たものだ……。少なからず黒棒も手に入ったし、死天化壮(デスクラッド)の開発がデカかったな……。

  

 夏凜の指示に従い崖を降りると、既にUQ ホルダー側から男衆が何人か護衛に入っている……。入っているのだが全員黒スーツ黒ネクタイサングラスと恰好がまぁひどくその筋のソレである。絵面が明らかに悪いことこの上ない。二人を下ろした後(夏凜は何故か抵抗を見せたがさておき)、彼らの輪の中にギター片手に乱入する私であった。

 

「と、刀太君……?」

「…………妙に準備が良いですね」

「ほら、九郎丸も何か歌えって! お前、声いいんだからさ」

「え!? そ、そうかな……」

「マジマジ、そのうちドームでも満員御礼な感じ」

「また妙な喩えを……」

「夏凜ちゃんさんも地声すごい可愛いし、歌おーぜ!」

「可愛……っ、そ、その、そういうのは不意打ちやめてください」

 

 突然顔を押さえた夏凜。照れてるのだろうか、そういうのは割と言われ慣れてそうなのに……、と、ひょっとすると声とか褒められるのは初めてなのかもしれないと直感した。原作が漫画である以上その手のネタは積極的には使わないし。

 さておき、ある程度の情報共有後は夏凜も九郎丸も混じってみんなで歌い始めた。……いや待てお前本当に歌上手いぞ九郎丸。私の声が霞む。これでも筋は良いと仲間内では評判が良かったのだが、こんなことなら熊本時代に九郎丸にも歌わせるべきだったか。絶対凄いことになったはずだ。

 

 ギター準備などこのあたりは合流で待ち合わせをしていたシスターやら子供たちやらの警戒を解くのに何か必要だろうという判断だ。本来なら子供たちに交じって無邪気に男衆たちのパフォーマンスと言うかにテンションを上げるのだが、生憎そういう性質をしていないのでそのリカバリー用ということである。とりあえず教育番組とかで流れてそうなあたりのメロディを弾きながら向かった。意外と好評だったのか子供たちはそれに合わせて歌ったり、男衆の連中も曲芸まがいのことをはじめたりと、おおむね原作通りのノリにはなったはずだ。うん。もっと趣味に合った(オサレ)曲脳内リストから厳選するつもりだったが、全く知らない歌で感動させられるほど私に歌唱スキルはなかった。

 

 少しでもガバを軽減したいそんな私の悪あがきはともかく。しばらくすると依頼主のシスターが状況説明にやってくる。春日美柑。ネギま! に出て来る春日美空の孫と目される彼女である。見た目からして血縁を匂わせるが、頭まですっぽり被っているので髪色などはわからない。

 ……と、なんとなくやりとりを見ていて気付いた。不思議と夏凜とのやりとりに遠慮がみられない。接点と言うか、何か親しい設定でもあったのだろうか。会話の合間、それとなく聞いてみると。

 

「彼女というより、彼女の祖母に少しお世話になったことがあるもので」

「あの時のカリンはん、めっちゃカッコよかったんだよー? シスター・カリン!」

 

 シスター衣装の夏凜……、そういえば原作的な話をすると、ありそうでなかった恰好だったか? もっとも夏凜自体はそれよりもさらに以前に出生があるので、ありそうではあっても主義的にしない恰好なのかもしれないが。それでも雰囲気的には似合いそうな気もする。

 炊き出しを手伝いながら、何となくその辺りの話を細かく聞いてみた。と、夏凜は少し照れたように。

 

「気になります?」

「どっちかと言えば。ホラ、あんまりメンバーの過去話とか聞くようなことでもないかもしれねーけど、なんとなくはさ」

「付き合いで、というのなら普通は拒否したいところですが……、私ばかり貴方のことを知っているのも、少しズルいですものね」

 

 力なく笑みを浮かべ、ウインクしてくる夏凜は一体何のアピールなんスかね。単に私が惚れかねないだけなのだが。(自白)

 命の危険がないとなると、こういう風に頼りになるお姉さん的サムシングは非常に好みこの上ないのである意味危険域である。原作の順繰りを考えるとキリヱ本格参戦前、みぞれに至っては存在感がカケラも見当たらない現段階でこれは中々に酷い。私が夏凜に手を出さないようにという逆チキンレース的な状態になっている。仮に手を出すと後々巨大なガバに繋がるのは目に見えているので、この辺りは自分で自分に言い聞かせる他ないのだった。

 耐えろ、我が肉体……!

 

「と言っても特に深い話があるわけでもないのですが。雪姫様に再会するまでの間、彼女の祖母のもとで働いていたばかりで。場所は違うのですが、数十年前でしょうか。あの子の小さい頃も知っていますから」

「それだけ聞くと随分年寄りくさいんスけど……」

「実際、乙女と言われるような年でもありませんので。前にも言いましたが、そう気を遣わずとも良いんですよ?」

 

 そうはいうが実際周囲から年寄り扱いされればキレるし自称乙女することも多い人である。自分からこう言うのは許容範囲ということか、面倒くさい(語弊) ただ最近慣れてきたのか、命の危険が伴わないせいか、可愛く感じる余裕が出てきている自分がいるのも無視し難い事実だろう。やはり性欲を持て余してるのでは? とはいえ誰に相談できる話でもあるまいし……。

 やはり帰ってからになるが、ここは誰か男性陣の誰かにアドバイスを求めるべきか。……あまり参考にならないような気もするが。

 

 しかし実際、近所の子供たち向けの炊き出しをしているのだが。ほぼその場に流されて手伝っていても、夏凜はどこか楽しそうに見える。九郎丸は「おねーちゃん歌上手!」って褒められていつものように僕は男だ何だとやり取りしてるし、割と馴染むのは難しくなさそうだ。かと言って私はというと、普通に配給はできるのだがいまいち何を話したら良いか分からないところもある。いかんせんそういう(オサレ)話をしても面白がられるかは不明だし、この年代の遊びがどこまで残っているかも定かではない。缶蹴りとかをやっても良いが、建物やら何やら廃墟然としているのであまり動き回る遊びは崩落リスクを伴うし……。 

 

 一通り配り終わった後に私たちも一度散り散りになって食べる。夏凜いわく「場に馴染みなさい」とのことだが、その中でも九郎丸が大人気だった。特に男の子にも女の子にも。やはりイケメンに限るという話なのかこれは。

 と、そんな私の前に鍋を帽子代わりにしてる子供がやってくる。確かルキだったか……。

 

「おう、どした?」

「いや兄ちゃん、さっきのギターすごかったけどこっちの方に来ないからなんでかなーって思ってさ」

「近寄ってねー訳じゃないんだけどな……、なんか俺寄ると、蜘蛛の子散らすように逃げない? 大丈夫?」

「何怖がってんだ兄ちゃん? 皆、兄ちゃんの話聞きたいと思うぜ!

 あとその服めっちゃすげーし!」

 

 ほう、これの良さがわかるか。さてはOSR初心者(オナカマ)だな。お前のマフラーも中々イカしてるとか、そんなふうに話を膨らませていくと。どこかでこう、エンジンが暴走するような、あるいは障害を蹴散らすような音が聞こえた。子供の悲鳴と「誰か受け止めて!」という少女の声。見ればエアバイクに乗った子供を、後ろから乗り込んだ少女が逃すような動き……。何かどこかで見たことのある流れに、私はそれとなく微妙な予感がした。

 

 転がった子供を養護院のシスターたちが受け止めると、暴走するエアバイク自体は男衆が二人、一列に並んで正面から受け止めた。もっとも運転者の少女は勢い余って撥ね飛ばされ…………。

 

 九郎丸、夏凜が動き出す前に死天化壮をまとい、その方向に高速移動。一度抱き留め、横抱きにして、お姫様抱っこに推移する。勢いがある程度死んでから、目を強く瞑っていた彼女に声をかけた。

 

 

 

「おぅ、災難だったなぁ忍」

「……? へ? と、刀太先輩!」

 

 

 

 ボロボロっぽいマントをまとった忍である……、いやまぁ、こっちに来るのが早すぎると言えば早すぎるし、そもそも原作だと電車使ってこっちにきてたろとか色々思うところはあるのだが。内心で罵倒するよりも、私の顔を見て思わず安心からか、泣いて縋りついてきたこの子を落ち着かせる方が先だった。

 

 ……と同時に、この時点で忍を死なないように色々手を回さないといけないという別な作業が発生したのだが。というかキリヱが私をここに派遣したのはおそらく何かしらのバッドエンド的な展開が原因だと思うのだが、こうして忍早々な襲来イベントなどを踏まえて見てしまうと、まるで「お前の始めたガバなのだから、お前が尻を拭いてリカバリーするんだ」とでも言われてるような錯覚が……、錯覚だよね?(ガバからのメッセージ)

 

 地面に下ろしても未だに私に抱きついて泣いてる忍。困っていると子供たちが「兄ちゃんすげー!」「っていうかコートかっこいい!」「えーダサいって」など色々感想を好き勝手に言ってくる。最後のやつ後でちょっと覚えておけよ?(面従腹背)

 とそんな内心はともかく、慌ててやってくる九郎丸と「おや?」とやはり見覚えのありそうな夏凜である。多少抱きしめ返して背中をポンポンしてやると、落ち着いたのか忍は私から離れた。

 

「その、ありがとうございました先輩……。修理してたら、あの子たちが遊び始めちゃって、間違ってエンジンがかかっちゃったみたいで……」

 

 シスターたちに怒られてる、先程忍が投げ出した子らはともかく。ちょっと照れたような忍を見て「誰? っというより可愛い…!?」と謎の戦慄を見せる九郎丸。夏凜と一緒に紹介すると、名乗りながら九郎丸に頭を下げた。九郎丸も何故か動揺しながら頭を下げ返していたが、いやお前原作でそんなリアクション全然とってなかったろ、どうした? また私のガバか?(投げやり)

 

「で、どうしてお前こんな所居るんだ? 忍。上京にはまだちっと早いんじゃね?」

「そうですね、気になります」

「えっと……」

 

 どうやらあの後、我慢出来なくなって一度都がどんなものか見てみたい好奇心に駆られたらしく、貯金を使って一週間程度前に遊びに来てみたらしいのだが。

 

「物価が信じられないくらい高くって、気づいたらお財布の中身が……。住むところに困っていたら、こっちでしばらく過ごさないかって言ってもらって。修理してお金を稼いだりして過ごしてました」

 

 どうにも一昔前の、貨幣価値に差がありすぎるところからきた外国人が、東京で困窮するような事態に遭遇していたらしい……。これやっぱり私のガバかな? 原作と行動具合が違うのはたぶん私とのやりとりが原因だよね(涙)

 

 

 

 

 



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ST27.揺さぶる

毎度ご好評ありがとうございますナ!
余裕が一応日に日に戻ってきてはいるので、更新と相成ります・・・。


ST27.ROCKIN' ON HEARTS

 

 

 

 

 

 今更ながらだが正直な話、このスラム関係の話はスキップされるものだと思っていた。というのも本編の筋的にもここは夏凜の紹介編としての意味合いも大きく、これ相当の話をやるにしても一日二日程度で終了する形になるのではと思っていたのだった。ところが蓋を開けてみるとこの現状であり、ガバがそんなに発生しないよう出来る限り気は遣っているが、既に発生しつくしているガバについては対処の仕様がない。このあたりは流石に諦める他ないだろうと思うのだが、しかしそれによる影響度については、意外と低いのではと考えなおした。

 夏凜や九郎丸の好感度が多少違っていても、エピソード的に経過するポイント自体にそう大きな変化はあるまい。ならば意外とその場に流される形でもどうにかなるのでは? という希望的な観測だ。

 

 …………思っていて早々に忍襲来とかいう特大イベントのずれが発生していた訳だが。流石にこれを予測しろと言うのはいくら何でも厳しい物が有ると自己弁護したい。

 

「ままならぬ……」

「どうしました? 先輩」

「いや何でも。…………ていうか、お前料理上手いな。味付けも美味い」

「えへへ……、がんばりました!」

 

 スラムの養護院。夕食当番について原作通りというべきか腕相撲勝負となって、これまた原作通り負け続けた私である。何かしら罰ゲームがあった方が張り合いがあるだろうという論調ではあったが、夏凜はこういう場合は妙に手を抜かないし、九郎丸も九郎丸でほぼほぼ条件反射で「瞬動術」を併用し、楽々と私を負かしていた。

 素の腕力についてはともかく、やはり原作よりも「気」の習得が遅れている自覚があるが。このあたりをどうしようか思案している最中で、忍が私の手伝いを買って出た。もともとこのスラムでの仕事が終わったら、一度「UQホルダー」の方で出稼ぎ扱いにするかという話し合いが夏凜ともたれ、雪姫にも携帯端末で顔通ししていたりもする。そんな当の本人は、いまのところ役立てるところが何もないので……という理由から、私たちのサポートに徹しようとしているらしい。

 

 それでもって、伊達に原作で「普通の」カワイイ女の子とか言われていないスペックを発揮する忍であった。洗濯も料理も掃除も普通に出来るし、家事の類で特に不自由はしていないらしいスペックである。私がやると料理以外は割と雑なので「先輩、一緒にやりましょう!」とどこか楽し気にガッツポーズしてくれる。こういう仕草をされると大変に可愛らしいのだが、視界の端で九郎丸が衝撃を受けたような顔をしているのがどうにも頭の片隅に引っ掛かっていた。

 

「どうしたんですか?」

「いや何でもないって。まー考えることが色々多いオトシゴロなんだ」

「お、オトナですね……!」

「お前の中の大人のイメージどういうのだかちょっと気になんな……。っていうか、いや普通に美味いわ、忍の料理。これ卵焼きとか」

「そういう先輩だって、平然とケーキ焼いちゃったりするの、自信無くなっちゃいます……」

「って言ってもなー。これって店で出す用の料理というかが前提だから、全体的に味付けキツいし。毎日食べる料理とかじゃねーんだよなー」

 

 困ったときの必殺・焼きスパゲッティとか、雑に中華っぽい感じで鍋をふったりもするが。あくまでこういう技能は、将来の希望を見越して熊本時代に肉丸から教わったものが大半だ。ある程度は見よう見まねで出来てしまうのは原作主人公の基礎スペック頼りであり、所詮は付け焼刃と言う印象が抜けない。

 

「そ、そんなことないよ刀太君! だってちゃんと、調整はしてるよね!」

「きゃ!」「わー! お前食い気味だな九郎丸」

 

 と、そんな私の忍の間に後ろからぬっと九郎丸が現れた。……その手に持ってるのは一体何なんスかね、エプロン? フリフリなのは夏凜にでも借りたのだろうか。

 

「いやまぁ、多少は塩気とか風味とか調整できるけど、これが一番良いものかと言うと微妙なところはあるからなぁ……」

「でも、やっぱりこうスッと美味しそうに盛り付けて出すのとか。手馴れてると思うよ」

「く、九郎丸さんに同意です」

「忍ちゃんわかってる!」

「は、はい!」

 

 いえい、と何故かハイタッチする二人はおいておいて。時機を見て大体、原作とどれくらい周期がずれて居るのかに思いをはせるのだが。…………忍の襲来タイミングを原作でのタイミングと同一とは断定出来ないが、時期として原作より2か月前後は遅れている状態だろうか。よくその間このスラム持ったな、結構本腰入れて殲滅に来ていた印象があるのだが…………。いや、ひょっとしたらこのあたりはキリヱが頑張ってくれた範疇かもしれない。こういったガバのフォローが出来そうなのが彼女くらいしかいないので、私は内心で彼女のいる方角へ向けて拝み倒した。キリヱ大明神、キリヱ大明神……! 

 だがしかし。

 

「そうすると、ここを襲うメンツにも変更があったりするのか……?」

 

 横で九郎丸が「僕も明日から参戦するよ!」などと言っているのに適当に応じながら、ふと浮かんだ嫌な予感を詰めるのに、私は必死だった。原作で影も形もない連中が襲撃でもしてきたら、たまったものではないのだ。対策は練らねば。

 ……流石にいきなりフェイトはん来るとかありまへんよな?(震え声)

 

 

 

 とか何とか思っていたのが悪かったのかもしれない。

 前触れとかはなく、それは唐突に起こった。

 

 私たちが入っていた教会の屋内に、砲弾一発――――瞬間的に私と九郎丸は避難を優先させる。夏凜は丁度外に出ていたタイミングだったので、忍は私が例によって肩抱き(お米様抱っこ)運搬しながら、他の子供たちやらシスターやらを外部に逃がす。

 

「せ、先輩それこの間の……?」

「すげー! 兄ちゃんやっぱそれめっちゃカッケーって! 後でやり方教えてくれよな!」

「無理!」

「ケチ!」

 

 そんなことをルキやら他の子供たちとやりとりしながら、背中にかばう。九郎丸がシスターたちに声をかけて、他の逃げ遅れた人たちの避難に集中しているが……。どうにも私は、外に出てすぐ発見した夏凜、および彼女が今戦っている相手に注意が行ってしまっていた。

 

「……解せませんね、これほど強くあるのになぜ、貴女はそちら側にいるのです? 貴女だってまだ子供ではないですか!」

「煩せぇんだよ! 大体俺だって、今日こんな場所に来てこんな小さな仕事するつもりだってなかったってのによォ!」

 

 乱暴な口調で巨大な黒い刀を振り回す、頭まですっぽりローブだかで覆った少女。肌はわずかに見える感じで浅黒く、そして時々、背後から魔法陣を展開して黒い槍のようなものを射出していた。

 

「…………テナ・ヴィタだったっけ。本名」

 

 カトラスじゃねーか!? だからお前ら来るの全員早すぎるんだよ! いやどう考えたってお前ここに居るのオカシーとかそんな次元じゃねーだろ、ちょっとは考えろ原作進行具合!

 カトラスことテナ・ヴィタは、早々にネタバレしてしまうのなら私の妹にあたる。私の、というよりは「近衛刀太」の、という意味だが。つまりは私同様にネギ・スプリングフィールドおよび神楽坂明日菜の遺伝子情報をベースに、様々な人物の遺伝子を織り交ぜて作られたクローン体ということになる。容姿の雰囲気からして 桜咲刹那とかザジあたりの素養が強いのではと勝手ににらんでいるが、真相は闇の中だ。

 そんな彼女は、本来なら生みの親たるフェイトどころではなく、いわばラスボスの先兵的な立ち位置にある存在なのだが……。まあ元々フリーの傭兵まがいの仕事もこなしていたはずだし、巡り合わせ次第ではこういう形での遭遇もあり得るという事なのか? ラスボスというかあの人って、絶対まともな稼ぎもっていないし。無給では生きていけない的な事情もあるのだと勝手に同情しておこう、うん。完璧な不死身じゃないし、飲まず食わずって訳にもいかないからな……。

 

 幸いあちらはまだこっちに気づいていない。これは早々に避難誘導に専念して、早期遭遇という特大ガバの回避を――――。

 

「って、おっと! 『血風』!」

 

 こちらに砲弾、否、空気の砲弾が投げ込まれてくるのを、黒棒の先端で描いた血風を投げてぶつけ相殺する。どうやらすぐさま死天化壮(デスクラッド)を解除するわけにもいかないらしい。視線を前方に向ければ、全身にサイボーグ施術を施された長身ムキムキマッチョマン。額にバーコードで表情づけが変態がかった……、名前は忘れたが、そんな傭兵だ。

 確か民間の軍事警備会社からの派遣で、原作だと奴が夏凜と戦っていたはずなのだが…………、いや、これは好都合である。

 

 なにせ原作通りに戦えば、夏凜はこの男に全裸に剥かれる(というより服が消し飛ぶ)のだ。

 

 今の私の色々限界なコンディションでそんな光景に遭遇でもしてみろ、間違いなく色々なナニやらが限界を迎える(断言)。そんな生き恥(逆オサレ)晒してまともな精神でいられる自信もなく、物理で打倒できる相手というならこちらとしては願ったり叶ったりだ。

 

「とはいえ、速度でいえば敵ではないな」

「はぁ!?」

 

 もっとも現在の私の最高速から考えて、一切手こずる相手ですらないのだが。いくら魔法アプリで武装を積んでも、それが高額高性能であったのだとしても、堂々と子供を狙って下卑た笑みを浮かべるような低OSR(ダサい)状況で、本気で勝てるとでも思ってるのかな?(慢心)

 確か原作だと上半身と下半身で、それぞれ兄弟だったか。ならば腕と脚、両方を血風創天で斬り飛ばす。変形した「飴屋」のロゴが真っ二つになり、絶叫と同時にその場に倒れるが。とはいえ目からビームを撃ってきたり、チェンソーめいた仕込みの武器とかを飛ばしてくるので一切の油断はしない。黒棒を向けていつでも叩き伏せられるように。

 

「こ、こんな子供相手に我ら『瓦礫屋』が……!」

「瓦礫屋……、そんな名前だったかアンタら、カッコ悪い」

「「カッコ悪い!?」」

 

 それはもう、言動からその結果、格好から雰囲気、振る舞いにかけてまで完全に低OSRである。

 

「せめて『破壊野郎共(スクラッパーズ)』とかもうちょっとそれっぽいの考えておけよ」

「そんな子供のセンスなど!」「大体何だそのひらひらした邪魔くさいコートは!」

「お、何? デスクラに文句付けるの? これ九郎丸のネーミングだしちょっと俺もキレちゃったりしても良いんだけど?」

 

 言いながら手元に血風を展開すると「「ひぃ」」と二人そろって声を上げる。流石に一発で自分たちの腕やら脚やらを切断したあたりで、威力については察しがついてるらしい。そんな二人に尋問でもするかと思案していると―――――――後頭部に嫌な感覚。

 

 黒棒を構えると、まるで「吸い寄せられるように」、巨大な黒い剣――――「ハマノツルギ・レプリカ」が振り下ろされた。

 ちらりと視線を向けると、そこにはローブ越しではあるけど目を殺意にきらきら輝かせてオリジナル笑顔を浮かべたカトラスが……、嗚呼……、逃げられなかった…………。

 

「お前は、何?」

「………………マジかよ、完全に不意打ちだったのに受け止めるのかッ。いいぜ、そうじゃなくっちゃなア『兄さん』!」

 

 喜色満面、そのまま連撃をしようとするも、夏凜が投げたハンマーを躱すように距離を取る。私も足元でレーザーを照射しかかってる連中に、一発血風をお見舞いしてからその場から一度引いた。

 

 後方、避難誘導を終えて臨戦態勢の九郎丸と合流する私たち。

 

「刀太君、大丈夫?」

「あー、まぁ別に?」

「思ったより強いんですね、刀太…………。気の運用はまだまだのようですが」

「そこは今修行中ってことで。それより――――」

 

 眼前、ふたたび合体して体勢を立て直す瓦礫屋と、私を睨みながらにやりと口元だけで微笑むカトラス。前者だけなら多少慢心しても余裕でお釣りがくるレベルだが、後者に関しては決してそうも言っていられない。

 早々に瓦礫屋兄弟についてだけ情報共有し、夏凜からカトラスの情報を聞いた。

 

「基本的にはあの大きな剣と、召喚する槍の類。後時々、瞬動のようなそれではない違和感が動きにあります」

「違和感ねぇ…………」

 

 確かアーティファクトとして時間停止系の能力を持っていたはずなので、おそらくはその類だろうか。……それを認識しながらも戦えていた辺り、夏凜が強いのかそれとも何か狙いがあって手加減されているのだろうか。

 

「まぁこういう場合、いつまでも攻めずにいるのは逆に危険です。早々に決着をつけましょう。…………『干からびた骨(オゥス・エクシィカッタ)』!」

 

 そう言っていつだったかのように全身に神聖魔法の光を身に纏い、ハンマーと剣を構えて斬りかかりにいく夏凜。とその前方に瓦礫屋が現れて一撃を受けるが、あの状態の夏凜には流石に抵抗できないだろう……、こちらはこちらでカトラスに集中する。

 ……その顔を見るたびに、胸に去来する感想は酷く萎えたものでしかないのだが。

 

「ままならぬ…………、というかギター置き去りか? 弁償しないといけないか俺……、でも私物にするにはスペース全然ないしなぁ……」

「と、刀太君、もしよかったら僕の部屋も――――」

「何だよ、随分つまらなそうじゃねーか兄さん」

「兄さん?」

「俺にキョーダイはいねーよ『妹チャン』」

「妹……?」

「……や、止めろその変な呼び方、嫌になんか生ぬるい感じがする」

「生ぬるい……」

「そりゃ出会いがしら早々、年下の女子から兄だ何だ言われたら、暫定的な呼び方は妹チャンしかねーだろ。ヨロシクなー」

「年下……………………」

 

 応酬にいちいち相槌を打ってくるちょっと可愛い九郎丸は置いておいて。というか年下というフレーズの何にダメージを受けた九郎丸!? 最近年下で思い返せば忍くらいしか引っ掛かり所ないが一体どうしたお前。

 さておき、いい加減こちらの適当な対応に苛立ったらしく、カトラスはハマノツルギを抜いて、私に向け突き付けた。

 

「――――ッ、ああそうだな、アンタは知らないんだな。だからそうやってヘラヘラやる気のなさそうな顔なんてしてられんだ。アンタの人生っていうのがどれだけの犠牲の上に成り立っているのか、そんなことかけらも考えたこともないだろう」

「情報不足だからな」

「この野郎ォ!」

 

 言いながら斬りかかってくるが、いやしかし、私も死天化壮のフードを下ろしてカトラスの背後に回ったりして、先ほどの意趣返しをする。瞬間的なそれに「もう一本の」ハマノツルギを呼び出したカトラスは、驚いたような顔で私の目を見ていた。

 

「……認めない、なんで俺なんかよりのほほんと二年も暮らしてきたアンタが、俺の背後なんて取れるんだ!」

「…………」

「何か言え!」

 

 こういう戦闘時は無言のまま戦った方がそれっぽい(オサレ)BLEAC○(オサレ)にもそう描かれている。なので口を開かず黒棒をぶつけているのだが、しかしこう何だろう……、○護(チャン一)でも何でもないのだが、刀越しに相手の感情がなんとなく伝わってくるこの感覚は。

 見た目からはそれなりに動揺してるのがわかる。実際内心も動揺しているのだが、しかし同時に何か嫌な狙いがあるのもなんとなくわかる。と、チラリとカトラスの視線が夏凜に振られ――――。おっと、これはまずい。

 

 

 

「――――神聖魔法の『私たち』への面倒さってのはさっきわかったんでね、ほら死にな! 兄さん!」

「――――ッ!」

 

 次の瞬間、まるで瞬間移動させられたかのような形で、夏凜が振り下ろした刀と私の死天化壮が接触し――――――視界が消し飛んだ。

 

 

 

 

 



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ST28.空気を読む闇の魔法

リハビリがてら今日も更新です・・・!
毎度ご好評ありがとうございます。コンディションが現在最悪な中、感想など大変はげみになっております・・・!


ST28. SHADE BLADE

 

 

 

 

 

 

 ――――聞こえるか、相棒。

 

 

 

 目を開けると、どことも知らぬ場所……、いや、知ってるかもしれないが。様々な機械のスクラップが散らかったその場所からは、軌道エレベータの姿が見える。遠い、遠い、いつか忘れ去ってしまった過去にでもあったような光景であり、おそらく私は見覚えがないはずの光景だ。

 

「臨死体験か何かで? それにしては三途の河原とかでもないし……」

『――――こっちだぜ?』

 

 声のする方を振り返る、というよりも見上げる。頭上、スクラップの山の上に、その影はあった。白と黒のローブを身に纏い、表情は快活で笑っているような顔をしているのだけはわかるが……、生憎と私はその実態を捉えることが出来ない。

 

「誰だお前……、誰だお前!?」

「何言ってんだよ『相棒』。俺だ、■■■■■■■だ」

 

 この瞬間に私の直感というより、脳裏によぎった全BLE〇CH(オサレ)が警鐘を鳴らす。馬鹿な、ここは精神世界で頭上のあの少年だか少女だかは私の潜在能力の塊だとでも言うつもりか!? いやあり得ん、あり得ないと今までの私の人生経験から即座に否定する。

 

「いや赤松世界はそんなにご都合主義に出来てねーし。というより斬〇刀ないから。代役黒棒だし。お前ホント誰だよ」

『ツレネーなぁマジで。いや、それがお前なんだろうし、そんなの全然知ってるんだけどよ』

 

 思わずセルフツッコミを入れる私に、頭上の彼ははははと大声で笑った。……なんとなくそれが私の、というより原作主人公らしい声でなんとなく嫌な感覚を覚える。

 

『まぁお前の趣味に合わせてやったってのは全然間違っちゃいねーんだけどな。好きだろ? こういうの』

「好きだけどここまでモロパクリされるのはちょっとなぁ……」

『何だ? ワガママな相棒だなぁ』

「というか相棒枠は黒棒もいるし、九郎丸が一応原作から地続きで相棒だから。そういう意味じゃお前ほんと誰だって話なんだが……」

 

 んなこと言われても困んだけど、と向こうの少年は飛び降り、私と目を合わせるようしゃがみ込む。上体を起こした私と同じ目線にあるその顔は…………嫌でも毎日見ている私の、原作主人公の顔で。しかしその目は、私よりもかなり生気に満ち溢れた――――そう、まさに「原作主人公のような」目をしていた。

 

「本当にお前、誰だ?」

『お前なら推測、つくんじゃね? この顔とか、この態度とか』

「いや、だってお前絶対原作の近衛刀太とか『じゃない』だろ? 見てくれはそれっぽく見えるし、それっぽい振る舞いはしてるけど」

『――――へぇ、根拠は?』

「何度も言うが赤松世界は、そこまでご都合主義じゃないからな」

 

 エンディングについては尺(現実)の都合なのか色々無理やりまとめる傾向がある気がしないでもないが、それでも途中経過に関しては割と容赦ない設定を放り込んできたりすることも多い赤松世界。特にUQホルダーの世界というのは「ネギま!」のイフということを念頭においているので、徹頭徹尾救われない者は救われないように作られている。原作のカトラスなんてその最たるものだし、雪姫だってある意味においては――――。 

 

『何だよ命の恩人に対してその言い草は』

「恩人?」

『おう、そうだぜ相棒! お前の代わりにお前の中で「火星の白」と「金星の黒」を上手いこと分離してるのって俺の仕業なんだぜ?』

「いや本格的にお前は〇月(名前以外は嘘ついてなかったオッサン)かよ。名前すら名乗らないし、それ以外も嘘まみれな気もするが」

『酷ぇ相棒だなマジで……。いやこうなっちまったのも「俺のせい」でもあるんだろうけど。でも一応、名乗りはしたんだぜ? 聞こえないのはお前の側の都合だろ』

「じゃあせめて呼び名を寄越せ。話はそれからだ」

 

 マジで態度でけーなとか笑う目の前の相手だが、どうにも私は彼に対して警戒が抜けない。まるで何か、一番大事な前提条件から騙されているような、騙られているような、そんな感覚を覚えてしまうのだ。

 膝をついて、少年は言う。

 

『…………、星月(せいげつ)、とかでどうだ? それっぽいだろう』

「何? 月〇(オサレ)で隕石でも降らす? 恐竜でも滅亡させるか」

『それだと劇場版の手〇ゾーンっぽいな。なんでそんなポンポンマニアックなの出すんだよ……。こっちに生まれ直してから二年経ってるだろ?』

「さぁ。思いつくものは仕方ないというか…………というか、何でこんな、精神世界的なサムシングに私は落ちて来てるんだ? いや、そもそもここが本当に精神世界なのかも怪しいと思ってるが」

『マジで疑り深いなお前……。いつもみたいにテンション上げとけよ、黒棒手に入れた時なんてそりゃーもう普段以上にガバ生産しまくるくらい小学生メンタルになってたじゃねーか』

「それはそれ、これはこれ」

『そんなんだからガバ大量生産すんじゃね?』

「知るかっ! って、あー、で結局何で?」

 

 私の言葉に、星月を名乗った彼は指を空に向ける。

 

『だってお前、死にかけてるし』

 

 そこに映るのは…………、夏凜の神聖魔法によって、外装ごと蒸発しかかっている私の姿だった。いやエグい!? 体内から電子レンジされるようなものだと噂には聞いていたが、テレビ放送とかモザイク不可避だろこの有様!? あーあーカトラスですら「ちょっと私、聞いてないんだけど……」って感じで動揺しちゃってるし、夏凜なんかめっちゃ泣いてるし。

 

「死にかけて体を守るっていうなら、ここに居るべきはむしろ〇月(虚であり刀である双子の兄ちゃん)っぽい感じだろ。そんな全力でYH〇H(1000年前の知らないオッサン)ムーブされてもなぁ」

『ホントに我儘だなお前!? そんなにストレスたまってるか』

「溜まってる」

『即答したぞこの男!?』

 

 ストレスは溜まる、そもそももっと痛くない人生を送りたいというのが一番大きなストレスだし、最近は主に夏凜がだが性的に攻めて来るので色々と限界なのだ。この状況で下手に暴走して手を出してしまったら後が怖いし、だからといって夏凜以外なら誰でも良いかといっても全く事情は違うし…………。というか忍とかも可愛いくて癒されるが、もうちょっと大きくなってからじゃないとそういう対象ではないし。

 

『九郎丸は良いのかよ』

「本人が迷ってるうちに迫るのも変だし、大体アイツ、俺の事好きか?」

『オイオイ…………、あれだけ好意寄せられてるのに、その切り捨て方は酷くね?』

 

「愛とか恋とかそういうのって、義務感でやるものじゃないだろ」

 

 ロマンチストだねぇ、と肩をすくめる星月だが。だってそうだろう、織〇(井上ちゃん)〇護(チャン一)にあれだけロマンチックな恋を貫き通してゴールインまでして第一子を儲けてるのだ。BLEAC〇(オサレ)を原点としている今の私だって、それに準じたって別に何も間違ってないだろうし、そっちの方が尊いと思うのだ。偏にその距離感というのは、無理に相手を追い立てず、自然体のまま。しかし内に秘める想いだけは強くという、魂の在り方(オサレ)を体現してると思ってる。

 

「九郎丸は明らかに私を殺したことが切っ掛けだし、雪姫は母親だし」

『そうなると消去法で夏凜ちゃんが射程に入ってるって扱いなのか…………。あー、そういうとこにもガバがあるわけだ。知りたいことは曖昧過ぎてわからねぇやつ』

「ガバとは何だガバとは。オサレと言えオサレと」

『つまりOSR(ガバ)だな』

 

 なんて悪魔合体をしやがるこの謎の少年!?

 

『…………まぁいいか。今はどうあがいても信用がないみたいだし、ファーストコンタクトとしちゃこんなものだろう』

「そりゃ信用されるような動きしてないしお前」

 

 そうじゃなくってだなぁ、とため息をつき、立ち上がる星月。すっとこちらに向けた右手には、鈍く青白い光が灯ってる。

 

『これ、なーんだ』

「…………〇牙(始解のアレ)?」

『いや少しそれから離れろって。……今お前の体内を焼いてる神聖魔法だ、神聖魔法』

 

 これをどうにかしてやる、と左手に移し、ぐ、と握る。背後に一瞬、陰陽道とかでおなじみな「太陰太極図」が浮かび、まるでそこに吸い込まれるよう消失した。

 ……太陰道? お前それ「闇の魔法(マギア・エレベア)」正規の使い方じゃねーか!? 正しく攻撃された魔法を内側に掌握して、自らの糧とするそれじゃねえか! 原作刀太が今後使えるようになることを踏まえると、コイツまさか本当に私の潜在能力が具現化したものだとでも言うつもりか……!!?

 

『おーおー、良いリアクション、サンキューな。で、コイツもまーたお前の趣味に合わせてやるから。使い方は戻ったらなんとなく「判る」ようにしておくから。とりあえずこれはあいさつ代わりってことで』

「はい? って、お、おわあああああ!」

『ははは! 絶叫ったー余裕じゃねぇか。その調子であの妹チャンに、一発かましてきな!』

 

 そう言って「じゃあなー」と適当に手を振る星月に「見上げられながら」、私の意識は急速で浮上していった。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「――――ハッ!?」

 

 あの聖職者っぽい学生服の女の一撃を受けて一瞬体内から焼け落ちた兄サンは、でも重力剣を左手に持ち替えて私の斬りかかる剣を払った。

 

 煙を上げながらフードの下はとんでもないことになっているだろうに、徐々に、徐々に回復して声を出す。あの女は兄サンを抱きしめ「大丈夫ですか? 大丈夫ですか?」とか心底心配そうに声をかけてて……、忌々しい、気に入らない。

 

 瓦礫屋の目から撃たれたレーザービームがそんな女の身体を焼き、服がボロボロになった。表情は痛みに歪んでいるが、全くもって体に傷はない……、コイツも兄サンと一緒で、不死身連中の一人か。背中には天使の羽根みたいなやつと「XIII」の入れ墨。

 

 忌々しい……、嗚呼、忌々しい!

 

「神鳴流・雷鳴剣!――――」

 

 そんなイライラしてる私に斬りかかってくる女も気に入らない。兄サンに散々媚びた顔してたあの女もまた、兄サンの全く痛みのないだろう人生を彩る花のようなものだ。いら立ちが募り、ハマノツルギで斬り払う。

 雷が消えたのに驚いたソイツ目掛けて、召喚した槍を投擲し心臓を一突き。

 

「く……、夏凜先輩!」

「九郎丸、無理はいけません!」

 

 おいおい、どいつもこいつも不死身のバケモノぞろいじゃねーか。内心辟易してると再生が終わったのか、兄サンが女を引きはがして……、へぇ、照れてやがる。そっか、兄サンあーゆーのが好みか。今後どうしてくれようか。

 

「どうしました刀太?」

「いや、ちょっと直視できないッスから……。恰好気を遣って……」

「優先順位を考えなさい!」

「って言ったってさぁ……、ヘイヘイ……」

 

 はは、怒られてら。ザマーミロ。

 そんな私の思いを察してか、まるでテストの低い点が見つかった子供みたいな顔をこっちに向ける兄サン……、やめろ、わたしまでその適当であいまいで温かで今にも崩れ去りそうな時空に引き込もうとすんじゃねぇ。

 そしてそんな顔のまま、兄サンは女に言う。

 

「…………あっち、俺に任せてもらって良いッスかね。そっちのサイボーグは純粋に物理系なんで、九郎丸と二人がかりでお願いします」

「純粋に物理系……、なら貴方はどうするのです?」

「どーもなんかアイツの刀って『表出する』魔法は無効化してくるけど、黒棒みたいなタイプは無効化できないみたいなんで。まぁ色々試してみますよ。

 お前もそれで良いよな、妹チャン!」

 

 ……その、まるで本当に自分の妹でも見てるような、変ななれ合いの目を止めろ!

 

「私の名は、カトラスだ!」

 

 言いながら斬りかかろうとすると、兄サンは私のローブの首根っこを掴んで一気に場所を変えた。……さっきもそうだ、なんでこの平和ボケまっしぐらみたいなこの男が、あれだけの修羅場をくぐってきた私に対してこんな適当な風に後ろをとれる。

 それとも今まで、この男も地獄をくぐってきたとでも言うのか?

 

 認められない、認めてたまるものか……!

 

 後ろに向けて振りかぶったハマノツルギを、兄サンはまるで何も違和感がないように黒い剣で受けて――――。

 

「――――血風創天」

 

 そんなことをつぶやいた瞬間、受け止めた箇所から巨大な剣の軌跡みたいなのが撃たれた――――馬鹿な、なんだこれ!? 猛烈な鉄臭さに一瞬思考が止まるが、ハマノツルギで無効化すると表面に赤黒い色が残る。

 

 これは…………、血?

 

「あー、そっか。ウォーターカッターみたいな原理で風魔法を撃ってるみたいな感じだから、無効化されると血だけ残るわけだ」

「……い、いくら吸血鬼属性だからって、何でそんな、頭おかしいものを武器にしようとか考えてんだアンタ!? 狂ってるのか!!!?」

「いや、だってそれっぽい(オサレ)だろ」

 

 自らの不死性がそれに寄ってるからとは言え、まさか本当に自分の血を武器に使う阿呆がいてたまるものか!? お前頭の中ぶっ壊れてるんじゃねえか! それとも平和ボケした結果がこれなのか? 平和ボケしたから血を見るのに忌避感がないのか? 私だってこんなに血を流したら……、背筋が震える。押し込めていた殺す恐怖と殺される恐怖が、逆転したような錯覚を覚える。

 コイツ絶対頭おかしい……!

 

 ちょっと恐怖感を抱いてしまったが、頭を左右に振って兄サンの腕を斬ろうとし……、いや硬い! 何だこのコートみたいなの、移動速度上げてるし強度すごいし。そして少しハマノツルギで解けた感じを見るに、やっぱりこれも血じゃねーか!?

 

「おーおー、なんで泣いてるんだ? お前、えーっと……、カトラス?」

「う、うる、しゃい、この狂人! あほんだら!」

「ひでぶっ」

 

 思わず蹴り上げた足が兄サンの頬にヒットして、ぎりぎり私は距離を取ることに成功した。

 空間に対して「時の回廊(ホーラリア・ポルティクス)」を展開し、空中の座標に自分の位置を固定する。対する兄サンは、まるで当然のように浮いていた。

 …………両足の下に血で足場を形成して。

 

 ひえっ。

 

「…………あー、何か俺、お前そんな怖がらせるようなことしたっけ? ちょっとお兄さんとお話しないか? 今後の参考にするから」

「気持ち悪いこと言ってるんじゃねー! アンタは、アンタなんか、アンタなんか……!」

 

 槍を召喚して、感情の乱れのまま大量に投擲するも。兄さんは左手をポケットに突っ込んで、右手の剣先でまるで円でも描くように、高速に動かして全て叩き落した。

 血を身に纏うとか発想が頭おかしいというか、人間のそれじゃ絶対ない……! 絶対ないけど、あの速度は絶対その頭おかしい方法で作られてるものだってわかって、私は顔から血の気が引いた。

 

「じゃ、今度はこっちから行くぜ、妹チャン。……えーっと、確か」

 

 言いながら兄サンは、右手の剣を上に構える。と、その刀の鍔の部分に卍型の……たぶんまた血が出て来て、鈍く回転し、どんどん速度が上がるにつれて、刀の部分が白く輝きだす。あれは……? 神聖魔法……?

 あれじゃまるで――――。

 

 

 

「――――血風(けっぷう)(せい)(てん)!」

「まるでネギ(ヽヽ)()の――――」

 

 振り下ろされたそれは間違いなく「神聖魔法」を帯びた、さっきの血の斬撃で。

 私は無理に防御して―――同時に意識が消し飛んだ。

 

 

 

 

 



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ST29.押売系一宿一飯

毎度ご感想、誤字報告、お気に入り、ここ好きなどなどご好評ありがとうございます!
カトラスが意外とちゃんとシナリオ沿ってくれるので、やっぱ一番ヤベェのは夏凜ちゃんさんやなって


ST29.Be Taken Care

 

 

 

 

 

「黒棒、大丈夫か? 生きてるか?」

『…………私も、意識が、飛びかけたな』

「悪い、俺もあんま余裕ないわ……」

 

 精神世界(仮)にいた私の潜在能力的なものが自意識をもっていると名乗るあの星月。現実世界に無理やり復活させられた後、彼の言っていた通りで癪ではあるが、脳裏に新たな技の使い方が刻まれていた。

 言うなれば、私版の「太陰道」のようなもの。自らの血に受けた魔法や属性系統の攻撃を、自らの内に取り込み、血風に乗せて放ち返す。ギミック的に太陰道と違うのは、対応関係が1対1になっていないことだ。つまりは、この能力に目覚めた状態で一度技を受けた場合、受けた技を精神世界(仮)で星月が「解析」し、その系統の技を「任意で」使うことが出来る、というもの。威力は血風に乗せて撃っている関係で上限下限が限定されている形なので、メリットとデメリットはトントンといったところか。……まぁ血風自体そこまで使いこなせている自信もないので、技が血風の延長に限られるのは有難いと言えば有難いのかもしれないが。

 

 その流れから、夏凜によってもたらされた神聖魔法の属性を血風に帯びさせて試しに放ってみたのだが、実際の所酷いことこの上なかった。

 

「自分側にも毒性がそのまま据え置きとか只の虐めなんだよなぁ…………」

 

 技を撃った後に軽く死ぬし、幸い落下はしなかったが意識が一瞬で戻ったことが軽い奇跡に思える。

 どうも元々、私やカトラスなどの「金星の黒」を帯びたクローン体にとって、神聖魔法は劇物に等しいらしい。体内に入れた時点で血液が蒸発するような激痛を味わうことになるのだが(痛いとかそんな次元ではない)、これは私自身が放つ際に限っても同様の条件であるらしい。つまるところ「血風」で放ってる以上、その属性を全身の血が帯びることに違いはなく、その状態を長時間維持すれば、それはつまり自殺行為に等しいのだった。自分で自分の毒に殺されるような感覚である。

 ……まぁカトラスに指摘された通り、常人からすれば血装術を使ってる時点で自殺行為そのものであるのかもしれないが。この辺りは本当、胸の傷のお陰で一切の躊躇なく使用することが出来ている。何度も繰り返すが、九郎丸は良い仕事をしてくれた。

 

 なお、この神聖魔法を帯びた血の影響は黒棒の方にも悪影響らしく、確認した感じ私程酷くはないが、中々ダメージを受けているらしい。それでも機能的に問題がないのはありがたいのだが、さて…………。

 

「カトラスだっけ? お前、起きてるか?」

「…………」

「って、まぁ起きてても反応はしねーか」

 

 私が今背負っている、血風「聖」天を受け、絶賛気絶中のカトラスである。体内的には私よりも不死性が足りない……というより「金星の黒」とうまく連携できていないのか、不死性が低いカトラスである。原作劇中描写を見る限り、おそらくその強度は甚兵衛よりも強い程度だろう。とはいえそれだけに飽き足らず、カトラス自身は生みの親たるフェイトが作っていた施設において、更に改造を受けている。部位がどこだかは忘れたが、サブの電子頭脳的なものがどこかにあったはずであり、緊急時はそれで活動するという話だったはずだ。

 とするならば神聖魔法を受け、その余波で意識を刈り取られたのだとしても。こうして私に背負われながらも、電脳側の方で虎視眈々と命を狙っている可能性は高い。

 

「とはいってもお前の処遇ってどうしたもんかなぁ……。ぶっちゃけ初対面で妹チャンを名乗る奴とか、しかもそこそこ狂暴そうでよく分からねーけど俺個人を殺そうとして来ると、安全チャート的には投棄一択なんだが…………、ウチには子供の幸せに煩いお姉さんがいらっしゃられるし」

「…………」

「というか夏凜ちゃんさん相手に色々叫んでたけど、何? お前、雇われなの? 行く当てないんなら、とりあえずウチ来るか? 俺個人に敵対するっていうのは別にして、生活基盤ないってことだろ、そんなやりたくもない仕事やってるってことは」

「…………」

「まーとりあえず飯食ってから考えるか。何か食いたいのあるか? 食えないのとか、苦手なのとかでもいーけど」

「…………肉。あとミニトマト、きらい」

「へいへい」

 

 やっぱり起きてるじゃねーかと出来たお兄ちゃんはツッコミを入れず、ぽんぽんと頭を撫でるように叩いてから地上に降りた。夏凜が九郎丸からコートを借りてる、ちょうどそんなタイミングでの合流である。原作よりもタイミング的に不意打ちに近かったこともあってか、あまり大々的に感謝の言葉を述べられたりはしなかったが、こちらの方が色々と都合が良い。

 私の背負うカトラスに、九郎丸の表情が一瞬曇る。

 

「とりあえず事情は全然わからねーけど、なんか腹は減ってるみたいだから、食べてから色々聞くってことで一つ」

「……わかりました」

 

 えらく聞き分けが良い夏凜にカトラスを渡そうとしたところで、夏凜は私の両肩をがっしり掴んで覗き込んできた。……だからその距離感の近さ止めろ! 後、意図がわからん!? 一体今回は何を目的とした目の覗き込みだアンタ。

 

「か、夏凜先輩! 刀太君が困ってます!」

「おや? ……まあ時間は後でとれますし、良いでしょう」

 

 割って入ってくる九郎丸だが、しかし夏凜は一切意に介していない様子である。助かったと言えば助かったのだが、何か別なフラグを踏んでしまった感もなんとなくあり、いまいち安心できない自分が憂鬱だった。

 

 その後、平屋のような施設に避難していた忍たちと合流し、しばらくしてからカトラスは起きた。流石に危険性があるということで私、九郎丸、夏凜のうち2人態勢の交代で監視をしていたのだが、ちょうど私と九郎丸のタイミングである。

 夕食の準備をしている私を見るや否や、嘲るような表情を浮かべる。手伝いに入っていた九郎丸は、それに対して普段の刀を構えようとし……、いや待て待て、血の気が多いわ。どうしてそこまで好戦的なのか、何か悩みでもあるのかな? 九郎丸まで情緒不安定とかは、ちょっと止めてクレメンス。(真顔)

 

「なんだ……、やっぱ殺してねぇんだな。兄サン。敵相手に随分甘い対応じゃねーか?」

「とりあえずお前サンの事情は一切合切知ったことじゃないんで、話を聞いてほしかったらまずその口元ぬぐっとけ」

「は? ……っ、ッ!?」

 

 言われてから涎が垂れているのに気づいたのか、慌てて口元をぬぐうカトラス。それを見て「年下……」とか謎のダメージを受けてる九郎丸を完全スルーし、つくねなんだかハンバーグなんだかな代物をテーブルに配膳。私たちも同様のものをそれぞれの席の前に配膳し、テーブルを囲んだ。

 カトラスはそれを見て、名状しがたい顔をした。信じられないものを見たような、同時にどこか寂しそうな、そんな顔だ。

 

「…………」

「ほら、ここに座れよ妹チャン」

「その呼び方止めろって言ってるだろ! 俺は、カトラスだ!」

「いやどう考えても偽名だろそれ。大体、大前提として俺にキョーダイっていねーけど、もしいたのだとしても完全横文字の名前ってのは違えだろうし」

「でも刀太君、最近は色々な文化が入り乱れてるから、キラキラネームとかもあんまり言わないくらいに色々な名前があるし……」

「いや九郎丸さ、揚げ足とるのやめてくれね?」

「え!? い、いやそんなつもりは全然ないよ! た、ただ話題が広がればと思って……。な、なんだか気を遣ってるみたいだし」

「そりゃまあ、事情は分からねーけど大人しく飯食う感じのリアクションはとるような相手だし、子供だし――――」

 

「そんな付き合いたてのカップルの日常生活みたいなコントやめろ。胸焼けしてくるぜ」

 

 嫌そうな顔をして渋々席に着くカトラス。九郎丸の「ぼ、僕は男だからそういうのじゃ……!」という抗議は「ハイハイ、薔薇な薔薇」と適当に半笑いを返していた。そういうの判るのかお前……。もっとも薔薇というのにも抗議の意思を見せる九郎丸であるが、それはさておき。

 いただきます、と。こればかりは純正日本人のように、ごく自然に手を合わせてスプーン片手にハンバーグを切って口に運んだ。

 

「……………………」

 

 無表情を装おうとして、イライラしてる雰囲気のカトラス。取り繕うのに失敗してる彼女を気にせず「今日も美味しいよ!」と笑顔満開の九郎丸であった。

 一方の私は私で、カトラスの現在の状況に気になる要素はいくつかあるのだが。

 

「味とかってちゃんとするか? 戦ってた感じ、所々金属っぽい感じもしたから、お前もサイボーグ的なのだと思ってるんだけど。どれくらいサイボーグとかになってるのかとか全然わからなかったから、普通に作ったけど」

「…………別にしてるし。というか俺、アンタの敵。普通に本物の妹みたいな扱いすんの止めろ……、頭撫でるの普通に止めろ! 本当に妹扱いじゃねーか!」

「お? ハハ、悪い悪い。でもだったらまずヒトのこと『兄サン』とか呼ぶ理由から話そうぜ? 俺だってお前、どー扱って良いか全然わからねーし」

 

 それだけ言うと、黙り込むカトラス。今この段階で自分の出自やら私の出自を開示しても、大してダメージにならないと判断したのだろう。

 良いぞ良いぞ、この段階でそんな原作ブレイクを私は望んでいない。出来た妹チャンの反抗期に思わず内心でガッツポーズUC状態の私であった。

 

 とはいえカトラス側の事情も、表向きの分はすり合わせが必要だろう。今の所把握してるのは、強いこと、どうも金に困ってスラム襲撃の仕事をしたこと、あの瓦礫屋の連中とは所属が違いそうな事と三つほど挙げる。最後のそれについては(原作知識を明かさないので)推測だとしながらだ、そこまで言うと「大変だったんだね」と同情するような目の九郎丸である。その視線が苦手なのか、カトラスは嫌そうな顔をして手をしっしと振った。

 

「金払い良かったのか? あのマッチョサイボーグの組織」

「まあ、それなりに」

「そっか」

「ん」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………はぁ、無言で食べてるのもなんかホントに兄妹みたいで嫌な気分になってくる」

 

 それは気にしすぎなんじゃ、という九郎丸の言葉を睨み返し、カトラスは私を一瞥した。

 

「アンタ、何がやりたいんだ兄サン。明確にアンタに殺意を抱いていた相手を平然と拾ってきてさ。おまけにロクな拘束もしてねーし」

「コイツは流石に取ったけどな」

 

 言いながら、私は彼女のパクティオーカード……、「ネギ・スプリングフィールド」との契約のものと思われるそれをちらりと見せる。もっとも契約者の文字は塗りつぶされており、詳細はわからないのだが。それを見て「流石にそこは抜け目ねーのな」とどこか自嘲げに笑うカトラスだった。

 

「何がしたいかって言ってもなぁ……。お前の武器とか、戦い方とか教えてくれ! って言っても、どうせ教えちゃくれないだろ!」

「ハンッ」

「そのあたりは予想済みだから別にいいんだけど。としても、そのまま投げるのもアレだし……。なんなら、ここでスラム警護でもすりゃいいんじゃね?」

「え?」「はっ?」

 

 スプーンを咥えたままびっくりした顔のままカワイイ九郎丸と、この世の終わりでも見たような半眼で顎をしゃくるカトラス。絵面があまりにも対照的すぎて酷いことこの上ないが、現段階でカトラス登場による今後の影響度を考えるなら、これが一番バランスが良いだろう。

 

「報酬は、飯と、とりあえず住むところと、あとこのカード。期間は俺たちがここに居る間。まあつまりお前が受けた依頼の逆バージョンってことだな」

「そんな話、受けるとか思ってるのか? ハッ、おめでたいねぇ兄サンは。その気になったら力づくで――――ぴぃ」

 

 左手からすっと小さく血風を展開すると、カトラスが変な声を上げてフリーズした。九郎丸が不審がるが、このあたり私もちょっと実験だったのでまさか上手くいくとは、という感じであるので説明は難しい。ただ戦闘中の反応からして、どうもカトラスは血装術関係か何かにトラウマでもあるようだ。

 

「あ、あああ、アンタ頭おかしいんじゃないのか!? 昼間も思ってたけどマジでさぁ! 命、大事じゃねーのかよ、そんなポンポンとさぁ! 何だ、それ私に投げつけるのか? あ゛!?」

「一応、魔人とか吸血鬼が使うスキルらしいからそんなに変でもないと思うんだけど……」

「再生力にモノ言わせて、なんでもかんでも無茶通るとか思ってるんじゃねーぞ!? っていうかその目、何だ、やめろ! 私は愛玩動物じゃねー!」

 

 決して揶揄っている訳ではないのだが、どうしてもカトラスのリアクションが良いのでちょっと楽しい。日頃心に溜まっているストレスが洗われていくようである。そしてそんな私を見て九郎丸がぼそりと呟いた。

 

「…………年下か……」

「だからさっきから年下が何だよ九郎丸」

「きゃっ!? き、聞こえてたの刀太君!!?」

「この距離だしな。で?」

「え? い、いや……、と、刀太君て年下の子が好きなのかなーって」

 

 カトラスが心底嫌そうな表情を浮かべるのに苦笑いした。流石に好みのタイプについては話す訳にはいかないが、放置しておくと何かのガバの温床になりそうだ。早目に出て来てくれたことだし、早急に訂正しておこう。

 

「守備範囲とかそういうのはあんまり考えたことねーかなぁ……」

「そ、そうなの? でも忍ちゃんとかすごい優しい表情浮かべてるし……」

「いやまぁカワイイとは思うけど、だからって別に何でもかんでも手を出すようなモンでもねーし」

「そ、そっか……、そうだよね!」

「おう」

 

「……アンタ、マジで兄サンのこと好きなの?」

 

 話がなんか上手な感じにまとまりそうなタイミングで再び爆弾を放り込むんじゃない妹チャン!? 貴様嫌がらせか! 慌てる九郎丸を見て私にニヤリとするあたりジッサイ嫌がらせなのだろうが、ピンポイントでこちらのチャートを破壊しにかかるな貴様!(戒め)

 九郎丸をなだめていると、部屋のドアがノックされたが、反応を見る間もなく夏凜が開けて入ってきた。挙動不審の九郎丸と私、カトラスを一瞥すると、その視線は台所の方に吸い寄せられる。

 

「あー、これから焼くッスか?」

「いえ、大丈夫です。優先順位がありますし、先に下で頂きましたし……」

 

 とはいえ全く食べてもらえないのはつまらない。私の皿のハンバーグをひとかけすくい、夏凜に差し出す。「あー……ん!」とそれに疑問を挟まず口に入れて、何度か咀嚼し頷いた。

 

「…………刀太もですが、九郎丸もちゃんと出来るのですね」

「へ? あ、はい! それはもう色々とこっちに来てから頑張ってますし……」

 

 それはともかく、とカトラスに視線を向ける夏凜。…………夏凜を見るカトラスの目がドン引きだったりするのは謎だがそれはともかく。簡単に先ほどまでの会話の流れを相談すると、悪くない案だと夏凜は頷いた。

 

「……いやオカシーだろアンタ。俺、お前ら襲撃した相手だぞ?」

「それでも、貴女は刀太の妹、なのでしょう? 事情は知りませんが、その言葉を語る貴女の目に宿る感情に、嘘だけはありませんでした」

「いや、それは……」

「愛憎どの類の感情かは置いておいて。貴女が今の生活に困っているという事情はわからないでもないですし…………、刀太の料理は美味しかったみたいですし。十分、報酬になるのではないでしょうか?」

「はァ? ……い、いやこれはっ!」

 

 さっと自分の皿を隠すカトラス。……気が付いていなかったが、いつの間にか、それこそ九郎丸や私をさしおいて一番最初に完食していたカトラスである。これには九郎丸も庇護欲をそそられたのか、フォークにハンバーグを指して「食べる?」と微笑ましい表情。つられて私も差し向けるが「いらねーって言ってんだろ!」と顔を真っ赤にして反抗していた。

 

「アンタら馬鹿じゃねーの? 本気でメシで釣られるとか思ってるのか?」

「さぁ? ですが『そういうことにしておいた方が』、貴女も色々と楽なのでは?」

「………… 一つ、条件がある」

 

 夏凜が何かと聞くよりも前に、カトラスは私の方に指を向け。

 

「誰か兄サンの血使うやつ、やめさせろ。気分悪い」

 

 嗚呼、と。夏凜だけでなく、九郎丸すら何故かそれに首肯してきた。

 

 

 

 はい? つまり……、どういうことだってばよ?(混乱)

 

 

 

 

 

 



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ST30.責任

ヤミの力に身をゆだねる九郎丸・・・
 
後で場面とか色々改稿入るかもです


ST30.the Responsibility

 

 

 

 

 

 つまるところ、血風を使うなという縛りプレイの強要であった。

 私は激怒した。必ずかの冷酷無慈悲でその割に想定外の事態に弱い妹チャンにOSRのなんたるかをわからせる必要があると。だがこれに歯止めをかける勢力が二つあった。結城夏凜と時坂九郎丸である。腕をまくりようようと気を張った私に対して、二人が両側から抑えにかかったのは一体何の冗談かと思ってしまった。

 

「いやマジでないって! 血風封じられたらロクな戦闘できませんから!」

「でもそれを前提としても、貴方は血を簡単に流しすぎです。不死に対するプロが今後相手として出て来るだろうことが予想される以上、気を抜いたらすぐ死にかねない技はどうにかするべきでしょう」

「九郎丸! お前は俺の仲間だろオイ! デスクラッドのネーミングくれたし!」

「で、でも僕もちょっと、思う所がないわけでも……」

 

 敵しか居ねぇじゃねーか!? 思わず絶叫する私に、カトラスがニヤニヤと愉し気な目を向けてくる。やはり確信犯か、お前間違いなく私の戦闘力を削るためにその提案しただろ! しかもそれとなく他二人に気取られない程度に私情も交えて……、あれ? そうか、実際私情も混じっているのか。ニヤニヤしながらも若干目が笑っていないあたりからして、どうやら本当に血風を見ていて気分が悪くなるという本人の弁に嘘はないらしい。難儀な妹ちゃんである。面倒くさい(語弊)

 

 確かに血風……、というよりも胸の傷から血装術を使うというのに、それなりにデメリットも大きいのは理解している。黒棒から指摘された事実を踏まえてみても、確かに常時死亡状態にされるリスクも存在するのだろう。当たらなければどうと言うことはないとは言え、基本的な感性と言うか、戦闘センスを扱う当人は凡人メンタルのはずだ。原作主人公ほどの勘の良さを発揮できている自信がないので、不意打ちなどで封印が成功した場合は大打撃そのものだ。

 だからといって今更戦闘スタイルを変更するのは相当厳しい。原作主人公ほどのメンタルの強さを持っていない自覚がある私である、原作通り完全に修行するのはまずもって厳しいし、また習得率が同じレベルになるかどうかというのも怪しいと睨んでいる。要は原作主人公なら素直に何も考えず吸収できるものが、私の場合色々と小難しく考えたり面倒がったり嫌がったりして、正しく覚えられないかもしれないということだ。

 だからこそ速度極振り天鎖〇月(オサレ)スタイルを志向したというのに、これでは本末転倒ではないか――――!

 

「と、刀太君、泣いてる……?」

「逃がしません」

「――――っ!」

 

 何も言わず、ハグ体勢に移行する夏凜だが、実際判断が早くしかも正しかった。ちょっと色々とメンタル的に限界になって、思わず脱兎のごとくこの場から逃げ出そうという素振りを一切見逃さないボディロックである。一体いつの間にそんなに私を洞察してるんだろうかこの女性(ヒト)、抜け目なさすぎないだろうか……。

 そのままポンポンと背中を叩くようにし、くるくるとまるで幼子をあやすようにされた私であったが、流石に気恥ずかしさが感情として勝利したので、相手の肩を三度叩いて離してもらった。

 

「落ち着いたかしら?」

「いや全然落ち着かないッスけど…………」

「そう。だけれど、逃げてもどうしようもない話だと思うけれど」

 

 ほんのり微笑む夏凜の顔を直視できず視線を逸らすと、カトラスが夏凜をドン引きした目で見ているのが視界に入った。……理由はいまいちわからないまでも、なんとなくその視線には共感できるものがあった。うん、この人いろいろと凄いんだよね。(他人事) ある意味で天敵である。

 

「しかし困りましたね。私も九郎丸も、そのカトラスちゃんと同意するところが――――」

「ちゃん付けで呼ぶな、距離感が馴れ馴れしい」

「? あなたは刀太の妹なのでしょう。なら別にちゃん付けでも問題ないのでは?」

「えぇ…………、いや、そうと言えばそうなんだけど、そのカテゴリーの割り切り方みたいなの、めっちゃ嫌なんだけど…………」

 

 辟易した顔をするカトラスに、しかし無表情で詰め寄る夏凜。いよいよもってカトラスが折れたのか「もうどうでも良いよ」とため息をついた。

 

「話を戻しますが。血装術の使用を控えて欲しいというのが私たち三人の意見ですが、貴方は嫌なのでしょう? 刀太」

「へいへい……。実際こればっかりは、代替えが利かねーからな。たぶんだけど、雪姫から得意な系統の魔法を取り上げるくらいには痛い」

「致命傷ではないですか……、なるほど。それなら逃げ出してしまいたいくらいには心にダメージを負いますか」

 

「そもそも何で兄サンって、あんな危ねー技使いまくってるんだ? 毎回リストカットとかして血を出してる訳でもねーのに」

 

 カトラスの疑問に、九郎丸の表情が一気に死んだ。私がフォローしようと声を上げるより先に、九郎丸の方がすっと私に掌を向ける。手出し無用、とでも言わんばかりに思いつめた表情の九郎丸は、夏凜をして声をかけるのをためらう凄みのようなものがあった。

 僕のせいだから、とカトラスにこぼす九郎丸。

 

「あ゛?」

「…………僕が、刀太君を殺したのが原因だから。その時の傷を使って、ずっと刀太君は、血を操ってるから。あの時からずっと……」

「へ? は? え、ええぇ…………」

 

 事情を聞く前の段階だが、カトラスが九郎丸に向けてもドン引きの視線を浴びせた。お前なんかこっち来てからずっと誰に対してもドン引きしてるな。(他人事) 忍と是非会わせてあげたい、さぞ癒しになる事だろう。(現実逃避)

 

「………………ある事情で、敵の策略にかかったとはいえ。刀太君を殺してしまったのは、僕だから。それまでずっと、こんな死と隣り合わせの世界とは無縁だった刀太君が、こっちに転ぶきっかけを作ってしまったのは、きっと僕だから。

 だから……、刀太君がもし戦えないというのなら、僕が、彼を守るから。たとえこの身が、何に成り果てたとしても――――」

「いやそんな思いつめるなって。別に気にしちゃいねーし」

「コイツ、頭おかしーんじゃねーか? なぁ、えぇ……?」

 

 妹チャンよ、私に救いを求める視線を投げてよこすな。もともと地雷原に火炎瓶を投げ入れたのは貴様だ、貴様が責任をとれ、とるんだ! さぁ!(血涙) 私だってこんなになった相手にどうしたら良いかさっぱりわからないんだから、その分お前が頑張るんだ! 大丈夫、お前こそオンリーワンだ!(適当)

 お互いに責任を擦り付け合う様な視線を向け合う私とカトラスに、夏凜が九郎丸を一瞥して「では」と頷いた。代案でも思いついたのか、九郎丸の両肩を持ち、私の対面に向ける。

 

「カトラスちゃんは、さきほど言った分の報酬と、刀太が血装術を使うのを制限している間は、こちらの味方についてくれるのですよね」

「…………チッ」

「でしたらその間、九郎丸。貴女が刀太に修行をつけなさい。今の程度ではなく、もっとしっかり『気』などを修められるように」

 

 我ながらナイスアイデアと言わんばかりに鼻を鳴らす夏凜だが、九郎丸の表情がさっきからずっと死んだままなの本当にどうしたらいいのだろうか。救いはないんですか!(恐怖) 思わず頬を軽く叩いたり、視線を合わせて声をかけたりするが、いまいち正気が戻ってこない九郎丸。まさかとは思うが、そこまで思いつめるようなことだったか? 流石に想像してなかったのだが……。むしろ、私に戦闘手段を与えてくれた恩があるくらいに考えていたのだが。むろん殺されるのは痛かったし、今でもあの時の恐怖は染みついているが。九郎丸個人にどうこうという話ではないのだ。

 しかし、初遭遇の時期から考えて、当時も今もそんな深い情を向けられる程に馴れ馴れしくした覚えはないのだが。まさかとは思うがそれが逆に良くなかったのか……?(???「珍しく大正解じゃないか」)

 

「そんなに、思いつめなくても良いんだけど……。どうしたもんかな」

「――――『殺した責任』を、僕はとらなくちゃいけないから」

「……あれってそんな、深い意味があった言い回しじゃないんだけどなぁ」

 

 しいて言えばその場のノリというか、その責任と言うのは私が蘇った時点で終了しているのだが。そのことを伝えても、だったらなおのことだよと九郎丸は微笑んだ。その微笑みすら暗いのだが……。

 というかカトラスすら「兄サンこう言ってるし、もうちょっと気楽にしても良いんじゃね?」とかフォローに回るとか相当だぞ、このカトラスにキャラ崩壊させるレベルとかこの空気、どうしろというのか。

 

 重い沈黙。が、しかしそれを当然のように無視して、夏凜は私たち三人を抱き寄せ、抱きしめた。

 

「かか、夏凜先輩!?」

「はァ?」

「えーと……、どうしたッスか? 夏凜ちゃんさん」

 

「………‥それぞれ思う所はあるでしょうが、今は飲み込みなさい。いずれ、時間が解決することもあるでしょう。お姉ちゃんからのアドバイスです」

 

 それでわずかに九郎丸の目に光が宿るのだから、説得としては成功だったのだろうが……、肝心の夏凜本人については、何一つ時間が問題を解決してくれないからこその、そのアドバイスなのかもしれないと思い、ちょっと私は憂鬱な気分になった。

 一方のカトラスは夏凜に対し更にドン引きした視線を向けて、そして共に夏凜の腕にいる私の方を向いて。

 

「同情はしねーけど、これはこれで酷ぇな兄サン」

「引っ掻き回した本人の発言ではないな」

 

 思わず素が出てしまった言葉に、カトラスは舌打ちをしたものの反論はしなかった。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「おはよ! 刀太くんっ。今日は和食にする? 洋食にする? 僕、頑張るよ!」

「九郎丸さん、なんだか……、張り切ってる?」

「そうだね忍ちゃん! もう、今日は頑張るからね!」

 

 翌日、九郎丸のテンションは明らかに空回って跳ね上がっていた。例のフリフリエプロンを着けて、妙にハイテンションである。私も忍もやや気圧されたが、しかしこの満面笑顔で男を自称するのは流石に無理があるのでは。(マジレス)

 忍も交えて三人で一緒に朝食を作るという話なのだが、明らかに昨日の反動と言わんばかりの振り切れっぷりである。忍が口を逆三角形にして変な驚き方をしていたが、どうどうと九郎丸をなだめつつ料理の準備をした。

 

「サラダはテキトーに作るとして、トマトのない奴も取り分けといてくれ」

「先輩、苦手なんですか?」

「いや、あの褐色のカトラスって奴。ミニトマト嫌いだって言ってたけど、ひょっとするとトマトも苦手かもしんねーから」

「刀太君、いつの間にそんな情報を……?」

「寝言」

 

 しかし九郎丸の包丁さばきが凄まじい。明らかに剣術でも併用していそうな速度で千切りキャベツを量産していく光景は、本人がルンルン楽しそうにしてるのもあって軽く天国と地獄のような有様。忍が「すごいです……!」しか感想を言えなくなってるあたり、妙な迫力というか凄みがその背中からは溢れていた。

 もっともその様を見て安心できる私ではない。病んだ人間がいきなりハイテンションになるみたいな、躁鬱めいた挙動をする時の恐ろしさと言ったら無いのだ。甚兵衛の過去話ではないが、芸者に惚れられて吉原からストーカーされて最後は心中まがいのことをされかけた際にもそんな躁鬱テンションだったらしいというのをちらっと耳にしたので、こういうのは古今東西いつの時代も共通していそうである。

 

「あー、あんまり無茶するなよ? 俺、気にしてねーから」

「うん、わかってる。刀太君は……優しいから」

「いやそういうことじゃなくってなぁ……。ちゃんと言ってることわかってるか?」

「? 何が?」

「肩の力をもっと抜けって! 笑顔のままこっち見ながらキャベツ切んの怖ぇって!」

「へ? そ、そうかな……」

 

 しかし明らかに何か、色々と触れるのが大変な何処かのややこしいスイッチを踏んでしまった気配がありありとする。胃が痛い……、心臓の傷は特に痛まないが、不死者になってもこのあたりの感性はあまり変わらないと見えた。

 

 その後、朝食の配膳時。見ればカトラスの恰好はいつか見た「麻帆良学園」のジャージ姿である。柄から何から含めて完全に私が以前着ていたそれだが、当然のごとく夏凜プレゼンツであろう。そしてその肝心の夏凜はカトラスの左側で、彼女の腕を抱きしめロックしていた。逃げねーから、と嫌がる声が聞こえる感じからして、昨晩の就寝時にも何やらひと悶着あったのだろうか。もっとも頭に包帯を巻いて、極力顔を隠そうという謎の努力の跡が見え隠れしているのだが……。そんな趣味人(オサレ)な恰好しても、私が喜ぶくらいしか効果ないよ?(他人事)

 

 そして肝心のカトラスは、朝食の間ずっとこちらと目を合わせようとしていない。カトラス自身の紹介を朝食後に全体へ済ませても(新しく雇われたというレベルの情報)、私とは一瞬目が合った後ぷいっと逸らすばかり。これは……、私と話すのを嫌がっているというより、私に絡む夏凜や九郎丸を嫌がっているような気がする。きっと気のせいではない、私とは視線を合わせないだけで隣り合っても文句を言わないのだが、夏凜や九郎丸が近寄ると明らかに「ビクッ」と震えている。

 

「お前も大変だな」

「…………」

 

 ふん、と顔を逸らすカトラスの頭を撫でようとすると、今度はデコピンで返されて拒否された。「仕事はちゃんとする」と一言残すと、そのままカトラスは外に出て行った。夏凜も九郎丸に後は頼みますと一言いってその後を追う。

 

「と、刀太君……」

「どうした? なんか変に改まってるけど……」

「そのさ……、えーっと、修行なんだけど。午後からでいいかな? ちょっとプラン練るからさ。夏凜先輩にもしっかり任せられちゃったし…………、ちゃんとデスクラッドとか使えなくても戦えるくらい、強くするから」

 

 にこにこ笑顔だったり照れた風だったりしながらも目が据わってるのが恐怖以外の何物でもないのですが。(震え声) そのプランって一体どういうことか、詳細を確認する前に九郎丸は足早に自室へと移動してしまった。

 夏凜も夏凜でそうだが、九郎丸も九郎丸だ。一体どこでチャートの構築を間違えた。ちょっと前までは原作通りくらいの好感度で漂っていたと思ったのに……、やはりカトラスが何か地雷を踏み抜いたか?

 

「ままならぬ…………」

「先輩、どうしたんですか?」

 

 無邪気に訪ねて来る忍に、おおよその概要を話せないまでも九郎丸が修行をつけてくれるという話をすると「ああそれで」と何か納得を見せていた。

 

「頑張ってくださいね? 先輩」

「いやでも、痛いのは嫌なのだが……。気の修行って絶対心身追い詰める系だし」

「でも、頑張ってる男の子……、先輩は、すごいカッコイイと思いますから!」

「…………」 

 

 別に年下趣味とかそういうことは断じてないのだが。忍のその一言に、なんとなく癒され救われる自分がいた。どれだけ心がささくれ立っているのかという話だが、真面目に、真面目に誰か救いを……、救いを下さい。

 

 救いはないんですかァ!? (???「売り切れだよ。自分から未知のエリアに突入してくような奴なんざ」)

 

 

 

 

 



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ST31.一歩踏み込め!

毎度ご好評ありがとうございます!
今回割と独自解釈オブ独自解釈の山な気配・・・


ST31.Get Closer To Conviction!

 

 

 

 

 

 一言でいうと、兄サンの周りはやばかった。一体全体どんな手練手管を使ったのか、二人の不死者の女共の兄サンへの距離感がヤベェ。痴情のもつれでもれなく全員死にかねねーのに、何よりそれを薄皮一枚でギリギリ回避してる兄サンがヤベェ。その恵まれた「ありふれた」生活っていうのに思う所もあったのだけれど、間近で見たらありふれたとかじゃ全然ない。正直お近づきになりたく無ぇ距離感だった。……人間の子供の、私と同い年くらいの奴もなんかヘンな距離感だし、マジでやべぇ。

 いや、だからといって「ネギ様」の問題もある。一切近づかないとかそんなことは出来ないし、認めたくはないけど料理は美味かったし(ちゃんとミニトマトなかったし)、何よりパクティオーカードを取られたままだ。アレを取り返すまでは一時休戦というのでとりあえずは納得「したことにした」のだから、その話はいったん保留だ。

 

「別にそんな恰好良くもねーと思うんだけど……」

 

 私たちが壊した教会の瓦礫を片付けながら、私はため息をついた。

 これは一応、曲がりなりにも血筋が繋がってるからそう思うのかは分からないけど。兄サンの印象としては、カッコ良いカッコ悪いとかの感想はない。なんとなく「噛み合っていない」が一番近いかもしれない。まるでそう、兄サンの「母親」だっていう近衛(ヽヽ)野乃香(ヽヽヽ)くらいの年代の人間が、同じ立場に居て不服そうな顔でもしてるみたいな……。

 フツー命を狙われて、しかも全く面識のない相手から兄妹呼ばわりされたら、あんな余裕ぶった顔じゃなくもっと動揺するものだ。少なくとも私ならそうなる。だってのにテキトーに受け流すは、受け入れてるようで実に巧妙に「私の距離感」を壊して同調させようとしてくるような……。ある意味で老獪というか、そう、人の距離感を踏み砕いて、いつの間にか身内にするような。そんなヘンな雰囲気が、私は怖い。

 

 まるですべては悪夢で、ふと目を開けたら温かな家庭が存在してるような――――。

 そんな錯覚すら抱いてしまう自分が、自分の弱さが嫌いだった。

 

「――――おや、ここに居ましたか」

 

 来たよ、あの女だ。昨晩散々、私から話を聞き出そうとして、それで失敗しても無言でじっと見て来て、頭撫でたり猫かわいがりしてくる女。私とは無縁なくらい綺麗だしスタイルも良いし、おまけに不死性としても完成されてる。妬ましいったらありゃしない、私が欲しいもの全部持ってるようなそんな女。ユウキカリンとか言ったはずだ。

 ついでに言うと兄サンが一番ドギマギしてるっぽい女だ。それをネタに色々引っ掻き回してやろうかと昨晩は思っていたけど、あのトキサカクローマルとかいうのに手を出してそりゃもう酷い目に遭った。というか怖かった、なんだあの女のあの目。決死隊のそれじゃねーか。なんで兄サンと並んでのほほんと過ごしてそーな奴があんな火薬庫一歩手前みたいな目ぇしてやがんだって話だ。お陰でそんな度胸消えた。どこにヘンな地雷が潜んでるかわかったもんじゃねー。

 出来るだけ近づかないようにしようと考えるしかなかった。むしろそういう意味では、兄サンの近くが一番安全かもしれない。……変な話なんだけど、絶対に嫌なラインはそれ以上踏み込んでこないみたいな安心感がある。

 

 ユウキカリンは私の横に並んで、一緒に片づけの手伝いを始めた。いや、何なんだよアンタ。私、アンタ嫌いなのわかってるだろ。そんな視線を向けても、女は無言のままじっと私を見据えて来ていた。

 

「貴女、本当に刀太のことが嫌いなの?」

「あ゛? …………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………、いやこっちが根負けするまで視線無理に合わせようとしてくんなよ怖ぇ」

 

 顔を逸らすたびにその視線の先に先回りしてくる女とか完全にホラーのクリーチャーじゃねぇか。

 なんで兄サンの周りの女共はこんなやべぇのか。やっぱ不死人っていうのが良くないのかもしれない。肝心の兄サンも不死人ではあるけどまだ感性はこっち寄りのはずだ。あのシノブとか言ってたのを変に愛でてた気もするし、色々とストレスがやべぇんだろうとは思う。不覚にも共感してしまい、ちょっと胃が痛かった。

 

 ユウキカリンは「ふむ」とか言って、勝手に何かを納得したらしい。……その勝手に納得っていうのが怖すぎて、思わず私は問いただした。何納得したんだアンタっていう疑問に、女は平然と答えた。

 

「いえ。貴女も――――刀太の『素』は知らないのだろうな、と」

「素? も何も、あのノーテンキな感じじゃねーの?」

「本人が嫌がるので話しませんが、きっとそれは、大したことではないのでしょう。むしろそういう意味では、やはり貴女は刀太とは遠い所にいる存在…………、同じ場所で育ったわけではないのかと思ったのです」

「…………いや、まー、確かに2か月しか一緒にいなかったけどよ。昔の兄サンって滅茶苦茶体弱かったし。正直、私が戦場投入(ロールアウト)される前に死ぬんじゃないかって思ってたから」

 

 又聞きした話だけど、どうも代理母になった親の問題だったというか。生まれた「私たち」兄妹たちの中では、一番の基礎魔力量を誇っていたらしい。

 最初は「金星の黒」と「火星の白」、その両方を一番体にストックしておけるということで成功例かと期待値も高かったけど、それが災いしたのか両方の力のバランスが一番悪かったのが兄サンだったとか。それでも代理母がスポンサーにでもなったのか、常に研究者とメンタルケアしてる奴の二人がついていて、他の子供たちの……、私みたいにロールアウトされた連中とか、その死体とかの実験データとかを投入して無理やり生かして引き伸ばして……、後のことはよく知らない。

 ただ私がネギ様の所にいるようになってからは、もう「闇の福音」の元で平凡に、それこそフツーの子供のように過ごしていたって聞いた。

 

 だから、それに心底腹が立った。私たちが「こんな身体」にされて、行きたくもない場所でやりたくもない仕事をして。痛いのを与え、痛いのを与えられ、何度も死にそうになりながら、そんな場所にいるのに。選択肢がないのに、兄サンだけ特別扱いを最初から最後まで受け続けているようなのが。

 

 話は全部していなかったけど、所々漏れた感情でも聞いたのか。ユウキカリンは「戦場、ですか……」と痛ましいものを見るような目を向けてきた。気持ち悪ぃから、変に同情すんな。そういう意味じゃまだ兄サンが向けてくる視線の方がマシだ。……嫌な奴は最期まで嫌な奴らしく、こっちのことなんて考えてないような顔してくれてた方が、恨みがいがある。

 

「…………で、何だその目は」

「いえ。……普通の兄妹には決してなれないのでしょうが、それでも似ている所はあるのだろうと」

「意味わからねぇんだけど」

「私がこの世で最も敬愛するお方の言っている言葉です。『血は争えない』」

「それ絶対、その相手以外にも言ってる奴いっぱいいるだろ」

「私がこの世で最も敬愛するお方『も』言っている言葉です」

「訂正雑か、マイペースすぎんだろ」

「ですが、刀太もそうですが……、貴女も『痛いのは嫌』なのでしょう? 本当は」

「……………………」

 

 一瞬言葉に詰まると、女は少し力なく微笑んだ。やめろ、その実の妹か義理の妹の成長でも見守るようなヘンな距離感の目。

 

「刀太自身、あの血装術を使ってる際はどうやら『痛みを感じていない』らしいので積極的に使っているようですが。()の妹を名乗るのだから、貴女にも近い経験があるのでは? カトラスちゃん」

「…………痛み感じてねぇってそれ、いや、心臓から出してるんだろ? 直接。つまり痛すぎて感覚麻痺してるだけじゃねーの?」

 

 私もそう思いますとかしれっと言うこの女、やっぱりちょっと怖い。

 

「別に兄サンほど魔力とか無理やりひり出せる訳でもねーし。ただ……『この身体』にされるのは、そりゃ、嫌だったよ」

 

 既に体内の骨格のうち、超合金となっているのは何割か。不死身の実験兵士ということで、戦闘に必要のない臓器をいくらか無理やり「別な武器」だの「機能補助装置」だのに入れ替えられる経験なんて、フツーは絶対しないし、したくもない。子供すら産めない……、元々産むつもりとかもなかったけど、それすらもはや私にはないのだ。

 それでも研究者連中は言う。戦闘中に「金星の黒」に真の意味で覚醒すれば、この作り替えられた人体も、もとの人体に戻ることが出来るって。……無茶言うなって話だ。兄サンですら一体何人分のサンプリングの結果、今の状態になってるのかすら分からないのだ。私程度、木っ端みたいな扱いで所詮は創造者(フェイト)の気まぐれの産物でしかない。その運命の自由なんて、はじめから私たちにはなかったのだ。

 

 だから私は――――。

 

「…………私たち、UQホルダーの元に来ることはできませんか?」

「そりゃ()に気遣ってか? それとも兄サンに気遣ってか? ハン、どっちにしろ御免だね」

 

 私は、こんな私たちを生み出した運命を、この世界を否定する。

 でなければ誰も報われないし、私たちはなんのために生まれたんだって話だ。

 

 ただ…………。

 

「とりあえず仕事はしてやるよ。認めたくねーけど、でも、確かに兄サンの手料理っていうのは……悪くなかったから」

 

 私のその一言に、女はそれ以上何も言わなかった。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「痛いのは嫌だって言ってたと思ったから。だから――――精神をギリギリに追い込むよ」

 

 九郎丸のその一言に、私は恐怖以外の何も感じ取ることが出来なかった。

 午後、場所はスクラップの山が並ぶ廃材置き場。向こうでリサイクルの為か回収クレーンとかが動いているが、つまりは原作において近衛刀太が「瞬動術」の練習をしていた場所だということだ。

 

 そこで待っていた九郎丸曰く、気の修行というのは心身を追い込むことでその限界値を引き上げることに繋がるとのこと。かつて一月、デスマーチのごとく死天化壮(デスクラッド)を行っていたあの経験ではないが、それでも心身に無理を課すことでその限界値を引き上げるといういことだ。

 

「あの時って、課題のクリアを優先していたからね。時間もそんなにとれなかったし、僕も前より刀太君のことをもっと知ったつもりだから」

「あー、で何すんだ?」

「うん。刀太君がすることは簡単だよ――――そこで、いつもみたいに重力剣を膝に乗せて、座禅みたいな状態になって、ずっと『僕を見てる』だけ」

「…………」 

 

 僕を見てるだけ、のところに妙に力が入っていた気がするのはともかく。九郎丸が言うには、つまり姿勢を固定したまま、九郎丸が繰り出す神鳴流の技の数々の「寸止め」を体験するというものだった。

 

「刀太君、見切りは悪くないと思うんだけど、デスクラッド覚えてからちょっと疎かになってる気もしたし。技を実際に体感するようなのを味わって、ついでに見切りの力も上げるっていう目的があるんだけど、大丈夫?」

「…………痛いのは嫌なのだが。後苦しいのも」

「大丈夫! 僕も昔さんざん兄様にしてもらったけど、慣れてくると結構面白いから!」

 

 目をきらっきらさせる九郎丸のこの様子を見ると、どうやら昨晩の反動でテンションが跳ね上がっているというよりも、かつて兄にしてもらった修行を私に施せるというシチュエーションが嬉しくてたまらないといった様だ。そのハイテンションっぷりは大変可愛らしいものがあるが、実行される修行内容が私からすれば物騒極まりない。あの、一応メンタルは凡人なんですが?(震え声)

 

「慣れるまでは大変だけど、慣れたらまた別な修行に切り替えるし。あー、でも、ちょっと失敗したら御免ね?」

「だから物騒極まりねーんだって!」

「あ! 待って、えっと、『来たれ(アデアット)』!」『(久々の出番なのに扱い雑じゃないかな僕ー!)』

 

 思わず泣いて脱走しようとした私に「アデアット!」と小声で九郎丸。完全に変身するのではなくアーティファクトだけでも呼び出せるのか、神刀(なんか本来より小さい)を投擲具代わりにぶん投げて進路を塞いできた。動きにためらいがない。どうやら私を強くしようという意思もあり、テンションも上がってはいるのだが、昨晩のアレによって普段存在する精神のタガ自体は外れているらしい。真面目に恐怖以外何も感じないのだが……。それでも恐る恐る九郎丸の顔を見れば、まだ正気の色をしている。

 正気なのに話し合い通じないっていうのも中々のホラーなのでは?

 

 結局私が折れ、刃禅(オサレ)の状態で九郎丸が抜刀の構えをするのを見る。

 

「じゃあ、行くよ――――神鳴流・百花繚乱!」

 

 何が起こったかと言えば、私の鼻先やら目先やらにひゅんひゅんと風圧を伴うレベルの剣の軌跡が迫るというアレである。一種の達人のみに許された動きはいっそ外から見る分には美しいのだが、目を開けてる眼前1センチもない距離に実物の刃物が飛んでくるのは――――いや待て前髪切れた! 今ちょっと切れた!

 

 思わずのけぞる私に「ダメだよー」と技を一度止める九郎丸だが。いやお前、もっと神鳴流だと実体を傷つけない技とか色々あるだろ。いくら不死身だからって実際に人体を傷つけるような技を使うなっていう話なのだが……。それだと精神追い込みにならないよね? とにこにこ言う九郎丸には、Sの気配というより病んでるような気配を感じて、上手く切り返せない私である。

 

「大丈夫! 刀太君は僕に全部委ねてくれれば、悪いようにはしないからさ?」

「いや……、だからさぁ……」

「どうしたの?」

 

 踏み込めない。下手に踏み込むと次に何が飛び出してくるか分かったものではないという事情もあるし、九郎丸の内にどんな感情がどれくらい溜め込まれて(貯め込まれて)いるのか分からないのも大きい。甚兵衛の話ではないが、心の知恵の輪はちょっと失敗すると普通に刺される可能性もあるらしいので気が気ではない。八方ふさがり、夏凜風に言えばデッドロックと言う奴だ。

 言葉を選び、躊躇する私に。無邪気そうな笑みを向けてくる九郎丸。外見からは判りにくい地獄のような心理戦である。(真顔) しばらく膠着状態が続くかと思ったが、どうやら私の祈りが師匠にでも通じたのか、第三者の乱入で事態は動いた。

 

 

 

「ハッハッハー! そこまでにしといてやりなお嬢ちゃん! ソイツはまだ『心構え』ってのが出来てねぇ!」

 

 

 

 とぅ、とかヒーローっぽい叫びと共にくるくる空中で数度回転し、地面に降りて来る男。黒いシャツ、ツナギ、頭にはバンダナな長身の青年である。「だ、誰だ!?」という九郎丸の妙に純朴な反応が気に入ったのか、彼は大笑いして変身ポーズじみたのを極めた。

 

「ハッハ! 通りすがりの格闘家だぜお嬢ちゃん! ついでに言えば冒険家で、愛の伝道師だ!」

「愛の……? って、僕はお嬢ちゃんじゃないです!」

「お、そうか? さっきの見事な剣捌き、相手に対する深い愛がこもっていたと思ったんだが……」

「愛!? え、えっと、でもそれは――――」

「あー、そこのところデリケートなんであんま触れないでやってもらって良いッスか?」

「そうか? おー、まぁいいか」

 

 このあたりのさっぱりした気質は、原作からそのまま引き継がれていると見るべきか……。しかし初対面とはいえこのハイテンション、おまけに子供好きそうに私と九郎丸の頭をポンポンしながら大笑いする様は、一緒に居て妙な安心感を覚える。

 自称・格闘家、灰斗(かいと)。名乗られる前に私が知っている以上は当然原作においても登場する人物であり、しいて言うとこのスラム編におけるボスキャラのような扱いの人物である。後々の登場には恵まれなかったが、一回こっきりで消えるには惜しい存在感の人物であり、そして素晴らしいほどの脳筋信者でもあった。

 

 と、撫でてた手を放して突然私を指さす灰斗。

 

「それはそうとお前だ、イカした和服の坊主! 何だ、そこのお嬢ちゃんがあれだけ丁寧に見切りの練習をやってくれてるっていうのに。ゼータクもんだぞ? あれだけの練度の技をこんな間近で見れるっていうのは」

「だ、だから僕は女じゃ……」

「間近で見れるってのは確かにありがたいって言えばありがたいッスけど。でも正直、あんまり気が進まないというか…………」

 

 私の意図するところを直感でもしたのか「つまりエサは先に食べたい派だな?」とかいきなり言い出す灰斗。……いや何を直感したのか全く分からないのだが。とりあえず九郎丸の今の方法だと私に向いてないということだけは理解したのか、うーんと唸り出す灰斗。

 

「坊主たちは、刀を使うのか?」

「一応メインは。ただこっちの九郎丸が格闘技も使えるから、そっちも教わる流れかなって」

「へ? あ、はい!」

「そーかそーか。じゃあ……、俺も一枚噛める話だな?」

 

 ニヤリと笑った彼は、どうせだから現役格闘家の俺が直々に修行みてやるぜ! とハイテンションに笑った。

 こう何というか……、向こうから来てくれるとガバにならないで楽だね。(放心)

 

 

 

『(こんな流れだったのかな、あの時の刀太君も……、っていうより僕ってこんなだったっけ。あれ?)』

 

 

  

 



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ST32.名が体を表す

毎度ご好評ありがとうございます!
ちょっとカトラス系でアイデア?振ってきた関係で調整入りました・・・


ST32.The Name Represents The Body

 

 

 

 

『いいか? 男も女も関係ない、まずは勇気! 勇気があれば大体は何でもできる! 勇気をもって踏み込むことが大事なんだ! 男女の問題もな!』

 

 そんなことを灰斗に言われて蹴り飛ばされた覚えがあるが、その結果例の内面世界もどきに叩き落とされているのだから一切合切笑えない物が有った。あの程度で死にはしないだろうし外見上も胴体が消し飛んだりした感覚はなかったのだが、しかし意識自体は確実に刈り取られたことに違いはないらしかった。

 倒れる私を見下ろす影。白と黒のローブ姿は、やはりと言うべきか星月(せいげつ)を名乗った彼なのだろう。

 

『おーい、生きてるかー?』

「死んでたら色々と問題があるから、まぁ大丈夫じゃないだろうか? 一応、外見相応に手は抜いてくれてる気配はあるし」

『ならジョージョーだな、ジョージョー。正体バレてぶっ殺されないだけまだマシって奴だ』

 

 差し伸べる彼の手を払い、自ら立ち上がる。……しかし見れば見るほど妙な空間だ。散らばっているスクラップ群は何かしら家電とかだろうつるっとした造形をしているのだが、それが一体どんなものなのか一切判別がつかない。このあたり、私の中にある「スクラップ置き場」というイメージだけを無理に抽出しているようないびつさがあって、何故だか妙にげんなりとする。

 

『で、どうよ修行は。順調か?』

「わからぬ」

『いや、わからぬてさぁ』

「実際問題わからぬものはわからない。大体においてだ、私はロクに『気』というものが使えている気がしない」

『まあ魔力とかほどわかりやすくエネルギー化してるモンじゃないからなぁ』

 

 苦笑いする星月だが、実際たまったものではない。いかにガバがなくなるからとはいえ、灰斗の教え方でうまくいきそうなのは瞬動術のみ。他に関しては原作九郎丸からしてレベルを上げて物理で殴る要領(語弊)を用いて鍛えさせていた「気」であり、それは灰斗においても変わらない。むしろ血装術なしで彼相手に殴り合いをさせられているため、その戦力低下はだいぶ酷いものになっていた。

 

「正直逃げ出したい」

『おー、おー、酷ぇ顔しちまってまぁ……。夏凜ちゃんのおっぱいにでもパフって抱きしめてもらえばいいんじゃね? 少しは包容力につつまれてストレス解消になるだろ』

「うん」

『うんとか言ったぞコイツ!? どんだけストレス溜まってるんだよ! というか普段気にしまくってるガバじゃねーかそれ!』

 

 正直、いっぱいいっぱいである。というより原作主人公がいかにめげない精神性をしていたかを思い知らされていた。こういうのはのど元過ぎればというのもあるかもしれないが、私に限って言えば毎度毎度精神的にも死ぬ思いである。

 もういい加減色々と限界で、いっそ夏凜に全部委ねてしまうのが一番楽かな? と思い始めている自分がいた。大河内さんとはまた全然違う気質ではあるが、そう悪いようにはしないでくれるのではないだろうかという期待がほんのわずかに出て来て……。

 

『落ち着けー! そっちは沼だぞ! 全員ドロドロの復帰不能なやつ!?』

「うん」

『うん、じゃねーんだよ! オイ相棒、持て余してるならもうちょっと待て、な? アレだろ、キリヱ出てからなら多少は欲出しても大丈夫だから、な?』

「持て余してる以上に、癒しが欲しい」

『重症だな…………。アレか、どういう方向で能力を創るというか調整するというか、どうしたら良いかって新しく見当がつかないのが悪いわけか。俺に対しての警戒も完全に消し飛んじまってるし……(()がどうこう出来る話でもないし……)』

 

 スクラップ山に寄りかかって悟りの境地に至りかけている私に、星月は冷汗を垂らしながらぶつぶつと何かを検討している。彼の言っている「どういう方向」にしたら良いか、という点は中々的を射ていて、実際それがないからストレスが溜まっていく一方というのは事実だ。なにせかつての修行ですら、天鎖○月(オサレ)があるさ月牙天○(オサレ)ある、の精神で乗り切っていたところがある。血装術での再現という形は予想の中では悪い方だったが、九郎丸の傷のお陰で実運用上問題がないフェーズに来たと思っていたのだ。

 それが早々に「死に易いからダメ」というこの扱いである。お手上げであるし、どうしようもないという意味では限界値そのものだった。

 

「ままならぬ」

『そりゃこっちの台詞なんだが…………。あー、じゃあアレだ。BLEAC○(オサレ)原作で、相棒が使えそうな奴をピックアップでもするか?』

「ピックアップしたところで、一番痛くないのが死天化壮(デスクラッド)と血風の運用なのだから限界があるだろう」

『だから次点を探すって話じゃねーか、やっぱワガママだなぁお前……。夏凜ちゃんにどうこう言えないくらい面倒くさいぞ』

「うん」

『重症じゃねーか……』

 

 仕方ねーなと言いながらも、星月は○LEACH(オサレ原液)らしきコミックスのようなものを取り出しながらパラパラとめくり(何処から出した私に読ませろ)、いくつか案を提示していく。提示した案は地面に足で書いていくのだが、いやしかし妙に早い早い。

 

・遠近両用な刀の形をした弓術剣術入り交じり主人公○護(チャン一)スタイル ←今コレ

・左右の腕で攻撃と防御とを分離して意志を通すチ○ド(初代OPでも最初に消えてる)スタイル

・力自体を完全に体外に分離して攻防応用する織○(ピーチ姫)スタイル

・完全に遠距離特化として力を放出して使う雨○(許されざる)スタイル

 

『バリエーションでいったらこんな所か? 何だ、意外と揃ってるじゃねーか』

「揃ってると言われてもな…………。何で主人公のパーティ系なのだ?」

『そりゃ俺側の実装難易度だよ。で、俺のオススメはチャ○スタイルかな? って思うんだけど』

「○ャドには悪いが縁起が悪いんだよなぁ……。すぐ負けそうというか、この世界だと死にそうだし。というかそんなに実装簡単なら、妹チャンにしてやれって話だし」

『妹チャンって言うと、あー、カトラスか。とは言ってもなぁ、あっちって相棒ほど「扉」の強度が強くねぇんだよな。そもそも万能「鍵」がないとどうしようもねーし』

「……万能、鍵?」

 

 あっヤベ……、とか言う原作主人公らしき姿をした星月。明らかにごまかす様に笑いだしているが、それってちょっと待て。お前それ、この世界で鍵で万能ってお前……、いわゆる「ネギま!」終盤のチートアイテム筆頭こと「造物主の掟(コード・オブ・ライフメイカー)」とかいう奴なのではないか? 大概の不可能を可能にしかねない作劇崩壊必須の劇物、現在そのグランドマスターキーは火星においてある人物が安定/封印のために使用しているがさておき。

 原作でも雪姫自身の精神やら肉体やらの封印にそれっぽいものを使っていたようないなかったような気がしないでもなかったが(うろ覚え)、ちょっと待て、それが金星の黒と火星の白を使いこなすのに必要だと……? カトラスたち兄妹たちのデータ必要ないじゃねーか!? それ以前にそれが私の中にあるだと? どの種類だ、どの鍵だお前、ちょっと待てそんな話原作であったかお前!?

 

「…………というか、本当にお前、私の潜在能力的なサムシングなんだよな」

『あ、当たり前じゃねーか。そう怖ぇ顔すんなって……(やはり()模倣(ロール)では限界があるか)』

 

 何かボソボソと言っていた気もしたが、現状これ以上の情報引き出しは厳しそうだと判断できる。ため息をついて追及をやめると、あからさまにホッとした顔の星月。お前、せめて○月(1000年前の知らない過保護なオッサン)的な振る舞いをするならもっと謎めかし方上手にしておけ。風情ある振る舞い(オサレ)初心者か? まぁ初心者なのだろうが。

 しかし全くもってそれは想定外すぎた。……ひょっとするとこの自動回天とかもそのせいで発生していたりするのか? だとすると黒棒の言っていた違和感みたいなものにも色々と符合するのだが。つまりは私の意を汲んで「それっぽい」能力の実装に貢献しているということか。実際細部の調整はこの正体不明の星月がしてるにしてもだ。

 しかし私の内に元々それがあるとなると、ひょっとしなくても原作主人公にも……、いや考えすぎか? そもそも私が入ってる時点で世界線が違うから、多少の変化はあると見るべきか。流石に私のガバではないとは思いたいのだが、そこのところどうでしょうかね師匠? とはいえ意識的に使えてるわけではないので、そうそう簡単な代物ではないのだろうが……。

 

「そうなると今後は…………、アスタリスクの意匠もどこかに取り入れる必要があるのだろうか」

『いやまず最初に検討するのがそれって何なんだヨ!』

 

 星月のツッコミに真顔で「いやこれ重要」と答える。○LEACH(オサレ)原作においてアスタリスクとはアニメ第一期OPを示すだけの単語ではなく、それこそ「神」というか「全能」を示す意匠に等しい、はずだ。神の領域を侵す織○(井上ちゃん)盾○六花(オサレ)は元になったヘアピンの意匠自体がアスタリスク。死神(オサレ)○却師(オサレ)(オサレ)ときて完○術(オサレ)に目覚めた○護(チャン一)月○(オサレ)もどきはアスタリスクの状態こそが最強。Y○VH(知らないのに知ってるオッサン)の意匠も十字よりはアスタリスクを基調としてるし、逆説的に神に届かなかった藍染にはその意匠自体が与えられていない。全体としてアスタリスクという意匠に対する取り扱いの重さが伺える。

 それに倣えば、すなわち潜在的に何でもできる(かもしれない)私においてもそれを取り入れるのは吝かではない……が、いやこれ自分で考えて取り入れると、それはそれでダサい(低オサレ)か? ままならぬ、どうするべきか……。

 

『いやまぁ、何でも出来るって言えば何でも出来るだろうけど、相棒別に世界支えられる程何でも出来る訳じゃねーし、やめとけば?』

「……それもそうか、実際何度も死んでるのだから。しかし、多少は元気が出たとはいえ話は振り出しに戻ったのだが…………」

『いっそ、血装術はそのまま使ってしまえば良いんじゃね?』

「外に出したら死ぬから止めろと現在言われているのだが」

『だから、出さなきゃいいんじゃない?』

 

 星月のその一言に、私の脳内のBLEAC○(オサレアーカイブ)が走り閃く。つまり…………。

 

「…………血装(ブルート)?」

『音はともかく字は一緒なんだよなぁ……』

 

 苦笑いする星月に、しかし私は天啓を得た思いだった。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 格闘家を名乗る灰斗さんの指導は、僕なんかよりはるかに的確だと思った。

 実際、気の運用については僕のようにどっちつかずなことをしていないせいか、その造詣は深い。見せてもらった瞬動一つとっても、明らかに僕よりも踏み込みが深くそして鮮やかで、なにより敏捷だった。

 例えると、僕で1秒につき一回程度の踏み込みなのに対し、実演した彼の踏み込みは1秒につき十回は優に超えていた。

 

「す、すごいです……! どうしてそんなに早いんですか!?」

「九郎丸も結構テンション上がってるなー。いや実際スゲーんだけど」

「ハッハッハ! 褒めろ褒めろ子供たち! 褒めれば褒めただけ俺は喜ぶ。調子に乗ってもっとすごくなる!」

 

 びゅんびゅんと目で追うのがやっとの反復横跳びをする彼に驚く僕だったけど、気の基礎訓練に関しての話はものすごく手堅かった。両腕を組んで刀太君を見た彼は、「恐怖心だなぁ」とため息をつく。

 

「坊主はアレだな。傷つくこと、痛いことに恐怖心が強いな? それも多分、並々尋常じゃないくらい。いまいち一歩の踏み込みが足りねぇ」

「へ?」

「いや、フツーはそうじゃないっスかね。痛いのは嫌でしょう」

「ただ単に生きてるんならそれで良いんだろうが、それじゃいけねぇ。いけねぇんだよ。そんな修行してる最中じゃ、絶対に必要なものが出て来る。何かわかるか?」

 

 疑問を返す僕らに、彼は真顔で、一切恥ずかしがらずに言った。

 

「――――勇気、だ」

 

「「勇気……」」

  

「いいか? 男も女も関係なく、まずは勇気! 勇気があれば大体は何でもできる! 勇気をもって踏み込むことが大事なんだ! 男女の問題もな!」

 

 という訳でレクチャー飽きたからスパーリング行くぞ! と立たされた刀太君。僕は手を出すなと言われたので、いつかの甚兵衛さんの時のように見稽古みたいな状態だった。

 

「殺しはしねーけど、結構本気で行くからな? お前の筋肉の付き方とか身のこなしなら、ギリギリを見極める一歩が打てれば絶対に対応できる。勇気があれば、お前さんは今の何十倍も強くなれるってことだ」

「そんな精神論ばっか言われましても……」

「精神論だけじゃねぇ。どんなに鍛えて強くなったとしても、最後の最後はやっぱり前進する強い意志が必要ってことだ。よくヒーローだって言うだろ? 『わずかな勇気が本当の魔法』だって」

「…………それ、誰の言葉ッスか」

「知らねっ! ただ俺が昔、直に聞いた言葉の中じゃあ一番上等なモンだと思うがねぇ。ヒーローっていうのは逃げちゃいけねーらしいからな!」

 

 ホラ行くぞ! と。そこからの動きは熾烈極まりなかった。デスクラッドを展開しない刀太君は、重力剣をそう重くはせず、いつかのように左手を腰に入れて右手の動きだけで灰斗さんの拳や蹴りを受けようとしている。でも、やっぱり所々追い付いていない……、というより「引け腰」なせいで、丁度受けられるタイミングを逃して無駄にダメージが溜まっているように見えた。

 

「手加減してる訳じゃねーだろうけど、なんか思ったように体が動いていない感じだな坊主!」

「確かに手はあるんスけどね! でも体に無茶がデカいみたいな理由で使うんじゃないって制限されてるもので!」

「ホウ、そりゃ言ってくれたのは良い女じゃねーか! 大事にしなァ!」

「三人いるんですけど!」

「スケコマシじゃねーか!? オラ女の敵!」

「いや、そもそもそういうんじゃ――――ひでぶっ」

 

 蹴り飛ばされた刀太君は、そのまま気絶したのか白目をむいて動かなくなった――――ってやりすぎですよ!? 思わず叫んで駆け寄った僕に、灰斗さんは「やっぱ良い女じゃねえか、これが三人か……」とちょっと複雑そうな顔をしていたけど。女じゃないと彼に言い張るよりも、刀太君の方が気がかりだった。瞳孔は開きっぱなしで、呼吸は安定してるけど足がけいれんしてる。これは……、ま、まずいのでは?

 でも不死者の再生力のせいか、抱き起してしばらくするとけいれんは収まったし、瞬きをして僕の顔を見た。

 

「…………近くね?」

「へ? あ、いや、そ、そうかも! うん、ごめんね!」

 

 間近にある刀太君の顔を思わず凝視してしまい、身体全体が熱くなった。……こうしてみると、不思議と刀太君が僕を見る視線は「仕方ねーなー」みたいな、なんとなくこちらを受け入れてくれるようなものだった。その深さというか、安心感というか、そんな雰囲気に思わずドキリとして、何故か焦る。……い、いや、だって僕は男だし、刀太君はそう! 友達! 友達なんだから、こんなヘンな汗かいたらおかしいよ僕……!

 と、刀太君は僕の頭をぽんぽん撫でて立ち上がり、灰斗さんにまた向かって行った。灰斗さんは彼の顔を見て、少し楽しそうに笑った。

 

「お? なんか気絶して良い案でも出たか? それとも腹を括ったか」

「……まぁ案というかは出たんで、後は実践で慣れるしかないかなーっていうか。俺、なんとなく目標と言うか完成形のイメージなく延々と作業するのって、どーも嫌みたいで。そのことに気づいた感じっス」

「おー、そうか。まー確かに、どんな技になるとかどんな形になるとかイメージ全然ねーと身が入らないってのはあるよなー」

 

 じゃ、来いよ、と。カンフーみたいなポーズを決めて掌でチョイチョイと招くように、あるいは挑発するようなポーズをとる灰斗さんに。

 刀太君は右手を心臓の傷に当てて「ま、名づけるなら……」とこう続けた。

 

 

 

「――――内血装(ブルート・インテルノ)

 

 

 

 見た目は何か変わった訳ではないけれど。ドクン、という心臓の強い鼓動音を、僕は聞いた気がした。

 

 

 

 

 



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ST33.ヤミトムキアウ

毎度ご好評ありがとうございます・・・!
色々手間取ってこの時間と相成りますェ


ST33.Face The Trauma

 

 

 

 

 

 星月との適当な会議(現実時間の100分の一程度の時間しか経過しないとか言っていたが半信半疑として)の結果、体内の血装は色々と制約があることに気づいた。まず第一に血管を経由する以上、あまり無茶な血流は全身の酸素/二酸化炭素のサイクルを崩壊させるどころか生命としての瞬発力や生き残るためのエネルギー、すなわち「気」そのものの運用に差支えが出るということだ。

 つまりギア2(最近だと影の薄い心拍増強系)やらといった類の能力方向に使うと、おそらく未曽有の激痛が私の体内を襲うことになるということである。

 

『そうなると体内に血装術を使うとして、どういうことが出来るのだろうか。手首や爪先から血風を放つわけにも行かないだろうし』

『お前は何を目指してるんだ相棒……。まーそうだな。今、気の運用を学ぼうとしてるだろ? 相棒自身が気を感知できないにしても、ある程度は使えてる訳だし。それを補助する方向とかどうだ?』

『例えばどういう形だろうか。咸卦法(かんかほう)を使えるならそれが一番簡単ではあるのだろうが』

『かんかほう、ってアレか。「魔力」と「気」を同時に運用して太陰道/太陽道の双方を掌握して使う奴。まー理屈としちゃ近い話にはなるだろうが、お前さんの場合は色々もっと酷ぇ形になるぜ。相棒、血装術に関しちゃ才能あるけど気についちゃてんでアレだし……(たぶん調整(ヽヽ)に失敗したんだろうが……)』

 

 酷い形とはどういうことかと聞いた結果であるが、現在、灰斗(かいと)の攻撃をかわしている状況を見れば一目瞭然である。体内に循環させている魔力が、超高速で行ったり来たりしている状況に身体の方が振り回され、強制的にエネルギーを「絞り出している」ような現状をみれば。

 キックボクシングの要領で蹴りを叩き込んでくる彼のそれを、無理やり両腕で迎撃している私に、灰斗は顎をあんぐりさせた。

 

「こりゃアレか? お前、心臓の動きをいちいち1アクションごとに強弱変えてるとかか!? そうでもなきゃこんな変な、瞬間的に気を強めたり出来ねぇだろ! マジかお前、それヤベー脳みそ筋肉みてーじゃねーか!」

「灰斗の(アン)ちゃんに言われたかないッスよ! 明らかに俺の身体能力とか見た目だけで一瞬判断してるじゃねーっすか!」

 

 やってることとしては、全身の血の流動自体に血装術を用いて「干渉」し、魔力の循環速度を要所要所で上げているといったところか。そして無理やり血管を経由して内部の魔力を瞬間的に底上げすることで、それに揺り動かされる形で「気」が私の身体を「破壊させないために」、要所要所のタイミングで増加されているような形である。このあたりは身体的な限界を超えた瞬間に「気」が生命の危機に応じて発揮されているので、いわば魔力を用いて無理やり気を「補助輪」のように使っている状態に等しい。

 

『かんかほう、だと本来は「気」と「魔力」は一対一だが、今回相棒が出来そーなのが、「魔力」で「気」を従属させるみたいなやり方だ。究極的には毎回筋肉のリミッターを外す感じだから、まー「金星の黒」がないと出来ない無茶だわな』

 

 つまりは「気」自体を感知して使えないのなら、「魔力」を使って無理やり数値化して使ってしまえ! といった感覚である。力業は酷く風流さがないもの(低オサレ)だが、現状それが最速だし、血流自体に影響が出ていないので痛くない。痛くないは全てに優先されるので、私としては一番楽に等しいのだ。……ちょっと胸元と背中に血が滲んでる気がするがそれは置いておいて。

 

 灰斗の言葉を聞く限りにおいて、私自身は気そのものは全く使っていない訳でもないらしい。ならば、ということで無理にそれをわかりやすく使うための方法だ。……我ながら不死性頼りだし二度手間だし、理屈から言って車輪の再発明のようなそれである。なおその話を星月にしたら、がーっと顔を真っ赤にして叱られた。

 

『無駄じゃね?』

『煩せぇ! 大体相棒が全く直感的に覚えるものを覚えられねーのが問題なんじゃんか! 少しは毎回技の理屈と案考えて実装してるこっちの身にもなりやがれ!』

『自分の潜在能力に叱られる大本とかどうなのだろうか……』

『……まあ今は補助輪みたいなものだから、そのうち相棒が気自体をちゃんと察知できるようにならねーと話にならないからな? ちゃんと分かれよそこは』

『分かってはいるがどうにもな……』

 

 それはともかく、しかし実はメリットもなくはないことに話していて気付いたりもした。

 

「確か、こうだったっけ九郎丸――――!」

「えっ!?」

 

 意識的に魔力で右足に力を無理やり集中して蹴り飛ばすと、それに引きずられる形で「無理やり」気が足に集中し、靴の全体に体重を乗せて直線的に「跳ねる」。

 そのままの勢いを用いて黒棒で殴りかかる私を、灰斗は「地面を掴むように」その場に静止して受け、その一撃の威力を完全に「地面に逃がす」。曲げた膝を再び伸ばして私を弾き、腕を組んで大笑いした。

 

「はっはっはっ! 全然踏み込み出来ちゃいねーなお前! でもさっきと比べりゃ見違えたぞ! ちゃんと『瞬動』っぽい動きにはなってるし」

「基本的な話は九郎丸に聞いてたッスからね」

「ほぉー? ……うん、やっぱスケコマシか」

 

 もう一発くらいぶん殴っとくか? とか言いながら肩を回す灰斗に「いや待って待って違うッスから」と返すしかない私であった。

 

 メリットとしてはつまり、感覚的に理解できるものに置き換わることで、原作で話されていた理屈を直接応用することが出来るということだ。瞬動術に関しても、原型的な部分の講義は以前に九郎丸から受けているので、それを応用できる機会がようやく巡ってきたといった状態である。間に魔力のクッションが入るが、つまり「気を集中して全力で蹴り出す」くらいの動作が「魔力をぶん回して足に負荷をかけた状態で全力で蹴り出す」くらいになるということだ。

 笑っていた灰斗だが、飽きたのか一瞬真顔になり、私と九郎丸双方に指をさした。

 

「だがお前ら両方ともなっちゃいねぇ! 土踏まずを使おうって努力は見られるが、全然力を地面に逃がせてない!」

「は、はい!」

「いや九郎丸、素直かお前……」

 

 反射的にか背筋を正して声を張り上げる九郎丸に思わずツッコミを入れてしまったが、しかし変な構えをしながらも灰斗のレクチャーはやはり堂に入っていた。……というより言葉こそ感覚的だが、説明自体は意外と理屈っぽい。

 

「見たところ坊主の方は『身体に応じたパワー』の出し方は問題ねーが、嬢ちゃんの方はそのパワーが足りないまま気のコントロールだけ十分だと見た! だがそれはそれでまだまだ上達が見込めるってことだ。専門外だが受け流しとかにも応用できんだろ」

「いやだから、僕は男――――」

「えーっと、『身体に応じたパワー』ッスか?」

 

 私の疑問に、灰斗はクラウチングスタートのような姿勢をとる……、って足を伸ばして中途半端な姿勢だというのに一切震えがないのが恐ろしい。酷く鍛え上げられているのが一目でわかってしまう。完全に私とかとは別の人種だ、鍛えるのを楽しめる民族なのだろう。(語弊)

 

「格闘家の視点で言えば、『気』の運用っていうのは『身体の器』をどこまで、どう使えるかっていう技術だ。いくら『気』だけ強くったって、器の方がついていかなけりゃあっという間にぶっ壊れてオシマイだ。だからこの身体でどれだけの力を出せるかっていうのが重要になってくる。その器が出せる力の上限と下限を見極めて、一気に出したり切ったりを切り替える、あるいは出しっぱなしにしたり切りっぱなしにしたりってところだな」

「お、おう……」

 

 思いっきりそれに違反する方法として内血装を考案した私と星月なので、ここは言葉を濁しておく他なかった。

 

 砂煙と音と共に一瞬姿を消した灰斗だが、明らかにえぐれた地面の角度からして上空に行ってしまっているのか……、上を見上げれば「虚空」を蹴り「瞬動術」を使っている灰斗の姿がある。落下の仕方がライダ○キックな状態だとツッコミを淹れそうになりながらも、黒棒を構えて受けるような姿勢をとった――――。

 ドン、という音とともに彼の足が黒棒にのしかかる。……なるほど、確かに「受け流せていない」のは理解した。明らかに足の筋肉と骨にダメージが入っている。というか痛いぞこれ!? 明らかに内出血してそうな嫌なダメージの残り方だ。思わず転がる私を介抱する九郎丸に「今の状態がそれだ」と灰斗は言う。

 

「このあたりセンスもあるだろうが、今の正解は俺がどれだけ力をかけているか、かけていないかを見極めるってハナシだな。今、刀を蹴る前に、逆に『虚空瞬動』使ったから本当ならダメージは入らないはずだ。なのにお前の足に負荷がかかったってことは、それは『受けるイメージに合わせて』気を無理に使って足に踏ん張りをかけたからってのに他ならない。受ける前に『気』だけはやっちまったからそれが出来ない、つまりコントロール出来てねぇってことだ。

 嬢ちゃんの場合は逆に、『気』の習熟が早すぎて、もともとの身体の限界の見極めが済んでねぇように見える。あの剣戟はまー見事っちゃ見事だったが、きっとまだまだ体に負荷かけても大丈夫なはずだ。つまりアレだー、型にハマりすぎちまってるって感じだな」

 

 以前言われたことがあります、と九郎丸。確かに話の前提は違うが、型にはまって素直すぎるとは甚兵衛あたりからも指摘はされていたか……。

 

「痛て……、いや、それってどーしたら良いんスかって」

「その、恥ずかしながら僕もどうしたものかという……」

「まー、難しいっちゃ難しいだろうなー。完全初心者に仕込むならいざ知らず、お前ら両方ともある程度の型は出来ちまってるから。今更無理に矯正すると、それはそれで不都合も出るだろうし。

 だが――――瞬動に関しちゃ別だ。お前らはまだまだ、コイツの奥深さを知らない。入り口に立ったままのひよっこ共だ。というかひよこだひよこ」

 

 一瞬脳裏にヒヨコなコスプレのスカカードっぽい九郎丸のデフォルメ姿が浮かんだ私であったが、そんな可愛らしい絵面はともかく。

 サンダルを脱ぎながら、灰斗は片足を上げて指をぐわぐわ自由に動かす…‥っていや待て、どれだけ柔らかいのか。足の小指とか親指ってそこまで自由に関節をまげて動かせるものなのかそれ!? 原作でもそれとなく説明はあったが、明らかに実物の映像で見ると気持ち悪さが勝つレベルである。

 

「まず最初の時点で足を地面にきっちり接地させる。この時、土踏まずも含めてきっちり体重全体を足の裏にかける。ここから体重移動の瞬間に指を曲げてやって、一瞬『二重の衝撃』みたいな形で移動するベクトルを無理に曲げてやるんだ。お前らはまだまだ足の全体だけで体重のやりとりをしてるから、そこにクイッとひと手間加えてやるわけだな」

二重の極み(フタエノキワミ)?」

「あん? 何だそれ、何かの奥義か何かか?」

「いや、そういう訳じゃないんスけど……」

「体重移動の瞬間に、なるほど……」

 

 九郎丸はどこか納得した様子だが、このあたりはむしろ剣術を前提としているとやや縁遠い話なのかもしれない。前提として剣術の場合、すり足での動作は土踏まずをきっちり離したまま安定する必要があったはずだ。いかに足を動かすかという意味において、と雪姫からそんなレクチャーを受けた覚えがある。

 つまり九郎丸は今回、ある意味異種格闘技戦のような技術吸収になりそうだなこれ……。

 

 というか話を聞いて背筋を正してる九郎丸の雰囲気が、病んでる気配が全て消し飛んでいるような感覚で個人的には有難かった。

 

 その後、ほぼ原作通りのノリで「まずは足を柔らかくするために、手での動作を足で代替えしてみろ」という話になり、本日は一度解散となった。

 笑いながら立ち去る灰斗の背中を見ながら、九郎丸は何度かレクチャーの内容を反芻している。律義な…………。そして私の方を見て、どこか控えめに聞いてくる。

 

「その、刀太君……」

「何だ? ずっとお嬢ちゃん扱いされてて嫌だったか?」

「いやそれはあんまり気にならな―――――じゃ、なくて!」

 

 笑いながらツッコミを入れて来る様子は、いくらか暗い雰囲気がとれている。ふむ……? 不思議な話だが、灰斗の講義に何か思う所があって、吹っ切れでもしたのだろうか。

 私の疑問はともかく、九郎丸は一瞬両手を握り、意を決したように聞いてきた。

 

「灰斗さん、さっき言ってたよね。何事も勇気が必要だって。小さな勇気がホントの魔法だって」

「ちょっと違った気もするけど、まー大体そんなもんじゃなかったか? で、どーしたんだよ」

「僕も、うん……、このままじゃいけないって思って。だから、少し勇気を出してみようかなって」

「?」

 

 私の胸元に手を当てて、九郎丸は謝った。

 

 

 

「ごめんね、刀太君……。君のここにつけた傷は、きっと、これから君を殺しかねない傷だと思う」

 

 

 

 以前、黒棒からも指摘された話だが。思いつめた表情の九郎丸に、私はかける言葉が見当たらなかった。

 

「甚兵衛さんに言われるまで全然気づかなかったんだ。この傷は、もし君の不死性に何かしら影響を与える攻撃が加わったら、君を、殺し続ける傷だって。ずっとここに刀が刺さったような状態のそれだってことに」

「…………」

「ごめんね。本当に。只でさえ君を、こんな死と隣り合わせの世界に引き込んでしまった……、僕のせいで……、なのにおまけに、未だ君を殺し続ける傷を負わせてしまって……。こんなの、謝って済む話じゃない」

「…………」

「僕が死ねばそれで解決するならそれでも良かったんだけど、きっとこの傷は僕の内の神刀の、ヒナちゃんの力が影響してしまったものだから…………。力を使いこなしていない今の僕がいくら死んだって、きっと君を元には戻せないから」

「…………」

「責めてくれても良い。殺してくれても良い。君の気が済むように……、今すぐじゃなくても良いから、だから、僕を――――」

 

 

 

「…………いや重いわ」

 

 

 

 思わず漏れた私の素の感想に「へ?」と、きょとんとした顔をする九郎丸。

 いや、確かにその話は重要な話だし、気にはしているのだろうと思ってはいたが、そうかそこまで思いつめる話だったか……。ひょっとしなくても今までの病んでいる雰囲気は、ここに端を発していたのか?

 そうか、なら「殺した責任」という言葉の受け止め方もまた違ってくるのも頷ける。……あくまでそれっぽい言い回し(オサレトリック)を取っただけだったのだが。

 

 だが、そこに問題があるというのなら、私として返す言葉は決まっている。無理に取り繕えば、おそらくそれは相手にも伝わってしまうだろう。だから本心から、しかし素を出さない程度にだ。……そう考えるとますます、九郎丸や雪姫すっとばして、一切吐露していなかったろうこの「根っこ」の部分に気づいた夏凜は本当におかしい。(断言)

 

「正直、恨んでるかって言えば、あー、感情が追い付いてねーな」

「追いついてない?」

「上手くは言えねーんだけどさ。それこそ熊本時代から、俺自身に何かありそーな感じはしてたっていうか。カアちゃんみたいな美人があんな片田舎に来てるのにも違和感あったし、なんとなーく、一人で生きていく力みたいなもんがないと拙いよーな気はしてたって言うか」

 

 流石に原作知識を明かすわけにもいかないので、ここは濁しておくしかないのだが。

 手を夕空に伸ばしながら、回想しながら私は続ける。

 

「だからまー、早いか遅いか、くらいの話なんだろうって感じたのが正直なところじゃねーかな。そういう意味じゃ、むしろ血装術使うに関しちゃ、この傷のお陰か全然痛くねーから、むしろ感謝してるくらいだし」

「でもそれは……!」

「別にアレだ、『良かった探し』してる訳じゃねーからな? なっちまった今の状況を肯定するために、良い所を探してるって訳じゃねーし。……それに、妹チャンだ」

 

 カトラスちゃん? と頭を傾げる九郎丸。いやお前までちゃん付けで呼ぶのか、アイツまーた変な顔しそうだな……。流石にこれ以上はドン引き様もないとは思うが、嫌そうな表情を浮かべる姿を幻視した。

 

「やっぱどーもさ、前々から感じてたそれじゃねーけど。何かやっぱ、俺自身の出自にも色々あんだろうってのは、思うっつーかさ。だから本当に『こういう場所に巻き込まれるのは』、早いか遅いかの違いでしかなかったかもしれない」

「だけど……、でも、刀太君は嫌なんだよね? さっき灰斗さんも言ってたけど、痛いのにすごい抵抗があるって…………」

「そりゃ、嫌だよ。別にマゾじゃねーし、どっちかというとサド側じゃねーかとは思ってるけど、ってヘンな話になってくるからそれはともかく……。

 だけどさ……、アレだ。どれだけ痛くったって、たぶん俺にしか出来ないことがあるから、俺は今の立場にいるんだと思うからさ。――――そういうのが、俺が何もしない理由にはならねーんだ」

 

 拳を握り、断言する。そう、○護(チャン一)だってそうなのだ、たとえどれほど敵わないくらい強大な相手でも、それにどれほど自分が傷ついても、それに立ち向かわない理由にはならない……、灰斗風に言えば、それが勇気なのだろう。とはいえ私は、あくまでそれっぽい(オサレ)模倣(ロール)でしかないから、究極的にはその勇気すら足りていないのだろうが。それでも、幸か不幸か原作主人公の立場である。逃げれば世界は滅びるだろうことは、くしくも九郎丸本人が――――未来の九郎丸本人が、その証明になってしまっているのだから。

 ならば、文句を言いながらも、泣きながらでも、私も足を進めるしかないのだろう。

 

 

 

 これを諦めかと聞かれれば、確かに諦めなのだろうが……。

 

 

 

 息をのむ九郎丸に、私は「だから気にするな」と笑いかけた。

 

「それでも気に病むっていうのなら……、最後まで、一緒に戦ってくれよな。『相棒』」

「あ――――うん、うん……!」

 

 差し出した手を、九郎丸は泣きながら握り返し……、いや待て、内股でそんな笑顔を浮かべるな、まるで恋する乙女のそれじゃないかちょっと待てお前、原作この時点でそこまで好感度跳ね上がったりしてなかったろどうした一体!? 病んでた反動か何かか、いやちょっと待て今更訂正できないし仕様もないし、闇のオーラ一歩手前よりはだいぶマシなことこの上ないが、これってちょっと……、あれ? 大丈夫か?

 ちょっと誰か相談できませんかねぇ師匠。

 

 

 

『(やっぱり優しいなぁ刀太君……、って、それはともかく、ひょっとして皆、僕がいること忘れてたりしないよね……? そろそろ時間だと思うけど)』

 

 

 

 

 

 



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ST34.心のドアは如何か

毎度ご好評ありがとうございます・・・!
今回ちょっと懐かしいかもしれないアレです(?)


ST34.The Gate of The Heart

 

 

 

 

 

 後日、足の訓練について夏凜から徹底的に嫌がられた。お説教タイムである。

 

「衛生的に非常にダメです。毎回毎回洗うようなことは出来ないでしょう? 刀太はともかく九郎丸まで。しばらくは黙っていましたが、そろそろ限界です」

 

 大変にごもっともであるが、このあたりは原作通りの修行なので難しい所がある。

 住宅施設が連なる一時避難先、屋上。腕を組んだ夏凜に正座する私と九郎丸二人は見下ろされており、全く頭が上がらなかった。

 

 灰斗の修行案として、つまりは日常生活のそれを、すべて手ではなく足で行えるようにする――くらいの柔軟性を身に着ける、ということだ。扉を開けるのも歯を磨くのも、料理を作るのも料理を食べるのも、遊ぶのだって足でやる、といったところ。……流石に料理を作るのは「危ないですよ!?」という忍の指摘に我に返って手でやりはしたが。

 実際面白がって、例のルキをはじめとした何人かの子供たちも一緒になって足を使い始めているが、私の側から注意するわけにもいかないし、九郎丸も「僕が率先してやってるから注意しても説得力ないよー!」と涙目である。

 そこで早々に叱り始めたのが夏凜なので、私も九郎丸も何一つ弁明が出来ないでいた。むしろ忍がフォローに入ってくる始末であり、カトラスは白い目で私と九郎丸の有様を見ていた。

 

「せ、先輩たちも頑張ってますし……」

「こういうのは甘やかし所ではありません、忍。まあ腕が上がるのなら問題はない、と言ってあげたいところではありますが。時と場所は考えなさい。真似した子たちが怪我をしたらどうするというのです」

「弁明の余地がないッス……」「ごめんなさい……」

「カトラスちゃんも真似し始めたらどうするのですか」

「いやしねーからな!? アンタ、俺のこと何だと思ってるんだ!」

「そうですか? 九郎丸から原理を聞いてた時に靴を脱いで親指を――――」

「あーやめろストップ! ストップ! べ、別に俺そーゆーの全然必要ないしっ」

「カトラスちゃん慌てるとますます……」

「ユウキシノブ、黙ってろ!」

 

 慌てているカトラスだが、実際問題あちらも私と似たような状況なのだろうから、「金星の黒」と「火星の白」に加えて当人の魔力、および気のバランスがしっちゃかめっちゃかなはずだ。少しでも何か吸収できるものがないかという貪欲さは、この先、生き残るために必須なそれと言えるかもしれない。

 実際こっちの妹チャン本人がどんな末路を辿るかについては関知しないつもりだが、出来れば穏便に済ませて欲しい所である。料理を毎回なんだかんだで一番きれいに完食してる様を見ていると、どうしても情が湧いてしまうのだった。とはいえそんな私の視線を、カトラスは鬱陶しそうに睨み返してくるのだが。

 

「修行案については私も何か考えましょう。しかし……、それだけの『気』の使い手がぽんぽんこの場にいるというのもおかしな話ですね。部下たちに後で調べさせましょうか」

「それは……、そうですね。僕、頭が回ってませんでした」

「まあ貴女は直前までそんな余裕もなかったでしょうし、そこは目を瞑ります。しかしその修行とやらを始めて一週間ですか……。ふむ」

 

 と、夏凜は忍に下へ降りるよう指示を出して、こう言った。

 

「実際、どの程度使えるようになったか、みてみましょう。まず刀太から」

「マジっすか……。いや、血装全然使えないと太刀打ちできる気、しないんスけど……」

「私も『神聖魔法』は今回ナシにします。今できるのを、出来るようにやってみてください」

 

 だからそう優し気に微笑まれると色々と来るものがあってどうしたものかとなってしまうのだが……。

 

 とはいえやることと言えば「内血装」で無理やり気を回す程度の話しかない。斬りかかる私に、夏凜は直接ではなく、ハンマーを地面に設置した状態で振り下ろしを受けた。一撃と同時にコンクリートのような感触が黒棒を通して私の腕に響く。……なるほど、こちらの一撃を見極めて、どういう風に受けるのが妥当かという判断か。灰斗の言っていたようなことを思い出すが、このあたり夏凜は今までの経験値か何かで賄っているような気がした。

 

 伊達に年は重ねていないということか――――痛ッ! 殴った! 今この人、人中殴った!

 

「なんで!」

「いえ、ぶしつけな視線を向けられた気がして思わず……」

 

 鼻血を流す私に謝る夏凜だが、こちらもちょっと気が立った。いや、確かに年寄りを見るような目を向けたかもしれないのは悪かったが、何もこんなストレートに顔面ぶん殴ってくるとかちょっと予想してなかったわ! しかもハンマーで! 不死身じゃなかったら普通に死んでると声を大にして言いたい。

 そんな意志が乗ったわけでもないだろうが、体内で運用している魔力の具合がおかしな方向にそれている気がした。とはいえ速度が多少上昇する程度だ、別に大した問題ではないだろうとタカをくくっていたのだが…………。事件は起こった。

 

「おら――――! って、は?」

「へっ?」

 

「はい!?」「いや、マジで『ネギ様』みてーじゃねぇか……」

 

 振り下ろした黒棒を剣で受けたと同時に、私の腕が裂け。そこから噴出した血液が夏凜の服に触れた瞬間、制服のブレザーやらスカートやら下着やらが一気に消し飛んだ。

 ちょっと待て、いや、これって完全にアレだろ「風花・武装解除(フランス・エクサルマティオー)」! 元祖「ネギま!」でネギぼーずが一番の頻度で使用してた、というかくしゃみと同時に暴発していた武装解除魔法!? 威力が高すぎて攻撃性の武器やら鎧やらに関わらず「身に着けているもの」すべてを風と同時に魔法的に吹き飛ばすやつ。確かに雪姫の言で血風の内部には少しこれが含まれている的な話は聞いたが、いやこんな変な形で暴発するのはちょっと聞いていないのだが!?(困惑)

 お風呂でもなくニーソックスと革靴を残して全裸状態になった夏凜は、目を見開いた後にすごすごと身体の局所局所を隠し……、いえ、あの、原作でも戦闘中でも貴女そんなに上目遣いにこっち見てきたりとかしていないだろ、止めろ、そんな顔されたらいよいよもって抑えが効かなくなるから、お願いします何でもしますから。(ガバ発言)

 

「その…………、こういうのはもっと、二人きりの寝室とかでして貰わないと」

「いや、あの完全に想定外なんで謝りますけどそういう話でもないでしょうに!? っていうかその場なら良いんスかちょっとー!」

 

 思わず絶叫しながら顔を覆い隠しその場にうずくまる私に、絞り出すような夏凜の声。いくら何でも、色々と思春期が限界を迎えそうな有様すぎて、カトラスの「まー、どんまい」が癒しに聞こえた。

 もっと格好良く(オサレ)に……、もっと格好良く(オサレ)に生きたいです……!

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 夏凜先輩が着替えた後、今度は僕の番ということになったのだけれど……、先輩は僕の顔を見て、刀太君に下へ降りるように言った。

 

「とりあえず気張っていた問題は解消されたようですね、九郎丸。嬉しく思います」

 

 微笑む夏凜先輩。完全に戦う体勢にないのだけれど、なんというか凄い、一発で僕の感情というか、意図と言うかを悟ってくれた。いつの間にか展開した「神聖魔法の結界」で内外の音は遮断されていると微笑む先輩は、カトラスちゃんの方をちらりと見た後に続けた。

 

「それで、何やらビンビンと敵意……ではないですが、強い意志を感じますが。どうしました? 刀太に告白でもしましたか」

「し、してません! してませんけど……、というより僕、男ですから!」

「そうそう、その話も気になっていました。雪姫様に連絡を入れてもはぐらかしてきますし、そのあたりは本当のところどうなのでしょう? 肉体的に女性、精神的に男性、というには無理もありますが……、何かしらの儀式のような習わし?」

「その…………」

 

 夏凜先輩だけに話すならまだしも、という思いもあってカトラスちゃんの方を見れば。別に興味ねーからと、何故か引きつった表情をしていた。

 

「…………正体を明かせば、その、僕は純粋な人間ではないというか……」

 

 UQホルダーでも働いている人もいたり、保護していたりする子供たちも多くいる「亜人」、その一種。「八咫の烏族」と呼ばれる種族の生まれが僕だ。背中に翼の「もと」が存在する僕らの種族は、亜人の中でもかなり特殊な生物的特徴を持つ。

 

「…………つまり、男でも女でもないと?」

 

 僕の語った話に、夏凜先輩はこめかみを押さえていた。

 

「元服前後、つまりえーっと、十六歳まで男でも女でもない、あるいは男でも女でもある、みたいな感じです」

「ちょっと待って、どういうこと?」

「言葉通りなんですけど……、えーっと、つまり『元服』、成人の時に男として育つか、女として育つかを自分で選ぶんです。僕みたいにその儀式を受けられない場合は、自然とどちらかに落ち着いていくみたいなんですけど」

「それは……、貴女も中々大変なのね。難儀だったでしょうに」

 

 同情の乗った視線は少しくすぐったいものがあったけれど、実際それを最近はあまり感じたりはしていなかった。……このあたり、刀太君がけっこう気遣ってくれていたお陰だと今更ながらに思う。お風呂に入る時間も熊本のころから自然とずらしていたし、体育の授業があるときは朝の段階で教えてくれて先に着替える余裕を持たせてくれたり。どうしても一緒に体を洗わないといけない時とかは、ある程度距離を取ってくれたり、それでいて「そういう」ヘンな視線を向けてたりしないでくれた。

 

「それで、今の貴女はずっと『女性側』に寄っている気がしていますが。そんな貴女から強い意志を向けられるような何かがあったかと、少々疑問なのだけれど」

「…………夏凜先輩は、刀太君の何を知ってるんですか?」

 

 それを知りたいと言うと、夏凜先輩は表情を無に戻した。

 

「特に何かあるとは思わないけれど、それは、どうして?」

「ずっと刀太君と一緒にいた自信があります。でも、どうしてもどこか、一線みたいなものがある気がして……。だけど夏凜先輩とやりとりしてる時だけ、その境界みたいなのが、刀太君の振る舞いにない気がするんです」

 

 そしてそれは夏凜先輩も同様で。明らかに先輩のパーソナルスペースの距離感は、刀太君に対して常軌を逸するレベルのように見える。刀太君自身、その、大人の女性の身体とかにドギマギしているのがあるにしても、夏凜先輩に関しては一歩進んだ距離感というか、近さと言うか。そう、僕が寄っていく時よりも「拒否していない」感が強いというか…………。「ひぇっ」というカトラスちゃんの声が聞こえた気がしたけど、僕はずっと視線を夏凜先輩から外さなかった。

 

「どうしてそれを知りたいの?」

「……刀太君が、僕を受け入れてくれたから」

 

 こんな、彼をこんな世界に引き込んでしまった僕ですら、受け入れてくれた、正面から手を差し伸べてくれた優しい彼なのだから。

 

「だから、僕はもっと彼を守れるような僕でありたい。誰より刀太君の近くに立てるような、そんな僕でありたいんです」

「それは――――嫉妬かしら?」

「…………い、いえ、たぶん。きっと違うんじゃ」

 

 僕の言葉に、夏凜先輩はたたみかけるように「わかります」と言う。

 

「自分という存在がありながら、一番近いところでずっと一緒にいる存在がありながら、少し自分にないものを持っている相手のところにホイホイと行ってしまうなんて納得がいかない……、私も覚えがありますとも。相手をズタズタに引き裂いてち○こ捥ぎ棄てるくらいには」

「ヤベェ……」

「○んこ言っちゃダメですよ!? っていうより何の話を……!?」

 

 

 

「誤魔化しようもないわ。やっぱり貴女、彼のことが大好きなのね?」

 

 

 

 

 どーん! という効果音が聞こえた気がして、思わず僕はその場でフリーズしてしまった。

 そ、そうなのか僕……? いや、でもそんなことって簡単に認めるような話でも……、って、認めちゃってそれでいいのか僕! 完全に性別、女で固定しちゃっていいのか!? でも考えたらずっと女に寄ってる身体のままきてるし、ここ数日胸も大きくなってきてるような……。

 でも、僕がそんな責任を感じて負わなくて大丈夫だって言ってくれたなら、僕は友として、同志として彼の隣に立つのが誠実なのでは……?

 

「迷っている時点で答えは出ているような気もしますが、まだまだ青い」

「うぅ、その………‥、夏凜先輩は、どうなんですか?」

 

 腕を組んで、一息入れてから。夏凜先輩は堂々と。

 

「別に競うものでもないし。大体、私たちは不死身なのですから……、取り合いになればそれこそ地獄でしょう?」

 

 それは、というより取り合いって…………。

 

「だったら別に独占を諦めれば良いんじゃないかしら。後は刀太本人の選択次第、ということにしておけば、それなりに割り切りもできるでしょう」

 

 大体それ以前に、刀太は貴女を気遣いすぎだし、と。夏凜先輩に言われて、僕は顔が熱くなってきた。そうなのかな、でも僕から見れば夏凜先輩に対してだって刀太君は…………。

 

「…………結局答えてなくね?」

「へ? あ、そうだった」

 

 と、カトラスちゃんの一言でごまかされかけた事実に気づいた。僕は夏凜先輩に改めて問いかけると、彼女はため息をついて。

 

「…………最終的にどう接すれば良いのか、私自身、決めあぐねているところはありますが。まあ、諸々の状況や意図や個人的な話をふまえて、嫌いではないんじゃないでしょうか」

「面倒くせぇ女……」

「カトラスちゃん、今晩は刀太に言ってミニトマトをサラダに追加してもらいます」

「な!? アンタそれ反則だろ!」

 

 わめくカトラスちゃんを見事にスルーして、例えばですが、と夏凜先輩は続ける。

 

「もし仮に、私と刀太が結婚するとして」

「い、いきなり話が極限状態なんですけど!?」

「結婚するとして。そうすると刀太は雪姫様の息子となりますから、つまり私も雪姫様の娘ということに……、ひひ、へへへ……」

「か、夏凜先輩、ちょっと色々と女の人としていけない顔してませんか!?」

「おっと、失礼。まあつまりこのように、一概に一つの感情だけで刀太をどうこう、と言い切ることが出来ないのですよ。なまじ、私も生きて来た年数が長いですし、しがらみも、過去の経験もそれなりに、ですから」

 

 ロクな恋愛経験はないに等しいのですが、と自嘲する夏凜先輩。さっきの顔はともかく、その力ない微笑みには色々な感情が乗っている気がして、僕は何も言えなかった。

 

「なのでまぁ、色々と選択肢は増やしてあげるのが、出来ることではないかなと。…………流石に全員囲う様な甲斐性があるかは、まあ、今後に期待かもしれませんが」

「ぜ、全員……!? そんな背徳的な……っ」

「おい、それまさかと思うけど、私、入ってたりしない? しないよな、なあ、ちょっと聞いてるか二人ともさぁ、あ゛? ……ダメだこりゃ。完全に酷ぇし、ヤベェ……」

 

 さてそれはそうとして、と。夏凜先輩はハンマーと剣を取り出し、僕に向けて構える。

 

「夕凪でしたか、貴女の刀。はやい所構えてください。ああ言った手前、ちゃんと『どれくらい強くなったか』はみますので」

「…………わかりました、よろしくお願いします」

 

 僕も仕込み刀「夕凪」を腰に構えて、夏凜先輩と距離を測る。と、斬りかかってくる夏凜先輩の「瞬動」に、抜刀した夕凪で威力を足元に逃がす。この感覚が以前より鋭く感じられてるような気がして、思わず僕は微笑んだ。

 だから、僕はカトラスちゃんの言葉を聞き逃してしまったのだけれど。

 

 

 

「…………で結局、ユウキカリンは兄サンの何を知ってるんだ?」

 

 

 

 

 



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ST35.予約済

毎度ご好評あざますナ!
本当はこの話スキップするつもりだったけど、夏凜ちゃんさん書きたかったから頑張ったです・・・


ST35.Venundatus

 

 

 

 

 

 こちらに来てからシャワーを浴びるのは久々だった。

 もともとスラム街において水を大量に使うのは贅沢だと前時代の知識が色濃く残っているのだけれど、春日は気にするなと隣でシャワーを浴びながら笑っている。

 

「大丈夫大丈夫! この辺の女連中、オバちゃんたち含めて皆でお金寄せ集めて買ったやつだし。『魔法炉』とか言ったっけ、アレのお陰で簡易のアプリだったら全自動で発動してくれるから、水も電気も問題ないし。国が魔法解禁以降、格安お掃除アプリとか提供してくるお陰で衛生問題とかも大丈夫だしねー。一昔前は『魔素汚染』とかも酷かったけど、ちゃんとお掃除アプリとかで解消できるって導入に積極的な議員もいたし、捨てる神あれば拾う神あり?」

「神職の貴女がそんなこと言っていいのかしら」

「厳密には悪いけど、この国来て多神教文化受け入れられない宗教者ってカルトとかなっちゃいそうじゃない? シスター・カリンもお婆ちゃんに匿われるまで散々だったって聞いたけど」

「そうね。…………正直今でも狙われてる気がするから、あまり気はすすまないのだけど」

 

 私の言葉に「それだけで長編小説一冊くらい書けそうやーなー」と変な訛りが返ってきた。

 結城夏凜になるまでの私は、当時はホルダーですらなかった十蔵に甚兵衛の依頼で発掘(ヽヽ)されて…………。一瞬絆されかけたけどあまりに物事の割り切り方が酷くて喧嘩別れした記憶が脳裏をかすめて、思わず頭を押さえた。まあその後も不死身の研究機関に引っ掛かったり、宗教組織に「出自から」追われたりといったこともあり、良い思い出は少なかった。

 

 ……なのでロクな恋愛経験がないのは私自身のせいではないのです、九郎丸っ。

 

「まー足で物を食べたりし始めたらどーしよーもないけど。昔、ヒデヨシの爺さんが居たころもそんなことやってたっけねー」

「そこは本当に御免なさい……、言って聞かせはしたけど、食事以外は今でも隠れてやってるみたいだし」

「でもまー、ルキとか全然笑ってるしへーき、へーき。子供は笑ってるのが一番! 下心がないのに限るけどねー。

 と、そーゆー意味じゃシスター・カリンもさー」

「シスターはもう止めて。今は結城夏凜だから。……大体貴女、私のシスター時代は物心ついてなかったじゃない」

「細かいことはいいじゃんいいじゃん? で、最近どうだったりするのん? 主に男性事情」

「…………は?」

「おトボケなさんなって! 前に来たイケメンだけどテキトーそーなフェイマ(※コンビニ)の店員みたいな人とか、メガネのクールさんとかはそんなに脈ありそうな感じじゃなかったけどさー。あのチャン刀よチャン刀! ちょっとヒネた感じの!」

「ちゃんとう…‥、(とう)……、嗚呼、刀太のことですか。というよりその呼び方……」

 

 アポがなんか呼び始めて、語感良くってつい、と春日。確かあの麦わら帽子をかぶっていた女の子だったかしら……、意外と物怖じしない子なのだろうか。

 もっともその刀太がどうしたのかと聞けば、春日は壁越しでも分かるくらいにニヤニヤとしたような声を掛けてくる。

 

「シスター・カリンってば、気が付くとすーぐ目で追っちゃってるし。しかもチャン刀の方もそれとなくシスター・カリンの方を追ってたり、たまに目が合ったりしちゃってるし。あのアイコンタクト……、兄妹以上とかじゃなくって、もはや婚前初夜は終えてるものと見た! 子供好きだとは思っていたけど、いやまさかシュミまでそのテのものとは……、えっちだねぇ。何々、お誕生日にイロイロとヤッてもらう算段だったり? 八月だったっけー」

「犯罪じゃない、神職である自覚を持ちなさい貴女……。いえ、そもそも別にそういうことはないのだけれど。誕生日だって祝う習慣がない時代の生まれだし、そういう算段なんて――」

「うっそでしょ! だってチャン刀の目線が身体に行っても全然嫌がる素振りすら見せないしぃー。ウチの所の子たちがちょっとエロい目で見た時のそれとも微妙に反応が違うしぃー。で実際のところどうだい? だい?」

 

 実際に刀太と私がどうだというか、何をどうしたかという話ならば…………、旅館で寝ぼけた刀太がひたすら泣きはらしていたのを慰めた時のアレは置いておくとして。

 

「軽く殺し合った関係ね」

「えっらい物騒!?」

 

 ずっこけたようなガチャガチャとした音が鳴ったけれど、すぐに立ち上がったのがわかるので特に追及はしない。

 

「何何? でつまり、殺し合いから殺し『愛』ってな感じで始まる関係もあるってことかねー」

「大体、私の事より貴女、自分の心配をなさい。見た目は結構若いけど貴女今年でアラ――」

「ア゛ッー! ア゛ッー! キコエナイ! キコエナイ!」

「そんなに慌てるなら自分から墓穴を掘りに来なくても良いでしょうに…………」

 

 再びガチャガチャと音を立て慌てる春日だったけれど。

 その音が突然途切れて、シャワーだけが垂れ流しになったような音が聞こえる。

 

 

 

 嫌な沈黙。

 

 

 

「春日……、美柑?」

 

 私の声に応答がなく、思わず振り返ろうとした瞬間――――私のこめかみが、銃撃された。

 咄嗟のことに一瞬頭が白くなりかけた私。でもこういった修羅場は慣れている、自然と、砕ける魔法アプリに紛れるように「間近に現れた」狙撃者の腕をつかみ、銃口を腕ごとひねって変えて狙撃し返した。

 

 全身黒ずくめ、頭に麦わら帽子を被って左に眼帯をした半眼の男……、何者? いくら華奢に見えるからって私よりも高身長。直前まで殺気も気配も感じないのは明らかに異常。

 ニヤニヤ笑い何事かこちらの腕を褒める男。そういう相手も銃撃を小さいナイフで躱しきっている。手練れ、というより手馴れているこの雰囲気に、嫌な感覚を覚える。

 

「完全奇襲の拳銃連射に素手で割り込むとか普通するー? 避ければいいのに、不死身になっても基本的な技能鈍ってないとかさー。可愛げねー。

 でも、そういう所も好み♪」

「気持ち悪いです。……それよりその帽子。表にも隣にも人がいたはずですが、どうしましたか? 返答次第によっては――」

「返答次第じゃナニしてくれちゃうのかな? ま、こっちとしちゃゾンブンに愉しめるならそれで良いんだけど――――『鋼鉄の聖女』サン?」

 

 懐かしい、そして嫌な呼び名に一瞬動揺したのが拙かった。ナイフと素手でCQCまがいの攻撃を仕掛けられる。

 拳銃はあらぬ方向に投げ捨てられ、素手での対応を強要される。「聖句」を唱えようにもその隙を与えない手さばき。プロ、その中でもかなりの手練れ。

 

 おまけに気のせいでなければ「こちらの手を研究し尽くしている」?

 攻撃が何度か私の人体を通ることにより、痛みと、そして背中に「焼けるような」感覚が浮かび上がる。……私の罪、その証明あるいは断罪の数が。

 

 攻撃の応酬は私の勝ち。壁に叩きつけ、首を蹴り上げ抑え込む。

 ……少なくともこの「罪の証」が出ている以上、私があの方(ヽヽヽ)以外の手で死ぬことはないし、死ぬわけにはいかない。

 

「貴方は只の人間ですね。魔法アプリの痕跡もない。目的は何? 早く言って、命が惜しくば去りなさい」

「――――ククク、甘いなぁ夏凜ちゃんは♪」

 

 逆襲――――激痛で脳が焼かれるようだけれど、これでも「当然」死なない。

 シャワールームに逆戻り。口の中に拳銃を突っ込まれるのは想定していなかったものの、一体どこから? 収納アプリの痕跡はない。

 

「やっぱり! 手応えがあるのに傷はない。なのに痛みは感じるんだろ?

 そういう仕組みか……、最高だよぉ、惚れ惚れするよ君は! 君みたいな女性(ヒト)と会えるなんてこの仕事を選んだ甲斐があった!

 僕はPMSCS―――民間軍事警備会社『パワフルハンド』所属の(チャウ)星仔(シンチャイ)。任務は君の足止め……さぁ、もっと味わわせてくれよ君を♥」

「ヘンタイッ!? じゃない、プロの傭兵? ……貴様のような下衆を相手する暇などないのです!」

 

 前に戦ったサイボーグ男、おそらくそれと同じ所属なのでしょう。言うなればカトラスちゃんが臨時で雇われた組織とも。とするなら、それがわざわざ「足止め」に私を襲うということは、刀太たちが危ない……、私よりも「弱点の多い」あの子たち、一刻も早く向かわなくては!

 

 収納アプリからワイシャツを取り出して羽織りながら、「聖句」を唱える。と、やはり私に神聖魔法を使わせまいとしてか、男は背後から抑え込みにかかる。

 今の妙に「ぬるり」とした気持ちの悪い移動法は何なのでしょう……。刀太が血装術を使っていた場合も、いつの間にか移動していることは多々あったものの、あれとて一応は風圧のような「移動した」痕跡を感知できるというのに。

 

 とはいえ流石に手馴れている、私の腕を引っ張り関節ごと体重を反対側にかけ――――っ、激痛に思わず声が出ると、チャウと名乗った男は愉しげに笑った。

 

「良いじゃないか、随分とカワイイ声で♪」

 

 雪姫様や刀太に言われるならまだしも、この男に言われても鳥肌しか立たなかった。

 

「でも不思議なものだ、普通これくらい関節に負荷をかければ、あっという間に外れてくれるっていうのに。まるでそう、鋼鉄みたいな。…………でも傷つけることが難しくても、痛みには弱いってことか。これは、愉しみがいがある」

「――――調子に、乗るな!」

 

 抑えられてる腕の角度を無理やり変えて畳みつつ、曲げた膝をひねって蹴り上げる。

 そのままタックルからアッパー、上段回し蹴りをして距離をとる。……神聖魔法で結界を張る余裕もないので建物がボロボロになってしまう。後で弁償しなくていけないわね。

 

「くふふ、あはははははは――――――なんてね♥」

 

 次の瞬間、男の背後から「無数の黒い手」が出現する。質量を持った何か? 判断に迷い蹴り飛ばそうとするも、感触を得られず「貫通し」、そのまま黒いそれは私の脚をからめとった。

 一気にその影は私の脚を起点に全身を絡めとり、壁に拘束した。

 

「影……?」

「そ、ご・明・察♥ 正真正銘、伝統の『影の精霊』を操る魔法使いだよ。

 ついでに言えば、この影を起点に実物も操ることができる。魂が無い対象に限るけどね♪」

 

 男の背後に、続々と子供から大人くらいの大きさのデク人形のようなものが現れる。それらは服を着用しており、遠目で見る分には普通の人間と変わりない。

 こんなものを大量に投入されでもしたら――――。

 

「その顔、お察しかな? コイツらを使って『不法住居者(クズ共)』のお掃除計画遂行中さ♪」

「貴様――――ッ」

「ま! それはそうとして少しお話しないかい? 夏凜ちゃん」

 

 言いながら男は私の胸部にナイフを刺す。……傷つかないとはいえ、刀太とおそろいの様な形にされ、しかも相手が見ず知らずのこの男であることに痛み以上に苛立ちを覚えた。

 

「強がってる強がってる♪ ……流石時価70万の超電動高周波ナイフ。人体でもバターみたいにすいすい刺さる。……で、いやこれ、本当凄いじゃないか! 傷どころか血も出てこない! まるで『実体のあるホログラム』でも切ってるみたいな感覚だ! それなのに痛みは残ってるだなんて、酷い呪いじゃないか! 一体どこのサディストだい?」

「……っ、貴様に、言われる筋合いは、ない」

「おいおいおい、僕は誰より君を理解してあげられるオトコなんだよ? そうカリカリするなって『鋼鉄の聖女』イシュト・カリン・オーテ!」

 

 捨てた名で呼ばれ、やはりいら立ちが募る。雪姫様と出会う前の頃、魔女狩りに遭った際に一切の傷を負わず魔女と呼ばれながらも、数多くの妖魔を退治していた時代の記憶がよぎる。

 

「君なんだろ! 決して傷つかず、しかし誰よりもそんな自らを殺す民衆を守ってきた聖女サマってのはさァ! 健気すぎて涙が出るよホント!

 かの時代の聖女(ジャンヌ・ダルク)みたいな祭り上げられた存在じゃない、本物の生き続けてる聖女……、君の視点で世界がどう映っているか、是非とも聞いてみたかったんだよ。こんなクソみたいな世界で、自ら擦り切れるまで戦い続けた君にさぁ。

 なのに何だい! 僕が、某国のプロジェクトで生存を知ってからずっと探し求めていた君みたいな女がさぁ! 今じゃこんな島国の片隅で取るに足らないクズ共をまーた助けてる!

 わかってるだろ? そんなクズ共はまた君のことを怖がり殺す! 今は大丈夫でも、その『変わらなさ』は絶対に周りと軋轢を生み恐怖を生み、そして君をまた殺し尽くす!」

 

 馬鹿じゃねぇの! と。笑いながらも、彼の目は真剣そのものだった。

 嘲笑いながら、どこか心の底で納得できていないような目をしていた。

 

「とっくの昔に見捨てられてるんだよ、俺たちは! 何やったって無駄なんだよ!」

「…………っ、貴方も、かつては『そんな』子供だったのかもしれませんね」

「……ふふ、いけない、僕としたことが……。

 でもだから判るよ、夏凜ちゃんのことなら何でも――――怖いんだろう? 永遠が」

 

 っ、舌を、這わせるな……!

 

「大丈夫、大丈夫……、身体が壊れなくても心は壊れることが出来るから。そしたらずぅっと一緒に居られるからね?

 愛してるよ夏凜ちゃん……、出会う前よりもずっとずっときっと前から。大丈夫さ。たとえ神様が見捨てても、僕が永遠に愛してあげるから――――」

 

 それは、禁句だった。

 神が見捨てる? ――――あの方が見捨てるなど、そんなバカげた一言で、一気に頭が冷えた。痛みなど無視できるほど、思考がクリアになり。

 

「――――『無花果の葉(フォリウム・フィクレウム)』」

 

 自らの内側から「神聖魔法を放ち」、影を照らし、浄化し、消滅させた。

 は? と驚く男の局部目掛けて蹴り上げ、顔面を殴り飛ばす。その余波で周囲の壁も破壊され、床に転がって拘束されてる春日の姿が見えた。今の衝撃で意識を取り戻したのか、木偶人形に拘束されている。

 

「し、シスター・カリン……! ちょっ、お胸になんか刺さってるけど!?」

「……問題ないわ、この程度」

 

 抜きその場に捨て、チャウを名乗った男を睨む。私の「光輪」、あるいは「神聖なる光」を前に気圧され、嘘だ嘘だとわめいていた。

 

「う、嘘だ、嘘だ……! だって君は、君の正体は――――なら君は神に呪われているはずだ! 呪われていなければいけない!」

「ええ、それは私自身、何度も思ったことですとも。でも、どうやらこの程度で許してくれるほどあのお方の『愛』は生半可なものではないのでしょう」

「愛だって? それを『愛』と解釈するのかッ! 君は、狂ってる!」

 

 神聖魔法のベースにある「信仰の力」を直接用い、私は男を無理に持ち上げる。

 そしてそのまま、ありったけの力と感情で男の腹をぶん殴った。

 

「――――聖絶なる拳(ホーリー・ブロー)!!!」

 

 男の身体にありったけの「信仰」を叩き込み、彼を中心として張られていた根の「影」自体を浄化させる。本体とつながっているパスが切れれば、男の操っている人形はもう動けない。

 既に気絶してひっくり返っている男に向かって、私は私怨を混ぜあらん限りに蹴り飛ばした。……バスタオルを巻いた春日が「待って、いくら悪人でも殺しちゃいけないでしょシスター・カリン!?」とわめいているので、仕方なく足を下ろす。

 

「……貴方がかつてどんな立場で、その今の有様に至ったかは知りません。ひょっとしたら、私が庇護するべきだった子、だったのかもしれません」

 

 しかし、と。私は白目をむいて口を開けてる男に投げかける。

 

「今の貴方を選択『し続けている』のが貴方である以上、それはもはや貴方の選択です。だから人の事を偽善だと断じたところで、私は気にしません。

 大体『愛してる』と言うのなら、トップクラスに変態なその姿勢でどうこうできるなど考えないことです。それに大体――――」

 

 それに大体、と。……あの時の、誰も自分の味方になってくれないと泣いていた刀太に言った一言を思い出し、少し心拍数を上げながら。

 

 

 

「――――私は既に『予約済』な上、クーリングオフ不可のつもりですので。探すなら他を当たりなさい」

 

 

 

 がくり、と。意識があるわけでもないでしょうに、私の一言に合わせて男は完全に沈黙した。

 

 

 

 …………その後の春日による「予約済って何? やっぱシたのかぁ? シたんだな!?」という反応が鬱陶しいことこの上なかった。

 

 

 

 

 



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ST36.小さな羽搏きと大きなばた足

ST36.Small Fluttering, Big Fluttering

 

 

 

 

 

「チャン刀兄ちゃん慣れてるな、けっこー!」

「まぁこういう仕事に覚えがないわけじゃねーしなぁ……、というか『チャン刀』に『兄チャン』だとチャン被ってるじゃねーか、何かもっと上手い呼び名考えとけっ」

「先輩、このデバイスまだ使えそうです!」

「おー! お手柄じゃん忍!」

「ひゅぇ!? あ、は、はい! ありがとうございます……(て、手を放してくれないかな……、照れちゃう……)」

 

 修行というか練習の傍ら、大量に都から破棄されるスクラップだの粗大ごみだのといった山の中から使えるものを探していた私、忍、ルキの三人である。既にこうするのも四日目か。足で拾おうとしたのをルキが真似しようとして「何をやらせているのですか」と夏凜に怒られたので、流石にこれは手作業であった。

 忍は廃材から修理やら何やらに使えるパーツ探しであり、ルキは特定の資源ゴミを集めるバイトだ。確か1キロ1円、引き取りは十キロからだったはずなので、この年代の少年にさせるには中々過酷である。

 かつて軌道エレベータ基部で使用する予定だったエネルギー資材の運搬中、スラムで事故が起き「魔素汚染」が発生したとシスター春日から聞いた。その結果、耐性がない人間は身体を妖怪やらに乗っ取られ怪物となったり、あるいは妖魔そのものが大量発生して大問題になったらしい。もっともそれらは、とある議員が奮戦した結果、スラム自体の衛生環境の改善と共にある程度は解消されたらしいのだが。

 

 しかし「魔素」に「妖魔」か……。

 

「どうしたんだ? 兄ちゃん」

「いや、何でもねーけど。しかしお前も大変だなールキ」

「ですね。田舎だったけど、私、結構恵まれてたんだなって思っちゃいます……、お爺ちゃんとか普通に都会と行き来してたみたいだし」

「そんなの関係ねーって! 『世の中恨むな、ひねくれるな』『お前がどれだけ頑張れるかだ!』ってシスターも言ってたし。夢だってでっけーのあんだぜ! うんと金稼いで学校に入って勉強してジツギョーカになって、こことか全部りっぱにするんだって!」

「そりゃ大した夢じゃねーか。ははは」

「……なんか兄ちゃんキョウミねーの? じゃあ兄ちゃん夢とかあんのか! いえよー!」

「ほう、それを俺に聞くか。…………って言ってもアレだな、喫茶店とかのマスターだ。なんかこう、昔の友達とかが気が向いたときにフラフラっと立ち寄って、いろんな話したりとか、近況くさしたり貶したりケンカしたり笑い話したりテレビ見たり麻雀やったり、まーそんな場所を作るのが夢って言えば夢か」

「…………? それ夢か? なんかジミー」

「はっはっは、まだまだこの優雅さ(オサレ)が理解できる年齢ではないか」

「おされ?」

「あはは、せ、先輩はなんかこんな感じだから……。でも、そういうのってなんか、素敵だと思います!」

 

 忍のヨイショっぽい何かに少しだけ気をよくしながら、ルキの資源ゴミ回収を手伝う。こう、未来にまっすぐ向かっていく少年のバイタリティは見習うべきなのかもしれない。いくら想定外の事態が連続してしまっている現状においてもである。諦めながらでも前を向いて前進しなければ、得るものはないということだろう。

 

「お疲れ様……」

「あ、九郎丸さん!」「九郎丸の姉ちゃん!」

「ぼ、僕は男だからね! 何度も何度も訂正してるけどっ」

 

 と、スクラップの山の上に居る私たちに、下から九郎丸が声をかけた。足は裸足のままだが汚れている風でもないので、気づかなかったがひょっとして「虚空を蹴って」こっちまで来たのだろうか……、若干、原作よりも技術的に上昇してるらしい。

 その手にはペットボトルが四本。投げ渡してもらったそれを軽くジャグリングしてから、忍とルキに手渡した。

 

「しかし何て言うか、九郎丸はホント上手くなったよなぁ足使うの」

「そ、そうかなぁ……。まあ世間体にさえ目を瞑れば、確かに良い修行だよね」

「そういう先輩も、足で似顔絵とか普通に描いてたりするからあんまり当てにならないんじゃ……」

「めっちゃ上手いからな! 兄ちゃんの似顔絵!」

「でも似顔絵描けたところで主目的が違うからなぁ。忍とかに言ってもアレかもしれねーけど、こう、二重の衝撃(キワミ)みたいな動きをしたところで肝心の『気』のコントロールが上手くいかないっていうか。あんまり踏ん張りすぎると足から出血するし」

「何でです!?」「きわみ?」

「やっぱり血装術を使わない方法、考えてみたらどうかな」

「と言っても基礎的な話からだからなぁ。大地を掴む、っていう感覚がどうにも上手くいかないっていうか、力みすぎるっていうか…………」

 

 内血装をある程度扱い慣れた上で改めて言えるのは、瞬動は思ったよりもセンスが必要であるということだ。原作の記憶をなぞるなら、確か「足の柔軟性を最大限に生かして加速を引き起こし、一瞬前の全てを背後へ置き去りにする」始点と、「接地の瞬間に再び足の柔軟性を最大限に生かし発生した運動エネルギーを最大限やわらげ大地へと衝撃を返す」終点、であったはずだ。

 これに関して私的に一番ネックなのは、つまり「足の柔軟性を最大限に生かして」のところである。灰斗の言う通り足の指で二重の衝撃(KWM)的な考え方を実行してはみるのだが、それだけでは方向性が上手く定まらなかったり、あるいは踏み込みのバランスが崩れる。どうにも感覚的な話として、指でもう一段階の踏み込みのようなものを発生させる「と同時に」、全身の運動やら体幹などのバランスも調整してやる必要があるということだ。無理にやろうとすれば、先ほど言っていた通り魔力と血の連動が狂って「足が裂ける」。

 当たり前と言えば当たり前なのだが、なにせついこの間までそういった全てを半マニュアルかつ適当に実行してきた私である。死天化壮はそれが実現可能であり、また「変な姿勢」やら「変な重心移動」やらから全く違う動きを行えるのが最大の利点でもあった。実際、甚兵衛を相手にした時も死天化装が何故有効だったかと言えば「剣の心得がある相手の予測」に対して、全く反した動きを連発するからに他なるまい。

 

 つまりは、邪道からいきなり王道に回帰しようとしているのだ。それも高速で。体感ではあるが、流石に無茶であるらしい。

 どうしたものかと頭を悩ませている私である。いまだ瞬動の目的にはいまいち合致しているとは言い難く、原作刀太ほど「気」の運用に才能がないという星月の言い回しにもっともさを感じてしまっていた。

 

 ままならぬ、と呟こうとした瞬間、ルキが「火事だ!」と声を上げる。急いで後をついていくと、ゴミ山の上で四方、あちらこちらから火を噴いているのが見えた。

 

「――――敵の攻撃だ! 近代兵器を用いない形で『不審火』を多く焚き焼け野原にしてしまえば、人が避難して誰も居なくなる、万一残っても『死んだ理由』を作って焼き殺す!」

 

 お前「下界」の情報全然知らないくせに何故そういうことばっかりと思わなくもないが、それはそうとして私はこめかみを押さえた。……そうか今日か、原作でいう所の中ボス戦のようなもの。つまりは灰斗の修行がほとんど身になっていない状況でのイベント進行である。もはや完全にガバだ。だがどうしろと、どうしようもないじゃないですかァ!(涙)

 いろいろやり切れず思わず脱走してしまいたくなった私であったが、しかし夏凜の顔が脳裏に浮かんでその手段をとれない。……なんというか、どこに逃げても草の根分けてでも探し出してきそうな印象が勝手にあるのだが、一体どうしてこんなことに…………。

 

 とにもかくにも急ごうという話になったが、しかし走り出そうとするとパーカーなんだかジャンパーなんだかを着用した、適当な顔の人形に阻まれる。黒棒を背中から抜いて斬りかかった感触は鈍く重い。鉄製? アンドロイドか何かかと思いはしたが、しかし内部でパーツが軋むような音がしない。球体関節の人形のようだ。

 その後重量を変えてぶった切ったりを繰り返してなんとなく察した。確か影使いだったか、今頃夏凜の所に行ってお楽しみ(意味深)しようとしている奴だったはずである。正直その影の精霊とかそのあたりは興味津々(オサレ)極まりない有様で個人的にどうしようもないのだが、操る当人の人間性はあまり宜しくない。

 

「傀儡術……、たぶん影を経由したものだ刀太君」

「つまり? どゆこと? っと、危ねぇ忍!」

「きゃっ」

 

 庇いながらの戦闘は実質初のようなものなので、正直言ってだいぶやり辛い。いい加減に血装術を使ってしまいたいのだが、カトラスとの約束があるのでそうも行かない。下手に使用がバレて裏切られても困る。この段階で敵対されたって面倒極まりないのだ、多少手間でも「痛くない」なら我慢する他ない。痛くないは全てに優先される。

 

 とはいえ原作展開的にも大丈夫なはずだ。となるとこの人形共を操ってる「影」に関しては時間制である。…………しかし夏凜の素肌を傷つけてたなあの男。それはこう、あまり宜しくない。(謎の怒り)

 早い所救援に行きたいが、しかし数が多い。

 

 下っ端たちなど応援を呼ぼう、と言いかけた九郎丸だったが、前方に巨大な狼男が降ってきた。巨体、しかし異様に軽い足音。見覚えがあるようなズボン、灰色の全身…………。

 

 PMSCS「パワフルハンド」所属、「狼男」の灰斗である。

 彼が「敵として」眼前に現れた時点で、私の腹は決まっていた。

 

「刀太君、下がって――――!」

『ん? お前ら……』

「…………その身のこなしの軽さ、ひょっとして灰斗の(アン)ちゃんか?」

 

 えっ、と九郎丸が声を上げるのとほぼ同時に、灰斗自身も一瞬頭が真っ白になったように動きを止めた。誘いではない、その証拠に構えている全身の筋肉に力が入っていない。

 

 このタイミングである。先行で一撃、虚をつく形で一発加えて後はダメージ差で押し切る他ない。現実問題、今の私がこの狼男こと灰斗と対峙して一切勝てるわけがないのだ。ならば何でもあり、多少の痛みは引き受けて後の痛みから逃げなくては――――。

 この一瞬を狙い、内血装を走らせる。この際「足が裂けても良い」、第一歩で巨大な衝撃を――――。無理に「理想的な動きの瞬動」を実現しようとし、着地は完全に無視して問題ない。黒棒の荷重を千倍にし、軽く構えた姿勢のまま直進――――。

 

 

 

「――――そうやって遊びが抜けないのは、お前の悪い所だぞ『灰斗』」

 

 

 

 次の瞬間、背後から横一直線。上半身と下半身とが「分かたれた」。

 速度、荷重のバランスを失いあらぬ方向に飛んでいく身体。このタイミングで九郎丸が気づき男に斬りかかるが、彼は直接九郎丸のそれを受けることなく、ひらりひらりと躱して後退した。……嗚呼そういえば忘れていた、原作でもこの場にはもう一人来ているのだった。黒いマントに所々をサイボーグ化した剣士、パワフルハンドの実働部隊リーダーたる盲目の剣士・南雲である。甚兵衛程とは言わないがその戦闘経験は長く、そして隙の無さは間違いなく重ねてきた年数が伊達ではない老練さである。

 再生しかかってる途中で、見えないはずの目で私を捉える彼に舌打ちをこらえる。にやり、と笑うその様からして、おそらく私の狙いなど一発で看破していることだろう。私の現時点での実力と相手との差を踏まえて。

 

 お互い見合い、沈黙。 

 悪ぃな南雲のオッサン、と言いながら構える灰斗に、九郎丸も事態を飲み込めてきている。再び立ち上がると忍たちの姿が見えないが、九郎丸の首肯からして隠れてもらったと見るべきか。

 

「…………つまり、本当に灰斗さん?」

『だぜ、九郎丸のお嬢ちゃん。仕事中だからわざわざ変身は解かねぇがよ。

 しっかし刀太、なんで分かった?』

「着地の時の音」

「「音?」」

 

 南雲と九郎丸が頭を傾げるが、灰斗はそれで言わんとしていることが分かったのか大笑いした。嘘ではない、実際実物を前にして、原作展開からの正体推測ではあったが。確信に至ったのは、着地の時の音である。

 ……実際重量こそ変身前と後で大きく違うが、着地の時の足の入り方と音の鳴り方はかなり近いというか、つまり「動きに反して音が小さすぎる」。まるで瞬動の終点のそれのように。つまり常日頃から、どれ程瞬動を使い続け使い慣れてクセのように出ているかという事でもあり……、相手がいかに強敵かというのを証明しているようですらあった。

 

「血装術使えないのがマジで手痛いなこれ…………、というか肝心のカトラスは何処にいるんだ?」

 

 私の呟きに答えはない。次の瞬間、灰斗が猛烈な速度で目の前に現れた……、ほとんど風圧を感じさせないその気の抜けた「フヒュッ」とでも言わんばかりの音が気持ち悪すぎて逆に変な笑いが出て来る。そして今の状態の私では、それに対応する速度が足りない――――。

 

 身体に指抜き、十字の模様――そこに十字架を叩き込まれ、簡易の魔法アプリが発動する。名前は忘れたが、確か原作でも吸血鬼の性質を封じる類のそれだったはずだ。

 

「させ、るか――――っ」

 

 魔法アプリが起動する直前で、無理に内血装を全身に発動させる――――裂けた胴体の血、そこに含まれるらしい「武装解除魔法」で封印術式を破壊しようとするが、タイミングが悪かった。

 首――――逃れられたのは首から上程度である。

 それ以外は打ち込まれた封印術の餌食となり動けない――――つまりは「首から上だけ」ちょんぱ(ヽヽヽヽ)の状態で転がってしまった。いかにも殺してくれと言わんばかりの有様でこれは……、ひどい(低オサレ)……!? なんたる屈辱、しかし胴体は動くに動けないので、激痛に叫ぶくらいしか出来ないでいた。

 

『マジか、緊急脱出みたいな感じだが、いやーこうやって見るとカワイイもんじゃねーか。ハハハ』

「…………いや、頭だけ持ち上げるの止めてもらって良いッスか?」

 

 言いながら灰斗は私の頭を後ろからアイアンクローで持ち上げ、どこか楽しそうである。個人的にはプ○デターの「頭蓋脊椎の標本(トロフィー)」扱いされてるようで一切楽しめない、というか血の気が引くので止めてもらいたい。……というか、この状況で頭単体で生き続けているということは、一応は「金星の黒」自体は発動しているということか。とはいえ万全ではなく、再生できない以上はロックがかけられてると考えるべきか。普段よりも何かこう、重いものを全身に取り付けられているような、味わったことのない不快感があった。

 

「刀太君を離せ――――っ、邪魔をするな!」

「そうはイカンなぁ、若人」

 

 灰斗に斬りかかろうとする九郎丸を、南雲が背後に回って妨害する。鞘と刀で応戦するも、相手の動きはどこか手馴れていた。「後で遊んでやるからちょっと待ってろ」と適当に放り投げられる私の頭……、いや痛い! 冷蔵庫のカドにほっぺ当たった今! というかそれどころじゃない、回転が収まった時点でクギが目の前にあって恐怖以外の何物でもないのだが……、三半規管もひどく回転してるし、吐きたい、吐きたいが吐くべきものが胴体側なので気持ち悪い感覚だけが残ってる。

 確実に自律神経が変なダメージを負うぞこれ…………。

 

 既に涙目で、どうしようもない。血装術を使おうにも、意識したところで血がこちらに流れて来る感覚もない。……つまりは「心臓が自由」でないとアレは使えないという事か。原理的には納得がいくのと、出血多量以外での弱点らしい弱点だった。

 まあ今分かったところで、まったくもって使いどころがない話なのだが。

 

「ままならぬ…………、というかコレで死なないのってある意味拷問なのでは?」

 

 思わず素で呟いてしまった私の目の前に、ピンク色のジャージズボンが見えた。何故か草鞋を履いてるその誰かは、私の髪の毛をつまんで持ち上げ。

 

 

 

「…………何やってんだ兄サン」

 

 

 

 ゴミでもつまむように私を持ち上げたカトラスは、明らかに引いた目で私を見ていた。

 いや全く以って私のせいではないのだが。(断言)

 

 

 

 

 




次回:アデアット!(実戦)


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ST37.白黒つける

毎度ご好評ありがとうございます!
今回も独自解釈やや多めですナ
 
次回予告で、アデアットすると約束したな・・・、アレは嘘だ(延期)


ST37.Mars and Venus

 

 

 

 

 

 いや普通にあの気持ち悪いの使えば良いじゃねーか、と。カトラスの感想はまずその一言だった。カトラスの腕の中でおいおいと思うも、カトラス本人はむしろ何故使わないのかと言いたげな目で私を見下ろしていた。

 九郎丸とパワフルハンドの二人が戦っているのを二人そろって眺めつつ、簡単に事情の説明を行った私。それに対するカトラスの返答はなんとも前提を根底からひっくり返す類のそれだった。

 

「いや、そしたらお前敵に回るだろ約束的によー」

「回るっていうか逃げるって感じ? 『私』だって命は惜しいし、もともとクライアントじゃんかあの爺さん。合わせる顔がないって言うか、それに……、あの狼男に今のままだと勝てる気がしない」

 

 現状、血装を使っていない状態の私では追うことも出来ない速度で移動する灰斗。明らかにそれに追いついていない九郎丸。剣で受ける分にはダメージを上手いこと地面に逃がせているようだが、それを見て不利を察したのか背後やら通り抜け様に横切りされている。南雲自身はむしろ私の胴体の方を監視しており、頭が何処に行ったのか警戒を続けているらしい。

 ……どうやら私たちは現在、南雲の感知できる気配の外側にいるらしい。それが幸か不幸か、私とカトラスに交渉の余地を発生させていた。

 

「で、何でお前そんな普段着のままこっち来てるんだ?」

「なんか昼寝してたら息苦しくなったから。…………建物が火災で、悲鳴とか鬱陶しかったから逃がしてやったんだけど、デク人形みたいなのが一杯出て来たんだよ。それも『エンシス・エクソルキザンス(ハマノツルギ・レプリカ)』でぶった切ってたら、なんかそいつらが集まり出したから追ってきた」

「お前もケッコー状況に流されてるのな……」

「そのいかにも血のつながった兄妹みたいな目で見るの止めろっ」

 

 ぎゅ、と私の頭を更に抱きしめて頬を引っ張るカトラス。痛いから止めろと言うとややサディスティックな顔をして両側の頬をひっぱってくる。……いやこんな、それこそ兄妹らしいじゃれ合いをしている場合ではないのだが。もっとも話を聞く限りどこに絆される要素があったのかわからないが、一応はスラムのためにカトラスなりに手を尽くしてくれたらしい。

 しかしそれはそうと、ハマノツルギ・レプリカ……、お前それアーティファクトじゃなかったのか。パクティオーの。そう聞くとカトラスは酷く嫌そうな顔をして自分の胸元を指さした。

 

「…………厳密にはハマノツルギ、のレプリカ、のレプリカみたいな感じ。限定的に私の『火星の白』をその形に成形して表出させてるって感じだから、あんまり気分が良いもんじゃないっていうか」

「火星の白?」

「あー、そっからか。…………私や兄サンの身体には、二つの力が宿ってる。

 片方は『金星の黒(ウェヌス・ニゲル)』。魔界由来の力で『闇の魔法(マギア・エレベア)』の根幹を為すやつ。不死性とかみたいなエネルギーはこっから無理やり引っ張ってきてるらしい。

 もう片方は『火星の白(マルス・アルバム)』。魔法界由来の力で、魔法無効化(マジックキャンセル)を始めとした『始まりの魔法使い』に連なる一連の――――」

 

 ちょっと待てちょっと待てちょっと待て!? その情報を今いきなりわっと浴びせるなお前、適当に説明を求めた私も悪かったかもしれないが懇切丁寧すぎるぞ! 原作で言えば今が大体3巻くらいのあたりのはずだから後4巻くらいは後の情報、しかもキティから教えられる情報である以上お前、そのお株を奪うのは色々とまずいのでは? ある意味死亡フラグに近いぞ、命を投げ捨てるんじゃない!(混乱)

 

「あー、なんか判んねーけど、二種類あるっていうのはわかった。俺の体感的にもそんな感じだし」

「そーかよ。…………体感的?」

 

 うん、と首肯を……、首しか残ってないので頷けないが、まあそれでも少し首肯するニュアンスを乗せた。実際「血装術」の中身を分解してみれば、確か闇の魔法(マギア・エレベア)、つまりは「金星の黒」を使用していたはずだ。胸の傷を起点とした自動回天もあって、つまり私はかなり「金星の黒」については「意識的に」使っていることになる。

 だがそんな私の反応に、カトラスは意味が分からないという顔をした。

 

「…………体感って何だよ兄サン、え? そんなの判るの?」

「お前、むしろ判んねーの? こう、胸のあたりから二本、なんか線なんだか帯なんだかみたいなのが伸びてどっかに繋がってるような感か――――」

「判るわけねーだろ!? は、ハハハハハ――――――――! そうかよ、これが、成功例と失敗作の差って訳かよ、はは、はは…………、死んじまえよこんなクソ世界……」

 

 言いながら、カトラスは私のことを更に強く抱きしめた。幾分八つ当たりが含まれていそうでもあるが、しかし私の視線を動かさないようにしている理由は察した。……頬に私のではない液体がぽつり、ぽつりと流れて来る。感じからして涙だろう。

 それに私は何も言えない。…………星月の言葉が正しければ、そもそも「造物主の掟」がないとこの二つの制御が上手くいかないという、もっと根本的な問題もあったりするが。その話を今の私が知っているのは明らかにおかしいからだ。そもそもカトラスの事情も、現状は全くと言って良いほど確認していないのである。迂闊な言葉で慰めることは、今後のチャート(世界)崩壊につながりかねない。

 

 我ながら不出来な兄である。謝罪の言葉すらいえない。ただ、泣くがままにさせてやるしか出来なかった。

 だが、灰斗に勝てる気がしないと言った理由もおおよそ得心がいった。私がカトラスから奪ったパクティオーカード、アレのアーティファクトは時間操作系の能力を持っている。だからこそ瞬動など使えなくとも問題はないということではあったのだが、今の状態、私よりもバランスの悪い魔力やら気やらの構成のカトラスでは、あれ程鍛え上げられたプロ相手ではどうしようもないということだろう。

 

「ままならぬ……、カードを返すのも今の状況じゃ無理だし」

「……へ? フツーにあの、兄サンの転がってる首チョンパ死体からあさってくれば良いんじゃないの?」

「いやあのカードって夏凜ちゃんさんに預けてあるから」

「なんでよりにもよってあのヤベェ女に預けてるんだよ馬鹿兄貴っ!?」

 

 ぺしり、と頬にしっぺ一発。ちょっと痛い。

 お前そりゃどうして夏凜に預けたかっていえば、お前が一番苦手そうにしている相手だからだぞカトラス。夏凜相手なら下手に絡みに行くこともないだろうし、万一何かあっても神聖魔法という我々に対する致命打が存在する。保管場所としてこれほど安全な場所はないだろうに。

 

「兄サンわかってねーのか? あの女、本当にヤベェからな? 何か選択肢間違ったらずーっと監禁されて、えっと、大人しか見れない映画みたいなアレな目に遭わせられる感じの!」

「普通に十八禁とか言えばいいだろお前……って、あれ? ひょっとして妹チャン照れてるか?」

「うっざい! ばーか、ばーか! へんたい!」

「あっコラ、今頭しかないんだから適当に殴るんじゃねーっての!」

「ばーかばーか!」

 

 語彙が少ないカトラスとの醜い攻防戦(一方的)はともかく。第三者であるカトラスから見て今の夏凜はそう見えるのか…………? その、痛くされる可能性が限りなく低くなった今、もうちょっと落ち着いてくれたら大河内さんレベルとは言わずとも好みドンピシャではあるのだが、中々世の中上手くは行ってくれないらしかった。

 

「(…………大体それ言ったら、私たちだって全体のDNA的にはたぶん7割くらいイトコ並に離れてるし)」

「はい? 何か言った?」

「へんたい!」

「だから殴るんじゃねーって! って、話進まねーけど……。とりあえずアーティファクトについては諦めてくれ。たぶんすぐ夏凜ちゃんさんが駆けつけてくれる、なんてご都合主義な話はねーからさ」

「そりゃもう、分かったけどさ……。で? どうしろって? 兄サンやあのトキサカクローマルほど不死身じゃない私に、兄サンみたいな無様なさらし首になれって?」

「確かに無様(低オサレ)極まりねーけどよ……。一つ提案なんだが、たぶん一度雪姫に『されたことがある』から、俺でも行けると思うんだけど」

「あ゛?」

 

 私の話した提案に、カトラスの目は明らかにドン引きした。……いやスマンな、お前ここに来てからそんな顔芸ばっかさせちゃって。(良心)

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「九郎丸さん!」「だ、大丈夫かよ!?」

 

 駆け寄ってくる忍ちゃんとルキくんに、僕は笑みすら返せないでいた。切断された半身、上半身側に毒でも回っているのか再生が遅い。胴体にも傷多数、「夕凪」を握る手もほとんど力が入らない。

 二人に逃げるんだと、力不足に涙がにじむ僕。刀太君の方を目指そうにも、首から上のない刀太君の今の状況じゃどうしようもない。ネオパクティオーカードを使うにしても博打が強すぎて使うに使えず、またカードを引く時間すら与えてもらえない。明らかに僕よりも場慣れした「不死殺し」らしい不死殺しだった。

 

 刀太君の身体を見張っている老剣士が、灰斗さんに確認する。

 

「…………さっきから気になっていたのだが頭はどこにやった」

『あ? あー、なんかこう……、その辺?』

「だからそう遊びを含むのを止めろと何度言ったら判るのかお前は……」

『い、いやだって首チョンパだぜ首チョンパ! 流石にあの状態じゃもう何もできねーだろ常識的に考えて! 女だって口説けねーだろ!』

「…………」

 

 首一つで女を口説けるかどうかはともかく、刀太君なら何かしでかしてくれるんじゃないかって言うのは僕の期待しすぎだろうか。

 それはともかく、魔法アプリを展開して何か僕と刀太君の身体をまとめて氷漬けにしようとする灰斗さん。『全部終わってまだ生きてたら遊んでやるぜ』と笑っているのに、僕は何もできず――――。

 

「――――ご、ごめんなさーい!」

「何?」『おぉ!?』

 

 そんな灰斗さんに、ホバーバイクが突っ込んでいった。……完全な交通事故だよこれ!? いくら獣人で頑丈だからって、それを強行した忍ちゃんはいくら何でも行動力がありすぎる!

 その背後から降りて、刀太君の身体を庇う様に立つルキくん。老剣士はため息一つ。がれきから身を起こして「マジかー!」と絶叫する灰斗さんは、どこか楽しそうだった。

 

『いやホント、全然殺気がないからマジでびっくりしたぜ! 根性あるじゃねーかお嬢ちゃん……、ん? お前さんも坊主のコレ(ヽヽ)か? やっぱ後で殴るしかねーなぁ……』 

「戯れるな灰斗。気は進まないが、殺すぞ。全員」

「――――っ! 逃げて、ルキくん! 忍ちゃん! その人たちは全然甘くない! 本当に殺されちゃう!」

「……それでも、俺は、守るんだ! ここは俺たちの街で、俺たちの帰る場所だ!」

「わ、私はそこまで意気込みないんですけど……」

 

 大型ホバーバイクを盾に隠れる忍ちゃんと、啖呵を切るルキくん。ルキくんはその場にあったバールのようなものを拾って襲い掛かるけど、灰斗さんに軽く持ち上げられた。罵倒も聞き流し、むしろ大笑いで軽くあしらう。……その間、忍ちゃんは僕の胴体をバイクの背後に引っ張っていた。なんかこう、思ったよりちゃっかりしてる娘だ……。

 

「くそ……、何だよテメーら、なんでこんな酷ぇことしやがるんだよ! 人の心がねーのかよ!」

『ない訳じゃないが、まー、趣味と実益だな俺は。こーゆー「俺みたいな境遇」の奴を作る仕事はあんま好きじゃねーけど、どうせ俺もゴミだ。大した差はねぇ』

「おしゃべりが過ぎるな、灰斗。

 ふむ……、私たちの立場からすれば、そもそもここは君たちの土地ではないのだがね。帰る場所? 大いに結構、存分に土に還ってくれたまえと言おう」

「ふざけんじゃねぇ!」

「説明してあげよう。21世紀中盤に様々な理由から発生した多くの難民、君たちはその二世や三世が大半だ。我々のクライアントはあの塔の上にいる。彼らのほとんどは2050年代の『火星帰り』だが、もともとは彼らがこの土地を有していた。

 死亡扱い、失踪扱い、行方不明扱い、あるいは詐欺、横領、紛争による境界線の曖昧さ…………、時と場合、立場によって正義や悪の見方は変わる。

 彼らからすれば、君たちは自分たちの土地を奪って居直っている強盗のようなものだ――」

「ふざけんじゃねー! ウチはれっきとした日本国民だ!

 父ちゃんは都の方で稼ぎ少ないけどちゃんと税金払ってるし、ここだってシスターの教会が持ってる土地だ! それを奪ってお前らの土地じゃねーとか言ってるんじゃねー!」

 

 ルキくんの慟哭に、身につまされる思いだった。……思えば僕は恵まれていた。「桃源」――――宇宙にある僕の故郷で、一体僕は、僕自身のこと以外の何に気を遣ったことが有ったろうか。兄様があれだけ僕のことを気にかけてくれていたのに……。それだって呆れられて、今じゃ捨てられてこの有様だし。

 と、ぎゅっと忍ちゃんが僕の手を握った。不思議に思い顔を見ると、忍ちゃんは真面目な顔で。

 

「大丈夫です。なんか分からないけど、たぶん大丈夫です……!」

「えっと、それって……」

「だってほら、先輩は、ヒーローだから……、こういう時に何もしないでいる訳なんて、きっとないです!」

 

 果たして――――ルキくんに灰斗さんが爪を振り下ろそうとした瞬間、二人の間に現れたのは。

 

 

 

「…………我ながら似合わねぇ、こんな真似」

「あんま文句つけるなって。とりあえず俺の身体解放するまで、な?」

 

 

 

 カトラスちゃんだった。いつか見たマントで、ただ下は何故か夏凜先輩のジャージと草履で、……そして左の小脇には刀太君の頭を抱えていた。

 カトラスちゃんは、いつか見た鈍い色の大きな剣を持っていなかった。代わりとばかりに、右手からは真っ黒な魔力が立ち昇っていて…………、どこかそれは、悪魔的なシルエットを思わせた。

 

『お? お前ぇは、なんかどっかで見た顔だな』

「一瞬顔合わせたくらいだし、そんな認識だろうよ人狼のオッサン」

『お兄さん、ダっ! オラっ!』

 

 瞬間一気に後退して、瞬動の勢いのまま殴りかかる灰斗さん。その手には氷結系の魔法が渦巻いているけど、カトラスちゃんは気にした様子もなく右手を差し向けて、受け止める。

 

「――――っ、『反転』!」

 

 瞬間、カトラスちゃんの足元に、えっと、太極図みたいなのがうっすらと魔力で浮かび出た。そしてその模様が回転すると同時に、彼女の右手に受けた魔法が「そっくりそのまま」灰斗さんに反転した――――!

 叫びながら灰斗さんは右腕を切断し後退。老剣士も彼のサポートの為か、同じ位置のところまで後退した。

 

『おいおい南雲の爺さん、こんな隠し玉聞いてねぇけど』

「ふむ。…………君はもともと私が雇っていたのだと思ったのだがね? いつの間にか消息が知れずに気にしてはいたが」

「俺もそのつもりだったんだけど、まぁ…………、今回限り手を貸してやろうかってな。『兄妹のよしみ』って奴だ」

 

 よく見れば、カトラスちゃんの左手は血まみれで……、手のひらに傷があるのか、そしてそれは刀太くんの首の位置と丁度重なるようになっていた。

 

「トキサカクローマル! パクティオーカード使え! 再生と準備する時間くらいは俺の方で稼いでやる!」

 

 言いながら、カトラスちゃんはその変化した右手を構え直し。

 

 

 

「――――『明星の右(シファー・ライト)』」

「……お前も結構、素質あんじゃねーか」

「何のだっ」

 

 

 

 刀太君のぼそりとした一言に、照れたように叫んでいた。

 

 

 

 

 



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ST38.討ち果たす力

毎度感想、誤字報告、ここ好き、お気に入りなどなどご好評ありがとうございます!
アデアットは・・・きっとしたんだよ(遠い目)


ST38.Struck Down Cutlas

 

 

 

 

 かつて夏凜と九郎丸の謎修羅場を止めた時、初めての血風創天に失血死しかけた時の事。雪姫が自身の血を私に流し込み、私自身の回復能力を底上げしたことがあった。どういう原理なのかと後になって色々考えたが、いろいろと戦闘を重ねるうちに答えを察した。おそらくそれも血装術の一種なのだろう。雪姫自身の血を経由して私の体内の血を仲介し、「金星の黒」へのつながりを直接操作した、というところだろうか。このあたりは感覚的な話もあったからこそ察したというのが正解かもしれない。原作主人公も九郎丸の傷を縫い留めるために「疑似的に」吸血鬼の力を使い眷属化したことがあったが、あれをもっと局所的に、意識的にするというようなものだ。

 ならば、私にだってそれに近いことが出来ないはずはない……、少なくとも「気」を扱うより才能があると言われている以上は、である。自動回天がなくとも魔力のようなものは感覚的に捉えられなくもないので、おそらく相性が悪くないはずのカトラス相手であればどうにか出来るのではないか。

 

 そしてこの話をカトラスにした瞬間、彼女は明らかに引いた目を向けてきた。

 

『あ゛? つまり、あの気持ち悪いやつを私に対してやるってこと? ……えっ嫌だけど』

 

 そうは言っても現状では勝てる見込みはなく、カトラス本人の不死性を多少なりとも底上げしなければどうしようもないだろう、というのが私の見立てだった。何はともあれ試してみないことには話にならないと、九郎丸がボロボロになっていく様に焦りながら説得を試みた。

 

『ほかに何か良い手があるなら言ってくれ』

『というか、これ私との約束破る奴じゃねーの?』

『いや、だって私が大量出血して死ぬ訳ではないし。お前だって多少なりとも頑丈になるのはメリットじゃねーのか?』

『それはメリットと言えばメリットかもしれねーけど…………。というか、流石にそんな見てられねぇ有様になってまで、私もどうこう言わねーけど……』

『マジでか!?』

 

 予想外のカトラスからの反応に、思わず大声を出してしまった。もともとこの方法を勧めるもう一つの理由として、つまりカトラスに血装術の使用の許可をもらおうとした、ということがある。そのままなし崩し的に本来の血装を使うまでが目標だったのだが…………、多少は絆されてくれたのか、温情措置のような言葉が出てきた。

 そんな説得の甲斐もあってか、嫌そうな顔をしながらも「仕方ねーなぁ」というくらいにはカトラスも妥協したのだが、しかしいざ自分の掌に傷をつける段階になって再びストップしてしまった。

 

『(……あれ? これってひょっとして兄サンの血が私に混じるってこと? マジで血のつながった兄妹にでもなるってことか? バカバカしい……、いや、えっと、でもなんか、嫌だぞこれ)』

『あー、何か問題でも?』

『問題あるって言えばあるんだけど……、えっと、あのさぁ…………』

 

 正直焦っていたこともあり、カトラスが何故か照れているように躊躇っているのに対して時間をかけて説得する気になれなかった。半眼で睨むように急かすと、らしくもなく小さく唸りながら掌に傷をつけ、私の首をそこに合わせた。

 

 ――心臓がないとはいえ、全く血流を操ることが出来ないわけではない。それが出来なければとっくの昔に私の首からは血が流れ続けて、しゃべるどころではないのだ。ならば、と。その私の頭の血液をカトラスの血液に接触させ、「意識」を「伝播」させていく――――。

 

 そして、後悔した。カトラスの血流から「金星の黒」の引っ掛かりを探そうとして、彼女自身の身体の「いびつさ」を直に知ってしまった。それが、私にはひどく痛々しかった。

 手足の欠損にはじまり体内の骨自体がいくつか金属製のものに置き換えられていたり、それ以外の骨も継ぎ接ぎまみれ。臓器すらいくつか存在せず、いわゆる「女性としての機能」を司る箇所は人工の魔力循環炉が組み込まれている。ここを用いて無理やり体内の魔力バランスを調整し、金星の黒の再生能力の制御を膵臓のあたりの電子頭脳で補っていたり、あるいは「火星の白」をハマノツルギのような形に成形する魔法アプリが脳天から物理的に挿入され埋め込まれていたりといったような…………。

 

『どうした? 兄サン。なんか変な顔して』

『……何でもねーよ』

 

 だが、それに同情してやる暇はない。流石に今のままだと九郎丸や忍やルキが殺される。それ所ではない、最終的に私たちが勝ったとしても早期決着できなければ、私たち自身をしばらく戦闘不能にされてしまえば、それだけスラムの被害が拡大することになる。灰斗たちの暴力は一般人からすれば災害であり、それだけの力にさらされて平気なはずはないのだ。

 只でさえ情が移ってしまっているカトラスでも、その優先順位を変えることは出来ない。つまりチャート(原作)の完全崩壊は人類世界の滅亡に繋がるのだ。痛くないチャートを志す私であっても、私自身が世界の危機に立ち向かうという立場からは「逃げられない」のだ。それは、たとえ実感が薄くとも妹を救うことよりも優先しなければならないことなのだから。

 

 ――――あった! やはりというべきか、心臓近く、肩を縫うように二つの帯。

 

 だが、確かに星月が言った通り頼りない。白い方も、黒い方も、どちらも扱いを間違えれば切れてしまいそうだ……、いや、むしろこれは「切れたものを何度もつなぎ直した」のか。使い方を限定させることで、この頼りない帯でもある程度の使用を可能にしたというところらしい。…………元々は「火星の白」の方が強く、金星の黒はほぼ使えなかったのを察することが出来る帯の絡まり方だった。

 

『お前の場合、右手の方が「黒い方」なんだな。なんとなく』

『? 兄サンは逆なのか……、って、別にそんな話知ったところで何もねーけど』

『いや、結構重要だぞ? これからちょっと「無理やり」お前の力の出方を解いたり、結び直したりして使い方を変化させるけど。最終的な力の使い方をどうするかってのは考えないといけねーし。俺みたいに血を武器にする、とかは嫌なんだろ?』

『キモいからな? 今だって諦めてやってもらってるけど。でも使い方か……。って? あれ? ひょっとしてハマノツルギも出せなくなるのか?』

『それはお前自身の力とちょっと別なところにあるモノが作用してるから大丈夫だとは思うけど…………、もうちょっと自由度が高くなる感じか』

『ふぅん……』

 

 言いながらカトラスは、自分の右手を見て。

 

『…………じゃあ、「それ」で良いや。右手から、金星の黒の力を纏ったり、放出できるようにして』

『そんなので良いのか?』

『うん。……人体に直接って形なら、武器を失って困るようなこともないだろうし。最悪、無理やり戦い続けるにしても、最後の最後まで武器を持ってるのと殴り続けるのだったら、殴り続ける方が労力が少ないし』

 

 このあたりは戦場慣れしているせいなのか、判断基準に一定の明確さがあるカトラスだった。ただ、言いながら本人が自嘲げに笑っているのが印象に残る。……スラム生活で自分も平和ボケしてきたか? という自嘲か、あるいは「本当は平和に暮らしたかったのに」今の自分のようになってしまったことへの自嘲か。

 

 

 

 結果、かなりギリギリまで格闘したものの、即興ではあるがカトラスの右手は「闇の魔法(マギア・エレベア)」化した。

 暴走状態ではなく、カトラスの「血」を通じて私が「火星の白」を抑え、「金星の黒」の出力を力業で調整しているようなノリである。……つまりは私自身が自動回天の代わりの様な事をしているようなものだ。引っ張ってきた「金星の黒」自体にはノータッチだが、このあたりは意外と空気を読んでくれているのか、それともカトラスの才能か、上手いこと右手右腕を覆う様に、軽い鎧のような状態になっている。

 

 …………今更だがこれってチャ○(霊圧が消えた)スタイルでは? 腕全体を覆う様に悪魔的な形で強化されるのって、意識してなかったが完全にチ○ド(友達のために命かける)スタイルだった。妹チャンにこれを強要する形で装備させるのに一抹のヘンなフラグを感じなくもないが、だ、大丈夫。意図的なやつではないし、そもそも今回に関しては臨時だから、メイビー。きっと死亡フラグの類ではないはず。(震え声)

 

「――――『明星の右(シファー・ライト)』」

 

 灰斗に一発かましたカトラスがぼそりと技名(というより形態名)らしきものを呟くが、お前それ……、アレか、金星の黒だから「明けの明星」にかけてルシファーからとってるのだろうか。シルエットも悪魔的だし、裏金星つまりは魔界由来の力という意味では間違っていないだろうが。しかしあえてルシファーではなくシファーとつける所に、カトラス生来のセンスを見た。

 もっとも素質あるじゃねぇかと感想を言えば何のだとわめき返されるのだが。照れてる感じからして、本人的にもちょっとネーミングやっちまった感はあるのかもしれないが、うん、いいじゃんシファー・ライト。(大絶賛) 情操教育で英才教育する必要もなく乙女回路とは別にOSR回路も搭載しているらしい妹チャンだった。(意味不明)

 それはともかく。

 

「九郎丸! 足あとどれくらいで回復する!?」

「えっと、たぶん40秒くらい……」

「じゃあアレだ! 治ったら『神刀』で俺の胸部を一突きしろ! そしたら中にある封印用の魔法アプリもぶっ壊れるだろうから!」

「へ!? わ、わかった――――」

 

 九郎丸が応え終わる前に灰斗が猛烈な速度でカトラスの頭をねじ切ろうと動き――――瞬間的に「金星の黒」で無理やり強化された動体視力をもって躱し殴りつけた。戦闘勘ではない、明らかに戦闘経験に基づく反射行動だろう。

 この動作と同時に私の頭がぐわんぐわん回転するわ揺れるわで、吐くものは物理的にないのだがだいぶ気持ち悪かった。

 

「忍! 九郎丸たちを頼む!」

「りょ、うかいです!」「兄ちゃんそれで生きてるとかマジか!?」「と、刀太く――――」

 

 ホバーバイクで距離をとりながら、ついでに灰斗の方に南雲が行ったことで隙だらけになった私の身体を回収する忍。……なんだこの手際の良さ、お前さん戦闘要員では全然ないだろうに。私の知らないところで、このスラム生活で何かあったのだろうか。……是非とも私のガバではあってほしくないです。(混乱)

 

 もっとも南雲は様子を伺うばかりで私やカトラスの方を注目していた。灰斗はあちらに向かう素振りも見せず、足止めをするカトラスを警戒してる。

 

『ハハ、お前アレだな、兄貴よりもよっぽどセンスありそうじゃねーか。どうだ? その気があるなら弟子になるか?』

「お生憎、俺そーゆーのあんまり好きじゃないから。便利兵器でドカーン! って一発解決するのとか、そういう簡単な方が好みだし」

『オイオイ情緒がねぇなー。少年漫画だって修行回とかあった方が燃えるだろ?』

「テンポ次第!」

 

 言いながらカトラスはハマノツルギを生成すると……、それを右手でつかみ「疑似的な」「太陰道」を発動させる。あくまでも私が無理に白黒双方の力を分離させているのと、カトラス自身の適性の問題もあってか、その能力は本来の「闇の魔法(マギア・エレベア)」における太陰道のそれではなく、魔法や魔力を「掌握」した瞬間からエネルギーとして転化し放出する形となっていた。

 

『オイオイオイマジかよそれ反則じゃねーか!? せめて逃げる場所くらい作りやがれっ!』

 

 雑に言えば相手の霊力(オサレ)とかを転用した虚○(オサレ)である。○閃(オサレ)よりは巨人○一撃(オサレ)の方が恰好的に似通っているのだが、ビーム兵器に近いのであえて飲み込まない重○虚閃(オサレ)が体感的には近いだろう。

 このあたりまだネーミングが思いつかないのか、カトラスは無言で放っているが。それを受けた灰斗はただ事ではない。ハマノツルギの生成に使用される「火星の白」のエネルギーが相当なのか、外目から見ると「野太いビームサーベルを延々照射し続けてる」ような絵面になっている。これを右手でぶんぶん振り回すので、いくら瞬動に慣れてるとは言え灰斗も気が気ではないのだろう。実際足やら胴体やらを取られると、被弾した箇所を中心に「獣人化」が解けていく。

 

「へぇ、結構イケメンじゃねーか。兄サンとは大違いだな」

「そりゃどうもだな。そう言ってもらって悪いが、ちょっと余裕がねぇなこりゃ」

 

 苦笑いしながらバンダナを付け直した灰斗は、改めて格闘家らしい構えを取る。深呼吸すると、「大地を掴み、世界を掴む」と呟く。明らかに視線が鋭くなり、私とカトラスに対して先ほど以上に容赦がなくなることが予想された。

 と、思いきやニヤニヤと笑いだす灰斗。……飛び道具で右往左往させられるのは本人の趣味ではないだろうが、どうにも強敵と戦えるというのはそれはそれで悪い気分ではないらしい。

 

 一方のカトラスは、理解できないとばかりに眉間にしわを寄せた。

 

「…………よく知らねーけど、アンタ、なんでこんな仕事やってんだ?」

「ん? ははっ、さっきも聞かれたか? 大した理由じゃねーけど、まあ趣味と実益だ」

「実益は判るんだよ実益は。趣味は何だって話」

「そりゃお前――――――――血沸き肉躍る、バケモノ共との殺し合いだろ」

 

 ニヤリと笑いながら、次の瞬間には私たちの眼前に現れる灰斗。その握られた左拳に対して、無理によけようとするカトラス――その程度の動きは既に予測済なのか、同時に右足が前に出ていた。えぐるような一撃、私を掴む腕と肋骨が折れたような感覚。しかし一瞬顔をしかめるばかりで、カトラスは右手を手刀のようにして灰斗の足を斬ろうとした――――。

 

「っ!?」

「そう何度もやられはしねぇよ!」

 

 斬れない! いや、これは「刃返し」だったか。一応「気」を使った、人体に刃物を通さないように部分強化する技術。

 だがそれで隙を作らないのは流石に戦場慣れしていない。睨むようにカトラスは「ハマノツルギ」を生成すると、生成途中の柄の部分で灰斗の鳩尾を殴り飛ばした。

 距離が開く。その一瞬で幾分活性化されている「金星の黒」により、折れた腕やら胴体やらが再生した。……いや再生しても服は破れているので何とも言えないのだが、せめてお前さん下着くらい付けようや。一応年頃の娘さんだろうに。(保護者の目)

 

 それでも何が楽しいのやら、灰斗は大笑いしていた。

 

「やっぱこれだから止められねぇ! お前らみたいな『バケモノ』と、俺みたいな『バケモノ』! 殺し殺されるかこの一瞬の瀬戸際の時だけ、俺は今『世界に立ってる』って錯覚できる(ヽヽヽヽヽ)! お前らとの出会いに感謝だ!」

「…………意味わからねーんだけど」

「感謝ってアレっすか? 一人じゃそういう感覚を味わえないから、ってことッスかね」

「おうよ! 『吾一人只大地に立つ、しかして世は只一人立つに在らず』。だからお前らとの出会いに感謝しながら―――――次の一発で決めるぜ?」

 

 音もなく構える灰斗。と、カトラスが目を見開き、数歩後退しながら右手を構えた。血流から、明らかにカトラスが動揺しているのが分かる。一体相手の動きから何を察したというのか。

 そして――――。

 

 

 

「――――我流・最太気導(さいだいきどう)白邦(はくほう)閃炸断(せんさくだん)

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「――――我流・最太気導『白邦(はくほう)閃炸断(せんさくだん)

 

 今までで何度か「死」の予感を感じたことがあるけど、今日のは特大ヤバいそれだった。相手がどれくらいの手練れかっていうのは見ていて分かったつもりでいた。でも全然甘かった、今の今までずっと手を抜いていたことがわかってしまった。

 自分で言うのもアレだが、私は戦闘センスが低い。製作者いわく「生まれが違えば研究者系の魔法使いが向いていたろうね」とか言われたことがある。そんな私が曲がりなりにも戦えて来ていたのは、ひとえに戦場に幼少期から放り込まれた経験値のそれだ。

 

 だから、そこで生き延び続けてきた私にはわかってしまうのだ。相手の攻撃がどれくらいの速度で行われるのかとか、それによって自分が生き残れるか死んでしまうかとか。

 

 兄サンの魔力なのか血なのかによって、瞬間的に外れただろう私の生物としてのリミッター。その引き伸ばされた世界で、一切反応出来ない速度で相手が迫るのがわかる。時空関係能力者としてはある意味で慣れたような世界だが、そこに「置き去りにされる」感覚はあまりない。普段ならどうにかできるものを、無理やり制限されているような不自由さで――――同時に、私が兄サンに課した制限の大きさみたいなものにも予測がついてしまった。

 

 足を踏みしめて移動した時点で、狼男のイケメンは既に上半身を大きくひねり、勢いに乗せて右手の手刀を私の胸部に突き立てるだろう動きをしているのが分かる。そしてその速度に今の私じゃ全く反応できないことも。

 

「――――」

 

 声すら出す時間もない。脳裏を様々な思い出が巡ることもない。ただただ当たり前のように、あの一撃は私を殺すだろう。いくら「金星の黒」が普段より活性化してるとはいえ、心臓が壊されてまで生き残れるとは思えない。そこまでの再生力があったなら、とっくに私は兄サンより先にもっともっと強くなっているはずだから。

 

 だから、嗚呼、せめて兄サンだけでも庇えればと思って――――。

 

 

 

「――――は?」

 

 

 

 手元に兄サンの頭の感覚がなかったことに気づいた瞬間。

 目の前には、前に見た気持ちの悪い血で出来た、黒と赤のコートみたいなのを纏った兄サンが。黒い重力剣で、狼男の一撃を受け止めていた。

 

 

 

 

 



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ST39.ウツロのモリのカザアナ

感想、誤字報告、ここ好き、ご評価などなど毎度ご好評あざますナ!
 
ふとブレソルに手を出てみて想像以上に郷愁(?)でテンション上がったのと、ルキアの立ち絵結構可愛いなってなってちょっと執筆遅れました汗(爆)


ST39.Hole at Heart in Hollow

 

 

 

 

 

 僕が二回目のスカカードにより小さい姿に変貌した頃、夏凜先輩が走って駆け付けて来た。少し髪が湿っていた感じからして、急いで来たのがわかる。それはそうと、二度目のアベアットにより変身を解除した僕を、夏凜先輩は不可思議そうな目で見てきた。

 

「なんで貴女、そんな愛らしい姿にまたなっているのかしら……」

「こればっかりは僕の任意で変更できないですから! えっと、そのですね」

「って、刀太!? 一体これはどういうことなのっ!!?」

「それはですねぇ……って夏凜先輩!?」「きゃっ」

 

 刀太君の身体を忍ちゃんがびくびくしながら介抱しているところを見た夏凜先輩は、普段の冷静な表情が崩れた。青い顔をして忍ちゃんから奪い取る勢いで刀太君の身体を引き寄せ……って、ちょっと加減してあげてくださいよ! びっくりして尻もちついちゃってる忍ちゃんを引き起こして、事情を説明する。カトラスちゃんと協力してなにやらやっているというのに一瞬目を見開いたけど、そのまま話を中断することはなかった。

 刀太君の見立てだと「神刀・姫名杜」を使えば彼の封印状態――――胴体に浮かんだ十字を消滅させられるというものを説明すると、夏凜先輩は普段通りの無表情に戻った。

 

「確かに行けそうと言えば行けそうかしら。たぶん、能力というかパワーの制御とか関係なしに、基部になってるデバイス……、ロザリオ型かしら? この浮かんでる模様的に。それ自体を破壊できれば、問答無用で封印術式を破壊できると思うわ」

「そうなんですけど、さっきアーティファクトの簡易召喚だけを試したら、ヒナちゃん封印に弾かれちゃって…………」

「つまり『本来の状態』じゃないと性能を十分発揮できないということかしら。…………それはそうと如何して刀太はこんな悲惨な有様に……、下手人を仕留めないといけないやつ?」

「えっと…………」

 

 刀太君が意識まで封印されないためなのか、逃げるためなのか自力で無理やり解除しようとして、結果こうなったみたいだと。横で見ていた挙動をそのまま話すと、夏凜先輩は無表情になった。……本当に感情が乗っていないタイプの無表情だった。目の色もこう、水面みたいにあら綺麗な感じで。

 

「…………下手に血装術を封じたのが、変に作用したかしら」

「あ、あはは…………」

「まあそこの是非とかは帰ってから雪姫様に相談するとして。

 忍、貴女たちも無茶をしないで。私や九郎丸のように、死とはやや遠い場所にいるわけではないのだから」

 

 だけどここは俺たちの故郷だから! と声を荒らげるルキくん。その目元は赤く、泣きながら立ち向かっていたことをうかがわせる。一方の忍ちゃんは、そんなルキくんの肩を背中から押さえてた。

 

「でも……、私だって戦ったり出来ないのは、全然できないのは百も承知です! それでも先輩が、『刀太さん』が何とかできるまでは時間を稼がないといけないって、それだけはわかってました!」

「…………そう。なら、後は私から言うことではないかしら。二人ともよく頑張りました」

 

 その一言の何に納得したのか、夏凜先輩はうんうんと何度か頷いた。ルキくんと忍ちゃんの頭を撫でながら、夏凜先輩は僕の方を見る。気のせいじゃなければ、その目にはなんというか、もんのすごい期待が乗っている感じがした。

 

「後は九郎丸、貴女です。覚悟を決めて早い所アーマーカードを引きなさい」

「そ、そうは言ってもですね? これってランダムだから、何度もスカが出てしまうのは……」

「雪姫様はおっしゃられました。『意外と空気は読んでくれる』と。であるならこの状況、これだけの『展開』がそろっていて引けないのは、きっとカードだけではなく貴女に何かあるからでは? と思いますが」

「そんなこと言われても……」

 

 じぃっと夏凜先輩は僕を見ながら…………、思ってもないことを指摘してきた。

  

「九郎丸、貴女ひょっとして恐れているのでは? ――――もう一度、刀太の胸を自分の手で貫くという、その行為に」

 

 一瞬頭が真っ白になって、でも、僕はそれに反論できなかった。

 

「…………そういう側面も、ないとは言い切れません」

「その点はある程度解消したのだと見たけれど、そう簡単な話でもないようね。だったら……、こう考えたらどうかしら」

「こう考えたらと言うと?」

 

 言いながら、夏凜先輩は目を伏せて淡々と続けた。腕にはどこか力が入っていなかった。

 

 

 

「貴女が神刀を使わないというのなら、私が刀太の身体全身に『神聖魔法』を流して、一度完膚なきまでに蒸発させる。そうすれば、封印の状態から完全に外れるから、刀太の身体は自動で再生される」

 

 

 

「……!? そ、そんなことをしたらっ」

「大丈夫のはずよ。雪姫様いわく、刀太の不死身強度は私並。しかも雪姫様以上だと言っていたわ。かつて雪姫様は骨一つ残らないレベルで砕かれても未だに生きているのだから、それ以上に不死身である刀太ならどうということは――――」

「それじゃ、刀太君の心が死んじゃうかもしれないじゃないですか! 感覚、繋がってるんですよ!?」

 

 僕並か、それ以上に刀太君のことを視ているはずの夏凜先輩。その彼女の口から出てきたその言葉に、思わず僕は叫んでしまった。痛いのを嫌がっているという事実に、夏凜先輩が気づいていないはずない。肩を掴んで引き寄せて真意を問おうとしたけれど。

 でも見れば、夏凜先輩の握った手は震えていた。

 

「…………ええ。でも、他に手が無いのなら、それをするしかないでしょう。私も本意ではありませんし、嫌われてしまうかもしれません。でも、それで助かるのなら――――迷いはないわ。

 だからこそ、九郎丸。すべては貴女にかかっています」

 

 貴女がどれだけ覚悟を決められるか。後は僕の選択と、心構え次第だと。

 僕は……、僕の手は、二度も…………。だけど。夏凜先輩でさえこれだけ覚悟しているのだ。刀太君の相棒の僕が、最後まで彼と一緒に戦い続ける僕が、こんな場所で立ちすくんでたらダメだ。

 

 夏凜先輩の言葉に、僕は震えながらカードを起動し―――――――。

 

 

 

 

我が身に秘められし(オステンド・ミア・)力よここに(エッセンシア)――――来たれ(アデアット)!」

 

 

 

 果たして、ヒナちゃんは応えてくれた。

 

 

 

・ARMOR CARD

・KUROUMARU TOKISAKA

・RANK:Lightning Sword

・EQUIP:Sacred Sword HINAMORI

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

『(やった! 何とかなった……、やったね僕! 頑張ったよ、すごい泣きべそかいてたけど! ……僕も刀太君、桃源以来また刺しちゃったけど……、そのうち謝れるといいなぁ…………)』 

 

 刀太の封印を、直接心臓に刀を突き立てて破壊した時点で、九郎丸のアーマー状態はすぐ解除された。ぐったり倒れている姿はどうにも空腹そうだった、そういえば以前、雪姫様も空腹になるみたいなことを言っていたかしら。

 携行のカロリーバーを手渡すと力なく咀嚼しだしたけれど、それと同時に刀太の胴体が煙を上げて消えた。

 

「…………心臓はこちらにあっても、本体はあっちの首の方、ということですか」

 

 ご丁寧に服ごと消えているのは、なんというか私のようなものがいうのは変なのだけれど、ますます吸血鬼じみていた。

 あの子、デスクラッドだったかしら。やってることは色々滅茶苦茶に見えるのだけど、原理原則だけを鑑みるとすごい吸血鬼らしいことしてるのよね…………。

 

「九郎丸、立てますか?」

「が、がんばります……」

 

 手で目元を隠す九郎丸に、深く追及はしない。このあたりは同じ女としての情けしかなかった。

 

「…………デートくらい取り付けてもバチはあたらないと思うけれど」

「で…………!? え、えっと、全然そんな話とかじゃなくてですね!?」

「大人だ」「大人です…………」

「ともかく、通信機器は通じないことは把握していますね? ……でしたら、何か目立つ手段をお願いします。飴屋一空も監視をしているでしょうけれど、要点に目印があった方がよりわかりやすいでしょう」

  

 消耗から回復したら街の方の救援に回ってと言い、刀太を探そうとすると。遠方で赤黒い剣戟の軌跡みたいなものが巨大になったようなのが見えた。

 あえてカトラスちゃんとの約束というか、希望を優先させていたみたいだけれど、それをあえて違反したということは…………。

 

 立ち上がり「瞬動」に神聖魔法の「信仰の力」を乗せて、虚空を蹴りながら一気に向かうと。その先では長身の男と斬り結ぶ刀太の姿があった。

 恰好はいつか見たローブのような赤と黒のコート姿で、腕単体で瞬動でもしていそうな速度を出していた。……後左手はどうしてかポケットに入れたまま。

 

 その構えというかポーズみたいなのってよくやってるけど、どうしても左手はポケットの中が良いのかしら…………。

 

『ハハハ、マジかよお前! それが奥の手か? いや前に言ってた「本当は使える」奴的なのか!』

「本当は使うつもり無かったんスけどね…………。俺と違ってカトラスの場合、心臓ぶち抜かれたらたぶん即死なんで。四の五の言ってられねーんだよ!」

 

 よっと、と言いながら刀太は男の膝蹴りも往なしている。一撃を上手く足を経由して、地面に逃がしている?

 こっちに来て修行と自称するそれをして一週間と少し、それでも中々上達しなかったのに、どうしてか今の刀太はその動きに不安を覚えることが無かった。

 

「やっぱ『気』は才能ねーのかなぁ……、悲しくなってくる」

『オイオイ、今のそれは十分「瞬動」の基礎が出来上がった動きだぞ! 戦ってて体得したんじゃねーのか?』

「いやこれ、力業というか……(死天化壮使って内血装で人体が裂けちゃうの、無理やり誤魔化してるだけだし)」

 

 言いながらも刀太は背後に視線を向け……、腰でも抜けてるのかへたり込んでるカトラスちゃんに、不敵に笑った。ちょっと可愛いわね。

 

「大丈夫だ妹チャン――――お前の霊圧(オサレ)はまだ消えない」

「いや意味わからねーから、馬鹿兄貴っ!」

 

 私も意味が分からないわ。

 

 意味が分からないけどそれはともかく、ちょっとその横顔はカッコイイ気もするけれど。見ればカトラスちゃんの右腕はまるで火傷でもしたみたいに赤く染まっていて…………、でも煙のようなものが昇って、徐々に再生しているように見えた。

 

 そんな様子を見て、刀を構える老剣士――――踏み込みの動きを見るまでもなく、カトラスちゃんと彼の間に立ち、十字剣を向けた。

 

「貴方のことは甚兵衛から聞いています。PMSCS「パワフル・ハンド」の南雲士音。

 特に貴方が『不死者』に対して強い敵意を持っていることも」

「…………ロクなことをしないなあのロートル。作戦目標は半ば達したが、新たな問題が出て来たと言うのに」

「新たな問題?」

 

 言いながら、南雲は腰に長刀を構える。抜刀術? 時折九郎丸もそんな構えをしているけれど…………、防御用の魔法アプリを複数起動し、私もハンマーと剣を構えた。

 南雲は私の言葉に、目を閉じたままニヤリと笑った。

 

「嗚呼、新たな問題だよ『鋼鉄の聖女』。いや『地獄からも締め出された裏切り者』とでも呼ぶ方が好みかな? 小娘」

「安い挑発です。それに……、私の知る事実はもっとややこしいものですから」

「それは失礼。…………だが私からすれば、君のような存在がそちらに付いていることの方が違和感バリバリなのだが。特にあの小僧と、そこの小娘を守るというのは」

 

 意外と若者言葉も使う老剣士だった。けれどそれよりも、刀太とカトラスちゃんを警戒している口ぶりに、私は違和感を覚えなかった。

 

 遠くで花火のようなものが上がる。……アレは九郎丸の仕業かしら。確かに目立つ目印にはなるけれど。

 それを一瞥するように顔を向けてから、南雲は続けた。

 

「――――闇の魔法(マギアエレベア)というものを知っているかな?」

「それは……?」

「究極の不死転生の秘奥、無尽蔵の再生と魔界『そのもの』と言わんばかりの魔力。私が知る限りにおいて、この保有者は二人しかいない――――。

 一人は『闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)』、『不死の魔法使い(マガ・ノスフェラトゥ)』とも呼ばれる女魔法使い。

 もう一人はその女の弟子の『偉大な魔法使い(マギステル・マギ)』。あの灰斗すら含む一部の人間にとっては『現代最後の指導者(ラストテイル・マギステル)』とも言われる男だ」

 

 雪姫様とその弟子…………、とすると聞いた話が正しければ、それはつまり刀太の――。

 懐かしむような、それでいて忌々しいものを思い出すように表情を歪める南雲。

 

「…………『七人の侍(サムライ・セブン)』だったか、その女と男が作った部隊があった。実態は吸血鬼と魔族と不死の眷属共が組んだ忌々しい連中だったが。 

 今からおよそ二十年前、我々不死狩りは火星事変の元凶たる存在を追い詰めたことがある」

 

 二十年前……、UQホルダーがまだない時代。

 

「敵もさるもの、流石に長年生きてきた不死身のバケモノなだけある。異界から呼び出した魔物共に、ことごとく我々は殺され、壊滅寸前に追いやられた。

 そこを、あの男たちに助けられた。…………特にあの『偉大な魔法使い(マギステル・マギ)』だとも、ネギ=スプリングフィールド!」

「昔話に付き合うつもりはないのですが」

「ふっ、定命の老人の会話くらい付き合うものだぞ。……圧倒的だった。幾千もの術で蹴散らし、幾万もの速度で蹂躙し、全てを破壊するその様は――――まさに最強最悪のバケモノだ。あんなものの存在を許してはいけない。ただ一つだけ、ただ一つの気まぐれで国を、星を滅ぼしかねないような。たった一つで全てを滅ぼす、まさに『人類の敵』のような存在を」

 

 目をうっすらと開ける南雲。色は濁っており視界がないのは判るものの、それでも浮かぶ敵意は隠しようもない。隠すまでもなく「お前たち全員に当てはまる」と訴えていた。

 

「我々は恐れるのだよ、だからお前たちとは相容れない。中でも『闇の魔法(マギア・エレベア)』は最悪の部類に入るだろう」

 

 そして、と。私の後ろを指さしながら、南雲は吐き捨てる。

 

「――――そんなものが量産でもされてみろ。世界などあっという間に滅びる。

 だからこそ解せない。あの小僧とそこの小娘は兄妹だと言う。そして両者ともに、明らかに『只の吸血鬼の枠を逸脱している』。そうまるであの男のように――――お前たちは何だ? 三人目、四人目? これからまだ増えるつもりなのか? 増やすつもりだとでもいうのか?

 ――――そんなにヒトの世界を滅ぼしたいのか貴様らはっ!」

 

 南雲は言う。むしろ私たちですら、カトラスちゃんや刀太を殺す側に回るべきだと。只の不死身の域を大きく逸脱するそれは、あまりに人の手に余り、たやすく世界を滅ぼすのだと。

 南雲の言いぶりに、背後のカトラスちゃんが大声で笑った。……嗤ったの方が正確かもしれない。

 

「そんなの俺らに聞くなよ! ……こんな身体で『作られて』さぁ! こんな身体に『作り替えられて』さぁ! お前は失敗作だって、人を殺すために再利用できるとか笑顔で言ってさぁ! 量産するとか結局『製作者』の側の都合だろ!

 今更、今更どうやって普通に生きろって言うんだよ、オイ……!」

「……っ、カトラスちゃん――――」

「………………()だってさぁ。『ののか』さんが言ってたみたいにさ……、フツーに学校通って、フツーに大きくなって、フツーに結婚して、フツーに子供産んで、フツーに年取って、フツーに死んでとかさ……。

 もうそんなの、遠い所に置いてきたよ。初めから私に『そんな願いなんてなかった』んだよ。だから……、兄サンは毒なんだよ…‥、見ててイライラする…………」

 

 カトラスちゃんを見れば…………、カトラスちゃんは右目だけ泣いていた。腕が震えて、堪えているようだった。

 その言葉の真意を問いただすことは、流石に憚られた。刀太の出自にも関わってくるだろうそれを、ひょっとしたら彼が抱えている「素」に関係するかもしれないという疑念もあるけれども。

 

「製作者、か。…………となると、こちらも真意を問い正さなくてはいけないか――――ぬ?」

 

 猛烈な轟音。南雲が何かを言う前に、驚いた顔をする。それにつられて私とカトラスちゃんも視線を向け――――。

 

 

 

 そこには、胸部を右腕で貫通されながら「頭部に」「悪魔的な」シルエットを形成しはじめた刀太の姿があった。

 

 

 

 

 



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ST40.魔の天

毎度ご好評ありがとうございますナ!
明日から深夜更新多くなるかも・・・(リハビリ中)


ST40.DAEMON Beyond DEATH

 

 

 

 

 

 一体どうしたものかというか、どうしたら良いのかという話である。

 

「おい星月、これ絶対お前の仕込みだろこれ、どう責任とってくれるんだ、あ゛?」

『否定はしねーけど、まー暴走してるのは俺の管轄外だし…………』

 

 灰斗との戦闘、死天化壮と内血装を併用したまでは良かった。限界まで「金星の黒」を内部で振り回しても、外部に漏れたそれはすべて死天化壮の方で吸収してくれる。故に以前よりも幾分高速に黒棒を振り回すことが出来た訳だが、それが灰斗の変なスイッチを入れてしまったらしい。何度か小さく血風を放ち牽制した後で、灰斗は愉し気に大笑いしてた。

 

『なんなんだその強さ! マジモンの吸血鬼でもここまで滅茶苦茶な奴はいなかったぜ!

 やっぱ気に入ったわ。兄妹共々、こっちの仲間にならねーか? そしたらいつでも、楽しいケンカできるじゃねーか、なぁ!』

『生憎そんなバトルジャンキーじゃないもので。……逆提案ッスけど、こっちの方の仲間にならないッスか? 正直結構気が合うと思うっスよ、皆』

『そりゃ難しいわな! 俺は俺としても、恩義があってこっちに所属してっからなぁ!

 お前も女三人か四人か囲ってちゃこっち来れねーわな!』

『むしろ囲われてる感じなんスけど……』

『アンだと? …………いや、まぁそれは別にいいか』

 

 残念だ、と言いつつ。灰斗はクラウチングスタートを崩したような構えをとる。

 

『刀太。お前さっき俺の「閃炸断」――――俺流の奥義を普通に受け止めて、威力も地面に流してたな? 正直めっちゃシビれたぜ。

 お前はずるっこきしてるからみたいな感じのこと言ってるが、例えそうしたところで普通は簡単に出来ることじゃあない。何かしら才能はあると思うぜ! だからこそ勿体ない』

『そりゃどーも。…………、閃光炸裂弾?』

『ネーミングとしちゃそんなあたりが元ネタだな! でも何で閃光って付けてるかわかるか? ――――自力で音速を超えると、世界が真っ白になるんだよ。音すら置き去りにする踏み込みって言うのは、そういうモノだ。だから『白邦(はくほう)』。技名じゃなくって、あくまで趣味の名乗りだ』

 

 さて本題だ、と言いながら、次の瞬間目の前に現れた灰斗の左拳を黒棒で受け――――灰斗は勢いのまま空中に浮かんでいたのだが。

 

『お前はまだ世界の広さを知らねぇ』

 

 空中で灰斗は足と手を構え――――いや待てお前、それはまさか。

 

『――――我流・虚空気導「白邦零式(ぜろしき)」閃炸断』

 

 零式(ゼロスタイル)言っちゃったよ!? とツッコミを入れる間もなく、私は胸部に熱と、遅れて痛みを覚えた。

 

 

 

 そして気が付けばいつものスクラップの山と軌道エレベータのごとき何某かのある場所。上空を見上げれば、胸部に開いた風穴から猛烈な速度で血装術と「闇の魔法(マギア・エレベア)」を使用して何かしら変貌している私の姿……。

 しかしそのシルエットが問題だった。これ原作でいう降魔兵装じみたシルエットに見えなくもないが、顔面髑髏っぽいしデザインの質として完全に虚の仮面(オサレ)だろお前! 基本そっちの力というのが原作〇護(チャン一)すら痛みと悲しみに晒されて初めて使用できるようになって、しかも最終的に暴走して全体のバランスが崩れたのか仮面表出すらし辛くなっていったやつ!

 

 痛いのを回避するチャートとして天鎖斬○(オサレ)の超高速戦闘を志向した私としては、まさに対極を行くやつじゃないか!

 その文句を星月にぶつければ、暴走してるのは自分のせいじゃないしなどと供述してくる。……そもそもこのデザインを描いたのは私じゃなくてお前だろと問いただせば、これには良い笑顔で応えてくれた。

 

『いやだって、格好良いじゃん! いいだろ? ホルダー原作とOSRのあいの子みたいで! だからいつ必要になっても良いように色々準備してた俺は全然悪くない! 俺は悪くねぇ! 大体ダメージのキャパが限界越えたから暴走したんであって、相棒は何か逆に対策考えろォ!』

 

 とはいえ虚化(オサレ)登場はすなわち天鎖○月(オサレ)弱体化に繋がる展開なので、私としては喜ぶに喜べないのだが……。堂々と開き直り始めた星月。実際その正体については疑いの目を向けてはいるが、やってくれていることには感謝しかないので私も彼とそろって空、つまり現実世界側を見た。

 

 ちょうど仮面が形成し終わったらしい。感じとしては本当に降魔兵装「魔天大壮」と完全虚化(オサレ第二形態)じみたそれを半々にした姿である。……と思いきや血装備が顔面だけでは飽き足らず、コート側にも干渉し始めている。全体的にちょっとトゲトゲしくなっているのはアレか、完現術(オサレ)習得後のでもちょっと意識しているのだろうか。

 

「おいおい何だそりゃ――――」

「――――シャァアアアッ!

 

 仮面の口が開いて、正気を消し飛ばしながら嗤いつつ、黒棒に血風を纏わせて灰斗の腕を斬り飛ばした。…………うん、コレ、アレだ。尸魂界編(オサレ)終盤のルキア(思春期性癖破壊女)奪還時に兄様(不器用すぎシスコン野郎)と対峙した時とかの暴走っぷりだ。違いは中の人が表出して戦っている訳でもないということか…………。

 

「というよりも、視点がおかしくないだろうか。明らかに横から見てるのだが」

『だってほら、俺たち今カトラスの体内の血を間借りしてるし』

「何でもありか『金星の黒』……」

『意図せずカトラスに○ャドスタイル押し付けちまったのに、それだけお前が焦ってたってことだな。カトラス内部の「相棒の血」がまだ残ってるってことだからこれ』

「…………まあ、否定はしねーけど」

 

 この段階でカトラスが死ぬことによる原作への影響度……、いや既に絆してしまったことに対する影響度すら計り知れないが、それでもまだ死ぬよりはマシだと思っている。だから只それだけだ。たいして兄貴らしいこともしてやれない。実際、精神的には実の兄とは呼べないのだから。

 

『まー相棒がそう思いつめるのは構わねぇけど、な? …………そのうち『気付く』んだろうし』

「? 何の話だ」

『それは、今の俺が言っちゃ意味ねーから』

 

 全身のコートと仮面にうごめく「闇の魔法(マギア・エレベア)」の紋様。……それでいて胸の中央には灰斗が開けた穴が再生せず露骨に残っており、そこを起点に全身レベルで「回天」が発生している。いや本当にこれ、いくら暴走状態だからとはいえ本当に死天化壮(デスクラッド)の上位互換とかマジ止めてくださいよマジで。(動揺)

 全身に回天の影響が及んでいるせいか、黒棒をふる手とは反対の手で「適当に動かしただけで」血風創天が放たれるのも色々と嫌な気分にさせてくれる。

 

『相棒にとっても悪夢じみてるなありゃ……、さしずめ「魔天化壮(デモンクラッド)」ってところか』

「OSR高い名前つけるのやめろっ」

 

 特にクラッドを継承してるあたりOSR高いがそれはともかく。

 再生途中の灰斗の首を持ち上げ、そこに剣先から血風を放とうとする様はまさしく完全虚化(守らなきゃ)虚閃(オサレ)のごとし。もっとも確実に殺しに回られてるそれに、灰斗本人も対応できないわけではない。掴んでいる左手の骨を折り筋肉の締め上げを緩めると、そのまま黒棒を蹴り飛ばして後退した――――。

 その瞬間に動きに「併せて」血風創天を放つのは流石に鬼じみていやしないか私の闘争本能とかそういうサムシング。(震え声)

 

 はぁ? と呆ける暇もなく胸に袈裟斬りのような傷を残し、灰斗は遠くに弾き飛ばされた。刃返しをしているだろうにそれでも表面に傷を残しているのを見ると、一体どれくらい無茶苦茶な威力が出ているのやら…………、ついでに倒壊した家屋やらで私の借金が決定した。

 と、南雲たち外の連中の慌てた声やらが聞こえてくる。

 

『イカン! アレは特に術者の負の感情を吸って強大になると聞く。今潰さなければ―――――』

 

「ままならぬ…………」

『まぁ相棒ストレス結構多いし、なんなら未だに増産中だからなぁ…………』

 

『今いったところで止められねーだろ、誰も。…………兄サンですらあんなになるのかよ、これ』

 

 カトラスも諦めムードである。私のサポートが抜けたせいもあってか、既にカトラス自身も「シファー・ライト」を維持できるだけの金星の黒を捻出できずにいるらしい。とはいえ以前よりは「繋がり方」が真っ当になっているので、ここから先は妹チャン次第…………って、ちょっと待て? これはこれで私だけじゃなくカトラスもフェイト(クレイジーサイコホモキュート)に狙われる流れとかなのでは……? 否、カトラスには鍵がないし、そこまで思いつめなくても大丈夫だろうか。ま、まあ何だかんだチャ○(プロボクサー)だって死なないで生きているし、ここはOSRの神にでも祈っておこう。(嘆願)

 

 だが、だがしかし。南雲を止めながらも夏凜だけは皆と違って声に余裕があった。

 

『…………ここがあの子にとっての分水嶺となるでしょう。力に呑まれて狂気に落ちるか、それともそこから帰ってこれるか。

 いざという時は、私が禁じ手を使ってでも止めます。だから手出しさせません』

『何を悠長なことを――――わからないのか! あれがどれほど危険なものか! 私たちや貴様程度では済まない、物事には程度というものがあるのだ! だからこそバケモノと人間は相反しながらも共存の道がある。それが、あの醜い力は何だ!』

 

『酷ぇな人が夜なべして作ってるデザインを…………』

「というより、禁じ手?」

 

 夏凜の禁じ手など、それこそよりイスカリオテのユダらしき何かにちなんだ技でもあるのだろうか。意外と聖書からの引用にちなんだ魔法らしきものが彼女のレパートリーには多いようだし、そういう技もあって不思議ではないのだが。それをわざわざ禁じ手と言うからには、よっぽどのよっぽどなのだろう。

 

『いざという時は我々が責任もって軟禁してお世話します』

『しれっと何言ってるんだこの女、やっぱやべぇ…………』

 

「嗚呼……」

『またカトラスがドン引きしてる…………』

 

 同情する私たちはともかく、しかし流石にそろそろ拙いのではないだろうか。灰斗の再生力が負けている訳ではないだろうが、それでもだいぶ消耗している。少なからず全身に傷痕がいくつか残り、さらに言うと私の血が傷の再生を阻害しているようにも見える……? 単純に異物が残っているという以上に、何かもっと別な属性が血風にあったりするのか?

 

『じゃ、そろそろ戻るか相棒』

「戻るってどうやってさ」

『そりゃもちろん、ここの血ごとだな。…………、じゃ、「負けるなよ」?』

「…………オイマテ、それお前どういう意味なの――――」

 

 どういう意味なのだと問いただすよりも先に、私の意識は「殺さなければならない」という衝動の中心に鎮座していた。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「刀太――――!」

 

 ユウキカリンの呼び声に反応してか、兄サンは重力剣を振り下ろすのを制止した。

 そのまま顔面に刀の柄を叩きつけ、悪魔みたいな仮面を割る…………、割った後に反対側の手で仮面を剥がそうとしているけど、いやちょっと無理あるだろそれ。仮面の隙間からも「金星の黒」が漏れ出てるし、全身のそれだってぐちゃぐちゃに歪んでもっと変貌しちまいそうだ。

 

「何をやっているのだ、アレは……」

「…………あんま応援はしねーけど、頑張れ、お兄ちゃん(ヽヽヽヽヽ)

 

 思わず口をついて出た言葉には、きっと同情がある。あのまま暴走して狼男をぶっ殺してたら、きっとそのままユウキカリンとかトキサカクローマルとかに監禁でもされて、その、えっちだったり生きるのが大変な感じの生活を強制されるんだろう。兄サンは嫌いだけど、だからってそんな目に遭えとは思わないので、私は苦笑いを浮かべていた。

 

 正直、兄サンが死んでくれるのならせいせいするんだけど。

 それと同時に、なんかもやっとするヘンな感覚があるのを、私は否定できなかった。

 

 ユウキカリンに背負われながら、私たちはそっちに向かう。その途中、ついに兄サンは仮面を剥がしきった。後全身に散っていた血装とかが、ぐるぐる渦巻いて兄サンの胸元に収まる。…………傷痕は目立たなくなったけど、やっぱりどうしてか刀傷みたいな何かはちょっと残ってた。

 

「ぜい、はぁ、はぁ、…………、もう二度とこんなことやらんぞ、何が悲しくてこんな目に遭わなければならぬのだ、大体私は…………って? あー、夏凜ちゃんさんとカトラスか」

 

 膝をついて肩で息をする兄サンに「ちゃんさんは止めなさい」となんかすごい良い感じに微笑むユウキカリン。……なんだこの、妙な笑顔の距離感。こう、なんかむっとする。

 私を下ろすと、兄サンを当然のような顔して膝枕したユウキカリン。兄サンも兄サンで照れる余裕もないのか、ぜいぜいと荒い呼吸をしていた。

 

「…………おう、坊主。どうして()らなかった?」

「はぁ……、はぁ……、いや、どうしてって、はぁ、言われても、はぁ…………」

「そこの、なんか偉く美人でスタイルとか正直めっちゃタイプなお姉ちゃんの声で我に返った訳でもねーだろ? よければお付き合いしてください」

「性癖バラすの止めろ」

「お断りします」

 

 回答速度も何か息ぴったりすぎて、いやホントこれやべぇんじゃねーのか? ……いやまあ、妹って言ったって結構血が離れてる感じの私が、どうこう言う話じゃねーんだろうけどさ。

 

「アレは、俺じゃねーからさ。だから俺は、アンタを殺したくないんだよ。

 言ったろ? 灰斗の兄ちゃんもホルダーに来ないかってさ、さっき」

「本気か? こんなクズで人殺すことにしか能がないようなのを」

 

 

 

「戦いってのは、二つあるらしい。命を守るための戦いと、誇りを守るための戦い。

 だから、さっきアンタを殺さなかったのは俺の戦いだよ。だって――――アンタ本当はさ、自分くらい強い奴と何度も戦い合ったりして、仲良くなるの好きだろ? 中々それくらいの殺し合いしてくれる奴もいないから、こんなことやってんだろうけど。

 そんな相手殺すってのは、俺の流儀に反する」

 

 

 

 兄サンのその言葉に、狼男は「けっ」と言いながら顔を逸らした。……気のせいじゃなければ照れてるようにも見える。そのまま背中を向けてふて寝するみたいな体勢になり。

 

「…………完敗だよ。嗚呼、『気』もスッカラカンだし、戦うような感じじゃなくなっちまったじゃねーか」

「へっ、なら上々じゃねーか。これを機にもっと真っ当な格闘家に宗旨替えしやがれってんだ」

 

 言いながら、二人はそろってお互い変に笑いだし…………、それにユウキカリンが何でかうんうんと謎の頷きをしていた。やっぱなんか怖いっていうか、やべぇ…………。

 

「……吾一人只大地に立つ、しかして世は只一人立つに在らず、かねぇ」

「そういやさっきも言ってたッスね、それ」

「世界の全てを置き去りにして走り去り、それでも最後は世界に返ってくる。自分にそれまで乗っていた力を、正しく世界に返す。…………世界っていうよりは、まあ個人個人以上に全体に当てはまる話だ。俺も受け売りだがな。

 今回は、お前の方がより『それっぽかった』ってだけだ。勘違いすんじゃねーぞ?」

 

「…………まあ、お前が遊びすぎたという説を私は推すがな」

 

 そりゃねーぜ、と快活に笑いながら、ようやく追いついた南雲とか言う老剣士の言葉に狼男は天を仰いだ。

 

 

 

 

 



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ST41.原作の超電磁砲

毎度ご好評あざますナ!
ここのところ更新遅れ? は活動報告の通りなのですが、なんとか今日の分は準備できました・・・! 明日は明日の体調次第です汗


ST41.Mach Six Origin

 

 

 

 

 

「そろそろ君は逃げた方が良いだろう。君の失踪に関してクライアントが大変興味をもっているらしくてね」

 

 灰斗を担ぎながらそんなことを語る南雲に、カトラスは表情に恐怖を浮かべた。先ほど電話があったと言いながら、しかし原作のように襲ってくることはない。確保を命じられたりしなかったのかと聞けば、給料分の仕事はしたとのことだった。

 

「私としてはこのまま戦っても良いのだが、灰斗がものの見事に敗れ去ったまま強気に出るのも色々と体裁が悪い」

「う゛っ」

「そもそも、途中から目的が足止めになっているのでね。そういう意味では既に大成功と言うことだ」

「足止め? それって一体何なんスか――――」

 

 

 

「――――こういうことだよ」

 

 

 

 涼やかで聞き覚えのある、黒幕でもよくやっていそうな爽やかボイス。思わず声の方を向けば……、灰色のスーツ姿の青年が、さも当たり前のように「空から」舞い降りた。凛々しい顔立ちに、夏凜とは違う冷たい目。羽虫でも見るように酷く興味なさそうな彼が、その視線が私とカトラスに向けられていた。何かしら地属性魔法の使用か効果かは知らないが、廃材やらが彼の足元から退き足の踏み場を作っていた。

 

 いや待てお前。単行本の刊行数的に別に間違ってはいないがいやいくら何でも少しくらい待てお前! もうちょっとしたら正規時系列で出番があるだろうが「フェイト・アーウェルンクス」! 地属性の使者さんよォ! ネギぼーずことネギ=スプリングフィールドの魔法世界以降最大の壁にして最後のライバル! 小太郎君どうなったんだろうとか色々思うところ出てくるのお前さん出ずっぱりだからだぞ今作で! 登場するの少しは加減しろ! 私は痛くない方法での主人公ロールしてるだけであって、原作RTAやりたいわけじゃないんだぞいい加減にしろ!(逆ギレ)

 

 ふう……、文句を言ってもいまいちスッキリしないが、兎にも角にもフェイト登場であるらしい。素性については前作ラスボスの四天王的な立ち位置でありながらネギぼーずに絆された(語弊)結果裏切りの使徒と化した、よくあるアレである(語弊)。もっというとネギぼーずと世界との重要度的比重が明らかに狂っていたりもするので、つまりはCPH(クレイジーサイコホモ)の類である。実態は厳格な育ちの少年が友情を拗らせてるだけなので(語弊)何とも微笑ましいものがあるが、本作における外見は年齢詐称系の魔法効果で大人ネギやら雪姫と遜色ないものである。つまりCPHの誹りは免れない。(悲惨)

 ついでにネタバレしてしまうと、私、というか近衛刀太誕生のきっかけ、カトラスが言うところの製作者そのものでもある。

 

「あ……、ああ……!?」

「久しぶりというべきか? 17号(ヽヽヽ)

 相変わらず『不出来な手足』だ。

 だから君は失敗作なんだよ」

「ッ」

「登場早々、心折りに来るのやめろ」

 

 確かにカトラスの左腕と右足は義手義足だが(本腰入れての戦闘準備でなかったせいか外見的には生身と遜色ない。日常生活用のものか?)、それとて今後の彼女次第なところが大きいだろうに。いやそれはそれで拙いフラグなのだろうが。というより一応は名前ちゃんとしたのも付けてるだろうに、わざわざ番号で呼ぶのに業の深さを感じる……。

 夏凜から身を起こすと、すぐさまカトラスを庇うように前に出るあたり何というか流石だった。一方のフェイトは私を見て一瞬大きく目を見開くと「フンッ」と鼻で笑う。

 

「彼女の右腕の火傷、きっかけは君かな? 近衛刀太君」

「だったら何ッスかね」

「無駄な足掻きをと思ってね。

 何を尽くしたところで、彼女は君の様にはなれないよ。

 それは目の毒、君の立場からそれを見せられるのはとても残酷なことでもあるだろう」

「アンタ、何でそんな何でもかんでも分かったような口ぶりなんだよ」

「わかるよ。彼女も、そして君も。

 ――――僕の元に来るんだ、近衛刀太」

 

 君のことはいろいろと調べた、と。夏凜がカトラスを背負い終わると同時に、私は「死天化壮(デスクラッド)」を発動させた。シンプルに心臓から血を噴き出すだけの形式で。そしてそのまま夏凜の腕をつかみ、一気に後退、からの内血装併用な瞬動――――足裏の血が足場の代わりをしてくれるため、結果的には虚空瞬動じみた動きとなっている。

 流石に対話途中でここまで潔く逃走の選択肢をとるとは思っていなかったのだろう、少し目を見開いてフリーズするフェイトと口があんぐりしている南雲。「逃げた!」「良い判断だ! ハハハハハ!」と灰斗の笑い声が遠のくのを聞きつつ、私は全力でこの場からの逃走を図った。

 

 当たり前である、何故この段階でそんな変な原作ブレイクをしなければいけないのか。

 

 本来ならフェイトの登場はキリヱ編後半の大目玉イベントであり、こんな形で登場を消費するともはや何がなにやらという有様にしかならない。というか夏凜も原作と違い月に送られてないし、キリヱ関係のイベントそのものが激変する可能性すら出てきている。その上カトラスまでこの場にいるのだから、もはや事態はカオスそのものだ。

 無理やりに推測するなら、カトラスがそうとは知らずフェイトに雇われているパワフル・ハンドでアルバイトじみたことをしたのが原因だろうか。フェイトからすれば大事な大事なネギぼーずクローニングの被験体であり実験例でもある。つまりはサンプルの一つであることに違いなく、またラスボスの庇護下に入り失踪していたはずの彼女の捕捉は情報戦の意味でも大きい、かもしれない。だから彼女の動向を監視するのに何かおかしなことがあるわけではなく…………、結果的に私自身への監視にもつながってしまっていたということか。

 

 実際、あの男の登場はピンチ以外の何物でもない。雪姫がネギま! 時代より弱体化していることを踏まえて、現時点における太陽系最強レベルの魔法使い。裏火星の救世主、造物主の使徒としての生物としての完成度/強靭さは健在ときている。現在かなり本気で逃げてはいるが、果たしてどこまで持つかというところだ。

 …………あと気のせいじゃなければ、カトラス泣いていないか? お前、いくら何でも二週間足らずの期間で平和ボケしすぎじゃないだろうか。別に私そんな洗脳じみた能力とか持っていないので、絶対カトラス本人のチョロさの問題だろと思いたい。(???「付ける薬はないかねぇ……」)

 

「刀太、追ってきています」

「そりゃ判ってるっスけどねぇさっきからなんかゴウゴウなってますし後ろ!」

 

 そしてフェイトの方もフェイトの方で本腰である。ちらりと見た感じ私の血蹴板じみた風にコンクリめいた足場を形成して浮遊しているので、おそらくは地属性魔法を使用した飛○脚(オサレ)的サムシングだろう。使えるはずなのに瞬動をしないところを見ると、やはり通常の瞬動では死天化壮プラス瞬動の速度には簡単に追いつけないのだろうか。

 と、嫌な話だがその上で横に並ばれた。……なんかすごい作り物みたいな満面の笑顔を向けて来てる。ファーストコンタクトをやり直すつもりだろうかこの男。ネギぼーずにも絶対馬鹿にされるぞそのガバガバ対人経験。

 

「やれやれ。君とは初対面のはずだが。

 随分と嫌われてしまっているようだね」

「少なくとも人の妹チャンを『ああいう』扱いする時点で好感情は抱かれねーってよ!」

「それは……、嗚呼そうかもしれない。

 ネギ君……、君の祖父やエヴァンジェリン、雪姫にも似たようなことは何度か言われている」

「言われてて治らねーんなら重症じゃねーか!」

「正確には治す気がないだけさ。

 あの二人は甘い所が多すぎる。誰か一人くらいは冷静な判断を下せないとね」

「というか大体、アンタ何でネギ・スプリングフィールドのことを知ってるんだって話なんだよ!」

「そうだね、これは失礼を。

 僕はフェイト・アーウェルンクス。君の祖父や雪姫の古い知り合――「おらっ!」――な、何!?」

「刀太……」「…………流石にえげつなくねーか?」

 

 言ってる最中に血風を投げて空中で距離を取る。笑顔のままながらこちらの動きを予測していたのか軽く往なすが、飛び散った破片(というか血しぶき)が彼の足場に接触すると、その魔術的な構成を「解除し」た。足場を失ったフェイトもこれには驚いた様子でバランスを崩し、しかし大きく距離を離されるよりも前に立ち直ってきた。チートか貴様!? まぁ出自どころか何から何まで見てもチート以外の何物でもないが。

 空中で静止し、相対する私たち。足元、下方では街が延々と燃え、鎮火までにまだまだ時間がかかるだろう。対面のフェイトの表情は本来の冷徹な目を開いた状態で、しかし口元は笑っていた。

 

「そういうやり方は、僕も嫌いじゃない。

 実利を優先する冷静さ、何より躊躇いなく剣を振るう姿勢はむしろ好みだ。

 ネギ君、君の祖父のそれには大きく反するだろうがね」

「とりあえず好感情が一切発生してねーからっスよ。塩対応なのは。大人しく一度帰ってから、UQホルダーにアポとりに来てくれやしませんかねぇ?」

「それは出来ない。

 色々と幸運が重なっているこのチャンスを逃す選択肢はないし、『あちら』はもう彼女の指令で完全に締め出しを喰らっている。拠点壊滅をするのは君の祖父に申し訳が立たないから強行する気もないしね」

 

 そもそもUQホルダーの本拠地は建物から島そのものまでネギぼーずが買い取ったり建築したり色々魔法を仕込んだりしているもの、つまりネギぼーず渾身の傑作なので、そりゃCPH(クレジーサイコホモ)的にはどうこうする気は起きないか。

 でも似てるところもあるのかな? と。さっきの血風に含まれている武装解除効果を褒めて来るフェイト。……いや、そんな普通に素で褒められても困る。大体アンタの評価基準はネギぼーず単体しかないので、そもそも話にならないだろうに。(偏見)

 

「精神も想像以上に安定しているし、当初こちらが想像していた以上に完成度が上がっているね。近衛刀太」

「安定?」

「過去がない。

 本当の親もいない。

 自分自身の正体にすら懸念や疑念を抱いている。

 にもかかわらずそれを『当たり前のこと』としている。

 そして何より、決して何者にもなれない自分自身であったとしてもそれを『受け入れる』素地がある。愛しき友人たちが自分を置いて行っても、いつかどこかでふと再会して話す程度でも良いと受け入れるだけの素地、つまり自分が。

 普遍的と言えば普遍的だけど、君の2年間の境遇から考えてそこまで安定しているのは、少し異常だよ」

「っ!」

 

 夏凜が私に視線を振ってくる……、ひょっとしなくても「素」の私に何かしらメッセージを投げかけたいのかもしれないが、生憎アイコンタクトで人の感情が分かるほど機微には優れていないのだ。鈍感ではないという自負はあるが、だからこそ必要なことは(痛くならない限り)言葉にしている。(???「でも大事なことは言葉にならないもんだって理解してるクチだよこの男」)

 

 まあ心配してくれてるような気はするので、苦笑いで返すが。(???「本当、そういう所だよアンタ」)

 

「…………ま、それだけ雪姫……、『カアちゃん』が愛情もって育ててくれたってことじゃねーかな? アンタだって、そういう当たり前のようなのがどれくらい強いかって言うのは、知ってるクチなんじゃねーの? ネギ・スプリングフィールドと一緒にいたのなら」

「……そう、なのだろうね。

 生憎そういった機微は完ぺきには読めない。

 だからこその失敗もそう少なくはないが…………、それでも僕の元に来るのなら、切れるカードが一つある」

「何だよ」

 

 

 

「――――君の生みの親。遺伝子的に六十パーセント程度は実母と言って差し支えのない『近衛野乃香(このえ ののか)』に会いたくはないかい?」

 

 

 

 思わず黒棒を取り落としそうになってしまった私に、夏凜が心配そうな声を上げる。一方のカトラスも私の反応が意外だったのか、目を真ん丸にしててちょっと可愛い。

 

 近衛、ののか……? それはひょっとすると、アレだろうか。原作において「この世界の」チャチャゼロの手腕により雪姫の記憶から紐解かれた、近衛刀太の出自における代理母。祖母か誰かだろう「ネギま!」でおなじみこのちゃんこと近衛木乃香そっくりな女性だったはずだ。

 その情報を前に、思った以上に私は衝撃を受けたらしい。自分でも意外なほど、呆然としてしまっていた。

 

「今の君と言う存在は、雪姫の手の内で腐らせておくにはあまりに惜しい。

 だが世界を救うために、と言う言葉でも。彼女がいかに卑しくネギ君を犠牲にしたかを説明しても。それらに聞く耳を持つ性格ではないだろう? 君は。

 だが君の情報を集め観察して、はっきり判ったことがある。――ネギ君のように、家族や仲間をひどく大事にするということだ。

 だったらば。既に気づいているだろう? 雪姫から聞いている自分の出自が嘘であることに。そんな『偽物の』母親の愛情すら信じる君の事だ。いまだ顔すら見たこともない、会ったこともない『本当の』母親のことなんて、気になって仕方ないだろう」

 

 コイツ……、本当の狙いが私もしくは私の内の「鍵」であるだろうにも関わらず、的確にこっちの痛い所ついてきやがる……! 強弁的な説得(物理)ではなく、まさかの情に訴える交渉戦だった。たしかに会いたいか会いたくないかで言えば無論あってみたいというか、顔を合わせるのが一つの「礼儀」だと思っているのだが。そういうのはチャートとは別次元の問題として捉えているのだが。

 お前どう考えてもそういった機微を読めないタイプの性格だろうに。そのあたりネギぼーずがラスボスの手に落ちた後、より独善的に、より「製造された際の使命に忠実に」振る舞い出していたのだから、どんどん縁遠くなっていったはずだろうに。どうしてそんな私のウィークポイントめいたところを特定してきやがった。誰だお前のオブザーバー!?

 

 すっと差し伸べる手に、ちらりと私の左横を一瞥するフェイト。

 

「もし何なら、そこの17号――――おっと失礼。『テナ・ヴィタ』を一緒に連れ帰っても良い。無理に後発的に『金星の黒』を発動したせいでかかった身体の負担もこちらで対応するし、なんならもっと最新型の義手義足を提供しよう」

「偉く対応が甘々すぎて逆に不気味すぎるんスけど……」

 

 こういう方が好みだろう? と語るフェイト。と、夏凜がいきなりぎゅっと横から私を抱きしめてきた。カトラスの腕のこととか全然考えていなかったのか「痛ぇ!」と背中からクレームが上がっているが、お構いなしである…………? あれ? 前ならそんな風に抱きしめられたら胸に頭が埋もれていたと思ったのだが、不思議と今回は頭の真横に夏凜の顔がある。

 

「フェイト・アーウェルンクス。『偉大なる魔法使い(マギステル・マギ)』ネギ=スプリングフィールドの盟友と聞きますが。貴方の目的は一体何? 貴方が傭兵たちのクライアントと言うことは、この街でこれだけのことをしたのは貴方だということ。そんな貴方が刀太を欲する理由など、今の時点ではろくでもない事柄にしか感じられません」

「君の質問など受け付けるつもりはないよ『雪姫の腰巾着』」

「安い挑発です」

「『姉を自称する変質者』」

「貴様ッ!」

「煽り耐性ゼロっすか夏凜ちゃんさん……」

 

 どうどうと落ち着ける私の姿が不憫だったのか、フェイトはため息をついて少しだけ語る。

 

「……世界を救うため、と言っておこう。むろんこんな『無駄な』清掃作業など必要がなくなるような、万民に対する幸福と平和のため」

「その大義のためなら、この街の人々など切って捨てられると?」

「捨て『られる』ではない。捨て『なくてはいけない』んだ。でなければ人類に与えられた猶予は……、『ネギ君が作った』猶予は全て無駄になる」

 

 だから、さぁ、と。手を差し伸べるフェイトのそれに、私は一瞬動けず――――。

 

 

 

 次の瞬間には、私たち四人は「スラムの街中」に座標を『イレカエ』られていた。

 

 

 

 この鮮やかな手際というか唐突感、原作展開から考えても否応なく誰がやったかは察しが付く。かつかつと、流石に杖の取れた足音を鳴らして、こちらに寄ってくる相手は。

 

「おーおー、ウチの新人をヘッドハンティングとか止めてくれねーか? そーゆーのは責任者通してからやるモンだぜ? 特に未成年者相手にゃーな。

 ……サムライ7(雪姫の愚連隊)やってた頃以来じゃねーかフェイト」

「宍戸甚兵衛……」

 

 飄々とした態度の、当然のようにいつものフェイマ(コンビニ店員)の恰好の甚兵衛に、フェイトは眉間にしわを寄せた。

 

 

 

 

 

 



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ST42.二人目と七人目の侍

毎度ご好評あざますナ……!
ペースは相変わらずですが、出来る限り無理せずやります。


ST42.SAMURAI 2 and 7

 

 

 

 

 

 頭を抱え「雪姫が来る前に回収できればと思っていたのだが」などというフェイトはともかくとして、直近で私はまず聞きたかった。

 

「知り合いなんスか?」

「おぉ? 言ってなかったっけ。アイツ一応、元同僚というか、な? 俺も雪姫の奴にだいぶ前だがサムライ7(アイツの愚連隊)へ強引に勧誘されてたからな。これでもお前の爺ちゃんだって顔見知りなんだぜ?」

「………‥あの、ひょっとしてですけどさっきの会話とか聞いてました?」

「そりゃまあ、場所がわかればこう、チョチョイと周囲の空気をイレカエて振動をだなぁ」

 

 何でもありかイレカエ! そんな変な使い方してなかったろ原作でも!

 いやそれはともかく。ネギ・スプリングフィールド自体、知ってておかしくはないだろうが、いやそれは……。原作でそんな描写が匂わされたことはない気がするし、しかして甚兵衛の設定とか描写からしてそういう可能性が全くない訳でもないだろうし、どう判断するべきなのだろうか。

 ひょっとすると私が知らない間にこの世界、既に大量のガバというか乖離が存在しているのでは……? 夏凜のキャラとかそう考えると色々納得がいきそうなところもあるが、しかしその場合今後の展開やらガバの影響度やらが全く読めなくなるので、出来ればそうあって欲しくはない話だった。

 

 ま、ここは俺が受け持ってやるぜと。腕を組んでニヤリと微笑む甚兵衛。……恰好はコンビニ店員のままなのだがそういう風に佇むと酷く様になるのは、ずるいというか、私の一つの理想形将来の姿なのかもしれない。

 燃える街をバックに普段通り崩れない姿勢の甚兵衛と、少し苛立っているらしいフェイト。

 

「南雲チャンと旧交を深め合うのも悪くはないが、今のホルダー連中じゃコイツの相手は荷が重いだろうからな。刀太、お前だって速度的に負けこそしないだろうが、本気『出されない』限り千日手だと思うぜ?」

「そう言われると何かむっとするッスねぇ……、いや別に粘りませんけど」

 

「ナイス判断だ」「良い判断だ」

 

 甚兵衛とフェイトの二人にそろって言われると変な気分になるのだが。甚兵衛はともかくフェイトに関してはお前完全に敵というか道具扱いだろ、どうしてそんな友人の孫でも見るような微妙に生温かい対応をする。何か私の挙動でネギぼーずポイント的なものを稼いだことがあったか? 別にそんな気質から何から何まで全然違うだろうに。むろん、それは原作主人公と比較してもなのだが。

 

「雪姫を『引き取り』に行った時はてんで戦り合いはしなかったけど、実力は十分把握してるつもりだぜ?

 まあ俺もそんな過保護じゃねーけど、仮にもリーダーだったんでね。後進は可愛がるものだ」

「ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト――バーシリスケ・ガレオーテ・メタ・コークトー・ポドーン・カイ・カコイン・オンマトイン――――」

 

 おっと、と言いながら、甚兵衛は何かを「イレカエ」る。と「プノエー・ペト――――」と不自然にフェイトの声が途切れた。驚いた顔をするフェイト、おそらく何かしら魔術の発動が阻害されたことに対する驚きなのだろうが……、おそらく物理的にフェイトの呪文とその意味合いなどを「イレカエ」て術の構成そのものを崩壊させたとか、そんなものなのだろう。

 ならばと言わんばかりに「ドリュ・ペトラス!」とだけ言い放つフェイト。次の瞬間、地面から複数の槍が出現して放たれ、甚兵衛がいた座標を串刺しにしたのだが――――何故か一瞬、一秒経過する間もなくその座標が「イレカエ」られ、槍に貫通していたのがフェイトそのものになっていた。いやいくら何でもそのイレカエはおかしいというか、絶対「喰らって死んでから」発動しただろ今のイレカエ。ひょっとしなくても原作から考えて「奥の手」こと「無極太極盤」使っただろアンタ!

 

「なん…………、だと…………?」

「まっ、ネタが割れてりゃやりようは有るんでね。逆もまたしかり……って、お?」

 

 もっとも槍に貫通されたフェイトの身体は、土くれに姿を変えて崩れ落ちる。流石に本体そのものが出張ってきてはいなかったということだろうか、わずかながらにホッとする私と、奇妙なものを見るようなカトラス。夏凜? いつも通りというべきか無表情に事の推移を見守っている……って、一体いつまで私ハグしてるつもりだろうか。(困惑)

 夏凜の腕を(謎の抵抗を見せてくるが)頑張って剥がすと、頭半分残っている土くれのフェイトがため息をついた。

 

『なるほど。どうやら言うだけの力はあるらしい』

 

 言いながら再び甚兵衛が唐突に座標を「イレカエ」る。と、その地面から再び複数の槍が現れる。「完全に小手調べじゃねぇか」と引きつった笑みを浮かべる甚兵衛に、土の中からドロドロと現れたフェイト(なお当然のように服装は汚れていない)は表情を一切変えなかった。

 

「だが、見切った。戦闘経験などの脅威度は別にして、その座標をイレカエる技に関しては、置換可能なものは視界に入ったモノとモノとの座標程度か。ベクトル操作までは対応できていないのを見るに、言葉通り以上の意味合いがなさそうだ。その『イレカエ』る力は」

「オジサンの手の内見破って得意げにもされないってのはちょっと傷つくなぁ、ハハ」

「タネが割れてれば、そっくりそのまま言葉を返そう」

 

 言いながらも甚兵衛とて苦笑い一つ浮かべず煙草をふかす。そんな彼にフェイトは無言で指を弾いた。どどど、地面から四角柱の杭のようなものが伸び、甚兵衛の四方及び上下を覆う。色は黒く、彼の視界を完全に奪っていた。馬鹿な、詠唱破棄黒○(オサレ)だと!? 詠唱破棄○柩(オサレ)じゃねーか、完成度高ぇなオイ!

 もっとも出現と同時に内部を圧殺したりする仕様ではなく、外部から再び四角柱状のうねうね…、ところてんみたいだな。黒くて硬いところてん的何かがいくつも表出し、甚兵衛が囚われたはずの黒い檻を潰した――――。

 

「終わりだ……」

 

 

 

 

「そう言うの、フラグっつーんだったか?」

 

 

 

 はっとした顔になり勢い良く振り返るフェイト。そこにはエプロンがボロボロになりながらも、本体は一見無傷に見える甚兵衛の姿があった。ふぅ、とタバコをふかす様はかなり余裕そうに見え、フェイトの攻撃がまるで通じてないことを伺わせる。

 石の剣をどこからともなく出現させ斬りかかるフェイトだったが、甚兵衛はそれに剣のようなものすら使わず左手をくいっと回転させなにかを「イレカエ」た。

 

「これは……ッ」

「よっと」

 

 フェイト周囲の空間を「イレカエ」で囲い、ある種の牢屋のように。それに向かっていつかの私と戦った時のように鈍い光の棒のような「断空剣」を形成すると、振りかぶって何度か振り回した後にバットでボールをホームランする要領でぶん殴った! 飛んでいくフェイトの様は明らかに物理法則を逸脱しているが、一体どんな原理が働いてるのやら。ただ殴り終わった後に甚兵衛は右の腰と尻の間あたりを押さえた。まだぎっくり腰治ってないのだろうか、流石に長い……。

 

「いや無茶苦茶すぎんだろ、ヤベェ……」

 

 そしてカトラスはカトラスでお前、何かドン引きするノルマでもあるのかな?(謎)

 

 無限の彼方へと飛ばしてからしばらくすると、フワフワと小型ドローンカメラのようなものが飛行してくる。確か原作でこちらの状況を確認するのに使っていたか……。と、ヘロヘロの灰斗に肩をかしながら、南雲が嫌な顔をしながら現れた。甚兵衛は「おーおー、あの南雲ちゃんが後進の面倒見る年たぁ、おじちゃんも年をとったもんだぁ」とか言いつつ半笑いである。半眼を開ける南雲は、焦点こそ定まっていないが明らかにキレていた。

 

「余計なお世話ッスよね昔から、ジンベエさん」

「口調、前に戻ってるぜ! その見た目で余裕のない様は完全にチンピラじゃねーか」

「黙っとけジジイ。……いや、そうではないな。一応、これも仕事だ」

「おー?」

 

 す、と携帯端末を起動する南雲。そこからホログラム映像のようなもので、フェイトのバストアップが映し出された…………、ずぶ濡れの様を見るに海にでも落ちたか。

 

『………………なるほど。流石に雪姫やネギ君が評価するだけのことはあるらしい。宍戸甚兵衛、真価を見誤っていた』

「見誤ってなんか全然ねーぞ? 今の俺はしがない、ただの商品の消費期限にてんてこ追われてる一般店長だ。さっきだってこの売れ残りで賞味期限ぎりぎりのおにぎりをお前さんの胃袋に『イレカエ』てブッ込んでやろうかと思ったくらいだし」

『それは止めてもらって感謝するべきだろうか……、胃もたれは意外と効く』

「ま! そりゃそーだな。どれだけ強靭でも『生物』って縛りから俺たちは逃れられねぇからよ」

『そういう全てを諦めた物言いを、僕は認めない。だから、こういう手段もとろう――――南雲』

 

 了解、と言いながら、南雲が一瞬で私たちの方に間合いを詰めて現れる――――原作からしておそらくは何か転移系の魔法アプリなのだろうが、私からすると響転(オサレ)されたような感じがして嫌な汗である。気配を感じ取れない高速移動というのはそれだけ嫌な感覚だ。とはいえ対策は考えなくてはいけないのだが…………。

 それと同時に、私の首は切断された。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

お兄ちゃん(ヽヽヽヽヽ)ッ!?」

「貴様――――」

 

 兄さんの首が一瞬で落とされた。何でこんな一日に何度も生首になってんだあの馬鹿兄貴っ! いくらシシドジンベエが強いのだとしても、こうやって隙をついて動くやり方は出来ないというか、流石に想定していない慢心があるのだろうか。

 ユウキカリンが武器を取り出しかけるのと同時に、兄サンの首を掴んで老剣士がどこかに消えようと――――。

 

 

 

「――――血風」

 

 

 

 そう、兄サンの生首が言ったのと同時に、兄さんの首の切断面から巨大な、何だろう、プロペラというか卍というかよくわからないんだけど、そんな感じのが現れてがんがん回った。慌てて手を離したものの、回ったそれは老剣士の身体とか服とかにぶち当たって、同時に「ぱきん」って音と共に魔法だとか左腕の義腕だとかをぶっ壊したけど……。

 いやだから、いくら緊急と言ったって気持ち悪いものは気持ち悪い。

 

 ちょっと吐き気を覚えるけど、ユウキカリンが転がった兄サンの首を速攻で抱きしめて回収して胴体につなげた。と、首の接合部と胸部からわっ! と血が漏れて、まるでそれが当たり前のように血のコート的なものを再度装備して立ち上がる兄サン。

 

「タネが割れてりゃ何とかなる、って話だったっけ。手段はともかくやり口は予想してるッスからね。少なくとも灰斗の兄ちゃん程『それっぽい訳じゃない』んだろうって予想くらいは」

「フッ……、今日はそういうことにしておこう。不意打ちすら失敗して、何か言ったところで恰好は付かないからな」

 

 さて、と。兄サンは製作者(フェイト)の立体映像の方に向き直って肩に刀を置く。視線は見えないけど、なんだろう…………、こう、変な安心感がある佇まいだった。

 不思議とそれを見てたら、なんか、さっきより力が抜けた気がした。

 兄サンは、珍しく? かなり不機嫌そうに製作者に文句を垂れる。

 

「まずさー、最初に言うけどアンタの事情も雪姫の事情もてんでさっぱりなんだわ、俺。このカトラスだって色々あるんだろうしってことで話は全然聞いてねーし。

 ……でもそんなの関係なしにアンタが来るって言うのなら、せめてきちんと『話し合い』から始めろってんだ。ネギ=スプリングフィールドの友人ならそれが出来るだろ。

 まずアンタの話を聞く。で雪姫の話も聞く。最終的にどーすっかは、その時点で考えるから」

『…………成程。いや、妙な抜け目のなさは意外と母親かその血筋譲りなのかな? それにそろそろあの女も来てしまいそうだ。

 では近衛刀太。テナ・ヴィタ。またいずれ会おう』

「来るんなら今度はアポ取ってからにしてくれよなー」

『フフ……、善処はしよう』

 

 引き上げて良いぞ、と言って立体映像は消える。と、老剣士は「では今度こそ……」と言いながら狼男と姿を消した。ぬるって言ったらいいのか、二人がもともといた場所に変な歪みみたいな光が走って消えた。

 

 ふぅ、と息をつく兄サンを、当然という風に抱き留めるユウキカリン。……やっぱヤベェ女だ、シシドジンベエの方を見ながら「ダメではないですか、全く反応できず首を斬られては」と文句を言ってた。苦笑いするシシドジンベエと、表情の見えない兄サン。

 

「いやタイマンか何かならいざ知らず、いきなりじゃ俺も後手に回るのは仕方ねーだろ? 結果的に刀太で対応できたんならそれで良いじゃねーか」

「そういう訳でもないのです。それに…………」

「お? 何で照れた夏凜」

「ええ、い、いえ何でもありません。今後とも全員、精進が必要と言う話ですか」

「どうでも良いけど少し離してもらって良いッスか? コレ解くんで」

「嫌です」

「「何で!?」」

「いえ何となく…………」

 

 やっぱヤベェわあの女。

 その後しばらく兄サンに説得されてユウキカリンが手を離すと、兄サンは血装術を解いて重力剣を背負った。……? ん? あれ? ふと見ると、その立ち姿に何か違和感がある。

 

 思わず立ち上がって、兄サンの方に寄ってみて……。

 

「あれ? 背、伸びた?」

 

 へ? と。兄サンが「コイツは何を言ってるんだ」みたいな目を向けて来たけど、いや実際問題、背が伸びてる。私とかユウキシノブとかとそんなに変わってなかった背丈だったはずなのに、今じゃ少しトキサカクローマルを追い越していそうな感じになってる。そして何より普段袴で隠れてる足袋が見えている。足首が見える程度には、全体的に伸びてるような気がする。

 

「ほう、成長期ですか。ふむふむ…………」

「一体何を納得したんスか夏凜ちゃんさん!?」

「ふふふ、いえ、何でも」

「おー、あれ? お前って確か成長止まってるって雪姫に聞いたんだが」

「一応俺もそう聞いてるんスけど……、ってあー、…………」

 

 と、唐突に兄サンが「動くなよ」と私に言ってくる。その手はすっと私の右目の方を撫でるように………………? つう、と。その時ようやく、右目から透明な雫が滴っていたことに気づいた。

 

 泣いてた? 私。

 それに気づくと同時に、今、兄サンに拭われたことが強烈に恥ずかしくなった。

 

「は、はァ!? ヘンタイか馬鹿兄貴ッ」

「いやお前、妹自称するならそれくらい別に大したモンでもねーだろ」

 

 そういう問題じゃねーんだよ私たちの場合!? 遺伝子の乖離度合いを上げて疑似クローン同士での交配で子供産んだら「白」と「黒」の融合が上手くいくんじゃないかみたいな話で、後半ロットだと最初から大人で設計された奴らだっているんだぞ何考えてるんだ!!? 大体、と、年頃の妹相手にそんな距離感の近さやるんじゃねー! 子供だって産めないんだぞ私!?

 ちょっと自分でも何を考えてるか分からなくなってきたころに「おっ刀太お前、何だ? まーた新しく女引っ掛――――」「違います、妹だそうです」みたいな妙にアレなやりとりが聞こえてきた。…………いや、マジで何であんな積極的に兄サンを落とそうとでもしてる感じの女相手に平然と接してるんだ。雰囲気的に意識はしてそうだけど堕ちてはいないくせに、なんかまるでそれをわかった上で飄々と往なしてるような……。

 

 ひょっとして兄サン、女の敵? 私みたいなのが女語るのはちゃんちゃらおかしいけど。

 思わずその気だるげな頬を素手で殴ろうとすると、当然のように片手で受け止められるし。

 

「ままならぬ…………」

 

 発された兄サンの一言は、相変わらず意味不明だった。

 

 

 

 

 




次回:変な因縁


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ST43.(告白)剣と眼鏡と過去のパンタレイ

毎度ご好評あざますナ・・・!
本当なら昨日投稿予定だったのです汗
 
今回も割と独自解釈というか、明言されていない箇所を同一のものと扱ってる場合があるのでご注意です!


ST43.We Slashe The Remnants

 

 

 

 

 

 

 つい条件反射でカトラスの目元に残ってる涙をぬぐうと、カトラスは一瞬きょとんとした顔をして、そして段々と顔を真っ赤にした。オイオイ、どこまで平和ボケしてんだお前さん、そんなんでラスボスの元に戻って先兵ちゃんと出来るのか? 出来たお兄ちゃんとしては色々と心配になってくる。(適当)

 

「は、はァ!? ヘンタイか馬鹿兄貴ッ」

「いやお前、妹自称するならそれくらい別に大したモンでもねーだろ」

「おっ刀太お前、何だ? まーた新しく女引っ掛――――」

「違います、妹だそうです」

 

 食い気味に否定する夏凜はともかく……いや、ともかく出来無ぇな、ままならぬ。

 でもなんとなく、本当に「そうする」のが当然という感じがしたので、まだ少し目元の赤いカトラスの頭を軽く撫でてやった。いつかの時と違い、カトラスは拒否はしなかった。ただ目を丸くしてから、照れたような顔色で視線を逸らした。

 

「な、なんだよ……、って、それより街の方どうなってんだ? さっき花火みたいなの上がったのは見たけど」

「おー、妹チャンだったか? 心配すんな。こっちに『投げられた』のは俺だけじゃねーから」

 

 普段通り半眼で笑いながら、甚兵衛はポケットから煙草を取り出して咥えた。……咥えながら腰を撫でてなければ恰好が付いたのだが、しかしそのギックリ腰ガバとでも言わんばかりの現象を引き起こした私の台詞ではなかった。もっともそれで戦闘に影響が一切ないあたりは流石に場数をこなしているおかげか。

 

「しっかし相変わらず血臭いなお前」

「あー、まあこの通りで…………。えっと、一体いつから甚兵衛さん先輩たちは?」

 

 おそらく一空の監視がどこかにあったろうが、こちらに来たタイミングがいまいちわからない。原作でもそうだったが本当に唐突に湧いてきた感があった。軽くその話を聞くと、甚兵衛は遠い目をした。

 

「いやぁ……、まあ、ウチにはそんじょそこらの専用タクシーじゃ比較にならない移動方法があるってだけは言っておくわ。夏凜は知ってるだろ?」

「ええ、まぁ………」

「えっと、なんで二人ともそんな顔が青いんスか?」

 

 甚兵衛は真顔になって。

 

「……人間はマッハでぶん投げられるようには出来ちゃいねぇんだわコレ」

「あっ(察し)」

 

 蘇る「13キロメートルや(秒速)」の空中旅行、もとい雪姫のガバ(断言)。原作描写を踏まえて考えるのなら、おそらく軌道エレベーターまでぶん投げられた「アレ」に通じるものなのだろう。確か大きな人形を召喚して、その剛腕(断言)で剛速球のごとくぶん投げられるやつ。あれも相当な速度が出てたはずだが、腕力だけで実現出来ていると考えるのは厳しいので、私にされた処置と同様のそれがされていたのだろう。

 唐突に、源五郎パイセンが白目を剥いてすっ飛ばされてる絵面が思い浮かび、どこかにいるだろう彼に向かって思わず合掌。

 

 丁度そんなタイミングで、スラム一帯の炎が氷の海に呑まれた。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 刀太君いわくの男衆こと下っ端の皆と一緒に、スラムで避難の声掛けだったり瓦礫撤去だったりをしていた時。避難もまだ半ばだというのに、僕は異様な殺気を感じた。研ぎ澄まされるようなこの気配――――。

 

「そこッ!」

 

 速度を優先して斬空掌……、殴った衝撃を飛ばすような技を背後、建物の隙間と隙間に放つ。と向こうからも同様のそれが返ってきて、思わず目を見開いた。

 物陰から現れたのは、さっき動きを停止した人形たちと同様のローブを纏った誰か――――それをばっと振り払うと、えっと、何だろうあれ……、不思議の国のアリスを大人にしたみたいな恰好をした人が立っていた。

 

「皆、下がって……、明らかに只者じゃない!」

「えっ?」「でも九郎丸の姉貴っ」「そうは言っても相手は一人だし」「可憐だ……」「「「えっ」」」

 

「……――――ククククッ! あらあら良い感じに仕上がっとりますなぁ。刹那はんの『夕凪(ゆうなぎ)』継いだんがどんな()ぉかと思えば、中々どうして。ええ感じの気張ってはる娘やん。嗚呼――――そそるわぁ♡」

 

 何かこう、恍惚とした表情で僕を見る彼女の雰囲気は、見ていて変な汗をかく。な、なんかよく分からないけど、この人、ヘンタイさんか何かなのかな……。そんな僕の感想を察してか、くすくすと彼女は笑った。

 

「ごめんやし、昔から可愛い女の子には目ぇがなくて。堪忍しぃ? センパイ、刹那はん時もそんな感じやったけど」

「刹那……? って、そんなこと言われても……、大体、僕は男だっ!」

「へ? ホンマ? 勿体ないわぁそんな可愛えぇのにおち○ち○付いてるなんて……」

「おち○ち○言うな!」

 

 思わず叫んで刀を構える僕に、彼女はくすくす笑った後。

 

 

 

「――――なら切り捨ててもえぇな?」

 

 

 

 ひらり、と。彼女が刀を構えた瞬間に発した寒気で思わず僕も剣を構え周囲に注意喚起。でも間に合わない――――。

 

「我流神鳴流魔式――月見乃夜桜・改」

 

 右手の太刀と左手の小太刀を動かし……、あれは、魔法アプリ? いや起動が見えなかった。瞬間的に周囲一帯に魔法で構成された桜吹雪が舞い――――覚えた猛烈な眠気に、僕はパクティオーカードと夕凪を手に、叫びながら唐竹割。

 

「神鳴流変則・告白剣――――刀太君は、僕が守るんだから! 来たれ(アデアット)!」『(へ? あ、なんか凄い! 僕「こう」なってから初めてまともに仕事してる気がする!)』

 

 僕のこの想いで無理やり発動された魔術の催眠効果を「ぶった切り」、そのまま左手に小太刀サイズの神刀・姫名杜を呼び出した。ヒナちゃん自体は不死殺しに特化してはいるけど、それ以外の魔術的効果に関しても耐性がある。だから視界を覆いつくす花吹雪から「四方八方から飛んでくる」「魔法の斬撃」に対しても、ある種の結界のような形で弾いた。

 刀太君の「血風」みたいな応用は利かなくても、最低限はこうやって対応できる……、それくらいには、刀太君も練習に付き合ってくれたんだ。頑張らないと。

 

 ばたばたと倒れる男衆の皆さん。はっとして見渡すと、避難誘導していた周囲全体が気絶している……、否、眠っている。中には僕の近くに居た何人かはヒナちゃんの結界判定の外で、つまり刀傷にうめいている。

 使った技の系統、大きく崩れてはいたけど剣筋や先ほどの自称含めて、同門?

 

「何者だ……、一体何の目的でこんなことをする!」

「嫌やわぁ、目的なんてあらへんて。刹那はんか『茜奈(せんな)』はんから聞いてたりせぇへん? ……って、ひょっとして桃源の方の? あら嫌やわぁ、告白剣とかあっちの方にも伝わっとるん? ないわー、負の遺産やわー。アレって単にその場の勢いやったはずなんに。なんかアクションコメディ映画で急にヒロインとモブっぽい相手と全然フラグ立ってへんかった所からのいきなりな恋愛パートでベッドインしてくるくらいないわー。破壊されるでー、脳」『(こ、この人、一空先輩と戦ってたけどこんな人だったんだ……)』

 

 例えの意味がちょっとよく分からないけど、言いぶりからすると京都神鳴流。それもおそらく道を踏み外した類の。

 

「……まあ基本的に、私はアレアレ。そんなに世界の趨勢とかに興味はあれへんの。

 ただ、私が求めてるんは『血』と『戦』が絶えないことだけや。どこにおればそれが出来るかって、ずっと考えてきた人生やったもん。もはや只の『生態』や。

 楽しもうで? 後輩ちゃん♡」

「――――っ、神鳴流・虚空地裂四鬼払い!」

  

 楽しもうで? 後輩ちゃん、と。一瞬、彼女の目が黒く染まったように見えた。

 その怖気のする表情を直視して、反射的に僕は技を重ねる。空中を地面に見立て空間に気を送り込み、目的とする先で爆裂させる――――。夕凪とヒナちゃんの双方で行い、タイミングをずらして衝撃。

 えらい物騒やわぁなどと飄々と言いながらも、彼女はその直撃を受けた。爆風、砂煙のシルエットを見る限り今の一発で倒せたように見える。少なからず軽傷ということはないはずだが――――。

 

「――――(かぁつ)ッ!」『(危ないッ!)』

「ッ!?」

 

 油断していたわけでもないのに、いきなり背後から声と共に一撃。金属の鈍器に殴られたような衝撃が予想外で、踏ん張り損ねた。「刃返し」を透過するように内部に衝撃が伝わる一撃で、転がされる。

 その相手は僧侶のようだったけど、恰幅が良くて、面構えが強面で、髭面で…………、なんか色々と印象に残る容姿をしていた。編み笠をずらして、視線だけで面倒そうに彼は言う。

 

「遊んでいるのも大概にせい、月詠の婆さん(ヽヽヽ)。いくら足止めが目的だろうと『その身体』を壊されては話になるまい」

『――――ほんまゴメンなぁ? でも余計な事お喋りするいらん口はないないするかぁ?』

 

 電子音混じりの声に思わずあの女剣士の方を見やる。と、立ち上がる彼女はその左腕から喉にかけて大きく破損して、でも血は出ていなかった。よくは分からなかったけど、何かしら機械のパーツ群が寄り集まっているように見えて……。

 

全身義骸(フルサイボーグ)……!?」

『80パーセントくらいかなぁ、これでも結構残っとるで?』

 

 よっと、と言いながらスペアボディなのか、先ほどと全く同じ体を呼び出し、そこの腕とか喉とかのパーツをはぎ取り、自分のそれと付け替えた。ふぅと一息ついて、彼女は僕に笑みを向ける。

 

「なんや、思ったより威力あったし。やっぱり桃源の方は表に出てる割に殺傷力が頭おかしいわぁ。それともその遺物(アーティファクト)のせぇ?

 んもー、やっぱ夕凪持ってるだけあって色々思い出すわぁ」

「やれやれ……。流石に拙僧の介入を許さない程、狭量なことを言われますまい?」

「言うよぉ? あの()は私の獲物やから」

「主目的を忘れるでない! 我らは世界を救うべく活動しておるのだから。かの『現代最後の指導者(ラストテイル・マギステル)』ネギ・スプリングフィールドに倣い!」

 

「――――っ! なら、何故あなた達はこのような蛮行をするんだ! 救うべきは彼らの様な人々であるはずなのに!」

 

 聞き覚えのある名前――――現代最高の「偉大なる魔法使い(マギステル・マギ)」と言われる名前と、その為した善行に倣いという僧侶の言葉に、僕は思わず激高した。同門? の女性は肩をすくめ、僧侶は神妙な顔をする。

 

「その話をするためには今の太陽系の状況を理解する必要がある。少し長くなるぞ?」

「ふざけて居るのか!」『(まあそうなるけどね……)』

「戯れてはおらぬ。それだけ事態は切迫していると言えよう。雇用主はまだぎりぎり余裕があると考えているが、拙僧は事実を知った時点でそう簡単に言っていられなくなったぞ。

 …………お主は常に世界に『いつ起爆するかもわからない』不発弾が大量に眠っており、それが一度爆発すればすべてが消え去ってしまうような、そんな状況を想定しているか? してはいまい。拙僧が見るに、お主はいまだ恋に浮かれるような年頃。であるならば、物事の優先順位を知るためにはその基準を見る必要があろう」

 

 いきなり何を言っているのだと追及することはできたのだけど、あまりにも予想外の方向から殴られたような言葉に僕は言葉が詰まる。なにより僧侶は酷く真剣な顔をして語っていて、その言葉に嘘偽りは感じられなかった。

 

「無関係な者に語るのは憚られることはいくつもある。だがこれだけは言える。いつか来る滅びに対する手段が今の時点で取れるのならば、我々はそれを手にしなくてはなら――――」

「面倒なお話は横ぉ置いといて、さっさと()ろか♡」

 

 そして僧侶の話の途中で、いきなり彼女は斬りかかってきた。……威力がさっきまでのとは違う! 魔法でのアシストもなく「義骸での」身体技術で瞬動を網羅してる。おまけに神鳴流の系譜を踏んでるはずなのに微妙に型が違って、受けと攻めに微妙なずれが生じる。それが僕の隙となり、そして相手はそれを見逃してくれない――――。

 

(かぁつ)ッ! 堪え性のない……! これだから婆さんはっ」

「後で三枚に下ろして池に放流するえ?

 でもキミ、その妙に混じりっ気のない真っすぐなところも好みですわぉ。まるで箱入娘みたいなスレてない剣閃で♡」

「調子に、乗るな――――!」

 

 技を繰り出そうとしても、その動きの初動を確実に潰してくるこの動き……、小さい頃に兄様にされたことがある、彼我の実力差が圧倒的な場合に発生する「遊ばれ」方だった。この女性(ヒト)、強い……っ、今のままじゃ勝てないかもしれない。それこそアーマーカードでも使えないと。

 でも、今ヒナちゃんを戻すのは悪手だ。明らかに彼女の一撃に耐えられているのは、ヒナちゃんの頑強さがあってこそだ。

 

 そんな僕に、彼女は愉し気に笑う。

 

「勿体ないわぁ、なんや『ひな(ヽヽ)』ちゃんも全然使いこなせてへんみたいやし。まさかこんな形で再会するとか思ってへんかったかけど」

「ッ! 神刀を知ってる……っ」

「同門やって言ったやろ? それ。

 いや懐かしいわぁ、昔は妖刀なんて呼ばれててな? 素子はんっちゅー使い手がおってんけど、あの人が住んでた処から借りパクして、後でえらい目ぇ遭わされたわ」『(そんなことあったのヒナちゃん!?)』

 

 変な因果やわぁ、と語る彼女にわずかに動揺する。ヒナちゃんが元々妖刀? いや、でもその出自にどこか納得している僕もいる。

 ヒナちゃん、神刀・姫名杜はもともと桃源と京都と二大派を割るきっかけになった、神鳴流が壊滅に追い込まれかけた事件に由来してると聞いている。僕の実家の方ではその力を崇拝する側に回っても、京都の方では反対に恐れられたのだとしても不思議はない。

 

「なんならここでまーた私が持ってもええんけど……、なんやあの頃に比べて随分『乙女』みたいな感じなっとるし。無粋?」『(っ!? この人、ぼ、僕の存在に気づいて――――)』

 

 一瞬、ヒナちゃんが震える。それが受けにラグを生じさせ、「隙あり♡」と彼女に一撃を許す――――。

 

「我流神鳴流――黒刀斬岩剣・弐の太刀」

 

 瞬間、彼女の刀が両方とも真っ黒に染まり、まるでエネルギー波のように僕の全身を襲った。斬撃ではないけど、見た目だけで言えば刀太君の血風創天じみた何かだ。ただダメージは斬撃ではなく打撃になっている。……そして性格が悪いことに、骨を中途半端に複雑骨折や粉砕骨折する形での対応だ。

 少なくとも数分は身動きができない。そんな状況で、彼女たちは話す。

 

「まだまだやねぇ。もっと精進せな」

「――――では封印しよう」

「へ? なんでそんな詰まらんこと言うん『坊主』。体力無尽蔵やろうから私の方の充電切れるまで何度でも遊んで『揉んで』あげれんのに。その首斬り飛ばして軒下に風鈴みたいに晒したろか?」

「ええぃ、少しは趣味から離れんかッ! 下手に逃げられてあちらに介入されてもみろ、絶対面倒なことになるぞッ」

 

「あちら……? っ! 刀太君…………!」

 

 足止めとか、色々なことを聞いて確信した。この人たちは僕らの足止めにここに来ている。おそらく僕以外の救援の不死身衆(ナンバーズ)の足止めも兼ねているのだろうけど、そんなことより刀太君だ。どうして僕は肝心な時に彼の隣に居られないのだろう。

 ふがいなさと、そして夏凜先輩への嫉妬のような感情が渦巻く……。

 

「行かなきゃ……っ」『(待って僕、今のままだと暴走しちゃ――)』

 

 わずかに身じろぎしながら……、アーマーカードを装着してないのに「あの時のように」不思議と力が湧いてくる。それに従って、再生しかかってる身体を起こそうとすると、眼前に錫杖が叩きつけられる。反射で動きが止まった瞬間、僕を囲むように八方に札が現れて――――。

 

 

 

 瞬間、それらすべてが銃弾で撃ち抜かれた。

 

 

 

「なんと!?」

「あらまぁ」

 

 言いながら乱入してきたのは黒いツンツン頭。長身で、そして見覚えのある服を着用したまま彼は片手にマシンガンと刀を持っていた。

 突然の銃乱射に僧侶は後退、同門の女性は適当に受け流す。と、途中でいきなり距離を詰めてきた彼女に対して、鍔迫り合いからお互いに弾いて距離を空けた。

 

 ついでとばかりに僕の襟をつかんで運び、彼は、源五郎先輩はクールに確認した。いつの間にか下っ端の皆の姿もない。誰が避難させたんだろう……?

 

「やれやれ。間一髪だったか。大丈夫か? 時坂九郎丸。もう再生度合い的に立てるかな?」

「先輩……、気を付けて! あの人たち――――」

 

「あらあら、せっかく楽しい時間を邪魔してくれて……、この『坊主』の前に(あん)さんいてこましたろか?」

 

 僕と先輩がその場から離れると、さっきまで居たところに斬撃が「飛んで」来た。

 

 自然、分断される形になる僕たち。相手もそれは同様に、そしてにらみ合う。源五郎先輩は眼鏡をくいっと調整して、その視線は見えない。

 

 

 

「むふぅ……、悩んでおるな小娘。少女の悩みにしてはちと業が深いと見える。

 『白き翼』契約社員・牛冷(ぎゅうれい)娑婆(しゃば)和尚。どれ、拙僧に相談なさい。これでも年頃の子供への説法は慣れておる」

「UQホルダー不死身衆ナンバー11・時坂九郎丸。……あと僕は男だ!」

 

 

 

「我流神鳴流・(いわい)月詠( つくよみ)。訳あって今は世界救済軍『白き翼』に所属させてもらってます。そちらもお名前を、凛々しくも面倒な男性(ヒト)

「……そうか。やれやれだ。関係ないと分かっていても、やり辛くなるのはこっちの勝手か。

 UQホルダー不死身衆ナンバー6・真壁源五郎。今日ばかりは普段の倍はクールに行かせてもらおう」

 

 

 

 名乗り合いも早々に、僕たちは斬り結び始めた。

 

 

 

 

 

 



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ST44.神刀/妖刀

毎度ご好評ありがとうございます。
今日はちょっと頑張った・・・!(某語録のお陰ともいう) 後で誰とは言わないけどセリフ増えるかもです…


ST44.Moon face

 

 

 

 

 

 

 率直に言うと、和尚を名乗る男はかなり強かった。

 

「くっ――――特殊な技術もなく、純粋な身体能力だけでっ」『(やっぱり強い!)』

「これでも伊達に『和尚』は名乗っていないものでなぁ」

 

 一体全体その和尚というのは僕の知る和尚という概念と同じなのか、ちょっと疑問に思っちゃうくらいの強さだった。両手に持つ錫杖、片方の先端は槍のようにとがったもの。それらを駆使して僕の剣戟を捌き切り、あまつさえ一撃、一撃が重い。見たところ灰斗さんみたいに気を修めてる訳でもなく、かといって僕やあの老剣士のように剣術を修めている訳でもない。

 どちらかというと甚兵衛さんのような、ひたすらに「経験値」に裏打ちされた戦い方だった。決まった型のない動きは刀太君に通じるし、それでいて動きに僕の想定以上のずれがあるが妙な引っ掛かりを覚える戦い方だった。

 

 今だって距離をとり斬空閃を当てようとしたものの、それを見切っているのか錫杖で「受け流し」、でもこちらの隙を伺う様に踏み込んできたりはしない。戦い慣れているはずなのに妙に素人のような動きが入っていて、こちらのペースが乱される……!

 苛立ちと共に、ヒナちゃんから「黒い煙」のようなものが噴き出していて、不思議と身体が軽くなった。それでも有効打が与えられず、いら立ちが募る。

 

 彼は「むふぅ」と鼻息を鳴らしながら、訝し気に僕を見ていた。

 

「…………やはりその業は少女が抱えるものではないな。一つ間違えれば世界を滅ぼしかねぬ。

 ここで会ったのも何かの縁だ。小娘、一度しっかり話せ」

「だから僕は――――男だ!」

 

(かぁつ)ッ!」『(!?)』

 

 

 接近した僕に正面からわっと大声量を浴びせる――――声の大きさのせいか一瞬、三半規管が乱されふら付いた。その時、彼は僕の夕凪を払いのけ地面に突き刺した。何故か深く刺さり、抜けない……!?

 でもそんな僕に追撃はせず、和尚は錫杖を地面に突き刺し腕を組んだ。

 

「立場上、敵同士ではあるがどうにも放っておけぬ。少なくとも拙僧とて『救われたことのある』身。であるならば、義を見てせざるは勇無きなり、である。そしてそれ以上に、お主の業は他の優先順位を捨て置いても処さねば取り返しがつくまい」

「意味がわかりません……! 大体、そんな高尚なことを言いながらどうして貴方はそちら側にいるんですかっ」

「色々理由はあるが簡単に言うなら自己顕示欲のためだ。

 ……拙僧の寺、財政難で名が欲しかった」

「台無しじゃないですか!?」『(台無しだよ!!?)』

「本音と懐を隠すのは出来ない気質だ。耳が痛い。

 だがそれは半分の理由でしかない。あの雇用主の理念に共感したのもまた事実――――待遇はともかく、そこに『愛』があるのだから」

 

 愛? と。困惑する僕に、和尚は頷く。

 

「あの男は、友への『愛』のために世界を救おうとする男。なればそれが行き過ぎて狂わぬよう、傍で見て手を差し伸べるは拙僧のような求道をする者しかおるまい。あそこで嬉々として斬り合ってる婆さんなど古い付き合いらしいが、あれは道具にはなれても言葉を交わすことはできぬ。誰かが歯止めにならなければならぬのなら、それこそ奴と『同じ男』に救われたこの身がいさめるべきだろう」

「…… 一体、あなた達のボスは何を目的としているんですか?」

 

 

 

「ネギ・スプリングフィールド――――現代最後の指導者(ラストテイル・マギステル)を救うため、世界をより良くすることだ」

 

 

 

 意味が、わからない。……ネギ・スプリングフィールドというのが、刀太君の祖父であるのは知ってる。熊本で墓参りに行った時、刀太君が実感のないような遠い目をしてたのを覚えてる。そんな彼から話を聞いたことがある。いわく、昨今の世界にあふれる問題を救うために奔走していた偉人。魔法技術の公開に積極的に手を貸した人物。

 太陽系――――「桃源」の方にいた僕はほとんど知らないのだけれど、地上では知っている人は知っている、ものすごいレベルの人物だと。

 

『全然実感っていうか、そういうの全然ねーけどなぁ』

 

 肩をすくめる刀太君の、どこか現実感のないような顔を思い出す。事故に遭う以前の記憶を失っている彼からすると、そのつながりは情報以上のものではなかったのだろうと察してしまい、胸を痛めた覚えがある。

  

「そう、その顔だ」

「えっ?」『(あー……、確かに)』

 

 和尚が僕の顔を指さす。その目はどこか微笑ましいような、それでいて怒っているような目だった。

 

「小娘。お主の事情は知らぬとも。何故男を名乗るかということについては『()て』薄々『察しがついた』が、だからといって今のその顔をそのままには出来まい。

 何故、想い人を思うその顔に『闇』がちらつくのだ。それでは、その男が殺されでもした時に、復讐の為なら世界全てを滅ぼすことに厭わぬようではないか」

「お、想い人って……!? でも、いや――――刀太君は死にません!」

 

(かぁつ)ッ!」

 

 再びの大声に、僕の全身が震える。……今度は錫杖をもって、地面に叩きつける。

 

「判っていないようだな。史上、人間というのは大半がその自国や自分自身への愛ゆえに判断を誤り、そして重大な間違いを引き起こす。時にその愛は誰かへのものであり、そして刃を手に取り人を殺し、世界を殺す。

 わかるか? 愛は時に世界を滅ぼすのだ――――お前がその男を愛し、滅ぼしかねないように」

 

 ヒナちゃんを持つ手が震える。思わず構えてしまった僕に、でも和尚は構え返さない。

 

「その拗れは、己の(さが)を認めないからこそ、だな。

 まずは認めるのだ。自らはその相手を愛しているのだと」

「そ、そんなこと――――『そんな資格』、僕には……」

「愛に資格はいらぬ。ただ見返りがないものを尽くし続けることだ。開き直って言えば、愛は無償なのだ。返してくれるかもわからない。しかし、それでも尽くすのを――――」

 

 思わず僕はヒナちゃんを夕凪に当てて、地面から引き抜いた。……何かしらの術、おそらく魔法技術に頼らない錯覚めいたものでも使っていたのだろうか。ヒナちゃんでそれを「切れ」たのか、今度はすんなりと地面から抜けた。

 それ以上、彼の言葉を続けさせてはいけない――――何か重大なものを壊されてしまいそうな恐怖に襲われて、僕は彼に斬りかかる。ただ、和尚はそれを当然のように受け流した。

 

 自然、距離が空く僕ら。

 

「じゃあ、何ですか……、す、好きになることは。愛することは罪だとでも言うんですか!」

「そうとも言えるし、そうでもないとも言える。小娘、お主は結論を焦りすぎている」

「意味が分からない!」

 

 一撃、一撃を当然のように往なしながら、和尚は言葉を続ける。

 

 

 

「つまりだな。愛は世界を滅ぼすが――――それでも、愛は世界を救うのだ!」

 

 

 

 和尚の掌が、僕の頬を叩く――――威力が尋常じゃないということはない。それでも、僕はその一撃を受けて、その場に倒れてしまった。動けない。また暗示のようなものだろうか、しかし全身が揺さぶられたように、胸がえぐられたように重い。

 

「……その言葉を、拙僧はもっと早くにあの方へ言うべきだったのだ。言えなかったから、あの方は失ってから、どうしようもなくなってからでしか何事も為せなかった。それが拙僧は悔しい」

「…………それが、貴方の愛ですか? だから貴方は、そっちに居るんですか?」

「これを愛というのは、あまりに遅い。人が人を愛するのは、男が女を愛するそれとはまた違うものではあるが、だからといってそんなものを全部放り込んだところで、順当に行くこともなければ、今までの何かを超えるものになるわけでもない」

 

 まるで禅問答のようなことを言われた。でも、それを言われて……ふと考えてしまった。

 

 僕の刀太君への感情というのは、きっと、一言で片づけられるようなものじゃない。

 熊本に居た時の同居人のそれとか、気遣ってくれて嬉しかったこととか、ふとした距離が近くて変にどぎまぎしたこととか。……そんな彼を殺してしまった時の混乱とか、悲しさとか、やるせなさとか、自分への怒りとか。それでも彼が僕を受け入れてくれた安堵とか、その時の胸の温かさだとか。

 

 そういったものをひっくるめて、僕は今まで彼と接しているのだろう。……当たり前だ、人間なんだもの。そんな感情を、簡単に整理できるようなことなんてあるはずはない。

 ただそれでも、そういったものを突き付けていった先に――――。

 

「………… 一緒に居れたら、いいな」『(あれ? 僕?)』

 

 その感情だけは、きっと。どんな感情に紐づいたとしても、それだけはずっと根底にあって、言い訳のない、嘘じゃない感情だった。

 その一言と同時に、不思議な充足感が生まれた。…………嗚呼そうなのかもしれない、今更だけど、あまりにもいろいろあって認めるのも変だけど。

 

 

 

 僕は、刀太君が好きなんだ。

 

 

 

 今こんな場所で時間を稼がれてなんていないで、一刻も早く刀太君の元に駆けつけて、一緒に戦いたいくらいに。できれば彼と守り守られるような、背中を預けてくれるような、そんな一つのものを超えた関係に。

 

 和尚は僕の顔を見て、ふと満足げに頷いた。

 

「その顔は、悪くない」

「…………『去れ(アベアット)』」

 

 ヒナちゃんを一度戻して、ネオパクティオーカードを手に取る。「気が付くと」身体は不思議と軽く。

 

 立ち上がった僕に、和尚は構え。でも追撃してくることはなった。

 

「――――後悔しないでくださいよ。今の僕は、きっと無敵ですから!」

 

 何も言わずこちらを見る彼。嗚呼、きっと僕がこのカードを使おうとも、彼は追撃してこないのだろう。そう確信できる何かが、今の僕と相手の間にはあった。まるで兄様とかに稽古をつけてもらってるような、変な感覚があった。

 

 ただ――――迷いはなかった。

 

『我が身に秘められし力よここに――――』

 

 空腹感も飢餓感も薄れ、あるのは胸を満たす不思議な温かさ。早鐘を打って、今か今かと何かを待ち望んでいるような感覚。……こ、これが恋とかそういう感情なのだとするのなら、きっと上手くいく。その確信と共に――――僕は光の中から、カードを抜き取った。

 

『――――来たれ(アデアット)!』

 

 

 

・ARMOR CARD

・KUROUMARU TOKISAKA

・RANK:Lightning Sword

・EQUIP:Sacred Sword HINAMORI

 

 

 

 身に纏う白と緑の長ランのようなものと、黒い袴みたいなもの。

 そして手にするヒナちゃんからは――――山吹色の光が立ち上っていた。

 

「行きます」

有無(うむ)、来い――――!」

 

 ヒナちゃんを構え、接近して一閃。横に凪ぎ払う一撃に、でも彼は錫杖で受け流すことが出来なかった――――今さらだけど気づいた。彼の動きはどういった技術なのかわからないけど、こちらの視線や力の入れ方を「暗示めいて」誘導してくるものだった。ただそれも、ヒナちゃんの力が全身に満ちているせいか、今の僕には効いていない――――いや、きっと違う。これは、僕の心が定まったからこそだ。

 

 さっきの告白剣――――自らの思いを重ねて叫び斬撃を放つってだけのシンプルな技だけど、そこに込められた情念が強ければ強いほど、相手の一撃を寄せ付けない技だと兄様に教えられた。

 

 さっきの、彼を守りたいって叫びに嘘はないけど。でも――――。夕凪を手に取って、僕はまた叫んだ。

 

 

 

「神鳴流変則・告白剣――――――――」

 

 刀太の傍に居るために。だって、僕は―――――。

 

「――――刀太君が大好きだから!」『(アレ!? 何か早すぎないかな僕!!?)』

 

 

 

 長刀、二刀、重ねて唐竹割。全身に満ちるヒナちゃんの力を振るい、瞬動に合わせて振り下ろす。

 和尚も受け流せないと見たのか魔法アプリを起動して、さらに頭上に錫杖二本重ねて構えたものの。それすら「当然のように」真っ二つにして、僕は一撃を見舞った。

 

 倒れる和尚。胸には縦の傷。

 

「殺しは、しなかったか……。それで?」

「……愛が世界を滅ぼすとか、救うとか。そんな大層なことが言えるほど、僕も生きていません」

 

 だから、と。夕凪を鞘に戻しながら、僕は言う。

 

「――――その結論は、僕が決めることにします」

 

 ぬぅ、とうめきながらも、でも和尚は僕にうっすらと微笑んだ。

 

「拙僧、お主の中に『愛』を見た」

 

 それだけ言って気絶したのか、目を閉じて寝息を立て始める和尚に。僕はそうする義理もないだろうけど、それでも頭を下げた。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「あらまぁ、青春やぁねえ。素子はん思い出すわぁ。そう思わへんかぁ? 斬りがいのない源五郎はん」

「…………無為にこちらを百回ほど殺しておいて、その言いぶりはどうかと思うけれどね」

 

 時坂九郎丸が「夜明けの剣」の称号を得たのを横目で見つつ、僕は「解体されていた」。

 

 祝月詠。実年齢は……、いや、見た目はともかく女性の年齢にとやかく言うつもりはない。一空のごとくすでにその身はほぼ義骸のそれであり、しかし修めている剣術は超一流。「独自流派開拓者」「夜の二刀流」「神鳴流破門生」「刹那を逃した者」「異端児」「剣鬼」「赤いの大好き」「ゴスロリ戦闘狂(バーサーカー)」「永遠の十七歳」「声で病気に堕とす者」とか色々変な称号も多いのだけれど、総じてほとんどが物騒な称号のオンパレードときている。

 彼女の剣は、正直言って僕のキャパシティを超えていた。こんなのエヴァ様(ミストレス)相手か「ちょっと本気を出した」甚兵衛さん相手くらいにしか味わったことがない。それでも普段なら捌き切れる自信があるので、僕としても完全に不覚を取っていた。

 

「――――ほら、また一本」

 

 会話しながらも平然と首を飛ばしてくるこの姿勢からして、明らかに戦闘狂だというのに……。しかしどうにもやり辛い。個人的な感傷のせいだという自覚はあるのだが、だからといってこれくらいの達人相手だと「取り繕っている」ことで生じないはずの隙すら「取り繕っている」という隙と見なして攻撃してきている感覚がある。

 彼女の背後にリスポーンしながらそんなことを考えつつも、しかし再生中の僕の心臓に平然と刀を刺してくるのも止めてもらいたい。ある意味で、何から何まで苦手な相手だった。

 そんな彼女を蹴り飛ばして距離をとりながら、心臓の剣を抜く。

 

「んん、アンさんの不死身っていうのも、なんか変な感じしーよるね。死ぬこと、生きることに関する動きの執着、全然あらへんもん。痛みも感じてないような軽い死に方やし、全然滾らへんわ」

「それは残念」

「なにより源五郎はん、やる気あるん? 私、普通に殺すつもりでかかっとるのに、捕縛とか生ぬるいこと考えてへん? 銃だって全然使わなってきたし」

「…………それを言われると色々弱いのだけれど、僕としても少し困っていてね」

 

 多少は相手の動揺を誘えないかと、剣を当然のように構えている彼女に苦笑いを向けた。

 

「……どうにも君の容姿が、僕の死別した恋人のそれに似て思い出してしまうんだ。笑みを向けられる度に躊躇してしまう」

 

 そう。僕の視点からすれば、いわゆる判子絵(ハンコえ)の類ではあるのだけれど。彼女の顔や表情のパーツ構成のようなものが、酷く「あの人」を思い出させる。

 

 そんなことを言えば、流石に意外だったのか一瞬目を見開き、視線を逸らした。

 

「あー、はは、なるほどな…………。私、言うのはヘンだけど、堪忍しぃ? もともと私の二十代ごろの顔ベースやし」

「そういうのは察していても、いざ戦うとなると、ね」

「源五郎はんも甘い、甘いわぁ……、チョコラテ深夜に2リットルペット一気飲みしたみたいに甘くて胸焼けするわぁ……」

「そう言いながら人の胴体を袈裟斬りにするのは止めてもらいたいのだけれど……」

 

 残機はまだ桁的に問題はないとはいえ、本当、最悪の相性の相手と当たってしまったらしい。そんな僕の耳に「……お前そんなにロマンチストだったか」と、エヴァ様(ミストレス)の声が聞こえた。

 

 

 

 

 



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ST45.因縁づくり

毎度ご好評あざますナ!
今日も頑張った・・・


ST45.Made A Strange Connection

 

 

 

 

 

 一空の監視からのエマージェンシーと、九郎丸の打ち上げた花火のような技(確か京都の方の神鳴流派生で宴会芸用だったか)。

 それを見た私は、急遽一空新作の銃の試射会場に居たメンバーを最速でスラムに投擲した。

 

 秒もかからず現地に着いたろう全員の動向には気を配らない。こういうのは適材適所だ。

 フェイトの相手は「本気にさせなければ」甚兵衛一人で充分のはず。

 だから私は街の消火に回るべきと判断したのだが…………。

 

「す、すごい……、生の雪姫さん……!」

「アンタ、刀太兄ちゃんの仲間なんだろ!? あっちで九郎丸の姉ちゃんなんか襲われてるから!」

 

 夏凜から連絡のあった忍の変な反応はともかく、スラムの子供……、名前はわからないが、なんだ。アレで随分と懐かれてるじゃないか。

 カアちゃんとしては少し嬉しいものがあったが、しかしいの一番、状況が悪いというのを知らせてくれた二人に感謝を言いつつ、その広場の方に向かうと。

 

 

 

「――――刀太君が大好きだから!」

 

「――――神鳴流・黒刀斬岩剣」 

 

 

 

 いや何というか、カオス極まりない展開が私を待ち受けていた。

 

 なんだか色々開き直ったような発言をかましながら僧侶風の男を倒した九郎丸と、意外にもエプロンドレスの女相手に苦戦しているらしい源五郎。

 源五郎、確かに相手も手練れではあるのだろうが、それでも復活時点から潰され続けてるのは不思議だった。もともとそのスジ(ヽヽヽヽ)の組に居た奴をホルダーに巻き込むために抗争を起こした際も、そんな戦法をして退路を断っていったことはあったが、それにしたって……。

 

「――なにより源五郎はん、やる気あるん? 私、普通に殺すつもりでかかっとるのに、捕縛とか生ぬるいこと考えてへん? 銃だって全然使わなってきたし」

「それを言われると色々弱いのだけれど、僕としても少し困っていてね。……どうにも君の容姿が、僕の死別した恋人のそれに似て思い出してしまうんだ。笑みを向けられる度に躊躇してしまう」

 

 お前そんなにロマンチストだったか。

 そんなので隙を作ってしまうくらいに……、意外とセンチメンタルな奴だな。

 

 思わず口からこぼれたその感想が聞こえたのか、源五郎は私の方を見て困ったように微笑んだ。

 

「どうやら感傷に浸っている時間はオシマイらしい。――――お覚悟を、『月詠さん』」

「あら、やっとちゃんと斬り結んでくださるん? ――なら精々、滾らせてな?」

 

 …………今、桜咲刹那のストーカーしてた奴みたいな声が聞こえた気がしたが、きっと気のせいのはずだウン。

 思わず現実逃避したくなった私だったが、しかしよく見ればその剣筋は確かに見覚えのある神鳴流をいくらか崩したような形のもので。

 

 ぼーや達と「アレ」の対処もまぁ苦労した記憶が脳裏を過るが、ちょっと手を出すのを躊躇してしまったのは別に私のせいじゃないだろう。私、悪くないもん。

 

「っと、そんな場合ではないか。……大丈夫か? 九郎丸」

「はぁ…………、ッ!? ゆ、雪姫さんっ」『(あ、やっぱり気づいてなかった)』

 

 肩を叩いた私に気づいて、アーマーカードの姿の九郎丸は顔を真っ赤にした。

 いつからという言葉に多少からかってやろうという嗜虐心が湧いてくる。

 

「んん、そうだな。お前が私に挨拶に伺わないといけないようなセリフを叫んでいたところからかな」

「いいいいいいいい!? いえ、その、それには色々とその深い理由があってですね……っ、いえ、えっと、僕が刀太君のことが嫌いってことは絶対にないんですけど、そうじゃなくって!!?」『(結局そういう機会はなかったなぁ、僕……)』

「どうどう、落ち着け落ち着け。避難状況はどうなっている?」

「へ? あ、えっと……、大部分は終わったと思いますけど、全部いけてるかどうかまでは……。忍ちゃんたちも手伝ってくれてますけど」

「まあ雑魚兵くらいなら数が揃えばウチの男衆でも問題がないだろうが、手練れになると確かに問題だな。……しかし面倒だな」

 

 源五郎に嬉々として斬りかかっている女を見て、少し胸焼けを覚える。

 そんな私に「知り合いですか?」と声をかけて来る九郎丸だが……、お前、何か内股になってないか?

 いくら何でも開き直りすぎだな。戻ったらせいぜい揶揄ってやろう。

 

 それはともかく。

 

「祝月詠。……かつて私の仲間だったとある神鳴流使いをいたく気に入った、女をいじめるのが大好きな奴だ」

「えっと、そういう話が聞きたいんじゃなくって…………」『(もっとパーソナルなことを知ってる関係かなって思うんだけど、違うのかな?)』

「私からすれば知り合いの知り合いって感覚だな。あと……、まぁ『トモダチ』のストーカーだった」

「えっ?」『(ちょっと僕? 僕も注意しないといけないと思うよ僕?)』

 

 まあ九郎丸が困惑するのも仕方ないだろうが、別に私、刹那個人は気に入っていたが交友関係までとやかく口出すほどじゃなかったしー? ……我ながら言い訳がましいが、別に奴が誰と結婚するかとかも口出すのは不死者としてするべきでないと思っていたのも事実なので、まー、ぼーやと一緒にあの女に色々「苦戦させられた」のは間違いない。

 宇宙船に乗って大気圏突破直前までシャトルの外に乗ろうと追いかけてきていた姿はちょっとしたホラーだったなぁ……、私が言うのもアレだが。

 

「半妖魔のようなことはたまに匂わせてはいたが、別に呑みに行くような仲でもなかったからなぁ……。

 知ってるようで知らないというのが、私から言えることか。

 その実力はともかくとして」

「…………確かに、強かったです」

 

 アーティファクトの効果で能力にブーストがかかってる九郎丸だったが、奴を見る目は畏怖がにじみ出ている。

 同門の剣士として、その蓄積された戦闘経験と裏打ちされた勝利の数に警戒心が働いているのだろう。

 

 まあ奴に関しては、年齢的にぼーやたちよりもちょっと上だったはずだから見た目こそ今、二十代に見えるが本当は――――。

 

「――――あら? なんやぶしつけな視線感じたけれど、雪姫はんやん! お久しゅう」

 

 源五郎と鍔迫り合いをしながら、こちらに視線を投げてよこす祝月詠。

 もっとも目が笑っていない。奴め、年の功か「そういうのも」鋭くなったと見える。

 

 片手の小太刀めいた方は砕かれたらしく、柄を棄てて長刀の方に専念していた。

 

「なるほど~。雇い主はんが目の前におったら、そらやる気にならんと問題やんね~。実際、さっきよりはだいぶマシになったから、私けっこう楽しめとるで?」

「……同時に僕も、貴女の弱点のようなものを見つけてしまった」

「ほぅ? 弱点?」

 

 剣を振り切り弾くと同時に、源五郎はスタンガンを奴の反対の腕に押し当てた。

 ……当然普通のスタンガンではない。見覚えがある、確か私を拘束して組全体と停戦交渉をするために調整した逸品だったはずだ。

 私でも軽く火傷を負うレベルのそれは、魔法アプリの防御陣すら焼くだろう。

 

 ただその一撃に対して、奴は動きがいくらか遅い――――。

 

 そしてその隙を見逃さない程度には、源五郎も強かった。

 

「その膨大な戦闘経験からくる予測で補っているのだろうけど、生憎こちらは『ヤクザ者』でね。『ご老体』の隙をつくのに躊躇もないし、どっちかというとケンカ殺法の方が得意だ。

 ――――『昆虫夜王三択モード』」

 

 奴の右腕、剣を握っていた方を斬り飛ばすと、そのまま畳みかけるように殴る蹴るの暴力へと移行した。

 神鳴流を収めている以上、祝月詠もそれなりにステゴロが出来るはずだが。しかし不思議なくらいに源五郎の動きにいいように翻弄されている。

 

「な、なんやんそれ……!? 我流神鳴流・暗黒紅蓮拳――――」

「『△ボタン』連打法――『△ボタン』『△ボタン』『△ボタン』『△ボタン』『△ボタン』『△ボタン』『△ボタン』『△ボタン』『△ボタン』『△ボタン』『△ボタン』『△ボタン』『△ボタン』『△ボタン』『△ボタン』『△ボタン』『△ボタン』『△ボタン』『△ボタン』『△ボタン』『△ボタン』――――勝利っ」

 

 源五郎と月詠の拳が正面からぶつかり、しかし源五郎の一撃の威力が奴の拳を凌駕した。

 腕が砕け散った際に飛び散ったパーツで、ようやく奴が一空のようにサイボーグ化してることに察しがついた。

 

 腕がなくなり流石に余裕がなくなったのか、源五郎の腕を蹴る瞬間に「瞬動」を使い距離を取る祝月詠。

 肩で息をすることはないが、困ったような、引きつった笑みを浮かべていた。

 

「……ご老体、呼ばわりは流石に乙女心踏みにじりすぎやあらへん? これでも気にしとるんよ?」

「気に障ったなら謝りましょう。では、お詫び代わりに一つ。

 貴女のその身体に対して、貴方自身の処理能力が追い付いていない――――肉体(アバター)たる義骸と、それを操る(プレイヤー)との整合性がとれていない」

 

「おい余計な事言うの止めろ!」

 

 思わず叫んでしまったが、こういう筋というか貸し借りみたいなのは変に律義な源五郎は説明を止める気配がない。思わずため息が出る。

 

 そう、それが源五郎がさっき攻め続けられた一番の理由だろう。

 ボタンどうのこうのは意味がわからないが、つまり現在の月詠の身体スペック――動体視力や反射神経と、奴の義骸の性能――反射に対してどれくらいの速度で動くかのラグだったり何だったりとが、一致していないということだ。

 

 それを年の功で補っていた月詠だったが、見切られ、なおかつ差を開けられてはどうしようもないだろう。

 

 …………ただそんな話を懇切丁寧にしてやる必要などないのだ。ホラ、よくわからないけど顔を赤らめながら「おおきに」なんて言い出して。 

 源五郎本人もその反応は予想外だったのか戸惑っているが、気をつけろ。絶対ロクな結論にはならない。

 

「うーん……、こんな殿方から律義に教えてもろたん初めてやぁ。こんな初めて、ちょっと照れてまうよ。年頃の生娘であるまいに。んん、でもせっかく教えてもろたんやし、何もせんかったら申し訳あらへんしなー……」

「? 何を言っているんだ」

 

 

 

「……うん、決めた! 私、『勇魚(いさな)』達にもめっちゃ言われそうだけど、やっぱ生身の身体新しく『造った』方がええな!

 そしたらまた遊ぼか、源五郎はん♡」

 

 

 

 ほら見ろ! 思わず源五郎にお前のせいだぞ! と怒鳴ってしまうくらい嫌な結論が出た。

 どんな手段を使ってくるか予想できないが、絶対変なパワーアップをして帰ってくるに決まってる。割とそういう経験が多いから私は詳しいのだ。

 

 あと、そいつその気になると滅茶苦茶しつこいからできれば縁切りしたままにしたかったのだが……。

 

「ままならぬか……」

「あっ、それ刀太君もよく言ってるやつです」

「セリフが被ったか? いや、まぁ義親子(おやこ)だしな」『(……なんか、そういうの良いな)』

 

 それはともかく、源五郎は表面上はクールぶって眼鏡を押さえている。

 視線は見えないが知ってるぞ、その仕草は困っている時の表情のようなものだ。

 

 なんだ、そんなにお前の死んだ恋人に似てるか奴の満面の笑みは。思わず見とれてしまいそうになるくらい困惑する程か。

 確かに「あいつ」も亜人の中では長命の方だったが……。

 

 まあ世の中には似たような顔をした奴が何人かいると言うし、あまり責めるのも酷かもしれんが。

 

「…………その笑顔に狂気さえ浮かんでいなければ」

「無理な注文は諦めてくれへん? 私『これ』が大好きだから今の今まで意地汚く生き延びてきたところあるし。刹那はんとの『約束』もあるけど、やっぱ斬り合いが一番自分の人生を生きとるって実感わくんや」

 

 けらけら笑っていると、どこからか連絡が入ったのか頭がバイブレーションする。

 ぴ、と電子音が聞こえると、特に電話を操作する動きもしていないのに「あ、もしもし、しもしも? 私、私どす」と色々怪しいセリフ回しをしていた。

 

「へ? 失敗したん? なんやフェイトはんらしくない……、ネギくんのお孫さんやからって手加減でもしたん? ……びしょ濡れ? あと説得されたって?

 へぇ、それはそれは…………、なんか仲良うなれそうな子やね、刀太くん言う子」

「――――っ、刀太君には手出しさせない!」

 

 言いながら瞬動で源五郎の隣に立った九郎丸だったが、逆効果だぞソイツ。

 嗚呼、嫌な感じに笑みを浮かべて……。事務連絡が終わったらしく、祝月詠は私たち全員を一瞥して「もう帰るわぁ」と楽しげに笑った。

 

「後のお楽しみもいっぱい出来たし、今日はけっこう良い日やし。『勇魚』たちにも良い土産話が出来たわぁ」

「逃がすと思ってるのかい? 月詠さん」

「いやん♡ もう、源五郎はぁん。

 そんな熱烈な目で見んといてぇな♪」

 

 軽く「しな」を作って返されるだけで、源五郎は眼鏡を再び押さえた。

 お前……。

 

 先輩? と九郎丸が尋ねるのに少し早口になりながら応じた。

 

「どど、どちらにせよだ。これだけのことを君たちがしたのだから、少なくとも何かしらのオトシマエをつけるのが『ケジメ』というものだ。古事記にもそう書かれている」

「えっ!? そうなんですか!」

「嫌やわぁ、それどの界隈の世界の古事記? 絶対アマノタカマガハラ組とか表紙に描かれてそうなやつやん。ま、どちらにせよあんま興味あらへんけど。

 ……あ! この坊主んことは好きに煮て焼いてくれてええから。もともとアルバイトだったみたいやし――――」

 

「――――凍てつく氷柩(ゲリドゥスカプルス)!」

 

 今の九郎丸と源五郎では完全に相手のペースに乗せられている。

 少々イライラして、思わず手を出してしまった。

 

 もっともその私の発動すら読んでいたのだろう、こちらに砕けた腕の残骸(左掌と手首の部分)を蹴り飛ばして、発動時のベクトルを妨害してきた。

 

 凍らせ、振り払って砕き。しかしその頃には既に距離を空けられてしまっている。

  

「じゃあまたな! 九郎丸はんに源五郎はん♡

 九郎丸はんは、次会う時までにもっと『引き出せる』ようになっててなー」

 

 言いたい放題だしやりたい放題だし、本当にアイツ前から全然変わっていない……。

 軽く頭痛を覚えていると、件の坊主について弁護じみたことを源五郎に話しはじめる九郎丸の声が聞こえた。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「…………で、街全体が凍るまでの話と全然繋がっていないのだが」

「それはそうだろうさ。お前、燃えるよりは良いだろう。どうせ後で溶かすから」

 

 そんなことを語る雪姫(大人バージョン)を前に、私はわずかに頭痛がした。戦い終わった後、原作通りのノリで鎮火のために街全体を凍らせたという話だが、実際にやられると酷く肌寒くていけない。

 

 あの後、早々に雪姫や九郎丸たちと合流したのだが。前後のあらましを軽く聞いているうちに納得と当時に腹痛を覚える。確かにフェイトが来ていた以上は現代の「白き翼」関係者が来ていてもおかしくはないのだが。いくら何でも前後に容赦がなさすぎる。

 

 特に月詠……。何だ次会う時に生身の肉体で全盛期の剣技を振舞ってくる疑惑が出て来てる展開。は? 恐怖以外何もないのだが。(震え声) 元々元祖「ネギま!」においても正体不明の神鳴流ゴスロリ少女剣士バーサーカーで通していたが、私の認識だとそこまで出張ってくる印象はなかったのだが……、現在のお年がお年なのだからもう少し老成していれば良いだろうに。(失礼)

 

「ままならぬ……。でもそれはそうと、アーマーカードちゃんと使いこなしたんなら良かったじゃねーか九郎丸!」

「う、うん……」

「…………ん?」

「ど、どうしたの? 刀太君」

「いや、何というか……」

 

 上手くは言えないのだが、なんだろう、表情の作り方がどこか柔らかくなったような……、ついでに言うと声の感じも少し優しい感じになったというか。何だろう、本当にうまく言えないのだが、色々とちょっと前とは違う印象を受ける。

 ひょっとしてアレか? 帰○(オサレ)でもしたか? ○刃(オサレ)して未来九郎丸からイフの経験値でも引き継いで女の子っぽさもついでに引き継いだとかそんなオチか? 迷走する私の思考はともかく、夏凜は何か気づいたように「ひょっとして……」と九郎丸の耳に何事かささやく。

 

「――――ッ!!!!!!! い、いえ、流石にそこまでは……」

「つまり前段階までは来たと言うことですか。それは、良いことです」

 

「何納得してんだ二人そろって……」

「兄サン本当に気づいてねーのか? もっとやべぇことになってるぞたぶん」

「やべぇって何だよやべぇって」

「そりゃ…………、って、私の口から言わせるなヘンタイっ!」

「いや何でだよ……」

 

 そしてそんな私とカトラスを、雪姫が微妙な目で見ていた。

 

 

 

 

 




※告白剣の詳細とかまでは話で聞いてない主人公


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ST46.親子それぞれ

毎度ご好評あざますナ!
今日も頑張った! 頑張ってるヨー! なるかこのままほぼ毎日更新・・・!


ST46.Bad Family Relationship, Good Family Guilty

 

 

 

 

 

 名前の覚えられない僧侶のことはホルダーに帰ってからどうするか相談するということになり、私たちは雪姫によって氷漬けにされた街を溶かす作業に従事……、することはなかった。原作でもそうだったがこの辺りはおいおい、ということらしい。雪姫に事前に言われていたのか、一空がスラム全体でお祭り騒ぎが出来る程度には大量の食糧やら何やらを運んできたので、それを使って打ち上げと相成った。

 このあたりの流れは原作に近いが、明らかに原作と異なる光景がある。善鬼たち男衆が(一般人なら死にかねないレベルの致命傷を負いながらも)なんとか避難誘導を手助けした結果もあって、実際のところ大盛り上がりであるが、その中にカトラスが混じってたり、雪姫たちの姿が見えなかったりだ。

 というかカトラスが、忍の手で子供連中の輪の中に入っているのが意外と言えば意外というか……、お前本当絆されすぎなのでは?(疑心暗鬼)

 

 そして私は、そんな光景を一歩離れたところから見ていた。

 

「ん……、やっぱこういうのが良いのだろう」

 

 人外も人間も問わず紛れ込み火を囲みシチューやらカレーやら何やらを頬張りながら、時に酔いながらわいのわいの。ちょっと煩くも感じるが、たまにはこういう息抜きも必要なのだ。そしてそういう様を傍から見守るのが、なんとなく楽しい。

 私個人がそこに混じれという話でもあるのかもしれないが、ちょっと考えることが多いので少し後退しているところはあった。

 

「この段階でフェイトとの遭遇とか今後の展開完全に崩壊するのではないだろうか……」

 

 何が問題かといえば、原作的に次に待ち受けているキリヱ編である。あれは南雲の手で月に転送された夏凜の迎えと同時に、フェイトが原作主人公の「頭」を文字通り奪うために現れ戦闘になったイベントである。アレには後の展開を見るに、近衛刀太という存在がどの程度「仕上がって」いるかの確認もかねての手合わせやら何やらだったという側面もあるのだろう。もともとフェイト自身が降りてきていなかったこともあり、スラム編で南雲たちに再度回収依頼を出して失敗した、そのリカバリーもかねていたのだろうが。

 

 それ故に、そういった前提条件を取っ払った際に何が起きるか。……何も起こらないのでは? いや、つまりイベントそのものが消滅してしまったのでは?(震え声)

 胃が痛い……、誰か立場を代わってくれと思わなくもないが、どこかで師匠が「自業自得だよホント」みたいな顔をしていそうな気がしたので、それは流石に言葉には出さない。いや自業自得と言われましても、私、出来る限りガバが起きないように過ごしてるはずなんですが……。(???「それも含めて自業自得だよアンタ」)

 

「ままならぬ……」

「……どうしたの? 刀太君」

「おっと! なんだ九郎丸か……、こっち来て良いのか? あっちで引っ張りだこだったじゃねーか」

「あはは、まー、そうだね。でもそれを言ったら刀太君だって」

「いや、実質『俺』の活躍って、目撃者が忍とルキしかいねーし。九郎丸の方が目立ってただろあっちじゃ」

「それでもその、夏凜先輩から少し何があったか聞いたから、僕は刀太君を労いたいなって思って……」

 

 労うと言ったってお前も似たような状況だったろうに……? ん? 違和感を感じて九郎丸の恰好を見る。学ランの下のシャツはボロボロで腰やらおへそやら鼠径部やらが見えているのだが、気のせいだろうか、前よりもなんか丸みを帯びているような……。

 私の視線に、さっ、と身体を隠す九郎丸。

 

「ど、どうしたのかな? 何か僕に変なところでも……」

「あー、なんとなく違和感が……。いや気のせいかもしれねーけど」

「それを言ったら、刀太君だってこう……、背が伸びたような?」

「カトラスとか夏凜ちゃんさんとかも言ってたなそれ…………。でも、言われてみると確かに。目の高さがお前の頭くらいには伸びた気もすっけど……」

 

 というより何故そんな楽しそうと言うか、嬉しそうな顔をしているのか九郎丸は。気持ち頬も赤いし、一体何にテンションを高くしているのか。

 ただ、それはそれで気になる点もある。私の身体が成長しないというのは、雪姫曰く私自身の不死性が働いているからということらしい。原作知識を総動員すれば、つまり彼女、エヴァンジェリンが十歳前後の身体から成長していない理由と全く同一であると言える。それを鑑みると身長が伸びているというのはむしろ何か危ないというか、危険な兆候なのではと言う疑念がでてくるのだが……?

 

 詳細をぼかしながらもそんな話をすると、九郎丸は赤らんでいた顔を青くして慌て始めた。すぐ雪姫さんに聞かないと! と走り出そうとするが、どこからか「ぬ」っと現れた夏凜が九郎丸のサイドテールを引っ張って止めた。

 

 いぎゅっ、みたいな変な声を上げる九郎丸。

 

「な、何するんですか夏凜先輩! 首から上だけ胴体から引き抜かれたかと思いましたよ!!?」

「独特な表現ですが、別に我々はその程度では死なないでしょう。それはともかく、何やら聞き捨てならない言葉が聞こえた気がしましたので。どういうことですか?」

「あー、えーっとッスね……」

 

 

 

「――――刀太の身長がちょっと伸びたって話だ。まあ、大した話ではないぞ」

 

 

 

 背後から聞こえる少女の様な声。聞き覚えのあるそれに振り返ると、いつかのように少女姿の雪姫が、ワイングラス片手に歩いてきていた。……ワイシャツ一丁は原作でも見た覚えのある格好だが、それはともかくその左手にある空のワイン瓶複数は何なのだろうか。

 私の視線に「これか?」と雪姫は愉しげに笑う。

 

「いや、ちょっと予想外のことがあったのでな。源五郎から色々聞き出すために甚兵衛と共謀して『吞み潰して』色々聞き出した。

 良い子が絶対やってはいけない尋問方法だな……」

「アルハラじゃねーか!?」「だ、駄目ですよ雪姫さん!!?」

「本人も嬉々としていたし良いんじゃないか?

 滅多に甚兵衛と酒を呑める機会などないだろうし。

 ……肝心の甚兵衛は開始早々『ダルい』と言って眠っていたが」

 

 ダメここに極まれりであった。思わず白い目を向けるが、気にした風でもなく雪姫は手を伸ばして私の胸部を撫でようと……。撫でようと……。

 

「いや、なんでわざわざ子供の姿になったんだよカアちゃんさ。手、届いてねーじゃねーか」

「う、うむ。以前なら軽ぅく伸ばせば楽々触れたんだが……」

「いや前だって結構ギリギ――――」

「う、煩い! それはともかく、だ!

 おそらくだが、一時的に『闇の魔法(マギア・エレベア)』が封印されたことによるバグみたいなものだろう」

「バグ、とおっしゃられますと?」

 

 不思議そうな夏凜に、雪姫は私と自分自身とを例に挙げながら説明する。説明するが…………、いや、やっぱりかみ砕く方が分かりにくくなりそうだ。そのまま彼女の言葉を使わせてもらおう。

 

「元々、刀太や私の吸血鬼化というのは、伝承などにあるそれよりもより『魔術的』なそれだ。ジャンルやカテゴリー上は吸血鬼と言わざるを得ない形に落ち着いてはいるが、本来は真祖、魔人やら悪魔やらに連なるそれが近い。

 つまりは膨大なエネルギーを使用して、身体の状態を一定の時感覚で安定させ固定させようとしているようなイメージが近い、だろうか……? 本当は微妙に違うが、今はその理解にしておけ。

 この魔術的な作用により、私たちは首を捥がれようと心臓を抉られようと、すぐさま元の状態に戻ろうとする力が作用して、結果今の状態に安定する。

 だが仮にこれが妨害されるとだ。おそらく『身体的に成長の余地がある』場合だと、身体の方は無理やり成長を止められていたという事実を『覚えている』。だからこそその状態から復活すると、身体が『認識している』状態、つまりは成長した状態で再生しようとする。

 つまり、本来なら時間経過と共に成長していた分の余地に対して、一気に成長が『超再生』し、ちょっと老けるということだな」

 

 本当かよという目を向ける私に肩をすくめる雪姫。適当に言っている訳ではないが、とはいえ確証があるわけでもないらしい。まあそれを言ったら雪姫本人が今の状態であることに説明がつかない気もするのだが……。

 

「私の場合、ざっと1世紀程度は封印されるような事象に遭ったことがなかったからな。身体的には『成長の余地』よりも『本当なら死んでる』ことを覚えてるのだろう」

「あー、なるほど?」

「理解が適当だな。まあ大した問題ではないから、そう気にするまい。

 ……封印で思い出した。そういえば私と初めて会った時、夏凜お前それはもう大量の――」

「ゆ、雪姫様!? その話は今はちょっと……」

 

 何を照れてるのか顔を真っ赤にして雪姫の口を塞ごうとする夏凜と「そういえばお前も酔い潰して色々聞いた方が良さそうだなぁ」などと口走るエヴァという絵面は中々に酷い。そして九郎丸が「とりあえずお肉焼いてきたから、食べよ! 僕が焼いたんだよ! 僕が!」と謎のプッシュをしてくるのが、ちょっと不思議なところではあった。

 

 

 

   ※  ※  ※

  

 

 

 お祭り騒ぎが終わった夜。エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルが作った巨大な氷の柱の上で、私は街全体を見下ろしていた。

 

「とりあえずは終わり、か…………」

 

 長かったような、短かったような。半月も居なかったとは思うけど、意外とここでの生活は濃いものがあった。気が付くと、一人称もよく「俺」から「私」になってた気がする。

 ぬるま湯……、そう、ぬるま湯だ。傷痕にしみない程度の微妙な温度で、私のことを溶かしてくるような、そんなぬるま湯。

 

「だから嫌だったんだよ。こんな所にいるのなんて」

 

 そのぬるま湯が、存外悪い感じがしなくって。だからこそ、私は悪態をついた。

 

「…………やり辛くなるじゃん。こんな世界を変えるためになんて、さ」

 

 ネギ様……、否、「ヨルダ様」は、おおよそ今の人間社会やら世界の在り方を、悲劇を生むものと考えて。それをどうにか変えようとされている方だ。

 

 あの日「金星の黒」が暴走した私は、敵も味方も構わず破壊しつくし、だからこそ敵も味方も関係なく私を殺そうとして、実際死にかけた。

 そんな時に手を差し伸べてくれたのが、あの方だった。私のことを「孫娘」のようなものだと笑いながら、でも目に浮かぶ色は悲しみに満ちていて。

 

 ささくれ立っていた心に、彼/彼女の言葉はひどく魅力的で。

 

 でも私の本心は……、私たちに、私に、私をこんな状況に追い込んだ世界への、激しい怒りだった。

 

 野乃香さんに読んでもらった本みたいに、普通の生活なんてもう望めない……、幸せになんてなれないって、悟ってしまったから。

 

 ここでの生活だってそう。それは決して、幸せじゃない。楽しく笑えるものじゃない。だっていうのに、どいつもこいつも今の状況で満ち足りてるみたいに笑いやがって……。

 そんな輪の中に放り込まれて、いつの間にか口元が緩んでいる私も私だった。

 

「だから、いつまでも居られない――――」

 

 仮契約(パクティオー)カードはいつか取り戻せば良いと。そう思って立ち上がり、この街から去ろうとすると――――。

 

 

 

「おう、わっすれっ物っ」

「!?」

 

 

 

 兄サンの声が背後からして、驚いて振り返ると。私のカードを投げてよこす、あの気持ち悪い血のコートを纏った兄サンが…………、ロット番号で言うと「7番」の兄サンが居た。

 思わずキャッチしそこねて、足場にカードが落ちる。いきなり、気配もなく現れるのは止めろと言うと、兄サンは苦笑いを浮かべた。

 

「これでもお前のアレよりはまだマシだと思うんだけどなぁ。たぶん最初に俺に斬りかかってきたときのやつって、そのカードで出て来るアーティファクトか何か使ってたんだろ?」

「それは、そーだけど…………、それ普通に受けきった兄サンの台詞じゃねぇから」

 

 そうか? 首を傾げる兄サンに、どうしてか頬が熱くなる。

 ……意味わかんねーから、私、どうして照れてるんだ。ほら、ちゃんと顔見れば良いじゃねーか。視線逸らしてるんじゃねーよ。

 

「な、何だよ、そのまま借りパクしときゃいいのに」

「そういう訳にもいかねーだろ。これ、誰との仮契約カードなのか知らねーけど、大事なモンなんじゃねーか? 口には出さなかったけど、なんか結構気にしてたみたいだし」

 

 よくポケットまさぐって、何もないのを見て寂しそうだったしとか。

 そんな、妹のことをよく見ている本物の「お兄ちゃん」みたいな振る舞い……。

 

「…………大事なモノだけどさ。でも、次に会ったら敵対してるのに。どうして返すんだよ。絶対、私、兄サンの嫌がる事これ使って実行するのに」

「そうと決まった訳でもねーだろ? まあ場合によっては謝れって怒るとは思うけど。

 でもそれだって、お互い『生きてる前提』の話だから」

「……?」

「お前もう、正直、俺を殺そうとか面倒くさいだろ?」

 

 面倒くさい……、嗚呼、確かに面倒くさい。

 きっと今の私じゃ、兄サンを嬉々として殺すことは出来ない。それくらい変な親しみを感じちゃったし、距離感が狂わされた。

 まるで初めてネギ様に遭った(ヽヽヽ)時のように。

 

「なら返しても大丈夫だろう。滅多なことは、最後の最後でお前の判断でしないって。それを信じられるくらいには、まあ、絆されてくれたって思ってるし」 

「…………そーゆー所が嫌いだっての。だから――」

 

 だから、ちょっとだけ意趣返しをしてやろうと思った。

 

アデアット(来たれ)――――」

 

 砂時計のようなアーティファクトを呼び出し、そこに魔力を走らせる――――この間だけ、私は時間と時間の狭間を行き来できる。

 そして苦笑いのまま身動きの出来ない兄サンの傍によって、ちょっと伸びたその口に……、い、いや、口が一番兄サンにダメージ大きそうだけど、その、私まだ幼いから、そういうの早いし……、月のものとかまだ来てないし(※改造されて「無い」ので来ない)、ちょっとやめよう。

 妥協としてほっぺに、適当に唇を寄せて、吸う。

 

 解除。

 

「――――はい?」

 

 ひひ、やってやった。

 やーいやーい、と。まるでこの世の終わりみたいな表情を浮かべる兄サンを嗤いながら、私は少しスキップみたいなステップを踏んで。

 

 

 

「…………野乃香(ののか)さん。兄サンの母体の人だけど。いい人だったよ。

 ま、男のシュミはアレだと思うけど」

 

 

 

 更に呆然としたような表情になった兄サンを嗤いながら、私は『時の回廊(ホーラリア・ポルティクス)』を使って足場を作り、空を走ってスラムを後にした。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「あ、フェイトくん! 遊びに来てくれたん? スマンなぁ、今日『帆乃香』たちも遊び来とるけど出かけとるし。にしてもめっちゃズブ濡れ? 水も滴るええ男とは思うけど、風邪引くからアカンよー」

「……いや、大した問題じゃない。それより」

「ん、どないしたん?」

「『実験体7号』……、いや、刀太君(ヽヽヽ)に会ってきた。話、聞くかい?」

「あらまぁ、凄い珍しいわ」

「何がだ?」

「フェイトくんが、ちゃんとあの子らのこと名前で呼ぶなんて。何か心境の変化でもあったん?」

「…………いや、別に?」

「んもぉ、はぐらかすなぁ。そういう所もええ男と思うけどっ」

「何と言うか君は、そういう所は君の祖母には似ていないね。男を見る目がない」

「えーっ、何でそんなこと言うん!? 大体お祖母ちゃんたちは――――」

 

 

 

 

 



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ST47.死を祓え!:プロローグ

感想、誤字報告、お気に入り、ここ好き他、毎度ご好評あざますナ!
今回からいよいよ・・・?
 
あ、あとアンケもご協力お願いします汗

###################

何度叫んだ声か
何度流した涙か
何度伸ばした手か
何度踏んだ足音か
何度壊れた我が体か
何度殺した我が心か

幾度振り返れど、そこに君はもう居ない


ST47.Memento Mori:Prologue

 

 

 

 

 

「――――た、刀太、おい、しっかりしろ?

 生きてるか?

 まぁ死にはしないはずだが……」

「――――――――ハッ!?」

 

 我に返ると、私は雪姫というかエヴァンジェリンに膝枕をされていた。場所はカトラスと別れた時と変わらず氷の柱の上。おそらくカトラス本人が切断して平面にしただろうその場所。聞けば、どうやら我を忘れてぼうっとしたまま倒れたらしい。

 重症である。重症であるが、そうなった理由もよくわかる私だった。

 

 若干曇った月を背後に、エヴァは私の額を撫でる。表情は揶揄う様な、それでいて心配するような微妙なものだった。……って、いい加減ワイシャツ一丁姿を止めて服を着ろ。(戒め)

 

「あの小娘に何かされたか。ショックを受けたように固まっていたぞ?

 アーティファクトで小細工でもされたかと思ったがそうでもなさそうだし……」

「…………いや、大した話じゃねーよ。きっと、たぶん、そのはず」

 

 メイビーと続けるに続けられなかった私の心境は、酷い絶望一色に染まっていたはずだ。幻覚と断じてしまいたい事実…………、カトラスの私に向ける感情が「多少なりとも柔らいだ憎しみ」から「普通の好意」にまで転じてしまったとしか思えない挙措が、私に重くのしかかっていた。

 

 多少なりとも絆されはするだろうとは思っていた。実際「なあなあ」にするためにそれは意識していたのだから。しかし原作でのカトラスの拗らせっぷりというか過去の凄惨さから考えて、その程度では私への憎しみは消えないだろうと思っていた。せいぜい次に遭遇するときに、向こうがやり辛くなってくれるくらいだろうと、最終的にはそんな感じに落ち着くだろうという想定だったのだ。

 ふたを開けたら木っ端みじんである。世界が崩壊する音が聞こえた気がする。ここまでのダメージを喰らったのは九郎丸の「(パクティオー)やらないか」発言の時以来だろうか。まぁ、あれは世界観崩壊の音を聞いた訳で、今回は明確に原作のルート崩壊の音な気がするが。妹チャンお前そんなチョロかったか意味わからねーぞ!(責任転嫁)

 

 そんな与太話をする訳にもいかず、とりあえずのカバーストーリーを話すことにした。要はカトラスを前提として、フェイトとの遭遇やら何やらで自分の出自について色々と考えているという話を。

 

「まぁ第一、あのフェイトってのが何なのかってのもよく判ってねーんだけど。

 爺さんっていうか、ネギ=スプリングフィールドと知り合いとか言ってたっけ。甚兵衛さん先輩も」

「奴は……」

「あー、いい! いい! 今聞きたくねー! なんかなし崩しで色々な情報を言われちまいそうだからそんな話したくねー!」

「オイオイ……、いや逃げ腰になるのも判るが、今のは私の口から何か語らないといけない流れじゃなかったか?」

「だってそんな一気に言われたって整理できねーし」

 

 上体を起こす私に苦笑いの雪姫だが、事は酷く単純である。この時点で私の出自に関する情報を教えられるなど、カトラスの件並みかそれ以上のガバなのだ。私が原作主人公ムーブしようにもできない前提はあるとはいえ、いくら何でもそこまでのチャート崩壊は望んではない。だからこそ彼女の、まあ、ある意味「弱点」をつくことにした。

 

「大体、そんな話があったところでさ。今更変わりねーだろ? カアちゃんも、俺も」

「――――――――っ、そ、うだな」

 

 真面目な顔をしてそんなことを言えば、エヴァは一瞬呆けたような顔をして、そして苦笑いを浮かべた。

 原作でも今世でも、彼女が近衛刀太へと愛情を注いでいることに変わりはない。それはこの段階においては親としての愛情が主であり、そのあたりがパラダイムシフトするにはまだいくらかの時間(原作巻数)がある。だからこそ、この場での確認においては「これ」で問題はないはずだ。(???「だからアタシの、アンタに突き付ける予定のガバが増え続けるんだって、いい加減察しないものかねぇ」)

 

「…………フェイトとお前たちのやりとりは、一応、聞いている」

「はい? 聞いてるって……、いや甚兵衛さん先輩こっちに居たし、どうやって?」

「ハハッ、一空がフェイトのドローンカメラをクラッキングしていてな。

 実は最初からある程度の事の成り行きはこっちで見れていたのだ。お前が暴走する姿も含めて」

 

 あー成程、としか返しようがなかった。確かにもともとスラム一帯にはフェイトが所属してるアマテル研究所だったり何だったりのドローン類は飛んでいた気配があるし、そこから直に情報をとっていたと言われてしまっては、もはや何も言えることはないというか。

 むしろ先ほどの話、私が遮ってなかったら本当の本当にヤバいところまで話されていた可能性があったということか。意外と思いつめるからなぁこの義母(カア)ちゃんは。つまりストップをかけたのはナイスリカバリー!(自画自賛)

 そんな私の内心はさておき、エヴァは覇気のない笑顔を浮かべた。

 

「…………私にも、整理する時間をくれ。いつか場を設けよう。そしたらすべて話す。

 お前が一体何であるか。何故『闇の魔法(マギア・エレベア)』を使えるのか。

 あの、お前の妹を名乗った小娘が何であるのか」

「……小娘って言うのやめてやれよ、本人はカトラスって自称してるし」

「まあ個体名を個別でいちいち知らないのでな。そこは許せ」

 

 ただ、と。膝立ちになり、唐突に私の頭を抱きしめ。

 

「――――さっきの言葉はちょっと嬉しかった。

 嬉しかったが、段々祖父に似て来てるような気がしてカアちゃん、心配だぞ?」

 

 そんなこと言われたって知らねーよとしか返しようがなく、エヴァはそれに楽しそうに大笑いした。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 また遊びに来ると約束をしてルキ達スラムの人々と別れて早々、私に降りかかってきたものが給与の差し引き明細である。

 

 仙境館に戻って早々、源五郎から差し出されたそれ。収入二百万に対して借金総額二千万という数字に対し、私が抱いたのはショックよりも安堵であった。

 実際、魔天化壮(デモンクラッド)……私は断じて自分の技とか形態の一種と認めたくないアレだが、あれによる周辺被害は大きく見積もって原作主人公がなした破壊規模とそう大差ないのは理解している。むしろそこの金額に嘘偽り誤魔化しない数字が出て来た事の方が、原作からの乖離が減ったように錯覚してちょっと嬉しいくらいだった。

 

 むろん、そんな感情を表に出す訳にもいかないのだが。

 

「とはいえ何か大型の案件でもねーと、金を稼ぐ手段は無い訳なんだが……」

「だ、大丈夫! 僕も協力するから!」

「いやお前は街壊してねーから入ってねーだろ」

「でもその、『親友』が困ってるのを見過ごせないから、僕って!」

 

 そしてスラムから帰ってきてから、ずーっと九郎丸のテンションが高い。いつかの時のように躁鬱めいたそれかと疑ってはみるものの、特にそんな感触はない。しいて言うと小さい女の子が年上のお兄さんに向けるような変な視線を感じてしまうレベルである。

 夏凜に相談してみても「一緒に任務へ出向く機会も多いでしょうし、仲良くなっていて問題ないのでは?」とか「私に頼めばそれくらいはポンと出してあげますが。まあしばらく身柄は預かりますが」などと不穏なことを言ってくる始末。

 ボロボロになってしまった和服を「縫いましょう」と言われ自室まで招かれた私は、意外と器用にチクチクやってる彼女がやはり苦手であった……、色々な意味で。

 

「まあ変に取り立てられたりしねーから別に困ってるって感じじゃねーんスけど……、仮に夏凜ちゃん先輩に頼んだら、俺、どうなるんスか?」

「そうですね……、貴方の薬指のサイズを測った後、服を買いに行きましょうか。白い――」

「待て待てっ! 何故そう発言がいちいち恐ろしいのか…………」

 

 素が出てしまった私に「冗談です」と微笑む夏凜だが、身長が伸びたせいか頭を撫でるのではなく頬を撫でて来るのがくすぐったすぎる……、というかそこまでくるともう距離感のごまかしが利かないだろアンタ!? 一体何を目指してるんですかね。(震え声) 怖くて聞けない私と、それを察してるのかいないのか「何も問題はありません」と微笑む夏凜であったが、問題しかないのはさておき。

 

 流石に数日も経ってくると原作通りなのか借金について割と広く知られるようになり、私も笑う他ないのだが。意外と子供たちからの親しまれ方が変わってきた頃である。新顔のお兄ちゃんから付き合いの良いお兄ちゃんくらいにはクラスアップ(ダウン?)したのか、そうでないのか……。

 

「刀太兄ちゃん、手品やって手品!」

「お? そうか。じゃここにある真っ赤なハンカチだがな、これを手の中に入れてこう、ちょちょいとやると……、ほら真っ白なハンカチに」

「「「すげー!」」」

 

 今だって仕事中に遊んでくれと言う親しまれ方である。怖がられたりするよりははるかに良いが、あんまり遊びすぎるとバサゴが嫌味を言ってくるので中々塩梅が難しい。

 ちなみにタネ明かしとしては、私の血を沁み込ませたハンカチを、手の中で血装術を使うことで元の状態に戻しているだけである。意外とこの手品の受けは良い(タネを知ったら顔面蒼白の可能性もあるが、カトラスの例からして)。

 

 また時には無軌道に背後からチャンバラごっこなのか新聞紙を丸めた刀もどきで斬りかかってくる男の子共にOSR(オサレ)の何たるかを教えたり(飛蹴板(スレッチ・ブレッシ)で一瞬で背後に回り込みチョップをお見舞い)。時には楽器を教えてくれと言われて、ピアノの指遣いが適当極まりなく気持ち悪い動きをするのに困惑されたり。

 

 ……なお一番キツいのが。

 

「刀太兄ちゃん、忍お姉ちゃんが本命なの?」

「「「きゃーっ!」」」

「えええっ!?」

 

 新顔の忍に何だかんだよく面倒を見ているせいか、そんな勘違いに基づいた扱いを受けていたりすることであって……。忍は忍で原作通りと言うべきか、それともスラムでの生活力もあってというべきか。こっちに来てからもなんら違和感なく馴染んでいるのは、ある種の才能といえるかもしれない。

 

 

 

 そんなある日の早朝。

 

我が身に秘められし(オステンド・ミア)力よここに(・エッセンシア)――――来たれ(アデアット)!』

「――――死天化壮(デスクラッド)

 

 毎日のように九郎丸とは練習試合というか修行めいたことをしているのだが。今日はどういう訳か、かなりの高頻度でアーマーカードを引けるようになった九郎丸(何かのガバの前兆な気もする)と、フル装備での斬り合いをしていた。血装術に関しては「代替案を一緒に考えよう」ということで現在保留となっているので使用許可が下りている形である(使わない方が危ないというのが奇しくもスラム街でのそれで証明されてしまった)。

 どうにも神刀の出力についてだいぶ馴染んできたのか慣れてきたのか、暴走することなく上手いこと使いこなしている九郎丸。端的に言うと死天化壮の移動速度に、以前よりも反応できるようになってきているというか…………。

 超高速で斬り合いながら、九郎丸が私に叫ぶ。

 

「刀太君、左手ポケットに入れて、斬るの、前から思ってたけど、バランス悪いんじゃないかな! 今までは、全然、それでも追いつけなかったから、何も言えなかったけど! もう簡単には、追い抜かせないよっ!」

「そうかよ! もっと速く動けるんだけどなぁ」

「嘘だぁ!」

 

 もっとも私も環境インフレに置き去りにされて弱体化されるような愚は犯していない。腕とかの反応速度に追いつけるようになったとはいえ、ステップに関しては私の方が上手の自信がある。 

 斬り合いながらも後退している現在に対して、飛蹴板と内血装による瞬動もどきを併用する。これにより、私の機動に関しては一つの完成を見たと思っているのだが、果たして?(自画自賛)

 

 具体的には、後退した瞬間に血の板を瞬動で蹴り飛ばし、後退、しながらも死天化装でベクトルを無理やり修正して上方向に。九郎丸が察してそれに追従したのを見た瞬間に死天化装で身体の角度を変えて血の板を蹴り飛ばし虚空瞬動よりも「しっかり」踏み込んで斬りかかったりするような……。要するに、前後上下左右に関して「踏み込める」ようになった分、今までよりも緩急がつけられるようになったのだ。

 もっとも私も調整中というか「何が出来るか」検証中の面もあるので、完成度はまだ高くない。高くないが、黒棒の重量もそう大きく変えてはいなくとも、時々九郎丸の手から神刀を落とすことが出来るようになってきていた。

 

「すごい……‼ 凄いよ刀太君、カッコイイ!」

「いや反応に困るってお前……」

「へ? いや、でもカッコイイのは本当だから……!」

 

 とりあえずその、両手を胸の前で合わせて「きゅん」としてるみたいなポーズ止めろ。最近前より明らかに体の線が女性側に寄っているから、色々と洒落にならなくなってきてるんだぞお前。気のせいじゃなければサラシだってキツくなり始めてるだろ絶対。

 

 早朝の特訓が終わり次第、それぞれ別々に風呂へ向かう。私に関しては汗も何もかもほとんど血に吸収されると、血扱いになるのか完全に制御が可能なので匂いや汗疹も発生しないのだが、こういうのは気分である。ただいくら混浴時間とはいえ九郎丸と一緒に入る気にはなれず(節度というかマナーである)、しばらく周囲を散策することにしていた。

 

 

 

「――――んあああああああああああ!? もう! 一体何回『やり直させれば』気が済むわけあの『ちゅーに』いいいいいいい!」

 

 

 

 そして何とも酷く私も覚えがあるような、まるでチャート崩壊を目前とした絶望とぶつけ所のない怒り嘆きの感情による絶叫を耳にした。声のした側、本館の裏側からこそっと顔半分だけ乗り出す様に素立ちで覗いてみれば。私に気づいてすらいないらしいキリヱは自分の世界に没頭するかのごとく、頭を抱えて地団太を踏んでいた。ワンピースタイプの服で、スカートのめくれも何のその。あらん限りの感情を足にそそいで踏みつけている。

 ちょっと子供らしくて可愛らしい絵面だが、原作だとアレが近衛刀太へと振るわれたりするわけで……、というより「ちゅーに」だと? 誰のことだ?

 

「スラムは良かったわ。アイツを向かわせることで更地(ヽヽ)も免れたみたいだし、何より生き残りが増えた。これで多少『駒』が増える。……駒って言うと外聞悪いし皆に悪いわね。何ていったら良いかしら。うーん……、役者? うん、役者にしとこっ。

 役者が増えるだけこれから取れる展開も増えて来るって言うのに、何で私があの場で介入しても毎度毎度あの『ちゅーに』は雪姫の言いなりになっちゃうのよ! 何なの、好きなの!? そーいえば夏凜ちゃんも最近ちょっとアヤシイ感じがするし、一体全体…………」

 

 地団太を踏みながらぐるぐる回り続けた結果だろう、私が真顔でじーっと見つめているのに気づいたらしい。一瞬顔を真っ青にし、直後真っ赤に赤面したキリヱは。

 

「何故見てるのよッ! えっち!」

「いや意味がわからねーんだが……」

 

 唐突に脱いだ靴を投げてきたのをキャッチすると、そのままボディブローをされそうになり…………、それを死天化装しながら受け止めつつ、高い高ーいしてから降ろした。

 

「何でいっぱしのレディーをそんな幼児扱いするのよ!? 大体そのふざけた格好、何!」

「へ? いや、その…………、洒落てる(オサレ)だろ?」

「そんなんだから『ちゅーに』なのよアンタは!」

「ちゅーに……」

 

 センスのことを言われてるのだろうか、どうやら私の呼び名は「むのー」ではなく「ちゅーに」にされているらしい。心当たりしかない呼び名ではあるが、困惑する私を前に「あっ、そうかこの段階だと初めてか『ちゅーに』呼び」と、一人納得するキリヱ。

 私の左手を両腕でひしっと抱きしめ引っ張りながら、どうにも怒った様子である。…………あー、その、つまり何か未来形のガバですかね。(遠い目)

 

「もういい加減、限界が来たわ……。ちょっとこっち来て、ちゅーに。色々アンタに教えとかないといけないことあるから……、ら……、なんで全然動かないのよっ!」

「あっ悪い」

 

 そういえば死天化壮中は、地面に立ってても全身が空間に浮いてるような固定されてるようなという状態なのだ(意味不明)。つまりは、ぼーっとしてるとずっと座標が固定されたままだということである。流石に思い出し、血装を解除してキリヱに腕を引っ張られるままついていった。

 

 何をせずともガバ修正のために奔走してくれる……、やはり女神か何かで?(錯乱)

 

 

 

 



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ST48.死を祓え!:日暮れから夜明けまで

毎度ご好評あざますナ!
今の所順調にリハビリできてるので、この調子で・・・!
 
あ、あとアンケート引き続きお願いします。(雪姫とチャン刀が今後どうなっていくか的なのに関係するアンケートです)


ST48.Memento Mori:From Dusk Till Dawn Of The DEAD

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……、よいしょっと」

 

 実家の方から持ってきたマシンのメンテナンスを終えて、私はお風呂をいただいている。

 雪姫さんや夏凜お姉さん(苗字が同じなのと優しくしてもらってるので、私が勝手に呼んでるだけなんだけど。えへへ……)は「お客様の前に出るならしっかり油汚れなどを落とすこと」と何度も言われてるので、このあたりは徹底している。

 

 ただ早朝とはいえ時間があんまりないので、私は急いで身体を洗って着替えた。

 先輩……刀太さんが「カワイイ」って言ってくれた、この旅館の制服姿。

 ちょっと和風で、でもメイドさんみたいなエプロンドレスみたいで。

 まるでアニメとかに出てきそうな、そんな感じの恰好で。

 

「まさかこんな服を着れるなんて……、生地すごい優しいし、高いよね」

 

 ここ仙境館にきてから、まだ一週間とちょっと。

 スラム生活よりは色々と安定してるんだけど、まだまだ知らないこと、やることも多い。

 

 でも頑張れる。お金はしっかり支払ってもらえるし、なによりお勉強。

 夏凜お姉さんとか一空さんとかが「大きな夢のためにはそれに応じて学ばねばいけません」みたいなことを言って、色々と本をくれたり、教えてくれたりする。

 

 夢は大きく! いつか太陽系オリンピックでレースをしたい!

 けれど……、それが出来なくっても、何かこう、宇宙に関わるお仕事がしたい。

 

 そしていつか、刀太さんのやってるお店に顔を出して…………。

 

「顔を出して……、えっと…………」

 

 なんでか逆プロポーズみたいなことをしてるイメージが浮かんだ。

 なんで!? ちょっと顔が熱い。手で仰いで左右にふって、気持ち、切り替えなきゃ。

 

 お仕事お仕事…………。

 

 廊下を歩きながらちょっと気合を入れてると、道の先に刀太さんと、知らない女の子。

 

「あっ刀太先輩! と、えっと……」

「はいちょっと邪魔ァ!」

「わわ、ぴゃ~~~~!?」 

 

 女の子、すっごい駆け足で、こう、どーん! って押されて目が回ってしまいました。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 

「あっ刀太先輩! と、えっと……」

「はいちょっと邪魔ァ!」

「わわ、ぴゃ~~~~!?」「忍ゥ!」

 

 私の腕を引くキリヱの動きは迅速だった。道中、朝風呂帰りと思われるちょっと火照った忍と遭遇したものの、それすら蹴散らしながら駆けていく。目を回した彼女を介抱する余裕もないこれは完全に強制連行の類であった。

 本気で反抗しようと思えばできそうだが、それはそれで彼女の方が涙目になりそうな気もして微妙にやり辛い……。時には弱さも武器と言う事か。(謎悟り)

 なお途中で「特別客室棟」の階段でぜいぜいと肩で息をして緊急停止するあたりはアレである。やはり弱さは弱さか。(謎)

 

「う、うっさいわねこの中二(ちゅーに)!」

「何も言ってねーけど」

「目が全力で訴えてるわよ! 馬鹿にしてぇ!」

 

 コノヤロー! とぽかぽか殴ってくる様は完全に前世今世含めて、十歳前後の子供を相手にしてる感覚である。その「まぁまぁ」という態度が余裕ぶっているようで気に入らないらしく、ヒートアップするキリヱであったが、ある程度のところで再び倒れてぜいぜいと肩で息をする。体力無さすぎか、そっか…………。(生温かい目)

 

「あー、こ、こんな、こんなコント、してる、場合じゃ、ないんだった……、こんなところで倒れてたら雪姫に見つかっちゃうじゃない!? ほら行くわよ――――きゅぅ」

「無理すんなって」

 

 どこに行くかすら言わずそのまま倒れてしまうあたり完全にエネルギー切れである。流石にこの程度で過労死はしないだろうが、お前さん師匠の所行く前にもうちょっと体力つけるべきなのでは?(困惑)

 しかし目的地についてはおおよそあたりが付くので、うなって気絶してるのかしてないのかわからない彼女にため息をつき、私は背負って「最上階」に向かった。

 

「確か最上階にスポンサーみたいなのがいるって言ってたし……、ちびっ子すぎてそんな印象全然ねーけど、態度のデカさ的にまぁコイツだろ、うん」

「…………ちびっ子、言うな、うぅ…………」

「あーだから無理すんなって。別に取って食いやしないし、逃げも隠れもしねーぜ?」

 

 運びながらだが、しかし彼女がここまで激怒して慌てること、および先ほどの発言を一通り振り返ってみて、おおよそロクな事態でないことだけは推察できてしまうので、あまり強くは言えない。

 改めてだが、桜雨キリヱ。UQホルダー不死身衆ナンバー9。ネタバレしてしまえばその能力は「時間干渉系」のものであり、言い換えるなら「死に戻り」である。幼少期のネグレクトの際に発現し、以降その餓死から抜け出すために何百と繰り返した結果、幾分かその精神性が老成。家を出た後は自らの能力をゲームに準えて「リセットOKな人生(リセット&リスタート)」と呼称するようになる。

 その後「何度も人生やり直したところで年取っていったら意味ないじゃないの!」という事実に気づき自ら不老となる手段を入手、以降は不老かつ(結果的に死因を割り出せるので)死なないという「予知能力者」のような触れ込みで世の中を渡り歩き現在に至る。

 ……雪姫、というかUQホルダーに拾われるまでの話について全然知らないというか、描かれてなかった事実に今更気が付いた。一空と仲が良かったからそのあたりも関係あるのではという気もしないではないが、それはさておき。

 

「おぉ……、これはこれは。源五郎パイセン喜びそうな部屋だな」

 

 一応ノックしてから戸を引くと鍵がかかっておらず、スリッパが脱ぎ散らかされていた(どれだけ慌ててたのか)。

 内装としては、まあこう、広々としている。雪姫の執務室をそのまま客室に使っている感じではあるが、書棚やら「思い出の品」やらを置いておくスペースとかが無く、また最上階なことも手伝って開放感が凄い。

 空中にホログラフィックのディスプレイが複数浮かんだ部屋は、最上階と言うこともあって広い。前にお邪魔したパイセンの部屋は個人部屋だったが所狭しとゲームやら学校の教科書やら、あとは哲学書やらラテン語の楽譜やらと、もれなく私もかかっている「中学二年生くらいの子供がかかる『それっぽさ』をひたすら求める精神疾患(語弊)」の類で溢れかえっていた。アレから比べればARだったりVR系のゲームも出来るくらいの部屋の広さなので、伊達に特別客室(スイートルーム)ではないということか。

 

 そして部屋の中心には、妙に長いロウソクと砂の乗った皿で作られた「セーブポイント」。書かれてる文字は…………。

 

「…………OSR(オサレ)? いや、MとOとSか」

 

 流石にその見間違いは致命的というか「またガバか!?」と鳥肌が立ったが、今回はちょっと安心した。しかし、確かその文字はMが(マインド)、Sが精神(スピリット)だったはずだが、Oは何だろう。この「セーブポイント」の作成により彼女はループできる時間および対象を選択できるのだが、原作的にはFの仲間(フレンド)、Bの掌握(バインド)と確かにバリエーションはあったはずだが……。

 

 しかしそれは置いておいて、部屋の全景を改めて見回すと色々クるものがある。モノトーンにしたら「乱舞○メロディ(オサレの極み)」の映像とかも撮れちゃいそうなイメージが勝手に湧いてくる。オラ、ワクワクすっぞ!(童心)

 

「いやー、やっぱりこう見晴らしが良いと、インドア人間でもたまには海で泳ぎたくなるなぁ。ビーチとかめっちゃ見えてるし、朝日が綺麗だ。

 誰か誘って…………、いや誰を誘ってもガバの温床か」

 

 特に夏凜であるが最近は九郎丸も怪しいし、ついでに忍は原作通りなのかどうもかなり懐いてきている。水着を買いに行くところからイベントが発生してその後ひととおり原作ラブコメ編も真っ青な修羅場(ヘル・オン・ジ・アース)的なことには流石になるまいが(慢心)さて…………。

 

「…………むぅ」

「お? 起きたか。えーっと……」

「ソファーの方」

「お、おう……って耳、引っ張んなって」

 

 ぐいぐいと引っ張られた私は彼女に誘導されるまま。ソファーにキリヱを下ろしてさて床に腰でも落ち着けるかと思いきや、そのまま彼女に腕を引かれバランスを崩した。つまりはソファー、密着するような体勢で隣り合ってる形である。

 

「何だよお前さん……、って、流石にこの距離だと汗臭いぞ? ある程度は減ってるだろうけど。止めとけ止めとけっ」

「別に良いわよ、アンタのなら慣れてるし……」

「全然事情分からねーけど、その発言だけ切り出すとストーカーとかなんじゃねーか……?」

「誰がストーカーよ!?」

 

 きっ! と怒りの視線を私に向けてくるが、もとが幼児スタイルで雪姫程辛酸をなめてるわけでもないので、表情に険しさがない。つまりあくまで子供が可愛らしく怒っているようにしか見えず、表情が緩んでしまうのは仕方ないと自己弁護したい。

 しばらくそうやってプリプリとキレ散らかしていたが、疲れたのか飽きたのかため息をついて、私の左手を顔にもっていく…………。

 

「いや一体何だって」

「ごめん。ちょっと、ちゃんと話すけど、少しこのまま…………」

 

 当然だが私の認識では、キリヱと話すのはこれで二度目である。一回目はスラム編の導入時に「絶対受けなさいよ! 絶対だからね!」とフリじみた念押しをされたもの。もう一回はつまり今回であり、要は面識らしい面識はほぼなし。

 つまりガバもフラグも何もかも立ちようがないと思うのだが…………。

 

 時間にして数十秒ほど、私の手に顔を当てて目を閉じ、何かを祈るようにしていたキリヱ。少しだけ寂し気だった表情に気合を入れ、私の手を放して顔をはたいた。

 …………気持ちを入れ替えるためだったのだろうが、お前さんの体力でそれやるとあーあー、ほら、ほっぺが真っ赤に……。

 

「痛い…………」

「涙目になるくらいならやんなって」

「う、うっさいわね! こーゆーのは『それっぽい』のが大事なんでしょ! って、そーゆー話じゃないの!」

 

 眼鏡を外して立ち上がると、キリヱは私に指をさしてきた。こう、腰に手を当てて「ズビシッ!」とか漫符とか擬音とかが付きそうなくらい堂々とした立ち姿である。フィギュアとかになったら売れるかな。(現実逃避)

 

「アンタちょっとぶん殴らせなさい! 『二百一発』くらい!」

 

 この発言、および原作での彼女の言動から推察して、私は目の前が真っ暗になる思いだった。キリヱがこうして怒りの余り暴力を振るう場合、つまりはその「回数」分彼女がやり直していることを意味している。

 ということはつまり、このキリエは現在「201周目」か「202周目」であるということだ。そして私にその怒りを向けてると言うことは…………。

 

 ぽかり、と非常にかよわいパンチが私の頬にめり込むが、反抗する気が失せてしまった。ガバの責任は相手が明確にこちらを対象としてしまっているなら甘んじて受けないとね(悟り)。心は渚のようである。

 まあそれで突発するガバに対処出来る訳ではないのだが……、をのれ橘! 貴様がさっさと雪姫襲わないから!(責任転嫁)

 

 よけることもせず止めることもせず堂々と一発喰らったことが不思議だったのか、キリヱは訝し気な目で私を見て来る。

 

「な、何よ、えらく素直じゃない」

「あー…………、いきなり色々言われて思考が一気にトんだ感じ。最近色々あったから……」

「ちゅーにの事情なんて全然知ったこっちゃないわよ! ……って、訳にもいかないわね。

 そうね、思えばこうやって事情話そうって『チャート』組んでるの初めてだし、アンタの話も聞いてないんだった、私」

「…………で、まずお前さん誰だって話なんだけど」

「へ? えーっと、前に会った時に名乗らなかったっけ」

「どうでも良いだろそんなこと的なの言われたような……」

「……そんなこと言った覚えもあったわね。まぁ良いわ。じゃあ改めて――」

 

 くるっとその場で一回転して、腕を組み偉そうな(ちびっ子が胸張ってるような)ポーズを決める。何故か知らないがこう、いちいちフィギュア向けみたいなポーズを決めて来るのは一体何なのだろうか。

 

「――UQホルダー不死身衆ナンバー9・桜雨キリヱ! 予知能力者よ!」

 

 嗚呼それで通すのかと、表面上はあっけにとられたような私に「ふふん!」と目を閉じ鼻を鳴らすキリエだが、勢い余って背伸びした感じのパンツ丸見えである。ちょっとツメが甘い。視線を逸らしながら手前側の「捲れあがった」ワンピースの裾を下ろしてやると、最初は理解できなかったのか「きょとん」とした顔で、しかし次第に真っ赤になってこちらに殴りかかってきた。

 

「このーっ、情緒までちゅーになのアンタ!? 意味わかんないんだけど! 繊細な配慮(デリカシー)って言葉辞書で引いてくればいいんじゃないの!!?」

安産型(デカシリー)なら該当者一人くらい知ってんだが、いやでも直接言ったってお前殴ってくるだろ」

「そりゃ……、うん」

「早いか遅いかの違いだけじゃねーか。全然問題ねーだろ」

「大ありよ! 大あり! 乙女心的に!」

 

 怒りのままぽかぽか例によってかよわいパンチを仕掛けてくるキリエ。原作だと確か踏ませろと言っていたが、このパワーを見るにどちらも威力はさほどないと見える。とはいえそれでもキックよりパンチに切り替えたのは回数が多くて疲れるからだろうか……。とはいえさほど「痛くない」ので、私も対応が雑と言うか、適当で良いのが救いと言うか癒しである。

 

 そう、癒しである。

 

 なにせこのキリヱ、今の所最初のアレを除けばそんなに原作からぶっこわれた(語弊)行動をしていないのだ……! 九郎丸みたいに女性化が早まってる訳でも、夏凜みたいに……、いやアレは完全にもはや雪姫すら困惑するレベルで何があった事案だし、カトラスのように感情ベクトルがおかしなことにもなってないのだ。普通にキレてるこの有様がどんなにありがたいことか!

 …………キレ散らかしてるタイミングが嫌に早い気がする点は除く。というかそれを言い出すとひと月からふた月くらいは原作とタイミングに差があるので、むしろ私の周回が遅いくらいと考えると遅すぎるレベルと言えるのかもしれないが。

 

 そういう意味では一番不都合少ないのは忍な気も……、いやアイツもアイツで来るタイミング早すぎるし、何だ? この世は地獄か?(???「自分のガバの責任くらい自分でとりな!」)

 

「って! だからこーして遊んでる場合じゃないってのー!」

 

 うわーん、と言いながら頭を抱えて床でごろごろもだえるキリヱ。怒りの余りかもはや裾がめくれてお腹が見えてるとかそんなことに気が回らないレベルらしい。流石に直視し続けるのも悪いので、視線を逸らしながら何も言わない。時に沈黙は金より価値があるのだ。こういう時に役立つそれっぽい言い回し(オサレトリック)の持ち合わせが生憎ないとも言う。

 

「でー何? その予知能力者さんが何だって? これから仕事だから手早く終わらせてくれっと助かるんだけど…………」

「…………予知能力っていっても色々あんのよ。私のは『直に未来を体験』するタイプの予知。未来において私が体感したようなそれを、現在の私に反映させる感じのやつ。

 それで色々行動して未来を変えられるタイプってこと」

「はぁ……」

「なんかやる気ない返事ねぇ……、ホントわかってるの?」

 

 そう言われても困るというか、流石に真実そのまま「時間を巻き戻してやり直している」という話までは踏み込まないキリヱ。このあたりは警戒されているというよりは、今までのループにおいて私の口の重さに信用がないということか。……まぁ個人が嫌がる話なら確かにそう簡単に口に出したりはしないが、キリヱの能力に関してはそれこそ有用そのものなので、場合によっては懇切丁寧に説明してる可能性もある。そういう理由から嫌がられても不思議はないが、それでいて私にこうして接触してくると言うことは……。

 

「ねぇ、わかってるんなら説明してみせなさいよ!」

「あー、アレだろ? 映画とかである感じの、未来で体験した不幸を過去に飛ばして、過去の自分がそれを追体験して、で未来を変えられたりするような感じの」

「…………まぁ、そんな感じよ(前も思ったけどやけに察し良いわねコイツ)」

 

 悪いが、察しが良いのではなく事実を知ってるだけなのだ。誇れる話でもなく流しておくところである。というかいい加減起き上がってスカートの裾を直せ。(戒め)

 私の思いが届いたわけでもあるまいが、彼女はすくっと立ち上がって腕を組み、私を睨むように視る。今度は「真剣な話今からするからね! 聞いてなさいよ!」とでも言わんばかりの気の入れようであるから、私も何も言わずに聞くことにした。

  

「でその予知だけど、まーつまり、ゾンビよ、ゾンビ。キョンシーとかブードゥーとかの正規の奴じゃなくって、ウィルスに感染して世界汚染するタイプの」

「死体が歩いて人に噛みついて歩くタイプの?」

「そうそれ。それが起こるの。明後日くらい、一気に」

「…………」 

 

 もしかしなくてもそれってアレだ、原作でいう三太編――――水無瀬小夜子によるゾンビウィルスパニックがバックグラウンドで進行してるってガバですね分かります。(判らない)(解りたくない)

 

(???「ガバはきっと来るものだよ、精々腹をくくっときな」)

 

 

 

 

 



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ST49.死を祓え!:傾けられない天秤

毎度ご好評あざますナ! アンケートもお答え頂いてるようで、色々精進いたします…!
 
ズキュゥゥウン!


ST49.Memento Mori:SANTA or FATE

 

 

 

 

 

 

 三太編、つまりは原作におけるキリヱ編の次にあたるが、そこで出て来る水無瀬小夜子(みなせ さよこ)について。彼女が何であるかと言えば、ネタバレしてしまえばプレ・ラスボス戦的なものである。

 というのも彼女の正体に関係する。彼女本人は「ネギま!」全盛期の時代、二千年代初頭にいた少女であり、当時から今に至るまででもトップクラスの死霊術(ネクロマンシー)の才覚を持った魔法使いである。ただ元来の真面目だったり優しかったりした性格が災いし、いじめを受けども仕返しせず(当時の魔法世界的な規約で秘密だったのもあるが)、心に傷を負って自殺。その後、その能力と性格を他の雑多な霊たちの無念につけこまれ、無理やり現世にとどまる形で復活。いうなれば実体のある怨霊であり、自らが複数の亡霊の受け皿となった存在となってしまっていた。それがある意味で本作「ラスボス」に近い原理の存在でもあり、故に彼女もまたラスボス同様にほぼ無制限の魔力やら何やらを持っている。

 

 そんな彼女は原作において「とある理由」からUQホルダーを呼び寄せようと事件を起こすのだが……、その最終終着点として「世界規模のバイオテロ」、つまりはゾンビウィルステロに発展する。ゾンビといっても、いわゆる魔法世界の技術を併用したもので、確か正式には屍食鬼(グール)化ウィルスだったか。感染した人間の脳髄を汚染し破壊、生きている対象を噛みちぎり仲間を増やすという単体行動「だけ」に特化した存在へと変貌させる。

 もっともこれは「不死者」には無効、というよりおそらくウィルスによる破壊すらすぐ再生する的な理屈があるのだろう、とにかく我々には効かない。しかしそれすら想定し、魂魄から洗脳するようなものまで用意している周到さだったはずだ。

 

「ままならぬ……」

 

 そんなバイオテロが実行された……、未来でされると告知され、思わず膝をついて愕然とした。そりゃこうもなろう、いくら何でも今回は私のガバの範疇を大いに超えていると言いたい。今までだって多かれ少なかれバタフライエフェクト的なことは経験してきたが、今回に限っては規模が違う。

 しかも期間ほぼなし、明後日に発生すると来ているのだ。軽く絶望したって罰は当たるまい。

 

「…………それって、どうなるんだ? いや、どれくらい細かくわかるかとか全然知らねーけど、分かる範囲で教えてくれ」

「国がいくつか無くなったわ。アマテル魔法魔術研究所って所がワクチンを作ったけど供給が全然まわらなくって。最終的に『白き翼』って組織とウチとで協力してどうにかしたけど、それだって被害甚大で国がいっぱいなくなったわ。メンバーも、そして一般人も」

「マジか……って、まるで見て来たみたいに言うなキリヱ大明神」

「見てきたって、そ、そんなことは全然ないわ……って、何よ大明神って! こら拝むな! 運気が散るわ!」

 

 ぽかぽか殴りかかってくるキリヱを適当にあしらいながら、今の情報をいくつか整理してその時のバックグラウンドを予測する。

 ……まさかの私とカトラスの出身地というか、まぁそんな場所が動いたらしかったが。ただあそこって記憶違いじゃなければ、フェイトすら気づかず若干ラスボス側からの手が回っていたはずなので、状況次第ではアテに出来ないはずだ。おそらくはバイオテロに乗じて、ラスボスの予定していた計画とかも前倒しで一部実行されたとみるべきだろう。

 つまるところ最悪のシナリオに違いない。チャート崩壊所の騒ぎではなかった。

 

「私が意識を取り戻し……じゃなくって! えっと、えー、アレよ、アレ! 私が視たビジョンの時点じゃ、アンタが助けてくれるまで私も操られてたっぽかったし」

「他のメンバーってどうなってるんだ? 流石に雪姫は生き残ってそうだけど……」

「私以外だと五人、ね。雪姫と、源五郎と、一空と、アンタと、あと『十蔵』。『ニキティス』はなんか『セプ子』抑え込むので限界だとか言って地上に出てこなかったし」

「甚兵衛さん先輩いねーのか……」

「ココもかなりひどいことになって、逃がすのに殿してたから、たぶん…………」

 

 情報量が多いのと、仕方ないとはいえ未登場の人物の名前がポンと出て来るな……。いや、しかし十蔵か。確かに彼ならウィルスくらい「概念ごと」斬って生き延びて居そうだが、それはともかく。

 

「……? 九郎丸はともかく、夏凜ちゃんさんとかは生き残ってそうだと思うんだけど」

「いなかったわ」

「いない…………?」

 

「二人とも、スラムに行った後に行方不明になっちゃったのよ。おまけにスラムは場所一帯が更地になるし、生存者だってゼロ」

 

「…………はい?」

 

 流石にその情報は、予想外すぎて反応できなかった。

 思考がフリーズした私に、キリヱは続ける。

 

「白い翼と合流しても、かなりジリ貧だったし。なんかバーサーカーみたいなメイドさんみたいな、長い刀持ってた女の人とか、一空と似たような感じだったからあっちは中々洗脳とかもされずに善戦してたみたいだけど、半年後くらいには存在がめっきり確認できなくなったし」

「…………」

 

 とりあえず九郎丸の所在は今の私からすれば推察がついてしまったのだが。どういう経緯を辿ったかは分からないが、最終的に神刀状態で封印か何かされ、「ネギま!」時代の妖刀ひなのように月詠が使っていたらしい。いや、まあそれもそれで何の救いにもならないし、フェイトへのヘイトが溜まる(激うまギャグ)だけなので考えるのは一旦は置いておくとして。

 

「おまけに雪姫とかアンタとかみたいな吸血鬼もどきみたいな奴? 女で肌、浅黒かった感じのやつが殺しにかかってきたりして。それはアンタがなんとかやっつけたみたいだけど」

「その時の『私』は、眼帯とかしていたか?」

「(私……?)、あーうん、してた。っていうか、そいつにやられて眼帯するようになったわ」

 

 それ九分九厘カトラスだろう。眼帯をしていたという私の情報からして、中途半端に原作への修正力的なサムシングが働いたのだろうか……。いや、まあ眼帯は前世というか「私」からしてみても縁がない訳でもないのだが、そういったそれっぽい(オサレ)的な理由で装着していた訳ではないはずだ。

 というかやはりというべきか、スラムで絆すようなことをしていなかったのがモロに影響した形らしい。

 

 そしてそこまでの流れで「師匠が介入してきていない」とすると、その先はおそらく…………。

 

「結局その後、色々あって……、ごめん。これ以上は『知ってる』んだけど『言いたくない』」

「言いたくないって……、あー、何か辛いことでもあったのか?」

「うん。ちょっと……、いやちょっとじゃないわね。相当よ相当」

 

 だからそれを変えるために色々やってるの、とキリヱは胸を張って笑った。 

 

 …………その笑顔には色々と申し訳ないのだが、今までの会話の流れから、割と気づいてはいけない事実に気づいてしまった気がする。

 

 

 

 ひょっとするとこのキリヱ、その「世界崩壊のシナリオ」の後に「幼少期のネグレクト時代」まで時間を巻き戻してから、ここに来ているのではないだろうか。

 

 

 

 でなければ、彼女の能力仕様的に説明がつかないのだ。「リセット可能な人生(リセット&リスタート)」の能力は、砂に可燃物の棒やロウソクを立てて火をつけ、手を合わせてからスタートするのだが。リスタートできるのは、セーブポイントの火が消えるまでの期間に限定される。これに違反した場合、一番最初のセーブポイント、つまりは「ふり出し」の時点まで巻き戻されると原作では予想されていた。

 流石にそれは実行されてこそしなかったが、もしそうなったのなら彼女は二倍近い時間を、一から積み上げてまたここに「帰ってきた」ことになる。

 本人の意思はわからないが、少なくとも世界を救うために。

 

「……何、って、えええええ!? な、な、何で泣いてるのアンタ! 情緒不安定!?」

「はい? ……あ、マジだ。いや、大したことはねーけど……」

 

 言われて頬をなぜると、右目だけから涙が流れていた。それを右手で適当に拭い、改めてキリヱを見る。「な、何よ」と困惑しながら、あと何故か顔を赤くしながら一歩引いた彼女に、とりあえず私は手を合わせた。

 

「だから拝むんじゃないわよ! やめなさいって、変な宗教の教祖にでもなった気分になって、変な気分だからー!」

「いや、でも、何かホント、すまぬ…………」

「謝るくらいならやるんじゃないわよ!」

 

 しかしまあ、私からすると謝り倒す他ない訳で。別段、彼女と積極的にフラグを立てるつもりが有るわけではないが、原作に近い流れを踏襲したとして、その先。正直な話、キリヱから迫られたら断れる立場にない。……だってたぶんその世界崩壊の切っ掛け、もしかしなくても橘のチキンハート(罵倒)、あと私のガバが遠因であり直因になってるに違いないのだ。

 そのせいで余りにも多くのものを失い、また彼女にも「失わせてしまった」だろうことは想像するに難くない。

 

 私の頭を下げる体勢を解こうと頑張って肩を起こそうとしてるキリヱの手をとり、私は彼女を引き寄せた。鼻が触れ合うか触れ合わないか、目と目が合う距離である。

 

「な、なななななんななななな、だから何なのアンタ!? 近いわよ!」

「――――実体験じゃないんだとしても、大変だったな。キリヱ」

「えっ?」

 

 胃が痛い……、痛くて痛くて仕方ない。ガバのカルマを突き付けられたような有様を前に、私としては誠心誠意、彼女を助ける他ない。少なくとも今回に関しては、痛い痛くないだのと言っている余裕すらない。それくらいには私の責任が大きく、またそうでもしないと彼女に対して謝罪にすらならない。

 例えこちらの事情で直接伝えられないのだとしても、それでも心だけは、伝えないといけない。

 

「任せろ、とは言えねぇけどさ。でも、そんなことにならないようにするっていうなら、全力で力貸すから。だから、あんまり無茶すんなよ」

「…………なんで、そんなこと、言うのよアンタは…………いつも(ヽヽヽ)……」

 

 目を見開いたキリヱの目からは、ぽつぽつと涙があふれて零れる。そのまましゃくりあげ、耐えられなくなったのか私の胸に顔を押し当てるキリヱ。夏凜に直してもらって縫製が新しくなったその場所で。

 キリヱは、悲しみに耐えられなくなった子供のようにわんわんと泣いた。

 

 ……悪いのだが、いつもそれを言ってるのだとしたら、たとえ前後の状況がどうであれその私もきっと内心はこんな感じだったのだろうと推察がついてしまう。

 全く誇れない全力謝罪というか、五体投地の境地であった。

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「悪かったわね。変なところ見せて…………」

「いやー、まぁ『見た目相応』って意味じゃ問題ないんじゃね?」

「見た目相応ってどういうことよ!? 私がちんちくりんだって言いたいわけ!!? 悪かったわね幼児体型で! やっぱりおっぱいが良いの? おっぱいが良いの!?」

「いや最初はともかく最後のキレ方意味わからねーぞ…………」

 

 部屋から出ながら雑談を交えつつ、私とキリヱは作戦会議をしていた。彼女いわく「三日後」「アマノミハシラ学園都市に」私が行った後のタイミングで発生しているらしい。雪姫から「ついて来い」と言われて、それに特に逆らわずついていく私、であるらしい。

 つまりイベントとしてはキリヱ編 (フェイト遭遇編)そのものがスキップされるような形でイベントが進んでいるということだろうか。今の所それに類する仕事の話は誰からも聞いていないのだが、さてどうなるものか…………。

 

 ちなみにキリヱがこれに何度か介入しようとしても、毎度毎度、私から断られたり無視されたりしているとか何とか。一体どういう理由なのか、ちょっと想像がつかないのだが。

 

「――――おや? 珍しい組み合わせですね。刀太、キリヱ。おはようございます」

「おはよー、夏凜ちゃん」

「……あー、はい、おはようッス、夏凜ちゃん先輩」

 

 階段を降りて一階の廊下に出ると、例によって和風給仕服の夏凜と遭遇した。……それを見て道中、忍を置き去りにしてしまったことを思い出し更に胃が、というか鳩尾が痛い。キリヱの状況の緊急性は確かに高かったのだが、だからといってせめて忍を抱き起こすくらいはしてやるべきだったと反省必至である。

 と、そんな私の反応に「む?」と夏凜。足を進めようとすると肩を引かれ、いつの間にか両頬をロックされ、じぃ、と覗き込まれた。

 

「かか、夏凜ちゃん何やってるの……!?」

「しいて言えば触診でしょうか。ふむ……」

「触診って? 何か悪い所でもあるの?」

「あー、えっと、そろそろ俺ほら、仕事に行かないと――――」

 

 

 

 そして言葉を続ける前に、あっさりと唇を奪われた。

 

 

 

 ずきゅーん!? という擬音が出たかどうかは不明だ。流石に舌は入れてこなかったものの、いや、目を閉じたりといったドラマチックな要素も何もなく、クールなお顔のまま目も閉じず、さも日常動作のようなモーションで毒牙一発である。(意味不明)

 隣でキリヱが変なポーズをとって震えている。眼鏡もずり落ちそうな感じで口を開いて、漫符で言うと目が真ん丸になってるイメージだ。

 

 す、と唇を離して私の顔を見ると、うんうんと頷いてから夏凜は抱きしめてきた。

 

 ……………。

 

「な、ななな、ななななななななななななななななななななな何やっちゃってるの夏凜ちゃん!? どーしたの、貴女、雪姫大好きなんでしょ! なのにそれ何!? 痴女なの? 痴女に宗旨替えしたの!!? 誰でも良いって訳じゃない、のだとしても、えっと、一応雪姫の息子ってことになってるけど血とか繋がってないんでしょ!!!?

 というかアンタも離れなさいよっ……!」

「…………」

「いえ、この程度は人工呼吸のようなものですので。『刀太相手でしたら』」

「距離感がわかんないわよォッ!?」

 

 涙目になっているキリヱに不思議そうにしてる夏凜だが、それ明らかにお前さんが一番謎行動すぎるのだが? あきらかに私も脈拍が上がって胸部の傷から絶対に出血してるぞこれどうしてくれる。(動揺)

 ただあまりに呆然としていて私も言葉が続かない。そんな私の背中を「幼子でもあやすように」軽く撫でるように叩きながら。夏凜は私の耳元にささやく。……くすぐったいか、あの、ちょっと流石に止めてくれないかなホラ、今、私、そんなことされると堕ちちゃうから。(限界)

 

「見たところ、『素の貴方』が悲鳴を上げているようだったから。『一人ぼっちで世界に投げ出されて』『それでも立ち向かわないといけない』みたいな顔してたもの。……大丈夫、一人ではないから。

 ……多少、元気になったかしら?」

「…………そもそも何故わかる」

「さぁて、何でかしらね……。同病、相哀れむという話もありますが。それも含めてもっと、自然に笑ってもらいたいのは、変わりないので」

 

 はぐらかすようなセリフだ。後いい加減もう彼女の私に対する好感度についていい加減もう断定してしまって良いレベルなのではないだろうかいい加減。(動揺) 流石にこれで弟扱いとかそういうのは無理がある気がするのだが……。だが不思議なことに、夏凜がそんな対応をすることに「違和感のない」認識が私の中に存在する。原作知識ではない、明らかに「この夏凜」相手に、である。これは一体…………。いや、だがだからと言って何かこう「事に及ぶ」のはそれはそれでガバの巣窟待ったなしだろうし、私は一体どうしたら良いんですかね師匠。(???「そういうのはアタシと遭遇するまでに、ここまでガバらせないのが大前提の相談事だよアンタ」)

 

 私を離すと、例によって形状記憶合金のごとく表情がクールに戻る夏凜である。そのままキリヱを見て「貴女、いつまでも呆けてるのかしら」とか言っていた。むろんキリヱは「夏凜ちゃんのせいでしょうがッ!!!」とキレ気味である。

 そしてそんな謎修羅場(リンボ・オン・ジアース)な状況に、上の階から雪姫が降りてきた。

 

「あー、おはようカアちゃん」

「おっ、丁度よい所にいるじゃないか刀太。おはよう。…………ん? 何だこれ、ラブコメの墓場か何かか?」

「俺が知りてーッスわ…………」

「ふむふむ、そういう所は祖父に似てるようで似てない…………? ん? いや、まぁそれはともかく。少し顔を貸せ」

 

 これか、とキリヱとのやりとりを思い出し、足を止める。普段なら立場上の上下関係もあるしそのまま付いていくだろうが、今回は明確に問題があると聞いているので、まずはキリヱと情報共有だ。

 一体どういう理由なのかとこの場で聞くと、雪姫は「隠す話でもないから別にいいんだが……」と少々面倒くさそうな顔をした。

  

 

 

「フェイトから食事会の招待だ。……お前と私と、あと甚兵衛と。アマノミハシラ学園都市で。

 旧七人の侍(サムライセブン)、今の不死身衆(ナンバーズ)の前身にあたる連中で集まり、お前に事情を話したりする会を開くと」

 

 嗚呼なるほど、と。確かにそれなら、キリヱから緊急度を知らされなければ行ってしまうだろうと納得した。

 

 

 



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ST50.死を祓え!:選択肢の優先順位

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まさかの再登場


ST50.Memento Mori:Mind Triage

 

 

 

 

 

 原作「UQ HOLDER!」において、フェイトは何度か原作主人公と話し合いの機会を設けようとしたことがあった。むろんジャンルがバトル漫画のせいもあり何度も何度も戦うし、その目的が目的であるため平和なお茶会という流れになったことはついぞなかったのだが。

 まあ大体において、その場では「かつてのネギ君」の雄姿であったり「いかにネギ君が素晴らしいか」とか、きっとそんな話で大半が埋め尽くされるだろうことになるとは読者的に思うのだが。

 

 しかしわざわざ「事情を話す」というお題目をつけてまで、食事会への招待が来たと言うのは、確かに衝撃的と言えば衝撃的であった。

 

「期日は明後日……、会場を設置するヤツの予定がとれなくてな」

「えっマジで? アポとれって言ったのをマジでやってきたのか?」

「そういうことだな。ご丁寧に、例の和尚の携帯端末から通信をかけてきて、こちらの郵便受けまで招待状を寄越したくらいだ」

 

 ため息をつきながら、雪姫はシャツに手をやり胸の谷間から白い封筒を……、いや前から思ってたけどそれ「年齢詐称魔法」って基本的には幻術の類のはずだから、そこに谷間なんて本当はないだろうに、一体どうやっているのか……。

 封を開けてみれば、あー、あー、ご丁寧に「近衛刃太 様」とか手書きで書かれてるけど、どうしてそこで誤字った。ジンタだと浦原商店(オサレ御用達)になってしまうじゃないか。流石にそのレベルの誤字はもうちょっと頑張ってくれと言いたいが、ひょっとしなくても私というか「実験体」たちそのものに対する興味の低さがそのまま出てしまっているのかもしれないと、そんなことを思った。

 

「サムライ(セブン)って、何よ」

「甚兵衛が以前、雪姫様の愚連隊と言っていましたが……」

 

 そしてキリヱたちもそっちはそっちでちょっと興味が湧いたらしい。夏凜はあの場に居たときの話をしているが、そういえば知らないのか……? ネギま! における火星動乱(要はネギぼーず達がラスボスと戦った時期)から計算して、確か今から二十年ちょっと前くらいだったはずなので(うろ覚え)、その頃はまだ雪姫と再会していない頃か。少なくともホルダーが発足してからの期間で考えるとその前後にあたるはずである。

 それはともかく、ホルダーの前身というとアレか……? 原作3巻くらいで南雲が回想していた、ネギやエヴァやフェイトやら「ネギま!」で見知った面々。甚兵衛については不明だが、確かに人数的には7人くらいにはなる計算なのか……?

 

「愚連隊とは酷い言い様だな。まぁアイツは無理やり参加させたから、強くは言えんが……。

 私、甚兵衛、コイツの祖父、フェイトに、後は知らないだろうが龍宮(たつみや)、ザジ、黒棒の作者と、まあそんな面々だな。後はサポートで、かつて私の従者をしていた奴とか『委員長』とか、今ヨーロッパの支部を管理してるヒデヨシ(ヽヽヽヽ)とか……」

 

 おっと? 知らない名前もあるが、おおむね予想通りの面々であった。とはいえ言われた面々を思い返し、原作のこれから先の展開をみると少し違和感はある。おそらくその七人の侍(サムライセブン)不死身衆(ナンバーズ)に引き継がれなかったのは、部隊が壊滅したからに他ならない。とすると、ひょっとしてのどか&夕映(搦め手チートコンビ)はネギぼーずのサポート扱いなのだろうか。そしてラカンという「ネギま!」時代における最強の一角も…………、いやアレは雪姫の趣味でカウントから弾いている可能性もないわけではないが。

 

「当時の生き残りというか、会える人数で考えればざっと五人、か?

 もともと、まあ『とある悪い魔法使い』との最終決戦に挑む前の頃だったからな。色々と私たちも頑張ってはいたんだよ。それが良い結果につながったかどうかは別としてな」

 

 寂し気な微笑みを浮かべる雪姫。何かこちらが言葉をかけるまえに「さて、と」と私の頭をポンポンと撫でる雪姫。

 

「色々とコイツには縁が深い連中だ。確かに昔話(ヽヽ)をするなら『同窓会をかねて』、という意味合いも無くはないのだろう――――」

 

「――あれ? おはようございます。皆どうしたの?」

 

 そうこう話し込んでいると、風呂上りの九郎丸が合流……、だか待てお前、風呂上がりで熱いのとまだ営業時間前だから気を抜いているんだろうがシャツのボタンを閉めろ、きもちほんのり谷間の曲線めいたものが見えている自覚を持て。(戒め)

 キリヱが私の視線に気づいたのか「見てるんじゃないわよっ!」と一発腹部を殴ってくる…………、さっきより威力があるぞ一体どうした。女子力(物理)?(???「いっそ、こっちから一発即死デコピンでもかましてやろうかねぇ」)

 

 夏凜がしれっと指摘して顔を赤らめながらボタンを閉じる九郎丸はともかく(お前もう流石にそのリアクションは男名乗るの無理があるぞ)、その手に依頼書の類が握られているのが目に入る。私の視線に気づいたのか、九郎丸はまだ若干照れながら笑った。

 

「あ、うん! ほら刀太君、借金の額が大きくて『金額の大きな仕事がないか』って言ってたよね。これ! 今朝、一空先輩が見つけてくれたんだ」

「…………『複数の能力を持つと推測される不死者の確保任務』?」

 

 ミッションとしては潜入の類のようだが、場所が「アマノミハシラ学園・まほら本校舎」となっているのを見れば、これが三太編の導入フラグなのだと断定できる(依頼者も「龍宮」となってたし確定だろう)。「悪いが――――」と九郎丸に断りを入れようとする雪姫を止めて、状況を整理しよう。

 

 つまり……タイミングとしては、三太編とフェイトからの誘いが同時に発生しているということになる。場所はどちらも「アマノミハシラ学園都市」というか、つまりは「ネギま!」初期の学園編舞台である麻帆良(まほら)学園に相違ない。

 そして「私が向かうことが遠因としてゾンビテロのキーになる」という話だが、もっと原作知識を動員してつきつめれば、それはつまり「水無瀬小夜子」が「佐々木三太が受け入れられない世界」に絶望することがダメ押しのキーになったはずである。もともと彼女は、三太を我々ホルダーに引き取ってもらえないか、という動機から事件を起こしていたはずなので、彼女の理性が持っている間はそのトリガーさえなければまだ維持できるはずである。もっとも九郎丸が依頼を持ってきた時点で既に限界ではあるのだろう。

 

 とするならば…………、どっちかというと、その会談で何かアレなことが起こると見るのが正しいか。

 交渉が決裂するのかどうかは知らないが、少なくともそれがトリガーとなるということは、トリガーたるイベントを水無瀬小夜子が目的としていることが前提条件になる。

 

 つまりイベントの処理として適切なことは…………。思わずキリヱを見るが、特に私の視線に不思議そうな表情をする。万一失敗しても、彼女の手にかかればリカバリー可能ではあるのだが、流石にもう何度もお亡くなりにさせるのは忍びなさすぎる(本人いわく「すっごい痛い!」らしいので)。とするとここから先の選択肢は慎重にする必要があるのだが。だからと言って全く状況を把握せずに進行すれば、それすなわちガバの温床である。(実体験)

 

「……確か予知能力は、知られてるはずだよな」

「え? あ、うん。そうだけど…………」

 

 それだけ確認してから、私は雪姫の方を見る。と、何か意外そうな目で私とキリヱを見比べる雪姫。その表情は一体何なのだ……、って、確かキリヱ自身相当な人間不信と人見知りが存在していて、この段階だと一空くらいにしか懐いていないのだったか。確かに私たちと距離感が近いのは不思議がられる話か。(???「自分個人に信頼感のある目を向けられていることを不思議がられてるって自覚が湧かないものかねぇ……」)

 

「ちょっと日程調整とかしてーんだけど、誰に話したら良いんだ?」

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 キリヱちゃん……、いや、僕より先輩だからきっともっとお姉さんなんだと思うんだけど、どうしても見た目に引っ張られてキリヱちゃんと呼んでしまう、彼女の能力について刀太君から聞いて、僕はちょっと、どんな顔をしたら良いか分からなくなった。

 

「…………つまり? キリヱの予知で世界がゾンビパニックに陥ると。

 それが『丁度会談のあるタイミングで』起こる。

 だから会談に出席していると何が起こるかわからないから、その『原因となるかもしれない』この依頼を調査させてくれ、と?」

 

 代表して雪姫さんが確認をすると、刀太君は苦笑いして頷いた。……そして、その、どうしてキリヱちゃんは人見知りするみたいにすっと刀太君の後ろに隠れているのだろうか。その、そういうのはちょっと、良くないと僕は思うなー……。

 んんっ。

 

「確かえーっと、震源地? というか。事件の発端っぽいのがこの『まほら本校舎』なんだよな、キリヱ」

「へ? あ、うん……(私、そこまで詳しく話してないと思うんだけど……?)」

「(理由は後で説明すっから)」

 

 後、何かごにょごにょ会話していて仲が良さそうで、こう、なんだろう。相談事ならもっと僕を頼ってくれていいんだけど……、アピールが足りないのかな? でもアピールって何をしたら………‥、ヒナちゃんと一つになった後はずっと剣術とか不死殺しとか、戦闘に関する話しか聞いてこなかったし、「そういう」のは苦手なんだけどな……。今度、本とか買ってみよっかな。

 

 そして夏凜先輩が腕を組んで何度か頷いていた。……? あれ? でも何だろう。夏凜先輩、なんかちょっといつもより口の端が上の方にいってるような気が……?

 

「なるほど。それでしたら『落ち込んでいた』のも分からなくはないです」

「あー、えっと…………」

「大丈夫です、刀太。いえ、また元気がなかったらいつでも――――」

「ストップー! 話が進まないじゃないの! っていうか夏凜ちゃん後でちょっと本館の裏庭に顔出しなさいよ!」

「キリヱ、お前、そんなにアグレッシブだったか……?」

 

 雪姫の言葉にハッとした顔をして……、って、「はっ!?」て口に出して言っちゃったよ、キリヱちゃん。カワイイなぁ、そういうの。刀太君もなんだか微笑ましそうにしてるし、やっぱり年下が好きなのかな……。(???「別に擁護してやるつもりはないけど、只の苦笑いだよソレ」)

 

「そうだな、確かにそういう話なら延期の交渉も必要になるか。だが……」

「どーしたんだよ? カアちゃん」

「いや、別にキリヱの予知能力を軽く見ているつもりはないがな。

 その規模でバイオテロが起こるというのが想像が難しいんだ。映画でもゲームでも現実でも、そのレベルの事件を起こすには概ね二つ、どちらかの条件が必要になってくる。

 個人としての絶対性、もしくは組織力だ。

 麻帆良学園にも元々、かなり強い防御結界なりが張られているし、かつてほどでは無いが腕の良い魔法使いも多い。早々、そういった切っ掛けがあったとしても、大事になる前に終息するのではと思ってな」

 

「「「麻帆良学園?」」」

 

 あー、と雪姫さんは頭をかきながら「その校舎の、昔の名前だ」と言った。話し方からしてとっさに出て来たという感じだし、何か縁があるんだろうか。

 

「つまりアレか? えーっと、そこまでの大事になるってイメージが思い浮かばないってことか」

「飾らずに言えばな。……というよりも、いくら何でもそこまで我々が追い詰められるものか? という疑念が先に立ってしまうのだが」

「とはいえ雪姫様。私くらいの不死性であっても『封じられる』ことは十分にあるのですから」

「それもそうだが、仕立人次第でもあるだろう。その点、今回のこれは想像がつかないというか………」

 

 それは何と言うか、僕もそれに近いことは思ってしまった。夏凜先輩は相変わらず無表情だからわからないけど、なんたってこっちには刀太君がいるんだから!(???「こりゃ救いようがないねぇ……」)

 刀太君がいるんだから、そうそう酷いことにはならないだろう、という期待を押し付けるのは、たぶん間違ってるんだけど。それでもカトラスちゃんみたいな、戦場でしか生き方を知らなかった子をあそこまでスラムの生活に馴染ませたのは、きっと刀太君がきっかけだと思うから。

 もちろん、刀太君には僕だっている。夏凜先輩だっているし、雪姫さんだって。そしてナンバーズの皆、甚兵衛さんや源五郎先輩や一空先輩たち。それに幹部でないにしても、ホルダーにだってまだまだ人はいっぱいいるんだ。

 

 だからこそ、そのくらいなら何とかなるんじゃないかと思っていたのだけど…………。

 

「そりゃ俺だって別に全部信じてるって訳じゃねーけど。でも、さっき話しててキリヱ、泣いたんだよ」

「んな……!? あ、ああああアンタそれ何で言うのよ!!!!?」

 

 まぁ落ち着けってと刀太君はキリヱちゃんを「どうどう」として「私は馬か! むしろアンタが種馬とかにされそうで心配よ!?」とか言われてた。……って、種馬? オホン、と何故か夏凜先輩が咳払い。

 

「キリヱってさ。絶対俺とかよりは長生きしてるだろ? で、まーこの未来予知だっけ? っていうのもこう、なんか『未来の話』を『実際に体験する』ようなタイプみたいな感じだし。ってことは、きっとかなり色々経験してるから、ちょっとやそっとのことじゃ泣いたりしねーんじゃねーかって思う。

 そのキリヱが『止められない』って、どうしようもないって泣くのは、何かこう、よっぽどだと思うんだよ。それこそココが壊滅するとか、人類が三分の一以下に激減するとかさ。

 取り越し苦労で結構! でも、わざわざ危険性があるんだっていうのなら、取り除いてからでも問題ねーだろって思うんだけど」

「ふむ…………、そうか。そういうことか」

 

 ニヤニヤとした雪姫さんが、キリヱちゃんの方を見る。「な、何よっ」と怒った風にしながら刀太君の背中に隠れる彼女を「いや何でも?」と楽し気に笑う雪姫さん。……そしてそれを、腕を組んで何かこう、納得したように何度も首肯する夏凜先輩が色々謎だった。

 

 そして気づいた、さっきから僕、全然何もしゃべってない! っていうより言えることがない……!? あれおかしいな、僕、今日、空気?

 思わず刀太君の右手、つまりキリヱちゃんと反対側の方の手をとると、刀太君が何だよと苦笑いを返してくる。でも、その、僕がここに居るってこう、忘れ去られないか心配で……。

 

 

 

「――――成程、人類滅亡の引き金か……、ここで来たか!」

 

 

 

 聞き覚えのある声が、廊下に響いた。皆してその声の方を見れば、剃髪にすごく濃い顔をした、前はあった髭を剃った「和尚」さんが来た。

 一応スラムの後に、僕らUQホルダーの方で身柄を確保された和尚さん。雇用主からは休職扱いにしてもらったらしく、しばらく厄介になると大笑いして、今は本館の隅で時々占いとか人生相談とかをやってるらしい。

 特に反抗的ということもなく、あと雪姫さんとも元々面識があったらしく、軟禁……と言えないレベルでの微妙な軟禁状態だった。

 

「なん…………、だと…………?」

 

 そして和尚さんの姿を見て、刀太君がフリーズしてしまった。えっと、あれ? 何か刀太君も面識があったりするのかな。(???「絶対OSR度(オサレ)高いじゃねーかとか、そんな馬鹿みたいなこと考えてるよこの男」)

 雪姫さんは「嗚呼また面倒なのが……」と眉間を押さえる。

 

「どうした『小僧』、相変わらず顔がデカいが。お前の説法とかは今、あまり必要とされていないと思うが」

「エヴァンジェリン殿がどう思おうが、拙僧がどう役に立つかは拙僧が決めることにしている。

 しかしそこの坊主、そうかお主が…………、少女の涙に真実を見る姿、拙僧には一番ネギ・スプリングフィールドの孫に見えるぞ」

「あー、えっと……どちら様?」

 

 僕や雪姫さんに助けを求める刀太君に、彼の紹介を……、紹介を…………、あれ? えっと、何かすごい特徴的な名前だったはずなんだけど……。あれ?

 僕はともかく、雪姫さんも視線を逸らして口笛を吹きだしている。

 

「オイオイ……、九郎丸も雪姫もかよ。面識あんのそっちだろ」

「えっと、スラムで戦った人で、えっと……、ごめん! ちょっと待って、もうちょっと、ここ、先っちょ! 先っちょだけは出てるから……! たしか(ぎゅう)……、牛……」

「『記憶』を失ったか、お主ら……」

 

 ごめんなさいと和尚さんに謝ると、「拙僧、確かに覚え辛い名ではあるが」と苦笑いされてしまった。

 

牛冷娑婆(ぎゅうれい しゃば)。古くは武蔵の(くに)に続く寺を治めていた者だ。

 どれ、何か拙僧で力になれることはないか?」

 

 和尚さんのその、えっと、失礼だったらごめんなさいなんだけどインパクト抜群なウィンクに、刀太君はまた「なん、だと?」とフリーズした。

 

 

 

 

 



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ST51.死を祓え!:私、聞いてない

毎度ご好評あざますナ・・・!
 
衝動買いしてしまった勇動ドンブラ塗ったり撮ったりしてると時間があっという間に溶けてしまう現実世界のバグ(ガバガバ時間管理)(ガバ言い訳)


ST51.Memento Mori: Nobody told me that.

 

 

 

 

 

 

問:原作で存在自体がチラ見えしてフェードアウトしたモブがそれっぽい出方(オサレエントリー)してきて、しかも他作品の語録を携えているがどうしたら良いか。

解:私が知る訳ねぇだろ誰かどうにかしろくださいマジでガバの温床じゃねぇかそんなもの!(言行相反(無自覚))

 

 和尚に関する私の感想は大体そんなものである。……いや、そもそもこの和尚……えっと、牛、牛……、牛なんとか和尚(以降和尚)がこの島に軟禁されているのも想定外だし、もっと言うとこの状況でさも当たり前のように入場して会話にカットインしてくるのは流石に脳の処理能力を超えていた。フェイトの話もあるしタイムリープ関係の話も整理しなくちゃいけないのに、その上この和尚である。もはやこう、ここで存在していること自体がガバそのものな気がしているが、本人自体はどうも顔のインパクトに反し意外と悪い人ではないらしいというからリアクションに困る。おまけにさっきから使用している「サムライ8 八○伝(だってばよの経験を全部詰め込んでみた)」において読八(ファン)の間でまことしやかにささやかれてる通称「語録(サムラァイボキャブラリー)」の数々……。

 一応この世界には該当作品が存在しないことは確認しているので、ひょっとしたら三人目の転生ないし転移者の可能性……? いや、やはり存在自体が頭痛の種である。痛くて痛くて頭が溶けてしまいそうである。(マ○リ様(浦原さんのお弟子さん)語録)

  

「大丈夫? 刀太君。なんだか急に遠い目をしてるけど……」

 

 九郎丸がそんなことを聞いて来るが、お前さんもお前さんで私の右手を無駄にニギニギして一体何がやりたいのか不明というアレだぞお前。(連鎖) 一応大丈夫だと返しはするが、いっこうにニギニギするのを止める気配がない。何だアレか? 無意識かは知らないが私の左側で隠れてるキリヱにでも対抗しての何かか? そこに対抗するよりお前はもっと自分が男だって自称してるのならもうちょっと他に考えることがあるだろうに。(戒め)

 

「むふぅ……、坊主、否、近衛刀太よ。何か悩みがあれば拙僧が説法するが?」

「しいて言うとアンタがここで出て来たことなんだよなぁ……」

 

 若干素が出かかってしまったが、キリヱの予知(実体験)においても過去の範囲で名前が上がる事がなかったし、和尚がイレギュラーであることに違いはあるまい。実際キリヱもキリヱで私の左腕にしがみ付きながら「怖っ! 顔、怖っ!」とか小声でぼそぼそ文句を垂れ流しているし。もっとも和尚自身は完全な善意からこっちにやって来ているので、私も無下に色々と文句を付けるのは躊躇われる。

 躊躇われるからと言って、だからどうするのかという話ではあるのだが。

 

「仏僧、ということは。貴方、除霊などは出来るのですか? 今話にあがったものですと、ウィルスという表面上のそれを媒介にし死霊が憑依するといった類の可能性も捨てきれませんし、そういった能力であれば同行願いたいのですが」

「宗派的にはその類のものもない訳ではないが、むふぅ……、小娘お主『悪魔祓い(エクソシズム)』系の技を使えるのではないか? 神聖魔法を使うと聞いているぞ」

「生憎、私の出自の関係で『年代が違う』のです。私が使用できる『技の年代』の範囲だと、その類の術は直接攻撃系に限られます」

 

 膠着する私の思考を外から察しでもしたのか、夏凜が率先して和尚に質問を投げてくれた。ただ割とまともな質問なあたり、夏凜の和尚への興味の無さが表れている(夏凜は身内に対しては時折ポンコツと化すのだった、面倒くさい(語弊))。それはともかく、質問の方向性からして場合によっては和尚をサポートメンバーとかに入れることを検討しての発言だろうか。

 

 言われてみると確かに、和尚にその類の能力があるなら、今回の事案にはもってこいと言えるかもしれない。夏凜の推測はまるで的が外れているだろうが(正直)、ことその仕立人には有効な可能性があるのだ。

 和尚は少なくとも私よりは人生経験が多いだろうし、九郎丸の病み具合を晴らしてくれたのも彼だと聞く。状況的に適任と言えば適任なのかもしれない。(???「まぁそれなりの代償はアンタが支払いそうだけどねぇ、身体とかで」)

 

 あと会話の流れで流しそうになったが、「技の年代」って何だ、年代って。神聖魔法も中々謎である。答えてくれるか不明だが、今度聞いてみるか。

 

「そういえば『聖典』に関しては『出身地域』と『宗派』と『年代』が影響すると確かにあったか。……むぅ? とすると少なくとも小娘、否、貴女の年は――――」

「黙りなさい、消し飛ばしますよ?」

「む、むふぅ。これは拙僧が悪いか。礼儀を失っていたのは拙僧の方か。まだまだ女性経験が足らぬ……。

 とはいえ残念だが拙僧、その類は不得手なのだ。仏門である意味がなくて申し訳ない」

 

 えっ、と。雪姫以外の全員が頭を下げる和尚に視線を向ける中、実際に戦ったことのある九郎丸が代表して手を上げた。

 

「えっと、和尚さんは和尚、なんですよね? あれだけの戦闘力があるのだし、きっとお寺の中で誰よりも『そういった』技を習得しているものかなって思ってたんですけど……」

「間違ってはいない。実際、寺にある経文の類や旅先で現れた修験道の類、また西洋魔術も少し齧ったことがあるのでな。おそらく寺の中で最も術にも秀でておるし、その中には実体を持たない妖魔を祓ったり、迷える魂を御仏の道へ導く(すべ)もある。

 ただ拙僧、霊が見えぬ。霊感とその手のセンスがほぼないのだ……」

「意味無ぇじゃねーか!?」

「半分以上間違いない。耳に痛い。結果、知識のみで理解と経験が皆無である」

 

 思わず突っ込むと、ご丁寧に語録(回りくどい返答)で返ってきた。

 

「とはいえ、そもそも拙僧が寺をまとめることになったのも、拙僧が『その類』の存在の影響を最も受けないことに由来する故、これは必然の産物でもあると言えるしそうでもないともいえる。ただ一時、妖魔が蔓延るようになった頃が数年前にあったが、あの影響が未だに残っているというのが正解である。

 とはいえ、お陰で御仏の道に導けているかどうかも経を唱え終えた後に確認できぬのだ。こればかりは拙僧が本当に成仏したかどうか決められる話でもないのだから、致し方なしだ。もう……、成仏しろ! という感想ではあるが、結局見えぬのでな? 意味ないであろう」

「マジで意味ねーのは逆に珍しいんじゃねーッスかね、そのレベルは……」

 

 故にその類の話ではあまり力になれぬと頭を下げる和尚を、大丈夫だと言ってとりあえず頭を上げさせる……。実際問題、霊能力などそういった類の力が低いとなると、不死身でもなければ今回の件に巻き込むのは非常に危険である。まだ理性が利いているうちは良いが、一度暴走を始めたら何が起こるか分かったものではないのだ。大事をとって休んでもらう方が安全である。

 ……むろん和尚介入による三太編チャート崩壊フラグをへし折る意味もあるのだが。(???「どうせまたガバ引き起こすだろアンタ? 意味ないんじゃないかねぇ……」)

 

 なにせこの三太編、進め方次第では原作終盤における「ある病気」をそもそも発生させないか、あるいは特効薬作成の足掛かりが生まれるのだ。その病で熊本時代からの友人を亡くす可能性がある以上、イベント進行は慎重にいかなければなるまい。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「似合わ………………、ねぇ。我ながらブレザー全然似合わねぇな」

「そ、そんなことないよ! その、それはそうとマフラーはしていくんだね」

 

 衣装合わせではないが、麻帆良学園の制服に身を包む私と九郎丸。制服自体は「何故か」雪姫からぴったりサイズのものをあつらえてもらったので、私と九郎丸はそのあたりで不自由はなかった。もっとも私のセンス的に黒い星抜きのある和服(オサレ一本勝負)を奪われるのは大ダメージたったため、せめてもの反抗としてマフラーだけは継続して首に巻かせてもらった。黒棒も竹刀袋の中に入れており、本人(?)の許可を得て全体に包帯を巻いたり(オサレデコレート)して外見上はぱっと見武器っぽくならない程度に調整したりして、個人的にはこれでトントンである。

 ちなみにだが夏凜がお遊び(と言う名の外堀埋め)をしなかったため、最初から九郎丸は男子制服だった。……それは良いんだがちょっと内股になってるの止めろ、ツッコミ待ちかお前。(困惑)

 

 仙境館入り口、石畳の上。ここから直進すればフェリーの船着き場まで一直線という位置にいる私たち。つまりは原作5巻通りのノリで他のメンバー待ちをしている恰好である。

 

「でも潜入任務って言ったって、夏凜ちゃん先輩とか前に一回入って失敗してんだよな? 流石に顔を覚えてるのが居ても不思議じゃねーと思うんだが……」

「あ、あはは……。そこは流石に、人数が多いんじゃないかな」

  

 アマノミハシラ学園都市・まほら本校舎。要するに「ネギま!」時代の麻帆良学園であるが、ここで起きる事件は依頼表、および雪姫の言葉が正しければおおむね原作通りであるらしい。今の所ガバの影響は見えないのが救いである。(安堵) 

 オーダーとしては「複数の能力を持つと推測される不死者の確保任務」、となっている。犯人の氏素性がわかっている私からすれば正体どころかやってることも丸わかりではあるのだが、過去に起こした事件、および目撃証言からして、次の能力を持っていると推測されている。

 

1.透化能力

 自分だけでなく触れている物体も含めて、壁などをすり抜けられる。すり抜けてる途中で止めることで、相手を拘束したり殺すことも可能と思われる(いしのなかにいる)。

2.念動力

 いわゆるサイコキネシス。男衆の連中が数人やられているらしい。

3.飛行能力

 特定のアイテムに依存している気配はない。超能力か魔法の類かは不明。

 

 また能力の発動にタイムラグがほとんどない、ということらしいのだが、まぁネタバレをしてしまうなら相手の正体が相手の正体なので、もっといくつかの能力とかも持ち合わせて居たりする。

 具体的に言うと「憑依能力」と「電子機器干渉能力」。前者は文字通りヒト/モノにかかわらず対象に憑りつき操るもので、もう一つはパソコンなど電子機器を経由して、インターネットの情報などのセキュリティーをかいくぐり目的の情報を得たり、といったところである。

 

 おそらく「尋ねる機会があれば」もっと多くの能力を持っていると分かるに違いないのだ、肝心の当人はそれを使って何をやってるかと言うとチンピラ狩りである。例えばオヤジ狩りをしている複数のチンピラ相手に、その自らの能力でけちょんけちょんにしたり……、所謂「自分最強系(俺tueee)」願望もありそうな所業だ。

 

 まあそうなる経緯も分からなくはない事情はあるのだが、なんとなく「私」の黒歴史(一○字に黒塗りにされてしまえ!)とかを連想してしまう部分があって、あまり直視したくない……。

 

「やぁやぁ! 二人とも制服姿、良い感じじゃないかぁ。若い! って感じがして良いねー」

「あれ? その声は……、一空先輩?」「だな」

 

 と、背後から声をかけてくる壮年の男性。髪色は枯草のような色で白衣を纏った長身姿。……外見上、言われなければ誰かわからないに違いないが、飴屋一空その人である。原作では主人公たち同様「生徒」として潜入するために少年ボディを用意したのだが、今回は諸事情により教師として潜入する予定らしい。本人の趣味もあるのだろうが、見た目だけで言えば中々のイケオジっぷりである。さらっと慣れた風でウィンクしてくるあたりの茶目っ気含めて、こりゃアスナとか原作「ネギま!」時代に居たらタカミチ一筋と言え目移りしたのではないだろうか。(適当)

 

「一空先輩、それって……?」

「アハ。僕の身体が全身機械だって話はしたことがあったっけ。ただ僕の場合、不死身のタネがタネだからこうして『全身ごと』身体を交換するってことが出来るんだ。

 大体これが五十歳くらいの姿かな? 髭は……、趣味だけど」

「いい趣味してるッスよ」

「わかってくれるかい、刀太君」

 

 思わずシェイクハンドし合う私たちは置いておいて。

 

「不死身のタネ、ですか」

「当ててみる? 刀太君も、九郎丸ちゃん(ヽヽヽ)も。なんなら何か景品あげるよ? 遊園地の一日ペアチケットとか、三泊四日の旅行券とか」

「な、何ですかその景品の種類は…………。えっと……」

「ウン、ウン、悩める乙女は良きかな、良きかな」

 

 考え始める九郎丸だが、いやお前ちょっと待て、今さりげなく「ちゃん」付けで呼ばれてるのを認識した上で否定しなかったろ。原作だと後で慌てて訂正が入ったが、一体どうした。(混乱) 一空本人はそのあたり全然気にしている風でもないので適当にしているが、後で訂正できなくなっても知らないぞ。(良心)(???「訂正する気もゼロなんじゃないかねぇ」)

 

 なお、結局九郎丸は正解しなかった。というか予想以上にグロい回答が出て来て、私と一空が思わず引いてしまうレベルである。

 

「脳髄とか、意識関係を維持するのと最低限生きるために必要な部位がセットになったものを圧縮した『本体』みたいなパーツがあって、それを取り換えて――――」

「えぇ……」「ごめん、流石に僕そこまで人間辞めてないんだ」

「えぇ!? だ、だってこの間夏凜先輩に見せてもらった映画で……!」

 

 一体私の知らないところでどんな交流をしてるのか果てしなく気になる話だが、それはともかく。私に話をふってくる一空に、原作知識を踏まえた上で、現時点で推測できる範囲まで推論を口にした。

 

「先輩の家って、結構お金持ちッスよねたぶん。飴屋グループ、スラムを襲ったサイボーグの身体にもそれっぽいロゴ入ってたし」

「あれ、そうなの?」

「おっと! よく見てるじゃないか。そうそう、僕の家はお金持ち、ロボットからサイバネティック、宇宙船まで工業用品なんでもござれ! の飴屋だけど、それで?」

「っていうことはたぶん、専用の通信回線とかそう言うのだって持ち合わせは……、ありそうな顔してるッスね。じゃあたぶん、遠隔で操ってるってことじゃないッスか?

 それでいて仙境館に本人がいないっぽいのだとすると、本体は実家のグループのどっかにあって、出られない事情がある、と」

「うーん、うん! ほぼ正解だからそれでいいかな。

 察しの通り、僕は今自社の衛星回線を使って、リアルタイムに脳派パルスを『量子的操作』転送しているんだ」

 

 語られた彼の経緯についても、これといって(ガバを)恐れる所が無くて安心する。十三歳で事故に遭い昏睡状態。以降、今から約二年前に「電子領域で」目覚めるまでの七十二年間は何もない。

 

「と言う訳で、実年齢で言うと85歳なんだけど、精神年齢は13歳くらいなんだ。

 まあ普段は趣味で二十代半ばくらいの姿をとってるけどね」

「へぇ……」

「でも、それって現状だとまだ殺されれば死ぬッスよね」

 

 私の疑問に、ハハ、とウィンクをかましてくる壮年な一空教授。

 

「雪姫様いわく、僕はどうやら『電子の精霊』に昇華される素質があるらしい。確か何だったっけ……、電子の海で目覚めて数時間で、おおよそ大人が学習しうる知識やらをある程度の専門まで極めるほど取り扱えるのは、人間の精神性を逸脱しかかってる、とかだったかな。

 ホルダーのナンバーズ加入はその青田買い的なやつらしいね。僕としては、意識が消えてから今まで生かしてくれたこの世界に、何かお返しできるものがあれば良いっていうのも大きいんだけど」

 

「――――皆、揃っていますね……おや?」

「とりあえず夏凜ちゃん先輩は存在感消すの止めてもらって良いッスかね……」

 

 ぬ、と背中から私の両肩を掴んで現れた夏凜に、ぎょっとする九郎丸と一空。おそらく瞬動術系の何某かを使用しているのだろうが、あまり良い気分ではないのと、九郎丸がもっと頑張らなきゃみたいな顔してるせいで何故か胃が痛い。

 

「キリヱを知りませんか?」

「そう言えば」「あれ……?」「ははーん……」

 

 何やらしたり顔の一空に、私の肩に顎を置いて顔だけ乗り出す夏凜……ってそのべたべたした距離感止めて! そろそろ本当に限界だからァそういうのッ!(魂の叫び) なんなら九郎丸が少しむっとした顔で近寄ってくるのも止めてもらいたいのだが、このあたりは口に出せば出すほど墓穴を掘ることになるってチャン刀、知ってる。(???「言っても言わなくても泥沼だがねぇ」)

 

「キリヱちゃんアレでシャイというより、プライドが高い所があるからね。色々と愕然としてるのかもしれない」

「「愕然?」」

 

 首を傾げる私と九郎丸を他所に「なるほど」と納得したらしい夏凜。一度本館の方へ駆け足してから数分後「さぁお披露目よ」と手を引き現れたのは。

 

「…………な、何ヨ」

 

 おそらく見栄を張って注文しただろう大きめなサイズのブレザーに着られて、スカートの裾すら覆い隠されてしまって色々アレな恰好をしたキリヱだった。絵面が完全に「ちびっ子の妹がお姉ちゃんの制服を着用してる」ような見た目であり、からかうように笑えてるのは一空くらいである。

 

「あー…………」

「な、何か言いなさいよ! むしろあっちみたいに笑われた方がせいせいするわ! そんな同情してるみたいな目で見ないでよォ!」

「まぁ……、ウン、がんばったで賞」

「どういう意味よっ!」

 

 結局この後、雪姫(本体)サイズのブレザーを借りて決着した。

 

 

 

 

 



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ST52.死を祓え!:そういう血筋

毎度ご好評あざますナ!
久々に深夜なんですが済まない、済まない……
 
あ、アンケートについてですが来週一杯で一度締めきろうかなって思ってますので、お急ぎの方は是非お早目に……!


ST51.Memento Mori: Love Black Hole

 

 

 

 

 

 

 学校生活なんて十年くらいは久しぶり……。

 でも感傷にひたることもなくて、だからって特にウキウキすることもない。

 大体義務教育は引きこもってた期間の方が長かったりするから、正直思い出もない。

 

 ただ周回が最適化すれば最適化していくほどに、そういった些事に気を取られるようなことも私はなくなっていった。

 法的に言えばもう成人年齢だし、「繰り返してる」回数からしても、今更、という感じ。

 小学校は一応通ったけど、後は通信教育を適当に齧って大学卒業認定まで行ったし。

 

 だけど「アイツと」通うとなると、なんだか変な気恥ずかしさが湧いてきていた。 

 アイツ…………、まぁ、つまり、あの刀太、「ちゅーに」のことなんだケド……。

 

 アイツとちゃんと話したりしたのって、考えてみると「周回」の中でも極端に少ない。

 まー私の側の事情が結構大きいんだけど、だから協力を取り付けたりすることはほとんどなかった。

 下手に取り付けるとまたあの時みたいに…………、「最初の」あの時みたいな、無茶なことになりそうな気がして。

 

 だから流石に、本当に、何度やっても全く同じ結果が出るようになった今回の「五十周」については、いい加減ストレスが限界で思わず話をしてしまった。

 その結果、無茶なことにはならなかったんだけど…………。

 なんていうか、こう、あっさりと世界滅亡の期日を回避されて、どんな顔をしたらいいかわかんないじゃないのよっ。

 

 そんなこと言っても仕方ないんだけど、でも……。

 

 もともとアイツが、学園で何か会合に連れていかれるのがトリガーになってるような気はしていた。

 一体それで何が起こるのか、詳細がわからないから「今回は」せいぜい「アイツがついていかない」状況を作れればくらいに考えていたんだけど……。

 アイツはもう、会合そのものがゾンビテロのトリガーになってるって、よくわかんないけど見抜いたみたい。

 だから会合そのものを延期させて、その原因を探りにいくための依頼を引き受けることにしたって言ってる。

 

 確か、えっと、複数の能力を持つ不死者だったかしら。

 本当だったら、っていうか「最初のとき」は一空と私が向かって、それで気が付いたら「あんなこと」になって、その間の私の記憶も何もかも全然なくって……。

 

 私がすぐさまゾンビにされたことから、爆心地はきっと学園内だって思ってたんだけど。

 アイツは「私が学園に向かった」って話を聞いた時点で、それを察したみたい。

 

 その結果が現在、つまり「会合予定のおおよそ一週間後」の今日。

 

 大体、学校への潜入任務って準備に最低でも一週間くらいかかるらしい。

 つまり準備期間の手続きだったりいろいろな準備で、三日なんてあっという間に過ぎてしまうってこと。

 

 そしてその「Xデー」を迎えたっていうのに、相変わらず世界はそのままだった。

 

『……確かにアンタが、会合っていうか、お食事会? に出なかったので世界が滅ばなかったのは間違いないんだけど。でもどうして、会合そのものが問題だって断言したのよ』

 

 推測しながら、手探りしながら。言い方わるいけど「最初からリセットされる系の死にゲー」人生やってる私からすると、アイツはあんまりにも自信をもって断言しすぎていた。

 それが不可解で思わず聞いた言葉に、苦笑いしながらアイツは、変な、なんかちょっとアニメとか漫画みたいなポーズして指を一本ずつ立てながら言ってきた…………。

 

『あの会合のメインはそもそも俺だったし、出ねーって選択肢はねぇんだけど……。仮に俺が行かなくても、雪姫は出席した可能性があるんだよ』

『何でよ』

『まぁ色々だな。なーんか少し隠し事してる感じだったし』

 

 ひょっとして意中の相手からメッセージでも貰ったか? みたいな妄言を吐いてたけど、そんなこと知ったこっちゃないわ。

 とっとと答えなさいよと詰め寄ると、ため息をついてアイツは真顔になった。

 

『…………ゾンビウィルステロについて、色々整理した結果だな。

 ひとつめ。今回のこれは自然現象じゃなくて人為的なものだと考えられる。少なくとも人工物であることは間違いねーだろ?』

『そりゃ……、感染力といい抑え込みが利かないように順次発動していったのは人為的なテロ行為だと思うけど』

『で、ふたつめ。それが連鎖的に発動された以上は前々から計画されていたとは言えるけど……、犯行声明とかそういうの全然なかったんだろ? たしか。つまりこれは人災的なミスか、もしくは何かしら「個人的な事情」に端を発して引き起こされてるかもしれねーってことだ』

『それは……、えっと、なんで?』

 

 ミスはわかるけど、個人的な事情ってのがよくわからない。

 私の疑問に、ちゅーには「スラムでの経験からって訳じゃねーんだけど」って前置きした。

 

『少なくとも、理解できるような感じの意図や目的で引き起こされた感じじゃねーって言ったらいいのか? こーゆーのって、えーっとアレだ。何かしらビジネスっていうか、利益を得る対象がいてはじめて成立するものみてーなんだよな。人を一掃することで資源を守るとか、侵略しやすくするとか。

 だけどゾンビテロ起こしておいて犯行声明出さねぇわ、ワクチンも全然出さないわ、むしろ潰そうとするわって来てたって話じゃねーか。ってことは、相手は下手すると「人類そのものを絶滅させよう」としてるとか、そんな滅茶苦茶なこと考えてるんじゃねーか? っていう』

『それ漫画とかアニメの見過ぎじゃないの……? だからちゅーになのよ、ちゅーに』

 

 私の文句を無視して、刀太は三本目の指を立てる。

 

『で、みっつめ。雪姫の話じゃ、爆心地ってなってる学校って魔法的にも通常のセキュリティ的にも、結構そのテのテロとかは起きにくいようになってるし、なんなら鎮圧部隊みてーなのも準備はされてるらしいんだよ。さっきの話じゃ、不死身衆(オレら)の前身組織の人とかも居るみてーだし。

 なのにそれを回避して楽々テロを押し通したってことは、だ。そのパンデミックのもとになった場所、つまり「旧麻帆良学園」は、敵さんのホームグラウンド。そこに根を張って、色々手を回せるとか、色々な情報収集とかも簡単に出来るってくらいまで考えたっていいかもしれねー。でもなきゃ、効率よく学園都市全体のゾンビパラダイス化は難しいんじゃねーかって思う』

『段々現実離れしてきた感じね……。まあホームグラウンドだったんじゃないか、っていうのは、わからなくもないけど』

『四つ。ここまで踏まえると、たぶん実行犯てか主犯は「世界に絶望してる」とか、そういうタイプのはずだ。

 そしてここまで踏まえて最後に――――』

 

 最後に、と。続いた刀太の言葉で、私は目が点になった。

 

 

 

『――――ネギ=スプリングフィールドの友人だったフェイト・アーウェルンクス。アイツ、結構性格悪い』

『……へっ?』

 

 

 

 困る私をさしおいて「これが一番大事」とでも言いたげに、アイツは何度も頷いた。

 

『大事って言われても……。フェイトって、あの、あのフェイトよね。太陽系最強の魔法使い。今世紀の英雄の一人、『現代最後の指導者(ラストテイル・マギステル)』の盟友、ライバル。そして……世界革命軍『白き翼』代表』

『最後のは知らねーけど。まー、最終的に友達になったって言うから悪い奴じゃねーんだろうけど。でも話した感じ、アイツ絶対アレだぜ? 基本性格悪いけど努力家で力を持ってる自覚もあって世界をどう良くするべきかってのを常に考えてはいる前向きさを持ってるけど、人情有る割にそれを為せない連中のことは歯牙にもかけないしなんなら煽って自滅してく連中見るのはちょっと楽しんでる割には、根っからの所では窮地でも立ち向かってくるような相手に本心では心開きたいしそんな隔絶した自分の立場に寂しさも覚えてるタイプだぜ性格悪いけど』

『情報わっと一気に浴びせるんじゃないわよ! っていうか結局最初と最後が性格悪いで終わってるじゃないっ』

 

 思わず突っ込んでしまったけど、何なのコイツって感想が先に来た。

 聞きかじった感じだとちょっと話して斬り合ったくらいらしいんだけど、えっ何? そんなところまでわかるの?

 アレなの? 拳と拳、剣と剣で語り合う的なむさくるしい感じのやつなの? ディティール細かすぎてちょっと気持ち悪いんだけど……。

 

『そんな奴が、道を(たが)えたかつての仲間と顔合わせて…………、ロクなことにゃならねーだろ。映画とかドラマとか漫画とかアニメとか小説とか、題材にされまくってるだけあるやつだろ』

『…………まぁ、そうね。そんな気はするわ』

『こっからはさっき以上に推測でしかねーんだけど、きっと、俺がその場に居たら絶対もっと「ややこしい」話になってくると思うんだよ。でその時の戦いとかやりとりって、なんつーか相当見下した発言とか、切って捨てる発言とか、そういうのいっぱい出て来ると思う』

『いやその思うって何なのよ……。的なとか言われたってどんな顔しろってのっ』

『まーとりあえず。その「主犯」にとっては相当「面白くない」ことを言うような気がする……っていうか、たぶん言う。なーんか俺はともかく「カトラス」見る目は完全に実験動物見る目だったし。ある意味感情とかと理性が完全分離してるって言うか、そういう奴だと思うから』

 

 少なくともその嫌そうな表情で、フェイト・アーウェルンクスに対してコイツが良い感情を持っていないのはなんとなくわかった。

 って、カトラスって誰よ?

 

『本人いわく妹……、だけど、まーこのあたり詳細全然まだわからねぇって感じ。顔立ちとかあんま似てねーし…………? いや、従妹くらいには似てるか?』

『私に聞かれても知らないわよ』

 

 後で夏凜ちゃんに聞くと、スラムを襲ってきた敵の中にいた女の子で、ちゅーにが色々手を尽くして絆して味方にしてたらしい。って、何やってんのよアイツ…………。

 

 まあ、納得できたわけじゃないんだけど。

 それでもちゅーになりに推論っていうか、理由はあったってのはわかった。

 どれくらい正解なのかとかは今になってはあんまり意味はないんだけど……。

 

 ただこの話を聞いて、私はアイツの潜入任務について行こうと思った。 

 

 話してて、なんとなくわかった。

 雰囲気が一緒だった。「あの時の」アイツも「今の」アイツも。

 

 会話がなんだかんだコントみたいになるのもそうだし、その間時々すごい遠い目してるのもそうだし…………、あと本人は隠してるのか気づいてないのか知らないけど、時々まるで「怖がってる」みたいに、手とか隠れて震えてる時があった。

 

 それこそあの時――――私を助け出してくれて、心配するなって笑いながら、でも足だけはすっごいブルブル怖がってるみたいに震えてたのみたいに。

 

 嗚呼結局、コイツはこうなんだって――――「怖いのを我慢して」立ち向かってるんだって。「最初の」アイツとの最後――――最期の別れ際の時から、過去でも未来でも何も変わっていない。

 

 

 

 ――――心はお前(此処)に置いていけるから。後は頼むぜ。

 

 

 

 時々、フラッシュバックして、リフレインするアイツの言葉が、なんとなく寂しくて。

 ……あんなビビリが無茶してるんだから。私ばっかり安全地帯にいたら、女が(すた)るじゃないっ。

 

 だから、予知能力ならこっちにいた方が安全だろって止めるアイツに文句を付けて、無理やり同行することにしたんだった。 

 

 

 

「…………で、何で早々迷子になってんのよアイツ!? 何なの? お上りさんなの? いくらなんでも早すぎるでしょっ!」

 

 

 

 そして初日の登校中、早々に姿を消したアイツに私は叫ばざるをえなかった……って、こんなの叫ぶに決まってるじゃない!

 ちょっと仲良くなった九郎丸なんて「僕がしっかり見てなかったから……」とかなんか落ち込んでるけど、貴女(ヽヽ)だってなんか妙にソワソワしてお上りさんモードっぽかったし。

 

 人の波でごったがえす通学路。路面電車の進行も邪魔されてゆらりゆらりと進んでる。

 無理にかきわけて進めないような状態で「何で初日からトラブル起こすのよ!」と頭をかかえたい私に、夏凜ちゃんは大丈夫と言って肩を叩いた。

 

「……何が大丈夫なのよ?」

「大丈夫、問題しかありません」

「問題しかないって何よ!? ダメじゃない!」

「いえ、そういう意味ではありません。あの子、刀太の祖父がどうであったかという話を雪姫様から少し伺ったことがありますが……、九郎丸、私、忍、カトラスちゃんに貴女と来ていますので、おそらく一人で野放しにすると……」

「ぼ、僕ですか!?」「夏凜ちゃんが何言いたいか全然わかんないんだけど……」

 

 と、どこからかキャー! って女の子の声が複数聞こえる。

 なんか人がドミノ倒しになって事故みたいになって、そこだけ人が居なくなってるところなんだけど…………。

 

 

 

 そこに、居た。

 ……なんかジャージ着て腕章つけてる体操着の、こう、なんか、おっぱいの大きい、跳ねたショートヘアのカワイイ()お姫様抱っこして。

 

 

 

 っていうか、なんか顔真っ赤にしてる割にあの()も反応がまんざらじゃない感じなの何なのヨ!!?

 

「と、刀太君……、また何か巻き込まれて…………?」

「ふむ。……やはり女たらし(そういう)系の血筋ですね」

 

 夏凜ちゃんが何言ってるか全然わかんなかったけど、思わず私は怒鳴りながら駆けて行った。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 九月一日とかそういう変な時期での転校生というのは、もはや存在自体が目立つことこの上ないといえる。まあ学年単位の人数でいっても日本最大級のレベルを誇る「まほら本校舎」であるから、目立つといっても全校生徒が注目するレベルではないし、夏季休業明けの始業式とぶつかるのでタイミング的には違和感は少ない。とはいえ基本的には全寮制の学園である以上、変な時期での転入というのは稀と言えば稀なので、要するに「出る杭」のようにならないよう注意する必要はある、と言う訳だ。

 

 だからこそ転校初日の段階で迷子になるというのは、もはやギャグ漫画のような展開過ぎて「ギャグ漫画か!」と思わずセルフツッコミを入れてしまう。

 まぁそんなありきたりなツッコミな時点でツッコミの才能はないのだろうが、現実逃避したところで何も始まらない。

 

 新東京アマノミハシラ市につき当日はホテル泊まり。翌日に九郎丸やキリヱ、夏凜たちと登校初日を迎えたまでは良かった。だが「ネギま!」時代から変わりない学園都市中央に聳え立つ「神木・蟠桃(ばんとう)」やら路面電車やら移動店舗の生「超包子(ちゃおぱおず)」だったり、改めてこの世界が元祖「ネギま!」から地続きであることにちょっと感動していた。

 ……そしてその感動こそが、マンモス校の一言で片づけられない大量の人の行き来で呑まれるというガバを引き起こした訳である。いやでも漫画原作世界の聖地巡礼は正直クるものがあるので俺は悪くねぇ!(現実逃避)

 

 とはいえ自業自得な上、これだけ人が多いと高速移動手段など使おうものならまぁ目立つことこの上ない(というか、原作の流れを考えてそういうのは間違いなく一等生徒(エリート)の反感を買う)。トラブル回避目的でも多少は慎重にならざるを得ないのだが……。

 

 ――――ふと、右側前方に何か嫌な感覚がよぎる。

 

 以前カトラスの時間停止を受けた時に感じたようなそれに、思わずその方向を見れば。路面電車に轢かれた「のではなく」、まるで誰かが路面電車との接触を避けるように「強く突き飛ばされた」ように、一人の生徒がバランスを崩して押し出される――――。

 

「念動力……、そういえば原作でも三太(さんた)は様子見してるんだっけかこの場所、って――――いやそんなことを言ってる場合ではないな」

「うぇっ!?」

 

 足の踏み場もない状況まで人が詰まっている以上、弾かれた生徒を起点に何が起こるかといえば、つまりは人間ボウリング必至である。どう考えても「あの勢い」は通常発生しないので、誰もかれもこの一角は避けられまい。

 助けられそうなのは……、とりあえず私のすぐ手前で交通誘導をしていた、ジャージ姿の女子生徒の肩を掴みながら、靴裏に『血蹴板(スレッチ・ブレッシ)』。もはや練度が上がったせいか展開に一秒すらかからないのだが、お陰でスムーズにそのまま後退できる。その際に周囲をかき分けるようにしながら間隔をあけて、被害を出来る限り最小限に…………。

 

「うわっアイツ直立したまま走ってる!?」「競歩? 足首だけであれ程の脚力を……!」「っていうかなんかM○Jのダンスであったよね、あの……、ムーンサルト!」「全然違くね?」

 

 しまった、手馴れすぎててカモフラージュとして歩くようなモーションを入れるのを忘れていた。これでは目立ってしまうではないか…………。

 思考が逸れたせいもあり、やや減速に失敗。引っ張っていた女の子が空中に投げ出されそうになるのを引き留め、結果的にお姫様抱っこの様な恰好に。倒れた人の波にぎゃーぎゃー言うのと、私の背後できゃーきゃー言ってるお嬢さん方の相乗効果でちょっと鬱陶しいのだが……。

 

「ままならぬ……、って大丈夫かアンタ」

「ふぇええええ!? な、何も一切合切全部問題ないッスよぉ! ほらこの通り普段通り健康的なボディー!」

「いや自分のおっぱい下から持ち上げられても何やってんだよって話なんだが……」

 

 ボディー! の所だけ妙に甲高い声を上げて来る少女は、くりっとした目が印象的で……いや、なんというか普通に可愛い子だったのに気づいて、同時にどこか原作で見覚えがあるような気がして……。しかし名前が出てこない。しばらく観察するようにじっと見てると、どうしてか足元に手を合わせて、足をすりすりとしてソワソワした様子。

 

「な、何ッスか? ひょっとして一目惚れでもしてくれたッスか? しょ、正直アリ寄りのアリな感じだし、私、春ッスか!?」

「いや全然違うのだが……」

 

「こーらー! 何迷子になったと思ったらセクハラしてるのよ! ちゅーに!」

 

 ちゅーに? とキリエの叫んだ呼び名に首を傾げる彼女に、再び反射的に「ままならぬ」と呟いていた。

 

 

 

 

 



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ST53.死を祓え!:恋は誘導灯

感想、ここ好き! 誤字報告、お気に入り他、毎度ご好評あざますナ!
学園自警団の面々については、原作5巻や公式ガイドで確認するのが早いかと思います(丸投げ)
 
アンケートは今週いっぱいで一度締めますので、お早めに・・・!


ST53.Memento Mori: Like Is Like a Like

 

 

 

 

 

 (わたくし)は式音・D・グッドマン。アマノミハシラ学園都市・聖ウルスラ女子高校舎に通う女子高生。旧時代より続く魔法使いの家柄にして、代々この聖ウルスラ女子高校(現在は名前が変わっていますが)に所属している一族です。旧暦より出資していたこともあった縁もありますが、代々のグッドマンの女はここで自らの腕を磨くもの、として育ってきました。

 私もその例にもれず、なのですが………………。昨今の魔法アプリの氾濫、乱用に頭を痛めており、前年度からこの学校で生徒会直属の自警団として名乗りを上げさせていただきました。

 

 言うなれば、学園生徒における魔法と秩序を守るため――――ゆくゆくは生徒会長への立候補への布石もかねて、といったところです!

 

 だからこそ職務は当然真面目に忠実に。今日も今日とて頼れる右腕の菜緒やマコトと共に、生徒会からの依頼で朝の誘導と治安活動をしたのですが…………。

 

「うぇひ……、ひひひひ……、へへ、あは♪」

「……マコトは一体どうしたのです?」

 

 朝の活動後に教室に戻る前に今日の経過報告を聞いている際、妹分の彼女がこう、変な風に腑抜けていました。

 伊達マコト。中等部の頃から陸上部でのトップエースであり、現在は兼部という形で自警団に所属。そのためか恰好は普段から体操着が多く、快活な笑顔とそのスポーツ万能さ(あと私以上のスタイルの良さ……)などで、男女問わず学園の中では人気が高い彼女。

 普段なら魔法アプリばっかりいじって、春先の「強制脱衣事件」のような酷い珍事を引き起こすことも多いのだけど……、どういう訳か、今日はそういうことをせず、虚空を見つけて頬を赤らめたり、浮かれた声を上げたりしていました。

 

 私の疑問に、烏丸菜緒は普段通り「のほほん」としながら「お姉さま、それはですねぇ」と続けました。

 

「今朝ぁ、少し事故があったじゃないですか。その時に助けてくれた男の子にキュンキュンしちゃったらしいですよ~」

「こう、年下の子なんスけど、めっちゃ恰好良かったんスよ! ささって凄い自然にお姫様抱っこして助けてくれたし! あとなんか、あの子も私のこと一目ぼれしてくれたみたいな感じだったし、春? 春っスよねぇ菜緒、私、春満開ッスか!?」

「頭の中はぁ、お花畑みたいですけどねぇ~」

 

「お姫様抱っこですって!? それは……、もう責任を取っていただかなくてはいけないじゃない!!?」

 

 危機感を抱いた私の発言に、菜緒とマコトが真顔に戻りました。

 

「えぇ……、いや、段階すっ飛ばしすぎっスよお姉様……」

「それは飛躍しすぎなんじゃお姉様…………?」

「お黙りなさい二人とも!? そもそも女人の柔肌に手を出して只で済むと思っているの!?」

「いや私、ずっと短パン体操着ジャージ姿だからそれを言うのは可哀想なんじゃ……? どうあってもふとももに手を触れたりはしちゃいそうッスもん」

「箱入りすぎじゃないですかねぇお姉様はぁ。大体、今時女子高生ともなれば××××(あんなこと)××××(こんなこと)××××(そんなこと)だって――」

「「菜緒!?」」

 

 放たれた言葉の物騒(えっち)さに思わず顔を赤くする私とマコトでしたが、ことはそう簡単ではありません。私の祖母もかつて魔法使いの男性教諭から様々な「辱め」を受けたことがあるそうで、中々良い相手が見つからなかったと聞きます。(???「高音・D・グッドマンだったけ? 当時十歳前後くらいだったネギ・スプリングフィールド相手に、性癖拗らせただけだろうさねぇ。あとまたガバの予感がするよアタシは……」)

 言うなればこれは、そう! 一人の乙女の今後の人生がかかった、一大スペクタクルなのではないでしょうか!

 

「これは……、見定めなければなりませんね!」

「い、いや別に良いッスよ……(ライバル増えると面倒だし)」

「何か言いましたかマコト! さぁ早くそのお相手の顔と名前を言いなさい! 直々に面接してあげます!」

「お姉様、面倒見良いのは知ってるけどぉ、ちょっとこれは違う感じじゃないかなぁって~」

 

「――――あら? どないしたん、お姉さまたち」

「荒事ですか? でしたらお嬢様、下がって……」

 

 話し込んでいる私たちに、自警団の後輩二人が現れた。どちらも中等部の最下級生、今年から自警団入りした、あまり似ていない姉妹たち。ストレートのロングヘアの彼女は興味津々な風に、サイドテールでキリッとした方の子は何か警戒しながら。

 そんな大した話じゃないですよ~と菜緒が事情を説明してる間に、私はマコトに詰め寄る。と、マコトはらしくないくらいにしどろもどろになって顔を真っ赤にして、手を口元にもっていき指をツンツン付き合わせて視線を彷徨わせていました。えらく可愛らしいじゃないですか……。

 

「うぇ、その……、あんまりその、だってなんか今日転入してきたばっかりみたいだし、迷惑かけるのも悪いかって思ってッスね……?」

「乙女! 菜緒、乙女がここにいるわ!」

「いやぁ~、恋は人を変えますねぇ~」

「照れるッス……」

「マコトはん、首ったけやん。そんなええ男の人、紹介でもされたら……、皆堕ちちゃうんやない?」

「お嬢様!? そ、そんな不埒な輩などこの私の目の黒いうちは――――」

「んもぅ、心配性なんやからぁこの妹は……」

「……そういえば前から思っていたけど、どうして貴女は彼女をお嬢様と呼ぶの? クラスも誕生日も同じだし、てっきり双子だと思っているのだけれど」

「「まぁ、似たようなもの……」」「やね」「です」

 

 そんなやりとりは置いておいて、マコトを全員で問い詰めたり耳に息を吹きかけたり胸を揉みしだいたり足の裏を擽ったりと尋問を繰り返して、ようやく聞き出すことが出来ました。

 

「年下!!? まさかの逆光源氏趣味ですか貴女!?」

「ち、違うッスよ! ただ、たまたまキュンキュンお胎(オナカ)に来た子が中学生だっただけでぇ」

「それだけ聞くと犯罪みたいですねぇ~。えっと、近衛刀太くん……、中等部のぉ編入生ですねぇ。まほら本校舎に編入ってなってます。熊本の方の中学からぁでぇ、仙境富士(ふし)組……建築会社? のところが保護者ってなってますねぇ」

 

 聞き覚えのあるその苗字にふと、姉妹の方に確認を取ってみましたが、どうやら顔見知りと言う訳ではないらしいですね。

 

「近衛……、えっと、親戚かしら? あなた達も確か苗字は」

「あー、ウチらけっこう血筋って複雑なんよお姉さま。ちょっとお母さま確認してくるわ。話、聞いといてぇな~」

「お任せください、お嬢様っ」

 

 興味津々という風に「お母さまにお電話や~!」と何故か楽しそうに駆けていくあの子。その背中を見送りながら、さてどう見定めてくれようかと私たちは作戦会議をすることにしたのでした。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「――――は?? へ?? お兄さま!?? 本当なん、野乃香(ののか)お母さま!!? 前に言ってた、あのお兄さまで合ってるん?」

『せやで~。刀太も二人も、私がお腹痛めて産んだ子なんよ。しっかしエヴァちゃんの所居ると思ってたのに、そっちに来てるってなると……、なんや、えらい事件でも起きるんかね?

 フェイトくんにはナイショしとくから、せっかくやし顔合わせて、助けてあげたらええと思うで? 聞いた感じ、しっかりお兄ちゃんしてくれるよう育ってるみたいだし』

「お兄さま……、お兄さま……! ウチ、お兄さまとかめっちゃ憧れあったんよ!」

『あら~。でも手ぇ出したらアカンよ? テナちゃんとかサリーちゃんとかと違うて血ぃ繋がっとるからハンザイなっちゃうし……あの子らも元気しとるかなぁ、どうしようもあらへん話なんやけどなぁ……』

「テナちゃん……って、お母さまウチらのことヘンタイさんとか思ってない…………?」

『刹那お祖母ちゃんの血ぃ入ってるし、念のためやで? それに刀太は――――』

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 九郎丸がモテモテなのは原作でもそうだったが、意外と私も男女ともにモテモテというか、正確には「積極的に構ってくれる」付き合いが良い連中が多いともいえる。熊本時代のそれとも違う距離感の近さで、言ってしまえばそれだけなのだが、九郎丸はどうにも慣れていない様子だった。

 例えば体育の授業。原作通りに巨大体育でバスケ試合となったが、対戦相手がキリヱが所属しているクラス。私は苦笑いしながら調子を合わせていたが、テンションが振り切れかかってる九郎丸は純粋な身体能力でダンクシュートを連発したりして、原作通りに目立つ目立つ……。他のコートで試合早々体力切れを起こしてベンチで横になってるキリヱが死んだ魚の様な目を向けて来るのも手伝って、制止にかかる他なかった。

 このあたり原作通りの流れにあえて沿ったが、いや、ウン、こう、ガバの気配がないのって最高だね!(他の全てから目をそらしつつ)

 

「と、刀太君、ちょっと、近い……」

「ん? おぉ、悪い悪い……」

 

 肩を組んでヒソヒソ話で「目立ってどうする」と注意した矢先に、恥ずかしそうに私から距離を取って左手を握って口元にもっていって「シュン」ってする感じはいただけない。お前それ確実に見る人が見たら女子だって断定されるやつだろただでさえ顔立ち女性風に整ってるんだからさぁ、女子か! いやまぁ女子なのだろうが……。

 

 …………それもそうだが、明らかに他校の生徒っぽい子たちが上のテラスから見学してるのは何なのだろうか。金髪ツインテールの子と薄茶髪の糸目な子と、あと今朝方助けたスポーツ少女っぽい子の三人が揃ってみている姿は軽い胃痛を覚える。何やら彼女たちの所属する数人で写生大会のようなことをしているのだが、明らかにその三人は私たち、もっというと私の方ばっかり注目してるのだ。

 一人のときは気付かなかったが、全員そろってしまえばもう言い逃れできない。つまりはあの三人、原作でも出て来た三人組である。確かこのアマノミハシラ学園の自警団か何かだったか。実際はもっと人数がいるのだろうが、その中でも目立っていたのがあの三人だったはずである。名前が出て来た覚えがないのと「剥かれた」(注:誤字にあらず)くらいしか記憶に残っていないせいもあり、すっかり失念していた。

 

 というか名前付きでない美形キャラは割と判子絵(顔のバリエーションが似たり寄ったり)になりがちな宿命があるので、このあたりは仕様がない。

 

 それはそうとして授業も終わり昼食時間だが、午前中を超える勢いで人が行き来する購買やらショップやらコンビニやら超包子やらの状況は酷くアレである。……というかMAGGY(まぎぃ)(注:コンビニ)やらフェイマ(注:コンビニ)やらまほらストア(注:スーパー)やらの袋を手から下げてる生徒の数の多さよ。どれも残念そうな顔をしている子たちが多いが、しかし改めて謎の感動が私の胸中によぎった。

 

「これが、麻帆良学園……! 生きてて良かった……!」

「刀太くーん! って、と、刀太君、なんで泣いてるのかな」

「これは心の汗みてーなやつだから気にすんな。で、昼買えたか?」

「いや、刀太君の読み通りかな。焼きたてコッペパンのサンド用に切れ込みはいったやつだけだね……」

「後で俺作って持ってきた焼きそば分けるから、それで焼きそばパンにでもしとけ」

「うん! あ、でも牛乳は買えたよ!」

「そりゃ有難てぇな。サンキュー」

 

「いやー、確かに凄いね。僕もトーストとジャムとスープしか買えなかったよ。まぁこの義骸(からだ)ならそれくらいで充分まかなえちゃうんだけど」

「この学校は百年来こんな感じらしいもの。それはそうと……、おろしトンカツ茶漬け、一口あげるから私も一口ちょうだい?」

「いいッスよ夏凜ちゃんさん」

 

 お金を支払って牛乳を受け取ると、夏凜と一空(教師スタイル)がお盆を手に合流してきた。それなりのナイスミドルな一空だが意外と浮いていないあたりは流石というべきか。そしてこのあたりの流れはおおむね原作を踏襲している形だが、流石にパンだけは味気なかったので、ホテルのキッチンスペースで事前に焼きそばだけ作って持ってきたのだった。

 全然座席もない有様、立って食うにしても夏凜や一空が可哀そうなこともあり、大階段の臨時テラスに向かうことにした。

 

 このあたりも原作通りの流れと言えば原作通りの流れなので良いのだが、しかしいっこうにキリヱが合流してこない。席についてその話題を出すと、苦笑いする一空だった。

 

「アハハ……、確か『この私にかかれば、昼食の争奪戦くらい訳ないわ! アンタは黙ってどっか場所を取って待ってなさい!』って気合入ってたからね。たぶん戻ってくるに戻ってこれないんじゃないかな。場所は連絡しておいたから、程なく来ると思うよ?」

「変な所で意地張るなぁ…………」

「キリヱちゃん、負けず嫌いなんだね……」

「いえ、もともとは人見知りをする子だったと記憶しています。ここまでアグレッシブになったのは、刀太、貴方と話すようになってからですね。一体何をしたのです?」

「大したことはしてねぇっていうか……。っていうか、元々猫被ってただけじゃね? 一空さん先輩はそのあたりどうっスかね」

「アハハ、そうだね。割と前からあんな感じだったよキリヱちゃんは。プライドが高くて、ツンツンしてて、素直になれなくって」

 

 どこかから「ツンデレ?」「ツンデレッスねぇ」という声が聞こえた気がするが、流石に私たちの会話を聞いてのそれではないだろう。テラスの周囲に他の生徒はいないし、特に私たちに注目してる感じも周囲に……、周囲に……、いや人が多すぎてわからなかった。流石に気配が千人超え、しかも全員が好き勝手な方を見て好きにしゃべってる状況では、原作主人公的な気配探知力とかも形無しであるらしい。

 また変なガバに繋がらなければ良いが……、まぁここは師匠でも内心拝み倒しておこう。(???「罪な男だねぇ。アンタのせいだけじゃないだろうが、既にガバはいくつか積み上がってるよ?」)

 

「ままならぬ……」

「はい、あーん」

「んっ」

「か、夏凜先輩!? 刀太君も……!」「わぉ、ダイタンだねぇ」

 

 そうこう考え事をしてると、夏凜が私の口にトンカツをねじ込んできた。味は……、お出汁の味が効いているのだがしっかり関東醤油ベースのスープで中々悪くない。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「マコト! なんか凄いことやっちゃってるけどマコト!」

「お姉様ぁ、マコトちゃん息してないですねぇ~」

「い、いや、あれ感じからするとお姉ちゃんが弟の面倒見てるような感じッスから、まだッス、まだ大丈夫ッス……!」

「マコトはんみたいな趣味の人の可能性もあるんやない? 小さい子ぉ大好きとか」

「グハッ!」

「あ、あれ?」

「お嬢様、手加減なされた方が良いのでは……」

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「ん?」

「どうしたの、刀太君」

「いや、今何か世界が少し崩壊しかかったような声を聞いたような……」

 

 一瞬唐突に胸焼けしたみたいに胃の痛みを感じたが、ちらり、と視線を周囲に見回すと、屋根の上にパーカー姿の影が一瞬だけ見えた。三太の存在でも関知した結果だろうか……、いや、まあそれならそれで良いのだが。

 と、そんな風に食べながら話していると、キリヱがふらふらとしたステップで歩いてきた。どうしたのか尋ねると、ふっふっふと何やら企んでるような声をあげるキリヱ。

  

「よくも煽ってくれたわね一空。いつから私が買えないと錯覚していたのかしら?」

「アハハ、でも実際どうだったんだい?」

「ふっふっふ、私をそんじょそこらのちびっ子と一緒にするんじゃないわよ!」

 

 胸を張って手元のビニール袋をあさるキリヱ。「ちびっ子は認めちゃうんだ……」「ですね」という九郎丸やら夏凜やらの発言は「お黙りっ!」と制し、どこぞの青い○瓶師匠がごとき表情になる未来形猫型ロボットの秘密道具がごとく取り出したのは――――。

 

「…………試行回数のべ十二回にしてようやく……!

 おそれ慄きなさい、『まほら校舎』限定、ガイドブックとかにも載ってる、噂に聞いていた超包子のジャンボ牛まんよ!」

「「「「おぉー……」」」」

 

 一つで袋いっぱいサイズという巨大な肉まんを前に、思わず拍手する私たち四人だったが。

 

「それで、一人で完食できるのですか貴女」

「……ハッ!?」

 

 どうやら「買う」ことが最終目的になってしまっており、後先考えるのを忘れていたらしい。お前ガバ止めろよぅ!(恐怖) お前さんまでチャートガバ引き起こし始めたら収拾つかなくなるから止めろくださいホンマ頼みますホンマ。(嘆願)

 

 

 

 

 

 




※メモ書きが残ってミスがあったので、閲覧してしまった方はすみません・・・
※2一空関係の描写ガバを修正しました汗


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ST54.死を祓え!:原作のビル倒壊

毎度ご好評あざますナ!
 
ちょっと今回長め・・・意外とキャラが立った二人が原因ですが汗


ST54.Memento Mori:The Collapse Of Origins

 

 

 

 

「夏凜ちゃん昔、ここ通ってたの? 母校じゃない!? 道理ですんなり昼食買ってこれるわけよ、ズルい! 教えてくれても良いじゃない! アタシなんて……、って、いや、とにかくズルいじゃない!」

「聞かれなかったもので。とはいえ当時も別に遊んでいたわけでもなく、連続殺人事件の調査任務でしたので。結局解決らしい解決もできない内に被害者がゼロとなったので、切り上げとなったのですが」

「食事中にする話じゃねぇッスよ。ほら、あーん」

「んん……っ」

「なっ、なっ、なっ!?」「と、刀太くん僕それはどうかって思うなぁ!? 夏凜先輩も普通にぱくって食べちゃってるし!」

 

 謎の食いつきの良さを見せる九郎丸と、指をさして顔を真っ赤にして目を真ん丸にしてわなわなするキリヱという構図だが、これに対して私の心はまっさらなキャンバスのごとく真っ白なものである。(思考放棄)

 大体考えてもみて欲しいのだが、こういうのを拒否した場合その後で一体累積したこの謎の夏凜的な距離感がどう暴発するか分かったものではないのである。前回のノーモーションキスは記憶に新しいが、いい加減私も取り繕うのが限界になる時はあるのだ。つまりはガス抜き、ガス抜きである。そこにそれ以上の意味は何もないのだ。(???「言い訳のようにしか見えないけどねぇアンタ」)

 

「ハッハッハ、若いっていいねぇ。僕も十分若いつもりだけど、刀太君には負けそうだよ」

 

 結局その後「僕だって焼きそばもらうって約束だよね? ね!」と迫ってくる九郎丸と「ふ、二人ともやって私もやらないとかメンツが立たないじゃない!」などとのたまうキリヱを相手にそれぞれ一回ずつ(主にキリヱの巨大肉まんを分割して)あーんをしていたが、キリヱはともかく九郎丸お前いい加減……、いやしかし、この流れで「女か!」とかツッコミを入れて「もう女でいいかなって」とか返されでもしたら、正直私の正気が持つ自信がないので、この場では追及は控えるべきだろうか。絶対的な指標らしいものがもはや風前の灯のような状態なので、私としても精神的な安定を保つのに色々必死なのだった。

 

 ともあれ昼食が半分程度進んだ段階で、やっと原作通りに被害状況の話に移るのだが……。このあたり、夏凜よりも一空が率先して情報を出していた。

 

「とりあえず僕が学校に来る前に調べた範囲のことと、こっちに来てから色々『覗いた』こと、あとは他の先生たちに聞いて回った範囲で、かな?

 被害者は二人、いずれも男子生徒で素行はあんまり良くなかったみたい」

「素行とは? 不良ということでしょうか」

「いや? 成績は悪くなかったみたいだけど、聞いた話だと……いじめっ子、ってところだね。一人は男子高校生、一人は大学生。どちらも繋がりらしい繋がりはなくて、共通項と言うとそれくらい、って所かな。一人は飛び降り、もう一人は――」

「そーそー。ちょっと気になってたんだけど、そーゆー普通の事件って、私たちの方に連絡とかって来たりするものなの? 聞いた感じ、そんなに変な事件とかじゃない気がしてるんだけど……」

「死に方が問題、ということですかね」

 

 キリヱの言葉に、残りのスープを音を立てずスプーンで飲んでいた夏凜が答える。

 

「ここの学園長……、雪姫様とは旧知の方ですが、『彼女』に通常ではありえないような事件が再発したら、まっさきにホルダーへ連絡してくれと頼んでおいたのよ。

 大学生って言ってたわね、片方。ということは、おそらく高層階の研究棟が並んでいる場所で亡くなったわね。確か窓がはめ込み型で屋上へは入れないはず」

「さっすが当事者♪ 後で検死みたいなことをするべきかなーとは思ってたんだけど、一足早いネタバレかな?」

「えっと、もう一人の方はどうなってたんですか?」

 

 九郎丸の言葉に、一空が少し意地の悪いような笑みを浮かべた。アレは何か企んでるというよりも、怖い話を振る時の様なそれである。

 

「…………亡くなった人には悪いんだけど、純・物理学的な話としては中々興味深い死に方でね。何だと思う?」

「えっと――――」

 

「――何だ? 君たち、何故ここに君たちの様な二等生徒がいる」

 

 嗚呼そういえばこんな導入だったかと。降ってきた威圧的な声、いかにもエリート然とした長身の男子高生二人の姿に、私は思わず内心ほっとしてしまった。……なにせガバの臭いが一切合切感じられないのだ。謎の感慨が胸中にあふれ出る。オールバック風の髪型の生徒と、おかっぱ風で若干メカクレしている生徒。学ラン風のそれは肩とかに「アマノミハシラ学園本校」と英文字で刺繍された校章がついている。

 見た通りこの二人は、エリート意識をこじらせて主人公たちに絡み、現在の学園カースト的なヒエラルキー構造を読者へも含めて説明し、そこそこの瞬間最高風速で蹴散らされるモブ生徒代表である。(無慈悲)

 この二人、確か名前は……、名前……、悪いが本当印象にない。(冷酷) だがこの印象にない二人が絡んでくれることで、イベントが原作進行通りに進めることを思えば、キリヱ大明神ほどじゃないが拝んでもご利益があるかもしれない。ありがたや、ありがたや。(???「何故そう自分でフラグを投げ捨てたがるかねぇアンタ……」)

 

 とはいえ完全に原作通りに進めても少々問題があるので、ここは雪姫の出来る息子たる私がクールに進行するとしよう。(盲目)

 

「ここ、君たちが座わっている座席も含めてここ一帯だ。ここは我々『一等生徒』専用の座席、君たちの様な二等生徒が入ってきて良いような場所じゃぁない。……そこの教諭も見ない顔だな。我々クラスに紹介されないということは、大方、そこの彼らと似たようなものなのだろう。つまらぬ諍いを起こす前に退出しなさい」

「別にこっちから食ってかかったりはしねぇッスから五分、十分見逃すこともできねーんスか? ケチだなぁ一等生徒サマ?」

「ケ……!?」「なん、だと!?」

 

 初手煽りは基本。一○(チャンイチ)も意外と煽る時がある。まあ優しかろうが○護(チャンイチ)割とケンカ好きな不良に違いはないので、言動もたまにそれっぽい(ヤンキー化する)のだ。

 ちなみに、大体においてそういう場合は戦闘フラグそのものなのだが、この場合は「向こうから仕掛けてくる」のを誘発するための煽りなので特に問題はない。

 こちらの作戦を知ってか知らずか「やけに好戦的じゃない」「だね……?」とキリヱと九郎丸。一空は「僕、大学の方だからねぇ」とオトナな対応で笑っているが、夏凜は目を閉じて彼らの煽りを無視したままスープの残りを飲んでいた……、というより「お手並み拝見かしら?」みたいな視線をちらりと向けて来るので、この場は任されたし、か。

 

「我々の経済観念がどうかは知らないが」

「どっちかっていうと度量ってか器量の話ッスよ。むしろ狭量? いやー、詳細全然知らねーけど一等生徒とか名乗っちゃってるってことは『人を使う』立場ってことッスよね? でもそこまで露骨なエリート依怙贔屓思想丸出しだと面接とか普通に落とされるんじゃね?

 いや、割と煽り抜きで普通に心配する話だな。実際こう、中々面接とかって大変だからなぁ、思いのままになるようなものじゃ――――」

「ええぃ何の話をしている!? そういう意味の分からない話ではないのだ!」

「そうです、ミヒール様が面接落ちすることなど絶対にありはしません! 絶対にありはしません!」

「アドリフ! 念押しするなと何度も言ってるだろうが、逆に怪しく聞こえるではないかっ!」

 

 すみません、と頭を下げるおかっぱ風の生徒はともかくとして。意外と耐性(ヽヽ)がないのは意外とまだちゃんと子供子供しているということか、アルバイト経験とはいわずとも「本当の意味で」「イチから」そういう経験をしたことがないせいか……。いや、流石にそれを求めるのは酷ではあるだろうが、そういうのを明け透けに見せない努力くらいは出来るようにならないといけないのが世の常であると「私は」思っている。

 

 ともあれ軽く煽った(あの程度煽りにすら入らないと思うのだが)くらいで微妙に動揺しているミヒール? たちだが、言わんとしていることは一つ。「魔法を使える生徒」は「使えない生徒」に比べて贔屓されてしかるべき、という慣習が存在するという話だ。

 

「良いか? 多くの国が財政難や治安の悪化にあえぐ中、我が国とて当然例外ではない。そんな中、これほど巨大な学園都市がつつがなく運営されているのは、多くの企業団体たちが私たちのような『使える』生徒たちの才能に期待してのことだ。

 この厳しい世界情勢においては、魔法が使えないだけではなくアプリを買う余裕すらない者たちでさえ、私たちという『優秀な』生徒たちの恩恵でキャリアを重ねていけると言うことだ。

 つまり、見下してる訳ではないのだ。これは当然、あるべき形として……、区別されてしかるべきなのだよ。だから、君たちの側には礼儀が必要、ということだ」

 

 礼儀ねぇ、と。やはりここは煽り一択である。

 

「……何がそんなにおかしいというのだ、二等生」

「いや別にぃ? ただまぁ、単に今のアンタら見て『礼儀』をはらいたくなる生徒って何人くらいるんスかねぇって思って」

「何だと?」

「図に乗るな二等生!」

「別に乗っちゃいねぇッスけど、そういうところ、そういうところ。なんでもかんでも頭ごなしに自分の敷いたルールに従わなければ高圧的に排除しようとして、しかもそれで相手が委縮してるの見るのが楽しいとか思ってて。個人的に正義感とかが全くないわけでもねーんだろうけど、大体の生徒は関わるとトラブルの元になるとか、その純粋な暴力恐れて道譲って。でもそんなこと全然気づく余地がないから繰り返してるんでしょうし、ま! そういう意味では平和な暮らししてるんじゃないッスかね? はた目から見てヤンキーとやってること大差ねーと思うっスけど」

「……な、何を長文でわけのわからぬことを」

「ミヒール様、とにかく馬鹿にされてることに違いはありません」

「それくらいは判っているわ!」

「そーやってコンビ芸してる分にはけっこう面白そーな先輩だと思うッスけどねぇ……。でも別に、スラムで苦学生目指してる子とかと比較する程俺も『大人げない』わけじゃねーっスけど。今朝方人間ドミノみたいなのに巻き込まれかけた、なんかジャージ着てた自警団のヒトみたいな感じでもないし。あーゆー風に真面目にやってくれてる相手ならまー、ご苦労様です! って感じにもなるッスけどねー」

「ジャージの自警団? 嗚呼、伊達マコトだったか。フン、どうせ容姿やらその身体やらに下心があるだけだろうに」

「まぁカワイイのは否定しねぇッスけど」

「刀太君!?」「やっぱりおっぱい星人……!!?」「ふむ」「アハハ、これたぶん話に夢中で周りのリアクション聞いてないやつだね……」

 

 どこかで「マコト! 大変、マコトが息してないの!?」「刺激が強かったですかねぇ~」とか声が聞こえた気がしたが、きっと気のせいのはずである。特にフラグを立てた覚えはないし、彼女たちの自警団三人娘の登場はこの後の決闘騒ぎの後なのだ。ある程度は原作を踏襲した流れで進行している以上、問題はないはずだ。あったら私のOSR(オサレ)ポイントはゼロでギャグキャラだと認めてしまっても良い。(???「ちょっと今朝方の話を少し見返してからもう一度同じセリフを吐けるか見ものだねぇ、そういう所だよアンタ」)

 

「…………良い度胸だ。それだけは褒めてやろう二等生。だがそこまで馬鹿にされ続けては、我々一等生の誇りに疵がつく」

「ミヒール様、伊達マコトも一等生である以上、馬鹿にされているのは我々だけかと――」

「何でもかんでも律義に答えるんじゃないアドリフ! だが、学園の秩序を守るためにも、定期的にこうして『見せしめ』は必要なのだ。ここは直々に、私が手を下そう」

 

 なおテラス下で一般生徒がざわざわと集まってきてるこの状況下において、夏凜は黙々とスープの残りを完食したことだけは追記しておく。ひょっとしてメンタル無敵のお方でして? いや普段の言動からして自分から攻める分にはメンタル無敵のお方なのだろうが……。

 こちらに魔法アプリで「決闘」の承認要求を飛ばしてくる。外見上は空中に浮かぶホログラフィックのそれだが、要は巻物魔術(スクロール)とかで契約系の類のそれを簡略化したものだろう。

 

「学園で私闘は禁じられているが、決闘は禁じられていない」

「私闘禁止ねぇ。昔はトトルカチョとかやってた時代もあったろうに、ままならぬ……。って、絶対魔法アプリの普及のせいだな。めっちゃ危ねぇって話か。やはりままならぬ」

「フン。それだけデカい態度をとるのだ、多少腕は立つのだろうが……圧倒的な差と言うのを見せてあげよう」

「いや普通に拒否するッスけど」

 

 ぺい、と。空間表示されてるそれを払いのけると、今度こそミヒールと相方(?)の…………、えっと……、あど、アドなんとかさんは目を見開いて硬直した。

 後ろを振り返ると、おおむね予想通りと言うべきか。私が矢面に立っている間に全員食事は終了していた。

 

「後は俺の焼きそばちょっとかっこめば……、はい! おしまい。じゃ、使いたいらしいから解散ってことで」

「い、いや、ちょっと待て貴様ァ! この状況で本気で尻尾巻いて逃げるつもりか貴様ァ!」

 

 そそくさと片づけに入る夏凜やら一空、目を白黒しながら九郎丸に誘導されるキリヱはともかく。私の肩に手をかけるミヒールに、面倒くささ全開の表情でもう一押し。

 

「いやだって、全体校則だっけ? 読むと『学内の休憩時間(昼休憩および放課後含)において、校舎内での授業以外における魔法アプリを使用した私闘の禁止』ってなってるし。絶対その決闘だって禁止でしょ。それを自分が一等生徒だから許されるのだー的な発想で強要しちゃうあたり、いやー尊敬する要素全然ないっすわー。礼儀はらうよりも嫌がられて遠ざけられますわー。そういうの親とかから聞いたりしつけられたり学びそうなものだと思うんスけど……」

「黙れ二等生! ミヒール様のご両親は御多忙で、ご実家には乳母とメイドしかいないのだ! しかもそのうちの恋慕したメイドが結婚と同時に――――」

「アドリーフー!!!!?」

 

 いや、意外といじりがいがある先輩たちであるが、あまりこういう感想を抱くと性格が悪いので自重しよう。低OSRである。低OSR(すなわち)死ないし重傷であるので、こういうフラグだけは回避していかなければ……。

 しかし今のやりとりが千人単位に目撃されていることもあり、意外とあちらこちらから笑い声とかが聞こえてくる。なんというか色々と態度とか改めたら、もっと愛されるキャラになるんじゃないだろうかこの二人も――――。

 

「ッ、と、おっと――――」

「ここまで公衆の面前でコケにされたのは初めてだぞ、『赤マフラー』」

 

 予定通りと言えば予定通りだが、どうやらミヒールがぶち切れたらしい。(残当)

 無詠唱で風の刃のようなものを形成し、指先からそれを照射して私の頬を軽くなぜるように切った。つぅ、と血が垂れ……、血装術で傷跡が再生してるのに気付かれないよう調整しながら、私は肩をすくめた。

 

「いいんスか? 私闘って確か禁止ッスよね。これって俺、反抗しても正当防衛成立する感じッスか?」

「私闘ではない。これは躾だ。……人に躾がどうのこうの言う前に、お前こそどうなんだ。親の顔が見てみたいわ―――――」

 

 

 

「――――おおむねこんな顔や! とうっ!」

「はあッ!」

 

 

 

 私とミヒールが一触即発(実際は血蹴板を足裏にちょっと準備する程度で事足りる)の最中、ミヒールの風の刃を「叩き折る」小さな少女の姿が二つ……、二つ? 距離を空けるミヒールのことよりも、眼前の二人に思わず釘付けになる。

 いや、あれ? ちょっと待てその私とか忍とかより小さなシルエットに、そのぱっつんぽいストレートヘアとか、片方前髪から結ったようなサイドテールヘアとかいや、ちょっと、あれ? へ? へ? いや待って何、一体何が起こってる一体何が一体。(動揺)

 

 混乱する私のことなど気にせず、彼女たちはそれぞれ札と剣を構えて叫ぶ。

 

「学内での死闘(ヽヽ)は禁止ってお姉さまたち皆言っとるのに、アカンわぁ――」

「たとえ年上の先輩生徒であれ、容赦はしません――――」

 

「――アマノミハシラ学園聖ウルスラ女子高付属中学部、自治警備旅団所属! 近衛帆乃香(ほのか)!」

「――同じく、近衛勇魚(いさな)!」

 

 オイオイオイオイオイオイオイオイぃぃぃ!? ちょっと所ではなく待てお前たちィ! 声をかける余裕すら驚愕で失われてしまった私に、ちらりと微笑んで視線を向けて来る帆乃香。

 

「色々お話したいんは山々なんけど、そーゆーんは後でな『お兄さま』! いくで勇魚!」

「ええ! 成敗っ」

 

 元気よく走っていく、どことなく私というか原作主人公と似た顔立ちをした少女たちを呆然として見送る私であった。もっとも内心は雨あられ暴風雨集中豪雨にさらされ頭蓋骨を陥没するレベルで様々なものが吹き荒れているのだが。

 だからお前らちょっと待てという次元をすっ飛ばして本当に待って処理が追い付かない。(白目) 大体お前ら顔見せは原作9巻、本格登場は11巻くらいからだろうに! 何でこんな早く出て来てるんだこの馬鹿(ガバ)! お馬鹿(ガバ)共! カトラスもそうだが何か血縁にガバを誘発する血でも混じってるんじゃないだろうないい加減にしろ!!?(ガバ)

 いやしかし、確かに服装的には聖ウルスラ女子高だったか? に関係のありそうな制服姿ではあったので、この場で現れることに違和感があるかと問われるとそんなにないことはないのだが、そう一言で片づけられない微妙な立ち位置だったりするのがあの二人だ。

 

 近衛帆乃香、および近衛勇魚。原作主人公こと近衛刀太を兄と呼び懐きながらも、本来は敵として現れた十代前半、私や忍(下手しなくともカトラス)よりも年下の子たちである。その見た目はまんま「このせつ」、つまり近衛木乃香と桜咲刹那を小さくしたような姉妹だ。能力的にも刹那似な勇魚は神鳴流を使い、木乃香似な帆乃香は札を用いた陰陽道系がベースと思われる術を使ってくる、これまた似ている二人とそっくりな前衛/後衛スタイル。

 原作ではネギぼーずのことを「おばあちゃんがお世話になった先生」と言いつつ「お爺様」とも呼んでいたような気がしたりと、色々とその出自に匂わせられていた要素が多いのだが、結局明かされることなくそのあたりはスルーされていた(尺が無かったともいう)。なんにせよ彼女たちはフェイトの下で月詠共々養育? されており、つまりはどう考えても初対面時は「斬り合いにならない程度でも」敵対関係以外の選択肢がないと思うのだが……。

 

「また妹ですか……、一体貴方の家系はどうなっているのかしら? 刀太」

「そう言われても困るっていうか、あっちも面識ねぇんスけど…………」

「でも、カトラスちゃんよりは二人とも、刀太君にそっくりだね」

 

 確かに目の感じは並べれば兄妹だと分かる程度には面差しやら目の表情の作り方やらは似ているだろうが。ちなみに原作刀太なら帆乃香寄りだが私の場合は勇魚寄りだ。とはいえ私も表情をもっと明るくすれば帆乃香寄りになるので、つまりは全員の顔立ちが似通ってることに違いはない。カトラス以上に血縁を感じるものとなっていたが……。

 

「ままならぬ……」

「こりゃ酷いわね……」

 

 彼女たちの襲撃を受けたミヒールたち? 結果を語るまでもあると思っているのかね?(遠い目)

 

 

 

 

 

 



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ST55.死を祓え!:幼さキャリーアウト

毎度ご好評あざますナ! また深夜なんだ、ウン・・・
話の進行速度ェ・・・やはりガバチャートか(プロット)
 
アンケート今週で一度締めますので、お忘れなくです!


ST55.Memento Mori:Please Make A Contract With Our And Become A Cool Brother!

 

 

 

 

 

「フンッ、いくら一等生徒とはいえ所詮は中等部。去年まで小学生だった者たちに我々が負けるなど――――」

「ミヒール様、その慢心と発言は死亡フラグというものでは?」

「アドリーフ! これは慢心ではない、当然の――――」

 

「神鳴流・桜花絶唱!」

 

 高速で抜刀する勇魚の動きに合わせ、鞘の内に強烈な音が響く――そのまま鞘を前方に向けて突き出し「撃ち出す」ように向ける。果たしてその一撃は、周囲の建造物やら備品やら花壇やら階段やらといった校舎関係を一切傷つけず、しかしミヒールたちにダメージを与えた。一瞬頭を押さえてふら付く彼ら。そのまま体勢を立て直して魔法の準備でもしようとしているのだろうが、上手く直立できないのか、ふらふらと足元がおぼつかない。三半規管あたりを一時的に麻痺させる技だろうか。

 そんな勇魚の技に「まけてられんな~」と両手にそれぞれ四枚ずつ、計八枚の札を持つ帆乃香。それぞれを周囲に散らし、目を閉じ、ご機嫌な風に唱えながら舞う。

 

「ニギタマ・クシタマ・サキミタマ……祓給清給(はらいたまえきよめたまえ)

   高天原爾神留坐 (たかまがはらにかむづまります)

   神漏伎神漏彌命以 (かむろきかむろみのみことをもちて)

   皇神等前爾白久 (すめがみたちのまえにまうさく)――――」

「くっ!」

 

 学生服姿だというのに、既に帆乃香から漂う雰囲気はまさに神職のもの。並大抵のアルバイトでは出せない研鑽のあとのようなものが見え隠れしている。つまりは一目で何か大掛かりなことをしているのが十分に察せられるということだ。

 ふらつきながらもミヒールから放たれた氷結魔法を凪ぐ勇魚の剣だが、凍り付いた自らの刀を見て眉を顰める。もっとも振り回す分には支障はないと見てか、納刀せずに切っ先を向ける。流石に刃はつぶされたものを持ってきているようだが、外見上はほぼ支障がないように見えた。

 

「――争不絶此処乎(あらそいたえぬこのところ)

   安心比幸給閉止(すこやきこころまひさきはへたまえと)

   藤原朝臣近衛帆乃香能(ふじわらのあそんこのえほのかの)

   生魂乎宇豆乃幣帛爾(いくむすびをうづのみてぐらに)

   備奉事乎諸聞食(そなえたてまつることをもろもろきこしめせ)――」

 

 夏凜は文化的な親しみがないのかいまいち不思議そうに、しかし九郎丸やキリヱはその動きに目を見張っていた。かくいう私も、まさか魔法アプリによる呪文省略が常態である今の時代に正式な呪文を完全詠唱するのを直に視ることになるとは想定外もいいところ。しかも呪文の形態からして、分かってはいたが近衛の血筋が強く出ている……。完全詠唱したからとて鬼道(オサレ)と違い威力が変わるわけでもないだろうが、そもそも完全詠唱(オサレ)なのでここはポイントが高いかもしれない。(OSR)

 

「――――『菊理媛(くくりめの)境木(さかき)』!」

 

 最後に手を合わせると、周囲に投げた札が光り、帆乃香やミヒールたちの周囲を淡い光が包んだ。見る限り、ある種の「結界」とかそういう類の術のようにも見えるが、さて。

 一見して効果がわからないせいもあってか、ミヒールやアドリ……、アドリフか、彼らは嘲笑しながらも再び魔法を発動しようと……。

 

「……な、何? 出ないぞ、故障か?」

「そ、そんな馬鹿な……! ミヒール様が片恋していたメイドから、結婚相手の会社より送られた謹製のデバイスだというのに……! ミヒール様の脳が破壊されたのは無駄だったとでも!!!?」

「アドリフ貴様ァ! そこまで話した覚えはないぞ何故知ってる!!?

 えぇいそれは後で拳を交えながら聞くとしても、何故……」

 

 焦る二人を前に、「無駄やで!」と腰に手を当てて胸を張る帆乃香。無駄にドヤ顔なのが年頃も踏まえて可愛らしいが、そういう慢心ポーズは低OSR(オサレ)に繋がると言ってやりたい気持ちもある。まあもっとも相手が相手で手こずるような敵ではないので、今回はスルー一択か。

 

「先輩の(あん)さんら、『菊理媛(くくりめの)境木(さかき)』の中いる間は、うちの魔力よりも『本人の』魔力が低いなら使えんで? なにせお母さま直伝やし、そう簡単には破れへんよ」

「くくりめ……、一体何だというんだ、魔法アプリも使わず!」

「別に使えない訳でもないで? でも『ハンデなしで』真面目にやるとうちの札術ってオーバーキルなってまうし……。なぁ?」

「ですね、お嬢様」

 

 実際問題フェイトや月詠相手にそこそこ鍛えられている二人なので、雪姫とかそういうレベルとは言わないが学生レベルで太刀打ちできるはずはないのは当然と言えば当然か。しかし範囲限定とはいえ魔法完全無効化フィールドは中々に強いが、それとて弱点がないわけではないだろう。逃げられればそれまでだし、彼女の魔力を超える魔力を発揮すれば、それだけで封印を敗れるようであるし。

 

「しかしお嬢様、何故わざわざ隙の多いこれを? いくらお母様直伝とは言え、アプリ併用で詠唱省略の方が速度としては……」

「あー、いやな? その……、せっかく『お兄さま』がいる訳やし、ちょっとカッコつけてもええやん?」

「お嬢様! そこまで私たちも余裕があるわけじゃないでしょ!」

「あ~あ~、聞こえへん聞こえへんもん! てへっ」

 

 ちらりと私の方を見て「てへ★ペロ☆」みたいなポーズを送ってくる帆乃香はともかくとして(一斉にこちらに視線を突き付けるのを九郎丸夏凜キリヱは止めろ)。

 なお結界から逃げようと動いた瞬間に、勇魚の剣戟が「飛んで」くるので、動くに動けない男子生徒二人。そんな彼らににじり寄り、にこにこ笑いながら帆乃香は手をポケットに入れ。

 

「ってなわけで、お祖母様秘伝! 必殺・トンカチ殴打つっこみ(のんびりしろまじゅつ)! 良い子は真似したらアカンで色々!」

「流石にそこまでッ!?」「痛くされるほどはァ!?」

 

「って、それだとどちらにしろオーバーキルですお嬢様ァっ!?」

 

 突如ポケットからトンカチらしきものを取り出して二人の頭に落とした帆乃香に伸びる約二名……。動きからして衝撃が脳内に加わったりしないよう「無駄に洗練された無駄のない無駄な体術」で威力を調整して(つまり痛いだけ)るようだが、良い子は絶対真似してはいけないやつである。つまり悪い妹たちであるのだが、カトラスといい、どうしたものか。

 

「ままならぬ……」

「ねぇねぇちゅーに、アレってギャグで流していいやつなの……? 見た目可愛いけど、ずいぶんえげつないじゃない」

「ま、まぁ手加減はしてるみたいだし、キリヱちゃん……。というよりも、アレ? なんかあの容赦のなさに覚えがあるような……? 神鳴流、神鳴流……」

 

 私の手を引いてちょっと引いてるキリヱにはどう反応を返したら良いものかと言う所だし、九郎丸のそのリアクションは直近でその剣筋とかに見覚えがあったのだろうか。ちなみに一空は「伝統芸みたいなものだねぇ……」と何故かしみじみ頷いており、夏凜は他人事のように妹二人の写真を撮って頷いていた。

 

「ちょ、ちょっと! 制圧のためとはいえ貴女たちが決闘騒ぎをおこしてどうするの近衛姉妹!」

 

 と、そうこうしているうちに下の方から階段を上ってくる生徒自警団の三人……? いや二人。例のスポーツ少女らしき姿が見えない。とリーダー格のツインテールの彼女が帆乃香からトンカチを取り上げながら叱りつけた。 殴られた二人が伸びた後に結界自体は解けたこともあり、どこからかハリセンを取り出してぺしりと一発ずつ叩いた。

 

「まったく、ここで伸びてる二人だけじゃなくあなた達も呼び出しよ?」 

「ええー!? 無茶やん、ちょっと『お兄さま』襲われかけててん、ちょっと気ぃ逸っちゃっただけやもん! ウチ、悪くないやん!」

「わ、私はお嬢様が行くならということで……」

「勇魚かて、お兄さまから血ぃ流れたの見たらすんごい顔しとったやん、抜け駆けさせへんよ!」

「お、お、お姉様!?」

 

 そうこうやりとりしているのを横目に見ながら、夏凜が「皆、撤収の準備を」と声をかける。流石にこれ以上残ったら騒ぎが大きくなるし、なんなら事情聴取でもされたらもっと面倒なことになりかねない。このあたりは原作通りに(しいて言うと一空がキリヱを抱えて)塀から飛び降りるのだが――――。

 

「――あ! ま、待ってください兄様っ」

「っておーばーそゥルッ!?」

 

 距離的に厳しかったのか、瞬動で距離をつめても手の長さが届かなかったせいか。逃げようとする私のマフラーを引っ張るんじゃないせっちゃん似! 貴様! OSR(オサレ)してるだけの衣装をそんな風に乱雑に扱う奴があるか貴様っ! カトラスよりも風情(オサレ)無理解か、情操教育と英才教育するぞ覚悟しろッ!(謎)

 ただ直後に「一本背負い」の要領で軽く投げられ立たされ、そのまま腰のあたりにハグされる形に……、いや待てお前いきなりそんな距離感近いの絶対おかしいからちょっと待て原作見返してこい。(錯乱)

 そして飛び上がり頭とか背中とかにへばりつく帆乃香……、お前ら何か情緒幼稚園児か何か?(真顔) もうちょっと中学生くらいの女子って大人びてるもんだろ絶対この距離感おかしいの私のガバじゃないからな! 絶対だからな! 俺は悪かねぇ!?(白目)

  

「あー勇魚だけずるいー! うちもうちも~」

「いやお前らホント待ておい、こら、抱き着くの止めろって情報量多すぎてちょっとくらい整理する時間寄越せっ!」

「ええー? 硬いこと言わんでよーお兄さまぁ。せっかくこう『生き別れの兄妹たち感動の再会!』みたいな感じなんにー」

「感動要素が全然ないだろこれ、なんでもかんでも勢いでゴリ押せると思ったら大間違いだってーの! っていうか、俺! お前ら! 面識ゼロ! パーソナルスペース、ステイ、ステイ」

「に、兄様……、意外と背が高いんですね……、温かい……」

「お前も顔赤くする理由全然わからないから止めとけっていうか、な?」

 

 刹那顔でそういうリアクションは色々と洒落にならないのである。このせつ過激派とか。(戒め) そして足元から視線を感じると思って見れば、九郎丸が人ごみに紛れながら、らしくないくらい「しらー」っとした目で見てきているのに軽い恐怖を覚えた。お前さんその目、一体何を訴えようとしているのかな……? 生憎そういう機微は視線でわからないが(本音)、兄妹だからそういう嫉妬的なムーブは止めて、止めて……(建前)。

 

「ははははははハレンチ!? いくら兄妹とはいえハレンチではありませんのお二人とも!?」

 

 そしてこちらのジャングルジム状態(冗談にあらず)に指をさし絶叫するリーダー格の女子である。その右腕的な糸目の彼女は、のほほんとしながら「楽しそうですね~」とのんきな物であった。

 

「いやー、でもモテモテですねぇ近衛刀太君さんは~。マコトちゃんも大変ですねぇ~」

「そ、そうですわ! その話もあるんでした。

 えっと、まほら本校舎中等部所属、近衛刀太! さきほどの決闘騒ぎのことも含めて、これから生徒指導室で事情聴取をします!」

「いや、騒ぎにはなってねーだろって……。アンタらなんかずっと見てたろ?」

 

 私の一言に「へ?」と意外そうなリーダー女子と「ほーう?」と何やら余裕をかます右腕女子。なお勇魚はさっきから言動が色々怪しいのと、帆乃香は「なんや、気づいとったん?」と私の頬を引っ張りながら……、止めろ本当に情緒幼稚園児か何かかお前! ぺしり、としっぺをすると「あ痛ぁ!」と言いながら手を離し、落ちそうになる。そんな彼女の首根っこをつかまえて、さながら捕まえた猫のような状態となった。……まぁこのせつ両方ともネコミミしてたから違和感はないかもしれない。(謎)

 

「いやあんな良いタイミングで出て来ること自体おかしいだろって。これだけ広い校舎でそんな『調整した』みてーなタイミングで現れるのって、どう考えたって出待ちしてたか何かだろ」

「で、出待ちしていた訳ではないんです、兄様……」

「せやもん。一応、公的に取り押さえなあかん感じになったのがメインやし。ちょっとくらいお兄さまに恰好ええとこ見せたろう思ったりはあったけど。

 本当はお姉さまたち出ようとしてたみたいやけど、マコトはん逆上(のぼ)せてもうたからな~」

「帆乃香さん、それ以上はあの子の名誉のためにお黙りなさい!

 た、確かに様子を伺っていましたが! それとこれとは話が別です。貴方は一度、この私の目でしっかりとその人格の見極めを――――」

 

「あっでもそーゆーんはちょっと待ってぇ? 少しお話したいことあるんや。

 とりあえず場所移動や、お兄さま!」

 

 へ? と。言うよりも前に、先ほど帆乃香が展開していた札が、いつの間にやら私と二人を囲うように展開しており――――。

 

「!? えっちょ、刀太く――――」

 

 いつかのように九郎丸の声が遠のくのを聞きながら、私は妹を自称する少女二人に拉致された。……まあ、ウン、死天化装使えば脱出は容易だったけど、ここで「そういう」目立ち方する方がガバなの確定なので、ここは忍耐である。(諦観)(???「どっちでも似たようなもんだけどねぇ」)

 きっと師匠に聞かれてたら「どっちだって一緒」みたいなことを言われそうだが。(???「!? 聞こえてないくせにそういうのを予想できるくらいなんだから、いい加減諦めれば良いものを……」)

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「ナニコレ知らない……、知らない展開……、妹たちとかも出てこなかったし、ナニコレ、頭痛い……」

「わぁ凄い、刀太君『ボッシュート』されちゃったねぇ……」

「い、一空先輩!? キリヱちゃんも、いつの間に後ろに!?」

「普通に歩いてだけど? 九郎丸ちゃんが全然逃げてなかったから、気になって様子見に来たんだ」

 

 刀太君が逃げきれず、あの妹らしき二人につかまって「空間転移」系の魔術でこの場から姿を消してしまった。空間と空間を繋げる系統の魔法なのか、足元に吸い込まれるように見えなくなって、一瞬、僕は思考が停止していたらしい。いや、でも流石に僕も神鳴流剣士の端くれとして、そんな簡単に気配察知すらできなくなるほど動揺していたとは思えないんだけれども……。(???「まぁ色にボケたままだと神鳴流なんてそんなもんだよ。「!?」……いやアンタ(ヽヽヽ)のことじゃないよ、「あっちの」アンタのことさぁ。別にネガキャンしてる訳じゃないんだから私相手に詰め寄るんじゃないよ全く……」)

 一空先輩は顎に手を当てて「んん……」と悩ましい声を上げる。

 

「これは現場に向かうの、一時中断かな。あの子たちも学生だし、たぶんお昼休み終わりまでには解放してくれるんだとは思うけど」

「あれ? そういえば夏凜先輩は……」

「あー夏凜ちゃんね。夏凜ちゃんはこっちに来る途中で『あの妹たちの前に少し話し合わなければいけない相手が出来たようですね』って言ってどこかに……」

「は、はぁ……?」

 

 困惑する僕と一空先輩に、ぶつぶつとこの世の終わりみたいな顔をして呟き続けるキリヱちゃん。こういうのカオスって言うんだっけ、中々混沌としてるんじゃないかな。

 ちなみにここ、テラスからは結構離れた位置まで来てるので、多少は僕らに注目する人も減っていた。……まぁだからといって「僕が傍にいなかったからって」刀太君をさらっていってしまうようなことをされるとは全然思ってなかったんだけど。

 

 そんなことを話していたら、携帯端末に着信が来た。チャットメッセージは夏凜先輩からで……。 

 

『一人増えました』

 

「どういうことですか……?」

 

 添付写真にはピースサインで自撮りしてる夏凜先輩と、その後ろで耳を真っ赤にして顔を隠してる、ジャージ姿の……ちょっと見覚えのある女子高生が映っていた。

 

 

 

 

 



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ST56.死を祓え!:石橋を叩き割った音

毎度ご好評あざますナ!
アンケート本日で一度締めます・・・! と感想600超えたら、番外編アンケートか何かとろうかしらとちょっと考え中です汗


ST56.Memento Mori:Breaking the Bridge

 

 

 

 

 

「わー、ホンマ! お兄さまがうちらのお部屋来てるわー! うわー! めっちゃなんかムズムズするえ! 勇魚、お茶とお菓子出すで!」

「お、お姉様ァ!」

 

「…………」

 

 いきなりで申し訳ないのだがテンションについていけそうな気が全然しないのだが、視線を彼女たちから外して窓の外の方に向けるともっと意識が飛びそうになる。オーシャンビューを臨む高い位置に少なくともこの部屋は存在する。

 まず彼女たちの転送魔術で吐き出された場所が「近衛 野乃香」と書かれた表札のマンション部屋の前だった。「ののかってこう書くのか……?」などと感想が出て来るよりも先に「こっちこっちお兄さまお兄さま♡」とテンションが妙に高い帆乃香に手を引かれ、虹彩認証で室内に。モデルルームのように妙に綺麗と言うか、中途半端に物のない部屋のリビングまで招かれたのが現在である。

 

 否、招かれたというか拉致されたに等しい。つまりは学校から学外へ、しかも言動が正しければ彼女たちの「実家」である。

 

「一等地のマンションじゃねぇか……」

 

 窓の隅の側に目を向ければ、そこにはもう堂々とアマノミハシラ、つまりは軌道エレベーターがジャックと豆の木なんて比じゃないくらいの圧巻な存在感を放っている。そして微妙に物が少ないものの、視線を周囲に振ればアルバムやら恋愛指南書やらが点々と……。そしてあまり認識したくないモノだったが、本棚の上に置かれてる写真が三つ。「木乃香似の女性」が雪姫とフェイトの腕をからめて笑顔で写真の真ん中に鎮座しているもの、今よりもっと幼い姿の帆乃香と勇魚とその女性。そしてもう一つは…………。

 

「…………頭がおかしくなっちまいそうだ」

 

 祖母だろう木乃香と刹那本人(九郎丸の持ってる剣に似ている「夕凪」を持っているから間違いないだろうし、二人とも当然のように若い)、その子供なのか同い年くらいに見えるこれまた二人にそっくりな女性……、女性? 刹那似の方は男装スーツ姿だが二人、さらにその真ん中に木乃香似の少女が映っている。何だ人間マトリョーシカか何か?(困惑) もしくはコピペか何か……、いや実際クローンの可能性も「あの二人」ならなくはないのだが、闇が深い話の気もするのでこのあたりは考えるのを放棄しよう。

 

「お待たせな~! じゃじゃーん! 抹茶あんみつパフェキャラメルクリームいちごモリモリな店舗限定デコレーションカステラやで! 月詠はん(お師様)のやけどお客さん来たら全然気にせんで出してええってお母さまいってたし、皆で食べよか♡」

「いや何でも混ぜりゃ良いってものじゃねーんだが……」

 

 す、と無言で湯呑を差し出して私の隣にちょこんと正座する勇魚。目を点にして下を向いて固まっているのは一体どういう心境からなのかはすぐさまの実害がないのでさておいて。テーブルの上に置かれたそれは明らかにもう名称からしてごった煮感の強いスウィーツであるが、帆乃香の一声に勇魚がさっとナイフで切り分け配膳を――――。

 

 

 

「――――ふぅ、ちょっと一つ貰うネ」

 

 

 

 そして脈絡も伏線もなく唐突に「湧いてきた」声の主に、私と近衛姉妹はフリーズを起こした。

 頭に布でくるんだシニョン二つ、そこから垂れる三つ編み。頬は赤らんでおりわずかに幾何学模様のような痣の跡のようなものもある。目はくりっとしていてどことなく私たちの血筋を思わせるが、一見して能天気そうに笑いながら「甘いネー!」と身を震わせるこの声に私は聞き覚えしかないし、もっというとそのチャイナドレス風な恰好にも心当たりしかなかった。

 

「ひょいパク……、うん、美味ネ~~~!」

「「だ、誰やぁ~~~~!?」」

 

 とはいえ私と違い事前情報が全くない二人はそろって抱き合い目を丸くして半泣きで絶叫した。……強いて言うとその間に私を挟むのをやめておけ。別にお前ら姉妹ではあるが百合ではないんだろうが、絵面として過激派に見つかると命の保証が出来ないかもしれない。(このせつ)

 まあ雰囲気からして箱入りとは言わないだろうが完全にリラックスして寛ぐモードになっていた二人に、いきなりの不審人物は唐突すぎて処理が追い付かないか。まだ子供だもの。(お兄ちゃん目線) とりあえず頭を撫でてやりながら引きはがしつつ、件の相手を見る。

 

 (チャオ)……、(チャオ)鈴音(リンシェン)。宇宙人(火星)で未来人(大体2100年代)で異世界人(別な世界線)で超能力者(魔法使い)である。もっと言うと元祖「ネギま!」時点で本人が自称していた通りにネギ・スプリングフィールドの縁者。すなわち子孫であり、私たちからすると遠い親戚の様な関係になるはずだが、それ以上にお前待て登場するのって最後の最後、ラスボス戦におけるジョーカー的扱いだったろうに一体何がどうしたというんだ!? 一体私が何のチャートを間違えた結果だ出てこい責任者!!?(???「鏡を見れば良いだろうに」)

 

 一切れケーキを食べ終えると、不思議そうに私の顔を見る超だが、そんな彼女に私は一体どんな顔を向けていることか……。少なくとも絶対半眼にはなっているはずである。

 

「ん? あれ、タローマティ(ヽヽヽヽヽヽ)は居ないネ? こんな美味しいもの、彼女のいないところで食べると後、怖いアルよ」

「いや、誰ッスかそれ。というかアンタも誰ッスか」

「いや何言ってるネ、先輩(ヽヽ)。昨日だってタローマティの拠点で散々修業してたヨ。私、毎回ここの時空間座標を割り出して飛んで来るのタイヘンで…………? あれ? あー……ッ、アイヤ!? まさか、この私にも先輩のガバが感染(うつ)ったネ!?」

 

 私の顔を見てさも当然のように色々と話していた彼女だったが、周囲を見渡し、そして窓の外の解放空間(海と都市と軌道エレベーター)を目撃した結果、両手で頭を抱えて騒ぎ出した。いや先輩呼ばわりされる意味も良く分からないが(どちらかというと麻帆良学園的にはむしろ後輩である)、ガバが感染したとは何だ。病原菌のようにガバのことを言うんじゃありません、ガバが可哀想でしょ!(良心)

 まぁ発生し次第即刻潰せないか検討はするが。(豹変)

 

「あー、そういうことネ……。てっきり彼女から聞いていたから驚かなかったものだと思ってたけど、そういうことネ……」

「何がそういうことなのか全く分からないんスけど……、えっと、何? ケーキ泥棒?」

「イヤ、そんなつもり無かったけど……、流石に戻しようがないネ、对不起(ごめんヨ)

 

 すっと手を合わせて「ごちそうさま」と言いながら頭を下げる超に、未だ妹たちは何故か冷静さを取り戻せていなかった。ちらりと見ると、やはり何故か涙目である。そんな様子を超の方も見ているせいか、「このままカシオペア使って行っちゃうの流石に良心が痛ム」と何やら悩みだしたが……。手元で何かをいじった後、瞬間的に姿を消した彼女だが、それとほぼ同時のタイミングで同じ場所、つまりは私たちの向かい側に現れ。

 

「補填できるかは知らないが、先輩はこっちの方が好みのはずネ。これで代わりということで頼むヨ! では再見(サラバ)

 

 そう言いながら、そこそこ高級な羊羹をテーブルに置くと同時に、ウィンクしてまたその姿を消した。今度こそその姿を完全に消した。後には大きなケーキ4つ切りのうち一かけが無くなったホールと、ハチミツが描かれている羊羹の箱パッケージが一つ。

 確かにそういうシンプルめな味付けの方が好みと言えば好みだが、つまりそれを彼女が知ってると言うことは、将来的に確実に彼女との遭遇イベントが存在する訳で……、しかもアレだ。修行とか言っていたということは、おそらくそれなりの期間は一緒に過ごすことになるのだろう。…………当然だが原作にそんな話があるわけでもなし。

 

「ままならぬ…………」

 

 静寂。震える二人の息遣いと、エアコンが絶賛可動している音だけが聞こえていた。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 暴力的に唐突に現れて唐突に去っていった誰かのせいで一瞬フリーズしていた私たちだったが、再起動にはさして時間がかからなかった。なにせ三者ともに現在昼休みの学校から「脱出」してしまってる状態なのである。休憩時間の終わりまでに戻る必要がある以上、善は急げだしタイムリミットはそこそこだった。理解し難い現実を無かったことにしてしまうのは、どうかと思わないではないが今回はスルーしてあげるのができた兄貴というものだろう。

 

「あー、やっぱ美味しいわぁ。この地獄の様な甘さが脳に染み渡るわぁ」

「ですね。あっその、お兄様……」

「いや、いいよ。二人で分けて。俺はこの羊羹一つ食ってるから…………。っていうかこう遊んでてちゃんと休み時間終わる前に戻れるんだよな。結構校舎広いぞ?」

「大丈夫やで? うちら、たまーにこうして抜け出して遊んでから帰ってるし」

「そこはちゃんと最初から最後まで学校いろよ女子中学生……」

「お嬢様がそう決められたのでしたら、私は異を唱えるつもりはありません」

「んも~、そうやって兄さまの前でかわい子ぶるんやもんな~勇魚は。勇魚だって甘いものには目ぇないからノリノリやんいっつも」

「お姉様それ言っちゃダメや~~~~!」

「わぶっ」

 

 勇魚、どうやら動揺すると標準語が崩れるあたりも刹那に似ているらしい。そんな彼女は目を丸くしながら姉の口を塞ぎにかかっていたが、ついでに私も巻き込んで蹴っ飛ばすのは止めていただきたい。(当然) と言うかそもそも招かれて早々にお茶会となってしまっているので、全く姉妹と自己紹介的な会話すら成立していない事実に気づいた。だというのに自分たちのペースを押し通し続けるこの姿勢、これが……、若さか……。(???「だいぶメンタルが壊れて来てるねぇ……「アイヤっ戻ったヨ! コレお土産ネ!」、あら気が利くじゃないかい」)

 

 とりあえず暴れるのがひと段落したのか、二人そろって私に三十センチくらいの近距離で自己紹介をかましてくる……、いや本当、見れば見るほどこのせつだなこいつ等……。

 

「まーなんかお話する前に自己紹介しとこか? うちは、近衛帆乃香、こっちは勇魚。二人ともお兄さまの妹なんえ? お母さま同じなんよ」

「ふ、不束者ですが……」

「その挨拶はおかしいから止めとけ? でー、えっと、何? 俺のことは知ってる訳?」

「知ってるで~、知っとる知っとる」

「自警団は一応、生徒会の部署の一部ですので。素行の悪い生徒を調べたりと言った必要もあるので、必要に応じて生徒個人の情報を調べられます」

 

 まあこれが二十一世紀初頭くらいならプライバシーの侵害云々が問題に出て来るだろうが、生憎今は若干末法めいている世の中なところがある。ある程度「権力への制限」は必要だろうが、治安維持のための行動には多少制限が緩くされているらしい。

 とはいえ、話はそこではないらしいが。

 

「アレや、一応、前から聞かされてててな? うちらにはお兄ちゃんおるでーって。過ごしてる場所違うから、どんな風に育っとるかわからんって言ってたけど」

「聞いてたっていうのも、誰から聞いてたんだって話なんだが……」

「お母さまと、フェイトはんや」

「お、おう……」 

 

 にこにこ微笑みながらそんなことを語る帆乃香であるが、その異様に素直でもったいぶらない会話に、私は軽く戦慄した。アレだこの子、まだ隠し事とか出来る感じの年頃じゃないのでは? 言っては悪いが、多少駆け引きが必要な場面である以上はそういう情報はもうちょっと小出しにしてくるはずであるが……。「どうしたん?」「どうしたのです?」と無垢な目で見て来る両者に、思わず天を仰ぎたくなった。つまりこの子たちは、原作準拠で考えて現時点で話してはいけないような設定とか裏話とかをポンポン放り投げて(あるいは口からこぼして)しまう可能性がある。ある意味でミヒールと一緒にいたアドリフのようなものだ……、いやあっちは原作で全然しゃべってなかったからそんなキャラ付けになるとか思ってもみなかったのだが、さておき。

 

「あ、せや! お兄さまぁ、そのよーかん一口くれへん?」

「別にいいけど……」

「ほな、あーん」

「お嬢様、流石にいきなりでそれは……」

 

 大丈夫大丈夫と勇魚を制し、箱から新しい羊羹を取り出して口に入れてやる。「ん!」と声を上げるあたり、これもこれで悪くないのだろう。自分で購入したわけでもないが少し嬉しくなる。と、勇魚が何やら私と食べかけのケーキとの間で視線を行ったり来たりさせているが、何やら葛藤しているのならそれはそのまま葛藤したままでいてくれた方が私の胃には優しい気がするので、そっとしておこう……。

 

「あー、で? 一体何を話したかったんだ」

 

 会話の内容を選ぶのは慎重に……、気を抜くとガバが連帯組んで空爆して私にガバの大穴を空けようとして来るのは確定的に明らかである。だからこそ当初、彼女たちが言っていた理由をまずは確認することにした。これなら必要最低限、まずここから帰ることが出来る最低条件を満たせるはずだ。

 そう考えていたのだが……。

 

「…………アカン、何も考えてへんかった」

 

 帆乃香、真顔である。

 どうやら色々理由を付けただけで、深い意味もなく私を拉致して来たらしい。

 

「お嬢様……」

「お前……」

「ちゃ、ちゃうんやって! こう、なんやお兄さまと一緒にお家でなんかして遊びたかってん! 何して遊ぶとか全然決めてへんかっただけで!」

「遊ぶのは確定なのかよ……」

 

 本気で授業に戻る気があるのかと問いただしたい気分だが、その気になったら通信教育でどうにかなりそうな気もするし(原作だとおそらくそうしていたはず)、考えてみればまだ中学生か。試験勉強はともかく、普段不真面目ならこれくらいは普通…………、普通……? いや普通は遊びにわざわざ自宅まで行ったり来たりはしないか。(残当)

 そうこう適当に話しながらテレビを付けたり、唐突に帆乃香が「膝枕してー! 膝枕! なんか憧れあるんや」とか言いながら勇魚同伴で私の両足に頭を乗せてきたり、割とやりたい放題である。カトラスがこう、ちゃんと大人びていたせいもあるのだろうが、ここまで露骨に甘えて来る姿勢は割と新鮮だった。…………ただあまりべたべたすると、血装術使ってないから若干汗臭いのが残るので止めた方が良いぞ。(庇護欲)

 

「っと、あー、アレだな。一応ニュースには流れてるのな」

「学園校舎の事件ですね、兄様」

 

 私の言葉に続く勇魚だが、膝枕されたままシリアスな表情になってもいまいち締まらないが良いのかお前さんそれで……。

 テレビで流れてる映像は、学園校舎を外から撮影した程度のもの。時間にして一分足らず、つまりは事件の異常性は報道規制が敷かれているらしい。もともと麻帆良学園そのものに魔法界および政府の手が入っているのは確実なので、そういったところはアマノミハシラ学園になっても引き継がれているのだろう。

 

「事件って言うと、アレやな? お兄さま、七不思議知っとる? 学園都市全般の」

「いや知らねぇけど……。アレだろ? 旧時代からわりと変に真実味のある話がいっぱいあるやつとかじゃなくてか?」

「まぁ魔法中年とか、今見たら完全にただの魔法教師やもんなぁ~。

 ただせやの~て。トイレのサヨコさん。サヨコの呪いってのがあるんや」

「花子さんじゃねーの……?」

「そういえば、そんな話題がクラスでも上がってましたね。どこまで真実かは定かではありませんが……。八年ぶりがどうだとか」

 

 八年ぶり……? 八年ぶりか。そうか。どうやらガバにガバを重ねつつも、一応はガバも神様も多少は温情措置を与えてくれるらしかった。すなわち、多少なりともイベント本筋の進行への貢献である。

 麻帆良学園の噂とか七不思議とか、そういう類のものはおおむね学園内で魔法関係者だったりが色々やっていることへのカモフラージュで流される噂話だったりするのだが、実際は7割くらいが真実そのままだったりする。おそらく傾向事態はアマノミハシラ学園都市になろうと何も変わっていないだろう。

 ということはそれに準じているところに語られる、八年前から呪いを使っているサヨコさんというのは…………。

 

「その話、詳しく聞けねーか?」

「あ! うち、色々そういうん聞いてるで?」

 

 そんな流れで、私は帆乃香から学生間で噂されているサヨコさんの話とやらを知ることになるのだが…………。

 

「あの、二人とも時間が……」

「なん、だと?」「ふぇえ!?」

 

 一通り詳細を深堀して聞いていたら、午後の始業ベルが鳴る時間らしかった。流石に前半で少し遊びすぎたらしい。仕方ない九郎丸たちに連絡を……? あっしまった携帯端末が教室のバッグの中じゃねーか!?

 遠い目をする私に「まー遅れたもんは仕方ないし、もっと遊ぶで!」とノリノリな帆乃香だった。

 

 

 

 



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ST57.死を祓え!:ニアミス

毎度ご好評あざますナ!
章ごと前書き先頭へポエムを入れようと画策中ですが中々良いのが浮かばない・・・、

追記:アンケートお答えあざました!調整していきます…


ST57.Memento Mori:Near-Miss 

 

 

 

 

「――――んん、今日は夕方でもう終わりとか。先月のプロジェクトに比べてだいぶ楽なったもんやなぁ野乃香はん。帰ったらケーキでも食べる?」

「あ~、たぶんアレやな。帆乃香たちが早々に食べ終えてるのに賭けるわ、うち。あの子ら甘いの大好きやし、あんなん残ってたら絶対色々理由つけて言い訳つけて食べつくしとるに決まっとるわ」

「あらあら……。全く誰に似たんやらなぁ」

「うち、月詠はんのせいやと思うけど。変に頑固なってこう『ゴーイングマイウェイや!』ってなるん、絶対月詠はんが意固地なったら全然話きかんとこの影響と思うえ?」

「せ、せやろか……? アカン、それって私アレ、面倒な女って殿方思われへんやろか」

「今更気にするん? だって月詠はんて今年でひゃk――――っ、あ、『来たれ(アデアット)』!」

「――――なんや? 珍しく命、要らんくなった?」

「別にそんなことは言ってへんって……。首に刀つきつけるの止めてって、何? あれ? ひょっとして刹那お祖母ちゃんとか茜奈(せんな)パパ(ヽヽ)とかじゃなくて、新しい若いツバメでも見つけたん?」

「いやん♡ まだ全然そんな関係なる気配やないん、もぅ~。まあ顔は可愛えかったけど。まだまだ甘ちゃんやし、気質もそんな合致する感じやあらへんけど、『この年になって』きゅんきゅん来たのはもう何か、そーゆー宿命でもある思うわ」

「月詠はんそんな乙女みたいな動きするの私、初めて見たわ……。そっか、せやねぇ。それで月詠はん今『そないなっとる』んか」

「どんな言いぶりやん、もう。女はいつまでたっても乙女、至言や」

「自分で言うんね……。さて、と。部屋はどないなっとるか……」

 

「「「…………」」」

 

 うちが部屋の鍵開けて入ったら、なんや札術で魔法陣展開しとる帆乃香と、慌てた感じで私の顔見て『誰か』に隠れるような勇魚に……、なんかだいぶ昔に見た、ちょっとやんちゃそうな髪の男の子おった。……っていうかめっちゃ見覚えあるわ。エヴァちゃんの顔とか、あとネギ「お祖父様」の顔がフラッシュバックするわ。

 気のせいやなかったら……、いや絶対気のせいあらへんわ、これ。でもファッションセンスは変やなぁ、厚ぼったいマフラーなんてまだ残暑残っとるのにして。あの子は私の顔見て、なんか疲れた感じの表情なった。

 

「ままならぬ……」

「んんんん? あれま、遊び来たん? 刀た――――」

「お母さまゴメンな! 授業遅れてまうから!」

 

 私が確認する前に、三人は床に展開された陣で、たぶん麻帆良の方の校舎に転移した。

 …………。

 

「いや授業いうても、もう夕方やん帆乃香…………。えっ何? 昼休みからずっとこっち()ったんかあの子ら」

「あははははは! これは次帰ってきたときは、みっちり(しご)かんとアカンねぇ?」

 

 私の言葉に、こう、めっちゃ可愛い感じのゴスゴスしたお姫様みたいな恰好した「十四歳くらいの」月詠はんは、お腹抱えて怖い感じに笑っとった。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「おお~! 現場のAR、拡張現実映像~! 凄いなぁ一空はん……、て何で目ぇ隠すん? 勇魚」

「お嬢様の教育的によろしくありません。ここは私が――――って、な、ななな! なんで私も目隠しされるんですか兄様!?」

「いやお前、さっき帆乃香が『ホラゲーやろホラゲー!』って言って早々に脱落してたろ、戦闘時とかじゃなきゃそんな得意でもねーだろうが。無茶すんな。

 というかまだ帆乃香の方がそーゆーの得意だろうに」

「あー! 勇魚ずるい~!」

 

「……べ、ベッタベタじゃないのよっ!?」

「ホント、す、凄いベタベタしてる……!」

「ベタベタしてるし、だいぶ甘やかしてるわね」

「あははははは……、はは……(血の雨降らないといいなぁ)」

 

 そういう血なまぐさい事態にはさせません、と一言一空に言い、私は刀太たち三人を観察する。午後、刀太がまだ戻っていないと恐慌していた九郎丸に「カトラスちゃんのことを思い返せば、そう差はないのでは?」と落ち着けてはいたけど……。まさか食堂でおやつしながら「いや~、堪忍してな? お姉さん達。ちょっと初お兄さまに二人ともテンション上がってて、振り回してしもたわ~」と、可愛らしい感じに謝られるのは想像していなかった。

 聞けばどうやら、刀太と彼女たちは同じ母親から生まれた兄妹同士……、ではあるらしいとか。カトラスちゃんのことを考えれば矛盾があるのだけど。

 

『ぎりぎり矛盾しない推論はあるけど、まー、そういうのは雪姫が覚悟してからな。下手に家族関係を荒立てると後が色々怖い……』 

 

 表面上は苦笑いで済ましていたけど、私の「乙女センサー」的な直感が、素ではだいぶ消耗しているのを感じ取った。でもこの間のようにキスしたりハグして甘やかすほどでは無く、兄妹的なふれあいは多少楽しんでる節もあると。カトラスちゃんの時と違って命の危険があまりないせいか、気張っていないのか、甘やかし方は結構自然体に見えるのもそのせいかしら。

 

 あれが自然体……、素ではないにしても。

 そう。…………ふふっ、良いお父さんとかになりそうね。

 

 刀太自身、妹を名乗る彼女たち二人に対する接し方は全然違和感がないように見えるくらい自然と肉体的接触が多くて、ちょっと九郎丸が嫉妬してるわね(特に露骨に照れてる勇魚ちゃんに)。キリヱは……、えっと、一体その珍妙な顔はどういった感情なのかしら?

 

 仕方ない、ここは不死者の先輩として私がひと肌脱がなくては。「安心なさい二人とも」と言って九郎丸とキリヱをこちらに引きよせ、乙女の内緒話タイムとしゃれ込むわ。

 

「(だ、大丈夫って何よ夏凜ちゃん……、って九郎丸はこっちでいいの?)」

「(あはは、ま、まぁそういうことだね。刀太君にはまだナイショで、お願い?)」

「(えぇー!? まずいじゃないのアンタ、寮! 今晩たしか一緒の部屋なんでしょアンタ! ピンチじゃないの!)」

「(そ、それはそうなんだけど! いや、でも刀太君けっこう紳士だし、たぶん気づいてないから、『そういう』危険はないっていうか……)」

「(紳士っていうより馬鹿なんじゃないの? ちゅーにだし)」

 

 いえアレはどっちかというと気付いた上で事情を話してくれるのを待ってる振る舞いと言うか……。いえ九郎丸の場合、現実がその想定されるものをはるかに凌駕するものなので、後は本人の勇気次第ではあるのでしょうが。

 

「(そんなことより。あまり露骨に警戒する必要もないわよ)」

「(ど、どういうことよ?)」

「(見なさい、あの刀太の表情。何の感情も浮かんでないわ。異性を意識する刀太の表情ではない……。

 つまり! あの二人のポジションは雪姫様に向ける親愛の情に近いということ! たとえあの二人が刀太にどういった感情を抱いていたのだとしても、刀太側にその気が全然ないのなら問題はないわ!)」

 

 しいて言えば慈愛とか「しょーがねーなー」という感じかしら? 大体カトラスちゃんと違って「本当に」実の兄妹のようだから、まかり間違って「そういうこと」が起こるなら止める必要があるけれども。

 びしっ! と指を差した私に、九郎丸とキリヱは衝撃を受けたような顔をした。

 

「(で、でも夏凜先輩! 勇魚ちゃんずっと刀太君のマフラーでチラチラしてる鎖骨ばっかり見てるよ! ぜったいエッチな目だよ! 僕知ってるんですから、エッチの意味はHENTAIのHだって!)」

「(九郎丸、それに気づくってことはアンタ……)」

「(そういうキリヱも、抱き着き癖みたいなものがある帆乃香ちゃんに向ける目が――)」

「(な、なんでよ! っていうかそもそも何で私まで巻き込まれる話になってるわけ! べ、別にあのちゅーにのことなんて、何とも思ってなんていないんだからっ)」

「(とはいえ肉体の戦闘力でも刀太の方が上でしょうから、そうそう酷いことにはならないと思うけれど……)」

「(夏凜先輩、ちょっと見方甘くないですか!?)」

 

 いえまぁ、甘いというよりも……。「素」についての話はどうもあの子がされるのを嫌がってるみたいだし、私もそういった口止めを破って「また泣かせてしまう」のは本意ではないもの。だからあまり多くは言えないのだけど、さてどうしたものかしら。

 

 そんなタイミングで、映像投影の完了した一空が苦笑いして私たちに声をかけた。……見た目は壮年なのに声だけ普段通りで違和感すごいわね。

 

「…………あー、皆悪いけど現実に帰ってきてねー、特に夏凜ちゃん。凄い面白い話をしてるのは判るんだけど」

「ちゃん付けは止めなさい飴屋一空。……しかし確かに話が進みませんか。

 刀太と近衛姉妹、こちらに来てください」

「あ、わかったッス」「おっけぃや夏凜はん!」「承知しまし……ひゃぅ!?」

 

 今、一体なんでえっちな声を上げたのかしら勇魚ちゃんは……。

 しかし、現在の目的を忘れてはなりませんか。仕方ない、そのあたりは後日に回しましょう。マコトの話もしなければいけないでしょうけれど、現場調査が終わってからね。死者に祈りを捧げてから、調査を続行する。

 ……ちなみになんであの姉妹が同行してるかといえば。

 

『うちら皆さん程すごくないけど、なんかお役に立てると思うえ? それに自警団としては、なんや変なことせぇへんか監視の意味もあるし!』

 

 そんなことを言って、その後ずっと無口だった妹さんも含めて刀太に甘えてる状態なんだけど…………、いえ、まぁ女の子として思うことは一旦脇に置いておいて。実際問題、生徒会関係者、それもこちらに好意的である相手がいるというのは、私たちの調査においてもスムーズに進む可能性がないわけではないので、ここはマコトのツテ含めて様子見かしら。そもそもなぜ私たちの実力というか、立場について追求してこないのかとかも不思議だけれど……、あの仲の良さを見るに、刀太が話したかしら。

 

 私たちは現在、大学校舎のキャンパス側に回ってきている。例の事件における被害者、高校生と大学生のうちのまずは大学生。遺書もなく、外見上は衝動的な飛び降り自殺と判定されてはいるものの、一空が言った通りに高所からの落下が考え難い状況になっている。両側にある向かい同士の校舎、地上十二階建ての研究棟は、窓がはめ込み式で締め切られており、屋上は容易に立ち入れない。また監視カメラも搭載されていて、そこに被害者が映っている様子もない――――死の直前のそれ以外は。

 

 一空が教師陣のツテを辿って……、飴屋一空だけは一週間前からこちらに顔を出していたせいか多少知り合いが多いのだけど、そのツテで監視カメラ数か所の映像を入手していたこともあり。それらの映像を統合、投影して、ARだったかしら、立体ホログラフィックの映像のように現場に投影していた。

 ちなみに見やすい場所に移った後、近衛姉妹は二人そろって刀太に目を塞がれて「ふぇえええ」「あううううぅ」と情けない声を上げていた。

 

「キリヱも大丈夫か?」

「へっ、何が?」

「いやお前も割と引きこもってたから、こういうのって苦手かって思ってんだが……」

「別に大丈夫よ。『何度も見慣れてるし』」

「あー、悪い」

「何謝ってるの、何の話を……、って、別に大した話じゃないから」

「おう」

 

 そう言いながらも、少しキリヱの手が震えてるのをわかってるのかしら。刀太は手を握ったりはしなかったけど、姉妹を引っ張って少しだけキリヱの近くに寄った。……九郎丸、少し寂しそうな顔を浮かべているけど貴女は貴女でもっと攻めないといけないと思うのだけれど。

 再生される映像は三十分の一の速度。男子生徒が落下していく様……、一瞬地面に血みどろの映像が映った際に顔をしかめた刀太だったけど、吐くようなことはなさそうで一安心かしら。映像も、流石にカメラで投影できない箇所は映っていないのだけれど、一通り見て。

 

「……三十分の一ッスよね。速くね? それこそ上から下に叩きつけられるくらいの」

「そうだね。飛び降りと言うよりも……、何て言ったらいいんだろう、こういうの」

「突き飛ばしでもないし、でもなんかこう、車に撥ねられたみたいな感じよね」

 

 実際、刀太たちが言う通り。本来はもっとスローモーションで落下していく映像が流れるはずが、普通に屋上から人が落下死したような速度と遜色がないものだった。

 

「確か全体校則だと、あの高さは飛行禁止区域だったと思ったっスけど……、その手の映像もないんスか?」

「そうだね。一応、そういった類のセンサーはあるらしいけど、観測はされなかったみたいだ…………、というよりも、僕は違う説を押してる」

「「「「違う説?」」」」

 

 興味があるわね。と、それは別にして「あ~んもぅ、いい加減見せて~な~!」と駄々をこねる帆乃香ちゃんに「これはこれで……」とか言って刀太の手を触って頬を染めてる勇魚ちゃんが色々と酷いわね。映像そのものはもう投影を止めてるので、刀太に言って離させたけど。

 一空は「センサーとかの抜け穴という意味でね」と笑いながら、被害者が倒れていた箇所を指さし、そのまま頭上へとその先端をもっていった。

 

「上空から『落とされた』のではなく、ここの地上から垂直に上空へ『射出された』と考えると、僕的には腑に落ちるんだ。センサーはドローンとかジェットバイクとかの電子機器や、箒とか飛行魔術系の感知が出来るけど、逆に言うと生物自体の感知はしない。鳥とか飛んでて毎回それでアラートが鳴ったら大変だからね。

 つまり、上空に上がったのは生物『のみである』と考えると、個人的には腑に落ちる。方法については魔法か体術か他の何かか、そこは定かじゃないけどね」

「「おお~」」「なんか知らんけど、推理それっぽいな~」「私は、その、よくわかりません……」

 

 声を上げる近衛姉妹はともかく、私たち四人は微妙な顔をしている。まあ一空も自分で言っててこの仮説に自信がないのか、表情は苦笑い気味だった。

 

「まあ、この説も弱いんだけどね……。九郎丸ちゃん、わかる?」

「おそらくですが、『射出された映像』が存在しないんじゃないですか? わざわざ『垂直に』と言ってると言うことは、おそらくあの速度で落下してくるのに必要なことだと思うんですけど……、垂直に上がるということは、つまりあの場所から上空に打ち上げた『何か』が映っているはずだ。でもその話が出てこないということは―――――」

「その通り。どれだけ時間を巻き戻しても、ここの周囲の映像から見て一切そういった類のものはとれなかった。それに…………、自由落下であの速度が出るってなると、スカイツリーくらいの打ち上げ高さが必要になってくるからね」

「「「「「スカイツリー?」」」」」

 

 あら? 九郎丸はともかく、刀太もキリヱも近衛姉妹も知らないの……? って、それもそうかしら。そういえばもう名前も場所も変わったんだったわね、あの電波塔。

 昔、アマノミハシラ市が出来る前の「旧東京」にあった巨大な電波塔だと説明してあげたら、とりあえずは納得した。大体640メートルの高さであり、つまりそこまで地上から打ち上げないといけないと。

 

「目撃証言、いっぱい出そうな話やな~」

「つまり『そこそこの上空から、猛烈な勢いと力で地面へ向けて投げ捨てられた』、ということでしょうか?」

「勇魚ちゃんだっけ? そうそう。警察はおそらく最初に除外しているだろう推論だけど、生憎僕らは『そういうの』の専門だ。『常識的にあり得ない』ことに対しても、もっとパワフルにアプローチしていくんだよ」

「なんかカッコええな~。でもなんか、オカルトって感じでもなくなって来てるわ~」

「オカルト?」

 

 私の疑問符に、刀太が「トイレのサヨコさんッスよ」と言いながらメモ帳を取り出した。

 

「夏凜ちゃんさんなら知ってるんじゃないですか? 学園七不思議。一応、コイツらのクラスで噂されてるのとか色々総括すると、なーんか関係あるんじゃねーかなって思った。どうも『実在の人物』がモデルになった話っぽいし、まー、たぶん知ってるっスよね」

「…………」

「あれ? 夏凜ちゃんさん……、夏凜先輩……、夏凜ちゃん先輩……、おーい、あれ? わぶっ」

「わぉ、大人や夏凜はん!」「は、ははっはハレンチです!?」「夏凜先輩!!!?」「な、なんで!!?」

 

 七不思議……、七不思議……。学園生徒たちの戯言だと切って捨てて深く考えてなかった話を出されて、その類を調査してないと言い出し辛く。咄嗟に誤魔化す様に、刀太の頭を胸に抱きこんだ。

 

 

 

 

 



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ST58.死を祓え!:原作があげる悲鳴

毎度ご好評あざますナ!
今回の話、大体タグ変更(藍染タグ消滅)の原因(字数制限)
 
感想600件超えたのとか点数がいつの間にか2500超えたのとか色々鑑みて(雑)、ちょっと番外編的なの作ろうかなっていう予定で、それにともないアンケートお願いしますナ・・・!


ST58.Memento Mori:Origin Tragedy

 

 

 

 

 

 まず最初に言っておくと、私は怖い話の類は下手である。盛り上げるのも脅かすのも下手というか、そういうのには向いていない気質であるらしい。究極を言ってしまえばそもそも私自身が吸血鬼、つまり怖い話とかである怪物の立ち位置であるだろうし、もっというなら普段から連発して遭遇してる原作チャート崩壊ガバの方が怖い。(断言)

 だから、そんな私が「トイレのサヨコさん」というアマノミハシラ学園七不思議を話しても、大して「それっぽくは」ならないことをここに明言する。

 

 さて、そんなサヨコさんの噂であるが。簡単にまとめると「必殺系の仕事人」である。(語弊)

 

「アマノミハシラ……、麻帆良だったっけ? 昔は」

「せや、お兄さま」

「おう。その敷地のどこかの学校の旧校舎のトイレに『いる』らしい。で、このサヨコさんがいるトイレに、自分をいじめていた相手の名前を書くと、その相手を殺してくれる……、みたいな噂というか、まぁそんなんらしい」

「な、ナマハゲかな?」

「というか本当に怖くないわね、ちゅーにの話だと……」

 

 もう一つの現場である「壁に人が埋まっていた」それを見た帰りの道中、怖くならないという前置きに続けて件の話をした。まあ結果、九郎丸とキリヱからの反応は散々であるが、予想されてしかるべきだった。

 なお帆乃香は「ええ~! もっと怖なるエピソードいっぱいあるんに丸々カットやん!?」と不満そうであり、「お、お嬢様その辺で……」と勇魚は手を引いて少し顔色が悪かった。……まあ実際、あっちの自宅で帆乃香がそのエピソードをノリノリで語ったのを聞いて(カーテンで窓を閉めて部屋を消灯して下からライトを当ててといったくらいにはノリノリ)、涙目になって私に抱き着いて「わー! わー!」とか本当に叫んでいたくらいだ。仕事モードではないとはいえキャラが変わりすぎである。こういう「スイッチが入っている時と入っていない時のギャップ」めいたところも祖母だろう刹那に似ているので、私としては内心複雑ではあるが。

 

「怖くなるエピソードとは?」

「アレやアレ、そのサヨコはんの由来とか事件のエピソードとかや。

 たしか八十年前やったけ、本当におった生徒がトイレで自殺してたんが元ネタって噂らしいんよ」

「…………なるほど。いじめで自殺した生徒、だからこそいじめをする生徒に報復する噂になったということですか。時期的にも合致はしますね」

 

 実際、帆乃香の話を総合するとこうまとめることが出来るのだが、言いながら夏凜の目は半眼である。どうにもその噂話を眉唾と考えている風だ。……いや実際これがクリティカルなものだと「私」は確信しているのだが、実際に複数の能力を使用する不死者らしき誰かを目的としているせいか、先入観が勝っているらしい。いや、まぁ元々その類の噂話はまともに取り合ってなかったらしいので(あの後に吐かせた)、意固地になってる可能性もあるが。

 

「それで? その旧校舎とやらですが、麻帆良学園都市からアマノミハシラ学園都市に新東京へ吸収統合された際に、古い校舎はあらかた建て直しになったと聞きます。おおよそ三十年ほど前でしょうか……。なんでしたら、その時点で問題がおこっていても不思議でないのでは? 寡聞にして聞いた覚えはありませんが――――」

「いや夏凜ちゃん、もし仮に問題が起こっていたとしても『隠される』と思うよ?」

「ちゃんは止めなさい飴屋一空。……隠される、とは?」

 

 話しながらも教授風な一空は、慣れた手つきでタブレットを操作し……、ってそれいつの間に取り出した。手ぶらだったろお前。そんな私の疑問が伝わったわけではないだろうが、「胴体に格納されてるんだ」と当然のように言われた。科学の力ってスゲー。(思考停止)

 ともあれ画面を見せる一空だが……、なんだろう、書き込み掲示板のスレッドが表示されている。タイトルは「オカルト総合」。

 

「アーカイブはどんなに遡っても四十年前くらいまでが限界だったけど、ここの掲示板の書き込みにあってね。今、刀太君に言われた話で少し検索してみたんだけど、当時の『サヨコさん』案件と思われる書き込みがあってね。

 いわく、『作業現場で不審死が相次いでいるが』『国の一大事業だから情報は表に出ないだろう』ってね。これだけでサヨコさん関係について結構レスがついてるんだけど、まぁ匿名掲示板であるというのを考慮しても、結構な人数の関係者がこの話を知っているんじゃないか、というのはあるね」

「ふむ……」

 

 サヨコさん……、おそらくは例の水無瀬小夜子の霊であるが(不謹慎ギャグ)、原作において最終的には新校舎(とはいえ汚れ具合からして古い校舎ではあるんだろうが)側に居たことを考慮すると「お引越し」自体はしたのだろうが。しかし当時はまだアンコントロールな状態にはなかったはずなので、その話もどこまで信じて良いものか……。 

 逆に言うなら、眉唾の話でも大きく広められるだけの力が、当時のサヨコさんの話には存在したとみるべきか。そして話がそれだけ膨れ上がると言うことは、少なからず麻帆良学園都市においては実際に事件が起こっていたとみるべきだろう…………、麻帆良学園の噂って大体が魔法関係だったりの事実そのままを都市全体に張られている巨大な「認識阻害魔法」で疑問に抱かせないが故に発生しているバグのようなものだし。流石に最近は解除されているだろうが、それでも過去において一度風化、俗なものとして語られてしまった歴史は決して消えない。

 つまり、サヨコさんのそれに関しては、むしろ認識阻害魔法が意図したそれとは別な意味で、逆効果に働いているとみるべきかもしれない。ことの異常さが分かりにくい、が故に生徒の間でもその噂を軽視して、結果殺される生徒が出てきてしまっていたか。確か夏凜曰く、こういった不審死事件は紐解けば約八十年前から存在するらしいし。

 

 そんな話をおおむねそのまま口に出すと、九郎丸がこめかみを軽く押さえながら思案する…………、いや何と言うか少し夕暮れがかった日の光に当たる九郎丸の横顔がえらく様になっているというか、綺麗に見えて来るのは何かのバグか何かで?(震え声) 私の認識に問題があるのか、九郎丸の女性化がいよいよ取り返しのつかない形になりつつあるのかで評価が分かれる部分である。

 

「えっと、つまりそのサヨコさんが今回目的とする不死者ってことかな……? いや、でもお化けなんだよねサヨコさん。確か透明化、念力、飛行能力だったっけ。お化けでも出来そうといえば出来そうだけど……」

「いえ、お化けではないでしょう。ジャパニーズ・ユウレイ=クリーチャーは足がないと相場が決まっているわ」

「そ、それはお化けの方向性にもよるかなって僕、思いますけど……」

「っていうかユウレイ=クリーチャーって何なんスか……」

「ホラーゲームとかでいそうやなぁ~、和服着てめっちゃ包丁振り回してそう」

「いきなり止めてやお姉様!?」

 

 びくりと飛び跳ねる勇魚と後半を耳元で囁いた帆乃香はともかくとして。

 直訳すると幽霊生物である。左手で右フックとかライダ○パンチと叫びながら飛び蹴りするとかみたいな大いなる矛盾……、言語ガバっていらっしゃる?(失礼) そんなことを考えたのが悪かったのか、私を一瞥すると唐突に引き寄せて、まるで幼女が大きなクマのぬいぐるみに頬擦りするみたいなモーションでハグ&リリースされた。……ってスキンシップにせめて脈絡を持たせろ! 欲求不満か何かで? いや原作を踏まえて考えると夏凜自身相当欲求不満なんだろうが……。それに私を巻き込まないで欲しいものである。私だってそこそこ欲求不満が溜まっているのだ。(えっち) そのうち私自身の制御を外れて暴発しそうで恐怖しかない。(震え声)

 

 そんな私に、夏凜に食って掛かっていたキリヱが帰ってくると、言いたいことをまとめてくれた。

 

「つまり、このちゅーにが言ってるのはアレでしょ? 『不可能殺人』の事件の話と、不死者の話が別々の案件かもしれないってこと。方向性は似通っているけど、ルーツが違うかもって話?」

「いやまぁ、無関係とは言えねーけど……。夏凜ちゃんさんが目撃したっぽい相手って、ちゃんと足があったにせよ、事件自体が昔から続いているっていうのがあるんなら、そういうパターンもあるんじゃないかって思った感じッス」

「ふぅ~~~ん」

「……な、何だよ」

「別にぃ?」

 

 半眼でニヤニヤしたような顔をするキリヱが一体何を考えているのか不明だが、とりあえず放置しても問題ないだろう。彼女はキリヱ大明神、最も言動にガバが少ない我らが女神である。(巻き添え)(???「こういうのがガバの温床だろうに……」)

 

 結局その話も踏まえてではあるが、一度、件の不死者をまず発見してから再検討という形で話が落ち着いたのだが……。学生寮に向かう前に、夏凜から一言。

 

「明日の放課後、自警団の備品室……、取調室兼だったかしら? そっちに来いって貴方向けの連絡があったわ。詳しくは九郎丸が知ってると思うけど、一応は行ってあげなさい」

 

 いきなりさも何事もないような自然さで、原作でも知らないイベント生やすの止めてもらって良いでしょうかね。(白目)

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「ほなお兄さま、九郎丸はんもまた明日な~!」

「失礼します、兄様」

 

 夏凜やキリヱたちと別れた後の道中。元気で無邪気に手を振る帆乃香と、礼儀正しく頭を下げる勇魚を見送る私と九郎丸だったが、唐突に「あ、明日も来るんだ……」と変な顔をする九郎丸は一体どうした。一応聞いてはみるが「な、何でもないよ!」と慌てた風なのが余計に不安感というか不信感というか、もっというとガバの臭いめいたものを感じさせる……。

 

「何でもないなら話せるだろ。何かあんなら言ってみろって。前のあの時みたいにずっと溜め込みすぎても良くねーだろお前の場合」

「そう言われると弱いなぁ……、うん。そうだね、ちょっと思う所はあるかな? うらやましいって言うと少し変だけど、それが一番近いかもね。帆乃香ちゃんも素直に甘えてたりするし、勇魚ちゃんは……」

 

 おい何故そこで濁す。しかし羨ましい、ときたか。大方自分の出自というか、その周辺からくる実の兄との距離感やら接し方の変化やらについて思い出しているのだろうが、生憎そこは時間と共に解決してくれる話なので、あまり気の利いたことは言えそうにない……、そう時間が解決してくれる話だから(原作チャート上の時系列の問題)。

 

「羨ましい……、あれ、お前ってば妹だったっけ? 兄貴がいる的な話は聞いたことがあったよーな、ないよーな……」

「そういえばちゃんと話したことはなかったっけ……、って! だからもう、性別ネタでいじるのは止めてって!」

 

 悪い悪いと笑いながら謝っておくが、……おや? いやお前、ついに「僕は男!」とすら言わなくなって来てる……? ちょっと待て、これ重症なのでは?(恐怖) だから九郎丸お前、私別にお前の精神をウーマンサイドの側につき飛ばしたりしてないしフラグを立ててる覚えもないんだから、いい加減もっと知らないガバ発生させるの止めろ! もうちょっと本編の進行具合を見てから進めろ。(戒め)(???「前から思ってたけどアンタが戒めとか言ってもへそで茶が沸かせるんだよねぇ」)

 

「まあその話はまた今度で。僕もちょっと、心の中で整理できてないところがあるから……。それはそうと寮だけど、刀太君のお祖父さんも利用していたんだってね。でも何で学生寮?」

「割と天才魔法研究家的な噂まがいのは聞いてたし、案外十代とか若い頃に博士号とか取ってたとか?」

「あはは、それだと凄いねー」

「流石に盛りすぎか? 予想にしても」

「っていうより、十代で教員免許がとれると思えないって感じかな。熊本の方で進路相談の時、『正式に』教員になりたかったら一度都に行く必要があるって話もあったしね」

 

 世間話程度の感覚で楽しそうに笑う九郎丸。その右手がお腹の辺り、左手が少し開いて口元にもっていって、足もちょっと内股になっている女の子モーションなのにはもう今日は突っ込む気もない。(諦観) しかしまぁ、実際のネギ・スプリングフィールドに関しては十代どころか九歳とかジャスト十歳で教職に赴任。当然教員になるための勉強はしていないだろうし教員免許は偽造の類のはずである。にも関わらず一年と三カ月くらいはきっちり中学教師として最低限問題のない務めを果たしているのだから、凄いなんてレベルの頭ではないのだ。

 とはいえ情緒だのもっと根本的な、人間的な部分の未熟さに関しては一読者として色々思う所はあったが……。いや、その話は止そう。機会があれば本人に全力でぶつければいい。幸いこの調子で進められればその機会は間違いなく巡ってくるはずなので、あとは致命的に当該イベントへのルートを崩壊させないよう気を付けねば……。(???「まぁ……、何なんだろうねぇコイツは本当に」)

 

 それはそうとこの学生寮についてだが、原作だとあまり意識していなかったがここって麻帆良学園本校の旧女子寮だったりするのだろうか……。一応旧麻帆良本校舎は御柱西中が使用しているので(周辺都市の吸収合併の影響)、立地の近さから言っても間違いはないか。

 

 

 

「――――っ、ヤベェ! 勝てるわけがねぇ!」

「ん?」「どうしたの、刀太君」

 

 

 

 謎の感慨にふけっていると、ふと慌てて逃げ出す少年のような声が聞こえる。声は……、聞き覚えはないが「姿が見えずとも」今すぐ近くを過って言ったような声が聞こえたので、なんとなく嫌な感覚を覚える。

 そして足を止めたと九郎丸の前に。寮の自動ドアが開いて中からこう……、赤茶色の髪をした、眼鏡の生徒が現れる。頭にはまだ暑さが残ってるというのにニット帽をかぶっており、腰にはチェーンがぶらぶらしていた。制服は私たちと同様なので同じくまほらの校舎に通ってる生徒なのだろうが、いや校則的に大丈夫なのだろうかその着崩しは…………。

 知らない顔だ。だがこう、そのなんというか頭に帽子を被ってる感じというか、若干ツンツンとしてそうな髪型というか、赤茶色の髪の雰囲気というかになんだろう、妙なデジャブのようなものを感じる。何だろう、知らないのに知っている、知っているのに知らないような、変なこの感覚……。

 

 とはいえ特に何か縁もゆかりもなく唐突に話しかける訳でも、相手から何か危機感を覚えるわけでもなし。ミヒール達のような変な空気を纏っている訳でもなく、こう、ごく普通の生徒に見えるので(視線は若干鋭い気もするが)、私たちと彼とはお互い真反対の方向に足を進めようとして――――。

 

 

 

 咄嗟に感じた「嫌な感覚」に、思わず肩に下げていた黒棒の入った竹刀ケースに手をやり、背面ながら少しだけ構えた。

 次の瞬間、その生徒はこちらを振り返り、私に向けて「黒い魔力の爪」のようなものを装備した右手で、殴りかかってきていた。

 

 

 

 黒棒の手ごたえ――――見た目からは有りえない硬さにか、爪の一撃を受け止められたことにか驚いた顔をするが。彼は半眼になり、ニヒルに微笑んで距離をとる。一足で離れる様は瞬動というより獣めいたステップだったが、咄嗟のことで私も混乱し死天化壮(デスクラッド)を展開する暇がなかった。瞬間、反応が遅れたこともあり九郎丸も表情を引き締めて魔法アプリを展開。収納魔法から長刀を取り出して構える。

 そんなこちらの様子を見て、少年はどこか楽し気……、それでいて自嘲げだった。

 

「成程納得。一等生徒相手に戦えるだけの素養はあったということだな。ということは、煽っていたのは体裁を気にして、か?」

 

「…………僕が気づけなかった? この近距離で、そんな馬鹿な!? あれだけの妖魔の気配を……っ、刀太君、下がって! 僕が取り押さえるっ」

「いやいきなり『妖魔の気配をっ』とか言われてもよくわからねーんだけど……」

 

 庇う様に前へ、前へと行こうとする九郎丸の肩を抑えて、竹刀ケース越しに黒棒を構える。と、眼鏡の少年は両腕の黒い爪を消し、肩をすくめた。

 

「合縁奇縁。まさかこんな所で会うとは思っていなかったからな。少し手荒なことをした、済まない。でもそれくらい『出来る』のなら、俺も張り合いがあるってものだ」

「いや、お前誰だって。初対面だろ?」

「確かに初対面だ。……お前のことは、俺が一方的に知ってるだけだ。嗚呼変な意味じゃない。正確にはネギ・スプリングフィールドの孫という意味で知ってるということだ」

 

 どうでもいいが、そんな変な情報を話せば話すほど九郎丸の警戒度が上がっていくので正直止めて欲しい。今の所いろいろあって精神面の光の側に持ち直している感があるが、一歩間違えるとこの子あっという間にダークサイド(闇)に落ちてしまう危険性があるのだ。それくらい思いつめやすい子なんです、かわいそうじゃないですかぁ!(本音)

 そしてそんな警戒心を強める九郎丸に、ますます笑みが深まる少年。バトルジャンキーか何かで? 身に纏う雰囲気はなんとなく軽音部とかにいそうなイメージなのだが(偏見)、どうもポーズではなく本気で面白がっている感があった。

 

「でも今日は止めとく。これでも『美化委員』の仕事帰りだから、ちょっと疲れててね」

「君は一体、何が目的だ?」

「目的か。悪いけど、崇高な目的とかはないよ。……個人的に近衛刀太に『恨み』もあるけど、それを君ばかりにぶつけるのは酷というか、筋違いな気もするから。機会があれば、またいずれ。

 ……釘宮大伍(くぎみや だいご)。覚えなくてもいいよ」

 

 こちらから踏み込まないことを確信してるのか、彼は背を向けながら両手をポケットに突っ込んで立ち去って行った。姿が見えなくなってから構えを解く九郎丸だったが、一方の私は手が竹刀袋から離れないでいた。…………内心の動揺に、わけもわからず手の力が抜けないというか。まるで戦場の兵士が初めて人を殺した時の様な驚きっぷりであった。

 

「……………いや、だから、誰だお前……、誰だお前!?」

 

 思わず素で叫んでしまったが、苗字的に「ネギま!」で覚えがある血筋の人物な可能性もあるけど、だから唐突に原作で知らないイベントやらキャラやら湧いてくるの止めてもらって良いですかね。(白目)(???「大体のガバは自分で蒔いた種だ、自分で収穫するもんだよアンタ」)

 

 

 

 

 




アンケの予定は今の所以下のイメージです。
 雪姫:刀太が髪を染めるの目撃してキレる話
 九郎丸:熊本時代、お風呂が停電した時初好感度ガバの話(
 夏凜:カリンと「あの方†」との過去話
 キリヱ:「死を祓え」一周目の話
 カトラス:幼少期、野乃香に色々教わった話


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ST59.死を祓え!:忘れ去られた者たちのために

毎度ご好評あざますナ!
体調不良再発につき、ちょっと遅くなっております・・・。


ST59.Memento Mori:Lost Souls

 

 

 

 

 

 くそっ! くそっ!

 性懲りもなくまた俺を捕まえに来た連中のことなんてどうだっていい。詳細の調査なんてパソコンに「接続」できれば十秒足らずで引き抜くことが出来る。だから八年前に来た無能女とか、大体は大した問題じゃねぇ。

 

 つまり今、一番問題なのは――――。

 

「――犬上流(いぬがみりゅう)獣奏術(じゅうそうじゅつ)狗音(くおん)ノ風(ストーム)

「ひィ!?」

 

 なんか妙に業物っぽい綺麗な朱色の弓に、どこからか取り出した「真っ黒な矢」をつがえて放つアイツ。それをよけても、途中で矢の形が狼とかみたいな感じに変化して縦横無尽に追尾してくると来たものだ。ギリギリ透過によって物理的なダメージは回避していたけど、それでもなんか「妙に疲れる」。

 このまま追われていれば、いつか能力を使う余裕もなく、俺も……、いや、そんなことある訳ねぇ! 有りえねぇ!

 

 眼鏡をかけた、なんかやる気のなさそうなこの男――――!

 例のUQホルダー、俺を捕まえて仲間にしようとかしてる無能連中が転校してきたらしいと、その様子を見に行ったのが運の尽き。奴は、ニット帽に赤茶けた色の髪の奴は、そいつらが起こした変な決闘騒ぎを詰まらなそうに見て、眼鏡をくいっと持ち上げた。

 そんなインテリっぽい勝ち組みたいな仕草するヤツ、俺、一番大っ嫌いなんだよっ!

 

 だから無警戒と言うこともあったが、ちょっと念動力でイタズラして奴の持ってたソフトクリームを、背後にいた女子生徒を突き飛ばしてぶつけ、地面にぶちまけた瞬間。

 

 ――――見つけた。

 

 奴の目がギラリと、そりゃもう獲物を見つけた肉食動物めいた笑みに変わったのに、絶対俺の姿なんて捉えられていないはずなのに、恐怖心を抱いた。

 …………ま、まぁ別にそんなものに恐れを抱くようなムテキの三太様じゃないしー? 別にビビった訳じゃねー。ビビった訳じゃねーけど、それでも念のため上空はるか高くへ避難して、生徒共が帰りの時間、多く出て来るのを待った。木を隠すなら森の中だって小夜子も言ってたし、これが一番だ。

 

 だけど、アイツは生徒たちの下校に紛れた俺を、またも捕捉した。

 距離をとりながら歩いていたけど、それこそ瞬間移動みたいな速度で接近されて腕を掴まれて。

 

『――――――食べ物の恨みは恐ろしいよ? お前、俺お気に入りの濃厚バニラミルクを潰しやがって。

 ましてやその相手が『妖魔の類』ならば、俺の本職だ』

『は、は? 何言ってるんだお前』

『俺、美化委員なんだよ。だから学園の「表に出来ない」汚れは、掃除するに限る。

 ――――「来たれ(アデアット)」』

 

 狩人みたいなコスプレしたそいつの姿が描かれたカードを取り出して、そう呟くと、突然目の前に大きな赤い弓が出て来る。それをすっと俺に向けて――――。

 この瞬間にわき目もふらず「透過」だけして、足元から重力をなくし空中を飛び離脱。ところがアイツも変な速度で追いかけながら、さっきみたいに「バケモノみたいな」矢を放ってきていた。

 

「――――っ、ヤベェ! 勝てるわけがねぇ! 死ぬ! 死んじまうゥ!? こうなったら――――二十周年ぬるぽッ!」

 

 ジリ貧……、アイツ絶対俺みたいな能力者をぶっ倒すのが得意なタイプの奴だ。無能共と全然違う――――。

 そう思って屋根の上を逃げてると、ちょうど学生寮に向かう転校生の男。黒髪がツンツンしてて、陽キャっぽいくせになんか元気のない顔してる。……無能連中の中ではその表情にちょっと親近感が湧くが、今は仮の隠れ蓑として使わせてもらうぜ――――!

 これで上手く逃げおおせる……、相手の身体を奪うだけがスーパー超能力者じゃねぇぜ。「乗っ取り」って言っても別に乗っ取ってこっちの意のままに動くだけがノウじゃねぇんだ。

 

 

 

 ――――そして、その男に「憑りついた」のが良くなかった。

 

 

 

 人間っていうのは、こうやって俺が体を溶かしてその相手に「とりつく」と、その人間の考えてることとか内面とかが手に取るようにこっちに流れてきたりする。これを使って相手の弱点とかハズカシイ秘密とかを引っ張り出したりもできなくねーけど、本当に暴かれたくないようなこととかは、簡単には流れ込んでこない。そういう場合はもっと深部に落ちていく必要があったりするけど、今回はその深部に用があった。表層に出ちまうと乗っ取っちまうことになるから、これが妥当な逃げ方なんだが――――。

 

「――――がっ、は?」

 

 そこにあったのは「夥しい数の死体」だった。

 

 アイツと同じような顔をした奴が、片方の目に眼帯してたり、アイツよりももっと目つきの悪い男だったり、なんかスーツ着てるやつだったり、ツナギ着て作業員っぽい感じの奴だったり、手前に見えるだけでそんな連中が大半で。

 もっと奥を見通さななくとも転がってる奴が「アイツ」と同じ顔をしてる奴だってのは手に取るようにわかって――――。

 

 それが俺の「足元」にあって、足場というか地面というか全てがソイツの死体で……、周囲のスクラップ置き場めいたそれなんて全然気に留められなくて……。

 がたがたと震えが止まらない。まさかこんなムテキの三太様になってまで、こんな恐怖体験を味わうことになるとか―――覚えておけよコイツ、というか一体どんな精神してるんだ?

 

 

 

『ほう、ダメじゃないか「佐々木 三太」。こんな所で迷子になっちゃぁ。深いところに入れば入るほど――――見なくて良い物を見ることもあるかもしれないぞ?』

 

 

 

 催した吐き気に口を押さえた俺。「そいつ」はそんな俺の肩に手を置いて……。その「ひどく冷たい」手に、震えながら振り向くと。

 

『逃げたいなら逃がしてやるが「此処の事」は誰にも話すなよ? 特に「近衛刀太」にはな。……ふむ、なんなら記憶を封じてやろう――――何、ここでの時間はほんの一瞬、白昼夢のようなものだ』

 

 黒と白のローブを着た「十七歳くらい」の「中性的な人間の顔」が、俺を、見ていた。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 謎の少年との遭遇については細かく話す内容はもう無いよう。(激ウマギャグ)

 あの後、別に声をかけたりもしなかった上に、追いかけもせず特に何も事態が動くことが無かったのだ。懸念事項の一つとして情報をストックしておくのはともかく、これ以上彼に思考をとられたくなかったし、何よりもう今日一日のイベント量でお腹いっぱいである。(胸焼け)

 

 九郎丸が「まだまだ修行が足りない……」と落ち込んだのを励ましながら寮の部屋に入れば、おおむね原作通りに佐々木三太が私たち二人の姿を見て驚いたように振り返った。

 ベッドの上に正座している、パーカー付きジャージ姿の少年。髪は異様に長く目の下には隈が浮かんでいる。表情は何かまずいものを見つかったような仕草であり、こう言ってはなんだがキリヱやらミヒールたちやらに並ぶ、ガバのない癒し要素と言えた。(末期) ……まぁ鍵が開いていたのは謎だが、この程度は誤差の範囲だろう。

 

 周辺にあるPCディスプレイの電源を慌てて落としながら、近寄る私たちから距離を取ろうとする三太。

 

「いや別に取って食いやしねぇって、何、どうしたんだよ……」

「ち、近づかないで……、接し方が分からないから……」

「あっ(察し)」

「待てお前、何を察したオイ!」

「へ? と、刀太君、どうして耳元で……、へ? あ、あ~、あっ(察し)」

「いやー、まぁ人見知りは誰にでもあることだし恥じる話でもねーから気にすんな! 見た感じヒキコモリみてーだし……。いや別に悪いとかそんなこと言ってる訳じゃ――――」

「だったらその生温かい目ぇ止めろオ!」

 

 初手煽りは基ほ(以下略)。

 だがノリの軽さにつられてか、意外とコミュニケーションには飢えてるせいでノリは軽いのか、簡単に釣られてくれるあたりは年相応という感じがして、こう、あんまりガバを感じなくてやはり癒しである。初対面の人間相手のどもりやら緊張がレスバにもならない一撃で吹っ飛んだのか気安い形になり、下手するとキリヱより私のガバ警戒心が低い可能性もあった。

 そんな所で、渾身の自己紹介。

 

「近衛刀太、十五歳

 髪の色・黒。瞳の色・琥珀。

 職業・まほら本校舎御柱西中三年生、兼――――。

 って、いやまぁ只の中学生か。ヨロシク!」

「そ、そうだよ刀太君……って、髪とか目は見た目でわからない?」

「いや部屋暗ぇし」

「暗くてもわかるんじゃないかなぁ……。えっと、同じく、時坂九郎丸だよ。今日から相部屋だね、よろしく」

 

 すっと微笑む九郎丸の顔はもはや完全に女子の表情の作り方なのでそれは大変に色々と毒である自覚を持て(戒め)。ほらっヒキコモリ歴の長い思春期青少年相手にその笑顔は致命傷だ、直視できず視線を逸らして膝抱えてるじゃないか……。と、恐る恐るという風に私の袖を引いて確認しにきた。

 

「……お、男だよなアイツ。すげー綺麗な顔してるけど」

「ついでに声もめっちゃ良い声してるけどな。スゲーぞぉ? 演歌もポップスも歌いこなすし。で、お前さんの名前は?」

「……さ、佐々木、三太」

「おー、なんか御目出たそうな名前してるな。よろしくー! と言う所で、なんか歓迎パーティというか懇親会じゃねーけど、ぱーっといくかぱーっと!

 三太、一緒に買い出し行くか?」

「は、ハァ!? い、いやそれ以前に誰か部屋に来るとか全然聞いてねぇんだけど……」

 

 情報の入れ違い、というのは考え難いが。これに関しては三太の正体が正体であるため発生している思い違いである。

 佐々木三太。例によって例のごとくネタバレしてしまえば、その正体は稀代のネクロマンサーと化して「しまった」水無瀬小夜子手製、高位の「幽鬼(レヴナント)」。一言で言ってしまえば「実体を持つ幽霊」である。ついでに言ってしまうと今回我々が探している「複数能力を持つ」「不死者と目される対象」その人。その所有している能力、念力やら透過やら飛行やらといったものは、つまりは全て「幽霊だから」の一言で片づけられるということだ。凄い幽霊だからなんかわからないけど飛べるし、凄い幽霊だから壁だって透過できるし、凄い幽霊だから念力(ポルターガイスト)だってお手の物である。

 原作においてはこの後、その力をもってホルダー全員を完封してしまうのだが、それはそれとして。本人のメンタルはいじめられ続けたことにより軋んでいるが、根は易しいゲーマーである。(語弊)

 なので趣味を合わせて一緒に出歩いたりすると、それだけで簡単に心を開いてくれたりするのだが、とはいえ現時点において、彼には自分が「死んでいる」自覚がない。

 

 とある事情により、三太本人は一部の記憶を封じられていて、いじめにより死んだという事実もそれに該当していたはずである。(うろ覚え)

 つまり現在の状況はアザ○ズであり、アンジャ○シュではない(謎例え)。

 

 さてそんな三太だが、食事自体とれないわけではないので(本人の自覚としては生前となんら変わりないこともあり)普通にキッチン用品とかはそろっているのだ。とはいえあまり得意ではないらしい様子が、妙に綺麗なフライパンとかから見て取れるが……。

 

「…………ハイ、というわけで一通り買ってきましたこの食材。今日は肉まんにしようかと思います。フライパンで作る焼き肉まん」

「中華なら超包子(ちゃおぱおず)の買ってくればいいんじゃね? まだ店開いて――」

「シャラップだネ! こういうのはイベント的に自前で作るの楽しむ奴ネ! 油ギトギト、しっかりクリスピーするからハイカロリースナック食感、お店では好き嫌い分かれるから季節限定メニューとかくらいしかない奴ヨ!」

「何だその似非っぽいの……」「刀太くん口調が……、ってお昼もキリヱちゃんから分けてもらったのに、また肉まん? いや、豚だから違うのか……」

「ま細かいこと気にしないで良いネ」

 

 私のテンションについてこれない二人であるが、私もノリでやってるので大した意味はない。そもそも肉まんを食べようと思ったのが、本日おそらく時空航行にてミスして(ガバ)私の眼前に出現した超鈴音を思い出したからだし(なんなら口調も)、それ以上の意味がないのだ。

 

 ちなみにだが、そんなに料理していなかっただろう三太も意外と器用にこなして、最後は「あっ美味い……、なんか納得できねーけど美味い……」と微妙な表情だったりする。

 

 

 

 さてその日の夜。

 そろそろビジネスのために一部ビルだったり喫茶店だったり以外については営業終了し始める時間帯である。流石に恰好が制服のままだとバレた際に問題だろうということで、普段の服装を九郎丸に出してもらい、全員そろって普段通りの恰好……、恰好? なのだが。

 

「ちゅーに、アンタ相変わらずなのねその服……」

「何だよ、悪くねーだろ?」

「僕はカッコイイと思うけど……」

「ふむ」

「あはは、まぁその辺りは趣味それぞれということだね」

「というか普段の二十代モードな一空さん先輩はともかく、いや夏凜ちゃんさん制服のまんまっスか」

「……こういうと変だけど、子供らしい私服みたいなものの持ち合わせがないのよ。もともと大人っぽすぎる服だとキリヱにも言われてるし……。

 良いですか? では各自、散開!」

 

 中央通り、大型河川付近で四方に分かれた私たち。連絡は携帯端末を用いて情報共有し、対象を発見し次第捕縛、という方向性である。

 私、九郎丸、夏凜、そしてキリヱと一空とは一チーム。キリヱに関しては一空の機動力による安全な移動やら回避行動やらが目的となるのだが、これは本人たっての希望だ。いわく「アンタらみたいな頭おかしい速度で振り回したら私、簡単に死んじゃうから! 馬鹿にしないでよね、一般通過十三歳美少女の耐久値の低さを!」とのこと……、いやそれを言い出すと九郎丸も十四歳なのだが。

 そんなことを考えながら、件の能力者を探す。一空いわく「最近の目撃証言だと、オヤジ狩り、ホームレス狩り的なことを魔法併用で行っているらしい相手とかに、直接攻撃を加えてるらしいね」とのこと。このあたりも原作からずれがなくて嬉しい限りなのだが……。

 

「まっ、居るよな」

 

 無論当然のように原作知識というアンチョコに頼ることで、どういうルートを辿れば件の相手、つまりは三太を探せるかなど想像は容易である。暗がり、河原で逃げるホームレスに魔法を仕掛ける見るからに不良めいたアトモスフィア漂う一等生徒たち目掛けて容赦なく霊能力カラテを仕掛ける様、ワザマエ!(謎テンション)

 本当ならここで連絡を入れてヘルプを頼むのが定石ではあるが……。

 

 老ホームレスをいたぶるジャージ姿の生徒たちに、あらん限りの力で自己顕示するフードを下ろした三太を見ると、わずかにだが躊躇してしまう。もっともそれが直接相手を窒息させるように(つまりは地面に生徒の頭を埋めるように)しはじめたのは、流石にストップだ。 

 

「な、何でだよ……! こんな社会のゴミ共、俺たちが掃除したって……! うわ、ああああああああああああああッ」

「だから俺だって『掃除』だよ! わかるか? わかったか? どうだよ、持たざる者、弱ぇ奴の気分っていうのはよォ! ははははははは――――」

「――――やりすぎ」

「はっ!?」

 

 例によって例のごとく死天化壮を纏った状態で、三太の後ろに回り込みその首根っこを掴む彼ごと引き上げる。と、半眼の私に何か思う所でもあったのか「ひッ」と怖がった声を上げて掴んでいた不良を投げてよこした。

 とりあえず受け止めて適当に転がすと、三太……、もとい謎の能力者少年はそのまま飛行して何処かへ消えようとする。

 

「原作ならフェイトとか雪姫とか……、ひょっとしたら夏凜ちゃんさんもか? くらいなんだろうけどなー特殊なアプリとかなしで魔術飛行できるの」

 

 だが、その程度で私から逃げられると思うな。流石にこのタイミングでメール連絡くらいは一空に入れ(救急車と警察の手配もあちらに投げて)はするが。

 残念ながら今までの血装術が集積してきた私にとって、その程度は造作もないのだ。空中に座標を変更し、そこから内血装と飛蹴板とを併用した立体起動を併せて追跡を開始。わざわざ壁を走るまでもなく、ビルとビルの隙間を超高速移動しながら私と謎の能力者少年は追いかけっこしていた。

 

「くそっ……、何だってんだ一体!? 話と違うぞ」

「何の話かとか知らねぇけど、お生憎様だな! 後さっきの奴、あーゆーのはもうちょっとバレねーようにやれ、な?

 止める気持ちも分からねーではねぇけど、直接的にそんな『判りやすく』やべぇ力使ったら通報されるし『専門家』呼ばれるのも当たり前だろってハナシだ」

「そ、そんなんじゃねーしっ! 余計なお世話だっ!」

 

 腕で振り払うような動きをする謎の能力者少年……、いやもう三太でいいや(無容赦)。三太は私の一言にびくりと震わせ、高速で後退。当然「死天化壮」中の私がそれを逃がす訳ではないのだが。いや本当、インフレに置いて行かれない超高速移動はマジで便利以外の何物でもないのでは?(断言)

 流石に逃げるのが辛くなってきたのか、空中で念動力(ポルターガイスト)を向けて来る。もっとも死天化壮中は黒棒と右腕とは「血で固定されている」ので簡単に外れず、安易な武装解除は「腕の骨が折れて」あらぬ方向に向く結果にしかならない。

 

「血風――――!」

 

 そして剣先を振って投げるブーメラン状のそれを、透過でかわす三太。……流石にこのあたりは幽霊らしく、物理無効化に関しては血風も例外ではないらしい。まぁもともと「実態としては」ウォーターカッターの応用的な側面があるので、それも仕方無いと言えば仕方ないか。

 

「へへッ! じゃあ今度は――――ッ!? ヒエッ」

「は?」

 

 おそらくそのまま透過した状態で私に接近してきたことからして、憑依か何かをしようとしたのだろうが……、唐突に踵を返して逃げようとする三太。突然何を怖がったのか不明だが、これでは追跡に問題がなくとも千日手である。

 

 

 

 と、嫌な気配を前方に感じ、思わず虚空瞬動もどきで接近。三太の手を掴もうと――――いやこんな時に透明化やめろお前、こっちはお前助けようとしてるんだぞいいから捕まれ馬鹿! 流石にそう言っても聞かないだろうことは推測がつくので、彼を庇う様に「気配の方向に」黒棒を構えた。

 

「――――って何で卒塔婆!?」

 

 そしてこちらに猛烈な速度で飛んできたものは、冗談みたいな大きさで真っ黒に染め上げられた「卒塔婆」だった。しかもご丁寧にラテン語っぽい何かで色々と書かれている。誰だか知らないが唐突すぎて訳の分からない攻撃止めろ、私だっていっぱいいっぱいな時はツッコミが回らないんだぞ!(ガバ胸焼け)

 が不思議なことに、その卒塔婆を受けた衝撃の余波が「透過しているはずの」三太にも衝撃を与えた。どうやら実体を持たない相手にも効果があるタイプの攻撃らしい。結果的に庇う形になった私に、三太はフード越しだが驚いた顔を向けていた。

 

「お、お前、何で……?」

「いやー、その話はまた今度な。逃げとけ、ちょっとヤバそう」

「…………っ、べ、別にお礼なんて言わねーからな!」

 

 ツンデレじみた捨て台詞を吐き捨てて何処かへ消える三太だったが、私としてはその卒塔婆の発射元、つまり持ち主というか仕掛け人というかを見て、表情が凍ってしまった。

 

「――――何だ? 『まがい物』。せっかく羽虫を掃除してやろうと思ったのに」

「いやマジちょっと待って、いきなり全く面識ない人物現れるの本当に止めてくれッス…………」

「何故、僕がお前ごときの予定に合わせねばならないんだ。ふむ……、しかし今のを受け止めるか。まがい物のくせに、完成度は悪くなさそうだ。どれ……」

 

 ちょっとだけフェイトに似た顔立ち、しかし浮かぶ表情は千変万化。明らかに情緒豊かで、同時に自分勝手さも感じる。本人いわく「エレガント」な白コートに身を包んだ少年は、巨大な卒塔婆を「消す」と、私に向けて名乗った。

 

「不死の真祖、『観測の魔人』……いや、こちらの名乗りは不適格か。

 ――――UQホルダー不死身衆ナンバー8、ニキティス・ラプスだ。来い、まがい物。格の違いを教えてやる」

「…………」

 

 あれぇ今回色々イベントというか原作のチャート崩壊多い…、多くない? もう何と言うか救いはないんですかァ!? (???「お前自身が未知のエリアだから救いはないんだよねぇ」)

 

 

 

 

 




アンケの予定は今の所以下のイメージです。(締日予定:7月上旬)
 雪姫:刀太が髪を染めるの目撃してキレる話
 九郎丸:熊本時代、お風呂が停電した時初好感度ガバの話(
 夏凜:カリンと「あの方†」との過去話
 キリヱ:「死を祓え」一周目の話
 カトラス:幼少期、野乃香に色々教わった話


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ST60.死を祓え!:異種格闘戦

毎度……ご好評……あざますナ……!(倒)
次回も更新に時間かかるかもです汗


ST60.Memento Mori:War In Different Faces

 

 

 

 

 

「あ、あの……私、最近、好きな人が出来たんスよ」

「ほぅほぅほぅ?」

 

 教会の懺悔室に訪れたスポーツ少女(ちょっと若い頃の裕奈(ヽヽ)に似てる?)が持ってきたのは、恋のお悩み相談だった。確か自警団の子だったっけ、この子。

 ……いやホント、ここ懺悔室なんだけどね? よろずお悩み相談じゃないんだ。

 とはいえこういう話はこう……、今を生きる若人の面白恥ずかしい話を聞けて非常に健康に良い、今はまだガンに効かないけどいずれ効くようになると思ってるので、私としては全然ばっちこーい! だったりする。

 

 シスターもとい魔法使いとしての第一線を引いた今、年寄りとしての楽しみはこうやって若人の話を聞いて色々とちょっかいをかけることだったりするんだ。

 そして幸か不幸か今日はココネじゃなくて私が懺悔室の当番。

 と言う訳でどれお嬢さん、嬉し恥ずかし胸中をここに開陳するのだ!

 

「それで、一体どんな懺悔を?」

「懺悔っていうか…………、こう、その子のこと知ろうとしてもすっごいモテモテで色々メンタルが……。私、いけるのかなって」

「強く生きてください」

 

 思わずシャットアウトするような一言を言ってしまったけど、聞いてる感じなーんか滅茶苦茶面倒な気配がしたので、適当になってしまうのも仕方ないと思うんだ、うん。

 そんな私の気配を知ってか知らずか、スポーツっ子は話を続ける。

 仕方ないので、私もお茶を飲みながら話を聞き――――。

 

「今日、転入してきたらしい子なんス。中学生で、年下で……、なんかこう、ちょっとアンニュイな目で、意外と大人っぽくって」

「ほぅほぅほぅ」

「近衛刀太くんって言うんスけど」

「ぶっふぉォ!? ゲッッッッッホっ、ゴホッ、ゴホッ」

「し、シスター……? どうしたッスか、大丈夫ッスか!?」

 

 い、いけない誤嚥しかけた。

 年寄りにそんな危険情報わッ! と浴びせるの止めなさいなって。

 

 いやー、ちょっとビビった。確か先週の「学内裏魔法委員会」の集まりで、近衛刀太って名前出て来てた、出て来てた。「魔法生徒」ではないにしろ関係者だって、タツミー言ってた言ってた。

 いや言ってたっていうか、顔の感じが完全に「近衛木乃香と桜咲刹那(このせつ)」だし。髪型というか雰囲気というかは少し大人になったネギくんぽかったけど。

 

 私も「あの計画」に関しては一応DNA提供者なので、その素性については察するところが有ったりするわけで。

 おまけに保護者になってる伏見雪姫(ふしみ ゆきひめ)って写真ついてたけどエヴァちゃんじゃん! エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル! 闇の福音(魔法世界のナマハゲ)にして私たちのクラスメイト! 思いっきりタツミーとか私みたいな「3-A関係者」にヨロシクしてるやつでしょ! というかシスター・カリンも来ちゃってたし、どう考えても昨今出て来た不可能殺人の調査とかどーせそんな感じのでしょ。

 

 孫の美柑にスラムとかそういう仕事はもう投げちゃったけど、そういう危機管理センサー的なサムシングに衰えはないババァ、それがこの春日美空なのだ。

 

 この子には悪いんだけど体調が悪いから今回はオシマイと言うことにして返して、しばらく休憩…………、したと思ったら今度はこう、勇魚ちゃんが来た。近衛勇魚。色々と諸般の事情があって、私はこの子とお姉さんのことはちょっと詳しいのだった。

 見た目に関しては完全に祖母の刹那ちゃんを小さくした感じだけど、ポンコツ具合は同じく祖母の木乃香っぽさがあるような気がする子。

 そして肝心の懺悔内容だけど。

 

「私は……、私たちは、きょうだいで間接キスをしてしまいました……ッ!」

「ほうほ……う?」

 

 姉妹でならまぁ「このせつ」の孫だしやらかしても不思議はないかもしれないけど別に家族だし意識するほどの話でもないだろうと思った矢先。

 

「生き別れの……、お母様がフェイト様と袂を分かたれた時に生き別れとなった! お兄様と再会したテンションのまま! お兄様のスプーンであーんしたりされたりしてしまいましたッ! 午後の授業をおサボりしてまで……! 嗚呼、倫理に反するやん! お兄様とは血が繋がってるというのに、もう今日はずっと動悸が止まらなかったんですぅッ! この罪深い私の精神、どないしたら()ぇですかシスター!」

「ぶっふぉォ!? ゲッッッッッホっ、ゴホッ、ゴホッ」

「し、シスター!?」

 

 何だろう今日厄日なのかな。

 というか勇魚ちゃんや帆乃香ちゃんの生き別れの兄って近衛刀太……。うわぉ血筋かねぇ、この微妙に女難が続いてるというか、ヘンなモテかたしてるのは。ネギくんの方がもうちょっとマシだったような……いやそうでもないか、このせつ結婚の時のアレとか(たぶんエヴァちゃんにはナイショなんだろうし)。

 悪いけど勇魚ちゃんの懺悔もほどほどで聞き流し打ち切らせてもらって(というか私の身が持たない)、外に出ればもう夜。流石にそろそろ本日の営業(?)は終了というところなんだけど…………。

 

 こっちよりも少し繁華街の方で、空中に真っ黒な「人よけ」の結界じみたものが展開された。あれはたぶん認識阻害とか、そういうタイプの結界かなぁ……。

 

「…………うん、帰って寝よっ」

 

 どこに連絡することもなく(というか連絡する体力もなく)、私はそのまま家路についた。

 まあ何か問題が起こったら誰か連絡してくれるっしょ!(適当)

 

「――――学園長代理に後で報告しておきますね、シスター・ミソラ」

 

 そんなザジちゃんの声が聞こえたような気がするけど、うん、姿見えないしきっと疲れてるんだろう! 私は悪くねぇ!

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 やってられるか! ニキティスと戦闘開始早々に悟った。完全に千日手である。

 

 私を相手にする際に、ニキティスはまず巨大で黒い上下を囲うドームのような漆黒のナニカを出現させた……。清虫終式○閻魔蟋蟀(オサレ)と違って五感とかを奪われるようなことはなかったが、 とはいえ外部に通信が出来ないようになっている。通信機片手に嫌な顔をする私に、ニキティスは特に説明もなく多数のボウガンを周囲に展開して狙撃してきた。

 

「さて小手調べだ。受けてみせろ――――」

 

 別にそれくらいなら大した話ではないのだが(死天化壮の腕の加速度を超える矢が存在しなかった)、とはいえ叩き落としても叩き落としても0コンマ5秒以下の速度で再装填されて放たれる矢は理解の外と言うか、こっちの認識の限界が近い。それこそ天鎖○月(オサレ)初披露の際の○護(チャンイチ)のように空中で連続斬撃を用いて叩き落とせるのだとしても、こっちの精神がいっぱいいっぱいだ。何だこのデスマーチ!?(白目)

 

「なら首狩りが定石か――――血風創天!」

 

 さすがに街へ向けては破壊規模が恐ろしすぎて放てなかった血風創天だが、謎結界に包まれたこの状況ならおそらく大丈夫だろうと踏んでの一撃。刃に沿わせた血風がそのまま巨大な斬撃としてニキティスに襲い掛かる。

 はったりが利いたそれに「ほぅ!」と少しだけ楽しそうな顔になるニキティスだったが、あろうことか腕を振ってその剣の軌跡そのものを「凍らせた」。いや確かに原理的にはウォーターカッターだがお前、一応は魔法とか弾くらしいのに何当然のような顔して防ぎやがった!? いくら真祖の吸血鬼だからって基本的には魔族だろうが何だろうが魔法の原理原則は共通だろ、物理現象とはいわないがそういう法則無視するの止めろ!(真顔)

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ! この一帯は『僕の管理下』にある。ここにおいてお前の攻撃がまともに通ると考えないことだ!」

「一帯ってことは結界か……って、おっと!?」

 

 そしてまた再びの絶え間ないボウガン連撃…………、いやお前そもそももっと大味な技の方が得意なはずなのにどうしてこう、こちらの神経逆撫でしてくるようなことチマチマ仕掛けて来るのか、いい加減こっちもイライラしてきたぞ。

 

 攻防としてはそんなノリで、ニキティスの連撃と私の一撃とを交互にするような形に終始している。

 

「血風創天――――ついでに血風!」

「フン、どこを狙って――――ってお前! ちまちま小さいブーメランみたいなものを飛ばすの止めろ! 処理が面倒くさいじゃないか! 手加減してるこちらの身にもなれ!」

「そっくりそのまま同じ言葉返してやるよ!」

 

 まぁ手加減されてるだろうことには異論はないが……。

 血風創天一発に複数の血風を時間差で放つと、避けたり受けながらニキティスは嫌そうな顔をして叫んで来た。いやお前、いわゆるダブルスタンダード……。我儘か貴様! まぁ我儘か。(諦観)

 

 だが傾向として分かったのは、巨大な血風創天については防御するがブーメラン状の血風自体は特に気にした様子がないこと。血風が結界の壁にぶちあたると、結界自体の構成が緩むのか一瞬そのぶち当たった箇所から外の風景が見えること。ついでに言えば、その瞬間だけは一瞬だが外と通信ができそうなことくらいか。メールを打つ余裕がないので、空メールを自分に送るという形で確認した。

 以上のことから、少なくとも血風創天を結界にぶち当てれば、結界そのものを破壊することができる可能性があると言うことだ。攻撃は通るが脱出できない以上、結界をどうにかするのは必須事項だろう。

 少なくともニキティスが滅茶苦茶やっているのは「結界内部」であるから、というのが本人のコメントなので、そこから考えて…………。一人では手が足りないな。

 

 こういう時に使える方法って何か――――ふとポケットで携帯端末をいじっていると、パクティオーカードのマスターカードに指がふれる。

 パクティオーカード……、そうだ。そういえばこれがあった。早期契約自体が原作チャートからすればガバそのものだが、なんだ、ガバもたまには役立つじゃないか。(???「その慢心が命取りだと思うんだがねぇ」)

 

 

「あー、…………。これならイケるか。問題は時間が――――よっと」

 

 いい加減、ニキティスもボウガンによるチマチマとした攻撃に飽きてきたのか、片手にフェンシングのフルーレみたいなものを装備してこちらに斬りかかってきた。直線での高速移動「程度」ならば死天化壮および内血装の移動速度に敵う訳はない。こちらの心臓を穿つような構えで接近してくるそれを正面から黒棒で受け止め、その瞬間に「ほぼ棒立ち」の状態のまま「瞬動もどき」を使い背後に回り蹴り飛ばし、血風を一発。もっとも血風については腕ではらうくらいで掻き消される程度しかダメージが与えられない。……まぁ毎回毎回その当たった箇所の服が砕け散るのに忌々しい顔をしているのだが。

 

 ニキティスは腕を組み、こちらから距離を取る。どうやら少し会話する流れらしいが……、密かに血風を黒棒に這わせて、いつでも撃てるようにはしておく。

 

「ふん。『“夜明け”のザジ・レイニーデイ』から聞いていたよりは、やるようじゃないか『コノエ・トータ』。瞬動(クイックムーブ)など粗削りだが、下等種上がりにしては思ったより悪くない」

 

 名前呼び……、一体どういう心境の変化かは知らないが、只の「まがい物」扱いは卒業扱いらしい。

 

「っというか夜明けの……? いやツッコミどころは一旦置いておいてだ。まずアンタ、何でいきなり襲い掛かってきたんスか。先輩でしょ、俺、仕事中だったんスけど」

「仕事? 知らん、ここ数年はホルダーにも帰っていないからな。それに、さっきの羽虫とは『じゃれてた』ようにしか見えなかったが。討伐するつもりはないだろう」

「確保任務ですし一応」

「言い換えるぞ。『確保する気もなかった』、ただ嬲って遊んでいただけだろう」

「…………いや、そういうつもりは無かったっスけど……」

 

 その言い回しだと、まるでこちらが三太をいじめていたみたいに聞こえてくるのだが……。とはいえ、実力的に負けることはないだろうからそこまで真面目に確保を考えていた訳ではないのは確かかもしれないが。むしろこの段階で下手に確保すると、それはそれで原作チャートの完全崩壊への道な気もするので、ある意味ではニキティスの介入は運が良かったのかもしれない。(ポジティブ思考)

 

 笑止千万だなぁ、とニキティスは肩をすくめてニヤリと笑い目を閉じため息をついてそっぽをむいて……、いや妙にオーバーな仕草してるが、不思議と腹が立つのは先ほどのアレのせいだろうか。

 

「それだけの実力がお前とあの羽虫との間にあったわけでもなかろうに。そういう傲慢さや慢心をお前のような半端者が見せるのは、真祖としての我々の面子に関わるのでな。

 ――――つまり僕は、お前が気に入らない。気が済むまで僕に殺されていろ、ということだ」

「…………八つ当たりじゃねーか!?」

「何か問題があるか?」

 

 大あり以外の何物でもないのだが(真顔)。大体お前、この段階だと原作においては旧麻帆良学園地下の図書館島で惰眠をむさぼってるか本を読んでるかして、ゾンビパニックどころかそれ以降全く手を貸してなかったろうが。一体どうして今日こんなタイミングに限ってわざわざ表に出て来てこっちにケンカふっかけてきたのか。当たり屋かお前!(正当ギレ)

 流石にちょっと怒った。できれば穏便に済ませようと思ったが、今回ばかりはちょっとくらいチャート無視しても良いだろう。こっちがどれだけ色々気を付けて動いてると思ってるんだ、今回はたまたま良かったが、気分一つでこちらのチャートを破壊しようとするな!

 

「血風――――」

「フン、代り映えのない…………? いや、待てお前それ、ちょっと待てコノエ・トータ!」

 

 黒棒に這わせていた血風を用いて、本来なら血風創天に使用する分の血を用いて「巨大な円を描く」。その軌跡に合わせてどんどんと肥大化していく巨大な血風は、そのサイズを私の体内血液を吸収することでどんどん加速度的に巨大になっていく。

 流石にこのままだと結界に接触必至と判断したのだろう、私めがけて急接近してくるニキティスだが、これに私は回避行動をとらない――――。胸部の中央をニキティスのフルーレが貫通するが、それでも特に何も表情を変えない私に、流石のニキティスも困惑の表情になった。

 

「――――悪いな、初めから『穴空いてる』もんだから」

「――――っ、お前!」

 

 ある程度巨大になった血風……、大血風を上方に向けて放つ。もはや私本体への攻撃では止まらないと判断したのだろう、武器を放置して加速していく血風へと追従飛行するニキティス。

 

 だが悪いが、私の本命は「そっちじゃない」。

 

 下方向に黒棒を向け、再び血風を添わせるとそのまま「伸ばした」――――「射殺せ○槍(オサレ)」ではないが、とにかく振りかぶって振り下ろす分の威力よりも速度を優先し、大血風を放った方向と反対方向へと伸ばし、伸ばし――――接触!

 

 上空ではニキティスが血風を「燃やして」蹴散らした(ちょっと何やってるか意味が分からない)とほぼ同時、足元に街の明かりが見え――――――。

 

 

 

「――――この場に来たれ我が契約従者・時坂九郎丸!」

 

 

 

 ネオパクティオーカード……、これ自体はいわゆる「ネギま!?」におけるパクティオーカード三種のそれよりも、大本のシステムは通常のパクティオーカードに準じている。つまりは機能として、①従者への魔力供給、②遠距離にいる従者の召喚、③念話、④潜在能力発現、⑤アーティファクトの召喚、⑥衣装登録、といったような一連の機能は、おそらく部分的に使用可能だということだ。これについてはまだ見ぬ師匠が調整しているだろうから、少なからず②と③だけは確実に存在していると判断している。

 だからこそ②の従者召喚を意識して「内血装」を手元に集中。パクティオーカードに魔力(と気と裂けた指先の血しぶき)をまとわせ――――。

 

「――――わっ!? と、刀太君!?」

 

 果たして、予定通りこの場に召喚された九郎丸。驚いた顔で私を見る姿に、少しだけ苛立っていた神経が癒された。

 

 

 

 

 




アンケの予定は今の所以下のイメージです。(締日予定:7月上旬)
 雪姫:刀太が髪を染めるの目撃してキレる話
 九郎丸:熊本時代、お風呂が停電した時初好感度ガバの話(
 夏凜:カリンと「あの方†」との過去話
 キリヱ:「死を祓え」一周目の話
 カトラス:幼少期、野乃香に色々教わった話


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ST61.死を祓え!:強者が語る弱者の言葉

毎度ご好評、あざますナ・・・! 遅れてすみません汗
ちょっと回復しそうな感じがするので、出来れば明日か明後日も更新予定です(未定)


ST61.Memento Mori:The Words As Weak And Strong

 

 

 

 

「刀太君、胸!? 剣、刺さってるよ!」

「あ? あー、まぁ大した問題じゃねーな。細いし、傷痕通ってるから血も出てねーし」

「そういう問題じゃなくって……! もうっ」

 

 私の胸元から剣を抜くと、剣呑な表情になりニキティスを睨む九郎丸……って、今更気づいたが肩のあたりに構えて切っ先を相手に向けるその剣、柄のところにしっかり「夕凪」と刻印してある。それ本当に桜咲刹那(せっちゃん)由来の品じゃねーか! 確かに「タケミカヅチ」や「シーカー」があるから武器には困らないだろうが、最終決戦直前に桃源の方にでも預けたのかそれ。何だ、ここが麻帆良学園由来だからと新情報をわんさか解禁でもしてるのかこの世界!?

 そんな私の混乱はともかく、九郎丸のその姿にニキティスは鼻で笑う。

 

「トキサカ・クロウマル……、エヴァンジェリンからのメールで名前だけは確認しているが、お前か。ふっ」

「……えっと、いきなり呼ばれてびっくりしたけど、ひょっとして『アレ』が刀太君を? つまり目的としている複数の――――」

「いや、違ぇ。例の能力者っていうか不死者を追ってたんだけど、唐突に乱入してきて閉じ込められた。アレだ、一応ホルダーの先輩らしい」

「へ?」

 

 なんで先輩なのに戦ってるの? とか、任務中に私闘仕掛けて来るってどういうことなの? と困惑する九郎丸に、「真祖としての矜持だッ!」と胸を張るニキティス。軽く事情を話すと、死んだ魚のような目をして左手を構えた。

 

「結界ってことは、どこかに『核』となるものがあるはずだけど……って、それはともかくだね。

 神鳴流宴会芸・斬空叩(ざんくうこう)――――なんでやねんっ!」

「おぉ、初めて見る技だ」

「ガハッ!?」

 

 裏拳というか、完全によくあるテンプレートな漫才のツッコミなモーション。その動きが衝撃波を伴ってニキティスの顎にヒットした。殺気がなかったせいかニキティス自身の抜けか、特にかわすこともなく一撃を喰らっている。

 ……そういえば神鳴流には宴会専用の技がいくつか存在するんだったか。スラムの時の花火も確か宴会芸の一種だったはずである。もっともあちらは実戦で使っても十分ダメージが入るだろうが、こちらは「弱斬空閃」とかの亜種めいたものだろうが。というよりも九郎丸が「なんでやねん!」って言うのが、珍しさもあってちょっと可愛らしかった。

 

 なおニキティス、顎を抑えてちょっと涙目になりながら、こちらに指をさして抗議してくる。

 

「き、貴様! この下等種! 真祖であり魔人であるこの僕の顔になんてことしてくれるんだ!」

「だってそうじゃないですか! ホルダーの会合にだって全然顔を出さないで、僕らが任務中だって知らないからこんな変なケンカ売ったりしてくるんでしょ!」

「うぐっ!? し、しかし僕には僕でここの地下を『管理する』仕事が残って――――」

「じゃあ、邪魔しないでくださいよ! なんですかチンピラか何かですか!!」

「むぐ、ぐぐぐ……!」

 

 完全に正論である。長い年月を生きてはいるがこういう部分でまだまだ子供なニキティスであるからして、年頃の乙女(断定)がキレた時に放たれる苛立ち交じりの言葉には更に涙目であった。そしてそんな彼を見る私の生温かな視線が気に入らないのか、ギロリとこちらを睨みつけると「煩い煩い煩い煩い煩いっ!」と喚き散らしながら、ドームの中から悪魔めいた何かを――――。

 

「って、それさっきまでより絶対洒落になんねーやつだろ!?」

「煩い! 大体それだけ大口叩くのだから、この僕の試練くらい余裕だろうが二人そろって! ほら、さっさと片づけてみろ!」

「無茶苦茶言うじゃねーか……」

「……あまり先輩相手にどうこう言いたくなんだけど、その……」

 

 ため息をつく私と九郎丸だが、それがさらに苛立たせるらしい。それはそうと現れた悪魔めいたそれは、おそらく以前地下で出て来た魔物とかその類の連中の亜種だろう。違いとしては、こうワイバーンというかガーゴイルというかそんな風な容貌で、なおかつ頭は某有名エイリアン映画の非常に卑猥なイチモツ(アレ)っぽい形状である。

 やれやれと黒棒を構えようとするが、すっと九郎丸が一歩前に出る。

 

「刀太君、ここは僕に任せてあっちの先輩を。元来『神鳴流』とは退魔の剣。こうやって召喚されたタイプの妖魔の相手は大得意だから」

「へ、そうなの?」

「うん。もともと平安時代、京の都を守護するために時の陰陽師とかが色々巻き込んで興った流派だしね! っと」

 

 そう言いながら髪を一本抜き、魔法アプリを走らせ何かしらの呪文を唱えると、ぽん! と音と煙が小さく上がり――――。

 

『だから、刀太君はこっちのボクがサポートするから!』

「いや何でもありか神鳴流……」

「あはっ、あんまり出番のある術じゃないんだけどね」

『ボクのことは、ちび九郎とでも呼んで!』

 

 果たして現れたのは、手のひらサイズにデフォルメされたような九郎丸のぬいぐるみのような姿だった。当然スカカードのへちょむくれとも違うこれだが、確か「ネギま!」の方で刹那(せっちゃん)が作っていた式神の一種だったはずである。九郎丸が属している「桃源」の方は、分派してからは特に魔法世界は対不死者用に特化していったものの、一応は陰陽道的なそれも使えなくはないらしい。

 いや、それとも……、もしかして誰かに学び直したとか? 元々九郎丸自身、こういう技は戦闘補助系統以外は使えないみたいな話があったような記憶が……。

 

 ともかく。アデアットして呼び出した小さいサイズの神刀を手渡すと、九郎丸は虚空瞬動を使って魔物の群れに突進していく。私も私でちび九郎を懐に抱え、死天化壮の機動力をもってニキティスに猛接近していくが――――。

 

『刀太君、ボク、これ、酔いそう……』

「そういえば九郎丸、この移動方法は慣れてなかったっけ……。ちょっと我慢してくれ」

『まぁ式神だから、出すものもないんだけどね! えへへ……ウッ』『(ちょっと! 僕に吐こうとしないでよ僕!?)』

 

 

 えへへ、と笑いながら口元を抑えるちび九郎だが、やはり本体よりは幾分頭が弱いらしい(酷い)。だが、そこは流石に九郎丸。わざわざちび九郎に神刀を手渡した理由については、こそこそと式神経由で教えてくれる。……いや、確かにそれならどうとでもなりそうだし、ニキティスの注意を引かないことにはどうしようもないのだが、なんだろう。不思議な安心感めいたものがあるというか、それと同時にすごく「頼っていいよ!」という圧を感じる気がした。

 

 まぁそれはそうとして。血風を黒棒にまとわせながら接近すると、ニキティスは剣の柄のようなものを――――って待て、形成される刀身、完全に血じゃねーか! パクリか? パクリなのか!?

 困惑しながらも切りかかる私に、いくらか余裕を取り戻したらしいニキティスは笑う。

 

「どれ、血装術でも真祖の真祖たるを見せてやろう――――『変遷』!」

『きゃっ、右斜め下からっ』

「おっと!?」

 

 ちび九郎の言葉の通り、鍔迫り合いめいた状態になった途端、剣身が「伸び」、縦横無尽に「折れ」、私の脇下から顎を狙って襲い掛かってきた。ぎりぎり躱したが、私とちび九郎の前髪が少し切れ、散る。

 すぐさま黒棒の重量を最軽量に変えて抜き、ニキティスから後退。だが剣の先端が今度はこちらを「追ってくる」上に三又に「分裂し」――――。

 

「流石にこりゃ死ぬわな……、ちび九郎、作戦変更ってことで――――オラっ!」

『わ、わかったけど投げないで――――!!!?』『(僕、こういう扱い多いなぁ、あはは……)』

 

 ニキティスの方めがけて投げつけたちび九郎は、速度的はちょうどぶつかるくらいのそれだったが歯牙にもかけられず「ていっ」と払われて、目がバッテンになっていた。(ちょっと可愛い)

 っと、なごんでいる場合じゃない。この三又、先ほどの狙撃とかと違い完全に死天化壮の速度に追いついてきている。つまり同時に襲われた場合、最初の様な叩き落しが難しいということだ。ならばどうするべきか――――『逆説的に』、受けてしまえば良い!

 

「何!?」

 

 三つの剣が私に、もっと言えば死天化壮に刺さり「本体にギリギリ刺さっていない」タイミングで、私は死天化壮から「撃ち出された」。結果的にあちらの方に三つの刃が刺さり、貫通し、しかし私の血で「からめとられた」状態になる。

 見ればニキティスは、いまだ手に血で形成された剣を持っているので……。

 

「…………『聖』血風、熱ぃ!?」

「うぉ!? あ、熱っ」

 

 ほぼ自爆待ったなしだが、以前に星月が夏凜から「掌握」した神聖魔法、その属性を私の血を介して少しニキティスの血に流し込んでやった。案の定というべきか、剣を握っていた右腕が「じゅわっ」となる。私共々、お互い自分の腕を抱えて空中で転げまわる絵面は酷く間抜けであった。低オサレである。カトラスどうしてっかなー。(現実逃避)

 煙を上げながら転がり続け、お互い血装を解除しあった後。ニキティスは空中、私はどこかの建物の屋上。立ち直ると、わなわな震えながら、やはりニキティスはこちらに指を突き付けてきた。

 

「お、お前! コノエ・トータ! いくら何でも性格が悪すぎるだろ! 毒を流すな毒を!」

「お前に言われたくねーよ! 何だあの超高速で超追尾してきて超縦横無尽で超殺す気マンマンのやつ!」

「フン、実戦ならあの程度は当たり前、だろ?」

「どっちかというと毒流される方が実戦だとありそうじゃね? 特に格上相手なんだし」

「だとしてもやり方と言うものがあるだろうが、やり方と言うものが! 普通『魔人の出来損ない』ならば、その程度は慮ってしかるべきだろ貴族の常識的に!」

「生憎と一般人育ちなもんでねぇ……、て何? 『魔人の出来損ない』?」

 

 何だか聞き覚えのないワードに困惑する私だが、ちらりと視線をふれば九郎丸がこう、生き生きと魔物を切り捨てている。研鑽具合でいえば原作の所謂「未来編」ほどではないはずだが、その動きは妙に洗練されて綺麗に見える。

 と、こちらと視線が合った瞬間にウインク飛ばしてくるの可愛いじゃねーか止めろ一瞬ドキっとするから!? お前、そろそろ自分が男を自称してることすら忘れてるだろ! 勇魚共々原作を読め原作を。(錯乱)(???「アンタが一番読み返すべきだよアンタが一番」)

  

「気を逸らすな! 僕が話してるんだからちゃんと僕と話をしろ!」

「いや、そんな駄々こねるみてーに言われてもさぁ……。正直、アンタと俺とじゃ完全に千日手だと思うわけよ。アンタだって絶対手加減してるだろ? でそれを止めるつもりもないと」

「当然だ。まだまだ『新参』相手にそこまでするほど、僕も大人げなくはない」

 

 訳の分からないプライドにより八つ当たりかましてきてる時点で充分大人げない気もするが、それはともかく。

 

「結局、どうしたら満足なんだってハナシなんだよなー。お互い折れる所とかねぇ訳だし。妥協点って訳じゃねーけど」

「そんなの決まっているだろう、コノエ・トータ」

「お?」

 

「――――今すぐ手を引け。『お前が追っていた者』は『お前がどうこうするべき相手じゃない』」

 

 ………………果たしてそれは三太のことをさしてか、それとも水無瀬小夜子のことを言っているのか――――。

 何だよそれと言うと、良いか? と。ニキティスは腕を組んで……、妙に寂寥感のあるような目をする。

 

「僕はとある性格の悪い男から、ここの地下の管理を任されているが。同時にこの学園にかつて張られていた超大規模結界の残滓も引き継いでいる。つまりこの学園において、異常なことがあればすぐに感知することが出来る。もちろん、お前たちの侵入もこちらで把握しているし、なんならあの羽虫のことだって、な」

「だから何だよ」

「――――『人間』だ。人間なんだ。僕ら定命から離れ『人間を棄ててる』ような存在が手を出すべきものではない。もちろんそういう物語が無い訳ではない。僕らみたいな存在が滅茶苦茶にする物語だってあるが。それでもあの羽虫は、あの羽虫としての物語がある」

 

 僕は人間が好きなんだ、とニキティスは続ける。

 

「だから一目で、その相手が『どういう物語を背負ってるか』、おぼろげにだが分かる。剣でも交えればなおさらな」

「……どうだかって感じなんだけど」

 

「なんならその『猫を被るのを止めても良いぞ』? もっと嫌味で慇懃無礼だろ、お前」

 

 一瞬ぴくり、と。頬が引きつってしまったのは仕方がないだろう。夏凜はともかく、ニキティスにすらうっすらだが「私」の自己について気づかれてしまったらしい。が、らしいからと言ってこの話は「余程のこと」でもない限り――――万が一、億が一、「私」が「私」として動かなければ解決できない事態にでもならない限り、生涯、誰にも言うつもりは無い。

 

「…………誰だってそんなものだろ? 表に出てる自分と、内に秘めてる自分は必ずしも一緒ってわけじゃない」

 

 だからこそ一般論で濁そうとするが。

 

「嗚呼。別にそれはそれで『悪い訳じゃない』。それも一つの『物語』だ。だからこそ、僕は今のお前が気に入らない」

「気に入らないって言われてもなぁ……。何がどう気に入らねーのか具体的に言ってくれねーと」

「そうだな。…………たぶん、立場だ」

「立場?」

「コノエ・トータ。お前の今の立場にある、そのお前が。あの羽虫を弄ぶようなその振る舞いが、貴族的センサーに引っ掛かるんだろう」

「何だよ貴族的センサーって」

「この高貴なる貴族的センサーがわからないか貴様!?」

 

 わからない。わからないが、ニキティスの頭上で触覚のように二本のアホ毛が動いているのからは目をそらしつつ。……ニキティスではないが、原作知識から照らし合わせると、なんとなくだが言いたいことが分かるような気がする。

 つまり彼に言わせるならば、私と三太は強者と弱者なのだ。能力的な優劣もあるが、おそらくもっと根本的な部分で。……まぁ確かに考えれば、私自身は「文字通り」見た目通りの年齢と言う訳でもないし、積み重ねてきた人生経験やら何やらも2年、4年できくものではない。そんな私が、記憶を失って年相応の恨みつらみを重ねた精神の彼を一方的にいたぶるような行動は、ニキティス的には主義に反するということだろう。

 まあ、とはいえそれも理由の全てと言う訳ではないだろう、さっき言ってた八つ当たりめいた話が先に出て来てるのだから、彼の内心を占めるそれは自分勝手な意見が大半のはずである(断定)。大体ノブレスオブリージュ的振る舞いを心掛けるなら、下等種とか羽虫とか出来損ないとか言わないだろうし、大体それを言ったら今のニキティスがそれであろうに。ダブルスタンダード基本かお前? いや基本なんだろがコイツ……。

 

「だからと言って、このまま引き下がる訳にもいかねーんだよなぁ」

 

 ただ、それはそれ、これはこれである。

 私はキリヱの201回の死を託されてしまっている。キリヱ本人にその自覚はないかもしれないが、だからこそ彼女にそれを知られるわけにもいかない。出来る限り「何事もなく」「なるように」この案件を終わらせるしか、私にできる術はないのだ。

 

 だから黒棒を構え立ち上がり。

 ニキティスもこちらの戦意に応え、まるで吹奏楽団の指揮者の様な構えをし――――。

 

 

 

「――――――――聖絶なる拳(ホーリー・ブロー)!!!」

 

 

 

 突如、巨大なひび割れるような音が鳴ったかと思えば。どこからともなく現れた夏凜が、ニキティスにアッパーカットを喰らわせていた。

 ………………いや、半分くらいはちび九郎との作戦通りなんだけど、やられ台詞が「ぎゃふんっ!?」ってニキティスお前……。(???「自分からギャグキャラ落ちしたアンタが言えるセリフじゃないよ、トータ」)

 

 

 

 

 




アンケの予定は今の所以下のイメージです。(締日予定:7月上旬)
 雪姫:刀太が髪を染めるの目撃してキレる話
 九郎丸:熊本時代、お風呂が停電した時初好感度ガバの話(
 夏凜:カリンと「あの方†」との過去話
 キリヱ:「死を祓え」一周目の話
 カトラス:幼少期、野乃香に色々教わった話


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ST62.死を祓え!:先人曰くにこの世の終わり

お気に入り、感想、ここ好き、誤字報告などなど毎度ご好評あざますナ!
今回視点が三つになるとややこしかったので、分割した関係上ちょっと短め・・・


ST62.Memento Mori:All Her's Sometiong Is Worry

 

 

 

 

 

 九郎丸からちび九郎を経由して提案された作戦は、簡単に言えば陽動作戦である。

 

『僕と刀太君のどちらかが囮、もう片方が結界の核を探すって作戦だよ。どっちが探す方になっても神刀・姫名杜(ヒナちゃん)さえあれば、どんな術の核だって絶対壊すことができるはずだから』

 

 どちらか片方しか神刀を持てないとはいえ必要に応じて九郎丸がアーティファクトを再具現化すれば、アーティファクトの入れ替えも一回は行える。なので、それに従い最初、九郎丸が魔物の群れ、私がニキティスとに対峙し、何方の方がより手ごわいかの見極めを行うつもりだった。……そもそも九郎丸すらニキティスの振る舞いから詰めが甘そうと察したのかというこの作戦だが、しかし意外と手ごわかったため、次善の策としてちび九郎単独で核の調査をさせたのがさっきである。

 

 なのでこのように、結界が破壊されるところまでは私も織り込み済だったのだが……。空中で K.O. されて身動き一つとれない様子のニキティスと、背中から羽根を生やしたまま全身からまばゆい光を放つ夏凜という絵面は、中々に色々と酷い物が有る。おそらく認識阻害の魔法くらいはかかっているだろうが、今までの流れを見るに完全にギャグマンガだった(語弊)。

 と、私の方を見ると全身から光を霧散させ、とはいえ背中の羽根は消さず私に接近してきて当然のように抱きしめ――――いや待てTPO考えてくれTPO! それはお前が以前、私が肌に恥ずかしがっていた時に叱ってきたやつだろ! というかわざわざ少し浮いて私の頭を無理やり胸の位置で抱きしめて撫でるようにする謎のこだわりは何なのだ……。

 

「いや、あの、脈絡ねぇッスから!?」

「最初から脈絡なんてないもの。でも……、うん、このくらいで良いかしら」

 

 とはいえすぐに解いてくれるあたり、今回の夏凜は物分かりが良いらしい。事情はおおむね小さくてアホの子っぽい方の九郎丸から聞いてるから、と微笑むと。私を庇う様な立ち位置で横に並ぶ。結界が破壊されたせいか、魔物の群れも姿はない。九郎丸も空中を蹴って、私の名前を呼び夏凜の隣に立った。なお一空はキリヱを肩車しながら、ゆっくりとジェット噴射で浮上してきた。

 ……ちびっ子扱いされているのがお気に召さないのか、キリヱにぽかぽか殴られながら爽やかに笑う一空青年である。

 

「はは! 勢ぞろいって感じだ。なんだかスゥプァーヒィロオォ映画のCMみたいな結集感だね」

「なんでネイティヴな感じなのよ発音。それよりちょっと、何目的の対象を取り逃がしてるのよちゅーに……って、なんで『毎回』アンタそんなボロボロになってる訳!? 大丈夫!!?」

「お? あー、まぁ大した話じゃねーよ」

「皆、それより――――」

 

 頭を押さえながらこちらを睨むニキティスは周囲を見渡す。結界が消え去っていることにため息をつき「これ以上は野暮か」と肩をすくめた。今更そんな余裕ぶった態度をとられたところで醜態が多すぎてイメージはもはや固定されているのですがそれは……。(白目)

 

「貴方、確かニキティス・ラプスだったかしら。不死身衆ナンバー8、アカシャ図書館の司書兼管理人と聞いています。そんな貴方が何故、こんな場所に?」

「…………なんか下等種云々以前に、お前からは物凄く面倒くさい女の臭いがするから話す気が失せた」

「はい?」

 

 あー、と思わず失言、納得しかけたのを抑えた。というかそれを一目で見抜くあたり、意外と本人が言う所の見る目はあるのかもしれない。人間観察の経験値だけで言ったら確かに天文学的な数を見ているはずなので、さもありなんと言ったところか。

 まあ、お陰でこちらも溜飲が下がった……というよりノックアウトされた時点で苛立ちがどこかに行ってしまった。ニキティスも夏凜特有の面倒くささのためか追撃する気も失せているらしく、ちらりと我々を一瞥すると、次の瞬間にはニキティスの足場に魔法陣が展開され――――。

 

『――――これだけは言っておいてやる。コノエ・トータ、もしあの羽虫を追うのなら本質を見失うな。アレは個人的な問題でしか動かない性質だぞ』

「……そりゃ何となくわかってるッスよ」

 

 アドバイスとも言えないアドバイスと共に、そこへ吸い込まれて姿を消し……、っていや、その転移先にグレネードを投げ込む一空は一体何なのか。一瞬魔法陣から爆発音と閃光が走り「ぎゃふん!?」と聞こえたあたりからしてスタングレネードか何かを投擲したのだろうが。

 えぇ……、みたいなちょっと引いた視線を送ると、苦笑いしながら一空は上を見る。

 

「これ、キリヱちゃんのリクエストだから」

「こっちは世界の危機に立ち向かってるって言うのに、気分一つで適当にしっちゃかめっちゃかにされたらたまったもんじゃないって話よ。少しくらい八つ当たりさせなさいって話よ!」

「おいキリヱ、それ切っ掛けでまた絡んでくるんじゃねーか? アイツ……」

 

 正直イレギュラーすぎて次にどういう行動をするか分かったものではないのだが、キリヱも死んだ魚のような目をしていたのでそれ以上は何も言えなかった。

 

 地上に降りた後、夏凜たちも三太に遭遇したという話を聞き作戦会議をしようという流れになるのだが。ニキティスの耳がどこにあるのかわからないので、路上で話すとそれはそれで面倒なことになるかもしれないという話題になる。

 

「まぁ、喫茶店とかで話してもいいかもしれないけど、刀太君の話じゃ魔術的な方法で情報を集めてくるかもしれないからね。人の口に戸は立てられないって言うけど、耳に入らないように色々手を回すってのも有りと言えば有りなんじゃないかな?」

「とか言っても、結界とか張るみた――――」

「あっ! そう言うのだったら僕、得意です!」

「お、おぅ」

「食い気味じゃない九郎丸……」

 

「でしたら、少し良いツテがあります。そこならわざわざ話し込む間中、ずっと気なり魔力なりを走らせる必要もないわ。自動で遮音なり何なりしてくれる場所があるもの」

 

 私たち全員の視線が集中すると、夏凜は少しだけ得意げに微笑んだ。

 

 

 

 ※  ※  ※

 

 

 

「――――という訳で、ちょっと奥のスペースを借りるわ。シスター・ミソラ」

「ちょっ、ストップ! ストップしてくれないかいシスター・カリンっ!!? ココネも止めて! このババァ一人にゴリラパワーせき止めるダム任せてないで!」

「誰がゴリラよ……」

「……あ、久しぶり」

 

 我が長年のマスターであるココネが帰ろうとしてた私を「掃除、どうせやってないでしょ」とふん捕まえられ数時間。二人で教会の掃除を終えて、ようやく帰宅するかという流れになった丁度のタイミングで、まさかのエンカウントだ。

 相変わらず美人っていうか美少女っていうかクギミーを真面目クールにした感じなシスター・カリン……、いや、結城夏凜って言う方が本人は好きかな。夏凜ちゃんが、数名引き連れてウチの教会にやってきた。

 なお堂々とこのババア渾身のディフェンスは無視して室内に足を踏み入れて来る模様。ココネはココネで全然アラサーでも余裕な見た目と肌ツヤと体力してるくせに全然協力せず、にやりと笑いながら夏凜ちゃんに手を振ってる。

 

「だ、大丈夫なの夏凜ちゃんここって……?」

「失礼します」

「あはは……(文字通り聖地巡礼……!)」

「お邪魔しまーす」

 

 ちなみに続く子たちは、皆手にコンビニの袋を持ってる。えーっと……、眼鏡のちびっ子ちゃんに、ちょっと刹那っちを思い出す感じの子、あとものすんげーこのせつ味を思い起こさせる男の子に……、誰、このイケメン長身白衣っ!? 裏魔法委員会のミーティングで話に上がってねぇぜ!!?

 私の動揺など素知らぬ風で、時坂九郎丸くん(ちゃん?)と近衛刀太くんに私を紹介する夏凜ちゃん。

 

「二人はスラムでお世話になったシスター・ミカンは覚えてるかしら。こちらシスター・ミソラ。彼女の祖母よ」

「ど、どうもこんばんは」

「あー、ちょっとお世話になります」

「あらあら。こりゃー、いえこっちこそ孫がお世話に……」

「ちなみに、見た目以上に健康でアグレッシブで口が軽くて適当でサボり魔でイタズラ好きでトラブルメーカーだから、何か困ったことがあるなら隣のシスター・ココネに言うといいわ」

「ココネ・ファティマ・ロザ。悩みくらい聞くから」

「ちょ!!!? 親しき仲にも礼儀ありだぜシスター・カリン! あっじゃなかった夏凜ちゃん! 何老い先(みじけ)ぇババァとっつかまえて言っちゃったりしてくれてんの!!?」

 

 思わず説教する私に「しらー」っとした目を向けて来る夏凜ちゃん。いや、別に私そんなトラブル招いた覚えは……、覚えは…………、いや確かにあっちの養護員でエンゲル係数上昇率に困ってた時にお金目当てでちょっと何度かやらかしてたこともあったけどさぁ、まあ大事になってないしー?

 

「私の追っ手を招き入れてあわや現代のソドムとゴモラになりかけた覚えがあるのだけれど、気のせいかしら。あれほど警戒してってお願いして、なんなら私のことも全然隠さないで話しちゃったり」

「いやー、あ、あれはその……、ね? ちょっとババアは記憶が曖昧なもんで……」

「とはいえ最後まで匿ってくれたのとか、戸籍を作る時に助力してくれたのとか、他にも色々感謝もあるのだけれど」

「お、おぅ……」

 

 ふっと微笑む夏凜ちゃん。ストレートにそんなこと言われる経験があんまりない人生なので(※大体自業自得だけど)、ババア思わずちょっと挙動不審になる。そんな私たちの気安さを見てか、刀太くんは苦笑いだった。

 

 うーん、近衛刀太くん……、この子が「ネギ先生とこのせつ」の……、いや? アスナの、でもあるのか? うぅんでも顔の感じ完全に木乃香だしなぁ……。目つきは刹那っちっぽいけど。あっでも髪型は完全にネギ先生の感じだ。少なくとも「私の」でないことだけ分かれば、少しだけ安心だ。

 へ、下手するとエヴァちゃんに殺されかねないし……。

 

 一応それぞれ自己紹介してもらったけど、なるほど? 一空くんは年齢詐称薬かどうかは知らねーけど見た目をいじれるってことねー、なーるなーる……。

 とりあえずスペースを貸すだけだったら、ということで。礼拝堂の裏側にある飲食スペースを貸すことに。一応は防音対策しっかりしているので、外部に音が漏れることはないと説明して奥に誘導し――――。

 

「――『来たれ(アデアット)』! 有翼スニーカー(ヘルメス・カチャメンタ)!」

「美空、悪い癖……」

 

 ふっふっふ、ババァの脚力ナメんなよォ? これでも認識阻害を併用して学生間の情報収集なんざ朝飯前、十年くらいお手のものさァ! 防音設備? 何年麻帆良在住だと思ってるんだ、そんなものどこからなら音が漏れるか、気付かれないかなんてリサーチ済み済み! もともと人間界日本支部施設が隣接していた名残もあって「そういう」対策は滅茶苦茶凝ってるらしいんだけど(今は亡きシスター・シャークティ情報)、流石に超至近距離で物理的に聞いたらそれどころでは無いのだ。

 後ろでココネのたしなめるような声がしてるけど気のせー気のせー。大体ココネだって、私の使い込まれたアーティファクト、この脚力アップシューズめいたもんが出たと同時に、もうおぶさる形でいつでもどうぞって有様さぁ。

 

 というわけで我ら二人、野次馬根性丸出しで、例の事件の調査状況を聞くため、教会の外に出て上方向へジャーンプ――――! 塔のてっぺんから少しずれたところ、壁のへこみの部分に耳を当てる。もともと構造上、神聖魔法による結界を最大限生かすギミックがあるので一度発動すると勝手に魔力が循環して結界が長時間維持されて、かつ教会の敷地外部からは音が聞こえない仕組みらしいんだけど、流石に建物自体の物理的劣化には耐えられない事情もあったりするので。

 あ、さて。さて。どれどれ秘密の話もなんのその……。

 

『――――へ? マジッスか夏凜ちゃんさん』

『大真面目な話よ。件のパーカーを着用した能力者が、あの結界を壊すのに助力してくれたの。九郎丸の小さいのを抱えて、私が「神聖」属性の魔力を流し込んで、そこにサイコキネシスで加速をつけて一気に一撃入れたわ』

『うん、ちび九郎でも結界の核を見つけられなくってさ。表に出てヘルプを頼もうとしたみたいなんだけど』

『いや、マジか、ガチなやつッスか……。何か言ってたか?』

『アレよ、なんかこう、すごいツンデレなちゅーにみたいなこと言ってたわね。「貸し借りは無しにしたい」とか「別にアイツの為じゃねー」とか――――』

 

「結界?」

「あー、あのなんかすんごい大きくて黒くって、なヤツねぇ。ふむふむふむ……」

 

 どうやらさっき何かトラブルがあったみたいなんだけど、ふむふむと色々適当に話を聞いていたのがまずかったらしい。

 

『ともかく。その能力者と、全世界を巻き込んだ規模のゾンビウィルステロがどうして発生するのか。色々考えないといけない話ですね』

 

「「ゾンビ…………?」」

 

 あっ、これ聞いたら拙い奴だと、直感的に察してしまったけれど……、興味関心には勝てず、最後までずるずると盗み聞きすることにした私たちだった。

 

 私は悪くねぇ! たとえここの管理を私が引き継ぐことになった瞬間、病床だったシスタ・シャークティに「この世の終わりじゃないかい……」みたいなうわごとを言われたとしても、私は悪くねぇ!

 

 

 

 

 




アンケの予定は今の所以下のイメージです。(締日予定:7月15日)
 雪姫:刀太が髪を染めるの目撃してキレる話
 九郎丸:熊本時代、お風呂が停電した時初好感度ガバの話(
 夏凜:カリンと「あの方†」との過去話
 キリヱ:「死を祓え」一周目の話
 カトラス:幼少期、野乃香に色々教わった話


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ST63.死を祓え!:致命的誤解

遅ればせながら、毎度ご好評あざますナ!
 
なんかここのところずっとババァ視点ばっか打ってる気がする・・・


ST63.Memento Mori:Rudimentary beliefs

 

 

 

「――――っとぉ! どれだけ結界を強くしたところで無駄だぜ! この無敵の三太様にかかれば、クラッキングなんてお茶の子さいさいと」

 

 連中が入っていた教会の通信機器に自室のパソコンでクラッキングをかけながら、俺は連中から盗聴を行う。

 既にUQホルダーとかいう所から派遣された連中のパーソナルな情報は収集済。八年前も来た全然情報が無いおっぱいデケー無能女、全身サイボーグのロン毛御曹司、性別不詳とかいってる剣士に、見た目十歳前後なのに実年齢がアラサーなロリババァ(どういう原理だ?)、あと種族が「魔人」ってなってるツンツン頭とか。

 

『いやまぁ、アイツ自身は悪い奴じゃねぇと思うんだけどなぁ』

「…………」

 

 あのツンツン頭……。なんだか変な気分になる。というか無敵の超能力者になってから……、いやそれよりも前から、庇われた経験なんてなかったと気付いちまった。

 たぶんそのせいだ、妙な胸のざわつきって言うか、こう、変な照れがあるのは。

 

『――――逃げとけ、ちょっとヤバそう』

『…………っ、べ、別にお礼なんて言わねーからな!』

 

 何か知らねーけど、俺をさんざん翻弄したあのガキが、今度はさも当たり前と言う顔して俺を庇いやがった。

 その事実に気づいた途端、なんだかこう、鳩尾の辺りに無性に変な痛みって言うか、こう、落ち着きのなさみたいな感覚が出て来た。

 

 ついぞ味わったことのないその感覚に……いや、俺が「いじめられてた」時には散々味わったあの感覚が、なんで今更って思ったけれど。考えたら当たり前で、そりゃ確かに「ひどい目に遭う」奴が、あまつさえこっちを助けて代わりに酷い目に遭うっていうのに、変な話、納得がいってないんだ。

 

 別にあのUQホルダーのガキと何かあったわけじゃねぇ。今日だって初対面かまして、まぁメシは美味かったけど、それくらいの付き合いしかないのにだ。

 

『だけど刀太君、実際ここのところ連続してる不可能殺人を前提に考えると、やっぱりその感想は違うと思うよ。行き過ぎた正義っていうのは暴走しがちなものだしね』

『そうだね。あのスラムでのこととか…………』

 

「不可能殺人?」

 

 殺人って何だ? あのロン毛の言ってることがよくわからなくて、色々と俺も調べてみる……というか、すぐに検索結果に出た。アマノミハシラ学園都市内での連続殺人。詳細はボカされてるのが癪に障ったので学内のネットワークにアクセスしたら、これまた一気に出て来た情報…………。誰だこのレポート書いたザジ・レイニーデイっていうの。

 期間的にはだいぶ昔から、直近で八年前も同様の事件が――――そう書かれてるのを見た瞬間、少しだけ頭痛がする。それを振り払って、インデックスを拡張しもっと詳細を見てみた。

 

「はっ、壁にめり込んだり水中に頭だけ刺さった状態で直立してたりだァ? 有りえない高高度から落下させたり、地面に生き埋めにされたり、全身校舎のいたるところでバラバラに引き裂かれたり……? 痛ッ!」

 

 過去の事件を辿ると、どうしてかやっぱり頭痛がするが……。でも確かに、これだけの情報を見ると俺が犯人でも不思議じゃないように「見えて来る」。こちとらスーパー超能力を得ただけのごく一般的な中学生ってだけなんだが、こりゃ確かに「勘違い」しても「不思議じゃない」。

 

「にしてもコイツは何だ……? 小夜子だってこんなことは『出来ない』だろうし。そもそもアイツそんなこと出来る性格してねぇし。とすると、俺みたいな能力者が別にいるってことか? アマノミハシラ学園(ココ)、七不思議じゃ済まないくらい不可解伝説いっぱいあるし……、でもあの美化委員とかじゃねーな。でもそれっぽいのが他に居ても――――」

 

『まあそう言われると可能性は低いと思うっスけど、アイツの性格的にも無理なんじゃないッスかね? だって、ちょっと庇ったくらいの俺を、自分が捕まるかもしれないリスクを無視して助けてくれたんスよね。その一つだけで良い奴だとか悪い奴だとか言える材料は無ぇッスけど、そういう奴だから見せしめって意味でも「殺さない」と思うんスよ』

『ん…………、実際に相対した刀太がそう感じたのなら、それもまた一つの情報ですか』

 

「…………」

 

 いや、ツンツン頭の言う話は確かに俺の感覚的にも合ってるんだけど、それに答える無能女の声の微妙なトーン何だこれ。ちょっと艶っぽい? というかいちゃいちゃしてる気がする。何だこいつら。付き合ってンのか?

 

 確かにあの後、真っ黒なドームみたいなのに覆われたツンツン頭を助けるために周りを飛んでたら、あの無能女とちびっ子抱えたロン毛が出て来たには出て来たんだけど。この中にとらわれてるって言ったら血相変えてたし、慌てっぷりがスゲーことになってたのは妙に覚えてるけどさぁ。

 

『ちょっと! 何これ、本当に意味わかんないんだけど!』

『キリヱちゃんの予知でも見たことないのかな?』

『というより「今回」自体、何もかも初めてが多いのよ! 未だに世界が滅んでないから正解っぽい気はするけど! でも全然、こっから連絡入れようにもちゅーにに繋がんないし!』

『(今回?)……でしたら、状況が動くのを待ちましょう。さきほど姿を消したと聞いた以上、おそらくパクティオーカードによって召喚されたのでしょうし。以前、雪姫様からそういう機能があると聞いたことがあります』

『夏凜ちゃん、セリフは凄いクールだけど、顔真っ青で胸元押さえてるの大丈夫かな?』

『ちゃん付けは止めなさい、飴屋一空』

 

 そうこうしてるうちに式神とかいう小さいのが出て来て(実はちょっとそーゆーオンミョージ的なのにはテンションが上がってるのは内緒だけど)、色々とあの女と話し合ったら。唐突に呪文みたいなのを唱えて、スゲー真っ白に光り輝いた。

 ……ああいう「祈祷力」が高い奴が使う魔法、教会のババアシスターとかも使うやつは、よく知らねーけど凄い苦手だった。

 

 で、色々話して俺の念動力であの女をもっと加速させる手助けをして、式神が持ってた刀に女の「祈祷力」をめっちゃ注いで、ドームに突き刺したって流れだ。

 結果、ドームは一気にひびが入って壊れた。……あの無能女が、なんかヤベー奴にアッパー喰らわせてたのはヤベェ絵面だった。直後に一切躊躇いなくツンツン頭抱きしめにいってたのはもっとヤベェ絵面だったけど。

 

 色々思い出しながら遠い目をしてると、女っぽい顔してるやつの声が聞こえる。

 

『勇魚ちゃんたちが話してた、トイレのサヨコさんだっけ? そっちと併せてみても、辻褄は合いそうだよね。男の子っぽかったんでしょ? なら性別が違う』

『まー、そうだな』

『トイレのサヨコさんそのものは、もっと昔から起こっていた事件で、目撃証言? も女の子だったっけ。つまり……、最低でも能力者は二人、居る?』

『とすると、彼らが手を組んでいないかっていうのが一つのキーポイントになるかな。キリヱちゃんはどう思う?』

『わ、私に聞かないでよ……。んー、でも、それはそれで何か違和感あるわよね。さっき夏凜ちゃんも言ってたけど、そもそも私たちって、ゾンビウィルステロ止めにこっちに来てる訳だし。ひょっとしたらこの事件と完全に無関係ってことも――――』

 

「ゾンビ?」

 

 連中が何を目的として話しているかさっぱりわからねーけど、どうも世界規模でそんな話が起こるみたいなことらしい。……バカバカしい、そんな無駄なことやる奴がどこにいるんだってハナシだろ。ってか今時ゾンビウィルスって、映画の見過ぎか何かか?

 バカバカしいけど、でも、実際に連中も俺もそれなりにコミックとかアニメとか映画みたいな存在だという事実を忘れないのがスーパー三太様だ。

 

「話半分としても、そういう話が起こるかもしれなくって、それにこの事件が関係してるって?」

 

『――――ですが、手掛かりがないのも事実です。仮説として、その「トイレのサヨコさん」が怨霊、ないしそういった存在で、この事件のトリガーとなる、と仮定して動きましょう。怨霊でしたら、場合によっては例の和尚でも呼びましょうか』

 

 そして続いた無能女の言葉で、俺は鳥肌が立った。

 サヨコ……、小夜子のことか? アイツが怨霊だって? あんな、なよっとしてこんな俺でも守ってやんなきゃって奮起しないといけないくらいの、あの小夜子が? いや、アイツもアイツで別にそこまでヤワって訳じゃねーだろうけど、べ、別にそんなこと関係なくってやつだ。そもそも俺たち「死んでいないし」。

 そんなことは絶対有りえない。でも、だけど、そうなると連中は俺じゃなく、本気で小夜子を潰しに……、成仏とか滅却とか、そーゆーことしに来るかもしれない。

 いくら俺でも、数人がかりで襲われたらアイツを守り切れない、かもしれない。スーパー三太様といえど、出来ることと出来ないことはこの世にいっぱいあるのは知ってるんだ……、お昼の争奪戦とか未だに勝てないし。

 

 つまり。

 

「小夜子を守れるのは俺だけ…………」

 

 つまり確実なのは…………、真犯人の能力者を、俺の手で捕まえて奴らに引き渡すってことだ。

 無能女たちはともかくとして、あのツンツン頭……、トータだっけ、アイツならまだ話が通じる気がする。通じると思う、たぶん。だから真犯人を差し出す。でないと、アイツらは本気で俺たちを殺しにくるかもしれないってことだ。

 

 手が震える。でも、俺はそれを笑い飛ばす。こりゃ、武者震いって奴だ。

 

「上等じゃねぇか……、だったらやってやるよ! なんたって俺は、スーパー三太様なんだからなぁ!」

 

 思わず声を荒らげて立ち上がると、煩かったのか隣の部屋が「ドン!」っと壁を殴ってきて、思わずスミマセンと謝ってしまった。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「…………美空、どうするの?」

「……うーん、お手上げだぁね」

 

 事態が思ったよりも致命的だったせいで、思わず血の気が引く私にココネは普段通りの視線を投げて来る。いくつになってもこう抱き着き癖みたいに甘えてくるのは良いんだけど、ちょっと今、ババアお疲れなのだ。

 

 何だよゾンビウィルステロとかさぁ……! 世界規模って何だよ! 私は勉強そんな得意じゃないんだから、世話ねぇんだよ!

 

 それはさておき、まあちょっとだけ引っ掛かる話があったのは事実。話し合いはまだ続いてるみたいだけど新情報とかはとれなさそうだし(あと私のキャパオーバー)、一旦降りて来て有翼スニーカー(アーティファクト)を解除した。

 声が漏れると拙いので簡易結界を張り、防音。

 

「しかし、それにしても『トイレのサヨコ』さんねぇ」

「?」

「いやぁ、サヨコさんっていうか、そういう名前の子がね? 魔法生徒としては活動してなかったんだけど居たんだ。でもホラ、ネギくんたちが魔法世界(ムンドゥス・マギクス)で色々やってたときに、ポータルぶっ壊されてたじゃん? 私らもあっちに居て。ちょうどその頃『殺された』って話。シスタ・シャークティからあって、遺体の状況が酷かったもんだから、私たち教会関係者全員で手を尽くして埋葬したやつ。まあその後幽霊にでもなったのか、都市伝説的なのに名前を連ねるようになっちゃってさー。アレは悪いことしたよねぇ、なんだったら相談してくれたら、ウチのクラスとかで引き取るって手もあったろーに。ネギ先生も否とは言わないだろうし」

「そういう話、あったような、なかったような……?」

 

 私より記憶曖昧とか大丈夫かねぇココネさんや……。ババァって確かに生き字引だけど、現役やめるとボケていくもんだぜ?

 まぁ私があんまりボケてないのは、単に自前の魔力で基礎的な「そういう」スペック底上げし続けてるからだし(ちなみに私、ココネの本契約魔力だと「このせつ」みたいに、お互い若い頃の姿を維持できるだけの余剰分がないので年くってる)、それでもまぁ老い先が延びる訳でもないだろーし、ちゃんと覚悟しとけってのは良く言ってるんだけどねぇ。

 

「でもそれなら、昇天させてあげなかったんだっけ?」

「一応何年か後に、たつみーとか木乃香とか刹那っちとかザジにゃんとかと一緒に捜索した、らしいんだけどね? コノエモン旧学園長いたじゃん、あのぬらりひょん。あの人の依頼で」

「あー」

 

 どうやら「さよちゃん」の時にも似たようなことをしてたらしいんだけど、まあその時に関してはむしろそれでも見つからなかったとか。

 

「サヨコちゃんって自殺に見せかけて殺されてたらしいから、まあ殺した生徒に復讐して、それで成仏したんじゃないかって話でいったんは落ち着いたんだけどねぇ。まー、私もその話聞いたのって八年前なんだけど」

「……そういえば、他殺だったの?」

「そうそっ。あれくらい『酷いこと』されそうになったんなら魔法使っちゃえばよかったろうに、真面目というか、コッチに足を踏み入れるつもりがなかったってことなのか……。まー、正直テレビで流せないくらいの有様な感じでさ。神よあなたは何処にいるっ! って感じで、珍しく真面目にお祈りしちゃったくらいだし」

「美空がそう言うのって相当……」

 

 オイオイそりゃどういう意味だいココネさんや? 既に縮んだこのババアよりもはるかにスラッとして、たつみーの親戚みたいな雰囲気になってるココネだけど、振る舞いはまだまだちびっ子っぽいのは何とかなんないものかねぇ……。いくら裏火星人だからと言ったって、この子だって単純換算で言えば今年で八j――――。

 

「っておわっと!? なんでゲンコツ振り下ろしたし! 私だから躱せたけどババア労わりなさいってな!」

「…………美空、美柑に彼氏がいい加減にできたか揶揄ってる時と同じ顔してる」

「へ? そ、ソンナコトナイデスヨー」

 

 誤魔化しながら視線を逸らしたけど、普段以上にシラーっとした目で見て来るココネの圧に思わず後退する私だった。

 

「は、話を戻すけど。でもさー、考えたらね? さよちゃんの情報網に引っ掛かってないって相当だと思うんだ。朝倉ほどでは無いにしろ麻帆良内(ココ)だったらスゲー手広く情報集められるわけだし、幽霊友達も結構いるって前に聞いたことあるし」

「…………つまり?」

「つまり……、何だろうねぇ、隠蔽する術でも仕掛けられているのか――――」

 

 

 

「――――その話、少し詳しく聞かせてくれないかしら? シスター・ミソラ」

 

 

 

 がちゃり、と。教会の扉が開いて、夏凜ちゃんがぬっと現れる。

 このリアクションの感じ、というか半眼で引きつった笑みを浮かべて背後に妙なオーラが見えるような視えないようなこの感じ、たぶんコレ、アレですね。私たちの盗聴、勘付いてたやつッスね?

 あー、誤魔化せないか目を点にして適当に視線をそらそうとするも、背後からぞろぞろ出て来る子たちを前に、というかそのマジな目を前に、流石に逃げるのが忍びなく……。

 

「お婆さん、少しでも情報が欲しいの。何か知ってることがあるなら、教えてっ!」

「うぅ……、もう、ババァちょっと胃が痛いんだけどなぁ……」

「美空、胃腸薬――――」

「いやそういうボケ潰しみたいなの止めない? ココネさぁ」

 

 いやだってさぁ? 特にちびっ子のキリヱちゃんだっけ。まるでホラ、なんじらここに入るもの一切の望みを捨てよみたいな悲壮な目ぇしちゃってんだもん。晩年っていうか、行方不明になる直前のネギ先生みたいな顔されちゃあ、ババア流石に居直る訳にもいかねーよなぁと。

 

 渋々、という風に。とりあえずたつみーこと龍宮真名――――現アマノミハシラ学園都市・学園長「代理」にアポを繋ごうかとか考えた。

 

 

 

 

 




アンケの予定は今の所以下のイメージです。(締日予定:7月15日)
明日締め切りですので、まだの方はお早めに・・・!
 雪姫:刀太が髪を染めるの目撃してキレる話
 九郎丸:熊本時代、お風呂が停電した時初好感度ガバの話(
 夏凜:カリンと「あの方†」との過去話
 キリヱ:「死を祓え」一周目の話
 カトラス:幼少期、野乃香に色々教わった話


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ST64.死を祓え!:誤解なく

毎度ご好評あざますナ!
深夜更新すまない・・・すまない・・・


ST64.Memento Mori:Can I Close To Your Heart Everytime?

 

 

 

『――――事情は分かったが、なぁ? 私も今仕事中なんだが……、というか数日は「麻帆良」の方には帰れないんだが。ちょっと前に無理に呼び出される話があったんだが、それが流れたお陰で別な仕事を入れてしまって――』

「そこを何とか……! ババア助けるものだと思って何とか! じゃないとシスター・カリンに絞られちゃうっ! こんなバアさんいじめたって大したモン出る訳でもないのに! タツミーと違ってさぁ!」

『いやその……、私と同年代の人間が自分をババアだの何だの自称するのを聞いていると、色々クるものがあるのだが、春日…………。

 ザジじゃダメなのか? 私が留守の間は代行権限はそっちに任せてるんだが』

「ザジにゃんって簡単に捕まらなくって……。いやほら、あの子ケータイ持たない主義でしょ? 通話アプリすら所持してないし」

『なら委員長は――――』

「いや、なんかカオス発生しそうかなって思うからパス」

『嗚呼それはなぁ……。確か孫娘もアマノミハシラに在籍しているし、顔合わせでもしたら予想がつかないのは同意するな。初心者にあの一族は色々強烈だ』

「でも、既に早々近衛姉妹とは顔合わせしちゃってるみたいだし。あれはヤベェ感じだねぇ……、特に勇魚ちゃん」

『そういう変な女運みたいなのはネギ先生譲りか……』

「あ! やっぱそう思うよねー! お孫さんもなんとシスター・カリンすらベッタベタでもうマジやべぇの何のって――――」

 

 教会入り口手前にて、何やらアポイントメントを取ろうとしているご老体を前に、私たちはマナーとして一応静かにしていた。

 私の隣で「一体私を何だと思ってるのかしら……?」と不満そうな夏凜はともかく。電話をしている彼女、および電話先の声を聞いて、なんというか変な感慨に包まれる私である。はじめて雪姫の声を聞いたときに感じた「嗚呼、私は今『ネギま!』世界にいるんだ」という妙な納得感というか感動というか、そんな感情が出て来るのだ。とはいえ二人とも「ネギま!」時代よりも年齢やら外見やらは変わっているだろし、交友関係も当時とはまた変わっているだろうが。それでもやはり原作を思い起こさせるこのお婆ちゃんの軽さに私は何とも言えない感動を覚えた。

 目の前で慌てながら電話する妙に元気な老婆。自分のことをババアと呼ぶのはどうかと思うのだが、それはともかく、現在の私より少し低いくらいの身長だが背筋はピンッとしており声も通るし何よりよく笑うご老人である。豊齢(ほうれい)線が強いのもおそらくそのせいであり、若い頃から気質など一切変わっていないらしい。というか電話口の言葉の数々どころか普段の会話すら、自分が先達というか老人だという自覚のない軽いものだ。

 

 春日美空。「ネギま!」においてはネギぼーずのクラス2ーAおよび3-A所属で、現在時系列で言うならスラムで少しお世話になった春日美柑の祖母にあたる。つまりは夏凜が日本に来た当初お世話になったシスター本人であり、夏凜による雑な紹介そのままの人物でもある。

 かつては体育の成績は陸上部らしくクラストップであったりするが、基本的にイタズラ大好きで仕事は割とテキトーにサボったり遊んだりするお道化た修道女である。とはいえその妙に気の抜けた明るさはその出自やらの関係に由来しているようで、つまりは「孤独で辛い過去を吹っ飛ばすため」突き抜けた性格になったと考えられる。その明るさは隣に居るシスター・ココネの「より複雑な事情」すら吹っ飛ばす勢いであり、姉妹の様な関係は晩年となった今も続いているらしい。

 ちなみに、困ったり誤魔化したりするときによく猫っぽい目になるのは現在のご年齢になっても未だ健在であった。

 

「ごめんね? もうちょっと。美空、雑談し出すと止まらない。美柑とかもここ通ってる時は、辟易してた」

「いや良いッスけど……、何で撫でるんスか?」

「こう、頑張って的なエール」

 

 ちなみにそう言いながら私の頭を撫でて来るシスター・ココネだが、彼女は春日美空のマスターということになっているらしい。どうもかつて美空が麻帆良学園に来る際、一緒に同行する名目づくりのために仮契約した節があり、マスターと言いつつ扱いは妹のようなものだろう。……とはいえ見た目の感じが龍宮真名、今美空が連絡している相手を少し可愛くしたような雰囲気にまとまって一切加齢を感じさせないのに、ちょっと妙な感覚になる。

 なお段々と撫でる速度が上がっていって髪が引っ張られるというか抜けそうなまでの高速になりそうな段階で、手を掴んでストップをかけた。不思議そうな顔をするシスター・ココネであるが、いやそんな顔されても困るのだが。(断言)

 

「タツミーって言ってるけど、電話の相手って誰なの? 声すっごい若いけど、距離感すっごい友達みたいな感じだし」

 

 ねえねえ、とキリヱが事前情報を知らないと当然湧いてくる質問をする。いや、まさか件の相手本人と電話してるとは夢にも思っていないのだろうが……。なお一空は教会の方を見て「うん?」と訝し気である。会議途中で盗み聞きされてると断言したのは夏凜であったが、ひょっとすると他にも誰か盗聴を…………? 魔法的な防御力に問題が無かったと考えると、文明の利器からの介入とみるなら三太だろうか。ひょっとすると少し拙い事態になるかもしれないが……、いや、あの話合いを聞いていたからといって、彼らはここから「逃げられない」のだから、究極的には問題にならないだろうが。そのあたり一度、帰ったらバレない程度に探りを入れてみるべきか。

 

「タツミーは、クールビューティ」

「いやそういう話じゃなくって……」

「ハイレグが好きなんだと思う。よく着てる」

「えっと…………」

「スタイル抜群。ぼん、きゅっ、ぼーん」

「………………」

 

 なお色々考えてる横でキリヱが死んだ魚の目をして九郎丸に苦笑されていたのはともかく。どうやら上手く事が運べなかったらしく、その割に美空は適当に謝ってきた。

 

「いやー、ごめんね皆。とりあえず来週どっかのタイミングでアポとれそうだから、それまでタツミーに手助けしてもらうのはオアズケってことで」

「いえ、でもさっきの話は色々得るものがあったわ。シスター・ミソラ」

「「ありがとうございます」」

 

 次々に頭を下げられ「お、おぅ……?」と困惑気味なのはともかく(イタズラしすぎのせいか感謝されることが少ない?)、彼女から追加で得られた情報は、推測を立てるのに色々と補強になるものだった。

 

①かつてサヨコという生徒がいた。

②彼女は魔法生徒(学園公認で魔法をならう生徒。専属の魔法先生、魔術師の教職が担当として就くことになる)ではなかったが、魔法使いの家系であった。

③いじめによる自殺ではなく、いじめによる他殺で殺されていた。

④その後、本当に幽霊の類になった目撃証言がある。

⑤いじめていた生徒、おそらく彼女を殺害した生徒へ復讐の殺人を起こしている。

 

 それで何故今、学園長代理へと電話をしていたのかと言えば。そのサヨコという彼女…………、まぁ私の認識は誤魔化す必要はないので言ってしまうと水無瀬小夜子だが、彼女のパーソナルな情報を引き出すのに、学園長許可がいるためである。

 旧麻帆良学園時代から、学園生徒の魔法関係者の情報は一通り焼却されず、それこそ百年分以上にため込まれているらしいのだが。このあたりはデジタル処理ではなく紙資料、おまけに古いタイプの魔法でロックがかけられているため、管理者本人の手書きサインやら指紋やら何やら色々ナマのものが必要になってくるらしく、それを可能とするための準備であった。

 

 とはいえ本日中には対応できないという形でまとまったのだが……。一度解散の後、夏凜から「ちょっと良いかしら」と手を引かれることになる。

 

「少し話があるのだけど……、九郎丸。刀太を借りるわね」

「えっ?」「わぉ」「何すんの夏凜ちゃん?」

「あー、えっと一体――――」

「――――『御翼の陰(アンブラ・アルム)』」

 

 そして背中に翼を生やすと、当たり前のように私をお姫様抱っこして(!)空中に飛び上がる。……どうやら先ほど、春日美空に盗み聞きされたことがお気に召さなかったのか。今度こそ徹底的に防音するつもりなのか、空中を飛びながら結界を纏い、固まる私の耳元に話しかけてきた。

 

「あまり貴方の『素』に向けてこういうのはしたくないのだけれど……、貴方、確信してたわね?」

「か、確信って……?」

「――――私たちが『追っていた固有能力者』が『連続殺人事件の犯人じゃない』ってことに。もっと言ってしまうなら、その真犯人こそがゾンビウィルスのテロに関わりがあるってことを」

「――――――――」

 

 だから……!

 だからどうしてお前さんはそう変なところで勘が良いのか……。原作での無能っぷり(語弊)が嘘のようなその変な観察眼ではあるが、これはむしろ注意が私一人に集中しているからとみるべきだろうか。確かに原作でもフェイト相手にした、本人いわくクリティカルな質問であるところの「ネギ・スプリングフィールドは一体、誰を一番愛していたか」の問いとかも、雪姫個人に限って言えば相当に核心をついた質問ではあったのだが。

  

「色々と思い返すと、トイレのサヨコさん関係の話。いくら学園七不思議のひとつだからって、ここまでポンポン色々と情報が集まるのは出来すぎよ。だからといって貴方個人が手を回して撹乱することもないだろうし、その必要もない。となると逆説的に、貴方その話がキーになるのを『知っていた』上で色々と情報を集めていたんじゃないかって思えてきて。合ってるかしら?」

「…………嗚呼、否定できない」

「ふふ? お姉ちゃんは意外と見てるのですよ」

「唐突にキクチヨ呼びしてた頃の振る舞いをするの止めろ」

 

 愛おしげに微笑まれても、色々と心臓と思春期に悪い(断言)。

 

「やっぱり、話せないかしら」

「…………こればかりは無理というべき、だ。」

 

 だが、それについて私が詳しく話すことは難しい。つまりは根本的、より根幹的な部分に触れる話に違いはないのだから。夏凜もこれは、私が知っている情報がいかに核心的なものであるかについて察したからこその確認だったのだろう。どこまでその情報に誘導されて良いものか、自分自身で聞いてみたかったのかもしれない。

 

「ならそうね……。とりあえずは、貴方の考え通りに情報を集めてみるわ」

 

 仕方ないわねと肩をすくめると、夏凜は寮の前で私を下ろす(当然のように宿泊先の場所を把握されていた!?)。九郎丸よりも一足早い家路となってしまったが、ふと私の口から感想が零れた。

 

「……前から思っていたのだが、貴女はどうしてそう私に構うのだろうか」

 

 一瞬、呆けたような顔をした夏凜だったが。私の後ろに回ると優しく、それこそぎゅっと抱きしめ。胸元を軽く、幼子でも落ち着かせるように優しく叩きながら。

 

「貴方ばかりに問うのは酷だろうから、私も本音で言うわ。………………たまに似てるのよ。貴方のその表情が」

「それは、一体誰に…………?」

 

「色々と知っていたり察しがつくようで、いざそういう場になると慌てて失言したり失敗したりして頭を抱えてそうなところとか。変な所で自分の力不足でも嘆くようで、かと思ったら変に開き直ったりしてそうで。……でも最後まで無理や無茶をして全部一人で抱え込んでしまいそうなところが――――私の、きっと最初で最後の先生(あの人)に」

「――――――――」

 

 今度はこちらが驚かされたが、振り返る間もなく夏凜はふたたび夜空へと飛び去っていく。その後ろ姿を見ながら、私は今もたらされた言葉の恐ろしさに震える他なかった。

 夏凜にとって最初で最後の先生……、夏凜の正体から逆算される聖四文字(唯一神)に関連するその人物。そして夏凜が私に構う理由――――。

 

「え、怖っ」

 

 ひょっとしなくても、所謂救世主とされた人物「だろう」誰かの話をされたのだろうか。

 特に謂れはないはずだが、これがまた盛大な何かのガバに繋がっていやしないかと。謎の焦燥感のようなものに襲われ、私の両腕は震えが止まらなかった。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

  

 

「ねぇ、九郎丸君って――――実は女の子でしょ!」

「ぶっ!?」

 

 クラスメイトの三条さんの台詞で、思わず僕は咽てしまった。

 昼休みも終わり際、教室の奥で僕に詰め寄ってくる三条こずえさん。不可解なくらいにきらっきらした目でこっちに詰め寄ってくるのに少し引きながらお話していたのだけど、そこに爆弾発言が飛んできた。

 

 授業を欠席するのもまずいという話になり、僕と刀太君は初日同様授業に出ていたのだけど、こんなことがあるなら今日、休むべきだったんじゃないかな…………。

 

 一応「違うよ?」と答えたのだけど、三条さんは「あーわかってるわかってるから」と言う風に目を閉じて笑顔でウンウン頷いていた。……えっと、僕、そんなに動揺が顔に出るタイプなのかな。

 

「だって近衛君見てる時の九郎丸君って、ぜーったい恋する乙女の顔だもん。一瞬ちょっと、漫研の腐った連中とかが『我々の業界ではご褒美です!』とか言いだしそうな展開かと思ったけど、こー、筋肉の動かし方とかが女の子っぽいし。私、見抜いたわ! 新体操部的観察眼で」

「し、新体操部的観察眼……?」

「あー、でも大丈夫! 私、そういうの理解あるタイプだから。バラすとかそーゆーことはないの。むしろ、何か運動やってた? みたいな話がしたいの。正直、見た感じすーごい動けるのはわかってるし、同じ体育会系としては聞いておきたいのダ!」

 

 具体的には顧問の佐々木先生を唸らせることが出来るようなアグレッシブな動きが出来るようになりたいのだ! とか言われても……。その、先生の顔と名前だってまだよくわからないし。

 

「えっと、理解があるってどういうことかな」

「お家の事情とかそーゆー複雑なしきたりみたいなのがあるんでしょ? あっちの席に座ってるボンバヘッド釘宮君みたいに」

「ぼ、ボンバヘッド……?」

 

 笑う彼女の視線を追えば、昨日、寮の前で刀太君に妖魔を差し向けてきたニット帽に眼鏡の男子生徒が、窓を拭いている所だった。……? あれ? なんか、表情こそクールなままだけど、すごく動きが板についてるというか。

 

「彼、家のしきたりでずっとニット帽被ってるのよ。魔法アプリか何かでも仕掛けてるんじゃないかってくらい強固な奴。で、クラス内で卒業までにあれを外せ! ってチャレンジがあって、トトカルチョになってるの」

「トトカルチョというと、えっと……?」

「決まってるじゃん! あのクールでクラス内最モテランキング堂々の二位な釘宮君の、あの帽子の下の髪型よ!」

 

 ちなみに私はアフロというか天然パーマ推し、と。その一言に「は、はぁ」としか返せなかった。なんというか、熊本の中学に通った時もそうだけど。この年代の子供って皆こうテンション高いなぁ…………。あ、いや、別に僕も「この年代」の子供なんだけど。

 

「いや、まぁ……『男の子』として運動とかの話をしようにも、そんなに出来るわけじゃないんだ。ごめんね」

「へ?」

「僕って、むしろ格闘技とかそっちの方で……」

「あちゃー! いや、でもそれでもこう、色々バスケの時とか動いてたのを見てるので! 何か得るものがあるんじゃないですかねぇと!」

 

 まあその、僕みたいなのが言うのも変なんだけど。どうやら部活動で行き詰まってるところがあるらしいので、僕でよければ相談に乗ろうと思った。なんというか、こう、久々に普通の学生をしてる感じがして、ちょっと楽しいのは事実だし。

 

「さっすが九郎丸ちゃーん、話が分かるぅ♪ じゃあ、これ、去年の全国大会での予選演技なんだけど――――」

「全国大会!? す、凄いね!」

「でしょ! って、こうやって調子に乗るから色々文句を言われるんだった……。って、あれ? そういえば近衛君って今どこに? ずっと一緒にいるイメージがあったっていうか」

「あ、刀太君なら――――」

 

 生徒会自警団の備品室に帆乃香ちゃん勇魚ちゃんに捕まえられて連行されていく姿を思い出して、そういえば簡単に説明するのが出来ないなと少し、いや、結構焦った。

 

 

 

 

 




アンケ2回目お答えありがとうございました!
票的には二分してるので、まずは以下を順次作っていきます。
 ・雪姫:刀太が髪を染めるの目撃してキレる話
 ・キリヱ:「死を祓え」一周目の話


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ST65.死を祓え!:心のドアは如何か②

感想、誤字報告、お気に入り、ここ好き! などなど毎度ご好評あざますナ!
例によって一部設定というか盛ってます汗
 
ちょっと昨日投稿事故ったので、今日はもう一話投稿予定・・・?(深夜の可能性が高いですが汗)


ST65.Memento Mori:The Gate of The Heart -Returns-

 

 

 

 アマノミハシラ学園都市には、所謂、裏魔法委員会という組織がある。一般的に学生レベルでの委員会の場合は学校ごとに個別で委員会が存在し、大イベントの際など学校の垣根を超えて連携するらしいのだが。こと魔法委員会に関しては別扱いとなっている。

 ではそれは何なのかと言えば、早い話「ネギま!」時代における魔法生徒/魔法先生の集まりのそれと同義であるようだ。生徒ならば学園における、所謂「裏側」の魔法事情に通じており、そのテの警備アルバイトだったりといったことをしていたりするのもちらほらと。とするなら昨日の釘宮大伍だったか、彼もその魔法委員会であったりするのだろうか。

 

「なるほど? で、そーゆー系譜を踏んでるから、俺たち側はともかくとして、学園側にはそれとなく『関係者だ』って一部には知れ渡っているってことか。もともと雪姫経由で情報がこっちに回ってきてるから」

「せや。まー今回は事情が事情だったし、私ら全然教えてもらえへんかったけど。お姉様たちも全然知らんやろうし、そこは注意しとかんといかんわ~」

「おそらく、主に教師陣のみに共有された情報かと思います。『正式には』私たちも、シスター・ミソラから今朝方電話があって初めて聞きましたから」

 

 昼休み早々に教室へ「ここで会ったが百年目! 観念しぃお兄さま!」とか謎のハイテンションで叫び参上した帆乃香と、対照的に慌てた様子で追いかけてきた勇魚に連行されている。目的地は生徒会備品室……、というより、実質的な自警団が持ってる部室のようなものだとか。

 そもそもこの自警団、アマノミハシラ学園全校の生徒会の下位組織。チーム自体はブロックごとに班が分かれているらしく、近衛姉妹含めた面々はウルスラ方面から警邏しているのだとか。だが加入条件が「関係者からの紹介」もしくは「魔法アプリ無しでの詠唱可能」であること、かつ「一定の制圧力を持っている」ことだとか。お陰で内申点は良くなるのだが、全校生徒の数に比べ加入者は意外と少ない。

 つまりどういうことかと言えば、班ごとに専用の部屋を割り振るくらいの大所帯と言う訳でもないと言うことだ。結果、事情聴取やら何やらといった作業がある場合、臨時で備品室の一角を間借りすることになってるらしい。

 

「いや、それはそうとして別に引っ付いて引っ張らなくても、付いていくから離していいぞ? 暑いだろ……」

「えー、ええやん別にぃ。お兄さまとベタベタするん、ウチ嫌いじゃないし」

「私も職責がありますし……(それに、ほんのり兄様の汗の匂いがしてこれはこれで……)」

「今何かボソッと変な事呟かなかったか勇魚?」

「い、いいえ! べべ別に何も!(初めて名前で呼ばれたわ!)」(???「手遅れだねぇ……」)

 

 顔を真っ赤にする勇魚に「本当か?」という視線を向けるが、帆乃香が「ウチもかまってーなー」と反対側を引っ張ってくるのでため息一つ。

 なお何故私が自警団に連行されているかと言えば、昨日の事情聴取が二件である。一つはミヒールとアド……、アドなんとか(思い出し放棄)と口論になり一触即発で魔法を使われたこと、もう一つはその後に帆乃香たちとその場から消えて午後の授業をサボったこと。

 前者については監視カメラの映像もあるし、そもそも彼女たちの班全員が目撃していたこともあり一人だけでも良いから簡単な聴取だけとなったらしいが、後半は近衛兄妹三人そろって反省文を書かされるのが必須のようである……。俺は悪くねぇ! と叫んでしまいたいところはあるが、有益な情報もなかったわけではないので出来たお兄ちゃんとしては連帯責任を負うのが筋と言うものか。

 

 さて、校舎を出て向かうは一等生徒たちのいる「現在の」本校舎……、麻帆良工科大学とかの間を進んでいくと、かなり近代的な建物が並ぶ街並み(?)だ。その中で、ひときわ「あえて」古い景観の建物に向かって、二人の妹が私の腕を引く。

 帆乃香と勇魚。外見的には木乃香と刹那の幼いころじみているが、少し観察するといくらか違っていることがわかる。帆乃香はアグレッシブで怖いもの知らずなところがあり、勇魚は案外甘えん坊な所とか。原作でも所謂「パル様号」を譲り受けた後の動きやら何やらは自由だったろうこととか、九郎丸を先輩と仰ぎべったりだったことを踏まえて不思議でもないのだが、もうなんか今まで関わってきた連中の微妙なキャラ崩壊具合からこれすら疑いの念が晴れない自分がいる。

 まあそんなこちらの感想はともかくとして、しかしこう、正面切って「甘やかして! 甘やかして!」と来られると、どうにも弱い。別に「私」個人に兄妹がいたとかそういう話でもないのだが、こればかりは不思議とされるがままになっていた。

 

 そして生徒会備品室の張り紙が張られた教室の手前、人の気配を感じて嫌な予感を覚える。気のせいか聞き覚えのある声が三つ、きゃっきゃうふふとしてる雰囲気の中、当たり前のように扉を開けようとする帆乃香の手を制した。

 

「はえ? どうしたんお兄さま」「兄様?」

「こーゆーのはノックしてから、な? 中で取り込み中だったりするかもしれないし」

「へ? そんなん……あっ、お兄さま男の子やん。忘れてたわ~」

「たわ~、じゃねぇんだよなぁ」

 

 女子のきゃっきゃうふふは男子的に一歩間違えると大変思春期が危ないことになっている場合もあるので、こういうのは警戒が大事なのだ。

 

 

 

 ただ全く以って予想外だったのは、帆乃香がノックを三回した直後に内側の返事を聞く前に「入るでお姉様たち~!」とか言い出し扉を「ばーん!」したことだったりするが。

 

 

 

「ぬあっ、あん……、んっ」

「大体マコト、貴女恋などする前からこんなボリュームが……、はい?」

「あら~」

 

「マコトはん……、えらいご立派なもんお持ちや……!」

「お、お姉様……」

 

 なお中では着替え中と思われる例の自警団女子高生三人のうち、お姉様(上半身下着姿)がスポーツ少女(上下ともに下着姿、ブラなし)の胸部装甲(比喩)を揉みしだいているのをもう一人が静観していた(スカート無し)ご様子で。 

 思わず頭を右手で抱えて視線を逸らした私に数刻遅れて「やってしもた?」「しまいましたね姉様」と近衛姉妹。こちらの姿に気づいた後の硬直が溶けたスポーツ少女マコト氏の第一声もだいぶ混乱していた。

 

「んあ、ぴょおお!? えっ、えっちッスか!!? えっちさんッスか!」

「――――(ま、まさか私にも『妖怪・脱げ女』の血筋が……)」

「大変ですぅ、お姉様が息をしていません~!」

「違うんスよ事故なんスよ……、とりあえず帆乃香は後でオシオキな」

「んな!? そんな殺生なこと言わんといてお兄さま~!」

「庇えません、お嬢様」

 

 話が、話が進まねぇ…………! というかこれは絶対帆乃香が考えなしだったのが原因であって、私の中のネギぼーずの血よりも帆乃香の中のネギぼーずの血のせいだということにしたい。(???「どの道、同じ血が流れてるんだから逃れられないよ、その宿命」)

 ともかくその後、帆乃香の頭を押さえて三人で土下座した(勇魚は「連帯責任ですので……」と何故か少し頬を赤くしていたが)。

 

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「はい~、ミヒール・丸山さんとアドリフ・キャメロンさんの証言とぉ、そこまで差はないかと思いますぅ。むしろ信ぴょう性だけでいったらこっちの方が高いかもですねぇ」

「そんな名前だったんスかあの先輩たち……」

 

 何だか凄くどうでも良い情報を聞いてしまった気がするがそれはともかく。昼食をとりながらの事情聴取も、一段落がついた。時間的にも昼休み終了十五分前といったところで、

 とりあえず授業サボリについては「「「三人でゲームしたり御菓子食べたりして遊んでました」」」と正直に答え「良い度胸ですわねこの兄妹!?」とお姉様……というか、式音・D・グッドマンに叱られて、当然のように反省文1万文字の課題を出された(残当)。

 両手を腰に当ててプリプリと怒る様は年上ながらちょっと可愛らしい物が有るが、グッドマンといえば「ネギま!」の通称「ウルスラの脱げ女」高音・D・グッドマンの血筋であるので、内心合掌しているのは内緒である。ひょっとするとさっきのラッキースケベ出来損ないも私たちだけではなく彼女由来のガバの可能性もあるのでは?(責任転嫁)

 

 ……ちなみにだが、何故か当然のようにマコトと名乗った彼女から「か、カロリーお裾分けッス」と私にお弁当箱が手渡された。一応理由としては、昼休みの昼食時に時間を拝借するからと言う名目ではあるらしいが、蓋を開けたらまぁ妙に丁寧に作り込まれた肉じゃがとか(シンプルな味付けで美味しかった)、こころなしお米にかかったふりかけがハート型のような気がしたりとか……、ついでに「こっちもどうぞッス」と手渡された水筒から出したみそ汁だったり(これは赤みそに唐辛子が少し混ざってて意外性もあって美味しかった)、一体何をアピールされてるのやらといった状況である。

 流石に断ると昼食抜きなので仕方なく……、いや真実言ってしまえば一回くらい食事を抜いても問題はないのだが(不死者的な意味で)、私の顔を見て何か期待するような不安そうな表情をされては断り辛く。実際どれも美味しいので、感想を素直に言うと向日葵のようにぱぁっと笑顔が浮かんでいた。

 

「マコトはん、完全にアレやな~。それにしてもお弁当、めっちゃ頑張っとるやん」

「ですよねぇ、まあお姉様と違ってお料理もともと上手だったみたいですけど~」

「な、菜緒!? わわわ私だって本気を出せばカレーくらいは作れますわ! レトルトの!」

 

 大慌てで振り返り、ずびし! と指を空に向けて突き付ける式音・D・グッドマン。

 ちなみに全然関係ないが各人本日の昼食は、帆乃香が焼きそばパン、勇魚はフルーツサンド、マコトは私とほぼ同じお弁当で、菜緒と言うらしいのほほんさんはコンビニのとろろそば、式音班長はカップ麺(ダイエット仕様)だった。各人、多種多様なようで……。

 

「って、それで良いんスか名のある魔法大家の跡取りお嬢様……」

「いや、これでも一昔前に比べたらだーいぶ進歩したんスよ刀太君……」

「お姉様は刃物苦手だしぃ、火は何故か出力が毎回おかしいだけですものねぇ」

「機械とは滅茶苦茶に相性悪いもんな~、お姉様。勇魚、覚えとる? 旅行の時の」

「ええ。以前、地図情報アプリを開いたときに『現在位置はここですわ!』と地球の反対側の――――」

「そこに全員、直りなさい! 多少へりくだった口調をしていれば良いって問題ではありませんことよ! あとアレは私ではなく、1スクロールで世界が反転するアプリが悪いのです!」

 

 いや地球儀出してスクロールさせたらそら一周するやん、と突っ込む帆乃香はともかく。

 何と言うか、普通に妹二人が「馴染んでいる」ことに変な安心感があった。カトラスという実物を一度見ていたせいもあったが、流石にこの辺りは近衛姉妹の血筋というべきなのか。考えたら原作でも早々に仙境館へ溶け込んでいたのだし、コミュニケーション力自体は低くはないのだろう。そう考えると、なんだかんだ私が絆されてしまうのも仕方ないと言うべきだろうか。

 そんなことを考えていると、くいくい、と隣に陣取るマコトが私の肩を引く。どうしたのだろうと顔を向けると、少し目を見開いて頬を赤くしたまま、何やら逡巡してるのか視線があっちこっちに行ったり来たりしていた。

 

「えっと……、どうしたんスか?」

「あぅ、その…………、えっと、えっとッスネ! ちょっと待って深呼吸、ひっひっふー」

「あらあらぁ、マコトちゃんヘタれちゃいましたねぇ。大胆な告白は女の子の特権ですよ~」

 

 ファイト! と後ろで焚きつけられている中「顔思ったより近かったッス……」とかボソッと呟いているのまで聞くと、流石に私も察しが付いてしまうが。決して自意識過剰というわけでもなく、「私」もそれなりに気付けるだけの経験値はあるのだ。

 ただ、多少なりとも否定したい気持ちもある。あり体に言って「いやチョロすぎかアンタ!?」という感覚なのだ。そもそもこの関係で言うと、忍とかよりも付き合いが薄いというかイベントも全然なかったというレベルなのだが……。(???「そりゃ見た目よりも箱入りな小娘だからねぇ、軽い吊り橋効果と意外と良いミテクレを前にしちゃコロっと転がされちまうだろうさ」)

 

 やがて決心したように、私の両肩を掴んで引き寄せる――――。

 

「と、刀太君っ!」

「えっと、は、はい」

「こ、今度の休みにッスね、一緒にちょっとお出かけ付き合ってくれないッスか!」

 

 なんというか、あまりに直球勝負過ぎて一瞬頭が真っ白になってしまった。デートのお誘いである、しかも相当に初心な割にどストレートな。リアクションに困った私を、ニヤニヤと見つめる帆乃香他上級生二名……、と、少しうつむいた勇魚の表情はわからないが、それはさておき。

 

 えっと、休み、ということは週末になるわけで……。確か原作においてこの三太編というのは、一週間もかからず事件自体は解決していたはずである。つまりギリギリ、デートするタイミング自体は捻出できないわけではないのだが…………?

 それはそうとして、別にこう軟派な性格と言う訳でもないし、そもそも現時点において女性関係をどうこうとかそういった欲はない。第一、今後の原作展開から考えると私の身の周りは決して安全とは言い難く、そういう意味でもここは断るべきなのだが――――。

 

「夏凜さんからはOKもらってるッス!」

「いやちょっと待って、ちょっと待ってくれないッスかね……」

 

 ただ放たれた一言に、やっぱり思考がから回る。何故そこで夏凜の名前が出て来るのか……。丁度そんなことを考えた時に、携帯端末が鳴る。「今時珍しいですねぇ魔法アプリ非搭載の端末は」とか言われながら少し失礼をさせてもらって、廊下にて画面の通話ボタンを押した。

 相手はその、件の夏凜である…………。

 

『――こんにちは、刀太。お昼時だけど、聴取は大丈夫?』

「あー、問題ないッスけど、えっと…………」

『? どうしたの』

「いや夏凜ちゃんさんのせいなんスけどこれ……」

 

 それだけ言うと、向こうは状況を察したらしい。いやおそらく夏凜の仕込みなのだから気づいて当然というべきなのだが。ちょっと得意げに鼻を鳴らす音が聞こえる。

 

『問題ないからデートしちゃいなさい』

「いや返答マジでストレートっスね……」

 

 そして欠片もお茶を濁さない一言である。怖い。(断言)

 

『一応、予定を入れるのなら、単独行動で学園内を見て回ってヒントを探すー、みたいな理由を九郎丸たちには言っておくから、貴方は気にしなくても良いわ? 実際にそのつもりで周って欲しいところだし』

「とは言われても……」

『でも……、好きでしょ? ()っきいおっぱい』

「臆面もなくクールにおっぱいとか言うの止めろ」

 

 いや確かに大変大きかったが……、思わず素で文句を垂れてしまったが、くすくすと笑う夏凜には暖簾に腕押しのようだ。まあ聞きなさい? と彼女は言う。

 

『一応、私はこれでもシスター・カリンとか呼ばれていたのだけれど、人生経験も長いので恋愛相談に乗ることも多かったのよ』

「はぁ……」

『だから言うのだけれど――――彼女、間違いなく貴方にホレてるわ』

「いやそんな感じはすると思うッスけど……、でも」

『もちろんそんな深いものでも何でもないのでしょうけれど、でも私だって別に、外見で好きになること全てを否定するつもりもないわ。外見の美醜、というより『受け入れられるかどうか』というラインはあるでしょうし。年齢によってはえり好みできるかどうかもあるでしょうけど、まあ、貴方に関しては雪姫様や私たちの手も多少加わってるから』

「いまいち要領を得ないんスけど」

 

 まぁ要するに、と。夏凜の声はどこか微笑ましいもののようで。

 

『振るにしろ受け入れるにしろ囲うにしろ、「貴方なら」ちゃんと結論を出して導いてあげられると思うから。なんにせよ、少しでも良い思い出にしてあげてっていうお願いね』

「いや囲うとは何だ囲うとは……」

 

 そもそも正式な意味で一夫一妻の考え方のはずだろどうしたアンタという感想と共に、耳に聞こえるくすくすという笑い声に謎の寒気が全身に走った。(???「まあ『あっち』の歴史を見るに逃げられはしないだろうからねぇ……」)

 

 

 

 

 



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ST66:「私が更生させてやる!」(番外編)

毎度ご好評あざますナ! 本日は二話更新となっておりますので、前話も未読でしたらご参照をば・・・。(深夜前に間に合った)

今回は以前アンケートで予告してた番外編の一つになります
・雪姫:刀太が髪を染めるの目撃してキレる話



ST66.“You must amend!!!!!!!”

 

 

 

 

 

 世界には、意外と崩壊の危機みたいなものがゴロゴロと転がっている。

 特に今の時代、UQホルダー(対抗策)なんて運営している私ですら簡単には手に余るようなことも多い。

 とはいえ、時には直接それに繋がらないものも多かったりはするのだが、何事にも限界はある。

 

 そんな時にどうするかと言えば、まあ私一人が出て解決できることなら私が出るのが正しいのだろうが。それでも私は「ぼーや」じゃない。一人で出来ることは多いが、限界値というものは見極めがついている。

 一人で抱えられるものの限界を知っている――――つもりだ。

 

 だから、安全策を取れるなら安全策をとる。もちろん「それなりに」許容できる犠牲を払ってならば。

 

「――――それで私を呼ぶところが、実にエヴァンジェリンらしいと言えば良いだろうか。大体一応、私は木乃香の頼みで『学園長』をやらされてるんだがな。それなりに金額も貰っているしスケジュール的に無理がなかったとはいえ、多少は面子を鑑みて欲しいのだが。学校に長期間いない学園長なんて、かつての高畑先生以上にアレだろ」

「そんなもの気にする女だったか? お前」

「ナメられは今更しないだろうが、サボってると思われると指示が中々通りにくくなる。これは龍宮神社の方も同じ話だ。金になるから何でもやる訳でもないし、えり好みするのを相手に認められる程度には、こちらの存在感が必要になるものだよ」

 

 ただ木乃香からは相当な前払いこそあったが、と肩をすくめる龍宮に、私は苦笑いを浮かべる。

 

 サグラダファミリアの一角、ヨーロッパ支部に転移した後に「射程ポイント的にはアソコが最適だろう。何、観光費くらいは追加で出してくれるだろう?」という強気の押しに思わず負けてしまったが、いや思ったより普通に観光した上で「認識阻害」をかけて塔の上の一角を占領しているのだからちゃっかりしているというか何というか……。

 いや、こんなことを思うだけ、私も丸くなったということだろう。

 

「まぁ『魔人』相手だからな。私もそれなりに警戒はするし、特に相手が相手だから『こういう施設の方が』防御力が高い。いたずらに狙ってくることもないだろうから、許可はしたが……」

「ヴィルヘルム・ヨーゼフ・フォン・ヘルマン、だったか? かつてネギ先生の故郷を石に変えた」

 

 言いながら双眼鏡でターゲットの位置を確認する龍宮の見慣れた姿。……これを見慣れた姿というのだから、年月が過ぎるのは早い。

 とはいえ、コイツも何というか、外見はほとんど変わらないなぁ……。もっともザジほどじゃないが、アイツ未だに高校生になるかならないかくらいだし。

 

 今の龍宮は「八〇年前と」比べるなら、肉体的には二十代前半か中ごろというところだろう。背がさらに伸び、胸や尻が大きくなり。

 茶々丸に聞くところによると、未だに生理も来るらしいのだから、なんというか……。

 

 ため息をついて、私も「焦点を合わせる」。視線の先、とあるレストランの一角で。黒ずくめの老紳士「のような姿をした」悪魔が、十代前半くらいの少女に食事のマナーを教えている姿が見える。

 額が見える、視線の鋭い少女だ。黒いツーサイドアップと、白い肌が目立つ。

 彼女は両手にナイフとフォークをもって厚切りステーキを切り分けようとしているようだが、カチャカチャ音が鳴ってしまうのか適宜注意されて苦い顔をしている。

 

 同じ光景を見ている龍宮は、その少女の姿に苦笑いを浮かべた。

 

「…………しかしこう、変な気分になるな。実際に『産んだわけでもない』のに、ネギ先生と私の血が混じった子供がああして生きている姿を見ると」

「ネギとお前だけじゃないだろう。神楽坂アスナもそうだし、あの『研究所』の実験だと、最低でも二人分の遺伝子を使っていたはずだから」

「だろうな。あのデコの出方はおそらく綾瀬だろう」

「……髪型で判断するのはちょっと可愛そうじゃないか?」

「いや、意外と重要だぞ。ザジはそれで何人か血のつながりを判断して、しかも全員正解していたらしいし。

 とはいえ遺伝子上は孫くらい離れているにしても、私的にはやっぱり娘だな」

 

 だが、そんな少女は手に持っていたナイフとフォークを皿に置き食事を中断(置き方を注意されてまた不機嫌になっている)、そして横に置いてあったバッグから――――パクティオーカード?

 

「まずい、気付かれたぞエヴァンジェリン」

「っ!?」

 

 アデアットして少女の額に出現した「第三の目」。どういったアーティファクトかは分からないが、そこにピース状態にした両手を当てて、光線でも撃つみたいに「こちらを向く」。

 そんなこちらに向けて、あの悪魔は指先を向け――――。

 

「石化光線か。よくやる……」

「迎撃する――――『来たれ(アデアット)』!」

 

 龍宮もキャットスーツの胸元を大きく開き、谷間から取り出したパクティオーカード――――「ネギとの」仮契約カードで呼び出したアーティファクト「超電磁投射砲(レールガン・アド・カイロス)」を構えて速射。

 巨大な電磁式ライフル(たぶん(チャオ)謹製)からかつて猛威を振るった「BCTL(強制時間跳躍弾)」を、流石に私でもギリギリ認識できるくらいの速度で放つ。

 

 ファミリア、我々の部屋まで到達まで50メートルの位置で激突。

 閃光と共に鈍い色のエネルギードームが展開し、あの光線を消し去った。

 

「ふふふ……、見敵必殺は常在戦場の心得だな、流石我が娘」

「楽しそうにしてるところ悪いが、逃げられたぞ」

「だろうな。さて…………、ちゃんと料金は置いて逃げたか。律義だな、流石我が娘」

 

 変な親バカを発揮している龍宮はともかく、テーブルの上にユーロリア現通貨を置き、二人は何処かへと消えていた。

 だがそれを見て、どこか楽しそうに笑う龍宮に私は辟易する。

 コイツ、今回の私の依頼を忘れちゃいないか?

 一応確認するが、問題ないとばかりに龍宮は笑った。

 

「嗚呼、大丈夫だとも。把握してる。『魔人の手元で育てられているネギ先生の血筋の子供を奪還する』、だったはずだな」

「最悪の場合は射殺することも含めて、だ」

「……それを親である私に依頼するんだから、流石は『禍音(かいん)の使徒』といったところだよ。『雪姫』を名乗るようになってから丸くなったと思っていたが、中々どうして」

 

 フェイトが進めた「あの計画」において、戦場に売り出された子供以外にも行方知れずになっている子供が何人かいる。

 そのうちの一人が、あの少女。

 

 数カ月前、刀太が地下から出て来てすぐの頃。

 ザジから唐突に「『魔界』での目撃情報です」と来ていたメールがアレだった(アプリも端末も持っていないくせにどうやってメールを送ってきたんだアイツ……)。

 

「お前なら、私情とそれは切って分けられると判断してだ。……最悪『金星の黒』の扉がヨルダ側に回りかねないのだから、警戒するのは当然だ」

「まあ、私が言えた口ではないが……。あんまり隠し事を『子供相手に』するのは良くないぞ。特に、刀太君だったか。彼からすれば兄妹の一人なんだろうに」

「…………」

 

 アーティファクトを「還した」後、双眼鏡越しに「魔眼」を展開して足跡を確認する龍宮にそう言われて。

 言葉に詰まった私は、話題を変える意味でも全然違う話を振った。

 

「しかしだ、まさかお前がネギと仮契約する日が来ようとは思ってなかったな。あれだけ『今の実家』に入れ込んでいたというのに」

コウキ(アイツ)の……いや、まあそれはそれとして。世界の危機を前にガタガタと腑抜けたこと言ってるんじゃないと一喝されたからな。ザジに。まさかアイツからそんなことを言われる日が来るとは思ってなかったから、我儘を通すのも大人げなくなってしまってな」

「まあ、あの時も既に良い歳だったからなぁお前」

「年齢の事でいじるのは止めろ、撃つぞ」

「カードを構えるなカードを……。いや、でもまぁザジも何だかんだ好きだったようだからな、3-Aのことは」

「体育祭の時とかもそうだったな。アレは、私的に少しは意外だったが……。だがそれ以上に、意外とネギ先生を狙っていたというのがびっくりしたが」

「…………」

「どうした?」

「いや、それは直に見せつけられたから、嫌でも知ってるというか、なぁ?」

 

 ………………まさか「あんなタイミング」で現れて「そろそろ食べ頃かと思いまして」とか言ってあっさり仮契約(キス)しに来るとか予想してなかったというか、近衛木乃香も刹那もそろって年甲斐もなく乙女みたいにきゃーきゃー煩かったし……。

 

「まあ元々学園祭で、ネギ先生を自分の出るサーカスに誘っていたらしいのに来なかったりとか、意外と不憫な所もあるからなぁ。拗れても不思議じゃないだろう、魔族だし。お前としては色々複雑だろうがな」

「い、いや、私は別に…………」

「フフ、そういう反応を見ると丸くなったと思うよ、エヴァンジェリン。特に最近は。やっぱり『母親』になったのは、経験値として大きいか?」

「…………否定はしないよ。ただ……」

 

 実際はもうちょっと複雑な事情なのだが、どうしてもそれを素直に誰かに話す気にはならなかった。

 どう解釈したのか、龍宮はそれを聞いて面白そうな目で私を見て来る。

 

「何だ? 反抗期にでも遭ったか」

「ある意味ずっと反抗期だよ。最初の頃から隙あらば髪だって染めようとするし」

 

 ほぅ、とやはりどこか揶揄う風である龍宮に、私も苦笑い交じりに答えた。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 近衛家ゆかりの研究者から連絡を受け、刀太を発見したあの日以来。

 もともと奴らが逃亡先に予定していた熊本で、刀太を育てることにした。

 実際、魔法も使えるし学もある私だ(教員免許はネギについて回る途中で必要になったので取ったことがある)。村もすぐに歓迎してくれ、数日する間もなく教師として村に赴任するという形に落ち着いた。

 

 ……大体その頃に野乃香から「フェイト君、陥落したでー!」と嬉しそうに報告の手紙が送られてきたりといった珍事もあったが。

 

 刀太はとにかく笑わなかった。

 自分が養子の立場にあるということを理解して、最低限の礼儀と礼節で。

 

 最初アイツが、私が両親と事故を起こした事実を重く受け止めて――――私のことを警戒して、というか嫌っているものと思っていたのだが。話してみればそういうわけでもなさそうで。

 だから上手く言えなかったが、私もまだアイツと距離感を測りかねていた時期があったのだが。

 

 それでも人間、付き合いが長くなれば長くなるほど、お互い距離を置いたままでいられないこともある。

 今ではすっかり「母ちゃん」と慕ってくれて……、母親冥利には尽きるがちょっと複雑な感情を抱かせるまでに仲良くなったが。

 

 そんなアイツと付き合いは半年……、慣れない中華鍋での料理に悪戦苦闘していた頃だったか。

 かつてなら幻術の作用なども関係なくその程度は簡単だったのだが、今の私はネギと同行し続け――――吸血鬼としての「神秘が」弱まり切った状態。

 永き年月の相棒(ゼロ)を失った憔悴などもあるのだろう、以前に比べて「生物としての」私は、脆弱になっていた。

 

 まあ、子育てに苦戦するくらいはよくあるし、それも慣れたから今ならかつてよりもっと上手く全身を動かせるんだがな……料理とかも。

 

「動物園?」

「そっ、近所にないか?」

 

 そう、そしてあの日も、そんな風に会話をしていたか。

 大体半年、小学校の卒業式はとっくに終えて、中学のゴールデンウィークに差し掛かるころだったか。

 再放送のテレビ番組を見て、なんというか妙に目を輝かせていたことは覚えている。

 

 結局近所にないという話になり……、この時の話でチケットをそういえば準備してなかったな。

 新東京なら数か所に動物園はあるし、今度買って持って行ってやろうか。

 いや、それはともかく。

 

 風呂上り……、適当にシャツを裸に身に着けて、扇風機に当たっていた私だったが。ふと刀太の風呂が長いと思い、ちらっと覗いてみると……。そこには腰にタオル姿で、何か聞いたことのない歌を鼻歌しながら、ノリノリで髪にブリーチ剤を梳かしてる刀太の姿があった。

 まだやり始めなのか、それとも検証でもしてるのか、頭の右側横髪の一部ともみ上げだけだが、茶髪、赤毛から白になりかかってる色。そして洗面所の台の上には、どこで買ったのか赤と黄色と金のヘアカラー。

 

「ルルールル・ルルールル・ルールー・ルルールル・ルルールル♪ ……っと。よし、こんなものだろうか? 確か下地が暗いと上手く発色しないと書かれていたような――――って、雪姫!? 何てカッコして入って来てんだ早く服着ろっ!」

「いやお前の方が何てカッコで何やってるんだこのお馬鹿っ!」

「ひでぶっ!」

「この! この! 一体どうしてこんなことしようとしたんだ言え! 言いなさい! 『ぼーや』でもこんなアホなことはしなかったぞこのお馬鹿さんが! 私が更生させてやるっ!」

 

 この時、一体どんな顔をしていたか自分では自覚がなかったが、思わずチョップ数発かまして両手に持っていた道具を取り上げた。

 前にテレビ番組でグレる子供たちの話をワイドショーで取り上げていて、完全に他人事のつもりでいたが。その時の親の気持ちというか焦りと言うかが、嫌なくらいに理解できてしまった。気が付けば話を聞く前の早々、取り上げていた。

 

「よ、容赦なさすぎなんじゃないッスかねぇ……」

「子供の非行に容赦する親は居ない! 私のような親なら特に、だ。で? どんな出来心なんだ?」

 

 話を聞くと、なんでも友達になった奴が髪を染めており、やり方を教わってみたとか何とか。

 

義母(かあ)ちゃんは悲しいぞ。一体どうしてそんなにグレてしまったのか……。これはバリカン使って頭をガーって一度反省(ヽヽ)させてやる必要があるだろうか」

「べ、別にグレた訳じゃねーけど……(○護(チャンイチ)風とか絶対言えないし)」

 

 項垂れる刀太を正座させているが、未だに顔を合わせようとしない。まあ全身湿りっ気が抜けてなかった刀太に抱き着くような形で奪い折檻したのもあるから、シャツが透けてるとかそういう事情もあるだろうが。それにしては腰に巻いてるタオル的に()っている訳でもないし、そう恥ずかしがる話でもないだろうに。

 グレた訳じゃないとすると何だ、とバリカン片手に迫ってみれば、言い辛そうというか言いたくないというのが露骨に表情に出てはいたが、それでもポツリ、ポツリと吐かせることに成功した。

 

 まあ、ちょっと面食らってしまったが。

 

「…………色、一緒だったら、もうちょっと親子っぽいかなって思って」

「………………はっ?」

 

 問いただすに、どうにも私を「母親」と慕いながらも、自分が「息子」という感じじゃないのではないかと。

 そんな風に微妙に思っていたらしい。悩みと言うほどの悩みではないのだろうが、そういったわだかまりを少しでも払拭できないかと、それゆえの暴走だったように聞こえた。

 

 ………………。

 

 一瞬呆けてしまったが、大笑いしてしまった。

 そして正面から抱きしめ、乱暴に頭をぐしゃぐしゃにする。

 

「や、止めろっての! 脱色剤、指に当たるだろ雪姫の!」

「はっはっはっは、別に構わんぞもう、それくらい『親子なんだから』。大体だな、髪の色どうこう気にする話でもないだろうに。ん、ということは赤とか黄色とかも用意したのは、色味を調整してより私の色に近づけようとしたからか」

「…………」

 

 黙り込んで動かなくなる、その反応一つとっても変に愛おしく感じて。

 だからそのまま一緒に風呂に入り、恥ずかしがる「息子」の頭を洗ってやることにした。

 

 刀太に気付かれない程度に「金星の黒」を流し込みながら、早い所コイツの髪色が元の黒に戻るように。

 そんな小さなことなど、「家族」であるのに何ら障害ではないのだと教えてやるために。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「親子のろけ、と言ったらいいのか…………、ちょっと胸焼けするな」

「フフン、良いだろう。やらんぞ?」

「狙わないって。ネギ先生とは仮契約したけど、私の人生計画はやっぱり埋まってるからな。

 だが確かに反抗期か。子供が自立しようとして、親と衝突する……、ウン、実に母親らしい話だ」

 

 苦笑いする龍宮にそんな自慢話交じりのことを言ってやってると、その手元にバイブレーション音が鳴る。

 手の甲を見ると、通話アプリに着信が来ているらしい。

 慣れた手つきで捜査して右手を耳に当てる龍宮だが……、どうやら刀太たちの関係の話らしい。

 

 通話を切ると、私に苦笑いを向けた。

 

「その自慢の息子さん達からだ。ちょっと協力要請をされたので、どうする?」

「…………契約延長はナシの方向で、だな。コッチよりも、あっちの方が緊急性も重要性も高い」

「わかった。後で春日にもそう言っておく」

「…………春日? ひょっとして春日美空か」

「嗚呼」

 

 年齢は重ねてるくせに、老いても相変わらずというか全然変わってないぞと言う龍宮に、私もつい苦笑いが浮かび。

 

「それから、どうやらモテモテらしいぞ刀太君。良かったじゃないか、ネギ先生そっくりで」

「…………そういう揶揄い方は止めろ」

 

 おぉ怖い、と龍宮が微笑み肩をすくめ、私の顔から眼を逸らした。

 

 

 

 この時も、私がどんな顔をしているのか。自分ではよくわからなかった。

 

 

 

 

 




番外編なので以下ちょこちょこメモ…

・悪魔に育てられてる額に目のある少女
 増える妹(原作に居るような居ないような…)
 
・ネギ先生と契約してる龍宮隊長
・ネギ先生を狙ってるザジしゃん
 この辺りは過去編で少しやる予定(盛られた過去編)

・刀太の両親(戸籍)
・陥落されたフェイト
 フェイト短編とかアンケートで予定したらやろうかしら…?(盛られた過去編)


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ST67.死を祓え!:名探偵(自称)の受難

毎度ご好評あざますナ!
また深夜でスマヌ・・・スマヌ・・・


ST67.Memento Mori:Detective Is Poor At Detective

 

 

 

 

 

2086年9月2日 06:25

 

 最強の超能力者・スーパー三太様は、今日からしばらく名探偵・三太様だ!

 朝一番、寝ぼけた頭でそんなことを考えたんだが、ふと起きてみれば寝床には誰も居なかった。

 

「…………あれ? アイツらは――――」

 

 確か「連中から」情報を集めた後、帰ってきた二人に気取られないように頑張って表情筋を調整していたんだが。そのままベッドが一つしかないって話からケンカになって、三人でジャンケンをして誰がベッド使うかって勝負して…………、結局二十回くらいあいこを繰り返して「もう三人でそれぞれ入って寝るしかないんじゃね?」って流れになっちまったのは覚えてる。

 しかしベッドに入って早々、あのトータって奴は酷かった…………。寝ながらなんか「げつが」とか「てんしょー!」とか技の名前みてーなのを叫んだりして、アレは絶対、夢の中でなんか戦ってたりするやつだ。手足が他の奴がいることに構わず暴れ回り、色々と殴られたり蹴られたり大変だった。最終的にクローマルって奴に抱き着いて落ち着いたみたいだけど……、いや抱き枕ないと暴れるとか寝相最悪すぎねーか?

 いや、そんなことはともかく。

 キッチンの方で色々とカチャカチャ音が鳴ってて、見ればあのクローマルってのがエプロン姿で何か料理作ってた。

 

「あ、三太君だっけ? おはよう、今三人分作ってるからちょっと待ってて?」

「へ? あ、お、おう……おはよう」

 

 にこりと笑ってくる顔を正面から見れず、思わずそむけた。初対面の時も思ったけど、ホントなんでコイツこんなキレーな顔してやがんだ。ホントに女だろコイツ。オレは女も男も嫌いだから、こーゆーのは慣れてないんだよコイツ。

 しばらくコンピュータを起動してネットサーフィンしてると、「外にいると思うから、刀太君を呼んできてくれない?」とアイツから声がかかった。

 

「あ、そうだ。アイツ何やってんだ? 昨日随分酷かったけど、朝になったら居ねーし」

「あ、あはは……(地下でもだいぶ酷かったねそう言えば)、って、んー?

 たぶん……、瞑想かな? ここの屋上に行くって言ってたから、見て来てくれると嬉しいな。そろそろ出来そうだし」

 

 本当ならそれに従う義理はないんだが、スーパー三太様は女子供には優しい優しい(当社比)って小夜子に言われてるから、なんとなく意地悪するのも大人げないような気がして……、いやまぁオレもガキに違いはねーけど。仕方なく屋上に行くと。

 

「――――――――」

 

 なんとなく近寄りがたい雰囲気だった。膝を広げた正座をして、その膝の上に昨日オレに向けて散々謎の攻撃を飛ばした剣みたいなのを乗せて(校則違反じゃねーのかアレ)。妙にしんとして、後ろ姿しか見えなかったけど、こう……、不覚にもちょっと恰好良かった。

 

「……ん? 三太か。どうした?」

 

 そして扉を開けるくらいしか何もやってなかったのに、ごく自然にオレに気付いたトータは立ち上がった。コイツ気配とかそんなもんでも感知してんのか!? 謎の悪寒が背筋に走る。もしそんなモン感知するような奴だったらオレの正体も…………。いや、ここは下手を打たずに探りを入れるか。コイツ自身、オレというか「謎の最強能力者様」には悪感情もなさそうだったし。

 

 とりあえずクローマルから朝食が出来るって話をして、二人して部屋に戻ると。どんぶり三つ、それぞれにうどんが入っていた。……というか、座り方がぺたんてしててマジでコイツ女だろ本当。

 

「クローマル、連れて来たぞっ」

「あっ! ありがとね三太君。刀太君、出来たよ!」

「りょーかいっと。……んー、やっぱ美味いわ。こりゃ昆布だし?」

「ちょっとカツオも入ってるかな。流石に時間もないから市販のだけど」

 

 朝はあんまりガッツリ食べないらしいトータに合わせて、うどん半玉くらいのあっさりとした朝食。聞きかじった感じだと、スープは色が濃くてうまみが強いけど塩少な目。溶き卵とネギ、めかぶ、あとかまぼこが丁寧にカットされてて、これはこれで美味いっていうか。

 昨日のトータが作ったやつが店とかで出て来るジャンキーな味なら、コイツのはもっと家庭的な味っていうか……。

 で、食べてて楽しそうなトータを見るクローマルのニコニコ顔が完全に恋する乙女っていうかエプロン姿のせいで新妻みたいというか、オレは一体何を見せられてるんだって感じだった。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

2086年9月2日 12:21

 

 流石に日中、この時間帯は連中も捜査だのどーのこーの言ってはいられないだろう。トータってのも意外と真面目っぽいこと言ってたし、このままいけば放課後まではオレもフリータイムだ。……まぁ妙に「一緒に行こうぜ!」とか言ってくるから、今日は体調不良だとか言って、とりあえずサボる口実にしてだが。

 

 だからこのタイミングを利用して、オレは小夜子に会うことにした。

 例のUQホルダーの連中が探してるから、しばらく身を隠してろって。

 

 ここ数週間は顔を合わせてない……って、まあオレが引きこもってるせいだけど、そのせいでアイツが捕まっちまったら元も子もない。

 

「――――って、ホントに何処行ってるんだ? アイツ」

 

 だけど、探しても探しても小夜子が見つからない。

 大体前に一緒にデー……、デ、デートじゃねーし! デートじゃねーけど一緒に出掛けて遊んだり、買い食いしたりした所とか。あとアイツの家系が「ミッション系」もかじってたとかでお墓参りもしてたから、学園近くの霊園とかそっちの方とか。

 でも、やっぱり見当たらない。

 

 ……今更気づくのも遅いけど、考えたらアイツと通話アプリとかの情報すら交換してなかったな、オレ。いや、そんな余裕が「前は」なかったのもデカいだろうけど、それでも、そのせいで友達を危険な目に遭わせるのは……。

 いやでもアイツ、トロいし、もともと持ってないかもしれない。

 

「まあアプリって言っても、思いっきり違法だけどな。オレのは」

 

 もともと学園個人の端末っていうのは一部一等生徒のとかは学園側で負担してたりするらしいんだが、オレはそこにクラッキングをかけて、他の生徒たちの使用料金にちょっと上乗せしてゲームとかしたりしている。

 もし持ってないんだったら、オレが準備したり調整したやつを手渡せばいいか。……っていうか、いつまでも「ここに居ると気が滅入る」。なんだかやっぱり、こーゆー人死にを感じる場所は苦手だ。かつてのオレが「いつ死んでもおかしくないくらい追い詰められてた」せいもあるんだろうけど――。

 

 

 

「―――― 一体こんな時間に、学園生徒が何の用事でしょうか?」

 

 

 

 うわっ!?

 突然背後から、それも物凄い近いくらいの頭上から声をかけられて、思わず転んじまった。

 そこ居たのは、オレよりもちょっと年上っぽい女……、褐色の肌に、白い髪と変なフェイスペイント。男物のタキシードっぽい服に蝙蝠の翼みたいなマント、シルクハットを被ってパッと見手品師っぽい感じに見えるけど、所々の装飾がなんかこう、スゲー禍々しい。

 

「だ、誰だっ!?」

「誰だとは中々……、いえ、まぁ『ここ』の管理人ですけど。どうされましたか? 『学園生徒』ならこの時間はお昼休みといえど学内かその圏内のはずですが。佐々木(ヽヽヽ)三太(ヽヽ)

 

 顔は無表情に、でも口元だけはスマイルを浮かべてる……、営業スマイル? みたいな感じの表情で、女はオレに色々言ってくる。って、オレの名前? 何で知ってるんだコイツ。視線を一瞬「オレの背後の墓石」に向けてから、オレの顔を見る女。

 

「疑問が顔に出ていますね、佐々木三太。……フフ、これでもここアマノミハシラ学園ではちょっと偉い立場なのです。だから大体の生徒のことは知っているのですよ、この『可愛い』見た目に反して」

「見た目に反してって……、ババァってことか?」

「失礼なっ」

 

 ぺしり、としっぺ一発デコにやられる。ちょっと痛ぇなコイツ。

 っていうか腕組むと意外とオッパイあって、それが丁度頭を押さえたくらいのオレの目前だったりして、一瞬慌てる。

 

「しかし、ふむ…………。さしずめ『逝き場に迷っている』ところですかね」

「行き場に迷ってる? ま、まぁ……」

「人生に迷うというのは、よくある話です。かの英雄であるネギ・スプリングフィールドですら、その最期の時まで自らの選択や決断には迷い続けていたでしょうから」

「いや、いきなりそんな偉人の名前出されても困んだけど」

 

 オレの困惑を他所に、女は帽子を下ろして「こんな時にぴったりなアイテムは……」とか言いながらごそごそと帽子の中に手を突っ込んで何か探してる。って、ドラえも○かよっ。

 

「けっこう近いです。この『四次元シルクハット(フォーディー・シルクハット)』はその時、その場においてサイズや質量を無視してアイテムを取り出すことが出来る、ピエロや手品師にとって垂涎の逸品であり―――」

「いやそんな眉唾な話とかどーでもいいから。じゃあなっ」

「逃がしませんよ」

「っ!?」

 

 身体を透過して逃げようとした瞬間、当然のようにオレの肩を掴んできた女……って、この最強能力者の三太様に干渉してきただと!? というか俺掴んでる反対側の手でシルクハット探してるけど、シルクハット宙に浮いてやがるっ。

 

「まぁお待ちを。えっと……、この水晶は木乃香さんのですね。本人から預かってますが使い道的に今回ではないし…………、嗚呼これでいいでしょう。アーニャさんのダウジングですか。どうせ複数ありますし」

 

 はい、と。空中に浮かんでるシルクハットから色々取り出したり仕舞ったりして、最終的に手渡されたのは変な棒みたいなやつだった。

 金属の棒が折れ曲がったやつで、先端に矢印マークみたいなのが付いた奴が二つ。

 

「…………何だこれ?」

「ダウジングです。知りませんか? 地下水脈、貴金属、宝石やら何やら『探し物をする』のに使う道具です。特にこれは本物の魔法使いがかつて使っていたアイテムのレプリカになりますから」

「いや知らねーけど……」

 

 言われて検索アプリを立ち上げ、空中で検索をかける。……なるほど、ダウジングか。古い占いというか、化石みたいなモンだな。というかこんなモン普通に持ってるってやっぱコイツババア――――痛っ!

 

「何を考えているのでしょうか。私は『貴族』換算で言ってもまだピチピチに女子高生だというのに……と言っても詮のない話ですか」

「貴族? ……いや意味わかんねーけど」

「ともかく。これを両手に持ってみなさい」

 

 ええ、と言いながら言われるままに両手に持ってみると……、お? 何か先の矢印がぴかぴか光り出したぞこれ。

 

「あなた自身の魔力を吸い上げて、これは点滅したり動作したりします。そして貴方が『潜在的に求めている』ものを探し出してくれることでしょう。欲しいもの、探しているものがあるなら、強くイメージしてみてください」

「イメージ……」

 

 頭の中に小夜子のことを思い描く。黒い制服着てて、髪さらっさらで、あと意外と着やせしてて…………って、何考えてんだオレっ!

 でもそんな俺の慌て方とか関係なく、勝手にこう、先端の矢印が二つとも動いた。

 

「お、おぉ…………? これって、この矢印の方に行けばいいってことか?」

「ええ」

「マジかこれ、化石みたいな道具でもちゃんと動くんだな…………って、本当にコレってオレの探してるやつに反応してんのか?」

 

 オレの当然な疑問に、女は相変わらず口元だけで笑う。

 

「例え信用できないにしても、どちらにせよ手掛かりはないのだから構わないのでは? 一日を棒に振ったところで『貴方は』『何ら問題はないのでしょうし』」

「? いや、まー、確かに大丈夫だけど」

 

 どうせヒキコモリだし。ただあんまり時間は無駄にしたくないっていうのが本心なんだけど――――っと? 俺が一瞬、このダウジングってのに目をやって、また視線を向けると、いつの間にか女は消えていた。

 

「…………ユーレイ?」

 

 いや、その割にはちゃんと道具とかもこうして残ってるし……、でもこう、なんとなく納得できないけど、妙に背筋に寒気を覚えて、俺はその場をすぐさま後にした。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

2086年9月2日 14:11

 

 

 

「……意外と使えるな、コレ」

 

 本当に小夜子をダウジングってので探せるか。半信半疑だったオレはちょっと実験をしてみた。例えば、トータの奴とか、教会のババアとかをイメージして、その居る場所をこのダウジングで探した。

 

 結果は、まあ、どっちも大当たりだった。

 

 トータについてはすぐ見つかった。学園の方に戻って、なんか変に古い建物の中で女に囲まれてた……、何だアイツ、アレでモテモテか!? オレの敵だコンチクショー! ちょっと仲良くなれるかもとか期待したオレが馬鹿だった、これだから陽キャは!

 いや、まあいう程陽キャとかじゃなさそうだし、室内のうち二人はなんか顔似てるから兄妹とかなのかもしれねーけど……。

 

 で、教会のババアはというと……、なんか、一等生徒とかが出入りしてる校舎の方に行ってた。校舎の裏、木のところに花束とかを置いて、献花してるみたいだった。

 十字を切って手を合わせるババアと色黒の美人――――その背後から、連中のうちの無能女がぬっと現れて、少し冷汗をかいた。後方少し行った先、校舎と木の間の影くらいの所で「姿」と「音」を消してるから、気付かれはしねーだろうけど……。

 

「シスター・ミソラ」

「……あれ? 夏凜ちゃん、今日はオサボり?」

「授業が終わるには、まだ早い」

「いえ、事情はわからないけど今日、私のところの学校は午前授業だったのよ……。ってそうじゃなくって。一体何をしているのかしら」

「あははー、アレだ。丁度『ココ』なんだよねー。昔、ここにあった旧校舎のトイレ」

「つまり――――」

「そそ。『――――』が殺された場所」

 

 話が聞こえない、中途半端で断片的にしか聞こえねーけど、なんだか物騒な話しか聞こえない。殺された場所、というには例の事件に無関係な場所と来ていやがる。にもかかわらず花を添えるとか、よっぽど昔の話なのか?

 

「殺された状況は聞いたけど、その……」

「ウンウン。もともと表面上はオカルト好きな子って風に通してたらしくってね。で、普段いじめていたのは男の子連中が多かったんだけど、その中でいっとう『酷い』タイプの女の子の目にもついちゃったらしくってねー。…………持ってた儀式教本を見よう見まねで真似したような殺され方だったんだよね。机と椅子で魔法陣とか作ってさ、四肢の自由も薬物で奪われて、真ん中でさ」

 

 それで最後は首吊りに偽装されてんだから、正直世話ないわー、とか。…………なんか聞いているだけで吐き気がするような話をしてた。というか、何だ? その殺した女子生徒って、殺された女子生徒をいじめてた男子生徒に気があったとか、そんな話らしい。気を引くために、というかその男が「性的に」狙っていたってのが気に入らなくって殺したとか、正直、女怖い。

 いくら無敵の三太様でも、そーゆードロドロしてるっぽい話はノーサンキュー。胸を押さえて、とりあえずその場から立ち去ろうと――――。

 

「ココネ? ……うん、まあ、わかった。『来たれ(アデアット)』!」

 

 次の瞬間、俺の目前にババアの姿があった。じぃ、とオレがいるはずの場所――――さっきからずっとオレの姿は見えないだろうし、オレの声も聞こえねーだろうけど、それでも確かにその目はオレのいる場所を捉えていた。

 思わず息を呑み、微動だにできないオレ。

 ババアはじっと五秒くらいオレを見つめて(見えてないはずだけど)、それから後ろを振り返った。

 

「…………んー、特に何もいないんじゃないかね?」

「いや、絶対居た。『念話』じゃないけど、『思念を感じた』から」

 

 思念を感じるって何だよあの色黒女!? 無能女も腕を組んで「ふむ……」とか何か考察してるっぽいし、状況が全く読めねーんだけど!

 アレ? これひょっとしてスーパー三太様、意外とピンチじゃ………い、いや! そもそも直接戦闘したところで、この無敵の三太様をどうこうできるたぁ思えねぇ! ただ思えねぇけど、ババアとかあの美人とか無能女とか、コイツら全員なんか「祈祷力」高い魔法とか使ってきそうで苦手なんだよなぁ…………。

 

 しばらく息を殺して……、一分くらい話し合った後、三人は姿を消してほっと一息つけた。

 

「なんでこんな日中だってのに、サスペンス映画みたいな感じになってんだよ……。ま、いっか。とりあえずコレが使えるってことがわかったし」

 

 そしてダウジングを構えると――――その指先は、シスターのババアが言ってた、眼前の校舎に向いていた。

 

 

 

 

 



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ST68.死を祓え!:やり直し可能な仇討ち

毎度ご好評あざますナ!
ちょっとだけ連日投稿できてて少し回復してる・・・かまだ不明です汗

本作キリヱ大明神がガチで頑張りまくった結果です。


ST68.Memento Mori:Retry and Revengers

 

 

 

 放課後、ようやく行動が自由になったものの。一度寮に帰ると、姿が見えない三太が気にかかった。もともと原作において、本来ならば転入後はすぐ三太を引き連れて遊びに行く流れがある。それを見て水無瀬小夜子がホルダー側に三太を任せられるか判断していく流れになるはずだが、今回私はそれについては無視した。

 三太自身が単独行動で何かをしたがっているのがわかったし、わざわざそれを追及するのは可哀想……というか、下手に後をつけると早々に彼の正体が判明するという原作チャート崩壊に匹敵するだろう事態が発生する可能性があったからだ。

 なのでここは痛し痒し。九郎丸はちょっと楽しそうだが、生憎私は地理について四苦八苦しながら授業を受けていたのだが。

 

「…………っ」

「キリヱちゃん?」

「どうした?」

「しっ! ちょっと黙っててっ」

 

 どうにも合流後、昨晩のカフェにて集まってる私と九郎丸およびキリヱだが。つまりは午後十六時少しのこの時間帯において。どうしてかキリヱの様子がおかしい。まるで何かを探しているような、焦燥感と「絶対のがしてなるものか!」と言わんばかりの強い意志が感じられる表情だ。そんな様子できょろきょろと周囲を見回しているものだから、私と九郎丸は顔を合わせるばかり。

 いや、とはいえ私は若干推測が立っているのだが…………。ひょっとしなくてもこのキリヱ、また「戻って来た」キリヱの可能性が高い。明らかにこの様子は、新しい展開を踏まえた上でのリアクションだろう。しかもそれを表面上隠しもしないで行っているのだから…………、一体また何回ループしてきたんだこの女。あんまり無茶するんじゃないよ、メンタル強いようで中身お豆腐なんだから。(良心)

 

「――――居た」

「お?」「あれ、三太君」

 

 背後から声をかけられた私と九郎丸がそちらを向くと、相変わらずパーカー姿の三太が半眼で肩をすくめていた。初対面のキリヱは「誰?」となっているので、簡単にルームメイトだと紹介。

 

「何やってんだお前ら、こんな所で」

「まー、ちょっとな。お前こそどうしたんだよ、体調悪いんだろ? 無理すんなよな、元々肌とかも病人とかみたいに真っ白な訳だし――――」

「こりゃ引きこもってたからお肌繊細になってるだけだっつーの! て、何だよお前その目、えっと……」

「キリヱよ、桜雨キリヱ。……アンタ、男の子よね。髪、すっごい伸ばしてるけど」

「あ? いやフツーに男だけど。この頭はまぁ…………って、いや、そんなことはどーでも良いんだよっ(もう流石に『剃り込みされた』のとか『十円ハゲ』とかも残ってねーだろうけどさ)」

 

 距離が近かったせいでボソッと呟かれた内容が聞こえてしまったが、いや、確かにそういう事情ならそのロングヘアも納得がいくのだが何と言うか…………。

 というよりも会話慣れしてないせいだろうが、あんまりボソッと言った感じではなく、多少小声程度の声量で聞こえたので、他二人も聞いてしまった感はあるが。九郎丸はその一言に違和感を覚えたのか少し不思議そうな顔だが、キリヱは流石に察したのか「ま、悪かったわ」と素直に謝った。

 

「いや、オレの話はいいんだよ。で、何でお前らここで集まってるんだ? デートか?」

「いや違ぇって――――」

「で、でででででででッ!?」「は、はァ!? 馬鹿言ってるんじゃないわよっ!」

 

 いやお前さんら、違うんだからそんな変な風に慌てるな。思わず半眼になってしまったが九郎丸は顔を赤くしたまま目を丸くしてるし、キリヱに至っては椅子から立ち上がり三太に掴みかかっていた。漫符ならお目々ぐるぐるといったところだろう、ぐらぐら首を揺さぶられる三太は、背丈では勝ってるはずなのにとても弱そうだった。(語弊)

 

「そんな話じゃないのよっ! 私たちは真面目に、世界の危機と戦ってるんだから! だからそんな浮ついた! 話とか! 考えてるんじゃ! ないわよっ! そこのちゅーにと、で、で、デートだなんて! そんな訳ないんだからねっ!」

「くぁwせdrftgyふじこlp――――」

「いや落ち着け、三太バグってるから。バグってるバグってる…………」

 

 ぼそっと「キリヱちゃん可愛いな……」とか少し寂しそうな顔をしてる九郎丸はともかく……、いや、とにかく色々ツッコミ出したらキリがなさそうなので流す。ともかくキリヱを制止して三太から離すと、丁度そんなタイミングで携帯端末が鳴り出した。私、九郎丸、キリヱのもの(後者二人はメールアプリ)、三太は何もなし。

 

「……何だ、この音」

「えっと……?」

「このお馬鹿さん達! 緊急警報の音よッ」

 

 すぐさまアプリを開いてメッセージを確認すると、キリヱは愕然とした表情になる。

 

「…………えっ、嘘。こっちでもない訳?」

「これは…………っ」

 

 九郎丸も確認して驚いた表情だが、事情がわかっていない私と三太である。とりあえず携帯端末の緊急速報アラームのアプリを起動し、私も内容を確認するのだが。横から覗いてくる三太共々、状況が上手く呑み込めなかった。

 

 

 

 ――――緊急避難警報:新東京アマノミハシラ市付近をはじめ各地方首都圏――――

 ――――妖魔災害以来の大規模人体変異事件・生物兵器の疑いあり――――

 

 

 

「噛まれた人間はゾンビみたいになる……、って、いや、マジか?」

 

 正直、キリヱが体感してきた二百回近くの時間遡行についてだが、少々ナメていたというのを実感させられた。どうやらこれを見る限り、状況が大きく動いたらしいのだが、しかしそれに関してトリガーとなるものが全く掴めていない。本当に手がかりナシと言っても過言ではない状況だ。

 否、実行犯や動機自体は「私」にとっては割れているに等しいのだが、だからといってそれをゆっくりこなそうと思っていたこのタイミングでの状況変化。しかも既にチェックメイト済の状態まで来ているとなると、どうやら当初考えていたよりも切迫しているというべきか…………。

 

 急いで夏凜に電話をかけるが、通話が繋がらない。……原作での絡みを考えるなら、水無瀬小夜子に確保されたか、消耗してすぐ動けない状態にされているか。

 

「――――皆、大変だ! これから情報を転送するから、すぐ確認してその地点に向かってくれ! 少なくともアマノミハシラ学園都市付近から発生しているから、ここで封じ込めないと拙い!」

 

 一空(既に青年姿)が背後からジェットパックのようなものを展開して飛行し降りて来るが、状況を今知った私たちはすぐに思考が切り替えられない。そしてそれは、三太にとっても似たようなものであるらしかった。

 膝をつき、目を見開き、引きつった笑いのまま顔を青くし、そして震えていた。

 

「ぞ、ゾンビ……? 嘘だろ、オレを騙そうとしてんだろ? じゃなけりゃ何なんだよ一体、『マジで』なのかよそんな――――」

「とかく気を付けて! ウィルスの詳細は不明だけど、場合によっては空気感染とかもあり得るから。僕は先に行く――――」

「僕も行きます!」

 

 そのままジェット飛行する一空と、我に返って空中を駆けて後を追う九郎丸。

 私もこのままという訳にもいくまい。……原作的に後で時間を巻き戻す話になるのだろうが、それ以前の問題として。そもそもこの状況になってしまったのなら、極力キリヱが「死なないで」解決できる方法は、もはや原作通りに小夜子を下す他なくなってしまった。

 だが、果たしてそう上手くいけるのだろうか? 三太からも相手の場所やら動機やらを引き出せず、というこの流れ。明らかに原作のそれから大きく逸脱している。ゲーム的な話ではないが、こういった微細な積み重ねがズレることでいくつもの前提条件やらが崩壊し、結果が変貌するのを私はよく知っているのだ。

 

 だが、それでもなお立ち上がるしかない――――そういった不確定なことが、私が剣を手にしない理由にはならないのだから。

 

「――――っ、待って! 刀太っ」

 

 行こうとする私の左腕に抱き着くキリヱ。顔を見れば、しかしキリヱは「思ったよりも」「動揺していなかった」。

 そこには只ひたすらに、冷静に今の状況を分析して、何の情報が使えるかを切り分けている理性があった。感情的になって私を止めたということではない、確かな確信と、秘策のようなものを感じさせる。そんな表情だった。

 

「…………もう『このルート』はたぶん手遅れだから。だから一旦『巻き戻す』わ」

「は? いや、お前何しようと――――」

「ゴメン。私、アンタに嘘ついてた。少し待ってて――――」

 

 言いながら、キリヱは少し離れ、私の左手を両手で取り。まるで祈るような姿勢となって――――。

 

 

 

「――――『タイトルバック』」 

 

 

 

 次の瞬間、世界は暗転した。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「…………ここは、マンション? いや、ボロアパートって感じか」

 

 ミンミンとセミの声が聞こえる。外を見渡せば天気は燦燦と夏日和。季節はもうそのまま夏のように感じるが、昨今は異常気象が激しいのでこういった事象のみで判断できない。できないが、どう考えてもこの湿度の高いべとべととした蒸す感覚は、明らかに最近の気候ではない。つまりは2086年の9月ではないということになる。

 あれだけ思わせぶりなキリヱの動きがあったのだから、それは当然「何か起こった」と考えてしかるべきなのだが……。暗転した視界が回復した時点で、このアパートの中に「監禁」されているという状況は、あまり心穏やかではない。窓を開けようにもそもそも「接触できず」、まるでホログラムか何かのように貫通してしまう。

 だからといって全身が壁を貫通して外に出れるかと言うとそうでもなく、時計を見れば1時45分の30秒くらいのあたりで、針の先端が行ったり来たりしている……、というより電池切れの時計のように、進もうとして進めない、みたいな動きだ。

 

「そして何より色々言いたいのは…………」

 

 部屋の窓際手前で倒れている少女……というには幼いか、小さな女の子の姿。触れず、抱き起せないこともあってどうしようもないのだが、ワンピースから覗く異様に痩せた手足。手元には空のペットボトル。部屋の奥には何も中身がない冷蔵庫があり、また入り口の方は丁度「女の子の背が届かない」くらいの高さのバリケードのようなもので固定されていた。

 

「あ、あはは……、あんまり見ないで? そんな気分が良いものでもないでしょっ」

 

 そしてそんな私の視線を受けて、キリヱは苦笑いしながら頬をかいていた。

 

 …………おそらくキリヱの能力であるところの「リセット&リスタート(リセット可能な人生)」――簡単に言えばタイムリープ能力――を行使したのだろうと予想はつくのだが、色々と状況が異なっているというか、私の知る状況ですらない。

 というか、そもそも「タイトルバック」とか言っていたか。一体何をした、また私のガバか何かか?(疑心暗鬼)

 

 内心で勝手に恐怖してる私をスルーして、キリヱは足元で倒れている――――「息遣いすら感じない」少女の背を、触れもしないだろうに撫でた。

 

「……大体、四歳くらいだったかしら? 2071年4月9日水曜日、13時45分の炎天下。

 ここで、この少し後に私は『最初に』餓死したの。……いや、熱中症だったかも? まあどっちにしても栄養全然足りなくって最後動けなくなってたし、同時かしら」

「そこ別に正確さ求めてねーから。えっと……何? 状況が本当に全然読めねぇんだけど。とりあえずそこに倒れてるのが、昔のキリヱってことだけは判ったんだが」

 

 困惑する私に「それもそうよね」とキリヱは苦笑いした。

 そしてう~んと、腕を組んで思い悩み始めた。

 

「…………どうしよう、前の能力だと説明が簡単だったけど、『こっち』だとちょっと複雑になるから説明が面倒くさいわ」

「『前の?』」

「そっ。予知って言ってたけど、厳密には違うの。私の固有能力――――リセット&リスタート(リセット可能な人生)、って呼んでるんだけど。これはその進化形……っていうより、経験値カンストしてレベルアップした感じのやつなの」

 

 とりあえず名前だけ言うと、と。ここだけは少し胸を張って、ドヤ! と得意げに笑った。

 

「――――『リセット&リスタート(リセット可能な人生)Lv(レベル)2。その名も、『リトライ&リベンジャーズ(リトライ可能な仇討ち)』よ!」

「いや名前、物騒すぎねぇかそれ……?」

 

 思わず口をついて出た感想に「人のネーミングに文句でもある訳このちゅーにっ!?」っと、腰に手を当てて、プリプリと怒っていた。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 一度おさらいをしておくと、桜雨キリヱの固有能力「リセット&リスタート(リセット可能な人生)」は、時間遡行系の能力であるがいくつか制限がある。

 その一つは「セーブポイント」。砂の山に木やロウソクなど可燃物を立て、そこに点火することで「火が持続している間」に死んだ場合「点火したほぼ直後」のタイミングまで時間を巻き戻すことが出来る、というものだ。

 この際に戻り方をコマンドのように設定することで、時間を巻き戻す際の方法(言うなればリスポーン方法)を指定できる。この際「M(メモリー、記憶)」「S(スピリット、魂)」を彼女は固定しているが、これに加えてもう一つ。

 一つは「B(バインド、掌握)」。こちらならば死んだ際に手で握っていた相手の精神を巻き込んで過去に戻す。

 もう一つは「F(フレンド、仲間)」。こちらは手で触れた相手の身体ごと自分の周辺にリスポーンさせた状態で遡行することが出来る(当然その時間の当人が近所の場所にリスポーンする)。この際、周辺と一言で言ってもおおよそ数百メートル程度は応用が利いていた記憶がある。

 

「――――で、ここまでがレベル1の話なんだけど、続けてレベル2の話するけど大丈夫? 理解できてる?」

「おおよそは……」

 

 理解するも何も原作でざっくり把握はしているので問題ないと言えば問題ないのだが、果たしてここからは完全に未知の領域である。流石に私のガバではないだろうと思いたいが、色々と胃に痛みを覚えながら話を続けて聞いた。

 

「レベル2の場合、セーブポイントの意味合いから変わってくるの。この時に使う設定が『O』、オプティマイズ、つまり最適化ってこと」

「……ん? どういうことだ?」

「最適化されたセーブデータは、つまり『一定時間しか』機能しないセーブじゃなくなるってこと。状態としてはフレンドを引き継いでるっていうか、そこからレベルアップしてるから『触っていた相手ごと』ここに連れ込めるみたいなんだけど」

 

 見える? と、大画面テレビの液晶(※この時代では十分旧式)を指さすキリヱ。そこには液晶の映像が八分割され、それぞれに異なるものが映し出されていた。一番左上、①とナンバリングされているそれはこの部屋。反対に⑦とナンバリングされているのは、ついさっきのカフェ……というか、買ったカプチーノのストローに火を付け、紙コップにコマンド設定を書いてセーブポイント代わりにしたらしい。というかそんなこと出来るのかお前……。なお画面右下については画面が真っ黒になっており、⑧は存在しないらしかった。

 

「ここは私の『最初の場所』だから。ゲームで言うタイトル画面……、みたいなものなのかしら? セーブメニューでもいいけど」

「いやセーブメニューって……」

 

 実際、テレビ映像を含めれば他に説明はつかないのだが、つまり話を整理するなら……。

 

「レベル1ならセーブポイントが機能してる時間しか巻き戻しできなかったけど、レベル2なら『過去のセーブポイント』を含めて『自由に巻き戻し出来る』、みたいな話か?」

「そーゆーこと! やっぱり飲み込み早いじゃない」

 

 愉し気に胸を張るキリヱだったが、「あっでもセーブは7つ以上作るのはダメなのよ」と慌てて思い出したように言った。

 

「なんだかそれ以上作ると、えっと、『パラレルワールド分岐しないで一つの時間軸が保有できる情報量を超過する』から、時空が崩壊するって、タイムパトロールとか言ってた女の子に注意されたわ」

ドラえも○(ドラちゃん)の見過ぎでは? っていうかタイムパトロールって……」

「名作だからよく見てるけど事実よ! ホントなのよ信じなさい!」

 

 別に信じたところで問題はないのだが……、もはやガバとかそういう次元じゃない今の有様に、少しだけ私は思考を放棄した。

 

 

 

 

 



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ST69.死を祓え!:未来を売る女

毎度ご好評あざますナ!
また深夜で大変申し訳ない・・・。


ST69.Memento Mori:She Held the Future In Her Hand

 

 

 

 

 

 大体二百回くらいは時間を巻き戻し続け、この力に目覚めたと聞いた時点で、私は猛烈な頭痛に襲われた。

 

「リセット&リスタートを使ってそれくらいの回数、何度も何度も色々なパターンでやり直してたって訳よ」

「いやちょっと待って、ちょっと待て……。さっきの話を聞いてアレだ、二百回くらいぶん殴ろうとしてたって話と今のそれでつながったけど……、えっと、アレだアレ」

「何よ? アレじゃ何言いたいかわかんないんだけど」

 

 とりあえず胡坐をかいて座ると、キリヱもそれにならってか正座して座り込み、ちょっとスカートの裾を直してから顔を赤くしてる。いやそんな話は大した問題ではないので(断言)、状況を整理しよう。

 何を整理するかと言えば、キリヱの発言が「どこからどこまでを指しているか」、だ。

 

 まず大前提として、キリヱのメンタルは相当防御が薄い。夏凜と違いをあげるなら、あっちは普段からカチカチに固めているふりをしている分、一度折れると自力で再起するのが難しいっぽいように思っている。対してキリヱの場合はちょっとのことで傷つくものの、芯の部分はそのダメージを受け止め受け入れ、無理にでも前に進む気合のようなものがある。精神的なバイタリティというべきか、夏凜は一見強そうでもろく、キリヱは柔らかそうで強いのだ。

 さてそんなキリヱだが、とは言え大元となるメンタル自体はやわらかお豆腐なことに変わりはない(断言)。だからこそ過去に一人で死に続けたことがトラウマになり、人の気配を感じられない場所に長いこと居られないとか、そういう弱点があるのだが。そんな彼女だからこそ、何か精神的にダメージを負うと「死のう」の一言とともにリセット&リスタートを発動させようとしたりもする。死に対する忌避感がないわけではなく、あくまで死ぬというそれも自分の状況を改善するかしないかという一つの選択肢になっているという話なのだが。

 そんな彼女だからこそ、おそらく原作においては。意外と「大した理由じゃない」死因も多くあるのではと考えていた。

 だからこそ、それこそ数えたら二百回くらいはどうということなく発生しているだろうと思っている。思っているが、それで原作においてキリヱがレベルアップをした気配はない。未だ見知らぬ師匠(矛盾)の下で修業をつけて応用的な能力に目覚めもするが、それとてここまで抜本的に、能力の質が変わるようなものではないのだ。

 

 だとするならば――――あえてキリヱ本人が話していない「セーブポイントが消滅した状態で」「死に戻った」場合のことを踏まえるのならば。

 

「…………お前さ。ひょっとしてだけど、二百回って嘘だろ」

「? いや、嘘じゃないんだけど……って、何でアンタそんな話すんのよ?」

「いや、嘘って訳でもないんだろうけど『死に戻った回数が』二百回って言い回しは、なんか嘘っぽいっていうか、あえて真実を語っていない感があるっていうか」

「へ、へぇ? いや、だから何言いたいかわかんないんだけどさっきから」

 

 こうやって正面から詰めると、キリヱは動揺が激しくなり割と表情に感情が出やすくなる。そしてこの微妙なリアクションが、私に確信をもたらした。

 

「――――二百回は死に戻った回数じゃない、『この場所』つまり『四歳くらいの』『餓死し続けていた頃に』戻り続けた回数、の間違いじゃないか?」

「――――――――」

 

 私の確認に、キリヱは目を大きくして口が開きっぱなしになった。

 こちらの確認がよほど予想外だったのか、それとも「なんで当てられたのか」という衝撃が勝っているのか、微動だにしない。

 ただ、段々と我に返ったのか、呼吸が荒くなり、過呼吸一歩手前になりそうなくらいで言葉が出て来た。

 

「なん…………、なん…………、で……、そんな、こと…………わかんの、よっ」

「いや、お前そんな死に戻った回数とか記録付けるようなマメな性格してねーだろ?」

「誰がガサツで片付けできない家事ダメ女よっ!」

「いやそこまで言ってねぇって」

 

 一瞬で我に返って殴りかかってくるキリヱ。座高の身長差もあって年上のお兄さんに食って掛かる姪っ子か妹のように見えなくもないが、まあ微笑ましいと思っているのが伝わるのか顔を真っ赤にしてさらにヒートアップして殴りかかってくる。もっとも殴りかかってくると言っても小さな子供がやりがちなお手々ぐるぐる大車輪(直喩)での攻撃なので、大して痛くもないのだが――――っ!

 く、唇にお手々が当たって、か、噛んだ…………!

 

 再生こそするがちょっと痛かったので左手でストップをかけて抑えた。こちらのリアクションが急に変わったのを見て、キリヱ本人も急速でリアクションが変わり「大丈夫? 消毒する? ……ってこの部屋の救急箱触れないじゃない私!?」とか絶賛大混乱だ。

 一旦、ちょっと小休止。

 

「……まあ要するにだ。一々ちょっとしたミスでの死に戻りとか、お前そんなに数えてないっていうか、数えてられないだろって話。たぶんこう、細かいイベントっていうか、事件とか、あるいは行動のミスとかはある程度覚えているんだろうけど、それだって完全に覚えられない…………というかメモしねーイメージがある」

「メモくらいするわよ! いや、したいんだけど!

 でも、ここにメモ帳でも持ち込めればそれで行けるんだけど、そんなものセーブポイントの先の方には反映されないし、なによりここって『出入り』したら『状態がリセットされる』から、持ち物置いていくと無くなっちゃうのよ」

「そりゃ、悪かった。…………とすると、あー、つまりキリヱさ。それでもなお数えてるってことは、相当大きなイベントみたいなのがあった時くらいしかしねぇんだろうなって思ったんだよ」

「な、何よ」

 

 つまり、相当大きなイベント――――また一からやり直すというレベルの事態とか。そういう非常に頭や心を痛めることなら、忘れたくても嫌でも忘れられないと。そういうことなのではないかと考えた。

 私の言葉に、キリヱは腕を組み…………、ため息をつくと自嘲げに笑った。

 

「…………いや、まさか話してすぐにバレるとか全然予想してなかったんですけど」

「じゃあ、えっと……」

「そっ、正解。アンタの予想通り、私が『最初からやり直した回数』が、二百二回よ。って言っても、レベルアップしてからはそんなに苦労はしなかったんだけどね」

 

 もう最初の百回くらいで「十六歳」くらいまでのルートは何やったら問題ないか完全に把握しちゃったし、と。肩をすくめて笑うキリヱに、私は言葉を続けられなかった。

 

「最初は早くホルダーに接触したりとか、アマノミハシラ学園とか、色々調査できないかって手を出してみたりしたのよ? でも全然ダメ。逆にホルダーに入れないルートとかも出てきちゃったし、むしろ『ヒデヨシのお爺さん』とかに『殺される』場合とかもあったわ。少なくとも最初の百回くらいで、最初の十二年間は下手に私の行動を変えると問題が発生したりとか、命を狙われたりとか、そういう事態ばっかってことに気付かされたわ。そこからは早かったけど。どう動いたら殺されないか、命を狙われるような脅威と認識されないか、どう動けば両親から早く離れられるか、雪姫に違和感を持たれないよう接触が出来るかとか、ね? 唯一違ったのって言ったら、株の回し方っていうか、お金の稼ぎ方だけはスキル的に上達しちゃったものだから、徐々に徐々に私の資金が上昇していったってことくらいね」

 

 ただ、レベルアップしてからは事情が大きく変わってしまったらしい。

 

「…………レベル2は、『主体』となる私が『固定された』能力なの。つまりこの『リトライ&リベンジャーズ』を使用して振り出しに戻った時、私は『今の姿のまま』その場で再構成される…………、餓死していた少女の私は、もうそこにはいなかったわ」

「……………………なんっていうか、こう、二周目プレイとかみてーだな、なんとなく」

「あはっ、悪くない例えね。つまり、今までの周回を少なからず『蓄積』できるようになったの。いくら私が小さくて幼児体型だからって言って、あのバリケードくらいは簡単に外せるし、鍵だって開けられる身長だもの。そこからは外に出て、偽の戸籍をとって、早々に今までの知識経験をもとにお金を集めたり…………、『仙境館』の建設にちょっと出資したり。そのくらいなら、ギリギリで問題なかったわ」

「マジでか…………」

「そっ。まぁ、アンタのお祖父さんと面識はないんだけどね」

 

 てへっ、と。少しだけ悪戯っぽさを出そうとしたのだろうその表情からは、力が、覇気が、全く見て取れなかった。どこか遠く寂しそうな、そんな力のない仕草だった。

 

「まーでも、『死なないでも』やり直しできるようになったから、その分だけちょっと楽になったのは間違いないわ。だからこうして今だっている訳だし、昨日だってお昼のために『何度も』巻き戻したくらいだから。……だから別に、そんなに気にしなくっても―――――わっぷ!?」

 

 力なく「大丈夫」と笑うキリヱが見ていられず…………、それでも抱きしめるのに躊躇いがあり、抱きしめたら折れてしまいそうに思ってしまい、私は彼女の頭を撫でるくらいしか出来なかった。

 以前、「予知」という触れ込みで話した時の距離感から、このくらいは問題ないだろうと見ていた。実際、キリヱは驚いたようだったが拒否はしなかった。

 

「…………あんまり無茶すんなよ」

「……そんな、無茶なんてしてないし」

「まぁそうやって気張ってるなら、俺がどうこう言ってそれを折るような話でもないって話なんだけど。でも…………、辛いってことまでは、忘れなくってもいいんだ。だってホラ、人間だから。どうしても無理なときは、言ったっていいんだ」

「…………そんなこと、アンタに言われたくないわよ。だって――――」

 

 頭をなでる手を両手でつかみ、キリヱは小さく呟いた。

 

「――――前のアンタは、全部抱えて、結局心だけ、私に置いて、逝っちゃったから」

 

 ……………………。

 心はここに置いていける、と。

 

 あっどうにもこれ以前の上書きされただろう歴史における私のガバですね、わかります(諸悪の根源)。

 というかB○EACH(オサレ)より海○(初恋イケメン)の台詞流用するたぁ良い度胸じゃねぇか以前の私。随分余裕あったなオイ、そんなんだから他にも大量にガバ引き起こすんだろいい加減にしろ!

 

 

 

『……自覚があるだけまだマシって見るべきかねぇ……』

 

 

 

 !?!!?!?!?!???!!?!?!?

 親方ァ! 親方ァ、今どこからか未だ顔も声も知らぬ師匠の声が!?(大矛盾)(大混乱)

 

 唐突に響いたその声に、未だ面識のない声へ驚き慌てて周囲を見回す私とキリヱだが、特に風景が変わったわけでもなくこれは……。

 

「な、何っ!? っていうか今の声って誰かいるってことこの場所にっ!!?」

『ん? 嗚呼、おっといけない。『こっち』だとぼやきも聞こえるんだったねぇ…………、まぁシステムボイスとでも思っておきな、桜雨キリヱ』

「流石に無理あるわよっ! っていうかアンタ誰なのよ――――」

 

 その後キリヱが色々と文句を言い募ったが、結局二度ともその場で妙に迫力と存在感のある女性の声は聞こえることはなかった。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 どうにも私がどんな感情で発したかわからない今際の言葉(オサレクイエム)を心の支えにしてしまっているらしいキリヱに大変申し訳が立たないのだが(反省)、その話は一旦今は置いておくこととする。そもそも師匠の声がポロっと聞こえてくるとかいう正直謎の現象が発生してしまったこともあり、私としてはそっちの方が戦々恐々としているのだが。(震え声)

 

『…………』

 

 何やら息遣いのようなものが聞こえないでもない気がするが、一旦私の精神衛生上スルーさせてもらおう。そもそも未だ知人ですらない師匠(矛盾)自身、「UQホルダー」原作においても色々と既に私や雪姫やらの情報とかを集めて観察していたようなことを言っていた覚えがあるし…………、いや、そう考えると「私」という存在自体に色々と何か言われたり制限でも課されそうで恐ろしい所はあるのだが、

 

「と言う訳で話題変えるけど」

「いや無理無理、何さっきの声!? 知り合いなのアンタ、ねぇちょっと!」

 

 いや知り合いかどうかで言えば「まだ」知り合いじゃない、と言うのが正解ではあるのだが…………。

 

「いや知らねぇけど、でもちょっと考えてみろよキリヱよー」

「な、何よ……?」

 

 声を潜めてキリエの耳に寄り。

 

「(あんなスゲー感じの声の相手とか、どう考えてもラスボス級みてーな奴の声だろ。下手に藪をつついて蛇を出すよーな話になるんじゃね?)」

「(…………まー確かに、そんじょそこらのオバさんの声じゃなか―――――)」

「(止めろ! 絶対地獄耳とかそーゆー類の声だからアレ! そんなこと言ったら後が怖い奴だからマジで多分!)」

「(なんで多分の割にそんな妙に迫真なのよ……)」

 

『…………(ア゛ン゛?)』

 

 なんかこう「イラッ」とした感じの息遣いが聞こえた気がするが、たぶん気のせい気のせいスルースルー、誰が何と言おうと何も聞こえない、ジッサイ正しい現実である。これだけは真実を伝えたかった。何も聞こえない、イイネ?(震え声)

 閑話休題。

 

「で話を変えるけど…………、そもそも今回、何で失敗したっていうか、何がキーになったかって話しようぜ。建設的なやつ」

「自分から建設的な話とか言い出すんじゃないわよ、薄っぺらく感じる……。

 でもまー、確かに話さないといけないのよね。って言っても唐突だったから、また今朝からやり直しする話なのかしらとは思ってるんだけど」

「いや、割と目星はついてるんだが」

「は、はぁ!?」

 

 ちょっと何それ言いなさいよと掴みかかってくるキリヱの肩を抑えてなだめること数秒。

 

「い、言って見なさいよ。一応、素直に聞いてあげるわ。前のときもなんかスっと当然のように事態進めてたし」

「あー、そうか? いや別に良いんだけど……。まず前提の話として、たぶんだけど俺たちが追ってた能力者って、さっき出て来た三太って奴」

「……………へ? そうなの? っていうか何で分かったの?」

「声と背丈とパーカーが一緒」

 

 いや確かにそれならそうかもしれないけど、と頭を抱えるキリヱ。

 

「……実際、相対したアンタが『そう』判断するなら、まー、それが正解って言うか本当なのかもしれないけど。でも、それがどうしたっていうの? あの様子だとなんか、全然『ウィルステロ』とか知らなかったみたいだし」

「そう、そこなんだよ。…………んー、どういう理屈かは分からねぇんだけど。少なくともあの三太がキーマンっぽいのは間違いねぇと思うんだけどなぁ。それがどうキーになっているかっていうのを、上手く言えねぇっていうか」

「それ何ていうか、結論ありきで話してない? アンタ。私たちって演繹的、つまり頭から尻尾に向けて推理推測を展開して事態に当たらないといけないんであって、帰納、尻尾から頭に向けて結論ありきで考えてたんじゃ、見失うじゃない。

 ドラマとか映画とかでよくある、初動捜査のミスってやつになっちゃうわよ?」

 

 ここが辛いのが、実際に私は「結論ありき」というか「原作ありき」というか、「背景事情を把握している」からこそ、推測の精度を上げることが出来ているという点か。

 直近でいうなら、原作であった九郎丸に水無瀬小夜子が接触するイベントが発生していないため、今の状況ではうまく説明することが出来ないのだ。……否、そういう意味だと本日、三太を連れ歩いて遊びに行かなかったからこそ、そのイベントが発生しなかったと見るべきだろうか。

 ただ、今までの前提条件から色々と「それっぽい」言い回しをひねり出す。

 

「結論ありきって言うより、前に言った推測分の話をひっくり返すと、って感じだなー。アイツ本人が知ってる知らないってのはともかくとして」

「サヨコさんだっけ? ってことは…………、うーん、やっぱり良くわかんないわ。能力が似てるっていうので、上手につなげられないっていうか」

 

 実際問題どうしたものかと色々話し合うが、上手い説得が出来ず。とりあえず一度、今朝の時間軸に戻って調査を繰り返すべきかとなったそのタイミングだった。

 

 

 

「――――アイヤ、流石にこれ以上はこの時間軸『パンクする』ヨ、先輩たち」

 

 

 

 私にとっては聞き覚えしかない声がしたと同時に、『誰も開けられないはずの』部屋の扉が開かれる―――― 一切干渉できなかったその向こう側に、シニョンと三つ編みの、赤いへそ出しチャイナ服な少女が入室してきた。

 とりあえず私は困惑しかない状況だったのだが、キリヱは彼女の姿に、頬が引きつる。そんな私たちに、彼女はニコニコ顔で話しかけてきた。

 

「ヤーヤーヤー? ン、先輩、驚いてないネ。意外と肝据わてるカ?」

「いや、っていうか、お前まず誰的な発想が先に出るっていうか」

「おぉ、コレは失礼したネ! って、そこのキリヱサンからまだ話、聞いていない感じか」

 

 腕を組み、にかりと微笑み。

 

(チャオ)鈴音(リンシェン)――――最近はとある大いなる魔女の下で、タイムパトロールのアルバイトみたいなのしてる天才発明家ヨ!」

「…………あぁ! タイムパトロール! ってアンタかよ胡散臭いなぁ……」

 

 よく言われるネなどといいながら、彼女、超はニコニコと気前よく笑っていた。

 

 

 

 

 



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ST70.死を祓え!:理論値を超えて

毎度ご好評あざますナ!
今日は深夜前・・・!


ST70.Memento Mori:Love Defying The Laws Of Rule

 

 

 

 超 本人(なおほっぺの痣が桃色ではなく水色っぽい)はどうにも私のリアクションに驚きが少ないことに怪訝しているが、私としてはそこは諦めろと言いたい。なにせ帆乃香や勇魚と授業ぶっちぎり自宅でひたすらゲームしたりして遊んでいた時の早々に、本人いわく「ガバが移った!?」的な理由で早々に遭遇しているのだ。その際のやりとりから既に彼女の干渉というか、接触自体はそんなに遠からずあるだろうと判断していた私にとってみれば自明の理と言うか、この程度は大した話ですらない。

 もっともあの時の彼女当人のリアクションからして、その話を伝える訳にもいかないのだろうが…………。このリアクションを見る限り、どうにもこっちの超の方が前の時系列のようだし。

 

 というより気になるのは、彼女のその赤いチャイナドレスっぽい服の方なのだが……。気のせいでなければ「ネギま!」ではなく「ネギま!?」の方のアーマーカード衣装では? 腰に鉄扇のようなものが二つ、どういう理屈かは知らないが紐もなく吊るされているし。

 後その、肩に乗っかってるデフォルメされたようなドラゴンもどきは一体……。衣装の一部か何かと思ったら、良く見れば小さく鼻提灯を膨らませてるし。

 

「なぁ、その恰好――――」

「ん? フフーン……」

 

 私の視線に、超は半眼になりながら口をカモメが逆さに飛んでるみたいにしてニンマリといやらしく笑い、自分の身体を抱きしめて横を向いた。

 

先輩(せんぱぁい)、ヘンタイさん? いくら私、ご先祖的に美形に育てると言ても、露骨に身体ジロジロ見られるのは恥ずいネ」

「いや、そうじゃなくって――――」

「そ、そうよ! ジロジロなんて見てるんじゃないわよこのちゅーに! 思春期! おっぱい星人!」

「いやそう罵倒される意味がわかんねーんだけど!?」

 

 だいぶ真面目な考察に入ったこちらを察知してなのか、キリヱのキャラクターを読んでいるのもあるのか、上手くかわされてしまった。こちらがポカポカ殴られてるのを見て、キリヱに見えないような角度でニヒルに微笑みウィンクなど飛ばしてくるあたり、態とに間違いはないだろう。

 ぜいぜいと肩で息をして大の字に倒れるキリヱと、片膝を立ててやっぱり疲れている私。そんなこちらに前かがみになりながら…………、何故か両手で自分の胸を「寄せて」「上げ」。

 

「アハハハハハ、大丈夫ネ? 『この姿だと』あんまり大きくないけど……、おっぱい揉むネ?」

「その話を引きずるんじゃないっ」

「アイターッ」

 

 思わずチョップ一発ツッコミを入れるが「ぽけん!」みたいな変な金属音(金属音!?)が鳴った当人は大してダメージがないらしい。ケラケラニコニコ、楽しそうに笑っているのは麻帆良学園時代「表」の超そのものといった風だった。

 そして肩のドラゴンが起きたのか、頭をむくっとさせて「ちみゃー! ちみゃー!」とか鳴いている姿に微妙にデジャブを覚えるのだが……? いや、特にそういうお供というか使い魔みたいなのを連れてはいなかったはずなのだが、果たして。

 

「おや、この()気になるネ? ちょっと()友達(クラスメイト)からもらった』トモダチ=チャン、ヨ。…………まあ『未だに交流ある』友達ネ、イヤー長生き長生き」

「トモダチ=チャン……、長生き」

 

 ちょと待ってるネと言いながら、収納アプリなのか転送アプリなのか(それともパクティオーカードの収納なのか)、小さく展開された魔法陣にドラゴンの赤ちゃんらしきそれを入れる超。そんな姿を見ながら、なんとなくその両手でそっと持ち上げる恰好を見て思い至った。

 あっ、なるほど。ザジ・レイニーデイか。現状まだ省略しておくが(旧サム7(サムライ・セブン)らしいのでそのうち遭遇機会もあるだろうし)、ひょっとしなくても「ネギま!」でのお別れ会、彼女から手渡されたあの変な生物が成長した姿とかなのだろうか……。

 もっとも察した内容は細かく口にはせず、しかし超はどういう訳か「私が何を察したのか」まるで知っているかのように「そういうことネ」と胸を張って言った。

 

 なお、そんな私たちの「既知の」やり取りらしきものに、不満げなのが我らがキリヱ大明神である。

 立ち上がり両手を腰に当て、ぶすっ! とした顔をしていらっしゃるのが大変ちみっこらしくて可愛いが(断定)、当人は無言で私の膝を蹴ってきた。ちょっと痛い。

 

「何なの、アンタたち知り合いって訳!? じゃあひょっとしてこのエロちゅーにが色々察し良かったのって、そういうこと!?」

「そういうことってどういうことッスかねぇ、というか語呂悪ぃなエロちゅーに……」

「アイヤ? 全然関係ないネ。どちかと言えば私が『一方的に知ってる』ダケというか」

「そもそも! その先輩とか言う距離感が妙に馴れ馴れしいわよ! 普通冗談でも「おっぱい揉む」かどうか的なの今時やらないでしょっ! 何なのタイムパトロール、アンタまで夏凜ちゃんみたいなエロ女に転職する訳!?」

「ヤヤ!? いくらキリヱサンでも言って良いことと悪いこと有るヨ!」

 

 私と超の間に割り込むように立ちふさがる。なおその際に押されたせいでバランスを崩して横転する私のことなど気にかけず「ふんっ!」とそっぽを向く大明神であった。

 その、もうちょっと手心を……、大明神に機嫌を損ねられると運気が減る説。(謎設定)

 アハハー仲良いネ、などと言ってから超は咳払い一つ。

 

「ま、それはそうとして本題ネ。いつまでもジャレてると『タローマティ』からお叱りが飛んで来るヨ」

「……………タローマティって誰だ?」

「? アイヤ、この呼び名だと知らないカ。アレよアレアレ、『“背教”の魔――――』」

 

『そんなことは話すもんじゃないよ、超。アンタだって「あっち」の名前は出されたくないだろうに。大体それを言うと後で物凄い「ややこしいこと」になりかねないから、控えな?』

 

 また出たァ! とキリヱは師匠の声に飛び退き、体勢たて直し中の私の腕に抱き着いてくる。超はその意味不明ながら有難いお言葉(ごますり)を聞き、腕を組んで「まー判たネ」と頷いた。

 

「じゃあ本題ネ。つまりキリヱサンにこれ以上、今の方法でセーブポイントを増やして欲しくないというのが、『我々』的なオーダーとなるヨ」

「? えっと、どういうことだ」

「意味わかんないんだけど、超さん」

 

 つまりネー、と言いながら、超は液晶画面に映るデータの画像に指をさしていった。

 

「セーブポイント①2071年4月9日:キリヱサンが能力に覚醒した日。

 セーブポイント②2074年12月25日:キリヱサン、不死身衆加入RTA結果早々のホルダー加入。

 ここまでは別に問題ないネ。あくまで時系列的には『直列の』セーブポイント、セーブデータになってるから」

「直列の……?」

「何よ、別に変な使い方してないじゃない」

 

 アハハー、と笑いながら、「どちかと言えば仕様外というか、想定外の使われ方ネ」と超。

 

「残り5つ、のうち4つのセーブポイントが問題ね。キリヱサンは5つのうち一つを予備に使てるみたいだケド、残念ながら今の扱い方は世界に負担が大きいネ」

「今の使い方って………、へ? でもゲームとかだとありそうな使い方じゃない?」

「ウン、でも世界ってゲームじゃないヨ」

「それはそうなんだろうけど……」

「…………あー、悪いんスけど、さっぱり話が見えねぇんスが」

 

 私に向き直り「アイヤ! 先輩ないがしろしてる訳違うネ」と言いつつ、超は少し悩んでいるようだった。どう説明したものかと言うのが難しいのだろうか、あーでもないこうでもないと空中に指を走らせて。

 

「ん、結論から言うネ。キリヱさんは『全く別のプレイスタイルをしたデータをいっぱい保持している』状態ということネ。2074年以降のセーブデータがすごい容量食てる状態ネ。

 分岐状態を保持させすぎて、もう『外から見ると』すごい奇形状態ヨ!」

「そ、そんなこと言ったって仕様がないじゃない! それに一つは……、アイツ(ヽヽヽ)の……」

「あー、話が読めねぇんだけど、…………えっと、つまり?」

 

 よくぞ聞いてくれたヨ! と、どこからか取り出した丸眼鏡(かつてのクラスメイトたる葉加瀬の私物だろうか?)をかけて、得意げに笑いながら説明してくれた。

 

「例えばこう、んー、あんまり具体的な話をするとまた怒られソだから言えないが、ゲームで例えるとセーブスロットごとに全く別なプレイをしたデータを保持したりするのって言って判るネ?」

「まあ一応……」

 

 ソーシャルゲームなどでは早々出来たものではないが、据え置き機やいわゆるしっかり作り込んである上で複数セーブ可能な場合などでは、当然のように可能な仕様だ。ゲームによっては男の子/女の子を変えたりアバターの見た目を変えたりして、全く別なプレイをソロで遊んだりするのもあるだろう。

 

「さっきも言ったけど、この世界は『ゲームじゃない』。だからオプティマイズされたセーブポイントを使って保持される情報は、たぶん先輩たちが考える以上に膨大というか……、それだけで情報生命群が誕生しても不思議じゃないくらいのスーパー、スーパー、ベリーヘヴィなビッグデータ群となっているヨ」

「……ちょっと読めてきた気がするが、それで?」

「ゲームではないけど、こういう記録の例はパソコンで考えると分かりやすいネ。

 例えばウェブブラウザとか、あーゆーのってメモリ低い端末でタブ開きすぎると、動作するための領域と記憶しておく領域、ま簡単言うとメモリを食いつぶす。その理屈がそのままこの世界ってものにも当てはめられるヨ。

 それが例えば『直列してる』時系列であるなら、後になって記録されるセーブポイントのデータは、過去のデータを含んでいるのを『世界』はちゃんと理解してるから、その分の差分情報はあんまり多くなくなるネ。

 でもキリヱさんの保持している残り四つのセーブデータ、予備のこの7つ目を除いた四つは、ちょっと『やりすぎ』ネ。色々な検証のために世界規模で『走らせ』てる時もあると思うケド、世界の方に『処理限界が来る』ネ。

 世界ってホラ、シャットダウン出来ない構造してるから、つまりそれだけ大量のメモリを食いつぶした状態で無理に稼働させ続けると『流石に』動きがカクついたりとか、反応遅くなったりとか、ファンがうぃいいいいいいん! って回転しまくったりするネ。

 あんまり無茶に動かすとハードがぶっ壊れる…………、この時空崩壊の危機って話ネ」

 

 後半の例が完全に機械系のものなのだが、おおむね理解は出来た気がする。つまり1つのプレイデータから派生してディスク(世界)にセーブしていけば差分のみを保存するので問題ないが、複数のスロットを1つのディスク(世界)にセーブすると、差分が吸収しきれず世界がパンクというか、エラーが起きかねないという事か。

 とか思っていたのだが。

 

 

 

「加えて言うと、その状態のまま『56021回(ごまんろくせんにじゅういっかい)』とか戻されたりされるのは予想してなかたネ。さらに負荷かけまくるとかこの天才美少女発明家の目をもってしても見抜けなかたヨ」

 

 

 

「グロっ!? えっ、な、な、何そのえげつない巻き戻し回数っ!!?」

「ちょっ! 人の頑張りをグロいとか言うなこのちゅーにはああああっ!」

 

 いやホント、申し訳ないのだがその桁数にちょっと引いた。二百回とかそんな次元じゃねぇだろどう考えてもお師匠様情報なんだろうけどさぁ! そういうのポロッと言っちゃうの良くないと思うんだよなぁ、擦り切れかかってるから下手に慰めることすら出来ないじゃねーか馬鹿じゃねーの!?(錯乱)

 ぽかぽかと殴り続けるキリヱを見て「とはいえ安心するネ!」と超は言う。

 

「流石にデータは二つ三つ減らして欲しい所だけど、ちゃんと対策は用意してあるヨ。伊達に天才美少女発明家とか呼ばれてないネ」

「へ? そ、そうなの! すごいじゃない超さん!」

「って美少女は自分で言うのか……」

「アハハー、ホラ、可愛い可愛いネ?」

 

 ペ○ちゃんみたいな顔して舌を出し悩殺ポーズっぽいのをとってるのはともかくとして。一度咳ばらいをすると、そのまま彼女は座る私たちの間に入り肩を組んで。

 

 

 

  

「解決策は一つ――――いっちょキリヱサンと、ネオってパクっとくヨ!」

「「…………」」

 

 

 

 あっそうかぁ(悟り)、お前もさてはガバの申し子だなっ!?(憤怒)『ハァ…………』

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 パクティオーの意味が分からず、漫符で言うと目を真ん丸にしている(通常パクティオーのスカカードとかああいうデフォルメみたいなイメージ)キリヱは置いておいて、渋る私に超は「まーまーまー」と手を引いてきた。ちょっと待ってるネとキリヱに断りを入れてから外に出る。

 

 ……そもそも「外部に干渉できない」はずのあの空間で普通にそういうことをやらかす時点で、この超も伊達に未だ顔も声も体格も知らぬ師匠(知ってる)の下に居る訳ではないという事か。

 

 と思ったのだが、外に出てまた私は驚愕することになった。

 

「…………なぁに、これ」

「アハハー、『拠点』ネ」

 

 ……このギリシア建築とも近未来SF建築とも何ともつかない構造というか、石造りなんだか木造なんだか一言で言い表し辛い構成をした壁という壁、閉めた扉を見ればキリヱの家のマンションのそれですらなく、そしてこの「城」の雰囲気と超の発言を鑑みるにマジで『“狭間”の城』じゃねーか! 登場まだ早ぇよだからお前さんら、大体コミックスにして3巻分くらい後だろ後! 大体師匠とすら顔合わせしてねぇし!

 

『そうかい、そんなに顔合わせとっととしたいかい?』

 

 止めてください虐めないでください死んでしまいます……!(メンタル)

 相変わらず姿は見えないが、声だけは聞こえてくるこの状況に嫌な説得力が生まれた、というか納得してしまった。確かに師匠なら、本人がいなくても自分の拠点内の会話に声だけで交ざってくるくらいやらかしかねない……。

 

「って、これは一体……」

「んー、簡単にまとめるヨ。キリヱサンのあの『タイトルの部屋』は、本来キリヱサンがいた過去の部屋を『投影している』だけで、本来はここみたいな時間と空間――――『次元の狭間』にある場所となってるネ。

 で、あまりに危なっかしかったものだから、私の雇い主が自分の部屋に直通通路を作って色々アドバイスとかすることにしたって流れヨ」

 

 なるほど大体わかった(わかってない)。とりあえず、今のキリヱの能力がとんでもない領域に足を踏み入れつつあるのだけは嫌でも理解させられた気がする。

 いや、それは置いておいて。少なくともこうして「外」に連れ出された以上、何かしら内緒話なりがあると考えるのは自然なことだろう。とはいえとりあえず色々と疑問を横に置いて、まず私から確認した。

 

「で、何でパクティオーしろと? というかそもそもお前さん――――」

「あー、別に問題ないネ『刀太さん』。貴方の事情は『貴方以上に』聞いているネ」

「…………えっと」

「つまり、ダーナ殿の名前とかジャンジャン出しても問題ないネ! とりあえずガバとかは気にせずしゃべっちゃって良いヨ」

「事情っていや…………」

 

 単に「私」個人が転生だか憑依だかしたという話を聞いているにしては、超のリアクションがまた微妙だしこれは一体どうしたものか…………。色々と深読みしようと思えばできてしまうこの状況に「まあいきなりは難しいネ」と眼鏡を外して腕を組む超。

 

「なんでパクティオーではなくネオパクティオーなのかと言えば…………。そもそもパクティオーの主義であるところの」

「いや、そもそも何で仮契約しろってハナシになってんだよマジで……」

「そりゃ、このタイミングとあれだけ『拗らせた』情緒で仮契約したら、きっとトンでもない壊れアーティファクトが出るネ、パクティオーガチャ的には」

 

 なんとなくではあるが、脳裏に大河内アキラとネギぼーずとの仮契約シーンが思い浮かび、納得してしまった。……千雨(ちうさま)もそうだったが、日ごろの行いとその時のシチュエーション、お互いそれに対する想いなり何なりが釣り合ってる時は、確かに最適なアーティファクトを引き当てることが出来てはいるが、そのあたりは漫画補正というか、主人公補正の類なのでは? と思わなくもないのだが。

 

「そもそもパクティオーにより出て来るアーティファクトは、使い手の強さに反比例する仕様だったはずネ。それは当然、弱い従者にゲタ履かせて一人前になりやすいようにする目的もあるはずダケド、ネオパクに関してはちょっとだけ扱いが変わるネ」

「というと?」

「そもそも毎回のアデアット時に毎回ガチャを引く仕様ヨ? なんであんなヘンな仕様になてるかと言えば、『三枚分のカード』における良いアーティファクトの引き当て確率をあえて不均衡(ヽヽヽ)にすることで、必ず1つのカードはその人が持てる最上級のアーティファクトを引き当てられるように調整するって意味合いがあるらしいヨ」

 

 例えばザジさんの四次元シルクハットとか、と。いやそんなこと言われても私的に主要キャラを除けばアーティファクトの記憶は大河内アキラの「魔法人魚変身セット」くらいしかないのだが(爆)。

 

「だから本来なら『時の砂(デザート・ホーラリア)』か我が(ヽヽ)時間操作懐中時計(カシオペア)』あたりに落ち着きそうなところを、もっとよりピンポイントで扱いやすいものを引き当てる可能性が高い! …………とか聞いたネ」

「カシオペアはともかく、デザート・ホーラリアとか言われてもソッチはそっちで微妙に判らねぇんだが……」

 

 とはいえ師匠の仕込みなら……もっと言うと「この時空を消滅させないための」師匠の仕込みだというのなら。おそらくそう悪いことにはならないはずだという納得自体はあったものの。

 

「それはそれとしてガバに間違いはねぇんだよなー……」

「ムム?」

 

 きょとんとしている超には悪いが、現在大体4、5巻前後の時系列と考えると、どう考えても15巻以上は展開的に先のガバに違いはないんだよなぁ…………。(震え声)

 

 

 

 

 



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ST71.死を祓え!:心は何処に置いてきた?(番外編)

毎度ご好評あざますナ! また深夜になってしまって「本当に申し訳ないネ・・・」

今回は以前アンケートで予告してた番外編の一つになります。真面目にやりすぎるとちょっと(私が)鬱ったので、結果色々記憶をば擦り切れさせました・・・
・キリヱ:「死を祓え」一周目の話


ST71.Memento Mori:Lost Memory

 

 

 

 

 

 刀太と超さんって、やっぱり知り合いなんじゃないかしら。

 なんか知らないけど扉を開けて出て行ったあと(私、出れないんだけど!)、普通に仲良く会話して帰ってくるし。しかも超さんの距離感というか、あんまり私に対してよりも一線を引いてない感じがする。

 

「大体こう言うとアレなんだけど、お前さん過去に戻れるんだろ? だったらいっそのこと、全部の過去に『――――』を送っちまえば、パーフェクトハッピーエンドなんじゃね? そもそも『居ないから』この時間軸で問題が起きる訳で」

「イヤー、そこは私の技術力、追い付いてないネ。今の所は『――――』サンを過去へ送ってしまうと、その時点でカシオペアの仕様的に『世界線が分岐する』ことになるネ。連続時間軸から外れて、縦軸が横軸になると言ったら良いカ。つまり、どちらにせよ上書きみたいなことは出来ない……、キリヱサンがいかに私たちが見た時に、目ん玉が飛び出るようなことしてるかって話ヨ。

 おっぱい揉むネ?」

「唐突にその話ぶり返したように出すの止めろっ」

「アイタッ!」

 

 またおっぱいの話してるあの二人は…………! うがーって襲い掛かってやろうかしら。フィジカル全然強くないけど。

 それはそうと「それにあの人居ると刀太サン生まれなくなる確率ぐっと上がるし、私も同様ネ」とか、なんかよくわからないSF考証みたいな話をしてるし。刀太は半眼で笑い方が引きつってるんだけど、超さんは少し私と話してるときよりもなんか楽しそうだし。…………なんかムカツク。

 

 そもそも超さんだって、私と初対面のときこの部屋の扉をバーン! って開けて「タイムパトロールだヨ! 大人しく過失時空破壊未遂で御縄につくネ!」とか言って変な銃っぽいのとか構えてたりとか。口調はともかくだけど、あんまり穏やかな接触ではなかったし。

 まあそれはそうとパクティオー、ネ! って、超さんと刀太は私に向き直った。

 

「な、何そのパクティオーって。……いや、なんか九郎丸が持ってたカードっぽいのがパクティオーしたから出たとか、そんな話は夏凜ちゃんから聞いたけど、えっと…………?」

「イヤー、仮契約(パクティオー)について説明するのちょっと面倒くさいネ。超極端に端折って説明するヨ。

 片方を魔法使い、片方を従者に見立てて、従者を強化する目的で行われる古代儀式魔法の一種ネ。原則、魔法使いと従者双方の魔力、関係、お互いの想念やら状況やらが勘案されて行われる「ガチャ」ヨ。今回するのは仮契約、お試しだから何人とでも出来る奴ネ。

 源流をたどると魔族が跳梁跋扈する魔界から流れて来たものを、神代(エンシェント)魔導師(レジェンズ)たちが簡略化し、キリヱサンたちの時代には一部機械化されて管理されてるヨ」

「機械化ってどういうことヨ……」

「あー……、要するにパクティオー、仮契約すると専用魔法具というか、そーゆーのが召喚されるんだよ。九郎丸もたまーにめっちゃでっかい刀とか小太刀っぽいのとか取り出したりしてんだろ?」

 

 そういえば、とあのちび九郎とかが持ってた小さい刀を思い出す。パクティオー、仮契約。それをすると、あーゆーのを使えるようになるってことね。

 

「原則、従者が強力だったり固有能力が特殊すぎたりする場合は出るアーティファクトもあまり良くないものが多いネ。だから今回は、もっとガチャ要素を強める代わりに良いアーティファクトが出やすいネオパクティオーでいく予定ネ。

 おそらく刀太サン相手にこの段階で使えば、キリヱさん、ほぼ間違いなく状況を打開できるアーティファクトが呼べるヨ!」

「特殊……、ま、まぁ『時空破壊未遂』とか言われたくらいだから自覚はあるけど……」

「えぇ…………」

「ちょ、ちょっと! 引かないでよ! 私だって知らなかったし好き好んでやった訳じゃないんだから!」

 

 まったくこのちゅーには……! 困惑っていうか普通に引いてる顔を乙女に向けて来るんじゃないわよッ! そんな私たちを見てニコニコ笑いながら、超さんはどこからか小型の巻物風アイテムを取り出す。

 

「ま、まぁそれはともかく。俺としちゃ、あんまり気がすすまねぇんだけどなぁ……」

「? 何で?」

 

 

 

「――――そりゃ、最速な方法が魔法陣内部でキッスだからネ。軽ぅくブチュッとちゅっちゅするヨ!」

 

 

 

 …………。

 

「え、えええええええええええええええええええええっ!!!?!?!?!?!!」

 

 アハハーと楽しそうにウィンクしながら揶揄う様な超さんに「冗談よね」とか思ったけど、苦い顔してる刀太見てると、とても嘘には思えないじゃない……。そういえば九郎丸に話聞いたとき、なんか変に照れてたわね。そーゆーこと? そーゆーことなのっ!? 

 

「く、九郎丸とはもうキスしてるってことよね!? ってことはひょっとして夏凜ちゃんも!!? 前してたアレも全然躊躇いなかったし!」

「いや『まだ必要ないので』とか言ってやってないっていうか……、いや、九郎丸のアレだって九郎丸自身なんか自分の能力を使いこなしてないから的な理由だったし…………」

 

 ……………………。

 あ~~~~~~、もうっ!

 

「…………や、やるわよ」

「へ?」「オヤヤ?」

「き、キスの一つや二つくらい、やってやるわよ! やりゃあ良いんでしょーがああああああああああ!」

 

 思わず頭をかきむしりながら帽子を地面に叩きつけて地団太を踏んだ。

 イヤイヤぁキス別に1回で問題ないヨとか手で口元隠してフフフみたいな笑いしてる超さんはともかく、落ち着けって言ってる刀太だけど…………。

 少し深呼吸して向き直り、刀太の目を見据える。

 

「……真面目な話、それしか手がないんでしょ。なら、いいわよ」

「い、意外に落ち着いてんのな……?」

「私のワガママとか動機とか乙女心ちょっと抑えるだけで世界が救われるっていうなら、そりゃ儲けモノよ。そーゆーセンチメンタルなのは、終わったあとにするわ。

 それに――――」

 

 別に「初めてじゃないし」と。

 刀太に聞こえない程度に呟いた私に、超さんが「ムムフフフ?」って含み笑いを向けてきた。

 

 

 

   ※   ※  ※

 

 

 

 私とアイツが初めて話したのは、ホルダーの拠点の島が壊滅した時が最初。

 今でも覚えてるのは、アイツが私を洗脳から解放した時…………、今でもどんな手段をつかったか全然わからないんだけど、アイツは私の魂魄から汚染しているウィルスを剥がしとり、私をホルダーの陣営に迎えさせた。

 その陣営っていうのも完全に壊滅してて、世界最強の魔法使いが指揮する「白き翼」って組織のもっていた飛行艇に居座る形になってたんだけど。

 

『う、腕にくっつくのを止めてもらいたいのですが……』

『ええやん別にぃ、リアクション可愛えぇわぁ。うち、そんなにそっくりなん?

 しかし、アハ♪ ホンマにネギくんにそっくりやねぇこの子』

『そりゃ、当然やん。ウチの子やし。ほな、ええこええこや~』

『い、いやDNA的にはむしろ「お母さん」の方が姪っ子のさらに遠縁みたいになってんじゃねーッスかね……。いやそれを言い出すとカアちゃんとかもっとヤヤコシイ立ち位置になんのか?』

『でもぉ戸籍的にもお兄さまはお兄さまやし、うちらも妹代わりあらへんもん!』『お、お嬢様っ』

『えぇい、ややこしい!

 おいフェイト、貴様よくもこんな、刀太を複雑な家族構成にしてくれたな!

 大体なんだ貴様のこの「フェイト・(アーウェンルンクス)・近衛」とかいう戯けた名前はっ! 本当に陥落されてるじゃないか、栞とかはもう良いのかっ!』

『…………お陰で頭が上がらないよ』 

 

 いや、だいぶ訳分かんなかったけどカオスなことに変わりはなかったわね。当時の面々とかもう全然顔も思い出せないんだけど、言葉の応酬だけはなんとなく覚えてるから、そこから誰が誰だか判断してるって感じになっちゃってるし。

 ……って今更気づいたけど、この二人ってアレよね、刀太の妹の二人の子。こーゆーのみたいに、思い出してふっと気づくってことがいっぱいあったりして。

 

 やっぱり記憶は、それだけ繰り返せば繰り返しただけ摩耗するっていうのが、すごくつらかった。

 できれば全部覚えていたいのに――――それすら私には許されない。

 

『俺は不死身だから世界中の人を守れなんてデケーこと言われたりしたことあるけど、両手で抱えられるだけの人を守るのだけで手一杯、なんて言えるほど、贅沢なこと言える立場じゃもうねぇんだよな。…………痛いのは嫌なんだが』

 

 でもアイツはこう、すごく力のない笑みを浮かべて私に話しかけてきたのはよく覚えてる。人見知りを発動して、状況が状況で憔悴した私を慰めるみたいに、いっぱい、いっぱい話しかけてくれた。

 

『まー、災難だったな……、あとすまぬ』

『…………アンタが謝るようなことじゃないでしょ』

『それでもまぁ、すまぬ』

 

 まるですべては自分のせいだー、みたいな。そんな諦めと後悔が入り混じったような、そんな顔をして私に言うのだ。あの男は。……そんな誇大妄想かかえた中学生が「世界の全ての不幸は自分のせいだ」みたいなことを言ってるような、そんな雰囲気出してるんじゃないわよと。

 そういう意図もあって、私はアイツを「中二(ちゅーに)」と呼ぶことにした。

 

『困ったことが有ったら言えよ? 力は全力で貸すから。だから、あんまり無茶すんなよ――――絶対、お前は死なせねぇから』

 

 そういうアイツが一番無理してたっていうオチなのは、なんとなく、アイツがちゅーにだったせいでもう判り切っていたことだった。セーブポイントにもう戻れない私を前に、無理に笑う刀太。生き急いでいたわけでもないんだけど、でも自分を大事にしていなかった。投げやりっていう訳でもないのだけど、それでも自棄を起こしていたみたいな。

 ……そういう意味じゃ定期的に、夏凜ちゃんがフォローでいちゃいちゃしたりするのは、あれで意外とちゅーにのことよく見てるってことなのかもしんないわね。慌てるけどなんだかんだで上手に立ち直らせてるみたいだし。

  

 その後、ずっと私を守ってくれるって、死なせないって言った通り。ぜったい私を前線に出さないように無理して、ボロボロになっていって。眼帯だけじゃない、本当なら不死身のはずなのに全身に段々傷が溜まっていって。新技だって披露されたものが、どんどん「おどろおどろしい」感じになっていったりして。

 どう見ても、無理してるのが分かってたけど。雪姫たちも、どうしても止めるに止められなくって。

 

 そのうち雪姫たちですら、私の記憶から居なくなっているから……、たぶん「そういうこと」なんだと思う。

 刀太の心がどうなってるかなんて、もう、わかりきってたはずなのに。

 

 だからきっと、嗚呼、そんなこと気にかけるような相手は誰も居なかったから。

 気付いてあげられたのが、たぶん、もうあの時は私しかいなかったから。

 

 気付いていたのに、恐怖で、手を差し伸べることすら出来なかったから――――。

 

 

 

『――――よ、ォ。無事か?』

 

 

 

 だからアイツは、当たり前のように私なんかを庇って、死んじゃったんだ。

 人類が滅びかけるくらいに減っちゃったこの状況で、それでもなお敵の首魁だけでもどうにかしないとって言って。全身に髑髏みたいなのを張り付けたアイツは、それこそ無数のゾンビだとか魔族だとかを斬り捨てていって――――泣きながら、痛いとか、悲しいとか言って斬り捨てていって。

 それなのに、拠点で引きこもって一空と一緒に遠方に指示とか出してた私が、飛行機ごと壊され殺されそうになった時に、庇って、引き上げて。

 

 廃墟みたいになってるビルの上の階で、鈍い色の太陽の光にあてられて。土色の肌して、刀太は引きつった笑いを浮かべてた。

 

『アハハ、悪ぃ黒棒。やっぱ無理だわ。「扉」閉じられてるから「同質の力」を引き出せても、出力的にはこっちの方が弱ぇ』

 

 その場に突き立てた刀に向かってそんなこと言って。刀太は私の顔を見て、やっぱり力なく笑った。

 

『わが心、この刃と共に……て言っても「カアちゃん」みてぇにはいかねぇな。キリヱ、別に使える訳でもねぇし』

『な、何言ってんのよ、そんなちゅーにみたいなこと言って……、まるで、別れ際みたいなこと――――』

 

 次の瞬間、刀太は私の唇を塞いだ。

 血にまみれた口から、刀太の血が私の中に流れて来て……、熱くて、でも冷たくて。病気になるとか、そういうリスクとか全然考えてないくらい、いきなりで。不死者だから関係ないんだけど、そんな順番とか何もかも考えずに、衝動的に、私はキスされた。

 

『ここまで付き合ってくれて、ありがとうな、キリヱ。…………、心は、此処(お前)に置いていけるから』

 

 後は頼むぜって。

 私の胸の真ん中を小突いて、少しだけ笑って。

 

 そう言って、アイツは死んだ。髑髏みたいな張り付いてたのがべりべりと音を立てて落ちて、一緒に身体も土くれみたいにヒビが入って、崩れて、そのまま塵になるように消えてしまった。

 

 黒い和服とマフラーだけが残されて、私は…………。

 

「…………絶対、絶対に死なせてなんかやらないんだから『今度こそ』っ」

 

 死ぬのに、もう躊躇いは無かった。

 私の能力を知られる相手なんてもう居ない。そんなこと言ってる場合ですらなく、ゾンビになっていた時の恐怖感――――違う種類の死ではない死の恐怖みたいな、それに怯える私が消えた訳じゃなかったけど。

 でも、それでも――――アイツは、心を「私に置いていった」んだ、アイツは。

 

 だったら、私しかもう居ない――――アイツだけじゃない、この滅びっていう結果を全部受け持てる、背負っていけるのは、もう私しかいないんだ。

 

 だったら「たかが死ぬ」くらいが何だというんだ。それで――――刀太が死なないって結果を作れるんだったら、それでもう、良いじゃないか。

 

 

 

『…………っ』

 

 

 

 だから、たとえ四歳に戻っても、もう私は折れる訳にはいかなかったのだから。

 たとえこの私の想いすら、いずれ摩耗して消えても――――それだけは絶対、絶対にどうにかしなきゃいけないんだ。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 血の味はしなかった。……当たり前って言えば当たり前なんだけど、アイツ別に傷ついてなかったし。

 刀太と唇が離れる。キスしている間は不思議とぽわぽわして、気持ち良かったけど。それにどうしてか罪悪感みたいなのが湧いて、少し胸が痛かった。

 

「おお~、中々ネ。見ると良いヨ、キリヱサンも」

「へ?」

 

 空中に浮かぶ3枚のカード。一番右端、宇宙みたいな背景のカードは、なんかこう、凄かった。なんだかスチームパンクみたいなパイプとかケーブルとかが走ってる衣装を着てる私の絵。なんかこう、意外と強そうな恰好してるじゃない。……帽子っぽいのにネコミミついてるけど。そして手には、ハイテクなんだかローテクなんだか大きな映写機っぽい何か。

 

時の額縁(カメラ・アド・クロノス)…………、ほぅ、そう来たネ。コイツは一本とられたヨ」

「何が一本とられたって話なんだよ」

「イヤ、キリヱサン相手にこのアーティファクト、今ちょっと『聞いた』感じからしてだいぶ鬼に金棒っぽい気がするヨ」

「…………何でもいいけど、良いやつになったのよね」

「大丈夫ネ。使い方も教えるヨ」

 

 ウンウン、と頷く超さんは、手書きのメモを渡してきた。この呪文を唱えれば、カードを使うことが出来るってことね……。

 三枚のカードが空中で束ねられて、光る何かよくわかんないものになって。そこに手を突っ込んで、呪文を言って「ドローするヨ!」って言われた。つまり引き抜けば良いのよね……。

 

「全部カタカナねこれ……。

 えっと、オステンド・ミア・エッセンシア――――」

「ん? あ、いやちょっと待てキリヱっ」

「――――アデアット!」

 

 すっと、ちょっと楽しみにして引き抜いたカードは。

 

 

 

 ・9

 ・すかかーど

 ・「きゅぅ…」

 ・とくいわざ:つんでれ、おさつのぼうりょく

 ・すきなの:でいとれーど

 ・きりえ さくらめ

 ・ほにゅうこううさぎもくうさぎか

 

 

 

 何よこのへちょむくれ。……なんか白いウサギみたいな着ぐるみを着たデフォルメされた私が描かれてたけど、ぽむん、みたいな音が鳴って、私の全身は煙に包まれて。

 

「な、なにがおこったのよー! せつめいしなさいよ、ちゅーに!」

「やっぱりこうなったか……」

「アハハー、状況が悪かったかネー」

 

 …………明らかに身長が低くなって、心なしか口もしたったらずな感じになってる私に、刀太と超さんは苦笑いして、微笑ましいものでも見るような目を向けてきた。

 

 

 

 

 




番外編なので以下ちょこちょこメモ…
 
・超出るなら最初から「黄昏の姫御子」を未来から過去に送っておけば全部解決したのでは?
 おそらくパラレルワールドが必ず発生してしまうから結局意味ないという解釈・・・ゆえにキリヱ大明神がヤベェってなる。奉れ、奉れ・・・
 
・仮契約について
 原作後半での描写から、多少魔界に関係してるんでは的な解釈
 
・野乃香とフェイト
 そのうち本編にて。ただ雪姫はお茶噴いた。

・チャン刀の謝罪
 ガバ大量生産してスマヌ…、スマヌ…

・髑髏意匠
 ちょっとした先行登場的。これをキリヱからチャン刀に話すと星月ちゃんが「ほほぅ?」ってなるやつ
 
・アーティファクト
 ノーマルパクティオーのアーティファクトとは違うやつイメージ。詳細は次回だけど、本来アーティファクトもそのうち何かネタにするかも・・・?
 
・スカ(アンゴラ白ウサギ)
 お 約 束


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ST72.死を祓え!:名作の読みすぎ

評価、お気に入り、ここ好き、誤字報告他毎度ご好評ありがとうございます。
また深夜更新でスマヌ・・・スマヌ・・・


ST72.Memento Mori:Learning New From The Past Century

 

 

 

 

 

 結局、キリヱと仮契約はした。個人的には拒否一択と言うか本当にそれしか手がないなら、というレベルで頼りたくなかったのだが(イベント先取り的なガバだしそもそも色々経緯を踏まえて申し訳なさすぎる)、それでもなお背中を押したのはキリヱ本人の覚悟だ。

 いい加減、総数的には実際には五万回近く時間の巻き戻し……、おそらくそれはレベル2に覚醒してからのものなので「はじめから」やり直しているだけではなく「とちゅうから」のものも含まれているのだろうが、いやそれにしたって5桁はいくらなんでも頭が痛くなる。しかし、それでもなお事態を解決できていないと言うのがまるで「近衛刀太が関わらないと」イベントが進まないとでも「世界が決定している」ような感覚に陥り、気が滅入る。というか本当、キリヱ相手には申し訳なさ過ぎて、表面上の振る舞いはともかく内心は平身低頭しかなかった。

 

「もちゃもちゃもちゃもちゃ……、んくっ、ん! で、戻ってきたけれどどうするの? 刀太」

「どうするって言ってもなぁ……」

 

 早朝の自室、冷蔵庫の中に入っていたサンドウィッチを食べるキリヱ相手に、私は思わず肩をすくめた。

 例の「タイトル画面」から「使い方は『オマケ』ヨ! ではサラバ!」と言い取扱説明書のようなものを手渡した超。ニコニコ手を振り普通に退室していった彼女に続き、私たちも「とりあえず直近のセーブポイントに行くわよ」というキリヱ本人のコメントに従う流れ。一応7つ目のセーブポイント、つまり「ゾンビテロ発生直後」のそれはまだ消さずに残しておき、原因が特定できたら調整するという方向でいくらしい。

 

「戻ろうと思えばすぐ戻れるって言うか、新しくセーブポイント作る時に調整できるしね。で、えっと…………? んー、カメラの図のところとかマニュアルに『超包子』ってすごい自己主張でロゴ描いてあるんだけどコレ。……何で? 中華料理屋さんじゃないの、それ」

(チャオ)、アイツの自作じゃねーか………………」

 

 まあ、確かにこの世界観においては「時空」に関係するアイテムを作れるのは誰かと言えば、超かそれこそ師匠くらいなものであるのだが。

 そんなことよりも、である。

 

「…………自作って、へ? 何でそんなこと、アンタが知ってるのよ」

 

 おっと、とんだ藪蛇であった。というか単に発言自体がガバだった。迂闊っ、この類のガバはBLE○CH(オサレ)ならば関係する用語をすべてOSR(オサレ)読みに統一して口走ることでギリギリ情報回避できていたのだろうが、直接「ネギま!」とか関係の話が湧いてきて(というか張本人と遭遇して)こちらも警戒心が緩くなってしまっていたか。

 といっても、これについては説明できない訳ではないのだが。

 

「何よ、何か言いなさいよ、やっぱりアンタら知り合いな訳? あの手のひらサイズおっぱい揉んだのアンタ!? もにゅったのね、もにゅってギューってしてカリカリしてちゅーちゅーしたのねアンタ!」

「いや話ってか文句が飛躍する先そこでいいのかお前……」

 

 というか内容が中途半端に具体的すぎるのにも色々言いたいのだが。何だ、むっつりさんか? 原作でも耳年増なところはあったが、下手に人生灰色のままリセット繰り返し続けてしまったせいか、むしろもっと「そういう」のは酷いことになってるのかも知れない。(???「でもまぁ『そういうの』自体については……、いや? 正式にこっちに来た時にでも楽しみにしておくと良いよ、トータ」)

 

「じゅーよーな問題でしょ! このちゅーに! でどーなの?」

「どーなのとか言われても困るっていうか、いや当然何もやったことねぇよ、何だその熱量……。

 いや、あの『超』ってのの顔を見るのは二回目くらいだけど、『超』って名前であの顔の奴っての自体は知らない訳じゃねーっていうか」

「は? どうしてよ」

 

 言われて私は携帯端末のホログラフィックディスプレイに「超包子(ちゃおぱおず)」の公式ホームページを出す。「ネギま!」時代においては麻帆良学園周辺だけの展開だった超包子だが、そのおおよそ八十年後である現代においては全国規模のチェーン店だったり食品メーカーとかに足を踏み入れてたりするわけで、当然その規模に見合ったホームページになっている。

 それこそ「私」がこの世界にいると自覚し、雪姫相手に修行をねだる前にすら調べたレベルなのだ。

 

「ほらここ、創業者インタビュー……今のグループ展開する前の話って載ってるだろ? 『友達の名前が由来になっている』って。あと写真、四葉会長の手の所。ちょっと拡大するから…………」

「ん?」

 

 会社沿革における「グループの歩み」ページ中。十年前に作成されたそのページにて、初代創業者が友人のやっている屋台「超包子」と接触し感銘を受けどうのこうの、と書かれているのだが。それをインタビュー形式で語っている「お婆ちゃん会長」の手に持つ若き日の写真の中である。

 

「…………いるわね、超鈴音(チャオ・リンシェン)。っていうか、へ? これ中学時代!? アマノミハシラの制服じゃない全員っ」

 

 いつ頃の写真かは不明だが旧麻帆良学園の制服姿で、葉加瀬、茶々丸、それに(クー)と肩を組んでニコニコ笑顔の超の姿がそこにあった。なお写真自体は屋台の手前で撮影されたものらしく、座席の方には学生服着用なかつてのエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルがネギぼーずを慌てさせていた。見る限り小籠包をあーんしているらしく、ネギぼーずが口を押さえている風からして火傷か。

 まあ例によっていぢめていたのだろう。丸くなる前のカアちゃんは大体そうだ(断定)。

 

「大体これ二千年代の初頭も初頭じゃない。へ? 何でこんな古い写真に……、アレってば子孫? 本人な訳ないわよね」

「いやー、本人じゃねぇの? 詳しくは知らねぇけどインタビューで『今は遥か遠い場所で会えない彼女のために』とか何か言ってるし」

「あと、超包子の超って人名だったのね……。なんかこう、スーパー! みたいな意味かって思ってた」

 

 他にも茶々丸を指さしながら「明らかにこの時代でこんなロボット作れる訳ねーし」と言う。これをもって超の時代にそぐわないレベルのオーバースペックっぷりを説明したかったのだが、キリヱはいまいち不思議そうな顔をしていた。……いや、考えたらコイツも二千年代中盤は確実に過ぎた後の人間だから、初頭の技術力がどうだったかとか、そういう知識はないのだろうが。そもそもインターネットすら黎明期からちょっと脱したくらい、二足歩行のロボットどうこうで騒がれていた時代だ、人格を持つAIなど夢の又夢の話な時代なのだが、とはいえ私がそれを論理的に言いすぎるのも、逆に「説明くさい」と疑念を発生させそうな気がする。

 だが多少なりとも納得はしたのか「おっぱいで色々してないのね……」とほっと一息ついたキリヱ。いやだから何でそこばかり注目するのか……。(???「気安さに女の勘で何か感じたんじゃないかい? まぁ言わせるのは野暮ってもんだろう」)

 

 とりあえず話題転換のために説明書を読んでみるという話になるのだが、読んでいて成程とある程度納得すること自体は出来た。

 

「……なるほど、つまり『時○カメラ』を過去も未来も使えるって感じのやつね」

「『タ○ムカメラ』じゃねーの? 名前。

 いや、どっちかというと『お○れカメラ』を過去未来どっちにもって方が正確じゃねーのか? ドローンとか飛ばす感じじゃねーし」

 

 そんな未来の秘密道具(ドラちゃん)な話は置いておいて。

 キリヱのカードで呼び出せるアーティファクトは2種類。「ネギま!」でいう木乃香タイプに近いらしく、映写機とスーツがそれぞれに該当するらしい。説明書を読めば「元々あった破損しているアーティファクトを私、未来の火星技術でもて修復したネ!(意訳)」とのことである。

 

 そのうちの一つが、私とキリヱの会話に出て来ていたアーティファクト「時の額縁(カメラ・アド・クロノス)」である。なるほど「時の額縁」とはよく言ったものである。この映写機型のアーティファクト(試しに簡易召喚をするとハンディサイズのカメラのように変形していた)、ひとことで言うなら「過去/未来72時間の範囲で、被写体のそれぞれの時間での映像を切り抜き」「写真とする」といったところだ。簡易召喚の場合は12時間になるようだが、それを差し引いても破格である――――少なくとも「レベル2に目覚めたキリヱにとっては」。

 

「確かに、今の私にこれの組み合わせは強力ね……。ゲームみたいに言うと、イベント踏まないでもこの先のチャートをチェックできちゃうんだから」

「逆もまたしかり、じゃね?」

「そうね……」

 

 キリヱの能力で現在において「何が」ボトルネックになっているのかといえば、それは「キリヱ自身が情報を把握しなければ」過去に戻っても色々と変えようがないということである。これは時空関係の能力者なら当然と言えば当然なのだが、なにもノベルゲームのようにどのチャートからどう分岐するか、のようなものを外部から確認できるようなものではないのだ。

 それに対してこのカメラの場合、少なくともカメラ最大容量などの問題はあるが「どの時点において」「対象物が」「過去、未来において」「どういうイベントに遭遇するか」を確実にチェックできる。最大72時間という制約こそあれど、これによって得られる情報のアドバンテージはあまりに大きい。たとえチェックのために大量の写真を準備する必要があるのだとしても、それによりピンポイントでイベント関係を把握できたならば。

 つまり『リトライ&リベンジャーズ(リトライ可能な仇討ち)』を使用する前提で考えるなら、このカメラはアタリである。直接戦闘ではない「ネギま!」で言うならのどゆえ(妻妾同衾)コンビのような類のアーティファクトといえる。あちらほどオートマチックに色々やってくれるものではないが、このあたりは「修復された」アーティファクトであるという点が中々興味深い。

 

「じゃあちょっと、試しに撮ってみるけど良い? アンタ」

「ん? あー、別に問題ねーけど……」

 

 言いながら、カメラのダイヤルを操作して適当に三枚撮影するキリヱ。裏面の液晶画面的なそこを見れば…………。

 

 寮の前で夏凜に背中から抱きしめられる、夜の写真が一枚。

 

 エプロン姿の九郎丸が、うどんを食べている私にニコニコ女の子笑顔を向けてきている、早朝の写真が一枚。

 

 マコトと言ったか、ジャージ姿な彼女が私の両肩を掴んで今にもキスしてしまいそうなレベルで引き寄せて(というかほとんど抱きしめる勢いだった)、顔を真っ赤にしているお昼休みの写真が一枚。

  

「…………ねぇ、何コレ」

「いや……、えっと、そ、そう言われましてもですねぇ? えぇ……」

 

 無言でキリヱから垂れ流される謎の圧力を前に、思わず敬語になってしまった私だった。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「――――ぞ、ゾンビ……? 嘘だろ、オレを騙そうとしてんだろ? じゃなけりゃ何なんだよ一体、『マジで』なのかよそんな――――」

「とにかく気を付けて! ウィルスの詳細は不明だけど、場合によっては空気感染とかもあり得るから。僕は先に行く!」

「僕も行きま――――――」

 

「――――あっ、ちょっと待て九郎丸!」

 

 飛び立とうとした僕を呼び留める刀太君に、思わず僕は瞬動の足を「空中で」踏み外して、勢いよく地面に「ずざざー!」って転んじゃった。……か、カッコワルイけど、その、でも刀太君がいきなり僕を呼び留めるから仕方ない。仕方ないんだけど、こんなお尻が持ち上がった情けない恰好を見せてしまうなんて……。

 

 ひぅっ!?

 

「きゃあっ!? ちょっ! き、キリヱちゃん!?」

「九郎丸、せめてそのお尻突き出すポーズ止めなさいってアンタっ、乙女的にダメでしょそれ!」

 

 い、いや、確かにそれはそうなんだけど(もう性認識については八割くらい女性で固まってる)、そう「ぺしん!」って叩くのはちょっと止めて欲しいって言うか……。女性身体になってから、以前よりそういう痛みの感じ方みたいなのが変わっていて、まだいまいち慣れて居なくって。

 悪い悪いって謝る刀太君に手を借りて起こしてもらう。周囲を見れば、一空先輩の姿はない。どうやら先に現場に向かったらしいんだけど、それはそうとしてキリヱちゃんのその恰好は一体…………。

 

 キリヱちゃんはいつの間にか、なんかこう……、宇宙服っていうか、潜水服って言うか、何とも言えないカッコイイ感じの服を着ていた。首元とか金色のパイプみたいなのがはしってて、蒸気とか今にも漏れ出そうな感じだし。関節とか所々歯車みたいな装飾なのかアーマーなのか、色々ついていたりして。首の後ろにヘルメットを分解したみたいなパーツ類が並んでいて、今にも変形してきそうなイメージだ。

 あと金属とかの色が鈍い感じのところが渋いっていうか、でも質感はてらてらしてて不思議な服だった。

 

「キリヱちゃん、その恰好……?」

「私の『アーマーカード』よ。カメラだけでも良かったんだけど、何あるかわかったもんじゃないから。夏凜ちゃんとか居ないし」

「えっ!? アーマー……、キリヱちゃんもパクティオーしたの!!? 相手は一体――――」

「だ、誰でも良いでしょそんなの!? それよりちょっと九郎丸、協力しなさ――」

「いや凄い大事な話だよ! だって多分――――」

 

 僕が視線を刀太君に向けると、キリヱちゃんは途端に顔を真っ赤にした。

 

 そ、そんな、いつの間にそんな「仲良く」なって…………。

 僕が最初にパクティオーしたのにっ。

 

「いや、その嫉妬してるみたいな顔すんの止めろって」

 

 刀太君に言われて、思わず「へ?」と呆けた声を上げてしまった。いや、べ、別にそんな感情はないというか。僕は確かに刀太君のことが好きだけど、仮契約、パクティオーの効果という意味じゃ別に僕だけが限定してやっちゃいけないって訳じゃないし。それに大体「仮」契約なんだから、それが「本命」という意味じゃないし、それを言ったら僕が一番最初にさせてもらった訳だし……、でも刀太君と夏凜先輩ってすごい仲が良いから、このままあの二人がもっと接近したりしたら色々と拙いような…………。

 って、今はそんなこと考えてる場合じゃない!

 

 刀太君の苦笑いを見てハッと我を取り戻したけど、キリヱちゃんが顔を真っ赤にしながら頭を抱えて「ひょっとしてこの後、夏凜ちゃん相手にもこんなやりとり発生するの私!?」って少し恐れおののいていた。

 

「…………ま、まぁ良いわ。そもそも緊急事態だし、そこはどうこう言われないでしょう。っていうか、言うくらいなら夏凜ちゃんもパクティオーすればいいんだし……っ、そこっ九郎丸! もうちょっと乙女心隠しなさいっ! 今ちょっとシリアスな場面なのーっ!」

「えっ!? あ、うん、ゴメン……」

「ハァ……。じゃあちょっと、そこの佐々木三太、二人で抑えてもらってくれる?」

 

 キリヱちゃんが指さす先には、放心している様子の三太君。状況が呑み込めていない僕に刀太君は「ちょっと時間が惜しいからなぁ」と言った。

 

「少し頼むわ。荒事する訳でもないから。ちょっと逃げられると困るってだけだから、反対側の腕とか抑えててくれ」

「う、うん。わかった。えっと…………」

「…………」

「だいぶ重症だな。……っと、準備できたか? キリヱ」

「うん。じゃあ……、いくわよっ!」

 

 いつの間にかキリヱちゃんの前には映写機……、いや、映写機というか、何だろう。古いカメラっていうか、箱っていうか。その中で絵でも描けそうなくらいのサイズの脚立付きの箱というかテーブルみたいなのが置かれて、そこからケーブルとトリガーが延びていた。

 キリヱちゃんは半笑いのまま表情が固まってしまってる三太君をレンズの中心にとらえると「パシャリ」と何度かトリガーを引く。しばらくすると「もう離して大丈夫よー」と言われた。

 

「えっと、とりあえず30分置き、過去向けで撮影してみたけど……、ん? 何かしらコレ」

 

 三十分置き?

 刀太君と一緒に、三太君をお店の椅子に座らせた後。キリヱちゃんは大型カメラみたいな不思議な装置(背面は液晶というかパソコンみたいにキーボードもついていた!)を操作して、液晶画面に映る写真を変えていた。

 中心には三太君。左上には「2086年9月2日 15:34」みたいに時刻表示がされていた。スクロールするごとに、キリヱちゃんの言っていた通りに時間が巻き戻っていって、これは…………?

 

 やがて一枚の写真を前に、刀太君が「ストップ」と一声かける。

 

「こりゃ…………、なるほど。そりゃ『世界滅ぶ』か」

「へ?」「いや、意味わかんないんだけど、いきなりちゅーにみたいなこと言われても」

 

 刀太君が見ている写真は――――黒い制服の女子生徒が、ホログラフィックディスプレイに映る「仮面をつけた」「長身らしい」ローブ姿の男性相手と話しているのを、三太君が目撃しているような、「2086年9月2日 14:38」の一枚だった。

 

 

 

 

 




※九郎丸視点は「ST68.死を祓え!:やり直し可能な仇討ち」を見直してからの方が分かりやすいかもです


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ST73.死を祓え!:時を超える縁

毎度ご好評あざますです。
ギリギリのギリギリで深夜ならないで行けた感
 
ツイッターでも言いましたが、そろそろまたアンケとるかもです(詳細はその際の活報か何かで)


ST73.Memento Mori:Time Is Irrelevant In Connection

 

 

 

 

 

 お前デュナミスだろ!? デュナミスだよなコイツ!!? デュナミスのくせしやがってテメェこん野郎(にゃろ)ッ!!!(デュナミス三段活用)

 

 思わず内心で悪態をついてしまったが、三太が目撃しただろう光景を思えばさもありなん。キリヱのアーティファクト「時の額縁(カメラ・アド・クロノス)」により撮影された三太の数時間前の写真に写っていたのは、水無瀬小夜子と誰それかが携帯端末で通話している姿。場所はどこかのトイレのようだが照明は「通話している所だけ」異様に真っ暗。そしてホログラフィックで映し出される相手とは、白いローブに顔面の顎を除いた左半分が覆われる仮面をつけた褐色の男性。容姿が普通にイケメンなところ悪いのだが、手足が通常の人間よりも長く、また若干肥大化してるようなシルエットをしている。別にカメラの被写体距離や作画パースが狂っている訳ではなく(メタ)、もともとこういう容姿である。

 この男はデュナミス、と通称される。「ネギま!」時代からの、いわゆる「敵組織の幹部級」の人物だ。「UQホルダー」においては後半ちょっと顔を出した程度で出番は多くなかったが(まだしも魔界四天王(?)の方が多いくらい)、正面から戦う分には普通に強敵である「魔術師」だ。もっとも近接戦時は肉体戦闘用の姿に変貌するのだが前後関係を踏まえると、明言こそされていなかったがその素性はおそらく「魔界」由来のものもあるのだろう。つまりは現代魔法使いたちが跋扈する現代においても、当然のように強敵にカテゴライズされる。また「ネギま!」時代に復讐の執念を燃やしていたタカミチやらゲーデルやらも流石に死去しているだろうこともあって、おそらく当時よりも冷静、冷徹であろう。つまりこの時代にいたら、間違いなく面倒な敵ということだ。

 そのデュナミスが水無瀬小夜子と何やらやりとりしている、という一枚である。原作を踏まえれば、つまり今回のゾンビウィルステロのバックに間違いなく「完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)」――つまりは本当の意味で「敵」の組織――がいることを伺わせる。

 というか確か彼女には「共同研究者」とか「師匠」とか原作だといたって話だし、そう考えると「完全なる世界」もしくは「魔界」関係の相手がそれぞれに該当するのだろうか…………。

 

 だが、とはいえそんな話をご丁寧に二人ともに説明することは出来ないのだが。

 なので表面上、一枚の情報から得られる分の推測だけを話す。

 

「どう見てもコレ、ヤベー感じじゃね? まず写真そのものが」

「どーゆーことよ? 別に何か、トイレだってことを除けば――――」

「違う、キリヱちゃん。これ心霊写真だ」

 

 流石に神鳴流だと言うべきなのだろうか、写真の中に散見される「赤」と「黒」の玉のような水滴のようなホコリのようなそれを指さす。それらは一般的な心霊写真に写る「玉響(オーブ)」と呼ばれるものとは違い、明らかに、女子生徒のいるトイレの個室から湧き出ていた――――というより、写真においてそこが真っ黒になっていること自体が、そのオーブが彼女の周囲に集中していることの証左だった。

 

「怒りのと恨みつらみの色……、っていうか具体的な形をとっていないだけで『大量の怨念』がこの女の子に集まってるよ二人ともっ」

「ちょ、ちょちょちょっちょ! ちょっと! 大丈夫なのそんなの見て私たち!? カメラの故障とかじゃなくってってことよね?」

「そのあたりは多分ぬかり無ぇだろ(製作者が製作者だし)。後、心霊写真ねぇ。マニュアルに何か書いてねーか?」

 

 よほど怖がってるのか慌ててるのか「マニュアル」の「ニュ」あたりの時点で「そうだわ!」と大声をあげて何処からともなく例の「超包子」印の取説を取り出すキリヱであった。なお結論から言うと「時空間連続帯から一瞬をキャプチャーしてるだけだから、怨霊被害とかはないというか、対象の時間が止まってるから『知覚』されない以上問題はないネ」と、実に頼りになるんだかならないんだか不明な記述がされていた。

 

「つ、つまりどういうことよ? とりあえず心配しなくていいのよね? ね?」

「まあ何かあっても問題ないだろ? お前の場合、どうせ『戻ったら』――――」

「問題あるのよっ! レベル2の場合は『現在の状態を引き継いで』リスタートになるから、毒とか欠損とかはそのまんまだったし! 仮に殺されたりしちゃったら、『一番直近のセーブポイント』にレベル1の要領で逆戻りなのよっ」

「いや、まー、タイトル行けねぇだけで別に問題ないんじゃね? やり直し自体は出来るんだろ?」

「そーれーでーも! 痛いのも怖いのも嫌なのよっ! それはそれで別問題!

 べーつーもーんーだーいーっ!」

「わ、わかったからアーティファクト振り回すの止めてくだせぇ……」

 

 思わず三下口調になったが仕方ない、身体能力もちょっと上がってるせいかカメラを脚立ごと手に持ちぶんぶん振り回しながら文句を言ってくる様は、変に風圧がぶんぶん来るのもあっていささか怖い。いくらキリヱに協力することに申し訳なさから色々と主義を投げ捨ててでもという前提はあれど、痛いのは基本的に嫌なのだ。(鋼の意志)

 しかし成程、意外と上手いこと出来ているらしい。つまりは「死なない状態で」リセットが発生する→レベル2、「死んだ際に」リセットが発生する→レベル1、といったような住み分けがなされているのか。……となるとやはり原作同様に石化など「意志を封じ込められる」系統の技に対しては、彼女の固有能力は苦手とみえる。ひょっとすると下手に石化しかかってる際などにレベル2を発動すると、「例の部屋」の中で石化したまま動けなくなってしまうのでは……? いや、そこは流石に師匠の温情を信じたいところだが。どうかそういう時はお願いしますよォ!(陳情)(???「まあそこはもうちょっと上手いこと出来てるもんだよ」)

 

「『戻ったら』……、『レベル2』?」

 

 そして私たちのやりとりに違和感を覚える九郎丸だが、悪いがもう少し説明は待って欲しい。「悪い、後でな」と断りを入れてから、三太を立たせて画面の写真を見せる。

 

「コレ、お前見た光景だと思うんだけど。何か記憶にあるか?」

「は、はは……………? へ? 写真? ……この、小夜子……?

 いや俺はこれ……、何見て……………、そうだ! 小夜子が――――あ、あああああッ!」

 

 叫び、起こしていた私の腕を振り払い。その場で崩れ落ちて頭を押える三太。三太の全身からも「黒い粒子」のようなものが噴き出し、思わず飛び退いた。「ちょっ、何よこれ!?」と叫ぶキリヱを庇う様にして倒れるが、しかし漏れ出た瘴気を九郎丸はわずかに浴びてしまった。わずかに黒が染みついた左腕を庇う様に倒れる九郎丸。

 

「大丈夫か九郎丸っ!」 

「刀太くんも! そっちも気を付けて!

 ……これはっ、くっ、あ、来たれ(アデアット)――――」

『(――――ちょ! 僕、一体これどういう状況ッ!?)』

 

 状況的に察するものがあったのか、あるいは既に身体から違和感を感じたのか。神刀を呼び出して「左腕ごと」切除しようとしたが、わずかに遅かった――――。白目をむきその場で倒れた九郎丸に、キリヱは「嘘でしょ!?」と大声。足元に転がる神刀が、わずかにかたかたと揺れている。

 

「ど、どーすんのよ刀太、アレ『感染しちゃった』じゃない! 情報収集の目的もあったけど『こっちの』九郎丸を連れていくつもりだったんでしょ? 仕方ないから今朝まで戻って、『あっちの』九郎丸も連れて行くってのでもいいけど――――」

「いや……、出来る限りここの九郎丸を連れて行ってやりたいっていうか……。もっと言うと本当は夏凜ちゃんさんとか、一空先輩とかも含めてって話ではあるんだけど」

「そ、そんな欲張りさんとか無理なんですけど!」

 

 流石にそこは弁えている。セーブした時点からすぐ消える一空を呼び止めるだけの余裕がないのと、夏凜に至っては何処にいるかわからないという問題もある。だが出来る限り「同じ時間から」人員を連れて行きたい、というのが本心だ。

 本来のキリヱの能力ならば、それこそ超が言っていた話を前提とするならば。ここで生きている人々の状態は、キリヱが選んだルート以外では「セーブを消されれば」上書きされるのだ。だから歴史が分岐して、滅亡した状態というルートが発生することは運用上そうそう無いといえるかもしれないし、だからこそ別に九郎丸たちだって「ここでやられても」上書きされて元通りになるのだが。

 

 だが、それでも――――ここまで共に戦ってきた九郎丸たちを、出来るだけ見捨てたくはなかった。

 限界がある以上は、それでも「出来る限り」でいいから助けたいと考えるのは、そう無茶なことだろうか。

 

「ちょっと、と、刀太……」

「…………悪い、少し付き合ってくれ」

 

 黒棒で空中に円を描くよう「大血風」を展開し、そこから雨が降り注ぐように血装して死天化壮(デスクラッド)を纏う。倒れた九郎丸はいまだ痙攣しているが、しかしその手が夕凪に伸びているのを見逃してはいない。

 現在の九郎丸は本来の九郎丸の意識で動いていない、つまりドラゴ○ボール(オラわくわくすっぞ!)でもあったような「肉体と精神が同調していない」状態にある。当然洗脳されてる状態では神鳴流も満足には揮えないだろう。だがとはいえど九郎丸に違いはない以上、その不死性や根本の身体性能にそこまで落ちはないと見て良い。

 

 ならば勝負は速攻だ。

 

 死天化壮最大加速で九郎丸に近づき、小さい神刀を回収。そのまま左手に持ったそれで九郎丸の胸部目掛けて――――。

 

『(っ! 危ない刀太君ッ!)』

「はいっ!?」

 

 九郎丸の声が聞こえた気がするが、果たして気のせいだろうか。だが咄嗟に神刀に「血装」をまとわせたその条件反射のような判断は、実際間違っていなかった。

 

「――――っ!」

 

 白目をむいて痙攣していたはずの九郎丸は一瞬でこちらを睨みつけ、夕凪の柄頭で私の左腕を「叩き折った」。死天化壮ごとぶん殴って「千切る」とかどんだけだお前!? 意外とお前ゴリラなのか? ゴリラじゃねーか、ゴリラのくせにコイツ!(ゴリラ三段活用)

 とはいえその血しぶきから展開した血風もどきが九郎丸の右腕にあたり、その腕の服を引きはがし夕凪を取りこぼさせた。

 わずかに一瞬、腕から黒い瘴気が抜けるのが見えるが……、服の上、心臓のあたりから瘴気が湧き再び腕を覆いつくし、見えなくなった。

 

 距離をとり腕の状態を見る。勢いがあまりすぎて肉を裂き骨を砕き、皮と血装で辛うじて繋がってるような状態。…………って情景描写でごまかしが利かねぇ! 痛い痛い痛いからァ! 瞬間的にはアドレナリンか何かが働いてるのか痛覚がマヒしていたようだが、再生が始まった瞬間に痛覚が帰ってくるの止めろ、神刀落としそうになるじゃないかっ!

 

「流石に腐っても九郎丸。予想通りとはいえ容赦ねーなぁ」

『(ご、ごめんね僕が……。って、それはそうとこのタイミングで褒められてもあんまり嬉しくないよっ刀太君っ)』

「…………そりゃ悪かったなっていうか、やっぱこれ声聞こえてるな」

『(へっ?)』

 

 一瞬刀がぶるりと震えた。……どうしてか理由はわからないまでも、今この状況において「神刀と化した九郎丸」の声が私には届いていた。いや本当、一体何があったというか、どうした? 私の問題なのか九郎丸側の問題なのかで色々と今後の対応を考えないといけないのだが、ちょっと今こういう状態になると困ってしまうというか……。

 

『(と、刀太君……! 僕の声、聞こえてるんだね! 僕、僕、君にいっぱい話したいことが――――)』

「あー、悪ぃけど後回しさせてくれ、な? …………こっちから近寄らないと、襲い掛かっては来ねぇのか」

『(あ、うん。そうみたいだね。…………たぶんだけど、僕の体内に直接刀太君の「血風」を注ぐか、「この僕で心臓を一刺し」するかすれば治ると思うんだけど)』

「何でお前さんが『血風』知ってんだよ、違う歴史とか出身だろお前」

『(それは……って、あ、駄目だ。もっと後になってからなら、たぶん大丈夫なんだと思うけど……)』

「まーアレだな、そこは師匠と要相談ってこと、で!」

 

 未だに瘴気を放ち続ける三太に向けて小さい血風を投げるが、九郎丸が庇う様に立ちはだかり全身から瘴気を放ってそれを防いだ。今度は衣服が破けることもなく、相殺されたらしい。それを見てニヤリと笑うと、洗脳九郎丸は両手に「瘴気で」刀を作り構えた。

 単純に戦うだけじゃなく最低限は学習して行動してくるのか…………。おそらく類似のメソッドが一般ゾンビウィルスにも組み込まれているだろうことを思うと、色々と頭が痛くなる話だった。

 

「だ、大丈夫なの刀太。私、なんかこのすごいスーツあるけど、何か力に――――」

「いや慣れないことは止めとけって。お前さんは生命線なんだから。また超にタイムパトロールされんぞ」

「タイムパトロールって動詞じゃないわよね……って、そんなことじゃなくって! そうじゃなかったら早く『あっちに』戻るわよ! 私にとってもアンタが生命線なんだから、無茶して死なれるのなんて『もう沢山』よっ!」

 

 流石にそろそろ潮時だろうか。いまいちあの九郎丸と刀を交えてはいないが、確実に言えるのは「時間がかかる」ということ。その間に街のゾンビ率がさらに上昇してここにまで来られたら、流石にキリヱを守り通すのは厳しくなってくる。おまけに今は九郎丸は三太を守るように立ちふさがっているが、その状況になってまでここで暇をつぶしているとも考えづらい。

 せめて短期決戦――――せめてあちらの反撃だけでも止められれば。

 

 

 

「動きを止めれば良いんだな」

 

 

 

 えっ、と言葉を続ける間もなく。

 いつの間にか私たちの後ろに立っていた彼は。赤茶けた髪にニット帽をかぶり気だるげな表情の釘宮大伍は。眼鏡の位置を直すとおもむろに、「胴着とも狩衣ともつかない姿」で「頭に犬耳の生えた」姿が描かれたパクティオーカードを構えた。

 

「『来たれ(アデアット)』――――余壱の重藤弓(ヨイチノシゲトウキュウ)

 

 その左手には朱色の大弓。漆塗りだろうか、しかし所々剥げたその様は歴史を感じる。それを左手に構えると「自分の影から」弓に見合った大きさを持つ漆黒の矢を番え。

 

「犬上流獣奏術・狗音(くおん)ノ雪(スノウフォール)

 

 上空に向けて放った後、矢はほどけ「無数の狼のような影」へと変貌した。

 変貌したそれらは九郎丸に襲い掛かるが、瘴気の剣で立ち向かう洗脳九郎丸相手にはいまいち成果が振るわない。

 本人はいまいち不満そうだが、ちょっと私が呆然とする時間くらいは捻出できてしまった。

 

 というかその技と言うか、流派名…………。

 

「だ、誰ヨ?」

『(僕も知らないんだけど……)』

「…………えっと、ひょっとしてだけど」

「? 何だい、近衛刀太」

「ご血縁に『犬上小太郎』っていらっしゃいますかねぇ」

「…………俺の祖父だよ。ついでに言うと、幼いころから『修行や!』とか『お前はネギの孫かひ孫かは知らんが、そいつの助けになるんや!』『お前は狗神遣いの星になれ! エヴァンジェリンはんに負けたらイカン!』とか、ずーっと鬱陶しかった祖父だ」

「お、おぅ…………」

 

 学園に来れて毎日毎日修行修行と言われなくなって少しせいせいしてるよ、みたいなことを滾々と感情が死んだ声で言う彼に、言葉を続けられない。

 状況がいまいち呑み込めていないキリヱはともかく。どうして初対面で微妙な恨まれ方をしていたのか、なんとなく察してしまった私であった。そりゃ見た感じ、全然ああいう修行とかだーい好き! な熱血タイプじゃないもんなぁ。そっかぁ…………。(いたましいモノを見る目)

 

 

 

 

 



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ST74.死を祓え!:思い出と重なる

毎度ご好評あざますナ! また深夜ェ・・・
 
感想720件超および話数72話超(ついでにポイントも7020超)のお祝い?ということで(※72は刀太に関して結構重要数字)、また短編アンケートとろうかなって思います。
 
前回続投メンバーもあるので、そちらにも是非ご投票を・・・!


ST74.Memento Mori:Don't Feel DEJAVU

 

 

 

 

 

「………………とりあえずその目を止めてくれないだろうか、近衛刀太。どうやら祖父の人となりについて多少なりとも知っているようだが、別に同情されたところで何も変わらない」

「あー、悪い。えっと、それはそうとして――――」

「とりあえず『時坂九郎丸』の救出が優先、といったところかな? 話は中途半端にだけど、わずかには聞こえていた」

「そりゃドーモ」

 

 話が早くて助かる上に、どうやらこの場では余計なわだかまりは抑えてくれるらしい。こういったところは彼の祖父より祖母に似ているのかもしれないところだが、そもそもご両親についての情報が欠片も見当たらないのでどうこう考えるのはナンセンスだろう。

 釘宮大伍の祖父こと、犬上小太郎。元祖「ネギま!」基準で言ってしまえば、初期のライバル兼頼りになる熱血系親友キャラ的なアレである(ガバガバ紹介)。関西弁でオラオラ系だが年齢的にはネギぼーずとそう変わらない年代であり(※ネギま! 時点で)、当初は敵として相対するが激突、対決をしその人物を認め関係性が良化。以降は修行仲間でありお互い張り合う良い仲間となっていった。

 もっともこのポジションというのも中々微妙なものと言える。しいて言うならインフレに置いて行かれた場合の某野菜王子(家族の為恥を捨て楽しいビンゴを踊るパパ)が一番近いだろうか……。当初に言及されていた「魔法使い」と「従者」との関係――――すなわち後衛と前衛の関係を、ネギぼーずが魔法剣士(拳士)を目指したことにより差が徐々に縮まり、かつての父の友であるチート極まりない気合兵器野郎(ラカン)との戦闘のため必殺技を完成させたあたりでその距離関係が引き離され、さらにはとある後遺症により人間卒業となったことでもはや埋めようもない程の距離が発生していた。

 それくらい彼を引き離してようやく追いつけたのがCPH(フェイト)であり、狗神使いとしての彼は以降もネギぼーずやフェイトと仲良く(?)していたが、それでも決定的な戦闘は参加することが出来ないレベルだった。そのせいかUQホルダー、つまり現在時系列においてその出番はほぼ過去回想に限られ、存命かどうかすら不明なところではある。もっともネギぼーずとの本契約者が「どうであった」を思えば、おそらく常人よりは長命な彼のことだろう、夫婦そろって存命でも不思議ではない。不思議ではないのだが……。

 

 というかこの釘宮大伍、弓使いで祖父から手ほどきを受け眼鏡をかけクールキャラを気取ってるとか。これで手芸やら家事やらが得意だったりしたらお前もう完全に雨○(アンチサーシス)ぅうううううッ! ○LEACH(オサレ)だろ? B○EACH(オサレ)なんだろ!? BL○ACH(オサレ)じゃねーか!!! かなりBLE○CH(オサレ)だよこれ!!!! もうBLEA○H(オサレ)にしちまおうぜ間違いないっ!?!!!(BLEAC○(オサレ)五段活用)

 実際問題、○竜(かまいたち)と違って自分から志願して修行してた訳じゃなかったり、祖父のキャラクターに鬱陶しさを感じた反動でダウナー系になった可能性は高いのだろうが、それはそれとして少しだけテンションが上がったような上がらないようなである。

 

『(刀太君、ちょっと楽しそう……、なんか嫌だなっ)』

「な、何よ、味方ってことでいいの? 一応…………」

 

 一方、状況についていけてないのが我らがキリヱ大明神と未来九郎丸である。

 とりあえず一言確認をしてから、二人(表面上はキリヱ相手にだけ)に彼が裏魔法委員会であること、裏魔法委員会そのものの概略とを説明する。

 

「一応警備としての仕事もしてる。俺、あと従兄妹も妖魔関係の対応にメインで当たっているようなものだけど」

「「妖魔関係?」」

「そうだ。かつてアマノミハシラ周辺を含めて起きた魔素汚染の影響で、いわゆる『旧時代』に比べ妖魔がそこかしこに出やすくなっているらしい。ここに入学してから、数えただけで大体年間四十件くらいは調査と捕縛をしている計算になる」

「多いんだか少ないんだか……? って、あー、むしろ結界的なのって今でもあるんだろうから、それがあるにもかかわらず発生してるって考えると多い方なのか」

 

 ざっくり適当に言ってしまうと、おおよそ1週間に1回は対処している計算になることを考えると、それはそれで忙しいのかもしれない。おまけに少なくともここに通学してる間、その類のものを見た覚えが無いので、人材的には彼を含め担当者たちはそれなりに優秀なのだろう。

 

「事情はわかったわ。けど、九郎丸どうするのよ。アンタ、えっと釘宮って言ったっけ。撃ったあのワンコっぽいの、全部九郎丸に斬られてるじゃない」

狗神(いぬがみ)、だ。ワンコなんて愛らしい呼び名をするのは止め――」

「そーゆー()みっちゃい拘りどーでもいいから。……って、へ?」

「いや意外とナイーブかお前っ」

 

 キリヱから「どーでもいいから」と言われたのを受けて、眼鏡を押えた姿勢のまま「ぴしり」と固まる釘宮大伍。なるほど、修行は嫌々だったが流派そのものは嫌いではないということか、なんとも複雑な心境である。

 悪かったわねとキリヱから一言あった後、咳払いをして気を取り直した。

 

「……本来ならさっきの技は、相手の全身に狗神が覆いかぶさり動きを封じるものなんだけど、妙にキレの良い動きで躱しているね、彼。瞬動術でも覚えているのかい?」

「本当なら普通に瞬動使えるんだけど……、洗脳っていうか、自意識ほとんど無いみたいだしそこの微妙なテクニックみたいなのは制御されてるっぽいかも」

「となると、上限はもっとあるにしても強さ的にはさっき斬り合ってたくらいで頭打ち、というところか。近衛刀太」

 

 鼻で笑う釘宮大伍だが、流石にちょっと本名連呼されるのが面倒になってきたので、呼び捨てで頼むと言う。それに対して肩をすくめ首肯すると「だったら僕も呼び捨てで良いよ」と返ってきた。

 

「一度対立して共闘したらもう仲間、とは祖父の弁だが……、生憎そこまでコミュニケーション力は高くないけどね、近衛」

「別にそのレベルのとか求めやしねぇって。パーソナルスペース本当大事だからな……、ほんと、こう、何でもかんでもいきなり抱き込んでハグしてきたりズキューン! してくるともうどう対処していいかわかんないっていうか俺個人的にも色々と限界が臨界点を迎えてメルトダウン(意味深)しそうだからいい加減そのあたりの距離感はちょっと考えて欲しいって言うか――――」

「……良く知らないけど、何かトラウマでも有りそうだな。あえて追及はしないが」

 

 正解である、百点回答である。(激しく首肯)

 脳裏で次々にフラッシュバックする夏凜の映像やら感触やら匂いやらに脳がいいかげんバグを垂れ流しそうになるが、ふと夏凜にレンチン(物理)された時のことを思い出し、これもひょっとして使えるだろうかと少し思いついた。

 

『(…………相性良いのかな、出会ったばっかりなのに僕の時より砕けてる感じがするっていうか……)』

「いやだってお前の方が最初の方とか遠慮してたじゃねーか」

『(えっ!?)』

「? どうしたんだ」

「何でもねーよ。で、えっと釘宮。とりあえずこの場でキリヱを庇いながら、九郎丸の視界一杯に狗神を撃ってくれね?」

 

 どういうことだと聞き返してくる彼も説明するが、どうしても遠距離戦だと弾かれる恐れがあるので、接近戦に持ち込みたいという話なのである。死天化壮と血風の性質的には本来遠距離でガンガン撃って牽制しつつ高速移動して撹乱するのが正しいのだが、今回の場合は距離による威力の減衰が面倒極まりないので、どうしても接近戦が必須となってしまう(なお普段の場合でも、周辺の施設やら建物やらに被害を与えないレベルで運用することになるので、あくまで理想論的運用となっていた)。

 

「とりあえずどーにか出来るアイデアは思いついたから、まー何とかなんだろ、何とか」

「こーゆー時ってアンタ、そんなこと言うとき大体無茶するから、私、あんまり行って欲しくないんだけど……」

 

 無茶という程の無茶ではないのだが、血風だけを送り込むよりは確実にどうこう出来る類のそれである。もっとも詳細を話さなくとも、釘宮は「わかった」とため息をついて弓を構えた。番える矢は、四つ。

 

「犬上流獣奏術・狗音ノ雪礫(くおんブリザード)

 

 前方目掛けて撃たれたそれらは、先ほどの一本一本と同様に膨大な数の狗神に分裂した。黒い狼の様な巨体のそれが、ねずみ講のように増えていく様は中々にパニック映画のモンスター感があったが、その物量をものともしないのが九郎丸である。すぐさま瞬動のできそこない(猛烈な砂ぼこりと足音が立つ)で彼らの真上に移動し、脳天を貫いていく。

 一方の釘宮も、再び弓に番え放つ――――追加分の狗神が分裂を開始すると同時に動き出し、私は死天化壮の速度を生かして狗神の中に紛れた。フードを被っているせいもあり、全体の色味が黒い狗神の中ではあまり目立たない位置にいることになる。

 

 数体の狗神の首を落としていた九郎丸だったが、追加分を前にわずかに後退――――したかと思いきや構え、瘴気の剣を二つ合わせて一つの長刀とし、それに気を刃に纏わせ薙ぎはらってきた。

 本来の技のそれと違い、剣の軌跡が鞭のようにしなり狗神たちを徐々に徐々にとらえていき――――。

 

「――――ッ!」

「よっと」

 

 その「本来の九郎丸らしくない」レベルでの大振りな動きに合わせ、崩れ落ちる狗神たちに紛れながら、死角となる右側へと回った。咄嗟に私の存在に気付いたらしい九郎丸だが、神鳴流としての「最適化された」動きをしていない今の彼(彼女)だ、普段から九郎丸と練習している私に対応できるわけはない。

 

 とはいえ敵の攻撃の本体が瘴気であることは既に察している。こちらに向けて九郎丸から瘴気が漏れ。しかし、だからこそ――――。

 神刀の九郎丸で瘴気を斬り払い、わずかに隙間を作り。

 

星月(せいげつ)ぅぅぅぅッ!」『(えっ!? だ、誰!!?)』

 

 黒棒に血を纏わせ「切れ味の鈍い」状態から「切れ味の鋭い」状態へと変更させ――――。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 気が付けば、私は例のスクラップ置き場のような場所に立っていた。相変わらず空間は広大だが、流石に段々と慣れてきたのか、唐突なこの展開にあまり違和感を感じなくなりつつあった。

 こちらに背中を向ける星月は、普段通り黒と白のローブ姿。表情は見えないが、どこか楽し気にテレビの映像――現在の戦闘中の私の視界を見ていた。

 

『なるほど? そーゆーことか。前に結城夏凜を相手に神聖魔法を「太陰道」で受けた時みたいに、九郎丸の中に巣くう洗脳魔法の瘴気ごと吸収しちまおうってハラだな』

「……まぁそういうことだ。出来るだろう?」

 

 出来るけどなぁ、と渋る星月だが。彼が言っている通り、私の目論見はそれだ。

 以前スラムにて、妹チャンことカトラスの策に嵌り夏凜から受けた神聖魔法を「解毒」するために吸収した際のそれと同様のことを、今回は九郎丸に対して行えないか、という話だ。

 

『出来なくはねぇけど、あんまりオススメはしねぇって言うか……』

 

 腕を組んでこちらを振り向く星月は、いつにもまして苦笑いを浮かべている。それは、果たしてどういう意味なのだろう。

 

「何かこう、九郎丸に障害が残るってことか? もしそうなら別な手段を考えるが……」

『いんや? 間違ってねぇぜ相棒。少なくとも九郎丸に刺した状態で、この間のニキティス・ラプス相手にやったみたいに「血風」とか「神聖魔法」を流すってよりは、正気の判断だ。特に時坂九郎丸を相手にそれをやるっていうのは、結構命知らずなことだからな』

「命知らず?」

 

 まず大前提としてだけどなー、と星月は苦笑いを浮かべる。

 

『時坂九郎丸の不死身っていうのは、「呪式不死化実験」の結果の産物っていうのと「神刀・姫名杜」を内在している……というよりは同化しているから、っていうのがある。この場合、お前が血風を注ぎ込むと何が起こるかって言えば、前者の不死を一時的に無効化しちまうってハナシだ』

「まぁそれは確かにあるだろうが、後者が残っているから死にはしないだろう。何か問題でもあるのだろうか」

『大ありだこの人間ガバ製造工場めっ。

 今の九郎丸っていうのは、あー、お前の理解(ヽヽヽヽヽ)でいう(ヽヽヽ)「原作」と、神刀の力を使いこなしているレベルってそんな変わってねぇんだよ。それをネオパクティオーによる仮契約の強化補助と潜在能力解放、アーティファクトそのもので無理やり調整して使いこなしてるってハナシだ』

 

 つまり…………、全身に神刀の力だけがいきわたる状態を、普段のままの九郎丸では制御しきれないということか。

 オイ。

 

「それって、暴走確定じゃねーか!? 神刀そのもののパワーに振り回されて万象一切灰燼と為せ(オサレ)って具合じゃねーか!」

『ちなみに神聖魔法だと、お前が感じるのと同等の痛みを味わうことになる』

「それは……、悪いが何でだ? 私のように、明らかに『その系統』とは敵対する属性を帯びている訳でもあるまいに」

『いや時坂九郎丸って一応、烏族の血筋だろ? 妖魔とハーフの亜人じゃねーか。桜咲刹那とかと同じ系統の』

「あっ」

 

 なるほど、神聖魔法の属性的に九郎丸を「精霊」にカテゴライズするのはやや無理があるかもしれない。いくら姿かたちが天使めいているとしても、出自的に受け入れられるそれではないのだ。当然、私同様に体内をレンジでチンされる類ということだろう。

 考えたら身震いしてきた。

 

「…………そうなると結局、元の話に戻ることになるのではないか? オススメはしないと言ったが、お前も他に代案はないだろ」

『見捨てるって言うのがオレ的には一番オススメだが……、そのつもりはないんだろ?』

「そりゃ、当然」

『ヤレヤレ、おせっかいな相棒を持つと苦労するぜ……(だからこそ「()」を受け入れられたということなんだろうが)』

「何か言ったか?」

『いんや? じゃあ、まーアレだ…………、オレのことは罵倒してくれんなよ?』

「はっ?」

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 ――――そのまま黒棒で、九郎丸の心臓に突き刺す。

 

 と、その箇所を起点として九郎丸の背後に「太極図」のようなものが見えた気がした。途端、瘴気そのものが猛烈な勢いで黒棒に……というより「私の血」に吸い込まれていき。

 

 

 

 それと同時に、九郎丸の衣服が下着含めて全て弾け飛んだ。

 

 

 

「…………はい?」

『(うわああああああああっ! あああああああああっ!)』

  

 絶叫する未来九郎丸こと神刀。突然の事態に思考停止を起こした私。最後の瘴気もすべて吸収し終わったのを確認して抜く程度の正気は残っていたようだが。

 ぺたん、と女の子座りするまでの九郎丸の「完全に」「少女化している」「スレンダーな身体」を、放心していたせいもあり正面から直視せざるを得ず。

 

 胸の傷もすぐに治った九郎丸は。我に返ったようにこちらに近寄ろうと立ち上がり。同時に今の自分が何一つ身に着けていない状態であることに気付き。

 

「あ……、へっ? な、な――――」

「えっと……お前って…………」

 

 女? と。流石にこの状況でトボけるのは厳しいだろうと全力で原作主人公ムーブをかまそうとした私であったが。

 

  

 

「――――刀太君のえっちー!」

「へぶっ!」 

 

 

 

 顔を真っ赤にし涙目になりながら片腕で胸元を隠しつつ、ツッコミモーションのような動きを「飛ばして」(おそらく例の神鳴流宴会芸)、私の頬をビンタしてきた。

 

 いやそれ原作忍の台詞だからと突っ込む余裕すらなく、一撃でパーフェクトノックアウトされた。

 ……オススメしないってこういう事かよ! 予想つくかこのお馬鹿(ガバ)ッ!

 

 

 

 




アンケの予定は今の所以下のイメージです。(締日予定:9月上旬)
 雪姫:ネギぼーずとネオパクしてトラウマを刻まれる話
 九郎丸:熊本時代、お風呂が停電した時初好感度ガバの話
 夏凜:カリンと「あの方†」との過去話
 キリヱ:刀太のお嫁さん選手権!の話
 カトラス:幼少期、野乃香に色々教わった話
 


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ST75.死を祓え!:条件追加

毎度ご好評あざますです。
今回もっと話が進むはずだったのに・・・大明神の闇が深い件(汗)
 
アンケート募集してますので、ぜひぜひですナ!


ST75.Memento Mori:Add condition

 

 

 

 

 

「…………じ、時間操作能力!?」

「死に戻りってところね。いや、今は別に死ななくても戻れるんだけど……」

 

 キリヱちゃんから説明を受けて、僕はちょっと呆然とした。

 三太君から噴き出した瘴気――――不死者すら洗脳し操る類の魔法らしいけど、それにより支配下に置かれていた僕を、刀太君が助けてくれて……、い、いや、ちょっとエッチなことになっちゃったけど、それでも助けてくれて。

 瘴気に呑まれた三太君と、見覚えのある眼鏡の――――そんな彼らを放置して、辛うじて神刀を「還した」僕と気絶した刀太君の手を取り、キリヱちゃんは何事か呟いて、気が付くとここに居た。

 マンションでネグレクトを受けてる女の子、小さい頃のキリヱちゃんが居た部屋。こちらからは何も接触できないこの場所で、キリヱちゃんは得意げに胸を張ってた。

 

 ……それはともかく、気絶してる刀太君を足蹴にし続けるのはどうなかなって思うんだけど、僕……。

 

「アンタ、いくらちゅーに相手だからって警戒心なさすぎるわ! アレで割とコイツ、けっこースケベよ! おっぱい星人なの!」

「え、えっとそれは……」

「アンタの成長中おっぱいだってしっかりガン見してたんだから絶対!」

「えええぇッ!?」

 

 思わず上半身を抱くように動いてしまった。我ながらもう完全に女の子だ……。既に服装は全裸ではないといえ(収納アプリから普段着を出した)、フラッシュバックした刀太君の呆然とした……、ちょっと赤くなって困ったような視線が浮かんできて、こう、色々と恥ずかしさが限界だった。

 そんな僕を「とーぜん!」といった風に腕を組んで見てくるキリヱちゃん(なんだかちょっと偉そうな感じ)、しばらく刀太君をぐりぐりやって満足したのか足を離してため息をついた。

 

「話、戻すけど。さっき言った通り、好きなように好きな時間軸まで移動できるような、時間遡行的な能力じゃないの。そこのところは大丈夫ね?」

「う、うん。頑張っても恐竜時代とかには行けないんだよね」

「そーゆーこと。……って、なんで恐竜時代?」

「へ? いや、だって恐竜ってカッコイイし、僕、赤ちゃんステゴサウルスとか絶対可愛いと思うんだけど……」

 

 赤ちゃんザウルスは確かに可愛いかもしれないわね、と何度も首肯してくれるキリヱちゃんだった。……なんだろう、初めて? ちょっとだけ女の子っぽい会話をしたような気がする。

 

「ま、本当はね? あの『三太』ってゆーのから情報集めたら、このちゅーにと私だけで過去に戻るつもりだったんだけど、コイツが『出来るだけ全員で戻りたい』って言ったから。たぶん状況的に、すぐ引き込めるのはアンタだけだって話になったから、とりあえずはアンタだけ、ね?」

「それは…………、って、三太君?」

「そ。このちゅーに曰く、例の能力者だって」

「えっ!?」

 

 曰く、背丈と声と服装が一緒だとかそんな話らしい。僕も実際に見た訳ではないので確証が有るわけではないけど、でも刀太君に限ってそういうミスをするとは思えない。だからこそ、相手の正体の確度というか、そういったものが僕の中でもより確信する側に傾いた。

 その上で、彼から瘴気がほとばしる前にあった一連のやりとりを思い出す…………。アーティファクトの効果を彼女に聞いた上で、情報収集を行ったというところまでは、なんとなく把握できたけれど。

 

「……言ってたよね、三太君。『サヨコ』って」

「そうね。…………それで発狂しちゃったっぽいのが意味不明なんだけど……」

 

 

 

「――――口封じに記憶でも消された、とか考えると妥当なんじゃね?」

 

 

 

 あっ! 僕とキリヱちゃんが見ると、刀太君は頬を撫でながら少し涙目になりつつ上体を起こした。……ご、ごめん!

 

「いや、まーアレは不幸な事故だったつーことで……。とりあえず元気そうで良かったよ。

 で、諸々の『九郎丸についての話』は一旦置いておいて。それよりも三太だけど」

 

 と、刀太君は苦笑いしながらジェスチャーでストップ! と表現していた。……てっきり僕の性別の話とかに飛び火すると思っていたんだけど、不思議とその振る舞いがあんまり変わってるように感じられない……?

 キリヱちゃんも「アンタひょっとして知ってた訳?」と聞いたけど、「頼むからそこ後回しにしてくれ」って苦笑い。

 

「一応整理したいから、さっきの写真見たいんだけど……、出してくれるか? キリヱ」

「まぁまたアーマーカード引くレベルじゃないから、別にいいけど。えっと……『来たれ(アデアット)』」

 

 僕のカードと同じような、背景が宇宙っぽい柄のパクティオーカードを取り出すと、それがほんのり光って、デジタルカメラみたい(それにしてはアナログっぽいっていうかクラシックっぽいって言うか)な装置を取り出した。

 キリヱちゃんはその背面を操作して、数秒間フリーズしたみたいに動かなくなった。

 

「……ん? どした?」

「…………消えてる」

「はい?」「へ?」

「だ、だから、消えてるのよ、さっき撮影した奴……! 嘘だと思うんなら見てみなさいよっ!」

 

 ずびし! って画面をこちらに向けて来るキリヱちゃん。「ライブラリ」とちょっと怪しいフォントで書かれたその画面の中には「0/0」という表示と、携帯端末とか写真アプリの写アルバムみたいな表示に何も描かれていない状態であることしかわからなかった。

 それを見て「いどのえにっき……」と刀太君は苦笑いした。えっと、それって何だろう……?

 

「あーアレか……。たぶん一度解除すると、それまでの情報がリセットされるって感じだな。最大容量に記載はあっても、連続で記録しておくことは出来ないと―――――」

「意味ないじゃない! 全然、写真登録して置ける意味ないじゃない!」

「あー、予測だけどたぶん、その写真自体も例の『時空崩壊の危機だヨ!(意訳)』に直結するんじゃねーの? その映像って現像できないものを一時ストックしておくだけってことは、つまり『差分』は残ったままってことだろうから」

「うっ、それを言われると言い返せないわね……」

 

 事情はちょっとよく分からなかったけど(なんで片言?)、そのまま説明を始める刀太君。前提として、あの写真に写っていた怨霊にまとわりつかれていた少女――――彼女が「トイレのサヨコさん」だと仮定して。

 

「まあ結論から言うんなら、俺らが追ってた能力者は三太で、サヨコさんと面識があるってことだろ。呼び捨てにしてた感じからすると普通に顔見知りと言うか、仲良いんじゃねーかな」

「……そーゆー距離感についてアンタが色々察したようなこと言うと、すごい殴りたくなんだけど」

「なんでさ!?」

「ごめん刀太君、僕もちょっとだけ……」

「お前さんも、なんでさ!?」

 

 いや、だってその……。

 雪姫様、というか雪姫さんはともかくとして、僕に、熊本の時のクラスメイトの朝倉さん、夏凜先輩、忍ちゃんにカトラスちゃんにキリヱちゃん、自警団の元気そうな人も、勇魚ちゃんもちょっと怪しいし(帆乃香ちゃんは大丈夫な気がする)、こっちのクラスメイトの豪徳寺さんもなんだかよく刀太君の方を見てるし……。

 

「もうちょっと、周囲との距離感は考えた方がいいと思うんだ」

「そーそ。後回しにするのには同意したけど、『この』九郎丸との距離感とかもっ」

「あー ……、耳に痛ぇッスわ」

 

 とりあえずそこで一旦区切って。刀太君の話だと、つまり三太君は「トモダチがいない」ということらしい。いないから、周囲との距離の取り方もわからないし、なんならハリネズミみたいに警戒心が強い。だからこそ、そんな彼が簡単に呼び捨てにするというのは、距離感が近すぎるってことだとか。

 ……あと「トモダチがいない」の言葉で一瞬キリヱちゃんが「うっ!」と鳩尾を抑えたのが印象的だった。

 

「でもそうなると、やっぱり不思議というか……。三太君からあの瘴気と言うか、ウィルスが漏れたのはわからないけれどさ。つまり、彼も不死者だから通常のウィルスが効かず、結果僕もそれに感染させられたってことなんだろうけど」

「そーよね。どうしてわざわざ、自由にして解放されたって所とかさ。……知られたくなかった、にしては変よね」

 

 少なくとも洗脳して……、記憶を操作して彼を解放した以上、知られたくなかったというのは事実なんだろうけど。わざわざそうして洗脳するというのなら、最初から自分の配下に置いてしまえば良いんじゃないだろうか。

 そんなことを考えてると、刀太君が爆弾を投げてきた。

 

「…………案外、付き合ってるんじゃねーの? 二人で」

「えっ」「は、はぁ!?」

 

 その一言でドキッとした僕と、目を真ん丸に見開いたキリヱちゃん。

 

「ほら映画とかであんだろ? 恋人が殺人を犯したのを、相手に見られたくないから必死に隠したりとか」

「それ最期、結局捕まっちゃうやつじゃないの? ホラー映画とかだともっとトンデモな展開とかもあるけど」

「そもそも刀太君、幽霊と人間じゃ子供できないよ?」

「いやそもそも、ほとんどの不死者は子供出来ねぇんじゃね? 特殊なことしねーと」

 

 それもそうだった。って、そーゆー話じゃなくて。

 刀太君は、今回の一連のそれについて自分の見解を話した。人為的なテロであること、実行タイミングは突発的に引き起こされたこと、爆心地? は学園内であるから関係者であること、少なくとも主犯(この場合はサヨコさん)は、世界に深く絶望していること。

 色々聞いて、ちょっと僕はびっくりした。ミステリーとかサスペンスの録画ドラマじゃないけど、刀太君が相当理詰めみたいにして考えていたことを。……といっても、刀太君ってそういえば、血装術も気の扱いもけっこう色々考えて(格好良いネーミングも色々考えて)るから、元々結構理屈っぽかったっけ。でも意外と感情的な所もあるから。そーゆー所がいいんだけど。

 

「一応、ここまでを想定して色々調べてたんだけど、前提としてこういう話を考えた上であの写真を思い出すと、どうなる?」

「…………相当、参っちゃいそうね。撮影された写真を、サヨコさんって仮定すると」

 

 三太君と仲が良かった、それこそもしかしたら好きだったかもしれない相手に。自分がとんでもないことを行っているのを目撃されて。口封じのために殺さない封印しないまでも自作のウィルスで記憶を操って。

 確かに、その心境を想像すると胸が痛い。きっとその、サヨコさんにとっては。三太君がもしかしたら希望だったかもしれない。世界を滅ぼしたいくらいの自分と天秤にかけるだけの、それくらい大事で、大好きな相手だったのかもしれない。

 

 だとするなら、見られたこと、仕掛けたこと、これが本人の心に深い闇を落とすかもしれないっていうのは、ちょっとだけ……、ちょっとだけ判るきがする。

 

 ほ、本当にちょっとだけだよ? 思わず視線が刀太君の胸元に行ってしまう自分が、少し恥ずかしかった。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 結論から言えば、本件は「水無瀬小夜子」を「いかに納得させるか」という案件なのだが、その上でもう一つ「自棄を起こさせないか」のようなフラグが存在しているらしい。

 

「まーそうなると。時間がたって自棄になったか、あるいは協力者から色々言われて煽られたかとか、そーゆーのは知らねぇけど、まぁありそうな展開だろ?」

 

 つまりはそういうことである。キリヱの「部屋」で頬を撫でながら苦笑いの私と、腕を組んで立つキリヱ、あとぺたんと「女の子座り」となってる九郎丸の三人での作戦会議だが、正直、会議するまでもない話なのだった。とはいえ一応、表面上の説得力は必要だろうということを考えて色々と理屈っぽいのを作っている最中である。あまりこういうことは得意ではないのだが(主に今までのガバ実績的に)、そう何度も何度も世界を崩壊させるわけにもいくまい。少なくともそれに慣れてしまい、日常と感じるようになってはもはや末期である、扱いは慎重にするべきだ(戒め)。

 

 私の推測……という名のおそらくほぼ事実に対し、キリヱは不満げな様子だ。一方の九郎丸は少し頬を上気させてこちらをそわそわして見て来る。……性別バレ(当然13巻近くすっ飛ばす時系列ガバ)に関しての反応と言うより「流石、刀太君!」みたいな高揚のようで、ちょっと胃が痛かった。そんなに頭良くないので、無条件の信頼は程々にしてもらいたい(戒め)。

 誰だって「実体験」というか、攻略本読書体験をともなっていればこれくらいは予想がつくだろう。なにせ裏事情的な事柄に推測する余地がないのだから。

 

「つまり、何よ。あの三太ってのを、あの時間帯……、午後ちょっとくらいまでずっと監視してれば、とりあえず今回みたいなことにはならないってことよね。それだけ、その分サヨコさんの調査は遅れるけど、それは仕方ないってこと?」

「とりあえず、直近ではそーゆー話になんじゃねーの? って言っても追加して言うなら『あの時点』の三太から更に情報を集めるのは厳しそーだし、こればっかりは当たってみねーと無理だと思うけど」

「…………言われてみると確かに、刀太君たちが問いかけるまでサヨコとか言わなかったね、三太君」

 

 とりあえず九郎丸の納得は得られたらしい……、というより半分くらいそういった事柄に関して原作でも刀太信者的なところがあったから、もとより反対する確率は低かったと見るべきか。だがここにおわしまするキリヱ大明神をこそ納得させるべき我ら、はてさていくつそれっぽい言い回し(オサレトリック)を重ねれば良いことやら。

 しかし聞いてみれば、キリヱの不満か所は納得がいく部分だった。

 

「……結局、今回止めたところで、私たちがサヨコさんを見つけられないと、事態は何一つ進展しないわけじゃない? なのにまた、いきなりバッドエンドが襲来してきたりして、それに対して『バッドエンドにならないように』するためだけに動くっていうのをこの先も繰り返すようなことにならない? 結果的に解決からは遠ざかってることにならない?

 そりゃ、今回は写真とってるし、少なくとも行かせなければいいっていうのには、納得するけれど」

「あー、えっと……、前進はすると思ってるけど、ポジティブに前進してるか、ネガティブに前進してるかっていうのは何とも言えねぇな」

「? それってどういうこと?」

 

 九郎丸の疑問に答える形で説明する。つまりは「収穫があるか」「収穫がないか」ということに違いない。今回のような事態、知らない間に勝手にこちらの想定を超えて世界滅亡のトリガーが引かれるような事態が連続するなら、それに対して我々は常に後手に回らざるを得ないのではないか、という話である。しかもそれにより、核心たる水無瀬小夜子にせまることが出来るか出来ないか、と言う話だ。

 私の視点からすれば、そのものズバリこれこそが核心部であると断言できるのだが、そう話すことが難しい現状、どう言ったものか……。

 

「だからと言って、他の手段をとることが出来るわけでもねーし……」

「そうじゃないの」

 

 ならば何だと問い返せば。キリヱは膝をつき、私の手を取り顔を伏せた。

 

 

 

「…………はっきり言って、辛いわよ? 正直、アンタとか九郎丸も巻き込んだのが正しかったかって、今でも思うし」

 

 

 

 総当たり仕掛けたってそれが正解してるかどうかなんてこの時点じゃわかりっこないって、そんなことを何度も何度も繰り返すかもしれないんだから、と。

 キリヱはそんなことを、私たちに目を向けながら言った。

 

「……そっか、キリヱちゃんはやり直してるんだよね、何度も、何度も」

 

 物言いに察した九郎丸のその言葉に、しかしキリヱは動かない。じっと固まったままのその姿から、その背中に乗ってしまっている「何か」大量の重いものを私は幻視した。

 だが、だからこそ言うべきだろう。それが問題じゃないのだ。

 メタ的な意味でも、実際の意味としても。

 

 ため息をついて手を放し、私はキリヱの頭を撫でた。

  

「………………何よ、子供扱い?」

「まぁ精神的にどーかは知んねーけど、子供って言えば子供だな。

 大人だからこそ、絶対出来ないってことは頼っていいんだよ、もっと。というかむしろ頼れ。俺たちはアレだぞ? 皆、UQホルダー! 爺さんとカアちゃんが一緒につくった、古いダンジョンから出てきた悪の魔法使いみたいなのとか退治したり、火星人の戦争に介入して和平に導いたり、宇宙怪獣とかが地球に襲来する前に止めたりするよーな組織だぜ? ――お前含めてな」

「フフ、それ前にも聞いたね」

 

 くすくす忍び笑いの九郎丸と、心配するなと笑いかける私に。キリヱは何度目かわからないがその目に涙をためた。

 

「……でもアンタ、ちゅーにだし、女心わかんないし、九郎丸の性別だって――――」

「いやそれデリケートな問題だから最後の止めろ」

「え、えっと……、話そうか? 刀太君」

「ややこしくなるから待ってろ少しっ」

 

 背中を撃ち始めてきた九郎丸は置いておいて。

 

「痛いのとか苦しいのとか、全部分け合えとかは当然言わねぇよ。そりゃ皆、自分なりに思う所があるものもあるだろうけどさ。だけど――――お前の方がもう限界だろ? だからあの時、俺を部屋に引き込んだんだろ」

「それは、そうなんだけど…………」

「だったら、そんなつれねーこと言うなよ? 一人だったら厳しいかもしんねーけど、少なくともここには二人いるし。もっと言えば今回は四人いる訳だから、もっと巻き込めよ」

「………………そーゆー所よ。だから、私、絶対、巻き込みたくなんて――」

「あーもうっ、ゴチャゴチャ煩ぇな!」

「へ? きゃっ! ちょっと、乱暴に頭がしゃがしゃしないでよっ!」

 

 突然の私の蛮行に抗議するキリヱだが、こういう時は本調子に戻ってくれるので、むしろそっちの方がやりやすいのだ。

 

「――――『前の俺』がお前に何て言い残したかとか、そんなもの知らねぇ。だからもう一回言うからな。あんまり無理すんな、俺たち皆頼っていいんだ」

 

 私の手を払いのけたキリヱに、出来る限り不敵な表情で、得意げに微笑み。手を差し出す。後ろで九郎丸が「うん」と頷き、私のその右手に重ねるよう手を乗せ。

 そんな私たちに、キリヱは一瞬呆然として…………、目元の涙をぬぐい。

  

 

 

「――――――――っ、お、お礼なんて、絶対言わないんだからっ! 私より後輩のくせに、二人ともっ」

 

 

 

 勢いよく手を重ね、目を赤くしながらも力強く笑った。

 

 

 

 

 

 




アンケの予定は今の所以下のイメージです。(締日予定:9月上旬)
 雪姫:ネギぼーずとネオパクしてトラウマを刻まれる話
 九郎丸:熊本時代、お風呂が停電した時初好感度ガバの話
 夏凜:カリンと「あの方†」との過去話
 キリヱ:刀太のお嫁さん選手権!の話
 カトラス:幼少期、野乃香に色々教わった話


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ST76.死を祓え!:忘却の彼方

毎度ご好評あざます!
戦闘シーンダイジェストにすべきか悩みましたが、ニュアンス的な意味であえてそのまま・・・その分ちょっと長めです汗


ST76.Memento Mori:Oblivion

 

 

 

 

 

「ほなお兄さま、あーん!」

「お、お嬢様っ!? それでしたら私が……」

「アカンって~。勇魚、お母さまからメールで、ちょっとお兄さま見る目ぇが怪しいって言われとるやん。もうちょっと甘え方落ち着いてからな~?」

「な、なんでぇお姉様ッ!?」

「だって勇魚ばっかずるいやん! お兄さま一人しかおらへんのに、そんなべったべたしたら汗だくなるってのに、なんかちょっと嬉しそうに匂い嗅いで一人で楽しくなるんのとか許さへんで!」

「ど、どうして気付いて……!?」

「そりゃ気づくわ! まーとりあえず、お姉様方帰ってくるまでこっちで待機するえ!」

 

「…………」

「と、刀太君、目が死んで…………っ」

「っていうか俺、全然関係ねーよな? な? なんで一緒に簀巻きっぽくされてんだ、な?」

 

 現時点つまり大体お昼休み前後。私は帆乃香や勇魚の手で、生徒会備品室に再び連行されていた。なお今回は九郎丸と三太も存在しており、三人とも包帯で全身ぐるぐる巻きにされていた。

 

 経緯としては非常に単純だが、ちょっと長い。

 

 まず事前条件として、今回の問題は「三太が」「打ち合わせ中の小夜子に」「接触する」のが問題なのであるから、彼をその場から徹底的に遠ざければ良いということになる。つまりはアマノミハシラ市内を散策がてら、原作5巻同様に遊びに出てしまえば良いという流れが最もガバが少ないといえ「た」だろう。イベント消化的にも原作的な流れをふまえれば、ここにおいて私に死角はないといえ「た」。

 

 …………まぁ、そう、ハイ、いえ「た」なのだ。過去形なのだ。そこは現在、私たちが捕まっている所からしても明らかだろう。

 私たちの行動にガバはなかったはずだが、ここに至る経緯というかそこまでに何かしらガバがあったのだろう、救いはないね仕方ないね(白目)。

 

 作戦自体は九郎丸とも相談して同意をとった上で、それとなく私が適当に三太を誘い出してレッツゴー! と言ったところ。最初は何かやることがあるような口ぶりだったが、ゲーム関係に口を出し始めたら態度が急変、一気に距離感が近くなった。

 

『せっかくだから、この赤の扉でも……、って違うわ、赤いゲーム機のソフトでも探しに行こうぜー。中古とかで良いのあんだろ何か』

『何だよ赤いゲーム機って……』

『だってパーティーゲー無いだろ? お前。友達いなさそーだし』

『だ、誰がぼっちだっ! それに全くない訳じゃないぞ?』

『刀太君、これパーティーゲームかな? 桃○って書いてあるんだけど』

『『それは止めとけ』』

 

 リアルの人間関係にひびを入れて来るタイプのソフトはともかくとして。三太が私や九郎丸同様にその手の病気(中二的センス)なのは確定的に明らか(断言)なので、おそらく道中の話題合わせには苦労しないだろうと踏んでいた。例え「実際に」街をうろつくのが私、九郎丸ともに初めてでも、「私」に限ってはそうではない。事前リサーチと言う訳ではないが、いくつか行ってみたい場所については既にチェック済なのだ。

 

 と言う訳で手始めにカラオケに向かい、ちょっと照れながらも熱唱する九郎丸のどこかで覚えのある様な声質で妙に上手い歌を三太共々聴いたり(それぞれ得意ジャンルとしては、九郎丸はロックバラード、私は洋楽(OSR)、三太がポップソング寄りのアニメソング。なお私も三太もそんなに点数は低くない)。

 

 原作同様ゲームセンターで各筐体に対し、謎のハイテンションでやけくそ気味に総当たりしたり(なおそれぞれ得意分野としては、格ゲーとかガンシューティングは三太、リズムゲーは私、意外なところでスロットやらパチンコやらは九郎丸だった(動体視力?))。

 

 隣にあった「占い館ココロウァ」で三人そろって占いをして一喜一憂したり(なお恋愛占い強制。それぞれアドバイスは、三太には「素直になること」、九郎丸は「ここぞというタイミングを見逃さないこと」、私は「近い順に覚悟を決めること」とのこと。何の腹を括れと?(震え声))。

 

 ブックカフェとかOSR施設(オサレスポット)は混んでいたので、道中、比較的空いてた「ラーメンたかみち」で少し早めに昼食をとったり(私、九郎丸、三太でそれぞれ、冷やし味噌バターコーン、塩野菜つけ麺、しょうゆチャーシュー。なお満場一致の感想として「信じられないくらい味に特徴がなかった」という衝撃的な展開)。

 

『アレでよく全国展開してるよなぁ、ラーたか(※ラーメンたかみちの略称)……』

『熊本にもあったね……、雪姫さん一回も入らなかったけど』

『都会じゃなくてもアンの、地味にすげぇな!? あんな旨味全然ないやつ!』

『あー、何だっけ? 元々ジャンキーなの大好きな学生とかでも毎日食べられるくらいのノリで、化学調味料とか脂とか塩分とか適度な上で美味いっていうのを作りたいってコンセプトだったっけ? だから、コンセプト通りの味と言えば味なんだろうけどなぁ』

 

 なおアニメ二期(?)「ネギま!?」において、タカミチ・T・高畑がラーメン作りに凝る謎描写があったりなかったりした記憶があるようなないようなだが、たぶん関係ないはず、ウン、きっと、メイビー。(不安)

 そんなこんなで意外と(と言う程でもないが)年相応に絆されて楽しんでいる三太と我々だった。九郎丸に関してはもはや私以上にお上りさん状態となっており、一挙手一投足のたびに表情がコロコロ変わって大変に可愛らしい(性別)。というか、そういう表情ばかり見てしまうといい加減「あの話」というか、私が正式に性別を知ってしまった話をどこでするかという話も出て来るので悩ましい。一瞬で処理しようと思えばできなくもないのだが、手の出し方を間違えると新たなガバ発生の基点になってもっとガバガバ拡大していきかねないと思うので、このあたり正直オブザーバーが欲しいです師匠(嘆願)。(???「アドバイスされてもオリチャー始める男だよアンタはどうせ」)

 

 ともあれ、そんな会話をしてる時に、自警団の面々に見つかった。三人、特にリーダー格、「蘇りし現代の脱げ女」こと式音お姉様は腕を組みこちらを指さし偉そうにふんぞり返ってる。菜緒といったか、のほほんとしてる彼女は三人分の箒をどこからともなく取り出して準備しており、ジャージさんことマコトは視線が合った一瞬顔を赤らめて視線をそらして両手をポケットに突っ込んで少しだけ貧乏ゆすり。何それ可愛い。

 

『そこの三人! いま中学は授業中の時間です、御縄につきなさいっ!』

『……あ、そうそうッス! 近衛刀太君、時坂九郎丸君、どっちも無断欠席の連絡がきてるッスよ! お姉さん怒っちゃうッスからね! お昼の呼び出しもついでに片づけちゃうッス!』

『あらあら~マコトちゃん張り切っちゃって……、刀太君専門で追いかけてもいいですよ~?』

『ふぇ!? そ、そんなことよりお仕事ッスから!』

 

『…………』

『そんな「またか」みたいな呆れたような視線向けてくんの止めろ九郎丸。っていうか逃げる一択だな――――っと』

『って、一瞬で屋根!?』

 

 言いながら足裏に飛蹴板を形成。走る、飛び跳ねるようなモーションをしつつ三太の手を掴み、一気に屋根の上に移動する。九郎丸は安定して瞬動で音もなく追従してくる。

 これを見て、というよりほぼ一瞬で移動されたのに反応が遅れてか、三人はそれぞれ箒を使って追跡をしはじめる。

 

『三太、走れるか?』

『ば、馬鹿にすンなよ! これでも足は速い方だ!(……スーパー三太様だし念動力あるし)』

『そっか。じゃ、結構マジで走るからガンバってついて来いよ――――!』

 

 後はこのまま彼女たちの追跡を振り切れば、ある程度は原作の流れを踏襲できるだろう。もっとも原作でこれに該当するイベントは数日後だったはずなので、状況的にはRTAしてるのに等しく、あまり良いとは言えないが。

 それはそうとして、ここで三太に「いじめられていた時」のことを思い出させないよう、あくまで気楽に振舞うが吉――――――――。

 

 そう思っていた時期が私にもありました(白目)。

 

 

 

『ここで会ったが百年目! 観念しぃお兄さま!』

 

 

 

 得意げに札を構えて笑う帆乃香と刀を腰に構える勇魚が、進路前方に待ち構えている。どうやら自警団は少し授業形態が違うのか、それとも昨今の殺人事件で駆り出されているということなのか、ともかく挟み撃ちの形である。

 もっとも私的には、その立ち姿とセリフ回しが完全に原作で相対した時のそれを彷彿とさせるもので、そっちの方が気になって仕方ない。というか胃が痛い。やっぱりガバかな……、ガバかも……(疑心暗鬼)。

 

 さて。それはそうと面倒は手早く片づけていくに限る。生憎「今回は」原作の流れを引き継ぐイメージでいるので、そう簡単にやられてたまるかという話だ。

 とりあえず後方に「大血風」を形成して「置く」。空間座標に残った血風の回転をとめるのは一般人には不可能であるからして、車も自転車も箒だってすぐには止まれない(最新式セグウ○イは止まれる)。なので振り返る必要もなく、背後から「ひ、飛行アプリ急停車ァ!」とマコトやらの絶叫が聞こえてくるのを放置する。

 

『お姉様方!? っ、兄様、よくも皆様を――――!』

『いや流石に物理障壁までは消し飛んでねぇだろうから、っと!』

『でも兄様、屋根の上だから落ちたら危ないじゃないですか!』

『ホントにな!』

 

 最後に叫んだ三太のリアクションが気になってみれば、一応落下こそしているものの無傷ではあるらしいが…………、なんか彼女たちの方に向けて両手を開いて構えてるし、ひょっとしたら念動力(サイコキネシス)でゆっくり下ろしてくれたのだろうか。

 大丈夫だったとは思うが、しかし安全を期する必要はあるのでこれには当然、内心で感謝である。

 

 さて、斬りかかってくる勇魚相手に黒棒を出すのは大人げないかと思っていると、九郎丸が夕凪を抜き彼女の前に立ちはだかった。金属音、そして弾かれる勇魚。これに関しては単純に身体の発育(筋力と体重)に加え、こちらに直線運動のエネルギーが乗ってることも関係してるだろう。

 とはいえあちらもさるもの、当然のように壁に張り付いてニヤリと刹那お祖母ちゃん(せっちゃん)じみた笑みを浮かべた。

 

『流石にやりますね、九郎丸先輩! ……後で修業見てください!』

『ええ!? い、いいけど僕、教えられる程の腕って訳でも――――』

『隙あり!』

『――――ふんっ!』

 

 実力的にも身体能力的にも劣っている自覚があるのだろう、不意打ちじみた勇魚のそれにしっかり対応する九郎丸である。もっともそちらに私も注意を割く暇はなかった訳だが――――。

 

『詠唱省略アプリ起動!

 ニギタマ・クシタマ・サキミタマ――――「菊理媛境木(くくりめのさかき)」!』

『いやそれ省略するの止めろ! チートか貴様!』

『チートって何やの?』

『あっ、そっかまだ判らないか……って、小血風っ!』

 

 いきなり例の魔法完封系結界を放ってくる実妹ちゃんの容赦のなさよ、一体誰に似たんですかね(震え声)。どう考えても上級レベルの術を一瞬で構築してくるあたり、前回と違い今回は真面目にやってるのか。確か効果としては「術者以下の魔力/気の持ち主の使用禁止」的なものだったはずだ。私は「金星の黒」があるとはいえ、その結界の効果が「当人だけの魔力/気」とか制限が設けられていないとも限らない。

 なので一方の私としては、結界の基点になる帆乃香めがけて小さい血風を足元に投げた。

 

 ギリギリ、血装術は魔術にカウントされないのだろうか、上手いこと帆乃香周囲の「気」を散らし、結界の構成を砕く。しかしそれに動揺している様子もなく、帆乃香は札を私の方に向けた。

 

『ニギタマ・クシタマ・サキミタマ――――「転移印(ジャンプマーク)」!』

『――――ッ』

 

 例の「嫌な感覚」を覚えなかったため、正面から札術をそのまま喰らってしまった。一枚の札が私に放たれ、ふれると同時に青白く燃えて消える。とっさにその場から急上昇すると、その後に投げられた三枚の札が遠隔光線兵器(ファ○ネル)がごとく追尾して来た――――。

 

『すごいわぁお兄さま! 初見で「菊理媛」に対応してくるとかホンマびっくり! 同年代でもそんなん見たことないわ! カッコええ!』

『そりゃどう、もっ!』

 

 後方、空中だったこともあり追尾してくる札へ通常サイズの血風を投げる――――二枚! 一枚の撃墜には失敗したが、それとて些事、距離を離してもう何回か撃てばどれか当たるだろう。死天化壮へと切り替えた上でそう算段をつけていたのだが――――。

 

『でろーん!』

『はいっ!?』

 

 その私の胸のあたりに穴が開いて……、というより「空間が繋がって」、出来た異空間への穴のようなところから帆乃香がひょっこり顔を出してにっこり笑った。得意げな様子がますます近衛木乃香(このちゃん)味を感じさせて可愛らしいが、それはともかく。

 現在空中、地面および屋根からそこそこ高速で離れている最中。このタイミングで唐突にこうひょっこり出て来られても困惑より心配が勝る。つまりは「危ないだろッ!」という話だ。なにせその長髪の乱れ具合からして、どうやら死天化壮の速度的な恩恵は得ていないに等しい様子、つまり完全に速度に置いて行かれている(新幹線最高速度の状態で窓を開けて外を見ようとする行為に等しい)。

 

『あー!』

『いや普通に落ちるから待て待て!』

『――――ッ、何やってんだあの女ッ!』

『ほ、帆乃香ちゃん!?』

 

 そして何が起こったかといえば、中からバランスを崩して落下――――! その際の表情に一切恐怖もなく悲鳴すらあげないのは、個人ののんびり屋さんな性格ゆえか、普段受けてた修行が苛烈極まりなくその感覚がマヒしているせいか……、たぶん後者だろう(断言)。

 そうは思いながらも流石に落下を放置するのは忍びない。というか一兄貴分というか一般通過お兄ちゃん(血縁)としては、一応は妹がそのまま落ちていく様を見たまま何もしないわけにもいかない。痛いのは嫌だからこそ、他の人の痛いのも当然嫌ではある(場合にはよるが)。

 

 

 

 もっとも、まさかそこまで含めて相手の計算の内とは思っていなかったのだが。

 

 

 

 完全にこちらが助けに入るのを見越していたのか、結果的に落下する帆乃香をお姫様抱っこして救い上げた時点で、その場、屋根の位置には私、九郎丸、三太の全員が集合しており。

 

『勇魚、今や!』

『はいっ、お嬢様!』

 

 嗚呼そういえば声が聞こえなかったなぁと思った彼女、もう一人の妹ちゃんの方が動き――――おそらく事前に貼ってあったろう帆乃香の札も転移術じみたそれを発動させ――――。

 

 結論から言うと、そのまま生徒会備品室に三人とも放り出され、全身白い布のようなもので拘束されて動けない状態とされた。

 

「ままならぬ…………」

「現実逃避したって意味ねーだろ。ってかアイツら妹なのか、怖ぇなお前の妹たち…………」

「あはは……。僕も隙をつかれちゃったしね。でもあの容赦のなさというか、自由な発想は刀太君らしいと言えばらしいかな? ちょっと血筋を感じるかも」

 

 当然三人とも、無理に抜け出そうと思えば抜け出せるだろうが、私と九郎丸に関しては一般人(?)相手にそこまで本気で力をふるうつもりもなく、三太に関しては正体バレの恐れもあるだろうからか逃げずに諦めていた。

 

 ちなみに我々が拘束された時点で、すでに通話アプリで勇魚が「お姉様方」三人に連絡を入れていた。

 帆乃香はぶんぶんと腕をふって「お兄さまの握り、へいお待ち!」とか訳の分からないことを言ってテンションが高い。やはり幼児めいた挙動が多いのだが、これは彼女の素の性格の問題か、それとも「実際の年齢」が「見た目以上に幼い」可能性を検討するべき話だろうか…………。

 

 と、ふとこちらに振り返ってしゃがみ、私の顔を少し下から覗いてくる(本当に小さい妹ちゃんである)。

 

「あー、でもアレや。お兄さま、やっぱり私らのお兄さまなんやなー。ちょっと感動したっていうか、ジェットコースター乗ったみたいな感じでドキドキしとるえ!」

「…………いや、そりゃこれだけ似てて母親同じとか言われたら、疑いようもねぇだろって。何なんだその感想?」

「乙女心的にぐっとくるものがあったから、そら仕方ないやん? やっぱお兄さまっていうか『お兄ちゃん』的な人ってゆーんか、フェイトはんはあんまり甘えられんからなー。色々あって距離感開いてるし」

 

「…………えっと、ちょっと待って? へ? 刀太君、その、えっと……『産みのお母様』と会ったの!?」

 

 そういえばその話はしていなかったかと今更ながら思ったが、なんだか妙に顔を寄せて食いついてくるものだから三太が置いてけぼりである。「せやでー」と軽く言いながら勇魚にカメラアプリのアルバムで写真を探してくれと言うと、ほんの数秒でホログラフィックの画面が出て来た。

 

 写真には三人の女性が映る。一人は帆乃香、というか木乃香(このちゃん)をそのまま大きくしたような大和撫子風の美人さん。もう二人のうち一人はちょっと不健康そうな顔色をしていて誰だか判らないのだが、もう一人は例のサイボーグゴスロリアンドロイド女子(永遠の十代)と化した祝月詠であることは確定的に明らかだった。

 

「こっち、ウチらのお母さまの『近衛(このえ) 野乃香(ののか)』!」

「へぇ…………って、凄い似てるね帆乃香ちゃん」

「アハハー、まぁ色々『訳アリ』なんやけど」

「こっちはえっと、月詠さんだったっけ?」

「せやで? ウチらのお師匠さんみたいなもんやなー。勇魚は完全に頭が上がらんわ。昔は一緒に色々いたずらして、おしりペンペンめっちゃされたなー」

「お姉様、何言ってるんや!?」

 

 思わず口調が崩れる勇魚はともかくとして、チラチラと我々の「お母さん」の写真と帆乃香の顔を見比べて、顔を少し赤くしてる三太は…………、まぁこのあたりは思春期といったところか。ボソっと「超美人じゃねぇか……」とか言ってたのは聞かなかったことにしてあげよう。小夜子相手に暴露することもない、私は出来たルームメイトなのだ。

  

「……って、じゃあこの間の人は知らねーの? なんか、クマすげーけど」

 

 だがそんな私の友情からの発露めいたチャートを当の本人が足蹴にしてきた。私が絶対につっこむまいと思っていた、見知らぬ女性。だがこの二人と共に映っているという時点で充分に何かしらの関係者であるだろうし、なにより正直言って彼女の姿だけには何か「嫌な予感」を感じているのだ。

 当然のように「えっとな?」と応じる帆乃香に、それ以上は是非とも言ってくれるな、と思いはするが。それをこの場で続けるのはそれはそれで問題でもあるので(何故妨害するのか、知り合いなのかとか別種の問題が発生する)、躊躇した私だったが。

 

「あー、なんやったっけ? その人は『お兄さまの主治医』だった人や。ウチらの『近衛本家』の人で、近衛悠香(はるか)はん。めっちゃケーキ作るの上手やったらしいえ? …………って言っても、確かもう故人やったっけ? 勇魚」

「ですね」

 

 えっ、と。九郎丸と三太の視線が私に突き刺さり。しかしそれに私は何も返せず――――。

 

 

 

 ――――エヴァンジェリンさん……、どうかこの子を――――

 ――――誰が何と言おうと、この子は私たちの息子だから――――

 

 

 

 どこからか脳裏に「存在しないはずの記憶」のようなものが。死にかけた状態の私を見下ろす雪姫の姿と、その私を抱きしめ庇う「男女二人」の感触と、声を、鮮明に感じた。

 

 ……あっ(察し)、やっぱりガバかな?(結論)

 

 

 

 

 




アンケの予定は今の所以下のイメージです。(締日予定:9月上旬)
 雪姫:ネギぼーずとネオパクしてトラウマを刻まれる話
 九郎丸:熊本時代、お風呂が停電した時初好感度ガバの話
 夏凜:カリンと「あの方†」との過去話
 キリヱ:刀太のお嫁さん選手権!の話
 カトラス:幼少期、野乃香に色々教わった話


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ST77.死を祓え!:私が思う私とあなたが思う私

毎度ご好評あざますナ!
 
ついに気分転換で本家BLEAC○(オサレ)の二次を始めたやつ・・・(メゾン・ド・チャンイチは事故物件(物理))


ST77.Memento Mori:Myself In Bird's-Eye View

 

 

 

 

 

 

 色々と前提条件を疑う余地が出て来たので、一度整理しよう。何についてかといえば、私自身の自己認識――――近衛刀太に憑依した/成り代わった、というその認識についてだ。

 私がそもそも自らを近衛刀太である、と認識したのは、病院のベッドで目が覚めた後、鏡を確認しに行くために松葉杖をついて男性用トイレの鏡を見た時だった。途中、看病に来ていた雪姫が気遣って手を貸そうとしたりもしたのだが、その顔を直視するよりもまず鏡を見たかったのだ。もっともその時点で既に声がアニメのエヴァンジェリンのそれであったため「まさか」という疑念は抱いていたため、衝撃自体はさほどなかったのだが。

 ……まぁ本当のことを言えば「織○(拒絶する人)の声……? ってことは俺、○つきちゃんか? た○きちゃんなのか!?」と謎の期待をして、鏡の前で「よっしゃ頭ツンツンしてる! やっぱりたつ○ちゃん……、じゃ…………」と○LEACH(オサレ)本家転生を期待して失敗し落ち込んだりしていたのだが、そんな低OSR(くだらない)話は置いておいて。

 

 上記の経緯から、てっきり私自身の人格が近衛刀太の人格を塗りつぶした形で存在しているのだと考えていた。メタ的な知識、つまり「ネギま!」やら「UQホルダー」原作やらといった知識というのは、外部人格であろう「私」に依存しているからだ。だからこそ原作において適宜必要な「近衛刀太の過去」というものを、私個人は知識としては知っていても、記憶として思い出すことはなかったのだろうが…………。

 

「『思い出した』以上は、一概にそうとも言えねぇんだよなぁ……」

「? ど、どうしたッスか? 刀太君、肉じゃがちょっと固かったり――――」

「あー、いや、そんなこと全然ないッス! 普通に美味しいッス」

「そ、それは良かったぁ……」

 

 ほっと一息ついて力の抜けた笑みを浮かべるマコトはともかくとして、色々と考え事をしていたら、遊び半分か「あーん」されていたらしく「つ、次は僕も……!」とか謎の立候補を見せる九郎丸とか「ずるいでー! うちらも、うちらも!」と張り合ってくる帆乃香と腕を引かれる勇魚を制して、改めて思考をまとめたい……、まとめたいのだが肉じゃがが美味い(食欲)。

 なおそんな私の地獄絵図のごとき遊ばれ具合を見て、三太は「何だコレ」と菜緒とか言うらしいのほほんさんに聞いている。ちなみに返答の「うふふ~、まずは胃袋を掴もうとしてる感じですかね~」とか言ってるのは全力でスルーした。誰が何と言おうがスルー一択である(震え声)。

 例によってというべきか、「前回」の周回において辿った道順通りに私は生徒会備品室で説教を交えて昼食をごちそうになっていた。今回は九郎丸に加えて三太もいるので、九郎丸と三太は他の面々から少しずつ分けてもらう形になっていた(式音班長のカップヌ○ドルダイエット除く)。

 

 まぁそれはさておき思考を戻すが……。本来「塗りつぶした」形ならば、ここに存在する近衛刀太に由来する知識は存在しないはずなのだ。必然的に記憶も存在する訳はない。仮に「肉体が覚えている記憶」であるのだとするのなら、今までの私のガバ如何に関わらない世界の修正力的な何かにより、もっと早い段階で思い出しているべきだろう。故にこそ楽観視は出来ない。……この自己認識の違いが、また新たなガバをどこかで生産していないとも限らないのだから。

 

「なんや? お兄さま、悠香はんのこと考えとるん?」

 

 流石に話題提供者だったこともあってか、あーんに適当な応じ方をしている私を案じてかそう声をかけて来る帆乃香である。その手に持ってる肉の脂身(何故脂身だけ?)を赤身の部分と合わせて一口もらい、適当に応じた。

 

「…………ま、多少な。さっきも言ったけど、記憶がないなりに『思い出した』ことがあったもんでな。ちょっと、ナイーブになってるってのはあるか。悪ぃな」

 

 一つは病室で。まだ退院する前、雪姫が看病に来ていた頃のこと。その最初期のころに立てかけられていたもの。いつの間にか雪姫が「無理に思い出さなくて良いんだ」と言って撤去したその写真――――私というより「近衛刀太」と、それに寄り添う二人の男女の写真。苦笑いを浮かべたような目つきの怖い男性と、やはり顔色が悪い女性。彼女たちに抱えられてる近衛刀太は、ぎこちない笑みを浮かべていたように見えた。ただその目つきは今の私のように気だるげでもなく、文字通り「原作の」近衛刀太のような陽気そうに見開かれたものだった。顔と名前は一致しないが、おそらく熊本に置かれたあの墓の下の二人は……。

 

 もう一つは、おそらく原作における、近衛刀太を「施設」から連れ出した二人の男女が、雪姫に彼を託した時のその場景。辺り一帯が火の海に包まれており、そこで雪姫が私を見下ろす姿――――少しした後、エヴァンジェリンに膝枕されている記憶と混合されているが、おそらく「どちらも」実際にあったことなのだろう。時系列が多少ずれているくらいだとまだ説明がつく。

 

 だが最後の一つが問題だった。

 逃げる私と「親代わり」の二人に襲い掛かる魔族を蹴散らす「雷のような」閃光と、その素早さに見合った衝撃を伴う特殊な宇宙服の後ろ姿――――。原作にも描写はないし、おそらくそちらでは起こっていないだろう「ネギ・スプリングフィールド」の介入と思しきその記憶である。

 

「色々食い違ってるって訳じゃねぇんだけど、なんか、混乱してるっていうか……、あー、とりあえず説明が出来ねぇわ」

「大丈夫? 刀太君」

「別に授業サボる程じゃねーかな? まぁ今日はもう面倒だから午後もサボっちまおうかって思ってるけど」

「「「堂々と言うんじゃありません!」」」

「おぉ! お姉様たち息ぴったりや!」「ですね」

 

 そんな風に会話をしつつも、頭の片隅は「嫌な感覚」がずっと抜けないままでいる。

 この三つの記憶のうち、一つは「私」が自己認識をした後のものであるから問題はない。雪姫が早々に写真自体を回収したこともあり、記憶の片隅に存在しないまま二年間過ごしたためだ。とはいえ帰ったら一応もらえないか交渉はするのが、仮にも「息子」だった近衛刀太としての義理ではあるのだろうが。

 だが他二つの記憶については完全に想定外も良い所。というかこの記憶の内容に関しては絶対私のガバではない(断言)という安心感はあるのでそれは良い。(???「果たして本当にそうかい?」)

 

 危惧するべきは、私の自己認識が間違っている場合だ。

 

「と、刀太君っ! こ、今度の休みにッスね、一緒にちょっとお出かけ付き合ってくれないッスか! 夏凜さんからはOKもらってるッス!」

「えええええええええッ!?」

「うわ! 火の球ストレートや!」「ま、マコトお姉様、大人です……!」

「あらああら~」

「ついに言いましたわね」

「…………(俺完全に空気じゃね? ココ)」

 

 上の空、とするにはいくら何でも失礼なので、マコトのお誘いについては「まー出かけるならそれはそれで良いッスけど……」とイメージ戦略的にキャラを崩さない程度の返答を返すが、真っ白になり固まってる九郎丸にツッコミを入れるよりも先に夏凜から電話がかかってくる。このあたりも前回というか、以前と同様の流れで少し苦笑いが浮かんでしまう。

 一応断りを入れて表に出て受話すると、しかし今回は第一声が違った。

 

 

 

『――――――こんにちは。雪姫様のお金で学校に潜入しているというのに、無断欠勤した上遊び倒しているとは良い度胸ね?』

「お? おお! それそれ! それッスよ夏凜ちゃんさん!」

『……? えっと、ごめんなさい。話が見えないんだけど……』

 

 おおかた帆乃香あたりから連絡が行ったのだろうが、私と九郎丸と三太が本日不良学生を満喫した情報を得ていたらしい。そしてそれを問い詰める語調が「原作本来の」夏凜のような強いイメージを感じ、私の心に安心感をもたらした。

 というか夏凜がツンケンしているという振る舞いに関しては、私の認識ではネオパクティオー関係の時に一瞬と、出会った当初の頃に時折くらいしか見た覚えが無かったこともある。決して今回のこれで彼女の全ての振る舞いが変わる訳ではないだろうが、それでもガバから少し縁遠くなった「錯覚」が出来て少しだけテンションが上がった。

 

「で、そいえば何で電話してきてんスか? 夏凜ちゃんさんだって今、お昼休みじゃ――――」

『いえ、九郎丸に電話がつながらなかったのもあって。聴取というか、聞き取りの状況を聞こうと思ってたのだけれど…………? うん……』

「夏凜ちゃんさん?」

 

 

 

『――――何かあったかしら。だいぶ表面を「取り繕っている」みたいだけれど』

 

 

 

 …………。

 だ、だから!

 一体何でそれが分かるんだこの女!? さてはエスパーか何かっ!!!?(白目)

 

「いやぁ、取り繕ってると言われましてもねぇ……」

『どうせ私にそういう隠し事は出来ないんだから、潔く話しなさい。別に減るものでもないでしょう? 貴方の「素」に関係するなら、場所を移しますが』

「あー、そこまで核心的な話じゃないんスけど……」

 

 というか「どうせ」に続く一連の発言には色々とツッコミを本当にいれたいのだが。別に私自身そこまで隠し事が上手いとは思っていないが、どうしてこう夏凜は一発でこちらの精神状況めいたものを見抜いてくるのやら。ひょっとして気付いていないだけで、何か癖みたいなものがあるのだろうか。

 それはそうと今日の経緯を雑談がてら話しながら、先ほどの話をそれこそ「私」という確信にふれない程度に話しておく。キリヱの新たな予言に従い三太を連れ出して遊びまわっていた、これからも遊びまわる予定である。そして昼食時に新たな記憶を思い出した――――「覚えていないはずの記憶を思い出し」「混乱している」という話を。

 当然「私」の核心部にふれない程度の情報に留めていたのだが、それだけでも夏凜は何か納得したようだった。

 

『つまり、今の貴方自身の精神そのものの成り立ち……というより、「事故以降に成立した」「今の自我の不安定さ」について恐怖していると』

「…………」

 

 …………そう、つまりそういう事である。

 私個人の自己認識として「成り代わり憑依」のようなものだと思っていたが、もしそうでなかった場合という話だ。それはつまり、パターンとしてよくあるのは「元々存在した自我と融合したパターン」、もしくは「前世を思い出していなかっただけで、実は最初から私が転生していたパターン」といったものだろうか。他にも変則的なものは色々あるだろうがそれは置いておくとしても、これだけでもう既に恐怖に値する。

 

 かつてカトラスを心配していた私に、星月が「そのうち気付くだろう」といったような発言をしたことがある。そこからしても、私自身に何かしらの勘違いないし重大なガバが存在するということなのだろうが、そもそもそれを発言した星月ですら私にとっては心の底からは「信頼できない誰か」だ。そしてその上で、私自身が「信頼できない語り手」である可能性が提示された場合…………………………。

 

 はっきり言ってしまえば、その事実それだけでも「恐怖の塊でしかない」。

 それこそ自らの出生を○染隊長(メガネグシャア)に突き付けられた○護(チャンイチ)のように。

 

 この近衛刀太という存在に「私」が入っているというのなら、それはあくまで「私」の自己同一性、自分が自分であるという安心感が揺らいだわけではなかった。間借りするような形にこそなってしまうが、それでも出来る限りやるべきことはやろうという意思はある。だが例えそうでも、そこには「近衛刀太」という一枚のフィルターが存在し、それと「私」とに隔たりがあるからこそ、この、何か一歩間違えるだけで簡単に世界が滅ぶような場所で両足を使い立ち上がることが出来る。

 言うなれば、この世界を「フィクションとして」知っている前提があるからこそ、必死になりながらも頭のどこかが褪めたように状況を俯瞰して行動できるということでもある。実際に痛みを感じるからこそ、この世界を作り物だ何だと考えられない大前提はあるが、それでもなお、やはりどこかにその一線があるのだ。

 

 この前提が外れると言うことは、私は「私」という、こんな世界とは縁遠いはずの個人として立脚しなければならないと突き付けられることに他ならない。

 

 当然、それ自体が怖い。そして――――それを考えてる「私」というのが何か、果たして「私」とはどういった存在なのか。そこに納得できず、安心感を欠くようになってしまったこの状況が怖いのだ。

 

「まぁ別に、痛いって訳じゃないんスけどね。たぶん、『事実を知っても』『知らなくても』、怖さが変わらないタイプの事柄だっていうのもあると思うッスけど」

『…………心は、痛むのではないかしら? だってそれは、きっと貴方個人で何かしら納得「し続けなければいけない」事柄なんでしょうから』

「納得し続ける、ねぇ……」

『でなければ、それこそフラッシュバックを繰り返すでしょう? 貴方』

 

 別にそんなトラウマ持ちというわけではないのだが、夏凜は確信を持って言ってくる。とはいえそもそも、私自身はそんなに過去のことを悩み続けられるほど殊勝な性格はしていないと思っているので(類似ガバの連鎖具合を見るに)、これはむしろ夏凜が「あの方(救済者)」に私を重ねすぎているということだろうか。(???「そういう思い込みがアンタの命取りになるっていうのに……、せっかくその女相手のガバに気付きかけたくせに」)

 

『そういう意味では「忘れる」のが一番なんでしょうけど、それは今の貴方では出来ないと。…………仕方ないんでしょうけど、貴方も大変ね』

「そこはどうなんでしょうか……、ね? いや、身体がボロボロにされるわけでもないし、経験だけで言うともっと酷い経験でメンタルボロボロにされてるのって、俺以外にもいっぱいいるし」

『痛いっていうのは、尺度は個人個人相対的なものだから。一つのモノサシですべて当てはめるつもりはないわよ?

 …………でも、そういうことなら少し待ってなさい』

「待ってる? ……って、切れた――――」

 

 

 

「――――お待たせ」

 

 

 

 ひぃっ!? と思わず叫んでしまった私を誰が責められよう。通話終了してから十秒も経たずに、表に出ていた私の背後に現れた夏凜である。そのまま耳に息を吹きかけるよう囁かれ、飛び退こうとするも手を掴まれて引き寄せられ、そのまま例によってハグされる形になっていた。

 もはや異国のあいさつくらいの感覚でやってらっしゃいませんかね貴女……(震え声)。

 

「っていうか何処から湧いて出たんスか、速度おかしいでしょいくら何でも」

「たまたま近くにいただけよ。……って、そんなに逃げようとしないで大丈夫よ? 別に局部や鳩尾に蹴りを入れたりはしないから」

「誰だって突然耳に息を吹きかけられたらこんなリアクションになると思うんスがねぇ、ええっ!?」

「あら、今更じゃないこのくらいは。それより…………、んん、思ったより辛いみたいね」

「へ?」

 

 背が伸びたから少しやり辛いけど、と夏凜は私の頭に手を伸ばして撫でながら、背中を小さく叩く。とんとんと、まるで赤子でもあやすようなリズムだ。相手との身体的な接触が色々とくんずほぐれつではないが色々と思春期的に厳しいものがあるのだが(匂いとか柔らかさとか感触とか)、でもどうしてか「懐かしい」気がして、動揺した心拍数が落ち着いていった。

 

 しばらくそうやって甘やかすと、「そろそろ大丈夫かしら?」と手を放す夏凜。満足げに微笑むその綺麗な顔をどうしても直視できず目を逸らすと、くすくすと揶揄うよう笑われた。こう、何だろうこの……、ギリギリ年下の弟くらいの距離感と言い張れなくもないような、そこから一歩飛び出てるようなこのお方のパーソナルスペースの近さと言うべきか。なまじそれでさっきよりも「落ち着かされた」私がどうこう言える話ではないのだが。

 

 だが、今日の私はここで終わらない。というより「自分の過去への認識」に疑問を抱いてしまった以上、夏凜がこうしてよく抱きしめて来るような、これにすら違和感と疑念を抱いていしまうのも無理はないだろう。

 だからこそ、何かのガバのトリガーになりなりそうと思いつつも、思わず聞いてしまった。どうしてそんなに、甘やかすようなことをしてくるのかと。

 

「あら? 嫌だったかしら」

「誰もそうとは言ってないけどさぁ……」

「そうよね。大っきいおっぱいは好きみたいだし」

「そういうこと言われると、おいそれと肯定しづらくなるっス」

「フフ……、いえ、意外と重要なこと『らしい』わよ? まあ、私としては『先生』を重ねて見ている所がないとは言い切れないけれど……、ひょっとすると貴方の不安定な所を、貴方以上に知ってしまったっていうのは、あるかもしれないわね」

「はい?」

 

 私のその一言には返さず、夏凜は腕を組み思案顔になる。「しかし無断欠席はいけませんが、キリヱの予言ということですか、今日の件は……」と言いながら何やら色々検討するようなことをぶつぶつとつぶやき。

 

「そういうことなら午後、私も一緒に遊びに行きましょう。私の通っている校舎は今日、午後の授業がありませんから。……色々と都合も良いみたいですし」

「…………はい?」

 

 正直色々と返答に困るようなことをおっしゃられる夏凜であった。

 これも何か、ガバであるのか、ガバでないのか…………、助けて! キリヱ大明神!(他力本願)(???「助けを求めたって、どうせ『やっぱりおっぱい星人じゃない!?』って殴られるが関の山だろうに」)

 

 

 

 

 




アンケの予定は今の所以下のイメージです。(締日予定:9月上旬)
 雪姫:ネギぼーずとネオパクしてトラウマを刻まれる話
 九郎丸:熊本時代、お風呂が停電した時初好感度ガバの話
 夏凜:カリンと「あの方†」との過去話
 キリヱ:刀太のお嫁さん選手権!の話
 カトラス:幼少期、野乃香に色々教わった話


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ST78.死を祓え!:取り囲む因果たち

毎度ご好評あざますナ!
やっと時系列的には旧麻帆良に来て3日目に入るようなそうでもないような・・・(震え声)


ST78.Memento Mori:Surrounding KARMA

 

 

 

 

 

 夏凜が参戦した後の午後については意外と何かやらかされることもなく、つつがなく一日が終了した。途中よく九郎丸とヒソヒソ話はよくしていたのだが、何やら慌てふためかせていたところからしておおよそ私にとってあまり良くない展開であることに違いはないだろう。

 それはともかくとして、寮への帰宅後にキリヱへ電話をかけると「随分お楽しみだったみたいじゃない……」と不機嫌そうな返答が返ってきた。ちなみに晩御飯は三太が挑戦する流れだったので、九郎丸は自主鍛錬、私は屋上で電話と相成っている。既に夏至は過ぎているので夕暮れは暗く、これはこれでL○FE(オサレ)味がある。脳内で適当にBGMを流していると「何か言いなさいよ!」とお怒りの言葉があった。

 

「お楽しみって言ったってまぁアレだからなぁ…………、あんまり気は休まってないっていうか」

『それでも私が! 今日一日どんな気分で居たかなんてわかるわけないでしょ! 接点もともとゼロだったからあえて顔合わせする必要ないとかいって、私だけのけ者にして! 夏凜ちゃんだって途中参戦してるっていうのに!』

「いや、元々九郎丸と三太とだけ回るイメージでいたからホラ……。それにキリヱだってアレだろ? 学校通うの自体たぶん今回の周回が相当久々とかなんじゃね? たまにはそーゆー日常的なのに埋没するってのも悪くはないんじゃねーかと思って」

『………………だっ、だーかーらー! そーゆーところなのよアンタは!』

「な、何が?」

『何でもないわよっ! …………でも、そーゆーアンタだから今でも引きずってるってのはあるけど』

「思わせぶりなコメントしながら何一つ詳細開示しないの止めろ」

 

 そういうのは夏凜だけで間に合っている。もっともあっちはその内容の開示と同時に「嫌な」予感がプンプンするので触らぬが吉である。もっともキリヱもキリヱでそう言われて「ハイそーですか」と色々と話す訳でもないのだが。

 

『お、思わせぶりって何よ! ってそんなことはどーでもいいの! 明日の予定どうするかって話するつもりだったんでしょ?』

「まぁそうなんだが……、いや、まっ良いか。って言っても今日の話をまとめると、確実に言えるのは『佐々木三太に』『サヨコさんの裏の顔』的なのを見せないことが最低条件って話だ」

『そもそも存在自体が裏の顔みたいなものだけどっ』

 

 なおかつその上で、私としては「水無瀬小夜子が正気を保っていられるタイムリミット」がいつまでか、という話もある。場合によっては再び酷いことになりかねないので、キリヱには「昨日」に保存されてるセーブポイントの更新はしないでもらうことにした。

 

『それは良いんだけど、アンタどーするの? 結局、サヨコさんを見つけないといけないって話だけど、昨日撮った写真のアレの場所を探すってところ?』

「まぁそーなんだけど…………。写真の現物があれば、場所を聞いて回るのもいけたろうけどなぁ。中々上手くいかねぇわ」

『そこは作成者に文句言いなさいよっ! アンタ仲良いんでしょ?』

「いや、ほぼほぼ初対面に毛が生えてる程度のはずなんだけどなぁ……」

 

 超鈴音に関しての話は……、夏凜以上にガバの底が見えないので正直話題にすら出したくない(恐怖)ので完全に棚に上げるとして。

 そうなってくると、私がとれる手段は色々と限られてくる。

 

「…………この際、例の『トイレのサヨコさん』を試してみる話かなっていう」

『それって、えっと、必殺○事人みたいな例えしてたやつよね? でも姿とかは普通に現したりはしないんじゃ――――』

「――――だから標的を俺にする」

 

 息の詰まる音。キリヱが「うっ」とも「えっ?」ともつかないうめき声を上げた。まあ作戦と言う程ではないが、ホラー映画の幽霊的存在とは言え当人の前にでず遠隔で呪殺するとか、そういうパターンは少ないからこそのイメージで、自分を標的にすれば目の前に現れるのではないかと言う発想なのだ。そこから先は……、魔法的な力ならば血風を使えばなんとか回避できるのではと言う安直な発想もあったりなかったりする。

 とはいえ心配させないように、とりあえずは笑った。

 

「まー、とはいってもこういうのって色々ルールとかいうか『制約』みたいなのがこーゆー儀式めいたのって、厳密にはありそうだし。帆乃香たちの方が詳しいだろうから、あっちに聞いたりしてまずは要調査ってところだな。自分で自分を選択できないのなら、誰かにやってもらうって話になるかもしれねーし」

『まず当然のように自分を対象とするって発想を出すの止めてよ、アンタ。洒落になってないから……』

「いやでも、一応不死身だし」

『不死身って言ったって無敵じゃないでしょ?』

「とはいえわざわざウィルスとか使ってくる話でもないだろうって予想は、ないわけじゃねーんだけど……」

『とにかく、それはダメっていうか。まずアンタの妹たち含めて色々調べてからにしましょう。それだったら明日放課後は、私も一緒に回るから』

 

 有無を言わせず通話アプリを切るキリヱ。あちらもあちらで、私の「痛いのは嫌だ」というのに気を遣ってくれているのかもしれない。とはいえこちらも、それを投げ捨ててキリヱに無駄な周回をさせまいという意思やら意図やらもあるので、そのバランス感覚は何とも言えないところだ。

 さて、そうなると…………。色々と考えなくてはいけないが、まずサヨコさんこと水無瀬小夜子の呼び出し場所、例の七不思議に数えられるその場所がどこなのかということを考えなければいけないわけだが。

 

「このあたりは春日美空に聞くのが一番手っ取り早いのだろうか。少なくとも噂のもとになった校舎がどのあたりに存在するかくらいは判ると思うのだが……、ん?」

 

 そんなことをつらつら考え始めたタイミングで、ちょうど携帯端末が震える。半透明のパネルをタップして確認すれば、相手は雪姫だった。

 

「ガバの匂いしかしないのだが……、しないのだが…………」

 

 原作から推察するにこんなタイミングで電話がかかってくることはなかったはずなので、もはや間違い様もなく何かしらのガバ波及そのものなのだが、とりあえず通話ボタンを押すと、何故か慌てたような声が聞こえた。

 

『お、おぉ!? と、刀太か、思ったより出るのが早かったな……』

「今さっきまで電話してたんで。で、何だよ。……っていうか今、どこにいるんだ? なんか後ろで銃撃音みたいなのがめっちゃしてるけど」

『あー、古い友達とちょっと、な?』

 

 ひょっとしなくとも龍宮隊長こと学園長代理のことだろうか。「ネギま!」において銃使いであり、雪姫ことエヴァンジェリンが「古い友達」とあえて形容する相手など、そう多くはないだろう。

 というよりも、それだけ銃をぶっぱなして問題がない場所……、ひょっとして日本国外かどこかに行ってるのだろうか。原作「UQホルダー」においてはどうだったかは定かではないが、意外とこちらの雪姫は色々忙しそうにしているので、何か知らない間に別な仕事を受けて動いているとか言われても不思議はない気がする。

 もっとも追及されるのを嫌がってなのか、前置きなしに話題を戻す雪姫であるが……。

 

『……いや、用件自体は大した話ではないんだが。

 さっきお前の「生みの親」から「なんや、ちゃんとお兄ちゃんできる感じに育ってるやん! さっすがお爺様のお師匠さんやな~、エヴァちゃん!」と世間話のような電話がかかってきてな。一瞬だけチラっと邂逅したみたいなことを言ってたから、どうなったかと思って確認がてら、だ』

「確認がてら…………、変にダメージを受けたりしてないか的なやつってことか?」

『まぁ、そんなところだ』

 

 どうやら近衛野乃香から電話がいったらしい。別に雪姫相手にそういった出生の秘密などを強引に問い詰めたりしていなかったが、いずれ話すと言った手前、色々と私の心境を想像して心配したのだろう。別に「雪姫の前では」そういった自分自身の存在について色々と疑念を抱いたり錯乱したりといったことはなかったはずなのだが、伊達に私のカアちゃんをやっていない。もっとも直近でダメージを受けたのはもっと別な事なので、このあたりは一発で気付いてくる夏凜がやはり頭おかしいんじゃないだろうか(偏見)。

 というかあの時、若い頃の月詠のような少女とともにいた彼女がやはり近衛野乃香だったか…………、帆乃香の写真でほぼ確信は抱いていたが、完全に近衛木乃香(このちゃん)の生き写しそのものというかだったので、やっぱりクローン技術か何か用いてたりするのだろうか。業が深い(絶句)。

 

「えっと…………、いや、別に大したことはねぇって。不死身衆(ナンバーズ)になる前とかも色々あってまー、生まれについて何かあるってのは察してたし。そこからまー、色々知ってさ。……でも別に、それでカアちゃんの何かがかわるって訳でもねーだろ? 大体、えっと……、の、野乃香『お母さん』と会ったっていっても、本当に一瞬ちらっと顔合わせした程度ですぐ終わったし。挨拶だってロクにしてねーよ」

『それはそれでどうなんだお前……。

 いや、別にあの「のーたりん」についてどうこうという事ではないが、一般的な話としてだなぁ。

 カアちゃん、お前がそんなテキトーな風に筋を通す男だとは思ってな――――』

「いや、だってこうさぁ、そもそも帆乃香たちに拉致られたみてーなもんだし……、時間もクソもあったもんじゃねぇって、今度会う機会があったら、ちゃんとするしッ!」

『帆乃香?

 ……、嗚呼「69番」たちか』

 

 ちょっと待て、ポロっと零すにしても色々と状況が悪すぎるぞこのカアちゃん!? 絶対それ今、私が聞いたらまずい情報だろアンタそれ! 既にもうキリヱからして今回は原作乖離度的な意味で酷いことになってるんだから、少しはこの出来た息子相手に気を遣えやババァ!(命知らず)

 69? と問い返すと慌てたように「い、いや、何でもないが」と取り繕いきれない返事をする雪姫。……これってどう考えてもカトラスなどと同様のナンバリング――――「ネギ・スプリングフィールド複製計画」めいたアレのラベリングの数なのでは? つまり……、どういうことだ? とりあえず何だよとだけ問い返すも、しどろもどろする雪姫である。

 

『いや、本当に何でもないからそれは……、ってお前、私のことは「カアちゃん」で野乃香のことは「お母さん」なんだな。ふーん…………』

「な、何ッスかね?」

『いや、まー、見た目だけは綺麗だからなぁ、あのアホは。

 母親じゃなければ割と好きだからなぁお前、あーゆーの』

「いや別にそんなことは――――」

『だってお前、髪が長くて胸が大きくて背がそこそこ高くて美人で、あとふんわり包み込んでくれるみたいな優しい感じが良いんだろう? 好みのタイプ』

「――――――――」

 

 ――――――――。

 

 ハッ!? 一瞬頭が真っ白になっていた。

 

「い、いや、あ、あのッスね、ここ、こ、好みのタイプとか、えっと、なんで――――」

『熊本の頃、私が「中学時代」の写真を整理してた時に、お前が釘付けになってた女がそんなタイプだったからな。黒髪だし、水着姿だからスタイルの良さは浮彫りだったしなー? んんー?』

「オゥマイガッシュッ!!?」

 

 思わず地団太を踏んでしまった。いや、確かに熊本時代に部屋の片づけをしてた時、雪姫が棚を崩した際に出て来た写真アルバムを「懐かしいなぁ」とか言って色々いじってはいたが。その中でおそらく某朝倉女史が撮影したと思われる、佐々木まき絵とかといっしょにアイスクリームを食べるスクール水着姿の大河内アキラの姿についつい目が吸い寄せられてしまう時はあったが……。

 

『これでもお前のカアちゃんだからな。それくらいは見てればわかるさ……っと、ちょっと待ってろ?

 リク・ラク・ラ・ラック・ライラック――――オムニア・イン・(閉じよ!)マグニフィケ・カルケレ(全てのものを)グラキエーイ・インクルーディテ(妙なる氷河の牢の内に)――――! 』

 

 おぉ完全詠唱である。何の魔法だがは忘れたが、聞く限り氷雪系の技ではあるはずだ。しかし彼女もまた魔法アプリの恩恵にあずかっているため、こういった詠唱はほとんど原作で使われなかったはずである。一体何が……、別に少年漫画的文法(OSRポイントバトル)に宗旨替えしたわけでもあるまいに。

 というか電話の先で雪姫の「“こおるせかい”でも片付かないかッ」とか「基礎値だけなら刀太以上だな」とか、あと隊長の「魔族の血と『アレ』では親和性が高すぎるな」とか「さすが我が娘」とか流石にそろそろ聞き捨てられないレベルの台詞がポンポン出てきているのは、さっきからホントどうにかしろ。(戒め)

 

「あー、ひょっとして今、忙しい?」

『んんっ! ま、まぁな。…………、とはいえこっちの都合だから、お前を置いて優先しない程の話じゃないよ』

「いや聞く限り俺と話すより優先するべきじゃねぇのっ!? ちょっと、そっちで銃撃ってる人、大変そうなやつだって絶対!」

『何、このくらいの修羅場は問題がないやつだ……、金さえ払えば』

「俺ぁカアちゃんが、そんな核戦争後の世紀末住人みてぇなこと言うなんて悲しいぜょ……」

『そもそも今現在ですら、マフィアの大ボスみたいなものだがな。

 おまけにアマノミハシラ周辺のスラム含めて、ヤクザ者共と抗争にあけくれた時代とかもあったし――――あー、で何だっけ? 夏凜をポニーテールにしてビキニを着せるって話だっけ』

「全然違ぇよ!」

『ほう? じゃあ九郎丸の胸を――――』

「その話から少し離れろやこの馬鹿カアちゃん! カアちゃんのお馬鹿!」

『オイオイ、親に向かって馬鹿はないだろ馬鹿は。というかお前の方がよっぽど馬鹿だ――――(リク・ラク・ラ・ラック・ライラック――――!)、っと、よっぽど馬鹿だろ。ボディソープとシャンプーを間違えて頭からかぶるし、部屋の壁が薄いって言うのに映画の主題歌を全力で熱唱したりして後で私が聞いてるのに気付いて恥ずかしがったり、紅茶のお上品な淹れ方としてポットを上げる奴をやろうとして失敗して中身全部零すし――――』

「過去のことを思っちゃダメだよ(震え声)。

 っていうか、あー、まぁ大丈夫だからこっちは。あんま無理しねーようにな?」

『そうか。……まあ、何かあったら電話してこい? 大体はこっちで受け持ってやれるから』

 

 というか通話アプリ片手に魔法詠唱を連発し始めてる雰囲気があって、なんでそんなタイミングで電話をかけてきたのだと思わなくもないのだが……、ともあれそんな風に切れた電話で、ふと思い出す。

 

「そーいえば、『研究所の』方の両親の写真の話はしなかったが……、いや、しなくて正解か?」

 

 少年漫画的文法(OSRポイントバトル)的フラグ管理でいうと間違いなく死亡フラグ的なそれだったかとか思い、これはこれでガバ回避につながったかと自問自答して納得した。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 そして翌日のこと。

 

「――――ダイゴくんが最近元気がないのは、貴方のせいですね! 私と勝負しなさいッ!」

 

「――――――――」

「お姉さん、どなたなん?」「私も知りません……」

 

 放課後、帆乃香たちと少し話をしながらの移動途中。人の行き来が「突然消えた」かと思うと、ちょっと独特な形状をしたツーサイドアップな髪をした赤毛の少女が、パクティオーカードを構えて私に吠えた。

 …………えっと、容姿からして「ネギま!」でおなじみ佐倉愛衣の親族さんですね分かります(そっくり)。

 

 

 

 

 




アンケの予定は今の所以下のイメージです。(締日予定:9月上旬)
 雪姫:ネギぼーずとネオパクしてトラウマを刻まれる話
 九郎丸:熊本時代、お風呂が停電した時初好感度ガバの話
 夏凜:カリンと「あの方†」との過去話
 キリヱ:刀太のお嫁さん選手権!の話
 カトラス:幼少期、野乃香に色々教わった話


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ST79.死を祓え!:原作と原作のサラダボウル

毎度ご好評あざますですナ
また深夜投稿なんだ・・・本当に申し訳ない(AI葉加瀬)


ST79.Memento Mori:In Salad-Bow To Crash The History History

 

 

 

 

 

 三日目の行動方針はキリヱと電話した内容そのままなのだが、この場合にちょっと困ったのが三太の扱いである。いくらキリヱによるリカバリーが利くからといっても、そもそも三太を一人で放置するのは現時点において何かしらのフラグの可能性が高い。というより、これもある種のバタフライエフェクトめいたガバがどこかに潜んでいるのかもしれないと仮定した方が、情報の逃しがないだろう。

 とはいえ流石に二日連続で遊びに誘うのも色々と問題がある。というより、追跡を喰らった場合に近衛姉妹がそのままふたたび敵に回ると考えると、色々と厄介な話だ。多少なりとも気を遣ったりすれば捕縛される可能性が高く、だからといって全力で逃走すればそれこそ「一等生徒どころの騒ぎじゃない」という話が出て来るような気もする。一進一退、その手をとるのが難しいのだ。

 

「とはいえ、どーしようもねぇんだけどなぁ……」

「トイレのサヨコさん探し、をするんだよね。でも確かに難しいよね、僕が三太君と一緒に遊ぶと言っても、そこまで仲良くはなってないし。刀太君はなんかすんなりだったけど……」

「まー年は近ぇから、勘所みてーなのはわかるっていうか」

 

 そもそも視線恐怖症、対人恐怖症まではいかないまでもそれに近い接触に関する恐怖心があるだけで、三太本人の気質は割と前向きというか、まともな精神構造をしていたりする。原作的にも闇堕ちした後、自力で光堕ちできるくらいだ。途中の葛藤や自身でもどうしようもない感情の行き所を前に向けられるというのは、それだけで間違いない「お人よし」のそれだ。

 

『「儀典・英雄一代」のコミカライズ版は中々出来が良かったって思うけど……、単行本の刊行速度が頭おかしすぎて笑ったわ。二月に一冊は出てたぞ、なんだアレ……』

『いや、「P・A・L☆コミックマスター」(※漫画家)がスタジオ製で漫画書いてるって説は未だに有力だろ。あ、コミマスの話で言ったらこの前アニメ化された――――』

 

 なので要は、お互いの会話のとっつき所さえ探れてしまえば、なぁなぁで話し合うことは出来るようになるといったところだった。……会話の内容の大半がゲームだったりアニメだったりするのはどうなのかと思わなくもないが。九郎丸は置いてきぼりだったが、たしなむ程度の私に合わせて名作アニメ映画とかについてもそのテの知識なり何なりを尽くして話を盛り上げてくれるのは、正直言ってだいぶびっくりしたが。

 

 朝焼けを背景に、そんな相談を九郎丸としながら軽く肉弾戦の稽古まがいのことをしていた。流石に魔法関係の技術を下手に使うと何が起こるかわかったものではないので、このあたりは我慢である。とはいえ九郎丸は普通に神鳴流の技を併用してくるので、私も死天化壮の使用は必須なのだが。

 

「ま! なるよーにしかならねぇんだろうけどなぁ三太も」

 

 しかし、帰宅後早々に普通に打ち解けてる当たり、一緒に出歩いたのでそんなに印象が変わったのだろうか……? 否、普通に遊んでも大丈夫な相手、いじめてきたりするような気質ではないと察したのだろう。多少なりとも心を開いてくれてると言うのは色々助かるのだ(フラグ回収的にも)。

 

すっと屋上のドアが開き、中から三太がこちらに隠れるように顔を出した。

 

「…………朝飯作ったぞ、袋麺の」

「素ラーメン?」

「少しくらいは具材入れたよ。カニカマとか」

 

 まぁそのあたり元々彼自身のスキルを期待していなかった我々である。九郎丸と顔を見合わせ苦笑いを浮かべると「なんだよ、インスタント麺だって美味いだろッ!」とこちらに指をさしてわめかれた。その感想には同意なのだが、やっぱり昨日、一昨日に比べればだいぶ打ち解けてくれていた。

 

 その後「袋麺(※フライタイプ、味付き)は砕いてお湯に入れたらすぐスプーンで食べるものだろ」とコーンフレークじみた食べ方を推奨してきた三太に唖然とする九郎丸と、そんな彼女のどんぶりにラー油だの何だのを色々足して適当に味付けして遊ぶ私だったが、それはともかく。

 

「調べものって、何を調べてーんだ? トータ」

「七不思議! 旧麻帆良学園時代からのそういった情報を色々集めてぇところなんだけど…………」

 

 本日の予定について話していたのを少し聞かれていたらしく、放課後何をするのかとのを聞いてきた三太。直接ではないが誤魔化しつつ話をすすめているが、九郎丸の方をちらりと見ると「イタリアン風? 醤油味なのに……」と不思議そうに砕いたラーメンを食べていた。原作的に割と考えてることが「近衛刀太」以上に出やすい九郎丸だが、話を聞いているのかいないのか、食事に集中して動揺が出ていないようでなによりだ。

 

「えーっと何だっけ? 学園長はとりあえず来週にならないと帰って来ねぇらしいから、そっちから辿るのは難し目だと。教職員関係も流石にけっこう入れ替えが激しいだろうし、そうなると古いOBOGから辿るのが正解かって思ってる」

「古いOBOGって誰だよ……、誰か心当たりあんのか? まあここの学園都市って割と人数多そうだけど、アマノミハシラになる前からってなると相当じゃね?」

「というわけで、何か知らねーかと思って相談してるってハナシよな! 『先輩』!」

「先輩!?」

 

 れんげを丼に落とす三太。ここに入学した人間(?)としては我々よりも先なので当然こういう場合は先輩と表現するのが正しいのだが、どうやら言われ慣れてない呼び方に戸惑っているらしい。とは言え「よ、よーし!」と気合を入れ直して立ち上がり、特撮ヒーローの変身ポーズ風なものをとった。

 

「そーゆーことなら任せとけ! このグレイトデリシャス三太様が、ばっちり相談に乗ってやるぜぃ!」

「グレイトデリシャス……」

「グレイトデリシャス?」

 

 少しばかり「初期段階中二病センス(オサレ)」の片鱗を見て何とも言えない表情になる私と、純粋に意味が分かっていないような九郎丸だった。九郎丸、意外と凝ったネーミングとかデザインとかは理解があるが、こういう風にストレートな中二病的なネーミングはあまり理解がないらしい。

 と、早々に座って「っていうかまず大前提なんだが」と話を切り出す三太。

 

「図書館探検部って知ってるか?」

「こっちに来る前、噂話くらいでは聞いたなぁ……。図書館島だっけ」

「図書館島?」

 

 不思議そうな表情の九郎丸に、ざっくりと原作知識を交えない程度に概要説明。「ネギま!」時代から登場する図書館島は、麻帆良湖(現在もこの名前)に浮かぶ明治の頃から存在しているらしい図書「迷宮」である。収容されている本は数知れず、地上階はともかく地下には魔法関係の書籍を含め多くのものが点在している。もっともその書籍の重要度の関係か非常にトラップが多く、またあまりに広大すぎるその内部を探索するために、全校合同部活動として「図書館探検部」が存在するくらいなのだ。

 もっとも、その大きさからギネス登録など普通は確実なのだが、魔法的なアレやコレやのお陰でその詳細は秘匿されていたのだが。現代においてはアマノミハシラ学園七不思議のひとつ「いつの間にか本が増えてる図書館」として語られていたりする。

 

 一応は都市伝説扱いであり、現在も「表向き」一般開放されているのはごく一部の区画に限られているらしい。

 

「とりあえず調べものって言ったら、そっちに行った方が良いんじゃねーの? さすがにアソコなら何かあんだろ。噂じゃ新聞部が刊行してた内容のものまで全部残ってるらしいし」

「そこまでやってるんだろうかマジな話……。いや、まあ確かに学校の七不思議的なのって、アマノミハシラ学園都市の号外新聞とかでたまーにネタにしてるみたいだけど」

「なんでそんなこと知ってるの? 刀太君……」

「いや、妹たち情報」

 

 そもそも帆乃香がこの手の話に興味を持ったのが、学内新聞の番外コラムのようなものがきっかけだったらしい。……と、ここまで話してあの二人にも協力を仰ぐべきかと思った。というよりも帆乃香のことだから「そんな面白そうな話、うちら仲間外れにしたらあかんえ! いくで勇魚!」と二人そろって襲撃してくる気がする。ノリが良いというか元気が良いというか……、まだまだ可愛い盛りではあるのだろうが。

 まあそれ自体トラブルと言う程のトラブルではないが、昨日を踏まえると二人ともちょっと危なっかしいので、そういうフラグは出来た兄貴としては折っておくに限るのだ。(戒め)

 その話をすると、九郎丸は「そうだね」と首肯。三太はといえば、意外そうな顔で私を見て何度も頷いた。

 

「いや、でも確かに居ると言われると納得できる、のか?」

「何の話だ?」

「いや、何かオレとか相手に馴れ馴れしい訳でもねーんだけど、こう、あんま嫌な距離感じゃなかったっていうか……? いや、よくわかんねーけど、そんな感じがした」

「どっちかというと雪姫さま……、じゃなかった、雪姫さんのお陰かな? 刀太君の場合は」

 

 当然のようにそれは誰だという話になるので、義理の母だという話をした。詳細については語らなかったもの「トータも複雑なんだなー」と感心したような変な反応を返してくる三太であった。

 

 と言う訳で、本日は放課後、場所を教えて集合としたかったが「門で待っとるから迎え来て♡」とメッセージを送ってきた妹ちゃんであるからして、このくらいはまだ可愛い部類のワガママかと聖ウルスラ女学院の方に足を向けた。

 

 思えばこのあたりから、何か背後にヘンな感覚はあったのだ。あったのだが、普段致命傷やら何やらを負う時ほどの違和感というか危機感ではなかったので、一旦スルーすることにした。

 いかにもミッション系の学校ですと言わんばかりな大掛かりな建築の建物、その高い壁が続く門の入り口では、近衛姉妹、およびなぜかマコト(今日は制服姿)が待機していた。私に気付くと「お兄さまやー!」と両手をぶんぶん振って飛び跳ねる帆乃香、何も言わず目を閉じて首肯する勇魚、あと前髪をいじりはじめ顔を少し赤くするマコトという三点セット。うーん、原作における三太編をふまえればガバ以外何物でもないこの光景よ…………。

 

「あー、コンチャっす」

「お兄さま、ごきげんよぅや!」「はい」

「アハハ……、元気いっぱいっスね二人とも。はい、こんにちは」

 

 どうやら特に何かある訳ではなく、門のところで立っていたので気になって話しかけにきただけだったらしい。たまたま私が来たタイミングと被ったということらしいが……? いや、まあ嘘ではないだろうが何かしら作為を感じるようなそうでもないような。

 と、すぐさま私の右腕に抱き着く帆乃香と遠慮しがちに左手の袖を引く勇魚のコンビである。なんというか、初日にだいぶ一緒に遊び倒したせいか距離感がベッタベタだった。

 

「二人ともお兄ちゃん大好きッスねー、ちょっと微笑ましいけど妬けるッス」

「そりゃ、お兄さまちゃんと『お兄ちゃん』してくれるもん。なー? 勇魚」

「………………は、はい」

「なんで勇魚ちゃん反応遅れたッスか……?」

「照れてるんやー、勇魚むっつりやからなー」

「お、お姉様ッ!? 何をいってはるんっ!!?」

「動揺して口調乱れてんぞ勇魚……」

 

 せめて丁寧語を維持しておけ、私が過激派にくびりコロされかねない(このせつ)。

 

「でもマコトはんも、妬ける言うくらいなら抱き着いたらええやん。別に減るモンやないし」

「「えっ」」

 

 年上二人が困惑する中、堂々と言い放つ帆乃香。私たちの動揺に不思議そうな表情を浮かべるが、本当にコイツ十二、三歳くらいか……? 情緒がちょっと幼すぎる気がする。「私」の知る限りもうちょっと大人びているというかマセているものだと思うのだが、このくらいの年代は。

 なおマコトはといえば、もじもじと手をスカートの手前ですり合わせながら顔を赤らめている。

 

「えっと、そ、その……、今その、ジャージじゃないッスから恥ずかしいっていうか」

「いやジャージの方が露出度多くないッスかえ、マコトはん……?」

「お兄様、お嬢様の口調が移ってます」

「こー、なんって言うかアレっすよアレ! スイッチ切り替えてるんスよ! この格好だとこう、お嬢様モードみたいな感じで色々気恥ずかしいっていうかッ」

「スイッチねぇ……」

「なんか、人格変わるタイプの魔法少女みたいなこと言うてるなーマコトはん」

 

 コミマスの「魔法少女ビブリオン ユウバエ」の新キャラみたいやー、とか言っているが、こう、まあある種の戦闘服と考えるのならわからないではないか。スーツを着ると身が引き締まる、という感想があるような、そんなものだろう。

 

「もったいないわー、こんなものすっごいおっぱい強調されとんのに――――あいたッ」

 

 女子間でしか許されざるレベルのセクハラ発言は置いておいて……、一瞬脳裏に夏凜の「でも……、好きでしょ? 大っきいおっぱい」の声がエコーでリフレインしてるのを全力でスルーしながら(震え声)。いや確かに実際、ウルスラ制服でスタイル抜群な女子高生さんだったりするのでついつい目線が「そっちに」引き寄せられるのを頑張って逸らしているのだが、今の発言のせいでついつい視線が寄ってしまう。向こうもそれに気づいたらしく、胸元を隠して「あはは……」と照れ苦笑い。何だこの距離感(困惑)。

 

 もっともそれ以上の話はせず「じゃあまた週末? あたりでお願いするッス!」とマコトと別れた後。そう、丁度広場に差し掛かった時点で、三人とも周囲を見渡すことになった。

 

「あれ? なんやなんや、誰もいなくなっとる」

「人払いの結界……? お嬢様ッ」

 

 すぐさま収納アプリから刀を取り出し腰に構える勇魚。私は例によって黒棒を竹刀袋に入れて背負っているのだが、とはいえそこから「抜こう」という気が不思議と起きない。この戦闘直感めいた最近の私の第六感から考えるに、おそらく襲い掛かられる類のそれではないだろうと判断は出来るのだが。とはいえ以前の釘宮大伍による「一瞬だけ」襲撃するみたいなのに対する感覚を思い出すに、超近距離でいきなり攻撃とかされた場合はその限りではないという事だろう。

 

 果たして――――現れ出たのはツーサイドアップの少女。赤かオレンジ系の茶髪のツーサイドアップにそばかす少々。顔立ちは可愛らしく、スタイルも中学生基準(制服的に)で言えば良く背も高い。

 その見た目に複数の既視感を覚えていると、彼女はどこからか一枚のカード、パクティオーカードを取り出して私たち三人、というより私に向けて叫んだ。

 

 

 

「近衛刀太()、ダイゴくんが最近元気がないのは貴方のせいですね! 私と勝負しなさいッ! 浦島流柔術正当継承者『成瀬川ちづ』が相手になります!」

 

 

 

「――――――――」

「お姉さん、どなたなん?」「私も知りません……」

 

 いや名前間違ってるしとツッコミを入れたいのは山々なのだが、名乗りとその見た目と、あとパクティオーカードとか色々と情報量が多すぎて思わず頭がパンクしてしまった。

 

 えっと、容姿からして「ネギま!」でおなじみ佐倉愛衣の親族さんですね分かります(そっくり)。おまけにその苗字と浦島流柔術とかいう「ラブひな」関係者を匂わせる発言、およびダイゴ……、おそらく釘宮大伍だろうが、なんというかこう、やっぱり情報量多いわ! 少しは加減しろ貴様ァッ!(逆ギレ)

 

 

 

 

 




アンケの予定は今の所以下のイメージです。(締日予定:9月上旬)
 雪姫:ネギぼーずとネオパクしてトラウマを刻まれる話
 九郎丸:熊本時代、お風呂が停電した時初好感度ガバの話
 夏凜:カリンと「あの方†」との過去話
 キリヱ:刀太のお嫁さん選手権!の話
 カトラス:幼少期、野乃香に色々教わった話


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ST80.死を祓え!:吸血鬼も恐れる情念の墓場

毎度ご好評、あざますですナ
彼女については本作ではこんな感じの扱いです汗


ST80.Memento Mori:The Shambles That Even Draculas Fear

 

 

 

 

 

 佐倉愛衣というと、同作者による「ラブひな」青山素子≒「ネギま!」大河内アキラ≒「ネギま!」釘宮円のようなスターシステム的関係にあるキャラクターである。「ラブひな」について詳細に語るのは作品ジャンルが異なるため言及は避けるが、こちらでも「UQホルダー」結城忍≒「ラブひな」前原しのぶといったような関係にあったりする。そこを行くと佐倉愛衣に関しては、「ラブひな」におけるヒロインの妹「成瀬川メイ」とビジュアルを共通とするキャラクターなので、こちらも(近しい)として結ぶことが出来るかもしれない。

 ただ彼女に関しては扱いがやや特殊な部分もあり(そもそもアニメでの登場→原作エピロ-グというか後日談というかでの経歴変更登場)、「ネギま!」ファンの間ではひっそり同一人物説がささやかれていたりもした。この辺りは「ラブひな」と「ネギま!」が連載的に近いこと、同人物の誕生日が前作キャラクターのプロフィールから「ネギま!」での女子中学生と同年代の可能性があったこと、ビジュアルがそのままなこと(このあたりは意図的な流用の可能性も高いが)、なにより「ラブひな」において「京都神鳴流」と真っ向から対立していた疑惑(甘食屋のはずだが……)の上に「妖刀ひな」すら強奪した疑惑がある「浦島家」と殴りあったり(?)する程度には非常識な描写が多かったりする(断言)。血筋に魔法関係者がいても不思議ではないというファン目線のメタ的なアレ(ラブコメである点を無視する)な、半ば冗談交じりのそれもあったりはしたが、ともかく。結論からいえば描写上は実家が魔法世界にあるとのことで、おそらくは違うだろうというのが曖昧に想像される程度に落ち着いてはいたが……?

 

「さぁ、勝負なさい!」

「どぉっちだ………………?」

「はいっ?」

 

 私の発した一言に困惑の表情を浮かべる彼女、成瀬川ちづに私としてはリアクションがとれずにいた。

 苗字および浦島流柔術を流派として名乗っていた以上、彼女には「ラブひな」における「成瀬川」の血が流れている可能性がある。そもそも佐倉の方と成瀬川の方とでは容姿がほぼ同一なので分類は難しいが。しかし魔法関係者、かつ釘宮大伍――――「犬上小太郎」の孫と関係があると踏まえると、この部分にもさらにツッコミどころがある。なにせ佐倉愛衣、原作においては「コタローくん」と少しだけフラグめいたものがあったりするのだ。最終的にそのフラグは後日談描写からすると折れた可能性が高いが、とはいえ釘宮大伍という前例がある。

 釘宮大伍という名前とて、その苗字である釘宮……、おそらく「ネギま!」の釘宮円に由来するのだろうが。その彼女に至ってはフラグが折れた後も好みの男性のタイプがコタローくん(大人版)で固定されていたりするので、まぁ性癖をこじらせたのだろう(棚上)。とすると、つまりは双方の家の孫と考えるのが自然であり……、必然、成瀬川ちづにしてもそれが言える。というかひょっとしなくとも、彼女の名付け親が祖母だったりするともはや高確率で血縁確定だろう。「ネギま!」において、釘宮大伍の祖母にあたる「だろう」人物は、かつてルームメイトを「ちづ姐」と呼んで慕っていたのだから。後そばかすが血筋に由来すると仮定すると、既に九分九厘推測は外れていないだろうが。

 

 というか本当に情報量が多いわ! 手心というか手加減少しくらいお願いしても良いでしょうかねぇ……!(???「そこでハーレム展開も想定してんのか、誰の子供同士が結ばれて的なことを言わない辺り、色々わかってるじゃないかアンタ」)

 

「というかえっと、勝負って何ッスかね? 俺達、今忙しいんスけど」

「へ? あ、その、とりあえずインパクトのある登場を狙ってみただけだったんですけど…………、今日が無理というなら明日とか明後日とかでも大丈夫ですしっ」

 

 とりあえず半眼で適当に返すと、はっとした表情になって急に慌てだす成瀬川ちづ。ひょっとすると異性相手に話すのは苦手なんだろうか、少し照れたように目線を合わせようとしない。

 

「と、とにもかくにも勝負です! 勝負してください! 近衛刀太郎君!」

「なんか締まらへんな、あの人」「そ、その……、あはは…………」

「ななな、何ですかその生温かい目は! これでも生徒会の書記ですから! 貴女たちより偉いんですからね!」

 

 カードを仕舞いながらご立腹の様子だが、どうにも慣れていないことをしている感が拭えない………。見ていて可哀想になる(上から目線)。というか生徒会役員だというのなら、決闘まがいのことを誘引するような発言などしても良いのだろうか。原作およびこの世界でも、学内での決闘騒ぎはご法度で自警団による連行確定だったはずだが。

 その旨を聞いてみると「そんなの当たり前じゃないですか?」と不思議そうに頭を傾げてきた。何故かは知らないが解せぬ。

 

「勝負と言っても別に殴り合いとか、そういったことはしません。当然至()、生徒の模範となるべき生徒会役員がそんなことしてたら後ろ指さされちゃいますし、あんまり無茶苦茶やると会長からこってり絞られちゃいますし、ダイゴくんに怒られちゃうし……」

「最後のやつがメイン理由とかじゃないッスかね(デリカシーゼロ)」

「う、煩いですねっ! ですから、活動をするならば一挙両()を狙うのです! ――――この学園の魔力溜まり、『妖魔』が大量発生している場所が多数あるので、その殲滅戦に参加してください!」

 

 功績として活動には報酬が振り込まれます! と得意げな彼女だが、とはいえ待って欲しい。ポケットに手を突っ込んで、ニヤニヤ笑いながらチンピラ風な感じにして。

 

「正直ずっと忙しいんスけど、それでも参加しろって話なんスかー?(煽り)」

「お、お兄様ッ!?」「なんでそんな急に柄悪いん……?」

「ええっ!? べ、別に一日くらいお時間をとって頂いても問題ないのではと思ったんですが、難しい……?」

 

 なんだろうこのそこはかとなく漂う独特なオーラというか……、ついつい弄ってしまいたくなる楽しさみたいなものがあった。

 というかこちらの反応に対していちいちビクビクしすぎなので、やっぱり素はもっと静かなタイプというか、高圧的とか攻撃的な振る舞いが苦手な子なんだろう。とりあえず怖がらせておくのも可哀そうなので、居住まいを正してから確認をする。

 

「…………まぁ絶対無理って訳でもないッスけど、えっと、それって所謂『裏魔法委員会』の活動的なやつッスよね」

「へ? あっハイ。一応、貴方ふくめて転校生三人は『関係者』ということなので、こちらの裁量で多少ヘルプを頼んでも良いということになっています」

「ヘルプ……? あれ? それってつまり、えっと、『裏魔法委員会』の警備活動とかでの報酬支払はアンタの方に振り込まれて、そこから俺の分の報酬を出すって話?」

「そうですね。流石に一日二日で手続きは終わりませんから。……あっ! 勝っても負けても当然、全額お渡ししますのでそこはご安心を。自己()合、私の一存で無理に参加してもらうんですから、そこはご安心をです」

 

 ご安心をと言われても……。別にその漂う雰囲気から、約束を破って報酬支払ナシとかを懸念している訳ではないのだが、行動に前後考えなしでやっている感が強いというか、感情のまま勢いで来てしまってる感と言うか……。

 

「書記の人、ぽんこつはんやなぁ~」

 

 帆乃香のニコニコ笑顔が私の感想をまとめていた。「ぽ、ぽんこつゥ!?」と顔を真っ赤にして慌ててる感じが可愛らしいのはともかくとして、大体勝負といいつつ私が負けた場合に負うペナルティみたいなことも話さず、受けた場合の報酬ばっかり率先して話してるし……。人が良いのも手伝ってるのだろうが、こう、なんというか。私のガバでは7:3くらいであり得ないだろうことを踏まえると、ちょっと癒されるものがあった。

 らちがあかないのでペナルティについて確認すると、深呼吸してからこちらを見て。

 

「だ、ダイゴくんに謝ってもらいます」

「…………、あー、いや、別にそれくらいなら勝負しなくても問題ないんスけど」

「ええっ!?」

「色々忙しいのは事実なんで手早く終わらしてーってのと、まぁ謝るだけの理由は無いわけでもないんで」

 

 実際、釘宮大伍が「ネギま!」的な理由で被った過去の修行漬けを考えると、筋は違うのだがその上で謝っておくのは間違っていない話なので、私としても大して問題がある訳ではなかった。

 とはいえ両隣の帆乃香&勇魚の事情を知らない故の不思議そうな表情はともかく、私の一言で頭の中が真っ白になってしまったらしい彼女の「へちょむくれた」顔は何とも言えないものがあったのだが。

 

「――――――――」

「書記はん、アカンえ! 年頃の女の子がしたらアカン感じの間の抜けた表情になっとる!」

「――――ハッ、べ、別にこれくらいで勝ったと思わないでくださいねッ!」

「謎ツンデレ止めろ……」

 

 かませ臭が漂って来てこちらの涙を誘い始めるのでそれはイケナイ(断言)。

 そして慌てた彼女が私たちに指をつきつけながら再びパクティオーカードを手に、何やら召喚しようとするが――――。

 

 

 

 

「――――犬上流獣奏術・狗音ノ風(くおんストーム)

 

 

 

 我々の周囲数か所に、真っ黒な矢が放たれ。それらが途中で大型の狼のようなシルエットに変化し、それぞれの箇所で何かを「噛み千切った」。狗神と思われるそれらも姿を消すのと同時に周囲に人の気配が戻ってくる。

 きょろきょろびっくりした様子で周囲を見回す勇魚と「戻ったわー」とマイペースな帆乃香、そして「こ、この狗神は……!」と自分の身を抱えて震える成瀬川ちづ。

 

「…………学校で『ウチの流派』の人払い結界を立てるのは止めるんだ、ちづ。傷がつくほど名門って訳じゃないけど、豪徳寺さんあたりに見つかったら面倒になる」

「だ、ダイゴくん……ッ!」

 

 そして私たちの後方から歩いてきたのは、例によってニット帽に眼鏡姿の釘宮大伍。その手にはアーティファクトらしい例の朱色弓が握られており、疲れたようにため息をついていた。

 ちらりと私たちの方を見ると、こちらの苦笑いを受けてかおおよそ相手から絡んできたことには察しが付いたらしい。ため息をついて「帰るよ」と言った。

 

「か、帰るよって……、私、まだお話の途中というか――――」

「あー、何か色々スマン。筋は違うだろうけど、一応こっちの爺さん絡みらしいから」

「話途中ぅううっ!」

 

 成瀬川ちづの台詞途中で被せるように釘宮に頭を下げると、こちらのやり取りを見て完全に事情を察したらしく、肩を落としてさっきより深いため息をついた。「今回」での我々については共闘した歴史が存在しないことになっているので、実質的にまともな会話はこれが初になるともいえる。挨拶は大事。

 もっとも向こうも向こうで、私の両側に絡んでいる帆乃香と勇魚を見て引きつった笑みを浮かべた。

 

「…………まあ、筋は違うけれども受け取っておくよ。俺もあの時は少し大人げなかったし」

「言うて中学生だし、それくらいはどうとでもって話だろーけどな」

「違いない。……君も君で、何か色々大変そうだっていうのは学園長の話しぶりで察してるから、あんまり気にせずとも構わない、近衛」

「恩に着るぜ、釘宮」

 

「おおー、お兄さま男の子同士っぽい会話しとる! ライバルっぽいやつや!」

「お嬢様、その感想はいかがなものかと……」

「わ、私関係ない所で話終わっちゃったー!?」

 

 成瀬川ちづ、涙目である。もっともそんな彼女のリアクションを見て少し楽しそうに目が細まってるので、釘宮の方も半ば確信犯で彼女をいじっていると見えた。

 

「……で、状況はなんとなくわかったような気もするけれど。どういう経緯でこうなったんだ? 俺も『突然事前予告のなかった結界が張られている』と通報を受けて来たところなんだけど――――」

 

「――――ええ、私が通報しました」

「いきなり現れてハグしてくるの止めてもらっていいっスかね……」

 

 そしていつの間にやら背後に現れた夏凜であった。例によっていつものように(いつものようにと言うのが色々心苦しいが)後ろから抱きしめる形でぬっと出て来て、耳元に息がかかって色々とくすぐったい。

 と、帆乃香たちも直前まで気づかなかったのか「わあ!」「なっ!」と夏凜の登場に驚いて傍から離れた。

 

「えぇっと、夏凜ちゃんさんは何でこっちに……、耳元に息吹きかけて遊ぶの止めろ!」

「あら失礼。……って、別に大した話ではないわ。マコトが刀太と話すのに緊張するからアドバイスをくださいと通話してきたので、アドバイスしつつ様子を伺っていたのよ」

「まさかの監視の目が二つだった件…………」

「距離的に人払いの結界圏には入らなかったみたいだったけど、わざわざ『私が壊そうとする』と大掛かりなことになりかねないもの。ここは専門の人に連絡させてもらったわ」

 

 その連絡のツテは一体どこから……、って、もしかしなくても伊達マコトですねわかります(関係者)。どうやら私が知らないところで自警団のあの人とは変に仲良くなっているらしいし、そういった情報程度は入手するのも訳ないか。

 というか一体何故いまだにハグを止めないのかというと「牽制かしら。意味は無かったみたいだけれど」と言いながら、私の腰から手を放すつもりはないらしい。

 

 わなわなして言葉が続かないらしい成瀬川に代わり、おおよそを適当に釘宮に説明する。

 

「…………なるほど。なんというか……、そういうことを考えるならまず俺に一言いってからにしろって。ちづ、ポンコツなんだから」

「何言ってるのよダイゴくんっ!? わ、私の方が年上なんだからねっ! お姉さんの方がしっかりしてるんだから!」

「年上といっても半年だけだが。……大体、別に俺はそんな恨んだりしていないって言ったじゃないか。一族に対してはともかく、個人に対してそういう考え方をするのは少し筋違いというか、マナーがなっていないというか。そもそも結界の規模もこんな大規模にする必要性はないし、一体どういった意図で……」

「そ、それは別に、大した意味はなくって――――」

「インパクト狙いみたいなことは言ってたんで、たぶん『私はこんなに凄いんだゾッ!』ってアピールしてこっちを心理的に屈服させようとしていた的な感じじゃね? 全然慣れてない感じだったけど」

「嗚呼…………、まぁ、いつもこんな感じだから」

「それはなんとなく察した」

「波状連鎖()撃!? ダイゴくんはどっちの味方なのよー! 私たち、血を分けた家族じゃない!」

「従兄妹ってだけだけど。他に何か?」

「……………………(昔、大きくなったら結婚するって言ってたくせにっ)」

「?」

 

 ボソッと何か言っていた成瀬川ちづだが、釘宮には聞こえなかったのか半眼のまま首を傾げている。それを見て顔を真っ赤にして怒った風であるが、こーゆーのは大体何かしらのガバに違いないので(経験則)、きっとおそらく何かコッテコテのラブコメみたいな内容が待ち受けているのだろう。とするなら、案外この子がいたから釘宮が私を恨んでいないという結論に至っている可能性もある気がしてきた。特に何かあるわけではないが、両手を合わせて内心感謝の気持ちで拝んでおこう。(キリヱ大明神にも)

 そして後ろで「もっとストレートに好意は伝えるべきでしょうね、察して察してと齟齬を積み重ねるのは危険です」とか言ってる夏凜である。貴女割と自分の考えを念頭に置いて相手の話を聞かず棚上げして強行してるところあるので、どっちもどっちでは?(真実)

 私の内心を察してか抱きしめる力が急にキツくなった夏凜は置いておいて、涙目になりながら釘宮に指をさす彼女だった。

 

「もう、ダイゴくんなんか知らないんだからッ! ばーか! ばーか! ダイゴくんなんて、普通に良い企業に就職して可愛いお嫁さんもらって休日は家族旅行とか凄い気を配ったりしながら子沢山孫沢山になって皆に囲まれながら天寿全うして死んじゃえばいいのよーっ!」

「お上品やなー」「罵倒に育ちの良さが出てやがる…………」「後半は自分の希望も混じってそうね」

「アップル・リップル・パフェ・サンデー ――――浦島流・龍牙天!」

 

 言いながら柔道らしからぬ投球フォームめいた構えをすると、そこから右手のスナップを利かせて「真っ黒な」衝撃波を放ってきた。そのまま全力疾走で逃げを決める彼女。

 ため息をつくと釘宮はそれを「素手でつかみ取り」(!)、地面に叩きつける。と、気の抜けるような音を上げながら煙をたて、子犬サイズの狗神が姿を現し消えていった。成程、狗神との合わせ技といったところだろうか。

 

 それはそうとその魔法始動キーは一体…………。

 

「あぁ……、何と言うか済まない。ウチの従兄妹が」

「ハハ、アレはアレで良い所もありそうだし、別に気にしちゃいねーけど。さっきも言ったけど」

 

 ふむ、ふむと。そんな私と釘宮のやり取りを見て、夏凜が謎の頷きを見せてくる。と、私にそっと耳打ちしてきた。

 

「…………腕はここの魔法生徒の中でも、飛びぬけているように見えますね」

「あー? まぁ、流派と言うかご実家的に納得な感じではあるッスけど」

 

「そういうことでしたら、彼にも捜索の協力を仰いでみてはどうかしら。貴方としても、付き合いが気楽のようだし」

 

 その台詞には思わず苦笑いが浮かんでしまい……、そして「ところで君たちはいつまでベタベタしてるんだ、公衆の面前で」の一言で、思い出したかのように離れてくれた。

 貴重なツッコミ枠……!(目から鱗)(???「まぁアンタもボケキャラだから、ねぇ……?」)

 

 

 

 

 

 




アンケの予定は今の所以下のイメージです。(締日予定:9月10日)
 雪姫:ネギぼーずとネオパクしてトラウマを刻まれる話
 九郎丸:熊本時代、お風呂が停電した時初好感度ガバの話
 夏凜:カリンと「あの方†」との過去話
 キリヱ:刀太のお嫁さん選手権!の話
 カトラス:幼少期、野乃香に色々教わった話


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ST81.死を祓え!:夢の跡で出会う

感想、ここ好き、お気に入り登録、誤字報告などなど毎度ありがとうございます。

本当は昨日夜予定でしたが、スミマセン遅れました汗 ようやくちょっと話が進むような・・・?


ST81.Memento Mori:meeT spiriT aT cemeT pasT

 

 

 

 

 

「そ、それでどうなったの……?」

「条件付きって感じだなー。あっちもあっちで色々忙しいみてーだし、お互いそんなに無理はしない方向でってことで、だな」

「そうなんだ……、えっと、僕も手伝う感じだよね」

「言ってはいねーけど、やってくれるとありがてーな」

「じゃあ、うん! 僕もやるよ!」

 

 協力を頼むと「僕、いつでも準備はできてるよ!」と嬉しそうに頷いてくれる九郎丸。なおその後ろで夏凜はこくこくと何かを納得したように頷いており、キリヱは「また知らないイベント起きてる……」と頭を抱えていた。

 場所は「ネギま!」でおなじみ図書館島、地下に向かう途中の階段。何から何まで全く原作通りというか、地上階だけでもかなり巨大な図書館となっていることにちょっと感動を覚える私であったが、入る時に少しトラブルがあった。どうやらここ自体に「学園結界」に類するタイプの結界が張られていたらしく、私だけ弾かれたのだ。もっとも幽霊の三太ですら通ってしまっているあたり、おそらく私を除外対象に設定した相手というか犯人の目星はついていたが。十中八九ニキティスだろうが、そんな彼の地味な嫌がらせを完全に無視して夏凜が何とかしてくれた。

 

『――――聖絶なる拳(ホーリー・ブロー)!』

 

 全身に神聖魔法を纏い放ったその一撃に結界には綺麗に「穴が開き」、それが自動修復される前に私を無理やり引っ張り入れたという流れである。あまりにあっさり片が付きすぎていたため、おそらく地下でニキティスも紅茶を噴き出すか呆然としていることだろう。

 というか改めて神聖魔法の常軌を逸した破壊力である。思わず夏凜に使い方を聞いてしまったくらいだ。もっとも彼女は私に苦笑い。

 

『そういえば貴方、吸収したのか使えるんだったかしら……。でも、使いこなすのは難しいかもしれないわね。これに必要なのは経典の理解もそうだけど、何より信仰力…………、祈祷力かしら? が試されるから』

『祈祷力』

 

 思えば様々なものに祈ってきた人生でした……(チャート崩壊ごとに)。その祈祷力ですら足りないほどのガバが発生している昨今、ひょっとしなくとも祈る対象がやはり違うというか問題があるのだろうか。でもキリヱ大明神とか師匠とかはご利益ありそうだし…………。(???「私はともかくその娘だって割とアンタと同類なくらいだってのにねぇ。同情はするが」)

 

「というより凄いよねー、ココ。『まほネット』でもアーカイブ化されていない情報がポンポン出て来るっていうか。流石にウチのオーナーが『あそこは魔境だぞ』と言うだけあるかな?」

「オーナーって……、飴屋先生ってここ以外でも教鞭を?」

「アハハ! 良い着眼点だけど、それに答える前にまず未来の不確定性について話さなければいけないかな。ちょっと長くなるよ?」

「何でそんな壮大な話になるんス……?」

 

 ちなみに三太に関しては、一空が積極的に話題を振ることで我々の話から気を逸らしてくれていた。最低限は防音用の術を使っている九郎丸だが、このあたりの抜かりなさと言うかは流石に情報機器関係に通じているからだろうか。ちらりとこちらを見て軽くウィンクしてくる一空教諭に半笑いで会釈しておいた。

 

 到着したのは地下4階。既に本棚でスペースがほぼほぼ埋まり切っており、また構成が独特なせいで地面の床が一部本棚そのものになっていたり、上の棚を確認するためには本棚と本棚を「踏み越えて」いかないといけなかったりと、原作通りとはいえすでに大分魔境めいている。

 ここは一般的な歴史関係の資料からローカル情報に加え、過去の麻帆良学園時代に各校で作成された連絡資料や旅のしおり、校内新聞など多岐にわたって保管されている場所になっている。もっとも持ち出し禁止で奥の方にコピー機やら机と椅子やらがあったりするので、ここはまだ所蔵倉庫よりも比較的図書館という構成に近いと言えた。

 

「お嬢様、来ましたよ」「あ、皆遅いやん! 待ちくたびれて喉乾いたわー」

「人が入り口で足止め喰らってるのを尻目に『一番乗りやー!』ってダッシュしたお前が悪い」

 

 机で(何年代か不明だが)卒業アルバムらしきものをぺらぺらめくって遊んでいる帆乃香とその後ろに立つ勇魚。こちらに気付いた反応として色々と我儘だったので、ぺしっとデコピンしておく。とはいえ下手に脱水症状にでもなられたらこまるので、他の面々に軽く聞いた。

 

「私は抹茶ラテね。もう封は切ってあるからオススメしないけど」

「僕もミネラルウォーターならあるけど……」

「悪いんだけど、今は何も持ってないかな」

「俺は……(いやそもそも要らねぇしこれくらいなら……)」

「いやん、全滅や」

「ふっふっふ――――」

 

 と、それぞれ微妙な反応に対してキリヱが得意げになりながら、ポーチから紙パックの飲料を取り出した。

 

「これを見なさい! これが、アマノミハシラ前身時代から積み重ねてきた伝統――――『変な飲料』よ!」

 

 三つ、四つあるキリヱの出したそれらだったが、どうにも味の想像が色々と困るタイプのものばかりである。「グレート抹茶オレンジラテ」「ポネット~白い翼~」「一番人気!梨ミルクコーラゼリー」「プルコギトマト・ボン!」とチョイスの方向性は色々謎である。一体こんなものどこでと聞いてみると、どうやら女子寮の自動販売機にゲテモノ系ドリンクのそれが設置されているらしい。はたして八十年前から存在していたものかは定かではないが、確かに「ネギま!」時代から綾瀬夕映がよくその類のものを呑んでいた記憶があった。

 と、三太が「あー」と何か思い出す様に声を上げる。

 

「トータ、これ一応男子寮にもあるぜ? 自動販売機」

「マジか!?」

「そうそう。他にも調味料自動販売機とか、即席麺自動販売機とか、超包子冷食自動販売機とか――――」

「最後の絶対、一般的に売ってないやつだよなぁ……」

 

 いくら卒業生が関係してるからとは言え、一体麻帆良は超包子の何なのだろうか…………って、考えたらそもそも麻帆良発の飲食店みたいな設定があったような覚えがあるので、母体というか地元というか、そういう扱いなのだろう。つまりは地域貢献の類か(適当)。

 そして三太のお勧めもあり「一番人気!」をちゅーちゅー飲んでる帆乃香だったが、「めっちゃ甘いけど香り全然わからへん……って、これクラフトコーラ系なんやなぁ」と何やらグルメ風なことを言い出していた。

 

 さておき、全体確認をしてから各自で捜索開始。目当ての本は学校の七不思議や、当時の事故などの資料関係を探すという流れである。一応この階自体はギリギリ一般開放されている範疇らしく、トラップの類もないらしいので(この注意書きがある時点で図書館が一種のダンジョンであることが伺える(震え声))各自それぞれでの調査と相成った。

 

 そんな中――――私は一人、隠れて「違う目的」の調査をする。

 

「殺人事件が起こった年代と、妖魔の出現レポートってとこか?」

 

 今回我々があたっているこの案件。表面上は連続殺人事件の調査となっているが、それに協力するための条件として釘宮が出したものは、至極わかりやすいものだった。

 

『ここ連日、魔力溜まりのスポットに湧く妖魔やら幽霊やらの数が多くてね。学校が公認している幽霊とかは除外するにしても、それでも対処しないといけない数が多すぎるんだ。だから君たちのそれに協力してくれというのなら、こちらの妖魔駆除にも協力してもらいたい』

 

 実際、一般生徒に妖魔が見つかるとそれはそれで問題(そもそも危ないが、中には高額賞金で取引されているものもいるため)、安全管理的には必要な仕事らしく。作業者は日中、該当時間の授業が免除される(後で補修を受けるか自主学習は必要だが)。なので今回は受けるに吝かではないが、前後の話を聞いてふと違和感を抱いたのも事実だった。

 

 すなわち「そもそも原作で妖魔云々の話ってあっただろうか」という、その一点である。

 

 私が今いるこの世界線? では、割と名前として妖魔というのが上がるが。原作「UQホルダー」においては、確か敵対生物がそうであるかどうかというレベルの扱いだったはずである。そこまでフィーチャーするのは確か没案にあったかどうかというレベルの話で、この差分が存在するのには何かしら理由があるのではないだろうか。

 ……まぁそれを言い出したら、そもそも釘宮大伍を始めとしてここまで麻帆良関係者に縁のある絡みが生じていたかとか色々考えようは有るが、そもそも超が介入しているのでそういうレベルの話ですらないかもしれない。をのれ時空改変者!(???「自分で投げたブーメランが自分に刺さってるじゃないか」)

 

「まぁ何かしら本来の『原作』とは違う流れになってるんだとしても、だ」

 

 個人的な話だが「私」的な事情で、妖魔うんぬんについては違和感がほとんどなかったのだが。魔力溜まりに妖魔が湧くというのは、すなわち背後で何かしらそれだけ魔力が動く事態が発生しているとみるべきだろう。「ネギま!」であった「世界樹の大発光」はもはやその周期の予測が困難になっているらしいが、それに関連して妖魔が出現したという情報は……、今の所手に取った資料をあたっても見当たらない。

 

 とするなら、こういう場合のセオリーとして…………、「過去の出現ポイント」を、携帯端末の地図アプリを出して、そこに記入していると。

 

『――――見つかったえ! お兄さま、褒めて褒めてー!』

「おっと? すげーじゃん、お手柄じゃねーの」

『えへへん! めっちゃ胸張るで! 九郎丸はんも撫でて撫でてー!』

『う、うん。いいよ? ほら……』

『お、お嬢様それは……』

 

 そうこう調べている内に帆乃香たちから連絡が入ったので。作業を一旦中止して、私はそちらに向かった。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

   

 翌日の早朝から早々に始まり、アマノミハシラ学園都市の複数個所を巡っていく裏魔法委員会。なるほど、魔力溜まり……言うなれば魔力スポットか、その全てに妖魔が湧くとなると生徒にさせるのならば授業出席を免除するのも納得する。それくらいに場所も多いし、そして各所、妖魔自体も多かった。

 

 例えば現在、午前中最後になるだろう場所である墓所ではあるが。本日の参加メンバー十人程度であっても、対応には苦慮していることが伺える。なにせ時折人間大の、いかにもな妖怪めいたものも居たりはするが、大体が可愛いビジュアルをしているのだ。へちょむくれというか、ポケモ〇でもゆるキャラにしたようなものが多数、わらわら可愛い声を上げて集まってくる様は微笑ましくもあるが、同時に接触でもすれば火を噴いたり爆発したり水びたしになったり吹き飛ばされたりと散々なことになるのだから、いかんともしがたいだろう。

 

「――――『来たれ(アデアット)』! 宝除掃器(ハイパー・ハネボウキ)!」

「――――『来たれ(アデアット)』、余壱の重藤弓(ヨイチノジュウトウキュウ)

 

 弓を召喚した釘宮の「狗神」による狙撃は妖魔相手にも有効だが(体格からして違うし)、武装の関係上連射ができない。それを背中合わせになり、呼び出した大きな魔法のステッキ状のアーティファクトで蹴散らす成瀬川ちづ。……と、途中でステッキを中心部で二つに分解、赤い柄ないかにも「魔法少女チック」なステッキ上部、反対に瑠璃色柄などう見てもお掃除に使う布ハタキ状の下部を構える。ハタキの側で掃除でもする要領でぶんぶんと集まってくる小型妖魔を蹴散らしつつも、ステッキの方で「アップル・リップル・パフェ・サンデー!」と魔法始動キーを唱え、光球状の魔力を複数放つ。「魔法の射手(サギタ・マギカ)」だったか、属性などの判断は出来ないが腕は悪くないらしい…………、単語のセンスはともかく。(空腹)

 

「超必殺・漫画弾!」

 

 ……あと「ネギま!」の夏目萌(なつめ めぐみ)と似たような容姿をした背の小さい女子生徒が、魔法少女チックな漫画のキャラクターの顔が描かれた「気弾」のようなものを放っている絵面がシュールすぎた。墓石に当たりそうになると途中で軌道修正して複数の小型妖魔を屠っていく絵面は、得も言われぬ謎の冒涜的光景であるような錯覚を受ける。本当に錯覚か? まぁ錯覚だろう、錯覚だと言うことにしておこう……。

 

「あれ? どうしたの、刀太君」

「いやぁちょっとな…………、アレアレ」

「あー、そうだね。ちょっと可愛い感じだね、豪徳寺さん。流石に表情とか変わらないし、声とかも出ないらしいよ? アレ」

「いやそこじゃねーよ、天然さんかお前っ」

 

 ちなみに朝の顔合わせの際に聞いたのだが、どうやら彼女はクラスメイトだったらしい「豪徳寺(ごうとくじ)春可(はるか)」である。顔と名前が一致していなかった、というか数日でまだクラスに馴染め切れていない私に比べて九郎丸が想像以上に適応できている事実にちょっとびっくりもしたが、問題はそこではない。

 そう豪徳寺、あの豪徳寺だ。「ネギま!」において「まほら武道会」予選において始めて飛び道具的な必殺技を使い、その後ネギぼーずに敗退した後は解説席でおなじみの豪徳寺である。容姿の関係を見ると、どうにも途中で夏目萌(ナツメグ)の血筋と合流したらしい。

 いやはや何と言うか、こんな所でくしくも「 高音・D・グッドマン(ウルスラの脱げ女)」パーティ関係の血縁をコンプリートしてしまった訳だ。謎の感動があった。

 

「僕らも負けてられないね? いこうか――――神鳴流秘剣・五穀豊穣 !」

「九郎丸先輩、私も――――!」

 

 と、そんな私の横で九郎丸と勇魚も負けじとお仕事をしていた。流石に流派は違えど神鳴流か、どちらも気で生成した小型嵐のようなものを使い妖魔たちを巻き上げ、振り下ろして同時に斬っている。一撃で「うきゃぅ!」とか「きゃあぅ!」とか可愛らしい声(アニメとかだったら夏凜とかの声と一緒では?」を上げて消滅していく妖魔たちがちょっと可愛そうだが、九郎丸はともかく勇魚は完全に無表情だった。

 

「帆乃香が居たらゼッテー『可哀想やん』とか言うんだろうなぁ……」

「? お嬢様は『朝は弱いんやぁ……』と言って出席はしていませんので、本日は通常授業かと思いますが」

「いやそういうことじゃねぇんだよ…………っと!」

 

 言いながら、私も血風を纏わせて周囲の妖魔たちを斬っていく。やはりというべきか、血風創天は威力的にオーバーキルというか周囲の墓石やら何やらへの被害が大きすぎるため、現在は封印状態だった。

 とはいえ別にさほど困るという訳でもなく、このあたりは死天化壮様々といったところ。超高速移動しながら一体一体斬っていけばというレベルの話ではあるが、その中で妙にすばしっこい奴がいる。見た目で言うと全体的に雷を帯びたハムスターというかネズミというか、モチーフ的に色々版権に気を遣っていそうな(言い方)ビジュアルをした小型妖魔。大体手のひらサイズだろう、腕を伸ばして直接掴もうとしても、それこそ電気の軌跡を残しながら超高速移動していた。

 

『ふみゅ?』

「コイツ……、『雷獣』か? 確か小型の中でも取引価格がスゲェってスラムでルキが言ってたような――――」

『ぴっぴか……、ぴ! ら〇ちゅぅ!』

「オイマテ」

 

 真顔である。思わず素で色々と背筋に寒気を感じて(メタ)ツッコミがてら黒棒を振るってしまった私だが、それを軽々躱して「ふみゅー!」と声を上げて逃げる妖魔。駆除作業開始前に墓所へ張られた結界すらやすやす突破し、平然と外へ逃げていく……ってどういう原理だお前! 一応妖怪とかそれに準じるやつは弾かれて内部に戻されるはずだぞ! 可能性としては自分自身を電気に変換して外に出たから、結界の感知に引っ掛からなかったとかそういう所だろうか。

 もっとも私自身は特に問題もないので、そのまま飛行しながら高速移動する雷獣を追っていく……。ギリギリ追いすがれるか否かというところか。少し嫌な気分だ。原作的に将来こういった「電気の速度」で動いてくる敵と対決するだろうことを考えるに、現状の死天化壮の速度ではまだ足りないと突き付けられているに等しい。やはり何かしらもっと別な対応を考えないといけないのだろうか、そのあたり事前に師匠に相談するべきか――――。

 

 そして雷獣の逃げた先、すなわち世界樹の巨大な木の上で。

 

 

 

「――――――――水無瀬、小夜子」

『…………あ、あら? 貴方とは、初対面だった、はずだけど。初めまして、UQホルダー』

 

 

 

 私の目の前で、どこからか流れて来る魔力に胸を抑え、黒服の女子生徒が苦しんでいた。

 

 

 

 

 

 




アンケート締め切りました、ご投票ありがとうございます!
今回は100超えたものについて作っていこうかと思います。
 
 雪姫:ネギぼーずとネオパクしてトラウマを刻まれる話
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ST82.死を祓え!:救いなんて無かった

毎度ご好評あざますナ!
深夜ェ・・・


ST82.Memento Mori:Paradise Lost

 

 

 

 

 水無瀬小夜子、今回の案件のラスボスと言うに相応しい悲劇の少女――――。そんな彼女は、私と相対しても苦しみながら、しかし微笑みを浮かべた。その様子は切羽詰まっているようではあるが、いくらかまだ余裕がありそうにも見える。

 と、例の色々とアブナイ電気ねずみ妖魔が、彼女の周りをうずまく魔力にかじりついた。

 

「あら? また食べに来たのアナタ。……ふふ、全部はダメだよ? 私『壊れちゃう』から」

『ふみゅー! ぴかチュちゅ!』

「だからマテ、お前絶対確信犯だろ!」

 

 鳴き声にツッコミを入れる私を「ふみゅ?」とさも無害な一般生物でも装うかのように見て首を傾げ食事を続行。どうやらここが一番食事処? としては上等らしいが、彼女に弾かれて満足には食べさせてもらえないらしい。

 他の妖魔が一律、スポットに涌いたら涌いたでその場を中々動こうとしないのを考えると、相当に頭が良い可能性が高い……。

 

「へ? ダメなの? 可愛いじゃない、ピ〇チュウ。せっかく教え込んだのに」

「をのれ元凶はお前か……! って、いや確かに可愛いけど! 実写映画版死ぬほどこっちに来る前に見てたけど! 一挙手一投足にめっちゃ可愛い可愛い言ってたらカアちゃんから『キモいから止めろ』ってストップかかったくらい好きだけど!」

「あら、趣味が合いますね! 私も好きなんだー。でも年代は結構古いもので――――」

 

 いやそんな普通の女子中学生的(にしては2080年代という意味で随分レトロな)トークがしたいわけではなく。

 どこか苦しんでいるようではあるが、水無瀬小夜子はまだ理知的に会話が出来るだけの余裕があるらしい。原作においてはその身に集まり続けた怨霊が彼女の魂を昇華(あるいは堕天)させ、一種の祟り神の域にまで押し上げたのだが。現在の彼女からそこまでの圧は感じない……というより、何も感じ取れない。

 びっくりするくらい、一般人というか。下手すると一般人よりも「存在感が薄い」。

 

「えっと、一応聞いておくけど……、アンタが『トイレのサヨコさん』?」

「ええ。……まぁ昔の話って言うか。もうアレって『システム化』しちゃってるから、私の手を離れちゃってるんだけどねー」

「システム化……?」

 

 うん、そうと彼女は微笑む。

 

「大体、私の『能力の制御』が利かなくなる頃に、勝手にその七不思議通りの現象が発動しちゃうの。腕の良い法師様とかシスターさんとかだったら何とかなりそうだけど、シスター・シャークティもシスター・ミソラも二人とも『亡くなってしまった』し……。今の麻帆良で私をどうこう出来るのって、『本当の』学園長くらいじゃないかしら? 」

「情報が多い! 一気に浴びせるんじゃないッ!」

「えっ? あ、ごめんなさい」

 

 ぺこり、と頭を下げて来る様は普通に育ちの良いお嬢さんという感じで、しかし周囲にうずまく魔力とわずかに漏れ出る瘴気がその印象が一面でしかないと私に教えていた。

 いや、ちょっと待てそれよりまず一つ気になる話があるのだが……。

 

「は? …………へ? いや、ミソラってお祖母ちゃんシスターだろ? 春日美空。懺悔室を管理してる。亡くなってるってどういうこと!? 夏凜ちゃん先輩からそんな話聞いてねぇけど!!?」

「あれは、いっつも一緒にいる魔法世界のシスターさんのアーティファクトの力だねー。ゾンビ映画とかのそれじゃないけど、今のあの人は外部からの魔力で命を繋いでいらっしゃるから」

「えぇ…………」

「たぶん本人は気付いていない……というより『気づかせてない』んだろうから、そっとしておいてあげて?」

 

 もしくは普通に接してあげてねー、と胸元を押さえながらも楽し気に話す彼女に、どんなリアクションを返して良いか判らなかった。

 でも確かに……、シスター・ココネは幼少期からシスター・春日こと春日美空と一緒にいて、姉であり母のようでもあり、とても大切な相手であったことに違いはあるまい。とするならば、どういったアーティファクトかは不明だが、そういう能力を持っているなら実行しても不思議ではないのか……?

 

 不意に、原作「UQホルダー」第一話における、エヴァンジェリンの語りのシーンが想起させられる。そこにおいて「別れ」として映った面々に、確かに春日美空の姿はあったはずだ。

 ……いや? そう考えると村上夏美やら「このせつ」やら「ちう様」やら色々と「原作」後の展開と微妙にそれる部分もあるような無いような……。一概にアレがすべて真実を現していると考えるのは、それはそれで間違いかもしれない。

 だが、頭には入れておこう。

 

 と、そんな混乱している私の周りを、例の雷獣がふわふわ飛んで様子を伺っている。ちらりと目を向けるとこちらに寄ってきて、くい、くい、と頭をこちらに寄せてきた。

 

「あら? どうやら懐いてるみたいねー。撫でてあげたら良いんじゃないかしら」

「いや、フラグとか全然なかったんスけどねぇ……」

「フラ……? えっと、たぶん、速度かしら? その子、すごい早く動くみたいだけど、スピードについてこれる子が全然いないから、それでかしらねー。貴方も凄く速かったから、『近衛刀太』くん」

「生憎ペットとか飼ったことがないんスけど……、っていうか何で名前を?」

「うふふ……?」

「笑っても別に誤魔化されないんスが」

「あれ? あー、そうなんだー。三太君はすぐ固まっちゃうから、てっきりイケるものかと」

「そりゃ、まぁ惚れた側の弱み、みてーな奴じゃねぇかと」

「惚れた……、んん、でも、どうなのかな。違うんじゃないかなって思うんだけど」

 

 三太君は一緒にいてくれる誰かが居たらそれで良かったと思うから、と。そう語る彼女の目は寂し気で、同時にその考えに明確な確信があるようにも見えた。その寂しさを紛らわすためか、こちらに歩み寄り雷獣の腹をごろごろして……いや実際にゴロゴロ電気放つやつがあるか! 普通は危ないわ貴様!(普通じゃない)(危なくない)

 しかしペットとかそういうのは、鹵獲とか捕獲とか売買ならまだしも、「私」的にそういう動物はカフェとかで戯れる程度の関係が一番気が楽だった。というよりも割と抜けている自覚があるので(ガバの発生数でお察し)、一人でまともにお世話できる気がさらさらしていなかったのが大きな理由だったりするのだが。

 とはいえ一応頭を指先で撫でてやると、気持ちよさそうに目を細めて―――――って何かこう、少し軽いめまいが。

 

「お前、ひょっとしてちょっと俺の魔力少し食ってるか?」

『ふみゅ?』

「可愛く頭傾けても誤魔化されねぇぞ」

『ぴ、〇ちゅー!』

「あらあら、お腹が空いてるのかしらー」

「そういう問題じゃないんスけど……」

 

 私の所から逃げるように退避した雷獣を、水無瀬小夜子も同様に撫でていた。

 

「でも、意外とこの子って便利だから。貴方も懐かれたなら、お世話してあげたらどうかしら。きっと色々役に立つと思うの」

 

 そしてまさかのボスキャラ(?)から直々にサポートキャラとしての推薦を受けるという謎の展開である。そうかそうか、お前もガバの申し子だな? ……最近多いなガバの申し子。こんなガバばっかり発生している地域に長くいると、もしかしなくても拙いかもしれないという危機感が出て来る。名残惜しい話ではあるが、アマノミハシラ学園こと麻帆良学園からは早々に退散した方が良いのかもしれない…………、一月か二月くらいで(日和)。

 

「いや、って言うか、えーっと、アンタ、アレ、なんて言ったらいいか…………。見るからにヤバそうなのは全然わかるんだけど、えっと……。『トイレのサヨコさん』、の七不思議として動いてるって訳じゃねぇんだよな。ってことは、今アンタかなり危険ってことか? こう、不安定的な意味で」

「うふふ……、別に取り繕わなくても良いわよ? どう見たって悪霊の類じゃない、私」

「それにしちゃぁ随分話せるなって思って」

「まともな幽霊は『ゾンビウィルス』作って人類滅亡とか企まないから」

 

 その一言に、はっとして彼女の顔をみる。

 ウィルステロの話に関しては、出来る限りの情報封鎖を行ったつもりだが。どうやらその程度は特に問題なく情報を集めてしまっているらしい。こちらの驚きと困惑を前に、水無瀬小夜子はくすくすと笑った。

 

「ホント、どうしてそんな情報をあなた達が持ってるのかとか、全然知らないんだけどね? でも、今の私に『この街で』集められない情報はほとんどないから……、図書館島の地下とか、手品師みたいな恰好をした魔族さんとか以外はね?」

「………‥それだけ、えっと……強くなってる?」

「あー、説明が全然出来てないかな? って言っても、あなたはもしかしたら『知ってる』か『予測がついてる』のかもしれないけれど」

「?」

 

 と、周囲に漂っていた魔力と瘴気が消え、快晴の空が彼女を照らす――――その足元、世界樹に彼女の影は映らない。

 

「今の私は神様一歩手前……、みたいな感じなのかな? それも、人間の悪い情念ばっかりで。トイレのサヨコさんが『システム』になっちゃったのも、私の存在が人間のユーレイからどんどん離れていってるって証拠だから」

「神様、ねぇ……」とすると、何も感じないのはハンペンマン(オサレ)なアレかもしれない(語弊)。

「だからこうやって、時々魔力溢れから集まってくる分の魔力を、世界樹さんが集めてる魔力を少しもらって、『私の自我』を維持してるの。最近はちょっと怪しい気もするけれど」

「怪しいじゃ困るんだよなぁ……」

「ごめんなさい? でもこれが限界なの。コノエモ……、あっ今は『ぬらりひょん』さんだった。ぬらりひょんさんのお化けから、それしか方法がないって」

「ぬらりひょん!?」

 

 別にゲゲゲな御大による妖怪軍団の首領的なアレだったりOSR(オサレ)つながりでジャ〇プ的には任侠だったりとかを想起したという訳ではない。どちらかといえばその直前の途中で止まった呼び方、おそらくは「コノエモン」というところに問題があった。

 近衛近右衛門。「ネギま!」における麻帆良学園学園長であり、近衛木乃香のお爺様。見た目は仙人とぬらりひょんの特徴的な所を足して引かなかったような方で、その割には西洋魔術師とかいう中々に盛りに盛られたキャラクターだったりする。つまりは一応血縁者だったりするわけだが、何故に元学園長は水無瀬小夜子を除霊しにきたネギぼーず達に手を貸さなかったものか。そもそもコノエモン学園長の依頼だったのでは? それ。ひょっとしたら死後、そのまま幽霊か化けて出たのだろうか……。色々疑念はつきない。

 

「あっ、ちなみにラーメンたかみち麻帆良駅前南口店によく出没してるらしいわ?」

「いや、まぁ、その話は置いておいて……、百歩譲って置いておくことにして! えっと、何だろう。そもそもアンタ、俺誘導してねぇ?」

 

 思わず(ピカ)の字(直喩)的なことを言い出した雷獣に気を取られて、ついつい追いかけて来てしまったが。考えてみれば学園内のことは大体わかると言っていた以上、私がどういう相手なら興味を引くかというあたりも察して、何かしら理由があって呼び出すために遣わせたのでは? と。そんなことを聞いてみると「ちょっと自意識過剰かな~」と苦笑いを浮かべた。

 

「あっでもこの子、頭すごい良いから。ひょっとしたら『私が限界』が近いことに気付いて、あえて色々手を回してくれたのかもしれないわ」

「限界……、さっきも最近怪しいみたいなこと言ってたけど、それって?」

 

 お願いがあるの、と彼女は両手を合わせて、まるで何かに祈るかのように。

 

 

 

「――――私を、殺して欲しいの。私が私でいられなくなる前に」

 

 

 

 それを聞いて、思わず固まってしまった。

 私が何か言うよりも先に、彼女は続ける。

 

「あっ、もう死んでるけどね。つまり、成仏じゃなくてもいいから、今の私をどうにか消して欲しいの」

「いや、そんな簡単な問題じゃねぇだろ。大体そもそもゾンビウィルス――――」

「ウィルスは、ちゃんと破棄したわ……、少なくとも私が管理してる、生物感染系のものは」

「――――は? えっ、何で」

「だって、三太くんと仲良くしてくれたでしょ?」

 

 最初に追いかけてた時も、全然殺そうとかしてなかったし。

 

 そう微笑む彼女に、やはり私は二の句が継げられなかった。……正直に言おう。水無瀬小夜子、彼女の能力自体を甘く見ていたのかもしれない。いくら怨霊、祟り神の類とはいえ、かつて麻帆良学園に通っていた生徒なのだ。そこから八十年近くたっても、未だに成仏させられていない怨霊なのだ。その力の規模と言うのは、ひょっとしたらそれこそアマノミハシラ学園都市全域に及ぶレベルなのかもしれない。それこそ本当に○染隊長(オサレ一本勝負)崩○(オサレ)を使い、自らの霊格(オサレ)を引き上げ、その高すぎる次元の力を誰しも知覚できなくなってしまったかのように。

 

 少なからず原作でも、脈絡なく唐突に出現したり消えたりということは朝飯前。キリヱによるリセット潰しすら行っていたことを前提にすれば、警戒心が上がる。

 

 だが……、それでも、今の彼女は見ていられなかった。

 

「どういう訳か知らないけど、三太君と私につながりがあるって察して。でも、その上で『こんな私』を三太君に見せないように気を遣ってくれた。三太君と『トイレのサヨコさん』が別だって判断した上で、それでも今だって、いきなり斬りかかってこなかったじゃない?」

「いや、まぁ、ソイツにちょっと唖然としてたってのはあるけど……」

『ふみゅー!』

 

 鳴き声を上げながら突進してくる雷獣を左手でアイアンクローして掴みとる。手の中で暴れているが、ハッハッハこんなものまだまだ可愛いらしいものだ(現実逃避)。

 彼女は手を背中に回し、少し前傾姿勢になってこちらの顔を覗き込むように見る。少し引っ込み思案そうだが、その目は、しっかりと私を見据えていた。

 

「それに最初の夜だって、三太君を守ってくれたみたいだし…………。三太君だってもう、ちゃんと心を開き始めてるから。だから、嗚呼、もう私がいなくても大丈夫かなーって。もともと私、あなた達『UQホルダー』に三太君を保護してもらえないかって思ってて。私もそろそろ限界が近いから、壊れちゃう前にどうにかできないかなーって、ね?

 そしたら思っていたよりも、ずっとずっと良い人みたいだったから。……あのお姉さんは、ちょっと、どうかと思うけど」

 

 あのえっちさで元シスターはダメなんじゃないかなー、とか言ってるがはて? 一体誰のことやら(すっとぼけ)。正直下手に噂をすると影から迫ってくるんじゃないかとヒヤヒヤしてるので、助かっている部分はあるが頼りすぎは色々禁物だろう(戒め)。

 

「いや、そうは言ったってまだ三日四日くらいじゃね? ちょっと判断が早すぎるんじゃねーか……」

「私、これでも人を見る目はあるつもりよ? 『良い人』も『悪い人』も。三太君が良い人だって、はじめて会った時からわかったし。『先生』が悪い人だっていうのも、初めて話した時から解り切ったことだし。そして、もちろん君も」

「…………その先生ってのは、協力者ってことか?」

「うふふ、本当にどうしてか知ってるみたいねー。そう、私の共同研究者さん。自分は金星人だーって名乗って、ちょっと最初は面白かったかなー」

 

 やっぱりデュナミスじゃねえか(呆れ)。

 

「だから、その話をしたら――――先生にトラップを仕込まれちゃったの。もう、こうやって『私』を維持するのだって、色々と精一杯になっちゃった」

 

 おかげで連日、魔力集めをしないといけなくって、と。どこか遠くを見るような彼女の目には、何も、光が映っていなかった。

 ……つまり、彼女はこう言いたいのだろう。

 

 このままずっと待ち続けていても、いずれ自分を失って只の怨霊になる。つまりはもう時間なく、彼女の個が死んでしまう。

 ならば、そうなる前に確実に私を殺してくれと。それなら、せめて自分の尊厳を守れる……、本当に守りたい佐々木三太を守り切ることが出来る。

 

「進むも地獄、退くも地獄……」

 

 私の表情を見て……そこに浮かんだ感情を正しく読み取って、彼女は困ったように微笑み返してきた。

 

 

 

 

 



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ST83.死を祓え!:懺悔からの道標

毎度ご好評あざますナ!
わかりにくいけど、ちょっとキレてるチャン刀・・・


ST83.Memento Mori:Steer For the Dead-End

 

 

 

 

 

 全然、駄目だ。

 正直なことを言ってしまえば、スーパー三太様でもお手上げってハナシだった。

 

 トータたちと図書館島で色々調べものをしている時、俺は密かに別な調べものもしていた。トイレのサヨコさんって七不思議と小夜子が別人であるって証明ができなければ、たとえアイツが「生身で」「生きているのだとしても」こいつ等はどうするかわからない。トータやクロウマルとかと多少話す様になって、そんな悪い奴らじゃないってのは判ったけど。分かったからってそういうことを絶対しないとも限らない(例えばここの学園長代理とか)。

 

 だからこそ、七不思議の校内新聞を調べている横で、学園の年代やら卒業アルバムやらをひっくり返して色々と調べていた。

 

 その時に、古い方から調べていったら一つそれっぽいのを発見した。2003年の卒業アルバムに、黒(紺?)のセーラー服を着用した幽霊っぽい何か。心霊写真が多数映っていて、卒業生一覧のところに「該当しない生徒」が一人いる。

 

 相坂さよ――――うっすら映ってる写真のそれにも該当するし、間違いない。コイツだ。きっとコイツに違いない。

 

 校内新聞のバックナンバーを調べても当時の情報は色々と出て来たし、80年前ごろにトイレのサヨコさんって話が出て来たみたいなことをトータの妹たちもしてたから、絶対コイツだ。コイツがサヨコさんだ。名前も似てるし、たぶん聞き間違えたんだろう。

 

 よかった、小夜子は無実だ――――それで肩の力を抜いたけれど、とはいえ80年前に既に幽霊だった相手が、なんで突然こんな連続殺人なんて引き起こし始めたのかはさっぱりだ。たぶん、そこのところも突き止めないといけない。

 

「でもそれこそ全然、手掛かりがねーんだよな……」

 

 犯人を突き止めたあたりまでは流石スーパー三太様! だって話なんだが、そっから先全然話が進展しないのは正直どうしたもんか。

 まだ調査始めてから二日目? 馬鹿言うな、ネットに転がってる情報なら三時間足らずで一通り集められらァ!

 

 それが出来ないってことは、あの放課後から閉館間際までかかったような作業をまたやらないといけないって話な訳で……。かったるい…………。

 

「今時紙とかちょっとわけわかんねぇぜ……」

 

 そんな愚痴をこぼしながら一人歩いている。刀太たちは、なんか作業が長引いているとかで遅くなると連絡がメールで入った。例のゾンビだか何だかを調べに来てるって割には色々遊んだりとか、方向性が謎っていうか。本気で本腰入れて対処するつもりがあんのかって思わなくもない。

 

 まぁ、その代わり俺も俺で色々やれることがあるって話なんだが――――。

 

「――――おっとッ!?」

 

 トータの携帯端末にクラッキングをかけて、周囲の盗聴をしようとしたら弾かれた。ウィルスソフトなんてチャチなもんじゃねぇ。どれだけセキュリティを凝ったところで、このスーパー三太様視点から見れば、正面に壁は有っても左右は開いているみたいなもんだ。だっていうのに侵入できなかったってことは、明らかに何か、それこそ俺様みたいなのと同格な相手でも存在してるってことになる。

 つまり科学技術じゃなくてオカルトとかの分野――――それこそ、超能力者とか電子の妖精とか、そんなモンでもいるのかって話だ。

 

「ひょっとしてバレたか? ……いや、バレたところで対処できるようなモンじゃねぇ」

 

 ふと、背筋に悪寒を感じた。それを誤魔化す様にパーカーを被り、「能力」を駆使して街中、ビルの窓ガラスとか壁を蹴って空中を散歩する。こう、自由きままに振舞っていると、自分がスーパーヒーローにでもなったような錯覚をする。いや、錯覚なんかじゃなく実際このスーパー三太さまはスーパーヒーローみたいなモンだけど、でも現実にそんなものは居ないってオレはよく知っているんだ。

 でなければそもそも、俺は「こうはなってない」から――――あれ? こうなっていないからってどういう?

 

「痛ッ」

 

 一瞬頭痛がした。疑問を思い出そうとして、でもそれは「いらない」ものだと。頭を左右に振り、もっと上に上がって走り、飛ぶ。月が微妙に曇っていて、でもその光はきっちりと俺たちのいるこの世界まで届いている。

 おまけにスーパー三太様の視力なら、いくらだって、どこだって、どんな暗闇だって見逃さず見通せるだろう。

 

 だから、嫌々だったけど見つけちまった。

 ついちょっと前、ホームレス狩りみたいなことをしてた三人。制服着崩してたりジャージだったり色々見るからに不良だけど、あれでも魔法のウデは悪くないから一等生徒。それを傘に着て悪さしてるってのを、トータたちとやりあった後に調べて情報は掴んでる。

 今日も懲りずに何やってるのかと言えば、一人の制服姿の女の子を追い詰めていた。あくまでナンパの延長なんだろーが、怖がってるのか女の子は頭を下げてて顔が見えない。

 

「現行犯まで行ってないのに問答無用ってのは流石にアレだからな…………。一応、少しは様子見るか」

 

 べ、別にトータに言われた「止める気持ちもわかるけど」「もうちょっとバレねーようにやれ」って話をうのみにした訳じゃねーんだからな! ただ、スーパー三太様はスーパー物分かりが良いから相手の言ってることも理にかなってるならスーパー柔軟に吸収するってだけで……。

 

「――――だからさぁ、こんな所に来たって良いもの何もないだろ? 俺達と一緒にもっと楽しいところ行こうぜ? 絶対楽しいところだから」

「そうそう、タワーとか行こうぜタワー! シンちゃんオススメの穴場あるんヨ! シンちゃんオススメだから、めっちゃオススメだぜ!」

「そうそう、あそこにめっちゃキレーな夜景見えるところだから、めっちゃキレーな夜景だぜ?」

 

 クズのIQ低すぎだろッ!

 思わずツッコミを入れそうになったけど、アイツらの表情は浮足立っていて、でもオッサンとかに向けて適当に魔法で暴力を振るっている時とは違う種類の表情が浮かんでいて。

 どうしてそんな純粋な子供みたいな表情を浮かべられるくせに、あんなことやるんだって憤りが湧いて――――。

 

 そしてその少女の口が「耳まで裂けた」。

 

 へ? と。言葉を続けるよりも先に、首が延び、女の口ががばりと開いてニット帽の男を――――。

 

「って、このッ!」

 

 気が付いたら体が動いていた。いきなり怪物(妖怪?)みたいなのが出て来たこと自体意味不明だった。おまけにアイツらはクズだし、本当なら助ける謂れも何もない。あのまま口が閉じて死んだとしても、いい気味だと思うはず、なんだが――――。

 

 気が付いたら念力で、食われそうになった男を後方に突き飛ばしていた。

 

『――――ん? エサ、逃げた?』

「え、餌……?」

「し、シンちゃんヤベェよこれ……絶対ヤベぇやつだよこれマジヤベェって!」

 

 透明化してるお陰で、いまだ上空にいる俺の姿を見つけられていないあの口裂け女なのかろくろ首なのかわからない奴。

 と、シンちゃんとか呼ばれていたオールバック風の髪の長いジャージ野郎が、突き飛ばされた奴ともう一人に逃げろ! と声をかけた。

 

「う、ウチの家の隣の家の婆ちゃんとかが、妖怪とかそーゆーのは居るって言ってたし……、す、スラム系の掲示板でこーゆー連中の目撃情報ってあるから、よ……!」

 

 俺が三人じゃ一番強いから、と。足止めをしてる間に警察なり何なり呼んできてくれと。こんな人気のない路地で何言ってるんだかって感じだ。

 でも、不思議と気になった。さっきのアレは気まぐれにしても、コイツがどこまでやれるかってのにちょっと興味がわいた。…‥、いや、本当にそれだけだからな! 深い意味とか、同情とか、そんなんじゃねーから!

 

『エサ、エサ……』

「こ、これでも喰らえ――――!」

『―――――んくっ』

「ってマジで食った!?」

 

 火の矢を十本同時に生成して(たぶん魔法アプリだろう)射出したけど、それらを全部「肥大化した頭部」で、一口で食べた。まるでコミックか何かのモンスターじゃねぇかコレ……。P・A・L☆ザ・コミックマスター(コミマス)(※漫画家)の漫画ですら今時出ないレベルの、ある意味チープ極まりない感じの怪物だ。でも、そんなモンが現実に居たらまた違った話だ。

 

 それでも魔法を連射しようとするヤツのそれを、特に気にした風でもなく適当に食べる怪物の女――――。流石にもう無理だな、食われちまう。

 助けてやる義理は欠片もねぇけど、目の前であんな訳の分かんない不条理なモンに食われてオシマイなんて、いくら何でも後味が悪い。どうせ殺されるのなら、「自分が虐げてきた」連中に殺されろってハナシ。スーパー三太様は因果応報にうるさいんだ。だから――――。

 

 ――――俺が念動力で止めに入るよりも早く。雷みたいな光る何かが、怪物の大口あけた側頭部に激突した。

 

「は?」

 

 意味が分からねぇ。というかビカビカ光るシルエットは、夜目には眩しくて形もわからねぇ。そんな状態のそこに、アイツは現れた。

 トータ……、前に戦ったり、妹たちから逃げたりしてた時のコートみたいな姿で。片手に黒い剣を持っていて――――。

 

「血風――――」

 

 エサ、エサ、と。言葉もロクにならないまま、バケモノは周囲を見回して今自分にぶつかった相手を探しているが。その電気みたいなやつは、瞬時に「上空にいる」トータの真横に移動していた。どんだけ距離があると思ってるのか、本当にまるで光みたいな速さだった。

 

「――――創天!」

 

 そして、刀を振るうトータ。今回は突き刺すみたいなモーションで、でも剣から真っ赤な刺突の斬撃が「伸びる」のが目で追える――――。落ちていく、刃が脳天を貫く。と、それと同時に怪物の全身がまるで、カマイタチとか嵐とかに巻き込まれたみたいに、粉々に、バラバラに、ミキサーにかけられたみたいに飛び散った。

 

 ぐ、グロい……。と思ったけど、なんかすぐに肉片とかそういうのは、煙をずぷずぷと上げて消えていく。やっぱり妖怪とかそういう系統の奴なのか、アレ……?

 

「ままならぬ…………。いや、やっぱオーバーキルってことに変わりねぇって話なんだが」

『ふみゅ?』

「っていうかお前もお前でもうちょっと真面目に戦えそうなモンなんだから、もうちょっと普通にやれっての。せっかく『形の上では借りてる』ような訳だから、戦闘面でも役立つ一面を……」

『ぴ〇ちゅちゅ〇か?』

「だから配慮ッ」

 

 特に空中のまま、その場に降り立つようなこともない刀太。下であの野郎がその姿を見上げているのを気にも留めていねぇ。と、刀太にデコピンを喰らった光ってる何かが、今度は何を察したのか瞬時に俺の目の前に現れた。っていうか何だこいつ、ネズミにしちゃ可愛げがありすぎるし、どっちかというとミュ〇みたいな尻尾してやがんな……?

 そいつは、俺と目が合う。

 

『ふみゅー』

「…………」

『ふみゅ!』

「熱ぃッ!」

 

 そしてソイツは、何を思ったか放電しやがった。コイツ、世界で二番目に有名だったネズミみてぇなことしやがるじゃねーか! いくら透明化してても、流石にそういう電気攻撃みたいなのは通る。というか身体透過して物理無効とかに気を回す暇がなかったって言うか、こっちの反応速度以上に速くやられちまったら世話はねぇ。

 解ける透明化、そして全力でその場から逃走した。あのままいたら電撃喰らい続けてノックアウトされちまいそうだってのもあるが、その場に居続けたらトータの野郎に俺が居たのを勘付かれて追われちまう――――。

 

「おーい、ちょっと待てよ!」

 

 あー、もう手遅れだった。

 電気ネズミみたいな奴(アレも妖怪?)ほど速度は出てねぇけど、それでも普通に追いすがってくるトータ。途中、追っ手を振り切ろうとビル群の隙間に入ってぐるぐる回ったりしたところで、それすら「空中を踏み」、急なターンとかもして追跡してきやがる。

 ったく、どうして日常生活じゃあんな鈍感系主人公みてーな「フリ」してやがるくせに、こういうのばっかちゃんとやってくんだ脳みそ筋肉かっ! レベル上げて物理で殴りゃ良いって問題じゃねーんだぞこの現実世界!

 ただ、トータはさらにこっちの予想を上回ってきやがった。

 

「せっかくだし少し話そうぜ、『三太』!」

「は、はァッ!?」

 

 突然名前を呼ばれて、思わず動きが止まっちまった。な、なんでコイツ、正体が俺だと分かったんだ!? しかも絶対確信持ってる感じだし…! で、その隙を見逃すようなトータじゃなく。瞬間、こっちの背後に回り込んで腹を抱え上げて(お米みてーな感じ)そのまま地面に急降下。ほぼ衝撃を吸収するための減速も何もなく、一瞬で当たり前のように着地していやがった。何だこの動きキモッ! 物理的に気持ち悪すぎるだろっ!

 

 と、どこからともなく、どっかで見たニット帽が現れる……、って! こいつ前、普通に俺を殺そうとしてきたオオカミ野郎じゃねぇかっ! な、何クールっぽく眼鏡の位置直してんだよ、ポテチ食べた手でグラス触るぞオラっ!

 

「あっちは、あらかた終わったみだいだね。……、そこの彼は?」

「いや、何ビビってんだよ三太……、ほれ」

「あっ」

 

 すっとフードを下ろされて、でも思わず刀太の背中に隠れてしまった。い、いくらスーパー三太様といえど、素性バレはまずいってモンだ。俺様をはじめヒーロー稼業に身をやつす日本人は奥手ってわけじゃなく、プライベートを守るために最大限配慮しなければいけないって相場は決まってんだ。

 じいっとこっちの方を見て、ため息をついたニット帽野郎。

 

「どうした? 釘宮」

「どうしたもこうしたも……、彼、――――だぞ?」

 

 ひそひそとトータに何か耳打ちするニット帽野郎だが、トータは肩をすくめて「知ってる」と返した。

 

「知ってるって……、君は一体何を考えてるんだい。俺だって場合によっては擁護できないんだぞ? 『委員会』的には日常的なトラブル報告とか――――」

「あー、そのあたりもひっくるめて、一つの流れがあんだよ。ま、一種のキーパーソンって扱いだ」

「こんな男が?」

「少なくとも、一歩間違えると世界があっという間に滅んじまうくらいに、な。ゾンビで溢れかえったりするやつ」

「何の話だい……」

 

 ため息をつくニット帽野郎に苦笑いしてるトータ。でも、その言ってることにはなんとなく嫌な感覚がある。俺が、キーパーソン? しかもゾンビって、コイツら「UQホルダー」が調査しに来ていることを考えると、あながち冗談とも言えない……?

 いや、それはコイツらが小夜子を犯人だと決めつけているからだ。小夜子に関係ある俺がキーパーソンっていうのは、その程度、犯人に親しい奴がいるくらいの話なんだろ。

  

「…………とりあえず、色々ぶっ壊れても大丈夫なところってあるか? 今からちょっと、コイツと話さないといけないことがあんだ」

「だから何の話だい、君は……、唐突すぎるだろ。大体、壊れても大丈夫な場所? それこそ教会の地下とかにでも行けばあるんじゃないのかい。確かホールではないけど、魔法戦闘に耐えられる場所があったはずだが」

「それだ! ナイス釘宮ー、伊達や酔狂で麻帆良の生徒やってねーわ」

「麻帆良?」

 

 どうやら旧地名が通じてねぇらしいが。刀太は俺の方に向き直って、少しだけ逡巡してから。

 

「――水無瀬小夜子について、話さねぇといけないことがある。ちょっとした伝言を頼まれたし」

「…………はっ?」

 

 小夜子? なんでコイツの口から、まるで面識があるみたいな言い回しが出て来るんだ? ひょっとして――――会ったのか? 俺でさえ全然、最近どころかここ数日本気で探しても見つからないアイツに。

 全く想定していなかったその一言で、スーパー三太様の名探偵としての自負は、吹いて飛ばされた。

 

 

 

 

 

 



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ST84.死を祓え!:プロトタイプ

感想や誤字報告、ここ好きなどなど毎度あざますですナ
話が後半差し掛かりのくせに中々進まないので、今回はちょっと早めに投稿です・・・カルピs(ry


ST84.Prototype of DEATH

 

 

 

 

 

「妖魔の討ち漏らしはよくある。外に出たのを見たのなら後を追うのは実際正解だよ、近衛」

「あー、てっきり途中で抜け出す形になるかと思ってたんだが………。そこは杞憂だったと」

「一言断りを入れて欲しかったけれど、『この速度』で動いてるとなると俺も狗神を使わないと捕捉できなかったろうからね」

『ふみゅ……、らい、ちゅ?』

「「オイマテ」」

「か、可愛い……!」

「お、お兄様、私にも見せてください!」

 

 思わず釘宮と一緒にツッコミを入れてしまったが、相変わらず雷獣は暢気なものである。私の携帯端末にひっつきながら、「ふみゅ?」とか「ピチュ?」とか相変わらずな様子であった。

 水無瀬小夜子と色々話し合って……、というより思わず説教してしまって(説教というほどのまともなアレではなかったが)、一旦墓所に戻った私だったが。とくに釘宮から何か言われることはなく、撤収作業を手伝っていた。

 

 不思議に思い色々聞いてみると、どうやらそういうことらしい。……そして実際問題、この雷獣については扱いに困っているようだった。たまに妖魔が一緒についてくる、というようなことがあるらしいが、それにしたってと頭を悩ませている。

 

「しかし特A級クラスの妖魔とか……。国によっては億単位の値段が動くぞ? それ」

「億ゥ!?」

「どういうこと? えっと、釘宮君?」

「時坂君、だっけ。雷獣、その中でも比較的近年『雷子(らいし)』と名付けられたタイプのそれは、電脳精霊、オコジョ妖精に上位の妖怪といった属性が噛み合った存在、らしい。電子機器に入り込み情報収集・学習して自らをアップデート、かと思えばオコジョ妖精のようにいとも簡単に人の心を介し、実際の戦闘能力もズバ抜けている。何かしら、雷属性の呪術とかの化身とも考えられているらしい」

「設定盛りすぎかッ」

「俺もそれは思うけど。……だけど鳴き声の模倣が出来ると言うことは、その気になれば人間の言葉もしゃべれるという事じゃないか? やっぱりデータファイル同様に相当賢いと考えられるか…………」

「…………? あ、すみません。お嬢様から連絡が――――」

 

 勇魚と別れた後も仕事自体は続いている。何件か場所をまわり既に夜。街の一角……、思いっきり「龍宮神社」とか書かれているのだが、少し場所が変わったのか分社なのか? 奥に「まほら武道祭」が開かれた際のあのステージが出来るようなほど広い場所ではないし。そこの社を中心に結界を張り、敷地内で戦ったのだが。

 

『エサ、エサ『エサ『『エサ『『『エサ『エサ『『エサ』

「いや多いわッ!」

 

 ろくろ首と口裂け女とか、後何か何種類か妖怪っぽいのが混じってる妖魔が、所狭しと現れていた。しかも全員これでもかというくらいコピペしたみたいなビジュアルをしている。そしてソイツらは、我々の目前で単細胞生物のように「分裂した」。分裂した後も「エサ、エサ」と何かを求め彷徨い歩いている。

 こういうタイプとは流石に予想していなかったらしく、人員も非常にやり辛そうだ。

 

「いや俺とかは問題ねぇけど普通に強すぎだろっ! 学生レベルじゃねえし」

「確かに、異常だ。普通、こういった案件は魔法先生が先行で調査や判断をした上でこっちに回ってくるものだから、難易度を見誤ることはないはずなのだけど……」

「オイ、何か情報ねぇのかよ釘宮!」

「ない。というか大半の妖魔はないんだ。特に沢山出て来るもの、数が少ないが目撃情報が多いもの、人類に有益であるもの、そういった相手なら――――っ、ちづ!」

 

「う、うそ……っ、魔法が効かないっ」

「漫画だ――――た、食べられたッ!?」

 

「こりゃ拙いな」

 

 釘宮が成瀬川のフォローに回ったので、私は豪徳寺さんの方へ……いや豪徳寺といってるがやっぱり見た目がほぼ完全に「ネギま!」の夏目萌のものなので、違和感が凄いのだが。彼女の前に立ち、血風をその場に「置いて」、お姫様抱っこで一旦離脱。

 

「お、おおぉ…………、こ、この展開! 今時めったに見られないベタベタな救出劇ですね!」

「何でテンション上がってるんだか……」

「と、刀太君! こっちもヘルプお願い!」

「よし来た!」

 

 まぁ何が面倒かと言うと、ひたすらに涌いてくる上に一体一体がそこそこ危険。少し入団テストの時のアレを思い出すが、実際に要領もあの時と変わらなかった。血風創天の代わりにすべて血風だけで対処しているが、しかし倒された後の解け方がグロいグロい――――。

 そうこうやっているうちに、私たちは見てしまったのだ。

 

『エサ、エ……、エサ、「探しにいこうかな」』

 

 和服を着用していた一体が、いきなり制服姿の女子高生に姿を変えて。しかもぶつぶつとしゃべりながら、いつの間にか姿を消してしまったことを。雷獣(雷子とか言うらしいが分類は知らない)が自らを電気エネルギーに変換して結界を突破したそれと同じなのか、あの妖魔は自らを「人間の姿」に変化させて結界を突破したらしい。

 

我が身に秘められし(オステンド・ミア)力よここに(・エッセンシア)――――来たれ(アデアット)! 刀太君、ここは僕がッ!」

「悪ぃ、九郎丸! 後で何か埋め合わせすっから!」

「…………(九郎丸先輩、お兄様と仮契約しとる…、羨ましいです……)」

 

 流石に放置しておくわけにもいかないと、機動力のある私、追跡力のある釘宮が率先して外に出ることになった。戦力的に危ないと判断したのか、九郎丸もアーマーカード状態での対応となり、その場を後にした私たち二人。

 その後はひたすら、釘宮が狗神の矢で捕捉した妖魔を追っては斬り、追っては斬りの繰り返しだった。ただし、どれも人間の姿に擬態していない――――。いっこうに見当たらなかった「最初に」結界の外に出た、あの女子高生妖魔。

 

 どうしてか嫌な予感がしてる――――あの一体だけでも早々に倒せればそれで終わりだ。だが、逃した場合「何が起こるかわからない」。そんな、妙な不安感が私の内で警鐘を鳴らしている。

 まるで何か、既に知っている結果のそのひな形と言うか、前段階を見せられているような。

 

「……その、狗神っていうので追えねぇのか? さっきもきちんと犬っていうか、オオカミっぽく色々追尾してたし」

「ご期待の所悪いけれど、そこは僕の能力不足で無理だ。……能力というよりは血の問題なんだけれどもね。僕の祖父くらい『狗族』の血が濃ければ、呼び出せる狗神も相応のものになるのだけれど。生憎、そっちの血はクォーターなもので」

「じゃ、仕方ねぇか。とはいえどうしたものか……」

「…………君は何というか、判断が……、いや、何でもない」

「どした?」

 

 私の一言に一瞬驚いたように目を見開いた釘宮だったが、すぐにメガネの位置を直して視線をそらした。

 と、ここで活躍したのが我らが雷獣くんである。水無瀬小夜子いわく「使える」妖魔とのことだったが、実際それだけのことは出来るらしい。私たちの話を聞いた後、突如携帯端末から離脱し空中に移動。くい、くい、と手を使って「こっちだ(ディスウェイ)来い(フォロゥミー)」とアピールをし始めた。そのままにしておくわけにも行かず後を追い――――そして三太と遭遇した。

 

「せっかくだし少し話そうぜ、三太!」

「は、はァッ!?」

 

 妖魔に牽制の一撃をいれたばかりか、これまた透明化してた三太を一発で見つけてくれた雷獣くん。ホントにコイツ有能じゃねぇか!? とすると今まで水無瀬小夜子がカメラ映像とかでも早々確認できなかったのに、コイツの電子制御技能とかが絡んでいるんじゃ……、とちょっと邪推してしまうが、それはともかく。

 

「――水無瀬小夜子について、話さねぇといけないことがある。ちょっとした伝言を頼まれたし」

 

 もともとそれを前提としていたというか、その話だけは何があっても今日中にしなければいけないのだった。

 三太が驚き、訝し気ながら頷いたのを確認して、私は夏凜に電話を入れたのだった。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「ってぇ、そんなよくわからない流れでウチを頼ってもらったってもう営業時間終わりなの! 今日はノー残デー! わかるノー残デーって、残業しちゃいけない戒律の日なの、つまり私はこの後家に帰ってココネと一緒に晩酌を――――って首から下げた私のロザリオ掴むなってココネ―! 首しまっちゃうわババァ労われ!」

「ミソラ、真面目な話っぽい」

「うわっ完全スルーだよこの子、一体この太々しさ誰に似たんだか…………」

 

「「「「(ほとんどアナタじゃないかな……)」」」」

 

 たぶん僕以外の皆も、そんな感じの感想になったんじゃないかな……。いや、それだけ春日美空シスターが元気で自由な人だってことではあるんだけど、この人に以前夏凜先輩がお世話になっていたという姿がちょっと想像できなかった。

 

 刀太君が「色々進展があったから、情報共有……、と説得をしたい。物理的なのをコミで」と電話をした。釘宮くんは「いくらその妖魔が優れているとは言え、まだ漏れがあるかもしれないから」とあの後、パトロールを自主的にすることにしたらしい。

 むしろ仮にも人の命を預かってる仕事だから、僕らもそれを一緒にやるのが本当なら正しいんだろうけど――――。

 

 人の命を天秤にかけるような話ではないのだけれど、でも刀太君はまだ短い付き合いだというのに釘宮くんのことを凄く信用してるみたいだった。人格も、能力も。だから、たぶんこれは彼に任せた、と言う事なんだと思う。

 そして僕らは、本腰の案件で動くべきだと。

 

「そんなことより早く案内してください、シスター・ミソラ」

「は、早くっつったって色々準備が必要っていうか……。っていうかなんでわざわざ地下?」

「前回の傍聴対策が完璧でなかったようだから、念には念を入れて、ということかしら。地下に入った後、私たちもさらに遮音結界を張りますし」

「えっ、そんな理由だけで私たち駆り出されてるのォ!?」

「世界滅亡の危機を『そんな理由だけ』で片づけようとする根性は恐れ入るわ、シスター・ミソラ。後でミカンにも愚痴るわよ?」

「あー、止めて! それけは是非ご勘弁をば! 怒られはしないけど仕送り減らされちゃう! いくら夏凜ちゃんが罪な女(ヽヽヽ)だからって、そういう倫理を逸脱するような蛮行は好みの異性相手に限定して――――」

「『干からびた骨(オゥス・エクシィカッタ)』……!」

「ってマジで殴りにくるのは止めてーッ! 図星だからって止めーい!」

 

 ……こう、何だろう。拳を徹底回避した美空さんに、今だって「仕事なさい、シスター・ミソラ」と腕を組んで見下すみたいなポーズをとってる夏凜先輩。で、ノリが良いお婆さんな彼女も彼女で平服するようなポーズで「くそぅ、今に見てろババァのクソ力……!」とかよくわからないことを言ってて……。

 

 そしてそんな一方、シスター・ココネが教会の祭壇の上で何かをいじっていた。

 僕が見てるのに気づくと、彼女は「準備」とだけ言った。

 

「それって一体……、地下に何かあるって聞いてはいるんですけど」

「魔力式。今ここでちゃんと動かせるのが『私しかいない』から、やってる。ミソラは無理だし、カリンは壊す。ゴリラ」

「えっと……、えっと、えっ?」

「…………諦めなさい、九郎丸。あの人、絶対自分の世界で自己完結してる系の人だから」

 

 疲れた表情の制服姿なキリヱちゃんだった。どうやら彼女は寝てたところを起こされたらしく、刀太君に「アンタわたしが色々限界だってわかっててケンカ売ってきてるわけ! ねぇ! そこの佐々木三太も!」って詰め寄って、ちょっと止めるのが大変だった……。プリプリ怒るキリヱちゃんは可愛かったけど、寝起きのせいで全然話を聞いてくれなくって、えっと、またお尻を叩いてきて変な気分になるっていうか……。

 と、三太君が嫌そうな声を上げた。

 

「だ、大丈夫なのかアレ……? いくら俺、シスターの婆さん苦手だからって言って、あそこまで虐げられてもその……」

「あー、夏凜ちゃんさんソロソロ……、老人虐待になってるから絵面だけ言うと。あと三太が引いてる」

「えっ、ちょっとどういう状況!?」

 

 思わず刀太君の言う方を向いたら、そこには羽根のついた変わった靴(アーティファクト?)を装備したお婆ちゃんシスターがクラウチングスタートみたいな体勢をとろうとしてたっぽい腕の状態のまま、夏凜先輩に背中から踏みつけられて鼻で笑われてるって状態だった。これは、ちょっと……。

 

「えっと、仲が良いんですね!」

「いや、現実を直視しよーぜ九郎丸……」

 

 目をそらしたくなるのは判るけど、と刀太君。いや、別にその……、それだけ近い距離感で色々出来るって言うのは、やっぱり仲が良い証とかなんじゃないかなって。こう、雪姫さんと刀太君みたいなものだ(熊本時代はけっこうやられてた記憶がある)。

 

 と、シスター・ココネがわざわざしゃがんで美空さんに小声で話す。と、「あっちょっとそろそろシリアスさん帰ってくるから夏凜ちゃん脚どけてねー」とお婆ちゃん。……その一言で「仕方ないわね」と足を引っ込めると、見た目とかから察するくらいのご年配さを完全に無視した猛烈な勢いで立ち上がった。

 仲が良いっていうのもあるけど、その、凄い体力してるなこのお祖母ちゃん……。

 

「さて、と! 夏凜ちゃんがドSな話について小一時間くらい話したいけどそれはともかく……、ってやめてよそんな顔はー。ちょっと事実を指摘されたくらいで――――」

「やっぱり潰そうかしら」

「まぁまぁ、話が進まねぇッスから……」

 

 仲が良すぎるのか話が進まない夏凜さんとシスターを仲裁する刀太君。……なんだかすごい疲れてるように見える。

 

「ま! 簡単に言うと地下に古い収容施設があるってことねー。建築自体は『魔法世界』の技術が使われてるから意外と頑丈。で、くぎみー孫が言ってたのは大方お祖父さんから聞いたのかな?」

「……古い収容施設?」

「そういうこと。最近は魔法世界とも、もっと表立ってやりとりする流れに『持っていこう』と『元・委員長』とか頑張ってたから、その流れでこっちの大使館跡は使われてないんだわコレが。……と、言う訳でココネにエレベータの電源を入れてもらったって訳。施設自体は自己修復とかも生きてる筈だから、まーたぶんダイジョウブっしょ!」

「ミソラ、皆不安そう」

「ありゃりゃ!?」

 

 そしてあれよ、あれよという間に僕らは下層へ……、地下三十階? えっと、なんていうか凄い深い所にあるんだ、という感じだった。

 ただ、エレベータの外に出た僕は妙な郷愁を感じる。洋風とも機械的とも言い難い独特な建築様式とか、そういうのは故郷の「桃源」本体ではないけど、その周辺の宇宙空間でも似たようなものが使われている。

 とすると、ここの施設は比較的新しい? ……いや、それだとさっきシスターが言ってたことと矛盾するし――――。

 

 

 

「で、何だよ話って」

 

 っと、色々考えてると広い空間に出た。通路、というには妙にゴテゴテしてて、研究所とかの廊下みたいな感じだろうか。でも、それにしては道幅とか広いし、所々丸い広場みたいになっていて、不思議な感じだ。

 夏凜さんが結界を張るのを確認すると、刀太君は僕の方に…………って、え? な、何かな刀太君っ。いきなり手首掴んできて、ちょっとドキっとする。

 

「いや、こっちの携帯端末のデータをそっちの通信魔法アプリの方に転送できねえかなって。これじゃ液晶小せぇし、音も貧弱だし」

「えっと、出来るとは思うんだけどやり方が……」

「……ちょっと貸しなさいっ」

 

 っと、キリヱちゃんが刀太君の手を離させて、間に割り込む形で端末を受け取った。……あれ? なんだろう、これって嫉妬ってやつなのかな。微妙に違う様な気もするけど…………。

 

「おや?」

「……って、きゃっ! な、何よコイツっ」

『ふみゅー! ふみゅー!』

「あっ!? えっと、その子はですね――――」

 

 そして「雷子」について話す僕。それを聞きつつキリヱちゃんが投影準備をしている間に、刀太君は三太君に一言いった。

 

「先に言っておく――――水無瀬小夜子に残された時間が少ないとするなら、お前、どうするつもりだ? あの子の意思を尊重するか、それでも限界まで長生きしてほしいか」

 

 それに三太君が答えるよりも先に、映像が始まり…………。

 

 

 

『…………あっ、さ、三太君これ見るの? うわー。ちょっと、どうしよう、もっとおめかししておくんだった……』

 

 

 

 そんな、普通の女の子みたいなことを言う「半透明な」黒い少女の姿に。以前、キリヱちゃんが撮った写真の「あの」女の子の姿に――――映像越しでも「僕には判る」威圧感に、思わずひるんでしまった。

 

 

 

 

 



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ST85.死を祓え!:激突

毎度ご好評あざますナ!
 
明日休みだからとまた深夜ですェ・・・、ちょっと番外編用に好感度表(ネギまのアレ)作ってたら、ちょっと予想外の数値とかが出て来たり調整したりで時間かかりました汗


ST85.Memento Mori:Conflict Of Spirit

 

 

 

 

 

「進むも地獄、退くも地獄……」

 

 私の表情を見て……そこに浮かんだ感情を正しく読み取って、彼女は困ったように微笑み返してきた。だが正直、困ってしまったのはこっちの方だ。一面では良いことではあるが、一面では拙いことに違いはない。

 その後、少し詳細を聞いてますます確信に至り、やはりため息をつきたくなった。

 

 確かに彼女がこちらに強く好意的になったことで、ウィルステロによる大規模生物災害が起きる可能性は激減しただろう。だがその一方で、彼女自身が暴走するというのを止められないという問題が出来た。

 話を聞く限り、どうやらデュナミスは「必要な研究データ」を奪ったうえで、水無瀬小夜子自身の「精神的な」制御能力を乱したらしい。とするなら、おそらく今後の展開において大きなガバは発生しないだろうと考えられる。つまりここを切り抜けても原作後半における「ネット風邪」自体はその布石がうたれてしまっているということだ。また彼女自身の問題も大きい。原作においては、怨霊として上り詰めた彼女ではあるが、その精神の根幹自体には問題がなかったのだ。だが、相手はその部分、つまり「水無瀬小夜子の自我」そのものに攻撃を加え、彼女自身を「壊す」ことでその制御を崩そうとしているのだ。

 

 とするならば――――原作通りの展開には期待できない。

 怨霊としての彼女を倒し、その心の欠片を三太が手にし。全員でリセット&リスタートをしたことで、その魂の欠片から怨霊の水無瀬小夜子もタイムリープさせ。だからこそ「負けを認めた」「健全な精神状態の」彼女だったが故に、その残り少なかったろう力すべてを使い、自らに集積していた怨霊を消滅させた――――させることが「出来た」のだ。

 それを、今の色々な力を崩された彼女に期待するのは、はっきり言って難しいだろう。

 

 いや、厳密に言えば出来ないわけではない。

 

 そもそも今のキリヱのセーブポイントは二日前、突然ウィルスパニックが発生したあの日の早朝に残っている。そこに、事情を話して水無瀬小夜子ごとタイムリープすれば、絶対に不可能ということはないだろう。

 だが、それはあくまで「すぐに対応するならば」の話だ。

 

「…………どれくらい持ちそうなんだ? アンタ」

「さぁ……、良くて三日、早ければ一日くらいかしら」

「一日――――」

「私が『(ほど)けたら』、トラップとして私に組み込まれた妖魔が、私の内の怨霊とかを全部吸収して暴走しちゃう…………、それこそ生物系のウィルスほどじゃないけど、ここら辺一帯は更地になっても不思議じゃないくらい。それを今の学園生徒で、対応しきれる人はいないと思うの。貴方たち『UQホルダー』なら無理じゃないと思うけれど、それでも被害が出る。そーゆーの、嫌がってたよね?」

 

 だから早く殺して、と。

 

「ここにいる『分体』の私じゃなく、『本体』のところまでは案内するから――――きゃっ」

 

 迫る彼女に、思わずデコピンを喰らわせた――――半実体化していたのか、一応こちらの一撃はヒットして「痛いよー」と片手で抑えた。

 

「な、何? なんで私、デコピンにしてはちょっと痛いくらいのされちゃったの?」

「お前さん、それを俺達に言うのはいいけど、三太はどうするんだよ」

「? 三太君なら、貴方達に任せれば――――」

「――――最初に言っておくぞ。まず、そんな流れになったら間違いなくアイツは俺たちに敵対する」

「!」

 

 驚いた顔を向けて来る水無瀬小夜子だが、さもありなん、だ。元々彼女の中で「それが最善である」という結論が出た上での話だったのだろうが、そうは問屋が卸してくれない。馬が蹴り殺しにくるような話なのだ。なおその馬の蹴りは一撃で地球を半壊させるものとする。

 

「アンタ自身、どう思ってるのかは知らないけどさ。三太、間違いなくアンタのこと好きだろ。異性として。少なくともトイレのサヨコさんって話が出て来て、アンタじゃないって証明しようと頑張ってるように見えたぞ? 俺」

 

 実際、図書館棟で調べものをしていた時に「ネギま!」でおなじみ地縛霊・相坂さよの情報を集めていた辺りで、こちらが何にアタリをつけて、誰について探しているのかおおよそ知っていたのだろうという推測がついた。もっと言うと、何故に相坂さよについて調べているのかということは、多少なりとも原作での三太の言動を思い返す必要があったが。

 つまり、基本的に三太はどんなことがあっても、最後の最後、決定的な瞬間までは彼女を信じる男なのだ。良し悪しではなく、もうそれしか縋れる相手、好意を向けられる相手、好意を向けてくれる相手がいなかったということでもあり――――おそらく潜在的に、自らの意識を「繋いで」くれたのが彼女だと察していたのもあったのだろうから。そういった感情がないまぜになったそれを、俗に恋だとか恋愛感情だとか、そういうものだと断言してもいい。

 原作において三太が最終的にこちらの側に回ったのは、それですら根幹には水無瀬小夜子との会話がある。彼女の行動ではなく、暴走する以前の、かつての彼女の精神を継いだからこそでもある。事態が大事になりすぎてどうしようもなくなってしまったといった理由付けはあるが、根幹は愛なのだ。……ちょっと前に九郎丸と雑談した時に言っていた話ではないが「愛は世界を救うんだよ!」と言う訳だ。

 

 なお、私の一言で大慌てになった水無瀬小夜子である。自覚なかったのかお前さん……?

 

「いせ……ッ!? で、でも私たちって友達だし――――」

「生憎、いろいろ内に抱え込んで社交的な性格をしてる訳じゃない男子が特定の女子に肩入れしてたらほぼそれは好きと同義だ(断言)。逆は違う場合もあるけど(断定)」

「そういうの偏見じゃないかなー(純真な目)」

「じゃあアンタ、アイツのこと嫌いなのかよ(迫真)」

「そ! そそ、そんな言い方は卑怯じゃないかなっ(赤面)」

 

 完全勝利である(断言)。口喧嘩すると基本的には最弱王であるが(雪姫はともかく九郎丸にも熊本時代よく負けていた)、それも時と場合によりけりだった。

 

「アンタだってアイツのことは憎からず思ってるからこそ、俺に自分を殺してくれなんて言ってくるんだろ? そもそも言っちゃ悪いが、初めから世界滅ぼそうとしてたやつが心変わりするのなんて、いきなり世界を守ろうって心境になったって考えるよりも、身近な誰かのためっていう理由の方がすんなり納得できんだよ」

「………‥実際その通りだから、あんまり言い返せないです、ハイ……。だけど三太君の場合は……」

「まぁ何でアンタが三太について『そう』なのかはこの際置いておく。少なくとも、命をかけても不思議じゃないくらい大事に思ってる相手、とかなんじゃねーのか? その相手を、理由も知らずに俺たちが消滅させたとして。それが世界の為だったと言ったとして、『弱者として切り捨てられて』世を儚み死んだアイツが納得できるかって話だ」

「! そ、その話は一体どこで――――」

『ふみゅ…………』

 

 私の一言に「お前それ絶対調べてなかったろ」みたいな微妙に白けた視線を送ってくる雷獣については完全にスルーし、水無瀬小夜子と目を合わせ続ける。数秒、あるいは数分か、しばらくして彼女は力なくため息をついた。

 

「…………三太君が貴方達に敵対したら、私の一番最初の目的どころじゃなくなっちゃう。三太君が自棄を起こしたら、きっと貴方達もただじゃ済まない」

「うん」

「だからと言って、私が暴走した場合のこともそのまま放置はできないでしょ? ……じゃあ、どうしたらいいの?」

 

 項垂れる彼女に、私は携帯端末を取り出した。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

『えっと、UQホルダーの皆さん? あと三太君もかな。えへへ……、あ、あんまりこうやって映像に映るの慣れてないんだよー、キンチョーする』

『そういうのいいから』

『むぅ……、あの元シスターさんにはそういう風な言い方しないくせにっ』

『そういうのいいから(震え声)』

『なんで泣きそうになってるの……? えっと、何だろうねー』

 

「いや何だろうね、じゃねーんだよ……。何だコレ?」

 

 録画映像の上映に関して、三太の第一声である。というかノーカット版の方が真実味があるだろうという考えで特に無編集のまま映像を流しているのだが、だからこそ普通に会話している私と水無瀬小夜子の様子に、三太は困惑していた。

 九郎丸、夏凜、キリヱはコメントらしいコメントはない。がしいて言うと夏凜はじっと三太を見て「ふむ……」と映像と見比べながら何かを思案している様子。九郎丸は不思議そうにしており、そしてキリヱは「あっそういうこと」と察したように私に苦笑いしていた。…………なお防音結界(夏凜製)の外にいるシスター二人については、ココネ氏が「聞きたいぃぃぃ!」と中に入ってこようとする春日美空を適当な風に抑えていた。やはりトラブルメーカーか何かか(呆れ)。

 

「何って、水無瀬小夜子からのビデオメッセージ」

「いや、それもそうだけど――――」

「いやそれ以前に、水無瀬小夜子と繋がりがあるっていうのが俺達にバレるような発言しちまってる時点で、こっちに対して色々と事情把握してたって推測立つからな? まぁ黙ってみてろって。もう少し慣れてきたらまともな映像になるから」

「意味がわからねぇ……、って、いや、俺は別に、小夜子とは――――」

 

 とりあえず色々続けようとしていた三太だったが。続く映像での彼女の自己紹介――――麻帆良学園で八十年くらい地縛霊やってます! という自己紹介で呆然とした。

 

『って、あっ! これ三太君には秘密……、どうしよう……』

「おい、本当にこれ小夜子なのか? トータ、そんな馬鹿なこと言ってるんじゃねぇって、だって、コイツは――――」

『……、まぁ良いかな、仕方ない。人生諦めも肝心だよー』

「――――小夜子じゃねーか本当にッ!?」

「いや真贋の見極めそれで良いのかよ……」

 

 一体どこで本人判定を下したのかは知らないが、三太は食い入るように投影映像の画面を見つめた。画面の彼女は、少し悲しそうな顔をして続ける。元々ネクロマンサー、死霊術師の系統として麻帆良学園に通っていたこと。魔法生徒として表立って活動していなかったため、専属の魔法先生がいなかったこと。教会に相談しようとしたが、当時の面々が「世界の危機」だとかどうのこうのと慌てていて声をかけられなかったこと――――。

 

『―――――それで、いじめられて私「も」、殺されちゃったの。……ごめんね三太君、いままで黙ってて』

「……()? もって何だよ、お前それ――――」

『自殺に見せかけられて、その時の「儀式ごっこ」が中途半端に成功しちゃったから、私も「こんな」になっちゃって……。

 でも、だから私は、三太君に興味を持ったのかなぁ。私みたいな感じで、でも優しくって、物怖じしなくって、あとあの時は「まだ生きていた」から。ひょっとしたら、何か力になれるんじゃないかって』

「まだ生きてた―――――? いや、今だって俺は――――」

 

 うっ、と頭を押える三太。おそらく彼女の言葉を呼び水に、彼に封じられていた記憶が解放され始めているのだろう。九郎丸と一緒に、三太の両側に立って介抱しつつ話の続きを聞く。

 

『――――八年前、三太君の最後の言葉は「悔しい」、だった』

 

「ちょ、ちょっと大丈夫なの刀太、いったん止めてあげた方が――――」

「……八年前、そういうことですか」

「夏凜ちゃん?」

 

『どうしようもなくなっちゃった私に、そっと笑いかけてくれたことも。自分が辛い目にあっていても、私を気遣って話をしてくれたことも。……いっぱい努力して、亡くなったお母さんのために頑張ってた三太君は、すごい、『あんな私』にも輝いて見えた』

 

 言葉の順番は支離滅裂で、だが同時にそれを受けつつも、三太は小さく呟く。

 

「…………俺も、『自殺』に見せかけて、だった」

「! と、刀太くん、それって一体――」

「立てるか? 三太」

 

 私の問いかけに、震える手の三太。だがその目は、涙ぐみながらもしっかりと画面を見ようとしていた。九郎丸と目を合わせ、肩を貸し立ち上がる。

 

「そうだ、俺、なんで忘れて……、小夜子は『はじめから』幽霊だったな。で、俺も幽霊になった……、幽霊にして『復活させてくれた』。だから、ずっと一緒に居ようって――――あっ」

 

 嗚呼、そして無常ではあるが。思い出したからこそ、どうして彼女が彼の記憶を封じたかの部分も当然のように想起されてしまったのだろう。

 

 原作においてそうだったように――――年々酷くなっていく、立場による格差というべきか。スラムのそれを見るまでもなく、それは当然こういった場所でも起こっている。当たり前だ、「ネギま!」における麻帆良学園ですらそういったことがあったのだ、その時代よりも社会情勢が年々不安定となっていった、積み重ねの先の現在。それを傍で見続けた水無瀬小夜子の目に、それがどう映ったか。時折、自分でも制御できなくなる「弱者の声」ともいうべき怨霊たち。それに自らを奪われた彼女が、何を引き起こしたか――――。

 

「お前、だって――――どうして俺なんか! お前がおかしいって言って、お前の理由だって聞かなくって、勝手に拒絶して、だってのにどうして俺の『記憶を消して』までして―――」

 

 水無瀬小夜子は、三太に代わり「復讐した」のだ。「三太の分」を少し残したくらいに、抑えの利かない「殺意」と「憎悪」をその身で体現して。それを直視した三太は、正常な人間の意識が残っていた三太は、受け入れることが出来なかった――――。

 

 三太はかつて言ったのだ。幽霊ならずっと一緒に居られると。おそらく、その時から彼女の心の頼りは、彼だけになっていたのだ。だからこそ、その拒絶を受け入れることが出来なかった。

 

『ごめんね? 三太君……、私がおかしいのなんて、私、最初から判ってたのにさ……』

「違う、違う、違う、違う! それは、俺が、だって……ッ」

『だから、皆、私たちと一緒にしちゃえばいいんだって。皆、どうすれば「私たち」と一緒になるんだって考えて、それで――――』

 

 皆、死体になったまま生きれば、自分が自分で自由になるものもなく、努力が永遠に報われない気分を味わえばいいんだって思ったんだ、と。続く説明、ここ8年間で準備「してしまった」その計画に、三太は身動きができなくなった。

 

『…………でもね? おかしいよね? それが「おかしい」ってわかってるのに、気が付くと私、研究を続けたり、「先生」と連絡とったりしてさ』

「………………」

『だから……、その、気に病まないで欲しいの? 今だって、私、頑張って『自分を制御できてる』けど、それだってね? ………………たぶん、最初に殺された儀式が良くなかったんじゃないかなーって。いくら私がちょっとチョロい女の子でも、それに付け込んでくる怨念とかの数がちょっと桁違いだったし』

 

 だから、このまま生きていたら。いつか三太君にも迷惑がかかっちゃうから。

 

『――――だから……、ごめんね? …………大好きっ』

「さ、よこ――――ッ!」

『あ痛っ』

 

 そして三太の涙が流れた瞬間、画面外から彼女へ向けて雷獣が投擲された。 

 額に一発受けて、ちょっと可愛い声を上げて額をさする水無瀬小夜子。突然、ビデオの雰囲気が変わり、全員それぞれにずっこけたり呆然としたり無言のままだったり半眼だったりとリアクションが様々。なお雷獣が映像中で『らーいーちゅ』と撮影者へ向けて何か放とうとしたあたりで映像が終了する。

 

「…………とまぁ、こういう話だ」

「最後のアレ何なんだ?」

「あまりにも馬鹿なこと言い出したからイラッとしてつい……」

 

 もともと何にしても三太に事情を説明しなければ、という話なら、いっそのこと彼女本人の口から直接話してもらうのが一番簡単だろうと判断した上で、動画撮影に踏み切ったのだが。最後の一言、アレはいただけない。好きな女の子が自らの意志で命を断とうとしていて、それを救い出せると思えるだけの力を男の子が持っていた時は、大体こじれるのだ(断言)。だが、その上でこれも一つの解決策かと考えたため、無編集のまま流したということだ。

 

 さて、こちらの言い分に『ふんみゅー!』とキレ気味で頭突きをかましてくる雷獣を適当にあしらいつつ、三太の目を見る。

 

「事情としちゃこんな話になってる。とりえあず俺達当面の目標の『ゾンビウィルスによるテロ、世界規模のパニック』自体については、まーなんとかなったと見ていいだろう。でも……」

 

 ちらりとキリヱを見れば、安堵した表情はない。それは、正しい。実際に水無瀬小夜子が言っていることがすべて真実かどうかも不明慮だし(こちらが三太に危害を加えたら掌を返す可能性も高い)、そもそも五万回以上ループしてるのだから、彼女からすれば勝って兜の緒を締めよという話ですらない。それに、だ。

 

「……水無瀬小夜子自身、その存在を永らえるために怨霊とか、そういうのと合体してきてたらしい。その限界が近いと、言ってきた」

「…………で? こんな映像見せて来て何が言いたいんだよ。小夜子のことはもうあきらめろってか? 納得しろってか? ――――出来る訳がねーだろUQホルダー!」

 

 言葉と同時に感じた「嫌な予感」に従い、私はすぐさま死天化壮をまとい戦闘力的にキリヱを庇う。九郎丸は夕凪を抜いて、夏凜は既に何かしらの詠唱を始めていた。

 そしてほぼ同時に、圧力だけ――――不可視のエネルギーが私たちを襲う。

 

「きゃ! わ、私だって防御くらい……、え、えっと、オステンドミア・エッセンシア……? アデアット!」

 

 そして言いながら煙と共に「シルエットが小さくなった」のをなんとなく見て察し、スカを引き小型の白ウサギ着ぐるみな姿にデフォルメされた彼女を小脇に抱えて、少し距離を取った。

 

 そんな私めがけて、三太は拳を構えて猛烈な速度で迫ってくる。動きとしてはそれこそ格ゲーのキャラクターを彷彿とさせる(実際そういうイメージで自らの身体を念力で操っているのだろう)彼のそれに、血風をまとった黒棒をぶつける。

 

「俺は、小夜子を守るために戦う! 絶対、アイツを殺させねぇ! そのためなら、俺はなんだってする! 嗚呼そうさ、俺は、なんだって出来るんだからな!」

「…………なら、とりあえず『見せてやれ』。水無瀬小夜子が『安心できる』くらいの力ってのをさ」

 

 迫り合い、そして余波を受けて「きゃー! きゃー!」と左の脇で叫び続けるキリヱだった。正直スマン。三太だってもうちょっと段階踏んで、場所変えてから襲い掛かってくれると思ってたわ。(ガバ)(???「ちゃんと口にだして謝ってやんな、只でさえ色々大変な娘なんだから……」)

 

 

 

 

 




緊急アンケありがとうございました!
採用はしわしわピカ様タイプ(CV子安さんイメージ)な感じでいこうかな? と思います

※追記
すみません、もうちょっと迷って見ます…金朋さんイメージも捨てがたいものが込み上げてきた汗(ジェッターズ見直してたら)
アンケも再募集にしたので、以下未投票の場合などお願いします汗


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ST86.死を祓え!:たった一つの冴えたやり方

毎度ご好評あざますですナ! そしてまた深夜スイマセンです汗
 
実際冴えたやり方かどうかは・・・


ST86.Memento Mori:The Only Fashionable Thing To Do

 

 

 

 

 

 水無瀬小夜子の最終目的は三太の安全ではあるが、そこに至るまでの思考にはいくつか「三太本人の意思を」交えた場合、誤解がある。

 あくまで水無瀬小夜子にとって、佐々木三太は多少魔法が使えるくらいの中学生でしかなかった。故にその手で「生きているような幽霊」――――幽鬼(レブナント)として復活させたが故に、彼女は三太をどこか下に見ている。自分の庇護下にある存在として見ている。

 

 そのあたりの感覚は私自身も気付いてはいなかったが、昨日のビデオ撮影時に気付いてしまった。あくまで彼女は、三太を「保護」してもらうつもりだった、そう言った。あくまでも、自分の手で管理している存在を渡す、という認識なのだ。

 決して彼女の認識が間違ってるとは言えない。実際問題、本来なら自殺した時点で彼女に「取り込まれても」不思議じゃなかった三太を、わざわざ個のある存在として切り離したのは彼女であり。その気になればいつでも消せてしまうというのも、間違ってはいないかもしれない。

 

 だが、だからこそ、彼女は三太に「負けた」のだ。

 

 原作において最終的に水無瀬小夜子を止めたのは、時坂九郎丸でも近衛刀太でも、ましてや雪姫でもない。佐々木三太、その人だ。

 

 水無瀬小夜子の暴走に気付かず、世界がそのまま滅びかけた――――そこまでの事が起こると思っていなかった。ほんの少し、そんな馬鹿なことを本当に実行してしまうと思っていなかったが、その原因が自分にあると自覚したからこそ覚悟を決めた。自分の責任をとるために彼女を止める、あの優しかった彼女を、怨霊に呑み込まれ人格が滅茶苦茶になった彼女を止めると。

 

 そう心から誓って、一人で色々と無茶をして。

 そして、同じように無茶をし続けた彼女を。どうでもいいじゃないかと、その背負ってしまった強い恨みつらみなんてどうでも良いじゃないかと。そんなことしなくても一緒にいて、なんなら一緒に地獄でも巡ってしまおうと。

 

 揺さぶられたこともあるが、それでも最後の最後まで、直接は彼に致命打を与えられなかったのは、あくまでもそれが水無瀬小夜子自身だったから――――その姿を見て、安心して彼女はこの世界から去ることになる。

 

 つまり逆説的に、三太が彼女の庇護下「でない」と認識しない限り、彼女の心のありようは変わらない。例えもっと良い手段が何かあったのだとしても、その選択肢をとることが出来ない――――。

 

 例えば、我らがキリヱ大明神による「リトライ&リベンジャーズ」。あまり多用する話ではないが、少なくともこれを使えばいくらか時間を稼ぐことができるはずだ。今現在の彼女がギリギリだというのなら、それこそデュナミスの手で色々と罠を仕掛けられただろう三日前に、戻って何かしら手をうつことも不可能ではないはずだ。

 

 だが、そういった一連の行動を彼女本人が納得するためには。三太に対する彼女の認識が、しっかりと「守る」側ではなく「守られる」側になる必要がある。

 

 三太はもう一人で立つことが出来るのだと――――その上で、水無瀬小夜子をどうにか守りたいのが、彼の意志なのだと。

 

 

 

「そのためとは言え、いくら何でもいきなりすぎたか……。せめて一空先輩さえいれば、キリヱ大明神をどこか安全に奉納できたものを……」

「ほうのうってなによ、ほうのうって! べつにごりやくとかないんだからねっ! っていうかおろしなさいっ、おろしてからやりなさいよあんたたちーッ!」 

 

 

 

 私の小脇で絶叫するキリヱ大明神(スカの姿)である。もこもこの兎さんがデフォルメされた三頭身で女の子がきゃーきゃー涙目。これで本気モードと言わんばかりの三太相手に逃げている状況なので、シュールというかカオスと言うか。とはいえ背景のお陰で低OSRは免れてる気がするので、ヘーキヘーキ(現実逃避)。

 

 とはいっても、私個人としては色々と本当の意味で聖地巡礼出来ていて涙が出そうになる(出ない)くらい感動的な光景である。機械的に舗装された巨大な空中道路、その横には見たこともないくらい大きな植物が生い茂っている。中々現実離れした光景は、それだけ元となる技術体系が異なることを暗に示しているのだろう。

 場所としては教会の地下から続く「旧・魔法使い人間界日本支部」の通路だったり独房だったりと「ネギま!」学園祭編のアレコレ見覚えがある光景がバンバン過る。流石に魔獣とかそういうのは配備されていなさそうだが、ここからちょっとルートを辿れば世界樹深部まで行けそうでオラワクワクすっぞ!(面倒くさいオタク思考)

 とはいえキリヱ大明神を抱えてすることではないので、早い所どこかに置いておけないだろうか……。三太も三太で、先ほどから魔法アプリで生成した火球だの何だのを念力で超高速射出してきているが、キリヱにあたってしまいそうだからかいまいち精彩を欠いている。

 

「仕方ねぇな……、この場に来たれ(エウォコー・ウォース)、時坂九郎丸!」

「――――わわっ、と、刀太君!? いきなりすぎないかなッ」

 

 こちらを追跡していた途中だったらしい九郎丸を召喚。流石にアーティファクトは呼び出していなかったが、その手を取り、一緒に移動しながらキリヱを手渡し後を頼んだ。「だからいきなりすぎるよ、もぅ……」と少し困ったように言いながらも、任せて! と胸を張る。……どうでも良いが抱きかかえられていたキリヱが「あんた、ひょっとしてまえよりおっきくなってる?」とか頭にあたる九郎丸の胸元に言ったが、そのあたりは九郎丸の反応を見るよりも先に別れたので、どんなリアクションがあっても私は知らない(白目)。

 ……例え後方から「そ、そんなことないって……あっ! ちょっと、危ないから、揉まないで……」「うそおっしゃい! あんたもなの、あんたもおっきくなってわたしをみすてるの!?」とか声がしてるかもしれないが、聞こえていない、断じて聞こえていない(白目)。 

 

「とはいえ、これでようやくまともに殴り合えるな――――っと」

幽波拳(スタンドフィスト)――――オラッ!」

「オイコラお前もかッ!」

 

 ネーミングに色々と奇妙に冒険してツッコミどころのある不良な感じの技をいきなり使われたが(隠喩)、あくまで物理攻撃なので反応できた私である。空中に「念力の板」としか言いようのない半透明のものを作り出し、そこに拳を数発入れる三太。その一撃が数倍の打撃に変化し、衝撃波として私めがけて襲い掛かってきた。死天化壮状態の動体視力をもってすれば捌き切ることは不可能ではないのだが、その隙を目掛けて足元に回り込み、ダイナミックエントリーのように右足で私の腹を狙う三太。

 反応が遅れるが柄を下ろして防御しようとするも――――当然のように「透過」して私の身体をすり抜ける。そして背後に回り、こちらの背中を蹴り飛ばした。

 

 堕ちていく私に右手を「伸ばし」――自分が幽霊だと自覚したせいか「人体」の形に拘らなくなっている――、こちらの首を掴んで反対方向に放り投げる三太。黒棒の重量を変えて地面に突き刺し事なきを得ようとするが、その瞬間には目の前に現れて顔面を蹴り飛ばしてくる。

 技には容赦がない。とはいえ周辺を破壊しつくすような威力でもないあたり、三太も三太でこちらを殺すつもりは無いと言うことか。

 

 決して戦い慣れてる訳じゃない。訳じゃないが、だからこそ動きが自由である。ともすれば私より自由に動いているあたり、物理完全無効だったり実体がないからこその超高速移動といった「幽霊だからこそ」の恩恵がいかに大きいかという話だろう。

 

「あっ…………あろに……ろっ……ッ」

「は、はは……、お、俺ってこんな戦えたのか? す、スゲー、スーパー三太様、伊達じゃ、ねぇ、ハァ、ハァ……」

 

 …………というか再生するとは言え普通に痛いので、ちょっと待って欲しい。せめて「骨がくっつくまで」。いくらキリヱに対して申し訳ないから主義主張は封印気味で今回の件は臨んでいるが、基本的に痛いのは嫌なのだが(迫真)。

 

 

 

『よォ相棒ォ、意外と苦戦してるみてぇじゃねーぁ。「殺す気で」かからねーからそうなんだぜ? いくら相手が相手でもよぅ』

「……星月か。っていや、内なる虚(オサレ)じみたムーブ止めろッ! 状況的に洒落になってねぇ」

 

 少し三太も疲れたのか、私を蹴り飛ばした後は膝に手をついてぜいぜいと息を切らしている。そんなタイミングで、いつものように精神世界に落ちていくわけでもないのに、星月の「原作の刀太のような」陽気な声が聞こえた。

 …………死天化壮(デスクラッド)状態でこうやって話しかけられるのは、BLEA〇H(オサレ)虚化(オサレ)展開から逆算して私における「魔天化壮(デモンクラッド)」フラグにほぼほぼ直結してるので、正直言って止めてくださいという話だった。

 

『そうかい? って言っても物理攻撃手段も少ねぇのによくやるなお前……』

「いや、まぁ最悪『聖』天もあるし」

『それ完全に自爆技なんだよなぁ今のままだと……、ちゃんと夏凜先輩に教えてもらっとけばよかったのに、神聖魔法。あのまま聞いたらたぶんもうちょっとまともに使えるようになったぜ?』

「私の祈祷力の何が足りないと言うのだ(憤慨)」

『何もかもじゃねーの? 師匠あたりならそう言ってきそうだけど(白目)』

 

 はなはだ遺憾である(すっとぼけ)。

 

『ま、どうしてもって言うなら一つヒントをやっても良いんだが……』

「ヒント?」

『三太相手に使える技――――「キリヱの血を吸えば」手に入れられるぜ。まったく、変な仕込みをしてきたモンだよなぁ「あっちの」相棒も』

「……それは一体、」

 

『……星月?』

「あっ! いや、何でもねぇよ黒棒」

『そうなのか? なにやらブツブツと色々しゃべっていたが…………、というより、いい加減その呼び方はどうにかしてもらいたいのだが……』

  

 と、黒棒を誤魔化していると三太が息切れをしたままこちらを見て、声をかけて来る。

 

「ぜぇ、ぜぇ……、お、お前らさ…………、本気で小夜子、殺すつもりなのか?」

「……ん? 質問の意図がわかんねーんだけど」

「いや、だって…………、なんていうか……、あんまり殺そうとか思ってないだろ、お前。初めて戦ったときとかも、さ……、」

「へぇ……」

 

 こと自分が殺意を持って襲い掛かったからこそだろうか。それは流石にわからないが、しかし三太はどうやら私の剣に違和感を覚えたらしい。自爆戦法とかを使って戦う前に会話できるようになってくれたのは助かったし、その考えもまた正解ではあるが。だからといってすんなり断言するのも違う。あえて少しズラした回答をする。

 

「あのビデオ見てさ。お前、どう思った? 三太」

「は? …………どうって、そんなの……」

「正直に言えって。別に、誰もいねぇんだからさ? ココは」

「…………少しだけ、腹が立った」

 

 立ち上がりながら、三太は拳を握る。

 

「なんでもかんでも、全部、自分が悪いみてーに言ってよ。……努力した奴が報われないのは悲しいって、そんな世界は嫌だって。なんでアイツらみたいなのが生きて自分たちは死んでなきゃいけないんだろうって……、そんなこと、話したことがあってさ」

「おう」

「……それってさ、アイツの本心かもしれねーけど。でも『俺だって』そーゆーことは思ってたんだ。『思い出すまで』自覚なんて全然なかったくせによ」

「だから、ホームレスのオッサンとか、襲われそうになってたっぽい女子高生とか助けようとしてたんだろ? そーゆー『見捨てられたような』連中を」

「…………俺と、俺達と、似てるんだよ。そういうのって」

 

 まあ女子高生については正体が妖魔だったのはあるだろうが、少なからず三太にとって、その後の末路を想像できてしまう程度には共感があったらしい。だからこそ、あの場で踏みとどまっていたのだろう。もっとも私も雷獣が気を利かせなければ全く気付かなかったのだが。

 ん? あれ、そういえばあのネズミどこに行った――――?

 

「別に、俺はそーゆーのは否定しない。せいぜい『討伐されない程度に』やればいいんじゃね? くらいには思う。だからこそ、このまま水無瀬小夜子が暴走するのを認める訳にはいかないってのもわかるな? 規模が違うし、そもそも無関係な連中『全部に』すら、その恨みを向けるのは、ちょっと違うって思うし」

「…………」

「それでも、殺させない。そういうお前の気持ちもスゲーわかる。それも否定はしねー」

「いや、お前どっちの味方なんだよ…………」

 

 強いて言うと、そんな会話を主人公とライバルが喫茶店でしたら特に何も言わずスッと二人それぞれの好みの味の珈琲を差し出すOSRの高いマスターでありたい(願望)。が、それはともかく。

 

「…………強いて言うと『お前らの味方』だよ。だから、悲しい別れだけで全部まるっと収まるとか思っちゃいねー」

「は……?」

「そりゃ最終手段としちゃ、こっちの手で成仏させるのか消滅させるのかって話にはなるんだろうけどさ。そーゆーのじゃねぇだろ。こう、好きな男の子のために身を張る女の子と、好きな女の子のために身を張る男の子の話のオチがそれじゃ、あんまりにもあんまりじゃねぇか」

「…………い、いや、別に俺、好きって訳じゃ――――」

 

 

 

「――――今更見苦しいですよ、佐々木三太」

 

 

 

 わっ!? と三太共々驚いて腰を抜かしてしまった。本当、いつの間に現れたのか不明だが、いきなり夏凜が私と三太の間にスカートを押さえて降りてきた。はらはらと光る羽根みたいなのが舞い散ったので、ひょっとしたら飛んできたのだろうか。

 と、私の隣で仁王立ち。胸を強調するように腕を組んで(語弊)、三太を見下しながら言う。心無し下からライトが灯っていそうな雰囲気で若干ホラーだ。

 

「大丈夫です刀太。事情は、おおむね聞こえました」

「い、一体どこから……」

「『好きな男の子のために身を張る女の子』のあたりから」

「「全然聞いてねぇ、絶対わかってねぇ!?」」

「いえ、十分です。要は佐々木三太――――貴方は好きなのでしょう? トイレのサヨコさんが。だからこそこういった暴挙に出た。後先考えず、それこそ感情が抑えられないくらい」

 

 と、少し遅れて九郎丸たちもやってくる……、大明神はいつまで兎さん姿なのかしら。もっとも夏凜はそんなこと気にせず、ずびし! と三太に右手の人差し指を突き付ける。

 

「はっきりと言いなさい――――佐々木三太。あなた、彼女が好きなのね? 好きだと言いなさい!」

 

「む、む、無茶苦茶すぎんだろッ!」

 

 大変ごもっともである、色々スマン(白目)。 

 赤面してあわあわ言いそうな三太に「好きなのでしょう?」「好きなのよね」「好きと言いなさい」と三段活用のごとく指を突き付け続ける夏凜の迷惑行為よ。とはいえ久々に原作の夏凜らしい(無能)暴走っぷりを見たような気がして、謎の安心感を覚える私であった。……末期症状か?(震え声)

 

「え、えっと、状況がその…………」

「おうちかえる」

「まぁまぁ…………、落ち着けってキリヱ大明神」

「だからだいみょうじんよばわりはやめなさいよッ!」

 

 現実逃避気味に九郎丸やキリヱと話していると、ついに根負けしたのか三太、絶叫。

 

「好きだったら何だよ! 悪ぃかッ!」

 

「「おお~」」

「はい、良く言えました」

 

 三人してパチパチと手を叩く謎の連帯感。ちょっと泣きべそ気味の三太に、思わず夏凜の傍を離れて肩を叩いてしまった。こと完全に女の子堕ちしてしまった九郎丸ちゃんを前にして、一空がいない我々は完全に孤立状態なのだ(諦め)。

 

「……あー、夏凜ちゃんさんのせいで話が逸れちゃったけど。要はアレだ。このままだと拙いけど、今のままだと話を聞く気が『相手にない』。ってことは、認めさせるしかねぇってことだ」

「み、認めさせる? 何をだよ」

「そりゃ、お前があっちが思ってるより頼りになる、一人で抱え込まなくっても大丈夫だってことを。何、大丈夫。少なくとも俺こんなにボッコボコに出来るくらいなんだからさ――――」

 

 だから、と。この後の原作知識を洗った結果、出て来た一つの結論を言う。――――夏凜の防音結界を出た以上は「この会話すら」「どこかで聞いているだろう」水無瀬小夜子に向かって。

 

 

 

「――水無瀬小夜子自身ですらコントロールできなくなった『トイレのサヨコさん』の殺人事件を、システムとなってしまったその怪異を、俺達で、止めるんだ」

 

 

 

 そうすりゃ流石に向こうも無視できねーだろ、と。そう笑いかけると、三太は一瞬驚いたような顔をして……、そして目元をぬぐって、応、と言った。

 

 

 

 

 




雷獣(子)くんアンケートもうちょっととります・・・!


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ST87.死を祓え!:原作フルブラストアクション

毎度ご評価、ここ好き、感想、誤字報告などなど有難うございますナ!
深夜を・・・脱した!
 
あっ、今回もちょこちょこ独自解釈的な設定がありますのでそこはご注意汗


ST87.Memento Mori:Prehistory FullBlast Action!

 

 

 

 

 

「やぁ刀太君、ごめんねー、大学の方でちょっと仕事を頼まれちゃったのと『スポンサー』からの意向もあって中々その場を後にできなくって。それと……、三太君。電話で色々言われてちょっとびっくりしちゃったけど、すごく少年漫画の主人公みたいなことになってるみたいだから、いったん僕からは何も言わないよ。ヨロシクね?」

「だ、誰?」

「ん? 嗚呼そうか、君は僕の壮年バージョンしか見てないからだね。こっちの方が今日は動きやすいと思って、少しお休みもらってきたんだ」

 

 三太に相対する一空は学生服に身を包んだ十三歳くらいの姿となっていた。昨日などは壮年姿での応対しかしていなかったこともあってか、人見知りを発動して少し声がうわずってる三太だが、「ご覧の通り身体はロボットでね」と片手をヘビーマシンガンに変形させたりするのを見せて仲良くなっていた。

 

 夜。教会地下の一室にて再び防音結界を張り、一空が来るのを待った。というのも三太曰く、教会の地上にある通信機器をクラッキングして直接私たちの会話を聞いて情報を集めていたとか。流石に同じ二の舞をしてサヨコさんに探られるのもどうかと思ったので、今回はその対策をしたという流れだ。なお地上にはシスター・ココネが待機しており、彼女が一空を地下まで誘導してくれた。

 

 そして、改めて一堂に自己紹介する三太。「超能力者、改めスーパー幽霊?」という三太に「幽鬼(レブナント)って分類を僕らの方ではするね。普段は生身となんら変わりのない幽霊……、その中でも確かにスーパーが付くくらい色々凄そうだけど」と九郎丸。なおキリヱは「私こーゆー単純っていうか、よくありそうなベタな展開嫌い……」などと言いながら胡椒カフェオレを飲んでおり(まだ持っていたか変な飲料シリーズ)、夏凜は……。

  

「……さて、場も温まったところで? とりあえず今後の目標を――――」

 

「いやちょっと待って近衛刀太君? 私、こんな面倒そーな話直接関係したくないんだけどー……」

「でも盗み聞くのでしょう? ならばもう少しくらい私たちに貢献しなさい」

「せ、せめて神聖魔法使って肩押さえつけるのやーめーてー! 夏凜ちゃんは『その時代』の人だから私たちが使うのと根本的に威力がけた違いだからーっ!」

 

 と、そんなことを言ってその場から離れようとする老婆のシスターの両肩を押さえつけて無表情な夏凜である。己の生死にかかわらず相変わらず愉快犯な春日美空であるが、そんな彼女に対するこの夏凜の対処は慣れている感じがひしひしと感じられる。そもそも春日美空の胴体を光る縄のような魔法で縛っている時点で折檻まで五秒前! のようなノリだ。三太も神職は苦手らしいが(おそらく幽霊的な理由で)、流石に可哀相と見えて「も、もう少し緩めてやっても良いんじゃね?」と意見する程。

 

「いえ、駄目です。そんなことをしたが最後、この人は一晩中この一帯を跳んで跳ねてして逃げる可能性がありますので」

「うっ」

「ミソラ、諦めた方がいい」

 

 かくして項垂れながら強制参加となった春日美空はともかくとして。先ほどから部屋の入口のあたりで隠れているのは一体誰なのだろうかという謎はあるのだが。一空と一緒にここまで来ていたらしいが、何やら準備があるとのことで少し待機中らしい。

 ……なおそこで「ふみゅー!」と雷獣の鳴き声が聞こえてきたりする。懐いてるのかエサでも貰っているのか。どちらにしてもその相手が謎極まりないと言える。

 

「じゃあ、改めてッスけど。とりあえず今の作戦目標としては二つ。

 一つは、トイレのサヨコさん、改め水無瀬小夜子をどうにかして『解放できないか』って話。人格や能力を守ったまま自由な浮遊霊くらいに出来るのがベストといえばベストッスけど、そこが無理でもこのまま放置すると拙いって話。

 もう一つは、水無瀬小夜子の協力者をどうにか捕まえないといけないってこと」

「協力者? って、えっと、映像で先生とか言ってた奴よね」

 

 キリヱの言葉に首肯。彼女には「最悪の場合はまた『戻る』かもしれない」とは言ってあるが、それでも最低限、三太が「大丈夫」だということを水無瀬小夜子に認めさせる必要があるというのに納得してもらった。色々言いたいことはありそうだったが、今の所致命的な失敗までは(彼女基準で)していないという判定らしい。有難いやら期待が重いやらだが、ともかく。

 

「まー、生前から付き合いがあんのか死後の付き合いなのか知らねーけど、ゾンビウィルステロ幇助だって考えたらどう考えてもヤベェだろ」

「言い逃れは出来ないわよね」

「そうだね……」

「とはいえコイツ自体にも警戒したいってのは、どうもあっちが言うに『生物系ウィルス』だっけ? それを、水無瀬小夜子は破棄したけど、そっちの方はどうしてるか不明だって話。下手すると、水無瀬小夜子をどうにかできてもあっちが何かしでかす可能性があるってことだ」

 

 もっと言うのなら、これを阻止することで原作後半において大量の死者を出した通称「ネット風邪」と呼ばれる、小規模な「ラスボスの使いたい最終兵器」じみたモノの誕生を防ぐことが出来るかもしれない。これに関しては原作準拠と考えれば特大のガバではあるが、いかんせん私も二年程度はこの世界で過ごしている。その間できた例えば熊本での仲間達とのつながりは、原作通りの流れとかで言い表せないくらいに私の心に深く根差している。だからこそ、そのような形での別離を受け入れがたい。

 嗚呼、確かにそれを失った原作の刀太は、精神的にかなり大きなダメージを負ったのだろう。例え彼自身がそれでも多くの命を救ったのだとしても、圧倒的に経年し時間が離れたそれにおいて、もはやどうしようもない程に。

 

 それが分かる程度には、私もなんとかしなければという意識がある。ただ一つ幸運かもしれないのは「ネット風邪」さえ生み出さなければ、そもそも作中後半にあった「時間軸ジャンプ」(比喩)のイベントも発生しないかもしれない。そういう希望的な観測もある。

 

 なんにせよ、何かしら手を打ちたいというのに変わりはない。

 

「とは言ったものの、まー、容姿についちゃ全然情報出せねぇんだけどなぁ……」

「ローブを着て、仮面つけてたっけ」

「確かそんな感じだったわよね」

「はっ? 何だ、えっと、どういうことだ?」

 

 あっ、と三太の一言で気づいた私、九郎丸、キリヱの三人我々にとっては一応「共通の話題」ではあるが、他の面々にとっては「あの歴史」は存在しなかったことになるので、考えを共有することができないのだ。

 よ、予知よ予知と明らかにごまかしに入っているキリヱが私の方を見て「早くなんとかしなさいよッ、アンタが適当に話題ふったせいでしょ!」と圧をかけてくるがスマヌ(戒め)。流石に今回の三太編(キリヱ編込)に関しては色々とフラグ管理が大変すぎて、ミス自体はゼロには出来ないのだ。

 と、困っている私に対して夏凜はため息をつく。

 

「…………何故、あなた達三人がそれを知っているのかは一旦置いておきましょう。似顔絵に起こせる?」

「はい? あっ、出来るッスけど……」

 

 お願いできるかしら、と夏凜が少し半眼になって微笑む。どうやら助け舟を出してくれたらしいが、貸し扱いということらしい。……後が恐ろしい話はそれこそ一旦置いておくとして(震え声)、私の描いたそれを他の面々にも見せた。と、これには春日美空が「うげぇ」とうめき声。

  

「ミソラ……」

「な、何? 別にげっぷとかじゃないんだけど―――――」

「でないならば、一体何に対するうめき声なのでしょうかねぇ? シスター・ミソラ。どう見ても貴女が『また面倒なの来たよコレ』と思ったりしてる時のうめき声だと思うのですが」

「い、いや、別にそんなことないっかなーって……って、縄強くしないでッ! ババアもうちょっと労わって!」

 

 と言いながらも徹底反抗したせいか、神聖魔法の縄が段々と締め上げを強くしていき、やがてシスター・春日美空が折れた。……あ、あの、老人虐待では?(震え声)

 

「この程度で死ぬようなヤワな相手ではありませんよ、刀太に、佐々木三太」

「今ナチュラルに心読んで来たッスかねぇ」

「こ、怖ぇ……、トータ、お前よく仲良く出来るな……」

「いや、まー悪い人じゃないし。色々助けてくれるし……」

「わ、私の話は置いておいて。シスター・ミソラ。何か知っているのですか?」

 

 夏凜の質問に、横長椅子に転がった春日美空は渋る。……こう、背筋ピンシャンしてるとはいえご老体に相応しいくらいに老婆という風貌なのだが、一切そんなことを感じさせずあまつさえ中学時代の彼女を思わせる表情をしているのは、本当この人の独特な生き方を表している気がした。

 

「えぇー。……いや、確かに色々知ってるけどォ、正直私が出張るレベルの話じゃないんだよコレって。どう考えても『ネギ先生』とか『エヴァンジェリン』さんとか、あと『たつみー』とか『木乃香』の仕事っていうかー」

「それは……? 『現代最後の指導者(ラストテイル・マギステル)』の教え子の一人であったと聞きます。雪姫様とも縁のある貴女が、対応できない?」

「いやだって、私って非戦闘要員っていうか、逃げ足担当みたいなところあったしィ……」

 

 

 

「――――そこから先は私が引き継ぎましょう、春日さん。マスターもこの場にいたら『どうせ春日美空ではぼーやの頃の話をするのも荷が重いだろう。心臓がいくつあっても足りまい、老婆だしな! ハッハッハ!』と高笑いを上げることでしょう」

 

 

 

 いくら何でもそこまで!? と驚愕の声を出す春日美空はともかくとして。扉を開けて入ってきたその相手は…………。緑の髪に同様の色をしたガラス玉のような瞳。耳から頭部にはアタッチメントなんだかアンテナなんだかネコミミなんだかといった装置があり、容姿だけで言えば美女モードのエヴァンジェリンに少し雰囲気が似ているが、それよりはやや幼い。切りそろえられた髪は放熱用のものからオシャレ用、後年であることを考えると更にアップデートされていることだろうが、そのビジュアルを見て、私は言葉を発することが出来なかった。

 そんな彼女……、未来のアンドロイドらしいストレートに未知の素材で出来た秘書風な服と言えば良いか、そんな恰好をした彼女は、私たちに向かって頭を下げた。

 

「初めまして、UQホルダーの皆さま。皆様のお話は、マスター、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルよりかねがね。

 絡繰茶々丸……、マスターの従者にして『七人の侍(サムライ・セブン)』にて『現代最後の指導者(ラストテイル・マギステル)』の秘書を務めておりました。電子関係であるのならば、何かとお力になれるかと」

 

 …………茶々丸……、原作7巻……、時系列……、ガバ……いや? 待てよ? 現状において次の事件の概略を知っているものの明かすことが出来ない状況から考えて……。

 

 

 

 勝ったな(確信)。(???「ついにイベント時系列とかがぶっ壊れてることから目をそらし始めたよこの男は……」)

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

『龍宮さんから連絡がありました。状況を勘案すると、貴女が向かうのが妥当でしょう。……春日さんたちにも宜しくお願いしますね? 茶々丸さん。

 ああ、「みぞれ」にはナイショでお願いします。きっとついていくと言い出しそうですから』

 

 私に似て猪突猛進な所があるというか愛一直線な所があるというか、と苦笑いを浮かべられた、いいんちょ……、いえ御屋形様(ヽヽヽヽ)

 現在、私がお世話をしている彼女の一言で、私は再び麻帆良に向かうことになりました。

 

 麻帆良学園都市、改めアマノミハシラ学園都市。水没した旧関東の半分から委譲する形で首都機能を一部引き継いだこの場所には、様々な思い入れがあります。

 こう言うと「AI葉加瀬」に色々と揶揄われそうなものですが、既にそこで動揺を覚えるような私ではなくなっております。

 

 それほどまでに、ネギ先生やマスターと共に歩んだ数十年は色濃く。

 それ以前の、3-Aだったころの日々を重ねて、それらに引けを取らない日々でした。

 

 少なくとも、私に「心」があり。

 だからこそ、一つの生命である。

 

 アマテル魔法魔術研究所不死化実験――――通称「英雄の子供達」計画において、他の方々と違いDNA提供の代わりにAIのアルゴリズムを提供し、それが彼女たちの内に密かに引き継がれているように。

 

 そして、最新サイバネティックの技術研究の進捗状況の確認の仕事と併せて、UQホルダーの一人、飴屋一空に接触しました。

 教授として赴任しているのは仮の姿、と龍宮さんより聞き及んでいましたので、密かな自己紹介と、私が「現在サポートしている」方がスポンサーであることを開示して、他のメンバーとの対話までこぎつけました。

 

「勝ったな」

 

 そして出会いがしら、私の自己紹介を聞いた男の子はそんなことを言いまし――――思わずわきの下に手を入れて持ち上げ、その顔を正眼に捉えました。

 

「は、はいッ!?」

「一体何を――――!」

「おや?」

「?」「まー茶々丸さん『ネギくん』大好きだったからねー」

「アハハ、まあこうなるのは妥当なのかな? 聞いてた話からすると」

「聞いてた話って何よ? ……っていうか、ちょっと高い高いみたいで笑える」

「笑ってやんなよ……」

 

 外野の声はともかく、顔をよく見て近づきます。

 DNA分析できるほどの精密なズーム機能は搭載されていませんが、顔認証・骨格認証程度の照合は可能なように出来ています。

 

 一致率:近衛木乃香・・・60%、桜咲刹那・・・20%、ネギ・スプリングフィールド・・・15%、神楽坂明日菜・・・5%。

 明日菜さんの作りは殆ど見受けられませんが、ベースとなったDNA情報からアマテル魔法魔術研究所不死化実験・実験体ナンバー7および73(ヽヽ)無限の名(ノーメン・インフィニトス)」、否、「近衛刀太」と仮定。

 確率は九分九厘。

 

 つまり、ネギ先生と明日菜さん、木乃香さんと刹那さん、そして「私の」孫――――。

 現状「公的に」ネギ先生の孫を名乗れるのは、名実共に彼のみだとマスターから情報がありました。

 

 思わず抱きしめると、顔を真っ赤にしてジタバタと彼は暴れました。

 

「は、離してくださいッス……、っていうか柔らかいのアンドロイドだとか色々関係なくヤバイッスからァ!」

「いえ、スミマセン。……私のことは、是非、お祖母ちゃん、とでも。ネギ先生のお孫さんであるのなら、『私たち』にとっても孫同然ですので」

「呼べないッスよー! っていうか離して、呼吸、パワー制御できてない、気管、締ま……っ胸溺れ―――――る……」

 

 おや、どういうことでしょうか。

 ぽんぽんと頭を撫でながら周囲を見回すと、桜雨キリヱが「今度はお祖母ちゃん、だと……?」と愕然としております。

 時坂九郎丸は「どういうこと?」と首を傾げていますが、神鳴流ということは私の動きからして人型機械(ガイノイド)だと察しているのでしょう。

 結城夏凜は「外から見ると思ったよりも酷いものがあるのですね、ふむ……」と呟き、隣のパーカー姿の男の子に「今更ァ!?」と唖然とされています。

 

 そして少年姿の雨屋一空は「茶々丸さん、話が進まないのでそこまでで……」と一言。

 

 ネギ先生の臭いとは少し違いますが、それでも名残惜しく。

 しかし会議を進めたいということなので、私は諦めて手を放しました。

 

「あ、あ、あ…………、えっと、えーあー……」

「ちょっと、ちゅーに完全に思考停止してるじゃない!?」

「オレ、ちょっと色々なんかえっと……、何コレ?」

「アハハ、そうだね三太君。細かくは雪姫様に追及しないと、かな? 僕らはおろか、刀太君本人が一番困惑してるだろうしね」

「っというよりも貴女、アンドロイドですよね? それが何故――――」

 

 どうやら彼個人の出自については誰も教えられていないようです。

  

 情報検索:近衛刀太の出自の開示に関して。

 ・・・非推奨:マスター・エヴァンジェリンからの許諾が出ていない。

 

 また心情的にも、今それを明かすのは混乱の元でしょう。

 

 ナイショです、と柿崎さん直伝のウィンク&スマイルをして誤魔化しました。

 ほぼ全員が、名状しがたい表情(私のデータベース上にある感情で言い表しがたいもの)をして、黙りました。

 

 唯一そこから逃れていた結城夏凜はといえば……、春日さんを締め上げながら、見下すような視線を送っています。

 

「刀太の祖父関係ということは、アナタも何か知っていますね? 素直に吐くのが身のためですよ、シスター・ミソラ」

「ちょッ!? こ、ココネ、流石にヘルプを――――」

「ナム=アミダブツ」

「ババア救出するの諦めないでェ! 死にはしないけど絶対明日筋肉痛なるからァ!」

 

 嗚呼、話してはいけませんよ春日さん。

 そちらには長瀬さん直伝の「しぃ~」を送り、口止めを実行しました。

 

 完璧です、私の情報封鎖にぬかりは在りません。

  

『H.S.:科学に魂を売り渡した悪魔な私が言うのも変だけど、ちょっと強引じゃないかなって思うよ? 茶々丸』

 

 AI葉加瀬は黙っていてください。

 完璧といったら完璧なのです。

 

 だから、完璧な私は話の続き――――似顔絵に描かれたその存在について、彼らに話しました。

 

 

 

 

 

 



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ST88.死を祓え!:私の王子様

毎度ご好評あざますですナ!

ギリギリ深夜前・・・! 体調と格闘しながらなんとか更新なんですが、ちょっと推敲甘いかもなので後で手が入るかもです汗


ST88.Memento Mori:My Sweet Blues 

 

 

 

 

 

 あーあ、失敗しちゃったなって。なんか凄く普通に話せそうだから、思いっきり考えてることを言っちゃったんだけど、どうやらそれは彼個人としては聞き入れられないみたいだった。彼個人って言うより、三太君的には、って話なんだけれど。

 

 近衛刀太……、UQホルダーの吸血鬼? 魔人? よくわからないけど、比較的新人らしい。単純な強さで言ったら「生前」の私が百人いても敵わなさそう。

 そんな彼が、私に三太君へメッセージを言ってくれって。メッセージというよりは、経緯の説明っていうか。私的に三太君はだいぶ心を開き始めているように見えるけど、それでも彼に言わせると違うらしい。

 

「好きな女の子の進退がかかっている状況で、第三者からの言葉なんて耳に普通は入らねぇって。特に思春期だし」

 

 す、好きな……、三太君が私のことを好きかどうかはともかくとして……、表面上はともかく、心の奥底、「封じた」記憶の果てではきっと怖がってるか嫌ってるから、それは一旦考えないようにしてっ。

 近衛刀太に言われた通り、世界樹の上に浮かびながら、そんなことを言って――――そして、いらないことまで色々と言ってしまった。

 

 ……最後に、その、たきつけられてたせいじゃないけど、大好きって。

 きっと、私が正気をもって伝えられる最後の言葉になっちゃうかもしれないから。

 

 

 

『――――ふみゅー!』

「あ痛っ」

 

 

 

 そしたら、近衛刀太に「雷子ちゃん」を投げつけられた。何で? 私、ちゃんとオーダー通り色々話したよ!?

 

「最後の一言が余計だわッ! あの経緯説明でンな風に思わせぶりな事言ったら、ハラ決まった三太も後に引けなくなるだろッ! いい加減にしろッ!」

「な、何か問題なの? でも、流石に撮影し直しは無理っていうか、そろそろ『分身体』の維持が難しくなってきて――――」

「猶更悪いわッ! このお馬鹿(ガバ)! 馬鹿(ガバ)!」

「な、何か知らない罵倒されてるー ……?」

 

 何なんだろうあのテンション……。凄い命の危険でも感じてるみたいな表情でそう言ってくるのに、私も罵倒されてるからって文句を返す気が起きなかったのはちょっとびっくりだったけど。その後一人でぶつぶつと言って「まぁやりようはあるか」ってすごい力のない声で言ってた。

 

「……言っとくが、すぐにお前さんをどうこうするつもりは無いぞ? 俺の手でこの場で倒せるとも思ってないし。っていうか分身体倒したところで意味ねーだろ? どっかに本体いるんだし」

「それはそうなんだけど……、でもそうじゃなくって、ちゃんと私を――――」

 

 

 

「他に解決手段があるかもって言っても、それを今更探す気にはならないだろ、お前さん」

「…………」

 

 

 

 だって――――そんなもの、あるはずはない。あるんだったら、とっくに私は「こんな」になっていないし、三太君にだって「見放されはしなかった」。

 そもそも、先生にだって裏切られてるんだ。私は。…………当初、腹案として計画していた、生物テロ用のウィルス。耐性のある相手にも適応できるタイプと精神干渉タイプの類似術式も先生と作ったけど、どちらも根底は私の内にあった「もういい加減にして欲しい」という感情からだ。

 

 どれだけ私たちみたいな人間が頑張っても、報われず、そして「私に集まってくる」。こんな世界間違ってると、言ったところで何も変わらない――――変えられない、幽霊だから。

 たとえ「何人殺しても」、「何人殺されても」、そのくらいじゃ世界は変わらない。

 

 いっそのこと、皆、死んじゃうようなことでもない限りは。

 

 それを裏切ったから、先生は私に、関東の地に眠る大きな力を植え付けて――――。

 

「ま、納得は出来ねーだろ。もしそれを納得させられる相手がいるとしたら、それは俺じゃない」

「…………三太君のこと?」

「わかってんじゃん。知ってるか? ――――」

 

 ――――恐怖を退け歩み続けることを、人は勇気と言うらしい。

 

「アイツはたぶん、お前さんの為なら『勇気を出せる』。間違いなく、お前さんを助けるためだけに」

「――――――――」

「まぁ一人じゃ無理でも、その時は俺だって協力する。俺っていうか、俺達っていうか、なんだかんだでそういう流れになるだろーし」

「――――そんなことしたら、三太君が危ない目に遭うじゃないッ! 私が正気じゃなくなったら、きっと、絶対、三太君相手にだって酷いこといっぱい言っちゃうし、いっぱいしちゃうッ」

「それでも引かねーだろ。付き合いは短いけど、短いからこそわかることもある。特にあーゆーのはドツボに嵌ったら中々……」

「……そんなこと言ったって、でも、それって別に、私じゃなくっても良かったんじゃないかなーって。そう思う」

「それでも『その時に』『手を差し伸べたのは』お前さんなんだから。だから、間違いなくそれはお前さんじゃなきゃいけなかったんだって、俺思うぞ?」

 

 だから見ていてやれって。そんなことを言って笑う彼に、私は顔を向けることが出来なかった。少なくとも俺をボコボコにできるくらいには強いのだから、きっと、現象(システム)と化したトイレのサヨコさん(私の分身体)なんて目じゃないって。

 

 私は……、本体に戻った私は、目を逸らした。彼に突き付けられたことを、認めたくない? 違う。それは、私だって出来るならもっと別な方法で、三太君と一緒にずっといられるのがいい。でも、それだって所詮は「消えていく者たち」の戯言でしかないんだ。

 本当はわかってる。私なんかがいつまでも、こんな場所に居ちゃいけない――――三太君を惑わせちゃいけない。

 

 同じ死者でも、私と三太君は違う。きっと、「逝った」としても違う場所にたどり着くことになると思う。それくらい、「こうなってしまった」私は酷いことをしてきた。

 

 ただ、きっかけは間違いなくあった――――最初の殺人。それだけはシステムでも何でもなく、「私自身が」「殺意を抱いて」あの女たちを殺した。

 それだけじゃ足りないって、そして、「皆」を受け入れたのも、私だ。受け入れやすい素地が出来ていたからと言っても、それを最終的に良しとしてしまったのは――――私なんだ。

 思えばきっと、アレから歯止めが利かなくなっちゃったんだ。だから力が増大して、それでも無理に「私」を維持しようとした結果、「私じゃない」私の部分が外れて、勝手をするようになったんだと思う。なのにそのやったことは全部、全部私に「返ってきて」、全てを知ることが出来てしまう。――――だから、どんなに言いつくろったって、それをやってるのは私だから。

 

 嗚呼、こんな私……、抱いちゃいけないんだ、希望なんて。

 

 

 

 だから、その日はちょっと驚いた。

 

 

 

「……う、嘘?」

「まとめて、ドン! だ! オラ!」

 

 三太君――――夜の教室で、遊び半分で行われた「トイレのサヨコさん」に投函された名前の生徒たちを、私の分身たちが「透過能力」を使って天井に埋めようとしていたときに、現れた。

 近衛刀太とかと一緒に来て、マジかよとか、三太君、すごい驚いてたけど。私の分身体……、いかにも「それっぽい」、おどろおどろしい表情をしてる私を見て、三太君が表情を歪めて。それでも近衛刀太に肩を叩かれて、気合を入れ直したみたい。

 

「総勢六人……、まっ、一人一体くらいで――――」

「私、無理だから! ナメんじゃないわよちゅーに!」

「キリヱちゃん抑えて……」

「――――では私が加わりましょう。専用装備も学園長代理から買い取りました」

「買取式なのかそれ……(流石龍宮隊長、お金に煩い)」

 

 近衛刀太、時坂九郎丸、結城夏凜、雨屋一空、三太くんに……? えっと、桜雨キリヱを庇う様に出て来たのは、見覚えがあるような、ないような、緑色っぽい髪をしたアンドロイドさん。

 

「ハハハ、僕も物理が効かない相手は『あんまり』得意って訳じゃないから、誰か早めに終わったら手伝ってね~?」

「あんまりって、どういうことなのかしら飴屋一空……」

 

 それぞれが武器を持って、こっちに斬りかかってくる。……なんだろう、アンドロイドさんとか三太君はともかくとして、皆武器が剣とか刃っぽいのは、何かそういう決まりがあるのかなー? 結城夏凜なんかは、持ち手のところは十字架っぽくなってるけど刀身はわざわざ日本刀みたいだし。

 とりあえずアンドロイドさんには電子的破壊工作(クラッキング)をしかけたみたいだけど、どうもアルゴリズムが凄い複雑で侵入までに時間がかかりそうだった。

 私の分身も油断してたわけじゃないけど、三太君が一気に分身体六人を窓を破って外に放り出し、他の人たちがそれに続いて攻撃してくる。分身たちも、負けじと応戦するけれど……。ちょっと予想外すぎることがあった。

 

「――――まず一体」

「ヒッ!?」

 

 結城夏凜の剣一振りで、分身体が一つ文字通り「消された」。他の分身たちも、いっせいに彼女の武器を見てしまうくらいにあっけなく。……何か逸話とかのある、由緒正しい武器とかだったりするのかしら。

 

「神鳴流奥義・斬魔剣!」

「聖なる銀の弾丸――――まぁレプリカだけどね?」

 

 その隙に時坂九郎丸とかが、こっちに斬りかかってくるし。あっでも三太君は分身体と一緒に視線を刀に送ってたから、そこは少し嬉しかったかなー。

 時坂九郎丸にはねられた首が、それでも結城夏凜の方を危険と判断して封殺するため「人の形を捨てる」。髪を伸ばし、彼女を拘束。そのまま精神干渉系の魔法も併せて、周囲からの妨害を「潜在意識から」封じる。

 

「なっ!」

「アルエル・ファルエル・ベルベット――――ウェニアント(来たれ!)スピリトゥス・ヴェントゥス(風の精霊)・エト・ニグルゥム(闇の霊よ)――――」

 

 驚いた顔をしてる彼女だけど、誰もそんな彼女を助けない――助けられない。「助ける」という考えを抱けない。そのまま武器の剣を取り上げつつ呪文を唱えて――――。

 

「――――いや、流石にさせねぇって」

「!?」

 

 言いながら近衛刀太が、その首だけになった私を斬り伏せた。

 

 えっ!? あれ、こんな、なんか普通に攻撃してきてるんだけど……? いくら分身体が私の本意を外れてまで人を殺し続けてるとは言え、あれだって私な訳で。つまりここ八十年近い研鑽がそこにはあるんだけど、それをものともしないで平然と、私の精神妨害を突破してきた。

 あれ? ひょっとしてこの人、思ったより強い……? なんかこう、女の子に振り回されて漫才してる印象がほとんどだったんだけど。

 

「……っていうかめっちゃ早口だったな、呪文詠唱。やっぱ人外になってる分――――」

「――――っはッ!? と、刀太君、すごいよ今の! 僕も完全に『引っ掛かってた』のに」

「言いながらこっち見つつ普通にぶった切ってるの、そっちの方が凄くね?」

 

 八年前は一人だったから、いまいち実感がそこまで強くなかったかもしれないけど。でも流石に人数が揃うと、UQホルダーは厄介だった。……って、まーその、「倒された」私の経験値がフィードバックしてるからそういう敵対思考になっちゃってるんだけどー。でも、逆にそれは三太君の安全がより保障されてるって意味にもつながっている。

 そういう意味では、安心……、かしら?

 

 そして飴屋一空に結城夏凜がフォローに入って、近衛刀太が三太君の方に回ってきて。

 

「…………いや、何やってんだってお前らさぁ……、何か高度なプレイか何か?」

「い、いや、その、そんな気はなかったんだって……」

「……な、ない、からー、本当にっ」

 

 そして、三太君と私の状況に表情が引きつってた。

 私と三太君は、それぞれお互いを拘束しようとしていた。……いくら彼に焚きつけられたからって言っても、三太君は三太君で私を傷つけたくない、とかなのかなー。それは分身体とはいえ「まだ」辛うじてそういう意識が残っているのもあるんだろうけど、あっちの私も考えは似通っていて。だからお互い、能力を駆使して色々やった。

 三太君は念力で私を床に縫い付けて、どうやったのかわからないけど、そのまま「私の魔力で」その拘束が延々と持続されるようにした(すごーい! 本当、どうやったの三太君!?)。

 で私の方はといえば、私の「影」に潜んでる他の怨霊たちを使って、三太君を地面に拘束して……。

 

 つまり近衛刀太が見たのは、お互いがお互いの能力で地面に転がってる私たちっていう。

 

 新手のバカップルじゃねーんだから、とか言いながら、彼は手に持つ黒い刀で三太君を拘束してる手を「斬る」。半実体の三太君を拘束している腕だから、その腕も今の時点では半実体、つまり物理的に干渉できるからこそ、その一撃はしっかり通った。

 煙を上げて消えていくそれから逃げるように飛び退く三太君……、えっと、その、そ、そんなにばっちぃものを見るような目を向けなくても良いんじゃないかな? 一応、その、本意じゃないけれども、それだって私の一部な訳なんだし、えっと……。

 

 本体の私のそんな意見なんて無視して、分身体の拘束されていた私は「人の形を捨てた」。頭を中心に人の腕を無数に生やして、まるでクモの脚みたいな姿になってる……。それでも、無理やり地面から起き上がっても胴体自体は拘束されていて、身じろぎ一つとれないらしい。

 いや、それにしても、もうちょっとデザイン拘れないかな私の分身体……。もうちょっと可愛い感じにして欲しいなーって。

 

「で? どーすんだ。俺がやっても良いけど」

「……いや、不覚とっちまったけど、でも、オレがやる」

 

 オレがやんなきゃいけねーんだって。三太君は立ち上がって…………それと同時に、三太君の周囲に「私の影から」溢れた人たちの「残骸が」現れる。

 その怨霊、大量の髑髏たちが未だ戦っている他の人たちも飲み込む勢いで溢れる――――どうやら分身体の私、三太君と話をして味方に引き込めないかってやるみたい。

 

 分身体の私は言う。そんな表面ばっかりわかった気になってる連中に、好きなように言われて私を殺すのかと。三太君は、そんな相手が憎くて、悔しくて、自分の本当のことを見てくれずに自分を捨てた、社会を、人間を、壊してやりたいんじゃないのかって。

 ……これもまた、確かに私の本心の一部ではあるんだけど。でも、このタイミングでそういうことを言うのは……。

 

 三太君は、そんな私の分身のささやきに、目を閉じて「そうかもな」って言った。

 

「確かに、仕返ししてやりたいってのは思ってるよ。何も知らないで平和ボケして、俺に無関係だからこそ『俺達』みたいなのに手を差し伸べなかった全部に」

「なら、うん! 任せてね? 私は――――」

「――――でも、だから、オレはお前に会えたんだ」

 

 お前が、俺に手を差し伸べてくれたんだって。

 なんかこう、三太君が今までに見たこともないような、強く食いしばるような表情で言って。

 

 あー、あー……、これは、分身体の私でも、ちょっとイチコロじゃないかなー。

 

 流石にビデオをとったから事情はあっちも解ってる分、分身体も「狂ったような」演技はしなくなってるけど。

 

「……ッ! アルエル・ファルエル・ベルベット―――― 魔法の射手(サギタ・マギカ)病の十三矢(セリエス・エクシティアレ)!」

「――――幽波(スタンド・オン)

 

 闇と死の属性をまとった風の矢を、三太君は「念力」で作った円形の壁みたいなもので、受ける。念力の壁に刺さった矢は、空中で縫い付けられたみたいに動いていない。

 

「何があったか、詳しくは知らないけどよ。オレだって、お前が『あんなこと』した理由だって、本当に半分も聞いちゃいなかったのに、なのに勝手に怖がって、絶望して……」

「……っ」

 

 それは、違うと。分身体の心も、フィードバックされてる私と同じようなことを考えていて。それでも、私が続けるよりも先に、三太君は拳を構えて――――。

 

「…………でも、だけど! そうじゃねーだろッ! 小夜子のバッキャロォ……!」

 

 三太君の、ボクシングのできそこないみたいなパンチが、念力の壁にぶつかると同時に「膨れ上がった」みたいに広がって――――。

 

 

 

「――もっと頼ってくれたって、良かったじゃねーか。オレ達、ずっと友達だったろ?」

「さん、た、くん――――」

 

 

 

 私の周りから蹴散らされた「皆」が。三太君の強い意志だけで消し飛ばされた「皆」が。まるで私を裏切り者とでも言うように、大きな悲鳴を上げながら消えて行って。

 分身体の私、倒れる私を支えながら、三太君は泣きながら、笑う。

 

「そりゃ、オレだって少しくらいしか魔法使えねーような、ヘナチョコな中学生だったけどさ……? それでも、何か手はあったかもしれねーじゃんか」

 

 私の分身体は――――分身体を通した「私の心」は、もう、止められなかった。

 

「違うの……、全部、最初から私が悪かったから……、三太君を追い詰めちゃったのだって、私の自業自得だったから…………、だから、三太君には『私の事で』そんな顔、して欲しくないの…………」

「何言ってんだよ、お前……ッ」

「……だけどね?」

 

 三太君の手を握り返して、「私の心」は、出来る限り笑った。

 

「――――それでも、本当に三太君が助けてくれるって、言うのなら………………、私、待ってるから……」

 

 どこまで持つかわからないけど、それでも。

 既に私の内の衝動は、私の心の「黒い部分」を抑えきれないくらい限界に来てるけど――――。それでもせめて、「先生」が仕掛けたコレだけでも動かさないようにと。

 

 精一杯笑ってその場から消えた私の分身体。その最期に見た、三太君のカッコイイ顔に。少しだけ胸がドキドキして。

 ……久しく感じていなかった、不思議と、心のどこかがぽわぽわ温まるような、真っすぐな気持ちを、私は胸にしまった。

 

 

 

 

 



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ST89.死を祓え!:アイデア失敗

毎度ご好評あざますナ
今日は逃れられなかった・・・(深夜)


ST89.Memento Mori:Don't Notice

 

 

 

 

 

「そんな……『髭切』が…………、いくら『十蔵』が勝手に持ってきたものとはいえ、相当なお値打ち物だと聞いていたのに…………」

 

 普段使っている日本刀なんだか西洋剣なんだか微妙な刀の刀身を見て、夏凜はそんな風に嘆いていた。かける言葉がない。ないというか、例によって「(うず)められていて」声を出せないと言うべきか、ちょっとでも動くと色々と思春期が思春期な状況と言うべきか(婉曲表現)。

 言葉がないがそれはそうとしてその髭切と言う刀、もしかしなくても妖魔特攻なあたり源頼光伝説の茨木童子(鬼)の腕を斬ったとかでおなじみ「童子切安綱」とかだったりしませんかねぇ……。獅子巳十蔵あたりが持ってきたという情報から推察すると、レプリカとかでなければ準アーティファクト級な、一応国宝級のブツのはずなのですがねぇ(震え声)。

 

 本日深夜、「トイレのサヨコさん」による連続殺人の防止のために戦った際に、武器が「折られて」しまったことである。実際問題私がカバーリングに入った時点で、水無瀬小夜子の従える亡者群に取り上げられて「腐食させられていた」せいもあり、見事に真っ二つ。落ち込む彼女は何を思ったか私と九郎丸とキリヱ三人を抱き寄せてぶつぶつと声をあげていた。一体この三人セットで何の癒しを求めているのだろうか。借りて来た猫のように目を丸くしてきょとんとしているキリヱはともかく、九郎丸は九郎丸で夏凜の折られたそれを見て、彼女同様愕然としている。

 ますますレプリカではない国宝疑惑が湧いてくるのだが……、いや一旦置いておいて(白目)。

 

「――――霊的電子クラッキングへの『逆探知』率……、失敗。いけません。

 分身体というべきでしょうか、しかし本体との連続性は権限的に低いものと言えます」

「えっと、どういうことッスか……?」

「アハハ、三太君。つまり『本体』が『分身体』に干渉することはできても『分身体』側から『本体』へは干渉できない。だから場所の特定に失敗した、みたいなことだね」

「その理解で問題ありません」

 

 夏凜が普段以上に面倒くさい(断言)状況になったのから全力で目をそらしている三太と、そんな彼にレクチャーする一空に、何やら小難しいことを言っている茶々丸である。いや、そもそも逆探知とか言っているのだが心霊的な接触にそういった能力をかけることは出来るのだろうか……? いや、脳裏で今「ちゃおーん☆」と何処ぞのタイムパトロール見習いがウィンクしてきた映像が出て来たあたり、不可能ではないかもしれない。

 

 絡繰茶々丸。正真正銘の人型労働機械(ヒューマノイドロボット)(人型かつ女性型なのでガイノイドと言うのが正確)で、確か「現時点においても」我らが雪姫ことエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの人形従者である。誕生は2001年、すなわち所謂「2-A」「3-A」が入学したその年だ。「ネギま!」において麻帆良学園最強頭脳と噂される科学に魂を売った悪魔系女子二名とエヴァちゃんの協力により誕生した、半魔動式ロボット。とある事情(今更)から弱体化していた当時のエヴァちゃんをいつもサポートしながらも、ロボットものによくありがちな「心」を獲得していく過程で徐々にネギぼーずに惹かれていき、敵対することもありながらも最終的には彼の秘書に落ち着いたりしていたお方である。

 現在時系列「UQホルダー」においてはネギぼーず失踪にともない、雪姫の指示なのかとある富豪のご婦人のサポートをしているのだが、どうやら色々な経緯でその彼女からここに派遣されてきたらしい。

 

 ちなみに製作者の片方は例の超鈴音である。宇宙人(ホンモノ)で未来人(ホンモノ)で異世界人(ホンモノ)で超能力者(疑惑の判定)がもたらした超技術により作り上げられた存在であるため、明らかに2000年代初頭における技術力を百年以上は余裕で上回っているオーバースペックなロボットさんだった。そのまま特に何ら問題なくこの時代まで稼働していることからしても、まさに異常の一言だろう。

 そんな彼女のスペックをもってすれば、確かにそういう「よくわからない」攻防戦くらいは、先ほどの戦いと並行して行っていても不思議ではない。

 

 さらにちなみにだが。何故我々が「トイレのサヨコさん」による事件の場所を特定できたかについて、その理由も大体彼女である。

 

『過去八十年に確認された事件のパターンから、おおよその事件発生範囲を絞り込みました。そこから学園長権限により「麻帆良防衛ネットワーク」管理AIへと接続し、各監視カメラ映像を精査します――――』

 

 そんな一言と共におよそ三十秒ほど。デュナミスについて「かつてネギ・スプリングフィールドと敵対していた組織の魔法使い」というのをおおまかに説明した後に、私からの依頼を聞いて実行したのだ。そして本当に、なんら面白みもなく当たり前のように夢遊病ステップで歩く生徒たちを捕捉、その行動ルートを計算してこの教室、私とか九郎丸とかキリヱの通うこの校舎の一室を特定して今に至る。

 やはり人間(開始終了実時間攻略計測(RTA))では機械(最適動作模倣補助最短攻略計測(TAS))には勝てないという事か……。いや、別に人生RTAしている訳ではないのだが(断言)。

 

 と、夜中の校庭というかトラックで叫ぶキリヱの声が響く響く。

  

「あーもうッ! とりあえず夏凜ちゃん、離して! はーなーしーてー! っていうか刀太も離しなさいよ、おっぱいで溺れてるじゃないの…………、溺れてるじゃないのッ!? 何、私に対する当てつけッ!!?」

「あっ……、で、でも……(無理やり逃げてないし、やっぱり大きい方が……)」

「キリヱ。貴女、刀太のことが好きなのですか?」

「いきなり何ブッ込んできてんのよーッ!!!?」

 

 かりんちゃんさんはきょうもへいじょううんてんだ(白目)。

 

 現実逃避しながらも涙目なキリヱに引っ張られて脱出(比喩)した私だったが、脱出したところで「ひし」と腕を掴まれるこの状況は一体どうなっているのやら。とりあえず九郎丸の腕も離し、私を引き寄せて腕を抱きしめ肩に頭を乗せてくる作戦に変更したらしい(意味不明)。

 っていうかお顔が近い近い近い近い近い近い近いッ! お止めなすってくれませんかね色々時と場所と場合を考えて(嘆願)。

 

「今この場では別に問題もないでしょう」

「ナチュラルにこっちの考えてること読まないで……って、いや、あの、マジでどうしたッスか? そんなに刀折られたのがショックだったとか」

「いえ、そんなことはないわ。この国の文化的にはあまり宜しくはないかもしれないけれど、私個人としては然程。新しい武器をあつらえなければ程度の感想ね」

「文化的?」「やっぱホンモノっスかッ!?」「これ本物だよ刀太君!」

 

 首をかしげるキリヱはこの手の話は然程造詣が深くないとみえる。が、そんなことはともかくと夏凜はクールな表情のまま続けた。

 

「少なくとも助けられたから、ちょっとくらいはお礼も兼ねまして」

「助けた……って、あー、さっきの?」

 

 そういえば、誰しもが唐突に動かなくなった状態で「バケモノじみた」姿に変貌した水無瀬小夜子の分身体に夏凜がやられそうになったのを、それっぽい感じ(オサレ)に左手だけ死天化壮のポケットに突っ込み、無意味に天井に足を張り付けて斬り飛ばしたりはしたか。

 

「いきなり全身拘束されたみたいな錯覚を覚えたわ。それくらい強い幻覚、ないし精神攻撃系の術で束縛されていたもの。いくら傷つかないからとはいっても、あのままだと色々と問題はあったから、助けてもらったのならお礼くらいするわ。ましてや『貴方』だもの」

「で、お礼が何でこういう展開に……、って無意味に正面から抱きしめられましてもッ!?」

「別におっぱいくらい触っても嫌ったりしないから、好きにして良いわよ?」

 

 お礼の気持ちの表現方法がいくら何でもストロングスタイルすぎた(泡噴き)。いくら何でも「重ねている」人が人だからと言って好感度なのか過保護度なのか色々と振り切れすぎでは? いや本当どうしてこうなった(白目)。と、流石に背後で九郎丸とキリヱが声をあげる。当たり前と言えば当たり前だったが、三太が一切介入してこないあたり全力で面倒くさがられていないかな……? 悲しいなぁ(涙)。

 

「か、夏凜ちゃん本当最近どーしたの!? 貴女もっと源五郎とタメ張れるくらいクールな感じじゃなかった? 何かヘンな薬でも飲まされた? 惚れ薬とか、自白剤とかッ!!?」

 

 そういうイベントは原作的な話をするともっと後に控えて居たりするからまだ大丈夫……、大丈夫? (???「手遅れの自覚はあるけど、距離感とかの感覚が壊れて来て『まだ大丈夫』って無意識に信じ込もうとしてるのかねぇ……」)

 

「そそそそ、そういうのは後で僕がやりますから、今はちょっと真面目な話ですから夏凜先輩!」

 

 あとその発言は色々ともう無視できないレベルの問題が含まれているから九郎丸はちょっと落ち着け(震え声)。

 

 その後、しばらくわちゃわちゃと引っ張り引っ張られを繰り返していた私だが、ふとよくよく考えれば違和感が湧いてくる。確か原作でも夏凜曰く「身体が動かない精神系への攻撃」、つまりは金縛りなどで動きを縛って延々と痛みを与え続けるようなそれが彼女の弱点(というか悪い相性?)であると言っていたが。別にそれは夏凜に限った話ではなく全員に言えることではないだろうか。とはいえ私以外は普段から防御結界ないし魔法アプリによる簡易バリアくらいは張っているだろうし、普通なら問題になるレベルではないはずだ。

 だとすると、何故私はその影響を受けなかったのかという疑問が湧いてくる。別にこの死天化壮(デスクラッド)自体に、血風創天のような魔法無効化効果のようなものは付随していないはずだ。むろん、血装術の一つである以上はやろうと思えばできなくもないだろうが、特にそういうことをした覚えはない。

 

 唯一、BLE〇CH(オサレ)的な理由を考えて「そういうこと」を出来そうな相手がいるのだとすれば――――。

 

『――――ふみゅッ!』

「きゃあッ!」「ひゃううぅ……」「に゛ゃんッ」

「おっと……ッ?」

 

 唐突に私のポケットの携帯端末から「這い出て来た」小さい雷獣が、軽く放電して女子三人を引きはがした。私で綱引きされていた状態が解除され、足元でうずくまる三人。それを見て何か満足したのか再び携帯端末に戻っていく雷獣は、おねむの時間か何かだろうか。

 ……それぞれ九郎丸、夏凜、キリヱ大明神の声だったのだが、いや、まぁ何というか、声の調子に一番ギャップがおありですよね夏凜ちゃんさんとか何だあの幼い感じの可愛い悲鳴(可愛い)。逆にキリヱ大明神はちょっと汚い声だったりしてそれはそれで癒しと言うか。

 九郎丸? ……まぁもはや普通に女子なのは知ってるので置いておいて(爆弾発言)。

 

「おー、ナイスタイミング! 茶々丸さんの解析が進んだらしいから、ラブコメってるところ悪いけれど時間いいかな?」

「あー、まぁ、ラブコメってるかどうかはともかく了解ッス」

 

 そして一空の呼びかけに応じて、とりあえず三人に手を貸してから向かう。……なんとなく「あんまり羨ましくねぇなお前……」みたいな目で見て来るの止めろ三太、色々とメンタルに塩が塗り込まれて泣く(直喩)。なお一方の茶々丸はといえば「2010年代ごろのネギ先生……」などと謎ワードを呟いて来た。一体その年代に何があったって言うんですかねぇ……?(???「アレは……、お前の始めた物語ではないけれど、まぁガバだったよ」)

 

「で、一体何の話が進んだんスかね?」

「進んだ、というよりも一つの傾向があった、というのが正しいかもしれません。えぇと……少々お待ちを」

 

 言いながら茶々丸はどこかから取り出したタブレット端末……、「私」的には一般的だがこの時代的には旧式のそれを操作し、何やら画面に3Dモデルのような「麻帆良学園」周辺図を出した。地図自体は駅の形状などから最新のもののようだが、左上にアマノミハシラではなく麻帆良と書かれているあたり、彼女なりのこだわりなのだろう。

 と、それぞれに赤い旗のようなマークが数か所立つ。

 

「今まで『トイレのサヨコさん』事件があった箇所を確認すると、事件自体は学園都市ではなく学校施設全体の敷地内で行われているといえます」

「まあ学校のオバケだしね」

「…………」

「あー、三太、大丈夫か?」

「へ? あ、いや、問題ない。一応……」

 

 事件現場が、小中高および大学、専門校問わずすべて「学園の敷地」内部。このあたりは図書館島で捜索するついでに調べていたので、覚えている話ではあったのだが。続けて語られた茶々丸の台詞に、少し耳を疑った。

 

「これらの事件の際に、妖魔の目撃情報、駆除案件の増加が確認されているそうです。学園統括AIからそう助言がありました」

「学園統括AI……」

 

 まぁ名前からしてセキュリティとかそういうのをひとまとめに管理してるようなものなのだろうが、それがわざわざ「妖魔」について言及してくるとなると、少し違和感のようなものがある。いや、違和感というよりは「原作と比較して」ということなのだが。別に原作においては、妖魔の存在自体はそんなに取り上げられなかった(というよりは雑魚敵程度の扱いでしか出てこなかった)のが大きい。

 そんなこちらの気も知らず、茶々丸はその3D地図の中心を指さす。

 

「旧・麻帆良学園に聳え立つ世界樹『神木・蟠桃(ばんとう)』。本来ならこの世界樹に溜まる強大な魔力を以って、学園設備の維持や魔法発動の促進などを目的としているこの学校施設ですが、ここ五十年ほどの異常気象、社会混乱などもあり、妖魔の氾濫を許してしまったそうです。結果的に、本来なら22年周期で蓄積されるはずの魔力が神木の『魔力間欠泉』から不定期に噴き出し、学園内のいたる所で魔力溜まりを形成するようになったそうです」

「えっと、どうして全部人づてみたいな話し方なんですか? 茶々丸さん」

「……その、『私から』すれば人づてのようなものなので、時坂さん。

 話を続けます。とはいえこうして噴き出した魔力自体は、学園内を結界に沿って回った後に世界樹本体へと循環するようになっているそうですが。この際、低位の妖魔であるならば循環に合わせて『世界樹に』吸収されるそうです」

「世界樹に集まって、吸収される――――」

 

 ちょうど私の脳裏には、世界樹の真上にて何やら魔力を集めていたような水無瀬小夜子の姿が思い浮かんでいた。

 

「…………つまり、えっと、世界樹に?」

 

 はい、と茶々丸は首肯。

 

「世界樹にて集まる魔力に『取り込まれない』レベルの存在となっているのならば。今までの出現箇所から考えて中心点であり、かつ『電子機器の設置が出来ない』世界樹の地下空間。その何処かの場所に該当者がいる可能性が高いと、統括AIたる『AI葉加瀬』と私との分析結果となっております。『自信ありありですよ~』とのことです」

 

 ちょっと最後に色々受け止めきれないような情報ぶっ込んでくるの止めてくれませんかねぇ(チャオ)一派よ(震え声)。ひょっとしなくても「ネギま!」「3-A」の葉加瀬聡美の思考ルーチン抽出したとかそういうタイプの存在だろそのAI(確信)。

 

 

 

 

 

 




アンケ締め切り予定:10/10


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ST90.死を祓え!:干渉系最終インターバル

毎度ご好評あざますナ!
深夜更新から逃げられた・・・!


ST90.Memento Mori:Final Destination

 

 

 

 

 

 流石に知らないはずの「3-A」のメンバーの名前など口に出来る訳もなく、その「AI葉加瀬」とやらについては聞くことはできなかった。まぁ聞いたら聞いたで間違いなくガバそのものなので聞かないのが正解なのだが、いやしかし気になると言えば気になるが……。いや、もしその存在自体がより密接に関わってくる話ならもっと後で(具体的には原作7巻以降の時系列で)なんらかの接触機会があるだろうから、その際に色々と深堀してみるとしよう。

 

 さて、水無瀬小夜子の本体がいるだろうと言われた件の世界樹だが。「ネギま!」時代においても色々とキーとなる要素ではあった。学園七不思議のひとつに数えられるものであり……、そもそも存在そのものが一般的には七不思議めいているがそれはともかく、約22年に一度、大発光するとか、その際に告白すると成功率百パーセントとか、色々な話があったが。その実態としては、22年周期で周囲の魔力を貯め込み溢れた魔力が光っているように見える、その魔力圏内で告白などのレベルの願い事に関しては使用量が軽微なせいなのか「洗脳」めいた呪いのような効果を発揮し、相手の心理を汚染する勢いで働きかけるオソロシイ代物。なおその漏れ出た魔力自体は普通の魔力と変わりないので、麻帆良において魔法の使用が少し簡単になったりといった副次効果もあったりする(例の超もこれに乗じて色々と画策していた)。

 そしてネタバレを恐れずに言えば、その地下にこそ「ネギま!」および「UQ HOLDER!」のラスボスたる相手が封印されており――――。

 

 現時点においては空ではあるだろうが、確かになるほど「神霊」級、祟り神のようになりかかっている彼女が隠れるにはもってこいの場所かもしれない。

 というより、コノエモン旧学園長とかが手引きしていたりしないだろうか……。どうやら聞く限り本当に妖怪ないしお化けになっているそうなので、水無瀬小夜子の状態のヤバさなど一目で看破できるレベルのお人だろうし。そのあたりは伊達に我が、というより「近衛刀太」の先祖ではないだろうと思う。

 

「現在、世界樹周辺の魔力による力場の乱れにより、電子機器は強烈な磁場を受けたような機能障害を負う状態になっています。それこそ数百年は先取りした『対魔力』素材などでも存在しない限り、内部に持って行った機材は活動停止するでしょう。

 私ですら、短時間ならば問題ないでしょうが長時間の活動には向きません」

「式神とかは無理ですか? えっと、茶々丸さん」

「魔法の発動には問題ありませんが、通信や連絡を行う様な類のものは注意した方が良いかもしれません。パクティオーカードによるアーティファクトの召喚や念話程度ならば大丈夫でしょうが、意識を繋ぐような使い魔相手では長時間は難しいかと」

 

 九郎丸の質問にも、あまり明るい返答はされなかった。つまり、まぁ……、流石にゲームの時のように内部が巨大ラストダンジョンのようになっていることはないだろうが(なっていてたまるか)、事前調査が難しい、そこそこ広い地下施設を探すということになるのか。

 

「逆にそんな場所に居て、小夜子は大丈夫なのか? むしろさぁ……」

「んあー、たぶん推測というか演算結果自体に間違いは()ーんだろうけどさ。そもそも世界樹に再度取り込まれない、とか言ってたレベルだし、意外と大丈夫なんじゃね?」

 

 そしてそれは、今色々と「本当かよ」みたいな目で見ている三太や、私の携帯端末でスヤスヤしている雷獣にも言える。なにせ雷獣は水無瀬小夜子と一緒に「あの場で」色々お話ししていたくらいだし、三太に至っては「未だに取り込まれていない」のが一つの答えと言える。むろん、それを言えば「3-A」の某幽霊にもそれが言えるのだが――――。

 

 と、茶々丸が黒棒をじっと見て、口を少し開く。何か言いたそうにしているが躊躇っているような……。

 

「そうなると、事前に地下の情報を集めておいた方が良いのかな? 茶々丸さん」

「そうなりますね。流石に現在『学園長代理』から色々と権限を与えられていますが、電子データでない情報までは調べようがありませんので」

 

 とはいえいつ水無瀬小夜子が暴走するか不明ということで。私たちは一度、班分けをして休憩と、再度図書館島への情報収集に乗り出した。……当たり前のように世界樹の地下施設についても資料が上がる図書館島は、やはりニキティスが居座り続けるだけあって魔境というか地下迷宮(ダンジョン)の類なのでは? いや、実際その類の施設だし、原作的にも「人知を超越した」場所であることに違いはないのだが…………。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 ブックカフェ(オサレスポット)である。OSR施設(オサレスポット)である。

 

 前回遊びにくり出した時は寄る時間がなかったが、とりあえず私と九郎丸はいつ戦闘が発生しても大丈夫なように休憩時間と相成っていた。流石にこと「最終決戦」的なもの直前になってまで授業に出れるわけもなく、それぞれがそれぞれ必要な形で休憩をとることになっている。なお当然休むと連絡は入れてあるので、今回はしょっ引かれないぞー!(歓喜)

 そんな訳で早朝から駅前、少し小さいショッピングセンター(今は水底に沈んでるだろう渋谷某所を思い出させる)もどきの屋上、オープンテラスのカフェスペースで、焙煎珈琲にガムシロップを垂らして一人佇んでる私。恰好的には変装的な意味もかねて、三太の持っていたパーカーから赤いものを借りて被っている。トレードマーク化しつつあるマフラーも自室に置いているので、学内での顔見知りも一見してはわからないだろう。

 空が青い。天気が良い。そして珈琲はOSR(オサレ)。色々と精神的な回復効果が見込める所だ。(???「アンタがそうじゃないんだよねぇ……」)

 

 なお九郎丸は珍しく(?)ついてきていない。「僕は、少し練習したいことがあるから……」と言い、一人どこかへ向かって行った。……向かって行ったのだが、どうにも三人部屋に置かれていたアマノミハシラ学園内のパンフレット(あまりに広すぎるためパンフレットも宣伝用にあったりする)を見る限り、中国武術研究会あたりに向かったのではという感じに印がつけられていた。

 あの、そこひょっとするとネギぼーずの某師匠とかの関係者がいても不思議じゃないのですが……(震え声)。何か別なフラグが発生するかもしれないが、と、とりあえず今回は大丈夫だろう。(未来の自分に丸投げ)

 

「避難誘導というか、連絡は一空先輩が教師側の立場からするって言ってたけど、さてどこまで行くものか……。とりあえず連続殺人への対応としちゃ、学内は」

 

 少なくともウィルステロがあるという方向からは攻められない。キリヱの予言について、我々身内だけならともかく外部への情報公開は難しいところだ。だから言うのなら妖魔とか、そういう方向からだろうか。

 

 そんなことを益体もなく考えながら、1時間、2時間……。ずっとカフェで珈琲だけ飲みながらというのも問題なので、シベリア風ホットサンド(あつあつ食パンにビッグサイズ羊羹を挟んでカットしたもの)やパンケーキなど食べたり、源五郎にオススメと教わってインストールしたソーシャルゲームをして時間を潰したりしているが…………。

 いまいち落ち着かない、というか目下の懸念事項が一切解決されていない状況での時間つぶしなので、安心感よりも微妙に苛立ちが募る。いかんいかん、こういう場合でのやけっぱちな心境は低OSRに繋がる。一種の死亡フラグだ。

 

「でもこんだけ時間が空いても、正直寝るくらいしかなぁ……。『星月』にも色々聞かなきゃならねぇこともあるけど、基本的に『こっちから』あっちに行くことはできなさそうだし」

 

 やっぱり〇禅(オサレ)か? 刃〇(オサレ)が足りないのか? 黒棒と話す時によくやってるけれど。とはいえアレって「〇魄刀(オサレ)」の精神世界へ赴くと言うのが主目的な訳だし、仮にできてもそれって黒棒の精神世界的なところに行ってしまうのでは…………。ちらりと黒棒の入ってる竹刀袋を見るも、人前(一般人の客がまばら)では流石に一言も発さない黒棒。

 

 ん? そういえばだが、仮にその世界に入った場合って黒棒の「本体」の姿も見れるのだろうか。それは……、それはそれでガバかな(白目)。

 

 

 

「――――アイヤ、何かお困りのようネ」

 

 

 

 と。がばり、と思わずその声に後ろを振り向けば。

 もはや最近見慣れて来た風でもある超鈴音が年甲斐もなく(失礼)麻帆良時代の制服を着こんでいた。もっとも身体的には多少成長しているためか、制服自体は高等部のものになっており、全体的な色が茶系ではなく赤系となっている。

 そのまま私の相席につきもぐもぐとドーナッツを食べながら、完全に「今ヒマ?」と聞きに来ているようなこの軽いテンション。色々と心臓に悪いというか何と言うか。

 

「…………いや、アンタ何こっち直に来てんだ!? アンタこっちに来たら時間軸が分岐するんだろ!」

「イヤ、まさか挨拶より先に文句言われる思てなかたヨ……。

 あっ、これ食べるネ? プレーンシュガーシロップ」

「食べる」

 

 とりあえず箱から一つ取り出し差し出す彼女のドーナッツを咥えて受け取り(わざわざ専用小箱なあたり無駄にOSR高い)、指先がべたつかないよう軽く血装してグローブ状にして食べた。うん、小麦と卵と強烈に砂糖砂糖した砂糖の味が良い。一応は店のメニューだから問題はないのだろうが、いや一体いつから出待ちしてスタンバっていたんだこの女。

 オープンテラスの駅前喫茶店の中だから周囲からすれば目立ちはしないが、色々と色々な理由から冷や汗ものである。……主に九郎丸とか夏凜とかキリヱとか帆乃香たちとか。

 

「うーん、味、砂糖砂糖してて滅茶苦茶に砂糖な味ネ。嫌いじゃないケド太りそう」

「黒糖ラテもすんげぇ砂糖砂糖して砂糖のような味してるし、オススメだぞ?」

「アレ、中々に地獄のような甘さで私あまり好きじゃないヨ。そこまで甘党でもないネ、刀太サンと違って」

「いや、俺も別に甘党って訳じゃねーんだけど……」

 

 単にシンプルな味付けが好きなだけなので、その延長で味が濃いのも嫌いではないというだけである。濃い味付けと言えばそういえばだが、夏凜は割と味付けがキツいくらい強いものが好きだったか。激辛とか激甘とか。味噌汁も前にもらった時にかなりしょっぱかった覚えがあるが、このあたりは生まれた年代の差か何かか(婉曲表現)。

 

 というかホント、何でアンタここに来たのだ。

 

「イヤイヤ、別にハカセのAI化には私いっさい関わっていないネ。そう何でもかんでも諸悪の根源を私に求めるの止めるヨ。むしろ私的には最近、先輩のガバが感染(うつ)り始めてるような気がして色々と気が気じゃないネ……」

「アンタがガバ言うな、アンタが。アンタがガバとか言い出すな、アンタがガバとか。

 って、えっと……、いや困り事は色々多いんだけど、そもそもアンタがここに来て時間軸というか、世界線的なのが分岐するのも困ってる話に――――」

「あっ、それは安心するネ。――――『来たれ(アデアット)』!」

 

 と、そう言いながら取り出した仮契約カード……、デザイン的に「ネギま!」関係の超パクティオーカードなので、ひょっとしてそれはネギぼーずとの契約カードなのかしら……?(震え声)

 そして輝くカードから取り出した、見覚えのある様な、しかし外形のデザインだの色だのがブルーだったりシャンパンゴールドたったりして色々と違いすぎるデザインになっているその懐中時計型装置は……。

 

「こちら『世界線渡航機(トワイライト)』開発中に色々とフィードバックがあった結果、最大のバグを取り除いた『時間軸移動機(カシオペア)XIII(十三号)』ネ。私自身も色々制約を受けたりするガ、これで時空干渉最大の問題だた『世界線分岐』にはならないネ!」

「えぇ……(ドン引き)」

「ちょ! 何ネそのリアクションっ!?」

「いやだって、そんなもの作れたんならアンタ絶対過去にまた戻って――――」

「流石にかつてのアレの再演はしないネ! っていうより『制限』に引っ掛かるから出来ないというのが正しいガ……」

 

 それにそもそもお師匠からお叱りが飛んで来るヨ、と超。その言い分を聞く限り、どうやら本当に時間軸が分岐しない方法でのタイムトラベルに成功したらしい。したらしいのだが、どんな方法でそれを可能にしたかによってはキリヱ大明神の頑張りがなんだか無駄だと言われているような気がして、それはそれで微妙に嫌な気分になる。もっとも当事者たる超本人には関係ない話だろうし、キリヱの事情も判った上での開発なのだろうから、私が何か言うのも筋違いではあるのだが。

 ん? いや、とするならそもそも、それだけの技術があるのだとすると「ネギま!」本編から考えたら一体何年後の話なのだろうか。ひょっとするとこの女子高生お姉さんくらいの格好すら年齢詐称して……「アイヤー! 雑にパンチ!」痛いっ。

 後、というかトワイライトって渡界機のことだろうか、「ネギま!」実質最終回にてある意味猛威を振るいまくった物品。そこから更にフィードバックを受けて開発された後継機だというのなら、なるほど確かにそれくらいの無茶は出来そうなものだが。

 

「いや、困ってることも無い訳ではないけど、正直アンタに話してどうこうなる部分のことじゃ――――」

「では、忘れてるだろうお悩みをこちらからサジェスチョンしよカ。『水無瀬小夜子』と『佐々木三太』を『どう決着させるか』。いまだに悩んでいるのではないカ?」

「…………」

 

 いや、確かにそれも迷い所と言えば迷い所ではあるのだが。

 

「タローマ……っ、アイヤ、お師匠から聞いた感じだと、代案とか思いついてないネ? しいて言えばキリヱサンの力を使って、何度か一緒にやり直しながら解決策を見つけ出す、といったところネ?」

「……いや、まぁ何かしら方法はあるんだろうと思ってはいるんだが」

「無い訳ではないだろうけど、あくまでそれ『当人たちが納得する形』でしかないネ。この後にあるイベント的な話からすると、やぱり消滅する形しかあり得ぬよう見えるが……」

「えっと、葉加瀬さんみたいに『AI化』とか、そーゆーのは出来たり?」

「しないネ。あくまでハカセがやったそれは『自分の魂のコピー』のようなもの、あくまでコピーはコピーということ、本人ではないネ。生前の本人からスキャンして学習して再現して生成することは出来ても、死後の魂の複製なんてしたら劣化するし色々と予想つかないこと多いヨ」

 

 先輩が目的としてるのて二人ともが納得いく形で生き残る事カナ? と。私にそう言ってくる彼女に、返答が思いつかない。それは確かに理想形ではあるのだろうが、しかしそれが難しいだろうことを私は知っている。

 むろん、それは私が近衛刀太というより「私」であるからというのが理由の大半ではあるが……。最悪の最悪、原作における最終決戦よりも先にネギぼーず達すら救えない可能性を検討するくらいには、私は私としての能力に自信がない。それに元が別に大したことのない人間一個人の人格「のはず」なので、既存の常識をぶっちぎるような振り切れたことが出来るとは思っていないのだ(自棄になったとかは除くが)。

 

 そんな私に、特に慰めの言葉を言うでもなく。ただにこにこと普段のような微笑みを浮かべながら、超はじっと私を見ていた。

 

「んー、別に『先輩なりの』ハッピーエンドの求め方でも良いと思てるガ。裏技を少しも使わなければ、所詮は『あっち』の面々は全滅エンドが常な訳だし」

「あっちってえっと、ラスボス(ヨルダ)側?」

「そっ。……まぁ先輩的には『死人はちゃんと死んでいられるのが幸せ』という考え方でもありそうだけど。佐々木三太はともかく、水無瀬小夜子に関しては少し思う所があるのでないかナ? その考えに真っ向から反対して、どうにか佐々木三太に納得する形を取らせてあげたい、というのが、たぶん先輩が煮え切らない原因の一つと思うネ」

「煮え切らないって言われてもなぁ……」

 

 死人は死んでいられるのが幸せ――――「ネギま!」や「UQ HOLDER!」に限った話ではなく、もっと「私」個人に沿った話としても。育ての母に守られ、託された私としては、その母が心配で心配で化けてでなければいけないようなことは避けたいのは、個人の記憶として深く刻まれている。今思えば、あの頃も育ての母にもよく甘やかされていた覚えはあったが……。血のつながりもなくお互いの年もまあアレだったろうに、一緒に風呂へ入りたがるのは私の年齢的に止めて欲しかったが。

 そういう私個人の人生観と三太たちお互いをお互いが納得できる形に持ち込んでやりたいと言うのが、私の中で二律背反していると言われると、それは、確かに無い訳ではないだろう。実際問題、水無瀬小夜子に三太と一緒に、と言う所までイメージは描けているが、その後についてのチャートと言うより展望がふわふわしてるのは、指摘されれば確かに言い返しようがない。

 

 でも何故そんなことをお前さんが知っているのかと言う話になるのだが、それは一体……。

 

「んー? どうしてそんなこと察して指摘してくるのかって言いたいネ? まぁ前にも言ったけど、そのあたりの事情は『一通り』聞いているから。今は仲間と思てくれて問題ないネ」

「知ってるって何だよ知ってるって……。ということは『私』が今少し思い悩んでいる――――」

「――――アナタの内に居る『誰か』のことも、その正体も、ネ?」

「オイオイ……」

「ま! それは今気にする話違うネ。そのうち嫌でも『その問題』に対面することなるから、協力してもらてる内はせいぜいコキ使てやると良いヨ」

 

『――――ふみゅ?』

「ちみゃー?」

 

 なお全然さっきから話題に上がっていないが、私と超がいる丸テーブルの上では、半透明の雷獣とドラゴンの赤ちゃんのようなそれらがガジガジとドーナッツを仲良く半分こして食べ合っているのが少し癒しな光景だった。

 くつくつと笑いながら、超はドラゴンの頭をポンポンと指先で撫でる。

 

「ま、これを使うといいネ。私からヒントというか、ちょとしたプレゼント」

 

 と、制服の胸ポケットからすっと取り出した小型の巻物状のもの……、魔法のスクロールというか一部の術式を簡易に実行するためのアプリの一種(以前キリヱと仮契約する際にも使ったものと同型)を置き、席を立ちあがり、赤ちゃんドラゴンの首を掴んで。

 

 

 

「えっ? 茶々ま――――コレまずいネ! カシオペア起動ッ!」

 

 

 

 次の瞬間、超の場所ピンポイントにビーム兵器が降り注ぎ。おそらく非殺傷兵器「脱げビーム」(公式設定)なのだろう、それを受けて一瞬だけ全裸になりかけながら「おヨメ行けなくなるよなこと止めるネー!」と(髪が解けて少し刹那っぽい容姿になり)泣き笑いながらその姿を「消した」。おそらく時間転移だか空間転移だかをしたのだろうが、いや、去り際のオチがそれで良いのかお前さん……。というか「ネギま!」学園祭編で散々それを武器に遣っていたお前さんの台詞ではない(断言)。

 

 その後、眼前に上空からジェットを足の裏から吹かしつつ降りてきた茶々丸は「今ここに色々と胡散臭い似非中国人の天才がいませんでしたか?」と関係者以外わかるようなわからないような確認を焦りながらしてきた。姿を消した以上はそれ以上のことは知らないとしか返しようがなく、それに茶々丸はどこか焦ったようにしながら、ふたたびジェットを吹かして彼女を探しに行った。

 

「嵐は去った………………。って、さて、一体何の魔法なのか。師匠リミッター付きの干渉ってことは、そこまで大したこともねぇんだろうけど……?」

 

 とりあえず手に持ったそのスクロールを、雷獣が「ふみゅ?」とハムスターが「へけっ」とでもするように可愛らしく見えるよう頭を傾げた。

 

 

 

 

 




アンケ締め切り予定:10/10


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ST91.死を祓え!:知らぬ私怨と因縁

やはり深夜には勝てなかったよ・・・(白目)
ガバが巨大な足音を鳴らしながら接近してきている・・・!


ST91.Memento Mori:Their Anger I Don't Know

 

 

 

 

 

 成程……、確かに「ネギま!」での描写を思い返せば、そういうことも可能かもしれない。少なくとも「個人の強化」であるならば、不可能ではないだろう。ましてやそれが――――。

 超鈴音から渡された魔法アプリのそれを仕舞いつつ、黒棒を背負う。そろそろ交代時間だ、次の休憩は三太と夏凜だったか。なおキリヱは一応調査組の方に入っているのだが、連絡が来ていないので今の所は交代を優先する。

 

 と、「ネギま!」で見慣れたアマノミハシラ駅手前(なお地名は麻帆良駅前のままだったりする)あたり、人がいないタイミングで黒棒がつぶやいた。

 

『何と言うか、予定調和すぎて嫌な予感がするな』

「お? 珍しいなこんな人多い場所で話すのって。……予定調和すぎる?」

『嗚呼。お前の今までの動向を考えると、こんなすんなりと色々な出来事が進行しているというのが既に一つの大きな問題な気がする。そもそも君の場合は、予定を立ててもわずかな抜けから致命的な事態に遭遇して「ままならぬ……」となるのが一連の流れだろう』

「なんでもかんでもそう、人の人生を一つのテンプレに落とし込むの止めろ」

 

 マジな話であるが、もしそんなテンプレに私の人生を落とし込まれてしまったら、ほぼほぼ「痛いのは嫌だ」という前提で色々な人生設計を組んでいるこの色々がもはやにっちもさっちもどうにもならない。ブルドッグである(古い)。そんな私にくつくつ笑う黒棒と、『ふみゅー』と特に何も考えてなさそうにパーカーのポケットで寝息を立てている雷獣だ。

 

『失礼。だが、お前がいささか「完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)」を甘く見ているのではないかと思ってな。特にデュナミス。あの男は……、色々と執念深かったからな』

「……? あ、ひょっとして知り合いなのかお前」

 

 そういえば黒棒について、だいぶ前(といってもスラムのちょっと前くらい)に雪姫が言っていたか。もともとタカミチ・T・高畑が使用していた武器だったとか何とか。

 

『最初はあの忌々しい我が創造者が「小太郎君が最近良い所なしですので、夏美さんから頼まれました♪」とか言ってノリノリで作ったのだがな。肝心の犬上小太郎が「大きなお世話やッ!」と猛烈に拒否した結果、タカミチ預かりとなったのだ。

 まぁそれとて2060年代ごろまでで、それ以降は「代理人」管理の扱いになったのだが』

「代理人ってーと……」

『む? 嗚呼、あまり話す意味はないことだ。もう終わったことだし、私にとってまた忌々しい記憶の一つでしかない。

 重要なのはその間、ネギ・スプリングフィールド協力者であるタカミチ・T・高畑とクルト・G・葉加瀬とがほぼ壊滅状態の連中を、更に締め上げ続けた結果、現役引退前の時点で相当に恨まれていたということだ』

「……えーっと」

『つまり、私を持っているだけで一つのアレだな、何と言ったか……、死亡フラグという奴だ。割とタカミチは私の事を使いこなしていたからな。おそらく『武装』という時点でも相当恨まれているだろう』

 

 そんな情報を知りたくなかったのだが(白目)。いや、それ以上に確かに両者にデュナミスは縁があるのは間違いないのだが、そっか「ネギま!」以降もっと酷い目に遭っていたのかそうか……(遠い目)。

 まぁ大半の余剰戦力になりえた相手はエヴァちゃんが氷漬けにして未だに封印されているだろうし、そういう意味では一人つつましく使い物になる味方をつのって徹底抗戦を続けていたと考えると、悪の組織の悲哀的な話なのだろう。それこそ「ネギま!」時代ですらギリギリだったそこからフェイトが抜けたのだから、苦労は推して知るべしか。

 そんなことを考えていると、電話がかかって来る。相手は釘宮大伍。一応、今朝のうちに連絡は入れていたので協力自体はしてくれそうなところだが、はて?

 

「おーっす。くぎみー、どした?」

『何だい? その妙に軽いノリは。あと呼び方を改めてくれ。くぎみーだとクラスメイトの女子から呼ばれてるみたいで薄ら寒い……』

「悪ぃ悪ぃ。で? どうしたんだよ、まだ授業中だろ? 一応こっちで『目的の場所』をつきとめたら、一緒にきてくれるって話だったと思うんだが」

『…………別にそこには異論はないんだけど、いや、なかったんだけれども。まあ端的に言って緊急事態だ』

「ん?」

 

 展開されたホログラフィックの釘宮大伍が少し横にずれると、教室の映像が出てきているのだが……。「何これ何これー!」「きゃー!」「ヤバ! 何、可愛くないっ!?」などと多数の生徒の声が溢れている。そして画面を飛び交うは、雷獣程度のサイズの小型妖魔と思われる連中だ――――。

 

「……オイオイ、えっ? いや、魔力溜まりって学内、今日はどこにもないってはずだろ? 唐突に涌くにしても――――」

『残念ながら、どうやら「学内全体に」涌いて出てきているらしい。市街地方面はまだ数は少ないが、時間の問題だろう。

 …………とは言え敵が小型だけならまだ問題はあまりないかもしれないが。問題は中型、大型が出て来た場合だ。正直この規模で大量に出てきているとなると、最悪「世界樹から」あふれ出ている可能性も検討する必要がある』

「世界樹からってお前……」

 

 そもそも魔力スポットというか、世界樹自体が魔力を取り込むからむしろ問題はないという話だったのではなかっただろうか。いや、そうではないのだろうか。見れば小型妖魔たちは、積極的に某グレムリ〇映画よろしく可愛らしい見た目のものも可愛くない見た目のものも等しく狂暴化し、生徒を微妙に襲っている。殺しはしていないようだが、クラスメイト数人が群がられて気絶させられているように見え――――。

 

『超必殺・漫画弾!――――って、食われたァ!』

「ご、豪徳寺さんだっけ、ピンチじゃね?」

 

 拳から放った「どーん!」という書き文字のごとき巨大な気弾を、サメをデフォルメしたみたいな小型妖魔が口を身体よりもはるかに巨大に開き呑み込んだ。げぷ、とげっぷをしている様は可愛らしいが、いや、しかし流石に鮫の妖魔というべきか。鮫とナチは大体の米製B級映画のラスボスとモンスターを解決する(偏見)。それをベースとした妖怪的な存在なら、まぁこういった謎の挙動をしていても不思議はないか(そもそも空中泳いでるし)。

 

『まずい。気弾を無効化されるとなると、打つ手がないね』

「いや、魔法アプリとか使えねぇの? たぶん家系的にはアレだろ? 魔法使いの系列。魔法生徒の集いに混じってるんだし――――」

『彼女は「呪文詠唱」が出来ない体質と聞いたから、魔法アプリは使えないはずだ』

「そのあたりの部分って正直全然詳しくねーからうんともスンとも言えねぇって言うか……」

 

 魔法アプリ関係については、正直この体が近衛刀太である以上手出しするつもりがなかったのが大きい。なのでその事情が一体どういう話になってくるのかがさっぱり不明なのだが、とりあえずピンチということは判った。

 釘宮が「来たれ(アデアット)」とアーティファクトを呼び出し迎撃。……いや迎撃しながら通信自体は続けているのは、何と言うか器用というか。コイツも通話アプリじゃなくて携帯端末持ちだったので、つまりは片手にケータイを持ってることになるのだが、一体どうやって弓を射ている?

 

『ともかく、こういう事情だ。済まないが連絡を受けても、いくらか遅れるのは理解してくれ』

 

 むしろ『無理だ!』って言わねーところに人の好さが透けてるようで、個人的にはちょっと嬉しい物が有った。了解、大丈夫と伝えて通話を切り、学園の方へと走り出し――――。

 

 

 

「――――ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト」

「ッ!?」

 

 

 

 咄嗟に聞こえた汎用人型決戦兵器にでも乗ってそうな声で「聞き覚えのある」始動キーを耳にし、私は黒棒を振りかぶって「黒く」球状のドームに血風を放出した。竹刀袋が破れ、ばたばたと布がはためく。

 そんな私の周囲を圧殺するように、大量の水が周囲を覆い圧迫してくる。素直に潰されてやる必要もなく、黒棒に血風を纏わせ回転させながらドームごと斬り払った――――。血風創天、一撃でその水の「腕のようなもの」が融解すると同時に、ドームに使用していた血を全て血装して「死天化壮(デスクラッド)」となる。

 周囲には唐突に水蒸気爆発でも起こったように見えたことだろう、悲鳴が上がり、人が逃げ惑う。

 

 まだ妖魔たちはここまで来ていない。それはそれで一つの安心材料なのだろうが、もっとも私に攻撃を加えて来た「誰か」の方が、私としては気になっていた。

 

「…………アンタは?」

「…………面白い。血をウォーターカッターみたいにして打ち出している、というところか」

 

 血風の破片、水の巨腕を散らした際に飛び散ったろう私の血を指先で「舐め」、何やら感心した風な女性。抜群に良いスタイルを競泳水着……にしては要所要所謎の穴が開いている恰好に身を包み、その上から白衣を纏う。セミロングくらいの髪をポニーテールにまとめているが、ちょっと雑に散っている髪の毛の癖の付き方はどこかで見た覚えがあり、ついでに言うとその顔立ちにも見覚えがある。

 

 CPH(クレイジーサイコホモ)の顔である。CPH(フェイト・アーウェルンクス)の顔である。

 

 どちらかといえばあちらより柔らかく、顎元とかが丸かったりといった違いはあるが、全体の造形はフェイトのそれとそう差はない。

 彼女はぶつぶつと、私の血風を見て何やら呟いている。上空に浮かびながら、何やら観察している風だ。

 

「アマテル技研のプロファイルを確認した範囲では、こういった局所的に吸血鬼のような身体の使い方を想定はしていなかったと思ったけれども、意外とやるものですねテルティウム、否、フェイトも。伊達にあれから二十年も経過していないということか……」

「……あー、あの、一応名乗って貰わないと話が前に進まないっていうか……」

 

 正直名乗らないでもらっても全然構わない心境も無くはないが、何というか相手の名前を知るのは最低限礼儀なので、一応は確認する。

 女性はクールな表情のまま、わずかに目を見開いてこちらを見た。

 

「? あら。これは失礼した、『実験体7号』。スポンサー意向で『そんな身体にされてまで』長生きしている君が、今、私と相対していると思うと、中々不思議な感慨があったものでね。妙な縁と言うべきか……。とはいえ、仕事に変わりはないのだけれど」

 

 すっと、そのまま上空から降り立ちコンクリートの地面に足を付ける。……素足をつける。というか恰好も色々とツッコミどころ満載ではあるが(季節感関係ないし)、それ以上に何故素足のまま……? 個人的には思春期の性質に引っ張られたのもあり、彼女のその白いつま先から臀部までのラインやら、胴体部分の夏凜以上にボリュームのある何某か(表現拒否)とか色々と困るところではあるが。

 にこりとも微笑まず、彼女は両手を背中に回す。

 

「水の使徒・ディーヴァ・アーウェルンクス…………。お見知りおきしなくても良いかな? どうせすぐ、私に『回収』されることになる」

 

 そんな名前名乗られても全然知らないのだが(断言)。

 

 というより「ネギま!」から考えて水属性なことも踏まえても、どう考えたってセクストゥム(六番目)のアーウェルンクスシリーズのお一人ですよね?(震え声)

 説明を色々すっ飛ばすと、あのフェイトと同性能くらいには強い人造魔法使い。原作だと色々と良い場面もなくいきなりネギぼーずに全裸に剥かれたり(事実)して活躍の印象があんまりなかったが、いやどうしてアンタこんな所に居るんだ? ガバか? エヴァちゃん討ち漏らしてたのかひょっとしてあの時? 絶対原作描写的にあり得ないだろうアンタ一体どうしてこんな所にいるんだこんな所にこんな!(錯乱)

 

 カアちゃん……は今どこかで別な仕事をしているんだったか。CPH(フェイト)ー! 流石にちょっと今の実力じゃ勝てそうにない相手だからCPH(フェイト)ー! ヘルプミー、CPH(フェイト)ー!(???「散々あれだけネタにしておいて、どうしてこういうタイミングで助けを求めようとするのか……。そういう所がギャグキャラたる所以だよアンタの」) 

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「――――ハッ?」

「ど、どうしたんだ、えっと、カリン先輩?」

「いえ、今どこかで助けを呼ぶ声が聞こえた気がしましたので」

 

 気のせいでしょうか、とか言いながらソワソワしてるこの無能女を見て、俺は一体どんな感想を持てと言うのか。

 だがそんなこと言いながらも目の前の妖魔……、なんていうか、こう、一頭身の何だかデフォルメの出来損ないみたいな奴らがわんさか湧いてきているのを、ばっさばっさと捌いてるのは流石って言うべきなのか? 

 

 小夜子が世界樹にいるって話があったから、とりあえず交代制でオレたちは世界樹の手前で待機してることになっていた。小夜子の身に何かあったのならまず真っ先にここで異変を確認できるだろうって推測のもとだ。

 ……そして厳正なくじ引きの結果、今の時間はトータとクロウマルが休憩になった。

 

 そして取り残されたオレは、このヤベー感じの無能女と二人きり。いや、警備って言うか監視っていうか、そういう話だから別に何かしゃべらなきゃならないって訳じゃねーんだけど、会話が全くないとこの女相手じゃこう、怖い……。

 そもそもオレ、「死んだ」っていう自覚を「思い出した」せいか、あのシスターの婆ちゃんをはじめ「そういう」関係者にはあんまり近寄りたくないって感覚がある。いくらスーパー三太様とは言え、弱点属性はある。幽霊だから、こういう「浄化」とか、そんなもんだ。

 スーパーマ〇にだってクリプ〇ナイトが刺さるとヤベェみたいな話だし、ヒーローってのはそういうもんだ。

 

 だから一人、そわそわとビビってたら、ユウキカリンの方から話を振ってきた。

 

「――――それで、水無瀬小夜子とは何処まで行ったのかしら貴方。ちゅーくらいはしたわよね? あれだけ格好良く啖呵を切ってしまうくらいなのだから。年齢的にナニをドウしたとまでは言わないけれど」

「ぎゃふんッ!?」

 

 いきなり爆弾ブッ込まれて、思わず俺はゲロ吐く勢いで咽た。

 のらりくらりと躱したいところだったけど、こう、何というか無表情ながらも半眼で微笑む無能女から漂う「圧」みたいなものに気圧されて、こう、羞恥に震えながら色々とある事ない事を言わされてしまった。…………「どこが良かったの?」「容姿はどのあたりが好みかしら」「ラッキースケベしたのね」とか、こう、なんていうか、トータの奴が微妙に苦手っぽいのもなんとなく判る大攻勢。

 人払いの結界を小さく張ってくれていたお陰で、オレ様はかろうじて「恥ずかしくて死ぬ」とかいう間抜け極まりない死因を回避した(死んでるけど)。

 

 そんな話を飽きずに延々と聞いてきて(オレがトータとのことを聞くと、なんだかもっとヤベェ話が出てきそうな気がしたから聞き返せなかった)、時間をなんだかんだ潰すことになったんだが。いや、案外それで数時間テキトーにつぶれるんだから、意外とこの無能女って話上手だったりするのか? 聞き上手の方かもだけど。

 

 そして、お昼より少し前くらいのタイミングで「出た」。

 大量の妖魔、それも小型で赤ちゃんみたいな奴らが「うきゃー!」とか「わちゃー!」とか、こう、ちょっと可愛らしい感じの言葉を垂れ流しながら「世界樹の根の幹」から、わんさかわんさか。

 最初、波みたいにドッ! っと湧いてきて、俺もユウキカリンもそれに呑み込まれた。

 

 だけどある程度距離を取って、時間が経てばこの通り。

 

「――――“霊の剣(スピリトス・グラディウス)”!」

 

 刀そのものは折れてるってのに、その持ち手の部分だけ振り回してユウキカリンは小型妖魔をばっさばっさ斬り飛ばしていった。

 

 いや、オレの印象として8年前にオレ(か小夜子)を捕まえに来て思いっきり見当違いなところ調べて無能晒していたのは知ってたんだが、いざ実戦してるのを見るとこう……、なんだろう、変な感想が湧いてくる。

 

「何をぼうっとしているのです、佐々木三太。あの妖魔の『波』を押しのけて、道を開けるのです。さながら海を割った出エジプト記のように。

 ……世界樹からだいぶ流されてしまいましたから、早い所向かった方が良いでしょう」

 

 そして、そんなことを言いながら調査班の方に連絡を入れてるみてーだが……。

 

 

 

 ドン! と、大きな音が鳴り響いて、オレの身体は「真っ二つ」にされた。

 

 

 

 いや、まぁ死んではいねぇんだけど……、敵か?

 その場から離れて「霊体化」した身体を「再構成」すると。

 

「…………『来たれ(アデアット)』」

 

 何かシュッとした感じの宇宙服風な恰好に身を包んで、ヘンな仮面をつけた「白い翼」を生やした女が、周囲に短刀みたいなのを大量に浮遊させ、展開した。

 

 

 

 

 




アンケ締め切り予定:10/10


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ST92.死を祓え!:見落としていた弱点

感想、誤字報告、ここ好きなどなど毎度ご好評あざますナ!

おかしい、もうちょっと真面目なシーンで締める予定だったのに・・・
どうしてこうなった・・・


ST92.Memento Mori:Unrecognized Weakness

 

 

 

 

 

「舞え、匕首・十六串呂(シーカ・シシクシロ)――――」

 

 白髪、白い肌に白い翼をたずさえた白仮面の女性。背格好は十代後半か二十代か。身体的にはしなやか、女性的な線の凹凸は年相応ではあるけれど、手先や首元など見える肌は綺麗なものね。

 その恰好は以前、雪姫様の私室で見た写真の中で見覚えのある宇宙服……。雪姫様の関係者かどうかまでは定かではないけれども、そんなものを着用しているこの女性の正体はうかがい知れない。つけている仮面、目元だけ開いている白いそれに認識阻害の類でもかかっているのか、声もいまいち特徴がわからなかった。

 とはいえ特に何もしない訳でもなく、私は佐々木三太のパーカーの首元を掴み駆けました。

 

「の、お、おッ! 首、締まるッ!」

「別に死にはしないのだから、そこだけ透過なりしておきなさい。それくらい出来るのでしょう?」

「無理、無理! お、『オレ』って認識、がある対象、全部! 透過、する!」

「微妙に使い勝手が悪いのですね……」

 

 こちらを追尾してくる十六本の短刀。短いドスといえば良いでしょうか、ヤクザ映画よりも時代劇で見た覚えのある様な形状をしていますが、それぞれがそれぞれに私たちを囲むよう周回している。そこから数()、死角となる角度と正面から同時に襲い掛かってくるのを、私は「戦棍シタ」と折れた「退魔剣・髭切」とで応戦。とはいっても、せいぜい弾く程度が限界ね。こちらに呪文詠唱の時間を与えないように調整しているのは、正体は判らないけれど流石に戦い慣れているというところかしら。

 

 左手の人差し指と中指を立てて、その手を眼前で構えて「印」とし「呪」を操るその操作は、伝統的な東洋魔術の系統。帆乃香ちゃんや勇魚ちゃん、もっと言えば九郎丸よりもしっかりとした経験値を感じさせる。

 何より、魔法アプリを使用している気配もなかった。

 

「さて……、状況的に『水無瀬小夜子』に無関係、と言う訳ではないのでしょうけれども。どうやら目的は私たちの足止めといったところでしょうか。個人的に『背中から白い羽根を生やした』姿というものには色々思う所があるのですが――――」

 

 

 

「――――神鳴流(ヽヽヽ)稲交尾籠(いなつるびのかたま)

 

 

 

 ッ!? 九郎丸と同じ流派?

 とっさに「信仰の魔力」を全身から放とうとしたものの、帯を描いた刃が私たちを中心に「八方」を円形に覆い――――とっさに佐々木三太を掴んで脱出を図るも、残りの八本により追撃を受けた。

 三太、彼は「透過」したせいでその刃を受ける事もなく、勢いよく外に出られはしたものの。私はその追撃で足止めを喰らった。

 

 それと同時に、外界と私の入る場との間に『強固な』光の壁が現れる――――。私を覆う様なそれは、徐々に狭まりやがて私自身を覆う。

 

「ッ、とはいえこの程度の結界……」

「追・くくり」

 

 魔法アプリを操作して『干からびた骨』の詠唱を飛ばし、全身から神聖魔法の光を放とうとした瞬間。結界を構成する光が帯のように変化し、私の全身を縛り上げた。魔力で中空に引き上げられ、喉にまとわりつき呼吸が……ッ!

 

「……春日(ヽヽ)いわく、『神聖魔法』の使用条件として、必ず聖句の詠唱が必須。たとえ『個人として儀式魔法を使用できる』者であれど、こうしてしまえば身動きは取れまい。

 しかし……、逃げてしまいましたか。そこの少年。それでは仕方ない。

 我が流派は『君の様な』存在には特に致命的なものだから、出来る限り手荒なことはしたくなかったんですが……」

 

 残念そうに言いながら、彼女は周囲に浮いている刃のうち二つを両手にとった。

 佐々木三太は長い髪を適当にまとめて、フードの下に入れて被ると。少し腰が引けているけれど、両手をポケットに入れて少し前傾姿勢になった。あれは……、能力的な話で言えば、あれが彼の構えということなのでしょうか。

 

「ヘッ! こんなシチュエーションで、そんなこと敵に言われたって『ハイソーデスカ』ってなる訳がねーだろっての! 大体、小夜子のところに行こうとする途中でこんな足止めに出て来てンだから、絶対こっちの油断誘おうって奴だろ! オレは詳しいんだぞ、そーゆーアニメとかよくネットで見てるから!(※違法視聴)」

「あ、アニメ……?」

 

 一瞬、仮面越しだけれど彼女の目が丸くなったような感じがしたわね。……あら? 意外と取っつきやすそうな雰囲気が漂った気がしたけれども。こほんと咳ばらいを一つすると、彼女は両手の短刀を構え直し、無言で「瞬動」した。

 

 いえ、瞬動というにしては「入り」も「抜き」も姿が見えない――――。

 

「――神鳴流・斬魔剣」

幽波(スタンド・オン)――――って、おわッ!?」

 

 声が出せず、アドバイスも出来ない私の前で、佐々木三太が「斬られた」。以前、九郎丸と「お話し」した際にその「斬魔剣・弐の太刀」というものを使い、魔法障壁をすり抜けて攻撃をこちらに与えて来たことがありましたが。彼女のそれは、すり抜けるなど関係なく「暴力的な量の気」を注ぎ込み、魔法障壁かそれ以上だろう念力の壁「ごと」斬り払ったらしい。

 

「あ、ああ……ッ! あああああ!?」

 

 目の前に壁を作った際に出した右腕が、肘から斬り落とされる――――。霊体故にか煙を上げて腕自体は姿を消したものの、佐々木三太は大声を上げて転げまわっていた。

 そんな彼の両足を「当たり前のように」飛来する刃が切り裂き、すぐさま身動きを封じる。

 

「な、なんだ、これ――――ッ」

「……『その身体』になってから、今まで致死量のダメージを受けたことがないのか。先ほどの斬り応え、霊的な『密度』の高さでいえばほぼ生身。見た目相応の経験しかないとするのならば、むしろショックで気絶していないだけ、頑張っている方ですね。

 でも、これで終わりです」

「ふざ……、けん、なよッ」

 

 言いながら佐々木三太は念力なのか、衝撃波を放つものの。彼女はそれを、自分の手に持つその短刀を少し動かすだけで避けることすらしていない。と、その背後の建物だったり屋台だったりが爆発したり吹き飛んだりしている。

 どうやら「振るう」だけで斬り、往なし、躱しているということね。九郎丸でもここまでは出来ないんじゃないかしら……? いえ、アーマーカード状態だったらわからないけれど。

 

「ご安心を。『死している』相手に命まではとりません。……今日、先生(ヽヽ)からされたオーダーは、世界樹周辺への『一定以上の霊的能力』を持つ者の足止め。ですから、ここで身動きを封じられている間は、それ以上の手出しを『しなくて済みます』」

 

 不思議な言い回しをするのね、彼女は。洗脳されてるって訳でもなく、だからといって依頼でしているような風でもなく。強制されているという割には、動きに無駄やラグがない。

 ……その「先生」という言い回しがかつての私が「あの人」を「先生」と呼んでいたのを思わせて少し複雑な気分になるけれども、その言葉を聞く限り戦うのは本意ではなさそうだけれども。それでもこの場で足止めをしてくる相手としては、中々厄介なもの――――。

 

 少し「奥の手」を使うか悩ましいところね。でも、せめて気道の確保、声帯が動かせれば私としても挽回のしようがあるのだけれども、今のままだと本当に何も出来ないわね。……言い方は悪いけれど、こういう時は九郎丸や刀太たちの不死身の方が応用が利きそうよね。首を斬ったりして再度つなぎ直すとかして拘束から逃れたりできるもの。私の場合、身体が傷つかない結果「五体満足」のまま据え置きだから、精神攻撃同様にこういった拘束される技はあまり得意ではないもの。

 思えばそもそも「あの時」も、雪姫様の下から離れざるを得なかったあれとて……。

 

「精神体と仮定すると、『式札』が妥当だろうか。……『秘儀・御霊うつし』――――」

 

 

 

「――――――血風創天」

 

 

 

 倒れ伏す佐々木三太の背に札を置き、何かしら術を使おうとした彼女に向け、その上空からいつもの、「カトラスちゃんが嫌がる」あの格好をした刀太が、血の刃を放った。

 はっとした顔でその一撃と佐々木三太を見比べて、受ける選択をした彼女。霊体でも刀太のそれが貫通するかダメージを与えるか判断が付かなかった、というところかしら。それより庇ったわね彼女。傷つけるのが本意じゃないというのは、本当なのかしら……?

 

 ただ、その形で受けるのは悪手ね。

 

 刃に使われている刀太の血は、どういう原理かは判らないけど「相手の装備を剥ぐ」性質が少し存在する。以前、私がほぼ全裸にされた時のように……、時の……、いえ、今は置いておきましょうか。その血のせいか、単純な魔法障壁ならば「透過」「通過」ではなく「破壊」するその一撃。何かしらのアーティファクトであれ刀で直に受けたとするならば、その刀そのものを弾き飛ばして、その上で彼女本人も斬る形に――――。

 

 コンクリートが削れ、大きな砂煙と血しぶきが上がる。

 その中に急降下すると、刀太は佐々木三太の腰を掴んで担ぎ、そのまま私が拘束されている結界まで飛んできた。

 

「――――って、いや何でそんな、えっちな感じで拘束されてるんスか……、服破けてるし下着とか……」

 

 刀太は少し困ったような、照れたような顔で私の身体から目を逸らしていたけれど、「今日は」別に私が何かしたわけではないから、心外ね。その反応は。

 拘束自体をどういった方法なのか判らないけれども、刀太は「血風」と言って重力剣を回転させ、生成した円環と卍のブーメランのようなものを投げ、足元の八本の刃で形成されてる陣を破壊。破壊、と同時に魔法陣自体も「魔術的に」壊れたのか、簡単に私も光の帯の拘束から抜け出ることが出来た。

 一体どういう理屈なのかしら、それ……。細かく聞いたことは無かったけれど、時間を取って話してみようかしら。

 

 と、佐々木三太を下ろした刀太は煙が晴れた方に、左手をポケットに入れたまま刃を向ける。

 

「……一体、どういう原理だ? ゼロ距離とはいえ『竜破斬』を受け流しに使ったというのに、気を散らされてアーティファクトを飛ばされた?」

「…………はい?」

 

 刀太が、絶望のどん底に落ちたような声を出した。え? と、思わず横に回って覗き込むと、その目からハイライトが失われていた。視線は前方、刀の切っ先の延長上に固定されているので、私もその先の「彼女」を見る。

 

 そこに居た「白い」彼女は、その左目から額にかけて以外の箇所のほとんどが砕け散ったらしい。……その、顔立ちは、なんだかとっても最近見るようになった顔と瓜二つで。もっと言うなら、驚いたようなその目つきというか表情の感じが、今の刀太にもそっくりだった。

 

 

 

「…………せっちゃん、っていうか、祖母(ばあ)ちゃんじゃねぇか」

 

 

 

 ぼそっと呟かれた刀太の声は、やっぱり深い絶望に沈んでいた。

 

 …………今、甘やかして癒すというのは、ちょっと、時と場所と場合が宜しくないかしら。事情は分からないけど、今は流石に自重しておきましょう。そういうのは後で目いっぱい。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 私が本日最大の時系列ガバを前に心を折られついでに膝を折られるよりも少し前の話になるが…………。

 

 

 

 一旦、アーウェルンクスシリーズというものについておさらいしておこう。端的に言ってしまえば、それは「ラスボスが作った」人造魔法使い。人間よりもはるかに高い生命力をほこる人造人間で、ラスボスの手によりその能力値を自由に設定して作られた存在であり、当然だが多分にもれずその実力は単体の魔法使いとして見ればほぼ最強クラスに近い。もともとは「彼女」の手駒のうちでお気に入りだったか優秀だったかしたアーウェルンクス(番号付けるなら1番目(プリーリム))をベースに複製、設定を変更して再構成した存在であるようだが、そのあたりは詳細不明なのでさておき。

 例えばフェイト・アーウェルンクスこと「3番目(テルティウム)」。司る属性は地属性であり、その実力は「ネギま!」最序盤から中盤終盤まで常に強敵の立ち位置を揺るがさず、最後の最後、ネギぼーずが人間卒業をして初めてライバルとして太刀打ちできるクラスになった存在である。私としてもわずかな接敵だったが、甚兵衛が「まともに戦わない」選択をする程度には異常な実力の魔法使いであるといえる。伊達に「現代最強の魔法使い」と呼ばれてはいないのだ。

 

 さて、そんな中で私と相対したディーヴァ・アーウェルンクスこと6番目(セクストゥム)だが。シリーズ唯一の女性型である点以外は、多分に漏れず性能的に同等の高さだと推測できる。

 

 

 

「ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト――――海魔の呼声(カレォアポ・レヴィアタン)

「――――って勝てる訳がないだろいい加減にしろッ! 逃がしすらしないかどういう了見だ責任者出せ責任者ッ!」

 

 

 

 早々に低OSR(情けない姿)で申し訳ないが、一方的である。一方的であった。何が一方的かといえば戦況がであるが、どちらかといえば相性が最悪に近い関係であった。完璧に最悪な相性関係である。性格的な話ではなく、能力的な話だ。

 

 死天化壮による超高速機動を行えば、私が移動する範囲と思しき駅前全体を「水の結界」で覆い。それとて血風創天などで斬り払おうとしても、斬られた瞬間に「周囲の水分」が血風「そのものを」取り込んで壁を再構成してくる。また彼女の攻撃が直撃すれば、血風はおろか死天化壮すら「溶かしてくる」有様。接近戦を仕掛けようにも足を潰されているに等しく、中々どうして動き辛い。だがどうも彼女自身、意図してやっている訳ではないらしいが。これはどちらかというと「血装術」そのものの弱点というより、私の練度の問題らしい。

 つまりは、体外に外れた血液に「強大な魔力を帯びた水分」が大量に混ざった場合、その状態でも私の血液の操作を継続できるか否か、という問題のようである。私自身、自分の血は「自分の魔力」がいきわたっている液体くらいの感覚で認識して操作しているが、それが猛烈な勢いでかき乱されてしまうと、水属性魔法の仕様もあるせいか「取り込まれてしまう」のだ。

 

 例えば今だが、先ほどの彼女の魔法により召喚された「クジラのごとき巨大な水流で出来た怪物の顎」が追ってきているのに対して「大血風」を放てど、がぶり、とそれをかみ砕かれて後はもはや見る影もない。

 結果だけ言えば「血」をウォーターカッターとして放っているが故に、逆説的に水属性の魔法に取り込まれて「内部の魔法構成」自体を崩壊させられていると言える。

 練度不足とはそういう意味で、つまりもっと血装術を使いこなしていれば。このように紛らわされることもなく、問題なく戦えるのだろうが。とはいえ手数を封じられる事実は変わらないので、何かしら今後対策を考えなくては……。

 

「だからまだ早いんだって! もうちょっと後に出てこいって話だ最終局面とか最終局面とか最終局面とか! って、あ、ぶぶ――――」

 

 ついに追いつかれ、がぶりと呑み込まれる。無理やり息を溜めたので少しの間は大丈夫だが、既に全身の「死天化壮」は解けてフードもローブもコートの裾すら形成できない。唯一、胸元の付近だけはかろうじて残っているが、傷口から前後とも血が垂れ流しにさせられてしまっている……というより「どこまでが自分の血か」わからず、留めることもできない。

 完全に、現時点においての弱点である。まさかこんな簡単に、私のOSR人生計画(オサレンジプラン)が倒壊させられることになろうとは、この「私」の目をもってしても見抜けなんだ。(???「ビー玉でも入ってるのかい?」) 

 

『――――ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト、処刑者の剣(エンシス・エクセクエンス)

『ッ!? なん、だと――――』

 

 おまけにもっと言うなら、彼女の足に装着されているアーティファクトが問題である。戦闘開始早々、競泳水着に素足というのに疑問を抱いていた私に最適解と言わんばかりに、パクティオーカードを起動したディーヴァ・アーウェルンクスだったが。

 

来たれ(アデアット)――――「竜宮の遣い(イニシレート・セイレイン)」』

 

 その装備された水生哺乳類を彷彿とさせるアーマーはどう考えてもお前それ大河内アキラがかつて使っていたアーティファクトだろ! 嗚呼その競泳水着姿には大層似合っていらっしゃいますがさぁ! 今の恰好と言うか容姿にもバッチグーな感じではあるが正直これも含めていい加減にしろと言いたい。(憤慨)

 

 別に大河内さんのアーティファクトが「こんな形で」引き継がれていることにキレているとか、大河内さんがこのアーティファクトを召喚した姿を生で見たかったとかそんな私情ではない。これも完全に、彼女に対して相性が良すぎるアーティファクトなのだ。

 

 なにせ今の状況だ。水中において「竜宮の遣い」は、水がある場所ならばどこにでも(ヽヽヽヽヽ)転移することが出来る装備。魔法人魚変身セットとかつて揶揄したことがあったが、それは例えば水たまり(底の深さは関係ない)にダイブしたら、周囲数百メートル以上の範囲の別な水場(風呂場やプールなど)に場所を問わず出現することが出来るというもの。

 そんなものを、自ら自由自在に水を操る彼女が手に取ったら何が起こるか…………。

 

 私の死天化壮以上の超高速自由「転移」による瞬間移動により、つまりは実質「全方位」死角とされてしまったということだ。

 

 

 

 結果として、私は為す術なく簡単に「首を刎ねられた」。

 

 

 

 そういえばカトラスの時以来ではあるが、あれを一つの事件と捉えるなら毎回私って首が飛ばされているような……。そんな現実逃避をしたくなるくらい、ごくごくあっさり斬られてしまった。

 その頭を掴み、彼女は私の首の切断面を「凍結させ」、水の檻の外に出た。ドーム状に展開された水の真上に「ジャンプ」し、そこから駅舎手前のビルの上に着地。と同時に、水のドームもばしゃりと融解して下水に流れて行った。

 

「――――ふぅ。……去れ(アベアット)。という訳で回収完了。なんだ、意外と簡単だったね。では、後は『このせつ』の二人が終わるのを待って……」

「………………いや、回収ってそもそもアンタは何なんだ? 聞く限り、祖父さんの――――」

「情報は渡さないよ、実験体7号。基本的に不死者というのは、どんな想定外の状況からでも逆転の芽が存在するとデュナミスから聞いているからね。

 だから―――――こうしよう」

 

 えいっ、と。

 彼女は無表情のまま何ら恥じらいなく、私の頭を「抱きかかえるよう」「自分の胸で挟んだ」。

 

 

 

 …………………………………………………………………………。

 ……布の感触、肌の温かさ……良い匂……、後、柔ら…………。

 

 

 

 い、いや、オイマテッ!

 

 

 

「って、いや、アンタ何やりたいんだマジで何考えてるんスかねぇッ!?」

「大丈夫、大丈夫、わかってる、わかっているとも」

「一体何を……」

 

 何かまた変なフラグでも踏んだかと一瞬警戒していた私だったが、そんなこちらに夏凜以上に感情の機微のない無表情で。つまりは何ら感想を抱いていない無垢な無表情で、彼女は続けた。

 

「君の祖父にあたる存在と戦った時、かつて身をもって学んだからね。男性と言うのは特に幼少期『でも』、状況に関係なく『持て余す』ものだと。少なくとも好み云々すら除外して問答無用に、いくら敵とは言え女性を裸に剥く程度の『ソレ』を抑えられないらしいし」

 

 だからこうしておけば、君も気持ち良いから積極的に逃げようとは思わないだろう、と。

 

 

 

 …………えーっと、つまり? ネギぼーずと接敵した「ネギま!」原作終盤において。傷つける訳にはいかないからと武装解除の術を使ったそれにより、何だか変な形で性認識をラーニングしてしまったと……。

 

 私のガバではないな! ヨシッ!(風評被害)

 

 というか少しくらい矯正しておけデュナミス。(正当ギレ)(???「ヨシ! じゃないんだよアンタ色々とねぇ。そこで訂正しないから、今までの経験がまるで生きていない」)

 

 

 

 

 

 




アンケート締め切り:10/10明日までなので、あしからずですナ!


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ST93.死を祓え!:原作ロケット

毎度ご好評あざますですナ!
 
BLEAC〇(オサレ)アニメ放映直前に私もテンションが狂った結果が今話になります(?)


ST93.Memento Mori:History Like Super Sonic Rockets

 

 

 

 

 

 ほぼ生首状態の私に何かできることがあるかと言えば「叫ぶ」とか「舐める」とか「噛む」とか口で起こせるアクションくらいなものの、実際問題、今私を確保しているディーヴァを名乗った彼女のその変な無垢っぽさというべきか、それを前にして「そういった」反抗をする気はなんとなくなかった。

 決して現在の状況が役得とかそういう感情ではない。というか首から下がない状況ではそうも言っていられないという話ではあるのだが、夏凜ではないが一応は時と場所と場合は弁えるべきだろう。

 

 そんなことよりも目下、一番衝撃に身動きをとれなくなっているのは…………。

 

「フラベル・ミラベル・アラ・アルバ――――魔法の射手(サギタ・マギカ)、と見せかけてぇ、風花・武装解除(フランス・エクサルマティオー)や!! ネギくん(ヽヽヽヽ)必殺え!」

我が身に秘められし(オステンド・ミア)――――きゃあッ!!?」

 

 狩衣とも巫女の衣装ともつかないその独特な形状、黒く艶やかな髪。身体的にはおおよそ十代後半か、顔にはすだれのような、暖簾のような、あるいはキョンシーの呪符のような形で何かが張り付けられている。 

 ……武器なのか魔法発動体なのか何なのかは知らないが、南京玉簾のようなものを釣竿のように変形させて九郎丸の「夕凪」を往なし、直後、扇のような形状に展開してぶんと振り回し、九郎丸を全裸に剥いた「顔の見えない」女性の姿がそこにあった。武装解除の術で仮契約カードごと武器を弾き飛ばされた九郎丸。完全に想定外の所から殴られたような感覚だろう、しかし顔を赤くもせず駆け出し夕凪だけでもと回収に走る。そんな九郎丸に、今度こそ属性は不明だが「魔法の射手(サギタ・マギカ)」を五連射して妨害する女性。

 そんな様を、私たちは彼女たちの戦っている教会前で目撃していた。

 

「前衛でもないくせに意外と善戦してる。伊達に毎日のように訓練してはいない、か。まあ、でなければ彼女も過保護だし、一人では出さないか」

「――――」

 

 ちなみに私は、彼女が持っていたハンカチで猿轡をかまされていた。どういう原理かは知らないが「首元」は凍結と共に再生が停止しており(しかし死なない)、ならばと口の中を噛み切って血装しようとするも、それすら予想されていたのか「ダメだよ」とさらに胸に顔をうずめさせられ(結果、ちょっと競泳水着を噛みちぎってしまって色々とアブナイ)、現状と相成っている。とはいえ「退屈だろうから見せてあげる」と顔を正面に向けてくれている辺りは、まだ温情措置というべきか、彼女にもCPH(フェイト)味が存在していると考えるべきか。……彼女が出て来るまでの「ネギま!」におけるアーウェルンクス同士の情報同期具合って、どの段階までだったんだっけ?(無知)

 

「あー、何か『せっちゃん』ほどは鍛えてへん感じやねぇ。まだまだ若いから、昔のせっちゃんくらいは強いって思うけど」

「く……っ、神鳴流奥義・桜花乱舞!」

「フラベル・ミラベル・アラ・アルバ――――」

 

 収納アプリからシャツだけ取り出してまとい、同時に夕凪から桜吹雪と風圧および斬撃(衝撃波?)を放つ九郎丸だが。

 

「――――飛瀑光龍陣(おいでませ、すごい光っとる子ぉ)!」

「な、何ッ!?」

 

 玉簾を仏像とかの後ろに後ろにありそうな風に今度は円形(?)に展開し、それと同時に召喚された札が五つ。それぞれが陰陽五行らしく青・赤・黄・白・黒(紫?)に光り大きな五芒星の魔法陣を展開。その中から、「白く輝く」西洋竜のようなものが現れ、旋風を薙ぎ払う。竜は一瞬背後の女性の方を振り向く。と、女性が「その子で合ってるえ!」と言ったのに首肯し、九郎丸に大口を開いて光線を放った――――。

 

 砂煙立つ中、竜が姿を消し「アカン、力加減慣れてないわぁ」と、どこかのほほんと呟く彼女。バタバタと顔を覆う簾のようなものがはためき、見える素顔は「帆乃香(妹ちゃん)」や「野乃香(母さん)」とほぼ同様。むしろ彼女たちよりも、表情はさらにほんわかしているかもしれない。

 

「――――――――」

 

 お前さん絶対「このちゃん」だろ、近衛木乃香! つまりは血縁上は祖母(ばあ)ちゃんと呼んで差し支えないお可愛らしいお人ッ!  

 なんで原作終盤でもないのにこのちゃんが来てるんだよ! 原作はどうなってんだ原作は! おい誰だ責任者お前、禁じられた時系列破壊を平気で行ってるんじゃねぇか! 分かってんのか!? 私が今この有様なのは理性が本能を突破しなかったせいだろうが! 代償身体で支払わせんのかよ!? ブッダは鼻で提灯膨らませてるのか、くそったれ(ジーザス)!(構文混乱)(???「テンションが上がりすぎて近衛木乃香を名前じゃなく『このちゃん』呼びしてるたぁ恐れ入るねぇ」)

 

「どうしたのかな、少し息苦しい? ……そこは我慢してもらわないと」

 

 言いながら少し抱きしめる力が強くなり柔らかいが柔らかい(語彙崩壊)。何なのだ、身動きを取れなくしているから、せめてもの罪滅ぼし的なサムシングなのか? こちらが一応シリアスに合わせて心境を出来る限りそれっぽくしようとしている矢先にギャグ時空に引きずり込むの止めろ(戒め)。

 

 それはそうとして、近衛木乃香。「ネギま!」におけるメインヒロインである明日菜はん(謎訛り)のルームメイトであり、彼女の親友の一人である。ついでに言うと彼女もネギぼーず達魔法使いパーティ「白き翼(アラ・アルバ)」の一員で、ネギぼーずとも魔法使いの従者契約を結んでいた少女である。現在は女性と形容するのが正しいようだが、年齢詐称薬で大人になった時よりも見た目が幼く見えるのは中々謎であるが。

 現時点「UQホルダー」の時系列において、彼女は何年代かは謎だがラスボスとの闘いにより死去し、現在「あちら」の陣営に取り込まれている。とはいえ本来なら、その登場は終盤になる。肉体が消失する形での死亡だったのか、あるいはネギぼーず「以上」の基礎魔力量を当時のラスボスの力では再現して呼び出せなかったせいかは定かではないが。

 

 ……なお先ほども言ったが、私、帆乃香、勇魚にとっては祖母あたりに相当する血縁の存在でもある。遺伝子提供者かどうかまでは断言できないが、近衛刀太の顔のつくりを見る限り、おそらく三人とも彼女と(ついでにせっちゃん)の血縁だろう。性格は、ほのかからアグレッシブさと幼さを少し取り除き、おしとやかにした風と言えば良いか……。少し天然なところはあるが家事炊事洗濯掃除ひととおり何でもこなす、京都に大きな実家をかまえるスーパーお嬢様だ。

 まあ実家については、流石に現代まで続いているかは怖くて帆乃香たちには聞けていないが、ともかく。

 

 

 

「――――来たれ(アデアット)!」『(あれ? 確か木乃香さん、どうしてっ!?)』

 

 

 

 

 煙が晴れたその場には、完全装備状態の九郎丸。背中の羽根が「片方」ボロボロなあたり万全という訳ではないらしいが、どうやら先ほどの一撃の際にネオパクティオーカードを回収して、召喚に成功したらしい。腰には夕凪、右手には「神刀・姫名杜」。少しロック貴公子とでもいうようなその恰好に、このちゃん(断定)は「おぉ! かっこええ!」と喜色を浮かべた。

 

「なんや、私、最近の曲とかはあんまり詳しくないけど、昔友達が学園祭でバンドやったりしたん思い出すわー。でこぴん! こう、すごいキメキメな感じでな? 君も音楽好きなん?」

「へ? あ、そういう訳では。この格好自体は自動というか…………って、その、何故そう馴れ馴れしい!」

「えぇ~? もうちょっと話そうや~。ウチ、最近の女の子事情とか凄い気になるしなぁ」

「女子事情!? ぼ、僕は女じゃ―――――いや、まあ、女では、ありますけどッ」ついに認めるまでになったか、そっかぁ……(遠い目)。

「『出て来れた』上にこっちまで『降りて来れた』のも大分久々やもん。『地球上の』ファッション誌とかも全然読んどる暇もないしなぁ。

 えーっと、お名前、何ていうん? うちのことは『木乃香さん』でええよ?」

「ええよ、じゃなくって……ッ! って、そのしゃべり方……」

「あ! ひょっとして『野乃香』あたりと面識あるん? 大体こんな顔しとると思うけれど」

 

「いや、顔を隠してる意味がないだろう、個体名『このちゃん』も」

「――――」

 

 セリフは話せないものの感想は同意である。もともと防御力が大分弱い顔隠しだったが、ぺろん、とめくって笑顔を向けて来る感じは、何と言うか変な所で抜けているこのちゃんらしいと言えばこのちゃんらしいと言えた。

 だが、とはいえ現在の彼女がラスボスに紐づいた存在であることへの警戒を忘れてはいけない。彼女自身の天然もあるだろうが、その行動にはいくらか計算された何かが背後にあっても不思議ではない。

 

 ああして幼気な(妙齢の女性に使う言葉ではないがそうとしか言いようがない)微笑みをして九郎丸を困惑させている裏に、何かしらの意図がある可能性が高いのだ。

 

「その顔……、も、もしかして刀太君の――――」

「とーた? あー、そういえばそういう名前になってたって『ネギくん』言っとったっけなぁ。――――まあそうや? ネギくんとアスナとウチと、あとせっちゃん『皆の』孫にあたる感じやぁ」

「木乃香さん……、いえ、木乃香お義祖母(ばあ)(さま)……っ!」『(お義祖母(ばあ)(さま)!)』

 

 何故そこ力を入れて言った九郎丸。

 このちゃんも「おっ! えっ? えっ? つまりそういうことなん?」と何やら嬉しそうに(というか野次馬めいて)九郎丸をニコニコして見ているし……。というか直後に名乗り出すあたり一体何がヒットした結果だお前さん。

 

「では、木乃香さん。何故、貴女が今、僕を足止めしようとしているんですか。ネギ先生……、おそらくネギ・スプリングフィールド関係者であるのならば、貴女は僕らの味方であるはずなのに」

「あれ? その辺のこと『エヴァちゃん』から聞いてへん? ゆぅきゅう(ヽヽヽヽヽ)ほるだー(ヽヽヽヽ)って、確かネギくんとエヴァちゃんが作った組やん?」

「へ?」

 

 いや、その話をここでするの止めろォ! どう考えてもエヴァンジェリンとネギぼーずとの過去編直結話になるだろ、せめて当事者の口から語らせろいい加減にしろッ!(動揺)

 私の祈祷が届いた訳でもあるまいが(!)、このちゃんは「それやったらあんまし言うの悪いわー」と苦笑い。

 

「まー、簡単に言うと。ウチら『逆らえない』んよ。自意識とか行動の自由が『あの二人』よりもある程度保証されとるけど、その代わりオーダーの最低条件は絶対服従なんや。

 それだって、私らの匙加減すら『あっちの機嫌』次第でどうにもこうにもされてまう。今はまだ遊ばしてくれてるけど、そのうち物言わぬお人形みたいにされてまうえ? たぶん」

「人形…………?」

「っと、ここまで話せばもう『終わった』?

 ――――おーい! ディーヴァ(ヽヽヽヽヽ)はーん!」

 

 その、このちゃんの大声での呼びかけに、ため息をついてディーヴァ・アーウェルンクスは「転移した」。当然のように隣へ現れた彼女に、このちゃんは「あれ? 本当に終わってた」とびっくりした表情。そして……、当たり前のように手を伸ばし、私の頭をなでなでしはじめた。

 何だこの状況。(震え声)

 

「髪型はなんか、ネギくんっぽいなぁ。顔は意外と明日菜っぽい? でも目はなんかせっちゃんみたいな感じやねー。不思議ふしぎ。せっちゃんが『茜奈(せんな)』くん産んだ時もそうやったけど」

「いえ、一番似てるのは貴女だと思うよ。個体名『このちゃん』」

「えー? ホンマ? 自分では判らんわぁ」

 

「と……、刀太君!?」『(な……ッ! っていうか何あのえっちな恰好!? 左胸とかすごい抉れてるっ)』

 

 流石に私を「完璧な形で」拘束した第三者が現れるとは思っていなかったらしい九郎丸。いや、普通予測がつく方がどうかしていると言えばどうかしているのだが、それを見た瞬間に九郎丸側としても気合が入ったらしい。

 

「状況はわからないけど……、今助けるよ! 刀太君ッ」『(……今のこの「僕」でどこまで行けるか…………ッ)』

 

 羽を広げて瞬動――――動き自体、入りと抜き、初動と到達点が「見えない」ので、どちらかというと縮地とかそっちの方になるのだろうか。と、急に現れた九郎丸の「斬岩剣」を、むしろ九郎丸に「体当たり」することで躱すディーヴァ・アーウェルンクス。決して致命打とはなりえないが、想定外の躱され方に動揺した九郎丸に指先を向けて。

 

「ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト―――― 封魔の陣(ラグナ・グラマ)『(なッ!?)』

 

 眼前に向けていきなり「封印」の魔法陣でも展開されたのだろうか。九郎丸の翼と「神刀」が「黒く」凍りつき、その場に倒れ伏す。ついでとばかりに指先で造り出した処刑者の剣(エクスキューショナーソード)(熱線のようなもので出来た魔法エネルギーの剣)で足や腕を裂いた。苦痛にうめく九郎丸の声からして、腱でも切り裂いたのだろうか。

 

「まあ足止めぐらいには問題なかったね。デュナミスから聞いていたよりは使えたけれど、でも甘いというか。本意だろうがそうでなかろうが、『私たち』はもう逆らうことは出来ないのだから、潔くするべきだと思うよ」

「あー、そういうところディーヴァはんはフェイトはんとは違う感じなんやねぇ」

 

「ま、待て……ッ」

 

 立ち去ろうとする彼女たち(および連れ去られそうな私)に、九郎丸が声を上げ。しかし「焼き切られた」四肢は再生に時間がかかっているのか、すぐさま動くに動けないようで。

 振り向き、フェイトと同じ顔をしたディーヴァは、これまた冷徹なことを言っている時のフェイト同様の顔を九郎丸に向けた。

 

「悪いけれど、デュナミスから言われているからね――――エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの私兵は殺さず、生きて絶望を味わわせてやりたいと。それで長年の因縁に決着がつくと」

「そんな、ことを――」

「まあ君の場合は、『実験体7号』が持ち去られることの方がダメージが大きそうだけれどもね」

 

 刀太君って呼んであげなあかんよぉ、とこのちゃんの優しい言葉もあるにはあるのだが、しかし困ったことに手も足も出せない。いくら力を入れど猿轡をひっくり返すことは出来ず、首から下の「金星の黒」への繋がりも普段の百分の一に満たない。

 はっきり言って絶体絶命のような状況だったが――――。

 

 

 

「――――困っているようだな、半端者共。いや? 不死身衆(ナンバーズ)後輩共!」

 

 

 

「何?」「わぉ!」

 

 そんなこう、高圧的な聞き覚えのある少年の声と共に、辺り一帯が「夜」のように真っ暗となった。

 

 

 

 

 




アンケ締めました! ご投票あざますですた!
やはりシワシワぴか様強すぎる・・・


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ST94.死を祓え!:物語を見届ける者

毎度ご好評あざますナ。
夏凜ちゃんさん、知る(意味深)。


ST94.Memento Mori:Elder God of observation

 

 

 

 

 

「…………せっちゃん、っていうか、祖母ちゃんじゃねぇか」

 

 流石に「このちゃん」に続き二連続のご登場と相成った我が祖母相当の女性に、思わず内心が口から出てしまった私である。いや確かに、このちゃん来てた時点で来ていそうだとは思っていたけれど一体全体どうなってんだこいつぁ……、RPGでいうボスラッシュ連続してるような状況なんだぞ! 序盤終わりの光景だというのか? これが…………。

 

 私の登場に警戒のボルテージを上げ、アーティファクトである匕首(シーカ)を自分の周囲に展開し直すせっちゃん(なんか全体的に白い?)。だったのだが、私の背後に「出現した」ニキティス・ラプスの姿の前に目が真ん丸になっていた。「ネギま!」原作で言えば顔をちょっと赤くしてデフォルメされてそうなボケシーンのような顔と言うべきか……。

 

「こ、このちゃ~~~~~んッ!?」

 

「合わせる顔がないわ、ゴメンなぁ。せっちゃん、私今こんな感じで捕まってもうたから……」

「…………」

「フン、他愛ない。この僕の手に掛かれば、所詮はこの程度だ!」

 

 両腕、両足を拘束されているこのちゃんと、ついでに猿轡を追加でされてるディーヴァ・アーウェルンクス。彼女たちを「影で出来た」巨大な板にそれぞれ磔にしているのは、こっちに来てから二番目くらいに色々と状況が時系列崩壊を起こしていたUQホルダー不死身衆ナンバー8、ニキティス・ラプスである。どういう訳か服装は普段と違い黒マント(襟が大きく開いている吸血鬼みたいなシルエット)に白タキシード姿と一見して吸血鬼「らしい」姿をしているが、そのマントは見た目通りの布の材質と言う訳でないことを、私と九郎丸は知っている。

 

 ディーヴァの手で私や九郎丸が詰み状態までもっていかれた後。当然のように意気揚々と現れたニキティス・ラプスは、ごくごく当たり前のように高笑いしながらディーヴァおよびこのちゃん相手に「無双していた」。

 いや、正直舐めていたというか、見誤っていたかもしれない。原作においては中々前線に出たがらず、また登場が中盤の終わりごろ(※後半は特殊な事情で個々人の活躍が少ない)だったこともあり、実際の戦闘シーンが少なかったせいもあるのだが。なにせ私や九郎丸に対して出待ちしていたのではと疑うレベルの台詞を放った直後、「夜」の結界で覆った私たちの周囲全体から、その全体に発生している「影」を操っていた。

 影操術、精霊などを介さず影を直接操作する「ネギま!」でエヴァちゃんも転移だったり何だったりと意外と使っていた吸血鬼スキルである。「UQ HOLDER!」に入ってからはとんと使っているシーンを見たことがないのでおそらく現時点においては弱体化しているせいなのだろうが、こと移動やら回避やらに使われていたそれを攻撃に転じたニキティスの力は圧倒的だった。

 

『ヴィシュ・タ――――るぅ? む、むむむーッ!』

『アカンこれ、ディーヴァはん! それ口の中の「影」も操って――――やーッ!』

 

 高速で「夜」のような結界を展開したかと思えば、このちゃん達自身に「結界を」張らせる暇すら与えず、問答無用で拘束していた。ディーヴァは呪文詠唱の隙すら与えず口の中の影を使って口元を覆い隠し、このちゃんは元々やる気があまりなかったせいか手足のみに留められている。ついでに落ちた私の首を「砕き」(!?)、逆説的に放置されていた胴体の方で再生させる。

 何と言うか、こう、恐ろしいくらいに鮮やかな手並みである。RTAかな? いや、おそらく口ぶりからして図書館島で色々と観測しているのだろうから、そこから最適解を導き出したと言えばRTAなのだろうが。

 

 ……とはいえ二人とも影の壁に「カッコいいポーズ」で固定されているあたりは、最高にニキティスらしいと言えばらしいのだが。お陰でエロさよりもギャグっぽさが圧勝している。何だその、古の剣闘士同士が斬り合いをする直前みたいな前衛的なポージングは。

  

「……あ、あの? 何で俺の手、握ってくるんスかね?」

「いえ、何かこう『引き止めないといけない』ような気がして」

 

 そして夏凜は夏凜で毎回だがこの人、一体何なのだろうか? いや、左のお手々を普通につないできているだけなのだが、こう、色々精神的にささくれ立っているのもあってそのちょっと冷たいけれど柔らかな感触の接触でなんとなく気持ち良いには気持ち良いのだが。色々と疲弊しているところで、少し安心できる癒しじみたものが無い訳ではないが(心折れてる)。

 

 と、ハッ! とした顔でせっちゃんが我々の方を見やる。

 

「く……、貴様、このちゃんを放せ!」

「解放しろだと? そうもいかない。最初はともかく、現在は本人も望んで捕まっているのだからな! この真祖の威光にひれ伏したかの如く! ひれ伏したかのごとく!」

「そんな訳があるかッ!」

「いや、まあ望んでって所は本当やで?」

「えっ!?」

 

 もう一枚カードを取り出して構えようとした矢先の、このちゃんの台詞にせっちゃんは再び顔がギャグっぽいアレに戻った(表現放棄)。いや何というか、我が祖母(だろう)ながら大変お可愛らしいのだが、ひょっとしてさっきまで仮面らしきものをつけていたのは、正体隠し以上にそのボケっぷりを覆い隠すためだったりするのだろうか?(風評被害)

 そういえば勇魚はそういう表情をあまりしないが……? あ、いやしてた。そういう場合はわりと姉妹そろってギャグ顔になっていたかゲームやってた時とか(チャオ)に怯えていた時とか。

 

「…………なァ、全然状況がオレわっかんねぇんだけど」

「安心しろ、俺もわからねぇ」

 

 三太とそう顔を突き合わせながら、とりあえず事の推移を見守る。流石に再生も終わった三太だったが、先ほどまで真面目に戦うテンションだったものがいきなり崩されてどうしたものかという様子である。

 なおそんな我々だったが、ディーヴァがふと私に視線を向けて来ていたり、特に何も言わず夏凜がその間に挟まり腕を組んで睨み返したりといった謎事象はスルーしておくとして。

 

「だって仕方ないやん。せっちゃんも私も『あの(ヽヽ)ネギくん』には逆らえへんやん。積極的に戦わないってことが出来ても、戦わないってことはできへんし。それならこう、運良く捕まった訳なんやし、そのまま拘束されておいた方が色々と安心え?」

「だからと言って、このちゃんがそんな状態になっていて放っておけるわけないやん! そこの『女フェイト』は置いておくとしても、このちゃんは――――」

「せやかて……、って、あと一応ディーヴァはんって呼んであげなあかんえ? 可哀想やん、せっかく可愛い名前なんに」

「――――、……」

 

 女フェイト、という呼び名に視線鋭く刹那を睨むディーヴァだが。ひょっとしてその「ディーヴァ」という名前自体、彼女もまたフェイト同様「ある程度の自我を確立した」という自己認識証明とかだったりするのだろうか。それにしては色々と妙な無垢さを発揮していたりするのはどういうことなのだろうという謎もあるが。

 

「……さて、話は終わったか? いや、終わっていなくても関係ない。僕は飽きた。本命に移れと言いたいのだが?」

「「「本命?」」」

 

 私、夏凜、三太の声に、せっちゃんがふとこちらを向いた。……どうでも良いが生のせっちゃんは本当に色白で美人である(断言)。個人的な性癖で言えば大河内アキラが好みではあるが、キャラクターとしては桜咲刹那も嫌いではなかったので、なんというか不思議な感慨と言うか。経年によりさらに凛々しい容姿になっているのだが、ふと浮かべる微笑みにはなんだか背中がむず痒くなるような思いである。

 

「…………ええ。本命と言えば本命でしょう。私が今回請け負ったのは『一定以上の霊的能力』がある存在の足止め。一般の魔法生徒や妖魔程度ではどうにもならないという前提があるのだから、当然後に控えているものもあるでしょう。

 デュナミスが何を考えているかまでは定かではありませんが、刀太君」

「ウチら、なまじずっと敵だったから全然そーゆー話してくれんのやね~、刀太くん」

 

「――――――――あ、ハイッ」

 

 ――――――――あと、謎の感動。

 

 いや、何に感動しているのか正直わからないくらいだが、それでも「このせつ」揃って私(というか近衛刀太)の名前を呼んで来るこのシチュエーションに、何か色々こみ上げてくるものがあるというか。例えせっちゃんが外見上酷くアルビノっぽい二十代風になっていても、このちゃんが下手すると高校生とかティーンエイジャーな外見のままだったりすることとかがあっても。

 

「…………」

「えっと、敵に情報を与えるなって言いたいんか? そりゃ、だって私らからしたら『敵じゃない』んやし。その辺は堪忍してな? ディーヴァはん」

「……………………」

「えっ? あー、ごめんな? ウチ、今念話受信のチャンネルも全部『ネギくん』の方と同調しとるから、そう簡単には意思疎通できんのよ」

「…………」

 

 じ、とせめて会話くらいさせろというディーヴァの視線を受けて、フンと鼻を鳴らすニキティス。……というか実際にセリフとして「フン!」とか明確に言い出してるので、やっぱりこう、いまいち締まらない(棚上)。

 

「フン! 本命はあれど、お前たちは全く話を聞いていないと。そこの『人形女』あたりは色々知っていそうだが、だからと言って口の拘束を解いて逃れられるようなヘマをするような僕ではない。そんな二流のような敗因を作ることはしないとも!」

「まあ情報集めるって言う以前に、間違いなく『世界樹』の方で何か起こってるのは確実ッスからねぇ……」

 

 となると、どうあがいてもこちらに警戒をしている(もっとも「このちゃん」の方に気を取られて気が気じゃないらしい)せっちゃんが問題になってくるわけだが。戦力および相性的に、九郎丸が居れば多少時間稼ぎできたかもしれないと期待はできるが、あっちはあっちで避難誘導だったり一般人への対応に手をとられている。移動中、あまりにも一般人が小型妖魔たちによる「いたずら」被害めいたものに遭っており、見た目こそ可愛いが超高度から人を落下させたり水球に閉じ込めて溺れさせて遊んだりといった目に余るものが多すぎたため、道中対処していると自ら立候補したのだ。

 

『流派は分かれているけれど、人の世に徒なす「魔」を滅するのは神鳴流共通の思想だからね。すぐに追いつくから、えっと……、刀太君、頑張って!』

 

「こう言うと凄い変やけど、せっちゃんも捕まった方が色々楽やで? 逆らえないって『言い訳』出来るから、ネギくんのオーダーの強制力もだいぶ低くなるし」

「そ、そうはいかんよ、このちゃん! 協力的じゃないって判ったら、それこそ『中学時代』くらいまで巻き戻されたり、自意識奪われたりするかもしれへんのにっ」

 

 なお、やっぱり動揺していると口調が関西弁になるらしいせっちゃんだった。このあたり年代を経ても変わりないということか……、ん? いや待て、今何か少し変な情報が聞こえた気がするのだが。巻き戻す? 身体年齢をというのは言い回しから察するところではあるのだが、それってつまり二人そろって「捕らわれる」直前の頃の姿だということなのだろうか。せっちゃんの成長具合からして二人とも二十代は超えていそうだが、このちゃんの外見は…………、いや、そもそも母さんこと近衛野乃香の自宅に置いてあった写真を見るに、もっと前の頃から容姿がそんなに変わりないということなのか? あれはクローン的なサムシングによる色々あった感じの何かしらではなく、もしかして本当に祖・親・子ないし孫の三代写真だったとでも言うのか……。

 美魔女とかそういう次元じゃないッスねぇ(思考放棄)。 

 

 そんなことを考えていたのが油断に繋がったのだろうか。背中に嫌な感覚――――黒棒を構えるよりも先に、いつの間にやら夏凜が神聖魔法の魔力、青白いオーラを放ちながら、背後から斬りかかってきた「十五歳くらいの」フェイト顔の少女の姿の魔法剣と対峙する姿があった。腕で受け、お互いににらみ合う二人。

 その少女……、髪型はセミロング、ポニーテールではなく水着は若干ぶかぶかながら胸元にふくらみがあったり腰にくびれが有ったりする、成長途中の身体。肢体の線はさらに細くなり、しかし動きは先ほどよりも機敏に思えた。

 

 処刑者の剣(エクスキューショナーソード)を弾く夏凜。撥ね飛ばされた「ディーヴァ」(少女体)は、それこそ新体操の選手のようにくるくると空中を舞い、回転数多めに着地して水着の両肩を引っ張った。ずり落ち気味なのを気にしているのだろうか、少し可愛らしい。

 

「…………意外だね、完璧に隙をついたつもりだったんだけれども。何かしら執着でもないと出来ないレベルの警戒かしら」

 

 ニキティスが口をあんぐり開けて驚愕している。影による拘束を逃れられるとは思っていなかった、といった表情だ。影の壁を見れば、このちゃんは相変わらず拘束されているがディーヴァが居た箇所は中空に「影」の布のようなものが「巻かれた状態で」固定されている。ひょっとすると、年齢詐称を解いたことで体が小さくなったから抜け出せた、とかそういう類のものなのだろうか。アレ一応幻術ベースだったろうに、本当どういう仕組みなのだ年齢詐称魔法……。

 

「ど、どうなってんだ? アレ。さっきの、磔にされてたエロい恰好の姉ちゃんだろ? 何か知ってるか刀太?」

「…………オイ、羽虫。いやササキ・サンタ。何故僕に聞かない。あの二人を拘束していたのは僕の手柄なんだぞ、一番詳しいのは僕に決まっているじゃないか! どうしてそこの半端者に聞くんだ僕じゃなくて!」

「えぇ……? え、えっと、その……」

「あー、ドモらせてんじゃねぇってニキティス先輩。三太、割と人見知りなんだから……」

 

 後そもそも「上位者」から人を羽虫と呼ばれ、虫けら程度に見ている目を向けられているのだから、正常に対応できる一般人メンタルはそうはおるまい。私? 一度キレた時に彼に関しては心の壁や隔意のようなものはきれいさっぱり取り払われているので……。

 

「フン! そうは言うがお前など、どうせ何も知らないだろうコノエ・トータ。あの『人形女』に素で()されたくせに」

「先輩も知らないんじゃ? っていや、そこは相性勝負というか、俺も想定外の所に練度不足があったというか……」

「ちょっと競泳水着がハイレグ角度で腰とか脇とかへそとか谷間とか露出有りで胸がかなり大きくて年上で髪型の感じとか雰囲気とか好みの外見をしていたとか、そんな理由関係なしに首を斬り飛ばされていたのは、はっきり言って『魔人』の名折れだぞッ! おっぱいごとき容赦せず蹴散らすようになれ! 所詮は『年齢詐称』魔法なのだからなッ!」

「オイオイ……」

「ふむ……」

「人のそういうデリケートな部分を一切容赦せずゲロすんの止めろ(戒め)」

 

 こちらは黒棒構えて眼前のディーヴァ(やっぱり水着のサイズが合っていないのか、こちらを見ながらも片手でお尻の位置を調整している)とせっちゃん相手に警戒しているというのに、状況を混沌に叩き込むの止めろ! 夏凜の「ふむ……」の台詞に妙に変な感覚を覚えるというか、絶対後でこちらの想定以上のガバがひょっこり生えてきそうな気配である。お前ニキティス覚えてろよ、やっぱり一回くらいはしっかり我が手で殴らねば(使命感)!

 

 なお、そんな話を直に聞いていたディーヴァはというと……、おいお前何だそのリアクション、水着の胸元を少しいじりながら、顔は正面を向いてるけれど視線をちょっとそらして頬をかくな。クールながら照れたようなリアクションをとるな。お前それでもフェイトより後発か、もっと感情に流されないロールプレイしろ、やくめでしょ(職責)。

 

「…………具体的にどういったところに性的な興奮を覚えたのだろうか? ん、例えばこう大人の姿なら、肩から水着をずらして――――」

「いやだから、そっとしておけッ!」

 

「そ、そうです、そっとしておいてあげてくださいッ」

「そうやでディーヴァはん、アカンって! そーゆーんは、『その気』がないのに思わせぶりなことしたらアカンもんやってぇ。ネギくん見とったらよーわかるやん?」

 

 ディーヴァが無表情で情緒が壊れたようなことを言ってくるが、一応はクールな体裁が崩れていないので『そういう』面からの興味での情報確認ではないのかもしれない……、しれないと言うことにしておこう(遠い目)。というかフラグらしいフラグはそれこそ忍以上に存在しないので、どっちかといえば実験動物の趣向を把握しておこう的な側面かもしれない。

 なお、せっちゃんは何故か私に帯同でもするよう必死な様子だが、このちゃんの言ってるのは何か少しまたズレがあるような……。というか一体何があったネギぼーず、構築したフラグを回収するイベントでも存在したというのかネギぼーず(震え声)。

 あと背中越しに向けられる夏凜の視線が、怖い。

 

「フン、フンフン! そういう下らん会話は他所でやれ!」

「いやそもそもアンタが話ふったせいだからなッ!?」

 

 というより、何故このニキティスが協力する流れになっているのだろうか。私に肩を並べるように腕を組む彼は、こちらを見てニヤリを可愛らしく笑った。

 

「……この僕が、お前たち半端者に協力する理由がわからないようだな? この僕の崇高な理由が。この僕のSNSで『いいね!』がいっぱい押されそうな理由が!」

「念押しするように言うの止めとけ、なんかいかにも聞いてほしくて仕方ないって感じに思える……」

 

 というか「いいね!」わかるのかこの真祖、割とアナログ好きの印象はあったが時代に取り残されない程度に流行とか技術とかも情報収集しているのだろうか。

 

「そ、そんな訳はないだろう! ま、まぁ、お前がどうしても聞きたいというのなら? 特別にこの『魔人』先輩としてのこの僕が、その参戦理由を教えてやろう。有難く思え!!!」

 

 ブンと右腕を振ると。そこには「鉄の塊」のような、錆びた、かろうじて剣のような形状を保っているナニカが現れた。それを肩に担ぐと、少しだけ得意げに威張り散らすようだった表情が消え、真面目なものになる。

 

 

 

「羽虫を消して雑に終わらせるのでなく、丁寧にその背を押しているようだったからな。小さな『恋』で大きな『世界』の物語など………………、間近で見るに退屈しないエンターテイメントはないだろうがッ!!!!!!!」

「途中までは、まともっぽくって良かったんだけどなぁ……」

 

 

 

 どう考えても暇を持て余した上位存在の遊びのような感想なのだが、ニキティスが言うとどうしても噛ませ臭が拭えないと思うのは私の心が汚れているからだろうか(白々)。

 

 

 

 

 



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ST95.死を祓え!:空を飛ぶ猫!

毎度ご好評あざますナ
 
科学の力ってすげー!(脱げビーム)


ST95.Memento Mori:The Power of Science Is Amazing!

 

 

 

 

 

「苦悩あるところに物語あり、物語あるところに意志があり、意志あるところに魂は宿る。業腹だが、あのエヴァンジェリンとその点は意見が合うからな。

 ……あとほら、そんなみすぼらしい折れた剣をいつまでも使っているな面倒女」

 

 言いながら、ニキティスは担いでいた剣を夏凜に投げる。折れた髭切を仕舞いながらちょっと受け取り辛そうにキャッチした夏凜だが、そのあまりの見た目のボロボロさに無反応、無表情。外見上はほとんど鉄を適当に打って作ったような棒のような剣と言えば良いか、日本だと古墳とかから発掘されそうな古いとかそういう次元じゃないやつである。それを見て、どういった顔をすればいいのか、というところだろうか。再度ニキティスを見る目は、やや訝し気なものだった。

 

「これは一体……?」

「名もない、ただの剣だ。見た目通り『超が付くほど骨董品』の、な? だがお前の使う神聖魔法を思えば、『神聖魔法』を剣に上乗せするならこっちの方が今は相性が良いだろう。なにせ紀元前から存在してる『だけ』の、只の剣だからなぁ」

「…………嫌がらせかと思いましたが、年代が正しいなら確かに否定はできませんか。では、感謝を」

 

 夏凜はどこからか取り出したロザリオを巻き付け、両手で構える。ハンマーの姿はどこへやら、腕を組んで「影から」無数の腕を出現させてニヤニヤ笑うニキティスと、私や三太とに並ぶ。なお背後では「頑張れってあんま言えんなぁ、個人的に色々……」と苦笑いするこのちゃんの声が飛んできてるが、それはともかく。

 ちらり、と私と三太を見たニキティスが、ニヤリと笑う。

 

「ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト――――冥府の氷山(ホ・ボーノゥ・アークラ・トゥ・ハイドゥ)

 

 そして、少女ディーヴァの詠唱が引き金となり、全員が動く。

 

 今度は最初から聖属性全開の夏凜が、斬りかかってくるせっちゃんのそれを「神聖魔法」の魔力をまとった光る剣で受け。地面から突如盛り上がるように現れる剣山のような氷の数々を「腕で」軽くひねって蹴散らし足場を確保するニキティスは――――。

 

「はい?」「えっ」

 

 そのまま「影の腕」で私と三太を捕まえると、後方へと放り投げた。

 文句を言うよりも先に、投げられた先の「巨大なパチンコ」のような黒い何か、おそらく影で作った発射台もどきだろうそれに私たち二人を取り付け、そのまま後方に引いて「威力を溜める」。オイオイと思っているとこのちゃんが「あわ~」と目を真ん丸にして(「ネギま!」的には黒い真ん丸おめめである)大丈夫かな~、という風に見てきているのがこうお可愛らしいのだが、それどころではない。

 

「ゲホッゲホッ……」

「オイちょっと待て、さっきのどう考えても俺も三太もディーヴァあたりに斬りかかる流れだったろ、一体どうした!?」

「?」

 

 心底不思議そうな表情を浮かべるニキティス。いや、そういうのいいから。

 

「さっきのアイコンタクトで『お前たちは先に行け』と言ったではないか」

「「わかるか!」」

「何故わからんッ!」

「いや、っていうかアンタ一体全体どういう距離感で俺達と接してるつもりなんだよ……」

「一度拳を交えたらこう、なんというか、こう、色々あるだろう? こう……、ともかくよくあるヤツが僕との間に出来るはずだろうッ!?」

 

 色々と前提条件が食い違いすぎていたので無理では?(断言)

 そのことを言おうとした瞬間、ものの見事に私と三太はぶっ飛ばされ。

 

 去り行く先で、眼下に見えたのは…………、またもや目を真ん丸にして「えっ!?」って感じに顔を少し赤くしてるせっちゃんと、あわ~といったままのこのちゃん、アイコンタクトに失敗してたことに憤慨してるニキティスと、半眼でぼけーっとした遠い目をして何故か私の視線から胸元を隠すディーヴァと――――。

 

 

 

 何故か満面の笑みの夏凜だった。

 いや意味不明すぎて怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!(白目)

 

 

 

『――――あっ、そうだ。「教えてやろう」と思っていて忘れたことがあるから、後でまたそっちに行くぞ? コノエ・トータ』

 

 いや念話を投げ出されながら送ってくるのはどうでも良いのだが、やっぱり彼がやると噛ませというか、一種の負けフラグなのでは?(震え声)

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「さて、いい加減飽きてきたところだし……。どうもあちらが本拠地みたいだから、向かおうか」

「えぇ! ダイゴくん、どこか行っちゃうのー?」

「…………別に逃げる訳じゃないのだから、そう変な目を向けるのを止めてもらいたいのだが」

 

 俺の言葉に、従兄妹の成瀬川ちづが「えぇー?」と嫌そうな目を向けて来た。確かに、彼女にとっては面倒な相手、なのだろう。学校の教室のみならず「人が居る場所」、特に「大勢いる場所」にわんさか湧いてくるような小型妖魔の群れ。俺だって狗神を使えるからさほど苦戦している訳ではないのだけれど、豪徳寺さんのように割と物理方面のみに寄っている人では対応は難しいし、それはちづとて同様だ。西洋魔術と「あちらの」祖母方の実家から柔術まがいの古武術を習っている彼女は、「他の子供たち」や「俺の両親」同様に狗神への適性が低い。

 少しそばかすが浮かぶ頬をぷくっと膨らませる姿は年齢以上に幼く見えるけれど、まぁ、これだって仕事だ。異変の発生源というより「世界樹」に何かあるというのは、近衛(ヽヽ)から聞いている。である以上、やはり肉眼でも見えるレベルで世界樹にまとわりついている妖魔の群れの具合からして、発生源、「震源地」はあそこなのだろう。

 

「犬上流獣奏術・狗音(くおん)ノ波(ゲットライド)――――」

 

 言いながら弓で「俺自身の」身体を撃ち出すような姿勢を作り、両足に狗神の「黒」を収束。ギリギリまで回転させてから、弦をはじくと同時に「俺自身を」打ち出す様に射出した。

 なんというか、ポーズとしては毎度毎度締まりがない。……一応アーティファクトの効果を発揮するには、どうしても必須な動きなのだけれども。

 

 この赤い大弓、余壱の重藤弓(ヨイチノシゲトウキュウ)は、名称からおそらく那須与一に由来をもつタイプの武具のレプリカか何かなのだろう。いわゆる「揺れる舟上の扇を射る」伝説に由来する能力を持っているのだけれど、それは命中精度が凄いとか、そういうものではない。

 その能力は「推進力の増強と安定」。使い手のコントロールなど関係なく「狙った獲物」に対して撃ち出した矢(対象)が、命中するまでその推進力、移動能力を落とさないよう魔法的に安定させるというものだ。本来弓矢に限らず、ライフルとかの遠距離狙撃でもそうだけれど。わずかな風の乱れや重力、空気抵抗、摩擦、様々な要因から、撃ち出された弾丸ないし矢の対象は、ある程度の加速をもって「落ちる」。それが、このアーティファクトを使用している際には発生しない…………、理屈の上では数千倍に引き伸ばされている。

 もちろん、あまりにノーコンすぎる場合はそもそも全然遠くに飛んでいくことも無いのだけれどね。

 

 ただ俺の場合は、弓術に関しては一切できない。というよりそもそもセンスがないと祖父に言われた。「なんでこんなケッタイなモン出て来てるんやろ……」とか「夏美みたいに地味でもめっちゃアレなやつの方が……」とか言って祖母にまくらで何度も叩かれていたっけ。

 

 まあ、だからこそ狗神を「矢」に見立てて撃ち出すというのを、アーティファクトを併用した場合には行っているのだけれど。

 

「…………やっぱり楽だね」

 

 現在、俺の両足に渦を巻いている狗神の維持に、ほとんど「気」を使用していない。

 これは別に俺が物凄い生命力を持っているから気を消費していないとか、西洋魔術的に魔力を取り込んだりしてやっているとか、そういった事情ではない。アーティファクトの力で、「撃ち出された」狗神自身の状態が安定しているためだ。

 つまり、何と言ったらいいか…………、俺の場合、このまま世界樹近くまではずっと「等速直線運動」のように、速度が減衰することもなく安定して着弾(ヽヽ)することが出来るってことかな。

 

 とはいえ、これにも弱点らしい弱点はあるのだけれど――――。

 

「ッ!」

 

 突如、下方向から現れた妖魔…………、いや、シルエットで言うと普通に悪魔の類だろう。精霊的な匂いを「感じる」けれど、その「巨大な手」が、俺の行く手を阻みながら掴もうと手を開いた。

 現在、アーティファクトの魔法推進力で「軌道を変えられない」。やむを得ず「去れ(アベアット)」とアーティファクトを召還(もど)し、「等速直線運動」まがいのそれを停止させた。

 

 とはいえ空中でいきなり止まれる訳もなく――――その推進力を利用して、俺は自分の両腕に狗神を集め「爪」とする。

 

「――――犬上流獣()術・狼牙突貫(ドリルガルー)

 

 ………………何というか、流派の技名がことごとく漢字と横文字(しかも言語適当)で構成されているというのは色々と祖父の正気を疑う所なのだけれどもね。

 構えた爪を中心に、更に狗神をドリルのように展開、回転させて巨大な腕を貫通、切り裂いた。

 

 その余波で速度が落ち、俺は停止する。

 

来たれ(アデアット)―――― さて。一体、お前は誰なんだい?」

 

 俺の目の前に現れた、ローブ姿の男。独特な模様というか、デザインの感じは火星方面のデザインの流行だったっけ。前に祖母に見せられた覚えがあるけれど。肌は浅黒く、髪は黒く……少しだけ目尻に皺のある、疲れたような男だった。

 

「…………その頭の犬耳は、犬上小太郎の血筋だな?」

「おっと?」

 

 言われてから気づいた、ニット帽がない。思わず頭を触ると、申し訳程度に飛び出た「狼の耳」が逆立っている。さっきの突貫の時に飛んで行ってしまったのだろうか……、まぁ今は別にクラスメイトとか一般生徒もいないだろうし、問題はないけれどもね。

 

「そうだと言ったら?」

「そうか。…………いや、君個人に恨みがあるという訳ではないのだがね。何とも妙な縁だと思ったまでよ。まさかスプリングフィールドの血筋よりも先に、そちらが私の前に駆けつけることになるとは思っていなかったからな」

 

 スプリングフィールド――――嗚呼、忌々しい名前ッ! 思わず脳裏に思い浮かんだ、祖父の「狼や、お前は最強の狼になるんや!」「あの一番にキラッと輝いた星がお前が目指す男の一等賞や―――――アッ! 流れてもうた!」「どうして諦めるんや! もっとやれば出来る出来るお前ならできるでマジで!」などと妄言まがいのことを言われながら、「黒」と「白」両方の狗神の操作のために痛めつけられた日々が思い浮かぶ。けれど、その話は一旦は「収めることにした」のだから、俺は頭を左右に振って気を改めた。

 

「生憎、そっちも来ているようだけれどね。この場に来ていないのなら、何かしら手間取っているのではないかな? 俺は知らないけれども」

「ほう、君は仲間ではないと」

「仲間ではないよ。勘違いしないでもらいたい――――彼個人はともかく、その血筋には色々と思う所があるのでね」

 

 それを私怨だと理解はしているけれども、だからといって納得できる話じゃない。

 

 そんな俺に、彼はくつくつと肩を震わせて笑った。

 

「そうかそうか、奴め。どうやら後継者の育成には失敗したと見える。祖父同様の残念さで好都合と言うべきか、それとも想定外の事態を疑った方が良いのか――――まあ何にしても、手遅れだ」

「何?」

 

 ぱちん、と指を弾いた男の背後。集まっていた妖魔たちが「吸い上げられる」ように、世界樹の上部に集まっていく――――。

 

 まるでそれは、一つの卵。うごめく魔力、いくら低級とはいえ「おぞましい数の」妖魔が、世界樹よりもはるかに大きいサイズの卵のように。あるいは「心臓のように」鼓動していた。

 

「どうやら君は事情を知らないらしい。だが、懇切丁寧に語る悪役などそれこそ八十年前のコミックや大衆娯楽にすら存在しないだろう。訳も判らず、消え去るが良い―――――」

 

 

 

 ――――目覚めよ、「ダイダラボッチ」。

 

 

 

 その男の一言と共に、解ける、あるいは「生まれる」何か――――。それは、神々しく輝くそれは、かろうじて女性の、俺のような同年代くらいの少女の様なシルエットをしていると判断できるけれども。そこに細かい造形らしいものはなく。ただ蠢いていた妖魔たちが、その全身にまとわりついていく――――。

 

「……もしや、蟲毒?」

「ほぅ、知識はあるのか。肯定も否定もしないがな」

 

 ニヤニヤと半眼で笑う男は、それ以上は特に何もしていないけれども。その少女のような姿にまとわりつく妖魔たちは、そこから感じる圧力は、徐々に、徐々に強くなっていって――――。

 段々と、その女性のようなシルエットも変容していく。生物的な特徴として、それは例えるなら「ゾンビの巨人」のような姿。細かいシルエットはまだ完全に形成されていないけれども、まるでその白い輪郭の巨大な少女を「骨格」、あるいは「エサ」とするように、まとわりついた大量の妖魔が、その形をグロテスクなものに変化させていく。

 

 変化と同時に質量を得たのか、脚を踏み下ろし学園の建物が崩れていく…………、どうしてか古い旧本校舎の方は全然崩れている気配がないのは、狙っての事なんだろうか。

 人が逃げ遅れているかどうかまでは流石に確認はできないけれども、状況的に宜しいとは言えない。どう考えても近衛たちが出て来たのは、これが原因だろうと思わせるくらいの「わかりやすい」事態だった。

 

「…………事情は分からないけれども、止める方法を聞き出す以外になさそうだね」

「無駄だとも。そんなものはない――――それこそ『八十年前』からなぁ」

「やけに拘るね、八十年って数字に」

「フッ。それを知らない時点で、君はやはり多くは聞かされていないのだろう――――おっと」

 

 無言で撃ち出した狗音(いぬがみ)を、彼は「素手でつかみ取った」。その腕のシルエットはどこか肥大化しており、指先の造形を含めて人間的なそれではない…………。

 

「やれやれ。どうにも『孫世代』ともなると、人の話を聞かないのか? 私も話すつもりはないが――――アレが『生まれた』時点で、この学園は、この国は、この世界はもう終わりだ」

 

 

 

「――――フォッフォッフォ。果たしてそう上手くいくかの?」

 

 

 

 俺も、目の前の男も、突如降ってわいた「若い男の声」に思わず周囲を見回す――――居た。時計塔のような建物の上で、こちらを見てニコニコ笑っている「少年」の姿。真っ白な切りそろえられた髪を、後頭部でチョンマゲのように結っている。恰好はどこか修験者のようでもあり、狩衣のようでもあり、独特な東洋魔術師らしい意匠の「幽霊」。……ついでに言えば、その顔立ちはなんとなくのレベルだけれど、近衛刀太に似ていた。

 

「ホウ、ここで出て来るか『近衛 近右衛門(このえ このえもん)』。今更『浮遊霊』にすぎない貴様に何が出来るというのだ」

「ホッホッホ。いや、ワシはこう、今日は見学に来てるだけじゃから。昔のエヴァみたいにの。

 後それに、色々言っておったが『こっちの』布石は既に打ち終わっておるからの」

「何?」

 

 ホッホッホ、とにこにこ笑いながらペットボトルの緑茶を飲み、まるで男を揶揄うように笑うコノエモンというらしい幽霊。その言葉に「馬鹿な、あり得ん」と鼻で笑う男だったけれども――――。

 

 

 

「――――来たれ(アデアット)空とび猫(アル・イスカンダリア)

 

 

 

 いつの間にか、俺たちの足元に現れた「緑髪の女性」が取り出した、猫のような玩具のような何か(アーティファクトだろうか)を構えて「叩き潰し」。

 天から光の柱。ダイダラボッチの全身にまとわりついていた禍々しい気配が、その光線一発で綺麗に消し飛んだ。

 

 言うなれば、こう、グロテスクな鎧のない白い少女のシルエット、全裸みたいな状態だった。脱げた? と表現するのが一番簡単かもしれない。

 

 

 

「「…………」」

「ホッホッホ」

 

「状況終了です、マスター(ヽヽヽヽ)

『そうか。良くやった茶々丸。フフフ、ぼーやが居たらさぞ感謝と共にネジ巻き(魔力供給)を沢山してくれることだろうなぁ』

「えっ!? あ、いえ、その、たとえ想定だけとはいえ、それは大分久々なので色々と危険と言いますか――――」

 

 

 

「お、お、おのれ白き翼(アラ・アルバ)7人の渦(ボルテックス・セブン)、いや、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルウウウウウウウッ!」

 

 

 

 強い怒りの念による絶叫だったけれども。いや、何と言うべきだろうか……、そもそも誰だろう、その妙に名前の長い人は。驚きすぎて、ちょっと聞き逃してしまった。

 

 

 

 

 

 

 



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ST96.死を祓え!:偽壮

毎度ご好評あざますナ
 
仲間が出来たよ、やったねチャン刀!(なお敵)


ST96.Memento Mori:Marine Code

 

 

 

 

 

「小夜子おおおおおおおおッ!」

 

 バーニングに分裂でもしそうな叫びを上げる三太はともかく(ダディ)、なんとなくこうして謎の投げ飛ばしに遭うのは久々だなとか思っている私であるが、状況はあまり宜しくない。というか、どうやら我々が投射されている際に事態は少し進んでしまったらしい。

 

 水無瀬小夜子である。明らかに全裸の、水無瀬小夜子である。

 巨大な、それこそ関東の妖怪とかを考えればダイダラボッチとかそういう類のものを連想するような巨大さで、それこそ世界樹すら足蹴にできるサイズ感の大きさの全裸な水無瀬小夜子だった。

 とはいってもあくまでシルエット、髪とか細かい箇所、当然局部を含めた細かい部分まで綿密に形成されている訳ではなく、なんとなく「全裸の女性」であるというのを理解できる姿かたちと言うだけだ。

 

 まぁ、相手が誰かを知っている私や三太にしてみれば大した違いはない。涙目ながら絶叫する三太の心理を思えば察するに余りあるが、まぁこの場合緊急事態なのだ。ある程度は時と場所と場合の問題で目を瞑って欲しい(状況的に目は瞑れないが)。

  

「っていうか、腕とか脚とかさっき『生体アーマー』みたいにくっついてたところ、ボロボロだな……」

「小夜子おおおお……、って、えっ? 何だって? トータ」

「ボロボロだって言ってんだよ。わかんねーか?」

 

 指をさす先、水無瀬小夜子の姿のうち、さきほど天から降り注いだ光の光線で消し飛ばされた「妖魔」の鎧のようなそれ。そのまとわりついていた箇所が、明らかに私の目から見ると「虫食い」だらけなのだ。それこそ辛うじて線が繋がっているような、そんな風体に見える。

 と、しかし三太は「何言ってるんだコイツ」みたいな目で私を見て来る。

 

「い、いや、別に普通っていうか……、こう、なんか討ち取られて飛ばされた変化途中の首でも探しに行きそうな感じのままっていうか」

「いや状況的にそぐうけど、良く知ってるなもの〇け姫(ソレ)…………」

「むしろお前、何見えてンだ? オレさっぱりわかんねぇっていうか、普通に小夜子っぽいのがこう、ずしーん! ずしーん! って地面揺さぶってるだけに見えるって言うか」

「何て言ったらいいか――――っとッ!」

 

 話していると、視線の先に見覚えのある緑髪――――秒を置かず激突するのを回避するため、三太の首根っこを掴んで「死天化壮(デスクラッド)」を緊急停止させた。が、若干間に合わず、レンガ屋根を私の足と勢いを殺すために突き刺した黒棒とが削る削る……。建物から落下する直前くらいで止まったが、頭上でこう、強い憤りの絶叫が聞こえた。

 

「貴様は! 否、貴様ら『白き翼(アラ・アルバ)』残党は揃いもそろって、よくもまぁ毎度毎度私が主導する計画ばかり潰してくれるなッ! せっかく目の上のタンコブ二人が逝ったと思ったのに、少しは我の苦労を知れ!」

『ハーッハッハッハッ! そんなものは知らぬよ。

 というより茶々丸一人だけでもとん挫させられる計画だったことの杜撰さを嘆け。

 あの世でさぞ、タカミチもゲーデルも腹を抱えて笑ってることだろう』

 

 ハッハッハ、と続く声は雪姫のものだが声音の軽さはどこかエヴァちゃんのそれだ。後ろを見れば、私に向けて首肯する茶々丸と、その横でホログラフィックに投影されている「何故かボロボロの恰好の」雪姫の姿があった。

 

「チャチャマルさんだっけ? 何コレ……」

「…………あー、たぶんさっきの光線って、アレだ。茶々丸さんの仕業とかだろうなー」

 

 そのパワードスーツチックな恰好、胸に輝く「超包子(ちゃおぱおず)」の三文字に、右手にはデフォルメした猫を模した照準兼トリガー。先ほどの光の柱を思えば、どう考えても彼女のアーティファクトであるところの「空とび猫(アル・イスカンダリア)」による砲撃だ。

 衛星兵器「空とび猫(アル・イスカンダリア)」は、何と言うか例によって例のごとく超鈴音の発明品である。超巨大なデフォルメされた猫と天使をモチーフとしたような人工衛星であり、そこから多種多様なビームを放出したりすることが出来るとか何とか。「UQ HOLDER!」現時系列においては雪姫管轄でホルダー管理となっており、原作においてはキリヱ編終盤にて、一空が対CPH(フェイト)用に使用していたりする。とはいえ今回はどういう訳か、茶々丸本人による一撃と相成っていた。

 

 私の推測に「正解です」と声をかけると、茶々丸が私に手を差し伸べた。それを借りて立ち上がり、連鎖的に三太も立ち上がらせる。

 

「先ほどの光線、私とネギ先生の魔法具(アーティファクト)『空とび猫』による砲撃に相違ありません。トウタ君に、佐々木三太君」

『お? 何だお前も来たのか、刀太。

 見てみろ、今回の黒幕を気取っていたデュナミスが想定外の事態を前に「何ィ!?」と白目を剥く様を。苦労背負いすぎていて笑えて来るぞ、ハハハハハハハハッ!』

「いや性格悪ぃぞカアちゃんそれ……」

 

 状況的にも原作的にも不倶戴天の関係性があるのはわからなくもないが、何と言うか先ほどのデュナミスの叫び声にこう、何とも言えないシンパシーめいたものを感じてしまったのだ。目の前でチャート崩壊を目撃するのは……、辛いよなぁ(白目)。なので敵対者ではあるが、この場では何というか、あまり強く出れない。思わず痛ましいものを見る目を向けると、デュナミスは私の姿を見て頭を抱えた。

 

「お、お、おぉ、をのれ、スプリングフィールドの血筋めがッ! タカミチもゲーデルも孫に囲まれて普通に臨終したから葬式に顔出ししてキッチリ死んだことを確認したものをッ! 足止めに『ヨルダ様』に無茶を言ってかなり奮発してもらったというのに、それすら回避してくるかァ! 大体貴様、お前だお前、近衛刀太! 何故そう我が最初から練りに練った計画を軽々しく蹴散らしてくるんだッ!」

「いや、まぁそこはこっちも世界の命運とか、そーいうのかってるんで……、って、いやタカミチさん? とか仲良しか何かッスかアンタ!? 言いぶりから敵だったんだろっ! 何で献花しに行っちゃってるんだよッ!」

「えっいや……だって、当然敵対はしていたが、付き合いは長かったしそのくらい行ってやるのが人間として通すべき筋だろうし、腐れ縁とはいえ今生の別れだから……、テルティウムも顔を合わせたが否とは言わなかったし……」

 

 なんだかんだ相手のことを知りすぎて好きになってしまっているような話ではないだろうが、一応辛酸を舐めさせられていた相手でも、そういう風なことするくらいには親しみがあったのだろうか。なんとなく素顔のまま出席して香典とか置いていく寂しい褐色イケメンの映像(幻覚)が脳裏によぎる。

 というかタカミチ、原作で婆ちゃん(真実)を振っといて思わせぶりなセリフ言ってたくせにちゃんと結婚したのか……? とするとラーメンたかみち、ひょっとしなくとも血縁者が経営者説が出て来る奴なのでは(震え声)。出るか、とんこつ魔法!(白目)

 謎のテンションになりつつある私はともかく、激昂するデュナミスを性格が悪いカアちゃんらしく、ホログラフィックとは言え指をさして大笑いしている雪姫だ。出来た息子はそんなカアちゃんの醜態を全力で見なかったことにしておいて…………「いやアレは傑作だったなぁ、ネギも『あの犬』も十分くらい呆然とした顔をさらすくらいには空気読めてなかったぞ、ハハハハハッ!」…………見なかったことにしておいて。

 

 と、気を取り直したデュナミスが背後の巨大小夜子を見るが、再び声が驚愕に満ちる。

 

「何……? どういうことだ、単なる攻撃であるならば、あの『祟神(タタリガミ)・ダイダラボッチ』はすぐさま再生するはず…………」

『お前は流石に「麻帆良」の生徒共を舐めすぎだよ。特にあのアホ共をな。この場合はゲーデルの嫁になる訳だが』

「妖魔が溢れた時点でAI葉加瀬からの試算により、世界樹周辺に渦巻いていた魔力より妖魔を『再構成』させ、何かしらの術式を構成するのは明らか。この場合、周囲の妖魔は主ではなく客、すなわち『装備品』扱いであると設定できると判定されました」

 

 つまり、脱げビームと言う奴です。

 

 茶々丸の台詞に「は……?」と目を真ん丸(ギャグ顔)にする三太と、やはり笑いが止まらない雪姫。後、こころなし真っ白になって絶句しているデュナミスの姿がそこにあった。

 私? いや、こう、今朝方の超が「おヨメ行けなくなるよなこと止めるネー!」と全裸になりながら絶叫して姿を消す様を思い出していたのだが。いやそれ、伏線という訳ではないのだろうが、ないのだろうが何なんだろうね(思考放棄)。というより今回の事件が原作基準で考えれば「三太編」であると同時に「キリヱ編」であることを思えば、「空とび猫」が出て来るところまでは一応原作に寄っているとも言えるので、少しは修正力さん的なサムシングがお仕事していると考えると救われるものがあるのだろうか?(混乱)

 

 とりあえず原理は不明だが……、いやあの見た目からして「鎧」だから武装判定でも受けたのか、未来科学兵器の産物による強制武装解除(あるいは脱衣)攻撃により、本来なら延々と怪物的なシルエットになり再生し続けるはずだったそれを、蹴散らしてしまったらしい。

 超ファインプレーじゃねぇか!(恐怖)

 

『嗚呼、ちなみに何故私がこうして通話してるかと言えば、コイツの魔法具(アーティファクト)は今、ウチの管轄なんだよ。だから使用許可をこっちで出してやらないと、いかに茶々丸とはいえ勝手に使えないからな。AI葉加瀬から通信があったときは正直だいぶ驚いたが』

「感謝いたします、マスター」

「どうでも良いけど、あの人なんか軽く死にかかってね? こう、精神的に――――」

 

 

 

「――犬上流獣奏術・狗音ノ風(くおんストーム)

 

 

 

 おっと? そんな話をしていると、どこからともなく無数の黒い狼めいた狗神が地面をかけ、空中を駆けて呆然としているデュナミスに襲い掛かる。が、大口を開けたり爪を振り下ろそうとした狗神たちは、デュナミスの周囲に「一瞬で」張られた多数の魔法障壁に阻まれ、身動きが取れない。

 

「ハァ…………、やはり、結局こうなるか。いつもいつも我が最前線に出ないで済む作戦を考えているというのに、ハァ…………」

『お前向いてないんだろうよ、いい加減止めてしまえフェイトのように。もう百年は優に越してるだろ』

「断る。………………後任が出来る相手もいないしな」

 

 最後にぼそっと言ったセリフが世知辛すぎるものだった。

 そっかー。考えてみれば原作を考えると、フェイトガールズだってネギぼーず側についただろうし、その後のことを思ってもデュナミス的に頼れる仲間って意外といないのか、そっかー …………(痛ましいものを見る目)。

 

 とはいえグチグチ言いながらも、障壁で抑えていた狗神を「さらに外側に作った障壁」とに挟んで圧殺して処理したりと、どうやら「造物主の掟(チートアイテム)」などなくとも十分その実力に衰えは見られないらしい。

 

「……隙をつけるかと思ったけれど、そう簡単に行く話ではなかったね」

「ひィッ!?」「おっ、釘宮じゃん」

 

 飛び退く三太と私との間に、すっと例の弓を構える釘宮大伍……っていうか頭のニット帽はどこへ行ったのだろうか。なおその頭上、茶系の髪にひょっこり二つとがった犬耳なのか狼の耳なのかといったものがあるあたり、見た目からして完璧に犬上小太郎の血筋を感じさせる。

 と、雪姫がそんな釘宮を見て「おぉ!」と驚いた声を上げた。

 

『お前その髪、村上夏美の孫か……、長女の方の子か? 確か釘宮の所に嫁入りしていた覚えがあるが』

「祖母をご存じで?」

『まぁ、多少はな。そういえば長らく会ってなかったか……』

「一応、存命ですよ。最近小じわが増えてきたのを祖父に揶揄われて、仲良くケンカしてます」

『そうかそうか』

 

 そして雪姫の目線が、完全に知り合いの孫を見るお祖母ちゃん世代の目だった。……いやお祖母ちゃん世代だった(断言)。そのままお年玉でもあげそうな勢いだ。出来の良い息子としては少々複雑な心境である(謎)。

 というより、嗚呼なるほど、そういうルートで生まれたのかこの釘宮大伍。「ネギま!」原作の裏技使用による「最も幸福な世界」においてもそうだったが、こちらでも別れることなくストレートにゴールインしていたらしい犬上小太郎夫妻。このせつに名前を呼ばれた時の様な、謎の感慨があった。

 

「いや、でもお前アレだ釘宮。あの状況で不意打ちとかはしてやんなよ、可哀想だろ……?」

「そうかい? 俺は祖父に『本当の強さとか、そーゆうんはまやかしや。自分が勝てると思えない相手にどうしても勝たなきゃならん時は、自分が汚れる覚悟の一つくらい持ってなアカンわ!』と言われたことがあるけれど」

「一字一句覚えてるんじゃねぇか、お祖父ちゃん大好きかよ…………」

「ノーコメント。とはいえ、あまり褒められた手法でないことだけは認めよう」

 

 どっちかと言えば低OSR(それっぽさを判っていない)系の振る舞いに繋がるための忠告であるが、そもそもこの世界でOPB(オサレポイントバトル)自体成立しているのかどうかは不明なので、これは杞憂でいいのだろうか…………。(???「段々と自分の低OSRとやらを棚に上げるのが堂に入ってきたんじゃないかい?」)

 

「何と言うべきか…………、これがジェネレーションギャップというものか」

『流石に世紀を跨いでいるからなぁ』

「黙れ推定700歳の吸血鬼めがッ! 来い、(セクストゥム)!」

 

 デュナミスが腕をかざすと、その掌から光が迸り、現れたのはディーヴァ・アーウェルンクスを名乗っていた例のアレである。服装は新調したのか先ほどとは違いスクール水着……、何故か胸元に「でぃーヴぁ」と雑なひらがなとカタカナで書かれているのは何なんですかね(白目)。というか大人バージョンで白衣を纏った上でその水着は一体何のギャグなのかと問いたい。

 デュナミスですらそれは私と似たような心境らしく「何だその水着は」と困惑したように聞いていた。

 

「嗚呼、さっきまで子供状態だったから。それならこーゆーのがカワイイんだって、個体名『このちゃん』が言って、個体名『せっちゃん』が貸してくれたんだよ。わざわざ名前が書かれてるあたり、ホント、変わったシュミだよね」

「お前、それこそ八十年くらい前はもっと無機質な性格だったろうに。口調も丁寧語、熱血でも狂信的でもない。ヨルダ様もそのニュートラルさを見越して、一番面倒がないからと復活させたのだが」

「貴方は『アレ』の中でずっと拘束され続ける恐怖というのを味わってないから、そんなことを言えるんです、デュナミス。

 でも丁度良いタイミングだったよ、色々彼女(ヽヽ)からおもしろい話を聞けた直後だったし…………、ふむ」

 

 言いながら私の姿を一瞥して、何故か「うーん」と悩むディーヴァ。そんなタイミングで当然のように弓を構えて狗神の矢を放つ釘宮は、何と言うかこう戦闘の鬼か?(震え声) いや、考えてみれば小太郎君ベースでさらに血が薄まっているかもしれないことを思うと、ひょっとしたら私が想定している以上に「強くない」からこそ、この場において常に生命の危機でも感じている可能性があるのだが。

 

 と、何を思ったのか彼女は目の前で「水流の塊」を術式固定。それで狗神を振り払うと、何を考えたのか自分の胸元に持っていき――――。

 

 飛び散る猛烈な水しぶきと、蒸気の様なそれ。思わず顔をそむける私たちだったが、ロボットな茶々丸とホログラフィックな雪姫は「まさか……」「ほう?」とかOSR稼いでそうな(それっぽい)ことを言いだしている。

 

 果たして煙が晴れた先には――――。

 

 

 

「――――さしずめ、海天偽壮(マリンコード)ってところかしら」

 

 

 

 白衣やら水着やらが「透けて」見える、水のそれを布状、コート状に翻した……、もっと言ってしまえば、私の「死天化壮(デスクラッド)」そっくりのシルエットに身を包んだ、ディーヴァの姿がそこにあった。

 そして、彼女は私に向けて無表情で。

 

「男の子ってこういうのが好き、なんだよね。個体名『刀太君』」

「いや、まぁ、嫌いじゃないッスけど………」

 

 一体どこ情報だそれ……、というかまた要らん情報を変にラーニングしていやがる。(白目)

 

 

 

 

 

 



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ST97.死を祓え!:即席の遺産

毎度ご好評あざますナ・・・


ST97.Memento Mori:Instant Arts

 

 

 

 

 

「一体俺はどんな顔をすれば良いんだろう、近衛」

「エロい……(純情)」

『スクール水着チラとはまたマニアックかつ下等生物な…………、アルの奴が好きそうな。お前も大概だなぁ刀太』

「いや、別にそういう意味での好きって訳じゃないんスけど」

『恥ずかしがることはないぞ? なにせあのフェイトですら…………、いやアレは野乃香が勝手にやったことか』

「マスター、その話聞いたことがないのですが……」

 

 一体何をやらかしはったんスかねぇお母様(真実)。

 カアちゃんこと雪姫の追及はともかく実際問題、単にこちらの技をコピーしてきたようなことをしたディーヴァのそれ(デザインとかネーミングとか)が割と嫌いじゃないと言うだけで、別に半透明のコート状のそれから生足とかがチラリしてるのにときめいている訳ではない(断言)。大体そんなこと言ったら既に夏凜の制服姿のナイスバディだったりミニスカートだったりでノックアウトされている確信がある…………、出会った当初のスカート下はスパッツだったはずなのだが、気が付いたらいつの間にか下着になっていらっしゃるし。戦術的な優位性は非スパッツであることに何らないと思うのだが、一体どうした?(???「アピールとかじゃないかねぇ、誰かさんへの」)

 

「ふんっ、ふんっ……、しっくりこない」

「…………何をやっているのだお前は」

 

 なおデュナミスに突っ込まれるディーヴァ。「海天偽壮(マリンコード)」とやらを発動した彼女だったが(何故か漢字も伝わってきたが念話?)、その後しばらく「ふんっ」「ふんっ」と色々なポーズをとっている。何だろう、決めポーズでも探しているのだろうか……、最終的にはセ〇ラ〇ジュピタ〇的なポーズで納得がいったのか、二度首肯してから再度ポーズを取り直していた。

 

「いや、即席で色々インストールして作った技だから、魔法的なイメージを安定させるために詠唱とかポーズとか作っておこうかと思って。忘れたら勿体ないもの」

「それは判らんではないが、昔はこんなんじゃなかったのだがなぁ……、ハァ…………」

「恨むなら『あそこ』から助けられなかったご自分と『あの方』でも恨むといいよ。まあそういう意味では、解放対象として(セクンドゥム)とかではなく私を選んだのは正解だと思うけれども」

 

 捕縛されてたくせにずっと念話がウザかったし、と無表情ながら舌打ちして毒を吐くディーヴァであるが、いや、まぁウン…………。セクンドゥムはフェイト以前に作成されたアーウェルンクスシリーズの2番機、おそらくは雷のアーウェルンクスに相当するだろう相手だ。その性格は一言で言えば熱血な狂信者、マスターの言うこと絶対主義の行き過ぎた忠義者といったところ。あのフェイトをして「興味深い」と言われるくらいのハイテンションで、その製造時ステータスは製作者曰くすべてカンストさせて生み出したらしい。…………らしいのだが、その結果性格その他もろもろが振り切れて「あんなの」扱いされていたりするお茶目さんだ(歪曲表現)。そっかー、未だにそれこそ「封印されている」状態でも相変わらずなのか…………。

 思わずディーヴァに同情する目を向けると、無表情のまま彼女はやはり機械的に自分の胸元を隠した。行動にこう、感情が追い付いていないような、条件反射のみしかないような動きである。

 

「えーっと……、きゃー、とうたさんのえっちー(棒読)」

「先ほどから一体何をやっていらっしゃるんですかね(マジレス)」

「何、と言われても…………、個体名『時坂九郎丸』から聞いた話を元に、色々とね」

 

 その色々が聞きたいというか何というか……、って、九郎丸と遭遇していると? ひょっとすると我々が撃ちだされた直後にでも合流したのだろうか。それにしてはこの短時間で学習してる内容が多岐にわたっている気がするが、まぁ出自を考えれば不可能ではないのだろう。彼女およびフェイトを含めたアーウェルンクスシリーズは頭脳が「まほネット」(※魔法使いたちの電子ネットワーク)に繋がっているらしく、必要に応じて直結しているそこから電子精霊を伝って情報をダウンロード、インストールすることが出来るらしい。アーウェルンクスシリーズが最強格の魔法使いとして設計された所以の一つではあるが、明らかにヘンな使い方をしているようだ。

 まぁあのフェイトも、カラオケでネギや小太郎を一蹴するためにわざわざ某津軽海峡な演歌を入れて百点とったりしていたが…………。

 

 と、巨大な水無瀬小夜子のシルエットが唐突に頭をおさえ、絶叫する――――。声が、響く。声というよりはもっと周波数の高い衝撃波のようなものだろうか、さながら怪獣映画でのシーンか何かのごとく、窓ガラスがその振動だけで砕け散る。人はほぼ居なくなったとはいえ街中にあふれている妖魔(巨大小夜子降臨の時「でさえ」回収しきれない量の小型妖魔が生まれている)たちも「なーご!」「たいくー!」「ばふぁッ!」「めりめりッ!」「ぎつ!」「ぱんじゃんっ!」とか様々な悲鳴を上げて蹴散らされていた。そこだけ切り取れば中々にシュールな光景だが、しかしその姿を見た瞬間に頭上に感じる「過去最大級の」「嫌な感覚」――――。

 唸り声(衝撃波)を上げ(放ち)、うずくまる(地響きを響かせる)巨大小夜子は、その全身が、脈動していた。

 

「どういう状況かしら、デュナミス」

「…………本来ならば、不死者や妖魔用の『ゾンビ化』操作ウィルスで操作した連中を纏わせ、その内で『神格化』させたものを、外部から制御しようとしていたのだが、中途半端に終わっている」

「つまり、暴走状態?」

「嗚呼。準備期間に反して成果としては業腹だが………‥、この都市くらいは『勝手に消え去る』だろう」

「なるほど。それは、勿体ないね――――」

 

「血風、創天!」

 

 なら私がここで足止めかしら? と。私たちにディーヴァが手をかざした瞬間。「死天化壮」と「内血装」をフルに回して、接近しながら「血風創天」を放つ。遠距離攻撃ではなく直接斬撃を伴いながら、デュナミス目掛けて前進――――。

 このデュナミス本人の発言をもって確信を得た。間違いなくこの男は「水無瀬小夜子の研究成果」であるウィルス、およびその研究内容を持っている。それが原作将来における将来の「大規模殺人ウィルス」に繋がると言うのなら、ガバだ何だと恐れる必要は「ない」。脳裏によぎる肉丸たち熊本の同級生……、この二年で雪姫を除けば、私をしっかりと「この世界」に根付かせてくれたのは、間違いなく彼等だろう。だからこそ、こんな適当な理由でその最期を、納得いかない形で終わらせるつもりは「ない」。

 

 突然の動きとはいえ魔法障壁を多重展開したデュナミスだったが、それは血風に含まれている武装解除の術により「斬り飛ばされる」。流石にその目が驚愕とばかりに見開かれるが、現状の私の移動速度をここから捉えて動くことが出来るはずは――――――。

 

「――――すごい、想定より厄介だね。その死天化壮(ネクロスメタボルァ)は」

「ッ!?」

 

 腕の動きが中途半端な姿勢で停止させられる――――両腕や全身に「半透明の」蔦のようなものが巻き付き、こちらの動きを雁字搦めに封じ込めている。ギリギリまで起動していた血風も黒棒に巻き付いた蔦によって「散らされ」ていた。当然のように死天化壮も同様でそして風の下に液体となったそれが侵入してくる。

 さらにこう、ぬるり、とその蔦のようなものの内からディーヴァの頭「だけ」が生えて来る……いやビジュアルにすると凄い気持ち悪いことになっているのだが。間違いなく「海天偽壮」とやらの能力か何かか?

 

 拘束され身動きのとれない私だったが、隣のディーヴァの頭が「はじけ飛ぶ」。まるで池に石でも投げ入れたような具合であり、はじけ飛んだ彼女の頭もまた水の塊のような半透明なそれとなっているのだが。それを為した釘宮の狙撃および矢へと変じていた狗神は、本来の姿を取り戻して私の身体にまとわりついている半透明なそれを剥がそうとする。

 

「……無駄だよ。私の『海天偽壮(マリンコード)』は、即席だけどそう簡単に対処できるようには作っていないから。

 それよりデュナミス。貴方はあちらの制御に行くか、もうこの場から逃げた方が良いと思うよ。彼、けっこう本気で殺すつもりで来ていたし」

「そうか、わかった。…………我は別に、近衛刀太には直接恨みを買う様なことはしていなかったはずだがなぁ…………」

「いや三太にはしてるだろアンタ……って、逃げるなコラ!」

 

 飛び散った半透明な頭が再び再生しながら叫ぶ。それを聞き、デュナミスが腕を組んだ姿勢で飛行、離脱を試みるが『逃がすな、追え! 茶々丸!』と雪姫からの指令を受けて、脚からジェットを噴かしながら茶々丸が追跡を始めた。流石にアレ相手に衛星兵器はオーバーキルと見たか、威力よりも的が動いていることが問題か、あるいはエネルギーの問題で今日はもう撃てないのか、定かではないが何処からともなく近代兵器を取り出して応戦する茶々丸の姿がそこにあった。

 とりあえずしばらくはあそこで足止めされるだろうが、それはそうとしてこちらも早い所「抜け出さないと」どうしようもない。しかし先ほどから狗神が何度引っ掻こうと、あるいは噛み千切ろうとしても、ディーヴァが変じただろう半透明の植物のような、あるいは「スライムのような」コレに直接的なダメージを与えることが出来ていない。

 

「どうなっているんだ……、近衛、何かわかるか?」

「…………あー、スライムとかゲル化とか、そういうタイプなら物理攻撃無効化とかなんじゃねぇかな。流石に『術式兵装』の類とかを使ってる訳ではないだろうけど……って、いや、三太、お前も早い所あの水無瀬小夜子ん所に行けッ! なんかよくわかんねーけど、なんか拙いッ!」

「いや行ける訳ねーだろッ!?」

 

 状況的に、流石にそろそろ一空がキリヱあたりを連れて来て打開策的な何かを打ってくれると期待したいが、しかし三太は飛んで行かない。

 

「確かに何か、絶対ヤバそうだし、小夜子の裸とか公衆の面前にさらしたいわけじゃねーけどッ! それでもお前ここで置いて行っちまうのって、何か違ぇだろ!」

 

 幽波(スタンド・オン)、と身動きできない私の身体全体を、知覚できない壁のようなものがロックする。と、三太はそれに右ストレートで殴りつけるモーションをし――――私の身体を「すり抜けるように」、無数の衝撃波だけが「表面の」ディーヴァを攻撃した。

 もっとも、それとて特にダメージを喰らった様子もなく、少しだけ小さく口を開いて欠伸をかますディーヴァの頭(ちょっと可愛い)。

 

「とりあえず今の所、拘束できるのは一人が限界か。要改良だ……、そういえば君はあちらに向かおうとしないね、『犬上小太郎の孫』」

「情けない話だけれど、俺だって自分が何をどこまで出来るかは十分把握しているものでね。出来ること以上のことをやろうとして、足手まといになるつもりはいよ。

 とはいえここでも、何か貢献できている訳ではないけれども――――」

 

 

 

『――――困っているようだなぁ、コノエ・トータ!』

 

 

 

 と。そんな声がどこから聞こえたのかと思えば、私およびディーヴァの影から「手のひらサイズの」ニキティス・ラプスの姿が……、何だお前、ちび刹那とかちび九郎とかちびエヴァちゃんにあやかってお前までマスコット化狙ってるのか?(適当) なお恰好は本日のヴァンパイアスタイルではなく普段通りの白コートである。おそらくは分身体か何かなのだろうニキティスだが、本人が出てこないあたりどうやらせっちゃん相手に大分苦戦しているらしい。

 と、その小さなニキティスに目を点にする三太と「何だこれ……」と眼鏡を光らせて困惑している釘宮(ひょっとしてギャグ描写時の顔か何かで?)、相変わらず無表情に私の隣でじっと見ているディーヴァの顔。そんな三者、特にディーヴァの姿というか「私にまとわりつく」スライムのようなそれを見て、ニキティスは「うげぇ」と物凄く嫌そうな顔をした。

 

『いや、原理はわかるが状態としてどうなんだ? それは、人形女…………、「全裸で」組み付いているようなものだろう。しかも服の下に入ってるってことはそれは…………』

「は? えっ、いや何、つまり……、どういうことだってばよ?(震え声)」

「まぁ『興味があったから』ね。流石に勃たせたりはしないけれど、個体名『時坂九郎丸』がその肉体にご執心だったみたいだから、どんなものか『直に』観察してみようかな、と。……いや、中々悪くない肉付きだよね。君も水着になってもっと肌を晒せばよいのに、個体名『刀太君』。もう少し『圧殺』しないで触っていても――――」

「「痴女かッ!」」

 

 私、釘宮共々のツッコミである。いや、その発言一通りを完全な無表情で行っているあたり本当のところはどういった感情やら興味の推移からの行動なのかは定かではないが、ニキティスの台詞を思えば現状がどういう状態なのかおおむね察しが付く。つまりは「全裸で」「私の生の身体に」「抱き着くよう」組み付いているような状態なのだ。スライム化によってそんな少年誌的サービス感は皆無ではあるが、術式の解析でもしたのだろうニキティスから見れば、私の服やら下着の中に入り込み、肌と肌を重ねるようにしているディーヴァの姿でも見えているのだろう。一体何が起きているというか、私が一体何をしたというのか…………。

 脳裏によぎる、満面の笑みの夏凜―――――。

 

 なお只一人「え? え?」とこのちゃんのギャグ顔みたいな顔してよくわかっていないらしい三太だった。お前はそのままで居てね♡ そのままで居ろ(豹変)。

 

 そんな状況の私たちに、ちびティス(私命名)が「情けない」みたいな深いため息をつく。  

『全く。いくら血装術の出来が悪いとはいえ、お前の血筋ならいくらでも抜け出しようがあるだろう、そんな状態からでも』

「いや、別にその……、何だっけ? 前に言ってた『魔人』っていうのもイマイチよくわかっていねーし」

『馬鹿か、コノエ・トータ。貴様の血筋はまず大魔法使いたるネギ・スプリングフィールドがあるだろうが。たとえエヴァンジェリンから詳細を聞いていなくとも、何かしら既に「察している」ものがあるのではないか?』

「察しているもの?」

「……僕のことは存在すら無視してるね、彼」

 

 釘宮の「やれやれ」みたいな視線はともかく。ちびティスは「どこからともなく」私の携帯端末を取り出し、その画面に「手を突っ込んだ」……ってオイオイ物理現象無視すんな! その手の先どこに行った、画面の中に沈んでるそれ! 三太とかじゃあるまいしッ!

 

「ええっ!? えっと、霊体化……?」

「良いか、ササキ・サンタ――――これが真祖だ! 真祖に不可能はない! ここだッ!」

 

『―――――ふみゅー! らいらい、ぴちゅぴかー!』

 

「いやだから鳴き声……」

 

 そんなフラグじみたことを言いながら、画面の中から手を引き抜いたニキティスだったが。その手に握られていたものは、例のネズミめいた雷獣だった。全力で抵抗してるのかじたばたしつつ放電しているが(三太が驚いて飛び退いた)、手のひらサイズとはいえ特にそれにダメージを受けた様子もないちびティス。

 彼はそれを私の目の前までフワフワ浮かんで寄ってきて……、いや不覚にもちょっと小動物チックで可愛い気もするが、何だか胸元に嫌な予感がする。とはいえ身動きも取れず、しかしわざわざディーヴァに言う話でもないので、私は冷汗を流しながら彼を見ていた。

 

「何をするつもりだろうか、『観測の真祖』」

「フン! 多少は後輩を手助けしてやろうかと思ってな。気まぐれだ、気まぐれ。それに――――今の状態で強制解除でもさせたら、さぞ面白い絵面が見られるだろう?」

「?」

「え? いや、ちょっと待てアンタ――――」

 

「喰らえ半端者――――強制術式装填ンンンンンンンンンンンンンンンンンンッ!」

 

 いや絶叫の力入れる所おかしいだろ私に聞こえるCV的に間違ってはいないのだが(リ〇ボ)。

 かくして「血装」により球状の何かに覆われた雷獣は、そのまま振り下ろしたちびティスの勢いに任せ、私の胸部――――スライム状のそれすら「透過して」、私の体内に入り込み――――。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

『――――いや、まだ準備出来てねぇんだよなぁ術式兵装系って』

 

 かくして、疲れた顔をして胡坐をかいた星月との、久々の対面となった。

 

 

 

 

 




※次回あたりたぶん解説入りますが、ざっくり言うとバ〇オラ〇ダーです(雑)


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ST98.死を祓え!:足し算

毎度ご好評あざますですナ・・・深夜に追いつかれてしまった汗


ST98.Memento Mori:Add On!

 

 

 

 

 

「しかしここは相変わらずだなぁ……」

 

 もはや何度目かの星月の居城、つまりは私の精神世界的なサムシングではあるが。相変わらずのスクラップ置き場のような有様で、遠方に軌道エレベータ的なものが聳え立っている。天気は晴れている訳ではないが雨が降っている訳でもなく、何と言うか本当、風景にあまり変わりがない。そんな私の目の前、ゴミの山を押しのけるように適当に露出した地面に、胡坐をかいて座っている星月がいた。と、片足立ちになるとその白と黒のローブが少しずれ、下の服装が見える。…………どこか骨のようなアーマーが装着されてるのは〇現術(オサレ)〇護(チャンイチ)リスペクトか何かで?(白目)

 

『まぁ、そんだけ相棒の心情とかが全然変わってねぇってコトだな。この間声かけた時だって、ここには雨一つ降ってきてねーし。まっ、相棒は甘チャン(チョコラテ)じゃなくてギャグ顔(スプラスティック)だからな。その分こっちも、あんまりダメージとかはねぇって寸法だ』

「…………あれ? 今少し貶されたか、私」

『安心しろー、只の事実だ』

「いや真実って言葉は時に命を刈り取る形をしてるから(震え声)」

『だからそういう所なんだよなぁ…………』

 

 誰がギャグキャラだ失礼な……、ちょっと人生のチャートにガバが多くてお祈り回数が多いだけじゃないか(真顔)。

 

 

 

『――――いやー、これはどこなんだぁー? 兄貴ィ(ビッグブラザァ)? あ、俺チャン何か美味いものを所望するッ!』

 

 

 

「はい?」

『ふぁッ!?』

 

 そして、聞こえて来たネギぼーずのお父さん(アンチョコ見ないと魔法使えなかった人)のような声。とっさに思わず振り返る私と星月だが、そこにはどう見ても稲妻を連想させる形状をした尾の長い、ネズミを中途半端にデフォルメしたような雷獣(あんちくしょう)が居た。周囲を見渡しながら何か食わせろと言ってきているが、生憎私のメンタル構成要素にそういったものはないので、そこらへんに転がっていた壊れたゲーム機のようなものを拾って投げた。

 

『あべしッ!』

『……あぁ~、なるほどな? 雷子(フーフル)じゃねえか。まー確かに雷子なら「組み込まれてる」術式は「白神雷光の投擲(ブリューナク)」だろうし、適性次第じゃ「疾風迅雷」くらいはイケるって判断したんだろうが…………、絶対後先考えねぇで放り込みやがったな? ニキティスの奴。絶対失敗したらそれまでの男だったということだとかしたり顔で言ってる奴だわ。「初期案」的にもな?』

 

 いやちょっと待てそれ以前にフーフルとかブリューナクとか組み込まれているとか色々と聞き捨てならない話が多いのだが…………。というか、何かこう原作に存在しないか、あるいは描写されていないような話が転がっていやしないだろうか。毎度言っているが、妖魔とか存在してはいたはずだがそんなにフィーチャーされてはいなかったはずだし。

 私の視線を受けて、何かを納得していた星月は「まぁ一応教えてやっか」と肩をすくめた。

 

『釘宮大伍も言ってたろ? 確か、妖魔が魔法の化身である~みたいなハナシ』

「してたかどうかで言えば確かにしてはいたけれども……」

『妖魔っつっても区分がざっくり二種類くらいあってな。一つは実体、生物としての妖怪や魔物的な存在。でもう一つは、人間の信仰心とかそういう「ソトの魔力」を何かしらの対象が受け皿として成立した、言っちまえば創作妖怪とかそういう類だ。

 で、このうち後者っていうのは、その成立背景が「事実上」魔法の詠唱とか儀式とかに相当して生まれてんだよ。つまりは、妖怪と魔物で妖魔じゃなくて、妖術と魔法で妖魔、みたいな感じだな』

「そんな日本語限定で伝わるようなことを言われても全然さっぱり解らないのだが……?」

『今、相棒が相対してる水無瀬小夜子でいえば、本来の本体たる水無瀬小夜子が「祟神(タタリガミ)」として神様になろうとしてるのは前者、「大太法師(ダイダラボッチ)」として召喚されかかってるのは後者、みてーなモンだな。

 …………んー、えっと、魔法世界(ムンドゥ・マギクス)の猫娘とかは後者で、刹那さんとかの方は前者って言ったら解るか?』

「ああ、なるほど。それならまだ…………」

 

 つまりは、生物として肉で構成された存在か、魔力で構成された存在かの違いと言ったところだろうか。より厳密には「元の存在が」という所になるのかもしれないが……いやニュアンスはわかるが説明がちょっと難しいかもしれない。

 

「ん? で、何で水無瀬小夜子がそんなことに……」

『おおかた、流石に神様クラスになっちまうと制御が利かないってハナシなんだろ? 「原作」じゃあ勝手に暴走したから介添えをちょっとしてやるだけで上手いこと回るって判断してたんだろうし。計画破棄もキリヱによるリスタートでやってるから、相手方からは「いきなり」心変わりしたように見えた感じなんだろーなー。

 ところがこっちじゃ、相棒が三太相手に事情把握した上で割と仲良くしちまったモンだから、事前に心の迷いみたいなモンが相手に透けて見えて、ウィルスも勝手に計画に使う分は破棄しちまったみてーだから、だったら最後の最後に一花咲かせろってことだろ』

「一花……、イチリンノハナ(完全詠唱)…………」

『頭良さそうなビッグブラザァ、あっちの頭悪そうなビッグブラザァは何言ってるんだ?』

『世迷言だよ。……いや俺だから分かるけど外で言うんじゃねーぜ? 間違いなく困惑必至だろ、雪姫なんて何回「はっ?」って顔したことか』

 

 いや、流石にそんなには、B〇EACH(オサレ)系のネタはナル〇ス(おもちゃちゃちゃ)してないと思うのだが私……。

 

「で、それはそうと何故この雷獣はこの場に居るのか…………、というか馬鹿っぽいとは何だ馬鹿っぽいとはッ」

『アッ! ちょっ、しっぽ持って振り回すの止めてくれぇー! シニタクナイ! シニタクナイ!』

『安心しろー、それくらいじゃ死なねーから。

 で、相棒の質問に答えると。おおかた「ネギ・スプリングフィールド」の戦い方を学習していたニキティスが、お前の出自から逆算して無理やり「闇の魔法」で術式兵装させようとしたんだろ。単純な話、掌握さえすればどんな形式でも問題はねぇからな』

 

 っていうか外部から適当に血装術使って「溶かしこんで」きただけのくせにちゃんと成立してるあたりは流石って言うべきか。

 

 呆れたような、少し恐れたような星月の台詞はともかく。とりあえず以前、夏凜の神聖魔法を取り込んで解析したような状態の直前まで、ニキティスの「手動で」無理やり持ってこられたというのが現在らしい。

 とりあえず雷獣の尻尾を放すと「やれやれ酷ぇ目に遭ったぜまったく呆れたモンだ……」とか言ったのでもう一度尻尾を握ろうとしたが「ヒィ! み、認める、アンタがビッグブラザァだ!」とか訳の分からないことを言い出してきて気持ちげんなりである。というかいまいちコイツの性格が掴めないのだが……。明らかに声まで変わっているし。まぁ性格についてはこれくらい剽軽ぽくても納得がいくのだが(ぴか様乱用的な意味で)。

 

『いやぁ、しかし驚いたぜ……。ビッグブラザァ、二重人格ゥ?』

「って訳でもねぇ、かな? 一応、星月は『俺の能力の化身』を自称してるけど、あくまで外に出るような奴じゃねぇし」

『別に相棒の身体を乗っ取れたりする訳でもねぇからなー』

 

 でそういうお前は何なのだと、私と星月の視線を受けて「待ってました!」とばかりにその場でひゅんひゅんと縦横無尽に行ったり来たりする雷獣。何か決めポーズなのか、そのままずびしッ! と尻尾をちょっとOSRな風に回転させて止まる。

 

『俺チャンは、しがない旅の電脳悪魔、さすらいの雷獣! 時に世界の危機に裏側から対峙してきた、人呼んでェ…………、人呼んで…………、アレ?』

『あ、ちなみに水無瀬小夜子と結果的に従魔契約を結ぶ感じになってるから、その時に名乗れなかった以上は名前無くなってるぞー』

『なん…………、だと…………?』

 

 空中で、雷獣が真っ白になりふよんふよんと風に吹かれたよう流される(なお風は吹いてない)。何やら本人的には仰々しい感じの名前があったようだが、それもこうなってしまえば仕方ない(低オサレ)OSR(オサレ)は全てを解決するとは言え、限界値と言うものがそこには存在しているのだ。

 

『どうする? 相棒。今の水無瀬小夜子は契約履行不可状態だし、このまま「術式兵装」相当の技を作るってーなると、どうしても従魔契約みたいな感じになっちまうぜ? 魔力とかお金とか払って使い魔にするやつ』

「あー、まぁ………………、たぶん今後のことを考えると水無瀬小夜子、無理だろ?」

『それは相棒が一番わかってんじゃねーの? まぁ俺も同意見っちゃあ同意見だけど』

 

 ならばまぁ、仕方ない。確かコイツ自体それなりに高額の妖魔とかだったはずだ、外にそのまま放流でもすればそれこそ金儲け目当ての相手に狙われる日々を送ることだろう。それはそれでコイツがどう思っているのかは定かではないが、とりあえずどこかに飛んで行ってしまいそうなのを、尻尾を捕まえて聞くことにする。

 

『へ? 妖魔ハンターとか賞金稼ぎ? まぁ俺チャンって契約者の端末だったら電子機器に侵入したりはできるけど、単体だとせいぜい電線通っていったり来たりくらいだからなぁ……。それだってここ半世紀くらいはめっちゃ捕まるようになったけど』

「駄目じゃねぇか……。一応聞くけど、俺と主従契約って話になっても問題ないのか? なんかこのまま行くと、どうしてもそういう流れになっちまいそうだけど…………」

『それはまぁ、ビッグブラザァの魔力はなんかこう、妙にコクがあって嫌いじゃないけど…………、でも俺チャン、せっかく契約するなら女の子の方が―――――』

 

『――――なら、これで良いかな?』

 

 と。そう言ってフードを下ろした星月の姿は…………、ってオイオイオイオイちょっと待てちょっと待て貴様何だその姿完璧に大河内アキラじゃねーか! 髪後ろでまとめてるけど顔立ちおよびスタイルとか全部わかるぞアキラちゃん出てるグッズだけは大体集めたし映像ディスクも何度山本そこ代われと思ったか(偏り)、公式供給の少なさに「ラブひな」の素子(そっくりさん)に手を出しかけたりも…………いや、我ながらちょっとキモい話ではあるが、それは置いておいて。眼前にいる星月は、その表情の具合や声まで含めて完全に大河内アキラのそれになっていた。というかローブ越しでもわかるスタイルの良さとグラマラスさよ。

 お前何だその姿お前ッ! っていうか姿変えられるのかお前、やっぱり絶対私の能力関係ない何かの第三者か何かだろう何かの第三者か何か!(大混乱)

 

 オゥマーイッ! ビッグシスターッ! と声をあげた雷獣はそのまま両手を広げる星月めがけてダイブしていくが、それを星月は左手で「握りつぶす様に」アイアンクローのようにして捉えた(無慈悲)。

 

『何かこの子もカモ&アル(エロコンビ)と同じ匂いがするね…………。一体相棒の携帯端末から何を学習したのかな?』

 

 口調まで大河内アキラっぽくなる必要はどこにあるんですかね(震え声)。とりあえず煩いと文句を返しておいた。

 

『おや? 何、ひょっとして心当たりがあるのかな。……まぁ相棒も健全な男子だから、あれだけ無茶苦茶に迫られてまで、完全に無心でいられるような特殊訓練は「まだ」受けてないものね。大丈夫だよ相棒、中学生ならフツーフツー!』

「そこで『まだ』受けてないってなるところがこの世界の恐ろしい所ではあるか…………。

 って、学習といったらあのディーヴァだ。アレは一体何なのだ?」

 

 そう、海天偽壮(マリンコード)とか言っていたか、外見上は私の死天化壮(デスクラッド)を水で再現したような恰好だったもの、すぐさま全身ゲル化してきたりと、使い方の発想が違うようだ。とはいえ内血装による瞬動もどきについていく反射速度を思えば、単純に体を水化しているという訳でもあるまいし…………。

 私の疑問に、星月は…………星月だとわかっていてもアキラちゃんの顔をしているそれは、アキラちゃんらしい苦笑いを「ハハ……」と浮かべて少し頬を赤らめながら回答してきた。 

 

『…………もう察しているとは思うけれど、相棒を含めた『七十二人』の研究データ、アマテル技研の資料を、あの無垢すぎる子は読んだみたいだ。その上で実際に相対したネギくんの能力をみて、全身変化させるだけではない術を開発したってところ、なんだろうね』

「全身変化……、そーいや他のアーウェルンクスとかも『ネギま!』じゃ全身雷化とかやってたっけ……」

 

 ディーヴァで言えば全身水化とかそんなものになるのだろうか。なるほど、それに雷天大壮のように「他の術式を」「補助目的で組み込み」併用するということをしているのならば、あの妙な自由度の高さには納得がいくかもしれない。

 

『私の見たところ、あれは「水晶のような性質も兼ね備えた水」って言っても良いんじゃないかな? 単なる液化ってだけでは、あの妙な柔軟性や「霊体を狙う」三太君の攻撃も躱せそうにないし』

「あの時、三太そんなことしてたのか…………、って、物理も霊的なそれもどっちもアウトじゃ打つ手なくね?」

『それどころかたぶん、実体の形を伴わないってことは「ミクロサイズ」レベルでの変形が可能ってことでもあるから、たぶん毒物とかも効かないし、完全密室に封じ込めたりしてもその視認すらできないわずかな隙間とかから脱出したりするはずだ。

 あと見た感じ、液化までは0.5秒くらいしか隙も無いから、物理的な対決じゃまずまともな戦闘にはならない。不思議なことが起こってるね、相棒……』

「バ〇オラ〇ダーか何かで?」

 

 むしろ怒りたいのはこっちなんだよなぁ……(握り拳)。

 その上にだが、そんなレベルの彼女とさらに比較して巨大小夜子とで、どちらも敵わないと判断していた釘宮が(たぶん野生のカンとかだろう)、それでもディーヴァの方に来ていたということは、逆説的にどれだけあの巨大小夜子がヤバいブツなのかが証明されてしまうのでは…………。

 

『は、離せー! ちょっとくらい美人でおっぱい大きいからって、俺チャンを舐めんじゃねーぜ! これでも俺チャン、雷の上位精霊の一種としては――――』

『少し黙ろうか』

『ふみゅーッ!』

 

 あっ、くてってなった。普通の表情のまま「ぐっ」と手に力を入れただけに見えたが、どうやら大河内アキラの姿ばかりでなく、力もちなところも再現しているらしい…………。いやだから、ホントお前誰なんだっていうか何なんだよ?(素朴な疑問)

 

『ま、まぁ、私のことは置いておいて…………。とりあえず、今の状況を脱せそうなものを思いついたから、それで一回戻って試してみようか、相棒』

「その困ったようなお姉さんの顔止めろ」

 

 色々とここのところ限界が近いが(性癖)、トドメとばかりにクリティカルヒットを持ってくるんじゃない。いくら偽物とは言え私の目から見た大河内アキラは完全に大河内アキラなので、いくら「警戒するべき」星月相手と言えどリアクションに困る。これに興奮したら負けという奴だ……けどほぼ完璧にアキラちゃんなんだよなぁ(血涙)。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 海天偽壮(マリンコード)――――全身水化の術に水属性上位術「呑み込む深海」、更に液体操作系に氷と火の術をいくつか織り交ぜて作った私のオリジナルの術ですけれども。

 意外と高い完成度を誇ったこれに対して、UQホルダーおよび協力者はいまだ為す術はなく。もともとは時坂九郎丸の「斬魔の太刀・弐の閃」でしたか、うろ覚えなその技対策として即興で造り出したものでしたが。

 能力的な相性を鑑みて、これをもって不死化実験体7号、個体名「刀太君」を捉え拉致する予定だったのですが、思いのほかデュナミスの逃走に時間をとられています。

 絡繰茶々丸…………、私は面識はないのですが、「白き翼(アラ・アルバ)」残党のうちの一人、渦の7人(ボルテックス・セブン)には数えられませんでしたが、ネギ・スプリングフィールド最終決戦直前までサポートを続けていたとインストールされています。

 その実力については、いかにデュナミスとはいえど私たちアーウェルンクスシリーズほどの完成度でないせいか、それとも流石に稼働を開始してから相当年数経過したせいか、善戦できていないように見えます。デュナミストとはいえど……デュナミスト? いえ、変な音のつながりですね。肝心の本人が誰にも「資格」を継げない所なんか特に。

 それは置いておいて、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルへの不満を垂れ流しながら戦う姿は、何と言うかこう…………、3番(テルティウム)の記憶にある、負ける直前の悪の組織の幹部みたいで、もう少し振る舞いを考えた方が良いと思います。

 

 まぁ、とはいえ後は彼が逃げ切れるか、あのダイダラボッチが「次のフェーズ」に移行するのを待つばかり――――。

 

 そう思っていたら、唐突に出て来た小さくて可愛い! 可愛い感じの容姿をした、こう、今にも抱きしめたくなるような小さい何かが、見た目に似合わないくらい尊大な声を上げて、私が捉えている個体名「刀太君」に「何か」を無理やり埋め込み埋め込み――――それこそ変化している私の身体を透過して――――。

 

 

 

「――――死天化壮(デスクラッド)疾風迅雷(サンダーボルト)

「おや?」

 

 

 

 私の頭の横にある個体名「刀太君」の髪が、オレンジがかった金色になって逆立ちました。

 

 

 

 

 



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ST99.死を祓え!:髪の色オレンジ瞳の色レッドアンバー

感想、ご評価、ここ好き!、お気に入りなどなど毎度ご好評あざますナ!
 
(ディーヴァ)の言い訳パートでなんか長くなってしまった・・・。


ST99.Memento Mori:Respect Strawberry

 

 

 

 

 

「あら?」

 

 気が付いたら、海天偽壮(マリンコード)や年齢詐称術が解除されていた。私は個体名「刀太君」の服の内側で、彼の下着「よりも下」の生身と接触した状態になる。

 思わず嫌そうな顔をしながら顔を真っ赤にして視線を逸らす、オレンジ色に光る髪の個体名「刀太君」。嫌がっているようでいて性欲は感じているのかしら? 少し胸を押し当てたり、変形させたりすると反応が露骨になり「だから止めろっ!」と叫びます。ふむ、局部(ヽヽ)に血流とわずかに膨張とを確認………、急速に鎮静化していってるから、意図的に血装術とやらでそこの血を全身に散らしたのかしら?

 少しだけ感触を右手で「確かめて」から(???「にぎにぎしてるねぇ…………」)、私は個体名「刀太君」から全身水化のみして離れました。

 

 離れた後身体を再構成しながら「呑み込む深海」を再展開して術式固定。全身に展開し補助術をスタンバイさせ海天偽壮(マリンコード)を再構成します。個体名「刀太君」は若干伸びた服を抑えながら、重力剣を前方に構え「血装ッ!」と叫び、次の瞬間に彼の周囲が黒い血に覆われ膨張し爆散し、死天化壮というらしいものに身を包みました。

 

 オレンジ系の金色に光る髪、赤琥珀の瞳、黒い服装に黒い刃…………、ふむ? 不思議としっくりくる姿のような気がするのは、何故でしょうか。

 個体名「刀太君」は自分の局部を少しさすりながら、私に半眼を向けてきます。頬を赤くしているあたり、好意を抱いているということではなく性欲の方でしょうか…………? 実に興味深い。

 

「ままならぬ…………、いや、ちびティスの意味わからんがお前さんも何故『触った』! 意味わからんわッ!」

「おや、男性は容姿の綺麗な女性にイチモツ(ヽヽヽヽ)をまさぐられると興奮すると個体名『せっちゃん』のエピソードから聞いたんだけど」

「いや、あっちの婆ちゃん結構ヘンタイさんだし……(というかそのエピソード初期仮想敵だった時のやつだろ、首と局部抑えて尋問するやつ)」

 

 ボソボソ言っているのは聞き取れないけれど、一応は自分の遺伝子のクローニング元相手だろうに、随分な物言いをするんですね、個体名「刀太君」。

 

「しかし何故か、と。………………あまり話す必要性は感じないけれど、どうにもさっき『痴女』とか言われてしまったのが引っ掛かるからね。理由を教えたら少しは納得してもらいたいところだよ」

 

 私は、少しだけ教えてあげます。彼等に、私がかのエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルに拘束されていた時の話を――――永遠の氷の牢獄にとらわれていた、あの時のことを。

 

「私たちは『白き翼(アラ・アルバ)』、ネギ・スプリングフィールド率いる団体との戦いで完敗を喫しました。結果的にエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの介入があったからとはいえ、それを許すほどにデュナミスも、3番(テルティウム)も追い詰められました。

 その後、私は考える時間『だけ』を得ました。…………肌感覚をオフにした状態で、常に周囲に飛び散る2番(セクンドゥム)の一方通行な念話を耳にしながら」

 

 最初は何度か凍死しかかりましたが、あの術の恐ろしいのは「対象の魔力」で延々と氷の構成や密度を確保している所。私の生命力が落ちたなら、それに伴い凍死させない程度に温度が戻り、氷が解け、しかしそれで回復したらあっという間に元通り。これを何度も繰り返されたお陰で、私自身自分が深海にいるのではという幻覚を見るくらいには、嫌な体験でした。結局何をしたところで逃げ出すことも出来ず、それでも延々と身動き一つとれず、思考だけ明瞭で、おまけに響いてくるのがあの煩い声…………。

 1番(プリームム)はどこかのタイミングで自死を選び(おそらく魂はそのまま3番(テルティウム)に再統合されたのでしょう)、2番(セクンドゥム)は昼夜問わず寝ることもなく、一度寝たとしてもそれから三十日は煩いくせにこちらからの念話は一切受け付けるつもりがない。4番(クゥアルトゥム)は火属性だったこともあり相性最悪につき思考まで凍ってしまったらしく「赤子のような」念話が時々飛んで来るのみ、5番(クゥィントゥム)と私だけで辛うじて脱出作戦を考え続けていたところでした…………、途中で2番(セクンドゥム)の愚痴大会になってしまいましたが。

 いえ、だって本当に煩いし五月蠅い理不尽なのだもの。こちらがいい加減黙ってくださいと抗議の念話を入れようにもそっちのチャンネルはわざわざ妨害用の術を使って思念カットしてくるし、届いてくる声も常にテンションが高く熱血で強要するくらい言葉が強いし。明らかに設定されたスペックをフルに無駄遣いして自分の言いたいことだけを言って念話を切るようなことを、おおよそ1月周期で行ってくるのですもの。

 しかも「造物主(マスター)」が現れたのにはきっちり確認して歓喜の声を上げるのですから、下手に狂っていない、狂わずにあれを続けていたのかと思うと色々と私も5番(クゥィントゥム)共々白けた目を向けました。気のせいでなければ「造物主」ですら「君、この期に及んでまだ生きててそのテンションなの……?」とでも言いたげな視線を送っていたのが記憶に新しいです。

 

 他の使徒に関しては規格が違うので、あの拘束下でやりとりできたのは身内だけでしたが。それでもその長い間、イライラしながらずっと考えていたのです。

 

「何故、私たちは勝てなかったのだろう。それだけを考えていた八十年間でした」

「そりゃ辛かったなぁ…………」

 

 ふむ? 何故か個体名「刀太君」が私に向けて同情の視線を送ってきて……、海天偽壮で反射していない私の地肌を見て、照れたように視線を少し逸らします。なるほど、局部も胸部も好みと…………。

 左右の隣、犬上小太郎の孫と改造幽霊とが不思議そうに聞いていますが、彼らは詳細を知らないのでしょう。とはいえ個体名「刀太君」も詳しく知らないはずなのですが、どうしてそんな、事情を知っている人間らしい痛々しいものを見るような同情を送ってくるのでしょうか。

 

「フンフンフン、フン! 同情してやる謂れはないぞコノエ・トータ。悪の幹部の末路など、物語としては良くありがちな展開だ」

「フンが多いわっ! っていや、でも流石に痴女堕ち(お色気枠化)とかは想定外っていうか」

「それは…………、そうだな…………、ちょっと面倒女みたいな気配を感じる…………、どうせお前が何かやってあんな風になったんだろ、何とかしろ! 伊達マコトとか近衛勇魚みたいにッ! 僕は知らないぞッ!」

「なんでもかんでも無駄に人のせいにするの止めてもらえないッスかね(震え声)。

 っていうかあー、マジで麻帆良のことは全部観測済なんだなお前…………」

 

 そして個体名「刀太君」の隣に浮かんだあの可愛い! 何あの可愛いの本っ当可愛い! 手のひらサイズで首もこもこした小さな男の子のようなデザインのデフォルメしたぬいぐるみの様な何かですっごい可愛い! シリーズあったらコレクションしたい! な可愛い! 可愛い! のとしゃべっています。でも、だからまだ理由を話し終えてないから、痴女堕ちとかいうのは止めてもらいたいのです。

 犬上小太郎の孫が「話を聞いてあげてもいいんじゃないかな、流石に手持無沙汰みたいだ」と助け船を出してくれました。いえ、そんなつもりもなく早く話を終わらせろと言うことなのかもしれませんが、流石に不意打ちの効果がないというのが分かった以上は協力して戦うつもりなのでしょう。

 

「……では、続けていいかな?

 そして、考えに考えました。3番(テルティウム)のネギ・スプリングフィールドとの闘い『までの』情報は同期共有された上でのロールアウトではあったので、そこまでの情報は残っていました」

「てる……」「3つ目って意味だね」

「あー、フェイトのことって言って判るか? フェイト・アーウェルンクス」

「超有名人じゃんッ!」「何…………、だ?」

「…………話、続けても良いかな? ……いいよね、大丈夫だね、わかった。

 そこまでの情報と、私たちの状況を見比べ、そして実際に個体名『このちゃん』達とも話をするようになって、一つ結論が出ました――――愛です」

「「「愛?」」」

  

 そう、他に考えられません。彼らは「愛」の力だけで、私たち「完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)」に食い下がったのです。例えばネギ・スプリングフィールドは仲間達への愛、「黄昏の姫巫女」への愛、フェイトと呼ばれた3番(テルティウム)への友愛。そういった感情が、私たち個人個人の力を只の旧世界人たちが、一般人が、猫何個分で計測できる程度であるはずの戦闘能力が、その前提の上で上回る活躍を引き出したのでしょう――――。

 もし仮にあの時、3番(テルティウム)がそのことに気付いて、自ら拾い集めた少女たちをより「愛して」いたのなら、結果はまた変わっていたかもしれません。そのくらい、最後の最後での決め手として「愛」が強かった。

 

 むろん「造物主(マスター)」の「愛」が他の誰かに劣るものだとは言いませんが。それを受けて動いていた私たちの側に愛が欠けていた――――あのエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルでさえ、私たちを拘束しに現れたのも、あの忌々しい拘束術を完成させたのも、氷越しに聞こえた声から分析するにネギ・スプリングフィールドへの「愛」故にです。

 

「――――個体名『刀太君』。今の私は知ってるんだよ、私の生の理由を、私の生まれた理由を。そして人に問いかけたい、何でありたいか、何を求めているのか。

 それが、どうやら『造物主(マスター)』が私に設定した存在規定理由であるらしいからね」

 

 3番(テルティゥム)はあえて設定されていなかったらしいけれども、私たち他のメンバーはそれなりに何かしらの「存在規定理由」が、目的が存在しているのです。私で言うならそれは、知ること。本来なら3番(テルティウム)たちの戦いを間近で見て急速に技術を吸収させるためだったのだろうと判断できますけれども、「当時」という最終局面と言う名の枷から放たれた私は、特に「今の」「造物主(マスター)」は、その本来の自意識は私をある程度自由に自己決定し自己判断させてくれているのです。

 だからこそ、あの時の敗因を突き詰める必要がある―――――。

 

「――――だからこそ今は、様々な形で『愛』というものが知りたい。愛とは何であるのか? そもそも脳内でのホルモン分泌の乱れや精神疾患の一つと仮定することができるけれど、それだけと言うには引き起こされる事態の究極さがあまりにも釣り合わない。肉体の枷から解き放たれたなら何が起こるのか? 肉体のそれに支配されつくした心が何を為すのか。

 そういう意味では、君もまた実験サンプルみたいなものってことだね」

「………………あの、それは良いとしても何で俺相手に迫ってくるんスかね?」

「特に深い理由はないけれど……、リアクションがオーバーだから? 個体名『このちゃん』と個体名『せっちゃん』でいうと、個体名『せっちゃん』の方が色々と凄い変わった愛を出す人だから、それを受けて個体名『このちゃん』とのことを踏まえると、中々興味深いサンプルだと思うよ、君は。改造幽霊はともかく、そこの犬上小太郎の孫よりは性欲が見えやすくて」

 

 研究サンプルとして見た場合、中々わかりやすく、同時に興味深いのが貴方なのだと答えると。やっぱり痴女じゃねーかよと言いながら重力剣を構えてきました。

 だから違うと言っているじゃありませんか…………、私のこの感覚をわかってくれるのは個体名「せっちゃん」だけですか。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 術式兵装についてだが…………(眼前の痴女からは現実逃避)。

 

 そもそもこれが何であるかと言えば「闇の魔法(マギア・エレベア)」を戦闘用に使うための技法の一つといえる。「ネギま!」を参照すると基本的な理屈は簡単で、まず威力がそれなりにある魔法(中級から上級、古代詠唱系の呪文など)を放出せずその場に固定。固定した術を自らの体内に取り込み、肉体に流れる気やら扱う魔力やらをその魔法の性質に融合/変換させる。例えば火属性の術であればその火力を反映し攻撃力や防御力、風/雷属性であればその風力やら電力やらを反映して攻撃力や速度、といった具合にだ。さらにこの状態で複数の魔術を使用できるとあるので、単純に本体を属性変化して超強化することが出来る、くらいに考えて問題はないだろう。

 むろん「通常は」デメリットも存在する。まず第一に使用するための魔力が膨大。もともとがまだ若い頃のエヴァちゃん(といっても既に一世紀は確実に過ぎて居たろうが)が、修行明けといえど不死者としての完成度が低かった時代に、自らの不死特性をもとに開発した魔術である。今から考えれば確実に全盛期だった「ネギま!」時代の無制限状態エヴァちゃんにおいてはそもそも必要性すらなく、使っても所詮はお遊び程度の余興まがいな術だ。もっとも「UQ HOLDER!」時系列においては事実上切り札として使用しているため、やはりそれなりに彼女も弱体化しているのだろうが…………。

 第二に、一般人の使用を想定した術ではない点。発動するためには第三者、主にこの術が使える相手の手助けが必須である。ネギぼーずの場合はお師匠様であったエヴァちゃんであるが、これはおそらくそもそも「闇の魔法(マギア・エレベア)」の基本となるための「金星の黒」へのアクセス権を承認するという流れが存在するからだろう。これによって何が起こるかと言えば、肉体の異形化である。術式兵装自体が「金星の黒」の膨大な魔力と肉体の変化を前提としている技術であるため、肉体に負担が大きくかかる。使用に慣れれば慣れるほどその負担は増大し、ある程度のところでいずれ死に至る。運が良ければそこで「不死身のバケモノ」、つまりは「疑似真祖」「金星の不死研究の産物」たる吸血鬼特性を帯びた存在として復活することになるが、そんな復活はご都合主義的なおためごかしでもないと絶対にあり得ない。

 

 ただ、幸か不幸か私の場合は「生まれた時点で」双方ともにクリアはしている。ネギ・スプリングフィールドのクローン遺伝子を使用して作られた人造人間であるこの身は(おそらく野乃香お母さんは代理母と言えるだろう)、生まれながらに「金星の黒」へのアクセス権を持ち、また吸血鬼属性を帯びて生まれているためデメリットなど初めから存在しないといえる。

 

 そんな私が何故こちらを伸ばさずに血装術でそれっぽくなること(オサレ)に執心していたかと言えば…………。まぁ習得するまでが色々大変だということもあるが、大体は黒棒と、あと「痛いのは嫌」だからである。

 細かくは言わないがそういう事情なので、仮にこの技術が出て来るとするならもう少し先の話(コミックス4巻分くらい先だったか?)と思っていたのだが…………?

 

「それにしてもその髪……、しっくりくるような気がするよ、どうしてだろう?」

「よく分からねぇけど、俺も何かしっくり来るわ」

 

 くしくも熊本時代で雪姫にしこたま怒られた、髪染めリベンジに成功したような形であった。星月曰く「相棒は相性が悪いから、出来てもたぶん疾風迅雷くらいじゃないかな…………」と言っていたが、それが結果として髪をオレンジっぽい色に染め上げ、しかし死天化壮に影響を与えないと来てるとなれば、何が起こるか。

 

 職業高校生(嘘)、髪の色オレンジ(偽)、瞳の色ブラウン(嘘)。

 まさしく黒崎〇護(チャンイチ)、まさしく天鎖斬〇(オサレ)、まさしくBLEAC〇(オサレ)…………の完璧なコスプレである(低OSR)。

 

 以前一度「そういえば……」と思って雪姫に隠れて髪染めしようとして失敗して以来、髪の色までどうこうしようとは思っていなかったのだが。くしくも運が良いのか悪いのか、ガバの果てにここまで完成度を上げることが出来た……。惜しむらくは普段着なら黒い和服だったのでもっと完璧だったということか。

 

『――――いや、まぁ、調整はしてるからね? 相棒ってこういうのが好き、なんだよね。少なくとも「こっち」に生まれてからはずっと一緒だから、それくらいわかるよ』

 

 だから死天化壮状態で声だけ語り掛けて来るの止めろ♡(星月)

 

 いや、しかしこれぞまさに、正しく「男の子ってこういうの好きでしょ?」である。星月自体は信頼をあまりしていないが、こういう仕事には信用を置いているくらいにはしっかりやってくれているようだ。おまけに今の容姿や声や仕草は大河内アキラであるわけで、愛してるぜ星月! と言っても過言はないかもしれない(過言)。

 

『えぇッ!? あ、あうぅ……、そ、そういうことを普段から言ってるから、相棒は女の子に心臓刺されたり、鳩尾を蹴り飛ばされたり、おっぱい吸った相手から逆プロポーズかまされたり、キャッチボールにされたり、首斬り落とされたり、大明神ぱんち! されたり、冤罪かけられたりするんだよ…………』

「いやちょっと待て明らかに身に覚えのない情報混じってんぞ一体何の話だ一体っ!?」

 

 唐突に声を上げた私に三太と釘宮がビクッとなる。「な、なんか見た目がヤンキーっぽくなってるから少し苦手だ俺それ……」「情緒不安定か君は、どうした?」とそれぞれに言われたのを誤魔化しつつ、脳裏で星月の言ったことを一度整理しようとして――――。

 

「ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト――――」

 

 特に手を構えず呪文詠唱を始めたディーヴァのそれを聞いた瞬間、世界が急激に「遅くなった」。ディーヴァの詠唱の口の動きもゆっくりだし、にやりと笑いかけのちびティスの顔も中途半端な感じだし、何より「水の中に」入ったみたいに、まるで水のように、空気が、ねばつく。

 

「何、だ……?」

『…………まったく、女の子相手なら見境がないなぁ相棒は』

「いや、その話まだ続けてんのかよ、大体お前男だろ? 何気持ち悪いこと言ってんだ………」

 

『あれ? 私、いつ相棒に自分が男だって言ったっけ』

 

 ………………。

 ヨシ、後で考えよう!(思考放棄)

 

 とりあえずその場を飛行して離れながら(これも明らかに世界の動きが遅い)、顔に感じる微妙な不快感を払うためフードを被り直す。

 

「っていうかコレ、何だ? なんかちょっと、視界も少し暗くなって見えるし……」

『あ、それが「死天化壮(デスクラッド)疾風迅雷(サンダーボルト)」の効果その1ってところだ。今は気絶してるあの雷獣くん――――』

「あぁ、チュウベェ(ヽヽヽヽヽ)な?」

『――――あっ、名前それにするんだ。……何でチュウベェ? ジュウベェとかじゃなく』

「ちなみに字は子平(こう)でチュウベェ」

 

 雷獣(雷「(チュウ)」)の助「平」でチュウベェ。

 ライ、とかジュウベェ、とかだとちょっと格好良すぎるので、あえて少し外したところを狙う。〇護(チャンイチ)だって改造魂魄(モッドソウル)に「(カイ)だと格好良すぎるから」という理由で「(コン)」とつけていたりするので、そういう意味では日常パート的なアレである。

 

『そ、それでいいのかなぁ……、まあ契約は後で結ぶ話になるだろうし、説得は頑張ってね?』

「いやお前もそれは手を貸せな? で、それはそうと、こりゃ何の能力なのかって話で…………」

 

 単なる思考加速? にしてはそれに体が追い付いているのは不可思議極まりないが、だからといって全身が雷化して同速度で動いているようなものでもなく、思考速度もそれほど早いとは感じていない。そのあたりを伝えると「さすがだね、相棒!」とアキラちゃんの声で今にもナデナデしそうな勢いのある喜色で返してきた。…………(血涙)。

 

『相棒の場合ってホラ、基本的な部分はあんまり強化しても意味がないから。血風系も最終的な威力は「振り回す速度×黒棒の重量×血装の練度」で決定しているし。だから――――本来の「疾風迅雷」から総合的な筋力に振っている部分を、俊敏性、瞬発性とそれを制御できる思考能力に「全振り」してるってところだよ? 身体強度は実は意外とあるから、「音速くらいは」耐えられるし』

「…………?」

『えっと……、雑に言えば、今まで以上に素早く動けるってことだ。わかる?』

「流石にそこまで言われれば、まぁ…………」

『流石に現時点で雷と同じ速度が出るとは言わないけど、後は相棒の練度次第。ここまでお膳立てできれば、練習あるのみ、で行けるんじゃないかな? きっと、ネギくんにだって追いつける、頑張れ!』

 

 カトラス戦あたりを振り返っても思ったが、一〇(チャンイチ)ムーブをやろうとしても普通に出来るとはいえ、それとてネギぼーずの「雷速瞬動」に追いつけるかと言われると、果たしてどうなのだろうと思う所はあった。

 なるほど、意図せずではあるがそれに下駄を履かせてもらっているような状態になったということか…………。ネギぼーず襲来までに間に合うかどうかは別として、もし通常状態でネギぼーずクラスに追いつけるのなら、チュウベェを術式兵装すればそれを突破できると。

 

『――――まぁでも、ネギくんのことだから「雷天参壮(らいてんさんそう)」とか作ってきても不思議じゃないけれどね』

「そういう恐ろしいことを言うの止めろ――――血風、創天!」

 

 星月の不穏な発言を遮って、私は呪文詠唱が完了していなディーヴァめがけ、そのまま血風を放ち――――おや? まるで原作か新作アニメのごとく血風自体も「オレンジ系の金色」に光り輝いてる…………?

 

 そのまま誰一人として反応できず、輝く血風創天はディーヴァを呑み込み、衝撃と煙が上がった。

 

「フン、やったのか……?」

 

 ちびティスお前そんなこと言うんじゃないただでさえ小さかろうがフラグの塊なのだから、「やってない」フラグまで建てるんじゃない負けたら貴様の責任だぞ!(憤慨)  

 

 

 

 

 

 

 



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ST100.死を祓え!:臨界・序

祝・100話! なんですがいつも通りな更新です汗 毎度ご好評あざますですナ!
 
何か記念企画やりたいところですが、例によってアンケ参照ということで汗


ST100.Memento Mori:Countdown To The Hell -3-

  

 

 

 

 

「フン、やったのか……?」

 

 ちびティスがそんなフラグを建てるものだからほぼ間違いなくディーヴァはやられていないと経験則から判断して(断言)、私は「死天化壮(デスクラッド)疾風迅雷(サンダーボルト)」をフルに運用して移動した。この感覚が気持ち悪い。血蹴板(スレッチ・ブレッシ)内血装(ブルート・インテルノ)により死天化壮中の私の動きは文字通り縦横無尽となっており、またその移動速度は人間の観測能力をギリギリ超えるか超えないか。私自身ですら振り回され気味な速度を無理やり動いているというのが正解なのだが――――その上で疾風迅雷を併用しているこの状態においては、文字通り「世界が遅い」。

 私の動きや思考、判断一つ一つに遅れて動くのみならず、その動きすら遅いとあってはどうしたものかといった具合だが、攻撃を一方的に加えることが出来る速度と言う意味では何も問題はない。

 

 煙が晴れるよりも先にその中に入り込み、ディーヴァの状態を見ると。彼女は驚いたような目で私「がいた方」を見ている様子で、とっさに庇ったろう左腕に大きな斬り傷が出来ていた。海天偽壮はその受けた余波の箇所と思われる部分が「剥がされており」、左腕、左胸から上の箇所が素っ裸だった。………‥まぁ元々水で形成されているそれは半透明な上、どうしてかさっきの時点ですでに全裸の上から装備なので色々と少年誌的にはきわどいことになっているのだが(目そらし)。

 と、ゆっくりと彼女の視線が私の方を向く――――向こうと動き始めている。本当に遅いというか、星月の言葉に従えば私の認識がおかしなくらいに速くなっているのだろう。

 とりあえず追加で血風を数発投げ込み……、傷はともかく意図せず全裸になってしまうのは一瞬だけ謝罪の姿勢をとり(礼儀)。ちらりと、茶々丸と戦っているデュナミスの方を一瞥し、私はディーヴァのフード部分の残り(ぼろぼろ)をひっつかんで、そのままあちらのデュナミス目掛けて放り投げた。この速度も私の認識通りのものであり、明らかにディーヴァはその動作モーションに対応しきれていなかった。

 

 そして、時が動き出す。

 

「いや本当スゲェ速度で飛んでってるじゃねーか……。たーまやーって感じ、あっ当たった」

 

 思いっきり彼女のヘッドバットが腹部に命中して吹っ飛ばされるデュナミスと驚いて困惑する茶々丸。

 

「…………本当にやったのか? 居なくなってるじゃないか」

「は? い、今何が…………」

「…………何か猛烈な速度で君が動いたのは見えたけれども、どこに投げたんだい? 彼女」

 

 おっと、見えたのは釘宮だけか。ニキティスはニキティス本人でなくちびティスだから本体よりもスペックが低いのだろうと考えられるが、三太はそもそもそういった類のものは伸ばしていないのだろう。この学園において、速度特化とかしなくても基本的な「幽鬼(レブナント)」の能力だけで充分に無双できただろうし。

 となると、この場で考えられる配置は――――。

 

「一空先輩とキリヱも来るだろうけど、基本あっちは世界樹の方に行ってもらいたいところだし……、そうなると釘宮、三太。お前らも世界樹の方に行った方がいいと思うんだ。今までのやりとりの感じからして『そっちの方に』水無瀬小夜子本体がいるだろうし」

「いや、何でお前置いていくって話に…………」

「世界樹……、増援はあるのかい?」

「一応、約二名。一人は全身義骸のスーパーサイボーグで人間の形をした現代兵器の塊って思って問題ない。もう一人は非戦闘系のサポート要員みたいに考えとけ」

「とすると…………、『あの』デカブツと直接戦う訳ではないんだよな」

「嗚呼」

「わかった。なら行こう」

 

 色々と私の話を聞いて勘案した上で、特に反論もなく首肯する釘宮。このあたり意外と「野生のカン」じみた何かでシビアに戦力判断をしたのかもしれない。そのうえで世界樹の方になら行くといったということは…………、やっぱりあのダイダラボッチさん相当危ないやつなのでは?(震え声)

 一方、これに難色を示しているのが三太だ。いやお前本当に主目的忘れてるわけじゃないよな、何で一番動機が強いはずのお前が反抗してんだよ。

 

「反抗とかじゃねえっての。…………お前、けっこうギリギリだったんだろ? さっきだって、よくわからねェけどエロいことされてた時、圧殺とか言ってたジャン、あのエロいねーちゃん」

「どうでも良いけど、呼び方それで固定なんだなディーヴァの…………」

「俺も異論は唱えないよ、近衛。実際、だいぶ痴女でしかないからね」

 

 本人はそうじゃないと必死に(?)抗弁していたが、行動原理はともかく行動に移している時点でアウトだという私含めた男子三人からの判定であった。

 

「とにかく、そんな状態だったお前、いきなり逆転したように見えてるけど、たぶんそれでも倒すとかは出来ねーんだろ? いつまたひっくり返るかわかったもんじゃねーだろ。オレ、それはそれで嫌だぞ? オレが小夜子助けに向かって、そのせいでお前倒されたとかなっても」

 

 とはいえ現状、切れる手札はないのだ。ちびティスが「何故僕に聞かないのだこの下等種たちは……」と若干イライラしているが、そもそも大丈夫だったらお前本体が来ているだろって話だ。わざわざ私に雷獣(チュウベェ)を溶かし込む時のモーションは、あきらかにちびティスではなく本来のニキティスでやった方が決まりが良い(オサレな)訳だし。割と真祖はそういう部分を気にするのだ、原作的にも。ならばそれが出来ないと言うことは、それ相応の理由がある訳で…………。

 

「少なくとも誰か一人、バトル要員がこっちに来てくれりゃ良いって話なんだけどなぁ…………」

 

 そんなことを言ったせいか。

 

『…………わかった。ならば出し惜しみしている場合ではなさそうだ。私も出ようか』

「「「えっ?」」」

 

 そんなことを唐突に黒棒が言い出した。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 刀太のご先祖……というよりも、お祖母様に相当するらしい彼女。さきほどのやりとりから「刹那」という名前だけは判っていますが、刀太の姓である「近衛」と照らし合わせて考えると、一人の該当者が思い浮かびました。

 

 人類の太陽系進出初期ごろ、2010年代から2030年代程度まで名をはせた航空小型宇宙船レースの名レーサー。とある「偉大な魔法使い(マギステル・マギ)」(制度の方の呼び名)の従者だったとだけプロフィールに載っていましたが、確かその名前が「刹那・S・近衛」。

 忍が持っていたレース関係の本でちらりと名前を見た方でしたが、苗字が苗字なので引っ掛かりを覚えていました。……意外な所に親戚筋がいたものです。とはいえど、現在においてもその若さを維持していることは、普通に考えて異常の一言でしょう。となるとどちらかが人外であるか、なにかしらの理由で生命力(気)か魔力が強いのか。「魔法使いの契約」において、従者と主人との魔力還元率の都合上、膨大な魔力や生命力はお互いの寿命を延ばしたり、容姿を若返らせたりすることがあるとシスター・ミソラに聞いたことがありますが…………。

 

「神鳴流奥義、斬魔剣――――!」

「――――神鳴流奥義、斬魔剣・弐の太刀!」

 

 咄嗟に彼女から放たれたそれを、九郎丸が「私を通過する」斬撃を放ち代わりに受けてくれましたが。眼前でそのまま体勢を変えた九郎丸と鍔迫り合いをする彼女は、どう高く見積もっても二十代前半程度の容姿をしています。

 いえ、髪が真っ白だったり両目が赤かったりと、かつての写真に写っていたものとは異なる点もあるにはあるのですが…………。

 と、その刹那さんは九郎丸の刀を見て、何やら困惑しているように見えます。

 

「夕凪……? 確か時坂君のところに預けたと思ったのだけれど、こんな形で相まみえることになるとはッ」

「夕凪を知ってる? …………貴女は一体ッ」

 

「せっちゃんもな~、刀太君のお祖母ちゃんなんやで~!」

 

 そんな近衛木乃香……でしょうね、さっきのやりとりからして、そんな名前なのでしょう。その彼女の台詞を聞いた瞬間、九郎丸が「はッ」とした顔をして「せ、刹那お義祖母(ばあ)様ッ!?」と裏返った声をあげた。まぁ元々声は高いのだけれど、戦闘中だったこともあっていきなり素っ頓狂な情報を聞かされたために混乱しているようね。

 ちなみに刹那さんも「えぇ!? そ、その物言いってひょっとして…………ッ!?」と混乱しているわ。変なところで似たもの同士…………、いえ、ディーヴァ・アーウェルンクスが言っていたことや勇魚ちゃんのことも思い出すと、神鳴流って変人しかいないのかしら? あるいは変態さん(えっちな人)しか。

 

 ちなみにそんな木乃香さんの手前では、あのニキティス・ラプスが「乱心したような」刹那さんと斬り結んでいた。

 

『行きますよ! 待っててこのちゃん、神鳴流奥義―――――』

「おい、ちょっと待て貴様この『式神』ッ! 肝心の主を巻き込みかねない勢いで技を使うんじゃない、せっかく僕の芸術的な拘束状態がそんな適当かつ意味の分からないノリで壊されてたまるか…………、だからそのまま無意味無目的に振り下ろすのを止めろッ!」

「ひゃ~! うち逃げられへんから~っ!」

「ちょっと弐式(セカンド)~~~~~~ッ!?」

 

 どうやら式神の方の刹那さん(テンションが本体よりも高い?)に振り回されているようね。とはいえ木乃香さんは「あー、セカンドせっちゃんも程々にな~?」と多少は余裕の表情なのだけれども、ニキティス・ラプスとしては先ほど逃げ出したディーヴァ・アーウェルンクスのことがあるせいで、これ以上自分が作り出した拘束具? から脱出者を生み出したくないようね。遊んでいるのかしらあの男…………? いえ、まあ本体と違って頭が弱いのか、式神も式神で救出するべき木乃香さんを巻き添えにすることになんら抵抗がないようだけれど。

 

「『干からびた骨(オゥス・エクシィカッタ)』――――ふッ」

「――――くっ、二対一は流石に厄介だッ」

 

 そして九郎丸の抑えているところと反対の場所で、私は例の「古い剣」に「信仰の魔力」を宿らせ、袈裟斬りにするように大きく踏み込んだ。それに彼女はもう一本短刀を呼び出し、両手の剣で抑え込む。

 厄介と言いつつ普通に「見た後で」反応して対応できているところは、あのアーマーカードの九郎丸よりも動きに余裕があるように見えます。

 一方の九郎丸も、アーマーカードを呼び出していないのは何か理由があるのかしら……? アーティファクトは仕舞っているのか姿も見えないし。

 

「はッ!」

 

 そのまま斬り返され、距離をとられました。…………おそらくは鳥系の亜人の血筋(それこそ九郎丸のような)なのでしょうが、羽の色が白いせいか神聖魔法の効きが良くありませんね。もともと神聖魔法はその派生として「象徴(シンボル)」に依存するところも大きく、外見上「一般的な天使のイメージ」のような属性を帯びているせいか効きが悪いとみえます。それこそ翼の色が黒だったりとび色だったりと別な色なら問題はないのでしょうが……。

 

「このちゃん、お願い――――!」

「うん、行くえ?

 フラベル・ミラベル・アラ・アルバ――――契約執行(シス・メア・パルス)しばらくずっとや(イリミタス)!! 木乃香の従者(ミニストラ・コンッゥカ)・ せっちゃん!」

 

「何っ!」

「これは…………」

 

 突如、刹那さんの全身から「魔力が迸る」。…………尋常な量ではないわね、明らかに上位魔獣クラス「すら」寄せ付けないレベルの魔力が供給されている。前後のやりとりからしてあの木乃香さんからの供給なのでしょうけれども、それにしてもこの量は「異常極まりない」レベル。下手をすると雪姫様が一切手加減をしなかった場合の魔力量並に――――。

 

去れ(アベアット)! …………本当は『これ』を使うつもりはなかったのですけれども、流石はエヴァンジェリンさんのお仲間ですね。かつての自分たちをみているようで、少し落ち込んでしまいます……」

 

 言いながら肩を落としつつ、その手には一枚のパクティオーカード…………、丈の短い馬車道服のような姿の「髪の黒い」刹那さんの横顔が描かれたそれを構え。

 

来たれ(アデアット)――――剣の神(デウスグラディ)建御雷(タケミカヅチ)!」

 

 呼び出されたアーティファクト……、二つ目の契約カード? いえ、不思議な光景を目の当たりにしたような感覚なのですが、その妙な形の古い剣のようなアーティファクトに、あふれ出ている魔力を注ぎ込み――――その刃はまるで「翼」の模様のごときオーラを迸らせた、曲刀めいた姿になった。

 

「夏凜先輩、少し時間を稼いでください――――僕も呼びますッ!」

 

 言いながら九郎丸は制服の胸ポケットからカードを取り出そうと……、嗚呼そういえば、そちらは詠唱に時間がややかかるのでしたか。そう考えながら九郎丸の前に立った次の瞬間、ニキティス・ラプスに渡された剣が「真っ二つに」叩き切られました。

 

「――――神鳴流奥義、斬岩剣・伊弉諾(いざなぎ)!」

 

 今の一撃、魔力すら感じなかった? いえ、でもそうであってもこの女性、まさかの膨大な魔力だけで信仰の魔力を「払い」押し切ったとでも言うの…………? 私だって本当に全力ではないとはいえ(地形が変わってしまうので)、これだって雪姫様の中級呪文程度なら押し勝てる防御力や強度を与えられているというのに?

 

 …………許せない。いくら口ぶりからして雪姫様と旧知の仲でも、いくら刀太や帆乃香ちゃん達のお祖母様だといえども。

 

聖絶なる拳(ホーリーブロー)!」

 

 私の一撃も、その変形した剣の「羽根の部分」で受ける刹那さん。と、今までに感じたことのない妙な痛みを覚える。見れば私の手首から先が「無くなっている」……? いえ、引き抜けば瞬間的に元に戻っているのだから問題はないのだけれど、一体何が。

 

「…………このちゃんの現在の魔力量は、『ネギ先生のクローン計画』において実測した異常ともいえる最終値に加え、『今の』ネギ先生からの供給も加算されています。よって私が扱える現在のタケミカヅチの最大性能は、タケミカヅチそのものを『完全物質(大エリクシル)』相当のものに変えてしまう程、だそうです」

「完全、物質?」

「かの神血(サングィスフィリーディ)を受けたとされる武具であれ、今のこれを貫くことは出来ないでしょう――――神聖魔法であれ、押し通すこと敵わず」

「ッ!」

 

 そして斬りかかってくる彼女を、アーマーカード状態の貴公子風な九郎丸が受けた。

 ばさばさと、左側の黒い髪と右側の金色の髪、両方のテールが大きく揺れる――――。

 

「ま、間に合ったッ!」『(今度は刹那さんまで!? ちょ、ちょっと僕、一体何がどうなってるの!!?)』

「『妖刀ひな』――――――――、まさかそれをアーティファクトにする子がいるとはっ! でも月詠のような戦闘狂(バトルジャンキー)の手に渡らないで良かった!」

「えっ!?」『(だ、誰のこと?)』

 

 あら、聞き覚えのある名前なのかしら。刹那さんの言った人物に一瞬驚いたような九郎丸だけれども、そのまま刹那さんのそれを「打ち返し」、逆に攻める姿勢を見せる。…………純粋な技量としては九郎丸の方が劣るけれども、アーティファクトの性能で打ち返しているように見えるわね。九郎丸の全身からも、あの長刀と同様に白いオーラみたいなものが立ち昇っているし。いきなり相手の能力が底上げされたせいか、刹那さんも少しやり辛そうにしている。

 

 ここは…………、私も「アレ」を呼び寄せて、切り札を使うべきかしら。

 

「あ~ん、せっちゃん落ち着いて――――っ、な、何や?」

「これは……?」

「きゃっ!」

「何だ? この『いかにも』な脈動は」

 

 

 

 そして私たちが戦っている向こう側で、あの巨大な少女のシルエットの胸の中央に亀裂のような赤いヒビの線が走って。

 大きな脈動が、一つ、聞こえた。

 

 

 

 

 




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ST101.死を祓え!:臨界・破

毎度ご好評あざますナ・・・! もうちょっとだけ頑張るんじゃよ(毎日更新)
 
キリヱちゃん絶叫!


ST101.Memento Mori:Countdown To The Hell -2-

 

 

 

 

 

「――――ヤベぇな、なんか、よくわからねぇけどヤベぇ!」

「一応は同意しておくよ、佐々木三太。もっとも、『良くわからない』けれども『ヤバイ』と認識できている時点で、俺は早々に逃げ出したいところなんだけれどね」

「えっ? 何、お前この状況で今更逃げられるつもりなのか!?」

「逃げられないからどうしようもないんじゃないか、君は…………、全く。俺は狗神自体を嫌ってはいないけれど、それで世界を救うとかそういうことが出来る器だとは思っていないんでね」

 

 全く仕方ない。乗りかかった船だから今回は「こんな事態」でも協力しているけれど、本来、俺は端役が性に合っているつもりなんだ。狗神を愛でながら魔法関係の仕事を受けつつ平日は普通に学校に通い、このまま高校、大学と進学する。それの何が悪いと言うのだ。ことあるごとに祖父はネギ・スプリングフィールドと自らの若い頃の写真を並べ、やれウチの流派は狗族の血で世界を護るために作り上げたとか、お前はウチの一族で一番狗族の血が強く出たとか。…………そもそも柄じゃないんだ。祖父が言うようなので気分が高揚するような自己顕示欲とかないし。

 ただ、事態がまずいことになっているのだけは良く分かっている。妖魔において「外見的に」一目で危険だとわかる兆候というのは、俺たちの側からすれば直感的に察知できる。そしてその察知した危険だという「畏れ(おそれ)」、それ自体を魔力として吸収し、大きく変化していくのがこういう場合のセオリーだ。

 だからといって怯えるな、というのも無茶な話。そもそもあの巨体、アマノミハシラ学園都市近隣で考えても十分に頭がおかしい規模の存在感が、明らかに「脱皮」か「羽化」でも始めそうな兆しを見せている――――近隣住民、ここの生徒たちですら、避難中にでもそんな意味の分からない光景を見せられて、正気でいられるかは怪しい。

 既に俺以外にも多くの魔法生徒が動いてはいるだろうけれど、それだって彼等彼女たち自身すら恐怖心を抱くなと言う方が難しいようなブツだ。何度も言っているけど、こういう状況でさえなければ俺だって逃げ出している。

 

 そんなものを見上げながら、俺と佐々木三太は世界樹を目指して飛行していた。彼は念力、俺は獣()術で足に狗神を纏わせ回転させながら。

 

 

 

「――――ストーップ! ストップ、ストップ! そこ、ちょっと止まりなさいよッ!」

「えぇ!? さ、サクラメキリヱ!?」

 

 

 

 移動途中でかけられた声に、唐突に足を止める佐々木三太。明らかに物理的な慣性を無視した急停止だったが、どういった理屈なんだろう。近衛がやっているそれとはまた別な物なのだろうけれど、このあたりは幽霊の類であるらしいからか。

 僕の場合はそんなにスピードを緩めたりは出来ないので、逆方向に狗神を飛ばしたりして徐々に徐々にブレーキ、減速してから彼らのもとに向かった。

 

「なんでアンタに呼び捨てされてんのよ、せめて先輩って言いなさいッ!」

「す、スミマセン……!」

「まぁまぁキリヱちゃん、三太君もほぼ条件反射で謝っちゃわなくて大丈夫だよ」

 

 どうやらそこで待っていた相手と顔見知りらしい。世界樹手前のテラス、いったん地上に降りると、妖魔の波が「そこだけ」微妙に空いている状態となっている。そこに居たのは、十歳くらいに見える少女と、妙に顔の整った青年。少女の方はパイプとか色々走った潜水服……にしてはシュールなデザインの服を着用していて、青年の方は白衣姿だ。

 誰だろう、と視線を向けると、青年の方が笑顔で応じる。

 

「やぁ? 君、裏魔法委員会の子だよね。状況から察するに、三太君……、いや、刀太君に協力してるって所かな?」

「大体そんなところです。…………このまま世界樹の地下に向かうつもりで来ていたんですが、そちらは?」

「アハハ、その話でね。一応、地下のマップ情報は引き当てられたから、世界樹『内部』から侵入する必要はないっていう話と、キリヱちゃんからもう一つ」

「?」

 

 キリヱと呼ばれた少女は、こう、やっぱり形容が難しいシュールさをもった外見の映写機、デジタルなんだかアナログなんだか微妙なそれの裏面を開き、こちらに見せて来た。構造自体は一応デジタルチックに出来てはいるらしいけれど、写真の比率が祖母の家にある古いテレビのようでこれは…………。

 

「何? 何か文句でもあんのアンタ?」

「…………文句はないけれど、そのデザインセンスはどういうものなのかと、ふと思ってね」

「そんなこと私に聞かないでよ、出て来た魔法具(アーティファクト)にまでいちいち責任はもてないわ。私だってヘンテコリンだって思うけれど…………」(???「とか言われているけれど?」「まだまだキリヱサンにはわからないネ、あの無駄に洗練された無駄のない無駄なスチパン風デザインは」「無駄の塊じゃないか」)

 

 ともかく、佐々木三太ともども覗き込んだそこに映っていたのは…………、半裸に剥かれたような黒制服の女子生徒の胸の中央に、あのフード姿の男が何かを埋め込んでいるようなものだった。あくまでマナーとしてやや目を逸らすと、ガルルルルルと佐々木三太がこちらに半眼を向けた。いや、事情は知らないけれど「そういうこと」なんだろうと予想はしていたから、何も言わないけれどもね。

 

「この写真が、大体今から3日以内のどっかの写真。……で、こいつ、水無瀬小夜子よね?」

「あ、ああ。だけど、なんで小夜子、抵抗しないで…………」

「…………周囲を、前に戦った妖魔に抑えられているね」

 

 視線を逸らしながらの分析。僕に「いや、ジロジロ見ないなら別にいいって」と、思わず嘘だろと返したくなる声のトーンの佐々木三太に肩をすくめる。とりあえず写真の方だけ見ないように、つまり他三人の顔を見るようにして視線を前に向けた。

 

「佐々木三太、覚えているかな? 近衛が君を抑えた時に戦っていた妖魔――――人のように化けて人を喰らうタイプの、増殖するものを」

「増殖?」

「それだけ聞くとゾンビか何かみたいね…………」

「あ、ああ。一応は」

  

 ゾンビのような、と形容したキリヱ……、ちゃん? まぁ小さい子供だしちゃん付けでも問題はないだろう。ちづも文句は言わないはずだ。キリヱちゃんは「ん?」と自分の発言に首をかしげた。が、俺の方は特に気にせず話を続ける。

 

「…………どうだろう、その写真の状況。さっきのフードの男が、増殖している妖魔を操っているように見えるんだが」

「フードって、デュナミスって言ったっけ?」

「そうッスそうッス」

「まぁ、確か『悪い魔法使いの組織』の幹部らしいからね、そういうことが出来ても、不思議じゃないかな?」

 

 とするならば、何かしらの仕込みをされたと見るべきか…………。近衛からは「トイレのサヨコさんの元になった怨霊」程度の情報しか聞いていないけれど、この人たちの口ぶりからしてそう事は簡単ではないらしい。……さては俺が詳細を知ったら、協力を断ると思ってあえてか? 彼は意外と勘が良いのか察しが良いのか、こちらの思考の先を回ってくる時がある。油断ならない…………。

 じゃあ早くいかないと、と逸る佐々木三太に、ぱしゃり! とカメラのフラッシュをたいて足止めする。

 

「あうちッ!? ま、眩しいッス、キリヱ先輩っ!」

「だから待てって言ってるでしょ! 状況はもうちょっと複雑なの。

 茶々丸さんが雪姫と連絡をとって、術の構成分析に少し意見を出してくれたわ。結論から言うと、水無瀬小夜子を『ああ』している儀式は、間違いなく世界樹の地下にある遺跡? の奥、魔力循環の祭壇の箇所に存在してるって」

「だから――――――ッ!」

「でも! でも、それだけじゃこの写真が説明つかないの! だってこれは、私があの『大きい女の子』を撮影して出て来たものだから!」

 

 びしっ! と指を差したキリヱちゃんに、青年と佐々木三太、俺もつられてあの巨体――――頭から胸にかけて亀裂のようなものが入りかけている、そんな青白く輝く少女のシルエットを見る。

 

「もし只の儀式だっていうのなら、対象は儀式の圏内にいる必要がある。この場合は地下のさっき言ってた遺跡のところ! そうじゃないってことは……」

「儀式だけを止めても、あの大きな小夜子ちゃんに仕込まれた何かをどうにかしないと、事態が解決しない可能性が高い、ってことだね。おそらく儀式場にあるものと連動してるから制御されているだけで、もし儀式だけストップしたら何が起こるかわからない」

 

 腕を組んで頷く青年に、佐々木三太と顔を見合わせ。

 

「つまり…………、オレたち全員、二手に分かれないといけねーってことか?」

 

 つまりどちらか片方は地上であの「地球ぐらい簡単に壊せそうな」怨霊と対峙することに?

 嗚呼、やっぱり今すぐにでも逃げ出したい…………。俺は、そんなにプレッシャーに強くないんだ。胃が、痛い……。

 

「だから早い所アイツが来ないと! せめてアイツが来れば、ヘンな察しの良さでなんか上手い事やってくれるかもしれないのに、なんでさっきから携帯端末で連絡してるのに通信繋がらないのよッ!」

「まぁまぁキリヱちゃん。たぶん何か、戦ってるんだろうし……」

「…………アイツとは、近衛のことか? 確かにそうなんだが」

「そうよ? クギミー」

「初対面の女の子にそう馴れ馴れしく言われる所以はないと思うんだが…………、というより、何故俺の名前を?」

「へ? あー ……(そういえば「この周」だと初対面かしらね)。って、そ、それは置いておいて。何? 戦ってるのアイツ?」

「嗚呼。…………凄腕魔法使いの痴女と、ギリギリといったところだ。俺たちを、と言うよりこの佐々木三太を先行させるため、だいぶやり辛そうだったが、さっきのフードや緑の…………、ん?」

 

 ちじょ? ちじょ? と。言いながら全身が真っ白に染まったように固まるキリヱちゃんと、アハハと苦笑いする青年。佐々木三太は「あー、そういうことッスか、なるほど……」と彼女の姿を見て、何かを納得したように何度も頷いた。

 明後日の方向を見たキリヱちゃんは、大きく息を吸って。

 

「――――この、エロちゅーにがああああああああああッ! 何えっちなお姉さん相手に惑わされてんのよ、後で覚えてなさいッ!」

 

 …………なるほど? そういうことか。女の子って元々マセたものだけれど、中々彼も罪作りじゃないか。(???「まぁ体格からして、年下とは思っても年上とは思えないのは仕方ないだろうけれど…………、ここは素直に同情しといてあげるよ」)

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 水のアーウェルンクスが、少しへちゃむくれた感じの顔でデュナミスの腹に直撃(しかも全裸)という絵面は、茶々丸越しの映像通信とはいえ思わず腹を抱えて笑ってしまった。

 いや、何と言うか。老いたというよりも「ネギから」魔力供給をあえて受けていないのでは? と思わせるほど、デュナミスはことここに至って以前と比べ物にならないくらい弱い。

 

『…………マスター、その、どうしたら良いのでしょう』

「ハハハ、ハハ……、す、少し待て…………、うん、ヨシ! とりあえず追うんだ茶々丸。状況はわからないが、あのアーウェルンクスが飛んできたということは、刀太が何かやったんだろ……、う?」

『はい、マスター』

 

 言いながら、移動中な茶々丸のアイカメラ全方位視界に「違和感のある動きで」、刀太のようなシルエットが接近してきた。

 こう、まるで古いビデオテープでも早回しにしているような、動き自体は何ら変哲はないがその部分だけ少し浮いているというか、やはり違和感があるというのが正しい表現か。

 

 そして茶々丸に並走するようついてきた刀太に、思わず私は頭を抱えてしまった。

 

「お前、刀太お前…………、懲りないなぁお前も。

 というか色味が全然違うじゃないか私のと」

『いや、これ前のと違ぇから! 自動的になったんだよ!』

 

 熊本に住んでいた頃、最初の一年の比較的頭の方だったか。

 髪の色をそろえたら私とちゃんと家族になれるような気がして、と言って刀太が頭を染めようとしたことがあったが、どうしてか今再びそんなことを思い出すような髪色になっていた。

 

 グレたわけではないだろうし、この状況でそうなっているとなると……?

 いや、流石に術式兵装の類ではないだろう。

 刀太にその手の知識を与えた覚えはないし、地力で見つけ出すような訓練をした形跡もない。

 実験体「50番台」にたまに見られた、自分のDNA元になった人物の幽霊が囁いてくる、といったような振る舞いも、アイツには見受けられなかった。

 

 と、そんな刀太の肩から「僕の功績だなッ!」と……、何やらちっこいのが出て来たが、嗚呼、なるほど。

 

「たまにはウチに顔を出しに戻って来いといってるのに、いまだ引きこもっているニキティスじゃないか。何だ、今日はどういう気まぐれだ? 基本、世のため人の為は嫌っているだろうに」

『フン! 勘違いするなよ、エヴァンジェリン。この僕は分身体――――ちびティスとでも呼べ!』

 

 いや確かに小さいといえば小さいが、呼び名それで良いのかお前……?

 

『いや確かに実際小せーけど、呼び名それで良いのかお前……?』

『うるさい! 名付け親が何を言うかッ! と、そんな話ではないな。

 何、ちょうど良いところに妖魔が一匹いたからな、コイツに溶かし込んでおいたんだ』

「…………まぁ、死んだとかになっていないところを見るに、一応は『術式兵装』が起動したということなのか?」

『術式兵装?』

『フン! コノエ・トータ、さっきその言葉をあの「面倒くさい女2号」相手に使っていただろうに、ただ適当につけたネーミングだったか?』

「ほう?」

 

 刀太が術式兵装という名称を知っている…………? さて……? 一体誰が教えたか。

 唯一それが可能そうな「近衛」の所の研究者たちは、私がこの目で、「目の前で」息絶える姿を目撃している。

 記憶を失ってから、刀太にそういった「余計な入れ知恵」をする誰かが居るとは思えないのだが、とすると…………。

 

『――――そんなこと、今はどうでも良いだろう。来るぞ刀太ッ!』

『おっと!』

 

 言いながら、刀太はその背後に続いてきた「黒装束」の男の言葉に、またあの「違和感のある」速度で動いた。

 と、茶々丸も対魔法障壁を展開し、こちらに飛んできた水流を妨害する。

 

「おお? 中々の練度じゃないか。流石にあのフェイトと同格と言って良いか?」

「…………どうでも良いが服をちゃんと着ろ、エヴァンジェリン。ほら、コート貸してやるから」

 

 おっと? 助かると龍宮マナに軽く礼を言って、私はそれを纏い…………、ん、この姿だと胸元のサイズが合わないな。うん、まだ私の方が大きいな、ハハッ! ……ハハッ、本来の姿の事を思えば少しだけむなしいな。いや、それはどうでも良い。

 現在、龍宮と「中央から折れた」船の上。

 ぷかぷかと漂流し、ウチのヨーロッパ支部の人間が救助に来るのを待っている(流石に少し疲れた)。

 

 結局、目的としていた件の「魔族」たちは取り逃してしまった。

 将来的に刀太たちの障害になるだろうことを考えれば、あくまで保護者の責任として、自分たちの宿題は自分たちで片を付けようとしただけだったが。

 それでも本気で戦ってくれたとは言え、去り行く「少女」の背中に、龍宮が少しだけ安堵したような笑みを浮かべたのに、私は心中複雑だった。

 

 …………だからまぁ、デュナミスが茶々丸「程度」相手にけちょんけちょんにぶっ飛ばされる様は中々見ていて爽快! ストレス解消にはなった。

 

 なったのだが、少し意外なものを見て私は少し驚いている。

 鼻から下をマスクのように長いマフラーのようなもので隠した、タイツ姿のような細身の男。髪はすべて後ろに流れており、しかし目元は創造主(アル)を思わせる人を食ったような垂れ目。

 

「お前…………、外に出れたんだな、黒棒。てっきりアルの奴がまた性格の悪い仕様でも作り込んで、がんじがらめの制約で縛って出たいときに出れないようになっていると思っていたのだが」

『………………? 嗚呼そうか、そもそも貴女は私が鋳造された時の光景を間近で見ていたか。チッ、やれやれまったくサプライズにもなりはしない……』

 

 言ってることがアル程ではないにしろ大概な気もするが。

 それはともかく、刀太の重力剣「本体」ともいえる人工精霊、あの重力剣のもとになる「近代圧縮金属」の重量制御および「本当の機能」を司っているこの人工精霊。

 精霊本人の名は特に設定されていなかったから黒棒と刀太にならい呼ぶが、黒棒は「自分自身が封じられている剣」を手に取り、ダイヤルを回す。

 

『いや、手数が足りないと聞いたからな。どうも敵は主戦力として相当に厄介な連中を投入してきていると見える』

「まぁそうだな。デュナミスから聞いたが、まさかあの駄鳥(刹那)規格外(木乃香)を持ってくるとか…………、どう考えてもゲームとかだと序盤の敵じゃないぞ。ラストダンジョンの再生された強化ボスくらいの実力だ」

『その表現は表現でどうなのだ…………? まあ、私は私がするべきことをしよう。もはや守るべき「3-A」は存在しないにしろ、今の「相棒」は何かと気が良いのでな。多少のペナルティは、必要経費と割り切ろう』

 

 嗚呼やはり性格の悪い仕込みはあるのかと、私はあの変態優男(アル)の作り笑いめいたアレに頭の中で何度か蹴りを入れる。

 

 そして自らの剣を構え、水流を避け続ける刀太を囮にするような配置で、黒棒の本体は呪文を続け――――。

 

 

 

『パピルス・タピルス・ロン・ジンコウ――――変形(メタモルフォス)捕縛する縄(フーニス・カプトゥーレ)

 

 

 

 その「自らの質量と同等の魔法具や武装に己や性質を転換できる」、アルビレオ・イマ鋳造の魔法剣、「百の顔を(ホ・ヘーロース・メタ)持つ英雄(・ヘーカトーン・プロソーポーン)」としての真価を発揮し、自ら持つその姿を無駄に蜷局を巻いた縄へと変えた。

 

 佐々木まき絵の魔法具(アーティファクト)だったか、それ…………? 何故よりによってそれを選んだんだこの人工精霊は。

 

 

 

 

 




※黒棒のこれは当然捏造(独自解釈)系サムシングなのであしからずですナ汗
 
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ST102.死を祓え!:臨界・急

ちょっとダウンしてたので今日は若干甘め…
 
妹チャンが見ている……かもしれない


ST102.Memento Mori:Countdown To The Hell -1-

 

 

 

 

 

 風〇(律義な相棒大好きマン)……、〇死(本体の鎖より鎌を優先させちゃった奴)じゃないか! 否、そうとまでは言わないが、もうちょっとビジュアルを人間の姿に寄せているような、そんなイメージビジュアルな黒棒の本体たる人工精霊であった。

 そもそも三太、釘宮と話している最中に黒棒が「出ようか」と言った直後、急激に「刀」自体が制御が利かないくらいに重くなり、「捥げ落ちた」のだ。流石に「ぎゃー!」「何だとっ!」と悲鳴を上げる三太と釘宮だったが、直後に現れ出た、斬魄〇(オサレ)なビジュアルな黒棒本体がその刀自体も回収した流れである。とりあえず人手はこれで増えたこと、私自体はその超スピード!? で血風創天でなく血風だけでもある程度は戦えるだろうという前提のもと、三太たちを世界樹の方に行かせることと相成った。

 

『それと、さっきから携帯端末が通知を知らせてると思うのだが、出なくて良いのか?』

『通知? いや、着信音が鳴ってねぇし、別にマナーモードとか設定はしてなかったんだけど…………』

 

『――――あ、相棒、それチュウベェの仕業、って言っていいのかな……。着信されてくる時の「内部電力」をかすめてオヤツしてたから、音量が凄い低いことに……』

 

 相変わらずなアキラちゃん風味な星月だったが、そっかー、正式に契約でもしてないと行動は縛りようがないのかそっかー…………、やっぱりガバの申し子だな気絶してるらしいアイツも(ぴか様的な意味でも)。(???「元祖ガバの申し子が言うと桁違いだ説得力が」)

 

 とはいえ電話に出るよりも先に、釘宮式人間大砲(比喩)により射出されたアイツと念力飛行していく三太とを見送った後、黒棒に確認をとろうとしたのだが。

 

『お前ら、何故いい加減、僕に頼らないッ! なんのためにわざわざ地下からこんな面倒な状況まで出て来たと思ってるんだ、コノエ・トータ!』

『えぇ……(困惑)』

 

 下手に頼ったらそれはそれで何か言われそうだったからと返せば、一度手合わせしたのだから「そういう何かしら」の繋がりみたいなのは感じないのか貴様ァ! とちびティスに絶叫される始末。口元がローブのようなものに隠れてはいるが、黒棒が肩をすくめて笑ったのは理解できた。

 

『まあ、何にせよだ。「私」が出た状態のこの刀は、只の超重量物質に等しい。内部で私が制御していないから、先ほどのようなことになるのだ、刀太』

『そういうモンなんかねぇ……? で、お前が持つ分には、お前自身が重量制御する関係上、普通に使えると。だったらお前、もっと早く出て来ても良かったんじゃねぇか? 黒棒』

『だからその呼び方は…………、いや? まぁ私「本体」に名前はないから、ニックネームと考えると否定は出来ないか。グロス、と呼んでもらえるのが一番好みに合致するのだが』

 

 とはいえ黒棒は黒棒だし…………、いや、別に以前に名乗られたような三角のα(グロス・ドリクト)だったか(文字は黒棒本人に聞いた)で呼んでも良いのだが、流石にチャート崩壊に次ぐ崩壊が連発してる昨今、名称まで原作から離すともはや軌道修正が不可能なのでは疑惑を抱いているので、諦めてクレメンス(寂寞)。

 

 

 

 とにもかくにも、そんな流れがあった上でのディーヴァ&デュナミスVS私&黒棒&茶々丸with雪姫戦なのだが。なお確認したところ、ちびティスは少ししどろもどろになりながら「い、今はちょっと忙しいから少し待て!」と言い出したので、やっぱりあっちはあっちで色々手古摺っているのだろうから戦力にはカウントしない。

 

「パピルス・タピルス・ロン・ジンコウ――――変形(メタモルフォス)捕縛する縄(フーニス・カプトゥーレ)

 

 すぐさま自分自身とも言えるだろう刀を、なんか物凄い蜷局を巻いた感じの縄に変形させていた。縄……、紐? ロープ? というと、原作「ネギま!」的には一応、佐々木まき絵の「複数」アーティファクトの一つにそういうのがあった気もするが、さておき。

 嗚呼そういえば「UQ HOLDER!」原作でもあったなぁ、黒棒のその謎変形機能。唐突に「変形」とか言って、その姿を歴代アーティファクトだったり巨大岩石に変化させたり、変なフレキシブルさを発揮していたが。確か特に何ら説明もなく、唐突に刀太が使用し始めていた機能だった。たぶん原作側でも説明「した」つもりになったかネームの段階で省いたのを忘れたガバだったのではと思っているのだが(名探偵)、そんなものを結わえて、ぶんぶん古いイメージのカウボーイじみた挙措をしている。一体何故それに変形させたお前? いまいち何をやりたいのか判定が付かないが……。

 

「ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト――――双腕・術式固定(ドゥプレクス・スタグネット)

「おっとッ!?」

 

 思わず、再び「疾風迅雷(サンダーボルト)」のあの気持ちが悪い加速状態に戻る私である。全裸のままそれを隠そうともせず(余裕がなくなったか?)、倒れ伏すデュナミスを庇う様な位置で両手を左右に構え、例によって水の呪文を固定するディーヴァだが。それどう考えても雷天双壮(らいてんたいそうツー)とかそういうタイプのパワーアップの構えだろ、戦ってる当日数分の間もなく技の改良を行うんじゃない絶対勝てないだろいい加減にしろ世界!(迫真) どう考えても今の時点で戦って良い相手じゃないだろこのレベルでの対応力とかさぁ!(血涙)

 

 そんな彼女に加速しながら接近する私だったが、彼女も彼女で一枚上手とみえる。いくらこちらが「妙な」速度で加速してるとは言え、見てから動いているのに違いはないことを見越したうえで、私が「すぐ」追いつくならばと、その腕片方の術式を私の方に少し向け。

 

「――――解放(エーミッタム)呑み込む深海(カタフィノタス・サラッサ)‼」

 

 それこそおっと! である。動きがゆっくりであるとはいえ、そのモーションは流石に血風で妨害しようにも「固定された術式」に吸い寄せられて、散らされる。そして発動したそれは…………、千の雷やら引き裂く大地やら、それに相当するだろう水属性の魔法だった。

 

 

 

 というか、軽く圧殺された。

 

 

 

 目の前にいきなり「海」が現れたような錯覚と共に、私自身の全身が呑まれるイメージ……、嗚呼なるほど、これをベースにした術なら海天偽壮とかがあれだけチートじみているのも納得がいく。というか圧殺され肉体が粉々になっているというのにこの視界と私の自己認識は一体どこから?

 

「何をやっているんだ刀太は……、ほらッ」

 

 と、言われながら次の瞬間には「引き上げられている」。どうやらディーヴァの眼前、人間くらいならいくらでも呑み込めてしまいそうな、光すら通さない「圧縮された」水球のようなものが生成されているらしい。そこからどういった手段を以って引き抜いたのか、黒棒の持っていた例のロープに吊り上げられた形の私(再生途中)であった。

 と、ディーヴァはそのロープを見て不審げな表情。

 

「その魔法具(アーティファクト)の能力かな? 肉片になったはずの個体名『刀太君』を無理に引き上げたというのは」

「半々、といったところだな。不死者としてのコイツの本体が『肉体』ではないと捉えられなければ、こういった手段はとれまい」

 

 相変わらずダンディっぽさがある声ながら軽い黒棒の応対だが、ディーヴァは背後のデュナミスをチラ見して「固定」されていた術式を胸部に――――。砕けた水が彼女の全身を覆い、海天偽壮の形になる。

 

「デュナミスは逃げた方が良いかもしれない。ひょっとすると『この状態の私』の実体すら捉えてくるかもしれないから、防御はあまり期待しない方がいいだろうね」

「もとよりお前ひとりに頼ろうとは思っていなかったが……、いやそもそも逃げている途中で足止めを喰らったのだが」

「いい加減、今の造物主(マスター)とリンクするべきだと思うよ? 貴方も。いくら因縁が長い相手とはいえ、ね?」

「フッ、そう簡単に行けば問題はなかったのだがな? ―――――はァッ!」

 

 両腕を合わせて全身に影と魔族らしい魔力を纏い始めるデュナミス――――を当然放置するつもりはない。背後の茶々丸の狙撃よりも先行して、「腕」やら「仮面」やら形成されつつあるその戦闘形態へ向けて、血風を適当に数個投げつける――――!

 砂埃と飛び散る血。いきなりのことで目が驚愕に「見開かれかける」が、血風をまとわせた右手でそのままデュナミスの顔面を殴ろうと――――硬っ!

 

「…………こういう時、変身中は攻撃しないのがセオリーではないのかね? 少年」

「生憎、自分より実力が上の相手にそうやって変身させるのを待つつもりもないッスからね。あとアンタには用事があるから、真面目に捕まえるつもりがあるんスよ――――」

 

 時感覚が戻ると同時に、「先ほどとは」比較にならないレベルの量の障壁を「顔面に」張っていたデュナミス。いやお前、どう考えてもそれ全身に纏っていた障壁をすべて顔面に集中しているだろ、一体どうやって対応した魔性の女(のどかさん)いないだろ今この場所にさァ!

 

「――――それはこちらにも言えることだけど」

 

 言いながら、背後からディーヴァの強襲――――コイツ! 液体どころか「ミスト」状になってきやがった! 白い靄の中にうっすら彼女のようなシルエットと顔が見えるような、見えないようなとか止めろ! 再び時感覚が崩壊し、肌に触る空気が「気持ち悪く」なるが、それで逃走しようにも「両腕に」くっついた霧状のディーヴァが、とれない――――猛烈な嫌な予感に襲われ「胸の傷から血風を放った」。

 削り取られるように消える私の両腕と、それに付随していたディーヴァの霧が散る――――。

 

 急いで後退するさ中に加速が切れ、ディーヴァが霧状態のまま追跡してきた。

 

「どうやら個体名『刀太君』のそれは、持続時間に難があるようだね。チャージと、放電? どちらにせよ、常に張り付いていればいつか隙が出来ると見た」

 

 だから明らかに戦力としてこのタイミングでぶち当たるのに文句があるんだってこの最終局面レベルのお人形ちゃんはよォ!(錯乱)

 

 再生しかかっている腕に「からみつくように」、唐突に流体へと姿を変えたディーヴァが私に「まとわりつく」と、そのまま全身を「氷の結晶化させた」。コイツ、水の状態変化まで0秒タイムラグ無しに使ってきやがるとか無敵か! どうしろって言うんだこんな相手よォ!(白目)

 

「おや? 流石にこの状態だと『縮む』みたいだ。外見の美醜だけではなく、体温にも関係があると。なるほどね…………」

「い、いや、そ、ういう、話、じゃ、ない――――」

 

 口がしもやけしてしゃべり辛い(体感したことのない痛み)。と言うかこの状態でもまぁ生命活動自体は維持できているのは、無意識に「火星の白」でも使っているのだろうか。感覚的にはまだほとんど感知できないが、流石に人体そのものが凍ってまで「金星の黒」だけだと生き残ることは出来ないはずだし。

 そしてロープを投擲する黒棒だったが、ディーヴァもろとも私を捕獲するような形となり、引っ張るに引っ張れない様子だ。

 

「無駄だよ。実体に魂が依存している以上、両方とも拘束してしまえば身動きはとれない。『実体験』だから良くわかる」

「ああ…………(同情する目)」

「どうやら本当にそうらしい。えぇと、こういう場合に何か使える魔法具(アーティファクト)は…………」

 

 ぶつぶつ言いながら、黒棒はロープの末端、「そのまま」本来の黒棒の柄になっている部分を調整しつつ。

 

「……ヨシ、ならば変わり種で行こう。

 パピルス・タピルス・ロン・ジンコウ――――変形(メタモルフォス)白薔薇の先触れ(エシロー・レウコロードゥ)

 

 言いながらロープが消え、唐突にタキシード姿に変わる黒棒…………って、いやお前何やってるんだ意味不明だぞそれ(マジレス)。ディーヴァも困惑してるのか「似合ってないですね……」と口調が崩壊している。

 と、その状態で黒棒はこちらに突撃し、氷の結晶となっているディーヴァの顔を殴り――――それと同時に、ディーヴァが「氷の結晶」状態から「剥がされた」。私を拘束している氷の状態自体はそのままに、そこに居たはずのディーヴァの要素がすべて抜け落ち、全裸の彼女がやや遠方に殴り飛ばされていた。

 

「い、いや、お前、一体それ何やってんだ……?」

「この魔法具(アーティファクト)は、目的としている対象と接触するための『あらゆる障害』を一時的に無効化する能力を持つ。

 この場合で言うならば、彼女を殴るために障害となっている術式『そのもの』を無視した、ということだろうな」

 

 多重障壁でも追加で張っていれば別だったろうが、と言う黒棒のそれに、理屈の納得は出来なくも無かったがツッコミを入れたくて仕方がない私だった。いやそれ、どう考えても「実体がない」相手とかへの特攻できるタイプのアーティファクトじゃないッスかねぇ「ネギま!」時代でいう委員長のそれから出た奴! そりゃフェイトもかなり驚いてみる訳だよ真面目な話。ただ黒棒自体の姿が変に変わってしまっていることなどからも、いくらか使用に制限自体は存在しそうなものだが。こちらを半眼で睨んでくるディーヴァだったが、いやせめて睨むなら黒棒の方であって私から視線を逸らしてもらえないでせうかね(混乱)。

 なお、デュナミスもまた上方で茶々丸に追い詰められている様子だったが……?

 

 

 

 瞬間、唐突にデュナミスの姿が消えた。

 

 

 

「は?」

 

 なんら前置きなくその姿が見当たらない。いや、茶々丸ですら見失い、キョロキョロと周囲を視線が彷徨っている。いや、より正確には「光をおびて」消えたように見える。まるで普段からのアーティファクトを召還する時の光のように。

 それを見て「ようやくか」とディーヴァが肩をすくめた。

 

「どうやら気づいてなかったようだね。状況は最終フェーズに入ったよ」

「気付いてない……?」

「わざわざ教えてあげる必要もないから、そこは話さないとも。……言ってるデュナミス本人が一番色々口にしてしまっていた気もするけれど、あとは私も見届けて帰るだけだ。回収は次の時にでも、ね?」

「いや、待て、一体なんでアイツは――――」

 

 消えたのかと、問いかけようとした瞬間。再び鼓動の音と、巨大な亀裂が、そこを起点に裏返る。

 

 青白く発光していたその形は、女性のようなそれから男性めいたものに。とはいえ、本当に男性か? 四肢の妙に長いシルエットに、「赤黒く」「光ってる」と認識させられるそれは、先ほどとは逆に胸の中央に、白い光が収束して固まる。巨大な頭はそこから枝葉が伸びるようになり、まるで植物のような……、巨木の巨人のようなシルエットになり始めている。

 

「デュナミスからのオーダーだ。絶望、だけは教えてあげましょう」

 

 

 ――――あれは、ゾンビウィルスをばら撒くだけの神です。

 

 

 

「ばら撒くって、いや、それは水無瀬小夜子が……」

「だから、影響があるのは魂魄のみ、ということだね」

「……どうでも良いが、アレは何だ?」

「「えっ?」」

 

 黒棒の一言に、私とディーヴァとはその指された先を見て――――。

 

 

 暗い四角のドームに覆われた、その動きの止まったダイダラボッチに、一瞬我を忘れた。

 

 

 

 …………あれ? ひょっとしてカトラス近くにいるのか……? いや、それ以前に所属組織に敵対行動とって大丈夫かお前、真面目に……ッ!?

 

 

 

 

 




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ST103.死を祓え!:罪・臨界 ★

状況に全く応じずテンションが変わらないチャン刀・・・

※ウルト兎 様からファンアート頂きました!(何気に初貰い物) 話数表紙感?的に疾風迅雷制式登場を兼ねてここで使用させていただきます!
(許可が通り次第画像表示されるはず…?)


【挿絵表示】



ST103.Memento Mori:Countdown To The Hell -SIN-

 

 

 

 

 

「――――って、これ大丈夫なんだよな? 本当に『ヨルダ様』からは見えないんだよな?」

「ええ、問題はないでしょう。万一見られていても、私たちの力関係からして貴女が『逆らえない』ことくらいは把握できるでしょう。それに、言い方は変ですけれど…………、自由を許していると言うことは、『ネギ先生』もそれくらいは織り込み済かと。

 かの三番目のアーウェルンクスが自意識を獲得したのは、ひとえに彼女の考えにおける世界の救済が、決して彼女自身の目論見ただ一つ『ではない』ことの証明でもある、と先生もいっていらっしゃいましたし」

「そんなこと言われたって全然納得できねーって。ッでも、まっ! これで兄サンも少しはギャフンと言うだろうし、()としても悪くはねぇ」

「あら? そうですか。

 ………………」

「な、何だよ」

「大好きなお兄ちゃんの役に立てて嬉しい、とか思っているのかなぁと――――」

「思ってる訳ねーだろッ! っていうかだ、だ、大好きとか、そんなんじゃねーし! あーして人体メタクソにするタイプのやつが私の趣味じゃないってだけだっつーの! わかったか!」

「ええ、ええ、わかってますよ愛娘(マイドゥター)お母さん(ヽヽヽヽ)は十分存じてますとも。大丈夫、貴女の『罪』も、許す許さないではなくお母さんは受け入れてあげますから――――」

「いや何がお母さんだよ、四分の一しか繋がってねぇくせに」

「そうですね。肌や目元は私寄りですが、顔立ちはどちらかというと『力持ちの人魚』さんの方が出ているように見えます」

「いや誰だよソレ…………」

「良かったですね、将来はおっぱい大きく育ちますよ? 『今の』貴女ならなんら気兼ねなく、ちゃんとスクスク伸びていくことでしょう」

「別に興味ねーって。そーゆーのさ。…………そもそも今私、だいぶ馴れ馴れしくなってるけど、もとはと言えばアンタにとっ捕まって逆らえねーだけだからな? 何だよ四次元空間殺法とか……」

「あら? だけれど、きっとあっち的には『好み』だと思いますよ? あの学園での様子を伺うに。思えば番号的にはともかく、遺伝子的にはほぼ従兄妹状態ですものねぇ」

「…………って、い、いや、別に兄サンのことなんて全然関係ねーだろって」

「フフフ、私は一言も『近衛刀太』のことだとは言っていませんけど?」

「いや絶対そういう意図で言ってるだろアンタって、あ~~~~~~~~ッ! この、クソ母チャン野郎ォ!」

「では私たちも一旦退散しましょうか。後のことは『学園長』がそれとなくしてくれるでしょうし。テナ(ヽヽ)ちゃんも、大好きなお兄ちゃんの活躍を、間近で見れないのは諦めてくださいね――――」

「興味ねぇってのッ! 全く、だから関係ねーんだって…………。

 …………まぁ、でも、頑張れよ、『お兄ちゃん』」

「……………………。

 ぶっちゃけ結婚したいくらいには大好き――――」

「しつこいッ!」

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

時の回廊(ホーラリア・ポルティクス)……、個体名『暦くん』じゃないにしろ、類似のアーティファクトを持っているメンバーは限られているのですけれど、はて…………? 捕まりましたか? いえ、その話を考えるだけ無駄でしょう。

 仕方ない、私が後始末をする流れか…………。 ヴィシュ・タル リ・シュタル・ヴァンゲイト――――」

 

 明らかに変貌――――ディーヴァの説明からして、このまま人間を「意志のない」形でゾンビのようにするだろうと推測される変貌を遂げかけたダイダラボッチが、おそらく魔法具(アーティファクト)による「時間的な」拘束を受けた、そんな状況。

 

 突如丁寧語になったディーヴァは呪文を唱え始める――――嫌な予感はないが、だからといってそのままにはしない。というか状況的に彼女も逃げるか、あるいは何処かへ転移する流れだろうと咄嗟に判断し、黒棒の腕をつかんで「疾風迅雷(サンダーボルト)」の急加速に入る――――。

 ところが、彼女に接触しようとしたその瞬間、放電音と共に私の身体から、雷獣(チュウベェ)が分離した。ご丁寧に目を回して「きゅうう…………」と唸っている。

 

「こ、このタイミングで融合解除とかマジかテメー!?」

「何をやっておるかコノエ・トータ! ダサいにもほどがあるぞお前ー!」

『相棒、ゴメンね…………、何分急ごしらえだったから……』

 

 何でもかんでもアキラちゃん声で応対すれば許されると思ってんじゃねーぞ星月お前!? とはいえ下手に手を出せない相手(存在的にも性癖的にも)と化している関係もあり、せいぜい文句を言うに留まってしまうのが痛し痒しである。

 

「何というか…………、うん、面白いですよね、個体名『刀太君』は」

 

 そう言いながら、わずかにふっと口元だけで微笑むディーヴァはこう、元がフェイト同様に美形なものなのでだいぶ可愛らしいのだが(少女体なこともあって)、それはそうと術の完成を待つつもりは無い。ままよっ! とばかりに血風を投げつけるが、腕を一振りして発生した水の波によって掻き消されてしまう。どうやらこれを見る限り、先ほどまで血風でも通じていたのは、私の時感覚が「血装術含めて」あの「疾風迅雷」の速度になっていたため、彼女の操作している水とは別物だとしっかり認識できていたせいなのかもしれない。つまりは弱点が復活した形だが、ディーヴァはどうもこれ以上攻めるつもりはないように見える。

 いや、それ以上にデュナミスはどこに行ったという話だ。

 

「そういう目であまり見ないで欲しいな……。個体名『刀太君』の顔立ちは現在の『造物主(マスター)』とは少し違うから、あまり私怨は湧かないのだけれど、変なやり辛さがあるって言うか…………、馴れ馴れしいのかしら?」

「最初から距離感ぶっ壊れてたような奴の台詞じゃねぇよ!」

「まあそれも確かにそうだな――――フンッ!」

 

 再びの「白薔薇の先触れ」装備な黒棒本体による飛び蹴り。しかし今度はそれを受けても、彼女の胴体が「水のように」分解されるばかりだった。再構成すると同時に、ちょうどぴったりなサイズのスクール水着に変化するディーヴァ。

 

『悪いのだけれど、もうここに私はいないから無意味なんだよ』

「水系の偽装とか分身……? って言ったって、いきなりそう遠距離に離れられるわけがねーだろッ!」

 

『その通りだな。茶々丸!』

「距離捕捉…………、ヒット! いえ、連続で転移している?」

『こういうと変だけれど、こっちも伊達や酔狂で「復活してない」からね。まあ『アレ』が止められなければ、もう少し真面目に戦ってあげてたけれども』

 

 そういえばディーヴァ自身、大河内さんのアーティファクトと同じものを使用している関係上、300メートル単位くらいならばすぐさま転移できるということか。とはいえこちらにそれへ対応できる人間がいる訳ではないため、一時の居場所がわかってもどうしようもない…………。

 いや? そうじゃないかもしれない。

 

 ディーヴァは基本的に私たちに情報を与えようとしない。さきほどのデュナミスがどうなったかについてもそうで、どうやらそれは一度彼女たちが敗退した事実、つまり「ネギま!」終盤から逆算して行動しているともいえる。 

 とするならば、彼女とてこのまま延々と、無駄な転移を繰り返すわけではないだろう。先ほど言っていた「アレ」、つまり巨大小夜子が、おそらくは「時の回廊」の力により時間停止空間に囚われたというこの状況そのものが、彼女にとって想定外もいいところであるはずだ。……というか実際助かったかもしれないが、何をやっているんだあの妹チャンことカトラス。お前もうちょっと自分の身を大事にしろ自分の身を無茶利かないんだから(マジレス)。

 

「とすると…………、いや、どうせ答えちゃくれねぇんだろうけど、お前、今、たぶん世界樹の地下に向かってるとかだな?」

「…………!」

 

 と、水分身のディーヴァが前髪を整えながら、きょとんとした顔でこちらを見た。

 

「……………………どちらにせよ、間に合わないと思うけれどね」

「間に合わないってことは、アンタの転移速度ってのもそうだが、たぶん状況……っていうか、結構簡単に対応できるって考えてるってことか? あー、まぁ確かにさっきの海天偽壮とかやられたらアイツら対処できねーだろうし、制圧自体は難しくないと踏んでると……」

「……! な、なんだろう、凄いやり辛いね個体名『刀太君』は。一応覚えておこうか……」

「図星なのか、そこの少女よ……」

 

 いや、驚くたびにお目目くりくりしててそれはそれでギャップがあって可愛いがそういう問題ではない。

 つまるところ、今このタイミングで「地下空間」に潜らなければ、かなり危険だということだろう。とはいえチュウベェは先ほどからちびティスに「この役立たずがッ!」って足蹴にされているし(酷い)、私の死天化壮でどんなに加速したところで、単体だと限界がある。流石にここから状況も判らない地下まで入れるかといえばそういう問題ではなく――――――――。

 と、黒棒が刀を地面に突き刺して話しかけて来る。

 

「……刀太、先に言っておくが。私もそろそろ戻ろうかと思うのだが」

「お? あー、何? 気分の問題? ずっと出てなかったから疲れた的な?」

「そういう面もないわけではないが、どっちかというと『制約』に関わってくるな。…………刀の機能は問題ないだろうが、しばらく私とは会話できないものと判断してくれ」

「へ? あっちょっと――――」

 

 言いながら、あっという間に姿を消す黒棒。元に戻ったように見える黒棒を手に取り、とりあえずは茶々丸と雪姫とに一言断りを入れようとして――――。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 とりあえずは茶々丸と雪姫とに一言断りを入れようとして――――。見知らぬ場所にいた。

 いや、見知らぬ場所ではない。やや円形、四方に道が通じしかし球形のドーム状のような幾何学的な構成、および上を見た時に「何かしら」の拘束具のような何かで封じられているような光球…………、明らかに古代魔法遺跡の類じゃねーか! っていうか世界樹の真下だろこれどうなってんだ貴様ァ! まるで意味がわからんぞ!(ガチ)

 そしてこの中心部、私の前方数メートルの位置には、鉄で出来た棺桶のような何かが建てられている。そこを中心にロウだろうか、何かで魔法陣が描かれていた。

 

「…………驚いた、まさか本当に来るとは」

「私だって、伊達や酔狂で、UQホルダーやってるんじゃ、ないわよッ! これでも『こっち』じゃ、夏凜ちゃんと同じくらい、なんだからっ! ぜぇ、ぜぇ」

 

「おぉおおッ!? 釘宮とキリヱ!? いや、何がどうなってんだこりゃ……」

 

 後ろを振り向けば、例のカメラとスーツ双方を装備したキリヱと、弓を担いで目を見開いている釘宮の姿。両手を重ね合わせ、まるで「祈る」ようなそのキリヱのポーズから察するに「やり直し可能な仇討ち(リトライ&リベンジャーズ)」を使用したのだろうか、いやそれってそういう転送めいた機能が果たして存在したのだろうか。まだ私になにか隠していることがあるのだろうか、このキリヱ大明神は? …………考えたら彼女の周回回数からして、隠してることの方が多いか(残当)。

 

「あー、キリヱが呼び寄せたってのはわかったけど、えっと、俺に何しろって感じになったんだ?」

「えっと、ぜぇ、ぜぇ……、ちょ、ちょっと休憩させて……」

「体力つけなあきまへんわ(適当訛り)」

「う、うっさいわねッ、ハァ、はぁ……、はぁ……」

「…………僭越ながら、俺が代わろう。といっても大して長くはない。

 このキリヱちゃんが言うには――――」

「いや何でちゃん付け? ソイツ、俺達より普通に年上だぞ?」

「――――――、何、だと?」

 

 ちらり、と眼鏡を押さえながら横目でしりもちをついてるキリヱを見る釘宮。つられて私も視線を向けてしまうが、何とも見事なお子様ボディ(語弊)を前に、釘宮は思わず二度見し、私は同情の視線を送った(適当)。

 

「う、うがああああああッ! アンタら失礼でしょ普通に考えて、妙齢の美少女相手にッ!」

「妙齢は普通、美少女とか言わねぇんだよなー ……」

「あっ、コラ、止めてくれ、弁慶の泣き所を集中して蹴ろうとするのはッ」

 

 閑話休題。かんたんブリッジ(比喩)のままゲシゲシと蹴り続けるキリヱの猛攻を受けつつ、釘宮が言う所によると。まず上のダイダラボッチのごとき水無瀬小夜子と、ここで展開されただろう術式とは連携しているとのこと。そして下部のこれだけをどうにかしても、上の方で暴走なり、何がおこるか分かったものではないと。

 

「…………クッ! そ、それでさっき、妙な色であの中央の部品が光り始めたものでね。そこに狗神を撃ちこもうとしたんだが、溶けてしまった」

「溶けた? ……って、いや、いい加減許してやれってキリヱもほら……」

「アンタも同罪でしょ何他人事みたいな顔してんのよっ! この、この――――い、痛い! 何そのコートみたいなの、絶対ズルいっ! アンタ、ノーダメじゃないッ!」

 

 そもそもキリヱ大明神の必殺パンチとか必殺キック程度ならば大して攻撃には入らないのは確定的に明らかなのだが、死天化壮のもとになった「血の装束」自体がそもそも血が不定期に凝固/融解を繰り返し続けている分厚い被膜のようなものなので、内部の鉄とか炭素とかを考えてもお可愛らしい(微笑)打撃程度ならば大してダメージにはならないのだ。正直スマヌ(生温かい目)。

 

「っていうか、妖魔は根っこから湧いてくるくせに、より深い根っこのここだとそもそも分解されるのか……」

「おそらく、途中の段階で幹からあふれ出ているのだろうと推測できるけれど、とはいえこのままだと打つ手なしだ」

「普通に物理で打倒できねーの?」

「…………こう言うと変に聞こえるだろうが、『接近できない』んだ。近寄ると、それだけあっちの『吸収率』が高すぎて、純粋な物理攻撃どころじゃなくなってしまう」

「はい? んー、まぁ試してみるか」

 

 とはいえどれくらいのアレなのか? という問題もあるのだが。どれ、と試しに血風を投げ捨てるように放り投げると、途中で只の血液の塊に凝固し、その場に落ちる。

 魔力や気≒生命エネルギーを吸い上げてるのは間違いないだろうが……、とりあえず死天化壮の速度のまま直進しながら黒棒を構える。が、唐突に「血装術」が解除され、勢いを制御しきれず棺桶に頭から激突した。

 

 …………という私の「身体」を見ている自分が居ると言うことは、あーこれ、たぶん頭部がぶつかった勢いで「炸裂した」な。釘宮、無言。キリヱは「ぎゃーッ!」と汚い(語弊)悲鳴。

 

「だ、か、ら! 魔法が使えなくなるって言ってるでしょ! 何で普通に魔法みたいなの使ったまま直進しちゃうわけ、自殺志願者か何か!? もっと慎重に行動しなさいよっ!」

 

 歴代のガバの数々を思えば、耳に痛い話である(血涙)。言い訳するなら私も慌てているのだ。まあとはいえ簡単に即死してしまった側の言い分としてはいくら何でもあんまりではあるか……。

 

「あー、成程な? 釘宮の場合は狗族の血とかもあるから、普通に接近しただけで危ないとかか。……うん、これ棺が鉄製なのが嫌らしいな。木製とかならまだ無理やりぶっ壊せそうなものを……。」

「だからノープランで壊しちゃったらまずいでしょッ!!?」

 

 そう言われたところで、こちらとしてもどうしようもないのだが……、とりあえずあっちで伸びている身体を引っ張ってきてる釘宮と、再生しかかってる頭を抱えているキリヱ大明神にはとりあえず感謝だが。

 

「いや、真面目にどうしよう……? 上の方は今、たぶん俺の妹チャンが止めてるから、もうしばらくは大丈夫だろうけれど」

「妹?」「近衛勇魚ではなく、かい?」

「あー、まぁ家庭環境が複雑なんだと思ってくれ」

「何なの、アンタまた妹増えたわけ? あっ! それとも九郎丸とかが言ってたカトラスちゃん?」

「いや何でそっちの方から知ってるんだよお前さん……。って、そうじゃなくて。

 どっちかというと、こっちにもう一人凄い強い魔法使いが向かってるって感じ」

「表現が雑ね……って、ちょっと待ちなさい? それってさっき、こっちのイヌメガネが言ってた、えっちなお姉さんとかじゃないでしょーね!」

「へ? あ、あー、いや、そもそもそういう次元じゃねぇっていうか……」

「嘘おっしゃい! 本当のこと言いなさいよ、何、人が徹夜して最短ぶち抜き地下貫通ルートをせっせと考えてた時に、敵といちゃいちゃしてんのよ! どういう了見ッ!?」

「犬眼鏡…………」

 

 謎の圧を見せて私の襟をつかんでくるキリヱや、呼び名に硬直する釘宮はともかく。

 このままだとジリ貧というか、対策の立てようがない……、というかセオリー的には相手の言ってる情報から攻略法を類推したりも出来なくはないだろうが、肝心のディーヴァがほとんどロクな情報をしゃべらないし……。痴女のくせに有能とかお前ホント何なんだお前(マジギレ)。あるいは情報を雪姫など外部から得ようにも、通信機の類は近すぎるせいか完全に圏外ときている。

 どうしたものか、と頭を悩ませる私たちだったが。

 

 

 

『――――えっと、これで通じるのかな? 刀太君』

「はい? 九郎丸か」

 

 

 

 仮契約(ネオパクティオー)カード経由で飛んできた念話に。

 続く九郎丸のもたらした情報に、色々と衝撃を受けた。

 

 

 

 

 




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ST104.死を祓え!:身体だけ

※ちょっとグロ注意? です


ST104.Memento Mori:Only Body

 

 

 

 

 

「えっと、これで通じるのかな? 刀太君」

『……はい? 九郎丸か。お前、戦闘終わったのか?』

 

 確か祖母ちゃんたちと斬り合っていたとか思うけれど、と言う彼の言葉に、僕は少しだけほっとした。良かった、少なくとも通信はつながった……、まだ大丈夫、刀太君は生きている。

 現在、僕と夏凜先輩は屋根の上を走りながら「変貌した」ダイダラボッチへと向かっている所。眼下、歩道にあふれる妖魔たちも微妙に活動を停止しているように見える、今の内だと走っていた。

 

「繋がったのですか? 九郎丸。でしたら状況の確認をまず急いで……、っ、このっ!」

 

 とはいえそれでも、妖魔の数が多すぎる。下からこちらにあふれて来るのを数体、夏凜先輩が蹴散らして僕の分の道を確保してくれている。お陰でこちらも念話に集中できるので、彼女に頭を少し下げた。

 刀太君に確認すると、あっちも良い状態じゃないみたいだ。……まあその、わかってはいたんだけど、あのダイダラボッチをどうにかする手がないと、どうしようもないらしい。

 

「って、それはそうとあの結界みたいなのって、刀太君、心当たりとかない? 場合によっては大変なことになりそうなんだけど」

『大変なこと?』

「うん。

 えっと、例えば帆乃香ちゃんの『ククリメノサカキ』、だっけ? あの魔法無効化結界。ああいったものなら別だけど、それが魔力をせき止めるタイプだと、あの規模相手にすると危険っていうか。

 本来なら循環する魔力を中途半端に押しとどめたりすると、えっと…………、何て言ったらいいかな? ダムって表現するとわかりやすいかな」

『ダム、ダム……って、普通に水源とかの?』

「うん」

 

 例えるなら、それはダムのようなもの。何かしらの儀式で通るはずの魔力、エネルギー、水流を、無理やりせき止めている状態。それが、ダムの上限に到達しない範囲でなら問題はないと思う。だけれど、あの状態は違う。仮にも「神霊」クラスか、それに匹敵するレベルで集中してる魔力量。立ち上がったあの姿を見た瞬間、これはそのまま残しては拙いと判断できるくらいには、僕も「生物としての本能」として恐怖を揺り起こされた。

 

「刀太君の話とか、あの水無瀬小夜子のビデオとかを踏まえると……、一番ありそうなのは、そのまま魔力が爆発して辺り一帯に何も残らなくなるってこと」

『ヤベェ……』

「あはは、うん、ヤバいね。そして、もう一つ。こっちの可能性もある。

 ――――それだけの『溜まりに溜まった』魔力が一気に流れて、それを取り込むことで。全く未知の存在へと変貌してしまう可能性だ」

 

 それこそ、水無瀬小夜子が「辛うじて」自分の意識を留められているのに対して。流れ込んでくる膨大な妖魔の魔力と、彼女自身の内側で暴れているだろう数多の怨霊を思えば。そうなった果てに、果たして三太君が助けたがっている彼女が残るのかどうか―――――。

 

『今はダイダラボッチかもしれねーけど、それこそ何か分体でもした大量のゾンビ群とか、そんなもんになっちまう可能性もあるわけ、か? さっきディーヴァが言ってたのからして』

「ディーヴァ……?」

『あー、一応今回の敵っていうか、そんな感じのの一人な。あんまり情報話さなかったけど、どーもこっちを絶望させるって目的で教えようとしてた部分の一つに、それっぽい話があった』

「そ、そうなんだ……」

 

 なんでだろう、少し変な感じでソワソワするけれど……。なんとなく、刀太君の感じが近い? 印象だからかな。

 そうこう話しているうちに、見えてきた――――巨大な少女のシルエットが崩壊している、それを覆う暗色の結界のようなもの。その手前、空中で交わされる剣戟。

 

「これは……、ちょっとまずいねぇ。九郎丸ちゃんと同じ流派でしかも――――」

「――――神鳴流奥義・斬鉄閃!」

「うわ~ん、メカ殺し止めて欲しいなぁ!」

 

 言いながら、一空先輩は刹那さん相手にギリギリ切り結べている。既に足や背中のバーニアが一部破損していたりするけれど、それでも腕やそこに付随して肘から表出している一対の刃は、傷一つ無いように見える。刹那さんも手を抜いている訳ではないみたいだから、一空先輩の技量が意外と高いのか、あるいは素材自体が普通の金属とかではないのか。

 あっ、向こうがこっちに気付いて、肩から生やしたマシンガンで煙幕を張って撤退した。僕や夏凜先輩のもとに急いでくる一空先輩。

 一方、刹那さんも地上で「せっちゃん、気張って~!」って応援してた木乃香さんの方に戻っていった。

 

「やはり一筋縄ではいかなそうですね。……流石に刀太の祖母ということもあるのでしょうが」

「やぁ、丁度良い所に来たね二人とも……、って、お? 九郎丸ちゃん、それはひょっとして刀太君と通信してたりする?」

「あ、はい。確かにやってますけど」

「だったらちょっと伝言頼めるかな」

 

 

 

 ――――三太君、さっき「あの結界」が張られる直前に、胸の亀裂に目掛けて「侵入して」さ。そこから全く動きが見られないんだよね。

 

 

 

 その言葉を刀太君に伝えながら、僕も夏凜先輩も、そろって巨大な人型のそのシルエットを二度見した。

 

 一方で、刹那さんたちも結界を見上げながら、何か会話をしている。

 

「――――ってディーヴァはんも言っとったけど、これ、絶対『ネギくん』詳細知らない状態でゴーサイン出した思うわ。もっと細かく知っとったら、流石にOK出さへんってこんな『順々に』やってくタイプの計画書。こーゆーんは一気にやらんと意味ないって言っとるし」

「いえ、とはいえ今の『ネギ先生』は……」

「せやかて、あんまそーゆーんは好きやないやん? ヨルダはんは知らんけれど、『千雨ちゃん』もおるわけやし」

 

 聞き慣れない名前が飛び交う、けれど――――明らかに、聞こえてはいけない名前が聞こえている気がする。ネギ君、ネギ先生? それは一体、なんでその名前を……? 刀太君のお祖父様の名前、彼の祖母にあたる人なら知っているのは不思議ではないかもしれないけれど。明らかにそれ以上に不可思議というか。

 まるで「つい最近も」話したことがあるようなその言いぶり――――。

 

「…………先ほどからずっと、それこそ顔を見た時から気になっていたことがあるのですが」

 

 と、夏凜先輩が一歩前に出て、腕を組む。どうやら夏凜先輩も僕と似たような疑問を抱いたのか。あるいはあの結界の内にある存在についての確認だろうか。

 きっと真面目な顔をして、木乃香さんと刹那さんを見る夏凜先輩。刹那さんは少し驚いたように、木乃香さんは「お、なんや?」とニコニコしていた。

 

「あー、でもウチらも『コレ』についてはそんな詳しくないんよ。何かあったらストップかかるとは思うけど、あんま教えられへんし――――」

「いえ、そこはどうでも良いのです」

「「えっ?」」

「おや?」

 

 僕と刹那さんのリアクションが重なり、一空先輩が突然苦笑いを浮かべ。

 

 

 

「――――――――刀太や帆乃香ちゃん達の祖母だというのでしたら、顔立ちなどから逆算するに。あなた達は、ひょっとしてお互い親戚同士で結婚したとかではなく、同性婚だったりするのでしょうか? あっ、いえ、むしろそう『ならば』尊敬しかないのですが。結局、雪姫様相手にそういうモーションも成就をせずここまで来ましたから、羨ましさこそありますが」

 

 

 

 …………。

 

 せ、刹那さんも木乃香さんも目を真ん丸にして、ちょっと頬を赤くして固まってしまった。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 こんなタイミングでCPL(クレイジーサイコレズ)発揮して無能先輩やってんじゃねーよCPL(夏凜)よお前、ちょっとTPOお前一体何がどうしてそんな発言に思い至りやがった完全に今ディーヴァに追いつかれる前にどうしたものかって思考が真っ白になって彼方へ飛び立ってしまったじゃないかどうしてくれるッ!(大憤慨)

 

 キリヱが「ど、どしたのよ……?」と心配してくるが、なんというか久々にホント久々なものを変なタイミングで見せられてしまったせいか要らんことを口走ってしまいそうなので、ちょっと待ってくれと手で制して深呼吸した。

 

「って、九郎丸も動揺しすぎて念話切れてるじゃねーか。どんだけだよ夏凜ちゃんさん……」

「ねぇ本当に何があったのよ…………」

「……表情から察するに、聞いても何らアドバンテージがなさそうなことなのは判る」

 

 おおむね正解な釘宮だが、頷きながらも三太と外の状況について情報共有。少なくとも今すぐの暴走の心配はないが、それとは別にここから上に吸い上げられている魔力が貯め込まれて危険なことになるかもしれないという話と。三太があの巨体の中に入り込もうとして、同時に時間停止されてしまっているだろうという話とをだ。

 

「…………状況として何一つ良い点がないのだが、どうするんだ? 近衛」

「そこなんだよなぁ……。たぶん上の結界みたいなの自体は、こっちが何か進展したら勝手に解除してくれるとは思うんだが……」

 

 せめて棺の中に何が入っているかでもわかれば、また推測なり推理なりのしようはあるのだが。場合によっては九郎丸に再度念話を送っても良いかもしれないが。すっと九郎丸の仮契約カード(オリジナル)の方を取り出すと、同時に「嫌な感覚」が足元から――――。

 

「釘宮!」

「ッ!」

「え? え? 何ちょっと――――」

 

 とっさにキリヱをかかえ空中に避難。天井すれすれの位置まで後退する。彼も私に合わせて足元に狗神をまとい上昇したが、それとほぼ同時に地面全体が「水浸しになった」。まぁあれくらい遊んでいれば(?)流石に追いつかれるかという話ではあるが、ご丁寧に水浸しにしてくるのは上の方から魔法で一気に流し込んでると考えるべきか。

 

「…………や、やっと追いつきました、ふぅ」

 

 どちらにせよ、水の中から出て来る「人魚を模した」下半身アーマーを装着したディーヴァの姿に、キリヱは謎の驚愕を浮かべた。

 

「お、お姉さんじゃない……!? って、何そのスケスケのコートみたいなの、コイツとお揃い! 何それ、止めなさいよッ! 無駄にエロいじゃない私と同い年くらいの外見のくせに!」

「同い年……?」「ハハ……」

「そこの二人、文句があるなら受けて立つわよッ!」

「……?」

「そっちも何そのきょとんとした幼児みたいなカワイイ表情ッ! どういう感情の発露なのヨ!」

「あっお前さんの基準でも可愛い判定なんだな……」

「私は一体何を怒られてるのだろう……、犬上小太郎の孫は何か知らないかな?」

「触らぬ神に何とやら、という言葉があるらしい」

「?」

 

 意味はわかっているだろうに何を指し示されているか判っていない顔のきょとんとしたディーヴァはこう、何と言うか…………、もうちょっと情操教育頑張って? デュナミスでもネギぼーずでもいいけど(白目)。

 

 というより、それはそうと棺桶の間近にいるにも関わらず、彼女は魔法を制限されていないように見えるのだが。

 

「しかし、まさかこんな場所にも来られるとは思ってなかった、かな? いきなり目の前から消えたからどうなるかと思ったけど…………、仕方ないか」

 

 言いながらディーヴァは、立てられた鉄の棺桶に手をやる。と、その蓋の要所要所から蒸気が漏れ、ガタンと地面に落ちた。

 

 

 

 ――――その中に入っていたものを見て、私は、この場に三太がいないことを心底感謝した。

 

 

 

「…………ッ!」

 

 胃のあたりを押さえる釘宮。

 

「なに、よ、それ…………」

 

 目を見開き、顔を青くし、私の腕の中で震え出すキリヱ。

  

「…………なるほどな。それを触媒にしてるんなら、確かに『水無瀬小夜子』にとっちゃ、特効と言っても過言じゃねーか」

 

 

 

 そこにあったのは、少女「だった」何かだった。

 

 

 

 首に痣。目は閉じられており、クリスチャン系の葬儀を受けたと思われるそれだったが。だが明らかに、その四肢やら何やら、肌の色やら乾燥具合やらが説明のつかない状態で。

 

「何と言うか、つくづく惨いことが出来るもの、だよね。人間って。そういう意味でも興味深い。……お察しかどうかは知らないけど、水無瀬小夜子の『遺体』、だよ。発見時、既に半分『ミイラ化(こう)』なっていたらしいから、ほとんど当時から劣化せず残っているらしい」

 

 情緒が無垢すぎるせいなのか、「それ」を見ても感想が酷く他人事……、というよりも、どこか他所の世界の出来事を野次馬しているような、そんな遠い距離感のあるディーヴァの声。それも遠く聞こえるほどに、水無瀬小夜子の遺体の状態は、見る相手である我々にとって良くないものだった。

 

 なるほど。どういう手段を使ったのかは判らない。だが春日美空の話を踏まえて、生きながら「そう」されてしまったのだとするならば。その上でわざわざ意味もなく、トイレで首を吊ったように偽装されて自殺したのだとされてしまったのならば。

 怨霊としての誕生当時、彼女がどれだけの激情を抱えていたかなど、想像するに難くはない。想像できるものではないことが、一目でわかるほどに。それは見ていて、過程が想像できるからこそ、痛々しかった。わずかに、私の胸元から血流が噴く。……どうやら少し動揺しすぎたらしい。

 

 ディーヴァはそんな遺体の胸の中央、変形した両手で握られるように合わされた形で握られている「勾玉」のような何か。それを優し気な手つきでとり、先ほどまでの遺体同様に両手で握り、祈るような体勢になった。

 

「……そっちからはもう、攻めては来ねーみたいだな」

「少なくともこの場では、君たちは接近することすら出来ないだろうし。状況を知っても、対策を練れない程度にはデュナミスも色々と策を講じたからね。……流石に制御用の仕掛け自体を『脱がされる』とは思っていなかったみたいだけれど」

「さっきより饒舌になったってことは、もうこっちに打つ手がないだろうってことか」

「そう、だね? あとは時間稼ぎの意味もある。個体名『刀太君』、君だって私から情報を取集したいと思っているようだし、これ以上下手なことをされないよう足止めするのに問題はないはずだ」

 

 スリーサイズは測ってないから教えられないけど、などと戯言を言い出したものの。いまだ動揺から抜けきらないキリヱの背中をあやす様に叩き、一言。

 

「それはいいとして、棺の蓋だけでも閉めてやれって。あんまり人に見せるようなモンじゃねーだろ。本人居たら可哀想だ」

「……? そういうもの、なのかな。私は気にしないけれど……」

 

 言いながらも海天偽壮の裾が変化した水の触手のようなそれで、再度蓋を閉めるディーヴァ。こう、変な所で素直なのは若干「ネギま!」時代の敵だったころのフェイトを思わせて、少し微笑ましいが。明らかに「水無瀬小夜子」の霊体に埋め込まれただろうものと同型のそれを持っている彼女に、警戒をしない訳にはいかない。

 結局、今何をやろうとしているのか。問うてみれば、本当にこちら側から対策の打ちようがないと思っているらしく、堂々と、隠す様子もなく答えた。

 

「まぁ、簡単な話だよ。現状、水無瀬小夜子の魂魄を制御する形『だけ』で時間拘束結界を突破できない以上、外部から魔力を供給し、それを起点にして結界解除の呼び水にする必要がある。

 そのために『私を』生贄として。制御の中枢として、再度組み込むことで、この状況を改善しようって話だよ。いざというときは『そういう』サポートも含めて、デュナミスに派遣されたのだし。…………どうしたのかしら、その顔は」

「…………いや、お前さん普通に今、自分が死ぬって話をしてる訳だけど、それはいいのか? いや、こっちが心配するような話でもねーけどさ」

「まあ、特には気にしないかな? 必要があればまた『復活』させられるだろうし――――意識がある状態で永遠に近い時間拘束されるのと、何も残らず眠り続けるのと。どちらがマシかといえば、まだ後者かなと思っているけどね」

 

 それは……、いや、自我が芽生えた彼女相手にその作戦を提案するとかどうなのだろう。やはりデュナミス、所詮は中堅クラスと言えど悪の幹部か。ガバのリカバリーに計画性が足りない…………。(???「…………ハァ?」)

 

 

 

 

 




念のためですが、小夜子周りの話は本作用のものとなっていますので、原作は流石にここまで酷いアレではない・・・ハズ・・・

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ST105.死を祓え!:届かない手と手

今回もグロ注意ですナ・・・前回同様、気は遣ってぼかしてはありますが汗


ST105.Memento Mori:Please Just Gotta Get Right Out Here Takeing Me

 

 

 

 

 

 見える、視える、観える――――。

 今の私は天体を覆う大空のよう、重力に囚われない大きなナニか。

 

 私の身体が「時間的に」拘束されているのはわかるけど、その意識までもが拘束できるかと言えば話は別で。

 

 既に私の意識は、私の「変貌した」身体に囚われない、もっと広く、もっと偏在したものになりつつあった。

 

 ちらりと、そんな私を「観測して」微笑むコノエモンさん。どうやら前に言った通り、あの人は徹底的に見学に徹するつもりらしい。

 

 三太君はどこにと思って探してみると、私の身体「であるはずの」巨大なバケモノ、その胸の亀裂から侵入して、自我が希薄になってしまってるみたい。

 私が今の状況だから、三太君さえ我を取り戻したなら、ひさびさにちゃんとお話しできそうなんだけどね。

 

 でも何と言うか、皆、たくましいよね。

 

「プラク・テ・ビギナル――――、よっと!」

「魔法の射手・炎の一矢!」

「クソッ! 先生たちは一体どこで何を――」

「ミヒール様いけません、それは死亡フラグです先生の! そんなことをうっかり言う事で先生を間接的に殺しています、だからあれほど普段から言動には注意してくださいとミヒ――――」

「アードーリーフッ! お前が一番口元をしっかりしろといつも言っているではないかッ!」

「赤き焔!」

風楯(デフレクシオ)ッス! あーもう、何でこんなことにいぃぃぃ、週末せっかくデートだってのにッ! このへちょむくれ達はッ!」

「マコト、泣き言わないっ! 一般市民を守るのはエリートたる我々の役目ですもの!」

「お姉様はりきってますねぇ、でも私たちクラスじゃ魔力に限界が…………、そういえば近衛姉妹はどちらに?」

「なんか、学校の偉い人に連れていかれたッスよ! 『必要かと思いまして』とか言われて!」

「あの子たちも色々謎が多いですわね……」

 

 裏魔法委員会の子たちが集まっていないのに、一般生徒の魔法使いたちも必死に頑張ってる。橋の上に追い詰められて、逃げてる途中だけど、ギリギリ踏ん張れているのを見ると今の学園の教育体制も、あながち全てが間違いってことじゃないのかな?

 でも、そんなことは関係ない。

 

 いくら絵面が可愛くても、妖魔の群れは数が多ければ多い程、そのうちより巨大な力を持ったものが生まれる、らしい。今の状況、「私」がもしこの結界に囚われて居なかったら、それはもっと加速して酷いことになっていたと思う。

 そして下流や橋の反対側からも、小さい、可愛いのとそうでないのが入り混じった妖魔の群団が、色々な鳴き声を上げて生徒たちを襲おうとして――――。

 

「――――――――」

 

 そこに、三太君が現れた。

 あれ? どうして?

 

 腕を斬られた女子生徒を庇うように、三太君が念力でそれを引きはがして距離を取らせる。そこに魔法を撃ちこむ他の生徒たち。

 

 気が付くと、「私」を拘束していた結界が少しだけ剥がれ、頭部がその圏内から伸びていった――――枝葉のような頭部から「落ちていく」何かは、まるでそれが人の形を模すように、それでいて屍であるというのがよくわかるような風体に「成形されていく」。

 私とデュナミス先生、そして「あの人」と一緒に作った、ゾンビ化魔術ウィルス。そのプロトタイプ、ひな形がそのまま「妖魔化した」存在が、幼体の妖魔たちに感染していく――――。

 

 顔が見える。妖魔たちの存在を喰らい、私の内に「宿っていた」怒りや、悲しみや、憤りや、憎しみや、忘れ去られたそういった人たちの声が、形になっていく。

 

「ひ、ヒィイイイイッ! 何だこれ、突然連中が――――」

「ひるむな! 撃てー!」

 

 でも。

 でも、嗚呼、それはなまじ人の姿をとれないからこそ、何も、どこにも届かない。

 

 届かないからこそ、その霊体を取り込んで、自分たちと一緒にしようとしている――――物理的なウィルスについては私が回収したから、魂魄に影響するウィルスのみ残っているからこその、それは、純粋な本能。

 

 喰らい、奪い、増えろという、シンプルな命令。

 

 噛まれた生徒や、一般人が。気を失い、抜け出た魂魄に妖魔の肉が付く。

 

 肉体だけ残るゾンビを大量生産しているような、そんな光景――――。三太君は驚きながらも、そんなゾンビ妖魔を念力でまとめて、いっぱいの衝撃波で殴りつけて蹴散らしていた。

 

「死んではいない、のか……? いや、どっちにしろ万事オールオッケーってはならねーか。

 相手になるぜ、お前ら! 『同じ負け組』のよしみだ――――」

 

 実際問題、ゾンビ妖魔相手に三太君は無類の強さを誇る。そもそも物理的な攻撃手段しか持たないあの妖魔たちは、念力による遠距離攻撃が可能な三太君相手には手足も出せないんだ。

 だから、少し無茶して、海上の船だったり橋の車だったりをバリケードにするくらいも訳はないのであって。

 

「オイ、誰か! アレに魔法結界でも張っておけ! そうすりゃしばらく時間稼げンだろ!」

「だ、誰だか知らないが恩に着る! 結界アプリ起動――――火ッ!」

「お、お姉様……ッ」

「しっかりなさい、菜緒! シュバルト・ブラント・ニルヴァーナ――――」

 

 それをされたら、人型に再構成された妖魔たちは、それを超えるだけの能力がない。物理的に接触できない、球形のドームなんて、彼らからしたらどうしようもないものだから。

 でも、それも時間の問題。あまり置くと、そのまま「羽が生えたり」するヘンな進化をしちゃうかもしれない。

 

 でも、凄い、凄い! 三太君が、三太君が前に出て、戦ってる。

 あれだけもう自分以外の事には目を向けない、私と同じだっただけの男の子が。

 

 そんなことを抑え込んで、色々と思う所もあるのに、頑張って善戦してる――――。

 

 だけど、悲しいかな。

 

 

 

『アルエル・ファルエル・ベルベット――――』

 

 

 

 私の意志に反して、「今の私」のうちの核たる私の身体は、呪文を唱え始める。

 

影の地を統ぶる者(ローコス・ウンブラエ・レーグナンス・)スカサハより(スカータク・) 我が手に授けん(インマヌム・メアムデット・)三十の棘もつ(ヤクルムダエモニウム・クム・)愛しき槍を(スピーニス・トリーキンタ)――――。

 ――――雷の投擲(ヤクラーティオ・フルゴーリス)

 

 その程度の防御結界ならば今の私の百分の一以下でどうとでも出来る。

 それがわかっているからこそ、今の私を突き上げている「それら」は、私の口から呪文を走らせ――――。

 

 

 

「――――させるか、よッ! この――――!」

 

 

 

 避難してる人たちの入る場所とは「別に現れた」、三太君がその投擲魔法を「発射される前から」、念力の壁を使って散らした。

 

 どういう、こと? 三太君の「自我は一つ」、だから分体なんてそう簡単に造れるわけはないのに。でも、そうでもないと説明がつかないのは――――。

 

 

「……そりゃ、お前を使ってるから、な」

『――――――――さ、三太、君?』

 

 

 

 私の視界の近くにはどこにもいないけれど。それでも、私のすぐ近くで、三太君の声が聞こえた。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 つまり総合すると、デュナミスは既に学園にいないということか……?

 例えば悪魔というか「魔族」らしい特性として、悪魔召喚か何かのような儀式でこちらに呼ばれた状態で活動し。何かしら条件が重なった際に、強制的に召還され、元のアジトなどに帰る算段になっていたと。

 私の疑問に肯定も否定もせず、ディーヴァは肩をすくめるばかり。つまりこの情報は、時間稼ぎとはいえ与えると危険な部類に相当すると考えている――――少なからず、デュナミスが突然消えたカラクリは、あちらにとっても知られたくない情報の類と言う事だろう。

 

 それはつまり、現時点において「ネット風邪」ウィルスに対する対策手段が半分以上失われてしまったということであり――――。

 

「と、刀太? どしたのよ、大丈夫?」

「…………ま、まぁ、ままならねぇなって」

「何が?」

 

 気遣ってくるキリヱに苦笑いを向ける他に、私に出来ることはなかった。

 

 ディーヴァはそんなこちらなど特に気にした様子もなく、両手を合わせたままじっとこちらを見続ける。何か変なモーションをされても対応できるようにということなのだろうが、何と言うか本当に隙が無い。一度負けたことを最大限に活かしてるとは本人の弁なのだろうが、それにしたってもう少しくらいは抜けを作って欲しい(無茶)。

 そんな彼女に向けて、釘宮が口を開く。

 

「………………私見、というより直感に近いが、止めておいた方が良いのではないかな。その儀式」

「? 犬上小太郎の孫、どういうことだろうか」

 

 首をかしげるディーヴァに、釘宮は弓をいつでも構えられるよう手に握りながら続ける。

 

「外部から数多の妖魔を使って制御する、というところまではあながち的外れではなかったろう。見た限り『蟲毒』のような形で、事故多発スポットとかにありがちな『怨嗟が怨嗟を呼ぶ』形での成立背景を持っていると見た。それを御するのに、最低ランクの妖魔を使役させるところから始めると言うのは、手法としてはギリギリ間違ってはいない。

 だが――――直接その魂魄に接触するのは、危険極まりないと思う」

「直接……?」

「どういうこと?」

「…………つまり、神様舐めすぎじゃねーかってことか? 釘宮」

 

 私の推測に、首肯する釘宮。それは、なまじ狗()と呼ばれる、神と呼ばれる精霊を直接操っているからこその弁なのだろうか。肩をすくめる彼に、ディーヴァは無表情ながら急かす様に視線を向ける。……興味津々という印象まではいかないが、本当にこう、赤ちゃんとかが絵本を読んで読んでと催促するイメージが思い浮かぶのは私の心が疲れているからだろうか(寂寞)。

 

「この狗神ですら、僕らに流れる血筋があって初めて力を『貸してくれている』。あくまで『貸してくれている』、というのがポイントだ。決して支配したりとか、そういうことが出来る存在じゃないんだ、神って言うのは。昔の人は、だからこそ恐れ奉り、持ちつ持たれつやってきたんじゃないかって思う」

「神というより精霊だと思ったけれど、君が使っているそれは」

「だからこそ、だ。……俺のコイツら以上に、君が今使おうとしているそれは、こっちの意図や意識なんて汲んでくれやしないと、思う。

 ――――その棺をきみが開けたときから、さっきから、ずっと鳥肌が止まらない。一言で言えば、僕は、その棺に『繋がっている何か』が、恐ろしい」

 

 言われてみれば、弓を握る釘宮の掌からは汗がしたたり落ちている。どちらかと言えば上よりも下であるこっちの方がまだ安全だと判断したからこそ来たのだろうが、だからこそ「地下越しに」見てしまった地上のそれの存在感に、獣の本能なのだろうか全力でおびえているのかもしれない。

 情けない、とかそんなことは言わない。人間、誰だって得手不得手があるし、自分にできることをその時々でするものなのだ。

 それにコイツ自身、それが本当に許されない局面であるなら、震えながらでも弓を射るくらいはちゃんとするような、そんな奴な気はしているし。

 

「…………忠告なのか、こちらの判断を迷わそうとしているのか。

 まぁ、どちらにせよ問題はないよ。私はそもそも純正な人間ではないから、そういった類の――――――――あれ?」

 

 いいながら、ふとディーヴァの海天偽壮が「溶ける」。のみならず、アーティファクトも姿を消す。

 

 途端、全身に悪寒が走る――――普段全身に感じている嫌な感覚が、それこそ四方八方逃げ場なく敷き詰められているような、そんな感覚。咄嗟に釘宮の側まで移動し、血装術で結界というか血の半透明ドームのようなものを生成して張る(死天化壮する時たまに展開してるアレ)。

 釘宮たちが何かを言う前に、それは、起こった。

 

「えっ?」

 

 ディーヴァの右腕が「壊死した」。

 伏線も何もなく、唐突に腕が半壊。黒ずんだ皮膚は土くれのように変わり、その場に落下。何が起きたか理解していない顔をしている彼女は、そのまま「続けて壊死した両足」により支えを失い、その場に倒れ込んだ。

 

「えっ、ちょっと…………ッ、待ってください、生贄って言うから普通に死ぬものだと――――ッ!」

 

 壊死した腕が、その肉だったものが形を変える。まるでそう、以前見たあのゾンビのような妖魔とでも言えば良いか、そんな形へと変貌する。

 砕けた身体、その全てが質量保存の法則を無視する勢いで変化していくのを、ディーヴァは首だけになるまま驚愕して見ており――――。

 

「済まない、少し……」

 

 釘宮が顔をそむけるほどに、それは酷い「解体」だった。

 

「や、止めて――――――なんで『感覚が残ってる』のですか……ッ! 嫌、すんなり消えるならいいけど、そんな、『私』が『私』じゃなくなるのを、ずっと、自分で感じ続けるとか、アレより酷い――――――――」

 

 無表情が壊れた。丁寧語になり、視線を宙に漂わせ、口で何かを言うしかなくなっている状態のディーヴァだったが。

 その目が全力で訴えている。助けてくれと。だが、そうもいかない。――――今、この場には「目に見えない」何かが蠢いている。その嫌な感覚がある。いざ血装術を解除でもすれば、私たちとて同じ目に遭うだろう。

 

 同情はする。同情はできる。原作「ネギま!」を知っているからこそ、敵だとは言え微妙な親近感めいたものも無い訳ではない。だからといって、今、キリヱたちを捨て置いてまで、それを可能とするかどうかは、別問題だ。

 だから――――手を差し伸べることが、出来ない。 

 

 そのことに、私は言い訳を一切しない。

 一切、できない。

 

「―――――――――、……」

 

 私の意志を感じ取った訳ではないだろう。表情はただ、状況を睨むようなままのはずだ。だが彼女は、少しだけ微笑んで。そして、ゾンビの妖魔が彼女の頭に「むらがり」――――。

 

 どれくらいの時間そのまま居ただろうか。ばちんと、何かが破裂するような音――――それと同時に、嫌な予感自体は消え去り、鉄の棺桶が横倒しに倒れた。

 血装術のドームを解除し、キリヱを地面に下ろす。釘宮もそれにならって降り、当然のように弓を構える。

 

「…………刀太、アンタ……」

「どうした?」

「…………なんでもないけど、でもさ」

 

 キリヱの言葉を聞きながら、背後に向けて黒棒を振る――――会話することこそ本人が言ってた通りに出来はしないが、それでも、条件反射のように気が付いたら腕が動いていた。

 

 血風創天。

 

 一撃で斬り散らかされる、ディーヴァの破片から再構成されたゾンビ妖魔。と、倒れても起き上がる連中を前に、釘宮も狗神を射た。

 

「犬上流獣奏術・狗音ノ風(くおんストーム)――――」

「…………」

 

 キリヱを背にかばうよう立ち、私は再び腕を振るった。

 やはり構成が魔法に依存しているのだろうか、斬り散らされた妖魔たちは、それ以上復活したり襲い掛かってきたりはしなかった。おおよそ五十体程度のそれらを見ながら、釘宮に何が起こったのか聞くと。彼も胃の辺りを押さえながら、嫌そうに答えた。

 

「…………おそらく、逆流したんだろう。あのダイダラボッチを構成していた怨霊の数々が、制御のための生贄として出されていた遺体からとられた、そこの勾玉を起点に」

「……やっぱよく判らんな」

 

 感傷に浸っている場合ではない。だが、棺桶が倒れて「魔法陣が消えてしまっている」以上、もはやあのダイダラボッチの制御に、ここから魔法的に干渉しているものはないのだろう。知らず、握った拳が震える。

 別に顔見知りだったとか、そういう理由はないが。理由はないのだが、それでも一度顔を合わせたら、デュナミスを殴らないといけないと。なんとなく、そう思い上を見上げ――――。

 

 

 

「――――そう悲しい顔をしていると、身近な女の子たちも寂しい思いをしますよ? 近衛刀太」

「くっ……、ここは……?」

「ど、どうも~、……って、お兄さま、どうしたん!?」

 

 

 

 もはや何度目か、何ら脈絡なく「シルクハットにタキシード」姿をした「ネギま!」でおなじみザジ・レイニーデイが、制服姿の帆乃香と勇魚をどこからともなく「取り出して」現れた。

 

 ……いや、だからこれっぽいイベントって原作的にあと6巻は先……、もういいかな(自棄)。

 

 

 

 

 




※退場じゃないですby6
 
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ST106.死を祓え!:無警戒情報爆弾

ギリギリ深夜回避・・・?
 
今回も例によって、独自解釈「大」注意ですナ


ST106.Memento Mori:Black And White Lines

 

 

 

 

 

 ザジ・レイニーデイという彼女について「ネギま!」抜きで語ることが出来る訳は当然ないのだが、だからといってその肝心の「ネギま!」ですらどれくらい語られているかと言うと中々謎な少女……、少女? まぁ少女なのである。ご存じネギぼーずが担当した2-A→3-Aのクラスメイトにして、いまいち誰と仲が良いか不明だったりする。一般生徒で言えば委員長だったか、あと千雨(ちうさま)相手には多少は日常のやりとりがあったかもしれないと想像する程度か。サーカスのクラブに所属しているという情報と、営業スマイルくらいは出来るということ、またほとんどしゃべらないということ程度しか把握されていない読者も一定数いるだろうが、それはあくまで原作前半、学園編においてだ。魔法世界編たる原作後編、さらにその後半において、しれっと彼女はその正体を現す。まあ諸々省いて言ってしまえば裏金星人=魔人、魔族と呼ばれる存在の、それも王女様クラスのお人だったりするのだ。どういうわけか現実世界の麻帆良学園で中学時代を過ごしたりと言ったことをしていた訳だが、それとて後々の描写を鑑みるにどこまでが彼女たち「魔族視点での」仕込みだったのやら、と思わせられるところがある。

 つまりは、有体に言って凄い強いし、エヴァちゃん程では無いがわりと何でもありなお人なのだ(偏見)。

 

 …………ちなみにその目立たなさからキャラクターの扱い方に各方面のスタッフが四苦八苦し、セリフらしいセリフがない(ゲーム)、最終回以外でしゃべらない(一期(火葬))、キャラ付けがおかしい(特に「ネギま!?」)、姉が彼女を騙って出て来ても当初本人だとほぼ誰にも悟られない(原作)といった、文化祭編以降の描写がない春日美空レベルでの扱いを受けて居たりもしたが(メタ)、そんなことはともかく。

 

 現在、例の儀式が破壊されただろう地下空間において。原作「ネギま!」におけるちょっとエッチなピエロ悪魔さんな衣装(どうも魔族としての正装?)ではなく、手品師なのかヴァンパイアモチーフなのかタキシード風の恰好でシルクハットを構える姿は、何と言うか非常に「ネギま!?」を思い出させられるものがあった。

 ていうか絶対ネオパクしてるだろ相手誰だよ(マジレス)。やっぱネギ先生なのか? ネギ先生なのか……? いったいいつ頃からあったんですかねこの世界におけるネオパクティオー(震え声)。ひょっとして「ネギま!?」ベースの世界とか言われるのが一番怖いというかガバいので、それだけはないと信じたい。あっちと違って下のシャツに該当する服が袖以外は存在していないようだし(謎露出)。

 

 ともかく、話を聞き終わって早々にザジはディーヴァが「消滅させられた」、白い血の飛び散った中心部、赤い勾玉を拾い上げた。

 

「ではこの勾玉を使用し、貴方の精神を彼女の下まで飛ばしましょう」

 

 おそらくは取り込まれてはいるのでしょうから、と言われても、私としてはコメントが出てこなかった。というか、本当に彼女にとっては敵判定なのか、情けのなの字も存在しないあたりは、流石に人間ではなく魔人といったところなのか。クラスメイトに対する情はあれど、それ以外に関しては下手すると龍宮隊長よりもシビアな判定なのかもしれない。

 まあ、それでも私に元気がないことは承知しているのか、少し背伸びをして頭を撫でて来る謎挙動があったりなかったり……って、チョットマテ。

 

「な、何なんスかね? その微妙に優しい感じの目は」

「いえいえ。事情不明でも落ち込んでいるのは判りますが、私たちの孫的存在相手ですので」

「茶々丸さんもそんなこと言ってたわね……? えっと、貴女って――――」

「ザジ・レイニーデイです。『夜明けの』、とつけた方が姉と混同しないで済みそうですが、詳しくは雪姫さんにでも聞いてください」

 

 にこりと目が笑っていないアルカイックな営業スマイルをキリヱや釘宮、および私たちに向けたザジ。ちなみに帆乃香は「なんか大変なん? こう、ぎゅーってしたら悲しくなくなるえ!」とか言い出し勇魚共々腰に抱き着いてキリヱに謎絶叫されていたりするが、まあそれは大したことではない(諦観)。まぁ妹ちゃんだし、甘えたいときもあるだろう。

 

「というより、何でコイツらを?」

「そちらの近衛帆乃香は、一応は封印術師として『そこそこ』見られるレベルの術師です。木乃香さんがかつて行った『西洋魔術と東洋魔術の合一』という偉業、その一端を引き継いでいらっしゃいますので、今回の案件には適任かと」

「いや、だからさぁ……、その、何でもかんでもこっちが知ってるものと思って会話すんの止めてくれないッスかね? その名前は、雪姫の愚連隊とか言ってたので聞き覚えがあるッスけど」

 

 キリヱが「あー、そういえば」と頷いた後、目を見開いてザジの全身を二度見した。どう見ても語られた年齢相応な姿をしていない以上、彼女もまた不死者かそれに該当する何某かなのだと思ったのだろうが、それにしてはそういった凄みのようなものを感じなかったのだろう。おそらくこの格好すら擬態にすぎないので、間違ってはいない感想なのだろうが。

 

 当人たるザジはそんなキリヱに、一度目元も含めた愛想笑いの様な微笑みを向けてから、空を見上げた。

 

「…………現在、地上のダイダラボッチは、全盛期のリョウメンスクナノカミに匹敵するレベルとなっているでしょう。封印解除にともない『神代の』魔力を継承したならば、かの神はやはり人が操れる存在ではなく、ジャックラカンを十人程度は連れてくる必要はあるでしょう」

「ジャック・ラカン? えっと、人名?」

「有体に言うと、条件さえそろえば雪姫さんよりも凄い強い人ですね」

「…………」

 

 釘宮は祖父伝手で知っているのか顔をそむけるが、まぁいわゆる一つのチートキャラというかバグキャラの類のオッサンだ。なんでもかんでも大概は「気合」でなんとかして、変なポーズから変なビームを放ったりもする(しかも強い)。その当人いわく、戦闘力で言えば封印解除後のリョウメンスクナノカミが八千、ジャック・ラカン当人が一万越えときているので、それを基準に考えれば…………、いや、そもそもジャック・ラカンを単位として使う事自体色々と頭がおかしいのだが。

 

「えっと、正攻法は無理だってのは分かったんスけど、でもどっちにしたって今、時間停止っぽいの喰らってますよね?」

「先ほど転送された魔力を使って、力業、自力で結界を破壊し始めました」

「いやどうやって勝てって言うんだよ真面目にそれ、少しくらい手加減しろガバの塊じゃねーかッ! そのままゴロゴロして周辺のガバもまとめて回収でもするつもりかッ!」

「と、刀太……?」

「ストレスでも溜まっているのかい……?」

「お、お兄様、少し怖いです……」「ええこ、ええこっ!」

「おっとッ! …………いや、えーっと、だから正攻法じゃ勝てないからって、どうするつもりなんスか?」

 

 流石に限界が来て思わず素で悪態をついてしまったが、包容力ある微笑み(アルカイックスマイル)でさらっと流して話を続けるザジである。

 

「つまり、一寸法師作戦です。――――霊体の外部から倒すことが出来ないのならば、内部から色々と手を尽くしてしまいましょう、ということで」

「内部からって……? いや別に食われるわけじゃないんでしょ?」

「……おそらく霊体経由ということだと思うよ、近衛」

 

 鋭いですね、と釘宮にもアルカイックスマイルなザジ。……いい加減表情が有るんだか無いんだかわからなくて、軽く不気味の谷が発生しそうである。なお、釘宮の一言に「あっ、私そーゆーん得意や!」と帆乃香が手を上げてぶんぶんと振り回す。

 ちょっと危ないのでその誰かの頬でもかすめそうな拳をキャッチしてやり、ザジに続きを促した。

 

「作戦はこう、です。このメンバーのうち、戦闘要員たる人間が自らの魂魄を、肉体にパスをつないだ状態で、この勾玉を介してダイダラボッチに送り込む。送り込んだ先で、核となっている対の勾玉を破壊する。破壊され依代を失った魔力は彼女から抜け出ますので、そこからは私の方で受け持ちましょう。――――ね? 簡単ですよね?」

「言うに易く行うに難しを地でいってるのでは?(白目)」

「それ以前に戦闘要員って、俺もカウントされているのか……」

 

 鳩尾を押さえながら表情が引きつる釘宮だったが、とはいえ「仕方ないか」とため息をついて特に逃げない当たり、育ちの良さなのか本人の気質なのかが出ていると思う。そういうツンデレはOSR高い(悪くない)ので、是非頑張ってもらいたい。

 あ、それはそうと一つ確認しなければいけないことがあった。口に出すと、ザジは私に向けてアルカイックスマイルのまま少し首を傾げた。

 

「どうしましたか?」

「帆乃香たち連れて来た手腕? から考えたんだけど、『あっちの』妹チャン来てるよな、たぶん。……大丈夫なのか今回のこれって。どう考えてもバレたらヤバい案件だろ。いくらアンタみてーなのがサポートするにしても」

「…………フフフフ、想像以上に察しが良くて少し妬けちゃいますね? いえ、私には先生がいますが、ちゃんとお兄ちゃんしてくれてるのは。大丈夫、そのあたりは抜かり在りません。

 しかし、貴女たちも幸せですね?」

「ざ、ザジしゃん!?」

「あはは~、まぁお兄さま、すっごい『お兄ちゃん』って感じで、大好きやけどな~?」

「いや、そういう話は今は置いておいて、時間ねーだろ?」

 

 勇魚が「どうでも良いんですか、それ、どうでも……」「私的にすごい大事な話なんですけど、私的に……」とか顔を赤くしながらぶつぶつ言っているが、なんだか九郎丸味を感じて何とも言えない気分になる。どっちかというと原作「UQ HOLDER!」だと近衛刀太より九郎丸に懐いていた印象があるのだが、一体どこでチャート管理を失敗した、最初からだいぶ言い訳きかないレベルでブラコンめいてたろこの妹。(???「あの三番目の元人形相手に、変に好感度稼いだところかねぇ」)

 

 と、そんな話をしている間に、魔法陣が形成される――――というか、それは魔法アプリの一種なのか? シルクハットを傾けて、中から取り出したパレット状のそれを操作すると、棺を中心に2メートルくらいの大きさの魔法陣がすらすらと描かれていく。

 …………あの、とはいえなんか模様が逆五芒星にヤギの頭とか明らかに悪魔崇拝チックな魔法陣なんですがこれは……?

 

「ねえ、ちょっと大丈夫? なんか絶対、失敗したら悪魔将軍! とか言って凄い唸り声をあげそうなバケモノ召喚されたりしない? お前の命と引き換えに願いをかなえてやろうとか言わない?」

「流石にそこまでじゃねーだろうけど、アレ使って大丈夫なやつなのか……?」

「奇遇だね、二人とも。俺もなんだか微妙に寒気がするというか……」

 

「では、これより簡易的に儀式を行いましょう。『出てきてください』――――」

 

「きゃ~~~~~~ッ!」

 

 突如魔法陣を囲むように「湧いてきた」、某神隠し映画とかに出てきそうなカ〇ナシ(誰でもない誰か)をデフォルメしたような、ザジいわく「ネギま!」時代からの「オトモダチ」の大量発生に、勇魚が悲鳴を上げて何度目か私に抱き着いてきた。先ほどまでの謎のテンションなんて振り切った、小さい子が泣き叫ぶアレである。帆乃香も「こ、怖ぁないで! 絶対やから!」などと言いつつ抱き着いてきてるので、このあたりは姉妹揃ってあまり変わらずか。とりあえず落ち着かせるよう頭を撫でながら放し、ザジの誘導に従う。

 例の「オトモダチ」が外を囲う魔法陣の中。棺桶の手前で寝転ぶように指示をされ。私と釘宮とが頭を対にするように。陣の中央には帆乃香を立て、肝心の勾玉を握らせる。…………あと何故か、キリヱは陣の手前で待機させられ、勇魚はといえば寝転ぶ私と、立つ帆乃香と手をつなぐ状態にされた。

 いや、何で?

 

「今回、帆乃香さんと勇魚さんの魔力だけでは、あれほどの霊体相手にパスをつなぎ続けることはできませんので、近衛刀太。貴方の内の『金星の黒』を、少しだけお借りする形で使います」

「が、外部から使えるんスか? それ」

「金星の黒……?」

 

 キリヱが首を傾げるのはともかく、帆乃香と勇魚は特に違和感もないようにザジの話に聞き入っているのは、一体どういう流れなのだろうか。確かに原作描写からしてフェイトから多少なりとも聞いたりはしていそうだが、特に今までそういう素振りを見せてこなかった二人だからこそ、少し違和感があるというか。

 

 なお、釘宮は無言で胃を押さえながら目を閉じ深呼吸していた。

 辛そう(真顔)。

 

 …………今回のこれが終わったら、一緒にラーメンか焼肉でも食べに行こうか(謎気遣い)。

 

「まー、何て言ったか。カトラスいわく『俺達』の不死性の根源に引っ掛かるやつ、らしい。

 って、手をつなぐだけでその、『使えたり』するんスか? 正直俺自身、今自力で使ってる分に関しても、結構偶然とか重なった結果使えてるような感じなんスが」

「そこは問題ないでしょう」

「せや。だってお兄さまの『扉』って、フェイトはん曰く『勇魚の扉』やもん」

 

 …………えっ?

 

「ちょ、ちょっと待って、あの、その話、私が今聞いて色々大丈夫な話だった? いや、意味判らないところ多いけれど」

「(私……?)あー、あれ? 別に口止めはされてへんよな、勇魚。例えばお兄様の『白の方の扉』だって私の――――」

「ストップ! ストップ! ちょっと待て、わからないなりに受け入れがたい情報が多いッ!」

「きゃうぅッ! お兄様、強く握らないで……、ひぅ」

「あー! もう、勇魚ばっかずるいわー、絶対後でもっと頭撫でてな?」

「勇魚お前もお前でヘンな声出すな、キリヱが白い目でこっち見て来てんだろ訳わかんねーからッ!」

「ふ~ん……、別にぃ? 好きなだけ兄妹でいちゃいちゃしてればいいじゃない。業が深い趣味じゃないの、さっきのディーヴァってのが残ってたらそれこそ興味津々になるくらい……なる……あー ……、ゴメン」

 

 混乱してばたばたしてた私たちだったが、ディーヴァの話題が出た時点で意気消沈。……それほど私は酷い表情をしているのだろうか。彼女個人にそれほど思い入れがあったかどうかは別として。そもそも、ここを上手い事クリアしたらひょっとしなくても再生怪人枠のノリで復活してくる可能性だって十分あるのだし。

 ただ…………、まあ確かに、あの表情を前に手を差し伸べられなかった自分が、歯がゆかったというのはあるが。

 

 場が意気消沈としたところで、空気を読まずザジが「では始めてください」と帆乃香の背を押した。

 

「じゃあ、いくえ、勇魚も気張り?

 ニギタマ・クシタマ・サキミタマ――――夢の妖精(ニュンファ・ソムニー)女王メイヴよ(レーギーナ・メイヴ) 扉を開けて(ポルターム・アペリエンス)夢へと(アド・セー・ノース) いざなえ(アリキアット)…………」

 

 そして上げられる祝詞の様な始動キーと、西洋魔術の呪文。省略アプリを使用していないのはどういう理由かはわからないが、魔法陣が光り…………そして確かに「勇魚とつないだ手のひらから」、私の「金星の黒」の側のつながっている何処から、魔力が流れている感覚があった。

 それも、明らかに私が普段やっている以上にスムーズに。

 

 魔法陣による補助でもあるのだろうか、それとも彼女たちが言った通り……、私とつながっている金星の黒の扉が、本当に「勇魚由来」であるということなのか――――。

 

 

 

『――――これは』

『………………目に痛いな、色が』

『こ、怖いです……』『勇魚ぁ……、いい加減真面目にやろな? 刀ちゃんと持ったら、怖くあらへんで?』『え、ええッ!? そんな、私、いつも真面目やんお姉様――』

『いや少し黙っとけ、何か敵とか出て来るかもしれねーだろ。テレビゲームとかで良くありがちなやつ』

『『はーい』』

『…………何と言うか、素直なんだね』

 

 

 そして気が付けば。私と釘宮、および帆乃香と勇魚は、なんだかム〇クの「叫び」みたいな溶けた色合いが延々と入り混じり合った、そこに顔が所々生えているような、そんな「道」の上に立っていた。

 

 

 

 

 




アンケート期限:十月末まで予定


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ST107.死を祓え!:呼び声

ちょっと忙しかったのと、少しシーン分け悩んでるので遅めですナ
深夜の魔の手……!
 
今回ちょっとしっとり(当社比)してます。


ST107.Memento Mori:Call of Hell

 

 

 

 

 

 先の見えぬ、得体の知れない歪んだ道――――。

 ダイダラボッチの内側、魂魄へ私たちの精神を飛ばした結果、視えた光景はそんなものだった。周囲の風景は当然のように歪んでおり、所々に人の嘆いているような、悲しんでいるような、怒っているような、様々な顔が見える。いや、顔に見えるだけで只の靄の模様でしかないのかもしれないが、この場合その成り立ちを考えるに両方と見るべきかもしれない。

 釘宮と私は、そんな場所を前進する。帆乃香たちは本人たちいわく「私たちはここで待機です」「お兄さまたちの精神を『表』とつなげとく、中継係みたいなもんや」とのこと。つまりは直接戦闘するために来たわけではないとのことで、それを聞いた釘宮は早々に顔色を悪くした。もっとも胃の辺りを押さえないので何故かと思い聞いてみると。

 

『肉体の枷から解放されてるせいかな? ストレスで痛む胃が存在しないせいか、ただ単に嫌な気分になるだけで済んでるよ』

『…………終わったら、なんか食べにいくか? 愚痴くらいはきくけど』

 

 遠い目であった。諦観の目であった。思わずそんな言葉が出て来るくらいには気遣ってしまいそうな雰囲気なのだった。

 

「…………所で近衛。さっきから変に声が聞こえるのだけれど、俺の気のせいかい?」

「声? ……生憎聞こえねーけどな。いや、聞こえないからって声がしてるってのを否定する訳じゃねーけど。怨霊の体内? みたいな訳だし、恨みつらみくらいはそこら中で呟いてて不思議はないんじゃね?」

「まぁ、実際そうなのだろうけれどね……」

「というかニット帽被ってないせいじゃね? そのまま狗族の耳にストレートに聞こえるんだろ。たぶんそれって、一般人よりは聴力が良くなってんだろ?」

 

 話しながら、一応は戦える準備として黒棒を構える……、って、あれ? 何故か違和感がある。ここは精神世界なのだから私が武器を構えようとしたところで、本来ならば存在しないのが正しいはずという認識が湧いてきた。にもかかわらず黒棒を持っているというのは……、せいぜい特に理由のないご都合主義的なアレであることを祈ろう。何かのガバでないことだけは切に願いたい(疑心暗鬼)。

 

「俺も弓くらい準備しておこうか。……『来たれ(アデアット)』」

「…………そういえばだけど、釘宮のその弓って誰との仮契約で出したんだ?」

「従兄妹だよ、君も会ったあのちょっと抜けてる奴。幼稚園の時に色々あって、なんかそういう流れになった」

「色々ねぇ」

「よくある幼少期の恥ずかしい失敗体験というやつだよ。時々、両家の親同士がそれをネタに揶揄ってくるくらい、子供的には色々アレなことだ」

「まぁ親ってのは子供のデリカシーをデカシリーに取り違えて引っぱたいて晒すもんだからなぁ……」

「微妙に上手いのか何なのか…………」

 

 とりあえず大河内アキラの話を夏凜の前で話すのだけはお止めください我がカアちゃんや(祈祷)。

 あとそれはそうと、あの時の成瀬川ちづのリアクションからして意外とあっちは失敗談とも何とも思ってない…………というか一種の恋愛フラグ建ててしまったのでは? という気もするが、馬に蹴られる趣味も無いので、何か言うのも野暮天だろう。

 

 だが、そんな雑談をしている場合ではなかった。何故ここが一本道のようにまるで「舗装されたような」場所になっているのか、もう少し慎重に考えるべきだったのだ。

 だからこそ――――その嘆きを。いままで聞こえていなかった声が、直接的に、「死にたくない」と「助けて」と、まるで生き埋めにされた人間が叫ぶようなそれが聞こえた瞬間。

 

「鉄の匂――――ッ!」

「お、オイ、釘宮ッ!?」

 

 突然昏倒した彼を抱き起そうとしゃがんだ瞬間、辺り一面の靄が「晴れたように」なくなり――――否、本当は初めから靄などなかったのかもしれない。少なくとも私の認識では、しゃがんだ瞬間にそれらが見えるようになった。

 

「………………」

 

 この道の周囲、底の抜け落ちたような深い深い、視界一杯その先に。多くの生身の人間「に見える」誰かたちが、半透明な、さきほどの靄のようなものに延々と「むさぼられている」光景が見えてしまった。

 嘆く声、痛みに対する絶叫、恨みつらみ、ひたすらに血しぶきが跳ねる音、しかしそれでも生身の彼らは死んでいるわけでもなく…………。

 

 そしてその底から、水瀬小夜子が……? 水瀬小夜子の「頭を」「複数持った」翼の生えた蛇みたいなのが、こちらに向けて飛んで来るのが見えた。

 

 地獄かな?(震え声)

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 三太君の声に、私はそっと目を開けた。

 祭壇――――私の「心」だけを護る場所。ここの核である私にとって、それは昔の麻帆良学園。誰も居ない麻帆良学園の学園祭。まるで祭りが終わった後のようなそこで、世界樹だけが延々と光ってるそこで、私は体育座りをしていた。

 ずっと世界樹を中継して魔力をもらってたからかな? 自然と、私が死ぬ前最後の学園祭の光景が思い浮かんだ。……後で知ったけど、アレもアレでけっこう大変な事件があったらしい。なんていうか、不幸の種って世界中どこにでも転がってるんだなって、そう思った。

 

「…………よ、よォ」

「三太君」

 

 いつも通りの三太君が、そんな私に声をかけた。足元下方、階段の最下段くらいから、中段くらいの私に。一歩一歩、少しフラつきながら歩いてくる三太君は、なんていうか、いつもよりも頼りなさげで…………、でもなんでかな。私はそんな三太君から目をそらさなかった。

 

「隣、良いか?」

「い、いいよ? だいじょうぶ」

 

 後なんか知らないけれど、ついドギマギしてしまう。女子中学生かなー? 私。死んじゃった年はそうでも、経過してきた年数はそれどころじゃないはずなのに、変に慣れてない感じがして少し恥ずかしかった。

 となりに片膝立てた胡坐をかいて座る三太君。距離は、こう、手を少し伸ばせばくっつくくらいの微妙な感じ。

 

「…………本当にここまで、来てくれたんだ、三太君」

「…………おゥ」

「…………本当にここまで、来ちゃったんだ」

「…………おゥ」

「「……………………」」

 

 私たちはお互いに、何も言わずに世界樹を見上げた。

 

「…………三太君、私を使ったって、どういうこと?」

「お? あー、いや、ハハ…………」

 

 さっきから、巨大な災害の化身とでも言うべき私の現在の身体。それが引き起こす妖魔へと感染するそれらと、三太君は一度に複数個所に出現して戦っていた。人を逃がしたり、庇ったり、あるいは襲い掛かられた人を看病したり。

 私自身は、三太君にそういう機能を「設定しなかった」。もともと精神を分裂させるって言うのは、私みたいな自我が曖昧なタイプじゃないと上手くいかないことの方が多い。下手をすると発狂しちゃう。三太君はそういう意味では普通の男子中学生だったから、せいぜいが個体としての性能を突き詰める方向性で設計したんだ。

 

 にも拘わらず、なんであんなに分身して、しかもそれぞれが独立して戦えているのかと言うのは――――。

 

「簡単に言うとアレだ、乗っ取った」

「乗っ取った……? えっと、憑依って意味なら、何をって返すべきかな。『私』の中に生身に該当するものはないと思うんだけど――――」

「いや、だから、例のウィルス」

「………‥?」

「厳密には、ウィルスを元にした妖魔なんだっけ? それのうち、いくつかを『俺を複製するように』、命令を書き換えた」

「えっ――――? 嘘、そんな、だって、三太君くらいの完成度の霊体を複製なんて出来る訳が――――三太君みたいなヘタレに出来るはずが」

「えっ……?」

「あっ、ごめんつい本音が……」

「本音!?」

「だ、だって、結構わかりやすく手を握ってくれるよう差し出したって顔赤くしてそれだけだし、腕に抱きついても透明化してすり抜けて逃げちゃったりするし……」

 

 ここは私の精神世界、内的宇宙。そのせいかこう、普段ほどぶりっ子出来るくらいの余裕みたいなのが少なかった。

 

「い、いや、オレがヘタレかどうかはよく判らねーけど、だからホラ」

 

 ぱさり、とフードをとる三太君。…………その髪は、なんだかすごい短くなっていた。

 

「オレの一部でもあったら出来るんじゃね? って思って。ホラ、クローンとかってそういう奴だろ? だから試してみたら、意外と上手くいった」

「…………でも、そんなの」

 

 そんなの、だって、駄目だよ?

 幽霊なんて不安定な存在が自己複製なんてしたら、複製された幽霊の個我がオリジナルの存在を許容できないというのは一般的な死霊術で言われているロジック。ましてや三太君レベルの強力なそれを、複製なんて「その程度で」簡単に出来る訳がない、出来たとしても複製された三太君がオリジナルの三太君を殺そうとするはず。

 なのに、どうしてこの三太君は目の前にいるのだろう。

 

 直接聞いてみると、バツが悪そうに眼を逸らして、ちょっと頬を赤くした。

 

「いや、だって…………、オレだぜ? 小夜子を助けるためなら、少しくらいは言う事聞くだろ」

「…………ちょ、ちょっと照れちゃうからそういうこと言わないで欲しいんだけど、でも、それだったら『私のところに来る』三太君になりたいから、三太君同士でやっぱり殺し合いにならない?」

「そりゃー、やっぱオレがオリジナルだからだな。他のオレって、全員今の小夜子のコレが解けたら、消えてなくなっちまうだろ? トラウマ確定じゃねーか」

「確かにそれはそうなんだけど…………」

 

 いや、多分その時は「私も」消えてなくなっちゃうからお互いトラウマなんだと思うんだけどなー?

 ちょっと引きつった笑み(愛想笑いは相変わらず苦手みたい)を浮かべた後、三太君は私を少しだけ横目で見る。

 

「それで、色々やって、ここに来るまででわかったんだけどさ。やっぱお前スゲーよ、小夜子」

「すごい?」

「こんな『煩い』ところに、四六時中ずっと居たんだろ? 今だってここに『入る前』のお前は、ずっと磔みたいにされて、そのお前に沢山の『オレみたいな』連中が、縋りつくみたいにまとわりついて、埋もれてたじゃねーか。

 いや、オレだったらこんなの耐えられねーって。絶対ノイローゼになってるから」

「………………そうじゃないの」

 

 不思議そうな、不安そうな三太君に、私は出来るだけ微笑んだ。……出来るだけ。あんまり微笑めてる自信はないんだけれど。

 

「あれは、あの人たちは全部、『そういう下地』が私の死体にあったとはいえ、集めたのは私で、集めた皆を受け入れたのも私自身だったから。だから、あの声はある意味『私の声』でもあるの。自分の声でノイローゼになる人って、あんまり居ないでしょ?」

「まァ、なんか特殊っぽいのとか無けりゃな」

「ねー? ん、だから。もしそれで私の心が変質してしまったのだとしても、それってやっぱり、結局最初の私がいけなかったって思うの。そこがおかしかったから、最後の最後まで狂っちゃったんじゃないかって」

「…………そんなこと無いって言ってやりてーんだけどなぁ」

 

 三太君は、困ったように微笑んだ。

 

「ここに来る途中の声も、『お前の視点』から見たのも、全部今、視えるんだよな。だからわかっちまう。――――どんなに声を大きくしても、もう、オレ達の声が届かねーってことくらいは」

「…………」

「それを届かせる方法がコレしかないって、全員『オレたち』と同じにしちまえって、思っちまうような切っ掛けが間違いかって言えば、たぶん間違いなんだと思う。少なくとも、こんな無差別にやるのは」

「…………」

 

 三太君が、少し私に寄った。

 

「なんて言うかさ。……今だって、オレの分身で、ちょっと危なかったところを助けた奴がいるだろ? アイツ、ちょっと前に夜中ホームレス狩りしてたんだよ。魔法で。それ見て思わず気が付いたらぶっ飛ばしててさ。そのくせ、こーゆー時に怖がってるくせに、ちゃんと前に出て来てるとかさ。…………やってらんねーよな。

 クズだって朝から晩までずっとクズって訳でもない」

「まともだからって、朝から晩までずっとまともだって訳でもないと思うけどー」

「お前みたいにか?」

「私みたいに、なんて言えるほど、私まともじゃないけどねー」

 

 なにせ中学時代にふっと思いついたような事件を、それから長い年月かけて幽霊になってまで実行に移そうとするくらいだ。自分のことだけど、どう考えてもまともじゃないと思う。やっぱりそういう意味じゃ、「こう」なってしまうだけの素地はあったってことなのかなー。

 

「今こうして会話がまともに成立してるのも、『ここ』だからの話。外でたぶん近衛刀太と戦い始めた私の分身とかは、もっとコミュニケーションが成り立たないと思う」

「…………取り込まれてたお前を無理やり拾い上げて、触ったら『こう』なってたんだけどさ。ここって何なんだ?」

「んー、心象風景? 精神世界とかなのかな。ちょっと前までは飛行船の上とかだったんだけど」

 

 あるいは…………、ちょっとロマンな感じに浸りたいってだけなのかもしれない。

 麻帆良学園の七不思議で、世界樹の下で告白すると成功するとか、そんな感じの。

 

 うろ覚えって所が、私が生前どれくらいその話を信じてなかったかってことの現れっぽくて、つい笑ってしまう。

 

「三太君。私、どうなっちゃうのかな」

「…………」

「ここから助ける手段って、ありそう?」

「…………俺は、わからねぇ。アイツらなら何かあるかも知れねーけど」

 

 素直だなー。でも、それでも、わからないけれど来てくれた、なんとかしようとしてくれた。その気持ちだけで、少しだけ救われる、そんな気がするんだ。

 ほかならぬ三太君相手だからこそ、救われる気がするんだ。

 

 出来もしないことを目標として、頑張ってくれてるっていうのが。

 

 ちゃんと私が私であるということを、認めてくれてるような気がして。

 

「だから…………」

 

 あっ、駄目「そういうことは」言っちゃ駄目だよ。

 ふと、三太君が何を言おうとしたか判ってしまった。

 

「一緒に地獄に堕ちよう、とか、そういうのは止めてね? そうじゃないんだー。三太君は、無理に私に合わせようとしなくても良いんだって」

「だけど…………、そもそもお前が本当に『こう』なっちまったのって、俺が前、お前を拒絶したから――――」

「確かに、それもあるんだけど……、でも『そのくらいで』壊れちゃう私なんて、もう、本当そこまでで限界なんだと思う」

 

 私だって所詮、クズみたいなものだから。普通に考えて、いくらいじめられてたからって、周囲全部を巻き込んで集団自殺でも計画するような女の子、普通じゃないと思う。まー、だからある意味「自分が強かった」から、いまだに補助ありとはいえ自分が残ってるのかも知れないけど。

 

「私、全然強くないでしょ? 心がって意味でさ」

「そんなのオレだって一緒だよ」

「アハハ、そうだよねー。悪戯よくして裏魔法委員会の子に追っかけ回されたりして泣きつく先がなくってビクビク隠れてやり過ごしたりー、当たりが出るアイスを透明化してアイスの芯自体を直に見て当たりかどうか判定した上で買ってみみっちくもう一個もらったりー」

「何で知ってるんだお前!!?」

「私、三太君のことなら知らないこと少ないと思うよ? 例えば……、最近ドキッとした女性、近衛刀太の母親」

「い、いや、それは……、だ、だって髪、キレーだったし……」

「おっぱいガン見だったじゃない。分かるから、そーゆーの。……私も、もっと大きかったら、三太君も我慢しないでヘタレ返上して、もっと深い関係になってたのかな」

「…………」

「オイ」

 

 三太君? 三太くーん? さーんーたーくーんー?

 ちょっと、結構真面目に睨んじゃった。こっちを見ないように必死な三太君だったけど「そ、それはともかく!」って慌てて話題を変えてきた。

 

「誤魔化されないけどー? んん……やっぱりあのえっちなシスターさんみたいに、ハグでもしたらイチコロだったかな……」

「いや誰だよそれシスターって……? いや、何ていうか、お前そんなんだったっけ性格」

「人間、内心なんてそんなものじゃないかなー。まあ三太君相手なら、普段以上にぶりっ子してたかもしれないけど。

 幻滅した?」

「別に?」

 

 一番大事なところは何も変わっちゃいないだろって。

 そこでサラッと、そーゆーこと言ってくるようになったのは近衛刀太の影響かなー。……その影響を受けても私以外にモテないように呪いでもかけとこっ。

 

 

 



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ST108.死を祓え!:悪魔が悪魔を悪魔と嗤う

毎度ご好評あざますナ…、間に合わなかったので早朝です汗


ST108.Memento Mori:The Devil calls the Devil Devil

 

 

 

 

 

 端的に言って描写が面倒くさい。

 水無瀬小夜子な多頭の蛇(空を飛ぶ悪魔っぽいやつ)の登場により、このダイダラボッチの魂内部での捜索は、ちょっとしたアトラクションになっていた(現実逃避)。なにせ霧なのか靄なのかが晴れてからというもの、このおおよそ横幅2メートルの無限に続いているような足場の下から伝わる「嫌な感覚」に、第六感が常に警鐘を鳴らしている。そんなものがなかろうと、落ちたらジ・エンドであるのは明白なくらいにはおどろおどろしい眼下の光景ではあるが、真面目な話どうしろと言うのだこんなもの。

 

『『『『『アルエル・ファルエル・ベルベット――――』』』』』

「五つ同時に呪文を詠唱するなこの中途半端再生原始生命体がッ!」

 

 思わず絶叫しながら悪態をつく程度には、追ってきている蛇も酷いの何の。あんな見た目でも一応は水無瀬小夜子の分身体として成立しているのか、頭それぞれ一つ一つが呪文を詠唱して放ってくる。しかもどう考えてもオーバーキルというか、古代ギリシャ語使用による古代呪文、上級呪文の類である。彼女個人の魔法使いとしての実力はさっぱりわからないが、ディーヴァともども明らかにこんな序盤で戦って良い敵ではない。

 さらにこれの何が面倒くさいかと言えば。

 

「血風、創天――――!」

 

 放たれた雷と炎の、なんというかこう物凄い量のエネルギーの奔流(描写放棄)をギリギリかわし、黒棒をふってその蛇を切り裂くが。胴体を真っ二つ、首が左右それぞれ2つ、3つずつに分かれて下方の「怨霊の坩堝」に堕ちていくそれを見送る暇もなく、入れ替わるように下から「全く同じ」多頭類な蛇の水無瀬小夜子が飛翔してくる始末。

 こう何というか、ゲームとかだと絶対にダメージを与えられないタイプの敵というか。倒しても倒しても無限に涌いてくるタイプの敵と戦っているような、そんな嫌な感覚である。

 

「せめて釘宮が起きてくれりゃ問題ないのだが……、いや、まさか普通に気絶するとか思っていなかったのだがッ!」

 

 もともとあまりストレスに強いタイプの性格でなさそうなのは、なんとなく察しはしていたが。どうやら精神体だけで乗り込んだ状態で、「狗族の嗅覚」、人間の三千倍以上の精度のそれで暴力的なまでの血の匂いを感知し、それで一発ノックアウトされてしまったらしい。一応そのうち復活してくれることを期待して仮契約カードも一緒に回収して、現在は背中で白目を剥いている。

 

「いっそのこと雷獣(チュウベェ)も一緒にきてたらアレくらい振り切れそうなものなんだが……、どうしたものだろうか。オイ星月?」

 

 巨大な氷の塊と溶岩の雨あられをかわしつつ(我ながら良く避けられるものだ)呼びかけてみるが、声は返ってこない……? おや、どういう理屈だろうか。精神だけこちらに飛ばしている、と言う意味では、黒棒が存在するのだからてっきり一緒に来ているものだと思っていたが。

 

「星月が居ないで、黒棒が存在している理由…………。

 ザジはおそらく、黒棒自体とは面識? そのものはあったのだろう。タカミチがかつて使用していたらしいことを踏まえれば、目撃していておかしくはない。

 とすると、仮契約カードは別にして黒棒はたぶん帆乃香が使用した術の『効果対象』の一人(ヽヽ)としてカウントされているってことか。………………ん?」

 

 おや? それはつまり、星月は「指定されないと」一緒に移動できる相手じゃない、と言う意味に繋がる。すなわち星月は星月で、自称通りではなくれっきとして「独立した」一つの魂魄であるということなのだろうか。

 

「なんとなくそれが正解っていうか、確信を持てる情報の類なんだろうけど…………、とはいえ正体がさっぱり見えねぇな、っと!」

 

 五つの小夜子の頭、というか口それぞれから異なる属性の光線めいたものが放たれる(!)。お前それ怪獣映画じゃないんだから…………、いくら分身体とはいえ三太泣くぞ、もう少し色々考えろ演出面的なところ。

 とりあえず後方に「大血風」を形成、回転させ盾のようにその光線めいたものを弾く。一応、精神体とは言え「血装術」が適用できてるっていうことは、おそらく「聖」属性だって使える訳なのだが…………。

 釘宮がこの調子なので、いくらその一撃でアレをどうにかできるような気がしていても、試す訳にはいかないのだが。

 

 大血風の直撃が当たって墜落していく五つの頭の蛇小夜子(呼び方募集中(嘘))。やはりと言うべきか、いい加減にしろと言うべきか、今度は八つの頭が生えた蛇小夜子が下方から入れ替わりでエントリーしてくるこの状況。つまり一回は負けろということか――――?

 

『――――ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト』

「は?」

 

 そして唐突に聞こえたディーヴァの声とともに、私の胴体は腰から真っ二つに切り裂かれた。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 刀太たちが意識を飛ばしてから、まだ五分くらいしか経ってない。けど私の体感としては、きっと今までの「5万回」の周回を超えた中で考えても、一番長く感じられる5分だと思う。それくらい、眉間に皺を寄せて眠っているような刀太の無事を祈るのは、色々精神的にキツいものがあった。

 まあ落ち着かないって意味じゃ、私たち全員の周囲でなんだかモゾモゾ蠢いてる、適当なデッサンでできたような顔した黒い大量な変なのとかもそーなんだけど。何となくその全部の目に見つめられてそうな感じがして、なおのこと落ち着かない。いやホント何なのよコイツら。空気読んで黙ってたけど。

 気を紛らわせるため、私の横で両手を合わせて祈るように刀太たちを見つめてる彼女に、話を振った。

 

「…………えっと、ザジさんだったっけ? 私、何か出来ることない? こうやってずっと待ってるって、なんていうか、落ち着かないっていうか」

「そうやって祈っているのが一番ですよ、桜雨キリヱ」

「う~、そ、そりゃ全然バトれないタイプだからわからないでもないんだけど……」

 

 アーマーカードでカメラと一緒に召喚される謎スーツ。アレで多少戦えるようになるかって思ったけど、取説を見たら基本的な身体性能の底上げ的な効果だったりした。つまり、割と運動苦手なタイプな私が装着しても、結果が目に見えている……っていうか、なんでカメラはともかくスーツだけそんな微妙なアレなのかと、自称タイムパトロールを問いただしたい。

 魔法陣の外、ザジ・レイニーデイさんと私は、横に並んで目を閉じる四人を見る。……妹二人と仲良くお手々繋いでる刀太については色々となんていうか後で言ってやりたいこともあるんだけど、真っ白に燃え尽きた感じのイヌメガネが変に印象的に見える。

 

「気になりますか? 何が起こっているか」

「…………そ、そりゃ、まあ」

「フフフフ、直接力になれないのが歯がゆいのはわかります。恋する乙女は大変ですね」

「こ、恋とかそんなんじゃないわよ! コレは、えっと、アレよアレ! 色々とソイツには借りがあんの。だから………………、ケジメみたいなものよ、ケジメみたいなもの」

「ほうほうほう」

「その笑ってない感じの笑いで適当に相槌返すの止めてッ!」

 

 なんだか一人相撲させられてるみたいで惨めになってくるから止めて欲しかったけど、特にその願いを聞き届けることもなく彼女はハハハハハハハと笑い続けた。こう、何だろう。話聞かない時の夏凜ちゃんとも少し違ってやり難い……。

 ただ、ちょっとだけ聞き捨てならないことを続けて言われた。

 

「まあ、そんなもの気にしてると横から掻っ攫われてしまいますので、特に容赦せず色仕掛けした方が簡単に堕ちそうですけどね、彼の場合は」

「え゛っ?」

 

 ……言われてみると、その、心当たりしかなかった。明らかに刀太と夏凜ちゃんの距離感が近いし、なんなら写真で確認したけど秘密の話とかもしてるっぽかったし。というかめっちゃベタベタしてるし、夏凜ちゃん何? ホントどーしたのあの娘!? 勇魚ちゃんがどーこーってレベルじゃ無いでしょ夏凜ちゃんちょっと! 九郎丸、真に警戒する相手間違えてない!!?

 なんだか気がついたら動悸が止まらない。えっ? 何、どーしちゃったの私? こんなに脈が落ち着かないのって、百周回前後で色々と試しすぎて、億万長者になったけど気がついたら世界滅んでてやり直し始まって今までの苦労が水の泡になった時くらいじゃないのッ!!? いやアイツのこと確かに好きって言えば好きだけど、こんな動揺するよーな話だった!?

 

「大丈夫、大丈夫、いざとなれば雪姫さん私物の年齢詐称薬をもらうかまほネットで裏火星から注文すれば、あっという間に大きな自分へ――――」

「そ、そうね、もうちょっと身体年齢上がれば胸とかだって……って、何の話よッ! 貴女、ぜったい私をからかって遊んでるでしょ!!」

「フフフフフ、やっぱり良いものですね。エヴァンジェリンさん、雪姫さんから聞いた通り。反応がお年の割に純で」

「年のわりにとか余計よ! よーけーいー!

 ……って、聞いた通りって何よ聞いた通りって。別に私、ホルダーの中でもあんまり皆と最近まで積極的に接触とかはしなかったわよ? 特に雪姫とは。夏凜ちゃんとは意外と長くなったけど」

 

 周回前はそうでもなかったけど、ここ最近五十回前後くらいは、割とホルダーに早期加入してるから、ナンバーはともかく実は結構古株なのだ。えへん。……まぁレベル2の影響のせいで最初から十三歳くらいスタートだから早々に自活しないといけなくなって、戸籍偽造した結果アラサーとかに法的にはなっちゃうんだけど、そこはご愛嬌よご愛嬌。

 そんな私相手にどんな感情なんだか、今回ばかりは本当に満面の笑みで頭をいい子いい子と撫でて来るのは何なのかしらこのヒト……。

 

「いえ、言い方は悪いですが不死者歴五十年すら超えていない方は、私基準ではまだまだひよっこというか、ヨチヨチ歩きし始めたくらいですので」

「……そういう貴女って何なのよ? ザジさん。雪姫の下で戦ってたとか聞いたけど、貴女も不死者ってことなの?」

「不死身、に近いくらい膨大な寿命を持っている種族だと思っておいてください。そもそも私は――――、あら?」

 

 ――――出血。

 話している最中、そう、本当に唐突に、刀太のお腹に切り傷ができて、血飛沫が上がった。

 

「……えっ? えっ、ちょっと待って、何いきなり!?」

「これは……、宜しくありませんね。おかしいです。本来なら重ねがけした『幻灯のサーカス』によって、目的地までは強い『逆幻覚』を投影することで、向こう側からの侵食は対応できるはずなのに……」

「ちょっと何言ってるか分からないからもっとわかりやすく言いなさいよッ!」

 

 私のごく当たり前な感想に、ザジさんは少しだけ思案してから。

 

「動物園のライオン檻を見ながら間近に通過するツアーで、ライオンさんが檻を壊して襲いかかってきている状態です」

「……? ってそれ全然ダメなやつじゃないっ!」

 

 相当ダメなやつだった。ダメダメなやつだった。っていうか、アレ? 血飛沫を上げた刀太だけど、いつもなら血もなんか上手いくらいに蒸発して消えてそうなものなのに、どうしてか今はずっと血が出続けてる。……その血にちょっと眠りながら嫌そうな帆乃香ちゃんと、眠りながら少し口元が嬉しそうな勇魚ちゃん。ゴメン九郎丸、警戒する相手として勇魚ちゃん正しそうだわ。なんか、こう、色々と拙い気がする。

 ってそんな話じゃなくって。

 

「陣が中途半端にしか機能していないと考えると、ここで待っていてもあまり意味がありませんね。一応「物理的に」逆流しないようにだけお願い」

『『『――――――――』』』

 

 なんだか蠢いてる連中が、ザジさんの声に応じて手を上げたようなそうでも無いような……。こう、壁に映る影とシルエットが半分くらい同化してるから、見た感じだけじゃあんまりわからない。

 そのままザジさんに促されるまま、恐る恐る「光ってる」魔法陣の内側へ。

 

「ホントに血、止まらないじゃない……? 嘘でしょ、だってコイツ一応不死身の吸血鬼でしょ? 雪姫とかと同じやつ」

 

 どくどくとお腹から、切り傷から血がこぼれ続け――――見ていると、次々に傷が増えて、血が飛び散る。

 刀太の血を直接あびるのなんていつぶりかしら……って言っても、最初のあの時と「再現した」百八周目のときくらいね。基本、コイツがめちゃくちゃにならないよう遠ざけながら手を尽くしてきてたわけだし。

 

 ただ、目の前の刀太の状態は明らかに普段の刀太じゃなくって――――。

 

「おそらく、魂魄に対してウィルス的に侵食をしているのでしょう。傷が治らないのも、不死者ではなくゾンビへと変えようとしていると考えるとスッキリするというか、辻褄が合いそうな気がしません?」

「合ってたまるかって話よッ! っていうかどっちにしても真面目に拙いじゃないコレ、どうしようもないくせにどうにかしないと、絶対コイツこのまま『本当に』死んじゃうでしょ? いや、どうしろっての? 死なせでもしたら本当『コイツに』あわせる顔がないし、九郎丸たちにも説明できないじゃない! ちょっと、頑張りなさいよッ!」

 

 そんなことを言いながら一瞬思い切り揺さぶっちゃっって、出血量が一瞬一気に膨れ上がったのを見て、謝りながら叩く力を弱めた。

 いや、本当何なのよコレ……、今回の周回に入ってから、っていうよりコイツに色々話して直接協力取り付けてから、ずっとこんなのばっかりじゃない。変なイベントは生えて来るわ、前のどの周回でも遭遇することのなかった人と出会ったり、知らない敵が出てきたり、かと思えば一番ネックだったゾンビ事件はなんか内容が大幅に変わってるし……!

 

 

 

「――――ほう? 魂魄状態でダメージを受け続けるということは、この半端はまだ自分が『魔人』であると受け入れられていないということだな? やれやれ世話がかかる……、どうして僕がこんなに気にかけてやらねばならないんだ全く……」

「に゛ゃんッ!?」

「おおぉッ!!?」

 

 

 

 考え事をしてるときに、突然予想外のことが起こって思わず汚い唸り声が出た。だっていきなり背後から聞き覚えのない人の声が聞こえてくるんだもん、そりゃ汚い声の一つ二つ出るわ。うん、乙女的にはアレだけど仕方ない。私、悪くないもん。

 相手も相手で、なんか私の声にびっくりしたのか、ちょっと変なポーズで飛び退いてる。……っていうか、私が振り返った勢いではねた血を躱しただけかも。っていうかこう、何? 格好が完全にこのちゅーに以上にちゅーにな感じなんですけど。ただ顔がちゅーによりも普通に整ってるから、あんまりコスプレして遊んでいる感は高くない感じだった。

 っていうか、誰コイツ。

 

 お互い変に距離を空けて微妙に警戒し合っていると、ザジさんが「直に対面するのは久しぶりですね」とか言って頭を下げた。

 

「ん? 嗚呼、『循環』のところの姫の片割れか。……相変わらず服装のセンスが変だなぁ、もっとブリリアントな装いを準備するものだぞ? 名実ともに我らが存在の尊さを凡人にも理解させるためにも――――」

「貴方もご健勝そうで何よりです、『観測』の方。…………あと、服装についてはご容赦を。『ネギ先生』との(シンパレート)の証ですので」

「この半端者の祖父か……」

「えっと……、誰なのこの人、ザジさん」

 

 と、私の疑問にスッと顔を見合わせる二人。

 

「……そうか、一応テレビ画面越しだったが面識はあるはずなんだがなぁ、桜雨キリヱ……。ニキティス・ラプスだ」

「ニキティス……? えっと……、あっ!

 あーあーあー、思い出した、刀太と九郎丸に早々からみに行って、夏凜ちゃんにアッパーカット食らってたわね」

「あの面倒臭い女の話はするな、なんか何処からかヌッと生えてきそうな気がする……」

 

 いないよな? って言いながら周囲を警戒してる姿がちょっとアレだけど、いや、確かにホルダー加入時のナンバーをどうするかって話で、意図的に九番にしてほしいと雪姫に直談判しに行った時とかに見かけた見かけた、テレビ電話しながら恋愛小説について雪姫に質問してたわ。雪姫、鳩が豆鉄砲喰らったみたいな顔してたの覚えてる。

 

 それで今回はどう言ったご用件で、とザジさんが作り笑いのままに聞くと。ニキティスは、鼻でフンって笑って、私と刀太を見比べた。

 

「いや何、そこの『時間犯罪者』が何か変な勘違いをしたままでいるのを見ているのもいい加減笑えなくなってきたからな。間抜けすぎていい加減、自覚をさせてやろうと思ったまでだ」

「時間……、って、間抜けって何よ間抜けって! 人が色々必死でやってることを。…………いえ、あれ? 勘違い?」

「……………………」

 

 ザジさんは、腕を組んで得意げそうなニキティスをじっと作り笑いで見つめて。

 

「つまり、ぶっちゃけ近衛刀太たちを助ける口実が欲しいけど上手い言い訳が思いつかないから、適当なことを言って出てきた訳ですね。クラスメイト相手に素直に仲良く遊びたいと言えなかったエヴァンジェリンさんを思い出します」

「黙れ小娘ッ! お前は本当、相変わらずだな本当お前はッ!」

 

 まだしも姉の方がまだ落ち着きがあるわ、って、なんだか怒りながら子供っぽく地団駄を踏んだ。って、衝撃で血がもっと噴き出すからやめなさいよッ!

 

 

 

 

 




アンケートありがとうございました!
多数票を得た感じでしたので、今回は以下になります…例によってこれ用の番外編チックになるので、タイミングなど全体の具合を見る関係上そこだけご了承をば汗
 
・女性陣チャン刀好意ランキング5項目


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ST109.死を祓え!:預けた心を込めて

ギリギリ! ギリギリ深夜回避ですよ奥様ッ!
※ギリギリ一日二話更新となったので、前話未見の方はそちらをお読みになってからがオススメです


ST109.Memento Mori:I Give You Back Your Spirit

 

 

 

 

 

「そもそもだな、サクラメ・キリヱ。お前、自分の能力が少し異常極まりないことに気付いているか?」

「異常って何よ……って、さっきからそうだけどアンタ、私の能力(ちから)の何を知ってるっていうのよ」

「知らないのか? この麻帆良の地において、図書館島の司書が知らないことは意外と少ない――――少なからずお前が、この麻帆良史における歴代最強レベルの天才頭脳の一人であるチャオ・リンシェンと面識がある事くらいはな! なので全裸マントで学園内を彷徨っているところを一時保護し、いくらか問い詰めた」

「思いっきり人づての情報じゃないッ!? 何得意げになってんのヨ!

 ……っていうかどうしたのよ裸マントって。やっぱり痴女にでも宗旨替えしたのかしら、あの人」(???「まぁ同情くらいはしといてやるよ」「…………」)

「ふふん、フン! あの女の趣味はともかく、知れた結果が同じならば問題はないのさ。だからこそ、改めて問おう。お前の能力……、『リセット&リスタート』とか言ったか。そこまではまだ、特異とは言えあり得ないレベルではない。過去と未来『同時に』干渉するタイプの能力と言う意味ではレアだが、改変するのにも色々と制限が多いはずだ。むしろ、そういった制限を多く課した上ですら、一度『起こった』事実に干渉し直し、同一世界上で歴史を塗り替えることが出来るなど、それこそ『背教』ですら一朝一夕では出来なかったことだ。そこは素直に称賛してやろう。

 ――――すんごい能力だ!」

「褒め方、何なの? ちょっと純朴過ぎない……。っていうより、本当に知ってるのね。っていうかゲロったわねあのタイムパトロールもどき…………」

「まぁ、同時に『背教』の奴が蛇蝎のごとく嫌うタイプの能力でもあるだろうがな。だが、だからと言って無理に取り上げるようなものでもあるまい。力を手に入れた経緯に努力はないだろうが、今の貴様はそれなりに苦労を背負ってきたのだろうからな。

 だからこそ、解せない。――――分岐した歴史を『保存』しておく能力など、ヒトに許された能力と言う範囲を超えている。明らかに神の領域を侵す力の一端だ」

「神の……?」

「いわゆる神というものではない。あくまでレトリックの話だ。つまり、仮に『本当の意味で』世界の創造者がいたのだとするのならば、という奴だ。

 なんにせよサクラメ・キリヱ。お前のそれは異常すぎる。人間のスペックオーバーだ」

「そ、そんなこと言ったって、出来るようになっちゃったものは仕方ないじゃない……」

「そこだ」

「な、何ヨ?」

「出来るようになった、と言ったな? ならばそれは、一体何が原因で出来るようになったと言うのだ? 思い出せ、サクラメ・キリヱ。それこそがお前が思い違いをしているところで、お前自身が『わかっている』にも関わらず『目をそらしている』ことだ」

「……………………こ、このちゅーにが、どう関わっているってのよ?」

「ならばもっとわかりやすく聞いてやろう。サクラメ・キリヱ――――」

 

 

 

 ――――貴様は、貴様が『最初に出会った』コノエ・トータから、一体何を『託された』?

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 まだここに入ってからそう時間は経っていないはずだが、やはり地獄か何かの類なのでは? という疑惑を抱く程度には、ダイダラボッチの霊体内部は酷い有様であった。というか、そもそも明らかに私のパーソナルを読み取りでもしたのか、敵も少し手を変えて来たのだ。

 

『――――ヴぃしゅ・タル・リシゅたル・ヴぁんげゲゲゲゲゲゲゲゲゲ――――』

『――――ヴィヴィヴィヴィヴィヴィヴィヴィヴィヴィ――――』

『――――ヴィシュ・タル・リシゅたルルルルルルルルルルルルル――――』

 

 頭を傾げながら、傾げた角度が思いっきり「三百六十度回転して」戻って、首がよじれたままの「ディーヴァ」。彼女はうつろな目のまま、壊れたように呪文を詠唱する。

 

 それも、複数体。

 

「自分が自分じゃなくなるのを間近で見せられるって言ってたか……、なるほど」

 

 少なくとも私に相対している「ディーヴァのような顔かたちの」天使のような何か。背中に翼を四枚持ち、尾の様なものを襦袢から垂らす。目は虚ろで呪文以外は絶叫のみ、見た目だけで言えば出来の悪いホラー映画の類のそれだ。

 いや、ひょっとしたら今回の状況からしてD〇D(どうあがいても絶望)からとったパロネタとかなのかもしれないが、まあどちらにせよD〇D(全部バッドエンド)を想起させる一展開な絵面に近い所があって、見ていて中々に気分が鬱屈してくるわけだった。ギョ〇アエ(妹だった神)じゃないんだからお前ら…………(ドン引き)。

 

「血風、創――――っと、危なッ!」

 

 おまけにだが、当然のようにディーヴァの水魔法による防御も使用してくるので、血風を始めとした血装術も散らされる始末。その上で時折高速移動する個体が私の身体を切り裂いていくという仕様は、いくらなんでもインチキ編成もいい加減にしろッ! という世界だ。

 既に、釘宮を背負っていた時に斬り散らされた腹部やら、釘宮を血装で作ったバリア(オーラ?)で防御させるようにして近場に放置した瞬間に斬られた腕やら。それらが何故か「再生しない」と来ており、ますますもってどうしようもない。現在でも辛うじて死天化壮を維持はできているが、これの内部は既に乖離した肉体同士を血装術を用いて「内部の血管同士で」接続している状態に等しい。つまりはハリボテだ。

 

 今だって血風創天を放とうとして、勢い余って「腕ごと」血を射出してしまいそうにポロッと取れかけたくらいである。無理やり意識的に強制して元の座標に戻すが、中途半端に射出された程度の血風でどうにか出来る訳はない。簡単に散らされるわ、向こうの接近を許すわでもう散々だった。ディーヴァ本人の自意識はほぼ無いだろうに、こういう無茶をこなせる程度には本人の身体スペックをしっかり引き出しているとも言える。

 

「九郎丸の時はそこまで引き出せてなかったが、いわば『お人形さん』だから相性が良いとかそんなものか? ……って、いや多分神刀か」(???「どうしてこうどーでも良いところだけ察しが良いのかこの男は「!?」……って、アンタはちょっと落ち着きなッ」)

 

 考えてみれば、アーマーカードを使用できるようになったことで、この時点で多少は神刀の力を引き出せるようになっていると見るべきか。まぁ原作初期にありがちな若干の設定ブレだと言われてしまえばそれまでだが(メタ)、逆説的に「私がいる」このUQ世界においては、そのあたりの矛盾が解消されてしまっているから乗っ取り切れないとか、そんなところなのだろう。

 …………そういえば、完全に女の子の身体になっていたことについて現在は追及ストップとしているのだが、そのうち問い詰めないと駄目かな……、駄目だよな……(逃走希望)。

 

『――――ヴィヴィヴィヴィヴィヴィヴィヴィッ』

「よっとッ! いやしかし、これ本人マジトラウマものだろ……」

 

 右腕……というより右腕を接合している血液「だけ」の腕力(?)では到底、高速接近してきたディーヴァもどきの袈裟斬りに耐えられる道理はないので、黒棒の重量を多少軽くして体に乗っける形で「死天化壮」の座標操作の応用をもって受け止める。

 相対するディーヴァの目は上下に分かれぐるんぐるんと明らかに「脳の指示で」動いていると思えない動作をしている。心霊現象の類と考えれば完全にホラー映画あるあるのそれなのだが、そこからしっかりと両目より涙があふれているのが、わずかに残っているだろう彼女の正気の部分な気がして、色々と憂鬱だ。自分自身がいかに怪物めいた扱いを受けているか、体感で察してしまうなどと言う体験は正直同情に値する。心も体も、痛いのは嫌だもんなぁ……(遠い目)。

 

「…………お前さんを助ける義理はなかったし、状況的にそれが許されるほど余裕もなにもなかった。だから、アンタが今どれくらい痛いと感じてるかとか、それについてどうこう言う権利は私には……、いや、俺にゃねーだろ。だから精々、早い所ここから解放してやる――――」

『りりりりりりりりリシュ・タル――――』

 

 そうは言いこそしたものの、いかんせん事実上「達磨状態」なのはどうしようもないのだが。繋がっていないものを繋がっているような状態で固定しているとはいえど、あくまで辛うじて。原作にて「不死殺し」に斬られた九郎丸を修復する際にも使用していたが、本来なら再生を待つかそのまま安静にするのが正しい運用である。まかり間違ってもこんなプラプラしそうな状態のままガンガンビシバシと動くということの無理さは、瞬間接着剤必須のプラモデルをちびっ子が適当に組んでパーツがバラバラになりどこかに行ってしまい回収できず泣く泣く遊ばなくなるようなのと同じレベルで確定的に明らか。

 

「って、だから首やめろ首ッ!」

 

 二体のディーヴァもどきが、処刑者の剣(エクスキューショナーソード)を駆使して徹底して私の首を狙ってくる。ギリギリ躱しはしたが、今回ばかりは「左腕」を犠牲にせざるを得なかった。普段からポケットに入れて斬り合ってるとは言え、重量バランスが崩れる…………っていうか、串みたいに私の血が芯を通しているのが丸見えになるのはどう考えてもアレである(表現放棄)。

 しかしそれでもなお首狙いを止めない。普段より右側に変にそれて瞬動もどきをしている私に、当たり前のように追従してくる連中。いよいよそこが切断されてしまうと、私としては打つ手が本当になくなってしまうので止めてクレメンス――――――――――。

 

 

 

 そんな私の嘆願を無視するように、背後から新たに現れたディーヴァもどきの処刑者の剣(エクスキューショナーソード)が、私の心臓の部分を貫通した。

 

 

 

「――――ッ、こ、いつ……」

 

 血風や血装術の際、時折胸部に触れたり構えをとったりしているせいもあるだろうが。ディーヴァもどきは、その貫通した箇所を「凍らせる」ことで血装を外部へ放出するのを防ぎ始めた。コイツら明らかに学習している―――――。多頭蛇小夜子で対応しきれないと見たのか、それとも情報収集のためのそれに使わせていたのか。

 個体ごとはともかく、全体としてみると明らかに知性を感じる。その知性が全力で私を取り込もうとしているというのは、もはや完全に悪夢の類だった。やっぱり神様なんていなかったね(血反吐)。救いはないんですかァ!?(???「人間って言うのは自分で自分を救う生き物らしいからね。自分自身が救いにでもならなきゃ無理だろアンタ」)

 

 そのまま胸部の傷から前後に血風を無理やり放とうと集中するが、そもそも傷口の箇所にディーヴァもどきの魔力が滞留しているせいで下手すると「血流そのものが」怪しくなってくる――――。いくら本来は不死身とはいえ、ここまでされると全身が冷たくなって来て明確に「死」を感じる。痛いのは嫌なのだがとか言っている暇すらない、痛いの本当に駄目だからァ! と幼児化するレベルで事態が切迫していた。

 

「あ――――」

 

 そして、あっさりと首を切り落とされる――――不思議とその状態ですら死んでいないので、まだ辛うじて「金星の黒」は機能しているのかもしれないが、なんら救いになっていない。と、落ちた私の首を前に、何を思ったかディーヴァもどき共は「バラバラになった」私の身体を適当に地面の下へ放り投げる――――黒棒や釘宮は見向きもしない。そして私の髪をつかみ取り、持ち上げ、目を合わせる様に顔を覗き込み…………いやだから両方のお目目が乱回転してるせいで全然合わないんだって一体どの文脈の振る舞いなのか。ラブコメなのかバトルなのかホラーなのかスリラーなのか(謎)。

 

『――――――――?』

 

 意思疎通は出来ないくせに、何を言いたいかはなんとなく判ってしまうのはボディーランゲージが私も極まってきたのだろうか(錯覚)。どうやら全身バラバラにしたというのに、いまだに私の意識が残っていることに違和感を感じているようである。

 これについては理由がいくつか仮説が考えられる。まずは確実に「金星の黒」による再生が魔法的であるせいだ。物理的に再生していなくても「魔法的には」延々再生しようとし続けているため、結果としてこんな状態でも「生と死の中間」くらいの状態に落ち着いている。

 そしてもう一つは――――――――ここまで一緒に来ていないだろうに、ちゃんと血風とかは使えるままで、つまり「ある程度はつながったまま」の星月。

 

 私とは別の、独立した魂魄、魂、人格であると「本当に」仮定できるのならば。彼ないし彼女は…………、彼ないし彼女は(性別について触れない)、色々協力してくれているのと同時に私自身に何か要らぬことを仕込んでいる可能性だってある。原作ニキティスだって、刀太が気に入ったせいで「僕の気に入らない計画のためにこの男を使わせてなるものか!」と独占欲でも発揮したかのごとき理由から、体内に世界樹の種を埋め込んでいつでも起動できるようにしていたりするし(切除困難な封印であり夏凜もそれで数世紀は封じられていた)。

 

 そんな私が、彼女の目から見てどう映るか――――否? というよりも彼女を通して見ているだろう「怨霊たちの集合無意識」的なそれにどう映っているか。

 しかし以前のディーヴァとは違い、私に猿轡を噛ませようとしてこない。つまり口で血風を放ったりする可能性について検討していないということなので、ディーヴァの能力自体は十全に扱えても、彼女の人格までは扱い切れていないと見える。

 

 やはり、やるしかないのか…………? 正直すぐ再生するとはいえ、自分の口の中を強く噛み千切り出血させるというのは、中々拷問的な作業なのだが。

 

「それでも、やるしかない――――――――っ」

 

 

 

 一瞬、私の脳裏に。「首だけ」になった私に、血に濡れた唇でキスをするキリヱの映像――――視界の隅でじ~~~~っと野次馬のごとくザジがガン見していたりしたが、何だ、これは?

 

 

 

「――――――――まあ、今見えた通りだ『私』よ」

「ッ!?」

 

 

 

 そう言いながら「私の口から」、猛烈な勢いで血風が噴出された。私を掴んでいたディーヴァをめためたに切り裂きながら、その血風は乱回転し一度、足場の下に落ちてから急速で返ってくる。わずかに見えたそれは、私の身体(魂の身体?)がバラバラになったのが血風そのものに埋まっており。

 

 それが転がる私の手前にドサドサと落ちて「急速で」再生を始めた。

 

「…………()、だと?」

 

 転がっていた私の頭も含めて繋がり、完璧に元通り……とはいかないまでも、傷自体は残ったがある程度のバランスで身体が再度「組み上がった」。

 そんな私の横で、その血風は「ドーム状」に膨れ上がり、変形し、しかし回転自体は残ったままで――――。

 

 それを斬り払うように、中から現れた。

 

 身長は今の私より少し低いくらい。全身に纏うべき死天化壮は下半身のみ、上半身はボロボロの和装のままで、右目には「どこかで見覚えのある」眼帯をしており――――。

 

「星月……? いや、違う、お前は――――」

「――――嗚呼そうだ。私よ。……って、このしゃべり方してると絶対後々ガバの温床になるから、『普段通り』に戻すな。

 ヨッ! 最新最速の俺」

 

 右手に持つ「紅い」ハマノツルギのようなそれ――――血装術で生成された剣を構えるのは。その姿の相手は。一度だけキリヱから聞いた情報から察するに、おそらく「最初の周回」、キリヱに志波〇燕(そんなに愛しいか?)なガバを発生させただろう「私」に他ならなかった。

 

 …………とりあえず一発殴らせろ貴様、OSR()めるなら少しはキリヱ大明神のことも慮ってガバ残せガバを!(憤怒)(???「レベルが高い自己嫌悪だこと」)

 

 

 

 

 



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ST110.死を祓え!:能力差分統合

毎度あざますナ!
 
ヒナちゃんについては独自解釈注意なんですが、他はまぁルート違いによる差分自体はそこそこあるよねって話


ST110.Memento Mori:Diff and Merge

 

 

 

 

 

『あー、本当なんだね? 相棒――――――――、いや? 『刀太』よ。

 そうか、()と和解できる未来もあるという訳だな? ……フフフ、とはいえ今はまだ、捕らぬ狸の皮算用か。ならば、精々いつも通り右往左往して、救ってみせろ。自分も気づかないうちに「本来なら」「取り零す」はずだったものを』

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 復活はしたが胸部の氷は未だ解けず、血装術に類する技を使おうにも使えない私だったが、そんなことはどうやら関係ないらしく、眼前の相手は肩をすくめた。

 

「まっ、この状態で立ち話ってのもアレだし、少し片づけるか――――血風塊天(けっぷうかいてん)!」

 

 紅色のハマノツルギを適当に振りかぶって、普段の私のように血風創天を放つ、近衛刀太というか「私」の眼前に立つもう一人の近衛刀太だったが、明らかに血装術の練度が高いことが伺える。そもそもハマノツルギの形に形成したそれを振るう際、射出時の出力を上げるための小さい血風を鍔のように形成すらしておらず、なおかつ振り切った血の出力によりハマノツルギが分解されていない。それこそ先ほどの私のように、血で錬成している箇所がもろとも一緒に持っていかれて落ちてしまう、というようなこともなく、そして当たり前のようにディーヴァたちの水魔法を通過し、彼女たちにダメージを与えていた。

 

 おまけに、である。

 

「……泥?」

 

 彼の血風を受けた水魔法は、透明色のいっそ綺麗なそれが枯草色に染まったかと思えば一気に土くれへと変わりボロボロと崩壊していく。また状況を見てか海天偽壮を使用し始めたディーヴァもどきたち数体も、その血風を受けることで「泥にまみれた」実体のあるディーヴァもどきへと姿を変えて、あえなく斬撃を喰らっていた。直撃である、本来ならゲル状回避などできそうなものを完全に無視していた。

 

「…………泥と言うことは、地属性? ひょっとしてお前、フェイトから『解析した』やつなのか? それは」

「おっと、流石に鋭いな。さっすが俺」

 

 顔合わせた時に一回斬り合って、その時になーと。軽く言っている彼の姿に眩暈を覚える。どうやらこの近衛刀太、フェイト・アーウェルンクスとかつて斬り合い、その際に「聖」血風のごとく地属性の魔法を取り込んで我がものとしたらしい。その結果があの泥化なのは中々よく意味がわからないところだが、それはさておき。倒れるディーヴァたちを見て「っていうかコイツら誰だ?」と声を上げる姿は、見てくれや能力はともかく、やはりこの私と「辿った歴史が違う」ということを想起させられた。

 

「水のアーウェルンクスを、コイツらが取り込んだ結果って感じだな」

「水の…………、はい? えっと、救出でもされたのか? 水のってアレだよな、いまいち活躍が思い出せない可哀想なやつ……。

 って、お前、見た感じは『三太』関係の頃の俺か? つってーと…………、いや、なんだ? 水無瀬小夜子か、『ここ』? だいぶガバらせたなお前……」

「お前にだけは言われたくないッ!」

 

 思わずツッコミを双方同時に入れる私たちだったが、キリヱのことで文句を言うよりも先に「悪ぃけど時間があんまねーんだわ」と制止をかけられる。

 

「時間がねーって何だよ、それ。っていうかお前さん本当に私……、いや、俺っぽいのはなんとなく『感じる』んだけど、だとしたら存在がますます謎っていうか」

「あー、何て言ったらいいかな…………。言うなれば俺は、『キリヱに託した』俺だ」

「…………心は置いていく的な奴か? っていうか、へ? オイオイオイオイ…………、こう、センチメンタル的な意味合いじゃなくって、もっと実際的な意味合いかよッ!」

「いや、まーそーゆー話って言えばそーゆー話なんだけどなぁ…………」

 

 困ったように微笑みながら、復活しかかるディーヴァたちめがけて例の「塊天」を打ち続ける1周目の近衛刀太。血風が斬撃ではなくムチのようにしなったり、帯の部分を持ってぐんぐん回転させて投擲したりと、なんだか斬〇(実は徹底して導いてた白い兄ちゃん)を想起させる戦いぶりなどを見ても、どう考えても私と同一人格のそれだった。おそらく内心はあっちもやかましい事だろう。師匠視点だと両方見れたりするだろうから、さぞ頭が痛いでしょうに、お師匠さん許し亭(嘆願)。

 ハマノツルギを上方に構え、柄から伸びた紅の帯を腕に絡みつかせる。「血装」とだけつぶやくと、ハマノツルギの一部が解け散り、また足元から「金星の黒」の膨大な魔力が迸り、魔法を発動しようとしていたディーヴァもどきたちを吹き飛ばしたり、あるいは襦袢を粉々にしたりしていた。…………あっ、やっぱりその下は裸なんですねぇ(知ってた)。

 

 なお当然のようにその衝撃が止んだ時点で現れたのは、死天化壮な眼帯の近衛刀太。…………ただし手に持っているのは「ホウマノツルギ」を少し細くしたようなそれと(死天化壮の形成に使用して減った分で造ったか?)、左肩に現れた薄い髑髏のような仮面。

 見た目の変化だけで言えば、完全に〇月(出刃包丁)からの天鎖斬〇(カラー刷り無効化魔法)となっており、私よりも完成度が上がっていることがちょっと腹立たしい。そんなこちらの気分を察しているのか、まぁまぁとなだめながら苦笑いをする相手だった。

 

「あー、ホラ? アレアレ。俺達ってアレだろ? 血液だけでも残ってればある程度は復活できるじゃん? たぶんお前も星月にそーゆーことヤられてんだろ」

「そういう経験が無い訳じゃねーけど……」

 

 それこそスラム終盤、胸に大穴を開けられ暴走した際に。カトラスの内部に残留していた私の血液を介して、星月と一緒にカトラスの「内」から、荒れ狂う私の肉体を見ていた覚えがあるが。

 原作的にも近衛刀太自身、自分がバラバラにされた際に「自殺」することで、発動する再生力をもとにその実体を別な肉体のある場所まで「飛ばして」復活していたことがある。眼帯の私に言わせれば、原理としてはそれに近いのだろうか。

 

「もっともケースは大分違うし、半分は賭けだったけどな。…………勇魚も帆乃香も拘束された上で『扉』を両方閉じられちまったものだから」

「その二人、関係あんのか?」

「はい? いや、普通に関係は――――あっ(察し)、そうかまだ知らない時期なのか。なら、ガバだな、詳しくは省く。

 まー賭けに違いはなかったんだけどさ、それはともかくとして。どこまでこの吸血鬼性を維持できるかってのが問題だったっていうか、少なくともキリヱの魂に『俺自身』を溶かし込んでおけば、たとえそれで俺の精神すら死んでしまったのだとしても、『周回した先の俺』がキリヱの血を介して俺の魂を読み取れるだろうって、そんな感じのことくらいを考えて、事前に伝言はしといたんだぜ? 何かあったらお前に俺の魂を少し託すから、俺を復活させる算段でも見つかったら自分の血を使えって」

「その話、全然していなかったんだが、キリヱ大明神……」

「はい? …………いや、まー話半分とかに聞かれてたとか、そーゆーのだったら、流石にこっちじゃ吸収しきれねーわ」

 

 まあ周回回数が周回回数なのと、目の前で死んでしまったインパクトが強くて全部すっ飛んでしまった可能性も無くは無いだろうが……。というか、そういうことを言っていたのなら何故海〇(誇りを守った背中)な振る舞いでOSR(オサレ)して深読みさせたし。(???「ブーメラン特大過ぎないかいコイツは……」)

 

「…………まー実際ほぼ死んでた後に、こうして復活したって言うのは結構想定外なんだけど。ニキティスの奴が『気付いて』、キリヱに口移しで血を『私』に戻したから、こうやってパスが繋がって、ちょっとだけ復活したって感じだ」

「………………」

「おっ、どうした?」

「いや、なんでキリヱが云万回も周回できたのかって、ちょっとだけ納得した」

 

 直接は聞くことが出来ていないが、キリヱがその最初の周回で、今際の私を看取ったことだけはなんとなく察しが付いていたが。そこで情緒が崩れ覚悟が決まったのだといえど、キリヱにそれだけの回数のやり直しが耐えられるかと言う疑問はあった。なにしろあのキリヱちゃんである、馬鹿にしている訳ではないが「原作」を鑑みれば、どう考えてもその精神的な強さは納得がいかなかった。孤独、喪失、そういった感情の波に、キリヱはめっぽう弱いのだ。仮に死した私を依存先としたのだとしても、それを抱えられるのが彼女一人であるならば、とうてい無理ではないだろうか。

 単に成長した、の一言で片づけられる程、人間というのはわかりやすく出来てはいない。私自身の右往左往を考えればそれは当然のことだ。(???「アンタは単にその場の勢いで無鉄砲になりすぎるだけだと思うがねぇ、ライブ感も程々にしないからそうなるんだよ」)

 

 だがそれが――――常に「本当に」私というか、近衛刀太と一緒に居たのだとするのならば、多少は頷けなくもないかもしれない。少なくとも、キリヱのその心の叫びは、間違いなく身近にいた私に届いているのだろうから。

 

「ま、それが良いことばかりかってーと、一概には言えねーんだろうけどな」

「はい? ……あー、ちょっと待て、とするとだ。常に私が魂に溶けていたのだとするのなら、ひょっとしてキリヱ『金星の黒』の影響とか受けてたりしねー? 例えば…………、レベル2」

「当たらずとも遠からず、な位置にはあるなその推測。

 もともとそのポテンシャルが無かった訳じゃねーんだろうけど、まぁ『目覚める』ときの一助にはなっちまったかなー」

 

 オイオイオイオイ、である。

 そっかー、つまりキリヱ大明神が真の大明神に覚醒(?)した遠因と言うか、色々な諸々は私に起因してるのかー、そっかー。メンタル的なのも、それ以外でも完全にアフターサービスまで以前の「私」がサポートしてるいたれりつくせりのガバなわけだな? そっかー、………………。

 

「やっぱ一発殴らせろ」

「はい? って、ちょっと待てガチでぶん殴る姿勢じゃねーか、止めろ、遊んでる暇ねーんだろ? ホラ」

 

 私のジャブを躱しながら釘宮の方に足早に逃げていく眼帯の刀太。と、「手も触れずに」その血のドームに手を翳すだけで血装術を解き、自らの内に戻す。元々どちらも「私」である以上は、使用している血液自体は共通しているというところなのだろうか、特になんら違和感もためらいもなく遠隔操作していた「私」だった。

 もっとも彼の顔には見覚えがなかったのか、魘されている釘宮を前に「誰だコイツ、誰だコイツ!?」といつかの私のように驚愕しながら、その頭の上の犬耳を見てヘンに納得していたが。彼の肩を担いで、私に手渡してくる。

 

「はー、何というか…………、ここまで展開違うといっそ清々しくなってくるわー」

「そっちはそっちで一体何があったんだ? ……いや、怖くてあんまりアレなら話さなくていいけど」

「まあ『アレ』だわな。それくらいは予想ついてるだろ」

 

 同一人物? 同士による、お互い共通の適当な語彙の遣い方による「アレアレ」で伝わるアレである(アレ)。

 

「あーまぁ、アレだ。とりあえず言いたいことは三つ。

 一つは、正直蘇りはしたけど……、あくまで『魂だけ』だ。それも、お前っていうか俺の肉体に紐づいた『金星の黒』の恩恵を、ちょっとだけ受けることで初めてって具合に。つまり、スゲー不安定」

「そこはまー、なんとなく判るような、判らないような…………。完全復活! とかだったら、足止めくらいは買って出るだろうしな。出ないってことは、あんまり長時間は居られないってことだろ」

「まぁな。で、二つ目。――――そんな訳だから、このまま俺が消えちまうのも勿体ないってことで。お前の中に『私』を取り込み直してもらいたい。そしたらたぶん、お前がまだ『解析できてない』属性魔法のストックが増えるだろ。さっきの『塊天』しかりだ」

「取り込み直す…………って、日本語おかしくね? もともと、こう、世界線的な意味で別存在じゃん俺たち。同一人物が分離した訳じゃねーんだからさ、それ」

「まぁアレだ。とはいえまたキリヱに『魂の一部』を含んだ血を呑ませるわけにもいかねーだろ? 今だって、あっちから口移しで血をもらってるっていうのに。そんな低OSR(まともじゃない)恋愛フラグみたいなのは、回避してしかるべきだろ(首肯)」

「確かに(激しく首肯)」

 

 さきほど視えた映像を踏まえて私の「肉体の」状況を整理すると、現在おそらく自分の血を口に溜めたキリヱによって、私は飲まされているということなのだろう。提案したのはニキティス、面白がっているのがザジ。

 …………いや、だが、そうだとするのならキリヱから「この私」を、結果的にだが取り上げる形になってしまうのではないだろうか。能力的にそれの問題がないとは言っているが、だからといって精神的な面においてどうかというのはまた別ではないだろうか。

 

 私の表情を見て誤解無く察したのだろう、眼前の私は肩をすくめて。

 

「そー思うんなら、もうこんな致命傷レベルの事態にならねーよう、頑張ればいいじゃねーか。俺一人で無理だっていうんなら、それこそ九郎丸とか夏凜とかも巻き込んでよ」

「…………そっちだと、どうなってたんだ? 二人とも」

「お? あー、まぁアレだ。九郎丸は最終的に『妖刀ひな』としての側面が強くなりすぎて、月詠の肉体奪い取って暴れて、どっか行っちまったな……。夏凜ちゃんさんは…………、いや、これはちょっと止めとくわ。色々アレだし」

「そのアレってのは伝わらないけど、まぁアレだったんだろうってのは判るから追及はしねーでおくわ。……………………妖刀ひな? え? はい?」

「お、何だ? 気付いてなかったのか。『妖刀・姫名(ひな)』ないし『神刀・姫名杜(ひなもり)』。確かお母さん(ヽヽヽヽ)曰く『ウチの実家の京都側やと厄災の象徴なんやけど、桃源の涼しい所の方だと神聖な力の象徴らしいえ?』とか言ってたっけ」

 

 言いながら一瞬消えて、再び現れる眼前の私。私の後方で悲鳴があがるあたり、本当にその練度が現在の私を超越していることがわかってしまって、なんだか変な気分だ。

 しかし九郎丸の顛末についてはうっすら推測こそついていたが、妖刀ひなだと?

 妖刀ひな。端的に言えば神鳴流をかつて滅亡寸前まで追い詰めた、持ち主の力を圧倒的に跳ね上げる妖刀である。その性能はどう考えてもラスボス級のそれで、ただし使い手は刀に精神を蝕まれ、才能ないし資格がなければ破壊衝動に呑まれ暴力の限りを尽くす。なんというかこう、非常に「らしい」代物なのだ。

 古く? は「ラブひな」にて青山素子が姉といざこざがあった際に紆余曲折の末に使いこなし、「ネギま!」においては月詠が刹那を追い詰めるため「だけ」に使用(おそらく青山本家か浦島家からか盗んだのだろう)。

 そしてその九郎丸が、刀に呑み込まれたまま…………、おそらく「UQ HOLDER!」原作視点で考えるなら、「神刀」への打ち直しに「正しく失敗して」、そのポテンシャルを刀本人である九郎丸が発揮できない状態となってしまったものということか。物言わぬ躯のような、その扱い……。

 

 ネオパクティオーしたのは明らかにガバだが、そうか、そういったフラグ自体も存在はするのだ。ある意味、今気づけたのは僥倖と言って良いかもしれない。注意だけはしておかねば。

 

「まぁ、二つ目もわかった。わかったけど、それってお前の意識とかどーなんだ? こうしてコミュニケーションとれてる以上、自我はちゃんと在んだよな?」

「一応はな。けどまー、師匠いわく『本来なら巻き戻った上で同一化してる存在がいつまでも分岐してることの方が良くない』らしいから…………。あとまぁ、『全部が』消えて無くなる訳じゃないらしいし。それならもう、それでいいかなって」

「痛いのは嫌だろうに私もお前も……、よくそれを許せるな」

「アイデンティティの消失って意味じゃ、確かに怖ぇけど――――キリヱ以外誰も残っていなかったから、最後。その時にもう、腹はくくってんだ」

「…………そっか」

 

 お互い無言になりながら、相対する私がホウマノツルギもどきを掲げ、大血風を「私たちの周囲に」展開して回転させる。風圧に紛れて血しぶきが舞い、ディーヴァもどきたちはそれへの接触を恐れてか接近してこない。

 目と目を合わせた私たちは、それだけで何を言うまでもなく、お互いがお互いに何をどうしようとしているかが「判った」。伊達にどちらもBLEAC〇(オサレ原液)をたしなんではいない。故に私は釘宮が落ちないよう踏ん張りながら、胸の中央を眼前の私にさらけ出し。眼前の私もまた、紅なホウマノツルギを胸部に突き立てるよう構え――――。

 

「…………あっ、そういえば三つ目、言い忘れてた」

「何だ?」

 

 

 

「星月のことだ――――信頼しろ、とは言わねーけど、あんまり当たり強くしてやんなよ? アレであの()、過去の自分の失敗のせいで、なんでもかんでも負債を背負わされた感じで、だからそれを全力でリカバリーするために死に物狂いになってたりするだけだから」

 

 

 

 言いながら剣が私の胸に刺さる――――不思議と痛さはなく、当たり前のように砕けた氷の箇所を起点に、目の前の「私」もが溶け。気が付けば釘宮を抱えたまま死天化壮状態に戻った私だった。

 

「……未だ男か、女か、どっちかってことを『断定』できるだけの情報すら無かったはずなんだよなぁ、星月」

 

 私ェ……………………。 

 何というかこう、最後の最後にお漏らししたアドバイスですらガバを起こす辺り、私ってひょっとしてこういう情報管理みたいなの苦手なのでは? とか、そんな確信をさせられてしまった(無慈悲)。

 

 

 

 

 



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ST111.死を祓え!:情緒成長中

毎度ご好評あざますナ・・・!
 
意外と早い再登場


ST111.Memento Mori:Heart 2 Glow

 

 

 

 

 

 俺が目を覚ました時点で、まず驚かされたのは鼻に詰め物を入れられていたことだった。

 ここは一応精神世界のはずなのに、そういった小道具はなんで持ち込めるのだろうか……? いや、もともと仮契約カードだってそうだったのだから、俺がそれについてどうこう言うのも変なのかもしれないけれど。

 

 そんな倒れている俺の目の前で、近衛が「あの女」と一緒に、肩を並べて戦っていた。

 

「――――血風『尸』天(けっぷうしいてん)ッ!」

「ヴィシュ・タル・リシュ・タル・ヴァンゲイト――――水牢(キャルチェリィス・アックァェ)

 

 近衛の飛ぶ斬撃を喰らった、近衛と肩を並べるあの女と「同じ顔をした」連中。そいつらは全員、喰らった次の瞬間から「一点に向けて集まり始め」、その場所を起点に女が水球のようなものを作り出し、ドームのようにして封じていた。

 と、気付いたのか近衛がこちらを見る。

 

「…………どういう状況だい? これは」

「おー、第一声がそれなのはちょっと頼もしいな。……まー、何て言うのか? アイツらが使っていたウィルスの仕組みを、ちょっと『解析』っつーか、なんかわかっちまったから、それを応用してちょちょっとな?」

「その『ちょちょっと』とやらを細かく聞きたいところなんだけれどね。…………見たところ、彼女たちを『従わせている』のかい?」

「従わせてるっていうより、なんだろうなこりゃ……。肉体の自由を奪ってるって感じか? まー相手の対魔力っていうか、そーゆーので抵抗力に差がありそうなもんだけど」

 

 

 

「………………おかげで私は、ご覧の有様ですよ。犬上小太郎の孫」

 

 

 

 そういう少女、ディーヴァって言ったか…………。敵対してる奴らが着用している襦袢のようなそれの下がボロボロになっていて、ミニスカートっぽくなっているのは一体何なのだろうか。前の留め方も乱雑だし、見ようによっては乱暴された後に見えてしまい、脳裏に何故かちづの怒り顔が思い浮かんだ。

 

「あーあー、嫌です嫌です。このまま貴方に自分の身体の自由を奪われたまま、最初はいいように肉の盾として使われ、最後はその性欲を満たすため――――」

「しねーからな!? マジでそういうフラグめいたことを言うの止めろ、聞いてなくても聞いてるように振舞ってくる奴とか絶対出て来るから冗談じゃねーぞ!!? ……って、いや、お前さんも割とケッコー、こっちの『尸天』に対抗できてるだろ。意識普通にあるじゃねーか」

「まあ、魂魄を再統合されたら、身体は強制されていても意識くらいは戻りますから。ね? …………まさかその技で集めた私達(ヽヽ)を、血装術で干渉して『魂だけ引きずり出す』とか、そんなことされるとは思っていなかったですから。いや、実際やっぱり不思議というか、興味深いですよね、『刀太くん』は」

「…………ん?」「……はい?」

 

 ふと、しゃべり方や近衛に対する彼女の呼び方に違和感を覚えた。それは近衛本人もそうだったようだけれど、「じゃあ残りも片づけましょう」と手を向けて呪文を再度唱え始める。

 

「既に私の魂も『あちらには』残っていないでしょうけれど、この手が通じないとなったらまた新しい方法で干渉してくるかもしれませんし――――術式固定」

 

 言いながら掌に水の塊(呪文?)のようなものを出現させた彼女は、襦袢がはだけて胸板がわずかに見えているそこに持っていき、拡散/同一化。透けているコート状のそれから、下側のギリギリな襦袢が見える。

 

「ヴィシュ・タル・リシュ・タル・ヴァンゲイト――――魔法の射手(サギタ・マギカ) 加速:(アクセラレティオー・)水の101矢(セリエス・アクアーリス)

 

 …………直後、ガトリングとかマシンガンみたいな勢いで水の弾丸が超高速射出されていく絵面は何と言うか、弓使いのはしくれとしては色々と思う所がある光景だった。自分と同じ顔をした敵を一掃するのに、一切の躊躇がない。

 近衛が「だから本数えげつねぇ……」と引きつった笑みを浮かべているのも、状況に拍車をかけていた。

 

 やがて視界一帯が綺麗に片付いた時点で、彼女は僕らに提案する。

 

「では、そこの犬上小太郎の孫が起きたところで。何故、私を同行させようと言うのですか? 刀太くん」

 

 

  

   ※  ※  ※

 

 

 

 1周目の私が、「統合」という形で私にもたらした情報は、一部の周回前の記憶と、いくつかの魔法解析の技、あとはいくらかの経験値だった。

 例えば、血風のバリエーション。あの「私」の習得時期についてはともかく、少なくとも二系統の魔法を解析したらしい。

 土系統魔術と、あとは死霊系統魔術。

 

 これにより私が新たに習得したのは、血風(かい)天と血風(しい)天になる。

 

 前者は先ほど見ていた通り、血風と接触した対象に土属性の魔力を帯びさせるもの。ディーヴァでいえば、海天偽壮などで自らが同化している水属性の中に土属性の魔力が紛れ込むことによって、同化状態を制御している術式にエラーが発生し技が溶ける、といった具合だ。石化などでなくて良かったと見るべきか、それとも現時点の私の練度不足の問題かはともかく、ひとまずディーヴァ個人に対して「逃げられる」くらいには対応策が出来たと言うのがちょっと喜ばしい。

 後者については、どうも一度「ゾンビウィルス」に感染した際、星月が乗っ取らせまいと急いで解析した結果の副産物のようである。……なおそのことが分かったとしても、あの「私」に紐づいているはずの星月の存在は見受けられなかったので、やはり星月は「私」とは別に独立した魂魄の類なのだろうという確信が強まるが、さておき。この技の特性は、ゾンビウィルスそのものというより、原作において水無瀬小夜子がキリヱや九郎丸を洗脳していた時のそれに近い。言うなれば――――。

 

 

 

「血風尸天――――ッ!」

 

 

 

 横凪ぎに放った「どす黒く」「愕々(おどろおどろ)しい」色合いな血風の剣閃、その軌跡。一撃を喰らったディーヴァもどきたちは特に大したダメージが残っている訳ではなさそうだが、その一撃により全員が「動きを止めた」。ディーヴァたち自体が倒れないことで、新たな枠が湧いてこない。

 外見上は麻痺のような状態異常にも見えたが、ふとなんとなく「この状態ならば」、ディーヴァの魂魄を回収できるという直感が働いたのだ――――というより、おそらく「こういった方法」を用いて、かつての私はキリヱを助けたことがある。そんなイメージが、うっすら有るような、無いような。

 

 まあこの場合、仮に救い出せたとしても「私」へ隷属した状態での復活だろう。少なくともココを出るまでそれは継続されるはずだから、二次被害のようなものもあるまい。

 ディーヴァもどきたちを眼前に集め、全員に指先を少し切り血を流すように指示。特にそれに反抗もせず、虚ろな目をした彼女たちは指を切り、地面に向けて垂らす。

 垂らされたそれらの血を「まとめて」黒棒に当て、体感における「金星の黒」、その扉の先から魔力をひねり出す――――。

 

(『――――全く、「ここから」だと声は届かないだろうが、これくらいは手を貸してやろう。刀太……、いや、相棒のことだから、これもどうせガバだろうが』)

 

 ひねり出した魔力で「一本芯を通すような」イメージをディーヴァもどきたちにつなげると、その実体のある彼女たちが突然ビクビクと痙攣してその場に倒れ伏し――――液化するのと同時に「ディーヴァでなかった部分」が、翼と尾が接合されたような「脊椎のバケモノ」がこちら目掛けて襲い掛かる。

 とはいえ、突然襲い掛かってくるそれらに対して「嫌な感覚」は感じていたので、既に左手で血風を盾のように形成済だった。それで適当にかわしながら、液化したイメージのディーヴァが再構成されるのを待ち。

 

「…………驚きました、個体名『刀太君』。……いえ、『刀太くん』。何故私をこの場で呼び戻したのでしょうか?」

「いや全裸止めろ、転がってる服着用しろっての!」

「え? あ、はい」

 

 何故か口調が丁寧語になった「再生した」ディーヴァが、切り裂かれてボロボロになった襦袢を慣れない手つきで着込みつつ「呑み込む深海」を発動して、連中を一掃した。くりくりしたお目目をこちらに向けて、不思議そうな彼女。もっともそれにストレートに答えたかと言うと、それが出来ないくらいには私もひねくれているかもしれない。

 とりあえず血装術で「薪を背負う」ように固定していた釘宮を下ろしながら、私は苦笑いした。

 

「一つは人手が足りねーってことだな。釘宮とか早々にダウンしちまうし、一人でアンタもどきとやりあうのはちょっと厳しいってのがある」

「はぁ……」

 

 言いながら、ボロボロの襦袢の裾を千切って丸め、釘宮の鼻に詰めてやっていた。……いや、確かに妙に血が濃すぎるのかさっきからずっと鉄の匂いが充満しているが、そのせいで倒れた釘宮の鼻に突っ込むものがそれで良いのだろうか。

 お陰で丈が短くなっているのにも気にせず、彼女は話を続けた。………… 一瞬成瀬川ちづが怒鳴り込んでくるような姿を幻視した気がするが、あくまで魂世界での出来事なのでノーカン!(迫真) ノーカン!(大迫真)

 

「それは、確かに一理ありそうです。とはいえ私もどきと言っても、今のでほとんど『私』が再統合されましたから、今後再生する『アレら』に私の力は介在しません。先ほどのレベルではないと思います」

「そりゃ吉報って言えば吉報だな。…………で、まーもう一つあるとすると、何て言ったらいいか…………」

「別に私に対して積極的に配偶を求めているような、そんな理由ではないと思いますけれども。そもそも既に肉体的には死んでますし――――」

「いや、別にホレたとかそんな訳じゃねーからな? ……容姿の美醜はともかくとして、敵同士で普通はそういうことしねーモンだから」

「しかし男性というのは、時と場所と場合を弁えず性欲をまき散らすものと――――」

「それどっからラーニングしてんだアンタ……、いや実体験だとしても、もうちょっと別な理由付けとかがあんじゃねーの? 服自体に魔法障壁が織り込んであるとかで、そこに武装解除喰らったとか」

「しかし、私に対して()ってましたよね、刀太くん」

「……………………、ま、まぁ、俺がどれくらい色々と悶々としてるかってーのは置いておいて」

「あらあら、どうしましょう。この『隷属』状態のまま、こんな場所で肉体を求められてしまうとしても、外部に繋がらないせいで作法(ヽヽ)のダウンロードも出来ないですし――――」

「だから痴女かってのアンタ!」

「いえ、そういうのが好きなのではなく、知りたいというだけです」

「そーゆーうのに興味津々っていうのは、十分おスケベって奴だと思うぜ? つまりアレだ、エロ女ってことだ」

「!!!!?!?!???!?!?!?!?!????!?!?!?!!!!!!!」

 

 今までで最も目を見開いて硬直したディーヴァ。指摘された事実に思い至っていなかったのか何なのか、それを踏まえて今までの自分を反芻し始めたのか何なのか、顔が一気に真っ赤に染まる。やっぱりこうやって誰かまともに情緒育ててやれって話なんだよなぁ……、デュナミスもネギぼーずヨルダも現実から逃げるな。(戒め)(???「そーかい、現実から逃げないのがお好きかい? なら…………、今までのガバの分、覚悟しておくんだねぇトータ」)

 やがて再起動したように、若干震えながら顔を隠すディーヴァ。

 

「…………わ、わかりました。私、エッチな女の子だったのですね」なお声は一本調子。

「わかりゃー宜しい。恥ずかしいって思うなら、色々善処するように――――」

「それはそれとして気になるものは気になるので、恥ずかしいですがそういった疑問に思ったことは聞くようにします貴方に」

「いやだからそれ止めろっての!」

 

 というより、何故私相手になのか。そう思って聞いてみると、やはり予想通りというべきかデュナミスもラスボスもそういった質問にはロクな回答を寄越さないらしい。大体が頭抱えたり仕事の話を割り振ったりのみで、情緒的な話が出来る相手がこのせつくらいだったようだ。まぁ…………、あの二人のマイペースないちゃつきを目の当たりにして色々学習していけばこうもなるか(適当)。

 

「……まぁ、そういうのはまた後で考えろってことで。

 とりあえず、アンタにゃしばらく俺と同行してもらうぞ」

「同行ですか? ……確かに隷属自体は続いているので、拒否はできませんが――――」

 

 そう言いながら、私は血風を、ディーヴァは無詠唱の魔法の射手(サギタ・マギカ)をそれぞれの後方に放ち、相手の後ろから襲い掛かってこようとしたディーヴァもどきを一撃。見る限り、確かに水属性魔法など使ってくる気配もなく、ハリボテといえばハリボテなのだろう。

 

 と、続けてどんどん下から飛んで来る連中相手にやりあってる最中に釘宮が目を覚まし、今に至る。

 

「では、そこの犬上小太郎の孫が起きたところで。何故、私を同行させようと言うのですか? 刀太くん」

「…………そこの彼女、えーっと、…………?」

「ディーヴァで構いません、犬上小太郎の孫」

「ディーヴァ、か。彼女がそもそも何故復活してるのかとかは、聞かないけれどね。この場は協力してもらってるという前提で話を進めているんだろうし」

「物分かりが良いですね、犬上小太郎の孫」

「物分かりっていうより、色々諦めてるやつなんだよなぁその振る舞い…………」

 

 私の一言に察する物が有ったのか、釘宮は遠い目をして私を見て、そしてお互い視線だけで同情しあった。同病、相哀れむ。時系列進行ガバとかそういう概念は彼にはないだろうが、どうやら彼も彼で状況に振り回されて右往左往させられている性質のようだし、ある意味似た者同士なのかもしれない。学習性無気力…………(震え声)。

 

「その上で、だ。その場合、足止めは俺がすることになるって認識で合っているかい? 近衛」

「まー、そうだな」

「それは…………、大丈夫なのかい? いきなりこの場で倒れた俺が言うのも変かもしれないけれど、おそらく『瑕疵の相手』の下へ連れて行くのだろう? 彼女。その場でギリギリというところで裏切られたりするリスクは、一定数存在するんじゃないかと思っているけれど」

 

 さっきのやりとりもあってか、流石にそこは察したか釘宮は肩をすくめる。――――そう、対魔力という意味で彼女自身が私のオーダーに逆らえない程度の隷属化はされてこそいるが、「自発的に」「潜在的な」敵対行動をとられることまでは、こちらで制御することが出来ない。言動がそうであるし(持て余してるメンタル大ダメージ)、なにより「隷属状態」を破ろうと何かしら術を走らされたりすると、私として対応しきれない可能性がある。これでもラスボス幹部級、現在の私と比較したらネコと異世界転生用トラック(謎比喩)くらいの戦闘力の差があるはずだ。そんな彼女に本気で色々と裏から手を回されると、ギリギリのタイミング、それこそ水無瀬小夜子やおそらく来ているだろう三太と合流した時点で、手痛いしっぺ返しを食らう可能性もあるのだ。

 だが、とはいえ逆はむしろ許容できない。

 

「だからってコイツを置き去りにしても、それはそれで危ねぇんだよな。意図的に数匹俺たちの方に見逃して送り込んでくる可能性だってあるし、何より今のコレって『能力の幅』が全然わからねー。使いこなせてねー以上、ひょっとしたら一定距離範囲内とかみたいな縛りがあるかもしれねーから、下手に置いていくっていうのは色々危険な訳だ」

「なるほど」

「って、いやお前が納得しちゃ駄目だろ…………」

 

 情緒幼児かな?

 

「……命令だけ残して離れた方が反抗される可能性が高い、ということか。…………なら仕方ない、ここは俺が引き受けよう」

 

 立ち上がる釘宮の首に、血装術でマフラーを作ってかけてやる。と、驚いた表情の釘宮。突然それを首に巻かれたことに対してではなく、突然「鉄臭さが消えた」のに対して驚いたのだろう。これは何だと聞いてくるので、簡単に説明してやる。

 つまりは血風をゆるく発動しているマフラーのようなものだ。どうもここの大気と言うか、瘴気のようなものにヤられてしまったらしいので、最低限それらに対する防御は出来るような装備を臨時で適当に造ったという話だ。このあたりは「眼帯の私」の経験値のようなもののお陰で造れたという感覚があるため、何と言うか、緊急時にキリヱも良い仕事をしてくれたものだ。

 

「これは、正直助かるかもしれない。不快感が大分やわらいだ」

「そうかい? ……って、今更だけど、お前ひとりで足止め大丈夫か? たぶん出来るだろうって勘で提案したところはあるんだけど」

「出来ればもう少し論理的な理屈付けをして欲しいところだけれどね。…………まあ、とはいえ得意じゃないなりに『多数』と対決する場合の技っていうのも、存在はしてるからね。

 ――――犬上流獣奏術奥義・狗音 影の舞(くおんアルターエゴ)

 

 自分の下方向、影に向けて矢を撃つ釘宮。と、その陰から大量の黒い狼のような、狗神が――――。それら『数十匹』の狗神が、釘宮を見て尻尾を振り、今か今かとオーダーを待っているように見える。

 こちらを一瞥し、釘宮は肩をすくめた。

 

「行くんだ、近衛。…………とりあえず終わったら、ラーメンたかみちのトンコツ以外だったら何でもいいから」

「おう、了解ッ!」

「ラーメンたかみち……?」

 

 不思議そうに頭を傾げるディーヴァだったが、その場から高速退避する私の後には海天偽壮のまま続いてきていた。

 何やらぶつぶつと思案している様子の彼女に、これもまた情緒教育の一貫かと思いながら。

 

「…………ま、とりあえず一つ言えるのはだな」

「?」

「水無瀬小夜子と佐々木三太の関係が、一つの愛の形だ。そーゆーのを知りたいっていうのなら、せいぜい間近で見て、下手に手は出すなって話だぜ? じゃなきゃ、馬に蹴られてどうにかされちまう」

「…………何と言うか、本当、面白いですよね、刀太くんは」

 

 何を面白がっているのかはよくわからないが、ディーヴァは少しだけ眩しいものを見るように、目を細めて私に微笑んだ。

 

 

 

 

 



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ST112.死を祓え!:愛について

深夜には勝てなかったよ…(白目)
毎度ご好評あざますナ!


ST112.Memento Mori:Where Is The Love

 

 

 

 

 

 誰も居ない学園都市。明かりだけは残っているような、祭りの終わりのような、そんな小夜子の中のイメージで。オレ達ふたりは、特に変わったことをするでもなく、ずっとくっちゃべってた。

 他愛ないしゃべりって言うには、オレも小夜子も全然話慣れてなくって。話題も微妙に長続きしねーし、後小夜子が結構毒づいたり言葉が強かったりして引いたり、それに慌てて自分で自分にフォローになってんだかなってないんだかなこと言ったりして。

 

 でも、まあ、楽しかった。

 

 人は居なくても店の屋台とかは残ってるから、二人してたこ焼き焼いたり綿あめ造ったり作り置きの焼きそば食ったり、水鉄砲を意味もなく打ち合ったり、そこらへんに捨ててあった線香花火したり、勝手にひとりでに燃え上がったキャンプファイヤーをじっと隣同士で眺めたり。

 まるでこれが現実にもあるような感じで、それでも人が居ねーのはちょっと寂しくて。

 でも、それでも小夜子と二人で色々やるっていうのは、思いの他楽しかった。思えばこうやって、二人で出かけたりってことは全然なかったなと思う。二人ともインドアだし、根暗だったから、大体顔を合わせたらずっと一緒にいて、愚痴言ったり、特に何もせず昼寝したり、小夜子が根城にしてたトイレの掃除したり、そんなくらいだった。

 

 だから、たとえ「幻」のようなのであっても、コレは凄い良いことなんだって思う。

 

 ――――たとえ外で、分身体の俺が小夜子からまき散らされるゾンビウィルスと対決しているのだとしても。

 

「…………ゴメンね? 三太君。私、恋愛経験クソ雑魚ナメクジで……、あんまりおもしろくないでしょ」

「い、いや、そんなこと言ったらオレだってそんなモンだし」

「…………あ、か、かき氷あーんしよっか」

「いきなりハードル高すぎねェ!?」

「い、いーでしょ別に、ここって私たち以外誰もいないんだし。…………二人ぼっちっていうと、どくさいスイ〇チ押した後みたいな感じでちょっとヘンな気分だけど」

「なんでその例え出したんだお前……、っていうか、それって独裁者をこらしめる道具じゃなかったっけ?」

「だけど、あれってド〇ちゃんだけ最後の最後まで残ってたじゃない? それにほぼ一日誰もいなくなった翌日にすぐ復活したとしても、それまで継続していたインフラ関係とかはすごい打撃を受けると思うの。だからアレって、どっちかというと押した人間の認識に働きかけるタイプの道具なんじゃないかなーって思って」

「だからなんでその話すごい広げてくんだって。俺、そんな詳しくねーって。一応、俺ってギリギリ2070年代っ子だけど、ギリギリってくらいだぜ?」

「あー、そっか。再リバイバルしたのって2060年代後半くらいだったものねー。でも〇ラちゃんあんまり見てないって、結構人生損してると思うの。ド〇パンのド〇えもんズとか、はちゃめちゃで凄いオススメだし」

「だから知らねーって」

「えっ? 嘘でしょ、謎の挑戦状の映画知らないの? 短編単独としてはドラえも〇ズのメンバーだけ押さえておけばスッキリ楽しめるすこし不思議映画なのに」

「圧が強えー! っていうか顔近ェからー!」

「……キス、しよっか」

「唐突すぎるだろ!」

「ヘタレ」

「ひぐゥッ!」

 

 後、時々こうして年代間? のギャップとか、テンションの違いとかを感じたり。

 ひょっとすると単にはっちゃけてるだけなのかもしれねーけど。

 あと漫画の話なら、オレの時代っていうか、そういう頃には既にP・A・L☆ザ・コミックマスター(コミマス)が漫画家として全盛期の頃だから、コミマスがキャラデザやったドラ〇もんとかの映画とかも見たことはあったけど。……というか未だにコミマス全盛期だし、やっぱり複数人の団体とかなんじゃねーかな? コミマス。

 

 まー、そんな風に二人して色々話したりして、遊んだりして、戯れたりして。でも、そんな時間が長く続くとは、俺だって思ってない。表ではそろそろ俺も追い詰められてるし、外に出てるUQホルダーの連中も、なんかギリギリな感じで戦っていて。あの刀太の祖母ちゃんってののせいで俺も加勢に回れない。

 ただ、せめてこーして小夜子と話していたら。何か、状況を変えるための糸口とかが見つかるんじゃないかって、そう思って。

 

「…………すごい、近衛刀太」

 

 ただ、それが長く続かないことは、俺達二人ともが良く分かっていた。

 

 唐突に、打ち上がる花火をぼうっと見ながら、小夜子はそんな事を口走った。

 

「……なんでトータ? いや、『外』では見かけねーとは思ってたけど」

「あれ? あー、そっか。三太君は『外』は見れても『世界樹含めた』『内』は見れないのか。うん、今ね? 近衛刀太が『正面から』こっちに向かって来てるの。つまり、魂魄の『魄』の側、私のおっぱい触ってる三太君のところに」

「い、いや! 触ってねーって! とりあえず手は伸ばしてたけどさァ!」

「あ! じゃあラッキースケベだ! なんか凄い久しぶりな…………ん? ちょっと待って、おっぱい触ってるのにその自覚がないって、私、まな板だってケンカ売られてる? 三太君のくせに」

「いや、だからそーじゃなくって! ……っていうか結構あるだろお前…………」

「えっ?」

 

 思わず誤魔化すように言った一言に、思わず「過去の経験」からわきわき動いてしまった右手に、小夜子が少し顔を赤くして、はにかんで目を逸らした。

 

「…………三太君の節操なし、ケダモノ」

「いや、そんなに別に持て余してねーって」

「でも考えたら不思議よねー。私たちってちゃんと死んでるのに、生前の『そういう欲』っていうか、衝動っていうか、そんなものまで引きずっちゃってて」

「あー、確かに」

「ねー?」

 

「「………………」」

 

 いや普通にしゃべってて会話途切れたとか、しゃべり下手すぎねーかオレ達。

 

「……ねぇ、三太君」

「な、何だ?」

「一つ、お願いがあるの――――」

 

 そして、その会話を最後に。俺は小夜子に「突き飛ばされ」、急激に「外へと追い出された」。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 ディーヴァ一人増えたところで道行の果てしなさに変化が起こる訳もなく、私たちは延々と続く足場の先へ向けて、低空飛行を続けていた。いい加減、周囲の景色の赤黒さが一切変化しなすぎて「ステージ使いまわしか?(ゲーム)」とかメタなことを考えてしまったりもする。なおディーヴァはディーヴァで特に何も言わず、従順というか素直に私に続いてきてくれているのが、なんとなく小さい子が大人とかお兄ちゃんお姉ちゃんにくっついてよちよち歩いてくる様をイメージさせてちょっと微笑ましい(上から目線)。

 

「……? あれは」

「何かありますね、刀太くん」

 

 その無限に続くと思われていた未知の道の先に(激ウマギャグ)、それは鎮座していた。

 巨大な石の様な――――それも先ほどまで全く見えなかったのが嘘のように、まるでさもそこに当然のように、道の果てに「人体が集積した」何かが存在した。

 

 赤黒いのは皮がはがれた人体か。男性、女性、そんなもの関係なく正体がわからないくらいには抽象化したような、グロテスク極まりない無数の人体の亡者が折り重なり、蠢き、呻き、唸り、そしてその上部に水無瀬小夜子と、三太が居た。

 水無瀬小夜子の全身から「亡者が生えている」。ちょっともの〇け姫とかでいうタタリガミ的な要素のあるパロディな感じになっており、その胸元に手を伸ばした三太のそれが、亡者の肉に呑まれて、もはやどことどこが接触し接合されているか判別がつかない。というか三太の髪が短くなっておかっぱじみてきてるのは一体……。

 

「…………これが、愛の形?」

「…………これも、愛の形かなぁ」

 

 その在り様というか、名状しがたい状況を、しかし私は否定しない。……否定はしないが、フォローしておかないと情操教育的に宜しくないので、最低限は言うべきことを言ってやる。

 

「愛する相手がどうあっても、手を差し伸べるっていうのは、一つの愛だと思う」

「どうあっても、ですか。…………このいびつな状態は、ある意味で彼女の本質でしょうけれど。デュナミス様によってその制御が狂った結果、より分かりやすく見えるようになったのだと思いますが」

「お前、デュナミスのこと様付けで呼んでるの……?」

「まあ、仮にも私を最初に起動した方ですので、口頭で呼ぶ際くらいは。…………不満を表明する意味を込めて最近はしていませんけれど」

「そういう理由だったんだな……。って、いや、そういう話じゃなかったか。悪い、脱線した。

 まー、こういう状態が本来だったっていうのなら、それに気づけなかったことに後悔して、でもどうにかしてやりたいって色々手を尽くすっていうのが、よくあるやつだ。相手との親密度と、状況が改善しやすいかどうかとか、そういうのが比例してるだろうけれど」

「そんなもの、最初から気付いておくべきなのでは?」

「それが出来たら世の中から争いごとっていうのは全部なくなってるだろーさ。アンタがついさっきまで自分がエッチなこと言ったりやったりしてたことに無自覚だったようなモンだ」

「そういうものですか…………」

「そういう意味じゃ、相手がこの状態で、それでも手を伸ばそうってなる三太は十分愛してると言えるし、水無瀬小夜子もそれをわかってたから遠ざけようとしてたって見方もできる」

「…………」

「ん、どした?」

「刀太くんは、私に個人的な愛情を向けていたということでしょうか?」

「何でその結論に至ったし」

 

 いえその、と言いながら背中やら尻尾やらをジェスチャーで表現する彼女。いまいち無表情ながらやり慣れていない感がコミカルでデフォルメしたらさぞ漫画映えしそうな可愛らしさを感じるが、言わんとしていることはわかった。つまり「体内に」「脊椎を乗っ取るような」尻尾と翼を生やしたバケモノが寄生していたような、そんな人間的にだいぶアレな絵面だったのを助けたのはどういった意図があるのかと、そういうことが聞きたいのだろう。

 理由付けについてはさっき話した分だけで不足と感じたということか。……つまり、今の水無瀬小夜子の状況や、さっきまでの自分の状況は、ディーヴァ本人的には結構気持ち悪い類だという認識があるということか、そっかー。無表情だからといって羞恥心が無い訳でもなければ嫌悪感がないわけでもないものなぁ……(同情)。

 

「んー、この場合、何だろう? 愛情とか、そーゆーんじゃねーよ。まあ『愛着』っていうか、変な保護者的視点が入ってきたっていうか。さっきも言ったメリットもあるから、複合的な理由だな」

「愛着…………」

「お前さんみてーなの見てると、なんというかこう、そのまま放っておくのも色々アレかと思ってな……」

 

 どうせ私のガバり具合からして蘇るだろう未来が存在する可能性もあるし、その際に恨まれない程度の振る舞いも重要である、という自己保身だってそこにはあるし、こうしてちゃんと教育しておけば下手な手出しやら反抗やらもこの場ではしないだろうという打算もある。

 まぁ人間の心なんて、なんでもかんでも善意一本調子というものでもないだろう。例のラスボスだって、全人類に彼女がしたいことを考えても、それが人類救済に繋がるという思想と共に、彼女自身が狂ってしまうほどのノイローゼから解放されるとか、個人の主義主張というか好みの問題とかもあるだろうし。その点から言うと、そんな目的に協力する素振りを見せながら延々と闘争を求めていた祝月詠なんかは、その計画が成功しないだろうと見越したうえであちら側についていたか、あるいはもし完成しそうになった際にあっさり裏切るために近づいたか……。

 

 まぁ、そういう意味では原作ぶっちぎって外見上善意120%みたいに振舞って迫ってくる夏凜とか、得体が知れず怖いのだが(震え声)。

 

「………… 一面で全てを語れない、というのは理解しました」

「ま、とはいえパーセンテージっていうか、割合は違っていたりするかもしれねーけどさ。建前と本心って言ったって、そのどちらか『だけ』が建前全部って訳でも、本心全部って訳でもない。もっと複雑怪奇なモンだろ? 人間って。だからアンタらの親玉とか、絶対理解放棄してるところあるだろ。こーゆー『一元的な』方法しかとれないんだから」

「………………」

「さて! じゃ、とりあえず例の勾玉を探さねーといけねー訳だが…………、ん?」

 

 

 

 突然、三太の背中が目測三十センチの位置に――――ッ!

 

 

 

「――――いきなりでしたね」

「はい? ……あっ、お、おう、サンキュー」

 

 

 

 状況が急展開過ぎてアレだが、唐突にあの「人体のカタマリ」から三太が射出(?)され、私の方に急接近。そのままあわや頭部が消し飛ぼうかという時に、ディーヴァが間に割って入った、という流れのようだ。海天偽壮状態のお陰か、一瞬で半透明のスライム状になり三太を受け止め私にもたれかかる形に。腕の中に納まるディーヴァは、気絶してるらしい三太と私とでサンドイッチされた形に。

 と、目を見開いて私を振り返るディーヴァ。少女姿の場合、まだ私の方が身長が若干大きいのもあり、顔が近い……。

 

「ど、どうした?」

「…………い、いえ、こう、何と言ったら良いのでしょう。今まで体感したことのない、変な感覚が……、す、少し離れますっ」

 

 三太を私に手渡し、両手を重ねて私から離れるディーヴァ。色が戻ってるので既に初期状態のようだが、胸の辺りを抑えてどこか驚いたように頬が上気してる。……いや、流石に今更私を異性として認識したということはないだろうと思いたいが、この娘の情緒成長具合だとはてさて……。やっぱりガバかな? ガバかも……(諦観)。

 いや、別にその容姿やら性格に文句があるという訳ではないが、そもそも彼女の登場自体が原作チャート崩壊要因の一端だし、「私」的にどうにも親戚の子とか孤児院のちびっ子とかを思い出してしまって、なんとなくそういう感じにならないというか…………。身体的反応(意味深)は別として。

 

「って、そんな場合じゃねーな。オイ三太……」

 

 軽く揺さぶってみるが反応がない。見れば、水無瀬小夜子の胸元に群がる亡者の隙間に突っ込んでいたような右手は、「肘から下が無かった」。とは言え再生途中らしく徐々に徐々に煙のようなものが人体を再構成してるのは、流石の不死性(?)と言うべきだろうか。

 とはいえ時間もないので、黒棒の刀身、峰の部分を首筋に当ててやる。コイツ意外と物理的に冷たいので、こういう神経が通ってるところにさっと当ててやると――――。

 

「――――ひゃどばッ! お、オイ! お前、オレ殺す気か、フツー、ショック死するわッ!」

「いや、お前死んでるだろ」

「それでも死ぬってのッ!」

 

 こう、耐性がない相手は一発で起こすことが出来る。……出来るけど実際、普通の人間相手だとショック死しかねないのは事実なので、良い子はマネしちゃいけないアレだ。緊急事態なので大目に見て欲しいところではあるが、実際悪いことをした事実に変わりはないので、割と真面目に謝って許しを請う。

 首筋を押さえながら私を睨み「止めろよな、そーゆーの」と言って見回しながら、ディーヴァの姿に「ゲェ、あの痴女じゃねーかッ!」と新たに悲鳴をあげる三太。

 ぐりん、とシャフ度ギリギリにディーヴァの頭が傾きこちらを見る。

 

「…………」

「お、オイ、なんかスゲー睨んでくんだけど!?」

「あー、まぁちょっと本人気にし出したことだからなぁ……」

 

 生憎無表情なので内面は知れないが、なんとなく剣呑な圧を感じる程度には怒っていると見て良いだろう。

 と、そんな状況から脱するためではないだろうが「そんな場合じゃねえ!」と念力で浮遊する三太。そのまま、あの水無瀬小夜子の元へ行こうとして……、その目前で、彼女の頭から「蜘蛛のような脚」が生え、三太を押さえつけた。

 

「言ったじゃない、もう手遅れなんだって。だから三太君、ちゃんとやってねー? じゃないと――――私が君を殺しちゃうかも知れないから。うふふふふ♪」

 

 明らかに正気を失った、見開かれた目、開いた瞳孔。三太がそれに何か答える前に投げ飛ばし、下方に行く前に私は死天化壮で先回りして回収した。

 呆然とした様子の三太に、ちゃっかり付いてきたディーヴァが「……愛?」と頭をかしげている。

 

 まぁホラ、愛ってのは世界を救いもするし壊しもするもんだってどこぞのサムライめいた和尚も言ってた気がするし…………(震え声)。

 

 

 

 

 



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ST113.死を祓え!:天播空期

毎度ご好評あざますナ
感想は毎度なんですが、評価コメント試しに見返してたら結構しっかり打ってくれたりして、励みになりますナ!
 
そろそろ三太/キリヱ編も終わりが見えて来たような・・・?


ST113.Memento Mori:Ubiquitous

 

 

 

 

 

「「神鳴流奥義――――剣風華爆焔壁」」

 

 九郎丸と刹那さんが、二人そろって同時に同じ技を繰り出し合う。眼前で共に放った剣の烈風、炎の壁はお互いにぶつかり合い相殺し合う。わずかに刹那さんの方が優勢かしら? 神刀は時間と共に姿を消し、九郎丸の恰好も既に元に戻っています。対する刹那さんも、あのタケミカヅチというらしい古刀を長物程度の長さに調整して使ってる。

 とはいえ、単純技量ではまだ歯が立たないのか、踏ん張りどころとかそういう細かいタイミングで、斬り合いに負けているわね。そこを一空が援護射撃することで、わずかにカバーされている状態。拮抗、やや押されているという状況だけれど、それでも相手側もこちらを倒しにかかってこない辺り、どうやら本当に言葉通り「本当は戦いたくない」「足止めが主目的」といったところのようですね。

 とはいえ、雪姫様も「茶々丸さん」も居ない現状、ギリギリというのも仕方がない。というよりも、神聖魔法を特に制限かけずに使用してる私相手に粘っているもう一人の祖母らしい木乃香さんの力が異常と見るべきかしら。

 

「フラベル・ミラベル・アラ・アルバ――――戦いの歌(カントゥス ベラークス)、三連発や!」

「――――『干からびた骨(オゥス・エクシィカッタ)』、併せて『霊の剣(スピリトス・グラディウス)』!」

 

 身体強化を施した木乃香さんは、すだれみたいなものを自由自在に変形させてこちらに打ち込んでくる。私もそれをただ黙って受ける訳じゃなく、神聖魔法で私の全身とこのハンマー「戦棍シタ」とに属性をエンチャント、基礎能力を上げて応戦します。

 とはいえ、ジェットを吹かしながら「斬撃」の属性を帯びたハンマーを、直接受けず受け流すのは相方であろう刹那さん相手に、剣相手の戦いはやり慣れているからでしょうか。

 

 と、木乃香さんが私に微笑みながら声をかけてきました。

 

「…………えっと確か、カリンはんって言うん? カリンはんも、刀太君のところに行きたいんか? さっきから全然、気合が感じられんところあるけど」

「……気もそぞろ、という意味ではありませんが、確かにやる気はさほどないかもしれません。もとより足止めと聞いていますけど、刀太は貴女たちが私たちに倒されたとなっても、少し複雑な気分になりそうですから」

「えっ、そうなん? 意外とフェイトはんみたいに、そういう判定は別な気もしたけど」

「だからといって、貴女たちは祖母でしょう? 誰とて自分の親類がそういう目に遭えば、思う所はあるでしょう」

 

 当然、私の目から見た刀太の印象だけれども。あながちハズレでもないと思っている。なにせフェイト・アーウェルンクス相手に自らの「本当の」母親の話を挙げられた際、どうしようもない表情をしていたのを覚えていますから。あれは会ってみたくもあるけれど、雪姫様への義理もあるし、とはいえ提案してきたのが敵対者だから、など色々な感情が織り交ざっていたように思います。

 そういうストレートに笑えないようなことを、あまりあの子に背負わせるのは良くないでしょう。

 

「何っていうか本当、お姉さんって感じなんやね。アスナとかウチとか、皆ともちょっと違う感じで、こういうタイプは初めてやなー」

「それが、この場で一体何の意味を?」

「いやー、大した意味なんてあらへんよ~。ただ少しでもこう、『地上で』外に出てるなんて久々やから、もっとおしゃべりしたいんよ。お祖母ちゃん的なウチとしては、周辺の女の子事情とかも気になるし」

「まぁ、気にする程のものでもないと思いますが…………、妙に女性からも男性からも好かれるような雰囲気のようですし」

 

 恋愛感情的な意味かはともかく、刀太自身はちゃんと接した相手に対して妙に「絆す」ところがある。あの不死身衆(ナンバーズ)正体不明筆頭であるニキティス・ラプスでさえ、その妙な雰囲気に呑まれているのではと思う所もあり……、まぁそれは私もそうだという自覚はあるけれども。

 

 とはいえ、まあ、「責任は」とってくれるようですし。深く悩むようなことはありません、ええ。本人もどうやら忘れているようには見えますが、潜在意識のところではうっすら覚えているようにも見えますから、性格的に違えることは無いでしょう。

 

 ……フフッ。

 

「な、なんでそんな、エッチな感じに笑てん? エヴァちゃん好きなんよね、セリフの前後的に刀太君相手に『せっちゃんみたいな』こと考えてた感じやけど……、ひょっとして月詠はんみたいに二刀流?」

「あら、済みません。…………いえ、雪姫様第一なのは違いありませんが、それはそうとあの子を『独り』にしないと約束したことがあるもので。向ける感情のベクトルは、私も測りかねてはいますが。

 ………………おや? その、刹那さんってその、相当『アレ』なのですか?」

「あー、まぁ……、せっちゃんやもんなー」

 

 朝ネコミミ眼鏡な裸エプロンで起こしてしてくれって言われた時は何事か思ったわ、とニコニコ微笑む彼女に、九郎丸と相対している方から「このちゃーん!?」と絶叫が聞こえました。九郎丸も目が真ん丸になって、なるほど、ふむ…………。

 

「それはそうとして、貴女たちは一体何なのでしょう? 『完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)』という名前こそ聞きましたが、そこに協力している割には積極的ではありませんし、明らかに殺すつもりもないように感じます。それに……、年が合わない」

「年? あー、えっと、コレはアレや。ウチが最終的に『神霊一歩手前』に届くか届かないかってくらい魔力伸ばしたせいで、ウチもせっちゃんも見た目ほとんど年とらなくなったってだけやなー。龍宮はんとかザジはんとかとは違うえ?」

「そこは、理由は察してましたが……、ふぇぇっ? し、神霊クラス?」

「まー、お陰で『洗脳』も中途半端にならざるを得ないらしいしなー、完全に自由を奪って指示通り以上の行動をできんようにさせるか、ある程度自由を許して臨機応変に動けるようにさせるかって感じ。

 それにアレや。『刀太君の仲間』か『彼女』かもしれない子ら相手に、色々やるんは『ネギくん的にも』ちょっと気が引けるやろしな。そーゆーところは、積極的ではないにせよ、逆らえるウチらがなんとかしておかんと。只でさえネギくん『人質』とられとるようなもんやし、こう、『お姉ちゃん的立場』からするとなー?」

「…………ネギ? ネギ・スプリングフィールドですか。ふむ」

「せや? まーネギくん言うても、ほとんどネギくんやない時もあるから、その辺りは半々ってことやな。……あれ? これってウチ、話して良かったんやっけ――――」

 

 

 

 ――――――――唐突に響く、声。

 

 

 

 私だけではない、木乃香さん、刹那さん、九郎丸、一空。この場の全員が、その視線が「世界樹」に立つナニカに吸い寄せられる。

 そこに存在する巨体――――その巨体ではない。巨体の内にある「ナニカ」が、私たちの視線を捉えて離さない。いえ、離せない。

 

 生物としての根幹的な「恐怖」の感情、それが、さっきの声に伴っていた。

 

 声は、まともな言語をしていなかった。でも、私たちはそれから目を逸らすことが出来ない。まるで「そうしないと」、意識を少しでも外したらすぐさま殺されてしまうような。不死者であるにもかかわらずそう確信を抱かせるほどの「ナニカ」が、あそこにあった。

 その感覚は人型をとっており――――視えないはずなのに、どす黒い、穴を思わせました。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 眼前はいよいよラスボス戦とでも言うべき光景であるが、水無瀬小夜子が取り込まれている亡者の塊が動き出したことで、それの正体に判別がついた。心臓だ、イビツな怨霊で形どられた心臓なのだ。拍動するその動きに合わせて、中心からやや上部の水無瀬小夜子の表情が歪む。もっとも基本的なベースは目を見開いた狂気の笑みなので、受ける印象にさして差はないが、それでもそこに正気の欠片でも見ているのか三太は彼女の名を叫ぶ。

 

『――――――――』

 

 言葉のない咆哮。だが、同時に強い念を感じる声。目を逸らすことを「ためらわせる」くらいに、思わず注意が引きつけられる。

 その彼女の頭部から、髪を中心に這い出る無数の足はそのまま蜘蛛のようなそれで、同時に「周囲一帯全て」に嫌な予感が走る。

 

「ッ!」

 

 黒棒を構えようと振り回そうとすると、まるで何かにからめとられたように動かない――――咄嗟に思い出したのは、「ネギま!」学園祭編・まほら武道会でエヴァちゃんが使用していた魔力糸。人形遣い(ドールマスター)の呼び名をほしいままにした彼女にとってそれは、ちょっとした余興程度の道具ではあったろうが、そもそもとしてコレ自体は一般的な魔法による生成物の一種のはずだ。

 それが全体に張り巡らされているとなると――――嫌でも蜘蛛の巣を思い出してしまう。

 血風を放つも次の瞬間には糸が再生され、進めても一歩一歩。急発進しようにも絡みつきの方が強く、そう簡単に振り切ることが出来ない。

 

 なおこれに対して引っ掛かるのは私のみ。三太は透過して普通に通過するし、ディーヴァも海天偽壮のゲル化とかの影響で一切拘束されない。理不尽であるが、逆説的にこうでもして私の動きを封じたいという意図を感じ取ることができた。つまりこちらが手を尽くせば、今の彼女をどうにかすることが出来るということだ。

 

 ふむ? ならば少し小細工するとしよう――――「かつての私」と統合された、今の私の練度ならば出来るはずだ。

 

幽波拳(スタンドフィスト)――――はァ!」

『――――――――』

 

 不可視、念力の壁を例によって殴りつける三太。それにより増幅、拡散、拡大された威力がもろとも水無瀬小夜子の全身を覆う肉塊に向けられるが。同時に彼女の眼前に一瞬で「張り巡らされた」、魔力糸の盾が固い。その性質においても粘性、弾性が強いのか、三太の拳のそれを上手い事吸収して逃がし防いでいた。

 そして、やはりと言うべきかその「声」が発されるたびに、どうしても視線が吸い寄せられる。無理に払おうと思えば払えるので問題はないのだが、見てみれば三太やディーヴァはそこから視線が動かし辛いらしい。何だろう、こう、人類の「祖先」的な天敵でも思わせる在り方なのだろうか、今の彼女は。根幹的な恐怖によってか行動を制限されているそれは、ある種、魔法じみていた。

 

「アルエル・ファルエル・ベルベット―――― 魔法の射手(サギタ・マギカ)光の七矢(セリエス・ルーキス)!」

「いやお前さん絶対闇属性だろ、何故光属性使ってやがんだよッ!」

 

 属性的に三太特効と思われるその矢を放つ水無瀬小夜子。念力の壁で防御こそするが、先ほどのディーヴァのガトリングがごときサギタ・マギカとは違い、まるで吸血鬼でも打ち殺すためのような太い「木の杭」のような太さのそれが、壁に刺さり、徐々に徐々に押している――――ほぼ純粋な魔力のゴリ押しっぷりは、なんというか見ていて色々と可哀想になる。

 思わず血風を撃とうと左手を向けようとするが、それが上手くいかないのを見越してかディーヴァが無詠唱で 魔法の射手(サギタ・マギカ)を撃ち返し、三太の念力を挟んで相殺させた。

 

「あれも愛ですか。複雑なものなんですね」

「いや、どう見ても憑りつかれてる怨霊のせいで暴走してるだけだから……、って、はい? オーイ、三太、お前さっき水無瀬小夜子から『何か言われた』か?」

 

 攻撃が効かないというのに一歩も引かない三太の姿に、なんとなくそんな気がして尋ねてみる。……嫌な感覚しかり、こういう時の直感は割と外れたことがないので(主人公補正?)、おそらくはビンゴのはずだ。

 案の定、三太がこちらを一瞥し叫んだ。

 

「…………辛いから、もう殺してくれって、解放してくれって!」

「そうか! で、殺す気は?」

「無いッ!」

 

 当たり前だよなぁ……。こう、三太の背後に「ドン!」と少年漫画的描き文字が見えるような、見えないような。

 なので、狙うなら胸の中央あたり、勾玉があるはずだからそれを奪取しろと大声で教えておいた。一瞬頭を下げると、三太はそのまま再び彼女へ立ち向かっていく。……とはいえ、三太だと直撃するだけの突破力には欠けるか。

 

「こういう場合、素直に殺してあげるのが愛なのでは? 辛いと彼女も言っているのですから」

「だからと言ってそう割り切れるもんじゃねーんだよ。大事な相手と別離だってしたくないし、そもそも自分の手で殺させるとか完全に心に傷が残っちまう。お互いに、それが他にどうしようもない場合と、そうじゃないかもしれない場合がある。

 なまじあの女って、神様クラスの状態になっちまってるのもあるから、もしかしたらって希望は捨てきれねーだろ」

「それが、結果的に相手を傷つけることになるのだとしても?」

「エゴだよ、と言っちまうとなんだか宇宙世紀みてーな感じになってくんな……。いや、でも実際エゴだよ。どっちもエゴだ。で、だからお互いある意味では対決して、どっちかのエゴが勝つ。どっちが勝ったかによってどっちも幸せになるか不幸になるかなんて、その時までは判らねーから、そこはどうしようもない」

「…………」

 

『――――――――』

 

 無言のディーヴァはともかく、私も「仕込み」が終わった。……黒棒を拘束している魔力糸に沿って、私の「血」をその根元、魔法的に接続されてる陣まで伸ばした。そこに死霊属性、つまりは「尸血風(しいけっぷう)」を送り込む――――。と、射出箇所からベースとなっている水無瀬小夜子の魔力が中途半端にレジストされ、糸の再生力が弱まる。

 ぶち切り、それらの糸の基点(血を通わせてるので場所は把握している)に目掛けて血風塊天を放ち、魔力糸を散らした状態で石化。そこから再構成されないうちに死天化壮で接近を試みる――――。

 

 と、やはり眼前に魔力糸の壁だか盾だかを形成する水無瀬小夜子。とはいえそれも、黒棒に纏わせた「塊血風(かいけっぷう)」で粉々に砕く。

 

『――――』

 

 その能力リソースを全身の巨体に回しているせいか、気持ち少しだけ原作より弱く感じる水無瀬小夜子。このあたり、内部での精神対決など完全に想定外だったろうことが伺える。

 

「三太、いくぞッ!」

「おっしゃ――――! 幽波界(スタンド・ワールド)、止まれェ!」

 

「アルエル・ファルエル・ベルベット―――― …………、、、、、

、、、、、、、」

 

 血風を多数周囲に展開し、変則的に投げながら水無瀬小夜子に接近。亡者の肉塊をけちらしながら、表出するその胸の中央に光る鈍い色の勾玉。

 と、すぐさま次の瞬間、それこそ「逆再生のように」もとに戻ろうとするそれらを、三太が念力で妨害する――――否、「時を止める」。いや名前からそうかとは思ったが、お前のその技って「念力で相手の動きを完全に固定する」タイプのそれか。外見上は時間が止まっているように見えるあたり完全に奇妙に冒険する世界(時間停止)系の能力である(星屑の聖軍)。

 

 ともあれ、その勾玉目掛けて手先から小血風を放ち――――。

 

 

 

「――――あっ」

 

 

 

 砕け散ったと同時に、私たち全員の視界が、真っ暗に染まった――――――真っ暗に染まるだけの「怨霊」が、「解き放たれた」。

 

 

 

 

 



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ST114.死を祓え!:天秤を戻す

毎度あざますナ!
エピローグ含めなければようやく次回で一段落できそう・・・、と言う訳でちょっと長めです


ST114.Memento Mori:Regain Equilibrium!

 

 

 

 

 

 どうも、「私」です。「私」は元気です。

 …………この状況下で未だにちゃんと「私」が元気なことの方が色々とツッコミどころというか気になるところではあるが、とはいえ精神が消し飛ぶような「痛い」現象に遭遇していないのはプラスと言えばプラスなので、そこは良しとしておこう。

 大量の怨霊が視界どころか全域を埋め尽くすこの惨状、「何故か」私を避けるようにわずかばかり避難している連中なのだが、それはそれとして一斉に噴き出した瞬間にかなり遠くまで飛ばされた認識がある。一体どういった理由なのだろうか。しかし足場こそなんとなくわかるが、あの勾玉の破壊でこうなるとか、流石に予想はしていなかったが…………。いや、これはザジ・レイニーデイの指示に従って壊したわけだし、つまり私は悪くないはずだ、ウン、大丈夫、ガバじゃない(ガバ)。

 

 まぁそれはそれとしてだ。

 

「嫌……、またアレ(ヽヽ)になるの、嫌です――――バラバラにしないで……ッ」

「…………」

 

 ディーヴァが顔面ぐしゃぐしゃにして泣きながら私の腕に縋りついてきてるこの状況は一体何なのでしょうねというやつだ。こう、泣き方に一切余裕がなくてギャン泣きである。ますます情緒ちびっ子か何か? と疑ってしまうくらいには、さきほどのアレがトラウマすぎたのか、彼女の内面が幼いと見るべきか……。海天偽壮(マリンコード)も既に解けており、その姿は完全に華奢な一人の泣き虫な女の子のものだ(なお年齢)。

 外見上、同じくらいか少し上くらいの彼女だが、扱い上は幼児のようにしないとこの場合は流石に無理だろう。死天化壮で鼻かもうとして顔面血まみれになってるのとか居た堪れなすぎる……。とりあえず抱き上げ背中を軽く叩きながら「大丈夫、大丈夫」と、なんとなく夏凜のそれをイメージしながらあやしてやる。

 

「三太は、居るんだろうがはてさて何処行ったものか…………、ん?」

 

 耳を澄ます、と、不思議と声が聞こえる。視界が見えない程怨霊に覆いつくされてるだろうに、聞こえる声は――――。

 

 ――――――――。

 ――――――――。

 ――――――――。

 死にたくない――。

 どうして自分が――。

 ――――――――。

 アイツが悪いんだろ。

 ――――――――。

 ――――――――。

 なんでこんなひどい事するの――。

 私だけって言ったじゃない――。

 ――――――――。

 正しいことを公表しようとして何が悪いんだ、何故殺されなければならないんだ――。

 勘違いで殺されたって困る――。

 ――――――――。

 煩い――。

 ――――――――。

 なんで死んでまで意識が残ってるの、もう嫌――。

 ――――――――。

 ――――――――。

 ――――――――。

 ちくわ大明神――。

 

 

 

「誰だ今の!? って古いな、今二千八十年代だぞ…………。

 でもなるほど、怨霊っつーか、そういう連中の声な訳だな?」

「うっ、うっ…………」

「あー、ヨシヨシ、落ち着け落ち着けって」

「…………っ、と、刀太君は、これ、怖くないんですか? さっきからずっと、頭の中に『死に際』が、いっぱい見えるんです」

「死に際?」

 

 特に私自身、そういった体感が全然ないのだが。話を聞くと、ディーヴァにとって彼等の嘆き悲しみの声というのは、そのエピソードが、声に乗せられた魂に直に届きイメージを想起させるらしい。

 これは…………、死天化壮によって防御でもされているのだろうか? どちらかといえばディーヴァの受けている感覚の方が普通のものなのだろうし。現状、理由付けを求めるならそんなところなんだろう。コイツを解除する訳にはいかなくなったのだが、それはそうとして。

 少し黒棒をゆったり振り回すと、カツン、と音が鳴る。不思議に思って接近し見てみれば、どうやら金属の棺――――。あの魔法陣に安置されていた、水無瀬小夜子の棺桶?

 

「っつーことは戻って来たってことか? コレ」

『まあ、そういう訳だね相棒。お帰りっ』

 

 大河内アキラの声で「お帰りっ」は中々破壊力があって色々厳しいのだが、現状ディーヴァを抱き上げてる状態なのでこういかんともしがたい変な感覚である。とりあえず下ろしてやりながら、周囲一帯に「大血風」を、「尸天」と併せて展開する。と、流石に死霊魔術系統の効果が十分に期待できるのか、視界一帯の連中が散り、ここが本当に例の地下空間であることがわかった。

 

「……………………」

「お母さま……うーん、お母さま……」

「お姉様ッ、兄様……ッ」

 

 魔法陣の手前、近衛姉妹は魘されている程度で済んでいそうだが、釘宮が完全に白目を剥いてて大丈夫かお前マジでッ!? 思わず脈やら呼吸やらをディーヴァを放り出して確認したが、一応は問題なさそうだ。精神に大ダメージを喰らって瀕死になっても、肉体は狗族の血を引くハーフ(クォーター?)であることが良いように作用していると見るべきか…………。色々辛いな(サム)。

 そういえばザジがいないな…………、いや、まぁあの人はあの人で色々なんか知らないところでお仕事とかしてそうだし、手は尽くしてくれてるだろうからここまでくれば問題はないのかもしれない。キリヱもいないところを見ると、ひょっとしてどこかに避難したのか?

 

 周囲から連中が消えたこともあってか、少し落ち着いたディーヴァが咳払いをして私を見る。

 

「…………なるほど。つまり今の私も、亡霊の類ということですね、刀太くん」

「あー、まぁそうみてーだな。…………今、状況が特殊なせいか全然実体あるように見えるけど、なんとなくそんな気がする」

 

 なにせあのイメージにあった襦袢姿のままなのだ。これはこれで仕方ない。

 と、私の携帯端末に着信が入る。見ると雪姫からだった。茶々丸とそろって私が目の前で消えるところを見たはずだが、果たして……?

 

「もしもし?」

『――――嗚呼、そうか、お前は無事のようだな。何よりだ刀太』

「無事のようだとか言われても何のこっちゃって感じなんだが、何? どうしたんだ? 俺、今からまーた地上に向かわないといけねーみたいなんだけど」

『一人でか? 何と言うか、こう、色々難しいな…………』

 

 どうやら私の肩からこっそり覗き込んでいるディーヴァの姿は見えていないらしい。そこのところは本当に亡霊というか、幽霊そのものの扱いのようだ。

 

「で、こんなタイミングでどうして電話? そういや茶々丸さんとかニキティスとか見かけねーけど……」

『ニキティスは知らないが、茶々丸は今回の後始末(ヽヽヽ)用に色々動いてもらっている。が…………、そっちの状況を聞きたい』

「状況? って言っても、見てわからねーの? 茶々丸さんの目とかで」

『わからん。……突然、日中、ダイダラボッチが消えたと思ったら青空の下で全員ぶっ倒れただけだからな』

「…………はい?」

 

 とりあえずは地上に出ないと、彼女の言っていることがいまいち理解できないため一度切り、ディーヴァ同伴で死天化壮と海天偽壮とになり地上まで「低空飛行」。道中の暗がりは血風を投げて道を空けさせ、強制的に視界を確保する。

 本来ならば階段上り下りの吹き抜けすら、その螺旋階段の中心の吹き抜けを利用してエレベータのごとく一気に上昇。今回に関しては「迷路のゴールからスタートまで」駆け抜ける方式なので、細かいガイドなどは要らず、道の突き当たりに対して素直に進むことで出口に出られると判断していた。

 果たして、その道順から最終的に出て来た場所は――――。

 

「…………あっ、刀太君と、横の知らない彼女。ぐっどもーにんぐ」

「えっ? あ、こ、こんにちは……?」

「…………私もですか?」

 

 教会の地下空間とは「別なルート」を辿り、そのまま例の春日美空たちがいる礼拝堂のところまで一直線に出て来たらしい。いや、確かにどちらも地下施設の感じからして共通の造形思想に基づいているので、おそらく繋がっているだろうと予想はしていたが、それはさておき。

 私に受け答えし、どうやら隣のディーヴァも「見えている」ように手を振った彼女は、椅子に寝かされている老婆な春日美空の手に重ねており――――――――、春日美空の肌は、妙に白かった。色白という意味ではなく、青いというか、文字通り「生気が感じられない」。

 

「……えっと、あれ? シスター・ミソラさん、それ、えっと……」

「お仕事珍しく頑張って、生徒いっぱい逃がしたから、力尽きてる。

 だからこれ、ミソラにはナイショ。いいね? …………『来たれ(アデアット)』」

 

 言いながら彼女は、帽子の中から取り出した仮契約(本契約?)カードを起動し、先端がロウソクになっている古風(古代ギリシャとかくらい古風)な点火器を呼び出した。持ち手の形状はなんとなく拳銃っぽくもあるが、彼女はそれのトリガーを引き、ロウソクの先端に「緑色の」火をともす。と、それが空中に漂い、シスター・ミソラの胸元に吸い込まれていった。

 と、次の瞬間には浅い呼吸が戻り、肌に生気が戻り胸が上下し始める。

 

「…………あー、なるほど?」

 

 そういえば水無瀬小夜子いわく、本当なら死んでるということだったか……。どういう魔法具(アーティファクト)なのかは不明だが、シスター・ココネが何かしらの方法で延命ないし疑似的に復活させ続けているということなのだろう。そうか、亡くなっているというのはこういうことか……。なんというか、その事実一つで妙に寂しい感情が胸を埋め尽くした。

 寝息を立て始めた老婆を見て少し微笑んでから、私たちに視線を向けるシスター・ココネ。  

「地下から来たなら、目的は外? 外は、結構危ない。ここは結界強いから『入ってこれない』けど、真っ暗」

「あー、やっぱそういうことッスかね……。でもまぁ、俺も対策はあるんで」

「じゃあ、無理しないこと。君倒れると、カリンも悲しむ。ミソラは、たぶんヤベーヤベー言ってはやし立てる」

 

 そのイメージは両方とも容易に想像がつくが(原作読者)、とりあえず頭を下げて外に出る。ディーヴァも私に倣って、慣れない風に頭を下げてからついて来る辺り本当に幼児をイメージしてしまうが、外見上は同年代なのでやっぱり変な気分になった。

 教会の戸を開け空を見上げれば…………、それこそびっくりするくらい、真っ暗。

 

「こりゃ…………、テンプレ的には学園全体を覆いつくしてるやつだな、ウン。俺はこういうの詳しいんだ、映画とか漫画とかでよくあるヤツだ」

「ここは現実なのですから、なんでもかんでもそれを参考にするのは良くないのでは?」

 

 割とマジレスしてくるディーヴァだが、残念ながらここの原作は漫画とかアニメなので(メタ)、その法則が当てはまらない。事実は小説より奇なりというのなら、ガバ含めてこれもまた妙なりである。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 雪姫に連絡を入れて再度確認し、状況の判別がついた。どうやらコレは本当に怨霊の類らしく、茶々丸のカメラアイで判別できないらしい。それこそ龍宮隊長でもいればもっと違った見え方もするのだろうが、とりあえず方向感覚すら狂うこの状況。

 

『麻帆良全域に怨霊の類が溢れんばかりに表出した、か…………。自殺者だけでも「表向き」年間三千人程度、それ以上の数を八十年受け入れて来た魂から解放された怨霊群……、考えただけでも面倒くさいな、最低でも二十四万の悪霊か』

「って、いやなんで面倒? 恐ろしいとかじゃねーのかカアちゃん」

『まぁそれくらい「頑張れば」なんとかなるからなぁ。あまり得意じゃないから力業に頼ることになるが』

 

 あっハイ、そういえば最強の吸血鬼様でしたね我がカアちゃんや………………。

 

『おそらくお前たちに見えているのは瘴気の類なのだろうが、その密度で確認できる瘴気が電子機器を通した時点で確認できないとなると…………、その存在のレベルはかなり高いかもしれない』

「高い?」

『何だったか? とある女魔法使いが「人類全域に」常に使用しているような魔法があるんだが。それを人類が誰一人正しく識別できないことについて、とある女はこう言った。『次元が違うんだよ、神サマの領域に踏み込みかけているそれは、ある意味、三次元の存在に二次元の存在が干渉できないように、二次元の側からは知覚することすら出来ないんだろうさ』とな。妥当な言葉がないから上手くは説明できないが』

 

 どう聞いてもニアミスしてるお師匠様のお言葉であるが、つまりはB〇EACH(オサレ)でいう〇格(オサレ)に相当するやつということか。状況的にどうやら水無瀬小夜子の魂魄自体は、既に藍〇(天を掴む)領域の霊〇(オサレ)に至っているようなものらしい。……というより、今の台詞を反芻するならラスボスですらその域に達しているということになってしまう訳で、なんというかこう、色々許してクレメンス(無茶)。

 ともかく向こうも状況を把握できたということで通話を切る。後始末といったか、あっちはあっちで忙しそうなのを察したので、出来た息子としてはそちらは気にせず、まずは自分にできることをやるとしよう。

 

 ディーヴァを同伴し、「血風尸天」を撃ちながら世界樹の下まで。見た限り死霊の瘴気たちは視界が無くなる程の密度で湧いているようではあるが、直接的な妨害などはしてこないらしい。もっともずっとディーヴァが半泣きで震えているので手を引きながら飛行しているところなのだが、この様子からして例の「死に際」のイメージとやらは継続して彼女を襲っているらしい。ディーヴァですらこうということは、本来はおそらく彼女と同等のダメージを精神に受け続けているだろうということで……。この辺り一帯の妙な静まり返り具合からして妖魔の類もストップはしたのだろうが、一般人相手にはこっちの方がある意味キツいのかもしれない。とはいえ「物理的に」襲ったり殺したりしないところに、なんとなく水無瀬小夜子の意志の様なものを感じて、とりあえず最悪の最悪だけは脱したような感覚があった。

 後は、消化試合だろう。…………こういうこと言うとまたガバるか? いや、だ、大丈夫、今回ばかりは大丈夫のはず(疑心暗鬼)。

 

 そして飛行していると、見つけた。血風が「じゅわっ」と蒸発したのが見えて、そこに向かえば夏凜たち。口元を押さえている九郎丸(吐いたか?)と、胸を抑えながら「白い結界」を張っている夏凜、そしてアーティファクトの小召喚をして写真を「平常運転で」撮り続けてる我らがキリヱ大明神の姿がそこにあった。

 

「と、刀太く―――――ウッ、ちょっと、待って……」

「無理にしゃべらなくても大丈夫でしょう、九郎丸。……と言いつつ、私も苦しいですが……ッ」

「二人とも大変よねぇ」

 

 いやそう言って肩をすくめているキリヱ大明神だが、お前さんだって本来はそっち側だろうに…………。五万回近くの死と再生の経験値というのが、おそらくは彼女に、この「死のイメージ」を叩きつける空間への耐性をもたらしたのかもしれないが、それはそれで何と言うか、やはり色々とこちらの心が辛くなるものがあった。

 

「むしろアンタ、なんでそんな平然としてんのヨ? 私でさえちょっと立ち眩みするくらいには鬱陶しいのに、コレ」

「お前さんが『普通に』立ち眩みで済んでるってのも色々ツッコミ入れてー所だけど、一体どうしてここに? ……って後、三太のところに行きたいんだけど、動けそうッスか? というか一空先輩の姿が……」

「先輩は、隙を見せた一瞬で刹那さんに滅多切りにされて…………」

 

 片腕の肘から先の破片をすっと拾い上げる九郎丸。機械の身体だからって解体描写に容赦がないのはどの映画でも漫画でもアニメでも一緒か。偏見だけど。とはいえ本体は当然のように無事だろうし、そのうち帰ってくるだろう。

 そしてキリヱについてだが、おおかた予想通りと言うべきかザジ・レイニーデイが「シルクハット」をド〇ちゃん的な使い方をしてここまで瞬間移動のような真似をしたらしい(?)。えーっと、つまりそれは、四次元シルクハット? 超も言っていたが、やはりネオパクティオーしたということか、そっかー …………、そっか……(白目)。

 

「佐々木三太ですか? 刀太。…………後で事情は詳しく聞かせてください」

 

 んん、と少し無理に気合を込めながら、立ち上がる夏凜。そしてこの場の三人とも誰しもが、私の背後で借りて来た猫のようにおとなしくなってるディーヴァに目もくれない。やはり普通に見えない亡霊の扱いになっているようだが、むしろさっきシスター・ココネは何故見えたのだ?

 

 そして結界を張りながら歩く三人と、一人と一柱(ディーヴァ)だが、すぐに三太たちを見つけた。

 

 

 

 世界樹手前のテラス――――何かと我々とも「ネギま!」とも縁のある、あの場所。

 そこで、原作同様の映像を想起させるように、三太が倒れた水無瀬小夜子を抱えていた。

 

 そこだけは空気を読んだように、怨霊たちも数メートルは空間を作っていた。

 

 

 

「何とか言えよ、なァ…………、小夜子さ……」

 

 言葉はない。その背中に黒い翼を「三対」生やした彼女は、その服を含めた全身を白い土くれのような色に変色させ、さらにヒビが入っていた。見た目だけでいえば「闇の魔法(マギア・エレベア)」を限界まで使用し自らの自我が崩壊しかかった、はっきり言えば「人間として死んだ」状態のネギぼーずを思い出す有様。

 魂魄として力尽きた水無瀬小夜子……、原作でいえばそのままバラバラと崩れて土くれのように風化していたが、ここではそうはならずに原形を留めている。何がどう作用したかまでは断言できないが、仮説としては彼女自身の遺体が儀式に使用されていたことか、はたまた「あふれ出た」怨霊に圧迫されて彼女の魂魄が崩壊するのをギリギリ防いでいるという状況になっているのか。

 

 だが、これは「好都合だ」。脳裏に「ちゃおーん☆」とペ〇ちゃんみたいな顔をしてウィンクしてくる天才発明家の顔がよぎる。ポケットの中を探り、「それ」を紛失していないことを確認して、私は少しだけ高揚していた。

 一歩、前に出て三太の肩を叩く。

 

「……何だよ、刀太」

「ちょっとだけ確認だ。もしかしたら、というか『成功率を上げる』ための確認だ」

「何を、だよ。今更――――こんなになっちまってさ、コイツさ……」

 

 言いながらボロボロと涙がこぼれる、おかっぱみたいな頭をした三太だが。そんな彼に、私もまだ気休めの様な笑みは浮かべず。ただただ、事務的に確認する。

 

「お前と一緒に居る時に、水無瀬小夜子の魔力ってどうだった?」

「は?」

「いいから答えとけ」

「こ、答えとけって…………。ま、まぁ、フツーっていうか。でも『さっきの』見たら多分、隠してたんだろうけど、それが?」

「いや、たぶんだけど…………それが、水無瀬小夜子『素の』魔力量だ」

「…………? どういうことだ?」

 

 要領を得ない三太に、説明する。

 稀代のネクロマンサー「となった」水無瀬小夜子の手で改造を受けた三太の魂魄は、既に魂魄のみの時点で一般魔法使いを凌駕する能力を獲得しているが。その根底は、キリヱのような固有能力の類ではなく、あくまでも魔法的なそれの延長上にある。

 

「だから何が言いたいんだって」

「つまり、怨霊を含めない水無瀬小夜子の素の状態と、お前さんの今の素の状態で言えば、お前さんの魔力量が勝ってるってことだ。

 今の状態は、水無瀬小夜子の中に収まってた怨霊が全部外に抜け出ちまったようなもんだろ。ってことは、そこにいるのは、ある意味『本当の意味で』本体ってことだ」

 

 だからこそ――――。ポケットの中から巻物型(スクロールタイプ)の魔法アプリを取り出し、三太に手渡す。

 

 

 

魔法使いの従者契約(パクティオー)アプリ……って言ってもネオパクの方だけど。これをして、水無瀬小夜子の魂魄『本来の』潜在能力をプラスして引き出してやったら。今の壊れかかった状態だとしても、もしかしたら何とかなるんじゃねーか?

 なにせ、少なくとも『神サマ』に上り詰めかけた相手な訳だし」

 

 

 アーティファクト自体の良し悪しは言及しないが、そもそも魔法使いの従者契約における「潜在能力の解放」は、現状の九郎丸をして自らの内に眠る神刀の力を引き出すことに成功させる程である。ならば、既に壊れかけの彼女の魂魄すら、元の状態に戻すことも可能となるのではないだろうか。

 さらに口に出して言わないが、あの超鈴音(自称タイムパトロール)がわざわざ手渡してくるくらいなのだ。…………世界線が変わらないと言っていた以上、本来は彼女が手出しせずとも「同じ結論に至った」可能性だってある。

 

 つまり、これはメタ的な意味で上手くいく可能性が高い。だから後は――――。

 

 

 

「それ起動したら、水無瀬小夜子の口にキスしてやれ」

「は、はァーッ!?」

「何だよ、童話とかでよくあるパターンだろ? 王子様のキッスでお姫様が目を覚ますって。状況的にはそんなモンなんだから、頑張れ、ホレ、ホレ」

「こ、こんな状況でそんな話急にされて、どうしろってんだーッ!」

 

「さ、三太君、これは…………」

「男の見せ所じゃない、頑張りなさいよッ! ……って、みたいなこと言うとちょっとオバサンくさい?」

「大丈夫でしょうキリヱ。しかし…………、貴方がそれを言いますか刀太……」

 

『…………これは、愛っぽいですね。なんとなくわかります』

 

 焚きつける私に抗議する三太と、後ろから興味津々と言う視線が四つ突き刺さっていた。

 

 

 

 

 




ラストバトル(ラブコメ):三太の羞恥心と覚悟と葛藤


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ST115.死を祓え!:日が昇って沈むように

毎度ご好評あざますナ!
ちょっと量多かったけど次回本章エピローグにするために合体させたので、まーた長めです・・・


ST115.Memento Mori:Like The SunRises And SunSets.

 

 

 

 

 

 ――――――――――――。

 

「うーん、首、首だけはせめて…………、あれ? 私、どうしてたッスか……?」

「ほえ……? お姉様……?」

「二人ともッ!」

 

 ――――――――――――。

 

「ミヒール様、見てください、夜明けです! これこそ人類の夜明けです!」

「お前は一体何を言っているのだアドリフ……?」

「な、なんか、視界が開けたぞ!」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい――――」

「あれ? パーカーの兄ちゃんは?」

 

 ――――――――――――。

 

「なぁシンちゃん……」

「…………いなくなっちまったな、あのパーカー野郎」

「俺、なんっていうか、さ、ほら。さっき視た中に、俺達、追いかけまわしたホームレスのオッサン――――」

「……止めろ、今更変わらねぇだろって。……あの後どうなったかとか、俺達は知らないけど、でも、まあ、ウン…………」

「お、俺達、悪くねぇよな?」

「そんなの、わからねえって。だって、判断してるのって『向こう』なんだから」

「……………… 一つ言えるのはさ。一日全部クズって訳じゃなくても、クズやったことはクズなりに返ってくるってことなんだろうなぁ……」

 

 ――――――――――――。

 

 

 

「――――状況整理、状況整理。AI葉加瀬経由の監視網からみても、おおよそ9割方の生徒や学園関係者が復帰いたしました。『元学園長』」

「フォッフォ、じゃあ儂らもそろそろ後片付けといこうかの。エヴァンジェリン。龍宮クンも、状況だけは確認しておきなさい。その方が後々、書類仕事も面倒はないじゃろう」

『わかりました』

『オイ、ジジイ。だから私は無関係だろってそーゆーのは……』

「そう細かい事言うもんでもないじゃろ。母校じゃし、『子供』がちゃんと仕事を終えた後なんじゃから、精々後で労ってやるくらいには顛末を見届けてやりなさい」

『こういう時ばかり年長者のように振舞うなお前……、私の方がはるかに年上だろうが』

「人生経験という意味では儂の方が上じゃしー? まぁもっとも今の身なりは『コレ』じゃがな」

 

 そう言いながら、近衛(このえ) 近右衛門(このえもん)旧学園長は、刀太君たちを見守る高さからより高みまで高度を変えていきました。マスターから指示をされるまでもなく、私もそれを追跡します。

 しかし…………、一部生徒(私たちのクラスですと主に鳴滝姉妹)からぬらりひょん、妖怪などと名指しで綽名を付けられ苦笑いしていた旧学園長ですが、現在の容姿はそこから一周回って少年のようです。どちらかといえば木乃香さんを悪戯っぽく、もっと幼くした風貌の白髪に適当なチョンマゲを結っている少年という見た目ですが、声や振る舞いは何ひとつ変わらず。多少響き方は違いますが、声帯の形がそう大きくは変化していない証拠でしょう。

 

 私たちは世界樹の真上にて、そこで荒れ狂う「どす黒い」魔力、妖力の塊を見ていました。直径三メートルほどの大きな球体。渦巻くそれは、一つのブラックホールのようでもあり、しかし私には観測できませんが、旧学園長いわく「人間の顔が大量に」蠢いているそうです。

 私自身がロボットだから、魂の有無の問題で見えない――――わけではないのはかつてネギ先生がご証明くださいましたので、おそらくはもっと光学的な理由か、相手側が私を「人間」だと捉えていないことが原因だと推察します。

 

『そこはちょっと一考の余地がありそうな議題だけど、そうやって強引に納得するようになったのは、AIの進化と見るべきか劣化と見るべきか……。超さん的には成長というところですかね?』

 

 AI葉加瀬の言葉にどう答えようかと考えていると、旧学園長が腕を組んで首を傾げました。

 

「見事に吹き溜まっておるのぉ。茶々丸、AI葉加瀬クンの試算はどうなっとる?」

「…………『計測したくないです~』とだけ」

「そりゃ大事じゃな。ヤレヤレ、()クンがたまたま来ていたのを発見したのは僥倖じゃったわい。少し手を貸してもらって正解だったかの――――」

 

 

  

「――――で、お祖父ちゃん何やっとるん? そんな若作りして」

 

 

 

 はっとして、私は背後を振り返ります。この私の熱源(サーモ)センサーに引っ掛からず、周辺魔力の観測変動もなかったとなると、「物理的に」ここまで来たと言うことになりますが。

 そこに居たのは、相変わらず綺麗な白い翼に「白髪に赤い目」な宇宙レーサー服の近衛刹那。そんな刹那さんとペアルックな近衛木乃香「学園長」。刹那さんが木乃香さんをお姫様抱っこしています。

 刹那さんは旧学園長に「ご無沙汰です」と頭を下げ、木乃香さんの方は、私やホログラフィック越しのマスター、龍宮さんに「あ、久しぶりやん!」と感激した様子です。…………こう、私のように年々アップデートしている訳でも、龍宮さんのように長寿な訳でも、マスターのように不老不死と言う訳でもないでしょうに、お二人とも見た目だけは随分お若い……。

 

「おぉ、木乃香! ……いや、儂だって割とお前ほどじゃないが基礎魔力値高かったから、若い期間だって結構長かったんじゃぞ? 学園結界に結構魔力供給しとったから、晩年あんまり影響せんかったが、こっちが割と『本来の姿』じゃて」

「えぇ~、嘘やん! 絶対うっそやんッ!? お爺ちゃんじゃないお祖父ちゃんとかもはや原形ないえ! アンタ誰やッ!」

「だ、だけどこのちゃん、顔立ちは『其乃香(そのか)』とか野乃香とか刀太君とかの系統だし、やっぱりこのちゃんの血筋だとは思うよ? …………違和感が凄まじいのは同意だけど、ホント誰なんだろうねー」

「孫が……、孫と孫の嫁が虐める……、こんな幼気なジジィ相手に何じゃと思っとるのかのぉ」

「幼気に老人とつけると言葉の遣い方が著しく矛盾するかと、旧学園長」

『ハハ、状況的には合っているがな。それはそれとして、クソジジィくらいに思われてるんじゃないか? お前。聞いたぞ~? そりゃ大小あるかもしれんが嫌がられるだろ「あんな条件」を出したら』

「……マスター、その話は知らないのですが」

『私も聞きたいな、エヴァンジェリン』

『ん? あー、大体アレだ、ぼーやの「赤ちゃん騒動」の時のほぼほぼ原因だ。

 なにせそこの二人の結婚のときにもめにもめた結果出した条件が――――』

「や、止めぃエヴァンジェリンッ! 今は仕事の方が先じゃろッ!

 えーっと、ムラクモ・ルラクモ・ヤクモタツ――――」

「逃げたわー」「逃げましたね」『逃げたな』『そんなに都合が悪いのか?』「赤ちゃん騒動……」

 

 木乃香さんと刹那さんが、しらーっとした目で旧学園長を見ていますが、咳払いをして旧学園長は「魔法陣の起動」に入りました。「学園内の六ケ所」に設置された「本魔法起動専用の」端末によって制御されていますので、多くの詠唱は必要ありません。

 

「ふぅん、何やこの感じ、ちょっと懐かしい?」

「ですね。…………いえ、懐かしいと思っていると色々問題がありそうな気もしますが」

 

「――――っ」

 

 何やら感想を言い合っているお二人と学園長の間に立ち(飛行していますが)、私は両腕の装備を展開して構えます。そんなこちらの動きを見て、慌てたのは木乃香さんでした。

 

「あ、待って待って、大丈夫やって~。見学っていうか、最後まで見てスッキリ帰りたいだけやもん。ウチら今日、もうお仕事あらへんし。

 デュナミスはんは『トイレの小夜子ちゃん』に『召還』されてあっち帰ったし、追加のお仕事も『ネギ君』っていうか『ヨルダ』はんから来てへんし。なー?」

「う、うん、そうなんだけど……、そういうことあんまり言っちゃってええんかな、このちゃん……」

「これくらいはネギ君なら大目に見てくれると思うんやけど――――」

 

『――――ということは、お前たちも「あの後」、そういうことになったということか。行方不明で処理されてはいるが、まだ……』

 

 マスターの声に、二人は悲しそうな表情になりました。

 

「……ゴメンなー。結局、ネギ君助けることも全然できへんかった」

「済みません。あれだけ大口を叩いておきながら……」

『いや、良い悪いの判断は一旦置いておこう。ある意味そのお陰で、アイツの猶予が延びている可能性もあるからな。

 ……お前らが妙に「使徒」のくせに自由度が高いことにも色々言いたいが、木乃香とまとめて取り込まれたと考えると、納得はできるしな。大方、お前の魔力量が多すぎて強く「洗脳抵抗(レジスト)」してるんだろう』

「おぉー、流石エヴァちゃんやん!」

「……皆さん、アレは?」

 

 言われて、私たち全員は刹那さんの指さす方向を見ました。

 

 ――――世界樹が、光り輝いています。

 そして、うずまく魔力は「黒」から「白」へ――――。

 

「…………もともと、あの娘を『ここ』に導いたのは儂じゃ。娘が既に祟神の類へと『神変』しようとしとるのは察しがついたからの。せめてその影響力を世界樹と統合し、マイナスの気を学園全体に散らして『良くないもの』を少しでも除いてやろうとしていたのじゃが、その流れで随分前から目を付けられておったようじゃの。

 じゃから、ある意味あの娘から抜け出した『良くないもの』は、世界樹を起点に麻帆良を覆いつくしとる」

「大戦犯やん、お祖父ちゃん。龍宮はん、代理とはいえ苦労かけるわー」

『いや、あまり気付いていなかったから苦労していなかったことになってしまうんだがな。そういう意味では、ザジと刀太君たちに迷惑をかけたってことになるな今回』

『…………』

 

 旧学園長への当たりがやや強めですが、彼は「フォフォフォ」と軽く笑って流しました。

 

「じゃからこそ、以前『超クン』が使用した強制認識魔法の陣が有効となるんじゃの。属性が陰の気であれ陽の気であれ、術師が使ってしまえば問題は無い訳じゃ。『神』という形で形成されとったから手出しはできんかったが、世界樹に滞留する無数の魔力という形になってしまえば、後はこっちのもんじゃ」

「ですが、それだけだと私たちの下準備だけでも、根本的解決にならないのでは? 既に神としての水無瀬小夜子のベースが出来上がってしまっている以上、消費したものはいずれ『補填』されるかと―――」

「――――じゃから、まあ気休めではないが。陰の気の者たちにも、少しは納得してもらう形で使うんじゃよ。そうすることで、そのカミを、奉り、鎮めることに繋がる」

 

 集まった魔力は、やがて光を放ち、分散――――。麻帆良中に散っていくようなそれは、麻帆良だけではなく「全世界」にも同様に散っていることでしょう。そう計算してAI葉加瀬が術陣を用意したそうなので、そこは信じます。

 

『短時間の突貫だったから、結構無駄多いんだけどもね~。超さんの手直しありきな所、大きいよ?』

 

 分散した魔力は、私たち皆に降り注ぎ――――そして、私の「心」でも、それは感じ取れました。まるでそれは、桜の花びらのように――――。

 

「……この日常は多くの屍の上にある。いつ何かの拍子に壊れても不思議はない。だから、想い続けろ、ですか」

「それで死者が報われるという訳でもないじゃろうが、少なくとも『繰り返し』は少しくらい減っていくじゃろう。潜在意識に刷り込んだ上に、特に生徒たちは『忘れようがない』思い出じゃろうからな。

 ――――死を想い、死を悼み、死を忘れず、死を祓う。これぞ、麻帆良式追悼の儀といったところじゃの」

 

 フォフォフォフォ、と笑う旧学園長に、しかしこの場は、誰も反論しませんでした。

 

 世界樹の下で――――彼らの戦いも、そろそろ終幕のはずでしょうから。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 最初にキスありき。キスはラブと共にあり、ラブはコメディであった(ラブコメガバガバ旧約性書より(適当))。

 

 いよいよもって腹を括った三太が水無瀬小夜子に口づけをし、魔法陣が正しく起動すると。おおよそこちらの推測通りというべきか、彼女の死に体な全身が光り輝き、魔力の奔流が巻き起こった。それにより周囲の靄の「一部が」彼女の内側に引き込まれ、それ以外は霧散していくような形で、青空が時折垣間見える。それにともない、最低限のヒビだけは目に見えない形になり、まるで「只の死体」のような状態まで落ち着いた。

 声は、聞こえない。私には聞こえないのだが、それでも九郎丸たちはどこか感じ入るようにその散っていく軌跡を目で追っている。

 

『――――凄いですね、これは。…………捨て台詞だけ吐き捨てて去っていく人もいますけど、忘れないでって言って、去っていってます』

「はぁ…………」

 

 ――――――――――――。

 ちくわ大明神――――。

 

「いやだから誰だよッ」

 

 声だけだと「若い頃の」春日美空のような女性っぽいものに聞こえるが、まぁ一瞬しか過ぎ去らないし正体は不明である。不明なものは不明でいいだろう、流石にこのギャグ枠なのか何なのかが後々関わってくることはあるまい。というか関わってくるべきではない(威圧)。

 視界が晴れていくにしたがって、水無瀬小夜子の周囲に三枚のカードのイメージが投影される。

 

 十二単衣に鏡一つのアーマーカード、某妖怪ポストな大先輩(婉曲表現)のおネコな娘さんっぽい恰好で媚びてる? ような可愛らしいコスプレカード、うっすらオオカミっぽいいじわる顔なスカカード。……いやコスプレとスカで属性食い違いすぎでは? 一体誰の趣味だ……。

 

「こ、これ、どーしたら良いんだ?」

 

 三つのそれらが一つに束ねられ、背中に黒い六枚羽を生やした水晶に手を翳す、ニヒルな感じのネオパクティオーカード(背面がブルーな仮契約カード)になるが、そういえば「本来は」主側から使うのが正しいのだったか、通常の仮契約カード含めて。

 

 まぁ細かい呪文はわからないが、おおよそのニュアンスが一致していれば召喚はできるだろう。とりあえず関連しそうな呪文を教え、何をするべきかも耳打ち。

 

「ホントにそーゆーのでいいのか? えっと、じゃあ……。

 パートナー・水無瀬小夜子……。我に示せ! 秘められし力を――――」

 

 言いながら仮契約カードを構えると、カードそのものが水無瀬小夜子の胸元の手前へ吸い込まれ、青系に光る球となる。それに伴い、三太と彼女の周囲には三つの光が現れ、ぐるぐるとまるでルーレットがごとく回転する。

 マジでか、みたいな微妙に驚いた顔をしながら、三太はその青い光の中に手を伸ばし――――。死体のような水無瀬小夜子が、わずかに身じろぎ。気のせいでなければ頬が赤く、少し「ヘン」な風に魘されているように見えた。

 何だろう、「体内の気」に直接接触でもされているせいか、リアクションがこう、ちゃんと「ネギま!?」での描写に寄っているように見えるような、そうでもないような…………。

 

「これは…………、相当えっちなのでは?」

「あ、わわわわわ……」

「外からやられるとこーなんのね、コレ……、えっ? 尊厳っていうか、人権侵害じゃない? 嘘でしょ? 衆目監視でやったら完全にアレじゃないのっ」

『…………』

 

 あと後ろの声も声で果たして一体どう答えるべきなのか。キリヱはキリヱで真面目にツッコミを入れてるし、九郎丸は九郎丸で水無瀬小夜子の微妙な乱れっぷりに動揺。ディーヴァはひたすら無言で観察しており、夏凜はアンタがそれを言っちゃおしまいだろ(残当)。

 

「――――契約発動(パクティム・メア・パルス)!」

  

・SAYOKO MINASE

・DIRECTION: West

・GUARDIAN: Othala

・ASTRAL: Gemini

・SYMPARATE: LXXXIX

・EQUIP: "MIRROR" Second of Trinity

・RANK: Priestess of HIRUKO

・P-No: 72

・CODE: 1 9 8 8 1 9 9 1 0 5 2 9

 

 引き抜いたカードは、流石に空気を読んだか十二単衣の水無瀬小夜子のもの。そして発動と同時に彼女の身体が浮かび上がり、一瞬で光り輝いて変化する。そしてその頭上には、古い古い金属の鏡。光こそ反射するが実像までは映さないそれ。

 

 着地した彼女は、うっすらと、目を開ける。

 

「――――――――本当に、なんとかしちゃった」

「小夜子……」

「なんとか、なっちゃったんだー、……ッ」

 

 驚きながら、目をも開きながら、そして彼女は三太に抱き着く。三太も水無瀬小夜子も、延々とその場で泣き続けた。

 それに何も言わず、私は数歩後ろに――――と、夏凜が両肩を掴んで少しだけ抱き留めるようにした。

 

「…………まあ、何にせよといったところでしょうか」

「そうだと良いんスけどね」

 

「あれ、なんで――――?」

 

 九郎丸の声に、この場の全員が世界樹を見ると。世界樹はまるでいつかのように発光し、その上から花火のように、光が、「闇を交えた」光が散り、拡散する。

 

「………………後始末とは、こういうことですか。雪姫様」

「……まあ、もともとそういうのがスタートなんだから、そういう話よね」

「…………」

 

 ん? と思わず頭を傾げてしまいたい。あの光に一体何の意味が? とちょっと聞きたいのだが、どうやら例によってというべきか、その光を見た人々の心の中には、何かしらメッセージじみたものが残されたらしい。ひょっとして「ネギま!」において超が行おうとしていた「強制認識魔法」関係の巨大な仕込みか何かか? おそらくはアマノミハシラ……というより、麻帆良全域限定なのだろうが。

 

『この痛みを想い、忘れないでくれ、ですか。…………これも、愛?』

「愛っつーよりは人類愛なのかね」

「やっぱり、まだまだ私には難しいようですね。……おや? ん、そうですか。それではまた、刀太くん」

 

 ディーヴァのささやきに適当に答えると、ふと彼女の姿が見えなくなる。ラスボスあたりに回収でもされたか? と思ったが、そもそも彼女の肉体は死んでいる訳で、死霊が大量にあふれていたこの場でもない限りは、ずっとそのままで居ることは出来ないとか、そんな理由だろうという「感覚があった」。なまじ3ーAの「さよちゃん」のような例が特殊なのであって、普通は怨霊やら悪霊やら強力な思念と力がなければ、単なる未練だけではそう上手くはいかないということか。……いや、また、と言った以上はおそらく復活の確信は持っているのだろうが。

 

 

 

 そしてそれは、ほぼ抜け殻となった怨霊「だった」水無瀬小夜子にも言えることで――――。

 三太と抱き合う水無瀬小夜子の身体は、段々と光り輝き、透けていっていた。三太を押し返して、寂しそうに微笑む彼女。三太は、涙が止まらない。嬉しさのそれが、困惑と、わずかに察する悲しみのそれになっている。

 

「小夜子? お前、何で――――」

「あー、大丈夫、だいじょうぶ。消滅とかじゃないから。何て言ったらいいかな? こう、『霊的に』ちょっと上がっちゃったから、このまま『此処にいられなくなっちゃった』っていうのが、正解なのかもね。……恐怖という形でも人の心に爪痕が残っちゃったから、結果的にそれが『神サマ』に祀り上げられるきっかけになっちゃったのかな?」

「意味わかんねーって。せっかく、お前に巣くってた連中、全部いなくなったんだろ? なんで、お前、また居なくなりそうな感じなんだよ――――」

 

「…………その、何っていうかなー ……、ご迷惑おかけしました。他にもいるかなって思いますけど、時間ないんで、これでご勘弁くださいっ」

 

 いつの間にか「三太の腕の中から」移動し、彼女は三太の横で、私たちに頭を下げていた。

 各々、それぞれに困惑こそあるが、…………キリヱはそれを見て苦笑い。「まぁ、あんまり言いはしないわよっ」と諦めも入り混じったような、だがそれでいて眩しいものを見るような目だった。今回のことで間違いなく、一番心をすり減らしたのは彼女なのだ。何か文句を言っても罰は当たるまい。だが、それでもキリヱは見送るだけを選んだのだ。ならば私からどうこう言う話でもないだろう。

 ……それはそうと、レベル2(リトライ)ないしレベル1(リセット)使えば原作よろしくもっと元気な状態の彼女に状態を戻せるのでは? と思ったのだが、それを察してか私の横に来て、耳打ち。

 

「(………………弾かれるの。たぶん、彼女の魂のキャパシティが、今のセーブデータの量とかに耐えられないレベルなんじゃないかしら)」

 

 なるほど、つまり「現在の彼女」のデータ量自体が、レベル2の一度に使用可能なデータ枠を超過しているということか。夏凜のように「外付け」と言う訳ではなく、本人「そのもの」が確かにゲームならデータ量の多そうなものではあるし、仕方無いと言えば仕方ないのだろう。

 

 振り返って彼女の両肩を掴んで「まだ何か方法あるかもしれねーじゃねーか!」と泣く彼に、彼女はその両頬に手をそっと添えて。

 

「ワガガマ言っちゃ駄目よー? 三太君。本当だったら『私』が耐えきれずに消えちゃうところを、『偶然』こうなって『消えない』ことだけは出来たんだから。『少し』の『長い』お別れくらい、我慢しないと」

「だけど、お前、ようやく気兼ねなく、一緒に居られるって思ったのに――――」

「…………うん、だから、大丈夫。だって私が居なくたって、近衛刀太たちみたいに、信用できそうな人たちだっているんだよ? 今の三太君なら。

 その上で、おまけに私だってついてるんだから。――――そういう泣き虫で、ギリギリまで優柔不断で、でも結局頑張っちゃう人の良い所、大好きっ」

「……俺も、お前のそういうズケズケ容赦のねーところ、意外と、嫌いじゃねーぜ?」

 

「そこはストレートに好きと返すべきでしょう佐々木さ――――」

「いやそこはそっとしといてやれって、夏凜ちゃんさ――――はいぃッ!?」

「――――んんっ?」

 

 思わず彼女の口元を片手で押さえようと手を振りかざすと、それをしれっと避けて「立てていた人差し指」を軽く咥えて舐めて来る夏凜は一体何を目指しているのだろうか。アレか? ディーヴァ相手に色々と対応が甘かった(?)のを「矯正」でもしようとしていらっしゃるんですかね……?(震え声) 幸か不幸かキリヱと九郎丸は水無瀬小夜子の方ばかり見ているし、彼女の頭上の鏡は光を…………、光?

 夏凜から指を引き抜きつつ、観察する。水無瀬小夜子の頭上にあった魔法具(アーティファクト)、その鏡が光り輝くと、足元に魔法陣が展開される。その図はつい先ほど見ていたようなもので――――。

 

「来てくれて、本当、ありがとうね? 三太君が来なかったら、たぶん、ずっと眠ったまま私、消えちゃってた――――」

 

 動揺する三太の唇を、目を開けたまま奪った水無瀬小夜子。

 途端、三太の周囲に現れる三枚のカード。それらはやはり先ほどと同様のイメージで一つにまとまり、三太の手元へ。いや、何というか今回に関してはパクティオー関係のガバは放棄だ放棄(諦観)。

 

「お前、コレって……」

「へへーっ、これで『絶対逃がさない』からね?」

 

 すぅっと、そして水無瀬小夜子の足が地面から離れる。それと同時に、全身の透け方がさらに激しくなり、やがて空気のように消えていき――――。

 

「………、小夜子! ――――」

 

 

 

「バイバイ、三太君―――――またね‼」

「――――っ、お、おう! また、いつか!」

 

 

 

 そう言って、姿を消した彼女は。――――街に、風が吹き、光の欠片の桜吹雪が舞う。

 

 それを見送った三太はその場で、泣き笑いのまま拳を強く握り。

 

 

 

 ――ちくわ大明神――――。

 

「(いやお前は成仏するか自重しとけッ)」

 

 思わず小声で、どこかから聞こえる空気を読まない怨霊(霊魂?)の一言を牽制した。お前、そういう所やぞ少しは真面目に亡霊やっとけッ!

 

 

 

 

 




ネコ目をして「いやー私こーゆー空気超苦手だわー」とでも言わんばかりの霊魂「ちくわ大明神っ」

※すみません、感想祝1000件超のアンケは明日に回します汗(キリが良いので)


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ST116.死を祓え!:エピローグ(ガバ)

毎度ご評価、感想、誤字報告、ここ好きなどなどあざますですナ!
 
大体タイトル通りです・・・、 猛 攻


ST116.Memento Mori:Epilogue (Fumble)

 

 

 

 

 

 原作の三太編エピローグ? ねぇよそんなもの(逆ギレ)。

 

「――――いや、大変でしたね今回」

「そうね。一空なんて『本当最後の最後に活躍できなくて悲しいよ、うわーん!』っていじけちゃってたし」

「まあ事後報告の書類作成については、茶々丸さんもお手伝いしてくださるそうですし、そちらやら建物の修繕やらで活躍してもらいましょう。…………とはいえ、私としてはキリヱ、貴女の『本当の』能力の方が想像のはるか外を周回していて困惑の一言ですが」

「でもだって、そんなの簡単に言えるわけないじゃない。普通に考えて私も『全部覚えている』わけじゃないし、全然話せないことだってある訳だし……。

 って、それを言うなら九郎丸よ九郎丸。刀太のお祖母さんたち相手に大健闘だったらしいじゃないの? 大金星じゃないっ」

「あ、ありがとうね、キリヱちゃん。……だけど、公式記録には残らないらしいし、あまり胸を張れることじゃないかな? それに『ヒナちゃん』の力圧しって側面が強かった気がするし」

「そんなことを言ったら、今回のことは『ほぼすべて』公式記録には残せないようなものですよ。むろん学園の裏魔法委員会側の記録には残しますし、私たちホルダーも調査結果、前後の経緯含めてある程度はまとめることになりますが」

「…………ねぇ、そういえばだけど夏凜ちゃん、今回全然役立たずじゃなかった!?」

「いきなり何を言い出すのですかキリヱ!?」

「いや、だってホラ、木乃香さんと戦ったりしたって言ったって、夏凜ちゃん九郎丸と違って先輩じゃない? 黒星でこそなかったかもだけど、ずっと刀太とべったべったしてた記憶しかないっていうか……」

「そ、そんなことはないですよっ! ほら情報! 事前情報に加えシスター・ミソラ達とのコネクションもありますし! 大体キリヱ、貴女とて人の事は言えないはずッ!」

「わ、私はいいでしょ私はっ! そもそも『こうなる』よう誘導したって大金星があるじゃない大金星が! 回数と時間はかかったけど」

 

「……………………………………………………………………………………」

 

 言葉に出来ない。

 言葉にならない。

 

 水着である。公式グッズでいうと多少の限定的な描き下ろしの、青縞な水着であった。

 九郎丸は青横縞のシャツを羽織ったホットパンツ風の活動的なそれを腰というかくびれのあたりで軽く縛ったスポーティなもの、夏凜はストレートに紐止めな青横縞ビキニ(一般的な露出度)で思春期に大変悪いもの、キリヱは青横縞でこそないがそれぞれに対応するパレオなリボン付きな可愛らしい水着と三者三様、それぞれに強みを生かした水着姿である。このあたりはセレクトした茶々丸の趣味というか、エヴァちゃんの服選びのセンスめいたものが継承されているのかもしれないが、さておき。

 

 …………端的に言って、端的に説明できない状況なので(思考放棄)、何が起こっているかだけ整理しよう。あの事件から数日である。あの前後の資料をひとまとめにしなければならないという経緯があり、その情報収集に協力する形でUQホルダーの派遣された面々は、まだしばらく学園に拘束される運びとなった。

 いや、雪姫いわく「せっかくだから籍だけでも置かせてもらえ。最低限、義務教育くらいは卒業したという形がないと格好がつかんだろう」ということで、私や九郎丸、キリヱは在籍だけは今後も継続する運びとなるらしいのだが。時折魔法生徒(裏魔法委員会)関係でとられる特別措置の一つらしく、つまりは超大型案件褒章替わりではないが、ともあれそういうことになった。

 

 その流れで、三太が「暫定」不死身衆(ナンバーズ)見習い、という立ち位置になることに。このあたりは雪姫たちも、我々からの推薦が有れど一応顔合わせなり何なりはしておいた方が良い、という運びとなったのだった。

 もっとも本人は「少しでも『俺達』みたいなのが減らせるっていうんなら、それはそれでアリだし」と、案外ノリは悪くない。キリヱたちもあの前後の状況やら何やらを見て、否とは言わなかった。

 

 さて、学園自体も建築物などそれなりにダメージがあったこと、事件の規模が規模だったことにより、学校自体は二週間程度休校。生徒たちも一部を除き自宅待機という運びになり、伊達マコトとのデートも延期となっている。

 

『うわーん! 夏凜さーんッ!』

『耐えなさいマコト。逆に考えるのです、一番問題となる案件が消えたのですから後は誘い放題だと考えるのです』

 

 病院のベッドで泣きつく彼女にそうアドバイスする夏凜は一瞬ちゃんとシスターらしい人を導く振舞いな気もしたが、所詮錯覚である。一体彼女をナニに導こうとしていらっしゃるのでせうかね(震え声)。

 

 つまりはここまで色々と状況が状況なため、原作における6巻終盤よりもはるかにてんやわんやとしているのだった。「霊的ゾンビ」となった人間たちは死亡こそしなかったが未だに入院中、一部は意識すら戻らなかったりと、その爪痕は「大きく」ないが「小さい」わけでもない。学園においても、病み上がりに胃を押さえた釘宮大伍たち含めた裏魔法委員会と、本校の生徒会、魔法教師陣やら私たちホルダーやらで色々と連日忙しくしている時、茶々丸が私たちに声をかけたのだ。

 

『ホルダーの皆様は外部の方とはいえ連日お疲れのようですし、マスターから別荘の貸し出し許可が下りました』

 

 首を傾げる他の面々はともかく、そういえば「ネギま!」にはあったなぁそんなものと思い出す私である。

 ダイオラマ魔法球、というものがある。かつて「ネギま!」において「学業として生徒の教師をしている」描写と「修行をしている描写」の両立、唐突なパワーアップの矛盾の解消のために生み出されたようなギミック装置であり(メタ)、その制作には高度な魔法技術が必須になる。当然のように茶々丸が言うそれはエヴァちゃんこと雪姫がかつて麻帆良在住時に使用していたそれであろうし、製作者も当然のように彼女である。

 制作過程、詳細については「UQ HOLDER!」においてすら登場しなかったため詳細は省くが、要するに精神〇時〇部屋(神サマに借りるやつ)をよりレジャー特化に簡略化したようなものであると言えばわかりやすいか。おそらく「ネギま!」においては大活躍だったこれが出てこなかったのは、不死者に時間を引き延ばすタイプの魔法具は効果覿面すぎて話にならないからだろう(メタ)。

 さて、意外とそっくりそのまま残っていたエヴァちゃんの別荘内部に設置されたそれは、形状は両手で持ち上げる程度の大きなガラス球のようなもので、基本的に固定されている(おそらく魔法的な理由)。専用の陣を介して内部に入ることが出来る。

 

 ちなみに「基本となる」この施設は、ビーチに生えた巨大な塔のような施設。気候もそれに従って結構暑かったりする。今回私たちが招待されたのもこの場所になっていた。

 

『以前は専用に管理する従者(ドール)も居たのですが、現在はマスターの指示で「無駄」ということで休眠状態となっております。スパなど一部施設は停止しておりますが、最低限、衣食住程度は私が下準備いたしましたので、どうぞ』

『こ、こんな所で遊んじゃっていいんですか? 茶々丸さん』

『ご心配ありません、時坂九郎丸さん。ここでの一日は外部での一時間と等しくなっておりますので』

『ふみゅー!』

『チュウベェお前、どっか行くなって。逸れたら戻ってこれねーぞ? お前たぶん』

『何なのヨ、そのネーミングは……』

『どうしたの? 三太君』

『あっ、俺、海見るの初めてッスわ…………』

『ハハ、僕はそうでもないけど、こう『綺麗に造られた』人工的な海と空っていうのは、新鮮に見えるねぇ』

『源五郎パイセンとか好きそうッスよねー』

『あっ、わかるわかる。こう、謎の塔みたいないかにもファンタジーしてるのとか、結構好きだよね』

『そういう趣味があるのですか、あの男。意外と子供っぽいのですね……』

 

 なお、帆乃香と勇魚は実家というかあの部屋に戻っている……、というよりどうやら月詠から「恐ろしい」連絡が来たらしく、二人そろって顔を真っ青にして「ウチらも遊びたいんやけどー!」と全力で不満を表明していた。

 

 さて、そんな流れでほぼ全員が水着に着替えて遊び始める訳だが(意外にも九郎丸が一番はっちゃけていた)、問題はさて今日の深夜。深夜といっても魔法球における深夜なので、実際はそういう訳でもないのだろうが(とはいえ天球はちゃんと夜のものになる)、黒棒片手に刃禅(オサレ)をしながら、夜の星々を見ていた時だ。

 

「刀太君、ちょっと……、話があるんだけど、良いかな?」

 

 何故かバスローブ姿の九郎丸のそんな一言にホイホイ釣られて付いていくと、あれよあれよという間に色々脱がされたり着せられたりされて(主に夏凜の手腕)、気が付けばこう、古代テルマエ的な巨大湯船につかったり、そこから出て洗われたりしている現状である。ココはアレだな、「ネギま!」においてエヴァちゃんとネギぼーずが一緒にお風呂に入って少年誌の限界に挑戦していたアレか(嘘は言っていない)。

 ちょっと状況がエクストリームにぶっ飛びすぎたため眩暈を覚えたが、とにかく一言で言えば…………。

 

「九郎丸、お肌綺麗よね。全然気を遣ってなさそうな割に」

「へ? あ、ありがとう」

「なんっていうか、こう、普通に『少女』って感じの身体だし。…………ちなみになんだけど、『おち〇ちん』的にはどーなってるのよ?」

「えぇッ!?」

「……貴女は一体何の話をしてるのです?」

「重要な話じゃない、じゅーよー! アンタの体質については『前の時に』知ったから今更なんだけど、その水着だと色々わからないじゃない? おっぱい的にも」

「…………詳しいことは知りませんが、ないのでは? それに中間とはいえ、どちらかに寄っている時もあるでしょうし」

「でもその割にはフツーに私たちの水着に興奮の『こ』の字もしてないし……って、何よその目このちゅーにっ! ていっ! ていっ! ……って普通に受け止めてるんじゃないわよッ!」

「キリヱちゃん、石鹸が目に入っちゃうからそれ……。あー、えっと。話してもいいんだけど、丁度その話を刀太君としようとしてたところだったので――――」

 

 女と女と女が全力で話し出すと姦しくて男子は何もできない(断言)。

 

 いや、そもそもそういう話をするのなら私の身体を洗いながらとか普通に止めてもらいたいのだが。いい加減水着姿相手とはいえ私にだって我慢の限界があるのだぞ。統合される前の『以前の私』はそういう状況ですらなかったために血装術を使って封印していたような節があるが、ある意味それと統合された以上、精神的な蓄積分は倍なのだ、そろそろ自覚をしてもらいたい(寸前)。

 …………まあ、それこそガバによる世界崩壊が怖いので手は出さないが(残当)。

 

 そしてそんなことを考えたのが良くなかったのか、背中をゴシゴシしていた夏凜が今度は私の胸に背後から手をやる形に……、まぁつまり完全に後ろから抱きしめる形に。

 

「いやー! 止めろって、いい加減無理だからッ!」

「それはいけません。無理は禁物ですから『無理はしなくて良いですよ』?」

 

 この女、絶対確信犯…………ッ! 耳に吐息を吹きかけるな左手を表側から首に添えるな右手を腰の下に伸ばすな流石にそれはアウトーッ!(少年誌) 私の危機感が伝わったわけではないだろうがキリヱが「ちょっとそれは色々駄目でしょ!?」と両手で止めに掛かったり、九郎丸が何故かホットパンツを脱ぎだしたり(下は普通に横縞のパンツタイプの水着)、一体何がどうしてこうなった……、どうしてこうなった…………。(遠い目)

 というか三太や一空が寝ているタイミングを狙うあたり完全えっちな思考回路である(断定)。いや、それともまだ水着の紐を引っ張ったりして脱ぎださないあたり彼女にも正気が残っていると見るべきだろうか。いい加減、何か新手の悟りの境地が開けそうでもある(適当)。

 

 確かに原作において、三太編の後は全員で銭湯へいくイベントもあったのだが、女子三人に近衛刀太が身体を洗われるエピソードってそれ、原作二十四巻のイベントの方が近いのでは…………。今回の編についてはチャート進行管理をある程度諦めはしたから知らないイベントが生えてくるのは諦めたが、時系列的にそういうのが狂うのまで許容した覚えはないぞッ!?

 

「というかホント、なんで全員で身体を洗う運びになったんでございませうか?」

「刀太君、言語おかしくなってる……」

「ぜぇ、ぜぇ……、えっと、別に大したことじゃないわヨ? ほら、『今の』九郎丸をアンタと二人きりにしちゃったら、お赤飯炊かないといけなくなっちゃいそうじゃない? 流石にそれはこう、不死身衆の面子として色々どーなのかしらーって――――」

「え、えぇッ!?」

 

 そんなことないと驚愕し首と手を左右に振る九郎丸だが顔面真っ赤だしそもそも上に着てたホットパンツ脱ぎだしたし説得力は確かに低い所はあるか。

 

「――――と、言いながら嫉妬に燃えているキリヱに乗っかる形で、ならいっそのこと全員でお風呂に入れば良いかと判断したまでです。キリヱや佐々木三太に次いで一番右往左往して活躍したのは貴方ですから、まぁ、ある種のご褒美的な側面もあるかしら。嫌いじゃないでしょ?」

「ノーコメント! って、あの、言いながら正面回って全力で膝の上に対面してくんの止めてくれません……?」

「っていうか嫉妬って何よ嫉妬てー! これはこう、アレよアレ、女の面子と不死者としての面子の問題なんだからっ! ってその体勢もっと駄目じゃないッ!!?」

 

 キリヱの叫びもなんのその、局部と局部が布隔て、背が伸びたせいもあって顔が近いし、それよりも御餅(比喩)の方がもっと近い。必死で視線を逸らそうにもあまりに存在感が強いせいで「どうしても」吸い寄せられてしまうのだが、夏凜は明らかにそれを見越したように水着の布の下に人差し指を入れて――――。

 

「って、だから夏凜ちゃんは抜け駆けしないのッ! 何なの貴女、刀太のこと好きかどうか人に聞いておきながら自分はよくわかりませんとか言っておいて、やっぱり好きなの!?」

「いえ、違うのキリヱ。こう、『こういうのが好き』のようですから少しでも目の保養になればと思いまして。さぁ、そういう貴女も別に気にせず――――」

「出来る訳ないでしょーがーッ! うがーッ!」

 

 キリヱ大明神……、キリヱ大明神……!(祈祷)

 

 全力でお手々ぐるぐるタイフーンの刑(直喩)を執行するキリヱのお陰で、夏凜がなだめる側にまわって膝から降りてくれた。やはり崩壊したチャートのリカバリー要員か何かで? 一人で抱え込ませすぎるとバグるのはそれはそれで問題だが(酷い)、それはそうとして情報共有し続ける上においては、やはりこれ以上はないお方に違いはない、ナムナム……。

 いや、実際夏凜のそれも確かに嬉しいかそうじゃないかで言えば嬉しい方ではあるが、なんというか、もうちょっと「人格として」仲が良くなってからというのと、今の時系列の時点で「そういうことを」するのは本当にガバの領域なんで、許してクレメンス(血涙)。

 

 キリヱ大明神……、キリヱ大明神……!(祈祷) 

 

「と、刀太君、なんで手を合わせてるの?」

「いや、何かご利益もらえねーかなーって……」

「だから神仏扱いやめなさいって言ってるでしょーがそこッ!」

 

 一瞬だけビシッ! と私に指さした大明神だが、再び夏凜に食って掛かるあたり危険度的なトリアージには大成功である、花丸あげちゃう。(適当)

 と、九郎丸が私に力なく微笑んだ。

 

「…………やっぱり何っていうか、お疲れ様だね。刀太君」

「お? あー、いや、含意広すぎるっていうか、その言い方だと……」

「アハハ……。うん、そうだね。今回の事件って言っていいのかな? 確かに一番苦労したのはキリヱちゃんだと思うけど、刀太君だって色々、手は尽くしてたよね。

 三太君が敵じゃないけど鍵だってわかったら、敵対しない程度に仲良くなってなんとかしようとしたし、キリヱちゃんが折れそうにならないように凄い距離感に気を付けながら慰めたりしたし。帆乃香ちゃん達だって…………えっと、い、勇魚ちゃんはちょっと色々、注意した方がいいと思うんだ、僕」

「その気持ちはわからなくはない」

 

 実際あの甘えっぷりはブラコンを超越してもっと別な何かに進化しそうな気もするので、このあたりで九郎丸と「先輩」「後輩」的な形で健全に色々な欲望を修行で消耗してもらいたい。大丈夫、まだ小学生から上がったばっかり、引き返す余地はいっぱいある。原作を読め原作を(震え声)。

 

「(…………まあ、その刀太君は、夏凜先輩が折れないようにしてた気もして歯がゆいけれど)」

「どうした?」

「へ? あ、大丈夫。…………そ、それで、前言ってた話なんだけど、ホラ。僕が男なのか女なのかって……」

「あーそれな。まああの二人との話聞いてて『おおよそ』推測がつく感じにはなってんだが…………」

「うん。その…………、今の僕は、どちらかっていうのは『未決定』なんだ」

 

 そこから語られる九郎丸の出自の種族に関しては、まあ私からあまり語れることは無い。というかそれこそ、九郎丸が熊本に来た頃から意識して気を遣っていた話なので、大小差はあれど別に今までと何が変わるという事ではないだろう。

 

「それで、そのなんだけど…………、ひょっとして気付いてた? 前から。思えば、一緒に着替えたりとかそういうのってされたことなかったし、着替えとかも一緒に洗ったりしてなかったし……」

「あー、まぁ何か事情があるのかな? ってのは思ってたっていうか。お前さん結構『男』っぽく振舞おうとしても女っぽい時って結構あったし、普通に男装してるくらいのイメージでいたっつーか」

「…………でもその割に、その、学校の寮の話とかも全然、一緒の部屋っていうのは拒否しなかったよね」

「言い方悪ぃけど、熊本で共同生活は慣れてたし、三太もあんまり得意じゃない感じはしてたから、別に何も間違い(ヽヽヽ)はねーだろうなって」

 

 そもそも嫌なら九郎丸本人が拒否する訳で、そのあたりは流れに身を任せるのが一番原作チャート乖離が少ないという当然の帰結である。……既にそれどころではない状態だった件については黙認するとして(ダブスタ)。個人的に、九郎丸は「そう」振舞われてもあまり異性としての感覚が薄かったのだ。これに関しては九郎丸自身がどっちに寄っているかというのもあるかもしれないが、「私」というより近衛刀太と時坂九郎丸、原作での関係による補正みたいなのが働いているのかもしれない。

 …………ん? そう考えると、迫られた瞬間割と年がら年中思春期が思春期(比喩)な状態になると言うことは、それも仮に補正込みだと考えると、果たして原作でも刀太が夏凜をどういう風に見ていたかというのは…………? いや、藪蛇かもしれない、思考中断ッ。

 

「ま、間違い…………そ、そうだよね……」

「いや、何でそこで元気なくなってんだよって」

「だって、その…………、僕だって、少しはキリヱちゃんとか、夏凜先輩みたいに、刀太君に見て欲しいもの」

 

 言いながら、九郎丸は上のシャツを脱ぎ――――露わになるのは、明らかに以前よりも肩幅やら筋肉の付き方が華奢なことが分かる上半身と、「胸のふくらみ方」が普通にスリムな女の子している(つまりまあぁまぁ有る)、そんな九郎丸の姿。

 いや、オイ待て、お前原作だとこの時点でそこまで女の子化はしてなかったろ? どっちかに寄っている時はあるだろうからと「あの時」はスルーしていたが、なんだかあの時より気持ち更に女の子に寄ってる……、寄ってない?

 思わずたじろぐ私に、九郎丸はその私の手をとり、自分の胸元で抱きしめる。

 

「その…………、こういうのは、嫌い? 触ったりされるの」

「いや、まー、何と言ったものか…………」

 

「僕は……、好きだよ? 大好きっ」

 

 その言い方は過分に誤解を招く話になるので出来れば色々とご自重なさってくださいと思わざるを得ない自分が、何と言うか立場的に色々厳しいものがあるのだった。

 

  キリヱ大明神……、キリヱ大明神……!(祈祷) ブッダは寝ておられるのですかァ! 救いを、救いを、明るい未来を――――ッ!(???「まぁ明るくはあるんじゃないかい? 逃げ場はなさそうだけど」)

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「…………で、結局君は誰が好きなんだい? 近衛。

 誰か一人に選ばないのは不誠実…………、と一言で片づけると危なそうな人間関係なのは理解したけれど」

「誰選んでも角が立つし、今はそういうタイミングじゃねーし、というか選ばれなかった奴は絶対もっと酷ぇことになるのが目に見えてるからなぁ……。どうしてこうなった」

「聞く限りにおいては、君が絆すだけ絆しておいてアフターケアをしないせいな気もするけどね。まぁそれぞれ事情が事情のようだし、出来ない相手が大半のようだけれども。

 その苦労は共有できないけれど、まぁ…………、チャーシュー1枚食べるかい?」

「おぅ、サンキュー」

 

 後日。釘宮と一緒に駅前のラーメンたかみちで醤油チャーシュー麺小チャーハンセットを食べながら、詳細を濁しつつ愚痴るくらいしか道は残されていなかった。一応、前に言った話の有言実行(打ち上げ?)ではあるが、相手もこっちもそれぞれここに至るまでに愚痴を抱えるに至っており、お互いお互いの立場を非難しないという紳士協定のもと、ひたすらに同情しあって気落ちしあう会となっていた。なんと後ろ向きすぎる男同士の集まりか。

 

 救いなんてどこにもないんだね(無常)。

 そんなこの世の真実に直面しながら、今度は釘宮の側の愚痴(主に従兄妹と仕事関係)を聞いていると。ふいにラーメン屋の窓の外に見覚えがあるようなシルエットがよぎる。黒いロングヘアに黒い制服。身長はやや小柄な女の子で、どことなくその存在の()が周囲から「浮き出ているような」。まるでヘタクソなCG合成でもしたような光景が、現実のものとして見えたような――――。

 

「…………まぁ、仮に『来てた』としても、普通は観測出来ねーってことで」

 

 だから、きっとそれは気のせいだ。気のせいと言うことにしても良いはずだ。私は当然忘れていないし、誰しもすぐさま忘却の彼方に追いやることは出来ないだろうから。

 

 私の独り言に不思議がる釘宮に、何でもないと苦笑いを返す。

 

 気象が狂っている今の日本らしく、そんな店内に春の風のような生暖かなものが流れて来て――――それは、桜の花びらのような光の欠片を、少しだけ伴っていたような気がした。

 

 

 

 

 

「――――でも近衛刀太、見えないはずのものが見えているっていうことを、少しは真面目に考えるべきだと思うなー、私」




感想1000件突破記念ということで、今回は試験的に「番外編の内容募集」と化してみようかと思います。

しばらく期限は設けないので、活報より[光風超:感想1000件(大体)突破記念募集]にお願いしますナ!
 
 
※過疎ってたらいつものノリで番外編アンケします(保険)


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ST117.デリカシーを引っ叩く(100話突破記念番外編)

毎度ご好評あざますナ!
 
タイトル通り、100話突破時のアレのネタです。チャン刀の胃を護るため(?)、今回は仙境館のお話ですナ
 
・女性陣チャン刀好意ランキング5項目


ST117.Slap! Big Ass

 

 

 

 

 

 どうやら世界が滅びかけた、らしい。

 らしいというのは、僕自身がその案件にはノータッチだったからだ。なんというか、上手い事そのあたりは「滅亡しない程度に」おさまったらしいと聞いている。ただ向こうから送られてきた詳細報告を読むと、それはそれで新事実が発覚したり、色々と謎な部分が湧いてきたりといったところだ。

 まあ、細かくは刀太たちが帰ってきてから、直接聞くとしよう。

 

 僕は僕で、仕事が忙しいのだ。

 バサゴとほぼ二人で仕切って旅館を回すのは相変わらず、甚兵衛さんはフェイマ(※コンビニ)を適当に管理しているし、最近占い屋みたいなことをはじめた良く知らない和尚は和尚で、客商売に不向きな威圧感を持っている。

 

 だから僕も「お掃除ヤクザキックモード」ミニゲームスタイルを起動して、周囲に散らばっていたゴミを「雑魚ヤクザ」に仕立てて蹴り飛ばしかき集めていたところ。視界の端にゲームのログか何かのようなウィンドウで、稲妻模様な黄色い枠が表示された。

 

『ふみゅー! ふみゅー……、ちゅー、ぴ、ぴか?』 

[――――ヘイヘイヘイィ! ここが兄貴ィ(ビッグブラザァ)の本拠地って所かぁ……。美味しい美味しいカレーかお茶漬けは無いのか? 俺チャン、ちょっと空腹]

 

 セリフの声は可愛らしいのに表示されている翻訳口語(バイリンガル)は明らかに第四の壁(平面と立体の境界線)に挑戦しかねない勢いを持つセリフ回しだった。

 こう「外部の」視点を持つものとしては、色々と放置しておいて良い存在では無い気がする。その声の主を探そうと、「タッチ&タッチ探偵モード」ミニゲームスタイルを起動して、視界全域に映るもの(映像)をすべからく「認識の上で」タッチしていく――――見つけた。コンビニの電子広告に、その相手はいた。……虫取り棒を片手に持った和尚が、何やらコンビニの上の看板に漂っているその生き物を捕獲しようとしているようだが、いかんせん「視えて」いないせいだろうか、全然当たる気配がない。

 

「なんとなく見えてきましたぞ……、拙僧も捕獲していースかな? ソレ! ソレ!」

『ふみゅー! ぴぴぴちゅぴちゅらいらい!』

[ワッザ! 全然当たらないのに直向きに立ち向かう姿、俺チャンには一番真面目に見えるぜぃ!]

 

 なんというか、見ているだけで世界観を破壊されそうな感覚に襲われる。

 

 思わず消音機を取り付けた小型拳銃を引き抜こうかと迷っている時に、和尚の方が僕に気付いた。…………なんというか、構成員の黒スーツを借りて着ているのだが顔やら体格やらの威圧感だけで充分にヤクザの幹部でも通じそうな威圧感を持っている。もっとも頭にかぶった傘とか首に下げた数珠のお陰で、随分とイメージは違うのだけれど。

 

「むふぅ? お主、何やら女難値が増えているぞ? 一体どうした」

「女難値……、生憎『そういうことは』ないはずなんだけれどね」

「なぜ? バグか……」

 

 そういうことは無いだろうけれど、少なくとも僕のステータス表示で、その類のものは確認できない。そもそもこの人が何も知らないはずなのに「バグか」などと言いだすこと自体が世界のバグのような感覚があるため、何と言うか色々と冷汗が流れる。

 そんなこちらに「むふぅ」とやはり何度か唸りながら、彼はしげしげと僕の顔を覗き込んだ。

 

「直感ではないが、そうではない。大事なのは、どう視えたかだ」

「そう言われましてもね、和尚さん。ところで貴方は一体何を?」

「おぉ、そうであった。拙僧、さきほど妙に最もピュアな妖怪変化だ! と気配を感じ、ワクワクしかしねー! と童心に帰ったものの、未だ心眼が足りぬと見える。気配を探る暇もなく実体を非実体とされてしまっては、拙僧えげつなく感じるものの、やっとらしくなってきたと勿論気合を込めた。なんとなく話が見えて来たかな?」

「むしろ遠回りしすぎていらっしゃいますね、和尚……」

「半分は当たっている。耳に――――コソコソ何をやっているッ!」

 

 妙に遠回り過ぎて結局何が言いたいのかわかり辛い話題の展開中、突如として虫取り網を投げた。恐ろしいことに「視えていない」にもかかわらず、さきほど僕が発見した妖魔の身体に直撃していた。

 もっとも「ふみゅー!」と叫びながら非実体となり回避こそされていたけれど。和尚はそれで何かを悟ったのか「話が違う!」と謎の一喝をしていた。

 

「見えたか……『神聖なる者』の気を帯びて……おられたか。拙僧ごときがどうこうするまでもない、とはいえこの世界に絶対はない。ゆめゆめ気を抜かれるなよ? ――――例え小僧、刀太と『前世から』のような縁があるのだとしても、だ」

「前世からの縁ねぇ……」

 

 それだけ言って虫取り棒を回収した後、和尚は立ち去っていった。一体何がしたかったのだろうか。いまいち理解していないが、とりあえず僕はその妖魔相手に拳銃を抜いて突き付けた――――。

 

『ふみゅー!?』(※以下、鳴き声は省略)

[アイエエエエエエ!? 銃火器、銃火器ナンデ! 俺チャンこんなに可愛いマスコットなのに……、頑張れば世界で二番目とれちゃうかも? こう、名探偵な映画とかでさぁ!]

「いまいち正体が分からないけれど、最低限張られている簡易結界を余裕で通過してくる妖魔、かつ人型でないとなると、野良で逸れて来たとは考えづらい。逆説的に誰かしらのトラップで送り込まれたか、それとも害意をもって来訪して来たか。……どちらにせよ、少し『お話』しようか」

[それゼッタイお話じゃないからー! O☆HA☆NA☆SHIって奴だからー! 俺チャン暴力反対ッ! ついでにシベリア奢って? カステラとヨーカンのやつ]

「図々しい妖魔だね……、というか一体、君は何なんだい?」

 

 そもそもどうやって、という話をすると、兄貴ィ(ビッグブラザァ)の携帯端末から、などと言ってくる始末。流石に「ヤクザ妖刀・風来坊(フーテン)」(※抗争で血を吸いまくった結果誕生した現代の妖刀)を抜くとその威圧感に気圧されたのか、鬱陶しい口調を抑えて真面目に自己紹介してきた。それをまとめて、とりあえず僕は刀を仕舞う。

 

「雷獣……、確かに学園都市側から報告にはあったね。確か刀太の契約従魔になったとか」

[おぅ! 俺チャン、刀太のビッグブラザァに「チュウベェ」って名前つけてもらってまさァ!]

「チュウベェ…………」

 

 どうしてそんな素っ頓狂な名前なのかと聞けば、どうやら刀太のネーミングセンスでは、どうあがいても格好良いものになってしまうから嫌だったということらしい。

 まぁ、確かにこのキャラクターで迫られたら、僕だってまともに格好良い名前を付けようという気は起きないだろうけれど。

 

 というかフリーダムすぎる割に妙に疲れた中年みたいな雰囲気がにじみ出ているのは何なのだろうか。アレかな? よくサラリーマンのお父さんとかが飲み会帰りにハイになってるあのテンション、それをずっと継続でもしているんだろうか。

 コンビニの前から移り、仕事をしながら彼に話を聞く僕。といっても、とりあえず本当に外敵ではないのかを探る目的もかねて、いつでも戦闘態勢に移れるよう浜辺の方に来てだけれど。ついでに砂地の整備がてら、ならしておく。

 

[ところでビッグブラザァの人間関係とか教えてくれない? 知ってたらでいいんだけど]

「何でそんな話を知りたがるんだい? それも、主である彼が未だに帰ってきていないここで。そもそも僕って、彼とはゲームで少し遊んだことがあるくらいだけれど」 

[そりゃパイセン(ヽヽヽヽ)――――]

「というか君も僕のことをパイセンと呼ぶのか…………。彼と言い君と言い、一体どうしてなんだんだろうか」

[なんとなくッス!

 それでそれで、人間関係知って、地雷を把握して、その上でビッグブラザーの関係に気を遣うって奴だぜ! 俺チャン、出来る従魔!]

 

 本当に出来る従魔はそういうことは自分では言わないだろうというツッコミを一応は入れておく。 

 しかしだから僕は詳しくはないと…………、いや、まぁ「調べよう」と思えば調べられなくもないけれど(例えば夏凜の本名)、どうやら彼のプロフィールにおける過去には一部「プロテクト」がかけられているらしい。たまにその当人の運命に関わる第三者が強力な魔法使いだったりすると、その過去そのものに妙なノイズが入りアクセスが妨害されることがある。刀太もその類なのだろうと判断しているので、わざわざ「ハッキング」して解除するつもりもなかった。

 

 そんな話をしていたせいだろうか。

 

「――――――――つまり、女性関係ですね。大変オイシイお話とお見受けしました」

 

「おっとッ」

[アイエエエエエエ! 光の御子! 光の御子ナンデ!?] 

 

 咄嗟に聖剣エクスカリバール(只のバール)を取り出して構えた僕と、変なポーズで飛び退くチュウベェ。もっともその相手の顔を見て、おずおずとバールを地面に取り落とした。

 

「…………唐突に帰ってくるのは止めてください、副首領(ミスター)、七尾」

副首領(ミズ)、でも構いませんよ? ええ、UQホルダー万能執事、副首領こと七尾・セプト・七重楼。ただいまここに見参いたしました。以後御見知り置きを、『投げられ光の矢』のお子様」

 

 うやうやしくチュウベェに頭を下げる、長髪長身の男性。服装はどことなくミュージカル風に見えなくもないけれど、場違いでもなく普通に似合っているあたり、色々ズルい気がする。まぁ僕が着用したところで馬子にも衣裳にならず、着られるばかりなのだろうけど。文字通り「光の速さで」何処かから現れた彼は、どこからかいつの間にか取り出した魔法アプリを展開し、近衛刀太の写真を見ていた。

 そんな彼は現在、不死身衆(ナンバーズ)で行方不明になっているとあるメンバーを探しに全世界を練り歩いているはずなのだが、一体どうしてここに来たのだろうか。

 

[副首領……? エヴァちゃんの次に偉いッ!]

「君、首領(ミストレス)相手になんて呼び方を……」

「フフフ、まぁこのあたりの態度の大きさは、生まれてからの年月よりも人間との関係性に左右されるものですから。よほど甘やかされたのでしょうかねぇ、ずいぶん愛玩動物のようなメンタルとなっていらっしゃいます」

 

 しかし女性関係ですか、とニコニコ微笑みながらも実際に何を考えているかまでは表情で判断がつかない。その妙なポーカーフェイスっぷりは、以前某所にエヴァ様(ミストレス)を迎えに行った際と何ら変わらずだった。

 というより…………、こういうタイプの人間は男性女性問わず苦手だ。以前戦った月詠さんだったり、僕にとって一番大切「だった」あの女性(ヒト)を思い起こさせて妙なやり辛さがある。

 

「ふむふむ、なるほどコレはコレは…………」

「それで、何を()ているんだい?」

 

 雰囲気からしてただただ写真を観察している訳ではなく、何かしらの能力を以って「本来なら視覚から得られない情報」を引き出しているのだと推測。まぁ、当たらずとも遠からずといったところだった。

 

「いえ、『光魔法』に通じております故に、オコジョ妖精などが使うタイプの『好意を測る魔法』を使用して、色々と目視しているのです。もっとも私の存在が存在なので、より細かく、どういったエピソード交じりでなのかなど、ある程度把握した上で確認できるのですが、これはこれは……、中々興味深いことになっていらっしゃられるようで」

「好意を見る? …………何だろう、ギャルゲとかエロゲとかの好意度みたいなものだろうか。というか一体何なんだそのオコジョ妖精とやら……」

[俺チャン、番外編だからってエロゲを伏字にしないのどうかって思うッス。少年雑誌ィー]

 

 番外編? いや、僕も「こっちに来るまで」その手のゲームは、妹とかの目が怖かったのでやっていなかったのだけど(教育に悪いし)。

 

「何と言うか、中々面白い結果になっていると思いますよ?

 とりあえず現状『この時代に生きている』方々を対象としましたので、おそらく名前を知らない方が何名かいらっしゃると思われますが、周囲の女性から近衛刀太様へ向けられた好意の5項目評価、どうぞ」

 

 言いながら空中に投影されたそれは、こう、どういう顔をしたら良いのだろうか……。

 


  

【エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル】

 ┗友:08 親:10 恋:08 愛:10 色:07  計:43

「なんというか、馬鹿な息子だよ。…………、これ以上は金とるぞナナオ」

 

【朝倉 清恵】

 ┗友:10 親:08 恋:09 愛:06 色:09  計:42

「熊本民、クラスメイト! ……う、うん、クラスメイト。ハハハ……、なんか照れるわ」

 

【時坂九郎丸】

 ┗友:09 親:09 恋:09 愛:07 色:09  計:43 

「親友って言ってもいいのかな……、も、もうちょっと深く想ってくれてると嬉しいけど」

 

【イシュト=カリン・オーテ】

 ┗友:10 親:10 恋:07 愛:10 色:04  計:41

「気が付いたらどこかに消えてしまいそうで放っておけないヒトかしらね……」

 

【結城 忍】

 ┗友:07 親:07 恋:07 愛:07 色:08  計:36

「生まれて初めて、正面から努力を努力として見てくれた感じです。憧れです……ッ」

 

【桜雨 キリヱ】

 ┗友:05 親:09 恋:10 愛:09 色:09  計:42

「べ、別にコイツのことなんて、世界が何度滅んだって全然好きじゃないんだからねッ!」

 

【テナ・ヴィタ】

 ┗友:09 親:05 恋:07 愛:05 色:10  計:36

「なんていうか、まともに接してくれた異性が兄サンくらいしかいねーんだよなぁ……」

 

【伊達マコト】

 ┗友:04 親:06 恋:10 愛:07 色:09  計:36

「恋はラブハリケーンッスらしいッスよ!」

 

【豪徳寺 春可】

 ┗友:06 親:04 恋:07 愛:06 色:07  計:30

「時坂君よりは好み。あと服装センスがこう、厨二病(同族)の匂いを感じる」

 

【近衛 帆乃香】

 ┗友:09 親:09 恋:04 愛:03 色:03  計:28

「お兄さま大好きえ!」

 

【近衛 勇魚】

 ┗友:04 親:08 恋:09 愛:06 色:09  計:36

「………………」

 


 

[マジで知らない名前があるとか予想外なんだよな俺チャン……]

「というより妹かな? の片方の『色』が高すぎるのが絶対アウトだと思うのだけれど……」

 

 というより、桜雨キリヱがなんというか典型的なツンデレ発言なコメントだったりと色々ツッコミを入れて良いのか悪いのか……。というよりも好感度の後に表示されている一言コメントみたいなものは?

 

「それぞれの潜在意識に向けて語り掛けた際にエコーのように返ってきた一言ですね」

「とはいえ首領(ミストレス)は絶対に本人が意識的に回答をしていると思うのだけれども…………、ちなみにこれの精度は?」

「大雑把には当たっているでしょうし、大枠はこれで地雷回避くらいは出来るかと。参考になりましたか? チュウベェ様」

[俺チャン的に一番びっくりなの、あのエロいシスターじゃないシスターの色がスゲー低いってことなんッスよー、これマ?]

「マジです、はい」

 

 イシュト=カリン…………、夏凜のことだろうか。思えば妙に刀太にベタベタしていた夏凜だったけれど、そこに色欲はないと本人は言い張っていたが、ひょっとして本気も本気だったのだろうか。何かしらの方法で数値を改ざんしているのではと個人的には疑ってしまいたいが、残念ながら七尾が表示しているそれを更に「別なゲームモードで」解析することは出来なかった。

 

[じゃ! ここでイッチョ、ビッグブラザァ側から女性陣側への好意とかも出してクレメンス!]

「ええ。構いませんとも――――、おや? 源五郎様、どうなさいましたか?」

 

 いや、流石にそれはちょっと待てと。思わず七尾の手を掴んで制止をかける僕だった。

 

「それは、良くない。只でさえこういう人間関係を覗き見るようなことはある種のフラグだというのに、それを双方向で確認でもしてみたら、いつ空から僕らを蹴るために馬が降ってくるかわかったものじゃない。

 擬人化して美少女にでもされた馬ならまだしも、それこそ殺意満点で襲い掛かってくる可能性だってあるわけだ」

「晴れ時々馬…………、中々究極的な状況を想定なさいますね」

[そうは言っても、ビッグブラザァ側からの地雷も知っとかないと色々まずいしィ……]

 

 馬とは言ったが、あくまで比喩だ。つまりこういう変なフラグは、事故的に踏んでしまったものでも危険だということだ。僕自身「こちらに」来た時に散々そういったフラグのお陰で痛い目を見た経験があるので、よくわかる。

 それに相手は中学生だ。中学生にとってそういう風な内容ではやし立てられるのは完全に陰口ないし嫌味ないしいじめの類だ(※成人でも変わらない)。UQホルダーはホワイト労務……という訳でもないけれど、せめて心の安らぎくらいは確保してあげるべきだろう、先輩としては。

 

 結局そこのところだけは深く追及せずに話を終わらせた。チュウベェは「つまんねーの!」などと言いながら姿を消し、七尾も任務に戻ると言っていたのだけれど。

 

「では、私から一つだけご忠告を」

「?」

 

 

 

「―――――――――どなたとは言いませんが、大変な女難の相が出ておられます。精々、島の外を出歩く際はご注意くださいませ」

 

 

 

 またそれか、と。和尚の言葉を思い出して苦笑いを浮かべようとし…………不意に脳裏を過った、月詠さんと言うらしい彼女の「しな」を作ったポーズが、何故か悪寒を感じさせた。

 

 

 

 

 




感想1000件突破記念ということで、今回は試験的に「番外編の内容募集」と化してみようかと思います。

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ST118.手鍋下げるは窯の蓋(1)(番外編)

毎度ご好評あざますナ!
ちょっと1話にまとめきれず、今回の番外編は続き物です・・・

>キリヱ:刀太のお嫁さん選手権!の話(アンケート)


ST118.Bride Ability Championship!(1)

 

 

 

 

 

 それは、ある日の休日に起こったわ。

 アマノミハシラ学園での生活も何週間か……っていったってここのところは休校してるけど(通ってる期間より休校してる期間の方が長いんじゃないかしら?)、ある程度の整理が終わった時点で、刀太と九郎丸と、後三太が訓練しているのを、暇だから見せてもらうことにした。

 場所は校舎の屋上。簡単に九郎丸が結界を張ってから、全員それぞれ準備にとりかかってた。

 

我が身に秘められし(オステンド・ミア)力よここに(・エッセンシア)――――来たれ(アデアット)!」

「お、おすてん…………、あー、覚えられないッ! えっと、メモメモ……、オステンド・ミア・エッセンシア――――来たれ(アデアット)!」

 

 

 

ARMOR

・KUROUMARU TOKISAKA

・DIRECTION: East

・GUARDIAN: Eoh

・ASTRAL: Aries

・SYMPARATE: LXXVIII

・EQUIP: SACRED SWORD HINAMORI

・RANK: Numbers of UQ-HOLDER

・P-No: 11

・CODE: 2 0 7 2 1 9 9 3 0 4 0 2

・SECRET:Lightning Sword

 

ARMOR

・SANTA SASAKI

・DIRECTION:West

・GUARDIAN: Eoh

・ASTRAL: Aries

・SYMPARATE: LXXXIX

・EQUIP: wAMIGA・SCEPTRUM VIRTUALE

・RANK: Numbers of UQ-HOLDER

・P-No: 12

・CODE: 2 0 6 5 1 9 9 2 0 3 2 7

・SECRET: Hero pprentice ghost

 

 

 

 どうやら運よくどっちもアーマーを引いたみたいね。九郎丸はなんかこう、ちょっとプレスリ〇とか和装が混じったようなヘンなミュージシャンなんだか王子様風なんだかわからない「二色の」ツインテールな恰好、三太は…………何アレ、応援団長みたいな不良っぽい学ランに帽子、頭は帽子の後ろ半分から短くしたはずの髪が伸びて天に聳え立ってめらめらして「ボッ」って音が聞こえてくるじゃない。

 そんな二人を前に、刀太はあのチュウベェとかいう可愛い感じの妖魔を「血の球体」に捉えて、そのまま自分の胸に持っていく――――と同時に、制服の背中から猛烈な勢いで「出血」、したそれが刀太自身も覆いつくして、その姿を黒っぽいコートに金髪? な姿に変えた。

 

「――――死天化壮(デスクラッド)疾風迅雷(サンダーボルト)

 で、九郎丸は準備オーケイとして、三太?」

「大丈夫? 三太君」

「お、おォ…………。って言っても、どれくらい何が出来るかわかんないんですけど、九郎丸センパイ……」

「何で敬語だし?」

「い、いや、その…………(女子だと思うとちょっと距離感が判らねー)」

 

 言いながら、三太はノートパソコン(の割にはちょっとボロっちぃ?)と魔法少女とかが使ってそうなステッキを構える。PCは空中に浮かんでいて、その杖を振って画面を見てびっくりしてた。

 

「二種類アーティファクトって、キリヱちゃんとも同じだよね」

「それって取説付いてたんだっけ?」

「おォ。パソコンの方にな。

 このステッキ、力の王笏(スケプトルム・ウィルトゥアーレ)の方は操作とか干渉とかアクセスとかのコードを省略するタイプ。魔法アプリ仕込んだら、機動シーケンス無しで速攻発動できるやつらしい。

 でこっちのパソコン自体はマジで旧式の「wAMIGA(ワミーガ)」ってパソコンなんだけど、超硬くて超壊れなくてってくらいの処理はされてるらしい。後はスゲー古いパソコンってくらいなんだけど、やっぱヤベェこいつ…………、OSとかゼッテー百年以上前のオーパーツだってのに、画素ぴったり合ってるし、動作クッソ快適になってるし……、で、魔法アプリシミュレーターってのがデフォルトでインストールされてる」

「魔法アプリシミュレーター?」

「なんでも、自分で色々やって魔法アプリを作れるらしい。でも造ったものに応じて効果時間とかが限定されてるから、お試しみたいなモンだなこりゃ」

 

 どうやら今日は、三太のアーティファクトを慣らす訓練みたいな感じね。

 そして刀太の動きに九郎丸が翻弄されながらもちゃんと鍔迫り合いしたりして結構良い勝負をしていた後、いじってた魔法アプリが完成したそれをもって刀太と練習試合。

 

「――――――――ほいっ、とりあえず一本」

「へ? いや、キモッ! 動きめっちゃキメぇ!?」

「マジで!!? いや、でも実際あの三太相手に先手とれるんだから十分強いよなコイツ……」

 

 なんっていうか「違和感のある」速度で動いてくる刀太に、困惑してる三太。あっという間に背後をとられて首筋に重力剣を突きつけられてた。三太が弱っちいというより、刀太のアレがなんていうかホント反則じみた動きになってるっていうのは、素人目で見ても判るわ。

 ただ三太の魔法訓練にならないからってことで、今度はチュウベェと分離した後で、刀太はそのステッキから放たれた魔法を受けて――――――――――――――。

 

「わ、わわわわわ…………ッ! と、刀太くん可愛い……っ」

「意外とあんまり感じが変わらないわね……。むしろ目はのほほんとした方のお祖母さんに似てる感じになった?

 って、ちょちょ、ちょっとアンタこれどーするつもりなのよッ!」

「ひ、ひィ! お、俺だってこうなるのは想定外だってー!」

  

 そこには、大体4~6歳くらいかしら、幼児といって良い年齢の刀太の姿があった。恰好も見た目上はブカブカになっていて、きょとんとした顔の刀太が普段みたいに眉間に皺寄ってたり半眼だったりしない分、無邪気に見えて可愛い。

 三太の造ったお試し魔法は「年齢操作」。潜入捜査とか相手の調子を乱す用に、外見の年齢を操作する効果らしかったんだけど…………、問題はそこじゃない。

 

「あのね? おねえちゃんたち、だれ?」

「「「ッ!?」」」

 

 そう、この通り記憶まで綺麗に消し飛んでしまっていること。

 つまり今現在の刀太は、誰がどう見ても幼稚園児、高く見積もっても小学一年生くらいのイメージの男の子といったところ。重力剣とか重くて持てないといわんばかりに尻もちついて、きょろきょろ周囲を見渡して泣いてしまった。

 ちょっとー! こんなのどうしろっていうのよッ!

 

 九郎丸とか動揺のあまりアーマーカード解いちゃうし(三太は普通に魔力切れ(空腹?))、アーティファクトだけ簡易召喚してパソコンだけ取り出してるけど、これってちょっとどうしたものかしら。

 

「何事ですか?」

「あっ、夏凜先輩っ」「夏凜ちゃん! 誰より長生きしてる夏凜ちゃーん!」「先輩来た! これで勝つるッ!」

「騒々しいですね。一体何が――――――――? えっと、ふぇ?」

 

 スポーツドリンクを持ってきてひょっこり生えた(失礼)夏凜ちゃんだったけど。びえーん、びえーんって泣いてるちびっ子刀太の姿には、流石に色々と最近ぶっ飛んできてる気がする夏凜ちゃんといえど困惑してるみたい。事情を聞いて、腕を組んでうーんと唸ってる。

 夏凜ちゃん、実際私たちの中で一番長生きな訳だから(私の周回分は経年日数に鋼の意志で数えない)、そういう経験もあるんじゃって思って聞いてみたんだけど、夏凜ちゃんは私の方を見て、なんでか申し訳なさそうな感じに肩をすくめた。

 

「…………実質誰よりも人生経験のあるキリヱ、貴女はどうなのでしょうか。こういう場合の対処の仕方など―――――」

「わかるわけないでしょ!? 基本、全部「捧げてた」から全然そーゆー子守りとかの経験皆無よッ!」

「胸を張る話じゃないんでは? キリヱ先輩……」

「そこ三太、黙ってなさいッ! ちなみに九郎丸は?」

「ぼ、僕は、その、無い訳じゃないんだけどその、か、可愛すぎてなんていうかこう、触れないって言うか、あーでもわんわん泣いちゃってるし―――――」

「仕方ありませんね。一旦は私が預かりましょう」

 

 そう言ってちびっ子刀太をひょいっと持ち上げると、そのまま抱きしめ…………? なんか、いつも通りの光景ね。そう見えちゃう時点で私も感覚、麻痺してるかしら? そのままお尻から支えるようにして、背中をポンポン叩いてるところは完全にお母さんって言うかお姉さんっていうか。ちゃんとずり落ちそうになったズボンのベルトを締めてあげたりとか、こう、上手く言えないけど凄い手馴れてる。…………手馴れすぎてすごい違和感あるけど、本人いわく紀元前の人間らしいし、シスター時代とかもあったって言ってたから孤児とかのお世話しててこういったものは慣れてるのかしら。首のマフラーをなんだかんだ離そうとしないのもなんのその、ちゃんと巻き直してあげてからぎゅってハグしてるし。

 っていうか、腕の長さが足りなくて抱きしめ返せないのかしら、夏凜ちゃんのおっぱい横のあたりで手が彷徨ってるじゃないのッ! 何なのもうッ!

 

「どうしました? 大丈夫ですよ、大丈夫。お姉ちゃんは怖い人じゃありませんから…………」

「あのね? …………みんな、しらない」

「そうですね、いきなりで怖かったですものね」

「おねえちゃん、だれ?」

「私は、夏凜と言います。…………大丈夫、貴方は一人じゃありませんから。『約束しました』し、ね?」

「?」

 

「…………あやしてる声の夏凜ちゃん、なんかすごいカワイイわね。こう、上手く言えないんだけどハスキーなのに凄いキンキンして可愛い声っていうか、ふえぇぇぇってたまに言ってるのが似合う声っていうか……」

「確かに夏凜先輩、歌ってる時の声すごい特徴的だったけど……」

「いや、九郎丸センパイも歌ってる時は結構大概スゲー良い声っッスよ―――――」

 

「ほほぉう! 何やら面白そうなことやってるじゃないかっ!

 僕も混ぜてヨ!」

 

 半眼で謎の決め顔みたいな笑いを浮かべて、一空がこの空間に乱入してきた。背中からクラッカーみたいな弾発射する銃みたいなのが四つ生えてるわね。って、コイツ一体いつから?

 

「んー? 三太君がメモアプリひっくり返して呪文探してるところからかな?」

「最初からじゃないッ」

「そんなことより…………、これは一大事だねぇ。九郎丸ちゃんも夏凜ちゃんもキリヱちゃんも、気が気じゃないだろうにあんな小さくなった刀太君なんて」

「ちゃん付けは止めなさい、飴屋一空。……気が気でないとは?」

 

 刀太を落ち着かせたっぽい夏凜ちゃんが、当のちびっこ刀太を引き連れて来る。人見知りしてるみたいに夏凜ちゃんのスカートの裾掴んで背中側に隠れようとしてるけど、夏凜ちゃんの足相手だと流石に隠れきれず、そのわちゃわちゃしてるのを九郎丸が「か、カワイイ……!」って見てる。私的には別にそこまで可愛いとは感じないんだけど……。あっ、でも何かずっとビクビクしてるってのは、普段のアイツに通じるところはあって、ちょっと複雑な気持ちね。

 

「だって考えてもみなよ。こんな幼少期のカワイイ刀太君を連れて道端歩こうものなら…………、勇魚ちゃんが危険」

「「「「嗚呼……」」」」

 

 これには全員、頷いた。

 あの妹は、こう、なんていうのかしら……、本当なら別にそうでもないはずなんだけど色々偶然が重なって一度「そういう」視点を持ってしまった結果、アイツ生来のアレっぽさでどんどんと沼にハマるみたいに妹として(?)おかしくなっちゃったのかしらねぇ……。

 

「それに、魔法アプリシミュレーターだっけ? 魔法具(アーティファクト)効果って言ってたけど、どれくらいの時間もつものなの?」

「コイツに関しちゃ、大体24時間以内って出てはいるッスけど……」

「となると24時間以内に、彼に何かあっても自力で対処することが出来ない訳だ。この間戦ったって聞く『水の使徒』だったっけ? とかが、さらいに来ても対処できないし。力を貸してくれそうな雷獣君も、どこかに逃げちゃったみたいだし。常在戦場とは言わないけど、何が起こるかわからないからねー今時」

「あっ、言われてみればそうね」

 

 それはそうと乙女な皆には耳より情報~って、一空はちょっとニヤニヤ爽やかに笑いながら、私たちに3人に耳打ちしてくる。三太とかも位置的に聞こえちゃってるけど、明らかに愉快犯だし、別に耳より情報でも何でもないんでしょーけど(こーゆー所はホント子供らしい一空)。

 

「…………男子って言うのは、つらい状況や大変な状況を経験するとき、傍に寄り添ってくれる女の子には、色々な意味で見方が変わってくるらしいよ? 苦楽を共にした相手は、それこそ普段以上に入れ込む的な話だね」

 

「入れ込む……っ!」

「まぁ男女関わらず普通でしょう。ねぇキリヱ?」

「べ、べべべ、別に入れ込んだりしてないわよッ!」

「センパイ、キリヱセンパイ、自爆してるッス……」

「うーさいッ!」

 

 ぺしん、と軽くチョップを入れて返しといたけど、一空はそのまま両手を広げて、なんか凄い楽しそうに笑っていた。

 

「つまりこの状態の刀太君を上手くお世話出来た子こそ! まさにベストオブベストのお母さん、お姉さん、を併せ持つことが出来るお嫁さんということだね!

 少なくともこの状態が解除されるまで、皆でお世話してあげなきゃいけないと思うんだけれど――――」

 

 何、僕は悩める乙女の味方だから……、なんて言いながら一空は小指を立ててウィンク。

 

 

 

「――――さしずめこれは、第一回! 刀太君のお嫁さん選手権、って所かな?」

 

 

 

 ぴしゃーん! と私たち三人の間に雷が落ちたような、そんなイメージ。九郎丸が唖然とした表情で、夏凜ちゃんがいつも通りおクールなお顔で、私はなんかすごい顔が熱い感じで。

 

 そして、がしゃーん! と入り口の方で物が落ちる音。思わず見ると、そこにはスポドリの入った籠を落っことした、なんかジャージ着てスポーツ得意そうな高校生くらいの人(カワイイわね……)と、……あれ? 結城忍? 仙境館の方で今日もお仕事してると思ったんだけど、一体どうしてここに?

 ちなみにジャージの人は目を真ん丸にしてギャグマンガみたいな顔して、忍は「えぇーっ!?」って素直に声上げて驚いてるわ。

 

 …………何なの? 周囲見回して女の子、皆普通に可愛いんだけど、コイツら全員ひょっとしてもひょっとしなくてもアレなの? アレなのよね! 絶対アレでしょ!? どーせ刀太関係でアレなんだって、私、本当「よく」知ってるんだから! 何回かの周で顔合わせてる「朝倉」の煩いのとかッ! まあこのジャージの人は今回の周回で初見だけどッ。

 

「マジッスか! 何なんスか選手権ってッ! っていうかコレ刀太君ッスよね? 魔法アプリとか暴走したッスか? 私、よく暴走させる方の経験者だからよくわかるッスよそーゆーの! うはー! 何ッスかこれ、髪とかいつもよりも丸っこい感じでフワフワしてるッス!」

「あ、わわわわ……、う、うぇ…………ッィ!」

「あ、あの……、せ、センパイ、溺れてますっ!」

「そうです、気持ちはわかりますが落ち着きなさいマコト。知らない人たちに囲まれてちょっと泣いちゃいそうになってるので」

「知らないって何なんスか? って、わー! ゴメンッス、ゴメンッス。お姉ちゃんちょっと暴走しちゃったから……、えっと、飴ちゃんでも食べるッスか?」

「うぇ……? う、うん」

「ってアンタ、どこからその飴取り出したのヨッ!」

 

 なんか気のせいじゃなかったら指入れて大きく開けたシャツの首元、その「谷間」からすっと棒付きな袋入り球体ペロペロキャンディ(チュッパチュッパするやつ)を取り出してる。ちなみに味はミルク味。何、なんなの、私に対する当てつけっ!?

 

「えっと…………、おねえちゃん、よめる?」

「へ? あ、成分表だね。…………って、どうして知りたいのかな」

「えっとね、しらないひとから、たべものもらったらいけないってね、『はるかさん』がいうんだけどね、『じんてつさん』はね、せいぶんだいじょうぶならだいじょうぶかもしれないってね」

「はるかに、じんてつ…………」

「何か知ってるのですか? 九郎丸」

「へ? あー、えっと、その、勇魚ちゃんとかから聞いた話があって――――」

「っつーか、知らない人から食べ物もらっても食べたら駄目ってのは判ってても、成分表見て大丈夫そうなら食べちゃうかもしれないってのはそこそこ危ねーからな? このお姉ちゃんは大丈夫だけど」

「うん」

「センパイ、素直ですね……」

 

 っていうよりも、その微妙に前後の話が論理的に繋がらず判定がおかしくなってるあたりも、コイツの普段の抜けっぷりを思い起こさせてちょっとヘンな気分にさせられる。

 

 と、話してるうちにちゃっかり袋をあけてキャンディーを口に咥えるちびっこ刀太と、同じ飴を取り出して咥えるジャージの人。「お揃いっスねー♪」って言ったら、刀太も素直に「ねー♪」って返して、えっと、その、そーゆー所はちょっと可愛かった。

 

「まぁ、どちらにしてもラチが明きません。まずは手始めにお昼にしましょう。どちらにせよ刀太もお腹が空いているようですし」

 

 賛成、と私含めて声があがるけど、それを聞いて「待ってましたッ!」と言わんばかりに、一空が指を大きく弾いた。……音がすごい大きかった。めっちゃ煩いわね、それ指パッチンとかじゃなくて指バズーカくらい音出てなかった?

 

「いやぁホラ、お嫁さん選手権といったら、アレじゃない?

 ――――ズバリ、料理対決! ついさっき茶々丸さんにも連絡入れて、これから某所に特設会場を用意するから、皆も付いてきてねー☆」

 

 いや、何でコイツこんなノリノリに張り切ってるのよと思って肩を落とす私に、一空が「わかってる、わかってる」みたいな変な微笑みとウィンクを寄越してきた。

 

 

 

 

 




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ST119.手鍋下げるは窯の蓋(2)(番外編)

毎度ご好評あざますナ!
真面目に色々ネタを仕込んだり拾ったりすると話が長引いていくガバガバ和数管理システムです・・・というわけでその2


ST119.Bride Ability Championship!(2)

 

 

 

 

『これも愛……、というには状況が混沌としすぎていますね。肝心の刀太くんはアレのようですし…………、あっ、でもこっちは視えてるみたいですね。手を振り返してくれますし可愛い! 凄い可愛いじゃないですか刀太くん、実体がないのがあまりに惜しい抱き上げて頬擦りしてぐるぐる周りたいですッ!』

  

「ばいばい! ばいばい!」

「何をやってるんだお前は……」

『さぁやってまいりました、『第一回ドキドキ? 女だらけの嫁力選手権~イチゴ味』! MCはこの僕、『永遠の十三歳』飴屋一空お兄さんがお送りします!

 さて、本日いらっしゃってるゲストはこの方々ッ!』

「実況の絡繰茶々丸です。大丈夫、こういうお仕事は慣れています」

「アイヤー、茶々丸に呼ばれて遊びに来たネ! 特に縁もゆかりもないから冷静な分析が出来るだろうて期待されてる、解説アルバイトの超鈴音(チャオリンシェン)ネ! あんまり覚えなくて良いからヨロシクッ!

 サーサー、そんな私たちのお隣の二人もついでネ、自己紹介、自己紹介!」

「…………いや、それこそ何で審査員として俺達を呼んだんだ。というか嫁力選手権とか言っていたが何なんだそれ、絶対後で近衛が頭抱えるだろう。

 少しは彼の羞恥心を考えてやるべきだと思うけれど。特に腐れ縁とはいえ知り合い相手にこういう悪乗りをするのは――――」

「ま、まーまーまー……(ひ、久々にダイゴくんの隣の席……!)

 えーっと、審査員その1とその2! 釘宮大伍と、成瀬川ちづでーす! そして!」

「あ、その、三太ッス。一応元凶くさいんスけどあんまり責められてないんで、まー、出来る限り平等に審査するッス」

『ありがとうねー三太君! 大丈夫、無理しなくても何とかなるものだよ、こーゆーの。

 ではここで、特別審査員のお二人をご紹介、どうぞ!』

「どうぞと言われてもなぁお前ら……、というか私を巻き込むな。

 リアル『カアちゃん』だぞ? 私。リアル『カアちゃん』。

 変な遊びに変な状況になった子供を巻き込むなって」

「イヤでもそういう血筋ネ、女難というか」

「…………というか超、お前なんでこの時代に――――」

「アーアーアー! 別に問題はないていうのは『あの時』彼に話した通りネ! というか学園長から聞いてないカ?」

『はいはい、そこの話はなんかツッコミを入れるのが怖いので置いておいて、雪姫様のお膝の上のちびっ子刀太君! 今日の意気込みをどうぞ!』

「え、え? え? あ、あの、ね? ………………ぼくのね、おうち、どこ?」

「…………」

『おぉっとこれはコメントに困る一言が来てしまった! 迷子のような少し泣き出しそうな発言だけれど、残念ながら君のホームはここだァ! 諦めてお昼ご飯を召し上がれッ!』

 

 断言するけど一空のテンションがぶっ壊れてるわね。やけくそでもないのに、酔っぱらってるみたいなテンションじゃない。何なのその無駄な力の入れよう。ちょっと驚いて泣きそうな刀太を、雪姫が頭撫でたりして落ち着かせてるのは、こっちもこっちで少し手馴れてる感じじゃない。

 あと大人モードの雪姫が超さん相手に悪態をついてる……。あれ? ひょっとして知り合い? いえ、なんというか場所が遠くてツッコミを入れるに入れられないんだけど。まあそもそも超さん相手に周囲のほとんどが「誰?」って顔してるから、あんまり関係ないと言えば関係ないけど。というか、釘宮ってあのイヌメガネよね、イヌメガネ。今日はニット帽してるから一見すると普通っぽく視えちゃうけど。隣の女の子は、なんっていうか……、うん、セーフね! 大丈夫、もう「惚れてる」相手がいるタイプはあんまり刀太相手とは相性よくないのかあんまり絆さない(絆しても友達レベル?)だから、とりあえずは大丈夫っぽいわね。

 

 私たちは、なんていうかこの間、茶々丸さんに案内された別荘の前に来てた。別荘っていってもプレハブっぽいところで、茶々丸さん曰く昔雪姫が住んでたところらしい。そこの手前、長方形の長い方を開いて簡易ステージにしたみたいなコンテナに、ガスとか水道とかちゃんと動いてるキッチンが六つ設置されてたわ。

 ……ん、六つ?

 なんか端っこのコンテナに、全身黒ローブを纏った子がいるわね。顔も何もかも判らないけど、身長、私くらいの大きさ…………、って、へ? い、勇魚ちゃんは、呼んでないから来てないはずだし、帆乃香ちゃんの姿も見えないから大丈夫、大丈夫……、よね? ちょっと疑心暗鬼だわ。

 

『はいでは、特設会場の皆さんの紹介に入りましょう、せっかくですから場を盛り上げる感じで!』

「アイヤー、程々にしてあげるネ!」

『ではではまずエントリーナンバー1番! エプロン姿は君の為、僕は僕に出来ることを――――女子率平均7割強! 時坂九郎丸ちゃん!』

「何ですかその紹介ッ!?」

 

 驚きながら、制服の上からピンクのフリフリエプロンな九郎丸は手を下に握ってお尻突き出すみたいな感じでちょっと前傾姿勢で叫んでる。……ふーん、可愛いじゃない。でもなんか自前の包丁なのか何本か機材じゃないやつが置いてあって、これは強敵ねっ。

 

『エントリーナンバー2番! 夢のためにゴーイングマイウェイ! ありとあらゆる障害を、知恵と勇気とレーシングマシーンで蹴散らします――――テクニカル&キュート! 結城忍ちゃん!』

「きゅ、きゅーとッ!? が、頑張りますっ!」

 

 なんていうか、正統派妹系? 後輩系? な女の子って感じね。健気さとやる気に満ち溢れてて、小動物的な可愛らしさがあるわ。でもそれはいいとして、どーしてツナギの上からエプロン着用してるのかしらあの子、こっちに来てた時は私服っぽいパーカーとスパッツっぽい恰好だったのに……。

 

『エントリーナンバー3番! 大概のそういった事なら大体こなしてきているので、特に問題はないと判断します――――姉を名乗る不審者! 結城夏凜ちゃん!』

「絞め殺しますよ、飴屋一空」

『ちょッ!? 魔法纏うの反則じゃないかなーッ!』

 

 聖属性を帯びた白い光が立ち上る右手の夏凜ちゃん。無表情に一空を睨んでるけど、下の拳から照射されてる光でホラー映画とかでありがちな不気味な照明の当たり方みたいになってて怖いわね……。っていうか、エプロンでも強調されてるおっぱい何なの? そのハート型の新婚さんみたいなエプロンはッ!?

 

『エントリーナンバー4番! 経験値を超えた古式ゆかしさは素直になれない女の子の花道――――ツンデレ予知能力者! 桜雨キリヱちゃん!』

「誰がツンデレよ誰がッ!」

 

 とりあえず適当なエプロンの紐を締めながら思わず叫んじゃったけど、これじゃますます本当に私がツンデレみたいじゃない! 私、そーゆーテンプレートに当てはまるタイプの好意の表し方するタイプじゃないし、アイツのことなんて別に……って、何言ってもデレてるみたいに聞こえるじゃない一空のやつッ!

 

『エントリーナンバー5番! デートすらまだなのに何でこんなことに……、お嬢様女子力舐めんじゃないッスよ!―――― 一般生徒だけど恋さえしてれば関係ないよね! 伊達マコトちゃん!」

「プライバシーとか無いんスかこの内輪イベント!?」

 

 夏凜ちゃんに匹敵しかねないおっぱいと身長な、マコトだっけ……? なジャージの人。素直に照れてるのがこう、普通にこっちも可愛い感じ。っていうか忍もだけどわざわざ服を着替えてきてるわね、こう、刀太の妹たちみたいなお嬢様風な制服って言ったらいいのかしら。ひょっとして先輩?

 

『そしてトリを飾るエントリーナンバー6番! ――――絶対匿名希望、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル(巻物(スクロール))ちゃん!』

『様をつけろ、様を。

 というか絶対匿名希望で参戦させろって言っただろうが貴様ァ! わざわざ隠していた意味がないだろうがッ!』

 

 そう大声を上げながらマントを脱ぎ棄てたのは、なんかこう、白いゴシックロリータな恰好してる、雪姫子供バージョンだった。

 

 ……は?

 

「雪姫様が、二人ッ!?」

「超美少女じゃないッスか! 髪さらっさらじゃないッスか!」

「え゛? えっと、特別審査員の席に雪姫いるじゃない、何よコイツ!」

「や、やっぱり可愛い……って、あれ? そ、そうだね、どうして二人――――」

「あ、あの…………(雪姫『先生』も参戦したかったのかな?)」

 

 私たち各々の反応を見て、その小さい雪姫は鼻で笑った後に剣呑な凄みのある笑顔をしてきた。可愛いけど怖いじゃない、っていうか明らかに普段の雪姫よりもドSっぽい顔してる。

 さてはあの女、こっちが素ね!

 

『コイツとは随分な口を利くなぁ、サクラメ・キリエ。

 その身を永遠なる氷の彫像としたいとみえる――――』

「や、止めなさいヨ、せめて一思いにそこは殺しときなさいっ」※戻れるし。

「いや、止めておけお前も。

 ウチの組織的にキリヱがいないと真面目に困るぞ……」

『フン、本体がいくら困ろうが、私には関係ない話なのでな。

 大体「ぼーや」の姿もないし、いじめ甲斐がないにも程があるぞ。

 とはいえお遊びで出て来てやったんだ、精々私を楽しませろ?』

 

「昔の雪姫様のようですね、振る舞いが……」

「あ、悪の親玉っぽいッス」

『そりゃ「そんなもの」だからなぁ、ハハハハハ♡

 いいぞいいぞ、もっと畏れろ一般人♡』

「でも可愛いッス」

『は、はァ!? や、止めろ頭撫でて来るな!

 こっち(ヽヽヽ)だと今色々「制限」がかけられてるから、ちょっと待て、待てと言ってるだろうがー!』

 

『うらやましい……』

 

『……あー、で、ちなみに彼女は一体誰なのかと、皆さん困惑してますけど?』

「懐かしいですね、マスター」

「ま、そうだな。

 簡単に言えば、相当昔に私が作った『人工精霊』だ。

 当時の私をモデルとして記憶とかもちゃんと継承させてある。

 今回は、ソイツの回収もかねてこっちに来たところはあるんだが……、いい加減に暇してると文句を言ってきたからな、たまには遊ばせてやろうというハラだ」

「かわいい……」

「ん? お、そうかそうか♡

 ヨシヨシ、良い子だ♡ フフ♪」

 

 あ、あざとい……! ちょっとご機嫌になって頭撫でてる雪姫、あざといじゃないっ! 自分の分身とはいえ小さい自分の姿を褒められて悪い気がしないっていうのはわかるんだけどっ。っていうか、「息子」相手に褒められてそんなに気分良くなるものな訳?

 ていうか、ぼーやって誰のことよッ!

 

『フン、まぁ良い。せいぜい私を楽しませろ。

 …………って、カリンお前、こういうお遊びに参加するようなタイプだったか?』

「まぁ、私も『解放されてから』色々あったのです」

『そういうものか。……そういうものか。

 私の本体ですら「色々あって」「浮かれて」丸くなってるみたいだしなぁ』

「「「浮かれて?」」」

「おい、その話は止せ!

 というかお前だってそういう意味では浮かれてるだろう今絶対ッ」

『まぁ、な?

 チャチャゼロ(ゼロ)が居たら盛大に揶揄われるだろうと予想がつく程度には、自覚もあろうものさ。

 …………ま、そんなことはどうでも良い。オイ司会、とっとと進めろ』

『りょ、了解でーす。

 ではでは、第一回戦のお題は…………、もう皆さんお分かり、料理対決!

 審査員の皆さんは刀太君以外、選手全員の料理の手際、完成度、味などなど色々な観点で、十点満点でご投票お願いします!

 満点は五十点。ちびっこ刀太君の点数などは、雪姫様、サポートお願いします』

「まぁ、構わんよ」

『では、お題の料理というわけではないけど、刀太君? 君、好きな食べ物は何かな?』

「たべもの?」

 

 頭を傾げたちびっこ刀太だったけど、少し逡巡してから「えっとね」って話始める。

 

「おくすり、きらいだからね。ほかのなら、だいじょうぶ」

「………………」

 

 おくすり? って周りが疑問に思ってる中、九郎丸と三太、雪姫だけが何とも言えない表情になってる。って、どういうことヨ? とりあえず隣の隣なコンテナの九郎丸に聞いてみた。

 

「えっと、刀太君も小さい頃、僕みたいに身体が弱かったらしいので、たぶんそういう話なんだと思う」

「それはどこの情報ですか? 九郎丸」

「どこっていうか、帆乃香ちゃん達の情報だから……」

「私、それ全然聞いてないんスけど…………、後輩なのにあの子たち……」

 

 もっと言うと刀太君の「産みのお母様」情報だと思う、って続ける九郎丸。そう言われても何、どんな話なのよ……。っていうか、なんでその雪姫じゃない方の母親とかも普通に割れててあの姉妹もいるっていうのに、刀太の扱いがいまいちよくわかんないままなのとか、色々ヘンなところあるわよね、アイツの周り。なんとなく記憶の奥底で、髪の長い京都弁なんだか関西弁なんだかわかんない言い回ししながら刀太を可愛がってた人が居たのはなんとなく覚えてるけど、ひょっとしてその人かしら。まあ顔もほとんど思い出せないから、あんまり意味のない記憶ではあるんだけど。

 

「薬か……、薬は不味いよなぁ……」

 

 そしてなんでか、押し黙っちゃった雪姫の代わりに三太がちびっこ刀太に話しかけてた。刀太も刀太で「おにいさん、おかっぱ!」って指さして、なんかちょっと私たちに対してより少し人見知りが薄いような気がする。…………三太も割と人見知りだし、同族意識?

 

「えっとね、…………おにいさんも?」

「胃薬と睡眠薬は、ちょっとだけお世話になったことあったかな。まー、あんまり効果なかったんだけど(日に日に暴力とかエスカレートしていって心労濃くなってったし)」

「?」

「ワリぃワリぃ。で、それはそうとして、食べてて何か美味かったものとかあるか?

 今からあのお姉ちゃんたちが作ってくれるらしいから、料理の名前とか挙げてやって?」

「おりょうり?」

 

 刀太は、うんうん唸ってる。何、そのリアクション。そんな、料理とか全然食べてなかったの? そんなに病状悪かったのかしら、点滴とか流動食とかでどうにかしないといけないレベルだったわけ?

 周回知識ふまえて、刀太の過去について色々知ってそうな雪姫が黙ってるものだから、邪推しようと思えばいくらでも出来てしまう。でもそんな最中、刀太が言った名称が色々とこう、コイツちびっこになっても何考えてるのヨって感じだった。

 

「えっとね…………、しまらっきょう」

 

『………………………………………………………………………………』

 

 一同、沈黙。

 いや何でそれ? っていうか料理じゃないじゃないそれ、仮に酢漬けとか考えたとしてもすぐに造れるようなモノじゃないでしょ!? なんていうか、変にセオリーとか守らない子ね。……考えたら普段のアイツもそーゆー所はあったから、ひょっとしたら三つ子の魂なんとやらって話なのかしら。

 

「料理……、料理?」

「な、なんでそれなんだい? 君」

 

 あっ、イヌメガネと隣の女の子が聞いてるわ。勇者よ、勇者。

 

「じんてつさんが、たべてたの、もらった。こりこりしてて、おいしかった」

「じん……? い、いや、そうか。……あー、でも他の料理にした方が、あそこで待機してるお姉さんたちも助かるんじゃないかな」

「? ほかの…………、あっ! しおから、おいしかった。

 …………だめなの?」

「あー……」

「だ、ダイゴくん、ここは私が。えーっと、刀太くんだっけ? その、もっと他にも色々あるんじゃない? 美味しかったもの。全部言ってみて?」

「うん! えっとね…………、たら、ちーず、じゃーきー、ちょりそー、いかのサクサクしてるの、えっと、あと――――」

 

「…………(あの強面男、さてはおやつ代わりに自分用に買ってあった酒のツマミか何かをこっそり食べさせていたな……?)」

 

 雪姫がボソボソ言ってるのは聞こえないけど、いや、だから何でそーゆーチョイスなのよ。聞く限りにおいて、じんてつさん? って人、ロクでもない人に聞こえるんだけど……。

 

「あー、そうだな…………。刀太、カレーは好きか?」

「カレー? …………うん、そのね、ちょっとからいの」

「そうか。…………フフ、少し大人の舌だな」

「それね、『おかあさん』いってた」

 

 っていうか今更だけど、魔法アプリで幼少期に戻ったせいなのかしら。刀太の口から語られる情報って、明らかに普段のアイツが覚えていないタイプの情報が多いわよね。あと出て来る情報が大体なんか家庭環境とか色々複雑そうっていうか…………。

 夏凜ちゃんとか「ふむ…………、なるほど大体わかりました」とかなんか色々本当は大体わかってなさそうなこと言ってるけど、あんまり下手に話させない方がいいのかしら。

 

 ただとりあえず、雪姫がカレー味の何かっていう定義までテーマを決めてくれた。

 ちなみにその経緯だけど。

 

「えっとね、カレーはたべるとだめだから、カレーのあじならいいの」

「嗚呼、そういえばお前の消化器系ってこの頃は…………、いや、まあそうだな。『懐かしい味』という意味では、悪い話ではないのか」

「?」

 

 いやだから、その、そういう話されて私たちどんな顔してこれから料理したらいいってのよ…………。というか一空、こういうお遊びするなら普段の刀太相手にやった方が良かったかなーとか、今更後悔してるんじゃないわよッ。

 

 まぁ作るけど…………。ポっと出の一般人に負けるとか? こう、お、女としての沽券っていうか、不死者としての面子にかかわるしッ!

 

 

 

 

 




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ST120.手鍋下げるは窯の蓋(3)(番外編)

毎度ご好評あざますナ! 深夜の・・・魔の手・・・!
前回もですが調理関係の設定と、あと割とネオパクカードの整理に時間とられました汗


ST120.Bride Ability Championship!(3)

 

 

 

 

 

『クハハハハッ! 特に興が乗ってきたわけではないが、この程度は簡単だからな。

 せいぜい高みの見物といかせてもらおうか』

「それ、フラグじゃないのアンタ……。そもそも古今東西、そうやって慢心して勝てたためしはないし」

『だから、そもそも勝っても負けても問題はないんだよ。

 どちらにせよお遊びに違いは無いからなぁ、精々楽しむさっ』

 

 そう言って気楽に笑う雪姫の人工精霊、っていうか、えっとややこしいからこっちはエヴァって呼ぼうかしら(こっちの方が本名なんでしょうけど、容姿的に)。

 とにかく、一空が調理開始の合図をした後、全員それぞれに適当に動き始めた。とりあえず適当な材料は一通りそろってる(リクエストがあれば茶々丸さんが五分でそろえてくれるとか)ので、とりあえず手早くぱぱっと出来るものを作ろうかしら。準備の時間も異様に早かったとはいえ、もう十二時半過ぎてるし。流石にちびっこはお腹空かせるでしょうし、私もお腹空いてきたし……。

 だ、誰がちびっこよッ! お昼にお腹すくのは普通の生理現象じゃないッ!

 

『おやキリヱ選手、魚肉ソーセージを切り卵をかき混ぜています。これは?』

「包丁の手つきがどこかぎこちないですが、精いっぱい頑張っているのは伝わってきます」

「アハハー、キリヱサンは多少自炊してみようて頑張た方だけど、あんまり上達しなかったタイプネ。だから出来る限り手近な材料で適当に済ませられるように考えてるカナ? おそらくそのままオムレツかオムライス系にしてくると予想できるネ」

「大きなお世話よ超さんッ! っていうか何で知ってるワケ!? ……そのウインクして舌出してちょっとムカつく感じの顔やめなさいヨッ!」

 

 泡立て器をびしッ! っと向けて文句言ってから、もう一度かき回す。嗚呼そうよ、別に作れるからって上手く作れる自信なんてない以上、私の作戦としては「いかに相手を観察するか」! 幸いこっちは近衛刀太に関してはそれこそトンでもない回数見て来た経験値がある。こればっかりは誰にも負ける気はないんだから――――ッ!

 だからストレートに料理の腕で殴ってきそうな九郎丸とかはかなり強敵感が強いんだけれど。

 

 って、腕力足りなくて卵かき混ぜるの疲れて来た……。ルール違反にはなってないから、とりあえず仮契約カードで「アデアット」しておく。これは、負けられない女の闘い…………、だからちゃんと引きなさいよアーマーカード!

 

 

 

ARMOR

・KIRIE SAKURAME

・DIRECTION: South

・GUARDIAN: Kenaz

・ASTRAL: Virgo

・SYMPARATE: LXVII

・EQUIP: CAMERA AD CRONUS・SPACE-TIME DIVING SUIT

・RANK: Numbers of UQ-HOLDER

・P-No: 9

・CODE: 2 0 6 7 1 9 8 7 0 9 1 3

・SECRET: WIZARD GIRL OF " RIFT IN TIME AND SPACE"

 

 

 

 やった! 装着されるスチームパンク風の恰好と、空気を読んでか背中にバックパックサイズで変形してまとまる脚立付きの例のカメラ。とりあえず「や゛ーッ!」っと気合を入れてかき混ぜるわ!

 カレー粉とガラムマサラを適量入れながら。

 

「…………いや、おい待てキリヱお前いつ仮契約した、報告書に書いてなかっただろそれ。しかも『超包子』印ってお前……」

「イヤーハハハ、あまりそんな目で見ないで欲しいネ。キリヱサンがひたすらに頑張って引き当てた結果ネ」

 

 外野の言葉はあんまり気にしない、というか気にしてる余裕ないってーのッ! とにかく混ぜる、混ぜる…………、フライパンってどのタイミングで温めるといいんだっけ? っていうか油いるやつ? このフライパンどっち? 今時ガスオンリーのコンロとかだし使い勝手大丈夫かしら!? 

 だいぶ錯乱しながらだからこそ、とにかく一つ一つ集中…………、検索アプリでレシピというか簡単な作り方を出しながら(これも禁止されていない)。

 

「ある意味所帯じみてるのかもしれんな、日々献立に悩んで調べて適当に作るっていうのは…………」

「まぁオーソドックスは時に最適解ネ。手馴れてないことをするよりはストレートにやった方が…………、って、アイヤー! アレは……!」

『夏凜選手、色々な豆を潰してこれは? 油の準備をしていますね、一体…………、知っているのですか、茶々丸さん』

「データベースの外ですね。ただ動きは手馴れているようなので、おそらく相当作り慣れてるタイプの料理なのでしょう」

「茶々丸、日本料理じゃないからインストールしてないカナ?

 モノ自体はカレー味とか全然関係ない代物ネ。ファラフェルと言て判り辛いカナ? 簡単に言うとお豆で作るコロッケみたいなものネ。一応、中東とかの伝統料理だたが、どうやらカレースパイスを混ぜたマヨを付け合わせに添えるようネ」

『さて対するメンバーのうち、スープを入れたフライパンに生米と具材、あと市販のカレー関係ではなくスパイスから色々調合していらっしゃるのは伊達マコト選手! いやに本格的ですね』

「良く見てください、自前のタッパー持ちです彼女。明らかに手馴れています」

「最近のお嬢様学校、イロイロおかしくないカ? 別に趣味てワケでもないだろうニ、普通にイチからスパイス嗅いで自力で色々やってるとか…………、あっ隠し味にミルクチョコレート。使ってる種類からして、魚介に負けない味というよりふんわりとした甘口にするつもりみたいネ、流石一般女子というところカ。価値観が中々フツーで大変宜しいネ!」

「…………(普通の女子高生がカレーをスパイスから調合している時点で、それは果たして一般的な女子高生なんだろうか)」

「…………(ダイゴくん、空気読んでツッコミ入れてないんだろうなー)」

「いやフツーの女子高生って絶対そーゆーの持ってねェんじゃね?」

「「(言った!? 勇者だッ!)」」

「アハハー、お嬢様のたしなみにしては中々芸が細かいネ、三太クン」

 

 耳に入ってくる情報、普通に夏凜ちゃん達も強そうというか、こう……、えっ? いや、その、何て言うか普通に同じ土俵で勝負してくれてない感じが凄いというか、えっ何? スパイスからとか明らかに料理スキルに天と地くらいの開きを感じるんですけどーッ!

 だ、だ、だ、ダイジョブ、ダイジョブ、ここは頑張って、頑張るのよ私…………!

 

『さてここで平和枠? ストレートに頑張ってるお二人にインタビューしてみましょう。忍選手、現在調子はどうですか?』

「えっ? え、あ、は、ハイ! だ、大丈夫です。後は焼き上がりを待って、時間を見計らって付け合わせを…………」

『ちなみに今作ってるのは何かな?』

「ホイル焼きです。中身は、後でのお楽しみと言うことで……」

「実況は間に合っていませんでしたが、火入れ前までの仕込み自体はほぼメンバーの中で最速でした。中々侮れないかと思います」

「おやおやダークホースかもしれないネ。実に実にフレキシブルな腕前カナ?」

『さて、九郎丸選手は…………、えっと、何やら具材をメタメタに刻んでいます?』

「へ? えっと、刀太君が小さい頃、あんまり消化できなかったみたいだったから、消化に良いように具材を小さく柔らかくしようかなって……」

「オー! 高いネ! 実に嫁ポイント高い気遣いネ! でも時間制限は二十分だからそこだけはちゃんと把握しておくと良いヨ!」

「大丈夫です!」

『ハイ元気の良いお返事どうもねー。って、おっと? ついに先ほどから動いていなかったエヴァンジェリン(巻物(スクロール))選手、おもむろに食材を凍らせ始めてこれはー?』

「手元が見えませんね」

「中が真っ白な氷で覆ってる……」

「空気の亀裂を大量に含んだ氷、調理工程はあえてヒミツと。中々先が読めぬ展開カ」

 

 

 そんなこんな、色々あってそれぞれなんとか完成した。大体、こんな感じ。

 

 九郎丸は「カレー風つけ汁うどん」。ドロドロで色の薄い茶褐色のつけ汁と、やわらかくゆでてあるうどん。スパイスとかは市販のやつ、つけると持ち上げた時にすごい絡みついて、色々な味が折り重なってこう、なんていうか凄いマイルドなカレーの味が強く感じられるし、その割には和風な感じもちゃんとする。お料理上手じゃないッ!

 

 忍は「カレーソースな包み焼き豆腐ハンバーグ・季節の野菜を添えて」。カレー自体は香り付け程度にしてあるけど、色々先にだいぶ下ごしらえしたのか柔らかそうで、フツーにビールのオツマミとして私も貰いたいゲフンゲフン、美味しそう。ちびっこになった過去の刀太が食べていたあたりの味覚をベースに色々と作ってみた感じかしら。あと、最後に飾りつけでパセリを散らしてるのがオシャレね。

 

 夏凜ちゃんは「カレークリームのファラフェル(中東風コロッケ)」。超さんとかが言ってた豆のコロッケかと思いきや、砕いた豆をペースト状にしてクリームコロッケ風に仕立ててくるし、カレー自体も日本系じゃない(インド? 中東?)味になってそうで、中々独特っぽいわね。気のせいじゃなければ、ちょっとヨーグルト風味っぽい匂いもあって、市販ベースだと思うけど意外と本格派。

 

 私? 私はまぁ……、おこさまランチ風オムライスって言ったらいいかしら。こう、カレー風味なオムレツっていうか卵焼きを作ってお皿いっぱいに広げて、その中央に小さいお椀で作ったケチャップライスの山と、あと旗! 刀太がどういう味を好きなのかわからないけど、年頃と普段の趣向から考えて割とシンプル系の味付けの方がいいかなーって思ったのから、こういう風にしたんだけど、どんなものかしらね。

 

 で、正直一番ヤバいくらい凄いのがマコトさんの「カレーピラフ」。出来たもの自体は凄いシンプルなんだけど、作ってる途中の行程とか、あと出来上がった具材がちゃんと均質にブロック状にカットされてたりとか、色々な要所要所細かい所にウデっていうかワザが光るこの出来栄え。……ま、まぁ、自信を失くしちゃいそうかなって思ったけど別に私って失くすほど料理の腕ってないから、だ、だ、ダイジョブ、ダイジョブ。

 

 そしてラストを飾るエヴァだけど……?

 

「何ヨ、それ?」

『知らんのか。焼きカレーだ』

 

 別にカレー系の味というだけで、カレーを作ってはいけないというルールはないしな、とエヴァ。本体の雪姫が頭抱えて「お前は……」みたいな目で見ているのを、鼻で笑うエヴァだったけど、えっと、それってこう、大丈夫なの色々? あんまり消化できないんじゃなかったっけ? 刀太。

 確かに出来上がったそれ、耐熱容器に入ったカレーとチーズとお米がこんがりしてて匂いも美味しそうで中々悪くないんだけど…………。って、あの短時間でどうやってカレーなんて作ったのよ、貴女たぶん残り時間十分くらいで着手してたじゃないッ!?

 

『今の近衛刀太にかかってるそれは、精神はともかく外見上は認識操作ベースの術だろうからな。

 実体そのものが変化している訳ではない以上、食べ物を食べる量は変わらないし、なんなら消化能力などまで昔に戻っている訳でもあるまい。

 そのレベルで肉体までも遡及できる魔法アプリなど危険極まりないし、消費魔力の具合でなんとなく判るさ』

「そーゆーもんなのかしらね……」

『それよりお前、そのいかにもおこさまランチ風のそれは…………、こう、アレだな、何と言ったらいいのか、中々可愛らしいじゃないのか? ウン』

「って、アンタその表情、ぜったい馬鹿にしてんでしょッ!?」

「ま、まぁキリヱちゃん落ち着いて……、って、重いっ!?」

「九郎丸、アンタまで何言ってる訳!」

「い、いや、そのスーツの話だよっ!」

 

「ずいぶん手が込んでるわね、マコト」

「イヤー、たまたまッスよたまたま。ちょっと今月はカレーに凝ってる月でして……。

 って、そういえばなんスけど、忍ちゃん? と夏凜さんって、ご姉妹なんスか? 刀太くんの所みたいに苗字一緒だし、料理とかの手際もどっちも良かったし」

「先輩の所みたいに……?」

「後で話してあげますよ、忍? でもいえ、これが不思議なことに本当にたまたま苗字が同じだっただけなの。血縁関係とかもさっぱりないし。まあ、こういう娘だから妹みたいに可愛がってはいますが」

「ひゅッ!?」

「あー、キンチョーしちゃって可愛いッスねー。……でも何でツナギ?」

「へ? あ、ハイ。ちょうど雪姫『先生』に色々習ってる途中だったので、その分を『仕込んだ』のを試験しようかと持ってきたんですけど…………」

「貴女、一体何をやってるの…………、って、雪姫、先生?」

 

『さぁさぁ雑談もそこそこに!

 とりあえず審査員の皆さん準備してもらいましてー? 今回は刀太君含めてみんなで試食ということで、全員が最低でも二口以上は食べる前提で準備してくださいね?』

 

「アハハー、とはいえ私ショージキ誰が勝つか想像ついたネ」

「超?」

「茶々丸には予想だけど教えとくネ。えっと……、――――――――」

 

 ひそひそ話してる超さんたちも含めて、とりあえず全員でそれぞれ試食会的な感じになったわ。刀太はなんでか雪姫に食べさせられてる。流石にそこまで幼児じゃないんじゃ……? って言おうかと思ったけど、目が合った刀太が「だいじょうぶ」って言ってきた。何なの、こう、ヘンな察しの良さは当時から健在ってワケ?

 

「美味ぇ……、皆、美味ぇ……」

「…………評価に困るね、全体的に」

「いやダイゴくん、それ一番言っちゃいけないヤツ…………」

「ん、実際難しいな。単純な美味さという意味では、全部が全部ベクトルが違うというか。…………そこの人工精霊のを除いてな」

「んく、…………んーとね、うん、うん……」

 

『あーん、って食べてるの凄い可愛いッ! 本当は自分で食べたそうですけど、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルに気を遣って食べさせてもらってるあの微妙な表情すごい可愛い! 私もやりたいですッ! …………、いえ、あの、やりたいので実体を取り戻させてはくれませんか? 造物主(マスター)。……駄目? そ、そうですか…………』

 

『さて! それでは皆さんそれぞれの点数を記入してもらって、この集計ボックスに…………、はい! 有難うございますッ』

 

 そして集計もそんなにかからず終わり、どこからか出て来た大型液晶モニターに色々映し出される。このヘンに引っ張らないスピード感はこう、個人イベントみたいな感じがしてちょっと楽しいカモ。

 

 

 

(※三太、大伍、ちづ、エヴァ、ちびっこ刀太 の順番)

  

 ――――時坂九郎丸: 10点 10点 09点 07点 09点 ――計:45点

 ――――結城忍  : 10点 09点 08点 08点 09点 ――計:44点

 ――――結城夏凜 : 10点 09点 06点 10点 09点 ――計:44点

 ――――桜雨キリヱ: 10点 07点 08点 09点 09点 ――計:43点

 ――――伊達マコト: 10点 10点 06点 05点 09点 ――計:40点

 ――――エヴァ精霊: 10点 06点 07点 04点 10点 ――計:37点

 

 

『おーっと、これは中々割れたぞー!?』

「評価数値的に一番高いのは九郎丸さん。しかし刀太くん的に一番高評価がマスターの人工精霊の作ですか」

「ネ、言った通りだったヨ」

 

 えっ、結構混沌としてるんだけど、超さんこの展開予測付いたの?

 ていうかアレだけ自信マンマンだったエヴァ、点数的には最下位じゃないっ!? そのくせ刀太から一番高評価って一体何がどうなってるのヨ!

 

「何と言いますか……、佐々木三太、貴方まともに評価していないのですか?」

 

 ちなみに、全員に十点付けてた三太が夏凜ちゃんから呆れられたような顔向けられてるけど。

 

「い、いや、だってその……、誰かの手料理とかマトモに食べたのって正直生まれて初めてだし…………」

 

 小夜子、全然出来なかったからなーそーゆーの、っていう三太の一言で、会場にまたブリザードが吹き荒れた。

 

 だから揃いもそろって、色々と過去とか状況が特殊すぎんのヨ全員ッ!

 

 

 

 

 




講評は次回・・・? 割とそれぞれマトモっぽい理由です(味の好みもありますが)

追記:すみません、キリヱの点数入れたつもりで完全に忘れてたので追加しました汗


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ST121.手鍋下げるは窯の蓋(4)(番外編)

毎度ご好評あざますナ!


ST121.Bride Ability Championship!(4)

 

 

 

 

 

「これは、どう評価したものでしょう。点数的な一位は九郎丸さんですが、刀太君相手にはマスターの人工精霊が一番ご評価が高いと――――」

「アイヤ、普通にエヴァンジェリンサンの点数が高いって言って良いネ? 基本的に二人とも、おそらく2010年代手前くらいまでは情報共有されていると思うヨ」

「いや、何故それを知ってるお前……」

 

 蛇の道は蛇ネ、って言いながらけらけら笑う超さんはともかく、腕を組んで高笑いするエヴァとそれに呆れた感じの雪姫って対比がこう、何て言ったらいいのかしら、すごい変な気分になるわ。

 っていうか九郎丸、点数高い……!

 

「まー三太の評価はもうアレだとして、イヌメガネとか他の講評? とか聞いてあげようじゃない」

「キリヱちゃん、謎の態度の大きさ……」

「だいぶ不機嫌なようね。やっぱり好――――」

「好きじゃないわよッ! って、そんな話じゃないでしょ!」

「た、確かに気になるッス! けっこー頑張ったんスけど……」

『それではまず、せっかくだから伊達マコト選手の講評、お願いしますねー!』

 

 言われて、三太が「美味かったッス」って頭下げてる。いや、それは判ったからアンタ。

 一番最初に「嫁力だから、求められてる能力ってお料理上手ってだけじゃないかな?」って口を開いたのは、イヌメガネと一緒に来てた、えーと……、ゴメン名前わかんない女の子ね。カワイイじゃない。っていうか皆可愛いじゃないどーなってんのこのご時世!?

 

「先に言っておくが、基本的に刀太の評価もアテにならんぞ。

 よく聞いてみたら大体が『おくすりより、おいしい』という一言で片付けられてしまった。

 まったく作り甲斐のない……」

「いや、作ってないでしょ雪姫アナタ本人はさ……。っていうかそれだけ辟易してるって、普段どれだけ薬飲んでたのよ幼少期のソイツ……」

「ふむ…………、ふむ……」

「か、夏凜先輩、その沈黙は一体?」

「いえ、何でもありません九郎丸。

 それはそうと、マコトの点数が低いのは調理工程の難易度ですか? 雪姫様」

「まあ、私はそんな所だな。時間をかけて作れるものを短時間で作る、と言う訳じゃなくて、個人の習熟度やらセンスやらに依存してる部分が大きいと見た」

「うえぇっ!?」

 

 変な声あげて足上げて変なポーズしてるわね、ジャージの人……って、今ジャージじゃないから足下ろしなさいよ! 中身! 中身! でも刀太、少し赤くなって顔逸らしてるから、そういうのは判るのよね…………。とりあえず叫んで知らせると、また変な声上げてスカート隠してしゃがみ込んじゃった。だからこう、なんでそう可愛いのよ見た感じそう初心って訳でもなさそうなのに…………。

 

「見た目とそういうった部分は必ずしも一致するわけではないもの」

「に゛ゃーッ!? み、耳元で囁かないでよ夏凜ちゃん! っていうか何人の考えてること読んでるワケ!!?」

「いえ、判りやすかったものでつい……」

 

「あー、一応言っておくが、味に文句はなかったぞ? ただ『嫁力』という観点で見ると、毎日やるような話でもないだろうしな。……お前はどうなんだ? 成瀬川だったか」

「え! えー、っと、私も大体似た感じなんですけど……。ただコレ、えっと伊達先輩? 結構気分屋っていうか、自分の趣味で習熟する料理とか変えてますよね? それって拘り方とかもちょっと気合入りすぎてる感じだったりすると、下手すると料金とかどうなっちゃうのかなーって。……こう、お嫁さんって、割とお財布握ってる人多い訳ですし。ちゃんと判断して節約できる人の方がいいのかなーって思って」

「た、確かに腕にヨリかけたいから、あんまり練習するとき予算とかは検討してなかったッスけど……」

「凄い納得の理由だ……!」

「逆に言えば、もう少しオーソドックスなもので問題ないということなのでは? ……そういう意味では、私のものや九郎丸も似た印象がありますが」

「さっきも言ったが、九郎丸のは時間さえかければ誰にでも出来るからなぁ」

 

 包丁でやっていたが、適当にやるならフードプロセッサーかミキサーでも出来るだろうし、って雪姫は肩をすくめる。

 

「逆に夏凜の場合、材料や手間はキリヱの次くらいに少ないが……、たぶん味付けの好みの問題だろう?」

「私、パクチー凄い苦手なので……、あとカレー自体も酸味が強いタイプで、ちょっと」

「女性だと珍しいですね? 成瀬川さん。……嗚呼なるほど、一応刀太も日本人ですから、そこの具合を考えて調理していなかったところですか」

「まあ、私は10点入れたがな? とはいえ使用してる材料について、色々検討しないと拙い場合もあるからな。今回、カレー風マヨソース自体をディップする形式だったからコレだが、お前は基本、味付けが濃い。その自覚があるからこう調整した、と考えて10点だ」

「雪姫様……! 恐れ入りますっ」

 

 なんだか最近あんまり見なくなってた、普通に嬉しそうに雪姫相手に頭下げる夏凜ちゃん。これってジャージの人(お嬢様スタイル)と夏凜ちゃんについては終わったことになるのかしら。で、後は私と九郎丸と忍と、あっちでどこから出したの!? ってサイズなバランスボールの上で胡坐かいてニヤニヤ嗤ってるエヴァだけど……って、アンタそのゴスロリでそんな体勢とったらパンツ見えちゃうじゃない!? 言っても聞かないから止めなさいよって止めに行く。

 っていうか一緒に止めに来なさいよ本体ッ!

 

『ん? 何か問題でもあるのか』

「大有りよ! お お あ り! っていうか羞恥心ってモノが無い訳アンタ!」

『そもそも昔は今よりも不死者として中途半端だったから、生き残っても全裸で倒れることなんてザラだったからな。そういう感覚はイマイチ捨ててるところがあるが。別に全裸の一つや二つ、減るものでもないし構わんだろう』

「構うわよ! 拾いなさいよそーゆー感覚! 今一体何年代だと思ってるワケ!!? 価値観アップデートしなさいよ同じ雪姫のくせにッ!」

『クハハハハハハ――――!』

 

「…………(何を揶揄って遊んでいるんだ、我が分身モドキながら。まぁリアクションは良いが)」

 

『キリヱちゃんはどうでしたか?』

「ま! びっくりするくらいオーソドックスだたカナ? 見せ方はちゃんと子供が好きそうな感じにしていたし、味付けも子供が好きそうなチープぽい感じネ。ただ根本的な家事スキルの問題」

「いや超、お前審査員じゃないだろうが。おおむね当たりだが……」

「男女平等? 的な時代で嫁力とか言ってるのも色々アレなんですけど、そういう意味では確かに一番基礎スキルが低かったかなとは思うので。…………って、ダイゴくん、二番目に点数低くしてるね」

「人工精霊のはもはや対象にするレベルの話ですらないと思っているけれど、まぁその…………、このおこさまランチ風の盛り付けっていうのが、こう、苦肉の策でやったように見えてしまって。違ったら済まない」

「ひ゛ぐぅ」

 

 ぐぅの音も出ないので、割愛よ割愛ッ!

 

「忍ちゃんだっけ? は全体的にちゃんとこう、年の割にちゃんと全体的な主婦みたいな技術が高かった気がするっていうか……(っていうかこの娘の時点で私よりたぶん上手だし)」

「ちづ?」

「な、なんでもないけど。でもこう、後は味っていうか手間っていうか、そういうところになるかしら」

「俺としては、こう、ちゃんとカレー味っていうのとカレー風味っていうのは分けて考えていたのだけれどもね。そういう意味で、一番カレー味ってオーダーで美味しかったし、芸が細かく感じたから時坂のを一位にしたんだけれども…………、というか時坂、お前男だろうにこのイベント参加していいのかお前」

 

「「「『!?』」」」」

 

 イヌメガネの発言に、全員が目を剥いた。……あー、そういえばコイツ、九郎丸が「そういう」身体だっていうのを認識してないわね、この周回。あの周回も一回だけで終わりだったし(というかちゅーにが「えっち!」って引っぱたかれて終わりだったし)。

 九郎丸も九郎丸で私と似たようなことに思い至ったのもあってか、胸の前で両手の指ツンツンしてちょっと困った感じ……いや、だからそーゆーフツーに可愛いの何なのアンタもさァ!? アピールする肝心の刀太って今ちびっ子なのよ、ちゃんとわかってる訳ェ‼

 

 私もだいぶ混乱してきた自覚はあるけど、とりあえず次に進めろって一空を睨んで視線で促した。

 

『で、では最下位にして刀太くんから最高評価をもらっているエヴァンジェリン(巻物)選手。これは、一体どう評価したものなんでしょうか……』

「あー、一つだけ聞かせてもらいたいのだけれど」

『何だ? 犬上小太郎の孫』

 

「…………このカレー、レトルトでは? しかも、おこさまカレー」

 

 その一言に、皆顔が彼女に向いた。腕を組んでけらけら笑うエヴァだけど、え? そうなの、確かになんか妙にチープだとは思ったけれど。

 

『よく気づいたな。多少手を加えてはいるが、確かにベースのカレーは「ドラえも〇カレー」だ』

「はんけんね、だいじょうぶ?」

「いや、一応今2080年代の話だからな? メタだなこの頃からお前……」

 

 取り出したパッケージは青い箱、描かれた青い鶴〇師匠(って言うと古い?)みたいなにんまりとした笑顔の自称猫型キャラクター。超名作のアレがデカデカと書かれたパッケージと、その中に入っていたシールをついでに刀太にあげてた。ちびっこだからか刀太も凄い悦んでて、なんていうかあざとい……。

 

『ま、別にレトルトを使用することを禁止されてはいなかったからな。

 脂分やらカロリーやらを見ても、たとえ小食でもこれくらいは問題ないだろうと判断できるし、全部食べずとも全自動で甘口だからなぁ。

 多少、ケチャップとか味噌で味を調えはしたが』

「確かに、私のよりチープっぽい味は試食でしてたけど、なんでレトルト……、嫁力低そうじゃない?」

『だから、暇つぶしだよ。

 別に「作れない訳じゃない」が、私は美味しいものはそれなりに時間をかけて準備するクチだからな。

 せいぜい二十分で最適解を求められるなら、このくらいで充分だろう』

「でも、その割に刀太君の評価高いッスよね」

『そこもまぁ、観察眼だな。

 …………あそこで世話を焼いてる本体がいっこうに情報共有をしてこないから詳細は判らないが、入院とはいわずとも薬を常食する生活で、それでいてツマミをオヤツに食べるくらいの健康さはある。

 そう考えれば、ベースになった病弱さの原因の類推や、本人のセリフ回しから分析して、色々と判ることも――――』

「オイ、全部は話すなよ? 色々と『まだ』問題がある」

『――――とまぁ、そういった訳だ。

 本体がどうにも過保護のようだから、これ以上は言わないでおこうか』

「いや、ちょっとくらい言いなさいって。なんでこのレトルトの焼きカレー? グラタン? みたいなので、刀太が最高評価だったのかってのは納得できないじゃないっ」

 

 私を始めとした参加者の視線に、エヴァは一瞬きょとんとして肩をすくめた。

 

『………………聞いてみたら一発だろうに。あー、本体の私?』

「まあ、おそらくお前の推測は正解なんだろうが…………。

 仕方ない、代わりに聞いてやろう」

 

 何でか知らないけど口に両掌をあてて「言わ猿」みたいなポージングになってるちびっこな刀太、その頭を軽くポンポンしてから、雪姫は料理の味について聞いた。

 

『はああああああああああああああ可愛いですッ!』

 

「えっとね、……………………、あの、かみがきれいなこのカレー、えっとね、……はるかさんのカレーみたいだった、あじ」

 

 

 

 えっと、つまり…………、どういうことよ?

 

『詳細の推測は省くが、要は忙しかったんだろう、そこのトータの母親代わりをしていた女は。職業についても推測は付くが、そこは本体が嫌がるから言わんが。

 そして父親代わりをしていた男の方が接する時間もあり、その分色々といらんモノを食わせていた。

 そこまで考えれば、それを許してしまうくらい普段から忙しい女が、カレーという家庭料理として作ると意外と手間と時間がかかるものを作ることが出来ないくらいには忙しいだろう女が、わざわざその料理を振舞うとなると…………、後は判るか?』

「………………(それでもケーキは作ってたんだよな、その人確か)」

「………………(三太君、それ突っ込むとちょっと悲しいことになっちゃうから……)」

 

 それは……、わざわざそこまで推測しろって言う方が難しいんじゃない?

 

 まあ、その話についてはなんとなく判ったけど。つまりこう、普段から食べてた料理はレンジでチンとか、温めるだけとか、そういう出来あいのもの系が多かったってことよね。

 それをさっきまでのやりとりで推測して、お遊びだからってわざわざレトルトで作るっていうのは、なんていうかちょっと冒険してるって言うか…………。あっ、そうか、だから遊びなのね。

 

 勝っても負けてもどっちでも良い。だから、そういう博打をして遊びもする。

 

『まあだから、所詮は遊びだよ。ただ――――やるからには本命として、負けるつもりはないがな。

 負けず嫌いな自覚はある』

 

 そう言ってまーた偉そうに腕組んで大笑いするエヴァだけど、それに困ったのは一空だった。どう考えても優勝は九郎丸なんだけど(私はぽっと出のジャージの人に勝てたしまあいいかなって)、主目的の刀太相手として考えると優勝はエヴァ一人だし…………。

 

『ま、それくらい悩むなら本人に聞いてもらったらどうだ?』

『えっ? と言いますと、エヴァンジェリン(巻物)選手――――』

 

 言ってエヴァは刀太のところに歩いていくと(ブーツがぺちぺち音鳴らしてて可愛いわね……)、自分の指先を少し噛み千切って血を出して――――。

 

「オイ待て、お前……」

『ま、お遊びついでだ。本人にもやらせるのが一番収まりが良いだろう』

 

 そう言って血を唇に塗ると、そのままちびっこな刀太相手に、ちゅーした。

 

 

 

 ……………………、って、ハッ!?

 

 

 

「な、何やってんのよアンター! 五、六歳相手にちょっと、っていうか、いや、明らかにガッツリ舌入れてるんじゃないわよ、少年誌! しょーねんしーッ!」

「ゆ、雪姫さん何で止めないんですかッ! というかだったら僕も権利ありますよねっ」

「九郎丸さん、押し強すぎでは…………!?」

「――――――――」

「な、夏凜さんがフリーズしてるッス……! っていうかズルいっスよそれー!」

 

 イヌメガネが「不憫だ……」って言いながら胃のあたりを押さえていたり、超さんと茶々丸さんが「ネギぼーずの頃からの逃れられぬカルマ、ネ?」「あの頃のマスターは自重がありませんでしたから」「茶々丸も大分言うようになったネ……」とかやりとりしてる横で状況は混沌一択。雪姫本人は膝の上で捕食……、捕食よ捕食! 捕食してる相手とされてる相手を見て頭を抱えてるし。

 

「――――――――何だ、神は死んだか?(絶望)」

『フッ、よーやくお目覚めかトータ』

 

 そして、私たちが止めに入るよりも先に、刀太は「元に戻った」。なんかこう、普段着っぽい例の黒い星柄の和服とマフラー姿なのは元に戻る前から念のためってことで着せてたんだけど、こう、何の脈絡もなく一瞬で元に戻った。

 えっ? 何コレ、どーゆーこと? 足を止めた私たちに、エヴァは腕を組んで笑った。

 

『コイツ自身の肉体には別に何か異常が有るわけではないからな。

 お遊びも終わったし、「血装術」で干渉して、内側から元に戻しただけだよ』

「……………………」

『オイ貴様、何が不満だ。こんな美女に接吻されといて』

「……………………やはり神は死んだのでは?(再絶望)」

『何をわけのワカランことを……。いや、「本当に」死んだのなら、それはそれで良い事なんだろうがなぁ、本体の私よ』

「いい加減ストレスが溜まってるのは判ったから、少し、自重しろ――――ッ」

 

 言いながら雪姫が取り出した巻物に吸い込まれていくエヴァ。なんかこう、掃除機に吸い込まれる幽霊みたいな感じになりながら「クハハハハハ――――」とか余裕こいて笑ってたけど、えっと、何がどうして何なのかしらね……。

 

「っていうか本当、何があったんだ? カアちゃんや」

「まぁいつもの与太話だよ。熊本の朝倉(ヽヽ)とかが好きそうな」

「…………とりあえずコメディパート的なアレなのは判ったけど」

 

 言いながら特に何の感想もなさそうに、フツーに雪姫の膝から降りる刀太。それに、なんでかちょっと釈然としなさそうな顔をした雪姫って、いやアンタもアンタで何考えてるのよ……?

 

 

 

 その後、けっきょく刀太が一空にそそのかされて、パスタ麺を中華麺みたいにして作った「カレーナポリタン焼きそば」が九郎丸を超える47点で。抜けたちびっ子の刀太の代わりに私たち五人がそれぞれ2点ずつ入れる形式をとったお陰で、はれて刀太が1位、優勝ってことになってた。

 

 

 

「って、刀太君優勝したら結局これって何がやりたかったのかって話に…………」

「アハハ♪ でも九郎丸ちゃん、これって『第一回ドキドキ? 女だらけの嫁力選手権~イチゴ味』であって、刀太君のお嫁さん選手権じゃないから。嫁力の高さはともかくとして、後は本人次第なりってね♪」

「本末転倒じゃないの一空ッ!」

「ちゃんとオチ用意してる一空先輩パねぇ……」

「刀太先輩、さすがです……」

「味は……、味は一番評価高かったッスよ! 大きくなった後の刀太君相手にはっ!」

「ふむ…………、スカート、しかしこれ以上は……」

「いや何の話なんすか夏凜ちゃんさん…………」

 

 

 

(???「あの聖女だけかねぇ、分霊の方のキティの料理食べてから、トータの意識が少し戻りかけたのに気付いたの」)

 

 

 

 

 




スミマセン、最近もそうなんですが更新頻度少し落ちます・・・(最低週一回以上予定)
活報の[光風超:感想1000件(大体)突破記念募集] の方もまだまだ内容募集中ですナ!

追記:
番外編なので以下ちょこちょこメモ…

・ネオパクティオーカード情報
 以降はこちらが正式なものになります(アニメムック本入手できたので)
 
・子供慣れしてる夏凜
 それこそ旧時代はもっと社会が殺伐としていたので、普段無表情でも根が優しいこともありかつては結構面倒を見ていた経験があると類推
・若返ったチャン刀の人格
 一体何なんでしょうかね(すっとぼけ)
・エヴァちゃん人工精霊
 本作では「ネギま!」最終回以降も存在して適当に扱われている、としています。記憶共有がアレだったのも、現在は事情ありとはいえそれ以前はたぶん失くしてたやつ
 
・チャン刀の調理スキル
 原作通り肉丸君による指導を、お店開業を潜在的に求めていたこともあって、意外と高い
 手間をかけず、それっぽく、かつお店の味と家庭の味の中間くらい
 
・ちゃお〜ん♪
 たぶんこの後、チャン刀は白目剥いた


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ST122.人生でそれなりに大切なもの

毎度ご好評あざますナ!
ウルト兎 様からファンアートいただきました、あざます! 本家OSRの扉というかアニメ話見出し風? の感じですので、該当話に「★」つけておきます!
 
####################
 
抗わなければ、貴女を護れない
抗ったから、貴女に届かない


ST122.Timing And Timing

 

 

 

 

 

 回転寿司が趨勢を色々極めていたのは2010年代以降から2030年代だとネット情報で思っていたのだが、ここに至って私自身、自分の見聞の狭さを恥じるばかりである。とはいえそもそも上京する以前から状況して以降も含め、「こういう店」に足を運ぶこと自体が「近衛刀太として」初めてである。その辺りは私の見識のなさというより、こういう世の中であることの方が問題だろうと自己弁護しておきたい。

 まぁつまり何がどうしてどうなって、という話かと言えば。

 

「…………回転寿司屋に、クラシックでお堅い感じのプリン、ッスか!? ここ回転寿司屋ッスよね! 一体何なんスか、何でケーキとかプリンとかが回ってくるんスか!」

「そもそもOSR(出来の良い)珈琲とかも出て来るし、ラーメンとかカレーとかお茶漬けとかも頼めるッスから。値段無視すればひつまぶしも――――」

「恐るべしッス……、恐るべしっていうかもはや寿司とは何なんスか!」

「いや、でもホラこれ、美味しいッスよ? 甘えびのジェノベーゼ軍艦」

「創作寿司にしても色々極まりすぎていないッスかねぇ!? …………あっ、でも確かに美味しいッス」

 

 私以上に無知無見識を発揮して見るものすべてにテンションを上げて、幸せそうに口の中の寿司をかみしめている伊達マコトと相対しての、何とも言えない感想であった。まあサ店代わりにココを選んだ私も私だが、それなりに楽しんでいるようで何よりと言うべきだろうか。背負ってきた黒棒は相変わらず何も言わないようだが、そういう意味ではとりあえずちゃんと二人きりでのお出かけなので、それもプラスに働いたかもしれない。

 

 天御柱(アマノミハシラ)……というより麻帆良で統一してもいい気がするが、それはともかく。改めてな中学生の生活をしばらくして、大体一月は経過したか。とはいえ半分以上は校舎復旧だったり妖魔が涌いていないかの検証だったりに時間を取られ、いやはや時期は十月の初頭と中旬の間くらい。いい加減都市機能やら遊びに行くための「そういう施設」が復旧したこともあり、伊達マコトから直々にコールがかかってきた。

 

『あ、明後日なんスけど! 用事がなかったらデート行かない? ッスか?』

「あっ、いいッスよ?(適当)」

 

 あまりにも軽く応じすぎてしまったせいか向こうは向こうで釈然としない表情だったが、私としてはその日はもはやそれどころではなかったのである。電話のあったその数日前に行われた蛮行と言うべきガバの山頂が一つのごとき名状しがたきイベントすなわち「お嫁さん選手権」的なサムシングにおける、私自身の記憶がなかった時の映像を一空に見せられて、呆然としていたのだ。

 正直、下手な恐怖体験よりも恐ろしすぎてもはや何が何やらといったところである。というか冒頭から既に脳が理解を拒んでいたし、ついでに言えばその後普通に優勝している私が一体何なのかとか、やはり色々ツッコミどころがあったりなかったりもしたが、それよりも何よりも「ああいうイベント」に現時点で夏凜含めて全員参加に近い状態だったのが、ショックの源である。

 

「好感度管理どうなってるんだ…………」

 

 キリヱ大明神を始めとして、全員こう気合の入れ具合がかなり高いというか、評価結果がだいぶガチ寄りすぎて正直どうリアクションしたら良いのかさっぱりである。というか雪姫に一時ついてきた忍が参戦するのは(原作的に納得できないが)理解できなくもないが、ついでとばかりに靡いてしまっている伊達マコトの参戦とか、もはや原作が迷子状態である。そもそもこのイベント自体が原作迷子なので、どういうことなの……?(困惑)

 いや、原作補正のようなものが働くのなら最終的に九郎丸、夏凜、キリヱや忍あたりは間違っていない流れにはなるのかもしれないが、それにしたって早い、早すぎる。せめて「みぞれ」が出てからにしておけッ! という話だが、原作消費速度から考えるとおおよそ3巻程度の巻数が存在することになるだろうが。それをぶっ飛ばされてもその……、師匠にすら出会っていない状態なので、そろそろ誰か許してクレメンス(祈祷)。

 

 まあそんなこちらの放心状態など、好意を持ってぶつけて来てくれた彼女に対しては一切関係がないのだ。受けた後でそれはそれでガバの気配を感じて落ち込み九郎丸やら三太やらから困惑された、それはそれで仕方ないと奮起し携帯端末とにらめっこ。

 何故に回転寿司に入る流れになったかと言えば、こう、なんというか外観がOSR(それっぽい)感が高い店舗があったのだ。一見して高級料亭風、中に入るといつもの企業努力に頭が下がる思いのレーンぐるぐるシステムな回転寿司屋。チェーン店とはいえここの立地は中々だというのに、最低価格が200円にいかないと考えると、今のご時世では相当に頑張っているといえる。

 まぁその分、お寿司以外のメニューが若干割高だったりするが、とはいえ許容範囲には入るレベルである。

 

 結果としてお昼時より少し前に待ち合わせし、向かった店舗で彼女は大層「うわー! うわー!」とお上りさんみたいなリアクションを多発させていた。

 そういえば彼女は聖ウルスラの女子高生、つまりお嬢様系である。服装やら物腰やらはもっとフランクでそう感じさせないものはあるが、意外と学校相応に箱入りな部分もあるのやもしれない。……とはいえ私とて熊本で拘束されていた期間やら何やらを考えたら十分箱入りというか社会生活を営めるか(「私」個人の経験を除けば)甚だ怪しい所である。これはこれで案外、お似合いのコンビなのかもしれない。

 

 そしてそのままの流れでカウンターではなく向かい合う四人席に座り、色々教えながら今に至る。

 ビッグハンバーグステーキ握り(ビーフ100%の350円一品)だったりトロざんまい軍艦(赤身、中トロ、大トロなどの軍艦6つ1200円)だったりひつまぶし(養殖うなぎの2000円)だったり、若干値段帯が高いあたりはやはりお嬢様的な感性というべきか。値段を見ると言うことをしていないのは自分の財布の中身から考えて問題こそないが、普通の男子高校生だと尻込みしてしまう容赦のなさである。そんな伊達マコト本日の服装は、ホットパンツ風なサロペットにやや透けている半袖白シャツ、首の部分がブカブカで左肩が見えており、気のせいでなければ上着の下は明るい色の水着を着用しているようだ。生憎ファッションセンスと言う意味ではそんなに無い身分である私なので(三太から例の赤パーカーをまた借りた)気の利いたことは言えなかったが、女子大生みたいだ、と感想を言ったらどうしてか喜んでもらえたので、これはまぁ良いとしよう。

 ……時折胸元をチラ見せするようにしてくるのはちょっと良くないのだが(マジレス)。何だお前一体、夏凜から情報でも得ているとでも言うのか? 意外と仲が良いらしい二人である、その間で果たしてどんな会話が交わされてることやら…………。

 

 色々と困った私は携帯端末で、熊本での四人たちとの会話グループチャットにて相談を持ちかけたが。

 

『肉:巨乳女子高生とデートとか土に還って、どうぞ?(推奨)』

『三:まあ死ねとは言わないけど控えめに言ってシネェ!』

『白:ケンカダービー売ってるなら全員で購入してお前に賭けるから潔く、滅びよ……』

『野:甘ったれるな! 俺達から任されたからには貴様はナイスガイなのだ。その場所と彼女とを我々を紹介する義務がある。手の空いているものは覚悟しろ、モテ男の群れだ』

 

 まぁおおむね予想通りに集中砲火を浴びていた、仕方ないね(達観)。なおマコト本人も、私が携帯端末をいじってヘンな顔をしたのを見て興味をもって事情を聞いてきたので、あっちの中学での友達と話していると言うと「だったら写真送ってもいいッスよ~」とノリノリであった。

 

 当然、送られた写真を見て火に油を注いでいる感じではあるが、とはいえ原作知識からして他の全員も高校はアマノミハシラ学園都市の何処かの受験に向けて色々準備中だったはずだ。下手に場所を教えると襲撃されかねないし、あんまり遊びすぎると顔合わせの際に盛大に「いぢめられる」だろう、多少は笑い話で済ませられる程度で自重する話である。

 

『肉:やっぱり土に還って、どうぞ?(提案)』

『白:というか朝倉さんはどうなってんの?』

 

 別にどうもなっていないのだが?(平常心) なお、そんなことを言われてもさっぱり心当たりがないのだが。朝倉というのは熊本時代のクラスメイトの一人であり、なんか髪がツンツンしてる女の子である。確か親が実家が小説家だとか色々聞いたことはあるが、向こう側はこちらの印象もそう残ってはいないだろう、別に何ら問題はないはずだ。(???「いい加減学習するべきじゃないかねぇアンタ」)

  

「んん、プリンもまぁそんなに拘ってる訳じゃないけど美味しいっていうか。クリームとジャムもちょっとついてきてこのお値段はだいぶお安いッスね。…………って、刀太君は何食べてるッスか? ジャムの代わりにカスタード乗っかってるッスけど」

「かぼちゃプリン。食べるッスか?」

「あっ! じゃあえっと…………、あーん!」

「…………」

 

 目を閉じて口を突き出してくる彼女に、私は新たにとったスプーンですくったかぼちゃプリンの一かけを運んだ。

 

「…………! ん、ま、マジでしてくれるとか思ってなかったんスけどっ!? って、あれ? ……あー、なるほどッス。そうオイシイ話はないッスよねぇ……」

「いやー、まぁ何つーか…………。どーしてそう、まともにデートしたこともなかったのに俺に対する好感度が高ぇんスか?」

 

 私の疑問に、彼女はウィンクして答えた。

 

「人が人を好きになるのに、大して理由は要らないらしいッスよ?」

「そんな受け売りみてーな話されてもなぁ……」

「まー、何かしら理由付けが欲しいんならアレっすよ、アレ。タイミングが噛み合ったってことじゃないッスか?」

「タイミング?」

 

 私たちって思春期じゃないッスか、とニコニコ笑いながら話す彼女だが、生憎私はそれをいえば「ずっと」思春期なので、ちょっとリアクションに困る。……ずっと思春期ってこう、なんというか外聞が悪いような言い回しでもあるが、本来の意味ではなく物理的な意味でなのでそれはさておき。

 

「だからこー、アレなんスよ。丁度良いタイミングで、丁度良い形で、丁度良い感じの男の子がすっと丁度良い感じに助けてくれて。で、丁度良い感じにカッコ良かったし、丁度良い感じに性格悪くなくって、丁度良い感じに胸がきゅんと苦しくなったら、そりゃもうアタックあるのみッスよ」

「なんでそんなフワッフワした動機なんすか、フワフワすぎて綿あめ作れそうな勢い……」

「ま、一目惚れなんて大体そんな理由ない感じのものなんじゃないッスかね? 丁度良い感じに後輩のお兄ちゃんらしいし、丁度良い感じにちゃんと『お兄ちゃん』してあげられる子らしいし。あとは、夏凜さんに聞いたッスけど、この間のアレも『中心地』の方で色々頑張ってたみたいじゃないッスか。だからこー、デートの一つや二つしたところで、良いんじゃないッスか?」

 

 別にそこがフワフワしてても軽蔑しないし嫌ったりしないッスよね、と楽し気に笑う彼女に、私はため息をつく。

 確かに、下手をするとホルダー所属な面々の女性陣よりも遥かに付き合いやすいかもしれない一人たりえる可能性はある。正直、この軽さは熊本での中学生時代における朝倉並に気が楽で、色々と気負わないで暮らせるという意味ではこの普通さが異常に心地よい。忍の健気さに癒されているそれに近いが、あちらは原作の今後を考えればガバが怖いので下手なことも出来ず考えられないため、彼女の方が気楽な付き合い方が出来るかもしれない。

 

「……って、そういえばなんスけど。夏凜ちゃんさんとは何であんな仲良いんスかね? こう、色々と経緯が謎っていうか」

「あー、それはッスね。…………えっと、帆乃香ちゃん達に刀太君が誘拐された時あったじゃないッスか、あの世界樹前のテラスで」

「誘拐……」

「略取された時あったじゃないッスか」

「意味変わんないッス」

「拉致られた時――――」

「だいぶ酷くなったな。って、まぁいいや。それで?」

「ハイハイっと。でー、あの後こう、ジャージの手を引かれてちょっと人目につかないところに連れ込まれたんスよ。締められるッスか!? ってちょっと怖くなって魔法アプリ起動しそうになった瞬間、こう、腰に手をあてて写真アプリ起動して、刀太君のそれを見せながらこう……」

 

 ――――端的に言いましょう。貴方、彼に惚れているわね。

 

 一切躊躇のない、無能先輩らしい無能先輩ムーブである。恋愛脳すぎて無能極まっている状態の夏凜のそれで間違いあるまい。漫画的には背景に謎の集中線が走っていたことだろう。面倒くさい(語弊)。

 

「で、言葉責めされてこう、言い返せなくって、膝ついて、そしたらなんか色々事情っぽいのを話してくれたんスよー。刀太君がこうモッテモテな話とか、それに見合う分だけ『死んでる』ことだとか」

「その話ってマコトはんとかにしてもええ話やったんえ……?」

「口調、帆乃香ちゃんみたいになってるッス。

 まー、仙境富士組(せんきょうふしぐみ)って表向きの名前なんスかね? のやってるお仕事っていうか、こう、まー色々と『ヤバくない程度に』察するレベルで教えてもらったって感じっスかね。たぶんガチで教えるってなると身内に引き込まないと危ないとか、そーゆー系統なんだろうなってのはなんとなく言ってくれたんで」

 

 果たしてその話がどう現在の状況に繋がるのかと言えば、なんというか大体は夏凜ちゃんさん自身のせいであった。

 

「でーですね。一応、私って刀太君的にタイプの方ではありそうだーって話してもらって。だからこう、誰か一人! ってなるか、全員! って欲張りさんになるかわからないッスけど、そーゆーチャンス自体は有っても良いでしょう、選択肢が多い方があの子も気楽で居られる部分があるかもしれませんし、みたいな感じで、以降は情報共有したりチャットしたり、まー色々ッス」

「むしろ人数増えたら普通は重荷になるのでは?(マジレス)」

「責任は重いけど心の状況次第で寄りかかる先を変えられる側面もあるとか」

 

 秒で即答してくるあたり、彼女の考えではなく夏凜がそれに似たようなことを彼女に言ったという事だろうか。ふーんなるほど? つまり大方の予想通りと言うべきだろうか、大体彼女を引き込んだ原因は夏凜にあるという訳で…………。

 その夏凜がああなってしまった初動については私にも原因はあるかもしれないが(わざわざ咄嗟に「私」の名前を名乗ってしまったガバも含めて)、その大本の原因は雪姫にあり、なんなら雪姫がそんなミスをした原因の一つは間違いなく私と九郎丸と両方の稽古をつけていたせいだろうし、その上で九郎丸が早々に私たちに合流したという意味では橘が全然動かなかったのが悪い訳で、つまり今頃熊本の刑務所に収監されている橘が悪い。

 をのれ橘ァッ!(責任転嫁)

 

「まー、そんな感じなんで。……色々周りに気を遣ってお疲れって感じなら、私とこうして特に気負わず適当に遊び倒すってだけでも、それはそれで良いんじゃないッスかね?

 だって私たち、学生な訳だし」

「…………っていっても、それだって今後のことを考えたら」

「あはは、真面目ッスね君は。まー、その時はその時で考える話ッスかねー。今の時点でどうこう言う話でもないでしょ」

「前向きッスねぇ……」

「だって好きなんだから、そりゃ仕方ないじゃないッスか」

 

 誰か一人とかすぐさま結論出したり、手を出さないのには何か理由がありそうだってのは夏凜さんから聞いてるッス、と私の頭を撫でるマコト。

 

「でもまぁ、無理しない程度でもいいかなってお姉さん思うッスよ? 頑張るところで頑張って、オフのときはちゃんと気を抜くってのも、フツーの生活じゃないッスかねぇ」

 

 そう言われて可愛がられてしまっては、「私」ではなく近衛刀太の立場としては上手く言葉が返せない訳で。

 結果としてこの後、カラオケに行ったり珈琲ショップで豆の厳選をしたりと、それこそ普通の学生のようにデートをして過ごした私たちだった。

 

 

 

「ほう――――休日の学園、夕暮れ時に年上のお姉さんと逢引きか。

 ヘンな懐かしさを覚えて涙腺が緩んでくるよ。それこそ80年くらい前を思い出す」

 

 

 

「…………」

「あれ? が、学園長じゃないッスか! もうお帰りになられたんスか?」

 

 伊達マコトを寮に送る帰り道、学園都市の世界樹テラスよりもさらに手前で。急に人気が無くなったかと思うと、彼女は現れた。ボンデージも想起させるような黒い未来的スーツとコートを纏った褐色の美女。ちょっとジョジ〇立ち(人体姿勢限界の極み)のようなそれをする彼女は、ふふ、と少し面白そうな目で私たちを見ていた。

 

「学園長…………」

「代理、だがね? ……フフ、この間は力になれずに済まない。

 済まないついでにだが、一つ、私に出来る範囲でお願いを聞いてあげよう――――近衛刀太君。ネギ先生の孫である君に、ね?」

 

 その彼女、龍宮真名は、得意げにウィンクして私の方を見て「妙に親し気な笑み」を浮かべた。

 

 

 

 これは…………、ガバ? ガバじゃない? 時間軸ちょっと狂ってる気もするけれど、三太編終わった後の登場は規定事項だから、つまりセーフ! ノーカンってことで!

 

 

 

 

 



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ST123.世知辛い確認作業

毎度ご好評あざますナ!
 
チャン刀、怒りの血涙(内心)


ST123.Hard Work To Confirm 

 

 

 

 

 

 龍宮真名(たつみや マナ)の登場自体は原作のイベント順で考えれば特に不可思議な点こそないものの、シチュエーションが色々とおかしいことに思う所はある。それどころか、直接やりとりはしていないがカアちゃんこと雪姫(エヴァちゃん)経由などで間接的な知り合いくらいにはなっており、そういう意味ではやはりガバといえるかもしれない。もっとも影響度という観点で見るとそこまで大きいようには感じない気もするので、ここはとりあえずセウトということにしておこう。

 

 現・アマノミハシラ学園都市統括学園長および本校学園長、龍宮真名。もっとも本人は「代理人」だと言って憚らないが、そんな彼女のこの妙なキャラ立ち具合から予想できる通り、普通に彼女もまた「ネギま!」時代からの登場人物だったりする。もはや慣れたように旧2-Aおよび3-Aの生徒の一人で、当時から超中学生級と言わんばかりにオトナの女性らしい容貌をしていたため、よく「本当に中学生な年齢なのか」という疑惑が(作中で)持ち上がっていた。さらも。とある事情もあって当時から今とさほど見た目が変わっていない。黒髪ロングヘア、褐色肌の大人っぽい美人。おおよそ外見上は二十代。スタイルもモデルのようでいてグラマラス、色々と性癖を壊された読者層も多かったことだと思う…………、私は大河内アキラだったが(癒されたい)。

 なお戦闘能力に関しては、はっきり言って非魔法使いと言う意味では最強クラスの一人であるが、そのあたりはいったん保留するとして。

 

 さて、そんな彼女からのこの申し出――――私に出来る範囲でお願いを一つ聞いてあげよう、というものであるが。はてどうしたものか、と私自身、判断に迷ってしまう。

 原作「UQ HOLDER!」を踏襲するのならば手合わせを願うべきだろう。そもそもあっちでは、早朝訓練中の近衛刀太にかつて功夫を積んでいたネギぼーずを見て、実力を確かめてやろうと誘っていたりする。今回は思いっきり平和すぎて平和島静〇になりそう(適当)な勢いでデートしていたのを見た流れから来ているのもあるのだろうか、若干接し方が違うように見えた。

 

 まあ追及するべき部分は色々あるだろうが、近衛刀太としてはいくらか確認しなければ不自然な部分だけ照合するべきか。

 

「あーその前になんスけど、えっと、いつかのカアちゃんの電話で一緒にいたりした人で合ってます? あとミソラの婆ちゃんから電話いってた人」

「お? ……フフ、意外と覚えているものだな。

 直接の面識自体はなかったから、今回が初顔合わせになる」

「刀太君、学園長とお知り合いッスか!?」

「学園長『代理』だがな。…………いやしかし、こう、やっぱり妙に既視感を思い起こすよ」

 

 驚くマコトと私を見て、面白そうに微笑む龍宮隊長(ネギぼーずに倣ってそう呼称する)。

 とりあえず背負った黒棒を竹刀袋からいつでも抜刀できるようにチャックを開けつつ、彼女を見やる。

 

「えっと、既視感って言われましてもッスねぇ……。まー祖父さんのことなんだろーけど」

「当たりと言えば当たり、だ。アレは高校生時代だったか…………。かつての私のクラスメイトで一人、背が高く包容力のある力持ちがいてな。色々と恋愛系の悩みに悩んだネギ君を元気づける目的で、特に後腐れなくデートしていた時があってな。セラピー効果でもあったのか、その少し後くらいには悩みを解決していたよ。

 ……ん、どうしたんだい?」

「刀太君、なんで急に落ち込んでるんスか」

 

 龍宮隊長の言ったその肩書、どう考えても大河内アキラそのものである。つまり何? ネギぼーず、本編外で最低一回は大河内アキラとデートしてる、だと…………? いやでも確かに親愛の情的な意味でネギぼーずに対してだいぶ入れ込んでいた彼女であったし(オコジョ妖精式好感度ランキングの計上で十点越え)、長谷川千雨に告白できていない状況で、その状態で全知全覚コンビと契約までした上でと考えると、確かに色々と頭を悩ませてどうしようもなくなっている状態によくなっていたことだろう。メンタルケアもかねてのその包容力は非常にこう、グッと来るものがあって歯ぎしりしたら血が噴き出しそうである(残当)。

 でもネギぼーずの立場とチェンジされようとはとても思えないので、仕方ないと言えば仕方ない(マジレス)。「ネギま!」幸福ルートの延長上ならいざ知らず、代わろうとも思えない立場と言うものはこの世にいくつか存在するのだ。一読者の立場でなら今の「私」の立場は羨ましがるかもしれないが、実際体験した後で考えれば果たしてどう答えるものやら。釘宮ではないが、胃が痛い……。

 

 そしてさりげなく横から抱きしめて来るマコトはやはりこう、夏凜あたりから他の面々以上に色々聞いているのではないかな? もっともちょっと照れている様子なので、そうなるくらいなら止めたらどうかと聞きたいのだが。一応それとなく言うと「で、でもここで頑張っとかないと個性が……」とか言い出して来ていて、一体何を言っているのやらという話だった。

 

「えっと、とりあえず真面目に話すんでちょっと…………、まあ、ありがとうッス」

「りょ、了解ッス」

「……ん、仲良きことは美しきかな。ただ一応、人払いの結界を張ってあるからこそだろうがね。公衆の面前だとか、そういうことは多少考えた方が良いぞ? 今時は」

 

 その辺りはむしろどこぞの夏凜あたりに言ってやれ。

 

 しかし願い事ねぇ…………。特に願いらしい願いというものは無いのだけれど、割とこの龍宮隊長はシビアな時はシビアに動くところが有るので、今回のコレを貸し一つ、のように見るのは流石に無理があるだろう。おそらく彼女もまた、ネギぼーずの孫であるところの近衛刀太を相手にした、それこそ純粋な保護者的好意に基づくものなのだろうから。つまりは、お年玉を上げたがるお祖父ちゃんお祖母ちゃんの発想である(語弊)。

 ならばそれなりに、ある程度の良識の範囲を持って考えるべきだろう。

 

 …………はて、良識とは(哲学)。(???「浴びて来たストレスに精神やら感覚やらが大分ヤられてるねぇ……」)

 

「じゃあ、えっと…………、ハグしてください、とかって可能ッスか?」

「ほ、ほぅ……?」

「うえぇ!? 何言ってるんスか刀太君、やっぱりエッチさんッスか!?」

 

 いや、そういう訳ではなくどのあたりまでのラインなら願うことが可能かと言うのの探りである。龍宮隊長がどういったことを想定しての発言だったかというのを踏まえた上でのチェックを兼ねての質問だったのだが、果たして彼女は視線を斜め上に逸らした。

 

「あー、そのだな。一応、私はネギ君と一緒に仕事をしていたこともある訳で…………、そ、そのだね、色々拙いだろう?」

「そう言われてもどんなもんなんスかねぇ」

「いや別に悪い訳ではないが。ネギくんの孫というなら私たち(ヽヽ)にとっても子供のようなものだし。ただ、君の方からそういう提案をするのは色々洒落にならないというか……(エヴァンジェリンに蹴散らされそうだ)」

 

 今カアちゃんの名前がボソボソなんとなく上がったのは聞こえたが、咳払いをして「他にないのかい?」とごまかす龍宮隊長。こころなし少し頬が赤いのは一体何だというのか。只それが可能ということは、おそらく雪姫などと口裏合わせが必要な範囲以外なら情報の確認なども出来るだろうと判断することができる。少なくとも彼女のボーダーは心理的なそれ以外にはなさそうなのだ、最悪頭を撫でてもらうだけでも良いかもしれない。(???「なんでそうキティの地雷を踏み抜きに行くのかねアンタは。原作だって忘れてる訳でもあるまいに……」)

 

「あー、じゃあ一つ気になってることを……。今回のっていうか、先日までのアレって、龍宮隊長じゃ何とか出来なかったんスか? カアちゃんの愚連隊の一員だったんッスよね」

「嗚呼、渦の7人(ボルテックス・セブン)だな」

「…………ん、ボルテックス? 7人の侍(サムライ・セブン)とかじゃなかったんスか? チーム名っていうか何ていうか」

「アレはエヴァンジェリン、雪姫が勝手に決めた名前だからな。珍しくネギ君も納得いっていなかったんだよ。彼はボルテックス・セブンの方を推していたし、センスも良いから私もそちらを使っている」

 

 大方モノクロ映画でも見て思いついたんだろうと肩をすくめる彼女だったが、ふと「……そうか、君まで隊長呼ばわりするのか」と苦笑いを浮かべた。

 

「まあそれは良いか。で、その質問に関しては…………、残念ながら私がここの学園長代理に就任した時期の問題になりそうだ。

 元々は君の祖母にあたる奴が『仕方あらへん、お祖父ちゃん仕事中途半端で逝ってまうんやもん。結界の維持くらいはできるし、ウチ引き受けたるわ!』とか言って十数年はアイツの管轄だったんだが、二十年……までは行かないか? くらい前の頃に、宇宙に長期遠征してしまってな。その間からずっと代理をしてたんだが……、既にその時点で『ああなっていた』ようで、私も直に視なければ捕捉すらできない状態だった」

 

 そもそも木乃香が張っていた学園結界内部ですら事件を引き起こせるのだから、もっと前からそうなっていた可能性もあるが、と少し申し訳なさそうに頭を下げる龍宮隊長。おそらく水無瀬小夜子が祟神になったかなっていないか、というニュアンスの話なのだろうが、そう言われてしまうと何も言えないところはある。

 それでも時折起きていた「トイレのサヨコさん」関係のことを思えば、もっとやりようは有ったのではないだろうか。もうちょっと学園の雰囲気というかを2000年代初頭くらいのノリに戻せればとか。……いや、まあ水無瀬小夜子の事件自体は当時に起こってしまっているというのは除外するとして、現在みたいにあからさまに格差やらいじめやらが残っていないような形にするとか。

 

「私もそれはそう思っていたが、痛し痒しだな。

 学園の方針についても、近年の魔法公表によって学園結界の維持は複数人で行う態勢に理事会が移行させたからな。学園長の発言力はさほど高くなくなった。おまけに私も所詮は雇われ学園長だ。

 結果、近年になるに従い社会情勢をより反映して、苦学生受け入れ制度の撤廃を始め色々と私も納得がいかないところが多いよ」

「理事会ねぇ……。…………ん? あれ? えっと、発言力と学園結界とがイコールで結ばれてるっぽいんスけど」

「実際そうだよ。木乃香の祖父、君にとっては…………、ん? あれ、何と言うのだか。ちょっと思い出せないが、彼の頃の結界自体は学園全体で循環する世界樹の魔力をベースに、旧学園長本人が管理調整する形で維持していたらしいが。世界樹に集まる魔力の周期が不安定になってからは、木乃香がほぼ一人で切り盛りしていたからな。自分の魔力で無理やり世界樹から絞り出すようなイメージが正しいか……。

 そして私に、そこまでの魔力はない」

「フツーそれ無理じゃないッスかね。いや、世界樹の魔力ってあのダイダラボッチクラスのでしょ?」

「嗚呼、だからまぁ…………、孫の君に言うのもアレだが、アイツもちょっとおかしかったんだろう。伊達に刹那の変態を娶っていない」

 

 わざわざせっちゃんがヘンタイさんであること言う必要あったんスかねぇ(白目)。

 

 しかし、神霊? クラスの「感知できない」レベルの超高レベル帯魔力を無理やり引きずり出して使用することが出来る人間…………。実際問題このちゃんがそのレベルだとすると、前回、私たちは一体何とどうやって戦っていたのかという疑問が湧き起こる。あからさまにやる気が無かったのは感じ取っていたが、もし本気で襲い掛かられたら………………。

 なお、顔色が悪くなってる私の隣で、同じように顔色が悪くなり始めるマコトである。

 

「……って、あれ? 私、これ聞いて大丈夫な話ッスか? 大丈夫ッスよね?」

「あー、まぁ、オフレコにするんなら大丈夫なんじゃないッスかね。そうッスよね」

「フフ、確かにそう杓子定規なことは言わないさ。少なくとも今の生徒会のようにガチガチとは言わないよ。ときおり私の方にまで色々と直談判しにくるくらい杓子定規な子らだからなぁ今の生徒総会は」

「なんて命知らずな…………」思わず素が出た。

「……フフ、当事者相手に中々度胸があるね。まぁ、それはそれとしてだ」

 

 すっ、と彼女が右手をこちらに向けるモーションをした瞬間に「妙な感覚」――――。

 当たり前のように黒棒を抜いて構え、マコトを庇うように前に出る。当の龍宮隊長の手には、古いタイプの拳銃。生憎私はミリタリー系に詳しくないので正体は不明だが、少なくとも連載当時においては最新型のそれであったはずだ。

 

「安心しろ、エアガンだから峰打ち出来るよ」

「いや、そもそも何で拳銃向けて来たかって話なんスけど」

「えっ? えっ? えっと、何、起きてるんスかコレ? あの――――」

「――――血装っ」

 

 思わず彼女から感じる微妙な剣呑さに、死天化壮発動前がてら血装術でドームを形成。というのも、瞬間的に彼女の足の動きが妙なことになったのが視えたので、間違いなく瞬動術で接近してくるだろうと推測が立ったからだ。

 案の定、私にシャイニングウィザードを叩き込もうと動いていたモーションのまま、血の壁に阻まれる。「ほう?」と少し楽しそうにする彼女に向けて黒棒を振るい、ドームを切り裂く――――。当然のように血のドームが散り切る前にそれを足場として虚空を走る彼女。ある程度の距離を稼いで、私の方を面白そうに見ていた。

 

「それが、噂に聞く死天化壮(ネクロスメタボルァ)か。…………形成に一秒もかからず、か。だいぶ慣れてるようだ」

「いや何でラテン語なんスか、普通に死天化壮(デスクラッド)って言ってくださいよ……」

「こだわりがあるのか? ……まあ中学生だものな。ネギくんでさえネーミングは色々頑張って付けていたようだし、男の子はそんなものか。フフ」

 

 ニコニコと微笑む様は大層美人に違いはないが、その表情のまま収納アプリより両手に拳銃を取り出す様は控え目に言ってサイコパス感が強い。というかどうも何が切っ掛けなのかは不明だが、彼女的には原作通り近衛刀太を試すモードに入ってしまったらしい。

 マコトに「危ないから階段の下の方に行ってて」と言うと、彼女は彼女で「それ痛くないんスか? 大丈夫なんスか?」とか「胸と背中からめっちゃ血、出てたッスけど、本当に大丈夫ッスか!?」となんだかカトラスめいたリアクションをしてくれていた。なお脳裏に響いた星月のアドバイスに従い、サムズアップとウィンクで無問題を強調してから、移動を促す。

 

 流石に空気を読んでくれたのか、龍宮隊長もその最中に攻撃は加えてこなかった。

 

「いやー、とりあえず聞くッスけど、なんでこうバトる感じの流れに? 脈絡も何もあったもんじゃないでしょう」

「おや? 君くらいの年頃の男の子は、いきなり問答無用な流れでもバトル展開は自然と燃えると思っていたのだが」

「今、2080年代ッスから……、そーゆーのはそれこそ80年以上前の少年漫画ノリでは。コミマスの漫画とか読んでます?」

「なん、だ……、と……? いや、コミマスというか『アイツ』の漫画はそれはそれで年代とかノンジャンルらしいが、しかし拙いな。美空に『お前もババァだ!』とゾンビ映画みたいなノリで引きずり込まれてしまう」

 

 これでも未だに赤ちゃん産める身体なんだが、とかジェネレーションギャップに対して抵抗を試みている龍宮隊長である。というか、コミマスをアイツ呼ばわりとか、あれ? 意外と親しい人間…………? 未だに週刊月刊問わず受け持っている数多の連載状況から言って、旧3-Aの早乙女ハルナではあるまいし(下手すると亡くなってる)、一体どういった繋がりなのか。

 さて、とすると彼女自身の興味本位という可能性も高いが、誤魔化しから最初に入ったとなるとまた別な用件が存在しそうである。そしてつい数週間前まで一緒に行動していた相手を思えば…………。

 

「…………ひょっとしてカアちゃんから何か言われてます?」

「……フフ、聞きしに勝るな。確かに、妙に察しが良いね刀太君――――」

 

 そしてそう話しながら、全く調子を変えずに襲い掛かってくる龍宮隊長。原作補正もあるのだろうが、この状況だと色々と逃げるのもどうかと言う流れである。痛いのは嫌なのだが……、ハンドガンで私の足場やらに狙いを付けて狙撃してくるものを、死天化壮および内血装を併用して避けながら、瞬動もどきで接近。

 

「――――あっ、クソッ……」

「その歩法…………、瞬動(クイックムーブ)というよりは、活歩(ヽヽ)だな。(クー)を少し思い出す」

  

 もっとも下から切り上げようとした黒棒は、その柄をグリップの底で叩き伏せるように受けられ、なんならそのまま足払い――――。

 

「――――ッ、動かないな」

「生憎『座標を固定してる』もので。……小・尸血風(しょう・しぃけっぷう)

「おっと?」

 

 ポケットに入れていた左手を出して、指先からわずかに死霊属性の血風を小さく放つ。とっさに左手の拳銃を投げて右腕を庇う彼女だが、ぶつかった瞬間に飛び散った血がその左手の指に一部付着した。

 血装術を経由し、その尸血風に「指先の動きの妨害」とオーダーをして彼女から離れる。

 途中、右手だけで繰り出される狙撃は、半自動のまま〇鎖斬月(オサレ)千本桜景〇(オサレ)を叩き落としていた超高速乱舞がごとく叩き落しながら距離を空け――――。

 

「創天はちょっとオーバーキルすぎるか……。じゃあ、血風――――」

 

 何をするかと言えば決まっている。滅〇師基本戦術(仕様通りの攻撃)だ。

 再び超高速乱舞がごとき剣閃を振り回し、それに合わせて血風を乱雑に放った。両手で狙撃しようとしても左手の人差し指は思うように動かず、想定したとおりに乱射できていない。流石にその異常に気付き、龍宮隊長はちょっと楽しそうにしながら後退していく。

 

「銃弾への対処が出来ているというより『自動で対処できる能力を作った』というところかな? 自分の不足分を開発した技で補うというのは、ネギくんらしくてちょっと可愛いところがある。

 ただまだツメが甘い、というより研鑽した方がいいかもしれないね――――」

 

 まぁとは言え、と言いながら、彼女はその大きく開いた胸の谷間に右手の指先を入れ――――――――それ(ヽヽ)を、取り出した。

 

 

 

「――――――――来たれ(アデアット)超電磁投射砲(レールガン・アド・カイロス)

 

 

 

 

 そのお手々に握られていたのは、原作「ネギま!」本編ではお目に掛かれなかった、幻の大人版での、マシン的なライフルを構えた仮契約カードだった。何その仮契約カードッ!? 誰と契約したんだアンタ性格的に絶対誰とも生涯しないタイプだろ絶対! 操を護る的な意味に近いニュアンスでさぁ! 今の実家はどうしたんだよ今の実家はよォ!

 

 …………すいまっせぇん、神楽坂(わたしぃ)なんですけど、またぁ~知らないガバが生まれてたんですかね~?(???「何だこの男は……」)

 

 

 

 

 




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ST124.幸福の轍、あるいは……

毎度ご好評あざますナ!
ついにガバが玉突き事故を始める…(いつもの) 例によって独自解釈多数ですのでご注意汗


ST124.lanterna magica

 

 

 

 

 

「そんなの有りかよ……」

 

 出現したアーティファクト……、レールガンとか言ってた超包子印なそれを構えてこちらをインサイトし、そのまま引き金を引く龍宮真名。まずアーティファクト登場と同時に、本気で嫌な感覚が私の前方に発生したような気持ち悪さ。超の一部関係者だということを思い出し、咄嗟に乱舞(ヽヽ)を停止して血風を障壁のように前方に三つ放った。銃弾が描くだろう軌跡、その一列に並べた置き血風に、龍宮隊長は特に何ら対策もなく引き金を引いた。

 

 何が起こったかと言えば、次の瞬間には「勝敗が決していた」。

 

 血風が彼女の弾丸を受けた次の瞬間、私自身すら目の前が一瞬真っ暗になり、気が付けば龍宮隊長に拳銃を突き付けられていた形である。そのまま引き金を引かれた結果は当然のように敗北だが、いやあまりにも展開が一瞬で変わりすぎていてどうしようもないと言えばどうしようもない。

 

「まあ、敵によっては初見で対応しきれないものを使ってくる事もあるということだ。今の状態に満足するんじゃなくって、もう少し色々な対応が出来るよう手数を増やすことを勧めるよ。

 どうやらそちらも『奥の手』のようなものは使わなかったようだし、ね」

「いや、アレ最悪こっち裏切ってくる可能性があるんで…………」

 

 おそらくは疾風迅雷状態のことを言っているのだろうが、大河内アキラビジュアルの星月への態度を考えれば、件のチュウベェがしれっと龍宮隊長側につく可能性もないわけではないので、そのあたりはまだ安心して使用できないのはともかく。

 アドバイスを言いながら呼び出した魔法具(?)を召還する龍宮隊長だったが、いや現象自体に心当たりはないが、おそらく「ネギま!」学園祭編でのBCTL(強制時間跳躍弾)か何か使っただろう貴女。ネギぼーずたちが超鈴音のトラップにかかった後、彼女の主目的を妨害するために色々と手を尽くした意趣返しではないが、その際に使用された龍宮隊長の装備の一つ。発動にはそれなりに魔力が必要だが、弾丸が炸裂すれば作中では数時間先の未来まで対象(展開された魔法の範囲)を時間転移させる、一方通行限定のそれである。

 どういう原理原則かはともかく、おそらくその弾丸か何かで短時間だけ未来に跳躍させられ、彼女の眼前に引き寄せられたと見るべきか。

 

 手合わせの目的が何であるかはともかく、個人的にはインチキ技術も大概にしろと言いたい。

 

「えっと、学園長? 刀太君、ちょっとヘンな顔してるんスけど……」

「負けず嫌いと言う訳ではないだろうが、ん? 大方、女の子の前で『ええかっこしい』出来なくてナーバスになってるのではないかな?」

「ええかっこしい?」

「ん、伝わらないか。これはジェネレーションギャップと言うべきか……」

「あー、いや、ちょっと想定外の展開だったんで、こう、どうなったもんかなーと。たぶん転移か何かさせられたってオチだとは思うんスけど」

「フフ……、答え合わせはあえてしないよ。そのうち機会もあるだろうし。

 しかしまぁ、私に魔法具(アーティファクト)を使わせるレベルとは少々想定外だった。十分合格だよ。伊達にエヴァンジェリンが息子として扱っていないという所か。

 吸血鬼スキルといえば、君、影操術とかは使えるのか? あっちもあっちで色々と使い勝手は良いと思うが――――」

「あ、いやコレ独学ッス。影はなんか全然操れる感じがしねーっていうか」

「ほう…………? なるほど、なるほど。戦闘センスと言う意味では明石(ヽヽ)的素養が影響しているのかな。身体的には刹那の変態だとしても」

 

 いやだから重ね重ねせっちゃんがヘンタイさんであると言及する必要が(以下略)。

 

「って、明石?」

「フフフ…………、詳しくは君のカアちゃん(ヽヽヽヽヽ)に許可を取ってからだな。幸か不幸か、ここには君の妹たちもいる訳だし」

 

 そう言って龍宮隊長は私の後方に目をやり何かアイコンタクトをすると、そのまま私の身体をそっと押して後ろに倒し、マコトが抱き留める形に。いや何だその連係プレイ。私の背中が柔らかい以外の意味が分からないのだが? あと顔が近いというか、ほとんどほっぺとほっぺがくっついてて柔らかい。あと熱い。

 

「あ、わわ…………、刀太君、ちょっと冷たくって気持ち良いッス」

「えーっと、その…………?」

「ハグして欲しかったのだろう? 少年。そーゆーのはデートしてる当事者にしてもらうのが吉だな。私からするのは色々と方々に角が立つよ」

「いや特にそこまで関係進んでいない相手にそれ求められたりやられたらドン引きですよね(マジレス)」

「君のそれは肉体目的というより『承認されたい』、ような形に視えるがね。そこを察してどう振舞うかは個人個人の経験に依るだろう。時には尻を蹴り飛ばすことも必要だが、時には支えて上げることも必要なものさ」

「――――――――」

 

 確かにそういう側面は無い訳ではない、かもしれないが。夏凜もそうだがどうしてそう、スパスパ言い当ててくるものか。私の視線を感じたのか、龍宮隊長は肩をすくめて鼻をつついてきた。

 

「自分でも経験がある場合は、なんとなく判るものさ」

「あっハイ……」

「学園長?」

「さて、そうアレな話をするのもどうかと思うからな。手を出したお詫びと言う訳ではないが、君もついて来るか? 伊達マコト」

 

 少し話があると促されて、彼女の後をついていく――――――のと同時に、後方に何やらさっきまで感じなかった違和感というか、存在感。ちらりと振り返るが特に何かの存在感が有るわけではなく…………。

 いや居たわ。人払いを龍宮隊長が解除しても、テラスの上の方の一か所だけ微妙に人払いが継続しているような状態の箇所。そして諸々の原作のラブコメ的発想から察するに、さては出歯亀してたな? 九郎丸たち。果たして何人くらい居るかは不明だが、さっきまで感じなかったことを前提とすると、おそらく最初は一空が監視カメラか何かで中継してた後に、人払いによってカメラが機能しなくなったりして様子を直に見に来たと。

 

「刀太君、どうしたッスか?」

「いや、何でもないッスけど」

 

 私の腕を少し揺さぶって確認してくるマコトに適当に応じて、同じく足を止めてこちらを見ていた龍宮隊長に半眼でアイコンタクト。と、こちらの意図を察したのか元々気付いていたのか、彼女は軽くウィンクしてサムズアップを返してきた。……って、サムズアップではなく、親指で自分の後方、いわゆる旧麻帆良本校の校舎の方へクイクイと指している。別に問題ないから全員連れてこいということだろう。

 

 まぁ概ね原作展開からして予測がつくので、ここはお言葉に甘えさせてもらおう。おそらく、そう大きく外れるようなものでもあるまい。…………、ここにガバがあったら流石に泣こう(限界)。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 どうやら泣かないで済んだようだ。

 少なくとも、隊長の方については。

 

「まほら武道会というのを知っているかい? 次回はアマノミハシラ祭と裏オリンピックが同時期だから、それに合わせて決勝戦は塔のてっぺんで開かれるぞ?」

 

「はえぇ~、スポンサー特権ッスか?」

「裏オリンピック……?」

「新五輪のことだね、九郎丸ちゃん」

「そーいえばアンタ、意外と箱入りなのよね九郎丸」

「いや、ってことは宇宙? マジかよ、確かに時期被るッスけどなァ……」

「その分色々と競技の規模とかが凄いことになりそうですね、夏凜お姉ちゃ――――あっ! か、夏凜先輩っ」

「ふむ…………」

「というより、私たちってついてきた意味ある? ダイゴくん」

「まあ、こういう場合は流れに身を任せるのも一つの手だと思う」

「諦めの極致なんだよなぁ…………(遠い目)」

 

「……ん、いや、流石に全員招いたのは失敗だったかな?」

 

 コメントに収拾がつかない、と学園長のデスクで肩をすくめて足を組む龍宮隊長であった。

 学園長室に入る手前の時点で流石に隠蔽させたたま尾行させるのも無理が出て来たので、ネタ晴らしがてら声をかけて早々である。九郎丸、一空、キリヱ、三太、忍、夏凜に釘宮と成瀬川ちづの犬上従兄妹コンビ。ある意味で現時点のフルメンであるが、いやそんな大所帯でお前ら一体どうした一体、そんな覗いたところで面白くも何ともないだろうが。

 お前までもかといくらか気恥ずかしさのこもった目で睨むと、「勘違いするのは止せ」と釘宮は眼鏡のつるを押さえた。

 

「俺がいなかったら、ファミレスやカラオケの時点で突入を受けていたし、盗聴すら許していたと思うよ。流石にプライバシー上問題があると思ったから、それはストップをかけたけど」

「いィィ!?」

「それは、あー、真面目に助かったわ……」

「俺も巻き込まれた側のようなものだから、そこのところは仕方ないと思ってるけど。まあ最低限、色々思う所はあるからね……」

 

 二人そろって何とも言えない目をしてお互い同情しあった。この感じからして、どちらかというと覗きに協力したのは成瀬川ちづの方がメインのようだが、はて? と思って彼女を見れば、何故か忍と仲良さそうに色々話している。まあマシンがどうのこうのという早口な彼女についていけず何とも言えない顔をしていそうだが、ふと違和感と変な納得感が湧いてくるのだが、これは…………?

 

「えっと、ん……? あの二人のつながりがイマイチ不明な気がする」

「知らないのかい? 近衛」

「知ってるのか釘宮」

「あの二人は――」

「従姉妹らしいですね」

 

 いや、ぬっと私の背後から釘宮との間に頭を突っ込んで現れてくる夏凜はこう、なんというかいつも通りで逆に安心できる(新しいガバがない的な意味で)が、釘宮がまた遠い目をしてこちらを見てくるのには半笑いする他なかった。既にこの辺りの微妙なところはボカしてではあるが相談したり愚痴を溢したりし合っているので、私の側の心境もお察しなのである。

 というか従姉妹? いやお前それは流石にちょっと待て。

 

「えっ、マジで? だいぶ距離離れてね? 出身地的に」

「……詳しくは知らないけど、浦島側の血筋らしいね。あの忍さん」

「えぇ…………」

「青山とか他にも親戚の筋はあるけど、忍さんは前原の血筋だったかな?」

「いや何でそう詳しいんスかねぇお前さん」

「まあ、俺からしても一応従兄妹だしね」

 

 とはいえ、その発言を聞いた時点で思わず口籠もってしまう私である。こう、何というか妙なフラグの気配というか、下手しなくても「ラブひな」関係の相当業の深い情報でも得てしまいそうな気配を感じたというか。というか青山って、素子はん(大河内アキラ似の彼女)確か思いっきり愛人枠狙ってたような気がするしそこから導き出される答えは……、いやどうなったか知らないし知りたくもないが!(濃密な熟成ガバの気配)

 しかしそう考えると、成瀬川ちづと結城忍が揃っているこの絵面というのは、しっくりくるのは確かに間違っていない話ではあるのか、そっかー……(遠い目)。そしてそんな私の思考停止しかかった心境に応じてか、夏凜が両肩を持って抱き寄せてくる。ハッ! とした顔で九郎丸、キリヱ、マコト、忍がこちらを見てくるが、もう何というか、何ともならないっすかね………………。

 

 閑話休題、多少ゴタゴタした後気を取り直して。

 

「十年前の魔法公式公開後もアマノミハシラ祭の中でも撮影禁止区画のみでの学内公開のみだったから、知名度はネット掲示板の眉唾レベルの情報が精々だろう。

 魔法、錬気、忍術、呪法、聖霊遣い、超科学、エトセトラエトセトラ……。

 人間、亜人、妖魔混ざり、魔族、戦闘サイボーグ、エトセトラエトセトラ……。

 基本的に裏社会や魔法世界などで流通していた技術を解禁した公式大会となる。そして来年、次回の分からは学内関係者限定ですらない、もっと広範囲に一般公募する形でのイベントとなる。

 開催時期を被らせたのか、議会やらウチの理事会もノリノリでね。共同開催となる裏火星との協議で、軌道ステーションでの中継はこの太陽系における人類圏全土に中継されるだろう」

「なるほど……」

「その反応だと、知らなかったか? 刀太君」

「あー、いや、地方だとまだあんまり話題に上ってないよーな……。決定って結構前ッスよね。こっち来てから少し調べたりしましたけど」

「学内だとポスターが貼ってあったりするからね」

「そうだね、二人とも」

「んー、刀太君と九郎丸ちゃんは遠いところから来てる感じだから、疎いと言えば疎い方ですかな?」

「何その語尾は一空……」

「いや、むしろ広報に力を入れるべきという話だな。地方向けにも中継方法など考えるべきか……」

 

 地方中継……、それこそ朝倉とか他の連中が騒ぎそうな印象があるが、さておき。完全に他人事で聞いている私に、龍宮隊長は他の面々も見遣り「何人か出てみないか?」と言ってきた。なお彼女の手前のホログラフィックディスプレイには、かつての大会映像として古菲だったり綾瀬夕映だったりの「ネギま!」でお馴染みなメンツの大会映像が流れていたりする。宣伝映像としては結構古いものだろうに、解像度自体は結構高…………、って、あっ! 大河内さん客席にいるじゃねーか大河内さん!(歓喜) あと隣にまき絵とかも居て、さらに隣のぼやけてるけど髪を適当に縛ってる彼女は亜子か? って、そんな思わず早口になりそうな話は置いておいて。

 

「えーっと……、あー、話が見えない感じなんスけど? わざわざそれを紹介するためだけに手合わせして、さらにこっちにまで誘導する作意がわかんねーんスが」

「……フフ、やっぱり察しは良いようだね。おおむね基本的な疑問よりもそちらを先に聞くか」

「基本的な疑問って言っても、殺傷禁止っぽいから不死身だって隠して出れば問題ないとかそんなオチですよね多分」

「は、話が早すぎて少し調子が崩れるな」

 

 嗚呼、と言わんばかりに九郎丸をはじめ一部の面々が何度か頷くが、はて?(すっとぼけ)

 まあ真面目な話、イベントの趣旨としてのガバ自体はさほど大きく起こってはいない(面子が多すぎることとか時間とかマコトがいることとかは目を背ける)ものの、だからこそ展開に無理がある気がして思わず聞いてしまうのは流石に仕方ない。

 

 だが、返答には納得せざるを得ないものがあった。

 

「実態としては雪姫、エヴァンジェリンとお互いに頼み頼まれがでね。こちらの要望もあるが、大会出場はそのついでという側面もある」

「「「「「ついで?」」」」」

「ダイゴくん、ステイ、ほら逃げないっ」

「いや、こう、持病の胃痛が……」

 

 釘宮が嫌そうな顔をして後退しようとしているのを成瀬川が止めに入っているが、彼の危機察知能力から考えるとつまり面倒ごとである。まあ展開的には予測がつく。原作「UQ HOLDER!」の展開からして、一番可能性が高いのは当然、エントリーネームにネギぼーずことネギ・スプリングフィールドの名前があると言う話で――――――。

 

「――――――この学園都市に最近流通し始めている薬物がある。もとは火星の合法薬物だったらしいが、タイミング的に前回のアレをより加速させるために使われた物だろう。この流通経路の特定と解決を要請したい。大会参加者予定の者たちが現在篩にかけられているが、人数があまりに雑多だからな。この中に紛れているとウチの高性能AIが試算を弾いた。

 既にエヴァンジェリンにも話は通っているが、先に概略について――」

「えっ」

 

 思わずそう言ってしまったのは仕方ない、仕方ない。素で口があんぐりしてしまった。全然ネギぼーず関係ない事件だし、おまけに水無瀬小夜子関係の余波かよ!? 話題の内容から三太が気合を入れた表情になり、マコトが「あれぇ、私すんごい蚊帳の外ッス……?」と私みたいに困惑している。

 と、九郎丸が手を上げて質問をした。そういえばこの中で唯一の裏火星出身者、件の薬物とやらに何かあるのだろうか。

 

「あの、それって一体どんな薬物なのでしょうか」

「ん、君は裏火星出身だったか。なら名前くらいは聞いたことがあるだろうかな? 最近は全身麻酔などに流用するなどで色々とトラブルになっている、魔界由来の精神系『魔法薬物』。幸福の(わだち)、あるいは――――――――」

 

 そして続けて出てきた名称に、私は顔面の筋肉から表情が削ぎ落とされた。

 

 

 

「――――――――あるいは、『幻灯のサーカス』という」

「…………」

 

 

 

 どうやら世界は私を泣かせたいらしい。

 ってそれザジしゃんの魔法具(アーティファクト)オオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!?(原作「ネギま!」)

 

 

 

 

 




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ST125.風穴から天鎖す

毎度ご好評あざますナ
遂にあ奴、正式登場? そして新たなるチャート崩壊の音・・・


ST125.the World is Wonderful Woe Wide

 

 

 

 

 

「一応整理っていうか確認したいんだけど、アンタのお爺様ってネギ・スプリングフィールドよね? 『偉大なる魔法使い(マギステルマギ)』、『現代最後の指導者(ラストテイル・マギステル)』の人…………、って何やってんのヨ、夏凜ちゃんッ!」

「肩枕ですが」

「そ、そうですよズルいです!」

「み、皆大人です……」

「く、くゥ……、せめて今日、次は私もッスよ! 夏凜さんっ」

 

 キリヱの確認に適当に応じながら、端的に言って私はメンタルが死んでいた。

 先ほどの龍宮隊長からの依頼、その詳細説明を受けてグロッキーである。当然のようにそんな私の内心を見逃す夏凜ではなく(だから何故判る)、会議後に表に出て駅前の喫茶店、座席でフラフラとしていた私の頭を自分の左肩に乗せて、時々はちみつメープルカフェラテに追加でガムシロップ投入という激甘カフェラテのストローをあーんするように持ってきていた。特に応対できるテンションではなかったためされるがままになっているが、周囲のこの謎のテンションは一体何だというのか。三太と一空はしれっと席を変えてるし、九郎丸はわざわざ近くに来るために立ったままホットドッグ食べてるし、キリヱはテーブルに乗り出してるし、マコトに至ってはちょっとだけ私の反対側の袖の裾をつまんで引っ張ってるし。可愛いじゃねぇか(白目)。

 

 なお忍除く犬上一族は「少しやることがあるから帰るよ」と、特に釘宮は胃の辺りを押さえて退去していった。妥当な判断である。どう考えても厄介ごとの気配だ。

 とりあえず収拾がつかないので体を起こしてカフェラテを飲み干し、マコトをかやの外にしない程度に情報の整理をしていく。ネギ・スプリングフィールド。現代の偉人、宇宙開発からNGO参加、禁止されている特殊兵器が使用される戦争における該当兵器の無力化、魔法論文などなどその実績は多岐にわたるが、表向きになっていないものが渦の七人(ボルテックスセブン)ないし七人の侍(サムライセブン)、後のUQホルダーの前身組織を作ったことである。このあたりは雪姫から直接明言されたことはないが、状況証拠やら敵の証言やらが色々揃ってきたことによって結果的に断定できる状態だった。

 なお、それを聞いて目を輝かせる忍とマコトである。

 

「――――――――」

「いや、えっ、でもマジッスか…………、某ジャーナリストの朝倉さんが書いた『偽典・英雄一代』『英雄一代道半ば』とか読んだことあるし、私の学校とかでも名前出て来るし、っていうか魔法アプリの詠唱省略とかの基礎論文書いてたのもネギさんだし、うぇーッ!」

「その話し方は色々と女の子としてどうかと思うわよ、マコト。

 しかし忍、大丈夫かしら。ちょっと情報の多さがキャパオーバーして軽く自失してるわね…………」

「で、そのお祖父様も今回のトーナメントにエントリーしてるのよね。表向きっていうか、法的には死亡扱いになってるんだけど、一応は生死不明の延長でそうなったやつだから」

「そーゆーことッスね。で、えーっと何? 今回の薬物のやつ。『幻灯のサーカス』だったっけ……、使うと使用者を最も幸福な記憶に閉じ込める魔法薬物で、通常は小型の使い切り巻物(スクロール)形式で取引されてるってやつ」

 

 幻灯のサーカスは、原作で言うなら既に登場している「ザジ・レイニーデイ」がおそらく二人とも(ヽヽヽヽ)使用する魔法具(アーティファクト)である。実体がないタイプの魔法具で、発動と同時に光が周囲を包み、対象となった人間を深い眠りの世界へいざなう。そしてその当人を魔法的に計算されつくした幻想空間(ファンタズマゴリア)へと誘導し、そこで幸福な時間を体感させる。当人にとって逃れ難い幸福、理想の世界――――夢がベースである以上、それはほぼ何であれ叶ってしまうのだ。

 魔法構成自体の方向性が本作ラスボスのやろうとしていることと合致しているため、その疑似的な体験という説明でも用いられることがあるが。この魔法は本来、脱出方法が設定されている。使用者によってまちまちだが、かつてのザジは「とある言葉(フレーズ)」に。もっとも自力でそこに至ることが出来るかは当人たち次第であり、発動者の意志ひとつが匙加減というところも大きいだろう。

 

 そして情報をもらった「幻灯のサーカス」についてだが……、はっきり言って劣化品である。

 ただ劣化品だからこそ性質が悪く、魔法アプリ感覚で取引されている実情がある。

 

「時間制限付き、使用すると幸福な世界にとらわれるけど……、依存性が高すぎてオーバードーズして目覚めない人間も多い」

「ウチのところはお嬢様学校だったから? そーゆーのはほとんどなかったけど、噂ではちらほらと。帆乃香ちゃん詳しいッスよ、そーゆーのは」

「謎の事情通っぷりッスねアイツはまーた……」

「いや、というか学園都市でチラホラ出てきてるって拙いよな? っていうか俺とか、使われたらヤベェ気がする……」

「大体今の時代はそうでしょう、佐々木三太。私たちとて否定は難しい」

「アハ? 確かにねー。僕だって内に抱えてる悲しいこととかも色々あるしね」

 

 一空自身は経済的に恵まれた家庭環境だろうが、おそらく現在の本来の肉体は動かすことすら出来ない不遇を負っているだろう。ならば彼も、本来ならそのまま大人になれた過去が幸福なビジョンとして魅せられるかもしれない。

 それこそスラムのルキだったり……は大丈夫かもしれないが、こういうのは誰がどういう地雷を抱えているかわかったものではない。怒りの感情も悲しみの感情も誰しも強く振り回されているのであって、そこを想像しないで色々と言うと別種の問題が起こることも多い。さほど仲良くなく信頼関係ない相手から注意された会社の部下が、言う通りにはするがその先輩や周囲への信頼感、安心感が無くなってしまうようなことになっても、本人に自覚なく陰口を叩き続けるような場合もあるのだ。ある程度の適性とかはあるだろうけど、そういうのは角が立たない程度に気遣い、自分が相手を気にかけてると信頼関係が形成された時にしか有効じゃなかったりと言うのがままある。一概にズケズケと心に侵略するのは良くないが、だからといって相手のことなんて本当にわかるかどうかは、物事の感じ方含めて全然違うのだ。違うからこそ角が立たないようにするなど手段は存在すると思うのだが……。

 

 つまり何が言いたいかと言えば、そういった個人個人が抱えているものが極まった今の時代においては文字通り劇物的なシロモノである。

 

 時間制限付き、というのはおそらく医療用を前提として設計されたからだろう。だからこそ、麻酔として意識を失う以外の用途で使えばそれからは逃げ出せない。その幸福な世界は、たやすく人の心の壁を溶かして、底に引き摺り込み…………、そう言った状況になるまで元々追い詰められていた魂をこそ、荒御魂に近づいた彼女、水無瀬小夜子の内に取り込ませていたのだろう。……なんとなくテ○ガ(光であり人である)テレビ版の終盤に出てきたアレを思い出すがさておき。

 

 そう、これは前回案件の引き続きなのだ。ゾンビウィルステロ改めダイダラボッチ事件。まだ終わってなかったと言う事実から軽く目を逸らしたいものの、当事者たる小夜子本人がいないのでどうしようもない。そうなると私としても取れる選択肢は多くなく、単なる延撚として、再発火する前に処理したいのが現状である。

 

「で、まー行方不明の祖父さん……、聞く限りなんかヤバそーなことになってるっぽい祖父さんが関わってるとなると、例のなんか悪の魔法使いの組織っぽいアレとなんかあーしてこうしてしてそうなのの捜索も、コレ対処しながらなら出来るってことだろ?

 まぁオーダー二つだけど、どう考えても麻薬対応の方が優先度高いんだよなぁ……、ままならぬ」

 

 

 

「――――まぁ、そう気負わずとも良いぞ。

 せっかく大会に出るんだ、楽しんできたら良いじゃないか」

 

 

 

 !?

 

 全員、私の背後からかけられた声に驚く。いきなり現れたと言うより、小さくてそのシルエットを識別できていなかったと言うべきか。マコトあたりが「また分身ッスか? また分身ッスか!?」とか言っていたが、それはともかく。雪姫……ではなく完全にエヴァちゃんである。細かいディティールは若干異なるが、旧麻帆良学園本校の見覚えしかないブレザー制服を纏ったエヴァちゃんが、ちんまりと腰に腕をやって威張るように薄い胸を突き出して笑っていた(命知らず)。

 

「っていや何しに来てるんだよカアちゃん……」

「ほ? ほほ、本物ッスか! え、だって昔作ったって姿と同じ……? 刀太君のお義母さんって、あの超絶美人さんッスよね?」

「ま、ざっとコレでも七百歳くらいだからな、それくらい融通は利く。

 ちなみに本校通いだったから、一部の連中からすれば先輩になる。

 確か、OGってやつだな、うん、つまり丁度こんな感じだった訳だ」

「そんな理由で子供版なの雪姫アンタ……(やっぱり可愛いじゃないッ)」

「雪姫様、何用で!?」

「仕事、だよ。

 まぁお遊び企画の前にお前らを労いはしたが、後を引いているモノがあると言われてはな。

 薬物のベースになった『魔界の魔法』自体は知り合い経由で調査中だが、もう一つな」

 

 もう一つ? と聞き返す九郎丸に「嗚呼……」と遠い目をする。口は笑っているが、その視線はどこか遠くを見ている様で……………。

 

 

 

「……君が持っていると龍宮真名に聞いて来てみれば、一体どう言う状況だこれは」

 

 

 

 そして実に本日二回目な表情筋の活動停止である。

 夕暮れ時にスーツ姿のフェイトはまだいい、原作イベントの流れがあるからまだ理解できる。問題なのは…………、その彼の腕を組む女性にある。

 

「――――お? あ、マジで刀太や! うん、この間は一瞬やったし、ちゃんと見るんはホンマ久々やなぁ」

 

 艶やかな黒髪、ロングヘアに少し疲れた様な目元はしかし娘よりは理性的というか知的な印象をこちらにもたらしてくる。服装は木乃香譲りなのか中々ファッショナブルの秋コーデというべきか。見た目だけで言えば十分二十代で通じそうで、もっというとおまけに見覚えがあった。見覚えしかなかった。

 

「お、母さん……? ままならぬ」

「あ、やっぱ『昔みたいに』そう呼んでくれるんやね……って、何やそのヘンな表情」

 

 目の前の彼女、近衛野乃香は私の顔を見て少し困惑していた。

 

 なんか余計なのいるぅううううううううううううううううう――――!?(失礼)

 

 おそらくは何かしらのフラグとフラグが折れたり立て直したりした結果のチャート崩壊な一種なのだろうがいやちょっと待て! 余波が……、余波がデカすぎませんかね前回の事件のさァ! そりゃ五万回以上巻き戻したら色々おかしなことになるだろうけどさぁ、もうちょっと手加減してくださいよ無敵の時間ジャンプでキリヱ大明神様ァ! 原作だと多分遭遇すらする暇なく時系列ジャンプしてたろコレどーなってんだよホントもーさぁ!(大号泣)

 

 誰か助けて……、タスケテ……。

 

「ぬ? 本当にどうしたお前、刀太。

 というより何でお前までついてきたバカ娘、話がややこしくなるだろうが」

「えー、もうそんな邪険にせんといてよ、友達やんか雪姫はーん。って、ちびっ子姿はめっちゃ久々やん! あーもー可愛いわ、ええ匂いっ」

「やめろ、ええぃ引っ付くな!」

「あーアカン、こう可愛いの見とるとウチもアレな意味で二刀流に目覚めてまいそうやな……、って、流石にアカンわな。刹那お婆様の二の舞どころの騒ぎやないか。でもまぁ可愛いことはジャスティン!」

「普通に意味がわからんぞ相変わらずだなお前……、というかフェイト、お前止めろいい加減!

 コイツの管理はお前だろ一応! 

 何を視線逸らして素知らぬ顔で自分はさも無関係だと気取っているのだ貴様ァ!」

「…………」

 

 冷や汗でもかいていそうなフェイトから離れて「大丈夫え?」とこちらを気にしてくるお母さんだったが、その登場に思考停止していた周囲が我を取り戻して目を見開く。なお雪姫は腰に抱いてわっしょいわっしょいしたままなので(意味不明)、当の本人は不機嫌そうだった。

 

「「「「お母様!?」」」」

「あれ? 三太君どうしたんだい、目を逸らして」

「い、いや、普通に美人すぎて見てたらなんか小夜子に怒られそうな気がして……」

「お母様ですか、しかし雪姫様へその気安さは少々いただけません」

 

 ストップ、と言いながらエヴァちゃんからお母さんを引き剥がして(首根っこ掴まれたウサギみたいにブルブル震えてる)、ついでとばかりに私の頬にノーモーションでキスしてから(!?)野乃香をフェイトの方に押し返した。ぽす、と一応は受け止めるフェイトに、お母さんはこう、なんとも言えない感じで嬉しそうな表情だった。

 

 そして九郎丸、この中で三太に続いて彼女の顔を写真で見ているからこそ、彼女はお母さん相手でも納得した表情であった。

 

「お母さん……、センパイのお母さん……!」

「そ、その、初めまして! 時坂九郎丸です、刀太君とは熊本からの付き合いで――――」

「って何どさくさに紛れてアピールしようとしてるのよ九郎丸! アンタそんなアグレッシブだった!?」

「あ、あばば、帆乃香ちゃん大きくなったらこんな美人なるッスか…………、ヤベェッス」

「いやあの、何でキスしたんスか? バレない程度に一瞬で交わした感じッスけど(震え声)」

「必要かと思いましたので」

 

 何故か上手い事バレてない夏凜に動揺する私だったが、それはそうとして我先にと女の子たちに群がられてる「お母さん」は愉し気に笑っていた。

 

「あらー、なんやえらい愉快なことなっとるなぁ」

「お前のせいだろうが元凶。

 お前のせいだろうがこのバカ娘」

「小さい頃から君は空気を破壊することにかけては天才的だったかな…………」

「まぁでも今日の主役はウチやあらへんし、今日はフェイト君の付き添いえ? ほな、雪姫はんに言わんと言わんとっ」

 

 どこか楽しそうにフェイトの背中を押す彼女。酷い頭痛に襲われたかのように頭を抱えたフェイトは、しかし頭を左右に振って「まあ本題はそこじゃないからね」と気を取り直した。

 …………ちょっとだけその疲れた顔に親近感が浮かんだのは内緒である。

 

「雪姫、いやエヴァンジェリン。ネギ君の『まほら武道会』エントリー申請の封書、君が持っているのだろう。僕にも見せてくれないだろうか」

「ふん」

「い、今更だけどフェイト・アーウェルンクス……ッ!」

「落ち着きなさい九郎丸、あとキリヱもカードを出さない。貴女それ戦闘用ではないでしょう――――」

「だから逃げる準備よッ!」

「おっと、僕も面識はないんだよねぇ彼」

 

 野乃香から意識が移りやや慌ただしくなってはきたが、それはそれとして私は私で疲れた様子ながらもどこか楽しそうに微笑む彼にどうリアクションしたものかというところである。

 

「近衛刀太君、久しぶりになるかな。もっとも僕の方は帆乃香たちと話した時に聞いたから、あまり久々と言う気はしないけれどね」

「まぁスラムから考えたら二月? 経ったか経ってねーかくらいッスからね」

「存外落ち着いているな、お前……」

「いや、流石にカアちゃんとかお母さんとか『両方いるのに』襲い掛かってはこねーだろう的なイメージが勝手にある」

 

「おぉネギ君みたいなこと言うなぁ、ウチの刀太」「ふ、ふん――――」

 

「否定はしないけれどね。しかし…………、結果として『アレ』は君の判断が正しかったと思う。そこは礼を言っておこう」

 

 軽く頭を下げるフェイトにそんなの要らねーからと返しておいた。実際問題、フェイトもこの場で抗戦するつもりはないらしく、前に七人の侍(サムライ・セブン)同窓会的なのを企画したところから状況はあまり変わっていないのだろうと推測できる。

 なおエヴァちゃんに関しては戦闘的な意味合いでだが、野乃香に関してはまた別な理由からだというのが、何故か私には判った。このあたり、前回の事件で統合された「滅んだ世界の私」の経験が若干フィードバックでもしているのだろうか。

 

 ともあれ原作通り? にエヴァちゃんが取り出した封筒、その口を開けて中を見ると、案外達筆とも言えないイタリックな英字が署名欄に踊っていた。

 それを後ろから覗き見るフェイトと、空気を読まず横からひょっこり顔を出して覗き込むオシャレさんな「お母さん」。

 

「指紋、DNA、残留魔力から『ぼーや』に違いはないとは思っていたが……」

「間違いないね。二千年代初頭、よく彼とは色々なサインに署名をしていたことがあるけど、その字体とも違わない」

「はえぇぇ……、でもサインだけやと、エントリーはできへんやない?」

「いや、そういう意図じゃねーだろたぶん、こーゆーのはさ、お母さん…………」

 

「……って、と、刀太君までどうしてそう仲良く一緒に見てるの!?」

「そうよ! ちゅーにのお母様とかで色々誤魔化されてたけど、そいつ前に刀太とかを回収とか言って殺そうとしてたんじゃないわけ!? 報告書とかでしか知らないけど!

 状況はよくわかんないけど、説明して欲しいわ!」

 

 絶叫するキリヱたち。なお夏凜は私の様子を見て何度か謎の首肯を見せているが、いやだからアンタ一体全体何にどう納得してどういう立場での振る舞いなんだそれは……。そんな状況にわずかに気づくのが遅れるエヴァちゃん。ネギぼーずの筆跡をゆっくりと、愛おし気に撫でる姿は原作からそう変わりない仕草に見える。

 ということは、ここにはきっとガバはないはず。ヨシ!(???「随分役に立たない現〇猫が居たものだ」)

 

 なお後方で情報量の多さにパンクしたらしい忍に「あー、大丈夫、大丈夫ッスよー」と介抱しているマコトの両名の姿がなんとなく癒しだった(現実逃避)。

 そして、流石に何も説明しない訳にもいかなくなったエヴァが口を開こうとしたとき――――――――原作の歯車が回り始める音を聞いた。(???「きっと錯覚だよ」)

 

 

 

「――――師匠(マスター)

「お前らにも少なからず……、何?」

 

 

 

 次の瞬間、この場の全員がまるで荒野の果て、夜の荒れ果てた大地に投げ出されたような、そんな錯覚をする場所へ――――頭上に青く巨大なナニカがあるが、ここまでは原作通り。現在ネギぼーずが苦しんでいるだろう「月」か「小惑星」の表面、赤い大地そのイメージ映像である。

 

「フェイトも、久しぶり」

「ネギ、君……?」

 

 振り返った先、そこには特になんら問題なくネギぼーずとナギ・スプリングフィールド、私からすれば曽祖父にあたる彼の姿もそこにあった。恰好もこう特に原作と変化している部分もなく、嬉しい限りである。本当に(血涙)。(???「ガバがないだけで情緒ぶっ壊れているところ悪いんだけどねぇ…………、ハァ」)

 

「ぼーや、ナギも……」

「フフ……、お元気そうで何よりです、師匠(マスター)

 

 一体何の目的でこんなものをと慌てて駆け寄ろうとするエヴァちゃんの姿、助けを求めているのかと焦って問い正すフェイト、それに否定をするネギぼーず。こう、その…………、うん…………、感無量なのだ。何もしなくてもこう安心して見られる。ちょっと泣きそうでもあるが、そんな私の頭を撫でる相手が一人。夏凜のよりも少々力強く強引さを感じるそれに上を見ると、野乃香が「なんや、寂しいんか?」と優し気に微笑んでくれていた。

 ちょっと一瞬、大河内アキラの「おはよう、ネギ君」って言う感じの笑みが脳裏を過ったが、何だろうこの妙な感覚は。

 

 ――――そして、現れる。ネギぼーずとナギの足元、両者の「繋がった影」より現れ出るそれは…………。

 

「はい?」

 

 それは、おそらくヨルダ=バオト、つまりは本作におけるラスボスであるはずなのだが、私にはそう見えなかった。

 

 只ひたすらに、ヒトガタに結集しただけの真っ暗な何か、そこに浮かぶ両目が、私を射抜き――――。

 

 

 


 

「嗚呼、もはやこれしかないのだろう。すべては私の、私一人だけの罪」

 

「だからこそ、今こそ超えよう。いくつもの星が流れ、いくつもの月が巡りし果ての先――――」

 

 

 

「――――そう、『光る風を超えて』」

 

 


 

 

 

『――――ダメ、ダメだよ相棒! ダメだよ刀太君っ! 今、彼女に向かったら――――』

「……はい?」

 

 星月の声に気が付けば、ごく自然な動きで。私は黒棒を構え、その黒い何かへと振りかぶり、振り下ろし。

 しかし、その前にネギぼーずが立ちはだかり、黒棒を当たり前のように右手の指先で受け止めていた。

 

「そうか、貴様が近衛刀太か。…………フフ」

「…………大きくなったね、刀太君」

 

「はい?」

 

 そしてヨルダの一言よりも、ネギぼーずのその発言の方に頭が真っ白になり――――。

 

 

 

 彼が掌を少し回す、その1モーションだけで。私の全身は引きちぎられ、黒棒はそこを起点に真っ二つに「折られた」。

 

 

 

 

 




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ST126.興味なし

毎度ご好評あざますナ!
 
ガ バ か ら は 逃 げ ら れ な い!(絶望)


ST126.It’s not my problem

 

 

 

 

 

 てっきりイメージ映像のようなものだけだと思っていたのだが、幻想空間(ファンタズマゴリア)の類でもあったのだろうか。否、それだけではない。実際パーカー姿だった私の全身からは血が噴き出し、そして我が手の黒棒は――――。

 気が付けば喫茶店のオープンテラスで転がっていた私と、数歩引いている周囲。眼前には軽くへし折られた黒棒の刀身……、おや? 確かこの黒棒は血風を纏わせ撃ち出しても破損しないくらいには高密度の質量を持っている物体だったはずだが、破損したからといっても地面が陥没している訳でもない。思わずその先端を持ち上げてみるが重量は変わらず……、そして念のためダイヤルを少し操作してみたが、重量は一切変わる気配がなかった。見た目通りのサイズの鉄剣、おおよそ予想される程度の重量なので、色々黒棒本体についても何か知らない情報があると見るべきだろうか…………。

 

「刀太君っ!」

「ちょ、アンタ大丈夫なのちゅーに!?」

 

 九郎丸たちが慌てて駆け寄ってくるのに身を任せつつ、とりあえず私は先ほど視えた光景と現状とに頭がどうにかなりそうだった。

 

 さっきのあのイメージ……、宇宙空間を背景に、どこか涙声の誰かが何かを言っていたそのイメージ。特に心当たりがあるわけでもなく、さりとてその情景の正体もいまいち判然としない。少なくとも原作ではなかった描写に違いはないのだから、それは当たり前といえば当たり前だ。

 ただ続けて来た一連のモーションは、完全にネギぼーずが〇染(オサレ全盛期ヨン)様のそれでしかなかったので、やられはしたが多少なりとも精神的にはプラスであった(狂人の自己肯定)。我ながらだいぶ末期症状である。もっとも代償はあまりに大きかったので、結果的には完全にマイナスなのだが。

 

「黒棒? なぁ黒棒、おい…………。嘘、だろ?」

 

 もともとあの時、本人いわく「表に出て来た」とき以降、一切こちらの声にこたえることのなかった黒棒。もっとも重量変換機能自体は生きていたことなどから、何かしら製作者側が何か条件を仕込んだのだろうと思っていたのだが。刀身の破損に伴い、黒棒は本当にその質量変換の能力すら失ってしまった。

 見た目で言うと、つまり刀身が中程で折れた、切れない模造刀のような状態である。

 

 黒棒の本体があの精霊である以上、質量が超重量になっていないとなるとおそらく「死んではいない」のだろうが、壊れてしまった事実に変わりはない。相手の心配をするほどでは無いにしろ、率直に言うと大ピンチだ。

 

 現状、ただの血風はともかく、直接的な斬り合いをはじめ血風創天やらなにやら、攻撃手段はほぼほぼ黒棒を起点にしているのだ。死天化壮状態での高速戦闘など、黒棒がないとそもそも話にならない。斬撃として血風を使用する場合、やはり黒棒に対して血装術を使ってどうこうしないと、そもそも身体的な動きの速さで手元に凝縮した血など簡単に散ってしまい、威力も安定しないのだ。

 なんなら妹チャンことカトラスから血装術を使うなと言われた時並にピンチである。……回避専門と考えれば一見問題がなさそうにも見えるが、逃げてばかりとなるといずれ対策をとられてしまう。こういうのは適度に慣れない内に相手の想定外の一撃を、それなりの練度で続けて弱らせ続けることで初めて成立するのだ。

 

 ましてや現状、ディーヴァのようなこちらの動きにメタを張ってくる相手すら出てきている。直接攻撃手段の減少は、そのまま私の生存確率の低下につながり、つまり「痛い」話な訳である。

 

「ままならぬ…………、あっキリヱ。『戻さなくて』良いぞ。こんな所でまた負担増やす話でもねーだろ」

「ねーだろ、じゃないわよ! さっきから何自己完結してんのよ、このちゅーにがッ!」

「落ち着きなさい、キリヱ。こういう場合は……」

「あ、あの、二人とも、刀太君ちょっと落ち込んでそうだしホラ」

「――――はッ!? い、今のはっ」

「忍ちゃん我を取り戻したッスか……」

「…………って、トータ、大丈夫なのか!? その刀、めっちゃ大事にしてたじゃねェか!」

「おぉう、これはこれは……」

 

「あは~、人望というより、モテモテやな~。ネギ君もウチとか小さい頃、よー可愛がってもろたわ。なんとなくそんな感じやね」

 

 色々と考えることのある私とそれに応じてがやがやする周囲に、野乃香「お母さん」はたいそう楽しそうに笑っていた。ふと顔を上げると、視線が合う。にっこり微笑んでくる様は一見おしとやかで2080年代現在は崩壊した概念となっている大和撫子そのものであるが、だがそこにほんのり帆乃香と同種のそれを察知する私だ。こう、何か隙を伺って悪戯でもしようとしているような、そんな余裕のある微笑みである。

 一方、雪姫ことエヴァちゃんとフェイトは事情が異なった。しばらく無言になり、そしてこちらを真面目な顔で振り向く。フェイトはフェイトで私に近寄ろうとしていたお母さんの腕を引き、肩を抱きしめるように抑えた。なお借りて来た猫のような微妙なポーズとなるお母さんである。

 

「…………悪いが刀太、お前は大会を辞退しろ」

「はい? えっ、あー、ハイ」

 

 

 

「「………………」」

 

 

 

「えっいや……。

 それだけか、お前?」

 

 顔を合わせて、適当にエヴァちゃんの言葉に応じる私に、むしろエヴァちゃんの方が困惑必至であった。

 

「それだけかって言われても…………、もともと龍宮隊長からの斡旋って認識だけど、これは合ってるよな? カアちゃん」

「お前もアイツのことを隊長と呼ぶのか……、あー、まあ良い。認識上は問題ない」

「その状態で依頼を受けたけど、黒棒が『こう』なっちまったら、正直あんま戦力としてアテにはできねーだろ。それくらい自分の能力の見積もりは出来てる」

「そういえばお前、そういう所はドライというかシビアだったな熊本の頃から…………。だから辞退する、というより今のままだと仕事を受けられないということか」

「うん(素直)」

 

「「………………」」

 

「――――――――あはははははははッ! あー、なんや滅茶苦茶良い(えぇ)子やんッ! 雪姫はんの育て方の賜物?」

 

 と、私たちのやりとりを見てお母さんはお腹を抱えて大笑いしていた。フェイトもフェイトで私の素直すぎる反応には唖然としており、彼女を制止する余裕もないらしい。一方エヴァちゃんはといえば少し顔を赤くしながら「黙ってろこのノータリンがッ!」とウガーッ! とちびっ子めいた振る舞いで威嚇をしており中々可愛い。出来た子供の前では中々見せてくれない親の子供っぽさ全開ムーブであった。

 

 なお周囲も、私があんまりにもフツーに応対するものだから困惑が抜けていないが、さてそれはどういう理由からか。とりあえず近くに居た九郎丸に聞いてみると。

 

「えっと、刀太君その、結構ノリノリで大会に参加するって言ってたように見えたから……」

 

 なるほど、勘違いの源はそこか。

 どちらかといえば水無瀬小夜子のあの案件の延長上――――もっと言うとキリヱ大明神関係の延長上のつもりだったので、これに関してもチャート崩壊どうこうというのを投げ捨てて対応するつもりだったのだ。だがそうと判ってしまえば彼女もまた微妙な顔になるだろうし、そもそもそれをあまり悟らせるべきではないと私の中の何か「私ではない」経験値が言っている。既にキリヱいわくセーブポイントは5つまで減らしたらしいが、だからといってまた何度もやり直させる話ではないだろう。特にここ数週間はセーブポイントの準備もしていなかったらしいし、今更やり直して黒棒を無傷のままにさせるのも、負担だ。負担になる「確信がある」。

 だがこう、黒棒だがコレ本当どうしたものか。原作でも一度だって破損したことのない黒棒なのだ、果たして修理と言う観点で言うと……、一瞬「ちゃおちゃお~☆」とダブルピースして舌を出しながらウィンクしてくる天才発明家の映像が脳裏を過ったが、流石にそう上手くはいかないだろう。というか向こうからこの時間軸に干渉するのもそれはそれでガバのはずだし、やはりこう、ままならぬ。

 

「まー、借金あるから賞金はともかく、別に他はそう興味がある訳でもねーしなぁ。観戦レベルで済むかな? こう、五輪的な意味合いだと」

 

「――――――――ッ!」(※笑いすぎて声が枯れて来たお母さん)

「どうどう、君も少し落ち着くがいい。というより仮にも『息子』相手に笑いすぎだ。ちょっと可哀想だろう」

「――――ハッ! はーっ、はーっ、ひっひっふー、……、あー凄い面白かったわ。何ていうか、こう、思ってた以上にこう……。帆乃香たちが懐くのもなんとなくわかるわ。

 って、雪姫はん、なんでそない顔真っ赤なん? お熱でも出た?」

「煩い! だから黙っていろこのノータリンがッ!

 …………、いや、まあ流石にここまで素直に引き下がられるというのは想像だにしていなかったが……(それこそぼーやなら何かしら理由をつけて無理に参戦を願って来ていただろうしな)」

 

「あー、それはそうとして九郎丸たちはそのまま? なんスかね。一応エントリーしたのって、俺、九郎丸、夏凜ちゃんさんと三太のチーム、釘宮、成瀬川とあともう一人? いるんだっけ。よくわからねーッスけど。チーム最大人数的には問題ないって話だったっけ。俺抜けても」

「えっ? あー、そのはずヨ。私、全然出るつもりはなかったから、ちょっと記憶はテキトーだけど……」

 

 

 

「――――いや、本気でそのまま話を進めるつもりかな? 君は。……そこまで行くと逆に図太いとも言えるかもしれない」

 

 

 

 と、ここで完全に予想外の声を聞いて思わず後ろを振り返る。そこにいたのは黒いスーツに身を包み極彩色な(雑に言うとゲーミングカラー(無駄な蛍光七色))のネクタイを締めた源五郎パイセンの姿である。眼鏡をクイッと上げて、私相手に苦笑いを浮かべていた。

 いやだから、お母さんもそうだがアンタもアンタで原作を考えればこんな場所には出てきていないだろうにお前さん……。今度は何のガバを引いたのだろうか、流石に私ばかりのせいではないと思いたいのだが(震え声)。

 

 手を叩く源五郎。と、マコトと忍が「ここからは関係者だけでねー」と黒服サングラスの男衆たち(雑表現)に連れていかれる。「私関係者ですよ!?」と悲鳴をあげる忍はともかく「ま、まだデート終わってないッスからねー! 後で連絡ヨロシクッスよー!」と叫ぶマコトのそのバイタリティは一体何なのか……。お母さんも「元気やなー、あの()」と少し引いた表情である。

 それはともかく。

 

「何でここに? 源五郎パイセン」

「だから君、その呼び方は……。まあ良い。一応、呼ばれたから来たんだよ。

 女主人(ミストレス)、どういった状況で?」

「あ、あぁ、源五郎か。そうだな。こう――――」

 

 エヴァちゃんが軽く事情説明をしているが、そもそも何故彼がこの場に来ているのかということすら定かではないのだが。

 フェイトはフェイトで自分の頬を引っ張ってきたりする謎挙動の野乃香相手に嫌そうな顔でその手を捕まえようとしている。お母さんはお母さんでそれがどこか楽しそうで、お前ら一体何なんだそのイチャつきっぷりは。カップルか何かか? 見た目の上で言うと帆乃香を相手にしている私のような微妙な共感が出来てしまう訳だが。なお一部の女性陣は「おぉ!」とか何かこう楽しそうだったり羨ましそうだったりとヘンな反応である。

 

「――――なるほど。つまり現状、近衛刀太はその仕事を受ける能力が足りず、また戦闘能力も低下しており一人でこの学園に置いておくのも少々危ない、ということですか」

「あ、ああ。

 敵はいずれ刀太を……、もっと言えば刀太の内にあるものを必要とするから襲われる可能性が高いものの、本人の能力が伴っていない以上はこちらも適当に扱う訳にいかない。

 そのうち九郎丸たちも大会に併せて調査を始めることになるだろうし、そうなるとコイツ一人置いておくのもなぁ。

 報告書を見ると、刀太としても苦手な敵が存在するようだし、それを使ってこないとも限らない」 

「で、ですが雪姫さんッ! 僕たち全員一緒に動けば――――」

「いえ、九郎丸。そういう訳にもいかないわ。わざわざ全員一塊になっていては、調査に支障を来たします。……いざとなればキリヱの予知……、ええ、まあ予知があれば何とかなるでしょうが、そう必ずしも都合よく予知を出来る訳でもない、でしょう? キリヱ」

 

 夏凜はあの後、キリヱ本人から例の「部屋」まで招待された上で、その真の能力を教わっている。もっとも能力の規模が果てしなすぎて雪姫へと報告するまで整理できていないという事情から、詳細は先送りになっているが、言葉の濁し方はそういう意味合いを込めてのものだろう。実際、それを受けたキリヱは微妙に苦々しい顔で頷いていた。

 

「必ずしもそう都合が良い結果ばかりが、視えるわけでもないのよね……」

「ふぅん? 微妙に不便だな。

 ……いや、お前のその能力で実際何度も助けられてきている訳だから、むしろそれでも感謝するべきなんだろうが」

「わ、私の事はどうだっていいのよ別に。褒めたって何も出せないしッ。

 そ、それより雪姫、結局このちゅーにのことどーすんのヨ? 危ないんでしょ?」

 

 その一言に、エヴァちゃんは「あー……」と鈍い声を出しながら源五郎の方を見た。彼も彼で眼鏡を押さえて位置を直すと、流石にもある程度手足が再生した私に手を差し伸べる。

 

「…………だったら、しばらくはこちらで受け持ちましょう。女主人(ミストレス)。少なくとも武装の問題や戦闘力について、何かしら代替え案があれば問題ないと判断しました」

「受け持つ?

 ……嗚呼そういえばそうか、しばらくお前こっちに居るんだったな」

「はい?」

 

 とりあえずその手をとり立ち上がると、彼は私やら九郎丸やらといった「あちら側」以外の面々に視線を向けて。

 

「一応、僕がかつて立て直した所属組織、というより()だね。『潟山(かたやま)組』というのだけど。

 今は仙境富士組(UQホルダー)が中心となった伏見(ふしみ)連合に組み込まれてるけど、そちらの方で件の薬物関係の取引摘発を行っていてね。どうにも動きが鈍いようだから、久々にシメようかと思っていたんだ。

 僕がつくなら今の所、君たちを含めて考えると一番安全牌だろうからね。仕事、という意味でもそれなりに色々な経験を積めると思うから、もしよければ、その大会に出る出ないはともかく、しばらくこちらで一緒に仕事をしてみないかい?」

「……………………」

 

 あっ(察し)、つまりはこれも「幻灯のサーカス」関係、水無瀬小夜子関係というか前回の続きのガバの一種ですね判ります解りたくない(自己矛盾)。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「アレで良かったん? 雪姫はん」

「…………良くはないが、下手に家出でもされて行方知れずになるよりは安全だろうからな」

 

 頭が痛いことだが、とりあえず私は源五郎のサポートを刀太に命じた。

 刀太本人は色々と混乱していたようだが、今の所は文句ひとつ言わずに素直に従っている。

 

 もっとも、夏凜が「そんな柄の悪い所に連れて行くべきではありません、真壁源五郎ッ!」と食って掛かって少し一悶着はあったが、最終的に刀太本人の意思を聞いて、あっちもあっちで折れた。

 一安心は出来ないが、とりあえずはトラブルにはならんだろう。

 

 なお、フェイトはフェイトで肩をすくめている。

 それに引っ付くこのノータリンな野乃香を見て、私も肩をすくめたくなった。

 ……しかしこうして見るとフェイトも、背丈は十分大人のそれだが、本体が相変わらず子供なだけあって本質的なところは何も変わっていないのだろう。

 

「行方知れずになると困ると言いながら、こっそり去り際の彼に『アレ』を仕込む君も君だと思うがね。信用がないじゃないか、母親のくせに」

「ハッ! これだから人の親としても中途半端なんだよ貴様は」

「何だと?」

「こういうのはな、子供が自分で頑張って両足で立ち上がろうとしている時に、手を差し伸べないまでも背中に構えて倒れないようにするくらいは、してやるものだ――――健全な親子関係と言う意味ではな。

 致命的なミスさえしなければ人生何度でもやり直せるが、それをするだけのバイタリティやらその他色々な要因要素は必ず必要になってくる。

 アイツはどうもそういう部分が薄いというか、自覚が薄い所があるからな。周囲で気付いているなら気を付けてやるのが人情だろう。

 だから出来た親としては、最低限自分がどう戦って負けても、取り返しがつかなくなる前に引き上げてやるくらいはしてやるのさ」

 

 まぁ女関係は知らんがと、内心で勝手に愚痴っておく。

 そんなもの、それこそ数百年前から私自身タッチする気すら起きんわ。

 

 これもぼーやとかの血筋なのだろうとはいえ、いくらなんでも少しは自重しろと言いたい。 

 熊本に居た頃も、自分を半分悪意でいじめていたようなクラスメイトの朝倉相手に、アイツが暴走族に乱暴されそうになった時に横のつながり五人全員で特攻をかけて普通にふんじばって捕まえて惚れられてたくせに、当の本人はいじめられていた自覚もなくそういう感情を抱かれてないだろうと考えて完全にスルーして普通のクラスメイト程度の応対をしていたりといったこともあったし。

 ぼーやもぼーやで、同年代とかクラスメイト以外の連中相手に英国紳士ぶりを発揮して普通に堕としていたところもあったから、もうどうこう言う気すら起きんわ。

 

 …………………………私の、制服スカートの裾とか、隙間の生脚とかをガン見のくせに。

 

「どうしたん? なんか、凄い不機嫌そうやけど」

「なんでもないっ。

 というか私のことはどうでも良いんだよ、むしろ気になるのはお前の方だな。

 実際どうだ? 『あの身体になってから』の刀太と顔をまともに合わせるのは初めてなんだろう」

「あー ……、せやなー。うん、フェイト君の言っとった通り『魂』は問題あらへんのやろうけど、やっぱ複雑なところあるわー。7番『だったころ』は正真正銘、ウチがお腹痛めて産んだ子だった訳やし」

「………………言っておくが、こればかりは謝るつもりもないよ。結果的に今の彼は生きているし、それが『アレ』を討ち滅ぼすのに必要な一手へと繋がる。つまりはネギ君を救うために――――」

「――――いや、そういう使わせ方はさせん。

 アレはそこの野乃香や私の息子だ」

「甘くなったものだね、エヴァンジェリン。かつての君なら、躊躇なく彼を『兵器』として運用していただろうに」

 

 いつの話をしているのだと思わず笑ってしまう。

 時と場合にもよるが、流石に悪の中ボスを気取っていた私ですら良心くらいは痛めるぞ、そんなことをすれば。

 

 そのあたり、やはり生物としての傲慢さというか…………、事実上コイツとノータリンに育てられてる「69番」と「70番」の姉妹が、聞く限りアレなことになってるのも仕方はないか。

 いや、そもそもあの二人は「本当なら」「まだ6歳」くらいだったか。

 アレというよりは、まだ無邪気なのだと多少はフォローしてやろう、親としての出来たセンパイとしては。 

 

 と、フェイトが唐突にソワソワし始めているのだが、どうしたお前。

 ぼーやの話とかをしていたから紅茶中毒でも発症したかお前?

 

「…………考えてみれば、宍戸甚兵衛を呼び寄せれば、例の『管理人』を除いた『7人の侍(サムライ・セブン)』揃い踏みだったと思ってね。諸々あって話し合い自体は延期となっていたが、早いうちに何か対応してあげるべきだろうかと――――」

「あー、別に急がなくても良いぞ?

 アイツもそこまでして、自分の因縁をすぐ知りたいわけではないだろうし」

「? そういう訳にもいかないだろう。ああまでしてネギ君……、否、『彼女』が動き始めた以上は――――」

 

「あー、そういうことやないと思うえ? フェイト君。雪姫はんも、アレやろ? どっちかって言うと刀太んことよな?」

 

 ニコニコしながらフェイトを遮りつつ、しっかりこちらの内心がどうかというのを考えている。

 なんというか、かつてはともかく今現在はコイツのお陰でフェイトが安定しているのもあるかもしれんな……。

 

 とりあえずため息をついて、私は一応答えてやった。

 

「…………まぁそうだな。

 この二年間はずっと付きっ切りで『カアちゃん』をしていたから思うが、アイツは結構危ない――――普段はそうでもないくせに、それが必要だと判断したらすぐ自分の身を投げ出す節があるからな。

 本当なら『こっち』の拠点で軟禁でもしてしまいたいくらいなんだが、それはそれでフラッと気が付いたら消えてしまってそうだ。

 だがまぁ…………、学校生活という形を中心に縛ってやれば、案外真面目だから『完全に逃げ出すようなことは』しないだろう、あの様子だと。

 わざわざそれを早く切り上げる言い訳を、アイツにやる必要もあるまい」

 

 しばらくはそれで様子見だと言うと、フェイトは単に「成程」と言い、バカ娘は「へぇ~?」と何か言いたそうなことのあるニマニマ笑いをしていた。

 

 何だお前、ケンカを売ってるなら言い値で凍らせるぞ貴様。

 

 

 

(???「意外と自分たちの母校で学校生活を楽しんでいそうだったからっていう親心というか、乙女心みたいなものは自覚が薄いのかね、キティも」)

 

 

 

 

 




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ST127.爪痕から目を逸らす

毎度ご好評あざますナ! 深夜(ry
 
切りはちょっと悪そう何ですが、冒頭だけ先行でアレです。


ST127.Accept The Sadness

 

 

 

 

 

「――――――よぉ、随分ゴキゲンじゃねぇか? 妹。せっかくだから俺も混ぜてくれよ。『72号』」

「――――『17号』でち? 失敗続きで既に素体の原形も崩壊したはずの出来損ないが、何の用でちか」

 

 既にネギ=ヨルダの庇護から出奔して久しいくせに、と語る少女。身長は私よりもやや高め、目は三白眼で髪型は真ん中分けなツーサイドアップ。肌は恐ろしく白く、そして体はジッサイ平坦である(失礼)。ただその額には、紋様のように浮かび上がっている縦に開いた「第三の目」。

  

「オイオイ、こういう場合はちゃんと『姉サン』って呼ぶべきなんだぜ? デュナミス様とかディーヴァのヤバイ姐サンからすら教わってねーのかよ」

「私はそっち側には行ったことがないでちが、違和感があるでち――――出来損ないの姉サンの、その身体には」

「ん? コレか。まーアレだ、『生え変わった』んじゃねーか?」

「冗談は今のその立ち位置だけにしておいて欲しいでち。その立ち位置にも文句はあるでちが」

 

 そんな黒く古いセーラー服の少女と相対するのは、「右腕を変質させた」少女。髪型はいつかの時と異なりポニテールとなっており、前髪はぱっつんとしいる印象だ。そしてタンクトップにミニスカートとブーツな恰好をした彼女は――――両足共に「義足ではない」「綺麗な素足」をしていた彼女は、薄い金髪をなびかせながら、ニヒルに微笑み私を見やる。

 

 スクラップが散らばるこの廃棄場。遠くを見れば軌道エレベーターが聳え立つ「私の精神世界」のように一見して視えなくもないこの場所において。その遭遇は必然ではあったが、状況に関しては完全に想定外も良い所だった。

 

「よー、大丈夫かよ? 『お兄ちゃん』」

「…………お兄ちゃん、だと?」

「へ? ――――あっ! い、いや違ッ、そんなんじゃなくって、えっと、兄サン! そう、兄サン! ヘーキかよ、ロクに反撃できてなさそうだったけどさ」

「いや、というかお前今出て来て大丈夫なのか? ちょっと前に思いっきり学園都市の方で――――」

「あ~~~~、とりあえず黙ってろってのッ! そんなに大変そーなら、少しくらいは手を貸してやるから。弱い者いじめみたいで、絵面が酷えし」

「介入理由が雑でち。…………そんなに簡単に絆されてて、いくら何でもチョロすぎではないでちか?」

「ほ、絆されてとかいねーしッ!」

 

 若干慌てて顔を赤くしながらも、しかしそのままテナ・ヴィタ――――カトラスは、こちらに額の「第三の目」を向けて来る少女を相手に、腰から仮契約カードを出してニヤリと嗤ったのだった。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 そもそも何故そんな、原作基準で考えてみて展開が素っ頓狂にちぐはぐな状態になったのかと言えば、色々あったがさて何から思い出すべきか――――――――。とりあえず話を数日前に巻き戻す。

 

「チャ・ン・刀ゥ! 一緒に飯食いに行こうぜェ? 時坂も一緒にさ~ァ~?」

「え、えぇ!?」

「いや九郎丸、その照れっぷり意味わからねーから……」

 

 クラスメイトの坂田太笠(さかた のぶかさ)である。顔立ちはイケメンでサッカーも得意かつ実家もそこそこボンボンなのだが、そのオールバックな髪型と軽いノリとテキトー極まりない言動でクラスでもモテモテ、ではない意味でそこそこ人気がある男だ。

 そんな彼が何故かクルクル回りながらこちらに接近してきてくる様はその声の朽木〇哉(兄様)めいたイケメン具合を色々と台無しにしている。なお手に持っているものは自炊してるのか使用人にでも作ってもらったのか手作り弁当だったりして、商売人を志す一般中学生(自称)的には中身がグチャグチャにならないか心配だ(マジレス)。

 

 昼休みの御柱西中(つまり旧麻帆良本校)、ネギぼーずと愉快なクラスメイト達がわいのわいのしていた教室の雰囲気を思い出すここで、授業終わりのチャイムと共に坂田がトリプルアクセルでも極めそうな勢いで誘いに来たのだ。普段なら九郎丸は三条(クラスメイトの女子)とか例の豪徳寺とかの女子グループに回収されることが多いのだが、今日はそれを見越して先行してきたのだろうか。

 九郎丸も九郎丸で男子から食事に誘われる経験は熊本以降も結構あるのだが、クラスメイト男子からというのは初めてだからか、ヘンな風に困惑している。……というより、ひょっとしたらまた身体の割合が「女性側」に傾いたのか? その照れ方は。前の悪夢のような嫁力選手権のビデオいわく「大体七割」くらいが常に女性身体な九郎丸だが、そこから更に傾くようなイベントが何かあったろうか……、い、いや、そんな怖い話はともかく。

 

「別に良いけど、他の奴も誘うけど良いか? 『市川人形』以外でって意味だけど」

「おぉ? まあ『市川人形』今日休みだからなー。でー誰だ? ひょっとしてまた新しい女子か!? ――――ハッ、ということはもしかして以前から噂になっている同時期に転校してきた――――」

「――――釘宮、どうせ聞こえてるだろうから飯食いに行こうぜ」

 

 自分の席で黙々と片づけをしているニット帽の釘宮大伍へ向けて声をかけた。帽子の端が若干ぴょこぴょこ動いてたのが見えたので、ほぼ間違いなく我々の話は聞こえて居ただろう。そんな彼はこちらを横に見て、眼鏡の耳元を押さえて位置を調整した。

 なお、そんな私たちを見て愕然とした表情の坂田である。「な、何でクラスでもひたすら無口を貫き通すクールオブクール、一部女子から『氷の王子様(笑)』呼ばわりされてる釘宮がァ!?」とか褒めてるんだか妬んでるんだか弄ってるんだか判らない言葉を高速詠唱でのたまい出したので、軽くチョップ。

 

「いまいち誘われる謂れがないと思うんだが」

「まぁそう固い事言うなよ。飯、奢るからさ――――坂田が」

「なんで!? いや別にそれくらい良いけどッ!?」

「なら遠慮なく。――――新しいオペアンプを買おうと思っていたところだ、節約できるならそれに越したことは無い」

「嗚呼意外とノリ良いのねン……!!」

「お前さんエレキ弾くのかマジかよ、全然匂わせてなかったろそんな話全然……」

「凄い刀太君、一切物怖じがないや……」

 

 九郎丸に謎の感心をされているが、そんな彼の背中に三条はウィンクしてサムズアップ。こころなし「ガンバ!」とでもエールを送っていそうな謎の得意げな笑みだが、そっちはそっちで結構謎な交友関係を築いているらしい。

 

 なお最近こうしてクラスメイトと食べることも少なくないため、昼食の準備は弁当より御握りが2つ程度。私も九郎丸も、その上で時と場合に応じて追加で物を買って食べている。このあたりは学生時代の食欲のままなので、特に違和感なく弁当やら総菜パンやらを追加することが出来るのだった。大人数のラッシュにも流石に慣れてきたのもあるし、おにぎりを持って来ているのもあって一品だけに狙いをつけられるのが私と九郎丸には功を奏していた。

 そしてそれぞれ適当に買って屋上へ。なお本当に奢ってくれるあたり坂田は普通に良い奴である。ご馳走様と同時にスマンなと軽く応じておく。なお坂田は坂田で転校生である私と九郎丸の二人がクラスに馴染みやすいように色々気を遣ってくれているので、私も特になんら気兼ねなく素直に頭を下げられた。

 

「あ、ダイゴ君!? め、め、め、珍しいお昼時に外に出てるなんてーっ!」

「誰、あの美少女? 誰あの美少女!!?」

「釘宮の従兄妹」

「成瀬川さんだね」

 

 と、道中に遭遇したツーサイドアップをブンブン振り回している成瀬川ちづを加える形で(というより「私も行きたいですー!」と大声で主張、早々に釘宮が鳩尾を押さえ始めたあたりで決定である)全員で屋上へ向かった。普段なら九郎丸や釘宮たち犬上一族のいない状態で市川人形というクラスメイト(なお苗字である)を交えての昼食が多いのだが、まあそれはそれ、これはこれである。

 

 というわけで、流石に校舎のモデルがモデルであるせいか、庭園風になっている屋上で適当な場所を見つけて座り、昼食開始。

 案の定、無言の青空食卓である。

 

 九郎丸は「こんなに黙々としていて良いのかなぁ……」みたいな顔をしながらコールスローをお箸でつまみながら何故か木製ベンチの上で正座。「嗚呼、話題が無ぇ……」と心で涙でも流していそうな坂田はもそもそとフルーツサンドを意外と小さい一口で食べる(女子かな?)。成瀬川は釘宮に話しかけたそうに自作のお弁当(色が全体的に茶色い、というか野菜が少ない)を食べており、釘宮に関しては総菜パンのチリドッグを虚無の表情で食べていた。

 

 静寂、周囲の生徒たちのわいわいガヤガヤとした話し声が聞こえてくる。いまいち内容は要領を得ないが、それでも以前よりは落ち着いている……、浮つき切れないのは、流石にダイダラボッチ昇天時のアレのインパクトが強すぎたか。とは言えそれでも前を向いて生きていられるのは、今を生きている人間だけの特権で。

 

 

 

「―――――って、何そこでお通夜みたいな顔してランチしてんのよ!? もっと学生らしく元気な感じになりなさいヨ!」

 

「ひゃッ!」

「おおおおおおッ!」

「きゃあッ!? き、キリヱちゃんっ!」

「ははっ、は……」

「…………」(無言で胃を押さえる)

 

 

 

 そして、唐突に私や九郎丸の背後から声をかけてくる桜雨キリヱである。両手を構えて上げて「ぎゃーッ!」とちょっとした怪獣めいたポージングをして叫んで来る(失礼)彼女に、私や釘宮以外は大体驚いていた。九郎丸に関してはおそらく殺気や害意が無いから気付かなかったのだろうが、それはそれとしてお前ホントその「きゃあっ!」って甲高い叫び声いやお前ホント……(女の子)。

 とりあえずこぼれそうになったシチュー(マカロニが浮いている即席麺系のもの)をフーフーして一口飲み落ち着く。

 

「き、キリヱ大明神じゃないッスか、一体全体どうしてこんな下界に舞い降りられていらっしゃられてんでごぜいましょうかッ!?」

「アンタに大明神呼ばわりされる謂れとかないわよこのボンボン生え際!」

「ボンボン生え際!?」

「いや、まー確かにボンボンって言えばボンボンだけど、生え際は言いすぎだろ生え際は……。ワックス付けすぎてテカってるのは俺も思うけど」

「チャン刀お前もか! 裏切りものぅッ!」

「っていうかイヌメガネ居るじゃない。何? どういう組み合わせ? このちゅーにだけとの組み合わせだったらまだわかるけど。同病相憐れむみたいな感じで」

「とりあえず褒められていないってことだけは判るよ」

「イヌメガネ?」

 

 言いながらも、釘宮は黙々と食べ進める。そうかお前、外で食べようとすると成瀬川に高確率で引っ付かれて噂になるから極力教室内で食べたかったけど、それでも誘われたからには義理があるから外に出て来ざるを得なかったのか、そっかー ……。素直に悪いことをしたと、軽く頭を下げると、彼も彼で虚無の表情のまま肩をすくめた。気にしていない的なニュアンスを感じられるようになっているのは、こう、大明神がおっしゃられた通り同病相哀れむ的なサムシングである。同族嫌悪が発生しないのは、おそらくお互いがお互いに被っている被害が被っていないからか……。

 なお「イヌメガネって何ですか貴女さっきからちびっ子のくせにッ!」と突然ヒートアップした成瀬川に食って掛かられるキリヱ大明神。当然のようにちびっ子と言われてキレない彼女ではなく、それを「まぁまぁ」と止めに入…………ろうとして成瀬川とお近づきになろうとする坂田という絵面が軽いカオス状態であった。

 

 なおキリヱ的に、釘宮が前回の事件で思ったほど役に立たなかった的な感想があるせいか、普段の私並に当たりが強かったりもする。もっとも外見が大層お可愛らしい(失礼)ままなのと、言うほど言動に悪意のニュアンスが含まれていないので、軽く放置しているようだった。あるいは実際、思ったほどに役に立てなかったと気にしているのだろうか、最近以前にもまして胃を押さえている気がする。

 

「…………ところで近衛、何で俺を誘った。誘われたことが迷惑とまでは言わないが、いささか理由が思い当たらなくてね」

「まーあんまり理由がある訳でもねー、って訳でもない訳でもない訳でもない訳でもない訳でもない訳でもない訳でも――――」

「どっちなんだい……?」

「刀太君、ひょっとしてループしたものの結論、どっちにするかわからなくなっちゃった?」

 

 いや、実際彼個人に用件はあったのだが、誘ったこと自体にはそこまで理由はないのだ。少なくとも釘宮とは知人から友人にクラスアップするくらいには胸襟を開いてお互い色々抱え込んでいた内心をゲロった(汚い)つもりである。そう悪くない関係は築けているつもりだったが、学校でこうして昼食を一緒に摂るというのは得意と言う訳でもないように見える。どうやらそこまで友人関係に明るい性格ではないということらしい。

 ……というより幼少期は犬上小太郎が過保護を発揮しいじめられっ子だった彼を保護者的立ち位置から守っていたらしいので、身の安全は保証されたが友人はさほど多くないのかもしれない。その手のスキルが磨かれていないと考えると、中々にこう、何とも言えない感覚が……。いやそれはともかく。

 

「あー、ちょっと聞きたいことがあってな。教室だと色々あんだろ? お前さんの家の流派の話とか」

「ウチの流派ね。どっちの話だい? 奏でる方と(さかん)な方と」

「いや内実を聞きてーって訳じゃなくってな……、ん? 九郎丸どうした? って、おっと」

「と、刀太君、そういう風に技を習うのなら神鳴流をオススメするよ! 刀太君のお祖母様も修めていたわけだし、絶対適性はあると思うんだ!」

 

 私の両手を握って距離を詰めてくる九郎丸だが、お前さんのその謎のハイテンションを前提に考えるとまるで変態の素質があると言われてるように聞こえて甚だ遺憾である(失礼)。一旦それを離させて、そういう話じゃないと苦笑い。

 

「そっちの実家の流派だけど、武器を使った技とかってあるよな。よく弓でお前さんが色々やってるようなのとか。そういうのを見込んで、ちょっとツテがあれば紹介してほしい感じの話なんだが」

「いや、そうだね……、勘違いさせると問題が出そうだ。少し話そうか」

 

 右手と左手を顔の高さに上げ、それぞれグッと握る釘宮。と、その親指側の隙間から、ミニチュアサイズのような小さく黒い狗のようなものがひょっこり顔を出した。いや、形状もどこか仔犬めいている。

 

「あっ、かわいい……」

「元々、狗神遣いといっても二種類存在する。精霊としての狗神を使役するやり方と、狗神を身に纏うやり方。この場合、狗神自体にも種類があるのだけれど、ややこしいからそこは省く。

 僕は『両方使える』けれど、使役する方法の際に魔法具を間にかませることで、少し異なる性質を帯びさせているんだ。

 つまり、ウチの流派に直接武器を使用した技はない…………、応用編としてはあり得るけれどね」

 

 左手の狗神はそのままぼうっと音を立てまち針のような形状に姿を変え、もう片方の狗神は人差し指にまとわりつき、黒く鋭い爪のような形状へと変化した。と、それらを足元の影に触れさせると、その姿はいつの間にやら消え元の状態に。

 そんな釘宮に対し、私は少々落胆した。

 

「それで、一体どう言う用件だったんだい?」

「あー、そうだな。武器修理……、というより魔法具の修理になんのか? たぶんお前の祖父ちゃんって、魔法世界とかで絶対修行とかしてると思ってるんだけど。そっちのツテで何か良い業者とか知らねーかなって思ってたんだが……」

「なるほど。武器を扱う流派の技があるなら、確かにそういうツテは作っていそうだね。俺の祖父は。

 けど残念なことに、そういうまどろっこしい……というより手入れが必要な作業を苦手としているから」

 

 そう言われてしまえば納得しかない。「ネギま!」時代の犬上小太郎の熱血! 友情! 努力! 勝利! な性格からして、自前で流派を作ろうとするなら得物はこの身一つと言い出しそうと言えば言い出しそうではあるか。

 少し肩を落とす私に、九郎丸は「元気出してっ」とポンと手を置いてくる。

 

「でも魔法具……、って、黒棒だったっけ。あの重力剣。確かに折られたままだと問題だよね。代わりの武器が何かあれば良いんだろうけど……」

「いや、まーメインウェポン変えるつもりはねーんだよなぁ。使い勝手良いし、今のところ血風射出して破損しなかったのってアレくらいだったし」

「武器が壊れて……? えっと、大丈夫なのか近衛。確か借金あるんだろう? 組織の仕事で稼ぐのに支障があるんじゃないだろうか」

「というわけで絶賛支障が出てるわけで」

「そうか。……、そうか」

 

 特にそれ以上会話を交わす必要もなく察した釘宮の虚無の目に、私も似たような目で引き攣った笑みを返し。

 それになんだか、九郎丸がヤキモキしているような微妙な焦り顔をしていた。

 

 

 

 

 




活報の[光風超:感想1000件(大体)突破記念募集] の方もまだまだ内容募集中ですナ!
期限決まりましたので、ご注意くださいっ!
 


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ST128.終わった後の物語

毎度ご好評あざますナ!
 
今回も例によって独自解釈注意・・・、サリーちゃんカトラスちゃん登場まではまだしばしお待ちを汗


ST128.idLe Life

 

  

 

 

 

 さてお昼休みが開けて早々。件の「彼女」との遭遇、その発端としては真壁源五郎と共に仕事に出たことに起因する。

 

 基本的な活動日は休日、緊急時は学校に病欠(と言う名の裏側では事情判ってる奴)を出して出動と言う形にしてもらい、この日はめでたく初出動の日。授業は午後を休ませてもらって、瞬動など使うほどではないが足早に向かったのだった。

 学園の入り口手前にいつか見たような見なかったような黒塗りの高級車が一台止まっており、扉が開くとそこの奥には源五郎パイセンがいた。座席で足を組み、踏ん反り返りながらソシャゲをして遊んでいる。格好は相変わらずスーツだがネクタイは黒い。表情もどこか陰鬱で、まるで喪服である。

 

「よろしくお願いしまッス!」

「うん、ヨロシク。

 …………それで、何故君までついてきているんだい? 時坂九郎丸」

 

 源五郎の問いに、私の後に乗り込んで来た彼女は苦笑い。……彼女と言いつついまだ表向きは男として通しているのは「ま、まだ完全に性別分離が終わっていないしっ」という事情らしいがお前それで良いのかお前(震え声)。(???「乙女心ってやつかねぇ……」『!』「いやアンタも同じ立場だったら似たようなことしているだろうが」)

 

「その、僕も刀太君とホルダー加入、不死身衆(ナンバーズ)任命は同時期でしたから。そういった話は細かく聞いておいた方が良いのかなと思って。

 一応、夏凜先輩たちにも聞いたんですけど、メンバー内でもあんまり源五郎先輩のお仕事について詳しい人が少ないらしいって。だから少しでも一緒に行ければと思いまして」

「…………まあ飛び入り参加だけど、問題ないと言えば問題はないかな。ただ一つだけ二人に言っておくことがある」

「「言っておくこと?」」

 

「――あまり引かないようにね。あっちだと、僕にも立場というものがある」

 

 そう言って源五郎は眼鏡の位置を調整し、私と九郎丸は一瞬顔を見合わせたのだが。

 

 

 

 彼が言っていたことは、概ね予想通りと言うべきだったか、予想外と言うべきだったか。

 

 いかに新東京、アマノミハシラといえど、都市の外れに行き外のスラム近くになった立地、さらに路地裏やら整備されておらず倒壊しかかっているビルがひしめく光景はちょっとした世紀末。背後を見た時の繁栄具合と比較して、その落差に驚く人間も多いだろう。

 だがそんな中で、男衆たちが運転する車がとあるビルの手前に止まる。立ち上がる源五郎に促されるまま二人で降りると、事務所の中から大勢人が出てきて頭を下げた。ホルダーに勤めている男衆とも違い、それぞれ色々独自色のある「派手な」連中は全員その動きの統率のされ方にブレがない。何というか、ホルダーの男衆の場合動きに微妙なラグがあると言うか、おそらく身体を一般人サイズに調整したりする関係で色々と無理が出てるせいなのだろう。そして一同が「ご苦労様です!」と大声で頭を下げる様に、私と九郎丸はちょっと引いていた。なんならほぼ全員サングラスをかけていないこともあって、視線の鋭さや顔の傷などの威圧感が強い。実際に戦ったらまた別な話なのだろうが、メンタル的に青少年な九郎丸と小市民な私はやはり気圧されていた。

 

「おう、今帰ったぞ。ご苦労。

 影巻、話は忘れてないな。ウチのシマに手ェ出したシノギしてる連中、顔、割れたか?」

「はい、真壁の叔父貴ッ! (タマ)ァ取るんじゃねぇってのも守ってやすッ」

 

 先頭で頭を下げる小さくリーゼントめいた髪型にサングラスの男に、源五郎が適当に確認している。その振る舞いと言うか動きが完全にヤクザ者のそれであった。気のせいか語調までガンガンに詰めている形で、爽やかクール眼鏡の気配はどこかに蹴り飛ばされている。もはや完全にインテリヤクザのそれであり、気のせいでなければ目つきまで変わっている。

 人当たりのそう悪くないお兄さんの意外な一面に九郎丸は顔がやや青く、とりあえずそんな彼女の肩を軽く叩いて気合を入れさせる。

 

「(と、刀太君、結構落ち着いてるね)」

「(まぁたまーに組がどうこう言ってることもあったし、そう言う関係なんだろうってのは思ってたからなぁ)」

 

 より厳密には原作知識なのだが、細かくは知らないといえば知らない。ただ源五郎本人がプレイしていたベースになっているゲームが龍が○く(割と何でもあり)な世界観のそれなので、彼の立ち位置もそれなりに準じた立場でこの世界に異世界転移されているのだろう。振る舞い一つとってもどことなく桐〇ちゃんを想起させることもあり、甚兵衛に義兄弟の契りを交わして弟子入りした流れを考えても相当に漢臭い(ヽヽヽ)話だったのだろう。

 そしてそんな私たちに近寄ってくるヤクザ者たちが数人。何だ何だと我々を数人は舐めてきているような視線のふりかたである。特に九郎丸相手には綺麗な顔をしてやがんなぁえぇ? とガンを飛ばしている辺りからして、おそらく所謂お雑魚である(適当)。実際、源五郎と話している影巻とか言ったか、彼を筆頭に数人は私たちを一瞥した後は「視界に入れようともしない」。むしろ避けているようにすら感じられるので、勘なのかそれ以外の何かなのかはともかく、こちらの実力を察しているのだろう。

 

「真壁サン、このガキ共何なんスか?」

「真壁の兄貴のオモチャって訳でもねーでしょうし――――」

 

「馬鹿野郎共がッ! 見て何も『感じ取れ()ぇ』ならガタガタ抜かしてんじゃねぇぞッ!

 大体何が兄貴だテメぇ()ッ! 叔父貴と呼べ!」

 

 影巻と源五郎に呼ばれていた男がサングラスをずらして大声をあげる。ひいぃ、と一瞬うめいた後に「スミマセン」とやや憮然としながらだが頭を下げて来た。と続けて源五郎が視線だけで殺せそうな目をその新米っぽい連中に向ける。

 というか威圧感やら剣呑な雰囲気に伴い、画風からしてもはや別な漫画と化しているレベルである。陰影つけられるアシスタントが変わりましたか?(震え声)

 

「一応、俺の後輩だ。『アソコ』でのなぁ。つまり見た目で騙されんじゃねぇ、俺みてェな『バケモン』ってことだ。八つ裂きにされたくなかったら、縁日で射的(テキ)やってる時くれぇの愛想撒け」

「「わ、わかりやしたッ!」」

 

「ば、バケモノ……」

「まぁ否定はできねーからなぁ」

 

 一喝とは言わないまでも注意だけして源五郎は仕事の話に戻るらしい。

 ショックを受けている九郎丸だが、彼女に関してはその身にご神体のようなものを取り込み一体化している上に呪術的な方法で疑似的な不死身であるからして、この段階で一般人類はその気になったら勝てるはずもない。私というか近衛刀太という観点で見ても吸血鬼(魔人とかニキティスは言っていたか?)であるのだから、その気になった際の被害度は一切変わりあるまい。つまりはどっちもバケモノであるし、専用装備もなく通常の物理兵器程度では全く苦も無い訳である。

 

 それでも約一名、こちらに足をかけてこようとした男がいたので、それに関しては脚部だけ死天化壮しながら歩き、引っ掛けてきた足を蹴り飛ばした。九郎丸に先行して移動していたこともあるが、私はともかく九郎丸があんまりこういう場に慣れるのは精神衛生上良くないので、必要経費である。

 

 なお死天化壮の特徴としては「座標固定」と「魔術的な理屈での移動」であり、つまりは見た目や実際の質量はともかく、強度だけで言ってもぶつかった相手の体感はそれこそトラックと正面衝突したくらいの勢いでもおかしくはないと言うことだ。

 なので足を押さえてうめき声を上げるスキンヘッドの青年の襟首を「持ち上げて」、下から見上げるように笑いかけた。

 

「ま、そういう訳でヨロシクだ。ホラ」

「ッ……!」

 

 足は折れていないだろうがしばらくテープで固定した方が良いかもしれない。そしてそんな彼と私の様子を見て何かを察したのか、九郎丸が少し非難するような目で見て来た。ビビっている訳ではないにしろ借りて来た猫めいて声が出ない九郎丸だが、それでも真っすぐに善性を向けてくれるのは有難いところである。が、それはそれとして誤解しない程度に後で弁明はしておこう。

 なおそこまで反抗的だった彼は、周囲数人が寄ってたかって頭を下げさせる。ケジメはつけないといけないという理屈から私刑に処されたりこちらが面子の問題で襲い掛かられないないあたりは、まだ民度が良いのかもしれない。……そう思ってしまう時点で私的なヤクザ観は割と末期なのだろうか(白目)。

 

「お前ちゃんと頭下げろッ! 真壁の叔父貴だってアレで『ずっと年取って無ぇ』んだ、この人らだって本当は……」

「あー、いや別に構わない。『私』は気にしない。とはいえこういう場は初だから、物珍しくはあった。そこだけは謝る。

 それはそうと、源五郎先輩の話は色々聞いてみてーかな?」

「(刀太君、あの物言い意外と様になってる……?)」

「真壁の兄貴の話ならアレだろ? そりゃ生ける伝説『不死身の虎』『潟山の虎』って言ったら真壁の兄貴しか居ねぇからな!」

「そうそう、だからお嬢だって――――」

「あっ馬鹿お前ッ!」

 

 と、話がそこに飛び火しそうになった瞬間に猛烈な「嫌な予感」。思わず黒棒に手が伸びかけるが、発した相手が源五郎と知って納得である。原作描写からしても彼個人が割り切って話す分にはともかく、他人の口からおいそれと面白半分に語られたくない内容があるのだろう。

 というより、概ね察しは付いているのだが。おそらく「この世界で」出来た、おそらく死別しているだろう恋人関係の話のはずだ。一応頭を下げると、源五郎は肩をすくめた。

 

 事務所の廃ビル一歩手前なそこから地下に移動する私たち。こう、下の施設の方は案外としっかりしたつくりであり劣化が見られず、そして一番奥の大部屋のような場所を開ける影巻。源五郎に促されるまま中に入ると、そこはちょっとしたバーのような施設だった。ただカウンターには誰もおらず、線香のあげられている位牌が一つ。

 

 しばらく三人にしてくれと言うと、影巻は頭を下げて退室していった。

 

「……はぁ。本題の仕事の話の前に、これで少しは緊張がとけると良いのだけれど、九郎丸」

「――――へ? あ、あ、は、はい、そうですね、叔父貴」

「いや呼び方移ってる移ってる……」

 

 思わず慌てだす九郎丸の背中を軽くポンポンしながら落ち着かせる私である。対して源五郎はカウンターの裏側から牛乳パックを取り出し、ワイングラスに適当に注いで私たちに渡してきた。

 

「若い連中が済まないね。だが、さっきみたいに少し『折って』くれた方が彼のためにもなる。ああ見えて繁華街で『擬態』してる時は普通の営業マンらしく、銭勘定はキッチリしてるらしいからね。手を出すと危ない、と分かれば下手なことはしないだろう」

 

 九郎丸の方に視線を向ける源五郎だが、どうやらちゃんと私のフォローはしてくれるらしい。流石のパイセンである。もっとも私の対応も対応で正しかったのかは不明だが、おそらく私と九郎丸の「現在の」ステータスをゲーム的に見て、お互いの心理状態から感情の具合を察知しているのだろう。

 

「折るって、源五郎先輩? それでも刀太君、一般人相手に……」

「いや一般人じゃねーから。下手にナメられて仕事の邪魔されたり変なことされたら、そっちの方が拙いだろ? 今回のは特にアレなんだから。

 別に普通に応対してくる分には特に『何の感情もない』から普通に応対するけど、こーゆーのはトリアージだろ。優先順位は付けとけ」

「うーん……」

「納得できないのなら、そうだね……。九郎丸、君を余計なトラブルから守るためにあえて泥を被った、と捉えて上げると良い。実際あの場で手を出したのはあっちの方が先なんだから、あまり責めてあげないように」

 

 いまいち納得していない様子の九郎丸だが、それでも私にありがとうと一言。おそらく流派の関係もあって、人外の力は正しく人外ないし非一般人相手に振るうべきだという考え方なのだろう。そのあたりは多少、私とは違う。

 正当防衛を盾に何をやっても良いとは言わないが、ある程度お互いに妥協できるラインを作らなければいけない場合もあるのだ…………、でないと別種の死亡フラグとなる可能性すらある。私や九郎丸など「不死者」ならばまだしも、忍やマコトなど「一般人」相手では、最悪の場合を想定しなければいけなくなるのだから。

 

「……まぁウチは『みかじめ』とかはやっていないから、そういう意味では他の連中よりも比較的『クリーン』だったけど」

「それどうやって稼いでたんスか……」

「と、刀太君本当、なんていうか物怖じしないね……」

「物怖じしないってその意見には同意するよ。逆に強がっているというのもあるかもしれないけれど」

 

 強がっているか。……まあ基本的に痛いのは嫌なので、強がっていると言えば強がっているのかもしれないが。状況的に酷いことにさえならなければそれで良いという認識ではあるのだ。そのためなら虚勢くらいは張るし、なんなら最悪「本気で」殴り飛ばす必要すらあるかもしれない――――。

 っと、これでは危険思想になってしまうのでは? とセルフツッコミを入れる。一度深呼吸をし、グラスを傾けて飲んだ。

 

 苦笑いしつつ、源五郎もグラスから一口。

 

「この辺りも、数十年前まではもっと賑わっていたんだけどね。軌道エレベータに運び込む資材あたりでテロがあって、それが切っ掛けで妖魔騒ぎがあって今じゃこの有様さ。

 こんな所に迷い込んでくるのは、後ろ暗い所があるか、大きなものを背負って一旗揚げようって連中くらいなものだよ。ただ妖魔の話で言うと未だにここは危ないからね」

「それで、あんなあからさまにゲームみたいなヤクザヤクザめいた格好してるんスか?

 そーゆーのって、意外とフツーに社会生活とかにまぎれてる印象でしたけど。だから逆にこう、一般人を近寄らせないために威圧する、みたいな意味で?」

「そういう側面も無い訳じゃない、かな。

 ウチの組の商売は――――主に妖魔関係がメインだったから。退治だったりトラブル解決だったり、今でも仕事としてはそれを継続している。何かしら大規模魔法暴走事件でも起これば率先して救援にあたるし、それにカコつけて政府の建築系の入札とかも…………いや、まあそういう話は止そう。今は関係ないか」

「あー、確かになんか怖ぇから、追及はナシの方向で。って、確かクラスメイトも言ってましたけど、妖魔って得ても売ってもケッコー儲かるんでしたっけね……。

 って、どうした? 九郎丸」

「……………えっと、その、カウンターの奥にある写真は……」

 

 九郎丸が指さした先、カウンターの上に置かれている、やや色の褪せた写真。髪型が違うが大人版エヴァちゃんこと雪姫(ベリーショート)のスーツ姿、今よりも顎髭が適当で相変わらずコンビニ店員みたいな恰好をしている甚兵衛。その隣にいるのは例のカラフルなネクタイを着用して微笑んでいる源五郎と――――彼と同年代に見える銀色の髪の女性。雰囲気がどこかぽやぽやして浮世離れしているような微笑で、額から二本の赤い角。亜人か妖魔かの血を引いているのかは不明だが、その距離感からいくらか察する物が有った。

 

「……まぁ、隠している訳でもないけれどね。

 僕の大切なヒト……、ココを継いでボスとなっ()、その彼女だよ」

「過去形、ッスか」

「それは…………、済みません」

「いや、別に構わない。面白半分に武勇伝交じりに語られるのは我慢ならないけれど、ごく普通に、知り合いの亡くなった家族(ヽヽ)を少し悼んでくれる。それくらいの程度の、普通に軽い感傷で充分さ」

 

 わずかに遠い目をしながら眼鏡を直す源五郎。どこか遠い目をしながら、ふたたびグラスのミルクを一口。

 

「…………そもそもアイツも、ヤクザ商売なんて乗り気じゃなかったからね。こっちで世話になって、初めは用心棒として雇われた僕だったけど、気が付けばこのザマだ。

 元より『生きること』自体への執着は薄かったけど、この『不死身』を自覚したのは彼女を庇って『僕だけ生き延びた』時だったからね。…………先輩として忠告するなら、物事には時に、僕らの全く想像できないことも多い。

 だから色々な展開を想定して、心構えだけでも準備しておくべきだってこと、かな」

 

 決して自分の能力だけを過信してはいけない、何があるかわからないからね――――と。

 声ににじみ出る寂寞な空虚さに、九郎丸は言葉が続けられず。私も頭を下げて、小さく応じることしかできなかった。

 

 

 

 ………………それはそれとして、その写真の彼女に眼鏡をかけると完全に「ネギま!」時代の祝月詠のそれを思い起こさせる顔立ちだったりして、別な意味で感想が出て来なかったりもするのだが。

 

 まぁこう、漫画で顔のパターンと言うのは美形を描こうとすればするほど画風的に似通って行ってしまうものなので仕方ないと言えば仕方ないのだろうが(明日菜とかエヴァとか)。

 

 

 

 

 




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ST129.明日のため断ち切る

色々お遊びな大人版と
色々誰得な再登場・・・


ST129.Memoriae Semper Dulcem Exitum

 

 

 

 

 

 

「――――嗚呼、頼むぜ。……何、そっちもそっちで上手くやって、俺らも俺らで上手くやる。そこに何の違いもねぇだろ?」

 

 髭面に和装の男。カシラと呼ばれているその男が電話を切るのを見て、その男の右腕たる彼は冷汗をかいていた。その姿に違和感を覚え、どうしたと声をかける。

 右腕であるその男は、握った拳のまま目を伏せた。

 

「…………親父、俺達ァこのままで良いんでしょうかね」

「何今更言ってやがる。俺ァお前のそういうちゃんと頭キレる所ァ評価してるが、鶏を息子のように育てた覚えァ無ェぞ」

 

 発破をかけるためのその一言だったが、しかし男は震えたままである。それを不可解に思いながら、何をそう抱えているのかと吐き出させようと言葉を重ねる。

 

 もともと彼らの組は、それこそ今から百年以上も昔よりシノギをしていたのである。頭である彼の祖父の時代より、自分たち堅気ではない連中が生きるには、それなりに道を外れる必要もあった。当然のようにそれは時代の流れに翻弄され、東京がオンダンカで海に沈めどそう変わりない。拠点を移そうが何をしようが、やることは変わらない。自分の実の親父が組を仕切る時代、軌道エレベータの建造をはじめ街全体の総作り替えめいたもの。何から何まで手を出して、自分たちでしっかりと地面に足場を固める。移り住んだこの土地でも他のシマ荒らして潰して減らしてのし上がる。社会に擬態しながら、それをするのがごくごく当然だった。

 自らの組からすれば、かつては他の所の傘下だった潟山(かたやま)の組など、当然のように唾を吐く対象だ。そもそも魔法だ何だ、亜人だの魔族だの「ガキ共のお遊び」に出てきそうな馬鹿が表社会にも出始め、世の中どんどん馬鹿になっていくように男には見えていた。当然のように「その手の存在」は父も祖父も、それなりに聞き及んではいた。自分たちの雇った連中に、そういった類の奴がいたのも認識はしていた。だからといって、組に積極的に引き入れるようになったらオシマイだと、彼の父はそう断じていた。情婦だった女を正式に娶った潟山は、そのまま自分の組をどんどんナマの人間と「そういう」連中との混合にしようとしていた。

 その動きが、ひたすらに気持ち悪かった。ガキの遊びでもないことに、得体の知れない連中を抱き込んであまつさえ自分の子供すらそれにする奴の神経が。

 

 たとえその原因が、自分たちが無理にシマを荒らすようになった結果、他に選択肢が無くなった結果なのだとしても。 

 

 だからこそ、ここ二十年前後で台頭してきた連中が気に入らなかった。

 

 自分の親父が潰した潟山……、それこそ二十数年前に頭を出してきて、さらに十数年前にはよりにもよって「バケモノ共」が作った組、それが統括する「伏見連合(ふしみれんごう)」なんてものまで出て来た。

 奴らは圧倒的だった。それこそ首領を名乗った白い肌のガイジン女だけではない。ふざけた格好をした髭面の男も、その隣にいつの間にか立っていた潟山の所の眼鏡の若造も。裏側の連中は早々にひれ伏すか、さもなくば警察に突き出されるか。性質が悪く抑えが利かない奴はそれこそ「氷漬け」になって今でも溶けていない。

 

 だから表向き従ってはいるが、それとて隙さえあればすぐにでもひっくり返せる。

 

「俺達ァもう敵はいねぇ。鬱陶しい雪姫を名乗るバケモンたちも、『夜明け』の連中が何とかしてくれるだろう。だから何を怯えて――――」

「――――俺ァ今でも覚えてるんですよ、親父。親父に娘サンが生まれた時のことだって、俺があの娘のおしめ取り替えた時だって」

「お、おォ? それが何だってんだ」

「だから判っちまったんスよ。あの時の『潟山の虎』の目ェが。実行犯押さえてぶち殺して、めでたくアイツがバケモノの仲間入りしちまった時のことを」

 

 その時、自分たちに向けられた目――――潟山の所の跡取りになった女、一人守れなかった男の目だ。それが何だと、男に彼は言いたかったが。

 

「――――あれはもう、人間が人間を見てる目ェでも何でもなかったんだ。あの時から、俺達は、『誰が殺っても』おかしくなかったような俺達ァ、あの人ン中で……」

「オイ、本当にどうした? お()ェさっきから――――」

 

 

 

 ――――何かが爆発するような、物が豪快に壊れる音。

 

 

 

 建物が揺れ、歪み、困惑する二人だったが。若い衆が報告に走ってきたのを聞き、急いでその後を追って屋敷の玄関まで駆けて行った。

 そこには男たち数名。うち一人は見慣れた野郎だった。喪服のようなネクタイまで含めた黒ずくめはあの時死なせた女にちなんでのものか。眼鏡を押し上げる小僧の顔は、それこそ二十数年前から「何一つ変わっていない」。向けられるその視線も含めて、何一つ。

 その後ろに控えているのは、かつては後見人、今は右腕の影巻という男と、おそらくは若い衆だろうのが数人。

 

 そして――――その奥に見慣れない連中がいた。

 年頃はどちらも二十代のように見えるが、この男が引き連れて来てそれはあるまい。

 

 片方、髪の長いモデルのような女。黒いカクテルドレスで肩や背中が出ている。すらっとした体躯だが女性らしい線で、一目で綺麗所であるとは判る。髪は下ろしておりそして手元には白鞘仕込み。ただ遊びや護身程度の意味で持っている訳でないことは、ときおり周囲のぶしつけな視線に対し右手がごく自然に柄へと延びることからなんとなくではあるが察することが出来る。

 もう片方、火のついていない煙草を咥える「オレンジの頭」をした男。鉄、あるいは血の様なにおいを漂わせる赤黒いコートを着用したスーツの男。腰には折れた黒い刀と拳銃。右目には眼帯、そして虚無の表情。顔立ちこそ堅気らしく綺麗なものだが眉間に深く寄った皺が印象的で、チンピラまがいのそれとはどこか一線を画していた。

 

 見覚えのない二人。聞き覚えのない二人。だがその立ち姿から――――伏見連合から回された連中ということだけは察することができた。

 男の隣、カシラが源五郎相手に詰め寄る。

 

「オイオイオイ、一体今日はどうしたんだ真壁サン? 今日は――――」

「――――弁明は聞かねぇ。例の『幸せ』を売ってるのは特定できた。問題はその流れてるルートだ。

 事前に話したらお前ェ等は逃げ出すのは判り切ってんだ。だから証拠はケツの毛一本たりとも逃さねェためにタイミングを見計らったってだけだ」

「ッ」

 

 やはり、バレている――――しかも相当、用意周到に。「幸福の轍」という薬物の取引が、彼らが武力として雇おうとしていた連中の、いわゆる「シューキョー組織」の連中が出した条件だった。シノギでもよくあるタイプ、最初はブツを売って依存させてから本腰入れて直に取引して売りさばくというタイプの連中だと考え、その上で自分たちは取引に乗ったのだ。

 なにせ彼らも人外――――しかし、連中はこちらの領分を侵そうとはしなかった。そこだけは信用できた。連中はもっと別な、自分たちに理解できないもののために生きている連中だ。だからこそお互いがお互いに利用できると。それで、この目障りな伏見連合というガワを粉々にしてくれると。

 

 だが、その判断が甘かった。

 若い衆の中には、目の前の「潟山の虎」がどれだけ人間離れしているか知らない連中も多い。なにせそれこそ二十年前、かつて若かった痛い目を見た上で生き残った世代とでは、何もかも大きく入れ替わっている。

 

「その後ろで蜜すすって堅気を『みそっかす』にしていやがる連中……、引きずり出してやる」

「――――ナマ言ってんじゃねェぞ若造ォ!」

 

 こら、止せ! と。制止の言葉をかけるよりも先に複数人が銃を構え――――しかし発砲することはなかった。

 相手の若い衆も応戦したから? 銃を構えたから? 違う。

 

 例の眼帯の男の仕業、なのだろう。その腕の動きを見ればそうとしか言いようがないが――――男は投擲した煙草で、拳銃だのマシンガンだのその銃口全てを「詰ま(ジャム)らせた」。男の背後、スキンヘッドの若造が目ェ剥いて顔引きつらせてやがる。

 

 男は、片目を「虎」に向け確認する。

 

「(確かあのゲームのシステム的には……)向こうから絡まれたら、良いんスよね」

「ああ、そうだね」

「承知! っと。あんまり気乗りはしねーけど……。

 あー『勝四郎』、やりすぎんなよ」

「……と、あっ…………、『菊千代』君もね」

 

 そして、そんなやりとりを聞いた次の瞬間、男は四肢の自由を失いその場で倒れた。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 神楽坂菊千代(かぐらざか きくちよ)と、青梅勝四郎(おうめ かっしろう)

 とりあえずの偽名として、私と九郎丸はそう名乗ることになった。九郎丸の方は自分で偽名をつけられないという理由から私が(主に「私」的に関係のある人物の名前だが)つけたのだが。

 

 いや、色々と事情があったのだ。そもそも「例の薬を販売しているルートを辿った結果、見つかったヤクザの事務所にカチコミにいくよ」と源五郎から言われても、一切の準備をしていなかった私たちだったが、彼から提示されたガムのような薬品こそが偽名を名乗るだけの理由をこちらに必要とさせた。

 

女主人(ミストレス)、雪姫様が裏火星から取り寄せている年齢詐称薬だ。一つ摂取すると外見年齢を二十年分の範囲で、ある程度意図的に操作することが出来る」

 

 ちなみに赤い方が加齢で青い方が若返りだ、という一言と共に、目が点になった私たちである。基本的に今の姿でも、何かあったところで十分戦えるだろうに、何故これが必要なのかと。

 理由としては、源五郎いわく「箔が必要」ということらしい。

 

「さっきの若い衆の反応を見てなおさら確信したよ。間違いなく敵に舐められる。舐められるだけだったら良いけど、下手をすると『交渉の余地』がある相手からすら『下に見られて』話し合いにすらならないかもしれない。

 特に僕だって、外見年齢は二十数年前からこっちほとんど変化していないからね。かつてと面々が変わっているだろう他の組なんて、もはや予測する必要すらないだろう」

「それで年齢詐称……、えっと、大人になれって話ッスよね」

「そうだね。こう――――せっかくだし、色々試してみたら良いんじゃないかな?

 何、『それっぽい』服装だったら、この部屋にいっぱい揃っている。奥に更衣室もあるから、好きなのを選んでくるといい」

 

 そう言われ、まずは薬品を試した私たちであるが、こう、もう何を言って良いやらという感じであった。

 

「わわ、と、刀太君、カッコイイ……!」

「そうか? あー ……、目つき悪ぃな」

「そんなことないよ! こう、アンニュイな感じでグッとくる!」

 

 そう謎のテンションでわめいている大人版の九郎丸だが、その身体は完全に女性のものである。すらっとした身長は大人状態の私よりもわずかに大きく、素の顔立ちのせいもあって凛々しい印象だ。なお浮かんでいる表情や言動が子供じみていて、見ていると変な性癖に目覚めそうである(謎)。ただ全体的にシルエットに丸みがあり、胸やら尻やら「二次性徴」以降の主張するべきところはそれなりに主張があり。スタイル全体として夏凜よりは悪いが、それでももはや完璧に「美女」と言うほかない姿になっていた。

 そうか、あの状態の九郎丸のまま成長「出来たなら」こうなるのか、そうか…………。

 なお時折胸元を隠して「さらしが……」「破れて……」とか言い出しているのには突っ込むつもりは毛頭ない(断言)。

 

 なお私の方はといえば、原作刀太が年齢詐称薬を飲んだ時の姿よりも年上のようである。ただ雰囲気はまるで違った。私の普段の表情の作り方が原因なのか眉間に皺が寄り、なんならせっちゃんよりも疲れた表情で人相も良くない。なんだか「私」自身を思い出すような微妙なこの目つきの悪さである。

 だからこその偽名にあえて「神楽坂」の姓を持つ菊千代にすることにしたのだ。夏凜の時と違い咄嗟に出て来たわけではない、容姿に「私」と共通項が出て来た以上は、あえて寄せた方が私自身の言動に失敗やガバが生じにくいだろう。

 

 なんなら一人称も「私」にしても良いかもしれない。

 

 どうせならということで、スーツ姿はともかく他の要素も出来る限り「私」に寄せる。眼帯……はなかったのでそれっぽい形のモノクルタイプの魔法デバイス(なお使えない)、赤いコート……もなかったので「死天化壮」でそれっぽく。刀は黒棒を代わりに右の腰に差し、左の腰には弾丸の入っていない拳銃。

 後は表情を少し調整してやれば、見事に「私」と近衛刀太とを混ぜたヤクザなんだか殺し屋なんだかというビジュアルである。

 

「別に『あっちでも』殺し屋だった訳ではないのだが……」

 

「…………と、刀太君、ど、どうかな?」

 

 そして私に声をかけた九郎丸のビジュアルは、なんというかこう…………、ヨ〇さん(ア〇ニャのママ)であった。〇ルさん(〇イドの嫁)であった。いや、あくまでそういうイメージと言うだけなのだが、画風はともかく全体の方向性はそんな雰囲気である。ドレスの露出度もそう差はなく、ますますコメントに困る雰囲気であった。

 

「まぁ似合ってるんじゃねーの? ……まあその恰好だと頭のイカれた殺し屋に見えなくもねーけど」

「え、えぇッ!?」

 

『――――ふみゅー! ふみゅー! ぴ〇ちゅちゅー〇かちゅ!』

 

 そんな九郎丸を前に、呼んでもいないのに携帯端末から飛び出るチュウベェである。相変わらずの鳴き声に思わずふん捕まえてしまったが、それと同時に何を言っていたかが不思議とわかってしまった。

 

[おうビッグブラザァ、こんな美人ちゃん前にその言い回しはどうかと思うぜ! 九郎丸ちゅわああああああんッ!]

 

 なんならルパ〇ダイブ(男の夢)でもかましてドレス姿の九郎丸の胸元に頭を埋めようとしていたらしい。伊達に星月から「エロコンビと同系統」と言われてはいないかコイツ……。というか普段、私の端末で一体何をラーニングしているのやら。別に私自身「そういう」類の検索履歴はないはずだが。

 流石にそうセクハラまがいのものを野放しにするわけにもいかず、思わず血装術でチュウベェの全身をドーム状に覆う。『ふみゅ? ふみゅ!?』と怯える様子だがそのまさかだ、そのまま胸部の傷跡まで持っていき、そこに「組み込む」――――。

 

 後は特に何かを考えるまでもなく、星月が「死天化壮(デスクラッド)疾風迅雷(サンダーボルト)」まで勝手に処理してくれる。あれから何度か使用して「超加速」についてはオンオフが出来るようになったので、変身状態の維持もさほど問題はあるまい。

 なお九郎丸は九郎丸で頭がオレンジに染まった私を「えぇ……」と困惑気味に見ていたが、なんというか仲良くなったせいか段々お前さんも向けて来る感情に容赦とかなくなってきたなホント。

 

 

 

 さて、そんな状態で向かったヤクザのカチコミだったが。おおよそ追い詰められた状態からの逆切れのごとき反撃めいたものだったので、私も特に容赦なく「遊んだ」。

 和風なお屋敷の玄関から先、何故か無駄に広い時代劇とかで大岡裁きでも始まりそうなスペース。おそらくは「ケジメ」案件で指を詰めたり罰を与えたりするのを衆目でやるための場なのだろうが、まあ暴れても問題ない広さがあるのは素晴らしいと言えた。

 

 せっかく持ってきていた煙草(なお湿気っていたため使い道がない)を血装術で薄くコーティングし、疾風迅雷の超加速をもって軽く投擲。こちらにチャカ向けて来る連中の銃口に入れ、小さく血風を発動。結果的に内部が「急激に錆びつき」、火花も散らず変な詰まり方をする。銃によっては暴発して火傷している連中もいるようだが、そこはさして気にしない。

 

「無力化、だよねあくまで」

「だな」

 

 九郎丸は夕凪を抜刀せず、納刀したまま叩き伏せるように神鳴流の技を振るい。私は私でカラの拳銃を左手で向けながら、右手の指先より小血風やら何やらを放ち周囲を牽制。彼ら自身普段の習性からだろう、どうあがいても向けられたり構えたりされる拳銃の方に視線がいってしまい、ほぼノーモーションで指先から放つ血風のことはまるで認識できていない。

 そして、その血風は前回獲得した尸血風(しぃけっぷう)、つまりは死霊魔術ベースの隷属である。

 

 銃撃、に見せかけた攻撃を受けた連中はほぼ全員がその場で身動きを封じられ拘束される流れに。九郎丸みたいにいちいち倒す必要も無いので、対処速度と人数、つまりは制圧力が違う。源五郎に至ってはそれを見て特に手出すらせず、自分の組の若い連中に「甘く見るなとはこういうことだ」と教育すらしている始末だった。

 なお、四肢が動かないのに強面の大男がカシラと呼ばれていた老人を護ろうと前に出たり、そのカシラが泡噴きながら逃げようとしている状況がこう、何とも言えない信頼関係の矢印の壊れ方を見せられている感覚だった。

 

「諸行無常と言って良いのかね―――――ん?」

 

 そして、咄嗟に感じた「妙な気配」――――。足元に嫌な感覚が出て来たため、思わず下に血風を「置き」、跳躍して離れる。

 

「……ん?」

 

 違和感が依然として減らない。というより、むしろさっきより妙に首筋がヒリヒリするような感覚……? いまだ危機から回避しきれていないと見て良いか、とりあえずは直感に従い背後に黒棒を構えた――――。

 

 激突する金属音。

 

「おっ」

「! へぇ、やるね」

 

 にやり、と笑うその様に猛烈な「原作で見たような」既視感。コンバットナイフと折れた黒棒がぶつかる様はそれこそ原作キリヱ編を思い出す。ただあちらでは対象となっていたキリヱがいなかったりなど、状況は何から何まで違ってはいるのだが。

 とりあえず超加速の感覚をオンにし(意識するだけでオンオフの切り替えができる)、拳銃のグリップの方で殴る。「ごほっ」と言っているだろうそのスローモーションに対して鳩尾を蹴り飛ばす。

 と、同時に向こうが投げて来るナイフの類は、超加速状態において特に苦にはならないくらいに「遅い」。折れた黒棒の重量すら変更する必要もなく適当に叩き落し――――と、ここで加速時間が切れた。

 

 しばらくはチャージもかねて放置だろうが、その間に黒棒だけを構える。

 

 対する眼前の適当に戦った男は……、全身黒のコンバットスーツに左目眼帯のその男は、くつくつと笑いながら私を見た。

 

「あー、一応『何者だテメェ!』とか聞いた方が良いのか? いやこんな思いっきり真面目に仕事中のタイミングで斬りかかってくるような奴、どー考えても敵に違いはねーけど」

「ごふッ……! お、落ち着いてくれ、僕は味方さ『UQホルダー』。あまりに展開が一方的すぎて思わず『滾って』手を出しちゃったけど。

 民間軍事警備会社『力の手(パワフル・ハンド)』の超星仔(チャウ・シンチャイ)。灰斗とか南雲のオッサンのこととか知らないかい?」

「……影使いっていうと確か、夏凜ちゃん先輩史上一番ぶっちゃけ有りえない変態だったか?」

 

 その言われっぷりは傷つくね…………、と、スラムで夏凜と戦ったその男は腹部を押さえながら肩を落とした。……キリヱ編で出てこなかったからてっきりスルーされると思いきや、結局出てくるのはガバか否か判断が難しいのだが。というかしっかりキリヱ編で出てこいお前さん(無茶)。

 

 

 

 




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ST130.衝撃の事実

感想、誤字報告、ここ好き、アンケ企画などなど毎度ご好評あざますナ! とはいえ深夜の魔の手・・・
 
割と気付いてはいけない事実に気付かせてしまったかもしれないガバ(ちゃんさん)


ST130.And Mary Iscariot Unintentionally Realized...

 

 

 

 

 

 超星仔(チャウ・シンチャイ)はかつてスラム編で戦ったPMSCS(民間軍事警備会社)の隊員であり、少なくとも瓦礫屋より上位の傭兵の一人である。単純な実力で言えば原作後半においてフェイトが刀太の実力を測るのに用いる程度には戦闘力が高いと推測できるかもしれない。

 闇の精霊を操る古式ゆかしい「魔法アプリに頼らない」魔術師にして、近接戦でもそれなりに手練れである。スラムにおいてはいわゆる「人形」の操作は彼が行っており、その後原作刀太ですら序盤に出会ったときはその自在な戦い方(および逃げ方)で翻弄され、キリヱを六回(六周)ほど殺されるのを許してしまう。まあアレは刀太本人にも色々と問題や隙があったということで単純比較はできないが。直接的な暴力ならある程度は当時から圧倒していたので、つまりは近接戦は「人間レベル」で高いと言えるのだろう(神鳴流などは人間レベルに含まない、アレは変態(語弊)の剣術である)。

 まとめると、「直接戦闘では弱いが搦め手でならそれなりに強い相手」といえる。

 

 ……なお、そんなこととは関係なく原作夏凜あたりからは蛇蝎のごとく嫌われていたりする。「この時間軸」というか世界線と言えば良いか、少なくとも私の居る「ここ」の夏凜ちゃんさんもそれは同様で、正確に言うと嫌っているというより気持ち悪がられているが正しいかもしれない。

 何故なら。

 

「ところで君たち二人、外見はともかく能力だけなら今回の依頼人からの情報にあった二人だと思うから聞くけど、今日って夏凜ちゃんは来ていないのかい? 君たち、夏凜ちゃんの後輩なんでしょ~? いいな~、あのおっぱい横からいつでも見られるの。

 で、僕のこと何か聞いてないかな? 僕のことさ、イケメンだったとか『刺し方』がアツアツだったとかさ。……あっ、じゃなければ連絡先教えてくれるだけでもいいんだけどね。愛しの夏凜ちゃんにいつでもコールをかけられると思うだけでもう両手いっぱいのナイフを投擲してあげたいくらいに――――あべしッ!」

「アウト!」

 

 私がツッコミを入れる前に、勝四郎(ビューティー九郎丸)が先に殴った。どうやら乙女側に寄っているその精神性から、彼の物言いが生理的に受け入れられなかったらしい。殴った後に源五郎の所の若い衆からもらったポケットティッシュで何度も自分の手をふいて、完全に得体の知れないばい菌を見る目である。とはいえそんな目で見られても興奮せず、起き上がりながら「つまり夏凜ちゃんがいいのさ!」とか言い出している辺りは一途と言えば一途なのかもしれないが、その内容の方向性がだいぶ酷く私も九郎丸とそう大差ない目だろう。

 いやリアルで見るとせっちゃんなどカワイイものである(むしろエッチか)。

 

「何故そんな外道なことになっているんだお前さんの頭の中……。もうちょっとマシだったら夏凜ちゃん先輩もまともに話くらいは聞いてくれるだろうに。私から見ても『そう』なのだから、自覚はあるだろ。何故少しは猫を被ろうとしない」

「――――あーハハハハハ、初対面の時に嬉しくなっちゃって、つい殺っちゃったんだー。アレは愉しかったし興奮したし、何より綺麗だったなー」

「変態って言うか猟奇だな。いや、意図的にシャワーしてるところを狙うあたりは変態に違いはねーが……」

「というより僕のことはどうだって良いんだよ。君たちに残された選択肢は二つに一つ、楽しい話と詰まらない話だ。夏凜ちゃんの連絡先を教えるか、普通に仕事の話をするかさ」

「菊千代君……」

「どっちが楽しくてどっちが詰まらないのか色々問いただしたいところはあるが、何故よりにもよってフェイトもこんなのを投げてよこしたのか……」

 

 まだ灰斗の方が子供好きだし、今回の仕事に共感は出来そうだと思ったのだが。そんな呟きを耳にした星仔が(超だと「ちゃお~ん☆」と被るのでこちらで統一する)「今は難しいだろうからね」と肩をすくめた。

 

「今、彼は来年の『まほら武道祭』に出場するため、一般予選に挑戦している所だ。ウチの広報部と結託しての仕事ということになっているから、そう簡単には呼ぶことは出来ないね。……というより、あのバトルジャンキーに触りたくもない。絶対嫌な絡まれ方する……」

「本当に? えっ、いや確かに本職『格闘家』とか言っていたから出ても不思議じゃねーのか」

「…………って、それならなおのこと仕事を依頼してもらった方がいいかもね、刀太君」

 

 名前名前、と半眼でニヤリと笑って顎をしゃくると、はっとして少し照れた後「菊千代君」と言い直す九郎丸である。いまいち偽名呼びに慣れていない様子だが、まー「私」としてはむしろ本名な(しっくりくる)ので、これはこれで変な感動が有ったりなかったりである。

 

 

 

 さて前置きの様な会話が長くなったが、現在の状況を言うなら「取り調べ中」である。時刻は夜半を回り、襲撃を仕掛けた屋敷にあったタコ部屋のような場所に組の頭を始めとした連中をバラバラに入れ、それぞれに自白剤……、というより「思っていることを口に出してしまう魔法」が掛かったドリンクを呑ませていく。源五郎いわく雪姫の私物から出してもらったものらしく、使用制限は時間以外は存在しない。なんとなく後数巻した時(ラブコメ編)あたりでまた遭遇しそうな物品な気もしないではないが、今はそのところはスルーしておこう。

 それを使って直に源五郎が聞き込みをしている。まあおそらく彼がやる以上はゲームのステータス画面のような形で言葉の真偽が判定出来てしまうのだろうから、拷問も何もなく彼がするのが的確と言えば的確ではあるのだろう。そしてその手前で若い衆は周囲の警戒、私と九郎丸とこのド変態は少し休憩していた。

 

 いや、このド変態についてはどうやらフェイトから「UQホルダーと協力して薬物のルートを探す」という依頼を受けているらしいのだが。いまいちその挙措から信用が置けないため、こうして雑談を「させながら」相手の「戦意を散らしている」ところである。

 そしてその当人も、自分が我々に警戒されていることを自覚しているのか、アレ以降は余計な真似はしていない。私に殴られた後は逃げようとしていた連中を「影」で縛ったり、逃げ道を塞いだりとある意味八面六臂の活躍だ。

 

 と、和風の屋敷に不釣り合いな「鉄のドア」が開き、源五郎が出て来た。なんとなく甘いチョコレートのような匂いが漂ってきているのは気のせいではないだろうが、その正体について追及するのはなんとなくガバの気配を感じるのでさておき。

 

「概ね予想通り、予想の範疇は出ていなかったかな。ただここの組が古風なヤクザ稼業(クラシック)だったお陰で手がかりがそもそも存在しなかったというオチになるかと思ったけど、そこは意外と運が良いのかもしれない」

「クラシック?」

「ああ。今回の薬物をバラまいているその大前提になってる相手――――裏火星発の宗教団体『素晴らしき夜明けと明日』なのだけれど、連中は基本的に全員が魔法関係者。魔法アプリに頼らないような、古風なタイプの魔法使いが大半を占めているらしい。

 お陰で大体の組において、売りさばく商品の配送など何から何まで魔法、しかも複数拠点をランダムめいて組織だって点々と使っているものだから、最終的にどこに配送されたかとかを論じるのがそもそもバカバカしい話になるんだ」

 

 ミステリー小説とかで謎の畳み方に困った作者が安易に暴力団とか謎の組織を登場させたがるようにね、とどこの業界にケンカを売っているのか微妙な源五郎の発言はともかく。その宗教組織の名前がなんとなく原作を前提に考えると、思いっきり敵の正体に予測が付いてしまう程度の微妙なものなので、大人姿のままの私は表情が引きつった。どう考えても「新たなる夜明け(ゼロ・ドーン)」、ラスボス候補の一人だった相手が作ったテロ組織の前身組織だろう。さらに言えば、今後のことを考えるとヨルダ並かそれ以上に最優先で潰さなければならない組織である。

 

 なにせほぼ、この組織が原因で多くの命が「取り返しのつかない形で」奪われるのだ――――それこそ、私というより「近衛刀太」熊本時代の友人たちの命も。件のデュナミスから技術提供を受けたのかは定かではないが、どちらにせよゾンビウィルステロに使われるはずだったウィルスをベースに、さらにひどい改造を施した結果が「それ」に繋がる。

 対峙するまでにどういう展開を辿るにしても、そこだけは絶対に譲ってはいけない。

 

「この組に関しては、むしろ魔法関係のそれを極力使わないようにしていた……というより毛嫌いしていたらしいからね。UQホルダーこと仙境富士組にいいようにやられたのがよっぽど堪えていたらしい」

「あー、で結局割れたんスか?」

「割れたと言えば割れたのだけれど……、とりあえず大掛かりな取引は週末に行われるらしい。それまでは都内を見回ったり、スラムを見回ったりして新しい流通経路がないか虱潰しに探すことになる。

 なんていったって調査を含めて、人間がやることだ。僕も『直に見ないと』そういうのを確実に判別することはできないから、人海戦術はどうしても必要になるさ」

「あー、承知したッス」

「今日はもう終わりってことですか? 源五郎先輩」

「おぉ、なら君たちさぁ。僕を学園まで案内してくれよ。関係者ってことならあの厳重な警備もそう酷いことはしないだろうし、早い所愛しの夏凜ちゃんにさぁ……ジュル、おっといけない、とにかく僕は出来れば早く再会したくて――――あべしッ!?」

「「却下ッ!」」 

 

 とりあえずこれからの予定を聞く前に、段々と話していて涎が垂れそうになっている変態を、勝四郎(ビューティー九郎丸)と一緒に成敗した。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「…………まぁそんな流れで、前に夏凜ちゃんさんの報告書にあったヘンタイさんと遭遇した感じッス」

「――――――――」

「いや、そんなあからさまに嫌そうな顔して俺の頭を撫でられましても」

 

 翌日の放課後である。九郎丸はアマノミハシラ市内で「まほら武道会」一般予選(参加予定者での総当たりによるポイント制の戦い)に興じることになり、私は私で手持無沙汰となってしまった。源五郎は「済まないが今日は急用が出来た」とこちらに仕事に来いとは言わず、事務所も事務所で「カチコミ」以降、着替えに戻った際など例のスキンヘッドの若い衆を始めとした面々が妙に戦々恐々としており、その空気は一日経過程度で収まらずどうやら今も継続しているらしい(というよりもあからさまに避けて来ていた?)。

 そのため、あちらで仕事の状況やら何やらと話を聞くことも難しく、となれば現状とれる手段は限られてきている。都内の見回りか、スラム周辺の見回りか。前者についてはほぼ九郎丸預かりの範囲に相当するだろうと考え、なんなら久々にルキたちのいるスラムの方に回ろうと考えていたのだが。

 

『――――で、何でフツーに居るんスか夏凜ちゃんさん?』

『学園内ならいざ知らず、こちらではちゃんと先輩と呼びなさい刀太』

『おー! おひさー、チャン刀クン!』

『どうもッス』

 

 死天化壮やら何やらを使って放課後マッハで向かった先、教会で炊き出しを手伝う制服姿の夏凜とシスター・ミカンこと春日美柑の姿がそこにあった。教会内に、他のシスターはおらず、彼女たち二人で色々やっていた。

 そしてとりあえずそのまま何もせず見ているだけというのもシックリ来ないため、彼女たちを手伝いながら(シチューの具材を切ったり炒めたりしながら)色々と事情を話したり話されたりという流れである。私からはまず昨日の仕事というか締め上げの下りについて説明し(途中偽名の下りで夏凜の視線が鋭くなったが何故?)、その際に思い出した名前を挙げた流れである。

 なお聞いた夏凜本人は不機嫌そうな表情ながら無言で私の頭を優し気に撫で続ける謎挙動である。普段と違い私自身特にダメージを受けているとか、その分のケアというわけではないのだろうが、一体どうしたというのか。そしてそんな私たちを見て、春日美柑が若い頃の彼女の祖母そっくりなネコ目じみたニヤニヤ笑いを浮かべていた。

 

「いやー、夏凜ちゃんも青春って感じなのかな……、せい、しゅん? あれ? 夏凜ちゃんの御歳ってお祖母ちゃんが言ってたのが正しかったら今年で最低でも二せ――――」

「殴りますよミカン」

「――――ちょ! じょ、ジョークジョーク、イッツジーザスジョークッ!」

 

 そして夏凜を年齢ネタでいじろうとして、これまた彼女の祖母がシスター・シャークティ(※元上司)にお説教されたような軽い流れで封殺される。もっともヤベーヤベーと猫のような目になりながらテキトーにぶつぶつ言っているので全く凝りていないのは誰が見ても明白、このあたりは見た目通りと言うべきか、祖母そっくりに適当な性格をしているらしい(知ってる)。

 

「で、どうして夏凜ちゃんさんはこっちに?」

「『キリヱから指示された』のよ。どうも刀太、貴方は自分が色々と危ない立場にいることを理解していないと。真壁源五郎の下で仕事が出来ない日があるならばそのまま帰宅して佐々木三太とゲームでもして遊んでいれば良い所を、わざわざ仕事を探して出歩く必要がないときまで出歩いているんじゃないわよッ! とのことです」

「お、おぅ……」

「ついでに言えば、貴方が危険に遭遇『する』と断言されてしまっては、私も適当にまほら武道会の予選だとかどうとか言っている暇もありませんから」

 

 不思議そうに頭を傾げてる春日美柑に「予知能力者のようなものです」と軽く説明する夏凜だが。どうやら知らぬ間に、キリヱ大明神によるチャート修正が働いたらしい(奉納)。キリヱ本人が来ていないところを見るに、おそらくレベル2(リトライ)の方を使用した結果なのだろうが、事情を知らない人間が聞いても本当に「予知であると錯覚する」程度に調整した説明になるこの流れよ。明らかに夏凜自身、こういう微妙な誤魔化しというか、そういうのに慣れていることが察せられる。

 まぁ彼女の正体から逆算して、どう考えてもかつて氏素性をそのまま名乗って生活していた訳ではないだろうし、そういう微妙な社会性とも言い難いスキルも育まれたという事なのだろうか。

 

「あー、そーいえばルキとか他の面子はどうなんスか? 姿、見かけねーッスけど」

「スクラップからなんか掘り出し物探してるか、あとは最近発掘した魔法アプリ教材とかで遊んでるんじゃないかな? シスターみゃおとかも張り切ってたし。あの人一応『裏火星』出身だから、そういうアプリ系とか意外と得意だからねー。見た目はゴリラだけど」

「人の外見をそうディスるものではありませんっ。そういう保護者の悪い所ばかり見て育つから、未だに浮いた話の一つもないのでは?」

「そそ、そういうプライベートかつセンシティブな話は止めないッ!? だ、大丈夫、まだここだと出会いがないってだけだから……、私まだ若いからっ!」

 

 明らかに震え声である。そしてブツブツと「ババアもスペックが高いんだか低いんだかよくわかんねー相手ばっか紹介してくるし……」とか愚痴ともいえない愚痴を零しているのだが、ここはそっとしておくべきだろう。「私」の経験値からいっても、こういう社会通念的な婚期(もの)に追われた人間ほど煽られると下手を打つものだ(経験談)。

 

 そして後は煮込むだけとなると「とりあえず人、呼んできてくんないかな?」と肩をすくめながら言う春日美柑。どうやらずっと鍋に張り付いて焦げないよう混ぜたりするのが嫌らしい。それを私たちに依頼するのは「お金払ってるわけじゃないし、拘束時間長いからそこまでさせるのもねー」と案外良識的なことを言ってきたので、そう言われては仕方ない。

 なお鍋の中身と面倒くさそうにらめっこしながらな彼女だが、熱くなってきたのか帽子をとると、デコの広いショートカットな髪型だった。受ける印象としてはどこかココネを想起させるが、まあ春日美空と一緒に居るココネなのだから当然孫娘とも面識の類はあってしかるべきということなのだろう。

 

 そして表に出ると、夏凜がふと私の手に指を絡ませて引く。夕暮れ時、橙に染まる彼女の横顔は相変わらず綺麗な無表情で、しかし不思議と以前ほど圧を感じない自分がいた。これは彼女が変わったというより、私が大分慣らされてきたということだろうか…………。

 

「……っていや、何ッスか? 今日は別に落ち込んだりしてないッスから、慰めたりはしなくても――――」

「いえ、そうではありません」

 

 と、瓦礫の山――――人の気配が少なくなった場所で、夏凜は私に向き直る。澄んだ瞳の色。こちらの背が伸びたこともあって、その視線は以前よりも近い位置でこちらを見据えていた。

 夏凜はそのまま、すっと私の右目の上、瞼の付近を優しく撫でる。

 

「変装の際に眼帯をしていたのはこちら、と言っていましたか」

「へ? あー、えっと…………」

 

 

 

「……事情は知りませんが、何か大事な思い出でもあるのでしょうか」

 

 

 

 そしてこう、相変わらずクリティカルめいたことを私からして何ら伏線なくいきなり看破してくる夏凜であった。

 いや、確かに「私」からしたらそれは大事な話である。なにせそれは「私」にとっては「親の形見の一つ」なのだ。正確には親代わりの女性ではあるが、彼女から受け取ったもの、教わったものは大きく、そしてその「最期」を想えば、私にとって眼帯をするというのは少しだけセンチメンタルな意味合いを持つことに違いはない。

 

「…………」

 

 違いはないからこそ、そんなことを目の前で見せた訳でもないのにどうして言い当ててくるのかこの女は相変わらず――――――――。

 

 彼女に「私」の素性やら何やらが漏れていると言うことは決してあるまい。いくらか飛躍が見られるが、彼女の言動はあくまでも私を見た上で判断しているという説明をギリギリつけられる。

 だが、それはそうとして…………。いい加減、少しだけ確認しなければならないだろう。流石にこれ以上理由も説明もなく唐突に「私」に迫られるのは、こちらの精神衛生上良くない。これもまた何かしらのトリガーか旗立てだが、引いても引かなくてもそれはそれでお互いに別種の問題が発生する類のそれだろう。

 

 ならば――――恐れを胸に抱え、それでも踏み込むのが、今を生きる人間としての振る舞いだ。

 

「……だいぶ自意識過剰っぽいこと聞きますけど、良いッスか?」

「あら? 別に『素』の貴方でも構わないわよ。それを見越して人気のない場所まで来たわけですので」

「…………」

 

 少しだけ深呼吸して、私は彼女の目を見つめ直す。

 

 

 

「それほど、いっそ異様な程に貴女は『私』を洞察しようとするが。一体どういった感情の発露なのだ、それは。

 有体に言って、こう、『好き』とか、人間的な好意一つで説明がつかないレベルの情念を向けられているような気がしているのだが」

 

 

 

 そう問うと、夏凜はきょとんとした表情をして……、いや何だお前さんその顔。そんな表情原作でも1回有ったか無かったかというレベルだろう。何だその完全に想定外なことを言われたみたいな間の抜けた顔は可愛い(条件反射)。

 ただ、返された一言はこちらにとっても困惑必至であった。

 

「…………えっ? えっと、貴方の側からそう見えているということは……。私は、その、貴方に対して、その、『性的に』好意を向けているということなのかしら……?」

 

 そんなの私が知りたいくらいなのだが。

 いや本当は知るべきではないのだろうが。そもそも自覚すらなかったということなのか? えっ本当に? あのレベルで? あの異様なレベルのスキンシップに何ら「そういった」自覚がないと? 肉体的な接触になんら距離感や違和感や性差を感じていなかったと? 本当に「そういう」感情ゼロだったと?

 

 

 

 ……色々とえっちが過ぎるのでは?(オブラート)(???「ようこそ地獄の一丁目へ。まぁ天国の一丁目かもしれんがねぇ」)

 

 

 

 

 




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ST131.収束する何か

勝った! 深夜更新のカルマに勝った!(なお)
 
鮮やかに? 地雷処理する熟練のチャン刀と、逃れられぬ何かな誰かさん


ST131.THE INSIGHT

 

 

 

 

 

「いえ、その、確かに『約束』はしましたし貴方を一人にするつもりは毛頭なかったし、そういう意味ではたとえ貴方から拒絶されてもその本心のところで孤独であるのなら、それをおそらく一番理解できているであろう私が傍に居るというのは当然であって、そのつもりで、それは『クーリングオフ不可』ですしなんならあの日『予約済』されましたから、色々と体面の問題もありますが特に拒絶するつもりも何もなかったのですけれど、ええと、それ以前の問題として私個人はそういった感情を他者へ向けるのはそもそも許されざる立ち位置ですし、そもそも『家族を』二人も失った『呪われた娘』だった私に『先生』が手を差し伸べてくれたからこそ今の私があるとはいえ、そもそもそんな先生の言いつけを護らず全て空回り善意であの人を失わせてしまいあまつさえ『人ならざる』何かへと変えてしまった私が、それでもあの人の大きな愛の範疇に入れてもらえているだろう私がこんな状態というのも、更にいえば『家族』を持つことすら私は烏滸がましい立場ですから、せめてそう辛いことにならないようにと出来る限りのことをしていて――――」

 

「落ち着け」

 

 目を見開いたまま彼女のキャラ的に見たこともないくらいに顔を紅潮させて、漫符でいえば目をぐるぐるさせてるレベルのパニックっぷりを発揮する夏凜である。思わずその両肩に手をやって軽く揺さぶってみるくらいには明らかに状態がおかし――――熱っ! ちょっ、貴様なに何も呪文とかその類のを唱えていないくせに「神聖魔法」を放ち始めてる! しかも何か色が白じゃなく薄い桃色になっているのはアレか、今の夏凜の脳内お花畑永眠一歩手前みたいな状況でも表しているとでも? お前がオンリーワンだ(震え声)。

 と、はっとした顔になった途端私が触っているところを見て「ひゃうッ!」とCV(声の人)的には違和感がないまでも夏凜的には色々ツッコミを入れたい声を上げて、自分の身体を抱きしめて数歩後ずさった。顔は相変わらず真っ赤なままで、そのまましゃがみこむ。そう、改めて「異性として」意識されたみたいな挙動をされると、私もどう反応して良いか色々判らないのだが……。

 

『ふみゅー、ふみゅ?』(※特別意訳:『このエロ聖女って今絶対「色欲」が4から跳ね上がったやつだぜ、ビッグブラザー?』)

 

「何が言いたいか判らないのだが……」

 

 と、いつの間にやら出て来たチュウベェである。私の頭の位置くらいで、フリーズして石みたいになっている夏凜相手にしらーっとした目を向けている。というか女性とみると基本は誰彼構わず突撃していくタイプの性格になってしまったと思っているのだが、チュウベェ的に夏凜はそういう相手にはなっていないということなのだろうか。何かしら一定の基準でもあるのかもしれない。

 そんなことを考えながら私の周りをフワフワ浮いてシャドーボクシングのようなことをしてくるチュウベェの頭を指で抑えるように撫でていると、夏凜がようやく再起動したらしい。立ち上がり、私の両肩に手を置いて――――。

 

「――――と、刀太。今からキスをします」

「一体何の宣言だお前さん!?」

『ふみゅー!?』

「お覚悟を! ――――っ」

 

 無表情を装っているが頬が紅潮してたり若干ジト目気味だったり焦点が合ってなかったりそれこそ指摘事項は指数関数的に膨れ上がるのだが、そのまま強引に唇を近づけられても、彼女は口と口がふれる手前の位置で、目を閉じ、それこそ相当箱入りな生娘が勇気を振り絞っているかのような表情にまでなって、そこで動きが止まってしまった。

 息遣い。ほんのり漂うシャンプーの匂い。ふ、ふ、とわずかに気合でも入れようとしているのか、変な息遣いが聞こえるが、それでも彼女は動けないらしい。私は私でその振り払えない程の何故か強力な腕力(死天化壮とかはほんのり溢れてる神聖魔法を警戒して出来ない)で身動き取れず、そのまま眼前ミリ単位で固定されているお綺麗な顔を前に身動きが取れない。

 とはいえいつまでもこの体勢でいるつもりもないので、逆にこちらから息を「いつかのように」吹きかけ返した。

 

「はひゃ~~~ッ!」

「いやだから叫び声……」

 

 キャラ崩壊もなんのその、お姉さんぶっている声ではなく完全に愛らしい声音(つまり舌足らずな感じ)で私から飛び退き、両手で顔を覆って再びフリーズした。

 チュウベェと顔を見合わせると、まるで提出ギリギリの書類を送信する直前で社内のネットワークがクラッシュし全ての作業が水の泡となってしまったブラック企業勤めの悲しい戦士たちのような黒々とした目と無垢な表情。言外に「オマエガドウニカシロヨ、コレ」と言われているのは察するが。とりあえず夏凜の発言を一旦振り返りながら、整理して口を開く。

 なお口調は「私」から刀太に戻す。……というより素でこんな状態になった彼女の相手をしたくない(白目)。面倒くさい(断定)。

 

「…………あー、つまり? 今までのあの距離感は、本人的には『そういう』のを意識していたわけではないと」

「………………」

 

 顔を隠したままだが、首肯。

 

「いや、でも今までだってキリヱとか九郎丸とかから、なんか似たようなことっていうか、色々言われてたんじゃないッスか? それに対して違うの、とか色々言い訳付けてたような気がするっスけど……」

「…………外からどう見えるかと、私がどう思っているかは別なものだから。でも『貴方』本人がそう感じているとなると、少し話が違ってくるのよ」

「いや、それこそアレだろ。俺こそあー、要は『思春期』な訳だから。気が付くとよーく身体の欲と言うかは持て余すし、そんな距離感で迫られたら、勘違い? じゃねーけど、相手がこっちを好いてくれてるかどうかって感じるくらいは当然あるだろって」

『ふみゅー』(特別意訳:『まぁビッグブラザー「そのテの」本とか全然持ってないけどなー』)

 

 私本人からの否定に、しかし夏凜は「違うのです」と顔を上げた。

 

「…………いや何ッスかその顔、見たことないっていうか人間ってそこまでその……」

「…………恥ずかしすぎて愧死してしまいそうよ。いえ、まぁ自業自得なのだけれど」

 

 少し待って、と言いながら夏凜は首のリボンを外し、胸元のボタンを第二まで開けて……、ってだからそういう仕草が色々問題あるのだとわかっていないのか? 素か? やはりえっちが過ぎるのではこの女性、このエロさで鋼鉄の聖女とか無理では? いや今までが「独り」だったから逆にこう拗らせたという説もあるが。ともあれ開けた胸元に掌をうちわのような風にして仰ぎ、深呼吸。多少はマシな表情に戻り(それでも恥ずかしそう)、一度咳払いをした。

 

「とりあえず齟齬をなくす目的で……、夏凜ちゃんさん的には、今までどういう意図だったんスか?」

「…………私にとって大事な『先生』に、貴方を重ねていると言ったことはありますね」

 

 首肯する私に、照れながらも微笑みを浮かべる夏凜。いや、こう、そのレベルで抑えられてると表情の感じに大河内さんとかをオーバーラップさせてしまって色々と私も危険なのだが。とりあえず目をそらして続きを促す。

 彼女は腹の前あたりで指を絡めて手を組み、視線を落とした。

 

「私自身、こう、チョロい自覚はありますし、単純な自覚や絆されやすい自覚、惚れっぽい自覚もあります。そもそも雪姫様を尊崇する今に至る経緯も、『先生』にあの方を重ねた面が無い訳ではありませんし……、決裂する前の十蔵も…………、いえアレはないですか。

 まあ、他にも私に『イシュト』という呼び名を付けた男やら、色々いましたが。それでも、どれ一つとしてまともに『成った』試しが有りません」

「はぁ……」

「『成った』試しがない、というのは、私が『為せた』試しがないということでもあります。私は結局、関係する誰しもを幸せに出来た試しがない…………、それこそかつてから今に至るまで、『先生』に祓ってもらった(ヽヽヽヽヽヽヽ)にもかかわらず、私はずっと呪われた罪深い女なのでしょう」

 

 だから力になりたかったと。夏凜の一言は、そこに込められた感情は重い。

 

 総合すると、彼女は自分が人を愛する資格はないと――――愛そうとした相手を幸せにできた試しがないのだから、そんな私は人を好きになるべきではないと。そう自覚しているからこそ、自分は誰かを好きになることなど有りえないと。そういう考え方に至ったということなのだろう。

 その割に原作での雪姫に対する空回っていたアプローチの数々が脳裏を過るが、とはいえあれは考えてみれば雪姫――エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルが未だに生きているからこそ、なのだろうとも考えられる。ある意味で原作の夏凜は、今度こそはという意気込みが強いのだとも言える。だからこそ、彼女と仮契約をしようとして、その「神の愛」、自らの不死性の根幹たる「先生」からの後押しが雪姫を拒絶した時の、その絶望ぶりというのはすさまじく大きかったのだ。 

 

 変な形で感情の振れ幅のようなものが分かってしまい、嫌な汗が流れて来る。……そもそも彼女の語るその話自体、原作「UQ HOLDER!」のそれと全く同じかすら最近は疑い出しているのだ。ガバはどこにでも潜んでいるからね仕方ないね(諦観)。(???「すっかり疑心暗鬼が板についてきたねぇ」「先輩も悩むだけ無駄な話ネこれは……」)

 下げた頭を上げない夏凜。もう顔は赤くない。そこにある感情は、声音の通りのどこかほの暗いジメジメとした気配を帯びていた。

 

「だからこそ、私自身そういう感情は抱くことはないだろうけれど、それでも『貴方が』求めているように、受け入れてあげられるだけの何かを返してあげたかったのですけど……、そう感じられていたのだとするなら、それは私にそういう心があるということですから。

 これでは結局、何も変わりない――――」

「…………いやー、まー、そういう訳でもないとは思うッスけど」

 

 私の一言に、夏凜は口をつぐんだ。

 

「そこら辺がどういう感情だったかとかは今更考えないッスけど、でもまぁ……、上手く言えないッスけど、それで確かに『私』が救われた面もあったんでしょうし」

「救われた……?」

 

「――――貴女が察しているように、『私』の人格は色々と複雑なものであるから。だからこそ、ある意味では不安定である自覚は大きい」

 

 いくら近衛刀太に寄って振舞おうとしたりしたところで、本来の私の氏素性「であろう」それが、必ずしも今の私を肯定してくれるとは限らない。既にキリヱに五万回以上も周回させてしまった前科もあるし、それに伴って「自分ではない自分」との意識の統合という工程すら経過した。ある意味でそれは、本来であれば「私」にとって自己認識崩壊(アイデンティティ・クライシス)そのものであるが。それをしてなお立とうとして、立つことが出来た理由に周囲の人間たちとの関係がなかったとは言わせない。

 

 そして夏凜に限って言えば――――。

 

「……いたずらに全肯定とか、そういう訳ではないとは思うけれども。それでも、私が今ここにいること、そのことだけは全力で貴女は肯定してくれていたと思う。

 ある意味で雪姫にすら話すことのできないところに、察していても、そこまで大きく追い詰めるようなことも最初以外はしなかった。…………だから、それだけでも大きいのだ」

「それだけでも?」

「おいそれと話せる訳じゃないからな。私の――――『神楽坂菊千代』という曖昧な自己認識は」

 

 だから、そこだけは感謝を。

 彼女の抱えるそこに、その全てにどうこう言う権利も何もない。それは原作の近衛刀太がそうであったように、今の私ですらそうである。ましてや彼女個人からその過去すら話されていない今の私が、何かを言える話ではない。

 

 だから、少なくとも。彼女が私にしてくれたことについては、それだけでも大きく、感謝を。

 

 その意図がどれくらい伝わったかは不鮮明だが。それでも夏凜は顔を上げて。……少し赤くなった目元を拭い、私に微笑んだ。

 

 

 

 その後、ルキやらアポやらスラムの相変わらず元気な子供達と再会して遊んだり、夕食を食べたり、寝静まった後に付近をパトロールしたりと色々あったが。ところでそれはそうと、夏凜が見ていないところでチュウベェが突然私の肩を叩きだしたのは一体何だったのだろうか。(???「そりゃアンタ、根本的な疑問やら問題の解決を全部放り出して肯定するだけ肯定したら何が起こるか自覚してないから焦ってんだろうねぇ」)

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 教会の手前で子供たちからわーわーまとわりつかれながら、ツンツン頭をした気だるげな眼をしたあの少年はシチューを配っていた。

 いい加減に私も「地上での」暮らしに慣れてきたところだ。人間のやりとりなど声を聞かずとも口の動きだけでもある程度判る。

 

『今日はギター持ってきてねーの?』

『九郎丸のお姉ちゃんは?』

『悪ぃがどっちもねーなー。ただ手品は新しいの出来るようになったけど』

『それより勉強教えてくれよ! チャン刀兄ちゃん』

 

「……フフ、中々慕われているようじゃないか」

「いや、ただの女の敵でち(ヽヽ)

 

 私の感想に、隣の「彼女」は気に入らないのか舌打ちまじりに応えた。唾でも吐き出しそうなほどに嫌悪感を隠そうともしない。私とは異なり双眼鏡を覗き込む彼女は、そのままリュックサックから、こう、味が非常に独創的なことで有名な栄養ドリンクを取り出して、キャップを開けてストローを入れた。

 …………まぁその変な飲み物を好む嗜好に思う所はあるが、あまりとやかく言う話ではあるまい。私は彼女の、私の腰より少し上くらいにある頭を軽く撫でながら話を続けた。

 

「そうは言うがな。あの我々にとって『天敵』とも言わんばかりの女を上手い事言いくるめるのなど、並の所業ではいと思うがね」

「そんなこと関係ないでち。子供とかに優しいのは素だと思いますけど、女心を察して、それを中途半端に踏みにじって絆しにかかるのなんて女の敵に違いはないでち」

「中途半端ということは理解しきれていないという意味ではないかね。私が擁護する話ではないだろうが、可哀想ではないかね」

「知らないからと言って済まされる話ではないでち。責任をとるつもりもないのにそんなことするべきではないでち」

 

 責任云々は私の年でそうこう話すことではないが、この娘は先ほど「真実の目(テリティウス・オクゥス)」であの少年を捉えた。一体何を「視た」のかまでは定かではないが、直接会うまでの微妙な表情から嫌悪を浮かべるようになったあたり、あまり良い物ではなかったのだろう。

 まあ、別に私からしても彼の心象がどう悪くなろうと、あまり関係はないのだが。……とはいえこの娘含め、あのネギ・スプリングフィールドの縁者であるのだ。家族同士でも自分の宿命(サガ)次第で殺し合うのが「魔人」といえど、程々で止めなさいと思う程度には、私も人間界での生活が長くなった。

 

「では、どうするのだ? サリー(ヽヽヽ)。言った通り私は君の保護者だが、()の依頼は受けるつもりはないが」

「そんなもの、決まっているでち。今日は実行しても失敗するでしょうから手は出さないでちが――――『闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)』エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルや、『万能射手(アルカナ・サジタリウス)』龍宮真名などに気取られるより先に、あの兄弟を鹵獲するでち」

 

 言いながら彼女は、飲み干したビンを放り投げ腕を組みニヤリと微笑み…………。そして、得意げに表情を()めた後、数秒で目を丸くして「でちッ!?」と情けない声を上げた。嗚呼またかと、私はため息をつく。

 

「も、漏るでち~~~~~ッ! お花、お花をつめる場所は何処でち~~~~~~~~!」

「…………『それ』さえなければ、先日とて件の二人も仕留められただろうに」

 

 まあ私も「石化」でサポートしてやることはなかったのだが。親代わりとしては、この小用の近ささえどうにかなってくれればと、何にとは言わないが切に願うばかりであった。

 

 

 

 

 




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ST132.闇に生まれし第三の目 ★

毎度ご好評あざますナ! 今日はちょっと早目です。
戦闘シーンとチャン刀の言い訳()のおかげでだいぶ文字数が稼がれたやつ・・・
 
※あとがきに挿絵あります


ST132.BORN IN THE DARK EYES

 

 

 

 

 

「あの、夏凜先輩?」

「どうしましたか九郎丸。…………おや刀太、ヨダレが垂れていますね。フフフ」

「いや、フフフじゃなくってその、えっと、何と言いますか……」

「九郎丸もやりますか? ほら、その手に持っているスプーンを刀太に向けてあーんして――――」

 

「――――近すぎるじゃないのヨ! 明らかにッ! 距離感とか! しかもここ何日かッ!

 ちょっと一体何がどうしたっていうのヨ意味わかんないッ!」

 

 狂った世界、狂った世界だ……。明日すら見えないというかガバしか見えない世界などもはや狂った世界でしかないだろうが、割と自業自得の部分もあるので何とも言えないが言い訳くらいはさせてほしい。そもそも当事者のメンタルが、依存か崩壊かの二択のみの状況で私にどう選択肢を取れと?(白目)

 

「いえ違うのですキリヱ。――――近すぎるのではなく、近づいているのです」

「より性質が悪いわヨ! 完全に自覚ありありじゃないッ! 何なの、アンタやっぱり好きなの!!? っていうかこの間から何かおかしいってことはアンタ何かしたのちゅーにアンタッ!!?」

「…………」

「と、刀太君、心が死んでる……」

「まあ落ち着きなさいキリヱ。そもそも大前提ですが刀太も私も現在フリーなわけですし、その気があるのなら貴女とてアプローチすれば……、いえむしろしましょう。一緒に。ほら、こちらに来て――――」

「出来ないから言ってるんじゃないのよアンタ本当どーしたの夏凜ちゃんヘンな薬でもやったの!!?」

 

 現在の案件的に割と洒落にならないキリヱの自爆めいたツッコミはともかく……、いやその自爆内容も内容で色々とこの世界の正気が無いよう(激ウマギャグ)。どいつもこいつも一回でいいから原作を読み直せ原作を(無茶)。

 昼休みのとある教室、人はいない。場所でいえば夏凜の現在通っている学校のどこかの準備室ではあるらしいが。ここ二日三日ほどずっとこんな調子の夏凜に誘われてホイホイついていき(というよりなんとなく未だに情緒が安定していない気配を感じたので一人にしておけず)、そんな私に「ぼ、僕も行くよ! 何かこう、心配だからっ」と付いてきた九郎丸と途中で湧いて来て酷い顔をしているキリヱ、そして面倒ごとの気配を感じて早々に退散した一空という構成が現在である。

 

 まぁ端的に言うと、夏凜が壊れ(デレ)た。もともと相当デレていた気もするが、色々とそんな状況ですらなくなった。というかそういう次元を完全にすっ飛ばしてデレてしまった。

 それは例えば、朝学校に行こうと九郎丸と一緒に部屋を出れば寮の入り口で待ってたり、またこの仕草がどこの少女漫画かというくらいソワソワして見た目の成人女性っぽい美人さと裏腹なくらい子供っぽい具合、かと思えば私を見つければそれこそ原作でも早々お目にかかったことのないレベルで「ぱあぁ!」と明るくして駆け寄ってくるわ腕を組んでくるわ、そのくせ話していることは普段通りという何だこの崩壊したパーソナルスペース(絶望)。

 九郎丸ですら指摘をためらうレベルで色々と何かが飛んで行ってしまった夏凜であるが、しかしそこは我らがキリヱ大明神である。しっかりツンツンと腕を腰に当てて正面衝突してくださっているようだった。

 

 とは言え状況的に半分以上呆然自失として遠い目をしている私であるが、身体的にはまあまあ思春期が思春期しているお陰で持っているらしく(?)、意識がどこかにノーコンで投擲されることだけはギリギリで回避できていた。回避できていたからといって今の私が正気かどうかはともかくではあるが、それはさておき。

 深呼吸をして我を取り戻し(たことにして)、私の腕に縋りつくようにして肩に頭を乗せる夏凜のつむじに声をかけた。

 

「とりあえず飯、食べるんで離れてくださいッス」

「わかりました」

「秒!? 秒以下で納得するの!!? 私が言ったときは全然離れる素振りすらないくせに刀太が言ったらすんなり離れるの!!?」

「当然です。さて……、では、はい? あーん♡」

「声音がおかしいわよ何そのカワイイ声!!? ちゅーにが子供になってた時のあやすみたいな頭フワフワな声!!? 猫なで声ですらないわよねそれッ!」

「いや、まぁ自分で食えるッスから……、食え……、んぐ」

「アンタもアンタで受け入れてるんじゃないわよ!!? って九郎丸も何、自分のカツサンド一つ手にもって構えてる訳、順番待ちか何かッ!」

 

 ぜー、ぜー、と肩で息をする大層お疲れのキリヱ大明神に、遠い目をしながら思わず両手を合わせる(祈祷力)。もっともその後で意地を張って自分の持っていたフライヤーのフライドポテトを構えて九郎丸の後ろに並ぶのは、お前さんもお前さんでちょっとこう、なんていうんですか…………。

 

 やっぱり神様なんてどこにもいないんだね(悟り)。(???「ある意味「神殺し」を主題とするアンタにとっちゃ至言ではあるだろうが」「…………」「アハハー、『自分』相手にそういう顔するの止めて落ち着くネ、『勝四郎』サン。只でさえ先輩は先輩自身が先輩として『重なって』る以上、色々早くなるのはある意味自明の理というやつカナ」)

 

 なお念のために言っておくと、ここまで彼女たちがベタベタしてくるのは、本日のまほら武道会予選で、夏凜と九郎丸がチームを編成して戦うことにしたらしいから、だろう、と思う、たぶん(疑心暗鬼)。少なくとも登録などの関係があるため、今日に関しては放課後は一緒に居られないと。明日に至っては件の取引への「カチコミ」があるので、そういう意味でも今日は一緒に居られないから心配的な感情が発露にあるに違いないそうに違いないきっとたぶん(疑心暗鬼)。(???「ここまでくると自己催眠の領域かねぇ」「セルフマインドコントロール……」)

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「釘宮にも愚痴、電話したんだけどさ。『拒否できないのが悪いとは思うけれど、拒否するに出来ない状況なのは察してしまったから何も言えない』て返されてさ。正直、こう、なんていうか二人してどんよりする他なかったんだわ……」

「いやそんな話、私にされても困るんだけど……って、それって私も入ってたりする? ちゅーに、アンタちょっとそこに直りなさいッ!」

 

 スラムの街並み、中央通りだったろう元の地形から外れて更に裏通りとも呼べる光の少ない場所で、携帯端末やら光源アプリやらを使用しながら歩く私とキリヱである。

 この少なくとも表面上全然変わらない距離感、嗚呼プライスレス(祈祷)。

 

 なんだかんだで既に夜半。放課後は帆乃香たちが「あーそぼーうえー♡」と何処から買ってきたのかTRPGのルールブックやら何やらを手に絡んできたが「えぇい仕事じゃー仕事じゃーッ!」と誘惑を振り払い、その後は真面目にお仕事である。お仕事といっても連日、繁華街かスラムかを見て回ってるくらいで、真面目にスラムにお邪魔したのは初日くらいなので、それ以降は大した話ではない。そもそもスラム周辺を見て回ると言うのは、基本的に「そのテの連中」の姿を確認できるかというのが主になりつつある。向こうも大々的に何かやらかすのはまだ時期尚早と考えているのかは知らないが、ともあれそんな訳で。

 そうすると誰かしら私の護衛ではないが、もう一人必要というところでキリヱが手を上げた。夕方の時点でセーブをしておけば、いざ何かあってもすぐに対応できるだろうという判断である(時間遡行)。九郎丸と夏凜も既に彼女の能力詳細は聞いているため、これには納得を示して現在に至る。私としても何かしら大きなガバが起きて変な事態が発生しても問題ないだろうと考えているので、これはこれで「勝ったな」というところだった。(???「フラグ」)

 と、久々にキリヱ大明神で癒されて思い出したが、そういえば夏凜いわく今回のヤクザ編? みたいなものって既にキリヱによる「巻き戻し」が発生していたはずである。それについて確認すると、キリヱは「全然へーきよ、へーき」と肩をすくめて笑った。

 

「まだたった49回だし」

「多ッ!? いや回数に関してガバが過ぎるだろお前さん…………」

 

 既にだいぶ巻き戻していらっしゃった。というか彼女の基礎値というかが「ゾンビウィルス事件」のときの五万回基準にでもなっているのか、どう考えても耐久上限値がぶっ壊れている一言である。私の指摘に「えっそ、そう?」と少し困惑するキリヱ大明神だが、その内心を慮って思わず合掌し祈りをささげると例によって「私の運気が散るから止めなさいヨ!」とぶんぶん手を叩かれた。

 

「いや、それはそうとして、フツーに俺を巻き込めば良いじゃねーか。何で一人で頑張ってんだよ」

「んん、癖みたいになっちゃってるのは認めるけど。そうは言っても無理なものは無理なのよ。今回は下手に事情説明すると駄目なタイプだったみたいだし。ただ結論だけは最近確定してるのがわかってきたから、そろそろ話すつもりではあったけど」

 

 来たれ(アデアット)、とハンディカメラサイズで例の時間捕捉カメラ的サムシングを呼び出すキリヱだが、それを適当に調整して私に向けぱしゃり。「はい」とこちらに画面を向けて来るそれは。

 

 背中から無数の黒い刃を背後に浮かせた「三つ目の少女」に取り押さえられ首を刎ねられた直後の近衛刀太の写真――――。

 

「これだけは確定してるんだけど、その時に私は『居ない』みたいなのヨ。どうあがいても」

「どうあがいてもって……」

「色々あんのよ。っていうか、たぶん『少ししたら判る』と思うわ。だから今回に関しては、むしろ私がアンタと一緒に出て直に敵の正体を確認してやろうかしらって思って――――」

 

 

 

 言いながら、次の瞬間にはキリヱは「石化した」。

 

 

 服はそのままに、彼女の肉体だけ。ちょっと苦笑いしながらも「ふんすっ!」と鼻息荒くしているその状態のまま硬直である。石化というと原作フェイトを思い出すが、しかしあれは服すら含めて全身レベルでの石化だった訳であり、この中途半端な状態は――――。

 

「いやマジで脈絡なくいきなり来たな……、というかなんで気づけなかったんだ? ――――ッ!」

 

 それを見た瞬間に示し合わせたような嫌な感覚。しかも一方向からのみとはいえ「絶対に逃げられない」体感がある――――咄嗟にしたことは、その方角へ向けて腕を突き出し、大血風を展開・回転させ「置いた」ことだ。「面」で嫌な感覚を感じた以上は黒棒で受け流すのは悪手。とくれば手先から展開した血風の回転で直接防御を期待するくらいなものだが……。

 そのままキリヱの身体を抱えて、その場から退避。内血装による瞬動もどき(龍宮隊長いわく「活歩」とか言っていたか)を発動。出力的に裂けて出血した脚の筋肉から死天化壮を身に纏い、数秒でその場から離れる。

 

 と、その置いていた血風が一気に石化し、あまつさえ追撃の「弾丸」で砕けたのを見て判断が正解だったと悟る。あのまま残って応戦したらキリヱすら粉々にされていただろう、これだから全身凍結とかそういった類の攻撃は厄介である。そもそもこちらの物理耐久を破壊してきたり、窒息させようとしてきたり、ある種搦め手の極致のようなくせに殺し方が明確過ぎる訳だ。

 

「こんなんだったら九郎丸から『狙撃の方向』の見分け方とか習っとくんだった……! 絶対そういうのあるだろ神鳴流ッ」

 

 愚痴りながら思考は止めずである。キリヱの写真やら前後の言動、および夏凜をこの間向かわせた経緯からして、おそらく敵だろう相手の狙いは私のはずだ。

 旧大通りを過ぎて教会の方向へ、血風のドームで覆い「全体を」「血で」包んだキリヱの石像を投げる。物理的には重くて到底飛んでいくはずのないそれは、死天化壮同様に「血装術」の応用で私の意のままに建物の内部へと向かって行った。

 

 それを見送りながら、私自身の周囲へもドーム状に血装を展開。常に血液を流動的に入れ替えながら――ッ、早々に石化。外壁の方向はやはりと言うべきか上から、ということは少なくとも相手は高所の建物にいると考えるべきで。それが可能になるのはこのスラム付近でいっても――――。

 

「……見つけた」

 

 もとは集合住宅というかマンションだったろう廃墟、その上に「嫌な感覚」。曇っており月も陰り、吸血鬼の視力補正を込みにしても正体は捉え難いがその相手が何かしら銃器をこちらに向けているようなイメージはわかる。なんとなく学園祭編での龍宮隊長を思わせるようなマント姿だが、その相手はスコープを「覗かずに」こちらに銃を向けていた。

 上等である。誰だかは知らないが我らがキリヱ大明神を「音もなく」ああしたのだ。只では帰さん――――。相手に見えないようチュウベェを私の後ろの影の辺りに出し、そのまま有無を言わさず血装で覆う。『ふみゅー!』と抗議の声を上げて来るが、緊急事態なので今回は少し黙ってい欲しい。そして向こうが射撃したのか「嫌な感覚」が全身に広がったのと同時に、私は先ほどのように大血風を展開、しながら同時にチュベェを取り込んだ。

 

 ――――死天化壮・疾風迅雷。

 

 そして石化の類の何かしら、弾丸か何かが血風へ炸裂したのと同時に「血」をその弾丸の表面に走らせ、そのまま「空気抵抗」の薄い方向――――弾丸が通過してきた空間へ、感覚的に血を流す。石化がその後追いを始めたあたりで手から接続を放して「超加速」。血の伸びて行った方向へと「体感」を頼りに、私は空中を飛行する。

 途中、竹刀袋から折れた黒棒の持ち手側を抜き、左手をポケットに入れて移動。向こうはこちらを認識できていないのか、いまだローブから見え隠れする表情は険しいまま。それを横目に背後に回る。

 

 と、同時にチュウベェが分離した。時間切れにはまだ早いだろうにと思って見れば、まだ若干超加速の体感が抜けていない状況だからこそ、スローモーションでこちらに手を突き出して抗議しようとしている動きが見える。が、それに応じるよりも先に私は狙撃手目掛けて斬りかかった。

 

「――――はッ」

「――――でちっ!?」

 

 と、この段階で向こうの認識も追いついたらしい。いかに速く動くとは言えど「視えない速度で」動いている訳では無いので、時間切れになればこうして相手の視覚からの情報も脳にたどり着き、正常に判断を下せるのだろうか。それはそうと、振り下ろした黒棒に対して、その相手は思い切りよく機械機械(メカメカ)しいライフルを生贄に捧げた。分断は黒棒の切れ味上されないにしても、それでも銃身がへし折られたそれはもはや使い物になるまい。と、そのままマントを脱ぎ棄てた「彼女」は、私目掛けてそれを投げつけた。殺気が薄かったせいで一瞬対応が遅れるが、それをちょうど払った時に見たのは、彼女が仮契約カードを掲げてウルト〇セブン(ジープ師匠)が額から光線を出すときの様なポージングをしてる姿だった。

 

来たれ(アデアット)――――真実の目(テリティウス・オクゥス)

 

 カードが姿を消すと同時に、その両手の指で示された額の先にまず紋様。目を意識したその紋様が少しまろ眉ではないが太めの眉の上に現れたと思うと、それが一気に真っ黒に染まり縦に「開眼した」。額を中心に瞼が左右に開き、彼女の赤系統と同色の瞳孔がこちらを捉える。そしてその目にうっすら魔法陣が浮かび上がり――――。

 

「タケミカヅチ・レプリカ――――!」

「おっとッ!」

 

『ふみゅー! ぴっぴか……、ぴ?』

 

 そのまま両手に真っ黒な直刀のような何かを出現させ、両手で斬りかかってくる。ほぼノーモーションから動いたにしては勢いは強く、見ればその両足は「真っ黒なブーツ」のようなものに覆われていた。揺れるサイドテールと切りそろえられたもみ上げ、こちらより「本体」の身長自体は低そうだが、そのブーツ状の何かの分だけ伸びているように感じられる。

 そして彼女は、強かった……というより「妙にやりにくかった」。その額の目で見られると同時に、危機感と言う訳ではないが妙な違和感が走る。そしてこちらが構えたり、斬り返そうとするのを全て「的確に」、それこそまるでこちらがどう攻撃するか判っているかのように潰してくる――――その流れでフェンスの端まで追い込まれ足を払われ、突き落とされる。

 とはいえ死天化壮状態なので、意識すればすぐに座標固定自体は出来るのだが――――――――。

 

封印(シール)、でち」

 

 セーラー服のスカートがどれくらい捲れてるかなど全く気にせず、そのまま刃を下に向けて私の心臓のあたりに目掛けて自由落下のままに「振り下ろした」。壮絶な嫌な予感に思わず黒棒を構えようとするが、落ち乍らにもかかわらず彼女のブーツらしきものの先端に腕の肉を死天化壮の上から「抉られる」。血しぶきと肉が散り、一瞬の痛みに手が緩み、構えようと動かしていた手から黒棒が抜け落ちる――――。

 その隙を見逃さず心臓に突き刺さった刃のせいか、私の死天化壮は「解除された」。

 

 落下――――地面に叩きつけられ、身動きが取れない。全身が痛いというか、全然痛みが消し飛んで行かない――――「再生している気配がない」。こころなし心臓を含めて、全体の感覚も鈍くなりつつある。

 そして落下してきた彼女は、スカートの裾を直して瓦礫の山に倒れた私を見降ろし、どこからか取り出した紙パックのジュースに口をつけ…………、いや何だその「性力増強ヤサイエナジー」とか書いてあるそれ。ストロー越しだけど色、蛍光色してんぞ一体どうしたお前さんの味覚(マジレス)。

 その、なんとなーく原作基準で「どこかで見たことのある様な」顔立ちの少女は、私の顔を見て不可解なものを見るような目をした。

 

「な、何でち? 本気でこっちの体調とかの心配してくるその感情。特に『兄弟(きょうだい)』相手にそんな目をされる謂れはないでち。それにこれは美味しいでちから、何ら問題はないでち」

「きょう、だい…………?」

 

 首肯すると彼女は周囲を見回す。先ほどの戦闘のせいか、いくらスラムとはいえ若干野次馬が形成され始めている。それに舌打ちをすると、私に刺さったままのタケミカヅチ・レプリカらしい直刀を持ち、そのまま私を「刺したまま」背負い出した。

 

「場所を移すから、来るでち――――」

「はい? ――――ッ」

 

 そして私の首を掴み、そのまま「瞬動」。…………って痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い! 明らかに今までのそれとは違うタイプの痛みだぞコレ、熊本時代に一度ヤクザの息子率いる珍走団相手にケンカふっかけて最後の最後にバイクと正面衝突した時でもここまでではなかったぞ一体何考えてるんだお前!? もう少し優しくしてクレメンス(嘆願)。結局あの時もリハビリは一週間かからなかったから、今思えば「金星の黒」が仕事して再生速度が上がっていたのだろうかとかは思うが、それはそれとして痛いものは痛い。

 痛いのは嫌なのだが……、慣れれば良いという問題ではなく。

 

 そして気が付くと、スクラップ置き場。ルキたちが色々廃材を集めたりしてたあそこというか、スラム編で灰斗とかと戦っていたあそこの近くと言うか。もっと言うと原作で「カトラス」と初遭遇してそうな、そんな場所だ。

 これは、言動が正しいと彼女もまた「妹」もとい「後発の実験体」なのだろうから、そういう意味では原作の修正力じみたものが働いているということか……? カトラスを下手に絆しすぎてそのフラグが折れたから、世界が逆に新しいフラグを作ってきたということか。どんな顔したら良いんでしょうね私(震え声)。緊張のあまりとりあえず笑ってしまいそうになるが、胸部を中心に走る全身の痛みでそれすら歪む。

 

「こりゃ一体……」

「兄弟の『金星の黒』への扉に干渉したでち。……本当なら封印されてしかるべきところなのに、どうして未だに仮死状態になっていないでちか? 扉と相性が良すぎとかでち? ――――へ、変態でちー! 身体的にちゃんと血のつながった兄に劣情催してる変態がいたでちー!」

「いや一体何を見たんだお前さん……」

 

 見る限りどうやら何かしらこちらの記憶なのか情報なのか、それこそ千里眼的に色々な情報をその額の目で視ていそうな彼女だが、そのまま勇魚あたりでも捕捉したのだろうか。……すっとそこで勇魚の名前が出て来る時点で既に私の自己認識も大概アレな気がしないでもないが、一瞬だけこちらに同情するような目を向けて来た彼女は頭を左右に振り、再び紙パックのドリンクを飲みながら背後に「剣」を大量に出現させた。

 

「まあ良いでち。死んでいないと言うのなら、回収して『バアル様』に届けるまででち」

「…………ッ」

「でち? 知ってるでちか、その感情の動きは」

「いや、知らねーけど言いぶり的になんかヤバそうな気配あるだろ、あからさまに悪魔の名前な訳だしッ!」

 

 実際の所はそれこそ原作「UQ HOLDER!」裏ボス、あるいはかませボスの名を欲しいままにしているバアルであるが、同じくちょっと噛ませギャグキャラ臭のするニキティスの兄だったりするらしいので、そのあたりは残当であるが。いや、とはいえ色々な事情が嫌な形でつながり始めた状況、こちらは黒棒すらなく血装すらできない。いうなればスラムの時に首だけになったあの状態に近い訳だが――――。

 

「その予想は概ねあたりでちが……、その変な察しの良さが、結果的に大量の女の子を巻き込んでスケコマシになるやつでち。やはり兄弟は女の敵でち!」

「い、いや待て! その意見には異を唱えるぞ! 別に手出したまま捨てたりとかそんなことしてねーしというかそもそも中学生!」

「でも、『最終的に』『何人かとは』『そういう関係になる』つもりはあるでちね? 『そういう目で』見ているでちね?」

「……………………」

「やはり女の敵でち」

 

 いや、待ってくれと。原作基準で考えると確かに何人かとは「そういう」関係になる前提があるから、対策対応が最近ちょっと雑になり始めているところはあるというのも無くはないのだが、それはそうとそんなこっちの感情を前提に認定するの止めてくれませんかね……?(緊張) だって見捨てる訳にもいかないし、そもそも全員そろっていたって世界が危険なわけで、取りこぼさないで済むなら取りこぼさないで済むのが一番なわけで最悪その相手は「私」ですらなくていいが、とはいえそこまで察した上でわざわざ普通は動くかと言うと一概にどうこうは言えない訳で、おまけに大体は「痛い」のだ。痛いのは嫌だからこそ、それは捨て置ける話では決してないのだからその、助けて……、タスケテ……。(???「段々言い訳めいてきたねぇ……」)

 そして動揺する私の首の横に、剣を突き付ける少女……っていい加減呼び名が判らないのはどうなのだろうかと思わなくもないのだが。

 

 そんなことを考えたタイミングで、彼女はため息をついた。

 

「…………アマテル魔法魔術研究所不死化実験、72号。『正式な』運用ではラストナンバーの『サリー・ファアテ』でち。せいぜい覚えてから逝くと良いでち――」

 

 そして剣を振りかぶり――――。

 

 

 

「――――――よぉ、随分ゴキゲンじゃねぇか? 妹。せっかくだから俺も混ぜてくれよ。『72号』」

 

 

 

 閃光、光の奔流が迸り。それにより剣を折られたサリーと言うらしい彼女は後退して。

 我々の後方の頭上――――たぶん原作刀太が八つ当たり気味に壊した岩とかその類のところから、少女が一人こちらに飛んできて。

 

 

 

「よー、大丈夫かよ? 『お兄ちゃん』」

「…………お兄ちゃん、だと?」

 

 

 

 現れた彼女は、カトラスは、それこそ別人みたいな雰囲気と恰好のまま、サリー相手に仮契約カードを取り出して、ニヤリと笑った。

 

 

 

 …………、っていや誰だお前? 誰だお前……、誰だお前!? 恰好から髪型から「生身の手足」から目つきの感じから漂う雰囲気から何から何まで全然違って誰だお前本当ッ!!?(???「自分で蒔いた種さね、甘んじて受け入れるんだよ」)

 

 

 

 

 




ST127および今話などのキャラクターイメージ(特に服)が色々判りにくいと思ったので、妹二人を「こんな感じかな」とさらっとらくがきしました。脳内で赤松ビジュアルに変更しておいてください汗

【挿絵表示】

 
  
活報の[光風超:感想1000件(大体)突破記念募集] の方もまだまだ内容募集中ですナ!
期限そろそろですので、ご注意くださいっ!


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ST133.黒い右、白い左

毎度ご好評あざますナ!

一応今回もファッションについて記述が若干あるので、もう一回再掲しときます。

【挿絵表示】



ST133.Other Metatronios

 

 

 

 

 

「よぉ、随分ゴキゲンじゃねぇか? 妹。せっかくだから俺も混ぜてくれよ。『72号』」

「『17号』でち? 失敗続きで既に素体の原形も崩壊したはずの出来損ないが、何の用でちか」

「オイオイ、こういう場合はちゃんと『姉サン』って呼ぶべきなんだぜ? デュナミス様とかディーヴァのヤバイ姐サンからすら教わってねーのかよ」

「私はそっち側には行ったことがないでちが、違和感があるでち――――出来損ないの姉サンの、その身体には」

「ん? コレか。まーアレだ、『生え変わった』んじゃねーか?」

「冗談は今のその立ち位置だけにしておいて欲しいでち。その立ち位置にも文句はあるでちが」

 

 末の妹……、妹って割に私と「お兄ちゃん」以上に似ていないけど、そんな72号相手に鼻で笑った。大体、私はロールアウト時期の関係で「40番以降」とはほぼ面識がないのだ。風の噂で50番台の連中が実験場の事故に際して脱走を試みて何人か消息知れずになったとか、71号にかんしては完全失敗作としてコールドスリープされているとか、色々聞いたりはしていたけど。

 その点から言うとコイツは話に全然上がってきていないし、たぶん特に問題なく成功した例ってことで――――「お兄ちゃん」を除いた最終ナンバーってことは、コンセプト次第ではそれこそ一番完成度が高い奴なんだろう。

 

 まあ、だからって消極的になることも卑屈になることもない。なんたって、私も私で以前の私とは全然違うんだから――――。

 振り返って、背後で胸にまた刀刺されて封印でもされてそうな「お兄ちゃん」に笑いかけた。

 

「よー、大丈夫かよ? 『お兄ちゃん』」

「…………お兄ちゃん、だと?」

「へ? ――――あっ!」

  

 そして、頭の中で考えてた呼び名がそのまま出てたことに、一瞬思考が真っ白になった。

 いやその、お兄ちゃんって呼び方はなんかスラムに居た時にふと出て来はしたけど別に私は兄サンを兄サン以外の何かって思ってる訳じゃねーし、そもそも野乃香さんが「この子、刀太の後に生まれた子ぉやから妹ちゃんやねー」とか何もわかってなさそうだった小さい兄サン相手に言ってたのがなんとなく頭のどこかに引っ掛かってただけだしッ!

 っていうか兄サンも兄サンで何、そんな私の「生身になった両脚」とかジロジロ見てんだよ。変態かッ! 確かに私の「母親を名乗る女ピエロみたいな不審者」に「テナちゃん(※本名)は私の血を引いているのですから、身体のラインは綺麗に出ると思いますよ」とか目が笑ってないニコニコ笑いで言われたから、なんとなくファッションもそういう感じにしたにはしたけど。それだって私、兄サンの妹なんだから、そういう街角で男が女に目移りするみたいなヘンな目向けられても、こう、ちょ、ちょっと照れるから止めろってのッ!

 

「いや、というかお前今出て来て大丈夫なのか? ちょっと前に思いっきり学園都市の方で――――」

「あ~~~~、とりあえず黙ってろってのッ! そんなに大変そーなら、少しくらいは手を貸してやるから。弱い者いじめみたいで、絵面が酷えし」

「介入理由が雑でち。…………そんなに簡単に絆されてて、いくら何でもチョロすぎではないでちか?」

「ほ、絆されてとかいねーしッ!」

 

 誰がチョロいだ、誰がッ!

 しかしこの妹、額の目はアーティファクトっていうより「金星の黒」を部分発動して、少し魔族っぽくなってる感じか? 私の今展開してる「明星の右(シファー・ライト)」みたいな話じゃねーけど、そこにあの模様っぽいのを上乗せして効果を倍増してるとか、そんな感じか。目に発現する以上は何かしら「視る」タイプの能力なんだろぅが……。

 私もとりあえず仮契約カードを抜いて、笑っておく。こういうのはハッタリが大事らしいし、相手の練度次第ではこれでプレッシャーを感じて気圧される場合も――――。

 

「――――生憎そこまで経験がないわけでもないでち。

 というより何でち? 私を相手取りながらそこの兄弟相手に『格好良いアピール』したくてしたくてたまらないでちか。どれだけメンタル不安定だったでち。いくらそこの兄弟に絆されたといえどそう簡単にそこまで『スキスキダイスキ♡』『アイシテル♡』みたいにはならないでちよ」

「なってねーよ! っていうかさっきからお前、うぜぇぞいい加減っ!」

 

 べ、別にそんな意図は全然ねーけど! まぁ結果的に今の身体――――「生身を取り戻せた」のは兄サンのお陰って面が母(不審者)いわく大きいらしいから、そういう貸し借りをナシにしたいってのはあるけど。

 

 両手に私みたいに何かしらの魔法具(アーティファクト)のレプリカだろうけど、剣をもって襲い掛かってくる三つ目の妹。それにハマノツルギ・レプリカを二本生成して、一本を左手の受けに使って、もう一つを分解して右手に「装填」。

 

明星の右(シファー・ライト)――――」

「む……? ――ッ、の、脳みそ筋肉でちかその能力!!?」

 

 軽く悲鳴を上げながら後退しようとする妹に向けて、右手に装填した魔力を、悪魔的なシルエットを纏った右腕の先から放つ。照射の時に拡散するよう手のひらを中途半端に開いて打ち出したので、妹も目を見開いて避けるに避けられない――――。

 でも致命傷は避けようとしてか、唐突に武器のレプリカを大量展開して盾にしようとしていた。

 

 以前ならそれこそ、私だってこの威力の出力は「体内」の「内部回路」の都合で無理がそう利かなかったけど。それでも今の、「再生した」内臓とか、筋肉とか、そういうのだったから。そこに「金星の黒」の魔力が回って、ちゃんと私に無理をさせてくれる。

 

 ……そう、母(不審者)に言わせれば、一度兄サンの手で私の「金星の黒」の扉を操作されたことが切っ掛け、らしい。

 基本的に「扉」との適性はあるけど、魔術的に切除されたり移植されたりしない限り、私たち「英雄の子供達」は身体の内に「白」と「黒」双方へと繋がる扉を持っている。それは「改造中」によく研究者が話していたそれが、麻酔なんて全然効果なくって意識だけ残っていた私の耳に直に入ってきていたモノだけど。だからそれがどう出力されるか、無理やり戦場で傷ついた私たちみたいな連中を好き勝手いじくりまわして、テストして、それでどういう風にしたら何がどう出て良くなって悪くなってと言うのを()ていたとか。

 だから、それをしてなお「黒」の適性が低くてロクな再生ができなかった私なんかは、それを発露させるために無理に色々いじられて、何もかも滅茶苦茶になっていたとか。

 それを、兄サンが無理やり一本通して、「金星の黒」を発現させるラインを作ってくれた――――それにとどまらず、たぶんそれを作る際に他の流れも結果的に修正されて、そして「白の方も」、改造が重なる末に使えなくなってしまっていたアレの方すら……。いや、この話は良い。

 

 重要なのは、こう……、嫌でも私に兄サンへの借りができたってこと。

 ほっぺにチューするくらいじゃ全然返しきれないレベルのやつ。まぁ私のチューにどれくらい価値があるのかって話だし、自意識過剰かッ! って話でもあるけど。

 

 ……ま、それ以前にあの母(不審者)に初遭遇早々に義腕義脚両方ともぶん盗られたことの方が色々衝撃だったのは、置いておくとして。

 

 

 

「……なるほど、失敗作だと馬鹿にしていたのは謝るでち。ちゃんと自助努力して這い上がろうとしていたでちね。そういうのは正しく評価するべきだと、私も思うでち。『姉サン』」

  

「なん、だ?」

「あー、まぁあれくらいじゃ倒れねーだろうって気はしてたけど」

 

 

 

 ほぼゼロ距離からの照射を、だけどあの妹は受けきった。スカートとか上着とかもボロボロでチャックのついた紐パンみたいなのが見えて、でも全然そんなこと気にしてない。片方髪留めが壊れてアンバランスになった左右の状態だけど、収納アプリか何かから栄養ドリンクみたいなのを取り出して、ストローをさして飲み始めた。

 と、兄サンが半眼になって言う。

 

「いやだから、お前さんそのドリンク色々まずいだろ色々……。何だよその『すっぽんエナ汁溶き卵セーキ』って、どう考えても味が……。というか身体に絶対悪いだろそれ……」

「兄弟もセンスがないでち。良いでちか? ――――これは飲み物じゃなく、呑み込むものでち。のどごしが最高なのでち」

「マジか……」

「私が言うのもアレだけど、栄養ドリンクに求めるモンでも無いだろ妹それ……」

 

 思わず兄サンのテンポに呑まれて感想を言ってしまったけど、なんだろう、変なむず痒さがある。それが何なのかと我ながら疑問に思った瞬間「本当の兄妹みたいだとか思ってほっこりしてるでちか……」とか妹が言い出した。

 べ、別にほっこりとかしてねーし。

 

 というより明らかにさっきから、こっちが考えているようなことを正面から言ってくるので、心とかを読んでくるタイプの能力なのか? コイツの目。小声で「時の回廊」を仮契約カードから召還しながら、それを背後に隠しつつ誤魔化す様に会話をする。思考を読まれるのなら、それが届くよりも先に対応すれば良し。タイミングはアイツの気がそれた瞬間……。

 

「おい『でち公』。お前って何? そういう妖怪か何かなのか? コミマスの魔法少女のヤツにそーゆーのがライバルキャラで出て来てたけど」

「魔法少女ユウバエ、でちか? 確かに読心術系のキャラクターがいたでちが、あそこまでブラックでもむっつりでもないでち。

 むしろむっつりは姉サンの方でち…………? で、でち公?」

「別に舌足らずッて訳でもねーのに、でちでち言いまくってたらそりゃそういう呼び名にもなるだろ、でち公」

「…………どうやら兄妹そろって、連れて行った方が良いかもしれないでち。その方がこう、私のストレス的には楽になりそうでち――――」

 

 目を閉じて頭を左右に振った瞬間、「時の回廊」を発動させ、兄サンの胸に刺さってる剣を抜こうと―――――。

 

「――――させないでち」

「――――えっ?」

 

 した瞬間、どこからか発砲音がしたと同時に魔法具が「石化した」。

 効果切れ扱いになったのかカードに戻る魔法具だけど、発砲音には反応できない。とっさに右腕を盾のように胴体の前に構えたけど、それよりも兄サンの足が私のふくらはぎを払う方が先だった。

 体勢が崩れて、疑問符と痛覚が走る――――のと同時に、目の前を掠める弾丸の軌跡。だけどその入射角から「見切った」。以前みたいに電脳のサポートが有るわけではないけど、その分戦場で培った戦闘勘はもう少し洗練されている。咄嗟にその掠めた方向へ目掛けて左手を構え、ハマノツルギ・レプリカを投げた。

 

 ざくり、と何かを切断する音――――瓦礫の隙間、ハンドガンを持っていた「赤黒い手」が消滅する。このなんとなく漂った嫌な臭い。兄サンのそれとは少し毛色の違う匂いだけど、正体はこの胸に這いまわる気持ち悪さでわかる、「血の匂い」。

 

「おや、仕留めそこなったでち。……銃は今日あれで手持ち最後でちが」

「何、だ? そりゃ。兄サンの真似事か何かか。血装術だったっけ?」

 

 身体を起こしながら兄サンの方に寄ろうと、した瞬間に私と兄サンの間に剣を投擲してくる妹。さっき何か「干渉してる」とか聞こえていたけど、この感じじゃ少し抜いたりするだけですぐ復活するやつなのだろう。ってことは、私が早い所兄サンのそれに触れてしまえば一番早いってことで……。

 

 まあ、どちらにせよ私の後発なんだ。「魔法ベース」での武器の生成に違いはない。なら、やることは一つ。時間制限はあるけど、この状況なら必要な奴だろう。

 きちんと生え直した左手からリストバンドを取り、軽く開いて空にかざし――――私はその名前を宣言した。

 

 

 

「――――紅焔の左(アザー・メタトロニオス)

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「だからチャ〇なんだよなぁ……」

 

 知らないし見覚えもない妹と戦闘する知ってるし見覚えもあるけど知らない妹を前に、思わずつぶやいた私の一言である(震え声)。いや、あのサリー自体その背格好はともかく顔立ちに何か見覚えはあるからひょっとすると「原作」でどこかに出てきている奴なのかもしれないが、それ以上に原作での面影が消し飛んでしまった妹チャンことカトラスことテナ・ヴィタである。

 確かに金星の黒を引き出しやすくする際、彼女の中の「流れ」の配置を多少はいじった。とはいえあくまで血装術による操作がメインであったから、それがどうしたという話だろうと思ってはいた。ひょっとすると後半、つまりはそれこそラスボス戦くらいの頃には生身の手足くらいは取り戻しているかもしれないと思いはしたが、いやいくら何でも早すぎだろうと。だってこう、さっきからチラチラとギリギリ見えないラインを躱しているそのミニスカートから伸びている褐色の綺麗な脚とか、外見的に私とそう年齢に差は無いだろうに謎の求心力があり視線が吸い寄せられる(適当)。その片足もそうだし、おへそがチラ見えする黒いタンクトップが引っ掛かってる綺麗な両腕。

 かつてはどちらも片方ずつ欠損していたそれらが、物の見事に「生え変わって」おり、おまけにその動きに一切の不具合が見られない――――つまりリハビリやら何やらに相当する運動機能の再訓練も終了しているとみえる。

 

 そんな彼女がOSR(それっぽい)アーマーを私の補助なしに右腕へ装備していることとか、普通に使いこなしている所とか、あとポニーテール姿なそれとか(前髪ぱっつんなのでちょっと大河内さんとか思い出す)、それもそれで色々言いたいが一番の問題は。

 

 

 

「――――紅焔の左(アザー・メタトロニオス)

 

 

 

 そう言った瞬間、生え代わった方の左手が「白く輝き」、赤い紋様というか魔法陣のパーツを分解したみたいな痣が浮かび上がったり……。だからそこまで両手装備とかやっちゃったら本当にお前(自分の編で)(活躍がばっさりカット)(されてしまった友)だろ! 〇ャド(特に触れられずボクサーになってた友)だから! 何、巨人の右手悪魔の左手にちなんで両手装備になったとでも? 流石にそこまでは設計してはいないだろ星月もッ! 自分で開発したんかいッ! そのチャ〇(フラグの塊)装備により近づけていくスタイルは嫌いじゃないけどお前マジで原作基準で考えて死に易いんだから大事にしろその命!(マジレス)

 

 その変化した左手……、アザー・メタトロニオス? とかいったか。右の方は金星だったらルシファーとして、火星の白に応じて天使にあてはめるとカマエルとかその辺りなんだろうけど、あえてルシファーの対極を狙ってきた感じでこのあたりはカトラス本人のOSR(それっぽい)回路の趣味なのだろう。実際白く輝いているそこに浮かび上がる赤い痣も、ぎらぎらとしていて太陽の奔流(コロナ)とかを思い起こさせて、メタトロンを引きずったネーミングにも納得いくところはあるが。しかしレフトにかかっていないと言うことは、さては逃げたな?(察し) まあ確かにそうそう簡単に思いつかないか、左に掛け合わせた呼び名だと。……、いや、むしろ左をその他と対にしたせいで、命名が引っ張られたのだろうか。なんとなく後で問い詰めてニヤニヤしたい(悪趣味)。

 なおそれを見て、でち公呼ばわりされてちょっとキレたらしいサリーが、わざわざ解けた側の髪を止め直してジト目で睨む。……ってお前さんはそれ以上にボロボロになったスカートのパンツ隠せパンツ(直球)。いつぞやの幼少期ココネ並みに羞恥心をどこかに置いてきたような振る舞いである。もっともその羞恥心に価値観を置いていない振る舞いになんとなく、雰囲気的に綾瀬夕映(漏るです)的なキャラクター感もあってこれはこれで変な懐かしさもあるのだが…………? えっ、いやちょっと待て、あの変な味覚と「でち」を「です」にでも変換した場合の今までのやり取りからすると、ひょっとしてネギぼーずとアスナ以外の成分の一つは……。

 

「それは……、自信満々さとさっきの脳みそ筋肉みたいな『気分』からして、ハッタリではないでちね」

 

 言いながらタケミカヅチ・レプリカと叫び再度数本生成し、そのまま投擲……、というより背後から射出。猛烈な勢いで飛んで来るそれを、瞬間、作り直したハマノツルギ・レプリカを持った左腕で適当に払い。

 

 

 

 サリーにより造り出された複数の剣は、カトラスの剣に触れた瞬間、熱したバターのように「融けた」。

 

 

 

「――――ッ! なるほど、さては『火星の白』の方が適性が高いでちね」

 

 ならば、と言いサリーは手をかざす。と、どこからか中程で折れた刀が放り投げられ……、ってそれ黒棒じゃねーか! さっき取り落とされたやつ! おそらくこの場に協力者がいる訳ではないだろうから、先ほどの銃撃のように「血装術」か何かを駆使して持ってきたのだろうが、それを手に取りサリーは瞬動で距離を詰めて来る。と、それにニヤリと笑ってカトラスはハマノツルギを右腕に掴み――――。

 

「でちッ!?」

「悪いけど、近接なら剣術よりCQC(近接戦)の方が得意なんだわ。私」

 

 それこそまるで映画かゲームかのように、サリーのその振り下ろしを軽く受け流した。その後、近寄ったことでむしろ「融かされた」のを見たときよりも焦った表情のサリー。距離を空けようと剣を振り回すが、それすら躱し腕を極め、時に投げてそれを許さないカトラス。

 

 ひょっとすると、これはいわば「廉価版」の「火星の白」のそれ、魔法無効化能力の発現なのではなかろうか。「ネギま!」および「UQ HOLDER!」において、希少能力とされる「ありとあらゆる魔法発動の無効化」系統の能力。もっとも多少の制限が本来はあるようだが、カトラスのそれは微妙に違うように見える。後で教えて……はくれないかもしれないが、「今後の参考」としてちょっと興味があった。

 

 それはともかく。少なくともさっきの戦闘を思い返し、今のサリーの動きを見るに。彼女の方は「専門の訓練」のようなものを受けた形跡もない。あくまで我流であり、どちらかといえばその「第三の目」の能力ありき、のような戦い方なのだろう。だからこそ私からすれば、動きは読まれるくせに中途半端に「素人くさく」、お陰でやり辛さがあった訳だが。逆にカトラスとの闘いでは、その「第三の目」の力がおそらく封じられている。とにかくカトラスから離れようとしているサリーの動きを見るに、有効射程のようなものがあるのかもしれない。

 

 遠距離にも対応できる右、近距離が本来は専門の左……、うーんやはりチャ〇スタイル(虚寄りの力)……。

 

 そんな間の抜けたことを考えていたせいだろうか、あるいはそれが霊圧消失(それらしい)フラグになったか。唐突にサリーが自分の胸に、生成したタケミカヅチ・レプリカを「突き刺した」。一瞬あっけにとられたカトラスだったが、その剣が消えた次の瞬間に、あふれ出た血の波に流され。同時のその血は私の方まで流れて来て――――。

 

 

 

「――――っ、お、お前!?」

『……ふふ、確か『こうすれば』良いでちね。兄弟。映像記録はちゃんと見ているでち』

 

 

 血装術で構成された「血で出来た」サリーは、ニヤリと笑みを浮かべて私の胸に刺さった剣を握り――――そこから「血」を通して、胸を消し飛ばし「風穴を開けた」。

 

 

 

 

 

 




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ST134.魔の系譜

毎度ご好評あざますナ!
ガバの代償を負うでち公と、親の介入的なアレ


ST134.Steele Blood Stream

 

 

 

 

 

『ガバの塊じゃないかな、こう。容姿的に似ていないわけだから、そういう所ばっかり似なくても……』

「いや、近衛刀太相手はともかくとして『私』とは二人そろって血はつながっていないのだから、そもそも似ている似ていないという次元の話ではないだろう」

『魂的にはそういう訳にも……、あっ、いや、まあいいかな』

「オイ何今言いかけた」

『だ、だ、大丈夫、大した話じゃないってば。…………でも、二人とも似ている所は有ると思うよ? 懲りずにガバ生産し続けるところとか、あとは中学二年生が誇大妄想抱えているときに夢想していそうな無双的センスとか』

「フォローするように人の心を抉ってくるの止めろ(マジレス)」

 

 男の子の心はそういう部分で割とデリケートな部分である。男女平等がうたわれてから随分時が経ち、とはいえ出生率の低下やら何やらで色々と制度も社会情勢も右往左往してしまった2080年代現在であるが、そうはいっても女の子が男の子の心を慮って立ててくれると割と男の子は頑張れちゃったりすると思うので、そこのところは大事な概念である。三太とか見ていると。

 

『逆もまたしかりだと思うけれどねー。あの夏凜さんとか』

「いや、とはいえあんまり頑張りすぎも良くないだろうって。ある程度でバランスは必要かなとは」

『そういうかじ取りが、ある意味で相棒が鬱にならないで済んでるところなのかもね。……まあ、あの聖女さんに関してはちょっとどうかと思うけど(前までは母性が勝ってたけど今完全に異性が勝って捕食者の目になってる時があるし)』

「いや精神世界でボソボソ言われても聞こえないんだが」

『聞かせようと思ってないからね。いやー、でもそれにしても…………、被っちゃったねー、仮面』

「被っちゃったなぁ、仮面」

 

 被ってしまったんだよなぁ……。まぁ『内側』から見ているので、外からどう見えているかまではわからないのだが。なお現在「暴走した近衛刀太」に追われている「カトラスとサリーの二人」を、その追っている側の視点から見ている私と星月であるが、特にその状況に何か言うことは無い。しいて言えばすべてはサリーのガバであってそれ以上でも以下でもないのだ。

 

 普段のように変色した空とスクラップ置き場と軌道エレベーターのようなそれが見える場所……、立地的にはさっきまで私たちがいたあそこの近くに似たような場所もありあそうな気はするが、そんな場所で空を見上げて、私と星月はそろってため息をついた。

 いや、星月に関してはほぼほぼ大河内アキラの容姿をしており、何の気を違えたのか知らないがマントの下がスクール水着になっていたりしてお前もお前で一体何が何なんだという話なのだが。

 

 さきほど何が起こったかと言えばシンプルで。カトラスに勝ち目がないとみたサリーが、私の胸に風穴を開けて「魔天化壮(デモンクラッド)」を誘発させ、それを自らの血装術で操ろうとした、ということらしい。後半については星月から情報を聞いたから知ったのだが、どうやらあのサリーには「火星の白」の扉が存在しないらしい。つまりは「金星の黒」特化型、属性としてはかなり魔族寄りであると言える。だからこそ自分の力への慢心があったのだろうが……。

 しかしこう、外では相変わらず完全虚化(オサレ)してそうなビジュアルになっている私が黒棒もなく延々と無茶をしているのだろうが、いくら何でも状況が悪すぎた。襲撃者側の目線でこういうのを考えると凄い不謹慎だが、いくら何でも強すぎである(不謹慎)。

 

 なにせ風穴をあけられた胸元から延々と「金星の黒」の魔力を捻出し、それを起点に血装術による疾風迅雷以上の「瞬間移動」めいた高速移動。もともと死天化壮自体が血装術による排出血液の座標移動をベースの技術としているため、本能に振り回されている(割には明確に殺意のようなものがあるような容赦のなさ)私のそれは、もはや人間の判断速度を超えている訳で。

 突然現れたような状態の私相手に、サリーもカトラスも明らかに翻弄されていた。サリーに至っては黒棒を適当に使っているが、その動きの拙さを目掛けて集中的に攻撃している私らしい。まあ純粋な獣として考えると、相手の弱い所を集中攻撃して仕留めるのは理には適っているのでその動きも判らなくはないが、それはそうとして自重しろ闘争本能。誰か抑えてくれるオッサン求む(四文字)。

 

『その、私はそういうの得意じゃないというか……(そういう意味だと「私」は近衛刀太に負けている立場だから……)』

「それはそうと、これってあの時みたいに解除できない?」

『難しい、かな。その、暴走状態の相棒自身の練度が上がっちゃってるせいで、血を使って干渉して意識を戻そうとしても逆に封じられちゃってるって言うか……』

「致命傷じゃないか……」

 

 いやこれ下手するとどっちか殺してしまうかもしれないんで、そろそろ一肌脱いでくれませんかね師匠ォ!? 無敵の時空干渉能力でなんとかしちゃってくださいよ師匠ォ!(???「そういうのは私よりはキティに頼んでおくんだね」)

 

 そもそもサリーもサリーである。胸に穴が開いて呻きだし仮面が形成され始めて明らかにヤバイ気配ぷんぷんの私を前に、唖然として後退するカトラスめがけてマウントとろうとしてるとか。しかも血装術で作った首輪をこちらにかけて、私の血に干渉して操作しようとするが。はっきり言って「統合前」ならいざ知らず、キリヱ大明神から受け取った「私」と統合された今の私にとって、お前のそのレベルの操作術など全然大したことがないのだ。

 

『でち公、お前それ、いや止めろよそれ、洒落にならねぇから…………』

『何を怖がっているでちか? フフン、こんなもの「特化型」の私の手に掛かればほら、この通り――――これで姉サンの好きにはさせない、で、ち?』

 

『――――――――――――――――ッ』

 

 たとえ「私」がしっかりした自我をもって操作しないにしても、それこそ暴走しているからこそ本来より容赦なく、サリーが行おうとしていた操作を振り切ってその場で足を掴み、猫と鼠がワーキャー言って戯れながら命のやり取りをする友情のようなそうでもない物語かのごとくビタンビタンと妹を叩きつけまくって純粋な物理暴力を振舞う悪魔の姿がそこにあった訳だ。

 

『痛っ、洒落になってないでち! 死ぬでちー! こんなの死ぬでちー!』

『あーもうっ、世話の焼けるッ!』

 

 なおあまりに見て居られなくて救出するカトラスと、その直後に一目散に逃げたサリーが今の状況である。

 スクラップの山の隙間をかいくぐるように走る二人の妹と、それを本気で殺そうとでもしているかのような暴走状態の私である。原作のようにただ無目的に攻撃をしている訳でなく、明確に「殺意の波動」にでも目覚めて居そうなレベルで一切合切容赦のないこちらであるからして、流石のカトラスも封印とかそういう手段をとる余裕がないらしい。

 というかおそらく、四肢を固定したらその瞬間に傷口から血風放って無効化して首捕まえそうだし、この状態の私(震え声)。

 

『こんなはずでは……、何なんでちか、何でこっちの血装「乗っ取って」くるでちー! 漏るでち、こんなものに追われたら夜トイレいけなくなって漏るでちー!』

『おいでち公お前のせいだろ何とかしろー! お前のせいだろどう考えても、何勝手に怖がってんだよ! くそッ、『紅焔の左(アザー・メタトロニオス)』――――』

 

 お互い敵同士でこそあるがそれ以上に私が厄介な状態になったせいで呉越同舟めいているカトラスとサリーであるが、涙目で表側からパンツを押さえているサリー相手に追い詰められている時の私みたいなテンションのカトラスはコンビとして絶対やっていけない(漏らさせそう)。しかし死ぬとかよりも漏れる方を気にしているあたり、あっちの妹も妹で割と余裕がありそうだった。

 なおカトラスもカトラスで、以前よりは本当に余裕があるらしい。輝く左手をぶんと払い、私の身体にまとわりついている追加装甲のような悪魔めいたシルエットと化しつつある死天化壮本体に一撃を与え…………なんで与えた傍からその箇所より血風が生成されているんでしょうか暴走状態の私の人体(震え声)。弾き飛ばされるカトラスを一瞥すると、距離的に近いせいもあってかサリーの方へ目線がロックオンされる。

 

『ひぃいいいいい! く、さ、去るでち! こんなの、私の尊厳がどうなっても良いでちか!? 漏るでちよ! 漏れちゃうでちよ!!?』

「だいぶ混乱して来たなあっちも……」

『というかいい加減にするでち、こんなのだったらさっき調子に乗って色々飲むんじゃ――――あっ』

 

「『――――あっ』」

 

 へなへなと、女の子座りでその場に崩れるサリー。その動きがあまりに理性やら何やらで判断したそれではなく、本当に唐突だったせいもあったのだろう。ラリアットのように動いていた暴走状態の私はその首を獲るようなこともなく、しかしその絶望感が強すぎたせいか手放した黒棒だけはちゃんとキャッチする。暴走状態でもちゃんと自分の武器は確保したがる辺り、やっぱり戦い辛いのだろうかこの魔天化壮。

 そして、刃を手にした私を前に、サリーは立ち上がり。……って? いや、お前さんその両目、白目と黒目が反転しているみたいになって明らかに人間的なそれではなくなりつつあるのだが? というか何処から取り出したお前さんその「頭にかぶった」笠みたいなやつ。羞恥に震えているところ悪いが、他の要素が気になりすぎてそれどころではないのだが。

 

『…………バアル様などもはや関係ないでち。もう、兄弟など殺して私も死ぬでち~~~~~~ッ!』

 

「自業自得なんだよなぁ(煽り)」

『怒り方に血筋を感じる(煽り)』

 

 思わず星月の方を見たが、彼女は彼女で視線を逸らす。意外と上手い口笛を吹いて完全にごまかす姿勢だがまぁそれはそうとサリーの方である。キレ散らかしながら、その変貌しかかった状態で私に斬りかかろうとして。

 

 しかし、サリーの剣がこちらに届くことはなかった――――すなわち、「折れた黒棒」の先端に形成された「血の刃」が、サリーの脳天を貫くことは無かった。

 

 

 

「…………いや、この娘は『継承先』が決まっているものでね。そう簡単に殺されては困るのだよ。ネギ・スプリングフィールドの孫よ」

 

 

 

 私とサリーとの間に、高身長の黒ずくめスーツ型の老紳士が、帽子の位置を整えて呆れたように笑った。

 …………えーっと、その白いお髭と髪型は確か、ヴぃ、ヴぃ……? 駄目だ一回しか出てないからちょっと名前思い出せない……。

 

『ヴィルヘルム・ヨーゼフ・フォン・ヘルマン。自称・伯爵、没落「貴族」だけど本来は上位魔族だね、相棒』

 

 あーそうそうヴィルヘルム――――ってどう考えても魔界関係者というかバアル関係者だろこのタイミングでの登場と言うか「ネギま!」踏まえてのお前さんの立ち位置!? というか「UQ HOLDER! 」原作の方で出てこなかったくせにどうしてこっちで出て来たお前さん!!? 当てつけか何かか!

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 意識を取り戻して上半身を起こす。両腕はまだ「解除」されていないから、そう深手を負って「均衡」が崩れた訳じゃないらしい。と、それを確認して「お兄ちゃん」がどうなったかって思って――――。

 立ち上がって周囲を見渡すと、あのでち公といつか見た「悪魔みたいな」お兄ちゃんの間に、脚がスゲー長い爺が立っていた。

 

 爺は妹が被ってた笠みたいなのを手に取る。と、ボロボロと崩れて砂とか粒子みたいに風に乗って散っていった。

 

ザリーチェ(ヽヽヽヽヽ)の継承が済んでいないのに、無茶をするのは止めておきなさい、サリー」

「でち……」

「それから、『漏らした』ことについては訓練してもなおらないなら初めから飲むなといつも言っているだろうに」

「でちっ!? な、何をいうでちか! 私に死ねというでちか!!? あ、アレでちよ! アレアレ、人間っていうのは生きるためだけに生きるにあらずでち! 生きがいを奪うとかマイクロマネジメントでちよ!」

 

「いやそこまでかよ……」

 

 なんだかスラムでたまーにキレていたお兄ちゃんを思わせる感じの表情の感じに、なんでか内心少し不機嫌になる。

 

「真正魔族を目指しているくせにその物言いでは、『観測』あたりからまたダサい宿命(サガ)を付けられてしまうだろうに」

「で、でもこれは譲れないというか……、そもそも『味がしない』のに生きてるって実感を教えるために習慣づけたのは『義父』の方でち」

「私とてまさかそこまで耐性がないとは思っていなかったがね。

 さて……、それはそうとしてだ。オトシマエと言うのはつけなければならないが、ふぅん?」

 

 なぜか動かないお兄ちゃんだったけど、妹に突き付けていた刀をそのまま振り上げて爺の肩を下から斬り上げた。でも爺は爺で傷ついてねーし、斬られたところは血じゃなくて黒い影みたいなのが煙みたいに立ち昇ってる。そのまま爺は顔色一つ変えずにお兄ちゃんを蹴り飛ばして、遠くに――――行くかと思ったけど、いつの間にか出来てた「血の尻尾」が爺の脚に絡まっている。驚いた顔の爺はそのまま空中で止まったお兄ちゃんに引っ張られて、びたんびたんってゴミの山に叩きつけられていた。

 

「悪魔パンチする暇も無しか。んー、『あめ』『すらむぃ』『ぷりん』。君たちならば粘液生物だから物理攻撃は――――」 

『ムリー!』『ヤバイって言ったらヤバイかラ』『っていうかー私ら出たら間違いなくあの血のやつで消し飛ばされて欠片も残らないゼ』

「おっと――――っ」

「いいとこなしすぎでちさっきから!!?」

 

 振り上げられた瞬間、爺はお兄ちゃんの「血の尻尾」を切断して、同時にその手元に「丸っこい」仮面みたいなのを取り出す。その口の部分が展開して、光線が放たれて――――たぶん魔法攻撃なんだろう、それを浴びたお兄ちゃんの身体が、石みたいになっていって。

 

 でも、数秒で石とか岩とかそーゆーのを叩き割るみたいな音がして、お兄ちゃんは仮面を握りつぶした。

  

 そのままほぼゼロ距離で、先端が真っ赤になって折れた部分が再生したみたいになってる血の刃で、その血の刃自体があのなんかブーメランみたいなのに変化して、爺の下半身を消し飛ばした。上半身、しかも胸から上だけになって、ついでに仮面ごと手も砕かれた爺はそのまま刀で斬られるようなノリで地面に叩きつけられて、妹が声を荒げる。

 

「でち!?」

「んー、なるほどな。では逃げるとしよう」

 

 私だけ「召還」されて逃げる訳にもいくまい、と。そう言って爺は無事な方の手で妹を掴んで、そのままズブズブと影に沈み込み――――それを逃がすような今のお兄ちゃんじゃない。高速で爺たちの前に現れて、そのまま刀を向けて巨大なプロペラみたいにブーメランのアレを展開して――――。

 

「で~~~~ち~~~~~~ッ!!?」

 

 結局、たぶん逃げ切れたんだろう。お兄ちゃんの一撃に肉片とかそういう「嫌な」感覚が乗ってなかった。周囲に飛び散った瓦礫片を見ても血の跡とかは見当たらない。

 そして得物を失った、ガイコツなんだか悪魔なんだかよくわからない頭のシルエットしたお兄ちゃんは、その視線を私に固定して。

 

「あっヤバ――――」

 

 だから私が構え直して反応する前に接近してくるの止めて! 怖い!

 眼前、30センチも距離がないくらいの位置にいきなり現れて、そのまま振り上げた刀を振り下ろそうと――――。「左」で受けて、その先端の血だけは分解して、また腕切断だけは免れたけど、さっき妹相手にするように「装填」していた右を翳して、魔力の砲撃をしようにも、背中から生えて来たみたいな「もう一本の」腕が空へと無理やり向けて、距離を取ることを許さない。

 

 オイオイ本気かよと。私の首を捕まえて、そのまま剣先からあのブーメランみたいなのを生成して向けて来るお兄ちゃん――――。

 

「……あー、まぁ、悪くはないか。別に」

 

 でも、不思議と私の心は澄んでいた。今にもお兄ちゃんに殺されそうになってるっていうのに、そこにどう考えてもお兄ちゃん自身の意志も無いって状況なのに。

 それでもどうしてか、不思議と満たされていて――――だから、思わず。

 

 

 

「…………結構、嫌いじゃなかったぜ? お兄ちゃん」

『――そういうのは、本人の意識が戻ってからやるべきだと思うぞ。

 「狙ってるなら」猶更、な』

 

 

 

 私から思わず零れたその言葉に、知らない誰かの声が投げかけられる。と、その瞬間にお兄ちゃんの全身は、私を捉えていた右腕以外「凍結した」。巨大な氷に呑まれ、囚われ、身動き一つできない状態で。その腕を「蹴り砕き」、その少女(ヽヽ)は、私の腹を蹴り飛ばした――――。

 転がった先でハマノツルギ・レプリカを作り出し、右手で杖替わりにして立ち上がる。身体的な痛みよりも、困惑と状況に混乱している。だってあの少女、十歳くらいの「綺麗な金髪」をした少女の姿は、誰がどう見たって。

 

「エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル……?」

『ほぅ、知っているのか。

 まあ「本体じゃない」から、私はお前が誰なのかとか全然知らないが。

 ……それより気を付けろよ、すぐ「戻ってくる」ぞ』

 

 言いながら、そんな、十歳くらいにしては妙にエロい感じに透けてる黒いネグリジェに裸足な姿のまま。砕ける氷の中から現れる、相変わらず悪魔みたいな姿のお兄ちゃんを前に、ニヤリと嗤った。

 

『本体もお守り代わりに仕込んだろうに、まさか本人の暴走を止めるために出て来ることになるとは……。

 ぼーやでも、もう少し落ち着きがあったぞ?

 なぁ、トータ』

 

 私が言えたことじゃないけど、こう、凄い性格の悪そうな笑顔だった。

 

 

 

 

 




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ST135.「アイヤ、特に聖夜に何かある訳でもないけど今までのおさらいネ! 長くなてきたし」by鈴音(登場人物一部紹介)

メリー☆クリスマス♪
本編のタイミング的に上手い具合に番外編を思いつかなかったので、今回は一部登場人物紹介をば・・・


ST135.Synopsis So Far

 

 

 

 

 

【UQ ホルダー】

名:近衛刀太(神楽坂 菊千代)

 紹:ネギ・スプリングフィールド および 神楽坂明日菜 双方の遺伝子情報をもとにした72体のクローンの一体にして、それらの成果を集約した事実上の73体目。現在は「神楽坂菊千代」を自任する素性不明の人格となっている。

 属:UQホルダー不死身衆(ナンバー7)

 種:人間(クローン第1世代)→吸血鬼もどき → 魔人(真正魔族なりかけ)

 兵:黒棒(人造魔道具(アーティファクト)「百の顔を持つ英雄」)

 技:血装術(吸血鬼スキル)、活歩、謎の察する力など

 最近の悩み:「旅に出たい(白目)」

 

名:伏見 雪姫(エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル)

 紹:様々な名を持つ古の時代からの吸血鬼にして凄腕の魔法使い。諸般の事情があって刀太の義理の母親。現在は「吸血鬼」としての吸血を長らく断っており、80年前の時代よりも大きく弱体化している。

 属:UQホルダー不死身衆(ナンバー1)および取締役

 種:高位吸血鬼(「貴族」もどき)

 兵:魔力糸

 技:氷と闇の魔法、血装術、影操術など多岐にわたる(吸血鬼スキルについては制限)

 最近の悩み:「子供の人たらしっぷりに磨きがかかってきたような気がする……」

 

名:時坂九郎丸

 紹:魔法世界にある桃源という地での本家神鳴流継承者の一人。もとは雪姫の暗殺に来ていたが、なんやかんやあって刀太に絆され友人となり、揺れ動く心に悩まされていたが現在はふっきれた。呪式不死化実験体、かつ神刀/妖刀の依り代。

 属:UQホルダー不死身衆(ナンバー11)

 種:妖魔まじり(八咫の烏族)

 兵:大太刀「夕凪」/仮契約:神刀「姫名杜」など

 技:神鳴流の技全般

 最近の悩み:「サラシでごまかしていくのもそろそろ限界だってキリヱちゃんに言われたけど、どうしようか……」

 

名:結城夏凜(イシュト=カリン・オーテ)

 紹:旧時代、とある聖人に救われるも自らの短慮さをもとにそれを損ない、以降その罪のように与えられた「無償の愛」により現代まで生かされた「鋼鉄の聖女」。雪姫に心酔しており、現在の刀太(菊千代)にとっては姉を名乗る不審者。

 属:UQホルダー不死身衆(ナンバー4)

 種:人間?

 兵:退魔刀「髭切」、戦棍シタ、????(本人曰く「切り札」)

 技:神聖魔法物理攻撃系全般、近接戦闘術、チャン刀殺し(意味深)

 最近の悩み:「私一人で問題ないのでしたらそれでも良いですが、もっと増やした方が良いのかしら? まあ好みはその時々で変わるでしょうし。ええ」

 

名:桜雨キリヱ

 紹:時空干渉能力者。その強みを生かし得た株トレードスキルなどを駆使し陰ながら組織を(金銭的に)支えている立役者。

 属:UQホルダー不死身衆(ナンバー9)

 種:人間(時空の旅人)

 兵:ー/仮契約:時の額縁(カメラ・アド・クロノス)、時空潜行スーツ

 技:周回知識と経験(省略)

 最近の悩み:「とりあえず誰も死なないならそれでいいわよホント」

 

名:佐々木三太

 紹:アマノミハシラ学園都市より合流した「実体の有る幽霊」。水無瀬小夜子の想いを受け、また彼女のような形で虐げられるような存在を生まないためUQホルダーへ。刀太が「学園での先輩」扱いしていたこともあり、兄ちゃんとは呼ばない。

 属:UQホルダー不死身衆(ナンバー12)

 種:死人(幽鬼(レブナント)

 兵:ー/仮契約:|w-AMIGA、力の王笏

 技:霊的な念動力を始めとした幽霊スキル全般

 最近の悩み:「小夜子と会いたいッス……」

 

名:結城忍

 紹:広島方面から刀太を頼って上京してきた。刀太的には原作より早い登場に白目向いているが特に大きく影響しないからヨシ! と思ってる。なお現在、雪姫に魔法を習っていたり……?

 属:UQホルダー仙境館一般従業員

 技:空中飛行バイク操作技能3級、基本魔法科学プログラミング技術者

 最近の悩み:「センパイと中々会えないです……」

 

名:宍戸甚兵衛

 紹:UQホルダーの実質的なリーダー(雪姫は取締、経営者)。雪姫以上の不死者としての経歴と数多の戦闘経験や人生経験をもとに、かつて雪姫やネギ・スプリングフィールドと共に戦っていた。

 属:UQホルダー不死身衆(ナンバー2)

 種:人間(人魚由来の不死身および半仙人)

 兵:ー

 技:イレカエ(?????)

 最近の悩み:「ぎっくり腰が癖になったのかまた腰痛めてるんだけど、どうにかならね?」

 

名:真壁源五郎

 紹:UQホルダーにおいて仙境館の実務を取り仕切る一人。ゲームが趣味の気の良いお兄さんとして、普段は旅館に滞在していることが多いが、一度首都に繰り出せば泣く子も黙るヤクザ者の頭目だったりする。

 属:UQホルダー不死身衆(ナンバー6)

 種:アバター人間

 兵:ヤクザ妖刀・風来坊(フーテン)、銃器(拘りはない)

 技:??????????

 最近の悩み:「若い衆が後輩たちのことをナメくさっているのを上手く教育できないことくらいかな。あと女難と言われていることの正体がわからないのが不安だ」

 

名:バサゴ・アガシオン

 紹:UQホルダーにおいて一般構成員や旅館の実務を取り仕切る一人。事実上の下っ端の頭で、組の動きがきちんと連携がとれていたりするのは彼の影の功績。雪姫に心酔しており、そのまま吸血鬼とならなかった刀太を密かに? 目の敵にしている。

 属:UQホルダー構成員統括(下っ端のまとめ役)、仙境館運営

 種:吸血鬼(一般的な意味での吸血鬼)

 兵:銃器(リボルバータイプが好み)

 技:変身術(吸血鬼スキル)

 最近の悩み:「旅館運営が実質一人になっているこの状況に何か誰かもっとまじめに危機感を覚えないものなんですかねぇ、ええ、流石にそろそろねぇ」

 

名:ニキティス・ラプス(「観測」)

 紹:かつてホルダーの前身組織の時代、アマノミハシラ学園都市の地下に通じる大図書館を管理していた男の職務を引き継いだ貴族/魔人。職務以上に独自の美学にのっとり行動している面があり、怒り方は子供っぽい。

 属:UQホルダー不死身衆(ナンバー8)

 種:吸血鬼の真祖(「貴族」)

 兵:???????

 技:??????????

 最近の悩み:「当然、この僕にッ! そのような相談して解決するようなレベルの低い悩みなど有るわけがないだろう! 当然、ある訳が無いだろう!」

 

 

 

【白き翼】

名:フェイト・アーウェルンクス・K(テルティウム)

 紹:弱体化した雪姫を除き、現在の太陽系最強魔法使いの一人。ネギ・スプリングフィールドへの友情と執着が暴走しがちで、刀太からはその点については安心感を抱かれている。

 属:世界救世軍「白き翼」総司令官、アマテルインダストリー大株主

 種:人造人間

 兵:ー

 技:地属性魔法をベースとして四属性全般に秀でる

 最近の悩み:「何もかもが上手くいかないこと」

 

名:祝月詠

 紹:フェイトとは旧来から長い付き合いの女剣士。実年齢でいえばかなり老齢だがサイボーグ化してパフォーマンスを安定させていた。現在は生身の身体をクローニングし直し、魂の移植作業とリハビリ中。

 属:世界救世軍「白き翼」部隊長

 種:魔族まじり、サイボーグ

 兵:太刀「疾風」、小太刀「真愛」

 技:神鳴流(桃源由来だが我流)、妖術

 最近の悩み:「クローニング先の肉体が私の魂を中々受け入れてくれへんのよ」

 

名:牛冷娑婆(※僧名)

 紹:比較的近年に雇われた武闘派僧侶。霊感の類は低いがその人徳と「一般人レベルで」安定した実力を見込まれてスカウトされる。現在はホルダー拠点に(組織的にはパイプ役として)居候している。話し方が酷く回りくどくあるとも言えるしそうでもないとも言える。

 属:世界救世軍「白き翼」部隊員(実質副隊長)

 種:人間

 兵:頑丈な錫杖(本来は霊的な由来の有る品)

 技:僧兵武術に現代CQCを織り込んだ我流

 最近の悩み:「むしろ悩みを相談される立場故、拙僧個人が言えることは一つだ。むしろ……、相談しろッ!」

 

名:近衛野乃香

 紹:近衛刀太や近衛姉妹の母親にして姪。フェイトには、彼女の個人的な事情から現在協力している。

 属:アマテル魔法魔術工学技術研究所、研究員

 種:人間(クローン第二世代)

 兵:魔術札/仮契約:魔法具(アーティファクト)???????

 技:陰陽道ベースの東洋魔術および西洋魔術に京都神鳴流を少々。あくまで近衛本家で得られる範疇

 最近の悩み:「なんや、下の妹がなんかお兄ちゃん相手にアレな目ぇしとるって風の噂に聞いとるんやけど、どうしたらええんかなぁって思いながら色々相談しとるわ。相性良すぎるんかねぇ、『扉』同様」

 

 

 

【力の手】

名:南雲士音

 紹:「力の手(パワフル・ハンド)」ベテラン隊員。京都神鳴流と桃源神鳴流双方に行き来し剣術を治めている。善悪について語らず仕事を最優先として行動するが、それ以上に不死の怪物、という概念に強い危機感を抱く存在。

 属:民間軍事警備会社「力の手(パワフル・ハンド)」隊員

 種:人間(義手)

 兵:刀剣を主として特に拘りはない

 技:神鳴流剣術

 最近の悩み:「他の若い連中が抜けているから、その分の穴埋めが……」

 

名:灰斗(苗字は仕事に応じて適宜変わる)

 紹:「力の手」隊員。本人いわく格闘家で、種族的なものを差し引いても戦闘技術に天性のものがある。刀太にとっては歩法の師匠に近い。現在はまほら武道会に出場するため、一般予選を勝ち抜いている。

 属:民間軍事警備会社「力の手」隊員

 種:妖魔混じり(狼男)

 兵:ー(己の肉体)

 技:不死の怪物への封印術、我流近接戦闘術

 最近の悩み:「広報と結託して色々やれるようにしたのは良いんだが、やっぱ時間も相手も良いのが中々いねーわ。やっぱ金ねーかねぇ」

 

名:超星仔

 紹:「力の手」隊員。魔法使いとしては古い血筋の、影の精霊使い。かつての夏凜と何か関係があるようだが詳細は不明。

 属:民間軍事警備会社「力の手」隊員

 種:人間

 兵:影の精霊

 技:影操術(精霊由来)、近接格闘術

 最近の悩み:「夏凜ちゃんが予約済とか言っていた奴がいるらしいけど、誰のことなんだろうねぇ……、ふふ、本当にねぇ……」

 

 

 

【アマノミハシラ学園都市関係者】

名:釘宮大伍

 紹:かつてネギ・スプリングフィールドと肩を並べた犬上小太郎の孫。彼の技術を隅々まで受け継ぎはしたが、そのせいで幼少期に色々とトラブルを抱え性格がネガティブに歪む。刀太相手には内心複雑だったものの、現在はお互いの抱えている処理しきれない状況を共有し合いお互い同情しあう変な友人関係に。

 属:アマノミハシラ学園御柱西中3-B、アマノミハシラ学園都市生徒総会・美化委員会/裏魔法委員会

 種:妖魔混じり(狗族)

 兵:黒狗神、白狗神

 技:犬上流獣奏術/獣壮術

 最近の悩み:「イヌメガネ……、いや別に気にはしていないけどね」

 

成瀬川ちづ

 紹:釘宮大伍の従兄妹の少女。容姿は父方の祖母に似ている。大伍に対して並々ならぬ感情を抱いており、それが原因で暴走することもあるが、基本的には常識人。

 属:アマノミハシラ学園御柱西中3-J、アマノミハシラ学園都市生徒総会・美化委員会/裏魔法委員会

 種:妖魔混じり(狗族)

 兵:黒狗神、白狗神

 技:犬上流獣奏術、浦島流柔術、西洋魔法

 最近の悩み:「料理スキル上げないと……、嫁力……ッ!」

 

式音・D・グッドマン

 紹:学園自警団部隊長(!)の一人。祖母から続く学園都市における名門魔法使いの一人だが、性格上向かないだろうという理由から裏魔法委員会には所属していない。箱入りお嬢様で周囲からは「お姉様」と親しまれている。

 属:アマノミハシラ学園聖ウルスラ女子高高等部、アマノミハシラ学園都市生徒総会・自治警備旅団第4班部隊長

 最近の悩み:「お祖母様から頂いた影魔法のための精霊契約が中々上手くいきませんの、わたくしずーっと……」

 

烏丸菜緒

 紹:主に式音のサポートを買って出ている女学生。ぽわぽわとした雰囲気ではあるがメンバーの中では一番色々と経験している……かもしれない。

 属:アマノミハシラ学園聖ウルスラ女子高高等部、アマノミハシラ学園都市生徒総会・自治警備旅団第4班

 最近の悩み:「門限なんていりませーん!」

 

伊達マコト

 紹:菜緒同様に式音のサポートをしている女学生。自警団としての仕事中、雑な形で刀太に惚れかけ、夏凜の手で直々に陥落させられる。

 属:アマノミハシラ学園聖ウルスラ女子高高等部、アマノミハシラ学園都市生徒総会・自治警備旅団第4班

 最近の悩み:「出来ればもっとデートしたいッスけど、あんまりワガママ言うと可哀想ッスからねぇ」

 

名:近衛帆乃香・近衛勇魚

 紹:自警団最年少生徒の二人で、小学校高等部からの編入。戸籍や血縁で刀太の妹となっており、父親代わりとなっているフェイトが教えた彼の人物像のせいか、原作以上に懐いている(特に勇魚)。

 属:アマノミハシラ学園聖ウルスラ女子高附属中学部、アマノミハシラ学園都市生徒総会・自治警備旅団第4班

 種:人間・妖魔混じり(クローン第一世代)

 兵:魔術札・太刀「朝霞」

 技:陰陽道ベースの東洋魔術および西洋魔術・神鳴流剣術

 最近の悩み:「もっとお兄さまと遊びたいわー」「…………」

  

名:三条小梢

 紹:刀太、九郎丸たちのクラスメイト。ごくごく普通の女子中学生……と言いたいが、体育担当の佐々木教諭の姪っ子だったりする。

 属:アマノミハシラ学園御柱西中3-B

 最近の悩み:「お小遣いアップ……!」

 

名:豪徳寺春可

 紹:刀太、九郎丸たちのクラスメイトで裏魔法委員会所属。曽祖父の影響で格闘技が大好きだが、それ以上に漫画が大好きであり、技にはその趣味が良く出ている。刀太を密かに同じ趣味の同志と見なしている。

 属:アマノミハシラ学園御柱西中3-B/アマノミハシラ学園都市生徒総会裏魔法委員会

 最近の悩み:「特に可もなく不可もなく、です」

 

名:坂田太笠

 紹:刀太、九郎丸たちのクラスメイト。ノリが軽くおちゃらけているが本質的には真面目で気遣いをする友人。成瀬川ちづに一目惚れする。

 属:アマノミハシラ学園御柱西中3-B

 最近の悩み:「勉強しないでも宿題が勝手に終わる魔法ないッスかね……(切実)」

 

名:ミヒール・アドリフ(ミヒール・丸山とアドリフ・キャメロン)

 紹:学園の新本校舎に通学する、いわゆる魔法技能一等生徒。実家が資産家で防衛軍にも関わっていることもあって態度が高圧的なミヒールと、そんな彼を周囲へと溶け込ませるため明後日の方向に思考がズレているアドリフのコンビ。

  

名:春日美空・ココネ(ココネ・ファティマ・ローザ)

 紹:学園の教会と一部古い施設の管理をしているシスター。かつて夏凜が来日した際に彼女をかくまったり、雪姫が在学時代のクラスメイトだったりと色々と縁がある。

 属:アマノミハシラ学園教師組合

 最近の悩み:「たまーに夢で若い姿したシスター・シャークティーから『まだこっちに来てはいけませんミソラ! ココネ置いていけないでしょう貴女!』って叫ぶんだよねぇ。いやぁババアちょっと涙出ちゃうわ懐かしくてさ」「…………」

 

名:ザジ・レイニーデイ(“夜明け”のザジ・レイニーデイ)

 紹:かつて雪姫やネギ・スプリングフィールドと共に戦った、魔界のとある国プリンセス。龍宮真名からの依頼でアマノミハシラ学園都市の見守りやサポートを兼任している。外見上はいまだ二十代にさしかかるか否かというところだが、非常に長命。

 最近の悩み:「知り合いが年々姿を消していくことです。委員長は長生きしてくださいね」

  

名:龍宮真名

 紹:かつて雪姫やネギ・スプリングフィールドと共に戦った女傭兵。魔族とのハーフであることもあり、ザジほどではないが長命。

 属:アマノミハシラ学園教師組合/学園都市総合学園長(代理)

 最近の悩み:「時代の流れを嫌でも感じさせられることだな。……いや、私はまだ若いぞ? 若いからなっ」

 

 

 

【完全なる世界】

名:カトラス(テナ・ヴィタ)

 紹:刀太同様の魔法実験の産物で生まれた妹。戦場投入を前提とされており、不完全な特性発露を人体改造によって補っていたタイプの戦術魔法歩兵。自分の境遇やら何やらの怒りなどをもとに刀太へと襲い掛かるが、最終的には絆され色々思い悩む。

 属:「完全なる世界」→ ー

 種:人間(クローン第一世代)

 兵:ハマノツルギ・レプリカ(魔法生成)

 技:我流近接格闘術、「金星の黒」「火星の白」の能力応用

 最近の悩み:「義手義足いらなくなったけど、何着たら良いか全然わかんねぇ……」

 

名:デュナミス

 紹:魔法秘密結社「完全なる世界(コズモ・エンケレテイア)」所属。元魔族で現在は造物主の手により再生した魔族。長年ネギ・スプリングフィールドやその周辺の者たちにことごとく計画を邪魔され続けたため、色々と怒りや恨みは骨髄まで入っている。

 属:「完全なる世界」

 種:人造魔族(実存在ベース)

 兵:ー

 技:魔族としての金星由来の古代魔法、および悪魔としての変身能力

 最近の悩み:「そろそろ引退したいのだが誰も引き継げる相手がいない……」

 

名:ディーヴァ・アーウェルンクス(セクストゥム)

 紹:魔法秘密結社「完全なる世界(コズモ・エンケレテイア)」所属。かつての雪姫により仲間たちと封印され、唯一彼女だけが造物主の手でサルベージされる。もっともその封印期間がトラウマとなり性格的にはグレる。刀太へ執着し(というより懐き)始めている。

 属:「完全なる世界」

 種:人造人間

 兵:ー

 技:水属性魔法をベースとして四属性全般に秀でる

 最近の悩み:「いい加減肉体を再構成してもらわないと、可愛いものを愛でられないし刀太君の元にもいけません……」

 

名:近衛木乃香・近衛刹那

 紹:刀太たち一部の実験体の遺伝子提供者。かつてネギ・スプリングフィールドと共に戦った「ネギ先生の従者(ミニステル・ネギ)」であった。

 属:「完全なる世界」(木乃香はアマノミハシラ学園都市総合学園長)

 

 

 

【熊本在住時代関係者】

名:朝倉清恵

 紹:刀太のクラスメイト。当初は彼をいじめていたが、暴走族相手に誘拐されかかった後、妙な察しの良さでかけつけ仲間たち五人で特攻をかけた姿に惚れ、以降は「色々な心配のない」普通の友人として認識される。

 最近の悩み:「自業自得だから、恋愛方面で意識して欲しいって今更言えないやつ……」

 

名:田中肉丸・野和武来人・三橋徹・白石祈

 紹:刀太のクラスメイトにして親友ともいえる面々。原作同様のそれではないが、どこか一線を引いていた刀太を無理に引き込み色々あって強い絆で結ばれている……と同時に色々とやらかしている。現在は上京し高校受験のため色々と準備中。

 

 

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「……って、とりあえずまとめたがどうカナ? タロ……、あっ『ダーナ』殿に『勝四郎』サン」

「もうちょっと簡単にまとめられないかねぇ。というか飴屋一空とかスラムの連中とか色々抜けがあるじゃないか」

 

 やり直しだよやり直し、という師匠の言葉に、無茶を言うものじゃないネ! と頭を抱えて笑顔のまま悲鳴を上げる超さん。ダーナ師匠はそんな彼女にため息をついて、どうしてか「僕」を見た。

 

 

 

 

 




※ちょいちょいミスがあるので、既存は修正しています汗


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ST136.白い世界

毎度ご好評あざますナ!
今回はちゃんと本編・・・、ところどころクリスマス期に更新しようとした名残が見え隠れしてます汗


ST136.White Out

 

 

 

 

 

 

 雪姫なんて偽名を名乗って、お兄ちゃん達不死者共を良いように扱っている首魁、「闇の福音」エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。最終的に私たちの製作者に対して対抗する道を選んだけど、もとはと言えばソイツの後押しもあって私やお兄ちゃんたちは生まれるに至った。

 かつてスラムでも大人の姿で相対していた、そんな奴が目の前にいるっていうのに、私はその変にじめじめしたみたいな表情を見て、文句の一つも何故か出せなかった。

 

 と、ソイツが私の方を振り向いて嫌な感じに嗤う。

 

『オイ、名前を教えろ。

 本当にお前が誰か知らないんだ、私は。

 こう、「本体じゃない」からな』

「へ? あ、ああ。テナ・ヴィ――――いや、カトラスだ。

 ……って、何? 本体?」

『色々事情があってな、カトラス。

 私はかつて相当雑な理由で作られた人工精霊なんだよ。

 もっとも魔力はともかく、実力他は遜色ない自負はあるがなぁ。

 あっちみたいに「弱体化」もしていないし』

「弱体化って……、いや、それは別にいいんだけど。

 アンタ何だ? っていうかいつから居たんだ。なんであんな、お兄ちゃんが暴走した状態で出て来てんだよ」

 

 その前に止めとけよという私の一言に、カカカとその人工精霊は腹を抱えていた。

 

『それは許せ。

 トータが危険にさらされたとはいえ、起動のための魔力すら封じられていた身だ。アイツの胸が粉砕されて、それでようやく式がスタートしたが、いかんせん隙がなくってな』

「…………お兄ちゃんの魔力をベースに実体化してんのはわかったけど、それで?」

『かつてルーマニアで野良吸血鬼を一匹仕留めたことがあったが、あれより酷い。

 まさに戦闘用に調整された殺戮マシーンのようなものだろう――――っと』

「ッ!?」

 

 瞬間、また少女姿の人工精霊に蹴り飛ばされる――――今度は上だ。と、私たちがさっきまで居たところに平然と悪魔的なシルエットのお兄ちゃんが立っている。たぶん数秒遅れたらそのまま刀を振り下ろされるか何かしたんだろうってのがわかるくらいに、その移動と出現は唐突すぎて違和感しかなかった

 

『リク・ラク・ラ・ラック・ライラック!

 ヒュバクソン・テーン(契約に従い)・ディアテーケーン・アクソン・メ(我に応えよ)

 アイオニア・バシリッサ・トゥ(闇と氷雪と)・スコトゥス・カイ・テース・キオノス(永遠の女王)――――』

 

 人工精霊は今時何故か呪文詠唱しながら、光の弾みたいなのを兄サンに打ち込む。それを右腕だけ振り回して振り払い、視線が私たちの方に固定されて――――。

 

『―――― 終わりなく白き九天(アペラントス・レウコス・ウラノス)!』

 

 ギリギリ詠唱が終了したタイミングでお兄ちゃんが私たちの眼前に現れて、そのまま人工精霊を切り裂こうとした。いくら高速といったって流石に距離が離れてれば、私も多少は準備ができる。「左」の方の魔法無効化能力の範囲をお兄ちゃんの血装術めがけて直線状に広げると、それがぶつかった刀の刀身が血に戻り中折れしたままの黒い刀に。振り回す速度が速すぎたのと重量が変わったせいか、ものすごい勢いで空ぶるような動きになっていた。

 それに併せて、お兄ちゃんが突然発生した竜巻に呑まれる――――。それこそ瞬間移動めいた速度で竜巻から逃れようと行ったり来たりしてるけど、そのお兄ちゃんの速度に一瞬だけ遅れるように、竜巻から伸びていく氷の蔦と雷みたいなのが延々と追跡していく。吹き荒れる防風、周囲一帯に飛び散る氷の欠片のせいもあってか、露出していた肌が妙に肌寒い。

 

 結果何が起こるかって言うと、スクラップの山が凄い凍る――――ここだけ局所的に嵐みたいなのに襲われながら。

 

「な、何だよアレ……」

『…………チッ、速度だけで言ってもギリギリか。

 となると仮に捉えたとしても、脱出されるのは時間の問題だな』

 

 思わず引いた私に答えないで、ぶつぶつと何か独り言を言う人工精霊。舌打ち、そしてお兄ちゃんが雷撃を受け、その全身に氷の蔦が絡まり。そのまま数秒で動けない状態まで雁字搦めになって、全身が凍結した。

 

 

 

 …………それから数秒もしないで、段々と周囲が暑くなってきたんだけど。

 

 

 

 気象が色々狂ってる秋とはいえ氷魔法を連発されていたから普通に寒くなってたんだけど、それがまるでいきなりお風呂のお湯でもかけられたんじゃないかってくらい熱くなってきた。そして凍り付いたお兄ちゃんの、その氷の塊が汗をかき始めて……。

 

『やはりか全く。

 作戦会議するくらいの時間は作りたいところなのだがなぁ』

「何だ、コレ……? アンタ何か知ってんだろ、人工精霊!」

『嗚呼落ち着け、別に隠しはしない。

 隠しはしないが、お前、科学とかそういう話に頭痛めないタイプの女か?』

「は?」

 

 全く予想外の、というか意味の分からない質問に困惑すると、人工精霊は大きくため息をついた。

 

『さっき使った魔法「終わりなく白き九天」は、対象として設定した相手を延々と追尾し続け、捕捉した後その本人の魔力の揺らぎをもとに、延々と本人の体内と周囲から「生命エネルギー」を吸い上げ凍結を続けるように出来ている。

 もともとは魔法障壁頼りの連中を一網打尽にするために派手に作った術「らしい」が…………、吸い上げる量が量だから、術で発生するマイナスの温度と相殺しきれないんだろう』

「え? えっと、いや、何でそれがこんな凄い蒸し暑いみたいな状態になるかって、さっぱりわからねぇんだけど……?」

『ハン!

 やはりこの手の話は苦手か、そんな感じはしたが』

「どういう意味だよ」

『落ち着け、バカレンジャー最下位(バカアスナ)相手でも解るくらい簡単に説明してやるよ。

 基本的にエネルギーってのは7種類――――運動エネルギーだったり位置エネルギーだったり電気エネルギーだったりと色々あるが、こういうのは最終的に熱エネルギーとして転換されるものなんだよ。

 いわゆるカロリーってやつだな。

 まあ「気」だの「魔力」だのってのは術で転換される前の生命エネルギーの時点では「科学エネルギー」に分類されるが、これとて何かしら現象を引き起こせば熱を発生させる。

 で、本来なら発生した熱がどれくらいであろうとあの術で生成する冷気だの氷だので相殺してなおかつ再拘束が間に合う訳だが…………、あの馬鹿は「あの」状態で無理に動こうとしたり、そのせいで無理やり運動エネルギーをかけて身体が損傷したのを再生したりしているんだろう』

「…………?」

『つまり、あの拘束状態を私たちが視認できない速度で無理に動いて解除しようとしたりしているってことだ。

 その結果、延々と溜まった魔力が奴自身の体温を上げるだけじゃなく、周囲へとじわじわ伝播しているってことだろう。

 いや? むしろ「金星の黒」の仕様からいって、それだけの熱を体内に込めていると身体が融解するから周囲へと拡散させて安定させ、その拡散させるって化学反応でまーた熱が発生していそうだが……』

「いや、えっと、………………とりあえずヤバい?」

『…………まぁ、とりあえずヤバいってことだ』

「わかった」

 

 馬鹿を見るような呆れた目でこっちを見て来る人工精霊だけど、なんかこう、言ってることはわかるような、わかんないような、微妙な感じだし。それを自分の言葉に置き換えて説明とか出来る気がさらさらしないから、今回はなんかそんな目を向けられても仕方ないような気になってくる。

 いや、だって別に戦場じゃ熱は殺傷兵器の結末でしかないから、回避する手段と暴発させない手段だけ覚えて居れば良いものだった訳だし…………。左腕ぶった切れた時は、再生しなかった上に焼き潰されてそのまま再生治療の余地すら全然なくなっちゃったし。

 

「まあそれは判ったけど、結局どーすりゃ良いんだ? あのままだとお兄ちゃ――――あっ、に、兄サンにまた絶対ぶっ殺すって勢いで追われそうなもんなんだけど」

『…………とりあえずお前の教養レベルでわかるくらいに作戦を教えてやるから、こっちに来い、カトラス』

「お、おぅ…………って、その生温かい目は止めろ。流石にそこまで馬鹿じゃないから」

 

 人工精霊に、まるで初めてつかまり立ちが出来た赤ちゃんでも見守るような感じ? のヘンな目で見られて、思わず反発した。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 ヴィルヘルム・ヨーゼフ・フォン・ヘルマン。略し方としてはヘルマンが的確だろうが、「ネギま!」における彼は何であったかと言うとやとわれの中ボスであった(雑)。立ち位置的にはどの陣営と言う訳でもなく、純粋に悪魔あるいは魔族として地上に召喚され、与えられた指示を全うしようとした。本当にそれだけの敵なのだが、彼がおそらくかつてのフェイト陣営に使役されたことやら、このタイミングで序盤敵として登場した小太郎と合流し共闘したことなど、イベントとしてみると意外と色々とあったりした。なおこの際にエヴァちゃんは「ぼーやの成長をみるため」とかいって手出しせず、しかしいつ何が有ってもすぐ助けられるよう近くでハラハラ見ていたりとかそんなオチもあったりしたが、キャラクター要素として言うとそこまで取り上げられた人物ではないという話なのである。

 とはいえ、彼自身はネギぼーずとの因縁が意外と深いのだが、それはともかく。そんな彼にサリーが養育されているっぽい描写が入るのは、まあ納得できないまでもないが、それはそうとして途中に上がった「ザリーチェ」と言う名前について……。

 

『あ、あの、相棒? 現実逃避しているところ悪いんだけど、大丈夫? 結構大変なことになってるけど』

 

 思わず考える人のポーズをして沈黙し始めた私に、大河内さんビジュアルの星月はちょっとだけ頬を赤くしながら焦った様子で空に投影されているこちらの視界の状況を説明したりしている。何というか、その振る舞い自体には本当に大河内さんらしさを感じてカワイイとしか言いようがないのだが(本音)、それはそうと私はお前自身に対して一定の心理的ボーダーラインを張ってるからあんまりそういうことするな(建前)。

 

「とは言ってもな。こちらから、今の身体の方は干渉できないのだろう? なんなら人工精霊の方のエヴァによる攻撃すら、ギリギリ躱しているようだし」

 

 一番の問題はこれである。いつどこで仕込まれたかは全然気づいていなかったが、どうやらどこかのタイミングで人工精霊のエヴァンジェリン……、「ネギま!」においてはネギぼーずが「闇の魔法(マギア・エレベア)」習得に際し、ラカン(公式バグキャラ)が持っていた巻物に封じられていた存在である。いつかの時代までのエヴァンジェリンの人格を有し、魔法世界編には出演できなかったエヴァちゃんの代理をこなしてネギぼーずに修行をつけたり闇の魔法の修練に付き合ったり、ついでに言うとネギぼーずから「そういう師匠も好きですから!」的な発言をされて顔を赤らめていたりと(可愛い)、魔法世界編においては引っ張りだこだった彼女だが。

 以前の混沌ここに極まれりなお料理対決的な時に出てきていたのをふまえると、どうやらあの後は回収されていたらしい。もっともその後のことについては、本人の弁が正しければ麻帆良の別荘に放置されていたとみるべきか。

 

 それはそうと、私の確認に星月が深くため息をついた。

 

『というより、えーっと何て言ったらいいかな。……1周目? の相棒の魂がいくらなんでも頭がおかしいっていうか。あまりの修練規模の影響が強すぎて、相棒本人に自覚が無くても肉体面にも結構影響が出てるというか』

「こちらから干渉できないっていうのも、そういうことか」

『だね。むしろ、外側から血装をある程度封じてもらったりでもしないとかな』

 

 簡単に言えば檻を壊さないと出ていけないみたいな感じだね、と。

 今度は私がため息をついて、再度頭上を見上げた。

 

『リク・ラク・ラ・ラック・ライラック――――って、前衛なんだからちゃんとやれカトラス』

『いや、いきなり腕六本にして殴りかかられたら対応できねーってのッ! というか、私だって「左」の方は長時間維持できないしッ!』

 

 …………とりあず頭上に映る光景の流れを思い返せば。人工精霊の方のエヴァンジェリンが出て来たかと思えば「終わりなく白き九天(アペラントス・レウコス・ウラノス)」を発動して暴走状態の私を拘束したものの、そのままどうも強引に力業でぶち破り、そのまま襲い掛かったのをカトラスと人工精霊とで抑え込んでいるような、そんな状態である。

 なお暴走状態の私に容赦の二文字は相変わらずない。唐突に腕を増やして殴りかかったかと思えば(おそらく阿修羅みたいな状態)、殴り飛ばしたカトラスが後退したと同時に増やした血で出来た腕を物理的に伸ばして、その伸ばした先から血で出来た上半身をさらに生成しタコ殴りにしている有様。本体も本体で黒棒から血風を投げて人工精霊のエヴァンジェリンをどうにかしようとしているが、カトラスの「左」側の影響もあってかヘルマン相手の時ほどの追撃は出来ていない。

 

 いや、それはそうなんだがいい加減カトラスの身体に痣が出来始めているのがちょっとその……。いやいい加減止まれこの暴走状態、兄貴ってのは後から生まれて来る家族を守るために先に生まれてくるんだろOSR的なロジックとして!(戒め)

 

『いや相棒、たぶん戦闘衝動的な本能はそういうロジックかなぐり捨ててると思うから……』

 

 そして人工精霊のエヴァンジェリンもエヴァンジェリンである。私側からみて、彼女の口元が時折吹雪くせいで変に見えづらかったり、あるいは声やらが絶妙に「ずれて」聞こえて何を言っているのかわかりにくかったり。何かしら自分が使用する術をこちらに悟らせないための措置なのだろうか、とはいえそもそも私自身、ラテン語も古代ギリシア語もどちらも未履修(当然)なので、詠唱が「長い」ってことしかわからないのだが。

 いや、まあ「長い」という時点で相当ロクでもない術である予想自体は経つのだが。おそらく何かしら色々と仕込んでいるタイプの「オリジナル呪文」なのだろう。先ほど使われた「終わりなく白き九天」もそうだが、基本的に既存の術を無理やり改造したタイプの術は、全体的に詠唱が長くなる傾向がある。もともと存在している古代呪文などの強力なタイプの呪文をベースにいじっていることもあるのだろうし、と予測は立つが単に担当者がいないのででっち上げただけの可能性もある(メタ)。とはいえ結果が結果ならなんらそこに問題はないので、果たしてどんな術が選択されるのやら――――。

 

『――――閉ざされし氷城(スクラギメノ・カスト・パゴゥ)!』

 

 

 

 そして、彼女がその魔法を発動した瞬間――――空から雪が降り始めた。

 

 

 

 いきなりホワイトクリスマスめいて地面に猛烈に積もり始める雪は、明らかに物理現象ではありえない速度で積もっている。とはいえ吹雪いているようなわけでもなく、光景としては違和感がある。早回しをした映像でもなく、ただ当たり前のように、世界は雪に覆われた。

 ただの綺麗な雪、とはとても思えない。なにせこの精神世界らしきどこかにいるはずの私ですら、その光景が見えた瞬間に四方八方全てから「嫌な感覚」が涌いてきている。おそらくそれは肉体の私も同様なのだろう、その場で立ち尽くし、人工精霊のエヴァンジェリンやカトラスに襲い掛かるのを停止してしまった。

 

 術の効果自体はわからないが、この感覚はさながら水無瀬小夜子のダイダラボッチ内部に侵入した時のような……。おそらくだが、この視界全域を覆う雪そのもの、その一つ一つ自体がかなり危険なブツなのだろうと予測は出来る。

 動けずにいる私を前に、そのまま人工精霊のエヴァは、カトラスの耳になにやら吹き込み…………。って、いや何やってんだお前さんいきなりカトラスの顔をロックして思いっきり唇奪いに行ったぞいやホントお前さん何だお前っ!!?(驚愕)

 

『――――って、な、む、むーッ!?

 …………っぷはッ! 何なんだ、いきなり何!!? 何で私、キスされたし! っていうかキスですらねーよ、何だよ何で私、唇噛み千切られてんだよ!!!?!?』

『カカカ。まあ気にするな。

 さっきも言ったが必要なことだ。

 さて――――』

 

 そう言うと、人工精霊のエヴァンジェリンは「どぷん」とその身を影に落とし。

 頭上に映る、私の視界――――髑髏に角と悪魔めいた仮面越しのそれが「砕け散り」。視界が一瞬真っ白になったことから、やはり雪に何かしら仕込みがあると見るべきだろうか。いやそうだとしたら、どう考えても危険極まりないが、その仕込んだ雪が周囲一帯を完全に覆っている訳なのだから。というかカトラス大丈夫だろうか(現実逃避)。

 そして再度眼前に現れたエヴァンジェリンの人工精霊は。

 

『まぁ、2度目だしな。喜べ?』

 

 そんなことを言って少し照れたように微笑むと、仮面が再生するより先に私の顔面に自分の顔を寄せ、目を半眼にしたまま…………。星月が顔を真っ赤にしながら、私にあわわわとしているがこう、色々とこう、何と言ったら良いでしょうか…………。

 

 

 

 気が付けば私は、元の肉体の主導権を取り戻しており。

 眼前には、人工精霊のエヴァンジェリンが『ご馳走様』と舌をぺろりとして、私の「湿った」唇をその綺麗な指で拭った。

 

 

 

 ……やはり神は死んだのでは?(震え声)

 

 

 

 

 

 




※アンケ内容についてはお正月に色々検討予定です。コメントあざますですナ!


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ST137.出奔の代償

毎度ご好評あざますナ!
年末なので今日は深夜の魔の手に負けて(白目)、一応は連続更新? です


ST137.Hopeless = Penniless

 

 

 

 

 

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「あー、…………」

 

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 ……………………………………………………。……………………………………………………………………………………。

 

「…………、あー、……」

 

 ………………………………………………………………。

 

『相棒、えーっと…………』

 

 

 

 ………………………………………………………………。

 

 

 

 ……………………。

 …………………………。

 

 

 ……………………。

 …………………………。

 

「………………」

  

 ……………………。(???「いい加減何か話してくれないと何も進まないんだがねぇ」)

 

 

 

「…………何やってんのヨ、っていうか何これ何で一帯こう雪山みたいになってるわけ!?」

「――――ハッ! き、キリヱ大明神ッ」

「大明神ゆーなっ!」

 

 ぺし! と大変お可愛らしいチョップを胡坐をかいて座り込む私に決めたキリヱ大明神だが、その登場にだいぶ驚かされた私である。思わずのけぞってしまったこともあって「膝枕している」カトラスが右の腿から落ちそうになったが、そこは彼女に「かけてやっている」死天化壮の位置自体を操作して、頭が落下しない程度に留めておいた。

 

 うん、まぁ状況だけ言えばキリヱ大明神の言った通り。スクラップ置き場全域が、それらを覆いつくす勢いで真っ白に染まっていた。なんなら魔法で生成された雪であろうそれにより雪景色となっており、ここら辺近隣の気象条件からして真冬でも滅多にお目に掛かれない具合になっていた。

 そんな中、血装術で生成した敷物の上に座りながら、気を失ってすやすやしている生身のカトラスを適当に介抱していた私であるが。ここに至るまでの色々と衝撃的なあれそれにより我を失っていたらしい。

 

「っていうか、どうやってキリヱ復活したんだお前? 石化させられたから、とりあえず教会の方に逃がした? 感じにはしたけど」

「遅滞術系の魔法アプリで石化解除仕込んでおいただけよ? ここ『30回』くらいはずっとそれで石になったまま、暴走したアンタの戦闘に巻き込まれて死んでたっぽいのはわかってたし。まあ流石にシスターさん達には驚かれたみたいだケド…………って、何ヨその顔?」

「いや、自分が死んでいる前提の話をさも当たり前のように語るなって(戒め)」

 

 真面目にそのあたりは十分気を付けてもらいたいところである。どうやら彼女自身、その能力を雪姫などに大々的に公開していないのは、それこそ原作以上にここに至るまで様々な目にあった周回経験から、彼女本人が封印されるなどの対策をとるようになったためのようであるが。それはそうとして痛いのは人間決して得意になるものではないし、得意になれるものではないのだ。

 ただ私のその一言に嫌な感想でもあるのか、唇を少しとがらせてから私の脚元で親指をしゃぶってる(赤ちゃんかな?)カトラスを見て、ため息をついた。

 

「オイ何だそのため息。言いてーことあるんなら言えって」

「別にっ、べーつーにーッ! べっっっっっっっっっつに何でもないわヨッ」

 

 いかにも何かありそうな不満の表し方ではるが、腰に手を当てて「フン!」とそっぽを向いている私服姿のキリヱちゃん(外見年齢13歳前後(自称))は外見の年相応に見ていて可愛いのとガバをあまり感じなくてなんとなくお可愛らしい(麻痺)。

 それはそうとして、周回知識を活かして復活して帰ってきたのだとしたら、一体何をどこまで把握しているのかと言う話ではあるのだが、下からうめき声が聞こえたのでそちらに視線が引きつけられる。

 

 と、指をしゃぶったままのカトラスが目を見開いて、真上の私を見上げた。

 

 目が合った瞬間、カトラスは顔をトマトみたいに真っ赤にして、目を見開いたのだ。まん丸お目目である。……というかその状態でも指しゃぶってるのは完全に絵面が幼児のそれなのでやめとけ(マジレス)。

 

「――――は、はァ!? ヘンタイかよ馬鹿お兄ちゃんッ!」

「いや、でも『血製』の枕で寝たくはなかったろお前も」

 

 飛び起きたカトラスは、ようやく右手の親指を口から抜き取り、そして涎が糸を引いたのを見て再び羞恥のまま、私に指を差して抗議してくる。というか変態呼ばわりは今回に関しては流石に風評被害だろ訂正しとけと軽く突っ込む。

 なお「気持ち悪ぃ!」と叫んで脱ぎ散らかされた死天化壮についてもお前さん自分のOSR力上がったからといって人のOSR力認められないのは良くない。やはり英才教育が必要か……(使命感)。

 

 そしてお互いに言い合っている私とカトラスだったが、ぐい、と間に割って入ったキリヱ大明神。

 

「で、状況説明なさいよヨ。どうせ今回もアンタの妹とかなんでしょーけど」

「嗚呼まぁ、……………………ちゅらく苦しい戦いがあったんだよ」

 

 辛く苦しい戦い……、あまりにメンタルのダメージが大きく噛んでしまった。と、カトラスとキリヱがおそらく初対面だろうに顔を合わせて「噛んだ?」「噛んだわね」と続ける流れは一体何を意味しているやら。と言うかそれ以上に仲良いなお前等。少なくとも「1周目」じゃ私と殺し合っていたカトラスを相手に、随分と気楽なリアクションなキリヱであった。

 

 

 

 まぁまとめると。暴走状態だった私は人工精霊のエヴァンジェリンの手により強制的にそれを解除させられた訳だ。それこそ精神世界で星月が言った通りに、血装術を用いて私の体内を巡っている「金星の黒」の流れを無理にせき止め、暴走していた過剰再生(?)のようなものを減衰させ、私の自意識を再度呼び起こした、というところなのだろう。手段はともかくとして。やっていることは寸分違わず事後報告的に知らされた例のお料理対決的なアレのときのソレではある(指示代名詞)。

 なおカトラスに関しては、やはりあの「閉ざされし氷城(スクラメギノ・カスト・バゴゥ)」とやらが原因で絶賛気絶中。思わず介抱しに駆けて行った私を、人工精霊は鼻で笑っていた。

 

『……で、いや、キスについてはともかくとして、なんでカトラスまで襲ってんだよ。っていうか「噛み千切った」とか言ってたし。フツーは腫れるぞ口っていうか唇が、止めろよそーゆー意味わかんねーのさぁ』

『実質初対面に近い私相手に、随分アレな口を利くな。

 …………まぁそうでなくてはトータではない、といったところではあるが』

『はい?』

  

 いやこちらの話だ、と。そう言って肩をすくめる人工精霊のエヴァちゃんであるが、この「いかにも近衛刀太がどういう人物であるかを知っている」振る舞いに関しては、原作「UQ HOLDER!」を鑑みれば心当たりしかない。とはいえ厳密に言えば「私」と近衛刀太とは違う訳で、こちらとしては色々と注意深く対応しないといけない話でもあった。

 というか色々と謎の罪悪感に押しつぶされそうになるから、もっとまともなお洋服着ろ(戒め)。その姿というか背格好はこう、色々と心にクるものがあるのだ。

 

 カトラスを血装術で作ったシートに寝かせながら続きを促せば『仕方ないだろうが」と半眼でため息をついてきた。

 

『そもそも私は貴様の身体から魔力供給をされて生成された状態の人工精霊で、その本来の仕事は「有事の際にお前を護る」ことなんだぞ?

 少なくとも「本体」がそう設定した以上は、私がそれに逆らうことは出来ない。

 色々と裏技を使う必要はあるという訳だ』

『裏技……、っていうか傷つけられないって? こんな魔法とか使ってるくらいだから、そんなの関係ねーんじゃねーの?』

『アホが。

 お前も、私の本体も、「金星の黒」に接続された真祖もどき(ヽヽヽ)なのだぞ?

 吸血鬼の真祖、「貴族」の魔人がこの程度で死ぬ訳が無いのだから、こういった魔法程度は反逆した判定にすら入らないよ』

 

 致命傷になりそうな場合はそれこそ何も出来なくなるしな、と。けらけら笑って言ってくる人工精霊の台詞に、いかに自らの身体が人間から乖離しているかを思い知らされた感がある。

 

『それで、じゃあえーっと、カトラスを襲ったのは、カトラスの「血」とか「肉」が必要だったってことか?』

『そこは察しが良いな、半分は。

 予想通り、あの女の血が――――もっと言えばあの女が接続している「扉」の情報が必要だったということだ』

 

 つまりは、である。人工精霊が受けている制限は、私と人工精霊とが使用している「金星の黒」の扉が同一であるからこそ成立しているという前提でもあるのだろう。だからこそ、そこにカトラスが使用している「金星の黒」の扉から魔力を引っ張ってきて、その魔力を使用して「私」自身に干渉する場合は、その制限から外れると。おそらくはそんなニュアンスの話なのだろうと納得していると、『まぁもう半分は揶揄う材料だがな』とまたもやけらけら笑い、彼女は胡坐をかくように空中に浮かんだ。

 

『なにせこんな攻めた服装をしてくるくらいには慕っている年上のお兄さん相手に「間接キス」()めたんだ。起きたらさぞ見物だろうからなぁ。自分の感情に折り合いがつけられなくてヤカンくらいにはなりそうだ』

「いや、そういうの止めてやれ(マジレス)」

 

 思わず真顔になってそう言ってしまった。いや間接キスというにはあまりに血なまぐさすぎてそれ所ではないレベルな上に、カトラス本人すら気絶してしまっている訳で、つまりは私がそこについては何も語らなければカトラスは何も知らないままである。ついでに言えば唇も徐々に再生が終わってきているので、あの出来事全般はやっぱり無かったことにしてください(祈祷)。

 

 

 

 そんな私のお通夜みたいな顔を見て満足したのか、人工精霊は程なく姿を消した。あまりに唐突に消えたものだから色々と心配ではあったが、なんとなくだがこのあたりはカアちゃんの仕業のような気がした。あの人工精霊、つまり「かつての」自分自身の性格で、刀太を延々と揶揄い続けたらメンタルが持たないかもしれないと考えたか何かして、出現条件に制限を設けたとか、おそらくそんな所なのだろう。

 さて、それはそうとして。そんな一連の話およびサリーの存在についてもキリヱ大明神に話すと、収納アプリから取り出した蚊取り線香サイズなキャンプの焚火セットに「MOS(能力レベル2)」の刻印をして着火し、暖を取る振りをして手を合わせていた。それに気づかずそっと手を出して、キリヱの隣で一緒にぬくぬくしているカトラスだったが、こう、なんというか「原作」での両者の関係性を踏まえれば色々と有りえない光景過ぎて、微笑ましいやら危なっかしいやらである。

 

 原作「UQ HOLDER!」において、キリヱとカトラスは当然のごとく敵対陣営である。おまけにカトラスは戦場上がりであり、つまりは「リスクにつながる要因を徹底して排除する」ことが最善の環境で育ってきた。それが何を意味するかと言えば、カトラスは「時間に干渉して」「自分たちの勝利を」「無かったことに」出来てしまうキリヱを最大限警戒するに至ったということで。フィジカル最弱のキリヱ大明神は、カトラスと初対面以降に遭遇する度、毎回毎回ひどい目に遭わされていた。回数自体は「決定的な終わり」やら連載形態の関係(メタ)もあってそこまで多い訳ではないが、原作カトラスにとってキリヱは最優先排除対象であると同時に、明確に近衛刀太に「護られていた」という立場に色々と思う所があったのだろうと推測できる。

 それがこう、まるで「あーハイハイまたですかまたですか」みたいな目で揃ってこっちを見ながら一緒に焚火に両手を向けて体育座りめいた格好をしているのだから、巡り合わせとは妙なものである。そしてガバ以外の何物でもない光景であった(白目)。

 

 いや、でもだからって今更カトラスを放流したりするような話でもあるまいし……。(???「アンタ本気でガバチャートを抑制するつもりがあるのかい?」)

 

「とりあえず雪景色になったこととか、人に色々言ってた割にアンタがまーた無茶して死にかけたってのは理解したけど」

「いや、流石に無理だろいきなりあのレベルで色々やられちゃ。…………それに、お前さんもお前さんだろ。『その気』になれば『ああ』ならないように『どうにか』出来たんじゃねーのか?」

 

 何度も周回をしているのだから、本気を出せばそもそも石化されたりせずに対応できたのではないかと。わざわざ石化したことに対する私の疑問に、キリヱは「そう簡単な話でもないのっ!」と半眼で私に向けて「べーっ」と舌を出してきた。

 なお私とキリヱの、おおよそ情報を隠しながらもお互いに意味合いを察せレベルの会話に対して、徹底的に情報を隠されている側のカトラスが「ん?」と不思議そうな顔をする。……いや表情の険しさが取れてて本当、普通の女の子みたいな顔してお前さんどうした本当お前さん(震え声)。スラムでの別れ際はもうちょっとこう、何か色々と含みがあったろうに本当…………。

 

「とりあえず『知れる情報』はいっぱい持っていないと話にならないって、前回さんざん学んだのヨ。もう『慣れっこ』だから今更それがどうこうって話でもないしね」

「だからもうちょっと自分大事にしろよお前さん、そんなにメンタル強者って訳じゃ――」

「それより、そーれーよーりーっ! アンタの話はわかったけど、こっちの妹チャン(ヽヽヽヽ)の話とか全然されてないんだけどー?」

「いや、アンタこそ、っていうかアンタまで私のことそう呼ぶのかよ……」

 

 ため息をつくカトラスに追及しようとするキリヱだったが、一応、それは私が止めた。

 

「な、何ヨ」

「あー、何て言ったものか…………。色々事情があるのは判ってんだけど、なーんかその話がカアちゃんがこの間話そうとして流れたヤツにモロ直結してる感じなんだよな。できればそれ聞いてからにしておきたい」

「そんな贅沢言ってる場合? ちゅーに、アンタ色々忘れてるんでしょーけど、今アンタとかみんなで追ってる連中って、だいぶ危ない橋渡ってるのよね。それこそ源五郎がヤクザらしいヤクザやってるくらいな訳なんだし。

 敵か味方かくらい判別できる情報くらいは話させないと、おいそれと何も出来ないじゃない。最悪、この場で拘束でもして『拠点』まで運搬してもらうレベルの話でしょ。たぶん『殺せない』んでしょうし」

 

 キリヱ大明神の随分とこう場慣れしている発言というか、実際に色々と経験してきただろう事柄を伺わせるニュアンスというか、だいぶスレたその言い方というかに、何とも言えない痛々しさを感じた。……原作のキリヱってリスク管理はしっかりしてるけど、もうちょっと現実を舐め腐っているというか、言うなれば「平和ボケ」している部分があったと思うのだが。こころなしこちらを見る目が濁っているような、そんな嫌な感想を抱かせられる。

 言い回しに滲む殺伐とした経験値に、なんだか私の心は抉られていく感覚が強い。やはりキリヱもキリヱでガバが少なそうに見えるとは言え、完璧には原作通りという訳にもいかないのか…………。判っていたことだが、想定をはるかに超える心のささくれ立ち具合らしい。

 

「いや、まー、敵って訳じゃないとは思うけど…………」

 

 なお当のカトラスも、キリヱから漂う戦場とは違うタイプの修羅場をくぐってきた経験値、のようなものに気圧されているのか、腰が引け気味だった。

 キリヱとカトラスとで、ちょっとした逆転現象かもしれない。

 何ヨ、と半眼を向けるキリヱ相手に、もみ上げの毛先をいじりながら言葉を濁すカトラス。そしてその仕草に謎の怒りを見せて視線が鋭くなるキリヱだが、流石にそれは一体何がどうしてそんな剣呑な感情を向けていらっしゃるんでしょうかね(震え声)。(???「本来は敵と聞いていた相手が初対面で慣れ合ってきたら、リアクションとしちゃ普通の反応だと思うがねぇ。アンタ大分麻痺しているから、忘れてるかもしれないが」)

 

「詳しくは話さねーけど、私、今は前に所属していたところから家出してるよーなモンだし」

「「家出?」」

「まあそんな生易しいモンじゃねーっていうか………………、拉致されたっていうか…………。その割には生活費とかやっぱり全部こっち持ちだったっていうか……。って、そんな話はどうでも良いんだよ。少なくとも、私が近くに居て『兄サン』の不都合になるようなことは無いから。手助けするとか、そういう話は別にしておくとして。

 さっきはまぁ、色々あって助けたけどさ」

「色々ねぇ…………」

「な、何だよ兄サン、その目止めろっ」

「ふぅん? でもそれってどこまで信じて良いのヨ。アンタ、そもそも信頼関係がマイナスからスタートしてる相手だって自覚ある? 第三者からしたら」

 

「……………………できればコレは出したくなかったんだけど……」

 

 顔を背けながら、忌々しそうに眉間に皺を寄せるカトラス。視線の鋭さが原作らしいそれに戻ってほんの少し安心感を覚える私だったが、どうにも様子がおかしい。こちらと視線を合わせようとしないその仕草が、まるでテストで赤点を取って補習が決定したような学生のような、夏休みの宿題で一番課題のボリュームが大きいドリルを最後の最後まで忘れていたのを親に発見されたようなバツの悪い顔というか、見られたくないものを出さないといけない状況に迫られている雰囲気というか。

 

 そしてため息をつき、カトラスはアプリではない、私のような旧世代の携帯端末を取り出して。そのタッチパネルを多少操作した後、表示された電子マネーの画面をこちらに向けた。

 

 

 

 ――――――預金残高:102円――――――

 

 

 

「………………あー、はい?」

「…………あー、どこからも支援がなくって、その、マジで身元とか色々バレないよう働くクチが一気になくなって、リアルマネーの通帳は取り上げられたし、少しだけ頼っても後腐れ少なそうなところがもうスラムの教会くらいしか無くって、その……」

「……それで信じる云々は別にして、アンタも大変なのねー、へー、…………」

 

 

 あんまりにもあんまりな発言と金額に、表情が虚無に陥ったキリヱと思わず頭を抱えてしまった私であった。

 

 

 

 誰かー! でち公よりこっちの方を何とかしてやってよぅぅッ!(???「丁度良いのがいるじゃないか、丁度良いのが。ねぇ、その小娘の『お兄ちゃん』?」)

 

 

 

 

 



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ST138.開けろ! ごま!

胡麻ろ! 開けロイト市警だ! とかやろうとしたけど流石に自重した(謎)


ST138.Open! Sesame!

 

 

 

 

 

 とりあえず話は分かったけれど、とカトラスの言うも聞くも悲しい金欠について頭を振ると、突然目を「かっ!」と見開いて、そして物凄く嫌そうな表情になったキリヱである。この挙動からして、なんとなく前後の表情の感じの違いから、おそらくはまた「周回してきた」のだろう。さてこれは何回目のキリヱ大明神であらせられるのやら……。

 キリヱもキリヱで私の表情を見て、こちらが察したのを「察し返した」のだろう。眼鏡を持ち上げて眉間のあたりをつまんで「む~~~~~っ」と一度唸ると、手を叩いた。

 

「まー判った。とりあえず信用しても良さそうね。ただ条件として、仮契約のカード持ってるでしょ? たぶん。それだけは出しなさい」

「へ? あ、嗚呼。……石になってるけど」

 

 言いながらカトラスは、サリーの銃撃により石化している仮契約カードを取り出す。絵柄やら何やら原作登場時のもので、つまりは魔法具やらも今までの挙動から考えておそらく原作通りに時間操作系魔法具(アーティファクト)「時の回廊」なのだろうが。わざわざそれを回収するということは、我々ないしカトラス本人に対して何かしら不都合があるということなのだろうが。

 でもそれはそうと、妹チャンも妹チャンである。お前さんも本当、普通に手渡すなそれ。どう考えてもネギ=ヨルダ(ラスボス)相手に強い依存心を持っているはずの原作カトラスのそれではありえない挙動そのものなのだが……。

 

「あっ、そうそう。あとアンタ、妹チャン。ちょっと覚悟はしておきなさいよ?」

「か、覚悟?」

「そうそう。……………………私は全然知らないけど、こう、カワイイ感じになってるんでしょ? 前にこのちゅーにと会った時よりも。何がとは言わないけど、だから色々気を付けなさいよ? ……私もなんだけど」

「いや、だから何事だよアンタ!? ちょ、『お兄ちゃん』この人何なんだッ!」

 

 困惑のあまり呼び方がだいぶアレな感じになってしまっているが、目ざとくそれに「ふぅん」とにらみを利かせるキリヱは置いておいて。どう説明したものか迷っていると、大明神本人が隣のカトラスに向けて、女の子座りをしながら手を差し伸べた。

 

「桜雨キリヱ。予知能力者よ。精度はマチマチだけど、当たる時はほぼ百パーセントで当たるからヨロシク」

「うぇ、よ、予知……。

 あー、私は、…………とりあえずカトラス。カトラス・レイニーデイ」

「「レイニーデイ…………?」」

 

 と、その彼女の名乗りには思わず私とキリヱも顔を見合わせる。「レイニーデイってアレよね、あのピエロなんだか手品師なんだかって感じの人」とキリヱ大明神が言う通り、その名前は聞き覚えしかない。前回のテロ事件もといダイダラボッチ事件、その終盤に出て来て究極的な局面をひっくり返す一手を打ち込んで来た、我らがネギぼーず教え子の一人ことザジ・レイニーデイである。

 その名前が、というよりファミリーネームがこの場で出て来るというのは一体何がどういうことだっていう……、いや待て? 考えてみれば髪の色はともかく、その肌の色に目のオレンジ具合というか。色味で言えば龍宮隊長も思わせる部分はあるが、しかし両者の「存在の差」、魔族と半魔族というのを考えてみると、その性質はベースがどちらにあるかというよりどちらに寄るかと言う部分に左右される、可能性もあるかもしれないという前提にたってみた場合…………。

 

「ザジって、知ってんのか? 兄サンたち」

「………………えっと、つまり、お前の祖母ちゃんってことか?」

「いや、まー、…………本人はお母さん自称してたけど」

 

 そんな話を聞かされても私は一体どうしたら良いのかと言うか、そもそもそれが原作からどれくらい乖離した話なのかすらわからないので「脚本の人そこまで考えてないと思うよ」とでも思っといて良いのでしょうかこの状況(血涙)。

 いやしかし、とすると学園祭編のあたりで予想していたことを踏まえて、ほぼほぼ確実にカトラスを拉致したのはザジでありなおかつ前回の学園編終盤で「時の回廊」を使用したのもそれを引きずってということになるが、だとすると現在「脱走」しているだろうことをみても少なからずスラム編から一月経っていない時点においてザジの手元に居たことになる訳で…………。

 そしておそらくだが、あのザジしゃんがカトラスを無一文でどうにかする訳もないと考えれば、自ずと答えは導き出せる部分もあった。

 

「って、いや、学園で手助けしてくれた時期からして、お前一体いつごろ拉致されたんだよザジさんに。というかザジさんの所からも絶対脱走してるだろ今のお前…………」

「う、うるさいッ!」

 

 ぽかり、と。あえて力なく私の肩を殴ってくるカトラスに、引きつった笑いをする他ない私だった。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 とりあえず言い訳は私が考えておいてあげるから、と一度街の繁華街裏路地のあたりでキリヱ大明神と別れる。例によってカトラスに隠しながらだが情報を共有してもらったところによると、このままホルダーの側にカトラスを保護してもらうのは問題があるらしい。言っていたことを色々と要約してやると、つまりはこうなる。

 

『今の時点で雪姫にバレるの絶対まずいし、夏凜ちゃんにだって会わせてもロクでもないことになるから! ぜーっったい、絶対だから! フリじゃないからそのまま絶対連れてこようとしないでヨ!』

 

 妙に鬼気迫るその顔に思わず困惑しながら逆らう気も起きなかった訳だが、雪姫ことエヴァちゃん相手に言うとそのあたりは原作の流れを踏まえてある程度推測が付く部分が大きいため、私も否とは言わない。夏凜の方についてだが、今の夏凜は…………、いやホラ、カトラスの情操教育に悪いし(目逸らし)。

 というかそもそもの話として、私やキリヱと仲良くしている時点で充分にガバそのものなので、原作にも登場している連中とこの時点でこれ以上絡ませて良いことなど有るはずはない。そういう事案は私、詳しいのである。(???「全く活用できちゃいないだろう、その詳しさってやつを」)

 

 周回してきたらしいキリヱいわく、雪自体は魔力が抜けた状態だとそう長くはもたないらしいので、それを放置して私たちはアマノミハシラ市に戻ってきた訳なのだが。さてそう考えると、カトラスの処遇というか、扱いについてである。

 

「どうしたもんかねぇ……。俺、妹チャン養えるような甲斐性とか今の所ねーし。どこかでホテル借りる訳にもいかねーだろうなぁ。…………というか下手すると従業員、死んじまうだろーし」

「か、甲斐性……っていうか、そういう言い方なんか止めろよ、ヘンな感じになる」

「ヘンな感じって何だよ。別にフツーの話だろ? こう、『お兄ちゃん』的な話としては」

「だからそーゆーのも止めろっ。というか無理に妹扱いすんなっ」

 

 そう言って少し拗ねたように顔をそむけるカトラス。揃って夜中だというのにネオンが灯っている街中を歩いている私たちだが、恰好自体がそこそこ珍妙(主に私)なこともあり結構目立ってはいた。とはいえ絡まれることは無い。例の「組」の地下室からいくつか持ってきていた年齢詐称薬を使用しているため、見た目については大人となっているからだ。少なからず補導の心配はなく、また「私」の経験値からしても、この状態で声をかけて来る輩はそう居ないのだ。

 なお私は借りたままにしている眼帯だけ追加で装備しているが、カトラスの方は色々と問題がある。主に私個人に限って。

 

 その見た目を一言で言えば、収納アプリから取り出したマントというかローブこそ着用しているが、容姿やらスタイルやらが基本的に大河内さんだった。目つきが鋭いのでどっちかというと素子はんの方かもしれないが、シルエットだけで言えば十分、大河内アキラのそれだった。

 なまじ星月が変貌したアキラちゃんを見ているせいもあって、変化したカトラスの容姿がだいぶそっちに寄っていることに気付いてしまった。気付かされてしまった。というか身長かなり伸びてるし胸かなり大きいなお前さん!? 

 てっきり原作描写からして、髪型やら戦闘技術、あと肌や目の色の具合から、桜咲刹那(せっちゃん)龍宮真名(学園長代理)あたりの遺伝子ベースかと思っていたのだが、ここまで似ているとなるとそれこそザジの弁を信じるならば、彼女と大河内アキラベースだとでも言うのだろうか、これは。微妙に外してくるな。

 …………と言っても、だから絶対そこまで原作では細かく遺伝子ベースとか設定されてないって(震え声)。

 

 そして、そんな私のちょっとヨコシマな視線を受けて、大人(というか十代後半くらい?)なカトラスは頬を赤らめて、ローブで色々ギリギリな丈になっているお腹やら胸元やらを隠す。……いやどっちかというと脚も隠せ脚も(無茶)。

 

「な、何だよ。ヘンタイッ」

「いや、あー、変態と名指しされるレベルの変態さんでは()ーって言うか……」

「妹相手にそーゆーアレな目を向けて来る時点で充分アウトだってーの」

「兄貴相手にそーゆーアレな目を向けて来る妹レベルのそれじゃないのは間違い無ぇから(白目)」

 

 勇魚の時折発動する妙なリアクションを思い出しながら遠い目をしている私に「何の話?」とこちらを見て来るカトラス。世界は今日も平和、とは言い難いが今の所大きなトラブルは回避できているようで何よりであった(現実逃避)。

 

「というか、今、兄サンってどこに向かってるんだ? 拠点以外に心当たりがあるとか言ってたけど」

「心当たりっつーか…………。多少は事情を知っていて、ドンパチやっても問題なさそーな所っていうか」

 

 携帯端末を時折懐から出して、地図を確認する私である。件の場所、ホームページ自体はかなり古いものであり、かつここ十数年は更新すらされていない。一応は全世界マップの座標そのものに登録だけはされており、なおかつ「24時間営業」とか施設そのもののあれこれを考えると絶対誰か悪意を持って弄っただろうと思わされる営業時間の時間表示になっていたりするが。

 

 新東京湾(かつての東京とか神奈川とか関東大半が沈んでいる地域)が見えるという立地条件自体はさほどスラムと変わりないかもしれないが、私たちが今向かっている先もそういう地域にほど近い。というより、何かあってもグレーゾーンの地域の方が問題なく処理できるとでも考えたのだろうという節はある。

 つまり現在、繁華街の裏側からスラム方面、その中間のグレーゾーンとでもいう微妙な地域に出向き、そこに並ぶ古い住宅街を進んでいる私たちである。鬼が出るか蛇が出るか――この時点で既に住人は、それこそ堅気の連中からヤクザやら後ろ暗いところのある連中を含めて玉石混合と化している。より内陸の方に寄ってはいるが、だからといって全く無警戒でいられるような場所ではないので、「日中ではない」今はまだ年齢詐称は解かない。

 

 そしてしばらく歩いた先、武家屋敷風の門構えがやや寂れている、そんな建物の門の前にたどり着いた。

 

 

 

 ――――古武道・古呪術・宇宙忍術――――

 ――――あさつき館 天之御柱道場――――

 

 

 

「門は、閉まってるか。……流石に閉まってるよな。まー今、普通に夜中だし。そこまでブラック運営はしてねーだろうしな。ネットでコレ、絶対ネタにされてるのって道場主の教え方が気に入らないとか、そういうアレで弄られてるだろ」

「……って、いや、ゴメン本当に全然わかんねぇ。何、目的でここまで来たんだ?」

 

 困惑しているカトラスには悪いが、アテが外れただけなのであまり胸を張ってどうこう言ってやることができない。そもそも「道場の名前」を聞いた上で検索をかけて来ただけなので、タイミングが合わないことについては初めからある程度は諦めていたのもある。ただそんな道場周辺を歩き回り、次点の目標を探す。おそらく「彼」の性格から言って、職場とそう遠い所に住居は構えてはいないだろうし――――。

 見つけた。思わずガッツポーズをとり、その民家まで足早に進む。カトラスもカトラスで不思議そうに続いてくるが、私と違いその家の表札を見ても、いまいち思い至らないらしい。というより、流石に「話されていない」のだろうか…………?

 

 とりあえずインターホンを押す。

 ぴんぽーん。

 

「……………………まぁ、深夜だから寝てるよな。当たり前っつーか」

「いや、何フツーなこと言ってんだよ兄サ――――っていきなり何やりだしてんだよお兄ちゃんッ!?」

 

 ぴんぽ、ぴんぽ、ぴんぽ、ぴんぽ、ぴんぽ、ぴんぽ、ぴんぽ――――。

 

 唐突に連打しはじめた私を前に「いや止めろよ!」と本当に普通に表社会で生活している人間みたいなことを言い出すカトラスだが(風評被害)、確かに良い子は絶対真似しちゃいけない類のそれなので(断定)、私も顔が引きつりながら、しかし止めることはできない。実は意外と、というかかなり重要な話なのだ。具体的に言うと今晩どうなるかという話のそれなので、社会性やらマナーやらは一度投げ捨てて後で頭を盛大に下げるのは確定である。

 

 まあ本来はやらないべきであるし、普通はやらない。

 その「相手」が相手でなければだ――――。

 

 と、連続五十回を超えてリズミニカルに千パーセント輝きそうなテンポを奏でだしたあたりで扉の向こうから「流石に煩いわっ! ええ加減にせいッ!」と天鎖〇月(若い頃の知らないおっさん)みたいな叫び声が聞こえる。声質に聞き覚えはないが、当たり前のように飛んできたセリフの関西訛り具合に、思わずニヤついてしまいそうになり。

 年齢詐称を「血風」を使って強制解除し、ドタドタと走ってくる相手のそれを待っていると。どうも扉の前に立つシルエットが、こう、肩で息をしながら左手で胃のあたりを押さえているような――――――――。

 

 

 

 そして眼前。引戸が左側にがらがらと開かれ。

 現れた釘宮大伍、その想定外な作務衣姿に思わず目を見開いた。

 

 

 

 もっとも予想外は釘宮の方もそうだったらしく、眼鏡越しに随分とびっくりした表情だ。ニット帽のかわりに三角巾をつけていても印象そのものは普段とそう変わりないが、それはそうとして予想外のタイミングでの遭遇である。ただ「彼が居ても」不思議ではない場所ではあるというか、むしろ本当に「そういうこと」なのだなというある種の感動があった。

 そして、むしろ説得材料が増えるかもしれない。

 

 思わず安心感からニヤァ……と若干ニチャり(気持ちの悪い嫌な笑みが浮かび)かけたのと同時に、顔色を悪くした釘宮はガラガラと猛烈な勢いで扉をしめ切ろうとして――――。

 

「させるかッ!」

「そっちこそッ!」

 

 私も私で血装術を使用し、扉の向かう先にあるロック穴と面一帯を血で覆い、かつ床を這わせてドアストッパーのように立てた上で、そこに手を突っ込んで強引に開けようとする。釘宮はそれをさせまいと、あちらも狗神を腕にまとって全力で扉を閉めようとしていた。

 がたがた震える扉越し、お互いがお互いに顔を見せ合いながら、楽しく(?)おしゃべりの時間である。

 

「くーぎみーやくーんっ♪ ……っ、あーそびーっ、ましょー♪(白目)」

「せめてその表情は、止めてくれないかなッ。完全にホラー映画のゾンビだよ、君、……ッ!」

 

 まぁ吸血鬼なのでホラー映画のモンスターには違いないだろうが、それはそうとお互い力が入っているので、一息で言葉が言い終わらなかった。とはいえそれでも特に抵抗を止めない当たり、こちらが面倒事を持ってきているのを察しているようだ。かしこい!(賢い)

 

「というか……ッ、こんなどう考えても有りえない時間帯に……ッ、イタズラまがいのことをしながら訪問する知り合いとか……ッ、生憎そんな相手なんて知らないよ……ッ。とっとと失せておくんだ……ッ」

「そんなっ、連れねーこと言うなよー、くっぎみー、……っ! ついでに言うと今晩……っ、泊めてくれないかなーって(ニヤァ)」

「嗚呼、どう考えても厄介事だな……ッ。悪いけどそういうのは事前にッ、アポイントメントをとってから来て欲しいところだッ。そもそも泊める程、そんなに仲良くはなっていないだろう、君も俺も……ッ。

 というより何でこんなタイミングなんだ君はッ! こっちもこっちで『親の実家』に用が出来て、帰省せざるを得ないようなこんなタイミングで……ッ、く、お、押し負けてなるものかッ!」

 

「うおおおおおおおおおお――――っ!」

「はああああああああああ――――ッ!」

 

 彼の言動からして普段はこちらにいない(というか一応は寮住まいだったはずである)とすると、このタイミングでの釘宮との遭遇というのは、ひょっとするとキリヱ大明神の加護か何か?(祈祷力)

 

「な、何、友達かよお兄ちゃん……、友達相手だとあんなテンションになるのかよお兄ちゃん、えぇ……(引)」

 

 そんなことを考えながらニヤニヤと説得する私と、それから全力で逃げようとしている釘宮。そんな私たちを見て困惑しながら、カトラスは改めてこの家の門の表札――――「犬上」の二文字を見て、やはり何もわかってなさそうな顔をしていた。

 

 

 

 

 



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ST139.友情という名の圧力

毎度ご好評あざますナ! 年内最後ギリギリィ!
 
ちょっと張り切りすぎて文字数がだいぶアレになってますが、ご容赦くださいです・・・では残り少ないですが、よいお年を汗


ST139.Don't Hate Harassment

 

 

 

 

「知っていたよ。嗚呼どうせ、俺の意見なんてまるで通った試しなんてないんだこういう場合。厄介ごとが鴨がネギしょって歩いているのを目撃したかのように俺の方に来る場合、どうせ巻き込まれて胃を痛めるんだってよく知っているよ。どうせそんなことだろうと思ってはいたさ。

 まあ近衛に関しては俺というよりもちづが最初に当たっていったのがそもそもの諸悪の根源だし、あのレベルの事件なら遅かれ早かれ遭遇はしていただろうから、無意味な検討だと納得はしているさ。

 それはそうとして、本当こう唐突に来たことには納得は出来ないのだけれどね」

「だから悪かったって、いやホントお前さん居たとか想定外も想定外っていうか」

 

 民家の和室、電気こたつが設置された居間にて。私とカトラスはめでたく(?)客人となっていた。入り口の扉が「みしみし」と音を立て始めたあたりで釘宮とお互い顔を見合わせて休戦、諦めて招いてくれた流れである。なおこたつの上にはみかんではなくカットされたりんごが皿に置かれていたり、テレビ映像が特撮ヒーローものの有線放送だったりと色々ツッコミを入れるべきかそうでないか悩ましいものがポンポンあったりするが、それはさておき。

 釘宮大伍は「で?」と、年齢詐称を左腕の「アザー・メタトロニオス」で解除したカトラス(慣れないのかきょろきょろと室内を見回して猫のようである)に視線を振った。マントというかローブというかは収納アプリに仕舞っているので、色々と活動的というか目のやり場に困りそうな恰好であるものの。釘宮自身は特に気にした様子もなく半眼で視線を向けた。

 こう、近場にある道場「あさつき館」で、そういう女性陣のお弟子さんたちの恰好が適当だったりして、色々見慣れて居たりするのだろうか? ……まあおそらく、そのまま成瀬川ちづが「えっち!」みたいな風なことを言って制裁を課していただろうと推測が立つので、その点については追加で同情の視線を向けた。

 

「………… 一応、確認をさせてもらいたいのだけれどね。そっちの子を匿って欲しい、というよりしばらく泊めて欲しいと?」

「まー、そんな感じだな。どっちかというと家主さん……っていうか、お前さんの祖父(じー)さんと交渉したいっていうのが本音だな」

 

 そういう話をするのなら深夜のピンポン連打なんて止めるべきじゃないかな、と眼鏡を押さえてため息をつく釘宮だったが、とはいえ夜明けを待つのは流石に厳しいため仕方ないのである。

 別に私もそうやって生活サイクルを崩して学校を休むつもりはないし、そもそも明日(今日)はカチコミをかけるとか他の仕事も入っているのだ。妹チャンが「こう」なってしまったのには色々私にも責任が無いとは言い切れない部分もあるが、それはそうとして彼女ばかりを優先して良いような「我儘は言えない」。そんな立場にはないし、そもそも私だって下手を打てば狙われる訳で、そういう意味では戦闘力が有り、かつ雪姫やフェイトと関係がなさそうな線を探す他なかったというのが本音だ。

 

「もともと道場の話って、前、ラーメン食べに行ったときに聞いていたけどよー。なんとなく聞いてたお前の祖父さんの性格的に、あー、『そんな道場から遠い場所に住んどる道場主とかおらへんやろ、当たり前やッ!』とか『道場破り来てもすぐ来れる所に住んどらんかったら、看板なんてアッっちゅー間にサヨナラバイバイやッ!』とか、そんなこと言いそうだと思ってな。だから近所に住んでるだろうってアタリをつけて、適当に歩いた流れだ」

「まー、確かに大体そんなことを言って住んでるよ。祖父も祖母もここに。俺の両親と同居すれば良いって会うたびに言ってるようだけど『逆や! お前らがこっち来るんや!』とテコでも動かないらしくてね…………(疲労)」

「あー、それは…………、………………(同情)」

 

 いつかの再現のようにお互い目が暗く鈍くやるせない気持ちで一杯なものを向け合って嘆息する私と釘宮である。オトモダチッテイイヨネ!(白目)

 なおそんな私たちの様子に「ヤベェ……」と当たり前のようにドン引きするカトラスだが、いやお前はこれから泊めてもらう確率が高いんだからもっと下手に出ておけ緊張して色々頭が回っていないのは察するけど。

 

「あー、一応自己紹介させるか?」

「…………いや、させなくて良いよ。どうせ二度手間になるし、そもそも俺から話を聞いたところで『そういうモンは本人が話すのが筋じゃッ!』みたいなことを言う」

「なるほど……」

「…………って、いや、えーっと、私はむしろアンタっていうか、ここが何なのかって話を教えてもらいてぇんだけど……」

 

 あー、と釘宮と顔を見合わせる。半眼の視線から「何も教えてきていないのか君は」みたいな感情が乗っている気がするが、いやだって、こっちだって本当に行き当たるとは思ってなかったというか、まぁお前さん見て安心感から完全にお遊びモード(?)のテンションになってしまったというか。

 

「えっと……、お前さん知ってるかわかんねーけど、アレだ。アレ。『俺たち』の祖父さんの写真にたまーに犬耳っぽい奴が映ってるのあるだろ? あの、なんだったっけ、軌道エレベーター建設中の事故映像とか」

「あー、うん。いる。っていうかアレだろ? 『コタローくん』だろ? なんか、友達だったっていう」

「そっちは知ってんのな。うん、で、こっちの釘宮、そのお孫さん」

「へ?」

 

 いまいち私が何を言っているかわからないのか、ちょっと半眼に首をかしげるカトラス。その顔を見て、釘宮は頭から三角巾を外す。と、その下からはちょっと小さめだが上に立つ狼のような犬のような微妙なラインの耳が生えていた。

 

「ご覧の通りだよ。苗字が違うのは、嫁入り婿入りとかそういう話だね」

「あれ? そういえばだけど、『犬上』って名前自体は残ってるのか、お前の家系って」

「一応いるけれど、独立しているよ。というより俺みたいに適性が無い子供の方が多かったらしくって――――」

「………………とりあえず『お兄ちゃん』の横のつながりが意外と広いってのはわかった」

 

 お兄ちゃん? と眼鏡を押さえながらヘンな目を向けて来る釘宮だが、そこは流しとけ、と半笑いを返す。確かに外見上は顔のライン的に、わずかにネギぼーずか明日菜のそれと似通っている部分があるような無いようなというレベルではあるで、血のつながりについて疑われるのも仕方ないが、こればっかりは「表向き」判らないことになっているので、私から細かく話せるようなことでもない。

 なおカトラスもカトラスでそう詳しくは話さないので、釘宮も釘宮で肩をすくめるだけに留めた。

 

「まあ広いって言っても、こりゃ完全に偶然の類だからなー、偶然。知り合ってからそんな経ってるわけでもねーし」

「肯定しておくよ。えっと……、何と呼んだら良いかな」

「えっ、あ、嗚呼。私は――――」

 

 

 

 ――――そして、カトラスが釘宮に名乗ろうとしたその瞬間。猛烈な寒気を背後に覚えて、思わず黒棒を抜きながら後ろを振り返る。

 

 

 

 膝立ちになった私と、その私に負けず劣らず驚いたように目を見開いて、右腕を「シファー・ライト」化するカトラス。二人そろっての臨戦態勢に対して、釘宮はこめかみのあたりをマッサージするように揉んでいた。

 わずかに開く、玄関へ続く障子戸。その隙間に立つ、長身のシルエット……。

 

 なお、ガラガラと開いて出て来た相手の姿を見て、私とカトラスは凍り付いた。

 

「…………何をやっているんですか、お祖父(じぃ)さん。『そんな恰好』で」

「そりゃお前、アレや。……こんな時間に話し込んでいて、気にせん保護者はおらへんわ」

 

 その容姿を一言で言い表すと、半纏を羽織った作務衣姿のハグリ〇ド(半巨人)と言うべきか、古き良き洋画のバイキングのイメージと言うべきか……。毛むくじゃらの口が埋まってしまっている髭、同じように長くボサボサな黒髪、わずかに頭頂部に二か所ほど飛び出ている「耳が埋まっている」と思しき箇所。目つきはやや鋭く、身体はなんだかずんぐりむっくり。かといって決して脂肪のみではなく、ある程度は動けることが察せられる肉の付き方をしている。ただ服の上からでもよくわかるお腹の出っ張り具合が、色々とどんな顔をして良いのかわからなくなるものであった。

 

 その相手は、…………釘宮の一言から察せられたが色々と認めたくないので名称自体は避けたいが、その相手は私とカトラスを見て「フン」と言った。

 

「なんや、こっちの坊主がダイゴの言っとったアレか? 同級生の、『ネギの孫』言うんは」

「へ? あ、ま、まぁ、確かにネギ・スプリングフィールドの孫だって聞いてるッスけど――――」

「――でもアカンわ。『木乃香』姉ちゃん所の直系でもあらへんし、『他の』所の子でもないなぁ。何よりそっちの嬢ちゃんの『ソレ』や。お前等、アレか? 『アマテル技研』の所の『歩兵』か?」

「――――――――っ」

 

 明らかにいらいらした風な長身ずんぐりむっくりの彼の言葉に、真っ先に反応したのがカトラス。ごう、と変化した右腕から魔力が迸り、今にもその瞬間的にカッとなった顔のまま襲い掛かろうとして――――。

 

「いや止めろ、絶対ヤベェからッ」

「なっ!?」

 

 それを後ろから羽交い絞めにしつつ、血風を「置いて」盾を張った。

 

「…………お? なんや、カンは()えなぁ、坊主」

 

 その判断が正しかったように、彼が繰り出した正拳突きにより血風自体は「らせん状に」穴を開けられ砕かれた。見れば黒い渦がその拳に纏わりついている。どたり、と倒れたと同時に釘宮の方を見れば、あっちもあっちで目を大きく開いて驚いている様子だ。ついでに眼鏡がずり落ちているのを直す精神的余裕もないらしい。

 とりあえず黒棒を向けながら、自分の身を抱くようにしているカトラスを背後に庇い、膝立ちで距離を取る。その釘宮のお祖父さんは、私の様子を見て少し楽しそうに笑うだけで、何もしてはこなかった。

 

「な……、何やってるんですか、お祖父さんッ! 人の知り合い相手に何やってるんですかっ! いくら近所迷惑やらかして罪悪感もないような奴とはいえッ。

 あと居間でこういうことをしていると、お祖母さんに怒られますよッ!」

「やかましぃッ! 緊急事態、エマージェンシー・犬上流って所や! ……少なくともネギ『直系』っつーか、『クラスの姉さん』達の系譜なら信用できるけど、悪いが俺はお前等、信用できへん」

「そんなこと言われてもちょっと何言ってるかわかんないッスけど……」

「嗚呼、せやろな。お前ら自身が『どう』思っていて、そんでここまで来たかは知らへんけどな。アマテルん所の子供らを俺は、ネギの孫とは認めへん――――俺くらいは認めたらアカンねん。

 昔から、フェイトがおかしくなる前よりずぅっと俺、言っとったからな、その話は。あそこは絶対ロクでもないことやらかすところやって」

「いや、あの、そーゆー事情はともかくとして、少なくとも自宅でやるような話ではないんじゃ――――」

 

 そう話していた瞬間、私とカトラスはその祖父らしい男にベルトを掴まれて、気が付けば空中、そして投げ出されていた。――――動きからして瞬動? パリーン、というガラスが砕けるような音が遅れて聞こえる。

 

 投げ出された先、背中に感じる衝撃と耳に遅れて聞こえるガラスが砕けるような音。とりあえず血風を足元に軽く放って破片を散らし、痛む背中を押さえてカトラスを探す。……こう、頭から突っ込んで思いっきり転んだみたいな、お尻を突き上げるようなヘンな姿勢で倒れていた。ファンシーでフリフリなデザインの可愛らしい下着が丸見えで色々と居た堪れず、軽く小突いて転がし仰向けにしてスカートを直した。魘されたようにしているが、おそらくさっきの衝撃で脳震盪でも起こしたのだろう。額やら頬やらに刺さった破片と、そこから流れる傷が痛々しい。……いや、普通は脳震盪とか起こして気絶するとかの時点で一般的に本来なら相当ヤバいレベルの話なんだが。こういう痛いのは正直やめて欲しい。とはいえ一応は「金星の黒」が仕事をしているらしく、血は段々と止まってきたので破片だけ抜いておいてやった。

 さて、周囲を見渡せば畳張りにガラス窓が南側に張り巡らされた立地。剣道場、あるいは武道場とでも言えば良いか、とにかく一目で「それ」とわかる施設になっており、部屋自体の広さはかなりのもの。ただ血風を打ち込んでもその箇所に傷一つ無い所を見るに、見た目通りの設備と言う訳ではないだろう。……まあ例の「犬上流」の技とか鍛えている場所なのだろうし、そういう道場でなければそれこそ修繕費とか諸々で大変なことになるのかもしれないが。

 

 そして虚空より瞬間移動のごとき速度で降りて来る、釘宮の祖父らしい男性……、いや仮に例の「本人」だとすると、あまりに容姿が想定外の方向に変わりすぎていて未だに認めたくないのだが。その彼は私の視線を受けて「おぅ、この立派に育ったビールっ腹がどうしたんや?」と、ボン! と大きく音を立てて叩いた。

 嗚呼…………。

 

「………………って、あー、俺はともかく、なんでこっちのカトラスも祖父ちゃんの孫だって判定したんスか? 釘宮と色々していた話、聞いていたにしてもちょっと違和感が」

「お? あーアレや、そんなに似てへんわな、確かに。でも『判る』んや。ネギっぽさっつーかなぁ、こう…………、『面影』とかやなくて『そのまんま』なんや。何かやっとる時の雰囲気っつーか。

 いっそ俺から見たら不自然なくらいにな。中でも――――お前は特別に、や」

「はい?」

 

 言いながら彼は、素立ちのまま私を見てニヤリと笑う。

 

「いっそキモいくらいなんや。まるでネギを『つぎはぎ』して出来た! みたいな、そんな感じがするくらいにお前、相当変やで?」

「あの、その変さっていうか俺、当事者だし全然わからないんスけど……」

「スマンな。俺も上手く説明できへんわ。前にそれで夏美(ヽヽ)にも怒られとるし。

 せやから、男ならやることは一つ――――――――拳と拳でタイマンや! 伏兵おらへんみたいやし、それなりに俺達いてこませるくらいには『仕上がっとる』んやろっ!」

「はいぃぃッ!!?」

 

 後方、カトラスの方に「嫌な感覚」――――死天化壮を纏いながら彼女を庇うように前に出れば、その巨体が当然のように私の脚を「蹴り潰した」。よく見ればその脚には狗神がスキー板のような形でまとわりついており、その長い足裏で膝から下、ふくらはぎ脛など一帯が「潰された」。普通なら複雑骨折であるし、それ以上に皮が割けて、骨が、肉が、嗚呼、ア――――ッ!

 中途半端に現実感があるレベルで致命的なダメージ(複雑表現)のせいで、痛覚が誤魔化されないの止めろ! 痛いのは嫌だっていっつも言ってるだろいい加減にしろッ! というかカトラスの方に血とか飛び散ってるの絵面酷いからもっとどうにかしろ!(正当ギレ) 後それ以前に「前に出た」私相手にこの威力ってことは――――。

 中折れの黒棒で殴りつけるのを「獣化」した両腕で受け止め、そのまま巨体に似合わぬ軽業師のような勢いで後退する釘宮の祖父。そんな彼に、私は流石に怒りながら聞いた。

 

「…………アンタ今、思いっきり『殺そう』としたろ。あっちの妹チャンのこと」

「おー、流石に気づくか」

「いや何でだよ、普通アレだろ? 孫の友達が訪ねて来てってところで何かどうこう話すって前の時点で乱入してくるのもアレだけど、それ以上になんでいきなり『頭部』を『粉砕しよう』としてんだよ」

「言ったやろ、信用できへんって」

 

 彼はそのまま拳を握ったまま両手を重ねて、構えながら続ける。口調は軽いものの、しかしその目は一切笑っていなかった。まるで、何か「仇」でも見るような。

 

「…………前な、道場がもっと都心の方にあった時、『お前等』と同じようなのに襲撃されたことがあったんや。理由まではわからへんし、本命は『楓姉ちゃん』やったかもしれへんが――――それで俺も、子供と孫が死んでるんや。弟子とか、民間人とか大勢巻き込んで」

「………………」

「お前等がどういう立場で来とるかとか、そんなもんは知らへんけどなぁ。そういう因縁ってのは、自分が知らないところで勝手に出来上がっとることもあるし、自分が知らない話だからって素直に受け入れられないこともあるってことや」

 

 少なくとも今のままだったら、俺はお前らを信用せん。

 

 言い方は悪いが八つ当たりのようなものかと思ったが、だがその相手は――――犬上小太郎は、静かに繰り返す。かつての少年時代のように怒りを露わにして激昂するでもなく、静かに、諭すように、物の道理を示すように。その物腰が、そこまで性格が変わっていないだろう振る舞い以上に「時間の経過」を感じさせて。同時に彼の心に刻まれた、深い悔恨のようなものを垣間見たような気がした。

 私やカトラスと同じような連中……、少なくともここ十年の範囲で、ということになるだろうか。なるほど、そういう事情があるなら、こちらに不信感があっても仕方ない。おそらくそれは、「私やカトラス個人個人の人格」ではなく、「ネギ・スプリングフィールドの遺伝子操作クローン」という存在そのものに対する不信感なのだ。それこそ下手をすれば、体内に爆弾とかが仕込まれていたり、何かの拍子でラスボス陣営の先兵として何かが起こってしまうのではというレベルで、「何が起こっても不思議はない」と。そういうレベルで警戒をしているという事か。

 実際、カトラスに関しては本来ならばまさにその通りの立場だったのだ。あまり多く、私がどうこう彼に身の潔白を言える話ですらないのだろう。

 こういうものは、本人がどれだけ納得しても必ずどこかに傷痕として残ってしまうものだ。

 想像以上に、犬上小太郎の傘下というこの場所は「私たち」にとって危険地域だったらしい。

 

 だが……、だからといってカトラスを下手に見捨てる訳にもいかないし、それこそ適当に扱って「あちら側」に戻られても、ここまでくると危険でしかない。結果的にとはいえ「黒」と「白」、あちら側の陣営が欲している能力を確保した存在となってしまったのだ。扱いは必然、慎重にならざるを得ない。

 

 黒棒を構えて左手をポケットに突っ込む私。近接、遠距離共に自動迎撃可能な状態のまま見据える私に、犬上小太郎は巨体のままニィっと笑った。

 

「それは、悪い顔やないな。……こう、オリジナリティがある笑顔ってか。『無理に』ネギを縫い合わせた顔とは違う感じで」

「…………個人的には『何から何まで』借り物みたいな感じっつーか、あんまり胸張るようなモンじゃないんスけど」

「ま、ええわ。――――どうせお前も『不死身』めいとるんやろ? ネギより下か上かは知らへんが、生半可やったら、死ね」

 

 

 

 お互い、その場で構えを解かず、表情を消し沈黙し――――。

 カトラスの息遣い、呻く声を合図に、踏み出した。

 

 

 

「――犬上流(いぬがみりゅう)獣奏術(じゅうそうじゅつ)狗音(くおん)ノ風(ストーム)!」

「――――――――ッ!」

 

 

 

 毎回見ている、釘宮が矢の形でつがえて放つ狗神の狙撃。本家本元たる彼が使用したそれは、拳の先より大型の狗神が、その牙を大きく開いて噛みつくよう接近してくるそれだった。

 それに対して、私は死天化壮の自動迎撃をもって牙のベクトルをカトラスから逸らし――――そのまま放出した直線上にいる犬上小太郎めがけて、活歩らしい何かで接近する。秒、力が入りすぎたせいか足が裂けてわずかに血が死天化壮に吸収され切らない勢いで飛び散るが。その痛みを無視し、私は黒棒の柄で巨体の腹を殴り飛ばした――――。

 

 ぐぐ、と。膝こそつかないもの、己の腹にめり込んだそれを見て、苦い顔のまま私に嫌そうに言う。

 

「……………………思ったよりやるやないか。流石に『歩兵』とはいえネギの孫や」

「………………そういう話じゃないんスよ」

「何やと?」

「――――単に兄貴分が、妹守ろうとしてるって。それ以上でも以下でもないッスから」

 

 その私の一言に、犬上小太郎はニィと笑い。

 

 

 

「――馬鹿、近衛ッ! それは『狗神の鎧』だ! 本体はまだ――――っ」

「はい?」

 

 

 

 後方、走ってかけつけたのか胃を押さえて叫ぶ釘宮の声を聞き。それとほぼ同時に、犬上小太郎の巨体が「解けた」。

 白と黒の、何かしらのエネルギーの奔流のようなものになった巨体はあっという間に姿を消し、中からは二十代後半くらいの男性の姿。それこそ原作「ネギま!」の大人版犬上小太郎にわずかにほうれい線、そして尖っているくらいの顎髭を撫でて。

 

「けどまぁ、『これくらい』対応できへんのなら、大したことはあらへんな。

 ――――犬上流獣壮術・狼牙突貫(ドリルガルー)!」

 

 その奔流がまとまって集まった膝、らせん状に回転するそのニードロップを喰らい、私は回転しながらカトラスの方に投げ出された。っていや、お前さんそんな器用な真似「ネギま!」時代とか全然やってなかったろ一体どうした!? アレか、楓か? 楓姉ちゃんさんの影響かそういえば道場もなんか「宇宙忍術」とかスルーしてたけど変なものあったし!!!?

 胴体は貫通していない。していないが変にダメージが残っているというか、こう、妙に腹を中心に全身が「重い」。まるで「金星の黒」が仕事をしていないような、妙なもったりとした感覚が全身にのしかかっている。

 

 私を指さし、犬上小太郎は――――真の姿を現した彼は、それこそ「ネギま!」時代を思わせる顔で、しかし当時よりも殺伐とした表情で私たちを見下ろしていた。

 

「お前等みたいなのを相手にする方法は、色々検討しとったからな。『白』の狗神を上手く使えばこれくらいは行けるっちゅーわけや。

 せやなぁ、まず一回全身解体(バラ)すところからやな。ヘンな発信機とか魔法とか組み込まれとると、一切安心できへんし――――――――って、何の真似や? ダイゴ」

「…………ッ」

 

 胃の辺りを押さえながら、釘宮が魔法具(アーティファクト)の弓を呼び出し、構えながら私やカトラスの前へ。忌々しい、とでも言いたげな顔をする犬上小太郎に、釘宮大伍は引きつった笑みを浮かべた。

 

「……いやお前、祖父ちゃんなんだろ…………、ヘンなことは止しとけって」

「…………少なくとも、近衛にはちゃんと借りもあるし、それ以上にお互い痛い所をさらけ出し合った仲だからね。何もせず指をくわえて見ている訳にもいかないよ」

「ダイゴ、ソイツお前にとって何や? 『騙されとる』かもしれへんのに、『前みたいに』全部なくなってしまうかもしれへんのに、それでもそっちに立つんか?」

 

友達だから(ヽヽヽヽヽ)ですよ、お祖父さん。だって、そういうものなんでしょ? ……お祖父さんと、かの現代最後の指導者様だって」

 

 チッ、と。舌打ちをして。震える釘宮相手に犬上小太郎は手を振り上げ――――――――。

 

 

 

「――――――って、何、ダイゴにまーた酷い事しようとしてるのよコタくん! 駄目でしょせっかくお友達連れてきたんだからッ!」

「ほげ――――ッ!? えっ、いや、な、夏美姉ちゃん!!? ちょ、そういう平和ボケしとる感じやなくて、今かなり大事な――――あふんっ」

 

 

 

 と。唐突に現れた妙に子供っぽいパジャマ姿の、棒付きの仮面型魔法具(アーティファクト)を持った女性にぶん殴られ、その場に沈んだ犬上小太郎であった。

 

「「……………………」」

 

 えーと、な、何だかなぁ……(白目)。

 

 

 

 

 



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ST140.犬の生活に安息は無し

新年あけおめです!
毎度ご好評あざますナ!
 
アフロが、アフロがどんどん遠のく・・・(出番)。


ST140.Every Dog Has Its Day In LIFE.

 

 

 

 

 

「ごめんね~、昨日はせっかく来てもらったのに。ホラ、コタくん反省っ!」

「…………」

「返事!」

「……ま、まあ、悪かったわ。色々ピリピリしてたんは認めるけど」

「全く、まーたそういうこと言ってー。

 あっ、味とかどう? 重くない? コタローくんのリクエストで、最近は朝は種もののお蕎麦なんだけど、上に乗ってる具。ひき肉とニラとニンニク炒め。ちょっとお腹に重かったりしたら、言ってね? 別なのに変えるから」

「………………」

「何よーコタローくん。さっきから凄い嫌な表情してるけど――――」

 

「…………あー、いや、なんか事情は色々察するところあるんで、あんまり責めないであげてくれると……」

 

 思わず止めに入る私に、忌々しそうな、それでいてバツが悪そうな表情の犬上小太郎(イケメン)。どうやらあの独特な体型は、釘宮いわく「鎧」のようなものだそうで、こちらのおおよそ二十代後半くらいで、顎髭がそれこそ髪の毛に負けないくらいツンツンしているお兄さん的外見の姿が本体らしい。もっとも服装は巨体のものと共用らしいので、作務衣はだいぶガバガバとなっているが。

 そんな犬上小太郎をポカポカ軽く殴っている(割には小太郎の方はいっさい反抗できていない)彼女は、御歳の割にかなり子供っぽいボタンのパジャマの上から、さきほどまで小太郎が羽織っていた半纏を借りて前を留めており、どうにも「服に着られている」感が抜けきらない。顔立ちは流石に中学生時代よりは大人らしいラインになっているが、そばかすやら含めてどこか子供っぽい部分も相変わらず。どこぞのこのせつやら隊長やらではないが、こちらもこちらで実年齢を無視した見た目をしている。また真ん中分けの赤っぽい色の髪は適当でオシャレに頓着していない……、というより寝坊か何かして慌てて寝癖を直してきたから、といったところなのかもしれないが、デフォルメしたら確実に黒目真ん丸な印象のまま小太郎相手にびしばしと色々と文句を言い募ってる。

 

 翌朝、である。いきなり深夜に訪ねて来た我々に対して、彼個人の私怨とそれにとどまらない因縁とで軽く殺されかけたりしたが、孫の釘宮が早々に介入することでストップがかかり。そのまま居間に布団を敷いて雑魚寝して翌朝と相成っていた。時刻は九時を回っているが、ようやく朝食と相成っている犬上家にて、我関せずと遠い目をして朝食を食べている釘宮、箸の扱いがちょっと危なっかしいカトラスに、コタローくんからの視線が痛い私であった。

 

 なお、彼の嫁はそれこそ旦那の不機嫌さなど完全無視である。

 

「大体コタロー君、この子って刀太くんって言うんだよね。確か『野乃香ちゃんの子』だったでしょ? なら一応『近衛』の本家筋って言っていいんじゃないのかな。『代理出産』でも、近衛って名乗らせてるってそういう意味があると思うよ?」

「そういう問題やあらへんわ、夏美。なんでもかんでも一緒苦茶(いっしょくた)にするもんやあらへん。っていうか、それやったらこっちの龍宮サンとかっぽい感じの娘とかどう説明すんねんッ! 明らかアレ(ヽヽ)やぞ!」

「それでもー! 子供をこんな寒空の下、物騒っぽい地域に着の身着のまま無一文に放り出すようなことはやっちゃ駄目でしょ! ちづ姉の墓前に言いつけてやるよーだッ」

「あの、頼むからそれはホンマ堪忍してくれや……」

 

 絶対枕に立って長葱ケツに刺しに来よるわ、と。コタローくんは自身の嫁――――犬上夏美に軽く土下座していた。

 

 犬上夏美、旧姓は村上夏美。彼女については、何か話すことは……、話すことは…………、まぁ一応あるのだが個人エピとしてはそこまで決まり手がないというか(雑)、そういう扱いこそがある意味で彼女のキャラクターであったともいえる。彼女自身は「ネギま!」時代をみるなら「キラキラした主人公じゃない脇役」だの「どーせ全然成長してなくて子供っぽいですよーだ」といじけていたりしているが、まあこのあたりは年相応に成長していた彼女に対して、周囲が周囲だったせいもある(少年漫画的お約束)が、そういうちょっと小動物的な性格の人物であった。

 当たり前のように2-Aおよび3-A所属の生徒であり、しかしネギクラスでありながらも彼女自身は小太郎との縁の方が深い。京都での修学旅行時にネギぼーずと敵対していた彼が諸般の事情から脱走、辿りついた麻帆良学園にて犬化してたところを拾ったことから縁が出来ている。ルームメイトの那波千鶴ともども、それから紆余曲折あり彼の保護者というかお姉さん的なポジションを継続することになり、魔法世界編において彼と仮契約。以降そのまま順当に関係性を深めていき、いわゆる「ハッピーエンド」のルートにおいてはめでたくゴールインしていた(嘘は言っていない)。

 

 それこそ「UQ HOLDER!」においては小太郎関係は影も形も確認できなかったため、その後については色々と不確かではあったが、私が近衛刀太として今まで辿ってきた中では、釘宮大伍や成瀬川ちづという彼女と「同じ髪色」やら「そばかす」持ちがいたため、そこも確かにゴールインしていたのだろうと推測はしていたのだが。

 実際にこう、思い切り尻に敷かれている様を見るとこう、生のこのせつを目撃した時のような何とも言えない謎の感慨がこみあげて来るものだった。

 

 それはそうとしてお蕎麦「は」美味しいです(ニラひき肉だけ分けながら)。

 なお横のカトラスがお残ししている肉を見てちらちらと気にしているようなので、特にアイコンタクトも交わさず彼女のそばつゆの中に入れてやった。ぱあぁっ! と嬉しそうな顔をするがお前さんホントお前さん…………、そういう表情それこそトロッコレースで近衛刀太追い詰めていた特くらいしか見せてなかったろう原作を読み直せ原作を……、原作…………。

 いや読まなくていいよもう(諦観)。(???「そろそろこの娘に関しちゃ修正が効かない自覚が出て来たようだねぇ」)

 

 と私の視線に気づいたのか、夏美姉ちゃん(鋼の意志で姉ちゃん呼び)は少し照れたように手を振って笑った。

 

「あはは、えーっと。近衛刀太くん、でいいんだよね? 私のこと知ってるかなー。村上夏美って言ったんだけど、当時は」

「あー、とりあえず祖父さんの教え子の誰かっぽいってくらいは推測が……」

「まー、そだよねー。私、そんなにネギくんとどうこうってあった訳でもないし、そんなに戦闘に貢献してた訳でも……、訳でも……、ハァ…………」

「い、いや、夏美姉ちゃん頑張ってたやろ? アレ、明日菜はん救出しに行った時とか」

「でも公式資料とかも残ってないだろうし、エヴァちゃんも教えてないだろうし、ハァ……。

 えーっと、気を取り直して。その感じだと、ダイゴくんのお祖母ちゃんって紹介した方がわかりやすいかな?」

「……お祖父さんの修行が行き過ぎた時に、ストッパーによくなってもらっていたよ」

 

 釘宮、遠い目をしながら追加解説。なおカトラスは話こそ聞いているようだが手が片時もお蕎麦を離れない。お前さんひょっとして金欠になってから数日本当に何も食べていなかったのでは……? いくら「金星の黒」が多少正常になったとはいえ、私ほど無茶は利くまいに。

 もっと食え、とばかりにお肉を追加してやりながら、話を続ける。

 

「そのあたりは、えーっと、ケッコーキビシイ感じだったってーのは話くらいは。

 …………って、そうなると、その、『そういう』年代の割に二人とも大分お若い?」

「小太郎君が『血筋』もあって寿命が普通よりもちょっと長めだから、魔法使いの『本契約』した私もそれでつられているってだけだよ、アハハっ。

 お陰でコタローくんもこう、長瀬さんから『やってみるつもりはござらぬか? 道場主』って依頼された後、少しでも『それっぽい』威厳を出せるように色々苦労してたんだよね~」

「嗚呼、ひょっとしてあの格好って…………」

 

 脳裏に描かれるずんぐりむっくりな髭面の巨体。なるほど、確かに今の若者感が抜けていない姿とあちらを比較すれば、あちらの方が謎の圧力というか迫力というか、そんなものがにじみ出てはいるか。と、私の納得した表情に嫌そうな顔をするコタローくん。

 

「何や? あの動けるデラックス師匠ボディに何か文句でもあるんか坊主?」

「いやー、むしろアレはアレで中々OSR値高(それっぽ)くて大変宜しいかとっ!(興奮)」

「お、おぅ、それはサンキューな……、アカンわ今時の若者のハマるポイントわからへんわ…………」

 

 まあそれこそ本家〇LEACH(オサレ)においても、体格体型に比例しない戦闘力でOSR(クリティカル)する面々は多いので、その例にもれずアレが本来の姿でもそれはそれでありだったという私の感性は少数派だろうか……。

 ただし変態(愛され系赤ちゃんオヤジ)、テメェはダメだ(ペペッ(唾吐き))。

 

「私としては、コタローくんはそのままのコタローくんでいて欲しいなーって思うけど……。こんなに格好良いのにあんな鍛冶とかしそうな妖精さんみたいな恰好して。私だってあんなコタローくんと一緒に外に出るときは、年齢詐称薬で調整しないといけないし。

 こんなにまだまだ若いって、龍宮さんにだって言われるのに~」

「せやかて夏美も最近、鏡見て小皺増えて来たわ~って煩くなったし、それなりに俺かて若い言ってもオッサンなんやから、子供っぽいだけで十分オバサ――――って、いやッ! 止めっ! ちょ、夏美姉ちゃん孫の前――――」

「孫の前でそんなこと言う悪いコタくんなんか、こうなんだからねッ!」

 

「嗚呼…………(祈祷)」

「一体何を合掌して拝んでいるんだ君は…………」

「えぇ……?(引)(口の端についたひき肉を取って食べながら)」

 

 それこそ釘宮が言っていた通り大変仲の良いお姿に思わず全世界全てのキリヱ大明神に祈りを奉納したくなる衝動にかられた私は置いておいて。(???「完全にお門違いなんだよねぇ……」「『私全然関係ないじゃないのヨッ!』とか怒鳴り散らしそうネ」)

 

「まぁ何っつーか、おおよその事情はそっちのコタローさんから聞いたんスけど、その上で泊めてもらってありがとうございます」

「全然平気だよ~。むしろネギくんの孫に頼られて泊めないとか、委員長とか聞いたら今でも妖怪変化して駆けつけてきそうで怖いし…………」

「何でこう危機感があらへんのや、夏美姉ちゃんは…………。お前もやで、ダイゴ。百歩譲ってこっちの刀太っちゅーんは身元がしっかりしとるとしても、隣でなんかカワイイ顔してめっちゃ蕎麦すすっとる娘っ子はそうでもないやろ」

「………………とはいえこの近衛に関しては、その素性とかは『知りたくもない』ですけど、変に縁が結ばれましたから。『妹』というなら、無下にもできません」

 

 流石にこうもタイミングが合うとは思ってませんでしたけど、と釘宮はそう言ってごちそうさまと手を合わせた。

 

「まぁええわ。ダイゴ、『別荘』使うんなら、あんまやりすぎんよーにな。お前の年代はあんまり言い訳きかへんから。背も伸びるし」

「判ってますよ。じゃあ、また」

「おう! …………って、別荘?」

 

 立ち上がって部屋から出ていく釘宮に軽く手を振るが、そんな私の疑問に「言う訳あらへんやろ」と半笑いのコタローくん。

 

「こっちの話やらから、お前等には教えへんわ………………って、いやホンマよく食うわな、そっちの娘っ子。夏美も何を、わんこそばごっこしとんねん」

「へ? い、いやー、なんかブルドーザーみたいにひょいひょい食べてるものだから、道場来てる子たちとか思い出して、こう、つい……」

 

「いや、へ? お前そんなに食べてんの?」

「………………そ、そろそろ止めるしっ」

 

 どれだけお腹が空いていたのかは不明だが、明らかにスラムに居た時よりも大飯ぐらいになっている妹チャンである。いや、今までの場合と違って身体の具合も勝手が変わっているというのもあるのだろうが、果たしてこの場合の振る舞いとしてはどうなのだろうか。コタローくんからは他所の家の食事を遠慮なく食べ進める仮想敵扱いされているし、夏美姉ちゃんからは「いっぱいお食べ!」と近所のおばちゃんかお祖母ちゃん的思考で盛られてそうだし……。

 ただ指摘されて恥ずかしかったのか、ある程度のところで「ご馳走様」と顔を少し赤くしながら手を合わせた。

 

 そんな私たちを見て「だーから嫌やったんや」とやれやれと肩をすくめた。流石に彼の事情というか、そういうものを前提に考えると頭を下げざるを得ない。

 

「あー、何か…………、お世話かけました」

「…………お前らの生まれに関係なく『ネギの孫』っつーのは、俺は認めたくはあらへん。でも、こう、だからと言って『こう』慣れっつーか、そういう感じが出ると多少は情が涌くからなぁ。

 わざわざエヴァンジェリンさんとか龍宮タイチョーの所やのぉてウチに来たっつーことは、なんか訳アリなんやろ?」

「一応はそうなんスけど、そういう意味も含めて、昨日色々言われたこともすべてが間違ってる訳でもないっつーか。…………正直、カアちゃん、雪姫……、えーっと」

「あー、知っとるから構わへんわ。『雪姫』っつー名前な? エヴァンジェリンさん」

「そうッスか。……カアちゃんから色々聞くとは言ったけど色々あって流れてるんスよねぇ、俺に関しては。その、『生まれ育ち』についてとか」

「あ゛ん?」「どういうこと?」

 

 私の一言に違和感を持った二人の反応だが、むしろ私の方が「ん?」という感じになってしまった。一体何に対する疑問符なのだろうか、というところで、カトラスが口をティッシュで拭いながら指摘する。

 

「…………そもそも兄サンが二年前くらいから記憶喪失って話、知らないんじゃねーの?」

「…………あっ、それは盲点だった。ままならぬ」

 

 今まで大体において最初に説明するか、関係者は何故か説明しないでも知っているか、そういう話をする必要がない相手があまりに大半だったため、すっかり私の経緯説明の必要性が頭から抜け落ちていた。

 とはいえ話せる部分が限られているので、さてどう説明したものかと頭を悩ませる私であった。

 

 

 

   ※   ※  ※

 

 

 

 結論から言うと、条件付きで滞在が認められた。

 主に私がここに来るまでのさっくりとした経緯と、カトラスについて辛うじて話せる部分だけ。ただ途中で夏美姉ちゃんがカトラスに同情し始めたあたりで、コタローくんの視線の鋭さも少しだけ取れたのは収穫と言えば収穫だった。

 

「…………なんつーか、だいぶ大人の事情に振り回されとるんやなぁ、お前。そっちの娘っ子に関しちゃ正直、全然アレやけど……。まー、お前が責任もって取り押さえるんなら、家賃出せば離れの部屋くらいは寝泊まりに貸したるわ」

「もー、そんな意地悪言ってー。大丈夫だよ? カトラスちゃん。お食事はフツーに出してあげるからねっ!」

「なんでそんな甘いんや!? お前、『あっち』で酷い事になったん忘れたんかッ!」

「でも…………、確かにアレは許せることじゃなかったけど、それはそれ、これはこれ。

 ちゃんとネギくんのお孫さんしてる子を相手にしてまで、そういうことはしないの。可哀想じゃん」

「せやから、そういう問題やあらへんって…………」

 

 まぁええわ、と。とりあえず彼としては、このあたりが妥協点ということらしい。

 さて、釘宮に関してはコタローくん曰く「修行中やから、しばらく放っておき」とのことなので。一旦は彼についてふれず(むしろ我々を遠ざけたがってる?)、「稼げる所だけ紹介したるから、ついて来ぃ?」と手招きした。

 作務衣姿に下駄、狗神で造り出した半纏と帽子に杖……、恰好だけで言えばどこぞのBLEAC〇(オサレ)下駄帽子(大体コイツのせい)っぽい恰好になると、そのまま私たちを伴い歩く。バスの時刻表は暗記しているのか(というかこんな都外れまで都営バスが通っているのか)、なんなく人もまばらだったバスに揺られて数十分。都心部の路地裏、それこそ例のマフィア関係で色々やっているエリアにほど近い路地まで来た。それこそ、ちょっと死天化壮で飛んだら源五郎のところの事務所までたどり着くくらいの位置なのだが、そんなビル群で黒服剃髪の門番が居る場所に………って、いや見覚え有るぞここ。こう、大体コミックス7巻の真ん中くらいだろうか。

 

「…………反吐が出る」

「まぁそう言うなや、娘っ子。これも『必要があるから』裏向きで用意されとるやつや。需要があるっちゅーことは、そういうことやで。

 表向きに顔出して稼げへんっちゅーなら、こーゆーヤクザな所に顔出すしかあらへんやろ。地下闘技場――――まほら武道会予選、戦っとる参加者連中使ってやっとるギャンブル場とも言えるわ。ファイトマネーとかは『裏火星』参考にしとるから、意外と出るみたいやけど。

 ……って、どした? 刀太」

「いや、何でもないッス」

 

 壁に思いっきり「仙境富士組(ホルダー表向きの組織名)」の広告ポスターが張ってあったら、そりゃこんな強烈に酸っぱい梅干し食べたみたいな顔にもなる(断言)。

 いや、とはいえホルダーが思いっきりこういう場所を取り切っているとは限らないし、原作だってカトラスがこの場に居た(おそらく出場していたのだろう)ことを考えると、流石に参加者の膨大な人数をさばき切りはできないのだろう。個人個人まで細かくエントリーをチェックされないだろうという意味では、問題はない、のか?

 

 ともあれ、地下闘技場である。コミックス7巻、本来なら「家出して」彷徨っていた刀太がとある紹介で流れ着き、カトラスとニアミスしていたはずの場所である。簡単に言えば近代的コロッセオというか、小規模の地下体育館風の闘技場というか。

 って、あれ? そもそも何故そんなものをコタローくんが知っているのだろうか。別に本人が出ていた訳でもないだろうし、そもそもあまり金に困っているようには見えなかったのだが(釘宮の学費など含めて)。そんなことを聞けば「一応、門弟がやっとるからなぁ」と肩をすくめる。

 

「オレも詳しくは知らへんけど、話くらいなら通せると思うわ。ちょっと待ってな?」

 

 そう言って空中に小型ディスプレイを表示させるコタローくんだが、流石にこう、フツーに現代の携帯端末というか魔法アプリというか、その手の関係のものは使いこなしているらしい。と、そこの画面にぼうっとホログラフィックで表示された顔に、思わず私は呆然とした。

 

 

 

「おぉ、灰斗(ヽヽ)! 今、ちょっと平気か――――?」

『――――お、お久しぶりっす、先生(ヽヽ)ッ! でも、あー、次試合なんでちょっとだけ待ってもらえると……、は? えっ、刀太と、妹チャン? おぉ久々じゃねーか! 何してんだ?』

 

「世間狭し(諦観)」

「マジかよ……(引)」

 

 

 

 そこには清掃業者みたいなツナギを着用して、目印のように目立つバンダナをした灰斗――――かつてスラム編においてギリギリレベルで戦わされた人狼の彼が、私とカトラスを見て、楽しそうに指さしてきた。

 

 いや先生とかお前さん、自分のこと我流って言ってたじゃねぇか一体何なんだよ流派はどうなってんだよ流派はよぅ!(震え声)

 

 

 

 

 



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ST141.アフロパワー全開

感想、ご評価、ここ好き、誤字報告などなど毎度ご好評あざますナ! 今日は早め!
なんかギリギリ登場させられたやつ(サブタイ参照)


ST141.Run Away With Full Afro Power

 

 

 

 

 

 コタローくんが無理を言って関係者枠ということで、スタジアム? コロシアム? の最前列の席をとった。そのお陰で歓声にかき消されず、実況の声が良く聞こえる――――。

 スタジアムの上で私やカトラスに手を振りながら、謎のサムズアップをかましてくる灰斗だが、個人的には彼もそうだがその隣にいる「少女」も色々と気になる所であった。浅黒い肌に小さい角を持ったチャイナドレス姿の少女は、その大胆に開いた背中から「新たに生えた」二本の腕で、「おっぱい!」と書かれたノボリを掴んで左右に振っている。

 

「オッパイが好きかー!」

「「「「うおおおおおおおおおお!」」」」

『――――チーム「修羅狼(しゅらろう)」より灰斗選手とパイオ・ツゥ選手! 入場と同時に今日も元気よく「信徒」にお言葉を発信しております!』

「ウム、今日もヨシ。オッパイに貴賎なし、オッパイ皆姉妹(きょうだい)

 ただし雄パイ(おっぱい)は許すまじ! 故に今日は機嫌が悪いヨー!」

「「「「うおおおおおおおおおお!」」」」

「いや騒げれば何でもありじゃねーか、姐さんや」

「そういうウヌもオッパイは好きネ」

「そりゃ並以上には」

「ウムウム、つまり信徒! 信徒皆兄弟! そこに何ら違いはないヨー!」

「「「「うおおおおおおおおおお!」」」」

 

「うわぁ……、いや馬鹿なのか全員?」

「相変わらずやなぁ、あの姉ちゃんも」

「ままならぬ…………」

 

 オーディエンスが涌いているのも色々言いたいが、いや灰斗と一緒になんでお前さんまでいるのだ変態魔族少女(パイオ・ツゥ)!? 元祖「ネギま!」時代からネギぼーず達パーティーとそれなりに戦ったりお風呂で戯れて一部女性陣の御胸サイズなどに関する諸々をあのテンションで押し切り、なんだかんだ最終回までそのテンションのまま登場してよく軽犯罪で捕まっているらしいとか訳の分からないオチまでかましてくれた魔族っぽい彼女であるが。言動から趣向から何から何まで一切実年齢を感じさせないのは、純魔法世界人である以上にやはり魔族系統の血も混じっていると見るべきなのだろうか。「UQ HOLDER!」的には親戚だろうキャラクターとして、月詠やら和尚やらの同僚に「アスラ・ツゥ」というのが出て来るが、掘り下げはあまりなかったので割愛しておく。というより今までの経験値からして、おそらく何かしら出てくるときはあるだろうから、細かくは考えない。 ……というよりその、親戚だとしたら彼女の手による風評被害やら何やらがあるだろうし、細かくは考えまい。

 

 なお試合については、二人の亜人女性(原作で何か見覚えがある気がする)のうち、両方を変身しない灰斗が瞬動と徒手格闘技能(マーシャルアーツ)によるヒット&アウェイで制圧。迂闊に手を出せないという状況で煙幕を焚き、その後はパイオ・ツゥの独壇場である。煙のシルエットの時点でそれはもう彼女の「趣味」としてのオッパイ探訪(物理)によるあられもないアレコレが上手いように見えなくなっており、しかし声とレビュー(酷い)だけは延々とこだまする状況に観客席がオーディエンスのごとく涌く。明らかにコレ狙いで一部の男性陣がこの試合の予約をとっていそうで、灰斗は灰斗で「俺は一体何を……」みたいな有り金全部溶かしたみたいな顔の崩れ具合であった。かわいそう(同情)。

 

「他にもチームメンバーいるみたいやけど、災難やなぁ。真面目に戦いたいやろうにアイツも」

 

 言いながらコタローくんもコタローくんでオーディエンスに応じて「うおおおおお!」とか言ってノリノリなクチなので、後で嫁さんに言いつけるべきか否か……。ただそのテの目的があるわけではなく、単に場酔い的な浮かれ具合というだけなので、とりあえず隣でドン引きしているカトラスの肩を叩いて慰めておく。

 結局そのままギブアップさせた試合終了後、そのまま観客席から回って裏側から控室に行くと、ツナギの上を脱いでタンクトップ姿になりながら、スポーツドリンクを飲んでいる灰斗がいた。なおコタローくんの姿を見た瞬間、ご無沙汰してますっ! と勢い良く頭を下げる彼である。

 

 そんな彼の頭をガシガシしながら、コタローくんは気持ち良く笑った。それこそ近所の怖いお爺ちゃんが、悪ガキがちゃんと社会人やっているのを見て可愛がるくらいのテンションで。

 

「なんや知り合いみたいやけど、俺の側から紹介しとくわ。

 コイツは灰斗(かいと)。今はどっかの警備会社所属やったっけ? あー、で、昔は札付きのワルガキや。ウチの道場が都心の方にあった頃、何度も横の連中を連れて来てたむろして落書きとかしたもんやから、流石に楓姉ちゃんと一緒に躾せんとってなって――――」

「そ、その話は止めてくださいよッ!」

「ははは、過去は無くならんもんやでー?」

 

 いや、どうやらやり取りを見る限り本当に近所の悪ガキと怖いお爺ちゃんじみた関係であったらしい。カトラスが「あぁ~」と言わんばかりに見ている。やりとりから推察するに、先生、というのも技とかそいう言う事ではなく、近所の社会人として云々というか、そういうニュアンスが勝っているように見えた。

 なお灰斗に対するコタローくんからの我々の紹介も、一応はざっくりと。それを聞いた彼は「えぇ~~~~~~!?」とだいぶ顎をあんぐりさせていたが。

 

「いや超有名人じゃねーか! お前らのお祖父さん!」

「あー、まぁ諸般の事情とかあって直接面識とか全然ないんスけど。

 で、えーっと、どうしてまた出場してるんスか? 灰斗の(アン)ちゃん」

「そりゃお前、俺って一応格闘家だぜ? これでも一応はプロだし」

「警備会社所属のプロ格闘家ッスか……。それで参加を危ぶまれストップがかからない大会運営は、そんなに強いと見込まれていなかったか、あるいはそれ以上に人外魔境を想定している大会ということか…………」

「アッハハハ! それ言うなら俺より姐さんの方が問題だからなあ。色々と――――」

 

「ひぃぅッ!!?」

 

 と、カトラスの妙な声が聞こえて、つられて振り向いてしまった。

 

 

 

「あっ、ちょっとお前、止め―――――ッ」

「ほぅ、これは中々オツなもの……。具体的に言うとこのサイズながら皮が肉にまだあっていないが故に上に引っ張られるこの年代独特のサイズの脂肪感だがしかしこの時点でこの具合になっているということは将来性については特に心配することも無く具合の良し悪しで言えば――――

 

 

 

「いや止めんかい」

 

 思わず折れた黒棒で叩いてしまったが、カトラスの醜態については言及しないでおく(兄貴的心配り)。とりあえず膝をついて体を抱いてキッと、「アイタッ!」の一言と共にスクール水着姿で蟹股の変なポーズのまま伸びたパイオ・ツゥを睨みつけていた。

 

 しばらく事情を説明すると、コタローくんは早々に退散する。「後は任せたで」とだけ言い残して肩をすくめるあたり、どうやら本当にそこまで手を貸してはくれるつもりはないらしい。……彼個人の事情と現状のそれらを照らし合わせると、いささか寂しいものがあるが、このあたりは仕方ないと割り切る他は無いだろう。

 

「先生とお前らの因縁っつーか、そういうのは細かく聞かねーけど。まぁ、要するに金を稼ぎたいって訳だな! とは言ったところで、色々とあると思うんだがなぁ……。表向きに仕事を受けられないって言ってもな?」

「あー、とりあえず身バレが危険みたいな感じ何で、こっちの妹チャン」

「何だー? 何か賞金首にでもなっちまったか」

「そういう訳じゃないけど…………。って、コイツまた――――『(ライト)』ッ!」

 

 言いながら虎視眈々と背後に回ろうとしたパイオ・ツゥの動きを、手首から先だけ「シファー・ライト」に変化させて捉えるカトラスである。身長的には大体同じくらいだが、プランプランと足首を起点に垂れた状態になって「放せー! 放すときー! 放せばー! 放すネー!」と言う彼女に、私と灰斗はおぉ~と思わず手を叩いた。

 

「まぁ姐さんのそれは病気みてぇなモンだから気にすんな」

「出来るかッ! っていうか、何が楽しいんだ同性のブツ揉んで……。そっちのケでもあんのか? この女」

「いや全然? こう、オッパイは愛でて育てて幸せにするものだからネ」

「「意味がわからねぇ」」

「ハッハッハ! 俺もわからんわ!

 でもアレだ、残念だったなー。賭け試合をやるんならお前らくらいなら簡単にイケるだろうが、参加条件があんだよ」

 

 言いながら灰斗は文書アプリで、空中にドキュメントを投影する。主にまほら武道会の予選についての要綱についてだが、ポイントの計算関係は原作とそう差はないらしい。そのランクを指さしながら彼は説明を始めた。

 

「Eランクからのスタートで、勝者は敗者の分のポイントを稼ぐことが出来る。また倒した奴の実力に相当する追加ポイントを獲得して、ある一定値を超えたらランクアップ! ランクダウンは基本的に無ぇけど、100万ポイント稼ぐことで本戦参加のための実質最終予選チケット獲得! ってな流れだな。

 で、ここの賭博対象になってんのは、Bランク、1万ポイント以上の実力者だ」

「あんまり弱い連中の戦いを見ても盛り上がらないから、っつーことッスかね」

「まぁそんなトコだな。でーアレだ。今の時点でもケッコー面子は集まって来てんだが、そもそも参加エントリーはしてんのか? お前等」

 

 首を左右にふる私と、「一応、Dランク」と携帯端末でポイントを表示させるカトラス。おや? 原作では普通に出入りしていたことや今後の展開を踏まえると、既にBランクくらいにはなっていると思ったのだが、どうしたのだろうか……って、いや間違いなくザジしゃんに連れ去られたから発生したガバだ、うん。(???「それだって元々は金星の黒を正常化したアンタのガバが元だろうにねぇ」)

 なお、そんな私たちを呆れたように見て来る灰斗。

 

「いや嬢ちゃんはともかく、刀太お前……」

「そもそも参加予定すらないッスからね? 本来。途中でどうするかって話があったんで、たぶん取り消しはされてないとは思うッスけど」

「なら何でここまで来てんだ?」

「そりゃ、まぁ……、そのまま放置もできないでしょ。妹チャンだし。参加するかどうか、迷うくらいには」

「いや、そんな話っていうか、そもそも私が悪い面が大きいっていうか…………」

「まっ! そーゆーヤヤコシイ家族関係の話は、俺は知らない。勝手にやれ。ただこっちに参加するってんなら歓迎するぜ?」

 

 何はともあれ一度ポイント稼いでからまた来いよ、と肩を叩かれ、私とカトラスは部屋を後に…………、掴んでいたパイオ・ツゥを適当に放り投げて「オパーイッ!」なる汚い断末魔らしきものを背中に退室したりした。

 この調子ならとりあえず、朝早くからこういうイベントをやっている訳で、この感じだとなんとか目途がつくくらいにはカトラスを一度放流できるだろうかと計算が脳裏をよぎる。どこかのタイミングで源五郎の事務所の方に赴いて、カチコミに参加する必要があるのだ。流石にそこの本業は忘れていないので、時間的には余裕があるようで無いのである。

 

 そのまま地下闘技場を退室すると、カトラスは深いため息をついた。路地裏を歩きながら、垂れた前髪をいじりつつ愚痴を零す。

 

「…………なんていうか、こう、凄い嫌なんだけど」

「賭け試合がってことか?」

「それもそーなんだけど、こういうのを飯の種にしてのさばってる上流階級っていうか、上の連中っつーかが」

 

 なんか実験動物同士を争わせて悦に浸ってるみたいで、と言うその言い回しから、もしかして過去に何かそれに類似する話に遭遇した、というか当事者になっていたのだろうかこの妹チャン。

 

「一応、主催もアマテル・インダストリとかだっけ? つくづく業が深いよ、私たちにとっちゃ」

「俺も含めてってこと、だよな」

「あー、うん。…………私らが生まれたのだって、きっと連中がのさばってきて吸い上げた金なんだぜ? しかもそんな私が、つい最近まで『世界から悲しみを無くすためー』とかお題目かかげて、私怨にまみれて色々やってたのとか、完全にギャグだろ。ここまでくると」

「まー、お前さんがそう思うなら俺はどうこう言わねーけどよ。あんまり自虐的になりすぎんなよ? ミニトマトだけじゃなくてトマト系全般が実は得意じゃないのがバレていじめられたりしてるわけでもないだろうし」

「いや何でそんなこと知ってんだお兄ちゃんッ!!? べ、別に、フツーのやつは苦手なのちょっとだけだし!」 

 

 話題を逸らしたら逸らしたで、顔を真っ赤にして振り向くカトラスである。なおその程度の事はスラムの時点でなんとなく表情で察したので、彼女に提供する場合は大体火を入れてお肉と一緒に出すとか、一工夫があったりなかったり。たぶんあのジュースというかジュレというかの、微妙な感触が苦手なのだろうとアタリはつけていていたりする。なおミニトマトだけはどう調理しても苦手そうだったが。

 

 しかしまぁ何と言うか……、カトラスに関しては本当にどうしたものか。いい加減どう扱っても修正不能という立ち位置になってはいるが、キリヱ大明神に従えばやはりホルダーに迎えることも難しく、だからといってフェイト陣営に渡す訳にも、ラスボス陣営に再回収されるわけにもいかない。コタローくんの所に居候させてもらうのが一番安全と言えば安全なのだが、それすら当人から拒否されるという境遇はなんとも悲しいものがある。

 それこそザジ・レイニーデイあたりが回収しにくれば色々と問題は解決しそうではあるが、本人は割と嫌がっているし…………。原作を思えば適当に放り出すのも一つの手ではあるが、流石にそれが出来ない程度にはもう情が涌いてしまっている。

 

 優先度上はどうしても下になることもあるが、それはそうとして痛いのは嫌なのだから。身も心も、傷というのは残り続けるのだ。

 だからこちらを見て「何だよ?」と顔を赤くしてる、ちょっとカワイイ感じになってしまった妹チャンに何でもないと言いながらその頭を撫でる。拒否はしなかったが、なんで撫でられているのかさっぱりわかっていない顔をしているカトラスに、私はどうとも言えなかった。

 

 それこそ本来の末路だろう、荒廃した大地での寂し気な振り向き顔――――。決してトラウマというわけではないが、あれを、今を生きている彼女にさせるのは、あまりに忍びない。それだけは、おそらく私も無意識に思って行動してしまったのだろうから。

 

「肉まん二つとレモネードで」

「えっと、コーラと肉まんとミドル牛まんと春巻きセット、あとフカヒレスープに揚げワンタンと、えっと…………」

「いやまず持ちきれんのかよって」

 

 表通りに出た後しばらく進むと、ビジネス街の通りに超包子の屋台が有った。昼食にはまだ少し早いが、ここにある以上は昼休憩か何かのサラリーマン目当ての設置だろうと当たりをつけ、声をかけて注文をする。……朝も思ったがカトラスがどうにも食いしん坊さんである。別にそんないっぱい食べるタイプの女の子でもなかったろうに、何があったというんですかねぇ。なお当然こちらの奢りである。

 屋台手間の簡易テーブルとベンチ(お客さん用に設置されてるもの)に買ったものを一通り置いて、ちょっと嬉しそうに春巻きを齧っているカトラス。そんな彼女に向けていた微妙な視線に、やはり「何だよ」と半眼を返された。

 

「私、そんなに大食い? このくらいの年齢ならフツーだろ、フツー。むしろ兄サンの方が少ないくらいだし」

「まあちょっとな。今日はあんまり時間かけるつもりもなかったし……」

「何それ、早く食えって催促?」

「いや単に話題の流れ」

 

 別に他意はないと伝えたものの、カトラスは少し顔を赤らめて視線を逸らし、ガーリックシェインプもどき(商品の名前は忘れた)を爪楊枝に刺してこちらに向けてきた。

 

「別に食えるけど、急ぐんだったら消費するの手伝えよ。ほら…………、く、食えよ」

「………………」

「な、何だよその目。早くしろっての」

 

 いや言動の具合が夏凜とか九郎丸とかキリヱとか忍とかマコトとかと差が減ってきているお前さんは一体どこに向かおうというのだ妹チャンさんや(震え声)。とりあえずそのエビの揚げ物を爪楊枝からとって口に運ぶ。流石に超包子仕込み、味は問題なく美味しいのだが、どうしても味がしない今のこの心境よ。そんな私の様子に「どうしたんだ?」と不思議そうなカトラス。確信犯では……ないよな? そこだけは安心しておこう、うん。

 

 そんな風に早めの昼食をとっているタイミングで。何処からか聞こえてきた叫び声に、思わずレモネードを吹き出しかけた。

 

 

 

「――――うおおおおおおおおおおおおお!

 アフロパワアァァァ、全・開いいいぃぃいいいいいいいいッ!」

 

 

 

 キュピキュピーン! みたいなアプリの連動音と共に放たれたその謎の絶叫。

 は? と引き攣った笑みを浮かべるカトラスと、腹筋が引き攣って動くに動けない私は、そのまま大通りを疾走(逃走)するアフロ頭に髭面の青年……、青年? を見送った。

 

 

 

 

 



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ST142.死を祓え:夢の終わり(リク番外編)

毎度ご好評あざますナ…
ちょっとワクチン副反応で本編更新出来ない感じなんで、書き溜めてたリク番外編1つだけちょっと先行です汗

>1-3「死を祓え」一周目のチャン刀


ST142.Memento Mori:Vanished Memory

 

 

 

 

 

『…………珍しいな、「相棒」。お前が私と話をしたがるなんて』

「まぁ今更と言えば今更だがな。……でもお前の『その姿』は色々と腹が立つから別な姿に変われ」

『おやおや、随分嫌われたものだな』

 

 自嘲げな声。肩をすくめると、星月はその姿や声その全てを変える――――私の心象にささくれを立たせないためにか、それとも意図的なものか。なんとなくだが、その姿はナギ・スプリングフィールドにつっかかっていた頃の大人版エヴァちゃんを想起させるものになっていた。もっとも恰好はあまり変わっていないので、スーツの下を見るとあの「ネギま!?」暴走エヴァちゃんをベースとしたもうちょっとマシなデザインに落ち着けたようなイメージであり、何とも言い難いデザインでもある。

 というかお前さんがその恰好になるのは「メタ的にも」色々こう問題があるから止めろ。

 

『だからといって、大体どの姿をとったところで相棒的に納得できるものはないだろうに。

 ……ふん、よっぽど嫌われているのには違いは無い訳だ』

「当たり前と言えば当たり前だ。だからと言ってお前の存在自体を否定することもないが、だからといって『存在そのもの』に嫌悪感を抱かない訳はない」

 

 少なくともコレ(ヽヽ)を隠しているような女相手なのだから、と。暗い笑みが思わず顔に浮かぶのを留められず、私は靴のつま先で、地面を叩いた。

 広大に広がるスクラップ置き場――――地上にあるものはかつてと変わらず、空も赤い。ただ異なる箇所は有り、軌道エレベータ―は中程でぽっきりと折られて崩れ落ち、スクラップの山やら廃墟の全域には程々に「嫌な感覚」がひしめき合っている。そしてなにより足元を見れば――――地平線の彼方にいたるまで、その全てが敷き詰められ、崩壊した誰かの「死体」で埋め尽くされていれば。誰かの死体は、様々な姿かたちをとっていたが。その全てが一体何であるかを理解した時点で、私の彼女に対する印象は最低値を突破してしまっていた。

 

 もっとも、必ずしもその責任が彼女にあったわけではないことくらいも、「今の」私なら理解はできる。

 だがそれはそうとして、もっと、私が今に至る前に何か出来たことがあったのではないかと。

 

 ひたすらに、その嫌悪感だけが心に残る。

 

『無茶を言うなよ。大体、相棒自身想定しているんだろう? これがおそらく桜雨キリヱがその気になれば、いくらでも状況をひっくり返せるものであることくらいは。その上で、あの女が「死ぬこと」そのものに強い恐怖心を抱いて未だにやり直さないのだ。無理強いしないのは相棒の悪い部分だし、覚悟を決めないのはあの女の悪い所だ。その全てを私の責任だけに置いてほしくは、ないなぁ。「今更」心変わりしたからとはいえど』

「お前に関してはそれ以前の問題だろうが。……いや仮にその話に目を瞑るとしても、もうちょっと出て来るタイミングが早ければ色々言えただろうに」

『私だって、色々タイミングは伺っていたのさ。どこで出ればお前が私を疑っていても、その力を積極的に借りざるを得なくなるかとか、な? そもそも私自身は「全面協力」するつもりであっても、下手に疑われて使われなければその時点でお互いにとって最悪の状況になるのだから。

 そもそも私とて、「光る風を超えて」発動以降は――――って、まあその上で行き場のない感情だというのは判るさ』

「…………」

 

 言葉を続けられず、私はその場に座り込む。その隣に星月もまた姿を変えて座ってきた――今度は夏凜の姿であるのが嫌に皮肉を利かせている。そしてそんな私をみて、夏凜の姿をした星月は寂しそうな顔をした。

 

『…………カリン・オーテに関しては貴方の責任という訳ではないわ。ある意味では本望だったでしょうから』

「だからといって、心を壊させるようなことするなって話なのだ。ヨルダ(ラスボス)も。人類がいなくなっても『機能』だけは生きてるから未だに生存し続けているっていうのは、絶対良い話ではないだろうに」

『そしてそれを気に病んでいる貴方も。……それから、九郎丸も。今のあの子は、貴方の知る流れで言えば「自分」を失ってしまっているから、その力は只の妖刀に堕してしまっているし、それを思い出すのが辛くて、使えないでいるのも承知しているけれど』

「いや、それは少し違う。『コレ』と相性が悪すぎるのだ、九郎丸というか『神刀』というか」

 

 地面を手の甲でノックしながら、星月に力なく笑う。そんな私を見て、夏凜の顔が悲し気に歪み、私を抱き寄せ――――いや待て、そのべたべた具合は意味が分からない。

 

『まあ相棒が判らないのも無理はないわ。単に貴方がガバを起こした結果というだけだし』

「いやだから意味がわからないのだが」

『無問題でしょうとも、少なくとも「本人が」ああなってしまった以上、代理で私がこうしたところで結婚は出来ない訳だし』

「いや本当何の話をしているのだお前(震え声)」

 

 本気で嫌な予感を感じた私だったが、しかし「あの状態」の私ならば確かにそういう何かしら想定してないことを仕出かしても不可思議はないので、星月にされるがままになっている――――その目から涙がこぼれたのだとしても、それをぬぐってやるようなことはしない。

 この女の感情はこの女のもので、決して夏凜のものではない。だからこそ、たとえ夏凜の感情をトレースしているのだとしても。それに私が応えてやれることは無い――――。

 

 少なくとも「私」が、雪姫ことエヴァちゃんの隣に立つ資格がないように。

 

 だから――――――――私の意志が伝わったのだろうか、星月はこちらから手を放す。

 

『本気でやるつもり、なのかな。相棒』

「…………いい加減、こちらのワガママで世界をこのままにしておくわけにもいかないだろう。お前が言ってた通り、ちゃんとキリヱが『戻れる』というのを信じるぞ? それがすべての鍵なのだから」

『そこは大丈夫よ。私というより、あの娘を信じなさい。…………いえ、貴方にそんな悲壮な決意をさせざるを得なかった私がどうこう言えた話ではないのでしょうけど』

 

 だからそう、泣きそうな顔を向けて来るのは止めて欲しい。これは所詮、自己満足でしかない。昔見たSF映画であったような、最後まで生き残った数少ない人類が、自分たちの存在意義を証明するために侵略者側のエイリアンに特攻を仕掛けるような、所詮はその程度の話なのだから。

 

 それが――――自らの生みの親も、仲間も、育ての最愛の親すら失った私にできる、最後の罪滅ぼしなのだから。

 所詮は自己満足にすぎないにしても、それくらいはやるべきなのだ。

 

 そんな私に、星月はやはり泣き続ける。まるで本物の夏凜が今「正しく」生きていたら、こんな顔をするだろうと思わされる悲愴さで。それに対して私は何も言えず、また言う気も起こらなかった。

 

『……だからといって、今の貴方の全てを無かったことにはさせる必要はないわ』

「はい?」

 

 星月は私を抱きしめていた腕を解くと、その姿を「彼女独自」の本来のものに戻し。涙ぐんだ声で、しかし強い意志を感じる声で、私に言った。

 

『ダーナ・アナンガ・ジャガンナータ――「背教」の魔女が、かつて相棒に言っていたことではないが。たとえどれ程絶望的な結果をもたらした選択であっても、その選択をして運命に抗ってきたその在り方は、たとえどれ程犠牲を出そうと尊ばれるものだ。

 その一切合切を、誰しも救えなかったからの一言で片づけてしまうのは……、責任をとって消え去ってしまう覚悟をするのは、あまりにも、悲しいのだよ』

「悲しいとかそんな問題ではないだろうに。少年漫画に限らず、そういうヒーロー的な立場に求められるのは、恐ろしいことに『過程』と『結果』の両方だろうが。多少汚くとも正しく優しさを感じて何かを護るために立ち上がり、そして助けていく。その一連のプロセスとコミットされた結末全部が必要である以上、ある意味で『元から』失格なんだよ。

 それを多少なりとも軌道修正できるのなら、それに越したことはあるまい」

『だけど、その結論に至ったのは「近衛野乃香」を目の前で死なせてしまった時から。違うだろうか?』

「………………」

『そういうことも含めて、その全てを「上書きされた」相棒に継承しろとは言わないし言えない。おそらくそこまで上手くはいかないだろうし、影響が強すぎれば「背教」直々に相棒の意志体に干渉してくるだろうからな。

 ただそれでも――――今の私は、今の君がそのまま失われることを許容したくはない』

 

 もう自分の短慮で、一番大事だった何かを失うことはしたくないのだ、と。

 星月は、泣きはしなかったが……、それでも表情を苦悶に歪めていた。

 

「…………そうは言ったところで、『血』に魂を乗せるってどこまで効力があるかは不明だぞ? 少なくとも『やり直し可能な人生(リセット&リスタート)』に関しては。血を介して魂の隅っこにこちらの魂の一部を溶け込ませることは、まあ出来なくはないだろうが、『扉』とのリンクが切れる可能性が高いと言ったのはお前さんだろうに」

『言いはしたが、そもそも相棒は「次」につなぐつもりがなかったろう。失敗した自分自身を強く卑下するから。……桜雨キリヱだけじゃない、エヴァンジェリン相手にすら――――』

「――――その話をするなら戦争だからな?」

 

 そもそもエヴァちゃん関係については「諸悪の根源」はお前そのものだろうと。だから「この私」を引き継ぐつもりはないと、星月にそれだけは断言して、私は「目を開ける」。

 

 見開いた「現実」の私の眼前に広がる光景は、それなりに酷いものであった――――生者は既にいない。大半がその肉を失い、魂が救いに「取り込まれた」まま彷徨っている。永遠の停滞、進歩のない日常の「真似事」の繰り返し。下手なSF映画の宇宙人から見たら、それこそこの惑星に存在した生命体は、その動きを代行する新種のウィルスによって神経組織の組成構造以外を死滅させられたのだと断定し、焼き払っても不可思議はないだろう、そんな光景。

 滅びた街、整備されることのない物質世界。私の内側同様に、中程から折れた軌道エレベーターが首をもたげている。

 

「最終決戦がこんな場で、どうしたもんかって思うんだけどなぁ。あんまりにも恰好が付かねーじゃん。なぁ――――カアちゃん」

 

 振り返れば、その場には幼い姿のエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル……、ヨルダに乗っ取られた義理の母、その本来の姿。

 豪奢で、しかし可愛らしい黒のドレス姿のまま、彼女は言葉一つ発さずに攻撃を仕掛けて来た――――。

 

 いきなりかよと半笑いになりながら、黒棒に「血装」して斬り払う――――いつ頃からか習得した血風聖天で、無詠唱に打ち出された魔法を蹴散らし、その余波で跳ね返った血をもって全身に血装。肩に仮面をつけた死天化壮の姿となり、猛然と斬りかかる。そんな私に併せてか、氷の剣を作り出してエヴァ=ヨルダは応戦した。

 

「随分、余裕がないじゃねーか『エヴァちゃん』。何警戒してっか知らねーけど、もっとお喋りしようぜ?」

「…………黙るが良い。もはや『前回』の戦いで、貴様は我が最大最後の障壁となった。出し惜しみは無しだ――――」

 

 弾いた指と同時に現れ出る、それこそいっそ笑ってしまいそうな「ネギま!」旧3-Aの面々。本来ならばアンタらこっち側だろうと言ってしまいたいが、今のヨルダにとってその程度の再現ないし復活はたやすいことであるという証明なのだろう。

 それを認められるかどうかはともかくとして。

 

 ゴーストタウンと化した街。その大通り、ヒビの入ったアスファルトの上に立ち、上空で佇む彼女を軽く睨む。…………流石にその状態でも、ドレスの裾から下着が見えないのは流石に空気を読んだのか、エヴァちゃん本人が上手い事見えないように魔法をかけているのか。そんなことを考える余裕があることに、思わず失笑してしてため息をついた。

 

「全く、判ってねぇなあ…………。死者が生者の足、引っ張っちゃ駄目なんだよ。手は差し伸べるし、背中は押すし、持ちつ持たれつって大前提はあるけどな」

「意味が分からぬ、が。――――貴様もそれなりに思い入れがある顔ぶれだろうからな。これを前に覚悟を決めるが良い。

 リク・ラク・ラ・ラック・ライラック――――――」

 

 呪文を唱え始めたエヴァちゃん、カアちゃん。無詠唱で攻撃せずにそうしているのは、果たして上級魔法を使う先触れか、それとも未だ残っているだろう「本人」の意志が肉体に対して抵抗をしているのか……。それに対して、私はため息をついてから。

 肩の仮面を取り外し、それを地面に落として。そこに黒棒を突き立てて、呟いた。

 

 

 

「――――『獄天化壮(ヘルクラッド)』」

 

 

 

 追加で現れた魔族やら使徒やらが迫りくる中で。

 周囲を蠢く魂が。私の足場から「広がる」闇が、死体が、うずまく想念が――――「今」という地獄が私に縋りつき………………。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「アハ、ハ…………、悪ぃ黒棒。やっぱ無理だわ。「扉」が閉じられてるから「同質の力」を引き出せても、出力的にはこっちの方が弱ぇ」

 

 そんなことをつぶやいてしまうくらいには、今の私は酷い状況だった。

 痛手は負わせられたはずである。私自身の手で見知ったファンでしかない面々、特に大河内アキラ(最推し彼女)を斬らせるなどという暴挙に出させた報いくらいは受けさせられたはずである。

 はずであるが、代償もそれなりに大きく…………。

 

 もともとホルダーですら「私」とキリヱの2人だけの今、この状況は打破することなど出来なかったのだ。震えるキリヱは、身動き一つとれないほど心が砕けた夏凜にすら気遣われるレベルでおびえており。生も死もない世界に取り残される、夢の残骸に囚われ続ける恐怖は、たとえそれが幸福であれど、幸福を知らない半生だったが故にキリヱに対してだけはそれが効かないからこそ、只ひたすらに出口のない拷問にしかならない。

 肉体を失って中途半端な電子精霊化した一空ですらもはや逃げること敵わず、わずかな希望とばかりにキリヱを救い上げ。しかし、それで命運は尽きた。

 

 半壊したビルの上の階。私の血風によって切断されたコンクリートの地面、その一番てっぺんで、力なく笑うしかない。

 

 私の内の「金星の黒」――――その扉が、もう開かない。

 思わず力なく、「機能が破壊された」黒棒の残骸を見て、深く息を吐いた。

 

 こちらを見て、怯えたままで、身じろぎすらできないでいるキリヱを見て、笑うしかない。

 

「わが心、この刃と共に……て言っても『母ちゃん』みてぇにはいかねぇな。キリヱ、別に刀とか、使える訳でもねぇし」

 

 技術が、ではない。そもそも今の彼女は、その刃を手に取る事すら出来ない精神状況なのだ。たとえ巻き戻したのだとしても、それが果たして何になるのか。そんな自嘲と諦めが私を支配し、しかし外面だけは心配させまいという風に形どっていた。

 そんなこちらの内心には一切気付いておらず、キリヱは泣きそうになりながら言葉を重ねる。

 

「な、何言ってんのよ、そんなちゅーにみたいなこと言って……、まるで、別れ際みたいなこと――――」

 

 こちらのことをちゅーにちゅーにと言うが。そもそもからしてキリヱ自身のセンスもそう大差ないだろうと思っていた。恋愛観とかは特にそうだろうに。ただ、それでも…………。不思議と彼女を拒否する感情は湧かなかった。嗚呼、そりゃ怖いよなあと。痛いのは嫌なのだ。それを散々我慢した私なのだから、それは良くわかる。

 それと同時に、こちらの手を握るキリヱから伝わって来てしまったのだ。孤独に対する恐怖が――――世界で、この滅びを抱えられるのが自分一人になってしまったこの恐怖が。

 

 それを見た時に、自然と、身体が動いていた。

 

 キリヱの唇に自分の唇を重ね、その内側に血を送り込み。血装術をもって、その血を喉から浸透させて血から「心の欠片」を、魂の一部を、その生命力のわずかでも届ける。

 金星の黒がない以上、今の私は出来損ないの吸血鬼のそれでしかないが――――それでも、これで復活の足掛かりは出来る。たとえ復活できずとも、キリヱはこれで「私」と言う存在の欠片でも、一緒に居られることになる。 

 

「ここまで付き合ってくれて、ありがとうな、キリヱ」

「あ……、あ…………、アンタ、何ヨ……」

 

 照れるでもなく。末期にそんなことをした私に困惑するでもなく。ただただ、こちらとの離別に恐怖と、悲しみを抱いていた。

 純粋な感情の波に、私は申し訳なくなってしまう。以前に、もし仮に私が死滅しかかっても、そういう場合に彼女自身に自分の一部を残しておいて復活の算段を、という話をしていたことがあったせいで。そのせいもあって、せめて彼女が寂しくないようにと。そういう意図を伝えることすら、もはや空々しい。だから、多く言葉は重ねる程ではない。

 

 嗚呼ただ――――星月についてだけは勘違いさせると、後々で問題が出るかもしれない。「私」のことだ、最初から彼女については疑ってかかるはずだ。その懸念も正体についても決して間違いはないが、だからこそ一番大事なところで選択を誤るかもしれない。だからここは、否が応にでもOSRしよう(趣味に走ろう)。私が、おそらく「最新」の私と同じ地続きにあった存在であるのだと、それだけでも示せるように。

 

「姿かたちや場所とかが問題じゃねぇんだ、心は、此処に置いていけるから」

 

 その胸板、胸骨を少しだけ小突いて。――――そこに確かに「私」自身を感じ取って。

 でも少しは寂しくないだろうと、言葉を続けることすらもう出来ずに。

 

「…………、ッ、後は、頼むぜ?」

 

 嗚呼そんな台詞しか、中途半端に残せない自分が恨めしい。この状況に置いて、満足に趣味にすら走り切れない自分があまりに情けない。これが、自分の怠慢をきっかけに世界を滅ぼした罰なのだと思えば軽いものだが。

 

 

 

『――――お休み、相棒。また会おう』

 

 

 

 頭に響く星月の声を聞き。深く息を吸って、私は、また深く息を吐いて。

 

 

 

 

 

 ただ、それだけだった。

 

 

 

 

 




番外編なので以下ちょこちょこメモ…
 
・「光る風を超えて」
・星月の正体
・「背教」タローマティ
 そのうち……って、察する方もいるかもですがその辺りはふんわり見守っててください汗
 
・ホルダーの状況
 ほぼ壊滅。
 一空の状況は言及通り、エヴァに関しては乗っ取られる前にチャン刀と一緒に相手方も半壊に追い込んでいる。ネギくんも「使い物にならない」状態。
 夏凜は精神方面から壊されて自我が帰ってこない状態、でも無理に安定させられているので、復○のルルーシュのアレみたいな感じになってる。
 
・獄天化壮
 これもそのうち……、と言いつつビジュアルはキリヱ視点側のアレ。まぁいつものOSR(趣味)

・所々キリヱの記憶と違うような
 あっちもあっちで記憶が色々擦り切れて摩耗してるから……(震え声)


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ST143.失敗作と失敗作と失敗作

毎度ご好評あざますナ ちょっとだけ日付オーバー・・・
昨日は腕が上がらない&頭痛のコンボで本編更新できなかったので、そのまま連日更新で今回は本編です


ST143.7, 17 and 53

 

 

 

 

 

「――――受けてもらうぜこのバトル! 覚悟しやがれお嬢ちゃんッ!

 まほら武道会予選ファイト! レディイイイイイイ、ファ――――」

「――――『(ライト)』」

「ひでぶッ!?」

 

 右手の手首から先だけ変化させたカトラスの「シファー・ライト」。その打撃一発で撃沈したアフロことラズロを見て、何とも言えない表情をする彼女だった。なお私は私で残念ながら当然予想された結果を前に合掌し、ガバの修正レベルをキリヱ大明神にお祈りしておいた。祈りこそ力! 祈りこそ最適解! この世にあらせられまするキリヱ大明神よ、我ら迷える子羊を守護したまえ……(祈祷)!

 

 カトラスから「兄サンも食えって」と色々言われながら片づけた昼食後。通りを離れてさてどうしたものかと考えた時点で、再びあのアフロを見かけた。いや、原作いわく本名はラズロと言うらしいのだが、本人自身が趣味でアフロにしていること、呼び名をアフロにしろと強要していたことからしてアフロで統一して良いだろう。まほら武道会予選編の序盤で合流し、本来なら家出してた刀太に対して色々と情報を教えてくれたり、かつ彼の戦闘力を見込んで自陣営に引き込めないか画策したりといったようなことをしていた男である。

 いわゆる都心部における刀太の友達になるキャラクターであり、そしてまほら武道会以降ほぼほぼ掘り下げがない連中でもある(無常)。作品の世界観に幅を持たせるための立ち位置に当たるキャラクターなので、言うなればゲストのようなものなのだろう。その後の登場に恵まれなかったのはおそらくタイトルが一時期代わっていたことに由来しているのだろうが(メタ)。

 さておき、声は意外と若いので見た目ほどオッサンと言う訳でもないだろう(老けて見えるだけ?)アフロ・ザ・グレートアフロな彼であったが、どう見ても柄が悪そうな(ゲームとかに出て来る雑魚敵風?)ヤンキーっぽい四人に追い詰められている。この流れは原作で見た覚えがあったが、もっとも彼本人はズタボロの有様。ただし彼自身が持っている特殊な(というより高性能)魔法アプリによる加速、基礎腕力やら何やらの上昇をかねて、なんとか辛うじて勝利と相成ったらしい。彼の横に茶々丸の後継機のようなビジュアルをしたお目目しいたけ(キラキラ模様が浮かんでいる)ホログラフィックだか電子精霊だかが出てポイント計算をしているのを、適当に携帯端末で新たな飲食店を探しているカトラスと一緒に、遠目に見ながら通り過ぎようとしていた。原作的には彼に関わる方がガバではないのだが、カトラスが居る状況で関わるとなるとどう考えても色々問題がある。その上で導入などについてはコタローくんやら灰斗やらが担当しているので、わざわざ彼に関わってその色々を引っ掻き回すこともあるまいと思っていたのだが。

 

「えっと、中華は食ったし次食うとしたら――――」

「お前さんどうした本当?(真顔) 流石にあれだけ食ってその食欲は色々と問題があるのでは……」

「い、いや、その、一応事情があるんだよ。体質的というよりは『黒』とか『白』的な事情が……」

 

『――――付近の予選参加者はぁぁ、ハイ! あちらにもうお二方! それぞれチームではありませんが、初期ポイントEランクとC直前のDランクです!』

「1,000 ポイント弱か、タシにはなるなぁ、ヨシ!

 うおおおおおおおお! アフロパワー、全・開!」

 

 言いながら魔法アプリで強化したアフロがこちらに斬りかかり、カトラスが適当に往なす。半眼でガンを飛ばす彼女に対して、実力差がわかってないのかアフロはファイティングポーズを構えて挑発をした。

 結果的にそのままバトルに突入する流れになったのだが、まぁ、結果はこの通りである(合掌)。

 

『ぱんぱかぱーん! 予選管理委員会のチャチャ=ナインです!

 ただいまの勝者・カトラス選手――――ッ!

 ランクC1名を下し 6,000 ポイントの加算になります!

 おめでとうございます、Cランク昇格です!

 

 さて、隣に居る近衛刀太選手と、引き続き戦闘をしますか? ……って、あれ?』

 

「いや、しねーから……、あ゛? 何、兄サンの顔じっと見てるんだよ」

 

『あー、いえ! その、「私用」といいますかお姉様関係と言いますか、と、とにかくそんなことで! 

 では今後の健闘をお祈りします!

 ―――――近衛選手は次にまほら本校舎による際はぜひ一声おかけくださいね♪』

 

 は? と。私、カトラス共々意味不明と言う顔をするが、肝心のチャチャ=ナインとやらはウィンクして前傾姿勢になり胸を寄せて誘惑ポーズでもするように投げキッスまで寄越したうえで、映像が消えていった。チャチャ=ナイン? ……名前からして本当に茶々丸系統の何かしらなのだろうか、お姉様とか言っていたからほぼほぼ高確率で茶々丸本人と関係のある存在ではあるのだろうが。

 なおその様子を見たカトラスが半眼で私を見て嗤ってくるのだが、一体どういう感情の発露でありんす?(混乱)

 

「…………く、くそぅ、ランク下の奴に開始1分以内で沈められたってこたぁペナルティポイントじゃねーか、せっかく今Cに上がったのにDランクに逆戻りだーッ! ウグワーッ!」

 

 そしてボロボロのまま頭抱えて絶叫するアフロだが、意外と余裕あるなお前さん。彼のバディというかサポーターの事を考えれば、治療系の魔法アプリくらいは開発などしていそうなものだが、それにしたってさっきまで青たん瘤だらけだった顔面が綺麗なものである。ギャグマンガ的描写の補正ではないにしろ、現代ってスゲーという奴だ。

 

「ったく、でも兄サン、どうしよう? Bランクならないとお金、稼げないんだよな。私。

 このままだと数日は言われねーだろうけど追い出されるかもしれないし……」

「とりあえず緊急的に金は必要だからなぁ……。で、何調べてんだ?」

「へ? あ、い、いや…………、続き……」

「あっ(察し)」

 

 アフロに対してはカトラス、別に謝ることもせず再び携帯端末で「イタリアンかフレンチか……」とか再検討し始めている。なんとなくその様にほっこりしてしまう私の理性の部分であるが、本能の部分で少しだけそのカトラスの様子に嫌な予感を覚えた。ただ具体的に指摘できるレベルの確信がないため、しばらくは様子見だ。

 

「お兄――――あっ、に、兄サン、煮るのと焼くのとどっちが良い?」

「いやさっき昼食ったばっかだろって……」

「お、おやつの予定だしッ! ちょっと安いチェーン店あったし、それでいいかなって」

「小皿だな。えーと何々? トマトのモツ煮込みと、こっちはラム肉の――――」

 

「――――って無視すんなよそこの少年少女カップルよォ!」

 

 アフロの絶叫に「は、はァッ!?」とか「違ぇし絶対!」と顔を真っ赤にして、少年漫画とかでよくあったパターンのツンデレじみた挙動を仕出かすカトラスだが、うーんこの……、何だろうねこの。もはやチャートがどうのこうのではないというか、釘宮ではないが少し胃痛がしてきた(ストレス)。まあ見た目だけで言うと私とカトラスは、それこそ近衛姉妹ほどには似てはいないので、そういう見られ方も十分するのは理解しているが。

 

「まあ、一応兄貴分と妹分って感じッスけど。そういうアフロはどんなアフロで?」

「おう? アフロの仕上がり具合についてはこうアレだな、十月にそろそろ入るか入らないかと言う空気の乾燥具合においても非ワックスでありながらこの状態を維持するために色々と手入れが――――ってどんな質問だッ!」

「おぉノリツッコミ、ノリツッコミ!」

 

 初手煽りは基本。〇護(チャンイチ)も(以下略)。

 もっともアフロ本人は自分のアフロにアフロらしい自信を持っているので(確定知識)、私のこれは煽りではなく普通のボケと受け取られている訳だが。私にツッコミを入れながらも、両手でアフロの具合を確かめてドヤ顔を返してくるくらいにはアフロに誇りを持っているのだろう(謎)。

 なおそんなわけのわからないやり取りをみたカトラスは例によって「えぇ……」と引いていた。

 

「…………って、そんな話じゃねーや。お前さん達、ちょっとビジネスの話をしないか? 決して損はさせないっていうか、あのパンチ一発を見てちょっとビビッ! と来るものがあったって話なんだが」

「新手のナンパかよ……(引)」

「いや、違うんじゃね? そーゆー文化は魔法アプリ発達と大体同時期に消滅してるからな、ほら。若い世代の方が『魔素汚染』事件とかの後になるから、そっちの世代の方が魔法関係とは親和性高いわけだし……。

 で、えーっと、何の話ッスかね。()弱ぇアフロのオッサン」

「誰が力弱いだ! っというかオッサンはねぇぜ少年少女ォ。これでもまだ二十歳なんだぜ?」

「「ッ!?」」

 

 思わずカトラス共々凝視してしまった我々を誰が責められようか。もっともラズロ本人も自覚はあるのか、こればかりはアフロの中の頭をすこしかいて苦笑いである。

 ただ一度咳ばらいをすると、私の前に立ちポケットからアナログ名刺を取り出したうえで、頭を下げながら手を出してきた。

 

「話の前に自己紹介を。俺は、大豪院ラズロ。選手名は『アフロ・ザ・フォーエバー』。本職は魔法アプリのフリーエンジニアだ。気軽にアフロって呼んでくれ」

「マジかよ……(引)」

「いやどんだけアフロ好きなんスか」

 

 彼との遭遇自体についてはそれこそ微妙に歴史の修正力めいたものが働いていると考えれば安心できるものであるが、ただ接され方が明らかに原作と違うこの感じは、こう、何なんでしょうかね(震え声)。というか口調はともかく態度は完全に売り込みのビジネスマン的なそれである。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 魔法アプリの売り込みとサポート、その対価としてアフロとチームを組んでBランク戦まで勝ち残って欲しい。お互い自己紹介もそこそこに、向こうの提案を聞いた私とカトラスである。なおBランクまでとしていることについては、それ以降の戦いだとアフロ本人もそれ相応に実力がついていなければ、本戦に上がれたところで死ぬ(断言)という自覚があるらしく、主目的である優勝準優勝などの賞金や、自分たちのアプリの宣伝については安全マージンをとっているらしかった。本人はこの一年でどうにかするつもりだったようだが、いかんせん現時点におけるBランク以上に戦々恐々としているらしい。彼自身の実力はCランク相当であるのだろうと推察できるが、ちゃんとそれを判断できる程度には自分を弁えているらしかった。

 痛いのは嫌だからなぁ……。(共感)

 

 なおその話の際、アフロは意外と洞察力があることがわかる一幕があったりした。

 

「で、その話を受けることで私たちにどんなメリットがあんだよ。正直、Cランクとかもアンタとかとどっこいどっこいなんだろ? それくらいなら、適当にやってもいけるし」

「話はちゃんと最後まで聞いてくれよ。……正直なぁ、俺一人でチマチマやっても中々難しいってのは自覚はあんだ。だからこそお前ら二人を雇いたいって訳なんだが…………、場合によっちゃ給料を出すって話にもできるかもしれない。

 ウチは魔法アプリ開発にかんしちゃ最先端の先端を独走するくらいの頭パーペキな相棒がいるけど、他の事務処理とかは結構アナログだからな。金の支払いもリアルマネーでの支払いになる」

 

 今の時代、魔法アプリなどを起動できる生体魔力式携帯端末の類での電子決済でのお金のやりとりは、大抵はアシがつく。しかし直接現金によるニコニコ支払いであるなら、カトラス自身振り込みなどする必要はあるだろうが、まぁ何とかなるところはあるだろう。

 そういった事情、つまりカトラスに関してさきほどの私とのやりとり数言だけで色々と類推し、提案に盛り込んできたという流れである。しかも適当に自分の事情も話すことで、裏があまりないと示しつつ信用関係の構築にいそしんでいたり。意外と商売上手というか、人やら物事やらを見る目みたいなものがあるのかもしれない。

 

 まあ金額調整については税金問題などもあるため多少計算しないといけないだろうが、そういった細かい話やら、魔法アプリでどんなことが出来るか(どういった開発力があるか)という話をするため、アフロが先導して彼らのホームベースまで向かうことになった。

 

 ……なお途中でちゃっかり、イタリアンファミレス持ち帰りメニューのラム肉の串焼きをアフロに奢らせてる妹チャンである。最初は私が支払おうとしたがアフロが「引き留めた手前、悪ぃから俺がたて替えとくぜ!」と言ったのが運のつき。一本おおよそ 1,000 円前後の値段帯のそれを、焼き鳥でも買い込むように二十本(!)は買って一本ずつ両手に装備してご満悦の妹チャンである。本当お前どうしてそんな食いしん坊ちゃんになったお前(震え声)。

 

「まぁ食いすぎは良く無ぇだろうから、俺も食ってるわけだけど……。あ、ラズロさんも要るッスか?」

「おう! って元々俺の金なんだけどな、ハハハ…………。

 しかし刀太も大変だなぁ。デート資金とかこんなんじゃあっという間に尽きちまうだろうぜ……」

「まぁ妹チャンッスからね。そこはお互いがお互いにケースバイケースっつーか。

 …………で、えーっと、反対側の方ッスね。こっちのスラムは意外とヒト多いな……」

 

 コタローくんの道場やら源五郎の事務所やら、そちらの側とは反対方向。山側に寄って新東京アマノミハシラの外周を平行に移動し続け、その途中の森の入り口のような微妙な立地の場所である。少し歩けば都心へ一直線の橋が見えるものの、なんとなく微妙に「嫌な」感覚を覚えるところからして、妖魔でも結構近隣に生息しているのかもしれない。

 安全地帯に寄ってはいるが、本当の本当に安全地帯とは言い難いそんな微妙な場所に、原作通りのジャンクショップはあった。

 古いビールメーカーのロゴマークやらグラビアめいたポスターやら、映画の色褪せたボロボロポスターやらが張ってあるのが外見からして猛烈に中古ショップ、ジャンクショップ感を感じさせるプレハブである。そしてその横に「有限会社マギアムロソフト」とか書かれていて、これはこれでどんな顔をしたら良いのやら。というか会社だったのかこれ、アフロとその相棒に関しては情報が少なすぎて、私の知っている原作とどれくらい乖離ないしパラレル化しているのか想像がつかない…………。

 

「事務所としちゃ隣だが、基本的にはジャンクショップをやってる。まあ今時有線電気のやつだけじゃなく魔力式のも多いから、そういうのを改造したり、あとはちょっと古い家電とか壊れたアプリのバグ取りとか改修とか、そのサポート含めてだな」

「マジッスか。いやそこまでサポートとか、個人レベルでやってるんスか!? 何かトラブル起こして訴訟でもされたら問題ありありじゃないッスか」

「そこはアレだな。俺の相棒は下手すると世界一頭がキレる天才エンジニアだかんなッ!」

 

 

 

「――――お帰り、ラズロ。って、おや? その子たちは」

 

 

 

 そう言いながら、事務所の外で何やらドラム缶のような装置をいじっていた車椅子の青年がこちらに来た。金髪、浅黒い肌にしっかりとした黒目。私とは違うタイプの半眼で少し楽しそうな印象を受けるイケメン男性と言うと表現が雑か。ともかく、そんな彼はアフロに、少し困ったように問うた。

 なお、アフロはアフロで腕を組んで偉そうにドヤ顔を極めている。

 

「おう! ついさっき出会った取引先候補だッ!

 なんか凄ぇバトルが強い謎の家出少女と、そんな彼女に財布を殺されそうな謎少年のカップルだぜ――――あべしっ」

「だから違うっつーのッ! お前いい加減にしろよ千切るぞそのマリモみてぇな頭ッ!」

 

 だから地団太を踏むように足をアフロの靴に振り下ろすところまでは判らないではないが顔を真っ赤にしてっていうのは止めとけ(戒め)。というか串をアフロに突き刺そうとするな、頭に刺さったらどうなる。危ない真似は止めさせねば、こう、お兄ちゃん的に……。

 とりあえずそんな彼女を落ち着けながら、車いすの彼に自己紹介。私たちのやり取りを見て、やはり彼は困ったように微笑んでいた。

 

「あ、アハハ……。なるほど、僕も接し方には注意しておこう。

 初めまして、トータ君にカトラスちゃん。僕は千景・レイ。彼と一緒にここのジャンク屋をやっている、アマチュアの魔法アプリ(マギソフト)エンジニアだよ」

「そぉう! コイツが俺の生涯の相棒ッ! そんじょそこらの一般ピーポーはともかく、専門職のマギソフトエンジニアにも引けをとらねぇスーパー天才ULTRA頭脳持ちだッ! 俺とコイツの七年くらい前の出会いからすべてが始まったッ!」

「ら、ラズロ?」

 

 彼を売り出す、その才能を世に知らしめて共に世界を変える! と。それが夢でありこの有限会社の設立理由であるとブンブン腕を振り回して力説してくるアフロである。千影はかなり照れて「おいラズロ、止めてくれ……、そういうことはしなくて良いから……」と言っていたが、そんな話の途中でカトラスが私のマフラーを掴んで少し引っ張った。

 

「はい? どーしたよ」

「少しナイショ話っつーか…………」

 

 

 

「…………そこの車イスのやつ、『同類』っていうか、私らの()だぜ? たぶん。番号、50番台くらいの」

 

 

 

 ヒソヒソ話でそんなことを言ってくる妹チャンを相手に、私は呆然自失状態となった。というかならざるを得なかった。――――いやそんな話絶対原作になかったろ何考えてんだこの世界はよォ!(血涙)(???「甘んじて受け入れな、往生際が悪い」)

 

 

 

 

 

 




※本作の更新時間についてアンケートとってます。どの時間で最新話入ってきたら見やすいかな? 的なアンケなので、お気軽にご回答ください汗


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ST144.知るべきだが知らぬべき空白

毎度ご好評あざますナ…
体調不良がぶり返し気味ですが、まあ程々にやっていきます汗


ST144.Blank

 

 

 

 

 

「おぅ! そうだ。ちょっと勝負してみねーか? 刀太。そっちのお嬢ちゃんが一緒にいるんだ、お前が弱ぇってことは無ぇだろうけど、千景の開発したアプリの性能を体感してみるってのでどうだ?」

「あー、じゃあ…………、そこそこ手加減はするッス」

「いや手加減無しでやるモンだろー! こういう男と男の――――」

「いや止めとけ老けアフロ、兄サンマジで()っちゃいそうだから」

「老けアフロぉッ!!?!?」

「ハハ、確かにラズロは昔からこんなだったね。僕が行き倒れていたときも」

 

 思わずカトラスも止めに入る中、そんな会話の傍らで足の裏に血蹴板(スレッチ・ブレッシ)、および靴下を起点にブーツ状に血装を展開しておく。流石に今の状況で死天化壮を使ってしまうと一歩間違えると動きの速さ=力の強さと考えて殺しかねない(真顔)ので妥当なハンデであるが、アフロはアフロで少し不満らしい。もっとも千景は苦笑いしながらもその視線がカトラスからは外れておらず、私に対してはともかく彼女に対しては警戒しているように見える。やはりこう、彼女の言ったところの彼の素性が真実であるという事なのか、生憎こちらとしては色々と悩ましい話だ。

 ジャンクショップの手前、それこそ原作通りの流れと言えば流れではあるが、恰好から集合している面子も踏まえて色々違う状況である。折れた黒棒を適当に構えながら左手を袴のポケットへ(夏凜に買ってもらったこれは、いわば「袴風ズボン」という構造なのでポケットはちゃんとある)。

 

「おうおう、ちょっと良い所ナシってのは俺も悲しいからなぁ! せめて相棒のちゃんとやらせてもらうぜッ!」

「ラズロ、あんまり大人げない事はするなよ――――まあその必要はないみたいだけど」

「あ? どういう意味だ?」

 

 不思議そうに千景を見たアフロだったが、彼は彼でニコニコ微笑んでいるばかり。頭を振ってこちらを見ると、そのままボクシングスタイルのまま顔の前で両手を構えてポンポン跳ね始めて……、いや似合っているなそのボクシング用グローブ。容姿のアフロ具合を含めて、何かそれこそ世界は左を制しそうでもある(謎)。そしてその武装は明らかに魔法アプリと連動しているタイプなのが手の甲に浮かぶ魔法陣を見ると判別がつくので、私は肩をすくめながら黒棒を前方に構えた――――。

 

「オラッ! ――――って、何してくれてんだよォ俺のアフロにッ!」

「あっ悪いッス。つい手癖で」

「何だ、瞬間移動か!? どーなってんだお前の身体!!?」

「毎日足首鍛えてりゃ何とかなるモンッスよ?(煽り)」

「足首だけでそんな高速移動されてたまるかってんだッ!」

 

「まぁ、ならねぇだろ……」

「ならないな……、ははっ」

 

 初手煽りは(以下略)。

 まあ色々向こうも準備しているとはいえ、その速度が現在の私に追い付くかどうかは別問題である(無常)。

 足首の動きだけで動いているように見せかけながら血装術による座標変更で後方へ。死天化壮のない状況なので普段よりも風圧やら何やらが鬱陶しいが、その分服やら髪やらが猛烈に靡くので、こちらがどれくらい早く動いているのかをアフロも察したらしい。なお防御姿勢に突入するより先に黒棒で軽くアフロを凪ぎ、その頭頂部を綺麗にならした。カトラスはいじわるそうに嗤い、千景の方もまた苦笑い。

 

 とりあえずドライヤーの魔法アプリ(!)か何かを使って髪を再セットして、再度構えるアフロであるが。もうちょっと人間レベルでどうこうできるようにしてくれと千景からも言われたので、ある程度は原作を踏襲させるべきだろう。

 まぁ戦闘結果については、さして語ることは無い。ただちょっとだけ気になるところは……。

 

「筋力20倍、プラス炸裂! 爆砕の、ダブルバーストゥ!」

 

 そんなことを言いながら両手で殴りかかってきているアフロの攻撃だが、なんとなく原作よりも容赦がない。これはアレだろうか、カトラスに一度「秒」も持たすに倒されてしまったことを根に持っているということか、それともあのカトラスですら懐いているということからこちらの実力をあらかじめ高く見積もっているということか……。

 確かに「一周目」の私との統合により、今の私自身の能力というか、戦い方は原作この時点での刀太よりも振れ幅やら手札やらは多い。が、とはいえそれとて本質的には小手先のものなので、決して油断だけはすまい。……流石にもう夏凜レベルの想定外は色々起こらないだろうと甘く見積もったとしてもだ。

 

 なお、そのうさぎ跳びでもするようなポーズで繰り出されたダブルパンチだが、当然のように黒棒の側面でしっかり受け止めているので、アフロは色々傷ついたのかカンカンであるが仕方ないね(白目)。

 

「クソが、何そんな変な感じに右腕、頭の上から回して受け止めてんだよ! 明らかに手加減してんじゃねーかッ! お兄さん傷つくわッ!」

「いや手加減はするって言ったじゃないッスか……。それに言っちゃアレッスけど、アフロが戦ってたのはテキトーにでも見てましたから、基本戦法というかそういうのに妙な捻りが無ぇってことくらいは推測できるし」

「せめて左手使え!」

「いやこっちは趣味なんで(OSR)」

「意味不明だぃ!」

 

「……おや、大好きなお兄ちゃんが褒められてちょっと得意げかな?」

「だ、大好きとかじゃねーしッ! …………っていうかお前はどーなんだよ」

「んん、コメントは差し控えとくよ」

 

 それはそうと、と散々悔しがるアフロことラズロを少し慰めた後、千景はホログラフィックのボードアプリ(ホワイトボード的に使えるようなもの)を空中に投影。手元の小型ホログラフィックディスプレイを操作して、色々な画像やら商品説明やらをホワイトボードに投げ張り付けて、そして解説を始めた――――猛烈に自分の「好き」を布教しているヲタクじみた早口で。

 

「とまぁ、こんな感じだ。どうだい? 一般の介護や運送業などに使用されている『強化系』魔法アプリと共通仕様のものにしてあるんだけど、構造的には『代行系』のアプリで組んであるから魔力消費量は実質無制限! 起動時と追加発動時のみで、アイドリングしている状態だったらその消費量は比べ物にならない、だからインパクト時だけ発動を切る必要もないし、他の強化系アプリとの併用もなんのその! 大会用に調整したから今回は倍増することでさらに強化をできるようにはしてあるが、一般使用での場合ならそうはならないし、強化率だけで言えば今の『裏火星』の最大数値の2倍は出せるんだ! つまり――――」

「あー、落ち着け相棒。少年少女たちが困惑してるから急に早口止めてやれ」

「――――っと、おっとスマナイ、つい職業柄。ハハハ……」

 

 苦笑いする千景だが、そういう逸る気持ちは判らないでもないので出来たお兄ちゃんみたいな目で見ておくことにする(生温かい目)。なおカトラスは「わっ!」と情報を浴びせられたせいできょとんとしており、脳裏に少し困った時の大河内さん的なイメージがよぎった。大体「年齢詐称」バージョンの姿を見たせいだが、なんというか、何なんだろうねこう色々と何ともいえない不思議な感覚だ。

 というか、カトラスが何事も無くこの場に居ること自体が既にどんな表情をしたらいいのかいつも判らないのだが(震え声)。

 

「あー、まぁとりあえず天才っつーか、技術者としてスゲーってのは判りましたよ。

 ちなみに開発期間ってどれくらいッスか? 出来具合についてちょっと興味があるっていうか、それこそ何か適当に作ってくれー! って言って一年後とかだとお話にならないじゃないッスか」

「んん、平均すると大体、三カ月前後のプロジェクト感で回すことになるかな? 粒度次第なところはあるけど、ラズロが使った筋力強化のそれなら、オープンソースの署名不要公開ライセンスな術式のライブラリの実行ファイルが少し必要だから探す手間と、物理計算と解析に時間がかかるタイプのアルゴリズム……、えっと、ソフト的な意味じゃないアルゴリズムの準備と処理の分散、階層化は必要だったけど、メンテナンス性や今後の発展性やらを考えないのなら、もっと短期間で仕上げられるね。スパゲッティコードにしない前提ではあるけど。

 例えば、さっきのグローブとかと違ってマナフォン(生体魔法デバイス)に直インストールするんだったらさらに早いかな。テストには少し協力してもらう前提になるけど」

「テストはまー、流石にそうッスかね。どういう工程になるかはさっぱりっスけど。…………あー、いや普通にプロッスね(真顔)」

 

 もうちょっとフワフワした回答が返ってくるかと思いきや、意外としっかりとしたソフトエンジニアっぽい言い回しで返された。というか本当、技術的な詳細については一切触れていないが内容的にトラブルになりそうなところをテキパキと回答してくれるところが、ちゃんとしたプロらしい振る舞いに感じる。そして素人ながらある程度やりとりを直接している私を見て、アフロもアフロで少し意外そうにこちらを見ていた。

 ただ妹チャンにはいまいち言い回しとか使っている言葉の具合とかが宜しくなかったらしいので、少し色々と聞いても良いかもしれない。そんな話をすると、「意味わかんねぇッ!」と少しキレながら私の口に持っていたラム肉焼きを放り込んでくる。そんな彼女を見て微笑ましそうに笑った技術者二人は、商談ということで事務所の方へと私たちを誘導した。

 

「とりあえず契約については、オーケーってことでいいか?」

「妹チャン大丈夫か?」

「あ、嗚呼…………」

「そんな飼い主に遊んでもらおうとしてじゃれついてたらお風呂場に連行されて頭真っ白になった猫みてーな顔すんなって……」

「し、してねーからっ! さっきから兄サンいじりすぎだぞッ!」

「いや、そんなにはいじってねーってたぶん。……で、えーっと、アフロ的には一応、Bランクの所までで良かったのか?」

「おぅ。まーそんなに強いって訳でも無ぇが、賭け試合とか試合の賞金が入るようになれば、お前らに払う金の分と考えてまーまー貯金は出来るだろうって計算だ」

「ならあんまり意識はしなくて良いっつーことか。………‥で、アプリのサポートなんスけど、こっちの妹チャンにやってもらって良いッスかね」

「えっ!?」

 

 驚いた顔でこっちを振り向くカトラス……、いやせめて口から串引き抜けどれだけ食いしん坊キャラを貫けば気が済むのだお前(戒め)。流石にちょっと気になったのでラム肉の袋を取り上げて、ってもう3本しか残ってないじゃねーの!? とりあえず1本ずつ私、アフロ、千景の三人でわけて、少し食べながら話を、ということになった。

 ただし、アフロは少々例外である。

 

「ラズロ、お茶をいれてくれないか? 冷たいお茶、地下の冷蔵庫にあったキンキンのやつ」

「お前、この間冷蔵庫のシステムいじったとか言って軽く死ぬぞ!? 防護服着て取りに行けってか!!?」

「だがデータシートだけで今回は良かったと言ったのに、実験の必要があると強行したのはラズロだし、それくらいはやってくれても良いんじゃないかな?」

「いやだって、相手、一応大手だぞ!? 雪広ん所の食品産業の工場な訳だし、ヘタなソフト納入する訳にもいかねーじゃねぇか! ……まあわかったよ、行ってくる。ついでに他の食品もどうなってるかチェックしてくるわ」

「行ってらっしゃい。肉は、保温アプリをかけておくよ。

 …………さて、これで話しやすくなったかな? ラズロは、関係ない。僕に何の用だい?」

 

 言いながら千景はアフロが部屋から去ったのを確認した上で、防音アプリを展開して私に笑いかけた。とはいえ目は一切笑っていない。その上でカトラスからはわずかに距離を取るようにこちらの対面の位置にきているので、その微妙な動き方というかから色々とカトラスの言葉に嘘がない事を察してしまい軽く鬱であった。

 

「あー、用といってもなぁ……。さっきの話以上のことは何も無ぇんだけど」

「流石に信じられないよ。『お兄さん』君についてはともかく、『お姉さん』ちゃんについては少しだけ、知識はあるからね」

「呼び方すさまじく意味不明だぞそれ、さんちゃん、さんくんって……」

「いや兄サンがあのヤベェ女呼ぶ時とそう違いはねぇって、ちゃんさんとか……」

 

 アマテル技研において、戦場でのパフォーマンスの低さから何度も改造されていた例として、何度かその改造過程を見せられたことがある、と。千景はカトラスに視線を向け、しかし数秒でこちらに戻した。…………わずかにその手が震えているように見えるのは、気のせいではあるまい。

 そんな状況に、カトラスがため息をついた。

 

「…………アマテル技研自体、私ら関係の実験はもうやってねぇよ。製造者っつーかスポンサーっつうかが、なんか色々あって止めたらしい。ナンバーは73で綺麗にストップしてるっつーか…………。71番とかは『完全失敗』でコールドスリープっつー噂は聞いたことあるけど、そのくらいだろ。『53番』」

「そうか。……どうやって僕の番号を?」

「いや私、記憶力良いから。面識は無ぇけど『対象』だったから、ちゃんと覚えてんだよ。当時は車椅子してなかったから、ちょっと判らなかったけど」

 

 大体あの時から身体は十八歳くらいだったか? と。肩をすくめるカトラスに、千景は「まあ」と言葉を続けようとして――――。

 思わず大声を上げて止めてしまった。

 

「――――ストップ! とりあえずそれ以上の話は俺が『カアちゃん』から聞いてねぇからあんまり深堀するの止めろっ! 後が怖いッ!」

 

 立ち上がって食べ終わった肉の串を思わずへし折った上で両方に拳を向けて全力で停止の意志を示した私に対して、カトラスは半眼で嗤い千景は「カアちゃん……?」と不思議そうにしていた。

 

「まあ義理の母っつーか、色々話すってことになったはいいけど、人生イベント目白押しで後に流れてんだよ。だから、二年前から記憶喪失になってる俺は、カトラスのことも、お前のこともよくは知らない。

 情報は色々と出揃ってきちまってるけど、だからどうしたって話だし……、たぶんお前、連れ戻されたりするの警戒してんだろってのも、今わかったけど、別にそんなことは無ぇから」

「……あー、私が言っても信用ねーだろうけど、嘘は言っていねーぜ? なにせ『スポンサーの所の娘』を代理母とした『実子』って戸籍で生まれてるから。お兄ちゃん」

 

 その「実子」って戸籍を持ってるとかそういう新情報突然放り投げて来るの止めろ♡(威圧)

 

 一人百面相する私を揶揄うように嗤うカトラス。そのやりとりを見て何かを納得したらしく、千景はため息をついて警戒を解いた。とはいえ、それはそうとカトラスには訝し気な目を向けている。

 

「……だとしても、『僕ら』の代が脱走計画を立てた時に鎮圧と再捕獲に駆り出されていた『お姉さん』ちゃんが、この場にいるというのが色々信じられないというか。というよりその手足は、どうしたんだい? 欠損レベルによって『金星の黒(ウェヌス・ニゲル)』の再生を『火星の白(マルス・アルバム)』が阻害して、確か復活の目途はなかったと思ったけれど」

「それこそ、こっちに兄サンのお節介みてぇなモンだよ。『四肢(ソトガワ)』とかもそうだけど『臓器や生殖器官(ナカミ)』とかも。詳しくはよくわかんねぇけど」

「なるほど……。どうやら本当に記憶喪失、ということらしいね。それを信じるなら」

 

 へぇ~、というか、ほうほう、というか、そんな声が聞こえてきそうな興味深いとでも言わんばかりの目をこちらに向けて来る千景だが。何だその表情の裏にある感情は。カトラスが色々と千景と何人かで企てただろうその脱走計画とやらで色々あったのは、やりとりから察するが、それはそうとして珍獣で見るようなその視線は得体が知れないのだが……。

 とはいえこれ、私視点だと知らなくて良いタイプの情報だと思うので、そこだけはヨシとしておこう。(???「果たしてそう上手く行くかナ?」「いや私の尺を乗っ取るんじゃないよアンタ」「アイヤ、つい思わず……」)

 

 しかし、今のやりとりで気付いてしまった。カトラスがたくさん食べていることに対する妙な感覚というか、否な感覚と言うかの正体が。

 

「……まあ、一旦は信じるよ。『お姉さん』ちゃんが大好きな『お兄さん』くんに免じて」

「だ、だ、だからそーゆーんじゃねぇっての! 別に、お兄ちゃんなんか――――」

「――――それだったら一体、わざわざ僕に接触してきたのはどういう理由からかな?」

「とりあえず俺はまー間違いなくお前の懸念する方でもねーし、カトラスもカトラスでそこから家出してだいぶ経つだろ?」

「家出とかゆるっとしてふわっとした言い方すんじゃねーよ……」

「でもまぁ、家出だろ。『色々な意味で』。で、そんなタイミングで遭遇したあのラズロ(ヽヽヽ)が経済的に色々助かる提案してきたってのが一番なんだけど、それと一緒に、どーもなんか普段使いしてる技があんまり良くないっぽいんだよなぁ、カトラス」

「ッ!」

 

 カトラスの顔色を見ながら、千景に説明する。あくまで推測でしかないし、カトラス本人に聞いてもおそらく認めはしないだろうからこそ。

 

「大食いになってんの、たぶんそのせいだろ? あー、金星の黒側の力を使ってるだけなら問題無いんだろうけど、それと火星の白に対応する力を併用するってのが、食い合わせが悪いって感じか?

 さっきの話からして、あんまり良くはないんだろ?」

「……まぁ、そうだね『刀太』くん。僕の足も、アマテル技研でメンテナンスを受けられなくなってから、火星の白が過剰に動いて出た障害みたいなものなのだろうし」

 

 もともと魔導式の人工生命体のようなものである以上、それを上回るレベルで調整が利く「金星の黒」がなければ、人体活動すら阻害される場合もあるようだ、と。千景は言いながら、車いすに乗っかっている、外見上は普通に筋肉もあり今にも歩けそうな足を小突いて肩をすくめる。

 

「まあカトラスってこう、身体が戻ったのもたぶん最近だし。その上で両方の力をいきなり使ったとしても、それはすぐに病人がリハビリ無しで健康に動き回れるかって言うと違うっていうか、そういう話と一緒だと思うんだよ。

 だから、あんまりそーゆーのを使わないでも何とかなる方法とかも無ぇもんかなーって」

「…………」

 

 私から顔を背けているカトラスだが、わずかに耳が赤いように見えるのはたぶん気のせいだと思う(感想)。気のせいなんだろう(推測)。気のせいと言うことにしたい(願望)。というよりこの程度気に掛けたくらいでそんな照れるとかどれだけそういう気遣われるというか、そういうのに飢えているというのか。そして本人も強く否定しないところから、的は外れていないというのと、それ以上に切実な問題もあるのだろう。食費とかではなく、もっと根本的な部分で。

 

 そんな私たちのやり取りを見た後、千景はくすりと笑って。

 

「なるほど、そういう所が大好きなんだね、『カトラス』ちゃん――――」

「――――だから違うって言ってんだろうが! 何だお前、50番代がもともと『単体特化で製造し、それらを交配させて次世代で両方を引き継ぐか否か』の実験に使ってたからって、兄妹でそーゆーのを前提に考えてんじゃねーぞ!!?」

「えっ(困惑)」

「おや? でも二人とも、それこそ『黒』と『白』以外の『二人分の』遺伝子情報は別な人物たちなんじゃないかな? 見た目も違うし。

 だったら問題ないと思うし、アブノーマルじゃないよカトラスちゃん。せいぜい『従兄妹』でしかないんだから」

「…………えっ?(困惑)」

 

 ネギぼーずと明日菜以外に、二人分の遺伝子情報……。二人分の遺伝子情報? いや確かに私はこのせつの孫だと本人たちから言われていたが、あれは例えベースDNAに近衛木乃香がいるにしても野乃香お母さんが産んだからという前提があるのかと思っていたのだが、でも今の言い回しと言うか、考えてみればカトラスも大河内さんとザジベースの可能性がそこそこ高い訳で……。

 

 つまりえっと…………………………。

 えっ?(混乱)(???「脳が理解を拒んでいるねぇ……」)

 

 

 

 

 




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ST145.前世前世来世異世

毎度ご好評あざますナ!
今回、転生タグの面目躍如・・・?
 
※ご覧の作品は「光る風を超えて」で合っていますので、冒頭での混乱注意


ST145."I know you but you don't know me."

 

 

 

 

 

 突然だが、私には2つの記憶がある。

 お金持ちの家のご令嬢をやっている今もそうだけど、そのもう片方の記憶もお金持ちの家でご令嬢をやっていた。

 どちらの記憶においても社会というか時代はそこそこ荒れていて、でも荒れている理由はそこそこ違っていて、そんな中において衣食住に困らず人を従える立場にあった私は、それなりに幸せ者だった。

 

 かつての私を言うなら……勝ち組、というと嫌味に聞こえるし私が努力とかそのものを否定しそうになるから、あんまりそういう言葉は使いたくない。

 でも、世間一般からすると間違いなく私の生まれ育ちは勝ち組で、人生ガチャでいうとSSRとかそういうものだった。

 

 そのまま順調に、ご先祖の血筋に由来する才能もあってスクスクと優秀育った私だったけど、それまでの人生は決して平凡なものではなく。命を狙われること、誘拐されること、この世のものと思えないバケモノと出会う事、まあとにかく色々な経験を送ってきた。

 

 その中で色々なヒトと触れあい、色々な悪人も色々な善人も、それこそ木っ端差しさわりなく「役に立たない」ような人たち含めて、多くの人を見て来た。

 だから、誘拐から私を助けてくれた少年に、そんなかつての私が少しだけ惹かれたりしたことも。その行方知れずになった、サムライがどうのこうのと名乗っていた男の子がどうなったか知らずとも、ずっと心の底に残っていて。

 

 そんな男の子の面影を残す彼と、桜坂(ヽヽ)………、彼と付き合っていたことの記憶を、今、「今世の」私は、ぼんやりと思い出していた。

 

『…………貴方、どうしてデートコースにこんな庶民極まりない場所を選んだのです? そもそも大型ショッピングモールですらない、フードコートもどきがあるだけの、田舎の山にあるような大型汎用スーパーに……』

『まあ()的には、こういう場所に連れて遊びに来れる女性というのは、一般女性と比べて扱いが重いんだよ。何故なら、……おっと、危ないぞちびっ子?』

 

 ソフトクリームを落とすだろう、と転びかけていた子供を抱き留めて返してあげる彼。会話の途中といえどそういう点によく気配りができるのは、流石当時の私が見込んだ男というだけはあるけれども。でも当時の私は、そんな彼に色々と飽き始めていた。

 庶民っぽいというより、こう、なんというか子供っぽすぎたのだ。

 

『貴方、どうしてラーメンと回転焼きとコーラとソフトクリームとフライドポテトを複数セットで注文するんです!? せめてセット一つにしなさいッ!』

『いやでも、こういう所に来たら食べたいし……』

 

 そんなことを言いながらソフトクリームに安いフレンチフライをつけて口に運び、美味しいと1秒くらい納得してからキーンとした頭に唸ったり。大体そのラーメンと言うのも、特にそこまで細かいこだわりがあるような味には感じられず、万人が食べて万人が「まぁまぁオイシイ」と言う程度の味でしかないというか、よくもまぁこんなものを平和そうな顔で美味しい美味しいと言うものだと、感心すらしていた。

 こんなもので楽しむなど、それこそ低学年、それも低学歴の人間くらいだろうと。そんな「令嬢という記号で作られた色眼鏡」でしか見れなかった私は、彼を詰まらない男と、そう簡単に断じていた。

 彼の過去や育ちがどうであったかなど、この時点では気にも留めていなかった。それくらい自分の人を見る目を信じきっていて――――それだけではいけないのだと、知らなかった。

 

 だから、当然のように乗り換えたのだ。グループの次期後継者である私としては、もっと優秀な人間を跡取りの相手として迎え入れて、子を為さなければならない。

 もとより恋愛感情とそういった立場という感情を区別して見ることが出来た私だったから、そこに違和感はなかった。

 

 女性的な良い女――――マウントをとることが出来るが故に責任を負う必要もなく、高い位置を崩すことがない。そんな、ある意味では彼にとって嫌なタイプの女でもあった。

 

 だから、彼と、彼と同時期に雇われていた変な名前の女の首を、最終的には切って。依願退職ではなく閑職につけ、仕事を出来なくした状態で、成果が上がっていないとして首を切った。当時、乗り換えた先であった、あの彼の上司であった彼から、実家が弁護士であるらしい彼から色々教えてもらい、裁判も回し辛いように手を尽くして、彼等を切って――――。

 

 そして、私は彼の手で「殺された」。

 命を取られたわけでは無かった。只社会的に、それまで積み上げて来たもの全てを奪い取られ、あるいは無に帰され、意味のないものとされた。

 

 何もかもを失った私に、残っていたのは彼だけだった。でも、彼にとっては私はその辺の女の一人でしかなく――――同時に、私の一族が持っていたグループに対して強い憎悪を抱いていた彼にとっては、トロフィーのようなものでもあった。

 

『…………私の何がいけなかったのでしょう』

 

 今更後悔する話でもない。全てを決めたのは私だったのだ、そこにむしろ誰かのことを持ち込んで、その相手に「責任を負わせる」方が、令嬢という立場だった私のするべきことではない。ノブレス=オブリージュ、高貴なる者の振る舞いという訳でもないけれど、それだけは胸に秘めていて。

 ただ、そんな私を面白がったのか、あるいは当てこすりか。彼は私に、言ったのだ。

 

『桜坂の首を切ったのが大きかったと思うよ、僕は。まあそうなるよう色々言ったのは僕だけど、それでもね』

『…………何がです? 桜坂……、彼は、それはまあ「コネ」で入社したから予想してましたが、そこまで仕事が多く出来た訳でもありませんでしたが』

『僕が見るに、それでも彼はマネージャー向きの人間だったと思うけれどね。実際、彼と一緒に働いていた連中は上手い事、プロジェクトを炎上させていなかったし。グループ内の残業時間もそう多くはなく、連中も仲が良かったからね。

 そういう人間を、一部のコンサルの世界とかでは「触媒」と呼ぶ。計上されている数字としては表れてこないけど、なんだか良く分からないなりにグループを上手く回すことができる人間だと』

 

 実際、君が引き抜いて付き合ったのもそれが理由だろう、と。彼は、自らが彼を私に切らせる切っ掛けを作ったろうに、それでも評価していた。

 

『当時、僕にとってはライバルに違いなかったし、嫉妬もしていたかな? 僕が受け持っていたプロジェクトを無理やり引き取らせて回させたら、案外簡単に片付いてしまったものだから。彼本人に多少なりともその手のスキルがあったのだとしても、正直計算外だった』

『……だから追い落としたのですか?』

『それと同時に、こう言うと無責任だけど……「君への」試験石にした。

 もし僕の言うことを鵜呑みにして、ああいう人間を切るのだとすれば。それこそ君は間違いなくグループを潰す。どうにかして生かす方法を考える、僕と別の部署にする、別な仕事を割り振ってみる、試してみる、色々と手はあったはずだ。僕なんかよりも、この会社で経験が長い君ならね。

 それが出来ないくらいなら僕が、このグループを初めから『潰すために』入社した僕の手で、全く別のものに作り変えたって良いだろうってね』

『…………』

『見事に君は、僕の口車に乗って、彼が仕事を出来ないと、彼個人を僕以上に見ていたにも関わらず最低評価を下して、あれよあれよと退職に追い込んだ。

 ………………まあ、あっちはあっちで「本当の仕事は終わった」と言って、「青梅さん」と一緒に出て行ってたけど』

『?』

 

 本当の仕事とは何なのだろうか、と。そんな疑問は、でも彼の言葉に遮られた。

 

『ところで…………、彼がどんな人物だったか。君の目から見て教えてくれないか? 君が、彼を追い出すまで「最後まで」勘違いしていたところを、全部つまびらかにして教えてあげるよ。これでも彼のメンターをしていたからね』

 

 それは、あまりに意外すぎる言葉で、そして私から希望すら奪う言葉だったのだから。

 

『――――サト〇ココノカド〇でデートねぇ。子供っぽい……、まあ有り得なくはないか。

 もともと都の外、家族を失った彼は教会とかで育てられていたらしい。そこも降魔(ヽヽ)症の人間に壊されたり、殺されたりして、新たに引き取った親すら目の前で殺されているって、本人から少し聞いた。

 だからきっと『家族』っていうものに対する憧れが強かったんだろう。そこに連れて行くことが「重い」と言っていたということは、オシャレな街角でショッピングしたりするよりも、地に足がついた場所で、「家族が溢れた」場所で、将来の君と自分との家族像を思い描く程度には、君のことを真剣に考えていた、ということじゃないかな?』

 

 あまりにも次元が違いすぎる物の見方と――――そして、そんなことすら聞こうともしなかった、話そうとしていた彼のそれを自ら遮って、既に切ろうと勝手に決断していた私だったからこそ、それには、流石に後悔が涌いた。

 ただ、それも今更の話で。彼がその後、どうなったかなんて、「前の」私はその後も知ることは無く――――。

 

 生まれ変わった私は、そんな彼と絶対に二度と会うことなどない今世でまで、そんな話を引きずっていた。

 

「…………フフ、御笑い(ぐさ)ね。こんなちびっ子のくせに『女』としての思考だけは引き続き残っているなんて」

 

 そんな愚痴など誰も聞こえておらず。それもそうね、こっちでもまた「グループ」の令嬢として生まれた私は、いまだ十三歳。いくら魔法や祖母の作った武技が使えたところで、それだって一般人の域を出ない。あくまでも、手ごろで誘拐しやすそうで影響力が強そうだからっていう程度で、私はさらわれたのだ。同じくらいの年代の女の子に。

 

『――――貴女の実家グループが手を回しているエリアが問題でち(ヽヽ)。血筋を思えば縁が無い訳でもないでちが、大して問題視するような血筋ではないでち。「在野の」血統でもない相手に、いちいち警戒すらする必要はないでち』

 

 そんなことを言いながら、SPたちを簡単に蹴散らし、お婆様の秘書をしているアンドロイド(ガイノイドと言っていたかしら?)の追跡すら振り切って、いまだ私は拘束されている。

 ただ、扱いはそう悪くはない。三食出るし手は縛られてるけど運動はさせてもらえるし、トイレに関しては「失禁だけはトラウマでちからね……」とさらった少女本人が何故か気を遣ってくるし。総じて、単なる身代金目的の誘拐よりも扱いは良い。良いのだけれど、あくまでそこまで。

 

 私が人質にとられることで、繁華街での警備網を薄くしろと脅迫することが出来た彼らは、それこそいっそ堂々と今若年世代に限らず広まっている「魔法薬物」の取引をしていた。

 

 目の前で売りさばかれるそれに、私は何一つ対抗することはできない――――というより、私ですらおそらくその薬物を使用されているのだろう。こんな前世の記憶なんて、前世の中途半端に幸福とそうでない記憶が混濁してるのだって、きっと私が今、正気ではないからであって。

 

 だから、そんな鈍い色をした場所がいきなり暗転して。狙撃火花光(マズルフラッシュ)のようなものが複数と怒号、現れ出たバケモノたちとヤクザみたいな連中との争いに。

 

 そんな中、私に向かってきた天井のシャンデリアを、目の前に立ち「粉々に」砕いて叩き落して散らした、そんな黒いコートの少年――――くりっとしてそうな目を少し細めた、その横顔に。

 

「キク、チヨ……?」

 

 私が切り捨てたはずの彼の――――桜坂(ヽヽ)菊千代の面影を見て。そして、唐突な安心感から、目を閉じてしまった。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 

 カチコミである。誰が何と言おうとカチコミである。昼間、カトラスおよび千景からもたらされた諸々の色々危険な情報は全力で聞かなかったことにして(震え声)、それはそうと夜に注力した訳である。

 アフロと千景、カトラスとのやりとりに関しては、とりあえず前金として十五万ほどもらった。そこから三分の一は彼女の手元に、置き残りを家賃として犬上夫妻に手渡したカトラスである。色々と当てつけのように言った即日に金を持って来られるのは想定していなかったらしいコタローくんはポカーンとしていたが、反対に夏美姉ちゃんは特にそれには何も言わず「美味しい料理、作ってあげるね!」と得意げに笑っていた。

 

「……えっと、カトラスちゃんのことは雪姫さんにはまだ秘密、だよね? うん、わかった」

 

 そのままカトラスは犬上家に置いて来て、九郎丸と待ち合わせをして合流。夕食がてら軽く超包子で肉まんを買い食いしながら、二人して源五郎の事務所まで徒歩で向かったのだった。

 

 なお釘宮は修行疲れらしく、そのまま自宅で寝ていたので再会は叶わなかったが、それはさておき。

 

「…………何でコンサートホールとかなんだろう? こういう取引って、もっとアングラって言ったらいいのかな、あまり人目につかない場所で行うものだと思うんですけど……」

「それを言ったらまー、表向きは宗教法人な訳だし警察が押さえられてない拠点みてーなのがあっても不思議じゃないけど、わざわざ何で都心部の大型ビルでやるかねぇ……」

「――――そういう意味では普通の宗教法人ではないのだろう」

 

 言いながら、リムジンで送られる私や九郎丸および源五郎である。なお運転は若い衆の例のスキンヘッドの男が行っており、いわゆる旧東京の概念でいう「首都高」に該当する劣化した高速道路を走っているにしては、がたつきが少ない。運転が上手いのか、車のサスペンションが上質なのかは意見がわかれるところだが、ここはあまり深くは考えないでおこう。

 現在向かっている先は、旧関東(主に東京など)の観光エリアを縮小した「再現スポット」のようなエリア近く、ビジネス街から伸びる大通りの中間。九郎丸がコンサートホールと言ったのは微妙に違っており、正確には多目的ホールで映画やら演劇やらにも使用できる、どこかの企業がシンポジウムなどで使用したりする民間施設である。テレビでいうと映画やら何やらの試写会やら何やらに使われることもあったりするので、意外と名前が通っている場所なのかもしれないが……。

 

 そんな場所を大々的に貸切って、例の宗教団体「素晴らしき夜明けと明日」(裏ボスなんだか中ボスなんだかの隠れ蓑)が周辺のバイヤーと直接薬物の取引をするとか何とか。

 ここでヤクザではなくバイヤーといったのは、何もそれを使用あるいは売買するのがヤクザに限らないからであるらしい。…………芸能関係、とポロッと零した源五郎の台詞に少し嫌な顔をしてしまったが、蛇の道は蛇というか、その辺りは「いくらでも」あるのだろうと納得しておく。

 

「っていっても、それくらい広い場所で大々的にやるって、それこそ『一網打尽にしてくれー!』って言ってるようなモンじゃないかって思うんスけどね」

「確かに、僕ら視点だけで考えれば罠の可能性もあるね。ただアマノミハシラにおける有力者に対して、人質をとっていたりするらしい。少なくとも公権力からどうこうされる、とは考えていないのだろう」

「人質ですか……」

「有力者というと、あー、つまりブルジョワ?」

「語彙が少し古いかな? まあ、そうだね。と言う訳で、今回はその宗教組織の行っている裏取引に関しての証拠集め、証人の確保、魔法薬物の押収に加えて、人質救出も入ることになる」

 

 そもそもUQホルダーそのものが、アマノミハシラを含めた近隣および全国レベルで見て、とても大きな裏組織の集合体のような体をなしているはずである。不死者限定とは言わず、それこそかつての源五郎のような普通のヤクザも傘下に収めている以上、やはりマフィアか何かなのだ。つまり聞きようによっては、マフィアが警察のために動いている……というより「警察の仕事を一部代行している」ような、若干本末転倒な部分も感じてしまうが。そのあたりは組織の設立理念、ネギぼーず曰くの「相互扶助会」というのが前提にあるのだから不思議はないのだと、一応は納得しておくべきだろう。

 そして突入前に年齢詐称薬を使用し、再び美人お姉さん(青梅勝四郎)中二病暗殺者(神楽坂菊千代)とに姿を変えた私たちである。恰好は今回、源五郎が用意したスーツ姿なので前回よりは印象がよりヤクザっぽくはなっているが、それはそうとして眼帯型デバイスは外さない私に「似合ってるけど、好きなの?」とちょっと微笑ましいものを見る目で見て来る九郎丸に、どんな顔をして良いやらわからなかった。いや、だってこう、眼帯だってそのスジでは着けてる奴はいるだろうし……。おしゃれ目的で使用しているのは私くらいだろうが(白目)。

 

 そして侵入した訳であるが。基本的に乱戦と言うには、色々とお粗末なものであった。

 いや、大体は敵の能力のせいでもあるのだが。

 

 

 

「――――祈りましょう、皆さん! 我々は決して死することはないのだと!」

 

 

 

 修道女の恰好をした女性、年齢は夏凜より少し上くらいのお姉さんだろうか。白い髪をした普通の美人さんだったが、そんなことを集まっていた信者連中に宣った後、肌が青くなり額から角が二本生えて来た段階でもう魔族確定だった。……そして微妙に見覚えがあるような顔をしているので、ひょっとしなくても原作に出て来た魔族なのだろうが、さっぱり名前が思い出せなかった。誰だコイツ!?

 会場内は数百名くらいだろうか? ホールが「座席を展開すれば」400人座れるということを考えると、大体200人前後だろう。そのうち宗教組織の人間が、その魔族含めて三十人くらい。後はスーツ姿だったり何だったりと恰好がまばらで、我々の襲撃に際してパニックに陥っていた。

 

 一言で言うと泥仕合になった。例えば「潟山組」を始めとした一部ホルダーの男衆も含む突撃部隊がったが。女魔族が呼び出したのか突如現れた「髑髏に角の生えた」人間大の魔族たち(どう見ても下っ端戦闘員とかそのタイプな魔族だが、一部の連中は「天使様だ!」とか言っていた)に対して信者が祈り出すと、その悪魔たち全員が白いオーラに包まれ、銃撃に「当たらなく」なり。かと思えば向こうの攻撃は攻撃で当たり前に通るも、その攻撃で血を流せど味方もまた「死なない」。というか、貫通するなりはするが損壊したりすることはなく、衝撃やら痛覚だけ残るといったところ。

 

「くっ――――刀た、あっ、菊千代君っ斬撃が通ってるのにっ!」

「霧か霞でも殴ってるみてーだなぁ……」

 

 私と九郎丸も参戦したが、それはそれとしてやはり攻撃が「致命打を与えられない」。つまりは拘束することすら出来ず、すり抜けるようなその中途半端極まりない状態である。ただ、少しだけチリチリするような感覚を肌に覚えたので、その正体には行きついた。

 

「…………神聖魔法? いや、魔族が神聖魔法使ってんじゃねぇよッ!」

 

 原理は良く分からないが、おそらくあの信者たちが祈ることによって発生する何かしらを受け取って、魔族たちは「神聖魔法の防御」をその身に受けているのだろう。つまりは夏凜の不死性やら何やらの廉価版である。そしておそらくだが、向こうの攻撃が中途半端にしか効いていないのも、その魔法によるある種のペナルティだろう。外界と自らを隔ててるとか、あるいはフィクションとかである「異相」とかフィールドが違う場所に本体を置くことで干渉できないようにすることで双方に影響が強く残らないとか、そんなところか。

 

 理屈はフワフワしているが、要するにお互いがお互いと延々と戦わせられることを強要されている状況。それを強いて来る以上、向こうの目的は時間稼ぎなのだろう。

 

「ってことは中心にいる相手を叩くべきだな。……チュウベェ?」

 

 と、「疾風迅雷」をして、一気にあの「腰から羽を生やして」浮かんだ女魔族の元へ向かおうと、携帯端末から雷獣を呼び出そうとしたのだが。見れば携帯端末の画面に、チュウベェの姿はなかった。アイツ、どうしてこんな仕事直近のところで居なくなっているんだ。いや、というかいつでも好きな時に居なくなれるのかアイツ……? もともと水無瀬小夜子のペットのような状態だったこともあるだろうが、あまり私に対して帰属意識というものがないのかもしれない。

 いやまぁ、確かに割と邪険に扱ってる時もあるのであまりそれにどうこうは言えないのだが、それでもこういうガバは止めろ貴様! 今度からちゃんと確認してから現地に来るべきか……。

 

 と、そんな時。ステージ奥から数人、少年少女というか、小さい子を含めた「場違いな」子供たちが駆けて逃げようとしている姿が目に入った。とてもではないが千鳥足、正気で居ると思えないような「恍惚とした」、あるいは「鬱屈とした」顔のままの彼女たちだったが。そのうちの一人が転び、そして仰向けになり。

 

「血装――――」

 

 死天化壮を装着しながら駆けだし、足止めのために向かってくる下っ端魔族を踏み台に。そのまま立体起動で縦横無尽に向かい――――彼女の頭上に落ちそうなシャンデリアとの間に入る。

 そのまま折れた黒棒に血風を纏わせ、あとは自動迎撃である。……自動迎撃と言いつつ原理はほぼマニュアルなのだが。つまり「嫌な感覚」、こちらにダメージが入るだろう「痛い感覚」をなんとなく察知したら、その瞬間「反射に任せて」死天化壮の腕を動かし、弾いたり叩き落したり、というのを延々と繰り返しているだけなのだが。この自動迎撃で、折れた黒棒に纏わせた威力の伴っていない血風創天「もどき」を用い、徹底的に砕いて弾く。

 

「……っと、これでガラス片も跳ね返って来て……、ねぇな?

 大丈夫か? 君。えっと――――」

 

 声を出していて気付いたが、年齢詐称の魔法が解けている。おそらく弾いた際に飛び散った血に含まれていた効果で年齢詐称魔法が無効化されたとかそんな理屈なのだろうが。

 

 

 

「キク、チヨ……?」

「いや何でお前、その呼び名を知ってるんだよ。絶対今『違う』だろ、あー、年齢詐称の効果が切れちまってるし……って、気絶してる?」

「……すぅ、……すぅ、…………」

「オイオイ……って、人質だったよな多分、コイツ。なんで『キクチヨ』名指ししてきたんだコイツ……」

 

 

 

 倒れたその金髪の少女、年齢で言うと忍くらいのカジュアルなドレス姿のストレートヘアな彼女の発した呼び名に、それはもう何と言うか、猛烈に嫌な予感を感じた。

 

 

 

 

 

 



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ST146.災いの芽を摘む

毎度ご好評あざますナ!
一部で待たれてるような待たれていないようなあの娘の復活・・・!


ST146.Pluck The Buds Of Catastrophe as ...

 

 

  

 

「……刀太君?」

「いや何だよその目はお前さん、ままならぬ」

 

 嫌な感覚やら予感やらはともかく、思わず背後からかけられた声に反射的に適当な反応をした後、私は折れた黒棒で少し一帯に広がったガラス片をどけて、気絶している少女をお姫様抱っこした。そんな私に半眼を向けて来る勝四郎(年齢詐称美人な九郎丸)だが、いやその、そんな「浮気した瞬間を目撃してハイライトが消えた新妻」みたいな目を向けられてもリアクションに大変困るのだが……。下手なツッコミをすると自分で墓穴を掘ってしまいそうな予感もあるため、言葉を返すのに躊躇いが生じる。というか私の脳裏によぎった例えも色々と問題があるだろうというか。別に九郎丸(今世)という意味でも勝四郎(前世)という意味でも、別にそういう話ではまだないだろうに。あちらは名前繋がりではあるが。

 

 というかそれはそうとして、この娘、普通に初対面である。ただ魘されているように目を閉じて、金髪、ドレスの大人しさからなんとなく見た目相応に良い育ちをしているのが察せられるが、なんとなく「ネギま!」最終編において登場した委員長のひ孫あたりを思い起こさせる容姿だ。

 

「まさか、みぞれ…………いや流石にねーわな」

 

 雪広みぞれ、であると仮定してもそれはそれで原作的にはガバそのものだが、その上でキクチヨ呼ばわりはもう色々と物事を考えるのを放棄したいところなので(希望)、この場では投げっぱなしジャーマンとしておく。というか掘り返して溜まるかこの少女。おそらくは委員長、容姿やお金持ちという話からして雪広あやかの系譜のどこかしらに連なる少女なのだろうが、本来なら「みぞれ」以外出てきていないことから考えて、ここでイベントをこれ以上発生させなければスルーできるはず! つまりセーフ! セーフですよ奥さん!(???「完全に正気を失ている奴ネ」「だからアンタねぇ……」)

 

 それは置いておいて、とりあえず周囲を見回す。足取りが怪しい子供たちも多く、それこそこの少女も含めてであった。なんとなくこの微妙な酩酊具合というかに「幻灯のサーカス」とか使用されたんじゃと思わなくもないが、そのあたりのケアは私の専門外である。とりあえず彼女をお米様抱っこ(肩置き)に持ち替え、黒棒を片手に逃げる子供たちの殿に回った。

 その手前で、九郎丸が向かってくる一部の下級魔族らしき連中を引き受けている。

 

「く……、『弐の太刀』は通じるみたいだけど、それでも結局再生してるっ」

「勝四郎、大本叩いた方が早いっ! いけるか?」

「うん、任せて!」

 

 例の指揮をするように浮かんでいる女魔族に向けて、夕凪を構える勝四郎(美人さん九郎丸)――――と、その姿が一気にブレてその場から消え、女魔族の背後へ。唐突にチリチリと魔力なのか気なのかがスパークする音を聞いたからか、魔族も剣を作り出しながら応戦しようとするが、それよりも九郎丸の振り下ろしの方が速かった。

 

「――――――――神鳴流決戦奥義、真・雷光剣!」

「くっ――――」

 

 生成途中だった黒い剣と夕凪の接触。それと同時に溜められていた魔力のスパークがそれこそプラズマか何かのように肥大化し、打ちおろした刀の動きに併せて魔族の全身へと放たれた! 全身に電撃と斬撃のダメージを受けつつも刀傷やら欠損やらは発生しないあたり、何かしら魔法障壁自体は張ってあるのだろうか。それはそうとしても明らかにダメージが大きいというか、やはりオーソドックスに戦う場合、九郎丸は普通に強いのだ。

 

 ホールの展開されていない観客席へ向けて払い落とされる女魔族。と、そちらに視線を送りながらも私は「尸血風(死霊属性)」を放ち簡易隷属化が出来るか実験を――――いや無理だ。そもそも外側のオーラには干渉できるようだが、実体としての肉体に接触しているような「斬れた」感覚がない。ブーメランのように投げてその扱いなので、どうやら相手さん本体にダメージを与えるのは無理らしい。

 

「わ!」「きゃっ」「――――」

 

 とはいえ、血風を受けた魔族たちはその場でたたらを踏んだり転んだりしている。どうやら少しは足止めになるらしい。時間もあまりないと考えて、黒棒を血装で背中に作った鞘「のようなもの」に納刀し、これまた血装術で作った複腕四本を加え、逃げ遅れている子供達数人を抱えて走った。……まぁ走ったと言っても死天化壮(デスクラッド)による〇廉脚(オサレ)めいた平行移動でしかないのだが。

 明らかに走るよりも妙に早いその移動速度に、子供たちはちょっと困惑しているらしい。意外と余裕あるなお前等……、いやこういう時だからこそ「それはそれ」「これはこれ」と切り替えられるのが子供なのかもしれないが。

 

 と、丁度避難誘導側に回ってた源五郎の所の若い衆(といっても私よりは上だろうが)の連中とサングラス越しに目が合う。

 

「あー、とりあえず子供ら頼むッス!」

「了解しやした、近衛のオジキ!」「ウッス!」「こっちだ坊主たち!」

 

 何故にオジキ呼びになっているのか、それって源五郎の呼び方だったのでは……? いまいち判定基準がわからない。というかそれ以上に、ホルダーにおいてよりも畏怖されているような雰囲気で頭を下げられているので、これはこれで新鮮な感覚ではあった。

 スキンヘッドの若い衆に気絶してる雪広縁者っぽい娘を預けると、私も再び参戦――――未だ年齢詐称が解けていない九郎丸の隣に並び、折れた黒棒を構えて左手をポケット箇所に突っ込む。

 

 眼前、砕けた自動設置式の座席の山(?)から這い出る女魔族の周辺に、例の下級魔族が集まる……のだが構図がこう何というか、ヒーローショーとかで現地スタッフのお姉さん(司会)とかが洗脳された設定で悪の怪人になってその周辺に適当なスタッフが扮した戦闘員が並んでいるような微妙な微笑ましさがある(謎)。もっとも現状の被害状況を考えればそうは言っていられない有様で、色々私のこの不謹慎な感想もちょっとした慢心のようなものなのだろう。注意しなければ、ガバもそうだが戦闘もディーヴァしかりサリーしかり何が起こるかわかったものではないのだ。

 

「これがUQホルダー ……、ザリーチェの後継(ヽヽ)が『漏らされた』と言っていた程度だったので侮っていました……」

「漏らされた?」

「いや、ありゃ自業自得っぽいし……。それはそうと、アンタは何なんだ? あっちで未だ歌ってる連中も含めて、ヘンな宗教組織っつーことしか知らねーけど」

 

 肩を押さえながらフラフラと立ち上がる彼女。と、その角にも下級魔族っぽい連中同様に白い光が宿り、その効果か全身の傷が消えてしっかりとした立ち姿になり。どこか私に向けて、嘲るような、同時に未熟な子供を見守るような、相反する感情の乗った視線を向けて来た。

 

 

 

「私は魔人、『和睦』オティウス・ラウヴィア。『水震』アガリ・アレプト第一の秘書。つまりは貴方の大先輩にあたるのですよ? 未だ名もなき魔人の末、ノーメン・インフィニト――――」

「知らぬ名前と設定をガンガン漏らすな(戒め)」

「――――びゃっ!?」

 

 

 

 思わず真顔で塊血風を投げてしまったが濃厚なガバの臭いしか感じなかったから仕方ないよね(責任転嫁)。隣で勝四郎(大人な九郎丸)が「と、刀太君!?」とあまりに唐突な攻撃に困惑した声を出す。菊千代と呼べと訂正しようかと思ったが、そういえば私の方は年齢詐称は解けているのだった、そこは仕方ない。仕方ないが、だってあのまま話させると色々問題が有りそうな気がしたし…………。

 というか魔界、つまり「裏金星」周りの話や設定ってほぼ原作で触れられていないので、こんな所で色々聞くつもりは私とて毛頭ないのである(断言)。

 

 だがそれはそうとして、アガリ・アレプトと言ったか。それって確かアレだよな、所謂「未来編」(ネタバレ警戒ぼかし)において刀太を苦戦させ続けた、髑髏に複腕の長身魔族。それのこう、秘書とかなんか慕ってる風なこと言ってるし―――――あっ! コイツ、アレだ! 思い出した、原作でキリヱの「やり直し可能な人生(リセット&リスタート)」を封じて相打ちにして、最終的にキリヱ大明神が一般魔法少女キリヱちゃんとなってしまう切っ掛けを作った奴!

 

 

 

 処さねば(決意)。

 

 

 

 今の「私」が近衛刀太をやっている現状、緊急的には本当にキリヱ大明神のあのテの能力がないと詰む以上に酷いことになりかねない。それを何らかの固有能力を用いてだろうが封印した上で、キリヱ自身に色々あってその能力を手放させる切っ掛けを作る相手だ。そうやすやすと見逃すわけにはいかない――――。

 だが表面上、その殺意は見せてはいけない。あくまでの冷静に、冷徹に、必要な形で、である。殺す、殺さないはともかくとして、少なくとも確保してホルダーに持ち帰るくらいはしないといけないだろう。

 

 …………なお投げた血風は相手の額から伸びた二本の角の内、左側を切断。地面に落ちた傍から猛烈な勢いで石化し始めたそれを「びゃああああああああッ!」と汚い悲鳴を上げながら拾い上げ、額に取り付けようと必死であったが、あえなく粉々に砕けた。

 いや、その技自体はフェイトから「一周目」の私(というか星月)が解析したものとはいえ、練習機会にあまり恵まれないこともあってそこまで強い技と言う訳ではないのだが……。おそらくサリーが狙撃した時の石化弾なんだか石化魔法なんだかよりも簡単に解除できると思ったのだが、どうやら彼女はその類のことは出来なかったらしい。と言うかそれ以上に、傷口であるはずの額から伸びて中折れになった切断面から、再生していない……?

 

「…………な、中々やりますね。流石『相対』アリフマンが全力ではないとはいえ敗走する男! でも人が話してる時に堂々と攻撃するのは良くないと思いますよ! 先輩、おこですからねっ! サリーもそういう所が有りますが、先達たる『昇華』魔人をもっと尊重なさいっ!」

「だから知らない名前……、っていやアンタ一体何目線なんだよ……(困惑)」

「…………刀太君?」

「九郎丸もさっきからその目は一体なんなんだって」

 

 いまいち締まりがないが、そんな空気はともかくとして三人とも一切構えを解いていないあたり、やはり空気と言うか世界観と言うかは幾分殺伐としているようではあったが。

 それ以上に、私としてはこれ以上キリヱ大明神に負担を負わせてなるものかと、心の内では決意を新たにした。(???「まぁ私はあの能力はちょっとやりすぎなモンだと思ってるがねぇ……。人間は人間としての尺度で最後まで生きるものだよ、普通は」)

 

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「…………刀太君?」

「だから九郎丸もさっきからその目は一体なんなんだって」

 

 そんなことを言う刀太君……、年齢詐称魔法が解けているので、ただ眼帯だけつけている刀太君になるんだけど、そんな彼は困ったように微笑むだけ。

 僕は知ってるんだ、刀太君がそうやって微妙な顔を浮かべてなんだかんだ文句を躱すときは、特に女性関係の時は意外とその相手にちょっと思う所がある時だって。

 

 そして、改めて敵対している、角が片方折れた「オティウス」というらしい女性の魔族を見る。服は修道服風の恰好で、髪色は白。肌は青く(さっきまでは白い肌色だったけど)、腰から羽根と背中には六本の刀が浮いている。そして服の裾からは長い尻尾みたいなのが延びていて、人間タイプの悪魔っぽいと言えば悪魔っぽい容姿をしていた。

 

 ただ、なんとなく少しだけ目の感じが雪姫さんに似ているような気がして……、性格は自警団のあのお姉様って呼ばれてた人っぽく見えるけど、それを思い出してるのか刀太君の応対が微妙に甘い雰囲気がするというか、表情の感じが少し気が抜けているようで、僕はちょっとむっとなってしまう。

 

 その、年齢詐称薬で大きくなった僕だって、自分で言うのも変だけど結構美人だと思うんだけどな……。胸だって夏凜先輩くらいじゃないけど大きくなってるし。背もすらっとしてるし、こう、お姉さん! って感じなら夏凜先輩にも負けないと思うんだ、うん。

 

 最初、その姿を確認してからよく目をそらすようになったのは、照れてるのかな? と思って結構嬉しかったんだけど、あんな風にちょっと温かい感じの目を向けられたりはしていないし……。って、こんなこと戦闘中に考えてる時点で僕も大分から回ってるのかな……。(???「僕ってこんなに色ボケてたかな……」「まぁ状況が違えばそれなりに、じゃないのかねぇ」)

 

「仕方ありませんね……。さぁ――――祈りましょう! 皆さまのために、皆様の神が、我々皆を決して死なせることは無いのだと! 改めて!」

「っ、刀太君!」

「応!」

 

 そう声を拡声させながら、彼女はまた空に飛びあがる。角の片方、折れてない方が光り、そしてその光が魔族たち全体にいきわたる。

 

「神鳴流変則、百花繚乱・百式(MAX)――――!」

 

 加えて、弐の太刀――代々、京都や桃源それぞれの「宗家」に伝えられる、魔祓いとしての神鳴流を汲むその筋を合わせて放つ。僕自身の気と、最近少しだけ感覚が掴めるようになった、僕の内のヒナちゃんの気。その双方を練り合わせて、周囲の空気を切り裂き、流れを作り、衝撃波を放った――――!

 

 これで精々が足止めしか出来ないのは承知済。だけどこれで生まれる隙をついて、刀太君と一緒に上空へと駆け距離を詰めて………………。

 

 

 

 …………そう思ったんだけど、バタバタと、角の生えた髑髏の戦闘員みたいな魔族たちは、その一撃で倒されていった。

 

 

 

「…………えっ、あれ?」

「はい?」

 

 困惑する僕と刀太君……、刀太君は刀太君でいつもみたいに左手をポケットに入れて、半身のまま上空に乗り出そうとするような姿勢の状態、そのままちょっと地面から三十センチくらい浮かんだまま、いきなり倒れた周囲十数体の魔族たちを見て、きょとんとしてた。

 あっ刀太君、ちょっと珍しい顔だ。半眼にもなってないし皺も眉間に寄ってないし、木乃香お祖母さんみたいで可愛い…………。ってそうじゃなくって。

 

 驚いているのは僕らだけじゃなくって、あのオティウスって魔族もそれは一緒みたいで。両手を広げて、指揮者が棒を振るようなポーズのまま、倒れた戦闘員魔族たちと自分の後方にいる、白いオーラみたいなので覆われた信者さんたちを見くらべて。

 

「…………あれ? あっひょっとして角です? 角ですか!? まだ再生していないのですか!」

  

 さっき刀太君が、血風の種類の一つなのかな? 石化させる形で砕いた方の角を触りながら、半分くらいから先が再生していないそれを触りながら……って、あれ? 折れたところ、少し手前まで石化している? それで再生しないのかな。

 でも、なんで自分の身体なのにどこまで石化してるのかとか判らなかったんだろう……。

 

 そんな彼女を前に、にやぁ……、と少しいじめっ子みたいな笑い方をする刀太君。

 あっ、ちょっと、いや結構悪い顔をしてる。今のクラスメイトの釘宮くんとか、熊本の時の野和君に絡んだりするときの表情だ。

 僕とかキリヱちゃんとか夏凜先輩とかにはあんまり向けてこないタイプの表情。

 

「成程、つまり『角が両方揃っていないと』、神聖魔法のなんか良く分からねーエネルギーみたいなやつを、他のやつに分配できねーと。でアンタ自身は九郎丸の雷光剣が通じたってのを見る限り、その恩恵にはあやかれないと。へぇ…………、へぇ……?」

「な、何ですその顔はッ! ちょ、その顔のまま直角に上昇して接近してくるのを止めなさい気持ち悪いッ!? ちょ、き、きゃあああああああああっ!」

 

 刀太君、そういうの良くないと思うんだ僕……。

 ちょっと可愛い悲鳴を上げて、魔族の彼女を空中で追い回す刀太君。転移か何かで逃げようとした瞬間にはその魔法陣目掛けて血風を放って妨害するし(魔法陣が砕ける)、ついでとばかりにもう片方の角も石化させて折ろうとしたりして、にも関わらずいまいち彼女も直接的な攻撃力はあまりなさそうだし…………。

 

「止めた方が良いのかな、僕…………」

「――――でもあれで、刀太くんも色々と考えている人格のようだから、何かしら彼女の能力に嫌なものを感じて抑えようと思っているのかもしれないね」

「それはそうなんだけど、今は単純に女の子をいじめてるようにしか見えないっていうか……」

「いじったり絡みに行ったりする場合はそれなりに親しい相手に限定してるみたいだから、害意を持ってるってことは敵意があるってこと、と解釈するのが正しい気もするけれどね」

「確かに友達にはああいう絡み方することもあるけど、僕には全然…………」

「女の子として見られてるからじゃないかな? 個体名(ヽヽヽ)『時坂九郎丸』」

「それはそれで嬉しいけど、少しだけ寂しいような――――――――って、へっ?」

 

 つい聞こえていた声に従いそのまま思わず会話をしていたけど…………。思わず右隣、さっきまで刀太君がいたところを見た。

 

 

 

「……ディーヴァ・アーウェルンクス!」

「やぁ。久しぶり……って程でもないかな?」

 

 

 

 僕の隣で、白衣に水色のフリルがいっぱいついた可愛いビキニの水着を着用した「大人の姿の」ディーヴァ・アーウェルンクスが……、例のダイダラボッチの事件の時に遭遇した敵であるはずの彼女が。「死んだ」と聞いていた彼女が、さも当たり前のような顔をして。その場で刀太君に視線を定めて追いながら、僕に軽くハンドサインで挨拶をした。

 

 えっと……、なんで無表情のままちょっと顔が赤くなってるのかな、この女性(ヒト)

 ………………刀太君?

 

 

 

 

 



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ST147.処置なしの相

毎度ご好評あざますナ!
意外とピンチかもしれないし、そうでないかもしれない


ST147.Physiognomy Indicates

 

 

 

 

 

「全く、『まともじゃない』頭が組織の上に居ると何をやったところでどうしようもないという典型例だな……。僕らも色々注意しないと」

「真壁の叔父貴?」

「……いや、何でもねぇ。とりあえず片づけンぞ。『物』も回収しとかんとなぁ」

 

 ホール出入口からしばらくの場所、大きな廊下とロビーが混じったような中途半端なエリアで。取引を主導していた大頭と、例の宗教組織の幹部数人。彼らを簡単に制圧して魔法催眠ガスで気絶させ、僕はため息をついた。

 大頭、別口の所の古い連合から来てるヤクザはともかくだ。彼もまた例の「幸福の轍」の被害者である。薬物中毒に陥っていたらしい彼は、逃げまどう宗教組織の幹部へとすがり、彼らが逃げるのを防いでいた。それに同情するかしないかはともかくとして、宗教組織の幹部連中は初めから何も救いだとかどうだとか、彼らが言っていた教義など簡単に投げ捨てている。

 金儲けにならないから、捕まる訳には行かない、と。そう逃げ出そうとしていた彼等は、一言で言えば只の「人間」だ。下手に狂信者がそういう立場でも問題なのだろうけど、こうも経済合理性のみしかいう事がない連中が、人から金を吸い上げているというのに思う所はある。思う所はあるけれど、それをどうこうするような立場に僕はない。

 

 組織がそこに存在し、ある程度の人数で構成されているのなら。なにかしら腐るところも出て来る。それは僕らUQホルダーだって同様で、だからこそ反面教師にしないといけない。

 

 ため息をつき、視線を横に振る。小さいリーゼント風の髪型と言っていいのか。そんな頭の舎弟、影巻に「薬物」の回収指示を出した。彼はサングラス越しに目を閉じて、頭を下げた。すぐさま他の若い衆に声をかけて、薬物の回収に回る。潟山(ウチの)組でもいよいよ古参になりつつある彼の指示で、数人が集まる。影巻含めて全員が「魔法アプリを発動できない体質」、古く言えば「呪文詠唱できない体質」の連中だ。彼等なら間違って薬のアプリを起動することもないし、仮に起動しても魔法が成立しないので、様々な心配がない。

 合同作戦ということで、他にもホルダーの構成員から数人、サブと言う彼を中心として防御あるいは肉壁代わりに前に出す。彼ら自身は僕らほどではないにしても「心臓を貫かれた程度」では死なない面子をそろえた。これで事前のシミュレーション的には問題がないはずだ。

 だが、こういう場合はえてして想定外のことが起こりうる。

 こういうフラグ「外」管理みたいなものは、僕が「こちらに」来てから長く経験している、その分詳しいのだ。

 

『ピカピチュー! ピカピチュー!』

[パイセーン! パイセーン!](※ゲームウィンドウ表示)

 

「…………君は、えっと、チュウベェだった。どうしたんだい?」

 

 後その鳴き声を止めるんだ、と。こちらに飛来してきた世界で未だに二番目に有名なネズミキャラクターを装うその小型妖魔に、思わずチョップを突っ込んだ。「ふみゅ!?」と空中でくるくる回転するけど、特に気にはしない。

 フラグ「外」管理について色々考えながらヤクザ妖刀・風来坊を収納アプリより取り出し、念のためリボルバーを適当に一つ見繕っている最中での、突然の出現。確か刀太の契約従魔だったはずだけれども、どうして彼の方ではなくこちらに現れたのやら。聞いてみれば相変わらず色々怪しい声をあげながら、しかし「視界の下方向に表示されている」僕のウィンドウには、意外と真面目な内容が流れた。

 

[中で女魔族出現! ビッグブラザァが適当に応戦してっけど、『完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)』から刺客きてるんだなー! なー! あばば、俺っちあの神聖魔法満ち満ちてる空間苦手……]

「神聖魔法云々は判らないけれど、内部が大変ということだね。…………仕方ない、中にいかないと――――ッ」

 

 そして話を続けようとした瞬間、斬、はら、りん、と僕の身体を刀が「通過した」。

 叔父貴、と僕を呼ぶ声が複数聞こえる。身体が崩れ落ちながら、背後からの襲撃にステータスウィンドウからマップ情報を表示させる。地図から現在、周囲にいる人間の情報を「僕の」知覚できる範囲で、どこに誰が居てどう襲撃されたかを確認しようと…………。

 いや、いない。僕の知らない相手ならば表示は「UNKNOWN」の通知が来ているはずなのだけれど、それがないということは既知の相手ということで…………、復活(リスポーン)地点をどう操作するか瞬間の判断が追い付かなかったため、肉体の死亡と同時にその場に再構成するタイプのリスポーン。服装はズボンだけそのまま、上半身は無し(というかマナフォン以外は破壊判定が入ったので再構成できなかった)。

 

 

 

 そしてそんな僕の姿に「はぅぁッ!?」と、妙に可愛らしい声が聞こえた。

 

 

 

「…………?」

 

 女性の声に心当たりはないけど、そういえば以前『副首領(ミスター)』から聞いた話を思い出す。確か「女難」の相が出ていると。アレは、あのヒトならば普通に占いなども出来るのかもしれないが、その前後でやっていたことを振り返ってみれば、僕に対して彼が何をしたかも推測できる。おそらくチュウベェ経由で確認した近衛刀太の好感度に対応する形で、彼もまた僕に対して好感度表のような例の魔法を使ったのだろう。

 だとすると、その中で直近そういった危険性がありそうな相手で、かつ「刀二本」を得物にしている相手は…………。

 

 近衛刀太、佐々木三太、時坂九郎丸など並ぶマップの名前からすぐさま検索し、その相手の位置を把握。僕はヤクザ妖刀を仕舞い、周囲に「下がれ」と指示を出しながらAK(自動小銃)を両手に構えて適当に「窓に向けて」乱射した。

 砕ける窓ガラス(アクリルじゃないのはあえて高級志向であったせいか)――――表には環境整備が行き届いている証のような、あるいは町並みに温かさを与えるために植えられたような街路樹が見えるばかり。だけど僕の銃撃に揺れる木々に、その上に明らかに「不自然に」「火花と金属音を散らす」何かが居た。

 やがて銃弾が切れ、それを乱雑に投げると。当たり前のようにその「弾丸が通過しない空間」に剣閃がひらめき、乱雑に自動小銃が砕けた。

 

 思わずメガネの位置を直しながら、収納アプリよりワイシャツを取り出す。

 

「………………人が仕事中にお遊び(ヽヽヽ)は大概にしていただきたいのですけど、『月詠さん』」

「――――あらあら、そんなつれへんこと言わんといてぇな♪

 どうもー、神鳴流です~~~~♡」

 

 ゆらり、と。ゆらめく空間。まるでCGの「透明」というテクスチャーがはがれるみたいな微妙に気持ちの悪い空間の割れ方をした。現れたのは…………、不思議〇国〇アリス? 桃色なエプロンドレス風に、金系茶髪で眼鏡をした、十八歳くらいのティーンエイジャーの少女だった。

 容姿に見覚えはない相手、だけれども。声や振る舞い、「彼女」にそっくりな部分は相変わらず。また技の流派を含めて、マップに表示されている人名は以前対決した「祝月詠」その人であると出ている。あと、こちらに「しな」を作ってウィンクしてくる謎のアピール(?)具合にも年代を感じるというか、おそらく彼女で間違いはないだろう。相も変わらず両手に刀二本、舌なめずりする勢いで非常にオリジナルな(狂った)笑顔を浮かべている。

 どういう理屈かは不明だが、サイボーグの肉体ではなく「生身」の女性の肉体となってこちらに来ていた。

 

「約束通り、本物(ヽヽ)でゾンブンに『斬り』に来たえ。さぁ……、オタノシミや♡」

「…………仕事中なので、せめて後にしてもらいたいのだけれども」

「スマンなぁ、本当はフェイトはんから薬物サンプルの回収に協力しとけって言われとったんやけど……、そないな細マッチョ見せつけられて色々辛抱たまらんわ♡ 滾らん女おらへんもん、ウチ悪くないっ!」

「そもそも『こう』した諸悪の根源は貴女では? ……っていうか業務放棄ですね」

「細かいことはえぇやん? ――――我流神鳴流・斬魔閃」

 

 と、彼女はニコニコ微笑みながら「瞬動」で僕の手前まで移動し、軽く左腕を振った。飛ぶ斬撃はそのまま柱に直撃し、その裏に隠れていた「彼」を震え上がらせる。

 

 佐々木三太……、恰好は今回の僕ら同様にスーツ風である。

 

 彼には万一、建物が崩れるなどの場合も含めて刀太たちにナイショで待機してもらっていたのだけれど。今回に関しては少しアテが外れたらしい。

 

「え、怖ッ!? 何それ、いや、怖ェ!?」

「あーれ? 思ったよりしっかりしとるユーレイさんやなぁ。逢瀬(ヽヽ)の邪魔しよるんやったら、それこそ軽ぅく三枚に下ろしておこうかと思うたけど、話せるんやったら別やなぁ」

「…………三太、君は刀太の方に行け。彼女および九郎丸の流派の事を考えれば、こちらのサポートに入るよりあっちに向かった方がいいだろう」

「げげェッ!?」

 

 神鳴流、詳しくはしらないけどステータス表示において確か対幽霊などの非実体系の相手への攻撃手段が豊富だったはずだ。これくらいの情報でおそらく十分伝わるだろう。僕のため息を受け「マジで同門ッスか!?」と悲鳴を上げた。

 まあ、「早ぅ」と睨んだろう月詠さんの視線を受け、悲鳴を上げながらその場から退散するあたりは、なんというか君も苦労するね……。

 

 そしてあいさつ代わりに、僕に向けて剣を振るった彼女に対し。収納アプリから取り出している途中だったヤクザ妖刀で受け、そのまま飛ぶように後退した。

 彼女の視線は僕の身体……、というより、ボタンを留める暇も無かった側、はだけた胸元や割れた腹筋に注がれていた。

 

「なんやその、お綺麗な身体にたっくさんウチが『跡』残してえぇと思うと…………、それだけでお米何杯でもイけるわぁ♡

 にゃ~~↑にゃ~~↓にゃ↑↑にゃ~~↓にゃ~~↓♪」

「歌に対して物騒ですね…………、ぴゅっ」

 

 もっとも、動きが以前よりも洗練されている彼女のそれに、すぐさま対応できる僕でもなく。ヤクザ妖刀を残して全身バラバラにされながら、顎から上だけ残しつつ今回の対策を色々と準備するのだった。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「――――確保ォ!」

「くっ…………、殺せっ!」

「いや殺したらアンタ送還されんだろ多分、この間そーゆーの見たぞ?」

「ぬぬぬ…………」

 

 そう言うのは大して詳しい訳ではないが、先日「魔天化壮」状態で倒しかけたヘルマンやらがそんなことを言っていた覚えがある。あるいは原作「ネギま!」の描写から考えても、召喚的な方法で来た魔族は倒された場合に「死なない」というか、そういう可能性は高いのだ。故に決して下手は打たない。というより打ってはいけないのだ、かなりこういったことには慎重である(戒め)。

 ちょっとエ□同人(そのテの)導入みたいなオティウスだったが、両腕両脚胴体を血装術で縛り、かつ上から尸血風による死霊属性の隷属(弱)的効果をかけたため、彼女はもはや動くに動けまい。魔族の姿も解け、普通に白髪のシスターさんみたいな恰好になっていた。というよりあちらの方が本体だろうに、なんで変身が解けた方が人間に近い姿になっているんですかねぇ……? 昇華、先輩とか言っていたか。ひょっとしてあのサリー(何もかも知らない妹)や私のように、本来は人間の姿ということなのだろうか。……人間の姿というより、昇華と言うことは、ひょっとすると――――。

 

 

 

「――――まあ攻撃手段がないのなら、予想は出来たことだけれどね、『刀太くん』」

「ふァッ!?」

 

 

 

 思わず変なうめき声を上げてしまったが、こればかりは仕方ない。

 咄嗟に黒棒を構えながら背後を振り向いたが、その場にいたのはさも当たり前のような顔をして私に向かって歩いてきているディーヴァ・アーウェルンクス(セクストゥム)!? お前さんいつ復活したお前さん!!?

 髪型はセミロングヘアを適当に垂らし、全身が濡れ水漬(みず)く。上着もなくその恰好……、青のヒラヒラ水玉ビキニ? というより下とか何でそんなローライズなんですかね(純粋な疑問)。可愛らしさに反して布地が微妙にマニアックと言うか…………。あと大分背中が大きく開いているのでは? そのデザイン。

 

 そんな私の視線を受けて、しかし彼女は両手を後ろに回して、少しだけ前傾姿勢になりこちらの顔を見上げるように…………、特に理由のない赤面止めろ(震え声)。

 

「どう、かな…………? 『個体名イシュト=カリン・オーテ』を参考に合わせてみたんだけど」

「感 想 と か 聞 く な (超震え声)。

 って、それより九郎丸――――」

 

「――――と、刀太く……ッ」

 

 見れば、美人さん九郎丸はその状態のまま、全身に半透明な水のコート状の何かを纏い、そのまま倒れて動けていない様子だ。アレを見るに例の「海天偽壮(マリンコード)」のようであるが、はて。防御派生の技だけではなく、拘束やらもっと色々と出来るように改良したということだろうか。

 そして上着の内ポケットに入れたまま腕が動かないということは、おそらくネオ仮契約カードを取り出そうとした段階で拘束された、と。

 

 私もちらりと携帯端末を見るが、チュウベェの存在はまだ確認できない。と言うよりこの場合はもう戦力としてカウントするべきではないだろう。とすると……。

 

「………………、尸血風(しぃけっぷう)! アンド脱走ゥ!」

「ぴゃー! 止めなさい後輩ぃぃぃぃぃ!」

 

「あっ」

 

 とりあえずその場に血風を展開して設置し、直線的に追跡が出来ないようにしてからオティウスのお腹を抱えて荷物運び(お米様抱っこ)である。死天化壮による逃走だが、いやまぁ普通に考えてあのフェイト並の戦力とするとどう考えても死力を尽くさざるを得ず、普通にやりあったら彼女を逃がすことになりかねないからね仕方ないね(白目)。

 と、後方から「ヴィシュ・タル――――」と始動キーの発音が聞こえてくるので、少しだけちらりと見れば。水のぷよぷよしたクラゲのような何かが複数出現し、ディーヴァの腕の動きに合わせてこちらに迫ってくる――――。

 

「――――刀太!」

「――――おぉナイスタイミングぅ、三太!」

 

「ぴゃあああああ! だからもっとレディは丁寧に扱いなさい後輩いいいいい!」

 

 と、いつの間に現れたのか合流したのか知らないが、悲鳴を上げながらこちらに走ってくる(浮遊してくる?)三太。そい、と彼に向けて手に持っていたオティウスを投げると、「あっ」と言いながらとりあえずは受け止めてくれた。

 

「な、何? 何いきなり投げてんの!?」

「ソイツ、敵! 重要! 確保、退散! 雪姫連絡! オーケイ!」

「…………わかんねェけど連れて逃げれば良いんだな!」

「そゆこと!」

 

 会話は適当で数少ないがこれでもフィーリングで通じる中学生的な雑コミュニケーションよ。少しだけ気楽と言うか、最低限のやりとりだけで「えっちょっと待ちなさい私このまま良い所なしで出番終わり!?」と色々察して焦り出す彼女へ、全力笑顔でサムズアップを送る。

 GO(ゴー)! と声を上げると、そのまま幽霊的な念動力を駆使して彼女を引き連れ退散する三太。相変わらず「ぴゃあああああ!」と変な悲鳴を上げている彼女に特に気を配らず、こちらに接近してきたクラゲもどきに向けて血風を放つ――――爆散!

 

「……精霊か何か? にしては強い訳でもないというか――――」

 

 

 

「――――本題はこっちだったからね、刀太くん」

 

 

 

 ふと声の方、前方右手前側を見れば、その場に転がるホルダー男衆および潟山組の若い衆の姿。全員気絶だけにとどまっており外傷はなく、その中心でディーヴァはアタッシュケースの中身を確認していた。足元には複数、同様のものが転がっているが、そのうちの一つを手に取ったのだろう。

 こう、おそらく2080年代ではほぼ通用しなくなっているであろうフロッピーディスクのようなものが、敷き詰められるだけ敷き詰められている。

 

「未使用のもの、最低でも20個。…………これで『半分』は終わり、かな?」

「……なるほど、アプリの回収の方が目的、と。って何で?」

「何で、とは? 前にも言ったけど、ヒントになるようなことは話さないよ。刀太くん」

 

 ケースを閉じたディーヴァは収納アプリを起動して、仕舞いながら私に視線を送ってくる。……なんというか、以前「ダイダラボッチ」内部で遭遇した時のディーヴァの感じと雰囲気に差がなく、一目見ただけでなんとなくやり辛い。そんな感想が私の表情にも出ていたのか、ディーヴァは突然顔を少し赤らめ、前髪をいじり始めた。って、何で?(純粋な疑問)

 

「そ、そんな顔をしたところで教えないから……、教えないったら」

 

「……………………刀太君?」

 

 いや、だから九郎丸のその目はさっきから一体何なんだと。それはそうとして先ほどからディーヴァ本人が「自分に」海天偽壮を使用していないのはどういった理由からか。それを使えば私云々は関係なくすぐ逃げられるだろうに。

 と、いつかのように仮契約カードを取り出した彼女へ死天化壮で接近し――――。

 

「――――ひぅ」

 

 だから意味も無く顔を赤くするの 止 め ろ (超超震え声)。

 いや、まぁ見た目や身体の成長度合いに反して精神的には経年数以上にはるかに少女というか女の子というか、もっと小さい子を想定するべきメンタルをしているというのは知っているが。だからといって本当に小さい子が大きなお兄さんお姉さん(妙齢)に対して懐くというアレを発揮している訳でもあるまい。おそらく何かしら意図があっての…………。

 

 それはともかく、仕舞途中のケースへ向けて、黒棒の先端から血風を放つ。ゆるく円を描きながら投げるように放たれたそれは、血風創天ほどの威力や大きさにはならずとも、今の移動速度が乗ったものになるので、結果アタッシュケース自体は簡単に破壊できる。

 それに「あっ」と言いながら、足場にあった他のものを弐つ手に取り後退するディーヴァ。

 

「ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト――――水の17矢(セリエス・アクアーリス)

塊血風(かいけっぷう)――――血装!」

 

 折れた黒棒だが、その刀身だけに血風を纏わせ、ディーヴァの狙撃を「自動迎撃」する。本来であれば血風は散らされてしまうが、石化効果のあるこれであれば狙撃自体に「物質として」干渉できる――――黒棒と接触した瞬間から泥になった水の矢を払い、のし、叩き、そして残る二つのアタッシュケースにも血風を放とうと――――。

 

 

 

来たれ(アデアット)――――無限抱擁(エンコンパンデンティア・インフィニータ)!」

 

 

 

 次の瞬間、私は唐突果ての見えない程「霧の深い」、障害物がないような広い平原へと投げ出された。

 

 

 

 

 




そろそろアンケ締めますが、あくまで参考までということで・・・
現状だとおおむね、18:00~24:00(前後30分)くらいのいずれかで投稿って感覚になりそうです汗


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ST148.あねぷらす

毎度ご好評あざますナ!
遂に何かが限界に達したらしい……ちゃんさんェ……。


ST148.Catfight X unCatfight

 

 

 

 

 

「………………………………詰みでは?」

 

 思わずの私の一言であるが、応える相手はいない。それもそのはずと言うか何と言うか。その感想なのも、この広大な「霧に覆われた平原」に放り出される瞬間に聞こえた声が原因だ。全身に感じる微妙に嫌な感覚……、「無限抱擁(エンコンパンデンティア・インフィニータ)」といったか、あの魔法具(アーティファクト)はかつてフェイトの拾い子たち(通称フェイトガールズ)の一人が使用していたものである。決して泡影ではない(迫真)。

 無限抱擁、その効果としては、無限大に近いほどの広がりを持つ空間を展開する、というものだったはずだ。結界空間というか、異空間というか亜空間というか。とにもかくにも外界から隔絶したものであるのに違いはない。その基点は術者となっているためこの空間内部にその相手はいるのだろうが、いかんせん相手はここを好き勝手にいじれることもあってその所在地はかなり自由が利くのだ。そのせいか周囲の風景は私の記憶にあるものとは異なっており……、このあたりは作画コストでも気にしたのだろうか(メタ)。

 かつて「ネギま!」においてはラカンのオッサン(変態にチートを持たせた劇物)が、それはそれは酷い手段(と気合い)を用いて脱出したことがあるが、その方法はどう考えても私で再現できる類のものではない。おまけに今までの傾向から考えて、つまりこの本来の所有者は過去篇においてラスボスの手にかかっていることを考えれば…………。いや、それはそうとして環はん何でフェイトはんと敵対しとる側に協力しとるんえ?(口調崩壊)

 

 なお周囲を探せど術者の姿はない。魔法的なホログラムのような投影すらないということは、おそらくラカンによって破られた例の方法とかを懸念してラスボスがそういうことをさせていないのだろうが、いやそれはそれとしてあんな方法が取れてたまるかッ! という話である。まあ何にせよ詰み状態に違いはない。黒棒が壊れて居なければまだ多少なりとも可能性はあったのだが……。

 

「…………弱りました。まさか私まで巻き込まれることになるとは」

 

 私の脚元で転がっているディーヴァもディーヴァである。というよりも、彼女こそがこの詰み状態の最たる原因だ。

 正直な話、それこそ後先考えなければ魔天化壮でも(使いたいとは思わないが)使ってしまえば色々不都合なく何とかなってしまうような気はしているのだが(それこそ私の認識キャパを大いに超えて「金星の黒」のエネルギーを放出して空間の魔法エネルギーを飽和させて崩壊させるとか?)、ただそれをイメージした瞬間猛烈に嫌な予感が脳裏を過った。足元、というかディーヴァからである。

 

 ひょっとするとだが現在の彼女は、原作カトラスのようにいざとなればネギ=ヨルダ(ラスボスに乗っ取られたネギ)を呼べるとか、そんなことなのだろうか? 馬鹿正直に確認はしないが、こういう感覚は外れたことはないので特に行動には起こさない。

 なお不貞腐れたように転がるディーヴァであるが、その足元には石化したアタッシュケースが二つ転がっている。さきほどの戦闘で、どちらも血風自体は回避できなかったようだ。それだけがとりあえずは一つの救いと言って良いのだろうか、いまいち判断に困るところである。

 

 と、ごろごろ転がって私の脚(というか死天化壮のブーツ)にぶつかったディーヴァは、そこに抱き着きながら視線だけ上に向けてきて…………、いや振る舞い方が幼児かお前さん(真顔)。表情自体は無表情そのものだが、なんとなく目がにっこり細められているように見えるのは私の錯覚か何かだと思いたい。……思えない反証できる前提は色々あるが、どう思うかは私が決めることにするってばよ(混乱語録)。

 それはそうと、情報収集は試みよう。若干欠けたままになっている死天化壮の裾を引っ張って遊んでいる(?)彼女に、出来る限り普段通りのテンションで声をかけた。

 

「あー ……、何? お前さん、()と一緒に捕らえられる予定はなかったと?」

「わたし?」

「おっと!? あー、俺と一緒に、だな。なんか口調移ったか…………?」

 

 あの雪広の血縁のような気がする少女にキクチヨと呼ばれたせいか、あるいは勝四郎(九郎丸)からそう呼ばれていたせいか。なんとなく「そういう」警戒心が緩んでしまっているのだろうか……。一人称の崩れに指摘してきたディーヴァだったが、特に興味はないようで、あくびを一つ。

 

「ヒントは与えるつもりはない………………、けど、このくらいは大丈夫でしょうか?

 当然の帰結です、刀太くん。足止め対象と逃げるべき私が一緒に捕らえられたら、本末転倒ではないでしょうか」

「そういえば口調も丁寧語に戻ってんな……」

「監視の目がないようなので」

 

 監視の目の有無で何故に口調を……。あー、以前の言動から照らし合わせて、ひょっとして「グレてる」というか「私は貴女たちに不満を持っています」という意見表明か何かなのだろうか、あの振る舞い。つまり地は丁寧語の方で、不満を表明したい相手が居る場合に限ってフェイトじみた口調になると。

 となると脱出手段とかは確保していないのだろうか、この女……。いやひょっとしなくとも術者であろう環自身が、こちらの情報を監視しない(コール)こちらから情報を探られない、という作戦でもとっているかもしれない。ますます何一つ情報がなく、かつラカン戦のことを思えば色々と頭が痛くなる話だ。あえて考えないようにしていきたい。

 と、そんな私の脚にすがりつきながら立ち上がり、ディーヴァはビキニの胸元の位置を直しながら聞いてきた。

 

「そういえば、聞いてみたいことがあったのです。監視の目がない今なら、特になにもせず確認して問題ないでしょう」

「? あー、何の話だ。っていうか人の質問には答えない割に自分は聞くのかお前さん……」

「いえ、ヒントになること以外でしたら、答えたところで問題はありません。刀太くんはそういう『私個人』に関して質問したりしないから、答えていないだけです」

 

 そう言いながらディーヴァはこちらの顔を少し高い位置から覗き込んでくる。年齢詐称系の魔法を解除していないため、身長はこちらの方が低いから仕方ないのだが、さっきから向けられる視線が微妙に、それこそ「私」からして親戚やら孤児院やらで子供相手に遊んでいた時のようなものを感じてしまって変な気分であった。

 

 なお、その変な気分すら彼女の発言にぶっ飛ばされた。

 

 

 

「――――刀太くんは、個体名『時坂九郎丸』『結城忍』『結城夏凜』『カトラス』『桜雨キリヱ』『伊達マコト』『近衛帆乃香』『近衛勇魚』『エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル』、あと私のうち誰が好みなんですか?」

「張っ倒すぞお前さんッ!?(白目)」

 

 

 

 思わず大声で突き飛ばしてしまった。「あぅっ」とだけ声を上げてゴロゴロ転がっていくディーヴァだが、「何故押されたんでしょう?」と声を上げて平然と立ち上がるあたりダメージはない。

 

「何故でしょう、不思議です。そんなに変なことを聞いたのでしょうか」

「いや変というか普通そーゆーは聞くものではねーからなお前さん……(地雷原そのものだし)。というか帆乃香と勇魚については妹! がっつり血が繋がってるから絶対有り得ねーっての!」

「そうですか? 何故でしょう、それにしては、個体名『近衛勇魚』が刀太くんに向ける視線とかスキンシップの仕方とか…………」

「お母さん経由で何とかしてもらうしかねーかな(震え声)」

「何故でしょう、急に怯えたような声を出しますね。ふむふむ…………、やはり不思議です」

 

 何を不思議がっているのか、というかその選択された面子は一体何だというのか……。黙っている私に向けて、人差し指をたてて頬にあてて「いえ、その」と何やら考えながら物を言うディーヴァ。というかそもそも何故、その勇魚の視線というか云々について知っているのですかね……(謎丁寧語)。

 

「改めて個体名『このちゃん』『せっちゃん』、さらには個体名『ちうさん』と色々会話してわかったことです。

 愛とは、以前に聞いた話もそうですが、やはり様々な要素や感情、損得、駆け引き、指向性、そういったものの複合体であると。どれか一つという答えを導くことが難しいからこそ、色々と情報を出して刀太くんも私に考えさせようとしたのでしょうと」

 

 思いの他、素早いラーニング結果のような回答が返ってきた。返ってきたのは良いが、果たしてそれがどんなルートを辿って私が誰を好きなのかというルーチンにたどり着いたのやら。というかその話自体「こちら」の人間関係をしっちゃかめっちゃかにして壊滅させようという作戦だと考えれば、超がかつてネギパーティに投げ込んだ必殺「家系図」(真実)並の爆弾そのものであるので、必殺には違いあるまい。(???「だってねぇ?」「アハハー、耳に痛いネ」)

 

「ですから逆説的に、ある意味で個体名『ちうさん』より先に、真面目に私の質問に向かい合ってくれた貴方だからこそ、そんな貴方はどういった考えなのかと思いました。

 私として造物主(マスター)に求められている命令(オーダー)ではない、ですが。これもまた、私が自己学習する必要が有る事と考えました」

「そう言われてハイソーデスカって回答できる話でもねーんだけど……。それ結果的に敵に塩送るみてーな話になるじゃねーか。お前さんの学習に反映して色々やってくるんだろ?」

「はい」

「即答……(震え声)」

 

 素直に即答するところに、やはり見た目以上に謎の少女っぽさを覚えるというか……。いや仕事に関することはなんらヒントを与える気はないと言っていた通りなのだろうが、それはそうとして他の事は拘らなさすぎなのでは?

 しかし「ちうさん」ねぇ…………。いや、あちらにもちゃんと真面目に教育に取り組もうという相手が出来たのも納得はいくし、元祖「ネギま!」から考えて一番適任かもしれない相手ではあるのだが、それはそれ、これはこれである。

 

「まあどちらにせよ、それに答えるつもりはねーんだけど……、あー、……」

「何故でしょう? 教えてください、刀太くん。おっぱいくらい見せてあげても構いませんから」

「それは止めろ(真顔)。肩紐のフリフリをずらすな(震え声)」

「何故でしょう? 触りますか? それとも刀太くんが脱がし――――」

「完全に痴女じゃねーか!? 前に話したの全部すっぽ抜けてるのかお前さん!!?!?」

「何故でしょう? 刀太くん以外には信用できないから、こんなことしないというのに。それに個体名『せっちゃん』から、男の子はそういう直接的な接触の方が色々と良いらしいと過去の話、貴方の祖父相手に――――――」

「その話、絶対私が聞くとヤバい類のだから止めろ(超震え声)。

 前にも言ったけれど、好奇心を暴走させて何でもかんでもそういうことをするのは色々間違ってる以上にお前さん自身が変態さん認定されるからな?」

「そこについては、個体名『ちうさん』から個体名「せっちゃん」より大分マシだと言われたので、心配は無くなりました」

 

 ちうさんから変態のキワミみたいに名指しされてるとか、せっちゃんェ…………(血涙)。(???「アンタ知ってるかい?」「確かに刹那クンはエロ刹那クンだたし、順当に成長したと考えれば弩エロ刹那クンになても不思議ではナイかナ?」)

 

 色々考えはしても、例の人工精霊の方のエヴァちゃんが出てきていないことからして、直接的に私の生命の危機とかそういったことでは無いのだろうが。それはそれとして、無表情ながら純粋な目でじーっと見つめられるこれは色々と大ピンチである。大ピンチなのである。

 釘宮相手ですら特定の誰かという話すらしなかった訳で、しかしそれは特定の誰かを決定してしまった方が「原作的に」も「周囲の言動」的にも、なんだか今後が危ぶまれるところがあるのだ。…………将来的な話をすれば、それこそどこまで原作を踏襲するのかはわからないが、最低三人とは「そういう」関係になる流れが存在している訳で。それを思えば「誰がどうこう」と決定づける必要はない、むしろ決定づけた方が危ないという可能性すらある。

 

 つまり、一つ間違えるとメンバーのメンタルブレイクにつながり、全く知らないタイプの世界崩壊イベントの引き金になりかねないと思っているのだ。

 いかにこう、少し妙に愛着のようなものを抱かれている相手とはいえ、その優先順位だけは崩せないし崩すつもりもない。

 

 そんな意図までは伝わっていないだろうが、少しシュンと元気をなくすディーヴァ。なんで自分よりも年上の姿をしている彼女相手に、大人げない事をしてしまったような罪悪感を感じるのか……。やはりこの世界正気か? 原作からして正気じゃなかったかこの世界――――。

 

 

 

 ――――そして突発的に感じた「嫌な予感」に後退した瞬間、全身が「拘束された」。

 

 

 

「……霧? はい? えっマジで?」

 

 明らかに目の前のディーヴァから感じた「嫌な感覚」は、特に伝播することも無かった。もともとうっすらこの空間自体に「嫌な感覚」があったせいで鈍ったのかは定かではないが、突然霧自体が「水の十字架」のように再形成されたのを前に、身体が絡めとられたのだ。解ける死天化壮……、一体いつ仕込んだこの術というか何というか? 聞いても応えてはくれないだろうが、なんとなく魔法アプリ由来のものである気がしてきたが、それはさておき。

 そんな拘束された私を前に、ディーヴァは思案気な表情となる。ブツブツと「あまり楽しくないです」「個体名『せっちゃん』さんはやはり変態……」など色々ツッコミを入れたいようなワードが入ってきた気がするが、いやお前さんがせっちゃんを変態認定は止めておくんだ、同じ穴の狢に見えるぞ(震え声)。そもそも周囲から半分くらいは痴女認定されているのだから、それが情緒的な無知によるものだとしても、もう少し色々考えた方がいいと思う(マジレス)。

 

「後は…………、どうしたものでしょう? 以前のように『捕捉できない速度』で動かれると厄介ですから、これで封じましたが」

 

 言葉はそれだけだったが、なんとなく察した。会話である程度油断していたこちらに対して、ダイダラボッチ事件と化したゾンビウィルステロ事件の時の介入のごとく、私を「回収」するつもりらしい。「夜明け」陣営といい「世界」陣営といい、最終目的は違うだろうにこちらを何故必要とするか……。「世界」陣営は概ね察しは付いているが、「夜明け」陣営についてはいまいちわからないが、それはさておき。

 それにしては前回の時も思ったが、ディーヴァの挙動から微妙に「嫌な感覚」が感じ辛い時がある。基本的にこの「妙な第六感」めいたものは、原作主人公の肉体を基準とした戦闘センスやら何やらに由来する「身の危険」的なものを察知している類のものだろうと思っていたのだが、それにしては彼女相手には割と適当に捕まることが多い印象だ。このあたり、星月あたりと相談するべき内容なのかもしれない…………。

 

「…………使われる気配はなし、と。……どうしましたか? 刀太くん」

「いや、えーっと、九郎丸を拘束していたアレをやらねーんだなと思って」

海天偽壮(マリンコード)ですか? アレは白衣に対して術を使っているから上着が――――あっ」

 

 ちょっと目を見開いて、両手で口元を押さえるディーヴァ。「言っちゃった!」と嘘がバレた子供じみた仕草なのだが、だからどこからどう見ても美女と美少女の中間くらいの容姿でそんなことされると色々と思春期が危険なので止めて欲しい(震え声)。ついでに言えば無表情ながら少しバツが悪そうに、照れてるのか困ってるのか微妙な風に目を閉じて口を結び「んん…………」と頬を染めながら声を出されても、だからそういう仕草で色々と思春期が(以下略)。

 と、一応は私に向き直り、まるで何事もなかったように話し始めた。

 

「…………では、このまま個体名『サークレット』を探します。彼女を発見し次第、一緒に『造物主(マスター)』の元へ『来てもらいます』、刀太くん。……ついでに、先ほどの話の続きを道中にでも――――」

「……いやそんな話、する必要性あるのか? お前さん。ヒントになるから秘密って、てっきりいうのかと思ったけど……」

 

 というより、そもそも「回収します」じゃなくて「来てもらいます」と、言い方が変に柔らかくなっているような気さえする。そのことを指摘すると、やはりというか「あれ?」といったように目を見開いて、両手を合わせて大きく開いたその胸元へ――――視線がついその並々ではないサイズのものに引き寄せられるので思春期が(以下略)だから止めろ(震え声)。

 

 というか私も大分余裕があるな。これは………………、おそらくはアレだ。ディーヴァ本人が私個人に強く「害意を持っていない」せいなのかもしれない。通常の戦闘時の「嫌な感覚」のキレの良さというか、それと今の状況とを比べるとそれくらいしか差がないせいもあるのだが……。

 

「と、とと、と、とにかく! 拒否権はありません、刀太くん。そこで貴方には、色々と造物主(マスター)の話を聞き、否が応でも協力してもらいます」

「………………」

「何故でしょう? そのような、変な目を何故向けて来るのでしょうか」

 

 だからこう、回収でもなく、明らかに私を「造物主の道具」の一つとして扱っている感じではなく、一つの感情ある生命体として扱っているこの感覚と言うか、物言いと言うか…………。やぱりバグか?(???「何もしていないのに壊れた! とか言い張るつもりかい、トータ」「……………………刀太君?」「隣、怖いネ!?」)

 

 そして、そんな私の目を数秒見つめてから、ふいっと逸らすディーヴァ。そのまま呪文の始動キーから詠唱を始め…………、いや、やはり変だ。ここに至っても無限抱擁に取り込まれてからの嫌な感覚だけは継続しているが、危機感や違和感を抱くに抱けない。サリーと相対した時ともまた違う、まるでこちらの「何か」に対して嫌に特攻されているような……。流石に偶然の類だろうが、このままでは――――――――。

 

 

 

「――“乾いた地(シーカム・サブマリ)”!」

 

 

 

 聞き覚えのある声――――そんな「彼女」の声と同時に、ディーヴァの後方の霧が「縦に裂けた」。否、霧だけではない。明らかに霧の裂けた先は、さっきまで居たホールが広がっており、見覚えのある様な無いような男衆のシルエットがちらほら。

 そしてその中央で、素手で「結界空間を裂いて」いるのは…………。

 

「……ふむ、とりあえずは拾い上げましょう。

 ――――“御翼の陰(アンブラ・アルム)”」

「な、に……?」

 

 背中に光る翼を生やした「彼女」は、こちらに侵入するといつの間にやら修復された日本刀を使って、私の首を――――いや当たり前のように斬るなお前さん何考えてるんだお前さん痛い痛い痛い痛い痛い痛い熱いッ!?(マジ切れ)。あまりの躊躇いのなさにディーヴァすらびっくりしてしまっている。そしてそのまま私の首を掴み、再生ないし「元ある肉体やらをベースに修復」している私を引き連れ牽引し、ディーヴァから距離を取る。

 明らかに、彼女の背中の翼から放たれる光によって周囲の霧が「散っている」。少しダイダラボッチ事件の終盤の怨霊関係を思い出すような光景だが、まるで彼女の周辺だけ霧の侵入を拒絶しているかのように、霧はその存在を掻き消していた。

 

 空を見上げれば、雲と巨大な石材が連なったような物体が浮かんでいる青空。そんなものが見えるようになった芝生で、夏凜は完全に再生した私の身体を力強く抱きしめた。

 

「えっと、あの、夏凜ちゃんさ――――ッ!」

 

 そして問答無用にキスをされた。秒ですらない、瞬間で耳が大きくなったり縦縞のネクタイが横縞になるような速度の瞬間芸のような、圧倒的素早さである。

 あまりに一瞬すぎて呼吸する暇もなく、苦しいと彼女の背を軽く叩くと、わずかに口を放され呼吸する暇を与えてもらった。ぜい、ぜいと多少整った状態で夏凜の顔を見る。目と目が合うその表情は…………。

 

 少しだけ悪戯っぽく、優し気で、そして非常に何だか色々と見ているだけで許してくれそうな、包容力のある笑みだった。

 

「……夏凜ちゃん、さん?」

「――――はい、貴方の(ヽヽヽヽ)夏凜ですっ」

「            」(※絶句)

 

 声がこう、すごいフワフワした可愛らしい感じだが、しかしちゃんと年上の威厳あるお姉さんと共存してるような微妙なラインの声音で返され、そのまま目を閉じて、ゆっくりとキスをしてきた。

 

 あっ(察し)。

 

 ディープなものではないにしろ、ついばむように何度か繰り返されるその作業……。後方から「こ、これは愛……!?」とディーヴァの困惑するような声が聞こえてきたが、私も色々限界だったのかふっと目を閉じて、されるがままになっていた。疲れたよ星月…………、なんだかとっても疲れたんだ…………。

 

 

 

 もうこれ、夏凜関係だけはさぁ……、完全に修理不可能だよね……(観念)。(???「いくら何でも認識が甘いんじゃないかい? アンタ」「で、でも、流石に夏凜先輩もここまでオカシクなってるのは刀太君的にも予想外かな~って……」「今からコレでは、先、思いやられるネ~……」)

 

 

 

 

 



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ST149.海を引き裂く

毎度ご好評あざますナ!
大体サブタイ通り……、ほぼギャグ回です(嘘は言ってない)


ST149.Miracle That Divides The Sea

 

 

 

 

 

「あの、えっと、いい加減話にならねーんで、止めてくださいッス」

「では、続きは後で」

「何で急にそんなアグレッシブになったんスかね(真顔)」

「これでも自重している方よ?(流し目)」

 

 答えになってないんだよなぁ……(震え声)。

 いわゆる宇宙空間での壮絶な孤独経験をいきなりすっ飛ばしてこのえっちさ、やはりこのお方は相当にえっちなお方だったらしい。せっちゃんと良い勝負ができそうである(偏見)。

 

 いや、そんな正気がどこかに宇宙漂流刑されているような話はともかくとして。もう何と言うかいい加減、彼女に関しては言い訳を自分に対してしていて限界を感じるようになってきた話だが、それは後回しにしておこう。大体同じくらいの高さにある顔が正面から離れ、よやく身体が自由に……、自由……、だから左腕になんで抱き着くのかその色々とさっきから頭が痛くなる距離感(動揺)。新手のハニトラを仕掛けられているような気がしないでもないし、色々と思春期の男子の肉体的には厳しいもの上がるのだが。いくら精神性がそれなりに上で、「私」的には経験が無い訳でもないにしろ、少しは自重しろと言いたい。

 そんなこちらの内心が伝わったわけではないだろうが、夏凜は「いえ、違うの……」と断りを入れた。

 

「違うのよ、刀太……………………、我慢できないならこの後■■■にでもいって■■■■■■■■■■■で■■■っても問題はないし■■■■――――(※自主規制)」

「本当にどうしたアンタ!? いくら何でもえっちが過ぎるわッ! というかTPO弁えろって夏凜お前さんがよく言っている奴だろう何がどうしてそう暴走してるッ!!?!? そんなに攻勢に出られたところで私だって手を出したら後はどうなるか知ったことじゃないぞ!?(錯乱)」

 

 思わず素でツッコミを入れてしまったが、それくらいには色々と(少年誌的に)危険なワードが踊っていた夏凜の一言一言である。なお一方の夏凜は「呼び捨て……」と少し照れたように一度微笑んでから咳ばらいをし、そのまま腕を引っ張って耳打ちしてきた。

 

「(一応は作戦です。あのディーヴァ・アーウェルンクスだったかしら、彼女。「愛」という概念を知りたがっているとレポートに書いていたわね、貴方)」

「(書いていたから何なのだ)」

「(ですから、混乱させようと考えて)」

 

 見てみなさい、と。視線を私から正面の方に逸らす夏凜につられ、それを追うと。まるでパソコンがフリーズでも起こしたみたいに、瞠目しながら口やら手元やらが周期的にガタガタ震えて……、というよりそれこそ「ガガガッ、ガガガッ」みたいな壊れかけのラジオみたいな音を立てて震えているディーヴァの姿がそこにあった。

 一体それはどういう感情からの挙動なのやら……。(???「いわゆる『脳が破壊された』状況じゃないかねぇ」)

 

「盛大にバグってるな…………」

「ふむ、さっきのアレであの反応になりますか…………」

「何故にバグらせた張本人がそう分析するみてーな物言いなんスかね」

「そんなことより、アレで効果があるのでしたらもう一回くらいシておきますか?」

「やらないッス(マジレス)」

 

 とりあえず遠方に投げ捨てられた黒棒……らしき黒い線みたいに見える物体に向けて、指先からひも状に血装を伸ばす。いや、本当に空間が広すぎるのと何も障害物がないせいもあって、一度転がっていった黒棒が延々と遠くに行ってしまっているのだ。お陰でいまいち吸血鬼視力を持っても、そのシルエットが判然としない距離である。

 そんな私の様子に気付いているのかいないのか、とりあえず再起動したらしいディーヴァは一瞬ハッとしたように頭を振り、何故か両手で自分の耳たぶを引っ張りながら大きな声を出した。

 

「――――刀太くん、痴女とは彼女のことではないですか!」

「        」(※絶句)

 

 返す言葉もないッス(真顔)。

 

 そんな私の様子を見るまでも無く「ここは任せて貴方は武器を」と前に出る、気遣ってるのかそうでないのかいまいち判然としない夏凜。ちなみに恰好は普段通りに制服姿で、リグにポーチやらを複数装備しているスラム編でのそれに近い恰好だ。

 そんな夏凜は私を背に庇いつつも、ハンマーと日本刀を仕舞い腕を組んだ。

 

「何を馬鹿なことを、ディーヴァ・アーウェルンクス。良いですか? ――――痴女とは、雪姫様のことです」

「アンタもアンタで何言ってるんだ……」

 

 素で出てしまった一言に答えず、夏凜はリグの胸ポーチから眼鏡を取り出して装着する。レンズは入っていない伊達メガネのようであるが、なんとなく真面目な学級委員的雰囲気のあるそのクールな容姿には似合っている気がする……と、そんな話ではない。謎のその挙動をしてから、夏凜は武器を仕舞ってディーヴァに向かって腕を組んで宣った。

 

「雪姫様はあれで迫った相手がどういう反応をするか愉しんでいらっしゃるところがあるので、相手から『確定させたい』私とは色々と条件が異なります」

「どういうことッスかねそれ(震え声)」

「貴女が好奇心のままに刀太を震わせるのとはまた別に、私は私なりに気遣って刀太を震わせています。……震わせるというより『硬くしている』が正解かもしれませんが」

「何の話だ(震え声)」

「そもそも『このヒト』は、そのテの物に関しては基本的に手を出す余裕がないようです。しかしそれはそうと、肉体的よりも精神的には『最初から限界』だというのを、私は知っています。ならばせめて、少しでもその『追い詰められている事実』を忘れさせてあげられるよう、苦心するのが務めでしょう。ゆえにこれは、単純な性欲と興味本位の発露と言う訳ではありません」

 

 証明終了、とでも言わんばかりに眼鏡の(ブリッジ)を押さえてから組み直す夏凜。そんな彼女に、ディーヴァは片手でこめかみを抑えながら「ええと、つまり……?」と震えながら何か言葉を選んでいる。おそらくギャグ描写の漫符的にはお目目がぐるぐるしていることだろう、無表情のくせに器用な……。

 

「個体名『結城夏凜』……、貴女は、刀太くんのことが、好きということですか?」

同量で(ヽヽヽ)好き合ってはいないと思うわ」

「…………、……ん?」

 

 ディーヴァはこんらんしている!(ポケモ〇並感) 一瞬彼女の頭上にピヨピヨが見えるくらい、夏凜の一言に対して受けている処理エラーじみた「ガガガッ」という動きである。震え方も大きく、本格的に色々と何かが破壊されつつあるのかもしれない。丁度黒棒に引っ掛かった血装の罠が手元に返ってきたので、そのまま黒棒を軽く肩に担いで事の推移を見守る。

 

 夏理も夏凜で、答えになっていない返答なんだよなぁ……、いや予想やら推測やらはつけられるが。ただ言及したら最後、色々本格的に覚悟を決めて責任をとらないといけない路線に入りそうで、せめてもう数年は待ってもらえませんですかと声を大にして言いたい…………、コミックス21巻分くらい先まで(無茶)。 

 というよりも、同量、同じくらいには好き合っていないとか、それって…………。いやそもそも、私としてもそんなにノリ気と言う訳ではない大前提があるので、あまり強く言う事ではないのだが。第一、そういう問題の関係の話など「私」的には色々あって(ヽヽヽヽヽ)面倒くさかったり、最終的には以前に勝四郎(ヽヽヽ)と――――、いやそれこそ「私」基準の話をここでしても意味はないのだが。

 

 そんな言い訳めいた内心の私はともかく。夏凜はディーヴァに向けて、やはり明確な口調の割には断定を許さないような言い回しを取り続けた。

 

「そもそも私だって、自覚させられたのはつい最近ですもの。『このヒト』に言わせればそれが正常な距離感というものなのかもしれませんが。ですが、そういう問題ではないのです。

 先ほどからの反応、見れば見る程におそらく貴女自身が考えている自分の価値基準にそぐうようなものではないと考えますが、どうでしょう?」

「何を、憶測で物事を、騙るのですか、個体名『結城夏凜』」

とあるツテ(ヽヽヽヽヽ)から貴女がここで刀太をさらう、という情報を事前に確認したので、刀太の上げたレポートも含めて色々と貴女については考えてみました。その上で言うなら、貴女は『自らの組織が求める忠実なる戦士』として生み出され、しかし『生まれたての生命が物事を知り成長したがる』、当たり前の人間としての自我も併せ持っていると考えます」

 

 このあたりは雪姫から特に説明を受けた訳ではないのだが、何故知っているお前さん……。ひょっとして聞いたのか? 雪姫に。あるいは今の言い回し的に、キリヱ大明神経由で「一緒にやり直して」情報収集でもしてきたのか……。だったら何故キリヱも私を巻き込まないのか、知らないところでガバ量産されても困るんですが(困惑)。(???「乙女心が判らない男だねぇ……」「負担をかけたくないその心……、私、キリヱサンに『女』を見たネ!」)

 まあ言ってこない以上は何か事情もあるのかもしれないし、流石に「頼って良い」というのはもう理解しているだろうから一人で突っ走り続けはしないと信じたいが。(???「あらまぁ……」「そういう所ネ」「………………」)

 

「つまり貴女は、その『本体』相応には普通の……、普通より少し幼い女の子なのでしょう」

「…………その、良く分からない分析に何の意味があるというのですか、個体名『結城夏凜』。

 ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト――――」

 

 詠唱を始めたディーヴァ。彼女の背後に芝生を呑み込む巨大な津波のようなものが段々と現れる。……それはそうと、夏凜が作った空間の裂け目のようなものへは海水が回っていないようで、ずっとそこだけ「裂け目が」「存在し続けている」。まるでチャチな合成のような光景だが、しっかり現実の現象としてそうなっているとなんだか気持ち悪い。

 そして向こう側に美人お姉さんな九郎丸の姿……。あらかた向こうの方も処理が終わったのか、隙間からこちらを覗いて驚いた顔をしていた。だが叫んだりする声は聞こえない。これは、はて? どういう現象なのか……。後で侵入時の話を聞けば推測も立てられるかもしれないが、それはさておき。

 

「おいおいおいおい……」

「大丈夫です刀太、任せなさい?」

「いやあの、ディーヴァの水系魔法って俺とだいぶ相性悪いっつーか……、血が水で散らされて色々使えなくなるっつーか……」

「それは、死活問題ですね。…………わかりました、私が対応しましょう」

 

 ディーヴァのそれに対して、夏凜もまた両手を合わせる。「パンッ」と柏手1回するような動きをし、ぶつぶつと聖句なのか呪文なのかを唱えている……。いや、というかやっぱり夏凜もディーヴァもだが、日本語ルビがない言語をそのまま話しているため、結局何を言っているかいまいち分からないのが悲しい所なのだが。

 

 そしてアンダースローでボールを投げるような、あるいはアッパーカットを喰らわせるようなモーションで術を発動するディーヴァと――――。

 

 

 

「――――『呑み込む深海(カタフィノタス・サラッサ)』‼」

「――――“乾いた地(シーカム・サブマリ)”!」

 

 

 

 そんなディーヴァが起こした「海そのものの様な」巨大な水の壁へ、夏凜は手を差し込み、それを「二つに裂いた」。

 開け胡麻というか、両扉を勢いよく左右に押し開けるかのように。波がこちらに接触するよりも先に腕を勢いよく左右に動かした夏凜。それと同時に、眼前の水の壁に「光の亀裂」が入り、そのまま当たり前のように左右へと分かたれた。物理法則を無視するかのように、分かたれた波はこちらに流れてくる気配はない……、というか巨大な滝みたいなものが左右にあって非常にザーザーと煩い。

 えーと、いわゆる「海割りの奇跡」か何かで?(出エジプト記) もし仮にそうだとしたら完全に特攻の神聖魔法である。

 

 流石のディーヴァも当たり前のように引き起こされたその現象には目を丸くする。そんな彼女へ向けて、夏凜は飛び上がり、拳に光を握る。

 

聖絶なる拳(ホーリーブロー)――――!」

「――――っ、処刑者の剣(エンシス・エクセクエンス)!」

 

 咄嗟のことで詠唱破棄をしての処刑者の剣(エクスキューショナーソード)だったが、それでも当たり前のように夏凜の拳を受けることが出来るあたり、ディーヴァの基礎スペックの高さを伺わせる。……というかやっぱりこの性能って絶対RPGでいうラストダンジョン系の奴だって、少しは手加減しろよ世界……(震え声)。

 そのまま拳と手刀サイズの処刑者の剣(エクスキューショナーソード)による疑似格闘戦となる両者だが、私も「今の」戦力では下手に介入するに介入できず、さてどうしたものかというところだ。ディーヴァ以上に今の夏凜がいる状況で魔天化壮など絶対に使う訳にもいかないので、脱出手段を考案するのが非常に難しいことこの上ないのだが……。

 

 ……と、つい視界に入る例の亀裂。私と目が合ったのに気づき、嬉しそうに微笑んで手を振る九郎丸。「僕だよ! 僕だよ!」と全力でやってるその姿に、なんとなくポメラニアンとかあの類の犬種を連想してしまう。

 

「……こっちに手を振ってる九郎丸の方に血風を投げたら、なんか上手い事亀裂が広がったりしねーかな」

『流石にそこまで上手くはいかないと思うけどな、相棒…………』

「おぉなんか久々に感じるなお前……」

 

 めっきり話しかけてこなかったはずの星月、唐突な一言である。とはいえそれを聞いてしまうと、本当に私にこの場で出来ることが何もなくなってしまうのだが…………。無くなって…………、いや? 待てよ?

 

「星月さん、星月さんや」

『何かな、相棒』

「今更なんだけどさ、ふと思ったんだけど――――血風創天というか血装術の最大射程(ヽヽヽヽ)ってどのくらいなんだっけ?」

 

 自分で考えた技にこんなことを言うのは色々問題があるのだが、そういえば、である。ある意味で今まで、基本的に近距離か中距離での使用がメインだったこともあり(主に周辺被害への警戒から)、そういうことについては一切ノータッチだった。検証したことがないと言い換えても良い。私のその確認に、星月は「そこに気付いちゃったかー ……」とため息をついた、様な気がした。

 

『………………えっと、理論上は「ない」ね。もっとも相棒の身体と血が繋がっている前提で、だけれど』

「マジか。とすると、…………、場所さえ判れば術者に攻撃、与えられるってことか? やったことないけど、ずっと血を使い続ければどこまでも伸ばせるってことなんだし」

『そうだけど、それこそ相棒が『場所を』感知する術がないと難しい、かな。物理学的な話? っていうか、角度(ヽヽ)って開始点と終点において、ズレが少しでもあると、距離が離れれば離れるほど修正不可能なずれの幅になるし。なによりここって空気抵抗もあるから、きっと思ったほど真っすぐには行ってくれないと思う。

 ……そういう意味で、あのサリーって妹ちゃんは中々厄介になりそうだね、今後』

 

 相棒ほど不死性はないけど射程に関しては、と言及する星月にため息をつく私である。流石にそこまで世のなか上手くは出来ていないか。ちょっと今後の課題だな、これは……。

 

 

 

「――――――結論は一つです、ディーヴァ・アーウェルンクス……、負けたらこちらに下りなさい。下った方が、貴女にとっても幸せなはずです」

 

 

 

 ……………………………………………………。

 

 色々人が真面目に脱出手段の検討をしている傍らで何をやってるんですかねあの女性(ヒト)(震え声)。

 

 頭上から降ってくる素っ頓狂な一言に思わず上を向く。背中に羽を生やした夏凜が例の退魔刀に神聖魔法を纏わせて斬りかかり、氷の三又の槍でディーヴァがそれを受けながら、なにやら色々呪文詠唱をして夏凜にぶつけているようだ。とはいえ当たり前のように「真っ白に輝く」夏凜はそれをものともせず、軽々と相手に格闘戦を要求している。それとてほぼ互角なので状態は拮抗しているが、明らかにメンタル的な何かで夏凜が押していた。

 というかディーヴァは顔を赤くして混沌としていた。何やってんだアンタら!?(ドン引き)

 

「いくら何でも、そういう訳にはいかないです……、個体名『結城夏凜』!」

「あら? でも貴女だって、さきほど例に挙げたフェイト・アーウェルンクス同様に自らの使命に疑問を抱いてしまっているのでは? ほかならぬ貴女が学習しようとしている『愛』という感情が存在しうる『今の世界』故に」

「だとしても、私は、そういう存在として在るのであって! そちらに行ってしまったら、学習している意味すらなくなります!」

「…………その学習、についてもそうなのだけれど。貴女、本当にそれを『活かす』つもりがあるのでしょうか」

「何を――――」

 

「――――そもそも魔法薬物の回収だけが目的だったはずなのに、わざわざ刀太を無理に回収しようとする必要はないのではないかしら?

 傍から見れば、それこそ執着してもっと話したい! みたいな欲求が勝っているように見えるわよ?」

 

 つまり好きということです、と。何もこんな場で無能先輩ムーブさらさなくても良いだろうに、夏凜は真顔でびしっ! と指を突き付けた。

 夏凜の一言に、一瞬空中で動きが止まるディーヴァ。そんな彼女目掛けて、再び光を握った拳で殴りつける夏凜――――クリーンヒットすぎてその衝撃波めいた何かにより水着が弾けるの止めろ! 展開が滅茶苦茶になるから私ですら気を遣ってるお色気描写止めろ何だテコ入れか何かか!? 夏凜も制服がだいぶボロボロでブラやら色々見え隠れしているし……。

 いつかのように全裸となって、高い水の壁面に叩きつけられるディーヴァ。水中に投げ出されないのは一体どういう原理かは定かではないものの、ディーヴァは無表情ながら涙目で夏凜を睨み…………。

 

 何故か私を見て、懇願するような声を上げた。

 

 

 

「刀太くん、止めてえぇ! この人、こわいぃぃ……ッ!」

「ごめん無理(合掌)」

 

 

 

 戦力的には海天偽壮がないにしても五分だというのに、夏凜はディーヴァを完全に心理戦で圧倒していた(恐怖)。

 

 せめて巻き添えを回避したいがために手を合わせて、全世界億万民居るかいないかなキリヱ大明神信奉者の一人として、せめて安らぎがあらんことをお祈りする他なかった。

 キリヱ大明神……、キリヱ大明神……(震え声)!

 

 口調が崩れて小さい女の子めいた悲鳴を上げるディーヴァに、しかし夏凜は容赦せずもう一発、拳をお見舞いし…………。

 どこからか「うわぁ……、絶対出ないでおきましょっ」と、聞き覚えのない女の子の声、おそらくこの空間の主たる環だろう声が聞こえた。

 

 

 

 

 




追記:活動報告に質問コーナー的なのを作りました。前回のアンケ企画に近い形を取ろうかと思うので、詳しくは[光風超:設定&質問コーナー的なアレ]の記事をご参照ください・・・締切日注意汗


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ST150.確乎不抜

毎度ご好評あざますナ!
 
今回ちょっと短め&やっぱりたぶんギャグ回です(震え声)


ST150.Unwavering Love

 

 

 

 

 

『って、何故魔法具(アーティファクト)を呼ばないのですか! このままだと捕まってしまいますよ義妹(いもうと)!』

「……何故、妹呼びなのかはよく判らないですけど個体名『サークレット』、そんな準備をしている暇が無―――――ぶっ」

『あわー!? 義妹ぉー!!?!? あとそれから、フェイト様につけて頂いた()って呼んでくださいぃー!』

 

 夏凜から延々と殴られ続けているディーヴァ(流石に絵面が酷い)。そんな彼女の隣に唐突に出現した、薄い金髪(黄緑?)で褐色の少女の幻影。側頭部には大きな角が生えており、恰好はそれこそ「ネギま!」で見た当時のままフェイトの従者(フェイトガールズ)をしていた頃とそう変わりない。そんな彼女、環は、目は半眼だったが大慌てでディーヴァに助言。もっとも当然のようにそんな状況関係なしに聖なる拳を叩きつけ続ける夏凜はある意味で時代に輝いている(謎)。

 そして正直やることが無くなりつつある自分としては、傍観しているだけで大分暇だった。いくらこの空間を保持する術者たる「環」が出てきているとしても、実体ではなくどこか遠い所にある本体からの映像投影でこちらを監視している状況である。こちらから手出しはできないので、本当に何かやることが有るわけでもなく出来ることが有るわけでもない。

 そして「止めてくださいー!」と絶叫している環に、夏凜は視線をそちらに向けた。……いやもはやほぼ肩紐のフリフリしか残っていない哀れビキニだったものの残骸な恰好のディーヴァ、所々打撲痕とか唇のはしの血とか生々しすぎるわ! ジャンル不明すぎる一体どこの需要に応えたのやら……。さっきから涙目だったこともあって色々洒落になっていない。まあ最高神OSR師匠(オサレ創造神)は割とそのテの「可愛い女の子が酷い目に遭う」ことに妙に全力を注いでいる時がある気がするが(爆)。

 

「ならばこの空間を解除してください。基点となる座標特定にも時間がかかりましたが、同様の作業をこちらでするつもりもありません」

『そ、そんなことをしたら大変なことになるではないですか……、最悪フェイト様にこんな情けない姿を見られることに……し、しかしフェイト様の妹をそのまま捨ておくわけにも……、あぁー! せめて暦だけでも一緒に来てくれていたらッ!』

 

 まぁ確かに時間/空間双方の魔法具(アーティファクト)コンビが揃っていれば揃っているで出来ることも色々あるのだろうが、この女性(ヒト)相手にあまり意味がある気がしないのはご愛敬(白目)。

 気絶しているディーヴァをこちらに投げて寄越す夏凜……、とりあえず死天化壮を形成しその裾を大きく広げる。具体的にはBLEAC〇(オサレ)的に言えば〇月(■■■■のオッサン)が「影」を使用している時の様なノリでだ。そこに受け止め簡易のコートを血装で作ってやり、手元足元口元だけを拘束。本人の意識が戻ったらあっさり解除されそうでもあるが、とりあえずは念のためである。

 と、私の方を見て優し気に微笑んでくる夏凜であるが、一体何だその表情の裏側にある感情というか何というか。

 

「何ッスか? あのー」

「いえ、やはり『殺しはしない』のだなと思って」

「…………まあ、そりゃあ。でもホルダーに持っていくつもりとかないっスよ? たぶん簡単にポンポン復活したってことは、向こうにとって軽い扱いか逆に凄い重い扱いかってことなんでしょうし」

「どちらにせよ良い話ではありません、か。……本人が納得しないので、続きは■■■のベッドで―――――」

「だからストレート剛速球エッチで殴ってくるの止めろ(震え声)」

 

 フフフ、と冗談だとでも言わんばかりにくすくす笑う夏凜だが、口頭で「冗談です」と否定されるまで警戒を解くつもりはないぞ私は。

 

「そうですね、そういう話は後にしましょう。まずはここを脱出する必要がありますか。

 ふむ…………、察するに『亜空間』の類のように思いますが、いかがでしょうか?」

『そんなの聞かれて教えると思っていますか? まあ、仮にそうだったとしても貴女たちには対処できないでしょうがね!』

「あっそういえばアンタ、さっきから足元気になってたッスけど、今パンツ履いてないんじゃないッスか?(セクハラ)」

『いえこう変化する関係もあって種族的な理由で履けな――――ハッ! な、何を言ってるんですかネギ・スプリングフィールドの孫ぉー! アナタも変態の種族ですか!』

 

 バッ! とスカートを押さえにかかった彼女だが、そのリアクションでなんとなく察した。……いや履いているか履いていないかという話ではなく(真顔)。なので夏凜は「ふむ……」と自分のスカートを見て何やら思案するの止めろ、私にそのテの趣味はない(震え声)。

 察したこととしては、現時点の環のリアクションについてだ。本人的には大したことはないと考えているせいもあるのだろうが、よっぽどのことでなければ「本当のことを」を聞かれた際に口走ってしまう。「違っていること」を言われた場合はおそらく下手に誤魔化すのだろうが、よほど今のこの空間の扱い方に自信を持っているのだろう。

 つまりは、夏凜の指摘も私の指摘も間違ってはいないということだ。履いてないのだ(再セクハラ)。

 

「と言う訳で、なんか夏凜ちゃんさんの指摘はあってるっぽいッスよ?」

「何が『と言う訳で』なのかよく判らないのだけれど、刀太……。まあいつもの感じからして、相変わらず何かを察したのでしょうけど。

 しかしそうなると…………、ふむ、色々方法はありそうだけどあえて『切り札』を切る必要があるとまでは思えないし……………………」

 

 口ぶりからして何か、この状況を打開する技とかがあるということなのだろうか。考えてみれば「異空間」への直接侵入とか中々頭のおかしいことをやってのけた夏凜なので、俄然期待は高まるが――――。

 と、夏凜はディーヴァを拘束し抱える私の手前まで来て、そして聖なる光の拳でディーヴァを殴りつけた――――って何やってんだアンタ!? 拘束消し飛んだし。

 

『ちょ――!? 何をやってるんですか貴女!!?』

「サークレット、と呼ばれていましたが、環さんと呼べば宜しいでしょうか?」 

『そんなことはどうで……、いや良くないので環とお呼びください。ってそうじゃなくて! というかそのままネギ・スプリングフィールドの孫まで殴りつけてるしっ!!?』

 

 はい? と声を上げる前に夏凜の手が私の死天化壮を蹴散らした。そんな状態のまま夏凜本人もブレザーを脱ぎ始め――――。

 

 

 

「よく聞きなさい環さん。貴女がこの空間を解除しないと言うのなら、今から三人で■■■■■■■■■■■■■■■■します(※自主規制)」

『マジで!? 止めなさいぃーッ!!?』

 

「貞操を人質にとるなっ!(戒め)」

 

 

 

 無能先輩の無能の晒し方としては過去最低レベルの無能っぷりだった(無能)。やろうとしていることが完全に敵側で低OSRに足を踏み入れかねないのでそういうことは止めろというかシャツのボタンを外すな(戒め)。裂け目の向こうから九郎丸が絶叫あげてるような姿が視える…………、半眼向けられてないだけマシと思っておこう(末期)。

 なお思わずツッコミでチョップを入れようとしたのだが、立ち位置が悪く夏凜の下着姿な上半身のお胸に一発。意外と弾力のある感触でうち返され揺れる…………、そうか揺れる柔らかさなのか……ってそんな話ではない(思春期)。というか「ひゃぅぅッ」とか頭ふわふわな声を上げるな顔を赤らめるな感じ入るな(思春期)。そのチョップした手をガシッと掴んで胸元に誘導するないい加減襲うぞ!(思春期)

 

 …………いや襲わないが(正気)。(???「性欲に恐怖心が勝って我に返ったようだねぇ」)

 

「いや、一体何の目的でそんな冗談を―――――」

「彼女に対して、戦略的に効果があると判断したまでです」

「効果あっても普通はやらないのでは……(震え声)」

「……に対して、戦略的に効果があると判断したまでです」

「えっ、何? 今、何に対してって言ったッスか?」

「とりあえず、まずはキスから始めますか―――――」

「判断が早すぎる(震え声)」

 

『何考えてるんですかぁー! 少年少女が見てるかもしれないんですよー!? 

 というか意識のない義妹相手に何しようとしてるんですか!』

 

 メタ流石に色々と夏凜の行動が彼女のキャパシティを超えたのか、目の前のホログラフィックのような幻覚が消えて、遠方で『ギャオオオオオオ――――!』みたいな壮大な叫び声が聞こえた。……これは、ちょっと本気で怒ってるやつですね。

 と、それを聞いて夏凜は上半身下着姿の上から直接リグを装着しはじめ……。

 

 

 

「さぁ、あとはこちらに来るでしょう本体をどうにかすれば何とかなるでしょう。

 挑発行為も十分効いたようだし、」

「あのレベルのアレを挑発と本気で言い張るつもりッスか?(震え声)」

 

 

 

 ここまでくれば作戦? の意図は判ったが、それにしたってもっと何かこう……。要は環を動揺させ、自らこちらに来させれば良いというものだったのだろうが、上手く行ったから良いものを、という感想しか出てこない。……いや私も何か良い案があったかと言えばそういう訳ではないので、これ以上はあまり文句を言うべきではないのかもしれないが(震え声)。

 

 ごうごう、と空気を切り音を超える速度で物が接近してくる音が聞こえる(疾風迅雷時とか割と起こるのでなんとなく判る)。果たして遠方になんとなく見えたのは、鳥のような毛のフワフワとしたシルエットを持つ竜のようなもの。それこそ原作「ネギま!」で非常に見覚えのある、竜人である環のドラゴン形態だ。ただ戦績は…………、まあそのまま本人が怒りのままに殴りにくるよりは遥かに戦闘力は高いだろうが、ある意味我を見失って接敵するということを許してしまった時点で夏凜の作戦勝ちなのかもしれない。そういうことにしておこう(遠い目)。

 そんな夏凜は「干からびた骨(オゥス・エクシィカッタ)」と言って全身に白いオーラをまとう。そのままハンマーを収納アプリより取り出して構える――――。

 

 と、へくち、と気絶しながらもくしゃみをするディーヴァ。血装でとりあえず適当に掛け布団的なものをつくってかけてやって……、いや本当ならスーツのジャケットとかそういうものでも良かったのだが、先ほどの夏凜の一撃で私も上半身裸なのだ。いくら作戦のため「これからおっぱじめるわよ(意訳)」の説得力を持たせるためとはいえ、こちらの着衣までぶっ壊すのはどうなんでしょうかね……。眼帯も無くなっちゃったし、もう少し手加減して演技しろ(白目)。

 

 …………本当に演技だよね?(震え声)(???「今日はずっと声が震えてるねぇアンタ」)

 

『―――――あれ!? 無事ですかぁ! って、わわっ!』

 

 音速で接近してきた環だが、我々から数メートル先の時点でその飛行が急停車。ディーヴァの無事を確認する、および自分の衝撃でダメージを与えないためということなのかもしれないが、そのストップが命取り(?)。ハンマーに聖属性でジェットを吹かすと「魔素加速重鉄槌(マナブーストスレッジハンマー)!」と叫びながら突貫する。そんな、明らかにモンスターハンターをするには大げさすぎる一撃、躱すことはできず。『ぐえぇぇぇぇぇッ!』と汚い悲鳴と共に、ボロボロの恰好の竜人形態となって、環はゴロゴロと弾き飛ばされて倒れ込んだ。夏凜は夏凛でその足を引きずり、こっちまで持ってきて収納アプリから縄を取り出して拘束を始めた。

 

 これはひどい(マジレス)。

 

「…………おや? これは、解除されませんね刀太」

 

 なお倒したところで、状況は好転せず継続する模様。私的には元祖「ネギま!」的な理由で察しはついていたが、こればかりは仕方ない。

 

 環の魔法具(アーティファクト)「無限抱擁」は、亜空間の展開、結界の生成のような能力ではあるが、これの解除については「術者を殺す」か「魔法理論を破綻させる」ことが必要になってくる。前者はつまり術(というよりアーティファクト)が本人そのものに依存するタイプのもの、形は違うが「潜在能力解放」のようなものの延長にあるからと考えられる。環本人とこの空間が紐づいているが故に、彼女の意志が無ければ解除できないということだ。

 一方後者は、いわゆるこのアーティファクトのベースになった魔法そのものが出来た年代、それに紐づいた「物理学的な」理論的裏付けが問題となってくる。まあ早い話、「空間の歪みが閾値を超えた」超重量物質もしくはブラックホールそのものが結界内で発生すると、結界自体がその状況に対して対処する術を持たないが故に、内部的な魔法のロジックが破綻して状態を維持できなくなるのだ。

 

 夏凜の場合、本人を気絶させただけなのでオンオフについてどうこうという話がなかった。それが現状に繋がっている訳だが………………。

 

「…………あー、もっとシンプルに考えれば良いか」

「刀太?」

 

 とりあえずディーヴァの拘束をし始めた夏凜に少しだけ肩をすくめた後、折れた黒棒の先端で円を描く――――縁に沿い血装を延ばし、血の円形を生成。その四方から十字のように伸ばし、ついでにそれっぽい趣味(オサレ)的な理由から更に延ばして「卍」型のようにも見える状態に。まあ要は普段の大血風だが、これを投げずに、私は環をこの円の中心に来るような位置に調整して「置いた」。

 見ようによっては血の魔法陣の中心に彼女が置かれている状態だが、ここに死霊属性の尸血風を混ぜて流す――――。大血風自体にそれが浸透したのを確認して、そのまま血装を用い環の全身に「付着させた」。絵面としては魔法陣がドロドロと黒なんだか赤なんだか紫に輝いたと思ったら、収縮して彼女の全身を這うようになってる絵面なので、見た目だけで言えば相当に酷いものがある…………。

 

 とはいえ、効果は折り紙付きだ――――アーティファクトが潜在能力解放に関連しているというのならば、つまるところ形態としては「術者の全身から」放たれている魔力が基点となっている。そこに、その魔力の制御を乱す血風、それどころか制御を奪い取る尸血風が入り込んだらさてどうなるか…………。

 空間全体にロジックエラーを引き起こすのとは違うが、これもまたアーティファクトを成立させている魔法理論を壊す行為に違いあるまい。

 

 果たして、パキン、という音と共に。

 私の目の前には仮契約カードが一枚落ちて、ピシリピシリと空にヒビが入り、砕け――――。

 

「…………はい?」

 

 

 

 ――――会場に戻った私が見たのは。九郎丸たちすら含めたほぼ全員が、各々その場で「深い眠り」についている姿。

 

 

 

 誰しもが目を閉じ、どこか幸福そうな顔をしている人間もまばらに…………、いやおおむね会場の中心あたりに源五郎がいるのはまだ判らないでもないが、一緒にいるあの眼鏡にエプロンドレス風な彼女は……?

 

 い、いや、なんかそれにはツッコミ出すと色々面倒事が起こりそうなので一旦スルーしておくとしても、会場の中心に立つ、見覚えのない、紫色のローブ姿の誰か。横顔に見えるその表情はわからず、ややリアル調な猿を模した仮面で隠されており――――。

 

「フンッ。オティウスの馬鹿女もこれで身の程を知るだろう。自らの失敗を俺に尻拭いさせられるのだからな。

 これで、アガリ・アレプト様の第一秘書の座は! この俺『先見』のグサイン様のもの―――――――――って、誰だ貴様らッ!? いつの間に出て来た!」

 

「……‥……」

 

 だから魔界関係は本当、もうちょっとなんとかなりませんかねぇお師匠様…………。

 

 

 

 

 




活動報告に質問コーナー的なのを作りました。前回のアンケ企画に近い形を取ろうかと思うので、詳しくは[光風超:設定&質問コーナー的なアレ]の記事をご参照ください・・・締切日注意汗


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ST151.シン・呉越同舟

毎度ご好評あざますナ!
仕事するあの女性(ヒト)


ST151.SHIN - Fighting Between Enemies

 

 

 

 

 

 先見のグサインを名乗ったその魔族は、慌てたようにランタン状の装置を構えた。手に持つそれにフロッピーディスク状の何かを、底面の挿入部に。私が何か反応するよりも先に、男の手の動きで照明は大きく輝き―――――。

 

「無駄です。その魔法薬物、大本は幻術をベースとした術でしょう。そういったものは私にとっては塵に等しい――――――――スゥ、ヤァァ……」

「夏凜ちゃんさーんっ!?」

 

 そして後方、得意げに胸を張っていた(なんなら下着姿に直接リグな恰好なので大いに大きいおっぱいを張っていた)夏凜は即落ちだった。快楽とかの類ではなく、おそらく「幻灯のサーカス」であることを考えれば、自身が望むタイプの幸せに叩き落とされたということになるのか。動きその他から見て、あの魔族が持ってるランタン型のそれこそが「幻灯のサーカス」発動のための魔法アプリ起動装置(というか発動媒体?)ということなのだろうか。

 夢見は表情を見る限り良さそうなのでそこだけは「良かったねぇ……」なのだが、どうも単に気絶していただけだったらしい環やらディーヴァやらにもその影響は及んでいるらしい。先ほどまで白目を剥いて「きゅぅ」と言う具合だった環が、目を閉じながらデレデレな表情である。一体何の夢を見ているのやら……、微妙に予測が出来そうな気もするがそれは置いておいて(フェイト関係)、ディーヴァはディーヴァで目を閉じても無表情で全く予測がつかない。

 

 そして、私に関しては一切効果が及んでいないようだった。一瞬ちょっと立ち眩みを覚えたが、その程度である。

 

 そんな私はともかく、その背後で倒れた夏凜を見てグサインは指さし点検でもするように声を上げた。

 

「…………制圧ヨシ!

 ってヨシじゃない!? 貴様、何故効かない!!? そもそも貴様らはどこから生えて来たのだ! ええぃ無駄に在庫を一つ消費することになったではないかッ!」

「目の前の俺スルーしてヨシ! してる時点でさぁ……(困惑)。

 あといきなり情報量多くないッスかねぇ。…………って、生えて来たっつーよりは見えなかった、が正解なんスけど。たぶん」

 

 そもそも「無限抱擁」に囚われていた私たちに関しては外部から認識できていなかったはずなので、原因を求めるなら術者の環にある。こちらに文句を言われても困るのだ。

 それはそうとして、私に「幻灯のサーカス」が効かず夏凜に効いたというこの一連の流れは一体……。

 夏凜について一番ありそうなのは、彼女を護る「神の愛」と考えられる何かしらの超パワーが、術式を敵対しているものと認識しなかったということか。そもそも考えてみれば、なんでもかんでも無効化するなら雪姫ことエヴァちゃんの年齢詐称魔法もそうされて然るべきなのだ。そうならずに影響を受けて大人の姿の彼女を見ているということは、つまりそういうこと――直接身体やら精神に害のないタイプの術は、攻撃判定にはされないということか。

 一方の私に関してはどうなのかという話だが、これはちょっと悩みどころだ。「幻灯のサーカス」自体、そのシステムとしては「対象の深層意識にある最も幸せな願望」をベースに精神を捉えて離さない、というものであるが。その特性上、術が効きやすい相手は「現実世界に満たされない想いを抱いている」ヒトである。これを鑑みればおおよそ、この場のほぼ全員が術にかかったというのも頷ける。

 ホルダーやら組の構成員やら、そもそも「幻灯のサーカス」中毒も含めて。今の時世は、それくらいには不安定だ。最低限首都近隣は「それっぽく」見せかけてはいるが、全国規模で見れば圧倒的な格差がそこにある。

 誰しもが救いを求めたいが故に「幻灯のサーカス」は抗いがたいものであり――――故に、現実に満足しているような相手には中々効かない。

 元祖「ネギま!」でいうとまき絵やら千雨あたりが顕著だが、つまるところ「今にある程度満足できる」人間に対して、深層意識で相当な葛藤などがなければスルーされるのだ。

 

 果たして私に関してそれが当てはまるかと言うと…………、自分では多少当てはまらなくもないだろうとは思うが、それ以上にもう一つ微妙な可能性が残っている。

 

「…………ちょっと確認なんだが、それって『魔人』とかには効くやつなのか?」

 

 そもそも魔人が何であるかとか、魔族とどう違うのかという話はさっぱりだが。ニキティスやらオティウスやらもそうだったが、それぞれの面々が各々に口にする――――私の事を、吸血鬼ではなく魔人であると。

 とするのならば、ひょっとしたらそのカテゴリーの違いこそが何かしらのトラブルというか、世界観崩壊(ガバ)の基点の一つになっているのではと思いはしたが。

 

「そんなもの別に関係はないぞ? 術者が対象を除外していれば無関係だが」

 

 そんな風に、当たり前のように返答してくれる猿仮面の魔族である。とするなら、まことに遺憾ではあるが、私もまた現状に比較的満足している人間の一人だということか…………。自分で言うほど今の自分に不満を抱いていないと? 今の状況に不満がないと? 本当に? 正気か自分?

 ま、まぁガバの基点がその魔人とやらに無くて良かったと判断しておこう。流石に私自身まったく手出しできない領域から発生しているそれであったら、正直もう手出しできないのだ。頭が痛い。(???「自分で手出しできて完全にぶ壊した女関係はスルーするかナ?」「だからアタシの枠をとるんじゃないよアンタ」)

 

 自問自答に陥りながらも、改めて雑に血風を右手に収束させるように血装術を行使する。見た目だけで言えばネギぼーずやらエヴァちゃんやらディーヴァやらがやっていた「術式固定」の類に見えなくもないが、猛烈な鉄臭さを放つそれを、チュウベェを取り込む要領で胸部の傷痕へ――――同時に拡散する血と、背部の傷からも噴出する血。それが雑に嵐のように旋回し、相手の攻撃への牽制となる。

 こちらが色々やってるのに対して、グサインは特に何もせずランタン片手にこちらを見ているばかりだった。これは、何だ? てっきり普通に攻撃してくるものだと思っていたので防御含めた演出モーションとしたのだが……。まぁ良い、そのまま折れた黒棒で斬り払うように血の嵐を薙ぎ、その亀裂を中心に一気に私の全身に血装。死天化壮(デスクラッド)、と申し訳程度に技の名乗りを入れて、構える。

 

 と、グサインがそんな私に向けて、何故か拍手をした。…………いや意味わからないのだが? えっどうしたお前(困惑)。と、ブルルルと携帯端末のマナーモードなバイブレーションが震える。これは……。

 

「そうか成程、貴様が……。その血装術の練度、実に見事! なるほどコレでは今の(ヽヽ)ザリーチェですら手出しできまい。オティウスの愚か者など歯牙にもかけぬか。

 もともとあ奴は『固有能力』以外は特筆するべき点もないから、正しくそんなものなのだろうが、それを差し引きしても実に完成度が高い」

「あー、えー、何? なんで敵対してるのに褒められてるんスか俺?」

「事実を語ったまで。かの『観測』により『先見』の名を承ったこの俺、自らの目で見たものを偽ることなどするつもりはない。

 故に、俺も最初から本気でいこう――――はァ!」

 

 言いながら、グサインは片手を手刀、片手を握りこぶしとして手のひら側に合わせる。なんとなくモーションの動きにデュナミス戦闘モード変貌時の物を思い出すが、それと同時に男のローブの両肩が膨れ上がり、ラクダのこぶを思わせるアーマーが形成される。同時にグサインの影から幾重もの狼のような犬のような頭のシルエットが現れ、ギラギラと私の方を見ていた。

 狗神、ではないにしてもグサインが使役している魔獣か何かなのだろうか。とするとこの場で戦うと周囲への被害が――――。

 

「――――案ずるな、我らが最新最速(ヽヽヽヽ)同胞(ともがら)よ。

 こやつらが狙うは貴様一人。いくら制限があったとはいえ『相対』アリフマンに撤退をさせ、ザリーチェに恥辱を味わわせた貴様を、他の誰よりも俺は正しく評価しよう。故に、ついてこれるか――――!」

 

 構えをとるグサインに対して、私は血風……に「見せかけた」血の塊を黒棒の折れた先端に制作し、地面に叩きつける。接触、と同時に「拡散」。さながら赤い霧をイメージし、相手の周囲全体の視界を覆うように。

 今のうちに――――――――。

 

 

 

「視界を潰すか。……広がるまでの速度も速い。かの『背教』には及ばぬにしても中々のものよ。

 だがこの程度の小細工で、アガリ・アレプト様配下の中で最も武勇に秀でるこの俺を倒すことが――――――――な、何!? くっ、くおおおお……、ぎゃふんッ!」

 

 

 

 ――――今のうちに携帯端末に「戻った」と知らせてくれたチュウベェを使って、疾風迅雷(サンダーボルト)にしておいた。

 

 あくまで武闘派気質のようなので、視界を奪われた程度では「卑怯な!」などとは言うまいと考え。さらにはあの口ぶりから、こちらの先制攻撃を受けるだろうと判断し。そう言った事情から、早々にチュウベェを携帯端末から出した私である。

 状況はわからないまでも「ふみゅー ……」と何故か責めるような視線を向けて来たチュウベェを無視し、そのまま血装で体内に取り込んだ。

 

 後はそのまま、例によって「超加速」のままに背後に回り、霧を晴らしつつ、足元に集中していた魔獣は血風で雑に蹴散らす。そして一通り見えなくなったところでグサイン本人の背中に血風を数発。本来なら薄い一枚のブーメランのようなそれを複数重ねることで、ロードローラーの車輪じみたい分厚いものへと「通常速度の世界では」見えることだろう。その状態のものを落す。それに対して私のように加速していないにもかかわらず、純粋な肉体性能(フィジカル)だけでギリギリ対応してきているのは流石と言うべきか何と言うべきか。流石に振り返る暇はないと見えて、背中に血風の傷を負いながらも、ギリギリで腕で庇う体勢にはなった。そしてギリギリ、右腕でその血風のローラーを往なすことに成功した――――。

 ――――とはいえ、その間に更に血風を追加して背中目掛けて投げることが出来るため、このあたりは色々なんかスマン(謎謝罪)。

 

 時間覚が元に戻ると同時に、ガリガリと回転する血風による背部のダメージで悲鳴を上げるグサイン。良く見ればローブの下も浅黒い肌に筋骨隆々な姿をしていたが、血風のダメージが蓄積するごとにどんどん細くなっていく。魔力か何かで疑似的な筋肉を編んでいたのだろうか、しかし血風による部分的な「魔法を散らす」効果は健在らしく、物の見事に用をなさないでいた。と同時に、いつかニキティスでも聞いた「ぎゃふん」の声が漏れたのだった。

 なんだろう、魔族はその「ぎゃふん!」って声は何かしら言わないといけないノルマでもあるのだろうか……。

 

 ついでとばかりに転がったランタンも回収しながら、血装で相手を縛る。例によって死霊属性を組み込んでいるせいか、グサインは拘束後ロクな反抗をしなかった。……というか尸血風の系統技、いくら何でも便利すぎである。完全に隷属して操れないにしても、部分的な行動を完全に縛ることが出来ると言うのが強すぎるとみるべきか、まだその縛りを「完全に」無視できる強敵が出てきていないと見るべきか……。

 

 一方グサインは、首だけで私のオレンジ色にほんのり輝く頭やらを見て、割れた仮面の右側、ちらりと見える黒い目を見張った。

 

「そ、その姿…………、そうか、まだ奥の手があったのか貴様は……っ!

 完敗だ…………! すべては俺の驕りのせいか」

「判断が早ぇ…………」

 

 夏凜とは別ベクトルでの判断の早さだったが、この場合は潔いと言った方がいいのかもしれない。というか気のせいでなければ完全に「道場破りに来た才能豊かで真面目で負けん気の強い子供に稽古をつけるつもりで、その実最終的に自分の甘さを痛感した道場主」みたいな、そんな独特の雰囲気だった。

 秒速で潰してしまったせいでその「先見」とやらが何なのかさっぱりわからないところだが、とりあえず他のアタッシュケースを回収しないと――――――――。

 

 

 

 ――――突如、嫌な予感がしたため半身を翻し黒棒を背後に構えようとしたが。その私の身動きに「併せたように」、丁度の角度で私の心臓が背後から「貫かれた」。

 

 

 

「……は、い?」

 

 以前されたように胸部を完全に破壊するようなそれではなく、九郎丸の夕凪によってつけられたその傷を裏側から綺麗に貫通し、そのまま地面に刺さっている。またその傷口から体内へ「血装術」が使われているのか、嫌な感覚が強い。私も私でそれに対抗するため意識を集中せざるを得ず、死天化壮が解除され結果的に拘束されている。……よく見ればその黒々とした剣のデザインには、覚えがあるというか、何というか。

 首だけを無理やり後ろに振り向こうとして、しかし上手く動けないためギリギリ顔だけで背後を見る。

 

「…………や……、やったでち……! これで兄弟を抑えたでち!」

「サリー、だった、か……?」

 

 そこには、以前の制服姿の上から黒いハイネックのコートを纏ったサリーの姿。相変わらず額にはアーティファクトで出現した「第三の目」がギラギラとこちらを見ている。どこに潜んでいたお前!? 全然そんな気配なかったろ今日は!(驚愕)

 ……って、いやこの状況においてまで「豊満豊作強兵な牛乳」とか書かれてる紙パック飲料を持ってきて(ついでに言うと強く握りすぎてストローから零れてる)、また漏らすぞそれ止めておけちゃんと介護者がいない環境では(戒め)。

 おそらくタケミカヅチ・レプリカだろうそれを介した彼女の血装術との対決中につき、どうしても声が上手く出せなかったが。そんな私の内心を察したのか何なのか、サリーは「はっ!」としたようにスカートを押さえた。

 

「そ、そんな前回の二の舞になるから飲み物飲むのを止めるでち! みたいな目を向けるの止めるでち! 今日はちゃんと色々準備してきた(ヽヽヽヽヽヽ)から、漏らしても問題ないでちよ!」

「まず漏らさない方法から考えたらどうだろうか(純粋な疑問)」

「そんなこと兄弟に指図される話じゃないでちー!」

「うむ、不意打ちか…………、それもまた、必要なことだ末妹よ……」

「というかそこの脳筋悶鬼(のーきんもんきー)、どーして簡単に諦めているでちか! その場のノリで適当に仕事を放棄するの止めるでち!」

「し、しかしザリーチェ……、古の約定に沿うのならば、直接我らを打倒したものはすなわち――――」

「そーゆー次元の話じゃないでち! バアル様のご命令で召喚された以上、まずはそれに沿えと言ってるでちよ!

 オティウスさんは、まあ、へっぽこだから仕方ないでちが…………。

 そのくらいの拘束、とっとと頑張って解くでち!」

「無茶を言うなぁ、我らが『妹分』は……」

 

 いやへっぽこはサリーお前さんも結構素質あるだろ、とツッコミを入れようとしたのだが、やはりじわじわと「痛い」。胸から全体に背筋の凍る寒さと息苦しさ、動悸が侵食してくる感覚だ。脈動自体は一定にもかかわらず、明らかに心臓を掴まれているような嫌な感覚である。絶えず継続するそれのせいで、私も血をそちらに集中せざるをえない――――。

 

「でち? …………フンッ」

『――――――――ふみゅー!? ふみゅ…………、ぴちゅ』

 

 強制的に疾風迅雷を解除された形の私である。体外に「背部から」射出されるように飛ばされたチュウベェを、でち公ことサリーは適当に足の裏で受けて、そのまま踏みつけた。グリ! と踏みにじるも、チュウベェ本体は大してダメージを受けてなさそうに頭を上げて伸びている…………というより、サリーのスカートの中を覗いているように見える。目ざとくそれに気づいたサリーは「変態でちッ!」と声を上げて、もう反対側の足でその頭を踏みつぶそうと躍起になっているが、ひらりひらりと躱すチュウベェには大してダメージが入っていなかった。いやホント、そういうのを見ると妖魔としては最上位というのに嘘偽りはないのかもしれないが、それにしたってお前さんもうちょっと真面目にやれ真面目に(戒め)。

 

 ただまぁ、お陰で多少サリー側からの血装が緩くなったので、会話くらいは出来そうだ。

 

『みゅー! みゅー!』(※特別意訳:紐パンだよこれ! かなり紐パンだよこれ!)

「ぜぇ…………、ぜぇ…………、何でちこのレベルの高い変態妖魔は…………」

「言いながら、お前そのまま、踏みつけてるんだな。……見られるってわかってるのに」

「…………兄弟のパワーアップに関わってる相手を、みすみす逃がすことはしないでち」

 

 言いながら、私がやっていたように血装による球でチュウベェを拘束。「ふみゅ!?」と断末魔じみた声が聞こえはしたが、そのまま拘束したチュウベェをサリーは適当にその辺に転がせて牛乳を飲んだ。そのまま身動きがとれずにいる私の側面に回り、下から見上げて嗜虐的に半眼で微笑む。

 

「どうでち? 今の気分はどうでちか? 私にあんな辱めをしておいて、今じゃ手も足も出ないとか、とんだお笑い種でち」

「いやそもそも、アレって過失相殺10:0(じゅうぜろ)でお前さんのガバだろ(断定)」

「ガバとか言うなでち! あんなの、予想しろって方が無理でち!」

 

 言いながら「闇の魔法(マギア・エレベア)」なのか魔族化したような右手で私の頬を叩くサリー。一撃の威力で意識が持って行かれそうな程度には「常識的な」痛み――痛すぎて感覚が麻痺しない程度の痛み――で、意図的にやっているのだとしたら趣味が悪い。いや、そもそも痛いことは全般的に嫌いなのだが、だからといって積極的に甚振ってくるような相手にどう思うかと言うと…………。どちらにせよ、カトラス以上に色々と考える必要がありそうな妹ちゃんであった。

 

「は、外れない……、外そうとするとこちらを『支配』して身動きを封じて来るぞ、この血装術!? うぅむ実に見事っ!」

 

 とりあえず今は、少しでも彼女の気を逸らして、こちらの血装術に使えるリソースを確保しなければ…………。

 

「というか、ザリーチェって何だ? お前さん。サリーだろ名前」

 

 そんな理由から振った一言だったが、意外にもサリーは普通に応じてくれた。牛乳をちゅーちゅー飲んでから、ため息一つ。しかし呆れたようにしながらも、話すこと自体は何故か吝かではないらしい。

 

「えーと、今更その話でちか? …………まぁ良いでち、どうせ後はあの脳筋悶鬼(のーきんもんきー)が復帰したら、『回収して』撤退するだけでち。冥途の土産として教えておいてやるでち。

 そもそも魔人というのは、魔族のカテゴリーで考えると――――――――」

 

 

 

「――――我流簡易呪術・百鬼夜行ぉー♪」

 

 

 

「……はい?」「……でち?」

 

 二人そろって声を上げてしまったのも無理はない。なにせその声が聞こえたと同時に、眼前に無数の「火の球」が飛び交ってくるのだ。青白かったり緑色がかっていたり、あとゲーミングカラーに色が変わって『ハーッハッハッハッハ!』とか非常に大声の思念の声のようなものが聞こえた気がするがそれはきっと気のせいだろうが、それは置いておいて。

 そんな人魂がいっせいにでち公に纏わりつく。「止めるでち!」と声を出しながら、やはりマギア・エレベアなのか両腕両脚を変化させ……、シルエットでいうとブーツのような足と長手袋のような腕に変化させ、造り出した剣でぶんぶんと虫でもはらうように振り回す。

 

 そんな彼女の頭上から、二刀流の少女が一人――――――――自由落下に合わせて刀を振り下ろす。

 

 金属と金属がぶつかる音。火花が飛び散り、眼鏡をかけた少女とサリーの忌々し気な目が交差する。

 

「この剣、祝月詠……でち……っ! アマテルの犬が、何の用があってこんな場所に来てるでちか!」

「あら、嫌やわぁ、一応お仕事と……、あとはプライベートやん! もぅ♡

 でもお久しぶりやねぇ『サリーちゃん』。野乃香はんと一緒に遊んだときはもっとこう、ちんちくりんやったけど…………、今もちんちくりんやね!」

「私の身長に文句あるでちかー! そんなのは遺伝子上の母親の一人に言うでちー!」

 

「…………大丈夫かな、刀太」

「あっ、パイセン」

 

 斬り合いを始めた月詠とサリーを見ているしかない私に、……なんだかジャケットもシャツもボロボロになり割れた腹筋が見えていたり、眼鏡にもヒビが入っていたりな源五郎が、フラフラとしながら私の横に立った。

 

 

 

 

 




話数が増えて設定把握が大変になってきたとご指摘がありましたので、活動報告に設定紹介&質問コーナー的なのを作りました。
紹介&回答内容については、アンケ短編企画の時のように、募集形式を取っています。
 
詳しくは[光風超:設定&質問コーナー的なアレ]の記事をご参照、コメントください・・・締切日注意汗


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ST152.お気軽謁見王女

毎度ご好評あざますポヨ!


ST152.A Frank Princess

 

 

 

 

 

「我流神鳴流、一瞬千激・弐刀月光五月雨斬り――――あれまぁ?」

真実の目(テリティウス・オクゥス)――――さ、避けられる隙間がほぼ無いでち!?」

 

 魔力を纏った両手の刃を振るいながら突進する月詠のそれを、サリーはギリギリブリッジのような体勢になりながら躱す。もっともその余波というか、威力でもってお腹の部分から叩きつけられ、大きく血反吐を吐いた。涙目である。両目も、それから額に浮かんだ第三の目も全部涙目である。

 とはいえそのまま泣き叫んだままということもなく、サイドテールから「影がまとわりついて伸び」、その場からサリー本体を撤退させる。とはいえ月詠の瞬歩圏から逃げられるわけでもなく、ギリギリ生成途中だった剣で、振り下ろされる二刀を受けていた。

 

 そんな両者を見ながら、深くため息をつく源五郎。

 

「やはりというか、容赦がないなあの女性(ヒト)は……。口ぶりからして小さい頃にお世話したことがありそうな、そんな子供相手に」

「まー見た感じ、バトルジャンキーっぽいッスからね。

 そういえばだけど、二人とも目覚めるの早かったッスね? パイセンたち」

 

 私の一言に、源五郎は収納アプリから新しい眼鏡を出して入れ替えて肩をすくめた。

 幻灯のサーカスは、アーティファクトとして召喚されるタイプのものであれば、解除キーワードが存在している。そのキーワードを知らなければ、一定時間その精神を拘束され続けることになるのだ。しかしあまりに短時間……、いくら夢の中の時間速度が現実世界とは一致していないとはいえ、圧倒的な速度である。

 そんな私の感想に、源五郎は「眠ってなかったからね」とこめかみのあたりを押さえて言った。

 

「眠ってない……? えーっと、つまり『術にかかってなかった』ってことッスかね。どういう……」

「こう、上手くは説明できないのだけれど…………。僕の場合、精神に悪影響を及ぼす作用の術、例えば洗脳とか憑依とか昏倒とか、そういうタイプの攻撃は自動で抵抗(レジスト)してしまうんだ。百パーセントの確率で成功して逃れられるわけではないけれども、一般人に比べてはるかに掛かりづらいと考えてもらって良い」

 

 レジスト、とそのフレーズが出た時点で、おおよそ察した。この世界に存在する源五郎の肉体は、ある意味で「ゲームの主人公キャラクター」のような扱いを受けている。であるならばどういった状況になるのかは定かではないが、おそらく術が源五郎にかかったとしても、源五郎本人はそれを俯瞰する視点、ステータス画面のようなものを認識「したまま」になるのだろう。そうであるならば、ステータス画面から色々道具やらを操作したりすることも出来るのだろう。完全に予想だが、そこまで大きく外れてはいないはずだ。

 

「…………って、だったら何で放置してたんスかね、状況というか。加勢してくれた方が色々話が早かったんじゃないッスか?」

「そうは言うけれど、伏兵がもう二人(ヽヽ)いたのを確認してたからね。念のため、その相手が出て来てもすぐ対処できるように準備していたんだ」

「つまり囮っスか? 俺、囮っスか?

 ……いやそれは別に良いとしても、二人? サリーだけじゃなく?」

「ああ。あっちで月詠さんに『遊ばれてる』女の子だけじゃない。……そして、そっちのもう一人が出て来る気配が無いから、僕としても少し弱ってしまっているんだけれども――――」

 

 そんなタイミングであちらが目覚めて遊びに行ってしまってね、と。状況的に色々とタイミングを伺っていた時に、月詠が勝手に目覚めて遊び出したと言うのが現状らしい。

 なお話している背後で「で~~~~ち~~~~!?」とサリーの悲鳴が聞こえては来るが、なんだかんだギリギリ致命傷だけは躱し続けているらしい。地味に凄いぞサリーその額の第三の目(千里眼もどき)。そして普通に怖いぞ月詠そのマジ〇チスマイル(オリジナル笑顔)

 

「…………というかそもそも、何であの月詠さんですっけ、ここに来てるんスか? アレ、スラムの時にそういうヒトが居たって話はカアちゃんから聞いてるっスけど」

「あちらも仕事で派遣されたらしい。今、(チャウ)も周辺の避難に回ってもらっているけれど、そういう裏方作業ではなく思いっきり最前線に来るオーダーだったとか」

「人選ミスでは?(マジレス)」

「まあ、悪癖(ヽヽ)さえなければもう少しマシなんだろうね。

 ……僕も女主人(ミストレス)から連絡は来ていないから知らなかったけれども、状況的に土壇場で決まったことのようだし」

 

 聞いていないのに断定口調とはこれいかに。……おそらく源五郎の能力由来の情報精査か何かなのだろうが、そういう微妙な部分を取り繕う余裕もない程に、一目でわかる程度には疲弊した源五郎だった。

 まぁ良いかと、とりあえず私は未だに私の血装による拘束から抜け出せないでいるグサインの元へ。私の姿を見ると「む?」とこちらを、割れた仮面越しに見て来る。もっともそんな彼をどうこうするというより、私はその隣に落ちていた例のランプ型装置を拾い上げた。

 

「一応聞くんだけど、これって壊したら術が解除される…………、とかは無ぇかな」

「む。話す義理は本来ないが…………、これも勝者の権利と、『末弟』への義理か。

 嗚呼その通りだ。幻灯のサーカスは、発動時に設定した以上のことを外部から指定することが出来ない。元々『幸福な滅び』のために作られた魔法故、我ら種族の中においても『発動後』に直接操作することができるのは『循環』の家かそれと同等の者くらいだろう」

「循環…………」

 

 おそらく例によって魔族が名乗っている二つ名というか、そんな二文字単語なのだろうが。幻灯のサーカスを自在に扱っていたことから考えて、なんとなくその家というのに心当たりがあるような、ないような…………。いや、個人的にはおそらくレイニーデイの家(つまりザジしゃん)あたりなのだろうというイメージだが、それにしたってだから知らない設定をポンポン当然のように語るな(震え声)。

 こちらのしかめっ面をどう解釈したのか、くつくつとグサインは笑う。苦笑いを抑えているような、少し控え目な笑い方だ。

 

「案ずるな、最新最速の同胞よ。どうせ数時間もすれば、嫌でも全員目が覚める」

「その数時間が場合によっちゃ痛いこともあるッスけどねぇ」

 

 なお、私としてはグサインの語るその「最新最速」とかいうフレーズについてもツッコミを入れるつもりは無い。というか気のせいでなければ「一周目」、キリヱ大明神と一緒にやり直しを経験していたはずの私の人格も、そんなことを言っていやしなかっただろうか。

 

 私とグサインの話している横で、源五郎は源五郎で主目的であるアタッシュケースをまとめている。「幻灯のサーカス」の入ったフロッピー状の魔法アプリ記録媒体だが、私がディーヴァ相手に石化させたもの以外にもいくつか残っているらかった。それをまとめながらも、しかし周囲に警戒を怠らない源五郎。一体彼の視界にどのようにそういうのが映っているのかは定かではないが――――――――。

 

 

 

 途端、足元に妙な気配を感じ、内血装で脹脛の筋を「パンクさせる」。

 

 

 

「血装――――、ッ!」

 

 ギリギリ間に合った。飛び散った血により、足元に「無音で」展開されていた魔法陣は消し飛ぶ。が未だに嫌な感覚は消えず――――上! 飛び散った血で久々に血蹴板(スレッチ・ブレッシ)を展開。死天化壮の形成途中ながら、無理やりその場からほぼ直立状態のまま横方向に数メートルスライドした。

 叩きつけられる巨大な「悪魔の腕」――――。より正確にはなんらかの魔獣なのかもしれないが、そんな腕を持つ堕天使のような、悪魔のような、何とも言えない存在がいつの間にか現れる。なおその衝撃で転がり、頭から落下して打ち付け「ひぐわぁ!?」と色々危険な悲鳴を上げる猿仮面。仮面自体は破損していないが、白目を剥いて気絶してるし血も流れてるしこれは……。おそらく魔族では無かったら致命傷なのだが、一切合切容赦がない。

 そして、その堕天使のようなものの背後から、ずずずと「影から現れ出るように」、見覚えがあるような彼女が出て来た。ベリーショートにぱっつんとした前髪以外は、見覚えのあるザジのもの。だが額から生えた角や頭の後ろに形成された竜の角を思わせる装飾。何より腰から生えた翼と長い尻尾が、その共通性を示し正体に思い至らせられる。

 

 すっと飛び降り、その召喚された何かしらのすぐ手前へ。身長は今の私より少し小さいくらいである。

 

「…………ポイョ。ファイティングポーズみたいな状態から身動きせず平行移動とは、中々変態じみた挙動ポヨ」

 

 ポヨ・レイニーデイ…………、ザジ・レイニーデイの双子の姉であった。

 元祖「ネギま!」において魔法世界編終盤に、フェイトが当時所属していた「完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)」の協力者として出て来た彼女。ザジと本来は「同一の名前」「同一の仮契約カード」「同一の魔法具(アーティファクト)」を持つ、明らかに只の双子の姉妹と言うには異常極まりない存在である。二人で一人というパターンは無い訳ではないらしいが、彼女とザジとのカードに実際相違点は存在せず、またどうもお互い意識を一部共有しているような言動をとることもある。

 その立ち位置はネタバレすると、「人類の上位種族」である裏金星人こと魔族として、地球人類および火星人類=魔法世界人との行く末を「悪くない方に導こう」というスタンスだ。妹であるザジはネギぼーず達の側、姉である彼女はフェイト達の側につき、その時々の状況で色々と裏側で動いていたように考えられる。

 

 そんな彼女が、ある意味「魔族が溢れている」この状況で登場することには、違和感自体はない。ないのだが、それ以前の問題としてお前さんそもそも「UQ HOLDER!」の方は影も形も存在していなかったろ何で出て来た!? もはや何に対するガバかガバじゃないかとか責任求めたり文句言う先すら特定できんわ加減しろ世界!(迫真)

 

 源五郎も源五郎で周囲が被害にあわないようにするためか、突如当たり前のような顔をして「全裸の自分」を複数分身させ(!?)、倒れた人間たちを抱えて逃げ始める。なお九郎丸はともかく、何故か夏凜だけはその場に放置するのは一体どんな流れなのだろうか。仲悪いのだろうかあの二人……? もうちょっと歩み寄れそういう嫌がらせしあう関係でやっていけないぞこのディストピア三秒前世界(震え声)。

 詳細は後で本人たちに聞くとして、とりあえず折れた黒棒を構える。と、そんな私を見てポヨは感嘆した声を上げ…………、そしてその背後では、サリーが薄皮一枚、首を月詠に斬られそうになっているのを回避しながら悲鳴を上げていた。そしてちらりと見やりながら、半眼で嫌そうな表情になるポヨ。

 

「…………それこそ八十年前からだが、あの女は相変わらず色々酷いポヨ……、って、若返ってる!? えっ、何で? どういう事!!?

 ………………………あっ、ポヨ?」

 

 とりあえず月詠が生身の姿で若返っていることに、思わずキャラを忘れるくらい動揺したらしい。いや、私もそのあたりは「原作」知識があるので違和感バリバリではあるのだが。元祖「ネギま!」時代より幾分成長したあの二十歳ちょっと前くらいの姿は確かに美人だし、角やら何やらの有無を除けば以前見せてもらった源五郎に所縁ある例の彼女の容姿そのもので困惑しかなかったりしたが。それはそれとして、正直「関わろう」と考えた瞬間に「嫌な感覚」がよぎるくらいには危ない人物であることに違いはないので、ここは完全スルー態勢で行ければと思う(願望)。

 まぁそうやって動揺しているということは、問答無用で殺し合いになるようなテンションではないということだろう。そこはまだ良い。なのでとりあえず適当に何か話題を……、話題…………。

 

「……そのポヨって変な口調ってキャラ付けか何かッスか? ザジさん(煽り)」

「自己紹介より先に煽ってくるとは、中々良い根性してるポヨ」

 

 ニヤリ、と微笑むポヨに思わず愕然とする私である。基本である初手煽りが全く効かない、だと…………? 敵の性格によっては確かに効かないパターンもあるだろうが、事はそう簡単ではない。ポヨもザジも割とノリが良い性格なので、こういう煽りには付き合ってそれなりに動揺なりしてくれるだろうと考えていたのだが、この余裕の返しである。あまつさえ年上のお姉さん的な安定したニヒルスマイル、腕を組んでこちらを見下ろしてくる様は色々と想定外だった。もっともそんなこちらの考えなど向こうには関係ないのだろう。彼女は一度周囲を見回した上で、すっと平手を出して「タンマ」と言わんばかりのポーズをした。

 

「そうカッカする必要はないポヨ。まずは話し合いをしよう。

 私は『循環』レイニーデイ王家の後継、『夕暮れ』のザジ・レイニーデイ。妹の『夜明け』とは既に会っておるな。

 ……ただ見分けが付きにくいから、とりあえずポヨ・レイニーデイとでも呼んでおくポヨ。我らが最新最速の末席よ」

「あ、はぁ、どうも。えっと……、近衛刀太ッス」

「ほう? では、よろしくポヨ」

 

「「…………………………」」

 

 そして両者、適当に頭を下げた後、沈黙。

 

「あのー、そっちからどうぞって感じなんスけど」

「……いやまさか普通に挨拶され返されるとか思っていなかったから、頭が一瞬真っ白になったポヨ。ちょっと落ち着くポヨ、飴ちゃんでも舐めれば思い出すから」

「その淫魔風の恰好のまま胸の谷間からペロペロキャンディー取り出すの止めろ(戒め)」

「フフフ、まだまだ青いポヨな…………、そっちも食べるポヨか?」

「だから胸の谷間でその取り出し途中の棒、プラプラさせるの 止 め ろ(戒め)」

 

 なお言いながら棒付きキャンディを速攻でかみ砕き始めているポヨだが、それはさておき。

 

「そうそう、思い出したポヨ。少しだけ交渉したいところポヨ」

「交渉って何するつもりなんスかね? あー、いや、なんかお互いどういう認識でここに立っているか的なのによって色々変わってくると思うんスけど」

「フフフ、そう無理なことを頼むつもりもないポヨ――――そこに転がっている使徒二人、我らが同輩二人、そしてそこの『継承中』を見逃して欲しいポヨ」

 

 ディーヴァたちや、白目を剥いて気絶している猿仮面、およびサリーやらを指さして微笑むポヨ。そのかわりこの場からは手を引くポヨ、と。彼女はそう言い肩をすくめた。

 

「手を引くって……、つまり薬も、それに関係した人間もそっちでは回収はしないから、俺らに敵対してた連中だけ見逃せっつー感じッスかね?」

「そうポヨ。我ら魔族に関しては『爵位持ち』の継承が中々追いつかないこともあって、捕縛やら殺害やら封印やらされていくと色々こちらの政治的に問題があるポヨ。だから、出来れば見逃して欲しいポヨ」

「政治的とか言われても…………」

「連中が全力を出せなかったから可哀想とか、正々堂々と有利なアドバンテージ持ちの状態で勝負をしろとか、そういう馬鹿なことは言わぬポヨ。時の運、どういう状況でも他を圧倒できてこその魔族ポヨ。特に今の(ヽヽ)オティウスなんかは『吸血鬼(ナイトウォーカー)』上がりだし」

「知らないバックボーンとか暴露するの止めろ(震え声)」

「さっきから止めろ止めろとそればっかりであるポヨ。我慢が利かないのは良くない傾向、ポヨ」

 

 そう悪い話でもないはず、と彼女は肩をすくめて胸の谷間でゆらゆらさせてたキャンディの棒を引き抜く。……いや、そのあたりに収納アプリか何かの出入り口を設定しているのだろうと予想はつくのだが、なんでわざわざそれを見せつけるのかこの悪魔お姉さん……。ザジ共々胸元もそうだしお腹ももっとローライズだと色々きわどすぎる恰好なのは「ネギま!?」からそう変わりないのだが、ますますそれが色々と少年誌的な限界に挑戦している感があって色々と思春期に良くない(震え声)。

 というか本当に、夏凜があれだけベタベタしたせいか今日は特に色々と限界である(超震え声)。

 

「で、どうするかポヨ?

 少なくとも今回、UQホルダーおよび『白き翼』は『夜明けの会』が触れ回っている薬物とその流通ルートを押さえるのが目的のはずポヨ。

 わざわざオティウスを拉致する必要などないと考えれば、そう悪い取引ではないはずポヨが」

「……………………オティウスって言ったか? それだけは、ちょっと受け入れられねーな」

「ポヨ?」

 

 と、彼女は私の後方の夏凜やらほぼ全裸のディーヴァやらに視線を向けた後、嗚呼、と自分の胸元を見て何かを納得したように何度も頷いて、ニヤリと笑った。何か嫌な予感というか、変な予感のする嫌な笑い方であるが――――。

 

 

 

「――――そうか、()っきいおっぱい大好きということか。オティウスも中々だし、それを理由に攫って…………、と。うん、最近の中学生は進んでおるなぁ…………、ポヨ?」

「あの、後も先も前後左右全方位で怖い発言するのマジで止めてくださいお願いします(嘆願)」

 

 

 

 一瞬背後で「ふむ……」と夏凜の声が聞こえた気がして思わず振り返るが、相変わらずスヤスヤとお綺麗にお眠さんのようなのできっと気のせいのはずである。きっと気のせいの……、ハァイ! きっと気のせいのはずですよね師匠ゥ!(キ〇ゲ(基礎ステータス全振り男)並感)(???「どちらにせよ拠点に戻ったら、私室の戸締りはしっかりしておくんだねぇ」) 

 

 

 

 

 




活報の[光風超:設定&質問コーナー的なアレ] 、まだまだ募集中ですのでふと気になる事とか、ちょっと忘れそうな設定まわりなどありましたら是非コメントくださいですナ!


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ST153.“背教”様が見てる!

スミマセン、お待たせしました。
ちょっと鰤の二次で新作アイデアが出てしまったので、そちらに浮気してました・・・汗
 
ついにちょっと「あのお方」と対面遭遇・・・、あとエ□女注意ネ!(by超)


ST153.The Teacher of The Prince of the Parthia Is a WITCH

 

 

 

 

 

 …………酷い夢見だったわ。

 

 まさか「かつての私」、一度も「そういうこと」になったことのない夫だったはずの人や、それこそ「神になってしまった」先生のかつての姿と対面することが出来た。出来たのは良いのだけれど、それで心が満たされるかというと、不思議とそうではなかった。

 

 何かが頭の片隅に引っ掛かっていた私は、それを「思い出せなく」ても、今いる「かつての時代」が―――他の使徒の連中と共に、ああでもないこうでもないと口喧嘩したり、大雑把な先生やアイツの金遣いをとがめて隠し貯金から崩して補填したりといった、それこそ嗚呼、幸せの一つだったかもしれない時代を夢見て。

 とはいえ、それはそれで幸せで、心が折れてしまいそうだった。先生はかつて言っていた、誰かは誰かの代わりにはできないのだと。だからこそ、私にとって失ったその人への感情っていうものは、その人でしか代わることができないということなのでしょう。

 

 

 

『――――おや、これは大変ですね。自らの能力で「幻灯のサーカス」を引き延ばしかねませんか』

 

 

 

 そう、あの日の夜……、私が先生の為を想って「から回らなかった」夜。ほうほうと明かりのもと、一人で金勘定と貯蓄分を振り分けている時。その認識のまま、私は彼女の姿を視界にとらえた。

 目の前に現れたのはこう…………、ちょっと、いえ、結構えっちな悪魔さんみたいな恰好ね。道化師風ではあるけれど、その分肌の見せ方に凄いえっちさを感じるわ。これ考えた人は中々えっちなんじゃないかしら。(???「夏凜先輩!?」「まぁアンタからしたら、お前が言うなって話だろうねぇ……」)

 

「貴女は……? えっと、面識はない方のようですけど」

『フフ……? 今この時点において、私の恰好に色々と思う所があったようですが、それは水に流しましょう。どちらにせよ、刹那さんのエッチ具合に比べれば大分マシなはずですし』

 

 木乃香さんも言っていたけど、そんなにその、色々アレな方なのかしら刹那さん。こちらも「先生の力」が散らされたこともあって、色々思う所はある相手なのだけれども――――。

 ふむ?

 

 頭を押える私に、微笑む目の前のえっちな恰好をした悪魔さん。数秒の混乱の後、私はぼんやりと忘却していた「本来の私」を取り戻した。

 

「…………そうですか。これが『幸福の轍』ですか」

 

 本日、つい直前までのことを思い出して、私は深くため息をつきました。

 

 

 

 私や九郎丸のような「まほら武道会」方面から情報を集めていたメンバーと異なり、真壁源五郎を中心として所謂ヤクザの徒党が、大会の裏側から情報を集めていたのは知っている。そのカチコミ、もとい関係者や肝心の魔法薬物の確保作戦が行われると聞いていた私は、しかし特に準備はしていない。佐々木三太が声をかけられはしたけれど、こちらにはオーダーがなかった以上、それなりに意味があったのでしょう。

 それはともかくとして、個人的には刀太が心配で心配で仕方ありませんでしたが……。 

 そんなことを考えながら、まほら武道会予選。頭がこう、マリモというか大きなアフロというか、そんな魔法アプリ使いを倒してポイントを獲得していた時。夕方より少し前だったかしら、キリヱが大慌てで私に向かって走ってきました。

 

 彼女はそのまま場所と時間、状況だけを説明すると、一足飛びでまた何処かへ……。以前本人から聞いていた「時間遡行能力」を思えば、まだまだ他にも何か準備をしていたのでしょうが。教えられたこととは別に、頼まれた一言が私をすぐさま動かしました。

 

『――――このままだと刀太、例のディーヴァだか何だかってのに浚われちゃうから! 助けて夏凜ちゃん!』

 

 そして会場に向かい、九郎丸たちと合流。話を聞き、刀太の血が「中途半端に」途切れて残っている場所に立ち止まりました。おそらく「デスクラッド」と言いましたか、その残滓というより名残なのでしょうが。この周辺を起点として異空間へ閉じ込められたのだとすれば、それに介入する「結界破り」の神聖魔法を使うまで。

 

「――――“乾いた地(シーカム・サブマリ)”!」

  

 土地と土地とを隔てる海という境界を割き道を作った故事に由来するこの技で、空間を「こじ開けて」みれば。当然のように刀太が拘束されている姿に、磔にされた先生を思い出してしまって――――。

 後はもう、色々と私も我慢が効かなかった。

 

 

 

「…………それで、結界の外に出て数秒で落とされてしまいましたか。我ながら情けないわね……」

『いえいえ。ネギ先生――かの『現代最後の指導者(ラストテイル・マギステル)』ネギ・スプリングフィールドですら、この魔法には思う所があるくらいです。初見で、しかもトラウマ持ちでしたら中々難しいかと』

 

 そう言ってくすくす微笑む彼女は、自らをザジ・レイニーデイと紹介した。

 

『かつてエヴァンジェリンさんの傘下、ネギ先生の仕切っていた「渦の七人(ボルテックス・セブン)」に所属しておりました、魔族の一人です』

「ぼる……、サムライセブンのことですか?」

『はい。呼び方は、ネギ先生はあまり好んでいらっしゃらなかったので、私を含め何名かはこちらを使用しています』

 

 それは置いておいて、と。そう言いながら彼女は私に背を向けて、ばっと両腕を広げた。……そこに猛烈な勢いで出現し投影されるのは、刀太の顔という顔――――えっちょっと待ってください? 彼をキクチヨと呼んでいた時、雪姫様から離された彼との「あの日の夜」の映像まで流すのはちょっと止め、止めてー!? ちょっとどうしてそんな映像があるんですか、プライバシーの侵害ですッ!

 

『えっこれは……、うわぁ…………。えっと、えぇ……?(困惑)

 これは、いけませんね。近衛刀太に責任をとってもわないと色々釣り合いがとれないのではないでしょうか結城夏凜。

 なるほど、だからずっと大攻勢なんですねぇ……、ウチのテナ(ヽヽ)ちゃん(ヽヽヽ)も大変ですねぇ』

「な、何の話ですか! それにもう、その話はあの日に口頭でですが『決着がついています』からッ!」

『なるほど「予約済」ですか。…………なら安心ですね、でもそれはそうとして大変エッチなご様子で。ひとえに彼ばかりの責任とも言いがたい部分もあるかと思います。錯乱した彼を落ち着けるために、躊躇なく口づけするのは……。

 まあこれでも刹那さんの方が圧勝なのは、業が深いというところなんでしょうが』

 

 ごちそうさまです、と悪戯っぽい笑みを浮かべて舌を出すザジ・レイニーデイ。ですがそれより、刹那さんに対する発言が色々と気になりすぎているというか……。

 いえ「あの日」は刀太というより()も色々と初めてのことで限界だったから「寝相が」「お互い」「悪かった」ということになるのでしょうか。

 

「い、いいえ! そんな話ではなくてですね! ここが私の視ている夢だというのは理解しましたが、何故貴女がこのような場所にいるのですかッ!」

『そういった能力ですので。もっと言うと私と姉――――「循環」ザジ・レイニーデイである双子の私たちは、共通する仮契約カードと魔法具(アーティファクト)「幻灯のサーカス」を持っています』

「幻灯の……?」

『ええ。「この」夢であるのなら、私と姉は何ら問題なく「夢を渡れる」ということです』

 

 つまりこの術式の「大本」になった古代魔法(エンシェントスペル)ですね、と。そう微笑む彼女からは敵意はないけれども、どうしてか胡散臭い雰囲気があってあまり気を抜くことが出来ない。そんな私に、彼女は愉し気に笑った。

 

『私は現在「3-A」、旧麻帆良学園における友人たちを護るために活動していますが。姉は魔族側、金星側の立場に立って動いています。そこに善悪という考え方は持ち込まれていません。しいて言えば「どちらがより生存できるか」「どちらがより共存できるか」といったところでしょう』

「…………ええと、いきなりその話を出されて困っているのですけど? 私は」

『ああスミマセン。つまり、ここから出してあげましょう! ということです』

 

 言いながら彼女は仮契約カードを2枚取り出し……、2枚? 絵柄は同じだけれど、もう一つはブルーというより宇宙みたいな背景をしている。あれは、ネオパクティオーカードだったかしら……?

 

『なので、出すにあたって一つだけお願いを聞いていただけませんか? そう難しいことではありませんので』

「…………内容次第ですが、一応聞きましょう」

 

 私の言葉に、彼女は少しだけ困ったような、照れたような、微妙な表情になり。それでも、すぐ先ほどまでの軽い微笑みの表情に戻った。

 

「近衛刀太へ、というよりテナちゃんへの伝言になります。私からいくとどすていも拗れてしまうので」

「どすてい?」

「噛みました。どうしても、ですね。

 初対面が悪かったんですかね、我ながら。必要ではあったのですけれども……」

「こう言うと角が立つかもしれませんが、話題がフワフワしすぎています。

 私に、刀太へ何を伝えろと?」

「えっと…………、『テナちゃんがまほら武道会へ参加するのは問題ありませんが、本当に生活に困窮したら、連中に捕まる前に帰っていらっしゃい?』です。お母さん(ヽヽヽヽ)は家出くらいで機嫌を損ねたりはしませんので」

 

 なんなら私も家出中みたいなものですし、と。そんなことを言った後、彼女は両手に持ったカードを構えて、腕を交差させた。

 

 

 

『――――双方・来たれ(アデアット・デュオル)!』

 

 

 

 広がる魔法光と三つのカードが彼女の周囲で回転し――――視界に一瞬、シルクハットにタキシード風なザジ・レイニーデイの姿が映ったかと思えば、私の感覚は「もとに戻った」。

 ふと目を開ければ、刀太と向かい合っている、あれは…………ザジ・レイニーデイ?

 

「――――で、どうするかポヨ? 少なくとも今回、UQホルダーおよび『白き翼』は『夜明けの会』が触れ回っている薬物とその流通ルートを押さえるのが目的のはずポヨ。

 わざわざオティウスを拉致する必要などないと考えれば、そう悪い取引ではないはずポヨが」

 

 別人ね。口調が全然違うし表情がもっとニヒルな雰囲気だわ。

 そういえば「双子」とか「姉」とか言っていたかしら……。それにしてはいくら何でも「何から何までそっくりすぎる」気がしますが、それはまぁ良いでしょう。

 

 その後、オティウスというらしい魔族だけは返すつもりのない刀太のようですが……。

 

「――――そうか、()っきいおっぱい大好きということか。オティウスも中々だし、それを理由に攫って…………、と。うん、最近の中学生は進んでおるなぁ…………、ポヨ?」

「あの、後も先も前後左右全方位で怖い発言するのマジで止めてくださいお願いします………………、いやマジで多方面に」

 

「ふむ…………」

 

 思わず声がしまいましたが、不可抗力よね。

 しかしやはり胸でしたか。忍や九郎丸はともかくキリヱは……、何か手段を考えましょう。

 

 私の声に反応した刀太が振り返ると予想は付いたので、目を閉じて眠ったふり。数秒してくつくつ笑うザジ・レイニーデイの姉の声に併せ、うっすら目を開けてみる。刀太が前方を向いたのを確認して、私は普通に目を開けた。

 

「ポィヨ…………。なら、どうするべきか。そもそもなぜ、オティウスに限ってるポヨ?」

「…………直感っていうか、アイツ見た時に何かヤバイ感じがしたっていうか。放っておくとよくない展開になりそうっていうか」

「むぅ、人格的には普通の『人間上がり』のでしかないのだが……」

「だからそういう情報ポンポン投げるの止めてください、止めてください…………(震え声)」

「そう平身低頭されても、ちょっと困るポヨ…………」

 

 どうしてかは判らないけれど、刀太も色々限界みたいね。ふむ……、これはそろそろ「一線を越えた」方が、彼の慰めになるかしら?

 

「どうも個人的な感覚を優先しているのなら、私から代案を提案も難しいピヨ?」

「いや何で語尾変わったし」

「…………………………なら、どうするべきかザジ?」

「さっき自分でややこしくなるからポヨって名乗ってなかったかアンタ」

「…………どうするべきかボヨン?」

「そこまで行くと原形が無ぇ……、って言いながら胸を持ち上げるな自分で揉むな口から『ポヨポヨポヨン』とか擬音垂れ流すなアンタ!? 何だポヨンってそういう意味かよッ!」

 

 漫符じゃねーか! と刀太が全力で叫んでいるのは少し微笑ましいわね。ちょっと照れてるみたいだし。ただ雪姫様と共に戦っていた、という彼女の妹の証言からして、流石に彼女も「引き込む」のは少し問題があるかしら。

 まあ、その足りない分は「こちらで」「何とか」しましょう。

 

 背後に出現していた形容しがたい怪物の姿を消すと、彼女は両手で自分の胸をマッサージするようにしながら思案しました。

 

「別におっぱい揉ませた程度で話が丸く収まるなら、私も涙を呑んで犠牲になるポヨが」

「いや、ならねーからッ! そこもうちょっとシリアスに! シリアスに!」

「即答とは悲しいポヨ…………、ポヨヨヨヨン…………」

「っていうかさっきから! 話進んでねーからッ! 大体『完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)』の連中まで引き受けるとかも何でだって話だしッ!」

「デュナミスとは知らぬ仲ではないからなぁポヨ。そのくらいして貸しを作っておくのも悪くはないか、という考え方ポヨ。

 まあそれはそうとして…………」

 

 そう言いながら彼女が胸の谷間から取り出したのは……、刀太が目をそらしてるわね、ふむ。雪姫様も「あの姿」のときはやっているし、参考にしてみようかしら…………。

 取り出したのは、鷲のオブジェのような手のひらサイズの天秤。見覚えがある気がするので、何かしらの魔法発動媒体には違いないでしょう。けれど生憎、ここ百年近く見た覚えがないわね。どういう道具だったかしら…………。 

 私はともかく、刀太はそれを見て「アレか……」と嫌そうな表情。気のせいでなければ、少しだけ素の「彼」が出ているわね。

 

 私は私で今、この状況。刀太が「素」に近い状態で話している今の状況で、おそらく「場を最低限おさめる」作戦を持っているだろうと考えています。だからあえて口出しもしていませんし、寝たふりをしたまま危険がないかと警戒をしているのだけれど……。

  

「ポィヨ? どうやら知っているようだなポヨ。強制契約執行――――ただし『魔族版』だがな」

「魔族版?」

「そうだポヨ。ある種の悪魔契約であるポヨ。

 お互いに規定した約束事をベースとした契約において、『その場に魔族の召喚を確定すること』、および『契約内容が履行できなければ成立しないこと』。我々よりも高位の魔人が担当するから、そのあたりの公平性は安心して良いポヨ」

「履行できない内容なら破棄される、ってことか。そういう意味では安全ではあるのか……」

「というわけで、交渉ポヨ。

 オティウスも含めて『魔族および使徒の全員をこの場で見逃す』代わりに、『最新最速の同胞』であるお前が懸念している事項が起こった際、私が全力でそれを阻止しよう」

 

 そういう契約ならどうポヨ? と。差し出されたものを見て、刀太は嫌そうな表情を浮かべました。

 

「…………もし仮に、それで契約履行不可能ってなって、なら仕方ないってすぐさま戦闘に移られないなら、ちょっとは考えるッス」

「フフフ…………、そこは安心するポヨ。今回『召喚された』のはあくまで回収目的でしかない。あんまり戦闘すると回収する暇もなく魔力切れとなるポヨ。

 だからその場合は痛み分け、ということポヨ。オティウスについては諦めるが、この場の全員については仕方ないポヨ」

 

 そう言うと、彼女は天秤の片方に自らの指先を「刃のように伸びた爪」で引っ掻き、血を垂らす。刀太にも血を乗せろと言ったのを受けて、彼もその血装術のコートを少し千切り、皿に垂らしました。 

 

 途端、天秤が釣り合って暗雲が「室内に」立ち込める――――――――。

 

 暗雲の隙間から、幻影のような誰かが投映された。女性、髪は黒く長くて、目つきは鋭い。唇が色っぽくて、毛皮風の(ワインレッド)のコートとドレスを纏っていました。服装の凹凸を見る限り、スタイルも相当良いようね。椅子に座ってるのに座高が刀太たちを超えているし、なんならそれでも足はさらに長くて綺麗なのが見えます。

 彼女も、魔族…………? 脚を組んで寛ぐように、しかし色っぽい彼女。ワイングラスを傾けて飲み干した後、そんな彼女は刀太たちを見ました。

 

 

 

『…………あら、こんな夜遅くに「未来の時代」からわざわざアタシを指名しての依頼とはねぇ。さしずめ「その時代のアタシ」がサボってるってところか』

「さぁ、『背教』タローマティ。契約内容の精査、審議を頼むポヨ?」

 

「――――――――」

 

 

 

 刀太が視線を逸らして、引きつった表情になりました。口が何か動いているようね。最近はよく彼のことを見ているので、それだけで何を言っているか読唇できる自信があるわ。

 

 し、し、ぉ、お、じゃ、ね、え、あ……?

 ししぉお……、ししぉー、師匠?

 

 師匠じゃねーか、ということかしら。…………師匠? 一体なんで師匠なのかしら? 私はあのタローマティと呼ばれた女性に面識がないのだけれど、雪姫様なら何か知ってるかしら。

 

 そんな疑問を頭の片隅に追いやって、状況を観察します。タローマティと呼ばれた彼女はパラパラと「どこからか」出て来た紙を何度か捲り…………、深いため息をつきました。

 

 

 

『…………あぁ、これは無理だね、「循環」の所の姉王女。その時代なら「ポヨ」ってところかい? 契約無効、不成立ってヤツだ』

「ポィヨ……?」

 

 

 

 彼女の言葉に、訝し気なポヨと呼ばれたザジ・レイニーデイの姉。逆に刀太はほっとした様子で、良かったわね……、後でまたいっぱいハグしてあげましょう。きっと喜んでくれるはずです。

 

「……むぅ、やはりわからぬポヨ。そう難しい契約ではないと思っているがポヨ?」

『アンタは「魔法使い」基準で考えれば十分に強いし色々出来ることもあるが、「固有能力」相手にまで全て通用する訳でもないってことだよ。

 ましてやその相手が相手だし、下手すると『周辺の連続時空帯』『その全てを巻き込んで』世界線がぶち切れて酷いことになるからねぇ……。

 ねぇ? トータ(ヽヽヽ)

「アッハイ…………」

『随分硬いじゃないかい、アンタとアタシの仲だっていうのに――――』

「いやそもそも初対面ッスよね一応!? 過去の人物でしょあなた、過去の人物! 見た目(ヽヽヽ)的にも(ヽヽヽ)!」

『別にアタシにとっちゃ、今いる時代や背格好なんてのは大した問題じゃないんだよ。今でさえ二千年代初頭の恰好しちゃいるが、時代としては西暦226年だし、アタシも王子の教育係とかしてるからねぇ』

「なんでそんな具体的な数字を…………」

「というより『背教』が教育とかだいぶカオスなことをポヨ……」

『何だいアンタら煩いねぇ。そもそも宗教改革起こした国の王子に教えてるんだから、アタシの宿命(サガ)的にもなんら問題はないんだよ。

 ま、とりあえずもう用事は終わりなら失礼するが――――アンタは、色々『覚悟しておくこと』だねぇ。沢山溜まってるよ、ガバが』

 

「え゛っ」

 

 タローマティと呼ばれた彼女はそう言って姿を消し……。鷲の天秤はヒビが入って壊れました。

 刀太としばらく何とも言えない顔で見つめ合ってから、ポヨと呼ばれた彼女は。

 

 

 

「…………とりあえず回収するから、ちょっと手伝って欲しいポヨ」

「………………まぁ、こっちの不利益になるようなことしねーんなら」

「それは、流石に空気を読むポヨ」

 

 

 

 あら、この調子だとまだ暫く、私も寝たふりを続けないといけないのかしら?

 というよりも、刀太も何を普通に彼女の手伝いをするつもりなのかしら。……おっぱい? やはりおっぱいに釣られたのでしょうか。

 

 あれだけ私のおっぱいを好き勝手にしたくせに。…………その、色々、あんなこと許したのは彼が初めてだったというのに。

 ……まあ、あの夜の彼は色々と「まともな」意識ではなかったでしょうし、覚えてはいないのも判りますが。

 

 あと背後で「で~~~ち~~~!」って悲鳴が聞こえてるけど、そこはスルーしていいの……?

 

 

 

 

 




※詳細はそのうち
 
設定&質問募集、今月中旬までで締めるのでご興味ある方はお早めに・・・!
基本、設定は別投稿、質問はコメント内で対応しています(量にもよりますが)。


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ST154.血花、血光、血雨(リク番外編)

毎度ご好評あざますナ!
今回、番外編・・・と言いつつ実質本編ですかね汗 キリヱ番外編の時よりも本編軸の量が多いのでご注意汗
 
>1-1. ネギま時代にネギに稽古を付けていたような感じで、チャン刀と雪姫の稽古


ST154.Unforgivable Life

 

 

 

 

 

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック――――――――」

「――――死天化壮、アンド逃走ゥ!」

 

 いつかの別荘、ゾンビ事件……、まあ原作に併せてゾンビ事件としよう。ゾンビ事件の終結後に雪姫のはからいで招待された、例のダイオラマ魔法球な別荘である。フィールドはわざわざ夏場のアレであるところも踏まえると、色々とネギぼーずとの修行編を意識したのかもしれないが、はっきり言って放たれる魔法の類はその限りではない。

 そもそも外の演習場やら龍宮神社やらでない時点で、我らがエヴァちゃんこと雪姫(カアちゃん)の本気具合が伺える。曰く「この場所は私の魔力が満ち満ちているから、外部のように能力を制限されないのでな」とのこと。この段階で、私を相手にするエヴァちゃんの本気度というか、マジギレ度は半端ではなかった。

 

「――――魔法の射手(サギタ・マギカ)! 連弾(セリエス)闇の29矢(オブスクーリー)

 継いで解放(エーミッタム)!!  闇の吹雪(ニウィス・テンペスタース・オブスクランス)!!

 さらに 解放(エーミッタム)!!! 雷の暴風(ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス)!!! 」

「き、近・中・遠、全部の距離をいきなり封じて来る奴があるか馬鹿!? バカアちゃん!? 少しは加減しろっての!!? 大人げねーぞッ!!?!?」

「何がバカアちゃんだ煩いわッ!

 少しは反省しろこのバカ息子がッ!」

 

 闇の魔法弾に追尾されるわ猛吹雪で接近は阻まれるわ少しでも距離を変えようものなら雷もついでに襲い掛かってくるわ、完全に攻撃方法が殺しにかかってきている。というか魔法アプリで遅延を準備して連撃で解き放つとか、熟練の経験者がさらに最新の道具を備えた最終形態味すらある。光と闇が合わさり最強に見えるようなわけではないが、どちらにしろ何から何まで容赦がない。

 チュウベェの使用は雪姫を前にした瞬間、まるで「あっ、俺ちゃんちょっと用事思い出しましたわ……、サヨナラッ!」と言わんばかりに姿を消していることもあり、もはや何をどう突っ込めばよいやら……。どうでも良い所でばっかり疾風迅雷させる頻度が多くいざと言う時に逃げ惑ってるの、お前いったい何のために水無瀬小夜子から私の方に乗り換えたお前……。

 

 空中に舞い砲撃するように連続で魔法を撃ち出す雪姫相手に、私が出来ることはそう多くない。とりあえず血風創天が使用できない以上、大血風を投げて魔法効果の範囲を一瞬牽制、その隙間を縫うように飛行する――――接近してくる闇の魔法弾はギリギリ折れた黒棒でも撃ち落とせるので、雷撃と吹雪がこちらを襲うよりも先に、雪姫へと接近――――。

 それを当然のように読んでいた彼女は、無詠唱で処刑者の剣(エクスキューショナーソード)を生成して折れた黒棒と打ち合う。

 

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラ――――ッ!」

「いや言わせねぇから!」

 

 ただ剣戟が飛び交う中でも当然のように呪文詠唱は止めないので、思わず小血風を左の指先から放ち、その綺麗な頭部を「消し飛ばした」。魔法障壁もなんのその、このあたりは当然のように突破している。

 だが、それで簡単に倒れるようなら、そもそも彼女は六百年も生き延びて来た闇の魔法使い足り得ない…………。

 

 当たり前のように欠損した頭部から噴き出した血で自らの肉体を後方に再構成し、眼前で未だ剣戟している自らの肉体を盾代わりとして、呪文詠唱やら諸々の準備を終えた。

 雪姫というよりエヴァちゃんの姿――――何故か黒くてフリフリした水着姿は、ゲーム版で見覚えがあるような無いような格好だが、やってることは完全にその時代の初期「ネギま!」を逸脱していた。

 

「――――術式固定(スタグネット)千年氷華(アントス・パゲトゥ・キリオン・エトーン)!」

 

 ガチで本気じゃねーか!? いっそ、そのまま掌握してこちらに「闇の魔法(マギア・エレベア)」による術式兵装の神髄を見せてくれそうなものだったが、しかし、邪魔が入った。

 

 

 

「――――『紅焔の左(アザー・メタトロニオス)』、『疑似・火星の白(パラ・アルバム)』!」

(コンプ)――――ッ、くそ厄介な」

 

 

 

 頭上に現れた両腕完全装備のカトラスにより、その左側の光で術式が掻き消された。舌打ちと共に指を弾いて茶々丸と同型に見える(おそらく機械でなくマリオネット形式)人形を呼び出し、数体特攻させる。それに悲鳴を上げながら空中を走って逃げるカトラスは、やがて「顎から上のない」雪姫の影と繋がっている胴体の側と斬り合ってる私の方まで来て。

 

「ちゃんと捕まえとけって、お兄ちゃん!」

『ふみゅー!? みゅー!?』

「おうフッ!」

 

 その右手側に「闇の魔法(マギア・エレベア)」の黒い魔力で形成された球状のものに囚われていたチュウベェを、死天化壮な私の胸、傷の上を覆うクロス状の部分目掛けて叩き込んだ。

 

 瞬間、世界の速度が「切り離される」――――同じ闇の魔法(マギア・エレベア)由来の技であるせいか、すんなりとその球は私の体内へと取り込まれ、死天化壮(デスクラッド)疾風迅雷(サンダーボルト)の状態となった。

 だがこの状態においてすら、なおエヴァちゃんの側から「嫌な感覚」が抜けない。接近したらそれはそれで、何か致命的なことをされる感覚……。咄嗟にその加速状態のまま、少し涙目になり始めているカトラスをお姫様抱っこし、急加速でその場から退散した。

 

 まぁ退散したところで、このフィールドからは魔法球の術式の関係上「24時間」脱出できないのだが。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 早々に何故カアちゃんに対してカトラスと一緒にタッグマッチを挑んでいるかと言えば、案外語ることは少ない。

 

「あーそれから、カトラスだったか? 妹のザジが『娘』といって話だけは聞いているポヨが。こちら側では手を出さないよう色々触れ回ったポヨから、気にするべきは『完全なる世界』だけで良いはずポヨ」

 

 ポヨ・レイニーデイ共々、かなり急いでサリーを半殺しにしかけていた月詠を止めて。ほぼ眼前に振り下ろされかかった両刀に我を失って取り乱していたサリーをあやしながら、ポヨはそんな話を私に言って姿を消した。

 その後、月詠には「交換条件である」ことを念頭に話をしたが、どうやら途中で止められたことが不満だったらしい。もっともそれはそうと仕事はちゃんとするのか、源五郎の組連中に加わって、なんだかんだと会場やらの片づけや関係者の「話し合い」に向かって行ったりしていた。

 

 さて、それはそうと。「僕が運んだら後で何を言われるかわかったものではないからね」と言われていた夏凜やら、普通に熟睡させられてしまった九郎丸だが。源五郎の事務所の一室にて彼女たちが目を覚ました時点で、これまた夏凜から想定外の一言を言われてしまった。

 

「それで? カトラスちゃん――――テナちゃんへの伝言を貴方に託すように言われたのだけど、話してくれますよね? 刀太」

「あー、それは…………」

「話しなさい。話さない理由もあるにはあるのでしょうが、それ以上に私は『貴方が心配』なんです――――」

「ちょ、夏凜先輩!? だったら僕も――――」

 

 そう言って、夏凜は完全にキャラ崩壊したレベルの悲しそうな表情を浮かべて、私に口づけした。もはや躊躇いすらしないマウストゥマウスである。突然の行動に呆然とした私にも九郎丸も何かしたようだが、そのあたりの記憶はさっぱりないので何も起きていなかったはずだ。誰が何と言おうと何も起きていなかったはずだ。

 翌朝なんかキリヱも居たが、別に何も起きていなかったはずだ。というか全員ちゃんと服を着ていたので、本当に何もないのだ。何もないったら(震え声)。

 

 さて、そんな言い訳めいた話は置いておくとして。諸事情あってカトラスの所在は隠していると夏凜に言うと、それ以上の追及こそなかったが。しかしその連絡は当然のように雪姫には回る。

 

 結果的に数日後、雪姫から呼び出しを受ける流れになるのだった。

 カトラスやアフロ含めたチーム全体として。

 到着早々に例の「別荘」へと引き込まれ、ビーチだというのに全員秋から冬場の服装のままである。

 

 大人バージョンの雪姫に対して、アフロは「これが母ちゃん、だと……?」と驚愕の表情を浮かべ、さらに夏凜を前に少し悲鳴を上げていた。そちらはそちらで何か繋がりがあったのか? と思ったが、千景が「ちょっと前に戦ってあっさりボコボコに負けてたからね」と苦笑いしていた。

 なお雪姫は雪姫で、様子が色々膨大に変化したカトラスやら、車椅子で少し困ったような表情の千景に眉をひそめていたが、細かく何かを言ったりはしなかった。

 

 むしろ文句は、主に私に対して集中していた。

 雪姫状態とはいえど表情が嗜虐的な笑みである。なんだか若干エヴァちゃん時代、元祖「ネギま!」でネギぼーずを痛めつけていた時の印象のある表情だ。そのまま両手を腰に当てて、私の顔を覗き込んでくる雪姫は、なんというかこう、間近で見ると顔は本当に綺麗なんだよな……。

 

 なお、そんなカアちゃんの後方で九郎丸がやきもきしたように、三太は状況がわかっていない顔で、キリヱは「やっぱりこうなったわね……」とため息をついていた。夏凜は夏凜で雪姫直々に「外で誰も侵入してこないように見張っていろ」と命令を受けたため、当然のように受諾していたりする。

 

「まほら武道会に出ないと言っていたのに、裏では色々やっているようじゃないか、ん?

 出ないなら出ないで、予選の登録を消す必要もないかとタカをくくっていた私の裏をかいてきたことは褒めてやろう。

 むろん、悪い意味でな」

「あー、まぁ積極的に出るつもりは元々なかったっつーか……」

「言い訳は聞かん。

 そこの、えっと…………、カトラスとか言ったか? お前をこの刀太が、ホルダーで引き受けるということをするつもりがないのは、正直そこは『どうでも良い』。

 この間お前が連行してきた魔人は、確かにいろいろ問題がある能力を持ってはいたが、そっちはこっちで対処するからそこの問題はない。

 問題なのは――――やっぱりお前がアレに参加するってことの方なんだよ」

 

 わかるか? と。私に睨みを利かす雪姫に、失笑しそうになりながら視線を逸らす。

 言わんとしている所は判らないではない。原作刀太の本来のスペックとして「金星の黒」も「火星の白」も、最終到達地点としては万全に使用できることを考えれば。おまけに星月の言っていることが正しければ、下手すると「造物主の鍵(コード・オブ・ライフメイカー)」すら内蔵されている可能性すらある。

 ありとあらゆる側面から敵の手のうちにわたるには相当なレベルで危険であり、もっと言えば手駒として必要というものもあるだろう。

 

 さらに言えば…………、あんまり自意識過剰になりたくないので言いたくはないが。

 少なからず、彼女と過ごしてきた二年間での「親子の感情」があることも、私は理解しているつもりだ。

 

 だが、それゆえのバツの悪さに対して、雪姫はどうも気に入らないらしい。ため息をつき、少し距離を取り。 

 

「訓練というか、試練と言うか……。

 実力を見てやろう、全員でかかってこい。

 ハンデはつけてやるが、今までよりはかなり『少ない』と思えよ、刀太。

 それで私を『倒せれば』、まあ参加してもそう大事にはならないだろうからなぁ」

 

 その一言と共にキリヱ大明神は九郎丸たちの手を引き退避を始め。無詠唱で放たれた凍結系の術により、アフロと千景は早々にダウンした。

 容赦が……、容赦が欠片も無ぇ……!(震え声)

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「いや、いくら何でも問答無用でいきなり実戦とか、あのカアちゃん頭大丈夫か……? いや頭大丈夫だったら闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)とか嬉々として自ら名乗らないか。メンタル大分やられてんだな、元々……」

「何、意味わかんないこと言ってるんだ、兄サン……? っていうか、降ろせっていうか、降ろして……」

 

 超速軌道が切れるまでで引き離せた距離はおおよそ1キロには到達していまいが(ここの全体面積的に)、それでも海上だろうが何だろうがお構いなしに氷の矢なり何なりがぶち込まれてくるようになったので、こちらももはや一刻の猶予もない。後方を振り返る余裕すらなく、カトラスをそのまま放してやる暇もないので、結果お姫様だっこのままエヴァちゃんの猛攻を受けきるしかない。

 

 というか、この状態で逃げてから「…………死ね」とか無言で何かこう、妙にイライラしたセリフをぶつけられているような気がするのは気のせいですかね…………? いや別に、カアちゃんの目の前で知らない女の子を抱っこして運ぶくらい何がどうという話なのだが、何にぶち切れてるのかはさっぱりというか。

 基本そこまで鈍くないはずなので、雪姫をカアちゃんと呼んでいる現状からして「その類の感情」を向けられてはいないはずなのだが。

 

 そして遠方ながら「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック――――」と呪文詠唱が聞こえ、氷の連撃が一瞬止まったこのタイミングを見計らい、再び疾風迅雷の超加速を始める――――。

 

 その場でターン、出入り口の柱付近へとカトラスを軽く置いて、その足で活歩(?)を蹴り接近する――――空中でこちらに指を構えているエヴァちゃんは、その周囲に渦巻く魔力からしてやはりそれなりに大掛かりな術を使用しようとしているのだろう。既にその周囲、下方向含めて吹雪が渦巻いており、正体は不明なまでも猛烈に嫌な予感を感じる。

 なのでその詠唱を止めさせるため…………、しかしエヴァちゃん状態の彼女を切り裂いたりするのは「何故か」躊躇われ。拳を握り、胴体へと速度を活かして一発――――。

 

 ――――加速が解除、したと同時に。私は相手の方が上手であることを思い知らされた。

 

 

 

『――――ククク、やはりな。

 そう来ると思っていたぞ? トータ』

「……! じ、人工精霊!? ってことは――――」

 

 

 私が一撃を加えた相手は、私を護るために雪姫が仕込んだはずの人工精霊のエヴァちゃんであり。はっとした私は、未だに継続して嫌な予感が抜けない下方へと視線を向け――――。

 

 

 

「――――術式固定(スタグネット)閉ざされし氷城(スクラギメノ・カスト・パゴゥ)…………、掌握(コンプレクシオー)!」

 

 

 

 超加速中、私がほぼ周囲の音をまともに認識できないことを逆手に取ったのか。そのあたりはネギぼーずとの戦闘経験で察していたのかは定かではないが。そのまま彼女は見たこともないタイプの術式兵装を発動し――――いつかのように、周囲一帯が「雪の国」へと(とざ)された。

 

 ゆらゆらよろめいた人工精霊はその姿を消すと、エヴァちゃんは「不意に目の前に現れた」。と同時に嫌な予感を前方から感じ、その頃には既に彼女の蹴りに屠られている私である痛い! いや普通の打撃なせいもあってか痛いというか…………。

 死天化壮状態ゆえに座標固定が若干働くので、その勢いに対して「気を緩めなければ」後方に飛ばされて相殺されるまでに衝撃を蓄積してしまうのだが。まるでそれを見越したように、一瞬のうちに四方八方いたるところに現れて蹴るわ殴るわ大盤振る舞いである。身体強化もされているのか一発一発が十分に痛く、そして「内出血レベル」に「あえて」調整されているのか、的確にその痛さでこっちの心折りに来てるんですが止めろください痛い!(懇願)

 

 おそらくこちらの情けない感想が口から洩れたのだろう、痛い痛いとちょっと泣き始めてしまった私に対して、しかしエヴァちゃんは何故か無表情。瞬間、超加速に入ろうとしたこちらの動きを悟ってか、私の胸に「手を突っ込み」、そこからチュウベェを「引きずり出した」。

 

 わー、心臓の肉とか血管とか、魔術的でないグロいパーツが大量に…………。

 

 痛覚がキャパを超えたのだろう、麻痺したこともありむしろ冷静に、その状態から私は後退することが出来た。

 

 

 

 距離を空けた状態で改めてエヴァちゃんを見る。……格好としては「氷の女王(クリュスタリネー・バシレイア)」の原作仕様が露出の高い女王であるとするなら、こちらはむしろ氷の花嫁衣裳とでも言わんばかりの恰好だ。まあ当然のように十歳の外見で、おまけにパンツ的な部分は丸見えになるように調整されてる謎仕様なのだが、こうも堂々とされると厭らしさより威圧感を感じる。

 

 

 

 当たり前のように知らない技使うのやめてくれませんかねぇ(困惑)。……それはそうと、その恰好が趣味だとするとやっぱり夏凜が言った雪姫様は痴女です発言が色々と真実味を帯び――――。

 

「あうチッ!? な、何で脈絡なくいきなり殴ったし」

「いや、何かお前がこの『冬の巫女(シビュラ・ヒモナス)』に文句ありそうな顔をしていたから…………」

 

 いやそもそもその技、何? という話なのだが…………。いまいち正体のつかめない相手だと勝負にならないと言うと、「まぁこれもハンデか」と彼女は苦笑い。

 

「この技、和訳するなら冬の巫女だが――――お前の視界一帯にあるこの『雪の世界』、その全ての雪が私と等しい存在であるとする術式兵装だ」

「…………えっと、つまり? いや、なんか超、高速移動できるってのは判るんだけど」

「そこまで判ってるなら話が早いな。

 事実はもっと雑なんだが……。

 この技の発動中は『降り注いでいる雪』と『私』の今いる座標を自由自在に入れ替えることが出来る。

 もともとお前の祖父の超高速移動系の術に、私が高校生になった頃から負け越し始めたからな。師匠として恰好が付かないと作った、まぁ戯れだ」

「いや、カアちゃんが祖父さんの師匠やってたって話すら多分初耳なんスけど…………」

 

 というよりも、その発言が正しければ。まず間違いなく成長期にあったネギぼーずの「雷天大壮(電気化加速)」ないし「雷天双壮(超・電気化加速)」に対応するために制作した術式兵装である、ということになるのだが。

 そっか、ネギぼーずってば所謂幻の「高校生篇」において、エヴァちゃんに勝ち越せるようになってたのか、そっかぁ…………。それでおそらく、その雷速で瞬動してくるネギぼーずを容易に迎撃できるようにと作った術なのだろうが、そっかー、この技って、それくらいを想定して作ったのか、そっかー……。

 

 無理ゲーでは?(白目)

 

 とりあえず斬りかかる私の目の前から消え、同時に私の頬を「ぺちり」と横から叩くエヴァちゃん。……叩かれてから「嫌な予感」が来ていることからして、この彼女の瞬間移動なのか座標移動なのかって、どう考えても人間の思考速度を超えているものである。ひょっとしたら、それこそネギぼーずもこのレベルで襲い掛かってくるかもと考えると、恐怖以外の何物でもないのだが…………。

 怯え始めた私を見てくつくつ笑うと、次の瞬間には「背後に回り込み」、そのまま私の頭を自分の胸に抱き寄せるエヴァちゃん。今の所、殺気なのか何なのかというものは感じないが、状況としては一発で御陀仏確定のゼロ距離ときていて、こちらとしては震える他ない。

 

「…………お前が心配だ、と。

 そうストレートに言ったところで、今更お前は信じないかもしれないがな。

 それでも『お前が大事だから』、無茶をして欲しくないんだよ」

「……いや、別にそこは疑っちゃいねーけど」

「無理にそう言わなくても良いよ。

 私だって、お前に隠してることはそれこそ山のようにあるからな………………。

 だが、これだけは言える。

 今の状態の私にすら勝てないで、おそらく大会に出場してくるネギ・スプリングフィールドを倒すことなど、夢のまた夢だ」

 

 だから今は眠れ、と――――首に熱とわずかな痛みを覚え、私はなんとなく眠くなり。

 

 

 

「…………全く、因果なものだよ」

 

 

 

 薄れゆく意識の中で、ほんのりと唇に冷たい感触が下りて来たのだけは、理解できた。

 

 

 

 

 




活報の[光風超:設定&質問コーナー的なアレ] 、そろそろ締切ですのでふと気になる事とか、ちょっと忘れそうな設定まわりなどありましたら是非コメントくださいですナ!


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ST155.親子ではないのだから

 
  
 私たちは皆 生きながらに死んでいる
 即ち只々生きること
 それだけであるなら 生きているとは言わない
 
 私たちは何かを持たなければならない
 己を何かを示せねば
 その歩みの後に何も残すことは出来ぬのだから
 
 


ST155.Q?

 

 

 

 

 

 夢を見た。私が見る夢にしてはえらく久々に見るもので、軽い走馬灯なのでは? と疑ってしまうあたり、ここ一年以内の私の生活の酷さを思い起こさせるが。

 熊本での村、中学校でのこと。朝倉(あさくら)清恵(きよえ)の顔を、久しく思い出していた。あの頃は九郎丸はまだ来ておらず、肉丸たちと五人組でつるんでいた頃の話になるが。

 

 端的に言うと、私は嫌がらせされていた。クラスの一部の女子グループが中心となり、あとは仲良し四人を除けばぽつぽつと。

 どうも主犯格だった朝倉清恵的には、肉丸なのか白石なのか武来人(ブライトォ)なのか三橋なのかは不明だが、彼等と絡んでいる「新顔」だった私のことが気に入らなかったらしい。それも彼らと一緒に馬鹿をやっていたなら話はわかるが、一歩引いたような位置でスカしているのが気に入らなかったか……。いや、私的にも最初はそうやって原作通りに馬鹿やろうと試みたことが無い訳ではなかったのだが、いかんせん人格(キャラ)が違いすぎたのが原因だ。

 

 そもそも原作の刀太も、無邪気で底抜けに明るく能天気な馬鹿「のように」振舞っているだけで、根っこはネギぼーず譲りのジメジメダウナー陰鬱少年である。「私」個人の経験の有無もあるのだろうが、それらも作用しているのだろう。結果的にぱっと見の言動はともかくとして、実際にはこんな有様である。

 少し付き合えば抜けも多いことは気付くだろうが、かかわりが薄ければ小生意気に見えたのだろう。

 

 まぁそれについては、それなりにやり返したが…………。大人げない話になるので、少し置いておこう。正直、あの後全く関係ないところで別な事件が起こって、それの解決に奔走した結果が今の彼女との関係性だ。

 

 一通りの「事件」が終わって、私と彼女とは和解した。

 ようやく普通のクラスメイトになれたのだ、と思っても良い。

 

 …………自意識過剰でなければ「それなりに」好意を抱かれもしたが、そういうモーションを彼女はかけてくることはなかった。ならば、それはそういうことだ。私と彼女の間には、実際それ以上に何もないのだから。伊達マコトとのデートの時に言ったこと、そのままである。

 

 だから、そんな彼女から送られてきたあのメッセージは。少しだけ私にとっても予想外で。

 

 

 

『朝:近衛君と出会わなければ、こんな思いをすることもなかったのに』

『朝:大っ嫌い』

 

 

 

 まあ、やはり女心とは私が「私」だった頃からいまいちよく判らないものだなぁと。そのことだけは、何度となく身に沁みざるを得ず。そんなメッセージを送るような「仲の悪さ」ではなかった、朝倉と私との最後の時点での関係と。それでもなお送られたメッセージのそれに対しての、朝倉の心情とを想い、私はどうしたものかと、結局それについては考えることを止めた。

 実際それ以降メッセージアプリはブロックされていることもあり、彼女との連絡はとんとついていない。

 

 だからこれは、単なる感傷でしかなく――――――思い浮かんだエヴァちゃんの、今にも泣きだしそうな顔に、嫌に胸の内を締め付けられるような、得体のしれない痛みが残っていた。

 

 

 

「…………ぇ、……あっ! 起きたんだ、刀太君」

 

 目を開けた私を出迎えたのは、ほっとした様子の九郎丸だった。シャツにネクタイを解いた姿で、ここだけ見ると完全に華奢な女の子である。

 身体を起こし、咄嗟に黒棒があるかを確認する。と、視線が動いたのを見た九郎丸が「こっちだよ?」と、ベッドの下から取り出した。相も変わらず折れているその姿に苦笑いを浮かべるが、いやこう、アイコンタクトしたわけもなくこちらの考えを察知されているのは、少し妙な感覚なのだが……? いや、考えてみればそもそも「熊本時代」からの付き合いなのだ、ホルダーの面子で私と接していた時間は、雪姫の次に長い。多少はそういう考え方のようなものを、察されても不思議ではないか。

 

 そして、同時に感じた胸の違和感――――包帯巻になっている上半身裸の身体のうち、胸の中央を探ると。そこには「砕くことのできない」氷の結晶で埋まった、胸の貫通痕があった。

 

 いつか、誰かにされたような「血装術封印措置」である。おぼろげながら浮かんで来る脳裏の光景やら、前後の時系列を整理するならば…………。

 

「……そうか、まぁ負けたわけだなあの無理ゲーめ」

 

 例の事件の後に諸々あって雪姫と戦うことになった私、カトラス、あとアフロと千景だったが。結果については現在の私の状況が全てを物語っていた。……そもそも見たこともない技のオンパレードで色々困惑必須だったのだが、それはともかく。

 

「あっ、カトラスどうした?」

「その前に、今どこにいるかとか聞かないんだね刀太君……」

「それは予想が付くっつーか」

 

 そう、今私は――――仙境館にいるらしい。それこそ原作7巻、旅館側のテラスにソファで作った簡易ベッドのようなものの上で寝かされていたようだ。大きな提灯に海の匂いでなんとなくわかる。

 そんな私に、九郎丸は少し上を向く。情報を頭の中で整理してから口を開くようにして――――。

 

 

 

「―――― 一緒に拉致されてるわヨ? っていうかアンタ、私が言ったこと全然わかってなかったじゃない! なんで夏凜ちゃんに言っちゃうのヨッ!」

 

 

 

 おっと、堂々と腕を組んで、旅館の制服姿なキリヱ大明神のおなぁりぃぃ! である。プリプリ怒ったように頬を膨らませる様子は大層お可愛らしいが、その登場と同時に「ぐべっ」と悲鳴を上げた足元の三太から退いてやれ(良心)。わざわざ霊体化していない三太の方も、不意打ち的に蹴り飛ばされたのだろうと推測はつくが。

 いやそんなこと言ったって無理だって、と。キリヱにカチコミ前後の話をすると、「そーゆーことじゃなーいーのー!」とフン! と顔を背けられてしまった。

 

「もともとアンタが、あのカトラスちゃん捨て置けないのなんて最初の最初から最後の最後までどう周回したって一緒だったんだから、後はどう雪姫にギリギリのギリギリまで隠し通せるかって話なのよ。なのに何でそうアレなのよアンタは~」

「アレとか言われましてもですねぇ…………?」

「キリヱちゃん、まあ落ち着いて……。三太くん、大丈夫?」

「…………ひ、光が見えたッス。小夜子が光の向こうで、こっちに手ェ振ってて……、最後は猫になった」

「何言ってんだお前(困惑)」

 

 頭を打ったらしい三太の発言に色々と心配になるが、まあ「疑似実体」であるのだから内臓器までは完ぺきに人間のそれを踏襲はしていないだろう。頭をぶつけても脳が損傷はしないだろうと仮定し、とりあえず立ち上がり「死天化壮」を――――。

 

「………って、ありゃ? あー、そうか。そもそも無理かこれ」

 

 胸の「氷で封印された」傷痕、九郎丸が最初につけた私の血装術の基点となっているそこを見て、思わず苦笑いが零れた。

 そんな私に、九郎丸とキリヱは微妙な表情。三太は「いや、しかし凄かったな雪姫サン……」と無邪気というか素直な三太。癒し、癒しである。だがいつまでもそうは言ってられまい。枕元にまとまっていた長着を手に取る私に、どうするのかと尋ねる九郎丸。

 

「どーするのかって言ったって、とりあえずカアちゃんと話さねーとだろ? 九郎丸たちから聞いてもいいけど、より正確な話というか、まあ色々『ケンカ』になるだろうし」

「なんていうか…………、うーん」

「全然落ち込んでないわよね、アンタ。負けたら色々、問題あるんじゃないの? カトラスちゃんのことだって――――」

 

「……いや、私のことそう言ってくれンのは有難いけど、そういう話じゃねーだろ? 『お兄ちゃん』的には」

 

 と、そうこう話しているとカトラスが現れた。……服装は何と言うか、おあつらえたように中華風の丈が短い恰好だ。ネギぼーずが十歳時代に着用していたアレを思い出させる。というか身長対比からして本当にそれなのでは…………? 意外と物持ちは良い雪姫なので、ネギぼーず用にいくつか用意があるかもしれない。

 

 と、それはそうとしてカトラスの一言に「お兄ちゃん…………?」と不思議そうな九郎丸やらキリヱやら三太である。そんな視線を前に「ばッ! ち、違うそうじゃなくって、兄サン! 兄サンだからッ!」と謎の慌てぶりで言い直すカトラスであった。

 

「まー、何考えて私のこと未だに『軟禁もしてない』のかさっぱりなんだけどな。ただそっちより、もっと違うことだろ? 兄サン的に、あのエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルに言いたいことって」

「……………………あー」

「いや、言いたくねーならいいよ。どうこう言える立場じゃねーし、私」

 

「(むむむ……、何ヨあの、なんだかわかり合ってるみたいな距離感?)」

「(刀太君、カトラスちゃんの胸とおへそのあたりで視線が行ったり来たりしてる……)」

「(な、何ですって!? ちょっと、やっぱりおっぱいなの? おっぱいよね? おっぱいしか見てないくせしてあのちゅーにはああああああッ!)」

「(……オレは何も聞かなかった、オレは何も聞かなかった……、ていうか誰?)」

 

 外野がヒソヒソ話しているのはともかくとして、適当に着衣してマフラーを……、マフラーを……? おや、失くしてしまったのだろうか。まぁ部屋に何着か他のものも用意はしたので、後で取りに行けば良いだろう。

 テラスより「ちょっと二人きりにしといてくれねー?」と言ってからその場を後にする。雪姫をまずは探すところから始めないといけないが、しかしいかんせん移動能力が封じられているとなると、色々洒落にならない。

 

 こうして生身で歩くと、改めてわかってしまう――――いつかのように、まだ一人でこの世界に立つのに恐怖があったそれを。それこそ友達を作り、クラスメイトたちと話すようになり、そういった「乖離」のようなものも幾分紛れていったが。いかんせん、こうして完全に封印されているとなるとまた話は別である。

 胸が、寒い――――物理的にではなく、遠く、寒い。

 

 しかし、それでも前に進むことが出来るのは、きっと、胸の穴(ココ)に納まっているのが拒絶の冷たさだけではないからだ。

 そう、思いたい――――。

 

 

 

「――――ん? 刀太ではないか。どうした?」

 

 

 

 そんなことを言うカアちゃん、雪姫ことエヴァちゃんは、「ネギま!」時代に魔法世界編の終盤で殴り込みをかけて来た時のあのドレス姿だった。個人的に一番可愛いらしい服と思ってる恰好なのだが、一体何故そんな恰好で船着き場にいるのやら……。イベント的には周囲の風景も込で原作 11 巻を連想してしまうが、時期的にも何から何まで違うだろうとツッコミを入れたい。あちらはビーチの方だったので、まだ違いがある分救いはあるが。

 まぁこっちに来いと手招きされ、特に断ることもないので、近寄る。と、大体1メートルくらい手前のあたりで、彼女は慌てた。

 

「ちょ……っ、そ、そこだ!

 そこからこっちには来るなよ?

 良いか、絶対だからな! ぜーったい!」

「いや一体どーしたし……、しゃべり方キリヱ化してるぞカアちゃん」

「この馬鹿息子がっ。

 手加減してたとはいえアレだけ本気でぶっ飛ばして、ちょっと顔を合わせづらい親心を少しは労われッ」

「労わるくらいなら初めからもっと手加減するべきなのでは?(マジレス)」

「黙らんかっ!」

 

 てい、と。トコトコ足早に接近してきたエヴァちゃんは、そのまま私の胸を軽く殴った。と、その硬さに「しくじった……」と嫌そうな声を上げて、手の甲をさする。自分で作った氷を自分でぶん殴ってたら世話ないのだが、一体どうしてそこまで動揺しているのやら……。

 腕を組んで、また私から数歩距離を取り。下から半眼で拗ねたように見上げる彼女は、見た目通りの年齢の女の子にしか見えなかった。伊達に物心ついているか怪しかったころのネギぼーずから「可愛い」だの「キレー」とか言われていない。

 

「っていうか何だその恰好」

「気分だよ。

 どうせならお前の好きそうな恰好とかを選んだ方が、まぁ、ちょっとはタシになるかと思いはしたが」

「何で私の好みとか普通に知っているんですかねぇ……?(震え声)」

「(私……?)いや、そりゃ知ってるだろ。

 私、お前のカアちゃんなんだから。

 どれだけお前のこと見て来たと思ってる――――ずっと(ヽヽヽ)

 

 そう言われても、と困惑する私に、ニヤリと微笑んだ表情を消して、エヴァちゃんは続ける。

 

 

 

「大方、お前のことだ。処遇でも聞きにきたんだろう?――――まほら武道大会までの一年間、アジトからの外出禁止だ。

 ついでにお前の吸血鬼性も封印する。その武器じゃ、どの道戦えはしないだろう」

「いや、あの出席日数の問題があるんでココ監禁はちょっと勘弁なんスけど」

 

 

 

 私のその当然と言えば当然の一言に、エヴァちゃんは一瞬目を見開いてため息をついた。

 

「……お前がそう、何て言うか妙に『世間並』の感性をしてるのは知ってるから、そこは心配するな。

 いざとなれば龍宮経由でいくらでも出席日数やら成績やら――――」

「いやだから! そーゆー裏口手段で卒業とかどう考えてもダサいっつーの! って言うかそれ以前に、クラスメイトとか何て言えばいいんだよ……。熊本から逃げた時とちげーだろ状況」

「ダサいダサくないの問題ではないし、それくらいはペナルティだッ。

 あの時、言ったことはちゃんと聞こえていただろう? ――――お前が心配なんだと」

 

 そう言われると弱い。実際、この二年で培われた彼女との親子関係を、否定するだけのものが私にはない。エヴァちゃんも「これでも情が移りやすい方だからな」と、それだけは苦笑いを浮かべた。

 

「だから駄目だ。

 お前にまだ全然、話すことを話せてはいないが…………、それとこれとは別問題だ。

 お前の安全を優先するためには、これが一番良い。あの『17号』や『53号』はこちらで適当に処理しておくから、お前は何も考えなくて良い。

 それが一番いいし、そうするべき(ヽヽ)だ」

「…………処理するってどーゆーことだよ」

 

 私の一言に、エヴァちゃんは返答せず。視線は横に逸らし、遠くを見つめていた。

 

「……お前だって判っているだろう?

 あのカトラスとか言ったか、フェイトの奴は『テナ・ヴィタ(長寿試験)』と名付けていたが。

 アレが、お前も敵対していたディーヴァ・アーウェルンクスを率いる『あの』勢力の一派であることくらいは」

「…………」

「お前がスラムで色々あって肩入れしていることくらいは判る。

 大方『血装術』で体内に干渉した時、『視る必要のないものまで』見てしまったんだろう」

「……!」

「だが、だからといって私の結論は変わらん。

 危険すぎる――――それも、生かしておけないほどにな」

 

 それこそ「今のネギであるなら」、私ですら気づかないようにあの娘を外部から操るような魔法を仕込んでいても、なんら不思議はないからな――――。

 

 エヴァちゃんの、エヴァンジェリンの一言は。それこそ一切の感情や事情を切り捨てる、残確なまでの現実的な問い詰めであった。

 そして、同時に。

 

「お前だってそれを理解してるから、私の方に連絡を入れず勝手にやっていたはずだ。

 ……何より大事な、お前本人がだ。気付いた時にはどんな顔をして叱るべきか悩んだよ」

「……………………」

「お前が、それを判らない奴じゃないのも、判る。

 伊達でも何でもない『カアちゃん』だからな。

 だが、お前がそうまでして自分を大事にしないなら、私にも考えがある――――」

 

 そして、こちらに背を向けたエヴァンジェリンの一言に。私は、胸の冷たさが酷くなったような錯覚を覚えた。

 

 

 

「――――本来、義理など『戸籍だけの関係』なんだ。

 もともと赤の他人で、今じゃ雇われ主従だが。

 それがお前が勝手をする原因であるなら…………、もうそれはナシだ」

 

 

 

 それは明確な拒絶の言葉であり。私が今まで色々と動いていたことに対する、明確な否定だった。

 親子でも何でもないと、その一言に。原作でのエヴァンジェリンの心境を一通り考えれば、それが文字通りの言葉だけではない、もっと深い部分での解釈の余地がある言い回しであることに違いはないのだが。それでも、私の塞がった胸には風穴が空いたような、冷たい感覚が這いまわる。

 

 それくらいに「道具でしかない」と突き付けられるのは。真意がどこにあるのであれ、近衛刀太という肉体を持つ人格としては、堪えるのだろう。

 とはいえ、胸の氷を叩いて文句を言うくらいの精神的な余力が残っているくらいには、「私」もそれなりに場数をくぐってきていた。

 

「……だったらせめて、『これ』、解除しろって言いてーんだけど」

「誰がするかっ。

 そんなことをしたら、お前はまたどこかに勝手に消えて、また勝手に色々やらかすだろうが。

 そんなこと、私の視ていないところでなど許容できるわけがない。

 …………そもそもお前が『あの時』と『全然違う』お前になってしまったのは、たぶん『私のせい』なのだから」

 

 全く因果なものだよと。

 その言い回しに、何か、妙なニュアンスを含んだエヴァンジェリンであったが。

 

 そして振り返ったエヴァンジェリンはどこか悲し気な表情で――――。

 

 

 

「だったら、ウチの小間使いとして雇おうかねぇ。

 ……全く、まだ『ギリギリ7巻』なんだから、ちょっと早いんだよキティ(ヽヽヽ)、アンタは色々と」

 

 

 

「――――ッ、貴様、ダーナ・アナンガ・ジャガンナータ!」

「はい?」

 

 突然背後に現れた師匠(ヽヽ)――――溢れ出る中世的な美を象徴したような白肌豊満な体型のその長身の魔女は、「上から私の両目を覗き込み」……っていうか怖い! 明らかにお師匠それ立ち位置的に「三人いる」だろ! 私の背後から両肩を掴んでる師匠と、私の頭上から「上下逆さまに」空中に生えている(ヽヽヽヽヽ)師匠と、あとエヴァちゃんの真横で腕を組んでニヤニヤ笑ってる師匠!

 と、覗き込んでいる師匠がニヤリと意地悪そうな笑みを浮かべ、自己紹介。

 

「こういう形式じゃあ初対面かねぇ? つい先日『黒歴史』な頃のアタシを見てたようだが。

 狭間の魔女、『揺籠』のダーナさ」

 

「キティ、アンタとは 200 年ぶり? 300 年ぶり? かねぇ。文通だけならネギぼーず(ヽヽヽヽヽ)を弟子にとってから、何度か乙女乙女したのをもらっていたが――――」

「ひ、人の恥部を無造作にバラすのを止めんかッ!

 別に乙女乙女してとか、全然なかったからな刀太!」

 

 ひょいと「肩を」「左右から」「肥大化した手で」摘ままれ持ち上げられながら、顔を真っ赤にして抗議するエヴァちゃんに。とりあえず条件反射で「アッハイ」とだけ返しておいた。

 

 

 

 

 




 
 
質問コーナー締切間近ですので、ご興味ある方は活報コーナーをどうぞですナ!


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ST156.「戦え少年!」

毎度ご好評あざますナ!
少しだけ過去に迫る・・・流れのままにガバる(いつもの)


ST156.“My Love, Stay Alive.”

 

 

 

 

 

 狭間の魔女ことダーナ……、本名は長ったらしいのでこの場ではスルーするが、彼女の素性が何なのかと言えば簡単に説明すると、「エヴァちゃんの師匠」である。存在としては、いわゆる魔族こと「裏金星人」である先史文明の人類に相当なレベルで近い知的生命体、その更に上位種である存在「吸血鬼の貴族」の一人である。彼女個人について言うなら、先ほども言った通りエヴァちゃんの師匠なのだが、これが中々クセが強い。吸血鬼に「されてしまった」彼女をついでとばかりに略しゅ……もとい拾い上げ、無理やり修行をつけ、一人の超越者「もどき」としての生き方、心構えなどを叩き込んだ張本人だ。かの時空間超越別荘ですら、おそらくは彼女の魔法技術をエヴァちゃんが頑張って再現したものであり、それとて完全ですらないと言えばいかにダーナ師匠が規格外であるか想像できよう。

 原作においては準お助けキャラポジションであるが、最初期に刀太たちに修行を付けた後は積極的に本編に介入しない。それは彼女の能力によるところが主な理由であり――――。

 

「あんまり頭の中で人の事を延々と語るもんじゃないよ、本人の前で。照れるじゃないかい」

「えぇ……?」

 

 というか人の頭の中を読まないで欲しい。当然のようにそんなことを言いながら、師匠は余裕たっぷりに荒地〇魔女(ハ〇ル厄介ファン)亜種めいた風貌でニヤリと微笑んだ。

 姿かたちはだいぶ異なっているが、彼女はポヨ・レイニーデイによって呼び出された「タローマティ」というらしい相手と同一人物、だろう。時系列としては、おそらくあちらが過去にあたるはずなのだが…………いやだから、同一人物だからといって師匠に関しては説明が本当に面倒くさいので、一旦放棄だ放棄(やけっぱち)。

 

「シンプルにネタバレしてしまえば楽だろうにアンタもねぇ」

「さっきから何を訳の分からぬことを言っている!

 というか離せ!

 あとそっちの貴様、刀太からも離れろっ!」

「あら嫌だねぇ、何でそんな独占欲をガンガンに見せて来るんだい。

 キティ、お前さんもう親子でも従業員でも何でもないんだろう? まさか『にも関わらず』、此処よりも安全地帯であるアタシの根城じゃなくて、わざわざ此処で監禁するっていうのかい。いくら何でもちょっと自分を過信しすぎだと思うがねぇ」

「黙れダーナ貴様!

 刀太、そいつから離れろ……、そいつは『貴族』だ!

 私やお前と異なり、正式な『人類の上位種』!

 上級魔族、真性魔人、『古代高位神』、『否召喚悪魔』だ……!」

 

「いやあの、血装術が使えないんで無理なんスわ(迫真)」

 

 私の一言に、慌てていた様子だったエヴァちゃんは一瞬硬直。と、そんな彼女をけらけら笑うと、師匠はその姿を「一つにした」。私の背後の師匠だけ残り、ぶら下げられていたエヴァちゃんはそのまま尻もち。「ぎゃふん!」とこれまた魔族(吸血鬼)恒例めいたアレな悲鳴を上げている。……と言うかそれ以上に、師匠の知らない肩書こっちへ放り投げて来るの止めてくださいませんかねぇ(白目)。

 逃げないんで放してくださいッスと言いながら手を退けると、師匠は「物分かりが良い弟子は嫌いじゃないよ」とニヤニヤと見て来た。

 

 とりあえずエヴァちゃんに手を差し伸べて引っ張り起こす。バランスを崩してこちらに抱き着く形で倒れて来た彼女だったが、軽く私の胸を叩いて腕を組みそっぽを向いた。そんな私たち疑似親子を、師匠はそれはそれはペットの奇妙な行動でも見たかのような、微妙な目で嗤ってくる。

 

「ハッハッハ……。やれやれ、全く『思った通りに』酷い顔してるじゃないかキティ。自分の言葉でそんなに傷つくなら言わなければ良いだろうに。義理の息子にすら察されてちゃ世話ないだろう」

「…………ッ!

 いや、これは私たち親子の問題なのだから、部外者はアドバイスを求められていないのにツッコミを入れるな!

 大体、コイツの察しの良さは私に限定されたものでもないわッ!」

「そりゃまぁ『魂的に』そうなるのは妥当だろうけれどねぇ」

「……魂的に?」

「キティは知らない方が良い話だよ。さて、それはそうとトータ。……いや? せっかくだ。私のことは師匠と呼びな、弟子」

「あ、ハイ……、師匠」

 

 言いながら私にウィンクしてくる師匠。「アンタの考えてることは大体お見通しだから、先回りしてガバ潰してやるよ」と気遣われたことがなんとなく判ってしまい、苦笑しながら頭を下げた。

 と、そんな私の横のエヴァちゃんが、いつの間にやら師匠に「高い高い」されていた。わきの下に手を入れて持ち上げられた彼女は、明らかに突然のその動きに動揺している。

 

「しっかしキティ、アンタ何だい何だい? せっかく年齢詐称の術を使えるって言うのに、わざわざ義理の息子相手に二年間見せてこなかった方の本当の姿で、そんな話するとかねぇ……。せっかくそんな鶏ガラみたいなおチビちゃんじゃない方が好みだって判ってるくせに、そっちであんなこと言うのかい、そうかいそうかい…………」

「貴様ァー!

 というか何の話をしているのだ、何の話をッ!」

「いやぁ? べっつにぃー? ……………………まぁ、女の子だねぇって思ったくらいだよ」

「その顔を止めろ貴様、その顔をーッ!」

 

 完全に幼女化しているエヴァちゃんである。考えてもみれば、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル本人、地の性格は子供らしい部分も多い。「ネギま!」でも「UQ HOLDER!」でもそうだが、気を許した(本人は否定するが)相手から全力で揶揄われると、全力でムキになって反抗する部分があった。そういう意味では大人の姿でない分、それをベースに弄り倒される今の状況は、7巻(ヽヽ)時点の邂逅よりも余裕がないのかもしれない。

 

 と、エヴァちゃんが師匠から離れた時点で、微妙に嫌な感覚を覚える。それとほぼ同時に師匠が後方を見て「嗚呼」と言い、指を弾いた。

 

 

 

 次の瞬間、ローブ姿の誰かが現れて、「アチョー!」とか言いながら「飛来する斬撃」を拳で殴り、叩き落した。

 

 

 

メイリン(ヽヽヽヽ)、しばらく時坂九郎丸と遊んでやりな」

「…………へ? 九郎丸先輩とって、ちょっとタローマ――――」

「その名でアタシを呼んだ奴は普段の三倍は厳しく修行つけるって教えてやったろうに、学習しないねぇあの娘は」

 

 身長もそれなりに高く、身体の起伏もそれなりに有る彼女。声とか少しだけ見えた顔の感じからして二十代の女性に見えたが、そんな黒髪の彼女は慌てて師匠に何か言おうとした。が、当然のように指を弾かれた直後、その姿を消す。

 あの「飛来してきた斬撃」が九郎丸のものだとすると、おそらくこっちの様子を確認して、急に現れた師匠を警戒したのだろう。そのまま斬撃を飛ばしたが防がれ、更には刺客のように一人送り込まれた、ということか。

 

 というかメイリンって、誰だお前…………、誰だお前ッ!? またガバか、ガバなのか!!?(驚愕)

 

「安心しな、今回はお前のガバじゃないよ」

「何もいってないんで思考読むの止めてくださいッス、師匠……。というかツッコミ慣れてる?」

「まぁ『ようやく直に』言えるようになったからねぇ。間近で聞いてると想像以上に喧しくて、ちょっとは楽しめる」

「…………む?

 刀太お前、なんでそうすんなりあの女を師匠呼びするんだ。

 初対面だぞ、いつもみたいに微妙な警戒心というか、アレはどこに行った?」

「あー ……」

「それだけアタシが良い女ってことだろうねぇ――――アンタと違って」

「な、何っ!? どういうことだ貴様、刀太!」

「いやあの、こっちに掴みかかるの止めてくださいッス『エヴァちゃん』」

「へ? …………ッ」

 

 当然のような抗議の意思を乗せて軽く返しただけなのだが、私の一言にエヴァちゃんは目を見開いて、しかしそのまま何も言わずに私から手を放し、俯いた。どうしたことだろう、その妙に傷ついた反応。

 普段なら「何がエヴァちゃんだ、せめて様と呼べ様と!」くらいは言ってくるだろうイメージがある。それこそ原作を踏まえてもそうなのだが。とはいえ「理由も判らず謝る」というのもそれはそれで怒られるので、どうしたものかと師匠の方を見る。

 

 宇宙に放り出された猫みたいな顔して、肩をすくめて両手を上げていた。全身で「処置ナシだねぇ」という意見表明をされましてもですねぇ……。

 

「そうなるのが嫌なら『あんなこと』言わなければよかったろうに。それこそ、そういう変な所で律義っていうかドライっていうかな部分は知ってるんだろう? 親子『だったんだから』。

 理由さえ説明してしまえば、納得して普段通りに戻るくらいの柔軟さと共感力の『妙な高さ』はあるんだから、意地張らずに――――――」

「だから黙れと言っているだろうが!」

「――――やれやれ、本格的に処置ナシじゃないかい。

 だが、それはそうとアタシも『やることがある』からこっちに来てるんでね」

 

 師匠はそのまま自分の右手を背後に、というか「私とエヴァちゃんの死角に」入れ、勢いよく振り上げた――――と同時に数人この場に現れる、というより「押されて」倒れるような形に。

 九郎丸に関節技(フットロッカー)()めているローブ姿だったメイリンとかいう彼女(よく見れば全身タイツ)と、仮契約カードを奪われて武器を召喚できず苦労してる九郎丸。訳も判らずひっくり返ってス〇キヨみたいなポーズでパンツ丸出しになってるカトラスと(隠せ)、受け身を取る暇なく転んでお腰を痛められてるキリヱ大明神。トドメに、振り上げた師匠の手で髪を掴まれて、鎖鎌みたいにブンブン振り回されている三太。軽い地獄絵図である。

 

「っていうか今の何、どうやったんスか……?」

「まぁアレだよアレ、目の錯覚を利用した」

「錯覚って――」

「見えない収納(ヽヽ)から必要なモノを取り出した」

「――いやどういうことッスかッ」

「……諦めろ刀太、こういう奴だこの女は…………。

 それより三太を放してやれ、ダーナ」

「ふんっ」

 

 ぺしり! と振り回していた勢いのまま地面に叩きつけられる三太に同情を禁じ得ない。

 いやしかし、原理は不明だが、特撮ヒーローとかが「お前それどこにしまってた!」というレベルの大きな変身アイテムを取り出して構えたりするものの応用? なのだろうが、それにしたって収納限界くらいは考えて欲しいものである。

 と、大慌てで身体を起こしてスポーツタイプのパンツを隠しながらこちらを睨むカトラスから視線をそらしていると、師匠は私の目を見て。

 

「一応、アンタの弟子入りは『過去も未来も』確定なんだが、一応聞いておこうかい。

 強くなりたいかい? コノエ・トータ」

「…………死なない程度にっていうか、『死なせない』程度にっつーか」

「曖昧な返事だねぇ……。もうちょっと『心が動く』ようなことを言ってみな?」

 

 脳裏に過ったのはカトラスもそうだが、この人生で遭遇したディーヴァやらでち公やら。そして原作で最終的に戦うことになる相手を思えば――――。

 

「少なくとも、カアちゃん(ヽヽヽヽヽ)にこんな顔させねーくらいには。……マザコンだ何だ好きに言えってんだ、仲間も家族も誰にも、心配かけて言われないようにしたいって思って何が悪いってんだ」

「痛いのは、嫌なんだろ?」

「それでも、俺が何もしねー理由にはならねーから」

「――――――――」

 

「――――あほほほほほほッ! 馬鹿だねぇアンタも。

 そんなんじゃたとえ何度生まれ変わったって、生き方は変わらないだろうに」

 

 状況が読めねぇと何故かドン引きしてるカトラス、首から下が地面に刺さって抜けない三太、「どこかで聞いたことある声ね?」と不思議そうなキリヱ、「弟子ってそれは……」と不思議そうな九郎丸と、いまいち表情が見えないフードのメイリンさん。

 そして、私の後方で息を呑んで、何も言ってこないエヴァちゃんで――――。

 

「畏れず前を見て歩み続けろ、かい? ――――」

 

 そして師匠は、深くため息をついて。

 

 

 

「――――『雪羅姫(せつらひめ)』だってもう持っていないだろうに。これだからキティは。全く、罪な女だよ『いつも』」

 

 

 

「――――えっ」

 

 その師匠の一言に――――「私」にとっては母親代わりの形見であったその刃の名と共に。知っていても不思議ではないだろうが、それでもこの場で突き付けられるにしては「違和感のある」言い回しに気を取られ。同時に私の胸は「消し飛ばされ」、強い眠気に襲われた。

 

 

 

   ※  ※  ※

  

 

 

 ――――ハハハ! 驚いたぞ、凄いなお前……。腐ってもアレは■■■の人形だぞ? 普通は不意打ちでも首は落とせんはずだが…………、やはり「血」か――――

 

 ――――終わりだよ、これで、私は。見た通りだよ、嗚呼、キクチヨ……。フフ、■■■が居ないのが残念だが、お前達(ヽヽヽ)にも世話をかけたな――――

 

 ――――良いか? 生きると決めたなら、意味などなくとも生きるものだ。……やれやれ、困った子だ。この私相手に、まいったな……。こんな時何と言えば良いか――――

 

 

 

 ――――この……、この(雪羅姫)は我が心、我が命。そこに映したお前の姿に、恥じないように生きろ。まっすぐに、恐れに足を取られず、それでも踏み越え、前を見据え、しっかり、一つ一つ――――

 

 ――――戦え(生きろ)、少年! 男の子なんだから―――― 

 

 

 

「…………酷い夢見だ」

 

 何で「私」にとっての母代わりだった彼女の死に際の夢など見なければならないのか。全く嫌になる。部分部分、記憶も歯抜けで、覚えている部分と覚えていない部分があって。ただあの後、剣と眼帯だけはもらいうけ、前も後ろもわからないまま、とりあえず足を進めた。そのことだけは覚えている。

 覚えているけど、それはそうとして痛いものは嫌だ。彼女の下で育てられていた時の経験以上のそれを味わいつくしたことで、当時からもだいぶ精神が変化した自覚はある。だが、人生っていうのはそんなものだし――――それすら「私」が私であると『保証してくれない』ことが、何よりも強く辛かった。

 

 ため息をついて上体を起こせば、何故か上半身裸のまま寝かされていた。包帯はとれており、当たり前のように傷は存在しない――――存在しない?

 はっとして自らの胸を撫でるが、そこには明らかに強烈な違和感がある。傷痕だ、傷痕がない――――雪姫ですら凍結して封印する他なかった、何をやっても残り続けたあの九郎丸の傷が、その存在を跡形もなく消していた。

 

「…………オイオイオイオイオイ、どうしろというのだ師匠も」

 

 ほぼ間違いなく、師匠の仕業である。原作に置いて「狭間の魔女」ダーナは、「初対面だった」カトラスによって襲われ、部分部分能力を封印されていた近衛刀太のそれを復活させたのだ。そんな彼女からすると、いつまでも胸に九郎丸の力が残り続けていることが、嫌だった可能性も高い。そういう「ハンパな」方法で能力を使うのを嫌うというか、適当な話だがそういうイメージがある。

 イメージがあるが、だからといって完全にこちらの攻撃手段を封じられてもその…………。

 

 部屋の周囲を見回し、そのスケール観や既視感のある光景から現在位置を断定する。ほぼ間違いなく、師匠の拠点である「狭間の城」、キリヱのレベル2の「あの部屋」が接続されている、天空の古城のような場所だ。

 まさか二回連続で殺されかかりながら気絶させられるとは思っていなかったこともあり、とりあえず深呼吸。つまりこれは原作8巻、修行編に突入したという風に考えても良いのか? だが師匠の言っていたことからすれば、まだ7巻くらいの時系列にいるはずなので…………、駄目だヒントが足りなすぎる。

 いっそのこと師匠を探して直にお話できないかと思い服を探したが、そこには「あつらえたように」原作刀太が着用していた学ランが存在した。

 とりあえず適当に着替えて少しストレッチ。動作確認的に「今までの身体能力」が低下している訳ではないらしいが、雪姫に封印されていた時同様に「金星の黒」との繋がりを感じない。当たり前と言えば当たり前なのだが、さてどうしたものか――――。

 

 

 

『――――――――あっ』

 

 

 

 ふと聞こえた声の方を向くと。そこには「桃色の長髪をした」「巫女装束の」「二十代くらいの女性」が立っていた。顔には白い(カラス)の仮面。髪は結っておらず、背中には「六つの輝く羽根」が生えている。

 そんな彼女は、私の様子を前に目を見開き。しかし少し視線を逸らした後、一度咳払いをした。

 

『…………お目覚めになりましたか、近衛刀太、様。

 …………狭間の魔女様が、お待ちで――――』

 

「いやお前、九郎丸だろ」

 

『――――ひゅッ!?』

 

 思わずの指摘を前に、その明らかに姿の違う九郎丸は――――仮契約で呼び出されている神刀・姫名杜であるはずの九郎丸は、その場でずっこけた。

 

 

 

 

 

 




質問コーナー、一応本日(16日)締め切予定なので、ギリギリ滑り込みの方はお早目にです・・・!


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ST157.親子なら良かった

毎度ご好評あざますナ・・・
 
今回はもうなんか色々本気で注意回。そして私も過去にガバ描写があるか確認しきれていない現状なので後々修正も入るかもです汗


ST157.A!:Insufficient

 

 

 

 

 

『どう…………、して……?』

「いやだって、完全に九郎丸だろ……(原作 23 巻的に)」

『――――と、刀太くん……!』

 

 困惑しながら仮面を外したその九郎丸。髪の色は一気に真っ黒に戻り、背中の羽根も何処へやら……って、思いっきりノースリーブタイプというか、「ネギま!」でせっちゃんがかつて着用していた胴着タイプの背中が思いっきり出ている型の恰好だった。と、感極まったようにそのままこちらに飛び掛かり、私の胸に顔を埋めてわんわんと大声で泣いていた。

 

『刀太君……、僕、ああ…………、刀太君…………!

 ごめんね……、君に(ヽヽ)、あっちの僕の刀太君に、こんなことしちゃいけないんだけど……! それでも、ごめん、僕、僕…………ッ』

「…………」

 

 姿かたちでいえば、青梅勝四郎を偽名としていたカチコミ用の美人バージョンな九郎丸だが。その、詳細を聞くにしても嫌に恐ろしい気配しかしない、零された一言に。私は瞑目し、その背中を抱きしめ返してポンポンと叩いた。

 時坂九郎丸――――その身に宿る神刀・姫名杜(ひなもり)。これはかつて、九郎丸がいた裏火星の桃源における秘宝として存在していた。この姫名杜と同化した九郎丸は、病身だったその身を一発で快癒しえたのだろうと推測できる。言うなればあの刀こそが九郎丸の不死者としての本質でありトリガーであり、なによりその力を真に発揮した時の彼女は、まさに熾天使(セラフム)と言って良い姿をしていた。まあ赤なのか桃色なのかとか微妙な部分で解釈はわかれるだろうが、性別が存在しない存在、背中に六つの羽根というファクターは共通している。何もそれで九郎丸が天使だーとかそんなことを言う話ではない。話ではないが――――こと魔法世界において、『意図せず』そういった類似点が発生する場合は、何かしら意味合いが存在すると考えた方が良いだろう。

 

 つまり、自らの意志で覚醒(ヽヽ)できるようになった九郎丸は神霊のそれであり――――原作においてそうであったように、この九郎丸においても。

 

「…………事情は聞かねーけど、前に話したろお前」

『あっ…………、そ、そういえば、そうだったね――――ひぅ』

「何で人の顔を間近に見て硬直してるんスかねぇ(震え声)」

 

 自分から抱き着いておいて照れるとか流石に止めて欲しいというか、より女性的になったその姿の状態でそんな乙女乙女しい顔されても色々と困るだけなので正直止めて欲しいというか、止めてクレメンス(震え声)。

 そんな風に言い訳めいたことを考えながらさてどうしたものかと思案していると、ぬっと九郎丸の「影から」師匠がひょっこり頭を生やした。思わず引きつった私に鼻先5センチくらいの位置まで迫ってきていた九郎丸が(近い!?)「どうしたの?」と涙目のまま不思議そうにする。と、ぬっと伸びた手が九郎丸の後ろ髪を掴み、無理やり引っ張り上げた。

 

『きゃあッ!』

「全く、何を完全にアタシの予想通りの展開してるんだいアンタは……。だから言ったろ? 今の近衛刀太は『お前の知ってる』近衛刀太の数十倍のレベルでカンが良いって。『経験値』的な理由でも」

『す、すみません、ダーナさん…………。えっと、刀太君……』

「あー、何て言ったらいいのか…………? 何を聞いたらいいのか、って話なんスけど」

 

 それはそうとして状況が混沌としている。まず何と何がどうして何とやらというか、繰り返すが何をどう聞いたら良いのかというところからさっぱりである。中途半端に事情を分かってるし(原作的に)、九郎丸のリアクションやら以前までの推測やらを踏まえれば当然のように予測できることもあるが、だからこそ逆に「何を言うのが」不自然でないかという、そっちの問題もあったりする。

 そんな私に肩をすくめると、師匠は九郎丸に仮面をつけさせた。再び桃色に髪が発光し、羽根が生える。

 

「コイツは九龍(くりゅう)――――姫名杜勝四郎(ひなもりかっしろう)九龍(くりゅう)天狗(てんぐ)だよ」

「いや何スかその色々もりもり過ぎる名前……」

 

 というより九龍は完全に九郎丸の(ある意味)別名だし、勝四郎は私が名乗らせた偽名だし…………。

 

「そういうことにしておきなって話さ。でないと『桜雨キリヱによって』『五万回以上』『時空周回を跨いだ』『一周目の』アンタみたいに、最終的には吸収統合か対消滅せざるを得なくなるからねぇ」

 

 私の脳内の疑問に対して、当然のように返す師匠。仙境館に居た時含めて、どう考えてもこちらの思考を読んできていやがる……! あの、その。なんというか色々と平にご容赦ください(震え声)。

 

「アンタがそうやって、文字に起こした時『(~)(かっこなになにかっことじ)』って言わないと説明がつかないくらい感情が揺れ動いてる時は、精神的に相当余裕がないってのはわかるけど……、シリアス具合が削がれるから、多用するのは止めた方が良いんじゃないかい? まあ地の文とかに書いたりしたなら多少字数を減らせるから、結果的に読みやすくはなるんだろうが」

「チュウベェですらツッコミを入れないようなメタ発言を……!?」

『め、メタ……?』

 

 熾天使九郎丸……、というか「九龍」と呼べと言っていたか。詳細はわからないまでも、師匠がそう呼べと言うからには、この場合何か必要があるのだろう。九龍天狗ちゃんは、それこそギャグ顔というかデフォルメしたら目が真ん丸で描かれるような困惑のご様子。

 困惑してるのはこっちの方なんですが……、その…………。

 

 と、しばらくすると師匠が窓の外を見て「時間だね」と何度か首を縦に振り「アンタはもう仕事に戻りな」と九龍天狗ちゃんの背中を蹴っ飛ばした。腰をさすりながら『あっ、じゃあまた後で……!』と、ちょっとクール目だった初対面時(?)のそれを普通に投げ捨てて、いつもの九郎丸な様子である。

 そして彼女がいなくなったのを見計らい、指を一度弾く師匠。特に外見上何かが変わったわけではないが、これは…………?

 

「防音結界だよ。『狭間の魔女』であるアタシの防音さ、それこそ他所の世界のアタシかアタシが許可した相手以外は聞くことは出来ないだろうねぇ」

「何っつーか、ホント何でも有りっスね師匠…………。っていうか何で防音?」

 

「――――これならアンタだって素で話せるだろう。外に気を遣わなくて良いんだからねぇ、神楽坂(ヽヽヽ)菊千代(ヽヽヽ)(ちゃお)のバカ娘がこっちに招待した時以来かねぇ」

 

 当然のように察されている「私」の名前に表情が引きつり、特に何をしろと言われたわけではないが両手を上げて降参のポーズをとっていた。お手上げ状態である。

 

「まぁ、何と言うか『察されてる』だろうし下手したら『聞こえてる』のだろうとはずっと思ってはいましたが…………、ちょっと色々、情報量が多すぎて()も限界が近いッス……」

「安心しな、まだまだ序の口だよアンタ、キクチヨ(ヽヽヽヽ)。…………嗚呼、唯一の安心材料としちゃ、ここには『まだ』メイリンは居ないからねぇ。そっちに気を遣うのはもうちょっと後になるよ」

「そもそもメイリンって一体…………」

「アンタのガバじゃないけど、まぁ結果的には半分はアンタのガバになる娘だよ」

「――――――――」

「現実逃避して白目剥いて気絶しようとしてんじゃないよアンタ、ほれッ」

「アウチ!」

 

 倒れかかった私の鳩尾に蹴り一発入れたくせに衝撃は「背後から来て無理やり立ち直らせられる」とかいう物理現象の無視よ、一体どゆことネ……?

 

「超じゃないんだから、もっとしっかりしゃべりなアンタ」

「あの、せめて精神的なプライバシーくらいは確保していただけると……」

「悪いがこればっかりはねぇ……。『深淵を見る時、深淵もまたこちらを視ている』っていう理屈から難しいものがあるね」

「さっぱり意味がわからないのだが…………」

「判らなければ『今は』そのままで良いよ。後で色々察した時に、嗚呼あの時言っていたのはこういうことだったのかーくらいに覚えておけば。何でもかんでも準備済で全てを不可分なく回収できるっていう展開は世の中に中々あるもんじゃないが、アンタの抱えてる『自己同一性』に関する恐怖は、ある程度はどうにかなるみたいだし。

 正直な話、アンタの記憶にあるだろう『UQ HOLDER!』についても、アタシからすれば『そういうエンド』の一つってことになるから、そこはイーブンってところかねぇ」

 

 当たり前のように自分のいる世界がフィクションとして作られている可能性についてもスルーして流すダーナのお師匠は、なんというか想像以上にダーナのお師匠しており、絶対に敵わないと思わされるだけのパワーがあった。

 まぁ座りな、と言いながら「いつの間にか」設置されていたテーブル。造形が中世なんだか近未来なんだか微妙なラインの幾何学模様が走った椅子を引き、これまた同系統の模様が描かれたカップに注がれた液体を飲んだ――――。

 

「…………、水?」

「嗚呼、そうだねぇ。世界的に見ればプレミア物だが、アンタはそのうち好きな時に好きなように飲ませてもらえるようになるもんだから、何も考えずに飲んどきな」

「何も考えずにと言われましても…………。あ、でも只の水のはずなのに、妙に落ち着――――」

「そりゃ『本当の意味での』聖水(ヽヽ)だからねぇ」

「――――く、ぎみやッ!?」

 

 いや魔人? なんだか吸血鬼なんだかって相手に何てもの飲ましてくれてるんだこの師匠!? 思わず咽た私に、意地悪そうにニヤニヤ笑うダーナ師匠は、「害はないから安心しな」とだけ言って自分も同様のそれを一口飲んでいた。

 

「愛情を感じる良い水だねぇ…………。

 さて、それはともかく。少しはこれで『状況が理解できた』かい?」

 

 師匠のその一言に、私は深呼吸。……本当に飲んで大丈夫なのか疑心暗鬼になりながら、コップの水を一口ちびりと飲んで、改めて思考を回した。

 

 

  

「……………………何というか、もはや私が知っている『UQ HOLDER!』からはこの世界って外れてます?」

 

 

 

 本来ならエヴァちゃんと一緒に師匠を襲撃してますよね、と。

 私のその一言に、ダーナ師匠は腹を抱えて大笑いした。

 

「いえ、あの、笑われてもちょっと困ってしまうのですが……」

 

 本来であれば、いわゆる原作8巻の修行編において。最初の時点で近衛刀太はこの「狭間の城」で目覚めた際に、いまだ十数歳のエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルと遭遇する。誰に対しても警戒をしている、しかし未だ心の底に暗い感情が渦巻く前の素直なエヴァちゃん。この修行編は、近衛刀太やその周囲の「不死者としての」レベルアップと同時に、そんな過去のエヴァンジェリンとの交流を深め、彼自身のルーツを探るその足掛かりになる編である。

 故にこそ、それが本来なら発生している段階で、あの九郎丸が来たり師匠とこうしてお茶(?)しているという状況は、中々に不可思議かつ不可解なものがあった。

 

 そんな師匠は目元の涙を拭い、私に軽く手を振る。

 

「嗚呼、悪いねぇ。そこをいきなり聞いてくるあたりアンタはちゃんと『近衛刀太』してると思って。感情の種類は違うにしても、やっぱりキティに、いやエヴァンジェリンに『愛』を教えられる『運命の男』であることに変わりはないねぇ。嗚呼、心配しなくても『ある程度』イベント順序だけを意識して動いていれば、なんとかなるよ。キティの心象はともかく」

「あ、当てつけか何かッスか……」

「事実だろう? だって――――」

 

 

 

「――――アンタあの子、キティと『そういう関係に』なるイメージが、全く湧いていないんじゃないかい?」

 

 

 

 頑なに何が有ってもカアちゃんと呼んでいたその振る舞いは、つまりそういう事だろ、と。

 指摘された事実に。私はどうしても、背筋を這いまわっているようなこの苦い思いを拭い去ることが出来なかった。

 

 そんな私に、彼女は同情するような力のない笑みを、視線を向けて来た。

 

「まあ心中は察するよ。察するだけでどうこう言うのは野暮ってものだろうが。

 下手を打てば『それが切っ掛けで』キティが絶望し、果てにあの子が『積極的に』世界を滅ぼす側に回るかもしれないとかねぇ。十分ありうる可能性だし、だからそれを検討したアンタはあの子を『愛せない』と自覚した瞬間、その関係性に『親子』としての側面を強くするために動き始めた。

 まぁ身体的にも? 大河内アキラみたいな『本当の』(ボン)(キュッ)(ボン)相手じゃあ、キティの鳥ガラみたいなボディで満足するのは難しいだろうがねぇ」

「いえ、そもそも齢十歳の肉体に欲情する程『私』も飢えてはいないので……って、そういう話じゃなく……!

 …………………………………………」

 

 私自身が、エヴァちゃん――――エヴァンジェリン・アタナシア・キティ・マクダウェルに対して、本来どういう感情を抱いていたかと言うと。恐ろしいことに「何の感情もわかなかった」というのが、初対面の時のそれである。

 

 病院で目を覚ましてOSR(自らの進む方向性)を定めた当時は、いまだ憑依なのか転生なのかはともかく自らの自己の不安定さに恐怖していたし、身体の使い方やら何やらをまず覚えるのに必死だったからそれどころではなかった、と言い訳はできるが。それはそうとして、この世界で初めて「肉をもって」「相対したはずの」人物である彼女に、本来ならその大人の姿相手なら抱いても良いはずの性欲の類すら(ヽヽ)湧いてこなかったというのは、あまりにも異常である。

 不死身による機能不全か何かかということもなく、クラスメイトで言えば朝倉やら、後に絡みが多かった九郎丸、もはや何が何やらと言う暇もなく色々と怖い(断言)夏凜やら……いや例を挙げると生々しくなってくるのでストップするが、そういった類のものがエヴァちゃん相手には全く出なかった。

 

 むしろ、心のどこかに鬱屈とした感情すら湧いてきており――――。

 

 それら全てをふまえて、「UQ HOLDER!」における近衛刀太(主人公)雪姫(メインヒロイン)の関係として考えた時点で、もはや絶望しかなかった。 

 エヴァちゃんの姿を前にした時点ですら、可愛い、愛らしい、露出が激しいといった類の感想は出て来るが。それで私自身、何かしら強く「そう」なる訳でもない。視線を引き付けられたとしても、本当に、彼女だけに限っては何もかもが事情が異なっていたのだ。

 

 ただ、そんな事情は最初からお見通しだろう師匠は、彼女にしては珍しく突き放さず、仕方ないという風に寂し気に微笑んだ。

 

「いや、そういう話なんだよ。まあ落ち込む理由も判るがねぇ。人工精霊の方のあの子――――二百年はいかないだろうが、それくらい前のキティからすらあれだけ好意を示されてちゃ、自分の親子愛作戦(ヽヽヽヽヽ)なんてどこまで上手く行ってるか、不安で不安で仕方ないだろうし。

 悪い手ではないよ、実際。アンタの知る世界の流れでも、近衛刀太から迫られるまではキティも『そういう目では』極力見ないように動いていたようだし。

 だから自分の主義主張である『痛くないように』したいっていうのをメインに据えても、あんまりイベントの流れからは積極的に逸れようとはしていなかったようだし。……桜雨キリヱに関しちゃ、『原作同様』ちょっと対応が甘い気がするが」

「……………………」

「ま、どんなに落ち込んだところで、アタシから言えることはあんまり多くないんだがね。野暮も過ぎれば馬に蹴られて28箇所の刺し傷だぞ! 確実に殺したかった! みたいになっても痛いからねぇ」

「何で唐突にコ〇ー(デト□イト市警)の話に……?」

「いや、あまりにも元気がなさそうだったからついねぇ」

 

 師匠の発言があまりに自由極まりないのはともかく。

 というかそういうツッコミは律義にするんだねぇ、と言われてしまい。頭の中が真っ白に――――否、真っ黒に染まった私は、思考が酩酊して、言葉をそれ以上返すことはできなかった。

 

 そんな私に、師匠はしかし意地悪げな笑みを浮かべる。

 

「…………ただまぁ、アタシに言わせればそれはちょっと勘違いなんだよ」

「……勘違い?」

「そうさ。基本的に人間に限らずだがね? 恋愛感情っていうのはその育った環境に大きく依存するもの。近衛刀太じゃなくキクチヨにとっての『母親』って相手は、母親であると同時に『育ててくれたシスターの仇』であるってのが重なって複雑だったり、それを少しキティに投影していた面もあったってのもあるだろうがねぇ――――」

 

 もはや当然のように知られている「私」の過去を明言してくるあたりには、もはや文句を返せる余力も無く苦笑いが浮かんだ。

 

「――――だけど嫌い合ってる親子でもなければねぇ。基本、その人間っていうのはどうしても愛する相手を探すとき、その相手に自分の親を投影して見てしまうものさ。ましてやキティは本人(ヽヽ)なんだし、最終的に『色々』覚悟してるアンタならね。

 詳しく知りたきゃ、キティの所に今いるサムライみたいな和尚に説法してもらえば良いが……」

「師匠から見てもあの和尚さん、そんな扱いなんスね(遠い目)」

「何なんだろうねぇあの男は……、別に『そういう魂』が関係してる訳でもないだろうに…………。

 いや、その話はともかくだ。その前提があればこそ、本来ならアンタが『近衛刀太』でなくとも、キティを愛してあげることは出来るんだよ。そこだけは、間違いない」

「そんなことを言われても…………」

「もしそれが出来ないというのなら、アンタの心の内に滞留しているその『黒々とした』何かは、決してアンタがあの子を愛せない絶望『なんかじゃない』。

 もしそうなら、可愛いとかきれいとかすら思えないんだからねぇ普通は。

 だとすれば、そう思えない感情の正体。もっと言えば、それを抱いている『アンタ』の正体っていうのは――――――――」

 

 

 

「――――――――ちょっと喋りすぎだぜ? 『背教』タローマティさんよ」

 

 

 

 そう言いながら「テーブルの上」私と師匠の間に現れ彼女を見下ろしているのは…………、聞き覚えのある声、聞き覚えしかない声。振り返らずともわかる、わずかに揺れる黒と白のローブにその背丈は見間違えるはずもない。おそらくその「近衛刀太」の顔をした誰かは……。

 

 

 

「……………………アンタは変わらないねぇ。

 自覚させてあげた方がそこの近衛刀太(ヽヽヽヽ)()()だろうに――――『光る風に呑まれし者』よ」

 

 

 

「…………って、いうか星月お前まで黒棒みたいに実体化できるのかお前オイオイオイオイッ!?」

 

 BLEAC〇(オサレ)的には〇心(家族大好き親父)じみた登場に思わず、空気を読まず口走ってしまった私の声に。師匠と星月がそろってこちらを見て「空気を読め」と視線で睨んで来て。思わず「アッハイ」と恐縮し、カップの水をもう一口飲んだ。

 

 この液体、一般的には悪魔やら怪物特攻だろう「聖水」と言う割に呑むと本当、不思議と落ち着くのだがこれは一体……?(現実逃避)

 

 

 

 

 




※これでもチャン刀側からエヴァちゃん側への感情が重い理由の「一部」です(後は星月ちゃんが知ってる無自覚案件)
 
ご質問とうとうありがとうございました! 結果についてはあちらの活報をご参照ください・・・


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ST158.原作の思考誘導

毎度ご好評あざますナ!
Aの続きはもうしばらく先にて・・・、そして来襲と独自解釈大量注意


ST158.Origin's Misdirection

 

 

 

 

 

「まぁ出て来たところでアンタに用事はないんだけどね―――――ほれっ」

「へ? あっちょっと待――――」

 

「いや秒殺(?)かいッ!」

 

 思わずそうツッコミを入れてしまうくらいには、星月は一瞬でこの場から退散させられた。ティーカップをちゃんと避けてテーブルの上に立っていた星月だったが、師匠が軽く手をひねった瞬間、文字通り影も形も消え失せた。なんなら私が一瞬まばたきした瞬間だったと思うので、これもまた師匠に言わせれば目の錯覚の応用とかそういうのになるのかもしれないが……。

 

「心配しなくても数時間で戻ってくるから、気楽にしておきな」

「そうは言われましてもねぇ……」

「別にアタシもアンタを虐めようって話じゃないんだ。『ドクターストップ』かけられたから、流石にこれ以上はまだ早いってことなんだろうが。

 とはいえアタシとしちゃ、キティが泣かないに越したことはないからねぇ。そのために出来ることなら、まぁ『制約』に引っ掛からない程度にはやってやるよ」

「制約…………?」

 

 私の疑問に、そうさと師匠は肩をすくめた。

 

「ポヨ・レイニーデイによって呼び出された『背教』を見たんだろ? まあアンタだから少しネタバレしてやるとねぇ――――」

「いや、あの、止めてください……、止めてください…………(震え声)」

「――――別に知ってたって特にガバになるような話じゃないから、まぁ聞いてな。

 もともとアタシは魔人の中でも固有能力持ちでねぇ? 今の桜雨キリヱのそれとは違うが、ちょっとだけ似たようなこと『も』出来たタイプの能力だったのさ。だが、ま、伊達に貴族、真正魔族でもないからねぇ? 寿命はそれこそ有り余るほどに長く、経過した時間も遠くさ。

 で、気が付けば何でもかんでも『干渉しようと思った全てに干渉できる』程度の能力を得ちまってねぇ? 最初の頃は金星文明がああならないよう東奔西走したんだが……。まぁそのあたりで、『観測』ニキティス・ラプスから、『背教』という名を受けたのさ」

 

 既に情報量が多くてあまり理解したくない状況なのだが……。

 

「ま、別にここで言ったアタシのオリジンがアンタの(ヽヽヽヽ)知る(ヽヽ)アタシと一緒かってのとは別問題だから、ねぇ? 縦軸に広がれば崇拝される年代やら歴史やらで呼び名も変わるし、横軸で世界線を語れば『それ所じゃない』。

 ともかく、アタシの『背教』という当時の呼び名は、この場合は『宗教』の『教』を指すんだよ。各々、神が決めたあらまし――――始まりから終わりとしてのそれに背く存在。

 つまりは、運命に逆らい『書き換える』、ということだねぇ」

「あのホント、いい加減に情報が――――」

「だから――――あー、話の途中だってのに、こうして『招かれざる客』が時々、無粋にも訪れるんだよ。それこそアンタの知る歴史でも、『見せないように』していたろうがねぇ?」

「へ? ――――――――」

 

 

 

 師匠がそう言った次の瞬間、私たちが居た部屋一帯全てが熱風と爆裂で「消し飛んだ」。

 

 

 

 ――――――――――――――――。

 痛覚を感じる暇もなく全身粉々になったのか、そこだけは救いである(末期思考)。だが魂的な何かなのか、状況だけは観測できる。出来るのだが明らかに視界が建物の外、例の「空中に浮かぶ城」が見えている状態だ。それを上から見下ろす形で、そして師匠が爆風から飛び出ながら誰かと殴り合っているのが見える。

 顔面を覆うバイザーに黒髪のツインテールが揺れる彼女は、明らかに未来風のコンバットスーツは若干だが超包子とかの系統のそれを感じさせるが、それよりもっと全身タイツしているというか、頭の悪い表現を使うと『未来的だった』。所々に玉虫色の半透明アーマーがあったりする。なおスタイルはグラマラス……と言うほどではないがそれなりに育っている感じを受けるので、年齢はおそらく成人済だろう。

 そんな彼女の攻撃は、飛び蹴りの独特な系統の動きから中国拳法? 功夫? 少林寺? 辺りかと思われるが、私からすると判断がつかない。かと思えば時折拳銃やらビーム〇ーべル(!)的なものに切り替えたりして、師匠を襲うのに躊躇もなく、また躱す隙も無かった。

 

 もっともその程度でどうこうされる師匠ではない。

 

 あの巨体を一瞬でパンプアップ(!)するかのように痩せていたかつての姿、つまり例のタローマティ「だった」頃のそれへと変化させる師匠。髪型はドレッドのままだが、そんな姿で彼女は、明らかに禍々しい呪われてるような古い毒々しい装飾の西洋剣を取り出して捌いていた。ブ〇ボ(啓蒙高い世界)ではないが、ああいう系統のそれを悪趣味に煮詰めたタイプの武装だと思えば良い。刀身に目玉模様がギラギラ輝いて……、今動いてこっち見なかったか?(SANチェック)

 一撃一撃、彼女の拳が剣を殴りつけ、しかし逆に傷ついているのか玉虫色の装甲にひびが入ったり、逆に師匠から斬りかかられてビームサ〇ベル的な何かを砕かれたり……。

 

 あと若干だが身体が再生しかかっているようで、段々と映像もくっきりと、音もしっかり把握できるようになってきている。このあたりは例によって『吸血鬼的な』身体能力やら知覚やらに依存しているのだろうが、お陰で絶賛、バイザーの下で絶叫してる彼女の声が聞こえる。

 

「全くアンタは礼儀ってものがなってないねぇ。流石に『弟子』と色々話してるところに『魔導式手榴弾(マギグレネード)』なんか投げ込むものじゃないよ。そうじゃなきゃもうちょっと、丁寧に『断って』やるってのに……」

「煩い! 大体あなたは、『運命に抗う者の揺り籠』たる『背教』タローマティ、でしょ! だったら少しは私の話を、聞いてくれても良いと思う!

 というよりさっきの、弟子!? えっ巻き込んじゃったけど大丈夫!!?」

「ダメに決まってるだろうが普通は……、あと言いながら格闘戦を止めないのは、いい加減『世紀末』キマりすぎてるよ、頭の中が。ねぇ、メイリン(ヽヽヽヽ)

 

「…………なるほど『招かれざる客』か。

 っと、喉までは再生したか……」

 

 とりあえず上半身はあらかた再生が終了したらしい。……あと一度木っ端みじんに吹き飛んだせいか「金星の黒」の霊絡(オサレ)めいた繋がりを感覚的に取り戻してるので、空中から落ちる前に死天化壮(デスクラッド)を形成しておく。一応これを作ってる間は維持できそうだが、解除されたが最後だなこれは…………。

 とりあえず、今の時点では維持できるので良しとしておこう。

 

「しかし何だろうなぁ……、この空間に招かれざる客に未来風コンバットスーツとか、超あたりが言ってた火星戦争の話か何か? 関連する人物が超だけってことはないだろうし……」

 

 というより成功者を募るという意味では、複数人準備が有っても不思議はないだろうが……。そんなことを考えてる私に、御痩せになられた大師匠が流し目でウィンクしてくる。色っぽさを全く感じ取れないあたり、これはまた何か面倒なフラグの予感……。「アンタに振り回されているキティほどじゃないよ?」…………って、あの人の思考に無理やり割り込んでコメントだけ残すの止めてクレメンス(震え声)。思いっきり近くにいるんだし、その、ね…………?

 

「アタシは基本、裏技とかチートとかはあんまり好きじゃないんだがねぇ? それしか手段が無くて、それを得る必然性があるのなら仕方無いとは思うが、失った連中に積極的に再分配するほど安いものじゃないんだよ。奇跡ってのはその時、その時代を生きる人間が必死こいて初めて手に入るものだからねぇ」

「何の話を、しているん、だッ!」

「おっと! 今のは中々良いセンいってるじゃないか――――まあだから、メイリン。アンタ達未来の仲間を含めて、アタシが手を貸すほどの旨味がないって言ってるんだよ」

 

 パン! と柏手一つ。すっと開いた手でわっかの形に。それに併せ気が付けば、メイリンというらしい彼女は「円形の」空間のひずみのようなものに囚われていた。甚兵衛が「イレカエ」を連発して結界のようなものを作り出すのと同様のそれである。周囲の空間から断絶しているのに気づいた彼女は武装で抵抗を試みるが、弾丸は内側に跳ね返るし打撃はそもそも空ぶるしで全く上手く行かない。

 

 そんな彼女に師匠は剣を構えると―――― 一瞬その姿が「巨大な」「黒い」「肉食恐竜のような」何かの形にシルエットがぶれ、直後には横一線でメイリンというらしい彼女の背後に回っていた。

 同時に、メイリンの服の玉虫色アーマー部分が完全にすべて砕け散り、そのまま落下を――――いや待て待て待て、完全に拾い上げる気ゼロだろ師匠アンタ!何当然のように空中から重力に従って自由落下許してるんだアンタさぁ!

 

 咄嗟に足がまだ若干再形成されかかっている状態の死天化壮な私は、全速前進で内血装を使い無理やり軌道修正をかけながら彼女のもとへ急降下し――――。

 

「――――くっ、情けをかけるとは甘いよ! 『背教』の……、って、あれ?」

 

 どうやら、明らかに気絶して落ちていったのは、油断を誘うためのフリだったらしい。

 救出に来た私に向けて古いSF映画(というか思いっきり「マーズアタ〇ク(火星人がせめてくるぞっ)」なデザイン)の光線銃を向けて狙撃してきていた。

 なお心臓を射抜かれた私は、幸いなことに傷が大きくなかったせいか魔天化壮堕ちはせず。だが当然だが体内では絶賛血風の性質を帯びたまま高出力で血と魔力がガンガン周っている訳で、そんな状態で攻撃などされれば…………。

 

 

 

 結果、胸から噴き出した大量の血を浴びた彼女は、その血ごとコンバットスーツが「はじけ飛んだ」。戦闘態勢だったこともあり、武器やらも持っていたそれも「出血量」的に完全に粉々となり、残念ながら完全にはだかんぼ状態である。

 

 

 

「あ、わ…………、お、よ――――――――」

 

 落下しながら震える彼女は、あまりの衝撃にか全裸となった自らの身体を隠さず、顔を真っ赤にし……、いや何と言うか顔立ちも普通に美人さんなのだが、はてどこかで見たことのあるような……? ちょっと表情の雰囲気が四葉五月っぽい気もするが。

 とか冷静に考えていた私の背後に一瞬で「虚空瞬動」を使って空間を蹴り回り込むと。

 

「――――おヨメさんに行けなくなるようなことは止めてよ、キミ!」

「いや理不尽だろお前さんッ!?」

 

 自分で自爆しておいて元祖「ネギま!」的(「UQ HOLDER!」でもあったけど)なラキスケ的な状況に陥って逆恨みも甚だしいぞお前ッ!? というか、どうせなら大河内アキラの方が何倍も良いに決まっているわ、ちょっとこう、思春期的にもにょもにょ困ってしまったとか、そんなことはまぁ…………、まぁ無い! 無いったら無いんだから何を逆恨みをしてくるのか貴様――「そうかぁい? ちょっとあの面倒な聖女に迫られた時みたいにおっ()――――」だから勝手に脳内に割り込んでくるのお止めくださいませんかねぇお師匠っ!!?(白目)

 

 当然のように強烈な一撃で、こちらの意識を刈り取ろうと首筋に踵落としを叩き込んで来た。

 まあ死天化壮もローブ型なので、首筋も当然防御されているのだが…………、座標固定されたその血装に、素足でその一撃は流石に堪えたのだろう。「い…………っ、たいッ!?」と大きく堪えた上で大声を出し、今度こそ彼女は足を抱えて自由落下の世界へ。

 流石にもう一度蹴られたらたまらないので、死天化壮の一部を切り離すイメージで、雑な布切れのようなものを作成し彼女の身体を覆いながら拾い上げた。当然、血液の完全分離ではなく、紐のような形でこちらの死天化壮(右足側がちょっと寂しいことになっている)と繋がった状態である。

 

 そのまま拾い上げて距離を取りながら師匠の方へと戻っていくと、彼女はニヤニヤしながら私とその気絶しているメイリンとを見比べた。

 

「いや何だ師匠あなたその表情は……」

「まぁこう、間近で『それっぽい』のを見ると完全にギャグ漫画だなぁって思ってねぇ。やっぱギャグキャラだよアンタのメンタルって」

「はい?(困惑)」

「動揺してるところ悪いが、そのままメイリンを運んでやってくれないかねぇ? ちょっと『お色直し』してくるから…………、色々『持て余してる』からって襲うんじゃないよ?」

「いや、誰が襲うかって話なのだが常識的に考えて」

「そうだねぇ。基本はヘタ…………、いや真面目だからねぇ。

 それにそもそも、アンタのタイプは大河内アキラみたいな、スタイルも良くて性格も良くて、ちょっと辛いときには励ましてくれて、甘やかしてくれて、頑張ろうというときには察してそっと背中を押して帰る場所を護ってくれるようなタイプだから、後腐れやら色々考えてそれはそうか」

「人の好みをズケズケ暴露するの止めてもらえませんか…………?(震え声)

 というか居ないよな九郎丸も夏凜ちゃんさんもキリヱも!?」

「原作を警戒してるにもかかわらず結城夏凜の名前を挙げる所は流石に学習しちゃいるようだが、まあそういう話じゃないよ今回は…………。

 ふぅん、なる程ねぇ。業が深い………………」

 

 私とメイリンの両方を見比べてその一言を言った次の瞬間、師匠は再び「巨大な」「黒い」「肉食恐竜のような」シルエットに姿をぶれさせ、その場から消えた。瞬動とかその類ではない明らかに妙な動きだったのだが、ひょっとして魔界由来の何かしらとか言いませんかねぇ…………。というか気のせいじゃなければシルエットもティラノサウルスとかそっちじゃなくて、むしろゴジ〇サウルス(怪獣王の祖先)的な何かだったような……。いや、深く考えれば考えるほど怖くなってくる奴だ、マイペースマイペース、マイペースで進もうOSR(オサレ)的に(震え声)。

 

「んん…………ッ」

「お? よーやく目を覚ましたか」

 

 なお、城の展望台部分からすぐに入れる師匠のベッドの所に、キングサイズの師匠のベッドではなく一般的な人類サイズ、こじんまりとしたものが設置してあったので、そこに寝かせろと言う事だろうと判断した。適当に寝かせたメイリンはしばらく唸り、私はといえば爆発後に紛失していたはずの折れた黒棒が、当然のようにベッド横のテーブルに立てかけられていて引きつった笑いが出て来る。ありとあらゆる無茶と整合性を無視した描写が連発しているのに、その全てを師匠独力により可能とされているこの状況が、あまりにもあんまりすぎたのだ。さっきの話だってかなり中途半端で終わっていたし、自由すぎる…………。なんならメイリンによって爆破された城も、帰ってくる時に見たら完全に修復が終わっているというか、爆破された跡が影も形も残っていなかったし。

 そんな内心妙な状況で目を覚ましたメイリンである。服は…………、替えの服がなかったので、まだ死天化壮を部分的に着せている。そんな彼女に少しだけちらりと目線を向けた私は、しかしちょっと後悔することになった。

 

「あぇ…………? あたし、さっきまぇ、だいもす基地で……?」

「寝ぼけてる所悪いがせめて隠せ(戒め)」

 

 寝ぼけたまま体育座りのような体勢を取ろうとする彼女に思わず叫ぶ。流石に布切れなので裾までは完全に覆いきれないのだ。と、数秒こちらの様子を見て、はっとしたような顔になり。彼女は死天化壮を投げ捨て、掛け布団を適当に羽織り背宙(バクちゅう)、そのままついでとばかりに置いてあった黒棒を手に距離を取って、逆手に構えた。

 

「へ、変態…………! 初対面の女の子をいきなり全裸にする変態だ……!」

「いや女の子って年じゃねーだろ(煽)」

「……ッ!? な、何て失礼な男の子なんだキミは、私ぜんぜんまだまだ、軍隊雑誌で表紙飾れるくらいには可愛いのにッ!」

 

 初手煽りは基本。○護(チャンイチ)も(以下略)。

 ともあれ瞬間的に怒りで動揺した彼女に死天化壮で高速接近するが、途中で黒棒を投げられたので中断。こちらの人中を狙ってまっすぐ投げたので、完全に人を殺す動作に慣れ切ってるなこの女…………。

 と、油断出来たのはここまでである。

 

「確かキミは、あの『背教』の弟子……!

 だったら私が倒せば、あの魔女も私の弟子入りを認めてくれるはず――――」

 

 そう言った瞬間、彼女は両腕を重ねて、まるで祈るような体勢となり――――その全身から、黒々とした魔力が「吹き上がった」。

 

 

 

「コード9784063954845…………呪紋、回路……、起動――――――――!

 プラクテ・ビギ・ナル…………ッ、きゃッ!」

 

 

 

「いやラスボス級兵器使うくせに、なんで呪文詠唱が『初心者』なんだよお前さん!?」

 

 状況が読めないまでも、とりあえず止めないとまずいシロモノを使おうとしたので、死天化壮に使用していた「これ以上排出されない」血を使い、尸血風を形成して投げ、彼女を気絶させた。

 全身に一瞬浮かび上がった紋様、師匠の「未来の仲間」という発言…………。やはり超関係者か? 協力者かもしれないが、流石にそこは不明だがさてどうしたものか。もう血装術も使えない状態に戻ってしまったし…………。

 

 

 

「え? え? ここ何処なンだ……?」

「…………いや兄サン、それ流石にちょっと……(引)」

「………………無防備で綺麗な女性を何じろじろ見てるのかな、刀太くん?」

「エロちゅーにじゃないの!? やっぱり、今度という今度こそホルダー1温厚な私でもキレるわヨ!」

 

「…………はい?」

 

 

 

 そして同時に、テラスの方でカトラスやら九郎丸やらキリヱやら三太やら、一部関係者がこちらを見て好き勝手言っていた。

 

 いやあのお師匠…………、いくら何でももうちょっとその、原作寄せするならするでタイミング考えていただけませんかね(震え声)

 

 

 

 

 



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ST159.「おさらい第2弾だけど神鳴流関係は流石に勘弁ネ、合体技多いし」by鈴音(設定まとめ番外編)

毎度ご好評あざますナ!
 
活報にて募集させていただいた関係のもので、本作オリジナルっぽい技関係のまとめとなっております
抜けが有ったら追加するかもですが、ほぼ網羅できたはず・・・! はず(震え声)


注:本作オリジナル? っぽい技関係の設定やら種類やらのまとめです。


ST159.Synopsis so far -Returns-

 

 

 

 

 

近衛 刀太

・血装術(けっそうじゅつ)・・・

 吸血鬼スキルの一つで、疑似「闇の魔法」。自らの血液に魔力を通し、自由自在に操作する。刀太(菊千代)の基本スキルであり、これがないと何も始まらない。

 練習や経験により細かさ、強度、スピードなどの上昇が見込める。

 

・内血装(ブルート・インテルノ)・・・

 体内の血の循環を魔力で無理に回すことで、その際の再生などで気が集中するのを利用し、無理やり感知の弱い気を扱う方法。B〇EACH本家とは似ても似つかない。無理に使い続けると血流が集中した箇所が割けて内部の血液が噴出する。

 

・活歩(かっぽ)・・・

 瞬動を得ようと内血装を使用し続けた結果、意図せず形になった縮地歩法の一種。刀太は踏み込み時にどうしても身体座標が長くずれるため、瞬動/クイックムーブよりもこちらに近いらしい(マナ談)。

 

・血蹴板(スレッチブレッシ)・・・

 血装術で足場などを生成し、意識したベクトルへ意識した速度で移動する移動術。要は血装術で模した飛〇脚。

 活歩習得後はこれを「蹴る」ことでより立体的な動作が可能に。

 

・死天化壮(デスクラッド)・・・

 血蹴板を全身に纏うことで、移動速度や強度変化などに安定性をもたらしたもの。本作刀太の事実上の戦闘形態。人間の認識限界ギリギリに、「考えた」瞬間に身体の動き(座標)を変更できる。元ネタは天〇斬月時の死覇装、および天鎖〇月本体。

 弱点としては全身血液なので、そこに干渉されるタイプの攻撃。

 

・死天化壮・疾風迅雷(デスクラッド・サンダーボルト)・・・

 ニキティスにより半ばむりやり術式兵装を組み込まれて発現したもの。本作刀太は火属性と相性が良いため、疾風迅雷のみの場合はそこまで加速の恩恵を得られない・・・が、死天化壮と併用することでその壁を突破し「人間の思考速度」を超えた動きが出来るようになる。

 弱点としては、使用にチュウベェ(高位妖魔・雷獣)が不可欠な事。

 

・魔天化壮(デモンクラッド)・・・

 死天化壮の使用時における「闇の魔法(マギア・エレベア)」暴走形態。元々は■■■■が準備していたデザイン案を、刀太が本能的に空気を読んで選んだもの。元ネタは虚化および完全虚化。

 

・獄天化壮(ヘルクラッド)・・・

 詳細不明。キリヱいわく「なんかドクロっぽくって禍々しい感じ」。

 

・血風(けっぷう)・・・

 血装術で自らの血を媒介に生成したブーメラン状の刃を、回転させて放つ。回転時にわずかながら「風花・武装解除」に近い性質を帯びているらしく、これを起点とした技は簡易的な結界/防御陣崩し効果を持つ。弱点としてはあくまでウォーターカッターの原理が根幹にあるため、媒介となっている血液自体を抑えられるとどうしようもない。

 形状の元ネタは完〇術版の月牙。

 

・血風創天(けっぷうそうてん)・・・

 血風の強化版、というより本来予定していた使用方法。日本刀などの鍔付近に血風を生成、回転させ加速させた血流のままに血を刀身に纏わせ斬撃を射出する。血風以上の速度と威力を広範囲にわたって放つことが出来る。

 弱点は血風据え置きかつ、射出時の威力に耐えられる強度の物体が必要。v1刀太(菊千代)は練度が高いため後者の弱点を克服済、自ら血装術で生成した武装で放てる。物理威力が強すぎるため、若干使うのに躊躇しがち。

 形状の元ネタは鍔含めて黒棒使用を前提とすると、天鎖斬〇および〇牙天衝。

 

・血風シリーズ(属性)・・・

 血風に■■■■が解析した属性をエンチャントしたもの。血風で弱点だった血そのものへの干渉効果に関係なく、魔法効果を与えることが出来る。

 

・聖血風/血風聖天(せいけっぷう/けっぷうせいてん)・・・

 夏凜の神聖魔法の属性をエンチャントしたもの。敵対者に対して浄化と物理打撃の効果が見込めるが、使用者自身と繋がっていると体内も一緒に焼き尽くす。

 何気に、一番最初に派生した血風シリーズ。エロ聖女怖いネ。

 

・塊血風/血風塊天(かいけっぷう/けっぷうかいてん)・・・

 フェイトの土魔法の属性をエンチャントしたもの。かなり強力な石化効果を持つが、水属性に対しては泥になるなど相性が悪い。石化の解除が見込めないので、こちらも使用を躊躇しがち。 

 

・尸血風/血風尸天(しぃけっぷう/けっぷうしぃてん)・・・

 水無瀬小夜子の死霊魔法の属性をエンチャントしたもの。接触物の「魂」に干渉して動きをクラッキングしたり隷属させたりできる。効果範囲の調整がやりやすいのか、最近の刀太のお気に入り。

 

 

 

時坂 九郎丸

※複合技は正直ちょっと省略ネ、長すぎヨ!

・神鳴流宴会芸・斬空叩(しんめいりゅうえんかいげい・ざんくうこう)

 斬空掌の要領で裏拳はたきを飛ばす技。要は飛ぶツッコミ。

 

・神鳴流変則・告白剣(しんめいりゅうへんそく・こくはくけん)

 かつての神鳴流使いが独自に使用した技で、自らの想いを叫び剣に乗せて放つことで強い威力を発揮する。技の威力は叫んだ想いの大きさに比例。自身の想いを強く意識するためか、精神干渉系の技を断ち切ることができる。

 

 

 

結城 夏凜

・神聖魔法

 宗教魔法の一種(それぞれの宗教における経典、その事例をもとに魔術的に再現する魔法)。神聖魔法の場合、全世界の某宗教信者が蓄積してきた「信仰」体系そのものを自らの魔力に上乗せして使用することができる・・・が、どれくらい耐えられるかは使用者の魔力に依存する。つまり夏凜自身、もともと魔力はかなり高い。

 弱点らしい弱点はないが、しいて言えば宗教的に対峙する関係にある相手には効果が絶大すぎ、例え味方でも調整が効かない。

 

・干からびた骨(オゥス・エクシィカッタ)・・・

 雑に全身に聖属性魔法をエンチャントする。

 

・無花果の葉(フォリウム・フィクレウム)・・・

 体内から聖属性を放ち呪いなど無効化する。内側から放つ関係上、局部なども光り都合よく見えなくなる。また発動と同時に光の輪が頭上に形成される。

 

・聖絶なる拳(ホーリーブロー)・・・

 聖属性を込めた拳で殴りつける。とにかく殴る。ホーリーフィストとも。

 

・御翼の陰(アンブラ・アルム)・・・

 聖属性の魔力で形成された白い羽根を生やす。飛行能力の獲得。

 

・乾いた地(シーカム・サブマリ)・・・

 聖属性魔力を使用し「彼我を遮る対象」を退け道を作り出す儀式魔法。本来なら数十人単位で使用するもの。

 

 

 

 

雪姫/エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル/人工精霊エヴァ

・閉ざされし氷城(スクラギメノ・カスト・パゴゥ)・・・

 幻の「ネギま!」明日菜未帰還の三学期編、ネギぼーずが厄介になってきたエヴァンジェリンが開発したオリジナル術。一定範囲を自らの魔力が通った雪の降る領域とし、その空間で自らが視認した相手を任意に凍結させることが出来る。

 

・術式兵装・冬の巫女(シビュラ・ヒモナス)・・・

 幻の「ネギま!」明日菜未帰還の高校生編、ネギぼーずに負け越すようになったエヴァンジェリンが開発した術式兵装。姿かたちは雪の花嫁衣裳風。「閉ざされし氷城」を中核として多数の属性が含まれており、凍結のかわりに任意の位置へと自らの座標を降る雪と置換することができるようになった、ある意味エヴァンジェリン版の雷天双壮。

 最終的に術式兵装・氷の女王を改良することで対応できるようになったので、こちらは使用しなくなる。

 

 

 

宍戸 甚兵衛

・断空剣(だんくうけん)・・・

 空間断絶牢 を棒状(剣状?)に形成してまとめたもの。空間断絶ソードとも。空間断絶牢とぶつけ合うと、お互いが反発して異様に飛ぶ。

 

 

 

真壁 源五郎

・昆虫夜王三択モード(こんちゅうやおうさんたく―)・・・

 彼が認識する現実世界の状況を昆〇女王メ〇キング的なシステムへと変化させ、それに応じて強引に勝敗を決定させる。システムが変わっても相手はそれを認識できずに攻撃できるため、強引に勝つ際などに使用。

 

・お掃除ヤクザキックモード(―そうじ―)・・・

 彼が認識する現実世界の状況を清掃系ミニゲーム的なシステムへと変化させ、それに応じて簡易にお掃除をする。雑な掃除アクションでもゲーム的なロジックが働くため、隅々まで綺麗になるのが特徴

 

・タッチ&タッチ探偵モード(―たんてい―)・・・

 彼が認識する現実世界の状況をおさ〇り探偵系ゲーム的なシステムへと変化させ、周囲の状況を簡易に調査する。ゲーム的な観察と調査方法になるため、必ず何かしら情報を得ることができる。

 

 

 

桜雨 キリヱ

・リトライ&リベンジャーズ(リトライ可能な仇討ち)・・・

 膨大な数の特定時間軸の周回経験により、刀太の血から影響を受け目覚めたリセット&リスタート(リセットOKな人生)の強化版。かつてのセーブを期間ではなくデータとして管理し(最大7つ)、任意のタイミングで任意の時間軸に巻き戻り試行することが出来る。世界全体をゲームのような形で「(おか)し」「破壊する」禁忌級の能力。これには思わず師匠も超鈴音(ワタシ)を派遣する。

 なお、これの覚醒に際し「ショートリトライ(やり直し可能なクソゲーアクション)」は吸収統合されている。

 

 

 

佐々木 三太

・幽波(スタンド・オン)・・・

 念力で質量ある不可視の壁を生成する。霊的エネルギーと魔法エネルギーとが混合した物体なので、死霊系統にも有効。

 

・幽波拳(スタンド・フィスト)・・・

 幽波で生成した念力の壁を殴りつけることで、その衝撃の波動を任意の形に変形させ拡散、分散させる技。

 もともとは「オラオラッ!」がやりたかったのでヒトガタの何かを生成したかったがそこまでの器用さがなく、結果的にこの形に。

 

・幽波界(スタンド・ワールド)

 幽波を相手の体表面に生成し、そこから「内側に」念力を働かせ続けることで熱力学第二法則に逆らい時間を固定「したような」状態にする。

 ほぼ事実上、時は止まるが、消費エネルギーは大きい。

 

  

 

近衛 帆乃香

・菊理媛境木(くくりめのさかき)・・・

 特定範囲での自らの魔力以下の技を使用不能にさせる。近衛 野乃香 直伝らしい。

 

・トンカチ殴打つっこみ(のびりしろまじゅつ)・・・

 文字通りトンカチでツッコミ(殴打)を入れる物理技。木乃香サンからのハードツッコミ系譜。

 

 

 

釘宮 大伍/犬上 小太郎

・犬上流獣奏術/獣壮術

 前者は呼び出した狗神を使役する流派、後者は狗神を見に纏い狗族としての力をもって戦う流派。後衛/前衛用の戦闘方法とそれぞれ考えるとざっくり判りやすい。

 

・黒狗神/白狗神

 前者が精霊としての狗神、後者が怨霊としての狗神。おおよそ人間が作り出したタイプのものが後者で、獣壮術と相性が良い……というか良すぎて最悪取り込まれる。

 

・犬上流獣奏術・狗音ノ風(いぬがみりゅうじゅうそうじゅつ・くおんストーム)・・・

 呼び出した狗神を標的に差し向ける。射程が離れれば離れる程使用者のバックアップがなくなるため、狗神の力は弱っていく。大伍は魔法具(アーティファクト)を使用することで、威力や魔力および速度などの面でこの縛りを無視している。

 

・犬上流獣奏術・狗音ノ雪(ー・くおんスノーフォール)・・・

 上空に無数の狗神を放ち、自由落下を加えて襲撃する。こちらも大伍は魔法具を使用することで、射程の増強や放てる狗神の数を増やしている。

 

・犬上流獣奏術・狗音ノ雪礫(ー・くおんブリザード)・・・

 狗音ノ雪以上の無数の狗神を圧縮して放つ。

 

・犬上流獣奏術・狗音ノ波(ー・くおんゲットライド)・・・

 狗神を身体の一面に集中させ、勢いよく押し出してもらう。本来は走行中などに使用するが、大伍は魔法具併用で空中飛行もする。「バグやろ完全に、あんな技違うわ全然……」

 

・犬上流獣奏術奥義・狗音 影の舞(ー・くおんアルターエゴ)

 狗神を使用して分身の術を執り行う技。NARUT〇風に言えば狗神分身の術。白黒双方の狗神をしっかり扱えないと使用できないため、何気に最終奥義の一つ。

 

・犬上流獣壮術・狼牙突貫(いぬがみりゅうじゅうそうじゅつ・ドリルガルー)

 狗神を身体のいずれかに集中させ回転し、攻撃する。使用時に魔力やら気やらが渦を巻き、らせん状の衝撃が放たれるためドリルとなった。

 大伍は主に手先に使用する。

 

・犬上流獣壮術・狼牙疾走(ー・ランドガルー)

 ST158 時点では未登場。狗神を足先に集中させ、走行や飛行に使用する。「ネギま!」学園祭編で小太郎のしていた技の発展型。

 本来、狗音ノ波はこの技の推進力補助のためのもの。

 

 

 

成瀬川ちづ

・浦島流・龍牙天(うらしまりゅう・りゅうがてん)

 浦島流柔術……、柔術? の技。遠当ての一種だが、彼女は魔法使いなので使用時は魔力および狗神を併用する。

 

 

 

豪徳寺 春可

・超必殺・漫画弾(ちょうひっさつ・まんがだま)

 自らの魔力を用いて、任意のキャラクターの姿かたちとして放つ「遠当て」の一種。最近はP・A・L☆ザ・コミックマスター(コミマス)のキャラクターがお気に入りな模様。

 

 

 

カトラス

・明星の右(シファー・ライト)・・・

 刀太によって操作された「金星の黒」との強化された繋がりにより発現した、右腕のみの中途半端な「闇の魔法」による魔族化。いわゆる太陰道の術を内包しており、魔法および魔法生成物を吸収してそこに自らの魔力を上乗せして放つことが出来る。

 結果的にチ〇ドの巨人〇右腕。

 

・紅焔の左(アザー・メタトロニオス)・・・

 刀太によって操作された「金星の黒」と、その結果取り戻した「火星の白」との繋がりにより発現した、左腕のみの限定的な魔法無効化を帯びた魔族化。相反している属性だが、彼女自身が「火星の白」の適性が強いことによってバグのような形で発生したもの。腕を起点としたマジックキャンセル効果および放出。相反した属性同士がケンカしている関係上、エネルギー消費が激しい。

 結果的にチャ〇の悪〇の左腕。

 

 

 

ネギ・スプリングフィールド

・雷天参壮・・・

 名称のみ■■■■が示唆。詳細不明。

 

 

 

近衛 木乃香

・飛瀑光龍陣(ひばくこうりゅうじん)・・・

 巨大な光の龍を召喚し、任意の属性をエンチャントした光線を放つ。木乃香がかつて魔法世界で修業した際に、手懐けた龍と契約したことで使用できるようになる。なので呪文自体は適当でも空気を読んで召喚されたりしてくれるっぽい。

 なお、あまり頭は良くない。

 

 

 

近衛(桜咲)刹那

・神鳴流奥義・斬岩剣伊弉諾(しんめいりゅうおうぎ・ざんがんけんいざなぎ)・・・

 木乃香からの膨大な魔力バックアップで肥大化したタケミカヅチを使った斬岩剣。

 本人に確認したけど決して「生えた」からそんな名前になったとかそんなことはないらしい。

 

 

 

ディーヴァ・アーウェルンクス((セクストゥム)

・海魔の呼声(カレォアポ・レヴィアタン)・・・

 水流を用いて巨大なリバイアサンを作り出す。

 フェイトでいう「冥府の(ホ・モノリートス・キオーン)石柱(トゥ・ハイドゥ)」相当。

 

・呑み込む深海(カタフィノタス・サラッサ)・・・

 眼前に自らの魔力で満ちた海を召喚し相手を圧殺する。

 フェイトでいう「引き裂く大地(テッラ・フィンデーンス)」相当の上位魔法。後述の海天偽壮の発動に使用。

 

・海天偽壮(マリンコード)・・・

 刀太の死天化壮を参考に作ったオリジナル術。「闇の魔法」ではなく、複数の術式を並走させている技。白衣などロングコート状の衣服を術の発動体とするため、水着やらブラウスだけの場合は使用できない。発動と同時に全身を液化/ゲル化できるようになる。どれくらい自由度があるかといえば、ほぼ「俺は怒りの王〇…………! ア〇ル! エ〇クス! バ〇オ、ラ〇ダー!」くらい。弱点としては前述の発動条件に加え、液化までの速度が本家バイ〇ラ〇ダーほどは早くないことくらい。

 ちなみにネーミングは、「纏う装備」であるデスクラッド→ほぼファッションでしょう→ドレスコードですね、ということらしい。九郎丸と戦闘中に何やら話した結果、男の子が好きそうなセンスを本人なりに把握した模様。

 

 

 

サリー・ファアテ

・石化弾(せきかだん)・・・

 簡易の石化魔法アプリが込められた弾丸。炸裂と同時に対象を石化するが、解除難易度は値段相応。サリーのお小遣い的に、あまり高いものが買えない。世知辛いネ。

 

・タケミカヅチ・レプリカ生成・・・

 カトラスにおける「ハマノツルギ・レプリカ」生成能力とほぼ同様のもの。「金星の黒」特化型であるため、魔力を注いて変形させられるこちらが選択されたらしい。

 

真実の目(テリティウス・オクゥス)・・・

 本来は潜在能力解放系の魔法具だが、事実上技の一つなので記載。直訳すると「第三の目」。「千里眼」というわけではないが、自身の視界に入っている対象を捕捉、その微細な動きなどから思考、次の動きやこれから起こる現象などを、予知に近い精度で予測できる。

 本来なら紋様が浮かび上がるのが正しいが、サリーの場合は「闇の魔法(マギア・エレベア)」で魔族化することで実際に目をもう一つ造り出し、精度をさらに上げている。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「こ、今回こそ抜けはないはずネ…………! 色々頑張ったし、課題終了の筈ネ! っておや?」

 

 周囲を見渡すと、勝四郎サンもダーナお師匠も、誰も居ない状況。

 わざわざ分身すら残さずというのは少し不思議というか、それだけ何か緊急なのか、それとも「相対する」誰かに何かを気取られないようにする必要があると言う事か……。

 そう思ってると、城の上方で何やら騒がしい声が聞こえる。思わずドローンを飛ばして中継を始める私だったが。

 

 

 

『――――おヨメさんに行けなくなるようなことは止めてよ、キミ!』

『いや理不尽だろお前さんッ!? ――――』

 

「これはひどいネ」

 

 

 

 この当時の(ヽヽヽヽヽ)メイリンの映像とその言動の見苦しさに、私はアルバムから幼い頃の写真でも盗み見られたような、変な落胆というか気恥ずかしさじみたものを覚えた。何を女たらしの血筋相手に色々やってるネあの女!? 馬鹿かネッ!!?

 

 

 

 

 

 



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ST160.アンニュイな知古

毎度あざますナ! 今回は本編アンド修行編イントロダクション・・・
 
一応前話とも繋がっている? ので、ご注意


ST160.Change The UnUtopial

 

 

 

 

 

「お、覚えてろキミ、この屈辱は――――――――やっぱナシナシナシ! 覚えてなくていいからキミはぁ!

 あっ、タローマティは今度こそ弟子入りするからお覚悟ッ!」

「ハイハイ、見ず知らずの男に全裸晒した未来人さんよ――――」

「ぁ、ぁ……、嫌ああああああッ!」

 

 収納アプリから取り出した新品のコンバットスーツ(玉虫色アーマーなし)な装備に一瞬で身をくるんだ彼女は、涙目で師匠やら私に指を突き付けて言っていた。なお師匠の容赦のないセリフに涙目になって逃走をはかる。何やらバイクというか箒というか独特な形状のマシンに飛び乗ると、バチバチと何かを操作してその姿を消した。……ひょっとすると超が使うタイムマシンであるところのカシオペアとか、そういったものの試作品か何かなのだろうか。超と比較して彼女がどの時系列に位置する人物なのか――――「ネギま!」において麻帆良に超が来訪する以前か以降か――――で大分意味合いが変わってくる。変わってくるが、下手に彼女と超との関係とを考えると、原作最終決戦時において超が近衛刀太について認識していなかった、という事実が大きく響いてくる…………かもしれない。つまり原作チャート進行におけるガバの温床である。なのでこの時点ではコメントはせず、とりあえず遠い目をして見送るにとどめておいた。

 ままならぬ。

 

「なーにが『ま、ままならぬ』ヨ! うがー! がー!」

「き、キリヱちゃん落ち着いて……」

「そうッスよキリヱ大明神様ァ!」

「三太、アンタまで大明神呼ばわりしてんじゃないわヨ! ちゅーにのクラスメイトにすら言われてるしその呼び方ー! がー! がー!」

「幼児かよ……(引)」

 

 とりあえず状況がわからないまでも「女の子になんか変なことしたんなら殴られて当然でしょ、とーぜん!」と唸りながらお可愛らしいパンチを連打してくるキリヱ大明神は癒しである(断定)。色々とガバが重なってるのは間違いないが、命の危機がない挙動ってイイネ…………、イイネ………。

 それはそうと止めに入ってくれてる九郎丸や三太は置いておいて、カトラスはドン引きするの止めてやれ(良心)。意外とお前さんが生き残るのに腐心してくれたのだから。

 

 さて、改めてメイリンというらしい彼女が目を覚ますまでにあった話だが。師匠が流石に可哀相に思ったのか軽い事情説明をしたものの、いまいち納得いっていない様子のキリヱやら九郎丸(なおカトラスはドン引き)。そんな彼女たちや三太を交えての、簡単な「ホルダー側の」説明である。私が胸をくりぬかれ倒されてから、この城まで師匠が九郎丸たち四人を連れてくるまで何があったか、についてだ。

 雪姫というかエヴァちゃんに対してだが、一応彼女の言っていた理由として「今の状態でまほら武道大会に参戦すること」が危険であるという話で、私を監禁するという流れになっていた。それに対して当然のように、だったらアタシが鍛えてやるからそれで十分だろう、と師匠がゴリ押したらしい。雪姫としてもそう言われては断るに断れず、というか「何か言う前に」私だけ城に飛ばしたというのが正解らしい。あの場で九郎丸…………、ではなかったか、九龍天狗ちゃんが私のお世話をしていた風だったのは、おそらく実際その通りなのだろう。というよりも、ひょっとすると私の胸の傷を塞いだのは彼女なのかもしれない。

 そして、私に続いて詰め寄ったキリヱたちも、ついでに修行つけてレベルアップするかと誘われ、返事が曖昧だったせいで今に至るとか何とか。

 

 …………ちなみに修行と言う意味では何故、夏凜も連れてこなかったのかという話だが。それを口にするより前に師匠から念話で「今の状況であの聖女なんて連れ込んだたら、拠点が修行場じゃなくて情交(ヤリ)場になるからねぇ。色々とアンタ拙いだろうに、こう、少年誌的に」とのこと。良かったのやら悪かったのやら、妥当と言っていいのか何と言っていいのか……。どちらにせよ私のメンタルは限界なのだが(蓄積率)。

 あとまことに今更だが、当然のような顔してこの修行編(?)にカトラスが顔を出している時点で既に壮大すぎるガバなので、もう何と言うか色々と考えるのを止めた(遠い目)。

 

 とりあえず、ここまで一通り聞いた後の私の感想としては、本末転倒では? ということ。

 

「というか、ここで匿ったらカトラスをまほら武道会に出すって意味がなくなるんじゃねーの? ……あと俺達の出席日数というか。たぶんここで隔離して修行、みたいな話なんだろ? それって」

 

 メイリンが姿を消した後にそのことを言うと、当のカトラスは肩をすくめた。

 

「このエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルのお師匠さん、流石にそこまでお人よしって訳でもねーみたいだけど」

「アタシもアタシでアタシに得になるような打算ありきで動いているからねぇ。一見して判りにくいだけさ」

「…………はい?」

「つまりなんていうか……、過去? なんだっけ、今のここって」

 

 カトラスはいまいち説明するための語彙がないのか、表現力がないのか、本人もいまいち判断できていないのか。その一言に九郎丸が少し思案し、三太が口を開く。……どうでもいいけど、頭が地面に刺さった後に頑張って引き抜けたようで良かった(白目)。

 

「バ〇クトゥーザフュ〇チャーじゃないけど、アレだぜ刀太。なんか知らねェけど、こっちのダーナさんは俺達を『過去に飛ばした』みたいなことらしい」

「過去? いやますます意味が……」

「俺も上手く説明できねェけど、ここで修業が終わったら『あの時点での』俺達の所に戻る! みたいな話……、だったッスよねキリヱ先輩」

「んー、あってはいるけど過去っていうのだと少し違うよーな気はするわね。

 アンタ的に判りやすく言うと、ここは『ホーム画面』みたいなものっていうのかしら? さっきのダーナ師匠の話を総合すると。ダーナ師匠は(私と違って)セーブデータなんて好き勝手にいっぱい持ってるから、私たちからしてもついさっきいた仙境館でのセーブデータ…………、みたいなのがあって。ここでのプレイ結果を『そのまま』あっちに持ち越せるっていう話みたい」

「わかった(納得)」

「わからねぇ…………(困惑?)」

 

 ゲームでの例え、に「見せかけた」キリヱのレベル2「リトライ可能な仇討ち(リトライ&リベンジャーズ)」での説明である。おおよそゾンビ事件の時の話を思い出して考えるなら、つまりここの拠点が、キリヱでいうところのホーム画面、つまりは「始まりの」場所、彼女が餓死した四歳の時のあの場所に相当すると。そしてキリヱとは違い、ここでどれだけ経験値を積んだり何かを獲得しても、そのステータスのまま元々いたはずの時間軸=セーブデータの所に使用できるようになるという事か。軽く古いゲームのチートというか、改造コード的なハックを思わせる。あまり師匠は好まないはずの手段なのでは? ある意味チートみたいなものだろうこれ。「それを理由にまた何度も周回されちゃたまったもんじゃないからねぇ、アタシの管理的に…………。百回単位くらいまでならまだ良いとしても」アッハイ。相変わらずと言うかの、脳内に丁度良いタイミングで念話を送ってくるお師匠であった。

 

 あとリアクションからしてカトラス、ゲームとかその手の知識についてはあまりないらしい。だから何だという話ではあるのだが、そのうち何か買ってやるべきか否か…………。幼少期の過ごし方があまりに色々と乖離しすぎていて嵌らない可能性も高いが。

 

 

 

 さて、そんなこんなで一通り事情を説明し終えたと判断した師匠が一番最初にしたことは何かといえば――――――――原作でも見た、徹底的な身体トレーニングであった。

 早々に「修行を始める前に、ちょっと今の状況を見ておきたいからねぇ」と課されたトレーニングメニューである。基本的に肉体をいじめるタイプの内容なので、案の定キリヱ大明神はひぃこらひぃこら悲鳴を上げていた。

 

「って、いきなり何なのヨ! こんな、巨大な建築物の、外回り、五十周とか……!」

『ああ、ちなみに端から端までで旧東京の新宿駅と横浜駅を足したくらいの大きさと複雑さはあるからねぇ』

「!? こ、声だけ飛んできてる……!」

 

 おビビリ散らされていらっしゃるキリヱ大明神の声をBGMに、私は緩く走り込む他なかった。

 師匠から提示された課題は「まず外周五十周、瞬動とか自分のスキルがあるなら使っても構わながねぇ」とのことだった。九郎丸やらカトラスやらは言われた通りに超高速移動を始めていたり三太は幽霊らしく浮遊して適当なポーズのままスライド移動してはいるが、私はそうもいかない。残念ながら血装術が関連していない今、私は瞬動などそういった関係の技も使用できないので、泣く泣く普通に走る他ないのだ。

 というか気が付いたら「夜が来る間もなく」朝、日の出の時間となっている。例によって師匠による時間操作なのか何なのかは不明だが、少なくとも原作と異なる「不死者」「ほぼ不死者」といった面々しかいない状態での修行、一般人に配慮した話は全くないと考えた方が良い。

 とはいえ、こういう走り込み自体は雪姫の下でやっていなかったわけでもないので、私にとっては決して無理なノルマと言う訳では…………、あっ足踏み外した。

 

「と、刀太君!? ちょっと大丈夫っ!? さっきから足フラフラしてたけど!」

 

 いや、それでもノンストップで概算6キロメートルをそこそこハイペースに走ったのだ、少しは褒めてくれても良いのではと思わなくもないが……。ちなみに九郎丸の手で、お姫様だっこで救出されて途中から復帰した。

 なお他のトレーニングについても、以下雑に省略すると。

 

「ちょっと、ちゅーに!? アンタ全然持ち上げてられないじゃないのヨ! 潰れる、つーぶーれーるー!? ちょっ、誰か助けてーッ!」と、師匠のオーダー通りに超重量ベンチプレスを構えれば潰され、ちゃっかり発動した金星の黒により再生したり。

 

「と、刀太、流石に無理があるんじゃねェかな…………、いやさっきみたいに落ちないのは良いのかもしれねーけど……」と、重しをつけてのトラック周回については、そもそも重量負けして自力で動かすことができず、なんなら肉離れしてその場でつぶれたり。

 

「お兄ちゃん、あの気持ち悪いの使ってないと全然なんだな……、何か御菓子でも食べるか? 元気出せってオイ…………」と、そこまででヘロヘロとなった状態の私なので、懸垂については全く腕で身体を持ち上げることができず、それこそ涙目になったり。

 

 エトセトラ、エトセトラ。

 おおよそ午前中のメニューが終了した時点で、心身ともに大きく疲弊し、五体を仰向けに投げ出して倒れていた。

 

「は、はは…………、笑え笑えッ! 殺せっ!(自虐)」

 

「いや笑えねぇから……」

「何でそんなに弱くなってるのよアンタ?」

「やっぱり、雪姫さんにされた『封印』が……」

「どっちにしても一般人レベルからしたら普通に地獄のトレーニングだよなァ」

 

 口々に感想を言い合う体操服姿の我々である。なお私が上下ジャージ、九郎丸が上ジャージに半ズボン(シャツIN)、キリヱはジャージ無し、三太はジャージ袖を首で縛りマントみたいにしていたり(小学生かな?)、カトラスだけ何故かブルマだった。服についてはお師匠が適当に選んで投げて寄越した関係もあるのだが、何でお前さんそれをわざわざ選んだし…………。

 とにもかくにも、現状の私は相当に弱っていることだけは間違いない。下手をすると熊本時代「よりも」である。何か、それこそ本当に生命の危機でも発生すれば「金星の黒」との接続が「一時的に」回復するようだが、普段は全くと言って良い程にその類の力を引き出すことが出来ない。と同時、そこから逆算すると以前までの回復力も、単に体力が付いたという以上に、自らの身の不死身性に依存していたことに気付かされる。

 

 なお私の横で、お尻を突き出すように横にお倒れになっているキリヱ大明神の頭上に現れた師匠は、しゃがんで何かの棒でそんなキリヱの背中をつんつんしてた。何ですその小学生が犬のクソでもつついて遊ぶような古いイメージのムーブは…………。

 

「まぁお遊びはこれくらいにしてだ――――」

「遊びって何ヨ!? 本気で何考えてた訳ェ!!? っていうか何でこんなことやらないといけないのよーッ!」

「――――いやぁ? まあ遊びといっても戯れではないからねぇ。今の自分の不死身がどういう類のものなのか、あるいは『どこまでが不死身』で『どこからが不死身ではないか』について、今までより如実に感じ取ることが出来ただろう。

 特に刀太だが」

「……まぁ、ハイッス」

 

 いまいち声が出しづらく倒れたまま適当に手だけを降ったが、流石にそこまで鬼ではないのか文句を言ってくることは無かった。

 

「明らかに平常時の状態じゃないって判ってて無理をさせようというのは鬼とか悪魔とかじゃなくってパワハラじゃないかねぇ? さもなくば嫌がらせか」

「前触れなく心を読むの止めてくださいッス…………」

「嗚呼…………、トラウマが……」

「おいユーレイ野郎までか、どいつもこいつも地雷多いな……(引)」

「ぱわ、(ハラ)……?」

「えっ? 九郎丸アンタ知らないの? 嘘でしょ?」

「えぇ……(引)」

 

 相変わらず誰にでもドン引きしてるカトラスはともかくとして、「じゃあ次のステップだがねぇ」とお師匠。言われた瞬間に頭上に「妙な感覚」を覚えた私は、即座にその状態からヘッドスプリングの要領で立ち上がる。

 

 次の瞬間、キリヱ以外のほぼ全員に、お師匠からの「空間を」歪ませたような攻撃が放たれた。

 

 九郎丸は原作同様にか腰から上が消し飛ばされ、カトラスは右腕をねじ切られ、三太は「半実体の」肉体がその場に転がり、一気に魂が抜け出ていた。ラッパの音が聞こえる……ってちょっと待てちょっと待て三太だけは流石に原作でもヤバかったろオイオイオイッ! こんな時こそ何か力貸せよ水無瀬小夜子、役目でしょ何のためにお前さん一応は現世に残ったんだよ現世によォ!(責任転嫁)

 

「べ、別にそれだけのために残った訳じゃないしー。……でも『簡単に』成仏させられるっていうのは、製作者的にも彼女(ヽヽ)的にも嫌なのは確かだし……。もう、三太君はー仕方ないなー、『来たれ(アデアット)』――――――――」

「――――ハッ! お、俺は今何を……、石〇森先生が川の向こうで……? アレ?」

 

 と、私の祈りが通じたのだろうか、突然三太の倒れた方の身体が「黒く」輝き(!?)、がばりと飛び起きた。まるで臨死体験して自分の死んだ血縁者にでも出会ったような素振りだが、いや一体誰と巡り会ってるんだお前さん…………? 全然謂れがないだろ全然。

 と、その十秒もかからない三太の復活に、師匠は目を大きく見開いた。ビジュアルが例によって例のごとくデラックスなサイズになっているので怖い(小学生並みの感想)。

 

「浄化魔法から復活まででその速度ってなるとは……、いや? 『外部から』色々やられたって見るべきかねぇ。ある意味で結城夏凜とも似たようなものだ。伊達や酔狂じゃないねぇ『現役の現人神』っていうのは」

「は、はぁ……?」

「佐々木三太、アンタ自身の能力云々もそうだが、それ以上に『今は会えない』彼女に感謝しておきな」

「彼女……って、小夜子? えっ、何、どういうことっスか?」

 

「ちゃんと彼氏だとか彼女だっていう自覚はあるのね」

 

 少しだけ複雑そうな表情で苦笑いするキリヱが印象的であるが、これについては私もノーコメントである。少なくともこの世界における彼女たちの、本人たちが意識していない因縁を思えば、その上で三太の様子に笑みを浮かべる彼女の心境を思えば、察するに余りあるのだ。

 と、それは置いておいて私はといえばカトラスの方へと足を進め、肩を押さえてうずくまる彼女にどう声をかけたものかという状況なのだが。特に痛がっている様子もなく、まるで「慣れた風に」、あるいは隠れるように身を小さくしている彼女のその、妙に硝煙の匂いでも漂ってきそうな振る舞いにである。

 

「いや大丈夫かよお前さん、表情に余裕が……」

「まぁこれくらいは慣れてる(ヽヽヽヽ)し、いきなり奪われたの意味不明だったけど…………って、な、何で頭撫でてるんだって兄サン」

 

 思わず咄嗟に頭を撫でてしまった私であるが、ほどなく再生完了した胸元を隠す九郎丸と、いまだに再生が終わらないカトラスを撫でてる私を引きはがすキリヱ大明神であった。

 

「時坂九郎丸は三分二十秒に、カトラス・レイニーデイは五分ジャストねぇ…………。佐々木三太は今回『チート持ち』になったようなものだからさておくとして、しかしまだまだ練度が足りないねぇ」

「き、キリヱ先輩は、あのー……」

「気楽に師匠って呼んで良いよ、佐々木三太。

 そうだねぇ、そこのキリヱ大明神は―――――」

「って、ダーナ師匠あなたまで冗談でもそう呼び出すの止めてッ! 何か色々洒落にならない気がする……!?」

「――そうかい? むしろ『今後』を考えるとらしい(ヽヽヽ)と思うがねぇ。

 それはともかく、この娘はちょっと『特殊すぎる』からね。『攻撃を察知して』避け出した刀太とは少し近いようで遠いが」

 

「っていうか、何で兄サンは避けられてるんだよ……」 

 

 どう考えてもノーモーションで認識とか反応する余地すらなかったろ、というカトラスの力ないツッコミだが、こればかりはおそらく「肉体に依存する」生存本能や戦闘勘か何かだと仮定するしかないので、私は半笑いし視線を逸らし――――。

 

 

 

「まあそこの刀太は『悪意』や『敵意』については共振して(ヽヽヽヽ)判ってしまうから、仕方無いと言えば仕方ないところはあるがねぇ。それだと修行にならないから、『こう』させてもらうよ」

「はい? ――――」

 

 

 

 言われた瞬間全身に嫌な予感を感じたと思ったら、身体が「上下から」「ぺしゃんこ」にされた。

 …………気のせいでなければ私に向けて師匠がウィンクしただけなのだが、どうやら「そのモーション」と同時に潰されたらしい。これもまた例の「目の錯覚を応用した」とかいう適当な理屈なのだろうか、師匠にとっての目の錯覚の応用と言う意味で……。背後でぎゃーぎゃー叫ぶキリヱやら九郎丸やら三太やらドン引きするカトラスの声が聞こえるような。

 

 あー、あー、さっきまで私「だったモノ」が辺り一面に転がって飛び散って…………。中空からそれを見ている私だが、お陰でさっきお師匠が言っていたちょっと気になるフレーズについて思い起こすタイミングを失ってしまった。というか勢いが良すぎて、キリヱの眼鏡とかカトラスの髪とか真っ赤に染まってらぁ(現実逃避)。それにとどまらず周囲に色々と飛び散りまくってるので、ひょっとしたら「破片を血装術でつないで」再生するのを防止する目的でもあるのかもしれない。

 

 あまり細かく描写し出すといよいよ少年誌で公開できないレベルのそれになってしまうんですが、そこのところ何かお考えですかねお師匠さんや…………。

 

 …………。 

 おや? 師匠から思考の介入がないな。何故だろう。

 

 困惑しながらも、とりあえず私は身体の再生をさせようと――――――――む? 何やら飛び散った肉片とか血の一部が、「空中で」動いている何かしらの物体に付着したらしい。ふよふよと明らかにグロい何かが空中で右往左往している絵面は、もうそのままグロテスクだからグロテスクなのだが(構文)、それが「この場から離れる」のについ釣られて、私自身の意識がそっちに寄ってしまったせいだろうかその「透明なドローン」を起点として身体が再生し始め…………。

 

「…………野郎、逃げやがったか?」

「「「えっ!? ――――」」」

 

 そんな声がわずかに聞こえたのに冷汗を流しながら、回収されたドローンが不時着した一室に「黒い和服姿で」転がった。俯せに顔面から擦り、しかし「致命傷」判定されなかったせいか痛い…………。回収途中で完全に身体が復活したせいもあり、こちらの自重のせいでバランスを崩したらしいドローンは、しかし案外器用に着陸したが。こちらは結果的に投げ出されるような形で顔面からいったのだった。

 

 そしてそんな私の姿を…………、何故か赤いバニーガール衣装な高校生くらいの超鈴音が、引きつった笑みを浮かべて見ていた。

 そんな彼女を見て、私は――――――――。

 

 

 

「あ~、なるほどネ。カメラ映像がおかしくなたカラ回収してみたが、刀太サンの血がこびりついたということネ…………。

 って、えっっっっっっっっっっっっっ!?」

「超さーんッ! 超さーんッ! 超未来人の超鈴音さーんッ! 無敵の『天才頭脳』でなんとかしてくださいよおおおおおォッ!!」

「アイヤアアアアアァッ!? 全力で抱き着いて来るの止めて、どしたネ先輩ッ!? 修行厳しかたカ、痛くて辛いカ、ガバが多すぎて色々限界なのカ、何にせよ一旦離れるネーッ!!?!? あんまり酷いとヨメに貰て貰うからヨ流石に色々とーッ!?

 ……………………って、ガバになるから正気に戻るかと思たらそれすらしないくらい余裕ないネ!!? 超重症ッ!!?!?!?!?」

 

 

 

 なんかよく判らない謎の感動と安堵とに思わず彼女に縋りつくように飛び掛かってしまい、頭を撫でられながらも全力で引きはがされていた。 

 

 

 

 

 

 



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ST161.坂の上を見上げる

毎度ご好評あざますナ!
ちょっとだけメタネタ注意 & 師匠、ついにストレス解消開始


ST161.Climbing Preparation (GABA Mountain).

 

 

 

 

 

「とりあえずそこに直るネ、正座」

「アッハイ」

「素直で宜しいが、それで簡単に許すと思ったら大間違いネ。……見た感じ、『修行に来た当初』の刀太サンか。『百の顔を持つ英雄』もまだ折れていたようだし、映像的に」

 

 師匠の拠点、「狭間の城」。外観だけで言えばいわゆるSF近未来やらスチームパンクやら古代の超テクノロジー的な外観の一都市のような施設である。その下方、何やら魔力でも推進力にしてるのかは定かではないが、エネルギーを発しているらしく発光している棘というか塔というか、そんな箇所の一室。石造りの書斎のようなこの場所で、私は彼女に正座させられていた。腕を組んでこちらを見下ろす彼女は、少しだけチャイナ風の装飾が施されたバニースーツ姿に素足で、かつ身体的には「私の知る」だろう原作の彼女よりは幾分成長している。

 

 超鈴音、いつかにも詳細を思い起こしたことがあるが、どうも本格登場のようなのでもっと細かく、改めて。宇宙人にして未来人にして超能力者にして異世界人である。ネタバレしてしまえば彼女は「ネギぼーずの血を引く」未来人であり、おおよそ 2100年代の裏火星より、二十一世紀初頭の麻帆良学園へと来訪した。目的はただ一つ、「未来においておこる」「よくある小さな」「しかし人によって大きな」ことを回避するため、書き換えるため、つまりは歴史を変えるためにである。その未来においてもおそらく超天才的だろう頭脳を用いてタイムマシンを開発し、過去の麻帆良学園で自らの先祖であるネギぼーずと接触。彼の受け持つクラスの生徒として潜り込み、そのまま色々東奔西走していた。本編終了後は世界を渡り歩くある種のフィクサーというか「あしながおじさん」というか黒幕というか、そんな立ち位置で飄々としているらしいラスボス系少女であった。

 そんな彼女は当然のように「UQ HOLDER!」の方にも出演しており、しかしその登場は最後の最後まで回されることになる。そもそもがキラーカードであり、使いどころ的にもチート過ぎてお前が出てきたら大体終了だろと言われかねないポテンシャルなので残念ながらその扱いは当然ではあるのだが、まあそのせいで逆説的になんで出てこれなかったのか問題とかも色々あったりして私としてはコメントが難しいのだが…………。

 

「―――――フム全く、大体先輩はそもそも色々何度もお説教はしてきたが、少しは『ネギぼーずの血筋』というものを…………って、話聞いてるネ?」

「へ? あ、いや……」

「むぅ、……、いくら私が美少女だからて、そうナマの脚ばかり見られると照れるヨ」

「いや位置的に仕方ないだろうが、目線の高さ的に……」

「そういう問題ではないネ」

 

 言いながら顔を少し赤くしつつ、しかし特に隠す挙措も見せないのは一体何故なのだろうかと小一時間問い詰めたいが、ともかく。おだんごシニヨン二つに三つ編みを垂らさずリングになるようにしている彼女は、中学時代よりも幾分大人びた風貌で「ホントに重症の様子ネ」とため息をついた。

 

「こればかりは仕方ないカ…………、ハァ。

 とりあえず着替えるネ。『来たれ(アデアット)』――――時間軸渡航機(カシオペア) XIII 號(十三号)

 

 言いながら「ネギま!」連載時に本編ではついぞお目見えしなかった、劇場版用にデザインされたらしいその「超包子」印が胸元に眩しいバトルドレスへと恰好を変えた。見覚えのある格好かつ露出がだいぶ減ったので一安心一安心というところだが、それはそうとその魔法具ちょっと待てお前ッ!? 十三号って何だ十三号って!!?!? 元祖「ネギま!」でも三号機くらいだった訳だし、ホルダー時系列で複製しててもその号数までの開発設計どう考えても異常極まりないだろいい加減にしろッ!(動揺)

 思わずツッコミを入れると、そうは言っても技術は進歩するものだし的なことを返してくる超である。

 

「マ、そもそもこれ自体が魔法具(アーティファクト)である以上、細かくどうこう言うのは野暮ってなものネ。世界パクティオー委員会は『過去』『現在』『未来』問わずすべての時空において希少な『魔法エネルギーを使用する』道具全般を収集し解析しレプリカを作成している以上、たとえ私の発明だとしても私個人の手を今は離れてるアイテムということだ、この懐中時計型のタイムマシンは」

「ちなみに今、超さんが開発してる最新版のカシオペアって何号なんスか?(純粋な疑問)」

XVIII 號(十八号)ネ」

「既に超過してんじゃねぇかナンバリング…………(白目)」

「アハハー、マ! 通常の仮契約でのアーティファクトてそんなものネ。一応、私も強者判定喰らてるのは予想外だたが」

 

 正座したまま軽く眩暈を覚えてバランスを崩すと、膝の痺れが一気に回りその場に倒れた。やれやれネと言いながら手を貸してくれる超のそれをとり、しかし立ち上がれないので少しゆっくりさせてもらう。意外と高い体温が伝わってくるのに夏凜とはまた違った妙な安心感を覚えるのだが、きっと錯覚である。そもそもこの超が居れば大体何とかなるという話でもあるので、というところは大きい。

 

 しばらくしてから超が薦めた椅子に座り、お互い適当に向き合う形に。そこでふと思い出し、私は彼女に礼を言った。

 

「…………えと、えぇと、何のことネ?」

「いや、色々とな。キリヱも何か世話になったみたいだし、三太の時のだって…………って、これは大丈夫だろうか? えっと、『アレ』以降の超さんってことで合ってるだろうか、貴女は」

「あー、アレかネ? 『シン仮契約(ネオパクティオー)』のアプリの術式スクロールのことカ。……ドローンで映像見ていたことよりも先にそちらを言われるとは、何と言うか色々予想外ダヨ。

 アイヤ、礼には及ばないというか、こちらもこちらで事情があったことネ。『最終的には』同様の結末に至るのなら、時空に負荷をかけるべきではないというタローマティの」

「時空に負荷を………………?」

「そうネ。

 もしあそこで、刀太サンがあの魔法具を持っていなければ――――キリヱサンがまた何度か巻き戻して、周回と別データとを行ったり来たりして初めてそれを確保するという流れになていたから、ざっくり百五十回前後カ? くらいは繰り返しになっていたネ。

 流石にそうグダを巻く必要性を感じなかったからタローマティに上告して、納得してもらたカラ、直接アレを届けに行たネ」

「頭が痛ェ……」

 

 つまり、ダイダラボッチ出現前に超が現れて、三太と水無瀬小夜子の仮契約用の魔法アプリを用意していなければ。タイムパトロールを師匠に「させられている」っぽい超がまた面倒なことになったということだ。

 おそらく私にもキリヱにも色々とボカされてはいるだろうが、彼女の能力による「セーブデータ」の情報量次第では時空崩壊の危機がある、らしい。もっとも、下手するとそれすらも色々ぼかされて「わかりやすく」されているだけで、そのテの専門家からすればもっと酷いレベルの可能性すらあるとも思っている。だから彼女が仮に「時空崩壊の危機ネ!」とか言い出して色々動き始めたら、それは本当に危険な事態なのだろう。

 

 つまりは、知らず知らずのうちに恩が溜まっていっているということだ。……本当ならキリヱ大明神が超たちにある恩ということになるが、事情を知っていることと結果的なアレコレを考えれば、私の方が助けてもらっている割合が大きい。

 改めて頭を下げると、苦笑いの超。

 

「そう畏まるような話でもないネ。それより刀太サンは自分の身を心配した方が圧倒的に良いと思うが」

「私の身を?」

「そうそう。意図せずとはいえタローマティの修行をぶっちぎったことになるネ、これはかなり怒られるヨ…………、こ、怖いが、とりあえず弁護くらいはするネ。アレは事故だたし。(私のせいにされそうだが……)」

「こっちで再生した? のは確かに意味不明だし、あと確かにそこの窓の向こうを見ると、どう見ても暗闇に星空だから時間帯が一瞬で切り替わったというのは理解しているのだが…………」

 

 私の疑問に、彼女は「そうそう、時間軸がずれ込んでるネ」と返す。言いながらどこからか取り出したスケッチブックに、さらさらと絵を描き始めた…………って、無駄に上手いぞ? この拠点である「狭間の城」を描いているのが一目でわかる。

 

「刀太サンも『既に知っている』とは思うが、ここの拠点は狭間の世界――――『どこでも』あて『どこでも』ない時空間座標にあるネ。お陰で大体タイムマシンの設計開発に失敗したら最終的に放り出されるのがここだが、ゲームで例えると…………、マップの外の暗黒空間? ずーと落下し続けるみたいな枠外エリア、というところネ」

「枠外…………」

「クト〇ルフ的にはティンダ□スの猟犬とか彷徨てる所ネ」

「そっちの方が解りやすい」→「真・這いよれ!ニャル子さん 嘲章」もヨロシク!(メタ)

「そういえば前に修理を依頼された『無限抱擁』の術式ベースも確かこの空間を模倣していたような……」

「その情報は要らない(震え声)」

 

 また何か変なガバにつながりそうな話をされかかったのにストップをかけると、彼女は「相変わらずネ」とけらけら楽しそうに笑った。……何だろう、前から思っていたがやはり超から私への距離感というか、感情のベクトルがだいぶ気安い。よくはわからないが、だいぶ親しい友人間のような空気を醸し出している。この空気感にも色々言いたいことはあるが、だがこの場合何をやってもガバにしかならない気がするので、とりあえず私は口をつぐんだ。

 

「タローマティ自身はここを自ら制御しきれているという風に振舞ているが、実際、私が見たところはそうでもないネ。ここに『世界をどう繋げるか』を制御しているのがあのお師匠だが、彼女が眠っている間にどこか別な時空と繋がていると言う『レベルですらない』。

 ここは明らかに『世界線ごと』入り乱れているネ」

「世界線ごと…………?」

「世界線の考え方は……、適当に言うと、タイムパラドックス解消という意味付けでの異世界発生説のようなものだが、その発生した世界が辿る過去から未来への軸を一本の線に見立てたものネ。

 タローマティにとて、それらの教義(運命)は全て手を出して操作することが出来るものであるが故に、ここは逆説的に『すべてと繋がり得る』可能性を内包している。だからこそここは『縦軸(タイムライン)』『横軸(パラレルライン)』もすべてが曖昧で――――」

 

 

 

「――――なんだ、こんな所に居たのかい刀太」

 

 

 

 ひぇ!? と思わず超共々、声が裏返った。どちらからともなく思わずお互いに抱き合うくらいには、唐突に響いた師匠の声は恐ろしかったと言って良い。気のせいでなければ四方八方室内の「全方位」から「耳元で囁くような」超絶ステレオ音声が聞こえた、というかもはや輪唱して反響して「鳴り響いた」と言って良いレベルである。いたいけな(?)少年少女が追い詰められたところで誰が責められよう。

 と思っていたら、普通に私からすれば右側(超からすれば左側)の扉が開かれ、通常のデラックスサイズ(比喩)なお師匠が入ってきた。最初はともかく登場の仕方事態に変なサプライズがないのは逆に新鮮でこう、安心します……、安心します……。

 

 と、師匠は私たちの様子を見て肩をすくめた。

 

「やれやれ、『そっち』になっても仲良しとは時坂九郎丸から色々言われるんじゃないかい? 超」

「あ、アイヤー ……、驚かしにかかるタローマ、いや、ダーナ師匠も色々問題行動と思うネ」

「アタシは良いんだよ、正直『ここに居る』アタシでさえ『夢みたいなもの』なんだから。

 …………それはそうと、今日アンタがアタシのことを『背教』時代の名前で呼んだ回数分、新しい仕事を――――」

「アイヤ! と、とりあえずお師匠も来たし私はこれで――――サヨナラッ!」

「いやニンジャじゃねぇんだからさぁ…………」

 

 言いながら手元のカシオペアを操作し、その姿を消す超。状況が悪くなったから逃げたということなのだろうが、それにしたって雑である。そして、そんな彼女の去り際を見て「どちらにせよ『この時間軸の』アタシからは逃げられないだろうにねぇ」とか言う師匠がやっぱり一番怖いというオチであった。

 救いは……、救いはないんですかァー!

 

「救いなんて有るわけ無いだろ仕方ないじゃないか。それこそアンタ自身が救いになってやらないとねぇ」

「だからナチュラルに思考を読んでくるのを…………、って、あー、えっと」

「まあ安心しな? 『体力測定』はアレで予定通り終了だったから、別に問題はないよ。後で桜雨キリヱたちが帰ってきた時に色々と文句を言われるだろうが、そこはまぁ自力で何とかしな」

「あぁ……、ハイ(遠い目)。

 って、『予定通り終了だった』?」

「そうだよ。ほら、ああやって修行をしてるのさ――――」

 

 師匠は言いながら指を弾く。と、書斎の窓「上下四つ」のうち三つが、まるでテレビ画面のように変化し…………、ってオイオイオイオイオイ!? キリヱとか三太とかはおおよそ原作通りだからいいけど九郎丸の修行ちょっと待てお前!? あの九龍天狗と日本刀大量に刺さってる荒野で手に取って斬り合ってるの完全に天鎖斬〇習得の修行(オサレ)だから! ばっさりカット修行シーン(オサレ)じゃねーか!? 何で私じゃなくてそっちがB〇EACH(オサレ)してんだよどうなってんだ世界!!?!?(驚愕)

 

「まあ結果的にってだけだから、あんまり嫉妬してやるもんじゃないよアンタ」

「いや別に嫉妬する話でも無いというか、どちらかと言えばメタ的に世界線がぶっ壊れたか的な心配が先だっただけなのだが……」

「アンタがそれを言うかい、正気かいッ!?」

 

 目を見開いて変なポーズで後ずさった、珍しい師匠の驚愕シーンである。原作でも早々お目にかかったことのないような具合だ。

 

「って、そんなにびっくりされましてもですねぇ……」

「まあ『魂魄的には』近衛刀太だし、アンタが危惧するようなクロスオーバー的な世界観浸食みたいな現象はないから、そこは安心しておきな。タグにクロスオーバーと運営から付けられたとしても、名称やらノリやら裏テーマ的に雑に取り入れてる程度だろうからねぇ。

 どっちかというと『魔法先生ネギま!』関係シリーズと『UQ HOLDER!』のクロスという意味合いが強そうにも思うが――――」

「メタいメタいメタいメタいメタいメタいメタいッ!? いや師匠あなたいくら何でもそこまで自由に発言するのはアウトだろうに何を言っているのだチュウベェすら一応この世界にアレ(ヽヽ)が存在してるから鳴き声がああなってるという裏付けがあるのに……!?」

 

 と、そういえばチュウベェは今何処に――『こっちで確保してあるから気にしなくて良いよ』、アッハイ(便乗)。

 

「まあ一応は別作品だからねぇ。アンタだって『ネギま!(一期)』と『ネギま!?(二期)』、『FINAL(劇場公開版)』と『FINAL・DC版(作者原案版)』は別物だっていう認識だろうに」

「あの、いい加減その辺でお願いします……、平にご容赦を…………」

 

 そろそろ本格的に胃が死ぬ(断言)。釘宮、なんでこの場に居ないんだ釘宮、一緒に鳩尾押さえてぶっ倒れようぜ……(血涙)。

 

「その釘宮大伍にしたって、アンタからすればガバ以外の何物でもないだろうに――――」

「人が気にしてることを……! というか何なのだ師匠あなた、明らかにこう明確にこちらの心を折りに来てるとしか思えないのだがッ!!? パワハラ! パワハラ!」

 

 思わずキレ散らかした私に、師匠は猫みたいな気だるげな表情をして肩をすくめる。ついでに両手も上げて「打つ手なしだねコリャ」とでも言いたげなボディランゲージだ。

 

「言い返せる程度には留めてやってるから、まだマシだと思っておきな。あるいは『トレーニング』の類だとねぇ」

「はい?」

「修行だよ、修行――――アンタに関しちゃ、『一周目』のトータが統合されてるからねぇ。失った技術も多くあるが、不死者としての基礎的な部分もおおよそ『アンタ自身が思っている以上に』完成している。

 となるとアタシのすることとしては、心構えを付け直してやること、後は今までボトルネックになっていた部分を改良してやることくらいだからねぇ」

 

 

 

「――――改良とは、どういうことだ?」

 

 

 

 わー!? と思わず声を上げてしまった私である。気が付けばこちらの膝の上に、白黒ローブ姿のエヴァちゃんが座っていた。……いやエヴァちゃんではないのは丸わかりなのだが。ローブの色からして星月に違いない。というかエヴァちゃんスタイルで現れるのは、今の私としては色々とばつが悪くて心臓に悪い……。

 そんなこちらの気も知らない星月に、師匠はニヤリと笑った。

 

「アンタも近衛刀太と繋がっている以上は、近衛刀太の一部であることに違いはないからねぇ。裏側で色々小細工して準備することは出来ても、抜本的な部分の解決方法については、案が出せないだろう?

 例えば、今は封じられた『胸の(きず)』とか――――」

「それは……、正直、この相棒があまり違和感を持っていなかったから、必要ないかと判断していたのだが。大体いくら『統合された』からといえど、相棒の今の練度だと『無から』『自らの血液を』練り上げて操るのは至難の業だぞ? ダーナ」

「えっと……、前に言われたっけ? 確かに傷があると、金星の黒がストップすると命が危ないとか――――」

 

「――――それだけじゃなくて、例の魔天化壮(デモンクラッド)だっけ? あれに『なりやすい』のも、胸に疵が残り続けているからだよ」

 

 マジで? と。これには思わず目を見開いてしまう私である。もともと九郎丸につけられたあの貫通した刀傷ではあるが、あれが存在するお陰でほぼ自動で回天のような現象が起き、体内の魔力が上手い具合に攪拌され「金星の黒」へのアクセスがやりやすくなってること、またいちいち新たに傷を作らず血を排出できることなど、利点しかないと思っていたのだが。師匠自らそう断言する以上は、実際それはデメリットなのだろう。

 

「死天化壮……、ある意味で常に死に近いっていう状態だからねぇ。ネーミングとしては案外妥当なんだよ。

 お陰でこう、ちょっと小突いて(ヽヽヽヽ)やるだけでバランスが崩れやすい、っていうのは間違いない。大体、全身粉々に砕かれても暴走していないアンタなんだから、トリガーはもっと別なところにあるというのは少し考えた方が良いと思うがねぇ」

「はぁ…………、はい」

「…………そういう所は本当に思った以上に素直だねぇ。いや、アンタがアタシを『知ってる』からこそっていうのは判るんだが、妙な感覚だ」

「そうおっしゃられましてもですねぇ……?」

「まぁ『同じ話を』『何度も繰り返すのは』趣味じゃない。要は、アンタが代替え手段を何か発見できるようにしてやるって言ってんだよ。そこは感謝しなさい」

 

 それについては本当にありがとうございますなので、素直に頭を下げる。ついでに星月の頭も抑えて一緒に頭を下げる。……髪サラッサラだな、エヴァちゃんもきっとこんな具合なのだろうという予想が立つ。

 そんな私と星月を見て、師匠はむず痒いというか、同時に苦虫でも噛みつぶしたようなというか、そんな微妙な表情を浮かべた。

 

「……………とりあえず、ヨロシクお願いします」

「……まあ良いよ。断る話でもないし」

「どうもです。

 ……あっ! そういえばなんスけど、黒棒って何か直す方法とかないッスかねぇ? えっと……」

 

 そういえば「再生してから」黒棒のことをすっかり忘れていた。きょろきょろと探していると「これかい?」と言いながら、帽子をずらしてその中から「折れた」黒棒を取り出す師匠。

 

「修理できなくもないだろうが、どっちかというとねぇ……。それより先にアンタにはやらないといけない事があるから」

「「やらないといけない事?」だと?」

「次の行程に移る前に、まず必ず通らないと後々問題になりそうだからねぇ。まあ――――」

 

 私と星月の疑問符に、師匠はそれはそれは良い笑顔を浮かべて、こう言い放った。

 

 

 

「――――とりあえずアンタが落としてきた女関係が、どういう心理的経緯を経てそうなったかについて事細かにレクチャーしてやるよ。いうなればアレだ、『ガバ』の反省大会だねぇ」

 

 

 

 その一言と同時に思わず星月を膝から落としてダッシュ。「ぎゃんッ!?」というエヴァちゃんのちょっと汚い叫び声をバックに部屋から逃げようとした私だったが。扉を開けた瞬間、その先がどう見ても学校とかの更衣室、おまけに向こうで誰か身長の高いロングポニーテールな娘が着替えを…………ッ!?

 

「そっちは、ちょっと『まだ』早いよ。戻ってきな。

 ……さぁ愉しい愉しいガバ回収タイムさぁ」

 

 その後ろ姿が、何か気配を感じてこちらを振り向こうとして――――その「大河内アキラ」の横顔が見えるか見えないかのところで、私は再び部屋の中に引きずり込まれた。

 

 

 

 

 



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ST162.心の鍵は…その1

毎度ご好評あざますナ!
刀太サイドはしばらく、ガバが如何にして熟成されたかのレクチャーになります


ST162.Frequently Asked Questions: side Kuroumaru Tokisaka

 

 

 

 

 

 〇LEACH(オサレ)だろっ!? B〇EACH(オサレ)だってばよっ!!? BL〇ACH(オサレ)だからっ!!!? BLE〇CH(オサレ)なんだからBLEA〇H(オサレ)ならばBLEAC〇(オサ)れッ!!!!?(オサレ謎活用)

 

 思わずそう動揺してしまった私を誰が責められよう。言い訳をさせてもらえれば、意味もなく混乱した物言いをしている訳ではない。オサレを連呼する程度には私の認識がぶっ壊れる、それくらいの衝撃的事件があったのだ。

 ことの原因はお師匠によって連れられた一室。扉を開けた先は既に石造りの廊下で、先ほどの女子更衣室らしき何処かだった気配は欠片もなく。「来な」の一言にホイホイ従った結果着いたのは、先ほどの書斎とはまた違う個室であり、石造りの部屋でこそあるがテレビだったりこたつだったりキッチンだったり冷蔵庫と現代のそこそこなお値段のアパート的な作りになっており、それはそれで困惑必至だったのだが。その部屋の居間にあたる場所、書棚を見た瞬間に私は壊れた。

 

 そこにあったものは――――Bから始まりHで終わるBL〇ACH全巻(OSR原液)であった。圧倒的な原液であった。なんなら映像ソフトまで全部劇場版含めて揃っているっぽいし、おまけにノベライズ版まで網羅している始末。今となっては色々諸般の事情で公に語られることもまれになったバウ〇ト(師匠未監修)もちらほら見え隠れしており、そういう意味で完全版の原液書棚であった。

 なお付け加えて言うと、その背後にNARUT〇(だってばよ)関係やら元祖「ネギま!」関係の原作およびメディアミックスやら、とにかくかなりの数が揃っている。個人的には嬉しい限りではあるが、それはそうとしてそういう問題ではない。師匠直々の蛮行である、明らかな世界観破壊の蛮行である。メタとか何だとかそんなチャチなものではない、もっと深い何かの片鱗を味わっている感覚だ。何なら空もまた青空に戻ってるし、いつの間にやら時間跳躍までしている可能性すらある。

 

 あっファ〇トムブラッドもちゃんとそろってるな。これはこっちの世界にもあったが…………って、そうではなく。

 背後で腕を組んでいた師匠に向き直り、その表情を伺いながら思わず突っ込んだ。

 

「っていや何なんスかこの部屋!? 世界観ぶっ壊れてるどころの騒ぎじゃねーでしょッ!?」

「言いながら、目線が完全に棚に釘付けになってなければまだ説得力があるだろうに、その言動もねぇ……。あと、ここは『さっきみたいな』イレギュラーは早々ないから、素に戻ってもいいよ。

 そこの星月は――――」

「あー、いやー、もう良い。この場にいることで私まで面倒ごとに巻き込まれそうだ、『戻る』よ……」

 

 言いながらふっと姿を消す星月に、師匠は「意気地がないねぇ」と肩をすくめる。見た目の関係だけで言えばエヴァちゃんとお師匠の二人なので違和感は然程ないのだが、それはそうとしてガバの嵐に違いはないのだ。怖い。

 そんな私をちゃぶ台手前の座布団に勧めると、どこからか取り出した缶コーラとポップコーンを手渡し。おもむろにテレビを操作して、チャンネルを変えた。

 

 画面に表示された文字は…………。

 

 

 

 ――――時坂九郎丸 編――――

 

 

 

「いやこれ絶対師匠が色々やらかしてるだろうがッ!」

 

 思わず口走った一言に「当たり前だろうアタシの家なんだから」と返され、ぐぅの音も出ない私であった。

 

「とりあえずまあ不死身連中で、好感度が『低い順から』やっていくよ」

「……低い順? えっ?」

「さっき聞いてた話だがねぇ。この部屋に色々置いてあるのは、アンタのメンタルにダメージを入れ続けた後に復活させるための現実逃避用だねぇ」

 

 現実逃避用とかストレートに言ってくるあたり、師匠の本気度が伺える。逃げたい。逃げたい。

 

「まぁそう怖がる話でもないよ。とりあえず怖がるべきはあの聖女くらいなものだし」

「夏凜は名指しなのか……(困惑)」

「薄々アンタも勘付いてるだろ? まあ細かくは聖女以外は省略してやるがね。あんまり言うとガバが拡大するだろうし」

「夏凜は何故そう特別扱いなのか…………」

「特別扱いじゃなくって『取り返しがつかない』から、いっそ開き直っちまおうかと思ってねぇ。あの聖女も今や『キクチヨ』に因縁はなくとも『トータ』には因縁がある魂をしているから」

「その因縁がある云々の情報はいらないのでは?(震え声)」

 

 超もそうだがこの師匠、明らかに意図的に情報を狙い撃ちしてこちらの情緒を煽って楽しんでいると思ってる。その証拠に色々ダメージを受け続ける私を見てニヤニヤと趣味の悪い笑みを浮かべていた。なまじその情報が色々と想定外すぎるものも多いし、胃が…………。

 

「まぁそれを言い出すと、アンタの知る青梅勝四郎と髪型はちょっと似てるだろう? あの聖女。容姿はどっちかといえば時坂九郎丸寄りではあるが――――」

「あの、本題進めてもらってオナシャス…………、オナシャス…………」

「そうかい? もうちょっと聞いておいた方が『後々』面倒が少なくて済むと思うが……。

 まぁ良いかね? じゃあまず、時坂九郎丸と『同率の』カトラス・レイニーデイからだ。とりあえず先に九郎丸の方をやっていくが――――」

「あの言った早々いきなりスミマセン、カトラス? へ? そんなに?」

 

 ある程度絆して兄妹的な立ち位置に落ち着いているという認識なのだが、そんな私にお師匠はダメ男でも見るような可哀想な視線を投げて来た。

 

「まあ、そうだね。数値知りたいかい? オコジョ妖精が使うタイプの数値化したやつ」

「知りたくないッス(震え声)」

「まぁそうは言っても映像の準備は終わってるんだがねぇ、ホラ」

 

 ぱちん、と画面へ向けて指を弾くと。「時坂九郎丸編」と表示されていた画面にノイズが走り、表示ががらりと変わった。

 


 

【時坂 九郎丸】

 ┣友:09 ・・・親友だと思ってるけど確信できていない

 ┣親:09 ・・・安心感が強い。スキンシップしてるとなお強い

 ┣恋:09 ・・・恋愛経験がまともにないので空回ってる

 ┣愛:07 ・・・自分が守らなきゃという使命感と私情

 ┗色:09 ・・・しょっちゅう生唾を呑み込んでる

   → 計:43 

 


 

 

「あのお師匠、このプライベートの欠片も無い解説付きのものは……」

「アタシの独断と偏見に基づいたメモだよ。さてこれを見て何か思う所は?」

「ネギぼーずにせっちゃんが向けてた好感度ベクトルより高いのでは(震え声)」

 

 私の一言に「そりゃ九郎丸には近衛木乃香のような別ベクトルの相手がいなかったからねぇ」とか言ってくる始末。

 

「そもそも大前提だが、アンタのその妙な察しの良さっていうのは、擦れた心には劇薬みたいなものなんだよ。時坂九郎丸に限らずねぇ」

「擦れた心と言われましても…………」

「家族との不和や己の身体への困惑、立場の不安定さ、一人で知らぬ土地に投げ出されたことへの不安、最愛の兄からも見捨てられたと感じた恐怖、どれをとったってクリティカルだろうに」

 

 例えば見な? と。テレビの画面が再び切り替わると、そこには熊本在住時代の私と九郎丸の姿が。雪姫がいないがテレビを見てあーだこうだと雑談している。

 

「心の傷を包むっていうのは、別に特別な手段が必要なわけじゃないんだよ。例えば本人が本人なりに頑張っているんだったら、それを無条件で認めて承認してやること」

 

 映像の中で、九郎丸が特に何の気もなく笑ってるその映像に、私は違和感を抱けない。抱けないが、師匠の指摘は続く。

 

「勘違いもあったとはいえ、アンタのこの時の対応はあんまり良くなかったんだよ。

 そもそも時坂九郎丸にとっては『男だ』と言っていても、あくまで一つのテンプレでしかないっていうのはアンタ原作読んでるんだから知ってるだろ?」

「いや、まあ『そういうキャラ』だというテンプレなのは判るが……。とはいえあの九郎丸は、ちゃんと生きている人間なのだから――――」

「だから、そこを勘違いしているんだ。いいかい? 生きている以上、九郎丸の精神性は初めから『男と女を』厳密には区分していない育ち方をしているんだよ。もともとどっちを選んでも良いようにって一族なんだから、兄だ弟だって言ったって姉だ妹だって生活してても不思議じゃない」

「いや流石にそれは予想できないだろッ!」

「だが過去篇の九郎丸はどの描写をとっても少女として扱っていたという認識はあるんだろう? 浴衣の感じとか、兄への甘え方とか」

「……………………」

「それが答えとは言わないが、そうだねぇ……。男性的でも女性的でもある、としておこうかい? 種族のそれに倣うなら。そんな精神性をしている時坂九郎丸が、建前として男を名乗っても、本音で女と思ってしまえばどうなるか、それこそ原作通りの流れだろう」

 

 確かにそうではある。九郎丸は本来の流れに沿うのなら、自らを友達と規定して男友達として接していた近衛刀太に対し、自らの内の女性的なそれの区分ができずにわだかまっていた。それを起点に友情をはぐくみ続けた結果、いずれかのタイミングでその友人としての好意と人間的な好意とが、少女的な側面と共振して愛情へと転化した。少なくとも私はそう考えている。

 だからこそ、あえて九郎丸とは適度に距離をとっていたつもりだ。特に熊本時代、九郎丸の内側に「女性である」という意識を強く持たせないように、初めからそうなり得る可能性は排して接していたのだが――――。

 

「――――いや、つまりその距離感っていうのは『女性に対する』距離感だからねぇ。どっちにしろ詰んでたんだよアンタ」

 

 その一言で、謎が解けてしまった。

 同時に、猛烈な脱力感に襲われた。

 

 ダメージを受けて考えることを放棄したい私の内心を察してか、師匠はニヤニヤと笑いながら映像を見ている。

 

「つまりアンタは一つ屋根の下、傷心の時坂九郎丸に正しく女扱いして、その心の女の部分を刺激しまくったって訳だ。もともとそのあたりのボーダーが曖昧だった精神に対して色々下準備してしまった訳だねぇ。

 ま、アタシとしちゃ風呂の時間をずらしたり、かと思えば停電の時に普通にちゃんと男の子らしい対応したりしたのとかもねぇ。普通は何ともないだろうけど、箱入り娘で集団生活に免疫のない九郎丸なんてイチコロだったろうに」

「――――――――」

「放心してるところ悪いが続けるよ。ま、とはいえそれでもここまではまだギリギリ持ちこたえて居たろうけど、トドメは、コレだね」

 

 切り替わった映像は、橘に私が召喚され、九郎丸の夕凪が私の胸を…………。

 その時の映像が横からだったものが、ぐるぐる回って九郎丸にズームアップする。

 

「驚愕と罪悪感と…………、絶望? いやぁ、この時点で大分心を病んだのは知ってるだろうアンタ」

「………………」

「何故病んだのかと言えば、アンタがあくまでも一般人であると思っていたから。自分を十分気遣ってもらえる……、いや気遣わなくてもそれこそ本来の近衛刀太のような振る舞いでもアウトだったろうが、そんな相手を自らの手で、となってしまったこと。

 加えて言うとその後に『バケモノの世界へ』いざなってしまう切っ掛けが、この時点では間違いなくこの敵対していた賞金稼ぎで、その罠にまんまと引っ掛かってアンタを殺した自分だってねぇ」

 

 おまけに当の本人はその傷をずっと残し続けると来ているし、と。ある意味では私にとって一番指摘されたくなかったことを当然とばかりに開陳する師匠である。

 

「此処までくると、何があってもアンタを引きずり込んだ自分の責任だって思った感情に加えて、だからこそずっと一緒にいて自分が何かあった時に責任をとらないと、自分の身体を差し出しても、ってところだねぇ。

 時坂九郎丸も『今の』キティ程、死生観はそこまで崩壊しちゃいないんだよ。つまりちゃんとした人間らしい価値観だけで生活してるってことだ。思いつめるのも、少しは当たり前とは思わないかい?」

 

 

 

 だって一族から捨てられたはずの自分が、自分の大好きな友達を人の世から追い出してしまったんだから――――――――。

 

 

 

 そこまで聞いた時点で、私はちゃぶ台に突っ伏した。逃避、現実逃避する暇すらお師匠が許してくれない…………。

 

「およそこの段階で全体の方向性は定まったから、後は何をやっても些事だねぇ。

 まあ例によって結城夏凜が『好きなんでしょう』とか色々いらんこと言ったり、サムライみたいな和尚が『お主の中に愛を見た』とか言ったりとあったが」

「あのそれ、結構重要では……?」

「重要かどうかで言えばファクターの一つではあるだろうけど、本質を見誤っちゃいけないよアンタ。そもそもゼロには何をかけたってゼロなんだ、元になる素地をアンタが懇切丁寧に作っちまったから、その居心地のよい付き合い方で」

「…………いや、でもそれこそ原作の私? というか刀太? みたいに振舞ってもアウトだったと言っていたなら、どうすれば良かったのでしょうか」

 

 

 

「見捨てりゃ良かったんだよ。それこそキティが何といっても聞かず、そのまま適当に森で寝かせておけば。

 そしたらそれ以降も、キティを襲う謎の刺客以上の関係性にはならなかったろうに」

 

 

 

「そんな身もふたもない事を言われましても……」

「あっ、当然だけどキティが『私に挑戦したくば刀太に勝ってみろ』とかそんなことを言い出したりしても、必要最小限以上の会話はしちゃいけないんだ。向こうから話しかけられても適当にして、困ってそうでも手助けはしちゃいけない」

「人の心が無さすぎる言動では…………(良心)」

 

 どうせ無理だから絵に描いた餅だがねぇ、とか言って肩をすくめるお師匠様。

 

「そもそもそれが出来るようなら、あのカトラスとかいった娘がカトラス・レイニーデイなんてことにはなりはしないだろうに」

 

 いや、カトラスに関しては事故の側面も多いと言うか……。師匠に言わせればそういう話じゃないんだよ、とか言われそうだが。九郎丸の例を前提として考えると、どうも私の最初から考えていた前提と行動に対して、実際のそれにズレがあるということらしい。そのズレの分がそのまま後のガバに繋がっているのは、まぁまず間違いあるまい。

 あまり気付きたくなかった事実だが……。

 

「まあアンタの知るその解釈『通りの』世界やら人物っていうのも、世界線の横軸には当然存在するだろうけれどねぇ。こっちは、言いたくはないが『近衛刀太からして』違っている訳だから、指数関数的に膨れ上がるのは仕方ないだろう」

「誰もここまで好き好んでガバガバに膨らませたかった訳ではないんですが…………(震え声)」

「まあ、とはいえ一応まだ世界は崩壊していないし。その点だけは及第点をあげるよ」

 

 だから他の連中と違って、最初に精神修行をさせることにしたのだし、と。師匠のその一言に、私は違和感を覚えた。原作8巻あたりを思い返すと、師匠の修行方針は確か――――。

 

「嗚呼、基本的には肉体的にまず不死者としてアタシの認める最低ラインまで引き上げることだねぇ。技術についちゃ方向性は示すが、教えるよりは自分で慣れて作れってもんだよ。

 そこまでやれば、なんだかんだで意外と精神もついてくるものだからねぇ。心身相関、健全な魂は健全なる肉体と健全なる精神に宿る、ってやつだ」

「だから人の思考を先取りするのをお止めくだされ…………(嘆願)。

 っと、いやそうだとすると、猶更私に対してのその修行順序は――――」

 

 

 

 言いかけた途中、師匠は私の腕を潰した。

 

 

 

 軽く左手を動かした師匠だったが、まるでトラックがぶち当たったかのように猛烈な速度とパワーで、しかしもぎ取るわけでもなくぺしゃんこに潰した痛い!? いや待て待て痛い痛い痛い痛い痛い痛い!? 痛いというか熱いし何か変に「冷たい」!!? 慌てふためく私をよそに、周囲に私の血やら肉やらが飛び散る。

 痛みの臨界点は超えていないのか麻痺していないせいで余計に痛いと言う拷問めいた状況であるが、少なくとも致命傷にはなっているのか「金星の黒」の線を感じ取ることが出来た。思いっきり外側を血装術で覆い、周囲に散った血肉へと血装の糸を延ばして取り込んでいく…………。材料さえそろえば修復にそこまで手間取りはしないので、色々気を付けながらパーツを適当に再配置して、あとは自動的な再生力に任せた。

 

「って、いきなり何やるんスかお師匠!? 普通に痛ェ!」

「…………金星の黒と常時接続していない状態で、血装の展開に 0.5 秒、再配置まで0.2秒、再形成に 1 秒、かねぇ? 外見上は2秒も経ってないと。アンタ、痛がった時の方が再生速度が速いよ」

「いやそもそも痛いのは嫌なのだが(アイデンティティ)」

「まあこういうことだよ。アンタのそのモットー『のせいで』アンタ自身の基本性能はだいぶ落ちていることになっているけど、そのモットーが働かなくなった時の練度は、既に『完成された不死者』の域に入ってる」

 

 つまりもう身体は出来上がってるってことだよとお師匠は言う。それは……、ほぼ間違いなく、キリヱと共にあったかつての私「だった」その魂の影響だろうと、なんとなく察した。

 

「技についてもまぁ、あの星月っていうのが色々サポートしてくれている以上、こっちからは口出しするような話でもない。とするとむしろ、残っているのは今のアンタを阻害している要因だけなんだよねぇ。それを取り払うか、自覚させるのがまず第一段階だ」

「阻害している要因……」

「『痛いのは嫌だ』っていうモットーそのものは一長一短、私が簡単に良い悪いって言う話ではないだろうけどねぇ。まあ趣味じゃないがそう『変心してしまった』理由についても把握してるから、強くは言えないんだよ」

「それは…………、えっと」

「まあ、聞いたらガバになるから聞かない方が身のためだよ」

「アッハイ」

 

 思わず即答する私に、お師匠はため息をついた。いや、そう呆れられた風に応対されたとしても、こちらとしてもどうしたものかという話なのだが…………。ただちょっとだけ、ちょっとだけ文句を言わせて頂けるなら言わせて頂きたい。

 

「あの…………、なんで人間関係のガバというかについてまで、今こうして話す必要があるんですかねぇ」

 

 嗚呼と言いながら、師匠は画面を再び操作すると――――そこに映った映像は、ダイダラボッチの腹の中で、魂だけ復活したディーヴァと何やら話している私の姿であり。

 

「ラスボス相手に『現実から逃げるな』とか言っていたからね。もともと書類としてまとめてアンタに突き付けてやるつもりだったが、このあたりで気が変わったんだよ。アタシ直々に、懇切丁寧に膝を折ってやろうかってねぇ。

 そもそもしょっちゅうアタシに内心話しかけてた訳だから、どう足掻いたって不可能といえば不可能な話さ」

「迂闊ッ! 我ながら迂闊ッ!」

 

 思わず膝を抱えてその場に転がる私を、師匠は意地悪く見下ろして嗤っていた。「そういう所だよアンタそういう所」とか、あの、少しくらいご容赦頂けないで――――。

 

「アタシに教えられるか、自分で反省文書くかの違いみたいなものだから、そこはもう諦めときな」 

 

 もう既に一人目の時点で精神的には大分死んだところで、本日の授業(?)はお開きとなった。

 

 

 

 

 



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ST163.屈服すべきは

毎度ご好評あざますナ! 今回は九郎丸視点です


ST163.Obey Yourself!

 

 

 

 

 

「…………野郎、逃げやがったか? いや、逃げたならアタシが気づかない訳はないし、時空の隙間に呑み込まれていったかい? 厄介だねぇ」

 

 色々とダーナ師匠は言いながら、僕らに顔を向けた。キリヱちゃん、三太君、僕、カトラスちゃんの順で横にずれていった後「とりあえず服着な!」と言ってくれた。

 収納アプリから取り出して上着だけ着用。ボタンを締め終わる頃には、ダーナ師匠は刀太君について話し始めてくれた。

 

 どこに行ったのよあのちゅーに! というキリヱちゃんの一言に、ダーナ師匠は「ココには居るんだけどねぇ」って頭をかく。

 

「アンタ達にも判りやすく説明すると、どんな風に言ったらいいかねぇ……。ここは『何処でもあって』『何処でもない』っていう、そういう場所なんだよ。だからここの空間にいる者は、アタシが外と『どうつなぐか』を規定しない限りは、時間の制限に呑まれない。

 簡単に言えばゲームとかのメニュー画面さ。メニュー画面でいくら動いても、何も起こらないだろ?」

 

 その話に少しだけびっくりする僕とキリヱちゃんだったけど、ダーナ師匠は特に触れなかった。そのまま彼女は、話を続ける。

 

「だから、逆に言えばここはアタシが意識しないと勝手に色々な所に『繋がってしまう』可能性を持ってる場所なんだ。とはいえ大体は本人がいる時空座標に『紐づけ』されてるから、深追いしなければ時空の狭間に呑み込まれなくって済むんだがねぇ」

「時空の狭間にとかなんか聞き流しちゃいけないようなフレーズがあった気がするんだけど……?

 ってじゃあ、ちゅーに? ちゅーにはどうしたっていうのヨ? えっと、居なくなったってことはその時空の狭間とかに呑まれたってこと!?」

「いや、それもちょっと話がややこしくってねぇ…………。こればっかりは説明する概念を持たないが、トータ、『あの』近衛刀太はちょっとイレギュラーが多くてね。『ある種の方向への』時間移動に限って、紐づけが全く機能しないんだ」

「だからどーゆーことッ!!?」

「ちょっと未来の時間軸にでも送られたってことだねぇ」

 

 それは……、一体どういうことなのだろうかと。僕もキリヱちゃんも質問をしたけど、いまいち納得できることは言われなかった。

 ちなみに三太君は「SFだけどやっぱわかんねェー」って少しぽけーっとしてた。年相応な感じで少し可愛いけど、本人に言ったら怒られそうだ。一方でカトラスちゃんは、初めから理解を放棄してるのか遠くの方を見て引きつった笑いを浮かべていた。

 

「ま、そんな話は置いておくよ。どうせそのうち判ることもあるだろう」

「その一言でごまかされるわけないじゃないのヨ!」

「判らない概念についてガンガンに教えて詰め込んだって、仕事でもないんだから誰のためにもならないよ。特にアンタ達みたいに先がえらく長い連中はねぇ」

「あの、ダーナ師匠……? それで、刀太君は……」

「まあ問題はないよ。今『別な私』を捜索に向かわせてるけど、さっきも言ったがおそらく『未来に』飛ばされたはずだからねぇ。アンタ達も数日特訓したら合流できるよ。そう『大した目には』遭わないだろうからねぇ」

「よ、良かった」

「本当なんでしょうねぇ………」

  

 未来に飛ばされた……、と言われても僕にはよくわからないのだけれども。ダーナ師匠の言葉の感じからして、数日くらいなのかな。それでも刀太君が、何か大変な目に遭っていないようで良かったと思う。

 でも…………、あれ? なんで僕、こんなに彼女の言うことを簡単に信じているんだろう。初対面からたぶん1日は経っていないのに。信頼関係とかを形成するタイミングって何処にも無いし……。

 

 僕の疑問に答えが出る訳もなく、そのままダーナ師匠は僕らに指をさして言った。

 

「まあアンタらのことは大体もう判っているから、基礎的な訓練で『今出来ること』が何なのか判ればそれでいいよ。トータと合流するまでに次のステップ、個別特訓のお時間さ」

 

 個別メニュー? と、驚く僕たちにダーナ師匠は「何度も同じことを言いたくないから諸々は省略するがねぇ」と前置きをして。

 

「時坂九郎丸は知ってるだろうが、簡単に言ってしまえばこういう修行っていうのは『心・技・体』で構成されているもの。『心』、つまり精神については『私から』どうこうするつもりはないから、そうなるとここでの修行は『技』『体』がメインになる訳だ」

「な、何ヨ。私たちの何を判ってるっていうのヨ?」

「何ってそりゃ……、色々だねぇ」

 

 本当に聞きたいかい? というダーナ師匠の一言に、キリヱちゃんはうっと一歩後ずさった。

 

 そもそもこのダーナ師匠、登場の時点で既に僕らにとってびっくり以外の何物でもなかった。刀太君が一人で雪姫さん、というよりエヴァンジェリンさん? のところに行った直後、敵襲のごとく現れた巨大な存在。しかも尋常な現れ方じゃなかったものだから、皆で色々作戦会議して、とりあえず牽制に攻撃を送った。

 送ったら最後、向こうから戦闘員? みたいな人がこっちにも転送か転移かされてきて。あれよあれよと戦っているうちに、刀太君はまた殺されてしまったし。

 

『しばらくこの子はウチで預かるからねぇ。まあこっちの体感で言うと数日になるだろうけれど…………、結城夏凜を呼ぶんじゃないよキティ、今そんなことしたら修行つけるどころの騒ぎじゃなくなっちまうからねぇ』

  

 そのまま再生し始めた刀太君を持ち上げると、ダーナさんはそんなことを言った。夏凜先輩は……、ちょ、ちょっと何を言ってるかよくわからなかったけど。でも、少なくとも雪姫さんが納得できるまで強くする修行をつけるっていうことはわかった。

 だから僕やキリヱちゃんが頼み込んで、その修行に同行させてもらうことになったんだけど…………。移動途中に見せられた色々と凄い空間跳躍とか、もうそんな次元じゃないような光景のおかげで、僕も三太君もダーナさんのことはダーナ師匠以外の名前で呼ぶことはできなかった。唯一敬語も使わないのは、キリヱちゃんだ。ただ彼女に対して、ダーナ師匠はあまり強く言わない。

 言わないけど、それはそうとしてキリヱちゃんはダーナ師匠が苦手みたいだ。

 

「まあ一つ言うなら、世間話するならともかく精神に関しちゃアタシは本来、門外漢なんだよ。適当にやったら間違いなくパワハラになっちまう。『本人が了承してなきゃ』基本はやるべきではないからねぇ。

 根性論はあくまで精神論、実際に積むべき経験値や取得するべき技術とは別ベクトルで見るべきものさ。それこそ個々別々、相手の状況に責任を持つくらいの気持ちじゃなきゃ。でなきゃ言うだけ言ってやらせるだけやらせて何も形にならないわ肉体も精神も潰すわ、ロクな結末にはならないからねぇ」

「そのわりには師匠ってば、あのちゅーにには当たりキツいんじゃない…‥?」

「個々別々にって言ったろう。だからそういう意味では、トータはお前たちとは『別レイヤー』なんだよ」

「「レイヤー?」」

「刀太が、何かオレたちと違うっつーことッス?」

「…………(お腹空いてきた)」

 

「まあ修行場はそれぞれ別々に用意してあるから、カトラス以外は三人とも『行ってらっしゃい』だ」

「へ? 私だけ何を――――」

 

 カトラスちゃんが不思議そうにしてたのを見た瞬間、僕たち残り三人は全員「背後に現れた扉から」「這い出て来た真っ白な」「複数の腕」に身体を掴まれ、その向こうへと引きずり込まれた。

 

「へ?」「えっちょっと」「いィ!?」

 

 吸い込まれた直後、扉の向こう側の暗黒空間で僕たちはお互い横一列に見合った。けど、それも数秒でどんどん遠くに離されて、あとは無限の暗黒だけがそこにあった。

 しばらく引っ張られて放り捨てられた先は、途切れた地平線と水平線のある小島のような大地。ここは…………、裏火星?

 

『察しの通りだよ。桃源ではないが、アンタの故郷と言えば故郷さ』

 

 そんなダーナさんの声に振り向くと、そこには……、えっと、何だろう? 頭身が小さくなったようなダーナさんの姿と言うか、僕でいう「ちび九郎」みたいな風貌をした小さいダーナさんが居た。ちょっと可愛い。

 

『あら? ありがとうねぇ。素直にそう言われると、こっちも素直に返したくなるものだよ』

「へ? 僕、何か言葉に出てましたっけ――――」

『そんなことより、アンタの考えている通りこの姿は式神さ。

 他の連中と違って、アンタは「一番近い」時間軸に居るからねぇ。アタシも下手に分身すると、何かミスしたら「吸収統合」か「対消滅」か「意味喪失」しちまうからねぇ』

「は、はぁ…………?」

『まあ大変なことになるからってだけさ。あんまり気にしなくて良いよ。

 じゃあさて――――』

 

 そう言いながら彼女は僕に何かを投げてきた。受け取った感触から確認しないでも正体がわかった。青い背景の仮契約カード、僕と刀太君のだ。

 

『夕凪は今回、ちょっと取り上げるよ。アンタの基本性能については一通り見たから、次は「本気で」戦ってみると良い』

「本気でって一体何と――――ッ!」

 

 そうこう話してると、地平の果て……というより崖だった? 崖の下から、大型の西洋竜が現れる。姿からして土属性か闇属性か、体躯ははるかに大きく、何よりこっちを威圧する魔力が――――。

 

『害獣駆除さ。期限は一時間くらいにしとこうかねぇ』

「あのダーナ師匠!? これ流石に、今の僕じゃ無理では――――」

『まあ桃源神鳴流でいえば、一般的な剣士でいうと五人がかりで一週間、色々コスい技も使った上でようやくってところかねぇ』

 

 それを今の僕にどうしろと!? 思わず弱音を吐いてしまう僕だったけど、手元のそれを見てはっとする。

 

『気付いたようだね。ま、今のアンタなら頑張れば一時間以内にはどうにかなるだろうさ。

 ちなみに桜咲刹那、アンタが前に戦ったトータの祖母の一人だけど。あの変態女なら、単独で十分くらいかね』

「十分!? 今の僕との間にそれくらい差が………って、へ、ヘンタイオンナ?」

 

 思わず目を丸くして聞き返してしまったけど、師匠が何か言う前にドラゴンのブレスがこちらに吐かれた。

 夕凪がない以上は基本的に素手の技なんだけど、どう考えても僕の習得している技ではあの強固な鱗の内側までダメージを与えることが出来ない。

 

 となれば、方法は一つ――――手元の仮契約カードに魔力を注ぎながら、呪文を唱え。

 

 

 

我が身に秘められし(オステンド・ミア)力よここに(・エッセンシア)――――来たれ(アデアット)!」

 

 

 

ARMOR

・KUROUMARU TOKISAKA

・DIRECTION: East

・GUARDIAN: Eoh

・ASTRAL: Aries

・SYMPARATE: LXXVIII

・EQUIP: SACRED SWORD HINAMORI

・RANK: Numbers of UQ-HOLDER

・P-No: 11

・CODE: 2 0 7 2 1 9 9 3 0 4 0 2

・SECRET:Lightning Sword

 

 

 

 コツをつかんだせいか、こういう時のアーマーカードは外さない。すぐさま全身に展開される魔力の奔流と共に、背中からヒナちゃんを取り出すけど――――あれ?

 

「……何かいつもより、『気』の通りが――――危ないッ」

 

 違和感に少し手元の神刀を見た僕だけど、その一瞬で竜の姿は眼前から消えてブレスが吐かれた――――! 咄嗟に瞬動で回避しようとしたけど、範囲が広すぎるッ! 僕の一歩からの移動範囲でも射程の外に出られない……っ。

 飛行と瞬動を切り替えるにも、普段から使用してる時はどっちかを基準としてた。だからこそ、僕は刀太君ほどには四方八方、自由に飛んだり跳ねたりできない。

 

 結果、服が破れたりと言ったことはなかったけどそれなりに手傷を負って後退せざるを得なかった。再生がまだ追いつかない僕と、そんなこっちを気にせず自由に黒い炎みたいなブレスを吐いてくるドラゴン……。

 

「く…………、贅沢は言ってられない。いつもよりエネルギーが乗らないというのなら、それに合わせた戦い方をするまでっ。

 神鳴流は退魔の剣! 都を、大事な人を護るための力なんだから――――!」

 

 改めてヒナちゃんを構え直し、姿勢制御を飛行に切り替えて。僕はそのままスタートダッシュとして虚空瞬動をした後、流れに身を任せながら斬鉄閃を放った――――。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

『49 分ねぇ。意外と頑張ったじゃないか』

「ま、まさか属性が変わってくるとは、思いませんでした…………」

 

 あの西洋竜…………、というか、どうやら闇の精霊が竜の遺体を利用したある種のドラゴンゾンビみたいなものだったらしいけど、それをどうにか討伐した。

 やっぱり姫名杜(ヒナちゃん)は別格だ。契約執行して戦っていて改めて思う。僕自身がダメージを受けようと、ヒナちゃんは傷一つ負わない。ということは、僕自身がヒナちゃんを使いこなせれば、全ての攻撃を僕に当たらないよう斬り払うことができるはずだ。実際、ドラゴンもヒナちゃんには何一つ効果がないとわかった後は僕本体を集中して狙うようになったし、不意打ちをかまそうとしてきたり。

 むしろ、そのドラゴンの行動のお陰で倒せたと言って良い。死角を取るという行動がワンパターン、というより「普通だったら」一回で死ぬからそれ以上の動きを学習することがなかったということなんだろう。何度か死にかけたことで、僕にも相手の次の動きがわかるようになった。

 

 ただ、それだけだ。

 倒せただけで、それ以上の何かがあったわけじゃない。

 

 そんな僕の感想を、口に出さずともちびダーナ師匠は「その通りさ」と肯定した。

 

『人間基準で考えればそこそこだろうが、不死者が跳梁跋扈する状況と考えればだ。今後を思えば色々心配になるだろう? 自分自身が』

「僕自身が、というよりも―――――」

『近衛刀太を護れないかもしれないことが、かねぇ。やれやれ…………』

 

 ちなみに刹那さんならどう勝つのかと言う話を聞いたら、例の無数の短刀の魔法具(アーティファクト)を飛ばして、そこを足場に瞬動して延々と斬り続けるということらしかった。聞く限り、僕がそれを実現するには全体的な技術が足りない……。

 

『技術が足りない、は不正確さ。足りないのは練度であって、ある程度の技術は共通しているんだから』

「ある程度は共通…………、ということはあの刹那お祖母様は、京都の方?」

『そう、分派だねぇ。いやどっちかといえば、あっちの方が本家になるのかもしれないが。

 ん、なるほど。大体は判った。アンタがまず使いこなすは、その身に宿った力の本質だねぇ。その外付け制御のためにキティが仮契約したってのも納得がいく。ま、まさか神刀「本人が」来るなんて思ってもいなかったろうが』

「本人? えっと、いえ、ヒナちゃんにはいつも助けてもらっているばかりで……」

『勘違いしちゃいけないよ。神刀を介して使っているのは、あの神刀の力だけじゃなくアンタ自身の力でもあるわけさ。『モノは一緒』なんだから、そこの勝手の違いを自分で補えるようにならなきゃいけない』

「勝手の違いを……?」

『まぁ、そうなれば話は早いね。付いてきな』

 

 言うとちびダーナ師匠は空中を唐突に歩き出しスィーって刀太君みたいな動きで滑り始めた。ど、どういうことなんだろう……? 血の匂いとかはしないし、刀太君みたいな血装術で色々やっている訳じゃないんだろうけど。式神の動きでもあそこまで妙に直立姿勢のまま動いたりできないし。

 既に契約執行状態は解除されているので、僕も虚空瞬動で彼女の後を追う。向こうもそこまで急いでいないのか、すぐに追いつくことができた。

 

 しばらく空中を移動してると、空中に真っ黒な結界で覆われた小島が……?

 

「ダーナ師匠、あれは……?」

『十秒くらい前に「作った」アンタ用の特別訓練スペースさ』

「十秒前!?」

『今更そのくらいで驚いてるんじゃないよ。まぁネタバレすると「狭間の世界」から持ってきたっていうのが正解なんだがねぇ』

 

 そのまま影の中に入ってしまうダーナ師匠。うーん、触ろうと手を伸ばしてみても、黒い靄のような何かで構成されていて物理的に阻まれる訳じゃなさそうなんだけど。それはそうとしてちょっと気持ち悪いなあ……。

 でも、どちらにせよこれで刀太君の力になれるなら――――。

 

 勇気を出してその結界の中に踏み込んでみると、そこはただひたすら広大なスペースが広がっていた。砂漠? 砂丘? 赤い砂がさらさらと風で流れていて、空は真っ黒。だけど不思議と視界が遮られていることもなく、何もかもがすっきりとして見えた。

 ちびダーナ師匠が降り立った場所には、真っ白い扉が二つ。僕たちが彼女の拠点へと導かれた、それと外見上は同じもの。

 

『出番だ、出てくるといい「九龍天狗(くりゅうてんぐ)」』

 

「天狗?」

 

 ぎぎ、と扉が開き、中から女性が一人出て来た。桃色の長い髪を背中に垂らし、少し兄様みたいなデザインの白い烏の仮面。背中が大きく開いた巫女さんの服みたいなのを着てて、背中には三対な「光る羽根」。

 

「えっと、こんにちは」

『…………』

 

 降り立った僕の一言に、彼女は仮面越しに視線を細めて、でも軽く会釈を返してくれた。

 

『この空間では、シン・仮契約(ネオパクティオー)カードは使用禁止だ。時坂九郎丸、アンタはそれで、そこの九龍天狗を倒すんだ。

 ――――つまりまず、アンタの修行は自らの力を「屈服」させることからだよ』

「力を屈服……、仮契約カード無しで、僕自身の力を引き出して使いこなせるようにするということですか?」

『大体そんな感じさ。大体は(ヽヽヽ)、ね』

「わかりました。

 えっと…………、僕は素手で、ですか?」

 

 

 

『――――来たれ(アデアット)、天下五剣・三日月宗近ノ(レプリカ) ~城の舞~ 』

 

 

 

 と、ダーナ師匠の方を向いていたから、彼女の声が聞こえたと同時に視界一帯に猛烈な速度で日本刀が刺さった。……十とか百とかそういう規模じゃなかった。砂漠のありとあらゆる場所に刺さった日本刀は、少しソリの強い、しかしかなりの業物と一目でわかる。

 

『武器はその刺さってるのを使いな。ほぼ無限にあるから、夕凪のように破損を心配して使わなくても大丈夫だろう。

 期限は一週間。それでまず、どこまで使えるか確認してみな』

 

 そう言いながらちびダーナさんは姿を消し、次の瞬間あの天狗さんが猛烈な速度で刀を二本とってこちらに襲い掛かり――――ッ!

 とっさに近場にあった一本で受けた瞬間、僕はその衝撃を足場に逃がそうとして――――しかし同時に間欠泉みたいに「岩の柱」が突き上げて、天狗さんもろともバランスを崩して転倒した。

 

 

 

『あ、ちなみに言い忘れていたが、地形は刻一刻と変化するからそのつもりでいな』

「先に言ってくださいよ流石に、それはッ!」『――――――――ッ!』

 

 

 

 一緒に転がされたせいか、無言だったけど天狗さんと僕の気持ちが一つになった気がした。

 

 

 

 

 



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ST164.心の鍵は…その2

毎度ご好評あざますナ
少しこのガバ振り返りの塩梅とか描写調整とかが難しく、ちょっと遅れておりますスミマセン汗


ST164.Frequently Asked Questions: side Kirie Sakurame

 

 

 

 

 

 快適。

 快適だ。

 快適なのだ。

 快適なのである。

 快適さがひたすらに天元突破していた。

 

「……あの、相棒?」

 

 まず第一にBLEAC○(オサレ)を読めるこの環境が一体何年渇望したものか。原作漫画については「私」にとって前の彼女に勝手に売り払われて以降、ちょっとした所有物に関するトラウマになっており中々手を出すことも出来ず数年といったところだったが。ようやくと手を伸ばして読めるこの展開の何と心地よい事か。ついでにアニメ版を眺めながら寝落ちしたりじっと適当に漫画とアニメの描写の違い(夕方電波に乗せられないちょっとえっちな描写)を見ていたり、である。割と原作初期でル〇ア(実は完現術者疑惑)〇護(我らがチャンイチ)とに噂されてた内容がだいぶエグいものがあったりで、思っていた以上にガッツリと容赦がないのだ。まぁそれを言い出したらバンビエ〇タ(容姿S級感性Z級美少女)とか連載後期でも当然のように色々放り込んできているし、このあたりは仕方ないというか、おそらくOSR師匠(オサレ最高神)の趣味なのだろう(偏見)。

 

「えっと…………、そろそろ時間だからちゃんと着替えないと、ほら」

 

 それに元祖「ネギま!」も「UQ HOLDER!」もどっちも良いと言えば良い。アニメには色々言いたいことはあるが、見てて安心感がある。ついでに棚の奥をあさったら「ラブひな」まで発掘されたので、流石にちょっと笑ってしまった。何だろう、この時空の忍やら成瀬川ちづやらそれっぽい名前もあるし、やはり関係しているというのだろうか。……なんとなく背景事情を聞きだすとハーレムルートというか、業の深さが尋常じゃないことになりそうでいまいち踏み出すつもりはないのだが、まぁこのあたりは他人事として見ておこう(白目)。映像で流れるOPの年代とぶっとび具合に色々と正気を取り戻すことが出来るので、私としては万事オッケイだ。

 

「…………私、脱ごうか? 相棒――――」

「――――大河内アキラの恰好のまま何をしようとしている貴様ァ!(正当ギレ)」

 

 現実逃避に全力だった私に向けて、いつの間にやら実体化していた星月は苦笑いを浮かべていた。その姿はいつかのように長身ポニーテールな大河内アキラの姿であり、白黒ローブの下はビキニタイプの水着である。デザインのスタイリッシュさは「ネギま!」ではなく「ネギま!?」らしさを感じさせてこれはこれで懐かしいが、それはそうとして発言と普通に胸元の下に指を入れて普通に途中まで持ち上げちゃってる構図はどう考えてもアウトだった。

 お前それ自分の本当の姿とかじゃないのだとしても、ちょっとは容赦しろ!? いい加減こっちも限界なんだからどうにかしろください!(懇願)

 

「でも、見たいよね相棒も。……私、一応『本物を』トレースしてるから、相棒が知らないところも実際本人だから――――」

「ますます拙いから止めろ(震え声)」

「じゃあ、これに懲りたらちゃんと着替えてくれる?」

「………………」

「相棒……?」

「あ、あしたからほんきだす」

「どれだけ時坂九郎丸でダメージ負っちゃったんだ…………」

 

 困ったような顔の星月にはどう文句を言ったものか。いやまぁ、昨晩の食事は何故か彼女が出て来てしれっと作ってくれたものを食べたのだが……、この部屋の中にキッチンも冷蔵庫もお風呂も色々完備されているせいなのだが…………、意外と美味しかったので(焼き肉のたれのレバニラ炒め)それはそれで良いのだが………………。

 

 

 

 

「――――まぁそんなこと関係なくアタシは来るわけだがねぇ。きっと来るって判ってるんだから、腹括っときなトータ」

 

 

 

 ひぃ!? と思わず声を上げて星月の脚に抱き着いてしまった。「ちょっと、ガバ心配するならこれも洒落にならないから……」と言いつつ顔を赤くする星月の姿は魔法世界で「私にも失礼だよ?」とネギぼーずに迫った大河内さん味あって中身の正体はともかく大変ごちそうさまであるのだが(末期)、そんな私と星月を「指を開く」動きで「引きはがし」、星月はその場で姿を消した……というか「空間に渦が出来て」「沈み込んで」消えたように見えた。また何やら目の錯覚か何かとか言い出しかねない言動であるが、流石に怖くて聞けなかった。

 震える私をつまみあげ、師匠はどこからか取り出した座椅子(四肢をロックして逃げ出せないようにする手錠めいた機構つき)に固定する。

 

「まあビデオは途中で止めておきな。どうせまだまだ時間はたっぷりあるんだ。今見逃したところで夜また見ればいいしねぇ。

 それはそうと寝巻のままはいけないよ寝巻のままは。明日はちゃんと着替えるんだよ、今日はもう放置するが」

「あ、あの……、済みませんもう何日か延期することは出来ないものか」

「伸ばしても熟成されるものはないからねぇ。それにアンタ、ある意味ではそれはあの娘達の気持ちから目をそらして逃げてるってことだよ? 男女平等が進みすぎて国力衰退したからそれを取り戻すためにまーた逆転しようとして既得権益に振り回されて迷走しつつあるアンタの時代に言う話じゃないだろうが、男を見せな! 勇気を出すんだよ」

「……………………」

 

 そう言われてしまっては、私も流石に逃げる訳には行かず。

 九郎丸の時と同様に画面へと映された「桜雨キリヱ編」の白文字に、一度深呼吸をして。

 

 …………やっぱりちょっと、恐怖から涙が出そうだった。

 

 

 


 

【桜雨 キリヱ】

 ┣友:05 ・・・もっと親しくなれるはず! って思ってる

 ┣親:09 ・・・私がしっかりしなきゃ……って思ってる

 ┣恋:15 ・・・世界を超えても何も変わらないし変えるつもりもない

 ┣愛:08 ・・・結局自分のせいで振り回しちゃってるし……と罪悪感

 ┗色:08 ・・・九郎丸より変態じゃないと思いたいらしい

  → 計:45

 


  

 

 

「いやだから高いといっているだろうにッ!?」

「まぁ自業自得だよ、甘んじて受けな」

 

 やっぱり泣いていいかな、これさぁ…………(血涙)。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「――――に゛ゃん!? ちょ、ちょっと、何よ一体……って、ここ何処?」

 

 何かよくわからない黒い手みたいなのにいっぱい転がされて(真〇の扉?)、投げ出された先はなんだかよくわからない場所。思わずマナフォンを起動して通話アプリを立ち上げたけど、連絡先のどこにもつながる気配はない。電波だけは綺麗に3本立っているのに、どうしたのかしらこれ。

 っていうか、まあそもそも? あの師匠さんっていうより魔女さんに無理やり連れ込まれた場所なんだし、そんな連絡手段なんて存在しないと考えるべきかしら。

 

 なんか南国みたいな場所に出たわね。森も亜熱帯な感じだし。島というには陸地が広いし奥がなんか凄い大自然! って感じだから、無人島とかではないんでしょーけど。

 

「って、こんな所に投げ出されて一人にされても、私何もできないわヨ? どーしろってのよ」

 

 とりあえず仕方ないので、「リトライ&リベンジャーズ(リトライ可能な仇討ち)」を発動させるために手を合わせて「タイトルバック」と呟いて念を込める。

 

 ………………………………。

 あ、あれ?

 

「発動しないわね……、どういうことヨ?」

 

 

 

「――――『未来の』アタシ都合で修業させてるってのに、この時空そのものを破壊しにかかる訳がないだろうに、桜雨キリヱ」

 

 

 

 に゛ゃん!? とまた、思わず汚い声を上げちゃったけどどーしてくれるのヨッ!?

 声には聞き覚えがないけど話し方はそのまま魔女ダーナさんのっぽかったから、そういう抗議の意思を込めて振り返ってみると。そこにはなんだか、全然違うビジュアルをした彼女がいた。

 頭もドレッドヘアーじゃなくてウェーブがかってる感じだけど、適当に後ろにまとめて垂らしてて、目つきも化粧も薄味で、唯一同じ所があると言ったら頭にかぶってる帽子くらいで、黒いワンピースみたいなドレスにコート纏ってて…………。

 

「って、誰ヨ!? 誰よあんた!」

「誰と問われれば――――あー、アンタの時代なら? ダーナ・アナンガ・ジャガンナータが本名になるかね。

 今、アンタは過去に送られてるんだよ。そしてここにいるアタシは過去のアタシってことさ」

「か、過去…………? えっ? そんなことしたら時空がどうにかなっちゃうんじゃないの? 超さんにそう言われたような……」

「アタシクラスになれば、そのあたりのロジック付けはどうにかなるからねぇ。まあ細かい事を気にするより、アンタは自分の身を心配しな。

 なにせ過去に送り込んだってことは、未来のアタシ直々にアンタは『一番時間がかかる』って見込まれたってことだからねぇ」

「え゛っ」

 

 ついておいで、ってその若いダーナさんらしい超美人(おっぱいも凄い大きいわね)は私に先行する。しばらく進むと、なんか結構最近できたみたいな石造りの建物に案内された。

 中はこう…………、図書館? みたいっていったらいいのかしら。何か物凄い大きいテレビとかも置いてあったけど、見た感じはそのまま図書館ね。 

 

 その中央の机の、既にいくつか本が置かれてる席に彼女は私を誘導した。

 

「これからアンタには、ここで色々お勉強してもらおうってことだ。

 アンタは不死者以前に基礎の身体能力はカスもカス、下積みですらない底辺以下が良い所だけど、それ以外の分が色々ぶっ壊れてるからねぇ? 修行方針は、そこを重点的にしていこうと思ってるよ。

 まず第一に、アンタ自身の能力を『正しく』捉え直して本当に使いこなすこと。

 第二に、その結果アンタの『失われた』能力を引き出すこと。

 そして最終的に、ネギ・スプリングフィールドとまではいかないにしても『偉大なる魔法使い(マギステル・マギ)』資格に最低限合格できるくらいには、一流魔法使いになってもらおうってところかねぇ」

「は、はァ!? ちょっと意味わからないわヨ、何で魔法ッ!!?」

 

 基本的に能力で食いつないできた私が今更魔法かと思ったんだけど、その私の抗議に魔女さんは「全く堪え性のない、これだから年増は……」とか言ってきた。

 

「ちょ、ちょっと!? 何でアタシが年増なのヨ、戸籍上でも最低二十き――――」

「それだって周回分は頑なにスルーしてるからだろ? アタシの手にかかれば周回総数で実時間におけば何日分何年分かを集計することなんてあっという間なんだよ。情報量が多くて記憶が擦り切れて摩耗した程度で、アタシの目を誤魔化すことが出来るとは思わないことだ。

 それを合計したアンタの精神的な実年齢は、実に三十五ま――――」

「――――があああああ! うがあああああああッ! がう! がうッ!」

 

 乙女として、恋する乙女として絶対に聞いてはいけないこと言われかけた。当然全力抗議ヨ! 当たり前じゃない当たり前! あーたーりーまーえッ!

 私のその思いが伝わったのか、魔女さんはため息をついて肩をすくめた。何よその呆れたみたいな仕草…………?

 

「まぁ、魔法についてはアンタの直接的な戦う力の問題だ。いくら能力がピーキーに過ぎるからといって、何一つ戦えないんじゃ不死者の名折れじゃないか。

 でも第一と第二、これは何があっても必須だ。いい加減アンタによってこの時空の形状がイビツに膨れ上がり続けるのも、だいぶ見ててグロテスクになっているからねぇ。フォアグラの養殖方法って知ってるかい? 無理やりエサを食わせて腹を――――」

「その話知ってるけど、今聞きたくないんですけど!? って、えっと……、えっ? うそでしょ、私のこのレベル2ってそんなにひどいの?」

「酷いなんてもんじゃないよ!? アタシが気づいた時点で既に時空崩壊一歩手前までどういうルートを辿っても確定していたからね。いくら『アンタが作った訳じゃない』能力で『アンタ自身のせいではない』にせよ、思わず丁度『体良く』使い捨てできそうな超を使って適当に止めに行かせたくらいには」

 

 超さんそんな適当な扱われ方してるの、えっ? そっちもちょっと気になるんですけど……?

 

「そもそもそうなってしまう理由は、アンタが自分の能力に関してレベル1の段階からまだまだ未熟だったから、と未来のアタシは結論付けた。だからアンタにその力の真価を『理論面から』理解させるため、まずその能力を封じる形で過去に送ったってことだねぇ」

「封じる形…………」

「アンタ自身気付いているかわからないが、そのレベル2の能力もレベル1の能力も、普通発生しないが弱点として『自分が死ぬ以前の時間には戻れない』っていうのがあるんだよ。アンタの能力はアンタが栄養失調と熱中症で餓死した四歳の時が基点となっているから、あの時間以降に『習得した』っていう値が存在しているからね。それ以前のアンタには、能力はあるが使用不能ってことさ」

 

 ま、まぁ弱点についてはちょっとわかった。普通は無いって言う以上は普段は心配しないでも良いってことなんでしょーけれど。それはそれとして。

 

「それでどうやって能力について学ぶっていうのヨ? えっ、実際に能力使えないのよね」

「そこは安心しておきな。教材については古今東西ありとあらゆるものを『取り寄せている』から」

 

 そう言って彼女が取り出したのは……、何? あれ、映画の記録媒体とか、ハードカバーの古典SF本? どさどさと山のように積み上げてから、彼女は肩をすくめる。

 

「まず最低でも超くらいには、世界線というものについて理解をしてもらおうかねぇ。それが出来れば自分の能力がいかにヤバいか、その上でどういう理屈で動いているかに多少は推測がつけられるだろうからね」

「の、能力をパワーアップさせることに繋がるの? それ」

 

「――――むしろパワーダウンに繋がるよ。『適切なレベルで』パワーダウンして使えるようにもなる、が正しいが」

 

 ちょっと何言ってるかわからないわね、と。そんな私に「まずはこれを見ようじゃないか」といって、20世紀後半の古い車をタイムマシンに改造する映画を、魔女さんは上映し始めた。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「あの…………、ひたすら無言でキリヱ視点のゾンビ事件見せられたんスけど、一体何を言いたいのかって言うのが」

「気づかなかったかい? あの時の描写というか、状況で明らかにおかしい部分があったのを。いまだに説明されていない箇所について」

「説明されていない箇所…………?」

 

 アンタ自身が疑問に思っていないだけかもしれないがねぇ、と師匠はそう言いながら画面を切り替える。「死を祓え!」と題されたその英題のタイトルのそれは、文字通りキリヱ視点から前回のゾンビ事件(ダイダラボッチ事件?)を振り返る物であった。おおよそ私が知りうる範囲の話と、キリヱの部分的な回想…………、擦り切れた映像とかの回想映像などがメインであったが、それはそうとして最後の温泉はちょっと修正してください師匠さんや、夏凜が自分の水着に指かけたときのやつ「見えちゃった」んですが先っぽォ!?(震え声)

 

「そんなもの今さらだろうに。大体それを言い出したら、隠れてリクエストすれば仕事の時間でなければ自由に見せたり触らせたり――――」

「言わせないからな!? 誰が何と言おうと、本人から白状されるまではノーカン! ノーカンなのだッ!」

「今更手遅れだと思うがねぇ……。まぁあまり時間をかけるのもアレだが、ヒントは…………、最終決戦時、どう考えても前触れや伏線なく桜雨キリヱが起こした現象があったろう? トータ」

「………………アレだろうか、ディーヴァに先んじて私が地下空間まで『転移』のようなことをされたこと」

 

 かつてディーヴァ・アーウェルンクスに追い詰められていた時の話だが。彼女が「水無瀬小夜子」が封印されている世界樹地下の祭壇(ヽヽ)まで、自らが魔法具(アーティファクト)で連続転移していた時の話だ。あの時に自力で追うことができなかった私を、キリヱは地下空間で釘宮と共に出迎えた。

 あの時のそれは、確かにキリヱ本人が何かしらやったことなのだろう、ただこちらに能力を明かしていないだけで、と軽く考えていたのだが。わざわざそれをこの場で言及するということは、また何か違った理由があると言う事か。

 

「おおむね正解、だねぇ。まぁこれもきっかけに過ぎないんだが…………、そこで思考を止めずに、色々アタシの言うことを聞いて考えてみな。

 あの時、桜雨キリヱは別にアンタに教えていなかった能力を使ったわけじゃない。もちろん、新しい能力に目覚めたという訳でもない。本人も使い慣れている風だったろう?」

「伊達や酔狂でホルダーやってない、みたいなことは言っていた覚えがあるが……」

「じゃあ何が違うかと言うとだね――――あれは瞬間的にタイトルバックして、すぐ元に戻したってだけなんだよ」

「…………えーっと」

「嗚呼、忘れてるかい? タイトルバックは、桜雨キリヱが『メニュー画面に』戻る時のキーワードさ。つまりあの瞬間、アンタと桜雨キリヱは一瞬……、というかゲームみたいに言えば『数値上』あの『はじまりの場所』へといって、そこからすぐにあの場所に戻ったということさ。一瞬だけセーブポイントを作ったってことだよ」

 

 それは……、いや、おかしくないだろうか? いかにレベルアップすれど、基本的な仕様はキリヱのレベル1に依存しているはずである。つまりキリヱによる能力の巻き込みは、最低限彼女の周囲にいることが必須条件になっているはずだ。

 

「それにも関わらず、キリヱが私を巻き込めるとは…………、それは――――」

「居るじゃないか。居た(ヽヽ)じゃないか。あの時までずぅっと、桜雨キリヱと共にアンタは一緒にいたじゃないか」

「――――――――、一周目の私の、魂?」

 

 師匠は肯定も否定もしなかったが、この場合それは肯定となんら意味が変わらない。

 つまり、である。あの時キリヱによってあの場所に……あえてリスポーンとでも言おうか、する際に。キリヱは私の魂そのものといって良いものを持っていたからこそ、同じ判定となるこの私もその場に引きずり出すことに成功していた、ということか。

 

「そう、だから今のあの娘はもうアンタを自在に呼び出すことは出来ないんだよ。それはアンタ自身、あの子が折れずに五万回も繰り返せてしまったことに、思う所があるのと一緒さ。

 そんなあの子から、結果的にアンタだったものは失われた。…………それが『安全弁』にはなったんだが、同時にあの子の心のさらなる不安定さにはつながってるんだ。

 その視点の映像で散々『思ってること』は収録してあったんだから、気持ちについちゃ今更、時坂九郎丸の時のように振り返りはしないけどねぇ。十分わかってるだろう? その重圧というかは。

 だったらアタシから言えるのは、もうちょっと気にかけてやりなってことだ。たとえキティと同じように『そのテの欲を抱くのが難しい』相手であるのだとしても」

「………………」

 

 何も言葉を返せなくなっている私に、師匠はため息を一つ。九郎丸の時ほど厳しくなかったものの、これで本日の授業はお開きとなった。

 なったのだが…………。これはこれで嵐の前の静けさのような気がしてならないのは、私の錯覚か何かだろうか。

 

『もっと気にすることがある気もするんだけど……。

 それはそうと、エヴァンジェリンやカトラスちゃんも、あと相棒が一番怖がっている夏凜さんもいるからね。たぶん間違ってないと思うよ』

 

 疲れた声の星月の言葉を胸に刻みつつ、遠い目をしながら私は〇LEACH(オサレ)第一作目の映画冒頭のいちゃいちゃした〇護(チャンイチ)達を見直していた。

 

 

 

 

 



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ST165.視点は遍在する

毎度ご好評あざますナ!
描写量の調整が中々難しいところありますね、この修行編第一弾…


ST165.Ubiquitous Doctrine

 

 

 

 

 

「うわああああああ?! な、何だァこりゃ! とと、とりあえずえっと、オステンド、ミア、エエッセンシア――――来たれ(アデアット)!」

「ちょっとー!? 追いかけるのタイヘンなんだけどー!」

 

 

 

ARMOR

・SANTA SASAKI

・DIRECTION:West

・GUARDIAN: Eoh

・ASTRAL: Aries

・SYMPARATE: LXXXIX

・EQUIP: wAMIGA・SCEPTRUM VIRTUALE

・RANK: Numbers of UQ-HOLDER

・P-No: 12

・CODE: 2 0 6 5 1 9 9 2 0 3 2 7

・SECRET: Hero pprentice ghost

 

 

 

 何か真っ暗なところに投げ出されたオレは、思わず仮契約カードを起動した。……あー、アレアレ、刀太から言われてやった、小夜子とのアレ。

 短くした髪が逆立ってちょっと伸びて、なんか学ラン風の衣装に身を包んで…………。承○郎をなんか少しオレ用にアレンジしたみたいな恰好になったのと同時に、魔法少女でも使ってそうなステッキとパソコンの魔法具(アーティファクト)がそれぞれ両腕に来た。右手に杖、左手にPCを盾みたいにしてて、外見的にナンジャコリャって感じになった。

 そんな俺が着地したところは…………、なんかめっちゃフワフワ地面の破片みたいなのが浮いてるところだ。何だよ異次元? 周囲を見回す余裕がまだちょっとあったけど、なんだかずーっと空気が悪いっていうか、全然「補填されない」感じがする。

 

 小夜子が取り込まれたアレを退治して以降は、流石にオレも自分がユーレーだってのを受け入れた。だから霊としての力を使った後に、自分から抜け出ていく何かと、周りから取り込んでいく何かがあるのを理解したんだけど。

 

「ずっと出っ放し……? 毒状態受けて、一歩歩くごとにHP減っていくみたいな?

 上下左右の感覚もわからねェし、何だここ?」

 

 そんな風に軽く見ていたせいか、背後から突然現れた巨大な蜘蛛の前足で、俺の胸は貫かれた――――。

 

「――――ぁ! オイオイ!」

 

 その場で霊体のエネルギーが集中している核の部分を潰されたせいで消滅した俺だけど、前に作っておいた魔法アプリ「緊急蘇生」が発動した。攻撃してきた蜘蛛の身体から魔力を奪い取って、その蜘蛛の背後に再生、っていうかリスポーン?

 前、刀太を小さくしちまった後の訓練で、九郎丸に普通に斬られたから命惜しさに作った技だったけど、作っといてよかった……! いやマジで死ぬかと思った!

 

「何でオレ霊体だってのに、直接攻撃とかしてくるんだコイツ等ァ!?

 えーっと、炎の『処刑者の剣(エクスキューショナーソード)』!」

 

 ステッキ型の魔法具(アーティファクト)「力の王笏」にアプリを展開する。周囲の気流に火を発生させる魔法と、それを集めて剣型にする魔法と、あと「断罪」って属性を付与する魔法。雪姫サマ、つーか刀太の母ちゃんに教わったこれを作り出して、オレに襲い掛かってきたやつを斬る。

 ……でも、前足だけじゃねーか。蜘蛛は余裕そうな感じで後退する。後を追おうと足を進めると、急に周囲四方八方から「捕獲ネット」みたいなものが降ってきた――――!?

 たまらず実体を幽体にして、物理的な干渉だけをかいくぐって後ろに下がる。

 

 うわぁ………………、うじゃうじゃ湧いて来てる。どっから来たんだあの蜘蛛たち……。

 

「いや、何だこれ、個別メニューとか言ってたけどこんな気持ち悪ィやつらと戦わないといけねェのか……?」

 

 

 

「――――まぁアンタの場合はとにかく数をこなさないといけないからねぇ。せいぜい格上にもまれるんだ」

 

 

 

 動揺していたオレだったけど、背後から声をかけられた。振り返ると…………、えっと、俺よりちょっと小さいくらいのダーナ師匠さん? えっ、何それイメチェン? じゃねェか……。何だそれ。

 

「まぁ『違う時間軸から来た』アタシ本人だと思っておけば問題ないよ。あんまり話すようなことでもないし、アンタは特にそういうヤヤコシイ話に全然関係ないやつだから、気になったら数日後にトータに聞くと良いさ」

「あ、そうッスか…………。って、格上?」

「そうさ? あの大蜘蛛たちは、不死者や霊体を喰らいその魔力を体内で溶かして生活するタイプの化け物。『魔術的に』同一の肉体を再生するタイプ、つまりトータとかだが、ああいうのが腕でも食われたら三十年は戻ってこないって寸法さ」

 

 アンタの場合は全体の霊力から削られていく話だねぇ、ってダーナ師匠さんは、ちょっといじめっこみたいな顔して言う。

 って、意味わかんねーんだけど!?

 

「べ、別にオレそこまで強くなるって必要も無ェだろうし……、そーゆーのは刀太たちがメインで、俺サポートすればいいし――――」

「何を、稀代の死霊術師たる水無瀬小夜子の最高傑作たるアンタがそんな自分で適当なこと抜かしてるのさ。むしろアンタは最前線でガンガン殴り合うようなレベルで調整されてるんだ、自分の能力をもっと正しく把握しな」

「えっマジで?」

「マジもマジ」

「ガチ?」

「がっつりガチガチ」

 

 実際対策とれるまでトータたちもロクに戦えてなかったろう、ってダーナ師匠ちゃんは俺に指をつきつける。

 

「とりあえずアンタ自身の能力についてもそうだが、とっさに魔法具(アーティファクト)を取り出したってのは正解だねぇ。こういう場合、ちゃんと『スカ』とか『コスプレ』にはならないよう因果律が調整されてるから、よっぽどのポカをやらかさない限りはアーマーが出るって判断で、しっかり呼び出したって言うのは才能あるよ。

 世が世ならPALADIN(パラディン)的な才能といったら良いかねぇ」

 

 な、何でパラディン? と。俺が聞くとダーナ師匠さんは「あれ知らないかい? ドラゴンシールドとか、アトラクター! とか。雑魚戦には全然使えなかったが」って、やっぱり訳わからねェこと言ってきた。

 

「そもそも水無瀬小夜子や自分のような存在を生まないためって、決意したんだろう? そう消極的でいいもんかって思うがねぇ」

「だ、だって…………」

「力不足を嘆くのも、話の渦中に居られないのも仕方ない所は有るかもしれないが、それを言ったら真壁源五郎とかどうするんだい。中身がずっと中学二年生のまま、何度も何度も力不足で痛い思い悲しい思いしてきて今の立ち位置があるっていうのに。

 その点で言えば飴屋一空とかもアンタと一緒で、ちょっと色々気を付けないといけないと思うがねぇ」

 

 まあ確かに只の修行で格上に殺され続けろじゃあ世話ないかね、と。そんなこと言いながらダーナ師匠さんは、空中に手を伸ばして――――――――え? あ、あのー、何かぐに、っていうか、ぐぃぃぃい、っていうか、空間ひずんでないッスかね?

 

 

 

「あっ! ちょっと痛い痛い、一体何をするつもり――――きゃんッ!? 本当に痛い!!?

さ、小夜子!?

 

 

 

 ぺしん、って蠅でも叩き落とすみたいな手の動きをして、その場にはなんか普通に、本当にフツーに小夜子が、水無瀬小夜子がいた。服装はなんか白いセーラー服みたいになってっけど……。

 えっっと…………!? い、いや、えっと何でだってば!

 どういうことだ、まるで意味わからねェぞッ!?

 

「神サマっていうのは、こっちの(レイヤー)の外から動いている分には『遍在する』存在だからねぇ。それこそアタシみたいなのになれば、『成仏してなければ』チョチョイのチョイでどうにかなるってものさ。

 わざわざ佐々木三太に()いてきたってことは、暇なんだろう? 少し付き合いな。話はどうせ全部聞いていただろうし、『強制成仏を遮断させた』くらいなんだから」

「そ、そんなこと言っちゃうの乙女のプライバシー的にどうかって思うんですけどー!」

「プライバシー気にする奴がそんなこと言ってるんじゃないよ。まあアタシとしちゃ、アンタにしてもらいたいのは…………」

「…………へ? あー、えっと、出来なくはないけど、あんまりやりたくないって言うか――――」

「やってくれたら後で佐々木三太とデートさせてやるよ、『固定するための』道具くらいは持ち合わせがあるからねぇ」

「やります! やらせてくださぃ!」

 

 尻もちをついてた小夜子は立ち上がってそう食い気味にダーナ師匠さんに言うと、俺の方に来て…………。やっべぇ、なんか全然顔合わせてなかったから何言ったらいいか全然わからねェ……。

 そんな俺の手を引いて立ち上がらせると、次の瞬間には「抱き着いてきて」、唇を――――。

 

 !!?!?!?!?!!!?

 

 

「……ぷ、はぁ。えっと、久しぶり? 三太くん」

「は、はァ!? な、何やってんだお前ちょっと意味わかんねーから!?」

「ドーテイみたいな反応して、どうしたの?」

「経験ないだろ当たり前だろ! というかお前だって処女じゃねーか!」

「あー、うん、まぁそうなんだけどね…………」

 

 まあコイビト同士ならこれくらい当たり前じゃない? と。少し照れた小夜子。だけどちょっと待て、なんとなく夏凜さんを思い出すその勢いでなんかぶっちぎろうとしてる感じを受けるんだけど……?

 

 少し待ってて、と言うと。小夜子は俺から距離を取り。

 

「――――来たれ(アデアット)

 

・SAYOKO MINASE

・DIRECTION: West

・GUARDIAN: Othala

・ASTRAL: Gemini

・SYMPARATE: LXXXIX

・EQUIP: "MIRROR" Second of Trinity

・RANK: Priestess of HIRUKO

・P-No: 72

・CODE: 1 9 8 8 1 9 9 1 0 5 2 9 

・SECRET: Goddess of Death

 

 次の瞬間、小夜子が前に見たことのある十二単な姿になって、そして手元の小さい鏡を上に掲げた。

 

「アルエル・ファルエル・ベルベット――――戦いの歌(カントゥス・ベラークス)!」

「へ? 魔法…………、って、おおおおお!?」

 

 突然、小夜子の鏡を使っての魔法発動と同時に。俺だけじゃない、周囲で様子を伺っていた蜘蛛共も、全身から魔力の光が上った。

 

「な、何やってんだよお前ェ!?」

「ごめんね、三太君。ちょっとダーナさんに言われて、お手伝いかなー。でもこれもすべては三太君のため…………、具体的には二泊三日の温泉旅行のため!」 

「いやそこまでやってやるとは言ってないんだがねぇ……。まあともかく、『襲われながら』魔法アプリの開発を並行できるくらいには、頑張りな」

「何その無茶ぶりィ!」

 

 そんな謎の勢いのまま、小夜子に強化された大蜘蛛に襲われ続けるオレだった。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「…………む、むぅー! あー、もうッ! わっかんないわヨ! わーかーんーなーいー! に゛ゃああああああああんッ!」

 

「だらしがないねぇ桜雨キリヱ」

 

 何がだらしないヨっ! 思わずキレてその辺にあったDVDのケースを投げつけると、魔女さんは「まだたったの八時間連続上映じゃないかい」とか言って軽くキャッチした。

 場所はあれからずっと変わらないんだけど、その間何をやっていたかって言えば椅子に縛り付けられるくらいのノリで、ずーっと映画見させられてるのよ! 確かに映画自体はちょっと面白いんだけど、こんなの見せ続けられてもいい加減ちょっと頭が疲れて来るんですけど!

 

「ちゃんと食事だってあげてるし、ポップコーンにコーラだってあげてるし、トイレ休憩やストレッチの時間だって確保してるんだ。なのに何を嫌がってるってんだい」

「映画の種類が多すぎヨ! っていうより、なんでノンストップで映画なの全然意味わかんない! わーかーんーなーいー!」

「アンタの生年世界から考えて、ホモサピエンスが生まれるよりも長い時間経験してるアンタがそう幼女みたいなこと言ってもねぇ……」

「うがあああああああッ!」

「でもまぁ、不死身以外は普通だって自負がある割に投げ出さない根性は認めてやるよ。アタシがいい加減にこの映画を見せてる理由の説明をはぐらかし続けて、限界がきたから文句言ってるってのは、理解してやらんでもないからねぇ」

「だったら早い所教えてくださいヨッ!」

「教えてやってもいいが、概念だけ説明されても意味わからないと思うがねぇ。まあ能力を理解するには、感覚から入った方が解りやすいとは思うけど」

 

 って、気が付くとさっき投げたケース含めて乱雑に散らかってた映像媒体の関係は、綺麗に整理整頓されて机の上に積まれてて。魔女さんはそのまま、私の目を見て何かを納得するみたいに頷いたわ。

 

「ま、最初に理屈の方を知りたいって言うのなら、映画は後に回すとしても教えてやろうじゃないか。議題は毎回変えるとするけど…………、そうだねぇ。アンタの上書きの理屈を教えてやろうじゃないか」

「上書き?」

「そうさ。基本的に時間改変っていうのは『未来に軸がない』存在が過去に干渉すると、その時点から移ってきた奴の軸のせいで『分岐点が発生し』、そのまま水流になっちまうんだ。これを便宜上『線』と表現するが、この線そのものは、実は一つじゃない。知ってるかい?」

「パラレルワールド、ってやつよね。世界線とか、P・A・L☆ザ・コミックマスター(コミマス)の漫画とかでも見るし」

「わかってるならその辺の話は割愛するよ。今は時代が時代だから、検索かけろといっても無理だったからねぇ」

 

 過去に飛ばされたという話だから、確かにネットも全然繋がらないし無理よね。せいぜい百科事典アプリを動かすくらいなんだけど……、それだって世界線とかそういうSF用語っぽいのは載ってないし。

 

「このパラレルワールドは、何もすべてが自動発生してるってわけじゃないが、基本的には『そうある』だけで遍在するもの。『外に視点を持っていれば』わかるが、ねずみ算式というよりは木の幹みたいな感じにも見える。端的に言えば『分岐しうる』という可能性が発生した時点で、その全ては並行して存在するんだ。

 ただ宇宙っていうのは『一応は』物質世界、つまり熱力学第二法則、エントロピーとして不可逆的にエネルギーを消費し続けているという制限からは逃れられない。だから線にも太さってものがあるし、上下関係や優先度っていうのがある。

 どこかの異星の神とかは『本線』やら『分岐』と表現して、その優先順位に説明をつけていたが、まあアンタには大きく関係はない。そういうもんだって覚えておきな」

「本線……ってそれより、異星の神?」

「ああ、異星の神」

「なにそれ」

「さぁ?」

「さぁって…………」

「知ったら間違いなくSANチェック不可避(正気を失うこと請け合い)だからねぇ。いわゆる『ラスボス』なんて生物としてのグレードから違うから全然、目じゃないよ。

 まあこの世界線でも、もっともっと先の歴史まで『たどり着ければ』関係してくるかもしれないから、伏線とは言えない程度の伏線として覚えておきな」

 

 銀河連邦とか言われたって意味不明だろって魔女さん。なんか意味わかんないけど、無茶なこと言われてるって事だけはわかるわ。

 

「まあだから、見方を変えれば未来人が過去に介入するって言う時間改変は、この可能性の幹をさらに増やす行為にほかならない。しかも本人が自覚的に色々やるもんだから、内容がしっちゃかめっちゃかになっちまう。『エネルギーが』本来そこの上の幹を支えている以上に使われてやせ細っちまう。

 その先に『詰みの歴史』なんて作ろうものなら、宇宙規模での生命エネルギー利用可能総量がそれはもう酷い事になるからもうそりゃアタシのところで徹底的にしょっ引いてオシオキ不可避になるのも当然って言えば当然さぁ」

「えっと…………?」

「ちなみにアンタがやらかしかけてたのは、未来どん詰まりにならないくせにその木の幹を爆発させるような行為だからね。ちゃんと反省してるようだから『罰則までは』与えないが…………」

「に゛ゃんッ!?」

 

 流し目みたいな視線に寒気を感じた私に、大丈夫大丈夫とニヤニヤ笑う魔女さんは美人なぶん、あっちのデラックスな感じの魔女さんよりも怖い。ずっと怖い。

 後ずさる私に「そういうのはしなくても大丈夫だって、あっちのアタシより短気じゃないから」とか意味わかんないこと言ってきたわ。

 

「…………話を戻すが。アンタに最初見せた映画シリーズの、1.21 ジゴワットで車改造して過去未来に行ったり来たりする映画のそれが一番近いかねぇ」

「ど、どういうことヨ……?」

「描写上、当時はまだ『パラレルワールド概念』にそこまで踏み込んじゃいなかったっていうのもあるかもしれないが、時間は基本的に『観測者に対して』『相対的に』流れていたろう? 改変した時間に対して、世界そのものが変わっている――――よくある古典的なタイムマシンものって言ったらいいかねぇ」

 

 ただアンタ視点ではまさにそうだろう、と魔女さんは言う。

 

「アンタの観測していないところで世界は当然のように勝手に回って動いているが、それはそうとしてアンタにとって世界って言うのは相対的、アンタを基準としてしか回っていない」

「…………えっと、それって普通当たり前なんじゃないのヨ? 普通、人間って生きてるときはそういうものじゃない? 私の能力とか関係なく」

「ところが時間関係能力を持っている奴っていうのは、ドイツもコイツも面倒がすぎるんだよ。今、トータがそれになりかかってるかねぇ」

 

 あのちゅーにが? って聞いた私に、良い機会だから言っておいてやるがってダーナさん。

 

「さっきも言ったが、この宇宙は物理世界である以上、エネルギーってのは使えば消費されていくものなんだ。とすると時間逆行っていうのは、相当なレベルで本来はエネルギーを使用する能力に他ならない。固有能力としてアンタみたいに、ほぼノーリスクで使えるって方がはっきり言えば異常なんだよ」

「そ、そんなこと言われてどう答えたら良いのヨ、私……」

「だが、アンタのあのレベル2だ。アレはちょっと違う。アンタ『だけの』能力では絶対ありえないんだ。もしアンタが研鑽を積み続ければいずれその域にたどり着いたかもしれないが、その大本になったものが何であるか――――それを使用するために何がトリガーになったかってことは、今ちょっとだけ考えてみな?」

 

 ちょうどあっちのアタシがトータ相手にはぐらかしてるところだろうしって言われて。……話の流れ的に、どういう顔したら良いかわかんなくなっちゃった。

 

「…………どう考えてもトータが、あのレベル2の覚醒? に関係してるってことよね。それってどういう――――」

「アイツだけじゃない、他の連中にもナイショだがねぇ。アイツの不死性に使用されているエネルギーは、『とある惑星』の核を中心として魔術的に周辺のエントロピーを吸収し、生命エネルギーに転化するという術式から来てる。

 こう言うと判りやすいかい? ――――『意図せずだが』『宇宙全体に干渉している』のがトータやキティの魂だ。

「――――――――」

 

 嗚呼、そうなんだ、と。言われて少し腑に落ちちゃった。

 

「…………そうなんだ。だから……、『刀太の魂が』私と一緒にいたから、いたままずっと周回し続けたから、なんかよくわからないけど使えるようになったってことよね」

「しいて言えば『近い所にいて』『無意識に色々なものを観測し』『学習してしまったから』使えるようになってしまった、が正解かねぇ。その魂が、巻き込んでいるエネルギーを、一体何に使用しているか、という理屈になってくるんだが。

 お陰で桜雨キリヱ、アンタは自覚なく『遍在する視点』――――水無瀬小夜子なんかが今、祀り上げられちまった『神の視点』って位置に近い所にいるんだよ」

 

 そのことは忘れないようにしながら話を聞きな、って。魔女さんのその言葉が頭に入らないくらい、私は、なんか不思議と気分が高揚してた。

 

 

 ――――今は使えないけど、結果的にだけど、あの力は刀太がくれたものだって。

 

 

 それだけで、胸がほっこりするくらい、ちょっと自分のチョロさが恥ずかしかったりした。

 

 

 

 

 



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ST166.心の鍵は…その3

毎度ご好評あざますナ!
そろそろガバ突き付け後半戦です


ST166.Frequently Asked Questions: side Tena Vita

 

 

 

 

 

「……って、何で私だけ何処にも送られてないんだ? 何かこう、個別修行がどうのこうのって言ってた割に」

「お前はダメだよ。戦闘技術は『人間レベルで』極まっちゃいるが、今のままじゃ中途半端な模造品、どころかそれこそ自称通り『失敗作』のままだからねぇ。『本来の』トータの地点に、どちらかと言えば近いのかねぇ? 拡張性は低いが」

「本来のって意味わかんねーから」

 

 なんか凄い感じのオバサン相手に適当に言ってる私……、なんか私だけ取り残されて寂しいとか、そういうことじゃねーけど。そんな私にオバサンは「まあ知らないに越したことはないかねぇ」ってこっちも適当な感じだ。

 というよりか、気のせいじゃなければ。

 

「別に文句はないけど、オバサン、私のこと正直持て余してるだろ。持て余してるっていうか、テキトーっていうか」

「『不死者用の』メニューを色々組んでるところに来たお客さん(ヽヽヽヽ)だから、否定はしないさ。魂がもうちょっと違えばトータやキティのように『吸血鬼』か『魔人』用のメニューでも良かったんだろうが、最初に断言しておいてあげるよ。

 アンタは魂の質は『普通の女の子』だ。どれくらい擦り切れて倫理観や常識がぶっ壊されても、『妬んで』『僻んで』他人を害せる時点でね?」

「それ、フツーなのかよ……」

 

 よくイメージできるフツーのやつって、もっとこう、他人に迷惑かけないとかそういうものなじゃないのか……? 

 

「そこはケースバイケースさ。『人それぞれ』、人生それぞれさ。別に性善説も性悪説も支持するつもりはないが、極限状態でどう振舞うかより、有利な状況の時どう振舞うかっていうのが一つの指標かねぇ。衣食住足りて労働できるなら、と言う話さ。

 で、アンタの生まれならどっちかというと妬むより折れちまう方が先だからね。その上で実際、トータの奴に捕まった時は子供達と普通に遊んでたろう。あの似合わないピンクっぽいジャージ着て」

「似合わないは余計だッ」

 

 あの、なんかもう色々ヤバい気配プンプンの聖女サマに借りた、ピンク色したぶっかぶかのジャージを思い出す。いや私の肌とか髪とか目の色とか、どれとっても全然似合わないし。あれしか服なかったから借りたけど、そういうことじゃねーだろ。

 私の恥ずかしがってる姿が面白いのか知らないけど、オバサンは「初心だねぇ」とかニヤニヤ笑ってくる。腹立たしい。

 

「ま、そんなアンタには悪いが……、アンタの修行は普通に連中と同じものは出来ないよ。アンタは『死んだら死ぬ』からね。トータの奴が内部の扉の配線(ヽヽ)をいじったんだろうが、それでも回復出来てせいぜい心臓が砕けるとか、脳天を銃弾で撃ち抜かれるクラスだ。消し飛ばされたり大きく損壊したらジエンド」

「…………そのくらい解ってるし」

「そのくせ内心ガタガタ怖がってたくせに付いてくるんだから、全くどれだけお兄ちゃん大好きなんだか」

「そんなんじゃねーし!? アンタもそういう揶揄い方してくるのかオバサンッ!」

 

 私のオバサン呼びに少し眉間に皺が寄るけど、特に何も言ってこないから大丈夫……、だよね? 基本こういうのはナメられた時の方が怖い。だから出来る限り威圧するって訳じゃねーけど、態度は相手によってそんなに変えない方が良い。

 じゃないといつ背中を撃たれるかわかったもんじゃないし――――。

 

「だからそれもケースバイケースだっていがねぇ? 民度とか、倫理感とか、教育の浸透具合だとか。逆にトータ相手には苦手意識持たれるがねぇそれ」

「えっ? …………ッ! い、いや別に『お兄ちゃん』がどうとか全然気にして……っ!!?!?! に、兄サンがどうとか全然関係ないしッ!」

「まあこればっかりは一朝一夕じゃどうにもならないだろうから、仕方ないといえば仕方ないかねぇ? キティですらそこまで丸くなるにはネギ坊主を育成するまでかかった訳だし。

 じゃあその上で、アンタの修行だが」

 

 言いながら、オバサンは帽子を脱いでその中に手を突っ込んで…………、なんかドラえも○みたいな感じ? で、何か取り出した。

 パソコン? 古いなんか四角形の、白い感じなんだけど日焼けしたみたいな色してるっていうか、画面も液晶とかじゃないと思うし……。金持ちの家でしか見たことないけど、古いゲーム機みたいな感じの色使いしてる。

 

「何だ? これ…………」

「お前には今から、『パラディン』になってもらうよ」

「……パラディン?」

 

 ラテン語だかで高位騎士とか、そういうのを指す言葉だったはず。戦った相手方の呪文詠唱で何度か聞いた覚えがある。けどそれになるって……いや、別に本当に騎士になるとかそういう事じゃないんだと思うけど、何かの比喩か?

 そんな私の考えてることを察してるのか、オバサンは「比喩じゃないよアンタ」って、また帽子から…………、宇宙服? えっと、ネギ=ヨルダ様が現在着用なさっているアレに近いっていうか。全体のデザインは女性用だけど、これは? 宮崎のどかとかが着用しているタイプのそれに近いけれども。

 

「戦闘用スーツ、だねぇ。将来的には星間戦争のコンバットスーツのひな形になるものだが、どこぞの阿呆がタイムパラドックスしてしまったせいで基本性能は『循環関係』になっちまってるが、まぁ誤差といえば誤差だよ。

 とりあえずこれを着て、そのパソコンを起動するんだ」

「起動したら……、何が起こるんだ?」

「『パラディン』になるんだよ」

 

 だから意味がわからない…………。

 

「『パラディン』っていうのは、まー、この世界の縮図みたいなものかねぇ? よくある王道ファンタジーさ。

 遠い未来の時代、魔法文明が栄えた時代。とある騎士によってまとめ上げられた世界に、『神』を名乗る存在が現れてそれを地獄に変えてしまうんだ。

 騎士は「神」と戦うために準備するんだが、娘である姫と共に「神」に浚われてお互い別な何かに姿を変えられちまう」

「…………縮、図?」

「嗚呼。お前には色々『思う所がある』フレーズが多いだろう?

 そこで登場するのが、騎士の部下だった主人公――――今回はお前の役割だ」

 

 主人公は自らを鍛え上げ、単身「神」の国へと乗り込んでいくことになるというストーリーは、なんかよくある構図で面白みもあんまりない感じというか、むしろ古い? 気がする。

 ただ登場するフレーズは所々、こう、何て言ったらいいのか。魔法文明だったり、「神」だったり、まとめあげた誰か、騎士の服として服が宇宙服――――――。否が応でも、色々と何か、示唆的っていうか、明らかに私に対して「察しろ」と押し付けられている気がする。

 まあ、癪だけどとりあえず着替えはした。意外と見た目よりゆとりがある感じで、髪はそのままポニテのままでいいって言われたけど……?

 

「そのままコンピューターにログインしな。パスワードは入れてないから」

「これ普通に相当旧式でノートとかでもないのに、バッテリーないのにどうやって駆動してんだ……」

 

 そんな疑問を口にしながら電源を入れて…………、長押し!? えっ、そうなんだ。しばらくじっとしてると「ぷしゅ!」みたいな音が鳴って、じわじわと画面が明るくなっていく。そんなパソコンの画面のアイコンをクリックすると…………?

 

「あれ? 画面真っ暗になった……?」

「じゃあ、行ってらっしゃいだねぇ――――」

 

 

 

 四つん這いになって、地面に直置きされた画面をのぞき込んでいると。突然背後からオバサンが、私の尻を蹴っ飛ばして「画面に突っ込ませた」。

 

 

 

 本当に、当たり前のように画面の中に突っ込まれた。ガラス管? が割れたとか、そんなチャチ話じゃない。本当に「画面の中へ」私の身体全部が「呑み込まれた」。

 えっ? と。悲鳴とか上げる性質じゃないけど、そのままずるずる吸い込まれていって凄い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!? 何、何なの、三原色の光すごい飛び交ってて目がちっかちっかする! それより「テレビの中」に入るって何だよ! アメコミとかじゃあるまいしさぁ!

 とりあえずこのままだと顔面から地面に激突しそうだから、「明星の右(シファー・ライト)」を右手の先だけ起動して、少し魔力放出。推進力をだして姿勢を変えたり安定させたりしながら、なんか上手い具合に着地した。

 

 

 

「はっはっはっ、私は神だ。逆らうものはみな死ぬのだ。君に姫は助けられるかな?~」

 

 

 

「…………」

 

 着地と同時に、何か本当にゲームみたいなことを言われたんだけど。空から声が降ってきて、どう反応したら良いんだろう私。

 

『まあもうわかってはいるだろうけれど、アンタの修行はそのゲームをクリアすることだ。今のアンタに足りないものが色々わかるだろうから、死なない程度にやりな』

「死なない程度にって……。あ、取説? これ。えっと、最初の所持金が…………」

 

 

 

『あと私のことをオバサンと呼んだ回数だけ、初期の予算を減らしてやるからそのつもりでねぇ』

「えっ!?」

 

 

 

 それだけ最後に声が掻き消えて、私の文句に返すものは何もなく。

 足元に落ちていたゲーム専用財布を見れば…………、えっと、大体十二円? くらいしか金貨っぽいのが入って無くて、思わず渋面になった。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

『イラッシャマセ! ルーレットゲームでもヤらなイカ? ルーレット屋嘘つかないヨ』

『よォ! いらっしゃい。何について聞きたいんだ。情報1つ50ET(エレクトロン)で教えるぜ?』

『いらっしゃいませ……。ここでは、完全に……治療……して、さしあげます』

『らっしゃーせ! ウチの薬どれもよぉぉ……く効きますよ!』

 

「いや本当にゲームじゃねぇか何を考えているんだ師匠……」

 

 カトラスが行く先々で右往左往している映像を見せられながら、私は大変リアクションに困っていた。彼女の今の恰好はそれこそ今後、UQホルダーが遭遇するだろうラスボス陣営の「魔性の女」(語弊)である宮崎のどかが着用しているそれに近いが、所々に黒いラインとかも入っていて闇落ち感というか、それこそ「カトラスらしい」ニュアンスをしている。

 それでいてカトラス本人は、色々とやり辛そうだ。どうやら例の「左右の手の能力」が最小出力でしか使用できないらしく、しかもハマノツルギ・レプリカすら生成して使っても、ステージが上がるごとに指数関数的に硬くなっていく敵に通用しないときている。

 そしてツッコミを入れたいのは「ドラゴンの鎧」とか「ソード」とかついてるくせに、どう見てもパワーアーマーだったりビームサーベル的な何かだったりといった内容の品が大量に並んでいたり……。あっカトラスもツッコミ入れてら。仕方ない、気持ちはわかる。

 

 名称とかその他諸々はドラク○とかのファンタジー系のくせに、目に入ってくる映像はほとんど近未来サイバーパンクSFチックな構造をしているので、脳が混乱をきたすのだ。

 

「で、そこのところどうなってるんですかねぇ師匠?」

「今時の子供のあの小娘だから、もっとバイオレンスな世界観を前提にしたほうが頭に入ってきやすいかと思ってねぇ」

「いまいちまともな返答になっていないのだが」

「どっちかといえばあの娘は『サイバーパンク』世界観の人間なんだよ。魔法が入って来て色々とっちらかってるが、基本はクローンゆえの苦悩やら人体改造の後遺症に悩んだり、同じクローン人間であるはずのアンタとの立場の違いだったりに苦悩したりねぇ?

 その上でいうなら、アンタの母親である近衛ノノカが果たした役割も役割だが、それ以上にアンタが雑に絆したのが強すぎるんだよ」

「雑に絆したとかどういう意味っスかね(震え声)」

 

 いつの間にやらカトラスの「ぼうけんの書」(比喩)を映していた画面も切り替わり……、今回は「テナ・ヴィタ編」となっている。師匠的にはカトラス・レイニーデイよりあちらが本名判定らしい。

 

「じゃあ例によって今回の好感度判定だ。腹括りな」

「まあ段々慣れて来た? 気もするんで、そのくらいじゃ全然――――――――」

 


 

【テナ・ヴィタ】

 ┣友:11 ・・・色々隠してる割に凄い気安いし、まぁ……

 ┣親:06 ・・・お兄ちゃんのこと全然知らないし……

 ┣恋:10 ・・・他の男とか知らないし境遇的に受け入れてくれる相手なんて……

 ┣愛:06 ・・・愛されてるかな? とは思ってる

 ┗色:12 ・・・むっつり

  → 計:45

 


 

「いや待てこれはおかしい(震え声)」

「現実だよ諦めて受け入れるんだね仕方ないね救いなんてないよ(無慈悲)」

 

 一瞬で現実逃避しようとした私を、当然のような顔して頭上から殴りつけて来る師匠の暴言である。いや、だが待って欲しい。不正を、不正を疑うほかない…………! 九郎丸よりも接している回数が少ないはずのカトラスがなんでこんなことになってるんだ貴様ァ! 点数キリヱと一緒じゃないか貴様ァ!

 原作ゥ! もうなんか夏凜あたりから色々と放棄してたしカトラスの状況的に好感度レベルも読めないなりに調整をかけていたのだが原作ゥーッ!? どないせいっちゅうねんこれ(謎訛り)。

 真面目に大丈夫か? 私の命やら痛い事案やらもそうだが、それ以上にここまで原作から逸れて色々大丈夫か?

 

「まあ修正力みたいにヨルダ陣営には水のアーウェルンクスが、バアル陣営にはアンタの一つ下の妹が生えて来てるし、原作通りにはいかんだろうねぇ」

「――――――――」

「そんな視線を向けてアタシに文句つけたところで何も解決しないんだがねぇ?

 …………まぁ時坂九郎丸の時みたいに自覚がないようだから、今回はしっかり振り返ってやろうじゃないか」

「キリヱの時も割と振り返っていたような……」

「映像だけだがねぇ? 解説はいらないくらいには『原作知識だけじゃなく』察していたから手加減はしてやったが…………。まぁ良い。スラムの映像から流そうじゃないか」

 

 そう言いながら、倒れ伏した私を猫でも持ち上げるみたいにひょいっとして座らせ、頭を片手でつかみながら画面へと固定させてきた。

 映像では、夏凜の聖属性魔法を帯びた血風を放った後に気絶しただろうカトラスを背負って、何やら話しているような…………、いやホントどこで撮影してるんだろうこれは。

 

「スラムに入ったあたりは、まぁアンタも想像がついている通りだろうねぇ。このあたりはあんまりガバはなかったが…………、血風を使ったのがまず少し布石になってるんだよこれが」

「布石? いや、嫌がってた覚えはあるんスけど……」

「あの娘のトラウマ的なのを刺激したってのは後で察したろう? それは当たってるんだが、心理的な揺さぶりがここで入ったことによって、アンタの周囲の状況、特に九郎丸の病んでる姿だったり聖女の色々と……、まぁ、アレだろ? な見せられて、完全に想定外すぎる状況に頭がパンクしているんだよ」

 

 その上で料理は普通に美味しいし、生活してる上で聞かれたくない事を聞かない割には、そこそこ気を遣ってるし、かといって警戒を解いてる訳でもない。

 

「距離感が絶妙っていうか、本人のその状況に応じて『存在を尊重してる』っていうのは時坂九郎丸相手の時と同じようなノリなんだがねぇ」

「あー……、ひょっとしてこっちも、その?」

「アンタは『適度に絆されてやり辛いくらいに敵対して欲しい』って思ってたんだろうがねぇ。直接ネギ坊主というか、ヨルダ=バオトからの命令が来ていない状態だったものだから、アンタに対しての心象が滅茶苦茶の状態で共同生活なんてしたら、そりゃ愛着の一つや二つわくだろう」

 

 加えて本人は近衛ノノカから色々聞いてた「普通の生活」っていうものを見せつけられたり、自分で体験させられてるんだからねぇ。

 師匠のその一言に、とりあえず「友」の数値が高いのはまぁわかった。わからないではないが、それなりに親しみというか、距離感が近くなったというのを理解はできた。これもある意味では前提条件というか、私単体でカトラスと話していたらそういうことにはならなかったはずなので、つまりはやはり橘が悪い(責任転嫁)。

 

「その責任転嫁に意味は…………、まぁ続けるがね」

 

 映像は早回しされ、私が灰斗に首を落とされた(半分自爆だが)あたりに。私を拾い上げて色々言い合ってるカトラスだが、それを見て「おや?」と思った。記憶にあるカトラスよりも、どことなく表情が笑っているわりに悲しそうというか…………。

 

「さっき言った通り、愛着を抱いた状態で『自分の身を護れなくなる』レベルで約束を守って死にかけている訳だからねぇ。罪悪感もしっかり抱くし、アンタに対しても好感度は上がるだろうさ」

「…………原作での怨嗟とかを考えると、馬鹿じゃないの? とか、そういう風な反発で捨てられそうなものだと思うんスけど」

「言っておくがこの時点で30点は超えているからねぇ。言っておくが九郎丸が低いとかそんな訳じゃないよ。まだ身体が『完全に』女性に傾いたことがないからってだけだ」

「しれっと恐ろしい事言わないでもらえると嬉しいんですけど(九郎丸→九龍的な意味で)」

「話を戻すが、前提としてこの娘は『50番台』、つまり交配目的のクローンたちによる脱走事件の鎮圧とかもしているからね。出た後も情報収集はしていたようだし、たぶん諸々の番号がどういう意図で作られているかの情報も持っている。つまりは、アンタと自分のDNAが離れているっていうのを認識したうえで、この兄妹距離感で、かつ『女の子として尊重してくれてる』距離感だ」

「いえあの、女の子を女の子として対応するの割と普通では…………? 特にカトラスに関してはガラス細工というか、爆弾処理みたいなものだし」

「でも結果は一緒だからねぇ? 意味ないよその恐怖心」

 

 話している間にも映像は進み、私がカトラスを庇って戦闘しているシーンやら、魔天化壮暴走シーンやら、フェイトから色々言われた場面やら…………。

 

「そうやって色々ドキドキしてる布石が張られた状態で、約束破って自分守って、傭兵にバケモノ呼ばわりされて揺さぶられた後でさらにこう滅茶苦茶なことが続いているからねぇ。一種の吊り橋効果、というには伏線が多すぎるから」

「…………あのー、もしかしてなのだが、仮に刀太が『私』でなかったとしても?」

「同じように共同生活してれば『堕ちてる』並行世界はあるねぇ」

「ちょっとチョロすぎないですかね…………(震え声)」

「まあケースバイケースだが、九郎丸の時も言ったろ? アンタの他人への接し方は、擦れた心には中々劇薬なんだよ。

 もちろん『受け入れざるを得ない』状況あっての話ではあるがねぇ」

 

 その上で身体が回復したらどうなるか……と。そのあたり振られるまでもなく予測はついてしまうのだが、それはさておき一つだけ確認したい。

 

 

  

「…………諸々はともかくとして、あの、正直な話なのだが、何故この『色』の数値がぶっちぎりで高いのだろうか」

「元々『産めない身体』に改造されていたが、そういう知識だけは戦場で嫌と言うほど叩き込まれて警戒してたからねぇ。

 気になる異性が出来て『産める身体』に戻ろうものなら、そりゃ言うまでもないだろう」

 

 

 

 もともとむっつり気質だったのが、ため込んできた分暴走してると思っておきな? と。その一言と共に、私は思わず目線だけで天を仰いだ。……未だに師匠が頭を大きなお手々で固定してるので、動かせないのだ、仕方ないね(涙)。

 

 

 

 

 



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ST167.心の鍵は…その4

毎度ご好評あざますナ!
今回気が付いたら1万超えてたけど仕方ないね……! 少しだけ秘匿は破られた。
 
P.S.気が付いたら一周年超えてた…何か企画やろうかしら


ST167.Frequently Asked Questions: side Isht = Karin Orte

 

 

 

 

 

 カトラスの色々と想定外の内心をぶちまけられ(野暮だろいい加減さぁ……)、いよいよ残すは二人か三人、くらいだと思う、たぶん、きっとメイビー(震え声)。そんな心境で○獄篇(原作者が諦めた地獄)の映画を見たり「UQ HOLDER!」アニメのOVAを見て三太がいないことに寂しさを覚えて居たりしてその日の翌日の早朝は過ごしていた。何と言うか、御菓子のつまみ食いだけはするべからずと認識を新たにする必要があるだろう。あのレベルの自白剤事件(原作10巻11巻相当)のことが発生すると、それこそ何を口走るかわかったものではない。うっかり「素」の方が出てしまっただけならまだしも、自分が知り得ている諸々全てが放出されるのは、あまりにも危険であった。

 そんな私であったがいい加減着替えはちゃんとする。色々と諦めがついてきた、という訳ではないが、多少は慣れたという事だろう。あくまで多少なので、自室で次にどのディスクを見るか漫画を読むかという現実逃避で気を紛らわせたり、それだけを楽しみにしているのだが。

 

 いや本当、どうしたものかね(白目)。

 

「どうにもならないから、まず腹をくくりゃ良いんじゃないかねぇ」

「はい!? おっと、師匠今日は早いなぁ」

 

 そして、当たり前のように部屋の扉を「開閉せず」スッと現れるダーナ師匠の存在よ。今日の恰好はドレス姿ではなく、なんならシルエットもいつものデラックスクラスではない。古い時代のドイツ軍服めいた格好にスマートな姿で、しかし頭は「背教」の頃と違いドレッドヘアのままである。一体全体どうしてそんな恰好をしているのかと問えば、少しだけ肩をすくめた師匠。

 

「今この時間のアタシは、メイリンの相手をしているから。ちょっとだけ代理で来てやったまでさ、流石に今アンタと合わせたらガバがどうのこうのという騒ぎじゃないよ」

「また来ているのかあの女性……」

「言っておくが、あの子が『弟子入り』確定するまでに何回かアンタも顔を合わせることになるから、そのつもりでいるんだねぇ」

 

 そういえば、師匠が最初に無理やり同伴させていたか、あのメイリンとかいう彼女は。あの人もあの人でどうやら何かしら今後ガバがあるようなので、一旦私は彼女のことを考えるのを止めた。考えても仕様がないのだから仕方ない、仕方ない。

 

 そんな私の前に、指を弾く師匠だが。画面に映った文字は「イシュト=カリン・オーテ編」となっていた。

 

「さて、いよいよ最後の女だよ。これにてガバの復習はオシマイってなものさ」

「はい?」

 

 おや、と思った疑問を聞いてみるが、ダーナ師匠はあからさまに目を逸らした。

 

「……あれ? 雪姫はどうなっているのか」

「修行編の最後にやるつもりだから、そこは別枠で覚悟しておきな」

「恐怖以外の何物でもないのだが(震え声)」

「どっちかと言えばアタシが一番恐怖してるのは、水のアーウェルンクスの方なんだがねぇ…………。あれこそアンタのガバが色々取り返しがつかなくなってきてる証明だと思うよ。『アンタが悪い訳じゃないが』ね」

「悪くない…………、それは一体?」

「あまりにもアレすぎてアタシもガバを教えるのを取りやめるくらいにはアレだよ。まー、そこはそのうち嫌でも自覚することになるだろうから、アタシがどうこう言うことでもないのかねぇ……。(いうべきは星月名乗ってるあの女なんだろうが)」

「ボソボソ言ってて最後が聞き取れないのだが」

「アンタ向けに言ったセリフじゃないからね。

 さ、ここはオーソドックスにまず数値を見て行こうじゃないか――――」

 

 指を弾いた師匠のそれに合わせ、切り替わった画面は。

 


 

 【イシュト=カリン・オーテ】

 ┣友:09 ・・・素でツッコミしてくれるのは私だけでしょうし

 ┣親:12 ・・・二面性を承知しているのは自分だけ

 ┣恋:13 ・・・誰に何をどう重ねているかは私が決めることにします

 ┣愛:20 ・・・色々なものを重ねていてキティ並みにぐちゃぐちゃ

 ┗色:08 ・・・1発ハ○たらあの子も安心して眠れるかしら

  → 計:62

  


 

「って宮崎のどかの57点超えてるゥー!?」

「そりゃ超えるだろう。おめでとう、好意共感(シンパレート)値歴代ランキングでも指折りに入る一人だよこの女」

「おかしいでしょ? 何さ20って、何だこの数値!」

 

 いわゆる「ネギま!」における好感度ランキング最高得点だったりする宮崎のどかですら、点数の最高値は「愛:18」だったというに。ちなみに彼女の場合は「恋」と「色」も十五点とお高目な数値だったりするので、そういう意味ではまだ正気というべきなのか……?

 いやそれでも何だその愛って、愛って…………! いや、彼女の場合しいてどの数値が高いかと予想をつけるなら、確かに「愛」か「色」なんだとは思っていたが……!

 

「ちなみに救いにならない話だが、以前は『親』に割り振られていた数値が他に分散して拡大した結果だよ。親心が一番強かったそれが、この間のやりとりで『恋愛感情』に紐づいても良いと分散した結果だねぇ」

「本当に何の救いにもならないのだが…………」

「もっと言うと、もともと『友』『親』『愛』はそれ以前から十を超えていたから、誤差だよ誤差」

「本当に何の救いにもならないのだが…………(震え声)」

 

 徐々に徐々に追い詰められる私に師匠は大層ご満悦そうにニヤニヤ笑っていらっしゃる。私の頭の中がやかましくなるのを観察しているのがどうやら趣味の一つではあるらしいのだが、あんまりそんなサディスティックな趣味を持って欲しくはないのだが……(震え声)。あからさまにカトラスに「オバサン」発言を連呼させて所持金を差っ引いたりと、自分が相手をいぢめる隙を探すのに余念がない師匠であった。

 

「まぁ細かい話はおいておいて。詳しくはまぁビデオ映像見りゃわかるよ。正直こう『口に出すのも憚られる』レベルだからねぇ…………、少年誌的に」

「少年誌的に!?」

 

 言いながら画面を変えた師匠だが、そこに映っていたのはまず直近、ディーヴァを平然と無視して私相手に「ちゅっ♡ ちゅ♡」していた夏凜の姿である。聖女の姿か? これが…………? 嗚呼呆然としているディーヴァも最初、一体何が何やら意味不明すぎてぽかーんってしてるし。ちょっと可愛い。

 

「あの聖女の場合は時間をさかのぼっていった方が妥当だからね。色々徐々に徐々に腹をくくりな」

 

 解説らしい解説がない…………。そんなことを考えた瞬間「見れば判るだろう」と言わんばかりの目を向けて来るお師匠に、無言で首肯して私は画面を見る。気分はもはや囚人も同然なのだが、そんな流れで切り替わった映像が、ニキティスにより私の好みのタイプがばらされた直後の夏凜で…………、その笑顔何だその笑顔やめろ!? だから満面の笑みが怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!

 

「胸がどきどきしてるそれは、恐怖より恋とかそっちなんじゃないかねぇ」

「ゼロとは言わないがッ! それ以上にもうこの時点で後々何されるかわからない恐怖が強すぎるのだッ!」

 

 やれやれと言わんばかりに肩をすくめる師匠の操作のままに映像が切り替わり、噂に聞く伊達マコトに色々言いまくって陥落させている映像…………、無表情のまま私の写真を見せるな何だいつ撮影したそれ!?

 特にそこには解説をつけず映像はスラムの頃のものに巻き戻る。戦った映像より日常風景での映像で、ちらちらと夏凜が私を気にしている、のを九郎丸が気にしている、のをさらにカトラスが見てドン引きしている映像が流れた後。

 

「何か知らない会議が始まっているんですが(震え声)」

 

 おそらく体内をまわした血風暴発後の映像なのだろうが。ドン引きしているカトラスを前に、原作でもあったような流れをふまえて色々とっちめているのだが。…………いや、ついでとばかりに九郎丸を和尚が説教した結果堂々と「刀太君が大好きだから!」とか叫んだ映像いらない、というか前の時に出せ(震え声)。

 

『…………で結局、ユウキカリンは兄サンの何を知ってるんだ?』

 

「いよいよ今、テナ・ヴィタの言った話に注目していくことになるんだが、覚悟はできてるかい?」

「覚悟って、一体何の?」

 

 

 

「――――今の自分の自己認識、自我がよって立つその場所の『安心感』が、また(ヽヽ)ぶっ壊れる覚悟、かねぇ?」

 

 

 

 今の時点ならここまで見せてもいいだろうと。そういった師匠は、画面をその問題の映像へと切り替えた。

 …………その映像から、わずかに「嫌な感覚」を覚えながら。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

『どうしましたか? キクチヨ君』

『えっと……、いや、なんっつーか…………』

『あら? ひょっとして見とれてたとか』

『……まあ、夏凜ちゃんさん、普通に美人なので、まあ、はい』

『素直に返されるとは思わなかったので、お姉ちゃんちょっと驚いています』

 

 まあ照れるほどでも? ありませんが、と。そう画面の中の私に語る浴衣姿の夏凜…………、湯上りで首元胸元がちょっと無防備になりかけてる具合のその姿は、なんというか懐かしいものを見た感想だ。

 

「初対面の時の夜の映像…………?」

「大体、今のアンタとあの聖女の関係がおかしくなってるのは、この日にあるからねぇ。懐かしいだろう、まあ半年も経っちゃいないんだが」

 

 熊本を出てすぐの頃、九郎丸と一緒に雪姫相手の修行中。彼女の手違いで秒速13キロメートルのまま吹っ飛ばされた先で夏凜とこんにちはした、そのあたりの映像。

 最初期の夏凜の雰囲気は、私というより「神楽坂菊千代」を名乗った近衛刀太を、そうとは知らず行きがかりで拾った子供としてお世話していたのが大きい。大きいのだが、そうはいっても一定のボーダーラインが間違いなくあっただろう。なにせ私の視線が彼女のボディラインに伸びようとすると、微笑んでいた表情の目がすっと細くなる。この時点ではお互いの距離感というより、夏凜側の距離感がまだ遠いというか。このあたりの視線の鋭さには原作の夏凜を思い出してもはや懐かしさすら覚える始末。キリヱと三太の時が妙に長かったせいで、なんだかそれこそ1年くらい経過してる感じがするのは決して気のせいではないだろう(メタ)。

 

 そのまま温泉卓球して、大人げなく勝ちに走る夏凜がちょっとポロリしかけたせいでそれに気をとられ顔面にラケットがシュート! 手から滑ったせいで夏凜も意識が当時の私に向いておらず、それでいて浴衣を直す素振りもなかったのでしばらくは焦ったなぁ…………。流石に途中で本人も気付いたが、その後の夕食では相当緊張したし…………。

 

『ほら。もっと食べないと力、出ませんよ? はい、あーん……』

 

「こんなことされてましたっけ(震え声)」

「だいぶ緊張していたようだから、そこが曖昧でも仕方ないかもねぇ」

 

 なにせアンタ当時、この女相手には原作好感度とリアルのお姉ちゃんぶってる好感度と、同時にその全てを台無しにする恐怖とでデッドロックされていたようだし。師匠のその一言通り、常に彼女が何かするたびに正体バレした時の恐怖心が全てを塗り替えていた。

 

『おやすみなさい……、寂しかったら、背中撫でてあげましょうか?』

『け、結構ッス!』

『フフ、てれなくてもいいんですよ?』

 

 そんな風に、まだ一定の距離感を保ちながら揶揄っていた夏凜に対して、これが本当、どうして今の様な名状しがたい有様となったのかと軽く頭を抱えたくなったが。

 

 その時、暗がりながらしっかりと映像で私とわかる存在は、目を見開いて、震えはじめた。

 

「これは…………?」

「恐怖だよ」

「恐怖というと――――」

「この時のアンタは、この世界でアンタの意識が生まれてからの2年間、ずっと一緒だったキティと初めて離れ離れになった。だから、怖くなったんだろう」

 

 

 

 夜、一人誰も心の内で頼ることが出来ない状況になって、自分の過去を思い返すくらいには。

 

 

 

 どくん、と。その言葉に、この当時の私が何をしたかを、何を思い返したかを、「何に気付いてしまったのか」を、私は、何故覚えていないのか。脈動が聞こえる。何か、それを思い出してしまっては拙いとでもいうような、そんな嫌な感覚を覚える。

 だが、目を離せない。画面に続く映像は、そしてそれに巻き込まれて「今の自分の認識」も、当時のそれをトレースするように引っ張られていく――――。

 

「キティと離れ離れになって一人ぼっち――――ここでアンタは初めて、この世界に来てから『本当に』一人ぼっちになったんだ。その時の心を、その恐怖を、アンタが『思い出せない』というのなら――――それは余程、アンタには堪えるものだったんだろう」

 

 もともと、原作刀太のようなことが出来る人格だとは思っていなかった。だからこの状況に、夏凜によっていつ殺されてもおかしくない状況におかれることが、たとえ不死身であろうとも恐怖しかなかったのだ。そこは、間違いない。

 だから、私は「私」が何であるかということに想いを馳せ、記憶をめくり、一つ一つ整理し――――。

 

 

 

 気付いてしまった。「私」の全て、全ての記憶が矛盾していたことに気付いてしまった。

 

 

 

『時期が、合わない……?』

 

 幼少期の記憶、義理の母親代わりの存在に育てられた記憶も、妖魔を収集して生計を立てていた自分も、サラリーマンしながら漫画を買っていた記憶も、学生で普通に恋人をつくったりといったごくごくありがちな記憶も。

 その全てを「時系列で整理できない」――――整理した瞬間、その全ての家族構成や、友人関係や、社会情勢や、とにかく「何もかもが違った」のだ。

 

『ちょっと、いや、待ってくれ待ってくれ…………』

 

 全身が震えていた、映像の私も、今この場にいる「私も」。

 いわゆる前世の記憶がある私というのは、間違いなく私自身であると当時は思っていた。記憶の不確かさ、前提条件が違うと恐怖した今の私でも、『私』自身の安定性だけは疑っていない。何が有ろうと私は私なのだという、その自己同一性だけは揺らいでいない。

 

 だが、しかし。その「私」を構成する記憶が、まるで『継ぎはぎされた』『フランケンシュタインの怪物のような』ものであったと『気付いてしまったら』――――――――。

 

『――――まて? どうしてだ? 私? ぼく? ボク? おれ? オレ? ワタシ? わたし? 俺? 何が――――自分は何だ?』

 

 覚えている、嗚呼思い出した。何故今まで忘れていたのか「ではない」。忘れたことに「して」、絶対に思い出さないようにしただけなのだ。

 だってそれは「神楽坂菊千代」という存在の根底を揺るがす何かであり、今でも辛うじてその可能性を認識していられる、自己の不安定さ――――「自分の記憶の」「継ぎはぎされたような」不自然な横断。

 

『私――――』

 

 例えばそれは、漫画を自宅に収めた普通のサラリーマン。少しばかり妙な出会いもあったが、それきりで何の変哲もない自分。

 

『――――俺、』

 

 例えばそれは、7人の超人的な達人集団に加入した少年。義母と呼べる彼女から魔剣「雪羅姫」を譲り受けた、親もない捨て子の自分。

 

『――――オレ、』

 

 例えばそれは、ルキのようにスラムでジャンクを集めながら生計を立てていた男の子。エヴァちゃんのような少女から勧誘され、彼女の率いる集団で剣を振るう妖魔を集めていた自分。

 

『――――ぼく、』

 

 そして例えばそれは、本当に何の因果も何もない只の子供で――――。

 

 

『…………、どうしましたか? キクチヨ君……、キクチヨ君!?』

 

 

 眠っていた夏凜が起きるのも当然である。隣の布団で、私は、「あの時の私は」、過呼吸を起こしながら、全身を痙攣させ、泣いていた。

 

「『ぼく(ヽヽ)は、だれ?』」

 

 画面と、私の、「ぼく」の声が重なる。倒れて、また私も。当時の「ぼく」程ではないにしろ、全身が震えていた。

 いつか、それこそ学園にて。近衛悠香(ハルカ)の名前を聞き、彼女と近衛仁徹(ジンテツ)との顔が脳裏に浮かび。そして明らかに「私の意識には」あっては不都合な記憶の数々が想起されたあの時の比ではない。そして、それは今も「思い出したからこそ」ぶり返している状況にある。

 抜けている記憶。育ての義理の母の顔を、名前を、周囲の存在を思い出せないことや、サラリーマンをしていた頃の詳細、妖魔を集めていたスラム育ちの自分のその後など。あまりにも断片的な情報が、記憶が、縦横無尽に行ったり来たりして虫食い状態になっていたり、補完しあっていたりするそれは。明らかに「私」というアイデンティティの、自己同一性の、その崩壊を意味していた。

 

 こんな、気を抜けば誰でもすぐ永劫の死に閉じ込められる世界に。そうでなくても過酷な運命を背負う少年の肉体に。入り込んでいるこの精神は何か? ぼく(ヽヽ)は、何なのか――――。

 

「顔をあげな。そして前を見るんだ。こればっかりはアタシがやってやるべきことじゃない。アンタがどうやって立ち直ったのか、『立ち直らせてもらったのか』、正しく正面から見据えるんだ――――」

 

『キクチヨ君ッ! 一体どうしましたか、落ち着いて……っ』

 

 ばたばたと暴れ出しかねないほどに動揺し、恐怖に震え、まさに「生命の危機に遭遇した」かのように、壊れたように泣き叫ぶ「ぼく」。その醜態を前に、しかし夏凜は押さえながら落ち着けようとする。するが、乱暴に殴りつけるように彼女をどかそうとしていた当時の「ぼく」に、その一撃一撃に顔を苦悶に歪める夏凜が。……今更だからこそ申し訳なく、しかし当時の「ぼく」には、最も身近な恐怖だったのだ。

 

『しにたく、ない……! 何が、なにが、どうして、ぼくって何? 私とは? 俺とは? オレとは? なんだよ、どうして、「誰だってお前!」「俺は俺だ」「違う、ぼくは俺じゃない」「私なんていなかった」「わたしはどうなるっていうんだ」――――――――』

 

 混乱した記憶が、まるで人格を裂いたかのように分裂した言動を繰り返し続ける「ぼく」。震え、乱暴に当たり、しかしずっと泣きはらしたままの「ぼく」。

 

『ぼくは、だれ――――――――ッ』

『…………あなたは、キクチヨ君、でしょう?』

 

 夏凜はそっと、当たり前のように泣きわめく「ぼく」を抱きしめていた。

 落ち着かなかった「ぼく」の頭を、ひたすら撫でて、大丈夫だと。ここは怖いものは何もないと。私が守ってあげると、ずっと、ずっと言い聞かせて。

 

 やがて発作の周期が少し落ち着いたかのように、困惑する「ぼく」の頭を撫で、顔を上げたその涙を拭い。

 

『…………私は、決して誰かを救えたような女ではありませんが』

 

 そっと、当たり前のように口づけをした。

 

 母親が幼子をあやすように。あふれ出た愛情を注いであげるように。特に気負いもない、ただただ母性から出たその行動――――。

 

 

 

『貴方がもし一人なら……、もし、どうしようもないのなら。私のところに来てください。ずっと、貴方が死ぬまで面倒を見てあげましょう。貴方と、死が私を別つそのときまで』

 

 

 

 驚いた顔をしている「ぼく」の額に自分の額を重ね、目線をあわせ。

 

『それなら、もう大丈夫です。怖がるキクチヨ君に、何があるのかはわかりません。何を知って、何を見て、どう生きて来たのかもわかりません。だから今、何を、どうして怖がっているのか、お姉ちゃんにはわかりません。

 だけど、それでも、「死なないように」してあげることくらいはできます』

 

 だから、今は一緒にいましょうと――――――。

 

 彼女からしたら見ず知らずの子供だが。死にかけて、自分に妙に壁を張って、それでいて心から安心を、誰かの救いを求めていたその「ぼく」の姿は。

 その相手の正体が何であるかを知らなかった当時の彼女にとって、まぎれもなく守るべき子供の一人で。

 

「…………だから、なのか」

 

 今の「ぼく」が、「私」が、ここまで取り乱してはいなかったのは。この後、自我の不安定さを、「自分自身の存在の曖昧さを」、人格が崩壊しそうな恐怖を、うっすらと自覚しながらも、それでもなお立っていられたのは。

 そして同時に、私が壊れかけた時、当たり前のように彼女が抱きしめてくれる理由。なんのことはない、彼女は初めから知っていたのだ。理由も正体もわからないながら、私と言う人格が一体どれほど不安定な状態で存在していたのかということを。

 

 原作刀太にすら当然にあった「自分は自分である」という、その自覚すら崩壊しかかっていた、この私の有様を。

 

『ずっといっしょ……』

 

 だが、ここからが良くなかった。

 顔を赤くした「ぼく」は、照れたように夏凜から顔をそむけるが。彼女は私と無理に視線を合わせようとして、そして、無理に向かせた結果言われてしまう。

 

『……けっこん?』

『えっ』

『おねえちゃん、ぼくと、けっこんしてくれるの?』

 

「おいそれはちょっと待て(震え声)」

 

 記憶が混濁しているせいか。言動は「私」の中にあった最年少の誰かのものであり、それが引き出されてはいるものの。混濁した記憶の中には、スパイエージェントのようにとある企業に潜入して社長令嬢と婚約したり破棄されたり色々面倒になったりしてた時のものやら、「初恋の相手だった」「雪羅姫」の持ち主だった彼女といた時の安心感やら。様々なものが混濁していたからこその、壊れた判断基準によるその一言――――。

 

 夏凜は逡巡し、少し頬を赤らめて天井を眺めてから。

 

『そう、ですね。…………まさか「また」そういう話が出ることがあるとは思ってませんでしたが、そうですねぇ……。

 でしたら、はい。キクチヨ君が大きくなってから、その気が変わらないのでしたら、結婚しましょうか』

 

 予約ですね、と。そう言った夏凜に小指を伸ばす「ぼく」。微笑ましそうに指をからめた彼女は、近所のお姉さんが可愛がってる子供と仲良くしている風にしか見えない距離感で。ここまではまだ気楽だった。

 

 ここからが気楽じゃなかった。

 彼女も、今の私も。

 

『おねえちゃん――――好きっ』

『へ? ……あっ! ちょ、ちょっとキクチヨ君!?』

 

「いや待てそれはおかしい(震え声)」

「言いながら『思い出して来た』だろう? 翌朝どういう状況だったか、そこに至るまでに何があったか」

 

 幼子の精神がベースとなった「ぼく」は、そのまま夏凜をただただ甘えられる相手と認識していたのだろう。旅館の浴衣姿だった彼女の帯を解いて、はだけた肌に抱き着き、ごくごく幸せそうに、「母親を求めるように」して――――そのまま、手を這わせ……。

 

『ちょっと、こら、止めなさいキクチヨ君……っ!』

 

 指を沈ませ、そのまま()を探して…………。

 

『さ、流石にそれは…………、いけません! も、もうっ、それでは本当に本気で、逃しませんよ?』

『ん…………っ』

『ひゃぅう……ッ♡ だ、駄目ですってば、もう、本当に……、仕方ないんですから。今日だけ、ですから――――あっ泣かないで、大丈夫、大丈夫ですから……、悲しかったら、いつでも甘えて良いですから……、あっ♡』

 

「なんで受け入れる流れになってるんだ少しは殴り飛ばせ(震え声)」

 

 これアウトなのでは(震え声)。いやさっきから声が震えてばかりで申し訳ないが、いかに自我が曖昧になっているとはいえ「ぼく」はいくら何でもちょっと言動に問題がありすぎやしないだろうか(震え声)? 

 何が怖いかと言えば、これでも一線は超えていないのだ。ここまで色々アウトにしか見えないような状況だと言うのに。まあ○首券が発券されている時点で既に色々アウトを超えた状況に違いはないのだが、それはそうとして。

 

 そのままされるがままに「ぼく」を甘やか続け、「ぼく」に好き放題されて、しかし我がことながら本当に下心なく甘え続けた「ぼく」にギリギリ寸前まで「されて」悶々とした表情で息の荒い夏凜を前に、すやすやと「吸いながら」眠りについた映像は、もはやこの世のものとも思えないほどの爪痕を私に残している。なんですかねこれ、こんなの許されて良いのだろうか(自分)。

 そのまま「ぼく」を起こさないように、ギリギリで色々調整しながら浴衣を整える夏凜だが、そのまま「吸わせた」ままだし、なんなら「弄ばれて」喘ぎ声上げてるし…………。そんなに手つきが「それらしい」風ではなく自由に、反応を確かめるよう「引っ張ったり」「押したり」してる風なので、おそらく「わかる」まで成長していない記憶だの精神だのが表に出てきているということなのだろうが、それにしたって、それにしたってである。

 

 いまだ画面で繰り広げられている痴…………、いや事態から目を逸らしつつ、横に立ってあきれ顔の師匠へ向けて。

 

「………………やっぱり責任、とらないと駄目ッスよねこれ」

「多分両手広げて手を伸ばして歓迎してくれるだろうさ」

 

 祝福の時ってやつだよ、という彼女の一言に。私は今日の分の記憶を捨て去れないかなーとか思わず現実逃避してしまった。

 

 

 

 そりゃ、無理だよ修正最初から。夏凜、これ切っ掛けに色々あって「本当に」私に入れ込んでいるんだもの。雪姫は雪姫として、完全に「私」のことは私のこととして個別にロックしちゃってるもの…………。

 もはや「私」の自我がどういう存在かという根本的な恐怖とかそれどころじゃないですよこれ(震え声)。

 

 

 

 

 



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ST168.それでも人として愛されて欲しかった(番外編)

感想、ご評価、ここ好き、誤字報告などなど毎度ご好評あざますナ!
 
いつかのアンケート結果で、「カリンと「あの方†」との過去話」です。書きあがりはだいぶ前だったんですが公開まで長かった……
本作捏ぞゲフンゲフン独自解釈オンパレードなので色々注意
 
今回も1万文字超えてるけど、夏凜ちゃんさん回なので仕方ないね……


ST168.Repentance...

 

 

 

 

 

 一方的、一面的、そして断定的な評価――――今でいうレッテルというものは、抱え込むものではないと、私は思う。私は、カリン・オーテという名の一人の女は、先生の姿を見てとくにそう思う。むしろ私以外の者たちは何故、先生が無茶をしているのだと気付かない。否、気付こうとしない。私だけが知っているというのが、どうして可笑しいことだと思わないのか――――。

 

『貴方は、先生を神にでもするつもりなの? 人として苦しみ抜いているあの人を、人でない()にしたいとでもいうの?』

 

 布張の簡素な拠点、私たち「十二人」も住居として利用するこの場所で。私は先生に、唯一個人部屋を許されていた。性別の問題もあったけれど、それは私以外が会計事情に明るくないからという問題が大きかった。

 私の言葉に、目の前の男は顔をしかめる。年代で言えば私より少し上だけど、顎髭は生えているもののいまいち貫禄がない。貫禄がないのは先生も似ているけれど、あの人は割と破天荒だからそういう感想は出てこない。何を仕出かすか判らない怖さがある。……まあもっとも、あの人の場合はその後で「どうしてこうなった!」って私室とか、私の所に来て愚痴をこぼすことが多いのだけれど。

 

 そんな私のことを、この男は、ケファは好んでいない。もともと先生の恩人の息子さんらしく、先生もその扱いには配慮をしているくらいだ。外部の、なんら後ろ盾も無かった私など初めから彼の眼中には無かったんだろう。十二人の中で最も金銭に頓着がなく、使い方が雑なのもこの男だった。

 ケファは睨みつけるような目をして、私に言った。

 

『……昼のお前の行いだ。カリン、救世主たるヨシュア(ヽヽヽヽ)様は、救世主たる故にその存在は他と隔絶しているのだ。断じて不健全で、不完全な存在であってはならないし、そうでは『決してない』のだ。だからあの方に泥を塗るようなことをさせてはいけない、カリン』

『不健全って言うけれども……。そもそもあの人があの場で、どれくらい無理していたかはわかっていたはずよ? 特に付き合いが長い貴方なら、誰かがあの場で先生を気にかけてるってポーズでも示さないといけないっていうことは』

 

 私の言葉に、私のあの時の行いに文句をつけたケファはそれでも続ける。それが邪な金の使い方だったと。確かにあの品を直接金品に変えた方が、その分のお金でより多くの人が救えるかもしれない。けれど、そんな私を先生が庇ったことも、彼にすれば認められない、認めたくないことなのかもしれない。

 よく不当に横領してるとか、そんな告げ口を先生にしている。もっとも先生も私がどういう場合にお金を使っているかは把握しているし、そのことに問題があった場合はちゃんと言ってくれるので、その部分について私は問題ないと思っているのだけれども。

 

 だからこそ聞いたのだ。貴方はヨシュア先生を、神にでもするつもりなのかと。本来、人として苦しみ抜いているあの人を、まるで人が人として感じる痛みや苦しみなどないような存在として扱えというのかと。もしや、あの人をまるで人でない物にでもしたいとでもいうの?

 

 その時のケファの目の微妙な怪しさを、私は正しく理解できず。だから私は、ある意味で最大の失敗を犯してしまったということなのだろう。

 

 状況がそれを許さなかった。そう言えるかもしれないのだけれど、それでも私は先生に言いたかった。

 それでも、それでも私は、貴方に人であって欲しかったのだと。

 

 

 

 思えばそう、こういうのは試すようなことでもなかったのだけれど、ケファはよく先生を試していた。それはケファの中である程度の納得が必要だったということなのかもしれないけれど。ただそんなもの、先生と二人きりの時にだけしてれば良いのだ。

 救いを求めて壊れた人間の前でするようなことではない。

 

 例えば……、かつての私など。

 

 私があの人を直に初めて見たのは、あの時が最初のはずだ。

 一目でわかった。子供達が集まってくるあの人を見て、子供たちに言葉を説いているあの人を見て。この時の私は、まるで救い主が人の形をして現れた者だと思ってしまったほどだった。それくらい、私の心は崩れていた。

 

 その後、食事に招かれたあの人たちの後をつけ、その場で思わず縋りついてしまった。そんな私を見る周囲の人たちの目のなんと強い拒絶の意志か! 特に招き主だった男の、ケファの忌避感は強かった――――元々この近辺で、私は嫌な意味で有名だったから。

 親を亡くし、友を亡くし、子を為せず夫も先立たれ――――まるで世の不幸すべてが私に寄っているように謂れ、咎まれ、身体を売る事すら出来ず、それでも「死なない」。まるで何か、悪しき霊に呪われているかのごとき、縁起の悪い者。良からぬもの、汚い女。罪深き「影」を負ったもの。呼ばれ方は様々だった。

 実際に、私の周りで不可解な現象が起こっていたこともそれに拍車をかけていたのでしょうし。

 

 そんな私を見て、あの人は、ヨシュア先生は言った。

 

『ケファ、聞け。ある者に50と500借りた者たちが居たとしよう。ところが二人そろって返すことが出来ず、しかし彼の者はその二人を許した。どちらも已むに已まれぬことであったが、果たしてどちらの者がより深く恩を感じるものだろうか』

『…………より多くを借りた者、でしょうか』

『しかり、だ。………………このヒトは()に縋りついたが。このヒトはこの中で最も俺を歓迎した。一体誰が、ここに招かれた中で俺の足を洗い、香油を垂らした人だろうか。このヒトはその涙で俺の足を清め、髪と服でぬぐい、油をくれた』

 

 顔を上げた私を目を合わせ、先生は微笑んだ。同情するような目だった。同時に、よく頑張ったなって言ってくれた目だった。

 

『だから言おう。より多くを愛したのだから、愛せるのだから。貴女の罪と言うのはそれで許されて良いものなのだ。少しだけ許すことが出来るものでは、そうはいかない。

 ――――貴女の罪はもう許された』

 

 ただ泣き続ける私を抱き留め、先生はおんおん泣く私の背を叩いた。

 

 その時、私は最初から気付いたのだった。この人の言葉がよく言われているような「救世主」のものではないのだと。どういった経験をしてきたのか、どういったものを見てきたのかは定かではないけれども。それでも、その発する言葉はこの人の、その人生で培われた言葉なのだと。……それはある種、女の勘みたいなものだったのかもしれないけれど。

 

 そうね、端的に言って惚れてしまったのかもしれない。縋りつける相手が彼しかいなかったから、その彼が言われているほど浮世離れした相手ではなかったから。だから今度こそは、というような心境になっても、別に不思議ではないでしょう。

 

 だから、私は先生についていくことにした。……私は、彼を先生と呼ぶことにした。もともと亡くなった夫だった人に拾われ、彼の商売を手伝っていた経験が生き、先生は私に金勘定を任せた。私より先に入っていた面々が、てんでそういったものに疎い、というより忌避していたのも、それに拍車をかけた。

 別段、気にはならなかった。もともと出身も立場も、振る舞いも、先生に対する見方も、何もかもが彼らと私とでは違っていたのだし。お金の使い道が適当過ぎて、私が全体の取りまとめをしていたから後始末に追われて、それを不正だと言って責めたのだとしても、先生はそうではないと分かってくれていたから。

 

 それに、少しだけ嫌な感触があったのだ。どうにも皆、あの人のことを祀り上げることに終始しているように感じて。その距離感が、まるであの人を人ではないものの様に見ているように感じて。

 

 先生は、確かに奇跡めいたことを行ったこともあった。今思い返せば、魔族だとか妖魔だとかに分類される相手を撃退していたこともあった。

 けれど、それ以上に彼の力は知識の力だった。人に振るうそれは、病にかかった者がいればその知識の力をもって対処し、薬を与え、どう過ごすのが適切か、何を食べさせるべきかをかみ砕いて、根気強く教え。食べるものがないとなれば手持ちの食料を分け与え、それだけでは駄目だと食べるものを集め稼ぐ方法を説き。心を病んだ者がいれば、寄り添い、立ち上がるための志を時に与え。

 

 救えた人もいたし、救えなかった人もいた。……その多くは、それでも救おうとしてくれたあの人を慕って。でも、そして私が語るように「人として」努力していたあの人を、人としてではなく別なナニカとして捉えていくようになった。

 それだけ時代が悪かったと言えばそうなのだけれど。それだけ誰しもが救われたいと願いを抱いていたと言えばそうなのだけれど。だから、あの人は私とよく話すようになったのでしょう。それだけあの人にとっても、色々限界だったってことなのでしょうから。

 

『何でこんなことになっちまったのかなぁ』

 

 もはや口癖のように聞き慣れてしまった、先生の少し乱暴な口調。……寝床にわざわざ来る先生だったけど、決して私に手を出すようなことはしなかった。私が一方的に慕い、迫ることもあったけど、彼は「そういうのは良い」と別な女性に手を出し、明確に私と「そういう」関係になるつもりはないと教えて来た。

 口が上手いようで口下手で、肝心なときにうっかりと色々忘れていらないことを口走って、その対応によく追われていた。そんな彼のことすら、その言葉すら全てが彼の本当の言葉なのだと考えていた人たちと違い、私はその苦悩というか、右往左往している心を直に聞いて、見ていた。私だけが、「あの女性」とも違い、理解してあげられた。だけれど、それでも彼は私に「そう」は求めなかった。

 

『でも、たとえ私に手を出していなくても。ヨシュア先生と私が「そういう」関係に見られるのは、当然の流れではないでしょうか』

『とはいえ年だって多少離れているしな。……大体だな、俺が庇わないとお前がちょっと危ない立場にあるっていうのも色々と問題なんだぞ? 俺は、ヒトが俺をどう見るかというのに頓着はせんが、その見方に応じて付き合い方を変えるくらいはする。

 カリン・オーテ。お前が俺を「救世主」ではなく「ヒト」として見るから、俺はいまだに人間としてお前と付き合いが出来る訳だが、それに気付かずにその女を何故贔屓するのか、とか言われてしまってもなぁ。贔屓しないと最悪殺されかねねぇだろって』

『そこまででは、ないと思いたいですが…………』

『とはいっても、そう簡単にお前は「死なない」だろうけどな。それは、俺が保証する』

 

 偽悪的というか、にやりと少し悪い笑みを浮かべる先生。ここまで露骨な表情は、表だとほとんど出すことはない。ある意味で私にだけ見せてくれる、先生の顔。もはや、こんな小娘相手にしか向けることの出来なかったその表情――――。

 

 特に変わり映えのしない日々。いえ、色々あったにはあったけれど、先生が致命的な失敗を犯して頭を抱えたあの日、ふと気になって聞いたのだった。先生は何故私に手を出さないのか。そういう関係になろうとしないのかと。「あの女性」の所にもいかず、私に話しかけたのは、何かしら理由があるのではないかと。ひょっとしたら「性として」求められているのかもと言う期待もあったのかもしれない。

 私としては、「女として」成熟する前の結婚だったから、夫とは身体を重ねたことはなかった。当時はボロボロで、そして「不吉な影」を背負っていた小娘だった私に、夫は良くしてくれた。けれど、だから子をなす前に二度と会えなくなった私は、やはりどこかで救いを求めていたのだと思う。

 

 あの人の言葉は、端的だった。

 

『だって、お前はわかりやすく見返りを求めてしまうだろ。カリン・オーテ。「魔」を負いし女、生まれて来たことが悲しいと言えるかもしれないヒトよ』

 

 また何か言おうとして口下手な失言をしたと思い、私は半眼で先生を見た。そんな目で見なくても、と言いたげな表情になって、うずくまって頭を抱えていた姿勢から上体を起こすと。まぁ座れと私を自分の横に招いた。

 

『俺には一般的に、父とされるヒトが二人いるが、まあ俺の「ちゃんとした」方の父親。……いや、実際のところどうだとかは、もう聞く気もねぇし聞くこともできねぇんだけど。夫婦仲も悪くなかったみたいだし。それでもちゃんと父として今より「ヤンチャ」してた俺を連れ戻したりして、さ。あの頃は割と、俺も色々と自分の憤りばかりが全て正しい、正しいことは言わなければいけないって思い込んでたところがあったからなぁ。大分迷惑をかけちまったし、大分泣かれちまったっけ』

『思い込んでいた……? しかし、正しいことは真理として正しいのではないでしょうか?』

『真理としては、な? 例えば人間が何もなく空を飛べるかと言えば、それを真と言うことはできない。背中に羽が生えて飛べるように変化した、とか、何かしら理由がなきゃいけねぇ。

 ただ「ヒトとして」正しいかどうかっていうのは、また別なんだよ。……今回俺が頭を抱えてるってのも、そのせいなんだが』

 

 人は、自分が見たい物を見たいように見て、自分が納得できる形でしか受け入れることが出来ない、と。先生は力なく笑った。

 

『どんなに俺が、こうすると病は良くなると言っても。悪霊と言う文字を一言たりとも使わなくとも。知識による術を受けた者は、皆勝手に言葉を紡ぎ、俺の言葉をそのまま聞いていた連中も勝手に記していく。

 こうして話してることだって、いやお前はそんなに色々脚色したりしねぇだろうけど、それでもどこかで何か曲解されていくものだ』

 

 だけど大筋は変わらない、と。

 

『どんなに嫌われても、父は俺を助けようとした。子である俺を、それでもずっと安心させようとした。俺が危険にあわないように色々手を尽くしてくれた。母が俺の背を押し続けるのに対して、父はちゃんと俺を見てくれた。母も俺を見てくれたが、それとはやっぱり違うっていうか…………。こう、なんだろうなぁ。やっぱり、そこに違いはないんだろうけれど。それでも、二人は俺がどうなることか、どうであることかに、そういう簡単な見返りを求めなかった。どう変わっていくかとか、どうなって欲しいかとか、そういうことがなかったっていうか。ある意味尊重してくれたってことなんだろうが』

 

 お前はそういうことは出来ないと、先生は言った。

 

『いや、お前に限らないけれどな? 大体俺の所にくるヒトっていうのは、そりゃ虐げられていたり、今の状況に反抗したり反論したり、色々思う所がある奴が多いんだけど。そういうのって、殆どが自分の今あるところに納得がいっていない、自分たちはもっと良い状況になっても良いって思いが主だったりするからな。

 カリン・オーテ。お前だって、一生懸命やってるから報われたい、そう思うからここ一番でヘタな失敗をした時に、俺ほどとは言わねぇけど色々嘆くんだろ』

『…………いえ、わ、私は――――』

『いや、あくまで俺の見方。個々人で考え方、感じ方は違ぇだろうけど、まぁそれについて思う所もあったから、そういう高説も言ったことはあるけれど。つまりは、そういう意味で性格的に合わないって思ったってだけの話。

 やっぱり面倒臭ぇなぁお前は』

『め、面倒くさいっ!?』

『お前は他の皆のことを、一度信じたら疑うことをしない蒙昧みたいに考えてるかもしれねぇがな。俺に言わせりゃお前だってそう違いはねぇぜ? 思い込み激しいし、自分の世界で一度決めつけたことは中々曲げねぇし。

 まあ、そういう所を好きだっていう奴もいるだろうが、俺は違うってだけだよ。肉体的な成熟さ云々を抜きにして、な? だから、お前は人をよく見ろ。見ても判らないことは多いだろうが、それでもしっかり見据えるんだ』

 

 正直言って、やっぱり何を言ってるか要領は得なかったけど、それでも最後に言われたことは理解できた。つまりは、好みではないのだということ。肉体的なそれ以上に、出自に色々と複雑なものがあるせいか、先生はあまり積極的にそういうことをしようと思わなかったのかもしれない。

 そう言って力なく笑う先生の顔は、そして、どこまでも孤独で寂し気で――――誰にもまるで理解されていないと、いわんばかりの顔で。

 

 

 

 だから、私はケファと共に取引をした。あの人が、決して誰しもが思う様な救世主ではないのだと、誰しもに知らしめるために。

 

 取引相手だった彼ら(ヽヽ)に信用されるように、情勢に慮ったとばかりに思われるように――――先生に二心あるよう悟られないため、数十枚の銀貨を対価として。

 

 

 

 引き渡し、そのための準備を終えて、そして私は先生に言った。逃げてくださいと。そうすることで、先生は初めて誰からも解放される。例え後ろ指を差されることになったとしても、後で発覚したのだとしても、先生はちゃんと「ヒト」として戻って来れると。

 ありがとうと、先生は言ってくれた。

 でも、それだけだった。

 

 寂し気な顔で、むしろ、何か覚悟を決めた表情になってしまった。

 

 その晩餐、先生が言ったことはことごとく当たった。もともと頭が良く回る人だったし、気遣いが出来る優しい人だった。外面はちょっと乱暴だったけど、それ以上に理性の人だった。だから、その彼から。私たちの十二人の「全員が」裏切ると言われたのは、全員が衝撃だったはず。どこか投げやりに、どこか見捨てられた子供の様な先生の言葉の意味を、それでも私は理解できなかった。

 先生の手を取り逃げようとした私を押さえ、先生は自ら彼らの下に足を運んだ。

 

 その後のことは、他の面々が決して確認したわけではないのだけれども……。あの書物を読んだ時のそれを思えば、誰しもがあの人の予測から外れることはなく、全員が全員、あの人を知らぬと受けて流したのでしょう。

 

 

 

 だから、先生は十字架にかけられた。

 

 

 

 慟哭。私は人づてに聞いてしまった。先生の嘆きを。亡くなる前の――――先生は、先生の父に嘆きを投げかけていた。亡くなられた先生の父親への慟哭だったと、私は思っている。あの人は十分に信心深い方だったが、それである以上にあの方は父を愛していたと思う。先導者としての先生は神を、ヒトとしてのあの人は父を。

 今度は助けてくれないのか、誰も助けてくれないのか――――そう言った慟哭で、それでも、あの人は私の引く手を拒絶した。

 

 磔刑、息をしなくなったあの人の姿を見て。その表情の寂し気なそれを見て、ようやく私は理解した。あの人は――――あの人は、ただ受け入れてくれる誰かに居て欲しかったのだ。私でなくとも良い。あの時、あの場では、私が一番最適だったから、その役割を私が負うことになっていただけで。ただ受け入れて、本当に理解しようとしてくれる相手が居て欲しかっただけなのだ。

 

 そうであるにもかかわらず、それを理解できず、勝手に動いて。だから、これは私の罪なのだと――――。

 

 そこから首を吊るまでに、時間はほとんど必要なかった。

 必要はなかったけど、望んだ結果が得られたと言うことはなかった。

 

 ケファと、お母様と、あの人の身を包みその埋葬を見届けた後で。意識は途絶えたり戻ったりを繰り返したけど、それでも私は「死ななかった」。首が延びることもなく、身体が落ちることもなく。三日とたたず、縄の方が切れた。いつまでも私のように罪の重いものを繋いでいるつもりなどないとでも言うように。

 

 咳き込んで、それでも、どうして私は死ねないのかと。嗚呼、ならばせめて、あの人の傍で、あの人と共に死ぬことが出来ないかと。

 

 番をしていたお母様の下に行き、叱られ、そして――――。先生のお身体は、そこには無かった。

 見知らぬ顔の男たちが、たぶん男たちだろう「誰か」が言うのだ。そこにはもう誰も居ないのだと。既にそこに彼の人は居ないのだと――――。

 

 

 蘇られたなどと、ケファだったら妄信しただろう。先生の身を慮りこそすれど、ケファたちにとってあの人はあくまでも救世主。そして、なによりケファたちはあの人の為したことを否定して、いまだ私のように帰ってきていないのだから。

 ケファ達に伝えた。事情を知らぬものからは、どの面を下げてと罵倒もされた。それもあってか、大半は信じなかった。ケファもまた、不思議そうにはしていたけれど、そればかりだった。

 

 私も、信じ切れてはいなかった。もし「そう」でないならば、先生の遺体は盗まれたのだと、死後もその墓を荒らされ尊厳を貶められたのだと。怒り、嘆き、そして――――。

 

 見知らぬ道筋の果ての場所で、私は出会った。「出会ってしまった」。

 何事もないように、彼は私が首を吊った樫の木の前で、それでも「見たことも無いような」微笑みを浮かべていた。

 

 私は、最初、そんな彼が誰かを知ることが出来なかった。私の知る先生の姿で、しかし、それはまるで「先生ではない」何者かのようだった。

 

『――――何を悲し気な顔をしてるのです、カリン・オーテ。救世主(わたし)が未だここに居るというのに』

 

『あ、あ、………あ――――ッ』

 

 不気味な感覚だった。不可思議な感覚だった。立ち振る舞いも、姿も、何もかもが違うというのに、私はその人が「先生」だとしか「認識できなかった」。だからこそ、いっさい先生らしからぬ振る舞いをするその様に、私は言葉が続けられなかった。

 それでも、そんな有様「であっても」、先生は先生だったのだから。

 

『救世主は、印されている。して苦しみを受け三日の後に死者の間から蘇る。……他の子らに言う言葉と、貴女は違う考えをしていましたね、カリン・オーテ』

『…………先生、貴方は、奇跡のようなことを起こすこともあった。でも、それを自らの奇跡と言うことは無かった』

『ええ』

『自らを救世主と、名指しで名乗ることは無かった。なのに――――』

『――――この有様は、まさしく「救世主」ですから。救世主(わたし)がそうあるのならば、そう名乗るのは正しいことなのです』

 

 先生の言葉を、亡くなられた後に自死しようとする前まで、述懐していた。先生が蘇ったと伝えられた後、他の者たちに伝え、救世主を売った娼婦とまで罵倒された時も考えていた。……そもそも娼婦になることすら「出来なかった」、そういった不幸すらあったとあの人に言われていた私を罵る彼らを、理解したくないものの、理解はしてしまっていたからこそ。

 

 先生の言葉の真価は――――あくまでも物質に依る私たちに、その心に、救いをもたらそうという意思なのだと。様々に縛られた私たち、しかしその誰しもがそういった「救世主」を心に宿し、死した者たちからの想いを受け取れば。正しくなくとも受け取れれば、それはやがて大きな力になると。

 

 それが、きっと「人としての」先生の言葉だったのに。だったはずなのに――――。

 

『どうして、先生は、「そんなもの」になってしまったのですか……ッ』

『嘆いてはいけません。悲しんではいけません。扉は叩かれた――――叩かれた者が求めたように、その救いが与えられたのです』

 

 つまり、何か? 誰しもが救世主を望んでいたから? 望んでいたからこそ、先生は「あんなもの」になってしまったというのか? そう在ろうとしていなかったはずの先生をここまで「変えてしまって」――――。

 

 最後に、と先生は私の頬に触れ、額にキスをして。

 

『――――貴女は、私の下から離れなさい。貴女が成したことを罪とは言いません。それは「必要なこと」であったとされるでしょう。ですが、だからこそ私は貴女を放しましょう。カリン・オーテ』

『なん、で……、なんで、ですか?』

『いつまでも「人の私」に縛られることはないのです。貴女はもう、私がいなくとも大丈夫――――唯一、十一人の中で「貴女だけが」「私を私として見てくれた」のだから』

『それでも……、そんな、それでも、先生、この罪深い私は、この女の私の身は! 一体どうすれば良いというのですか!』

『私は、天地の権能を授かりましたが……、決して、それが「真理の全て」ではありません。だからこそ、救いを求める者に、私の言葉を伝えてください。その隣の人を、愛してください。今の貴女なら、きっとそれがわかるはずです』

 

 そして手を放されて…………、姿を消した先生に、私は見捨てられたと、呆然として。

 

 そして延々と彷徨い続けた。彷徨い続け、行く先々で「先生」を、本当に神か救世主かと言わんばかりに言う他の連中(ヽヽ)を見て。そして私は醒めてしまっていた。

 

 救世主だから復活した? そんなことじゃない。きっと、あの先生は――――。 

 

 

 

 あの当時、私たちという「救いを求める」者たちの信仰心が、意図せず一つの魔術儀式のような体を為して、先生の言葉を曲解した「私たち信徒」が、あの人を救世主に「仕立て上げてしまった」のだと。

 

 

 

 だから、あの場に先生はいたけれど、「人としての先生」は残っていなかったのだ。

 それが、どれ程罪深いことか――――人としての一生を終えたはずの先生の、その人としての全てを否定したのは「私たち」なのだ。私たちが、最も敬愛していた先生を「別なナニカ」に「作り変えて」しまったのだ。「造り替えられて」なお、先生は先生だったけれども、それは間違いなく、嗚呼間違いなく、それまで受けていた先生の、人としての言葉の否定に他ならない。

 

 先生に言われた通りじゃないか――――しっかり見据えなかったから、私はこんなことになってしまったのだ。

 だから、そんな私に愛される資格なんてない……、たとえどれほど、何があったとしても。

 

 私が愛したとしても、その相手を不幸にしてしまうのなら…………、せめてそれだけはと、深く心に刻み。「悪霊」をまた私は封じ込めた。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「ふぅ。…………誰もいませんね」

 

 久々に帰ってきた仙境館で、私は自室の整理をしていました。数日は学校も休むということになってはいるけれど、それにしたって静かすぎるのも考えものね。子供達は寺子屋のような形で学習中だし、からまれて声が集まるからすぐわかる刀太の姿も、一昨日から見えない。

 雪姫様いわく、雪姫様の師匠である魔人とやらに連れ去られたということらしいですが。……何故か名指しで連れて来るなと言われていたそうで、そこだけは不服ですが、でも「手紙は預かっているから、適当に読んで処分しろ」と言われましたので、素直に受け取りました。

 

『修行が終わればほぼ完全な状態で戻ってくるだろうが、その頃にはもう少し精神も安定しているだろうさ。けど、もうちょっと自重しな少年誌的に』

 

 要約するとそのような意味合いになりますが、少年誌的に…………? いまいち理解ができないその言葉に、私もどう反応したら良いかわかりませんでしたが。

 

「危ない目に遭うなら付いていきたかったところですが……。その方があの子の素が『分裂するリスク』の低下に繋がるのでしたら、ここは我慢ですね。

 大丈夫、入団試験の時よりスパンは短いのですから」

 

 

 

「――――始動キーの登録もこれで完了だな。

 では使ってみろ、結城忍。

 まずは肩慣らしだ」

「は、はい! えっと、『スチーマ・ジェッタ・エレクトラ』――――」

 

 

 

 刀太のことを色々考えながら、私は忍が雪姫様に魔法を教わっている様を、微笑ましく、そして羨ましく見守ることにした。

 

 雪姫様への思慕と、あの子への恋慕と。

 誰しも不幸にしてきた私のような女でも。私が受け入れたように、あの子もまた私を受け入れてくれるのならば。

 

 それはそうとして、並び立つ()が増えてくれるのなら、それは大変結構なことなのですから。

 

 

 

 

 




・※参考:ルカによる福音書(口語訳)-wikisource(2022/10 確認)-


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ST169.来たる竜宮の遣い

毎度ご好評あざますナ!
1周年いつの間にか突破ァ!してたので、企画考え中です……
 
ゲストな彼女視点?は次回予定


ST169.It Doesn't Not Come People Are Waiting

 

 

 

 

 

 あれから三日ほど。体感的に、ここに来てからおおよそ一週間は確実に経過しただろうか。

 脳裏を駆け巡る夏凜の映像と喘ぎ声…………。いくら意識がなかったからとはいえ、あのレベルのやらかしをしてしまっては本当に結婚するしかないんじゃないのかな?(震え声)

 

 そんな感想を忘れ去るように、それはそれは気が遠くなるように色々見漁った。「ネギま!」劇場版FINALも見たし、FTB(師匠公認パラレル)でらしくもないくらい気ぶったり……、いや何と言うか久々に見るとルキ○(相棒ポジ)凄い可愛いな。これに反応しなかったということは、○護(チャンイチ)はやはりおっぱい星人なのは確定的に明らか(断定)。

 

「それを言ったら相棒とてだいぶ、おっぱい星人だと思うがなぁ。

 ハハハ。

 あそこまで存分に『堪能』していたら、なるほどあの聖女もエロ王女になるか――――」

アーッ! 止めろッ! まだだ! まだ負けてない! 思い出させるな星月、貴様ァ!

 

 思わず本気で切れてしまった私に、星月は何とも言えないニヤニヤ笑いを浮かべていた。その姿はエヴァちゃんのものであり、マントこそそのままだが服装はまほら学園時代の制服でミニスカートがヒラヒラしている。なおエヴァちゃんと違いニーソではなく網タイツで微妙に差別化してきてるのは一体何だと言うのか。

 っと、せっかく出てきているのなら丁度良い。

 

「一応、お前さんに聞きたいことがあるんだが……」

「あー、わかっているからあまり囀らなくて良い。

 大方、私が相棒の人格について知っていたかどうかだろう? イエス、と答えておこう」

 

 そもそも相棒の人格と安定(ヽヽ)させた(ヽヽヽ)のが私だからな、と。何ということはないように、エヴァちゃんの姿をした誰かはそう言って肩をすくめた。

 

「もう既にだいぶ気付いてはいるだろうが、相棒の人格というのは『一人がベースになっていない』。

 記憶やエピソードの不整合やら何やらはそこに端を発している」

「…………いや、他にも何かあるのだろう。言えるならとっとと言ってもらいたいのだが」

「意味もなくSAN値チェック(発狂させるスレスレ行為)はしないよ。

 真実とは、受け入れる段階というものがある。

 まぁ……、それこそあの聖女でも朝倉清恵でも伊達マコトでも誰でも良かったが、好きに手を出して自分の立脚点に安心感を強く持っていたなら、早々に話せたことではあるが」

「初めから成立しない前提条件をたとえ話に出すな(戒め)」

「おっ、ちょっと動揺して来たな。

 ククク、だから相棒は相棒だと『背教』タローマティに笑われているのだろうに」

 

 くつくつと性格悪く笑う様も含めて完全にエヴァちゃんそのものであり、雪姫になって以降はなりを潜めているドSっぽさ全開の表情である。とはいえ人工精霊エヴァちゃんよりも追撃が緩い辺りは、星月を名乗る「彼女」の地の性格が出ているのかもしれないが。

 

「…………その『背教』というのも、お前さんが師匠を呼ぶときにわざわざそれを使うのも色々謎ではあるが」

「あの真祖には『相応しい』呼び名だよ。

 それこそ『揺籠』なんてなまっちょろいことを言っているレベルではなくな。

 話を戻すが、私から言えることは多くないし、そもそも話すつもりもなかったのだがなぁ。

 まぁ今回の修行の目的を予想するに、仕方ない所もあるのだろうが」

「目的?」

「嗚呼。どうやら奴は、相棒の存在を正式に『吸血鬼もどきの魔人』から『魔人』にしようと――――――――っと、来たようだな」

 

 あっオイ、と制止をかける間もなく、星月は姿を消した。ほぼ直後にダッダッダッと漫符をつけられそうな落ち着きのない駆け足。音が軽い、おそらく師匠ではない(あの人は空間でもゆがめてるか何かなのか衣擦れの音一つしないのだ)。

 敵襲か何かかと警戒しながら、部屋の隅に立てかけてある折れた黒棒を手に取り、肩に担いで。そして扉を乱暴に勢いよく開け放って来たのは――――。

 

 

 

「――――『背教の魔女』、今日こそお覚悟ッ!」

「部屋が違うわッ」

 

 

 

 何故かヌンチャク片手に殴りかかってきた女性、コンバットスーツやら容姿やらスタイルやらから何一つ変わらず、例のメイリンであった。

 飛び掛かってきた彼女を黒棒で軽く受けて流す。血装術が使えなくともこのくらいは雪姫に仕込まれ身についている。そのままフローリングと畳の隙間のあたりにヌンチャクを落とすと彼女の手首をつかみ足払い。状況がいきなり一転して「やッ!?」と声を上げた彼女だが、特に容赦せずそのまま十字固めの体勢にもっていった。

 

「何をノックしてもしもしの一言もなく奇襲を仕掛けてきやがる貴様、部屋のテレビとか映像ディスクとか漫画とか小説とかその他諸々に問題がおこったらどう責任をとるつもりだ恥を知れ恥をッ! 具体的には私と一緒にBLEA○H(オサレ)でも見て反省しろッ!」

「な、何を――――って君は背教の魔女の弟子!? なんでこんな場所にいるんだ、城の内部は弟子も深入りさせないと聞いているのにッ!」

 

 ただ、文句を言いながらも相手の方がそこは上手だった。固めていた状態からあっさりと体勢を変えると、そのままこちらの拘束から抜け出し、あまつさえ拘束をかけていた脚をからめ引っ張り上げそのまま押し倒すような形で抑え込んで来た。いや何故そんなに早く解けた!? もうちょっと時間かかるだろう抜け出すにしてもお前! 私が彼女のヌンチャクを手から落とさせたように、今度はこちらも黒棒が手から落ちる。その後自分の胴体で私の上半身を抑え込むような形にし、脚を開いて片方を腕にまとめて、両腕を持ち上げられない体勢に肩の関節から固められた。何だこの技!? 柔道とかの類ではないぞ?

 あっそうか、超鈴音とかがいる未来の人物であるなら、格闘技とかも今の時代のものとは異なっていて不思議はないか。…………それよりタイツで押さえつけられる形なので息苦しい。胸の柔らかさとかどうのこうの以前の問題として息苦しい。

 

「ふ、ふ……! 君には悪いけれど、この場で君を倒してしまっても、背教の魔女なら弟子入りの許可をくれるだろうからね! このまま締め落とさせてもら――――あいぃぃッ!?」

 

 かくなる上は緊急脱出である。こちらは命を狙われているのだ、セクシャルハラスメントなどなんのその。どうせ未来人だし訴える先も無いだろう(適当)、タイツ越しの彼女の胸元、その内側のこちらから見て左側に「噛みついた」。別に引きちぎるとかそういうことではない。あの光線銃を使って戦っていたことから、いかにパワードスーツ持ちだろうと直接的に想定外のことをされれば動揺するだろうと言う判断だ。ほぼ直感だがこの作戦には「嫌な予感がしなかった」ので、決行した流れである。

 期待通り、メイリンは素っ頓狂な反応でこちらの拘束を緩めた――――すかさず手を抜いて、彼女の胸と腹へ手をやり押しのけた。

 

 距離が離れたところで咄嗟に黒棒を取る私と、同様に顔を赤くしながらもヌンチャクを蹴り上げ私に投げつけて来るメイリン。咄嗟の反応で叩き落としたのと同時に、こちらから距離を取りながら彼女は手元の…………、いやだから待てやめろ手榴弾かスタングレネードかわからないがもっと状況を考えろ投げるなテレビにぶち当たるだろうが!(正当ギレ)

 

「ひとまず、退散――――――――」

「させないよ」

「――――――――きゅぅ」

 

 だが、そのグレネード的な何かを投擲する直前で、彼女は背後から現れた誰かに首を軽く絞められ落とされた。いや、もしかしたら魔法アプリか何かなのかもしれないくらい、ほぼ一瞬で落ちた。首に手を回した誰かによって、それこそ一瞬で。

 気を失った彼女が崩れ落ちる。つまりメイリンによって隠れていた、彼女を落とした誰かの姿もこちらに見える訳で…………。

 

「ふぅ、これでヨシと。全く、なんで『当時の私』はこう聞かん坊だったのかな…………。むしろ協力してもらった方が話も早いかもしれないのに……。

 あー、えっと、大丈夫? 先輩」

「それ以前になんでメイド服?」

 

 その場に立っていたのは、そのままメイリンだった。髪型がおさげになっていたり、血色がよくなっているとか、色々言いたいことはあるが恰好である。

 ミニスカメイド服…………、専門職のそれじゃない、古く言えば喫茶店とかで出て来るウェイターを漫画チックにした、露出過多とも言い難い微妙なラインのメイド服である。

 

 私の視線を受けて、彼女は、おそらく「別な時間軸の」メイリンは、スカートの裾を押さえながら顔を真っ赤にした。

 

「こ、こここ、これは、タローマティのお達しで……」

「いやその名前呼んだらロクなことにならないんだろ? せめて師匠って呼ぶだけにしておけっ」

「で、でも私は別に…………、って、なんで普通に会話してるの?」

 

 私が二人いることとか色々驚かれると思ったのにとか言ってくるが、生憎とこちらは超鈴音あたりのタイムトラベルガバ(断定)などで行動の時系列がしっちゃかめっちゃかになってるとか、そんな話は十分理解できるのだ。

 おそらくメイドな方のメイリンは、発言からして師匠に弟子入りした後のメイリンなのだろう。それで、前後の事情は不明ながら過去の自分の暴走を止めるためにこの場に居ると。

 本当なら、彼女の出現によりまたパラレルワールドでも発生していそうで大変大問題だと思うが…………、まぁ師匠が彼女を捕えたり色々言ったりしていないので、この「狭間の世界」では何か上手い事やってくれてるのだろう(楽観)。

 

 ともあれ、困惑した表情のメイリンは、明らかに見た目が年下の私に「先輩」と言葉を使って何故か納得していた。

 

「相変わらず察しが良すぎるなぁ……。流石先輩ってところ、かな?」

「まあ、どうせ聞けば聞くだけガバだ、詳しくは聞かないから目的のものをちゃんと処理してから帰ってくれ」

「うん、そこは大丈夫。とりあえず『私の時間軸の』タローマティの所へ連行すればいいだけだから……」

 

 と、彼女の視線がテレビ画面に留まる。映像はちょうどダークル○ア(ポケモ○と間違えそうな名前)の襲い掛かってるシーンの一時停止。それを見て「帰ったら先輩に見せてもらおう、かな」と口元が小さく動いた。あー、どういう関係になるかは定かではないが、だいぶそちらの私とは仲が宜しいようで……。そのまま気絶した過去の自分を適当に引きずりながら、メイリンは丁寧に扉を閉めて退場した。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「呼び出しというのはまた、珍しいな……。しかも黒棒持参で?」

「ガバの洗い出しについては一旦終わったからね。内心少しは整理する時間もやったし、今日からレッスン2だよ」

 

 二人のメイリンが退去してからほどなく師匠から呼び出しがかかった。ただし迎えにきたのは師匠ではなく九郎ま…………、否、九龍天狗であった。一瞬喜色満面になりまた抱き着きそうになりはしたが、「あっ」と声を上げて咳ばらいをして従者のようなスタイルに戻った。まあ彼女も彼女で突っ込み始めると色々闇が深いから、ここはお互いにスルー一択である。……それはそうとしてコイツ、私への好感度判定で一体どうなっていることやらという恐怖が脳裏を過ったが、そんな胃痛を抑えながら彼女の誘導で行った先は、広い体育館のような部屋だった。

 

 体育館、と形容はしたが、作りは明らかに古代ローマとかそのあたりを思わせる建築様式である。何ならこの場所も扉ではなく柱で支えられていて、天井もつくりが適当で思いっきり空が見える。どう見ても屋外に設置された施設なのだが、不可思議なことにここまで移動する中特にそんなこともなく、地形構造上は間違いなくここも屋内のはず。なんなら上層階の中央付近で絶対にこの階の上にまた別な階があるはずなのだが、そんなことおかまいなしに太陽光が私の下に降り注いでいた。

 そして私と九龍天狗を待ち受けていたのは、普段通りの我らがお師匠。今回恰好から何から何まで例のドレス姿から変わらないいつも通りなので、今日は「この時間の」お師匠と考えて良いだろう。

 こちらに会うなり、師匠は「悪かったねぇ手間をかけて」と言って肩をすくめた。

 

「メイリンの認識している部屋構造をちょちょいといじって、アンタのところに向かわせたからね。そこは謝罪しておくよ」

「いや、何でそんなわざわざ面倒くさいことを……」

「ちょっとこっちも色々準備が忙しくてね。『雇用条件とか』口説くのに時間がかかったというか。ステージ自体は前から揃えてはいたが、『どの時系列の』を呼んで来るかで悩んだものでねぇ」

 

 雇用条件? と首をかしげる私に、ダーナ師匠は肩をすくめた。

 

「星月を名乗ってるあの女が言っただろうが、最終的にアタシはアンタを『吸血鬼もどきの魔人もどき』じゃなくてちゃんとした『魔人』にするつもりだからねぇ。そうでもしないと色々今後無理が生じる気配が見えて来たから、そこは覚悟しな――――思いっきり原作と種族が変わってしまうのを」

「いきなり何を爆弾発言しているのですかね(震え声)」

「生憎アタシは何度も似たような修行を繰り返すのは嫌なんだよ。飽きるから。と言う訳で、アンタの修行っていうのもそれに従って色々変わってるわけだ。

 そもそも『一周目』の経験値があるせいで、わざわざ『回天』、魔力の遠心分離を覚えずとも上手い具合に『自動回天』で使用する魔力の種類は調整できているだろう? だったらその精度ではない、もっと根本的な部分を伸ばすべきだと考えた訳だ。それこそ一周目、『地獄の王』たるアンタのそれに及ばずとも」

「地獄の王とは何だ地獄の王とは聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくないッ!? アンタ絶対わかっていてこっちのメンタルにダメージを加えているだろうにいい加減にしろッ! 泣くぞ!」

 

 それはみっともないから見たくないねぇ、とこれまた師匠は肩をすくめる。もっとも遠い目をして半笑いを浮かべているので、果たしてどこまでこちらの内心のダメージが伝わっているか……。

 いや数日レベルじゃいくら何でも落ち着かないですから(震え声)。ちょっと真面目に、指輪のサイズとか考えないといけないかなとか思い始めるくらいには色々追い詰められているので、多少は容赦をしていただきたいのだ。そういう修行も場合によっては必要なのだろうが、今回絶対そういうタイプの修行じゃないだろうという。

 

「いや、ある意味じゃ『そういう修行』と言えなくもないかねぇ。

 もともとガバを突き付けるそれはアタシのストレス解しょ……、じゃなかった、アンタ自身の今後の周囲の付き合い方と、根底にある人格どうこうについて多少は自覚させるべきだと判断していたからだが。

 ここからは、『半分くらいは』ボーナスステージさ」

「ボーナスステージだと思ったらボケナスステージだったとかではないよなぁ……」

「そう言うアンタが一番ボケナスだろうに何を言ってるんだい……」

 

 少なくとも女心に関しちゃあねぇ、という師匠の一言に、私は視線を逸らした。九龍天狗が困ったように苦笑いしている。

 

「まあ、ギリギリまで黙ってても面白みに欠けるから、スペシャルゲストをとっとと呼ぼうかねぇ。今日から数日、そのゲストと戦ってもらうよ」

「スペシャルゲスト?」

 

 そしてその一言を聞いた瞬間に、嫌な予感……なのだが、妙に温い感じと言うか、気恥ずかしい感じと言うか、今まで感じたことのないタイプの感覚に襲われる私である。特に何処かに誰かが隠れている訳ではなく、師匠が「直接呼び出す」とかそんなところなのだろうが。それにしたって妙に場を無理に盛り上げているというか……、って九郎丸お前なんで横でドラムとか叩いてるんだそれ? いやさっきまでドラムなかったろうどこから出て来た。ご丁寧に小太鼓の方を「ドルルルルルルルル……」とドラムロールして、いつでもシンバルを叩ける態勢を整えている。意外と器用なものだった。

 

「こっちの目的としてはディーヴァ・アーウェルンクス対策ってことになるかね? 百パーセントとはいわずとも、『人間の肉体』のままなら、少しは良い経験になるはずさ」

「良い経験って――――――――いやちょっと待て」

 

 不意に私の脳裏に、ある「最悪の可能性」が過ったのだが。それを口にするよりも先に、九郎丸のドラムロールが「ダダダンッ!」となり次の瞬間、私の前方の一角が「爆発した」。厳密にはこう、大きな音と閃光とでよくわからないようになっているのだが、さっきまでのノリを見るに師匠的な演出なのだろう。

 

 果たしてそこに現れた誰かは――――――――。半袖のシャツにブラウスの着こなしやらネクタイの感じやらは中学時代からそう変わってはいないだろうが、それはそうとして身長やらスタイルやらは当時よりもよくなっていて、普通にグラマラスなモデルさんの雰囲気である。なんなら超・高校生級と言ってよい長身美人なその彼女は、愛も変わらずポニーテール姿で、左右を見渡して「ここ、どこかな……?」と言いながら恥ずかしそうにスカートを押さえていた。嗚呼そうだね、爆風でひらりと捲れちゃいそうになってるからね、普通の(なおかつ少し無口な)女子高生ならそういうリアクションにもなるか……。なお爆風でひらひらしてるのはモミアゲの長髪もポニーテールも同様で、それらの見た目を総合した結果、結論は一つであった。

 

 

 

「レッスン2のスペシャルゲスト、大河内アキラさんだよ」

「――――――――」

 

「へ? へ? えっと、あの、ダーナさん、でしたよね? どうしたのかな、彼。何かいきなり泣き出しちゃって……、えっと、とりあえず大丈夫か? 君、その、泣かないで泣かないで……、あー、『ネギくんも』こんな顔したことなかったし、どうしたらいいか…………」

 

 

 

 アニメの映像ディスクなどで直近声を聞いていたせいもあり、露骨にストレートにダイレクトに一切まごうことなき大河内アキラのその召喚に。おそらく高校生時代の彼女のその出現に、もうなんか私もメンタル的に限界を超えた。

 いや確かに、彼女の魔法具(アーティファクト)竜宮の遣い(イニシレート・セイレーン)、現在ディーヴァが使用してるそれに違いは無いんだけどさぁ…………。もうちょっとその、手心ってものをですねぇ…………。

 

 わけもわからず私の頭を撫でて「と、とにかく落ち着こう。深呼吸して、ね? えっと、スポーツドリンクあるけど飲むかな」と問いかけてくれる彼女が、一先ず心の癒しであった。あくまで、一先ず。

 

 

 

 

 



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ST170.心で視ろとは言わないが

毎度ご好評あざますナ
 
チャン刀ちょっとキモいの注意・・・、これでも削った(言い訳)


ST170.Training Of Empathy Ability

 

 

 

 

 

「えっと……、大河内アキラです。よろしく…………(ネギくんよりはヤンチャそうだなぁ。……けっこう可愛い)」

「あー、神楽坂(ヽヽヽ)菊千代(ヽヽヽ)です。よろしくッス」

「うん。…………おや、神楽坂? えっと、古風な名前なんだね」

「えっ? あー、確かに言われてみると確かに。映画とかに出てきそうだし。……」※む、無意識で向けられるスマイルに照れている。

「クス、どうしたんだ? キクチヨ君」

「ひぅ!?」

「ちょ、ちょっと本当にどうしたのか? 熱でもあるわけでは、ないよね多分」

 

 そりゃあ最推しの彼女にそんな年上のお姉さんが子供の面倒を見るような距離感で迫られたら色々情緒壊れる(断言)。心配そうにこちらに歩み寄ってくる大河内アキラに「大丈夫だから」と制しながら深呼吸。悪いがこれ以上接近を許したら心拍数がぶっ壊れて死ぬ(断言)。そういうのはもうちょっと慣れてからするべきだ。あと背後からの九龍天狗の微妙な視線をやめさせてもらえませんかねぇ師匠(遠目)。

 

 さて。万が一にもないだろうが、超をはじめ彼女まで出て来てしまっては「ネギま!」時代へ私がタイムスリップするようなガバの発生も懸念しないといけないだろう(震え声)。ということで、女子高生な大河内アキラに対して私はこちらの名前を名乗ることにした。万一彼女の口から、あちら側へ「近衛刀太」という名前が漏れることも問題だが、そもそも彼女がどういった時空からこちらに呼ばれているのかすら定かではないので、出来得る限りUQホルダーの情報は与えるべからず、というわけである。

 水無瀬小夜子の時も思ったが、世の中こう妙にデリケートなバランスで物事が成り立っている場合も多い。師匠のことだからそのあたり上手くやっているのだと仮定しても、情報の取り扱いは慎重に、である。……キリヱループ一周目の私ですらガバやらかすくらいなのだからそこは当然の警戒だった。

 

 では一呼吸置いて、改めて。目の前の大河内アキラを中々直視しづらいものがあるのだが(眩しすぎて死ぬ)、本来この世界に生まれただけでは絶対に有り得なかったろう奇跡の一つである。ここはその奇跡にあやかって、しかし不審がられないように気を付けながら観察しよう。

 こちらの反応を見て心配そうにしていたが、私の表情を見てとりあえず安堵する可愛い(可愛い)。少しおっとりしたように見えて自分の芯を強く持ち、それ故に実は周囲から一歩引いて観察していたり意見を出したりすることが多かった彼女である。魔法世界編を経験した結果、意見を表出することに自信がついたのか、その芯の周囲を思いやる部分が強く出た後半以降、そのままの大河内アキラであることが表情やら動きで判断できた。つまり物凄い気恥ずかしい。何故か知らないが視線もどこか好意的であるし、これはネギぼーず同様に私も子ども判定を受けたという所か。にぱぁ♡ とでもいうようなアニメ版「UQ HOLDER!」冒頭の過去映像にあったそれを猛烈に思い出す安堵の笑みである。

 また彼女だが、基本的にメディアでのアイテム化の場合高確率で制服か水着かに集約される彼女だが(ごくまれに仮契約コス)、その例にもれず制服姿だ。ただしついさっき考えた通りに高校の。ベースは中学の制服だが全体のデザインラインやら色の強さは夏凜が着用しているそれに近い。確か原作だと中学での制服だったはずなので、この世界では中高共用の代物ということなのだろう。つまり彼女の進学先は夏凜が通っていたところの系列である可能性が高いとみるべきか、あるいは「作画コストを減らすために」同じデザインのものにわざわざしたか(メタ)。ただ明らかに身長は私や夏凜よりもはるかに大きく、その分すらっと、しかし引き締まってグラマラスに見える。身長はひょっとしたら 180 センチまでいっているかもしれない分、より体形のメリハリが協調されている。運動部らしく華奢ということはなく、しかしゴテゴテと筋肉を魅せるような鍛え方ではないのは彼女なりに気を遣っているのだろうか、服の上からわかる情報としてはそんなところ…………、いやスカートはもっと膝まで降ろせ短い、ドキドキしちゃうだろ(戒め)。

 

「えっと、凄い見られてる……?」

「――――ハッ!? あっスミマセン、ぶしつけでした……」

 

「まぁ許してやりな、大河内アキラ。そこのキクチヨは、アンタみたいなのがモロにタイプだからねぇ。色々混乱してるのさ」

 

 おい馬鹿止めろマジで止めろ一体何がどうなってそんな話を本人に提供するなんてガバやらかしてるんスかねぇお師匠様よォ!!?

 内心の口調がちょっと三太めいてしまう私はともかく、大河内さんは「えっと、はぁ……」といまいち要領を得ていないリアクションである。意外とそういうのに疎いのだろうか。周囲には気を配ってる分、自分にはあまりそういう気を回していない………………、ネギぼーずとの仮契約の流れがまさにそれだったか。

 

「要は一目惚れみたいなもんだねぇ。ちなみに性格もアンタみたいなのがタイプだから、まぁせいぜい揶揄ってやりな」

 

「えっ!!?」

「いや流石にそれはアウト! 何考えてるんだお師匠ォ!」

 

 なおそんなことで逃がしてくれるダーナ師匠ではない模様。私の内心の動揺やら早口やらを察しているのか、それはそれは珍獣でも見るような随分とお愉しそうな笑顔でいらっしゃられますね(震え声)。

 案の定というか、大河内さんは大河内さんで顔を真っ赤にして「えぇ……」と引いているわけではないが困惑しきりであった。いやそんなこと言われたってこっちもリアクションとれないので真面目に止めてもらいたいのだが(震え声)。というか彼女の配偶者については原作で欠片も言及されていないとはいえ、流石にここで何かしら妙はフラグが建つこともないだろうというのは、流石に予想してしかるべきである。こんな風に登場させる以上は師匠的に私たちの間にフラグは発生しないと見込んでいるのだろう。でないとそれこそ訴訟ものだ。

 

「カモくんみたいな揶揄いとかじゃなくって、す、す、ストレートにそんなこと言われたのは、初めてだ……」

「そうッスか(震え声)」

 

 もっともあのリアクション具合なら、子供扱いの域は出ていないからこれはセーフ! セーフである誰が何と言おうとセーフッ!

 とりあえず話にならないのでその話は置いておこうと彼女に一言断って(猛烈な速度で首肯を繰り返していた)、改めて師匠に話を進めてくれと言う。「もうちょっと遊んでいても構わないんだがねぇ、せっかく『最推し』なんだから」とか余計な気を回した人ことを言ってきた彼女を軽く睨みつけるが、どこ吹く風で「一生に一度あるか無いかのイベントだっていうのにねぇ」とか言ってきた。いやこちらとしても内心はだいぶ浮足立っているが、それ以前に今までの好感度ガバ関係だの夏凜だの何だの色々突っ込まれまくった結果既にキャパオーバーである。うっかり「好きです結婚してくださいッ!」とか口走らないために色々と胃が痛いのだ。我ながら情動がストレートすぎて気持ち悪いが仕方ない。

 

「え、えっと……、何かこう、ごめんね」

「いや、問題ないッスから大河内さんは…………」

 

 ただまぁ一つだけ言えるのは。

 この世界に生まれて来たとしても、絶対にありえなかった邂逅ということで。それはつまり、せっかく「ネギま!」世界に生まれたとしても物理的に不可能な遭遇でもあるということなのだ。

 

 そこだけは内心、師匠に少し感謝しながら…………、でもこの後彼女と戦わないといけないのかという事実に、軽く戦慄せざるを得なかった。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

来たれ(アデアット)――――竜宮の遣い(イニシレート・セイレーン)

 

 魔法具(アーティファクト)を召喚する大河内アキラだが、衣装は「ネギま!」本編で見た格好とも仮契約カードのものとも違うタイプの水着姿になっていた。下半身は例によって拘束服のような海生哺乳類を模したもの(おそらく本体)となっており、頭のリボンは大きく、両腕の手甲もよりスマートで動きやすいように。それでいて胴体あれは……、完全に貝殻ビキニなのでは?(震え声) 当人もだいぶ恥ずかしがっており、それがますます私の視線を吸い寄せる。とはいえぶしつけだし失礼だし嫌われたくないので(重要)、頑張って彼女の顔を見た。うーん、原作のそれを実写化したイメージに個人的な趣味もあったのだろうが、本当原作そのままという感じで大変可愛らしいし綺麗だし格好良い…………。ドラマ版ともまた違う、しかし、しっかりとした美少女という容貌である。好き。

 

 大河内アキラについて……、いやもはや散々今まで名前とか容姿とかだけは愚痴ってきていたが、まあ「私」の最推しである(断言)。とはいえその「私」というのも一体何がどこからどこまでを「私」と規定して考えて良いのか分からなくなって来たがまあ、「受け入れてもらえた」のだから、そこは一度考えないことにしても良いだろう。

 話を戻す。大河内アキラ。漢字で書けばおそらく大河内 晶となる。言わずと知れた「ネギま!」31人のクラスメイトの一人で、水泳部所属な期待のホープだ。原作前半期においては口数少なく声も小さく、しかし周りをよく見て気遣える可愛い人であった。好き。

 そんな彼女は原作初期からちょこちょこ登場しており(ちなみに最初に「ネギぼーず」とネギ・スプリングフィールドを呼んだのも確か彼女だったはずであり、私はそれにあやかってネギぼーずと呼称している)、画面の隅に描かれたり、あるいはセリフやら運動部としての活躍やら、案外ネギぼーずのことを「可愛い」と思っていたりというような描写が多かった。このあたり「ラブひな」の素子はん(そっくりさん)との差別化もあったのだろうが。そんな彼女の活躍が本格化するのは彼女メインの回よりはるか先、いわゆる「魔法世界編」以降となる。

 そこでの彼女は、色々あって商売奴隷(えっちな意味ではない、はず)とされてしまったり、慣れない風習やら知り合いのほとんどいない環境で揉まれたせいか、控えめだった部分がだいぶ消し飛び、持ち前の優しさと芯の強さ、お姉さんらしさが全面に押し出されたそれはそれは大変に素晴らしいお人へと開花した(断言)。それでいて自覚なくちゃっかりした発言をたまーにすることもあって、全体的に素子はん(そっくりさん)に近づいてしまった面もあったが、それでも独自性を保っていたのはひとえに彼女がお姉さんぶっていたからだろう。

 

 さて、そんな彼女の戦闘力であるが…………。「ネギま!」においては最後のネギぼーずとの仮契約者であり、魔法具(アーティファクト)はズバリ「竜宮の遣い」、つまりはディーヴァのそれと同様のものである。おお怖い、好き。

 つまりは彼女もまた、水を経由した転移能力者であるといえる。加えて…………、おや? 何やら水着のデザインに困惑しているご様子だ。基本的に、仮契約カードの衣装はデフォルト以外は任意設定のはずなのだが、意図的でないのか? 開き直ったのか隠さなくなったが、それにしたってプルプル震えている。

 

「ご、ごめん。やり辛いよねこの格好だと…………」

「まあ確かにそうなんスけど……、そもそも何でその水着?」

「それは――――」

 

 どうやら新しい水着を新調しに行こうとしたとき、柿崎(3-Aエロ女王)を始めとするチア三人組に捕まった結果、色々と好き勝手にコスプレまがいの恰好をさせられたらしい。着用したもので似合っていたものを彼女たちの好みで選ばれて、さらには奢られて手前受け取らない訳にもいかず、それが回り回って現在に至る、と。恥ずかしがっててうん可愛い、好き。

 

「いやでも、ちゃんとした水着も買ったんスよね?」

「か、カードにもそう設定してあったはずなんだけど、おかしいなぁ……」

 

 と、なんとなく師匠の方を見ると、ニヤニヤしながらも視線を少し逸らした。これは確定ッスねぇ、騙るまでもなく犯人が落ちた(断定)。

 さてどう問い詰めるものか、と思いはしたが、師匠は「まあそこは安心するんだねぇ」と言い訳をかましてきた。いや、言い訳というよりは正当な理由なのかもしれないが。

 

「そっちの方がアンタ的にはちゃんと修行になるだろう。それとも? ぽろりした方が元気になってやる気になるかねぇ」

「ひッ!?」

「いや完全にどうなんスかその発言……。というか全然そんな気はないんで、怖がらないで、怖がらないで、傷つくッス」

「え? あ、ご、ごめんなさいだ。…………やっぱりこう、一筋縄じゃ行かない人みたいだね」

 

 いくらエヴァンジェリンさん経由でのアルバイト紹介とは言え、と大河内アキラは深呼吸して気を引き締める。…………ただ左手が胸元に添えられたままなので、これはどう考えても私というか師匠の発言を警戒してのものだろう。嫌われているわけではないが、一般的な女子としてそれくらいの防御姿勢はむしろ安心する。好き(挨拶)。

 

「いくら頭の中とはいえ、好き好き言いすぎじゃないのかいアンタ……」

「あの今回ばかりは本当にお師匠が色々言う権利ないと思うんスよ。

 で、えーっと…………、結局は殴り合い、でしたっけ?」

 

 黒棒を構えながら確認。折れたその刀に不思議そうに「大丈夫?」と聞いてくる感じが本当に初対面だというのに普通に心配してもらっている感じがして非常に安心感がある。好き(挨拶)。

 そんな私の内心はともかく、嗚呼、と言いながらお師匠は私と大河内さんをそれぞれ指さし、そのまま空へと向けた。天気が…………、曇ってきた? いや、室内だろうそれはいくら何でもおかしい。おかしいのだが、師匠がやらかしてることなのでこのくらいの不条理わけないという確信もあって実に嫌な感じである。

 

「とりあえず今日から数日間、キクチヨとアキラには殴り合いをしてもらうよ。そこのキクチヨは『桜咲刹那の剣術』ではないが、それと戦えるくらいの実力は持っている。そんなキクチヨに、お前のその事実上『瞬間移動するタイプの』魔法具での戦い方を覚えさせたいんだ」

「瞬間移動するタイプですか。といっても、あの、ダーナさん? 私のこれって、確かカモくん曰く、移動するのに色々制約が…………」

「そこは心配しなくても良いよ。ホラ――――」

 

 言った瞬間、頭上からいきなり「バケツをひっくり返したような速度と量で」猛烈に雨粒が降り注いだ。一瞬、滝のように、その後は大雨洪水警報が出るレベルでザーザー振りである。和服も下着も濡れ濡れであり、ちょっと気持ち悪い……。対する大河内アキラは恰好が格好なので全然余裕そうだが、いきなりの衝撃にびっくりして少しバランスを崩していた。わざわざ私が駆け寄るほどのふら付きでは無かったが、しかしむしろ私の方に「大丈夫か?」と声をかけてくるのはどういうことなのだろう。一回二回くらいならともかく、わざわざ何度もとなるとこれは…………。

 段々と雨が弱まっていくが、見る限り体育館もどきなコロッセオもどき、そのいたるところに水たまりが出来、なんならそれでも雨はやむ気配はない。

 

「これならいくらでも転移できるだろう?」

 

 なお犯人たる師匠は傘すらささず「一切濡れていない」。雨の方がまるで彼女を避けるかのように「歪んで」降り注いでおり、このあたり能力のお陰と言われればそれまでだが、微妙な理不尽さを感じた。

 

「じゃあ、始めようか。基本的にそこのキクチヨは雇用条件にあった通り『死なない』から、自由にぶん殴ってやりな」

 

「ちょっとなんか私の扱い雑じゃないか師匠ッ!?」

「えっと、いいのかなぁ…………。と、とりあえずお試しってことで――――」

 

 言いながら大河内さんはそのまま空中にジャンプ! それと同時に彼女の身体に当たった水の礫の群に吸い込まれるように姿が掻き消える。ディーヴァのように「水そのものを」操作してこないだけまだマシといえるが――――――――。

 

「――――えいやッ!」

「はいィィっ!?」

 

 か、身体の反応が微妙に追いつかなかった。「嫌な感覚」自体は四方八方に点在している状態から、一気に正面に収束したとはいえ、そこから黒棒を構えて受け流す動作が間に合わない。出現したん時点で、大河内アキラは既に「拳を振りかぶり」「突き出す途中で」現れている。こちらの想定よりも1、2テンポほど動作が早く、こちらが遅れてしまうのだ。

 お陰で受け流しきれず、生身の状態のまま吹き飛ばされるに至る。転がり、わずかに口の中を切った。もっともこの程度では「金星の黒」もロクに仕事をしないのか、血装術の準備すらままならないと来ている。

 

 と、体勢を立て直そうとした次の瞬間、「鼻先数センチのところに」彼女の拳が――――。

 

 

 

「――――やッ! っと。………………って、あれ? ちょっと!? 大丈夫か君! しっかり、えっと、キクチヨ君?」

 

 

 

 ……何と言うかこう、いいように大河内アキラの「力持ちパンチ」をモロに喰らってしまった。人中が痛い。痛いのだが、しかしこれでもまだ「扉」との繋がりを掴めるほどにエネルギーの引き出しは行われず、再生も常人のそれよりははるかに早いが「普段ほど」ではない。

 どうやら思いの他…………、どころの騒ぎではない。「死天化壮」が使えないというこの状況、私自身が思っているよりもだいぶ危険な状態であるらしい。スラムの時はほぼ意識していなかったが、それこそ内血装すら使えない状況で今の戦闘力となると。「認識した瞬間に」防御できる死天化壮もなく、「遠距離へ高速移動できる」活歩を扱えないとなると…………。

 

「あー、鼻血が…………。ちょっと止まるまで待ってください。

 で師匠? もしかしてなのだが『剣術と勘だけで』どうにかしろと?」

「ちょっと違うんだが、まぁ『気付く』まではその理解でも構わないねぇ」

 

 降りしきる雨の中、鼻を横から押さえて血を押さえようとしてる私と、やれやれと言わんばかりに肩をすくめる師匠。そんな私たちの間を、顔を赤くして「ほ、本当に大丈夫かな、あの子……?」と何やら逡巡しているらしい大河内アキラ。

 

 一言、いわせてもらいたい。何だこの状況(白目)。

 

 

 

 

 



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ST171.あくまでこの一時に限るはず

毎度ご好評あざますナ!
冒頭「ネギま!」注意……


ST171.Short-Term Part-Time Fight Job For Her

 

 

 

 

 

「アキラー! とうっ!」

「わっ! ……亜子? どうしたんだ」

 

 まだ太陽も眩しい初夏の帰り道、クラスメイトの和泉亜子が私に抱き着いてきた。

 時間はまだお昼時。ゴールデンウィークの部活動、今日は朝練。なんでもプールの改装が入るとかで、しばらくは使えなくなるらしい。

 

 上級生は大会前の追い上げなんだけど、丁度このタイミングでの改装工事は、学校の方でも色々トラブルがあったってネギ先生……、いや、もうネギ君って呼ぶのが正しいか。その彼に聞いた。

 

 他のチームメイトたちは、市民プールとかに行こうと計画を立てているらしい。

 インターハイの成績を考えると、私も何か別な場所で練習をしないといけない。

 

 だから、久々に彼女の、エヴァンジェリンさんの所に行って例の「別荘」を使わせてもらおうと思ったんだけど…………。

 

「どうして、そんなに涙目なの…………」

「うぅ~、アキラぁ、うらぎりものぉ~~~~~~!」

「え、えぇ!?」

「そーだそーだ! うらぎもの~~~~ッ!」

「わっ! ま、まき絵までどうしたのっ!?」

 

 少し白っぽい髪の亜子の背後から、明るい色の髪をした佐々木まき絵が「わー!」と飛び掛かってきた。二人とも涙目で、わんわん言いながらぽかぽか殴ってくる。そんなに強くはないけど。

 なんとなく、漫画とかの2頭身くらいのキャラクターみたいな可愛いイメージがする…………、じゃなくて。

 

「朝倉さんから聞いたもん! アキラちゃん、ネギくんとデートしてたーってッ!」

「せやせや! 遊園地いって、ショッピングモール入ってとか色々で揃ってるもん!」

「貝殻ビキニとかスリングショットとか!」

「ウチらに対する当てつけー!!?」

 

「えっ、えええ……?」

 

 先週末! そうそう! と。二人とも泣き出しそうな風にこっちに迫って来て、ちょっと困った。

 人目もあるしこう……、いや、麻帆良じゃそんな騒ぎは日常茶飯事か。みんなあんまり気にしてないみたい。

 何だケンカじゃないのかとか、トトルカチョできないとか、修羅場修羅場♪ とか、あと美空と一緒に魔法世界に行ってたあの小さい子が「じーっ」と私たちを見てた。

 

 いや、修羅場ではないから、流石に、絶対…………。

 

 とりあえず場所を移させてもらって、三人でエヴァンジェリンさんの別荘へ。

 入口では、茶々丸さんがその……、またこう、私とか亜子とかが向こうでさせられてた服みたいなのを、可愛くしたメイドさんみたいな恰好をしている。

 

「あぁ、こんにちは。アキラさん。先日はどうも。……おや、佐々木さん達まで。

 マスターは現在、朝寝坊中になります。三時のおやつには起床されると思いますが、御用でしたら――――」

「それは……、どうしようかな。別荘を借りたくて来たんだけど」

「では、少しお待ちください。サンドイッチとアイスティーをお出ししますね」

「あ、ありがとうございます……」「茶々丸さーん、お茶菓子もお願いねー♡」「な、何かご飯、たかりに来たみたいになってない? ウチら……」

 

 まき絵、もうちょっと自重して…………。

 あっ、でも出してもらえるなら、私ももらおうかな。実際お腹はだいぶ空いてるんだ。本当なら女子らしくなくラーメンとか食べにいこうかなって思ってたくらい。

 

 部屋のソファに腰を下ろして、私たちは顔を合わせてアイスティーを飲む。……あ、美味しい。まだ春とはいえ、夏場の始まりだから特に。

 

「って、涼んでる場合じゃなーい! アキラちゃん、きっちり説明してもらうからね! きーっちり!」

「うんうん」

「わわっ!? せ、説明といっても…………」

 

 また漫画みたいな可愛い感じになっているよ二人とも……。でもまあ、ネギ君も忙しいから。二人とも、あっちに直接聞きにいけないくらいに、ネギ君はオンの時とオフのときの忙しさがけた違いに変わってしまっているし。

 

 テラフォーミング事業? を始めとして、色々と東奔西走しているらしいというのは、宮崎たちから聞いた。

 魔法具(アーティファクト)の関係で、何度か助けに行ったこともあるけど、そんな私だって関われるのは部分部分。

 

 それでいながら、麻帆良での教職も英語だけは残っているし、フェイトに代打しないで自分でやれるようになってきてるから、はっきり言ってスーパーマンだと思う。

 

「で、そんなネギ君と、なんでアキラがわざわざデートしてたん?」

「あー! さてはひょっとしてアキラちゃんも……!」

「い、嫌……!? 違う違う、そういうのじゃないって」

「怪しい……」

「ねー。中学の時も、そう言えばずーっとネギくんのこと、可愛い可愛いって言ってたしー…」

「なんか、フツーに体育祭の時に仮契約とかもしとったみたいやしー……」

「仮契約は不可抗力だよっっ!!!!! それに二人とも、その、何とも言えない目は止めてってば…………」

 

 ジーッと、白目でも剥いちゃいそうになってるな……。せっかく可愛いのに台無しだ。そんなにネギ君と一緒に出掛けたのが問題だったのか。

 いやでも、最終的には柿崎たちに巻き込まれて、私とネギ君とを着せ替え人形にしちゃって遊んでたし…………。結局本題のところ、ネギ君の悩みは解消できなかったし。

 

「「ネギ君の悩み?」」

 

「うん。ほら、アスナが居なくなってから……」

「あー確かに、色々大変だもんねー」

「でも全然、泣きそうにはなってへんよね? ネギ君って」

「うん。たぶん、色々抱えて走って行っちゃうタイプの子だから。で、長谷川から様子見を頼まれてさ」

「なんで千雨ちゃん?」

 

 自分でしないの? というまき絵の一言一言。私もそれは思ったけど、あれはきっと長谷川なりのネギ君への気遣いだ。

 長谷川いわく「なんつーか私に対しちゃ、神楽坂相手よりもガンコになっちまってるからなぁ最近。話を聞き出そうとしても、たぶん誤魔化して逃げられるオチだな。その点、お前なら案外ぽろっと零すんじゃねーかと思ってな」と。

 

 実際その読みは間違ってなくて、少しとっかかり、みたいなのは聞けたから、あっちには伝えたんだけど…………。

 

「それで、聞き出すのにいきなりじゃ警戒心が強いから、一緒に色々遊んで回ってからの方がいいってことで、だから私がネギ君に悩みがあるって体で時間をとってもらったんだ」

「千雨ちゃんが…………」「どんな悩みだったん?」

「それは、私の口からはちょっと言えないかな……、ね、ネギ君の色々、繊細な部分だし」

「あー、でもネギ君とデートかぁ……。最近、あの年齢操作するお薬でちょっとナギさんっぽくなっとるし、ええなぁアキラ。ウチ、そのままネギ君とデートしたらむしろ負担なりそうやし――――」

 

 

 

「――――何やら面白い話をしているじゃないか、貴様ら。

 嗚呼、実に興味深い。

 あのネギ(ぼーや)がどうしたって?」

 

 

 

 わわわっ!!! と、私たち三人で声を上げてしまった。半二階の上から、ゆらりゆらりと眠そうに下りて来たエヴァンジェリンさん。相変わらず綺麗で長い髪をしていて…………、このメンバーの中で最も容姿が変わっていなかった。

 

 恰好は何かこう……、えっと、体格は十歳なんだけど、その露出度はその、どうなんだろう…………、こっちまで顔が赤くなっちゃいそうだ。

 

「マスター、これを」

「ん? ボタン式のシャツ…………、あー、まあ暑いしこのままで良いだろう。

 関東はどうもジメジメしていかん。

 ……せっかく居るんだ茶々丸、私にもアイスティーだ」

「かしこまりました。チャチャ3?」

「承知しました、お姉様」

 

 えっと、茶々丸さんの背後に、いつの間にか色違いの茶々丸さんみたいな人が出て来てて…………、妹? えっ? また新しく出来たってことなのか。

 混乱する私たちを気にせず、一番奥の上座、長方形のテーブルの尖った場所へ陣取り、ニヤニヤしてくるエヴァちゃん。

 

「しかしまさか大河内、お前までぼーや争奪戦に参戦とは……。

 ククク、神楽坂のアホが見てたらさぞやきもきしたことだろうなぁ」

「それは違うっっっ! というよりエヴァンジェリンさん、その顔は絶対聞いていた!」

「そりゃあ、こんな間近で大声で騒がれていたらな。

 私の入眠時間を何と心得る貴様ら、と揶揄いたくもなるさ」

「エ()ちゃん、ちゃんと朝は早起きしないと駄目だよー?」

「いや佐々木まき絵、貴様はまず吸血鬼へ朝早く起きろと言うことに疑問を持て」

 

 その調子でよく魔法世界を生き抜いたなお前と明石は、とエヴァンジェリンさんは、やれやれとため息をつき肩をすくめた。

 

「もっともそんなことを言い出せば、あのぼーやとて似たようなものだがな。

 ククク、それはそうと…………、大河内アキラ。実はお前に用事があったんだ」

「私に用事?」

「客が来てるんだよお前に。

 私にとっての師匠…………、というにはクセが強すぎてそうと認めてやるものかと言う感覚ではあるが、まあ腹立たしいことに否定する材料の方が少ない状況にある女だ」

 

 アルバイト代も出すし水泳の練習も出来るようにしてやるから少し手を貸せだそうだ、私は会うつもりはないが。

 

 エヴァンジェリンさんのそんな言葉に、私は、はぁとしか返せなかった。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「…………それで、顔合わせをして雇用条件と、こっちに泊まりだって話を聞いて、色々通して準備して来たのが今なんだ」

「いや、俺もはぁとしか返せないんスが…………。あと一つ聞いて良いッスか?」

「何だい?」

 

 

 

「何で俺、今膝枕されてるんスかね」

 

 

 

 私の一言に、「ごめん、つい……」と少し照れながら悪戯っぽく微笑む大河内アキラは間違いなく私のメンタルには大ダメージであり(性癖的な意味で)、口から告白まがいのことを口走らないため太ももを思いっきり抓って我慢だ。痛い。

 

 あれから師匠に従って特訓…………、竜宮の遣いによる瞬間移動とそれに対応するための訓練を重ねていた私だったが、状況は一方的だった。本来なら吸血鬼的(魔人的?)体力も消耗しないはずなのだが、現在の肉体では生憎そうもいかない。疲弊するだけ疲弊して、振り回されるだけ振り回された結果が今の状況であり、端的に言ってバテバテで五体を投げ出していた。

 もっと言うと、一度は気絶した。疲労からの気絶であり、ある意味では生命の危機なので「不死者的には」ここでようやく再生がかかったのだろうが、そうとは知らないのが大河内アキラである。師匠や九龍天狗の姿はそこにはく、おろおろした結果、柱の陰で私を膝枕することにしたらしい。膝枕の是非はともかく、柱の陰は確かに雨の範囲外になるので、再生中とはいえ身体を冷やさないためには間違っていないだろうが…………。

 

 とはいえ膝枕は大変心地よいもので結果として頭が痛い(白目)。

 

「もっと寝なくて大丈夫? さっき凄い顔色していたから、えっと、キクチヨ君」

 

 こっちの反応をどうとらえたのか不明だが、そっと額を撫でてくれるのもこう体温的に少しひんやりしてて悪くないのですがそれよりもむずがるように太もも動かすのを止めてもらえませんかねぇ特にソックス長い訳でもスカート長い訳でもないからダイレクトに体温と体温が接触してしまい脈が聞こえるのだ。

 実際現実でやると痺れるとか毛が邪魔とか汗疹になると面倒とか「私」的な女性づきあいで学びはしたが、気候的な問題もあって汗疹やらの心配はないし、案外しっかりした太ももの弾力には痺れている様子はまるでなかった。このあたり、色々鍛え方が違うのかもしれない。

 

 それはともかく。目を覚まして当然のように混乱した私に「無理するな、大丈夫。お姉さんは君を襲ったりしないから」などと向こうも混乱したようなことを言い(混乱)、そして事情を説明するように色々と話した末に今に至る訳だが。

 そっか、旧3-Aエロ女帝率いる三人に、ネギぼーず共々着せ替え人形にされちゃったのか…………、ネギぼーずもあの貝殻っぽいの見ちゃったのか、そっかそっか…………。いや、何だろうこの下っ腹がぐらぐらする精神的に痛い感覚は(白目)。

 

 まぁそれはともかく。今の私の口から出て当たり障りないだろう感想は。

 

「とりあえず知らない名前が多いなーっつーことで」

「あっ、それは、ごめん。えっと、亜子とまき絵っていうのは、中学からの友達で、クラスメイトだった子たちだったんだ。今は亜子とは一緒のクラスだけど、当時のクラスは今でもよく集まるし…………て、そういう話じゃないな。

 うん、とにかく友達と色々やってたら、エヴァンジェリンさんって子から言われてね。それで、今日から数日間はアルバイトということで、こっちに寝泊まりすることになるんだ」

 

 とはいっても場所はわからないんだけどね、と苦笑いする彼女にもはや何といったらいいか…………。確かに一朝一夕で、今の身体能力での対応が出来るとはとても思えないのだが、それにしたって師匠は私をどうしたいのかと文句を言いたくもなる。何だ? 慣れろってか? ここで大河内アキラに慣れておけば夏凜と顔を合わせても何とか乗り切れるって?

 

 

 

 ……………………ちょっとその、一理ありそうで否定できない(震え声)。

 

 

 

「あぁ……、キクチヨ君、顔色が悪くなってる」

「だ、だ、大丈夫デス」

「本当に大丈夫かな…………。ダーナさんからは、ツバつけておけば治る、みたいなことを言われたけど」

「一体あのお師匠は俺のことどう紹介してたんスかね……?」

「えーっと…………」

 

 指を唇にあてて上を見上げて考え込む姿勢が大変美人である。好き(好き)。

 

「エヴァンジェリンさんよりも出来が良い吸血鬼で、色々あって能力を封印されてて、あと女の子にモテモテだって」

「最初のはよく判らないッスけど、一番最後のはどうなんでしょうねぇ…………」

「駄目だぞ、女の子の心を弄んじゃ」

「別に何もやってないのだが(震え声)」

 

 むっとしながらめっと軽くお叱りしてくるのはともかく、その仕草が両手の人差し指で私の頬をツンツンしてくる挙動なのは一体どういう心理なんでしょうかね…………。完全に子ども扱いのつもりなのだろうが、こちらとしてはドキドキしっぱなしで何かがおかしくなってしまいそうだ(※すでにおかしい)。

 

「私は真剣に諭してるんだから、そんな嬉しそうな顔しちゃ駄目だ」

「えっ? あー、はい、済みません。でもちょっとこればっかりは…………」

「ま、まぁ…………、ストレートに、た、た、タイプなんだと言われて悪い気はしなかったけれど、それはそれ、これはこれ」

 

 言いながらもちょっと頬を赤くしてらっしゃるお姿がとてつもなく胃にもたれる。私もそろそろ釘宮に胃薬の相談をした方が良いのではないだろうか。

 

「エヴァンジェリンさんから『時空を超えた場所から依頼が来てる』って言われてたし、ダーナさんも『時代が違う』とは言っていたから、わかってるとは思うけど」

「あー、ハイ、大丈夫ッス。別にその、好みのタイプなんでどうこうっていうのは無いです、はい」

 

 というよりも「好みのタイプだから何も間違えてはいけない」という方が色々胃に辛いのです、ハイ。とはいえそんな内心を語るわけにもいかず、胃の当たりを押さえながら苦笑いを浮かべる他なかった。

 

 もう大丈夫だと、これ以上こんな大河内さんのお胸を下から見上げるような構図でいるわけにもいかないので、少しだけ無理をして上体を起こす――――痛いッ!? こう、筋肉痛と筋違えの中間くらいの感覚だ。肉離れほどはいってないのは、そのレベルには再生しているからだろうか。

 だがそんな反応をした瞬間に後ろから抱き留められてちょっとまってえええええええええええええええええええっ!!?!?!?! ごめん無理、処理しきれない、私、口調おかしくなっちゃいますからちょっと優しく「ぎゅっ」ってしないで少しはこっちを意識してくれないですかねお胸当たっちゃってるしほっぺとほっぺくっついちゃってるしさああああああッ!!!!!!!!?!?!(大混乱)

 

「ちょっと、大丈夫か? キクチヨ君、私も結構容赦なくなぐっちゃったから、無理しないでいいんだ」

「は、()…………(※呂律が回っていない)」

「ひ?」

「あの、済みません、本当大丈夫なんで、少しだけ離れて頂けると()としては大助かりなので、その、はい…………」

「私……? って、そういう訳にもいかない。エヴァンジェリンさんだって、ネギ君から聞いたけど普段は病弱な女の子なんだろう。だったら能力を封印されている今の君も、そこまで差はないはずだ」

「(いや花粉症に朝苦手に運動神経ぐっだぐだなのは完全に本人の問題では……)」

「何かボソボソと言ったかい?」

「あっ、いえ、何でもないッスけど」

「だから…………、よっと」

「きゅ――――――――」

 

 

 

 お姫様抱っこであった。紛うことなきお姫様抱っこであった。

 ただし、されているのは私であった――――情けないけど仕方ないね!(自棄)

 

 

 

 身長差的にこっちの方が運ぶなら早いと考えたのだろうが、腕にお胸はあたるは彼女の顔と息遣いが近いわで思わず石となる私である。そんなこちらの様子を一瞥もせず、空を見上げて「このままだと風邪もひきそうだ」と心配そうに言う大河内アキラは。

 

「キクチヨ君、水着の持ち合わせはある?」

「…………はい?」

 

 その申し出は一体何を意味しているのでしょうかと、正直問い返したくはない私であった。

 

 

 

 

 

 




追:ちょっと時系列がおかしな部分が残ってたので、少し修正しました


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ST172.足りなくなったもの

毎度ご好評あざますナ
今回は当社比でいってもガバが少ない回、のはず…


ST172.Lacking Out of Basic Skills about...

 

 

 

 

 

 ちゃぷちゃぷと水の音が鳴る。風呂ではない、もっと広く、もっと深い水色で、湯気は上っていない。だが先ほどの温水と冷水の中間くらいのこのぬるま湯が今の私には心地よく、このまま意識を手放してしまいたいがそうはいかない。

 何故ならば。

 

 

 

「がばばばがぼぼがぼがぼ――――――――」

「き、キクチヨ君っ!?」

 

 

 

 現在、温水プールにて絶賛沈没中であるためだ。

 冒頭早々溺れっぱなしで申し訳ないが、水泳など久々と言い訳するのも烏滸がましい程に、当然のように私は簡単に溺れていた。底の深さは私より大河内アキラに調整されているせいか水を入れると彼女の胸より少し上くらいの高さなのだが、お陰でこちらの頭はデフォルトでは完全に浸水する。だから当然犬かきとも平泳ぎともつかない方法で手足をゆるくばたつかせるか浮かぼうかというところであったのだが、準備体操など一通りしてから着水した時点で速攻ガボガボと浮かび上がることは無かった。

 

「よい、しょっとっ!」

「ひっ…!?」

 

 そしてそのまま沈み込もうとした私を、当然のように背中から抱きしめて持ち上げて抱っこする形で浮かばせる大河内アキラ。原作でもたまーに見かけたクルクル巻ポニーテールである。彼女はそのままプールのへりの部分まで私を誘導し、階段に足をつけさせた。

 これが夏凜であれば背中に当たっていたおっぱいやら何やらをそのまま意識させながら色々と囁いてくるところだろうが、一瞬感じた弾力も常識的な時間で離脱させてもらえたので私としては大助かりである。うん、これが普通の異性の子供への距離の取り方だよね!(震え声)

 こちらが梯子に捕まって、息を整え始めたあたりで背中をさすり、咽返るこちらを気遣う大河内アキラ。特に赤くもなっておらず、真摯に心配してくれるその表情好き(好き)。

 

 

  

 一先ず状況整理だが。 

 このプール自体は先ほどの体育館からそう離れていない場所。大河内アキラによって誘導され、ついていった先にあったここは、お金持ちとかの豪邸にありそうな温水プールでありながら、構造やら何やらは完全に市民プール然としていた。造形については室内移動で至ったこともあって、こちらもまたローマ風なんだかギリシア風なんだかという古めかしい造形だが、要所要所の排水まわりやら給水まわりやらは現代基準のもので、作成年代がさっぱりである。

 

『私は水泳部なんだ。それで、学校のプールが今改装工事中で、練習場所を探していたんだ。話したかもしれないけど今回のアルバイト、ダーナさんにその補填というか、練習時間を確保させてほしいっていうのを報酬の一つにしてもらってるから、こうして場所を貸してくれてるんだ』

 

 まあ私室の話とか全然教えてもらっていないで、こっちだけ先に教えてもらっちゃったんだけど、と笑う彼女に、私は「はぁ」と間の抜けた返事しかできなかった。

 と言う訳で、ここは最初の頃に大河内アキラへとダーナ師匠から場所を教えられたらしい。予定では、私の修行の面倒を見終わったらここを利用して水泳の特訓をするということらしいのだが。

 

「何故一緒に温水プールに入る流れに?」

「気分転換かな。あとさっきの雨で身体を冷やしてるようだったし」

「それはそれは、あー、ありがとうございます。……それはそうとして、えっと済みません、着替える場所とか色々準備がないんスけど……」

「へっ?」

 

 仮契約カードを使用し一瞬で競泳水着にコスチュームチェンジした大河内アキラを前に、未だ濡れ水漬で困惑した私であった。水着の持ち合わせは無い訳ではないが、それとてこの拠点の私室の方(例のオタク部屋)に支給品で、である。流石に全裸で入る訳にもいかないという話なので、少々お待ち頂きたいのだがと思ったら。

 

『――――はい、どうぞ「菊千代」君』

「はいッ!?」

 

 師匠が派遣したのか、当たり前のように九龍天狗(未来(?)九郎丸)がそこに居た。仮面越しに私と大河内アキラを見比べる九郎丸であったが、いやそれはちょっと止めて上げてクレメンス(嘆願)。基本的にはこっちが一方的に意識しているだけなので、彼女の方に非はないのである。

 こちらの意志が伝わったのかは不明だが、しばらく私の顔を見つめてゴーグルやらバスタオルやら着替えの水着やらを渡した後、少しだけ微笑んでから姿を消した。本当に「ぬるっ」と音もなく塗りつぶされるように瞬時に消えているので、おそらく師匠の側が色々手を貸しているのだろうが、大河内さんと戯れてから全然コメントが飛んでこないのはどういうことなのだろうか。

 

 まぁ空気を読んでもらっているというのなら、それは本心から有難いところではある。……有難いからと言って私の胃にダメージが行かないかどうかとは別であるが。

 

 

 

 閑話休題。

 そして冒頭に戻る訳だが。

 

「大丈夫、キクチヨくん。入っておいで――――」

「ぶぶぶくぶく……」

「――――って言ってる傍からまたッ!?」

 

 ひたすらに泳げないのである。

 

 いや、絶対におかしいのだが……。原作刀太の水泳技能については不明だが(多分泳げるだろうが)、私に関しては「私」も近衛刀太の肉体も決してカナヅチではない。

 それは、蹴伸びをしようとすると身体が沈んでいくとか、まるで身体に妙に強い重りをつけられているような、そんな状況とでも言えば良いか……。

 

「だ、大丈夫っ!?」

「――――――――ッ!?」

 

 あと彼女も彼女で本当に私の事を近所のちびっ子くらいの感覚で見ているのか、救い上げる際にハグしたりするのに全然躊躇いが無かった。だから正面から思いっきり抱きしめるの止めてクレメンス……、クレメンス……、そろそろ何か変なガバを疑い出しかねない。

 

「なんつーか……、余計な手間かけまくってスミマセン」

「はは……、気にしなくて大丈夫だよ。大体、1月くらいここで訓練しても、あっちでは数日経過した程度らしいから」

「時空が歪んでいる……」

 

 それはそうと、今度は二人ともあがり、ビーチサイドでバスタオルにお互い包まって休憩。ついでに雑談となったので、何故私に対して距離感が近いのか聞いてみると。

 

「あぁ、えっとね? その、少しだけどネギ君を思い出しちゃったから、かなぁ」

 

 犬上小太郎の言っていた話と同様のものなのか、大河内アキラから見ても私には何かしらネギぼーずの面影のようなものがあるらしい。

 

「こう、何て言ったら良いかな……。困った時の顔とか、慌ててる時の顔とか、あと笑った時の感じとかが、さっき話してたネギ君みたいな感じがしたんだ。…………えっと、一応聞いておくけど、君、血縁者にアスナとかいないかな?」

「いや、知らないッスけど」

 

 割と近衛刀太の出生と言う意味ではクリティカルなことを聞いてくる彼女にお茶を濁すが、「あ、あんまりそういう話を聞くとタイム・パラドックスだっけ? 超さんも言っていたから、いいよ」と回答を保留にさせてもらえた。一体いつその話を聞いたこの美少女は……。

 いや、自発的に余計な情報を聞かないようにしてくれるのは大変ありがたいので、こちらとしても色々万々歳なのだが…………。

 

「こう、ネギ君だと私以外に好きな子が、たぶん居るんだ。アスナ、さっき話してたずっと遠い所に行っちゃった友達とも別に。だから年上のお姉さんとしては、男の子のそういう、複雑な心の機微を考えると、ちょっと接し方がわからなくなっちゃって……。

 だから逆に、キクチヨ君の場合は、気兼ねなく接することが出来るというか、なんだ」

「何でっスかね」

「ちょっと(エッチ)みたいだけど、そういう距離感の測り方は特に問題ないようだしね」

「何でエッチとか言っちゃってるんだアンタッ!?」

「仮契約カードで水着姿に変身するときとか、コスチューム変更するときとか、じーっと凝視してたし。大事なところはぼやけるみたいだけど、一瞬全裸になるのは知ってるよ?」

「あー …………」

 

 確かにそこの仕様は、この世界だと劇場版「ネギま!」仕様だったりするので、瞬き程度の時間だが一瞬確かに古から伝わる魔法少女ものの変身バンクがごとく身体が全裸に輝いたりしているが。

 (エッチ)、と言いながらコツンと軽く私の頭にゲンコツを落して、大河内アキラは微笑んだ。

 

「君もネギ君みたいに、あんまり甘えるタイプじゃないみたいだ。だけど、そこはあまり気を遣わずに少しくらいなら甘やかしてあげても、自制してくれるって信じられるタイプな気がする。だから、私の尺度で大丈夫と思ったくらいは、色々横から助けてあげてもいいかなと思った。そうやってサポートしてあげるのは好きだから」

「流石にハグしておっぱいに頭挟んじゃうのはアウトなんでは(震え声)」

「へ? …………、えッ!? ちょ、それは、えっと――――キクチヨ君の(エッチ)

 

 今度は殴らず胸元を隠すようにバスタオルで覆うだけだったが、表情やらもぞもぞ動くお脚やらチラ見えする競泳水着やらで正直ご馳走様です、好き(告白)。それはともかく、どうやら無自覚だったようだ。まあ考えれば元々中学高校ともに女子高のノリで進んでいるので、そのあたりの距離感やら機微(本能)やらに疎いのは仕方ないのだろうか。

 

「でも、ごめんね。身体の感じからして、まさか泳げないとは思ってなくて。ビート板とかの用意は流石に無いと思うんだけど、このプール……」

「い、いや、俺も普通に泳げるはずなんスけど……」

 

「「…………?」」

 

 どうしたんだろう? と二人して顔を合わせて不思議がる私たちであったが、そのお顔を直視できず視線を下に逸らし、たと同時にお胸のサイズを前に視線をさらに横に逸らした。

 

(えっち)……」

「ッ!?」

「フフ、冗談だ」

 

 心臓に悪いのでそうやってクスクス笑って揶揄って遊んで来るのお止めいただけませんかねぇ、大好き(告白)。

 

 とりあえずもう一度挑戦してみようということで、今度は大河内さんに手を引かれながら、ゆるくバタ足をして微前進していく私である。絵面としては色々と恰好悪いが、視線が胸にどうしても不可抗力で行ってしまう。お陰で色々と男子中学生が男子中学生してしまいそうなところだが、脳内でひたすら完全詠唱(ヨ○様の一輪○花)を流して無効化するのに必死で色々と限界だった。……いやそれでも血装術が使えないせいで、普段よりも「回って」しまうから、始末に負えない。

 

「うん、上手上手。その調子だ、キクチヨ君。…………本当、なんで泳げないんだろう? バタ足に失敗してる訳でもなく、息継ぎの動きも問題ないと思うのだけど」

「いや、そもそもなんスけど、熊本在住の頃に泳げるように雪姫(カアちゃん)に仕込まれているから、絶対泳げないってことはないはずなんスよね……」

「そっち出身なんだ。ふーん……。あっ、何か美味しいものとかってあるかな?」

 

 唐突に雑談が始まっているが、話しながらも「もうちょっとキックは力を抜いて」とか「ターンするよここで」とか、基本的なサジェスチョンやら動きやらはしているので、気を紛らわせているというより、私の無意識時の動きを見ているのだろう。

 

「馬刺しは、まあ滅多に食わないけど美味いっちゃ美味いッスね。何か歯ごたえのあるマグロ食ってるみたいな感想なんスけど。友達(九郎丸)は結構喜んで食べてましたね」

「有名だからね、馬刺し」

「あとは、比較的近所にあったけど一度も行ったことなかったなぁ麻帆良ラーメンたかみちのチェーン店……」

「麻帆良ラーメンたかみち!?」

 

 あっ拙いガバである(白目)。彼女の時代にはおそらくまだ存在しないだろうラーメン屋だ、深堀すると色々問題が出て来るので、その話は適当に濁して話題を移した。

 

「そういえばなんスけど、アキラさんって彼氏とか居ないんスか?」

「や、藪から棒に聞いて来るな……」

「あー、済みません。話題がぱっと思いつかなかったんで。……ひょっとしてさっき話してた天才先生ネギぼーずに――――」

「いや、それは無いから。私なんか。……まあ、弟がいたらこんな可愛いのかなーと思ったり? 時々年齢不相応なくらい大人びてる時もあるけど。大人になれたら(ヽヽヽヽ)私よりも背が大きくなれるみたいだし」

「(あっ身体の成長が止まってることは知っているのか……)。えーっと、では?」

「う、うん。今の所はいないかな。……いたら流石に、いくら可愛い子でもこうは接していないと思う」

 

 それは確かにごもっともだが、居ても居なくてももうちょっとだけ接し方は改善してもらいたい。嬉しいかどうかはともかく、心臓と胃が持たない(死)。そんなことを考えて油断していたのが悪かったのかもしれない。大河内アキラはらしくもないくらい悪戯っぽい挑戦的な笑みを浮かべて、私に目線を合わせ。

 

「そんなキクチヨ君には、好きな子はいるのかな」

「――――――――ッ!?」

 

 目の前の貴女を愛してると一言で言える立場であればどれ程良かったことか(血涙)。

 脳裏を過る九郎丸やらキリヱやらカトラスやら忍やら夏凜やら、あと睨みつけるような、寂し気な雪姫の顔…………。いや特に夏凜に関しては色々とこの時点でガバの天井を突破して団参宇宙速度でスイングバイ・バイバイされているので(意味不明)好きとか嫌いとかそれ以前に責任問題が絡んでくるので、一言で説明するのが難しい。

 そんな私の百面相を見たせいか、彼女は少し慌てたように「や、やっぱり言わなくていいよ? ……私に柿崎の真似は難しいな」とか言って中断してもらえた。何と言うか、色々助かるというか…………。

 

 後思っていた以上に、彼女との会話のペースにストレスを感じなかった。

 こういう場合、大体時系列やら情報共有レベルやらのことを現状やら原作やらと照らし合わせて会話したりイベント進行したりする際、ガバ発生にともなってなし崩しで崩壊することが多発するとそれこそ毎回非常にストレスを抱えているのだが。不思議な程彼女もこちらに色々聞いてきたりせず、それでいて不思議と察して欲しい所は察してくれるというか。

 

 その分、彼女に負担させていないか心配にはなるが、外から見る限りそうでもなさそうで。意外と向こうも、私と話すのを楽しんでくれているように見えるのが救いだ。というか、その照れたような反応が癒しだった。好き(脳死)。

 

「えっと、ふと思ったのだけれど」

 

 状態的に、大河内アキラを見上げる形で視線を合わせて続きを聞く。

 

「吸血鬼って確か、水、駄目じゃなかったかな」

「海とか川とか渡れないってやつっスかね」

「そう、それ。エヴァンジェリンさんを見る限り、そういうことはないようだけれど…………」

 

 まあ私やエヴァちゃんの場合「結果的に」吸血鬼と呼べるものになっているというだけなので、地球の幻想生物の類の吸血鬼伝承のそれが通じる訳ではない。

 

「一応、その吸血鬼的パワーを封印されてるうちは、俺もフツーの人間なんスよね。だから、その上で言うと身体能力が――――――――あっ」

 

 そして、思い至った。というよりも今まででは絶対に気付かなかったろう事に気付いてしまった。

 そうだ、そもそも私は「こうなったことが無かった」のだ。熊本で暮らしていた時も。

 

「キクチヨ君?」

「あー、そうか。そういう可能性があるのか…………、いや全然その可能性は検討もしてなかったッスけど」

「何かわかったのか」

「まー、はい。エヴァ……ンジェリン、さん、の話を聞いて、少し」

 

 ビーチサイドに上げてもらってから、座りながら私は彼女を見下ろしつつ、考えを整理する。

 

 

 

「…………そもそも生まれてこの方、吸血鬼性が『本当の意味で』無くなったってことが、俺、なかったんスけど、その上でここ最近はそれが『極まっていた』んスよ」

 

 

 

 考えてみれば、当たり前と言えば当たり前であり、今更改めて確認するまでもない前提かもしれないが。

 そもそも2年前の事故の後、この「私」が近衛刀太に憑依なのか転生なのか「発生」なのかは不明だが、ともかくこの世界に降り立った時から。その時点で「死んでいなかった」と言う時点で、「金星の黒」による再生は強く発動していたのだ。

 でなければ考えてもみれば、ちょっとスパルタの入った雪姫のしごきにもついていけるはずはないし、翌日普通に学校に通えていた体力の根源は、まさにそこだったのではないだろうか。

 再生するし血装術も扱える以上、そのつながりは決して0と言う訳ではないだろうが。今までならそれこそ星月が胸部に残していた「自動回天」で血を引き出していた状態を現時点のマックスと仮定すると。

 そこからいきなり最底辺に戻っているこの肉体と言うのは――――――――。

 

 それこそエヴァちゃんにおける弱体化状態、歩けば転ぶわ花粉症や風邪に悩まされるわといった虚弱態のそれと何ら変わりないのではないだろうか。

 つまり、である。

 

「吸血鬼性に頼り続けた結果、そっちが基準となって素の身体の基本的なスキル、反射やら身体能力やらはそもそも追いついていない。…………言い方は悪いッスけど、生身のままが『弱く』なってるってことっスかね」

「生身のままが、弱く…………?」

 

 いまいち理解が追い付いていない大河内アキラ。下手な説明で申し訳ないが、私も上手く説明できる気がしない。要するに特撮ヒーローで例えるなら、最強フォームでの秒殺が安定しすぎて基本的な戦闘スキルが疎かになって、最強フォームが封印された結果最初期の頃よりも色々なスキルが弱体化して敵に完敗してしまうような、そんなところだろう。

 流石にそこまで弱っているという訳ではないが、洗練のされ方が落ちている。結果として、身体が微成長したせいで勝手が変わっているのもあるとはいえ、完全に泳げなくなるまで「基本的な身体操作」すら弱体化しているのだ。

 それこそ大河内アキラの瞬間移動による一撃も、「本来なら」、雪姫が鍛えたレベルであるなら、あれくらいはもっと何か上手く対応できてしかるべきだろう。

 

 まあ一番影響が大きいのは死天化壮(デスクラッド)なのだろうが…………、思った通りに瞬時に身体ごと動かせてしまう副次効果が大きすぎるのだあの技…………。我ながら、基本にして最終奥義のような技かもしれない。

 

 そこまでくると、次にやるべきことが決まってくるわけで…………。

 

「という訳でまことに申しあげ辛いんスけど…………、しばらくスパーリング? とか素振りとか、あと泳ぎの練習とか一緒にしてもらえると嬉しいッス」

「それは、必要なことなんだね、君にとって」

「まあ今の所は、ハイ…………」

「うん。じゃあ……、いいよ? 手伝う」

 

 多分、そういうことも含めてトレーニングマシーンとかの場所も教えてもらったんだろうしね、と。そんなことを微笑みながら言ってくれる大河内アキラは相変わらず大好きなのだが(性癖)、それはそうとしてこの結論に至るのまで師匠に察されていたのが少々納得がいかなかった。単にちょっと癪に障ったのだった。

 

 なお結局この日、私は大河内さんのお手引き無しで水泳することは出来なかった。

 

 

 

 

 



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ST173.しのべぬこころ

毎度ご好評あざますナ!
 
カトラスちゃんのパラディンもそろそろ 100/100


ST173.Unrequited Love, Mutual Love

 

 

 

 

 

「――――――――ぁぁああああああああああん! に゛ゃん、もうッ! えらい目に遭ったわッ!

 ってええええッ!? 水無瀬小夜子ォ! なんでここいるのヨ!?」

 

「あっお帰りキリヱちゃん」

「お帰りッス」

 

 オレと九郎丸とで、キリヱ先輩を出迎えた。

 場所は、あん時のアレアレ、俺たちが白い扉に呑み込まれた時のそこ。

 空は快晴でちょっと熱くて、ブルーシート敷いて俺達は一緒にスポドリ飲んでた。なんか烏みたいな仮面つけた、ちょっと髪が光ってる巫女さんが持って来たやつ。

 

 そしてオレの横で、キリヱ先輩の反応を見て楽しそうにしてる――――。

 

「クスクス、相変わらずリアクション面白いわーキリヱちゃんさん。あんまり絡みはなかったけど、思ったより揶揄い甲斐がありそうな人ね。子供っぽくて」

 

「子供っぽくては余計よ! あと、ちゃんさん止めなさいヨっ! ちゅーにみたいな言い方してーっ! っていうよりどーゆー距離感ヨ、そもそも面識だってロクにあって無いよーなものじゃない貴女ッ!!?」

 

 ――――黒いフリフリしたワンピース姿の小夜子。水無瀬小夜子。……オレんところの特別レッスン終わったら、ナンかそのまま消えないで「もうしばらく一緒にいられるしー♪」とか言って付いてきた小夜子。

 なんか凄い楽しそうにキリヱ先輩を煽ってる。前よりも言葉に毒というか性格のワルさみてェのが出てる。これは、まァ成仏(?)前にオレと色々言い合ったせいなのか……?

 

 まァ楽しそうだから別に良いか。

 

「ちょっと佐々木三太ァ! ちゃんと彼女のストッパーになりなさいよ役目でしょ、彼氏のくせにッ!」

「か、カレ……!?」

「か、カノジョ……、うん、まあ、彼女だから別にね! ちゃんと好きな子に告白して、付き合ってるもの! 超遠距離恋愛だけど!

 キリヱちゃんさんと違って! 九郎丸くんちゃんとも違って!」

「うがああああああッ!」

 

「何で僕にまで飛び火したのっ!?」

 

 さっきからほぼ黙ってた九郎丸も、小夜子からは逃れられない……。つーかキリヱ先輩くるまで、ずっといじられてたからな、九郎丸。そりゃ遠い目して話を聞き流してるか。

 九郎丸もオレがストッパーとかにならないってのはわかったみたいで、ほぼ無抵抗だったし。

 

 ま、まァ小夜子もそこまで酷い毒は垂れ流したりはしねェから…………。

 

「あー、でも酷い目に遭ったわ……。まさかまた百年くらいカンヅメされるとか思ってなかった…………」

「ひ、百年?」

「よくわからないけど、大変そうね」

「そーよー九郎丸も水無瀬小夜子もー。……って、ちゃんと現代に帰ってきてるわよねこれ? あの魔女さんのそーゆー能力なんでもありすぎて、逆に心配なんだけど。ざっくばらんに適当な時間に戻されたりしてないわよね? 大丈夫?」

「だ、大丈夫じゃないかな……。刀太君やカトラスちゃんはまだ終わってないみたいだけど」

「ちゅーにが終わってないとか、なんでわかるのヨ?」

 

 これ、と九郎丸が指さした方。水瓶が二つ。一つの底はずっと真っ暗で、もう一つの方は水面に映像が映ってる。どんな原理か全然わかんねェけど、なんか戦ってる映像の実況中継みてェのが映ってるんだ。

 片方はたぶん刀太のなんだろうけど、そっちは映像がずっと見えない。でもカトラス、刀太の妹っつーあの女の方はずっと見えてる。

  

「古い映写機じゃないんだから、何ヨこれ……」

「あー! わかるんだキリヱちゃん。エジソ○のやつ。流石、年の功――――」

「そのネタでいじるの止めなさいヨ!? あっちの魔女さんに散々いじられたしーッ!」

「あー、はいはい、でも、カトラスっつったっけ? の方も佳境ッスよキリヱ先輩」

「うがー! がー!」

「き、キリヱちゃん落ち着いて……」

 

 映ってるのはなんていうか、ファンタジーなんだか近未来なんだかみたいなゲームみたいな映像の中で、なんか色々戦っていてる。手持ちの銃(弓?)とか剣とかが通用しなくて、段々とボロボロになっていってる姿。古いSFバトル映画とか思い出す。フラ○シュ・ゴード○みてェなやつ。

 流石にジリ貧ってなった時、収納魔法アプリみたいなやつからカトラスは何か取り出した。

 

『くそ……っ、雑魚倒す分には全然使えなかったけど、これならイケるか? もうこれしか無いんだけどな――――』

 

 

 

 ――――重力剣・アトラクター!

 

 

 

「……重力剣?」

 

 九郎丸は何か名前が気になってるみてェだけど、画面はそれどころじゃねェ。そう言って取り出した両刃の剣を振るって…………、その振るった衝撃と一緒に、タイツ風のムキムキコンバットスーツっぽい姿のアメコミみてェなラスボス共々、カトラス、一緒に壁に叩きつけられてた。

 

 自爆してんじゃないのヨ!? って言うキリヱ先輩の一言に、小夜子は意地悪そうにクスクス笑っていた。……あの、お前の性格は十分わかってるつもりだけど、そういう顔はもうちょっと自重して欲しいっつーか、もっと普通に可愛く笑えンだろお前よ…………。

 

 

 

 

  ※  ※  ※

 

 

 

「ごちそうさま」

「お粗末様ッス」

 

 大河内アキラと正面から顔を合わせ、本日の朝食であるスパゲッティペペロンチーノをたいらげた。……うんそもそも何故彼女と一緒に朝食をとっているかと言う話になるのだが、これについてはしばらく時系列が飛んだものだという前提から説明したい。

 我が最推しであるところの大河内アキラと、師匠による計らいか修行編が始まって早々だったが、なんとその日の夜中早々に彼女が私室(例の漫画アニメ部屋)へと尋ねて来た。これが夏凜だったら夜這いか何かを疑わないといけない話だが(深夜ではなかったが)、本気で困った様子の彼女に手を引かれてついていくことになり。

 

『くっ…………、コロせッ!』

『いや何でアンタ捕まってんだよ……』

『やっぱり知り合いだったか。えっと、殴りかかられたものだから、つい……、拘束できるものがなかったから、その、ごめんなさいだ』

『ううっ……』

『まー、ガムテ拘束は痛いからなぁ…………。どうせ問答無用で殴りかかったんだろうから、同情はしねーけど』

 

 大河内さんに割り当てられたらしい部屋(間取りは一緒)の手前で、四肢をガムテープで適当に拘束されたメイリンが、何やら色々とアレなことを言いながらこちらを睨んでいた。

 日に連続で、どうやらダーナ師匠へ強襲をかけたらしい。朝は私の部屋、夜は大河内さんの部屋へ誘導されたらしい。まあ結果はお察しではあるが、このあたり大河内アキラもそれなりに場数を踏んでいると見るべきか、何かメイリン本人がガバでもやらかしたか(結構ポンコツっぽいし)。

 とにもかくにも、師匠が登場して彼女は彼女で別な部屋に案内されて早々にこれであったため、あまりにも意味のない再会ではあった。

 どうしたら良いかな、という大河内さんからの話に「とりあえず落ち着いたら解放しときましょうかね」と適当に話を合わせていると、ぐぅ、と腹の虫の音。大河内アキラは不思議そうにこちらを見ており、私含めお互い違う。ということはとそろってメイリンに目を向ければ、彼女は屈辱らしく舌打ちしながら顔を地面に伏せていた。

 

『……せっかくだから何か作りますかね』

『なん……、えっなんで?』

『あっ、キクチヨ君お料理できるんだ。ふぅん……、お姉さんちょっとポイント高いよ』

 

 何のポイントなのかはともかく、ちょっとニコニコした大河内さんとキッチンに並んで、備え付けの冷蔵庫の中から適当に見繕って温かいおそば(天ぷら付き)を作って、嫌がらせのようにフーフーしてメイリンにあーんさせたり(嫌がっていたが味については何も文句を言われなかった)。

 そんな初日以降、なんとなく大河内さんに食事へ御呼ばれする頻度が増えた。既に3週間くらいは経つが、トレーニングついででほぼ毎日お呼ばれしている。身体の基礎運動と、水泳と、あと例のテレポート戦と、それらが終わった後に彼女の部屋にお邪魔して、一緒にお料理する流れが出来上がっていた。

 

『流石にルームメイトと連絡が一日一回だけOKらしいからね。高校生にもなってこう言うとアレだけど、一人で食事とかは寂しいんだ。

 ……あっちの皆と時間の進み方が全然違うって改めて実感しちゃうのもあるし』

『どれくらいずれてるんスか?』

『大体、こっちが向こうの倍くらいの時間が進んでいる感じがするかな。見てるドラマとか、雑誌の話題的に。……学校の勉強もちょっとやっておかないと、色々忘れちゃいそう』

『それはそれは』

『キクチヨ君はどうなのか? 見た感じ、中学生だよね』

『地理は苦手ッスね。カアちゃんが』

『へぇ……、キクチヨくんのお母さん先生なんだ。…………あっ、このレンコン美味しい』

 

 そんなこんなで雑に半月経過するさ中、彼女と一緒でないときはひたすら自室でマンガ読んだり小説見たりアニメ()たり映画()たりを繰り返していた私だった。流石に最初の一週間で水泳はかろうじて出来るように回復し、後は自分でやりますと大河内さんを自分の練習に集中させたので、罪悪感的なものも少しずつ減っていき、時折カンフル剤のように強襲をしかけてくるメイリン(どう考えても師匠の仕業である)に二人で応戦したり、捕らえた後は頭を冷やさせて一緒に三人で食事をとったり……。

 

 ある意味では平和な状況が続いていた。

 これをモラトリアムとみるか、嵐の前の静けさと見るか…………。

 

 少なくとも、私にとってはそこそこ騒がしく、かつ適当に過ごしても気を許せる時間であったことだけは救いだった。

 不用意な(ガバ)発言をしても大河内さんはあまり深く追及してこないし、あまりに酷い話だった場合はオフレコでお願いしますと頼めばこころよく頷いてくれた。また、本当に口が堅いと信頼できるだけの関係が、私たちに形成されるくらいの時間は一緒にいた。

 

 推しだ何だとか以前に、本当に彼女とは一緒に居て心が疲れることがない。

 あまり深くは干渉せず、それでいて存在をあるがまま「それで良いんだよ」と言ってもらえているような、そんな深い安心感。

 それでいて私の調子がおかしい時には気を回してくれるし、気にかけてくれるし、正直言って幸せだった。

 

 だからこそ、忘れていられた。

 私自身の人格が何であるかと言うその突き付け――――夏凜の手でその主題を忘れ去ってしまっているが、ずっと頭に引っ掛かっているその強い、自分の足元どころか自分自身でさえ、気が付けば砕け散ってしまいそうな、その不審感と不安定感と、切迫感を。 

 

 エヴァちゃんを始めとして考えなければならないことは多いのに、結局最初に回ってくるのがこれなのだから我ながら情けないというか……。だが、そんな話をしてもいないのに、大河内さんは、アキラさんは緩く微笑んで頭を撫でてくれた。

 

『君が何を怖がってるかわからないし、きっと私以外の人も言うとは思うけれど……、だって、君はちゃんとした男の子なんだから。そんなに長期間過ごした訳じゃないけど、色々わかることはある。

 その、私みたいな女の子? が好きとかそういうのはともかく……。料理だったら味はシンプルな方が好きだけど風味は強い方が好きで、でも自分が作ると少し濃いめの味付けになっちゃうのを気にしてるから、意識的に味付けを薄めにして調味料を後から自分でかけてくれってしてたりとか、洗濯物のたたみ方がちょっと変だとか、文字の書き方が少し上下に蛇行しちゃってるとか。あと、色々気を遣ってくれるし、冗談も結構好きみたいだし……。初対面に近いんだろうけど、なんだかんだこうして、数日一緒に居てトラブルも起こっていないし。

 キクチヨ君は、そんな男の子だってことくらいは、私にもわかるから。うん……、君は良い子だ。だから、きっと大丈夫だよ』

『済みません好きです……(爆)』

『えぇッ!?』

 

 誤魔化しに誤魔化したのでおそらくこの時のガバ告白については問題ないだろうが……、絶対問題はない。誰が何と言おうがない。イイネ?(震え声) 大体アキラさん側は、完全に弟を見るような目で見てきているし。夏凜の時の様な得体のしれない感覚もなく、純粋にこっちの身を案じてくれている情の深さであり、そう言う所も好きなのだが、もはや二度三度の「好き!(挨拶)」はいくら何でも拙いので自重する他ない。いやそもそも言うつもりも無かったのだが(血涙)。

 だが、楽しい時間には終わりがくるもの。そのことだけはずっと、頭のどこかに引っ掛かっていた。そもそも大河内アキラと遭遇して数日一緒に過ごしているという驚天動地すら、そのリミットというか本題があるからこそなのだ。

 

 だから例の、雨が降り続いている施設の天気が晴れに戻り、そこに久々に見る師匠が立っていたのを見て、私は自然と納得がいった。今日がその日、つまりは最後の機会なのだと。

 

「あれ? ダーナさん、えっと……」

「時間と言ったら良いかねぇ。そろそろ麻帆良の方のプールも直るから、アンタは今日が最後だよ。まあ、訓練以外の報酬の支払いは後日伺うから、そこは安心しておきな。なんなら魔術契約書でも――――」

「あ、そこは、信用してます。エヴァンジェリンさんの紹介ですし。……えっと、つまりこれからの訓練が最後ってことですか? 急ですね。荷物もまとめてないし…………」

「いや、訓練が最後じゃなくて『今が』最後ってことだ。ここで最後に挨拶交わして、それでアンタの出番は終了だよ」

 

 えっ? と。話がいきなりすぎて困惑している大河内アキラだったが、なんとなく師匠がこうやって不意打ち気味に来た理由については察しがついていた。

 と、それについて考えを巡らせる前に、私の頭をバシバシ叩くお師匠。あの痛いです大分…………。絶対意図的にこちらの超速再生がかからないレベルでダメージを留めているぞこの人。

 

「いきなりの話で悪いが、こうでもしないとキクチヨがアンタにべったりになっちまいそうだからねぇ。『一番肝心なことに』全然気づいてないみたいだが、そこはアタシの側で試験じゃないが、色々やるつもりだから、心配はしなくて良い」

「…………べったり」

「否定できないだろ? キクチヨ」

「へ? いや、そこまでキクチヨ君、甘えん坊さんではないと思いますけど……?」

「好みのタイプの女を前に浮かれポンチ化はしなかったようだが、精神的な依存度が跳ね上がってきているからね。これ以上は看過できないよ」

 

 それについては否定できないのですが、と言葉を続けようとした瞬間。師匠は被せるように私と大河内アキラを見比べて。

 

 

 

「後あんまり一緒に居すぎても、アンタだって問題が出て来るだろうさ。大河内アキラ、アンタもちょっとこの男のこと好きになってきたろ」

 

 

 

「いやそんなギャグマンガみたいな…………(白目)。アキラさんも何か言ってあげてくださいよ」

「……………………」

「あ、アキラさん?」

 

 私の念押しの確認に、大河内アキラは戸惑ったように、しかし痛々しいものを見るような目で私を見て来た。

 

「その、恋愛として好きかどうかとか、そういうのは、考えないとしてだ」

「あ、はい。うん……」

「確かに前より気は許しているし、一人で大丈夫かなって思ったりはするんだ。……あっ、キクチヨ君が頼りにならないとか、そんなことじゃないよ? ただ、多分だけれども、君がダーナさんの所で修業しているっていうのは、きっと君の本意ではないんだろうなって」

「…………」

 

 二の句が継げない私に、しかし彼女は言葉を止めることは無い。師匠はそれを、少しだけ肩をすくめて見ていた。いや、あの、どうして分かるんですかねどうして……いや大体ネギぼーずのせいだなこれ。ネギぼーず相手に見てた面影というか、そういう感情やら表情やらがそのまま今の私のそれに重なってしまうのだろう。

 流石にあっちほど酷い人生やら覚悟を背負った覚えはないのだが……。このあたりネギぼーずより私の精神の方がもろいというか弱いというか、そのせいなのだろう。重圧が違っても、それに対して彼より過剰にダメージを受け過敏に反応しているのだ。

 

「だから、ずっと居る訳にもいかないんだろうけれど、もう少し一緒にいるものだと思っていたんですけど――――」

「わかるかいキクチヨ、これだよ。ここから後一週間くらい一緒に居ると異性としてどうかな? とか想い出すんだよこの女。ネギぼーずのせいで、割とその辺の性癖が歪みかけているからねぇ……。その手の男子からしたら都合が良すぎる女だよ本当」

「――――って、ええっ!? い、いや、違……! 雪広とかまき絵とかみたいな、あんなじゃ無……っ!?」

「意味もなく赤面させるの止めてあげてさしあげろ下さい……」

 

 以前にも彼氏はいないと言っていたが、この初心すぎるリアクションは今いないではなく過去にもいたことがないという反応か……。まあ確かにそれこそ、ネギぼーずを除いてそういう機会は早々ないだろうから、仕方ないと言えば仕方ないのだが。その反応の大きさが気に入ったのか、師匠に色々言葉攻めされて顔を真っ赤にして「ち、違……!」とか涙目になっている。この場においては完全にお師匠のオモチャであった。

 流石に見て居られないのと、その師匠の発言の空恐ろしさを前に、私も流石に腹をくくった。……いや全然括れてないしいきなりで割り切りはしたくないが、それでも。

 

「………………まあでも、そういうことなら、ここでお別れするのが一番『安全』だってことッスね」

「あぁ。この女としても、アンタとしてもね」

 

 仮に……、いや流石に師匠が言うほど話がトントン拍子で進むわけないと断言するが、仮にこれ以上アキラさんと私との距離感が近づいて、彼女と私の親しさが上昇したとすると。その場合何が起こるかと言えば、はっきり言って予想もつかない上に、タイムパラドックスどころの騒ぎではない。

 最初の時点でお師匠から「色々まずい」と教わった上で、彼女が私に「そういう」感情を向けたとなると。……いや、何度でも否定したいが自意識過剰で気持ち悪い感覚が強いのであまり言いたくはないが、それでも仮にそうなったとすると。本来時系列における彼女の、それこそ本来なら付き合っていた男性やら、その相手との子孫やらに色々トラブルが生じるかもしれない。「とは言うがこの女、そもそもこの世界線だとネギぼーずの『赤ちゃん騒動』の時に佐々木まき絵やらと一緒にネギぼーずの……」いきなり割り込んでくるのはお止めくれませんかねお師匠ォ!(悲鳴) 聞かない、その話は絶対聞かないぞ私は絶対!(鋼の意志)

 ま、まぁ「私」の側においても、癒しであったはずの彼女すら周辺の女性事情の一つとして取り扱わなくてはいけない頭痛のタネになりかねない。

 

 美しいものは美しいままであって欲しい、というのは。

 それがたとえ本当なら、彼女と一緒にいられるならという期待や希望や願望があるのだとしても。それでもそう強がらなければいけない、そういう立場であって。

 だからこそ、お別れは、言わないといけない。

 

 未だあうあういって「ネギま!」でも見たことないような両手で頬を挟んで顔を赤くし目をぐるぐる回して「年下……、いやでも……」「料理男子……」「す、好き好き光線みたいなのは感じてたけど……」とか色々不穏なことをつぶやき始めた彼女のその手をとって。

 

「うぅ……、ど、どうしたんだ? キクチヨ君」

「あー、まあそういう訳なんで。…………これ以上一緒にいると、こう、超さんも言ってたんでしょ? 時間とかそーゆーの関係でどうのこうのって」

「それはそうなんだけど…………、君はそれで良いのか? キクチヨ君。だって君、きっと本当は――――」

 

 

 

「良い訳はないけど、俺よりはアキラさんの方が心配ですから。俺の方はなんとかなっても、アキラさんの方の安全第一ってことで――」

 

 

 

 だから今ならまだ大丈夫だと。色々と内心をこらえながら、私は両手で彼女の手を握り――――っ?

 

「あ、あの、アキラさん?」

「んっ――――うん」

 

 そっと。当たり前のように私服姿だった彼女に数秒だけ、抱きしめられた。

 お別れの意味を込めたハグだとしても……、この時の彼女の顔を、私は知らない。

 

 ずっと知らないまま、そして、私は彼女と別れた。

 

 

 

 

 




チャン刀側はちょっと入り切らなかったので、キリは微妙な所になってます汗


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ST174.果てのない暗黒の先で

毎度ご好評あざますナ!
 
今回一つの事実が解るか解らないか…?


ST174.Through The World Of Shadows Ruled By Fear.

 

 

 

 

 

 現在、私とお師匠はエレベーターの中である。

 この施設にまずエレベーターがあったことも色々驚きだが(というかミスマッチすぎる)、そのエレベーターもまた古いタイプのもので、昭和ノスタルジーでも感じそうな模様扉の向こうにあったりした。

 体育館エリアを抜けてすぐの場所、一見して壁にしか見えなかったそのこを「取り外す」と、壁の下に古めかしい横扉があったわけだが、いや伏線も何もないところから突然に新施設が湧いてくるとこの師匠のことだから突貫で増築してるのではという疑念を抱いてしまう。別にそれが悪いという話ではないが、作画班のCGとか大変そうだなと個人的にスタッフへと配慮した方が良いのではと思ったりしてしまう(良心)。

 

 まあ、そこで何か会話があるかといっても、ひたすら無言空間が続くわけだが。

 私としては直前までのアキラさんとの別れで胸の内に妙な寂しさと空虚さと「分裂しそうな」胸の痛みを覚えているし、それを誤魔化すためひたすら脳裏に夏凜との…………、いや、あれはあれで胃が痛くなる話なのだが、この際もはや使えるものは何でも使えである。少なくともそれで正気を保てるなら、私の自我を安定させられるなら、それに越したことは無いだろう。

 ただエレベーターの到着した先は、これまた世界観が色々崩壊しているような場所である。一言で言うと巨大な宇宙船の展望台か何か? ガラス張りなのかアクリル張りなのかは知識がないのでわからないが、近未来的な機械に埋め尽くされた広大な上下移動のあるルームの、いたるところにある窓からは宇宙空間が見えている。PCスペックが極まった後のFPSとかの宇宙船ステージのような、と言えば良いか……。

 

「ここは何の場所なんスかね?」

「100ステージ目だ。人によっちゃボーナスステージかねぇ?」

「いや意味不明なのだが……」

 

 大河内アキラ遭遇時のアレのような場合でもあるまいに、とそんなことを返すが、師匠は「アンタ側には関係ない話だがねぇ?」と言いつつ、指を弾く。と、私たちの下りた後ろのエレベータからもう一人出て来た……というより、到着音みたいなのがもう一度鳴ったので、また何か時間か空間かを好き勝手に滅茶苦茶した結果なのだろう。

 

 なお、出て来た相手は例のメイリンさんであるが…………、えっと、そのチャイナドレス風だけど微妙に違う恰好はアオザイと言えばよいか。それにしては微妙に柄模様が幾何学的でちょっと近未来感あるのが何とも言えないところだ。

 

「ど、ドーモ、キクチヨ君」

「あ、どうもッス、メイリンさん……」

 

 そして流石に私たちも何度か大河内アキラと一緒に顔合わせしたり食事をとったりと色々あった結果、以前ほど問答無用で殴りかかられないくらいには微妙に関係改善されていたりした。

 それはそうと、その恰好は一体…………?

 

「アタシからして、最低限は弟子入りできるくらいには落ち着いたからねぇ? いつまでもあのダサい恰好ばっかりじゃなくて、もっとまともな服を着ろってことで用意したのさ。どうだい?」

「ダサいとか言わないで欲しい、です!」

「あー、まあ似合っちゃいるとは思いますが……」

 

 ダサいというよりコンバットスーツ姿は単に当世風ではないというだけの話なのだ。キャットスーツが可愛く見えてくるくらいに装飾もなく着脱方法すら予測できなかったりとか、そういう話で……。ある意味「ネギま!?」のエヴァちゃん暴走姿をSF風にしたような恰好というとダサさがわかりやすいか(逆に判りにくい?)。

 そして何故彼女を呼んだのかといえば、話はシンプルなもので。

 

「簡単に言えば、殴り合いをしな。トータとメイリンとで。その過程を見て、メイリンを弟子にとるかどうか決める。ある意味試験だねぇ」

「あの、私の方は……」

「アンタにとってもレッスン2の最終確認だよ。アタシがわざわざ『竜宮の遣い』を使用する人間でも、特に大河内アキラを呼んだ理由にイマイチ思い当たっていないようだからねぇ。悪いが今のままじゃその剣の修復もさせてやるわけにはいかない」

 

 そう言われてしまえば、メイリン共々お互いに断る理由は無い。……いや痛いのは嫌な事実に変わりはないのだが、いきなり無差別無鉄砲無計画に斬りかかったり殴りかかったりしてこなくなった分、多少は彼女と付き合いやすくはなっているのだ。

 

 ただそんな話をして、共に武器ありでの殴り合いだと言ったにもかかわらず。師匠が「始め!」と合図をした瞬間、手に持っていたヌンチャクをメイリンは投げつけて来た。

 とっさに黒棒で受けるが、それにより発生したラグが、彼女に準備を終えさせてしまう。

 

 

 

「コード9784063954845…………呪紋回路、起動……ッ!

 プラクテ・ビギ・ナル――――――」

 

 

 

 いやまたかよ!? ネギま本編で魔法を使用できなかった超鈴音が、自らの生命力を使用して魔力をひねり出すとかそんなシステムと予想される呪紋回路!!? アオザイ風の恰好のスカート部分がひらひらしてギリギリになっているメイリンだったが、体表に鈍く光る妙な回路めいたものを浮かび上がらせた直後、私に向けて掌を向ける。

 

 次の瞬間、周囲一帯の音を私は聞き取れなくなった。

 

 突然の失聴に一瞬反応が遅れるが、こちらに走る彼女の動きは目で追える。速度感が若干怪しくなるが、それに合わせて彼女の口元が動いており、表情が歪んだ。

 おそらく何かしら魔法を使われて音を拾えなくされたのだろう、わずかにごうごうと風音のようなものが聞こえる。ならば向こうは詠唱をあえて聞かせないようにしていると判断できる。こちらも黒棒を投げて追加の魔法発動を妨害しようとするが、それを強く踏み込み手の甲と腕で払いのけるメイリン。……血装術が使えればここは血風一択なのだが、それ以外の飛び道具が全くないのがいけない。

 

 とはいえ防御されるくらいは想定済なので、反射で動くまでもなく既に蹴り上げの体勢には入っており――――。

 

「――――――――ッ!」

――――(よっ、と)!」

 

 あっ、自分の声も聞こえないのか。変な感覚のままメイリンの迫る拳を蹴り上げ、その勢いを若干左斜め前にそらして自らも前身。お互い背面同士になった瞬間、振り上げていた右足で彼女の両脚を大外刈りの要領で払おうとした。

 

 それと同時に、私の両目の視界は光を失った。

 

 否言いすぎだ、シルエットがもやもやと映る程度にされてしまったが正しい。これは……? 脚が空ぶった感覚はあるが、それと同時に体勢を整えようとしても脚から崩れ落ちてしまう。今の身体の使用状況というか、反射感覚では、聴覚と視界を奪われたままでは直立や歩行に問題が出る。

 具体的に言うと、緊急時はバランスをうまく取れない…………、いきなり立ち上がって走って斬り合うというような動作は当然難しい。

 

 ここまでくると薄らぼんやりしているシルエットすら映らない黒の視界に頼るのも難しい。いっそ目を閉じて、普段通りの妙な感覚に頼ってしまった方が早いだろうと、目を閉じるが。

 

 普段来るはずの嫌な感覚が――――――――どこからも感じ取れない。

 

「――――ッ!?」

 

 声をあげるまえに、なんとなく目の前に黒棒を構えたが、それと同時に「鳩尾に」打撃を喰らって撥ね飛ばされた。

 

 いやちょっと待て、えっ? 死天化壮時とかでも自動迎撃に使用している例のアレが使えないと? えっ? えっ? それは使用する際どう考えても大前提として必要なものだし、大河内さんとトレーニングしていた時も当然感知していたものなのだが、えっと…………。

 

 

 

 詰みでは?(震え声)

 

 

 

  ※  ※  ※

 

 

 

「…………敵意や悪意がない攻撃を感知できない、ある意味今の相棒の弱点だからな」

「嗚呼、出て来たのかい×××」

 

 一方的な戦況。メイリンに殴られている刀太を見て気を抜いていたダーナだったが、そんな高級椅子に座り優雅に紅茶を飲んでいる彼女に、声をかける何者か。黒と白のローブ姿で、顔は影になり見えないが。除く鼻から下の造形は美女と形容できる形をしている。

 

「アンタのことだから、てっきりトータの中で色々アドバイスでもするかと思っていたがねぇ。まあ×××が過保護なのは今も昔も変わらないが」

「…………その呼び方は止めてもらいたい。今の私は『星月』だ」

「そうかい。だったら姿かたちを早い所取り繕うんだねぇ。その姿を見られたらまたガバだ何だしつこくやかましく文句言ってくるだろうがあの男。アタシはそれはそれで楽しめるが」

「そうさせてもらう」

 

 そう言われた直後、女の姿は変化する。やや色の抜けた桃というより茶寄りの髪。後ろで適当にまとめ、また眼鏡をかけた半眼姿。刀太が見れば「ちう様!?」と驚愕すること請け合いの容姿であり、腕を組んで「ハッ」と笑う仕草や声音から何から何までまさしく、ネギ・スプリングフィールドのアドバイザーであった長谷川千雨のそれであった。

 ローブを後ろに流し、半眼で刀太たちの方を見る。丁度黒棒を構えた刀太のそれを「見てから」背後に回り、蹴りを叩き込んでいるメイリンの姿。それにもどかしい様な顔をするが、しかし千雨の姿をした星月は何も言わない。

 

 そんな彼女へ、ダーナは肩をすくめた。

 

「毎度思うが見事なものだよアンタそれは。只のコピーとか変装とかじゃなくって『ほぼ』本人になっているからねぇ。それでいてアンタ自身の自我は抜けていないし、どういう原理なんだい?」

「いや、人格についちゃあんたの方が色々わかってんだろ? 言葉にしなくったって。……まあトレースするって話に限っちゃ、相棒が知っている人類なら『誰でも可能』だけど、完成度が高いのは相棒と縁のある相手だな。

 得手不得手で言えば、相棒の遺伝子上に『残っている』相手が楽だ」

「まー、そうだねぇ。キクチヨ風に言えば、今のトータは漫画とアニメの相の子みたいなものだし、そこは納得できるよ」

 

 ふと、突如現れた星月にぎょっとしたメイリン。もっとも刀太相手への攻撃を緩めることはない。……緩めないと言っても、彼女も彼女で涙目であった。全身に時折、切り傷のような亀裂が走り、そこから勢いよく血が迸る。それを無理やり魔力で押さえつけながら、涙ながらに刀太を殴っていた。

 

「丁度今、やかましくキクチヨも思っているが、呪紋回路の使用はあの娘には大分負担だからねぇ。戦闘していてもそれを察しているっていうのに、あのトータは……」

「そこは私も知らないんだが、あの、メイリン? っていうの。結局何であんなものを付けてるんだ?」

「それは簡単さ。単純に『呪文詠唱できない』体質なんだよ、あの娘も」

 

 魔力自体は無い訳ではないが、身体がそれをひねり出すための呪紋回路の出力に耐えられないって言うのが問題だねぇ、と。そんなダーナの返答に、星月は首をかしげる。

 

「一番は『開発時間』なんだろうが、そういう戦闘技術も含めて修行できる場所が欲しいっていうのがあっちのリクエストなんだろうがねぇ? 確かにあの女にアドバイスできるのは、あの女のいた時間軸で考えてもアタシしかいないからねぇ」

「あー、それも気になってたんだが、そうじゃねー。アレ、相棒になんでメイリンは攻撃当てられるんだ? いくら敵意が低くても、相棒が感知できない訳はないと思うんだが……」

「まぁアドバイスしておいたからねぇ」

「は?」

 

 涙目で拳を振るうメイリンを見ながら、ダーナは軽く肩をすくめ。

 

「簡単に言えば、大河内アキラ相手に好感度を稼いでいたように、あの娘もトータに好感度を稼がれていたんだよ。つまり『敵意』や『害意』を抱きにくい心理になりつつある。だから普段のようにアタシのことを考えず、トータのことだけを見て戦えってねぇ。

 そうすれば感情のベクトルは、以前よりも明らかに変化しているのだから、他の感情が勝って敵意や悪意を感じ取れない――――初動にすらそれが無いくらいには、だいぶ絆されてるってことさ。あの娘も結構、苦労してるからねぇ。刺さりやすいんだよ擦れた心に、トータみたいな何でもかんでもふんわり受け入れてくれる相手は」

「エグい仕打ちじゃねーか、あんた……。あのメイリンって、要は×××(××××××××)だろ? つまり、そっちの罰ってことか?」

「いや、あれはあれでもう既に刑を執行済みだが、まだ『統合される前の』時系列の世界線だからね。罪を犯す前まで厳しくは、流石にアタシもしないよ。

 あの子も出生(オリジン)はいくつかの世界線で存在するが、その中でも『計画実行前に』アタシの所に来るような出生は、いくら何でも同情の余地があるからねぇ。時空犯罪は犯すのは確定しているんだが」

「駄目じゃねーか!? って、いや私がツッコんだところで何も変わらねーけどさ。

 それに、本当に罰とかじゃねーのか? だって、相棒相手にあれだけ絆されてるってのに、抵抗できない状態の相棒をああやって甚振らせて…………」

「大河内アキラに限らないが、今の『自覚していない』トータ相手に数日も一緒にいれば、大体ああもなるよ。カトラス・レイニーデイの件でわかっているだろう?

 ――――お前が干渉した結果、近衛刀太は『共鳴して』『共振して』、相手の心の根にあるものを感知できてしまうんだから」

 

 その言葉を聞くものは星月以外にいない。そして、それは彼女にしても、改めてダーナから言われるまでもなく知っている、判っている事実。

 

「あの子は魂が入り混じった結果、他人の心ってものを、痛みを、辛さを、好意を、感情を、それらを色々ひっくるめて他の奴より鋭敏に感じやすいようになっているのだから。もっと研ぎ澄ませれば、別なことにだって応用できるだろうさ。

 普段やってるように、人間関係とかでの変な察しの良さっていうのは、そういうことなんだからねぇ」

 

 だから、それに自力で気づかないといけないんだよあの子は、と。ダーナのその一言に、星月は深くため息をついた。

 

 つまりは、そういうことである。星月も刀太本人には語らないが故に、刀太は今まで認識していなかった事実。彼の妙な察しの良さは、原作知識に基づいたそれだけではなく。その時々で相対している相手の心と意図せず「繋がり」、故にその心の根にあるものをなんとなく認識しているという事実。

 だからこそ、今の刀太、神楽坂菊千代と自らを認識しているその人格は。原作の刀太に流れるネギ・スプリングフィールドの血筋らしさと、自らが空虚であるがゆえに世界全部を愛そうと努力していたその人格を前提として。その上で、多くの事を相手本人から「知り得て」、相手が欲しい振る舞いと言葉を、意図せずに返してしまう。

 

 それが、ダーナの言う通りに「擦れた心」への劇薬であると知らず。

 

「ま、流石にそこまで気づくとは思ってはいないがね? それでも、自分が把握できるものが悪意や敵意だけではないっていうのは、そろそろ自覚させないと拙いんだよ。特にディーヴァ・アーウェルンクスを相手にしてるから。下手すると『気付かれる』」

「あー、…………」

「あの魂は『あえて』無垢なまま、トータに強い感情を抱いた状態のまま復活させてるようだからねぇ。『共振する』力については知らないだろうが、悪意や敵意の欠片もなく最上級の魔法使いに襲われて何とかなる、というのは、そんな奇跡(ヽヽ)は続けて起こるものじゃない。横やりが入って事なきをえてるっていうのは、つまり本人の対応力が追い付いていないって証左だ」

「否定できねーかな……」

 

 あっと。その時点で何かを察したようにダーナと刀太を見比べた星月は。だがそれ以上言葉を続けずに「趣味が悪いことで」とため息をついた。

 

 

 

「それはそうとして、今のトータを一方的に殴れてる時点でメイリンも、もう合格でいいんだがね?」

「理由がある意味複雑そうだな、本人からしたら絶対……」

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 し~~~~~、ぬ~~~~~~!

 

 いや私は死なないが(不死身)、それ以上にメイリンさんの方が死ぬだろどう考えても!? いくら痛がったところで楽に死ねない「闇の魔法」実験体ナメるな貴様、少しは自分の身体労われ少しはさぁ!?(マジレス)

 

 音も聞こえない、目も見えない、しかし触覚と痛覚が残っているので中途半端な清虫○式・閻魔蟋蟀(オサレ)となっているが、なるほど一般人レベルではこれだと歯が立たない。それこそ血装が使えれば周囲一帯に爆撃する頭バ○ビエッタ(後先考えないお馬鹿)しても良いのだが、武器が限られている以上それも難しい。

 先ほど両手フリーとなってしまい困ったが、転がされているうちに黒棒を踏みつけて転んでしまったので、その際についでとばかりに回収した(したがストンピングは回避できず)。なので現在一応は手持ち武器は有るが、当然投擲しようものならまたリーチが少なくなる。

 

 そういった私の方の問題よりも、気がかりなのはメイリンだ。

 

 おそらくだが私にかけられているこの魔法、ものとしては何かしら結界とかそういう類のタイプに近いのだろうが、だとすると術の発動に「魔力を消費し続けている」。つまり、こうして私の5感の半分近くを奪っているこれは、常に彼女がかけつづけている魔法であると仮定できる。

 とするなら、例の呪紋回路により身体から延々と魔力を消費させ続けているということに他ならない。

 

 彼女自身、何故それを使用して魔法を使っているのかはさっぱり不明だが、使用するということはおそらく必要があると言う事だろう。決して未来世界の出身者だからわざわざ超に設定を寄せているという事ではあるまい。

 だとすると、この状態を維持すれば維持するだけ、彼女の魔力つまり「余剰ではない」生命エネルギーを消費し続ける――――消耗程度ならまだしも、下手すると起動だけで命に係わる可能性もある。

 

 加えてだが、先ほどから殴られ続けて痛みを覚えているが、それはそうとして威力が弱い感覚がある。否、そういうと微妙に誤解を招きかねないが、拳を交えてわかる感覚のようなものなのだろうか。明らかに向こうの攻撃に躊躇いが生まれている。

 多少なりとも仲良くなってからの戦闘でもみられないこれは……、おそらく一方的に、今の私をボコボコにしている状況に罪悪感や躊躇いが生まれていると思って良いだろうか。とにかく、この状態での戦闘は本意ではないということだろう。

 

 とはいえこちら側から終了させる訳にもいかない。私の立場でも、メイリンの立場でも。師匠は勝負の結果でメイリンの弟子入りを決めるとは言わなかった。過程を見て結果を決めると言っていた。つまり私が適当に戦って負けた場合、師匠の気分一つで不採用になる可能性が高い。

 

 中々困った状況だ。

 

 例の「嫌な感覚」がきれいさっぱり感じられぬ今現在。……いや、何度か打ち合って思ったがこう、ちょっとは嫌な感覚が有るような無いようなというところだが、すぐさま何か別なものに押し流されて霧散してしまっているような、そんなレベルまで薄められているというべきか。それをベースに受け方を決められないレベルである。

 

 正直この状態だと、後にも先にもどうしようもないと言うか…………。ん? いや? 待てよ?

 

 

 

 そもそも私はさっき何と自分で言った?

 何か別なものに押し流されて、と言ったか?

 

 

 

 何かって何だ? 疑問に思いながらもメイリンに右フックを喰らってその場に転がる私であるが、思考は停止しない。何かとは? そもそも嫌な感覚というのは解るのは理解できなくもないが、そうではないものを識別できている?

 

 一度疑問に思い出すと、また少し、視界ではない何かの「視え方」が変わってくる。

 

 大河内アキラとの戦闘時、反射の関係もあってかいまいち嫌な感覚に対して思うように動くことが出来なかったときはあったが。果たしてそれは、どう感知していたからこそのそれなのか。性格には「嫌な感覚」を感知できなかった、ではなく、「別な何か」で「嫌な感覚」の感知が遅れていた、ということではないだろうか。

 

 ――――そこの刀太は『悪意』や『敵意』については共振して判ってしまうから。

 

 以前に師匠の言った一言が脳内でリフレインする。正直何かしらのガバの塊のような情報であるが、そこの刀太が指し示すのは「私」である以上、この人格が不安定な私である以上、そもそもそんなものを感知出来てしまうというのが異常極まりないが。

 共振、と言ったか。

 

 つまりそれは――ひょっとしたら、悪意や敵意に限らないのではないだろうか?

 

「――――――――ッ」

 

 声は聞こえない。だが、こちらを殴った瞬間にメイリンの躊躇いがちな感想やら、痛みを覚える感覚やらをなんとなく察してしまう。察せてしまう。「感じ取れてしまう」。

 

 思えばそれは、黒棒を振るっていた時に刀越しでなんとなく、何かが解ってしまっていたそれとも似たようなものなのでは?

 

「――――――(って、)――(はい)?」

 

 その疑問に至った時。その思考に至った時。黒い靄に覆われた視界が、「黒いまま開けた」ような錯覚を起こした。それは、まるで今まで只の壁だと思っていたそれが、実はクジラのような巨大生物の肌の一部であったことを認識したかのような。スケールが違いすぎて理解できなかったものを、正しく捉えることが出来たときのような。アハ体験! とか言うとスケールが小さくなるが、それにも近い、ひらめきのような。かといって、それとも違う、文字通り得体のしれない感覚であった。

 

 

 

 例えるならそれは…………、実体の見えない視界全てが「文章で覆いつくされているような」光景が近いか。

 実際のところそれは文字ではなく、感情というか、感覚というか、上手くは形容できないがビジュアルで例えるとそれに近い。

 

 

 

 シルエットのように形成された人体、そこにびっしりと書かれ紡がれ周囲に垂れ流される文字群。眼前、こちらに平手を向ける少林寺拳法めいたポーズをとっている彼女のようにみえるものから垂れ流される「痛い」と「悲しい」と「寂しい」、そして揺らがない「使命」「過去」の文字。抜け出たそれらは空中に霧散し、時に壁やら地面やらにぶつかって周囲の実体がなんとなく見えるような光景。

 遠くでは真っ黒に塗りつぶされた誰かと、その隣に紫色の文字で「ようやく見えるようになったかいキクチヨ」と文字が垂れ流される……、あっこれは師匠だ。完全にコミュニケーション取りに来てる。

 

――――――(なぁに、これ)?」

 

 そんな不気味極まりない視界(?)を前に、正直私は気持ち悪さが勝った。

 ガバとかそんな次元ではなく本当にこれ、何なのでしょう…………?

 

 

 

 

 



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ST175.積み上げるもの

毎度ご好評あざますナ
今回は合流回?


ST175.Type Of Strength At Others

 

 

 

 

 

 回復しないまでも、最低限何かを把握できるようになった視界…………、こちらに向けて繰り出される動きが功夫なんだか少林寺なんだか八極拳なんだかその区別はできていないが、それでも「ごめんなさい、キクチヨ君……!」という涙ながらのような複雑な感情のこもった拳の動きに、私は正面から受け止めることで対応した。

 一歩下がりながら掌を拳の先に構え、直線で打ち込まれた一撃を受け止める。触覚はあるので拳の握り方が甘い事や踏み込みに力が然程入っていないこと、相手に困惑の文字が浮かんだのを確認できて、なんとも気持ち悪い。

 個人的には睡魔に襲われながら運転していた時や、職場のデスクでうとうとしながらキーボードを叩いている時、あるいは朝うつらうつらしながら朝食の準備をしつつテレビのニュースを見ている時を思い出させる。

 あ、ちなみに全部「本当は寝ていたのに」「脳が動いている夢を見せていた」状態である。運転は居眠り運転で恐ろしいことに目を閉じていても眼前の状況が「なんとなくわかっていた」(※わかっていない)状態だったし、職場では昼休憩から三十分眠ってしまって危うく会議に遅れる所だったし、朝食の方は普通に遅刻した(というか同居していた彼女も寝過ごしていた)。

 

 なお文字と表現したが実際はもっとフワフワした、感情? のようなものが視覚的に判る形で固まっているようなもので、ダイレクトに視界に「浮いて」いるように見えている。名状しがたい絵面であるし、これについては本当何なんだろうねこれはという感想だ。原作にも全然なかったろこんなの責任者出てこい責任者ァ!

 

 そんな怒りと共に師匠の方を見れば、その体表面には「アンタの存在自体がガバそのものなのだから今更どうこう言うんじゃないよ贅沢だねぇ」と紫色の文字が浮かぶ始末。まぁ、はい…………、それについてはおっしゃる通りで(全面降伏)。

 

「――――ッ」

 

 メイリンが一歩下がるのが判別できた(というか視えた)ので、それに合わせて黒棒を振るう。黒棒自体も師匠の隣にいる人型の何かのように黒く塗りつぶされており、存在は知覚できるが中身がさっぱり不明であった。

 塗りつぶされている、とはいっても以前ヨルダを見た時のものとは違う。あれは…………、もっとこう、ホラーとかの怪物じみた迫力が存在したが、あっちに居るのは本当にただ黒塗りの人型のようなものだ。外界から情報が見えないというべきか、お陰でそれはそれで不気味でもある。

  

 いや、この状況であそこにいるとなると、音もなかったことから未来九郎丸(九龍天狗)もしくは超か何かなのだろうが。

 それはそうと、今の状況で鏡とか見たくないな私…………、絶対こう、分裂しかかった思考とかが大量にあふれててそれはそれは酷いことになりそうな気がする。それこそ夏凜の前で取り乱したあの時のような「ぼく」の有様でも観測出来てしまいそうで。

  

 そんな危惧はともかく、とりあえずメイリンの動きを把握できるようになったので、かろうじてだが打ち合いができる。彼女の持つヌンチャクにもその意志のようなものは伝染しており、そこに「倒さないと」「痛い」「戦いたくない」「どうして大丈夫になったんだろう?」「左手ポケットに入れて危なくないのかな」とか色々な情報が見て取れる。ポケットに入れてるのは癖なのでもう仕様がないというか、OSR(それっぽさ)は稼げそうなので特に問題を感じていないからね。大丈夫、大丈夫。

 

 …………視界の端で「自己健忘催眠(セルフマインドコントロール)だねぇ」とか茶々を入れるの止めてくれませんかねお師匠(震え声)。

 

「――――――――!」

 

 そしてセリフは聞こえないのだが、「きゃっ!」と目の前のメイリンが声を上げたのがわかる。……全身、複数個所に「痛い」という思念が走っているので、これはおそらく傷が出来ているな。そして今の傷は私が何かをした訳でもない…………。

 なるほど。やぱり呪紋回路のせいだなこれは。「ネギま!」での超は著しい体力(おそらく寿命など生命力)の消耗となっていたが、メイリンは違った形で出るらしい。となると長期戦になればなるほど、彼女の全身に傷がつくということだ。予想通り長期戦は彼女に不利である。

 

 うーん、この状況に早く慣れないといけないのだが、それはそうとしてこのまま戦い続けると、メイリンが大分痛い事になるな。物理的に。

 

 うん――――――――早々に終わらせなければ。

 

「――――――」 

「――――――ッ!?」

 

 そう判断してからは早かった。自分が痛いのは当然嫌だが、そもそも未来世界の住人とはいえ普通に美人さんだし、全身傷だらけになるのは忍びない。私やエヴァちゃんのように「金星の黒」を宿している訳でも何でもないのだから、そんな相手にいつまでも時間をかけるべきではない。……あんまり時間かけると、どう責任とってくれるんだとか言われそうだし(震え声)。

 まあ誰だって、痛いのは嫌なのだ。ならば私がするべきことも必然、決まってくるわけで。

 

「――――――――(ひでブ)ッ!」

 

 その場から棒立ちで動かず、メイリンの振り下ろしたヌンチャクを黒棒で流し、続く彼女の膝蹴りをもろに胴体に喰らった。彼女の全身に走る痛みと、それとは別に明らかに躊躇しているのか、先ほどから徐々に徐々に技の威力が落ちている。だからこそ、この痛みくらいなら耐えられる。

 

 まあ耐えられると言えど、鳩尾にシャイニングウィザードははっきり言ってゲロ吐いてるのだが(白目)。斬撃の痛みについては多少慣れてしまったようだが、打撃の痛みについてはそうでもないのでいやキツイキツイ…………。

 

 

 

 だが、捉えた。

 

 

 

 そのまま左腕でこちらに突撃してきた足を捕え、後退できないようにしてから肘打ち一発。頬骨を砕かない程度に、しかし後方へ飛ぶことが出来ないのでその衝撃は彼女の全身にダイレクトに。

 脳震盪は起こしていないだろうが、それでも三半規管にダメージが入ったのだろう。しばらくふらつくことが予想できたので、そのまま私は彼女の足を離して、今度こそ大外刈りをかけて転ばせた。

 

 いまだにグラグラといっているのだろうメイリンの首筋に、その背を引き上げながら黒棒の折れた刀身を突き立てる。

 

「……っと、あっ解除されたか」

 

 急に視界に光が戻り、音も聞こえるようになり、眼前でアオザイを赤黒くしているメイリンが肩で息をしていた。涙目である。が、どこか気が抜けたような表情だ。「もう解放された」とでも言わんばかりの感情が「伝わってくるのがわかる」。

 あの「気持ちの悪い視界」は消え失せている。消え失せているが、あの時感じていたもの自体は全く感じ取れない訳ではない。明らかに、明確に、相対している相手から漏れ出ているナニカを、私は直接的に解釈できるようになっていた。

 

 だからこそ、師匠の隣に立っている星月を見て。長谷川千雨の姿をした星月を見て、頬が引きつった。

 

「何でなーんにも感じ取れないんだ、お前…………?」

「まー、そこは疑問に思うよな。……どうでもいいけどメイリン、放してやれよ相棒。もう攻撃してこねーだろ。呪紋回路も切れてるし」

 

 言われるままに黒棒を離して彼女をそのまま寝かせ、私は腕を組む。おそらく釈然としない表情をしているだろうが、まあそれはそれとして一旦置いておこう。おそらくいつものようにはぐらかされて終わりだ。

 師匠の方を見れば、ニヤリとするのみである。ただ「じゃあ、それにも名前を決めないといけないかねぇ」とかいう感情が漏れ出ているのは、なんとなくわかる。

 

 気のせいではなく、明確に感知出来てしまっていた。

 

「あー、つまり? えっ? あの、これって何なんスかね真面目な話、お師匠様」

「まぁ…………、適当に言えばバグだよ、アンタ」

 

 適当にとか言われましても……。

 

「そもそも今のアンタの人格の成り立ちっていうものを、多少は自覚しただろう? 一つ、一人のそれではないっていうのをさ。だからこそアンタの魂には隙間が多い。そしてその魔力というのは、『金星の黒』を使ってひねり出したものである以前に、それも『一人だけとは言い難い』。

 魂と魔力が必ずしも紐づいてると言う訳ではないが、そこは……、察しはつくんじゃないかい?」

「何とも言えないところなのだが」

「じゃあ、流しておこうかね? 本題と言う訳ではないから。

 アンタにかぎらないが、魔力っていうのは消費すると、その消費した体内魔力を体外から多少は補給しようって動きが起こるんだ。これは生命活動というより物理現象みたいなものだがねぇ?」

 

 まぁBLEAC〇(オサレ)でもそういうような描写があったか。〇護(チャンイチ)滅却師(オサレ)に覚醒するときとか。

 

「で、まぁ…………、思念っていうのは魔力に乗りやすいんだ。アンタの場合、その魔力の『出し入れ』の際に、他の連中よりもそれを如実に感じ取っちまう。

 結果として読心術とは言わないが、普段から相手が何を考えているか異様なレベルで察していたろう?」

「いや、異様なレベルって……」

 

 どう考えても原作知識を基にしたムーブでしかないので、それについては異論があるのだが。ほかならぬ師匠がわざわざ嘘をつく必要も薄いし、何より「ようやく」と先ほどこちらに見せていたのだ。

 とするなら、大河内アキラを相手にした時に、師匠は私にこの能力について気付いて欲しかったということなのだろう。

 

 わかるかボケェ!?(正当ギレ)

 

「ボケとは大きく出たねぇ口は災いの元だよアンタ」

 

 ヒェッ!!?(恐怖)

 

「まあガバについてはこれ以上教えたところで大してダメージはないだろうから、アンタについてはそのうち超あたりが何とかしてくれるはずさ。

 それはそうと、一旦落ち着こうかねぇ?」

 

 言いながらこちらに「とりあえずメイリンを起こしてやりな」という指示を言葉を使わず飛ばすお師匠はこう、もはや流石と言うか何と言うか……。直接思考をこちらに送り込んでこないのは、私のトレーニングも兼ねているという所か。

 ちょっと錯乱して暴言をまき散らしたのは謝りますので(震え声)、とりあえずメイリンを起こす。おや? 肩で息をして全身傷だらけの状態だが、血は止まっているのはどうしたものか。……流石に遺伝子改造とか生体改造とか、そういうタイプの技術にまでは手を出していないと思いたいが…………。

 

「ハ……、ハッ、ハッ、…………ハハッ、ハッ」

「大丈夫かアンタ……?」

「え、えと、大丈夫、だ、キクチヨ君」

 

 しゃべり方がぎこちなすぎる……!? 本当に大丈夫かお前本当にさぁ。いや、一方的に「手加減された」側としては、巻き添え(コラテラルダメージ)ではないがその分で決着がつかなかったせいで傷つき続けたと思えてしまう訳で……。

 もっとも本人は「あー、やっと終わった……、疲れた……」くらいの感想しかないようなのだが。

 

「よっと」

「へ? ――――ッ!? な、何をする、降ろしてよキミ!」

「ひとりであんよがじょうずになったらねー(棒)」

「その馬鹿にした言い方、何ッ!!?」

 

 とりあえずどこかに運ぶだろうと予想は付いたので、メイリンをお姫様抱っこした。状況的に肩に担ぐお米様抱っこはキツいと判断し、しかしおんぶすると思いっきり色々な部分を触らざるを得ず、結果的にこれくらいしか可能ではなかった。

 まあ、打撃の感じから案外軽い印象はあったので、こうして持ち運ぶのは意外と苦にはならない。……ならないが「お義父(とう)さんにもされたことないのに~!」とか内心で思っているのはどうなんだお前さん。いくら戦場での経験しかほぼなくても、いくら何でも男子慣れしなさすぎでは……。

 

「相棒はそーゆー所がなぁ……」

「まあこればっかりは無理だろう。それと刀太、そこにベッドを『呼び出す』からしばらくそのままでいな」

 

 そう言われたので私は一秒ほど目を上に向けて、メイリンの視界を私の胴体で隠す。抱き寄せる形になったので「やャッ!?」と妙な声を上げたが、すぐに離して視線を下ろせばそこにはあーら不思議、見事な病人ベッドが…………。

 

「手当は後で九龍天狗あたりにさせるが、一旦そこに寝かしてやりな」

「了解です」

 

 そして案外高い枕のベッドに寝かせると、私を見上げてメイリンは…………、いや顔赤らめて胸元あたりで両手合わせてぎゅってしてるの止めろ(震え声)。「意外とたくましかったな……」とかそんな感想はいらない。「どこで謝ったらいいかな、あんな本調子じゃない相手への仕打ち……」とかいう謝罪は後で受けるからそれはそれで良いので、顔赤らめるの真面目に止めてクレメンス……(白目)。

 

 ちなみに内心戦々恐々としてるそんな私を見て、師匠、大爆笑。

 隣のちう様スタイルな星月が止めに入る始末である。

 

「いや、あんまりそうやって笑ってやるなって…………。相棒だって必死で頑張ってるんだから」

「ハハハハハ、いや、文字に起こすと判り辛くなりはしてるんだが、前よりもやかましさ三割増しで、ねぇ? 中々面白いじゃないか。

 とはいえ『ON/OFF』の任意切り替えが出来るようになるまで、特別メニューは不可避なんだがねぇ?」

 

 まだ何かレッスン2のメニュー続くんですかね……。詳細を聞こうとした私だったが、お師匠から「まあ少し待っていな」と思念で返答される。

 そのまま師匠はメイリンの前に行き、腕を組んで見下ろした。表情自体は穏やかなものだが、おそらく彼女の確度的に大変大迫力な絵面になっていると思うんですが師匠、意図せずパワハラ面接みたいになってないだろうか。

 

「別にそう言う意図は無いが、まぁ仕方ないかねぇ。美とはいつの時代も恐怖を伴うものさ」

「アッハイ(思考停止)」

「棒読みは良くないよ、トータ(ヽヽヽ)

「(トータ……?)いや、そんなことよりも、タローマティ――――やャンッ!?」

 

 メイリン!? 思わず声に出そうになった。師匠が軽く柏手を打った瞬間、彼女の全身が「上下から潰されるような」空間のひずみとともに、空中に一瞬投げ出されて叩かれていた。

 

「アタシをその名で呼んだら何が起こるかなんて自明の理だろうにねぇ……。

 その点、そこのトータはまだ学習してる方だ。オバサ〇とも言わないし、あっちの名でも呼ばないし」

 

 いや、流石にお世話になる相手だし原作も見てるのでそのあたりは当然と言うか、痛いのは嫌なので折檻回避の方策があるなら縋るのは当たり前なんだよなぁ……。

 

「まぁ話を戻すがね。一応メイリン。アンタも合格だよ。

 このトータの修行がひと段落したら全員に合流だが、それまでは特別メニューさ。アンタ自身の性能をある程度引き上げるところまで行くよ。今のままだと不安定すぎて、出来損ないのネギ・スプリングフィールドのクローン体よりも色々アレな状態だからねぇ」

 

 一体それは何を指示してる物言いなんですかね(震え声)。

 ただそれはそうと、再びベッドの上にドサリと落とされたメイリンは、お師匠の一言にはだいぶ驚いた表情をしていた。目を見開いた表情は、なんというかちょっと新鮮である。

 

「で、でも……、いえ、ダーナ、貴女は…………、あっいや! だ、ダーナ師匠は! 何か私が修行に参加するためにはいくつか精神性に問題があると!」

「途中で言い直したからまぁ今回は勘弁してやるかねぇ。

 確かに私のところに連日連夜『戦場で吹き荒れた魔素嵐』を使用して転移して弟子入りを志願してきたときは、色々問題はあったがね。今は大丈夫だよ。

 トータあたりは気付いてるんじゃないかい?」

 

 そう言われましてもですねぇ……、「前の時と変わったと思う所を言えば良いよ」と非言語コミュニケーション? で言われれば回答できないわけでもないですが。困惑したように下から見上げて来るメイリンに対して、しかしどう表現したものかというところであった。

 

「……前より張りつめていない、って感じッスかね」

「張りつめていない? いや、そんなはずは…………」

「でも前だったら、今回だって『手加減せず』きっちりかっちりぶっ殺しに来てたと思うんスよ」

 

 問題はそう、そこである。前と言ってもそれこそここ数週間、大河内アキラと私の元に襲撃させられ続け「こんなはずでは……」「なんでタローマティの所に行かないの……?」とか涙目になりながら夕食を食べていたりした、それよりも前の頃。

 それこそダーナ師匠と間違えて私を蹴り飛ばしにかかったりとか、私をとにかくどんな手でも(使える手なら何でも使って)倒すという強い意志と、それに違わない行動力――――。

 

 先ほどの戦闘を思い返すに、それがすっぱり抜け落ちてナーフされていた。

 

 そのことを伝えると、メイリンはますます困惑した顔になる。

 

「目も見えない、音も聞こえないって状況で、なんで、わかったの? そういうの、えっと、キクチヨ君? トータ君? なんで呼び名が色々あるのか全然、私、判らないけれど」

「な、名前はとりあえず刀太で……(今後の合流を考えると)。

 んー、というか自覚はあるんスかね。自分も何か変わったって言うの」

「特には無いけど。……でも流石に、連日連日迷惑かけて、その上ご飯までご馳走になって、流石にそのままずっと敵対心を抱き続けられる程、私も人間として壊れてはいないよ」

 

 それを壊れていると見るべきか、甘くなったと見るべきか……。いや、そんな数日ちょっとで変わる程の大きなイベントをこなした覚えはない。とするならばそれは、彼女に生来備わっていた人格のそれであろう。

 私のようにツギハギされているのとは、訳が違うのだ。

 

「まあ、実際そういう『甘さ』じゃないがねぇ? なんでもかんでも手段を択ばずひたすらに死に物狂いで、というのも強さの一つだが、それは『使いつくす』タイプの強さだ。対してメイリン。お前が求めているものは積み重ねていくタイプの強さだ。

 積み上げる以上は時間も必要だし、余裕も必要だ。下手に即席で力を身につけて、あっという間に燃え尽きる。アンタはそれで満足かもしれないが、それで目的を達成できないならそこには意味がない。ちゃんと『周りと共調して』修行が出来る程度には、メンタルが落ち着いていないとねぇ」

「共調、かぁ…………」

「アンタの目的が全て達成された時点でアンタが死んでいたら、それこそ本末転倒さ。ヤリ逃げもいいところだよここのトータみたいなもので」

「ヤリ逃げ!?」

「ファ!? いやヤってはいない! 断じてヤってはいないんで!」

 

 逃げてはいるのは認めざるを得ないので、そこは仕方ないのだが(特にエヴァちゃんと夏凜関係)。

 

 そして話していて微妙に気づくのが遅れたが、「おっとヤバッ」と言いながら星月が姿を消すと同時にエレベータの扉がいつの間にか開いて、中からカトラスが……、いや何だお前その恰好、ちょっとOSR(それっぽい)感があって羨ましいぞ、SFチックな恰好。ネギぼーずとかの奴をもうちょっとスタイリッシュに色々省いたデザインといったらいいだろうか。

 ともかく出て来たカトラスは、私の姿を見て。

 

 

 

「…………な、なんだよ、ケーヒンって兄サンのことかよ」(お兄ちゃん! お兄ちゃん! お兄ちゃん! お兄ちゃん!)

 

 

 

 うーん、カトラスちゃんお前そんな小さい子が大人に甘えたがるみたいな感情向けてたんだっけお前さんちょっとさぁ……。(震え声)

 

 

 

 

 



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ST176.いわば「第四の目」

毎度ご好評あざますナ!
 
更新遅れに言い訳すると、ちょっとフラグ管理とか情報整理もあって、数話ほど難産続きそうです…汗


ST176.The Heart Eyes

 

 

 

 

 

 獲得したこの「サイコメトリーもどき」な能力に名前を付けろとお師匠も言ってくるのだが、すぐさまOSR(それっぽい)のが出て来る訳でもなく、だからといってメンタル的にはこの状態はだいぶ心が痛い。なにせ見ればメイリンも「大丈夫かな、この人」とか「ようやく弟子入りしたけど、トータさん痛そう……」とか、カトラスからも「お兄ちゃん! お兄ちゃん!」とか飼い犬が尻尾振ってるような情動が大量に振り撒かれており、この状態で九郎丸たちの前には帰りたいとは思えなかった。

 そんな私を見越してか「とりあえずそれをコントロールできるようになるまで、もうちょっと延長かねぇ?」と言ってくれたのは、まさに神対応というやつだ。お師匠、アンタがナンバーワンだ!(野菜王子)

 

「その褒められ方のどこに喜んだら良いんだアタシはさぁ……」

 

 相も変わらず当然のようにこちらの考えを読んで勝手に応答してくれるお師匠。なおこれは私だけじゃなくカトラスや他のメンバーにもやっているらしく、時々「あんまりお兄ちゃんお兄ちゃんって好意向けてると、素の行動にも出るよアンタ」とかアドバイスして「うるせぇ!」ってブチ切れられていたりもしたが、それはさておき。

 

 修行といっても一週間程度で終わるものを想定してると言われたのだが、やってることは私とカトラスに関しては延々と組手と瞑想である。なおその間、修行をしていない時間だけ私はお師匠から「U」「Q」と左右にそれぞれ書かれたヘッドフォンを貸してもらっていた。

 

「それを付けている間は、能力が強制的にオフになるからねぇ。流石に寝れないのは辛いだろう」

「あざーッス! お師匠、あざーッス!」

「返答軽すぎやしないかいアンタ……」

 

 どれだけダメージ受けていたかは良く判るがね? とおっしゃられるお師匠の言う通り、このヘッドフォンをつけたら同時に漏れ出ていた思念が視認できなくなったので、本気の本気で大感謝感激である。

 

 そしてカトラスとの組手だが。

 

「これは――――――――、なんか普通に強くなってるな。身体の使い方っつーか」

「その全部! 兄サン、余裕で受け止めといて! 言われても嫌味にしかならねーからッ!」

 

 いやそこは正直スマン(本気)。

 師匠から提供されたフリフリな衣装を着用して赤面していたカトラスだが、実際戦場で磨かれてきたのだろう身体の動かし方というか戦い方が色々変わっていた。端的に言えば「遊び」が増えたと言うべきか。遊び、といっても弱体化したという意味ではなく、良い意味で「次の動きの予想が付きづらくなった」というべきか。

 なら何故私が全部受けられるかと言えば……、正直スマンとしか言いようがないのだが、「思念を視る」能力がまだオフにできないからである。

 

 カトラスはフェイントで動きに遊びを持たせていたり、選択肢をこちらに与えている訳ではないようだ。どうも「そういう動きをしないと」生き残れなかった、という感じから来ている。とはいえそうなると、最終的な攻撃の着地点や中継点もわかってしまうので……。

 例えば右フックのモーションに途中まで持って行って、相手の動き次第で足払いかそのままフックにもっていくかとか、瞬間的にめぐる思考も「なんとなく」察してしまう。

 

 これに関して、戦闘中は例の「嫌な予感」じみたそれが、極大強化されたような状態となってしまったのだ。

 

 …………そして何が一番恐ろしいかと言うと、カトラス本人も「右」とか「左」とか使えばいくらでも血装術が使えない私を倒すことなどできそうなのに、師匠からも制限かけられていないのに「あえて」肉弾戦に拘っている所と言うか。

 

 ちょっと肩と肩が触れたり、顔と顔が近くなったり、抱き着くように投げたりするときに思考の色が一瞬ピンク色になるのは本当お前止めろ(震え声)。

 

 

 

「む、むむむむむ――――――ッ!」

「はい、はい、失敗したらすぐ復帰。でないと電撃10万ボルトだよ」

「死にますからダーナ師匠!?」

「アンペアはごくごく少量だから、超高速で全身に激痛が走るだけさ。大丈夫大丈夫、アタシの見てるところなら出力は間違えないから」

「ダーナ師匠の見てないところでやったら暗に死ぬって言ってます、よね!」

 

 

 

 一方のメイリンだが、例のアオザイ風の恰好のままやらされている修行が、それはそれで問題だった。

 フラフープである。まごうことなくフラフープである。

 

 それを見て「いやまさかな……」と嫌な予感がした私だが、この嫌な予感は攻撃が当たるとかの危機感知の例のアレではない。つまり、久々? な気がする特大ガバのお時間である。

 そもそもそのフラフープ修行というのは「UQ HOLDER!」原作において、刀太の魔力制御をさせるためのトレーニングとしてお師匠が準備していた代物だ。体内にある「火星の白」「金星の黒」の魔力(あるいはその「扉」に繋がっている遺伝子情報群)が体内にいびつ、まばらに散らばっているせいで、自然発生的に生成される魔力がいびつな色になり混じり合っていない。そうであるがゆえに近衛刀太は自らの魔力を使えず(色同士が反発する)、「気」による身体強化も同様の理由で限界点が早く、と色々リミットがあると言う事だ。

 これを解消するために、体内の魔力を「意識的に」無理やり攪拌することで、それぞれの属性の魔力を二つに分けて使用する、というものである。

 

 絵面にOSR(それっぽさ)の欠片もないという欠点を除けば、修行としてはそこそこ有用なのだ。…………原作だとお師匠の趣味のいやがらせが炸裂して、フラフープ回しに色々オプションがついていたが。

 

 以前の私の場合は、九郎丸につけられた胸の疵を中心に魔力がほぼオートで回転しており(どうやら星月の手も加わっていたようだが)、自動的に分離されていたため血装術を使うのにも何ら問題が生じていなかったのだが。

 何故それと同様の修行を、わざわざメイリンに施しているのかと言うことだ。……つまりえーと、控えめに言って妹か? また妹ちゃんですか?(震え声) 恐ろしすぎて全く確認する気も起きないので、現状は現実逃避一択なのだが。

 

「安心しな、結婚は出来るよ」

「全然安心材料にならないんスが…………」

 

 私に向けてそんなことを言うお師匠の一言が、肯定も否定もしていなくて不気味極まりなかった。カトラスのように遺伝子情報の離れ具合が多ければ、実質従妹程度の血のつながりになるというのが、何より劇薬そのものであるのだった。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 さて、この能力の扱いについてだが……、全く慣れた気配はないというか、本当、オフとかどうやったら良いのだろうか(震え声)。ここ数日の感じからして、体感的には「黒」の方の扉よりは「白」の方の扉寄りの能力のようだが、そっちの制御は全然出来た試しがない。感覚的に私は「白」より「黒」寄りなので、血装術ならもう最近は大体なんでもできる気がしていたが、こっちは繋がり方も全然思いつかないのだ。

 それで思い出したが……。確か帆乃香いわく「黒」は勇魚、「白」は帆乃香の扉が私には内蔵されている、的なことを言っていたような覚えがあるような、ないような。いや、これもどう考えても原作にそんな設定なかっただろう案件なので、いまだに心の平穏が保たれることは無い。

 

 ことはないが、もうしばらく夏凜とかそのあたりを忘れられるなら、枝葉末節の思考に走る他ないのだ(鋼の意志)。

 

「…………修行編と言えば」

 

 そういえば、まこと今更ながらだ。ヘッドフォンの位置を調整しながら、暗くなった表のテラス(?)で夜空を見上げる。本当に今更の話だが――――この修行編、狭間の城にて。いまだに私は、エヴァちゃんと遭遇すらしていないのはどういうことだろうか。

 

 黒棒を背中から抜き、ヘッドフォンをずらしてみる。……もっとも、声は聞こえず、黒棒はやはり黒塗りされたように何も視えないのだけれど。

 

「あれだけエヴァちゃん関係で色々ありそーな感じを出してたのに、私のことばっかりふれてエヴァちゃんについて全然情報が出てこないのがむしろ不気味すぎるくらいなんだが……」

 

 とりあえず素振りをしながら、最近読み直した原作「UQ HOLDER!」に想いを馳せる。

 本来ならこの修行編とは、つまり「エヴァンジェリン編」であり、彼女の過去篇であり、なんなら「転生オリ主過去改変ヒロインモノ」(死語?)のようなことを仕出かすことになる。

 この狭間の城は、お師匠が言っていた通りに時間やら空間やらが入り乱れている。それはつまり、メイリンのように未来ばかりではなく過去――――過去、この場にてお師匠の下で修業を積んでいたエヴァちゃんとて、例外ではない。

 それぞれの時間軸から外れた対象を、お師匠は夢や幻に例え、後を追うように情を深めないようにと注意をしていたこともあったか。それを知らなかった当時の近衛刀太はこの修行編にて「過去の」エヴァンジェリンと遭遇し、仲を深め――――。

 

 そんなことを考えていると、視界に「在り得ざるものが」映った。

 

 こちらからもっと先、一歩踏み出せば落ちそうな位置。伸びた足場のさらに先端部分に近い所で、人影が素振りをしている。

 それは、まるで黒い刀をもった学ラン姿の誰かであり、ツンツンとした黒髪に「ふっ! ふっ!」と威勢よくあげる息遣いは聞き覚えのあるもので、聞き覚えしかないもので、それでいて「修行! 修行!」という思考だか思念だかが漏れ出ていて――――。

 

 

 

「――――止めておけ。ありゃ劇物(ヽヽ)だぜ? 相棒」

「……ッ!」

 

 

 

 まるで衝動的に、何かに導かれるかのように一歩踏み出そうとした私を、後ろから「少女の声が」止めた。同年代? くらいのその声もまた聞き覚えのあるそれであり、振り返れば「黒塗りされたように」「思念が見えない」。

 そんな彼女は、長谷川千雨の顔をした星月は、私より少しだけ高い位置にある視点から肩をすくめた。

 

「まーアレだ。相棒、今けっこうギリギリで自我を安定させてるだろ? だっていうのに、自分からまーた自己同一性破壊(アイデンティティクライシス)しに行く必要性だって全然ねーだろって。いわゆる危険情報ってヤツだ。知らないに越したことは無いだろ?」

「…………そもそもお前さんの考えが読めないのもかなり疑問なのだが」

「それは、私の考えだって相棒にとっちゃ劇物に違いはないからな。調整くらいはするさ」

 

 あごをしゃくるように指し示す星月。その視線につられて再び前を見れば、そこには既に「本来の」「近衛刀太」らしき何かの姿は、もうない。その微妙なやりとりに作為を感じ、思わず彼女を半眼で睨んだ。星月はこちらから目をそらして「あー」と言葉を選ぶ。

 

「言っておくけど、こっちの都合で相棒の得ている情報の量を操作してるとか、そう言う訳じゃないからな? ガバどころか精神崩壊騒ぎに直結しそうなレベルだから止めに来たわけだし」

「…………あの、パラレルワールドなのか別な時間の私なのかは定かではないが、それと接触することが危険だと? それ程の何かがあると?」

「んー、今の相棒相手なら言ってもいいか。

 もしアレが、相棒が『自覚した』能力に目覚めた後の相棒であった場合、お互いの接触はすなわちマインドクラッシュ! って感じになる。鏡合わせって言ったらわかるか? 無限鏡、鏡の中に鏡がある、循環参照の方程式、無限演算…………、あるいはエントロピーの増大による物性限界、フリッカー現象」

中二病(それっぽい)単語が飛び交うのはちう様の姿してるからか?(適当)」

「ちゅーにじゃねーしッ! 大人の女だ私はッ! っていうかその揶揄い方はマジでケンカ売ってるとみたっ!」

「へ? あっ、ちょっと待て――――」

 

 唐突にこちらの両頬を引っ張りにかかってくる星月(ちう様)。よほど腹に据えかねたのか、あるいはその指摘が羞恥心を煽ったか。

 なんというか、こういう微妙な振る舞いが明らかに大河内アキラの状態の彼女とも違う。それこそ近衛刀太の姿をしている時とも全く違っており、まるで「本当に」この場に当該人物がいるかのような錯覚を覚えるくらいには、漫画やアニメそのままの彼女の振る舞いであった。

 

 なお体力まで変わっているらしく、ぜいぜいと肩で息をする彼女と、やり返して同様に疲れた私である。しばらくその場で仲良くきゃっきゃうふふとアホみたいに取っ組み合いをした後、深いため息をついてお互い反省した。ギャグマンガのノリだろこれ、という具合に。

 

「…………話を戻すと、つまり? えっと、私とその別時間の私とが『お互いに』『お互いを』読み取り合って、その結果なんか中身がバグる、みたいな感じで大丈夫か?」

「……まぁそんな感じだな。だから相棒の姿をしている相手と、相棒が『直接接触する』のはどう考えてもガバ以外の何物でもねぇってことだよ。最悪その場でゲームオーバーだし」

 

 私が言うんだから間違いない、と。その物言いを聞いて、少し察してしまった私である。

 

「やっぱり星月、お前は私の人格が『こう』であることを知っていたな? いくつか別な記憶やら人格やらが、妙な形で入り組んでいるーみたいな状態になっていると」

「………………ま、まぁ、知らない訳じゃなかったが……(というか『ベースを組み上げた』のは私だし)」

「何かボソボソと言って誤魔化そうとしてないか?」

「し、してないしてない! いや、いきなり情報の洪水をわっと浴びせるようなこともする訳はないけど!」

 

 あからさまに慌てている星月だが、やはり何か隠していると見るべきだろう。

 だがなんとなく「わからない」までも「嫌な予感」がする。その先の情報をあまり根掘り葉掘り聞くと、それこそ私の精神が崩壊してしまいかねないような――――「知らないはずなのに」「知っている記憶」が囁いているような、そんな感覚。ひょっとしたら、例の「1周目」の私が知っていたことに関係しているのかもしれない。

 あの私は、星月を敵ではないと言ってはいた。とするなら、情報を隠すことに関しては何かしら私にデメリットが大きいことがある、ということだろうか。星月本人の隠したい情報なのか、あるいは「私」に問題が生じるから隠しておきたい情報なのか。外見から微妙にわからず、また「精神でも」伝わらないというこの状態だからこそ、今の今まで誤魔化されてきたという見方も出来るかもしれない。

 

 だからこそ百パーセント信じることは難しいが…………、それは普通の人間関係においてもそうなのだ。今更と言えば今更な話である。だがこの能力がオフにできない以上、星月とは唯一、私に最も近い位置にいる最も遠い他人であるとも言えた。

 

「それはそれでOSR(悪くない感じ)だな」

「相棒お前、今、またロクでもないこと考えたな……」

「いや何故わかる」

「これでも相棒が『生まれた時から』の付き合いだからな。話しかけたりするようなことは全くと言っていい程なかったが」

 

 星月も動揺しているせいか、あるいは私がサイコメトリー的な能力に目覚めたせいか。その口が段々と緩くなっており、聞き捨てならないセリフも増えて来た。だが少なくとも「まだ」大丈夫だという感覚があるので、ここはもう少し追及しても良いだろう。

 今後の心象もあるが、ある意味で「これ以上踏み込むとヤバいタイプの情報」を見分けるための材料として。

 

「…………私が生まれたころから、とは」

「二年前、だな。少なくとも神楽坂菊千代が近衛刀太の肉体に『発生した段階で』、私はお前のすぐ傍にいたんだ。……って、なんか真面目くさるとエヴァンジェリンみたいになるな、もっと砕けるぜ」

「いや、私に聞こえる声は何も変わらないが」

「セリフ回しの差別化って難しいだろっていう話」

 

 そういうメタなこと言うのは止めろ(戒め)。

 ただ私が何を探ろうとしているのかを察したのか、星月は肩をすくめて笑う。

  

「んー、相棒のその人格っていうのは、やっぱり例の『原作スタート』の時期その前後で変わってるっていうのはわかるな?

 で少なくとも、相棒が考えると危険なのは『自分の素材が元々何であるのか』ってことだな。無茶苦茶言ってる自覚はあんだが、神楽坂菊千代の元になった人格『それぞれの』『バラバラな記憶について』は、思い出した範囲で考えるのは別に問題はない。今までだってそうだったろ?」

「それは、確かにそうだが…………」

「それ以上追及するのはまずいってことだ。それは、思い出せない部分っつーのは思い出せないなりに理由があるんだ。たとえそれが相棒にとって、本意だろうが不本意だろうがさ」

 

 まだあんまり話せないから、詫びと言っちゃなんだけど――――。

 

 星月が人差し指を立てて、私の額を押す。……ちょっとツメが長いのはどういうことだ、別にネイルアートとかしていないのに。ものぐさか? ちう様それは流石に現代女子としていかがなものか…………。

 そんな私の感想が漏れたのか「うるせっ!」と言ってぐりぐりされて痛い! 両手で止めようとしたが途中で引っ掻くようにするのを止めたので、こちらも一旦手を離した。

 

「第三の目、真実の目…………、あの72番が使ってるアーティファクトだ。覚えてるか?」

「あ、あー、えっと………………、サリーか?」

「流石に妹チャンの名前は憶えてるな? ああ。これはある意味で、あのあんちくしょうにも対抗できる能力だと私は思う。だからあえて、それにメタを張った名前なんか良いんじゃないか?」

 

 それを聞いて、ふとアイデアがわいてきた。第三の目の上をいくもので、かつテレパシーであるのだとするなら…………。あえてラテン語に拘る必要もないかと、直感的に単語を省略して、名づける。

 

 

 

「つまり……、第四の目(ザ・ハートアイ)?」

 

 

 

「…………以心伝心(ハートトゥハート)とかそういうニュアンスを持たせたいんだろうけど、いやシンプルすぎて妹ちゃんの『真実の目』って字面は負けてね?」

 

 じゃあもっと良い案を出せと、ニヤニヤ笑う星月に羞恥心を感じて反抗してしまった。

 

 

 

 

 



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ST177.パラレルマネジメント

毎度ご好評あざますナ!
 
今回はメイリン回…、割と後々必要になる娘なので「早く九郎丸達と合流させろや!」というお声はもうしばらくお待ちください汗


ST177.One-Person Council System

 

 

 

 

 

 懸念事項は多いが、それはそうとして能力の制御をさきに安定させないといけない。第四の目(ザ・ハートアイ)(仮)の制御をまずは優先するということになりはしたが、師匠は何か私に変わった修行をさせたりするわけではなかった。繰り返し、繰り返し、カトラスと組手をしたり瞑想したり、時々メイリンも交えて組手もどきをさせたりと、それ以上の話は進まない。

 それで状況が進展するかと言えば、当然のように何かが変わる訳でもない。師匠に相談すれば「結局はアンタの問題だからねぇ」と返されるばかりで、どうしたものかという状況だった。

 

 そんな日々にストレスが溜まらない訳もなく、修行時以外の時間は大体部屋に入り浸って漫画三昧アニメ三昧ゲーム三昧(まさかのネギま! 時代のゲームも棚の奥にあった)というダメダメ有様な私であった。星月もちう様バージョンのまま「マジかよ相棒お前、気持ちは分かるけどそれヒキコモリ街道まっしぐらだからな?」とか呆れる始末。いやちう様の姿で言うのは色々それこそ問題あるだろう、フレンドリーファイヤというか自爆的な意味で。

 とりあえずゲーム上のネギぼーずにネタ的な属性をつけようと色々謎行動をさせたりしていると、コンコンと部屋の扉が叩かれる。

 

 他の面々の目に入ると色々問題だろうと判断して、少し待ってくれと大声で扉に向かって叫んでから、ゲームをセーブしたり色々準備(片づけ)して出た。

 

 そこにいたのは、例のメイリンであった。恰好はちょっと中華テイストこそ入っているもののメイド服のようなもので、ミニスカなその恰好は以前、生の大河内アキラ遭遇直前で見たような記憶がある。手元にはハンドバッグ一つ。

 彼女はそんな私の観察するような視線を受けて、彼女は一瞬固まり、少し頬を赤くした。……嗚呼、それ師匠が着ろって用意した衣装にあったのか。漏れ出る感情で「視える」のを見て、はっとして思わず首にかけてあったヘッドホンをつけ直した。一人でいるとついつい忘れてしまうので、確実に必需品である。

 

「こ、こんばんは……」

「はい、こんばんは。で、お前さんどうした? とっとと帰ってくれてもいいけど」

「な、何でそんな冷たいの、かな。…………いや、ずっと勝手に襲い掛かってたの、私だから冷たくされても当然か」

 

 修行中はそうでもないけど、と少し寂し気に笑われると、彼女が切羽詰まっていた事情について多少は推測が付く分、邪険にもしづらい。そもそも物理的に襲い掛かってこなければ多少話せる相手なのは、アキラさんと彼女と三人一緒に夕食を取っていた時の経験でわかっているのだ。

 とりあえず部屋に通して「で、どうした?」と聞いてみる。メイリンはバッグを開けて、タッパーを一つ取り出した。

 

「…………お、おすそわけ、かな」

「何で?」

「いや、何でって言われても……。えっと、大した理由じゃないって言うか――――ヘッドホン外すの止めて! 恥ずかしくて死んじゃうよ、私!」

「それはそれで恐ろしい話なのだが(震え声)」

 

 小さめのタッパーの中には、レバニラのようなものが入っている。流石に彼女も私を襲う理由はないだろうから、毒など盛ってということはないだろうが、そんなものを差し入れされる謂れがなさすぎて不気味だ。思わず第四の目(ザ・ハートアイ)で何を考えているか確認しようとしたら、大慌てになった彼女のリアクション同様にピンク色の何かが漏れ出ていたので、すぐさま再装着した。

 いや、そのピンク色って異性に対するちょっとドキドキしてるタイプの感情とか、エロいこと(直球)考えている時に視えるものなのだが。お前さん一体いつフラグ建った(震え声)。流石に九郎丸たちのような感じまではいってないだろうが、それにしたってそれにしたってである。

 

 とりあえずちゃぶ台に座ってもらい、浄水を私と彼女の前にコップでおく。

 せめて自分で話すから、ともごもごしながら、メイリンは少し唸り声を上げながら思案していた。

 

「その……、お詫びの気持ちの表し方って、色々考えたんだけど、さ。何と言うか、ずっとキミには問答無用で襲い掛かってたし。もう弟子入りしたから、さ。あんまり関係はないと思ったんだけど…………」

「あー、まぁ、仕事とかだったら仕方ないで流す話なんだけどな。職場なら持ちつ持たれつってところもあるし、あんまり『そういう』気の遣わせ方をすると後で自分の首を絞めるし」

 

 具体的に「私」の中の「いくつかの記憶」を一つ漁れば、体調不良で仕事がまともに出来なくなった社員をいじめて辞めさせたりした奴が、後々同じような状況になっても誰からも助けられずむしろ陰口を叩かれ返していたりといったことがあったりする。辞めた社員は、から回ってはいたが周囲に気を使ってはいたので、「私」の裁量で色々手を尽くしたが、上手くは行かなかったちょっと苦いケースだ。新人だったが多少は経験値があったので、新しく人を採用しても成果が上がらないのが目に見えていたというか。何より虐めていた社員って、グループが違う割に席が近かったりして、色々配慮されているのを「ずるい!」とか言っていたタイプだったし。

 ……そういえば当時の婚約者だった社長令嬢も、そのあたりは「まともに仕事できないならすぐやめさせれば良いのに」と責め立てる側だったか。流石に本人の意図しない形での被災? は人災ではなく天災なのだから、配慮できるところは配慮するべきだと思ったのだが。体調不良以外は色々調整すれば少しずつ回復していたのだが、最終的にメンタルを壊されたのが大きかった訳だし。常時マイナスな緊張状態を強いられる場所から離そうにも、最終的に「私」を追い出した上司はまともに取り合わなかった。

 

 今の私? 状況の複雑さが異なりすぎていてどう配慮されてもどうしようもないので、とりあえず極力痛いことから徹底的に逃走する他ないんですがね(白目)。

 

「ど、どうしたの? 急に遠い目をして……」

「何でもねーよ。で、お礼? というか、お詫びというかで、なんで料理?」

「う、うん。…………キミの妹さんに聞いて、お腹に入るものの方が良いんじゃないかって」

 

 カトラスに聞いた結果その話になっているということだが、それはそれでどうなんだろうかカトラスお前さん……。何と言うか、食いしん坊キャラが最近板についてきているから、どうしても生温かい感情が視線に浮かんでしまう。

 というか、そもそも私とメイリンは仲が良い訳でもないんだから、お詫びというなら何が欲しいかーみたいなのを直接聞けばよいだろうに――ダーナ「仲がそんなに良くないから、身体でも要求されたらたまったもんじゃないからだよ。大河内アキラ相手にしてたアンタの視線を見て色々察したんじゃないかねぇ?」――いやそんな情報を直接脳内にぶち込まれても困るのですが師匠(震え声)。というより脳内会話めいたこれは久々な気がして少し変な笑いが漏れる。

 

 まあ、料理自体は嫌いなわけではないので、ここは有難く貰っておこう。中華料理なのはメイリンという名前のイメージにそぐうし。

 

「味見して良いか?」

「えっ? あ、う、うん……」

 

 ただ、食べた時の味がちょっと問題だった。

 火が入りすぎて匂いが強い……、いや、しっかり調理するという意味では正しいが、その割にモヤシとかが半生で、味も濃すぎる。私の好みの問題ではなく、まばらに塩辛いというのは何なのだろうか。

 色々と調理の順番とか手順を間違えていやしないかこれ。

 

 そんな感想を言うべきかどうか、少し逡巡する。サラリーマン? 的なことをしていた「私」の記憶を思い出したせいか、ちょっとだけマネージャー的な感覚に引っ張られている。

その経験からして、そもそもそんなに仲良くない相手から注意するようなことを言われたら、好意や気遣い、尊厳を踏みにじられたと思うのが普通だ。当たり障りのないような対応で、かつ本人に改善の意図があるかどうかを探るのが先だろう。

 まず手始めにジャブ。

 

「個性的な味?」

「あ、ああ……………、ごめん」

「……いや、美味しくないってわかって持って来たんスかねそのリアクション。何、嫌がらせだった?」

「それは違う! 違う、んだけど、その…………」

 

 メイリンはもごもごと聞こえない声量の独り言をつぶやいてから、きっ! と覚悟を決めたような目を向けて来る。

 

「……今度は大丈夫かなって思って」

「…………今度はって何だ?」

「す、少し言い訳をさせてくれる、かな?」

 

 言葉に嘘はなんとなく、感じられない気がする。……普段よりも「なんとなく」の割合が多い感覚があるが、おそらく第四の目を封じてるからだろう。自覚前からある程度自動発動していた「目」が封じられているが故に、というところだろうが、わざわざ外そうとは思わなかった。

 意図的にやったわけではないと言うなら、訳を聞かない理由もない。続きを促すと、彼女は「ごめん」と先に一言謝った。

 

「少しだけ私の出自というか……、『話して問題がない範囲での』話になるんだけれど」

「前置きされてる時点で大分不安なんスけど…………」

「一応、大丈夫だと思う、かな? まあ、聞いて?

 私は…………、話すと信じられないことになるかもしれない、けど、SF映画みたいな出自をしているんだ」

「トラ〇スモ〇ファーみたいな?」

「と、トランス……?」

 

 おそらく「ネギま!」における超時空の未来編、火星戦争が延々と続いているとかそんな展開だろう未来から来ているのは察しているので、そのあたりは驚く話じゃない。だがノーリアクションはノーリアクションで不自然なので、それ相応に適当には反応する。

 なので適当にあげたZ級映画(アル〇トロス配給平常運転)タイトルを前に、流石にメイリンは少し困惑した。……二十代女性のそういうあどけない顔は色々止めて欲しいのだが(震え声)。生のアキラさんとの対面とかで多少免疫が付いたかと思ったが、若干微妙な気持ちになるのでそうでもないらしい。

 

 いや、しかしなんか久々に口から出たなこういう映画タイトル……。熊本時代はよく雪姫が映画の映像ディスクを節操なしに借りてきたりしたので(何故か映像系のサブスクは買ってなかった)、王道映画、埋もれた映画、当たり映画、B級映画、隠れた名作、Z級映画、駄作、色々と見たものだったが……。

 ちなみにB級はザ・シェ〇、Z級お気に入りはアタ〇クザマミ〇吹き替え版である(声優大暴走)。

 

「その映画はよくわからないけど、うん。…………こう、コールドスリープから目覚めたら世界が終末戦争してましたー、みたいな? で、私は地球からすると宇宙人側、みたいな感じだった」

「その説明はその説明で、確かにそれっぽいな」

「フフ、うん、そうなんだ。……そうだったんだ」

 

 歯切れが悪い言い方だが、彼女はゆっくりと話を続ける。こちらに開示する情報を選びながらだからだろう、若干だがその言葉は前後が矛盾していた。

 

「戦争は激化していった。……地球と、私たちの星とは、お互いがお互いに資源を巡っての大戦争だった。そこで、私は…………、私を育ててくれた人たちを殺された。友達も、子供達も、お兄さんお姉さんも、皆、皆…………。

 だから、最初は憎さで戦ったんだ。だけど、私には出来ることなんてあんまりなかった。魔法アプ、あっ! ……その、まあ、魔法は使えないし! う、うん。体質的な問題で、うん!」

 

 もう既に発言が大分ガバガバだろコイツ!?(白目)

 誰か早くなんとかしろ……、魔法アプリの名前が出て来た時点で少なからず私がいる時空か原作「UQ HOLDER!」に近い時空なのほぼ確定してるぞ。

 それにコールドスリープっていうのも、少し念頭に置いて色々考えると展開が想像できてしまうというか、やっぱりこいつ妹チャンの一人なのでは? 魔法が使えないって点を見ると、おそらく「黒」と「白」の扉との接続が上手く行かなくて、実験材料のモルモットか何かとして残されたのが未来まで残ったとか、そんな展開なのでは……。

 

「だから、私と、最後の戦友とで……、過去を変えようって、それぞれ手段を選んで何とかしようって……」

 

 おそらくだが、その友人とは超のことではないだろうか、とアタリを付けながら話を聞く。

 

「それで、開発した魔法があって…………、正しくは魔法装置なんだけど、その基礎理論を記したってされる『背教の魔女』を、私の方は頼ることにしたんだ」

「だからダーナ師匠のこと、ずっと違う名前で呼んでたんだな? たしかあの人って、名前が昔と違うって本人から自己申告されたことあるし」

「うん、そう。…………それで、ここまでを前提に話を戻すんだけど」

 

 居心地が悪そうに、彼女は苦笑いする。

 

「………………………………その当時って、もう、食事がほぼチューブ食とかがメインでさ。咀嚼能力を低下させないことを目的としたブロックガムと、完全栄養食のチューブ……、歯磨き粉みたいな感じのやつ、うん。それしか食べてなくて」

「未来の保存食、的な?」

「魔法的な廃材利よ…………ッ! い、いや、まあ未来的な技術で色々」

「もうちょっと落ち着いて話していいから発言のガバを減らせ(戒め)」

「えっ!? う、うん。…………ガバ?」

 

 あー、こういうスラングもわからないか。……いや普通わからないかこういうスラング。「私」の中でも、理解してそうな記憶の面々は片手で数えられるくらいだし。

 逆説的に、いわゆる「現実世界」とされる世界に近い平凡さをもっている魂がいかに少ないかということでもある。

 

「簡単に言うとミスだな。こう、綺麗に配置されたものに一つだけ致命的なミスがあって、全体に影響出るとか、なんだろう……。

 例えばケーブルジョイント(比喩)とかのオスメスのうち、メス側のサイズが違ったりスッカスカだったりするときをガバガバっていうああいうのに由来するらしい」

「緻密に作った文書とかで、変なところにミスがあって全体に影響しちゃうー、みたいなことかな? うん、わかった」

 

 微妙に真実のところを省略しながらの説明だが、その適当な説明におおむね納得してもらえた。というか何で私はわざわざガバって言葉の説明を彼女にしているんだか……。

 だが、なんとなくここまで聞いて推測は立った。……というより、似たような経験をした「俺」が「私」の記憶の中にいるので、わかってしまったが正解だが。

 

「つまりスラム育ちとかじゃねーけど、ロクに『美味い!』ってものを小さい頃に食べた記憶がないから、その分の影響で未だに味覚が変っつーことか。俺たちとかと比べると」

「う、うん。……察しがいいね、相変わらず」

「これでもヘッドホン付けてる時は前より落ちてるとは思うんだけどなぁ……」

「正直に言うと『味が付いてれば美味しい』くらいの感じ、かな」

「塩分とかミネラルとか、そういうタイプのもチューブで足りなかったのか……?」

「香りも……」

 

 だからよくわかんなかったけどキミたちが作った料理はびっくりしたというか、と。メイリンは何故かおどおどしながら、そんなことを言う。

 

 この感じだと超とかもそういうノリだったのか? まあ末期戦とかになると資材も食料も何もかも不足してくるものだし。その上で彼女も「ネギま!」開始の2年前にタイムスリップした時点で、食事で感動したとかで「これネ!」とか言い出して「超包子」の発端となり、色々手を出したか。

 そう言う意味だとカトラスとかは、戦場に派兵されるようになる前は割と美味しいものを食べていたのかもしれない。そういうのが解るということは、味覚に「旨味」が刷り込まれているってことだ。

 

「でもまあ、そこは妹さんにも言ったんだけど、とりあえず頑張ってやったら文句は言われないんじゃないかって言ってたから……、ごめん」

「実際、もっと酷いレベルだったら言ったけどこれくらいはな……」

 

 じゃ、じゃあ、と。メイリンは何故か私に向き直り、正座。そのまま武士みたいに背中を折る形で頭を下げながら。

 

「…………このままだと、なんか負けた気がするし、だから! その、色々アレだから、料理とか、教えてもらえない、かな? 先輩(ヽヽ)

「…………返答の前に聞きたいけどなんで先輩?」

「一応、私よりも先に弟子入りしてるから、礼儀的に? かなって」

 

 そんな流れで、めでたく? メイリンが私の事を先輩と呼ぶあの時系列に、ちょっとずつ近づき始めたらしい。

 

 ……でもこの流れだとそのうちお前さん、過去の自分の頭しばきに行くことになるが良いのかお前さん。いや、タイムパラドックス怖いからその話は教えないけれど。

 

 

  

 

 

 



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ST178.彼女は彼女の都合

毎度ご好評あざますですナ!
情報整理と管理が大変ですがそろそろ更新速度も安定するはず…


ST178.“My True Identity That Shouldn't Be Known.”

  

 

 

 

 

「肉に火を入れるならゆっくりな。冷めて良いなら一枚一枚強火でばーって何度も何度もひっくり返すってのも手だけど、色々面倒だし。あとは蒸し焼き」

「火力で何か意味があるの?」

「あー、友達の肉に詳しい奴曰くだからな。実際効果はあると思う。

 後肉汁出るから、塩かけるなら直前にな」

「それは知らない……」

「魚は十分くらい余裕持っていいけど、意図的に肉汁出したいとかじゃなければそういうの注意しておくべきっつーかな? ……よっと」

「というか、中華鍋振るの上手いね……」

「筋肉ついたら大体力業で何とかなるからなこれ。動きだけ覚えればそれっぽくはなる。だからチャーハンとかパラパラするの苦手なんだわ。

 個人的には魚はムニエルとかにしちまった方が手早いしバターの香り嫌いじゃねーから、あれはあれで好きなんだけど」

「私、ステーキにバターとソース乗せるの、好き。…………先輩たちが作ってたアレで、初めてだったけど」

「そーゆーもんかねー。ま、ガッツリいきてーんなら、ステーキソースにバターってのは鉄板ちゃ鉄板だけど。色々注意しないと問題大ありだけど――――」

「それで、蒸し器は――――」

 

「――――――――ッ」

 

 色々とご機嫌斜めなカトラスの視線を受けながら、私とメイリンは今日も料理教室。

 ことの発端はメイリンによる「料理教えて(意訳)」そのものなのだが、せっかくだからとカトラスを誘えば「ま、まだ良い……」とぷいっとそっぽを向かれてしまった。だからサツバツさが抜けた状態のお前さんでその仕草は完全に単なる女の子なんだよ自覚あるのかお前(白目)。幸か不幸かヘッドホンのお陰でその内心を感じ取れないので、実質ノーカンということで宜しいですかねお師匠。

 

 それから一週間くらいは経過して修行の進行もいまいち微妙なまま、それはそうとして空き時間でメイリンとお料理教室である。

 二十代女性なメイリンだが、身長的にはアキラさんよりは小さい。とはいえ漂う雰囲気は頼りなくともしっかりお姉さんしており、あっちと肩を並べて料理してた時ともまた微妙に違う感覚が新鮮だ。具体的にはこう……、ちょっと覚束ない手つきとか。料理下手な人が包丁振るう時に猫の手と教わるアレが、彼女はそもそもドスでも構えるみたいにスって持ってスパーン! って勢いよく振り上げて振り下ろすモーションだったりしたため、手つきが怖いと言うより普通に怖かった。発想が基本野生サバイバル飯(蛮族)に近いらしく、調理時の安全性への気の配り方も割と適当というか、そもそもチューブ食だったせいで色々と「調理風景」みたいな原体験がないせいもあるだろうけど、それはそうとして身の危険を感じたので、結構一から手取り足取りのレクチャーとなっていた。

 

 場所については私の部屋……は流石にマズいので、かつてアキラさんが使用してた部屋を流用させてもらっている。もともと私物の持ち込みがなかったこともあり、現在はキッチン付きの単なる一室のようになっているので、我々のたまり場のようになっていた。

 

「何ていうか……、教え方上手だよね、先輩…………、ほ、包丁とかさ」

「(後ろから抱き着いてるみたいにして何考えてるんだ、あのお兄ちゃん野郎……)」

「大体受け売りとテキトーな手馴れだけどな? まーお前さんの場合、一番は『自分の身を安全に』調理するところから、な? 指切ってもどうでも良いって考えなら、自分の血肉が入った料理をヒトに提供するって方を嫌がられる、くらいに考えとけ」

「それは…………、嫌、だね」「気持ち悪いこと言ってるんじゃねーよ兄サン飯時にさぁ……」

 

 とはいえ何だかんだと一緒にテーブルを囲んで食事をすれば、よほど人を寄せ付けないオーラ―を出したりしてなければ「意図的に」雑談も出来る訳で。その辺り、私よりもメイリンとカトラスの方が案外仲が良かった。

 ヘッドホンを外して「第四の目(ザ・ハートアイ)」を使って確認もしたので、間違いないだろう。お互いがお互いの素性や過去、戦場という共通項に親近感を抱いたらしい。お陰でこちらに向けられる桃色的思考が減少したので、個人的には色々と安心感があった。

 ……根本的には何も変わってないので、あくまで仮初の安心なのだが。

 

「どーしたんだよ兄サン? 食べねーの? ステーキチャーハン」

「いや食ってるだろ。……というかメイリンの方が一心不乱にがっついてる絵面何だろうね」

「――――ッ!? むむ、こ、これは違うから!」

 

 どっちかというとカトラスの方が最近? は大食いキャラの気があったので、お株を取られてしまっている印象である。まあカトラスはカトラスで量を食べていることに変わりはないので、そうそうキャラ変している訳じゃない(原作からのキャラ変と言う点には目を瞑る)。

 メイリンはどうも、最近ようやく味覚に「旨味」のカテゴリーがしっかりと出来始めたらしく、こうして食事に猛然と望み気味だ。化学調味料万歳! になりかねないのを色々と気を配っているところなので、出来れば実を結んでもらいたい……。オイリー大好きはもう無理だけど(特に中華系)。

 

 食後そのまま三人で後片付けをして撤収と相成るが、カトラスとメイリンはまだ何か話し込むことがあるらしいので、そのまま放置。

 外に出て扉を閉めれば、完全に石造りのような近未来風建築が延々と続いている。……毎度思うが遠くの距離感が色々と崩壊しているので、遠近感がしっちゃかめっちゃかになる構造だ。実際お師匠のことだから「無限に続く廊下」くらいの設計はしていて不思議ではないのも色々と拍車をかける。

 

「えっと、ここから数えて二十五番目の扉からまた左右の色を見て――――」

 

 

 

『――――ふみゅー! ふみゅー!』

 

 

 

 扉の数を数えながら歩いて自室を探していると、廊下に反響するなんだか聞き覚えのある声。長らく聞いていないような、体感的に三カ月くらいは聞いてないような感じのする声である。なんとなくトラブルの予感を覚えて後方を振り返れば、こちらに猛然と突っ込んでくるビカビカと目に痛い光を放つ電気の塊のような何か………、もといネズミ的なシルエットを持つ妖魔。

 何やってんだお前と声をかけると、走ったまま急ブレーキをかけた時のような「キキー!」とか「ズザザー!」みたいな音を鳴らして(器用な……)、私の目の前にチュウベェは止まった。何と言うか本当に久々に見るなコイツ……。今、お師匠の方で確保しているとかそんな話をされた覚えがあるのだが、こんな時間にどうしたというのか。外も普通に月が上ってるくらいだし。穏やかじゃない。

 

『ふみゅー! ふみゅ、ふみゅ、ピチュ?』

「だからその最後のやつ止めろ(戒め)」

 

 適当に突っ込みながら「そういえば」ということで、ヘッドホンを外して首にかける。ちなみに現在の服装は学ランなので、和装姿よりはヘッドホンが似合ってるような気がするのは気のせいじゃないと思いたい(オフの時でもOSR(それっぽさ)大事である)。

 果たして目論見は成功し、私は「普段通りのノリで」チュウベェの発言の意味を理解することが出来た。

 

<俺チャン匿ってくれ兄貴ィ(ビッグブラザァ)! 頼む後生だぜ、後でビッグブラザァが好きそうな水着チャンネーのエロ本やるから!>

 

「いやいきなり何言ってんだお前さんッ!?」

 

 あっしまった、思わず黒棒を振り回してしまった。当然切り下ろす形ではなく、側面で殴打する形。折れたとはえ形状はしっかりしてる黒棒のそれにべちんと激突したチュウベェは「ふみゅー!?」と外見上は愛らしい声を上げて、ス〇パーボールみたいに廊下の壁を何度も激突して往復した。

 描写が完全にギャグ漫画なんだよなコイツは……。そう考えてると、なんだかすごいやかましく、恐ろしい思念が飛んできている。具体的に言うと「怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒――――」と延々と「怒」の文字で埋め尽くされた感情だ。距離はそこそこありそうなのに、殺気と言う意味で思わず一歩引いてしまう。

 

 果たして、チュウベェが来たそのままの廊下の奥から、無表情なお団子シニョンに「超包子」印のコンバットスーツを着用した超鈴音が、腰に装着されたガ〇ダムでいう無線ファ〇ネル(新人類兵器)的なブースターだかスラスターだかから火を噴いてこちらに向かって来ていた。いや早い!? 速いぞコイツ!

  

「コード9784063954845、呪紋回路・起動。

 ラスト・テイル・マイ・マジックスキル・マギステル――――」

「いやこんな流れで呪紋回路使う奴があるかお前さん!?(白目)」

 

 見ればチュウベェは明らかに私の身体を盾にしており、超の目は正気ではなくその動きのみを捕えている。端的に言えばこちらを「物体」程度にしか認識していない状態だ。

 そのまま彼女は「燃え盛る(グラディウス・ディウィヌス)炎の神剣(・フランマエ・アルデンティス)!」と思いっきり詠唱を破棄した炎の剣を手に出現させ、辻斬りのごとく軽い動きで横を通り抜けると同時に、私をチュウベェ共々「叩き斬った」。いや、こんな流れで易々と人を殺してるんじゃねぇ(戒め)。

 

 痛覚が一瞬で振り切ったから一瞬意識が持っていかれそうになるが、流石に胴体が両断されれば「黒」の側の扉にもつながる。話が出来ない状況なら仕方ないと受け入れられる程私も現在余裕はない。胴体の上下断面がずれないように血装術で固定しながら、ついでとばかりにドクドクと止まらない血を起点に「死天化壮(デスクラッド)」を纏った。

 えらく久々に感じるが、そのせいでブーツ部分のデザインが若干変わったり、ディティール的にグローブが追加されたりしていた。足は前は紐固定のような形状にしていたが、メイリンと戦っていたせいもあってかジッパー部分のないジッパーのようなデザインに。グローブは指抜きで、右手と左手の甲に「月」と「星」がそれぞれ一つずつ……、いやここまでディティール拘ってはいないから、これ多分星月の仕業だな。

 

 久々の血装術ではあるが、ラグなどなく「当たり前のように」起動できた。

 

 なおそんな私に便乗して、形成途中の血の中に紛れたチュウベェは、特に何か意識したわけでもなく全自動で術式兵装化。「死天化壮(デスクラッド)疾風迅雷(サンダーボルト)」までほぼ1秒かからず変化し、再生したこちらに振り向くように斬りかかる超のその一撃を黒棒で受けた。

 

開放(エーミッタム)――――」

「いや、させねぇから」

 

 詠唱と同時に全身に独特なタトゥーの様な回路模様が浮かび上がる超。黒棒で受けるより一瞬先に、既に次の動きとして遅延術式で準備していた「燃ゆる戦いの歌」の術を開放(エーミッタム)しようとしているのを把握してるので黒棒に「既に纏わせていた」血を媒介に内血装が爆発して身体を裂く時の要領で、燃ゆる炎の剣の術式が「解ける」より先に彼女へと礫のように浴びせる。浴びせた先から超小型の血風を展開し、呪紋回路状に通っていた生命力=魔力のサーキットを封鎖、あるいは別なパスを作り出し暴発、空撃ちさせる。

 完全に「第四の目(ザ・ハートアイ)」で先手を取り続けているインチキ戦法だ。我ながら大概にしろという話である。

 一瞬のことで何が起こったか判断が発生するよりも「先に」、術を展開しようとしている途中の彼女の背後に「識別できない速度で」回り込み、そのまま足を払って血装術で両腕を後ろに縛った。

 

「ム……!? これは一体……、先輩の血装術、カナ?」

 

『ふみゅー、ふみゅー。……ふみゅ?』(※以下鳴き声省略)

<……何か兄貴ィ強くなってね? 俺チャンこのまま逃げおおせておk?>

「いいわけねーだろアホか」

<!? オゥマイガッシュ! 何てことだ、兄貴ィなんで内側の俺の声が聞こえるってんだ!?>

『相棒もそれなりに強くなってるからなぁ……』

 

 星月に突っ込まれ、愕然としたチュウベェの感情が伝わってくる。

 状況はわからないが「あの」超鈴音がここまでキレるとは、相当酷いこと(あるいはくだらない事)をやらかしているだろうというのは予想できる。過失相殺したらチュウベェが悪いだろうという予想は成り立つので、今にも私の内部から抜け出そうとするチュウベェを「血装備術で球状に捕獲して」、胸部の中央から抉り出すように取り出した。絵面としては普段術式兵装使用時と逆な形であった。

 

 危機を脱したせいか徐々に徐々に「扉」との接続が緩くなっていくので、完全解除される前にしゃがみ込んで超の顔を見る。

 

「とりあえず状況わからないけど、チュウベェは確保したから、殺さない限り後はお好きにといったところだ」

<ヤベー! 逃げられない俺チャンちょっとこれ真面目にマズい? 拙い? 処される? 処されちゃう? そんなことよりチリドッグ誰か持ってない? 冤罪な俺チャンは十分前に御菓子を食べて以来何も食べてなくってねぇ>

「持ってる訳がねーだろ阿呆」

<アバー!? アバー!? アバー!? アバー!?>

 

「絵面が完全にコント時空ネ…………」

 

 なんとなくイライラきたのでテニスボールとソフトボールの中間くらいなサイズになったチュウベェをそのまま地面にダムダムとドリブルする要領で遊ぶ。「俺チャン悪くねーよね? この純真な目を見てよ、こんなステキ妖魔がワルイコトスルワケナイジャナイカ……」という内心の感情が透けて見えてたので、何かやらかしたにしても確信犯だろうことは判っている。下手すると超にそのまま消滅させられかねないので、とりあえず軽いペナルティに見せかけて、彼女の側の溜飲を下げることにした。

 想定通り彼女の側からは「ダブルスタンダードだコイツ……」「絵面可哀想だけど少しも反省しなさそう、だね……」という感想と共に、少しだけ冷静になってもらえたことが判った。

 

「……あ、腕の拘束も解いてもらえないカ? 流石にちょときついネ」

「いきなり道すがら襲い掛かられて胴体鳩尾から真っ二つにされた側としては、転がされて腕拘束で済んでるだけ有難いと思えって感想だが」

「ウッ! い、いや、違うネ、ちょとだけ言い訳させてほしいネ……、ほらほら、回路切るから、ネ?」

 

 青緑色に鈍くサイバーな発光をしていた呪紋回路はその光を失い、頬についていたアーマーも薄緑色のプラスチック的な色合いに落ちる。同時に彼女から怒気が薄くなり、「私」を認識したことを理解できたので、腕を拘束していた縄状の血装を解き回収した。

 

「血は、一応戻すんだ……、ア! いや、戻すネ」

「廊下汚れるとお師匠に色々言われそうだし、『無理なら』仕方ないけど出来るならまぁ、な?」

「よいしょと。……ドーモだネ、流石先輩、話がわかる。フッフッフ」

 

 相変わらず超は気安くこちらに笑顔を向けて来るが、笑い方が笑い方なので胡散臭い事この上ない。ちなみに「大丈夫だよね? バレてない……、よね?」とか何か色々内心で飛んでるのが謎である。深堀りしようと思えば深堀り出来そうだが、これについてはなんとなく「嫌な予感」がするので、とりあえず表面の感情だけをなぞるだけにしておこう。

 意識しなければ内側に浸食することは無いのは、流石に最近の経験則で判っているのだ。

 

「まあいいや。で、この自称愛され系大妖怪は何をやらかしたんだ?」

『ピ〇ピカチュ?』<ピッピカチ〇?>

「誤魔化せるか!」「誤魔化せる訳ないネ!」

 

 内心も発言も一斉に色々問題のあったチュウベェに私と超渾身のツッコミ。……というか超は超で何故チュウベェの考えてることがわかるのか、と言う謎はある。

 なお一応聞いてみると「翻訳機作たネ」と軽い調子で返されるものだから、どんな顔したら良いかわかったものではなかった。

 

 で、結局何をしたのかといえば。

 

「下着泥棒ネ」

 

「なるほど、有罪(ギルティ)。こっちの被害は被害として」

<はて? ……えっ、ちょっと兄貴ィ(ビッグブラザァ)、まさか本気でこのまま手渡すつもり!!?> 

「アイヤー! 問答無用ゥ!」

 

 そのまま超は私の手からチュウベェをひったくり、どこから取り出したかわからない謎のカプセルに封入した。見た目的には玉虫色コーティングされたような半透明のモ〇スターボールなので、そっちはそっちで色々心配である(メタ)。

 

<ヘゥプミィ! ヘゥプミィ!>

「ネイティブ発音で助けを求めようとしても無駄ネ。ククク、さてどうしてくれようカ……。

 って、あっ! あー、アイヤ、ハハハ…………、ごめんなさいネ? 思いっきりぶっ殺しちゃって」

 

 殺したくらいで死なないとはいえ先輩達ってそういうのちゃんとしてる方だし、と。苦笑いしながら謝罪してくる超に、こちらもどう反応を返せば良いかわかったものではない。

 とりあえずヘッドホンを付け直…………、おや? あっ、耳当て部分が片方どっかにいってる!? 左側だけ何もない、だと? とりあえず付けてはみたが、「第四の目(ザ・ハートアイ)」をシャットアウトする機能は失われていると見える。ちょっとお師匠! モロすぎやしませんかお師匠!

 ヘッド部分が若干溶けていたりするので、おそらく先ほどの超の斬撃やら疾風迅雷の超高速やらで壊れたのだろうと推測はつくが、これは流石にどうしたものか……。

 

「事情わからないけど、それって大事な物だたか?」

「まぁそれなりに」

 

 そして超も口では「わからない」と言いつつ感情の方は「これで壊しちゃったんだ、私……」とか既知の反応をしていて、もうどういう表情をしたらいいかさっぱりわからない。前から思っていたがコイツ一体何をどこまでどう知ってるというのだ。明らかに自称ラスボスが知り得る範囲の情報を超えているだろ。

 

「あー、それは悪いことしたネ……。タローマティ的に、やらかしは自分でケツ拭け! って言われるから、先輩にやらかした私がどうにかする流れカナ?」

「どうにか出来るのか?」

「物品の詳細次第になるネ。とはいえ……」

 

 色々ぶつぶつ言いながら「これまた私のペナルティ増えないかな……」とか「こっちの先輩たちと会うの、また長引く……」とか色々内心思っているのを見て、ふと思った。

 そもそもメイリンのように一緒に修行をしているのならともかく、現時点において超の姿は見え隠れ一切していない。にもかかわらず何故この女は私を先輩と呼ぶのか。

 

「うーん、とりあえず少し交渉させて欲しいネ。大丈夫、おっぱい揉むネ!」

「揉まん! というかそれで話を終結させようとするな」

「アイヤー!」

 

 ぺしっと軽く額にチョップ。目を漫画で言えばバッテンにする形で、笑っているんだか困っているんだか中途半端な表情の超。そんな、一応は色々動揺しているような彼女に。

 

「あと前から思ってたんだけど、何故私のことを『先輩』とか呼ぶんだお前さん」

 

 まともな返答は返されないだろうと適当に聞いたのが色々問題だったらしい。

 

 

 

「それはまぁ、私が不死身衆ナンバー16だからで――――あっ」

 

 

 

 ………………………………………………………………。

 

「はい?」

 

 あっ、じゃ無いんだよお前、えっ何その情報? えっ? えっ? ちょっと待ってちょっと待って、いくら何でもそれは脳の処理が追い付かないのだが?(震え声)

 おそらく過去一番と言っても良いくらい大混乱を引き起こしている最中、超も超でこれは今教えると拙い情報の類だったらしく「わああああああああああああああッ!!!?!?!?!?!?」と漏れ出ている感情が大パニックを引き起こしていた。

 

「い、いやいや、違うネ、コレはアレアレ……、刀太サンのガバが感染った!」

「何でもかんでも人のせいにするんじゃありませんッ!(戒め)」

 

 

 

 なお、あまりに開示された情報がショッキングすぎたせいなのか。この時のやり取り以降、「第四の目(ザ・ハートアイ)」はなんとなく「閉じたい」と思うだけで機能しなくなった。

 こんな形で能力のオンオフ制御できるようになってもさぁ…………。

 

 いや、それにそもそも原作でそんな話なかったろうに超もお前さん本当さぁ………………。

 

 

 

 

 




※本作的には当初からの設定です


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ST179.貌を知る

毎度ご好評あざますナ!
遂にここまで来た…というかこの設定を出すところまで来た…


ST179.The Hero With A Hundred Faces

 

 

 

 

 

 九龍天狗さんとの修行は、相変わらずといえばいいのかな。技量はあっちの方が上で、僕がなんとなく手加減されてるってのが判るくらいにはなってきたんだけど、正直手詰まりだ。

 戦闘訓練自体は毎回ちょっとずつレベルが上がってはいるけど、とてもこの調子だとクリアできる自信がない。

 

『――――――――』

 

 そして修行ごとのタイムリミットが来ると、天狗さんが何とも言えない目で僕を見て来る。その目に妙な既視感を覚えながら、僕は毎回「狭間の城」のテラスまで巻き戻されていた。

 またあの「空間が歪んだような」「いくつもの腕」で引っ張られて、空に引き戻されて放り出されるような形。流石に僕も色々と、疲弊した状態でこの扱いはどうにかして欲しいんだけどなぁ……。

 

「ふ、ふぅ…………、あっ、キリヱちゃん――――」

「に゛ゃああああああんッ! 今度という今度こそ逃げ出してやるううううッ!

 なによ『ウラシマ効果の発生を回避するために魔法的な迂回方法を述べよ』って! 時間関係だけで良いとか言って実質魔法の知識も必要じゃない!? 何それ虐め? いーじーめ! 絶対いじめよッ! うなああああああああんッ!」

 

 頭を抱えながらジタバタと、僕みたいに「扉の手前に」投げ出されて暴れてるキリヱちゃん。僕は身体的な疲れが大きいんだけど、キリヱちゃんは頭脳労働というか、そっちの疲れが凄いことになっているらしい。叫び方に魂がこもっていて、どう声をかけたものか。

 三太君はまだ帰ってきてないらしく、そっちの扉は鍵がかかったままだ(扉の施錠のところが緑色と赤色でトイレみたいになって見えるようになってる)。

 

「全く冗談じゃないわヨ、何考えてるのよあの女……って、九郎丸じゃない? お疲れ、みたいね…………?」

「う、うん。キリヱちゃんもね?」

「そりゃっそうよ! こっちに来てから固有能力全然使えてないし! 仮契約カードは多少練習したけど」

 

 でも今はちょっと使う気力わかないわー、って言いながら、へなへなと倒れるキリヱちゃんだった。

 フィジカル面では僕の方がマシだと思うから、とりあえず彼女を抱える。「あー、りー、がー、とー」ってキリヱちゃんの声が本当に投げやりだ……。

 

 今の時刻は一応、朝方なのかな…………? 城の入り口のようになってるテラスから見て左側、東より太陽がちょっと上り始めている。逆に夕焼けのように見えなくもないけど、日の光が強くなってるので目が少し痛かった。

 ちょっと流石に「自室」で寝たいなと思いながらキリヱちゃんと一緒にその場を後にしようとした。したんだけど、さっきの光景で一点、おかしなところがあったことに気付いた。

 

 最近あまりにもこうやってこの場所に帰ってくることが多すぎたせいで、つい見逃してしまったこと。あの「瓶」というか「壺」というか、そっちじゃない。テラスの反対側、扉よりも奥の向こう側。

 

 

 

「………………………………………………………………」

 

 

 

 と、刀太君だ…………! 体感的に一月ぶりくらいの刀太君だ!? ダーナさんの言っていた「時間が追い付いたら」っていう、多分その時が来たんだ!

 刀太君はちょっと懐かしい学ランな制服姿で、座禅でも組むみたいに胡坐を組んでいる。そして膝の上には、折れた重力剣。その柄を手で握りながら、刀太君は微動だにしていなかった。

 あの姿勢は、修行してた時に何回か瞑想と称してやっているのを見ていた。刀太君いわく「武器と心を通わせる、的な?」と言っていたのを覚えている。ちょっとカッコイイ感じの座禅だ。

 あんなカッコイイこと恥ずかしげもなく素面でやってるのは、絶対刀太君。偽物とか、ずっと会えなかった僕が寂しさで見てる幻覚とかじゃなくって、きっと本物の――――。

 

「ちょ!? 九郎丸、痛い痛いッ! 力強い、どーしたの貴女!?」

「ご、ごめん。…………えっと、アレ見てさ」

「アレって…………、ちゅーにじゃない! ちょっと本物!? おーい、とーた! とーた!」

 

「……………………」

 

 僕とかキリヱちゃんの声に、あっちの刀太君は「聞こえていないように」身動き一つとらなかった。じっと、そのままの姿勢。

 ちょっと? と少し怒ったようなキリヱちゃんは、僕の腕から降りて刀太君の方へ行こうとして――――。

 

 

 

「ちょ、ちょっと待って! キリヱ先輩っ!」

 

「わっ!」

「に゛ゃんッ!?」

 

 

 

 後ろからいきなり駆けて来た、チャイナドレス風の恰好の彼女。とてん、と転んじゃったキリヱちゃんと、「いきなり気配が現れて」思わず腰に構えて、でも夕凪をとりあげられてることを思い出して仮契約カードを探し始める。そんな僕らに「だ、大丈夫、敵とかじゃないから……」と彼女はどうどうと手を前に出した。

 

「とにかく落ち着いて……、あっ! まだ先輩の方にはいかないで!」

「って誰ヨアンタ! 先輩とか、また誑かしたわけあのちゅーに!!?」

 

 たぶ!? って驚いたお姉さんは、顔を赤くしてぴしり! と止まった。えっと、その反応は…………。また刀太君かな? うん。刀太君優しいし、この人も訳アリっぽいなら、変なかんじになっちゃっても不思議じゃないのかもしれない。

 

「キリヱちゃん、あの人だよ。こっちに来た時、刀太君に全裸にされてた……」

 

 そしてこの人は覚えてた。こっちに来た最初の頃に、刀太君に倒されて「覚えてなさい!」みたいなことを言って逃げて行った人。ちゃんとした服を着用してるから印象が全然違うけど、足の運び方とかからして間違いないと思う。

 もっというと、こっちに来る前にダーナさんが「()び出して」僕と戦わせた、あのコンバットスーツの人と一緒だ。

 

 そんな、クリーム色っぽい恰好をした彼女に、キリヱちゃんは両手を腰に当ててプリプリしてた。行こうとするたび声で止められるし、今も走ろうとしたら抱きかかえられて「うなああああんん!」ってまた絶叫してる。よっぽど精神的に限界なのかな…………。

 

「何で止めるのヨ! というか名乗りなさいよアンタ!」

「め、メイリンって言うけど、そういうキリヱ先輩も自分で名乗るべきなんじゃ……」

「アンタ最初に私を名指しで制止したじゃない!」

「そ、それはそうなんだ、けどさ…………」

 

 知ってたから二度手間じゃない! って少し叫んでから、ぜいぜいと肩で息をするキリヱちゃん。疲れたのかな、まぁまぁと言いながら僕はメイリンさんからキリヱちゃんを引き取った。

 

「あっ九郎丸先輩。ありがとうござい、ます」

「うん、どうも。本当に知ってるんだね……。えっと、メイリンさんは何で僕たちを先輩って?」

「私もタローマティ……、あっ! えっと、ダーナ師匠に弟子入りしたから、こういうのは年齢よりも入った順番かなって。ダーナさんから、カトラス先輩も含めて色々聞いたし」

「その心意気は良いと思うわ」

「カトラスちゃんとも知り合いなんだ……」

 

 それで、どうして僕たちを止めたのかと言う話を聞いてみた。メイリンさんは、少し困惑したような顔で刀太君の方を見る。

 

「今、先輩は…………、精神の内在宇宙? の中にいるらしいから」

 

「「内在宇宙?」」

 

 うん、と言いながら、メイリンさんは刀太君の足元の方を指さす。よく見るとその足場には、青白い円形の魔法陣が光っている。光量自体はうっすらとしていて、なんとなく見えるくらいだ。

 メイリンさんは「私も良く判らないんだけど……」と前置きして、困惑しているみたい。

 

「何だっけ…………、何かの古い契約? みたいなので、あの折れた武器に眠ってる精霊さんを呼び起こして、契約を結ぶとか言ってた、かな」

「契約……?」

「いまいち要領得ないわね」

「だ、だって、私、結構ダーナ師匠から嫌われてると思うし…………、新参だし、その、先輩みんな年下だし、接し方わからないし、えっと……」

 

「私の方が多分年上じゃない? 最低でも三十◯歳以上だし」

 

「「!?!!?!?!」」

 

 それはそうと、キリヱちゃんのそんな爆弾発言に僕とメイリンさんはびっくりしちゃった。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「阿呆みたいな能力制御の経緯はともかく、ひとまずオメデトウといっておこうかねぇ」

 

「経緯?」

「どういうことだよ、兄サン」

「悲しい…………、事件があったんだ…………(諦観)」

 

 ニヤニヤと笑いをこらえている表情の師匠を前に、私は思わず遠い目をした。カトラスとメイリンが確認してくるが、それに答えられるような内容ではないのでここははぐらかし一択である。

 もはや見慣れた長い長いテラス部分。メイリンは手にフラフープを三つ持ち(ちょっと上達したらしい)、カトラスはカトラスで謎のアイテムを持っている。私はさてどうなのかと言えば、とりあえず黒棒を持ってくること以上の話はされていなかった。 

 とりあえず最近「また」着慣れた学生服を身にまとい、黒棒を背中に下げた恰好。面子は色々異なるが、なんとなく原作の修行編っぽさがちょっと出てきた気がする。あくまで気がするである。最近このあたりのガバ感覚が麻痺してる気がするが(原作とあまりにかけ離れすぎていて)、もはや今更だと肩をすくめる他なかった。

 

 さて。チュウベェをおそらく自分がいた時間軸か何かに連行した超の爆弾発言から翌日。……あの発言の後「サヨナラネ☆」と逃げるように姿を消した超についてはともかくとして。ヘッドホンをつけてない私の姿に訝しげな表情だったカトラスとメイリンだった。が、このあたり「制御できた」と軽く語り驚かれつつ、移動して今に至る。

 とりあえず二人にはいつも通りに修行しろと指示を出し、お師匠は「ついて来な」と先端部まで誘導した。

 

 ゆるい円形をした広い足場は、相変わらず原作通りか白い扉が三つ設置されている。そこよりもさらに奥、足場が少し心もとないと感じる位置に師匠は歩いた。こっちに来な、という指示に従い後を追うが、なんとなく「変な予感」がするので「第四の目(ザ・ハートアイ)」を(ひら)く。

 周囲には何もなし……、敵意やそれに準じる戦意もなし。もっともお師匠のことだから好き勝手自由自在にできる可能性は高いので、この懸念に意味があるかはわからないが。もっともそんな私の視界に「そう警戒しなくても大丈夫だよ」とお師匠から洩れた半笑いの感情である。それを察知して()じると、お師匠は腕を組んで「あんまり積極的に言いたくはないがねぇ」とため息をついた。

 

「そうやって警戒する姿勢は悪いと言わないが、今回はむしろアンタ向きだよ。喜びな」

「何を…………?」

 

 困惑する私に、師匠は鼻で笑う。

 

 

 

「今日からレッスン3――――――アンタのその魔法具(アーティファクト)百の顔を(ホ・ヘーロース・メタ)持つ英雄(・ヘーカトーン・プロソーポーン)』の修理作業だ。

 まあ修理と言ってもニュアンスはだいぶ異なるがねぇ」

 

 

 

 聞き覚えのないその横文字に、思わず私は「はい?」の言葉もなく、ぼけーっとした。頭が悪そうな顔をしているはずだ。「ばなな」である(直喩)。

 そんな私に「ん? そういえば正式名称を知らなかったかねぇ」と、まるで事前に知っていて当たり前の知識のように語ってきた。いや、えっと、状況的に修理といえば黒棒とかを指しているというのは想像に難くないのだが、本人(?)は「αの三角(グロス=ドリクト)」を偽名としながらも名乗っていたりするので、色々と知らない情報を投げられても困る(断言)。

 

 字としちゃこう書く、と空中に指で「百の顔を持つ英雄」と書くお師匠。当たり前のように指の軌跡が空中にマジックでサインしたように残り、なおかつ「鏡文字で」書かれていた。つまりこちらの正面から文字を見ることが出来るようになっているわけで、えっと、つまり? えっそれ原作設定ですかね? 知らないのだが。

 

「まあ、あんまり気にする類の話じゃないかねぇ。どちらにせよ、もう『終わった話』になるから」

「終わった話…………?」

「ネギぼーず直々に破壊されたんだろう? ということは、それはもうその名前の通りの機能を発揮できない状態にされたってこと、当初設定されていた魔法具としては終わっちまったってことさ。

 本来ならジャック・ラカンの使用している『千の顔を(ホ・ヘーロース・メタ)持つ英雄(・キーリオーン・プロソーポーン)』あたりを魔導書『咲待ちリンドウ(アルビレオ・イマ)』に記載された重力魔法をベースに色々と小細工をろうした代物のようだがねぇ」

「あのだから、知らない設定なのかこっち限定の設定なのか…………」

「面倒くさかったら全部ひっくるめて『この世界線限定』と思っておきな。そうしたら胃痛が少しは楽になるだろうさ。

 まあ、そうはいっても機能的に『心当たり』はあるんじゃないかと思うがねぇ?」

 

 まあ、そうと言われればそうなのだが。

 実際原作における「不死狩り編」というか九郎丸の実家以降、唐突に黒棒は姿を延々と変え始めたというのはあったが。巨大な質量の岩だったり、あるいはハマノツルギの形だったり、特に説明もなくポンポン出て来ていたものではあったが。

 だが、果たしてそれが原作のそれと同様のものなのか? と言われると疑問は残るし…………、もうこれ以上のガバはキャパオーバーなので、黒棒関係の管理は放棄しよう(白目)。

 

「そもそも折られている時点でガバ云々以前の問題だと思うがねぇ」

「思考読むの止めてください(震え声)」

「話が早くて良いだろう。

 まあそれはどうでも良いんだよ。重要なのは、『現在の状態では』外見だけを修理しても意味が無いって事さ。超質量の物体と『紐づけられて』製造された重力剣といったところで、その紐づけるシステムの根幹が崩壊したら質量的には硬いだけの棒っきれだからねぇ」

 

 棒呼ばわりは、黒棒本体の声が出るのだとしたら「失敬な!」と怒りそうな話である(実体験)。

 それはそうと、じゃあどうすれば良いのかと聞けば。師匠は「そこでコイツの出番さ……」と、その巨体の胸元(谷間だと思うが腕がもっと奥深くにズブズブ入っていたのでそれどころの騒ぎではない)を漁り、何かを取り出した。

 

 どう見ても工具箱である。……えっと、それは一体?

 

「魔女らしい代物の持ち運びが面倒だから、適当にまとめているのさ。ま、かなり曰く付きの品々が多いからねぇ。ストレス負いたくなければあんまり聞かないことさ」

 

 言いながら軽く展開する。ドック式、内部に骨組みがいくつかあり、開けるとガバッと大きく展開する摩訶不思議な物品だった。どうやら外は塗装してあったのか気づかなかったが、内部は木製である。

 そこからビンをいくつか、後はチョークのような黒い棒状のものを手に取った。

 

 利き手を出しな、と言われて、一瞬迷う「私」。

 

「…………剣を使う方の手を出しな」

 

 ならば「私」や「俺」が使っている右手が相応しいか。そちらを出すと、師匠はチョークで軽く円を描く。なんとなく生ぬるい感触……、それと同時に「次の瞬間」、雑な円形だったそれは何かしら黒い魔法陣として形状が変化した。

 おそらく普段通り空間魔法か何かの類なのだろうが、もはや驚く暇もない。そのまま師匠はチョークを地面に置くと「複数方向から」「全く同じチョークのようなもの」が出現し、それぞれがひとりでに円形と線やら何やらを描き、大きな魔法陣が完成した。

 

 この形状は…………。

 

「…………仮契約とかの、魔法陣?」

「正確には『もっと古いもの』さ。それこそ古代金星文明が使っていたくらいにはねぇ」

 

 陣のデザインにデジャブを感じて聞いてみたが、どうやら正解だったらしい。らしいがやっぱり要らない情報が多いんでもう少しご容赦頂けませんかねお師匠様よォ…………。こちらの内心は察してるだろうが、お師匠は何とも言えない表情にしてぼーっと見て来た。「今更何言ってんだコイツ……?」みたいな感情が伝わる虚無とらくがきみたいな表情であるが、おそらく誰に言っても伝わりはすまい。

 

「陣の中心のところ、丸く円を描いたけれど、そこに好きな姿勢でいいから刀に触れたまま座りな。座禅とかの方が色々と『安定するから』、オススメするがね」

「良し分かった!(ハイテンション)」

「何でそこでテンションが上がるのかねぇこの男は…………」

 

 そんなことを言われたらもう刃禅(オサレ)一択である(断言)。幸い普段からよくやっているし今でも黒棒を持っている時の座禅はその姿勢なので、当たり前のように膝の上に乗せて両足を広げた。

 なお師匠から「柄に手で触れな!」と文句を言われたので、渋々右の腿の上に置いてある持ち手を掴んでおく。

 

「で、結局これから何を…………?」

「レベル1と2でとりあえず、アンタ個人に対する自己認識はある程度変えられたからねぇ? そうなると次は『能力の性質』をどうするかって問題が出てくるのは、わかるかい?」

「わかりません」

「素直に返すんじゃないよ、少しは考えな!」

 

 そう言われても血風とかあのあたりとか……、OSR(好き)なのだが?

 

「思想や実現方式は有用っちゃ有用だが、アンタの趣味に全力なのはどうしたものかねぇ…………。欠点ばかりとは言い難いが頭が痛くなってくるよ」

「えっ?(無垢)」

「そこだけ本気でボケ倒すの止めなッ!

 全く…………、じゃあ、始めるよ。これからアンタは、その魔法具の内にある本体、人工精霊のいる場所、属に言う『内在宇宙(インナースペース)』まで向かってもらう。

 精神だけで行くことにはなるが、そこで『新しい名前を』名付けて来るんだ」

「新しい名前? って、おぉ……」

 

 説明を進めながら指を弾く師匠。と、私の掌の魔法陣と、周囲に描かれた魔法陣とが淡く、鈍く、不規則、不気味に点滅するように光る。それに合わせて師匠の手元の瓶から、カラフルに粉が散り魔法陣へと吸い込まれていき…………。

 

「百の顔を持つ英雄、という名前はかつての創造主が付けた名前だ。それが破壊された以上、同一の創造主でもない限り『全く同じ機能』を再現するのは難しい。だからそれを放棄するか、あるいは改造した別な機能にするか…………、何かしら修正パッチを当てないといけないってことさ」

「いや、お師匠なら簡単に直せるのでは?」

「構成が細かすぎて面倒くさいんだよアタシがやるのは」

「えぇ…………(困惑)」

「わざわざ質量を等値に変更してから『3-A』の面々の魔法具を中心に外形を置換するのとか、色々無駄な機能が多くてねぇ。本来は犬上小太郎が近接主体で戦うから、ソイツ用に刀という形にしたみたいだが」

「だから心当たりのない知らぬ情報を――――」

「これくらいは知っておかないと『もっと混乱する』話になるさ。諦めな。

 つまり、そういうのをアタシがやると『改良』『改善』は出来ても、それはもはや一から実装し直し、作り直しになるから、そう言う訳にもいかないだろう。使い勝手が根っこから変わったり人格が別人になったら、今更嫌だろう?」

「それは…………」

 

 ホルダー拠点の地下空間、原作通り(?)に黒棒を引き抜いてテンションが上がり続けた時の記憶。色々と使われ方で私に文句を付けながらも、武器だからと半ばあきらめた黒棒の記憶。聖天を使った際に私共々何かしらダメージを喰らって呻いていた黒棒の記憶。九郎丸と夏凜にボール(直喩)にされた私を色々笑い飛ばした時の記憶。アマノミハシラ学園都市で、何かしら制限がかかるとわかっていながら「本体」と思しき誰かが出て来た時の記憶―――――――。

 

「…………思わせぶりなことを言うだけ言って折れたのが、そのままリセットされるのも流石に……」

 

 実際問題、戦闘時はその質量的に欠かせない相棒ではあるのだが。それはそうとして「アレ」で出番終了というのはあまりにもあんまりすぎるため、やはり出来るなら、そのままの黒棒が継続してもらいたいところである。このあたり、自分の人格が「文字通り」ツギハギであることもあってだろう。だからこそ、周囲のヒトに早々そんなヤヤコシイ想いを味わって欲しいとは思えないのだ。

 ただ我ながら、照れ隠しのように口から出た言葉が色々アレだった。もっとも師匠は察しているのか、多くは言わずニヤリと笑う。

 

「だったら話は早いねぇ。まあ、おそらく『抵抗される』だろうから、対話になるか屈服になるかはアンタたちの今までの付き合い次第になるだろうがね」

「つまり内在闘争(オサレ)の類ですねわかります……!(ハイテンション)」

「一々例の用語言う時だけテンション上げるの疲れないかい? アンタ…………」

 

 いや、とはいえ考えてもみて欲しい。いくら別作品だからといえ自分の相棒たる武器に対して〇LEACH(本家OSR)さながらの斬魄〇(オサレ)ムーブができてしまうのだ。そりゃあ具象化(オサレ)じみたこともすでにしている訳だし、対話(オサレ)だろうが屈服(オサレ)だろうが痛くない範囲ならばっちこいである。久々にセリフがOSR(オサレ)で汚染されていて申し訳ないが、別に新作アニメのPV見直してテンションが上がったとかではないのである…………!(メタ)

 

 目を閉じて深呼吸してな、と言われたので、言われるがままに。

 そして数秒後に「心」が落ちた先、そこで対面したのは――――。

 

『……ん? 嗚呼、刀太か。久しぶり、になるのか? なにせここは娯楽がないから、ほぼ寝ていたものでな。時間だけが無限に余っていた』

「………………」

『む? どうした。私の顔に何かついているか?』

 

 

 

「いやお前さん何で顔がクウネル・サンダースと全く一緒なんだよ!? なんかあの時と全然違うじゃねーか雰囲気! OSR(それっぽさ)はどうしたんだよOSR(それっぽさ)はよッ!」

 

 

 

 思わずガバも顧みず理不尽に突っ込んでしまった私を誰が責められよう。そこには寝大仏のような姿勢で寝っ転がる風〇(命を刈り取る形)の本体のような恰好をした、しかし首から上は「色違いの」アルビレオ・イマそのものな、黒棒の本体がいたのだから。

 

 

 

 あっるぅえぇぇ…………? いや、あの時は髪を逆立てていたり、口元をマフラーで覆って隠していたから気づかなっただけか? あれ…………?

 

 

 

 

 



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ST180.心を知らず

毎度ご好評あざますナ!
受け取り側としてはこうもなる、的な話


ST180.DEATH-CLAD VS ...

 

 

 

 

 場所は何処だと言われると困る。橋のような場所、というにはBLEAC〇(オサレ)よろしく両端が空と地面のようになっており、何か確実に私の側の影響を伺わせる。それはそうとしいてこれが何かといえば、デザイン的に軌道エレベーターのそれだろう。末端が渦を巻くようになっているような気がして、もう反対側は宇宙ステーションそのものといった形状な気がする。気がする、というのはあくまでも吸血鬼的な視野を使えないからであるが、そうはいえど途中に位置するだろうここから色々と類推することは出来るのだ。

 さて。私と黒棒の中の人は現在、軌道エレベータ―に「垂直に」立ち相対していた。起き上がり立ち上がった黒棒と、一歩後退しながら顔が引きつっている私である。もちろん本当に軌道エレベータ―に立っているという訳ではなく、要は精神世界とかの類なのだろう。

 

 私ならばスクラップ場のような形になるが、黒棒の場合はこのような形になるらしい。

 もっとも、当の本人は眠たげに欠伸をして一度伸びをする。どうにもやる気が感じられないが、本人いわく「折れてからほぼ寝ていた」とのことなので、それも仕方ないだろう。気を取り直して一度咳ばらいをし、私は再度黒棒にツッコミを入れた。

 

「…………でお前さん、何故顔がクウネル・サンダースそのものなんだよ」

『私としては何故、刀太が我が製作者の事を知っているかという疑問が出てくるが……。まあ、出来た魔法具(アーティファクト)である私は深く詮索すまい』

「まあ詮索されたって『何故か知ってる』としか、今の俺には答えようがないんだがな」

『ほぅ? それはそれは……、私が眠っている間に、何やら色々変わったようだな』

 

 したり顔でニヤニヤしてくるその相手、黒棒本体とも言うべき人工精霊は、ついさっきも愚痴を言った気がするが首から上が完全にクウネル・サンダースことアルビレオ=イマの2Pカラーであった。あっちが青系統ならばこちらは黒系統、ただし肌は本家よりも少し白めで、表情の作り方が全然違った。涼し気に性格が悪い訳ではなく、ややヤンチャの残った近所で土方でもしていそうな兄チャンみたいな、そんな風である。

 なお首から下は相変わらず〇死(鎖が本体)のような風体なので、色々とこっちも頭がこんがらがりそうだった。

 

 クククと堪えた後、ニヤリと笑った黒棒の本体……、面倒だから黒棒に改めて統一するが、黒棒は「それもそうだろうな」と一応は同意を示した。

 

『元々、私はアルビレオ=イマが作り出した「自身の分身といえる人工精霊」をベースに改造に改造を重ねたものだ。重力魔法を使う関係上、自分自身をベースにした方が手っ取り早かったらしい。だから、元が同じである以上は色々と要素は残るだろう。

 顔に関しては完全に嫌がらせだろうが』

「何で嫌がらせされてるんだ、お前……?」

『大方「格好良く仕上げろ」と言った私の意向に全力で揶揄いをしかけたんだろう。はた迷惑な話だ』

 

 何故そう自分自身の分身にまで性格の悪いお遊びをしかけるのか。表情に出ていたわけではないだろうが、黒棒は「まあ、そういう男だ」と肩をすくめた。

 

『元々、私を作り出した術式すらかの「闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)」エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルが自身の使い魔を作り出すときに使用した術をベースにしているからな。私に対しての嫌がらせと言う意味もあるが、彼女に対する揶揄いという意味合いも強いだろう』

「エヴァちゃんの使い魔?」

『ちゃん!? いや、本当に命知らずだな刀太……。

 お前は知っているか判らないが、彼女の最初の使い魔…………、ゼロ(ヽヽ)と呼ばれていたか。その人形に魂を宿す際に、自らの人工精霊をベースとして作り込んだと聞いている』

 

 また知らない設定が飛び交ってる……。言いぶりからして、おそらく「チャチャゼロ」のことを言っているのだろうが、もうそれが原作基準かどうかという話はこの際だから一回置いておこう。そろそろ検証キャパが限界を通り越して底なし沼になっている。一度でも足を取られたら後は抜け出せないままにガバの深みへと吸い込まれていくだろう。

 ……星月からツッコミの声がしないということは、いつかのダイダラボッチの時よろしく彼女はこちらに一緒に来ていないと言う事だろうな。まあ、これはこれで良いのやら悪いのやら。

  

『それで? わざわざこんな所まで出てくるとは、私の修復の目途が立ったという事か?』

「それが無理っぽいからこっちに来た、っていうのが正解」

『? なんだと?』

 

 眉間に皺を寄せる黒棒へ、お師匠から言われた話をかいつまんで説明する。要するに、以前の機能が使い物にならないから、何か名前を付け直さなければいけない、という話だ。

 それを聞いて、黒棒は無表情になり「まあ、納得はした」と何度か頷いた。

 

『確かにそういう方法をとるのならば、武器としてまた使えるようにはなるだろうがな。だがそれはそうとして、それが何を意味しているかお前はわかっているのか? 刀太』

「どういう意味かって……、いやわからぬが」

『ハァ。…………簡単に言えば――――』

 

 

 

 次の瞬間、黒棒は「自らの手に出現させた」黒棒で、私へと斬りかかった。

 

 

 

「はい?」

 

 瞬間「嫌な予感」を感じたと共に「第四の目(ザ・ハートアイ)」を(ひら)いたので事なきを得たが、いきなりの戦闘行動に困惑必須である。面食らったのも無理はないだろう。そんな私に、黒棒は肩をすくめた。

 

『…………簡単に言えば、それは私への処刑宣言に等しいのだ』

 

 えっ? 処刑宣言って、そこまで大事な話なのか? 理解が追い付いていない私に「まあ普通はまず起こり得ないことだから無理はないか」と黒棒は肩をすくめる。

 

『道具的には打ち直し、再利用にニュアンスは近いのだろうがな。内部に存在している魔法式としての私は、まず間違いなくそれで大きな変容をさせられることになる。変化の大小ではなく「再定義」というのは、術式としては塗り替えに等しい。

 それによって私に人格の、何が、どこまで変わるか分からないが…………、「自分自身の人格の変容」に、恐怖を抱かない知的生命体はいないだろう』

「……………………」

『お? お前のことだからてっきり「生命体はちょっと違うだろ」と言ってくると思っていたのだが』

「いや、最近そーゆーのは本当全然笑えないっていうか……」

 

 なにせ直近ここ体感上は1月程度、その「自我の曖昧さ、不安定さ」について「正体付きで」つきつけられているのだ。それこそ夏凜相手に盛大に色々やらかしていた事実を突きつけられたことも含めて、それがなければ今こうして会話すらままならなかった可能性が高いのである。

 だから「第四の目」越しに見える、表面上は取り繕った黒棒の内心の。その実、本当の意味での物質的な肉体が無いからこその、「心」自体が変容することへの恐怖心が、恐ろしい程に見て取れた。言葉にすらなっていない、震えた感情である。

 

 それに対して、恐怖心を、痛む心を無下に受け入れろと強いることは出来なかった。強いれるくらいに、私自身がこの自我崩壊の恐怖と向き合えてはいなかった。

 

「でも、このままだとどうしようもないんだよなぁ……。お前、まだ外でしゃべれないだろ?」

『嗚呼。ペナルティはしばらく前に切れていたが、もはやそれどころではなかったからな』

 

 ペナルティ? というとアレか、アマノミハシラ学園でわざわざ本体である黒棒が外に出て来ていたあの時、時間切れで帰るとか言ってた際の「しばらくしゃべれなくなる」というもの。確認すると、黒棒は特に反論もなく頷く。

 

『正確に言えば、私の自由意思決定に関する機能を封じられ、ひたすら道具としてしか使えなくする措置だな。

 そう簡単に本体たる人工精霊が外に出て居たら、簡単に「私本体を」壊されかねないが故の措置だ。文句は有るが、妥当な初期設定だろう』

「はぁ、まあ確かにそう言われればそうだが…………」

『もっとも、いざ復活すれど「外」へ向けて一切しゃべれない以上はやることもないからな。会話機能と言うより、意志を表出させる機能自体が破壊されたと言うべきだろう』

 

 こちらが一定の理解を示したせいか、黒棒はそれ以上に斬りかかってくることはなかった。ただ頭を悩ましている私に苦笑い。何だよ、と問えば「当たり前だろう」と笑みを深くする。

 

『…………てっきり「そのくらい諦めろ」と返されると思っていたからな。我慢しろというか、潔く死ね、くらいのことを言うのが、一般的な魔法使いの在り方だろう』

「生憎魔法使いじゃないもんでなー。後、多分ネギ・スプリングフィールドとかでも無理強いはしようとしねーと思うぞ?」

 

 そのあたりは、しっかり少年漫画しているネギぼーずであるからして、そうだろう。「ネギま!」時代の小太郎君あたりも「そんなん悪役の理屈やろ、男なら黙って全部救わなアカンわ!」くらいは言って返してきそうである。要するに、黒棒が思っている以上に我々は(ヽヽヽ)諦めが悪いのだ。でなければそもそも「極力痛くない」人生を目指そうとか考えもしないだろう。……たとえ私自身、あちらに比べればいくらか「人生そんなものさ」とガバを流してしまう時もあるとはいえ(白目)。

 逆に言うと、そこで現実的な捉え方をしっかりするあたりは、彼の大本になっているアルビレオ・イマの人格が反映されているという事なのかもしれないが。

 

 そう言う意味で言えば、私と今の黒棒の関係は、形を変えたナギ・スプリングフィールドとアルビレオ・イマとの関係にも近いのかもしれない。なんとなく感慨深いものがある。

 おそらく所持している情報量は、私とは大本が違うが似たような部分もあるだろう。だから私と似たようなことを考えたのか、お互いなんとなく力の抜けた笑みを浮かべ合った。

 

『だが、ならばどうする。私を残したまま「百の顔を持つ英雄」という定義を書き換えるというのは、不可能だぞ』

「そこは何というか、裏技みたいなものがあるんじゃねーかなってのは思う」

 

 なにせ師匠が私をここに送る際に、その類のことについては一切言及しなかったのだ。事前に覚悟を決めろ! という方向性ではなく、わざわざ「第四の目」の制御まで待った以上は、何かしらこの視界で解決する手段があると思ってしまうのは、私の考えが楽観的すぎるだろうか。

 一応ダーナ師匠は、人が足掻いてもがき苦しむ姿を見るのが大好きな困ったお人だが、最終的にはきっちりフォローするタイプのお人だと思っているというか、そこは最低限信用している。

 

『ならばどうする?』

「どうするかなぁ……。ここで色々対策を出し合おうにもアレだし、戻って私室の漫画とか見ながらアイデア練る訳にもいかねーだろうし」

『…………だったら、やれることは一つか。いや「やらなければいけないこと」かもしれないが』

 

 一つ? と。問い返そうとした瞬間、黒棒から「戦意」の二文字が漏れ始める。オイオイどうしたと訝し気に警戒する私に、黒棒は持っていた自分自身の外形を投げて寄越した。

 

 目をそらさず、投げ渡された重力剣を「血の腕で」絡めとり、手元まで引き寄せた。

 ………………ん? 血の腕? えっ血装術? いや待ておかしい、何故無傷のまま使っている。

 

 思わず胸元を見れば、そこには九郎丸によって付けられた傷は相変わらずなくなっているにも関わらず、当たり前のように「その箇所から」以前同様に出血し、「意のままに操れた」。

 困惑する私に、黒棒はニヤニヤと少し意地悪そうに笑う。

 

『嗚呼、そういうのは初めてか。ここは精神世界だ、自分の気の持ちよう一つで武装くらいは自由自在だろう』

「いや、そう簡単な話でもないはずなんだが…………。今まで出来た試しがないし」

『それは、流石に私の知ったことでは無いが、カンは良いな。相変わらず』

「はい?」

 

 

 

『パピルス・タピルス・ロン・ジンコウ――――変形(メタモルフォス)破魔ノ剱(エンシス・エクソルキザンス)

 

 

 

 そう始動キーをつぶやいた瞬間に黒棒の思考が「見えなくなり」、同時に猛烈な怖気を感じて私は死天化壮(デスクラッド)を身に纏いながら一気に後退した。エフェクトに気を使う余裕もなく、周囲にふわふわ漂っていた血を一気に血装した形である。若干ハガ〇ンの錬成に似ている気がするが、細かい部分に気を回す余裕はないのできっと気のせいだ。

 

 その私の危機回避の予想通りと言うべきか、一瞬前まで私がいたところに黒棒はハマノツルギを振り下ろしていた。エレベーター外壁部分にヒビが入る。なおもこちらを見続ける黒棒はニヤリと笑い、音もなく一瞬でこちらに接近してきた。

 瞬動術!? お前も出来るのかそれと続ける暇もなく、斬り上げる黒棒の一撃が右の頬を傷つける。傷が熱い、熱を帯びて血が噴き出すが、しかしそれも数秒で再生を…………。

 

「再生しない!? くッ…………! 血風ッ!」

 

 再び振り下ろしにかかった黒棒のそれに、空中に置き血風。重力剣で直接(ヽヽ)発動するのはえらく久々に感じるが、そのまま後退せず、受け止めたままの状態の血風に重力剣の先端を添えて。

 

「血風創天――――」

『フッ!』

 

 突きいれる形で発動する血風創天。うーん、これも久々である。だが黒棒はハマノツルギを使い、難なくその射出される血の奔流を「真っ二つに切り裂いた」。

 オイオイ……と引きつった笑みを浮かべながらも、一応左手をポケットに突っ込み、半身を向けて重力剣の切っ先を向ける構えを取る。実際イメージ通りだと言われた通りに、難なく血装術関係を自在に扱えているが、そんなことより斬りかかってきた意図がわからない。今度こそ本格的に不明だ。

 

 そんな私にハマノツルギを肩で担いだ黒棒は、ニヤリとそれこそ〇護(チャンイチ)的なポージングでねめつける様に笑った。

 

『一応、言っておくとだな。もう私の「正式名称」は知っているようだが、能力に関しても付け加えるなら――――――――私が模倣する魔法具は、特に「白き翼(旧3-Aのクラスメイト)」が使用していたものに限って言えば、当時の使用感で振るうことが出来るというものだ。魔力が続く限りにおいて、その再現率はほぼ100%』

「…………えっと、ネギぼーずのクラス?」

『ん? 嗚呼、そこは知らないのか』

 

 微妙な情報の食い違いはあったが、それはそうとして……、

 えっ? つまり「第四の目」が通用しなくなったのって、今の黒棒には「魔法無効化能力(マジックキャンセル)」が働いているってことか? ハマノツルギ本体にもそれっぽい効果はあるようだが、今の黒棒が振るうそれは、巨大なゴーレムやら式神やらを、熱したナイフでバターみたいにスライスするのも容易な状況と言う事か!?

 いや、それで切りかかってくるとかますます意味不明なのだがっ!?

 

「和解っつーか、一応はお互い落としどころ探そうって感じの空気だったろ、一体どうしたお前さん!?」

『私自身、そう言うつもりだ。だが私はお前よりは大人なんだよ、刀太。どうしても、最後の最後で失敗してどうしようもなくなるという展開を、その可能性を捨てきれない』

 

 そのことと一体何の関係があると。お前さんの考えがそうであることと、今の状況に結びつきがつかないと問えば、彼は「だからこそだ」と言う。

 

『…………最悪、これが今生の別れになる可能性もあるからな。人工精霊が「命」を語ればあの男はいけ好かない笑みを浮かべて揶揄い倒してくるだろうが、今この状況で私に何が出来るかと、それを考えた』

「いや、考えたって……」

『ある意味「死に際の戯言」だがな、聞け。

 私自身、出来ることはそう多くない。「意図的に」あの男が私という人格を自分自身の人格から大いに引き離している以上、私が重力魔法を使って戦ったところで、あの男と対決する際の戦闘経験にはなるまい。

 ならば出来ることは何かと自らに問うた――――――――すなわち、最悪のパターンをな』

 

 ハマノツルギを下ろして、構え直す黒棒は。

 

『仮にもし、何かしらの理由があって「白き翼(アラ・アルバ)」の「黄昏の姫御子」が敵の手に落ちるようなことがあれば。事前の準備や経験なしに、勝てる要素は一片たりとも存在はすまい、とな』

「いや、誰だよ!?」

『お前の祖母にあたる人物の一人、のはずだ』

 

 いや、そこは本当のことを言えばわかっていないフリをしているだけだから別に良いとして……。何と言うか、黒棒も黒棒で「私」というか近衛刀太について、原作で知らないことも多かったが知っていることも多かったということなのだろうか。その物言いは最悪の仮定だと言いつつも、どこかで「そうなる可能性が高い」と確信を秘めているようでもあった。

 いや、「第四の目」を開いていても思考が確認できないから、いい加減切ろう。そっちに回していた意識を血装術の制御へと転換する。……まあ、とはいっても「人格が」「別々に」駆動している訳でも何でもないので、こういうのは気分の問題なのだが。

 一応、私はまだ「私」として、一つの個だと言えていた。…………辛うじて。

 

「つまり、自分が残せるものは――――」

『最悪の展開での最悪の相手、刀太にとって一番の鬼札たる相手を想定した戦闘経験くらいだろうとな』

「いや、理屈はわかったけど、それこそいきなり切りかかってくる必要は……」

『安心しろ、殺すつもりはない』

「あってたまるかって話なんだが!? いやそれ以上に私が痛いの嫌だってお前知ってる――――だろッ!」

 

 コイツ、まだ普通に話してる最中に斬りかかってきやがった!? しかもやっぱり瞬動のキレが頭おかしいくらい良いぞ。ひょっとしてアレか? これ神楽坂明日菜(旧メインヒロイン)の身体能力とかそっちもフィードバックされてるとか、そんなことか? 咸卦法(かんかほう)か? 使ってる素振りは無かったが、ステータス的には現在「気」と「魔力」を併用したレベルでの動作だというのか!!?

 死天化壮の自動迎撃で鍔迫り合いをしながら、歯を食いしばって黒棒を睨む。黒棒は黒棒で、ニヤニヤとやっぱり性格が悪そうな表情をしていた。

 

『だからこそ、だ。……言い忘れていたがな、刀太。私はあの男から知性(インテリジェンス)教養(エデュケーション)を完成前にいくらか奪われはしたがな。

 それはそうとして、お前を始め周囲の人間が混乱したり絶叫したりして嘆く姿を見るのは嫌いじゃない』

「やっぱ相棒お前、れっきとしたアルビレオ・イマの人工精霊だよお前よォ!(正当ギレ)」

『自覚はあるさ、だからこそ度し難いんだがなぁ相棒(ヽヽ)

 

 つまり、お師匠と違ってフォローアップせず最後の最後まで揶揄い倒す所存だということになるわけだ。何と言うか、我が兵装(あいぼう)ながら性格の悪い…………。

 

 

 

 

 



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ST181.我を知れず

更新遅れ申し訳ないです。時間がなかなか取れず……
筆者は夏凜や近衛姉妹が恋しいけど、消化タスクがまだまだ残ってるのです汗


ST181.Un Self Control

 

 

 

 

 

 よく「高度に発達した科学は魔法と区別がつかない」という言い回しがあるが。アレに倣うなら「高度に熟達した戦闘は相性ゲーと区別がつかない」と言ってしまって良いかもしれない。

 具体的に言えば、今の黒棒と私の戦闘のように。

 

「血風、創天――――!」

『手数を増やしても状況は変わらないぞ、刀太!』

 

 超高速迎撃をしている時のように、乱雑多重に剣閃を振り回す。その軌跡になぞり、追いすがるように放たれる無数の血風創天。BL〇ACH(オサレ)何作目かのゲームにおいてバグ挙動的に発生させられる技の様なこれである。幾重にも重なる斬撃は地面(軌道エレベータ壁面)を削り続け、その威力の高さを物語っているが。黒棒はハマノツルギで、致命打になる部分だけを適当に斬り払っていた。

 そもそもハマノツルギを展開してから、黒棒本人を中心とした球の周およそ1メートル前後には魔法無効化(マジックキャンセル)の結界のようなものが張り巡らされている。であるため、血風使用時に生成される血液はその時点で大きく減速させられ、衝撃波自体も巨大な剣自体で対応されている。つまり視界に入ってる状況では、こちらの技はほぼ完封されていると言って良い。試しに聖天、塊天、尸天なども試してみたが、そのどれもがマジックキャンセル圏に入った時点で魔法効果が霧散していた。

 

 とはいえ、辛うじて血液のウォーターカッターという本体(ヽヽ)は残っているのが救いと言えば救いだが。それすら黒棒本人の技量で対応されているとあっては、正直「マジないわ~」という状況であった。いや、速度を維持し続ける魔力が霧散しているので、液体を払ってるだけだから難易度はそう高くはないが、易々と攻略されるのを見ると何とも言えない気分になる。

 今更ながら、神楽坂明日菜を敵に回していた完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)の側の心境がありありと理解できる。そりゃ替え玉つかうなり何なり、手段を選ばずに封殺しにかかる。ジャックラカンすら「存在抹消」という方法で対応していたのを鑑みれば、チートにはチートで立ち向かわざるを得ないという話だ。じゃないと普通死ぬ(死なない)。

 

 しかし精神世界なせいか、痛みに関して普段よりも若干鈍感に振舞えるのは良い事なのか悪い事なのか……。両断された胴体を断面から血装術で生成した縄で引っ張り上げて接合したり、我ながら挙動が完全に化け物じみているな…………、今更か。そもそも血装術の時点でカトラスギャン泣き案件であった。「第四の目」の訓練のための組手? ですら、我慢していたようだが時折表情が引きつったり、ひぇっとか言ったり、その際に勢い余って「火星の白」を左手からぶつけられたりとそれなりに散々である。

 だが、デメリットもそれなりに大きい。

 

 ここにおいては星月はおろか、チュウベェすらいないのだ。

 

「私の能力で対応できる方法を考えると、それこそ疾風迅雷(サンダーボルト)して、超高速を超えた加速で戦闘をしかけて、物理で抑え込むのが一番妥当だがなぁ」

 

 当然チュウベェがいないので絵に描いた餅である。やれやれと、武器の重力剣を構えながら、反対側の腕をポケットに入れほぼ直立姿勢で後退。ぼそっと『直に見ると気持ち悪い動きだな……』とか黒棒が感想を言ってくるが、そのあたりも込みの技なので特に違和感はない。それに直立不動の姿勢のまま斬りかかってくるとかそれなりに強者っぽい(オサレだ)と思うのだが。

 

「血風…………」

『何をするつもりだ。……ム!?』

「…………創、天ンッ!」

 

 速度で押し切ることは難しいとなれば、後は威力で押し切れるかどうか。ある程度後退した状態で重力剣の柄で回転させる血風、その出力をある一定値で押さえ、加速。急接近しながら刀身に血を纏わせ、振りかぶり斬りかかる。この際に回転を再加速させ、抑え込んでいた血量を一気に放出。血風創天の切れ味そのものの増強と、加速による威力の増強を同時に試してみる形だ。

 本家一〇(チャンイチ)にのっとれば、直接斬りかかるタイプの〇牙天衝(オサレ)である。あるいみ血風創天の原点回帰的な形になった。

 

 とはいえ、それで話が終わるならば流石に黒棒もこう斬りかかってはきていない。

 気と魔力の併用、それこそ本家神楽坂明日菜のようにはしていないだろうが、こちらが放出した血による剣閃その残影を、重力剣本体を受け流すことでそのまま躱した。ハマノツルギに接触した時点で私の制御から外れているため、そこから再度操作を行うことは無理である。

 なんなら右腕の死天化壮も解除されかかっているため、黒棒が反撃してくるよりも先に後退を選択。

 構え直した黒棒が斬りかかってくるのに対して、一旦は受けたがそれは失策だった。

 

「って、オイオイ……ッ!」

『出力を上げたから、なッ!』

 

 ハマノツルギからほとばしる閃光がより強くなり、両腕に纏われていた血の衣が完全に霧散した。座標制御、位置制御が利かず、押し負ける……ッ!

 とっさに左腕を盾に庇い、ハマノツルギの一撃を受ける。そのまま閃光が私の全身を包む前に、斬られかかった左腕を「その場に放置して」、私は全力で後退した。

 

「全く、本当に隙がなくて洒落にならない。……というか、右手の親指がダイヤル操作し続けで痛いのだが」

『しばらくやっていなかったから感覚を忘れているだけだろう。それは私の管轄外だ…………、オイ、何をしている刀太? 私のダイヤルに何を――――』

「いや、内部に血装して内側から操作すれば、わざわざ指突っ込んでやる必要ないかなって」

『――――気持ち悪いわ!? 大概お前も発想がバケモノじみてきているぞ』

 

 そもそも魂の基礎から一般人と同列に語って良いかどうか定かではないのだが、自虐でなく他者からそう言われるのは、それはそれでダメージがきた。

 よし、血が内部まで行きわたったので、これで直接ダイヤルを回せる。難点はやはり「火星の白」によってリセットされた際に、全く効果がなくなってしまうことだが。

 

「どちらにせよ、魔法無効化能力をどうにかしねぇと話にならねぇんだよな……」

 

 ため息混じりに次の方策を考えながら、私は黒棒に再度斬りかかった。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 改めてメイリンさんの自己紹介とか、カトラスちゃんとようやくの再会とか、あとは水無瀬小夜子がまた遊びに来たりとか、色々あるんだけど。

 そこから個人個人で修業をしながら、大体一週間かな。ダーナ師匠いわく「今日は休暇をだしてやるよ」の一言で、僕たちは自由時間となっている。

 

 なってるんだけど、僕とかキリヱちゃんとかは刀太君が気になり続けていた。

 二人して微動だにせず瞑想する刀太君の前に行って、状況の推移を見守っている。

 

 見守ってるんだけど……、ある一定ライン以上は、九龍天狗さんが立ちふさがって行かせてくれなかった。

 

『――――――――』

「な、何ヨあなた! いい加減通しなさいよ、というかちゅーにどうして一週間もずっとその姿勢のままなのヨ! 食事すらとってないじゃないッ」

『――――――――ぁ、ぃゃ、……、――――』

 

 相変わらず仮面をつけた巫女さん風の装束で、背中が開いていて、複数の羽根を持つその天狗さん。彼女はプラカードに(プラカード!?)「立ち入り禁止」とだけ書いて、キリヱちゃんに押し付ける。言葉は発さないけど、あっちもあっちで困っているみたいだった。

 まあ、強行しようとしたら攻撃とかもしてくるんだろうけれど、キリヱちゃんが非戦闘要員っていうのをわかってるのかな。手荒なことはしなかった。

 

 そんなキリヱちゃんに、カトラスちゃんが声をかける。

 

「諦めろよ、桜雨キリヱ。兄サンまだ終わってねーってことだろ。そのうち戻るんじゃね?」

「それはそれで問題よ、だーいーもーんーだーいー! 一番料理スキル高いのコイツなのに、当番の日に出来ないって終わってるじゃないッ!

 っていうかアンタもアンタよ、何そのフリフリの恰好! 可愛いじゃないッ!?」

「ヴぇッ!?」

 

 凄い声を出してカトラスちゃんは一歩後退した。……そう、カトラスちゃんの恰好はスポーティーな感じのものじゃなくなっている。

 今の彼女は、こう、ゴスロリでいいのかな……。白いフワフワした感じのお人形さんみたいな恰好をさせられていて、ついでにお帽子までつけられていた。肌の色とドレスのコントラストがミスマッチで、逆にそれがカトラスちゃんの地肌を引き立たせてる。

 

 似合っているかどうかは意見がわかれそうだけど、本人は嫌がってるのか顔を真っ赤にして、キリヱちゃんに指さした。

 

「こんなの俺が好き好んで着るって思ってるのか桜雨キリヱ!? お前よ! 師匠だよ師匠、この間の修行用になんかやらされたやつの宇宙服、気が付いたらいつの間にかこの服になってて、こっちに来るとき持って来た服もなんか厳重に封印されてて取り出せなくなってるし!」

「帽子までつける意味ないじゃないっ!」

「つけてねーよ! むしろつけてねーんだよ! ただ気が付くといつの間にか装着されてんだよ、何だよこの衣装よォ……」

 

「か、カトラスちゃん、落ち着いて…………」

 

 段々と目に涙が溜まって、その場で膝をついてしまった。「くちゅじょくだ……」って口調までぐちゃぐちゃになって、嗚呼……。

 流石にキリヱちゃんも同情したのか「終わったら服、買いに行く? お店教えるわよ?」とか聞いてるし、カトラスちゃんも無言で首肯してる。

 

 

 

「――――アタシが用意した衣装に何か文句でもあるのかい? カトラス・レイニーデイ」

 

「ひゃあ!?」

『ひゃあ!?』

「ぎゃっ!」

「に゛ゃんッ!?」

 

 

 

 そして僕たちの後ろに、一人に一人ずつダーナさんが現れて、僕たちを摘まみ上げた。天狗さんもつままれて、僕たちと一緒にリアクションをとってる……。

 師匠、ダーナさん達はそのまま僕ら全員をテラスの中程、テーブルとか椅子とか置いてあるお茶会とか出来そうなところに投げ捨てた。明らかに距離が開いていて軽く投げ出しただけじゃそこまで行かないはずなんだけど、それでも軽く投げ捨てる動きで、僕たちをそこまで放り投げた。

 

 カトラスちゃんは顔面から(危ない)、キリヱちゃんはお尻から、僕は横に投げ捨てられて天狗さんは綺麗に着地してる……、キリヱちゃんが「うなああああ!」って絶叫して立ち上がって、ダーナさんを指さした。

 

「おかしーわよ! どう考えても10メートル以上距離離れてるのに、なんで数十センチくらい先に投げ捨てるような動きでこんなところまでぶっ飛ばされてるのヨ私たちッ!?」

「随分な口を利くじゃないか桜雨キリヱ。人がせっかく邪魔にならないよう撤退させてやったっていうのに」

「邪魔になんないようにって何ヨ!」

 

 痛ェ……って額をさすりながら起きるカトラスちゃんや天狗さんに手を借りる僕を一瞥しながら、ダーナ師匠は(いつの間にか一人に戻ってた)親指をサムズアップして、そのまま持ち上げ後ろを指さした。くい、くい、と示してる相手は刀太君。

 

「つまり…………、修行の邪魔になるってことですか?」

「そうだねぇ。お前もだよ九龍天狗、近づけるくらいなら声をかけずに斬りかかれと言ったじゃないか」

『――――っ!? ッ、ッ!』

 

 天狗さんが抗議しようとしてるみたいだけど、喉から声が出ないみたいに口がパクパクと動くだけでうめき声みたいなのしか聞こえなかった。

 すぐさまフリップに切り替えて、「流石にそれは可哀想です!」って文字で書いてダーナ師匠に示してる。……今更だけど、少し字体が僕に似てる?

 

「可哀想じゃすまないんだよ、そもそもコイツに色々計画狂わされ続けてる身としちゃ、今更さらに修行計画が崩壊するのは看過できないからねぇ。

 本当だったら大河内アキラ相手に1月近くもかける必要はなかったはずなのだし、あの時点で覚醒してとっとと『落とす前に』フラれるのが正解だったってのに」

「だ、誰……?」「本当に誰ヨ?」「兄サン……」『………………』

「まあ大した話じゃないから忘れておきな。

 重要なのは、『終わったら』勝手に目覚めるから今はまだ見守れって事さ。個人専用の修行に外部から何か出来ることなんてないよ。アンタたちの個人修行が、誰かの手を借りても意味がないようなのと同じように」

「そうは言ったって気になるじゃない。連日連夜微動だにせずって」

 

 キリヱちゃんの一言に、ダーナ師匠はニヤニヤと笑った。

 

「久々に顔を見れてハグしてちゅーちゅーペロペロヘッヘッヘしたいくらい嬉しいのは判るがねぇ、もう少し長い目で見てやりな」

「ちゅーちゅーペロペロとかしないわヨ! って、その喜びっぷり何ヨ、犬じゃあるまいしッ! ヘッヘッヘって笑い声じゃなくてベロだして息遣い荒いの完全にそれじゃないッ!」

 

「き、キリヱちゃん……」

「遊ばれてんな。…………どうでもいいけど、血管キレねぇ?」

 

 カトラスちゃんがため息をつきながら僕に視線を向けて来る。ダーナ師匠に食って掛かっていったキリヱちゃんは、そのままわきの下に手を入れられて高い高いされてた。完全に遊ばれてる……。

 

「…………何っすかね、この状況」

「あっ三太君」「佐々木三太」

 

 ぽけーっとした感じで、三太君が浮遊しながらこっちに接近してきた。ついに師匠さんは「ほ~れ、高い高ぁい」とか言いながらキリヱちゃんで遊び始めて、キリヱちゃんも踏まれた猫みたいな凄い声を上げてる。

 刀太君に接近しようとすると足止めを喰らっているんだ、って話を伝えると、三太君は少しだけ納得したような顔をした。

 

「確かに、単に座禅してるって感じじゃないしなァ、そんなもンか」

「でも不思議といえば不思議だよね。いつもの刀太君なら、あんな状態ずっとしてたら『やってられるか、責任者出せ責任者!』とか言って、重力剣投げ捨てそうだし」

「その信頼のされ方もどうなんだ、兄サン……? まあ同意だけど」

 

「そんなこと良いから助けなさいヨ! 目が回る~~~~~~~~!」

 

 ついにピザ職人がピザ生地でも広げるみたいに、お腹のあたりを起点にぐるぐる大回転させられ始めてるのを見て、流石に止めに入った。あっ投げ捨てた。

 ひっくりかえって「まだ目がまわってる……」って気持ち悪そうなキリヱちゃんを見て、ダーナさんは腕を組んでため息をついて、刀太君と重力剣の方を見て。

 

「……いやだから、そういうのをアタシも想定しちゃいないってのにあの男は」

 

 なんだか刀太の死天化壮の肩がうねうねいって…………、あれ? 何、何かヒトガタの何かがぞぞぞって這い出て……。

 刀太君から出て来たものを見て、三太君はポカーンとした表情で、カトラスちゃんは「ヒェッ」って隣で引きつった声を上げた。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

『いや、その状況はどうなんだ刀太……。ついに狂ったか? というよりも、そんなこと出来たのかお前』

「「理論上は出来なくないって感じだな」」「すぅ……、すぅ……」

 

 私()の返答を前に、黒棒は頬が引きつった。

 状況を説明すると、「私」が増えた。以上。……これだけだと意味不明だからもう少し言葉を重ねるが、例えば私の一人は現在さきほどまでと同様に黒棒へと斬りかかり、私の一人はそこから距離を取って適当に横向きの姿勢で腕を枕にして寝ている。ついでにもう一人というか「本体」ともいうべき私は、両者の間に入って、攻撃の余波が来たら血風を展開して防御する仕事を請け負っている。

 

 何故こんなことになったかというと、黒棒が「待った」を受け入れてくれないからだ。

 体感的にはもう10日とか1月分くらいは連続で戦っているような気がしているが(おそらく実際はもっと短いだろうが)、その間に休憩時間が一つもない。なまじ不死身であるという前提で襲い掛かってきているのだろうが、そのせいで睡眠食事その他諸々を完全放棄した状態となっていた。

 早い話、脳が飽きて来たのだ。

 いい加減終われ、終わらなくても少し違うことをさせろと。なにせ現状は打開策が一つも閃かず、中途半端な防戦一方の状態ときている。

 

 黒棒の方はこちらのそういった話を聞き入れるつもりが1ミリたりともない結果、脳が処理限界を迎えてなお不死性でパンクせずに無理やり生かされていた状況、頭の回転が鈍くなった私の脳裏に過ったのは、つい最近まで読んでいた原作「UQ HOLDER!」の一幕、帆乃香の手で分身した時の漫画だった。

 原作的にはいよいよネギぼーずが出てくる12巻だったか。ひょんなことから、忍、キリヱ、みぞれ(こちらはまだ未登場)の三人で刀太をとりあうレース合戦という謎展開が発生していたのだが。その際に景品たる刀太を誰のサポートにつけるか的な話で揉めたさい、札術により一人の人間の能力やら何やらを1/3(三分の一)ずつにわける術を使った。……どういう原理かは流石に不明だが、原作では後にそれを応用して臨時で分身を作ったりと、謎の使いこなし方をしていたが。

 

 

 

 そういうことが出来るなら、血装術でも似たようなことが出来るのでは? と。

 空回った脳みそがガバだの何だのを完全に無視し始めた暴走が開始された。

 

 

 

 なお、それについては何故か絶対に「出来る」という確信があった。言語化できるものではなく、まるで経験やら体験やらだけが先行しているというべきか。妙な納得が「私」の内部に落ちているこの感覚は果たして何に、あるいは「誰に」由来する物なのだろうか。

 さすがに「私」を構成している要素の中に、他に吸血鬼がいるかどうかは不明だが、一番高いのはキリヱによって連れられてきた「1周目の私」だろうか。それはともかく。

 

 あまり深く考えず、血装術で「私」を形作り、そこにゆるく行動命令を乗せて「第四の目(ザ・ハートアイ)」をそれぞれで使用し意思統一を図ったら、肌の色やら何やら含めて一通り「完全な分身」か出来た。以上。

 …………本当に何か出来た、それ以上のことがなくて申し訳ないが、そういう流れである。自分に対してのマインドリーディングはしないことにしているが、分身は血の塊が正体なので「情報と思念を浮かび上がらせる」仕様をイメージして、その通りの運用をすることでクリアした。お陰で本体たる私からすれば、「なんとなく」俯瞰視点で自分の肉体を三つ同時に見ているような、気味の悪い感覚だった。なお分身状態のそれらもハマノツルギの接触があれば融解するのに違いは無いが、逆説的に血液で修復可能であるので、本体たる私が傷つかない分には全然問題がなかった。

 

 分身状態の「私」については、それぞれの私が経験した分の知識はそれこそ影分身の術(だってばよ必殺)のごとく共有される仕様らしく、一人が寝て居れば残りの分の睡眠不足やらはある程度解消される。逆に一人が動いていればその分疲労し、一人がグータラしていればそれぞれが共有される。都合が良い共有と言う訳ではなく、能力が1/3にならない代わりに、統合時の経験値がそれぞれの分身が体感した割合ごとに共有される。

 やってみて思ったが、この方法での分身は正直意味がないな。大人しく帆乃香が何かやらかしてくれるまで、原作の流れを待とう。

 

 今回についてはほんの少しでも寝ることが出来れば良いので、全く効果がないわけではないが。

 

「はぁ……」

 

 そして一人が寝ていることによって多少考えが整理されたのか、早々に「何故分身した自分」とセルフツッコミを入れている。まだ辛うじて「外」でやっていないからガバまでいってないだろうということでマシといえばマシだが、「分身する」というイベントに限って言えば原作3、4巻分くらいの先取りになる。自前でやるというのを踏まえると巻数はさらに割り増しされるが、本当に一体何を考えていたのだ自分は…………。人間、睡眠はとらないとロクなことにならない。

 しかも、よりにもよって。

 

「……………分身が一人寝たお陰で思考が整理されて、打開策まで見つけるってなっているのだから、色々と終わっている」

 

 言いながら本体たる「私」は、黒棒と斬り合っている私を見ながら死天化壮にまわしている血を含め、全身に魔力を回し「淡く輝かせ始めた」。

 

 

 

 

 



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ST182.手を繋ぐ

毎度ご好評あざますナ!
チャン刀、調子に乗る


ST182.They Are All People Who Go at Their Own Pace.

 

 

 

 

 

 

 深く考える意味はない。自分の内側には「材料は揃っている」はずだ。なんとなくその確信があるので、1周目の私もしくは星月が既に準備はしていたということだろう。少なくともこれが対抗手段になるという確信があり、かつそれが使えるというのは判っているので、後は私自身が自力でそれを引きずり出し、成型し、戦闘用に扱えるかどうか、だ。

 もっとも、その最後の部分が一番難しいのだが。

 

「…………うーん、何か絵面が酷いな」

 

 全身からにじんだ淡い光、それらを血風に込めようと集め始めたら、その輝きは「形状を変え」、もはやオーラのようなそれですらなくなっている。例えるなら……、惑星? 白く小さな月みたいな何かが、重力剣の先端に固まり、その発光すら点滅してるというか、上手に出力出来ていないことがよくわかる。

 

 と、黒棒と戦っている私の視点で、黒棒が重力剣に何か得体のしれないことをしているのを発見したらしい。目の前の私に斬りかかる振りをして蹴りとばし、そのまま色々お試ししている私の方目掛けて超高速で迫ってくる。

 とはいえそれも、自動迎撃の範疇だ。第四の目が利かずとも感知できる「嫌な感覚」に従い思考を放棄し、ただ条件反射で重力剣……、先端に惑星がくっついたみたいな重力剣メイスを振り回す。いや見た目ちょっとダサいなこれ、あと眩しい。

 

『――――ッ、何だそれは?』

()天……、をやりたくって失敗した感じ? とりあえず出力だけを集中してる」

 

 そして、黒棒は顔をしかめた。自動迎撃にまとわりついている、その白く輝く血の塊、メイスと言うかハンマーというか、そんなのの槌部分に相当する白い塊は、黒棒のハマノツルギで「解けなかった」。どころか自動迎撃中も、死天化壮が解ける気配がない。当たり前だ、性質を集中してはいるが、これはあくまで私の血に繋がったもの――――であるなら血装術の範囲であるから、これは同様の性質を帯びる。具体的に言うと、ほぼ肉眼で差がわからないレベルだが、未だに私の全身もまたごくごくうっすら光っているのだ。

 

 そして、ハマノツルギを現在扱っているからか、黒棒も私が何をやっているかに見当がついたらしい。

 

『そうか……、「火星の白(マルス・アルバム)」。お前も使えるようになったのか』

「いや、どうなんだろう? 全然使いこなせてはいないから、使えるようになったというのはあんまり認めたくないな……それっぽさ(オサレ)が低い」

『オサレ?』

「なんでもない。あくまで『太陰道』で吸収解析したっぽいのを、無理やり引っ張り出しているだけだし」

 

 ハマノツルギを発動した黒棒は、現時点においてその能力を、おそらくかつての神楽坂明日菜相当に引き上げている。そんな彼が帯びている魔法無効化能力に太刀打ちできるものが何かと言えば、準物理的な全てを解決するパワー、もしくは同質の魔法無効化能力だ。

 この「火星の白」自体は、もともとはカトラスの『紅焔の左(アザー・メタトロニオス)』が放つそれだ。組手をしていた際に何度か躱しきれずに受けたりしたことがあったので、それがベースになっている……、はず。まだ自力で「白」の方の扉には干渉できていない。なので、これが使えると言うことは、おそらく星月が事前に準備をしていた類のものなのだろう。

 

 ただ、調整がされていないので全く制御できていない。こちらの意志に反して、形状を形成するという意思がマジックキャンセルされているせいか、刀身にまとわりつかない妙な有様である。結果的に殺傷能力は低く(打撃力は高い)、こちらの意図通りに動いているかと言えば否だ。

 とりあえず対策を考える必要があるなぁ…………。

 

「血風(しい)天!」

『何を、今更そんな技が通じるはずが――――――って、どこに撃ってる!?』

 

 あらぬ方向に血風の斬撃を放つ私。もっとも斬撃とはいっても、動きは刺突なのでより直線的な点攻撃のようなそれだ。ただ避けるように動いた黒棒は、それが延々と伸びていく様を見てツッコミを入れて――――――――その先に、両手を広げて血の斬撃を受け入れた私の姿を見ていた。

 あちらの、黒棒が蹴り飛ばして距離を空けた私は、こちらの尸天の先端を特に抵抗せず受け入れ、「心臓を貫通させる」。貫通したそれが胸部を破壊し、一つの穴をあけ、ある種の暴走状態に陥り――――仮面のように悪魔めいたツノと顔が形成される。

 

「―――――魔天化壮(デモンクラッド)、完全版かな?」

『完全版、だと――――ッ!』

 

 そして完成した暴走状態の私は、こちらに向かって瞬間移動し黒棒を「殴り飛ばした」。手元の死天化壮が解けかけているようだが、それよりも移動速度が乗った拳の一撃が、魔法無効化能力をキャンセルしている。

 煙を上げながら再生する暴走状態の私は、火星の白を制御できていない私を一瞥することもなく、そのまま黒棒本体のもとへ急速移動。こちらに一切ダメージを入れるようなこともなく、それを横目に私は「火星の白」の操作を考えることが出来た。

 

 何をやったかと言えば、かつてサリーがやろうとしていたことの完全版――――魔天化壮の外部からの遠隔操作である。

 分身出来ると聞いて、ふと思いついた。なのでやってみたら出来た、以上! という、さきほどまでの分身とほぼ同じノリでの技の発動だ。ただこれについては、「私」本体ではなく血で作成した分身の操作の範疇なので、死霊属性魔法を帯びた尸血風による操作ならばいけるだろう、と軽い気持ちで作ったのは否めない。

 

 正直な話、精神世界なので、失敗しても最悪分身を解除すればそれで終わりだ。

 まあ、とはいえ向こうは大惨事そのものなのだが。

 

 背部から形成する無数の腕やら、黒棒本体を刀だけじゃなく時にうちわみたいに血を這わせて形成し、殴ったり跳ね飛ばしたりハマノツルギを蹴り上げたりともうやりたい放題である。攻撃に一貫性がなくムラはあるが、やっぱり「必ず殺す」ことに特化しすぎているだけあって、攻撃に間隙が1ミリたりとも発生していなかった。

 流石の黒棒も部位欠損とかそういうことまではなかったが、さっきまでより明らかにダメージを喰らっている。

 

 引きつった顔で何か言おうとしているので強制的に暴走状態の私の動きを止めた…………、重力剣をもって特にポーズを決めず少し俯いた感じが完全虚化(オサレ)そのもので不覚にもちょっと笑ってしまったが、それはさておき。

 

『これは……、流石に反則ではないか?』

「うっせ。そもそもお前さんがちゃんと話を聞いて、いきなりバトルするとかならなければよかったんだろ? おかげでこっちも新しい技を準備したところで、練習時間とかも捻出できないし」

 

 いくら何でもやりすぎだろ、という顔をしている黒棒だが、こっちだって話し合いで解決する部類だったろうと文句を言いたい。

 というより、下手に戦闘を開始してしまったせいで、思考が完全にそっちに振り切れて、黒棒が懸念していた部分について考えを回すことが出来なくなってしまっていた。

 

 早い話、ゴリ押し状態である。 

 ただ、ゴリ押し状態の思考も案外良い面もあるというのは、今戦っててなんとなくわかった。おそらく私の血装術のスキルというのは、現状自分が想像しているよりもはるかに高いのだろう。となれば、キリヱが同伴していた「私」の魂というのは、一体どれくらいの錬磨をしたのか……、どれくらい絶望的な状況で戦ってきたのか。

 

 そしてゴリ押しついでに、私は一つ覚悟を決めた。

 

「とりあえず、もう何かロクにアイデアを出せるような思考回路ではないな、私も。…………とりあえず『参加者』を増やそう」

『参加者だと? 何を言ってる。この場所は私の精神世界。お前が師匠と呼ぶ魔族の、古い魔術を使ってこちらまで来たのでは―――――――』

「――――だから、かな? 古い魔術とはいっても、それは『古代金星文明』に由来する魔術の系統、つまりは私に使われている『闇の魔法(マギア・エレベア)』と系統は一緒だ。だったら、それを経由して干渉する分には問題ない…………、はず」

『はずとは何だ、はずとは。おい刀太、お前今、何をやろうとして――――』

「うん、大丈夫だって大丈夫だ相棒。今、私、身体が思った通りに動きすぎて軽いんだ。もう何も怖くないっ!」

『何の台詞かは知らないがそれは完全に死亡フラグではないか!? ちょっと待て刀太――――――――』

 

 慌ててこちらを止めようとする黒棒を暴走状態の私(制御下)の馬鹿力で抑え込み、死天化壮が解けきる前に目的を果たそう。

 

「大血風――――」

 

 

 

 口にした通り、頭上に大きく、重力剣で円を描き、その軌跡を血装で繋いで血風を形成し。

 形成した血風を回転させながら、とにかくありったけ血を流し込み、延々と、それこそ無限に等しいレベルで「拡大していった」。

 

 

 

 黒棒が「ぐぅ」と気持ち悪そうに胸を押さえる。正直、相手がどう感じるのかまではこっちの知ったことでは無い。そして、血風を起点に周囲へとひたすら、とにかく適当に、かつて胸の中心で渦巻いていた自動回天のように、魔力を流して攪拌し、分離し、それを練り、更に血を生成して「空間全体にいきわたらせる」。

 

 かつての私……、私も知らない私は、自らの血をキリヱに流し込むと同時に、彼女の魂に自らの魂を運ばせる蛮行をした。

 ならば、それに近いことが今の私に出来ないはずもない――――血装術がこの世界で発動している以上、この世界の私の体感と現実世界の私の体感とがずれていない以上、この血は私の魂のそれ「だけではない」。現実世界、この場所に入る際に置き去りにされた私自身の血と、繋がっていなければおかしいのだ。

 

 ならば、出来るはずだ。

 

 空間そのもの――――黒棒の魂、精神、心、いずれかは不明だが、この場所の魔力そのものに干渉し、ひずませ、その隙間に私の魔力を流し込み、私の血から、魂から、「呼び出すことが」。

 

 

 

 果たして――――確信は現実へと成った。

 

 

 

『……………………』

 

 黒棒の側、軌道エレベータ―の地面側の霧の先。地面の方、都市部を過ぎたあたり。ひたすらその外周が、家庭ごみに留まらないスクラップ置き場のような様相を呈したのが「体感でわかる」。つながった。今この場は、黒棒の精神世界を中心に「私」の精神世界を無理やり接続するのに成功した。

 だからこそ、その証拠に、私の目の前に、黒と白のローブ姿の誰かが、現れた。

 

 私の精神世界から、直接この場に呼び出した彼女――――――。

 

『…………相棒はさぁ』

 

 おっと? 声がつい最近も聞き覚えがあるお姉さん声になっている。フード部分を後ろに流すと、そこには大河内アキラな姿かたちをした星月がいた。

 星月は、確実に過去最大級に、「私」に対して呆れていた。目は元気がなく、頬が引きつっていた。

 

『相棒はさぁ、追い詰められたらガバとか全部投げ捨てるの止めて。本当…………。「私」も事情は把握してるけどさぁ、重力剣の本体と私の遭遇とか、もう取り返しがつかないレベルのガバチャーだ。RTAやってるわけでもないけど、これは酷いって奴だよ』

「いや、お前さんって私の潜在能力的なサムシングだって名乗ってたし――――」

『いい加減もうそれ、真実を話してないってわかってるよね!? 責任転嫁したところで、もうどうしようもないんだ!』

 

 うわ~~~~! と半泣きで私にポカポカ殴りかかる星月……って、アキラさんの姿のせいか力が強いぞコイツ!? 死天化壮してるっていうのに、普通に固定した座標が押され始めている。やはりパワー! パワーは全てを解決する……!

 

「解決しない! どうしようもない優先順位はあるけど、これは流石に擁護できないよ!

 全く…………、本当、どうしてくれようか」

 

 涙目のまま振り返る彼女は。暴走状態の私の拘束を振り切った黒棒がこちらに、驚愕の視線を向けているのを、心底嘆いているようだった。何と言うか、こう、ごめん……、なさい。ちょっと、テンションおかしくなって調子に乗ってた(本心)。

 そんな私はともかく、黒棒が呟くように言う。

 

『………………何故お前がここにいる? いや、そもそもお前、いや、お前達(ヽヽヽ)か? お前達がこんな場所に、刀太の精神世界などにいる? 有り得ないだろう? 前提条件の何もかもが崩れるぞッ!』

 

「お前達?」

『相棒はちょっと黙ってて。あぁ、公開して良い情報の整理が大変だぁ…………』

 

 とりあえず何かよくわからないがスマンと謝り直し、同時に星月は「このオガバちゃんめっ」と、私の額を小突いてきた。

 …………その時、一瞬ふんわりした匂いでさらに驚愕した。改めてだが、本物の大河内アキラと一緒にいたからこそわかってしまったことだ。

 

 

 

 匂いが一緒だ。まごうことなく、寸分たがわず、匂いが本当に一緒だった。

 一瞬感じたその匂いのせいで、ますます星月の正体がわからなくなる私だった。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 自己紹介、というよりも、状況はもっと酷くカオスだった。

 黒棒は星月の姿を見た瞬間に「何か」に気づいたらしく、「ひょっとしてお前は……」と彼女に耳打ち。驚いた星月に対して「私への紹介と言うより、刀太にどう説明するかという話を考えた方が良くないだろうか、お前は」とか、そんな流れで勝手に相談会が始まった。

 おかげで私ひとり蚊帳の外という、無駄な逆転現象である。しばらく暇をしていたので、暴走状態の私のそれを解除してから、分身二人に睡眠させて本体たる私はBLEAC〇(オサレ本家)〇護(チャンイチ)がやっていた卍〇(オサレ)っぽいポーズをして、ああでもない、こうでもないと血装開始時のモーションを検討したりしていた(低OSR)。

 

 そんなこんなで数分後。疲れた様子の星月と、何かを納得したらしい黒棒という二人が、黒い奔流……ではなく洪水の様な血液に呑まれて血装したりしてる私に声をかけた。何度か。済まないが大量の血液の勢いのせいで、音が聞き取れなかったのだ。あまりこうしてポーズと演出の検討をする暇が最近なかったので、せっかくだから色々やってみているところだった。

 

『相棒は何でこんなにたくましいのか……』

『ストレス発散になっているんのではないか? 英霊(ヽヽ)殿』

『その呼び方は、止めて欲しいんだけど……』

 

 英霊? 黒棒は、星月のことをそう呼ぶ。お陰でますます彼女の正体がさっぱり意味不明になってしまっているが、それはさておき。自己紹介が済んでるということなら、ということで、端的に彼女を呼び出した理由を説明した。

 

『バトル漬けになって考えるのが疲れたからって、私を呼び出すのはちょっとどうなんだろう……?』

「でも真面目に収拾が付かない気がしてな。『分身』とか『制御』だけなら私の意志でどうにか出来るが、『白』の制御だけは難しい気がした」

『まあ、私もそっちはまだ先で良いかなーって思ってたんだ。だから準備不足ではあったけれどもね。…………でも、どっちにしても何とかはなるよ。

 心配だって言うのなら、ここでの修行明け前に、相棒とそのあたりについて話を付けたり、修行をするっていうのもアリだと思う。ダーナさんも、きっと否とは言わないよ』

 

 星月は、黒棒の懸念にあっさりと「問題はない」と回答した。

 

『仮に相棒で対応できなかったとしても、相棒は一人じゃない。色々、頼れる人は多いんだ。

 それは、「何でも一人でこなせる」君にはない視点かもしれないけれどね』

『………………それはそうだが、まず一人で確実に倒せる算段を付けてからの方が良いと思うが』

『一人でなんて、最初から無理だよ。そもそも相棒の不死性って、この太陽系を中心としたほぼ全ての惑星におけるエネルギー、生命活動すら含めてそこから魔力を拝借してるんだから』

『元気〇か?』

「いや黒棒、お前なんでそれ知ってるだ……」

 

 確かにこの世界、龍〇(ドラゴンなボール)の漫画とかあるにはあるのだけどさぁ……。それとてだいぶ古いものだし。

 それに、と。星月は私の手を引き、両肩を押さえて黒棒の前に立たせる。

 

『そもそも相棒には、君がいるはずだ。だったら最初から一人じゃない――――相棒が君を直そうとしてるのは、君じゃないといけないってことを判ってるから。違うだろうか?』

『……………………』 

「まあ、人格的にもそこまで仲が悪いわけでもないからな」

 

 だったら話は早いよ、と。星月は私の頭に大河内アキラボディの顎を乗せ……、いやしれっと胸を後頭部に押し付けて来るな、色々な理由で泣くぞ(脅迫)。そんなこちらのことなどお構いなしに、声だけでわかる「にこり」とした表情で、こう言った。

 

 

 

「修繕、修理と考えるから、原形を壊す必要があるってことだと思う。

 だったら相棒がやらかしてもう色々と……アレだし、『今の状況』を逆手に取るのがベストだと、私は思うよ」

  

「今の状況を……」『逆手に……?』

 

 

 

 理解が追い付いていない私と黒棒に、星月は割とあっさりと、それでいてちょっと文句をつけたくなる解決方法を提示した。

 

 

 

 

 



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ST183.原作からの来訪

毎度ご好評あざますナ!
ちょっとイベント整理もかねて時間かかってます・・・、次はもうちょっと早くしたい汗


ST183.Daemon Cleaning Up

 

 

 

 

 

「つまり、ここに私を一人残していくと?」

 

 星月の提案に思わず困惑する私だったが、黒棒はそれで得心がいったらしい。なるほど、と一言言うとともに、自らの手元の重力剣を消した。

 

『つまり「私個人に」というよりも、重力剣たる武器そのものに機能を追加する、ということか。書き換えではなく刀太の魂の一部が封入されることで、それを軸に新たな名前をつけると』

『少し違うかな。追加って点はあってるけど、相棒の魂が一部残留することで重力剣の特性がより相棒に寄るというか』

 

 どうでも良いのだが(良くないが)、そんなことをして本当に大丈夫なのだろうか。下手をしなくてもそれはキリヱにかつての知らない私が魂を残したようなノリであって、何かこう、致命的に原作からズレるような事態を引き起こすのでは……。って、魂? いや、血を使って分身させただけだから、そんなトンデモ現象の類ではないはずだが。

 こちらの感想が露骨に顔に出ていたのか、星月は苦笑いして「大丈夫なんだ」と言った。

 

『そもそも重力剣が折れてることの方が致命傷だから、誤差の範疇だよ』

「アッハイ(素直)」

『それに、相棒の分身を残したうえで新しく機能と名前を決定するというのなら、必然的に相棒が封じられているものの一部が外に出ているということになるから。これがどういうことか、わかると思うけれど』

「いや、判らん」

 

『つまり以前の、刀太の胸に傷があった状況に似通うと言う事ではないだろうか』

 

 さっぱり状況が判別できていなかった私に、黒棒が指摘する。…………「他人に対してはともかく自分に対しては察しが悪いのは何なのだろうか」とか思っているのが第四の目経由で視えてしまい、思わず「いやいや」と相手には意味の分からないだろうツッコミを入れてしまった。ハマノツルギのコピーが解除された結果、必然的に魔法無効化能力も解除されており、こちらのマインドスキャン的な何かを防御することができないわけである。

 なお、やはり真っ黒で何を考えているか気持ちが伝わってこない星月も「うんうん」と頷くので、黒棒の言ったことは彼女的にも正しいことなのだろう。とすると……。

 

「傷があった頃って……、いや雪姫に負けるまではフツーにあったから、それはそれでおかしな話でもねーけど、ん? つまり黒棒を起点に自動回天して、魔力が分散されるってことか?」

『それだけじゃないよ。

 相棒の分身は、相棒の認識がどうであれ「相棒自身」であることに相違ないんだ。つまりここには相棒の魂の一部が存在しているってこと。そこに分散した魔力を遠隔で扱えるとなれば――――――――』

 

 なるほど菊千代、理解した。

 

「つまり黒棒が本当に斬〇(出刃包丁)になってくれるってことか! あっちの私ほどではないが完成度高いなオイッ!」

 

 思わず星月の手をとってテンションが跳ね上がった。それはもうビンビンにである。いきなり迫られて少し挙動不審そうに一歩引く星月と、腕を組んで困惑しているらしい黒棒。こちらのテンションの上がり下がりにというより、星月へ突然急接近したことへの疑問か。いや、疑問か? 「あれだけ女性関係がややこしいというのに、自分から更に拡張するのはどうかと思うが」ではないぞ黒棒。そもそも星月は「一周目」の私から一応は味方だとお墨付きが出ているのだ。その上でこちらの事情を色々知っているのならば、そりゃあ、普通より距離感が近くなっても不思議ではない。信頼までは出来ないが、それはそうとしてもし現実世界に出てきているなら、タイミングさえあれば料理を振舞うくらいには親しんでも問題はないだろう。

 星月がそもそも原作「UQ HOLDER!」に影も形も存在しないことを考慮しなければ(爆)。

 

『相棒、言葉にしないと伝わらないからそういうのは……。ここ精神世界ではあるけど「魂」は精神にあって別々なんだから』

「いや聞かれた方がまずいだろうが」

『だったら何でそんな語るような口調で考えてるんだ…………』

 

 そんな漫才はさておき。改めて星月が私と黒棒向けに説明をした。

 

『魂だけの状態の相棒も、「金星の黒」からみれば「本来なら」「肉体があるべきはずの」魂ってことになる。つまり相棒は、この重力剣の中にあって「死に続けている」って判定になるんだ』

「肉体が別にあるのに?」

『うん。それは、「魂がわかれている」以上は1つの方は生きていて1つの方は死んでいるというのだとしても、扱いがちょっと違う。上手に例えられる気はしないけれど、今そこで寝てる2人の相棒って、相棒がその気になったらすぐ「血に戻して」体に統合できるはずだ。

 けれど精神世界に置き去りにするというのなら、こっちへはそう簡単にこれるものじゃない。結果として、バグみたいな形で相棒のそれは判定されるってことなんだ』

「バグか…………」

 

 まあ元々原作刀太自身が「72人のクローン」のうちでもバグ枠みたいなものだったわけで(主人公補正)、今更私が何かバグめいたものを引き起こしても大して問題にならない……、よね? 大丈夫だよね。なんだかんだ星月の口車に乗るしか他に方法がないのは直感でも理屈でも判断がつくが、この私自身の正気を私自身が保証できない上に、何かの拍子に世界が滅んでも責任の取りようがないのだが。

 

『これに関してのバグはそこまで大きな問題にならないから、気にしないでも大丈夫だ。仕様の外をついているだけで、悪用している訳じゃないから。悪用していても大した問題ではないけど』

「悪用とは?」

『んん……、降魔兵装の類が一応それにカテゴライズされるけど、そもそもそれを言い出したら相棒の死天化壮とかその時点でアウトな気もするし……』

「あー、なるほど? 再生力以外の面で『金星の黒』を多用するのが悪用で、積極的に使わないのなら悪用にはならないと」

 

 つまりは原作の範疇から極端に逸脱はしていないということらしい。そのあたりに納得できれば、私としてはあまり言うことはない。

 完全に安心する訳には今までの経験則的に無理だが、多少の安心というか猶予めいたものが発生した、と仮定してもいいのだろう。

 

「で、そうすると次の問題があるな」

『ああ、そうだな刀太』

 

『……? えっと、二人ともどうした?』

 

 星月が大河内アキラな顔のまま不思議そうにしているが、私と黒棒の意見は一致していると言ってよいだろう。ことこの状況で黒棒がこちらを積極的に襲う必要もないとくれば、なんだかんだゾンビ事件の時すら含めてずっと一緒にいた関係なのだ、お互いがお互いにこういう場合に何を考えそうかくらいは予想は付く。仲良くなりすぎると予想がつかない、しかしそこそこの仲だからこそ短絡的に想像に成功するものであるということだ。

 すなわち――――――――。

 

 

 

「『新たな重力剣の名前をどうするか問題』」

 

「というわけでどうしよう。とりあえず俺の血を使って何かするってことだから、ネーミングにそれっぽいのを含んでもいいと思うけど――――」

『いや、色を入れると私のアイデンティティにされてしまった「黒」と重なるから、そこは回避した方が無難だろうな。それより気になるのは、英文字と和文字とどちらを使用するか――――』

「せっかく使うなら両方使いたいな。全然違う文字を当て込んで、意味合いを二重にするみたいな。直訳じゃない感じの方がそれっぽいというか――――」

 

 

 

 つまり、お互い相談しあうか競い合うかはともかく、どちらがよりOSR(それっぽい)ネーミングをつけることが出来るかと言う勝負だ。

 ああ、と何とも言えない表情になった星月を尻目に、私と黒棒とはそのまま延々と話し合いを始めた。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 先輩があの姿勢のまま動かなくなってから、どれくらいたった、かな。

 うーん、私たちの体感だと2週間は経ってないんだけど、どうも「見ていないとき」ってダーナ師匠に曰く「時間がずれている」「主観と客観で時間は相対的じゃない」ということらしいから、実際はもっと経過してるのかもしれない。

 

 一応、知り合いからだいぶ前に貰った設計図とかがあるから、時間計測だったり観測だったりの道具を作ろうと思えば作れるとは思うけれど……。何かしらブレイクスルーがないとキツい気がしているというか。

 正直、私がここに送られてきた技術は、あの人が開発した装置を使った自殺行為に等しいものだし。

 ダーナ師匠……、「背教の魔女」タローマティに会うための方法として、金星文明の者から得た情報をもとに、時空の狭間に時空間を超越して送り込む装置なんて、それこそ理屈の上では「太陽系が何度も滅びる」ようなものだ。

 それくらいの生命力が、エネルギーが必要ってことなんだ。

 

 それを私たちで色々裏技を使って、理論的に正しい魔法式へと組み替えて「何度も試行した」結果、今ここで弟子入りに成功した私もいるのだけれど。

 まあ、そんな私のメイリンだって「偽名みたいなもの」だし。私の生きる時代、真の名を知られることは魔術的に致命傷となるから、本名なんて話す機会は全然ないし。

 

「駄目だなぁ……。先輩がいないとネガティヴになっちゃう、よね」

 

 ダーナ師匠から新たに組まれた特別メニューで、私の「呪文詠唱が出来ない体質」の改善の目途は立った。

 立ったというか現状の追認ということになるけど、その修行をすることで私自身が「死なない」という確証を得られた。

 だからその分修行も派手になって……。結果、時間は既に夜だったりする。

  

 派手と言うか、とにかく大掛かりで時間がかかるって言うか……。毎度毎度、ダーナ師匠が召喚した魔獣にぶん殴られながら、魔力の分離を頑張るみたいな感じなんだけど。

 フラフープを卒業するために意識だけを集中して魔力を練らないといけないって結構大変で……。うーん、だからってフラフープ装備して戦うのは、ちょっと絵面が弱そう、だし? その話を聞いたダーナ師匠が「オイオイ……」みたいな目でどこか遠くを見たりしてたけど。

 

 それで、今日の分の修行が終わった私は、魔力分離の練習。

 失敗した時に色々大変なことになるから、これは表でやる。

 

 つまりテラスっていうか、先輩の座禅みたいなのをしてるのが見える位置だ。

 

「…………はぁ」

 

 やっぱり、あの姿勢が解けない。

 意識が戻ってないってことなんだ。

 私の料理教室だって、まだまだ中途半端なんだけれど………………。

 まあ私に思う所があっても、結局先輩の修行が早く終わったりはしないし。

 

 諦めて直立しながら、手首に引っ掛けたリングを指先にもってきて、フラフープの代わりにぐるぐる回し始める。

 

 ……ダーナ師匠いわく、私みたいな呪文詠唱できない体質の人間っていうのは、気と魔力、体内と体外にうずまく生命エネルギーのバランスが相殺してしまう状況を言うらしい。

 

 だから何かしらブーストアップする方法をもってそのバランスを少しだけ傾けてエネルギーを操作するか、あるいは身体的に改造を施して無理やりエネルギーを分離するか。

 もともと私に施されていた呪紋回路が後者で、現在ダーナ師匠が教えようとしているものが前者だ。

 もちろん、そう簡単に普通はできない。出来るなら私の時代においても、呪紋回路なんて作られたりはしていない。先輩たちの時代においてすら、魔法具を外付けするとかして、ほんの少しだけバランスを崩してひねり出したエネルギーを攻撃に転化するとか、そのくらいがせいぜいなんだ。

 

 だからそれを可能にするのは、結局回路だったり今やっている遠心分離法みたいなやり方だったりじゃなくって、もっと根本的な私に組み込まれた――――――――先輩と同じ、「火星の白」と「金星の黒」の扉が、だ。

 

「パーセンテージは教えてもらえなかったからなぁ……。イメージが上手くできないんだけれども、うん」

 

 言いながら先輩の方を見る。……うん、やっぱり先輩の状況はおかしい。変だ。数日前の時と同じだ。

 

 

 

 だって突然、先輩の姿が3つ、4つ、5つに増えたかと思いきや、そのうちの1体が凄い怖いビジュアルになったり、皆突然光りはじめたり、うん、法則性がない。

 

 

 

 割と初期から思ってはいたけど、先輩のその自由度みたいなのが、けっこう怖かった。

 なんの脈絡もなく突然変貌する姿には、ちょっと身の危険みたいなのを感じてゾワゾワする。

 私の時代だと心霊現象も生命エネルギーの一種として扱われるから、それすら効率よくエネルギー転化する燃料の一つとしてしか扱われない。それでも複数のエネルギーが集まった時に指向性を持てば、変な暴走とかも起こるので、より物理的な恐怖があった。

 

「集中、集中…………」

 

 指先でブンブンと振り回す小さなリングの周囲に意識を集中して、そこに段々と「自分の意識ではない何か」が注がれていく感覚がある。それに逆らわず、更に力を集中することで本来ならもっと簡単に回るんだけど…………。残念ながらフラフープよりもリングが小さいせいで、上手に回転させられない。

 このあたりは私の練度不足だ。まだまだ修行が足りないってことだから、もっと頑張らないといけない。とりあえずリングを手元に戻して、師匠からもらった簡易フラフープを展開しようか悩んでいると――――。

 

「……ん?」

 

 違和感を感じた。これは、そう、多分「異次元を渡る」経験をした人間だから感じ取れる違和感。

 空気が急に感じたことのない匂いになったみたいな、まるで全然違う気候の国に来て身体がその変調を受け付けないみたいな。

 

 そんなのに釣られて先輩の方を見れば、間違いない。「空間の裂け目」だ。人型にくりぬかれたみたいな、そこだけコントラストが変になったみたいな、色調が崩れたみたいな、そんな見た目の何か。

 次の瞬間、鈍く光を放ってから、その人型の()が変形して、ただしくヒトガタの何かになった。

 

 頭には片方折れた角が生えてて、ちょっと肌が浅黒くて、私の時代のそれではないコンバットスーツみたいなのを着用した、腰とか背中から羽根みたいなものを生やした成人女性――――。

 

「――――アガリ・アレプト様からの命令(オーダー)で来ましたが、やはり貴方でしたかねぇコノエ・トータ。『あちらでは』世界樹の養分となったろうに、ここにて『可能性が習合されている』とは、これだから不死者共は厄介な……。

 桜雨キリヱ共々、消えなさい。我らがバアル様の未来のために――――『死亡剣&回生剣(デッドアンドアライブ)』」

 

「ッ!?」

 

 彼女は自らの影から剣を2本出した。白いやつと黒いやつ、どっちも長い。

 それを振りかぶって、いまだ座禅状態の先輩に斬りかかろうとして――――。

 思わず「擬似収納アプリ」から疑似魔力光線銃を取り出して、狙撃した。

 修行中は使わないつもりだったけど、ちょっとそんなこと言ってる場合じゃなさそう。明らかにダーナ師匠の管轄外なところから現れてる、みたいだし。それに先輩、今は動けないんだから。

 

 こちらの銃撃に当たった剣は中程で折れる。白い方が折れて、ぴくり、と表情を動かして彼女は私の方を見た。

 

「………………これは、ふむ? なるほど。『この時空の』仲間ということですか。貴女、コノエ・トータの周りにいる不死者にしては見慣れない誰かですけれど」

「不死者……? いや、違うけれど、そんなことはどうだっていい、はず!」

 

 そう、だって今、先輩は身動き一つ出来ない状態だ。

 出来ないと言うより、こっちの声が届いていないだけ、かも? しれないけど。

 そんな先輩だけど、普通にやったらどうやっても殺せる感じはしない。普段は人間らしいのに一度出血した次の瞬間にはバケモノみたいになっちゃうし、最近は特に「こっちの動きや考え」を先読みするようになってからは、時々出血ゼロで完封されることもある。

 そんな先輩に対して、あんな時空障壁を無視するような出現の仕方をして、なんの策もなくただ殺そうとするとか、普通に有り得ないと思う。

 

 現にあの剣は、折れたけど少し怖い気がするし。

 経験的に魔族のああいう手合いが取り出す魔法具みたいなのは、1つでも人類側が用意する戦略兵器みたいなことである場合も多いんだ。

 

 光線銃を構えながら警戒する私に、彼女は少しだけ不思議そうな顔をしながら。

 

「…………それはそうと何故、貴女はチアガールのような恰好をしているのですか? ふざけているわけではないようですが」

「…………………………………………罰ゲーム、です」

 

 ダーナ師匠の課したノルマを突破できなかったせいで、私はマイクロビキニかスケスケチアガールかの二択を強要された。うん、ビキニはともかくチアガールはスケスケだけど、一応まともな下着の着用は許可されていたから、そっちにせざるを得なかったって事情はあるにはあるんだけれど……。

 そんな形で危機感をあおっても、私、そんなに上達しないんだけれどっていう当たり前の抗議は、普通に無視された。

 

 事情はわかりませんが同情します、と少しだけ苦笑いを浮かべたあの魔族は、ぶんと腕を振ると折れた白い刃も当然のように再生して。

 

「ですが、思い入れもあるわけではないですし、双方まとめて一思いに殺してしまいますか。それならば、この世界での我々の障害も消えるはずですし。

 それでは“一巡周ってまた会いましょう”。詠え、死亡回生(デスペナルティ)――――」

 

 

 

「いや、させねーからな?」

 

 

 

 彼女が両手の剣を振りかぶって何かをしようとした丁度その瞬間。全身を例の血のコートに覆った状態の先輩が、血の斬撃を放って彼女を背後から斬った。

 

 

 

 

 



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ST184.黒き鉄血の(さかい)

毎度ご好評あざますナ!
 
死亡回生については本作的な解釈をもとにつくってますので、原作出身だけど原作と一緒というわけではない(ハズ)です…、原作、原作?(混乱)


ST184.Gravity Sword "ATTRACTOR".

 

 

 

 

 

 現実世界といっていいだろう、肉体の有るこの世界に意識が戻ったその時点で、メイリンが何だか見覚えのある相手に斬りかかられているのを見た私がとった行動は、速攻での背後からの強襲だった。

 OSR(オサレ)の欠片もない一撃必殺、必ず殺すと書いて必殺めいた挙動であるが、そもそもの話として「第四の目(ザ・ハートアイ)」発動中かつ死天化壮も装着された状態で目覚めたこともあり、このあたりは「考えたら」「ほぼ同時に」身体が動いているレベルの対応となるのは当然だと言えるだろう。

 

 何故そんな恰好やら何やらのままこっちに戻ってきたのかとか色々セルフで突っ込みたいところは有るが、それよりも相手が相手である。

 

「――――なん、で? コノエ・トータ……?」

 

 血風創天で背面から袈裟斬りにされた彼女は、しかし分断された胴体を「血で繋ぎながら」、いまだにその命を散らさず、ややずれた胴体のままこちらから距離を取る。尾がなかったり背部にファンネルのように飛んでる剣が影を纏い翼のようになっていたりと、あるいは本来ならあるはずの尾がまるで切断されたように無くなっていたりと、色々姿に違和感はあるが、その顔は比較的最近対面した相手のそれである。

 オティウス・ラウヴィア。折れたその角は忘れようもない彼女である。

 

 しかし、その彼女は一つだけ決定的に私が知る彼女と違っていた。容姿や格好や、そんな問題ではない。

 

「何かわからねーけど、アンタは逃がすと何か拙い気がするからここで叩くぞ」

 

 嘘である。実際は何故逃がすと拙いか全然わかっている。わかっているが、その一番致命的な部分に関しては、私はもはや何もかもが遅すぎた。

 

 このオティウスは、「原作の世界線」のオティウスだ。

 そしてこの彼女は、既に「UQ HOLDER!」において退場した後の時系列のオティウスだ。

 

 

 

 それが意味するところは、すなわち――――彼女は既に任務を完了し、原作の桜雨キリヱの「やり直し可能な人生(リセット&リスタート)」を奪ったうえで、異世界へキリヱを飛ばした後の彼女だということだ。

 

 

 

 魔人、オティウス・ラウヴィア。原作においてはほぼ設定レベルでしか言及がなく、結局キリヱをどうこうしたという以上の話が存在しない相手である。私としても一度相対した後、私たちの世界線においては現在ホルダーの拠点地下へと幽閉されているとか何とか。ともあれこっちの彼女は封殺したも同然であるが、それは目の前の彼女においてはなんら関係はない。

 

 なんなら思考に浮かび上がってくるワードに「私の方が先輩」とかそういうフレーズもないので、どう考えてもキャラも別人だろう。

 

 つまるところその思考は一つ―――――並行世界に移った桜雨キリヱの抹殺である。異常な固有能力を再発されては困るからと言う、念の入りようであった。

 

「あら、貴方とは直接面会したこともありませんし……、見たところ『我々と関わっていない』頃のコノエ・トータと見受けますが?」

「とある宗教法人の集会襲撃したらアンタが居たんスけど、たぶんパラレルワールド的な別人だよな。思考というかニュアンスが違いすぎるし、『和睦』ってフレーズに聞き覚えは?」

「和睦…………? ちょっと何を言ってるかわかりませんねぇ」

 

 浮かんで来る思考もその言葉通り裏はない。間違いなく「魔人」関係の設定があーだこーだしているこっちの世界線のオティウスではないだろう。

 

「まあ大して関係ありません。どうせ異世界でもコノエ・トータは我らが邪魔でしかない。このオティウス・ラウヴィア、『新たなる夜明け』に捧げる贄を一つ二つ増やしたところで何ら問題はないでしょうねぇ」

 

 両手を広げてニヤニヤ笑う様は魔人らしいといえば魔人らしい。悪魔っぽいというか、それこそこっちのオティウスのように先輩ぶったりする感じもなく、逆説的に人間性を感じ取れない。悪魔としてはこっちの方がよりイメージにそぐうだろう。

 しかしその結果といっては何なのだが、こう…………。

  

「薄い」

 

「……薄い?」

「えっ、薄いって何、かな」

 

 オティウスのみならず、彼女を警戒したまま武器を構えているメイリンまで一緒に聞き返してくる。

 いや、まあ言う必要性がないことなのだが………………、初手煽りは基本だ。一〇(チャンイチ)もまたそう言って(以下略)。

 

「なんつーか、キャラが薄い。キャラ付けが安っぽい。

 まるでバトル漫画の終盤に数合わせで出て来たぽっと出のボスキャラみたいな感じでキャラの味付けと勢いが弱くて薄い感じで、なんつーかこう、ぺらっぺらって言ったら良いか? ぺらっぺら(メタ)」

「ぴゃ!? な、何てことを言うのですコノエ・トータ!!? 失敬な! 古の時代から語られる悪魔の一人である私になんて言い様!?」

 

 あ、こういう怒るところの動きとかはこっちのオティウスのそれっぽくもあるか。そう言う意味では育ちこそ違うが、魂とかそういうのは同一人物と言われて違和感はない。パラレルワールドの同一人物、というやつだ。

 

 ともあれ、私に対する感情やら何やらを乱しに乱した結果、様々な情報を読み取れる。どうやら彼女の能力の一つに「異世界ランダム移動」めいたものが存在するらしく、能力を封じた後のキリヱが「更なる力」に目覚めるよりも先に、別な世界線に飛ばし魔法能力に制限をかけたと。もっともどこに跳んだかまでは彼女自身がコントロールできるものではないので、その飛ばした先のキリヱを殺しにいくことを含めてまでが任務と。

 その途中、彼女の上司たるアガリ・アレプトから追加の命令が発生し、道中に立ち寄ったこの場でも私やキリヱを殺そうとしていること――――。

 

「まあこっちは『どうにかなる』だろうけど、キリヱ相手は流石になぁ…………」

 

 我々の世界線のオティウスを視た(ヽヽ)訳ではないから断定はできないが、おそらくそっちも似たような能力を持っていると考えられる。とするなら、この場で彼女を逃がすことはどう考えても後々の悪手だ。並行世界を巡ってまで、下手すれば様々な世界のキリヱ大明神が殺されてしまう。

 彼女同様に並行世界を渡るオティウスが誰かいるかもしれないが、そこまで面倒は見切れないにしても、目の前にいる実行犯については冗談抜きでどうにかしておくべきだろう。

 

 なにせここは「狭間の世界」――――本筋から外れても多少は許容してくれるはずだ。なにせ時空が入り乱れているのだから。

 

『桜雨キリヱのために後で頭を抱えそうなダブルスタンダードしているところ悪いが、血がつけられているぞ』

「おっと?」

 

 私の内から(おそらく精神世界から)語りかけてくるエヴァちゃんの声。人工精霊はもう抜き取られているから、おそらくエヴァちゃんモードの星月だろう。何故アキラさんからそっちに変えたのか……。それはそうと、腕やら身体やらをちらりと見てはみるが、残念ながら死天化壮の布地アーマー地やらと完全に溶けてしまっており、オティウスの血らしきものは見当たらなかった。

 

 そんなこちらを見ながら、身体を繋ぎ再生させ途中のオティウスは微笑み、頭上と足元へ白と黒の剣を向けて。

 

「では、失礼な貴方も、“一巡周ってまた会いましょう”――――――――死亡回生(デスペナルティ)

 

 無駄なことを、と「第四の目」により何をしようとしているのか、何が起きようとしているのか理解しながら、あえて私は特に抵抗せず。

 その結果、私の死天化壮は消し飛び、全身から力が抜け――――。

 

 

 

 ()は、死んだ。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「せ、先輩に何をしたんだ、あなた!」

 

 そう叫ぶメイリンに、オティウスはけらけらと笑いながら、目を閉じ気を失ったような近衛刀太を一瞥して微笑む。

 

「言った通りですとも。『一巡周って』もらいました」

「意味が、わからない――――!」

 

 光線銃の引き金を引くメイリン。その一閃を、両側の剣を重ねて斬り払い一蹴。否、その光線ごと光線銃が「消えた」。姿を消した、文字通り跡形もなく。

 その異常事態に、やはり理解が追い付かないらしいメイリン。頭の良さはいわゆる超鈴音レベルかどうかはともかく、それなりに現代人よりも学をおさめていそうな彼女でさえ、何がおこったのかに説明がつけられないらしい。

 

「タローマティのような時空干渉……? いや、もっとシンプルに、物体そのものが『時空に埋もれた』、みたいな………」

「あら貴女、伊達や酔狂でここまで来てはいないのですね。初見としては正しい物の見方でしょう。

 でも『埋もれた』という表現は正しくない。『物理干渉できるレイヤー』から上部のグレードに送り、『一巡周って』もらっただけ、ということです」

「一巡……? まさか、永劫回帰思想を元にした時空間魔術ッ!?」

「流石にそこまで究極的な力はもっていませんが、感覚は近いといえるでしょう」

 

 くつくつ笑うオティウスは、黒と白の剣を自らの背部に伸びている影の翼へと入れ、その構成要素の一つとした。

 余裕の表情を浮かべる彼女に、メイリンは「有り得ない……」と何度もぶつぶつと繰り返す。

 

「時空間永劫回帰仮説、時間はループして滅亡後に同様の物理現象が再生され、世界は何度も何度も同じような歴史を繰り返してるという仮説は、2096年のAI葉加瀬聡美の広域量子演算コンピュータ製造にまつわる論文で否定されているはず……、少なくともこの世界線、宇宙のワンバースから『脱出』しない限り、内部生命もまたエントロピー増大にともない、いずれ消滅する定め…………」

「あら、そこまで結論を知っているのなら、察するまでもう少しですかね。

 ヒントは――――『横軸』」

「……ッ! まさか――――」

 

 顔が青ざめるメイリン。そんな彼女にオティウスは半眼で妖しげな笑顔を向ける。それこそ、まるで悪魔めいて嘲笑うように、事実を突きつける。

 

「――――私の固有能力『死亡回生(デスペナルティ)』は、私自身が干渉した存在を、『一巡周って』『新たな歴史の始まりから』『現在と同様の横軸へ』送り込む能力。さきほどの光線も、ここと『時空間的に』横に並んだ別世界の何処かへと送り込んだということです」

 

 

 

 そしてそれは、先ほど私が血装術で干渉したコノエ・トータの魂も同様に――――。

 

 

 

 嘘でしょ、と。メイリンは震えた声で指をさす。

  

「いや、だって、そんな簡単に、えっ?」

「簡単ではありませんとも。これをすることで私は『並行世界の私』の命を消費することになりますとも。

 それが私の代償(ペナルティ)、ただその代わり――――今頃このコノエ・トータは、別世界のコノエ・トータの肉体に、『所有していた能力を失って』転生していることでしょうけれどもねぇ?」

 

 これが、彼女がキリヱのやり直し可能な人生(リセット&リスタート)を無効化した絡繰り。とある歴史における決戦時、戦闘中に使われたオティウスの影をもって、キリヱの肉体と魂を別世界へと送り、そこにいるキリヱと同一存在の肉体へと「上書き」を行った。

 能力は「この世界」において発動することを前提として作られているもの。物理法則が異なれば、その異常極まりない特殊能力もまた正しく発動せず、結果としてキリヱは、不老と魔術のみ残った状態でその世界に降り立つことになった。

 

 それはすなわち、どうあがいても自力で元の世界へと帰ることが出来ないと言う意味でもあり――――。

 

「その条件はたとえ誰が相手であっても例外はない。

 すなわち、永遠の別れということですね――――自力で並行世界でも渡り歩く能力を持たないのならば。

 まぁもっとも? 魂だけの転移は異世界の肉体への上書きになりますが、事実上『別存在となる』ことに等しい。もはやそこにあるのは、只の生きた躯に他なりません」

「そん、な…………、わ、わ、私だって、まだ『縦軸に関して』色々作ってるって段階だっていうのに…………」

「何、問題はないでしょう。一人は寂しいですものね。

 じきにあなたを始め、他の人々も送って差し上げますとも――――能力を失った後の桜雨キリヱは殺しますが」

 

 

 

「流石にそれを許容する訳にはいかないんだよね」

 

 

 

「えっ?」

「――――ッ!? 何、です!!?」

 

 驚いた様子のメイリンとオティウス。とはいえ、そんなことおかまいなしに()はオティウスの顔面を、黒棒を握った右手で殴り飛ばした。男女平等パンチ! OSR(それっぽさ)的にはチョコラテ度が足りない一撃だけど、この場合はケースバイケースだということで納得してもらおう。何に納得してもらうかは知らないけど(爆)。

 一度消し飛んだせいで血装術のための血がなくなってはいるけど、身体的には生命の危機相当の扱いにはなっているらしく、魔族であるはずの彼女の顔面を僕の拳はやすやすと打ち抜いた。

 

 予想外の一撃だったせいか、飛び跳ねて転がるオティウス。背部の翼も解除されて、周囲に八本の剣が散らばる。

 困惑しているらしいメイリンに「やぁ」と軽く手を振ると、何故か頬を少し赤く染めて、引きつった笑いで「は、はぁい……?」と返してくれた。うーん、僕も謎挙動だけど彼女も普通に返しちゃったし、あっちもあっちで混乱してるってことかな。

 

 オティウスのうめき声。流石に我に返ったかな?

 改めて左肩が前になるような立ち位置のまま、身体を斜めに向けてオティウスを見やる。彼女は頬を抑えて上半身を起こし、有り得ないものを見るような目で僕を見ていた。

 

「有り得ない……、有り得ない、有り得ない、有り得ない…………!

 貴方の精神は既に別世界に跳ばされたはず、それが何故まだ……? ハッ! ひょっとしてコノエ・トータ、貴方は多重人格だということですか!」

「えっ!? そうなの先輩!!?」

「いや、そこまで判りやすいものじゃないよ。僕ですら把握しきれていないくらいだし」

 

 僕? と、ここでメイリンが一人称の違いについてようやく気付いたらしい。

 

 

 

 そう、今ここにいるのは「私」ではない。「僕」だ。

 神楽坂菊千代という自我の認識自体は崩れていないが――――それでも何かが欠けたが故に、「私」ではなく、僕は「僕」であるという認識になっている。

 

 

 

「まあ、大した問題はないよ。記憶に欠損もみられないし、ちょっと『僕が』『私じゃなくなった』くらいで」

「ごめん先輩、ちょっと何言ってるか本気でわからないだけど……。わ、わかるように話してもらえない、かな?」

「わかったらSAN値チェック(狂気の世界へようこそ!)だから、やめておいた方が無難だ。というわけで、僕は細かい話をするつもりはない。それに血装すれば――――」

 

「……全く意味が解りませんが、しかし! 貴方の血装術は貴方自身の魂に紐づいていたはず、コノエ・トータ。魔族の能力とはそういうものです。

 であるならば、何かしら精神に異常をきたした貴方は、以前のように技を振るうことができない! つまり、もはや私に抗う術はないはずです!」

 

 オティウスが実際言う通り、現状は「第四の目」も血装術も使えない。血装術はキティ(ヽヽヽ)ちゃん(ヽヽヽ)や師匠に封じられた時のそのままだという事情もあるけれど、「第四の目」については彼女の言っている通り、魂に異常が起きているからということなんだろう。たぶんドラゴ〇ボールのギニュ〇のチェンジで肉体と精神を入れ替えても性能を発揮できないみたいな、そんな理屈が働いているはずだ。

 あのラスボスであるヨルダ=バオトだって、自らの精神で敵の肉体を乗っ取ることまではしていない。相手の精神を洗脳し、自らの意のままに操るという流れが結果として洗脳みたいな状態に見えるとか、そんなシステムだったはずだ。心を折り抵抗できなくしたうえで、自らの言う通りに行動させる。つまりどうあがいても、本人の肉体性能を十全に発揮させるには、本人の魂が必要だっていうことだ。

 

 ただ、申し訳ないんだけど「丁度」、そのあたりの問題は解消してしまったところだ。

 

「いくよ黒棒……、いや、黒鉄血界(アトラクター)

 

 黒棒を構え、その切っ先だけをオティウスに向ける。何をするのかと、困惑している彼女へ――――。

 

「――――血装」

 

 次の瞬間、黒棒の先端が「四つに解け」、それぞれが卍型のブーメランの羽根を形成。ぐるぐると0から100の超急加速をもって、風圧と衝撃波と「僕の血液」を飛び散らし、オティウス本体に衝撃ダメージを与えた。

 気分はちょっとだけ、完現術編(オサレ)の復活した卍〇(オサレ)発動モーション。

 ついでに近くに居たので、メイリンも「ひゃんっ!」と巻き込まれて尻もちをついてるけど、ゴメンそっちのフォローは後回しで。変なところ打ってなさそうだし、大丈夫大丈夫……。

 

 状況を理解できないでいるオティウス。打撃自体は大きなダメージは入っていないものの、そもそも今明らかに「黒棒が」血装術を使ったようなその光景に混乱しているらしい。

 衝撃波により舞い上がった砂煙――――その内側で、既に黒棒から放たれた血により、こちらの準備は終了していた。

 

「何故、そんな馬鹿な……?」

「悪いが、()も色々手は打ってあるってー感じだ」

 

 砂煙を切り払う私は、改めて死天化壮(デスクラッド)を身にまとった姿で。「黒棒の内側にいる」「オティウスの干渉を受けなかった」「欠損していない私の魂」と血を共有し、回復した魂のまま、「第四の目」をもって彼女を見定めていた。

 

 …………内心を視ると「馬鹿な」とか「をのれUQホルダーめ」とか、そんなテキトーな感想ばっかりでやっぱりキャラが薄いぞこの女。もっと色々頑張れ(無茶振り)。

 

 

 

 

 



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ST185.前門の現実、後門の現実

そろそろエヴァちゃん登場させないといけないので、こちらは色々調整に手間取っておりますサーセン(言い訳)


ST185.Number Of LIFE Required To Propose.

 

 

 

 

 

 黒鉄血界(アトラクター)という呼び名は私と黒棒とで相談して決めた結果であるが、読みであるところのアトラクター単体は私発案だった。もともとカトラスがゲームじみた修行中(?)の際に、黒棒ではないが重力剣を使ってラスボスと戦っていたからとのことだ。

 その名前がアトラクター。一刀振ればそれだけで、周囲へ超重力の衝撃波を放ちダメージを与え、フィールドを損壊させるMAP兵器である。

 

『神を称する敵を屠るための剣か……、何っていうのかな、因果なものだ』

 

 星月からのそんな感想コメントはともかく。ともあれ、その文字の読みを継承させた黒棒は、本来の「百の顔を持つ英雄」ではなく「重力剣」というカテゴリーに追加される形になり、その結果が現在だ。

 

 前方で「何故か」血装術を発動できた「僕」、改め「私」の姿を見て困惑するオティウスとメイリン。オティウスの言った通り、本来なら血装術は使用できなかったのは間違いない。そもそも「本来の」意識で無かったさっきまでの私では、血装術に必要な「金星の黒」の扉へのアクセスに問題が発生するはずなのだ。それ以前に完全解除された状態では、自動回天のない今の身体では当然発動できるはずもない。

 それを可能にしたのが、今の黒棒である。

 

「血風――――」

 

 黒棒を振りかぶり、ダイヤルを今までの「軽」ではなく「重」の方に親指で回す。と同時に、黒棒の刀身からあふれんばかりに「大量の血」が噴き出し、「金星の黒」を経由してその操作が可能になる。

 この状況にも困惑、あるいは驚愕するオティウスのことを無視し、私は黒棒を袈裟斬りの要領で振り下ろした。

 

「――――創天!」

「…………っ!? くっ、死亡回生(デスペナルティ)!」

 

 飛び散った剣八本が自動的に彼女の目の前に集まり、盾のように折り重なる(持ち手が黒いからおそらく影操術でも使用しているか)。そんな彼女相手に高速機動で背後に回り、もう一発血風創天。前後からのサンド攻撃は本家月牙(オサレ)をちょっと思い出して個人的にはちょっとだけテンションが上がっていた。まあ正しくは魔天化壮でやるのが正しいのだろうが、虚化(オサレ)は個人的にあまり好んでいないのでこのあたりの塩梅は仕方ないと諦めてもらおう。

 流石に咄嗟に攻撃が切り替わったせいか、オティウスも咄嗟に一本背後に回すが、受けきれない――――今までの血風とは、それこそ「血液の量」「質量」が違う。同量の速度で打ち出される血のウォーターカッターとはいえ、そもそもの重量で叩きつぶす形になっているのだから、相手からしたらたまったものではないだろう。

 

 実際こちらの一撃で、右足が根元から捥げた(ヽヽヽ)オティウス。転がり倒れ、しかし両手に剣をもって戦意は薄れていない。無理やり血装で足の形を作り、それを外側から影装を使って固定して義足として、震えながら立ち上がった。

 

「計算外……、まさかここまで、容赦がないとは」

「当たり前だろ敵対してんだから」(※キリヱ大明神の敵討ち的な意味合いで)

「いえ、そうではなく…………。そもそも『こちらの』コノエ・トータでは出来なかったのかもしれませんが、それほどの移動速度で、不意打ちめいた真似をし、なおかつ本体を倒すのではなく、部位破壊に来るとは」

「多分、やる必要がなかっただけだと思うぞ? 敵が軍団なら一気に『血の津波』とかで呑み込んだ方が手早いし――――尸血風(しいけっぷう)

「ッ!」

 

 言いながら黒棒のダイヤルを「操作せず」一閃――――先端の、それこそ以前ネギぼーずに「折られた」位置までの刀身が「解け」「再形成され」、血風のブーメランと化して彼女目掛けて放たれる。

 オティウスはそれを周囲の剣で防御するが、その3本ともが今の血風を受けて「制御を失い」、その場に落ちた。厳密には剣に接触した時点で分散飛沫した「死霊属性の血」が、オティウスの影操が「這っていた」柄へと接触し、それを断ち切ったのが正しいのだが、いきなりそこまでされたことが彼女にはわからない。ただ自らの剣に送っている影の操作が利かないことだけは理解したのか、もう一本、いまだ無事な剣を「血の義足から生やした」「もう一本の腕」でつかみ取り、瞬動をもってこちらに移動し。

 

 それを私は、刀を構え「前進するモーション」をしながら「後退し」、ついでに黒棒のダイヤルを操作して刀身を「再形成させた」。再生させ、そして延長させる。送る血の量を増幅させ、刀身そのものを長くし、距離を離しても斬りかかることが出来るようにする。

 死天化装必殺、実際の動きに関わらず座標軸だけは自由自在なバグ動作である。やりすぎると私も混乱するので最近はあまりやっていないが、初見相手では確実に有効だという判断だ。

 現に「第四の目」越しに見たオティウスは、こちらの意味不明な動きへ混乱のあまり血の制御が少し緩んだ。

 

 それを見計らって、「聖属性」の血を送り込む。

 

「血風聖天――――」

「――――ッ!?」

 

 吸血鬼や魔族にとって、聖属性魔法は毒ないし電子レンジ的な威力を誇るのは既に体感済。

 であるが、今回に関しては何一つ問題がない――――「私」自身の肉体と、黒棒から放たれる血とは「直接接触していない」。であるがゆえに、それが私の全身に回りスリップダメージを発生させることもなく、正しく、聖属性の血風創天を発動することができていた。

 つまり何が起こるかと言えば。オティウスは見事に左半身が切り裂かれ、その上から胴体だけが残った状態となった。後の部分は「蒸発」し、焼け焦げ、その影響かいまだ再生が追い付かず、その場に倒れ伏す。

 

 左腕や肩と胸元、頭部と随分「小さくなった」彼女は、断面から血や影を使役できないことに明らかに焦り始めた。

 

「こ、こんなことが……!? 一体何をどうすれば、そんな相反する属性の技など扱えるというのです!」

「…………………………………………」

「何か言え! いえ、言いなさい!」

 

 こういう時は無言のままの方がそれっぽい(オサレ)〇LEACH(オサレ)本家にもそう描かれて(以下略)。

 やはりというか、戦ってて伝わってくる感情はよくある敵キャラクターとかが言ってくる少々傲慢な上位種目線のあれそれとか、それが乱されたことによる恐怖とかが主ではあるのだが、そんなキャラ付けの薄さに少々「看過できないもの」があったので、少しだけ思案する。

 

 そんなこちらの状況に、メイリンは一人正しく私と黒棒がどうなったかを、状況から推察できているようだった。

 

「失われた質量を、先輩の血で補填している……?」

 

 正解である。「第四の目」越しに見ると色々と魔法理論やら何やら細かく思考が展開していてむしろ本当に正解かどうか分からなくなってしまうが、簡単に言えばそういうことだ。

 黒棒の内側に残して来た「私」の魂の一部(らしい存在)。それを起点に、「魂が残っている」状態を「金星の黒」の側に「死にかけている」と誤認(ヽヽ)させる。それを用いて強制的に、黒棒の精神世界で自動回天を発動させる。私の胸の中央にあったそれが、黒棒の内側で常時発動しているような形になったということだ。

 これにより「金星の黒」と黒棒とも「魔術的に」つながった状態が形成され、これをもって黒棒の「折られた刀身」という事実を解消したものが、今のこの黒鉄血界(アトラクター)だ。

 

「よっと」

 

 つまり――――ダイヤルを回すことによって変化するものが、黒棒の質量ではなく「私の血」、その量、密度、圧縮度に関係してくることになった、らしい。本当なら黒棒本来のポテンシャルたる超質量とかどうなったんだ!? という話なのだが、まあ例によって細かい部分は星月が調整しているらしいので、シンプルに「ダイヤルを回せば血がいっぱい出てくる」と考えて問題はない。

 さきほどの血装もこれに由来する――私自身に回天が存在せずとも、体外に存在する部分から「私の魂」から「私の血」が出てくるなら、それが帯びている金星の黒を経由した私の魔力を、こちらでつかみ取ることが出来る。

 

 結果、副次的な理由からの解決ではあるが。血装術によるスリップダメージや、血本体を狙った概念的な攻撃などに、ある程度の耐性を獲得したと言う事だ。

 確かに師匠の言葉に偽りはなかったと、一応は納得した私である。

 

「まぁ納得したとはいえ、『私』のうちの一人(ヽヽ)を『部分的に』異世界送りされるとは思わなったが……、大丈夫だよな。また異世界で何か変なガバでも乱発したりしていないよな、私の魂」

 

 思わず半眼になって虚空を見上げるが、お師匠からのツッコミは入ってこない。便りが無いのは大丈夫な証拠か、あるいは呆れてコメントも寄越さないのか…………。どちらにせよこちらから手出しは出来ないので、ここは一旦考えるのを止める話だろう。

 

『…………これは酷いな。惨いが正しいかもしれないが』

「ん? どーしたんだよ、黒棒。このくらいの攻撃ならクウネル=サンダースとかでも――」

『いや、何でもない。こっちの話だ……「こちらの世界の話」というのが正しいか、しかしいや、これは………………、そうだな。「星月」を名乗るあの女の判断に任せよう』

「いや、何かスゲェ恐ろしい事実でも知ったみたいなリアクションとるの止めろ」

 

 ただでさえ何か「私」自身について、もはや厄ネタめいたものが多数存在するだろうことは否定することは出来ないのだが、それにしたってフラグめいた発言は止しておくんなまし(混乱)。

 オティウスが「無視するな」と怒鳴りながら(呼吸器も半壊どころでないのによくしゃべれるな)、それでいてこちらの隙を伺っているのを視ながら、わずかに彼女の手先から伸びた影へ「聖血風」を投げて切断。あまりにも無駄のない手際過ぎるせいで、舌打ちしてキレるよりも先に彼女の内の恐怖が勝った。

 

「何と言うか、あんまりしゃかりきにやりたく無ぇんだよな……。とりあえず『この場で死んだら』『異世界の自分の肉体を乗っ取って』復活するみたいだし、一旦封印してお師匠に相談だな」

「ッ!? ッッ!!? ッッッ!!!?」

「何故それを、って顔して(思って)るところ悪いが、一切話すつもりは無ぇからな」

 

 ついでに言えば、原作におけるオティウスはそもそも「気が付いたら出てて」「気が付いたら退場していた」タイプの敵である。主人公である刀太は対面すらせず、キリヱ大明神と相打ちになったかで既にこの世界にはいない、みたいな扱いを受けていたはずだ。そして原作においてキリヱが帰還する際に、彼女が障害になるようなことはなかった。

 つまり――――本当にこの場で倒しても問題がない相手なのだ。

 

 彼女の能力による「異世界転移」めいたそれさえ考慮しなければ。

 

 さきほど口頭でも言った通り、彼女はどこかの世界で死んだ際に、そこに近い世界線のいずれかの自分自身の肉体を「乗っ取る」ことで復活することが出来る、らしい。そもそもの固有能力である死亡回生(デスペナルティ)含めて、異世界の自分を消費(ヽヽ)することで発動する能力のようだ。

 まあその結果、単純に戦う分にはかなり厄介極まりない相手であるようだ。いくら「この世界程」キリヱ大明神の性能がぶっ壊れでなかったとしても、相打ちと言う結果に持ち込んだだけ大金星かもしれない。

 だからこそ、これ以上の追撃をさせる訳にもいかないのだが。

 

「よっと」

 

 黒棒のダイヤルを再び回し、刀身に血の奔流を纏わせる。属性は「塊」、つまりフェイトの石化魔法。

 こちらの攻撃準備が整っていることと、今までのやりとりから弱点を把握されているだろうことを察してか、目を見開いたオティウスが震えながら首を左右に振る。その動きや本心を「視る」に罪悪感や同情もしないではないが……。

 

「アンタ、今のアンタ以上に情けない顔してたキリヱ相手に何やった?」

「そ、れは――――」

 

 視えるのだ。言葉にはしないが、こちらには「彼女の記憶越しに」視えているのだ。

 キリヱ自身もやり直し可能な人生(リセット&リスタート)やら何やら色々多用することでオティウスの死亡回生を潜り抜けはしていたが。それとて途中、近衛刀太がいないことによる精神的な不安によるパニックや衝動的な慟哭など、何度でも何度でも存在する。

 それをオティウスが実際に見た記憶越しに見た以上、私もこの場で手は抜けない。

 

「この世界のアンタが、今のアンタほど色々やらなきゃ、それはそれで対応するけど――――アンタ相手には、無理だ」

「…………では、精々祈りましょう」

 

 この私の願いを、いつか「どこかの世界の私」が果たしてくれんことを――――。

 

 そこだけは私の知るオティウスのようなことを言い、閉じた彼女に向けて。私は血風塊天を振り下ろし。秒速で、彼女の残った全身は石化した。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 

 

 特に何か呼びつけることもなく現れた師匠は、とりあえずは私が預かっておいてやるよ、と言ってオティウスの封印された石像を、指パッチン一つで「亜空間へと送った」。そうとしか言いようがない、しいて言えば黒腔(オサレ)めいた亀裂と共に反膜(オサレ)めいたものが照射されて「スィー」と吸い上げられた絵面になっているのだが、まあ流石にこのあたりは私の趣味に合わせたということはないだろうし、おそらくそれっぽい演出をしたらたまたまネタが被ったというだけだろう、ウン。

 それはそうとあまりに狙ったタイミングすぎる介入で、出待ちを疑ってしまう私であるが…………、いや実際問題、こちらの慣らしを兼ねて出待ちしていたと返されそうなので、あえて聞くまでもないだろう。

 

 あと隣でメイリンが目を丸くして「原理どうなってるのかな」とか師匠の行った謎現象に仮説を複数おったて始めたあたりで鬱陶しかったので「第四の目」もオフにしたのだが。

 一応、さきほどのオティウスとのやりとりで、別に私に対して忌避感情を抱いたりしてはいないようなので、その点については有難い。

 

「しかしアトラクターとそれに名付けたか……。んー、これは、セーフかねぇ? いや『世界観的に』『メタ読みすれば』何もかも間違っちゃいないネーミングなんだが、刀太も狙ったわけじゃないだろう?」

「狙ったとは?」

「あー、なるほどねぇ。カトラス経由か。何だいちゃんと覚えてるじゃないかあの小娘も。リアルPALADIN(パラディン)を面倒くさがっていた割には堪能してたようだねぇ」

「リアルパラ……? いやそれはそうと、ネーミングの由来を今の一言からどう察するだけの情報量があったんスかね?(震え声)」

「細かいことは良いから、早い所解除しな。こっちでも使えるか確認くらいしたらどうだい、その『仮契約(パクティオー)カード』」

「あー、まぁそれもそうっスか。…………『去れ(アベアット)』」

 

 全身の血装術が解除され黒棒の刀身に戻った瞬間、黒棒本体が「淡く光った」。ぎょっとするメイリンだが、そんな彼女のことなど知らぬとばかりに黒棒は姿を消し、代わりに私の手元には一枚の仮契約カード。描かれているのは、それこそ原作「UQ HOLDER!」1巻の見開き扉絵に描かれていた刀太の姿(表情は半眼なので私のようだが)と、「KIKUCHIYO」の文字…………いやちょっと待った、それは流石に色々マズいのでは(震え声)。

 思わず動揺する私に「サービスだよ」と言って、師匠はそのカードをひったくると、ちょちょいと「何か」を表面でなぞり、こちらに返して来た。見れば名称が、ちゃんと「TOHTA」に書き換わっていた。

 

 これには正直感謝の一言。思わず頭を下げる私に、師匠は軽く肩をすくめた。

 

「…………何、それ?」

「何って、仮契約カードだけど」

 

 もっと言えば「私」と「黒棒」との仮契約カードである。

 一応念のために言っておくがキスはしていない(断言)。どちらかというともう一つのパターン、つまりは「契約時に対象者の間に出現する魔法陣同士を一定時間くっつける」ものの応用と言ったら良いか、あるいはもっと古いものと言ったら良いか。この場合、黒棒を膝の上に置いて刃禅をしていたのが、結果的にその意味合いを持つことになっている。

 

 その結果として出来上がったカードが何故私の側に出現するかと言えば……、こればっかりは仕方ない。契約の関係上、どうあがいても「私」が黒棒に負けてしまうからだ。「そもそも精神世界で契約を結ぶ形になる以上、刀太は『金星の黒』のバックアップを受けられないのだから、私とお前とで綱引きをした際にどちらが勝つかと言う問題だろう」とは黒棒の談。なまじ人工生命体(?)であるがゆえに、精神の耐久性的な勝負をした場合はあちらに軍配が上がってしまうということらしい。

 まあ結果として、自分の仮契約カード(のコピー)を私が手に入れることになったわけだ。……何故古い術式で最新のカードが手に入るのかと言えば、そこは星月に「お役所仕事らしいし、世界仮契約委員会」と遠い目で返された。古い申請フォーマットで出されたキャッシュカードの契約手続きでも、現行の要綱と遜色がなければ書き直しせずに契約させてもらえる、というような、そんなニュアンスのようだ。もっともキャッシュカードはそこまでファジーさを発揮してはもらえないだろうが。

 

「初めて見た、かも……」

「ハジメテ? えっと、こっちの歴史はともかく、そっちでも魔法アプリとか存在するんだよな。だったら仮契約のアプリとかもありそうなものだが…………」

「そうじゃなくって、えっと…………、コレ」

 

 言いながらメイリンは、どこからか一枚のカードを取り出す。白紙のそのカードは、サイズ感だけで言えば仮契約カードのそれだが……。

 

「これは私のカードじゃないけど、私たちの時代だとこういうカードが一般的、だから。個人専用のカードなんてそういう『正式っぽい』の、初めて見た、かも」 

「それは、えっと、つまりどういう…………?」

 

「共通の魔法具(アーティファクト)を複数人で共有するシステムの魔法具(アーティファクト)だねぇ。マザーカードはちゃんとした仮契約カードだが、それを劣化コピーした代物なもんさぁ。

 全く、そこまで質が劣化したかねぇ、未来の世界仮契約委員会も」

 

 電子化したにしてもそれを通したらザルじゃないかい、とお師匠は何かに愚痴っている。メイリンはメイリンで「へぇ……」とか「色々、何が書いてあるんだろ」とか興味津々と言った風に私のカードを横から覗き込んで、距離感が近すぎる。ちょっとでいいから今の自分の恰好考えろ、下着がスポーツブラとかそういうのでも二の腕とかノースリーブっぽい感じで思いっきり当たってるんだぞ、そういう健康的なタイプのお色気はアウトだこのバーロー(震え声)。

 当然不健康なお色気はもっとアウトだが。

 

『……そんなことより、相棒は時坂九郎丸たちが目覚めた時に、その仮契約カードについてどう説明するか考えた方がいいんじゃないかな。時間軸、もう合流してるみたいだし』

「あ~、…………」

  

 そして星月のコメントと共に、なんだか体感で数カ月ぶりくらいになるようなならないような、そんな再会やら発生するだろう問い詰めやら何やらに、頭を痛くした。

 なんとなく夏凜の顔が見たくなったのも、気の迷いではないはずである。癒しが、癒しが欲しい…………!

 

 

 

「そっちはそっちで、お嫁に貰わないといけないレベルの責任問題が残っていると思うがねぇ?」

 

「グハッ!?」

「ちょ、先輩!!?」

 

 

 

 そして師匠によって背中を撃たれて、脳裏に「あァン……っ♡」とか色っぽい声を上げて私をあやしていた夏凜の映像がフラッシュバックし、思わず私は膝をついた。流石にそれを今思い出させるのはルール違反じゃないですかね……、致命的だぜ(致命傷)。

 

 

 

 

 



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ST186.心の鍵は壊れた

今だ原作が8巻くらいしか進んでいない恐怖
今回、最初期のエヴァちゃんアンケート結果が反映されますので、そう言う意味で閲覧注意…………(どう受け入れられるか心配極まりない)


ST186.What You See Isn't Necessarily The Truth.

 

 

 

 

 

「刀太君、一体誰と契約したの……?」

「ちゅーに、まさかあの雪姫の人工精霊とかじゃないでしょーね……?」

 

「まず初手でこちらの有罪を前提として話を進めるの止めろ(戒め)」

 

 冒頭早々にジト目で見て来る九郎丸とキリヱ相手でアレなのだが、結論から言えばやっぱり疑われた。疑われたというか、黒棒との仮契約カードの出自をどう説明するかと言う話なのだが、これについては正直あまり深くツッコミたくない。

 朝方、多少は仮眠を取って城のテラス部分(つまりは原作でエヴァちゃんと遭遇したりしていたアレだが)の集合に、何てことのないような風に顔を出した。各々が各々、それぞれ師匠が用意した白い扉から「修行場所」へ転移していく流れなのだが、そこに普通に出て来た私の姿は中々衝撃的だったらしい。

 聞けばどうやら、こちらが黒棒との仮契約もどきの屈服作業(オサレ)(?)中の刃禅(オサレ)姿を目撃されていたりしたようで、そう言う意味で特に何ら心の準備もなく終了しフラッと出てきたものだから、心臓に悪いとか何とか。

 キリヱ大明神も「第四の目(ザ・ハートアイ)」で確認すると大変心配をかけていたようだし、九郎丸にいたってはボロボロ泣かれてしまったので、こちらとしては申し訳ないやら何やら。

 

 そして修行の成果を披露している途中、黒棒から出てくる血を使用しての血装やらより、仮契約カードの方に気が行ってしまうのは平和と言うか何と言うか……。いや、「第四の目」で視れば九郎丸は「これで刀太君の死亡リスクが減った……」と安心していたり、こちらの様子を呆れて見ていたカトラスは「ようやくグロさが減った! やった!」と内心では小さな子供のようにぴょんぴょんと喜んでいた。

 ……うん、完全に九郎丸の内面の具合が女性のそれなのと、カトラスの情緒が思ったよりちびっ子っぽいのは相変わらずというか何と言うか。実際に「視られる」ようになったことの威力を思い知らされた感覚である。

 

 まあ、それはさておき閑話休題。……閑話休題と言ったら閑話休題である。いや、結局二人とも納得させることが出来ずに師匠によるタイムアップで修業先へと強制輸送されたりしているのだが。例によって真〇の扉的な演出で吸い込まれる九郎丸たちと、特に逆らわず「そういうパターンもあるんだなァ」と納得して自分から扉を開けて歩いて行った三太という微妙な差は誤差である(断定)。誤差と言ったら誤差である。ま、まあ詳しい話はそれこそ彼女たちが帰ってきてからで問題はないだろう。

 ちなみにカトラスも増設された新しい白い扉に吸い込まれていっており、メイリンは「じゃあ、また後で」と城の方に戻っていったりした。

 

「カトラスはなんつーか、修行レベルがお師匠の受け持つやつに合致したとかなんだろうが……、メイリンは何なんだろう」

研究(ヽヽ)だねぇ。あの子がいた未来を救うための。…………アタシとしちゃあの手法や、そのためにわざわざここに来るのはどうかしていると思うんだが。

 まあメイリンは特にネギ・スプリングフィールドの解析力や長谷川千雨の洞察力を強く受け継いでいるから、どうしても頭でっかちになりがちなんだがね? 桜咲刹那の直情さも併せ持っているからあんなポンコツなんだろうが」

「私はその解説を聞くべきではなかったのでは……?」

「どうせ遅かれ早かれだからね? 意味はないよ、アンタは割と『上手に』取り繕う方だし」

 

 そんな軽い感覚でメイリン(自称)の遺伝子情報を提供されましてもですね……!

 というより、もはや隠す気がないらしい師匠。「30番台だからちょっと厄介な娘だよ、アレも」とかあからさまにロットナンバーを開示してくるあたり、こちらはどんな顔をすればよいのだろうか。

 

「笑えば良いんじゃないかねぇ? 〇ヴァじゃないが、人間限界が近いと自然と口の端が上がってくるものだよ。本来は威嚇をする本能が作用しているんだろうが」

「そんなに追い詰められても最後は汚ねぇ花火しか上がらないのだが、この場で」

「精神的な死による爆死(物理)はアタシも初めて見る死因だねぇ……」

 

 閑話休題。

 

「で、今日から何やったら良いんスか? 血装も黒棒も復活して、なんかヘンな能力に覚醒したりもしましたけど」

「アンタの場合は練度についちゃこっちで何か目的をもって鍛える話でもないし、既に魔人としての完成度は1ランク上に上がったからねぇ。出来の良い魔人としちゃまだまだ及第点だが、自傷せず血装が使える時点で中々良い感じに育ったもんだよ」

 

 そうすると何が必要になるかという話として。師匠はニヤリと意味ありげな笑顔を浮かべた。

 

「まあ出来るとしたら分身の数をもっと増やすとか、『第四の目』の使い方をもっと習熟させるとか、あとは体内に取り込んでいる魔術の種類を増やすってところかねぇ?

 だが、それよりアタシとしちゃ少しは『真性魔人』との戦闘に慣れておいた方が良いと思うよ。どうせバアルのガキと戦うことになるのだろうしねぇ」

「ええ、まぁそれはもうハイ……(原作20巻的な意味で)。

 ん? って、ちょっと待て。とすると次の修行は――――」

「――――もうレッスンのカウントは終わりだよ。ここからは、逐次必要となったものをアンタに突っ込んでいく作業になる。

 だからまず最初は、アタシとの実戦だ」

 

 殺す気でかかってきな、アタシもお前を殺すから。

 

 早々に物騒なフレーズと共に、私はお師匠のウィンクで上下に「潰された」。巣立ちの状態のままノーモーションによる、相変わらず意味の分からない一撃である。……いやだから、その遠近法を使った攻撃はいくらなんでも無法なんでもうちょっとご容赦していただけませんかねぇ(震え声)。

 

「思考が鬱陶しくなってきてから、調子が出て来たじゃないか。やっぱり慌てて(~)(かっこなになにかっことじ)を使い始めてた方が頭の回転が速いんじゃないかいアンタ」

 

 いやだから、当たり前のように「肉体のない」私の視点、おそらく魂的な何かが見ている師匠の姿、その視点へと「カメラ目線で」ニヤニヤ笑うの怖すぎるんでおやめくださいませんかね(震え声)。

 

 と、そうも言ってられない。とりあえず「遠方に」身体を作りながら、師匠の周囲に飛び散った私の肉体やら血やらを使って血装、血の刃を使って師匠目掛けて槍トラップのように一撃。

 なお全身に刺さって驚いた顔で死んだはずの師匠は、そのすぐ後ろに「無傷の師匠」が現れて槍の造形を見て「中々上手なものじゃないかディティールが」と、ちょっと凝った獅子の頭を模した槍の造形にニヤリと講評していた。

 

 うん。いきなりだが勝てない、絶対に勝てない(確信)。

 

 不死者としての格付けと言うか、おそらくその能力的な格付けを考えれば絶対に勝てたものではない。原作漫画やアニメ(OVA)で見ていた以上に、その存在の自由さというか「圧力」というかが違う。「第四の目」を使っても何も思考を感じ取れないが、とはいえそこに「何かが存在する」のだけは理解できる。明らかに渦巻く情念やら何やらの量が常人の倍で聞かないレベルの超質量で存在しており、おそらくは重ねて来た歴史の分だけ想念のようなものが累積されているのだろう。怖い。

 

 遠方の身体に意識が映ると同時に、まだ再生しかかりの下半身はおいておいて、右手に血風を作って投げる。投げながら左手で仮契約カードを握り、黒棒の召喚準備。

 一方の師匠は、飛んできた血風を適当に右手を振って払いのける。今回は遠近法だったり視覚やらを応用した超常現象というかを使用することはしなかった。

 

 …………それはそうと、血風が爆裂した後の師匠の右腕が「黒々とした鱗の」「人間よりも大きそうな大型爬虫類の腕」になっていたので、それは一体何だというのだ。

 あっ! いや、別に知りたいわけじゃ無くって普通にツッコミを入れただけなんで、ネタバレとかそのあたりは平に! 平にご容赦を……! これ以上のそういうガバというか情報はオーバーフローなのだ。

 

「オーバーフローと言えば、アンタの『金星の黒』と『火星の白』が、それぞれ近衛勇魚と近衛帆乃香に由来しているって話すら遮っていたねぇ」

「わざわざそれを今言及する意味どこにあったんスかね(白目)」

 

 だ! か! ら! 自分の情報については見送ってくれたのかもしれないがそういう話をあっさり開示するの止めろ! 死ぬぞ! 私の胃が! 釘宮程ではないが最近胃痛を覚える機会も増えているので、かなり洒落になっていない。本格的に何か私の知らないそういう設定が内在していても不思議じゃないこの世界なので、知れば知る程「原作ルートを」それっぽくなぞるのが難しくなるのだから、その結果何が引き起こされるのか知っていらっしゃるのですから容赦してくんなまし(混乱)。

 

「そもそも前々から言おうと思ってはいたけど、BLEAC〇を目指してる時点で原作通り進むわけがないだろうに」

「うるせぇ!? 馬鹿、禁句(タブー)だ!(暴言)」

「あんまり強い否定を使うもんじゃない、図星に見えるよ」

「微妙に語録を重ねていらっしゃられまして……ッ!?

 来たれ(アデアット)――――『黒鉄血界(アトラクター)』!」

 

 形成した黒棒を構えて、前方に「刃を伸ばす形で」血風創天。

 師匠は片手を顔、というより片方の目の前に置いて、そして両目をつぶる。と同時に、創天が「撃ち返された」。180度、撃ったのと同様の方向にベクトルが物理的に重なっているような絵面で、こちらの血風創天が私を襲いに来ている……!? 言葉で説明してちょっと何言っているかわからないが、絵面も本当に意味不明すぎて漫画表現できるレベルなのかこれ!!? 一体どんな能力を使ったというのだ師匠もさぁ!

 

 とりあえずその血風を「胴体で受け」、開いた腹の風穴を再生させながら血装。そのまま死天化装を形成して、師匠が目を開けるよりも先に背後に回り込む。

 

「――――甘いよ」

 

 そして「背後に回り込んだ」私の「さらに背後に回り込んだ」お師匠が、こちらを背中から蹴り上げて、空中に放ったと同時に「複腕の状態で」目の前に現れ、オラオラオラァ! なのか無駄無駄無駄ァ! なのかわからないラッシュを叩き込んでくる。以前三太がやっていたものよりはるかに一撃が重く、既に視点が「肉体よりも後方に」飛び出ている。つまりは肉体的に死んで幽体離脱していると考えるべきだろうか。

 見回せば、他の場所にいた師匠の姿は当たり前のように影も形もなく、改めてその能力の規格外っぷりを思い知らされる。こんなもの本編で積極的に協力者ポジションに居たら、話が全く展開せず連載が終わるわ!? お師匠に言わせれば「文明の生命が自助努力で勝ち取った未来」でないとかそんな言い回しになるのだろうが、ともかく彼女があまり手を貸さないだけの理由がよくわかってしまう。

 

 かくなる上は…………。

 

『えっ? 相棒、アレやるのか? ま、まあ他に手はなさそうだから仕方ないけど……』

 

 大河内さんボイスで囁いてくる星月のコメントに引きつった笑みを浮かべ(たつもり)、既に死亡している私の人体に「遠隔で」黒棒を血装術で操作し、その胸部に背後から「風穴を開けた」。

 

『何、だと……? 私は何もやっていないぞ刀太!?』

「落ち着きな『百の顔を持つ英雄』。トータが意図的にやったことだろうさ。

 それはそうと、出たねぇ問題児…………」

 

『――――――――グァアアアアアアアアアアッ!』

 

 瞬間的に全身から血風を放って師匠を後退させた私の身体は、そのまま「悪魔のような角のついた仮面」を形成し魔天化壮(デモンクラッド)へと移行。もっとも本体たる私の意識ははっきりとした形で後方からそれを見守っているので、状況としては闘犬とかみたいな形になるのだろうか。

 

「ふんっ」

 

 そしてそんな私を遠方から「親指と人差し指で摘まみ」、遠くへと放り投げる――――と同時に「私」の意識もそれに釣られて一緒に引っ張られて投げられる。オイオイ和尚(阿修羅疑惑)千〇通天掌(オサレ)じゃないんだからさぁ。やろうと思えばできるだろうが師匠なら。そもそもが「遠近法を無視」したモーションによる投擲であり、なんなら死天化壮の「座標が固定される」特性をあっさり無視した、純粋な運動エネルギーによる暴力だった。

 となると対策も当然、BLEACH(オサレ)というか■■■■(ラスボスな鼻毛のおっさん)がとった対応をするのが妥当となる。背中から胸部へと貫通した刃を握らせ「表側へと無理やり」貫通させる。えぐれた骨やら何やらを振り払って黒棒を持ち直すと、自分が進んでいる方向へ死天化壮部分を操作して向き直り、そちらに黒棒を向けさせる。

 

『な、何をするつもりだ刀太、いい加減さっきから色々こちらの想定の外を行ったり来たりしているのだが――――』

『――――――――』

『何とか言え相棒!? お前ちょっと人間捨てすぎていやしないか!!?』

 

 いやだって相手がお師匠だし……(白目)。

 今回は意図的にだろうが一発一発を「致死量のダメージ」にしてくれているお陰で、痛覚が早々に仕事を放棄してくれているのは有難いといえば有難いが。お陰で集中して血装の操作に回すことが出来る。

 それはともかく、そのまま黒棒から大量の血風を一度高速で放ち、それらを魔天化壮している私の本体へと射出した。一撃一撃が炸裂すると同時に、私の身体が若干だが進行方向とは逆に押し返される。……適当に作ったせいか由に百は超えているしなんなら黒棒から絶賛新しい血風が製造中なのだが、なんとなくその制御を星月が無理に頑張ってくれている気がするのでホント申し訳ない(素直)。

 なおこれをしても「私」の移動とは別に周囲の光景は全然戻らないと言うか「減速しているようにすら見えない」ので、一体あのお師匠は何をやらかしたというのか。とにかく個数を増やさねば…………。

 

 どれくらい時間が経過したかわからないが、やがて威力が拮抗したのかこちらが押し返された。そして移動中に見えたのは、お師匠の姿がいつの間にか消えていること、「狭間の城」の時刻も昼時なのか明るいこと。また超の時のように別な時間に紛れたということだろうか、流石に良く判らないが。

 城の上空にたどり着いた私は。そして、眼下にあったものを「魂」で見た私は…………。

 

『……嘘、だろ?」

 

 魔天化壮状態だというのに、その「意識が無いはずの」身体が、私の気持ちを代弁した。

 それ程までの、一つの残酷な事実を、目の当たりにした。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

『――――っと、早起きしたぜ。よくわかんねぇけど泣くほど俺に会いたいっていうのなら、こっちが急がないとな……。っとと、はっはっは! それでも先越されてるな。

 おーい! キティ!」

『……!

 …………小僧か、今日は思ったより早かったな』

『何だよお前、昨日と言い鳩が豆鉄砲喰らったみたいな顔して。十年ぶりくらいに会ったみたいな感じだぜ? はははっ』

『…ッ!?』

『って、お前また泣いてねぇよな。頼むぜ?』

『…………十年、か。

 その通りだ、少しくらいは泣きもする』

『は?』

『何でもないよ。

 ……あー、そうだな、お前朝食はまだだろう。

 ちょっと準備してあるから、ついてこい。

 私手づから用意した』

『お? おー、おぅ!』

 

 半袖のシャツにネクタイと簡素な恰好でテラスに駆けて来た近衛刀太は、当時は雪姫と言う呼び名を持たなかったエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルに笑いかける。フリフリと愛らしい恰好をした十歳ほどの少女は、どこか懐かしそうな、切なそうな表情で刀太を見て微笑んだ。

 そんな彼女に誘導された先、テラスの先の方に置かれた豪奢な料理の数々。メイド服を着用した人型人形が彼女の魔力で操られながら、飲み物などを給仕していた。

 そんな食事を二人でとりながら、彼女は刀太に礼を言った。

 

『貴様には恩がある。

 感謝しきれない程にな。

 …………貴様のお陰で、もう死のうとは思わなくなったよ』

『お? おぉ、そうか……』

『………………今日は、な。

 今日はその礼と、それから――――別れを、言いに来た』

『へ?』

 

 動揺する刀太に、事の仔細を振り返りながら説明するエヴァンジェリン。そのセリフは、一字一句思い出せるほどではないが、一体何を言ったかについてはおぼろげながら説明ができる。直近「読んだことがある」からだ。

 

 そんな、それこそ「UQ HOLDER!」原作8巻で描かれていたようなやり取りをする二人を「見下ろしながら」。魔天化壮を解くことすら思考に上らない程に、私は動揺していた。

 

『アレは、刀太か……?』

 

 黒棒の台詞にもリアクションできず、私はただ黙ったまま、その「原作」を目の当たりにする。

 

『私たちはあの腐れ魔女(ダーナ)が眠りにつく仮初の一時のみに邂逅する時の幻、そうだな。

 だから、お前と出会い言葉を交わすたび、私とお前の時間はズレていった。

 お前にはきっと毎日毎朝の出来事だったろうが、私にとっては数日数週間と時間は開いていく。

 一週間ぶりといった前回、お前にとってのつい一昨日は、私にとっては二年の歳月だ』

『に…………、二年!?』

『そして、今回は八年ぶりだよ』

『な……!?』

『ククク。

 次はおそらく四十年は先か……、さすがにこれでお別れだろう』

『いや四十年ッって!? ま、待てよ、そんなこと突然言われたって――――』

 

 立ち上がり、自嘲げに嗤うエヴァちゃんは。そのまま動揺している刀太へ一歩一歩歩み寄り。

 

『気にするな、元よりお前が帰った後、あの女に言われて覚悟はしていたことだ。

 それより別れの願いがある。

 …………いい、だろう?』

『な、何だよ』

『うむ……、その、だな――――――――』

 

 

 

「――――やれやれ、全くアンタが絡むとこっちの予定が全部狂い通しだよ」

 

 

 

 そんな私の背後に、師匠が現れる。私の身体ではなく、魂たる私の方に。

 振り向けば、その姿は見慣れたデラックスサイズのものではなく、「背教」と呼ばれていた頃の姿か。毛皮風の紅のコートとドレスを纏っている彼女は、ドレッドヘアですらなく、切れ長の目で私を見下ろし苦笑していた。

 

「本当なら修行編の終わりにやるつもりだったが、こうなったら仕方ないかねぇ? キティ相手にアンタが引き起こしたバタフライエフェクトと、その結果だよ」

「……………………」

「アンタならわかるはずだ。これは『アンタの歴史にも』起こった事実。アンタが見たあの近衛刀太とキティは、ほぼ原作通りのそれさ。そこに差異なんてあったところで、それこそアンタが言う所のガバなんて起きない。枝葉末節に収束されている出来事さ」

「………………………………」

「なら、何でそんなことが起こったか――――――答えは出ているだろう?」

 

 私が――――私が、エヴァちゃんを「愛せなかった」から? だから私ではその出来事を起こせないから「原作の」刀太が来たと?

 

「少なくとも『UQ HOLDER!』とアンタが認識している世界線に統合される横軸(パラレルライン)っていうのは、縦軸(タイムライン)で見てもイベントとかはそんなに変わらないんだよ。当然、近衛刀太の人格だって、ねぇ? じゃなかったら『あの形で』収束することは有り得ない。ほかならぬアンタ自身がその証明さ。

 その歴史的な不都合を解消するために何が起こるか――――――――横軸の似たイベントは、世界観で『共有される』。世界自身がリソースを削減するためにそう言う現象が起こるのさ。既にアンタの世界線は、リソースが『まだ』カツカツだからねぇ。

 あそこにいるエヴァンジェリンは、アンタの知るエヴァンジェリンでありながらアンタの知るエヴァンジェリンではない。ただどちらにせよ、アンタの知るキティは『あのキティ』を経由していることに変わりはない」

 

 つまり、それは。

 彼女にとってかつて経験した近衛刀太は「私」ではない「本来の」近衛刀太であって。

 

「それが歪んだ理由を何処に求めるか。自分が知っているはずの相手が自分の知らないような相手に育った理由は何か。――――アンタ自身が、よくガバだ何だと言っていること、思っているようなことと一緒ってことさ。

 キティはずっと『失敗した』と思ってるんだよ。アンタが今のアンタになったことで、自分の知っていたトータじゃない刀太が生まれたことで、『自分は何か致命的な失敗を』お前に仕出かしてしまったと」

「……………………………………………………」

 

 だから自分にはお前を愛する資格なんてないって、そう塞ぎ込んじまったんだよ、だってあの子には「正解」なんてわからないし、「失敗の理由」なんて心当たりがないからねぇ。

 

 師匠の一言一言で、私自身の魂が揺らいでいる。見れば手先が一瞬「真っ黒に染まり」、しかしノイズのようなものが走り元に戻りを繰り返している。

 

「まあ、それもあの子とアンタの選択だからねぇ。アタシは否定しないさ。

 いかにこの時点でキティが近衛刀太を愛したとしても、それが今のアンタに繋がっていないとするのなら、アンタの人格にはなんら『罪はない』んだ。アンタ自身がどれだけそれに罪悪感を感じたところで、それが『愛じゃない』ことだけはアンタ自身よくわかっているだろう?」

「………………………………………………………………」

「責めはしないよ。アンタがそうなったのはアンタのせいじゃない。もちろんキティのせいでも、他の誰のせいでもない。強いて言えばアンタたち『全員のせい』だからねぇ。

 だから、今なら誰も見ていないから―――――気にせずに、好きにしたら良い」

 

 脳裏にアキラさんや夏凜の笑顔が浮かぶ。この時点で、嗚呼、考えれば何もかもが違うのだ。原作を原作をというのなら「違っていてはいけない」大前提なのだ。

 そんなこととっくに理解していた。理解していたが、だからといって、これは、いくら何でも――――――――。

 

「……………………………………………………………………」

『刀太……』

 

 魔天化壮の身体に、今、私は入っていないと言うのに。

 

 近衛刀太の膝で丸くなりながら、心の底からの安堵を吐露し。彼に頭を撫でてもらっている、たった一人のちっぽけな少女を見て。

 その姿を見て、私の身体は。その仮面の左側の眼窩から、赤い涙を、一筋流した。

 

 

 

 

 




※ここで引きだと流石にアレなのでネタバレですが、次回か次々回で「この」キティと遭遇します


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ST187.逆立ちする天秤

エヴァちゃん登場までねじ込もうと頑張ってましたが、いい加減開きが長いので諦めました…
す、数話以内には出てくるのてお許しをば汗


ST187.Misunderstand x Misinterpret

 

 

 

 

 

 大きな翼の生えた、人狼のような魔獣。それを前に、学ラン姿な刀太君は仮契約カードを構えて重力剣を呼び出す。……僕たちみたいに衣装がランダムじゃないのがちょっとズルい気がするけど、刀太君は特に何も言わずに重力剣を頭上に掲げて。

 

『血装――――――――死天化壮(デスクラッド)

 

 刀身から飛び散った大量の血が雨みたいに降り注ぐ。それにびっくりしたのか魔獣が飛び退いて、その一瞬で飛び散った血の一部で真っ赤に染まった刀太君は、一瞬で死天化壮を身に纏う。

 明らかに動きというか、速度というかが洗練されてる気がするんだけど、ほんと一体何があったんだろう、ここ最近。

 そんな僕の疑問なんておかまいなしに、状況は進んでいく。刀太君は自分の周囲に血風(あのブーメランみたいなやつ)を出現させると、それを遠隔で飛ばして魔獣の周囲に。直接襲い掛かってこないで、自分を囲んでるその血風に、魔獣は警戒しながら見回す。

 

 そんな魔獣めがけて、瞬動みたいな素早い踏み込み――――斬りかかった刀太君の剣を受ける様に爪を立てる魔獣。

 そんな魔獣の周囲に飛ばした血風が集まって――――。

 

『血風創天――――』

 

 重力剣についてないはずの血風たちは、そのまま「勢いよく回転し出して」、中央の部分から刀太君が振り回す血風を射出する。

 状況的に逃げられないと思うんだけど、それでも魔獣は刀太君から飛び退いて、翼を使って空を駆けていく。駆けて行くんだけど、射出された血の奔流はまだ途切れて居なくって――――。

 

『遠隔だけどいけるか? あー…………、尸血風(しいけっぷう)

 

 ――――その奔流「から」大量の血風を射出した。って、えっ!?

 

「ちょっと何アレ、やりたいほーだいじゃないのヨッ」

 

 僕の横でキリヱちゃんが唸り声をあげてるけど、それも気にならない。

 カトラスちゃんは「ますますバケモノじみてきたな」とか言ってるけど、そっちも気にならない。

 メイリンさんが「カッコイイかも……」とか言ってるのは…………、ちょっと気になるけど、一旦おいておこう。

 

「ぱ、パネェ……」

「そ、そうだね……」

 

 あんな精緻な操作というか、血装術の使い方は今までできなかったはず。だから、絶対刀太君はここでの修行の成果が出て、レベルアップしてるってことだ。

 

 そんな刀太君の動きを、みんなでテラスに集まって、あの壺みたいなやつで覗いてみている。相当古い映写機みたいな感じの装置になってるこれで、前はカトラスちゃんの動きを見ていたけど、今回は刀太君の修行を見ている最中だ。

 

 なんでこんなことになってるかというと……。刀太君があの黒棒を修理し終えたタイミングが、僕たちと微妙にずれているからだ。

 大体3日くらいずれてるから、ダーナさんが週2日の休日を最近設けてくれているのも、僕らと刀太君とでタイミングがずれている。

 

 おかげでこうして、休日はたまに刀太君の修行を直に見ることが出来るようになっているからか、皆ちょっと興味津々で覗いているんだ。

 

 で、その結果が。

 

「鬼ね……。翼のコントロールを奪い取って、地面に叩きつけようとしてるわ」

「パネェ」

「いや、確かにやべぇけど佐々木三太、お前もうちょっと語彙増やせよ」

「あ、あんまり組手してる時とかは意識してなかったけど、こう見るとあのコートみたいなのってヒラヒラしてて格好良いな……。うん、いいセンスしてる」

 

 リアルタイム映像の刀太君は、尸血風の死霊魔術で部分的にコントロールを奪った羽根で、魔獣の飛行を妨害してるみたい。あっ、安定感がなくなってそのまま墜落してく。そんな魔獣を見ながら頭上に円を描く刀太君。

 あの動き、UQホルダー加入の試験をしてた時を思い出すなぁ……。

 

 それはそうと、似合っててカッコイイとか呟いちゃうメイリンさんを思わず見ちゃう僕とキリヱちゃんとカトラスちゃん。

 

 うん、何と言うか…………、全然知らない人なのにしれっと現れて刀太君と仲良くしてる大人のお姉さんという、何とも色々と言いたいことのあるポジションに居る人だった、この女性。

 僕たちとしては、色々気が気じゃない。

 

 あっ、映像の中で刀太君が魔獣を倒した。斬り殺さないで、最終的には血装術で作った腕で首を絞めて落としてる。

 

『まあ、こんなもんっスかね師匠』

『――――上出来といえば上出来だよ。アンタがどう思おうがね』

 

 そして映像の中に現れたダーナ師匠が刀太君の首のあたりを捕まえて「ひょいっと」音を立てると、こっちの「画面の方へ向けて」投げて――――ッ!?

 

「――――ぎょええええええええッ!」

「わあッ!?」「に゛ゃああッ」「おっと何だッ!」「やべぇ……」「イヤーッ!?」

 

 僕、キリヱちゃん、三太君、カトラスちゃん、メイリンさんの順でリアクション。瓶から思いっきり刀太君が「打ち上げられて」、全身びしょ濡れのまま空中で絶叫した。それに合わせて僕たちも叫んじゃったりしたんだけど、い、いい、今のは一体…………。

 ……もうちょっと前に出てたら、き、き、キスくらい出来た、かな?

 

「止めときなアンタ、桜咲刹那から『変態』の通り名を継承したくはないだろう」

「わあダーナ師匠!!? ってそれより、へ、変態!?」

「ぬあああんッ! どこから出て来てるのヨッ」

 

 ジト目で僕に声をかけたダーナ師匠は、首から上だけが瓶から「にょき」っと生えていた。なんか生首が入ってるみたいで、ちょっとグロテスクに見えなくもない……。

 あっ、瓶に四本「足が生えて」、カタカタ言いながら立ち上がった!?

 

 皆リアクションしながらその生理的な気持ち悪い絵面に逃げて(一番怖がってたのはメイリンさんだった)、一瞬視線をそらしただけなのに「いつの間にか」普段通りのダーナ師匠がそこにいた。瓶は消えてるし、もう何と言うか、一体これって何が起こってるんだろう……。

 

「ま、さっきも色々言ったが『思った通り』アンタはこれ以上、技能やら使い方についちゃ経験の積みようがないね。なんならキティのハウスで宍戸甚兵衛や他の連中と戦った方が、まだ刺激になるだろうさ。

 今日はとりあえず『今何をどれくらい出来るか』試す意味でアタシが殴り合わなかったが、どうだい?」

「どうだいと聞かれましても……。そろそろチュウベェを解放してもらいたいんスけど」

「えっ?」

「えっ?」

 

 しばらく沈黙する二人。やがて、ダーナさんの方がバツが悪そうな顔をした。

 

「悪いねぇ、忘れてたよ」

「ちょっと何言ってるかわかんないッス」

「アタシだって色々忙しいからね? いや、ちょっとくらいそういうミスがあっても変じゃないだろうさ」

 

 そんなこと言いながら、ダーナさんは胸の谷間に手を差し入れて(!?)ごそごそと何かをやって取り出した。黒い球状のボールみたいなそれは、日の光を浴びると徐々に崩れて消えていく。

 

 中にはこう、あの雷獣…………、刀太君が「チュウベェ」と名付けたあの子がいた。

 何かこう、目が真ん丸になって、真っ白になってる感じ?

 

「も、燃え尽きてるじゃない……、真っ白にッ!?」

「キリヱ大明神、そのネタわかるのか」

「わかるわヨ、っていうか大明神呼ばわり止めなさいヨ!」

 

 ぺしん! と刀太君にチョップして苦笑いされるキリヱちゃん。い、いいなぁ……。その、何と言うか「女の子」を自覚してから、ああいうからみ方みたいなのって全然できないし、僕。

 熊本時代だって……、熊本…………、あれ? 元からあんまり、そういう「男の子」らしいからみ方とか全然してなかった、僕ッ!?

 

「おーい、生きてるか」

『ぴ…………、ぴかぴ……』

「だからその鳴き声止めろ(白目)」

 

 あっ、チュウベエの鳴き声に刀太君が白目剥いてる……。

 ダーナさんの手から譲り受けたチュウベエを肩に乗せると、刀太君はため息。

 

 とりあえず今日はもう自由時間! ということで、ひとまずみんなでお昼ってなるはずだったんだけど……。

 

「き、キリヱちゃん? いいのかな、その、刀太君とメイリンさんだけ先に行かせて……」

「三太もいるし大丈夫でしょ。それより九郎丸、作戦会議よ作戦会議。そこの妹チャンも」

「「作戦会議?」」

 

 僕とカトラスちゃんは思わず顔を見合わせる。

 気づかない? ってキリヱちゃんは両手を腰に当てて、フンと鼻を鳴らした。

 

「怪しいのヨ、あのちゅーに。なんかずーっと、あの刀修理してちょっと経ってから、ずうううううううっと! 元気ないの!」

 

 それは……、うん、そうかもしれない。少なくとも最近の刀太君は、何かを必死で隠してる感じがする。

 振る舞いはいつも通りなんだけど、何と言うか「やりとりに覇気がない」っていうか。おしゃべりも普段より長続きしないし。でも話しかけた時のリアクションはいつも通りの感じで、ただ普段よりちょっと雑というか。

 

 ……あんまり気遣われてないって言うか、そういう余裕がないのかな? と思うくらいには、普段は色々こっちを見てくれてる感じがするっていうか。

 

「怪しいも何も、ニンゲン(ヽヽヽヽ)そーゆー時だってあるんじゃないのか? 私だって色々あったし」  

「妹チャンはまた別件じゃない。そーゆー禁忌(フォービドゥン)極まった暗い話じゃないの」

「何で今横文字使ったの? キリヱちゃん……」

「兄サンの影響か……?」

「ち、違うわヨ! ちーがーうーッ!

 うなあああああッ! もう、修行中に読まされた本が色々なジャンルありすぎて変な語彙ばっか増えてるじゃないのヨ!」

 

 しばらく絶叫したり頭抱えたり唸り声をあげてジタバタした後、キリヱちゃんはぜーぜー肩で息をして僕たちをじっと見て、びし! って指を突き付ける。

 

「つーまーり! 私たちで元気づけてやるのよッ! 最近影がなんか薄い気がするから、そのアレコレを払拭するのッ!」

「か、影が薄い…………」

「いや、個人修行してるだけで影濃くなったりするのはむしろやべぇだろって……」

 

 薄い、影が薄い……、言われてなんとなくその自覚はある。天狗さんにも全然勝てないし、僕に関してはひたすらに神鳴流の技術を「物理的に」叩き込まれて教えられてるような形になっているんだけれど、それだけで全然進展もない。

 さらに言うと刀太君もメイリンさんに気遣う分が増えて、僕とかキリヱちゃんとかの接触回数が減っているんだ。

 カトラスちゃんは元からあんまり変わってないんだけど……、って、あれ?

 

「あ、だからキリヱちゃんってば、メイリンさんは誘ってないのか」

「そういうことヨ」

「ん? いや、仲間外れにしたって今、一番兄サンと一緒にいるんだし、別に――――」

「その油断が命取りなのヨ!?

 あのちゅーにってば、見た目ちょっとお姉さん好きのおっぱい星人なんだから! 夏凜ちゃんがケアしてない今いきなりあんな丁度良い感じに湿っぽいお姉さんをぶつけたら事後るに決まってるでしょーがッ!?」

「「じご……!?」」

「今はまだそんな気がなくったって、私たちが動くことで加速するに決まってるわヨ! ぜーったいッ!」

 

 き、キリヱちゃん流石にそれは言い過ぎとかなんじゃないかなぁ……!? そういうのだったら僕がやるし! 年齢詐称薬使えば、僕だってちゃんと大人のお姉さんになれるわけだし!

 あっ、カトラスちゃんも顔真っ赤にしてブツブツ言ってる……。イメージとちょっと違う感じがするけど、軽いパニック状態なのか「わー!」とか自分の妄想に言ってる感じだ。……刀太君より年下ってことは僕よりも年下なんだから、つまりカトラスちゃんて結構むっつりちゃん? うん、大丈夫、僕はそんなにエッチな子なんかじゃあないから、うん。カトラスちゃんの将来が心配な僕だった。

 

 …………カトラスちゃんより勇魚ちゃんの将来が心配な僕だった。

 いや、ほら、帆乃香ちゃんがいるからセーブは出来てるだろうけど、将来的に……。

 

「っていうか、兄サンのそーゆーのって、どうやって調べンだよ。全然情報もないし、本人に聞いたって絶対誤魔化すだろ」

「それが問題って言えば問題なんだけど、こういう時のために…………、じゃん!」

「あっ、久々に見るね。キリヱちゃんのそのカメラ……」

 

 いつの間に準備してたのか、キリヱちゃんが「帽子の中から」取り出したのは(収納アプリの出入り口そこに設定してるのかな?)、彼女の魔法具(アーティファクト)……えっと、名前、何だっけ。

 

「この時の額縁(カメラ・アド・クロノス)で何枚かちらっと撮影しといたわ! 少なくとも十二時間範囲で、何かあればヒントになるでしょ!」

「「おおー!」」

 

 って何がだ? って困惑してるカトラスちゃんに、魔法具の能力を説明するキリヱちゃん。

 撮影してから過去十二時間の範囲で起こった出来事を撮影することが出来る、みたいな道具だと理解したカトラスちゃんは、少し思案して「無理じゃね?」って言ってくる。

 

「な、何がヨ」

「いや、ここって時空が乱れてんじゃないの? だとしたらそれって『誰にとっての十二時間か』って話にならねー?」

「一理あるわね……。誰を対象として見た場合の十二時間かわからないから、っていうことね」

 

 でもまあ見ればわかるわよね、ということで。キリヱちゃんのそのハンディカメラ? っていうのかな。そんなサイズの魔法具の液晶画面を、三人で見る。 

 

 そして、絶句した。

 

「何、これ…………?」

「えっ?」

「や、べぇ……」

 

 キリヱちゃんの撮影した写真は、「三枚とも」「大量の」「刀太君の死体」が転がってて、それで埋め尽くされているような有様だった。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 九郎丸達に心配をかけているのを「第四の目(ザ・ハートアイ)」を使用せずとも当然把握しているが、それはそうとして何もかもうまい事立ち回れる状況にないのが今の私だ。

 正確に言えば、立ち回る余裕がないということだが。……自分の行動とその結果、因果関係で結ばれたガバの結果が、雪姫というかエヴァちゃんに特大ダメージを与え続けていたという事実をつきつけられた現状としては、はっきり言って「全く受け止められていない」。

 だからこそ彼女たちに相対して気が晴れるかと言われても、そう簡単な話でもない。夏凜にさんざん甘やかされたとしても、ある意味でそれは逃げである――――逃げてはいけないことからの逃げである。

 

 なにせこれほどの罪悪感を抱えてなお、私は彼女へと「そう言う類の感情を抱けない」。

 

 この心の機微と行動一つが、結果的にエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの方へと影響を与え、その絶望がまわりまわって「ヨルダ・バオト」との最終決戦の際に一切の妥協もなく完膚なきまでの失敗へとつながりかねない.。

 原作「UQ HOLDER!」において、エヴァンジェリンと主人公たる近衛刀太の関係性こそが、ある意味では後半の主軸でもある。むろんそこには他ヒロインたちとの関係性も大きく、キャラクターに着目すれば必ずしもそうは言えないだろうが、話の本筋に直結しているのはエヴァちゃんただ一人。親子関係から始まり、過去の想い人疑惑へと変わり、「自己都合で生み出した生命への罪悪感」など色々な感情を経由するが、一貫して共通している部分がある。

 近衛刀太が、エヴァちゃんを愛しているという只その一点だ。

 

「とはいえこればっかりは、無理なもんは無理だからな……」

 

 だって、仕方ないではないか。身体的な理由も含めて欲情できないのは当然としても、私にとってエヴァちゃんとは「ネギま!」のヒロインであるという認識が強すぎるのだ。「UQ HOLDER!」でのエヴァちゃんについては、私の方がある程度大人になったから「漫画として」受け入れられた部分があるが、だからといって実際に相対したときにどういう感情を抱くかは全くの別問題。

 そこに親子の愛情を形成しようと試みていたことと、そしてこの罪悪感とが上乗せされた今、果たしてどんな顔をして会えば良いと言うのだろうか。

 

『どうしたんだい兄貴ィ(ビッグブラザァ)、そんな疲れた声出して。それより俺チャンのディナーオブディナーはどうなってるんだろうぜ? ハードボイルドも心の余剰エネルギーは必要なんだぜ?』

 音声的には「ふみゅー?」と聞いて来てるチュウベェだが、私の頭の周辺でフワフワ漂っているチュウベェの言ってることはストレートに理解できるようになっているので、ますますため息。調理指導中のメイリンに「ど、どうしたのかな?」と訝しがられているが、何でもないと返すほかなかった。

 

 九郎丸達は絶賛「私のために」会議中らしいので(()たのでわかる)、そちらについてはあえてノータッチ。

 

 そんな訳で落ち込んだ気分が回復する目途もないのだが、メイリンに話を振ってもそれはそれで恐ろしいようなことを言ってくる。

 

「タイムマシン?」

「うん。友達が……、すごい頭が良い友達が作った設計図なんだけど、そこから上手く色々準備できないかなって。その人はその人でもう勝手に作っちゃってると思うんだけど、私は私でちゃんと形にしないといけない。

 だからそのための場所と機材とか、そういうのをちゃんと確保できるようにしたいってことで、ここに弟子入りしてた側面もあるんだ」

 

 メイリンからの警戒値も「第四の目」を使わずとも判るレベルで0に等しいらしく、話せば話すほど次々彼女の未来の情報がポンポン出てくる。メイリン自身が「呪文詠唱できない」体質だったりとか、未来人は割とそういう体質が多いとか。

 

「そもそも呪文詠唱できない体質って、どういうことなンだ……?」

「えっ?」

「あー、何だかんだ言っても三太ってそのあたりエリートだからな。感覚的にも実際的にもわからねーか」

 

 伊達に水無瀬小夜子に改造された人工幽鬼(レヴナント)ではない。おそらく法力やら聖なるパワーやらを除けばほぼ無敵の耐性を誇るし、その身体が身体なのでそういった事情とは無縁だろう。

 そんな不思議そうに声をかけて来た三太(胡坐かいて料理の出来上がりをワクワクして待ってる)に少しだけ微笑んでから、メイリンは虚空を見て。

 

「えっと確か……『自然気(マナ)体内気(オド)の両エネルギーを操る時その出力が釣り合てる場合、両方のエネルギーが相殺して現象を引き起こせなくなるネ! インポシブル・コリジョン・バーンアウト!』みたいなこと、友達に言われたかな。この説明でわかると嬉しい、けど」

「あー……、成程」

「?」

 

 不思議そうにしているメイリンには悪いが、おおよそその口調らしきもので当たりが付いた。タイムマシンの設計図やら知り合いの天才やら、あとは極めつけにその口調。

 そうかこの人、超の未来側直接の関係者確定か…………。名前とか若干キャラが被ってるの、どうにかならなかったのかな? (アモール)L-愛-(ザ・ラヴ)とかじゃないのだから。(震え声)

 

 

 

 

 



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ST188.原作の暴走特急

私生活都合もあってちょっと重い展開でイベント消化することが(メンタル的に)難しいので、色々省略してギャグ調に展開することにしました汗


ST188.Jump through time and space

 

 

 

 

 

 基本的にこういう場合、自分一人で抱え続けるとロクなことにならない。前世? 的な理由でもそうだし、熊本時代のことを思い出してもまさにそうだ。

 以前、あちらの朝倉清恵を主体としたグループにいじめられたことがあったという話があったが、四人組を巻き込むまいと手をこまねいていたら、段々とエスカレートしていったことがあった。究極的な解決手段としての暴力も検討していた頃。

 あの時、決して表にストレスを出したことはなかったはずだが、それでも四人組のうち最低一人は違和感に気づいた。野和 武来人(のわ ぶらいと)だったか、名前からして非常に宇宙世紀を感じるものだとずっと思っていたが、その印象にたがわず、それこそあの白木馬(ヽヽヽ)の艦長のごとく、思い切りこちらの頬を叩いた。……まぁ雪姫に当時すでに鍛えられていたこともあり、反射的に殴り返してしまったので結果的にお互い適当な殴り合いの軽い喧嘩になってしまったが。一通り気が済んでお互い倒れた状態のとき、彼はこちらに苦笑いしながら言った。

 

『親父だって()ったことのない俺の、初めての拳だ。少しは反省しろよ、刀太。

 ……俺達は、友達だろう。だったらそんなに、一人で迷惑とか考えるな。迷惑とか、恩義とか、そんなもので決まるものではないだろう友達って』

『――――――――いや、普通それ『親父にも打たれたことないのに』とかじゃ』

『よその家とか宇宙世紀の事は知らん』

 

 名前がそれっぽい自覚はあったのか、とか思わずツッコミを入れていまいち締まらないあたりは、まあいつも通りと言えばいつも通りだったが。

 考えてみれば、あのあたりからか。社会人経験もあった私の記憶において、友人というのはそれなりに「軽い」というか、さほど信用度が高い立ち位置に存在する物では無かった。……まあ混濁した記憶の内、スラムの子から「友達を助けたい」と言われてノコノコついていったら死にかけたとか、そういう他にも色々ブラックな経験値が前提として存在したせいもあるだろうが。それ故に、野和を始めとした田中肉丸やら4人の「友人」たちの存在は、私にとって大きかったと思う。

 その後、クラスの出し物企画などで彼女たちの発言よりも「五人で」かなり練ったものを提案したり、コストパフォーマンスやら何やらいっそ中学生らしくないくらいの勢いで仕上げたり、空回ったり、それでまた朝倉たちと喧嘩をしたりと、それはそれで青春らしい生活を送っていたのだろう。

 

 だからこそ、その後しばらくして朝倉が所謂チーマーの一団に攫われるのを発見した時、いっさいの躊躇いも躊躇もなく踏み込むことが出来た。

 乱暴(ヽヽ)をされそうになったのを私たちで食い止めて、なんなら「中学生らしくないくらいの」徹底抗戦をして彼らを警察に突き出したり、報復に来た他のチームたちを雪姫が拳で沈めつくしたりといった色々アレな展開もあったりはしたが、だからこそそういった横のつながりは大きいのだ。

 

「とはいえ、話しようもないがな……」

 

 一応「本来なら」師匠から聞いた通りのノリで、連絡が全くつかないと言う訳ではない(特定の日のみでそれ以外はリアルタイムではない)のだが、それ故にチャットの返信速度とかも色々微妙というか。とはいえ「現在修行中」くらいは通達しているので、連絡はまばらでもあっちはあっちで納得していたことだろうから、相談そのものは出来ない訳でもない。

 問題は、事態があまりに混迷を極めていることか。

 

「まず雪姫がエヴァちゃんだって知らないだろうからな…………。知ってたとしても私個人に関する情報があまりにセンシティブというか、際どすぎて色々問題がある」

 

 ひとえにそれである。このあたり原作刀太もまた、熊本組に自らの詳細までは教えていなかったので、私もそれに倣っているのだが。だからこそ、こういう場合に相談するにも相談できない。

 現実問題、下手すると「そう言う情報を」知っていると言うだけで何かしらの調査対象とかにされる可能性もある。現状、おそらくフェイトあたりが手を回して何かしらサポートしている可能性も無きにしも非ずだが、それはそうとして巻き込みすぎるのは良くない。

 

 いかに私と彼らが友人であるとは言え、私の認識が人間であるとはいえ――――いつかの南雲が言っていた通り、私は不死身の化け物の側なのだから。

 

 

 

 そして、そうやって現実逃避するくらい、眼前で展開されるキティ(ヽヽヽ)の魔法連撃は熾烈を極めていた。

 

 

 

「リク・ラク ラ・ラック・ライラック。

 ―――― 魔法の射手(サギタ・マギカ)収束(コンウェルゲンティア)連弾(セリエス)氷の17矢(グラキアーリス)!」

 

 空中で浮遊、待機しているこちらへ向けて、エヴァちゃん……というよりキティちゃんと言うべき彼女は、多数の氷の矢を圧縮して放ってくる。なんならそれぞれの矢に「影」の糸が紐づいており、踊りでも踊るように弾道を制御して、確実にこちらを殺しに来ている。

 私は私でそれを往なすでもなく、今のところは躱すくらいしかできないのだが。

 

 黒棒も()べばすぐに出てきたし(魔法具は時空を超えて現れてるので若干そのあたりがファジーだ)、血装術にも問題はないが。黒棒を黒棒らしく(というか斬〇(オサレ)らしく)使用すると後々タイムパラドックスが起こってしまいそうなので、この場合その選択肢はナシだ。黒棒も意外と空気を読んで黙っていてくれるので、そこは感謝である。

 そもそも雪姫が最初に黒棒の事を知ったのは、今までの流れからすればおおよそクウネル・サンダースが「ネギま!」から「UQ HOLDER!」の間の空白期間で作っていたのを見たあたりだろうし、そういったわかりやすいガバは見逃さない。

 

 わかりやすいガバを見逃さないからこそ、私は現在「姿形を変えて」、キティちゃんの猛攻をしのいでいる。

 全身赤黒い恰好なのは血装術にて臨時で造り出した衣装だからだが、その延長上にSECRETブーツのような形で身長やら体格を延長し大男に、道中合羽と編み笠というなんとなく北風小僧でも思わせそうな衣装。顔も雑な仮面で覆っており、口から出す音声も「物理的に」血装術のフィルターをかけることで年齢をより高いものにしている。年齢詐称薬に頼らない、緊急回避的な身分詐称である。

 

 そんな私に、キティちゃんは舌打ち一つ。

 

「ええい、猪口才なっ!

 伊達や酔狂で魔女の知り合いという訳ではないのだなッ」

「オイオイお嬢ちゃん(ヽヽヽヽヽ)、意中の坊やと()とを間違えた羞恥で八つ当たりするにしても、流石に責任転嫁が過ぎるのでござらんか?」

「うるさいッ!」

 

 顔を真っ赤にしながら追加で詠唱を始めている彼女に、血装術を巡らせつつ、さてどうしたものかと私は内心でため息をつきながら「疾風迅雷(チュウベェの術式兵装)」で加速した。

 

 

 

 話せば長く……、いや全然長くないな。割と雑な経緯でもって、私はこの時代この時間――――私が目撃した原作刀太と思われる彼とキティちゃんとが話し合った「40年後」、彼からすれば2、3日ぶりなそのタイミングである。

 

 この時間に飛ばされた直接の原因はメイリンだ。

 メイリン本人が悪いと言うより、これは「狭間の城」、お師匠のこの拠点が「時空間SF」的な話で不安定なことに由来する。

 

 夕食を終え、それなりに落ち込みながらも久々に帰って来た雷子(チュウベェ)を携帯端末に仕舞い、しかしネットワークが混線してて酔ったなどと宣いながら出て来た奴を肩に乗せて自室へ向かっていた時。

 バチバチと何やら放電やら光やら、明らかに危険というか、まるで異次元から機械などで別な世界へと渡航して来たみたいな音(我ながら比喩が酷い)が聞こえた。正直に言ってしまえばター〇ネーターなタイムスリップ音とか、バ〇クトゥザフュ〇チャーのごとき音である。

 

 また何か厄介事かと思い念のため確認しに行ったのが、私の敗因だ。

 

『…………やった! やったよ、私、ついに来れた……。これで私たちは無駄じゃなかったんだ、うん』

 

 そこには当初に目撃していた、あの独特のコンバットスーツに身を包んだメイリンがいた。ちゃんと玉虫色のアーマーも残っており、個人的な感想を言えば「新品のように」色の反射に曇りが無い。まるで新品である。

 そして、そんな彼女が出現した「光る裂け目」のようなそこから、周囲へとランダムに放電するみたいにエネルギーが迸っており――――直感で直撃はヤバいと察したが、いわゆる「第四の目」に関係するような「悪意」を持っていないタイプのそれだったために、反応が遅れた。

 

 コソコソ隠れていた私へと直撃するその迸ったエネルギー。

 そして私は、気付けばいつの間にやらこの時間に居たのだ。

 

 場所はテラス……ではなく、そのはるか上空である。なにせ「気が付けば落下状態」であり「頭上に狭間の城が見え」「高速で接近してきている」ときていた。

 

「いや、もう少し超展開するにしても何かありませんかね…………、死天化壮(デスクラッド)

 

 速攻で仮契約カードから黒棒を呼び出すと、全身を覆うように球状の血を張り巡らし、血装。当然のようにそのまま落下と地面への激突を回避できるくらいの練度はあるため、頭から地面へ激突してスプラッタな光景を発生させること自体はなかったのだが。

 その落下中に、いそいそと眠気眼を擦ったキティちゃんが出て来たのを目撃したからこそ、事情は変わる。

 

 血装のドームにおいて、わずかにチラリと映った私の顔、というより「近衛刀太の顔」を見てしまったキティちゃんは、そこでぱあ、と喜色を浮かべて、こちらに駆け寄ってきた。

 

 流石にそれに素直に応じられる立場でもないので、血のドームをさらに拡張して全身を覆い、そのまま現在の恰好へと「変身」した訳だ。

 そして一度血のドームを爆発させて彼女の視界を潰し、すぐさま疾風迅雷で遠方に回り、彼女の背後からそそくさと刀太と全然違う声、違う振る舞いで、バレない程度に声をかける。

 

『おうどうしたお嬢ちゃん、意中の男の子と出会えたと思ったら目の前でぶっ殺されたみたいな顔をして、どうしたでござるか? ん?』

『――――――――ッ!

 殺すッ!』

『おいおい、いきなりすぎではござらぬか?』

 

 

「その結果が現状、と。メイリンに関しては、おそらく『初めてあの場所へと到達した時の』、一番過去のメイリンでござろうし……。本当、時系列がしっちゃかめっちゃかである。そこは流石に師匠の側の問題として――――」

「何をブツブツと言っているッ!」

「おっと」

 

 ぶん、と手を振った彼女の足元から出現する、数体の球体関節人形。最前線に手遊びでもするような簡単な人形が立っており、嗚呼その顔立ちやら何やらを見れば、いわゆるチャチャゼロと茶々丸の原型になる人形かという納得があった。原作においても刀太の特訓を見るために、ああして何体か用意していたことがあったか、それぞれが槍やら剣やらで武装してこちらに斬りかかってくる。チャチャゼロ(おそらく魂の入っていないチャチャゼロ)もまた同様に包丁めいたそれを持って斬りかかってくるのだが。

 

 生憎と「スピードが足りない」。

 

「チュウベェ」

『ふみゅー!(アイアイ、ビッグブラザァ)』

 

 姿かたちを変えた時点で、既に疾風迅雷は術式兵装として取り込んでいる状態だ。故に仮面だけではなく私の髪自体も、元の髪色ではなくなっている。二重の意味で容姿を誤魔化している状態になっているが、当然これは見た目だけを誤魔化している訳ではなく。

 既に発動している死天化壮・疾風迅雷(サンダーボルト)のチャージを使用し「加速する」。そのまま「第四の目(ザ・ハートアイ)」を発動し、降り注ぐ氷の矢を掻い潜り、人形たちの襲撃を往なし、剣の先を杖のように血装術で変形させた黒棒で応戦する。

 

 ……いや、羞恥心と殺意に紛れて物凄い心が悲しんでいるのは本当になんというかスマン(語彙不足)。

 私を襲撃しているキティちゃんは、前回の後のキティちゃんなので「本来ならば」「はるかに時間が離れて」「自分もそのタイミングを忘れて」会うことが出来なくなっているだろうと思っていたはずの彼女だ。故に、それでも近衛刀太の顔を見た時の心の盛り上がりぶりと言ったらなかったろう。

 それを正面から叩き潰すような「私」と言う存在が問題なのであって、彼女が決して悪いと言う訳ではないのだ。

 

 …………それはそうとして、キティちゃんと私は相性が悪いのか何なのか。ここまで最悪のタイミングでの過去転移と遭遇とが重なってくると、流石に誰かしらの悪意を感じなくもない。まあそれが可能だろう師匠は「あえて」エヴァちゃんを曇らせる趣味はないはずだし、本当とこととん縁が薄いと言うか、それはそれで私の胃に負担がかかる。いっそ本格的に、戻ったら釘宮に良い薬でも教えてもらうべきか。

 

「……っと、これは良くないでござるな」

「捉えたッ」

 

 ぼうっとしながら戦闘していたのが悪いのだが、影に紛れて魔力糸をこちらに放っていたらしい。状況的には「ネギま!」で桜咲刹那相手にしていた拘束の類をこちらに仕掛けたという状況だ。違うのは、糸自体は縦横無尽に張り巡らしているというわけではなく、人形たち(茶々丸からすれば姉にあたる人形たち)それぞれから伸びており、糸を伸ばすこと自体に意志が介在していなかったせいで上手く出し抜かれた形になっていた。

 ぐいぐいと引っ張られる我が人体。……かなり想像の上をいったことに、これは「純物理的な力で」私の身体を引っ張っている。魔力糸というくらいだから魔法エネルギー的な何かが働いているのかと思いきや、それは接着部分のみで、稼働制限やら矯正やらについては最終的に物理的な引っ張る力が強いときていた。

 つまり、死天化壮経由の私の血の干渉の効果が薄い――――魔法の拡散効果が発動せず、結果的に死天化壮中だというのに良いようにされていた。

 

 キティちゃんは今度こそとマウントをとった女王様のように、人形に椅子を整備させてそこに座り、足を組んでわざわざ椅子を持ち上げさせこちらを見下していた。

 

「ククククク。

 あの魔女の知り合いというからには、それなりに色々と知っているのだろう?

 せいぜいこの私に許しを請いながら、つまびらかにこちらの問いに答えよ」

「知ったところで勝てる訳がないから純粋に死一択でござるが、仮に弱点を知ろうとしても…………。それに、今回はもう何をしてもお前さんの彼氏には会えないのだから、無駄な抵抗でござるよ、お嬢ちゃん」

「誰が彼氏彼女かッ!?

 そ、そんなものではないわいっ」

 

 あっ可愛い(思考停止)。

 両手をぐーで握ってこちらに「うがーっ!」と怒鳴り散らす様はなんとなくキリヱ大明神やら「ネギま!」のアーニャやらアスナやらを思い出させる所作であり、どこか本来のエヴァンジェリンよりも幼い印象が…………、いや、あれ? クウネル=サンダースあたりに色々好き勝手されてた時もこんなリアクションだったか。まあ我がカアちゃんながら、根底の部分は大して大人にはなっていなかったらしい。

 現時点の彼女に求めるような話ではないだろうが。

 

「まあ、それについては後ほど懇々と頭蓋の内側に刻んでやるとして。

 そのふてぶてしい態度の面を拝ませてもらおうか」

 

 どうやらこちらの血装術で作った雑な仮面(UとQのアルファベットを変形させて顔のようにしたもの)を剥がすつもりらしいが、流石にそれは色々困る。即席のシークレットグローブもどきとシークレットブーツもどきで色々誤魔化しはしたが、厳密には人体形状自体の変形はさせていないので、仮面を剥げばそこには近衛刀太(オレンジ頭)がコンニチハすることになる。

 

 現状、ちょうど疾風迅雷もチャージが切れている、よって私がとれる選択肢は――――――――。

 

「クク、あの魔女の知り合いなのだ。容姿もさぞ色々と隠すだけの理由があるものなのだろうがなぁ。

 やってしまえ、貴様ら――――――――、む? お、おいどうしたお前たち。いっせいに私の椅子を取り囲んで!?

 いや、どうしたお前たち!? 椅子の足を持つなこら、私の言うことを聞けぬかっ! ええい……、い、糸の制御を受け付けていない!!?」

 

『『『わーっしょい、わーっしょい』』』

『ケケケ』

 

 複数の人形たちに胴上げされながら涙目で絶叫するキティちゃんと、その頭上でニヤニヤ笑う手のひらサイズの操り人形。

 

 私から伸びる糸が人形に繋がれているのが、彼女の敗因だ。

 瞬時に血装術で人形の内部へと侵入し、内在するキティちゃんの魔力を「尸血風」を起こして干渉。内側から制御系そのものを乗っ取った上で「分身の意識を配置」して乗っ取った。明らかに私の意識レベルよりも処理が高速で行われているので、ここは星月が頑張ってくれたんだろう。ありがとう(素直)。

 

「………しかし、チャチャゼロまでは乗っ取れなかったか」

 

 意外と言えば、現状においてあの小さい人形、黒棒の言っていることが正しければ将来的にエヴァちゃんが自らをコピーして改造して作った人工精霊を憑依させて完成するはずのチャチャゼロの元になったマリオネット人形だが、こちらの分身を配置することに関しては完全に拒否してきた。

 

 というより、チャチャゼロに関しては「最初から」キティちゃんの魔力操作がほぼ働いていなかったというか。これは……、割とオカルト案件なのでは? 「第四の目」で視ても意志が存在しないと言うに、かなり明瞭に、自らの主人を馬鹿にするような笑い声をあげているのだから。

 

「あるいはそこまで強い意識を持って居ない、付喪神な理屈でいってもまだまだ赤ちゃんくらいってことか? チュウベェ」

『ふみゅー?(こっちに聞かれたって俺っちに判るのはチェダーチーズと腐った牛乳の違いくらいだぜ?)』

 

 それはそれでちょっと気になるセリフだが、さておき。

 ひとしきり遊ばれたせいで(胴上げから社交ダンス、からのロ〇クソーラン節で目を回させたり無駄に疲れさせたりした)、人形操作を維持できるだけの精神エネルギーを消費させきって膝をつかせられている彼女。

 

「だ、大体……、貴様は、何なのだ…………」

「通りすがりの魔人? というのが正しいっぽいが…………、そうだな」

 

 周囲を見回し。私の服装と、人形をあえて操作したことやら、おそらく「ネギま!」時空で出てこないだろう名前のラインを考えて。

 

「カイン・コーシ、とでも名乗っておくでござる」

 

 果心居士、外法の幻術使いあたりの名前を適当にもじってとりあえず名乗って置いた。

 これで身バレの可能性は低くなる……、はず。

 

『フラグじゃないかな、相棒……』

 

 低くなるはず…………、そこでそういうこと言うと本当にフラグになるから止めてくれないですかね大河内(星月)さんよぉ!

 

 

 

 

 



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ST189.この手に掴ませない

私生活色々あったのもあったんですが、展開を(私が鬱にならない程度に)変えたり調整したりしてるのでお待たせしてスンマセン汗
 
今回から修行編も徐々に徐々に大詰め…


ST189.Kick Back A Happy Days.

 

 

 

 

 

「つまり貴様も、あの魔女の被害者ということか。

 ……トータのことといい、一体どれほど被害をもたらしているのかあの女」

「あの人もあの人で意図なり理由なり、あるいは同情もあると思うでござるよ。あの御仁とて何でもかんでも好き勝手に色々できるような立場にはないようでござるし」

 

 貴様何故庇う、と半眼になるエヴァちゃん……、というかキティちゃんに、私は肩をすくめた。恰好も変装状態から変わらず、チュウベェも術式兵装したままの私なので、このまま正体はバレないで話が進行すればガバはない、はず。そもそも私が変身している「カイン・コーシ」(自称)というような存在が原作にいなかったと言えば居なかったことになるのだが、そのあたりは登場してきていない、語られていないという一点で押し通せばギリギリ回避できるはずだ。

 

 つまり何が言いたいかと言えば……、俺は悪くねェ!?(絶叫)

 

 ぜっさんテラスにて、特にこちらに茶を出すわけでも無く、しかし椅子だけは薦めて対面に座るエヴァちゃんである。面白くなさそうな顔で紅茶を飲み(自分だけ先ほど操られていた人形の一体に紅茶を淹れさせている)、テーブルにおかれたチャチャゼロの前身たる人形を半眼で睨んだりしながら、こちらと対話していた。

 まあ、私の方も事情説明と言いつつ経緯についてはかなり嘘八百そのもので、東の国から来た法術師だの、お師匠とは数年前に弟子入りして世話になっただのという感じで自己紹介。まあ口調がこの、いかにもとってつけたようなござる口調なこともあり、かなり訝し気なエヴァちゃんだ。

 なお「ござる」が通じる理由としては、彼女が既に日本語をマスターしていることに由来する。……どうやら「近衛刀太」と正しく会話をしたいがために、ちゃんと外国語のはずの日本語まで師匠から教わるようにしているらしい。そう「第四の目」で視えた。う~ん、伊達に原作ヒロインではない健気さである(他人事)。

 

「で、お嬢ちゃんはどうしてあれほど私に怒りを燃やしたでござるか? あの程度の煽り、女子トークなら普通でござろう、普通で。実際問題彼氏ではないと?」

「そんな暇もないわたわけッ! 告白まがいのことを言われはしたが、事情があるのだ……。

 大体、女子トークとか言うが貴様、男だろう。

 女でもない相手からあんな煽りをかまされて怒りに燃えない女子はいないぞ」

「女子ねぇ……」

「…………何か言いたいことがありそうな顔だな? ほほう。

 言ってみろ、私は寛容な吸血鬼だからな。

 貴様のような得体の知れない相手の軽口一つで激昂することなど――――」

「実年齢換算だと充分ババアでは?(直球)」

「貴様ァー!?」

 

 初手煽りは基(以下略)。

 別に敵対している訳ではないが、冷静な判断力で私を観察されると、私自身気づいていない近衛刀太との類似点を見出されて、「やっぱりお前トータだろ」と言われかねない気がする。故にこうしてキャラクターの類似性をとことん遠ざけることで、彼女の私に対する認識をもっとフワフワ苛立たせて、イメージを重ねさせないようにしているのだ。

 今までのガバ具合から考えれば、このくらいの警戒は当然といえた。……まあこれはこれで、事情のおおよそ以上を知る当事者としては、ちょっと心が痛まないではないが、お互いにとってこれは大事なことだ。

 

 私と彼女は出会わなかった――――誰が何と言おうと、これが全てなのだ。そうでないと「原作」にも多大な影響を与えそうだし当然だよ(便乗)。

 まあそれはそうと、年齢いじりにかんしてはお師匠にも引っ掛かるのでそのあたりは彼女が今の所この場に居なくて良かったと言うべきなのだが――――――――。

 

 

 

「――――アンタくらいに言われても大したことはないし、そもそも年齢で言えばババアとかそういう次元ですらないからねェ」

 

「はい? な、何とォ!?」

「ぎょええっ!」

 

 

 

 そして噂をすれば影ではないが、当然のような顔をして生えて来た師匠である。私とキティちゃんそれぞれの背後にぬっとあらわれた師匠は、私には肩を、キティちゃんは頭を掴んでわしわしと力を入れてこの場に拘束しているので、逃げるに逃げられない。いや、本気になればなんだかんだと私は逃げられそうだが、そこまでして逃げたところで結局「遠近法や錯視を応用して」色々なんやかんやとやられそうなので(適当)、抵抗にあまり意味を感じられないと言うべきか。

 はてさて。私を一目見た師匠は「嗚呼そういう風に誤魔化したか」とぼそっと呟いているので、もちろん正体は一発で看破されているのだろうが。それはそうとキティちゃんの喚き声は「ぎょええええ」で良いのだろうか。ギャグ描写的にはアリだがヒロインとしてはキリヱ並みに汚ぇ……(率直)。

 

「まあそこの果心居士(ヽヽヽヽ)についちゃおいておくとするが、今日もやるのかい? キティ。(しやわ)せになりたいって観点からすれば遠回り極まりないと思うが」

「何故なまった貴様……?

 いやそんなことはどうでも良い、今日もどうせトータには会えないのだから再確認するのは性格が悪いだろう、貴様」

「そうかいそうかい」

 

 呆れたように顔をそらして「ハッ」と鼻で笑う師匠に「何だそのリアクションは!」とキレるキティちゃんはらしくて(ヽヽヽヽ)これはこれで楽しいものがあるが、師匠が横目でこちらの様子を見ているので安心はできない。「第四の目」で視なくともわかるというか元々師匠に関しては見えないのだが、それを差し引いても何か面倒なことを課せられない気がしないでもないというか。

 

「まぁアンタについちゃおおむね、あっちのアタシが対応しているからねぇ。あんまり言うことはないんだが……」

「頭の中をナチュラルに読まないでほしいものでござるな…………」

 

「貴様もそれをやられるのか……」

 

 キティちゃんから同情の視線が送られてくるが、それについては軽く流すとして。

 

「まあどっちかといえば、果心居士よりもアンタだよキティ。トータのやったアレを自力で再現しようとして色々手をこまねいているみたいだが、結局発動原理についちゃまだ全然わかっていないだろうに。百歳より若い吸血鬼にしちゃ頑張っているが」

「それについては私の問題というよりも、貴様が延々と邪魔するからだろうがっ」

「あのくらい邪魔の範疇には入らないよ。というより『殺されながら』術の研究をするくらいの余裕がなければまだまだ吸血鬼として完成度が低いと言わざるを得ないさ」

 

 あの技、というあたりで予想は付いていたが「第四の目」越しにキティちゃんの思考を見て確信した。原作8巻における近衛刀太がキティちゃんを庇った際、師匠の空間制御魔術を太陰道で吸収し跳ね返した、あの一連の流れの映像……、間違いなくこのエヴァちゃんは、あそこから自らの闇の魔法(マギア・エレベア)の扱い方について着想を得たらしい。何だか原作時空からしてタイムパラドックスが起こっているみたいな話になっている気がするが、これについては私のガバではなく「近衛刀太」のガバなので大丈夫、私関係ない(迫真)。

 ついでにお師匠の邪魔というのは、影操術を使ってのアイアンメイデン処刑めいた所業に数日間さらすようなものだったりするようだ。こうしてみると彼女が師匠を毛嫌いする理由は妥当な気もするし、エヴァちゃんが大分お師匠よりも優しい修行をつけてくれているものだと、熊本時代のことを思い出して意識が遠のきそうだ。

 

「まあキティ、アンタもいいかげんストレスが溜まっているころだと思ってねぇ。そこで修行も、数段階ステップアップしようと考えたのさ」

「ステップアップだと?

 冗談も休み休み言え貴様、普段から私の修行は3ステップ飛ばしと言っているだろうがっ!

 これ以上何をすっ飛ばせば気が済むと言うのだ、いい加減グレるぞ!」

「元々グレているのではござらぬか?(煽)」

「初対面のくせに馴れ馴れしいぞ貴様ーッ!」

 

 キレながら氷の矢を無詠唱で放ってくるエヴァちゃんのキレ芸(煽)については、例によって自動迎撃を使う。今回は黒棒を使うとそれこそ普段通りになってしまいそうなので、血装した手先から軽くムチのようなものを伸ばして、雑に切って捨てておく。

 こっちが余裕そうに対応したのを見て「ぐぬぬ……!」と頬を赤くしてイライラしているが、こちらは素知らぬ顔でお師匠の方を見ることにした。相手にしていないというこちらへのヘイトはお師匠へ擦り付けよう、どうせこの後ロクな目に遭わないのだろうし。

 

『いや、そういうのが相棒って命取りになるんだからさ……。変なところで開き直るのを少し止めた方がいいんじゃないだろうか』

 

 そして私の内側から、大河内さんボイスでツッコミを入れてくる星月の一言に、内心で膝をついて絶望が背中にのしかかった。い、いや、だってこれ私のミッションでいえば原作刀太に観測されなければ問題はないわけで、だったらばせいぜいキティちゃんからは微妙な印象で忘れ去られるのが一番簡単な対処になる訳で。

 

「そんなインパクト残して忘れ去られると思っている方がどうかしているが……。

 まあそれは置いておくとして。そんな健気で一途で色々足りないキティには、これの出番さ」

 

 胸の谷間(から思いっきり真っ暗な闇が覗いていた)に手を突っ込んで色々まさぐったお師匠であるが、そこから取り出したものはひもで縛られた紙束。「ヱヴァンジェリン・アナスタシア・キテヰ・マクダウェル 闇の魔法 構造解説書」と書かれたそれは、あー、うーん、私の脳裏に原作9巻のエピソード群がわんさかわんさか出てくるので、まあそう違いはない展開になるのだろう。というか、割と最近読み直した直後なので、いかに比率が7:3でBLEA〇H(オサレ)と原作だとしても、かなり露骨なものである。

 何なのだそれは、という当然のキティちゃんの一言。半眼で胡散臭そうなものを見る目であるが、師匠は特にテンションも変わらず解説する。

 

「文字通り、これを読めば闇の魔法の構造や原理を理解できるっていう代物さ。徹夜で書いたんだから感謝しな」

「なん、だと!? そんなお手軽な……。

 というか、明らかにテキトーに書きなぐってるだろダーナ貴様、そんな雑な紙を読むだけで理解などできる訳が――――」

「いやぁ、実際できるはずでござるよ」

「カイン・コーシ!?」

 

 原作ではこのあたり濁されていたが、お師匠の持つそのアイテムは実際問題「数多くの並行次元を観測する」狭間の魔女ダーナが一筆したためた書類である。つまりは、最低限表題に書かれたことは達成できる代物に違いはあるまい。原作でも三太が「水無瀬小夜子からの霊界メッセージ」と題されたそれを読み、その後特に師匠に突っかかっていなかったことからもそれは明らかだ。文句を言う必要もない……、つまり、書類は本物であるということだろう。

 そんな私の擁護に機嫌を良くしたのか、ニヤリと笑った師匠はもう一冊、書物を取り出す。

 

「そうそう、アンタにはこういうのを用意した」

「…………『星月のヒ・ミ・ツ♡』、だと?」

 

『ちょっとダーナさ――――――――――――――――んッ!?』

 

 カイン・コーシではなく果心居士と書かれていたが、私の方の書類は「果心居士 乙女星月のヒ・ミ・ツ♡」とか題された何やら如何わしそうなタイトルである。キティちゃんが「誰だそれ」みたいな目でこちらを見てくるが、そんなことはどうでも良いと言っていいレベルだ。

 明らかにその、おそらく今後のイベントぶっ壊し確定の書類な気がするんですがそれは…………。星月が完全にアキラさんのテンションで、私の中でのたうち回っているのが聞こえるし、おそらく本当に彼女の秘密が色々書かれているやつなのだろう。

 

 うむ……、メタ読みすると、さては逆説的に読ませる気ないな師匠?

 

 こちらの内心に肩をすくめた師匠は、そのまま原作のノリで書類を箱詰めして封をすると、城の外へとオーバースローで投げる。投げた箱は途中から明らかに急加速してあっという間にこの領域よりもはるか彼方へと送り出され、そのまま急降下していった。

 うおおおおおおおおおぃ!? とキティちゃんが目を真ん丸にして絶叫し、放物線を高速で描く箱の軌跡を目で追って跪いてる。可愛い。

 

「この下には巨大な廃城が広がっていて、凶悪な魔物が徘徊している。ここからさっきの箱のありかを探し出すのが、アンタたちの課題だ。

 これをクリアすれば、一段階上のバケモノとして胸を張れるようになるだろうさ」

「なるだろうさ、ではないわっ!

 というよりもアンタたちだと? この男と一緒に探すということか……?」

 

 えぇ、みたいな嫌そうな目をしてくるキティちゃんである。うむ……、現状、もしかすると「不死身の化け物」としての完成度は並んでいる疑惑もあるので、ちょっとからかい甲斐があって面白いのだが、その分色々と苦手意識を持たれているのか、嫌われているのか。いや、最低限話を聞くくらいの好感度はあるはずなので、ここは気楽に構えておこう。

 

「つまり、一緒に飛び降りて仲良く捜索しろと言う事でござるか」

「一体いつ、アタシが協力しろなんて言ったかい。早いもの勝ちだよ」

 

 ルールについては原作の修行編通りらしいというのを確認して、いざ頭の中でそのあたりのエピソードを振り返ろうと思った矢先である。

 キティちゃんがこちらに斬りかかろうとしているのを瞬間的に把握したので、間合いの問題から黒棒を抜いて自動迎撃。そのまま鍔迫り合いとなった私とキティちゃんだが、そのまま押し切られたり魔法を追加されたりすることもなく、ぐぬぬ、と言う顔で押し込み切れていない。……よく見ると「処刑者の剣」ではなく爪を鋭く伸ばした剣のようなものになっているので、このあたりはまだ修得している魔法の数が少ないということか。なんだかこう、吸血鬼「らしい」様子で、カアちゃんの子供としては新鮮な気分である。

 

「血気盛んでござるなぁ……。理由を聞くでござるが?」

「ハッ! 知れたことだ。

 貴様など顔見知りでも何でもない相手に、私がいざ強くなる術を奪われることなどたまったものではない。

 協力するルールでないということは、少しでも足止めした方が有利になると言うことだ」

「だから愛しの彼(ヽヽヽヽ)に関係する技を習得するために、邪魔者たる拙者を排除しようと。いやはや、これはこれで乙女拗らせているでござるなぁ……。とても乙女と言う年ではないでござるが(煽)」

「貴様本当に殺すぞ!?

 今にみてろ貴様ァ!」

 

 初手煽りは基本(以下略)。

 相対的に見て死ぬことだけはないので、そのあたりは安心して煽れる。というより、煽り続けることで私と刀太とを同一存在と見ないように調整するのに必死というのが事実なのだが、それはそうとキティちゃんとこうして気兼ねなく触れ合えるという経験は、実際に出来るとは思っていなかったので少しだけ楽しんでいる部分がないとは言い切れなかった。

 まあ、それにしては接し方がだいぶ拗れてはいるのだが…………。なんとなく脳裏で夏凜が「女の子をいぢめて遊ぶのが好きなのですか。ふうん……」とか言いつつどこからかバニーガールなスーツを取り出す映像が過ったので、そろそろ止めにしておこう。多分実際の夏凜はそういう振る舞いはしないはずだが、そもそも何故バニーガールだ。アキラさんと接した時間がそこそこ長かったせいだろうか。学園祭編で無理やり着せられててこう、大分色々ぐっと来るものがあった。それはそうと、そろそろ夏凜の意外と愛らしい声が恋しくなる気がしないでもない。

 

 ……指輪、責任、うっ頭が…………ッ!?

 

「ど、どうした貴様、急に頭を抱えて……?」

「いちいち気にしていたら身が持たないよ、そこの女たらしについては。

 さて……、じゃあお前たちは、地道に歩いてこの広大な大地からあの古城を目指してもらうとしよう」

 

 そう言うとお師匠はすぐさま私たちの腹部を殴り飛ばす。それと同時に全身の摩擦やら慣性やら色々な力学系が崩壊し、猛烈な速度でそれぞれ後方へ打ち出された。

 うーむ、直近でこれに近いことはされているので今回は「背部から腕を出して」投げられるオチかと思ったのだが……。痛みはそんなになく身体損壊もないのが救いと言えば救いだが、あまり隙を見せるとキティちゃんに避けられるというのがこの方法で射出した理由の一つだろうか。

 

「――――物分かりが良すぎてむしろ面倒だねぇトータ。まぁ良い。アンタも理解しているだろうが、500キロメートルの目的地まで約十分。以前アンタがキティに九州から打ち出された時のアレよりはマシな空の旅のはずさ」

「遠方でも普通に会話成立させるのは流石師匠っスね……」

「いや、キティの方は念話を送ってるからねぇ。両方とも念話したら混線して、ガバを引き起こしかねないから、これくらいの手間はとるさ。アンタと違ってアタシもそれくらいは気を配るんだよ。もうちょっと慎重になりな」

「アッハイ……(白旗)」

 

 そして、特に何かをしているわけでもなく周囲に誰の気配も感じないのに、声だけ届けてこちらと会話を試みる辺りは流石師匠だ。テレパシーのような方法も取らず「物理的に」師匠の声が聞こえるので、割と意味不明な現象である。

 これに近いことはスラムの時、甚兵衛がやっていた記憶があるが、おそらくそれよりも高度というか超長距離での使用なので、深く考えると正気がどうにかなりそうな話だった。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 改めて振り返るならば、「UQ HOLDER!」の7、8巻というのは、ひとえに刀太とエヴァンジェリンの関係性の巻でもある。刀太→エヴァンジェリンの形を確定させるために描かれたのが該当巻であり、ある種の二次創作にありがちな過去干渉と言う形を利用して、両者の関係を決定づけるというのがここに該当するのだ。元々「ネギま!」を始めそれ以前の作風からオタク的価値観を前提としているストーリー作りが根底にあるのだが、ある意味でそれを逆手に取った流れで、エヴァンジェリンを「ネギま!」のエヴァンジェリンから「UQ HOLDER!」のキティちゃんへと移行させる意味合いも大きかったのだろう。

 さて。そこにおけるイベントとしては、以前も振り返った気がするがおおよそ二つ。刀太の修行と、エヴァンジェリンとの関係とになる。今回師匠がキティちゃんと私に課したことになっている、この「~の書」を探せ! 的な課題は、その両方の大詰め的なイベントに他ならない。

 キティちゃんが私に襲い掛かった流れについてもそうだが、「過去の」キティちゃんと「未来の」刀太との時間的な距離は、交わる周期がどんどん離れていく。以前エヴァちゃんが言った通り、おおよそそういった周期で期間が引き離されており、私が降り立ったのが以前、直に目撃してしまったあれの40年後だろう。

 そんな彼女が書置きしたメッセージ。40年後のタイミングで刀太が出会う事の出来なかったエヴァンジェリンについて、次は287年後=4日後に会って欲しいだけメッセージを残していたのだ。

 原作においては、そのまま師匠から今我々が受けているような課題を出され、約2週間程度のその期間を無理やり4日に短縮して達成しろというものとなっていた。

 

 こちらにおいては事情が違うので、九郎丸達は果たして受けているのかいないのか……。いやしかし、原作で出会えなかったという事情を鑑みて。もうこの時点でキティちゃんは城を出て下界に降り立っているのかと思ったのだが。どうやらそれについては予想が外れたらしい。というよりも、普通にその気にならないフリして待ち望んでいたのは視えてしまっているので、色々いたたまれない気もない訳ではないのだが。

 

 叩き落された砂浜にて原作を脳裏に描いて振り返っている私に、師匠は告げる。……例によって声だけで。

 

「キティはこのままいけば、2週間目標なこの課題を3日で解いちまうだろう。アンタにしてみればカンニングしてるようなものっていうのも差し引いて、1日か1日半くらいかねぇ?」

「正直その、上位精霊とか出て来ても魔天化壮(デモンクラッド)とか色々やりようはあるので、否定はしないが……」

「それだけ人外としての完成度が極まってるってことだが、今回ばかりはむしろちょっと頂けやしない。今の、つまりトータとの再会を諦めている(ヽヽヽヽヽ)キティでないと色々問題が出てくるから、アンタには徹底的に希望を折ってもらいたい」

「あの……、精神はともかく肉体は当人なんですがそれは……?(震え声)」

 

 いや近衛刀太たるこの神楽坂菊千代の手で、つまり少なくとも肉体的にはキティちゃんが再会を望んでいるだろう人間である私に、自らキティちゃんの希望たるそれを打ち砕けと。人間じゃねぇ!? と言ってしまいたいが、実際人間ではないのであまり意味のない罵倒だ。

 というよりも、腰に差し直した黒棒はともかく、血装が解けた時に出て来たチュウベェが「ふみゅー!」とか言いながら師匠の声に警戒しているのは、一体何をやらかしたんですかねお師匠コイツにさぁ。しつけか何かしたって感じじゃなくて、完全に天敵と言うか、捕食者を見るような目してるんだよなぁ……。なお思考は「恐怖」の二文字で塗りつぶされている。

 

「吸血鬼としての完成度を上げるのに、今のあの子には下手な希望と、それがすぐ終わってしまう絶望なんてもので、精神を揺さぶられる方がはっきり言って迷惑なんだよ。抑うつとはいわないが、ある程度のところで安定したまま地力を上げなければ、最後に待ち受けるのは『裏切られ続けた末の絶望による自殺』だけさ。そろそろここを出す以上、そっちのフォローにアタシが回る必要もあるからねぇ。

 それくらい本来、キティが人恋しい性格なのはアンタも察しがついているだろう?」

「…………」

「だから、最低でも日数を5日(ヽヽ)にしてもらわないと困るんだよ。そうじゃないと――――あの子が出会うべき『本当の』近衛刀太が、こっちに来ちまうからねぇ。

 この時間に来ているついでって訳でもないが。それを達成したならアタシが出来る範囲で何でも一つ、アンタの願いをかなえてやろうじゃないか。キクチヨ」

 

 そしてどうやら、私に与えられたミッションというのは……。私自身の手で原作通りに進行させるために、この時空におけるキティちゃんに対するラスボスになれというようなことらしかった。

 

 ……あのーお師匠、文句を言う訳ではないんですが、人の心無さすぎなのでは?(困惑)

 というか何と言うか、巡り合わせ的に本当、キティちゃんとの相性が悪すぎるのはどうにかなりませんかねぇ。

 

 

 

 

 



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ST190.楽は出来ない

予告通りです…! 何かのフラグが立った可能性


ST190.Kick Back A Effort Days.

 

 

 

 

 

 いざ作戦会議、ということで色々考えてはみたが、どうにもまともな結論は出なかった。

 とりあえず砂浜に黒棒を突き刺したまま死天化壮して上空へと飛び立ち、現在の位置関係を確認したのだが。おそらく私とキティちゃんは東西正反対の方角へと投げ飛ばされたと見える。なにせこちらの方が陸続きの山らしきものが多く見えるし、なにより原作においてキリヱが色々学習していた図書館施設が見当たらない。

 

「はーい、作戦会議! さーくせーんかーいぎー!」

『何故、桜雨キリヱが追い詰められた時のような言い方をするのだ、刀太……』

『ふみゅー?(何が始まるんですか? 何が始まるんですか? そして俺チャンの昼食やいかに……! サラミとかないっすかね)』

 

「というか、え? この面子に私っていて良いのか、相棒? いや大河内のツラよりこっちの方が色々考えが回るから、変えて出て来たけどさぁ」

 

 そんな状況でとりあえず現在、知恵を絞れる面々はといえば私、黒棒、チュウベェに星月くらいなものである。流石に会議、頭脳労働なためか、彼女も彼女で千雨(ちう)さまバージョンでのご登場であったが、それはさておき。

 

『よくは判らないが、要するにエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルとゴール手前で斬り合えば良いのではないだろうか』

「いやあの魔女も言ってたが、エヴァンジェリンは普通に進んでくるだろ。となると、ウカウカしてられないっつーか、もっと直接的に途中で妨害しないと無理なんじゃねーか?」

「嗚呼……(感動)」

 

 いや、それはさておきなのだが、実際にちう様バージョンで出て来た上で一切合切情け容赦のないままのちう様を見せつけられるのは、それはそれでグッとくるものがあるの。

 長谷川千雨は、いわゆる「ネギま!」における仲間の一人であり、クラスメイトの一人であり、色々と作中のタブーに抵触しかねない「普通の」女子である。この場合の普通というのは趣味や性格や言動を指すものではなく「魔法結界による認識阻害を受け付けない」体質であるという意味だ。そのせいもあって幼少期に色々こじらせ友人は少なく、歪み、何をトチ狂ったかコスプレイヤー的な方向に舵を切った。……あくまでも匿名かつネット配信メインの。つまりはヲタク気質のアレであり、原作者の趣味が過分に盛り込まれたキャラクターとして造形されていると考えられる。PC系に造詣が深かったり、とにかく色々だ。

 そしてそういった斜に構えた視点こそが「ネギま!」におけるネギぼーずのパーティに欠かせない分析や俯瞰視点をもたらし、本人は魔法具(アーティファクト)よりもサブリーダー的な立ち位置としてメンバーの精神的支柱になっていたといえる。……いや精神的支柱? やや違うが、少なくともネギ・スプリングフィールドにとっては、神楽坂アスナや近衛木乃香に並んで彼の中で大きな存在であったといえる。

 

 へ、せっちゃん? せっちゃんはせっちゃんだから(語弊)。

 

 ちう様について語りだせばそれだけで大河内アキラ以上に語るべき点も多いのだが、そのあたりは桜咲刹那(せっちゃん)の変態性について語るのと並んでアレなのでここではいったん保留する。(ダーナ「仮にも自分の祖母相手にそんな口を利くから……、いや九郎丸含めて神鳴流が変態に目覚めやすいのは否定はしないが」ちゃおりん「アイヤ、久しぶりネこうして覗くのは」)

 

 なおチュウベェについては、色々と生物としての倫理観が違いすぎてアレというオチだった。

 

「とりあえずキティちゃんを抑え込む方法について、挙手!」

『みゅーみゅーみゅん?(●●●●●●しちゃえば?)』(※自主規制)

「倫理的にも個人的にも実行できない案を投げるな、この似非齧歯類めがッ!

 というか仮にも精霊もどきな妖魔のくせに何故そのあたりが人間の社会情勢ベースを無視するのだ貴様ァ!」

 

「キレ方がエヴァンジェリンとそっくりじゃねーか、相棒……」

『一応は親子らしいからな』

 

 おうおうわかってるじゃないか黒棒と、ちょっとだけご機嫌になった私だったが。そこはそこで本筋の部分じゃないし、どちらかといえばどう対処するべきかという話だ。

 

「ま、仮にあそこの廃城だったか? のところに行こうにも、絶対師匠の手の者というか妨害要員仕掛けられてんだろうし。ぶっちゃけ今の俺たちなら『倒そうと思えばすぐ倒せる』にしても、城で待ち構えるラスボス的な立場をとろうってのが難しいだろ」

『ふむ……』

「ま、そりゃーな」

『みゅーん?(WHY(なぜ)?)』

「つぶらな目ぇして抱き着こうとしてくるなよ鵺公(ぬえこう)がっ。まだ電子精霊のネズミ共の方が可愛げがある。

 ……で、相棒が言いたのはアレだろ? そもそも狭間の魔女が相棒に依頼した内容については相棒へのオーダーだけど、エヴァンジェリンに言ってた分も嘘じゃないとすると……、ある意味で相棒は二重スパイみたいな感じってわけだ。競争相手を全員に装っていながら、実際は黒幕な狭間の魔女と繋がってるって」

「まあそうなんだがなぁ……、よっと」

「おっ、サンキュー」

 

 みゅーんみゅーんと適当に相槌を打ちながら星月の胸元へダイブしようとしているチュウベェ。それを血装して作った小さい檻に閉じ込めてこちらに引き寄せて膝の上に置きながらアイデアを練るが、中々出てこない。

 

 原作におけるこの課題は、はるかな過去あるいは未来に位置しているだろう「狭間の空間」その真下から行ける、裏火星(魔法世界)のとある一角で行われている。当然魔物やら何やらは幻想生物らしくそこかしこに生息しており、それを不死身の化け物らしく乗り切りながら、目的地たる廃城に置かれた「狭間の城」への転移魔法陣を目指すというのが、本課題の基本的な流れだ。

 むろん、ボスキャラもいる――――目的地たる廃城の手前には、水・土・火・風(雷は「ネギま!」において風属性の上位にあたる、術式兵装「疾()()」しかり)の四体の上位精霊が、彼女の持つ廃城の守護を買って出ている。おそらくは召喚か契約かの形で縛られているのだろうが、ギリギリ頑張っても刀太たちが4日×十数周程度のやり直しをかけてようやく、といったところだ。

 

 そして一番大事なことだが、この四体の精霊は中々良い性格をしている。自分たちで勝手に四天王制を作って遊んでいたりするような連中と言えば、ニュアンスが伝わるだろうか。……まあ暇で暇で仕方ないが故の身内同士のお遊びのノリなのだろうが、そんな中に私みたいなのが入り込んで、キティちゃんと足を引っ張り合うような絵面を見てどう思うか。

 間違いなくおもちゃの類である。

 なのでおそらく、事情を説明してもロクな協力は得られまい。

 かといって、敵対したとしてもそれはそれで問題がある。原作の刀太たちが1体おおよそ5時間(おそらくキリヱ大明神の周回を除く)かけて倒し尽くしたという実力は、どう考えてもエヴァちゃんが相手をしたとしても十分すぎる足止めになるだろう。それを、こちらが無目的に倒すと言うのは、逆にキティちゃんのスピードランを早める結果にしかならない。

 

「どうしたものだろうか……」

『ふみゅー!? ふみゅー!?(犬〇家だよ!? 完全に〇神家だよアレ!?)』

「ん、どしたチュウベェ」

 

 と、色々考えている内に「第四の目」の視界に、膝の上から流れてくる思念。チュウベェの思念は大体エロいことか自分が可愛いことか早く元の姿に戻りたいことか(元の姿?)食事のことかで構成されているのだが、今回昇って来たのはそのどれでもない。イメージ映像としての「犬神〇の一族」でおなじみ、水に上半身が突き刺さり両脚が開いたまま死後硬直した水死体のイメージ映像と、それに混ざる「脚がベリーベリーおいしそうヤッター!」なる邪な感情だ。

 とりあえず檻を持ち上げてチュウベェの視線の先を追えば…………。うん、確かに〇田一なアレなことになってるやつだわ。

 

 しかもなんか、全裸っぽいというか、綺麗なお尻がこっちに見えてるし。

 そして「第四の目」越しには「息が苦しい」と「助けて」と「お父さん……」という絶望的な思念と、吸血鬼視力で見えるぶくぶくと泡立つ水面…………。

 

「いやもっと酷ェじゃねぇか!? というか全裸だぞアレ!」

 

 なんとなくいつかの夏凜に助けられた私を思い出しながらも、すぐさま死天化壮を形成して彼女(ヽヽ)の元へと急行する私だった。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「た……、助かた、ヨ、先輩…………。流石に死ぬかと思……たね……」

「いや、まぁあの状況で死ななかったっつーのは良いんだけどさ。それはそうとしてお前さん、いつ頃のメイリンだよ」

 

 時間は多少経過して夕暮れ。私の死天化壮の上着を身にまといながら、焚火に当たり震えているのは、ある意味で私が今こんなことになってる直因たるメイリンであった。服については何故か本当に一切身に着けておらず、なんなら他の道具の類も見当たらない。つまりは着の身着のまま、おそらく呪紋回路のみを身に着けた状態で放り出されているのが、今現在のメイリンであった。

 ただ、なんとなくだが私たちと接していた頃のメイリンよりは数年後のイメージである。不可抗力ではあるが全裸を見てしまったこともあるので、その、腰の括れやら胸元のボリュームやらに違いがあるのがなんとなく判ると言うか。あんまり言及するとセンシティブな話題になりそうだし、チュウベェが無駄に元気になりそうなので細かくは以下省略。

 

 流石に彼女の登場には星月は空気を読んで姿を消しており、黒棒もだんまり。チュウベェの絶叫がいい加減鬱陶しくなったので「第四の目」も切った。

 そんな状況での接触なのだが……、気まずい。というか、どうして私は私で別なお仕事を依頼しておきながら、こんな風に別な面倒事を寄越してくるんですかねお師匠(責任転化)。(ダーナ「送ったのはアタシだけど、そもそも一番悪いのはそこの女だし、アンタの所に流れ着いた(ヽヽヽヽヽ)のはアンタのせいみたいなものだからねぇ? それこそアタシ、何も悪くないさ」)

 

 さておき、私の確認にメイリンは苦笑いを浮かべてこちらを見る。……うむ、こうしてみるとなんとなくせっちゃん味もある顔立ちをしているように見えなくもないし、ますます以前のお師匠による情報爆弾の罪が重い(断定)。

 

「……全部終わった後、って言ったらいいかな。あ、いや、うん。…………怒られちゃった、てところだね」

「怒られた、とは」

「私が、未来を変えるためにダーナ師匠の所に行ってたのは、もう知ってると思うけれど…………、いや、まだ知らない? いや、その、察してるかもしれないけどさ。その、色々失敗して…………」

「まあ、何だっけ? いわゆるパラレルワールドが生まれるとかそういう話なんだろうから、失敗と一口に言っても――――」

「――――――――世界が滅亡した歴史が生まれちゃったって、おおいに折檻されました」

「――――あっそれはお前が悪い(断言)」

 

 少しは同情するとかしてくれない、かな!? と涙目でこちらを見てくるメイリンには悪いが、悪いがそれは庇える点が無い。

 元祖「ネギま!」における超鈴音(チャオ・リンシェン)、このメイリンの友人であるだろう彼女でさえ、タイムパラドックスのカルマからは逃れられていない――原作本編でネギぼーずたちが「異なる歴史」に飛ばされた結果、その歴史から過去に帰ったことで「異なる歴史」自体の軸は存在し続けているからだ。原作の当時描写では上書き系のタイムトラベル話かと思われていたが、最終回前後の描写からしてそのパラレルな歴史は歴史で今も存在し続けていることになっている。

 すなわち、あの天才たる超ですら歴史改変による失敗を犯している可能性があるのだ。あの歴史の超は超で別に存在するだろうから、おそらく色々調整するなりネギぼーずの代わりにヨルダと戦うなりをしたのだろうが、その結果次第ではあの歴史も滅んでいて不思議ではない。

 

 伊達に「ネギま!」も「UQ HOLDER!」もバトル少年漫画の世界ではない。メタ的に言えば、補正の効いた主人公という存在を欠いた世界など両価的(アンビバレント)不安定(アンバランス)なものだ。新たな主人公が立たなければ後は推して知るべしだろう。

 特異点。キーパーソン。起こり得ることについて、しいて言えばバタフライエフェクトであり、そう言う意味で言えば、このメイリンもそういったメタな話など知る由もないだろう。

 外部から俯瞰した時に、本人たちも気付かないレベルで過去、現在、あるいは未来において、その何某かが超重要な要素を担っているかなど、当事者たちには判断できないものだ。

 

 ある意味、私が原作崩壊に嘆きながらも、なんだかんだで原作ルートに寄せる(ヽヽヽ)ことを諦めていないのも、こういったことに由来する。橘一人がちょっと襲撃するのを見送っただけでここまでの私の頭痛が起きていることを思えば、よほど腹をくくらなければ積極的な原作改変になど臨めようはずもない。

 

 

 

 …………夏凜ちゃんさん?

 知らない女体、ではないですね…………(白目)。(ダーナ「目をそらさないだけまだマシって言うべきかねぇ」)

 

 

 

 いやその、夏凜についてはいずれキリヱとはまた違った意味で責任を取る必要がある訳だが、今それを考え出すと間違いなく鬱になるので思考の外へと投げっぱなしジャーマンすることにする。誰が何と言おうと問題はない(迫真)。

 

『(…………それもそーだけど、大河内のやつを堕としかけてるのだけは絶対言い訳できねーって相棒よぉ)』

 

 ちう様ボイスの星月が何か言った気がするが、良く聞こえないので問題はない(迫真)。ともあれそれ程の重大事案なのだから、師匠からの扱いも軽くなるはずはないのだ。

 

 

「つまり、罰として全裸で不法投棄されたと」

「ぜ、全裸じゃないよ? もともとは、その、流石にそこまで酷いことはダーナ師匠もしなかったんだけど、さ。…………、時空間の亀裂に飲み込まれて、色々やってるうちに服が消滅したっていうか、うん。せっかく過去で新調したスーツも全部なくなっちゃった、し。

 だから別に、あの人が悪いわけじゃ――――」

「いや、間違いなく師匠ってそこまで読んだうえでお前さん放り投げたと思う」

 

 断言する私に「えっ?」と困惑するメイリンだが、流石にそれくらいの滅茶苦茶ができるお人であることは一切疑っていない。それくらいの実績が原作でも今世でもあるし、なんならメイリンの側はともかく、私の方に投げて私に世話させると言うのにも何かしら意味を持たせていそうなお師匠だ。

 …………また私が知らないガバのペナルティか何かとか。

 

 い、いや、でも流石に今回は絶対ないと思うのですがそれは……。

 

「とりあえず服、どうにかしますかね。………………んー、なんならそれこそキティちゃんに頼み込んでみるか? 意外と面倒見良いからなぁ、キティちゃん」

「キティちゃん?」

 

 と、不思議そうな顔をするメイリンに「何でもねぇ」と言いつつ、私は立ち上がって、とりあえず食料でも探そうかとその場を後にしようとし。

 ひし、と。下半身に抱き着かれ、そのまま勢いで倒れた。

 

「……? えっ? いや、えっと、えっ? 何、どうしたんスかねメイリンさんや……?」

「い、いや、その、一人で残されそうになるのは、嫌だったっていうか」

 

 思いっきり下半身に抱き着く形で倒れ込んで来たメイリンだが、なんとなくその身体からは湿気やら水滴やらは取れている。もう乾いているというのに、メイリンはいまだに震えている。

 そして、気付いた。

 

「…………呪紋回路、もしかして壊れてたりするのか?」

「………………う、うん。だから今、本当の意味で魔法とか全然使えなくなってて……」

 

 そのまま震えながら、ぎゅっと私を抱きしめるメイリン。その身体から漂っている恐怖心は、流石に「第四の目(ザ・ハートアイ)」を(ひら)かずとも察することが出来た。

 

 

 

 …………そしてそれ以上に夏凜のことやらアキラさんのことやら何やらで悶々としている私に対して、ほぼ全裸のダイレクトアタック下半身に決めるの止めろ(戒め)。血流操作してなかったら眼前に「あらご立派」なことになりかねないんだぞこの美人め、エ□同人か貴様。

 一応は少年誌であることを忘れるなよなぁ……、原作を読め(無茶振り)。

 

 

 

(ダーナ「原作読んだら、アンタ確実に3人には手を出して責任取るのは確定してんだから、むしろ逆効果じゃないかねぇ? 描写は濁す必要はあるだろうが」)

 

 

 

 

 




それではよいお年を…もう数える程もないですが汗


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ST191.幸せは遠い

年開けてしばらく経ちましたが、こちら含め本年もよろしくお願いします(挨拶)
 
今回久々にキクチヨのテンションが中二らしい意味で高い……!


ST191.Kick Back A Peaceful Days.

 

 

 

 

 

「く、くそぅ、何なのだあの精霊はッ!

 詠唱破棄で突破できないではないか、リク・ラク・ラ・ラック・ライラック――――」

『――――言っておくが、我は四大守護精霊の中でも三番手。まだまだ上がいるぞ』

「をのれっ!?」

 

 一瞬で間合いを詰めてこちらに攻撃してくる火の上位精霊。

 長い尾に人ならざるシルエット、巨漢たるその頭部には悪魔のような角二つ。

 

 確かあの魔女の所で見た記憶がある、名はアギトゥ・シャマッシュだったか……、この上位精霊相手に私は小癪なことに苦戦していた。

 

 この陸地に落とされてからすぐさま、簡易に作った箒もどきに魔力制御をかけ連日飲み食いも忘れて飛行。

 1日かからずに城自体は発見できたが、早々に四体の精霊に捕捉され、連続攻撃を受けた。

 あまりに速攻を駆けられたため、すぐさま一度消し炭になった私だった。

 

 くさっても上位精霊、あの魔女の配下となっているとはいえその強さは今の私のレベルを超えている。

 少し距離を置いてから再生し、対策を練った私だった。

 

 やるのなら各個撃破……、全員に襲い掛かられればまた元の木阿弥だ。

 

 作戦としては、手始めに属性が優位な相手から潰す。

 私は主に氷系統の魔法を使うが、その延長で水系統にも多少素養がある。

 それ故にあえて、あの火の精霊、魔人のような姿をした奴を発見し次第、すぐさま挑発とばかりに氷の魔法矢を連射。

 こちらに気づいたのをみてから城から離し、遠距離に誘導。

 多少なりとも挑発したのが功を奏したのか、あの火の上位精霊は「なんじゃワレェ!」とブチギレながら私を追いかけた。

 

 水場まで飛行して逃走した甲斐もあり、海辺にてあの精霊を迎え撃つ流れ。

 これならば多少なりとも何とかなるだろうと考えていたが、見通しが甘かったらしい。

 

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック――――。

 集え(コエウンテース・)氷の精霊(セプテンデキム・スピリトゥス)! 槍をもて豪雨となり(ランキ・イン・プルビアム)敵を穿て(サギテント・イニミクム)――――。

 ――――氷槍弾雨(ヤクラーティオー・グランディニス)ッ!!」

『獄炎!』

 

 わざわざ詠唱して安定性と威力を上げたと言うに、降り注ぐ氷の雨の刃を腕の一振りで溶かし蒸発させる。

 見れば奴の足場となっている海面すら、やつが足を置いている場所を中心に沸騰し今にも蒸発しそうである。

 

 ぬかった、観察が足りなかった…………!

 あの魔女に言わせれば「後二百年くらいは経験がないと、大体の敵に余裕で対応するの何て無理があるんじゃないかねぇ?」 などと馬鹿にされたことがあったが、否応にでも実力不足を痛感させられる。

 

 このレベル相手に人形など鎧袖一触だろうと考えていたが、その見立ては外れていなかった。

 問題は、私すら鎧袖一触であるという事実のみ。

 

術式固定(スペキアーリス・スタグネット)吸収陣(アブソル・プティオーニス)!!!」

『ほう?』

 

 とはいえただで死んではなるものかと、私は簡易に魔法陣を展開する。

 いつか見たトータの、あの魔法陣…………、周囲に飛び散った私の焦げた血肉を発動体がわりとし、東洋にある陰陽をもったあの陣を形成。

 

 いまだにあの時のトータのように成功はしていない。

 だが大前提となる膨大な魔力…………、「闇の魔法(マギア・エレベア)」の力が私に存在している以上、術式そのものは正しく動作するはずだ。

 

 この場で使うのはつっぶけ本番だが、今度こそ成功しろと念を送りつつ、私は右手を前に差し向け――――――――。

 

『――――大獄炎!』

「…………っ、やっぱり駄目だったかーッ!?

 ぎゃふんっ」

 

 あえなく、奴の拳から放たれる炎を制御・吸収しきれず、そのまま投げ捨てられたヌイグルミのごとく情けない軌道で撥ね飛ばされた。

 

 我ながらなんと情けない…………!

 否! そもそも全てはあの魔女が悪いのだろうに!

 

 なんか知らないが突然ヘンな東洋かぶれの悪魔(ヽヽ)まで現れたし。何だあの編み笠と血なまぐさい装束は。

 トータのように黒髪ならまだしも、何がしたいのかさっぱりわからぬ。

 

 そんな誰へとも言い難い色々な怒りがうずまいている私の腹の(うち)はともかく。

 転がった先で身動きできない私を見下ろし、アギトゥ・シャマッシュは少し悩んだ。

 

『う~ん…………、このまま殺すのも弱い者いじめのようであるな。いかに吸血鬼相手とはいえ、全火星精霊人気ランキングの投票数的に、幼児を嬲り殺すような絵面はよろしくないのだが』

「だだ、誰が幼児かッ!?

 と言うか何だそれ、ランキング!!? 貴様ら一体何だその軟派な催しはッ」

『いや、中々重要であるぞ? 自然霊から派生した精霊に限らず、妖魔の中にも準精霊クラスの存在もいるのだから、それにプラスして「人間の信仰」こそが、我らのパワーアップ要素なのだから』

「知らぬわっ!」

 

 知らぬ知らぬ、何を言っているのかコイツはっ。

 だがその「人気」というか「人間の信仰」によってパワーアップするというその話自体は、納得がいくところがあるが。

 …………ん? つまりさっきの口ぶりからして、このアギトゥ・シャマッシュは人気上位の精霊の一体なのか?

 

『妖魔部門では、意外と()の人気が高いのもあるから、ルインもそれなりに恩恵を受けているが…………。

 そうだな。ならば絵面として格好良く締めるため、一瞬で塵とするにしよう――――ではまたの挑戦を待っている』

 

 そう言うと奴は両腕をかかげ。その手に先ほどの獄炎といった炎を集め。

 それを私ではなく地面めがけて叩きつけ――――。

 

 

 

 気が付くと、私の目の前にあのカイン・コーシなる悪魔が立っていた。

 特に何も変わらず、あの趣味の悪い東洋かぶれの恰好のまま。

 

 

 

「……何?」

「中々悪くないタイミングでござらぬか?」

 

『――――奈落獄炎!』

 

 そんな奴などおかまいなく、アギトゥ・シャマッシュは圧縮された炎の球を地面めがけて放ち。

 そんな奴に、あの妙な杖のようなものを構えたカイン・コーシ。

 

 次の瞬間、アギトゥ・シャマッシュの放った炎が全て奴の杖に「吸い込まれる」。

 

 これには奴も『何、だと!?』と驚いているが、事態はそれだけではない。

 傘の下からわずかに覗くオレンジに光っていた髪が一気に水色に変化、それと同時に奴の全身の装束が炎のごとく輝き燃える。

 さながら太陽のように、さながら不死鳥のように、なびく尾羽(コロナ)の熱風が、空気を、音を焼く。

 

 編み笠だけは何故か変わらず…………、そして小脇に血の球を抱えながら。

 焼け焦げたような杖を見て、奴はぼそりと呟いた。

 

 

 

「…………残火の太刀(オサレ)っつーか、残日獄衣(オサレ)じゃねぇか」

 

 

 

 は? 今何と言った、あの悪魔?

 よく聞き取れなかったが、まあ大したことは言ってないだろうと言う謎の確信があった。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 死天化壮(デスクラッド)獄炎煉我(プロミネンス)

 名づけるならそうと呼ぶのが妥当だろうこの装束は、何と言うか見る人が見ればどう見てもBLEAC〇(オサレ)前総隊長(オサレ)残火の太刀(オサレ)西(オサレ)残日獄衣(オサレ)、つまりOSR(オサレ)じゃねぇかといった装いである(火火十万OSR死大葬陣)。何故か髪が青白くなったり若干伸びたりといった謎の変化はあるが、変化が全身に及んでおりなるほど、かつて星月が言った雷属性との相性の悪さというのを実感させられる。疾風迅雷の場合ほぼ頭のみの変化であったことを思えば、ここまで姿形が変わるのは確かに元祖「ネギま!」的な術式兵装らしいと言えるかもしれない。

 いや、むしろこれは私自身、火属性の方が相性が良いと言うことなのかもしれないが。明らかに疾風迅雷(サンダーボルト)の時と比べて、全身の感覚が異なりすぎる。そこのところどうなのだろうか、星月さんや。

 

『ごめん、これ突貫で用意したから…………、ちょっと休憩する……』

 

 ………………アッハイ、今回も事前の打ち合わせなく急造で術式兵装したからね、そりゃ準備はできていないかマジすいません(全面降伏)。

 毎度毎度迷惑をかけ通しなところであるが、このあたりは何と言うかこう、うん…………、報いる部分も何もよくわからないし、正直どうしたらいいかについては後日本人と話し合うことにしよう。

 

『後、字を宛てるなら火天大有(かてんたいゆう)の方がいいと思うよ…………』

 

 ホントこう、何から何までありがとう…………!(素直)

 

 さて、死天化壮(デスクラッド)火天大有(プロミネンス)を身にまとった私に空気を読んで黙ってくれている黒棒はともかく。術式兵装が発動したことで私から弾きだされたチュウベェボール(※血の球体に入ってるチュウベェ)であるが、そっちはそっちで「うぉ眩しッ!」みたいなことを言ってから反応が無い。いや、大丈夫か? 気絶してるとかだと後が怖いのだが……。

 とりあえずそんなチュウベェを懐に入れ、血装で作った編み笠越しに目の前の相手を見る。

 

 このビジュアル……、姿形はルイン・イシュクルだったか雷の上位精霊のそれに似ているが、まとっている魔力や色、後この熱量と私の変化からして、火の方の上位精霊だろう。原作において刀太たちに立ちはだかった四大精霊その一つ。……なのだが、実力の程については正直よくわからない。

 なにせ原作ではルイン・イシュクル戦がメインであり、その戦闘で術式兵装を刀太がモノにするというのがシナリオの流れ。しかも四大精霊最強が雷のソイツであったせいで、残りの三体はギャグ的に流されてしまったのだ。そこのところは推して知るべしである。

 

 と言う訳で名前すら知らない相手なのだが、そんな火の上位精霊は変化した私の姿を見て一歩後退した。

 

『面妖な…………、いや、我が炎を身にまとい無力化したか!』

「仕様については初めて故、不明でしかないでござるなぁ」

 

 言いながらとりあえず、焦げたようになっている錫杖な黒棒を構える。絵面としては剣の柄の部分だけそのまま、刀身が錫杖のような形に血装されているのだが、私の趣味の影響だろうかこの黒焦げた色合いは…………。繰り返すが完全に残火の太刀(オサレ)でしかなく、本来の刀な黒棒に戻して是非使ってみたい塩梅だった。

 

 とりあえず錫杖黒棒を振るってみると、それだけで相手の放っていた熱風熱気と魔力とが「えぐれ」「削り取られ」、真空が生まれたのではと思わせる不気味な静寂が一瞬訪れる。それから程なく轟音が響き、火の上位精霊は彼方までぶっ飛ばされた。

 …………旭日刃(オサレ)、うん、いくら何でもここまで私の趣味(オサレ)に寄せなくてもいいんですよ星月さんや(震え声)。

 

 というより何だこのぶっ壊れ性能。攻撃力のみで言えば現状最強形態なのでは? 鎧袖一触どころの騒ぎですらない。

 

「(血風使ったら多分これ天地灰尽(オサレ)みたいになるのだろうなぁ……)、いや、それはともかく。大丈夫でござるか? お嬢ちゃん」

「……………………」

 

 キティちゃんは、感情を失った能面のような顔で私の姿を見ていた。

 あー、うん、「第四の目(ザ・ハートアイ)」にも「何、だと?」とかクエスチョンマークで思考が埋め尽くされており、同時に「私が苦労してきたのは何だったんだ……」という虚脱感と絶望感がわずかに滲んでいる。

 生憎だが異なる時系列に差しはさまれた「未来」の私と融合し、星月のバックアップもありチュウベェの協力もある以上、現時点の私はキティちゃんよりは完成度の高い不死身の化け物である。これくらいは出来ないと逆に師匠にバラバラにして殺される(直喩)ので、今の状態については特に何も言うまい。

 

 ……というより自己認識崩壊(アイデンティティ・クライシス)をギリギリ乗り越えているのだからそれくらいは大目に見てもらわないと困る(白目)。

 つとめて夏凜の顔を思い描かないようにしながら、軽い調子でエヴァちゃんに話しかける。……一応炎の出力調整はできるらしく、灼熱だった色合いがガスバーナーのごとく青く完全燃焼した状態になると、物質的な熱量は消え去った。そのまま手を差し伸べ、再生が終わった彼女を立ち上がらせる。

 

「………………」

「放心しているところ悪いが、逃げるでござるよ?」

「……な、何?

 む? 何をする貴様!」

 

 そりゃ逃走でござるよ、とキティちゃんを持ち上げ(お米様だっこ)、脚部に魔力を集中させて内血装を併用した活歩(クイックムーブ)。…………うん、踏み込みからの軌跡が燃えてて綺麗だねぇ、というか完全に山〇(や〇じぃ)瞬歩(オサレ)だこれ!!? 不意打ち過ぎてどう心の中で処理したらいいかわからないのだがこの感情!!?

 

「ええい離せ!

 何をプルプル震えているこの東洋かぶれっ」

「個人的な事情なので、そこはお気になさらず…………」

「訳がわからんっ」

 

 ここに来ていきなりのOSRフィーバーに内心のテンションが荒ぶっている私であった。

 

「というよりも、貴様のその姿のパワーは何だ!?

 何でそのパワーであの場から逃げ出すのだ貴様、そのまま他の精霊たちも倒せば良いではないかッ」

「そうは言うでござるが、流石に雷の上位精霊に勝てる自信はござらぬよ。拙者、雷属性とは相性が悪いでござるからなぁ」

「好き嫌いを聞いている訳ではないわ!」

「真面目な話をするなら、雷速で動かれると目に見えないというのが問題でござるし――――例えばこうやって振ったところで、避けられるでござるよ」

 

 そして会話しながら逃げ去っている私の背後に、音もなく、漫画のコマ送りのような気持ちの悪い出現の仕方で追尾してきている雷の上位精霊めがけて、血風創天を放つ。

 錫杖状態なので威力は本来のそれより抑えられてはいるはずだが…………、結果は予想通りとなった。

 

「は?」

「はい?」

 

『――――――――む、人間の土俵にござらぬなぁこの威力。オオゥ……』

 

 当たり前のように避けた雷の上位精霊、ルイン・イシュクルであるが。その後方にあった森やら何やらが一瞬で更地になり、なんなら地面すら抉れ、さらに後方の城を裂き、海を割り、地面の底は暗黒で見えずな状態まで深く深くえぐり灰と刻まれた。

 

 天地灰尽(オサレ)…………、でもここまでの威力出ない気がするけど、アレ?

 あっそうか、血風創天で放って威力が無駄に分散しなかったせいで、天地灰尽(オサレ)旭日刃(オサレ)の相乗効果みたいなことが起こっているのか。

 そして試し撃ちにしては環境破壊どころの騒ぎですらない。何やってんだ私!?(震え声) 見ろ、抱えてるエヴァちゃんも思考言動全てが完全に真っ白になってぽかーんとしているぞ。ギャグ調で言えば目を真ん丸にして全身真っ白になってる、原作スカカードめいたおマヌケ(直球)なビジュアルに近い。あっちのルイン・イシュクルもドン引きしている。

 

 ま、まぁ本人はちゃんと予想通り避けたから、結果オーライ(震え声)。

 

 そのままキティちゃんを運搬している間、速度はともかくパワーでは勝ち目がないと見たのか、雷の上位精霊は空中で胡坐をかいて私たちが立ち去るのを見送っていた。

 

 ……そして仮拠点として見つけた山小屋の中で。虎のような魔物から作った原始人めいた衣装になっているメイリンが、火天大有(プロミネンス)の解除された私に涙目で抱き着いてきた。抱えているキティちゃんも気にならなかったようであるが、キティちゃんもキティちゃんでショックが大きいのか、そのまま呆然としたままである。

 

「し、心配したよ、キミ! 何か知らないけど、いきなりあち(ヽヽ)が聖書みたいに海割れたりとかして、城も半壊してるし!

 上位精霊との戦闘、そんなにひどいのかって……、もう心配で心配で、うぅ…………」

「あぁ…………」

 

 泣いている所申し訳ないのだが、九分九厘私のせいですハイ。

 とはいえあそこまでパワーが出るとは思ってなかったのもあり、俺は悪くねェ!? の精神で黙ったままメイリンの好きなようにしばらくさせていた。

 

 

 

 ちなみにだがあの破壊された自然環境および城は、翌日には何事もなかったかのように元の状態のままに戻っていた。おそらく師匠が直したのだろうが、やっぱりお師匠しか勝たんね!(信仰)(ダーナ「止めな!? アタシの運気が下がるッ!」)

 

 

 

 

 




※易経から火天大有があったので丁度良かったから変更


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ST192.胸の中の柔らかいところ

そろそろ何かに気づく人は出てくるかも


ST192.Kick Back Uh-Huh Days.

 

 

 

 

 

「え、ええ、エヴァンジェリン、サン……?」

 

「どうして片言になったでござるか」

「何故私の名前を知っている、この小娘」

 

 我を取り戻したキティちゃんに塩水のお湯(下手に真水にするとメイリンは腹を下す可能性があるので、全員まとめて薄めたぬるま湯)を出していると、こちらも今気づいたかのように動揺しておののくメイリン。ついさっきまで虎柄風の原始人スタイルめいたパレオ風な衣装は、流石にずっと全裸だと悲しいだろうと言う私の気遣いで適当に狩って来た魔獣を剥いで作ったものだが(まさか肉丸からの食肉やらケモノの捌き方の知識がこんな形で役立つとは……)、流石にキティちゃんが同情してミニスカメイド服を一着貸し与えていた。なんとなくだがせっちゃんを思い出すあたり、遺伝子的な素体なのか何なのか。師匠の言葉が若干だが思い出される……。

 なおその時の彼女の発言が前述のそれであり、私、キティちゃん共々半眼を彼女に向けていた。まあ私は編み笠……というか天蓋? を外していないので、顔までは見えていないのだろうが。

 

「というかそもそもだ、貴様この小娘は何だ?

 こっちに落とされた時に私も貴様も一人だったはずだが」

「おそらくこの試練とは何も関係がない女でござるよ。何やら複雑な事情がある様子でござる」

「ど、どうも………デス」

 

 口調が堅いメイリン。怖がっている、と言う訳ではないのは「第四の目」でわかるのだが、どうやらこっちに来る前の時系列、つまりはお師匠にペナルティを与えられる前にやらかしたことの時系列で、エヴァちゃんと出会っていたということが発端のようだ。詳細は思考の底に埋もれて表出していないので見えてこないが、なんとなくタイムパラドックスを気にしているだろうことは私個人の経験値から察しがついた。

 当然だろうが、彼女の遭遇したエヴァちゃんはメイリンのことなど知らなかったのだろうし、このエヴァちゃんというかキティちゃんがメイリンを知っているとそれはそれで拙いということになるのだろうか。

 ガバは怖いからなぁ……(便乗)。

 

 というかこれで歴史が分岐しちゃうのでは? お師匠。そんな疑念を抱いていると「その時は違う恰好で違う名前を名乗ってるから気づかれないよ」という文字が視界の端に踊った。いや、あの、どう考えても物理的時間軸的に超距離がありそうな位置関係だと思うんですが……、何をナチュラルに思念だけ私に飛ばしてきてるんですか師匠。(ダーナ「アンタと違ってそのあたりはぬかりないさ」)

 

 だったら素性だけぼかせば問題はないか? ということで、詳しくは知らないが異世界島流しの刑のようなものにあっているらしいと紹介しておく。キティちゃんは「貴様も大変だな……」と主に師匠の修行の類だろうと思いながら同情する視線を送っているが、対するメイリンは全然違うことを考えているため恐縮しっぱなしであった。

 

「どうした?

 さっきから私相手に怯えて……、確かに吸血鬼の類だがいたずらに血は吸わんぞ?」

「そうでござるなぁ、愛しの彼の血液だけで心も体もおなかいっぱい―――――って冗談でござるよ影操術を止めるでござる」

「言いながら何を平然と血装術で回避しているか貴様ッ!

 少しくらいは死ね!

 というか何だその『白い色』はッ!

 魔力が掻き消されるッ」

 

 私の軽口に割と本気でブチギレながら羞恥に震えたキティちゃんは、自らの影に魔力を通し「物質として」操作しながらこちらをくし刺しにしようとしてきた。当然のように錫杖黒棒を使って防御してはいるが、そうまで怒らなくても良いではないか。そんな無慈悲なこっちはただ単に空気を和ませようとしているだけなのに(煽)。

 

 まあ想像通り注意を逸らせたかいもあり、メイリンは少しだけほっとすると目を閉じ深呼吸。

 その後目を見開いた後に「白く光る」錫杖黒棒を見て、ぎょっとした表情をしていた。「火星の白!?」と思考がびっくりしているのが視えるが、おや? そうか流石にお前さんは知っているか、素性を思えば当たり前なのだが、ついぞそういった話をされたことがなかったので、むしろびっくりである。

 

 現在の黒棒は、血装部分が白く変化している……、が、これは夏凜から複写した聖属性の魔法ではない。

 カトラスの「アザーメタトロニオス」、つまりはあの左腕のそれだ。

 以前黒棒の内部での見解の相違によるケンカの際、不完全ながらにも使用したあれの完全版である。しいて言えば白血風ということになるのだろうか。

 

 とはいえ飛ばしていないので、せいぜいが「ネギま!」における神楽坂アスナがギャグ補正のようにエヴァちゃんを殴り飛ばしているときの程度であった。まあこちらから殴りに入っていないので、そのあたりは容赦願いたい。平に。

 

 と、そうこうやりとりをしているとメイリンが「ちょっと来て」とキティちゃんに断りを入れてから、私の手を引く。山小屋の外まで連れ出した後、彼女はキティちゃんの方を意識しながら私に防音できるかと一言。

 

「魔術的な防音なら問題ないでござるが、それで構わないでござるか?」

「その先輩の口調、ちょっと調子狂うな……って、ひっ」

 

 まあつまり、私にとって可能な防音など盗み聞きを弾くために血風を出して周囲を覆うようにするくらいなもので。唐突にふって湧いた血のドームのようなそれに、メイリンは身体を抱きしめながら顔を青くしていた。

 閑話休題。

 

「…… 一応先輩に言われた通りに話を合わせていたけど、どういう状況、かな? あんまり過去のエヴァンジェリンサンに会うとか、色々不都合があるんだけれども」

「これに関しては成り行きだし、メイリンの方が後から来た立場になるでござるよ」

「口調そのままでいくの!? というかその天蓋の編み笠とらない? 話しづらいよ、ね」

「いや、万一ということもあるでござるからなぁ。もともとそういったガバに関しては、拙者割と多いでござるし万全の体制にしておくべきでござる」

「努力のポイントがなんかズレてる気がするんだけれど…………」

 

 このやりとりの通り、キティちゃんを助けに行くよりちょっと前にメイリンへ「私に話を合わせるように」とやりとりしていたのだ。カイン・コーシと名乗っていること、姿形がこの似非幻術師? めいたものになっていることなど、こちらのビジュアル面やら何やらについて多少共有した上での現在である。

 この程度の適当なやりとりでなんだかんだよくわからないままに衣服を入手したり誤魔化しを成功させたりと言った私にちょっと引いた目をしているメイリン。思考には「詐欺師」だの「女たらし」だの色々こちらを愚弄するフレーズが飛んできているが断じて違う(震え声)。将来的に世界を守るためには、必要! そう必要故の善行に違いないのであると鋼の意志で断言しよう。

 

 へっ夏凜にバレたら? ……………………ま、まぁそれはともかく(震え声)。

 

「断言はできないが……、ダーナ殿(師匠)がお前さんをここに送り込んだと言うことは、お前さんはここで何かやるべきことがあるということ、あるいは見ておくべきことがあるということにござろう。能力的に何も出来ない状態にされていると言うのなら、拙者に庇護させたうえでということになるのだろうが」

「そうなの、かな。…………何というか、そこは迷惑をかけるんだけどさ。

 ただ先輩も、エヴァンジェリンサンに正体がバレちゃいけないんだよね。じゃなきゃ、そこまで変な恰好したり変な口調したりしないし」

「変なの、だと…………?」

「何でそんな傷ついたような声出すのさ、先輩……?」

 

 いつかのキリヱ大明神の「変なの!」の一言が、メイリンのそれに重なってフラッシュバックしてちょっとだけ傷ついている私だが、OSR(これ)について小一時間教育しわからせるというだけの時間的余裕はない。あまり長引くとこちらを盗聴しようと四苦八苦しているキティちゃんがしびれを切らして直にやってくるだろう。

 

「まあ色々心配な状況なのでござろうが、問題はないでござるよ。キティちゃんというかエヴァちゃん相手に誤魔化すのは、だいぶ慣れているでござる」

 

 何せこちらは二年間の「そういった」ごまかしを前提とした関係である。完ぺきとは言えずとも八割がた誤魔化しが利くなら、おおよそ後はアドリブで何とかなる。そういった実績を積んでいるのだから、そこは大船に乗ったつもりになってくれても良いと少しだけ胸を張った。

 

 …………ん? 何が「そゆとこが女たらしじゃないかナ?」とかメイリンから思考が漏れてきているが、一体何が女たらしだろうか?(ダーナ「分野によっちゃ泥船だからじゃないかねぇ」)

 

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 先輩は女たらしだ。

 それは私が跳んだ(ヽヽヽ)過去を踏まえて、あの時過ごした数年間の思い出を前提として。その上でなお、多くの平和な時代の人を見た上で、改めて見ても感想は変わらなかった。

 

「――――お嬢ちゃんは、おそらくは向いていないでござるな」

「向いていない?」

「そうでござる。ベースとなる思想は八卦に通じるものでござるが、座学とは言えお嬢ちゃんはそっちの方面を体得はしていない。知識として存在するのと、理解にまで至っているのではまるで異なるでござる。

 これについては東洋と西洋、それぞれの魔術観や世界観の違いがおおいに作用している故、今更無理にそっちの理解を深めると、逆に西洋魔法が使えなくなる可能性が高いのでござる。費用対効果には見合わないでござるなぁ」

 

 むぅ、とふてくされるエヴァンジェリンさん、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルというこの魔法使い。私が知るよりだいぶ若く、態度のふてぶてしさもどこか青いというか、尊大さが足りない。もしかしたら自信が無いということなのかもしれない。私の知るあの小人形、チャチャゼロすら横に置いていないのだし、あの先輩程度に翻弄されてるってことは、それだけ人生経験とか色々足りてないんだろう。

 以前の私ならそんな彼女を揶揄うだけの余裕はあったが、流石にほぼ生身で放り出された状況でとやかくは言えない。……というか、ほぼ全裸だったところに文明的な衣装を提供してくれた相手にそこまで偉そうには出れないと言うか。流石の私も自重を覚える、ネ。

 

「ならば、貴様は何なのだ東洋かぶれ。

 貴様が使ったアレは何だ、術の形態は違うがそれこそ、以前トータが使った――――」

「トータ?」

「あ、いや…………、そうか話してなかったか」

「まあ文脈からおおよそお嬢ちゃんの想い人であることは察するでござるが、ちょっと恋に盲目になっているでござるなぁ。多少コントロールできるようにならねば、後々面倒なことになるやもしれぬでござるよ?

 例えば………………、悪の大ボスがお嬢ちゃんの想い人の姿を形どって現れてキスかましてきて、心まで絆した隙にお嬢ちゃんを殺そうとしたり」

「ハッ! そんな初歩的な攻撃に引っ掛かるかたわけが。

 私とてまだまだ若輩だが、これでも吸血鬼の真祖に近い存在だぞ、心乱れるわけもあるまい」

「ふぅん…………フラグでござるな」

「……おい、何だその小馬鹿にしたような目は。

 というか()が何だ? 何を言いたい貴様」

「口は災いの元……(ボソッ)」

「聞こえているぞ!?

 この、今度と言う今度こそ切り刻んでくれるわッ!」

 

 両手の爪をとがらせて、影で形成されたマントを羽根みたいにして、変装した先輩に襲い掛かるエヴァンジェリンさん。距離にしたら数十センチもないのに急加速するために「魔術的に」形成しただろうその羽根を、先輩はどこからか取り出した錫杖? でちょんとつついて、無力化してる。

 壁に激突して「ぎゃふん!?」とか言っちゃってるエヴァンジェリンさんは、何と言うかこう…………、あっちでもこんな所あったなぁ、ここまで揶揄いがいがある感じじゃなかったけど。

 

 いや、それでも……、あっちの彼女が「私の目的」に不干渉を貫いてくれたことは、そのことだけは結果がどうあれ感謝はしているのだ。

 

「はっはっは、まだまだ愛い愛い」

「そ、それくらいにしてあげて…………、流石に可哀想だ、よね」

「いやそれは悪手にござるよ」

「へ?」

 

「――――ほう、この私相手に同情するか貴様。

 何様のつもりだ只の人間のくせに」

 

 わっ!? とびっくりした私の背後に、当たり前のようにエヴァンジェリンさんの頭部だけが「空中に浮かんでいた」。と、徐々に足元から影が解けて彼女の胴体に集まり、その姿をしっかりと彼女のものとして再形成した。

 ついでに「ぎゃふん」と言った方の彼女もいつの間にか姿を消していて、一体何をしたのかっていうか。多分吸血鬼スキルの類なんだろうけど、それをわざわざここで披露する意味がよくわからないというか。

 

 …………ひょっとして怖がらせて、威厳を取り戻すため。

 あいや、昔からこういう可愛い所もあるんだネ。

 

 ちなみに先輩に言わせると「意外と借りて来た猫のように初対面の相手に警戒しっぱなしでござるし、仕方ないでござるなぁキティちゃんは可愛くて」とか言ってまた怒られてるし……。

 そしてこういったやりとりを繰り返して、彼女の警戒心をほぐした末に、先輩は言うのだ。もし本気で強くなりたいのなら、先輩が数日は面倒を見ると。

 

「さきほど拙者が使った技――――俗に術式兵装とか彼我不問(ひがふもん)などと呼んだりもしているが、これを伝授しないこともないでござる」

「しないこともない?

 何を馬鹿な、そもそも貴様は今私と競っている仲だろうに。

 こちらを助けてくれたことには毛の先程度には礼を言うが、別にそんな助力などなくとも、私一人で逃げ切ることなど出来たに決まっているだろう」

「それにしては大慌てでござったが……、言わぬが花にござるか」

「言ってるぞ!!!? というか誰が大慌てだったと!!」

「まあ、拙者としてもメリットはあるのでござるよ。お嬢ちゃんが戦う時間が長ければ長い程、あの精霊たちを抜き去って城に到達することができる確率は高くなっていく。

 今のままでは、お嬢ちゃん程度ではどうにもならないでござるからな」

「…………あの炎の爆発力が、異常だったことは認めよう」

 

 そして、話題をそらしながらも本題を徐々に徐々に続けて行って、相手の警戒心があるポイントまで崩れた時点で本題を切り出して。何が怖いかって言えば、それが相手の不利益にならない程度に調整された文言になっていること。

 だから、私は心の深い所――――未来において魔法具「いどのえにっき(ディアーリウム・エーユス)」の対策として仕込まれた自己心理操作術でもって、思考の底に埋没させた感情だけで、彼を、先輩を、キクチヨと呼ばれていた近衛刀太を見る。

 

 思考の底は見えないけれど。それでも人の心を(いたずら)にかき乱して、そのくせ自分でフォローして、なんだかんだで自分の流れにもっていく、この先輩のことを。

 

「拙者にとって、今回の報酬は大して意味はないのでござる。知り合い(ヽヽヽヽ)いわく、いずれ判る事らしいでござるからな」

 

 よくわからないけど、その知り合いは女の人だ。

 何故か知らないけどそう直感したよ、ね。

 

「そうなると拙者としても、あのダーナ殿にちょっと一泡吹かすくらいは、あっても良いのではないかと思ったでござるよ。拙者も色々あって癪でござるし……(後、闇の魔法(マギア・エレベア)のヒントくらいは既に得ていても問題はないでござるだろうし、エヴァちゃんが使っていた時期から考えれば)」

「何をボソボソと言っている、貴様。

 …………だが、一泡吹かせたいというのは悪くない提案だな」

 

 それで貴様の師事を受けるかどうかは別にするが、と意地を張るエヴァンジェリンさん。ただ、あくまで口先だけだ。表情や腕を組んだ振る舞いは、どう見ても冷静に状況を分析して、色々な前提条件を天秤にかけている。

 先輩もわかっているのか、何も言わずにエヴァンジェリンさんをじっと見つめていて。

 

「……………………」

「…………」

 

「………‥っ、あっ」

 

 ぐぅ、と私のお腹の音がなって、エヴァンジェリンさんと先輩が同時にこっちを見た。

 い、いやその、呆れたような顔しないでよエヴァンジェリンさんは……。先輩は先輩でニコニコまるで幼児でも見るような視線を送ってくるし。

 

「とりあえず一度、食事をしてから考えてみても良いのではござらぬか? 気分転換くらいにはなるでござろう」

「……まあ、そうだな。

 我々が不死者ゆえに、配慮が足りなかったか。

 許せよ人間、色々あったろうお前は、我々より疲れているだろうに…………」

 

「そそ、そんな頭下げなくても良いヨ!? というか凄い恐縮する、から!」

 

 そしてやっぱり、エヴァンジェリンさんの目には同情の色がうかんでいて。それを見て先輩がしめしめって感じの目を、傘越しに彼女へと送っていた。

 

 うううう…………、これだから先輩は女たらしなんだ。アキラさんの時もそうだしっ。

 確信犯でやろうとやるまいと、人の心のやわらかい部分を徒にいじらないでほしいよ。これだからスプリングフィールドの一族は…………。

 

 あれ? それだとひょっとして私も含まれる?

 あいや、ははは………、まさかそんな、ねぇ?

 

 

 

 

 



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ST193.心のドアの反復横跳び

エヴァちゃん修行編が長くなりすぎたので省略したり色々調整してたら時間かかりました、スミマセン汗


ST193.Something Feels Very Very GOOD!

 

 

 

 

 

 キティちゃんの修行パート? ねぇよそんなもの(逆ギレ)。

 いや、正確に言えば修行パートをわざわざ回想するほどの時間をかけずに修得してしまったと言うべきか。このあたりは腐っても我がカアちゃん、魔術師としての出来が違う。そのお陰でこちらの思惑は一切合切が潰れてしまっているので、色々とどうしようもないのだ。

 まあそれこそ闇の魔術(マギア・エレベア)という意味では未完成である。未完成であるが、それはそうとして他の遣い方を思いついて平然と実行するあたりは流石にキティちゃんというべきか。

 具体的に言うと…………。今ちょうど目の前で、雷の上位精霊のルイン・イシュクル相手に、かなり善戦しているのとか。

 

 廃城、というか塔が見える森を抜けた一角。あえて開けた場所に相手を呼び寄せたのは、自らの魔法の邪魔にならぬよう周囲の障害物がない状態で戦いたかったからか。とはいえその状況を見れば、もはや障害物がどうこうというレベルですらないのだが。

 

術式固定(スタグネット)! 固定(スタグネット)! 固定(スタグネット)! 固定(スタグネット)! 固定(スタグネット)! 固定(スタグネット)! 固定(スタグネット)! 固定(スタグネット)! 固定(スタグネット)! 固定(スタグネット)! ――――カハハハッ」

『いくら何でも魔力に物を言わせすぎではござらぬか?』

 

 けらけら嗤いながら自らの周囲に大量の固定された闇の吹雪(ニウィス・テンペスタース・オブスクランス)。浮かべるそれらはある意味で彼女の防壁である。いかに一発一発の威力が精霊を仕留め得るレベルでなくとも、あれほど大量にシャボン玉がごとくぷかぷか浮かべている術式は、一つ接触すればその場で連鎖的に爆裂しルイン・イシュクルを破壊するだろう。

 だからといって様子見をしていても、それはそれで永遠の氷河(ハイオーニエ・クリュスタレ)を追加で唱えて拘束をしかけてくる。それから逃げれば当然のように目的地へと前進するため、ルイン・イシュクルはキティちゃんとの戦闘を避けることができない。

 

 既にこの戦法を取って、他の3精霊を下しているエヴァちゃんである。途中途中で後方の私やメイリンの方にもとばっちりの攻撃が来たりして、ついでなので「掌握」しておいたが、しかし本当にいくら何でもあっさりとし過ぎだ。

 闇の魔法に繋がる要素として、術を取り込むための思想、すなわち彼我の力を取り込むための大前提としての「自らの心にすくう闇」すら呑み込むための、良きにしろ悪しきにしろ許容し受け入れる素地のためのカウンセリングもどき(と言いつつ「第四の目」で思考を確認した上での徹底した煽り)、そして空間への術式の固定の練習だ。

 何故そんな固定が必要なのかとキティちゃんに問われれば、術を身にまとうという原理である以上は術を発動直前状態で待機でもさせなければ、普通は取り込むのが大変であると言った。これ自体はおおよそ原作通りの話であり、特に何をせずとも彼女本人が自分でその結論に到達する話であろうという軽い判断だったのだが。

 

『発動直前で固定。か。

 …………ふむ、なるほど使えるな』

 

 その一言と共に、あっという間に術式固定(スタグネット)した術式をそのまま「金星の黒」の魔力をもちいて、強引に大量に保持する方法を一晩で開発してきたのだ。一種類の魔法を大量に複製するように並べるような形で、燃費は悪いが今の実力からすれば必要十分の技として昇華させてきた。修行期間が2日であることを踏まえても、かなりの速度での開発である。

 ネギぼーずであればおそらくそこに展開される術を一つ一つ全く異なる魔法に仕上げてきたりするだろうが(エヴァちゃんも認める開発力的に)、それをしても一晩でそれとなく現在できる範囲での最大レベルの対策を出せてしまうあたりは、流石である。

 

 ……そしてそんな物騒なキティちゃんを前に、メイリンは震えながら私の腕をつかんで隠れるように身を寄せているのだが。

 

「あわわわわ…………」

「いや何をビビってるのかお前さんや」

「だて、だって先輩、アレ空中に浮かんでるの、合計で100個くらいあるよ!? どれだけ魔力が走てる(ヽヽ)と思うのさッ。どれだけ魔力を流してればあれを実現できるのかとか、考えるだけで恐怖しかない……」

「衣服の採寸したりするときに、多少話したんだろ? その時の感じだとあんまり恐怖心とかは抱いていないように見えたが…………」

「それとこれとは話が別っ!」

 

 ちなみに現在のメイリンの服装は、ミニスカメイド服から中世ファンタジーゲームのモブ的なパンツスタイルの衣装へと変わっていた。つまりあまりかざりっけが無い恰好である。

 修行の最中で何やら開発していたらしいキティちゃん(あの多重固定の技なのだろうが)が「少し詰まった」と一時中断した時、ミニスカメイド服のままのメイリンの採寸をしたのだ。その際に多少なりともコミュニケーションを取って態度が軟化したと思ったのだが、それはそれこれはこれということらしい。

 

 さて、その後の展開は、本当に私には語ることが全然ない。凱旋するがごとく悠々と一歩一歩いっそ意地悪く歩いていくキティちゃんと、それに圧される雷の上位精霊。中々格好良い感じの魔物的デザインなシルエットが、いいように行動を妨害され続けて悲鳴を上げる姿は色々と見ていて痛々しいものがあった。

 

「許せよ。

 あまり誇れる勝ち方ではないが……、いつトータがまた来るかわからないのだ。

 メッセージを残しているとはいえ、会えるならば会うに決まっているさ」

 

 キティちゃんの意志はどうにも固く、仮にこの場で私が対決して期間を伸ばすというのも、どうにも忍びない。現状、5日にはならない程度の4日であり、お師匠から提示された期間としては1日ほど余裕がある状況だ。

 これについては何かしら対策を打たないといけないのだが、さてどうしたものか……。悩んでいる私に、メイリンがキティちゃんの砲撃(ほぼ砲撃と言って良い)の余波による刺すような冷気から逃げるように私の後ろに回り盾にしてくる。私も私でついでとばかりにその余波を黒棒(錫杖モード)で「吸って」防御しておくが、そんな私に「やっぱり理不尽だと思う、よ」と何故か不満げだ。

 

「キティちゃんの基礎能力が高いのはお前さんも多分知っているだろうに……」

「その話じゃなくって。……あれだけちゃんと制御してる、つまり、いつでも私たちに攻撃できるということ、だよ? だけどそれでも『競合相手』である先輩を攻撃してこないくらいには、心許してるとか、やっぱり先輩は女たらしだっ」

「冗談じゃねぇぞ止めろ(震え声)」

 

 脳裏で水着姿の九郎丸と夏凜とキリヱと忍とみぞれあたりがバレーボールを始めてる映像がフラッシュバックする。いや、どう考えても第一期(火葬)のハ〇ピー☆マテリアルOPアニメの映像をUQのメンバーに置き換えているノリの映像だったが、何を考えているのだ自分は。相変わらず謎のキャラ崩壊オリジナル笑顔だったが、特にキャラ崩壊を極めた笑顔を浮かべてる夏凜が怖すぎて怖すぎて洒落にならない……。

 動揺から血装が解けそうになったのを慌てて再血装し、黒棒の錫杖を背負っておく。

 

「いや、具体的に何もしていないだろうが。揶揄うだけ揶揄い倒してある程度距離を置かれるのを想定していたのだが」

「フォローとして、先輩いわく『本来の』近衛刀太の話をちゃんと聞いてた、よね。いまいち何言ってるかわからなかったけど」

「それが?」

「普通に恋愛系のアドバイスとかしてたよ、ね」

「それが?」

「……………………タロ、いや、ダーナ師匠よりも恋愛方面で味方、みたいな振る舞いだよね?」

「…………そう?」

「うんうん」

 

 あー、いやー、それに全然敵意もないし、話しやすいし、と続けてくるメイリンに、お師匠から見せられた九郎丸、キリヱ、カトラス、夏凜の時の映像がダーッと脳裏に流れる。つまり、キティちゃんは本命がいるからそういう話にはなり得ないが、少なくとも距離感としてはかなり絆されていると?

 いやちょっと待て、だってまだ一日二日程度だぞ? お師匠の下で修業していたキティちゃんはそれこそ半世紀以上はあちらと付き合いがあるのだから……。

 

「その付き合いが長い相手よりも気遣うし優しくしてくれるし、恋の応援もしてるようにしか見えなかったよ? それは、いくら恋愛ネタでからかうような人でも好感度が大きく変わると思うけど、ね」

「……………………」

 

 これはアレか? つまり九郎丸パターンか? そもそも突き放す必要がある相手とは接触しないでおくべきだったとか?

 い、いや、しかしそもそもアレアレ、時間稼ぎは必要だった訳だし、このカイン・コーシとしてはキティちゃんからの信頼値が多少高くなっても別に問題は……。

 

 …………何故だろう、我らがカアちゃんが雪姫の姿で腕をくんでため息一つつく映像が脳裏をよぎる。

 つまり、ガバると? うっかりミスで正体が発覚すると? そこまで自分自身に信用がないのか? 私は。……そこまで自分自身に対して信用がないな、私は。

 

『諦めたらそこで試合終了らしいわ、キクチヨ君』

「いや夏凜の姿にもなれるんかいっ」

 

 内側から「はひゃー」って感じの声が聞こえ、なんなら脳裏にもチュウベェの入った血装の球体を手元で弄ぶ星月と思われる夏凜の姿が過った。間違いなく星月がこちらにメッセージを送ってきたのだろうが、思わず声に出して突っ込んでしまったのでメイリンが困惑している。第四の目を向けてはいないが、向けずともそのくらいは察せられた。

 とりあえずそのクールなお顔のままお可愛らしいお声で囁くのおやめ下さいCV的に(懇願)。アニメだとクールなお声だったが、ちみっ子じみた声の方が普通に飛んで来ると、ビジュアルとのギャップで頭がおかしくなりそうである。

 

「いや、まぁ、何と言うか今までの実績的に否定するのが難しくなりつつあるが、いや、それだってアレだろ? お前さんだってそれを言い出すと、あー、自意識過剰ではないが、私に対してそのテの感情を抱いていても不思議ではなくなるのだが……。別にそうでもないだろ?」

 

 ここでちょっと恐怖のあまりに第四の目を切ってメイリンの方を振り返れば、私から顔を逸らしてる彼女は、腕を組んで「何で自分に関しては自覚が薄い、かな」とか言い出している。

 ううん、つまり……、どういうことだってばよ?(現実逃避)

 

「…………まあ違う、けどね。でもどうして先輩は、そんなに胸の奥の柔らかいところに根を下ろすのが得意なのさ。趣味?」

「おそらく人類最低レベルの趣味なんだが、それ……」

 

 とはいえそれも理由の七割くらいは「見てくれが良い」という一点に集約されるのだろうし、このあたりはスプリングフィールドの血筋や近衛、桜咲の血筋の問題が大きいだろう。私だけが別に特別何かあると言う訳ではない。所謂「ただしイケメンに限る」というやつだ。

 とはいえそのバフも、状況次第であっさり流されるのだから、こと男女間の信用や信頼関係は難しい。「この」立場でなければ面倒と投げ捨ててしまっても不思議ではないのだ。というか「私」の中のダレカはそういうタイプだったみたいだし。

 

「普通にしているだけなのだがな。…… 一応言っておくが『優しい』っていうことが評価される時代なんてそれこそ100年以上前にすたれてるからな? 皆横一列でほどほどに優しくて、ほどほどに自分勝手で。だからそういう、受け入れるような振る舞いが刺さる相手なんてそう数はいないだろ」

「……無暗に暴力を振るわないって、大事なことじゃない?」

「それこそ宇宙世紀じゃないけど、一番優しい奴は戦争なんてしない、暴力なんて振るわない奴なんだよ。でも、そういうのは人間が『生物である以上』評価項目にはならない。いざってとき、いやそうでなくても自分のために何かしら力を振るって、自分に有利な立場にさせてもらうとか、そういうメリットを感じ取るから相手と一緒にいたいってなるんだろ、人間。

 だから暴力性を見誤って家庭内暴力に発展する場合もざらにあるし『守るべきもの』が出来た時にふるまいが変わるとか、そういうのもあるが。まあ総じて人間なんてその時その時で求められる役割に対して振る舞いが変わる訳で、所詮はブラックボックスとケースバイケースのクジみたいなものだ。それでも人生、相性30点同士でもお互いルール決めて添い遂げようって前提さえあれば何とかなるし」

「随分ドライな考え方じゃないかナ……」

「100点を求めない、というのも一つの救いだぞ?」

「諦めの境地()奴だネ……」

 

 何故片言? というツッコミは置いておいて。これに関しては「前世のうちの一つ」、妖魔退治のエージェントとして働いていたダレカとしての記憶が強い。潜入調査で勝四郎(その前世における九郎丸的ポジション)と一緒にとある財閥系列の会社に潜入し、何をバグったか令嬢に気に入られてお付き合いすることになったが、調査が終了する前の段階で破局している。あのあたりの経験から察するに、チーム内をいかに円滑に回して業務をこなすかーとか、そういうのよりも自分のために直接的に何かをしてもらいたい、という評価項目で彼女が私を見ていたのは明白だ。

 あれは多分、自分に都合が悪くなったら話をせずに勝手に決めてコミュニケーションもとらず、旦那が病気したりしたらすぐに逃げるタイプだったろうから、私的にはそれで萎えてしまったのもあり、交友関係は特に続けなかったのだが……。あの後全然あの会社とは縁がなかったが、どうなったんだっけか。

 いや、そんな「私」個人の話はともかく。

 

「こちらの時代でいえば、資産とか、魔法とか、あるいはスポーツとか。勉強も多少はアドバンテージはあるが、容姿がそれこそ優れなければ前の方も評価されない。もっと言えば富の集約化と娯楽の多様化、男女の均質化と雑多な時代になったせいで、少子高齢化も行ったり来たりで全体としては人口が減っているし。その余波が強く出て、容姿が良い人間=資産や甲斐性がある、頼れる、上質な教育を受けている、みたいな生物としての集約と淘汰が行われているし。政府は総中流社会をもう一度とか言ってるけど、『社会的な正義』が行き過ぎればそういうのも夢のまた夢に遠のいているしな。

 面子が特殊だという事情を鑑みたところで、全員が全員に適用できる話でもないだろう」

 

 そしてそのあたりの「切り捨てられた側の怨嗟」も、おそらくは水無瀬小夜子が神として祀り上げられた時のそれに集約されている一端なのだろうし、所謂ラスボスの身に統合されている「敗者」の念の一つでもあるのだろうから、話がまた厄介なのだが。

 夏凜? えーっと…………、まぁ大体あのタイミングで夏凜と遭遇する原因を作ったカアちゃんが悪いと言うことで(責任転嫁)。

 

 全員に適用できる話でもないというこちらの返しに、それはまあそうなんだろうけど、とメイリンは言葉を濁す。

 

「先輩が何でそんな擦れた恋愛観をしてるかわからなけど、しいて言えば……、タイミング。うん、タイミングなの、かな」

「タイミングねぇ」

「うん。たまたま、というと少し違うかもしれないけど。それでも一番つらい時に手を差し伸べてくれるような。その相手がたまたま先輩だから、というのが重なり続けてるんじゃない、かな」

「結局容姿九割なんだよなぁ……」

「本当に何でそんなネガティブなの先輩……?」

 

 こっちの世界でも朝倉清恵のこともあるし。生きている人間である以上、万事が万事、相手の事を100%好きか嫌いかとか、そういう判断だけで生きる程私たちは恋をするために生きていないのだ。

 要するに、そんなことより世界がヤバい。…………それでいてある程度の恋愛をこなさないと世界が滅ぶって言うのが既に色々と無理があるのだ。正気かこの世界!? 正気じゃないなこの世界……。

 

 まあ、だからこそこの恋愛観をもとに「最低限」「判る情報の範囲で」普通に接しているだけなので、惚れた腫れたに関してはたとえ本人たちの心の動向がどうであれ、それこそ何かしらの因果律のようなものが働いているように感じてしまい、妙に申し訳がないのだ。

 原作通りのルートでそれなりに相手に愛着を持って接することも必要だし、当然できるし、それなりに恋愛感情のようなものも抱けなくはないだろう。

 

 ――――それでも、エヴァちゃんのような例が出ないと言うことではないのであって。

 

「そうか。……そういうことか」

「や?」

  

 だから、そういうことかと。何故こうも夏凜に会いたいのかというのが、なんとなく腑に落ちた。性的なそれも含めるが、彼女の感情の推移とキャラ崩壊には、原作的には恐怖しかないのだが「私」個人にとっては、その個人を保証してもらえるものであって。「私」が「私」であることを、事故的にではあるが肯定してくれる相手として彼女がそこにいるからであり。

 結局そこは「原作に寄せる」と「原作から外れる」、つまり世界崩壊のリスクを減らすことと増やすことの狭間に立っているようなものなのだと、改めて思い知らされた。

  

 これはこれで軽く鬱になりそうな話だと、変な疑問符で頭を傾げるメイリンに特に答えず、私はキティちゃんの戦闘の行く末を見守り。

 

 そして丁度、ルイン・イシュクルの首から下全部が氷漬けになったその瞬間を目撃し。私は錫杖状態の黒棒を背中から抜いた。

 

 

 

 

 



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ST194.みんな消え去ってしまえば良い

プロットを何話か一気にまとめたので話が急展開過ぎるかもしれませんが、色々ご容赦くださいませ……
 
言葉にならない言葉


ST194.Please let all love fallen dirty.

 

 

 

 

 

『いや参ったでござるよ。真面目に反抗すれば今からでも何とかなるにはなるが、今の実力でよくぞここまで、でござるな。かの魔女から実力もまだまだだが、基本的には努力の女と聞いていたでござるし、精神が落ち着いていれば順当に、というところでござろうか』

「ハッ! 何を聞いていたかは知らぬが、この私を甘く見たな?」

『うむ。子供は日々成長するものでござるか』

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック――――」

『じょ、冗句にござるよ冗句に!? そう殺気立たないでほしいものでござるなぁ……』

 

 ふん、と苛立ち交じりに、手前に魔法の矢を十数発放つ。

 完全に八つ当たりだが、我ながらますます子供じみた挙措に感じられて、苛立ちは増すばかり。

 どこかで抑えなければならないのだが、ここ数日のストレスが出たのか私の苛立ちは収まる気配がない。

 

 魔術の空間座標での固定。

 発動直前の状態で複数待機させるという形で運用したが、本来の扱い方は異なるはずだ。

 あの男、果心居士(カイン・コーシ)が行っていたのは「術を自らに取り込む」というそれ、であるように見える。

 その術自体は、敵が使ったかどうかは問わないということなのだろう。

 修行に際してこの技をあえて使用したと言うことは、つまりはこの固定した術そのものを素材に何かするのだろう。

 

 だからこそ、そう考えれば考える程あの男が私にさせた修行や、言っていたことを踏まえれば。あの男が伝授させようとしている術を扱うのは、私には「まだ」早いということだろう。

 それこそダーナ・アナンガ・ジャガンナータ・ロー・マンティ程ではないにしろ、カイン・コーシもまた人外の類。

 人外になっていまだ100年に満たない私など、赤ん坊に毛が生えたようなものだろう。

 

 だからこそ途中で思考を切り替え、現在の手札で精霊たちを倒す方法を組み直したのだが。

 

 

 

 ――――だからこそわからない。目の前に「トータが四人現れた」ことの意味が。

 

 

 

「…………なん、……だと………………?」

 

「行くぜ、キティ!」

「負けるなよキティ!」

「隙あり、だぜキティ!」

「パンツ見せてくれよキティ!」

「「「いやスケベすぎるだろお前だけ!!!」」」 

 

 いや、約一名何を考えているか。()て砕くぞ。

 

 雷の上位精霊から、例の「闇の魔法 構造解説書」とやらのありかを聞き出そうとした瞬間、私の周囲にさっそうと降り立った四人のトータ。

 どのトータも見たこともない髑髏の意匠が施されているような独特な恰好をしており、はっきり言ってダサい。

 手に持つ剣も直剣にしては短く細く、それらで斬りかかってくるトータたちに、即興でまだ複数固定されている吹雪(テンペスタース)氷槍(グランディニス)に置換。

 発動と同時に私と連中の間に放ち、突き刺さったそれを手に取り振りかぶり、空中戦に移行する。

 

「やるじゃねぇか!」

「多対一だってのに、随分余裕じゃね?」

「キティ、身体ちっちぇーからすばしっこいなぁ、ハハハ!」

 

「良い気になっているのも今のうちだぞ? 奇襲により魔道人形の準備をする暇を奪ったのは評価してやるが、その程度でこの私を倒せると――――む?」

 

 斬り合う最中、声の数やらを見て違和感を覚える。

 三人? もう一体は何処に行った。

 

 違和感を感じながらも、私は氷の槍を振りかぶって投げる体勢に入り――――。

 

「…………うん、白は良いと思うぜキティ」

「はっ――――――!?」

 

 今にも槍を振り下ろそうとして空中を舞う私の下から、さっき下着を見せろとのたまったトータがしゃがみ、半眼で目を細めて何を納得してるのかしきりに頷いている。

 視線は当然のように私の脚の付け根に集中しており…………、ッ!!?!!?

 

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック――――百の氷爆(ケントゥム・ニウィス・カースス)

 

「おわッ!?」 

「「「だから止めとけって言ったのに、俺」」」

 

 ノータイムでキレた私は凍気の爆風で砕き殺そうとしたが、情けない声を出しながらもスケベなトータは腕を犠牲に斬り落とし、それをこちらの術の対象として逃げ切った。

 そのまま「生えて来た」腕をぐーぱーして「よし」と言い、また私の身体をじっと見つめて、見つめて……。

 

「ええい、貴様だけ何かおかしいだろ!?

 トータも流石にそこまで積極的な変態ではない! というか、あってたまるかッ!?

 例え偽者だとしても、貴様、もう少し本物に寄せる努力をせんか!!? この出来損ないがッ!」

「えぇ~? だってキティだって見られたいんだろ? そんな滅茶苦茶短いスカートひらひらさせて」

「断じて違うわっ!?」

 

 いや、確かに短いのは認めるが、これはそもそもフリッフリで子供趣味が極まったような恰好を強要してくるあの狭間の魔女に対する反抗という意味が強いのだし……。

 その類の恰好は嫌いではない、むしろ好きな部類ではあるが、誰かに強要されるのはそれはそれで真っ平御免なのだ。

 

 だというのに、私の一言にスケベなトータはともかく、他の三人も「あ~」「やっぱり?」「痴女か……」などとブツブツと無駄に物を言いおってからに……。

 しかも何が嫌かと言えば、おそらく偽者だろう全員が、そのどれもにトータらしさを感じてしまう私の心がだ。

 

 かれこれ数十年は会っていないというのに、たとえ偽者だとしても、こうして現れれば記憶の中から類似点を見つけて、どこか喜んでしまっている私の心がチョロく、情けなく、腹立たしい。

 

 まぁ良い、魔法の射手(サギタ・マギカ)を追加で詠唱して腰回りにロングスカートのように纏う。

 スケベなトータが「あっ……」とか残念そうな声を出しているが、貴様本当に冗談抜きで変態かッ! こんな胸も全然膨らんですらいない、幼児体型の小娘の身体に欲情しおって、創造者の趣味を疑うわっ!

 

 内心キレちらかしながらも、仕掛け人だろうあの男――――東洋から来たらしいカイン・コーシの方をちらりと睨み。

 

「――――――――」

 

 何故かこちらに向けてサムズアップしてくるあの男を、今度こそぶち殺さなければなるまいと決意を新たにした。

 全く意味が解らんわ! あの様子から敵対に態度を変えたわけでもないようだし、一体何を考えているあの男!?

 

 というかこのトータたちはアレか?

 散々揶揄いながら私から聞きだしたトータのイメージから再現したとでもいうのか?

 

 ………… 一体何だと言うのだ、東洋の神秘とか謎の技術力とでもいいたいのか。意外と再現度が高いから余計に腹が立った。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「先輩が何したいのか良く分からないヨ、ね……」

 

 動揺しているのか何故か片言になっているメイリンと共に、私は空中戦をするキティちゃんを見上げている。足元でルイン・イシュクルが「拙者は何を見せられているのでござろうか」とか思っていそうなことを考えているのが視えるが、それはまぁお師匠からアルバイト? させられている以上はドンマイということで。 

 

 キティちゃんの戦闘が一段落ついた直後。私がやり出したことを見たメイリンは一番最初に「うわぁ」と述べて、それ以降何も言わなかった。というかドン引きしていた。そりゃそうだろうと私が第三者だったら間違いなく同じような感想になるだろうが、こちらはこちらで多少自覚的だった。

 何をやっているかと言えば「血装で分身を作った」。このカイン・コーシとかいう怪しげな男の姿ではなく、すなわち近衛刀太の姿。

 それも4体。

 形成したそれぞれに死天化壮(デスクラッド)をまとわせる。ただし形状は卍解(オサレ)天鎖〇月(オサレ)のヒラヒラではなく完現術(オサレ)骨骨スーツ(オサレ)な感じにアーマーを成型。色味やら何やらも調整しつつ、黒棒を複製できないのでついでに代行証(オサレ)ソード風のアイテムも装備させる。おお、完璧! 漫画的には中々にクソダサ(ノット・オサレ)であったが、立体物として見ると結構イケてると個人的には思っているので、中々様になっているではないか。おそらく細かい部分の調整に手を貸して大忙しだろう、星月には本当に感謝感激である。

 

『その割にやろうとしてることは悪趣味なんだけどね……(私のせいじゃないだろうな、まさか)』

「ぼそぼそ言ってて何言ってるかわからないからスルーするぞ、星月」

 

 とにかく形成されたコピー刀太たちは、私の目を見て頷くと、そのまますぐさまキティちゃんの方目掛けて空中を駆けて行く。錫杖モードの黒棒をふるのに合わせて動いているため、見た目は完全に悪の魔法使いのそれだ。

 

 もちろん、動揺を誘うためにコント調にして適度に緊張感を削ぐのも忘れない。

 

 緊張感を削いだところで実質的には何も変わらず私のオーダーを履行するコピー刀太たち四人。まだ固定されてる術式に突貫して誘爆を狙う2人と、素直に正面から斬りかかる一人、ついでに背後に回ってしゃがみこんでどう見てもパンツを見ようとしている一人。おかしい、あんな性格設定したっけか……?

 

 ともかくそんな連中の戦闘が続いているのを見て、沈黙に耐えかねたのかメイリンの先ほどの一言である。それに対する回答としては、何になるだろうか。

 

「時間稼ぎっていうのが間違いなく一つなのだが……、後はまあ、罪滅ぼし?」

「罪滅ぼし? 何で疑問形なのかな」

  

 実際問題、このままキティちゃんをお師匠のもとに帰すと早すぎるのだ。何かしら時間稼ぎをする必要があるのは間違いない。だからと言ってこれ以上は何をやっても不自然なことになるのだが、そこは今の私の姿形がカギになる。

 そう、今の私はガバの温床になりかねない「謎の術師カイン・コーシ」である。キティちゃんのイメージとしては、お師匠程ではないにしろこちらの方がより上位の人外の怪物であると認識させることは出来ているはずだ。

 

 だったら多少、理不尽な振る舞いと言うか、「まだ修行は終わっていない」的な振る舞いをそれっぽく行っても、まだ彼女への言い訳が立つだろう。「意味不明だわっ!」とキレ散らかしはするだろうが、それくらい訳の分からないことをしても不思議がないと思われる程度には、私は彼女から微妙な反応をされるようにふるまってきた。

 実際「第四の目(ザ・ハートアイ)」で視ても特に問題なく心の動きはそうなっているので、このあたりは私の作戦勝ちである。

 

 そう、だから。

 彼女が愛した刀太「そのもの」のような何かが襲い掛かってくることで動揺を誘う。これだけでも十分混乱するだろうが、だからこそ敵意もなく斬りかかってくるような、つまりは「キティちゃんにとって理解不能な状況」を作り出すことが、この場合の目的だった。

 ……何か一人だけ、私が設定してないような変態さんに仕上がっているが、それは置いておいて。

 

 少なくとも、彼女にわかる尺度で物を見て考えて、足止めを喰らっているという結論にさえ至らなければ良いのだ。

 ただそれはそうと。

 

「罪滅ぼしにしちゃ業が深いことになってるからなぁ」

 

 本来なら彼女が出会えたかもしれない「本来の」近衛刀太。私ではない、本来あるべき時間軸にそって、原作の軸で彼女と出会った近衛刀太。その再会を、いかにお師匠から言われたからとて、いかに原作から逸脱するガバの類になるからとて、積極的に妨害をしているのだ。当人からすればたまったものではない。それこそ何度八つ裂きにしてもお釣りがくる程に憎まれるような所業だろうと、「私」はそう考えている。

 こういう巡り合わせみたいなのも含めて本当にキティちゃんと色々巡り合わせが悪くて仕方ないのだが、だからといってそこから逃げる訳にもいかず。

 結果的に、こうして疑似的に刀太と話すということを実現させるくらいしか、私には出来ない。

 

 あそこに立つ刀太たちは、彼女が求める刀太ではないかもしれないが、それでも「原作」を改めて読み込んだ私が、今までの近衛刀太としての経験をもとに導き出せる近衛刀太としてのすべてを乗せた刀太である。

 人数が多いのは単純に「現時点での」本来の刀太で、動揺したキティちゃんとギリギリ引き分けられるくらいの実力を配分するとあの人数になったというだけなのだが。だからこそ、そういった一通りを含めて所業として、業が深い。

 

 罪悪感で胸が一杯で、申し訳なくって――――カアちゃんにすら合わせる顔がなくなってしまいそうだ。

 それでも状況を変える訳にはいかないのだから、嗚呼、いっそこれは悪い夢であれば良いのだと。…………それでも辿り着く先から、逃げてはいけないのだと、空元気で、勇気を出した。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 朝日。

 狭間の世界と揶揄されるこの場所でも、日が昇り沈むというサイクルだけは確かに残っている。果たしてそれはかの魔女ダーナが意図してそう規定したせいか、はたまた時空を超越した彼女にとってもその惑星のライフサイクルまでだますことが出来ないせいなのか。

 

「キティ!」

 

 そんな朝日差し込む異様に長いテラスに、制服姿の少年が一人。半袖のワイシャツにネクタイ、ズボンと簡素な格好だが、何かに期待し、何かに焦燥を煽られ、駆られ、足早にたどり着いた彼の声は、響き、そして返ってこない。

 

 ただ雲海から日が見えるのみ。そんな光景に、どこか寂し気に乾いた笑いを浮かべる。

 

「は、はは……、いるはずねぇ、か」

 

 安心したようにも、あるいは気落ちしたようにも見える少年は、そこまでの元気さが嘘のように気落ちし、「どの時間軸においても」まるで当然のように設置されたテーブルとイスとのそろったお茶会でも開けそうなそこに、しゃがむ。

 

「フー、四十年だもんな。……たった数日、しかもバラバラで全然連続しちゃいない。そんな風にしか出会ってない俺のことなんて、覚えてる方がどうかしてる、か」

 

 弱音を吐く少年。すなわち「近衛刀太」は、むしろこちらの方が素の性格なのだろう。キティと彼が呼ぶ少女も薄々は感じただろう、単純な馬鹿や阿呆ではなく。その振舞う根の部分には、自分の人格と立場の不安定さと、自らの正体への恐怖と。そして自らが愛する誰かへの気持ちの所在の置き所が、どうにも据わりが悪く、よく悩む。

 そういった点では、彼の祖父とされるネギ・スプリングフィールドそっくりの性格であり。根の暗さだけで言えば、「神楽坂菊千代」を自任する近衛刀太のそれとも近い。

 

 もっともそれがどういった意味を持つのかを、この時点の神楽坂菊千代は把握できているわけもないのだが。

 

 さて。そうして落ち込んでいた刀太だったが、ふと、手元に違和感を覚え。目を開けじっと見て発見する。それは、おそらくはキティからの書き置き。わざわざ地面を刻んでいる以上、もしや彼女は何かしらの事情で今、この城に居ないのやもしれないが。それでも自らの事を忘れず、この場にメッセージを残していた――――自らを忘れず、再会を祈ってくれていたと。

 それだけで刀太の心臓はドキリと跳ねる。

 

「えっと……、『今回は会えない。287年後、お前にとっては4日後の朝、また会って欲しい』。

 …………287年? ……287年…………、キティ……」

 

 彼の胸に去来したのは、果たしてどういった感情か。

 どこか遠くを見るように立ち上がった刀太は、思うままが、口から零れる。

 

「40年……、アイツ、俺の事覚えてたんだな。本当に。それどころか、会って欲しい? 会って欲しいか、そっか…………。

 あー、でも喜んでばっかいる場合じゃねぇな。大体300年くらい後? だってのに、また会ってくれって。アイツ、一体どんなつもりで、これをさ……。

 …………雪姫」

 

 自らの掌を見つめ。握り。

 何かの決意を新たにした彼に―――――。

 

「トータ――ッ」

 

 ――――姿の掻き消えた彼に、声は届かず。

 

 こつこつと「たった今」戻った彼女は、懐かしい「血の匂い」に急いでテラスまで駆け。嗚呼、だからこそ見つけたその彼に、自らが「会えなかった時の為」時折刻み、狭間の魔女に消されまいと何度も残していたメッセージを読み、自分の心が届いたように、寂し気に喜んでいた彼の姿に、その背中に声をかけたのだ。

 

 声を、かけたかったのだ。

 

「……そういうことか。性格が悪いぞ、魔女。

 あのカイン・コーシとやらを呼び出したのも、そういう筋書きのためか」

 

 その声は、やるせなく。

 自棄というにも力がなく、それでいて物言い以上に誰かを責める気力もなく。

 

 そんな彼女の姿を、城の扉の向こうから見る人影が二つ。

 その二人へ顔を見せぬよう、少女は、エヴァンジェリン・アタナシア・キティ・マクダウェルは背を向け、わずかに俯き。

 

「…………」

「先輩…………」

 

 その彼女から決して目を背けまいと、ただじっと視線を送る男は。傘越しで表情の見えないその彼を見て、メイリンと偽名を名乗る彼女は、とても辛そうな顔で、自分の胸元で手を握った。

 

 

 

 

 



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ST195.オーロラは破られた

もしかしたらお気づきになられていた方もいらっしゃるかもしれませんが、ついに彼女の正体判明。


ST195.Who Are You?

 

 

 

 

 

 はっきり言って神は死んだ(断言)。

 そうとしか思えない程に私の精神はぐらぐらと揺さぶられ引き裂かれそうであり、これを止める術はおそらくない。わかっていた。わかっていたはずだった。だが実際に「自らの手で」それを為した時に受けるストレスの規模と言うのが、想像の埒外に堪えていた。

 夏凜とのあれこれを師匠に思い知らされたのとは違う。アレはまあ、色々紆余曲折あったとはいえ最終的に夏凜と私の間とである程度の決着が見込める話ではある、はずだ。それは少なくとも「私」と彼女との関係で、明確に区切ることが出来る。

 だが今回は…………、既にお師匠の手によって「時間切れだよ」とキティちゃんとは違う時間軸に送られてしまった以上、私に出来ることは無い。そもそも初めから私が「私」であって彼女の近衛刀太でない以上はどうしようもないことであって。その再会を、彼女の愛する刀太との再会をギリギリで阻止したことは。私の本意「だけではなかった」とはいえ意図的に妨害し、分断し、ああも傷ついた背中を見せられた側としては、欠片も笑うことが出来ないのだ。原作的には9巻冒頭から逸脱していないとは言え、それはそれこれはこれである。私の分身で時間をかせぎ、例の特典たるお師匠からの本を読ませて一眠りし、八つ当たりを受けた末に上り、今に至ったのだ。徐々に徐々に蓄積された罪悪感は、心と体に悪い。

 

 血装を解除し、黒棒を召還(アベアット)し、絶賛テラスにて落ち込んでいる私。空は快晴だというのに対照的に心は欠片も晴れておらず、メイリンが悲しそうな表情で私を見ているのにすら気遣う余裕がない。チュウベェすら私のもとから抜け出した後、空気を読んでかテーブルの上で丸くなって眠って、煩くすらしていなかった。

 

 というか「第四の目(ザ・ハートアイ)」を起動したくすらない。あのキティちゃんの声音を聞いた時、意図してではないが全自動で能力が解除された。それ自体が私の心の本音の表れであろう。どう考えてもああして鬱屈とした彼女の姿を作り出してしまったのだ。そこから目を背けてはいけないとなけなしの勇気で臨みはしたが、結果がこれである。無意識にシャットアウトして、彼女の悲しみを直視することを拒絶したのだ。

 我ながら何ともヘタレ極まりないと鼻で笑ってしまう。そして深いため息をついてしまう。星月に声をかければ何となく慰めてくれそうな気もしているが、ただそれをするには色々と今の私は罪深く、必要悪というには主体性がなさすぎた。

 

「あまり落ち込むもんじゃないよ、トータ。必要なことを必要な形で成したのだから、クヨクヨ悩む話でもない」

 

 そして当たり前のようにデラックスサイズなモードのお師匠が現れ、コーヒーを私とメイリンの手前に置いた。カップやらスプーンやらティーセット一式が非常にオシャレで、しかし注がれるコーヒーはなんとなくアメリカンな薄い風味。酸味を感じる香りはなんとなくブラジルっぽいが、砂糖だけ溶かして一口飲むと味が判らなかった。どうやらだいぶ、ストレスでやられているらしい。

 非難を視線に込めようにも、事実上共犯であり「原作を思えば」主犯である以上、その資格もない。大人しくコーヒーを飲みながら、酸素を吸って二酸化炭素を吐きだす作業にだけ意識を向ける。

 

 ……呼吸に意識を向けすぎて、逆に自律神経でも狂ったのか息がしづらくなり、むせた。

 

 あー、いやー、とメイリンがこちらの背後に回って背中をさすってくるのがありがたい。ありがたいが、お礼の言葉も出てこないくらいには声がかれており、つまりは「心が病んでいた」。

 どうしようもない。少なくとも嗚呼、今の状況で私が何をするか、できるかなんてことすら考えるのすら億劫で――――。

 

「――そんなに辛いというのなら、アンタの(ヽヽヽヽ)イシュト=カリン・オーテでもここに呼び出すかねぇ。せいぜい癒してもらえば良いさ」

「いや本来の時系列基準で考えてガバ以前の問題だろ何考えてんだアンタ(戒め)」

 

 それはそうとお師匠の危険な発言で我に返った。冷や水を浴びせられる所の騒ぎでは無かったのだ仕方ないね救いはないね(無常)。変わり身の早さにメイリンが「や!?」と変な声で困惑してるが、こればっかりは仕方ない。いくら夏凜に甘やかされたいという欲が脳裏でちらついても、原作基準で考えて危険極まりないことは、これ以上慎まないといけない。

 どうせ何やったって慎めるわけないのだから、自覚的に少しでも慎んだ方が多少マシだろの精神である(自棄)。

 

『本当は大河内アキラの方が良いとか思ってるくせに』

 

 星月、シャラップ。

 大河内さんボイスでのそれは色々とグサリとくる。

 

 とりあえずもう一口だけコーヒーを飲んでお師匠の方を見ると、やれやれという風に肩をすくめられる。ちょっとオーバーな動きだが、ある意味でデフォルメされたようなお師匠のその大柄な体躯には合っていた。

 

「で、結局どうなったんスかね。キティちゃんは」

「安心おし。あっちのアタシが色々あることないこと言ってどうにかして、アンタの知る通りの流れに乗ったさ。時系列の分岐も最小限に留められたし、まあ結果オーライと言えるんじゃないかい?

 そこのメイリンなんかと違って」

「あー、いやー、……」

 

 困ったように身を縮めるメイリン。ちなみに現在の恰好は何故か超包子(チャオパオズ)のウェイターなもので、中華風ウェイトレスといった具合だ。ご丁寧にエプロンも腰につけているが、何だろうねその恰好は。

 お師匠いわく「元々着用していた服」ということらしい。まあ似合っていると言えば似合っているのだが、一応は超の知り合いということでこそのチョイスなのだろうか。もしくは描写されていないだけで「ネギま!」での超包子の中にお前さん、店員として活動していた可能性が微レ存……? その理屈だとタイムマシンで置き去りにされてそうだし、違うのだろうが。

 

「そういえば、メイリンって一体何をやらかしたのだろうか。本人から『世界が滅亡した歴史を作った』から全裸で投棄されたとは聞いたが」

「――――――――ッ!」

「何いっちょ前に恥じらってるのかねぇこの小娘は。いわゆる年頃らしい生活なんて三年ちょっとくらいしかしていないだろうに。

 何をしたかと言えば、言葉通りだよ。アンタも『そのうち察する』から直接言及しやしないがね。日本の歴史で例えれば信長、秀吉、家康が国ごと戦国時代からばっさり消え去った上に『時間軸の欠損を補填しない』なら何が起こるか、みたいな話かねぇ。タイムパトロール総出で事に当たるレベルだろうさ」

「そりゃ…………、歴史壊れますわ(震え声)」

 

 正直、想像だにできない仮定の話を放り投げられても困るのだが、そこのところどうお考えなのでしょうかね(震え声)。

 

「まあとにかく、事故とは言えご苦労様だ。この後アンタは元いた時間軸に帰してやれば良いが、このメイリンはまだ『賠償』の方法すら決めかねてるし、何にせよそのための労働が待っているからね。

 そのうち会えるだろうし『もう会ってる』かもしれないが、別れの挨拶くらいはさせてやるよ」

「何ですかね、その不穏な発言? こうまるで、これから殺処分される野生化したペットに向けるみたいな物言い…………」

「そりゃ、当たらずも遠からずだからねぇ」

 

 はい?

 聞き返す私に、メイリンは寂し気に微笑み、師匠は何と言うことも無いように腕を組んで続ける。

 

「当たり前だろう。この子がやらかしたのは、いわゆる縦軸一本の崩壊だけじゃない。横軸から飛んだ先で縦軸を滅ぼした以上、それは中間にある全部の横軸の世界線にも波及する。

 水面に大きな石をドボン! と投げたようなものさ。波紋は広がり、その悪影響はアンタの知るところのガバの温床になっていくだろう。それこそ――――特に何かしたわけでもないのに、本来の歴史における近衛刀太が『始まりの魔法使い』ヨルダ=バオトに敗北する歴史が生まれるように」

「…………」

「どれほど重大なことをやらかしたか、わかったね。つまりこのメイリンとか言ってるこの子は、これからそれらに波及した全てに干渉する必要が出てくる。そうである以上、そんなことが出来る存在はもう、ただの生物の枠に置いて良いものではない。波及に干渉するためには『全ての軸の存在』を束ねる必要があるからね。アンタが見た近衛刀太や雪姫の邂逅が、歴史における収束と言う形であったように。

 アタシほど規格外とは言わないが――――どこにでも居てどこにも居ない、すべての横軸と縦軸に存在『しうる』が、同時に全ての軸に存在『できない』、そういった存在になってもらう」

「SF極まりすぎて何言ってるかわからないっス(素直)」

 

 思わず呆けた顔で問い返してしまった。お師匠が「やれやれ」と頭を左右に振り、メイリンはくすくすと笑う。

 えーっと、つまり…………、ザ〇ワン(ジェット・リ〇)? ザ・ワ〇(ジェ〇ト・リ-)ってこと? 全ての世界線から存在を弾かれるような、そんな存在になって自らの犯した罪を修正しにいくと、言ってることの表層だけまとめればそうなるが。それはつまり……。

 

「今のメイリンには、もう会えないということか?」

「アンタの歴史にいるこの小娘はそのままだろうが、将来的に今ここにいる小娘になる以上は、そう解釈しても構わないさ」

 

 それは何と言うか……。いや、やらかしたことがやらかしたことだし、私がとやかく言えるような権限も何もないのだから、正直出来ることは無いのだが。だからといって知り合いの未来の姿らしい彼女に「君の人格、消えるよ……」みたいにトリプルカウ〇ターめいたことを突き付けられて、何がどうしてどうなったという話なのだが。下手するとそれこそ、超以上に刑が重すぎるのではなかろうが。

 思わずメイリンを見て「第四の目」を起動しようとする。しかし師匠の近くにいるせいかメイリンの思考も靄に包まれ、こちらからは観測することが出来ない。

 と、師匠から注意される。

 

「野暮なことは止めてやりな。せっかくの別れ際にそんな情緒もへったくれも無く思考を直球ダイレクトに読まれたらたまったもんじゃないだろうさ」

「いや……、まあ確かにOSR(それっぽさ)を考えれば悪手ではあるんだが」

「アンタも言いたいことがあるなら、とっとと言えば良いのさ。ここで本名を言っても良いし、そうでなくても良いよ、どうせ大した影響はないさ」

「あっ…‥、いや、はい…………」

 

 メイリンはそう言って立ち上がり、椅子に座る私の手を引く。つられて立ち上がった私を見るメイリンは、寂し気に微笑んだまま、私の両手をとる。

 

「えっと……、今の先輩からすると私はどういう扱いのころなのか分からないけど、さ。それでもたぶん私が私として、私だけ(ヽヽ)の言葉を言えるのはこれが最後だと思うから、さ。一応、いっておく」

「お、おう……?」

 

 

 

「――――ありがとう。先輩と出会えたお陰で、私はき()勇気を出せた。結果が望む形で決着つかず続いたにしろ、その一歩は間違いなく意味が、あった」

「…………」

 

 

 

 そう言われるだけの何かを、将来の私は彼女にしたということなのだろうか。今の時点での私たちの関係は、そこまでのまっすぐな感謝を向けられるほどのものではないはずだ。

 困惑が勝る私に、わかってたとばかりにくすくすニコニコ笑うメイリン。ふと、そのニコニコ笑いに見覚えがあるような気がしたが、そのデジャビュの正体に私が行きつくより先に彼女は私の額を人差し指で小突く。

 

「いいよ。でも、少しでもまだ知らないにしたって、私のことを想ってくれるなら。……私が消えるかもしれないってことに、少しでも違和感を感じて、ものを言いたいような気持ちが少しでもあってくれるなら、それでいいよ、ね。

 私だって素直に溶けて消えるつもりはないし、そこはタローマティも了承してくれてるから。だから……、少しだけ力を借りるよ」

 

 はい? と。彼女がそう言った瞬間、空がいきなり紫のような、青のような夜空となり、玉虫色に星々の輝きが照る。同時に椅子とテーブルもどこかへと消え、私とメイリンは輝く魔法陣の中にいた。

 あまりにいきなり景色が切り替わったせいで反応できない私だが、視界の端でお師匠が両目をお手々で塞いでいるので間違いなくあちらの仕込みだろう。またアレか? 目の錯覚を応用したか何かで物理現象を超越なさりましたかね(震え声)。

 

 そして緊張から身体が固まり、いざ血装でもするかしないかというところにいた私に、メイリンがそっと近づき。

 こちらの両肩をもって、倒れ込むように。

 

 

 

「――――コード9784063955637、呪紋回路・起動。『ラスト・テイル・マイ・マジック・スキル・マギステル』」

「はっ――――?」

 

 

 

 何だその始動キーは、と問い詰めるよりも先に、その唇が私の唇に触れ、魔法陣が輝いた。

 

 瞬間、メイリンの全身から黒い帯のような魔力が走る。一目で理解する、その正体は嗚呼、「金星の黒」の魔力の渦! 闇き夜の型、とも呼ばれるそのオーラが彼女の全身を覆うと同時にこちらと魔力の綱引きを始め、それは数秒と持たずに三つのイメージに集約される。

 

 一つは「スポーティな中華服に鉄扇を持った」誰か。

 一つは「雑技団めいた中華服に蒸籠を複数かかえ肉まんを咥えた」誰か。

 一つは「笹なのか竹なのか分からない物体を持ち一息ついてるパンダのような」デフォルメされた誰か。

 

 ……いや最後ちょっと待て。いや、最後どころか全部待て。

 

 ツッコミだけが頭の中で延々とループする中、私から唇をはなした彼女は、それら3つのカードが1枚のカードに変化するのを待ち。同様に増えた2枚のカード。描かれているのはスリットの大胆なチャイナドレスに扇子を構え、得意げな顔をした、具体的に言うと一期アニメ(火葬現場)で見たことのあるようなものを原作の絵柄に寄せたようなもので、しかし対象者はそれなりに大人のものであって。背景は青系になっているのはネオパクティオーの仕様通りだが、そこが問題ではない。

 

 問題はそう、刻まれている名前だ。そのカードに書かれていた名前は――――

 

我が身に秘められし(オステンド・ミア)力よここに(・エッセンシア)――――来たれ(アデアット)!」

 

 

 ――CHAO LINSIEN――

 

 

 

「ちゃお、…………りん、しぇん……?」

 

 ちょっとだけ「何、だと?」みたいなイントネーションに寄ってしまったが、再び分岐し周囲を回る三枚から引き抜いた一枚に従って、彼女の衣装が変化する。

 

 二十代の女性らしさを残したまま、赤い、へそだし風の中華チックな格闘家っぽい、ミニスカの服。

 腰には畳まれた鉄扇が二つ下がり、その場でくるくる回る彼女の髪は自動的に三つ編みに編まれ。

 どこからか飛んできた布と網止めとリボンが、非常に見覚えのある、見覚えしかないシニョンを形作り。

 

 いつの間にか復活していただろう呪紋回路が光を失い、目立たない形となり、それでいて彼女の頬は生気を取り戻して上気する。そう、さながら漫符で言えば赤いほっぺを示すような楕円形の何かが、目の下の頬に浮かぶように。

 

 ビシッ! と動きを止めた彼女は、さながらミュージカルの主演女優のように左手を胸に当て、一度お辞儀をし。

 

「じゃあ、行ってきます。――――頑張て来る()、先輩。また、会おう!」

 

 彼女は、そう、メイリンを名乗っていた彼女は、心配するなとサムズアップをして、その場から駆け出し。

 

 

 

 気が付けば視界の光景は、さきほどメイリンと話していたテラスに戻っており。色々と情報過多によって頭がパンクした私は、その場にぺたりと女の子みたいに座り込んだ。

 

「ば、ばば――――」

 

 言葉が途切れ途切れに出て来るが、それでも全力で叫ばざるをえなかった。私の、おそらく「全人格」が声をそろえて叫んだような、そんな妙な一体感を感じられた。

 

 

 

「――――馬鹿者(ばかもぉん)ッ!? お前が超鈴音(チャオ リンシェン)かーッ!!? 今までずっと傍にいたのかッ!!? 原作あれだけ読み直したくせに全く見破れなかったのかッ! この馬鹿(ガバ)野郎ォ!」

 

『何でカリオスト□……?』

 

 

 

 動揺のあまり何を口走ったかわからないが、星月が大河内さんボイスで困惑していたのは確かだ。だが正直それどころではないので、私もリアクションをとれない。

 あぁ確かにそれなら納得がいくとも。近衛刀太と従兄妹レベルの血縁であるだろうし、ネギぼーずの血を引いているだろうし、お師匠の修行の片手間に何か研究してても不思議はないだろうし、そもそも未来からお師匠の元まで独力でたどり着いても不思議はないだろうし、「世界を滅ぼした」罪でお師匠が捕まえて折檻するだろうし、そんな時空を超越した誰かになってしまったというのなら確かに将来的にUQホルダーに勧誘されていても不思議はないだろうがなァ! そういう問題じゃないんですよね、時系列的には私に馴れ馴れしかった頃よりは過去の姿なのだろうが、お前さん本当は何歳(いくつ)なのか教えろっ!(無茶)

 

 というか、え? そもそもそんな話って原作にないだろ? なのに何で出て来た? 生えて来た? えっ? これもガバ? ガバにしては特大の大針過ぎませんかね? えっ? えっ? キティちゃんで鬱屈しながらもガバをギリギリ回避できたと思ったらこれですか。人生終わってんな(震え声)。

 

 大混乱している私に対して、背後からお師匠が「少しは落ち着いて対処できないもんかねぇ、それだから小僧なんだよ」とか言いつつ、一言。

 

「まぁ安心しな。あの子の原典(オリジン)もいくつか存在するが、その全てがおおよそ統合される以上は何が真実で何が嘘で何が正史で何がガバかなんて、もうわけわかんないことになるから」

「――――――――」

「ダメだねこりゃ。意識がぶっ飛んでる」

 

 流石に今日は、ね。キティちゃんに続いてこれは、ちょっと、ね…………。

 燃え尽きたよ、真っ白に。

 

 そうか、お前さん前に視た時に「バレてないよね」的なことを考えてたのは、そういうことか。…………わっかるかいそんなモンッ!?

 

 

 

 

 



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ST196.かくして問題は先送りされるようです

今回内容的には薄いですがスマヌ・・・スマヌ・・・


ST196.Till We Meet Again.

 

 

 

 

 

来たれ(アデアット)! 行くよ、刀太君――――!」

「――――来たれ(アデアット)。まあ、大丈夫だぜ」

 

 私がメイリン……いや、まあ実際の所は(チャオ)な訳だが混乱するので呼び名はそのままにするとして、彼女がこの狭間の城に最初に到着した時の余波的な何かに巻き込まれて時空を超越した、その翌日。本当に何ら不都合も不具合もなく、ごく自然に当該の時間軸に戻された私は、当たり前のように訪ねて来た九郎丸と共に朝稽古がてら、軽く打ち合いをしていた。

 ここのところ色々とありすぎて情緒が大ダメージを喰らっていたせいか、対面した時はそれこそ半年以上の久々に自分の開きがあったような錯覚すら覚える。なんなら自分の時間軸で安心して顔を合わせられる相手と言うこともあり思わず涙ぐみ彼女をおろおろさせてしまったが、そのあたりは色々言って軽く流させた。

 九郎丸の方も何かを言いたげであったが、私のテンションに巻き込まれて言えずじまいのようである。「第四の目」を使えばそのあたりも一発で解消できるが、生憎とそう言う気にはなれなかった。いやさ、あまりにもメイリン(ニアリーイコール)超という情報はあまりにもあんまりすぎたものであって、この話を「第四の目」を経由してすら察せなかったこともあり、あれも万能なものではないのだろうと確信したが故にこそ、少し反省したのだ。

 

 見え過ぎるからこそ、見えなくなるものもある――――東仙(DJみたいな元隊長)ではないが、それはそれで低OSR(らしさが減る)、つまり死亡フラグの類である。

 私個人が死なずとも周囲を巻き込んで連鎖爆発しかねないのがこの世界。キティちゃん関係の様々な事柄の崩壊をもって、もっと色々と考えなければならないのだと判断した。

 

 だからこの打ち合いに関しては、現在の最高状態を基準に考えて、私は大きなハンデを負っている。

 それは、寝ぼけ眼をこすりながらやってきたキリヱが私に指さして叫んだ内容通りで、以前の私なら絶対に出来なかったことである。

 

「おはよ、二人とも……って、何ヨそれ!? ちゅーに、片手間にやってないで真面目に九郎丸の相手しなさーい!」

「スマンがこういう修行なんでな(白目)」

「お、おはようキリヱちゃん……、神鳴流奥義・飛燕抜刀霞斬り!」『(僕に刀太君を斬らせないでほしいなぁ、僕……)』

 

 指を指してぶんぶんとツッコミを入れるキリヱ大明神は相変わらずにキリヱ大明神でお可愛らしいのだが(※煽りではない)、それはそうとして夕凪と小さい神刀でもってこっちの胴体を真っ二つにしようと斬りかかってくる九郎丸に、血装で分身した私を差し向けて躱す。躱すというか、そっちで受けても一撃で真っ二つにされるため、事実上の囮扱いだ。カトラスが居たらドン引き必至である。なおスプラッタなことになった私の分身に「ぐえー」と嫌そうな顔をしてるキリヱ大明神だし、九郎丸も最初に使った時は動揺していたので、多分誰が相手でも似たようなものだろう。

 どちらかといえば、何回かやりあって慣れた九郎丸の方が流石というべきか、伊達に剣士らしい剣士をしていないと言うべきなのかもしれない。

 そして本体たる私は左手で本を読みながら、右手で九郎丸の太刀を受けている。意識としては本に集中しつつ、「第四の目」を薄く(ヽヽ)発動し、以前感知していた「嫌な感覚」のような状態にして使い直す、ような練習だ。それこそ第四の目は収集される悪意や敵意、情報量が多すぎるが故に、技の基点「から」潰すことも出来るのだが。だからといってこちらの利点が全てなくなるわけでも無い。普段から「第四の目」を使う訳ではないが故に、この状態での反応がどれくらい扱えるかと言うのも一つの重要な要素なのだ。

 

「大体アンタ、何読んでるのヨ!?」

「あー、居酒屋の経営指南本」

「何で!? あんた別に将来、大衆酒場とか開く予定でもあるわけ!!? ちゃんと生ジョッキ常備するんでしょーね!」

 

 いやだって喫茶店の経営本とかお師匠からわたされた私室にはなかったし……。それこそBLEAC〇(オサレ原液)やら何やらにまぎれて大衆酒場の経営について書かれた本ばかりが数冊置かれていたのは師匠の趣味だと思うのだが、そこのところどうなのだろうか。

 そして何やらキリヱもキリヱでちょっと何言ってるかわからないことになっている。まあ朝方だし寝ぼけているのだろうとこの場では流しておくべきか……、いやそういえばキリヱって割とビールは飲むんだったな。「私」個人は知るはずはないのだが、何故か知っているというか。あっちもあっちで私の知らない私の情報が多少流れてきていると考えるべきなのだろうか、脳裏にうっすら絡み癖が発動したキリヱ大明神に付き合って朝までぐいっとやりあった「色あせた」映像が流れて来た。

 

「神鳴流奥義・桜花剣風爆焔閃」『(刀太君!?)』

「あっ」

 

 そして一瞬そんな「経験しなかったはずの過去」に思いをはせたのが隙になったせいか。後退が間に合わず目前に、九郎丸の炎の竜巻のような斬撃が飛んで来る。いや「竜巻のような斬撃」とか意味が分からないが、見た目で言うと一刀凪いだはずのそれが複数に分裂したようになって、しかもそれぞれが炎をまとって連なってくるものだから、見た目としては炎の竜巻が猛烈な速度でこちらに急接近してきているのだ。うんやっぱり素の能力で言うと、この時点で本来は近衛刀太を凌駕してる実力を持っているのも納得の一発である。

 ただ今の状況で「炎系」の術は少々問題があるというか。

 

「悪い、ちょっと伏せろキリヱ大明神!?」

「きゃあっ」

「に゛ゃん!?」

 

 条件反射で黒棒で受け止めたのが悪かったのか、その一発で星月が空気を読みまくってくれたのか。チュウベェのそれとは全然異なり、文字通りにその一撃にあった魔力(生命力?)を分解、術構造ごと私の体内に取り込み、次の瞬間には爆風が散る。九郎丸はそれに一瞬驚くもバク宙して後退回避、一方無警戒だったせいでちびっ子みたいにその場で後ろにひっくり返ってパンツ丸出しのキリヱ大明神。いやまぁ何と言うか、本当スンマセン(素直)。

 

「――――死天化壮(デスクラッド)火天大有(プロミネンス)

「うわ……! うわっ、うわぁ……!!」『(か、かかか、格好良い…!!!)』

 

 ともあれ死天化壮(デスクラッド)火天大有(プロミネンス)。髪が青白くなって若干伸びたり、死天化壮自体が炎の衣と化したこの状態。おそらくだが目の色も普段のそれとは異なっているのだろうし(多分オレンジとかそんな感じ)、キティちゃんやメイリンの物言いからして威圧感も強そうなビジュアルだが、相対した九郎丸は「カッコいい……」とボソリと言ってきたりした。……これは、どう視るべきか? 対応がわからないので、少しだけ第四の目(ザ・ハートアイ)を深める。変化した私の容姿に対する感想もないわけではないが、どちらかといえばビジュアル的変化に伴う全体の恰好についてコメントしているな。何と言うか、久々に九郎丸の男の子的側面がみられた気がする。

 とはいえ「はっ」と我に返り刀を構えつつ警戒する九郎丸は流石と言える。……うん、何度も何度も頭の中で「恰好良いけど、見とれてちゃだめだよね、恰好良いけど」とか繰り返さなくて良いから(震え声)。

 

「――――って! 何かやるなら一声かけなさいヨ!? すごいびっくりしたじゃないのっ!」

「はい? あー、悪い」

「軽ぅ!? 軽いわよアンタ、私ってここだと『アレ』使えないから、何かあると致命傷になりかねないの! あーぶーなーいーのー!」

「マジか!? いや、あの、ゴメンナサイ……」

「素直だよね、刀太君……」

 

 ひっくり返ったキリヱ大明神はスカートを押さえ直して起き上り、こちらに指を指してくる。立ち上がらず指だけ向けて来るのは非常に幼児っぽいが、どうやら腰が抜けてしまったらしく大変申し訳ない。とはいえ頭を下げるくらいで手を貸せないのは、事実上この状態だと接触イコール大着火そのものであるためだ。見た目の仰々しさ通りに実際の攻撃力もそれなりにあるので、つまりはゴメンナサイ(素直)。

 

「というか何ヨその姿!? 何かこう、ビジュアル系バンドみたいな恰好になっちゃってるじゃないっ!」

「(髪の色の事を言ってるのかな……?)僕も初見だね。刀太君、その姿は一体…………? 僕の桜花剣風爆焔閃を使ったっていうのは、わかるんだけどさ。プロミネンス……プロミネンスか……、どう書くのかな?」

「こう書くのだ(※火天大有と血装で空中に文字を描く)。

 で、あー、まぁ技自体は大体師匠関係というか、意図せぬ修行の成果というか……」

 

 少し不審がってるキリヱ大明神や「易経六十四卦だね!」とかワクワクしてる九郎丸はおいておいて。しかしこのあたり、どう説明したものか。技の発動に関しては一定以上のランクの「火炎系の魔法/呪術」を術式兵装化することで成立するのだが、それを私が多少扱いなれていそうな、少なくとも初めて発現したものではないような振る舞いをしていることの説明が成り立たない。なんならもっと言うと星月関係の話に続いていくので、このあたりは流石に絶対開示できる類のものではない。メタ的にも直感的にも当然の話だし、さてどうしたものかと少し思い悩んだ、その時。

 カシン、と、時計の針が動くような、ギアがかみ合い回り出したような音が響き。

 半ば確信をもって、「第四の目」の視界に入った「今回もまた偉い大変な目に遭った、よね……」という思考に、引きつった笑みが浮かんだ。

 

「ふぃ、疲れたネ。……ムムム? ヤーヤー諸先輩がた、どうもネー? 先輩はさっきぶりかナ?」

「お前さんがどの時系列のお前さんかわからないから挨拶が難しい」

 

 そう、当たり前のように超鈴音。メイリンを名乗っていた彼女の姿ではなく、見た目は十四歳か十五歳のティーンエイジャー、つまりは私とキリヱの前に現れた頃の姿をしてる。……メイリンの頃の姿を基準に考えると、おそらくは年齢詐称系の魔法薬か何かを使用しているのだろうが、いやそれにしたって直近まで一緒にいた彼女のことを想えば、色々コメントがしづらい。

 いや、確かにお師匠から多少「メイリンを名乗っていた」あたりの彼女の話については聞いたので、その辺りの事情はうかがい知ることが出来たのだが。

 

『まあアンタが思っている通りさ。あの子はアンタの知るところの超鈴音。オリジン、つまりは出自やら何やらは色々異なってるかもしれないが、最終的に歴史として統合される箇所には同一の存在としてそこに存在してる小娘さ。

 時系列としては、アンタたちと修行をしているのが「ネギま!」前。カイン・コーシを名乗っていたときにアタシが落としたのが「ネギま!」後。そしてたまにアンタたちの周りに現れるのが、アンタと仮契約した後のあの子さ』

『当然のように「ネギま!」とかお師匠が口にするの止めてくれませんかね(震え声)』

『分かり易いだろうにその方が、アンタ的にも。ちなみに呪文詠唱できない理由も、体内の『白』と『黒』との出力配分と適正が釣り合ってしまって、魔力と気とが上手く練れないせいだね。呪紋回路はそのバランスを崩して、無理やり金星の黒を引き出すのに使用してるのさ。

 で、メイリンを名乗っていたのは、アタシの拠点に時空跳躍してきた時に過去、現在、未来の自分と遭遇するのを極力回避するためさ。目的達成以前、目的達成以降とで名乗りを分けるとか、そんな理由だね』

『何度も未来からこの拠点まで飛んできてたきがするんですけど……』

『まあ、それだけ未来がイカれたことになってるってことだね。たとえ過去において世界樹クラスの膨大な魔力が必要であったものであれ、あの子がいる時代であれば何回かは調達できるくらいにエネルギーはあるってことさ。というよりあの子たちの未来は、それを捻出するために世界線を犠牲にしている節がある』

 

 世界線を犠牲? という私の疑問に、当然の疑問だということなのかお師匠は嫌味一つ言わず、しかし嫌そうな顔をして言った。

 

『つまり、同時多発的に同一時間軸から派生した世界線を利用して、その横軸におけるエネルギーを流用することで何度も何度もこっちに跳んできてたと言う事さ』

『ちょっと何言ってるかわからないです(震え声)』

『まあ、簡単に言えば「横取りの無限ループ」だよ。あの子がやっていたのは、ここまで跳んで来るためのエネルギーが尽きたら「エネルギーが切れる前」の時間軸まで遡って、そこにいる自分に交渉を持ちかけてまた跳ぶ。これを無限に繰り返せば、時間移動の前後でエネルギーを半永久的に利用することが出来るって寸法さ。

 ただこれをやるリスク、アンタならわかるだろ?』

『…………その前後で世界に存在する魔力が明らかに異なってるってわけで、なんなら過去跳躍した超本人が自分自身に干渉して未来を変えてるから、つまり、世界が分岐してる?』

『そう。しかも同じところで、同じエネルギーを無限に使いまわしてねぇ? HDDやCPUでいったら同じ個所、同じ部品の同じ個所だけ何度も何度も何度も何度も焼き直し使い直しを延々と繰り返してその部分だけに負荷をかけ続けてる。

 果てにあるのは、アンタたちが水無瀬小夜子の関係であたっていた事件の時の桜雨キリヱのそれと等しいだろうねぇ』

 

 つまりは、理論的には無限にエネルギーを使い続けられるが世界のリソースが枯渇して滅亡する、ということだ。なるほど、この時点でお師匠からはかなりのギルティを喰らっているようだ。おまけに元祖「ネギま!」での所業が加わるとくれば、師匠からの塩対応も間違ってはいないだろう。

 超鈴音は「ネギま!」学園祭編(大麻帆良祭編)において、タイムトラベルものとしてはかなり致命的なやらかしを行っている。前にも回想してる気がするがあらためて説明すれば、それこそお師匠が言っていたところの「戦国三大英雄が消え失せた歴史」のようなものを作り出してしまったということだ。

 未来を変えるためにとある計画を実行するため動いていた超は、ネギクラスの生徒として過ごしながら色々と動き回っていたものの。敵対するネギぼーずたちに確実に勝つため、そして彼等にあわよくば「自らが計画した結果」を受け入れてもらうために、ネギぼーずたちの仲間を「未来へ飛ばした」。数週間というわずかな期間だが、それにより超の計画は完了しており、その時点で歴史は大きく変容。この時点で別な世界線となっているのは間違いないのだが、この後に彼女はネギぼーずたちが過去に戻ってくることまで見越していた。これがいけなかった。

 結果的に「ネギま!」本編として、超の計画を止めるために動くネギぼーずたちだったが、つまりそれは「分岐した未来の歴史から」ネギぼーずたちが消滅したことを意味する。そしてその後の展開からして、あのラスボスはネギぼーずたちがいなければ打倒しえなかったといえるだろう。

 

 つまり――――世界滅亡。タイムパトロールでも居れば即刻お縄である。

 

『ネギ・スプリングフィールド達のいない歴史でも、あの小娘は良くやった方だがねぇ? いかんせん一人、二人と人工知能だけじゃあどうにもならなかったというのがオチさ。

 何よりいけなかったのは、その世界線において新たに発生した超のやつだよ』

『えーっと、つまり「過去の世界から」「ネギぼーずたちに阻止されず」暗躍している超?』

『ああ。つまり、また同じような方法で歴史を書き換えようとしたんだが――――蓄積された混乱と、そこによる痛み、滅び、マイナスのエネルギーの規模があの子の思っていた以上に桁違いでねぇ。あれだけは、あの小娘の失策でしかないし、アタシもどの世界線でも再三忠告していたことだったからねぇ。そういった揺り戻しのことは。

 最終的にはカシオペア、あの子のタイムマシンをあちら側に利用されて、歴史の根本から滅亡した、そんな歴史が派生したのさ』

『えぇ…………(困惑)』

 

 ライブ〇ライブ(魔王エンド)じゃないのだから、と冷汗が流れる私だったが、流石にそこまでの歴史的なガバが発生したというなら、こちらからは何も言うことが出来なかった。まだしも本人に、そういった歴史に対する修正と言うか、対応を任せたのすら温情措置にすら思えた。

 

 そんな当人が私たちを見てニコニコとして、なんなら私に向けては「何かまた凄い格好良いことになってるよ、先輩」とか思ってるし。……どうでも良いが、もしかしてあのカタコト口調って演技なのかお前さん? 内心が標準語ベースであることを思うと、謎の疑惑が深まる。

 

「超さんじゃないの!? 何しに来たのよ!? というか今日、私、朝一番から叫びっぱなしでちょっと喉痛くなってきたじゃないっ!」

「それはキリヱちゃん個人の問題じゃ……。えっと、超さん? 確か学園で、皆でお嫁さん大会をやった時に――――」

「その大会は忘れろ(震え声)。というか、あー、そこで面識あったのかお前さん」

「んー、見たところ先輩はもう知てるネ? たぶん……。うん、大体いつ頃か特定できたネ。

 マ、せかく来たしキリヱサンの魔法具(アーティファクト)のメンテナンスでもするネ? ダーナサンに会うまで少し暇があるし」

「あー、いや、ちょっと待て」

 

 とりあえず血装および術式兵装を解除して彼女の元へ活歩で近寄る。「アイヤ、中々様になってるネ! (クー)程じゃないけど」とか何とも懐かしいことを言ってくれるのは謎の感動が胸に去来するが、そんなことよりもと耳打ちで、最低限これだけは聞かねばならないことを聞く。

 

「(いやお前さん、何で去り際に私と仮契約したのだ。意味がわからんぞ……)」

「あーあー、それはそれは……」

 

 と、こちらを向いて小声になる超。キリヱや九郎丸がちょっと訝し気になるのも気にせず、意外と聞き分けが良い彼女と内緒話を続けた。

 

「(ああして先輩と縁を残しておかないと、私が統合された時に私の要素が消え去っちゃう可能性があったから、だよ。まあ……どうやら他の私で、先輩とネオじゃない普通の仮契約したり、本契約試みた子も居たみたいだし)」

「(その情報はいらん……(震え声))」

「(先輩どころかネギ先生とも仮契約してる私もいるみたいだし、このあたりはまあ…………、言わぬが花、かな)」

「(ほぼ言ってるだろうがお前さん)」

 

 ただまぁ何と言うか、あのメイリンがこの超になると思うと違和感は大きかったのだが、超本人の姿でメイリンの口調の言い回しと、共通の認識を語られると、どこか納得がいく私がいた訳で。そこだけは謎の安心感を感じたのも事実だった。

 

 

 

 …………キティちゃん関係は、何一つ解決しないどころか悪化してるんだけどなぁ!?(血涙)

 

 

 

「アイヤー、ハッハッハ。じゃあ謝罪の意味も込めて……、おっぱい揉む?」

「揉まん」

 

 

 

 

 




※呪紋回路関係のコメントを記述忘れてたので追記


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ST197.銀河連峰は遠い

ST197.As I Sows, So Shall I Reap.

 

 

 

 

 

「って、じ、時空の波に飲み込まれた!? それってフツー帰ってこれないやつじゃないのっ! 世界線の座標が混乱しちゃってえらいことになっちゃうじゃない! ちゅーにアンタ大丈夫なの!!?」

 

 キリヱが出した魔法具(アーティファクト)(簡易版)をメンテナンスした後に「そろそろ時間ネ」と言って城の方へと駆けて行った超。そんな彼女があーでもないこーでもないとやっている間から現在まで、私たちはさきほどの火天大有について話していた。まあ事情が事情だけに流石に濁しきるのも難しいだろうと言うことで、真実を中途半端に話すことで何とか事なきを得た形だろう。

 要するに、時空の狭間に落とされる→その場で帰ってくるまでに色々あって戦闘になったり何だったりして技を覚えたりしつつ、最終的に超に助けられたりして現在に至る、みたいな話だ。下手にメイリンの名前を出すとそれはそれでややこしいし、現在の超には「あの」メイリンも統合されていることだろうから、これに関しては超の名前を出した方が的確だろう。

  

 なお超本人は、追及されど追及されどのらりくらりと回答を躱していたりするので、流石にタイムパラドックス回避のために頑張っていた年季が違うと思わされる。

 

「でも、そーゆーことね。だったらまあ多少納得がいくんだけど。ああやって分身したりっていうのもそうだけど、私のあのカメラでアンタの死体がいーっぱい撮影できたのって、そういうことでしょ?」

「…………」

「ちゅーに?」

「刀太君?」

 

 何それ知らない、とツッコミを入れたいところだが、まあ心当たりがないと振舞っても問題はない範疇だろう。「実際、分身もけっこう使ったしなぁ」とこの場は誤魔化すことにして、そういった一通りをまとめての先の発言である。思いっきり心配されてしまった。流石に九郎丸共々いたわってこられてどういう顔をしたら良いのかさっぱりだし、ぬーっとこっちに寄って来た三太も三太で軽く事情を話されたりして、困惑していた。

 いや、どっちかというと三太が困惑していたのはキリヱの物言いだったのだが。

 

「つまりはアドレスなのよ。縦軸と横軸って枠で考えたところで、時間の矢印がそうべきレールっていうのはどこかしら外部で人間がわかるように区切ってみれば、つまりはアドレスなのよ。ただ当然、そんなもの時間軸っていう世界線に存在はしないの。だから『なんかテキトーに飲み込まれる』ってなると、自分がどこにいたかっていうのと、自分がどこに飛ばされたかって言うのがわからなくなって、そのまま二度と帰ってこれないってこともあるらしいわ。『意図的に』虚数の座標を設定するとここに迷い込むこともあるらしいけど、ちゅーにってそれどころの話じゃなかったもの」

「わっかんねぇッス」

 

 呆けた三太の感想には激しく同意である。いや、ニュアンスはわかるがそれにしたってかみ砕いてそんな話をしてるあたり、キリヱもキリヱでお師匠の修行の成果が出ていると考えるべきか。九郎丸も九郎丸で「ぼ、僕も頑張らないと……」と焦ったように奮起してる。ふんす、と鼻息を荒げているが、おどおどしている感じからしてこちらの修行の成果はどうも芳しくないらしい。

 

「そういや三太、水無瀬小夜子ってどこ行ったんだ? たまに見かけるけど、あんまり話せてないっつーか。……いや、別に話すこともそんなにねーけど、せっかくいるんなら、な?」

「小夜子は、あー、時々先輩? とかに引っ張られてるっぽい。『一番新しい福の神』とか言ってたっけ? 新人指導がテキトーで大変だって嘆いてる」

「他にも今の時代から神様になる人なんているの!?」

「い、いやキリヱちゃん、人間だけとは限らないし……」

 

 福の神、福の神……、なんとなく脳裏に椎名桜子の「にぱー」とした笑顔が思い浮かんだが、いや、まさかな。今の「第四の目」に覚醒した状況から考えると、たとえ「ネギま!」繋がりとはいえイメージに浮かんで来ると言うのは、それなりに何かのフラグな気がしないでもない。というか転生してから大体こういう場合ににおわされたものって何かのフラグでしかないので(暴論)、警戒しておくに越したことは無いだろう。

 

「無駄な努力だねぇ」

「声だけ飛ばしてくるの止めてくれませんかねお師匠(震え声)」

 

 そして私の耳元だけに、お師匠のツッコミの台詞が飛んで来る。例によって空間やら何やらを超越した音声メッセージゆえにか、他の面々には聞こえていないようで私の独り言のように見えていることだろう。

 

「って、ここまで揃っててカトラスがいねーけど、どうしたんだ?」

「カトラスちゃんは……、あれ? そうだね。どうしたんだろう」

「夜更かししてたから、普通に寝坊じゃないの?」

「女子のことは分からねェ……」

「いやそれで良いのか彼女持ちッ」

 

 私の一言で顔を赤くして、しかし否定もせずあうあう言ってる三太のなんと初々しい事か。キリヱのみならず、九郎丸もちょっとニヤニヤしてからかう姿勢を見せているのが印象的である。

 ……そして視界の端に「ポイント高いわ! 近衛刀太♪」って思考が過る。「第四の目(ザ・ハートアイ)」は切っているはずなのだが、何かしら高位次元からの干渉でもあったのか、どう考えても水無瀬小夜子からのメッセージの類である。はっきり言ってホラーそのものなのだが(震え声)。

 

「ま、そうだな。ちょっと様子見てくるか」

「あれ? メイリンさんも居ないね」

 

 九郎丸のその一言に、ちょっとびくりとなる私である。一瞬「さっきまで居たじゃねーか」とか言いそうになったあたり、なるほどまだまだ超とメイリンとの区分や言い回しの区別は慣れていないと見えた。

 

「メイリンはメイリンで、ぶっちゃけ何か研究か何かやってんだろうって予想が立つからな。まだカトラスの方が心配っちゃ心配だ」

「心配…………」

「何かあった? あの子」

「いや、手足とか内臓が生えて(ヽヽヽ)から『金星の黒』とか、身体に由来する能力の燃費が悪くなってるみたいで、しばらく食いしん坊になってたって実績があるからなぁ……」

「いや、手足とか内臓が生えてって、ウィルス系のゾンビとかじゃねェんだからよ…………」

 

 そういう意図はなかったが、実際言い回しだけをとればバイ〇ハザード(夢で終わらせない!)な感じになってしまうか。熊本でリメイク版を白石の家で六人でプレイしたことのあるせいもあり、九郎丸も「あはは……」とちょっと引いた風に苦笑い。

 なお当然のようにネタが通じてるキリヱ大明神は「タイラ〇トとかにならなかったけど、水無瀬小夜子も大概だったじゃないのヨ」とツッコミを入れた。

 

 そんな流れでカトラスのところまで行こうと一歩踏み出した私だったが――――ぬっと、視界一面が真っ黒に染まり、その場に関節を極められて引き倒された。 

 

「って、いきなり何してんスかお師匠!?」

「んー? むしろアタシは今、アンタを救ってやったところなんだがねぇ。『女の子の日』で苦戦してる妹の姿なんざ見るものじゃないだろう、今のアンタは」

「あざーッス!!!(素直)」

 

「「「なんで感謝したのッ!!?」」」

 

 首だけ「180度」回転させて確保した視界、私の上に座るお師匠は普段のデラックスサイズではなく美女モード、ただしドレッド頭のままなので「背教」時代のそれではないらしい。そしてその物言い、ひょっとしなくてもラッキースケベ的な何かが発生する状況だったというのは容易に察せられるので、私的には感謝一択なのだった。

 ハン、とそんな私を鼻で笑うと、お師匠はキリヱ大明神を中心に三者を見回す。

 

「しかし、何か面白い話をしていたねぇ。時空の波に飲み込まれたとか。それならまだマシだったろうが、桜雨キリヱ、アンタが読んだのは『当事者』側の理屈さ。『観測者』側の理屈を重ね合わせると、時間と空間の捩じれに取り残されて『正常化と同時に』『いなかった状態で再構築され』存在が意味消滅するところさ」

「もっと酷いじゃないのヨッ!? えっ、本当に大丈夫なんでしょうねそこのトータ!」

 

 大丈夫じゃなかったらこうやってアホ面晒しちゃいないさ、とお師匠。

 

「不幸なことに、そこのトータは色々無茶が重なって『世界線一つで』『存在が意味消失するくらいじゃ』大した影響はないようになっちまってるからね。歴史的な特異点というには運命力が弱いが、どうしたもんかねぇ。……まぁ大体星月(あの女)のせいなんだが」

「その情報今いります?(震え声)」

 

 気のせいでなければ、原作の近衛刀太ですら死にかねない現象でも死なないと断言された気がするのですが(震え声)。

 

「アタシとしちゃ、命の運行、栄枯盛衰、盛者必衰の理とも言えば良いか、そういった当然あるべき流れから言ってあまり褒められた傾向じゃないんだがねぇ? 生き物なんて同じ種族のイキモノが滅んだ後もずっと生き続けるなんて、狂ってしかるべきさ。

 とはいえそれも一つの美学ではあるが、個人的にはオススメしやしないよ。ひとりぼっちっていうのは、大概寂しいものだからねぇ」

「専門用語あんまり使ってない割に、言ってることが壮大すぎるじゃないのヨ! ちゅーにだけじゃなくって九郎丸も三太もみーんなポカーンとしてるじゃないっ」

 

 キリヱ大明神……! キリヱ大明神……!(崇拝)

 この状況でお師匠に食ってかからっしゃるメンタルのお強さは彼女らしくもあり、実質仔犬がキャンキャン吠えているようなそれの裏返しである真実はなおのこと彼女らしくもあり、頼りがいがあってどこかヘナヘナしていらっしゃるところは流石のキリヱ大明神だ。そして手を合わせて拝みだす私に「だから御神仏扱いはやめなさいヨっ!」とげしげしと軽く蹴ってくるところまで含めてうん、安定のキリヱである。

 いやまぁ、蹴られるたびに首がぐるんぐるん回ってだいぶグロいことになっているので、九郎丸が「そ、その辺で……」と止めにかかったが。

 

「まぁ、人並み以上に『時空を追い越して』永く生きるというのならば、それなりに生き方ってものは考える必要があるってことさ。一時期の宍戸甚兵衛が終活と称して身体をいじめぬいていたようなお遊びではないが、迷惑をかけない程度の末期というのもねぇ?」

 

 そう言って立ち上がったお師匠は「じゃあこっちに来た時のアンタたちを迎えに行くからねぇ」とか言って姿を消した。うーん、何と言うか当然のようにこの時間にも複数人存在していそうだし、その全員がバラバラの時系列から現れ出でてそうなお師匠である。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「私だってそこまでの不死性は今もっちゃいないけどよ。正直『死ねない側の悩み』って言われたって同情はできないって。ゼータクだぜ、ゼータク」

「先輩達がそれくらい不死身だっていうのは、まあ、特に先輩は何度か殺しかけてるからわかるんだけど、ね。それでもそんなに凄いレベルだと言われても、現実感が薄い、かな」

 

 じゃらじゃら、じゃらじゃら、と雀卓で牌が踊る。

 

「そりゃ、全員由来は違うもの。カトラス、あなたとトータは大本が一緒なんでしょ? なんなら雪姫だって。けど発現の仕方だっておおいに違うじゃない。

 それが能力の大本から全然違うメンツが十何人も集まったら、それなりにカオスにもなるわヨ」

「キリヱちゃんが一番特殊だと思うけどね、僕。気のせいじゃなければダーナ師匠から特に目をかけてもらってるみたいだし、本質とか近かったりするのかも?」

「ぞっとしない話ね……。『ひとりぼっちは寂しい』とか、洒落にならないじゃない」

「私も宇宙空間で等速直線運動のまま地球から延々離れて、酸素ボンベの続く限り宇宙に一人ぼっちだったことがあった、けど、あれは確かに辛い、よね……。あー、いや、最終的には保護者が助けに来てくれたんだけど、ね」

「わー!? 何やってンだよ佐々木三太ッ! 牌、飛び散ってるじゃねーか」

「下手ねー」

「ほ、本物は初めてなンだよッ! 大体ネット対戦だったしっ」

「それでも役は覚えてるんだね」

「さ、小夜子に仕込まれた……」

 

 じゃらじゃら、じゃらじゃら、と雀卓で牌が踊る上で、ニヤニヤとした視線が三つ、三太に突き刺さる。ちなみにルールがわからないらしいメイリンは三太の後ろで覗き込みつつ、遊び方を教わっているらしい。いやそもそも何で麻雀やてるんだこいつら……。原作的に言えばおそらく提案者だったろうアフロもいないし。イベントだけはかろうじてこなしているあたり多少の修正力のようなものを感じるが、中身が全然違うのでまーうんガバやな(思考放棄)。

 

「なァ……ある日さ? 地球が爆発するか、宇宙人が攻めて来て、地球がぶッ壊れたとするじゃンか。その場合、俺達ってみんな無酸素無重力状態のまま宇宙をさまようことになンのかな?」

「話のスケール大きいネ……」

「こわっ! い、いやでも私はセーブポイントがあるし、別な時間軸の方に逃げるわヨ‥‥‥」

「あっ、それチー」

「えっ!? あ、そ、そう? カトラスちゃん」

「よーしよし。……考えてみたら、兄サンたちケッコー大変だよな。そう考えると、あのダイダラボッチの時もそうだったけど週刊世界の危機?」

「『幻燈のサーカス』とかも、そのまま人類全員眠りの世界にいざなわれたりしたらなぁ……」

「あーいやー、そうでなくても五十億年後には太陽の赤色巨星化で呑み込まれるし、そうでなくても月が地球から毎年3cmくらい離れていってるはず、だから、どこかのタイミングで地球の自転が今の状態を維持できなくなって――――」

「ぎゃー! SF止めなさいヨ! アフターヒューマンにすら期待できないじゃないっ」

「その前に自滅してなきゃなァ……」

 

「まあ暗い話は置いておいて、だ。とりあえず目の前のことに手を付けつつだな。人類存続も大事だけど、今日明日の飯の種だって重要っつーことで」

 

 あっ刀太君! とウキウキしたように笑顔の九郎丸が可愛らしい。カトラスは半眼を向けて来るが、そんな彼女たちにペットボトルのアイスコーヒーを手渡す。「あっこれ……」とメイリンが喜色ばむが、この拠点でもたまーに練習がてらコーヒーを入れてるので、その余りである。

 人数分行きわたったところで「好きに飲めよー」と九龍天狗(神刀と化した仮面の九郎丸)と共にレストランワゴン的な何か(正式名称を知らない)を片づけていく。なんか色々準備してたら『僕も手伝うよ!』とやっぱり何かワクワクした感じで現れて、あれよあれよとアシスタントをしてもらったのだ。そして去り行く我々になんとなく九郎丸がむっとした顔をしていた気がするが、それでも追ってくることは無かった。

 

『…………刀太君は、その』

「どうした? 九郎丸」

『いや、うん。……違うようでいて、やっぱり刀太君なんだなって』

 

 そして、ぼそぼそと寂しそうにそう言う大人な九龍天狗のその物言いに。何かしらのガバの気配を感じて、ゆるく起動しかけていた第四の目(ザ・ハートアイ)を意識的に閉じた。

 

 そう、そんなことより飯の種なのである。まずもって明日明後日のこと考えなければ人は滅びるのかもしれないが、それだって今を生きる必要はあるわけで。とはいえそうやって個人の最大幸福ばかり追求すれば全体の幸福にはつながらないともいえるし、だからこそUQホルダーはその調整役を買って出て動いている節はある。単純な正義の味方というわけではなく、文明の安全弁のように。

 それもやはりネギぼーずが為せなかったことへの深い後悔から続いているものなのだろうと思うと……、やっぱり私は、カアちゃんに合わせる顔が無くなりそうだった。

 

 

 

 

 




 

 

 

 

 ――――287年後、約束の日。

 

『神鳴流我流奥義・彼岸黒光閃(ひがんこっこうせん)――――もらったぞ、魔王っ!』

『無駄だ、東洋の』

 

 吸血鬼バサゴの城にて、逃げおおせた奴を追おうとした私に斬りかかってくる女剣士。古城の建築に似つかわしくない恰好だなぁと内心苦笑いしつつ、私はその動きを視線だけで追う。

 振るわれた、その一撃でもげた首。面倒だがそれを拾い直し、接合し、今散っていった小娘の姿を見る。

 見た目の年だけで言えば私より一回りは上だろうに、延々と戦いに巻き込まれた奴の兄を私が討ったと「勘違いした」末に、逆恨みからの一刀。時坂といったか、彼女が恨むべき誰かもまた私が討ち果たしたのだから、その咎も、恨みも引き受けてやるのが人の情というやつだろう。

 情? はは、笑わせる。摩耗してきている私が、自動で発動した氷結により砕けた小娘に感慨すら抱けない私が、いまさら何を言っているのかという話だ。

 

『十年の毒だ、苦しめ…………、兄上、仇は、とり――――』

 

『十年、か。確かに……、若い。

 復讐にその命を使ったか、兄も本意ではあるまいに。

 …………せめて次の生くらいは、幸福なもので。平穏かどうかは知らんが、想い人と善く過ごせる時代であれ』

 

 氷結し砕ける彼女を見て、私はそう呟かざるを得ない。

 嗚呼、カリン=オーテはあの真祖の手で封じられ、甚兵衛とも既に別れている。あの男はあの男で、人の世というものに関しての達観具合でいえば私よりはるかに上等な不死者のそれで、なるほどダーナが手放しでほめるのもうなずける。

 だが、それが出来る程に器用でないからこそ、未だにこうして魔王だの何だの呼ばれながらも戦い続けている訳で。

 我ながら阿呆の極みだと、自虐するまでもなくゼロ(ヽヽ)のやつに馬鹿にされそうだ。

 

 それこそついさっき「時空のゆがみから現れた」トータ相手に、かつての何も背負っていなかっただけの小娘らしい振る舞いをした、この私の弱さ。

 修復された地面、消え去ったアイツ。それに一抹の寂しさと、一緒にいて欲しいという強い欲求が胸をかきむしるようで。

 

「果たしてどれくらい経てば、私はお前に会えるのだろうな。

 …………クク、らしくもないか。

 やれやれゼロがいなくて良かったな――――」

 

 

 

「――――まあ、とはいえ拙者が目撃している訳でござるがな」

 

 

 

 なにっ!?

 全く気配のなかったところに現れた異物。咄嗟に詠唱破棄のまま闇の吹雪(ニウィス・テンペスタース・オブスクランス)を術式掌握し、氷の舞踏(ゲラーンス・バシレイア)を術式兵装。軽い息吹一つで大量の氷の礫を声の方角に放つが。 

 当たり前のようにその男は、見覚えのある錫杖のような何かでガキガキと無造作に叩き落とし。

 

「やれやれ、お嬢ちゃんは相変わらずでござるなぁ。先ほどの恋する乙女の顔が凍てつく感情で台無しにござる――――」 

「貴様ァー! カイン・コーシ!

 狭間の魔女の小間使いが、ここで会ったが百年目っ!!

 ギッタンギッタンにしてひき肉にして撒いてくれるわッ!!!」

「違うのでござる、あれは拙者も騙されていたのでござる。話を、話を聞いて……、いやまぁそうなる事情はわかるが少しは落ち着けお前さんや(戒め)」

 

 相変わらず妙な編み笠(名前は甚兵衛に聞いた)を着用した僧侶か法師のような恰好のその男は、それこそトータと最後に会った頃に出会った怪し気なこの男は。呆れたように言いつつも、小癪なことに私の放つ吹雪を「光る錫杖」を振り回して、全くダメージを受けている節が無かった。

 無効化でもしてるのか? あれは。ええい、一体本当何なのだこの男はッ!!!!

 

 

 

 

 




※こちらの話はまたそのうち・・・そのうc・・・(話数が勘定できてない)


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ST198.映せぬはずの冥夜(前)

ちょっと今回文字多めです……


ST198.From Behind The Persona.(1/2)

 

 

 

 

 

 ………… 一体いつから、キティちゃん関係の諸々の問題が解決すると錯覚していた?(ヨ〇様構文)

 

 特に問いかけて来る平〇(ハゲ)もいないのだが(風評被害)思わずそう考えてしまうだけの何かはここにあった。具体的に言えば私、九郎丸、キリヱ、三太、カトラスの5人と対峙するお師匠が一瞬でスリムな姿に変貌したかと思いきや、いつぞやに見た原作的に見覚えのないおどろおどろしい装飾の施された西洋剣を片手に、一瞬で私を粉微塵に切り裂いたあたりで、既に半分くらいは正気ではない。

 刀太君!? という九郎丸の絶叫もむなしく、そこは既に血痕と骨片だけが散らばる惨状だ。カトラスが「ひっ」と目を見開いて私の血を頭からかぶり、三太は驚きつつもしれっと透化してすり抜ける。キリヱはキリヱで不思議と慣れた様子のまま、スーツの左肩についたダイヤルのようなものを回して師匠の動きを観察している。

 

 全員、完全に臨戦態勢であった。私は死天化壮はもちろん「第四の目」を(ひら)いた状態で、九郎丸は久々? にまともな形でアーマーカードにより神刀・姫名杜を呼び出しており、キリヱはキリヱでカメラは省略したままあの未来的謎スーツを身にまとっている。三太もまた学ランだか応援団長だかといった帽子やら上着やらにwAMIGA(ワミーガ)(※旧式PC)をもっていたりして、カトラスは両手も既にシファー・ライト、アザー・メタトロニオスと黒と白の腕となっている。それぞれにそれぞれが、多少なりとも修行の成果があるが故に、さてここから! という状態で構えて早々の私の斬殺ときているので、その衝撃はいかほどのものか。

 

 そのままお師匠は、ちょっとしたロックスターめいた九郎丸めがけて「ムチのようにしなって」変形した剣でその腰を凪ぎ、斬り飛ばす。動揺していたとはいえ神刀を構えるのが決して遅かったわけではないが、その構えた腕力「ごと」無理やり薙ぎ払い叩き斬ったという表現が正しいだろう。

 

「一体どういう絡繰りだッ」

 

 左手を構え「火星の白(マルス・アルバム)」を走らせるカトラス。発光とともに形成される全体バリアのような領域に、斬り飛ばされてこっちに落ちて来た九郎丸の上半身を含め、三太、キリヱと私以外全員を覆うようにバリア状の何かを形成するが。

 

「カラクリも何も物理(ヽヽ)だよ。悪いがレベルが違うからねぇ」

 

 そう言いつつ振り上げた剣の刃は、既に剣の形状ではない。恐竜の尻尾というには妙に焼けただれたような形質となっており、気のせいでなければ先端に顎のような器官が「生まれようとしている」。シン・ゴ〇ラ(究極生命体鮫)かな? とか考える私だが、黒棒を起点に再生をしようにも追いつかない、というか明らかに師匠側から放たれている魔力がこちらの再生を妨害している。最終的には無理やり呑み込んで復活はできるが、既に幽体離脱というか幽霊的視点となっている私としてはもどかしいところだ。

 なにせその巨大な怪獣の尻尾のような刃を振り下ろすことで、当たり前のようにカトラスのバリアを破壊。師匠の言葉が正しければ物理らしいので、「火星の白」の魔法無効化(マジックキャンセル)効果は完全に無駄になっていることだろう。一撃で脳天を()されたカトラスは白目を剥いてその場に倒れる。

 そしてその余波を当たり前のように受けない三太と、これまた何故かその衝撃に微塵も身体を動かしていないキリヱ大明神だ。

 

 ほう、とお師匠はキリヱに肩をすくめる。

 

「面倒だから後回しにするが、そのスーツの性能頼りだとアタシには勝てないよ」

「そもそもダウングレードした私の能力だって勝てっこないじゃないの!? というかアタッカー筆頭の刀太を最初に潰しといてその言い草ないでしょーがッ! 大問題ヨ!」

「そりゃ戦闘においては一番面倒な相手から片づけるのが定石だからねぇ。

 とはいえこれでも手加減してるんだ。もっと張り合いを出してもらいたいところだが――――おや?」

 

「物理だってンなら、物理的な干渉には弱ェはずだよな――――オラッ!」

 

 ほう、三太がPCを弾いてエンターキーを「ターン!」と強く叩き、直後に拳を握る。うん、中学生らしい勢いにあふれててちょっと可愛いな。そしてその動きは、何か魔法アプリでも作ったのか。あの魔法具(アーティファクト)については色々と良い思い出が無いのだが(お嫁さん大会的な意味で)、場合によっては長谷川千雨にあてがわれる可能性もあった魔法具なのだ(「ネギま!?」的な意味で)。その性能もある意味で折り紙付きというところか。

 巨大だったお師匠の剣は、その生物的外観の刀身の部分のみが瞬間的に砕け散った。いや、より正確には「一瞬凍り付いて」「一瞬燃えて」粉砕されたというのが正しいだろうか。フリッカー現象ではないが、急激な温度変化で急速に劣化させた上で、彼本人の念力で砕いたと言う所だろう。

 

「やるじゃないかい、刀太を除いて四人の中じゃ一番修行の成果らしい成果が出てるよ。一時的に運動エネルギーを保存して凍結、次の瞬間には上乗せして炎上させるとか、オリジナルで発想したにしちゃありきたりだが、急ごしらえでそこまで思いついたのは褒めてあげるよ」

「そりゃ、どうもッ! 幽波拳(スタンドフィスト)ォ!」

「だがアタシに単純な物理が通用すると思うのは、ちょっと浅はかだねぇ」

 

 お師匠の目の前に展開された念力の壁越しに拳を一発、それが百倍に増幅された打撃としてお師匠に襲い掛かるが、お師匠はそれを、まるでコバエでも追い払うように「肥大化した」片手で雑に弾くと、その手のまま三太をデコピンして弾き飛ばした。いやアイツ絶対、幽鬼(レブナント)的能力で霊体化して実体ない状態なのに、当たり前みたいに物理で干渉するの止めてあげてくださいよぅ!? お慈悲、お慈悲を……!(震え声)

 

「じゃあ『座標も特定できた』し、アンタも一発殴ってお終いにしようかねぇ?」

 

 そう言いながら「いつの間にか復活していた」西洋剣を片手にキリヱへと襲い掛かるお師匠だったが。キリヱはキリヱで両手を合わせ。

 

(タイム・)(アルター・)(スペクタクル)――――頑張りなさいヨ、私!」

 

 あのぉ、キリヱ大明神なんか全然知らない能力使うの止めてもらって良いですかね(震え声)。

 そのままキリヱの頭上に火の玉のようなものが出来上がり、めらめらと燃えると同時に、師匠の攻撃に関して「キリヱらしくない程に」洗練された動きで回避していく。いきなり何かレベルアップでもしたのか!? と思いきや、もっともキリヱ自身がおっかなびっくりといった表情で「あわわ」とか「に゛ゃあっ!」とか言いながら躱している有様である。というか動き自体は無駄がないのに「痛いじゃないのヨ!」とか自分で自分に文句を言っているし、あれはあれでどんな能力だ……。

 お師匠も剣を振るいながらもどこか呆れた表情で「アンタはまず身体を鍛えた方が良いかねぇ、そういう能力を作ったんなら」とか言ってるし。そして剣の先端から「ゾンビみたいな」「悪魔みたいな」何かが這い出る様に形成され、薙ぎ払う動きに合わせてキリヱ本人をぶっ飛ばそうとするも、悲鳴を上げながら空中を舞いバク宙しつつ、私の斬殺現場たる黒棒のもとまで。そのまま黒棒を手に取り「いい加減戻りなさいヨ!」とキレ気味だ。

 

 いやあの、復活したいんスけど、そのですね……。なまじ「金星の黒」との接続を完全に断ち切っているわけでもないあたり、お師匠のちょっとした意地悪なのだろう。本来は再生が出来ないわけでも無いが、中途半端に妨害されているせいでうずまく魔力も身動きがとれないような状態と言うべきか。

 ただ、そんなキリヱ大明神に斬りかかるお師匠のそれと同時に、とりあえず右腕だけは気合で戻した。……キリヱが「に゛ゃあああああんッ!」と悲鳴を上げているが、平に、平にご容赦くださいませキリヱ大明神。鎮まりたまえ(祈祷)。

 

「腕だけでアタシの相手をしようとは、中々剛毅じゃないかいトータ」

 

 そのまま分身を操作する要領で、肩の切断面から血装。無理やり人型のシルエット的な何かを形成。どうやら意識が戻ったらしいカトラスが「きゃーッ!!!?」と涙声で悲鳴を上げたが、フォローする余裕はないので、その歪な状態のまま師匠と切り結ぶ。

 

 いや本当その…………、原作よりも本気で戦うにしても、もうちょっと手加減とかできませんかねお師匠(震え声)。

 

「そんなことしたら『卒業試験』にならないだろう? チーム戦ってことにしといてやってるんだから、せいぜい粘るんだね」

 

 さようですか……。魂の状態のままの私は、快晴のこの狭間の城の空を見上げて、あるいは見下ろして、どこか遠くを眺める他なかった。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 前日の夜。

 

「――――オォオオオオアッ! ィアッッ! ィアッ! アァアッ!」

「うん……、まあまあ」

 

 ぼちぼち、という私の適当な評価に、読本の型通りの動きをキビキビと仕上げてみせて来たメイリンは汗をかきながら「どういう意味、かな」と私に苦笑いをしてくる。どういう意味もこういう意味も大概私も不死者基準での戦闘慣れしてきているせいもあり、特に何ら能力も装置も使わず、純粋な身体技能のみの少林寺拳法など見せられても、コメントが上手くできないのだ。良い身体してるね、など言おうものならたとえこちらの意図が鍛えている的なものでもセクハラになりかねないし、セクハラ的な意味でも胸の大きさに注目したって中学生の超の頃から一回り程度くらいしか差が無いので、まあ藪蛇というやつだ。

 

 時間は深夜。私の部屋に訪ねて来たメイリンに「逆夜這い!?」とかツッコミを入れつつ、当然「違うからネ!?」と赤面されながらツッコミを入れられたりしつつ、彼女に誘われるままにテラスに出て、そしたら雑談をしつつ「ちょっと上達したんだ、よね」と言いながら色々と殴る、蹴るの動きを見せられた形だ。

 明日はお師匠いわく卒業試験、とのこと。原作8巻終盤で、いよいよ修行編もラストスパートといったところだ。……キティちゃん関係についてはもはやどうしようもなく「私」と彼女との歴史がすれ違っている事実を突きつけられただけになっているが、これもある意味で私の招いた事態なのだろうし、今後の事を考えればメンタル的にもメタ的にも頭痛しかしない。 

 をのれ橘!?(責任転嫁) 熊本に帰ったら覚悟しろよ、と勝手な私怨を燃やしているが、それはそうとして現実問題、この後色々とどうするべきかと言う話なのである。

 まあ、ひとまずそれを置いておいて、卒業試験とやらだ。ルールは単純で、お師匠相手に我々UQホルダープラスアルファの面々(メイリン除く)で戦いを挑んで、勝利できれば合格というもの。ちなみに不合格でも私に関しては既に鍛えようがないらしく(後は自分で伸びしろを探せとのこと)、どちらにせよ退場が決定している。

 そんな訳もあり最後になるかもしれないということで、メイリンはメイリンで私と話をしたかったらしい。

 まあ料理についても多少教えたくらいで全然上達を見られるところはないので、そのあたりは後でお師匠に面倒を見るように頼んでおくべきか。……どうでも良いが、あー、この(メイリン)に関しては中華鍋どころかフライパンすら使ったことのないところから面倒を見ているので、まさか超包子発生の切っ掛けとかになっていたりしないだろうな。今そんなフラグめいたものを感じ取ったが、流石にそこはもうどうしようもないか。

 なるようになる、というよりも、お師匠の言葉を借りれば「統合されて何もかもがどうでも良くなっている」存在、それが将来の彼女なのだ。今更私のガバ一つでそこまで大きく影響はしないだろうと、タカをくくっても良いだろう。

 

 ふう、と汗をぬぐうメイリン。服装はブルース・リーみたいな黄色のジャージ姿で、チャックを少し大きくひらいて手で仰いで胸元を冷やしている。……しかしこうして見ると、なるほど確かに顔立ちに若干、桜咲刹那的な要素をみてとれる。「ネギま!」における超の顔立ちは、普段の能天気な振る舞いの時はともかく、いったんシリアスな状態に突入するとほぼせっちゃんのそれに近い顔立ちになるのだ。なんなら髪を下ろせばちょうど良い具合にセミロングだし、見分けはさらに難しくなるだろう。

 そういう意味ではメタ的に「まさかのせっちゃんエンド!?」と思ったり何だりもしたが、お師匠の言葉が正しければ素材の一人ではあるけれど、といったところで。いや、まさかそんな扱いを受ける形になっているとはこの私の目をしても見抜くに見抜けなかった。なんとなく携帯端末の中のチュウベェがため息をついたような気がしたし、星月が「リ〇クよりガバガバだぁ……」とか思っていそうな気がしたが、流石にアレなので被害妄想の類ということにしておこう、ウン(現実逃避)。

 

「思えば先輩との付き合いも、アキラさんの時からだった、かな? うん。そこまで何度も顔を合わせてたけど、食事もらったりしてたし、うん。

 思えば、あれから先輩に料理を教わって、ちゃんと『美味しい』っていう配分はわかったつもり、だよ?」

「――――――――」

「どどど、どうしていきなり膝をついて泣きだしたの、かな!? 大丈夫、先輩!!?」

 

 嗚呼脳裏にさんざめき心躍る大河内アキラとの生邂逅の日々よ。お師匠からストップをかけられて微妙なタイミングでお別れとなったが、あれだけは間違いなくこの世界に転生できてよかった出来事の一つだろう。数少ない、とはいわない。良いことも悪いことも多くあり、その果てに今があるのだから、他を卑下するような話ではない。だがそれはそうとして、間違いなく我が「神楽坂菊千代」と自己認識してからの人生において、最も幸せだった日々と言えるかもしれない……、性癖的に(爆)。

 最後にハグしてもらった時の記憶が高速でかけめぐり、あの時のことやら何やらが猛烈に脳裏で走馬灯みたいに投影されたのだ、流石にそりゃダメージが入る。情けなくもおんおんとスリップダメージを受ける私に、動揺したメイリンは背中を撫でて来るが、ちょっと吐きそうになるので止めてくれませんかねぇ。

 

 とりあえず無理やり拭って立ち、気遣ってくるメイリンにサムズアップだけを返しておく。

 

「本当に大丈夫? 先輩、けっこう情緒不安定だ、よネ……」

「どうしょーもないことはどうしょーもないというか、生まれで言えば恵まれてる方と不幸な方が同時に襲って来てる様な身の上だけど、まあ今生きてるから良いじゃんっつーことで割り切ってるから、そこは大丈夫。

 うん、大丈夫、私は割り切ってるから大丈夫。うん、割り切れてる、割り切れてるはず―――――」

「せ、自己洗脳(セルフマインドコントロール)してるネ!?」

 

 動揺してるのか口調が崩れかかってるメイリン。うーん、この感じだとカタコトなのは完全に演技って訳でもなさそうだが、だからといって標準語を使えないと言う訳でもないらしいというべきか。おそらく今くらいのバランスが本来の彼女のそれなのだろうとか、またまあまあどうでも良いことに気づいてしまった。

 そんな私に、メイリンは「えーっと……」と言いながら、すっと何かを差し出す。包みにくるまれたそれは、柄から大きさからいってこう、女子高生が昼食のときに摘まんでいそうなお弁当箱くらいのサイズのそれで。なんとなくラードの匂いがしたので、間違いなく中はお弁当だろう。

 

「……食べろと?」

「えっと、すぐじゃなくて良いんだけど、ね。うん。1日くらいは持つし、できれば先輩が、先輩の拠点? に帰ってから開けて欲しい、かな?」

「いや、何で今渡して来たし……」

 

 渡された理由も意味不明だし、この時間帯に渡してきたのも含めて色々と意味不明なのだが、そんな私にメイリンは肩をすくめる。

 

「渡したのはお礼だって、素直に思って欲しい、かな。練習の成果を診てもらいたいっていうのもあるし。それに…………、先輩、気付いていないかもしれないけどさ。私ってダーナさんから研究室用に部屋を貸してもらってる関係で、先輩達と時間が大きくずれてるんだ、よね。今だって、本当なら日中に先輩達と顔合わせするつもりだったのに、研究室を出た瞬間に夜中になってるし、先輩の部屋に尋ねるまでに太陽が一周してるし」

「なん……、だと?」

「アイヤー、ダーナさんが寝てる時はしっちゃかめっちゃかだと思う、かな?」

 

 つまり、次に研究室にこもったら出てくる時に私たちと会える可能性が低いから、いまのうちに準備をしておきたかった、ということか。いやそこは研究室に入る時間を遅らせても良いのではないかお前さん? と思ったが、「事はそう簡単じゃないから」と寂しそうに肩をすくめる。

 

「チャンスは一度きりで、そのタイミングももう決まってる。今の私にできるのは、そのタイムリミットまでにこの拠点から目指した時間軸の狙った場所とタイミングにタイムジャンプする、そのためにタイムマシンを改良すること、ただその一つ。それが出来なければ、私がここにいる意味なんてないからね。

 私がやろうとしていることは、タロ……、ア、イヤ、ダーナさんに言わせれば『成功のない袋小路』らしい。万に一つも、私が私である限り掴めるはずの可能性すらつかめないって、そう教わってるんだ」

「それでも諦めるつもりはないって?」

「うん。そうでもしないと、私が生まれた歴史の意味なんてない。私の育ての親が、友達が、兄妹(きょうだい)たちが、私がここに送られるためのリソースを稼いでくれている、その意味すら無に帰しちゃう。

 九郎丸さんやキリヱさんとか、先輩たちみんなと居るのは楽しいけれど……、それでも、その最初の最初だけは揺らいだらいけないんだ」

 

 そう語る彼女の目には強い意志の光が宿っており。しかし同時に、やはり寂しそうな女性の姿にしかみえない。二十代であるにもかかわらず、その「一人」佇む姿は少女のようにも見えた。

 メイリン……、超のその寂しさは、やはりどうあがいても「この場所」で「我々には」埋められないものであるのだろう。それこそほんのわずかに聞いた今の事情からして、たとえ距離を置いていたとしても家族のような友達が大勢出来る、そんな中学三年間こそが、彼女が「ネギま!」の超鈴音になるのには必要なのであって。

 

 なるほど。そういう意味では確かに彼女は、まだ、超鈴音ではないということなのか。少なくとも私が一読者として知る彼女であり、劇場版FINALで雑に未来から登場した彼女でもない。まだこの段階の彼女は、「ネギま!」の超鈴音に合流した存在ではないのだから当然といえて。

 

「そう、だな。…………うーん、じゃあ、スーパーってことで」

「えっ?」

「今日からお前はかつてのメイリンを超えたすごいメイリン……、スーパーメイリンだッ!」

「だ、ダサい!?」

 

 だからこそ、何かしら彼女に残すことが出来ないのかもしれなくとも。それでも最後くらいは笑って別れられるよう、出来る限りおどけることにしたのだった。

 なお暗に「お前が超だと判ってるぞ」という匂わせでもあるのだが、表面上は特にそこに気づいた様子はない。……割と思っていたが、将来のことや素の知能はともかく、結構この人はポンコツなのかもしれない。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 などと余裕をこいていた私をぶん殴ってやりたいところだ。

 試験とて原作と差が無いだろうと斜に構えていれば「刀太もそうだが魔法具のこともあるし、アタシもちょっとばかり本気を出させてもらうかねぇ」などと言い出したあたりで、嫌な予感を抱く。そして抱いたと同時に木っ端微塵、爆発四散という有様にされた私だったので、もはや諸行無常。ナムサン! とネタでも叫ぶ余裕すらなく、なんなら「第四の目」が起動してるのに、全員に指示を出す余裕さえない。一瞬で粉微塵にされているせいで痛みは少ないが(麻痺)、再生時にぶり返すようにくるので良いやら悪いやらである。

 

「俺が囮になるから、キリヱがリーダー的な感じで指示出せ! 多分『一番知ってる』だろ、全員!」

「ちょ!? あんなの無理でしょーが、勝てっこないわよ、死ぬしかないじゃないのヨ! そんなに無茶して――――」

  

 私に制止をかけるキリヱ大明神。本来ならありがたいものであるが、流石に今は余裕がない。すぐさま「5人に分裂」した私を見て言葉を失うキリヱ大明神を背後に、私は師匠に斬りかかる。

 

血風(けっぷう)炎天(えんてん)――――!」

血風(けっぷう)流天(るてん)――――!」

血風(けっぷう)塊天(かいてん)――――!」

血風(けっぷう)雷天(らいてん)――――!」

 

「おぉ、四大属性揃い踏みとは豪勢だねぇ」

 

 燃え盛る火の柱たる血風。流れ落ちる滝のごとき血風。例によって泥のような色をした血風。血風らしからぬバチバチとした雷特有の音と光を伴った血風。

 それぞれを前にお師匠は、観光名所で適当な感想でも述べるような修学旅行中の学生じみた風に、完全に他人事のようにぼーっと見ていた。

 

 ……カイン・コーシとしてキティちゃんの修行を見た後、その戦闘ぶりを背後から観察していた際、その余波で飛んできていた術を取り込んでいたのが功を奏したのだろうか何なのだろうか。気が付けば星月から「使えるよ!」と教えられたこの四大属性版の血風である。

 塊天についてはフェイトのそれのままなので土属性のまま何も変わりはないが、火、水、土、風(雷)それぞれに対応する血風をなしくずしで覚えてしまった感じがして、これはこれで低OSRなイメージだ。

 低OSR(らしくない)。つまりこれは決定打にはなりえないだろうとメタ的な読みをしている私であるが、果たしてそれは正しかった。

 

 はいよ、と言った瞬間にお師匠の手元に真っ黒な球が形成される。それを術式掌握でもするように握ると、同時に放たれた血風がそれぞれ、分身の私たちへと跳ね返る。いや、跳ね返ると言うか、ゲームでいうエフェクトやオブジェクトがそのまま反転したというか、とにかく明らかに時間と空間がねじ曲がった所業そのものである。

 

 あっという間に倒された分身を前に、後方で作戦を考えていた私の目前に「ぬ」っと縮地するかのように現れたお師匠。

 

「何なのだこれは……、どうすれば良いのだ!?」

「こうすれば良いのさ」

 

 単純だろ、と言いながらお師匠は私めがけて先ほどの黒い球をぶち当ててきて。

 次の瞬間には、私の身体は「内側から」「渦を巻いて」破裂した。

 

 ……いや、あの、せめて囮を買って出たにもかかわらず1分持ってないんでその、もうちょっと格好つけさせていただけるとありがたいと言いますかね、えぇ(震え声)。

 

「汚い花火だねぇ」

 

 絶対聞こえているだろうにお師匠、あなた。というか今の粉砕を見てカトラスが気絶してるんですがそれは。もうちょっと妹チャンのメンタルを慮っていただきたいところである。

 

 

 

 

 



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ST199.映せぬはずの冥夜(後)

おかしい、これでも展開と描写を削ったのに文字数が1万文字近い・・・


ST199.From Behind The Persona.(2/2)

 

 

 

 

 

 ぬわああああん疲れたもおおおおん! 辞めたくなりますよぉ人生。当たり前だよなぁ?(連続死亡回数100回越)

 

 妄言はともかく、あまりにもダメージの蓄積が多くなったせいか精神が回復せず、内在世界の方へと飛ばされたらしい私である。空に見える現実世界の私の身体は「あ゛~」と潰れた声を垂れ流しつつ倒れて再生途中であり、復帰する余地が今のところない。というか私のメンタル的に復帰したくない。卒業試験と言いつついくら何でも卒業させる気ないんじゃないっスかねお師匠!? 斬ればなます斬りされ返し、殴れば粉砕、血装による攻撃は血を沸騰させて人体ごと粉微塵。どう考えても原作より扱いが酷い気がするのだが、一体何かやらかしただろうか。特に私。九郎丸はまだ原形が残る程度、三太は何度か成仏か滅却されかけたし(おそらく水無瀬小夜子が戻した)、カトラスも腕をもぎられたり、キリヱはかわしきっているが毎回悲鳴を上げているので筋肉痛が限界を超えてるのか、あっちで倒れて眠ってる。

 せめてチュウベェがいれば状況はもうちょっと違ったのだろうが、あっちはあっちで現在は超のもとである。試験前に「少し使わせて欲しいネ」と借りに来られたのが運の尽き。あのタイミングではまだまだ師匠が課する試験内容を甘く見ていたせいもあり、こころよく引き渡したのだった。チュウベェ本人(人?)も「たまにはビッグブラザァじゃない人のチリドッグも乙なもの」とか言い出して乗り気だったので放置した結果が現在である。まあ疾風迅雷したところでお師匠なら当然のように対応してくるだろうと言う確信はあるが、それはそうとして手が一つなくなったのはそれなりに大きい。

 

 と言う訳で現在、寝大仏様状態な私であった。右ひじをついて体を横にしてうつらうつらしている。肉体も無い精神世界でうつらうつらとはこれいかに、と思わなくもないが、とにかく軽いストライキ状態だ。

 

「だからって、そんなことしてても全然解決しないと思うけど……」

 

 弱ったなあという表情でこちらを見降ろしてくる、星月。相変わらず大河内さんスタイルなのは良いのだが、マントの下が完全にスクール水着なのは一体何がどうした。胸元に「せいげつ」とかひらがなで書かれてるあたり妙にマニアックで、そこはかとなくクウネル・サンダース(元祖「ネギま!」変態筆頭)の影がちらつく(猫耳セーラースク水エヴァちゃん的意味で)。いや別に私の精神世界にいるわけはないだろうが、「私」基準でその知識を読み取ってネタをふってきてる可能性もないわけではないので、このあたりのボーダーラインは微妙な所だ。

 いやでも実際、こう、救いは無いんですかね。

 

『――――あるわけないだろ、救いなんざ』

「現実世界から精神世界に向けて文句言うの本当おやめくださいませんかねお師匠(震え声)」

『キティの救いにもなれなかったアンタがそれ言っちゃお終いだよ』

「人が気にしていることを…………ッ!」

 

 そして当然のように上空に映る現実世界の映像より、お師匠がこちらをちらりと横目で見て肩をすくめながらの一言が頭上から降ってくる。今までの実績から言って当たり前と言えば当たり前なのだが、心休まる状況はどこにもないらしい。

 いや、まあ実際問題仮に「完全なる世界」との戦闘中に今の状況になると大変危険なので、お師匠が呆れた風になるのも当たり前ではあるのだが。

 

 まあ諦めて戻るか、と立ち上がった時に、星月が「ちょっと待つんだ」と私の肩を背後から持つ。というか、持ち上げる。何だそのパワー!? 普通に力持ちすぎて、完全に大河内アキラのそれだ。

 

「今そのままあっちに戻ったとしても、このままだと対策がないからジリ貧だ。相棒のやる気が削れるだけ削れて、何も進展がない」

「だからといってこのままだと、まーた九郎丸の首がへし折られることになるのだが」

 

 こうして話してる間も、私の身体を呆れたように見つつも首を握り持ち上げられる九郎丸の方は色々とヤバイ。何がヤバイかといえばお師匠の細くお綺麗になったお手々の親指がお食い込みあそばされて、徐々に徐々に赤い血が噴き始めている辺り。人間なら完全に手おくれの類であり、救出するなら今すぐ向かうべきであろう。

 だがそれだけだとまずい、と星月は言う。

 

「今の相棒は、以前の相棒より「金星の黒」との結びつきが少ない。胸にあった傷はそれだけで最悪致命傷ではあったけど、そのお陰で常時、相棒は「金星の黒」とつながりがあった状態だって言える。

 この状態から傷だけ無かったことにされている以上は、今の相棒の金星の黒は自動で発動しているのと同じ位、相棒の心が大事になってくる」

「つまり何が言いたいのか」

「相棒がやる気をなくした状態で死ぬと、本当に死にかねない」

 

 ダーナさんのことだから復活の手段は残してくれてるだろうけれど、という一言すら頭の中で右から左に流れるくらい、中々に重大発言であった。

 

「……えっ、死ぬの?」

「うん、たぶん。特別、相棒の心が弱いとかそういう訳じゃなくって、仕様上の問題だ」

 

 となると今の状況で戦闘を繰り返し続けると拙い、というのは流石に理解させられる。「死ねばもう痛くも何もないだろうがねぇ」とか皮肉で言ってくるお師匠はともかく、いくら何でも流石にそこまで人生割り切ってはいない。というか「一度死んだ後に復活した」場合の「人格の同一性保持」というものについては、私はかなり恐怖しかないので文字通り洒落になっていない。

 現在の「私」ですら様々な認識が微妙に入り混じった結果の不安定なそれであるにも関わらず、完全に死んだ場合何がどうなるかなど嗚呼考えるだけでも恐ろしい、身の毛がよだつ。「今日の自分が明日の自分と完全に同一のそれであるか」など幼少期に思いつく恐怖体験の想像力の暴走だと思うのだが、こんなものリアルに身近にあってたまるかと言う話だ。

 

 だから何か作戦を考えろ、と言われれば考えない訳にもいかず、お師匠も「お情けだが視ないでおいてやるよ」とここから視線を逸らす。つまりは星月の言ってることは実際事実であり、否定する要素はないということだ。そうか、そうか…………、そうじゃなよ(非便乗)。

 

「とにかく何を考えるべきか、原作でいうと8巻と20巻、21巻くらいだったか? お師匠とのバトル描写あるの。なんかあんまり覚えていないが……、流石に今から読み直すことはできないだろうし」

「大丈夫、あるよ」

 

 はい? と問い返すよりも前に、しれっと「UQ HOLDER!」と「ネギま!」の漫画がずらっと目の前の地面に積まれる。いや、ちょっと待て何でこんなものあるのだお前さんや。

 

「相棒が直近まで読んでいたからだよ。うろ覚えってことは覚えてるってことだからね」

「あー、まあ、ありがとう(素直)」

「うん、どういたしまして」

 

 とにもかくにも色々とガバは多いが、ここから何か対策を見つけられるものだろうか。そしてそうこうしている内に当たり前のことだが、タイムアップということなのか九郎丸の首はねじ切られ、頭部はお師匠に蹴り上げられた。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「神鳴流・雷鳴剣――――って、えっ!? そのまますり抜けた!!?」『(甘いよ僕!)』

「受け流してるんだよ。桜咲刹那でもこれくらいはしてくるから、学んでおきな」

 

 ダーナ師匠はそう言いながら、僕の振り下ろした電気エネルギーの刃をすっと抜ける様に「剣も使わず」躱し、受け流し、一歩踏み込んでくる。そのまま僕の首に手を伸ばしてくるのを「自分の脚を斬って」瞬間的に体勢を崩して躱すと、そのまま足が再生するより前に斬り上げる。

 さっきはそのまま首をねじり斬られて、目の前で見てたカトラスちゃんを気絶させちゃった。刀太君が死んだ時とか何度か気絶させちゃってて申し訳ないけれど、復活早々に「殺す……!」って殺意マンマンで向かっていくのは、なんとなく刀太君のちょっと追い詰められている時に似てる気がした。

 それで何とかならないから、今カトラスちゃんは両腕をもがれた上で下着姿に剥かれて転がされてるんだけど。

 

 ちなみに三太君は突然姿を消してるし(ダーナ師匠いわく「神隠しとは恐れ入ったねぇ、ドクターストップじゃないか」と言っていた)キリヱちゃんは途中で「アンタは合格でいいよもう」と言われ、筋肉痛だから代わってとダウンしてた。

 

「佐々木三太はまぁ、不合格でも水無瀬小夜子がいるうちはまだ問題はないだろうし、桜雨キリヱは役割から考えたら既に合格水準だがねぇ? 一番問題なのはアンタだよ時坂九郎丸」

「僕?」

 

 そしてダーナさんは、僕だけは駄目だと名指しで指を突き付けて来る。

 

「アンタと九龍天狗の戦いは『決着がついていない』から今回はタイムアップってことで今試験を受けさせちゃいるがねぇ? まるで自分の神刀への理解が及んじゃいない。理屈から言って自力で気づくことは可能なはずだが、そのカギになるものをアンタ自身が蓋をしている状態なのさ」

「気づくって、一体何に……?」

「指摘するのも野暮だがねぇ。アンタだけじゃない。そっちの神刀の方にも問題があるさ」『(うっ、でも無理ですよダーナ師匠、僕が僕を正しく認識するってことは、つまり僕にとって――――)』

 

 僕たちに問題がある、僕が自分から蓋をしている。

 ダーナ師匠のその言い回しに違和感と、一緒にヒナちゃんからも「困惑みたいな感情」めいた何かが伝わってくる気がする。

 

 あの九龍天狗さんとの斬り合いで何をすれば良いのか思った通りになってないねぇ、とダーナさんは肩をすくめた。

 

「こればっかりは人の心の在りようの問題さ。意図したとおりにならなかったからとはいえ、あんまり言ってやるのも酷だろうさ。

 技術的には合格点を出してやれなくもないが、もうちょっとその辺りに自覚的になれるまでぶっ殺してやるのも――――」

 

「いや技術的に合格点なら止めてくださいってお師匠や」

 

 瞬間、僕の目の前に刀太君が……!? 再生が終わったらしい刀太君は、庇うように立ちふさがって、その胸の中央に、ダーナ師匠の刀が貫通して。

 

 なんとなく僕の脳裏に、彼を「不死者の世界」へと引き入れてしまった、あの時の僕と彼の姿がフラッシュバックし――――。

 

「っ!? ほう、妙なことを考えたものだねぇ」

 

 ――――刀太君から貫通した刃の部分が、いびつに歪み、きしみ、砕け散った。

 

「やれやれ、せっかくそこの九郎丸が『あと一歩で』目覚めそうなところだったものを」

「えっ?」『(……)』

「いや、九郎丸が『本当の意味で』神刀を使いこなしたところで、お師匠には勝てないだろって。どう考えても無意味な覚醒だろーが。そういうOSR(それっぽい)のは別なタイミングでピンチの打開に使うのが定石って、大昔の少年漫画から決まってんだろッ」

 

 P・A・L☆ザ・コミックマスター(コミマス)の漫画じゃねーけど、って刀太君はそう言いながら胸元をぬぐって傷を再生させる。

 

「まあ『何度か受けた以上は』解析されもするかねぇ。

 キャスト・イン・ザ・ネイム・オブ・ガッシュ・イエット・ノット・ギルティ――」

 

 ダーナ師匠は始動キーめいたものを唱えながら右手を振り上げて、真っ黒な魔力のうずまいた球体みたいなのを形成。

 あれはさっきから刀太君が何回か使われて全身が砕け散ってるやつじゃ……! ヒナちゃんを構えて駆けだそうとする僕だったけど、声を出そうとした瞬間にはもうダーナ師匠は刀太君にそれを振り下ろしていて――――。

 対する刀太君は、重力剣(?)を下から斬り上げて――――。

 

 

 

分離魔丸(クロマトグラフ)――――」

「――――血風冥天(けっぷうめいてん)

 

 

 

 真っ黒……、いや、単なる真っ黒じゃない。何かが蠢いてる様な、黒々とした墨みたいな水の流れが走ってる様な、そんな刀身になってる重力剣と、ダーナ師匠の黒い玉とがぶつかり合って「何かがひび割れる」ような音が聞こえる。

 ひびわれる、ガラスをこすり合わせてる様な、黒板に爪を立ててギリギリやられるようなののさらに強い音って言ったらいいかな。こう、耳をつんざくっていう表現をしたらいいかも。ちょっと心臓がきゅっとなる。

 そしてその衝撃で、きゃあ、と思わず声を出して吹っ飛ばされてしまった。隣で腕が生えかかってるカトラスちゃんがごろごろ転がってるな。まだ起こしてもすぐ戦線復帰とはいかなそうだし……。

 

『(ダーナさんの時空間制御技を返してる……!?)』

「と、刀太君、それは一体……!?」

「悪いちょっとリアクションとれん!!? 逃げろッ」

 

 僕の声にも刀太君は大慌てで適当に返して、その場で重力剣を震えながら構えてる。ダーナ師匠も振り下ろした体勢で構えたまま「厄介だねぇ」って言ってるし、きんきんと、びきびきというひび割れるような音はずっとなり続けてるしでちょっと頭が痛い!

 気で鼓膜の周辺を強化してちょっとだけ音の感度を鈍くしても変わらないし、もしかしてこれって音じゃなくて、もっとこう、何か時間と空間がどうこうしてるとか、そういうものなのかな?

 

「おおよそ解析率は4割強といったところか。ああ嫌だねぇ嫌だねぇ、太陰道による直接の反射とかじゃなく、よりによってこれを解析するか。解析『出来る』時点でまあ『完成度』としてはそういうことなんだろうが、それにしたってねぇ。

 ちょっと『光る風を超えて』きた程度で調子に乗ってるんじゃないのかい? 縦軸と横軸に根を張ってるくらいでアタシの領域に手を伸ばそうとするのは!」

「あっちに文句付けるのは止めてくれませんかねぇ、言い出したのは()なのだからッ!それに……(原作的にもお師匠の技返すのくらいはあるのだから問題ないのでは?)」

「なおさら性質が悪いよ、本格的に人間辞めるつもりかい!?」

「でも、これくらいやらないとお師匠、殺しにかかってるでしょうが!」

「当然さ殺しにかかってるんだから!」

「理不尽ッ!!?(白目)」

 

 な、何を話してるか全然わからないんだけど、刀太君。あと、私? 刀太君が変な一人称使ってる……。別に変ってわけじゃないけど、普段の刀太君らしくない一人称というか、口調と言うか。

 訳がわからない。わからないけど、わからないなりに僕に出来ることは、ないだろうか。徐々に押されてるのか、刀太君の腕とか脚とか、死天化壮から血が吹き上がってる。

 

 折れた夕凪を納刀して、ヒナちゃん片手に立ち上がって。ヒナちゃんから流れて来る妖力を活性化させて、気に織り交ぜて加速させる。感覚的にはもう全身フラフラだけど、それでも。

 

「僕は、刀太君が好きなんだから――――」

 

 

 

『(――――そう、その意気だよ僕……!)』

「えっ?」

 

 

 

 今、どこかから声が聞こえたような……?

 心当たりもないけど、敵対的な意思は感じなかった。だから僕はヒナちゃんを振り上げて。

 

「神鳴流奥義、雷鳴剣・弐の太刀!」

 

 神鳴流における宗家秘伝たる弐の太刀。桃源の神鳴流において、兄様の弟/妹である僕にも、一応は継承されている。対象をとり、その斬撃の範囲のうち「任意の相手」のみを斬撃の対象として切り捨てる、実体なきものの実体すら捉えて叩くための、人ならざるものを斬るための術。

 だからこそヒナちゃん、神刀たる姫名杜の全力でもってその一撃を放ち。刀太君をすりぬけた電撃の刃をダーナ師匠に届かせれば、それだけで少しでも刀太君の助けになると信じ、そして――――。

 

「――――幽波鏡(スタンドミラー)!」

「――――明星風(スーパーローテーション)

 

「三太君! カトラスちゃん!」

 

 それぞれ、僕の隣で「肘を使って上体を支えて」黒く変化した右手から光線を放つカトラスちゃんと、刀太君たちの頭上で両手をかさねて唸ってる三太君。

 カトラスちゃんから放たれたその魔力の光というか、そういうのが刀太君の肩からダーナ師匠の腕を貫通して。

 そしてダーナ師匠の背後に回った僕の雷も含め、それらが跳弾するみたいにダーナ師匠の背後のある距離で跳ね返り、そのまま彼女へと襲い掛かる。

 

 ただ。

 

「悪くないし全員合格点をやるが、それはそうとして概念干渉の域にはまだ届いちゃいないかねぇ? これだと今の(ヽヽ)始まりの魔法使い相手には苦労しそうだ」

 

 嘘、だろ? と三太君。「実体から反射する時に霊体にも干渉できるよう、アプリで波長を変化させてるのに!?」と驚いてる通り、それらの攻撃を受けてもダーナ師匠は傷一つついていなかった。

 バケモンかよ、とカトラスちゃんはレーザーを放ちながら引いている。

 僕だって何も言えないくらいショックは受けてる。受けてるけど、それでも気と妖力の捻出を止めはしない。

 

 そして刀太君すら攻撃がいまだ拮抗してるからこそ身動きできずに固まっている中で。

 

 

 

「負けるんじゃないわヨ、刀太! あの時(ヽヽヽ)みたいに、また私をひとりぼっちにするの――――?」

「――――ッ」

 

 

 

 筋肉痛で動けないはずのキリヱちゃんが、それでも声をかけた瞬間、それは起こった。

 刀太君の死天化壮の右肩に「髑髏じみた仮面」みたいなものが形成されて。それと同時に死天化壮のデザインとかがもうちょっと刺々しい感じに変化して、といったらいいかな。

 

「とはいえ座標は固定されているから、全く効いていないわけじゃない。特に九郎丸、アンタ少しは出来るじゃないか。いっこうに天狗のケツを蹴っ飛ばせないわりに、少し評価を改めないとならないかねぇ?」

 

 そしてそうなった刀太君は、歯を食いしばったまま一歩、一歩と無理やり前進して、腕をガタガタ言わせながら。

 

「それを言い出すのは反則だろ、キリヱ……!」

「おやまぁ、まだ『一周目』が残ってたのかい」

 

 驚いたように目を丸くするダーナ師匠に対して、剣を振り返して。その身体へと「どす黒い血風」が接触すると同時に、その軌跡に沿うようにダーナ師匠の全身へと魔力が渦巻いて。ついさっきまでの刀太君と違い、弾けて血痕も残さず消えた。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 それは、ずるいんですよねキリヱ大明神……。いくら何でも「一周目の」私に声をかけるのは、色々とズルがすぎるのだ。これでは修行の成果をみせるというのにはならないだろうと思うのだが、そこのところどうなんでしょうかねお師匠。

 

「アイヤー、お疲れネ! ダーナサンは帰てくるのにまだ時間かかるみたいだし、ちょと休憩がてら天心食べるカナ?」

 

 我々の最後の一撃で、姿を消したお師匠。それに安心するに安心できずまだ構えようとしていた私たちだったが、どこからともなく現れた超が「ヤーヤーヤー!」と我々に声をかけた。……どこかで見た中華風ウェイトレスな恰好に蒸し器と皿をかかえて。

 それらを置いて「ヘルプ、頼むネ」と超が手を叩くと、程なくどこからともなくエヴァちゃんの操っていた茶々丸風の人形たちが湧いて来て、カトラスが「ひっ」と引いていた。

 そんな人形たちがテーブルやら何やら配膳してきて、ついでにカトラスの服も着せて……何故全裸だったお前さんや。ともかく気が付けばおやつタイムな状況となっている。

 

美味(うま)っ……!? ん、でも何か味付けがちょっとお兄ちゃんっぽい――――」

「アイヤ、気にせずいっぱい食べるネ! まだまだ育ちざかりだからコレステロールはおっぱいとおっぱいとおっぱいに行くね、女子は」

「それ私と九郎丸への嫌味!? って痛い痛い痛いッ!」

「き、キリヱちゃん無茶しないで……(後多分、僕よりキリヱちゃんの方が大きい気が……)」

「よくあれだけ動いた後に食えるよなァ……」

 

『…………(だ、大丈夫、大人の姿になれば育ってるし、僕)』

 

 人形たちに交じって小間使いのように使われてる九龍天狗が九郎丸を見て少し寂しそうにしていたり、キリヱ大明神が数体に介護されていたりといった妙な光景はあるが、戦闘に関してはともかく終了で良いようだ。流石にそのあたりの判断が読めないまま超が出て来る訳もないだろうし(メイリン時代を思えばお師匠は恐怖の対象なわけで)、一息ついて良いだろう。

 

「おー、お疲れキリヱ大明神」

「だから、神仏扱いは、止めなさいって痛いッ! 喉っていうか首が痛いッ!」

 

 とりあえず私は席を立ち、一人だけリクライニングチェアに腰掛けられてピクピクと震えてるキリヱ大明神に声をかければこの状態なので、うーんまぁ、こればっかりは本当にしかたない。いかに不死者といえどキリヱ個人は「不老」であって「不死」ではない以上、身体的などうこうに関しては原作通りどうしようもないのだろう。もしかしたらレベル2として「部屋」に入れば軽減なりリセットなりされる可能性はあるが、この拠点ではそれも出来ないらしく、完全に重体である……、重体の筋肉痛であった。

 ただ、それはそうとして言わなければならないことがある。小声で、周囲に聞こえないように気を配りながら、私は彼女の横にしゃがんで耳元に囁いた。

 

「あー、最後の一言はありがとな。だけどそれはそうとしてあんまり『あっちの』俺に声掛けするのは止めてくれねーか?」

「な、何でヨ……? だって『居る』んでしょ? 溶けて、アンタの一部になったかもしれないけど、聞いたのヨ? あの、ニキティスっていうちびっ子に」

「ちびっ子言ってやるなよ絶対後々面倒な絡まれ方するから(震え声)。

 と、それはそうとして。……だいぶ無茶した後で俺と融合したから、多分もうほとんど残ってないんだ。可哀想じゃねーかって、他人事としちゃ思うんだけどよ」

「そんなの…………、でも、うん、それは、ごめんなさい。

 だけど、ただの声掛けでも、私は必要だって思ったらたぶん、言うわヨ? ずっと私と一緒にいたんだから」

 

 そう語るキリヱ大明神にそれ以上は言うことも出来ず、おう、とだけ私は返す。

 嗚呼そうだ、これは完全に私個人の都合だ。あの状況で無理やり「私」の中から一周目の私の意識を揺さぶられたことに対する恐怖など、完全に私個人の問題だ。

 

 もともと星月と内在世界会議を行い、師匠によって私が粉々にされていた「黒い球体」の正体が、原作8巻でキティちゃんを守るために刀太が立ちふさがった際の時空間をどうこうする技であるだろうと推測した。「多分、座標を変える技なんだろうけど、あれは相棒のいる座標に相棒を転送して『かべのなかにいる』を瞬間的に再現した結果だろうね……」と遠い目をしていた星月に相談し、今まで受けていたお師匠のアレ、クロマトグラフといったか。それの情報をもとに解析を頼み、例によって血風にエンチャントできるよう調整してもらったのだ。

 ただ問題があるとすれば、師匠のお力は星月の解析能力を超えていたらしく、せいぜいが4割か5割程度の再現度に落ち着く形となったらしい。

 

『初撃は耐えられるくらいにはなってると思うけど、時間が経つとあっという間に相手の攻撃に飲み込まれるからね』

 

 とはいえ状況的に使わない訳にもいかず、というのが先ほどのアレだったわけだが……。ギリギリのところでの、キリヱ大明神の呼びかけに、私の中に溶けた「彼女と共にあった」私が呼び起こされて、一瞬だけ「乗っ取られた」のが正解だ。

 意識は完全に乗っ取られたわけではない。ただ首から下の全身、血流操作にはじまり身体操作、魔力操作およびその他諸々全部を奪い取られ、出来ることと言えば話すことくらい。おまけに乗っ取っただろう一周目の私は自由意思すらこちらに示さず、ただ無理やり物理的に動くばかり。

 

 嗚呼わかってる、あれとて結局私なのだ。だから状況次第で呼び覚まされても、私である以上とるだろう行動に変化はない。むしろ血装に関しては、レベルアップした私よりもあっちの私の方が優れているだろうから、お手軽なパワーアップとしては悪い手段ではないのだろう。

 だが、魔天での暴走以上にそれは「自分が自分でなくなる」恐怖を植え付けて来るもので。

 

「刀太君、大丈夫? 疲れてるみたいだけど」

「あー、まぁ…………」

 

「こゆ時はアレをするべきネ、九郎丸サン。――――先輩、おっぱい揉むネ?」

 

 だから揉まんわ!? と、思考がシリアスに埋没しかかった際に自分の胸を寄せて上げて悪戯っぽく笑う、本当に悪戯めいた超にツッコミを入れ。

 ええっ!? とか言って自分の身体を抱きしめて目を丸くする九郎丸と、やっぱりおっぱい大好きなんじゃない!? と筋肉痛を無視して立ち上がりキレてかかるキリヱ大明神。三太は「あァ、ウーロン茶美味しい……」と現実逃避するみたいに俺から目をそらして、カトラスは無言のまま人形から供給される小籠包をガツガツと食べていた。なお私は私でいるはずもないだろうに夏凜がいないか周囲を警戒してしまったので、これはこれで重症である。

 

 お前さん最後の最後で展開カオスにしてくるの止めろ(戒め)。というか一体何があってその煽りと言うか、胸を揉ませるか確認するネタを続けるのだ。いい加減本当に揉むぞッ!!?

 

 

 

 

 



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ST200.だから何も変えられない

待ってなかったかもしれないけど お ま た せ (ちゃんさん)
ついに200話突破です…!? ご愛読ご評価ご感想誤字報告もろもろありがとうございます……!


ST200.Carry Our’s Cross.

 

 

 

 

 

「とりあえずようやく見れるレベルにはなったが、まあ今ぐらいなら表に出ても苦労はしないだろうがねぇ? 少なくとも魔人としての完成度は上がったから、そう簡単には死なないし死なせられないだろうし。当初のアンタの目的には合致しちゃいるかねぇ?」

「つまり、もう卒業よね? 帰って良いのヨね――――」

「嗚呼『第一期』は卒業さ。『第三十期』まであることを思えば全然だが」

「――――って長いッ! 長すぎヨ!?」

「そりゃ、ウチの修行は最低十年だ。アンタらの入団試験だって下手すれば三十年は余裕で時間がかかるだろうに」

 

 三十期とかいう明らかに正気ではない修行のフェーズを出されるのを聞いて少しほっこりする私である。そんな私を見て「兄サン、何ニヤニヤしてんだ?」とカトラスが聞いてくるが、当然答えられるような理由ではないので特に何も言わずにサムズアップする。キモい、の一言でも返ってくるかと思いきや、少し硬直してから顔を逸らし、唇を拗ねたようにとがらせてちびっ子のような妹チャンだが、お前さんそれ一体どういう感情の発露だ。いや別に知りたくはないと言うか、知ったらガバの温床になりそうな予感もしているから知らないことにしておきたいが。

 うんうん、それもまた原作通りだよね。修行が全然初歩の初歩で終わっていることイコール原作とそんなに違わない言い回しであることを思えば、そう全然問題はない。問題はないったらないのだ。

 

 はぁ(クソでかため息)。

 

 全員で超が用意した天心を食べ終わる頃、最後の一つの小籠包に箸を伸ばそうとしたカトラスの手前からぬっと現れ……というか腕だけデラックスな状態で天心の蓋の裏から現れ、そのまま奪い取り蓋の裏側へ。「あっ!」と叫んだカトラスが蓋をひっくり返すも何もなく、そして全員の視線がそっちに集中している間にいつのまにか私の背後に現れていた師匠は、もちゃもちゃと咀嚼していた。

 例によってひっくり返るキリヱ大明神、くやしそうなカトラスはおいておいて。

 

『ちょっと塩味が濃いかねぇ、超』

『アイヤー、ハハハ。小麦を固めるにはどうしても塩必要ネ。学生用にタネの味は薄くしてるヨ。っと、それはそうとして先輩にはこれ返すネ』

『これ? って……いや何やったんだよコイツ』

 

 玉虫色コーティングされたような半透明のモ〇スターボールのようなものの中で丸くなっているチュウベェ。こころなし遠い目をしており、声も上げていない。「第四の目」を使って確認すれば「白……、白……」とよくわからないことを繰り返しており、そしてそういえばこのボールもどき見覚えがあるなと思い至った。

 

『もしかしてコイツ……』

『下着泥棒したから、ちょと余計に絞たネ。回復したら解放されるから、放置しといて大丈夫ヨ』

 

 なるほどあの時間軸の超はお前さんか。メイリンの言い回しが正しければ、私からチュウベェを手渡された後、また研究室なり何なりで時間の進み方はこちらとは異なっているのだろうが。というかひょっとしなくても、未来からこの時間まで戻って来た可能性もあるし。

 そんなやりとりをしている私と超に、ふうんとか言いながらちらりと私の方を一瞥するお師匠は一体何が言いたいのやら。そして「さっきから思ってたけどコイツ誰?」と聞いてくるカトラスに、そういえば紹介していなかったなと気付いたり。もっとも「まま、気にしないで大丈夫ネ! 詳しく知りたかたら、まほらにある『超包子』一号店を訪ねると良いヨ!」とか何とか言って適当な対応をする超に、ちょっと訝し気な視線を向けるカトラス。

 そういやカトラスは超のメイリン時代、今いる面子だと私に次いで一番接触期間が長かったから、もしかしたら気づくか? いかに体格年齢おっぱいおしり等が外見上違えど、基本的な顔の作りは一緒だし、そのせいもあってか常にニコニコと笑顔を絶やさない超もちょっと冷汗をかいていそうだ。

  

 結局お師匠が声をかけて、その疑念は追及されることはなかったのだが。ともあれそんな流れで正式に出所(?)になった我々である。

 

『あの子を頼んだよ。後まぁ…………、いや、まあこれは言うのは野暮かねぇ』

『一体何を隠したんスかね(震え声)』

 

 最後の一言が気になりすぎるが、それに対する回答は無し。城のテラスに設置された扉を開けた先が思いっきりアマノミハシラ学園都市の世界樹手前で何故か爆笑してしまった私である。解放感からか、現世(?)に帰ってきたからこその感慨か。ともあれ全員出たら「じゃ、先輩またネ」と言いながら超が扉を閉め、ど〇でもドアみたいにさっと姿を消したあの白いドア。

 

「どこで〇ドアみたいね……」

「感想同じなんだよなぁ」

「皆考えるよなァ」

「僕、よくわからないや…………」

「そー? って、そんなことよりっ! ようやくあのアホみたいな缶詰から解放されたわ! 清々しいッ!

 とりあえず美味しいモン食べまくるわよー!」

「いやキリヱ大明神、たぶん今授業中で時間的に昼は早ぇぞ……?」

「いや、問題はそこじゃないと思うな刀太く――――」

 

 

 

「――――ほああああっ! お兄さまやんっ! 修行終わるの早いなぁ?」

「ひでぶっ」

 

「刀太君!?」「ちょ!? いきなりすぎじゃない帆乃香ちゃん!!?」「早ッ!」「やべぇ」

 

 

 

 そしてキリヱやら九郎丸やらと話をしていたら、どこからともなく帆乃香が腹に突撃して来た。突撃というか射出というか、猛烈な速度で腹に頭からタックルして抱き着いて来て、その勢いに引き倒される。頭からバターン! と逝ったので一般人なら普通に致命傷であるが、そこは幸か不幸かちゃんと「金星の黒」が働いているので、問題がないといえば問題がない。

 それはそうとして「人間的な痛覚のレベル」だから痛いぞこいつ……、上半身を起こし「どしたん?」とにこにこ不思議そうに首をかしげる帆乃香に軽くアイアンクローをかけた。

 

「危ないからちょっと反省なさいっ」

「ふぇぇ……」

「ちょっ! お兄様、流石にそれは……!?」

 

 ちょっとだけ強めにやったので、解放されても「痛いわー」という程度で済んでる帆乃香だが、それでもにこにこしたまま、まとわりついてくるのが妙に懐かしく感じる。具体的には数カ月レベルで(メタ)。後勇魚は「うらやましい……」とかボソッと言わないで(震え声)。お陰で「第四の目」を使うのが怖すぎて使う気にならないが、とりあえず九郎丸と勇魚に手を引いてもらい立ち上がった。

 

「うにゅ? 何かこう、半年くらい会ってなかった感じですごい久々に感じるんだけど、今って何月何日なのかしら? カレンダーのアプリはーと……」

 

 そういえば外してたわね、とポーチから眼鏡ケースらしきものを取り出して開くと半透明の魔法端末手袋(マナグローブ)が形成され、それを自分の手に這わせるキリヱ。その眼鏡ケース的なやつ、マナフォンのケースだったか。

 そして手元に投影されるホログラフィック的なそれを操作して「抜け目ないわね」と引きつった笑みを浮かべた。

 

「まだ十月の上旬だから、時間としたら2週間とちょっとくらい? あんまり違和感はない感じになってるんじゃないかしら」

「改めて思うけど、時間と空間がねじ曲がってるんだよね、あそこ……」

「むしろ俺たち全員、それぞれの修行の時間とか全然違ェんじゃね? 俺なんて体感、1月くらいだったし」

「僕は…………、8カ月くらい?」

「俺、2、3カ月」

「ちょ、ちょっと? 待ちなさいヨ、カトラスちゃんはどれくらいだったの? ねぇ、言ってみなさいヨ」

「何でそんな慌ててんだよ……。んー、どうだったか? 大体兄サンと一緒だと思うけど」

 

「何でヨ!? 何で私だけ年単位なのヨ!!? ちょっと修行の配分どーかしてるんじゃないの!」

 

 あっ(察し)。そうかまたご加齢なされましたかキリヱ大明神におかれましては、こう何というかまたご苦労なされて何というか色々申し訳ない。直接的に私が悪い訳ではないだろうが色々回り回ってるので大体私というか橘が悪いのだが(当然)、この場で気遣えるのは我々だけなのである。

 

「なんつーか、悪いな。うん……」

「合掌」

「えっ? えっ?」

 

 なので唐突に拝みだした私と、悪乗りして一緒に拝みだした三太、「僕もやった方がいいのかな?」とか言い出した九郎丸の三人に手を合わせられて、キリヱ大明神は「に゛ゃあああああんッ!」とおキレ遊ばされた。

 

「って、どうでも良いんだけど私、コイツら面識ないんだけど…………」

「ふぇ? 肌の色とか、もしかしてテナ(ヽヽ)ちゃんかえ? 全然知らんけど」

「お母様から名前が出てましたけど、お姉様?」

「は? えっ、お母様って…………、まさか野乃香さん?」

 

 それはそうとして私が関知していないところで妹チャンたちの交流が始まっていたりしたが、あー、はいはいいつものガバ的なあれですねわかります(諦観)。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 仙境館。「悠久」と書かれたぼんぼりが「有給」に書き換わってるようなこともなく、相変わらずの我らが拠点である。空を見れば快晴とはいわずとも晴れ、潮風の匂いがかくも懐かしい。

 キリヱが「遊ぶわヨ!」とぶんぶん唸っていたので全員で飲み歩き食べ歩きを少しした後(妹たちよ学校は良いのかお前等)、時刻は午後一時半。そろそろ帰るかーと話題にした時、帆乃香たちの後から何故か当然のように現れた茶々丸さんから「手配済です」と言われ、そのまま流れに従って彼女の運転するボートに乗り込み、到着したのがつい先ほどである。「マスターをよろしくお願いします」と頭を下げる彼女の言葉を背に、帆乃香たちとお別れした私たちは足を進めていた。

 

 忍には出会わなかったが、まあそれも原作的には正しいので(むしろ帆乃香たちが突撃してきたことの方が大問題である)特に感想はない。安心感こそあれど、というところだ。

 ついでに館内に入ると、相変わらずの白衣姿な飴屋一空が軽く手を振ってにこにこと応じるのとか、全体的に原作を思い出す流れで安心感が増す。

 

 その後のやり取りは全く安心感がないのだが(白目)。

 

「おっ刀太君じゃん。って、皆も? 修行、終わるの早かったね」

「そのあたりは、まぁ…………うん」

 

 微妙なリアクションの私に続き、後ろの四人も似たような顔をしているだろう、ダレた声が聞こえる。色々大変だったんだね、と苦笑いで流してくれるあたりはありがたいことこの上ない。

 とりあえず代表で報告してくるから、と言って九郎丸達と一旦別れ……、たはずなのだが、なんとなく「第四の目」を啓いてみると「雪姫さんと二人で……」「ヘンなことしないでしょーね!」「えっ? マジで尾行するのか」「わ、私は会いたくねえんだけど! 引っ張んなって!」という思考が視えるので、うん、まあ原作通りと言えば原作通りっスね。

 もっとも、私が私で在る以上は原作通りに進めることは出来ないのだが。……合わせる顔がないと言っても、逃げることはできない。

 

 

 

「ただいまー、エヴァちゃん――――」

「――――なっ!?

 お、お前、何いつも通りみたいな風に戻って来て……、ってエヴァちゃ……? あ、ああそうか…………」

 

 

 

 とりあえずノックして普通に開けて挨拶をする私に、むしろ雪姫の方がテンションがおかしくなっていた。色々と書類を調整しながらコーヒーを入れている最中、ギリギリ落としそうになったのを見て「わざわざ背負って持ってきていた」黒棒から血装し、地面から何本も血の腕を生やして、落下途中のマグカップの角度を調整しながら支えた。

 流石にそこまで人外じみたことをしてくるとは思わなかったのか、若干表情が引きつるカアちゃんである。

 

「い、いや、戻ったならそれはそれで良いが。

 いや、良くはないな、いつ戻ったんだお前。

 戻すときは学園の方だと聞いていたから事前に手配しておいたんだが、その茶々丸から連絡はなかったが、一体いつの間に……」

「はい? いや、普通に茶々丸さんに送ってもらったんだけど――――」

「――――なぁるほどなぁ、あのポンコツがッ!

 ぼーやに付けてからさらに良い性格になってるようじゃないか……ククク、次会った時にどうしてくれようか」

 

 どうやらサプライズ的な何かだったらしい。脳裏で「ネギま!」時代よりも表情豊かになった茶々丸が「フフフ」とスマイルを浮かべている絵面が想起される。

 そして不意打ちにイライラしたのか黒い笑みを浮かべた雪姫は、血装の手からカップを奪うとそのまま一口飲んだ。

 

「それで……、何だ?

 あー報告か。だったら後で書類を渡すが」

 

「いや、カア(ヽヽ)ちゃん(ヽヽヽ)さ。ちょっと聞いてくれよ」

 

「――――」

 

 私の、あえて「戻した」その呼び方に、一瞬目を見開き、頬が赤くなる雪姫。

 悪いがこれは無理だ。少なくとも「今の私では」原作の刀太のようには振舞えない。だからこそ、今できるだけの、私が私として彼女と作って来た関係性に基づいて、できることを。

 

 黒棒の血装を解除して刃に戻しつつ、私は雪姫の目を見て言う。

 

「とりあえず、そう簡単には死なないくらいにはなったーって、師匠基準でそれっぽいことは言われたんだよ」

「あ、ああ……」

「だから、あー、アレだアレ、上手く言葉が出てこないな…………」

「言いたいことはまとめてから出直してこい。

 私だって忙しいんだぞ? これでも」

「いや、ちょっと待って。あー、………………小っ恥ずかしいから一回しか言わないからな?」

 

 何をだ、と、半眼ながらちょっと上気してる雪姫は、カップを置いて両手を背中に回し、トントンと右足を何度か踏む。何かを期待しているような風で、そこだけ見た目以上に幼く見えて可愛らしくも思うが、それがより私の発言の恥ずかしさを加速させる。

 正直に言って百回近く原形残さず木っ端みじんにされるよりははるかに簡単なことであるし、原作のようにプロポーズかますよりもはるかに気楽なことなのだが、こと心の問題だからか今までの関係性が前提にあるからか、喉から中々声が出ない。

 

『頑張れ、刀太君!』

 

 そんな私の脳裏に大河内アキラの声が……、間違いなく星月だろうが、それでもそれは最後の一押しとして機能したらしく。ばくばくと高鳴り続けていた心臓が、少しだけ落ち着いた。

 

 

 

「…………俺はまた、エヴァちゃんのことを。カアちゃんって呼んでも、いいのかな?」

 

 

 

 形だけとはいえ、彼女の本心は知らずとも、一度は親子の縁を切られた関係なのだ。だからこそケジメはしっかりしておかなければならないだろう。それは私の側としても、エヴァちゃんの側としても。

 だというのに妙な恥ずかしさが全身を襲っていた訳で、言い終わった後にまーたバクバクと胸が高鳴り妙な汗をかきはじめる私だ。

 

 そんな私の様子を見て、雪姫はそれはたいそう面白そうに、上気したまま大笑いした。げらげらと、それはもう煽る勢いで。後方から「良く言ったわ、ちゅーにのくせに!」「雪姫さん、楽しそうだな……」とかキリヱと九郎丸の声がぼそぼそ聞こえる気がするが、声に出さないが文句を言いたい。うるせぇ黙れ!(思春期)

 果たして雪姫は。

 

「ハハハ、ハハ……。そんなことで照れるな、小学生かお前は。

 ……だが、くだらないとは言えないな。

 もとはと言えば私の意地だったのだから」

「雪姫…………」

「そうクヨクヨするな。……『デキの良いカアちゃん』としては、そういう息子の思春期のあれそれも、受け入れるのに吝かじゃないがな?」

 

 ぽん、と頭を撫でられ。わずかに気のせいでなければ、普段よりも近い位置にある雪姫の顔が、少しだけ泣きそうに、微笑んでいた。

 

「…………」 

「問題はないよ。嗚呼、問題はない。何もな。

 どこにも行かないから、そんな顔をするな。男の子なんだから――――」

 

 

 

「――――なぁ夏凜」

「ええ、雪姫様」

 

 

 

 ハッ!? 意外、それは罠ッ!(違う)

 後方から聞こえた声に振り返れば、九郎丸やキリヱを押して部屋の中に入れ、扉を開いた旅館の給仕服な夏凜の姿。久々に見る生の夏凜ちゃんに、こっちもこっちでちょっと感動を覚えそうだが、クールなお顔が雪姫ではなく私をロックオンしていることに恐怖、恐怖、恐怖の類である。

 

「ちょっと夏凜ちゃん!? せっかく良い雰囲気になりそうだったのに、何やっちゃってんのヨ!」

「ぼ、僕ら親子水入らずなところに入っちゃって良かったのかな……? 三太君とかあっちで耳塞いで悶えて拒んでたし……」

「三太ェ…………(思春期)」

「さて、しばらくぶりですが刀太――――おや?」

 

 すたすたすた、と衝撃で身動きがとれないでいる私に近寄って来た夏凜は、そのまま私の顔を覗き込む……、ん? 覗き込む?

 

「夏凜、ちゃん、さん……?」

「これは、また身長が伸びましたね。もうヨシヨシできる身長差ではなくなってしまいましたか」

「あの、さも普通に確認するくらいのノリで平然とハグするのちょっとご容赦いただけませんかね(震え声)」

 

 だから本当この人さぁ……! いや、確かに言われてみると夏凜と身長が揃ってしまったと言うか、普通に抱きしめられた時に胸が顔にこないくらいの位置になってしまっているのだが、そんなことお構いなしとばかりに当たり前のように抱きしめなさるのはこう、安定しているというべきか自らの業を突き付けられていると言うべきか。と言うか身長いつ伸びた? アレか? 傷を失い、金星の黒の発動を大きく封じられていた間とか。大体大河内さんとプールしたり何だりで、言われてみれば確かに成長してそうな気もしないではないが。

 やわらかな感触を堪能する暇もなく「ちょっとーっ!?」と大声を上げるキリヱと、目を真ん丸にする九郎丸。カアちゃんはそれこそ自分の子供が戯れているのを見守っているように、何が楽しいのかわからないくらい大笑いである。

 

「雪姫様も、ようやく自然に笑われましたね」

「はい?」

「あなたと親子でなくなってから、それはそれは落ち込んでいらっしゃいましたから」

「それは、まあ、そうなのか…………」

「忍の魔術の勉強を見ている時も、悪の魔法使いを自称していた時の尊大な表情のままでしたし」

「いやちょっと待て、忍の魔術の勉強って何?(震え声)」

 

 知らない間に何かまた知らない展開が発生してるバグどうにかなりませんかねこの世界。

 例によって戦々恐々としている私を、そのままハグしたまま「少々失礼」と雪姫に断りを入れると、部屋の窓を開けてそのまま空にダイブ!?

 途中、前に使った羽の生える神聖魔法で飛行を始める夏凜ちゃんさんは、相変わらず自由でなによりではない(震え声)。

 

「あの、何でいきなり無限の彼方へレッツゴーしてるんスかね」

「少し話した方が良いかと思いまして」

 

 何を? と問い返す前に、彼女は当たり前のように続ける。

 

「――――どうやら思い出したようだもの。プロポーズ」

 

 ………………。

 ハッ!?

 

「な、何でわかるんスかね……?」

「以前より身体の強張りが強くないもの。後、ハグした時の感じと言うべきでしょうか」

 

 こと恋愛関係のみにおいて無能を置き去りにする我らが夏凜先輩の、恋愛以外に関しては完璧な無能ムーブである。だからどうして察してくるんですかね。というか、それを気づかれたとなると、あー、えーっと……。

 

「夏凜ちゃんさん、あの……」

「正気での回答なら、すぐには求めません」

 

 私は重い女だもの、と言いつつ、夏凜は耳元から顔をはなし、間近の距離でこちらの目を見て。

 

「どちらにせよ、私たちは永い永い付き合いになるのですから。でも……、これは少しだけ、私の我儘です」

 

 そう言いながら空中に浮かびつつ。夏凜は私の唇を奪った。

 舌は入れてこなかったが、それはしっとりと、長い長いキスであって。

 

 太陽のように微笑み、らしくないくらい照れて楽しそうな彼女に、私はもう何も言うことが出来なかった。

 

『強く生きてください……』

 

 そして追い打ちとばかりに星月が、若い頃の春日美空の声でそんなことを言ってくるので、私としてはそっとしておいてほしかった。

 

 

 

 もう……、肌寒くて、秋やなぁ(現実逃避)。

 

 

 

(ダーナ「それ以前に時系列に原作よりかなり余裕がある方に気を回すべきじゃないかねぇ? まあ、こっちもカトラスのことがあるから、アンタのオーダーに沿ったまでだがねぇ?」)

 

 

 

 

 

 

 

 




※気象が狂ってるので10月でも本当はまだ暑い


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ST201.しかし気付かれてない訳でもなかった

修行編エピローグですが、とにかく話すだけのアレとなっておりますので展開動かないのご注意です


ST201.Humpty Dumpty Falls Twice.

 

 

 

 

 

「おう、お帰り刀太。

 ……だ、大丈夫か?」

「やっぱり神様なんていなかったんだねカアちゃん(白目)」

「重症だな、ちょっと待っていろ」

 

 おおよそ原作8巻に近いノリで帰還したが最後、夏凜に連れ去られて上空でちゅっちゅちゅっちゅされ続け。精神的にはそれで安心感を感じてしまっている自分自身に腹が立ち、原作が徐々にハワイ旅行へと出かけていそうな気配を醸し出している昨今いかがお過ごしでしょうか(誰向挨拶)。まあそもそも告白云々していない上に最後の最後で夏凜から襲撃(?)にあった、という流れ自体は文字にすると原作から逸れてはいないように見えるが、内容的にはもはや修正不能なまでの状況に今後を思えば頭痛が痛いし胃痛が痛いし、もうなんか何もかもが痛々しいのである。

 血の涙でも流れてないよね、と思わなくもないくらい追い詰められた私は、とりあえずの避難先として自室ではなく雪姫の執務室を選んだ。何故か? あっちはあっちでいつもの面々に襲撃されそうだし……。いや、三太は空気を読んでくれそうだが、九郎丸は気遣いから、キリヱ大明神は嫉妬(?)から話しかけてきそうなもので、それはそれで「第四の目」を啓いた場合のしっちゃかめっちゃかさからの現実逃避というだけである。

 

 というか戻ってくる直前に夏凜に対して「第四の目」を啓いてしまい、そっちもそっちで色々と酷かったのだが……。いや今思い出せるメンタル的な余裕が無いのでスルーしておこう。

 

 夕焼け差し込むこの部屋にて、最上階にキリヱの気配もない。九郎丸もいないことを確認した上でこちらに来てるので、何というか久々に親子水入らずといった形であった。

 ソファにぐでーっと、久々? に和装に赤マフラーのまま倒れ込む私に、苦笑いしながら雪姫はコーヒーを入れて、目の前の応接机に置く。いやコーヒーじゃないな。色が思いっきり白っぽくなってるし。設備的にインスタントなんだろうがカフェラテなのだろう。

 

「……粉っぽい」

「う、うるさい。

 文句を言うなよ、せっかく気を遣ってやってるのだから」

「それについては感謝っすわ。ラテなのも、一応こっちの胃に気を遣ってって感じか?」

「わかれば良い。……犬上の所の孫にも最近牛乳が手放せないと、愚痴られてるからな」

 

 その愚痴って来た相手はひょっとしなくても夏美姉ちゃん!? と脳裏に駆け巡るは、釘宮というより犬上の家にちょっとだけ厄介になった記憶であるが、意外とあっちとも親交があるのだろうか。犬上小太郎の物言いから、そっちとは少なからず険悪とはいわずとも隔意はありそうな気はするのだが、果たして……。いやどちらにせよ、私がそれを知った上で確認するのは少々不自然な気もするので、ちょっと躊躇してしまうが。

 いやしかし? 釘宮の祖母であることを考えるとそこまで不思議でもないのだろうか。……祖母、祖母、祖母というとおそらくもう一人の方の祖母であるところの釘宮円もどうなってるのか、興味があるような、ないような。彼女もまた「ネギま!」においてネギクラスの一員であったことを踏まえれば、何かしらありそうな気もするが、しかし夏美姉ちゃん……、呼び方がややこしくなるのでこのまま通すが(鋼の意志)、夏美姉ちゃんのように魔法関係者との本契約でもない限り、魔力=生命力が足りなくなっていくだろうことと。ついでに言えば春日美空が「本来なら」既にお亡くなりになっているご高齢であったことを思えば、知らなくても良いのかもしれないが。

 そしてそのことを思った瞬間、視界の端に「ちくわ大明神!」という思念が走る。いや「第四の目」が完全に閉じ切ってはいないのだろうから、時折こうやって思念が見えることもなくはないと最近気づいたが、それはそうとして誰だお前……、誰だお前!? 気のせいでなければ間違いなくアマノミハシラ学園都市での例の事件の収束の際、隙を見はからっては私に絡んで来た幽霊か何かの類の思念ではあるのだろうが、何故ここにいるお前さんや。タイミング的に、まさか春日美空の幽霊と言う訳でもないだろうに。本人が死亡していようとも、その精神はココネの魔法具(アーティファクト)らしき何かによって、肉体につなぎ留められているようだし、しかしそれはそうと無駄にネタを振ってくるこの謎の勢いは……、謎は深まるばかりである。

 

 突然表情が引きつり始めた私に「どうした?」と不思議そうにする雪姫だが、なんでもないと軽く手を振ってため息。いや「ヴああああ……」とゾンビめいたうめき声になってるあたり、精神的な疲労度が我ながら高すぎる。

 何をやっているのか、と呆れたように肩をすくめる雪姫だが「余裕があるなら軽く経過を聞いておこうか?」と言ってきた。

 

「費用はほぼかからなかったし、1月(ひとつき)は休学扱いにしてもらったが、内容無報告のまま研修(ヽヽ)扱いにする訳にもいかないからな。

 報告書もそこまで真面目に書かなくとも良いが、最低限内容と成果くらいは残せ。

 早いうちに出した方がポイント高いぞ?」

「意外とそこはキッチリしてんのな……」

「縁故採用で贔屓されているみたいなのはダサいから嫌、と言っていたからな」

「懐かしいなぁ、あのやりとり」

 

 あれは入団試験の後の話だったか。雪姫が手を出さなければ、そのまま私と九郎丸は夏凜の小間使いとしてしばらく研修という形になったんだろうが、もしそうであればバサゴからああも険悪な対応をされることもなかったような気が、なんとなく今した。けっこう上下関係とかに厳しそうだし、ほぼワンオペで旅館経営やらホルダー 一般構成員を仕切ってるような節もあるから、ストレスフルだし、だからこそ明らかに贔屓されて縁故採用されたような私は特にイライラされるのだろうと思うので、直接危害を加えられない限りはどうもしないのだが。

 というか、何でバサゴはああいう扱いをされるのか……。本人は雪姫を慕っていそうなものだが。

 

「報告っつーか、その前になんだけど。そういや、カトラスの扱いってどーなんだ? とりあえず『出しても大丈夫』だってお師匠からOK出はしたし、もうそー簡単にどうこうってなりはしねーと思うんだけど」

17号(ヽヽ)だけじゃなくてお前の処遇もあるんだがな。

 ……まあ、あの魔女が解放したと言うなら、あの魔女の視点から見て、お前がどうこうされる可能性は低いと言う事だろう。だから、内容を踏まえた上で対策を考えるよ。

 それ以上完璧を求めたところで、所詮は私が限界まで警戒したそれとそう違いはあるまい。

 全く、人の家庭のことに首を突っ込んできて……」

 

 その家庭をぶち壊しかけたのって最終的にはエヴァちゃんでは、と一瞬条件反射で煽りかけたが、苦笑いを浮かべる彼女の目の色を見てそれは止めた。「第四の目」を使わずとも、なんとなくだが「ネギま!」の頃のクラスメイトたちのことでも回想してそうな、優しそうな表情だったから、そうするのも低OSR(らしさが足りない)かと思ったのだ。

 というか、さっきから「カアちゃん」呼びをするたびに視線がどんどん柔らかくなっていってるので、近衛刀太の立場としては嬉しい限りで有り、「私」としての立場としては荷が重い。二律背反しているため中々胃に負担がかかってきそうだが、声高に言えば何かを察したか聞きつけたかして夏凜がまたぬっと現れそうなので、この場では呑み込んでおくからヨシ!(ヒヤリハット)

 

 そして再度、何を修行したのか聞いてくる雪姫である。まあ修行の話といっても、そう多く話せる部分はないのだが。大概が「私」が私で有るが故にそれに依存するタイプの修行も多く、ストレートに時系列で語ると何か大きなミスを犯しそうなので、大枠だけ教えることにする。

 ……ガバのおさらい以外についてはなァ!(血涙)

 

「やったこととしちゃ、精神的な責め苦とか(※好感度ガバおさらい)『金星の黒』に繋がってない状態での身体の鍛え直しとか(※大河内アキラおよびメイリンとの訓練)、あとカン? みたいなのの先鋭化というか(※第四の目(ザ・ハートアイ))、黒棒の修理というか属性追加というか……(※「百の顔を持つ英雄」→「黒鉄血界(アトラクター)」)」

「順当といえば順当に聞こえるが……。

 お前、何か隠していないか?」

「詳細は話したくないんでほぼほぼ割愛してまっス(震え声)」

 

 実際問題追及されて大丈夫なところなど、黒棒のところくらいなものである。

 と、それで思い出したが、雪姫もまた黒棒本来の使い方については知ってる様な匂わせがあったか。そのことについて聞いてみると、「当然だ」と返された。

 

「元々『七人の侍(サムライ・セブン)』に名をつらねていた、とある性格の悪い男がいるのだがな。……正確には本人ではなく分体ではあったのだが、そいつが犬上小太郎、お前の知る釘宮大伍の祖父のために、それらしいのを仕上げたのだ。

 けっきょく本人が性に合わないということで嫌がったから、使っていたのはタカミチになっていたが……、と、これは以前に話したか?」

「ちょっと覚えちゃいねー」

「まあ、タカミチ……、お前の祖父の友人だった男だが、そいつが咸卦法(かんかほう)に合わせていくつかの魔法具(アーティファクト)に転換して使っているのを見ていたからな。

 まー、アイツもネギのやつが裏金星から発掘してきた古文書を解読して、晩年はラーメン屋を開業したりと中々カオスなことになっていたが」

「かんかほうとか裏金星とか全然わかんないっスけど、えっ? あー、ラーメンたかみち?」

「ああ。あそこの豚骨スープのルーツは、まあ、端的に言えば魔族由来だ」

 

 マジかー、と、「ネギま!」なんだか「ネギま!?」なんだかわからない情報が混濁していてもはや意味不明である。混乱する私に、しかしギャグのようなその話すら無視して彼女は真面目に、どこか懐かしそうに微笑みながら続ける。

 

「もとは食糧問題解決の糸口として何か使えないかというのが発端だったんだがな。

 人類より進んだ魔族の文明の発展経路のどこかに、同様の問題があったのではないかと私からあの『狭間の魔女』に相談の手紙を書いたのが切っ掛けだ。

 そして遺跡を指定されたから、その場所まで色々知り合いの悪魔をボコボコにして仲介させ、私とネギとでちょっとした地獄旅行だった。

 そのサルベージ結果だが、結局、他にもいくつか解析した情報も含めて、何故かラーメンが出来上がる始末でな。無駄にするのももったいないからと、前線を退いたアイツがレシピを引き受けて、今日に至る訳だ」

「話のスケールが壮大なんだか何なんだか……」

「国内だけだが地味に全国区になったから、まあまあスケールは大きいんじゃないか?

 熊本にもあったろ、ラーメンたかみち。

 まあ今じゃ買収されて超包子グループの傘下なんだが」

「それ初耳なんだけど!?」

 

 チェーン店としてのノウハウなど、あいつにはなかったからなぁ、とけらけら楽しそうに言う雪姫。そのカアちゃんの顔は、なんというか、故人を忍んでというわけでもなく、ただただ懐かしい話を語っているようで。なんとなく聞いている分には楽しそうであり、同時にどこか辛いものがあった。

 

「しかしまあ、何だ? アレには会わなかったか、果心居士(かしんこじ)

「果心居士?」

「ん? ……あー、正しくはカイン・コーシだったか。いや会ってなければ良い。メイリンとか言ってたあの女がどうなったか聞きたかったところだが、面識がなくともそのうち探せはするだろう」

 

 なんかもう色々お止めくださいませカアちゃん阿修羅観音様(震え声)。

 咄嗟にそんな内心で手を合わせ拝みだした私に「ど、どうした!?」とちょっと引いてるカアちゃんであるが、まあこのあたりキリヱ大明神に対する奉ってるアレのノリが咄嗟に出ただけなので気にしないでほしい。

 というかなるほど、あっちはあっちでちゃんと「この」エヴァちゃんの歴史には組み込まれた形として成立しているのか。何というか、ギリギリ原作破壊を回避できているようで回避できていないような、何とも言えない嫌な汗が流れる。

 

 それを誤魔化しつつ、仮契約カード的なもので黒棒を呼び出したり血装したりと、色々と誤魔化しにかかる私だ。流石に雪姫も「まさかそんな方法で血装を成立させるとは……」と、現状の黒棒と私との関係やら何やらを説明すれば唖然としていたが、それと同時に何か痛々しいものを見るような目で見てくる。何だその感情。色々怖くて「第四の目」を使う気にはなれないが、そんなまるで死にに行く兵士を見守るような目をされましてもですね。

 

「いや、まあ、あまり言いたくはないが……、黒棒に封じられている方のお前の魂の一部が可哀想なことになっていると思ってな」

「可哀想? ……そういや黒棒も言っていたか」

「その辺どうなんだ? アトラクター」

 

『……………………まあ、色々、問題はあるな。少年誌的に』

 

 少年誌的に問題があるとは(すっとぼけ)。

 即答して来た黒棒に「やはりか」と苦笑いする雪姫。いや、あまり考えないようにはしていたが血装であれほど大量の血を生成するのだから、金星の黒の力を放出する装置のような役割に徹しているその分身については考えないようにはしていたが、えっ? 何、そんなにグロいことになってるん?(京都弁風)

 

『気にしたところで無駄だし、もはや問題にするだけ無駄な話だ。既に契約は為されており、今の私とお前とは一蓮托生なのだからな、相棒』

「そりゃ、そーなんだろうけどさ。相棒」

 

「仲も良くなって何より、というべきか? まあ即死リスクが減ったことについては、素直によくやったと言ってやろう」

 

 そう言ってわしわしと私の頭をなでた雪姫は、こう、特に何かあるわけでもなく、いつも通りのカアちゃんに見えた。

 

 その後の話し合いも、特にとりとめもなく。雑に空中にテレビのホログラフィックを映し出して、ニュースを見ながら適当に仕事する雪姫と、これまた適当に報告を口頭であげる私と。なんとなく、色々気にしないで済むような「家族」の距離感が酷く懐かしく感じる。考えてみれば、それこそ熊本以降はそれどころではなかったし、こっちに来てから二人きりでどうこうって話があったのも、直近の師匠に連れ去られる前のアレくらいなのだ。

 

 まあ、若干特訓のあたりで大河内アキラ遭遇についてはギリギリバレそうになりかけたりといったのはあったが、ギリギリ誤魔化せた気がするので良しとしておこう(良くない)。ラーメンたかみちの話題から、彼女の在学中の話題に跳んだりしたのが大体の原因だが、まあ、「ネギま!」中学生編の話はそれはそれで本人から聞くと楽しくもあった。

 

 …………体育祭後、神楽坂明日菜のいなくなった3ーA(ネタバレ)にアンナ・ユーリエウナ・ココロウァが転入してきていなければなァ!(白目)

 何それ、ネギま!? ネギま!? の方なの? 色々世界線おかしいんじゃないっスかね、どうなんですかお師匠!!?(ダーナ「アンタの好きな時系列とイベントの玉突き事故ってやつだよ」)

  

「誰、オブ、誰。この写真の子、見覚えないっすけど」

「誰と言われても、熊本で写真を見た時とかに見てなかったか? ……って、そうか、神楽坂アスナのいる頃の集合写真にアイツは映ってなかったか。

 まあ、ぼーや、お前の祖父の幼馴染だよ。とはいえあのバカレッドの代わりは、あの女には荷が重かったようだがな。

 中々良いリアクションで怖がってくれるガキだったが、いわゆる運命力といったら良いか、そういうものは足りなかったらしい」

 

 まだしも長谷川千雨の方がぼーやに食いついていたしな、とどこか懐かしむような表情のカアちゃんは、しかしそれらを過去形で語っていた。

 やはり、遠い。親子の距離感としてでは、それ以上に踏み込むことが出来ない。これはこれで今後のことを思えば拙い問題があるのだが、その対処方法をいまだに私は考えられていない。本能的には……、考えたくない、のかもしれないが。

 

 ともあれ一通り話して、そろそろ夕食でも食べてこいと背中を押され、執務室を後にする私。なんとなく名残惜しく、扉の向こうへ去り行く雪姫の背中を見続けてしまう。単なるドアと、部屋と、彼女と私だが。なんだかそれが、とても遠いものに感じられてしまうのは、これも含めて、私の不手際なのだ。

 だから受け入れなければいけないと。……自分が今、どんな顔をしているか、さっぱりわからないままに、音を立てないようマナーに気を付け乍ら扉を閉めようとして――――。

 

 

 

「――――嗚呼、それから言っておくが。果心居士(カイン・コーシ)を名乗るなら、江戸時代だけじゃなく室町時代の風俗くらいはちゃんと勉強しておけ。

 後に日本に行った際、流石に違和感があったからな。

 下手な洋画の勘違い日本描写じゃないのだし」

 

 

 

 はい?

 思わずその場で硬直した私。扉は半ドアのまま、引く前に思考が真っ白に染まり。

 

 仕方ないとばかりにこちらに歩いてきた雪姫は、呆然としてる私の顔をニヤリと見て、軽く扉を閉めた。

 

 

 ……えーっと、もしかしてさっきのアレってばカマかけだったりしますかね(震え声)。

 いや、それがもし仮にバレたのだとして、一体それが何のガバに繋がるかとか全然わからないので、要は、私は悪くねェ!?(現実逃避)(ダーナ「悪いとしたらもっと後の時系列のアンタだよ。ねぇ、超」超「あ、いやー、あはは…………」)

 

 

 

 

 




次回よりラブコメ編・・・の前に何かやるかも(未定)


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ST202.死を祓え!:石橋の中心で愛を叫ぶ(リク番外編)

次章前にちょっと息抜きしたかったので、だいぶ前のリクエスト番外編を一つ消化します。
>1-6. 帆乃香、勇魚が見つけて来た祖母の披露宴録画DVDをチャン刀と一緒に見る話
 
エピソード的には ST56.5 です。
後付けネタなので若干当時と矛盾箇所はあるかもしれませんが、そこはゆるく脳内補完でご調整お願いします…圧倒的に「ネギま!」注意


ST202.Memento Mori:The Daemon That Shouted Love At The Heart On The Bridge

 

 

 

 

 

「――――ほな、革命や!」

「くっ! また負けてしまいましたか……」

「いや、そう思うのはまだ早いぜ?」

「な、何やてお兄さま!」

「どういうことです、お兄様!」

 

 そろったクイーン4枚を提示してドヤ顔をしている帆乃香に、私は4枚揃った7のカードを提示する。革命返しである。「ふぇええ~!?」と声を上げてその場にぱたんと倒れる妹チャン、帆乃香であるが、まあ単なるリアクション芸の類だし自分から落ちてるからそう痛くもないだろう。黒髪ロングの非常に「ネギま!」で見覚えのあるのほほんとした、しかし同時に活発そうな容姿の少女は、倒れながらも楽しそうである。

 わざわざ庇う必要もないかと判断しつつ、カードを出していくと「あ、私、勝てたわ……」と妹チャン、勇魚がほっと息をついた。こちらはサイドテール姿のまま、借りてきた猫のように椅子の上で正座しながらカードをおっかなびっくり出したりしていたのだが、こちらもこちらでやっぱり「ネギま!」で見覚えのある凛々しい少女剣士らしい、しかし同時にちょっと内気そうな雰囲気の微笑みであった。

 

 場所は一等地のマンション……、というか「お母さん」の現在の住居らしい場所のリビングである。時刻は思いっきりお昼過ぎ。午後の授業をぶっちぎったまま、私は生き別れ(?)の妹チャン共と戯れている最中であった。そもそもここで学校に帰らずにいたのは、姉である帆乃香の方が我々の今現在関わってる事件の情報を得ているという事情からだ。それが、聞き出すために残ったらあれよあれよといつの間にか学校へ帰る時刻を過ぎ、もうどうしようもないからせっかくだし兄妹仲良く三人で遊ぼうな! という彼女の提案に流され、色々とトランプやったりボードゲームやったり五目並べをやったりと中々適当なところである。

 テレビもつけっぱなしだし完全にくつろいでいる妹ちゃん達であるが、妙にこの高く嬉しそうなテンションを前にすると、断るに断り辛い。カトラスの時と違い明確に「妹」であると納得できるせいもあるだろうが、こうやって頼られると〇護(チャンイチ)ムーブ的にも弱いところはあるのかもしれない(適当)。

 

 ともあれ「急に出て来た」例の羊羹の残りを摘まんでお茶を飲んで、バラエティを見つつツッコミを入れたり刑事ドラマを見てツッコミを入れたり……、いや本当に語るような内容がないよう(激うまギャグ)。私としてはひたすらに「見知らぬ」妹たちが可愛いという他ないが、時々そのうちの片方が顔を赤らめたり妙な視線を送ってくるので、お前それ止めろと言う話である。何かこう、べたべたする感じも帆乃香のほうがカラっとしてるのに対して、勇魚のほうはこう湿りっ気がありそうというか……。

 

「――――さま? お兄さま? 聞いとるん?」

「はい? いや、どうした」

「どーしたやないで? ほら、近衛本家の話?」

「本家?」

 

 困惑する私に、勇魚と帆乃香がそろって頷く。こういうところは双子っぽいな、顔のパーツこそ大体一緒だが容姿としてはまあまあ違いはあるのだが。

 

「京都の方、京都の方や。陽明門!

 まあよくわからんけど、藤原の流れを汲んでたよーな。どうやったっけ?」

「正しいです、お嬢様。私たちも戸籍謄本では藤原朝臣(ふじわらのあそん)近衛(このえ)帆乃香(ほのか)藤原朝臣(ふじわらのあそん)近衛(このえ)勇魚(いさな)となりますので」

「名前、長っ(素直)」

 

 あー、つまり? 今の言いまわしが正しいとすると、少なくともこの二人は近衛本家から正式な扱いを受けている、つまりこのちゃん(ヽヽヽヽヽ)の孫かひ孫として表向き認知されているということか。

 藤原朝臣というと源流は中臣鎌足が大化の改新以降に授けられたものであるし、近衛といえばそこから派生した血筋で摂政・関白なんかもこなしていたいわゆる「かなりの」血筋である。そこからどう派生して現在の関西呪術協会(現存してるよな、この時代……?)に繋がっているかは定かではないが、ともあれその血筋なのは原作やらこのちゃん、およびついさっきの帆乃香の詠唱やらから判別はできる。

 

 いや、それはそうとしてその話も当然のように私が知ってるのは原作的にガバでしかないんで止めなさい(戒め)。

 いきなり話題はそらせないので、徐々に徐々に誤魔化しながら話を遠ざける他ないか……。

 

「で、その京都の実家がどーしたって?」

「そのうち遊び行かん? ってお話や」

 

 せっかく再会できたんやし、お兄さまもお母さまのお父さまにお会いせなー、などと宣う帆乃香である。どうでも良いがテレビ手前のソファで私を挟むように左右に近衛姉妹が座っている形になっているんので、ありていに言って距離が近く、えらい甘えてきよるから何ともやんちゃやなぁ思います(京弁風)。

 というか、お母様のお父様? 普通にお祖父様では問題があるのか? 原作的に帆乃香やら勇魚やらは、近衛刀太とそう違いはないだろうクローンの類であると言う匂わせは存在したが、その出自から考えれば彼女たちも祖父にあたる存在はネギぼーずになるはずであって、そうなるといや、ううんどういうことだってばよ(NARUT〇並感)。

 

「お、お兄様、あ~ん……」

「んぐ」

 

 そして唐突に羊羹をカットしたものを一つ刺し、手を差し出してくる勇魚の動きに反射的に応じてしまった。むぐむぐと咀嚼する私に、やはり顔を赤らめて逸らす勇魚である。

 とりあえず意味不明に照れてる彼女の頭を軽く撫でて妹扱いを強行しつつ、いやいやではあるが帆乃香の話の続きを促した。

 

「京都もなー、あっちも何や私ら生まれるよりちょっと前くらいに魔素汚染とかあったみたいで、観光名所もぎょうさん封鎖されとるらしいし。両面宿儺(リョウメンスクナノカミ)出た時は、フェイトはん、えらい焦ってたっけ?」

「月詠師匠と和尚だけでなく、それはもう総動員されていたとお母様から聞きました」

「へぇ…………、って、両面宿儺?」

「大怪獣や!」「大怪獣ですね!」

 

 何故そんなところで息ぴったりなのかこの二人は。謎のシンクロに苦笑いが浮かぶが、そろって一緒にこちらの顔を覗き込んでくる様が完全にこのせつのそれで、やはりどこかでこのせつ過激派に監視されていやしないか、過激派から殺されやしないかと内心震えが止まらない。

 と、せや! と帆乃香が立ち上がりどたどたと幼児のように足音を立てて走っていく。テレビの横の本棚(上にこのせつマトリョーシカのような記念写真が立てかけられている)の底から、本ではない映像ディスクをいくつか漁り。

 

「あったわ、じゃじゃーん! お祖母様たちの結婚式の映像や! お兄さま、記憶とか色々ないみたいやし、血のつながりの確認みたいな話で、せっかくやし皆で見よか!」

「止めよう(震え声)」

「ふぇぇ?」「お兄様?」

「止めよう(震え声)」

 

 そうや遊んでてちょっと忘れてたけどこの子ったらお口にチャックが出来ないタイプの女の子でしたね(無慈悲)。完全に私が知らないと言うか近衛刀太がこの時点で知ってはいけないような情報を次から次へとポンポン言い放つタイプの妹ちゃんである。

 そう、その手に掲げられていたそれは「結婚式」とだけ書かれたDVDだかBlu-rayだかその後継規格だかの映像ディスク。家庭用の非常にシンプルなそれは誰かが適当に撮影したのを配布して周ったろうことが察せられて、なんとなく「ネギま!」的には朝倉和美あたりの作だろうという気がしてきた。こういう時、いの一番に映像やら写真やらを撮影してそうな女子中学生(「ネギま!」時)筆頭であるし、大人になってからもそれは変わるまい。

 

 ただそれはそうと、原作ファンとして見たいような見たくないような言い知れぬ何とも言えないファン心理はあるにはあるのだが、絶対ガバ一直線だから や め ろ(威圧)。

 

「じゃあ、かけるわー」

「止めようって言ったろ!? いや何で普通に入れてんだよっ!!? あっ挿入すんなや! というか勇魚、離せっ、HA()NA()SE()☆(A〇M)」

「い、いえ、私もなんとなく見たい気がしましたし、お嬢様に粗相するのは、いくらお兄さまといえど、その……(それにお兄様の腕もしっかりしてて温かいし、これはこれで……)」

 

 何か聞いてはいけないボソボソが聞こえた気がするが全力で聞かなかったことにするぞ(断言)。

 ちょっと嬉しそうに照れながらそんなことを言ってくる勇魚に白目を剥きかけ、しかし今から無理に血装して振り払ったりするのもちょっと違うなあと出来たお兄ちゃん的な心理が働く。そんなままに、あれよあれよと言う間に帆乃香が外部出力にチャンネルを切り替え、あっという間にチャプターから再生がかかる。

 どうやら披露宴自体は外で行われたらしい。ばくばくと料理にがっついているのはアーニャか? 見た目はだいぶ変わっているが髪型やら何やらはそのまま似たようなものであるが、何かちょっとイライラしているように見えなくもない。ステージでは4人ほどバンドみたいに結集して歌を歌ってる。うーんこの「でこぴんロケット」(大麻帆良祭臨時結成バンド)、髪を伸ばしてる和泉亜子は、他の三人と一緒に必死になって楽器を弾いたり歌ったりしている。おそらく社会人になってからそれなりにお仕事が忙しいだろうに、結婚式のためにわざわざ色々頑張って練習してきたということだろう。そんな彼女たちを見てニヤニヤ笑いながら呑んでる長谷川千雨は、タブレット越しに不満そうなエヴァちゃんを宥める茶々丸とあーでもないこうでもないと何やら話している。

 そして、そんな軽音的出し物に「頑張れ!」と手を振る2名は、サイドテールを止めてる佐々木まき絵のとなりに、見間違える訳がないロングなヘアーをカットすれどその長身にぐんばつなスタイルと安心感を与えてくれる声掛けをしてる大河内アキラ!? うわっ美人……。ナチュラルメイクで口紅は塗っていないが、その分だけ少し幼く見えて私的には色々とスリーストライクでバッターアウトである(意味不明)。パーティドレスが多い中一人だけキャビンアテンダント的服装のままなあたり、お仕事忙しい中でもちゃんと頑張って出席したことが伺える。後なんとなく、もっと露出が過激な衣装でも用意されていたのを拒否したんじゃないかと思うくらいには、画面の隅で妻妾同衾コンビ(綾瀬夕映と宮崎のどか)に羽交い絞めにされたりして止められている早乙女ハルナがアキラさんの方に「もっと胸出せや、胸!」とか言ってるので、そこはご容赦してやってクレメンス……。

 しかしおや? ネギぼーずの姿が見当たらないな。鳴滝姉妹がいないのはおそらく子育てが忙しいのと距離が離れすぎているからだろうが(時期的にもう裏火星で結婚してるはず)、声だけでもコタロー君と夏美姉ちゃんが確認できたりするので、何というか色々カオスだ。

 …………って、何で龍宮隊長はウェイターの格好して給仕してらっしゃるんですかね。アルバイトですかそうですか、と想像がつくくらいにはアレだが、和装で来ている長瀬楓から煽られて銃を構えるあたりは相変わらずといったところだ。

 

「どしたん? お兄さま。何で涙ぐんどるん?」

「い、いや…………」

 

 しかしこれは、何と言ったら良いか……。妙な感動があるというか、あくまでもワンカットだが、自分の知ってる誰かのその後の「落ちぶれていない」姿を見ているようなものなので、決して当事者ではないにも関わらず異様なカタルシスが込み上げて来ていた。ついでに言えばおかっぱくらいに髪を伸ばした春日美空が、猫目になって画面外を見ているのが印象的であるが、その視線の先は果たして――――。

 

『うぇっぐ…………、えっぐ…………、3-Aを代表いだじまじでぇ、(わだぐじ)が、祝辞を述べざぜで、いただきまずわ……!』

 

『いいんちょがんばれー!』

『おう、一発カマしたれやッ! って、ヒッ』

『――――』

『ち、ちづ姉、またネギを構えて……』

 

 ――――今この場に来れない明日菜さんの代わりに、盛大なお祝いを! とぐずぐずに泣き崩れながらな委員長こと雪広あやかには、何というか同情のような、相変わらずだなぁというような、何とも言えない感想が湧いてくる。湧いてくるが、それはそうとしてその背後にある巨大ネギ先生バルーンは一体何なんですかね(震え声)。「いっぱいやなーせっちゃん」とかこのちゃんの声が聞こえるが、いわゆる「ネギま!」当時の十歳前後のネギぼーずを象った大型バルーンが数個ふわんふわん浮かんでいて不気味である。「このネギ先生へのわたくしたちの愛! 愛! 愛!」とか言いだしたあたりで顔を真っ赤にするまき絵に、ちょっと嫌な予感がしているのか顔が青いアキラさんだが、多分正解だろう。また何か仕掛けがあるんのだろうと思いはするが、ここで一瞬画面が乱れて暗転、大騒ぎに。まあ、うん、何かやったか失敗したかあったんだろうなぁとは思えるが、次に画面に映ったのがドアップのザジしゃんだったりするので、そうですか撮影担当はあなたですかと何とも妙な気持である。

 というか当たり前のようにステージの後ろの方に木乃香(大人版)と刹那(大人版)の石膏像が飾られてるので、うん、まあ、委員長は本当に委員長だということだろう。

 

「何や知らない人、めっちゃ多いわ~」

「しかし見覚えのある顔も何人か。いえそれにしても、シスターがお若い……」

 

 場面は変わり、火星代表なのかゲーデルもスピーチしたり、タカミチも何かコメントを残したりと一通り終わった後、祝電の中に「超鈴音」(皆大好き超りん)や「青山」(神鳴流宗家)があるのはまだしも、しれっと「浦島」(ラブひな!)とか「神戸」(A・Iが止まらない!)とかあったのは何なんスかね、赤松作品クロスオーバー的なアレなのか、あくまでカメオ出演とかの類なのか。

 後こう、麻帆良の先生方も他にも色々映ってはいるが、映像の中だけで言えばほとんど加齢を感じさせないのは流石に魔法使いらしい魔法使いなのか。唯一、学園長(ぬらりひょん)が車椅子だったりしていて、こちらはちょっと心配ではあるが……、いや、流石に現代では亡くなってるらしいので、今更そこはどうこう言う話ではないか。

 

 そしてビンゴ大会の直前に、雷がステージに落ちて来た!? とすわ何事かと驚く間もなく、ばちばちと電撃を解除しながら姿を現したのは。

 

『やあ、すみません。ちょっと立て込んでいまして、遅れてしまいました』

 

「大人バージョ――――」

「「お祖父―――――」」

 

ネギ(ぬぇええええぎ)先生(せんせええええええ)ぇえええええええッ!』

 

「「「うわ、音すごいデカい!!!」」」

 

 三人そろって両手で耳を追ってしまったが、音圧が実際それくらい大変なことになっていた。一番声が大きかったのは元委員長(雪広あやか)のそれだが、出席者のうち3-A全員の女子生徒だった面々の声が重なりまくってえらい騒ぎになっている。ちなみに姿は見えなかったが「うるさいわッ!」と叫ぶ小太郎君は元委員長と口論になりはじめてたりするのはスルーしておこう。

 

 ご存知、我らがネギぼーずである。ややぼさっとした赤毛に甘いマスクと「声変わり」した声。アニメ的にはCVが代わっていそうな響きだが、だからといって父親の声とも違う。これに関してはこの世界がアニメではなく現実のそれだからこその違いだろうが、ともあれしれっと長身大人バージョンの恰好で、スーツ姿で「降ってきた」らしい。いや、おそらくは雷の速度で超特急で向かってきたのだろうが、その余波らしきものが何一つ出てないあたり、その技の完成度と熟達具合が伺える。

 そしてそんな困ったように頭を掻くネギぼーずからカメラは動き、上段、奥の方に座る二名へとフォーカスされる。

 

『ネギ君、あんま無茶しちゃいかんよー? 明日菜に怒られるで?』

『本日ももっと終わり際の予定だったはずなのに、急ぎ過ぎでは? ネギ先生』

 

 共に和装。ただし女物の恰好なのは木乃香の方で、刹那の方は男物の恰好をしている。お互い身長が伸び、スタイルもそれに応じて育っており、さらしは巻いていないのか、ちゃんと大人の女性であることがわかるようになっていた。

 こうして見れば見る程、帆乃香と勇魚にそっくりで、思わず両脇の二人と見比べてしまう私である。対する二人は「えっへん!」と小さい子のように胸を張ってドヤっとした感じであり、まあこれはこれで可愛いかった。

 ただ、そんな二人はおいておいて。画面の向こう、過去のこのせつにちょっとばかし違和感を抱いた私である。訝し気に画面を集中して見ていると。

 

『――――今、ズームしますね。近衛刀太』

「Fa!?」

 

 おっと、思わず変な声が……。いや、というかいきなり名指しされたのだが、えっ? いや、何ちょっと待って、何がどういうことだってばよ……? ザジ・レイニーデイの声はそう「当時は存在もしていなかったはずの」私の名前を呼び、声をかけ、言葉の通りにその「違和感の元」へとズームしていく。

 

 最初にズームされたのは二人の表情だ。木乃香の方はどこかお姉ちゃんが弟を心配するようなそんな雰囲気が少し強かったが、対する横の刹那のネギぼーずを見る目はどこか熱っぽい気がする。いや、まあせっちゃん変態さんだし(風評被害)、大人ネギぼーずに色目を使っても不思議はないのだが、それはそうとカメラはそんな二人の上から下にズレていって…………。

 

「その、膨らんだお腹の目的は……?」

『――――二人とも、およそ五カ月といったところでしょうか』

 

 …………その、えっとですね? このちゃんも、せっちゃんも、どちらのお腹もその、なんとなーくこう、丸く膨らんでいたと言いますかですね(大混乱)。

 いよいよ動揺が限界を超えた私は、この後の映像についてはいまいちしっかり見ることができず、すっかり内容が消し飛んでしまった。そうだ、これは悪い夢だ、と言わんばかりに、ある種の幻として処理したい類の話である。

 

 

 

 あっっっっるぇ? でで、出来ちゃった結婚っ!? 出来ちゃった結婚だと!!? 馬鹿な、相手は誰だぶっ飛ばすぞ!!?(暴論) もしやキスで赤ちゃんが生まれる魔法シリーズ……、完成していたの?(白目)

 

 

 

 

 



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ST203.青春を謳歌しろッ(強制)

黄金に輝きしセピア
セピアに掠れし黄金


ST203.Galactic Handsome Age.

 

 

 

 

 

 辺境、まさに辺境。

 新東京湾からまさかこんな場所に行けるとは全く知らなかった私は、でも、お婆様とアンドロイド(ガイノイド?)の彼女と共に、優雅に豪華なボートに揺られながらここまでたどり着いた。

 途中「久々に会うのですから、もっとお(めか)し致しませんとね♪」と言いながら、お婆様がプログラムで遠隔運転中のガイノイドの彼女の髪をいじったりして「や、止めてください、いいんちょ、いえ、お館様っ」と慌てていた。私もそれには一緒に乗じて、彼女の薄緑の綺麗な髪をすいたり縛ったりして遊んでいたのだけれど、こうしてみると本当、人間と区別がつかない。

 

 そうやって時間を潰して辿り着いた先、明らかに気質(かたぎ)には見えない黒服の連中がわんさか出て来た。とはいえお婆様の姿を見て、すぐ暴力に出ようとしないあたりは、そこまで暴力的な相手でないということかしら。ほっとする。

 

「誰だ一体!? どうやってこの場所に――――」

「こ、困ります御婦人……! ここはあらかじめアポイントをとっていただいた上で、御許可をいただかなければ入れない島で――――」

 

「――――あら? 私に入れない場所などありませんもの。それに、エヴァンジェリンさんともお話ししなければならないことがありますし。

 来たれ(アデアット)――――」

 

 お婆様はそう言って「若かりし日のお婆様」の描かれた、古い仮契約カードを取り出す。古い、と言ってもいわゆる最近はやりのネオ・パクティオーと呼ばれる「お遊び」仮契約魔法というわけではなく、本物の魔法使いが行うタイプの契約魔法のそれ、昨今はすたれ気味らしいそれだ。

 そのカードの発光と共に、お婆様の頭に白い帽子が乗る。帽子には白薔薇の装飾がされていて、一目で素人目にも素材の上質さがわかるような、シンプルな帽子。

 

 その帽子を被った瞬間、黒服たちはお婆様へと何も言うことが出来なくなる。洗脳効果!? と「直に見る」のが初めての私が戦慄していると、お婆様の車いすを押しているガイノイドの彼女が「流石です、委員長」とぼそりと呟く。委員長……? うん、このガイノイドについても私は色々知らないのだけど、何かと謎が多い。

 

 まあ、そんなことはともかく。

 

「エヴァンジェリンさん……、いえ、伏見雪姫さんに繋いでいただけると――――」

「それからもう一人っ! 近衛刀太という人をお出しなさい!

 彼が何であるのか、この私が! 直々に見極めてあげるわ!!」

 

 嗚呼、恥ずかしい。けれど「お婆様や茶々丸に対して」こういう強気な振る舞いで通して来たのだから、今更、人物としての振る舞いを変えるのは不自然でしょう。

 そんな堂々とした私たちに、黒服たちが「バサゴ様を呼ぶか?」「バサゴ様は確か今―」とか打ち合わせのようなものを始めて。

 

 

 

「むふぅ、ホルダーおよび『白き翼』出資者団体たる、雪広コンツェルンの総帥と孫娘……、ここで来たか!! やっとらしくなってきたなっ」

「ひぃ、妖怪ィ――――!!?」

 

 

 

 そして、黒服の人垣の奥からぬっとあらわれた、ウナギと犬を混ぜ合わせたような独特な顔立ちの巨体にして大きな顔の大男な妖怪のような姿に、私は腰が抜けてしまった。

 怖がる私を見下ろすこの妖怪の圧! 圧! 一体何なのですのっ!!?

 

「妖怪じゃねぇ僧侶だ! 和尚だがなぁ」

「どうでもいいですわっ! き、菊千代ぉ!!?」

「年相応に無鉄砲、けどやれるか親孝行! 今、最もピュアからかけ離れた少女だ。この涙目な姿に生暖かい目を向ける黒服が続出……ッ!」

「話が進みませんので、そのあたりで」

「おぉ、首領から聞いていた通り良い仕切りだ。すぐ繋ごう!」

 

 た、助けて菊千代! あの時みたいに……、「生まれ変わっても」私を助けてくれた、ついこの間の時みたいにっ! 

 涙目で喚いて何か妄言を言っていた気がする私だけど、お婆様は「あら貴方、もしかして……」と、どうやらこの謎の妖怪、自称僧侶と知り合いらしい。しばらく話していると、向こうの方から関係者らしい、ちょっと見た感じ嫌な感じのする顔立ちの整った、八重歯が特徴的なスーツの男がやってきて「こちらになります」とお婆様に手を差し伸べて。

 それについていこうとする私に「待たれるが良い」と妖怪……、僧侶? が呼び止めた。

 

「間に合ったな」

「何が……? いえ、そもそも貴方もここの関係者ということでよろしいの?」

「そうとも言えるし、そうでないとも言える。どう見えるかだ。まだまだ心眼が足らぬ」

「会話を、なさい」

「この世界に絶対はない」

「あなたの存在が不確定過ぎでしてよ!? いえ呼び止めた目的をお話しなさい」

「しかしみぞ()よ」

「誰がみぞ八ですの!? 茶々丸、この方ぜんぜん会話が通じないわ」

「普段通りです」

「なるほど……、それが古き『死海文書』にもある、”侘び寂び”というやつですね」

「口調くらい安定させなさいっ!」

 

 頭をかきむしりたいのを我慢して、それでも頭を抱えて絶叫すれば。その僧侶は少し遠い目をして、中空を見て。

 

「学歴値が減る故、あの坊主はウワサ通りいい生徒らしい振る舞いをするようなのだ! 直接ではないが……、会うとならばそうなるな。なるほど、これが古き『義務教育制度』にある『ずる休み』というやつですね。しかし強要するということは『学』を失ったな。ここ防波堤たりうるは無理か……、話が違う!」

「ちゃちゃまる……」

「何を言っているかはよくわかりませんが、意図はおおむね把握いたしました」(ダーナ「この男も普通にしゃべろうと思えば普通にしゃべれるはずなんだがねぇ……?」)

 

 そう言ってガイノイドこと、絡繰(からくり)茶々丸(ちゃちゃまる)は私の頭を優しくなでて。お婆様は「あらあら」と言って私を見ているので、あの和尚の言っていることがわかったってことかしら?

 困惑しながら涙をふいている私に、茶々丸は優しく、諭すように話しかける。

 

 

 

「どうやら刀太君は、アマノミハシラの方に復学して、現在通学しているようです。

 通信教育で賄っていたお嬢様と異なり、きちんとご友人たちと青春を謳歌為されているようですね」

「えっ?」

「雪姫さんから連絡がなかったというより、入れ違いだったということかしら……? いえ、私もそこまで密に連絡を取り合ってるわけでも無く、今日はアポイント無しだった訳ですし」

 

 

 

 お婆様はそんなことを言いながら肩をすくめなさって。茶々丸は少しだけ同情してる風に微笑みながら私の頭を撫でてきて。

 

「そそ、そ……、そんなの、私が今日ここに来た意味がないじゃないの――――!!?」

「『時』を失ったな」

 

 絶叫する私を揶揄う訳でもなく、ただただ普通に僧侶がまた変なことを言ってきた。

 結局また、私はあれが桜坂菊千代だったか確認することも出来ない訳ね。とほほ…………。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「おっし! それじゃあいっちょ始めようかァ……、いよっ! アマノミハシラ学園都市祭、通称『大・麻帆良祭』の、俺たちのクラスの出し物決定戦!」

 

「何でお前が仕切ってんだよ、坂田」

「実行委員、豪徳寺さんでしょー?」

「決定戦って何で!? フツーに話し合いだろ!」

「釘宮君、何とか言ってあげてよ」

「何で俺に意見を求めるんだ、君……?」

「やーでも、ああして仕切ってくれた方がありがたいしなー」

「ふぅん……、そういうことかぁ…………」

「市川人形はそれ何のポーズ?」

 

「話がまとまらないっスね(忌憚ない意見)」

「あはは……」

 

 ある意味で中学生らしく、それにしては私の「前世」的な意味でも「今世」的な意味でもかなりハイテンションなクラスの会議。思わず引きつった笑みを浮かべる私と、にこにこ苦笑いする九郎丸の姿がここにあった。

 所はアマノミハシラ学園都市。建物の復旧計画も半年程度で完了する予定なこの場所に、一応「せっかく入学したのだから」と復学した私である。最終学歴としてせめて中学は卒業しておきたいという個人的なこだわりだったが、それに合わせて「僕も!」ときた九郎丸およびキリヱ大明神、ついでに夏凜。私と九郎丸については当然「家庭の事情で」休学していた期間について質問攻めにあいはしたが、とくに何も問題なくクラスに溶け込めている。

 このあたり、以前友人になった坂田(さかた)太笠(のぶかさ)の影響というか、人徳が大きいだろう。現在それこそ、我がクラスの学園祭実行委員である豪徳寺(ごうとくじ)春可(はるか)が、眼鏡文系少女らしきコミュ障さを発揮しそうになったのを感知するやいなや、突然マイクを持って教壇の前にたち、おどけながらMCのようなことをし始めていることからも伺える。割とコメディタッチな扱いだしキャラとしては啓〇(〇護に激重感情の〇野さん)のような立ち位置であるが、多分に漏れずクラスのムードメーカーとしてお仕事をしてくれているので、そんな彼が何一つ変わらない調子で「ヘイヘイ、また女の子と仲良くなったかチャン刀~、今度紹介して?」などときていたら、そりゃ周囲との壁なんてぶっ壊れる。当然、ぶっ壊れる。

 九郎丸も九郎丸で、これまたクラスメイトな三条(さんじょう)小梢(こずえ)あたりが何か気を利かせてるらしく、そっちもそっちで特に違和感もなくクラスに女子受けしながら復帰している。……それはそうと彼女と話している九郎丸の表情が女子会チックというか女の子チックなのだが、もしかしてあっちに性別女の子になってることバレてる…………、バレてない?(震え声) 男子として入学しているのだが、そのあたりどうなっているか藪蛇すぎて警戒一択である。

 

 閑話休題、現在の時間軸について。

 

「大・麻帆良祭、ねぇ…………、リアルイベントじゃねぇんだから」

「刀太君?」

 

 いわゆる「学園祭」の季節でもないというか、それこそ開催は来年の6月、7月で8月は夏休みという話になるのだが。太陽系オリンピックやらに重なるタイミングで、クラスの出し物の検討をこんな前年の十月中旬とかいう時期から行っているのは色々とスケールが違いすぎて呆然である。なお「まほら本校舎御柱西中」、つまり私たちが通っているここについては中高一貫らしく、この時期でも当たり前のように来年の話をしているのは余談だ。

 要するに、来年中学卒業と共に高校に進学する場合、私もまた彼らと一緒に学園祭の出し物に対応することになるのだろうと思うと……。

 

 最終学歴中卒ですらないというのは低OSR(ダサすぎる)故にこっちに復学させてもらったが、もしかして何かしら選択をミスった? 原作「UQ HOLDER!」でもイベント目白押しなその話は原作11巻あたりから開始されるが、そこに今までの流れで蓄積されていた「まほら武道会」やら、忍の志しているレースやらが絡んできたりする。そこでの原作刀太たちは、学校は休学か退学扱いで旅行客のような的な形での参加であるし、店番なりが入ると色々と散策していたりする原作刀太から逸脱したガバだし、そもそも原作ってお師匠のところで修業した時間は全部こっちの時系列にも反映されていた訳で、そのあたりからもう何もかもがガバの塊だとようやくこのあたりで気づいた自分である。ハイクを詠もう、サヨナラ!(爆発四散)

 いや、しかしまだ当日の段階でどう動くかとかまでは制限がないので、そこだけに注力すればこの8カ月程度を無難に乗り切ればどうということも……? 今「どうせ何かしらガバ引き起こすだろ」とか思った人、挙手! はい!(自爆)

 

 勝手に一人で精神的にぶっ壊れている私に、九郎丸はおろおろと。もっとも誰も気にしていないのは、クラスメイトたちもヒートアップして話し合いを各自で行って出し物を考えているらしく、そんな中で私と九郎丸が取り残されている形だ。いや、釘宮も釘宮で一人黙々と何か書いているが、委員会の報告書か何かで? あそこまで堂々と内職してても誰もツッコミを入れないのって、意外と釘宮は不良に思われているのだろうか。相変わらずニット帽を常に被ったままだが、校則違反というわけではないがそんな格好しているのは彼くらいなものだし。

 

『それを言ったら相棒だって、春夏秋冬関係なく赤いマフラー巻いてるのはちょっとヘンじゃないかな。スーパーヒーローとかじゃないんだし』

 

 脳内に直接語り掛けてきているのだろうが星月、シャラップ。いやそうはいうが、釘宮のあれは家庭の事情、というより血筋的な事情(狼耳的な意味)で、私のこれは単なるOSR(それっぽさ補強)アイテムなので、性質がそもそも違うだろうに。(ダーナ「そもそもそんなもの付けてる時点で原作からの逸脱行為だろうに」)

 

 そんな私たちに歩いてくる少年が一人。制服の上から袖なしのコートを纏い、片目を眼帯で覆い、そして妙なポーズを極めて(J〇J〇?)いるのは、何というか見た目からして和尚のような世界観の崩壊具合を感じさせてくるクラスメイト。

 市川人形(いちかわにんぎょう)と通称される、市川人(いせと) (かたち)である。どんな名前だ!? という話だがこんな名前なので仕方ない。ついでに言うとこの妙な苗字と変な名前のせいなのか、本人も本人で厨二(不治の病)に目覚めてしまっていることである意味有名だった。

 ちなみに只者でなさそうな雰囲気に反して格闘技も出来ず魔法成績も平均、裏魔法委員会でもないので、つまりは本当に厨二(ご病気)である(自分から目を逸らす)。

 

「あぁらふぉー(※挨拶)。どうしたぁ……、チャン刀に、時坂ァ。浮かない、顔だなぁ……?」

 

「ま、色々あってな(適当)」

「市川人君、相変わらずしゃべりが独特だね……」

 

 ちなみにCVをつけるなら強力若〇である。お前本当に中学生かよぅ!?(白目)

 

「まあ、どうやら仲間(ギルメン)がいないようじゃないかぁ。出し物な、ら、ばァ私と共に話し合わないだろうか?」

「お前本当に中学生かよぅ!?(白目)」あっ声に出た。

「残念ながらァ、この世界での我が名と立場は、な」

「そ、そうなんだ、へぇ……」

 

「ちなみに俺はクラス全体でジャズバンドをやれば良いと思う」

 

 あっ釘宮。挨拶もなく突然、さっきまでさも普通に話し合いに混じってそこにいましたという空気を放ってこっちにやってきている、釘宮大伍だ。そして登場早々顔色が悪く胃の辺りを押さえているので、お前ちょっと本当大丈夫か!? マジで何かあんなら相談乗るからなお前さんさぁ……。

 釘宮とはカトラスと一緒に一泊したあの時以来であるが、まあこっちも特に何か距離感が変わったりはしていない。うん、しいて言えば――――。

 

「その指抜きグローブ……、ふっ、そうか。貴様もついに、目覚めたということかァ」

「何に目覚めたと言うのだい、何に」

ビョーキ(思春期特有のアレ)じゃね?」

「あまり一緒にして欲しくはないな……。ちづに揶揄われる」

 

 言いながら胃をさすってる釘宮のその両手は、市川人形が言った通り指抜きグローブが装着されている。ただの指抜きグローブではなく、左右でそれぞれ色が異なり、黒い右側は「狗」、白い左側は「狼」とそれぞれ反対の色で染められている。いや、染められてる? 刺繍されているようにも見えるが、生憎正体はわからない。

 釘宮も釘宮で、私たちとあの時遭遇したことを思えば、祖父である小太郎君の家で何かしらパワーアップはしていそうな気もするので、そのうち聞こう…………、釘宮の体調が良さそうな日にでも(涙)。

 

「つーか釘宮、お前さんバンドって……、何でブラスじゃなくてジャズ? というか、あー、そういやエレキ弾くんだったな。他にも色々出来るのか」

「刀太君も弾けるよね、ギターとかウクレレとか」

「ピアノも弾けるぜ? 熊本(あっち)いた時に教わった」

「他にも音響関係のことなら、多少は知識があるつもりだよ。電子とかに限るけど」

「すごいね、釘宮君」

「そういう九郎丸はめっちゃ美声だし、歌えばいいと思うぜ」(ちょっとお奈〇様に似てるし)

「えっ!!? ちょ、刀太君ってばぁっ」

「どうやらぁ、我々は『音』に強いグループということかァ……」

「そういう市川人形は何が出来るんだ? わざわざ『我々』って区切ったっつーことは」

 

 軽い私の確認に、ふむふむと頷いた市川人形は足元で軽くステップを踏み、重々しく口を開く。

 

「タップダンスならァ……、四歳の頃からずっとぉ、家庭教師に教わっているとも」

 

「タップダンス……」

「タップダンスは果たして楽器なのか……」

「何だそのOSR(オサレ)スキル!!?」

 

 何とも言えない顔の九郎丸や釘宮に対して、思いっきり食いついた私である。二人そろって頭上に感嘆符を浮かべてびっくりしない。そして私のリアクションにも、特に何ら違和感もなく「うんうん」と頷いている市川人形のこのテンションは一体何なんですかね。特に裏社会やらに関わってすらいないし芸能関係でもないし、そのくせこの妙な存在感よ。お前本当に中学生かよぅ!?(三回目)

 

 とはいえこういう会議と言うのは、なんだかんだでクラス内のカーストやら何やらが関わってくるもの。たとえ全体に対してハブのような、あるいはルーターのような役割を果たす坂田がいたとしても、発言力やら何やらのバランスは調整がかかる訳であって。

 

「じゃあ俺達のクラスの出し物はぁ…………、へぇいッ! 『めっちゃスゴい演劇』で決定だァ!」

 

 わざわざめっちゃスゴいを頭につける必要があるのかの疑問はあったが、まあ何だかんだそれぞれがやりたいこと(釘宮の音楽だったり、委員の豪徳寺本人が言ってた同人誌だったり、それこそ坂田が言ったコスプレ喫茶だったり等々)のバランスをとろうとすると、そんな辺りに落ち着くのはなんとなく納得がいった。

 つまりは、オリジナル脚本で! オリジナル脚本で! それぞれの持ち味を、個性を生かした演劇を作ろうぜ的なことである。

 

 いわゆる「前世」から見て一言、言いたい。中々に負担が大きく無茶をさせるような内容の割に、お前さんらものすごいテンション上がって「うおおおおおっ!」とか言ってるの本当元気だなッ!? 伊達に青春真っ盛りでもないということか。

 釘宮もクールな顔のままみんなと一緒に拳を突き上げてるし、九郎丸も周囲に流されてか「お、お~」とか細い声で手を握ってるのが、人見知りしているみたいでちょっと可愛らしい。

 

「チャン刀もォ……、青春するべきだなぁ」

「そういうのは多分、未来に置いて来てるから(適当)」

 

 そして市川人形のそんな一言にリアクションする私を、前方の方で豪徳寺春可がちらりと見て、ボソッと「形×刀? 刀×形? どっちもアリね」とか言い出してるのは本当止めてくれませんかね、リアルの友達を自分の()のエサに使うな(良心)。

 

 

 

 

 




というわけで今回からラブコメ編ですが、舞台は麻帆良でお送りいたします…!


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ST204.※ただしイケメンに限る

ちょっと長くなったので予定してた分の後半を次回に送りまとめます…
 
※あくまで時代考証とかはSFもの解釈としてお楽しみください


ST204.We Gonna Take A Star!

 

 

 

 

 

「って訳で、ナンパしに行こうぜチャン刀☆ チャン刀がいればもう千人力だい! 転入早々スポーツ女子高生を落としたチャン刀だ、面構えが違うッ」

「いや嘘だろ? 会話の脈絡どこへ行った(白目)」

 

 アマノミハシラの駅前にて、学校帰りに肩を組んでくる坂田のその発言に私は白目になりながらツッコミを入れた。いきなりアレな発言からの開始で大変申し訳ないが、発言者は坂田であって私ではないのでそこのところ上手い事読み解きくださいませお師匠(震え声)。

 開幕早々内心で土下座をかます私のチキンハートは置いておいて。こうなるに至る経緯について説明するのは色々と阿呆らしいが、しかし全く何もなくいきなりナンパをしにいく体で話を進めると「ついに(原作ルート)諦めたか」みたいな勘違いをされそうなので、原作で言う九郎丸が神刀を手に入れてからの「火星の白」操作修得のための修行編の時の師匠襲来を思えば、言い訳くらいさせていただきたいと言うのが私の立場であった。

 

 ことの始まりは……、と言うほどの事は何もないのだが、本日の昼休み。大・麻帆良祭の出し物が決まって早々に「今日は午後授業ないし、せっかくだから食べに行こうぜ☆」と言い出した坂田太笠。選択制と言う訳でもなく学校都合(主に校舎修繕)の関係で、該当授業は課題のみとなっており、一部の学校の生徒がアマノミハシラにあふれている。流石にこの中で空いている場所を探すのも困難かと、夏凜やキリヱたちとの合流を諦めた私と九郎丸は、特に注意もせず坂田のそんな誘いにホイホイ乗って、あれよあれよという間に駅からほど近い回転寿司に至った。

 ……ぶっちゃけてしまえばここ、以前に伊達マコトとデートに使った店舗なのだが、流石にそんなことは知らないだろうに何故この場所になったか。若干嫌な予感を感じる私と、九郎丸が「おぉ! わぁ……!」とお上りさんみたいなリアクションをとりつつ、坂田は坂田で事前にアプリで来店予約を入れていたりとお前さん妙に手馴れているなという動きをしていたり。

 

 そして店内に入って早々、三人でコーラやらオレンジジュースやらアイスコーヒーやらを手に食事をしながらの、この発言であった。お前さん本当にデートしてた私とか目撃していないよな、どうしてそうなった。九郎丸もごほごほと咽ているし、私のメンタルといい、いや大惨事、大惨事。

 

「いや転入早々どうのこうのってお前さんさぁ……」

「いや転入早々どうのこうのってもんだぜお前さんさぁ。あの何か妙に居丈高(いたけだか)な一等生徒先輩たちに煽り散らしてた後、そりゃもうモテモテだったじゃん? このこの~」

「このこの~て……」

 

 嗚呼そういえばそんな一幕もありましたねぇと思い出す私であるが、転入初期のころの話で1月くらいしか経っていないというのに1年くらいの懐かしさを覚える気がする。それだけ十月中旬にそろそろさしかかろうという現在までに目白押しだったせいというのもあるのだが、欠片も原作でやっていないイベントを振ってくるあたり坂田とのコミュニティ形成が完全に原作ガバであることの証左のようでもあり憂鬱だ。彼個人が悪いと言う訳でもないのが、特に。

 

「い、いきなりどうしたのかな? 坂田君、その、話の展開が読めなかったんだけど……、僕的にも凄い大事な話だからそのあたりは色々聞いておきたいかな? うん」

「どうした時坂? なんか凄い慌ててるけど」

「慌ててなんかないよ!?」

 

 大慌てで立ち上がる九郎丸に周囲の視線が集まるが、そんなこと全く気に留まらないくらいには色々テンパっているらしい九郎丸。流石にもう原作的な話からあまりツッコミを入れるのが野暮になってきているが、彼女に関してはこちらから触れるのも藪蛇だろうしスルーしておこう。何も言わず両者の間で視線をさまよわせておく。

 

「いや~、今日あったじゃん? 授業で、倫理と経済の中間くらいの授業で。社会の出生率の変遷と世論問題と、インターネット上の思想氾濫というか、アレ。アレ見てると、やっぱり自然婚が一番いいよなーって思ってな? 一応、許嫁もいない小金持ちの実家の身としては、恋愛して結婚できないと見合いかクローン子とかになっちまうだろうし……」

 

 この2080年代においては、アマテル・インダストリを始めとした色々な企業が働きかけた結果もあり、人工授精のみならず、いわゆるクローニングを利用した遺伝子の掛け合わせでの出産が確立され可能となっている。もともと普通妊娠が難しいのを科学と魔法とで何とかしたというのがこの結果らしく、この話の時点でかなりSFだが、色々手続きは複雑なもの。金額もそれ相応であり一般人が手を出せるものではなく、しかし借金をしてまで同性カップルや単身者が自分の子を欲するためにあれこれ手を出したりということもあり、坂田が言っているのもそういうところだろう。

 だからつまり、そういった最終手段に手を出すのは出来れば控えたいと言うところなのだろうが、お陰でいわゆる恋愛強者と恋愛弱者の溝は深まるばかり。移民や、さきほどいった技術革新などでなんとか国家崩壊する程の少子高齢化は抑え込むことに辛うじて成功したが、その分文化や思想が散逸して混乱しており、一定の恋愛論などとても語れるご時世ではないのだ。

 法的なそれではなく社会通念としての文化や信仰、例えば家によっては許嫁を既に決めていたり、親同士の合意がなければ無理だとか、女性は必ず働きに出てはいけないだとか、女性に行為(ヽヽ)をさせればお互い地獄に落ちるだとか、どこに地雷が潜んでいるかわかったものではない2060年代を経ているのがこの2080年代。いわゆるイデオロギーとしてのフェミニズムやマスキュリズムは現代ではお互いミソジニズム極まった宗教化しているし、なんならネギ・スプリングフィールドを信奉する新興宗教すらある始末なので、このあたりは全く洒落にならない。資本力による格差の断絶が容姿の美醜、学力、経済力、その後の発展性のみならず多様になっているからこそ、価値観の統制はかなり難しい社会に突入しているのだ。

 あくまで漫画で読む分には全く触れられないだろうし、仮に触れてもフレーバーテキストレベルの近未来SF小話として片づけたいところなのだが、正直ガバだろうが何だろうが真面目にこんな状況に追い込まれると当事者としてはコメントに困るのが昨今。自然淘汰的にどのイデオロギーが勝つかというと、一周回って2000年代初頭がちょっと面倒くさい形になったくらいの男女観におさまっているといえる。

 どうやら独身税だけは撤廃されなかったようだが……。止めてくれ現世、その法律は私の前世に効く(NARUT〇並感)。

 

「ただまー、食事中の話題じゃねーだろ」

「いや、食事中だからするんだぜチャン刀! 割と二人とも、キリヱ大明神含めていろいろ忙しいみたいだし。休学してたのが終わっても、また忙しくすんだろ? ちょっと気を遣うじゃん」

「気を遣うんだ、坂田君が……、坂田君が!?」

「オイオイどういう意味だ時坂九郎丸くんよォ!」

「ま、そりゃあな。……詳しく聞いたりはしねーからな、坂田」

「そりゃ、それなりには。チャン刀が俺の実家について色々聞いてこないのと一緒だぜ」

「な」

「おう」

「…………っ!」

 

 うむうむ、と頷き合う私と坂田に、九郎丸が少しだけ羨ましそうに見ているのはちょっと感情の種類が読めないのだが。こういう距離感の取り方を外さないあたりは坂田の人徳といえるだろう。お陰でそれこそ伊達マコトではないが、この短期間で踏み込みを見極めてくれるお陰も会って、それなりに付き合いやすい。

 届いたマグロ三皿をそれぞれ食べながら、坂田は話を続ける。

 

「そもそも釘宮はともかく、チャン刀はマジで何なん? 生徒会の人と、双子っぽいのと年下の子と、あと何か褐色の子と、キリヱ大明神と」

「何でお前さんカトラス知ってるんだよ……?」

「いや、この間チャン刀たちと一緒にいたの見たし」

 

 伊達マコト、近衛姉妹、どうやら帰還時あたりに目撃されていたらしいカトラスと、キリヱ大明神。夏凜やら忍の名前が挙がらないな。いや忍はどうやらここアマノミハシラにカアちゃんが通わせているらしい(ガバ)のだが、校舎が離れてるのかいまだ遭遇せず、チャットアプリでやりとりする程度なのだから、忍は目撃されていないのはまだわかる。何故に夏凜を対象から外しているんだコイツ? ……いや、普通は対象に入れないか、そもそもあんまり公衆の面前でベタベタしている訳では……、訳では…………? あれ、どうだったっけ?(記憶喪失)

 

 もっとも内訳が、原作フラグあり一名、原作フラグなし一名、妹三名というこの実情よ。

 

「いや僕も…………、あっ、いや、何でもない」

「さっきからどした? 時坂」

「色々複雑なお年頃なんっスよ(遠い目)」

 

 そして坂田の数えに入っていなかった自分をアピールしようとする九郎丸、何度も言うが(言ってない)お前さんここには男子生徒ってことで転入してるんだから色々自重せい自重。先ほど言ったクローン技術云々の結果、性転換(トランスセクシャル)もお金はかかるが問題ないような時代になってきていたりするので、妙な勘違いの元になる。

 

「お、回って来たな。じゃ、お先にいただきます」

「よっ! 味付けシンプル大臣!」

「どういう揶揄い方……? というより、本当にお寿司屋さんでラーメン来ちゃうんだ、来ちゃうんだ…………」

 

 そして地味にチェーンの回転寿司初体験だったらしい九郎丸は、マコトはんのようにテンションアゲアゲせんで、届いたうちのあさり塩ラーメンを見て困惑しているのがおぼこくて愛らしゅうて、よろしやす(謎訛り)。

 

 

 

 ともあれ昼食後、九郎丸は「ちょっとやることがあるから……、ご、ゴメンね?」と私たちと別れどこかへと駆けて行った。彼女がそもそも「彼女」であることを思えばこの話がいかにややこしいことになるかは察するところ大だったのでそのまま送る私と「時坂いなくなる、だと!? 戦力30%減だー!」とか叫ぶ坂田は置いておいて。

 というか私も私でやることはあったのだが……、まあこれも付き合いか。一応カトラスに「遅れる」と連絡は入れておくことにしよう。

 

 という訳で必然、ナンパもどきは中学生男子二名となる。まあどちらもそこまで長身と言う訳でも何でもないので、どこでナンパをするかみたいな話をふってくる坂田だが、生憎と麻帆良……、いやアマノミハシラ学園都市の敷地内、生徒会の巡回ルートに入ると、人によってはさじ加減で捕まる可能性もあるので、現実問題ちょっと調整が大変だぞ? という話である。少なくとも中等部までの扱いは校則上、多少厳しめに設定されているので、割とミッションとしては高難易度のそれだ。

 

「つまり、アレか……? ナンパだっつーのを意識させないでお近づきになれば良いって?」

「そこだけ切り取ると犯罪臭凄いな……。いや最終目的も、じゃねーかな? 例えばカラオケしたいって言ったら、最初から規定時間までで延長しねーで、カラオケだけしたら解散とか。一緒にお茶しない? みたいな誘い方は人によってはアウトくらうかもしれねーし」

「けどよー」

「俺はともかく、お前さんは学歴に傷がつくと後々大変だろ? 注意しねーと。まあ何もしなきゃその手の技術やら心のハードルやらが解消されねーから、非モテ一直線なんだろーが(白目)」

「異性交流排斥が……、反出生がはびこっている……!」

「そこまで大げさでもねーだろうけど、経済的に安定化したら技術革新なかったら滅亡しかねねーくらいには人類、生物だし。出生が安定すると、どうしても一周回って全体より個人主義が勝って、経済力がそのまま比例する場合も反比例する場合も、良くも悪くも直結してくだろ。九郎丸居る時にも言ったけど」

「そりゃそーだけど、夢なさすぎじゃんッ! もっと明るい明日を夢見て行こうぜ、ラブ! ラブ!」

「戦いってのは全て愛のために起こるからなぁ、神話時代から……、ペペッ」

「何で唾吐いたし!?」

「あ、いや悪ぃ条件反射で」

 

 一瞬脳裏に神〇愛(グドエ□)ペ〇(ほぼ全裸の汚いオッサン)が過ったせいか瞬間的にリアクションをとってしまったが、おそらく外部には全く伝わらない奴なのでそこは謝っておく。しかしトロイア戦争の黄金の林檎まで話を遡らなくとも、そもそも本作世界であるところの元祖「ネギま!」や「UQ HOLDER!」自体、ラスボスや裏ボスどちらの動機も、歪んではいるが愛であるのだから、やはり人間は業が深いのだ。

 

 そして適当にフラフラと歩きながら声をかけて行った私と坂田だったが。

 

 

「ミヒール様、駄目です! そのようなやり方では全くもって女性の気を引くことは出来ませんし、ヤリ(ヽヽ)目的なのがバレバレではありませんか! そもそもあのミヒール様の初恋だった現『電気のアソウ』夫人のあのメイドと全然外見の印象が異なるのですから、仮に手を出しても愛を注ぐかどうかと言えば―――――」

「そこまで人の心がない振る舞いなど出来るわけないだろうがアドリフ! 貴様ァ、さっきから一体何が目的だーッ!」

 

「よし、見なかったことにしよう」

「そうだな(便乗)」

 

 見覚えのある一等生徒2名が何やらわいのわいの騒いでナンパに失敗しているのを全力でスルーしたり。……いや、声をかけられた女子生徒、すっごい生温かい目で見てるし、意外とワンチャンないわけでもなさそうだが、それも含めてスルーさせていただこう。

 

 

「おいぃ……、決闘(デュエル)しろよ」

「ほう? この『東高』四天王、葛葉雪那(せつな)に戦いを挑むとはなんと命知らずな……、いいでしょう、受けて差し上げましょう!

 さぁどこからでもかかってきなさい! …………へ? 刀じゃない? カードゲーム」

 

「くそぅ、何で市川人形ばっかりーっ!?」

「そーいうんじゃねーと思われるが……」

 

 片腕に何やらジャンプ漫画で見覚えのあるカードゲーム用の携帯盤を装着した市川人形が例によって只者では無い雰囲気を漂わせながら糸目に竹刀袋を背負った女の子に声をかけていたが、彼女が抜刀したのを見ても態度を崩さずデュエ〇ディスクを構えてるあたりお前本当に中学生かよぅ!?(本日四回目) ともあれこちらも突っ込みだすと収拾がつかなそうだしスルーするとして……、何か聞き覚えのある名字が出た気がするがそこも含めてスルーするとして(鋼の意志)。

 

 

「チャチャ=ワン現着です!」「チャチャ=ツー、まほら武道会の資料整理をサボってただいま到着!」「チャチャ=スリー、ツーはちゃんとお仕事しなさい」「チャチャ=フォー確信してます、そういうスリーも審判サボって来ていると」「チャチャ=ファイブだぴょん! フォーは真面目ぴょんね~」「チャチャ=シックス。…………」「チャチャ=セブン遅れて参上の三条橋や! って、シックス何かしゃべらなアカンやん!? アピールせなっ!」「チャチャ=エイト、よくわかりませんが緊急招集に応じました! ポリス!」「というわけでチャチャ=ナイン含め女性型人造人間(ガイノイド)『茶々丸シリーズ』一同、まほら本校舎の学長室に中々来ないので遊びに来ました! はい!」

 

「多い多い多い多い多い多い多い多い多い、何だテメェ等!?(暴言)」

「まぶしいッペ……、チャン刀やっぱりオメェがナンバーワンだべ…………」

 

 前にカトラスとアフロが戦った時に審判していた、チャチャ=ナインだったか。その茶々丸に似ている彼女と同型と思われる面々が合計9名揃いも揃って集合してきたり。いや、それぞれどうやら性格に差はありそうだが、揃いも揃って顔かたちは茶々丸そのものなので、茶々丸の色違いがコスプレ七変化しているような有様である。スーツ姿だったりジャージだったりチアガールだったり三つ編みセーラー服だったりバニーガールだったり(バニーガール!?)喪服のような黒装束だったり浴衣だったり婦警っぽい恰好だったり、近未来アスリートのごとき恰好なナインを含めてカオスここに極まれり。おのおの好き勝手に話し出すものだからもはや何が何やらであるし、坂田はこの謎のモテ方(?)に膝をついて両目を隠して私から目をそらしている。

 最終的にここはオリジナルらしき茶々丸本体(彼女たち曰く「お姉様」)が襲来、パクティオーカードをちらつかせて退散と事なきを得たのだが、その際に「近々、お時間いただけますでしょうか?」とか言ってきたものだから坂田はその場で五体投地と相成ったり。

 

 

「もしかしてアマノミハシラって変人しかいないんじゃね?」

「ハハ…………(遠い目)」

 

 こう「ネギま!」あたりの聖ウルスラの印象やら付き合いのある生徒会関係者の面々とかを思い描けば、あまり否定できないのが難しい所である・そもそも異様にノリが良いのは旧時代の麻帆良学園からの伝統のようであり、ここだけ殺伐とした社会情勢を一時忘れてしまえるくらいには、空気が、時代観が「順当に」アップデートされているように思えた。

 ちなみにその定義でいうと我々も変人扱いになるが……。いや私は常時マフラーマンだし性格が一般的かと言えばそうでもないだろうが(「私」的な意味でも)、お前さんは割と普通に中学生しているのに、良いのか? それ。いや誰しも何かしら個性的なのを認識できなければ没個性である、みたいな大衆というカテゴリーみたいな見方をすればまた変わってくるのもあるのかもしれないが。

 他にも何回か色々あり、声を掛けられなかった件数が6件、声をかけても坂田が撃沈した回数が4件、声をかけてないのに私に群がられたのが1件(茶々丸シリーズ)と、一時間の戦績にしてはもはやカオス極まりない。駅前周辺をフラフラしているだけでこの有様なので、どうせなら釘宮も巻き込んでおくべきだったろうか。一緒に疲れようぜ、くぎみーまいふれんど(白目)。

 

 そんなこんなでまた移動途中、市川人形がさっきの女の子にカードゲームをレクチャーしていて立派にナンパが成功していそうなのを見て「はいぃ!? えっマジで!」とびっくりしたりといった一幕もあったが。

 

「とりあえず行っちまえチャン刀! キリヱ大明神みたいに金髪好きなんだろう! そして撃沈してこい(真顔)」

「いや怖ぇよ(震え声)」

 

 ニコニコ笑いながらこちらの背中を叩いて送り出す坂田だが急に真顔になるの止めて、いやお前さんの心の絶望はわかったから……。そして私にも同じ傷を味わえと言われたところで、そもそも私、付き合いで一緒にいるが一緒にナンパするとは言っていないのだが……。

 まあ、これも付き合いか。ため息をつき、少しだけ目を見開いて、さてと誰に声をかけようか。普通にそのあたりをうろついている人に唐突に声をかけてもわざとらしいし、コンプラ上問題にならないとはいえ「私」的な経験値でいってもさほどテクニックがある訳でもないし。人見知りはしないが、だからといって積極的にナンパする精神的な余裕があるわけでも危機感に駆られている訳でもないし、なんならこの話が夏凜の耳に入ったら即・チェックメイトの可能性すらあるし(震え声)。

 

 そう後ろ向きに考えていると、白いロングスカートなワンピースタイプのセーラー服を着用した、坂田が言ったわけではないが金髪の、白いお帽子を被ったシルエットがきょろきょろと挙動不審というか、慣れない風に自分の身体を抱きしめて歩いている子が見えた。こちらからは後ろ姿だから正面は見えないが、道に迷っているように見えなくもない。なんとなくデジャビュのようなものを感じないでもないが、しかし普通に困っているのならナンパは除外して声をかけよう。

 

 そう考えたのがそもそもの間違いであった。

 

「スミマセン、もしかして道に迷ってます?」

「――――へ? あっ刀……、いえ、違う! えっと、いえ、迷ってはいないんですけど、その……?」

 

 

 

 …………、えーっと、ちょっとお待ちになって貴女、大体原作10巻とかアニメ6話とか見直しになってからもう一度ご確認くださいね?

 お前、九龍だろ? 九郎丸の完全女バージョンだろ? 寸分たがわず九郎丸の女バージョンだろ!!? えっ何、一体用事って一体何の用事だったんスかね、クソわよッッ!(お嬢)

 

 私の顔を見て思いっきり名前を呼ぼうとして、そして自ら止めてこちらを恥ずかしそうに見つめる彼女は、帽子で目元を隠していて大変可愛らしく普段以上に肩の骨格やら何やらが女性のそれになっているのだが、髪色のこともあって年齢詐称薬の勝四郎(ヨ〇さん風)とは違った印象を受けるが、そう言う問題ではない。ちょっと待ってくれと言って空を仰ぎ、色々と情報を精査して、謎は解けた。

 

 ふうん……、つまり? 原作よりも早く巻きでラブコメ編が始まってしまったと? 原作なら8か月後にまほら武道会直前の1月程度の話の前に、一気に繰り上げできたと?

 クソわよ(迫真)。

 

 

 

 

 



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ST205.苦労を買う

久々の九郎丸オールステージ? 初手ネガティブ注意。
 
前々から出すタイミングを逸し続けたアレの登場です・・・!


ST205.What The Hell !?

 

 

 

 

 

 刀太君の女性観というか、そういうのって思えば初めて聞くかもしれない。

 

 坂田君と一緒に昼食をとりながら、僕はそんなことをぼんやりと考えながら、ほたての軍艦を食べていた。そして、ちょっと後悔した。後悔したというか、甘く見ていたというか。

 何をと言えば、刀太君のこと。下に見ていたとか、そう言う意味じゃない。もっと普通の恋愛観を持っているというか、例えば普通に告白して、普通に付き合って、普通に結婚して、とか、そういう安定志向なのかな? くらいに思っていたというか。

 

『そもそも今時、普通に結婚できるとか思っている方が甘いだろ。経済格差一つに限らず、色々な格差がスラムからここまで各々に集約されて広がっていて、それでいて政府は総中流社会を目指し直すわけでもなく、だぜ? そりゃ出生率は技術に頼るしかねーだろ』

『と、刀太君……?』

 

 坂田君と「モテるためにはどうしたら良いか」みたいな話をしていたのが、派生して「モテない男はどうしたら良いか」という方に舵を切って。

 それに対して刀太君は「俺自身、別にモテてる訳じゃないとか言うと嫌味みたいに言われるから具体的にどう思ってるかは言わねーけど」と前置きをした上で発したのが、その一言だった。

 

 あと気のせいじゃなきゃ、目がこう、黒々として光が無い。だからこそキラキラした純愛みてーなのが欲しいんだが、そもそも人間って動物だから条件が良い方に適者適応して生存していくもんだし、と刀太君。

 

『ああそうだぜ、基本的に選ぶ側にいるってどっちも思っていたところで最終的には相手が応じなきゃ話にならねーんだから、そもそも同棲したって私物勝手に捨てる奴は捨てるし売る奴は売るし、売った金使ってエステする奴もいるわけで、そんなこと言い出したら乗り換えだって条件次第じゃ茶飯事だし、そりゃ寝取られるって意味よりもこっちの方が先に好きだったのになんて概念すらふっとぶだろ常識的に考えてさー、そもそも幼馴染だってことすら忘れる奴もいるし、また出会ったら出会ったでこっちのことなんて完全に忘却の彼方に追いやってるくせにさも自分が被害者みたいな物言いしてくるのだっている「らしい」訳で、んマーあとはいじめてたくせにかってにこっちのこと好きになったとかで色々言ってくるようになっても基本的に相手がこっちのこと嫌いだった部分は何もかわらねー訳でいつその気持ちが反転して元のキモい消えろシネってそれに移り変わるか気が気じゃねーから何一つコメントを差しはさむことはできねーし、まつまり最初から希望を抱いていなければ良いっつーことにもなるんだがそうなると坂田が危惧してるあたりの問題に直面しちまうし、八方手づまりだなオイ』

 

『や、闇落ち……!? チャン刀が闇落ちしてるゥ!』

『刀太君、一体どうしたの!!?』

 

 一息で言い放ったにしては情報量が多すぎて全然何言ってるかわからないんだけど、僕の方が何も言うことができなかったレベルの圧力を感じた。一体どうしちゃったの刀太君……!? 別に女性不審とか、そんなことは言ってないんだけど、挙げられる例えは人づてなのか何なのか、ネット情報「だけ」とは言い難い妙なリアリティがあって、なんだか食欲がちょっと失せそうになる。

 坂田君もそれは一緒なのか「うぇ」とうめき声をあげて、刀太君をものすごい可愛そうなものを見るような目で見てる。

 

『ま、言い方は悪ぃけどアレだ。人生あんまり希望持たない方が気楽だぜ(白目)』

『白目剥くなって!? いや、チャン刀って彼女いない歴=年齢の俺たちズッ友って感じだろ? えぇ? 何ださっきの情報量、エビデンスどっから調達してんのォ!?』

『そもそもこーゆー恋愛工学みてーなのって人間が考えてる訳だし、現行制度とか含めて不完全な人間が運用してんだから、そりゃ上手くはいかねーだろ。少子高齢化だって社会通念がいっこうにアップデートされねーで混乱したまま、インフラ崩壊まで一直線までいって、魔法技術が来たからギリギリ持ったって授業でも言ってたし』

『すっげぇネガティブ!?』

『やっぱ人間、所詮は生き物だから「楽」な方に流れるからなー。文明が熟成した時に個人主義が極端化すりゃ、そりゃ集団を増やすよりも個々人の生活の方が低コストで運用できるわけだし、そうすりゃ経済力の余裕がそのまま生産力の余裕になるわけで、どうあがいてもそこに比例と集約してくだろ。比例っつーか、反比例っつーか、な?』

『くそネガティブでいらっしゃられますぅ!?』

 

 ねぇチャン刀って何かあったん? って坂田君が僕の方を見て来るけど、僕だって知らないよそれ。何か小難しいこといっぱい言ってるのは格好良いというか、キリヱちゃん曰くの「だから刀太は、そーゆーセンスとか色々ちゅーになのヨっ」ってところなのかもしれないけど、うん。

 というか、初めて見る一面だ。刀太君、その、女性関係に絶望でもしてたのかな……? 僕だって一度、殺しちゃってる訳だし、うん。でもそれ以上に熊本時代、僕の知らないときに一体何があったっていうの!? 朝倉さんの話だって、あれはあれで美談みたいな形で決着してるって聞いたし、ここまで拗らせる感じにはなってないと思うんだけど……?

 

『拗らせてるとは何だ、拗らせてるとは。大体朝倉のやつは朝倉が悪いから自業自得だろ、無関係だったら意味不明だわ』(※少しだけ「第四の目」による思念読み取り)

「僕、何も言ってないよ!? って、えっと、朝倉さんはその……」

『朝倉? 何だよ、元カノか何か? お前、彼女居たのかよぅ!?』

『いねーよいいから黙って座れってお前さんら、営業妨害だわ(戒め)』

 

 あっ、とヒートアップして立ち上がっていた僕と坂田君は、周囲に少しだけ会釈で謝罪してから、一緒にすとんって座って刀太君に目を合わせた。

 

『そもそも朝倉に関しちゃ、もともと俺いじめてたし。俺、キモいだの何だの言って虐められてた側だし。ま、それでもガチの男友達は全然そっちに流されなかったから、今でも続いてんだけどな?

 あの後、まー、何かこう色々あって、なんだかんだ仲良くはなったけどさ。別に謝られてもいねーし? アイツがキモいだの勘違い野郎だのザコオスだの言ってた俺の個性っつーか、性格だの容姿だのっつーのは、何も変わっちゃいねーわけで。逆に褒められたり格好良いって言ってくるようになったところで、手のひらくるくる回されてもまあ、はぁん? って感じだし。

 別に「最初から」好きでも嫌いでもなかったから大して意味はねーんだけど。そういう振る舞いは後に付きまとうっつーか、こう、自分が認められない相手に対する相手の何もかもが淘汰する方向に行ってたのが、一転して全肯定みてーにされても薄気味悪くね?』

『悪ィ、チャン刀。俺、そういう人生経験ないからどんな顔したら良いか……』

『そもそも先に受け入れられるかどーかっつー判断基準が先に来てて、後はそれに付随して適当に好き勝手に評価下される訳だし、気にしてたら身が持たねーぜ(白目)』

『お、おう……』

 

 刀太君、その言い回しは何か妙にモテてる人みたいな物言いな気がするような……? 夏凜先輩が言ってたけど、刀太君のお祖父様は女性遍歴について色々噂が絶えないとかあるし、これも血筋なのかなぁ、うん。

 というより、この話って僕、聞いちゃって良い奴だったの!? 男子トーク! 男子トークに僕、混じっちゃってて良いの!!? もう刀太君からは女の子扱いされっぱなしだし、その、えっと、うん…………、うん? ちょっと混乱してきた。

 

 そんな話をもっともっといっぱい刀太君の口から聞いてしまったものだから、僕も僕で色々頭の中が混乱してるって言うか、うん。ぐわんぐわんってちょっと頭痛を覚えてるっていうか。

 坂田君と一緒に出掛ける刀太君といったん分かれて、公園のベンチに座る。

 

「僕は一体、どうしたら――――」

 

 

 

「――どーしたらじゃ、ないでしょーがっ!

 死活問題でしょ! しーかーつーもーんーだーいーッ!」

「わぁ!? き、キリヱちゃん!!?」

 

 

 

 一人たそがれていると、後ろから「わー!」ってキリヱちゃんが活を入れてくれた。キリヱちゃんも制服姿だし、こっちも学校帰りなんだ……? あれ、というかどうして僕にそんなことを言うのかな。

 

「話は聞かせてもらったわ、大体。まー何というか、面倒くさい男よね、あのちゅーに」

「一体いつから聞いてたの?」

「ちゅーにが非モテこじらせた感じの持論を一息で展開してたあたりから」

「結構前から聞いてたんだね……。お寿司屋さん、もしかして入ってた?」

「まあ細かいことは気にしないで。後アンタも刀太が言ってたアレ、非モテっぽい卑屈なのって思ってるのね」

「へ!? い、いや、僕は別に……、もうちょっと前をというか、周りに目を向けて欲しいかなー。なんて、思うくらいで…………」

 

 僕の事はともかく、つまり朝倉さん周りの話とかも聞いていたのかな? 「女性嫌悪というより、恋愛に対して悲観主義って感じになってるわね」と、腕を組んでぷんすこ言って、僕の隣に座り込むキリヱちゃん。そして…………、えっと、どうして自分の胸を揉んでるのかな?

 なんとなく、僕も釣られて自分の胸元を撫でる。

 

「足切りがどうのこうのとか言ってたわヨね、刀太。言いぶりは女が男を恋愛対象に入れるには男側が女側の内心設定してる足切りを最低限クリアしてないといけないから、就活の面接みたいなものだとか。それ言うと私たちも、おっぱい大きくないと足切りされたりしない、わよね……?」

「そ、それは……!? キリヱちゃんそれは、考えちゃ駄目なやつだと思うなー僕!」

「割とダブスタというか、抜けてるところあるから、自分の目線で語ってるのにいざ自分が選ぶよーな側に回った時の事なんて考えてないんじゃないかしら、あのちゅーに。

 とは言ったって? 私たち、少なくともちゅーにのパーソナルスペースにはいっぱい踏みこめるくらいの距離感にはいるわよね? 多分、大丈夫よね? そういうセンシティブなこと言ったりはしてないし……」

 

 キリヱちゃん、何故かちょっと不安定な感じだ。自問自答を繰り返して、断言して、よね? って疑問になったりして、不安そうにして、表情が延々と百面相してる。

 段々疲れてきたのか「に゛ゃああああん!」と頭を抱えて叫んだ。

 

「そもそも! ちゃんと動けば全部解決する話じゃないのヨ!」

「それは、うん…………。けど、刀太君って優しいから、ああいう感覚だとすると、女の子に積極的に接さないのを求められてるって考えてても不思議じゃ――――」

「何もしないのがイコールで優しいって訳じゃないでしょーが! 少なくとも私たちとかに関して! 逆の話だけど夏凜ちゃん見てみなさい!」

「それはそうだね!」

 

 即答してしまった。いや、その、実際刀太君が誰かを好きかとか、そういう話は置いておいて、少なくとも恋愛関係に積極的な動きをしてないっていうのは、僕も納得だ。ちょっと思う所はある。…… 一応、その、告白した身としては。返事は求めなかったけれど、ゾンビ事件の最後に。その点、夏凜先輩の異様なアグレッシブさは何が理由でああなってしまってるんだろう。源五郎先輩とか甚兵衛さんに聞くと、どうやら以前はあんな風じゃなかったみたいだし。

 と、そんな僕にじろりと、キリヱちゃんは視線を向けてきた。

 

「な、何かな? 僕、どうかした?」

「その話で言ったら九郎丸、アンタだって十分ヘタレじゃないの? 告白っぽいの一応してたけど、その後全然、なーんにもしてないでしょ?」

「へ!? いや、その、何をどうすると言われましても僕はですね、その、ええっと……、それを言ったらキリヱちゃんだって、刀太君のこと好きなんじゃ――――」

「好きじゃないわよッ! いや絶対嫌いじゃないけどっ! まぁ、私も大概クソ面倒くさいやつが色々あんのヨ! そもそも私が好きなアイツが、本当にアイツなのかみたいな、そういう話に行きついちゃうし…………、タイムパラドックス的な意味で」

「タイムパラドックス的な意味で?」

「そうそう。まあこっちはこっちで心の整理してから何か考えるから、まずアンタも気持ちに整理をつけなさいヨっ」

 

 それ、えーっと、自分が好きな相手に自分の友達(?)が告白するのを後押しするみたいな状況だよね? これ、たぶん。一体どんな心境なんだろう、キリヱちゃん…………? ちょっと半眼で、ぐれた顔してる。

 だけどその、何というか…………。

 

「でもその、刀太君、気付いてないならともかく、僕がちゃんと告白したってわかった上でああやって振舞ってるのだと、僕も怖くて……。

 い、今の関係が崩れるのは、それはそれで怖いんだ」

「むー?」

 

 腕を組むキリヱちゃんが、頭を抱えてうずくまる僕を見てるのがわかるけど。でも、これが今の本心だ。

 修行が終わって帰って来てからも、相変わらず朝の鍛錬はしているし、その距離感も特に変わったりはしていない。重力剣を復活(?)させてから、吸血鬼らしさにさらに磨きがかかったような気がするけど、それで精神が変質したりしていない。本当に何もかわらず、熊本で僕を受け入れてくれていた、あの時の刀太君だ。それこそ僕のせいで、日常だったはずの生活を根本から破壊されても変わらなかった、その笑顔なんだ…………。

 

 そもそも刀太君は、自分で言っている程にマイナスな気持ちを持つ必要なんてないと思う。仕事も勉強も頑張ってて、雪姫さんがからむとちょっと苦手そうにしてるけど、最終的にはなんだかんだ上手くやっている。そういうとき、普通の仕事とかなら一人じゃ無理なら意外と普通に周りに頼ったり、気遣ったりするから、アジトの黒服さん達とか、子供たちからも慕われてるんだ。現実への見切りがしっかりできてて、それでも何とかしようとして。一人で完結できないときは「それっぽくない」とか「おしゃれじゃない」とか言って不満そうで、そういうのは可愛いと思う。

 あと時々妙に、自覚はないのかもしれないけど、自分を犠牲にすることに躊躇いが無いような振る舞いをする。戦闘は特に顕著だけど、周りを大事にしようとして、結果的に焦って悲鳴や怒声を上げて、それでも長続きしない。からっとして、いたずらに人の心を責めたりしない。

 帆乃香ちゃんとか、勇魚ちゃん…………は置いておいて、敵対関係にあったカトラスちゃんどころか、ディ……ディ……あの水着を着てるアーウェルンクス、フェイトそっくりのエッチな女の人とかも。そういう風に、ある意味で分け隔てない。メイリンってよくわからない人にだって。

 

 これを格好良いと言うのかは、僕には良くわからない。だけどそんな刀太君だから、一緒にいて落ち着けるし、一番欲しい距離感で居てくれる。それでいて、こっちの気持ちも(恋愛関係以外は)結構察して色々言ってくれるのが、どこか面映ゆくて眩しいんだ。

 

 相棒と、たまに呼ばれるだけで、胸が高鳴ってしまうくらいには。

 もちろん僕にとっては、相棒って言葉以上に強い感情がそこにはあって。……桃源に居た頃の、こんな身体になってから暗い日々に手を差し伸べて、連れ出してくれたような、救い上げてくれたような。

 

「面倒くさいわね」

「め、面倒!?」

 

 ぶつぶつと考えを整理していたら、キリヱちゃんはストレートに言ってきた。がびーん! みたいな漫画みたいな衝撃が僕に走る。えっここは共感するところじゃないかな、というか共感してもらいたいんだけど、女の子同士だし……。

 困惑する僕に、キリヱちゃんは「大丈夫よ、大丈夫」と手を腰にあてて胸を張った。

 

「そういう悶々とした感情なんて、吐き出さないで後悔したら目もあてられないんだから。……意地はって、自分のプライドとか心だけ守るのに必死になって、一番大事なものが手からすり抜けるなんて、ざらなものよ。私が言えることじゃないけど」

「キリヱちゃん…………」

 

 どこか遠くを見つめるように、空を仰いで微笑むキリヱちゃんは、女の子らしい見た目以上にどこかこう、雪姫さんみたいな大人な雰囲気が漂っていて。

 ぱん! と手を叩くと何事も無かったように僕を引っ張り上げて、背中を押した。

 

「だーかーらっ! ちょっと色々女の子用の服持って来たから、着替えて、ちゅーにをデートにさそうわヨ! はいわかったら起立!」

「ええっ!? ちょ、き、キリヱちゃん!? な、なんでそんな話に!?」

「なんでって、生え際(※坂田のこと)がちゅーにをナンパしに行こうなんて言って誘ったんでしょ!? どー考えてもまた新しい女が生えてきちゃうやつじゃないのっ! ただでさえややこしい関係をこれ以上ややこしくして戦力を分散させちゃ、勝てるものも勝てないわヨ!! だから成長中おっぱいで攻めるのヨ!」

「ひゃわっ!? も、揉まないで……、というか戦力分散って――――」

「夏凜ちゃん」

「――――ああ、うん、納得」

 

 良く判らないけどキリヱちゃんの勢いに納得させられてしまった。しまったけど……、この場で服を脱がせにかかるのは止めてくれないかな!? いや、魔法アプリで結界張ったのはわかったけど、それだって完璧じゃない訳だし……!

 そんなに急いで僕を刀太君のところに急行させるつもりなの? そんな勢いで、刀太君の周りにまた女の子が出て来るって思ってるの? ひょっとしてまた予言というか、時間遡行でもしてきたのかな、キリヱちゃん。何かあったってことなのかな。怖くて聞けない…………。

 

 けどその、夏ちょっと前まで男だって認識が強かったからと言ったって、女の子同士だからといって、こんな開けた場所で下着にさせられるのはちょっと、いくら急いでるって言っても限度があるよ!? 何かこう妙に「最適化された」動きで僕の起点に先回りしてくるものだから、あんまり強く力を出せないし。

 あっ、さ、サラシは取らないで……! かくなる上は…………。

 

「……よ、よし、取れた!

 我が身に秘められし(オステンド・ミア)力よここに(・エッセンシア)――――来たれ(アデアット)!」

「あーっ! ちょっと、仮契約カードはズルいわヨ!」

 

 そして僕は仮契約カードを発動して、展開されたカードからヒナちゃんを引き抜いて、翼を…………、翼を……。

 

「あれ?」

 

 いつまで経っても身体が変わらないし、ヒナちゃんの柄も握れない。

 違和感。不思議に思って手元のカードを見てみると。

 

 

 

・時坂 九郎丸

・SYMPARATE:43

・P-No:XI

・DoB:☆☆☆☆〇〇

・GUARDIAN: Eoh

・PROTECTOR:Saruta-Hiko

・DIRECTION: East

・ASTRAL: Aries

・BWH:05-03-03

・P-COLOR:Violet 

・ANALECTSES:Better late than never.

 

 

 

 何かいつもと全然違う!? 絵柄というか、描かれてるのもあの格好良い衣装な僕じゃないし、これは、白いワンピースに金髪の女の子? 帽子被って腰に夕凪、小さいヒナちゃんがその下にぶら下がっていて……?

 

 ぽふん、と音が鳴って。何かこう、気が抜けた感じの音で。

 煙が晴れると、キリヱちゃんが僕を指さして。

 

 

 

「こ、こ、これがコスプレカード!? 可愛いじゃないのヨ! それで行きましょうウン!」

「えっちょっと、何がどうなってるのさ僕、一体どうなっちゃったの!?」

 

 

 

 ……どうやら僕は、さっきカードに描かれていたあの格好に変身したということらしい。

 そういえば仮契約(ネオパクティオー)カード、変身は三種類あるって言ってたっけ。そっか、これが今まで引いてなかった3つ目か……。どういう目的の用途なんだろう、スカもそうだったけど、このコスプレカード?

 

 

 

 

 



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ST206.僕の名を君だけは知っている

ST206.Your Name Is "Last One"

 

 

 

 

 

 コスプレカードで変身した僕は、身体的には完全に女性のものになっていた。その、普段は「女性寄り」の身体になりつつある僕だけど、それでも完全に女性ではない。生理も来ないし、身体の使い勝手も「まだ」瞬発的なパワーとか、そういうのは男性に寄っていると思う。女性寄りとはいっても、そんな根本的な肉付きの仕方とか、骨の感じから変わったりしているわけじゃ無いんだ。

 それがこっちになってからは、もう何もかもが違うと言うか。具体的に言うと「気」に関しては出力が大幅に上がっていて、その代わり制御がちょっと難しくなっている。気がする。身体に関しても、瞬間瞬間の力の入れ方が明らかに弱くなっていて、その代わりこう、柔らかいって言ったらいいのかな? 普段よりも関節が回るし、脚だって180度開脚できそうな感じだ。

 

 そんな話をキリヱちゃんにすると「どーしてそんなバトル漫画読みすぎなことしか言えないの……? ちゅーにの影響?」とか言われてしまった。い、いや、刀太君の影響だとしたらそれはそれで嬉しいんだけど、その、だっていくら女性になったって、ちゃんと戦えないと刀太君の隣に立つのって難しいし…………。メイリンさんとかカトラスちゃんとか夏凜先輩とかに圧され気味だけど、そういうのは凄い大事だと思う。

 幸い一時的なものであること、ヒナちゃんも呼び出し可能であることなどを鑑みて、これはこれで何か使い方を考えないといけないのかな。

 

「そんなことより、なーんか見覚えあるのよね。金髪の知り合いとか雪姫じゃないけど、あんまり居ないのに」

「そ、そうかな?」

「うん。なんか最近たまーに目にしてたよーな感じが……?

 ヨシ! じゃあその可愛い感じのまま、ちゅーにを悩殺してくるのヨ!」

「のののの、悩殺!?」

 

 いやだから、この何と言うか、ちょっと清純そうというか良い所のお嬢さんみたいな恰好で刀太君を逆ナンしろって、キリヱちゃんが背中を押してくるんだけど、何でそんな話になってるのさ!? 

 公園…………って言っても遊具とか遊び場があるようなタイプじゃなくって、花畑とかがあって手入れがされているタイプの公園なんだけど、平日のこの時間ということもあって人が少ない。そんな公園で二人して、人目がないからこそちょっと騒いでいる僕とキリヱちゃん。人気がなくても内容が内容だ。困惑し照れる僕に対して、キリヱちゃんは急に真顔になった。

 

「……よくわかんないけど、あんな女性観してるちゅーに相手だといくらアプローチしても無理な気がするじゃない? 何かしらないけど、こー、ものすごーい諦めみたいな感じがしてたし」

「それは…………、う、うん……」

「あれだけ襲われ待ち? みたいな夏凜ちゃんにも手を出してない理由がわからなかったけど、あーいう感じだっていうなら納得しちゃうもん。おっぱい大好きな癖に」

 

 確かにここ最近……、最近? 修行期間もあってあんまり最近って気がしないんだけど、それでも「この時系列」で言えば、夏凜先輩の刀太君への猛攻は色々と凄いことになっている。スキンシップもだし、距離感が近いし、何より前よりさらに笑顔を向ける様になっているというか。お、おっぱいについては、僕は何も言わないけど……。

 でも、ある意味であの諦観が根底にあるからこそ、刀太君の距離感の取り方って無理がないのかもしれないと、ちょっと思ったりもして。

 

 そんな僕にキリヱちゃんは、びしっ! と指を僕に向けて突き出して、胸を張る。得意げな感じで可愛いなぁ……。

 

「つまり! つーまーり! ヘタレってだけじゃなくって、ちゅーにってば自信がないのヨ! 『自分が愛されるような人間である』って自信がある人間なら、ああまで自分の周囲に対して、投げ出したよーなこと言い出したりしないでしょ?」

「そ、それが判るような人生経験が僕にはなくって、ごめん…………」

「誰が耳年増ヨ!?」

「何も言ってないよキリヱちゃん!?」

 

 くわっと目を見開いて僕にぽかぽか拳を握って殴りかかって来て……、あ、全然痛くないや。ちょっと駄々っ子みたいだけど、涙目だから色々と切実そうだ。キリヱちゃん、年齢関係は結構地雷なのかもしれない。

 

 そして、その後もキリヱちゃんと色々話し合って。結局「刀太君の心のためになるなら」ということで、僕は渋々行くことを了承した。

 いや、渋々とは言ったけど、刀太君の自信をつけてあげたいっていうのは結構本気だ。「男」友達としての僕も「女」友達? としての僕も、刀太君には両方ともの意味で救われているし、本人は強く言ったりしないけど、いまだに「ほぼ人間だった」彼を最初に殺しかけてしまったからこその贖罪という側面も、ないわけじゃない。

 ……べ、別に、キリヱちゃんが説得する時に言った「でも、ちゅーにがスッゴイ自信満々で『俺の九郎丸……』とか言って壁ドンしてきたら、きゅんきゅん来ない?」っていうのが、結構ぐっと来たとか、そういうことではない。ないはずだ、うん。たぶん。ぜったい。

 

 それで、キリヱちゃんから連絡を受けた一空先輩によるGPS検知で、刀太君を探したら、本人から声をかけられた。

 いや、まさかこっちからじゃなくて刀太君の方から声をかけてくれるとか、だいぶびっくりしちゃったんだけどさ、うん。この恰好を見られているせいなのか、すごいドキドキが止まらない。顔も見てられず帽子で目線を隠したり、我ながら普段よりも弱々だ……!

 

『良かったじゃない九郎丸、今のうちに押せ押せよ行けーっ!』

「(ちょ! き、キリヱちゃん……!)」

『大丈夫、大丈夫! なんか知らないけど勝手に金髪になったわけだし、声だって普段より女の子な感じになってるんだから、後はしゃべり方に気を付ければバレないバレない!』

 

 帽子で遮ってるから刀太君の様子は見えなかったんだけど、キリヱちゃんがインカムでそんなことを言って煽ってくる。煽られれば煽られるほど胸がどきどきしてきて、身体が熱くなってくる。

 そんな僕に、刀太君は少しだけ近づいて、小声で。

 

 

 

「で、わざわざ『コスプレカード』引いたお披露目か何かかー? 九郎丸ちゃん」

 

『んな――――!?』

「ふぇ……?」

 

 

 

 あ、そういえば仮契約カードのマスターカードって、刀太君が持ってるんだった。変身してる時は、絵柄もそれに合わせて変わるってことなのかな。

 そんな感想な僕だったけど、顔を上げて刀太君を見て。苦笑いっていうには気の抜けた感じの自然な表情に、なんとなくほっと安心した。

 

 うん。なんだろう、こう…………、姿形が違っても、ちゃんと僕だって判ってくれるのは、それはそれで凄いほっとするというか。

 どきどきしてる感じとは違う、もっとぽかぽかしたような感じのもので、胸が満たされる感じがした。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「刀太君! ちょっと用事に時間がかかるから――――」

「いや一空先輩、もうバレてるバレてる」「あ、あはは……」

「何……、だと!?」

 

 駅前からちょっと過ぎた繁華街手前。日中と言うこともあってかまだその()の輩がいるわけでもなく、それはそうと人通りは多い。私たちの校舎のように復旧中のところも少なくはなく、若者と言うか学生も放課後でそれなりにあふれている。

 そんな中、わざわざ誰がどう見ても九郎丸本人としか言いようのない姿で現れた飴屋一空に、とりあえずはツッコミを入れておいた。

 ちらりと横を()れば「キリヱちゃん、バレちゃったよ…………。いや、でもこれはこれで胸がポカポカするっていうか。ちゃんと僕だってわかってくれて、すごい嬉しいなぁ」みたいなどうあがいても好感度が上がるようなシステムとなっている九郎丸。この感じだとどこかでキリヱ大明神も遠隔でアドバイスでもしていそうだが(何か耳にイヤホンみたいなのつけてるしおそらくインカムか何かだろう)、とりあえずそのあたりは置いておく。

 

 フォローアップお疲れ様っス、とだけ言って頭を下げる私に、一空が操作しているダミー用の義体だろう九郎丸ボディは「あはは……」と苦笑いを浮かべた。

 

「なるほど流石、刀太君。一目で看破したか。伊達に雪姫様を除いて、一番付き合いが長い相手じゃないね」

「付き合いが長い……、う、うん…………、うん…………!」

「落ち着け(震え声)。後、本人からだいぶヒントがあったっスから……」

 

 正直「原作」的な知識を持っていれば、何を言うまでもなく簡単に謎は解ける。解ける訳だが、そうでなくとも色々とこの世界の私が辿って来たルートがガタガタにガバガバなせいもあってか(白目)、かなりその手の情報に肉薄する手段はあるのだ。

 具体的に言えば、九郎丸が女性であることは所謂「三太編」の終盤で本人から「性別未確定」的な部分の告白されている死……もとい告白されているし、源五郎パイセンに協力した折に年齢詐称薬を使用した九郎丸の大人バージョン(厳密には「女性としての」大人バージョン)も、しっかりと見ている。なんならお師匠の元での修行中「九龍天狗」を名乗らされていたあの原作終盤っぽい覚醒九郎丸も見ている訳で、こと九郎丸の容姿のバリエーションについては事前学習(?)が多いのだ。

 

 そして九郎丸ビジュアルな一空は「ふぅん?」と腕を組んでにこにこ、面白そうに観察してくる。……ビジュアルもそうだが声も九郎丸本人なのに九郎丸でない振る舞いをされるというのも、CVの演技力が味わえてこれはこれで乙なものである(メタ)。

 

「そうなんだ。んー、僕としては普段通りの刀太君に見えるけど、キリヱちゃんの杞憂ってことになるのかな? ――――あー、なるほど? そういう話、考えてみれば全然してなかったっけ。三太君もこっちに来て、僕が仕事教えたりしてるから、刀太君と遊んだりってあんまりしてなかったかな? うん」

「言い回し的にキリヱ大明神、近くにいそうっスね――――」

「――――きゃあー!? キリヱちゃん、大声やめて…………」

 

 だから神仏扱い止めなさいって言ってるでしょーが!!? という声がわずかに聞こえた。つまりお叫び遊ばされたキリヱ大明神(鋼の意志)である。

 そして大声にびっくりしてインカムを外し、九郎丸は飛び跳ねた。勢い余ってこちらに倒れ込むような形に。うむ、ふわっとした肉付きの柔らかさと言うか、そういったものが普段以上にもちもちしている(?)気がして、何ともリアクションに困る。とりあえず大丈夫かと聞きながら起こそうとして……、いや、アレだな。こうしてみると身長も普段よりちょっと小さいのか?

 そして落ちた帽子を拾い上げながら、嬉しいような恥ずかしいような何とも言えない様子で目を丸くしてる九郎丸に、一空は「ん~~~~」とニコニコしている。

 

「うん、じゃあそうだね――――どうやら初めてコスプレカードを使ったらしいんだけど、その時の身体的な慣れみたいなのが、全くみたいなんだよね。戦闘時に引いちゃった時にそのままだと、危ないじゃない?

 だからそこの『九龍(くりゅう)』ちゃん、九つの龍と書いて九龍ちゃん、身体の動かし方を慣れるまで、ちょっとみて上げて欲しいんだ刀太君…………、ということで大丈夫かなキリヱちゃん?」

「いやそこゲロんのかよ……、別に問題ないっスけど。しかし何でそんなネーミングなんスか……?」

「源五郎先輩と最近、クー□ンズゲートやってたからかな?」

「また渋いところを…………」

 

 モデルになった土地なんてもはや原形もないだろうに百年近く経過しているのだから(九〇城)、という話はともかく。

 そして地味に九郎丸が「九龍……?」と不思議そうにしている。今のお前さんの呼び名として設定されたそれだが、いやまあ、確かにあっちで九龍天狗とどうやらバトルするタイプの修行をしていたらしいので、その呼び名がわざわざ自分についたことに違和感を覚えているのだろうが、これについては全力でスルーしておこう。どうせガバになる(諦観)。

 じゃあ後よろしくね~、とひらひら手を振って歩いていく九郎丸ダミー(一空)。とりあえずこっちも手をひらひらして送った後九郎丸の方を見ようとして、背後から肩に手を置かれた。悪意はないが殺気はあるという微妙な塩梅のこれは、アレだな……。

 

「ハ~~~~イ、チャ~~ン~~(と~う)~~?」

 

「人生諦めが肝心っスよ坂田(戒め)」

「納得できるかァー!?」

 

 そりゃもう振り返れば、男泣きに男泣きを重ねている坂田太笠、愛すべきクラスメイト男子である。泣き方が凄いウェットさを感じずダイレクトに「チクショーメー!」となっているので、素でやってるのだとしたら大したコメディキャラである(失礼)。少しだけ熊本の野和を思い出す。肉丸は最初から僻まないし、三橋と白石は結構地雷があるのかどんよりしていたりするのに対して、野和は妙にスケールの大きな形での罵倒と男泣きをしてきたりしていたので、会わせたらそれなりに化学反応を起こしそうだ(適当)。

 

「誰、この美少女……、誰この美少女!? キリヱ大明神よりもちゃんとした美少女じゃねーの! ちんちくりんなツンデレお嬢ちゃんとかじゃねーもん!? フツーに美少女だもん!」

「もうちょっと手心加えてやれ(戒め)」

 

 金髪美少女な九郎丸、以降は九龍で統一するが、九龍を指さしてガタガタと私の胸倉をつかみ上げゆさぶる坂田。そこまで本気のものではなくじゃれあい程度のパワーだが、それはそうとストレートにキリヱ大明神にそんなこと言うの止めて上げてクレメンス。というか九龍の手に持ってるインカムがちょっとわーわー五月蠅くなってるので、間違いなくあちらでおキレになっているなぁ……、なんとなく合掌(礼拝)。

 九龍の方も「びび、美少女!?」とだいぶ慌てて、照れながら帽子で視線を隠している。まあ実際、顔立ちについては九郎丸そのものなので、勘が鋭ければ一発でバレるから、こうして素顔を隠すのは当然であるだろう。そっちの正体バレのリスクが減るのなら、私も多少は動きやすいし。

 

 しかし何でこうなったかなぁ……。原作10巻におけるラブコメ編の九郎丸デートパートについては、そもそもこのあたりでようやく仙境館に合流する忍と、初登場からエンジンブーストかましてるみぞれの2名のアプローチやら何やらに触発されて危機感を抱いて、という流れが大前提にあった訳で、その2つのうち2つともが履行されていない以上は、デートイベントなんぞ発生しないと思っていたのだが…………。

 アレか? 下手に「私」の記憶の中でも色々アレな女性経験と女性観でも語ったから、元気づけようみたいなそんな意図でもあるのだろうか。しかしアレはどちらかというと、九郎丸相手に言った訳ではなく坂田に対して語ったという側面が大きいのだが。気遣ってくれる分にはありがたいし、そういった好意は肯定したいが、いかんせん「私」の都合でずれてしまって申し訳ないところである。

 本来なら異性について「責任をとれる年齢と関係」であれば、そのまま好きになったまま思うように行動しろ、と肯定するべきところだろうが、だからと言って全く警戒せず選んで大火傷というのも問題があるだろう。坂田の場合は実家もそれなりに大きいし、仮にも友人になったのなら無責任なことは言えない。坂田の性格的にそこまで女性不審へと沈み込みはしないだろうし、仮にそうなっても「第四の目」で強制的に考えを読み解きながら思考誘導すれば良いだろうと考え、ネガティブなアドバイスも必要だと判断したのだ。警戒心を全く抱かず相手にあたるというのは、ある意味で相手も「人間だからこそ」危険だという、それだけのことだ。人生、諦めが肝心である。

 

 まあしかしエピソード自体については「私」の素がイライラを募らせていた可能性も否めなくはない。特にBLEAC○全巻売り払われたこととかは、「私」の中でもかなり落ち込んだ「俺」のエピソードの一つに入るし。社長令嬢との婚約関係については「私」の中では実はそんなにダメージがない「私」ではあったりする。いや、確かにそれなりにショックは受けたが、そもそもが任務で企業へと潜入していた立場で、一緒に侵入した彼女からは「良い御身分だね××××君」とか白い目で見られたりもしていたので、ある意味で元の形に、あるべき形に収まったという側面もないわけではない。その後については知らないので「私」の立場から語る必要はないだろう。

 

 つまり人生、諦めが肝心である。

 ただしガバ、テメーは駄目だ(母〇母母)。

 

「さっき時坂いたけど、知り合いなのか? この子」

「親戚らしーぜ。顔立ちもまあ、九郎丸『ちゃん』って感じでスゲー可愛いし」

「確かに顔見えなくても、照れてる感じからスゲー可愛いってのはわかるけどよー。というか時坂、元々男にしちゃ色々丸い(ヽヽ)し、普通に女装させたら美少女じゃね? だいぶ印象そっくりな気がするし」

「――――!?」

 

 流石坂田、よく見ている。が、流石に体格まで変わっているからか本人そのものであるとは気づいていないようだ。命拾いである。流石に「男子として転入した」学校に「女子として再転入」するような滅茶苦茶は、やれなくはないだろうが人間関係的にかなりストレスになるだろうし、それこそ下手ないじめの温床にもなりかねない気がする。クラスメイト全般に信用がないというわけではなく、あくまで人間そんなものだ、という感想だ。

 だからどうという訳ではなく、そこに他意はない。言い方悪いが人間なんて所詮イキモノなのだし、イキモノの延長にいる連中もスケールは違うが大体は生き物の宿命(サガ)から逸脱できない。前提となる人格がどう培われてきたか、ということと、現在の身体との合わせ技にこそなるが、それでも物質的な制約は「無茶をしなければ」どうしようもないだろう。だからこそ魔法という無茶が存在するこの世界は少しだけその意味で希望があって、同時に絶望も沢山あるということになるのだが。

 だからこそ下手に九郎丸にストレス加えるのもよくはないので、バレないうちにこの場から遁外(とんずら)させてもらおう。坂田の肩に手を回して肩を組み、少しだけヒソヒソ話。

 

「(どーも親戚っつっても、こっちの方が九郎丸ん所の実家のお偉いさんの妹さんらしくってなぁ。九郎丸探しにきたみてーなんだけど、ちょっと用事あるからって面倒みてやってくれって流れになった)」※原作を前提に嘘をついていないレベルの嘘

「(何だよ、時坂の実家って……。竹刀袋よく持ってるし、剣術の大家とか?)」

「(みてーなもんだな)」

 

 実際問題、神鳴流の「弐の太刀」を正式に扱っている以上、血筋だけで言えば当主かそれに近い筋にはあるのだろう。あれは確か当主の血筋に伝えられるタイプの技だったはずである……、お師匠の本棚に「ラブひな!」がなかったので完全にうろ覚えだが。

 

「(実際問題用事もあるし、ここらへんで切り上げっつーことにしたい。お上りさんみてーだから、多少は新東京を観光させてやらないと、可哀想だろ?)」

「(それもそうだなぁ。……ちなみに俺がそこに一緒に行くというのは――――)」

「いや自分でナンパ勝負的な何かにしたんだから、そこはルール守ろうぜ(白目)」

「チクショウメーッ!?」

 

「えっ!? えっ!!?」

 

 唐突に通常のトーンに戻した私と坂田に、つられて困惑する九龍。とりあえず「ちくしょう、好きなだけヨロシクやって来いよ! 今に見てろ俺だってなぁ……! あばよ!」とか叫びながら走ってこの場から退散していく坂田に、生暖かい視線を送って置いた。正直スマン(素直)。

 なお、ああやってコメディな風に振舞ってはいるが、内心では「チャン刀に愉快なお友達がいると覚えてもらった方が、後々チャンスあるんじゃね?」とか作戦を練っているようなので、坂田はだいぶ逞しかった。素直に羨むべきであるかもしれない。

 

 内心、「私」としてそこまで恋愛に意欲を持てないのは……、いや、まあ持たないと世界が滅ぶかもしれないのだけどね。しかしキティちゃんのことも雑に放り投げてしまっている状態で色々と話が進んでしまってる訳であって、まあ端的にいえばクソわよ(謎お嬢様)。

 

 

 

 

 

 




九郎丸はチャン刀の恋愛観を少しはまともに矯正できるのか(?)、果たして・・・!


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ST207.原作に1D100のSAN値チェック

普通にデートしとったたはずやったんけどなぁ…


ST207.It's Mostly Your Fault!!!!

 

 

 

 

 

 いわゆる原作「UQ HOLDER!」におけるラブコメ編、導入その他諸々についてはざっくり省略して簡単に言うなら、インターバルであるといえる。作中期間にしておよそ1月か2月前後、いわゆる修行編において置き去りにされていた分のキティちゃんことエヴァちゃん以外、他ヒロインたちのヒロインポイント(?)を稼いで距離を縮めるために使われている枠の編となっている。具体的に言えば「本来」忍が仙境館へと到着するタイミングで、いまだ未登場のはずの雪広みぞれ初登場の編であり、主にこの二人の登場で色々と危機感をあおられた九郎丸やキリヱがラブコメ編らしいそれっぽい動きをし始めるのだ。

 夏凜? あーうんはい、本当ならこのラブコメ編あたりから近衛刀太を意識し始めている節があるんですけどね。本当ならね。うん。

 

 どうしてああなった(白目)。(ダーナ「ま、そりゃあね」超鈴音「ハイネ! 先輩の罪を数えヨ!」)

 

 つまり言いたいのは「忍もみぞれもイベントが成立していない」かつ「修行編でそんなにキティちゃんに注力していなかった」というか、大体メイリンこと超の登場によって色々とぐっだぐだになっていたのが主因として現在の状況に至っている訳だが。こういった色々とガッタガタのガバガバ判定と化した世界のあれこれによって、おそらくラブコメ編は後送りか何かになると判断していたのだ。ついさっきも回想した気がするが「本来なら」8カ月はお師匠のもとで過ごしてこちらにおいても時間経過した状態でアウトプットされる運びだったはずである。それがどうして、ほぼラグなくそのまま帰還する運びとなった現状ゆえに、そりゃイベント自体が後送りになっても問題ないよね? 的な発想だった訳だ。

 それをぶっちぎって九郎丸ラブコメ編が発生したと考えると、結果としてであるが「他のメンバー」についても色々警戒しないといけないかもしれない訳で……。いやもしかしなくとも、伊達マコトや近衛姉妹やらカトラス、もしかすると熊本の方の朝倉が出張ってくるとか、今までの経験則からそこまで警戒網を広めないといけないのだろうか。正気かこの世界!? 正気だったら私が近衛刀太などやっていないかこの世界……。

  

 という訳で、軌道エレベーター周辺地域へと抜け、旧麻帆良学圏たる天之御柱市から「徒歩なら」それなりの距離、つまるところ温暖化やら何やらで水没した関東一部に対しその上に建造された「移設された」東京へ私と九龍(九郎丸)とは観光に行っていた。坂田と別れた後、一応尾行がないことを確認してから亜高速機動による超速での空中飛行での現地到着。死天化壮(デスクラッド)の無駄遣いであるが、お姫様だっこで抱えた九龍本人からは特に抗議の声が上がらなかったのでヨシ! としておきたい。わざわざ九龍側で、こちらが外から見えないようにステルスしていたくらいだし、このあたりの機転は流石である。

 抗議の声が上がらなかったことの方が問題? いや、まあ、それは、うん、そろそろ原作的にも色気を出して良いイベントかなとは思うので、ツッコミは入れないでおこう。センシティブな問題だし、はい。時期が早いとさっき自分で言っていた? …………(白目)。

 ともあれ、到着したのは「新浅草」付近。雷門付近などは水没前後の移設の際にイミテーション化されておらず、きちんと観光資源として残されているようだ。対照的に人力車で行ける範囲などは限りが出ているなどアプリで確認しつつ「せっかくだし観光しようぜ」と軽い調子で九龍を連れて歩いた。わざわざここまで連れて来てから観光をしよう! とすることで、少しでも九龍の逃げ道を塞ごうという魂胆だ。

 ただでさえ色々とイベントが崩壊している気もするので、せめて原作でのデート順くらいは最低限守っておきたいという目論見の私だが。一方の九龍の方は、顔を赤くするばかりである。

 

「ええ!? そ、それってつまり、デート……」

「おっ、そうだな(白目)」

「ふぇ!?」

 

 まさかストレートに肯定されると思ってなかったらしい九龍(九郎丸)。インカムは外して収納アプリにしまっているので他へ筒抜けということもないだろうが、そういうことなら多少はマシであろう。

 しかし去るもの引っ掻くもの、私も九龍もどっちも「お上りさん」としては大して差はない。熊本からこちらに来てからアマノミハシラ学園都市、旧麻帆良地区付近を除けばほとんど観光らしい観光をしたことがない。いや、麻帆良を堪能していたのは完全に私個人だけだろうが、それでもテレビの中で見ていた大きなぼんぼりというか提灯というかを見て「うわー! うわー!」と謎のはしゃぎっぷりな九龍は、恰好も相まって一見すればお忍び旅行に来ている良い所のお嬢さんである。恥ずかしがっていることもあってかやや引っ込み思案で、それもまた九郎丸の美少女らしさを際立たせていた。

 ……風に揺れてスカートが張り付いた腰の感じとか、肩の細さとか身体の線とか完全に女子だなぁ。いや頭ではわかっているし実際に目で見ていたりと色々あって理解はしているつもりだったが、こうしてみると本当に普段男性的な要素がまだ残っている九郎丸が完全に女子化している状態というのに、中々の違和感というか悶如(もにょ)るというか。なおのこと、原作刀太の「完全に男だと思っている状態から」「女だと暴露された」直後の切り替えと腹の括り方に驚かされる。そして胃が痛い……、むろん表情には出さないが。

 

 さてこの新浅草、フィールドとしては本来ある浅草が三分の一程度に圧縮され、なんなら新青山だの新上野だの()秋葉原(何故かここだけ真の字)だのと密接に隣接している。原作でどうだったのかは定かではないが、スラムのあたりで耳にした魔素汚染関係の話を鑑みるに、スペースを確保して計画的に移設できなかったものと思われる。

 というより「新東京」「天之御柱」やらちょうちんが飾られた雷門を抜けるとすぐさま神社やら五重塔やらが見えて来るので、本来の地理関係の知識が残っている「私」からしてちょっと微妙な気分だ。

 

「うわー! すごい、刀太君あれ! あれ! もんじゃだよ!」

「新月島はなかったはずだが……、いやまぁ浅草だってもんじゃは売ってるか」

 

 私の腕に自分の腕をからめて引きながら指さす九龍。店内で食べることもできるらしいが、食べ歩き用に「揚げもんじゃ」として天ぷらにできるらしく(もんじゃコロッケ亜種?)、二人でそれぞれ別な味を注文した。九龍はもちめんたいチーズ、私はベビ〇スタ〇牛すじ桜えび。プレーンの値段を見ると200円せず、その割には小判型天ぷら2つでそれなりに重い。となると小麦やキャベツなど、値段的に養殖でなくクローン食品か遺伝子組換(ゲノム編集)品な気もする。一応自然食品系の喫茶を将来出したい私の目から見て若干怪しい気もするが、まあとりあえず不死者だということ、イベント性を重視するということで目を瞑ろう。今の所、健康被害は報告されてはいなさそうだし。

 

「刀太君、豚たまとかじゃないんだね」

「いや何でだよ?」

「ほら熊本でさ。あっちの『ラーメンたかみち』でも肉丸君と一緒に、とんこつチャーシュー麺とか頼んでいたし。豚、好きなのかなって。あとシンプルな味付けが好きなのに、結構不思議な具材の組み合わせを選んだなーって」

「ま、何事も経験、経験。……そういう九龍、もんじゃ大丈夫か? 人によっては苦手らしいけど」

「うん、平気だよ! これでも一応、僕の実家の桃源(とうげん)にも、もんじゃってあったし」

「もんじゃってあったって、何だその食文化!?(驚愕)」

「り、リアクションが大きいね……。えっと、僕が生まれるより前に一時期、京都神鳴流の方との交流があったらしくてさ。あまり大々的なものじゃなかったけど、そのときに一部、実家の人がこっちで観光したり色々やって、持ち帰れる文化は持ち帰ったとか。

 一応、俗世間とは切れてるってうたってはいるけど、大本からして同じ神鳴流の流れを汲んでいる以上、片方に文化的に負ける訳にはいかないーって色々あったらしい。お兄様が昔、変な顔して言ってたなぁ……」

 

 私のリアクションも何のその、中々楽しそうな兄妹関係である(もしかしたら当時は姉妹関係だったかもしれないが)。

 そのまま人力車に乗るかという話にしたが、どうやら本日は全てで出しており、レンタルするための車体が残っていないらしい。残念だねーといいつつも、すぐさまりんご飴を発見して買いに行ったり、年中縁日状態の横丁で輪投げやら何やらに講じたりと、それなりに楽しいと言えば楽しい。

 

「……刀太君、輪投げ上手だね。あんな遠い、絶対当てさせる気のなさそうなところにちゃんと引っ掛けて」

「あー、多分アレだ、血風のせいだな」

「え? …………あっ、納得」

 

 そういえば中央部分ってリングみたいになってたね、とニコニコ笑う九龍。実際問題、黒棒を併用せずとも血風単体は「リング状の血を中心とした」月牙天衝(フルブリング版なアレ)なので、使用感は物理的に近いのだ。狙った方に投げる、ということに関してだけは、異様に洗練されているといえる。

 ともあれ景品のP・A・L☆コミックマスター(漫画家)の直筆サイン入りの「劇場版・魔法少女ビブリオン ユウバエ~銀幕に抹茶コーラは泳ぐです~」映像ディスクを手渡したり。いや、まあ作品自体に九郎丸が興味あるかはともかく、こういうのはイベントのノリだ。後「拠点に持って帰ったら、子供達に見せてあげても良いかな?」と言ってはいたので、使い道がゼロというわけでもないだろうし。

 そしてテキ屋の親父さんが「大事に視てくれよな!」とか言いながら、全く同じディスク(サインは別なもの)を取り出して景品の棚に置いたりしているので、絵面は何とも微妙な感じだった。何故そんなに有名人のサインを持っているのか……。偽物疑惑もちょっとあるが、あまり追及はしないでいいだろう。一応海賊版でさえなければ良し。

 

「刀太君、おみくじ引かない? 新浅草に来たらおみくじを引けって、甚兵衛さんが言ってたし!」

「浅草時代からそこは変らないっつーか、流石甚兵衛さん……」

 

 そしてやはりこう、色々見ていてテンションが高い九郎丸。最初は照れもあったのだが、現在は完全ににっこにこである。たのしそう(小並)だし、大変に可愛らしい。誰がどう見ても男的要素を見出すことが出来ないくらいには美少女極めている。だからこそ時系列ガバなのかイベントガバなのかどちらかを疑うべきなんだろうかどうなんだろうかと混乱しているが、それはそうとして九郎丸もさほど異性的なあれこれよりもお上りさんらしいテンションにつられているので、割とナチュラルに遊び歩いている形でこれはこれで楽しかった。

 

 まあ、まだサト〇ココノカド〇へと一緒にお買い物に行くレベルではないが(最終関門)。

 

 と、不意に九龍が「そういえばなんだけど」と聞いてきた。

 

「刀太君、こうやって遊んでて良いの? 用事があるんだったよね」

「ん? あー、まあ遅れるとは言ってあるからなぁ。カトラス」

「カトラスちゃん? えっと、帰って来てから雪姫様に、拠点の出入りは禁止されてたカトラスちゃん?」

「そう、その妹チャン」

 

 本当は午後、すぐに行く予定だったけどなー、とだけ話しておく。どこに行く予定だったかで言えば弟チャンこと千景やらアフロことアフロ(鋼の意志)のあのガレージだ。とりあえず連絡入れた時に「ふーん、兄サンは前から決めてた私との予定より学校の友達とか優先しちゃうんだ。ふーん。………‥お兄ちゃんのバカ」とかツンデレめいた発言を連絡いただいて「誰だお前……、誰だお前!?」と戦々恐々としたが、流石に友人間へのカトラスそのものの事情の説明がややこしいことになるというのは理解してくれているらしく、文句以外に反対意見は返信になかったので、出来た兄貴としては出来た妹チャンの理解ある行動に感謝である(適当)。

 まあその結果、九龍とデートしてるのは……。とりあえずキリヱ大明神に祈祷しておこう(合掌)。

 

「後で謝るから大丈夫だろう(震え声)」

「大丈夫じゃないやつじゃないかな!? いや、あんまりツッコミを入れると僕も問題なのかもしれないけどさ。一緒に楽しんじゃっていたし……」

「とりあえずそこまで緊急性が必要なタイプでもないし『経過報告』はもらってるから、問題ないっちゃ問題ないな。たぶん……」

「たぶん…………」

 

 その「仕方ないなぁ」みたいな目を止めろ(戒め)。こちらは五里霧中の中必死に水面下でバタ足している白鳥のごとき心境なのだぞ。そしてそれはそうと「なら一緒に謝るよ」とか言って、デート自体を止めるつもりは無いらしい九郎丸であった。ちょっとだけちゃっかりと強かな面をのぞかせて来るのも普段より女性らしい振る舞いであって、なんとなく胸のセンサーが反応して胃が痛む。いや、これについては完全に私個人の問題でしかないのだが……。謎の罪悪感が表情に出そうになるのを、必死に抑えながら「次どこ行くかねぇ」と地図アプリで観光情報を探す私であった。

 

 …………後から思えば、そうして無警戒だったのが良くなかったのかもしれない。

 

 九龍から「じゃあ軌道エレベータ―の地上最高階に上らない?」との提案を受けて、そういえば原作でも上っていたなとつい最近読んだ原作を思い出す。お師匠のところで純粋にエンタメ目的とガバのあら捜し目的とをかねて確認していたそれだが、まさか早々にこんな変な形で役立つとは……。

 そう思ってデート開始時同様に死天化壮&お姫様抱っこ&不可視の術(東洋系呪術)によって高速移動し、天之御柱市方面まで帰還。そのまま軌道エレベータ―「アマノミハシラ」1Fまで移動し、地面に降り立った後に術と状態解除によるショートカット。このくらいはしないと流石にカトラスとの合流に間に合わなくなるので、多少のズルっこは仕方ないと思ってもらいたいと何に対してではないが心の中で謝罪しつつ、受付の行列に並ぶ。

 

「金額が……、5,140円? ちょっとしたライブくらいの代金になってるな」

「刀太君、僕も払うよ。ほら借金とか全然、返済の目途が立ってなかったと思うし…………」

「一応、ゾンビ事件の時ので返済進んじゃいるんだがなぁ。……じゃあアレだ。館内で喫茶店あるみたいだし、そっちで何か奢るっつーことで頼むわ」

 

 という訳でそのままそれぞれ自分でお金を出して入っていった私と九龍。一瞬「第四の目」を(ひら)いて不審者チェックをしたり(原作的な意味で)もしたが、とりあえず大丈夫そうなのでそのままエレベーターに乗り一般開放最上階へ。

 東京タワーやらスカイツリーやらが水没し電波塔としての役割を果たせなくなったこともあり、このアマノミハシラは電波塔の代用も行っている。なので旧時代のそれらにあやかり、施設の途中までは観光スポットとしてそれらしく開放されているのだ。金額が金額なのでおいそれと出しづらいものの、ちょっと頑張ればスラムの子でも遊びに来れる程度に調整された値段設定は、果たして良いのやら悪いのやら……。ある種、希望と絶望とを同時に見せつけているような趣味の悪さを感じるのは、私の心が汚れているからだろうか。

  

「喫茶店行くから、ドリンクとかはいらねーよな?」

「ふぇ? あ、うん。だいじょうぶ……」

 

 後、声をかけた九郎丸が何やら動揺している。原作的には色々とこのあたりで悶々としていたところだし、おそらく存在しないはずの修正力的なサムシングが働いていなくとも、まあ何か考え事をしていても不思議ではないか。

 とりあえず仙境館の方を見てみようぜー霧の結界で隠れてる拠点が見えるか試してみねーか? というノリで声をかけて、一緒に望遠鏡の方へと歩いて行けば――――――――。 

 

 

 

「――――あれ、刀太やん。何やデートかえ?」

「………………」

 

「はい?」

「えっ?」

 

 

 

 そして、そう、遭遇してしまった。「第四の目」でチェックしていたのが、私や九郎丸に対する悪意やら敵意やら注意だったせいもあって、見逃していたのだろうか。

 そこにはこう、半袖ミニスカな紺色赤リボンなセーラー服を着用した「大人な」近衛木乃香のような誰かと、見覚えしかないCPH(クレイジーサイコホモ)の姿。CPHの方は相変わらず白いスーツそのままで、そして隣のセーラー服の誰かも正体はおのずと導き出される訳で。

 

「誰やん? 何か見覚えある気ぃするけど。仲良さそうやなー」

「おお、お義母(かあ)(さま)!?」

「ほぇ、何で私のこと知っとるん? 刀太、教えたんか?」

「……いや何してるんスか、お母さんや」

「そんな、うちらもデートに決まっとるやん。ねー、フェイト君?」

「………………」

「…………お疲れ様っス」

「………………あぁ」

 

 ともあれ近衛野乃香こと我が血縁上(?)のお母さんと、それに腕を引っ張られるフェイト・アーウェルンクスの登場に、表面上はともかく私の胃の感覚は激痛を一瞬伴い崩壊した。

 

 何がどうしてこうなった、(チャウ)どこ行ったあの変態ヤロー原作通り襲って来いよっ!? 知らねーよ何だこの謎のイベントはッ!!?

 私が何か前世か何かで悪さでもしたと言うのか、一体全体何でこんなことになってるというのか――――ゲホッ!? いや普通に胃液とか色々上がって来て気管! 気管がァ……ッ!!?

 

 というかお母さんに関しては、美人で年齢不詳なことを差し引いても歳を考えろ(戒め)。

 

 

 

(ダーナ「そもそも『産みの親』について知ってるとかいう時点で、原作をふまえれば脇がガバガバだろうにねぇ」九龍天狗「またデートできて、いいなー。あっちの僕……」)

 

 

 

 

 



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ST208.原作は不定の狂気

ようやくこのガバガバ設定出すまで来ました…(ガバ)
当然のごとく本作解釈となっておりますので、あしからずです


ST208.The Melody Of Destiny Always Prays The Bad Truth, That's True.

 

 

 

 

 

 いきなり断言するが、喫茶珈琲の豆に対して病的な拘りはない。飲んだ中で一番ショッキングだったのはコナだし、一番好みはグアテマラであるが、こぞってカアちゃんが良く買っていたのはブラジルだし、店を出したら使うのはブルーマウンテンを中心にしようと決めている。このあたりは個人の趣味趣向より、より多くの人が呑みやすい味わいを前提としてあたろうと考えてる。

 さしあたって現在呑んでいる珈琲の味はと言えば、妙に炭っぽい。苦さと酸味の感じからしてブラジルの強い味わいで若干苦手な上に、良く言えば香ばしさを極めたような風味が追加されていて、端的に言ってやかましいくらいに苦い。アイスコーヒーですらこの具合か、ということはおそらく焙煎したてを使ったと見える。味に落ち着きがないお陰で、カアちゃんが淹れるアメリカンなブラジルの方がまだ飲みやすいか。斜め向かいの大人フェイトもまた私のような感想を抱いているらしく「新人さんかな」とつぶやき、しかし表情を変えずブラックのまま呑んでいた。

 

「刀太君、どうしたの? ちょっと不機嫌そうだけど」

「いやー、まー、反面教師かなっつー感じで」

「?」

「何や、刀太も珈琲には煩いん? フェイト君と趣味合いそうやな~」

「待ちたまえ、僕は別に煩い訳ではないぞ」

「えぇ~~、本気で言っとるん? ウチ、中学生ん頃に『日頃の感謝や!』って準備してたの、えらい怖いオーラ出して『貸してみろ』って言って奪い取って、どえらいキレッキレの注いどったんは誰やろな~」

「…………」

「お疲れ様っス」

「…………あぁ」

「何や、刀太! んな、まるで熊退治でも任された警察官はんにかけるような言葉。そんな遠い目されるほど違う思うわ」

「だったらせめてそのウィンナー・コーヒーのクリームをフェイトのカップに落とそうとするのは止めて差し上げろ(戒め)」

「えっでも……、美味しいやん?」

「その美味しいものと美味しいものを合体させれば何でも美味しくなるみたいな発想についちゃ色々物申したいところっスね。セミプロっぽいのが友達にいる身としちゃ」

「えぇ~? せやなぁ。…………」

「だからと言って俺の方にも持ってくるんじゃねぇ!? というか何だこの距離感!!? 前もそうだったけど!!!?」

「それやったら、あーんしたげようか? 刀太、赤ちゃんの頃ずっと保育器やったから、全然してあげられなかったしな。ほな、あ~ん」

「いらない(震え声)」

「と、刀太君、そういうのだったら僕のところのアイスクリームを――――」

「そっちも、いらない(震え声)」

 

 明らかに揶揄うようニヤニヤ笑うおかあさん、近衛木乃香とうり二つと言わんばかりの近衛野乃香と、うずうずしながら私にあーんでも仕掛けようとしているらしい、完全女性化している女装九郎丸こと九龍。この妙な距離感の近さに帆乃香の抱き着き癖を思い出さなくもないが、年齢を考えれば大人げないこと極まりないお母さんである。

 それはそうと九郎丸は落ち着け(戒め)。ほら、フェイトが死んだ魚みてぇな目をしてこっちを見ているじゃないか。釘宮や私ではないが、だいぶ胃がやられていそうである。合掌。

 

 場所は軌道エレベータ―「アマノミハシラ」展望台から二十階は下。標高で言うと旧六本〇(ギロッポン)ヒルズ並の高さらしいが、正直あまり実感がない。正直カフェスペースの広々とした空間の取り方や、今時珍しい回転レストラン的な空間となっているのもあり、色々と高さ云々がそれどころではない。無駄に金がかかっていることだけは間違いなく、店内の雰囲気はかなりOSR(オシャンティ)極まっていた。

 所謂レトロ喫茶のようなそれではなく、コンクリ打ちっぱなし系と言えば良いか。カジュアルにインテリアや本などが置かれ、こまめに掃除やら飲み物のお替りを確認しにくるウェイターなどがいたりと、意識高い系と言えなくもない。サラダメニューもオーガニックに拘っていたりするようだし、女性客の多さからもそのテの趣味の良さが伺える。

 

 そんな中で似非デート中な我々と、どうも本人いわくガチなデートをしているらしいフェイトたちという妙な組み合わせで、この喫茶店に来店した。流石にフェイトは有名人らしく半透明のサングラス(ちょっとス〇シカオっぽいやつ)をかけて入店。対照的に野乃香お母さんは鋼鉄の勇気でもって年甲斐もないミニスカセーラー服のまま。九龍は「似合ってるね!」と好意的に見ているようだが、はっきり言って子供(?)としては色々キツいものがある。外見上いくら違和感がなかろうが、そのあたりは仕方ないね救いはないね(絶望)。

 ……色々動揺していたせいで店名は確認していなかったので、後でみておこう(現実逃避)。

 

『えっと、支払いは――――』

『そんなん払うわ払うわ、せっかく息子(ヽヽ)とたまたま会えたんやし、色々話も聞きたいしな? そっちのエエ子ちゃんも!』

 

 とか何とか言ってフェイトのみならず私や九郎丸も妙なバイタリティで引っ張ってきて、気が付けば現在。どうやら振り回されているらしいフェイトは「第四の目」を一瞬ちらりと使ってみれば「ネギ君」の3文字がびっしり踊っており、すぐさま()じた。どうやらあっちもあっちで現実逃避しているらしいことが伺えたが、それはそうとしてネギぼーずに対する情念の量が気が狂いそうなレベルだったので、私とて直視は避ける。

 対照的にお母さんは幸せそうだが、逆にこっちは「第四の目」を使う気にならない。帆乃香の情報管理ガバガバっぷりを鑑みるに、どうにもこのお母さんも色々信用できないのだ。誰が好き好んでこのせつ結婚式の映像とかいう、ファン的には大好物かつ当事者的には恐怖映像のようなものを好き好んで見たいものか好き好んで!?(錯乱) 遊び半分で姉妹揃ってベタベタしながら垂れ流されたアレについて記憶には残っていないが(鋼の意志)、それはともかくとしてメタな意味で信用が置けないのは事実である。完全に個人の事情で申し訳ないが、そう言う訳で会話は細心の注意を払いたかった。

 

 払いたかったのだが…………。

 

「あんなーフェイト君、ウチいまカフェインレス生活中なんや。緑茶も飲まんし栄養剤にも手ぇ出してへんし、コーラは帆乃香たちに買って帰るくらいかなぁ」

「そうかい? だったらエスコート先を間違えたか――――」

「いや別に構わへんけどな? 単に飲んでへんってだけやもん」

「なら何故話題に上げた……?」

「単にカフェインとっとらんかったなーって思ったんや。まーうち烏龍茶派なんやけど……、って、おおぉ! すっごい、えらいお高いねぇこのステーキ! ペラッペラに見えるけど、何の肉なん?」

「普通にビーフと書いてあるだろう。どこを見ているんだ」

「ふぅん、おいしそうやねぇ……。あっ! 店員さん済みません、このキャラメルミニサンデーお願いしまーす!」

「ステーキはどこに……?」

「美味しそうやけど食べたい気分違うしなー。まあ馬肉大好き毎日でも食べたいくらいやから、あんま牛食べへんけど。牛丼より親子丼や」

「君は京都の実家で好んでカツオの刺身を食べていたような気がするが…………」

「まあ細かいこと気にせんでええやん? 人生、楽しんだもの勝ちえ! 地獄なんて怖ないっ」

「………………」

「えいや、ぷにっ」(※フェイトの頬を指でつついている)

 

「いや自由かッ」

 

 会話が奔放で噛み合ってなさすぎるどころか明後日の方に飛んでいきそうな勢いである。流石のフェイトとて遠い目をするくらいに、話の内容が感覚的すぎるお母さんといえた。服装に引っ張られでもしているのか、以前会った時よりもテンションが高く言葉がテキトー極まりない。伊達にカアちゃんから「バカ娘」などと呼ばれていないということだろうか。

 というか自分で「ぷにっ」とか言うな、ぷにっとか。子供版ならまだしも大人モードのフェイトことフェイタス(適当)はそれ相応に凛々しい容姿をしているので、指でつついてもそんなに柔らかいほっぺはしていなそうに見える。そしてフェイトもフェイトで鬱陶しがっているのは間違いないが、近衛野乃香に対して何故か反抗せず、されるがままになっていた。何だろうか、弱みでも握られているのだろうかというレベルの傍観ぶりである。傍観ぶりではあるが、だからといってその内情を探るために(ザ・ハートアイ)(ひら)きはしない。どう考えてもガバの温床である(断言)。

 

 そしてひとまず、それぞれの頼んだメニューの前に珈琲が届く。お母さんがウィンナー、フェイトはエスプレッソ。私は普通に水出しアイスコーヒーで、九龍だけ何故かクリームソーダ。可愛い(思考停止)。さくらんぼが可愛いくてなお可愛いといえる。

 

「あー、さくらんぼかわええな~? えっと、お名前、誰ちゃんなん?」

「ぼ、僕はその――――」

「時坂九郎丸。確か半陰陽性だったはずだな。というより以前、顔だけは合わせているだろう、君も」

「えぇ~? せやかて金髪の子なんて雪姫はんくらいしか……、いや普通に染めれば良いわな。専用アプリもあるくらいやし」

「キリヱ大明神ェ……」

「!? な、何故僕の性別のことを……ッ!」

「おおかた、カアちゃんと情報交換でもしてんだろ(適当)」

「正解、だ。ヒントもないだろうにその即答、事前にそのことを予想していたんだろうね。…………」

「おぉ? 何かフェイト君、嬉しそうやな~。ぷにぷにっ」

「ちょっと、話しづらいから」

「は~い♡」

 

 一体何に嬉しくなったんですかね(白目)。いやCPH(フェイト)の習性からしておそらく何かしらネギ君ポイントを私が稼いだのだろうが、この程度は原作を読んでいても「メタ的にも」ある程度推測がつく範囲だろうに。現状の情報だけでも少なからず顔を突き合わせ次第、即、戦闘とならないのだから、おれはお互いの組織の上の方で話し合いがついていると見るべきだろう。なんなら麻帆良にてカアちゃんこと雪姫と大人フェイトが顔を合わせる機会もあったわけだし、お互いの現状戦力の比較くらいはしていても不思議はない。時期については未確定だが、原作での帆乃香たちによる近衛刀太拉致未遂を思えば、その辺りの情報は確実に持っているのだろう。

 ……そこに居るはずの無かったお母さんの存在は除いて(ガバ)。

 というかお母さんに関しては、ニヤニヤしながらフェイトの頬をつついていたら、流石に手を取られて中断させられ、しかしそれはそれで嬉しそうに笑っている。というか「は~い」の語尾、明らかにハートマークがつくレベルのテンションだったぞ。一体何がどうしてそうなった。正気かこの世界!?

 

「はんいんよー、って、つまりアレ? 性別が定まってないんかなー。ふぅん、で今は女の子寄りいうことなんね。ふぅん、ふ~~~~ん」

「あ、あうぅ……」

「あんまり見るの止めてさしあげてくださいっスよ(白目)」

「減るもんやないし、別にええやん? こんな可愛い子に可愛いなんて言えないようなジェンダー観なんて崩れて久しいし、愛でるべきものは愛でるべきや!」

「それはそれで容姿贔屓みたいな感じで嫌な感じっスね……」

「でも、どう見ても可愛い子が私可愛くないからとか言い出したら、それこそ同性には嫌味やん? まーどうあがいても嫉妬だってされるし、いじめられもするから、人生諦めが肝心やで?」

 

 言い返せない。刀太君と同じこと言ってる……、と九郎丸。実際「私」としての人生観は大前提がそれではあるので、嫌な所で親子の一致をみている感じだ。とはいえそこで発生したガバに抗う姿勢は雪姫(カアちゃん)譲りであるようには見えるだろうし、決して血縁だけが親子関係を決定する要因ではないということでどうか一つ。

 実質的なことを言うと大変デリケートな話題なので、平に、平にご容赦を……(震え声)。

 

 そして、そこから先の発言は完全に私やキティちゃんとは異なるスタンスだった。

 

「大事なんはな、その時その時になるようになった結果で、どうやって楽しんで生きるかや! どうあがいても悲しいことはいっぱいあるし、私の手の届く範囲ですらどうしようもないことはいっぱいある。

 だから、それでもなお前を向こうって、私くらいは笑顔で言っとかんとなー」

「――――――――そう言う所は、君の良い所だと思うよ」

「ん? 何やフェイト君、惚れ直した? ん? ん? ……何で黙るん? 何か文句でもあるん? ん?」

 

 お母さんの物言いは、ある意味で私のこれまでのガバガバ人生(今世実経過2年)における全てを肯定してくれているようで。そして同時に、それはフェイトの失敗し続けた今までの人生を肯定するようなものでもあるのだろう。

 あえて回想はここでしないが、私やカトラス、千景やらでち公(最近見ないな)および(メイリン)を含んでも良い。そういった何かしらの上手くいかなかったあれこれが生まれ、生き、それなりにまっとうな人生を歩んでいないという状況そのものが、その発端にこそフェイトの失敗が存在するのだから。

 

 嗚呼だから、もしかしてそういうことか? 本人がどう思っているかはともかく、少なからず自分の知るネギぼーずの縁者として、これまでの人生は決して無駄ではないと肯定してくれる存在だから。だからこそ、そういった交友関係を完全には否定したくないから、フェイトも何も言わずにいるということだろうか。

 それこそ終始、お母さんのペースに圧され続けて、私たちの間でもたれるべき本当の意味での「世界救済」に関する匂わせすら、一つも出てこないくらいなのだから。

 

 そしてそれは、九龍(九郎丸)も似たようなことを考えているらしい。膝に置いた帽子の両側のつばを握りながら、どこか羨ましそうに。

  

「えっと、お二人はすごく仲が宜しいんですね」

 

 我々そっちのけでベタベタとフェイトと遊んでいるお母さんに対する、大人げない大人に対する九郎丸のそのセリフ。若干困惑も含まれているが、それはそうと微笑ましいものを見るような目で見ていた。

 

 うん、ある意味で普通だ。状況のガバガバ具合さえ目を瞑れば、世界かくあるべしという平和な光景だ。だからこそ目を閉じて珈琲を口に含んでいた私。若干やかましくもあるが、これはこれでOSR(それっぽい)親子面談(?)と言えなくもない。

 しかして、ここから先のお母さん発言こそが、嗚呼この人やっぱり私の血縁上(?)の母である以上に、帆乃香のお母さんなんだなぁと思わされるものであって――――。

 

 

 

「――――そりゃ、なあ? 『新婚』さんってこんなもんやあらへん?」

 

 

 

 ………………………………………………。

 …………!? !!? !!!!!!!!?!?!?!!!!!!!!!!!!?!?!?!?!!!?!?!?!?

 

 ちょっと何言ってるかわからないですね(事実確認拒否)。

 

「…………何…………、……だと…………?」

 

 気が付けば、私の口から零れていたのはBLEAC〇(オサレ)特有の語録(オサレ詠唱)。珈琲を噴き出さなかったところに進歩が見えると考えるべきか、一周回ってすとんと呑み込んでしまったと言うべきか。

 隣の九郎丸も私同様、それこそ〇護(チャンイチ)的なあの顔になって驚愕を示している時点で、驚愕具合にご納得いただけるかと思う。

 

 そしてお母さんは、近衛野乃香はまるで何事もなかったかのように、ごくごく自然に当たり前のように、にこにこと話を続ける。

 

 そして呆然としすぎてしまったせいか、帆乃香の時のように制止をかける暇もなく、次々明かされる与太話の類。誰が何といおうと与太話の類(鋼の意志)。

 

「新婚さんやで~? まー、内縁とはいわずとも、ウチが小学生くらいの頃からずっとお世話になってたし、中々世間体もあって時間かかったけどな~」

「えっ犯罪?」

「いや九郎丸ちょっと待てよ、待てよ(良心)」

 

 カトラスでもないのにちょっと引きかける九郎丸。フェイトの方を見て顔を青ざめさせるが、別に当時に手出ししたわけでも無いだろうし、本来のフェイトの姿でいうと特に何も問題はないというオチまでついてくるので、色々考えるだけ無駄である(現実逃避)。

 

「違う違う、そういうんやないで? 好きだったんは私の方で、それも一方的だったんえ?

 フェイト君も仮契約相手(パートナー)こぞって居なくなって色々心が荒んでた時期だったし、その分、反動で可愛がってもらったわ~。大体のわがままは通ったえ?」

「それは関係ないよ。後は、……当時はここまでバカ娘ではなかったのもあったからね」

「あ~~~~、酷いわ『ダーリン』。もうちょっと労わってな? フェイト君のために『3人も産んだ』んやから」

「その話、待てよ(震え声)」

「ウチがフェイト君のこと好きだったから、産める(ヽヽヽ)頃にちょっとだけ無理してな? フェイト君って赤ちゃん作れへんらしいし、それでも『産んでくれ』言われたら、そらプロポーズの類って思うわ~」

「いやちょっとその話、待てよ(震え声)」

「や、やっぱり犯罪……!?」

「九郎丸ちゃん、合法え? まーその後色々あって決別して、紆余曲折あって仲直りして、2年間くらい精神ボロボロのフェイトくんと付き合う形でなー?

 帆乃香たちは経緯が経緯やし、お父さんって受け入れてはくれへんのやけど、それはそうとフェイト君が『人間らしさを失わないために』出来ることが何かあるか? って思ったら、そら結婚やな! という感じで…………、ウチがお婿さんに貰ったんやわ」

 

「「しかも婿入りなのッ!!?」」

 

 衝撃に衝撃を重ね意味不明な文字の羅列に、右耳から入ってくる情報は左に受け流され頭の中の目は滑り通し。心なしか星月ですら『えぇ……?』と困惑している大河内さん声が聞こえるが、えっお前さんすら知らないだと? 何この…………、何? 何だこの状況。

 

「ちなみに刀太と会った後、すぐ籍入れたんえ?」

「いや、そんな無駄情報はともかく……」

 

 というか仮契約相手(フェイトガールズ)が墓場から蘇りそうな状況になっているのだが、いやその……。

 

「……公表する話でもないし、今更式を挙げるような付き合いでもない。そもそも彼女は近衛の本家筋ではあるが家を継ぐわけでも無いから、僕の戸籍がフェイト・(アーウェルンクス)・近衛になっていたところで、大した変化ではないよ、近衛刀太」

「いやフェイト・A・近衛ってお前さんさぁ……、お前さんさぁ…………」

 

 いやだから、お前さんさぁ……!?

 謎の悪寒で身体がぞわぞわし、視界の端に「ちくわ大明神!?」と思念が映る。残念ながらこの状況でツッコミを入れる余裕はなく、空回りしていた思考回路が段々と現実に追いついてきた。

 

「こういうのアレやな? 惚れた弱みって感じやねフェイト君」

「断じて違うとは言っておこう。感謝は、しているがね」

 

 少なからず「戻りかけた」僕がこうしてネギ君と育んだ精神性を取り戻せたきっかけに違いはないのだから、と終始無表情のままのフェイトは、何故か私に向けてどこか申し訳なさそうに眉を寄せて、目を伏せた。

 

 いやその……、だからその、ですね。原作で絶対ありえないレベルの話というか、そもそも「私」の生みの親は描写的に刹那刹那、一瞬出て終わりというのを繰り返すレベルの、バックグラウンドから色々怪しい具合のキャラクターだったはずであってですね。

 

 

 

 ははーん? カイン・コーシが雪姫にバレていた件も含めて、さては私ってばまた過去に行く話がこの後出て来るんだな? どうせ過去でまた何かやらかすんだな? そうなんだろ答えてみせろや超鈴音! 仮契約カードなんて捨てて、かかって来いッ!(コマ〇ドー(シュ〇ちゃん)並感)

 

(超鈴音「直接乗り込んでかかっていった方が先輩のガバそのものじゃない、かナ……?」ダーナ「知ったところでどうしようもないんだから、せいぜい今を楽しみな。ライブ感だよライブ感、アンタの好きなアレのねぇ」)

 

 

 

 

 



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ST209.正気と狂気の狭間に立つ

情報公開範囲について色々調整した結果、ちょっと手間取りました汗


ST209.The Truth Seen In Chaos.

 

 

 

 

 

「つ、つまり、義理のお義父様(とうさま)……ってことかな!?」

「落ち着け九郎丸。後それ や め ろ、気が狂う(戒め)」

 

 ついでに当てられているだろう字も文法的に狂ってそうなので、このあたりはもはや何が何やらと言ったところだ。お互い動揺しすぎである。

 

 話の流れから下手に撤収するわけにもいかず、さりとて「第四の目」を使用して話題を徐々に徐々に逸らしていくこともできず。というか何をしてもこのお母さん相手からは嫌な予感しかせず、情報の読みとりイコールで現時点で知ってはいけない情報の羅列をダーッと浴びせられることになるという確信しかない。というかさっきの「フェイトと結婚している」などという爆弾発言自体がその類だし、こちらが何をせずとも勝手に情報が掘り下げられていくだろう前提に立てば、もはや詰み状態である。原作ルートからの乖離が主であるが、何だろうねこの恐怖心。デートイベント先取りとかの時点で既にどうこうという話でもないだろうが、寄る辺を失った子羊は無情な弱肉強食にさらされるしかないのである(意味不明)。

 というかそもそもお母さんについては自由人すぎてアンコントロールスイッチなブラックハザードなのだが(ビ〇ド(殺戮マッスィーン))。重ね重ね言うが正気なのだろうかこの世界。

 

 カトラスとの合流にまだ時間があるとはいえ、さてどうしたものかというところだ。

 

 しかしそう思っている私の隣で、九龍こと九郎丸女の子バージョンが嬉々として話を聞いていた。

 

「刀太の小さい頃の話な? んー、もともとフェイト君からさっきも言ったように『産んでくれ』言われてな? ……犯罪やあらへんよ? うちが勝手に勘違いして舞い上がったりとかはしとったけど、それはそうと当時のクローン技術って今ほど安定しとらんから、まー、代理母的な出産を欲しとったんやなー」

「クローン技術…………? じゃあ、やっぱり……」

「あー、九郎丸に言ってなかったっけ? いや、あー、断定できるだけの話はなかった、みてーな感じだったか……? なんだか記憶が…………」

 

 そして一瞬「ガバか!?」と警戒したが、むしろ私が情報共有していなかった方のガバであった。原作においてはそもそも家出編のあたりでカトラスからの強襲にくわえ、それをきっかけに黒棒から近衛刀太の出生周りについて匂わせる展開が発生するのだ。加えて修行編でのキティちゃんによる体質の解析により、その血筋が「金星の黒」と「火星の白」に由来すること、元祖「ネギま!」を読んでいればネギぼーずと明日菜はんの血が混じっているのではという疑惑が出てくるような、そんな流れがあったのだ。

 あのあたりについては、既にカトラスがザジしゃんによって中途半端な立ち位置に引き入れられていたこと、知らないけど何か見覚えがあるような気がする妹チャンたるでち公(サリー)がいたことなど、色々と色々なものを投げ捨てた展開となっているので、もはやどうしようもなかったところではあったが。こうしてお母さんの口から直々に確定情報として語られる展開というのは、それはそれで来るものがあった。

 

 ――――お母さんが、近衛刀太を「依頼されて」産んだという、その事実は。

 

 人の意志が介在しない形で生まれたなら。そこまで突き放されてるのなら何も感じなかった。

 人の意志が介在している形で生まれたなら。それなりに自らという存在を望まれて生まれて来たと、そう在って欲しかった。

 

 自らがただ道具のように、必要だからと生み出されたと。厳密に言えば「私」は近衛刀太であるはずでもないだろうに、しかしそれでも、その事実はそれなりの衝撃をもって、私の心を揺さぶる。

 とはいえ、肩をすくめて鼻で笑えないこともない。結局のところ、私が当事者ではないからという最後の一線が存在するからだろう。

 

 九郎丸もお母さんも、フェイトもそんなこちらには気付いていない。ただフェイトは「案外落ち着いているね」と目を閉じてため息をついた。

 そして続けて明かされる、どうでも良い与太話(鋼の意志)。

 

「せやから、刀太も帆乃香も勇魚も、私の子供であるけど、それと一緒にネギ君の孫仲間でもあるんやな~。ネギ君は流石にわかるえ? ネギ・スプリングフィールド。それくらいは『テナちゃん』から聞いてそうなもんやし」

「……孫仲間?」

「うん。だって、私はネギ君、ネギ・スプリングフィールドの『遺伝子上の』孫やもん。木乃香お祖母様と刹那お祖母様と、どっちがどっちだったか詳しく覚えてへんけど、どっちかの血が続いた三代目が私で―――――」

「――――そこまで、だ。それ以上は色々と方々に問題になる」

 

 フェイト君? と、隣から制止の声がかけられる。

 かけられたが、いやそれはそれでちょっと待ってほしい。ん? え? え? 孫仲間で、えっと、スプリングフィールドの血を引いている? 近衛野乃香、どちらかの両親がつまりネギぼーずの血を引いていると? 世代的に「お祖母様」とこのせつを表現している以上、つまりは、えーっとその、ううん? どういうことだってばよ?

 とりあえずフェイトに一言。

 

「判断が遅いッ!!?(理不尽)」

「刀太君!?」

「な、なんやぁ……?」

「すまない、何に対して怒ったか理由がわからないのだが…………?」

 

 周囲には困惑されるが、それはそうとして割と現在、私にも余裕がない。九郎丸デートについてはともかくとして、この後の予定に差し支えるレベルで動揺しているといえる。 

 私の脳裏をよぎるのは、いつか見たこのせつ結婚式の映像――――そこに映る、明らかにお腹の丸くなったこのせつ二人のお姿。このちゃんこと近衛木乃香はともかく、せっちゃんこと桜咲あらため近衛刹那が、いとしっかり大人ネギぼーずに色目使っているあの映像。

 

 そこから導き出される答えは…………。

 

「……えーっと、つまり祖父さん、木乃香さんか刹那さんかとデキて――――」

「――――絶対に違うと断言しよう」「わわ!? フェイト君えらい食い気味やね」

 

 こちらの邪推もとい結論に対し、猛烈な勢いで反発してきたフェイトである。いや一体何をそんなに肩を怒らせて怖いオーラを出しているのか。九龍は九龍で目をぐるぐる回して混乱しており、状況はカオスの一途をたどる。

 ため息をつき、フェイトは隣を再度見る。半眼でじーっと見られた彼女は頬を赤くし「いやん♪」などと戯れているが、その様がまたフェイトの胃にダメージを与えていそうだ。

 

「今日は君のために一日とっておいたから君の好きにさせていたけど、流石に無理があったようだね。というより、せめて自分の子供のメンタルくらいは慮ってあげるべきだ。

 ただでさえ一杯一杯なのだから」

 

 なん、だと!? あのフェイトがまともに人を気遣えることが出来ている、だと……? 原作でも割と実験動物に近い扱いをしているフェイトだぞ? さては偽物だなテメェ!(暴論) とはいえ無駄に意味のない反発をすることもないので、こちらもこちらで同情の視線を送りながら「ありがとうっス」と頭を下げた。

 流石にこれには、フェイトも苦笑いを浮かべる。

 

「君は何と言うか……、雪姫も前に呆然としていたが、妙なところで素直だね。反応もそうだが、感情が高ぶると無駄に騒ぎたがるのは、近衛というよりネギ君の受け持っていたあのクラスの血が為せる業か……。興味深いというか、それで君の『魂の同一性』が保たれているのかという問題はあるだろうが」

「はっ(威圧)」

「それでいてその安定した精神は、やはり驚嘆に値するよ。少なくとも『壊れていない』以上は。……とはいえこの話もまだ止めておこうか。君が精神的に限界なのは察しがついているから、そう無理に怒りの表情を作らなくて構わない。

 ただ、それだとわざわざ家内(ヽヽ)が君たちの所謂デートを邪魔したことに関して、アドバンテージがほぼないから申し訳がない」

「壊れてないとか何が何だよ……。いや、まー、喫茶店奢ってくれたのでも十分っスけど個人的には。むしろ趣味的には大変ありがとうございますっつーか。OSR至上主義(そういうの大事)なんで」

「そうかい? ……いや、わからないな。調査資料には出てこなかったが…………」

 

 横で「刀太、喫茶とかそういうの好きなん?」「はい、将来おしゃれな喫茶店やりたいとかで」「ほぇ~、えぇ趣味しとんなぁ」とか他人事のような会話が繰り広げられている。九郎丸には直接話していなかったと思うが、そのあたりは肉丸をはじめとした熊本組の面々からか? ただお母さんのその言い回しはちょっと裏を読んでしまいたくなって何だか居心地が悪い。……実際に読もうとは思わないのだが。

  

「僕の方も『話し合い』の準備は済んでいないし……、ダメージの受け方を鑑みると、雪姫もまだ色々と君に話していないのだろう?」

「あっハイ」

「言うだけあってリアクション早いなぁ」

「まあそんなところだろうと思ったよ」(※隣を無視)

「カアちゃんもカアちゃんで、妙にナイーブっスからね。乙女乙女されてもリアクションに困るっつーか、まー色々と複雑っスよ」(※斜め前を無視)

「ほぇ? な、何やぁ、どうして二人とも私から目をそらすん? 九郎丸はん?」

「え、えーっと……」

「とはいえこのまま仲良く会話するような関係でもないだろう。…………せっかくだ、君の祖父たるネギ・スプリングフィールドがいかに偉大だったか、最も傍で見て来た僕の口から直に語ってあげようじゃないか」

「い、いやそれはいらないっス(即答)」

 

 フェイト視点でのネギぼーずの話というのも興味がないではないが、おそらく「ネギま!」以降の現代に続くまでの話について延々と語られることになるだろうし、その辺りは原作を想えばチャチャゼロの出番を待ちたい。というかネギぼーずの名前を口に出した瞬間、らしくないくらいにフェイトの目がキラキラとして思わず一歩引いてしまいそうになったので、妻帯者だろうがCPHはCPHということか。

 なるほどカトラス、お前さんの言っていた通り我がお母さんの、男を見る目はちょっとどうかしていたよ……。今度キャンプにでも行ってケバブ作ってやる。今の血装なら駆使すれば専用加熱器とか色々できそうだし。

 

 そしてこの話題についてだけは、近衛野乃香の側から比較的まともなツッコミが入った。

 

「それ、フェイト君が気持ち良くなるだけの話やない? ネギ君の話 し始めるとえらい長くなるし、その割に肝心なところの話とか全部はしょるやん。神楽坂明日菜はんとか、雪姫はんから聞かんと意味不明な展開も情報も多かったえ?」

「? 何を言っている。必要のない情報はいたずらに相手を混乱させるだけだから、省略するのは当然のことだろう」

「その省略の仕方が、自分に都合が良い形だけにするのはアンフェア言う事や。うちに帆乃香たちを産ませた時も刀太を『ああした』時もやけど、必ずしも正しさをジャッジするんはフェイト君だけやあらへんの。せやから、私はネギ君に関してフェイト君がやろうとしとん事、反対なんよ。そーゆー視点を忘れてるって、なんぼ言っても聞かん坊なんやもん。雪姫はんもちょっと後ろ向きすぎんけど、それでもどっちが人の心に寄り添っとるかは、なぁ?

 刀太も九郎丸ちゃんも、こんな大人になったらアカンえ? 人の痛みを忘れて、自分は絶対間違えないって思っとると、次々周りが()えて最後は自分も終いなんや。――――まあ、そういう手のかかるところがカワえぇところでもあるんやけどな♡」

「お、おう(震え声)」

「…………………………………………」

「すごい、あのフェイト・アーウェルンクスを手玉に取ってる……!」 

 

 さすが義理のお義母様(かあさま)、とか言って衝撃を受けながらもちょっとワクワクしている九郎丸の謎のテンションは置いておいて。(ダーナ「色々衝撃情報が多すぎて、外堀埋められてるのに感覚がマヒしてるよこの男」)

 いささかちょっと聞き捨てならない「近衛刀太に何かをした」という発言が出たが、九郎丸が別な所に衝撃を受けて聞き逃しているらしいので、私もここはスルーさせてもらおう。しかし実際、彼女の発言は的を射ているところもある。原作「UQ HOLDER!」においてフェイト・アーウェルンクスは、その過去篇にてネギぼーずとの繋がりを失った結果、ラスボスの先兵、いわゆる「造物主(ライフメイカー)の使徒」としての側面が暴走しかかっていた部分もあったように思う。最終的にその状態のままネギぼーずへの友愛だか親愛だかCPH(こじらせ)だかが暴走した結果、エヴァちゃんと致命的に道を違えるに至っているのだ。

 

 とはいえ聞く耳を全くもたない訳でもないあたり、本人なりにどちらの側面も「病んだ」とはいえ昇華した人格に熟成されてはいるのだろうが。お母さんとのやりとりに何とも言えない表情になるフェイトを見て、やはりなるほどと思わされる。スラムでのあの友好的な振る舞いぶりというか、そういうのは野乃香お母さんとのつながりが強かった面も強いのか。

 

 あえて言おう、母は強し。かつて彼女の面倒をみて可愛がっていたという点を踏まえれば、情けは人の為ならずというところか。いやまあ、単にお母さんが駄目男子(ダメンズ)好きなだけという説もあるが……。

 雪姫というかエヴァちゃん直々に「バカ娘」呼ばわりされてる映像が脳裏をよぎる。

 

 そして、お母さんは我々三人を見回したうえで、ウインクしながら提案する。ミニスカセーラー服ともども年を考えろ年を。見た目は20代とはいえ少なくとも30代後半は行ってて不思議はないだろうに。

 

「それやったら、うちから提案や。刀太と九郎丸ちゃん、それぞれ一人一つずつ質問! フェイト君はそれに誠心誠意答えること。不足分は、私がちゃんと補足したるから、そこは安心してな?」

 

 あーそういえばフェイト関係のイベントがキリヱからスラムおよびカトラスの方に統合されたから、そういう話は存在すらしなかったなーと、他人事のように私は原作「UQ HOLDER!」5巻を回想していた。

 …………いや、あれ、そういえば雪姫との直接戦闘で一回殺されていたという前提から、その場から逃げるための対価としての情報提供だったはずなのだが? それをナチュラルに要求して、しかもフェイトに拒否させなさそうなお母さんイズ何。

 

『これも愛の力、なんやろか……?』

 

 何だかディーヴァが言いそうなことを言い出した星月だが、それはそうとわざわざ本邦初披露な近衛木乃香バージョンでのコメントは、色々混乱の元になるからお止しになって(震え声)。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「刀太たちが質問するなら、フェイト君も自分が好きな話ばっかりせんで済むし、ものの見方も私の視点が入るから、もうちょっと中立な感じになるやん? 流石に知識量で私、フェイト君には勝てへんけど、こと客観性なら色眼鏡ないから、結構厳しく言うで?」

「そこは、旦那さんに肩入れするところなのでは……?」

 

 思わず聞き返してしまった僕に、近衛野乃香さんは「それは、逆や」と言った。

 

「うちの方針として、甘やかすところと甘やかさんところはしっかり線引きしとんえ。こと人倫に関しては、フェイト君は基準が病んでるからなぁ。子供の教育に悪いのん。帆乃香たちとか全然お子様やし、悪影響受けると問題あるから、ちゃんと言わなアカンことは言うんや。もちろん仲良しやからって前提はあるし、うちの考えが必ずしも正解って訳でもないやろうけどな?」

「い、一応旦那さん、なんですよね……?」

「せや。けど、何でもかんでも肯定し続けるような『お人形さんみたいな関係』が欲しくて、私はフェイト君と結婚したわけやないもん。

 フェイト君もそれをわかってるから、決別した後にまた私に連絡とってきたんやし。なぁ?」

「…………」

 

 さっきまでの自由奔放な雰囲気と異なり、野乃香さんは真面目な顔で、しっかりと僕や刀太君の目を見て話す。雪姫さんもそうだけど、こういう「お母さん」というか「奥さん」というか、そんな雰囲気を目の当たりにするのは妙に新鮮な気分だ。

 僕にはお兄様しかいなかったから、という事情もあるんだけど……。それでも、一人の人間として、女性として尊敬できると思う。強い意志を宿した目は、それだけに刀太君も少し気恥ずかしそうだ。

 

 まあ、それはそうとちょっとマイペースすぎた気もするんだけど、さっきのアレとか…………。刀太君もちょっとパニックになってたみたいだし。普段甘やかされてるのは逆なのでは? という気もする。

 

「言霊には大して力はあらんけど、されど言霊が胸に届くくらいに、うちは今ちゃんとフェイト君と関係を構築できてるって信じとる。

 せやから何かやらかしても、たぶん致命的なことにはならんって、そこは信じとるからなぁ。ちゃんと失敗を反省することが出来るんが、私の旦那様なんえ♡」

「腕を取らないでくれ、歩いている訳でもないんだから……」

「いっけずー、ぷにっ」

「だからつつくのを止めてくれ……」

 

 そして、真面目とマイペースのふり幅が大きい人だ。ちょっと混乱しそうになるけど、感情の行き来の激しさみたいなところに、刀太君との血のつながりを感じて不思議な感覚だった。なんとなく隣でぼうっとしてる刀太君を見ると、お腹の内側のあたりがきゅってなって、じんわりと温かく感じる。

 

「……それなら、刀太君。君は時坂九郎丸と違ってもう1つ、質問しても構わない。質問権は2つだ」

「はい?」「えっ?」「ほえ?」

 

 そして、嫌がってるような恥ずかしがっているような面倒がってるような虚無の感情のような色々と入り混じったような奇妙な表情を改めて、フェイト・アーウェルンクスは刀太君にそう言った。

 

「何で俺だけ2つ?」

「『娘』たちが色々、世話になっているからね。特に勇魚が」

「いやアンタの認識でもアイツそうなのかよ(震え声)」

「帆乃香も勇魚も、単に君の熊本の頃の話を少しだけ聞かせたことがあったくらいなんだが、どうしてああなってしまったのだろうか……」

 

 い、勇魚ちゃんは確かにこう、発言をよく聞くと色々アウト気味な感じというか……? 野乃香さんも「流石にまだ早いし、そもそも近親はアカンからなー」と苦笑いしてるし。

 とはいえそれで納得したらしい刀太君が、僕の方を見て「とりあえず好きに言えよ」と半笑いだ。

 

「えっでも、相談しちゃいけないとは言われてないし……」

「ショージキ、そのうち話してくれるって言ってるからな。今の所、あんまり執着しなくていいだろ。なんとなくスラムで襲われた件も、ゾンビっつーかダイダラボッチの件とか踏まえて予想もついてるし。

 答え合わせして外れてたら低OSR(格好悪い)から聞かねーけど」

 

 ほう、とフェイト・アーウェルンクスが微笑み刀太君を見る。「だから言わねーって」と言い返す刀太は「だから強いて聞くとするなら」と前置きをして――――。

 

「雪姫が俺を引き取る前の『育ての親』ってことになってる、近衛悠香と近衛仁徹って、結局どんな人たちだったんだ? 熊本に墓を持ってる身としちゃ『3人目の』母とその夫って認識なんだが、何も知らないっつーのは不義理な気がする。

 帆乃香たちの話からして、間違いなくそっちの関係者だったろーし、ちょっとでいいから教えてくれねーか?」

 

「ほぇ……」

「…………そこを聞かれるとは、思ってなかった」

 

 そしてフェイト・アーウェルンクスと野乃香さんを見る刀太君の目は、それこそさっきの野乃香さんみたいに強い意志のこもったものだった。

 

 

 

(ダーナ「知っても知らなくても原作に影響が絶対及ばない情報だからねぇ、その辺りは」超鈴音「アイヤ、ガバだ何だ言ってるくせにどういう心境の変化なんだか……。しかしフェイト某のネギぼーずポインツが上がるのではない、かナ?」)

 

 

 

 

 



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