狂った世界とその日常 (電磁パルス砲)
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prologue

メイズが進まねえよぉ……
取りあえず新しいん書こう……的なもの。

なんかもう難しい。


初めに言おう。この世界はゲームだ。

 

 

 

登場人物である俺が言うのもなんだが、なかなかに人気のものだ。

 

 

 

舞台は現代。学園系異能力シミュレーション。

 

 

俺、如月雫が〈元〉主人公。

 

 

この世界が作り物なんてことを知らず戦って、青春して……シナリオ通りにハッピーエンドまで辿り着いた。

 

ゲームだから当然、後日譚や続編がない限りエンドの後なんて作られない。大抵エンドロールが流れて終わり。

 

 

例によってこのゲームも終わり、ここがゲームの世界だと知った俺は二週目を歩むと思っていた。当然のように同じ世界を繰り返すと思っていた。

 

 

 

それなのに。

 

 

 

突然、世界は崩壊を始めた。

 

 

 

俺以外の人は眼の光を失い、石像のように固まって動かない。戸惑っても崩壊は止まらない。

 

色が消え、その上から黒が侵食する。塗りつぶされる。

 

呆然と突っ立っていた俺も当然黒色に飲み込まれた。

 

がくん、とグリッチだらけの真っ黒い世界に落ちる。

 

底へ沈んでいく感覚は、昔海でおぼれた感覚によく似ていた。

 

 

 

何の抵抗もできないまま、足元から体が崩れる。

 

画像データが消えていく。

 

 

……無意味だとしても、俺は諦めきれない。これまで何度も抗ってきたじゃないか。

 

そう自分を鼓舞し、もがいていると何かを掴んだ。

 

 

 

紙切れ――言うなればチラシのような感触のそれは。

 

 

 

 

 

……よくある詐欺系のメールのような文が書かれた、場違いすぎる勧誘チラシだった。

 

 

 

 

 

      ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

おめでとうございます!!

あなたは消える世界から救われる優秀な人材です!

 

世界のバグを修正するため管理人となり、我々にご協力ください!

 

 

 

 

 

  ※因みに拒否権はありません。

 

      ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

一瞬、頭が考えることを投げ捨てる。

 

 

 

管理人?我々ってどなた?拒否権無いの?一方的ぃ……

 

 

 

もう体の消滅がが膝下まで迫っていることも忘れて考え込んでいると、突如として体が燃えるような激痛に襲われた。

体が作り変えられるような、全身に異物が埋め込まれるような感覚。

 

 

 

チラシの意味も解らないまま、激痛に耐えかねて俺は意識を手放した。

 

 

 

―――それからだ。

 

 

 

数年にわたりこんなトチ狂った世界を管理することになったのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

Prologue

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうしてこんな世界を留めるのか、と管制室の大きなモニターを見ながら俺は思う。

 

俺の世界が残した弊害は大きく、二周目以降の世界が「なんだこれ」と言わざるを得ないほどにまで変動しきっていた。

 

出身地が消滅して一年半も経つというのに一向にバグを消せる気がしない。

永遠に続くモグラたたきのようにバグが降ってわいてくるのだ。

 

 

おかげで数日の間眠っていない。管理人になってから、身体はリアルと同じ実体を持った。寝不足で体が重い。辛い。

幸いにも食事は取る必要がないらしい。あと下の処理も。個人的に、作業するには結構嬉しい点だと思う。

 

 

因みに俺の体からは何故か、映画で使われたようなフィルムが生えている。ドアに挟むことも多くて困る。

 

他にも管理人になって起きた変化は色々とあるのだが……少し話を戻そう。

 

この世界にはバグ以外に、もう一つ大きな問題がある。

 

 

 

この世界は変動する。まさに現実のように出来上がってしまったものだった。

 

登場人物に自我があり、フラグが立たず物語が正常に動作しないのだ。その都度時間を巻き戻し繰り返す。

 

この変化は俺の世界が消えたうえで、無理やり作られた二周目データ、ということも関係しているのだろうか。いかんせん前例がないから分からない。

 

 

一周目の主人公というのもあり見て見ぬふりもできず、何度も何度も繰り返した。……まあ単に上からの指示というのもあるが。

そのかいあって、俺の管理する世界は遂に佳境へ突入していた。

 

 

確実に物語は進んでいる。それだけで涙が出そうだった。

 

ボスを打ち倒し、仲間と話す同じ姿の別人。この世界の主人公。

 

不思議というか不気味というか、とにかく変な感じがした。

 

とはいえここでターニングポイント。ようやく休める……と気を緩めた瞬間。

 

 

 

異変は起こった。

 

 

 

 

 

 

 

緊急事態を知らせるアラートが鳴り響く。

 

視線を上げるとモニターは真っ赤な世界を映し出していた。

 

一面に広がる惨劇。先程まで生きていた人間の死体、死体。

 

その中で一人立つ、俺と同じ人影。

 

その前には〈死神〉と呼ばれるエネミーが居た。

 

黒いコートを着た死神は彼に巨大な銃を突きつけ―――

 

 

 

軽く、命なんてどうでもいいように撃った。

 

 

 

脳漿と赤い血が散らばり、まるで赤い花のように地面に模様を描く。

 

 

息絶える瞬間、主人公が微笑を浮かべているような気がした。

 

 

 

 

 

「……は?」

 

 

 

呆然とする俺を置き去りにして、モニターの表示が消える。

 

体が震える。

 

 

彼らなりに頑張っていたのはわかる。俺も元々経験していたから。

 

死神の方もエネミーとして役目を全うしたと思う。

 

 

 

思うが。

 

 

 

失礼を承知して叫ばせてもらおう。

 

 

 

 

 

「タイミング悪すぎんだろもう休ませろ寝かせてくれぇえぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

 

 

 

体の震えは惨劇への恐怖などではなく、只々理不尽で不条理な世界への怒りだった。

 

 

 

 

 

 

彼はまだ気づかない。

 

この世界が、本当はもっと繰り返されていた事を。

 

彼はまだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――これは世界の消滅に巻き込まれ、強制的に重大任務を背負わされた悪運の強すぎる一人の青年の日常である。




如月雫
銀髪ショートカットの見習い管理人。
グロ耐性皆無なのに18Gな世界を管理する事になる。
管理人になってから目の色は黒から青になり、フィルム生えるしと色々ありすぎて困惑する。

管理する世界の主人公
雫の二周目。
元世界が消えておかしくなった世界で懸命(?)に生きている。
M気質。



きさらぎ君はかわいそうな子です。だがそれがいい。


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死は快楽を伴うものでは無いし、自慰行為でもない

サブタイなんだこれと思っただろ?私も思う。



【悲報】主人公が死神に〇されてから話が進まない

 

 

どうしてこうなったんだ。ただそれしか言葉が出ない。

 

簡潔に説明しよう。

 

この世界の主人公、寡嶋奏に重大な問題が発生した。

 

まずループを起こす条件として〈主人公の死亡〉というものがある。いわゆるゲームオーバーだ。

 

その為彼に頼み込んで毎回自殺してもらっていたのだが……

 

 

 

何とこの度、彼のM気質が災いして死ぬ事に快感を覚えるようになってしまった……かもしれないのだ。

 

 

 

何でそんなことが分かるか?

 

 

死んですぐ復活させているからその直後の痛みも残り、常人ならば大抵精神に異常をきたす。それが起きていないか確認のために専用の部屋に転移させているのだ。

 

 

そしてこの前、奏が死んだ際の映像をまとめて確認していたところ。

 

『なんかこれ……笑ってないか……?』

 

ふと死ぬ直前の彼の顔を見ると満たされたというか、何というか恍惚とした表情をしていた。

 

 

まさか、と思い、判断のため会って話しておこうと思ったのだ。

 

まあ俺も疲れていたんだし勘違いだろう……そう思って何の警戒もせずに扉を開けた。開けてしまった。

 

 

そんな無警戒な俺の目と耳に飛び込んできたものは、全くもって想定していないものだった。

 

 

 

 

「ぅあっ…ひ、んっ……」

 

「…………?」

 

 

 

頭が、追い付かない。

 

 

 

目の前の人は自分の身体を搔き抱き、びくびくと震えていた。

 

 

……どうして、目の前で血まみれの男の人が喘いでいるの?

 

 

 

……俺は自分の頭が目の前の状況を明確に理解する前に、すぐに扉を閉めた。

 

 

 

何なのあいつ怖い。あれはいけない、見ているだけで正気度がゴリゴリと音を立てて削れていくのがわかる。

そういえば人間は死ぬ間際、脳内麻薬を出すとかなんとか聞いたことがある。まさかそのせいか……?

 

というか自分と同じ姿のヤツが快楽に悶える姿なんて、見ていられるわけがなかった。

考えても見ろ、度し難い痛みで気持ちよく喘いでるやつが自分とか。癖のやつでも萎え萎えだ。しかも規制無しだ。

グロが苦手な自分に対して、これほどのダメージを叩き出すものはそうそうない。

 

閉まった扉を背に、体育座りで待機する。

 

……奏って二周目の俺、なんだよな。

一応同一人物ということになるのか?……ひょっとして、俺も繰り返していたらあんな風になっていた、ということなのか……?

 

 

うーん、この話は無かったことにしようか。すごいぞわっとした。きっとバグだ、そうに違いない。

 

 

……さて。いい加減話を進めてもらいたいので交渉しに行きましょうか。

 

しばらく経ったし奏も落ち着いているだろう……。

 

 

 

 

…。

 

まだ、終わってませんでした。

 

戸を閉めて、その前にゆっくりとうずくまる。あーもういやだこの世界……。

 

本当に、俺は何も見ていない。

 

 

……一応替えの下着持ってってやるか。大丈夫、新品だ。

 

神(笑)からの親切心だ。ありがたく受け取れこんちくしょうめ。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく経って俺の精神もだいぶ回復したので、早速凸しようと思う。

 

 

深呼吸して心を落ち着け、扉を開ける。

 

 

奏は先程の事などまるで無かったかのように椅子に座っていた。

 

他人が見れば少し前までトリップしていたことなど悟らせない、見事なまでのポーカーフェイスである。ちょっと顔赤くてぷるぷるしてるが。

 

「あのー?」

 

「先程はお、お見苦、し……っやっぱ無理ぃ……」

 

 

声かけて目線合わせたら顔を隠された。さっきまでのポーカーフェイスはどうした。

 

 

やはりトリップを見られたのを気にしているんだろう。目線あきらかに合ってたしこっちも二回見ちゃったもんね。ごめんね。

 

小声で見られた、とか繰り返しているから絶対図星だ。あぁ、これが女子なら良かったのにな……。

 

……いや、それもそれでアウトだな。

 

 

「お、俺も耐えようとはしてたし?たまたま今回は抑えきれなかっただけで……」

 

「……前からこうなってたのかお前」

 

 

彼の墓穴を掘るような発言に思わず呆れる。

 

 

本当に、何でこんなことになるまで俺は気付かず放置しておいてしまったのだ。

 

いやー、本当に申し訳ないなぁ。うん。

 

 

「……それよりみ、見てたならわかるだろうが」

 

「?」

 

 

「……下、どうにかしたい」

 

 

 

今にも泣きだしそうな瞳を揺らし、彼がぼそりと呟いた。

 

やっぱそうなりますよね、わかってましたとも。泣かない泣かない。

 

 

「……うん、シャワーあるから浴びといで」

 

 

何か変な空気がちょっと耐えられなくなったので、ぐずりだした彼に場所を伝え、俺は一人で少しの間落ち着くことにした。

 

 

 

そういえば目赤かったな。元々黒なのに何でだろう。

 

いろいろと調べることが多い……あれ、何するんだっけ。あ、交渉か。

 

 

 

あの様子見てると話す気が湧かないなぁ。今度に、しようかな……取りあえず今度からは会う時間ずらそう……

 

そんなことを考えながら、彼の帰りを待つのだった。

 

 

 

 

少しの会話が終わったその後の事。

 

 

 

彼は更なる快感を追い求めたのか、思いつく限りの自殺方法を試し始めた。この時点で訳が分からない。

 

 

海に飛び込んで溺れる、火で焼かれるとかはもう軽いもので、酷いときは敵にみじん切りにされてみたり、電車に飛び込んだりと変にバラエティーに富んでいる。

 

とにかくキリがなかった。毎度毎度グロテスクな死にざまを見せられる俺の気持ちにもなってほしい。

見られたから吹っ切れたのだろうか。

 

 

やたら死ぬなとは思っていたが。……今思えば、時間感覚が狂って何もしなかった俺もどうかと思う。

 

気付けば、俺がこの世界を管理し始めてから半年程経っていた。……もっと早くどうにかできただろ俺の馬鹿‼奏の死に癖に慣れちゃったのも悪いけどさぁ!!!

 

 

 

こうして俺が放置してしまった結果、常識はずれなMができ上がってしまった。

 

 

俺のせいとはいえどうしてこうなるんだ。本当にもう嫌だこの世界。

 




如月
何故これを放置してしまったと自責の念に駆られる管理人。
奏には申し訳ないと思いつつも、彼をいじめるのはちょっと楽しく思っていたりする。
実はMの素質があったりもするが目覚めてはいない。


銀髪赤目のクール系美青年(自称)。しかし蓋を開ければ性癖やらなんやらが歪みまくりのいたって異常な純情青年。言ってみればループの被害者でもある。
見た目は目の色以外如月と瓜二つ。
最近快速電車のアナウンスで痛みを思い出して興奮するようになった。




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それは簡単に言うものでは無い

食人描写注意。
グロといい斜め上のエロといい人を選ぶ内容が多くて申し訳ない。



近くで鳴るクラクションの音が頭を痺れさせる。

 

目の前には新鮮な肉塊が転がっている。

 

その肉からゆっくりと液体が広がり、足元まで到達した。

 

生臭いような甘ったるいような気持ち悪い匂いが、とても心地よく。

 

 

――美味そうに感じた。

 

 

体の奥から何かが侵食するような、食われていくような感覚。

気がおかしくなってしまいそうなほどに腹が減る。

近くに来るやつも、遠くにいる野次馬も、みんなみんな食いつくしてしまいたい。

 

 

 

そう思った時には、もう手遅れだった。

 

 

 

気づけば口の中は菓子でも食べたかのような甘みが広がっている。                                                   

コンクリートに飛び散った血液も、内臓も、骨も。すべて食い尽くす。

 

逃げられなかったのはありがたい。証拠隠滅の手間が少なくて済む。                                                      神隠しなんて騒がれて、またエサがやって来る。素晴らしいサイクルだ。                                                          

さて、エサの衣服を適当に放って来よう。

 

 

そう考えた赤黒い瞳の青年は、4つの白い尾を揺らしながら森の奥へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正座する奏の前に、俺が腕を組んで立つ。

俺は今、とても苛ついていた。理由は簡単だ。

こ い つ ま た や り や が っ た

 

「奏」

「……はい」

 

「何で死ぬなと言われた次の周で、自分から電気罠に突っ込むんだい?」

 

 

俺が問い詰めると、奏は目を逸らして困ったように口ごもった。

 

「いやー、それは……その……」

「今回は感電死。あれ、確実によろこんでたよね?」

「うぐぅ……」

 

 

確実に図星だろう。一日もたたないうちにまた死に方試しやがって。許さん。誰のおかげで死ねると思ってんだオラ。

 

「あと明らかに死に際笑ってたし喘いでた」

「も、もう勘弁してくれ……また思い出してしまうっ……」

 

 

勘弁の理由それかよ。今度死ぬ時はその性癖も抹消してきてほしいなぁ。

 

あと思い出し痙攣すんな、喘ぐな気持ち悪い。ともかくこいつの頭はもう手遅れだから俺は諦めていいと思う。

取りあえず奏が落ち着いたので、コード打ち込んで元の世界にぶっ飛ばした。

罰用に逆関節固めかなんか練習しておいたほうがいいだろうか。

 

最低でも三日は我慢しろとは言っておいた。これでまあ俺もちょっとは休めるだろう。

 

さて。たかが三日、されど三日。短く感じるかもしれないが、意外と長い時間である。

 

普段とれない程死んだように熟睡し、のんびりと管理世界の報告書を仕上げても(従来に比べ)まだ時間はあった。

まぁ寝た時間は二時間くらいだが、これでも十分寝れてる方だ。

 

俺としたことが、すっかり時間を持て余してしまった。

 

……仕事をしていないと、何をすればいいかわからないな。

もう俺もすっかり社畜といったところか。

 

薄暗い部屋の中、世界を映し出している液晶に目を向ける。

監視カメラのようにたくさんの視点に分かれ、その中の一つに奏が写っている。

 

違う世界には、分岐した沢山の俺たちがいるのだろうか。

その中には……俺のように、管理人となったやつも居るのかもしれない。

まだ他の管理人に会った事もないから、確証はないが。

 

物思いにふけっていると、背後のドアが開く音がした。

 

「かな、で……あれ?」

 

奏が約束を破って光速で死んで来たのかと思い、振り向いたが誰もいない。戸惑っていると、下から小さくきゅん、と犬が鼻を鳴らすような音が聞こえた。

 

 

下を見てみれば、そこには白い狐が居た。目が赤い事からアルビノだと推測できる。別の世界から迷い込んできてしまったのだろうか。

 

飼われていたのか警戒心は無く、自ら頭を擦り付けてくる。

 

モフモフだ……モフモフの塊……な、撫でたい……。

 

だが、寄生虫がいるかもしれないと考え、荒ぶる両手を今は抑えることにした。

……でも、少しだけなら……と伸ばした手を、今度は甘嚙みされてしまった。かわい……甘嚙……あれ?ちょっと痛いよ?

 

 

狐は嚙む力を徐々に強くし、痛みが増していく。異変に気付いて引き剝がしたときには肉が少し抉れていた。

 

俺が警戒する体制を取ると、狐はたん、と後ろに跳ねて距離を取る。

 

 

 

ずるりと狐から新しく3本尾が生え、合計4本の尾がその体を覆い隠す。

 

ばき、べき、といった骨が折れ肉を裂くような、ぐちゃぐちゃとくぐもった音が静かな部屋に響く。その音は何かを食っているようにも、体を作り変えているようにも聞こえた。

 

骨が折れるような、肉がつぶれるような。そんな気持ちの悪い音が鳴るたびに、段々と白い塊が人ほどの大きさになっていく。尾が動き、姿が見える。

 

 

 

そこに立っていたのは―――

 

 

 

狐の耳と4つの尾が生えた、真っ白い髪の俺だった。

 

懐から慣れた手つきでナイフを取り出し、こちらを見た彼の赤い瞳が細められる。

 

 

「……ねぇ、君の血美味しかったから食べてもいい?」

 

 

 

ナイフをこちらに突きつけ、楽しげに彼は告げる。

 

俺と同じ姿、ということは主人公。にも関わらずこの見た目は何なのだろうか。

敵意むき出し、いや、敵意はそんなにない。寧ろ捕食者のようなオーラを感じる。圧倒的な、絶対に勝てないと思わせるような。

 

迷い込んでしまったのなら送り返す必要がある。

別世界の相手は無力化程度に抑えなければいけないので、手加減は必須だ。

……要するに殺さなければオッケー。

 

まぁ傷つけたら結構面倒なことになるので、徹底的に拘束に回るが。

 




如月
俺会う世界突然変異型多くない?と命の危険が迫っているにもかかわらず考えてしまう管理人。
奏の修正はもうあきらめた。せめて自殺癖はどうにかしろと思っている。
パーリナイについては……もうそっとしておいてくれ。

???
神隠しに見立てる為に服捨てに行ったら山奥でなんか見つけた→人いたらやばいから化けよ→なにこいつめっちゃうめぇ
みたいな感じで今に至る別世界のアルビノ君。
今は暴走しているだけで普段は結構おとなしい。


もはや修正できないほどおかしくなった何か。
死んだ回数はきっと彼も覚えていない。

バトルは書きとう無いです。めんどいムズイ。
狐っていいよね。


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人は簡単に食う(物理)していいものでは無い

活動報告にて挿絵追加など色々言ってるので見てくださると飛びます。

前回のあらすじ

アルビノ狐に捕食されかけてるぜ!!
どうすればいいんだ!!

たすけて!!!!!




宣戦布告から数十分後。

 

俺はかなりの窮地に立たされていた。

 

 

幾度となくナイフで切り付けられ、体もフィルムもボロボロだ。あと少しで決着をつけなければ二度目の人生に終着点が見えてきてしまう。

……正直に言うとこの空間では死ぬことはないが、それでもかなりの重症だ。

 

がらんとした部屋の中、荒い息と奴が退屈そうにナイフを弄ぶ音が響いている。

 

 

「逃げてばっかじゃつまんないんだけどなぁ」

 

 

そう言いながらこちらを見るその瞳は冷ややかで、虫でもみるような目つきだった。

 

腕から黒い血が止まらない。彼の刃には血を止まらなくさせる効果でもあるのだろうか。

息を深く吸い、狐の体をフィルムで束縛しにかかる。俺の動きに気付いた彼はナイフを構えなおし、眼の前に迫るフィルムをさばき始めた。

 

 

しかし、それは囮だ。

 

 

足元に這わせたフィルムを絡ませ、動きを封じる。次に腕を封じようと意識をそらした瞬間。

 

 

「……あーあ、めんどくさ」

 

 

狐はそう呟き、先までさばいていたフィルムをまとめて食いちぎった。

 

「ぐ、ぅ……!」

 

引きちぎられた所から、腕と同じ真っ黒い液体が滴る。

 

 

びき、と背に貫くような痛みが走り、意識を一瞬手放してしまう。その隙に距離を詰められ、ナイフの柄で鳩尾を勢い良く、的確に突かれた。

 

眼の前がぼやけ、焦点が定まらない。頭が割れるように痛む。

 

崩れ落ちるとともに押し倒されるように倒れ、首元にナイフをあてがわれる。息一つでもすれば、すぐに首を切り落とされてしまいそうだ。

バリバリとフィルムを嚙み砕き、飲み込んだ狐が口を開く。

 

「んー、やっぱり……おなか、いっぱい……」

 

それは拍子抜けするような、とても自分勝手な一言だった。

 

 

ぼんやりとした目を細め、ナイフを後ろへ雑に放り投げる。

 

「……もういい……おやすみぃ……」

 

そして突然の豹変に追いつけず、仰向けになったままの俺の隣で丸まり、無警戒に眠り始めた。

 

…………。

 

 

待て。

 

ちょっと待て。

 

 

 

本当に頭が追い付かない。何が起こったのか一度まとめよう。

 

 

襲われる(物理)

死ぬ直前まで追い詰められる

今殺しに来たやつが隣で勝手に添い寝してる

 

やばい。余計わからん。

 

 

落ち着けきっとパニックになっているんだ深呼吸深呼吸……。

 

よし、落ち着いた。誰が何と言おうと俺は落ち着いた。異論は認めない。

 

 

 

 

 

取りあえずめちゃくちゃ背中が痛いので背中のフィルムをどうにかしなければ。再生するとは聞いたが、それにしてもどうするんだろうか?

 

……もう傷が塞がっている。なぜだろうか。

……まぁいいか。これが管理人の不死性というものだろう。

 

さて、この白い塊をどうしようか。

襲って来たとはいえ客人を床で寝かせているのは少し申し訳無い。

布団しいて寝かせるか。それだけ大量の尻尾に包まれていれば平気かもしれないが。

 

そう思い布団を用意しようとすると、視界の隅で白い塊がもそりと動いた。狐は眠たげに目を擦り、目を開ける。

 

 

尾はそのまま4つだが、瞳は前のどろどろとした赤色ではなく澄んだ赤になっていて、敵対する意志は見られない。

 

「……俺何してたっけ…って、人ぉ!?俺ぇ!?」

 

目が合うと、焦った様子で尾と耳を隠そうとしている。ついでに自分と同じ姿のやつを前にして、さらに混乱していた。先程とは全く印象が違っていて少し心が和む。

 

「あー、大丈夫だよ?」

 

怖がらせないように笑いかける。ここ数年奏(自分)としか話ていないから、ぎこちなくなっていないか不安だ。

目の前にいる白いのも自分だが。

 

話を聞くと彼、悠也は狐憑きらしい。 

厨二病だと笑えればよかったのだが、見た目にそのまま出ている通り本物だ。

ほぼ呪いに近く、天狐を抑えるためには数ヶ月に一度、人肉を食べなければいけないらしい。そしてこれまでにも数回失踪事件(殺して食った)を起こしているそうだ。

なにそれ怖い。

 

「最近は変な場所に出てくる化け物とかも食べてるんですが、それでも中々抑えるのが厳しくて……」

 

……ん?

 

「今言った化け物って……。」

 

「ああ、化け物っていうのは、俺と同じなら知っていると思いますが」

 

 

 

「動く人形みたいなやつとか、黒コート着た強いやつです」

 

「思いっきり敵!!」

 

 

なんてこった。敵食ってたのかこいつ。

 

「黒コートのは美味しかったですね~特に火薬のせいか銃が肉厚なうえにスパイシーで」

 

「死神食うなよ」

 

 

なんという化け物だろうか。聞いてみればソロ討伐とのことで、暴走時の動きがよかったのも頷けた。

 

……人喰うんだったら、食われると聞いて喜びそうな人が一人、心当たりがある。

死ぬ回数も減らしてしまったことだし……まぁ、追加の発散にはちょうどいいか。

 

「喰われたら喜びそうな奴いるからたまに来るといいよ」

 

「え、いいんですか!いただきます!……そんな人いるんだ、世界は広いなぁ」

 

そんなエサ貰った犬みたいな目をするな。そしてしっぽの風圧が凄い。

 

あと、世界は広くても食われて喜ぶ人はまず居ないと思うな。ここ君の所と別世界だし。

 




悠也
人懐っこくかわいいが、実は中々のシリアルキラーなギャップ萌え。
アルビノは後天性で狐に憑かれた時になった。
胃腸に加護でもかかっているのか、大食いなうえに敵の一部なら何でも食える。

らぎ
とんでもないバランスブレイカーが誕生していて内心少し焦っている管理人。
この世界の管理が終わったら、次はここ担当するかもしれない。
あと、いつかしっぽを死ぬほどモフりたい。


知らぬ間に生贄にささげられていた。
本人がモフモフ好きなのもあり、死ぬほど喜んでいた。


小説書いていたら外が明るい。
眠い。


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薄汚れた日記がある……

郢ー繧願ソ斐☆荳也阜縺ョ莠コ迚ゥ
鬚ィ隕区律蜷
縺薙>縺九i蟋九∪繧
逡ー蟶ク縺ョ險倬鹸

繧ゅ≧蜈ィ縺ヲ縺ッ謇矩≦繧後□縺」縺溘

※ヤバい描写注意!!


どこかの世界から流れ着いたのだろうか……。

日付は所々飛んでいる……。

書いた人物の名前は黒いインク?で汚れて読めない……。

 

読みますか?

>はい

 いいえ

 

日記を読むことにした……。

 

邪魔者はお前か

奏を見るのは俺だけでいい

 

……?

 

なぜか視線を感じる……。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

■月15日

朝目が覚めると、指先に黒い海苔のようなものが浮いていた。

他の奴には見えないらしい。

なんだこれ。

明日ダンジョンに行くことになっているから、それまでには消えて欲しい。

 

 

 

■月2日

好きな人ができた。

まさか初恋の相手が同性だとは夢にも思わなかった。

家に帰ってからどうすることもできずこれを書いている。

きっと片思いで終わるだろう。それまでこの思いに耐えられるだろうか。

明日どんな顔をして会えばいいだろう。

 

 

 

■月6日

透き通るような銀色の髪、澄んだ黒い瞳。

彼の事を思い出すたびに胸が締め付けられるように感じる。

今すぐにも会いに行きたい。もっと触れていたい。

寂しいよ、奏。

 

 

 

■月27日

今度奏の家に泊めてもらえるらしい。親がしばらく出張で居ないからだそうだ。

二人きりということに興奮して年甲斐もなくはしゃいでしまい、奏に笑われた。

いつも無表情だからこそ、笑った顔が可愛くて仕方が無い。

それにしても二人きりだなんて、俺の理性が耐えられるだろうか。

今の『友達』という一線を越えないようにしなければ。

 

 

 

■月30日

奏の家に泊めてもらった。

何故か俺が奏の布団を使う事になり、眠るどころではなかった。

おかげでかなりの寝不足だ。

部屋もちゃんとくまなくチェックしたが、俺以外の人は連れ込んでいないようだった。

 

 

 

■月18日

奏の家の合鍵を作った。

これでいつでも忍び込める。

性能を調べるために今日は休んで鍵を使いに行った。

成功したので記念に奏の歯ブラシを持ち帰った。

 

 

 

■月2日

奏が女と話していた。

あいつの笑顔を俺以外が見るなんて許せない。

奏を見るのは俺だけで十分だ。離れろよゴミ虫が。

 

 

 

■月3日

昨日の女に手紙を送ったら学校を休んでいた。

いい気味だ。

 

 

 

■月20日

奏の周りにいる奴らが邪魔で仕方がない。

もういっそ全員殺せたらいいのに。

今日も奏は可愛かった。

 

 

 

■月29日

奏に告白したクソ野郎がいるらしい。

お前なんかには到底釣り合わねーよ、身の程を思い知れ。

消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ

 

 

もう殺してしまおうか。

 

 

 

■月4日

初めて人を殺した。

不思議にも罪悪感は無くて、とても楽しかった。

生暖かい血を浴びるのは気持ちよかったからまたやりたいと思う。

死体は適当にダンジョンにでも埋めておこう。

 

 

 

■月8日

まだ死体は見つかっていないようだ。

捜索届が出ているのを見るだけで、口がにやけてしまう。もう死んでいるのに。

今日奏によく似た奴の夢を見た。あまり覚えていないが、確か真っ白で目が赤くて……猫耳が生えていた。

素直で怯えた顔もかわいかった。夢は凄い。

 

 

 

■月16日

奏が死んだ。

うそだ。

そんなはずない。

 

 

■月17日

奏の死体を持ち帰った。

 

 

 

 月 日

奏奏奏奏奏奏奏奏奏かなでかなでかなでかなで

俺を置いていかないでよ何で先に行くの寂しいよ奏がいなきゃ俺が生きる意味もないし虫を始末してさらし首にしたのもまったく意味がないじゃないかこんなにも好きなのに尽くしたのにどうしていなくなるのおいていくの死んだ奏も眠っているみたいできれいで黒くなった血もきれいで見とれていたらいつのまにか手を出していたけどもう死んでるからいいよね奏の中気持ちよかったよああでも他の虫に最期を奪われるなんて嫌だ絶対に嫌だ奏は死んだときはどんな顔をしてたのかな絶望してたかな泣いてたかな笑ってたかな結局どれもきれいだろうけど死に際の顔もそいつは見てたってことだろ本当に気分が悪い最期まで見つめていたかったのに奪われた許せない奏の魂まで俺のものにしたくて頑張ったのに奪われた全て意味がなくなった許せない許せない許せない本当に殺してやりたい奏の肉も美味しかったなでも生きていなきゃやっぱり寂しいままで変わらないから早く会いたい生きた奏に会いたい息苦しい奏の体温が欲しい寒いよ会ったら抱きついて匂い嗅いで犯して閉じ込めてずっと一緒にいたかったのに今じゃもうそんなこともできない死んだ体を傷つけても虚しくて仕方がないよ会わせてよ神様お願いだから生き返って気持ちいよ怖いよ寂しいよ楽しいよ助けて会いたい会いたい会いたい会いたいかなでかなで会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい殺したい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい殺したい

 

 

 

あ、そうか

 

 

 

 

 

 

いまいくよ

 

 

 

 

 

 

 

 

だいすき

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「怖……」

読み終わって口をついた言葉はその一言だけだった。

黒海苔は恐らくグリッチの事だろうか。だとしたら、キャラにバグが乗り移るといったかなり面倒なことになる。

それにしてもこの怖すぎる日記を書いたのは誰なんだ。

奏の事を連呼していたから彼の世界の人物だろう。

奏が死んだ、と書いていることから、現在無限ループに入っている死神ゾーンの一番最初を見ればわかるか?

端末を操作して初めて奏が死神に殺されたシーンを呼びだし、再生する。

メンバー全員に見えた死体は確かに一人足りない。残ったあと一人。

通常の世界では一番にパーティーに加入する相棒的ポジションなのだが、この世界では何故か病んでしまったようだ。

風見(かざみ)日向(ひゅうが)

その名前を呟く。

また対処しなければいけない問題が出てきた。面倒くさい。

この世界はどこまでおかしくなれば気が済むのだろう?

111001011010010110001111111000111000000010000001111001011010010010100111111001011010010110111101111000111000000110001101111000111000000110100000111000111000000010000010111000111000000110010011111000111000001010001100111000111000000110001011111000111000001010001001111000111000001010000010111000111000000110011010111000111000000110100011111000111000000110101000111000111000000010000010




日向
片思いを拗らせ素晴らしく病んだ青年。
人殺しとか死姦やらふつうにやる子になってしまった。
どうしてこうなった。
原型はもっとムードメーカー的なアレなんですよ?


知らないうちにクソデカ感情を向けられていた。
しかし気づかない鈍感。
現在性癖がえげつないことになっているが大丈夫だろうか。
因みに日常生活の中ではいつものヤバい部分は鳴りを潜めている。

いつにもまして文が雑な気がする。ごめんなさい。
空白の所を反転してみるといいことがあります。たぶん。


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消滅世界の被害者は壊される前の幸せを見るか?

それは余りにも鮮烈で、残酷な終わり。
真実なんて知らないほうがよかった。
原因を作り出したあいつ。
親友だと、相棒だと思っていた。
本当はそんなものなんかじゃない、おぞましい怪物だった。
そんなものを信じてしまった。護ってしまった。
俺は元の名前を名乗ることもできない出来損ないだ。
俺の罪は許されない。
あいつを許すわけがない。
これからもずっと、いつまでも。

嗚呼、彼の名前は。



夢を見させて

この度、助手が派遣されるようです。

 

派遣理由は、俺が修正に年単位で手こずっているから。申し訳ない。

俺の世界とベースが同じらしく、よく知っている人物とのこと。

 

誰が来るんだろうかと思いながら、いつものように淡々とバグを潰していた。

 

ふと意識を戻すと、部屋の隅の方で悠也が獲物(敵キャラ)を食っていた。

今日の獲物はぬいぐるみのような形をしたものだ。それ内臓あったんだね。一生知りたくなかった。

 

「それ美味い?」

「え、はい。クリーミーです」

 

そっかー。それならよかった(脳死)。

しばらくさっきと同じような時間が流れた後、何かを思い出したように彼が顔を上げた。

 

「あ、そういえば如月さん、俺この前変な夢見たんですよ」

「どんな夢?」

「日向に凄く撫でまわされる夢でした。でも、なんだか日向の雰囲気が怖くて動けなくて……」

「……ふーん」

 

日記に書いてあったものと同じ。……猫耳って書かれてたぞ悠也。

おそらく、あの病み日向は夢を通して別の世界とつながれるのだろう。連鎖すると別の所に迷惑をかけかねない。より一層注意しなければ。

 

「……ところでずっと思っていたんだが、何で敬語なんだ?」

「うーん……年上の雰囲気がするからですかね……?」

 

俺が年上なのは確かだ。外側の見た目が変わらないだけで、精神と中身はもう20歳近いのだから。その違いを見抜くとは……こいつ、やるな。

 

酷く赤い景色

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

許されないもの

 

 

……遅い。

 

いつ来るんだ。ずっと来なくてむしろ心配になってきたんだが。

 

薄暗い管制室に一人きりというのも心細い。そして暇。

 

いや、一人なのはいつも通りか。

 

回る椅子に座りぐるんぐるん回転していると、部屋の中心にざり、とノイズが走った。やっと助手(仮)が来たのだ。

 

それは裂け目のように広がり、人が通ることができる大きさまで広がった。

 

金色に染まった髪。特徴的な黒と赤のヘッドホン。

断片的に見えた物からでもその人物が分かった。あまりの懐かしさに、思わず涙が出そうになる。

 

「かざ、み?」

 

ほぼ無意識に彼の名前を呼ぶ。

 

 

驚いたように振り向いた彼の青い瞳は、絶望と恐怖が入り混じった色をしていた。

 

「ひ……い、いや……」

 

頭を抱え首を振りながらこないで、許して、と子供のように呟く姿は、酷く痛々しく見えた。

 

……世界が崩壊する理由はさまざまで、その一つに『ストーリーの改変』というものがある。

 

俺の管理するところは変化する世界なので多少は大丈夫だが、それでも『主要人物の大量殺戮』などの大きなものは耐えられない。

 

壊れきる前に主人公が死んでいれば巻き戻るが、間に合わなければ崩壊する。

 

そして。

 

 

殺戮を主人公が行い崩壊する、という最悪の結果もある。

 

 

彼もまたその被害者なのかもしれない。

俺がいる事でトラウマをぶり返しているのだろう。

 

「……ごめんな」

 

今は俺が退出することが最善策だと思い、部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最近、夢を見る。

 

 

酷く赤くて、段々と黒に飲まれる、今となっては遠い昔のもう忘れてしまいたい嫌な記憶。

 

主人公(あいつ)がみんな壊して、殺して。名前も忘れてしまった彼は、人をいともたやすく斬り捨てた。

まるでいつも通り敵を斬るように。

 

彼の瞳は無感情で、作業をする機械を彷彿とさせた。

俺は最後まで残されて、黒く塗りつぶされていく世界の中、心臓を抉られて死んだ――はずだった。

 

今、俺は生きている。

 

片目も心音も、温かな体温さえない状態で。

 

そんなことなら死んでしまいたかった。真実も知らないまま、データの海に消えてしまいたかった。

 

みんなを守れず、見ていただけの最期まで何もできなかった出来損ないが生き残った。

そんな自分が生きていることが嫌で仕方がない。

 

耳を塞ぐようにヘッドホンをつけると、過呼吸気味になっていた息がようやく落ち着いてくる。

 

音もならないが、これを持っているととても落ち着く。

もう手放すこともできないほどに、…………依存してしまうほどに。

 

そういえば、あの如月とやらには迷惑をかけてしまった。

 

せめて少しでも役にたたなければ。

足手まといになるのすら、死にぞこないの自分には見合わないから。

 

重い体を起こし、おぼつかない足取りで歩く。

彼が出ていった方にあった扉を開くと、少し甘い匂いがする事に気が付いた。

匂いに導かれるようにして歩くと、長身の人影が見えた。如月だ。

 

「落ち着いた?」

 

彼の声を聞くだけで背筋に嫌な汗が流れる。彼はあいつとは違う、別人だと必死に体に言い聞かせながら、やっとのことでうなずいた。

 

「……まだ、みたいだね」

 

へら、と疲れたように小さく笑う如月の目は優しさを含んでいて、少し落ち着くと同時に申し訳なくなった。

おそらく、彼の素の面が出ていた。嫌だ。心配しないでくれ。

 

「こんな奴、心配しなくていい」

 

思わず口をついたその言葉に、如月は悲しげな顔をした。

それでも滲んだ視界の中、俺は言葉を繋ぐ。自分をあざ笑うように、半笑いを浮かべながら。

 

「俺は世界が壊されるのを見ている事しかできなかった。こんな抗うこともできない人形を守って、どうす……」

 

「言うな」

 

そう言い切る前に手で口を塞がれ――――抱きしめられた。

 

一瞬訳が分からず動きが固まる。

 

「……どうし、て」

「凄く辛そうに笑って……()()()いるから」

 

いつのまにか俺の目からは涙がボロボロと落ちていた。そのことに気づいてしまうと、もう嗚咽をこらえるのもできなくなっていた。

 

……泣くのはいつぶりだろうか。あの日以来――もう数年、泣いていなかった。

 

きっと今の顔は相当ひどいものだろう。

彼に縋るようにしがみつき、子供のように泣きじゃくりながらそんなことを思った。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「気は済んだ?」

「……ん」

 

まだ少し嗚咽が残る中、俺は目をこすり、ようやく彼から体を離した。

 

彼は俺が泣いている間、ずっと頭をなでていてくれた。恐怖による体の緊張も無くなっている。

なんとか、如月の事を受け入れられたようだ。

 

「呼び名、どうしようね」

 

眼鏡をかけなおしていると、彼からそう尋ねられた。

確かにまだ本来の名前を呼ばれるのは厳しいだろう。

 

「……ヒナタ、とか?」

 

昔からそう名前を呼び間違えられていた。

今となっては懐かしく、仮の名前としても適していた。

 

「ヒナタか……これからよろしくな、ヒナタ」

 

そう言いながら差し出された右手を握り返す。

いつか自分の過去も受け入れることができるのだろうか。

 

少しの不安を持ちながらも、俺の『ヒナタ』としての生活が始まった。




ヒナタ
新しい名前を与えられた管理人。主人公に世界を壊され、管理人に変化した。
欠損部位は右目と心臓。そのため脈拍が無い。
ヘッドホンを外して五分ほどで強い幻覚が見える。

病み日向にはドン引きしている。
ちなみにそちらの日向と対話をすることもできるが、怖くてできない。
モデル共通で甘党。

ヒナタはとてもかわいい。



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愛の暴走は止まらない

侵略。
こんなのでも元はまともだった。

如月さんと日向さんのお話。
暴走についていけない如月さん。


ヒナタが来て数日。

 

特に異常もなく、彼の恐怖心は何とか雑談できる程度には収まっていた。

作業効率も上がって頼もしい限りである。

 

ヒナタと話していると、彼が来てから初のアラートが鳴り響いた。

 

本来ならば緊急事態を知らせるものだったのに、今ではもう聞き飽きた音だ。週3回は聞く。

 

「き、急になんだ!?」

「緊急アラートだよ。もう聞き飽きてるけどね」

 

あたふたと聞いてくるヒナタに短くそう伝え、状況を確認する。

やはり慣れとは怖いもので、どうせ奏が死んだんだろうと全くの無警戒にモニターを開いた。

 

その目に飛び込んできたのは。

 

 

 

『奏……好き……何で…こんな形…しか……』

 

 

愛を囁きながら、奏の体をめった刺しにしている日向の映像だった。

 

 

音声はひどいノイズがかかって聞き取りずらいが、好き、という単語は何故かはっきりと、何度も聞こえた。

あと日向はなんでズボン脱いでるんですか?ねえ?

 

あまりの衝撃に俺とヒナタ、両方の体が固まる。

目の前の異常を飲み込むのに時間がかかっているのだ。

 

なすすべもなくフリーズしていると、画面の中の日向がこちらを振り向いた。

 

快感に飲まれ焦点のあっていないような眼は、ぐるぐると渦巻くような赤黒い色をしている。

一瞬瞳孔が三つに増えたりとか顔に穴が開いてたりしたけどたぶん気のせいだ。

 

まさか、こちらの存在を認知しているのか?

 

絶対やばいと思い、映像を切ろうとするが機械が反応しない。この時点で俺たちはもうパニックに陥っていた。

 

ばち、と一瞬グリッチが画面を覆い隠し、日向は背景を少しずつ暗転させながらゆっくりとこちらへやって来る。

 

「……如月、手を握っていてくれないか」

「奇遇だな、俺もそう聞こうと思っていた……うわ手冷た」

 

こんな会話をしていても正直冷汗が止まらない。

体を寄せ合い、暗くなっていくモニターをただ見つめる。

 

強制終了のコードも効かなかった為もう何もできず、俺たちは彼の動向を見守ることしかできなくなっていた。

 

 

じじっ、ばち。

 

 

浮かぶモニターも少しだが揺れ始め、ノイズが画面を覆いつくすたびに彼が近づいてくる。

 

 

ぱちっ、ばちん……ぐちゃ

 

 

 

少しの水音か肉を踏む音かが響き、その映像は途切れた…………かに思われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少しの間暗転が続き、俺たちが警戒の構えを解いたその直後。

 

 

 

 

 

 

 

 

画面にびしり、とひびが入った。

そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

唐突に、顔面が崩れ落ちた日向が画面に張り付いた。

まるで「みいつけた」とでも言うかのように、口を三日月のように深く歪ませて。

 

 

 

 

 

 

 

そんなびっくりフラッシュみたいな映像がこんな緊張状態で流れるから。

 

「「あ”あ”あ”ああああぁぁぁぁっ!?」」

 

 

 

元からビビりだった俺たちは、見事な悲鳴を響かせざるをえなかった。

 

 

 

そのまま映像は消え、今度こそ何も起こることはなかった。

 

「今の……って、え、ヒナタ?」

 

引っ付いていたヒナタがそのままの状態でしゃがみ込み、手を引っ張られる。

 

「怖かった……こわかった……」

 

よほど怖かったのか、腰が抜けたか。

 

しばらく小刻みに震えながら呟いていた彼が、ふと顔を上げ、呟く。

 

 

 

「怖かったよなぁ、()()()()()()

 

 

 

ぞわ、と悪寒が走る。

 

その声はひどく冷静で、何か黒いものに飲まれかける感覚がした。

立ち上がった彼は固まっている俺の背にしがみつき、頭を擦り付ける。

 

「んへ、奏と同じ匂いがする……」

 

なんだこいつ気持ち悪い。こんなことを呟くのは一人しか思いつかない。

 

先の絶叫の原因でもあり、現在一番手を焼いているヤンデレ。

 

「お前……日向か!?」

「へへ、正解」

 

日向が体を離し、正面に移動する。

 

「こっちに来て奏に会いたい……そう思ったら来れちまった。」

 

に、と彼が口角を上げると、その背後でノイズが音を立てて弾けた。

 

――それはこれまでで一番の緊急事態。

『管理人の乗っ取り』。前例の全くない異常事態。

 

「……奏に、会わせて?」

 

その赤黒い眼をしたバグの塊は、そういってニヤリと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

奏に会いたい。

 

異常事態を起こした彼は、確かにそう言った。

 

「……本当はお前に、その……お、俺のノートの事とか、問いただしたかったんだが……」

 

目線をそらし、言いずらそうに呟く。あれ黒歴史ノートだったのか?確かにすごい事書いてあったが。

 

「まあいいか、乗り移んのに成功したんだし。奏の居場所はもうわかってるからな」

 

まあそれは正直好きにしてもらっていい。問題はどうやって意識を乗っ取ったかだ。

バグが干渉するにも離れすぎている気がするのだが。

 

愛、か?まさかな……。だとしたらすっごい怖い。執着えげつなさすぎだろこいつ。

 

「ああ、行くならもう少し待ってくれ。復活させていなかった」

「なっ……それを先に言えよ、あと早くしろ!」

 

はいはい、と生返事を返しながらコードを打ち込む。日向はというと、こちらの作業を興味深そうに見ていた。今度来た時にでもやろうとか思っているのだろうか。

まあ権限がないから無理だろうが。

 

「ふへ……奏ぇ、血まみれの姿もきっときれいでかわいいんだろうなぁ……早く会いたい……」

 

後ろのほうで、サイコなヤンデレがなんか言っているが気にしないことにする。気にしたが最後、ヒナタをまともな目で見られる気がしないからだ。

そうしているうちに慣れ親しんだコードが打ち終わり、転送が始まる。

 

「……日向。ちょっと聞きたいんだが……お前奏に対して、具体的にどんなことしたいと思っているんだ?」

 

待っている間無言というのも少し気まずいので、前から気になっていた疑問を投げつけてみる。

さて、どんな反応が返ってくるか……と見ていると、日向はエラーウィンドウを出してフリーズした。おまけにてろりーん、とエラー音も鳴っている。

 

「あれー?日向さーん、おーい?」

 

声をかけてようやく動いたかと思ったら、今度は顔を真っ赤にしてぼそぼそと話し出した。

 

「あ、あぇ……そぉ、そんなこと……本当に話さなきゃダメ、か……?」

 

言いずらそうな彼に対し、無言でうなずく。無理しなくていいとも言おうかと思ったが、疑問に対してそう簡単に引き下がる俺ではない。

あと単純に虐めたい。奏に会わせる対価だ。これじゃあもう自分がMなのかSなのか分からないな。

 

「ぅぐ……お前はもう知ってるだろうが、あのノートに書いてあった……あの、最後の……」

「ああ、あのえげつない長文か?」

「あの時みたいに、ドロドロに汚したり、もっと《自主規制》したいっていうのもあって……ああもう奏はなんであんなにかわいいんだ?腰のラインとか《自主規制》とか《自主規制》とかもうすごいえっちで」

 

おおっと急に俺の精神へダイレクトアタック!!

やめてくれよ!遠回しに言ったら同一人物なんだから!!

 

……いやあんな自殺厨と同一人物とかちょっとやだな……。

 

「……その奏とおんなじ姿で、なんなら一周目の主人公である俺がいることはお気付きでしょうか日向さん」

 

彼が暴走するにつれてノイズがひどくなっている気がしたので、いったんストップをかける。

 

日向がこちらを向き、沈黙が流れる。

少したって彼が一度深く息をし、極めて冷静な顔で口を開いた。

 

「殺るか」

 

彼の手に、さっきまで奏の身体を貫いていたナイフが現れる。

 

これは選択肢を間違ったかもしれない。

いい、もういいんだ。覚悟はできて……

 

「……冗談だからな?別に『奏の姿の奴は一人だけでいい!』って切りかかるわけじゃないからな?」

「……なんでそんな噓つくの」

 

 

長い茶番を繰り広げていると、いつの間にか奏の転送が終わっていた。

 

ウィンドウを閉じ、日向の方から目線を外したその一瞬。

 

「それじゃ、少し時間をあけ、て……」

 

その間に、彼は忽然と姿を消した。

あいつ、奏の居場所は分かっているとか言ってたよな……?

そして今向かったのだとしたら。

 

「めんどくさいな……」

 

どうあがいても地獄絵図な絵面しか思いつかないが、俺は渋々待合室に足を運んだ。

 

 

 

 

ぴったりと耳を扉につけ、状況確認を試みる。

 

声は特になし。最悪の事態は免れた。

 

数回深呼吸し心の準備をととのえ、部屋に突入する。

 

そこには。

 

「かなでぇ……えへ、かわいいね……かわい……」

「……如月、何故こいつが居る!?」

 

幸せそうな顔をして倒れ伏す日向と、それに困惑する奏。

 

想定していた状況とは全く違う光景に啞然としてしまう。

取りあえず呆けた顔の日向に軽く蹴りを入れ、部屋から引きずり出す。いでぇ!?と声が聞こえた気がしたが知らん。

 

「あー、満足したぁ……」

 

蹴られたのにも関わらず、ほわほわとした柔らかい穏やかな表情を浮かべる彼にまた呆れる。

あのびっくりフラッシュみたいなのはどこ行った。詐欺かよ。

 

「はぁ……満足したんなら帰ってもらえるか?」

「……仕方ない、約束だからな」

 

渋々といった様子で、彼は白黒のノイズを弾けさせる。

――思えば奏見て倒れただけじゃないか。何しに来たんだお前。

 

「じゃ、またな」

「はは、二度と来るなバグ野郎」

 

そう挨拶を交わすと、日向の意思が入っていた体ががくり、と崩れ落ちた。

 

主導権が入れ替わったのだろう。開いた瞳は澄んだ青色で、ヒナタと入れ替わった事が分かった。

ヒナタはぼんやりとこちらを見つめ、理解できないとでも言いたげにこちらを見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めれば、そこはいつもの部屋だった。

片目の視力は戻っていて、体にフィルムも生えていない。あふれる思いが見せた一種の白昼夢かと思うほどに、何も手元には残っていない。

ただ、脳裏には彼の姿が焼き付いていた。

 

興奮で薄く桜色に染まった肌。

むせかえるような血の匂い。

押し殺した高い喘ぎ声。

汗とまじりあって薄くなった赤色。

快楽に負けて小刻みに痙攣する体。

 

そのすべてが酷く倒錯的で、興奮して。

 

薄い布数枚に隔てられた陶器のような白い肌に、ほんの少しでも触れられたのならどれほどよかったか。

……もしそれが実現したのなら。してしまったのなら。

きっと俺は自分を抑えきれない。

ぐちゃぐちゃに意識がなくなるくらい混じり合って、その後形がなくなるほど刺し殺すかもしれない。

奏に抱く劣情と同じくらい、彼を壊してしまうかもしれないのが怖くて仕方がない。

 

今日は何度目の葬式か。飛び散った肉塊を、砕けた骨を見たのは何度目だったか。

自分の内にある殺人衝動が憎い。

 

大好きな人を失うのはもう散々だというのに。

 

世界がまた創られる。

辛くて流した涙も、データに還元されて消えていった。




日向
ヒナタの体を乗っ取り、ついに殴り込みを果たしたヤンデレ。
同モデルなら次元を超えて乗っ取りが可能。
愛ってすごい。

ヒナタ
登場してすぐ乗っ取られた。
如月に懐き始めている。トラウマどうした。

あの光景が出来上がるまでの出来事
部屋入る→奏(血まみれ)のソロ見る→もう可愛すぎてキャパオーバーして倒れる→それ見て奏は日向だと確信するし萎えた


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とある世界の異常な主人公①

幾度となく繰り返し、狂った者の話。

_人人 人人人人 人人人人 人人人人 _
>当 然 エ ロ グ ロ あ り<
 ̄Y^Y^Y^YY^Y^Y^YY^Y^Y^Y ̄




目の前に、赤い景色が広がっている。

 

生きていれば本能的に恐怖を覚えるような光景。

一人残された俺は、勝てそうにない相手に立ち向かっていた。

 

辺りには惨殺された死体と、それを貪る無数の怪物。完全に囲まれ、逃げ場などない。

 

雑魚とはいえ数がある。

数の暴力に負け、殴打され、叩きのめされる。

怪物たちはされるがままの俺を見てあざ笑い、蹂躙した。

 

片腕をもがれ、反射的にうめき声を漏らす。

辺りに、さらに鮮血が飛び散る。

 

痛みは一周回ったのかもう何も感じず、ただ息苦しさと四肢が欠けたことによる喪失感のみが残っていた。

 

体から血が抜けて、世界が白黒へと姿を変えていく。

 

頭の中がぼやけ、何も考えられなくなっていく。

 

 

ぱち、と何かがはじけ、そこで意識が途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――ざらざらとした、耳障りなノイズ音が鳴っている。

 

何事かと思い目を開けると、白い部屋に横たわっていた。

 

「何が起きて……っ!」

 

体を動かすと、ちぎられた所から刺すような激痛が走る。

濡れた感触があると思えば、真っ赤な血がそのまま流れ出していた。

 

痛みが止まらない。体が抉られていくようだ。

血で手が滑ったのもあり、ごと、と重たい音を立てて倒れ伏した。

 

欠損部分は繋がっているはずなのに、ものすごく痛い。苦痛で気がおかしくなってしまいそうだ。

 

うつ伏せの状態で、何度もかすれた荒い息を漏らす。そのうち口からもこぷ、と静かに血が流れだし、白い床に広がる。広がっていく鮮血と真っ白い床の色合いはさぞかし綺麗なんだろう、と痛みで擦り切れていく頭で考える。

 

どれほどの時間が経っただろうか、ようやく体の奥に響くような激痛が収まってきた。

 

いまだ残る痛みに翻弄されながらも体を起こし、壁に力なくもたれかかる。

口から流れ出た血をぬぐい、やっとのことで息を整えていると。

 

不意に、声が聞こえた。

 

 

《…や……た》

 

 

「……?」

 

立ち上がり音のありかを探すが、それらしいものは見当たらない。

最初はかすかなものだったそれは、徐々に大きさを増していく。

 

《やり直しますか?》

 

はっきりと聞こえたその声は、自分のものと酷似していた。

やり直す。そう問われ、思い返す。

 

体をちぎられる感覚。

 

痛みも何もない、ただ残る虚しい喪失感。

 

意識が消える寸前のぼんやりと滲んだ視界。

 

超えてはならないラインを通過したような痛みと背徳感。

 

そして、ぐちゃぐちゃに体を傷つけられ、嘲笑される自分のみじめさ。

 

できることならば、もう一度味わってみたいと思ってしまう。

 

そんな自分が嫌だった。一度殺されたせいで、感覚がおかしくなってしまったんだろうか。

気づけば体は問いに対し、勝手に頷いていた。

 

頭に弱い電流が流れた感じがして、力が抜ける。

ここに来た時のように再度倒れると、薄くなった意識をまた手放した。

 

 

 

 

俺はまだ気づかなかった。

 

苦痛を思い出した際、微かに体が疼いて痛みを求めてしまった事を。

ここで引き返せばどれだけよかったかを。

 

後々それが後悔の火種になることを、俺はまだ知らない。

 

 

 

 

 

TURN:1

TURN:2

 

 

 

 

《不明な介入を検知しました》

 

 

 

 

TURN:6

TURN:7

 

 

 

 

 

骨がきしむ音が分かる。

 

あの時の感覚をまた楽しみたくて無抵抗で居ると、それに応えるように簡単に骨が折られた。

ごき、と掴まれた足から聞こえてはいけないような音が聞こえ、酷い痛みと苦痛が襲い掛かる。

 

今の俺は傍から見たらどんな姿なのか。

 

蔑まれるような醜い見た目をしているのだろうか。もしもそんな目で見る人間がここに居たらと思うと、こんな状況でも腹の奥底がどうしようもなく甘く疼いてしまう。

腹を殴られ、現実へと意識を引き戻される。

こぷり、と小さく水音を立てて生暖かい胃の中身を吐き出す。吐いてしまったという事実と、喉を吐瀉物が這い上がってくる感覚にぞくりと背筋が震えた。

薄茶色の吐瀉物が血と混ざり合い、白いシャツを汚す。

 

もっと。もっとだ。

 

こんなものでは物足りない。さらにひどく痛めつけて欲しい。

 

痛みと興奮、どちらのせいなのかもわからない、荒く熱い息を吐く。

 

「はぁっ、……っと……」

『グルぅ?』

 

俺をつまみ上げている茶色い毛で覆われた怪物が、聞き返すように唸る。

言葉は無意識に零れ落ちていた。

 

「もっとぉ……痛くてきもちいの、くだしゃいぃ……」

 

はぁはぁと浅い息を繰り返しながら幸せそうに笑い、そう呟く姿を想像して、まごうことなき変態だなとその時は冷静に思った。

 

『……ぐぁぅ』

 

その言葉を聞いた目の前の蜘蛛っぽいのも、心なしか引いている気がする。だがその視線もなかなかにクるものがある。

 

……まあ正直、こんな言葉が出てくる自分に、俺自身も少し引いたが。

 

捨てるように投げられ、地面にたたきつけられる。

かなり折れたな、と思いつつ、その痛みと扱いで更に感じてしまう。

 

心の底では言葉攻めも欲しいとか思うのだが、まあそこは仕方ないだろうと妥協した。

 

怪物の爪が背中を貫き、目の前に火花が散る。

それと同時に聞きなじんだノイズ音にかき消されるようにして、熱に浮かされた思考が途切れた。




まだ人前では自分で制御できるので進度は比較的低め。


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とある世界の異常な主人公②

R-17.99……、再来。


奏、根はまともなんだよなあ。性的方面がやばいだけで。


 

ぜえ、はあ、と荒い息が白く統一された部屋に響く。

何とか壁に寄りかかるように座れたのはいいものの、体を少しでも動かせば抉るような激痛が広がり、同時に酷い快感に襲われた。

 

「あ、あぐぅ……っひ、ぐ」

 

痛みによる悲鳴と甲高い喘ぎ声が同時に出て、体も頭も混乱する。

 

それでも変わらず快感は押し寄せてきて、段々と頭の中がこの部屋と同じ白色に染まっていく。

 

どうやら自分の体は数度死んだだけで、痛みを気持ちいいものと誤認するようになってしまったようだ。

 

腰が勝手に動き、布が擦れる。

こんなのはいけない、と蕩けきった頭で止めようとしても、もう手遅れで。

 

「や、ぃやだ、っ、こんな、の……ふ、ぅっ、……!」

 

身体を抱きかかえ、勝手に漏れ出る声を殺して情けなくびく、と跳ねる事しかできなかった。

 

 

「は……ぁ、ふ……」

 

霧でかすんだようなぽわぽわとした意識が晴れ、下半身の不快感に思わず顔をしかめる。

 

……やってしまった。ここまでやるはずなかったというのに、痛みで達してしまうなんて。

 

深く呼吸をし、荒くなった息を整える。

余韻で痙攣する手足を動かそうとするが、うまく力が入らない。

 

……ああ、もう最悪だ。

 

楽な姿勢を探して仕方なく横たわるが、広がった血が絡みつき気持ちが悪い。

上も下も色々とヌルついて気持ち悪く、唸っていると上から呆れたような声が降ってきた。

 

「はぁ……おーい、大丈夫か?」

 

それは自分の声を少し重ねて加工したような声だった。

 

「……?お前、は……俺……?」

 

それは自分、としか言いようがなかった。

よくよく見れば縞々の平べったい触手のようなものが伸びていたり、目が真っ青だ。

 

「姿を見せるのは初めてだったな。俺は如月。お前を生き返らせている張本人だ」

「え、うん……?」

 

目が全く笑っていない、作り笑いのような笑みで俺と同じ姿をしたそれは名乗る。

 

別世界の自分、とかいうものだろうか。オカルトなんかは信じないたちだが、こんな繰り返すなんて事態が起こっている以上あり得る話だろう。

 

そこまで考えて、は、と自身の尊厳に関わることを思い出す。

 

「……さっきの、見てた……か?」

「……さっきって何のことだ?」

 

その返答を聞き、安堵のため息を吐く。

よかったぁぁぁ……見られてなかったぁ……本当見られてたらメンタルがやられていた……。

 

「まあお前が大丈夫そうでよかったよ。……で、」

 

安心して胸をなでおろしていると、如月の笑みが消え、その宝石のように青く澄んだ目がすん、と細くなる。

 

()()()()()()()?」

 

その声色はいつもこの部屋で聞かれる繰り返すかの質問そのものだった。

 

それに気づき、ああ、やっぱりあの声はお前だったんだな、と確信した。

無言でうなずき、肯定する。

 

「じゃあ、行ってきな」

 

いつもと同じように弱く電流が流れた感じがして、意識が消えた。

 

 

壊せ壊せ、壊れてしまえ

 

 

TURN:7

TURN:???

 

 

そうしてもっと、おかしくなるのだろう

 

 

辺りにねっとりとした血の匂いが漂っている。昔は嫌な匂いだと思っていたが、今ではもう慣れたものだ。むしろ心地いいとも思ってしまう。

 

何時ものように一人残された俺の前には――――死神。

 

ビリビリと肌に突き刺さるような殺気を感じ、背筋にぞくりとしびれるような快感が走る。

 

止めることのできないスイッチが入ってしまう。

 

腰が砕けそうになるのを必死に抑えていると、死神が銃口を向けた。

たん、と重いような、衝撃のあるような大きな発砲音が鳴り響く。

 

俺は目を閉じ、その衝撃を受け止めた。

ぱん、という肉がはじける小気味いい音とともに額が撃ち抜かれ、眼前に紅い花が散る。

なんてきれいなんだろう、とゆっくりになった世界の中そう思った。

 

その時だけは気持ちがいいかどうかなんてものは考えず、ただ自分の血に見とれていた。

まぁどうせ、この後すぐにでもどろどろに蕩けきって、そんな事などどうでもよく思ってしまうのだろうが。

 

視界が黒く染まり、ふと聞こえてきたいつものノイズ音とともに目を閉じた。

 

 




……こちらからはノーコメントということで。


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Ture Lost

いつのまにか投稿が一か月ほど遅れました。
何故。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

それは、とある世界の残滓。
そこにあったものはいつまでも残り続ける。
いつまでも消えることはない。

いつまでも、追いかけてくるものなのだ。

※嘔吐表現、ヒナタ視点


突然だが、「Herobrine」というものを知っているだろうか。

 

某クラフトゲームの都市伝説であり、簡単に説明すると、もうこの世を去った人物が干渉してくるといったものだ。

では、消えた世界の人物はどんな扱いになったのだろうか。これもまた、幽霊という扱いになるのだろうか。

管理人になり実体を持っている自分たちも幽霊のようなものなのだろうか。都市伝説の彼に似たものになるのか。

 

いくら考えても答えは出ないままだ。

 

布団を頭までかぶり、目を閉じる。相変わらず体温は感じられない。未だに慣れない、まるで遺体のような冷たい体。

これも"彼"に残された傷跡だ。

 

『本当は両方とも潰したかったけど、かわいそうだし僕のことが見れなくなるでしょ?』と笑いながら右目をつぶしてくり抜き。

一番一緒に居られる気がする、と心臓をくり抜いた。

それかられから何度も汚されて。

何度も、何度も、幾度となく。殴られ、犯された。

 

「……ぅぐっ」

 

思い出した瞬間に吐き気がこみ上げ、咄嗟にベットの横に置いておいた洗面器を手に取った。

 

「え、ぉ"っ……お”ぇ……」

 

洗面器の中に胃の内容物をぶちまけ、えずく。べちゃべちゃと音を立てて落ちていく液体を見ていると、如月といた時の幸せが逃げていくようで怖くなった。

 

「さ、らぎ、きさらぎ……」

 

自分を救ってくれた彼の名を呼ぶ。

 

今の幸せが逃げないように。もう怖くないと思えるように、祈りながら。

 

「こわい、たすけ、て」

 

そう呟いていれば、次第に夜は明けていった。

 

かごめかごめ やみのなかのれいは

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

いついつでやる

 

結局、その夜は眠れなかった。

 

最近毎日と言っていいように乗り移ってくる日向も、気遣ってくれているのか今日は来なかった。

奏たちもおらず如月と二人きりの時間。心を乱されない、唯一無二の安心できる時間だった。彼とたわいもない話をすることが、俺にとって一番の精神安定剤だ。

 

「如月」

「……ん、どうした?」

 

声をかければ、彼は資料を纏めていた手を止めて返事をした。彼もあまり眠れていないのか反応が少し鈍い。

 

「なんでもない」

 

一度会話を切るが、どうしても今言いたいことがあるのだ。

彼のおかげで、今自分がいるから。救ってくれたから。

一歩を踏み出せ、と勇気を出す。

 

「俺、如月に会えて本当に良かった」

「急にどうした」

 

熱かなんだと抉れた右目を隠す髪を彼が撫でる。同じ姿だというのに触ることも心も許してしまうのはなぜだろうか。

 

「だから、これからも一緒に居たいな……なんて……」

 

つい、そう口走った。

その言葉に、彼は満面の笑みで応えた。

 

「!、嬉しいよ!

 

()が君にそう言ってもらえる日が来るなんて!なんて幸せな日だ!」

 

 

 

――「僕」と。そう、それは言った。一瞬、思考が停止して現実を受け入れたく無くなる。

それでも。受け入れなければいけない。

 

もう聞きたくもない「君」という呼び方も、話し方も、全部全部。

 

 

俺を閉じ込めて遊び続け、あの日世界を壊し心臓を奪い去った。

 

 

あいつの、ものじゃないか。

 

 

「お、まえ、いつ、か、ら?」

 

呼吸がおかしくなり、とぎれとぎれにしか話せなくなる。

引きずり込まれるような恐怖感に苛まれ、今にも崩れ落ちてしまいそうだった。

 

「最初からに決まってるじゃないか。そんなことにも気づけないなんて馬鹿だなぁ。僕は悲しいよ」

 

底知れない恐怖心と共に、ふつふつと怒りがこみ上げる。

うるさい。

うるさいうるさいうるさい。

 

「如月、を、かえ、せ……!」

 

いくら怖くとも、恩人への想いは変わらない。

しかし、金縛りにでもあったかのように体が動かないのだ。

 

「あれ、日向動けないの?大丈夫?」

 

変わらず薄く笑みを浮かべたまま、それが近づいてくる。

彼から逃げようとしても足が動かず、無様にも這いずることしかできない。

壁際に追いつめられるのは速かった。

 

「いや、く、るな」

「僕、迎えに行くって言ったよね?それなのに君は他の人と一緒にいるなんて……ひどいよ。とんだ浮気者だ」

 

俺が背をつけている壁をダン、と叩き、座っている俺は見下ろされるような形になる。

 

「そんな悪い子にはお仕置きが必要だね」

 

恐怖で気がおかしくなってしまいそうな俺を見て、変わらない声と表情で告げる。

 

「や、だ……ごめんなさ、たす、け、て……」

 

そう、弱々しく呟いたその時。

 

 

緊急アラートが、赤い光とともに鳴り響いた。

 

 

意識が消えるその直前、あとは任せろ、と自分の声が聞こえた気がした。

 

謨台ク紋クサ縺ッ縺翫¥繧後※縺上k

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

窶ヲ窶ヲ縺ェ繝シ繧薙※縺ェ

 

部屋を赤いライトが照らしている。

モニターに人影が映りこんだかと思うと、一瞬全ての明かりが消え、復旧した。

 

座り込んだヒナタの体からガクンと力が抜け、ノイズがその体を包む。

 

髪がほんの少し黒く変わり、左しかない目が開く。

その色は黒い渦が巻いているような、どろりとした赤色に変化していた。

如月に乗り移った何かは、その変化を警戒して距離を取った。

 

乗り移りが完了した彼は、流れていた涙をぐしぐしと雑にふき取り、へら、と笑いながら話しかける。

 

「へへ、どーも。管理人の危機=奏の危機ということで参上したぜ」

 

こいつらの手助けをするのは癪だが、と最後に早口で付け足した。

いつの間にか生成したサバイバルナイフを弄ぶくらいには余裕があるようだ。

最後に一回ナイフをくるりと回し、構える。

 

「さて、お前さんの名前を聞かせてくれないかな?こちらとしても知らないのは不便なんだよ」

 

そう日向が言うと、対峙している人影の笑みが消えた。

 

「……文紀修也(ふみきしゅうや)。あいにく、僕の日向にしか興味がないんだ……消えてくれないかな?」

 

修也の顔は笑みが消えると不気味な人形のようで、単純に気味が悪かった。

彼は黒い水たまりのような所から日本刀のようなものを取り出すと、同じく構えた。

 

バグの塊と、消えた世界の残滓。

双方とも異常なのは確かだった。




文紀修也
ヒナタのトラウマ。
ヒナタを監禁していたぶっていた過去があり、その理由も反応が面白そうだったからというどうしようもない人間。ヒナタの事はまあまあ好きであるがそんなでもない。
執着心と好奇心は凄い。
管理人となったヒナタの一部(心臓)を持っていたため意識のみが飲み込まれずに済み、肉体のない幽霊のようなものになった。
如月にのみ乗り移ることができる。


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好奇心は狂気をも制す

好奇心の塊な修也君の話。


機械の光に照らされ、二人の人影が対峙していた。

ノイズがじりじりと走り、黒い触手のような物が這いずり回る。

互いに得意とする得物を構えた彼らからは、溢れんばかりの殺気が流れ出していた。

 

まさに一触即発。

 

少しでも音がすれば、命を奪い合う死闘が行われそうな雰囲気の中。

 

―――ふと、重い金属が落ちる音と共に、片方の殺気が消えうせた。

 

その音の発生源である修也は剣を落とし、完全に隙だらけの状態でだらりと腕を伸ばしている。

 

「……何の真似だ?」

 

意図が全く読み取れなかった。

日向が警戒を解かないまま問う。無理もない、先ほどまでと打って変わって、ましてや今すぐにでも戦闘が始まりそうな、そんな状況で上の空になった相手には警戒もするだろう。

何かの罠にはめるための作戦か、とも深読みしてしまう。

 

そんな風に頭をフル回転させている日向を見ているかもわからない虚ろな目で、彼は言った。

 

「さっき言った“僕の日向にしか興味がない”という言葉を取り消そう……君は僕が知っている日向と同じ存在なんだよね……?」

「?、あぁ、まぁ……そうとも、言えるな……」

 

そうは聞かれても、自分はそのことをあまり、というか全くと言っていいほどに知らない。管理人なら知っているだろうか、とほんの少し考えた。

煮え切らない返答をした日向に対し、修也は怒りもせず淡々と言葉を繋げる。

 

「と、いうことは。僕にとっての被検体はこちらの日向に他ならないが、君も同じ存在というのなら彼と似た結果が出るかもしれない。つまり君は僕側における彼の代わりになる、ということではないか?そう思ったんだよ」

「……???」

 

突如並べられたわけのわからない理論を告げられ、全く理解ができない彼は首を傾げた。被検体?代わり??何もかもがわからない。返答に困っていれば、一歩、二歩とゆっくりとした足取りで彼は踏み出し、遂には日向の肩をがしりと掴む。

 

息を荒くした彼の、色々な感情が闇鍋のように混ざり合い、吸い込まれるような瞳を半強制的に直視してしまう。

その瞬間、依り代とする彼の身体にはない心臓を握られたような気がして、かひゅ、と息が詰まった。

 

「僕はね、一度興味が湧いたら止められないような人間なんだ……早く、もうすぐにでも付き合ってくれないか?記憶は共有するのか、感覚はどうなる、そもそもどうやって今動いているか……あぁ、気になる事が多過ぎる……!」

「え、お、おぅ……」

 

そうまくしたてるように言葉を吐き出し、縋りつく。体の内に渦巻く知識欲を発散しきれていない彼を見て、日向は珍しく恐怖を感じた。

自分よりヤバい人を見ると不思議と冷静になれる、あの現象。

それがここでは起こっていた。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼の勢いに押され結局、日向は彼の言う『検証』に付き合うことになった。

 

「うぅ、動けねぇ……」

「仕方ないでしょ~、君が暴れて検証結果が台無しになったら嫌だからね。ホントは手錠とか足かせとか欲しいんだけ、ど……うん、いい出来だ」

 

椅子にロープで雑に縛り付けられ、全く身動きが取れなくなった日向が呻く。それを横目に理由を答えつつ、修也は検証に使うであろう器具を創り出していた。

 

「さぁ、始めようか」

 

――笑顔を浮かべる彼の手にある、怪しく光るあののこぎりは幻覚だ。日向はそう自分に言い聞かせたようだが、それは全くの無意味であった。

 

「おい待て!それ、何に使うんだ!?」

「えぇっ、わからないのかい?しょうがないなぁ……」

 

縛られながらも慌ただしくもがいて聞く彼に、もう目的を理解していると思い込んでいた修也は少し落胆したように話し始める。

 

「君の身体ってさぁ、今人ではなくなっているだろう?これはね、君の脚を切り落としてまたくっつくか、それとも新しく生えてくるのか……それを調べたいんだ」

 

その瞬間、こいつとは関わってはいけない、と日向は直感的に思った。

常人では思いつかないような歪んだ好奇心を前にして、背に冷たい汗が伝うのを感じる。こいつは自分の知識のためならば人も殺す、そんな人間なのだと理解した。

 

「おいおい……えらく猟奇的だな、そんなことして、こいつの脚が再生しなかったらどうする気だ」

「……()()()()()、僕には関係ないだろう?」

 

そんなこと。

そう、軽々しく彼は言った。

 

その言葉を聞き、日向は抵抗する気も失せたようにため息をつく。もうこいつに何言っても仕方がない、どうでもいい。

……だが、自分は今体を借りているのである。脚を切られるのが自分であれば、どうせ巻き戻ることだろうし、諦めて了承した。しかし、この体には別の持ち主が居る。その人の了承もなしに、体の一部を失うのはいかがなものかと思ったのだ。

 

それに何より、自分が痛い目に合うのは嫌だし、他の人が被害にあうのも嫌だった。

 

「お前なぁ……もういい、こっちから条件を出す。切断とか、この体に影響があるのはナシだ。いいな?」

「……はぁ、前の君は素直に従ってくれたんだけどなぁ……まぁいいや。この興味は今度に回すとして、今日の僕は君の要求を飲むとしよう」

 

そう言って不満げにのこぎりを投げ捨てれば、それはヘドロのような黒い液体になって溶けた。

案外、要求はすんなり受け入れられた。

その事実に少し驚いている日向を置いて、修也は悩みつつも次の案を出す。

 

「痛くないものか……うん、そのフィルムのような物を触らせてもらえないかな?勿論傷つけるような真似はしないよ」

 

……まあそれくらいなら、と日向は渋々了承した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数分。

 

ぐったりと背もたれにもたれかかり、震えながら彼は了承を出したことを酷く後悔した。

 

この数分で起こったこと。

これ(フィルム)は触感があり、触られると物凄くくすぐったい。それを日向は全く知らなかった。

そんなことは知らず、遠慮なくべたべたと触ってくる修也。

 

しかも彼、撫でテクが異様に高い。

 

もし自分が動物だったならば、それまで持っていた人間への警戒心を捨て、この人物の元へ足繫く通うことだろう……そう思えるほど、癖になるというか、中毒性の高いものだった。

 

それを無自覚に発動させ、この体の急所であろう部分をずっと撫でてくる。ぶつぶつと何かを呟きながら日向のほうを見向きもせず、ずっと。

 

開始直後にすぐ陥落して、力が抜け切ってうまくしゃべれない。その状態のままずっと触り続けられくたくたになった日向が制止するも、修也はやめる気がなかった。

 

結果、日向は溶けた。いろいろと。

 

「いっ、た……やめろ、って……ぉれ、いったよな……?」

「ごめんごめん、聞こえなかったよ。集中し過ぎちゃったなぁ」

 

ぐったりとしながら薄く目を開け確認するも、修也は困ったように笑い頭を搔くだけだ。

 

一応縄はほどかれ動けるようにはなっているが、もうそんな気も起きない。

正直もう終われ、と疲れ切った彼は心の底から思っていた。

 

「よし、それじゃあ今度はこれの検証行ってみようか!」

 

――修也の背後で黒い触手がうねり、絡みつく。

 

これ、とは。まさか、と冷や汗が流れる。

 

「この触手がどれだけ精密に動くか……試させてもらうよ」

 

やだ、と掠れた声が出た気がする。

そんなことも考えられないまま、思考はぐずぐずに溶けていった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「っ、は」

 

真っ黒になった意識が浮上し、目を開ける。気がつけばそこは自室だった。

多分、あれが始まってからいつの間にか気絶して、意識が強制的に戻ってきたのだろう。

 

――ちなみにあれ、とは触手までも駆使したくすぐり、もとい検証である。元からのテクニックもあり、即座にでろでろにされた。

……エロいことはまったくもってしていない、とこの際言っておこう。

 

管理人には申し訳ないことをした、とベットに座ったまま頭を抱える。

守ろうとしてこの結果、とはあまりにも滑稽だ。

 

もし彼らに記憶が残っていなかったら、この事は絶対に秘密にしよう。

 

日向はそう決心し、近いうちにもう一回だけあれを体験したい、とも思った。




修也
すでに消えた世界の主人公。
ヒナタの体は冷たかったのが意外な収穫で、調子に乗っていじくりまわしたら気絶した為不思議に思った。
触手は如月のフィルムが汚染され、変化したもの。

日向
一度体験してからというもの、妙にもどかしくなり管理人側へ意識を飛ばすことが多くなった。
すっかり虜(または中毒)になってしまっている。

修也の異常なほどのテクニックは、依り代である如月譲り。
どちらも本気でやると触手プレイ状態となる。


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幕間:記録媒体404

深夜にいろいろ考える如月の話。
結局のところフィルムって何なんだろう。



「っ、あぁあ……仕事終わんない……」

 

邪魔な前髪を搔き上げ、台のような所に肘をつき呟いた。

もう嫌だ、ぐるぐるといろんな情報が頭を駆け巡って、何もわからなくなっていく。

 

……こうなったのもレポートを書く作業を先延ばしにした、自分のせいなのだが。

 

仕方ない。俺は夏休みの宿題を一気にやるタイプなんだ。

誰が聞いているわけでもないが、なぜか頭の中でそう弁明する。

こういう時、一度眠って気分をリフレッシュするといいとかなんとか聞くが、生憎時間もない。

 

考えていても仕方が無い。

 

そう思い、再度仕事に手を付けた。

 

 

淡々と、淡々と。

ただ、時間が過ぎる。

 

 

一人きり。

 

 

こんなにも静かなのは久しぶりだ。

向こうの時間はきっと深夜で、皆眠っているのだろう。

 

 

延々とこんな時間が続いていた時があった。

あの時奏に干渉してから、すべてが変わった。

 

人が増え、賑やかになった。騒がしいが、それもまたいいものだろう。

また後戻りするような気はしない。

 

……もしも、戻ってしまったなら。また一人になってしまったら。

 

 

その時、自分は正気を保てるだろうか。

 

 

そう考えつつ、黙々と作業を進めた。

 

 

まだ終わる気配はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わったぁ……」

 

開始から三時間ほど。ようやくまとめ終わったデータを送信し、ぐたりと背もたれに背を預けた。

あぁ、眠い。このまま泥沼に沈んでいってしまいたい。

 

……せめて、部屋で眠ろう。

 

なんとか椅子から離れるも、長く座っていたせいか体が傾き、バランスを崩してしまう。

身体を支えようとして手をついた所は資料棚だった。

 

かなり勢いでもついていたのか、入っていた紙が散らばった。

 

俺は早く寝たいというのになんだ、と不満げに紙を片付け始める。

ふと、手にした紙を見た。

 

 

そこに書いてあったのは、眠気なんてさっぱり無くなってしまうような。

 

そんな、記録だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『TURN1,000』

 

 

 

 

 

 

対象:寡嶋奏

 

日時:蟄伜惠縺励↑縺?ョ繝シ繧ソ

 

場所:《氷結の城》大広間

 

死因:ナイフで首を切ったことによる失血死

 

崩壊:空ドット250の欠損等、他多数。バグが発生している可能性あり。

 

備考:度重なる巻き戻しにより、対象の精神崩壊が見られる。早急なリセットを申請。

【精神崩壊の主な例】

何かに向かって話しかける、多重人格の出現、過度な自傷行為 他数件

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――記憶にない。

 

こんなもの、書いた覚えがない。

それなのに。

 

 

この字は、俺の字だ。

 

 

おかしい。

 

これが真実なら。本当の回数だとしたら。

 

 

 

 

 

 

 

「何度、()()は繰り返していたんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

突如、酷い頭痛が襲い掛かる。

あまりの痛みに声も出ず、その場にしゃがみ込んだ。

 

 

痛い。

痛い痛い痛い痛い痛い痛いいたい痛い痛い痛い痛い痛い痛いいたいイタイ。

 

 

頭が破裂しそうな、あるいは割れそうな衝撃。

目の奥で何かがうねる。

口からなにかもわからない、黒い液体が垂れる。

 

 

背中が熱い。

確認してみれば、それは焼き切れたフィルムだった。

 

 

フィルムが次々と千切れ、あたりが黒く染まっていく。

 

 

あぁ、自分は死ぬのだろうか。

……もういい。もういいんだ。本当はあの場所で消えるはずだったのだから。

 

 

このまま生き続けるよりは、いっそ……

 

 

 

ほとんどすべてのフィルムが千切れたころ。

あまりの痛みに耐えかねて、遂に意識が途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

黒い。

自分の体液より真っ黒い、闇の中。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()を見た気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人の気配を感じ、目を開く。

そこには、床に倒れる俺を心配そうに見るヒナタが居た。

 

「……大丈夫か?」

「うん、まぁ……なんとか」

 

ヒナタの手を借りて立ち上がる。

喉に何かが張り付いて話しづらい。おまけに辺りは真っ黒だ。

 

……深夜ごろの記憶がない。この大惨事も、たぶん自分のせいだろう。

 

近くにある紙は全て黒く染まり、内容が読み取れない。大事なものでなければいいのだが。

取りあえず片付けを何よりも早く優先しよう。話はそれからだ。

 

そう思った俺は真っ黒になった紙を捨て、何か拭くものを取りに行った。





真実は時に、知らない方がいいこともある。


フィルムは管理人たちの記憶が詰まっています。
つまり全てなくなれば記憶喪失。
ありすぎてもだめだけどね。


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情報を開示します。







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……失敗。
情報を開示します。





 

 

主人公種

 

該当人物:如月、奏、悠也、修也

 

必ず世界に一人いる。無色透明な存在であり、性格等が大きく変化しやすい傾向にある。

一見まともに見えるが、どこか大事な部分が欠如していること、《データ破損》が共通している。

どこかリミッターが外れる条件があり、意外とすぐ外れる。

 

武器は主に両手剣を使用することが多い。

 

 

 

日向種

 

該当人物:ヒナタ、日向

 

主人公の相棒ポジションに立つことが多い。ほかの種と違い、名前が変わらないのが一つの特徴ともいえる。優しく、人助けを好む献身的な性格だが、そこを付け込まれ何かと悲惨な目にあったり、精神的にダメージを受けることも多い。かわいそう。

尚執着心が強い面もあり、前述の事も相まって闇を抱えることが多い。

後方支援を得意とし、攻撃はあまり得意ではない。

 

なお、如月が担当する世界の日向はバグで情報を書き換えており、一部分が主人公種と似た性質になっている。

 

 

 

 

武器

 

 

《両手剣》

 

該当人物:如月、奏、修也

 

 

 

如月

 

名称:九十九語《偽》

 

転化前に愛用していた刀、の再現。

記憶を頼りに重さやリーチなどを再現している。

自身の体から出来ている物のため、バフなどがかかると一時的に武器もパワーアップする。

魔法等纏わせることもできるが、疲れるのと殺傷力が上がるためやらない。

 

 

 

 

名称:輪廻千章

 

何百とループする直前に拾った刀。

リーチは如月のより少し短め。かなり重みがあり、重さで潰すように押し切る。

ループすればまた直せるので、結構雑に扱われることも多い。

因みに、自分の首を切るのには重すぎて向かないため、また別の刀がある。

 

 

 

修也

 

名称:黒沼

自身の触手を基にした刀身の黒い刀。

溶けるような独特な動きをし、液体状に変化させることも可能。

その代わり攻撃力は低く、多段ヒットを狙う必要がある。

奏が一撃必殺型なら、こちらは連撃型である。

 

 

 

《鈍器》

 

該当人物:ヒナタ

 

 

 

ヒナタ

 

名称:フローズン・レイ《偽》

 

修也に監禁される前に持っていた杖、の再現。

所々青い宝石が埋め込まれており、振ると鈴のような音が鳴る。

攻撃より補助に向き、回復等のバフを広範囲にばらまける。

本体の影響もあってか、周りがどんな状況でも触れるとひんやりと冷たく感じられる。

 

 

 

《変種》

 

該当人物:悠也、日向

 

 

 

悠也

 

名称:バインドソル

 

《データ破損》な所で拾ったナイフ。

ピンクの肌のような持ち手で、眼球のような飾りがついている。

斬った相手から少量血を吸い取る効果があり、少しずつ本体も強化される。

狩り用である普通のナイフとは違い、本気で戦うときに構える。

 

 

 

日向

 

名称:サバイバルナイフ《error》

 

何の変哲もないサバイバルナイフ。……のように見える改造武器。

バグによって数値と当たり判定が変わっており、ぶっ壊れ武器とはこういうものなんだと理解できる。

威力はかなり大きく、数度当たれば命はない。

 

 

 

以下、登場順の人物まとめ

 

 

 

如月雫

 

誕生日:2/14

 

一人称、呼び方:俺、お前

 

世界線:LOST

 

武器:両手剣

 

管理人としての権限:世界情報開示、巻き戻し、一時的なデータの書き換え、人物との対話、座標移動

 

《データ破損》:平和への渇望

 

外れた常識:《データ破損》

 

転化の原因:《データ破損》

 

概要:LOOP世界の管理人。主に語り部を担当する。色々と振り回されることが多く、グロと日本系のホラーを苦手とする。

甘いものはあまり好きではない。逆に辛い物が好きであり、生きている感覚がするとのこと。

権限上の問題で、他世界の存在を傷つけはできても殺せない。その為、戦う際は無力化を目的にしている。

 

《データ破損》との接触から、真のループ回数、《データ破損》を忘れている。

 

パートナーであるヒナタに強い信頼を抱く。

奏と同じくモフモフ大好きだが、撫でテクが異常なほど高いため、悠也からは「癖になるから」と断られている。

食欲、性欲などは感じないが、睡眠欲のみある為、眠る必要がある。

 

面識あり:奏、悠也、日向、ヒナタ

 

面識なし:修也(乗っ取られているため会話ができない。存在は知ってる)

 

 

 

寡嶋奏

 

誕生日:9/1

 

一人称、呼び方:俺、お前

 

世界線:LOOP

 

武器:両手剣

 

《データ破損》

 

外れた常識:死への恐怖

 

概要:LOOP世界の主人公。とにかく死ぬことが大好きなМであり、大抵妄想で興奮できる。

快速列車のアナウンスで興奮し、ちょっと暴言を吐かれただけでスイッチが入りかける等、いろいろと危なっかしい。如月相手にはМスイッチが作動しない。

スイッチが入らなければ普通に話せる。性格は如月と似通った部分もあり、如月は否定したく思っている。誰だって変態と一緒にされたくはない。

即死系の罠には大体かかってしまったので、最近は死因に悩んでいる。《データ破損》

 

日向が付きまとってくるのをうざいと思っており、物凄く嫌いとまではいかないがテンションがダダ下がりする。

《データ破損》であり、ループ直後にテンションが高いのはそのせい。

 

面識あり:如月、悠也、日向

 

面識なし:ヒナタ(話は聞いている)、修也

 

 

 

狐月悠也

 

誕生日:11/26

 

一人称、呼び方:俺、あなた

 

世界線:FOX

 

武器:ナイフ

 

《データ破損》:食欲

 

外れた常識:食人、殺人を異常と感じる感性

 

概要:FOX世界の主人公。《データ破損》、狐憑きになった。

憑りついた狐は天狐《データ破損》そのため人を食い、制御する必要がある。たまに乗っ取られる。

普通に大食いであり、人ひとりくらいなら普通に食える。ブラックホールでもあるのでは?と思うほど喰う。体型も変わらず、本当に化け物なのでは、と言われるほど。

最近は奏を喰って生きている。彼曰く他にも生きかえる食糧が居るという。

 

面識あり:如月、日向(夢で一度会った)、奏

 

面識なし:ヒナタ(話は聞いている)、修也

 

 

 

風見日向

 

誕生日:7/21

 

一人称、呼び方:俺、おまえ

 

世界線:LOOP

 

武器:ナイフ

 

執着:奏

 

概要:奏の事が好き好き大好きで劣情が抑えきれない高校2年生。一応相棒ポジではあるが、奏からは避けられている。

奏の家の合鍵を作り、監視カメラと盗聴器をどこかに隠してある。勿論暇があったら眺める。

《データ破損》せいでバグの力を手に入れた異常存在であり、メタ的な場所に干渉できるようになった。

 

全てにおいて奏が行動基準のようにも見えるが、困っている人は見捨てられない精神を持つ。しかし恋を邪魔するような虫へは自分で制裁を加える。

バグでできないことはない、と言わんばかりにバグ技を駆使する。しかし感情が昂ると力が暴走するため、奏が近づくだけで周囲がバグる。

(彼曰くピュアな)恋模様を綴ったノートが管理人世界に流れ着いた事で繋がりができ、同系統のヒナタに乗り移ることができた。別世界へは気合で行っているため、数分しか持たない。

 

修也の触手を体感して以来、新しい扉が開きかけている。

 

面識あり:如月、奏、悠也(夢で一回あったのみ)、ヒナタ、修也

 

面識なし:該当なし

 

 

 

ヒナタ

 

誕生日:4/29

 

一人称、呼び方:俺、あんた

 

世界線:LOST

 

武器:メイス

 

管理人としての権限:如月と同様

 

執着:如月

 

転化の原因:予想死亡人数の超過による削除

 

概要:如月のサポート役。とある事情から、主人公種に強いトラウマを持っている。

ヘッドホンに異常なほど依存しており、外すと数分で強い幻覚を見る。今の名前もトラウマをぶり返さないよう、自分でつけた仮名。

この名前は《データ破損》と認識しているため、自分の嫌う人物に呼ばれると怒り狂う。

 

《データ破損》【検証】に協力していたが、強姦まがいの事や猟奇的な実験を繰り返され、次第に心が壊れていった。

片目や心臓が無いのも修也に抉られたからであり、体にも心にも深い傷が残っている。

甘いものを特に好み、食欲はないがたまに食べている。

過去の事もあり、如月からかなり溺愛されている。そのせいか今はかなり打ち解けている。

 

如月の事を《データ破損》と思い、《データ破損》のようになっている。そのため、《データ破損》なり、最悪自傷行為にまで走る。

 

面識あり:如月、日向、修也

 

面識なし:奏、悠也(知ってはいるが、如月からの話しか聞いたことがない)

 

 

 

文紀修也

 

誕生日:12/7

 

一人称、呼び方:僕、君

 

世界線:truelost

 

武器:両手剣

 

《データ破損》:知識

 

外れた常識:《データ破損》

 

概要:すでに消えた世界の主人公。ヒナタにトラウマを植え付けた張本人。

消滅した際、魂だけになっているため、最早人と呼べるのかすら怪しい範囲までいっている。

 

《データ破損》、管理人の一部を消滅時に持っていたため、魂のみ残る事態となった。

如月に乗り移ることで実体化でき、フィルムは汚染され黒い触手に代わる。日向と違って、如月以外の主人公には乗り移れない。

 

好奇心の塊であり、気になったらとことん解明しないと気が済まない。

しかし毎回興味を持つものが猟奇的なものばかりのため、最終的に人へ危害を加えることもある。

 

面識あり:ヒナタ、日向、如月(会話できない)

 

面識なし:奏、悠也

 

 

 

 

【金の目】

 

存在も、何から生まれるのかさえ分かっていない現象。

管理人達にしか見えず、もし見れば防衛反応としてフィルムが勝手に千切れ、記憶を無くすことになる。

 

それを見てはいけない。記憶を、すべてを奪われてしまうから。




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れっつ、はんてぃんぐ

悠也が狩りに行くようです。過去もあるよ。

※露骨な食人注意


俺の世界には、鏡の中にもう一つの世界がある。

 

それは合わせ鏡をすると出てきて、文字がすべて反転していることを除くと現実とほとんど同じような世界。

恐怖心からできた怪物、通称ナイトメアがうじゃうじゃ居るような、そんな世界。

 

そこに俺は降り立った。

 

少し高い場所から落ちて着地し、周囲を見渡す。

昼間だというのに空は濃紺で、現実とは真逆の夜のような印象を覚えた。

湿った風が制服の上着を大きく揺らすと同時に、血肉に似た甘い匂いが微かに伝わる。

 

どうやら今回の着地地点はどこかの屋上のようだ。落ちる場所は毎回ランダムで、敵陣の真ん中に落とされることもあった。

落下防止のフェンスが折れたその下には、ショッキングピンクの血が大きく広がっている。

死体がないため判別できないが、誰かが飛び降りでもしたような光景だ。

とても落ち着く、俺の求めていた空気。すべてが異様な雰囲気を持つこの空間が、なぜか懐かしく感じられた。

 

 

ここに来た目的はただ一つ。それ即ち。

 

 

新しい場所に行って、新しいものを食うことである。

 

 

……正直、ナイトメアはとても美味い。人肉の代わりにも多少はなってくれる。

なので新たな食を求め、新天地へと向かうのだ。

仲間には異常が起こったから、と伝えてある。

ついて来ようとするのを止めるのは大変だったが、あいつらも薄々気づいているだろう。やけに察しのいい奴らだからな。

 

ちなみに、異常が起こっているのは本当である。

 

最近、あの独特な甘い匂いが鏡の外に漏れ出ているのだ。俺以外には物が腐った匂いに感じるらしい。

前からこんなことはなく、大体ここ一週間くらいから起きている。他にも黒い影が見えた、とも聞いた。

その調査がてら狩りをする、といった考えだ。

 

考えるよりまず行動。

 

ビルに張り巡らされていたパイプを伝い、道路に降りる。意外と耐久力があった。

この場所は高いビルが多く、戦いづらそうだ。もう少し開けた場所へ行こう。

 

空の暗さも相まって足元が見づらい。こんな時のためにと持ってきた、家にあった提灯のようなものに明かりをともし、のんびりと歩く。

こうして見てみると、廃墟になった街を歩いているようで面白い。

人なんて俺一人しかいないような。……実際そうなんだろう。こんな世界に普通の人が迷い込めば、すぐ喰われてお亡くなりになる。

 

俺はというと、もうここら辺のナイトメアに顔を覚えられているらしい。なので襲ってもこないし、むしろ逃げる。

襲ってくる奴らにとにかく突撃!お前が晩御飯!!していたらこうなっていた。

匂いが分かるから隠れても無駄だが、今日は手を出さないでおこう。新天地へ向かうからには、新しいもので腹を満たしたいのだ。満たされるかはわからないが。

 

「……ん」

 

足を止め、道を見る。

 

ここから先、道が道路から田舎っぽいあぜ道へと変わっている。

境目はハサミか何かで切り取ったみたいに真っ直ぐで、道路の方にあるビルも、縦から真っ二つになっていた。

こちら側が都会のようだったのに対し、あぜ道の方は沢山のヒマワリがこちらを見ている。

 

とても、物理的に凝視してくる。

 

ヒマワリの中心にとてもリアルな目があって、全ての花が俺を見ているのでは、と思うほどに大量のヒマワリがこちらを見ていた。

視線が好奇心か警戒かはわからないが、取りあえず初めて見るので食ってみたいと思う。

 

こちらを見るヒマワリの一輪を掴み、根っこをぶちぶちと千切りながら、芋を引っこ抜くような動きでもぎ取る。

掴んだ瞬間に周りの視線が一気に恐怖へ変わった気がしたが、まあいい。

 

「……いただきます」

 

その言葉は彼らにとって死刑宣告にでも聞こえたのだろうか、こちらを見る恐怖に満ちた視線が、一斉に明後日の方向を向いた。なんて薄情な奴らなんだろうか。

先ほどより一層びちびちと強く抵抗を続けるヒマワリに、そのままかじりつく。

……意外と普通の野菜のような味。ほうれん草の食感をかなり固くした感じで、味もそのままほうれん草だ。

 

これはもうヒマワリなどではなく、固いだけのほうれん草だ。

おひたしなんかにすれば柔らかくなるだろうか。ぐたりと動かなくなったヒマワリを見ながらそう思った。

 

さて、次は花だ。

千切った花びらを口に入れてみれば、ほのかにリンゴのような甘い味がした。口直しによさそうな味である。

しかし絶望的に茎との相性が悪い。今食べなきゃよかった。同じボディなら食い合わせもいい感じであってほしかったよ。

因みにヒマワリの種がある部分には内臓が詰まっていた。やけに塩味のきいた目が美味かった。

 

 

リンゴ風味の花びらをもっしゃもっしゃとかじりつつ、あぜ道の探索を再開する。

始めて来るところなので、念のため愛用のナイフを手に持って警戒しておく。

 

しばらくあぜ道を歩けば、脇のほうに小さな小屋が建っていた。

木造でかなり古いようだ。壁に覗けるような隙間があちこちにできている。それなのに鍵は固くかかっていて、力ずくでは開けられそうにない。

 

……これはもう見ろと言っているようなものではないか。

そっと。もし中に何かが居たとしても気づかれないように、中を覗く。

 

 

 

 

 

 

赤い、赤い目だ。

俺とお揃い。違うところをあげれば、白目がすべて、深紅に染まっているところだ。

 

たくさん、たくさん。

 

 

そんな大小さまざまな、複眼のようにぎちぎちの赤い目と目が合った。

 

 

 

 

 

 

「―――いや、気持ち悪いよ流石に」

 

『ギシャァァァアアン!?』

 

覗いていた穴にざく、と心地いい音を立ててナイフが刺さる。

白目が赤くなっていたりするだけなら、わぁ綺麗と何となく言っていただろう。しかし、いろんな大きさの眼球がひしめき合っているのは、どうにも気持ちが悪い。

なので、反射的に刺した俺はあまり悪くないと思う。

背後には木目のついた鎌が迫っていたが、目を刺したと同時に暴れだした。相当痛かったのだろう、小屋から声にならない声があふれ出ている。

 

どうやらこの小屋自体がナイトメアらしく、興味を持って覗いたやつを獲物にするようだ。

ここを通る人間なんて俺くらいしかいない。もっと言えば、その俺も人外だ。まったく、何でこいつはこんなにも非効率的な手段を選んだのだろうか。

 

動きが止まったので、壁を剝がして食ってみる。

ビスケットの様な味。ジャムが欲しくなるな。

さっきの花びらと合わせればかなりうまそうだ。

 

流石にこの大きさだと喰うのに時間がかかる。そして飽きる。

それでもきっと、この空腹は満たされないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……大物を食っている間に、一つ昔の話をしよう。

 

6歳になる年のある日、親と一緒に神社へ行った。

うるさく蝉の鳴く、じっとりとした暑い日。暗い道を屋台と提灯の光が照らしている。

親とはぐれ、ひとり下駄を鳴らしながら歩いた。

 

泣きもせず、慌てもせず。ただずっと歩いていた。

 

ふと、白い何かが足元を通り抜けた。

狐だ。

 

それがきっかけにひしめき合っていた人は皆いなくなり、俺と、近くにいた狐だけが残った。

 

 

今思えば、それは神隠しというものだったのだろう。やけに神聖な雰囲気を持った白い狐は、こちらを見ていた。

くるる、と鳴いたそれは、俺にいくつもの尾を巻き付けて言う。

 

『あなたが満たされることはない』と。

 

唐突に放たれた言葉に返す暇もなく、世界は正常に戻った。

さっきまで居た祭りなどなかったように、いつもの神社に戻っている。袋の金魚は死に、浴衣は汚れていた。

 

日に照らされ呆然としていると、誰かの叫びが聞こえてきた。

俺が居なくなって一週間が経っていたらしい。

泣いて抱きつく人もいた。大丈夫かと心配する人もいた。

 

そんなこと、もうどうでもよくなっていた。

 

心に穴が開いたような、無機物に入れ替わってしまったような。何も感じることができない。

あの狐に、心が食い尽くされたような感覚だった。

 

 

 

家に帰ったその夜。

 

腹が減った。それしか考えられなかった。

何か、何か口に入れなければ。

既に夜も深く、店もやっていない。

 

早く、早くはやくはやく、なにか、ニクを。

 

ずるずるとはい回る体は白く染まり、赤く光る眼が暗闇を舞う。

もはや人でないそれは、ただ食い物を探していた。

 

 

 

ああ、甘いにおいがする。

 

大きなものが、ひとつふたつ。あれを食ってしまおう。

 

 

 

すやすやと寝息を立てるそれへ、一歩一歩近づく。

 

ゆっくり、ゆっくりと首を絞める。

声を出させぬよう、静かに。息を止めようとするその手は、大人でもはがせないほどの力を持っていた。

やがて、こきり、と。小さな音が聞こえ、その体の生命活動は停止した。

もう一つの方も、と首を折る。もう騒いでも見つからない。邪魔されない。

 

心臓が止まれば、もう肉塊。

徐々に冷え始めたその肉へ、()はかじりついた。

 

 

 

……それからの記憶がない。

朝になって、辺りには血が飛んでいた。親は跡形もなく消えた。

それなのに、何も感じることがない。酷く当たり前のように思えるのだ。

 

自身に生えたしっぽを見る。

真っ白な、赤の映える四本の尾。血が絡みつき、所々毛が固まっていた。

 

窓から差し込む光が、やけに明るく思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……ごちそうさま」

 

手を合わせ、頭を下げる。ナイトメアとはいえ、命を奪ったことに変わりはない。でもきっと俺に食われた生物は救われてるので多分大丈夫。多分。

 

あの日以来、人を食わないと空腹が満たされなくなった。

歩いている人がどうしようもなく美味そうに見えて、日々その欲と戦っているのだ。気を抜いた瞬間に飛びかかろうとしたこともあった。

 

そんな時に出会ったのが、この世界だった。

狐を抑えきれなくなった時にここへ逃げ込めば、現実世界の被害は無くなる。ナイトメアが代替品になることを知ったのもその時だ。

人肉に似たものもあり、たまに見た目と全く違う味のものがあって面白い。

 

これまでいろいろと喰ってきたが、一番うまかったのは……

 

 

如月、つまりは“管理人”だ。

 

 

管理人、というが正体もわからないし、彼一人しか食ったことがないので詳細はわからない。しかしあの熟成されきった、最高級の肉と言っていいほどの味はこれまでにはないものだった。

部位が薄いうえ、数口分のあの量だけでも満足できるなら、すべて食い尽くせたらようやく腹が満たせるのだろう。

ああ、思い出したらまた食いたくなってきた……。

 

もう思い出すのはやめよう、と頭を振り、垂れたよだれをぬぐう。

せっかく腹が膨れたと思ったのに、台無しだ。

 

はぁ、と肩を落としていると、遠くで微かに音が聞こえた。この音は……笛?太鼓?祭囃子のような音だ。

後ろを振り返ってみれば、俺の居る道のかなり遠くの方、光が固まってこちらに近づいてきていた。

 

なにか、やばい気がする。

 

野生の勘、とでもいえばいいだろうか。あれに追いつかれたなら、生きていることも難しくなる、と直感的に思うのだ。

『死神』よりも強大な敵。正直どんな味がするか気になるが、今は逃げることが得策だと考えた。

 

地面に手をつき、足に力を込めて地を蹴る。尾が車のテールランプのように線を引き、周りの景色が後ろへと過ぎ去っていく。

やはり普通に走るより四つ足で走る方が速い。あまり人に見せられるような姿ではないが、一人の時は効率がいい。

ただ後ろのものを振り切ることしか考えず、全速力であぜ道を走った。

 

 

 

……おかしい。

後ろの祭囃子が、こちらに近づいてきている。並のナイトメアなら引き剝がせているところだが、明らかにこちらを認識して追いかけているのである。

そもそもかなりのスピードだというのに、向こうはそれを上回る速度で動いているというのだ。なにそれ怖い。

 

息が上がり、姿勢が崩れてくる。そのまま横へ倒れこむように、ぐしゃ、と音を立てて転がった。

このままでは追いつかれてしまう。そう思うも、体が動かない。

 

視界がかすみ、黒く染まっていく。

祭囃子が近づいてくる。

 

ぁ、もう、いしき、が…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……甘い、匂いがした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人の、脳の匂いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう、にがさない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

がば、と起き上がれば、俺は袋のようなものに入れられている最中だった。

生暖かいそれにナイフを突き刺せば、バターのように切れた布地から黒い血が飛び散る。

 

血を目くらましに、集団で襲い掛かる影のような人型を斬る。

斬る、斬る、血が飛ぶ、少し下がって斬る。

彼らの持っていた楽器は凶器へと変貌し、手慣れた様子で振り回す。

その武器で、技術で、どれ程の人を殺してきたのだろう。甘い匂いが染みついたその体に、血で黒く染まった刃を突き立てた。

少し体を引っ張れば、みちみちと音が鳴って千切れる。興味本位で、それを口に入れてみる。

 

……あぁ、なんてまずい肉だ。

人の肉にも遠く及ばない、硬い肉。油でぎとぎとした血。口に広がる不快感。

どんな味かと期待していたが、失望した。

 

本気で消しにかかろう。

 

もう一本の、柄がピンク色のナイフを取り出す。目玉の装飾が付いたそのナイフからは、無機物なら有り得ない微かな体温と脈動が伝わってきた。

ざく、と一度影を斬り捨てれば、それが霧散する。先ほど切った時よりも刃が軽く、斬りやすい。

このナイフで敵を斬ると死体が残らないので不便だ。しかし、今はそんなことを考えなくてもいい。

 

さぁ、喰いつくしてしまおう。

 

ナイフを握りなおし、黒い波に立ち向かう。

その顔には、不自然な笑顔が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「101、102、103」

 

斬った数を数えつつ、淡々と消していく。

残りがあと少し。

 

「104、105、106、107」

 

怯えている。逃げようとする。

しかし、そんなことを許すはずがない。

人の命を奪ったのならなおさらだ。

 

「……108」

 

最後の一体に刃を突き刺し、抜く。死体はナイフが抜けたところから黒い霧となって消えた。

辺りはしん、と静かになり、先の戦いなどなかったかのようだった。

そして、体は勝手に甘いにおいのするほうへ向かう。

 

彼らが持っていた袋を開けてみれば、数人分の死体が入っていた。酷く腐敗が進んでいて、外の世界なら蛆が湧いていただろう。

濃厚な甘ったるい匂いが広がり、よだれが出る。

本当、こんなものを見て食欲がそそられるようになるとは、酷い体になってしまったものだ。

 

袋から腕だったと思われるものを取り出し、迷わず口に入れる。

甘い。どろりと口の中で溶け、感覚でいえばチョコレートのような感じだ。

骨を嚙み砕き、腐った肉を食い。俺は今、他の人にどう見えているのだろうか。この匂いもきっとひどい匂いなのだろう、とんだ異常者に見えるはずだ。

 

周りに人が居ないのをいいことに、袋に顔を突っ込む。強くなった匂いに頭がしびれ、くらくらした。

最初の目的と逸れてしまっているが、もうそんなことはどうでもいい。ただ、これを気が済むまで食い漁りたい。

自身の底から湧き上がる欲望に素直になり、ぐちゃぐちゃと甘い肉を食い続ける。

美味しい。段々と腹が満たされる感覚が、幸せで仕方がない。これが本能、というものだろうか。そう思いつつ、一心不乱に食べた。

 

気づいたころには、もうとっくに袋の中身は無くなっていた。

あれだけの量を食って、ようやく腹六分、といったところか。まだ腹は減っている。

ここはひとつ、如月のとこにでも寄っていこう。

ゆっくりとあぜ道を引き返し、鼻歌を歌いながら歩いた。

 

 

その後、腐肉浴びたまま来るな、だとかシャワー浴びて来いお前、と怒られたのはまた別の話だ。




異臭騒ぎは収まっていたようです。
ちなみにここの世界はクリア後ですが、とある理由で物語が終わっていません。


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マグロになった日

いつも死ぬ人と残される人の話。

※マグロは轢死体の通称。


side:奏

 

時刻は23時。

 

周りに民家もない田舎の駅だからだろうか、まあまあ設備の整ったホーム内には誰もいない。

今日は時が戻ってから三日目……死亡解禁日である。

 

「はぁ、は、っふ……」

 

これから起こることへの期待で勝手に息が上がり、体が震える。

 

この日まで、常に死ぬことばかり考えていた。

 

首を吊ろうか、ダンジョンに行ってみようか。リストカットもいいし、飛び降りもいい。薬はあまり興奮しないな……あぁそうだ、水に溺れるのもいいかもしれない。

 

これまでとは一線を画す、至高の快楽。

誰かに刺されて死んでみたい。それで感じている自分を、冷ややかな目で見られたい。

そんな歪んだ欲求。

溜まりに溜まったそれを、今日ようやく発散できるのだ。

 

自分が死んでも、どうせ誰も気にしない。

だから、こんな事をしても許される……俺的にはそう思っているが、多分他人から見れば異常者だ。

 

なかなか電車は来ず、焦らされているような気分になる。ダイヤが遅れているのだろうか?

まぁそれも自分にとっては興奮材料でしかない。散々待たされた後のご褒美はとても甘美なのである。

 

電車に轢かれると、血肉が広範囲に飛び散るという。

さながら人間花火、といったところか。自分で見られないことが悔やまれるが……如月ならなんとかできるだろうか。

 

『間もなく、4番線に……』

「ひぅっ……!」

 

来た。

アナウンスについ反応して、喘ぎに似た声が漏れる。周りに人がいなくて本当に良かった。

今にも崩れ落ちそうな体を必死に支え、少しずつホームのへりへ移動する。

 

タイミングを計り、背から落下する。

表情筋に力が入らない。今俺はどんな顔をしているのだろうか。きっととてもだらしない、気のゆるんだひどい顔だろう。

落下する浮遊感と、電車のキンキンとした音。

さて、今回の痛みを体感することにしよう……そう思い、目を閉じようとした。

 

閉じようとした、のだが。

 

 

「……みつけた」

「え」

 

 

空間が歪んで、突如上から振ってきた日向(変人)にその行動は遮られた。

 

言い返す間もなく視界が光に包まれ、衝撃が体を走る。

骨が折れ、肉の裂ける音が二人分鳴り響く。

 

意識を失う前に見た光景。

降って来た彼の口元は、不思議と上がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side:日向

 

「あぅ……会いたい……寂しいよぉ……」

 

抱き枕を一層強く抱きしめ、か細く呟く。思うのは愛する彼のこと。もう二日と3時間26分13秒ほど会っていない彼、奏の事。

奏の声も姿も見ずに二日。成分が足らなくて死にそうだ。電話しようにも着信拒否されていて、かけても意味が無い。照れているんだろうか。かわいい。

 

まぁそんなものに頼らなくても、盗聴器に監視カメラ、GPSも仕込んでいるのでいつでも駆け付けられる。大好きな人を守るのだから当然のことである。

奏がどんな生活をしているか、何を食べたか、いつ寝たか。全て覚えている。

いつでも見ているのだから、成分とやらは足りているのでは?と思うやつもいるだろう。大間違いだ。

 

この目で彼の姿を見て、彼の吐いた息を吸わないと生きた心地がしない。

そう思うほどには重症だ。

 

さて、そろそろ彼が寝る時間だ。

彼の寝顔でもみて、この気持ちを少しでも抑えなければ……そう思って、監視カメラの映像にアクセスする。

したのだが。

 

……居ない。

 

自室、リビング、廊下、台所。どこにも彼の姿はない。

奏が、こんな夜中だというのに外出している。今日一のトップニュースに躍り出たその事実は、俺を焦らせるには十分だった。

 

急いで体を起こし、頭をフル回転させて考える。

 

コンビニ?いや、ああ見えて彼は結構めんどくさがりだ。何か買うなら「明日学校から帰るときに寄ろう」とか思うやつだ。絶対違う。

カメラのない別の場所に居る?……だったら、盗聴器が何かしら音を拾うだろう。そんなものは全くない。よってこれも違う。考えるとすれば、やはり家の外だろうか。

まさか……誘拐!?すぐさまGPSで居場所を調べてみれば、彼はかなり遠くの駅に向かっていた。速度からして自転車だろうか、少しずつだが進んでいる。

 

誘拐という推測は外れたが、まだ最悪の事態が残っている。

 

「自殺、か?」

 

この世界が繰り返して、彼が何度もするようになった行為。

数十、数百と見た彼の死にざま。そのすべてを覚えている……いや、忘れられないと言った方が正しいか。

 

首を吊り、虫がたかって腐り落ちた姿。

罠にかかってぐちゃぐちゃにすりつぶされた体。

真っ赤に染まった浴槽に沈み、眠っているような顔。

広がるピンク色の肉と血。

空になった薬の瓶が転がり、吐いた形跡の残る部屋。

水を吸ってふやけ、骨からずるりと滑り落ちた肉の感触。

 

何度も、何度も何度もその現場を見た。

最初はたちの悪い夢だと思っていた。それでも、何十回と繰り返されるそれを見ていれば、嫌でも現実だとわかってしまう。

 

そして迎えた59回目の奏の死。

彼は死神に頭を撃ち抜かれ、赤い赤い花を咲かせた。

 

 

そんなグロテスクな光景に、いつからか興奮するようになっていた。

 

 

その周は珍しく長い間奏が生きていた。初めて恋愛的に人を好きになった。

自覚がなかっただけで、前から彼の事が好きだったのかもしれない。

人格が歪められたことに気づいたとき、俺は心をすべて奏に奪われたような気になった。

少し離れているだけでも辛くて、もう自分の物にしてしまいたい、と思う日々。

奏が死んで、数日たった死体を持ち帰った。ようやく自分の物になったというのに、虚しくて寂しくて仕方がない。

 

奏の最期を奪いたい。

そんな思いが胸のどこかに今もあった。奏が死ぬ姿はもう見たくもないはずなのに。

俺はおかしくなってしまった。奏に染まってしまった。

 

もう、後戻りはできないのだ。

 

 

ばさ、と水色のジャージを羽織り、窓を開ける。思い浮かべるのは愛する彼の姿。

まあまあの高さがあるそこから飛び降りれば、すぐさま黒いグリッチが体を覆った。

 

彼を助けるため、自分が最期を奪うため。彼のもとへと転移する。

 

 

暗かった視界が開け、辺りが光におおわれる。

耳をつんざくようなブレーキの音が鳴り響き、一瞬が何十倍にも引き延ばされたような感覚に襲われる。

 

真下に居る彼と目が合い、口角が上がった。

そしてつかの間の幸せに埋もれながらつぶやくのだ。

 

「……みつけた」

 

啞然とした様子の彼の顔がいとおしくて仕方ない。しかし、もう終わりが迫っている。

一瞬、その名の通りに時間はすぐに過ぎ去るもので。

 

ぶつかった電車が引き起こした壮絶な痛みとともに、俺は幸せなまま意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side:奏

 

「で、二人して復活してきたと」

 

どろどろの血まみれになっている俺達を前に、どうりでいつもより疲れるわけだ、と如月が呆れたように言った。

呆れられても俺にはどうしようもない。疲れた原因は全て隣にいる馬鹿が悪いのだから、そいつに言ってくれ。……今は到底口を聞ける状態ではなさそうだが。

 

「が、……あ、ぁあ……」

 

命にかかわるようなやばいほうの痙攣をしながら、隣で日向が白目をむいて泡を吹いている。見た目も相まって明らかに死にかけだ。

幸い体が横になっているので、泡が喉に詰まることはないだろう。この状態で息ができないのはかなりつらい。

きっと彼は内臓が張り裂け潰され、肉が引きちぎられるような、そんな壮絶な痛みを感じているのだろう。死ぬことはないから大丈夫だ。ショックで記憶が飛ぶかもしれないが。

如月は必死に見て見ぬふりをしている。見たくないなら来なければいいのに。

 

まぁ、自分以外がやったらこうなるということだ。流石は一番きつい自殺方法と言われているだけある。

……痛みが増えれば、俺にとっての快感が相対的に上がることになる。こうなる痛みをすべて別の感覚に変換できる俺、すごい。

実際、この死に方は一番気持ちいい。

だが今回はそんな気持ちよさはなく、ただ呆れが勝った。珍しい理性の勝利だ。

というか、痛みが無効化されているような……?如月ってこういうのもいじれるのか?

 

結構重要そうだが、それは置いといて。

何故こいつは降って来たんだ、そんな疑問もあった。

壁をすり抜けたり、空間をゆがませたりといったことをよくしている日向にとっては、何の造作のない事なのかもしれない。こいつの存在自体がなんかやばいということは如月に聞いていたが……確かにとんだ化け物だ。

 

「何でこうなったんだ?お前は心中とかやらないと思っていたが」

「はぁ……断じて違う。事故だ」

 

茶化すように笑いながら如月が言う。その言葉に殺意が湧き、怒気をはらんだため息交じりに呟いた。

あれと心中とか、本当に悪い冗談だ。

凄く嫌い、というわけではない。正直言って消えて欲しいが。

 

そうこうしているうちに、もそ、ともう一個の血だるまが動いた。日向がなんとか意識を取り戻し始めたようだ。

虚ろだが視線は戻ってきていて、何となくこちらを見ている、ような気がする。このままずっと気絶していてもよかったんだぞ?そんな意図を込め、お返しに彼の方をなるべく冷ややかに見つめた。

 

如月が何か半透明のモニター?を触っている。なんか近未来系の映画で見たようなデザインだ。かっこいい……

子供のように目を輝かせてその姿を見ていると、彼は何かに気づいたように声をあげた。

 

「……あ、奏の痛覚切ってた……どうする?オンにするか?」

「それだけはやめろ。あの馬鹿に見られたら見当もつかない」

 

俺の返答にりょーかーい、と暢気にかえし、半透明の何かを閉じた。見た感じ、管理用のタッチパネルといったところか。

痛覚もいじれるなら日向の痛覚をいじってほしいなと思った。流石に初電車はきつすぎる。

……まぁいいか。日向だし。

 

「じゃ、いつもの部屋居るから準備が出来次第呼んでくれ」

 

そう言い残し、如月の姿がパシュン、と空気のような音を立てて消えた。

いつもの部屋というのは、彼がいつもいる『管制室』とか呼んでいるところだ。機密データの山だとか言っていたが、関係者以外を近寄らせて大丈夫なのだろうか。

準備と言っても特にないし……やることがない。何すればいいのさ。

 

とはいえすぐ向かうのも何だか申し訳ないので、日向が回復するまで見守ってみることにした。

覚えている限りで百回近く死んで来たが、誰か他人が巻き込まれたのは意外にもこれが初めてなのだ。なのでどうなるのかちょっと気になる。

自分が初めて死んだ原因は何だっただろうか。自殺ではないだろうが、記憶に靄がかかったようでいまいち思い出せない。

 

首をかしげていると、日向がゆっくりと這いずってきた。立つこともできずこうするのがやっとのようだ。

振り払おうかとも思ったが、流石に日向といえど良心が痛む。

そのまま眺めていると、彼は力なく俺の上着の裾を掴んだ。

 

彼は微かに震え、泣いていた。いつもの彼とは打って変わって、とても弱々しく見えた。

 

「…ぅえ、っぐ……こわ、かった……さびし、からっ……ひぐ、いかないで……っ」

 

引き留めるようにしがみつき、震える声でぐずぐずとつぶやき続ける。

 

自分が死んだら悲しむ人が居るんだな、と意外にも思う。自分はどうあがいても一人の人間で、ヒーローや主人公になんてなれやしない。

ただちょっと変な世界に行けるだけの一般人に過ぎなくて、俺ひとりが死んでも誰も気に留めない。むしろ幸せに思うやつもいるのかもしれない。

 

そう思っていたのに。

 

こんなのが居たらためらってしまうじゃないか。

 

俺の名前を呼び始めた日向に、ここにいるという意思表示のためにも彼の頭をゆっくりと撫でる。

触れた瞬間、驚いたようにこちらを見る。しかし撫でているのが俺だと分かって安心したのか、ぐりぐりと頭を擦り付けてきた。小動物でも撫でている気分だ。

 

……あぁ、一体俺はこれからどうすればいいのだろうか。

はぁ、とため息をつき、ただ彼が泣き止むのを待った。





自分の欲求に素直になった結果、死にまくる人。
待合室では基本的にはっちゃけているが、さすがに日常生活では抑えている。
日向の扱うバグは能力の一部だと思っている。
意外と自己評価が低い。今回の一件で死ぬ頻度を少し減らそうかと考えた。

日向
親友が死に続け、ヤンデレにならざるをえなかった優しい人。
バグの影響で元からの執着が増大し、親友を超えた感情を抱くようになった。
奏が死ぬことは何よりも辛い苦痛であり、何度も見せられた結果防衛反応で癖が歪んでよりやばくなった。
監視カメラをつけているのは奏が死なないよう見守るものだったりする。


実は日向の方がループ主人公してる。ヤンデレだけど。


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バグはとても面倒なものである

あけましておめでとうございます
遅いけど新年初更新です


「お前ら、ほんと問題しか起こさないな……」

 

目の前にいる奴の起こした惨状に、溜息を吐いてがりがりと頭をひっかく。

 

俺は今、非常に苛ついている。

理由は簡単。

 

こいつ、フリーズさせやがった。

 

普通なら再起動するなどして済む話だが、ここじゃそうはいかない。

何せこの世界はPCなどにつながっていない、孤立した世界なのだ。簡単に言えば電気もガスも何も無い田舎のような状態だ。

アプリとしての俺達、管理人は普通、インストールされた媒体に頼り切っている存在。基本的な処理もそっちが担うので、その分俺達の仕事も楽になる。本来ならそれが普通らしい。

 

しかし、その補助がない。その為多少は自動で処理されるものの、ほぼすべての負担が管理人側に来る。

その結果が普段の激務だ。独立した理由としては、このゲーム自体が媒体から削除されたことがかかわっていると考えている。二周目がなぜ発生したのかはいまだ不明だが……話を戻そう。

 

フリーズはゲームの進行にかかわる重大な事故である。絶対に復元しなければいけない。

そして頼ることのできる媒体がないので、すべて管理人が手作業で再起動と運営の処理を行わなければならない。

 

つまり。

すべてのデータを復元し、バグをつぶし、重なりまくった処理を読み込んで再起動させるという死ぬほどめんどくさい作業をやれということ。

おめでとう、徹夜確定である。この処理を2人でとか死ねというのか。

エナドリはしばらく買い足していなかったが足りるだろうか。少し心配である。

 

実はこうやって話している今も、脳内で並列で作業を進めている。疲労からか頭が二つに割れ、更に四つに裂けるような痛みがあるが、常に続けていればもはやそんな痛みにも慣れた。

たとえ頭蓋が割れて黒い汁がだらだらと流れ出したとしても死ぬことはできないし、この世界には救いも何も訪れない。管理人が居なくなった後にあるのは終焉だけだ。黒く飲み込まれる世界は何度見てもなれないし、もう見たくもない。逃げてはいけない。ずっと先もこれまでのようにはいかないから。

だから何の心配もない。大丈夫だ。うん、大丈夫。たすけてつらいよ

 

とりあえずデータ復元に失敗した際、進行不能にならない最低限の二人は保護のため取り出したのだが。

取り出したのがやっぱりというかなんというか、あれ()バグ(日向)だった。

奏はまあ主人公だからいいとしても、何故フリーズの原因が釣れるんだ。運命?運命なのか?もしくは愛の力?ふざけんじゃねえ。

……まぁシナリオ内でもかなり絡む相棒キャラだし、当然と言えば当然か。性格があれだから除外したかったが、変化する世界とは言えどシナリオには逆らえなかったらしい。

 

はぁ。

さんざん愚痴を連ねてきたが、そろそろ現実を見よう。

 

眼前にそびえ立つ、黒いグリッチを纏う3m程の巨体。

下半身はふさふさとした茶色の毛に覆われ丸く、そこから蜘蛛のような足が6本。そして、人間の目が不規則にいくつか付いていた。

青いジャージの裾は黒く変色し、胴体には大小さまざまな黒い水玉模様が密集して浮き出ている。まるで蓮コラだ。

上半身には蝶の羽が切り張りしたような不自然な形でくっつき、妖精のようなかわいさは流石に感じられない。

ぐるぐると黒く渦巻く赤い眼球はやけに大きくなり、右目からは木の根っこのようなものが飛び出していた。

 

今回、日向はこんなキメラのような姿で現れた。……うん、なぜそうなる??

 

テクスチャバグの応用だろうが……それにしても限度というものがあるだろう。

今は6本の足を器用に折りたたんで座り、冷や汗をだらだらと流しながらやばいことになった、とばかりに大きな目をそらしている。

 

【挿絵表示】

 

そして俺は目が逸らされるたび、ニコニコと笑いながらその方向へ移動して目線を合わせている。

飛べる力とは本当に便利だ。この力があれば数メートルの身長差なんてないに等しい。

 

「あ、あノ、管理人……これハちがクて……」

「日向君」

 

こちらはとてもやさしい笑みを浮かべているというのに、何をそんなに怯えることがあるのだろうか。

一周回って冷えてきた目を合わせ、震えている彼に語りかける。

 

「ゆっくりと、事情を聞かせてくれるかい?」

「……ハい」

 

祈るように黒い手を胸の前で握り、縮こまっている目の前の異形。

彼には怒りに満ちた、どす黒いオーラが見えていた。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

彼からの話をまとめるとこうだ。

 

奏が誘拐された。

焦りで座標特定に手間取ってしまい、ワープで彼のもとへ行くのが遅れた。

何とか彼のもとにたどり着いたのだが。

 

奏は複数人の人間に押さえつけられ、服を脱がされていた。

そして、服を脱がしていたやつらが奏の肌に触れ、同じく日向の逆鱗にも触れた。

 

で、怒り狂って気づいたらこの姿になっていたそうだ。

映像を確認したが、勿論誘拐してた人たちはぐちゃぐちゃに裂かれた肉塊になっていた。本当にこいつは奏に関するときだけ殺意が高い。

 

 

……はてさて、これは褒めるべきなのか怒るべきなのか。

ああ見えて奏は心弱いとこあるし……いや、待て。前強姦されたいとか言っていた気がする。あいつは普通に喜びそうだ。

……俺のメンタルが救われたのでノーカンにしようか。

 

「うん。まぁ今回は見逃してやる」

「……よカったァ、奏に近ヅクなとか言わレてたラ切り刻んでタぞ」

 

彼はなにもされないと知って安心したのか、大きく息を吐く。

安堵の後に物騒なものが聞こえた気がするが、たぶん気のせいだろう。

 

ちなみに奏はというと、日向の背中辺りで眠っている。

正確に言えば蜘蛛のような下半身の上で寝ている。考えてみれば、ふわふわの茶色い毛が気持ちよさそうだ。あまり寝れてないのでうらやましい。

彼が異形形態を見て怖がらないように、と奏が日向に気づく前に眠らせたそうだ。

起きたら友達がかなり気持ち悪いタイプの異形になってるとか、むしろそっちのほうが怖い。下手したら一生のトラウマものである。

 

 

今回のフリーズは、十中八九日向の変異が原因だろう。

彼の現在のデータを確認したところ、10体以上のナイトメアが彼と同じ座標に重なった状態で処理されていた。その中には死神もあった。まじで殺す気満々だ。

あまり動かないのであれば問題はないようだが、本来現実世界に存在できないナイトメアを無理やり召喚して融合したうえ、誘拐犯を対処するためにめちゃめちゃアクロバティックに動き回った結果、処理が追い付かずフリーズしたらしい。

 

下手すればクラッシュもあり得る。……やっぱり早く修正しなくては。

 

「ナぁ、管理人……もどレナいんだが」

「……は?」

 

「元の姿二戻れなイ」

 

おい冗談だろ?冗談であってくれよ。もう仕事増やすなよクソバグ野郎。

 

普段は一体との合体のため簡単に戻れるようだが、今回は10以上。合体は容易でも解除の難易度は段違いだ。……というかいつも合体してたの?初耳なんだけど?

記録にも映っていないとなると隠蔽的な何かとか、こっちの認識をバグらせてきているのかもしれない。こいつなら結構簡単にやってきそうで怖い。

 

ちなみに今回の解除には約一週間ほどかかるらしい。

 

一週間。いっしゅうかん。

世界が復旧できれば、主人公と重要人物不在による崩壊を防ぐためすぐ彼らを戻す必要がある。

確実に分離は間に合わないだろう。

 

分離できるまでの間、このでかい負荷が世界に居座り続けるというのか。いつ影響を及ぼすかもわからない爆弾のようなものが。

 

………………。

 

やっぱり、こいつ一回殴っておこうか。




日向
もはや不定形の怪物のようなバグった存在。
その後一週間鏡の中の世界でじっとしてたら治った。

如月
精神ぎりぎりの管理人。
どれだけ辛くても新入りに負荷は与えられないので頑張りすぎている。
結局殴んなかった。

もうすぐバレンタインです。
如月の誕生日です。おめでとう。


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狐と被害者とそのほかと

FOX世界線版日向と悠也の話。そしてこの世界の管理人の話。
※嘔吐あり


昔の夢を思い出した。

じっとりと暑い、夏の日の事だった。

 

 

熱気でコンクリートの向こうがゆらゆら揺れ、水たまりのような蜃気楼を作り出している。

その黒い道を、子供用の安っぽいサンダルでぺたぺたと歩く。ついさっき店で買ったラムネの瓶を開け、泡が跳ねる中身を三分の一程、一気に飲み干した。

 

小学生の時の夏休み。

思えば、あの時が一番楽しくて楽な時期だった。今ほど勉強の事は考えなくていいし、特に何も考えずに暮らせる。これほど楽なことはない。

 

行方不明になっていた子が戻ってきたらしい。すぐ近所の神社で、いなくなった時そのままの姿で現れたそうだ。まるで神隠しだ、と言われていた。

同年代で、銀髪の少年。捜索届の写真は良くも悪くも目立ち、もしも一目見ればすぐに彼だとわかるだろう。

 

 

……ふと、神隠しが起きた神社に行きたいと思った。

なぜかはわからない。だが、無性に行きたく思った。

 

 

小さな体は抵抗することも無く、好奇心のままふらふらと歩く。

ゆっくりと、しかし確実に。件の神社へと、吸い寄せられるように歩いていく。

 

揺れるような気持ちの悪い感覚があって、そっと下を見る。

石畳だ。

ついさっきまで、コンクリートの黒い道を歩いていたはずなのに。しかし、そんなことも気にせず一直線に歩く。

 

じりじりと、回るような蝉の声が境内を取り囲んでいる。

 

何段もある石の階段をのぼり、ようやく赤い鳥居が見えた。

木がはがれ古ぼけているようにも見えるが、その割には妙に色が赤かった。

 

血を彷彿とさせるような赤黒い鳥居。

不気味なそれをくぐり、落ちていた枝を踏み折りながら前へと進む。

 

焼けるような日が照り付け、蝉の声が一層大きくなる。

数歩歩いたところでぴた、と足を止める。

 

人がいる。

 

熱で遠くが揺れる中、真っ白い少年は陽炎のように揺らめいて立っていた。

白い髪の合間から、ひどく濁ったぐちゃぐちゃの赤い瞳がこちらを射抜く。

 

その瞬間、うるさかった蝉の声が一斉に止んだ。

 

体が異様に冷え、汗が止まらない。逃げなくては、と本能的に思っても、足が金縛りにかかったように動かない。

 

 

あれは自分を獲物として見ている。

 

 

彼が四つの尾をうねらせ、歩いてくる。陽炎のように揺れていたシルエットが、だんだんと鮮明になる。

 

目の前で見たその顔は、捜索届の顔そのもので。

 

低く地面を蹴った彼が、俺の首を嚙み千切る。

黒い点の付いた、自分の眼球が飛んでいる。

痛みは不思議と感じなかった。

あの夏の日、俺は確かに仕留められた。

 

 

 

 

 

しかし、生きている。

現に俺は高校生で、あの場所とはかなり離れた都会に引っ越してきた。

あれは夢だったのか。そうだ、悪い夢に違いないのだ。

 

……そんな考えがすぐ覆されるなんて、だれが思うだろう。

 

 

 

 

さて、何故俺があの悪夢を思い出すに至ったか。

それは。

 

 

俺が隠れてるすぐそばで、白い狐の耳を生やした奴が弁当食ってるからです。

そしてあの顔、どう見ても同じクラスに居たやつです。本当にありがとうございました。

 

あの夢通りの真っ白い髪。あの時ほど濁ってはいないが赤い目。そしてボリュームのある四本のしっぽ。

完全にあいつだ。何度も目をこすって見るたび、疑いが確信に変わっていく。

 

夏特有の暑い日差しが照っている屋上には、俺とそいつしかいない。

重箱の……弁当なのかわからないものを幸せそうに平らげていく彼には敵意のての字もなさそうだが、夢が現実だったと思い知らされている今、警戒しざるを得ない。

今はその気でなくとも、襲われる可能性は十分にあるのだから。

 

とにかく、今はこの場を乗り切るしかない。

一刻も早くここを出ていきたいが、あいにく俺は屋上の扉とは反対側の場所に居る。今のこのこと出ていけば確実に見つかってしまう。くそ、よりにもよって何で扉を見張るような位置にあいつはいるんだ?

 

もし見つかってしまえば……熱いコンクリートが赤く彩られることは想像に難くない。もし逃げ切ったとしても同じクラスである以上逃げ道がない。

神よ仏よ、もしいるのならばなぜ俺にこんな試練を与えるのか、50文字以内でお答えやがれください。

 

ああもうどうすれば、と頭を抱えていると、何か変なにおいが鼻を突いた。

何か腐ったような、生ごみのようなにおい。

風に乗って来た異臭はあいつの所からする。これ以上何かするつもりなのか。早くここを去ってほしいのだが。

 

あの量の弁当を早々に食べきったのか、そいつは何かを急ぐように重箱をしっぽの中へとしまう。

そのまましっぽの中をまさぐり、きょろきょろとあたりを見渡す。

 

 

しっぽから、何か茶色いものが現れた。

 

変なにおいが一層強くなり、あれは何だ、と細く目を凝らす。

 

否、凝らしてしまった。

 

 

ところどころ黒い。茶色。いや、肌色。

暗く、紫色っぽくぬらぬらと光る切れ目。

平たいところから広がり、だらんと垂れる五本の突起。

 

顔の横を蠅が横切る。

ブン、と耳元で鳴ったノイズのような羽音で正気に引き戻された俺は、溶けかかった棒状のそれが何か気づく。

 

ああ。

 

あああ。

 

 

あれは。ひとだ。ひとのうでだ。

 

 

世界が陽炎のように揺らめく。目の端に水が溜まっているような視界。生身の人間はここにいてはいけない。

しかし逃げたくとも逃げられず。無慈悲にも、骨と肉を嚙み砕く音が混ざったものが耳に届く。

 

脳内でサイケデリックな色をした幾何学模様と白黒の何かが蠢いている。

まっしろな化け物の本性は、昔となにも変わっていませんでした。

 

 

あの夢だと思っていた景色がフラッシュバックする。

 

鳥居。

蝉。

白髪。

緑葉。

石畳に広がる赤。

 

高速で入れ替わりながら断片的に映るそれを見るたび、耳鳴りがひどくなる。

蝉が鳴いている。鳥籠のように俺を取り囲み、動けなくしている。

蝉の声とぐちゃぐちゃの音とがまじりあってなにがなんだあわかららない。

そんな状態でもまっしろいのから目が離せなくて。たんたんとぐちゃぐちゃになったああたまでそれをみていた。た。めのまえがモノクロにかわったりカラーになったりいそそしい。いのなかみがぐる、とかいてんした。そのせいかひどくきもちわるくて、はきそうでえずいていきがあらくなってのどのおくのへんなところがひらいてそれで、

 

「………ぅ、?」

 

気づいたときには、水っぽい音と共に昼食だったものを吐き出した後だった。

口の中で胃酸と溶けたパンが混ざった味を感じながら、コンクリートに広がるそれを呆然と見つめる。

 

頭の隅がにじんでいる。意味のない文字列がたくさん並んで溶け合っていく。

その感覚がのうみそをかきまぜてくるようで。つらくてもういやで、さっきはいたもののツンとするにおいもあって、また吐いた。

 

あいつが居たほうを見ると、澄んだ青い空と灰色の街並みがフェンス越しに見えた。

白い化け物はもういない。

 

 

ようやく帰れるかと思って足を踏み出すと、頭の後ろが揺れた。

 

 

 

周りが生臭い。錆びた鉄のような味が広がる。

背が酷く熱い。視界の端に白い影がちらちらと映る。

先の尖った尾のようなそれは、さっきまで遠くにいた忌々しいほどに神聖な彼のものによく似ていて。

 

 

 

足元がぐらりとゆれて、いぬのようななきごえがきこえた。

 

 

 

赤く濁った視界が晴れる。俺は霧がかかったような神社に居た。すぐ後ろは階段で、鳥居の真下に居る。

頭の後ろが冷えた鉄の棒を差し込まれたように冷たくて、とてもすっきりしている。

 

ゆっくりと瞬きをすれば、賽銭箱の前に白いあいつが現れた。しかしさっきまでの恐怖の念は全くなく、ナイフを持ったあれが神様だと本能的に分かった。

こちらへ歩いてくる彼へ、体を捧げるように両腕を伸ばす。安堵が体を包み込む。

 

 

狐に飲み込まれたならすべてが終わり救われて、新しく生まれ変われるのだ。

 

救われたい

 

どうか

どうか

 

 

 

この命を終わらせてください。

 

 

 

さくん、と。

首があっけないほどに素早くちょんぎられた。

 

取れた頭は上を向き、目は鮮やかな緑の葉と霧が混ざり合った青い空を映す。

離れ離れになった胴が引きずられていく音。

五月蠅い蝉の声。

 

そして、一瞬のノイズ。

多幸感に包まれながら、暗くなっていく視界を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

ひゅーまん ひゅーまんすりーぷ?

 

水底に沈んだような意識が、気の抜けるような声に引き戻された。

 

頭が冷たい。

ぬるくなった冷却材を乗せられているような温度。それと同じものに頬をぺちぺちと叩かれている。

 

違和感にだんだんと耐えられなくなり、ゆっくりと目を開ける。

 

おーひゅーまん うぇーくあぷねー

「……は?」

 

目が開いたと同時に、頭上からべしゃりと滑り落ちたソーダ色のどろどろ。

自分を呼んだ声を発するそれに、状況が飲み込めないまま硬直するしかない。

 

弾力のあるそれはうにうに動き、丸みのある山のような形に落ち着いた。体の中心と言っていいのかわからないが、そのへんにしましまの布をマフラーのように巻き付けている。

半透明な体の中に浮く、青い長方形の目だと思われるものがこちらを向いた。

 

ないすとぅみーつぅひゅーまん あいむかんりすらーいむ

「え、あ……どうも……」

 

【挿絵表示】

 

もにもに動いたそれが、どこからか英語のような日本語のような言葉を発する。

……確かに、言われてみればRPGに出てくるスライムのような。

 

ゆー ですしたねー。あーゆーおーけー?  ゆー ぺいんでばたーんね

 

体は大丈夫か聞きたいのだろうか。なんとかジェスチャーで意味は伝わる。

斬られたはずの首は胴体とくっついていて、腕も問題なく動いた。首からは血が止まることなく流れ落ちているが痛みはない。

目の前のやつは痛みで倒れたとか言っているが……現に痛みはない

から、時間経過で無くなるようなものだったのだろうか。

 

床に落ちた血はスライムがでりしゃすと鳴きながら吸収していた。狐のあいつと言い、俺の体はそんなにおいしいのだろうか。

 

血を吸って赤茶色になったスライムが触腕を伸ばし、俺の手をつかむ。

粘着力はあまりなく、人肌に近い、ぬるい温度がするすると手の輪郭をなぞっていった。

 

おーけ?おーけーね』 

 

手や傷を負った部分を触りながらまじまじと見たあと、近未来的な映画でみるような、半透明のディスプレイを呼び出す。

 

ディスプレイの下にパソコンのような形で引っ付いている、これまた透けているキーボードを器用に触腕で叩いて、何やら資料らしきものを作っていく。観察レポートかなにかだろうか?

 

薄いオレンジ色をした画面の裏から文字は透けて見えるものの、人間が読める文字ではない。表現するならなんというか……いかにもファンタジーで出てくるようなグチャッとした字だ。

もしかすると日本語を崩したような形になっていて、解読も可能なのかもしれないが、反転しているため読み解く術もない。

 

ぼんやりとそんなことを考えながらスライムを見ていると、彼……いや、彼女?がディスプレイを消し、すぐ近くまで歩み寄ってくる。

うにうにと何語か分からない言葉を喋ったあと、細く伸びた触腕がこちらを指し示した。

 

しーゆーひゅーまん どんと かむひあー

 

それが一言呟くと、白い光がふわりと俺の体を包み込む。

もうここへ来るな、と。そう言いたいのだろう。

来るなも何も、どうやってここに来たかもわからないのにどうしろというのか。

 

抗議しようにももう遅いらしい。

あまりにも眩い光で視界が真っ白に染まり、俺は反射的に目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピピピ、とアラームがなっている。

何度鳴っても放っておかれた電子時計は音のなる間隔を狭め、今では絶え間なく音を鳴らすようになっていた。

 

脳に響くような甲高い音に耐えられず、眉をしかめながらアラームを止めるボタンを叩く。

重いまぶたを開け時計を見てみれば、いつも起きる時間より少し後を示している。

 

これ以上過ぎれば遅刻してしまう。そう思っていやいやベットから降り、寝癖でボサボサになった金髪を掻いた。

 

夏といえど朝はほんの少し冷える。

温い布団との温度差に震えながら、顔を洗うため洗面所に向かう。

 

しかしまぁ、変な夢だった。

自立して言葉を話すスライムなんてこの世に存在するはずがない。

だから、きっとあれは夢なのだ。

 

狐も、首を切られたことも、血の広がる白い床も。

すべてが妙にリアルな夢に違いない。

そう暗示するように心で唱え、鏡を見た。

 

 

もう全て夢であってほしいというのに。

 

 

俺に牙を剥く現実はどうも理不尽で、奇妙で、不可思議極まりない、救いようがないほどにくそったれのものらしい。

 

 

「……な、なんだ、これ!?」

 

目が、夕焼けのようなオレンジ色にそまっている。

黒い瞳など跡形もなかったように、瞳の色が変わっている。

 

カラコンなどつけた覚えなどないし、もとからこんな色だったはずもない。

何度まばたきして目を擦ろうと、事実はそこにただ居座っていて。

抵抗しても無駄だと言わんばかりに変わりようがなかった。

 

これは全て現実に起こったことだ、と。

 

そうすべてを物語るような2つの夕焼けは、ほんの少し赤い白に囲まれて静かに浮いていた。

 

「あーあーあぁ……」

 

もう全てが最悪だ。

かすれた声で母音を垂れ流すも、何も変わることはなく時間はすぎるばかり。

時間。

……時間?

 

「あ……」

 

学校、どうしよ。

 

すっかり忘れていたが、もう遅刻するような時間になっている。

もう間に合わないのならいっそ、『目の色が突然変わったから休む』などと電話をかけてみようか。

こんな突飛な事象など滅多にないだろう、ふざけた仮病に取られる想像しか思いつかない。

 

写真で見せたとしてもカラコンだとか、加工だとか絶対に言われるだろう。便利すぎる世の中も考えものだ。

 

残された選択肢はまぁ、遅刻するという連絡をして行くしかないか。

そう思い、俺はなるべく申し訳無さげな声を作って電話をかけた。




風見日向(Fox世界線)

悠也(神)に気に入られてしまった、かわいそうなただの転校生。結構な頻度で吐いたりSUN値が霧散している。
離れたいのになぜかさらに懐かれてしまった。

黒い方とは全く違い、ヤンデレでもないし悠也に恋愛感情もない。その為派生先の中では最もオリジナルに近い。
目が赤ではなくオレンジになった理由は不明。

すらーいむ

どこからどう見てもスライムな管理人……いや、管理スライム。
人間との言語の違いか、言葉が変な感じに出力されてしまっている。
生前は人間の体液を搾り取って生きていた。
欠損部位は魔物の心臓ともいえるコア。実質心臓。

悠也
精神汚染とかいう災害能力が使えたらしい。
本人は無自覚。


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ふみきりのくろねこ

ここからちょっとシリーズ的なものに入るかも。
猫って可愛いよね。
予定が多くて執筆する時間が減ってしまいました。悲しい。


にゃあにゃあ、と。

 

線路の上に捨てられた黒猫が鳴く。

段ボールから這いずり出す気力もなく、ただ助けを求めて鳴くことしかできない。

 

少しずつ弱くなる鳴き声。

脳裏に浮かぶのは大きな生き物の姿。

 

あいつのせいだ。

お前らのせいだ。

兄弟は皆死んだ。

もう何もここには無い。

それなのにまだ奪うというのか。

 

くだらない。

酷く愚かだ。

 

許せない。

 

許せない。

 

許せない。

 

そうだ。

お前たち人間がいなければ。

 

お前たちさえ、いなければ。

 

 

すりつぶされた肉塊は、もう何も考えることはない。

しかしただ一つ、怨念を残した。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁなぁ日向」

「……」

 

窓の外から悠也の声が聞こえる。休日の朝っぱらから最悪な気分だ。きっと今日の星座占いは最下位だろう。

兎にも角にも窓は絶対開けない。カーテンも開けないし反応もしたくない。たとえ世界が終わろうと開けてやるか。

 

「日向ー?おーい」

「あー……すまん、電話が入った」

「えぇ?早く開けてよぉ」

 

ペタペタと未練がましく窓を触っているそれを聞き流し、スマホの電源をつける。

本当に嫌だ。最近あまり眠れていないというのに寝覚め最悪じゃないか。電話をかけるふりでなんとか振り切れればいいのだが。

 

文句を言うため、そしてある件に対して言及するため、すぐに通話アプリを開いて()()()()()()()()()()()()()()

 

ワンコールが鳴り終わる前に、彼が電話に出る。 

 

『日向ごめん!封じ込めてたやつがそっち行ったかも!』

「あぁ、今まさに最悪な目に遭ってるわ馬鹿狐」

『……ほんとごめん……今そっち向かってるから絶対窓開けるなよ!あと鏡も見るな!』

「おー、窓が割れる前に来ることを祈ってるわ」

 

バンバンと窓が叩かれている中、そう言い残して電話を切った。

 

奴は招かれないと入れないようだが、そんなこと関係ないとばかりに窓を叩き割ろうとしている。入れてもらおうとペタペタ触っていたときとは段違いだ。

 

開けてあけてアけてあけテアケテアケテアケテアケテと叫ぶ悠也モドキ。声の原型はもう無く、たくさんの人の声が重なったような感じだ。

 

……鏡もだめ、か。寝癖がひどいのに髪もセットできないじゃないか。

全くとんだやつを連れてきたものだ。

 

「……早く来いよ、もう嫌なんだが」

 

正直言って、かなり怖い。

いつ破られるかわからない数ミリの厚さのガラスなど信用できないからだ。

しかし、奴らはこちらが認識した瞬間に入り込んでくる。だからなるべくいつも通りに振るまって気づかないフリを突き通すしか無い。

 

頭の中にノイズがかかる感じがして、窓の外にいるなにかのイメージが伝わってくる。

ここまで来るとすこし……いや、かなりやばいかもしれない……。

 

 

その瞬間。

 

窓の外で水風船が爆発したような音がした。

 

澄んだ鈴の音と犬の様な鳴き声。

息苦しさがすぅ、と無くなって、あいつが来てくれたことがわかった。

 

「……悠也?」

「ああ、なんとか間に合ったよ。巻き込んでごめん」

 

カーテンを開けようとして、途中で止める。

流石に無いかと思うが……念の為。

こいつにしかわからなくて、偽装しようもない答えが出る質問。

 

「一つ質問する。……あの日の俺の味ってどうだった?」

 

「日向の味かぁ、例えるならチョコレートフルーツパフェかな。内臓とか汗はそれぞれフルーツとガムシロップみたいな味がして、血はチョコソースみたいな味がしたなぁ。そうそう、お菓子ばっか食べてない?不摂生だと血の味が偏るんだよね。あと……」

「もういいお前は本物だ」

 

こんな頭のおかしい回答をする奴なんて、この広い世界で多分1人だけだろう。

 

カラカラと音を立てて窓を開ければ、朝日に照らされた白い狐が太陽に負けないほどのいい笑顔を浮かべた。

アルビノの彼がそうしていると、輪郭がぼやけて日に溶けていくような儚い幻覚を見るかもしれない。俺は本性がわかっているから絶対ならないが。

効果があるとするなら、今の気持ちが少し軽くなる程度だ。

 

夏の始まり、蝉が鳴き始めた頃。太陽が燦々と輝く屋上にて。

確か2週間ほど前だったあの日。俺はこの狐の神もどきに、いともたやすく文字通り捕食されたのだった。

 

「おはよう日向。朝日で肌が痛いから部屋に上げてくれるか?」

「なら化ければいいだろ」

 

急がなきゃって思って集中できなかったんだよう、と耳を垂らして言う彼を迎え入れる。

普通の日光でも軽く火傷する彼にはさぞ辛かっただろう。狐らしく化ければ多少陽の光に強くなるそうだが無理だったようだ。遮光カーテンを閉め、部屋の隅にある小型の冷凍庫から保冷剤を出す。

 

「これで赤くなったとこ冷やしとけ」

「ありがと……うぅ、ヒリヒリする……」

 

ハンカチで包んだ保冷剤を肌にあて、おぁー……と気の抜けた声を出す彼を横目に、自分と彼の分の茶を用意する。

 

こんな目にあったのも全部彼のせいだ。

目が夕焼けの色に染まってから、俺は霊を引き寄せやすい体質になってしまったらしい。

元々そういうものが見えてしまう体質だったから余計辛い。考えてもみてほしい、毎日毎日家の中が古今東西幽霊博覧会だ。安眠などどこかへ逃げていってしまった。しかも悠也には死者を導く役目があるとかで、彼と一緒にいる時は幽霊ホイホイの効果が倍増するとの事。最悪か。

 

そんなわけで、今俺の家はこの街一番の心霊スポットになっている。

いつ祟り殺されるかわからないこの状況。勿論死にたくは無いから、不本意ながらもこいつに守ってもらっているわけだが。

 

「でさぁ、結局相棒なるの?どうするの?」

「なるわけねーだろ、頭いかれてんのかお前!?」

 

麦茶を並々と注いだコップをダン、と勢いよく置き、抗議の意思を告げる。

ちぇー、と文句を言いたげな目をする彼は、俺のことを相棒にしたいらしい。

 

神社に住む彼は除霊業を働いているらしく、最近客が入ってこなくて経営が立ち行かないそうだ。

そんな状態で俺のような幽霊ホイホイを見つけてしまったものだから、『これは商売繁盛招き猫効果があるのでは?』と思われてしまった。

……お客じゃなくて悪霊がゾンビ映画のように押し寄せる未来しか見えない。

 

「こちとら電車でうっかり寝ようものなら謎の駅!路地裏に迷い込んだら裏世界!果ては学校に忘れ物をとりに行ったら命をかけた鬼ごっこが始まった!!目の色が変わって2週間ほどでこの有様だ!!」

「改めて聞いてもすごい体質になったもんだな」

 

呑気に返すんじゃないわボケェ!!!とありったけの恨みを込めて叫べば、はいはいすみませ〜んと明らかに舐めた返事が来て、俺は怒りのあまり床をのたうち回った。悠也は流石に引いた目をしているが、そんなことなどもはやどうでも良く思える。

 

この相棒になれという勧誘、怪異に巻き込まれるようになってから四六時中行われている。

朝会えば勧誘、昼に逃げても追いかけてきて捕まえられ、夜は俺が寝るまで部屋に居座る。こちらとしては人喰い……しかも自分を喰ったような奴の顔など見たくはないが、いつ襲われるかわからないからと何かと理由をつけて付き纏ってくるのだ。

正直ストレスだし死ぬほど嫌だが、責任は取るからと命を何度か守られているので何もいえない。

 

そうこうしてるうちにまた霊が入り込んだらしく、悠也が虚空にナイフを数度振る。切断された薄黄色のチューインガムのようなものがパラパラと落ち、拾ったそれを一つずつ丁寧に咀嚼して麦茶で流し込んでいた。

これが彼なりの除霊……らしい。

頬杖をつきながらなんとなくその様子を見ていると、いるか?と霊であったであろう駄菓子然としたかけらを差し出される。

この季節の霊はレモン風味、駄菓子のシャーベットの様ような優しい甘さでさっぱりしていて美味いとのことだが、俺は食えないしもらっても悪いことが起きる気しかしない。

 

目を逸らしながら麦茶を啜って受け取らないでいると、あ、そうだそうだと彼は俺に渡そうとしていたかけらを口の中に放り込み、自身の尻尾を探り始める。

今度はなんだと嫌々そちらの方を見れば、彼はピンクっぽい色の塊を取り出した。

結構重みがあるらしく、それが机に置かれるとごとん、と岩を置いたような音が鳴った。

 

「それ俺の念込めた岩塩。ずっと尻尾の中入れてたから効果も結構あると思う。気休め程度にでも思っておいてくれ」

 

岩塩。

そりゃ塩の塊なんだから効果はあるだろう。しかし、そこはイメージ的になんか……札とかそういうのじゃ無いのか。

とりあえず、一ヶ月ほど彼の尾の中で温められたそれを受け取っておくことにした。少しでも状況が改善してくれればいいのだが。

 

「さて……お客がきたようだから俺は行かなきゃ」

「そうか、頑張ってこいよ」

 

悠也が頭を振り、ゆっくりと立ち上がる。

一度瞬きをしたその瞬間に彼の髪は銀に染まり、生えていた狐の耳と長い四本の尾は消え去っていた。

遮光カーテンを開けても肌が赤く焼けることはなく、化けることに成功したことがわかる。微妙に赤みがかった灰色の光が日の光を映し、微妙な笑みを浮かべる。

 

「いつでも見に来ていいからな!待ってるぞ!」

 

そう言い残して彼は窓から出て行った。絶対行くものか。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

その頃。

現在この街で二番目に霊が集まる神社を1人の青年が訪れた。

顔が見えないように深くフードを被った彼の手には、一枚の萎れたチラシが握られている。

 

『幽霊、怨霊何でも食べます。お尋ねの方は下記の住所まで』

 

……太字のマジックで乱雑に書かれたその字は、どう頑張ってもそうとしか読めなかった。

怪しい。というか子供のイタズラとしか思えない。そしてもっとどうにかならなかったのかと思うほど字が汚い。

……しかし、こんなものにも頼らなければいけない理由があるのだ。

 

風が吹き、フードが脱げる。

サラサラと揺れる黒い髪。その丸いシルエットをした頭の上に。

 

不自然で、歪な三角形の猫耳が生えていた。

 

いくら切除しようと痛みとともに生える二つの肉塊。奇病の類だと診断されたものの未だ対処法は見つからない。

そこで見つけたのがこのふざけた内容のチラシだった。

確信できる材料など何もないはずなのに、不思議と信じられて引き寄せられ、気づけば手に取っていたのだ。

 

「依頼人サマ一名ご案内でーす!」

 

不意に、高い声が響き渡った。

その声にびくりと肩を跳ねさせ、脱げたフードを被り直す。

 

揺れる木の葉の音。蝉の合唱。

青い空に広がる入道雲。

 

声が聞こえた方を見れば、赤く塗られた鳥居の下に何かがいた。

形容するならば白い毛玉というのが一番合っているだろうか。まぁなんと言うか、手のひら大の毛玉が三個ほど飛び跳ねている。

きゃあきゃあと子供のように鳴く毛玉たちは幻覚ではなさそうで、手の上に載せてみれば僅かに質量があるようだった。

 

「こちらへどうぞ依頼人サマ!」

 

頭に札をつけたリーダーのような振る舞いの毛玉がそう言うと、残りの二つが同時に「サマ!」と一言だけ鳴いた。

ぽんぽんと石畳を跳ねて行く毛玉達を追いかけるように背後を見る。

 

 

「……え?」

 

視界を覆うように風が吹いた。

 

青空を覆い隠す鮮やかな緑。落ちて積み重なった蝉達の死骸。

奥へと誘うように何十にも続く血のように赤い鳥居。

 

突如眼前に広がる未知の異世界。

その光景に、遅いでスヨ!と叫ぶ高い声など聞こえないほど混乱していた。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

何度この道を歩いただろうか。

ヘッドホンの代わりに首から下げたタオルを揺らしながら、そびえ立つ石垣を見て考える。

 

岩塩をもらった後、結構でかいそれを携帯するためのケースが欲しくなったのだ。そのために外へ出て見たのだが、同じ道をぐるぐると回っているだけで終わりが見えない。また何か怪異の仕業だろうか。

家の方向に歩けば帰れたので、きっとそいつは外へ行かせたくないのだろう。容器は諦めるしかないか……正直、剥き出しのでかい岩塩の塊を持ち歩く男子高校生とかどうかと思うが、まぁ背に腹は変えられない。赤の他人のどこから来たのかもわからない幽霊に呪われて死ぬよりはマシだ。

 

肩にかけたバッグには件の岩塩が入っているものの、効果はあまり望まれないのか。はたまた命がかかったときだけ作動する身代わりのようなものなのか……。くそ、もっと説明を残していけば良いのに。

 

はぁ、とため息をつく。

もう今日は諦めよう。幸い休みはまだ明日もある。明日行けばいい。

そうだ、家に帰ったらアイスでも食べようか。確かバニラアイスが買ってあったはずだ。

 

黒いアスファルトは溜め込んだ熱を吐き出し、上からはやる気を出しすぎたかのような太陽が照りつけている。

数メートル先が揺らいで見えるほどの暑さ。まとわりつくような湿気と熱気と汗が不快でしかなくて、頭から首元へと伝う汗をタオルで乱暴に拭いながら帰路を歩く。

 

家まで帰ることはものすごく簡単で、ものの数分ほどでたどり着くことができた。

怪異は何をさせたかったのだろうか。考えるのも無駄なことなのだろうが、ほんの少しだけ気になった。

多分暇つぶしか気まぐれのようなものだろう。

 

ドアノブに手をかけたその時、スマホが甲高い着信音を鳴らした。

 

手に取ってその液晶を見れば、公衆電話から電話がかかって来ている。

ようやく帰れると思ったのに一体なんだというのだ。

 

カン、カンと踏切がなった。

 

電話からはまだ呼び出し音が鳴っている。

呼び出し音に混じり、踏切の音が鳴っていることに気がついた。

 

これ、もしかしてやばいやつでは?

 

そう思った時にはもう遅く。

俺はスマホの中から伸びた黒い影に引き摺り込まれた。



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