守護霊はゴースト (修司)
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守護霊はゴースト

私には見えてはいけない何かが見える。

 

 

 

突然こんなことを言ってもわからないと思うが言わせて欲しい。

季節外れの土砂降りが起こった今日この頃、私は濡れた制服を絞りながらバスを待っていた。

天気予報を見ていなかったと言うのももちろんだが、午前中は晴天であったこともあり傘を持ってこなかったことが災いし下校途中で突如起こった災難に苛まれていた。

 

 

「雨やば・・・」

 

 

絞った制服からは雑巾の如く雨水が流れバス停の乾いた地面を濡らす。

ここまで見ればどうと言うことはない。突然の不幸にあっただけだろう。

 

ただ、私にとっての不幸とはこの事ではない。

 

「結構濡れたなぁ・・・スカートもびしょびしょ」

 

ある程度絞り落としたのを確認すると意識を正面へと向ける。いずれ来るであろうバスを意識しての行動だった。

 

 

 

 

 

みえる?

 

 

 

 

 

 

それが視界に入った瞬間、私は表には出さずに心の中で悲鳴を上げた。

視界に入ったそれは人型ではあるものの、決して人と呼べる存在ではなかった。

その人型は大きく歪んだシルエットをしており全身をぼろぼろの布に覆っている。瞳と両腕が異様に膨らみ、口から覗く歯は明らかに不釣り合いな大きさのものが生える。そこから発せられる声は壊れかけたスピーカーを歪に重ね合わせたかのような声音。そして肩には、同じく人とは呼べない存在が2人ほど詰め込まれた袋を下げている。

それは、見る者を狂わせるかのような化物だった。

 

(・・・まただっ・・・・っ!)

 

 

私にとっての不幸、それはごく最近からこのような人には見えない何かが視界に映るようになった事だ。

最初は視界の端に妙な違和感や影が見える程度でしかなかった。しかしそれがだんだん目線を逸らしても映るようになり、ここ最近になっては完全にくっきりと見えるまでになっていた。

それらがなんなのかはわからない。わかるのは決して関わってはいけないと言うことだけだった。

 

 

 

 

私には見えてはいけないものが見えている。

だけど―――

 

ねえ        みえる?

 

 

みえる?

 

みえる?     みえる?

    みえる?

 

 

(ううぅ・・・・・!)

 

無言の私を前に化物は同じ言動を繰り返す。

そしてそれが身体に触れそうになったその瞬間――――――

 

 

ポン

 

 

 

突如化物の肩を黒い手が叩いた。

 

(きた・・・!)

 

 

その瞬間私の心に安堵感が湧いてくる。目の前の化物は私に視線を向けていたため後ろから近づいてくる存在に気づかなかったのだ。

 

てをおいた

てをおいた

 

      気づいた     気づいた

 

 

   気づいt

 

 

 

 

 

 

 

 

『■■■■■■!■■!■■■■■■■!』

 

 

 

 

 

 

 

そして次の瞬間

 

背後から突き出された炎を纏ったなにかが化物へと直撃した。

 

 

柔らかいものを叩きつけるかのような音と共に目の前の化物が吹っ飛ぶ。吹っ飛んだ化物はその勢いのまま近くの建物の壁へと衝突し、あたりに肉片をばら撒きながら破裂した。

 

(ひぇ・・・)

 

その勢いと衝撃は私にまで届き思わずその存在に対して反応してしまう。

閉じた視界をゆっくりと開ける。そしてその目に最初に映ったのは、まるで焚き火を目の前で焚いているかの様な暖かいオレンジ色の光だった。

 

 

 

(もう!いつも遅い!)

 

ぼやけた視界で私は光る何かに思わず心の中でそう呟く。

 

 

 

私は見えてはいけないものが見えるようになった。そして怖い気持ちは未だ変わらない。

だけど今は前ほど怯えてはない。何故なら――――

 

 

 

 

 

開けた視界に映るその存在、

オレンジのパーカーを羽織った異形の戦士。

燭台を片手に持ちパーカーの裾からは黒い霧の如く何かが漏れ出ている。腰には半透明のバックルを着けその中央にはパーカーと同じくオレンジの瞳を覗かせる目玉が周りを見渡す。

そしてそのパーカーの下にのぞかせる顔、人魂のように揺れ動く炎の中に浮かぶ二つの複眼をのぞかせる『仮面』。

鎧のようで、それでいて生物を思わせる体表の身体。

雲間から降りてきた光に照らされる中、彼はこちらに振り返りそっと頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

何故なら私を守ってくれる、守護霊がいるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分が生まれてから300日目。

気がつけば自分は彼女の後ろに憑いていた。この文だけを抜粋するとストーカーか何かかと勘違いするかもしれない。

 

 

『うわぁ・・・今日もすごいな』

 

蝋台にエーテルを流し目の前の異形に振りかぶる。すると次の瞬間薄紫の炎がゆらめき蝋台を核とした両刃の妖剣『ガンガンセイバー』へと変質し少女の周りに纏わりつく異形の身体を切り裂いた。

 

『 ■■■■■■■■■!?』

 

聞くものを狂わせる呪いの叫びをあげながら異形はその身体を弾けさせる。それを確認することなく自分は妖剣を稼働させ妖銃形態にし周りの異形に狙いを定め魔弾を放ってゆく。

 

 

『■■!?』

 

 

『■■■■■■■■■!』

 

『■■・・・■■■■■■』

 

 

 

 

最初に説明しておこう。俺は幽霊、名前は武命(たける)という。

生きていた頃の記憶は何故かなく、今はこの少女――――四谷みこの守護霊をしている。

 

彼女との出会いは今から3ヶ月前、みこが異形に食われそうになっていたことから始まる。深海魚のフクロウナギのような異形が大口を開けてみこを飲み込もうとしていたところを見つけた俺は持っていた目玉の力を解放して吹き飛ばした。

 

この目玉がなんなのか、どこで生まれた存在なのかはいまだにわかっていない。バックルにしても同じだ。わかるのはその使い方と、かつ周りに存在する異形に対抗するためにはこれを使わなければいけないと言うことだ。

 

 

『■■■■■■■■■■■■■!』

 

 

 

『こいつで最後か』

 

ダイカイガン!オレ!オメガドライブ!

 

バックルの横に付いているレバーを押し込む。その瞬間自分の背後に陣が現れそこから漏れ出たエーテルが眩い光となって右足へと吸い込まれる。

ゆっくりと浮遊し目の前のまるでロマネスティカリフラワーのように沢山の顔を持つ異形に対して『飛び蹴り』と言う形でエーテルを解放する。

 

爆発音が鳴り響く。

黒い煙があたりに四散し景色を黒く染め上げる。やがてその煙も風によって流され辺りには最初と同じ静寂のみが残された。

 

 

周りから異形が居なくなったのを確認すると同時に蝋台を消してバックルから目玉を取り出す。それと同時に自分の体に纏われていた鎧は消え去り自身の存在もより薄いものへと変わってゆく。

 

 

『彼女に見えないんだよなぁ・・・まぁある意味都合がいいけど』

 

そう言って彼女を後方5mほどから見守りながら思う。

俺やこいつら化け物にはそれぞれルールが存在する。それは悪徳を行わなければ存在できない、信仰がなければ消え去ってしまう、特定の行いをしなければ行動できないと様々だ。

 

 

自分の場合は最初に彼女を助けた時点でその存在は守護霊と固定されてしまったらしく、常に彼女の半径20m以内でしか活動出来ないと言うルールがある。

かつてこのルールを無視してみようと20mより後方へ下がってみようと試したものの、結局自分の身体はそれ以上下がろうとするとみこの動きに合わせて引きずられるという結果となった。

 

 

『ホントなんでこうもあの子の周りにばかり怪物が・・・・』

 

壁をすり抜けてみこの元へ向かう。ふわふわと中を浮遊してみこの気配をたどって着いたのは洗面所。

 

 

『あー、歯磨き中かな』

 

風呂に入ってるなら表で待とうと思い一瞬引き返そうとする。しかし水道が流れる音とカシュカシュと言う音を聞いてただ歯磨きをしているだけと気づき洗面所を覗いた。

 

 

 

 

 

首の折れたスーツ姿の異形がみこの真後ろに立っていた。

 

 

 

 

 

『またかよ?!』

 

それを確認したと同時に目玉の横のスイッチを押してバックルの中に埋め込む。すると次の瞬間自分の身体から精神が抜け落ちそれがパーカーという形となって飛び出す。

身体の肉が装甲へと変わり胸骨と顔が骨だけの状態になると同時に骨にもエーテルが流れ銀色の輝きを放つ。

 

 

飛び出したパーカーはスーツの異形を跳ね飛ばすと同時に俺の元へと戻り羽織るという形で再び一つとなった。

顔の骨と胸骨に炎が纏わりやがてそれは装甲へと変わってゆく。

変身を完了した自分は異形の裾を握って壁をすり抜けて空へと飛び上がる。バックルの横のレバーを引き今度は拳に力を溜め込み左手に持った異形の顔面に叩き込んだ。

 

 

 

『■■■ーーーーーー!!』

 

捻れていた首は殴られたと同時に高速回転しながら地面に凄い勢いで吹き飛んでゆく。パァンという破裂音と共に道路のシミとなった異形はやがて黒い煙へと変わり消えて行った。

 

 

『はぁ・・・!はぁ・・・!早すぎる!マジでどうなってんだあの子・・・いくらなんでも憑き過ぎだろ・・・!』

 

 

屋根に着地すると同時に息を切らしながら再度周りを見渡す。

まさか自分が戦っている最中に侵入したのだろうか?異形の群れを相手に奮闘してる横をスルーして普通に家の中に入ってゆく姿を想像してイラッとしながらも再び屋根をすり抜けて家の中へと入る。

 

屋根の下にあったのはみこの私室でドアの向こうから聞こえる音から察するにこちらに上がってきているのだろう。

 

 

『もういないな・・・!もういないよな・・・!』

 

部屋を見渡し蝋台を片手に呟く。見たところ辺りには異形は見えず問題はないように見える。

ガチャリという音と共にみこがパジャマ姿で部屋へと入ってくる。みこは少し伸びをすると同時にストレッチをするとベッドへと近づいて行く。それを見て今度こそ大丈夫と思いバックルから目玉を取り出そうとし――――

 

 

 

 

ママ

 

 

ママ     ママぁ・・・

 

 

 

 

布団の中で呟く異形を見つけた。

 

 

 

 

 

 

ぶちり

 

 

 

 

 

 

何かが切れたような音と同時に自分は布団へと手を突っ込む。手は布団をすり抜け異形の身を掴むと窓へと向かって投げつけた。

 

 

ギャアアアアア

 

 

エコーを伸ばしながら飛んでゆく異形。そんな異形に怒りを込めて可変させた妖銃で狙いを定める。バックルのレバーを引くとエーテルが銃身に吸い込まれやがてそれは一筋の閃光という形で解き放たれた。

 

 

 

『吹き飛べこの野郎・・・!』

 

 

異形は破裂音と共に夜空の星となるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドアを開けると同時に彼はベッドの中に潜んでいた何かを窓に放り投げて持っていた銃でやっつけた。

私はそれに気づかないふりをしながらベッドに入って身体を横にする。

彼が私に憑いてからどのくらい経っただろうか。

 

 

彼が手に持った銃を消してゆっくりと振り返る。

 

かつて怯えることしかできなかった私のそばに気がつけば憑いていた彼。最初は他の化物と同じような理解の及ばない存在だと思っていた。だけど四六時中、それこそ私が寝ている間もずっと私に群がる化物から守ってくれる姿を見て、気がつけば私は彼を受け入れていた。

 

やがて彼はバックルの中から何かを取り出すと同時にその姿をゆっくりと消してゆく。

 

彼は自分の姿が私に見えていることをまだ知らない。

最初は話しかけようとも思った。しかし化物たちは私が気づいたそぶりを見せる度にその動きを激しくして私を守る彼への攻撃を強めた。それ以来私は彼に話しかけようとするのをやめた。

 

消えてゆくその一瞬見えたその姿。

まるで灰色と黒の剣道着のような服の上から茶色の羽織を纏い左手には赤と白の縄によって作られた腕輪。ベージュや藍色のグラデーションで彩られた唐草模様の風呂敷を背負い足には足袋。

そして――――――

 

心から安心したかのような穏やかな笑顔。

 

 

(・・・)

 

 

 

頭から布団を被り私は今見た光景を思い返す。

まるで特撮のヒーローみたいに化物を倒してすぐに姿を消す彼。

決して私に手を出させないと前に立つ彼の背中。

 

 

ありがとう・・・

 

 

頬が染まったのを自覚しながらも私は目を瞑り心の中で彼に感謝の言葉をつぶやいた。

いつの日か、彼に話しかけることが出来るようになったら、直接この言葉を伝えたい。

私はそんな思いを抱きながらゆっくりと夢の中へと沈んでゆく。その心にはもはや一筋の不安すらもなかった。

 

 

 



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ゴーストの1日前半

俺の朝は早い。

早朝5時、俺は家の周りに蔓延る化物たちをまとめてキックで吹き飛ばすことから始まる。

基本奴らが増え出すのは夕暮れ、丑三つ時、朝焼けの3つの時間帯に分けられており、いずれかを狙って活動を始めている。それらの殲滅には大体30分から35分ほどかかる。

 

『■■■■■■■■■■■!』

 

『■■■ー、』

 

『■■■・・・・』

 

後ろから襲ってくる化物に向かって肘鉄を叩き込むと同時に左手に持った妖剣を相手の顔面に突き刺す。両手の塞がった状態の俺に3体目の怪物が口から剣山のような針の束を出して飛び掛かってくる。

 

『させるかよ!』

 

それを肘鉄で怯んだ怪物を針に向けて投げ飛ばすことで威力を相殺する。投げ飛ばされた怪物はそのまま針を飛ばした化物に激突する。そんな隙を見逃すほど俺は甘くない。

 

ダイカイガン!オレ!オメガドライブ!!

 

 

『だりゃあ!!』

 

エーテルが装填された状態で後ろ回し蹴りを2匹にまとめてぶつける。当然耐え切れるわけもなく蹴りを食らった2匹は水風船の如く辺りに体液を撒き散らしながら四散しその命?を終わらせた。

 

 

『最後!』

 

 

そう言って残っていた人の頭を持った蜘蛛に妖剣を叩き込み地面のシミにする。

辺りにはもはや1匹の化物もおらずあたりを日の光が優しく照らす。

それを確認すると俺は変身を解いて家の中へと入っていった。

 

『今日はいつもよりは楽だったな〜』

 

 

 

朝5時45分

 

『あ、おじさん。おはようございます』

 

『ああ武命くん、おはよう。朝から大変だったね』

 

彼は元この家の大黒柱こと四谷真守さん。俺の守護主である四谷みこの父親にして故人である。彼は伸びをしながらカーテンから漏れ出る朝日を浴びながらこちらに向かって挨拶をする。幽霊の彼にこんなことを言うのもなんだが元気な人である。

 

『おじさんも今日は朝早いですね』

 

『ああ。今日はいつもより早く日が昇ったからね。それに君も早く終わったし出迎えようと思ってね』

 

そう言っておじさんは霊体となった新聞を開き今日の世界情勢を確認する。このおじさん、見た目こそ普通だが俺が守護霊となる前までこの家に侵入してきた化物どもが家族に手を出さないよう守ってきた凄い人だ。

ちなみに最初自分がみこの後ろについて家に入った時はまるでこの世の終わりを目撃したかのような凄まじい顔をしていた。

 

『みんな起きるまで暇ですし一勝負でもします?』

 

『ん、そうだね。今日は五目並べでいいかい?』

 

そういうと囲碁を取り出しておじさんは黒の石を取る。それを確認した俺も白い石を取り盤面に最初の一手を打った。

 

 

 

朝7時半

 

 

『待った!今の一手待った!』

 

『まちません!これで3回目ですよ!』

 

『それなら僕もさっき待ってあげただろう!』

 

『いやそれでも3回もOKしたら勝負として成り立たないでしょ!』

 

『年長者をもっと敬いなさいよ!』

 

『ちょ!?揺らさないでください崩れる!』

 

それからしばらく五目並べをしていた2人はやがて盤面を挟んで喧嘩を始める。側から見たら2人の大人が年甲斐もなくボドゲで争うなんていう地獄のような光景だが幸い彼らを見ることのできる人間というのはごく限られる。

それだけが救いであった。

 

 

『ってちょ?!引っ張られる⁈まさかもう登校時間?!』

 

『よし、よくやったみこ!残念だったね武命くん!この勝負はお預けだ!』

 

『さてはあんたこれ狙ってやがったな!大人なのに恥ずかしくないのか!』

 

『そんなもの死んでから振り切れてしまっている!』

 

『ちくしょう!娘と同い年くらいの男相手にあんた!』

 

『はーっはっはっは!今日も元気にいってきたまえ!』

 

 

しかしそんな醜い争いもやがて登校時間というタイムリミットを迎え終わる。武命はみこに引き摺られながらエコーを残して連れ去られるのだった。

 

 

 

朝8時

学校に着いたらすぐさま辺りの化物どもを処理していく。大物に当たることなどはごく稀でそのほとんどは雑魚ばかりなので倒すこと自体は楽だ。

 

『その代わり不快な奴も多いんだよな・・・』

 

女子校だからなのか不快な化物が多い。つい昨日現れたのは女子生徒の身体に張り付き胸や臀部を揉みしだく奴で、そいつは念入りに処分しておいた。

 

「おはよー!」

 

「あ、おはようハナ」

 

 

横に視線を向けるとみこの友達である百合川ハナが後ろから肩を叩いて挨拶をしていた。少しだけみこはびっくりするが相手が誰か気づくとすぐさま挨拶を返す。

彼女はクールな印象のみことは真逆の印象を抱かせる天真爛漫な女の子である。食べることが大好きでホラーが苦手。なのに何故か化物どもを寄せ付ける生命オーラを放っている子である。

 

「今日1時間目から体育だって。きついよね〜」

 

「え・・・マジ?朝からやめてほしい。体操服持ってきてたっけ・・・?」

 

「覚えてたら朝ご飯控えめにしてきたのに〜。失敗した〜」

 

「ハナってよく太んないよね。ずるい」

 

「いやいや、多分学校まで遠いからそれが運動になってるんだよ」

 

 

そんなたわいない話をするふたりを確認すると俺は更衣室に向かう。

決して着替えを覗きに行こうだとかやましい気持ちからではない。化物どもは陰気な場所を好む。誰もいない長い廊下や図書館の端っこ。誰も使わないトイレなんかに奴らは停滞するのだ。

 

『奴らの場合それだけじゃない気もするが・・・・』

 

そう言ってロッカーのひとつひとつに妖剣を振り下ろす。三つに一つの割合で手応えを感じることから中に奴らが潜んでいることは明白である。

いたいけな少女達を毒牙にかけるなど決して許さん。

 

 

最後のロッカーに妖剣を振り下ろす。

ブチリと言う音とともに何かが弾け飛びロッカーの隙間から体液が漏れ出る。そうして全てのロッカーの処理が終わるのを確認すると更衣室の扉をすり抜けて外へと出る。見ると生徒達が着替えようと集まってきているのですぐさま壁をすり抜けて校舎の側にふわふわと浮遊した。

 

少しの休憩を挟んだ後、今度は教室の机に同じことをするつもりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

扉を開けるとそこには恐ろしい光景が広がっていた。

 

(ひぇ)

 

「みこ入んないの?」

 

「あ・・・・・いや、入る」

 

そう言われて改めて更衣室の中へと入る。更衣室の中は辺りに黒い靄が漂い、いくつかのロッカーの中から血や骨のようなものが漏れ出ている。おそらく彼が私が来る前に倒してくれたのだろうけど・・・

 

 

(横着してロッカーの中で倒さないで・・・!)

 

確かに彼のおかげで怖い思いは格段に減った。しかし彼はこんな風に家以外だと横着をする癖があり、家では痕跡を残さないように外に連れ出してから戦うがそれ以外だとこのようにそのまま倒すなんてことも少なくない。

時間が経てば消えるとはいえそれで何度腰を抜かしそうになったことか・・・。

扉を開ければ周り一面血の海である。別ベクトルの怖さがある。

 

(あ、消えてく・・・)

 

そう言っている間に何かの死体は空気に解けるかの如く消えていく。

ハナはその間にもう着替え終わったのか未だ制服を持ったまま固まっている私を見て怪訝な顔を浮かべる。

 

「?どうしたの?体操服忘れたの?」

 

「いや、なんでも。ただ―――」

 

 

ふと考える。確かに別ベクトルの怖さはあるものの、ホラーよりかはマシだと。かつてこのロッカーを開けた時、上の棚の中から化物が覗き込んできたことがある。あの時は咄嗟にスマホを取る風に装って誤魔化したが手を近づけた瞬間謎の鳴き声を上げて腰を抜かした。

 

「何もいなくてよかったなって」

 

「何かいたことあるの?!」

 

 

 

 

 

放課後15時

今日も特に不穏な事なんかもなく無事に学校を終えた。

みこはハナと寄り道して行くらしくいつもと少し違う通学路を歩いている。

 

(こうして眺めるとやっぱり違和感がすごいな・・・建物とかに違和感を感じてないところからして死んだのは最近だと思うけど・・・)

 

化物達が闊歩する通路を歩きながら武命は考える。普通の景色の中に溢れる人でない存在達。それらに対して抱く違和感からかつては生きた人間だった事が伺える。しかし未だに何も思い出すことの出来ない状況に武命はイライラしていた。

 

(・・・どうしたんだろう?なんか考えてるみたいだけど・・・)

 

「ほらみこ!早く並ばないと売り切れちゃうよ!」

 

「あ、ごめんごめん。」

 

ハナに手を引かれ50%OFFセールのドーナツの行列に並ぶ。買い物帰りの主婦や自分達と同じような学生達が並んでおりそんな列の最後尾にて2人はどんなドーナツを買うのかを話し合うのだった。

 

(ええ・・・・・何あの列。あ、絡まれてる)

 

尚考え事をしながら歩いてたせいでいつの間にか化物どもの行列に並んでた武命は一番前にいた謎の大口の怪物をぶん殴っていた。食べられそうになったのだろうか?

 

 

 

 

 

放課後16時

目的のドーナツも買えほくほく顔の2人はふと路地裏から聞こえる鳴き声に足を止めた。

 

「うわあああかわいい。見て見て超ちっちゃい!」

 

 鳴き声の元に近づくとダンボールに入った子猫だったようで好奇心故かハナの指を舐めている。たまにはスプラッタではなくこんな風な癒しも必要だろうと考えたみこもよく見ようと覗き込む――――

 

 

『あ、あぶねっ!!』

 

 

前に武命はダンボール箱の中に手を突っ込み中から取り出したものを全速力で空に向かって投げ捨てた。

 

 

 

「え!?」

 

「?みこどうしたの?」

 

「いや、いま・・・・・あ、いや、ゴキブリが見えて」

 

「ひゃああっ?!」

 

 

咄嗟に誤魔化して注意をそらす。

そうして先ほど投げられ遠くに見えるシルエット。形からしておそらく猫ではないだろう。そっと深呼吸して息を整える。

 

(もう!だから横着!)

 

「どこ?どこ!今どこにいんの?!」

 

 

「ごめん、石と見間違えたみたい。」

 

「もう!やめてよほんとに!」

 

猫を片手に抱き寄せみこのほっぺたを軽くつねる。それに対してごめんごめんと謝ると改めて猫に視線を向けた。見たところ生後1ヶ月くらいだろうか?その瞳はまだ無邪気で初めて見た人である2人に対して全然警戒心を抱いていない。

 

「うーんどうしよう。うちじゃペット飼えないし・・・」

 

「とりあえず里親募ってみる?」

 

「あ、いいねそれ。写真撮って〜」

 

 

ハナは子猫を両手に抱えてお腹を撫でながら万歳の姿勢を取らせる。お腹を撫でられ気持ちがいいのか子猫は目を瞑りながらも鳴き声をあげている。そうして撮れた写真はなかなか可愛く写り募集も上手くいきそうだ。

 

 

『そういや猫って初めてだな・・・』

 

武命はそう呟くと同時に猫の顎の下を撫でようと手を伸ばす。しかしやはりと言うべきか腕は猫をすり抜けてしまい触ることはできず思わず肩を落とす。

 

(やはり知覚してない奴は干渉できないか・・・)

 

猫を触ろうとした手を眺めため息をこぼす。

そんな様子を見たみこは可哀想なものを見る目をしながらハナとともに近くの公園へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ゴーストの1日後編

放課後17時半

snsによって里親の募集をかけたみことハナは現在公園のベンチにて子猫とともに座っている。それなりの時間を過ごしていた為かハナは買ったドーナツをつまみながらあたりを見渡す。

 

「どんな人なんだろうその豪塚さんって人?」

 

「一応写真見たけど丁寧に猫を飼ってた人らしいよ?飼ってた2匹とも老衰したらしいし。ただ写ってる写真は少し怖いけど」

 

 

「・・・え?大丈夫?なんかヤのつく人みたいな感じするけど・・・」

 

横から写真を覗くとハナは少し汗を掻きながら不安を表に出す。同じく後ろから覗き込んだ武命はというと、そんなハナの不安とは真逆の意見を出していた。

 

『おお!猫又だ。よく見つけたなこんな人』

 

武命の瞳には厳つい形相のスキンヘッドの男性―――だけではなくその両肩に着いている二股に別れた尻尾の猫、猫又が写っていた。

 

猫又とは妖怪の一種で人に飼われた猫が老衰する事で変じる怪異である。一般的に猫又とはあまり良くないものと思われがちだが少し違う。飼っていた動物が怪異となるのは二つのパターンがあり一つは人の善意、信仰とでもいうべきか。それらを十分に浴びたものはその人に福を齎す守り神となる。

逆に歪な悪意や数多の雑念が混ざったままだと恐ろしい化物に変ずることもある。

見分け方自体は簡単だ。

 

 

『こんなに綺麗に猫又になるなんてよっぽど大事に育てられてきたんだな〜』

 

 

それは見た目である。正当な方法で妖怪となった動物の見た目は文献に記される妖怪達とほぼ同じ見た目をし、逆に雑念だらけだと歪な・・・それこそ周りにたくさんいる化け物と似たような存在となるのだ。

 

(・・・相変わらず聞き取れない・・・。でも悪い反応ではないっぽい?)

 

「みこ耳赤いよ?風邪?」

 

「・・・なんでもない」

 

彼に覗き込まれたことで耳元でする声に少し恥ずかしさを感じたのは内緒だ。

そのあと暫くして自分達のベンチに向かってくる人影に気づいたみこはSNSの写真と同じ人相であることを確認するとハナから猫を預かり手渡した。

 

「へ〜じゃあ結構慣れた感じなんですね」

 

「あぁ。それで暫くは飼育はいいかなって思ったんだがやっぱり1人だと寂しくてな・・・」

 

最初こそ警戒していたハナだったが少し話してみると人相が恐ろしいだけで見た目によらないと気づいたのか饒舌に話しかけていた。それを眺めながらみこは男性の手を舐めている子猫の頭を軽く撫でながら横の幽霊に視線を向ける。

 

(・・・めっちゃ光ってる)

 

武命の周りにはぼんやりと光り輝く2匹の猫又がぐるぐると走っておりそれを見ながら戸惑いの様子を浮かべている。

やがて慣れたのかそっと鎧で覆われた手を伸ばすと猫又は腕から肩に着地しオレンジに輝く仮面を舐めた。

 

(やっぱり悪いのじゃない・・・)

 

その様子を見ながら誰にも気づかれないように微笑むと立ち上がり男に礼を言う。

 

「その子のこと、よろしくお願いします」

 

「それじゃあ、大切にするから。今日はありがとう」

 

「また会おうね〜」

 

ハナは名残惜しいのか子猫の頭を涙目で撫でたあと離れてゆく男性の背中に向けて声をかけた。

 

「みこのいう通り人って見かけによらないね。すっごくいい人だった!」

 

「そうだね・・・。あ、あの人のSNS教えとく。多分写真載せると思うから」

 

  「え!教えて教えて!」

 

手を振っていたハナにそう呟きスマホの画面を見せて先ほどの男性のアイコンののったものを見せる。投稿された写真にはこれまで飼っていたであろう猫の写真が幾つも投稿されておりそれを見てハナは目を輝かせながら自分のスマホでアカウントを探す。

 

 

 

「ちょっといいかな?」

 

 

 

ふと

そんな2人に話しかける男がいた。

 

「君たちが里親募集の人?子猫引き取りたいんだけど・・・」

 

そんな問いに2人は顔を上げると話しかけた男に視線を向ける。

男はほわりとした雰囲気を纏っており整った顔立ち、清潔感のある服装。先ほどの男性とはまた別の優しそうな印象を抱かせる男だった。

 

 「あー!ごめんなさい!実はさっき引き取られちゃって・・・」

 

 ハナは申し訳なさそうに離れてゆく男性に指を刺し頭を下げる。みこも咄嗟に同じく頭を下げようとして―――――――――

 

 

 

 

 

『やばい!』

 

 

衝撃音とともに目の前に立った武命が何かを弾いた。

 

(え・・・?)

 

彼が何を言ったのかはわからない。ただ妙に焦りを感じさせる言葉を叫んだと同時に手に持った妖剣を振り上げみことハナを何かから守った。

それと同時にみこは目の前に立つ男性の背後を見た瞬間。

 

一気に冷や汗を浮かべた。

 

 

(この人・・・・・!)

 

 

『マジかよ・・・!この男、何を拗らせたらこんなことになるんだよ⁈』

 

男の背後にいたのは先ほど見た猫又とはまるで正反対な見た目の存在だった。これまで見たような人型の化け物たち、そしてそれらと同じ印象を浮かばせる異形の猫の化物がぐちゃぐちゃに混じったものが取り憑いていた。

 

 

そしてそんな怪物が幽霊に対して幾つもの爪を伸ばして攻撃を加えていた。

 

「えぇ・・・もう子猫いないの?」

 

「ほんとごめんなさい・・・。私たちが見つけた時子猫は1匹だけだったので」

 

「そっか、残念。もっと早く来るんだった・・・」

 

 

男は肩を落として2人に背を向けて離れようとする。しかしそんな中でも猫の化物たちは尚も武命に攻撃を加える。否、武命にではない。

 

(私たちを狙って・・・!)

 

 

 

 

『ダイカイガン!オレ!オメガドライブ!』

 

武命が足に炎を纏って蹴りを放つ。その攻撃により猫の化物の一匹を消し飛ばすと同時にもう1匹に対して同じ炎を纏った拳を叩き込もうとするが――――――

 

 

 

 

ミルナ

 

 

 

 

巨大な腕が掴んだ。

次の瞬間武命の鎧に幾つもの蜘蛛の爪が突き刺さり、みこたちのすぐそばまで吹き飛ばした。

 

『うがぁあああぁあぁッ・・・・!?!!』

 

身体から黒い血を流しながら膝立ちをする武命。そんな様子を見たみこは目を見開き驚愕する。

 

(そんな・・・彼が敵わない・・・!?)

 

これまで彼は自身やハナ、家族を化物から守ってきた。時には家のように大きな化物と戦ったことすらあった。だが彼はそんな相手をものともせずに勝てる程強い。そんな彼が血を流している。

改めて男の背中を見る。そこには先ほどまでなかったはずの蜘蛛の足のような何かがいくつも飛び出ておりさらに奥の暗闇からこの世のものとは思えない二つの眼光がのぞいていた。

 

 

『ち、ちく・・・しょう・・・!このままやらせるか・・・!』

 

2人を守るように立ちはだかる幽霊。幸い追撃はなく黒い影は男が離れるとともにゆっくりと消えていき見えなくなる頃には完全にいなくなっていた。

 

それを確認すると幽霊は剣を突き膝立ちになりながら息を荒くする。その様子にみこも焦りを浮かべる。

 

(どうしようどうしようどうしよう・・・!救急車、は無理だし・・・早くしないと!)

 

涙目になりながらあたりをキョロキョロするみこ。

そんな様子に気づいたハナは心配した様子で話しかける。

 

「みこどうしたの?何か無くしたの?」

 

「あ、いや・・・ちょっと・・・・ッ!」

 

 

そして気づく。

みこは自分の持っていたドーナツをハナに差し出して言い放った。

 

「ごめんハナ!いきなりだけどこのドーナツ食べて!」

 

「ええ!ほんといきなりどうしたの?」

 

「いいからお願い!」

 

急なみこの様子にオロオロするもハナは受け取ったドーナツをパクリと一口齧る。

すると次の瞬間、幽霊の傷がゆっくりと塞がり始めた。よく見るとその傷口がわずかながら発光していることに気づく。

それを見たみこはほっと胸をなで下ろす。

 

「ごめん・・・なんか死にそうだったから」

 

「私そんな死にそうな顔してた?!」

 

ドーナツを頬張りながら心外だと言わんばかりに怒るハナ。

武命は以前昼食の最中に襲ってきた化物からみこたちを庇った際傷を負った。しかしハナのそばに近寄った際その傷口が塞がって治ったことを咄嗟に思い出したのだ。

 

 

(よかった・・・!よかった!ちゃんと治った!)

 

「ええ・・・。私飢え死にでもしそうだったの・・・!」

 

治ってゆくのを確認しながらみこは涙目で武命を見つめる。そしてそんなみこを見たハナは手鏡を取り出し自分の顔色を確認するのだった。

 

 

そして息を荒くした武命はバックルから目玉を取り出しその姿を消していった。

 

 

 

 

 

 

深夜0時

 

 

体に包帯を巻かれた武命は屋根の上で星空を眺め夕方出会った化物を思い浮かべていた。

 

『あの化物・・・多分女郎蜘蛛だな・・・』

 

女郎蜘蛛

日本各地に様々な伝承があり、糸で人間を操ったり、動けなくして捕食する存在である。美女の姿とされる事が多く、必ずしも人間を殺すとは限らない。 しかし今回出てきた女郎蜘蛛は明らかに壊れていた。

 

 

『周りの猫又の様子を見るに・・・母親か、それとも恋人か・・・』

 

最初に彼に取り憑いていた猫又はおそらく殺されたのだろう。あの周りの怪物たちを取り込んだ姿からそれらは容易に想像できた。しかしその割には男に対して攻撃しておらず完全に取り憑いているだけといった印象だ。そこから考えるに―――――――

 

 

『あの女郎蜘蛛に取り憑いてる』

 

しかし女郎蜘蛛の思念の方がはるかに強いがためにあの猫又はおそらく逆に取り込まれてしまったのかもしれない。今回戦った女郎蜘蛛はこれまでとは比べ物にならないほどの強さを有していた。そしてあの執着の強さ・・・。

 

『あのままだとあの男の魂まで混ざってしまう。どうにかしてやりてぇがな・・・』

 

立ち上がりながら武命はポケットの中から黒い炎の縁取りのついた目玉を取り出しながら月を眺める。みこのそばから離れるのは難しく、あの男がどこにいるのかももはやわからない。

 

『オレは何もできなかった。今日は2人には助けられたな・・・』

 

その上今日は2人に助けてもらった。本人たちはきっと無意識での行動だったのだろうがそれでも自分にとってあの場でのあの行動は本当に助かった。情けないやらありがたいやらと色んな言葉が頭の中を行き来する。

 

そんなやるせない思いを抱きながら武命はその夜を過ごすのだった。

 

 

 

 

 

 

深夜0時半

 

彼があんなに傷ついたのを見たのは初めてだった。

 

「・・・・」

 

布団を頭から被りながら今日起こったことを考える。

あの時私たちを庇いながら戦って、そして傷ついてしまった彼。それを思い浮かべながら考える。もし彼がいなかったら私はどうなっていたんだろう。未だに化物に害という害を受けたことはないが、それもこれも見えるようになってから彼が守ってくれていたからだ。

 

ごろんと寝返りをして窓の外を覗く。月夜に照らされた外にはこれまでのような化物たちは見えず、あんな怪我の後でも戦って私を守ってくれていたことが窺える。

 

「無茶・・・しないでよ・・・」

 

みこはそう呟くと頭から布団をかぶってくるまった。そしてしばらくするとわずかにその布団が揺れ始める。そんな様子を窓から入る月の光だけが覗いていた。

 

 

 

 



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倒さないという事

今日は休日。

みこはバスに乗って街に来ていた。

ハナと遊ぶというのも目的の一つではあるが、今回の目的は数珠を買いに行くことである。

 

(私も自分で身を守れるようにしないと・・・・・)

 

みこはおととい起こったことを思い出しながらネットで数珠やパワーストーンのことについて調べていた。

彼女の守護霊こと武命はその日手も足も出ずに敗北した。女郎蜘蛛から受けた傷はとりあえず塞がったものの未だ鎧の装甲には跡が残っている。いつも自分や家族、友達のために戦ってくれている彼のためにも。そして自分自身で身を守るためにも出来ることをしようと考えたのだ。

 

(ブレスレットの方がいいかも。周りから見るとわかりにくいし。あと可愛い)

 

待ち合わせのカフェでパワーストーンの効果などを調べながら横に立つ彼を見る。

バスに乗っていた時も後ろの席に座っていた首がいくつもある怪物を外から引き摺り出して追い出していた。あんなことがあったにもかかわらずまたすぐ戦い始める彼の仮面からは、何を考えているのか読み解けない。

 

(てかバイクとか持ってたんだ・・・いや、あれってバイクなのかな?)

 

彼は今日バイクに乗って私の後をついてきていた。バイクと言ってもそれはあくまでらしきもの。フルカウルの前面に何故か口がありタイヤが凄い勢いで炎を上げていた。もしかしたらあれも怪物の一種なのかもしれない。

 

(・・・そういえば私、彼について何も知らない。)

 

(元々人だったのかな・・・。いつも消える時一瞬人の姿が浮かび上がるからそうだとは思うけど・・・)

 

(たまに横着で、あとベルトで変身したりバイクみたいなのに乗ったり・・・なんかのヒーローみたい。見た目は悪者っぽいけど・・・)

 

 ふと浮かんだ疑問から次々とわからないことが浮かんでくる。彼が自分に取り憑いてからだいぶ時が経ったが未だに自分を守ってくれているということしかわからない。

彼に話しかけようにもなかなかその機会が訪れずいつも悪いタイミングで怪物は襲ってくる。とはいえ話しかけたところで彼の声は聞き取れないのだが。

 

(もしかして調べたらなんか出てくるかな・・・)

 

そうして一度気になったのかみこは手元の携帯を操作して彼について調べ始めた。こんなに色々特徴があるのだ。もしかしたら何か守り神とかそういった類の情報があるかも知れない。

 

(キーワードは・・・乗り物、マスク、ベルト・・・)

 

 

 

三つのキーワードから検索をかける。Wi-Fiの接続が良くないのかなかなか表示されず白い画面のままの状態が続く。

携帯画面を眺めながら抹茶ラテを飲む。少しずつキーワード検索結果が表示されていきついに結果の表示――――となった時。

 

 

 

「嘘じゃないってば。うん、オレも楽しみにしてる。愛してるよ」

 

 

 

 

ふとそんな声と共に男性の声が聞こえてきた。その声に反応して顔を上げたみこはすぐさまそんな自分の行動に後悔する。

 

(うわぁ・・・・)

 

目の前の整った青年。

その隣に居たのは女性の異形だった。パッと見た目人型をしているが纏っているワンピースはボロボロでその肌の色は生きている人間では決してみない色をしていた。

そんな異形が男性の耳元で仕切りに愛しているという単語を壊れたスピーカーの如く呟き続けていたのだ。これには色々見慣れているはずのみこですらドン引き。というか隣の彼すらもドン引きしていた。

 

 

『うわぁ・・・このあいだとは別ベクトルでひどいな・・・。何やったんだこの男』

 

その様子に何かを呟きながら少し後ろに下がる彼。仮面の下の表情はわからないもののきっと今彼は自分と同じ表情をしているんだろうと思った。

そんな風に見過ぎていたためだろうか。唐突にその男性と目があってしまった。

 

 

(あ、ヤバい・・・)

 

咄嗟に目を逸らすみこ。そんな様子を見て勘違いしたのか男はその整った顔でにこりと微笑みみこを見る。

瞬間、先ほどまで男しか見ていなかった女の異形がグルリと首をこちらに向け凄まじいまでの眼光で睨みつけてきたのだ。

 

 

(変な勘違いされた・・・・!)

 

みこはそのままそちらを見ないようにするため携帯を再び起動させ画面をスライドさせる。

だがそんな事は知らないとばかりのみこの前方からヒタリ、ヒタリと足音が聞こえてきた。急いで何か気をそらせるための画面を起動しようとする。しかしWi-Fiがやはり遅いせいなのかなかなか動画に繋がらない。

 

(なんで毎回こんなことに・・・・!)

 

心中怯えと理不尽に対する苛立ちで涙目になるみこ。しかしそんなことは関係ないとばかりに音はすぐ近くまで迫りみこの視界に異形の足が映る。

それに思わず強く目を閉じた瞬間――――――

 

 

 

 

 

『この子は俺のだ。手を出すな』

 

 

 

 

その声に思わず視線を横に向けると自分の隣に彼が座り込んでいた。私の肩を抱き寄せ私の右手に自身の手を重ねていた。するとそれを見た異形は先ほどまで進めていた足を止めて私の隣に座る彼に視線を向けた。

 

 

『悪いなデート中に。この子はただ声が聞こえて気になっただけなんだ。普段そういう機会がなかったからな』

 

やはり聞き取れないが彼は異形と会話をしているらしく横に座っていながらその視線はこちらに向いていない。しかし感触こそないものの肩に添えた手には力がこもっている様子だった。 

 

『この子があんたの恋人に手を出す事はない。だから安心してデートを再開しな。それでも手を出すと言うのならこっちも黙っちゃいないぞ・・・』

 

再び何かを呟く彼。その言葉を聞いた異形は私と彼を交互に見つめたあとやがて大丈夫だと思ったのか男の横へと戻っていった。

 

 

『・・・バレたらおじさんに怒られるな』

 

彼はそれを見て何かをつぶやくと立ち上がり再び私の隣に立った。

しばらく静寂が続く。男の方はまだ勘違いをしているのかチラチラとこちらを見てくる。

すると入口の方からベルの音と共に聴き馴染んだ声が聞こえてきた。

 

「みこーッお待たせ〜」

 

どうやらいつのまにか時間が来ていたらしく私服姿のハナがコチラに向かって手を振っていた。それに対してみこも「今行くー」と返して席を立ちハナ元へと近づく。

 

「ハナ遅いよ」

 

「ごめーん急行乗っちゃって」

 

申し訳なさそうに頭を下げながらこちらに近づく。それを見計らったのか先ほどの男も立ち上がりこちらへと近づこうとする。

すると彼はどこから出したのか銀の玉、パチンコ玉を取り出して男の足元に向かって投げつけた。パチンコ玉はコロコロと男の足の裏へと転がっていきそれに気づかず踏みつける。

 

「うお?!」

 

歩き出そうとしていた為か立ち上がってすぐ転び再び椅子に座る男。視線をみこに向けようとするが既にその頃には店にはおらず向こうへと去って行った。

 

「くそ、しまったな。タイミング逃した」

 

「おまたせユウくん」

 

 

悪態をつく男のそばに整った容姿のーーーーしかしその背に幾つもの人型の異形を背負った女が近づいて話しかけた。

 

「ねぇさっきの子知り合い?話しかけそうになってたけど?」

 

それを見て男はわずかに眉を顰めるがそれに気づかれない様明るい口調で話すのだった。

 

 

「みこまた風邪?顔真っ赤だよ?」

 

「いや、ほんと・・・・なんでもないから・・・!」

 

ハナに付き添われたみこは先ほどのことを思い出しながら赤面していた。みこは生まれてこの方男子との親しい関係など築いた事はなく、通っているのも女子校であった為接触に慣れていないのだ。

そしてみこの守護霊である武命は普段は変身しているものの変身を解いた際一瞬見える素顔はそれなりに整っており、親しみもあったことも含めて突然の行動にびっくりしたのだ。

 

「と、とりあえずドンキ行こう。買い物終わらせて早くご飯食べたいしハナもまだ何も食べてないでしょ?」

 

「え、そんな早く終わらせていいの?」

 

「いいからいいから・・・・!」

 

ハナの背中を押して先を急がせる。そんな様子を見てハナと武命は疑問符を浮かべるもすぐに気を取り直し目的地へと歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

『・・・・・おとなげない』

 

2人の背中を見つめながら思わずそうつぶやく。

いくら男の軟派な態度を目にし苛立ちを覚えたとしてもわざわざ攻撃するほどのことではなかった。

みこちゃんのことだからきっとスルーしてそのまま買い物に出かけただろう。

だが取り憑いた化け物に目をつけられた時思わず気が立ってやってしまった。

 

『怪我がないとはいえ・・・』

 

今回のように幽霊としての立場を利用し自身の感情に任せて行動するなどそこらの化物と一緒だ。自分は奴らとは違うと自分自身に決めた以上たとえ小さなことでもやり過ごす精神を持たなければならない。

 

『とはいえ、お互い怪我もなく終わったのはよかった。向こうの化物もなんとか引き下がってくれたし・・・』

 

そう言って武命は先ほど目にした化物について考える。

自分の役割は守護霊だ。

そうである以上みこやその周囲の人間を化物から守らなければならない。だが今回目にした悪霊は、みこが襲われそうになっていたにもかかわらず退治する気にはなれなかった。

 

『・・・・・』

 

 

 

確かに奴は化物だ。このまま男が変わらなければきっといつか生きる人に仇なす存在となるのだろう。だが、それを知ってもなお攻撃しなかった理由。

 

『涙の跡・・・』

 

 

変色した皮膚であるにもかかわらず武命にはそれが涙を流した跡だと言うことがはっきりわかった。

彼女は男の耳元でずっと愛を囁いていた。しかし男はそれに気づく事なく別の女性との話に夢中。彼女が生きていたものが変じたのか、それとも元々の怪物がおかしかったのか。どちらなのかは武命にもわからない。

 

どれほどの長い間憑いていたのだろう。

 

どれだけの想いが募り、にもかかわらず届けることができなかったのだろう。

 

ただ決して届くことのない想いを伝え続けると言うその行為に、武命はどうしようもなく胸を締めつけられた。

 

 

『・・・俺はどうして死んでいるんだろう』

 

 

先ほどみこと重ねた――――否、触れることすらできなかった自分の手を眺めながら、武命は2人の後を追いかけた。

心に一抹の寂しさを抱えながら――――。

 



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初めての遭遇者

(煙水晶の数珠4つ。これで少しは身を守れる・・・はず)

 

煙水晶の数珠4つを腕に通しみこは心の中で呟く。

あれからドンキに着いた2人はそれぞれ買うものを物色していたがその中でみこはアクセサリーコーナーにて4つの数珠を購入した。

 

(煙水晶・・・破邪の効果がある、とか書いてあったけど・・・)

 

「ドンキってほんとなんでもあるねー」

 

「またそのぬいぐるみ買ったの?」

 

ハナも買い物を終えたのかこちらに寄ってくる。その手の中には彼女が集めているウサギのぬいぐるみがあり彼女の家でたくさんあるのを思い出したみこは呆れた様につぶやく。

 

「家に腐るほどあるんでしょ?」

 

「たくさんある方が可愛いの!みこも数珠4つもつけてるじゃん」

 

「いっぱいあった方が強いでしょ・・・」

 

「強い?」

 

頭に疑問符を浮かべながら2人は店を出て次にどこに行くかを物色しながら大通りを歩く。

 

「ほんとに数珠って流行ってるの?つけてる人ほとんどいないけど」

 

「うん、最先端だから・・・。これから流行り出すはず」

 

「ふーん、私も買っとけばよかったかも」

 

ハナがそうつぶやくと同時にみこはふと頭にこれまで出会ってきた化け物たちを思い浮かべる。普段一緒にいる時は彼が守ってくれる。でも自分と彼がいない時にハナの身にもしものことがあれば・・・。

そんな不安が沸々と湧いてきたみこはつけていた数珠のうち二つを外しハナに差し出した。

 

 

「え、くれるの?ありがとー!」

 

「うん(ハナの防御力も上げとかないと・・・)」

お揃いだー!と喜ぶハナを横目にみこは後ろにいるであろう彼に意識を向ける。

彼はふわふわと浮かびながら電線に止まるカラスを眺めている。そんな時ふと思い出した疑問。彼について調べていたことを思い出した。

 

(そうだ・・・検索結果出てきたかな・・・?)

 

先ほどの喫茶店ではWi-Fiが混雑していたのか繋がりにくい状態だったが今ならいけるのではと考え改めて検索する。そして検索結果の一番上に出た記事をながめたみこは目を見開いた。

 

 

(都市伝説・・・・?仮面ライダー?)

 

その記事は都市伝説について様々なことが書かれたオカルト掲示板で,そんな記事の中の端っこにそれはあった。

 

(仮面ライダー・・・悪の組織の怪人と戦うヒーロー。バイクに乗って、ベルトで変身する・・・!)

 

そこまで読んだみこは改めて彼に目を向ける。

 

仮面ライダー

1970年代より世で噂される都市伝説。

仮面をつけバイクに乗るその存在は日夜悪の秘密結社と戦い続けているというものだ。

確かに彼はベルトの様なものを腰に巻き化け物と戦っている。その上今日はバイクに乗って私の跡をついてきていた・・・。

みこはまだ情報はあるかと携帯の画面をスライドさせ、そこに目撃イラストと題されたものを見つけるとそのイラストをクリックした。

 

(全然違うじゃん・・・)

 

しかしそこに描かれていた者は彼とは大きくかけ離れたデザインをしたヒーローだった。そのイラストのヒーローはバッタに似たデザインでクビにマフラーをつけているし目も昆虫の様に複眼で色も赤だ。ベルトのデザインは似ているがとても彼とは同一と思えなかった。

 

 

(・・・期待して損した)

 

「お礼にお尻大福奢るよ〜」

 

「お尻大福・・・?なにそれ?」

 

「もちもちふわふわで美味しいんだよ〜。こっから行くと近道になってるの」

 

 

ハナに話しかけられて咄嗟に返したみこ。

それが災いしてからハナは人気のない路地裏へと踏み合ってしまった。こう言った場所に化け物が集まりやすく以前も彼に助けてもらった。

 

「ちょっと待って・・・」

 

「早く早く!いちごお尻大福もあって美味しいんだけどこれは限定のやつだから早くしないと売り切れちゃう」

 

「ていうかお尻大福ってすごい名前だね・・・」

 

だがいざ入ってみると周りにいた化け物たちは2人を避けるかの如く離れていく。そんな様子にみこは数珠に目を向けほんとに効くんだ、と心の中で漏らす。

効果を実感して安心したのかみこは軽やかな足取りでハナと並んで路地裏を出るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2人の少女の背中を繋ぎを着てクビに鎖を巻いた化け物が覗く。

 

かゆい

 

かゆい    かゆい 

 

   かゆい

 

化け物は2人と入れ違いになる様に壁を路地裏のビルの壁から現れた。あとほんの少しみこが歩くのが遅れていたら遭遇したであろう化け物は2人の後ろをつけようとゆっくりと足を動かす。

距離は段々と縮まっておりこのままいけば2人の背中にピッタリ辿り着くだろう。

 

 

『ダイカイガン!オレ!オメガドライブ!』

 

 

キン

 

 

 

ふと、怪物の耳に謎の音声と高い金属音の様なものが響いた。

怪物は後ろを振り返る。

そこにいたのはパーカーを纏いオレンジの顔をした火の玉の様な存在――――武命だった。

 

 

『これでもう痒くないだろ?』

 

そう言われて化け物は自身の首に鎖が巻かれていないことに気づいた。下をみると自分の首を締め上げていた鎖は地面にバラバラに砕けており、長い間締まり続けた首が楽になっていた。

 

 

・・・・

 

『もう迷っちゃダメだぞ』

 

武命はそう言うと手に持った妖剣を蝋台に変化させ、みこの後ろに戻っていく。

それをしばらくの間眺めていた怪物はやがて頭にかぶっていた頭陀袋をゆっくりと脱ぎ、武命の背に一礼をした。

 

 

 

 

 

その顔は、もう化け物ではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

下町のゴットマザーこと、タケダミツエは先ほどの客に目配せをした後、異様な存在を連れた二人組を見た。

 

(あれは・・・・!)

 

自分もそれなりに長い人生を送ってきた。かつては上から数えてもいいほどの力を持った霊能力者であった。しかしあの事件以降、自身の力は少しずつ衰え今では詐欺まがいのことをやりながら生計を立てる生活をしていた。

そんな自分が鳥肌を立てるほどの存在・・・まるで死神の様な格好をしたそれに思わず目を疑った。

 

 

(ここまではっきり見えるとは・・・!)

 

 

額に冷や汗をかきながらその存在を見て、それに取り憑かれている少女たちに視線を向ける。少女たちは特に変わった様子もない者たちで、茶髪の少女は凄まじい生命エネルギーを発していたことから黒髪の少女に憑いているのだと気づいた。

 

 

(・・・見捨ててはおけん!)

 

孫ほどの年頃の娘を見捨てるほど腐りきってはいない。

全盛期の頃に生成し、使うことはもうないと封印していた特注の数珠。先ほど歩いて行った少女を追いかけようとその数珠を片手に準備するミツエ。

 

 

『あの・・・』

 

 

 

ふと、そんな彼女の背後から声が響いた。

全身に冷や汗が湧き出る。ゆっくりと首だけ振り向くと、そこには先ほどまで少女たちの後ろにいたはずの死神が蝋台を片手にこちらに語りかけていた。

 

 

 

 

『もしかして、俺のこと見えたりします?』

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

 

 

「あ、あんた、喋れるのかい?!」

 

『え、あ、はい。喋れますけど・・・』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇハナ。ちょっと見ていかない?ここ気になる(どうしたんだろう・・・?占いの館に入っちゃった・・・」

 

 

「あ!ラムラビあった!よくこんなとこ見つけたね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどね。それであの子の守護霊をしていると」

 

『はい、なんかあの子色々取り憑かれやすくてほっとけなかったんです。それにあの子から離れられないし・・・』

 

武命は現在、占いの館にて初めて自分を認識できる人間と対話をしていた。

タケダミツエはどうやら霊能力者らしく、自分の姿をじっと見ていたのはみこを助けようとしていたのことだったらしい。

 

「それにしてもそこまで変質しておいてよくまだ人の意思を保ってられるね・・・」

 

『あ、いや。この姿ってこのベルトで変身してるんです。こんな風に。』

 

ベルトから目玉を取り出して自身の通常の姿を見せる。ミツエはそれを見て驚いたのか、大きく目を見開いた。

 

「?!・・・」

 

『その、ミツエさんはこのベルトについて何か知っていますか?俺自身も記憶が無くて何もわからないんです・・・』

 

武命は持っていた目玉をミツエに差し出す。彼女はそっと受け取ると様々な角度から眺める。

 

 

「・・・まず、この目ん玉はお前さん自身だ。この目ん玉からはお前さんと同じ霊気を感じるし、何より変身を解いた時気配がこの中に吸い込まれていた」

 

『え?でも俺ってここにいますよね?』

 

「それについてだけどね、お前さん『ドッペルゲンガー』というのを知ってるかい?』

 

『それって・・・自分と同じ姿をしてて見たら死んでしまうとかいう?』

 

「大体合っている。その正体は自身の魂、又は精神で出来ており、なんらかの影響で身体から抜け落ちる事で現れる。そしてそれに出会ったら死ぬんじゃなくて再び一つに戻る。その瞬間の記憶も本体に入るから死んだと感じるのさ」

 

『・・・ということは俺の記憶がないのも』

 

「おそらくその目ん玉の中だろうね・・・」

 

それを聞いた武命は思わず目玉を凝視する。

 

(これがもう1人のオレ?!そんなプラナリアみたいなことになっていたのか?!?)

 

 

「そしてベルトについてだけどね。悪いがそれについてはよくわからない。だが、一つだけ言えることがある・・・・」

 

『? それって一体・・・・・』

 

 

ミツエは一瞬ベルトに視線を向け、少し間を置いてから武命に言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そいつは人の手によって作られたもんだ。つまりお前さんは人の手で生み出された存在である可能性が高いんだ・・・」

 

 

 

 

 

 

『・・・ん?』

 

武命は三枝の言葉を聞き、わずかの間沈黙するとすぐに疑問符を浮かべた。

 

『え?このベルトの話ですよね。なのに俺が人の手で生み出された存在?』

 

 

「ああ・・・・」

 

改めて聞き直しても間違っていない様でそのことで余計に訳がわからなくなる武命。しかしそこを補足するかの様にミツエは答えた。

 

 

 

「わかんないかい?いや、生きた人間と会話をしたことがないから仕方ないか・・・・・・これまであんたが出会ってきた奴らを見ても分かるとおり、霊の変質ってのはごく自然に起こることなんだ。」

 

『は、はぁ・・・』

 

「なのにお前さんは変質と反転をそのベルト1つで行うことができる。そんなもん誰かが意図的に手を加えないと出来るもんじゃあない。」

 

『・・・・・あ、』

 

 

そこまで聞いた武命はミツエが何を言いたいのか察した。

 

「つまりだ、お前はどこぞの霊能力者によって改造された幽霊である可能性が高いということだ・・・・・」

 

 

 

 

自分で呟きながらなんて酷いことをする奴がいるのだろうとミツエは思った。自分と同じ霊能力者による死者の改造。死者全てに安らぎが訪れることはない、そんなことはとっくに知っている。

しかしそれはあくまで当人たちの問題である。それが生きた人間によって弄ばれる筋合いはない。

勿論論理的な問題だけではない。

 

 

 

(ベルトに魂を封入した目玉を入れてそれを使った者に纏わせる。ならこいつを作ったやつは、この小僧に何を纏わせようとしたのだろうか・・・)

 

そう、つまるところそこである。そんな大層なものを作り上げた者がただ己自身の魂を纏わせるだけで終わらせるはずがないのだ。

武命が持っているものはおそらくまだ完成品ではない。

 

本来何を目的としていたのか・・・

 

呆然とする武命を前にミツエはかつての弟子を一瞬思い浮かべるも、すぐに考えを改める。

いくらなんでもそこまで落ちることはないはずだと。

 

 

 

そしてミツエは自身の掌を見つめると心の中で決心するのだった。

 

 

(どうやら、まだまだ腐るには早すぎる事情に出会っちまったようだね・・・)

 

 

 



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普通の日常

何処か古風な雰囲気の城を背に迎え入れる様に彼は立っていた。

 

 

 

(ここは・・・・・)

 

彼は右手に持った蝋台に左手をかざすとそこに青い炎が灯り私をそっと照らす。私はそんな彼に手を伸ばすと彼も手をそっと差し出して私の掌に添えた。

 

(え!さ、触れる・・・あっ、ちょ、ちょっと・・・!)

 

ゆっくりと足を進ませ城の中へと入る。中は薄暗く、彼が手に持った蝋台と同じ青い炎を灯した蝋燭が辺りを不気味に照らしていた。真ん中のホールに着く。彼は側にあった小さい机に蝋代を置くと私のもう片方の手を握った。

突然のことに混乱する私をよそに彼はホールの中心へと私を連れ歩き、やがてその真ん中で今度は私の腰に左手を添えた。

何処からか音楽が鳴り響く。

そこからの私は、ただ彼に導いてもらいながら暗いホールで踊り続けた。最初こそ混乱したもののやがてそれも気にならなくなり今は音楽に合わせて身体を動かすのが楽しい。

 

(私・・・ここで何して・・・)

 

 

 

どのくらいの間踊っていただろうか。

音楽が消え辺りを静寂が包む。

 

 

(最後まで踊れた・・・!)

 

 

息を荒くしながら改めてみこは達成感も相まって周りを見渡す。しかし周りは相変わらず隣の彼しか見当たらず、夢中になってしまったことに対して恥ずかしさを覚える。彼はそんな様子を見せる私の顔を眺めながら赤く火照った頬に手を添えた。

 

(ひゃっ!つ、つめたい)

 

その手は冷たく鎧のせいでゴツゴツとした感触を感じる。しかしその手が彼だと考えるとその冷たさをかき消す様に余計頬に熱が宿る。

しばらくされるがままの状態が続き、ふと左手で私を抱き込んだ。

 

 

(ふひゅ!?ちょ、まって!私、心の準備というか覚悟というかちょっと――――)

 

仮面とパーカーで覆われた彼の顔が近づく。未だに言葉を交わしたこともない仲であるはずなのに、みこはそんな大胆な行動をする彼に対して驚きと照れを自覚した。

 

ま、まって・・・!

 

わ、私まだ

 

あなたと話も―――――――――!

 

 

 

 

 

 

 

 

ん・・・・ふッ。やぁ・・・・・・ダメッ!!!」

 

 

 

目覚ましのベルと共に意識が戻る。

勢いをつけて起きたみこは、そこが自分の部屋であることに気づく。

 

 

 

(・・・・・・)

 

 

状況を把握したのか、みこはさっと頭を抱えると先ほど見た夢を思い返して夢と同じ様に頬を赤く染めた。

 

(・・・・ッ!?・・・・!・・.!!)

 

 

「姉ちゃんご飯できたぞ・・・ってどうした?」

 

 

 

 

みこは弟が話しかけてくるにも関わらずその場を動かず、やがて弟に肩を揺すられるまでの一分間ベッドの上で顔を押さえながら固まり続けた。

 

 

 

四谷みこ、若干の人外フェチに目覚め始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在武命は屋根の上で空を眺めながら物思いにふけていた。

 

(記憶喪失の改造幽霊・・・・か)

 

日課である化け物退治も終わり、武命は昨日出会ったミツエとの会話を思い出す。最後に言われた自身が何者かの手によって魂を改造されたという事実。あの時ミツエは憐れむような目つきで自分を見ていたが・・・。

 

 

(属性盛りすぎだよなぁ・・・)

 

武命は全然ピンときていなかった。

当然と言えば当然である。彼の暮らしている日本はサブカルチャーの溢れかえった国であり、昭和前期とかならまだしもそこかしこに様々な魅力を発信する媒体があるのだ。それゆえに寧ろここまで色々な設定を乗せてしまって大丈夫なのだろうかとすら考えていた。

改めて変身した自身の姿を見つめる。

これがそこいらに湧き出ている化け物達の様にグロテスクさを醸し出す見た目になったのならまだショックを受けるかもしれない。しかし武命の本来の姿は人間の姿であり、その上変身したとしてもその姿はダークヒーロー然とした姿である。

 

(というかそもそも幽霊って時点で困ってるし・・・)

 

今の自分は誰とも触れ合うことはできないし食事も楽しめない、夜も眠れないし常にグロテスクなものが見える。

そこにいまさら改造なんて要素が追加されたところで大して変わらないだろう。

 

『みこ、またあの商店街のところ歩いてくんないかなー。ミツエさんにもう少し話聞きたいし』

 

あの後みこが店を移動したことで身体がゆっくり引っ張られていき、武命はミツエに向かってまた困ったことがあれば聞きに来ますと叫んで去って行った。この体になってそれなりの時間を過ごしてきたが初の見える人との遭遇に武命はワクワクしているのだ。

 

『・・・お、みこ起きたかな』

 

 

ふと身体が引かれる感覚を感じた武命は屋根からジャンプするとそのまま庭へと着地する。そして玄関へと回り中へ入るとちょうど階段から降りてくるみこを見つけた。

みこちゃんは何故か一瞬足を止めるもすぐにリビングの方へと向かう。

 

 

『・・・・?風邪でも引いたのかな・・・』    

 

 

顔を赤らめた様子を見て疑問符を浮かべるも自身の後ろから聞こえたエンジン音を聞きすぐさま振り向いた。

 

『お!終わったんだ。周りの化け物退治。ご苦労さん』

 

武命の振り返った先にいた物。それは先日武命が乗り回していたバイクであった。声をかけられたバイクは武命に対してヴヴンというエンジン音にて答えるとそのままベルトの中へと消えていった。

 

 

『いやー、まさかバイクまで手に入るとはな。妖怪ってほんとなんでもありだな・・・』

 

バイクの正体。それは付喪神を媒体に武命がエーテルを分け与えることで生まれた妖怪『カシャ』である。

カシャとは漢字で火の車と書き、悪事を働いた人間が地獄へ落ちると、地獄の入口にて乗せられて地獄中を駆け回る存在である。本来であれば聖霊馬とするつもりであったが、今回の場合死者を運ぶ乗り物である事、戦う乗り物が必要であることも相まって妖怪化の方を選択した。

ガソリン代わりとしてこいつは周りの化け物を食ってくれるためとても重宝している。

 

『蝋台といいカシャといいこのベルトってド○え○んのポケットみたいだよな〜』

 

変身を解いて元の姿に戻った武命はそのまま真守さんのいる仏壇に向かおうとするが、リビングでその姿を見かけたことでその足を止めた。

 

『おじさん今日はリビングなんだ』

 

『あぁおはよう。ちょうど良かった、実はちょっと聞きたいことがあってね』

 

そう言って新聞を読む真守さんは手招きをする。なんだか表情が焦りを感じていることに気づくが次の一言でそれらはどうということではない事だと知る。

 

『・・・みこにはまだ彼氏、居ないよね・・・?』

 

『・・・え、いや、自分それなりに取り憑いてますがそう言ったものは特になかったかと・・・』

 

『そ、そうだよね!うん、みこに彼氏はもう少ししてからだよね!』

 

そういうとわざとらしく声を上げて笑う真守さん。娘さんを心配するお父さんというのは色々大変なのだろう。

 

『あーでもこの間ナンパされそうになってたので確かにその内出来ても不思議ではないですね』

 

『え!なにそれ?!お、追い払ったよね!そのために君のストーカーを許しているんだからもちろん追い払ったよね!?』

 

『ちょっ、人聞きの悪いこと言わないでください!ちゃんとあしらいましたよ・・・』

 

それを聞いた真守はほっと息をなで下ろすと手に持った新聞をたたみ机に置く。

 

(・・・お父さんはなに言ってるのかわかるんだ。その内生きてる人との違いがわからなくなりそうで怖いな・・・)

 

2人のやりとりを見ながら冷や汗をわずかに流したみこはそれを悟られないよう椅子に座り焼けたトーストに手をつける。

 

「冷蔵庫に入ってたプリンって姉ちゃんの?」

 

「あ、あれ食べないでよ。お供えするやつなんだから」

 

「あー、そういえば前お父さんとそれで大げんかしてたもんね」

 

「もう、今はもう気にしてないよ」

 

そう言って苦笑を浮かべるみこを見ていた真守は嬉しそうに笑うと武命に向かって自慢げに言う。

 

『いやーやっぱりうちの娘最高だ!聞いたかい今の!』

 

『よく出来た娘さんですよね〜』

 

『ほんと、僕には勿体無いくらいだよ。・・・・・生きてた時、もっと話せばよかったなぁ』

 

 

『大丈夫、きっと通じてますよ』

 

やりとりを聞いていたみこはなにもない様に見える空間に向かって話す幽霊の父を見ながら思う。

彼が自分の守護霊となってからしばらくして、仏壇の前に立っている父の姿を見た時は涙を堪えるのに必死だった。しかし彼と話す様子はほぼ毎日見受けられ、そのうち何処から持ってきたのかボードゲームまでし始めた。

 

 

かつてはいつも思っていた。今日こそは見えなくなってます様に―――と。お父さんが亡くなって、そんな情緒不安定な時に見え始めた幽霊や化け物達。いつも怖がっていた。心を落ち着かせる時間や暇もなく、段々と近づく自身の限界。そして油断して、ついに自分が見えるということがバレてしまった時。

 

それは雨の日―――――私に迫ってくる化け物―――――そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『もう大丈夫・・・』

 

 

 

 

 

 

彼の声を聞き取れたのは、あの日だけだ。

あの日以降私の周りを、周りの人たちを守ってくれる彼。何故彼が助けてくれるのか、それは今もわからない。ただ私はその日から周りに怯えなくても良くなり、前よりも視界に入る化け物が少なくなった。

 

 

冷蔵庫のプリンを取り出して仏壇に置き、鞄を持って学校に行く準備をする。その背中をお母さんが心配そうな目で見つめる。

 

「みこ・・・」

 

私は振り返ってお母さんの顔を見る。お母さんは少し目を見開くとすぐに安心した顔を浮かべ手を振った。

 

 

「行ってきます!」

 

私の顔には笑顔が浮かんでいた。

 

 

かつてはいつも思っていた。今日こそは見えなくなってます様に―――と。

でも今は、それが少しだけ惜しいと思う。

 

 

 

 

 

『じゃ、俺も行ってきますね〜』

 

『・・・・・』

 

『真守さん?』

 

『渡さないよ?』

 

『?プリンですか?』



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空の器前編

かつて出雲の国には、周囲から酷い差別・迫害を受けている部落があった。

 

 

その部落に1868年の隠岐の反乱で反乱を起こした側に属する男が一人落ち延びてきた。

 

 

部落の人間は、これ以上の厄介事を抱えたら迫害がさらに酷くなると考え男を殺そうとしたが、男は「命を助けてくれたら、武器をやる」と取引を申し出た。

 

 

その武器というのが、他ならぬ『■■■■■』の作り方であった。

 

 

その箱を作るには、あまりに凄惨で非人道的な行いに手を染める必要があった。 しかしそんなことも構わずその部落の人間は■■■■■を作った。

そして最初に作られた■■■■■は部落へ差別を行っていた者たちの元へと送り込まれ……わずか2週間足らずで、庄屋の家の女が1人と子供が15人、血反吐を吐いて苦しみ抜いて死んだ。

 

この殺戮劇をもって、部落は周囲の全ての地域に伝えた。

「庄屋の家の惨劇は自分たちの呪いの効果である。今までを許す事はできないが、放っておいてくれれば何もしない。仕返しを考えたりすれば再びこの呪いを振りまく。呪いの箱は既に7個あり、これからも作り続ける」と。

 

こうして■■■■■は作られ、使われ、最終的に失敗せず完成した物だけでも16個の箱が作られたある時。

しかし部落の中で、子供が知らずに持ち出してしまい惨劇が起きた。

ひとつ間違えれば自分自身でも制御できない諸刃の剣である事を改めて思い知った部落の人間は、箱の処分を試みるために、近くの地域の神社に持ち込んだ。

 

しかし、呪いはあまりに強すぎた。

その場で祓う事ができないと判断した当時の神主は、箱1つごとに担当グループを設定し、一定年数ごとに持ち回りで保管して呪いを薄める事を提案した。

現代までに大多数の箱は解体が完了していたが、「■■■■」と呼ばれる呪いが強い物はまだ解体出来ていないと言う・・・

 

 

 

 

 

 

ここまで話と全く関係のない事を語った事に疑問を浮かべるものもいるだろう。この話において何を伝えたいのか、それは霊障というものにおいて箱ーーー器とはとても重要な意味があるという事だ。

 

かつて神の血であるワインを受け止めたキリストの聖杯は持つだけで世界を手にすることもできると伝えられた。

 

中国の呪法である蠱毒は小さな壺の中にいくつもの蟲を入れ、互いに食い殺させる事で呪物と化した。

 

日本においても同じだ。

かつて■■■■■と呼ばれたそれは呪法として用いられた。だが勘違いしてはいけない。

この話の本質は呪う事ではない。

この話において大切なのは■■■■■は人の願いを叶えたというところにある。かつての■■■■■は怨念によって形作られその中にはあらゆるものを掴み、汚れとされた指を詰め込む事で生まれ、呪いという形で部落の願いを叶えたのだ。

 

 

    それによって広がった呪いは凄まじいものだった。

 

 

 

ではその中にきれいなものを詰め込めばどうなるのか。

 

 

 

      これほどまでの災害を起こせるほどの力があるのであれば、奇跡すらも願うことが出来るのではないか?

 

 

 

     それに気づいた部落の者たちは新たな■■■■■を作り出し、

 

 

  

 

 

    

 

 

    この世を見渡す人体において最も美しい部品ーーーーーー

 

 

 

 

 

 

   目玉を詰め込んだという・・・・・。

 

  

 

   

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ダイカイガン!オレ!オメガドライブ!』

 

『ダリャアッ!!』

 

エーテルを纏った蹴りが妖怪「手の目」に直撃する。その瞬間手の目の肉片が辺りにばら撒かれ街道を汚した。

 

 

『■■■■■■■■■■■!!』

 

しかし何事もなかった様に手の目は再び体から新たな触手を生やしてスナップを利かせ鞭の如く武命に向かって振り下ろした。強烈な破裂音と共に武命が吹き飛ばされ地面に転がる。

 

『ぐっがぁ・・・あっ・・・!』

 

打撃を受けた断面の装甲は半壊しておりその影響か装甲の下からオレンジの炎に包まれた肋骨が見て取れる。傷の痛みに悶絶しながらも武命は目の前に立ちはだかる手の目から視線を逸らさない。

 

『ぐっ・・・・!この間の、といい、トラブルの種が多いな・・・!』

 

妖剣を杖にしてゆっくり立ち上がる。武命はもはや満身創痍とでも表現するかの如くボロボロであった。

左手はあらぬ方向に曲がり、胴体の装甲はひしゃげたものの下から肋骨がのぞいている。仮面から発する光も弱々しくパーカーゴーストもあらゆる部分に破けやちぎれ、埃が付着して今にもぼろきれとなりそうだ。

 

ちらりと後ろを見る。

武命から20mほど離れた場所。そこには自分の宿主であるみことその友人であるハナは今日行くであろう映画について語っている。若干みこの方には違和感を感じるがひとまずは戦いの影響はなさそうだ。

 

武命はすぐ立ち上がり手の目に向かって妖剣を振りかざす。しかし手の目は片手でそれを封じると残った触手を振り翳し叩きつけようとする。それに対して武命は一度妖剣を手放すとそれらを蹴りで捌いていく。しかし手数に差がありすぎる故に拮抗はわずかな間しか保てず徐々にダメージを受けていく。

 

『しっつこいんだよこのかたつむり野郎!!』

 

もうわずかな拮抗も不可能と武命は判断すると再び妖剣を手に取りそれを変形させ妖銃へと変化させる。それと同時にベルトのレバーを押し込み今度は魔弾へとエーテルを流し込む。

 

熱線によって手の目が吹き飛ばされる。それによって再び間合いを得た武命は先ほどまでのことを思い出した。

 

 

 

 

 

いつものごとく遊ぶ約束をしたみこは駅にて友人のハナを待っていた。14時に予約をしていたのだが15分経っても来ない。

仕方なく電話をかけようと携帯を起動させたと同時に声をかけられ、やっと来たかと声の方に顔を向けるとそこにいたのは見るからに関わってはいけない存在を連れてこちらに走り寄るハナの姿。

 

「なんで!?」

 

『変身・・・・・・・ッ!!』

 

『カイガン!オレ!レッツゴー!

    カクゴ!ゴ!ゴ!ゴ!ゴースト!!』

 

 

その姿を見た武命は声を発するままなく変身を行う。ベルトから飛び出したパーカーゴーストがトランジェント体の武命に覆いかぶさると同時に専用マシン「カシャ」に乗り込むとアクセルを全力で握り込みみこたちから離れられる20m先まで吹き飛ばした。

 

『■■■■■■■■■■■■■!!』

 

途端にこちらを威嚇する妖怪手の目。その様子を見たみこは自分達がなるべく邪魔にならぬようハナの意識をこちらへと向ける。

 

「ま、まぁいいか!じゃあそろそろ行こうか・・・・!」

 

「そうだね、映画始まっちゃう!」

 

(頑張って・・・・!)

 

早歩きでその場を離れてゆく2人。

そんな2人を置き去りに街の真ん中でぶつかり合う二つの異形は尚も激しくぶつかり合う。

武命はそれをちらりと確認すると同時に手の目に殴りかかった。

それに対抗するために複数ある触手を唸らせると一斉に武命へと伸ばす。そこにあるのはラッシュの速さ比べ。片方は触手で、片方は手足を使って、それによって辺りには連続とした普通の人間には聞こえない打撃音が響き渡る。

 

「手の目」

手の目などと言う名前ではあるが実際に手のひらに目玉があるものはごくわずかだ。この妖怪は落ちた幽霊を食べ続けた悪霊が落ちた幽霊の力を奪い取る事で生まれる。多くの場合は泥棒などがこの妖怪になりやすい。

 

『こいつ!ハナちゃんの魂を奪う気か!』

 

そしてこいつの目的は単純明快。生命エネルギーの豊富なハナに取り憑きその魂を奪う事にある。悪霊や悪いものに取り憑かれたものは抵抗力が働き悪霊を追い払おうと生命エネルギーを燃やす。しかし発する生命エネルギーを超える力を持つ悪いものに取り憑かれた人間はその影響を受け鬱、精神疾患、ネガティブな思考と言った生きる事に否定意的な感覚に襲われやがて命を落とす。

 

 

手の目が歪んだ口に笑みを浮かべ触手の爪を伸ばす。咄嗟に避けて魔弾を放ちながらゆっくりと後退していく武命。このまま彼女との距離を詰めて諦めさせる作戦である。

魔弾が連続で手の目の肉を抉る。しばらくの間その場で蠢いていたそいつはやがて咆哮を上げると魔弾をものともせずに武命に体当たりをぶつけた。

 

『・・・・ッ!』

 

その瞬間、武命は吹っ飛ぶ中で何かが折れるような音を聞いた。

視線を向けた先、そこには本来曲がるはずのない方向に曲がった左手が力無く垂れ下がっていた。

 

 

『ぐうぅッ・・・!』

 

そして今に至る。

歯を食いしばり痛みに耐えつつ相手の口に妖剣を突っ込み思い切りひねる。内臓を切り付けられた手の目は痛みに悲鳴をあげると触手で武命を掴み上げ投げ飛ばした。

地面に叩きつけられ思わずえずく武命。

そんな中ふと見上げると、何故かみこたちがバスに乗っている事に気がついた。

 

『映画館はそっちじゃ・・・いや、ここから離れてくれればそれでいい!』

 

自分の背に引っ張られる感覚を覚えつつもそれでも目の前の敵を睨みつける武命。このままいけば武命はみことのつながりが消えてただの浮遊霊と化すだろう。しかし今この目の前にいるこいつを倒さなければ彼女たちに何をするのかわからない。それがわかっているからこそ武命は妖剣を構えて2人の乗るバスを背に構える。

 

『■■■■■■■■■・・・・!』

 

しかしそんな武命の想いを無視するかのごとく、2人が離れていく様子を見た手の目は手を動かせない左側から突進し2人の乗るバスを追いかけ始めた。

 

『ま、まずい!』

 

それをみた武命は自身のパーカーを少し破り腕に巻くとカシャを召喚しバスの跡を追い始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

その先に何があるのか、それは今は誰も知らない・・・。



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空の器後編

ーーーー今ではないいつかの時代

 

暗闇の中を箱を持って走る。

道なき道を走る事で枝葉によって体が傷つくがそれも構わず月の明かりを頼りに走った。

 

『いたか!?』

 

『ダメだ、見つかんねぇ・・・!』

 

遠くで村人たちが叫ぶ声が聞こえる。

まだ自分の姿は見つかってはいないが距離からしてもはや時間の問題だ。

 

 

『・・・・!』

 

 

あの日来た不気味な男を思い出す。

洋服に身を包んだその男は虐げられてきたみんなに何かを教えた事で、その日から村はおかしくなっていった。

昨日までいたはずの友達が居なくなって、

大人たちは自分達をおかしな目で見つめるようになり、

自分達を虐げてきた者たちが次々と命を落としてゆく。

 

 

足に何かが突き刺さり思わず躓く。

抱えていた箱はそれによって遠くに投げ出され音を立てながら転がってゆく。

 

『こっちで聞こえたぞ!』

 

『近いぞ!』

 

視界の端に明かりが灯り始める。追跡者たちが自分の場所に気づき始めたのだ。痛む足を引き摺って転がった箱を再び抱える。

複数の金属を組み合わせて作られたその箱は複雑な幾何学模様をしており中心にはまるで瞳を閉じたかのような見た目をしている。明らかな()()()()()であるそれは中から水のような音を響かせながら自分の両手を赤く染めた。

 

 

厳しい時代だということはわかっていたはずだ。

部落差別、争い、外国からの横槍。

あの頃とはとても比べられないほどに過酷な生活。

 

一日の食べるものすら手に入らずに飢えて死ぬ人たち。

 

『それでも・・・・!』

 

『それでも生きていたんだ・・・!』

 

思い出す。

そんな時であっても周りの人たちと手を取り合って歩みを進めてきた村人、そして両親。理不尽な理由の中でもがきながらまだ見ぬ明日を夢見て生きようとしていた子供たち。

 

 

『・・・・』

 

座り込み改めて箱を見つめる。

まぶたを閉じたような造形の隙間から赤い水が溢れて流れてあたりに鉄の匂いを漂わせる。

そういったものが見えるわけではない自分でもわかる濃密な嫌な気配。その中身がなんであるのかはわからない。ただ・・・

 

『ごめんなぁ・・・・・。俺が止めなくちゃいけなかったのに・・・』

 

『生きていければ十分だったのに・・・差別もなく、偏見もなく、生きていければよかったのに・・・』

 

 

『みんなを止められかった・・・!』

 

両手を箱の隙間に入れ力を込める。

何が奇跡、何が神だ。そんなもの例え高位の霊魂を10用意しても足るものか。

その結果出来上がったこの出来損ないの呪物。

()()()()()()()()()()生み出された箱が軋みをあげゆっくりと開き始める。

 

 

『いたぞ!』

 

 

『■■■!すぐにそれを返せ!おもちゃじゃないんだぞ!』

 

遠くから聞こえてくる村人たちを尻目にしながらも力を込める事をやめない。これから先他の呪物も含め、先々の時代に残るだろう。そしてあの箱はその度に多くの人を傷つけ成長し、やがては国をも呪う存在にも届きあるかもしれない。

 

爪が割れて痛みが走ろうともやめない。

そうだ。そんなことあってはならないんだ。

ここに住んでいた人たちはみんな幸せになりたくて、

だけど誰にもそれを許してもらえなくて、

だから外道に手を染めてしまった。

自身も含めて、許される事ではない。

 

『!やめろそれを開けるんじゃない!』

 

ならばどうする。

この箱に積まれた悪意は未だ脈動し、人を呪う機会を窺っているだろう。そしてまた多くの人を不幸に追いやるだろう。そんなもの、残しておくわけにはいかない。

 

『やめろおおおおおおお!』

 

箱を上に掲げ溢れた中身をぶちまける。

そして自分はそれを確認すると同時にーーーーーーーー

 

 

 

 

 

それらを全て飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バスから降りたみことハナの2人はパワースポットと呼ばれる神社の前にいる。

後ろに迫る化け物にそっと視線を向けながらみこは目の前の賽銭箱を前に全力で祈っていた。

 

(・・・お願いしますハナについてるヤバいのをなんとかしてください・・・彼を助けてあげてくださいお願いしますお願いしますなんでもしますどうか彼を・・・!)

 

ハナにはとりあえず今日は映画は休みだったと伝えて着いた目的地。見たところ古い神社であるようだがやはりというべきか彼もバケモノも普通に入っていった。最初はなんとかなるとも思っていたが神社でどうにもならないとわかるやすぐさまみこは神頼みにシフトチェンジした。

あたりに炸裂音ととともに響く地響きを聴きながらみこは心の底から願った。

 

「みこ長くない?そんなにお願い事したの?」

 

「・・・健康」

 

ゆっくり彼の方に視線を向ける。

彼はぼろぼろになり怪物の足に踏みつけられており、彼のバイクも彼を助けようと唸っているが手数の多さによってどうにもできていない。

涙目になっているのをなんとか隠しながらみこは祈る。

どうかこの声届いてくださいと。

彼を助けてほしいと。

 

 

(ダメ・・・!何にも起こんない・・・!)

 

しかしそんな状況でも時間は進む。

彼は化け物の触手に持ち上げられそのまま口元へと運ばれている。おそらく食べてしまうのだろう。これまで見てきた奴らと同じように。丸呑みにしてしまうつもりなのだろう。

 

(やだ!やだ!お願いします!助けて・・・!助けて!彼が)

 

「ゃっ・・・」

化け物が手を離す。ゆったりと力無く落ちていく彼。

その様子についに我慢の限界とみこが声を上げようとしたその瞬間

 

 

(・・・え?)

 

 

化け物の背後に何かがいた。

 

 

 

 

 

 

『く、そ、てが、でねぇ・・・』

 

ズタボロの状態で武命は仮面の下で化け物を睨みつけながらいう。何故か神社へと向かった2人に思わずよしと呟くもなんの効果も無かったことに落胆しながら武命は2人に被害が出ないよう戦い続けた。しかし負傷したこの身体で抵抗などできるはずもなく容赦なく自分を叩きのめした手の目は自分を飲み込もうと持ち上げた。

視線の先にみことハナがお参りをする様子を見て武命は心の中でつぶやく。

 

(まだ、まだ消えれない・・・!)

 

(こいつを、このままにしたら、絶対はなちゃんと、みこちゃんを殺す・・・!)

 

(そんな事、絶対、いや、だ!)

 

 

しかし今更どうしようもない。手に力はほとんど入らず持っていた妖剣も砕かれた。カシャも炎を吹き上げながら助けようとするが相手の翻弄に追いついていない。そんな中でも諦めきれないと腕をみこたちに伸ばす武命。

 

『だから・・・!』

 

 

 

 

 

 

        

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チリン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その音はみこにも武命にも聞こえていた。

その鈴のような音色は衝撃音を響かせていたはずの神社内においてあまりに似つかわしくない静かな音だった。

 

『(⁈)』

 

それと同時、武命は伸ばした手の中に何かがあることに気づく。思わず引き寄せて見てみるとそれはよく目にしていながら自分しか持っていないはずのーーーーーー

 

 

『あ、新しい、目玉?』

 

 

その正体はこの世界において武命しか持っているはずのないガジェット、ゴーストアイコンだった。

しかし武命の持っている(俺ゴーストアイコン)とは違う、目玉の上に幾何学ような模様がついたパーツがつけられた灰色のアイコンだった。中心部の瞳も真紅に輝き、その中から言いようのない不気味さを際立たせており、よく耳を澄ますとアイコンの中から先ほど聞いた鈴の音のような音がわずかに聞こえていた。

 

『・・・・・⁈』

 

ふと身体に浮遊感を感じた瞬間武命の体は手の目の口の中へと落ちていった。

一瞬の判断、武命はどうせ消えてしまうのであればという思いを込めそのアイコンをセットする。

 

『頼む!』

 

いきなり現れた不気味なアイテムに己の運命を託すしかないとはなんとも心苦しいが背に腹は変えられない。

セットと同時にレバーを押し込む。そしてそれが発動するよりも早くーーーーーー

 

 

 

 

武命は口の中へと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその光景はみこの目にも映っていた。

しかしそれは武命の見た景色とは大きく異なっていた。

 

え?

 

 

いつの間にか現れたのか、そこにはまるで巨大な狐のような化け物が太陽を背にして立っていた。そしてそれはこれまで自分達に取り憑いていた存在とは大きく異なる気配を感じさせ、しかし取り憑いていたもの以上の強大な威圧感を放っていた。

そしてその狐はみこの目の前で凄まじい勢いで小さくなっていく。それは例えるのなら中心に渦ができてそこに吸い込まれていくと言ったところか。

 

 

やがてそれは子供の拳ほどの大きさの何かになると同時に先程彼を飲み込んだ奴の口へと飛び込んでゆく。

 

 

 

え?  え?

 

 

あまりの事態に状況を飲み込みきれないみこ。

しかしそんなみこを置いてけぼりに事態は思わぬ方向へと進んでいく。

 

 

 

 

『ハンテン!アーイ!

 

 

 

ミツーメロ

 

     ミツーケロ

 

 

         ミツーメロ

 

 

   ミツーケロ

 

ミツーメロ     ミツーケロ

 

   ミツケロ    ミツメロ

 

 

 

 

 

それはまるで怨嗟の声だった。

それはまるで呪いの言葉だった。

それはまるで、自身につぶやいているかのようだった。

 

 

 

「ううん?・・・なんか寒くない?」

 

ふと声をかけられ横のハナを見る。そこには先ほどの元気な様子など見当たらず顔色を悪くしながら腕を摩っていた。

 

「た、確かになんかさむーーーーーー

 

 

 

次の瞬間

 

 

 

みこの両腕につけていた煙水晶が破裂した。

 

  

 

 

 

「きゃあ!」

 

 

 「え?!なに!?」

 

 

思わず尻餅をつくみこ。

音に気づいたハナもみこの周りに飛び散る水晶の破片を見て状況を把握しみこの手首を掴む。

 

「だ、大丈夫?!なんか急に爆発したけど⁈」

 

「・・・・っ!」

 

 

心配してみこの様子を見るハナ。しかしそんなハナの問いに答えずみこの視線は一点へと向けられていた。

 

(なに・・・・あれ・・・・!)

 

『■■■■■■!』

 

『チョーカイガン!タタリ!』

『words of curse!!

ゴ・ゴ・ゴ!ゴ・ゴ・ゴ!ゴ・ゴ・ゴ!

GODゴースト!!』

 

 

視線の先、そこには先ほど武命を飲み込んだ化け物が腹を歪に歪ませながらのたうち回っている光景だった。化け物の腹はだんだんとその歪みを大きくしてゆきやがて限界を迎え内臓を飛び散らせる。

そしてその中心に立っていたのは先ほどとは大きく異なる姿をした武命であった。

 

『・・・・』

 

その姿はいつも見ているものと異なり全身が灰色をしておりそこにいつもはオレンジのはずのラインが変形し赤色へと変化する。そして何よりも違うのが纏っているパーカーだ。ロングコートのように長くボロボロのパーカーでその両肩には狐の仮面を模したような装甲がついている。そして頭部の仮面にも装甲が付いており普段は黒の複眼は真っ白なものへと変わりそこから感情を読み取ることはできない。

 

そして何よりその姿からは、いつもの彼を感じることができないでいた。

まるで得体の知れないものを見たかのような、それこそみこが初めて化け物どもを見た時のような不気味さだった。

 

 

『■■■■■■■■■■■■■■!』

 

武命の姿を見た手の目は武命に怒りを訴えながら溢れた内臓をかき集め空いた触手で攻撃する。

武命はいまだに手の目には背中を向けており迎撃する様子はない。そんな武命を見たみこは再び声をかけようとしてーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

ぶちり

 

 

 

 

 

 

 

 

『■■■■■■■■■■■⁈』

 

 

 

不快な音と共に伸びた触手がねじ切れた。

その現象にその場にいたものはなにが起こったのかわからず手の目はねじ切れた触手の痛みに叫び声を上げた。

 

『・・・・・』

 

なんの感情も浮かべる事なく武命がゆっくりと振り返る。その様子に手の目はびくりと震えると再び攻撃を仕掛けようとし、その瞬間再び不可視の攻撃により両肩を押し潰された。

 

 

『■■■■■■■■■■!』

 

 

 『・・・・・』

 

それを見て逃走を図ろうとする手の目。そんな手の目をお構いなしに武命はベルトへと手を伸ばしレバーを押し込む。

 

 

『チョーカイガン!タタリ!オメガドライブ!!』

 

 

 

その音声が聞こえたと同時に武命は両手を正面に伸ばしまるで何かを包むかのように掌を向かい合わせる。

その瞬間手の目の動きが止まりまるで何かに包まれたかのごとくだんだんと収縮し始めた。武命が手のひらを近づけるたびに手の目はその大きな体を収縮させてゆきその度に助けを叫ぶかのごとく暴れだす。しかしそんな動きも武命が一度力を入れ、両の手のひらを合わせた瞬間ーーーー

 

 

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ジュ

 

 

一瞬ビー玉ほどにまで圧縮され、その瞬間大爆発を起こした。

その瞬間あたりに爆風が広がる。しかし生きている2人にはいきなり強い風が発生したのみにすまされた。

 

「わぁ、すごい風・・・みこ、やっぱ今日風邪ひいたかも。悪いんだけどちょっと帰ってもいい・・・・?」

 

 

「⁈あ、うん。連れ回してごめん。無理せず今日は帰っとこうか・・・」

 

声をかけられ思わずそう呟くみこ。視線の先の武命はまだ変身を解いておらずそんな状態でゆっくりとこちらに近づいてくる。

 

(なにあれなにあれなにあれ!なんかわかんないけどやばい!今の彼はやばい!)

 

無事だった事はもちろん嬉しくはあるが今の彼を見てもどう考えても普通では無いと感じたみこは表情を崩さないようハナに肩を貸しゆっくりと武命の横を通ろうとする。そして武命とついにすれ違う瞬間ーーーーーーーー

 

 

 

にかい・・・

 

 

(え・・・・・?)

 

 

聞き取れる言葉、

そう思い振り返った先には変身が解け倒れるように消える彼と、そんな彼を支えるかのように横に止まるバイクのみがあった。




仮面ライダーゴーストタタリ魂

見た目は灰色のムゲン魂の肩装甲が短くなり裾がボロボロでムゲンの全身マークが赤くなりかつ鳥居のような形となったもの。
祟り神の力がベルトに合わせる形で変形し生まれた姿。その能力はポルターガイストであり本来自分にあった浮遊の能力が超強化され発現した。

残り使用回数ーーーーーー2回


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送る言葉前半

女の子の描写って難しい・・・。
遅くなり大変申し訳ありません!


飲み込む

分離

 災厄   百目  

 

ヒコウ  

 

  食べる  

 

   グレートアイ

 

       眠り   なり損ない

 

失う

        開眼

 

    

         

最初のつながり      ちはる

 

 

学校

 

 

     体

 

               違い

 

 

記憶         

 

3人      

 

 

 

 

燃える地下室

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    

 

 

 

 

 

 

だから大丈夫だよ・・・

 

『・・・・ッ!!』

 

ガバリと起き上がり周りを見渡す。

辺りは暗くなっており所々に民家の灯りが輝き街を彩っている。

どうやら四谷家の屋根らしく隣にはカシャがブゥンと音を立てたっていた。しばらくの間呆然とする。そして自分の身になにが起こったのかを思い出した武命は急いで屋根に頭を突っ込みその下のみこの部屋を覗く。

 

『・・・・・』

 

どうやらみこは布団に包まりながら眠っているらしく布団が上下する様子を見て無事だったと理解し、やがてほっと息を撫で下ろした。

頭を上げふと湧いた胸元の違和感。手を突っ込んでその何かを取り出すとそこには先ほど大立ち回りを繰り広げた時のアイコンが閉まっており耳を澄ますと相変わらず鈴の音が聞こえてきていた。

 

 

(今、何か・・・)

今しがた見ていた夢の内容、内容は思い出せない。しかし見たそれは自分にとってとんでもなく重大なことであった気がするのだ。眉間を揉んで思い出そうとした時ーーー

 

 

『武命君、目が覚めたんだね・・・』

 

『!おじさん、おれ、どれくらい倒れてました?』

 

ふと声がした方を見ると真守さんが屋根の上に登ってきておりこちらを心配そうに見つめていた。

 

『大体帰ってきて2時間くらいかな、心配したよ。その子の上で君は目を覚さないしみこはなんだか疲れてたし・・・』

 

『ああ、そんなに・・・。久しぶりだな眠るのなんて。ご心配お掛けしました』

 

『それでなにがあったんだい?それに君の持っているその新しい目玉、なんだか嫌な感じがするけど・・・』

 

そう言って指差す先にある灰色のアイコンを指差し冷や汗を流す真守。

武命と違い普通の守護霊であり家の守り神の真守だからこそそれがとてつもなく厄介な代物であると理解できた。

 

『これは・・・』

 

手の目に飲み込まれた後の記憶はもちろん残っている。ただ一つだけ違和感があった。あの時自分は何があっても2人だけは守るという気持ちでいっぱいだった。にもかかわらずこのアイテムを使った後奴を倒す際、そこに何の躊躇いも感じなかったりのが気になる。

普段の自分であればあそこまで残酷な倒し方をすれば何かしら思うところがあるはずなのにだ。

 

武命は改めてアイコンを見つめながら今日あったことを振り返った。

友達のハナちゃんが悪いものを連れていた事。

それの退治に乗り出したが勝てずにボロボロにされた事。

2人の向かった神社にて何かからこのアイコンを受け取った事。

 

『・・・・・・』

 

一つ息を改めて武命は真守に今日会ったことを伝えた。話を聞いている間真守は徹底して話を聞く姿勢であり、そのおかげで武命は正確にそれらの事をことばにすることができた。

 

『2人には助けられました。何せ相手の妖怪に手も足も出ませんでしたし、俺自身の傷も治ってるし・・・』

 

 

それを聞いた真守は下の布団にくるまるみこへと意識を向ける。布団に包まり動かない為どんな様子なのかわからない。しかし真守はそんな様子をしばらく眺めるとこちらは振り返る。

 

『武命君・・・僕はね、みことは喧嘩別れでこの世を去ってしまった。』

 

『・・・?はい、そうでしたね・・・』

 

『家族が心配だから残っているというのももちろんだが、喧嘩別れのそれが未練で未だあの世に行くことが出来ないというのもある。』

 

『・・・・』

 

『武命君。みこの友達を助けるなとは言わないよ。娘だけじゃなく娘の周りを守ろうと戦う君に対して僕は感謝している。だけどね・・・』

 

そう言って一度区切ると真守は武命の両肩に手を置いて目を見つめる。その真剣な様子に武命は思わずびくりとし戸惑い気味に見つめ返した。

 

『自分を粗末にするような・・・未練を残すような消え方だけはしちゃいけないよ・・・』

 

『未練、ですか?』

 

『ああ、心残りというものを抱えたままにしてはいけないんだ。それらには決着をつけなければならない。僕が言っても説得力は微妙だけどさ・・・』

 

言いたい事は言ったのか真守は屋根からゆっくりと浮遊し降りてゆく。その背を武命は不思議そうに見つめ続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(また・・・また何も出来なかった・・・)

 

布団の中でみこは1人そう心の中でつぶやいた。

あの後心配して話しかけるハナと共に近くのファミレスでご飯を奢る事で彼の回復を図ろうとした。幸いバイクを出しっぱなしにしておりそのバイクが何かを労わるように動いていたところを見るに彼はバイクの上にまだいるのだろう。

パフェを頬張りみるみる顔色をよくするハナと横のバイクを交互に見ながら彼の容体を気にする。

 

「・・・・・」

 

結局彼はその日一切現れる事なくみこはその日初めて朝まで布団の中で祈り続けた。彼が無事だと分かったのは結局朝で外から聞こえる戦闘音となにやら動物の群れのような化け物を追い出している彼の姿を見るまでだった。

 

「はぁ・・・・」

 

制服に着替え下に降りる。

相変わらず彼とお父さんはボードゲームをしているらしく何やら地面にカードを置いて向かい合っていた。

 

『あ、そこでスピリットを墓地でお願いします』

 

『え、ウソ・・・しまったなぁ・・・』

 

「みこ、どうしたの・・・?」

 

「・・・え?」

それを横目に見ているとお母さんがトーストを乗せた皿を持ってみこに問いかける。

 

「なんだか少しへこんでるみたいだけど・・・」

 

「え?そ、そうかな・・・。昨日少し夜更かししすぎたからじゃないかな」

 

そう言って手を合わせてトーストを齧った。その様子を見てお母さんは怪訝そうな顔を浮かべるものすぐに目玉焼きとサラダを持ってくるため離れる。

 

「姉ちゃん、最近楽しそうだったしな〜。彼氏と喧嘩でもした?」

 

「もう、だからなにもないって・・・」

 

『・・・・・』

 

『おじさん目がこわい』

 

朝食を手早く済ませ登校したみこは途中はなと合流していつもの道を歩いてゆく。

 

「はぁ・・・」

 

「昨日はなんだったんだろうね。お気に入りの数珠も壊れちゃったし・・・」

 

「あー・・・なんか水晶の中に水が入ってたみたいでそれが太陽の熱で破裂したんだって」

 

「えー!そんなの不良品じゃん!ドンキに文句言いに行かないと」

 

そんなハナの声を聞きみこは大丈夫大丈夫と言いつつ改めて周りを見る。視界の端には相変わらず幽霊や化物が闊歩しておりそんな中で私たちに近づこうとする化け物にだけ彼は攻撃している。

いつも通りの登校だ。ただなんだろう、なんだか少し違和感が・・・

 

 

「あ、ここの占いの館なくなってる」

 

「本当だ〜。占ってもらいたかったのに残念だな〜」

 

よく見たらいつも見かけていた雑貨屋軒占いの館が閉まっているのだ。そしてここには前彼が入っていたのを思い出したみこは少し後悔しながらシャッターを眺めた。

 

(もしかしたら何かしらいいものがあったかもしれないのに・・・もっと早く行っとけばよかった・・・)

 

 

『あれ?ミツエさんいないんだ。今日これ見てもらおうと思ったんだけどな〜』

 

横の彼を見ると何やらいつもよりへこんでいる様子。彼もこのお店に何かしら用があったのだろうか?

 

名残惜しそうにしながら店を眺める彼。しかしそれもわずかな時間のみ、すぐいつもの様子で私たちの周りを警戒しながら歩いて行った。途中ハナにぶつかりそうな霊を押し退けているのを見ながら再びため息をつく。そんな様子が気になったのかハナはこちらを見て問う。

 

「なんだか元気ないね。やっぱり数珠壊れちゃったの気にして?」

 

「あ、いや・・・そうじゃないんだけど・・・」

 

 

聞かれたみこは最初何でもないと答えようとした。だが最近色々あったこともありついこの友人に愚痴をこぼしたくなってしまった。気がつけばみこは悩みを誤魔化しながら打ち明けていた。

 

「?」

 

「・・・お世話になってる人がいてさ、色々助けてもらってるんだけど・・・その人の仕事私も手伝ってあげたいけどなかなか上手く行かないというか・・・。ごめん、意味わかんないよね」

 

「それって・・・難しい仕事してる人なの?」

 

「うーん、まぁそう、かな?だけどどんなふうに力になってあげればいいかわからなくて、最近だと空回りも多くて・・・」

 

「・・・・もしかして彼氏⁈」

 

「⁈いや、ちが、まだそんなんじゃなくて・・・!」

 

話を聞いていたハナは目を輝かせみこへと問い詰める。

 

「私に内緒でいつのまに・・・!」

 

「だから違うって・・・。何というかその、元お父さんの同僚(守護霊)の人で前にちょっとね・・・」

 

 

「なーんだ。残念」

 

「残念って失礼な・・・」

 

ため息をつく様子を見ながら呆れ顔でみこはハナを見る。思わず相談する人間違えたかな、なんて考えるも直ぐにハナは真剣みを帯びて言葉をかける。

 

「でもお仕事ってことならやっぱり下手に手を出さないほうがいいんじゃない?」

 

「?いや、手伝いたいって話なんだけど・・・」

 

「違う違う。みこがやりたいことって多分そういうことじゃないんだよ。」

 

そう呟くハナにみこは視線を向けて続ける。

そうして続けられた言葉、それは驚くほどみこの心にストンと当てはまった。

 

 

「多分みこはねー、その人に感謝を伝えたいんだよ。」

 

「・・・・感謝?」

 

「そう!それをお手伝いって形で伝えたいんだろうけど色々空回りしてるんだよ。だから贈り物をしたりとか感謝を伝えたりとかーーーみこ?」

 

 

「伝える・・・・感謝を伝える・・・」

 

ハナの言葉に思わずなるほど、と納得するみこ。

そう、確かに彼の負担を減らしたいというのはある。だが少し考えればわかること、あの様に互いに傷つけ合う戦いという現場において自分達は圧倒的に力不足だ。下手に動けばそれだけで彼の足を引っ張ってしまう。現につい先日もそのせいで彼はおかしな事になったわけだし。

 

(思えば私、未だ彼にお礼の一言も言ってない・・・)

 

自分が彼の手伝いをしたいと考えたのはそうすることで彼に報いようとしたが故だ。だが今考えると、それは見えることが化け物にバレることを恐れての事である。

 

その考えにたどり着いたみこは少ししてある決心をすると再びハナに声をかけた。

 

 

「ハナってさ・・・たまに真理をつくよね」

 

「?何が?」



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