水を司る魔法科高校の転生者 (排他的)
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佐渡島での戦い

魔法科を読んで、その二次創作を読んで……!そろそろここでも魔法科の二次創作書いてみようかと思って書きました。


────『魔法』

 

それはファンタジーな物語に出てくる、現実では絶対に再現することができないもの。いわば出来たら奇跡の術。

 

どこかの世界では黒いローブを着て、杖を振りかぶって魔法を放つ者たちが巨悪に立ち向かうお話や、呪文を唱えてどこからともなく火球やら風やら放つ者が勇者という正義に従って共に魔王を討伐する話が大ヒットしていた。

 

だがこの世界は違う。この世界の魔法は、1人の特殊能力を持った警察官が核兵器を止めたところから始まった。フィクションではない。その頃は1999年のこと。

 

その警察官がどこに消えたのかは知られていないが、その警察官が使っていたモノは最初、『超能力』と定義されていた。先天的なもの、後天的には得られないものと考えられていた。

 

だがそれは誤りであった。様々な有力国家が超能力者を使って研究、果てや人体実験を行ない、次第に『魔法』を使える者が現れ始めたのだ。

 

超能力は魔法によって再現できるようになった。もちろん才能は必須であり、訓練も必要だが。ごく稀に才能なくとも努力し続けることで強大な力を得たり、努力しないでも強い力を得るものもいた。

 

そして現在では超能力は魔法によって4系統8種、プラスコードとマイナスコード合わせて16の基本的な魔法式となっていた。

 

かつて『超能力者』と言われていた者は『魔法技能師』、略して『魔法師』となった。

 

魔法師は戦争に用いられ、核兵器にすら対抗出来る。強い魔法師はそれぞれの国の兵器、力となったのだ。

 

 

 

 

そんな世界に、力と器を得て転生した存在がいた。前に書いた大ヒットしていた話があった世界の存在。それは不運な事故によって命を落とし、この世界──魔法が技術となった世界に転生したのだ。

 

その者のこの世界の名は、『一条(いちじょう) 総司(そうじ)』。日本の『十師族』と呼ばれるシステムに名を連ねる『一条家』の次男だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──佐渡島

 

「助けてくれぇぇぇ!?」

 

「敵だぁぁぁ!新ソ連が攻めてきたァ!みんな逃げろぉぉ!」

 

「痛いよぉぉぉ!うぇぇぇん!!」

 

2092年、新ソビエト連邦、佐渡島に侵攻。『十師族』の北陸から東北に掛けての日本海側沿岸部防衛を担当する一条家と国防軍が至急応戦に向かう。その中には茶髪の少年、『一条(いちじょう) 将輝(まさき)』と黒髪の少年『一条 総司』がいた。

 

将輝は魔法を使うための術式補助演算機(Casting Assistant Device)、通称CAD、その中でも特化型と言われるものを使って、一条家のお家芸である『爆裂』を使用して新ソ連の敵兵に紅い血の花を咲かせながら倒していく。

 

そしてこの世界に転生した総司はというと……

 

「(こんな世界……俺は嫌いだ)フンッ!」

 

1人で新ソ連の兵に向けて憂さ晴らしをするかのごとく、氷の礫をぶつける。CADを使用せずに、大量の氷の礫を発生させていた。

 

周りに味方は誰もおらず、敵は山ほどいる。だが将輝の方には護衛のごとくワラワラとたくさんの兵士がいる。

 

人望がないという訳ではない。ただ将輝のすぐ次に産まれて、尚且つ『爆裂』を受け継ぐことが出来ず、将輝ほど優れた容姿を持っていないと言うだけだ。

 

「(……爆裂を受け継げなかったからってなんだよ……!俺にはこの水を司る力があるだろうが……!)」

 

総司は転生する際、水を作り出し、尚且つそれを自由自在に操る力を欲した。そうして生まれたのが、『水を司る力』だ。

 

その力はとても強力で、総司は生まれながらにして1つの国を飲み込むほどの水を瞬時に作りだし、それを氷にしたり気体にしたりすることが出来た。

 

その力を一条家の家族は皆喜んでくれた。だが、他の者はそうはいかなかった。

 

「一条の次男は爆裂が使えない」

 

「役立たずが産まれた」

 

そういう言葉が聞こえてきた。総司の力を知る家族は必死に世に訴えるも、返ってくるのは、

 

「出来損ないの子をよく見せたい」

 

「そのような力があるはずがない」

 

という言葉だけだった。そんなふうに言われているうちに、人が、注目が集まるのは将輝の方、総司は日陰にいるようになってしまったのだ。

 

そんな中、起きたのが佐渡島侵攻。汚名を返すチャンスとばかりに参戦したはいいものの、味方はいないので孤軍奮闘する羽目になったのだ。

 

「フゥ……アイス・ポーン」

 

『アイス・ポーン』、その言葉を口にした瞬間、総司の目の前に氷の銃を持った氷の兵士が現れた。

 

味方がいない総司を守るように現れたそれは新ソ連の兵士を駆逐していく。

 

「水流槍」

 

総司の手から放たれる水の槍。それは何度も屈折して新ソ連の兵士を次々と貫いていく。

 

「……めんどくせぇなぁ…!とっとと終わらせるか…」

 

総司は右手を天高く掲げると、空に千を超える水球が現れ、太陽の光を乱反射させる。そしてそこから数千度を超える光線を乱射する。

 

その光線は周囲の新ソ連の敵兵の命を一瞬で刈り取り、数秒経った頃には敵兵は1人も立っていなかった。

 

これこそ、総司の作り出した戦術級魔法であり、前世のとある作品から取り、数日の試行錯誤の上で完成した、『神之怒(メギド)』である。

 

「……まだ続きそうだな…次の敵のいるところに向かうかね…!」

 

「俺は絶対に周りの風評なんかに負けない……!俺は必ずバカにしたヤツらを後悔させるんだ……!」

 

そう決意していると、取りこぼした敵がいたのか、地面に倒れ伏しながらハイパワーライフルを討ち、その銃口から魔法師を殺すための弾丸が放たれ、その命を抉り取ろうとする。

 

「ん?」

 

その弾丸は確かに総司を貫き、その身体の動きを、心臓の鼓動を止めた……はずだった。

 

「……あぁ、ごめんごめん……俺さ、身体を水に変えれるんだ。氷にもね。だから……半端なやり方じゃあ、俺は殺せない……!俺を殺したいなら父さんの爆裂でも持ってきな?」

 

総司は自分の殺し方を淡々と説明しながら氷を操作する。そして出来上がるのは自分を貫いた弾丸を放ったハイパワーライフル。

 

Монстр(化け物)……!?」

 

「ごめん、俺ロシア語分からないんだわ……汚い血の花火を見せてくれ」

 

バンっと銃声が響き渡り、その兵士は赤い血を脳天から吹き出しながらそのまま絶命した。

 

そんなことをしていると反応が無くなったことを知ったのかまた新たに大量に兵士がやってくる。

 

「……はぁ、また殺すか……『神之怒(メギド)』」

 

光の光線がまた、集まってきた兵士を倒していき、総司は一切そこから動かずに全ての敵を座ったまま倒して行ったのだった。

 

新ソ連からついた二つ名は『Водный император(水の皇帝)』。その名は将輝の『クリムゾン・プリンス』よりも新ソ連のお偉方の心に刻み込まれたのだった。‪‪‪‪もちろん、負の記憶として。




水系最強の名に恥じない力を手に入れています。水に関することなら深雪ちゃんすら上回ります!(現時点)


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仕事と魔法師

佐渡島侵攻が終わり新ソ連の兵士、そして艦隊を押し返し、一条将輝に史実通り『吉祥寺真紅郎』という加重系プラスコードを見つけ、カーディナル・ジョージと呼ばれている天才の親友ができたり、高校進学の準備をしている頃、総司は数少ない知り合いから東京に呼び出され、東京駅に来ていた。

「待たせたね、総司くん」

 

「待っていませんよ、北山潮総帥」

 

「総帥はやめてくれ、潮さんでいいと言っているじゃないか」

 

総司の目の前に現れた男の名は北山潮。北方潮というのはビジネスネームであり、ホクザングループの総帥をやっている実業家である。

 

どうして総司が十師族とはいえ、ホクザングループという日本でも一二を争う規模のグループの長をやっている人間と知り合いなのかには2つの理由がある。

 

ひとつは総司が投資をしているから。この世界で活動するにあたって必要なものを集めるために投資をしてお金を稼ぎ、十師族の顔合わせなどでは手に入らない政界や財界の繋がりを得るためである。

 

「あの時君が私たちを助けてくれなかったらこの命はなかったんだからね」

 

もうひとつは総司が北山家を昔助けたことだ。総司が小学生の頃、金沢に旅行に来ていた北山家を潜伏していた『大亜細亜連合』の者たちが襲ったのだ。

 

目的は優秀な魔法師の遺伝子と北山家の金。優秀な魔法師は北山紅音──北山潮の妻(Aランク魔法師)──のことを指している。

 

アンティナイトと呼ばれる魔法の発動を阻害する波長を出す指輪とハイパワーライフルを向けられ、窮地に陥っていたところに総司が一条家の私兵と共に現れたのだ。

 

総司は一条家の当主であり将輝と総司の父である『一条 剛毅』の命令で特定した大亜連合のエージェント達を捕まえに来ていたのだ。

 

総司が率いていた私兵もアンティナイトを向けられて苦しむ中、総司はそんな波長をものともせずにエージェントを凍らせて抵抗できなくし、そのまま捕縛した。

 

マッチポンプ的な感じだが、そこから北山家との繋がりが生まれ、今でも総司と北山家の繋がりは続いているのだ。ちなみに剛毅はこのことを少ししか知らない。

 

「それで御用件は……?」

 

「あぁ、何時もの仕事の話と雫が君に会いたいと言っていてね……詳しい話は家で話そう、乗ってくれ」

 

目の前に現れた黒い車に乗るように勧める潮。素直にその車に乗るとその車はすぐに発進し、北山家の家へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、商談の話をしようか」

 

高級そうなテーブルに座っている総司と潮。2人の前には紅茶のカップと書類の山があった。

 

書類の山を仕分けて読みながら総司はスクリーン型のディスプレイ端末を使いながら情報を整理していく。

 

「この会社の株とこの会社の株は完全に保有してますね……こことここもです。ホクザングループに参入したいと言っていた企業も何ヶ所かありました、これ資料です」

 

「ふむ、ふむ……仲介を君に頼んで本当に良かった。繋がりのないところも君が株を保有していたり知り合いがいればホクザングループに参入させられる」

 

総司は財界に広い繋がりがある。若手の投資家と十師族という肩書きがあるために寄ってくる者たちも多い。まぁ本当に知り合う人はいないが。

 

その繋がりを利用して潮は有用な会社を自らのグループに引き入れているのだ。もちろん対価は払っている。

 

「あ、総司……」

 

「あぁ雫か、お邪魔してるよ」

 

総司と潮が話していると部屋の扉が開かれ、総司の目の前に小柄な少女の姿が見えた。その少女の名は『北山雫』。北山潮の娘だ。

 

「(ふむ、ちょうどいいか)総司くん、雫、2人で出かけてくるといい。総司くんも今日すぐ帰らないといけないからね……」

 

「うん、わかったお父さん」

 

「え、あの仕事は……」

 

「もう終わりだ」

 

「そうでしたね……って引っ張らないでくれ雫!」

 

「早く行こ、総司」

 

戸惑う総司を引っ張って出かけていく雫を見届けながら潮は背伸びしながらニヤリと笑う。

 

「投資の才能に知られていないが十師族最強クラスの力……そして1番大事なのは雫が好いているということ……!婚約者がいない総司くんは正しく雫の相手にふさわしい子だ……!紅音と航も賛成してくれているしね……」

 

潮はあっはっはと笑いながら残っている紅茶を飲みきると自分の妻に総司が雫と出かけていることを伝えるのだった。

 

 

 

 

東京のショッピングモールにて

 

「総司、次はあそこに行こう」

 

「わかったから引っ張らないでくれ……」

 

久しぶりに会えて嬉しいのか雫は総司の手を引っ張って行く。身長差もあって、総司は幾度となく転びそうになるがお構い無しに引っ張る雫。

 

雫にとって総司は白馬の王子様的な存在だ。金沢で大亜連合のエージェントに襲われていたところに颯爽と現れてエージェントを全員氷で捕縛したのだ。

 

しかもこちらの対応が遅れたせいで大変な迷惑をかけたと魔法師が北山家を少し軽んじるところ(主に紅音と潮の結婚が要因)があるのに対し深々と頭を下げていた。

 

「(絶対に捕まえる……)」

 

「(なんだ……めちゃくちゃ目がギラギラ燃えてるんだが……)」

 

※総司は女心に疎いです。将輝みたく愛想は振りまきません。ですが周りからの評価によって好かれていないと思い込むためにまじで気づきません。

 

「総司はどこの魔法科高校に行くの?」

 

「え?あ〜どうすっかね〜三高が良いんだろうけど俺は別に自由にしていいらしいからな〜」

 

「なら一緒に一高に行こう?」

 

「そうするかね〜」

 

内心雫がガッツポーズを決めていると、突如爆発音が鳴り響いた。

 

「はっはっあははははは〜!!?俺の人生もう終わりだ畜生ッ!!だったらもうここで心中してやる!!」

 

何やら言動がとち狂っている男が空気弾(エア・ブリット)を放って設備を破壊していた。先程の爆発音は別の魔法のようだが……。

 

「悪いけど雫、少し行ってくる。ここで待っててくれ」

 

「わかった、行ってらっしゃい」

 

加速魔法を駆使して男の前へ急行する総司、そしてそのまま男の顎に蹴りを入れる。

 

「何やってんだ、こんなところで人様に迷惑かけるようなことするんじゃない!」

 

「グッ……まだ若いてめぇには分かんねぇよ!俺の人生終わってんだ!」

 

「仕方ない!少し冷たいが我慢しろよ、アイス・ケージ!」

 

氷の檻が総司と男の間に現れ、男をその中に閉じこめる。

 

「くそっ、出しやがれ!この野郎!」

 

「俺の氷は特別性でね、ただ砕こうとするだけじゃ砕けない!」

 

「そのまま司法の手に渡す。……お前、魔法師としてはまだ終わってないよ、威力もある。それに空気弾とはいえそこまで連射できるなら想子(サイオン)も割とあるだろ?」

 

「……」

 

「あんたまだ若そうだし、出所したら俺のところに来るといい、仕事なりなんなり、この一条総司ができる限り何とかするよ」

 

総司は諭すように男に話すと、男は落ち着いたのかそのまま喋らなくなった。そしてそのまま警備員に引き渡す頃には抵抗すらしなくなったのだった。

 

「あの人、どうするの?」

 

「?何がだ?」

 

「本当に総司のところに来たらどうするのかなって」

 

「決まってるよ、来たら可能な限りサポートする。あれだけの魔法力を腐らせるのは社会にとって良くないことだ」

 

「ふーん」

 

「そろそろ遅くなるから帰ろうか?俺はあと2時間くらいで東京を出ないといけないし」

 

「わかった」

 

総司は雫を北山家に送っていくとそのまま雫に見送られるまま一条家まで帰っていくのだった。

 

「……魔法以外であのレベルの魔法師が潰れるのは避けなきゃいけない。十師族がいればいいという訳ではない、他の魔法師もいないといけないんだからな」

 

 




来たるべき戦いに向けて戦闘員を増やしたいとか戦い以外でも役立つ魔法師を作りたいという思考の元、一芸に秀でて、尚且つ優秀な魔法師はたとえどんな人でも助ける考えです。

達也とは考えは似ていますが、戦いに備えるという点では達也とは似ていないでしょう。原作では達也という巨大な抑止力で敵国を抑えるようにしていますけど、総司は個々の力を集めることで国を強くし、敵を抑えるという考えです。

ちなみに総司の原作に対しての記憶は薄れてきています。水を司る力しか手に入れていないので、記憶はどんどん薄れてきてます。

というか私も書いてて思うのですが、記憶を保持しているオリ主って赤ちゃんの頃から転生しているオリ主も多いですよね。正直どうやって記憶してんの?って思ってます。10年も生きてたら記憶消えてくよね?って。まぁ完全記憶能力やら原作知識は忘れない的な特典つけられてるか日記をつけてるかのどれかでしょうけど……

あ、ちなみに優等生の最初の方に出てくる奴とは無関係です。達也もいません。

後1話目出しただけなのに星9を3人もつけてくださってました。ありがとうございます!

これからもよろしくお願いします!


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魔法大学付属第一高校へ

え、2話目で12人の方が評価つけてくれてるんですけど……評価つけてくださった方々、ありがとうございます!


国立の魔法師のための学校であり全国に9つあるうち東京にある『魔法大学付属第一高校』通称『一高』。

 

そこは全国全ての魔法科高校の中でも1番知名度を誇る学校だ。その理由は現在三年生であり十師族でもある七草真由美、十文字克人、そして数字付きですらないにも関わらずこの二人と同格の渡辺摩利がいるということ。

 

その上他にも魔法師界隈でも有名な魔法師が何人も所属しているので九校戦でも2年連続優勝をはたしている強豪校であるのも理由の1つだ。

 

まぁそれでもその実力の高さには裏がある。それは『一科生』と『二科生』が存在するということだ。一科生はエンブレム付きで『花冠(ブルーム)』、二科生はエンブレム無しで『雑草(ウィード)』と言われている。公式には言われていないが。

 

まぁ何が言いたいかと言うとこの学校は、例え一年生でも入学時点で二つの身分が存在しているのだ。

 

そしてこの物語の主人公である総司もこの学校に来ていた。

 

「(昨日は揉めたな……主に瑠璃に泣かれた……将輝にも引っ付かれた……)」

 

総司は試験を申し込む前に一高に行くことを剛毅に通達、剛毅はそれを了承して一高の試験を受けることになった。結果は首席だったが、入学式の答辞は原作キャラで総司の介入で次席になっている『司波深雪』に押し付けた。

 

だが剛毅と総司は家族に伝えるのを忘れていたため、将輝を筆頭とした兄妹達が金沢に残るように引っ付いてきたのだ。

 

「……眠い。というか本当に答辞を渡してきて良かった……」

 

総司はどこか座って眠れる所はないかと歩き回り、校庭のベンチを見つけてそこに座り、アイマスクをつけてそのまま夢の世界へと飛び込んだのだった。

 

隣りに原作主人公がいるのにも関わらず、だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いきなり現れたと思ったらすぐに寝た」

 

というのが第一印象だろう。本当にいきなり現れてそのままアイマスクをつけてすぐさま寝てしまったのだ。この物語の本来の主人公『司波達也』は自分が反応できなかったことに驚いていた。

 

そんなふうにしているところに、この学校の生徒会長であり十師族の七草真由美に話しかけられ、慌てて対応した。

 

「そんなすごい点数、少なくとも私には真似できないわよ……ってあら?そこの子は確か……」

 

「誰なんです?」

 

「その髪にこんなところで寝る性格……一条くんね、一条総司。確か今回の首席よ、答辞は次席に押し付けてたけど」

 

達也はやっと妹が次席なのに答辞をしていた理由を理解した。一条総司と言えば、『一条の出来損ない』と有名だ。だがそれは爆裂が使えないだけであるということも達也は知っている。

 

「ん……なんの騒ぎだ……………………失礼します、七草先輩、名も知らぬ人」

 

真由美と達也に挨拶をするとそのまま一目散に講堂に走っていき、真由美と達也を唖然とさせた。

 

「…………で、では俺も失礼させていただきます」

 

「え、ええ」

 

真由美に挨拶するとそのまま達也も講堂へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

席に座って数十分後、入学式が始まった。前のステージには入試次席の司波深雪がスピーチをしていた。

 

「(やはり押し付け……譲ってよかった、俺ではこんなふうにはならん……雫が残念がっていたけど気のせいだろ)」

 

総司のかっこいいところが見たいと思っていた雫は首席合格を喜んだ後に落胆していた。

 

ちなみに総司は1人で座っている。自分の評判を気にして雫とは一緒に座っていない。今頃雫の話によく出てくる『光井ほのか』とでも一緒に座っているだろう。

 

「(スピーチの内容も気づかないようにして一科と二科の垣根をなくそうとしているようだし、こういう魔法師が増えて欲しいところだ……)」

 

総司は生まれながら爆裂が使えなかった。それだけで差別されるのは違うだろうが、そうされてきた。だから総司はできないことを悔いるのではなくできることを磨こうとしている。

 

一高に来たのは差別が特段強いところならこれからの魔法師の世界で何か一つでも役立つことができる生徒を見つけるためでもあるのだ。

 

「(腕のいい魔工師が欲しいところだ、俺より腕は良くなくてもいいが……)」

 

総司は魔法を作ることもできる。水限定だが。『神之怒』や『アイス・ポーン』はCADで演算しながら発動するので自分で調整もできる。

 

総司が持つCADは『汎用型CAD アーカイブ』。青く、そして円形の薄型CADで、最大99種の魔法式を保存するのが普通のところ、最大999種の魔法式を入れることが出来る。

 

その中には『神之怒』や他にも総司が開発した戦術級、戦略級魔法が保存されている。まぁ公式にも非公式にもなってない戦略級魔法師なので開発した魔法は使われていない。ただ『神之怒』は佐渡島で使われているが。

 

そんなことを考えていると入学式が終わって生徒達が退出し始めた。総司もクラスのIDカード発行のために歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……とっとと帰るか」

 

クラスはA組だった。厄介な連中に絡まれる前にとっとと学校を出ようと足を進める。ホームルームには行かずにだ。

 

「む、一条か、少し付き合え」

 

「(十文字さんか)わかりました」

 

『十文字 克人』、十文字家次期当主であり、将輝と顔合わせに出た時に知り合った。爆裂が使えないことも気にせず接してくれるので助かっている。

 

クロス・フィールド部の部室内で克人と総司は話していた。

 

「で、どうだ?部活連に所属する気は無いか?」

 

「仕事の時間もありまして……部活連で活動する時間が取れるか微妙なんですよね……一応考えておきます」

 

「成程、承知した。それとブランシュとエガリテの問題はまだ解決出来ていない。この代で終わらせるつもりだが、気をつけろ」

 

「……一応、情報の精査は終わってます。どうぞ、十文字殿」

 

ブランシュの細かい繋がりとその所属メンバーを調べれるだけ調べたものを克人に渡す総司。警察や公安の協力者や知り合いに声をかけて手伝ってもらったものだ。

 

警察と十師族は基本的に仲が悪いためこういう情報は持っていないと思ったからだ。

 

「感謝する。それと渡辺と七草がお前を生徒会と風紀委員に入れようと画策している。時間があまりないなら部活は無理だが……風紀委員ならシフト制だ、ちょうどいいと思うぞ」

 

「……そうですね、オファーが来たら受けてみます」

 

総司はクロス・フィールド部の部室を出て今度こそ学校から出る。そしてそのまま一条家の別邸へ向かう。

 

そこは「十師族なら東京に家くらい持っていなくては」と言う変な理由で剛毅が立てた別邸で、割と広い。

 

そしてそのまま家でアーカイブの調整をしてからそのまま寝るのだった。

 




最初CAD名をブルーアーカイブにしようとしてたんですが、パズドラの更新の時にブルーアーカイブのアプリ名が見えたのでやめました……

爆裂が使えないけど他は将輝と比べると上ら辺です。一条の魔法師としてみれば、将輝が上ですが、全体的な魔法師としての能力を見れば総司の方が上です。

深雪と比べるとどうなんですかね、誓約(オース)がなければ水を司る力がない総司に勝てると思いますけど……誓約がない状態でリーナと戦って互角だったと考えると、

総司(水無し)=深雪(誓約無し)=リーナ=将輝

なのかな?達也相手なら水有りにしないと勝てなそうですね。

これ考えとかないとやばいんじゃない?というのが何個かありますがとりあえず入学編を早めに終わらせようと思います。

これからもよろしくお願いします!


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知り合いと友達

翌日、入学式が終わったので普通にA組のクラスに向かい、扉を開ける。するとそこにはひとつの巨大な塊があった。

 

それは司波深雪に群がる蝿……男共ついでに女子も。総司は気にせず席に座り、履修登録を済ませ、そのまま席に座ってディスプレイ端末を弄る。知り合いと連絡を取るために。

 

総司の知り合いは数は少ないが色々な分野の知り合いがいる。例えば様々な業界の有名人、これは色々なところに投資してたら出来た知り合い。潮がその中に入る。他には古式、現代に限らない魔法師。これは総司が見つけたり、職に困ったりしているところを助けたりしてできた知り合い。

 

そんなこんなで総司のLINEやTwitter、電話帳にはそうして知り合った人間のアカウントや電話番号が登録されている。どっかの見廻組の局長みたいだが、人数は数十人程度。

 

その中には世界的に人気なアイドルやら人様には知られていない魔法師なんかもいたりと十師族やコネクションを得たい人には涎が溢れてくるほどのものだ。

 

まぁ総司からしたらあんまり会わないけどいつも連絡取ってる友だち感覚なので気にしたらあれだろう。

 

昨日の夜のうちに来ていた連絡を返して、新しい水の魔法を考えているとホームルームが始まり、オリエンテーションが始まった。

 

二科生なら教師はいないため、こういうのはパパッとスキップ出来るんだろうけどなーと考えていると、教師とは別枠でスーツを着た若い女性が入ってきた。

 

その女性は校内カウンセラーだった。スクリーンに浮かんだもう一人の男のカウンセラーとともに校内でA組のカウンセラーを務めるらしい。

 

カウンセリングは端末を使用しながらでも、会って話すでもいいらしいが、総司は利用することはしないだろう。

 

「(今更カウンセリングしても意味ないしな……)」

 

その後はカリキュラムについてのガイダンスが行われ、教師の長ったらしい説明を聞き流し、そのまま履修登録を終わらせてそのまま退出したのだった。

 

退出するとメールが来ており、誰からかなーと確認すると雫からだった。内容は、

 

『周りが司波さんほどではないけどうるさいから助けて。ついでにほのかも助けて欲しい』

 

ほのかというと雫がたまに会う時話してくれているエレメンツの少女のことだ。雫に了解とメッセージを送ると総司は教室に戻る。

 

『……?』

 

ガイダンスと履修登録を高速で終わらせて出ていった総司が戻ってきたのを不思議そうに一瞬見る生徒達。だがすぐに気を取り直して深雪や雫、ほのかを誘おうと躍起になる。

 

「ちょっとどいてくれるかな?」

 

冷たい気配を出しながら総司は雫とほのかに群がる生徒を威圧し、2人から離す。そして雫の手を掴むとそのまま教室を出て行った。ほのかは雫に引っ張られた。

 

そんな急に起きたことを生徒達は何が起こったの?という目でお互いをキョロキョロと見ていたのだった。

 

ちなみにそれは深雪も同じで、機会を見て雫とほのかを誘って窮地から抜け出そうとしていたにも関わらず、総司に横からかっさらわれた感じになったので、そのまま神輿に担ぎ上げられるように授業見学に行くことになってしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「助かった、ありがとう総司」

 

「なに、大したことじゃない。それにメール来なかったら素通りしてたからな……」

 

「まぁそれでも言えば来てくれて助けてくれるのは総司のいい所」

 

雫と総司が歩きながら話しているところで未だにポカーンとしているほのかが再起動する。

 

「え、雫……その人は?それにどんな関係で……」

 

「総司、紹介するね、この娘が光井ほのか。私の親友。ほのか、こっちは一条総司。私の恋人」

 

「へぇー雫の恋人の一条君……恋人!?

 

「仲が良いのは認めるが恋人では無い。友達だ」

 

「えへへ」

 

雫の紹介に驚くほのかだったが、総司がすぐさま否定する。だがほのかには見える。中学生の頃友達だった同級生に好きな人が出来た時、恍惚とした顔をしていた。雫はそれと同じ顔をしている。

 

それに雫はいつだったか好きな人がいると言っていた。それがこの人なんだなーと思いながら無心でコクコクと頷く。

 

「それで何処に行く?雫に任せるぞ」

 

「んーー、工房かな、でも七草先輩の授業の時間になったら射撃場に行きたい」

 

「ふむ、なら午後だな。じゃあ行くか」

 

「うん」

 

「…………(あれ?私、蚊帳の外過ぎない?)」

 

ほのかはちょっと2人に疎外感を覚えるのだった。

 

 

 

 

 

 

昼飯の時間になり、適当な場所に座って雫とほのかは先に学食を買いに行った。1人で席番をしていると、二科生の大所帯がこの席の前を通りかかった。

 

「中々席空いてないわね……」

 

「どこも混んでるからな……」

 

赤髪の女子と茶髪のガタイのいい男子が愚痴っているのを見て総司は立ち上がった。

 

「この席座るか?」

 

「え、いいの?」

 

一科生が提案することが珍しいのだろうが、総司はそんなこと気にしないし、雫はそういう差別を容認しない人間だ。雫の友達であるほのかもそういう人間だろう。

 

「友達が2人来るけどまだ席も余るからな、3人でこれを使うのは気が引ける」

 

「……じゃあお言葉に甘えさせてもらおうか」

 

黒髪の男子がそう言って席に座り、残っている3人の二科生もそこに座る。

 

「俺、西城レオンハルト!よろしくな」

 

「一条総司だ、よろしく」

 

レオンハルト、いやレオが自己紹介すると総司が自己紹介を返す。すると黒髪の男子と赤髪の女子が目を見開く。

 

「一条って三高じゃないのか?」

 

「あぁ、兄は確かに三高に行ったが俺は別に三高に行かなきゃいけないという話はなかったからな、今から来る友達の誘いもあってこっちに来たんだ」

 

「そうなんだ…あ、私は千葉エリカ、よろしくね」

 

「わ、私は柴田美月です」

 

「司波達也だ、よろしく頼む」

 

「あぁ、よろしくな」

 

一通り自己紹介を終えたあと、雫とほのかが戻ってきた。

 

「はい、総司のうどん。ってあれ、この人達は?」

 

「あぁありがとう、席に困ってたから一緒に食べることになったんだ、別に気にしないだろ?」

 

「うん、ほのかもそうだし」

 

「よろしくお願いします!」

 

そのまま自己紹介をお互い交わし、総司達はそれぞれの昼飯を食べることになったのだ。

 

「なぁ、一条……それ辛くないのか?」

 

「ん?これか?いつもこうだが……」

 

総司が食べていたのは七味唐辛子を山のようにかけたうどんであり、見るからに赤かった。

 

 

 

 

 

 

総司のうどんがもう少しで食べ終わりそうなとき、今度は一科生の集団が通りかかった。

 

深雪を筆頭にした一科生が4人くらい来たのだ。どうやら空いている席に座って行ったため教室の時より減っていた。そして深雪は達也を見ると一緒に食べてもいいかと聞いてきた。

 

総司やほかの皆も良いと言っていたのだが、座れるのは残り1人。深雪はクラスメイトと愛すべき、そして尊敬する兄を天秤にかけることなく兄を選んだ。

 

そして深雪は持っていたお皿をその席に置こうとした。だが深雪と一緒にいたクラスメイトが待ったをかけたのだ。

 

「いやぁ、邪魔しちゃ悪いし、俺らは別のところで食べようぜ」

 

「そうね、私たちも座るとなると少し狭いし……」

 

最初は嫌悪感を丁寧にオブラートに包んでいたが、深雪の執着が強いと見るや、二科生と相席するのはどうなんだとか、一科と二科のケジメをつけるべきだと既に座っている総司達にも言ってきた。

 

「……雫、光井さん、食べ終わった?」

 

「うん。ほのかの皿も空っぽ」

 

「了解」

 

総司は見るからに赤いうどんの汁をさっさと残った麺ごとかきこむとそのまま席を立って雫とほのかを伴って出ようとする。

 

「いや君たちが立たなくても……」

 

「もう食べ終わったんでな、後ひとつ忠告してやる」

 

「な、なんだよ?」

 

「選民思想に囚われたやつほど社会に出たら役に立たないんだ。それを少しは頭に入れとけ」

 

そう言った総司は皿を片付けるとすぐに出て行った。暴発寸前だったレオとエリカは総司が出ていく前にその暴発寸前だった頭を冷やした。総司が周りに気づかないように冷えた殺気を流していたのを肌で感じたからだ。

 

達也は要注意人物として総司を心の中に止めておくことにした。



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差別と勧誘

時間は少し経ち、総司達3人は雫のかねてからの要望だった真由美が授業で射撃を行なうと言われている射撃場へ足を運ぶ。

 

総司は空いている席を見つけるとそこに雫とほのかを連れていく。だがそこはふたつしか席が空いていなかった。

 

「……よし、雫、光井さん。2人で見ててくれ、俺は違うところを見てくるよ」

 

「待って、いい方法がある」

 

「え?」

 

雫の言ういい方法とはなんなのか、それはほのかは普通に座り、雫が総司の上に座ることで3人が真由美の練習姿を見ることが出来るといったものだった。

 

「(雫ってこんなアグレッシブだったけ……こんなのおじ様が知ったら卒倒するんじゃ……)」

 

ほのかの心配はご無用である。潮は雫に総司が一高に通うと言われた瞬間、内心ガッツポーズをしながら

 

「総司くんと仲を深めてくるんだよ?」

 

と伝えていた。そのため雫は総司を堕とすために普段はしないようなことをしているのだ。

 

ちなみに総司はと言うと……

 

「(思ったより軽いな……それになんだろ、懐かしいな……茜や瑠璃にもやったよな……)」

 

そういう劣情は全く感じておらず、雫に言われるままに雫を抱えて一緒に真由美の射撃練習を見ていたのだった。

 

 

 

 

 

 

「すまない、少しいいだろうか」

 

帰り支度をして雫達と帰ろうとしていた時に、ちょうど学年主任の先生に声をかけられた総司。何の用だと思いながら振り返るとそこには真由美と学年主任の先生がそこにいた。

 

「これは〇〇先生に七草先輩、どうされました?」

 

「七草くんが君に話があるそうだ」

 

「一条君には生徒会役員か風紀委員、どれかになってもらわないといけないのよね、風紀委員なら生徒会推薦か風紀委員長推薦でね。それで明日話そうと思っていたんだけど、十文字くんが早めに話を通しておけって言ってたから」

 

「わかりました。その話、明日までに予定を見て決めさせていただきます」

 

「あぁ!後それと今度は十師族としての話なんだけど……」

 

長くなりそうだと思いながら総司は真由美の話に耳を傾けるのだった。

 

「(……雫、どうしてるかな)」

 

 

 

 

 

 

 

絶賛ほのかと雫は深雪のトラブルに巻き込まれていた。深雪は射撃場でも兄と観戦することが出来なくてストレスが溜まっており、違う人にこのワラワラと湧いてきて付き纏っている人を押し付けようとしていた。

 

「(お兄様に早くお会いしたいわ……)」

 

そして深雪は同じく付きまとわれていた雫とほのかを見つけると2人に押し付けようと話しかけたのだ。いや別に深雪に悪意はないが、誰であっても長い時間付きまとわれたら押し付けたくもなるだろう。

 

だがその策は一瞬で崩壊した。雫とほのか、深雪3人とも連れて行かれ、深雪だけ離脱することは叶わなかったのだ。

 

「……あれ?いないな…」

 

ようやく話が終わって急いで雫とほのかの元に走った総司はどこにもいない2人を探しに見当違いの方へと走るのだった。

 

 

 

 

 

「いい加減諦めたらどうです?深雪さんはお兄さんと帰ると言っているんです!あなた達は関係ないでしょう!」

 

「(私達無駄に巻き込まれただけじゃ……)」

 

「(総司……)」

 

美月が校門前で声を響かせる。どうやら今度は一緒に帰るかどうかで言い争っているらしい。

 

雫は深雪に少しジト目を向けながら総司にメールを送ろうとする。このめんどくさい状況、総司にまた強引に連れ出してもらうしか脱する方法はないと考えたのだ。

 

ほのかは雫の手がディスプレイ端末に向かったのを見て総司が来てくれるんだなと少しほっとしていた。ようやくこの長い論争にも終止符が打たれるのだと。

 

だがその目論見は外れることになる。この集団の中の男子生徒がエリカの挑発に乗って拳銃状の特化型CADを取り出し、構えたのだ。

 

「(ま、不味い……!)」

 

そう雫が思った瞬間、森崎の手がガシッと掴まれ、そのまま構えていたCADを地面に投げ捨てられた。

 

「あ〜やっと見つけたぞ雫。どこにいるかわからなかったから少し時間がかかったよ……」

 

「ん、ありがとう」

 

「よしじゃあ帰るか、司波くん、一緒に帰らないか?こんなめんどくさい奴らと絡まれるの嫌だろ?」

 

「あ、あぁ……」

 

急に現れた総司が雫の手を取り、達也に一緒に帰らないか聞いている。今まで言い争いをしていた者たちは総じてポカーンとしていた。

 

「……お、お前は誰だ!」

 

森崎が総司に向かって叫ぶ。森崎は護衛の仕事をしている会社の社長の息子、それなりに経験もあるのにもかからわず、一瞬でCADを取られたことに驚いていた。

 

「一条総司だ。悪いがめんどくさい奴らは嫌いだ、さぁ、雫、帰ろ「()()()()()()()()か!」……!」

 

その言葉に少し反応する総司。一条の出来損ないという言葉にピンと来ないものは?マークを頭の中に浮かべている。

 

「一条家で唯一爆裂が使えないんだもんな、そりゃ落ちこぼれの雑草(ウィード)と一緒にいてもなんにも思わないだろうよ!一科の自覚がないんだからな!」

 

その後も続く続く一条総司に対しての誹謗中傷。その中にはこんなのもあった。

 

「北山さん達もこんな奴と一緒に居ない方がいい、穢れた出来損ないが移るからな!」

 

雫のボルテージは一気に天元突破した。

 

「総司のことをなんにも知らないで……よくもそん「……で?」え?」

 

「は?」

 

「で?言いたいことはそれだけか?」

 

「え?いやあの……」

 

「あいにくそんなことはガキの頃から言われててね、今更そんなくだらないことは気にしないようにしている。それに俺より成績が悪い上に社会常識が理解できない猿の言うことなんてそもそも聞く価値がない」

 

「……猿だとぉ!俺は入試成績8位だ!一条の出来損ないは何位「1位だ」は?」

 

「聞こえなかったか?首席だ」

 

「首席は司波さんじゃ……「私は次席です」……そんな馬鹿なこと……」

 

「じゃあな、森崎。俺はさっさと帰ることに……「ちょっと待った!風紀委員だ!お前ら大人しくしろ!」……雫、司波くん、帰ろうか……」

 

「待て!」

 

この学校の風紀委員長、『渡辺摩利』が総司達を押さえ込んで事情を聞く。

 

原作では双方ともCADを使用していたが今回はそれがないため、二科生の方と深雪、総司、雫、ほのかは帰ることが出来た。一科生の方は一生徒への誹謗中傷で厳重注意を課せられることになったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

駅までの帰り道は少し微妙な空気だった。総司のことを出来損ないと罵った森崎の件もあるが、昼の時の総司と今さっきの総司、全く気配が違うのだ。

 

「……じゃあ深雪さんのアシスタンスを調整しているのは達也さんなんですか?」

 

「えぇ、お兄様に調整をおまかせするのが1番安心しますから」

 

ただ達也の周りはちょっと違うようで達也を挟んでほのかと深雪が話していた。

 

「少しアレンジしているだけなんだけどね、深雪は処理能力が高いからCADのメンテに手間がかからない」

 

「それだってOSを理解しないといけませんもんね」

 

「CADの基礎システムにアクセスできるスキルもないとな」

 

各々が話している中、総司は兄の親友のことを思い浮かべていた。

 

「(……吉祥寺くんは確か将輝のCADを調整してるんだよな……)」

 

「一条はどうなんだ?十師族が使うデバイスってどんなのか気になるんだが……」

 

「あぁ、これだね。アーカイブって名前のCADだ」

 

達也が興味本位で総司のCADを見たいと聞いてくる。総司はそれを見せてやると達也は目を見開いた。

 

「それ見た事ないんだが……」

 

「あ、それか……昔は爆裂が使えないことがコンプレックスだったから他でなにか出来ないか色々手を出しててね。その1つがCADだ。汎用型でこの中に俺の魔法の殆どが入ってる」

 

「違う」

 

「……雫、俺は嘘はついてないぞ」

 

「それは超汎用型。確かこの前話してくれたのだと……999種の魔法を記憶できるCADって言ってた」

 

その言葉に一同が唖然とする。999種の魔法と言われれば誰でもそうなるだろう。

 

「ちょっとよろしいですか?」

 

「はい、司波さん」

 

「それ、頭パンクしませんか?」

 

「……999種とは言ったけど入ってるのは200くらいだ。それに使うのはだいたい決まってるから意味ないんだよね……」

 

「なんだそりゃ、使わない魔法入れても意味ないんじゃねぇか?」

 

「まぁひとつのCADで俺が使う全ての魔法を使えるならそっちの方がいいだろうし……それと司波くん」

 

「ん?どうしたんだ?」

 

「将来うち来ない?俺を入試の筆記で超えてて、尚且つ司波さんレベルの魔法力の持ち主のCADを調整できるならカーディナルレベルだ。是非金沢に来て欲しい」

 

「あ、あぁ、考えておく」

 

食い気味で達也を勧誘する総司に驚きながら考えておくと言った達也。総司は内心優秀な魔工師だ!とうきうきしていた。

 

対して達也は総司に対しての脅威レベルを少しあげるのだった。

 

総司はみんなと別れたあと、雫を家に送ってそのまま家に帰り、朝と同じように知り合いに連絡を返しながら夜を過ごすのだった。

 

 




達也は総司に勧誘される運命にある。これは絶対に変わらない。ということです。


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情報

少しというかめちゃくちゃ書き直したので予定より遅れました。


昨日の森崎の一件が広まってしまったのか、本格的に総司が『一条の出来損ない』ということがわかってしまった。そのため近づいてくる人間はいなくなり、クラス内で話すのは雫とほのか、深雪くらいになった。

 

ほのかと深雪は昨日の一件から総司が居れば誰も近づいてこない上、学校内を楽しく過ごせる、とわかったため、総司の近くで話すようになり、時折総司とも話している。

 

まぁ深雪の場合は敬愛する『お兄様』である達也が総司に認められ褒められる上に、達也の話を聞いてくる総司にその話をいっぱいできるからというのもあるのかもしれない。

 

「へぇ〜司波くんってそんなことも出来るのか」

 

「えぇ、お兄様は魔法の実力も高いのよ、この世界の基準に合わないだけでね…」

 

「わかるさ、その気持ちは…痛いほど」

 

達也がなにかとんでもない秘密を抱えていることも、達也がその身にとてつもなく強い力を秘めていることも察していたが、深雪の言う『術式解体(グラム・デモリッション)』の使い手だとは思っていなかった。しかも連発できるとは。

 

そしてそれ以外の魔法、無系統以外の魔法にあまり精通していなくて世間や両親からあまりいい顔をされてないことにも共感できる。

 

総司は爆裂というより、『対人戦闘を想定した生体に直接干渉する魔法』という一条のテーマに沿った魔法に適性がなく、周りの評価に苦心させられた時があり、今でもそれが続いているからだ。

 

そして総司が囲っている魔法師の中にも達也のような魔法師が何人もいる。流石に術式解体を連発できるような魔法師はいないが…。

 

「そうそう、今日のお昼はお兄様と一緒に生徒会室に行かないといけないのよ」

 

「へぇ、それまたなんでだ?」

 

「朝、生徒会長に生徒会室で大事な話があるから〜って理由なのよ。そういえば一条くん、生徒会に勧誘されてるのよね?風紀委員会にも」

 

風紀委員会に勧誘されている、その言葉が昨日総司に言い負かされた森崎の耳に入り、ギギギっと首をゆっくりこちらに向ける森崎。こちらに向ける目には『絶対風紀委員会に入る』なんて言わないでくれと願う心が篭っていた。

 

「(森崎の嫌なことをやってもいいんだが…)悪いね、司波さん。勧誘はされているんだが断る気でいるんだ」

 

「あら、それまたどうして?」

 

「今日も夜用事があるし、あまり体力は使いたくない。俺の場合、いつ仕事が入るか分からないしね」

 

「そうなのね、じゃあ私が断りますって言っていたことを会長に伝えてくるわ」

 

「いいのか?」

 

「別に構わないわよ」

 

総司が男共からのバリアになってくれるのならこれくらい安いものだと、総司は全く気にしてないのにも関わらず気を使って深雪は総司の気持ちを真由美に伝えることにしたのだった。

 

「そういえば総司、今度の買い物の件は考えてくれた?」

 

深雪と総司の会話が終わるのを待っていた雫は総司にこの前のデート(総司は買い物の付き添いだと思っている)で約束した新たなデートの約束について話し出す。

 

「あぁ、こないだ約束した買い物のことだろ?もちろん、雫が望むならいつでも行くよ」

 

「ありがとう」

 

「(…あれー私は……)「ほのかも連れて行っていいかな?」(し、雫!)」

 

「別に俺がいることに不快感を覚えないなら誰でもいいよ」

 

「全然大丈夫!」

 

最近雫に総司という友達がいた事を知ったほのかは2人のイチャつき(総司はイチャつきと思ってない)に辟易しながら自分に雫が構ってくれないことに少しヤキモキしていた。だが別にそんなことはなくちゃんと自分のことも考えていてくれているんだなと思ったほのかだった。

 

「(ほのか…あなた気づいてないのね……一条くんがいるということは休日も雫とのベタつきを見なくてはならないのよ……!)」

 

総司に好かれたい雫が年中総司が居ればベタついているということは知り合って2日しかたってない深雪でもわかる。なんなら今でも雫は総司の膝の上に座っている。

 

それは少し砂糖を吐きそうになるくらいであり、やっているならともかく見ているだけなら辟易しそうになるのだ。そんな雫の行動を休日も見ることになるのは割と大変なのではとほのかを少し心配する深雪だった。

 

後日、行かなきゃ良かったと後悔して深雪に愚痴る光のエレメンツの少女が1人いた事を雫は知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

昼に深雪が生徒会室に達也と共に向かい、総司が生徒会にも、風紀委員会にも入れないことを伝え、放課後も来てねと言われている頃、総司の端末に一通のメッセージが届いていた。

 

「宛先は…こりゃあ珍しいな」

 

総司が言う珍しいはとても珍しいことだ。半年に1回連絡があればいいだろうと考えている魔法師達から連絡が来ていたのだ。

 

その魔法師達は別に世界的に有名、という訳では無い。それに1人はそこまで強くもない。Born Specializedの魔法師、通称BS魔法師であり、総司が昔拾い、総司の配下となっている魔法師だ。

 

「なになに…へぇ今日の学校が終わった後すぐに駅でお待ちください、か」

 

「雫に断っておくかな…」

 

雫に今日は一緒に帰れないということを伝えるためにクラスに戻りながら、たまにしか連絡が取れない魔法師達に思いを馳せる総司だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここで待ってれば良いわけだな」

 

「そういうわけです、総司様」

 

第一高校の最寄駅にて雫とほのか、そして二科生組であるエリカ達と別れた総司は待ち合わせている魔法師を待っていた。そして壁によりかかっていると目の前に長身の女性が立っていた。

 

「久しぶりだな、正雪(しょうせつ)

 

「えぇ、お久しぶりです。さぁこちらへどうぞ。石山もそちらで待っております」

 

この女性の名は霧雨正雪。日本では珍しく西洋の剣技を極めた剣士であり、総司の配下の1人である。

 

その正雪が案内するところへ向かうとそこにはワゴン車があり、窓は全て黒く周りからは何をしているか分からないようになっている車があった。

 

その車の中に入るとそこには金髪の総司がよく知る男がそこにいた。

 

「お久しぶりですっ、総司様!」

 

「あぁ、久しぶり。石山」

 

この男の名は石山光希。日本人とイギリス人のハーフであり、正雪と行動を共にする魔法師だ。

 

正雪と石山はコンビを組んでおり、2人は総司の忠実な部下である。そして、まだ動きづらい総司のために様々な情報を手に入れてきてくれる存在でもあるのだ。

 

「この日本で暗躍している団体、ブランシュの新たな情報と無頭竜(ノーヘッドドラゴン)の大元の情報を手に入れました。そして総司様が探しておられる摩醯首羅(マヘーシュヴァラ)の魔法名を突き止めました」

 

「後処理はできているよな。俺はお前らを失いたくないぞ」

 

「無論ですよ〜私の魔法をお忘れですか?」

 

石山の固有魔法は『忘却術(オブリビエイト)』。その名の通り、対象の記憶(生物のみ)を忘れさせることが出来る魔法であり、総司のために情報を集める正雪の活動の痕跡を消せる魔法師だ。

 

「それに私どもが情報を得るために利用したのは人間です。どうとでもなりますとも」

 

正雪の固有魔法は『魅了の魔眼』。正雪の瞳を覗き込んだ相手を惚れ込ませる能力を持つ。

 

この能力を使って裏社会の人間から情報を搾り取り、石山の忘却術で記憶を消して何も関係がなかったことにし、名前も顔も売れることなく情報を手に入れることが出来る。

 

総司は石山と正雪から情報の入ったUSBを受け取り、総司はワゴン車から出る。そして総司は何事も無かったかのように家にもどってスタンドアローンの状態のパソコンでUSBの内容を確認する。

 

するとそこにはブランシュがアンティナイトを仕入れたことなどが事細かに書かれていたり、無頭竜が近々九校戦で賭け事をしようとしていることも書いてあった。

 

だが何より総司の目を釘付けにしたのが摩醯首羅の情報。

 

悪魔の右手(デーモン・ライト)』と呼ばれた魔法と『救済の左手(ディバイン・レフト)』と呼ばれた魔法の名前と効果が書かれていた。その魔法は常軌を逸しており、どこの誰から2人が情報を手に入れたのか気になるくらいだった。

 

そこには、

 

分解と再成という魔法についての情報が事細かに書かれていたのだった。

 

 




風紀委員ルートもありましたが、今回はなしで行きます。ついでに総司がどこからいつも情報を得ているのかを書いておきました。十文字先輩に渡したデータもこの人達からです。

霧雨正雪は霧雨正雪というバディファイトのキャラからイメージを取ってます。石山光希はハリー・ポッターのロックハートからですね。忘却術はそのまんまですし。

これからもよろしくお願いします!


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ブランシュ襲撃

新入生勧誘期間。それは第一高校に新しく入ってきた生徒を自分たちの部活に勧誘せんと目をギラギラさせながら色んな部活の生徒が問題を起こしまくる、生徒会、風紀委員会、部活連にとって頭痛の種となる期間のことである。

 

今年の新入生も粒揃いだ。既に生徒会に入っている司波深雪を除いてもまだ沢山成績優秀者は残っている。

 

周りからの評判は悪いが新入生首席、そして四系統八種の魔法を満遍なく使え、知識面でも優れた魔法師である『一条総司』

 

名前通り光のエレメンツであり、魔法師としての力量も深雪や総司と比べれば落ちるが数字付きナンバーズに負けてないであろう『光井ほのか』

 

ホクザングループの総帥の娘にして、Aランク魔法師『北山紅音』の血を引き、主に振動系が得意な魔法師である『北山雫』

 

数字付きであり『金属精錬』で有名な十三束家の息子であるが、金属精錬が使えずに『鬼子』として敬遠されている一方、近接戦闘に於いてはめっぽう強い『レンジ・ゼロ』の異名を持つ『十三束鋼』

 

十三束鋼と同じく数字付きで、十三束鋼程の特徴は持っていないが確固とした実力を持つ『SSボード・バイアスロン部』所属の五十嵐亜実の弟、『五十嵐鷹輔』

 

イギリスにおける現代魔法の名門『ゴールディ家』の血を引き、ゴールディ家から認められていることから『魔弾タスラム』を使えると推測される『明智=エメリア=ゴールディ=英美』

 

他にも実力ある魔法師の卵がいるため、今代の生徒会長達の代と同じくらい騒ぎになると考えられており、風紀委員会と部活連、そして生徒会が提携して対策を講じている。

 

そんな中、総司はというと……

 

「これより、ブランシュのアジト襲撃ブランシュのメンバー捕縛する作戦を実行する!」

 

「……作戦名、どうにかならなかったんですか……総司様」

 

「略してブランシュ襲撃ブランシュ捕縛作戦!」

 

「略せてないです!石山、何とかしてください」

 

「総司様のネーミングセンスの無さと厨二病っぽさは変わらないでしょうっ!今更ですよ〜!」

 

「……どちらにせよ、ブランシュを壊滅させるんだからブランシュ壊滅作戦でいいか」

 

「あ、やっとまともなネーミングになりましたね……」

 

正雪と石山とじゃれあいながら正雪達に渡された情報を元としてブランシュのアジトに強襲をかけようとしていた。

 

原作では第一高校への襲撃が理由だったが、今回はアンティナイトや銃火器を始めとした軍事物資の仕入れなどが理由となっている。

 

この作戦は一条家当主『一条剛毅』、七草家当主『七草弘一』、十文字家当主『十文字和樹』の認可の元動いているため誰も文句は言えない。

 

この作戦を実行するメンバーは総司、石山、正雪の他に、『一条総司』が抱えている私兵だけで行なわれる。総司以外に克人や七草家の長男などが動けばその家の私兵も動かせたが、総司はそれをしなかった。

 

「そろそろ汚名を返していきたいからな」

 

アンティナイトという言葉を聞いて少し心配していた剛毅だったが、その言葉を聞いて『一条家』の私兵は出さなかった。

 

だが他の家の私兵を出させなかったのは他にも理由がある。

 

総司の使う魔法とアンティナイトだ。

 

神之怒(メギド)』は公式・非公式問わず新ソ連と一条家の一部の人間、総司の友人のほんのわずかしか知らない魔法だ。それ以外にも誰も知らない魔法を使う。

 

神之怒(メギド)』に他の魔法、どれをとってもインパクトのある魔法だ。それをこんなブランシュなんて端役で見せるなんて()()()()()

 

どうせ見せるなら日本中の人々が注目する場である『九校戦』などの大舞台で見せたい。そしてこれまで自分を見下してきた奴らを驚かせてバカにした奴らを笑いたい。

 

それが理由のひとつだ。これを聞いた正雪と石山は、

 

『相変わらずひねくれてますね……まぁ気持ちはわからんでもないですが……』

 

と言っていた。

 

そしてもうひとつの理由がアンティナイト。ブランシュがアンティナイトを仕入れたという話は総司にとって嬉しい話だった。

 

昔の話だが、アンティナイトを総司は1回受けたことがある。北山家が襲撃された時の話だ。水を司る力で事なきを得たが、あの魔法師に魔法を使えなくさせる力は強大だ。

 

その力を少しでも得て研究するために、総司は認可を取るために提出した書類を少し改竄し、アンティナイトを3つほどリストから消しておいたのだ。

 

水を司る力だけでは勝てない時を考慮して、アンティナイトという切札を得ておこうと考えて。

 

「……ここか」

 

少し経ってから総司達は第一高校近くの廃工場に着いた。中には大量の武器を持った兵隊がいると考えている総司は急いで敵を倒そうと勢いづく部下を押しとどめてアーカイブから魔法を読み込んで発動する。

 

「あまごい、あられ」

 

水を司る力によって作られた戦術級魔法『あまごい』『あられ』。これは総司が指定した領域内に雨と雹を降らせる魔法。水を司る力を持つ総司が使えば戦略級になることも有り得る。

 

雨と雹がいきなり降り始め驚く正雪と石山以外の総司の私兵。だが総司が動じてないことを見るとすぐに落ち着きを取り戻した。

 

「……下地はもうすぐ出来上がる」

 

3分くらい経ち、廃工場やその敷地の地面が雨と雹によって濡れ始めると総司は新たな魔法を読み込む。

 

「凍てつけ…Eternal Coffin」

 

その魔法名を口にすると廃工場とその地面が氷に覆われていく。廃工場からは徐々に建物が凍っていく恐怖からか悲鳴が聞こえてくる。

 

「……身体が冷たくなって活動できなくなるまでこのままにする。どうせここには防寒器具も満足にないだろうし……ストーブやエアコン程度なら簡単にぶっ壊れる」

 

「……えげつねぇ…」

 

誰かが言った言葉に総司以外の面々が納得する。ブランシュのメンバーは出たくても分厚い氷に包まれた廃工場からは出られず、凍えて捕まる未来を待つしかないのだ。

 

これをえげつないと言わずしてなんという。

 

扉なども凍って開かなくなるので氷を破壊するためのロケットランチャーなども使えない。まぁ破壊されたところから氷はすぐに修復されるが。

 

凍らせてから少し経ち、そろそろ動けなくなって気絶でもしている頃だろうと考えた総司は氷を溶かしてブランシュのアジトである廃工場に侵入する。

 

侵入した廃工場の中ではブランシュのメンバーだと思われる男たちがあまりの寒さに眠ってしまっていた。総司は部下に拘束して武器を取り上げるよう指示して奥の方へと進んでいく。

 

奥にはブランシュのリーダー『司一』がおり、司一もやはり眠っていた。総司は正雪達から聞いた『邪眼(イビルアイ)』を警戒して司一に目隠しをしてCADを取り上げる。

 

「……これか」

 

総司はアンティナイトを3つ懐に仕舞い、司一を移動魔法で動かして正雪達の方へ持っていく。

 

「目的のものは手に入れましたか?」

 

「あぁ、警察呼んで引き渡すぞ」

 

「了解しました」

 

総司はブランシュのメンバーとブランシュのアジトの中にあったエガリテメンバーの名簿を手に入れそれを警察に渡し、事情聴取を受けてそのまま家に帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家に帰った後、一通のビデオメールが届いていた。

 

「(父さんかな)」

 

労いのメッセージでも送られているのかと開けてみると一条剛毅の名はなく、総司がよく知る人間の名前が書かれており、総司は嬉しそうにする反面、何故このタイミングで……と考える。

 

「(とりあえず、見てみるか……!?)」

 

その内容はというと……

 

『ちょ、この惨状を送るのはやめてくれ!兄の威厳が薄れてきてるのにこれを見られたらまじで威厳が完全に無くなる!総司だけなんだぞ、俺を尊敬の眼差しで見てくれるの!』

 

『うるさいわよ、将輝!私に総司が第一高校に行くって伝えなかった罪は重いわ……!ジョージ、重石を追加しなさい!……安心しなさい、まだ撮ってないわ』

 

『え、いや将輝も割と限界……『やりなさい』はいぃぃ……』

 

「なぁにこれぇ……」

 

一条家の訓練施設で撮られた動画なのだ。そして端っこに見えるのは一条家次期当主一条将輝で『一色家』の長女であり『稲妻(エクレール)』の異名を持つ『一色愛梨』。

 

将輝は愛梨の指示で重石をジョージに載せられている。そういえばあの3人に第一高校に行くことを伝え忘れたということをやっと思い出した。

 

「(これ、俺もやばいかな……)」

 

将輝が伝えなかったことで重石を載せられているのだ。総司はそれでは収まらないだろう。

 

『カメラ回ってるよ、愛梨』

 

『はぁ!?嘘でしょ撮り直して!こんな姿見せられないわよ!』

 

『今更だぞ愛梨よ……』

 

上から順に『十七夜栞』『四十九院沓子』。総司が色々な技術に手を出していた頃に知り合った少女達である。

 

『ちょ、切ってちょうだい!本当に……!』

 

『わ、わかったわ……じゃあね、総司』

 

慌てて切るよう言った愛梨の言うことを聞いて栞はカメラを切った。

 

「……これ、送る送らないで揉めて結局送ってきたパターンかな?……もう1個来てるし……」

 

総司はもう1個のメールを見て愛梨が伝えようとしていたことを理解した。

 

『九校戦までに覚悟を決めておくのね』

 

将輝以上に酷いことになりそうだと思いながら総司は顔を青ざめさせながら額に手を置いた。

 

「九校戦、嫌になってきたな……」

 

そう総司は言葉をこぼしたのだった。




情報を手に入れて、アンティナイトやら色々仕入れられているのに手をこまねくつもりは総司にはありません。ブランシュを速攻で潰しにかかりました。

次回はブランシュ壊滅後の後始末ですね。

それで入学編は終わりです。入学編が始まって4話しか経ってませんが……。

『あまごい』『あられ』:ポケモンの技

『Eternal Coffin』:魔法少女リリカルなのはAS、クロノ・ハラオウンの魔法

です。


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壊滅後の後始末

総司とその配下がブランシュを壊滅させたのは翌日の朝のニュースとなった。そこでは武器を集めて魔法師を害そうとしていたことや未成年に洗脳行為を行なっていた事も話されていた。

 

総司の行動に対しての世間の評価は辛口だった。魔法師からの評価も非魔法師からの評価も。

 

『未成年が出しゃばる問題ではなかった』

 

だがここでこの問題を防がなければ第一高校に被害があったのも事実であり、辛口の評価以外にも高評価してくれる人もいた。

 

総司にインタビューしようと朝早くから押しかけてきたマスコミが沢山いたが、総司の家に心配だからと言って泊まっていた石山と正雪のおかげで何とか切り抜けることが出来た。

 

まぁ石山の『忘却術(オブリビエイト)』でインタビューをしようとしたマスコミの記憶を消して帰らせただけなのだが。

 

その後、総司の家に来たマスコミは潮の手によってこの件に関わらないように圧力をかけられた。一条家は関東地方で権力をあまり持っていないので、コレは一条家にとっても、総司にとっても助かることだった。

 

総司はこうしてマスコミに迷惑をあまりかけられることはなく、学校に来れた。

 

第一高校ではエガリテのメンバーとして名簿に記録されていた、司一に洗脳されていた二科生にカウンセリングを受けさせたり、首謀者の弟であり、剣道部部長の司甲を拘束したりと大忙しだった。

 

ちなみに今日は授業はなく、全ての時間が自習となっていた。

 

総司は自治会に入っていなかったのでそんなことは関係ないとばかりに雫とカフェでお茶を飲んでいた。

 

「……まさかここで差別を取り払うような発言をするとは思って無かったな……」

 

「ん、七草会長がこんな演説をするとは思わなかった」

 

いきなりのことで混乱していた一高生だったが、真由美が二科生と一科生の垣根を取り払うことを約束するという演説を行ない、この事件によって起こった混乱を収束させた。

 

「……あの人は扇動者の才能があると最近思い始めてきたよ……」

 

「それは確かに」

 

総司と雫はお茶を飲みきるとおかわりを頼みながら色々な話を2人でしていくのだった。

 

「あれ?わたしは!?」

 

 

 

 

 

 

 

翌日、司一によって洗脳された二科生の頭には何の異常も見当たらず、数週間入院するだけでいいと生徒達に伝えられ、生徒達は安堵した。一科と二科の溝は深いと言われているが、それでも心配する生徒はいるのだ。

 

勧誘期間の折、『壬生紗耶香』という剣道部の二科生に怪我を負わせかけた『桐原武明』が壬生の入院している病院に剣術部を休んでまで見舞いに行っていることが第一高校内のニュースにもなっている。

 

だが悲しいニュースもある。こちらはあまり知られていないが、ブランシュのリーダー司一の義理の弟であった司甲が学校を去るということもあったのだ。

 

「誰かが責任を取らなければならない」

 

司甲はそう行って退学し、母方の実家に戻ったそうだ。

 

そんな中、総司はと言うと……

 

「良くもまぁ勝手に動いてくれたものね……!」

 

「こうしなければ、第一高校は危険にさらされていましたから……」

 

「それはそうだけど、私たちに相談してくれても良かったでしょ!」

 

真由美と克人に怒られていた。理由は単独で動いてブランシュを壊滅させたから。結果的には何も無く終わったが、少しは相談してくれとの事。

 

「一条」

 

「はい」

 

「俺たちがいることを忘れるな、今度何かあった時、何かをやろうとした時は必ず俺たちに相談しろ」

 

「わかりました」

 

総司はその言葉を肝に銘じると、やっと解放された。2時間くらい説教されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「師匠、頼んでおいた件ですが……」

 

達也は山の上の九重寺というお寺に深雪と来ており、そこにいる住職と話していた。住職の名は『九重八雲』。当人は自分のことを『忍び』と言って止まない、忍術使いである。

 

「一条総司くんの事だったね。調べておいたよ」

 

「それで結果は……」

 

達也は神妙そうな面持ちで八雲の言葉を待つ。だがその緊張感ある空間はすぐに破られることになる。

 

「彼は別に何か目的があってここ東京に来たわけじゃないみたいなんだよね……というか第一高校に通っている理由は北山雫という女の子に通うように言われたから……らしいね」

 

「「……は?」」

 

達也と深雪は拍子抜けした。第一高校に入学し、達也に接近、勧誘をしてブランシュを一瞬で殲滅した。これに関連性はないが、達也達は達也が勧誘されたことに何か裏があるのではと思ってしまっていたのだ。

 

「彼、投資とかに手を出しているみたいでね、魔法界ではあまり良い評判は聞かないけど、財界と政界、後芸能界でも結構名の通った人間だよ。多分そのつながりかな…ホクザングループの総帥の娘と知り合いなのは」

 

「……」

 

「……」

 

「ブランシュを潰したのもそのつながりから情報を得て、じゃないかな?私兵もいるみたいだしね」

 

「後は魔法師のスカウトにも力を入れているみたいだ。一芸を完璧にこなす魔法師をスカウトしているみたいだよ。達也くんを勧誘したのはそれが理由じゃないかな?」

 

「私兵も面白い魔法を使う人が多いみたいだね」

 

「………………え、それだけなんですか!?もっとあの……お兄様の秘密を知ってとか!」

 

達也と深雪のフリーズ、深雪がいち早く解けて八雲に質問を投げかけるが、八雲は首を振る。

 

「ないない。軍にも繋がりがあるみたいだけどそこまで深くはないみたいだしね……」

 

その言葉を聞いてから達也もフリーズが解ける。

 

「では一条はそこまで警戒しなくていいと?」

 

「多分ね。それに君にとっても一条くんは有益な人材だと思うよ?ここまで色んな界隈に繋がりがある人間、そうはいないからね」

 

「なるほど、ありがとうございました」

 

達也は礼を言うと深雪を連れて去っていった。こんなことを聞くために八雲に借りを作ったのかと少し後悔しながら。

 

「……司波くんとの繋がりが欲しいなー」

 

ちなみに総司は達也のことをとても欲しがっている。それは真由美から聞いた話であったり、ほのかや雫から聞いた話からだったり。

 

 

 

 

 

 

 

「ブランシュは壊滅……また一条総司ですか……」

 

場所は横浜中華街。そこは中華系の人間の巣窟となっている。そしてそこ1番の人気を誇り、様々な界隈の著名人が利用する中華料理店、そこのオーナーが1人愚痴をこぼしていた。

 

オーナーの名前は周公瑾。周はブランシュが壊滅したことを悔いているという様子は見えないが、総司のことを憎々しげに思っていることは確かなようだ。

 

「ここ数年金沢に潜むほとんどの中華系マフィアや私共が糸を引く組織が一条総司に潰されている……!あのお方にも怒られてしまいました……!」

 

周の脳裏に映るのはアーカイブを携えながらマフィアや組織の武装した人間を倒していくその姿。

 

1回だけ相対したことがあるが、周が使う術のほとんどが意味をなさず、逃げることを余儀なくされた。

 

「何が出来損ないですか!あれが出来損ないなら日本の魔法師は全員化け物ですよ!」

 

周はテーブルをどんどん叩く。とんでもない力を誇っている総司に対しての八つ当たりだ。

 

「ですがまだあの者を潰す機会はある……!九校戦に関わっている無頭竜を上手く動かせば……!」

 

「さて、賭け金の操作でも行なって第一高校に妨害をするよう誘導しましょうか……!」

 

周は総司を潰すために無頭竜を使うことにし、賭け金の操作を行なうために電話を取るのだった。




周公瑾にとって割と総司は胃痛の種。


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パーティーと面倒な人達

評価バーが満タンになってる……!バーが満タンになってるの初めてなんですが……50人超えると満タンになるんですね。評価してくださった方々、ありがとうございます!

入学編➝九校戦編に入るまでの間の話です。どっかの家の総司くんと私のせいでブランシュが速攻でリタイアさせられたので、九校戦前のテストまでまだ時間があるんですよね。まぁ飛ばせばいいんですが……書きたいことがあったので……


新入生を歓迎する期間やブランシュの件が終わり、第一高校が落ち着いた頃、総司は私兵兼部下を連れてとある企業の社長が主催するパーティーに出席していた。

 

とある企業の社長とは総司と仲が良い知り合いだ。魔法師は非魔法師に敬遠されがち(例外はある)であるが、総司と仲のいい非魔法師はほとんどが魔法師を敬遠しない人間である。

 

「本日はお招きいただきありがとうございます、赤山社長」

 

「やめてくれ一条くん。君の莫大な支援とホクザングループへの推薦のおかげで私はここまで大成できたんだ。いつも通りでいいんだ」

 

「……今日は招いていただきありがとう、赤山さん」

 

「敬語はやっぱり完全には抜けないか……まぁ楽しんでくれ!あんなことがあって君も疲れているだろうし。君の知り合いも何人かいるからさ」

 

総司は赤山に億単位の出資を行ない、ここはこれから役に立つと思いますよ、と潮に言って検討してもらい、ホクザングループの推薦を受けさせたということをしている。

 

赤山はどうやらブランシュを壊滅させて世間から少しバッシングを受けた総司を気遣ってこのパーティーに呼んだらしい。

 

笑いながら去っていった赤山の背中を見ながら周りの人間を見る。確かに自分が出資して来た会社の社長やその会社の人間が目に映る。

 

「……久しぶりに赤山さんにあった気がするな」

 

「会社には何度か行っていますが、赤山社長に会うのは1年ぶりですよ、総司様」

 

「そうか……時が経つのは早いな」

 

「おじいちゃんみたいですね」

 

「うるさいぞー」

 

部下と談笑しながら寄ってくる知り合いと仲良く会話し食事を楽しみ、パーティーを楽しんでいた頃、一人の男が総司の元へとやってきた。

 

「君が一条の次男の一条総司くんだね。役立たずで有名な……」

 

「……!!」

 

その男は会話が開幕すると同時に速攻で煽り文句を言ってくる。総司は全く動じないが部下は早くも顔を赤くして言い返そうとしている。総司は急いで部下に視線で止めろとメッセージを送ると部下は少し怒りを収める。

 

「失礼ですが、貴方は?」

 

「私かい?私は一流企業の社長、杉山だ。よろしく頼むよ一条くん」

 

「(……また似たような野郎が来たな……!)」

 

馴れ馴れしい言葉遣いに早くも目的を察する総司。こういうパーティーに出るとたまに会うのだ、総司のことを格下を見る目で見て、尚且つ目的が透けて見える人間が。

 

「(杉山と言えば……液晶を作っている会社だったか?だがそこは競合他社が山ほどいるし、そこまでの強みも無かったな……なんなら普通に底辺だぞ)おい、調べてくれ

 

了解しました

 

どうして赤山の主催するパーティーでこんな輩が出席しているのか分からないが、赤山にも事情があるのだと割り切る。

 

「さて細かい話はなしにしよう、一条くん、私の会社に投資したまえ」

 

「それは何故でしょうか?」

 

「私たちはすこーしだけ経営に困っていてね。まぁすぐに取り返せるのだが、それにはお金が必要でね……別にどこでもいいのだが、君に恩を売っておいてもいいと思ってね」

 

その言葉に顔を顰める総司。

 

「申し訳ないですが、最近は新しい会社への投資を一旦やめて自分で事業を始めようとしているんですよ。そのための資金も必要なので投資は今まで投資してきた企業だけにしているんです」

 

事業を始めようとしているのは本当だ。魔法師の雇用先を多く作ろうと潮や財界の知り合いと協力して準備を行なっている。

 

「そう言わずに、私の会社の株を5000万ほど買わないかい?私たちの会社はこれから躍進する。何れ大手の会社と取引する予定なんだ、君も得をする!」

 

「(ナイスタイミングだ、ありがとう)申し訳ないが今にも潰れそうで大口の取引先にも契約を打ち切れられた貴方の会社にお金を出すつもりはないですよ。それに聞きましたよ?」

 

「な、なんのことだね」

 

総司が言ったナイスタイミングとは部下の行動に対しての言葉だ。部下は総司に対して杉山の会社の情報を『思考伝達』というBS魔法で頭の中に伝えたのだ。

 

「貴方の会社は品質の悪さで切られたそうですね。品質が良くても価格競走などで切られたなら確かに投資してもいいと思いますが、品質が悪く、絶えず偉そうにして取引先に嫌われたなら話は別です」

 

「ぐ、グゥゥゥ!!貴様、作られた存在である魔法師の中でも出来損ないだろう!魔法師は私たちに奉仕すべきなんだ!出来損ないは金をヨコセェ!!」

 

「……差別の言葉は聞き慣れていますが……そろそろやめた方がいい」

 

逆上する杉山に対して宥めるように言う総司。だが杉山の理不尽な怒りの感情は収まらない。

 

「……杉山先輩、このパーティーから出て行って貰えませんか」

 

「赤山!?」

 

「一条くんに話がしたいから機会を設けて欲しいと言われましたからパーティーに招待するついでに機会を作りました。ですがあんな高圧的な態度で話すとは聞いていませんよ?」

 

先輩と言っているのでどうやら学校か何かの上下関係からこのパーティーに出席していたらしい。

「そ、それはだな……」

 

「一条くんには日頃世話になっているからお礼のつもりでパーティーに呼んだんです。なのにこんなことになるとは……一条くん、申し訳なかった」

 

「別に構いません。赤山さんにも新事業の件を協力してもらっていますし」

 

「……さぁ杉山先輩、このパーティーから出て行ってください!」

 

杉山は赤山が呼んだ黒服に連れていかれ、再度赤山は総司に頭を下げた。そして赤山は去っていき、総司は少し経ってからパーティーを出て、そのまま帰り道に着くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「総司様」

 

「あぁ、気づいている。というか昨日も一昨日も魔法師がつけていたな」

 

部下は総司に誰かがつけてきていると伝えてきた。もちろんそれは総司も気づいており、総司は誰がつけているのかはわからなくても魔法師が2人つけてきていることは感じていた。

 

「……1人は相当強いな、将輝までと言わなくても将輝の4分の3くらいの力だろ……」

 

「正雪様と石山様に連絡なさいますか?」

 

「あぁ、お前は車を持ってきてくれ。もし大亜連合や新ソ連であるならば、拷問してでも情報を吐かせたい。ついでにカメラを処理出来るやつも連れてこい」

 

「了解しました、では指定のポイントを後ほど送りますのでそこまで誘導お願いします」

 

「任せろ」

 

総司はつけてきている魔法師を歩き疲れさせながら部下が送ってきた指定のポイントまで連れていくのだった。

 




さて、どこの誰が総司をつけているのでしょうか?

1.外国のエージェント
2.総司が潰した組織の残党
3.アンタッチャブルの諜報担当
4.トリックスターの配下
5.周公瑾と不老不死もどき爺さんの配下

さてどれでしょう?ちなみにこれ以外!という答えはありませんからね。

では次回もお楽しみに!


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尾行者の正体

二次創作月間ランキングの73位になってました!皆さん、ありがとうございます!



総司と部下が言っていたつけている魔法師2人。それらは総司と総司の部下の思惑通り誘導されていた。

 

それらの魔法師は新ソ連のエージェント……ではなく、ステイツ、USNAの魔法師だった。

 

「おい、チェイサーM。本国の上層部はなんて言っていた?」

 

「ブランシュの件でようやく決断した、一条総司をこちら側に引き込むらしい。どうせこの国では役立たず認定らしいしな、ナックラーS」

 

「なるほど、この国を捨てさせるのも簡単、ということか。日本も馬鹿だな……Водный император(水の皇帝)を役立たず認定するとは」

 

「新ソ連のエージェントがこちら側に潜入してきた時に得た情報だったが、ウチの国にとって有益な話だな……しかもその魔法師は戦場で1人で戦っていたらしいしな」

 

チェイサーM、ナックラーSはUSNAの魔法師組織『スターズ』、その末端の『スターダスト』。実力の低い魔法師を無理やりスターズレベルまで戦闘能力を引き上げた寿命の短い魔法師である。

 

チェイサーMは想子(サイオン)波のパターンを識別してその痕跡を探知し、対象を追跡する魔法師であり、ナックラーSは近接戦においてスターズの正隊員と同等のレベルを誇る。

 

「おい、一条総司が動いているぞ、その先は行き止まりでカメラもほとんど無い」

 

「勧誘にちょうどいい、それに倒して連れて帰るにしても、な」

 

「じゃあ行くか!」

 

チェイサーMとナックラーSは知らない。総司が2人の存在を知って()()()()()()()()()()2人を誘い出したことを、そして、そこには総司の私兵の中でも特に優秀な2人が潜んでいることを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何の用だ?俺を数日前からつけている魔法師さん」

 

「……気づいていたのか、流石はВодный император(水の皇帝)。日本や()()()()()が出来損ない扱いしているのが不思議なくらいだな」

 

「……新ソ連…ではなさそうだな。大亜連合でもなさそうだし……ブリテンか?それともUSNAか?」

 

「皇帝、と言われるくらいの目もあるようだ……我々はUSNAのスターズの人間だ。君をこちら側にスカウトしに来た」

 

総司は心底驚いた、と言える顔をしており、チェイサーMとナックラーSは誇らしげにしている。寿命を短くする改造を受けているにもかかわらずUSNAに忠誠を誓っているのだ、『自分がUSNAにスカウトされるなんて』という顔をした少年を見て満足そうにしている。

 

「……USNAの魔法師、か。日本に大亜連合や新ソ連が潜入しているのは知っていたが表向きには条約を結んでいるUSNAが潜入しているとはね……ここで捕縛しないと」

 

「「は?」」

 

総司の隣に氷のハイパワーライフルを持った彫像が2体現れ、2人を攻撃しようと動き出す。

 

「は、ハイパワーライフルだと!どうなって……ガバァ!?」

 

ハイパワーライフルの銃身で殴る総司の氷の彫像。

 

「……家族がなんだって?俺の家族は俺を一度も役立たずなんて言わなかった。俺の家族は俺を1度たりとも見捨てたりしていない!!」

 

「そ、それは……!」

 

「国は知らんが、俺には友もいる、家族も俺を大切にしてくれている……そして大切な部下もいる!この国を捨てるなんて俺の選択肢にはない!」

 

総司が声高々に叫ぶとどこからともなく総司の私兵筆頭とも言える2人が現れてチェイサーMとナックラーSに対して、石山は空気弾、正雪は斬撃を放つ。

 

「大切な部下とは嬉しいことを言ってくれますね、石山」

 

「そうですねぇ、それならば我々も御期待に答えねば不忠というものです〜」

 

「……まさか部下を隠していたのか」

 

「お前らを捕まえるためにな……というか最近色々起こりすぎだろ!いやほとんど俺が起こしてるって言っても過言じゃないけどさ」

 

「……それについては否定できませんねぇ」

 

「否定するつもりないけどな」

 

総司と石山が連携してナックラーSに向かってハイパワーライフルの弾と空気弾を浴びせていく。石山の攻撃力が低いように見えるが、気にしてはいけない。

 

「ハイパワーライフルを撃つとは正気か、一条総司!」

 

「毎日毎日尾行してくる星屑に言われたくはなぁい!!」

 

ナックラーSは紙一重で総司の操る氷の彫像が放つハイパワーライフルの弾を避ける。当たれば即死だからだ。だがハイパワーライフルの弾に神経を使いすぎて空気弾を避けることが難しくそのまま被弾していく。

 

「……総司様を何日も尾行するとは許せることではない……腹を割くか首を断つか」

 

「ヒッ!きゃ、キャストジャマー!」

 

チェイサーMが『キャストジャマー』と呼ばれるUSNAが開発したCADの機能を無力化する兵器を使って正雪が持っているであろうCADを無効化する。

 

だが─────

 

「悪いが私の剣はCADでは無い……ただのだ!!」

 

正雪はそのキャストジャマーを意に介さずにそのままキャストジャマーを切り裂く。

 

「なんだと……現代の魔法師がただの剣を魔法を使わずに扱うとは……」

 

「ふん……私は西洋の剣術を学んだ剣士。魔法など必要ない!」

 

「「そうだったのか!」」

 

「なんで知らないんですか!特に石山!お前は私と何年も共に活動しているだろう!」

 

「……ずっとCADだと思ってました。すみません」

 

石山と正雪が言い合っている隙を突こうとチェイサーMとナックラーSが魔法を放つが、総司が氷の壁を作り出してその攻撃を防ぎ、氷の壁を今度は剣に変換、そのまま2人に一斉掃射を行なう。

 

「くっ、どうなっているんだ!明らかに魔法じゃないぞ!」

 

「それを答える義理はない!」

 

一斉掃射された剣は2人に刺さることは無かったが2人の周りに刺さっており、2人は一見、氷の剣に囲まれた状態になっている。

 

「そろそろトドメを刺す!」

 

総司は氷の剣一本一本に意識を集中させながら指を鳴らす。チェイサーM、ナックラーSは一瞬何をしているのかわからなかったがすぐに理解することになる。

 

氷の剣が順に爆発したのだ。

 

「ば、爆裂だと……!お前は一条の出来損ないと爆裂が使えないことを理由に、そう言われていたのでは……!」

 

「……俺は『爆裂』は使えないさ。一条家の代名詞、お家芸とも言える一条家の爆裂はな」

 

総司が爆裂を使えない、というのは本当である。だが水を司る力、なんて水に対して神のようなことができるようになる能力を持っているのに、水分を気化する爆裂が使えないなんてことは無い。

 

総司の場合、『一条家の爆裂、そしてその魔法の発展型』の術式を使う才能がないのだ。爆裂や叫喚地獄と名を持つ一条家が長い間保有している術式に。

 

子供の頃は今のように『神之怒』などの術式を作ることは出来ず、爆裂を水を司る力で強引に再現することしか出来なかった。

 

しかも精度が本当に悪い。周りの魔法師や剛毅達に被害が及ぶほどだ。それによって一条総司は爆裂が使えないというレッテルが貼られたわけだ。

 

今は総司が水を司る力を術式に組み込んだ成功率100%の爆裂を使うようになったので爆裂は使いこなせる。

 

「……流石は総司様というわけですねぇ、爆裂を御自身の力で完璧に使いこなすことができるようになった訳ですからねぇ」

 

「……さて、USNAのスターズのスターダスト、お前らを捕縛して情報を抜き取らせてもらうぞ」

 

「くっ、かくなる上は……!」

 

チェイサーMとナックラーSは口を動かして強く歯を噛むと、そのまま倒れて目を閉じた。

 

「毒を歯に仕込んでいましたか……」

 

「……仕方ないな。遺体はこのまま焼き尽くす、キャストジャマー?だったか?あれは持ち帰って研究する。他にもあったら持ち帰るかな……」

 

チェイサーMはキャストジャマーを持っていたがナックラーSは別にそういった兵器を持ち合わせていなかったのでキャストジャマーだけ回収しておく。

 

総司はスターダストの遺体を邪魔だと思って焼き尽くそうとしていたが、スターダストの身体は裏社会では価値があるという正雪たちの言葉を聞いて総司はスターダストの遺体をコールドスリープの要領で凍らせておく。

 

「では、この遺体は任せるよ」

 

「分かりました、必ず成果を持ち帰ってみせます!」

 

正雪達は闇に紛れて消え、総司は迎えに来た部下と監視カメラの対処をしてからそのまま一条家の別邸へと帰ったのだった。




答えは1.外国のエージェントでした。

USNAのスターダストです。新ソ連のエージェントが総司について尋問の時についでに吐いて、これ、優秀な一条の魔法師手に入るんじゃね?ブランシュも潰したっぽいし!

と喜びすぎて小躍りしたUSNAのお偉いさんがスターダストを密入国させて総司のスカウトに走ったということですね。

まぁ結果は御破算、ついでにキャストジャマーを持ってかれたわけですが…


総司の爆裂事情も書けたので、ここから九校戦を書こうと思います。

これからもよろしくお願いします!

追記:分子ディバイダーの部分消しておきました。兵器じゃなくて魔法だったんですね……


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九校戦前なのに……

……書こうと思って書けなくて……やっと書けました。


『九校戦』、それは各魔法科高校が一堂に会し、それぞれの学校の生徒が魔法を駆使して様々な競技を行なう日本の魔法師の中では一大イベントとして数えられている。

 

選手やファンから『早撃ち』と呼ばれ親しまれており、クレーを両サイドから2人の選手が割り、どちらが多く割れるかを競う競技『スピード・シューティング』。

 

テニスのような見た目でありながら、一球だけでなく複数の球を使用し、何回相手のコートにボールが落ちたかで点を競うテニスもどきの競技『クラウド・ボール』。

 

レースゲームのようなサーフィン、どちらが先にゴールするかそれだけで勝負が決まる。だが水に対しての妨害もOK、魔法師自身に魔法をかけてスピードなどにバフをかけてもOKな競技『バトル・ボード』。

 

氷柱を倒すことから『棒倒し』とも言われ、このゲームにおいては制限がかかっている魔法も使用OKな競技『アイス・ピラーズ・ブレイク』。

 

男子限定の競技で、三人の選手が草原や市街地、森林といった様々なステージに配置された互いの『モノリス』と呼ばれる板を専用の無系統魔法で割る。

 

そしてそこにあるモノリスに512桁のコードを打ち込むか相手選手全員戦闘不能にすると勝利になる、実際の戦場に近い模擬戦競技『モノリス・コード』。

 

九校戦屈指の人気を誇り、女子が専用の服をまとって空を飛び回って現れる光の玉を専用のバットで砕いて3ラウンドで1番多く砕いた人の勝ちな競技。

 

だがその競技に必要な体力はフルマラソンにも匹敵する『ミラージ・バット』。

 

以上六種目を十日間、二、三年生の本戦と一年生の新人戦に分けて、各競技に振り分けられたポイント合計が最終的に最も高い高校の優勝だ。

 

そんなイベントに、総司も選手として参加することになっている。参加選手はテストの順位で決まっているのだが、総司は総合1位だったために『アイス・ピラーズ・ブレイク』と『スピード・シューティング』、どちらも新人戦に参加することになっている。

 

アイス・ピラーズ・ブレイクには将輝が出る可能性が高いため、対抗馬として出されている。勝てなくても2位にはなれるだろうと考えられて。

 

今日は九校戦の会場に参加選手全員で行く日で、集合場所まで行かなくてはならないのだが、総司は集合場所には行かず、バイクで直接会場に向かっていた。

 

雫には悲しそうな目で見られ、一緒に行こうと言われたが、正雪達が九校戦に関わる大事な報告があると言われては聞かない訳には行かず、総司は雫を宥めて集合場所まで行くのをやめた。

 

そんな正雪達からの報告は、

 

『九校戦で様々な裏の有力者が1つの組織の賭けごとに参加した』

 

というものだった。これには総司も顔を顰めていた。九校戦は雫が楽しみにしているイベントであり、魔法師の卵が行う運動会のようなものだ。それが裏の汚い金が絡む賭けに使われるなど耐えられるものでは無い。

 

総司はバイクを運転しながら賭け事について考察する。

 

「……どこに賭けたのかは分からないが、一高のような気がするというかそうなるだろうな」

 

一高は生徒会長の七草真由美を初めとした3年の最強世代に2年にも実力者が揃っている。勝つためなら一高に賭けることは確定だろう。

 

「なら、親であろうどこかの組織は違う場所に賭けていると考えるべきか……」

 

全員が同じところに賭けたら賭けにならない。一高に参加者が全員賭ければ賭け事の親役は違う高校に賭けるだろう。

 

「……一高に妨害が向く可能性大だな……」

 

妨害するなら競技中が1番だ。総司は雫が妨害を受けてリタイア、そして魔法師としてドロップアウトすることも幻視してしまう。

 

「そんなことさせてたまるか……」

 

総司はその妨害を止めるためにバイクのスピードを上げて先に向かった選手と合流できるようにするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一高の九校戦の会場へ向かうためのバス内にて、3人の女性によって選手のほとんどがガクガク震えることとなっていた。

 

1人は司波深雪。深雪は敬愛する兄がエンジニアとして九校戦に参戦することは喜んでいた。だがエンジニア専用の車両に乗るなんて聞いていないとバス内の温度を冷気で冷たくしていた。

 

2人目は2年生の千代田花音。千代田は婚約者である五十里啓がエンジニアとしてエンジニア専用の車両に乗ってしまったことに対してイラつき、バス内の空気を悪くしていた。

 

そして3人目は原作で深雪の機嫌を良くしていた北山雫だった。雫はほのかがオロオロするほど眉を顰めており、どう見ても機嫌が悪そうだった。

 

この3人の生み出す不機嫌オーラと冷気によってバス内の空気と温度は最悪だった。夏で暑いから助かる〜なんてことはなく、幾人かの生徒はすでに気絶しかけていた。

 

そんな中、雫に電話がかかってきた。雫は端末を確認する。すると雫の不機嫌オーラは一瞬で霧散した。

 

「し、雫?(ど、どうしたんだろう……って、あ)」

 

ほのかが雫の端末の画面を見ると一条 総司の名前が書かれていた。

 

雫は電話に出て総司が喋るより早く喋り出した。

 

「し「総司、どうしたの?」……いや一緒に行けなかったから雫に申し訳なくてな……大丈夫かなと思って電話をかけてみたんだが……」

 

「私は大丈夫……みんな何故か気分悪そうだけど……」

 

雫は自分は関係ないかのように総司に伝える。ほのかは何故かの部分であはは……と笑っていた。

 

何故このタイミングで電話を掛けたのか。それは克人の差し金だ。千代田を摩利が諌めようにもほかの2人のオーラで動けずにいたために、総司の声を聞けば対処できるだろう雫を先に何とかするために克人は総司に連絡し総司に電話するよう仕向けたのだ。

 

そしてオーラが薄まって動けるようになった摩利が千代田を諌めて、その流れでほのかが深雪の機嫌を少し良くする。これによってバス内の空気は良くなった。

 

真由美は克人にグッジョブと手で表していたが本当にその通りであり、克人が総司に連絡していたことを知っている周囲の生徒は克人に感謝の念を送っていた。

 

「危ない!」

 

そんなことが起こっていると、千代田が指を前に向けながら大声を出す。何事かと生徒達が千代田が指を向けた方向を見る。

 

そこには大型車が火花を散らしてスピンして、それが壁に激突し、宙返りしながら突っ込んできていた。

 

急ブレーキがかかり、バスは止まり直撃は避けたが、大型車は炎上して此方に向かってきている。このままでは衝突必至だ。

 

「吹っ飛べ!」

 

「消えろ!」

 

「止まって!」

 

「っ!」

 

パニックを起こさなかったという点はは褒められる事かもしれなかいが、今回のような事態では、それが善しとはとても言い切れなかった。

 

無秩序に発動された魔法が無秩序な事象改変を同一の対象物に働きかけ、結果的に全ての魔法が互いの魔法を打ち消す『相克』を起こし事故回避を妨げてしまっている。

 

克人が大型車を止めようとするが衝突と火を一緒に防ぐことはできない。生徒達は死を覚悟したが…………

 

「!?氷の壁……深雪さん?」

 

「ち、違います」

 

とても分厚い氷の壁が幾重にもバスと大型車の間に現れて激突を回避する。その氷の壁は何枚も破られたが、その度に大型車は減速し、最後の氷の壁と大型車が激突する頃には大型車は動きを止めていた。もちろん炎も冷気に包まれて消えている。

 

何が起こったのか理解できない生徒達であったが1人だけ理解している者がいた。雫だ。今も電話が繋がっている総司が水を作り出し、氷の壁を生成して止めたのだ。雫の座標を見て。

 

「ありがと、総司」

 

「構わない。これくらい簡単に防げる」

 

雫は人知れず総司に礼をいい、九校戦の会場へと後処理を済ませてから向かうのだった。

 




さぁ、魔法科最強系オリ主特有の無双が始まるぞ!(始まりません、本戦終わるまでお待ちください)



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懇親会

……キャラ崩壊注意?です。


九校戦前に行われる懇親会、それは生徒達の仲を深めるなんて理由で行われているものだ。それを総司はすっぽかそうとした。

 

理由は簡単、いても『出来損ない』やらなんやらと馬鹿にしてくる無能共に絡まれるからだ。なんならいない方があちらもこちらもせいせいする。そう思って総司は部屋にひきこもりながら自分のCADを調整していた。

 

総司の部屋は1人部屋だ。総司が嫌われているからという理由ではなく、ある事情で1人部屋なのだ。1年女子のエンジニアである達也が調整器具と一緒の部屋なのにも少し関係がある。

 

そんな総司の部屋をノックする者が現れた。正直出る気はなかったが、無視するのも忍びないので総司はそのノックに答えた。

 

「誰だ?」

 

「総司、私」

 

「……雫か、何の用だ」

 

「懇親会に出て欲しい。というより命令。七草会長が無理やりにでも連れて来いって」

 

「……断るよ」

 

総司は扉を閉じて帰ってもらおうとするが雫は力を入れて閉じるのを妨害する。念入りに身体強化を使って。

 

「ちょ、身体強化はずるだろ!」

 

「一緒に行こう?」

 

総司だって鍛えてはいるが、身体強化を使っている者が相手ではさすがに負けそうになる。だが負けてたまるかとドアを引っ張り続けて、ドアが軋み始めると総司は諦めた。

 

「……わかった。わかったから……」

 

「それでいい、早く行こ」

 

雫に連れられて総司は懇親会の会場へと向かう事になったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……総司が居ないな。どこだ?」

 

「部屋にひきこもってるんじゃないかな?総司はこういう催しに出てこないよ多分……」

 

懇親会の会場にて、第三高校の1年エースの一条将輝と吉祥寺真紅郎は総司を探していた。2人とも久しぶりに総司と話したいためにあちこちを歩き回っていた。

 

歩き回っていると各校から憧れの眼差しや羨望の眼差しが飛んでくるが、将輝と真紅郎はそんなことはお構い無しに探し回る。

 

「ねぇ」

 

「……愛梨か、どうしたんだ?」

 

「私たちも総司を探しているのだけれど、見つかったかしら」

 

将輝と同じで三高のエースである一色愛梨が十七夜栞と四十九院沓子を連れて将輝と真紅郎と話し出す。

 

「わからん……正直出てくるかすら怪しいからな…」

 

「それは無いじゃろ」

 

「どういうことだ?」

 

将輝は沓子の言葉に首を傾げる。

 

「ブランシュを討伐したことを大々的に発表したってことは出てくる可能性がない訳では無い……という事じゃ。多分ここから評価を変えるために動くんじゃないかの?」

 

「……まぁ、一高の生徒に聞けばわかる事だと思うけど……」

 

沓子の言葉に全員がなんともいえない雰囲気をだす。総司の評価を気にしないスタンスを知っているが故に。そんな空気を払拭するために栞が案を出すと、将輝は周囲を見渡し、ある一点に釘付けになった。

 

「将輝?」

 

将輝の見ている方向を真紅郎や愛梨達が見ると、そこには絶世の美女が立っていた。本能的に畏怖を感じるほどに。

 

「……話を聞きに行きましょう、真紅郎、そこのバカは任せたわよ」

 

「バカ!?……わかった」

 

愛梨は栞と沓子を連れて絶世の美女───深雪の方へと向かう。そんな中、総司と雫も懇親会の会場に入った。

 

「……俺は空気、俺は空気……」

 

「……大丈夫、深雪が注目をかっさらうから総司は目立たないから大丈夫」

 

「……それ間接的に俺が地味って言ってない?」

 

「うん。でもそんな総司が私は好き」

 

「……ホクザンの娘がそんなことを軽々しく言うんじゃない。俺なんかに言うな……」

 

「……もう」

 

雫は深雪やほのかが居る方へと総司を誘導する。

 

「なんだ?」

 

「人が集まってる……」

 

「見てみるか……神之瞳(アルゴス)

 

神之怒でも使った水で作ったレンズで深雪達の方を見ると、総司は顔を青くした。

 

「総司?」

 

「……不味い。真面目に不味い」

 

「?」

 

珍しく顔を青くしている総司を見て首を傾げる。そして深雪達の方に着くと総司の身は白くなっていた。今にも消えそうな程に。

 

「第一高校一年司波深雪です」

 

「(司波……そんな家あったかしら……)あらぁ、一般の方!?───少し失礼しますね、総司、久しぶりね」

 

「久しぶり……さて、俺はまた部屋に戻るとしよう……!?な、何をするんだ、栞、沓子!?」

 

愛梨が総司を見つけると深雪との会話を中断して総司の方を向きながら微笑む。総司にはどう見ても悪魔の微笑みにしか見えなかった。

 

逃げようとする総司に愛梨は沓子と栞に合図を送ることで捕まえる。なんだなんだと周りの生徒が騒ぎ出していると将輝と真紅郎がようやくこちらに来た。

 

「総司!?」

 

「頼む、将輝!助けてくれ!」

 

その言葉に一目散に動き出そうとした将輝。だが次の瞬間、将輝の動きは止まった。

 

「……貴方もまたやられたいのかしら」

 

そんな底冷えする声に将輝は方向をクルっと変えて真紅郎の方へと戻ってしまう。そんな兄の様子に総司はというと……

 

「な、裏切るのか将輝!」

 

「……総司、悪いがもう俺は被害を受けたくはない!」

 

裏切られたショックでさらに白くなった。真紅郎の方を見るが、真紅郎にも顔を逸らされ、総司は涙が流れそうになる。

 

そんな中、総司に救世主が現れた。その救世主は雫。総司の前に立って愛梨を牽制する。

 

「……あら、誰かしら。そこにいる総司のお友達?」

 

「し、雫……!」

 

「友達(ゆくゆくは恋人になってもらうけれど)」

 

総司の雫の株は上がりまくる。いや元々天元突破しているが。

 

「総司を虐めるなら許さない」

 

「……何か勘違いされていませんか?私はただ総司に第三高校に入らなかったことを問いつめたいだけですよ?」

 

「……え?」

 

雫が総司とその周りの沓子や栞、真紅郎を見ると頷いていた。

 

「だ、だけど、総司は悪くない!一高に誘ったのは私!」

 

「……貴女だったのね……!どんな関係よ!」

 

「総司と婚約者になってもいいくらいの関係!」

 

「ふぁ!?」

 

この言葉には総司が仰天した。その言葉を聞いた将輝や栞らが総司に目を向けるが一生懸命に手を振って否定する。そんなこと知らないと、そんなふうに。

 

「……いいわ……なら貴女ごと……!」

 

「ここで来賓のご挨拶を始めます」

 

その言葉を聞いて愛梨や雫は少し落ち着く。

 

「(来賓の挨拶が終わったら決着をつけるわ)」

 

「(……総司を傷つけさせる訳にはいかない!)」

 

来賓の挨拶が次々と始まり、最後にとある人物が紹介された。

 

老師、『九島烈』である。

 

最初女性が出てきて焦っていたが、総司と将輝は気づいていた。後ろに烈がいることに。

 

烈が出てくると生徒達は騒ぎ出すが烈が喋り出すとその騒ぎは静まった。

 

「まずは、悪ふざけに付き合わせたことを謝罪する。今のはチョッとした余興だ。魔法というより手品の類いだ。だが手品のタネに気づいた者は、私の見たところ五……いや六人。それだけだった。」

 

「もし私が君たちの鏖殺を目論むテロリストで、来賓に紛れて毒ガスなり爆弾なりを仕掛けたとしても、それを阻むべく行動を起こすことができたのはその五、六人だけだということだ」

 

「魔法を学ぶ諸君。魔法は手段であって、それ自体が目的ではない。そのことを思い出して欲しくて、私はこのような悪戯を仕掛けた。私が今用いた魔法は、規模こそ大きいものの、強度は極めて低い。だが君たちは、その弱い魔法に惑わされ、私がこの場に現れると分かっているにも関わらず、認識できなかった。魔法を磨くことはもちろん大切だ。しかし、それだけでは不十分だということを肝に銘じてほしい。使い方を誤った大魔法師は、使い方を工夫した小魔法師に劣るのだ。明後日からの九校戦は、魔法を競う場であり、それ以上に魔法の使い方を競う場だということを、壊てておいてもらいたい。魔法を学ぶ若人諸君。わたしは諸君の工夫を楽しみにしている」

 

老師として魔法界で伝説とされているその人物の言葉に総司は感銘を受ける。魔法師の中でも尊敬する魔法師が現れたことだけでなく、その言葉を聞けたことに感動していた。

 

烈が壇上から消えると、周りの生徒達も消えていく。愛梨がなにか仕掛けてくるかと雫は身構えるが──

 

「……頭が冷えました。総司、賭けをしない?」

 

「賭けだと?」

 

「第三高校のスピード・シューティングには真紅郎が、アイス・ピラーズ・ブレイクには将輝が出る……2人に勝てたら許してあげるわ」

 

「……いいだろう」

 

「負けたら第三高校に転校してもらいますからね」

 

「……わかった、じゃあまた会えたら会おう」

 

「そうね」

 

愛梨は沓子や栞を連れて帰っていく。それを見て総司は雫を連れて部屋へと帰っていくのだった。

 

「…………あれ!?私たちは!?」

 

「蚊帳の外だったわね……」




氷のクイーン「私の出番はどこですか!お兄様との共同作業なんかを書いてください!」

光のエレメンツ「私と達也さんのイチャイチャは!?」

作者「言っちゃ悪いけど総司が風紀委員にでもならない限り君ら出番ほとんどないよ。なんなら横浜騒乱でも来訪者でも君らが出れるとこあまりないからね……」

氷のクイーン・光のエレメンツ「な、なんだってぇぇぇ!?」

作者「最初予定してた物語よりはマシだよ?だってヒロイン候補がだいぶ変わってる人だったんだから……なんなら出てくるのが描写だけかもしれなかったんだぜ?」

2人ともへなへな座り込んだ。

作者「……こんな小説ですがよろしくお願いします」




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九校戦・本戦

『いよいよ、全国魔法科高校親善魔法競技大会───通称、九校戦が開幕です。今回は例年通り、本戦と新人戦を各5日間ずつ、計10日間に渡って開催されます。今年の注目は、一高が前人未到の三連覇を達成できるのか。それとも、三高が再び三連覇を阻んでしまうのか』

 

開会式を終え、本戦最初の競技スピード・シューティングが始まろうとしている中、総司は普通の生徒とは違う場所へと向かっていた。

 

自分が出る競技の本戦にも関わらず、総司はそんなこと関係ないとばかりに歩いていた。

 

「……ここか」

 

そこは応接間のような場所であり、要人が使う部屋だ。総司はそこのドアをノックする。

 

「……失礼します」

 

「入れ」

 

その部屋の中にいたのは日に焼けた肌をした男臭い風貌の男、一条剛毅だ。

 

「……なんの御用でしょうか、父上」

 

「……畏まるな、別に公の場でもない。普通に父さんでいい」

 

「父さん、何かありましたか?」

 

総司は剛毅に座るよう促され、座ってから用を聞く。

 

「2つ、用があった。1つ目は、お前の人脈についてだ」

 

「……父さんには話が通っているものかと思っていました」

 

「あぁそうだな……会社の社長が多いとはよく言ったものだ……とんでもないモンが出てきたじゃないか……!」

 

憎々しげにこちらを見る剛毅。総司は飄々としながらその視線をひらりとかわす。

 

「ホクザングループの総帥が出てくるとは思わなかったぞ。しかも他にも色々な著名な企業の社長がこの前のパーティーで挨拶してきた……!」

 

胃が痛そうにする剛毅。剛毅は海底資源採掘会社の社長をしているのだが、何故かホクザングループのパーティーに呼ばれたのだ。断るのも忍ばなかったので受けると、潮やこの前のパーティーの赤山などが挨拶してきて心中で仰天していたのだ。

 

「……他にもだ、お前…私兵を溜め込みすぎじゃないか?」

 

「……なんのことでしょうか?」

 

「この前俺が知っていたお前の私兵の1人である霧雨 正雪が見知らぬ者を連れて挨拶に来てたんだよ…!」

 

総司の代表的な私兵は正雪と石山の2人だが、他にも魔法師や幻術使い、はたまたエクソシストなんかも抱えている。

 

これらの給料は全て総司の稼ぎから出ているから剛毅も文句は言えない。ちなみに総司は他にも色々なものに手をつけているが、それを剛毅が知ることになるのは当分先だろう。

 

なんにせよ、剛毅の胃は穴あき寸前だ。財界のビッグネームに優秀な知らない私兵……総司は隠し事が多すぎるのだ。

 

「……まぁ、いい。やりすぎるなよ、総司」

 

「わかりました。それともうひとつのご用件は?」

 

胃が痛くなるのを我慢して、剛毅は総司のことを総司自身に丸投げした。なんかもう自分の手に負えないような気がしてきたのだ。

 

「九校戦だ。十師族関係は気にするな。全力でやれ。俺の言葉が虚言では無かったということを世間の馬鹿どもに見せつけてこい」

 

「わかりました。完膚なきままに、新ソ連と同じような気持ちになるくらいやってきます」

 

「……それはやめてやれ」

 

あっはっはと、2人は個室で笑い合う。笑い声を通りがかりで聞いた者たちはなんだなんだと思っていたが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

途中から七草真由美の試合を観戦し始めた総司。その試合は圧巻だった。正確すぎる射撃で一つ一つのクレーを丁寧に潰して行き、100点を決めていく。

 

流石は十師族の子息連中の中でもトップクラスと言われている魔法師だなと思っていると、総司の目の前にひょこっと1人の少女が現れた。

 

「探したよ?」

 

「すまない、現地入りしていた父さんに呼ばれててな。そういう雫こそどうしてここに…光井さん達はどうしたんだ?」

 

「ほのかは深雪達と達也さんたちの所で観戦してる。私は総司を探しに色んなところを駆け回ってた」

 

「……一緒に見ようか」

 

「うん、そうする」

 

総司は少しいたたまれない気持ちになりながら雫と観戦する。

 

「総司なら勝てる?」

 

「……スピード・シューティングの土俵ならやはりあちらの方が強いな。クラウド・ボールの場合なら勝てる可能性はスピード・シューティングよりも高くなるが……」

 

スピード・シューティングの場合、総司が新人戦で取ろうとしている戦法では勝てない可能性がある。ドライ・ブリザードというドライアイスを撃つ魔法を主に使っているため、水を司れる総司なら溶かすなりなんなりと何とか出来そうではある。

 

だが、妖精姫と呼ばれている七草真由美がドライ・ブリザードしか使わないとは考え難い。サイオンの塊を放出してくる場合、総司は妨害が出来なくなる。その場合は単純な魔法勝負となるため、総司が勝てるかは少し分からない。

 

それに七草真由美には魔弾の射手やマルチスコープがある。スピード・シューティングで勝てるかは、本当に微妙なのだ。

 

クラウド・ボールの場合、総司にはどうとでも打ち返すことが出来る。水流で打ち返してもいい、氷の兵に打ち返させてもいいのだ。

 

クラウド・ボールで使うであろう、ベクトルを反転させるダブル・バウンドは厄介な魔法ではあるが、総司の魔法力でベクトルを強制的に変えることも可能であるため、総司はクラウド・ボールの方が勝率は高いと踏んだのだ。

 

「……まぁ、それも戦ってみないと分からないし、俺の目下の敵は将輝と真紅郎だ。俺はどちらかというと一高の方が通っていて楽しいと思うから…負ける訳には行かない」

 

「……」

 

「……どうしたんだ?」

 

「そう言ってくれると誘った甲斐が有る」

 

そう言う雫の顔はいつもの無表情でも、総司に甘えている時の表情でもない、純粋に嬉しそうな表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日のクラウド・ボールは何も無く、ただ雫と観戦するだけで終わったが、その翌日、バトル・ボードとアイス・ピラーズ・ブレークの日に事件は起こった。

 

総司は1人でアイス・ピラーズ・ブレーク男子本戦の観戦に向かっていた。雫はバトル・ボードの観戦に行きたいから、という理由でその時は1人だった。

 

「(あれが、十文字家のファランクス)」

 

ファランクスと呼ばれる魔法を見ていた。4系統8種、全ての系統種類を不規則な順番で切り替えながら絶え間なく紡ぎ出し、防壁を幾重にも作り出す多重移動防壁魔法。

 

その魔法を使うには4系統8種の魔法全てを完璧に使えねばならないのだろう。雄々しく立ち塞がる雑兵(他校生)を蹴散らすその姿にはその才能と努力が見える。

 

「……ファランクスか」

 

総司の魔法はどれも水が含まれている。水が含まれない魔法も使いたい総司としてはファランクスはとても貴重な情報が詰まった魔法だ。

 

「(ファランクスとまでは行かなくとも、それと同じような魔法を開発したいものだな……)雫からか」

 

九校戦で新たに固まった決意を胸に刻みながら震える端末を見る。そこには雫からのメッセージがあり、久しぶりに達也達とご飯を食べないかという誘いが書かれていた。

 

断る理由もないので受けようとし、一足先に食堂に向かおうとした、その瞬間───

 

「なんだ?」

 

先程連絡が雫から来ていたにも関わらず、雫からまた連絡が来ていた。

 

それを見ると、総司は顔を青ざめさせた。

 

一高のエースの1人である、渡辺摩利がバトル・ボードで事故に巻き込まれた、という連絡だった。




次回から新人戦です。スピード・シューティングをどうやって乗り越えるのか、ご期待下さい。


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新人戦・スピード・シューティング①

九校戦・本戦も一段落し、新人戦が始まろうとしていた。今日の新人戦の種目はスピード・シューティング。男女合わせて総司、雫、栞、真紅郎が出る種目である。

 

総司は控え室でスピード・シューティングのウェアを着てアーカイブのダウングレード版を持ってイメージトレーニングをしていた。

 

昨日摩利が怪我をしたと聞いて顔を青ざめさせていたが、無事と聞いてそれ以上の心配はせず、己の競技に集中している。

 

「……ここから、俺の下克上が始まる。立ち塞がる奴らは……」

 

新ソ連のゴミ共、USNAのスパイ共と同じように蹴散らしてやる……ッ!

 

剛毅の言葉は届いていなかった。

 

総司の端末には剛毅や将輝、愛梨達や雫、取引先の社長さんや私兵からの激励が送られてきていた。総司はその言葉と今までの苦汁を混ぜ合わせて敵を蹴散らして行こうと考える。

 

まずは父さんを嘘つき呼ばわりした十師族のゴミ共と数字付きのゴミ共をあっと言わせてやるさ……ッ!

 

雫の試合が見れないのが残念だが……

 

総司がそろそろかと時計を見ると、係の人がそろそろ出てきて欲しいと言ってきたので総司は出ることにした。係の人は総司の真っ黒なヤバそうなオーラに恐怖していた。

 

 

 

 

 

 

 

『スカイアイランドTVは4日目も完全生中継!!本日はやっと始まった新人戦!スピード・シューティングだぁ!!!』

 

『スピード・シューティング新人戦男子の注目株はやはりカーディナル・ジョージと名高い吉祥寺選手ですね』

 

『いえいえ、ブランシュ撃退で名を上げ始めた一条総司選手も忘れてはならないでしょう』

 

テレビの中継の話に少しイラつきつつもアーカイブを掲げる。対戦相手も、観客席の有象無象も、総司の持つCADを疑問に思っている。

 

なぜライフル型では無いのか、と。

 

そんな疑問が会場を覆い尽くしている中、総司はそれら全てを無視して魔法力を高め、今から発動する魔法に集中する。

 

試合が始まり、規定エリア内にクレーが打ち出された瞬間、総司の魔法が発動する。その瞬間、会場中が一瞬で驚愕に包まれた。

 

規定エリア内に雨が降り始めたのだ。しかもシトシトとした小雨な雨ではなく、圧倒的な水のはじける音がする豪雨が。

 

そして雨が自分のクレーに触れると、自分のクレーが割れ、相手のクレーは凍りつき、防御力を上げ、相手の魔法では簡単に砕けなくなるのだ。

 

これこそ、総司の力を知らしめるための、()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()

 

『あまごい』と『ドライ・ブリザード』と『共振破壊』を組み合わせた複合魔法……『振動氷結雨《レイン・ブリザード・バイブレーション》』

 

この魔法に総司は1時間の時間を掛けた。世の中の魔法開発者からしたらふざけんなと言いたいくらいの構築スピードだ。なんなら拾った魔法開発者の1人(五徹目)から端末を情報強化を掛けた上で投げられた。(無論避けた)

 

ちなみにこれは総司が使えば戦略級魔法にもなる。敵兵を凍らせて動きを停めたり、体を振動して破壊してもいい。しかも広範囲にできるからタチが悪い。

 

クレーが出終わり、総司が100個目のクレーを破壊すると、結果が出た。

 

『100対7』

 

100はもちろん総司。7は対戦相手だ。凍ったクレーは破壊することが難しく、2桁にも到達しないまま、負けてしまっていた。

 

会場の観客、そしてVIP席で見ている魔法界のお偉方ひいては十師族の当主達。全ての人がどのような表情をしていたかは分からないが、驚いていた。

 

総司はそんな様子を無視して、控え室まで戻って行った。その勝利に、少しの高揚感を覚えながら。総司が纏っていた黒いオーラはいつの間にか消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

「……雫も、栞も勝ち進んだか」

 

1人で、濡れたタオルで汗を拭きながら端末を見ると、『北山雫選手、新魔法で無事1回戦突破!』『十七夜栞選手、パーフェクトで1回戦突破!』と知人の名前が書かれたニュースを見る。

 

「次は、どう勝つかな……振動氷結雨だけじゃ、物足りないよな……」

 

総司の目に映るのは雫が使った魔法と栞が使った魔法。

 

「……司波くんと雫、栞には悪いけど、水だけじゃないってところ、見せとかないといけないよね……」

 

雫と栞の試合の様子を見て総司は妖しく笑う。その笑い方を私兵たちが見れば、『よからぬ事を考えているんだろうな』と思うだろう。

総司はアーカイブのダウングレード版から短銃型の特化型CADに持ち直して次の試合に望むことにした。

 

 

 

 

 

 

『1回戦のあの魔法で一瞬にして評価を塗り替えた一条総司選手!次の対戦相手にどのような魔法を使うのか!?』

 

「この前見た超汎用型を持っていない……どういうことだ?」

 

達也は1人、総司の試合の観戦に来ていた。雫の調整と作戦は事前に伝えているため、気になっている総司の試合を見に来たのだ。

 

「(師匠からは気にしなくてもいいと言われたが……あまりにも評判と実力が違いすぎる……!雨を降らせた魔法と言い、次はどのような魔法を────!?)」

 

試合が始まり、総司がどんな魔法を使うのか己が持つ『精霊の目(エレメンタル・サイト)』を駆使して総司の手元を見る達也。だが次の瞬間、達也は言葉を失うことになる。

 

クレーが振動魔法で破壊され、その破片が他のクレーを破壊して行く。そして破壊されたクレーはその破片をまた違うクレーに飛ばして破壊する。

 

つい先程見た光景を総司が再現している。達也は十七夜栞だからこそできる魔法だと思っていた。だが目の前にいる男はそれを完璧にコピーしていた。

 

数字的連鎖(アリスマティック・チェイン)

 

1回のクレーの破壊で30個以上のクレーをスーパーコンピューター並の脳で計算して破壊する特殊な魔法を土壇場で完璧に使う総司は、どう見ても自分(達也)と同格だと思ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「総司がまさか栞の魔法を使うなんて思わなかったわ」

 

「……使えるのは知ってたわ、私ほど完璧でないけど」

 

「?完璧に使えてたように見えるけど」

 

「……総司は頭もいい、空間把握能力も悪くないけど……あれは数字的連鎖、では無いわ。強いて言うなら数字的連鎖・水の型(アリスマティック・ウォーター・チェイン)よ」

 

「……まさか」

 

「数字的連鎖の補助に水を使ってるわ、計算をやりながらも誤差を水で調整してるのよ」

 

「……」

 

「それでもパーフェクトを取れるのはすごいけど……昔教えた側としては……ここだけでやって欲しいところね」

 

栞は自分の頭に指さしながら、やや不満そうな目で数字的連鎖・水の型が使われた試合のリプレイを見ていた。

 

「ぶぇっくしょん!……風邪なわけないか……誰か噂してんのかな」

 

 



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新人戦・スピード・シューティング②

スピード・シューティングは最初は1人でスコアを競うんでしたね。指摘されて気づきました。……直さないでこのまま進めますね。


何試合かを数字的連鎖・水の型や振動氷結雨で相手を絶望のふちに叩き込みながら突破して行った総司。さながら氷の魔王のようだとか水の王様じゃねぇの?とかネットで騒がれているのを気にせず、総司は準決勝まで駒を進めた。

 

「……次の相手は森永(もりなが)か。あれ?森山(もりやま)だったか?防人(さきもり)だったか……」

 

森崎である。総司は入学以来全く喋っていないため、記憶にもほぼ残っていなかった。雫やほのか、深雪と仲良くしているからという理由で憎悪の目で見られていたが。総司を出会い頭に罵倒したが。

 

「一応は百家の人間。警戒はしておくべきだろう……真紅郎用に取っておいた策で行くか」

 

百家というのは十師族と比べれば軽いが、それでも魔法師にとってはとても重いものだ。負ける訳にはいかないと常日頃から努力しているのだろう。総司は森崎のハードルを滅茶苦茶高く上げた。

 

自分の魔法を知り尽くしている真紅郎を倒すために持ってきた、他の家の魔法を自分なりに再現したものを使うことにしたのだ。

 

「そろそろ時間か……ふふっ、楽しみだ……」

 

総司は戦闘狂の気があるのかも…しれない。総司は森崎との準決勝へと足を進めるのだった。

 

「……雫からだ。なになに…………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…なんなんだあれはァァァ!!?」

 

森崎は控え室で大声で叫んでいた。一条総司が繰り出す未知の魔法、とんでも威力の魔法は完全に森崎にとって予想外だった。

 

相手の妨害を全体のクレーに送りながら自分のクレーを破壊する振動氷結雨、十七夜栞が使っていた魔法の改造版、数字的連鎖・水の型。どれをとっても勝てる気がしない。

 

「しかも俺は入学の時にバカにしてるんだぞ、あの化物を!終わった、終わったァァ!!!」

 

森崎の記憶がフラッシュバックする。

 

()()()()()()()()か!』

 

『一条家で唯一爆裂が使えないんだもんな、そりゃ落ちこぼれの雑草(ウィード)と一緒にいてもなんにも思わないだろうよ!一科の自覚がないんだからな!』

 

『北山さん達もこんな奴と一緒に居ない方がいい、穢れた出来損ないが移るからな!』

 

とんでもないことを言っている。ハリポタ世界の純血主義と同じようなことを。こんなことを言ってしまっているのだ。死亡フラグは建ちまくっている。一級フラグ建築士の称号すら今の森崎は手に入れることが出来るだろう。

 

「親父は一条総司はそういうことを気にしないとは言っていたが……嫌な予感しかしないんだが!」

 

森崎の父親は人伝に総司の噂を聞いている。悪口言ったら気をつけるべきなのは総司の周りの人間だと。この前の総司が出たパーティーでも取引先の社長が総司に絡んだ人間を追い出していることからもよくわかる話だ。

 

森崎は頭を抱えながら先輩が調整してくれたCADを持って試合へと進む。暗い空気を醸し出しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カウントダウンが終わり、試合が始まった。総司はアーカイブのダウングレード版を使って8つの水魔法を自分の周りに展開する。

 

知名度は低いかもしれない。ファランクスや爆裂と比べれば。だが見るものが見ればわかる。あの魔法は、『八重奏(オクテット)』だと。

 

八重奏とは四種八系統の魔法を1つずつ待機させ、それを状況に応じて発動していく魔法。そして総司が使っているのは……

 

加速系魔法『ウォーターブースター』

 

加重系魔法『不可視の弾丸』

 

移動系魔法『エクスプローダー・エア』

 

振動系魔法『振動氷結雨』

 

収束系魔法『ウォーターカノン』

 

発散系魔法『インビジブル・ミスト』

 

吸収系魔法『暴食之王(ベルゼビュート)

 

放出系魔法『輻射波動』

 

水魔法だけに頼らずに自身の魔法力で作り出した魔法が2種類、既存が1種類、既存の魔法を改造したのが1種類、水魔法が4種類。これが総司なりの八重奏である。

 

先ずは暴食之王を使用して目の前のクレーを飲み込み、森崎のクレーだけ森崎が狙いづらい方向へと飛ばし、自分のクレーは壊す。これにより得点が一気に20点ほど増えた。

 

次に輻射波動を遠隔で起動して狙いづらいところに飛び回っているクレーを破壊する。

 

もちろん森崎への妨害は忘れない。領域干渉をしながらインビジブル・ミストを使用して視覚的な妨害も行なう。

 

そして振動氷結雨を使って残りのクレーを破壊すると……

 

『100対1』

 

とんでもない試合結果になった。なぜ、このような結果になったのか。それには3つほど要因がある。

 

1つは森崎の心的要因。総司を怖がりすぎたために十分なパフォーマンスを行なうことが出来なかったのだ。

 

2つ目は領域干渉とインビジブル・ミスト。七草真由美でもなければ視界を妨害されながら魔法もろくに使えない状況を打破するなんて不可能なのだ。

 

3つ目は、総司が試合に出る前の連絡だ。雫から連絡が来ていたのだ。雫からの連絡には、『私も十七夜栞さんと本気で戦うから本気で戦って』ということが書かれていた。

 

『……ふふっ、なら本気でやりましょうか、私が使うつもりはなかった、水を使わない戦術級魔法、そして私の技術の粋を集めた魔法を!』

 

水を使わない戦術級魔法とは暴食之王、輻射波動のこと。そして技術の粋を集めた魔法はエクスプローダー・エアやインビジブル・ミストなどのことである。

 

暴食之王は『転生したらスライムだった件』のリムルが使うスキルで、捕食やら解析やらできるチート。ちなみに解析ならギリギリできる。

 

輻射波動は『コードギアス 反逆のルルーシュ』の紅蓮弍式の武装。これはどんなところでも超高出力な電子レンジを配置することが出来る。この波動に当たればどんなものでも膨張して破裂するのだ。

 

エクスプローダー・エアは着弾点から等距離,円形の範囲の物体を高速移動で遠ざける魔法だが、どんなものでも、どんなところでも飛ばすことが出来る。明智英美が使う魔法だが、地面から飛ばすのに対して、総司は空中からでも飛ばせるのだ。

 

インビジブル・ミストは、水を瞬時に気体にして視界を狭めさせる魔法。そしてインビジブル・ミストは、それを好きなだけ広範囲に展開できる。ちなみに爆裂を組み合わせると地雷原なんて比べ物にならないほどの大爆発を起こせたりもする。

 

総司は真紅郎との戦いで、追い詰められたら使おうと思ってた魔法を森崎を完膚なきまでに倒すために持ってきたのだ。雫の言葉によって。

 

森崎の父親が聞いてた通り、悪口言ったら気をつけるべきなのは総司の周りの人間だ。総司は覚えていなくても、雫は覚えていたのだ。

 

森崎は控え室に戻った瞬間、ショックで寝込んだ。一点しか取れなかったのと、フルボッコにされたことからである。

 

総司は嬉々として雫に勝利報告を行ない、雫は栞に勝ったことを総司に報告した。

 

総司は知らない。ほのか経由で聞いた、森崎が負けたショックで寝込んだことを知った時の雫の顔を。とても総司には見せれないような顔だったと、ほのかは後に語る。




次回でスピード・シューティングは終わりです。そうしたら今度はアイス・ピラーズ・ブレイクです。

この話とても書きやすかったです。新ソ連との戦いを書いてた時くらいです。楽しかったです!






……この小説とは関係ない話なんですが、昨日の夜勢いでR18小説を書きました。後悔してます。書いて投稿して1日経って、あれ?これ普通にMだなって。何してんですかね…www

書くの楽しかったと言えば楽しかったので気が向けば投稿しますので、そちらもよろしくお願いします。魔法科ではなくありふれなのでそこだけよろしくです。


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新人戦・スピード・シューティング③

今更ですけど、キャラ崩壊注意です


新人戦・スピード・シューティングもまもなく終了する。男子の試合は残すところ、カーディナル・ジョージこと吉祥寺真紅郎と一条総司。

 

下馬評では真紅郎が勝つだろうと言われている。根拠は真紅郎がカーディナル・ジョージであり、長い間総司と一緒で弱点なども知り尽くしているだろうことから。

 

だがそんな下馬評が流れている中、真紅郎は額に手を当てて苦しそうにしていた。体調は悪くない。なんなら快調と言ってもいいくらいなのだが、対戦相手が総司ということで頭を悩ませていた。

 

「……勝つビジョンが見えない」

 

真紅郎は総司と何度も様々な勝負をしてきた。今回のようなスピード・シューティングだったり、アイス・ピラーズ・ブレイクだったり、知力勝負と言って徹夜で魔法の知識を競い合っていた。

 

だがほぼ勝てたことは無い。勝負ではないが加重系プラスコードを見つけれたことが唯一勝てたことだろう。

 

そんな真紅郎に総司の弱点などわかるはずもない。強いて言うなら女性問題だが、総司がそもそも好意に気づかないから意味を成さない。

 

弄って精神を動揺させようにもそんなの不可能だ。まぁ真紅郎はやるつもりは無いが。

 

「……精密的にやっても領域干渉で封じられたら終わりだ…それに森何とかくんにやってたようにあの八重奏が来たら負けるのは確実なんだよな…」

 

正直真紅郎に総司の魔法の予測は不可能だ。何個魔法があるか未だに分からないからだ。水関連なのは間違いないが、それでも液体なのか固体なのかそれとも気体なのか分からない。

 

「……一色さんに勝つよう言われたけど……勝てるか分からないな……」

 

そう思いながらも真紅郎は最高の調整を自分のCADに施す。何度も辛酸を嘗めさせられた相手に、今度こそ勝つために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とりあえず、おめでとうとは言っておかせてもらうよ、雫」

 

決勝前の総司の待機部屋に、1人の小柄な少女が座っていた。言うまでもないが雫である。そして彼女の手には彼女がスピード・シューティングで使っていた小銃形態自作汎用型CADがあった。

 

「ありがとう、総司にも次の試合頑張って欲しい」

 

「……それはもちろんわかっているが、何故ここに?」

 

総司も雫からの応援は嬉しい。だが、もうすぐ試合が始まるこの時に来た雫の意図が分からない。

 

「近くで応援したかったというのもある。だけど……これを使って欲しい」

 

「これは…司波くんが作った能動空中機雷(アクティブ・エアー・マイン)か」

 

「そう、これを使って欲しい。達也さんの許可は得てる」

 

「……わかった、使ってみよう」

 

傍から見れば使い慣れない魔法を決勝戦にぶっつけ本番で使う馬鹿な魔法師に見えるかもしれないが、雫には総司ならすぐに使いこなせると思っている。

 

その理由は八重奏を使っていたことと、長い間一緒にいたことから知っている。総司は全ての系統を満遍なく使えるのだ。振動系の魔法でしかない、能動空中機雷は完璧に使えるだろう。

 

そしてもうひとつ能動空中機雷を雫が総司に使わせるのには理由がある。

 

「(総司が私の使った魔法を使う……これはいいマーキング……というかこれからすり寄ってくるだろう雌共から総司を守るいい盾になってくれる……!)」

 

総司が好きで、総司と結ばれたい雫。まだ攻略すらできていないのに、総司はスピード・シューティングで己が実力を世間に晒してしまった。総司には手のひらを返したように有力な他家から婚約の申し込みの嵐が舞い込むようになってしまうだろう。

 

雫は政財界で有力な家の娘だ。だが魔法界ではそこまで有力では無い。血筋がどうのこうのの話になってきてしまうと十師族や師補十八家に負けることは必然。

 

それを回避するために前々からアプローチをかけまくっていたのだが、総司は全く気にもとめない。まぁ仲がいい友達以上彼女未満でしかない。

 

いずれは攻略して落としてみせると思っていても、その前に強制的な政略結婚なんてやられたら困る。

 

だからこそ、雫は動いた。今はまだ落とせなくても、周りが勝手に誤解して総司に婚約やらを迫ることを躊躇させればいいのだ。

 

総司が決勝で能動空中機雷を使う➝雫となにか特別な関係でもあるのか!?と周りが思う➝その間にアタックして雫大勝利!

 

これが今の雫の頭の中にある考えである。正直穴がありすぎて考え通りにならないと思うのだが、今の雫にそんな余計な考えはない。ただ総司を守り、総司を手に入れる。それしかない。

 

「(ふふっ、我ながら完璧な計画……!)」

 

どこぞの恋愛頭脳戦やってる副会長のような思考をして総司との甘い未来を考えて恍惚とした表情をしているが、総司は雫ではなくCADを見て、能動空中機雷を自分のCADにコピーして使えるようにする。

 

「そろそろ試合か、雫……勝ってくるよ」

 

「……ハッ!?い、行ってらっしゃい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「総司、真剣勝負で勝ったことは今のところほとんどないけれど……負けるつもりは無いよ!君の魔法の対策は完璧だ!」

 

「真紅郎、こちらも負ける気は無い。連敗記録をまた更新させてやる!」

 

2人の言い合いはカウントダウンが始まるまで続き、カウントダウンが始まると総司はアーカイブを構える。

 

「(総司が使うのは神之怒?いやいずれにせよ使う魔法は変わらない!僕が選んだのは熱乱流(ヒート・ストーム)!君の氷も水も全て蒸発させる!)」

 

「……発動」

 

カウントダウンが終わり、総司が発動させた魔法は、真紅郎の期待を裏切った。

 

総司は空中に無数の仮想立体を構築し、仮想的な波動を送り込んでヒットしたところに本物の波動を送る能動空中機雷を発動したのだ。

 

「……嘘だろう?君が北山選手の魔法を使うなんて……!」

 

「栞の魔法も使ったんだ、雫の魔法を使わない道理はないよ、真紅郎」

 

「だが北山選手の魔法は対策できている!」

 

「そうだよな……だからさ……」

 

砕けたクレーが今度は計算されたかのように他のクレーを破壊していく。真紅郎はその様子を見て危うくCADを取り落としそうになる。

 

「…………数字的連鎖(アリスマティック・チェイン)!?」

 

「……お前が俺の水を対策するのは目に見えてたよ……だから俺は……栞と雫の力でお前に勝たせてもらう!」

 

仮想立体内に入ったクレーを破壊し、その破片がほかのクレーを破壊していく。数字的連鎖と能動空中機雷を使い分けた、総司だからこそできる戦術で総司は真紅郎を追い詰めていく。

 

「負ける訳にはいかないんだ!」

 

真紅郎は風で計算が狂うように熱乱流の威力をあげる。そして自分のクレーを破壊するためにお得意の不可視の弾丸を放つが……

 

「……残念だけど風が強くなるならそれを加えて計算すればいいだけの話だよ……」

 

意味はほぼなかったようだった。

 

そして試合が終了し、電光掲示板には、

 

『100対89』

 

総司が100、真紅郎が89。真紅郎が熱乱流を使わなかったらもしかしたら同点だったかもしれないが、真紅郎は総司が水魔法を使ってくると思って挑んだ。これが敗因だろう。

 

「……深読みしすぎたか」

 

「……まずは俺の勝ちだ。三高に俺は行く気は無い」

 

そう言って立ち去っていく総司。真紅郎はそれを見続けることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

総司の待機部屋にて地団駄を踏んでいる少女が1人……

 

「……(数字的連鎖も一緒に使われたら意味ないッ!)」

 

「(これじゃあ総司に雌共が群がってしまう……!)」

 

雫の目論見が完全に滅んだ瞬間である。

 

「……雫、助かったよ。いつもの魔法を使ってたら負けるかもしれなかった」

 

「……おめでとう」

 

「雫のおかげで勝てたんだ、ありがとう」

 

「!……ど、どういたしまして」

 

総司の言葉が頭の中でリピートされていく。雫の機嫌はすぐ良くなった。まるでさっきまでの目論見がどうでも良くなったかのように。

 

……尚、雫の心配事が現実となる時は近い。



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スピード・シューティング後の話

今回はコメディというか茶番回です。

『カーディナル、見捨てられる』

『シスコンとブラコン』

『総司コスプレ計画』

の三本をお届けします。まぁ短いですが。


新人戦・スピード・シューティングは総司が優勝、真紅郎が準優勝という形で終わった。真紅郎は順位が決したすぐ後で愛梨に手招きされてそのままお仕置されていたが、総司は普通に見捨てた。

 

「……真紅郎、お前は良い奴だったよ」

 

「そう思うなら見捨てんなァァァァ!!?」

 

「……お前俺の事懇親会で見捨てたし、これでおあいこね〜」

 

総司は哀れみの目で真紅郎を見ていた。可哀想だとも思っていたが、助けるか助けないかはまた別の話だ。

 

総司は手を振りながらそのまま去っていく。真紅郎が涙目で助けを求めようと愛梨の元から逃げようとするが、稲妻の異名を持つ愛梨から逃げようということ自体浅はかだった。

 

ガシリと腕を掴まれると愛梨にどこかへと連れられて行った。

 

……少し時間が経ってから妹である一条茜から久しぶりにメールが届いた。お兄ちゃんありがとう!から始まり、真紅郎くんの可愛い写真も見れたよ!という言葉も書いてあった。愛梨が何をやらせたのか少し理解してしまって寒気がした総司だった。

 

「真紅郎……」

 

兄として家族として茜の恋路は応援したいが、真紅郎の胃はなんか茜と付き合ったら将輝との相乗効果で穴が開きそうな気がしないでもない。

将輝は戦闘や公の場ではともかくとして、日常面ではポンコツが目立つ。茜は将輝と喧嘩することが多い。恋人になったら将輝の参謀として将輝の味方になるか、茜の恋人として茜の味方となるかで胃はキリキリと痛むことになるだろう。

 

総司は兄妹仲はかなりいい。余計なことも言わないし、そもそもあまり本家にいる事が少ないからだ。土日は東京や他の地方都市に向かって夜に帰ってくることも多かった。今は私兵が増えたことでそういう問題からは解放されたが。

 

「……どうなろうが、俺はどちらかというと茜寄りだ。可愛い妹を裏切る奴は俺が全力で社会から抹消してやる」

 

それが例え、その可愛い妹が好いている天才であったとしても、だ。達也は度が過ぎたシスコンだが、総司も割とシスコンである。

 

「……いや怖いから」

 

スピード・シューティングを優勝したにも関わらず、夕食時に暗く重い雰囲気を出して周囲の生徒を怖がらせている総司を注意しようとしたら、思ったよりも怖いことを言っていて戦慄している真由美。

 

だが総司の言葉に賛同する同じ穴の貉がやってきて、その真由美の言った言葉を否定した。

 

「なにが怖いのですか?大事な家族を、大切な人を守るために使える力全て使って、その人を傷つけた人を排除するのは当然でしょう?」

 

お兄様大好きで、怪我した摩利の代わりに本戦ミラージ・バットに出ることになった司波深雪である。

 

「わかるか司波さん」

 

「もちろん、お兄様を傷つける人はどんな手を使ってでも排除するのは当然でしょう?」

 

「当たり前だ、家族を傷つけるやつはどんな手を使ってでも生きていられなくするのは当然だ」

 

「「ふふふっ……」」

 

「(もうヤダこのブラコンシスコン……!)」

 

真由美はさっさと立ち去った。妹を可愛がる真由美ではあるが、ここまで度が過ぎている訳では無い。このままではこいつらに染められると思った真由美は摩利の元へと逃げていった。

 

「(深雪……総司とあんなに仲良くなるなんて……)」

 

ただブラコンとシスコンという点と大切な人を傷つけられたらどうするかで話しているだけなのに、雫は深雪に対して嫉妬していた。

 

「(このままでは総司が深雪に惹かれるなんてことになりかねない……!)」

 

絶対そうなるわけないのだが、雫の脳内には今、達也と妹達の話題で盛り上がっている2人が付き合いだしてそのまま結婚して「私たち幸せになります!」と雫に言ってそのまま雫は失恋するという最悪な未来(妄想)が出来ていた。

 

「(総司ぃぃ……!)」

 

「……悔しいけど深雪は多分一条君には振り向かないだろうし、雫のアプローチに気づかない一条君が告白するなんてこともありえないと思うよ、雫」

 

雫が地面に手をついて負のオーラを出しているのを見て、ほのかは心の中で自分の考えたことを伝えると、雫は幾分か気が楽になった。

 

慰めた後にほのかは気になったことがあったので雫に聞いてみた。

 

「そういえば雫、昨日大量の男物の服をしまい込んでたけどあれなんなの?」

 

「……ふふっ、あれこそ総司専用コスプレグッズ!総司がアイス・ピラーズ・ブレイクで着る用の服を大量にお父さんと航のチョイスで持ってきてもらった!」

 

「え?」

 

ほのかは固まった。まさか雫がアイス・ピラーズ・ブレークの衣装自由の項目をコスプレと思っていたとは思わなかったからだ。

 

「……王子様の服とか色々あったけど?」

 

「とりあえず明日は観戦が終わったら総司を部屋に連れ込んで着せ替えタイムをやる」

 

「着たら恥ずかしいのがいっぱいあったんだけど!?」

 

「大丈夫。総司はなんだかんだ言いつつも着てくれる。いつもそうだし」

 

「いつもやってるんだ……」

 

総司はスーツと学生服と日常の簡素な服しか着ないから雫が色々な服を着せようとしたのが始まりで、北山家に総司が来たら服を色々着せる時がたまにある。

 

「……どれを着せようかしら」

 

「これなんかいいんじゃないかしら」

 

「いいわねそれ!」

 

「……のう愛梨、総司が着てくれると思うか、それ?」

 

第三高校の生徒が泊まるホテルで同じく総司のアイス・ピラーズ・ブレイクの衣装を選んでいる愛梨とさりげなく総司が着たら面白そうな服を勧める栞、選んだ服に呆れる沓子の姿があった。

 

愛梨と雫はまたぶつかり合う運命にあるが、それは次の日のこと……。




リロメモがそろそろリリースされますね。個人的にひとつ悲しいと思ったことがあります。

https://youtu.be/6NoYepp8AjI 七草泉美のPV

https://youtu.be/LNvFwZinez8 七草香澄のPV

これふたつ見て思ったんですが、必殺技が鎌鼬になってるんですよね。窒息乱流(ナイトロゲン・ストーム)は?って思いました。いや単独だから仕方ないんですけど……鎌鼬はどこから来たんでしょうか……

まぁそれは置いておいて、リロメモ楽しみにしてこれからも投稿頑張ります。テストも終わりましたし!


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新人戦・クラウド・ボール

よし書き終わりました。愛梨の試合を書こうか書かないかで迷い、どうやって書こうかと悩んで結構時間かかりました。


無事総司がスピード・シューティングで優勝を納めた翌日、新人戦・クラウド・ボールが始まっていた。

 

今年の注目株は一色家の令嬢で、リーブル・エペーの大会を数多く優勝してきたエクレールこと一色愛梨。

 

今日はひとつしか競技を行わないこととその注目株の選手から会場の観客席は満員だった。

 

「……愛梨の試合は人気だね」

 

「……それは分かるんじゃが……のう総司、お主ここにいて良いのか?」

 

「そうだよ、北山さんだっけ?その子と一緒に居なくていいのかい?」

 

総司は将輝や真紅郎、沓子に栞と試合を観戦していた。沓子と真紅郎がここにいていいのかと聞いてきたが総司は首を横に振る。

 

「いや、今日誘おうとしたらいなくてな」

 

「……ふーん」

 

真紅郎達は納得できないようだったが、総司は気にしてないようで、愛梨の試合をしっかりと観戦していた。

 

愛梨の魔法は異名と同じく稲妻。知覚した情報を脳や神経ネットワークを介さず直接精神で認識する魔法と、動きを精神から直接肉体に命じる魔法の2つが合わさった魔法であり、CADを使用するのにタイムラグがなく、相手選手が可哀想になるほどのスピードでボールを返していく。

 

クラウド・ボールは制限時間内にシューターから射出された低反発ボールをラケットまたは魔法を使って相手コートへ落とした回数を競う対戦競技なのだが、愛梨の魔法によって落ちる前に打ち返しているのでもうすぐパーフェクトゲームが達成しそうである。

 

「相変わらずエグイな、愛梨の魔法は……総司だったらどうやる?」

 

「……氷の壁を貼る」

 

「……まさか」

 

「氷の壁をネットギリギリまで貼って、それで防ぐ。どれだけ早く打ち返されようとコートに落ちなきゃ意味が無いからな」

 

「クラウド・ボールどころか元となったテニスですらそんなことしないよ!せめてラケットを持って打ち返せよ!」

 

想像した真紅郎が総司と戦う愛梨の様子を思い浮かべる。半泣きになりながら永久に溶けることの無い総司の氷をテニスボールで削ろうとする愛梨が見えたのか、真紅郎はいつもの口調を放り捨てて総司の間違いを正そうとする。

 

「……ならアイス・ポーンに氷のテニスラケットを持たせて打ち返させるかな。満遍なくコート内に10体くらい置いて、打ち返す時射線上にいるアイス・ポーンには穴を開ければいいし」

 

「そういう意味じゃないわよ……貴方が!ラケットを持つのよ!」

 

今度は栞がその様子を思い浮かべる。どこに打っても自動的に打ち返しくるロボットみたいな氷の兵隊相手に涙目になる愛梨の姿が見えたのか、栞も総司を注意する。

 

「……ラケットを持つという決まりはないんだが、ラケットを持ってやりあえというなら、氷の伸縮自在のラケットで愛梨の打って来る球を打ち返すかな」

 

「おう」

 

「なんなら氷のラケットを俺の身体に接続して氷の壁にすればどんな球も愛梨のコートに……」

 

「それ最初と変わらねぇよ!なんでお前は相手を封殺することばっか考えるんだよ!」

 

まぁルール的には間違っていない。だがさすがに愛梨が可哀想すぎると考える。だってテニスじゃないじゃん……打っても打っても相手のコートに入らないなんてクソゲーすぎる。

 

「……相手の戦意を喪失させるのも立派な策のひとつだ。将となるならそれも念頭に入れておけ、俺はそれをどうやってさせるかでスピード・シューティングで使う魔法を選んでた」

 

「え、じゃあ振動氷結雨も?」

 

「あれは遊び八割の魔法だな。あのレベルの魔法ならアーカイブ内に大量に入れてある」

 

「……嘘じゃないか」

 

「残りの2割は相手の戦意を喪失させるための選択だから嘘じゃない。まぁ使っててすごい楽しかったが」

 

「俺の総司はいつからこうなったんだ?」

 

将輝が頭を抱えているとコツコツと足音を立てながら総司達の元へとやってくる人がひとりいた。

 

「ハァハァ……総司、やっと見つけた!」

 

「ん?雫じゃないか、どうしたんだ?」

 

朝から行方の知れなかった雫が総司の所へと来ていたのだ。しかも肩で息をしながら。何が起きていると皆で注目していたら、雫が説明しだした。

 

「総司の部屋に行ったら総司がいなかったから探してた。そしたら総司のいるところはどこかなって総司の匂いを辿ってたらこんなことになってた……ハァハァ……」

 

「そ、そうか」

 

雫は少し汗をかきながらも総司の膝の上に座って頭と身体を総司に寄せる。いつもの雫と同じことをしているのだが……

 

「(……愛梨、これは割とライバルが強そうよ…公衆の面前でこんなこと出来るほどあなたはプライドを捨てられるかしら?)」

 

「(総司のこと好きなんじゃな、この娘は……というか匂いって言っとったよな、聞き違いではなかろう?)」

 

「(…………司波深雪さんにもこんなことしてもらえないだろうか)」

 

「(……これ、総司の恋愛事情というか総司を巡る女性のことを知らない剛毅さんとかが見たら驚くんだろうな……まさか一条家の若い男は朴念仁やらヘタレやらだとは思ってないだろうし)」

 

「(雫は俺なんかに身を預けてそんなに嬉しいのか?……深くは考えないことにしようか、雫が幸せそうならそれで構わないし)」

 

1人は友のこれからの恋路を心配し、1人は雫の言ったことを少し引き、1人は想い人にこんなことをして貰えないかと妄想し、1人は同じ家の友2人の性質を嘆いていた。総司は普通に雫が嬉しいならいいかという思考である。

 

……コートの端の方で休んでいた愛梨が総司を見つけ、その膝を上に座る雫を見て舌打ちしたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あっという間に決勝か」

 

「愛梨の試合はワンサイドゲームで終わってきている。このまま愛梨は勝つよ?」

 

真紅郎が総司と雫に宣言する。だが、雫の顔は曇らない。総司がスカウトし続けているエンジニアと同級生の力を信じているからだ。

 

雫の同級生で共に鍛えた選手である里美スバルは愛梨とコート内を目にも止まらぬ速さで打ち返しあっている。

 

「これならいけ「無理だ、里美スバルはここで負ける」……え?」

 

同校の選手の応援すらしないでここで負けると断言する総司に久しぶりに雫は総司に疑問を持つ。

 

「少し雫は数字付き(ナンバーズ)を甘く見すぎだ」

 

そう総司は言うと、愛梨のスピードがさらに早くなる。まるでボールにしか意識を向けてないかのように、スバルに対して意識を一切向けてないかのように。

 

「今の一高は確かに司波深雪を筆頭に数字付きを圧倒できる粒が揃っているが、圧倒されている数字付きは魔法師の才能に胡座をかいているやつらだけだ。日頃から自分の才能に慢心せずに自分を鍛え上げている数字付きを超えることは容易じゃない。……里美スバルは固有のスキルを使った戦術を使って上手く戦えているが……」

 

愛梨のどんどん早くなる打ち返すスピードにスバルは反応出来ずに、60対20で愛梨のストレート勝ちが決まった。最後には同時に球が全てスバルの横を通り過ぎていき、戦意を喪失したかのようにスバルはへたり込んだ。

 

「子供の頃から鍛えている愛梨に勝てる可能性は少ないよ」

 

雫やほのかは家族が優秀な魔法師であるから愛梨や栞達に勝てる可能性は高いし、雫は栞に勝っているけどね。と付け加える総司。

 

だが雫は総司の言うことを念頭から外していた。自分も勝てたからスバルも勝てるかもしれないという淡い希望を抱いていた。それがとんでもなく難しいことだと忘れていたのだ。達也の調整があるから勝てる訳ではなく、達也の調整は絶対の勝利を約束するものでは無いと思い知ったのだった。

 




尚、作者の当初の予定では石山の血を継いでいる少女が愛梨の敵になるはずでしたが、結局スバルと同じような結果になりかねないのでやめました。あとオリキャラ増やすと作者の脳が死にますし。

能力は忘却術の出力低いバージョンを連発する的な感じですね。何をやろうか忘れるくらいの忘却です。


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新人戦・アイス・ピラーズ・ブレーク

将輝は愛梨のバウンド・ボールの試合の翌日の朝、つまりは新人戦アイス・ピラーズ・ブレークが始まる少し前に総司の部屋に向かっていた。

 

総司は黒い軍服を着て、黒いコートを羽織り、軍帽を被っていた。アイス・ピラーズ・ブレークは好きな衣装を着てもいいのだが、総司は雫から

 

「これを着て試合に出て欲しい。あの金髪を説き伏せて来たんだから……!

 

と言われてこの服を着ていた。どう見ても厨二病感が抜け切れないが、雫が選んでくれたんだから着た方がいいと思って総司はこの衣装を着た。雫が眼帯を進めてきた時はさすがに断ったが。

 

これ着て大丈夫かな、一応軍の施設だよねと今更ながら心配になりだした総司だったが、扉がコンコンと叩かれたのを聞いてその心配を頭から追い出して部屋に入るように言う。

 

総司は入ってきた人物を見て顔を顰めた。これからアイス・ピラーズ・ブレークの舞台で戦うことになる兄である将輝が来たからだ。

 

「対戦相手の部屋に来るとはどういうつもりだ?」

 

「悪い悪い、だが俺は少し総司に話があるから来たんだ」

 

「……わかった、それで何の用だ?」

 

「俺はお前に勝つ、それだけ伝えに来たんだ」

 

総司は少しの間唖然となった。そんなことを伝えるためだけに将輝は来たのかと。そして再起動するとこう言い放った。

 

「俺は負ける訳にはいかない、負けたら三高に行かねばならないからな。将輝、悪いが今回も俺が勝つぞ」

 

総司と将輝は何度も訓練やら勝負やらでお互いの魔法の腕を競い合っている。勝率は総司の方が高いために、将輝に対して今回もと言ったのだ。

 

「そうか……じゃあ次に会うのはアイス・ピラーズ・ブレークで当たった時だ」

 

「そうだな……後で会おう」

 

総司がそう言うと、将輝は去っていった。総司はダウングレードされたアーカイブを持って控室に向かう。

 

「……爆裂の解禁だ。速攻で終わらせる」

 

総司はブランシュ戦で見せたあの総司に最適化された爆裂を将輝との勝負で世間に見せるのではなく、将輝との勝負の前座で使うことにした。理由は簡単で、想子を節約するため、そして将輝と早く戦うためである。

 

総司と将輝は爆裂を使うことで着々と決戦の場である決勝戦まで、着々と駒を進めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男子のアイス・ピラーズ・ブレークを観戦している男女がいた。どちらも感激したかのような表情を浮かべて総司が爆裂を使って他校の選手を倒していく様を見ている。

 

「正雪さん、私ものすごく感動しているんですが、私の気持ちが分かりますか?」

 

「分かりますよ、総司様が苦心していたあの爆裂を自由自在に使って敵を瞬殺しているのを見るとものすごく心にくるものがあります……あと他校の生徒が爆裂を使っている総司様を見て口をポカーンと開けているところを見ると何故か笑えてきますね……」

 

「それ分かります……あーもう笑いが止まりません!」

 

見ているのは石山と正雪。他にも総司の部下が何人もその周りで総司の無双を見に来ていた。

 

「しかしまぁ……雫様もいい趣味してますね〜」

 

「あぁ、あの軍服ですか。まぁ似合ってるからいいんじゃないですか?……一色のご令嬢が悲しげにスーツを持ちながらトボトボ歩いていたのはものすごく気になりましたけど……」

 

「……あれは多分雫様と激突したんじゃないですかね〜どっちが着せるかって。まぁスーツは見慣れてますから、軍服を着ている総司様はレアですよ!雫様が勝ってよかったです……!」

 

「私はスーツ姿を見たかったです。いつもの姿で九校戦に臨む総司様のお姿が見たかった……!」

 

石山の軍服派発言と正雪のスーツ派発言、総司の部下たちはふたつに別れてあーだこーだ言いながら観戦していた。

 

……部下たちが観客席を全部埋めていた訳では無いので、総司の衣装について公衆の面前で熱烈に語っているのを見た他の観客は、総司の部下たちをやべーやつらと思ってしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんのハプニングもなく、総司と将輝は決勝に進出した。別に爆裂を使用した消化試合にしかならないから細かく描写しなかった訳では無い。

 

「俺の全身全霊、今までの研鑽、全てを持ってしてお前を倒す。覚悟しろ、将輝!お前にも敗北の文字をその身に刻んでやる!」

 

「そのセリフはこっちのセリフだ、この勝負に勝って、お前につけられた敗北の数々を精算し、兄の威厳をお前に教え込む!」

 

新人戦・アイス・ピラーズ・ブレーク決勝戦、片手にアーカイブのダウングレード版を持って、一高に残るため、将輝を倒そうと最高の調整をして将輝の前に立つ総司と、クリムゾン・プリンスの異名通り、赤い拳銃型CADを持って、総司に勝って兄の威厳というものを思い知らせようとする将輝の戦いが今始まった。

 

「(爆裂は防がせてもらうぞ、将輝)」

 

総司は自分ができる最高の爆裂に対しての防御を発動した。氷を気化しようとするその作用を水を司る力で強引に押さえつけて爆烈を無効化するという荒業で、将輝の爆裂を無効化したのだ。

 

「相変わらずその力は健在か!だがお前の爆裂も俺は防御できる!」

 

総司の爆烈を領域干渉で無効化する将輝。そして偏倚解放という空気を圧縮し破裂させ爆風を一方向に当てる空気弾より発動が難しい魔法を発動する。

 

「絶甲氷盾!」

 

偏倚解放が引き起こした爆風を総司は氷の壁を氷柱の前に作り出すことで打ち消す。そして負けじと将輝の氷柱に同じ偏倚解放を発動して傷を付ける。

 

氷を何も無いところから作り出して、氷柱よりも大きい氷の壁を建てるという、明らかに現代魔法に喧嘩を売っている絶甲氷盾に会場が騒然とするも、将輝と総司は気にせず勝負を続ける。

 

「ちまちまやるのも面倒だ、アイス・バーサーカー!」

 

絶甲氷盾を発動したことによってできた氷の壁を変形させ、人型へと変貌させ、今まで作り出してきた『アイス・ポーン』や『ハイパワーライフルを持った彫像』より大きな氷の戦士を将輝の方へと向かわせる。もう会場は氷の戦士の登場というとんでも現象を見てポカーンとしている。

 

「アイス・バーサーカー!削れ!」

 

アイス・バーサーカーが巨大な拳を振るう。すると総司の偏倚解放によって傷ついた氷柱が叩き潰される。だがすぐさま将輝の爆裂でアイス・バーサーカーは気化してしまった。

 

「よし!」

 

「……忘れてないか、将輝」

 

アイス・バーサーカーは気化された。だが総司は水の形を自由自在に操ることが出来る。アイス・バーサーカーが再び蘇って将輝の氷柱を削り始める。

 

将輝はアイス・バーサーカーをもう一度爆裂で破壊しようとするが、総司がアイス・バーサーカーの気化をまたも力づくで止めて、さらに偏倚解放を放つことで将輝を慌てさせる。

 

「(これは総司の作戦だ……俺を慌てさせて領域干渉をとかせるための……!ならこれで行こう!)」

 

将輝はアイス・バーサーカーを偏倚解放の起こす爆風で総司の方へと吹き飛ばすと爆裂を連発して発動する。総司は必死で抑え込むが、将輝はこの作戦が有効と気づいて爆裂をさらに撃ち込んでいく。

 

将輝の猛攻を受けて総司は冷や汗が出てくる。

 

「(…………将輝、確かにこれはいい作戦だ。俺はこのままだと処理しきれなくなって爆裂を受け入れてしまうだろう……だがな、そう上手くは行かないんだよ!)」

 

総司は手を伸ばすとアイス・バーサーカーと総司の氷柱12個中11個を水に変化させる。そして空中に、会場中に浮かんでいるであろう水素を操作して水を生み出してゆく。

 

そして空中に水のレンズを何層も生み出し、光を収束させる。その間も将輝の爆裂が残った1本しかない総司の氷柱を襲うが、1本だけになったので防御が簡単になり、将輝の爆裂を全く意に介さない。

 

総司は位置調整に角度調整をきちんとすると、ついにその魔法を発動させた。

 

佐渡島防衛戦でも新ソ連の兵士を駆逐するために発動し、総司が『Водный император(水の皇帝)』と呼ばれ、今やUSNAの軍関係者も知ることになったその魔法を発動する。

 

「これが威力を強化し、全てを焼き切る魔法!」

 

神之怒(メギド)収束放射(レーザーバージョン)!!!」

 

とんでもない熱と光が将輝と観客を襲う。こことは違う世界の光の巨人が放つようなレーザーが放たれ、将輝の必死の防御すら意味はなく、氷は全て溶け、会場の地面が黒く焼け焦げている。

 

そして将輝の氷柱が溶けたことが確認され、レーザーの発射というとんでもない衝撃から運営が回復すると、総司の勝利が表示され、歓声が……起こることはなかった。

 

いや歓声は起きていた。総司の部下たちが歓声を起こしていたのだが、ほかの観客はそうはいかない。魔法が浸透しているこの世の中でも、こんなレーザーを見れば放心してしまうものだろう。

 

総司は何も言わずに立ち去った。インタビューが来ることは無かった。スピード・シューティングの時はあったが、衝撃が大きすぎたのか、テレビの人達も動けなくなっていた。

 

総司の発動した魔法は、九校戦で発動するにはとんでもない魔法だった。規模を変えれば戦略級魔法を遥かに超えるであろうその威力に、世の中が動き出すことは間違いないだろう。…………その前に総司を下に見ていた人間がひっくり返ることになるのは間違いなさそうだが。

 




投稿遅くて申し訳ないですが、また遅くなりそうです。


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激闘後の話

「ははは……あれは流石に……でもまぁ昔からあんな魔法を使ってたところは見てましたけど……」

 

「現代魔法と古式魔法、他にも色んな種類がある魔法ですが、あんな光のレーザーを大掛かりな装置も儀式もなしに発動できるとは……」

 

将輝と総司の決戦の終止符として放たれた神之怒・収束放射。その前にも使われた氷の兵士を操るその力、スピード・シューティングでも規格外な魔法を見せてきた総司だったが、今回のこれは総司の側近でさえも放心せざるを得なかった。

 

「昔総司様が見せてくださった沖縄の神業と同じレベルの御業ですよね〜」

 

「……あれですか、でもあんな力より私は総司様の方が恐ろしいと思いますけどね……」

 

「……1番長く一緒にいる貴女がそう言うってことは総司様の力の正体知ってるんですか?」

 

自分ですら知らない総司の力の正体を正雪が知っているのかと石山は問う。

 

「……最重要機密事項ですから言えませんね。それに人通りも多い。どこに総司様の敵がいるか分かりませんし」

 

「……まぁ国防軍の基地ですからね……それに公安の犬もいるみたいですからこんなところで話す訳にもいきませんか」

 

ここにはそれ以外にも総司の実力を知ってしまった数字付きの有力者達がいる。みだりに話して総司の不利益になることは避けたいと考える。

 

「さっさとドラゴンの住処を探しましょう。これ以上遅くなったら流石に寛大な総司様でも怒りそうですから」

 

「ドラゴンのやらかした跡ならいっぱい見つかるんですけどね〜」

 

「そろそろ総司様の堪忍袋の緒が切れそうと護衛役の人から言われてますからね……金沢の時みたいにはなって欲しくないです……工作員でも見つかりませんかね」

 

冗談を言いながら席を立とうとする2人に1人の魔法師が近づいてきた。その気配にひと足早く気づいた正雪が迎撃の構えを取ろうとした瞬間、その手が止められた。

 

「お久しぶりです、霧雨さん。話がしたいだけなのでその手刀を下ろそうとするのはやめてください。貴女の手刀は首を切断しかねないんですから」

 

「なんで貴女がここにいるんですか……遠山曹長」

 

「ここは軍の基地ですから……一条君の側近で余計なアポが要らない貴女達に話があるんですよ」

 

国防陸軍情報部首都方面防諜部隊所属の遠山つかさ。24歳で曹長にまで上り詰めている女性で、総司とたまに仕事することがある間柄である。

 

正雪は遠山のことが苦手であるが、総司の知り合いでたまに情報を流してくれるためにその気持ちを押し殺して話をしている。まぁ所々トゲが出てくるが。

 

「とりあえず、あちらの部屋で話しましょうか?」

 

「はぁ、わかりました。正雪さん、行きましょう」

 

「了解です……」

 

正雪は気乗りのしない表情で石山と遠山の後を追うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、また負けた……なんだよあの太陽光のレーザー……あんなの使ってきたことないだろ……!」

 

「お疲れ様、将輝。まさかあんな方法で破壊してくるとは思わなかったよね……」

 

アイス・ピラーズ・ブレークを終えた将輝は控え室で頭を抱えていた。その横では真紅郎が背中をトントンと叩いて落ち着かせている。

 

「氷の兵士は知ってる。爆裂も最近使えるようになったのも知ってる。嬉しそうに親父や俺に言ってきたからな。でもあのレーザーは知らないんだが!?」

 

「多分佐渡の時の光の雨じゃないかな。それを集めたものだと思う。でもそれだけじゃないと思うんだよね……」

 

「俺は深淵(アビス)みたいな魔法で来るかと考えてたんだが見事に読みが外れたな……あんな力技で来るなんて分かるわけないだろ……というか防御方法無くないか!?」

 

最初はまだ落ち着いていたが徐々に取り乱し始めたので急いで落ち着かせる真紅郎。確かに防御方法はなさそうに見える。

 

「いや、あの水のレンズを爆裂で破壊すれば何とかなりそうではあるけど……」

 

「いやそう簡単には行かないだろうな、あいつは爆裂を抑えられるからな」

 

「……というより、総司はなんであんな回りくどいことしたのかな」

 

「どういうことだ?」

 

将輝と総司の決戦を回りくどいことという真紅郎に若干の怒りを覚えながら将輝は真紅郎に問う。

 

「だって総司の力なら氷を水に変えてさっさと終わらせるって手もできたんじゃないかな?魔法を超えた神の技とも言える総司の能力なら」

 

「……その事か」

 

「何か知ってるの?」

 

「……確かにあの力は氷を水に変えるなんてことは簡単に出来る。なんなら開始の合図が鳴った瞬間に俺を負けさせることなんて簡単だ。だけどそんなことを総司はしない。決して俺を舐めているわけでも、手加減してる訳でもないさ」

 

「あいつは化け物として扱われたくないと思っているからだ。水を操るなんて今の魔法じゃできるわけがない。そんなのがバレたら化け物として扱われる可能性が出てくる。まぁ親父はそれを言いふらしてたけどな…………まぁそれは俺も理解してるから文句言うつもりもないさ」

 

「将輝……」

 

文句を言うつもりはないと言っているくせして手を強く握りしめて血を流している将輝を見て真紅郎は将輝の悔しさを悟る。そんな時、将輝の端末が通知音を鳴らした。

 

「……愛梨からか、なんだろうな…………………………オワタ」

 

「将輝!?将暉ぃぃぃぃぃぃぃ!?」

 

何が書いてあるのか分からないが、将輝は愛梨から送られてきた文章を見て震えながら崩れ落ちた。真紅郎はそんな将輝を見て叫ぶのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……負けてしまった。深雪に……」

 

総司と将輝が激闘を繰り広げていたように、女子の方でも激闘が繰り広げられていた。同率優勝を得るのではなく、雫は深雪との戦いを望み、戦って負けた。

 

実力は拮抗していた、とは言い難い。達也から教わった2機のCADを使ったパラレルキャストを使って、上級魔法であるフォノンメーザーを使ってもたった一手で逆転されてしまった。

 

「……総司は勝ったのに」

 

雫は深雪に勝って総司とアイス・ピラーズ・ブレークとスピード・シューティングどちらも同じ順位という栄光を得たかったのだろう。ついさっきほのかに慰められたというのに悲しみが再燃してきた。

 

そんな折、コンコンと雫の部屋の扉を叩く音が鳴り響いた。ほのかならノックをしないで入ってくるはずなのにと思う雫。

 

「…………?どうぞ」

 

「入るぞ」

 

入ってきたのは総司だった。扉をゆっくりと閉めると総司は雫の元に寄ってくる。

 

「どうして」

 

「……雫が司波さんに負けたと聞いた」

 

「うっ!?」

 

「正直なところ、慰めの言葉なんてどう掛ければいいのか分からないし、雫の今の気持ちも俺には汲み取れない。悔しいと思ってるくらいじゃないかってことしか分からない」

 

「……」

 

総司は心なんて読めないし、雫のことを完璧に理解している訳では無い。それはほのかがよく理解しているだろう。

 

「俺としてはこんなことしか言えないかな…………悔しいと思うなら、来年こそ司波さんに勝ちたいと思うなら夏休みに俺のところに来ないか?俺のところでフォノンメーザーや他の振動系の魔法を司波さんに勝てるレベルまで鍛え上げないか?」

 

「……いいの?」

 

「それは雫次第だ。力をつけたいなら俺のところに来てくれ。雫を来年司波さんに勝てるレベルまで鍛え上げてみせるよ」

 

「わかった、総司のところに行く」

 

総司の言う俺のところと言うのはどこか分からないが、総司が言うならとその案に乗る雫。全ては来年、深雪にリベンジを果たすため。

 

「……雫の悲しさが収まるまでなにすればいいんだ?正直俺よく分からないんだけど……」

 

「抱きしめて欲しい……総司から」

 

「……わかった」

 

総司は雫を静かに抱きしめる。総司からこのようなことをするのは初めてだ。少々躊躇いの意思が見えるが、総司は雫が望むならと抱きしめた。

 

抱きしめたあと少し経ち、

 

「……ありがとう、落ち着いた」

 

「なら良かった。じゃあ夏休みここに来てくれ。あと衣装を返しに来たんだった。また明日」

 

「うん」

 

雫が離れると総司は雫に黒い軍服を返すとそのまま扉を開けて出て行った。

 

「総司が着てた服……後で保存しとかないと」

 

ほのかに慰められ、総司に抱きしめられた雫は深雪との戦いで付けられた敗北の悲しみを和らげさせて、いつもの雫に戻ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

総司が雫の部屋から出て少し歩くと、黒いスーツを着た男性……石山が総司の目の前に躍り出てきた。

 

「情報が出揃いました、ドラゴン討伐のお時間のようですよ?」

 

「思ったより遅かったけど……情報の出処は?」

 

「国防軍の遠山つかさ曹長です。思ったより規模が大きいから総司様に助力願いたいとのことです」

 

「つかささんか……で、アジトは?」

 

「大本命が横浜中華街の横浜グランドホテル、他のアジトが横浜中に散らばってるみたいです」

 

「わかった、行くぞ」

 

総司は石山を後ろに従えて歩き出す。

 

「……石山、他に嗅ぎ回ってるヤツらは?」

 

「国防陸軍第101旅団独立魔装大隊と公安みたいですね、なんか言われたらどうします?」

 

「あの時の残党が寄り添ったのがあの組織だった、とかでいい。どちらにせよ、優秀な魔法師の将来を潰そうとしたんだ、さっさと動けるウチが潰す」

 

「了解です」

 

総司は横浜中華街に向かう。九校戦を汚そうとした汚いヤツらを掃討するために。

 




雫の部分はこれが限界です。はい。

次回は無頭竜の話です。次回もよろしくお願いします!


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撃滅作戦

「無頭竜のアジトを一切合切全部ぶち壊してやろうぜ作戦開始!」

 

「相変わらずのネーミングセンスの無さ……あと長いです総司様」

 

総司と正雪は無頭竜東日本支部の重要メンバーが巣食っている横浜中華街の横浜グランドホテルの真上にいた。空中を飛んでいるのである。それも九校戦前に発表された飛行魔法を使うのではなく、総司しかできない方法で空中を飛んでいる。

 

ほかの面々も同じ方法で飛んで無頭竜のほかのアジトに向かっている。全員が待機し終えたらこの計画がスタートする。何故このようなことをしているのか、それは一気に潰した方が楽だからという理由からである。

 

「えぇー……じゃあ無頭竜の首を切り落とす作戦!」

 

「首ないから無頭竜なんですよ?」

 

「……無頭竜爆破作戦!」

 

「爆破しないじゃないですか、私たちのやり方は隠密みたいなやつですよ?派手に爆破しないんですよ?」

 

「……文句が多いな」

 

「え、これ私が悪いんですか?」

 

総司が正雪とバカをやっていると端末に連絡が来た。

 

『総司様、A班準備完了です。いつでも行けます』

 

『総司様、B班もです!』

 

『C班準備完了〜何時でもOKです』

 

総司の元に着々と連絡が来る。総司の私兵は数人を東京と石川県に残して全員九校戦を見に来ていた。なのでこういう大掛かりな作戦でも行うことを可能にしている。

 

「……全班に通達、無頭竜のアジトに攻撃を仕掛けろ!」

 

『『『了解です!』』』

 

日本に巣食っている無頭竜東日本支部の絶滅の時がやってきた。

 

「さて、始めるか。正雪、剣の準備よろしく」

 

「え?このままグランドホテルを消すんじゃないんですか?」

 

「……それもいいが情報を抜かないと行けないし、消したら消したで面倒くさい。侵入するんだよ上からな」

 

総司が正雪の手を握り、自分と正雪の身体を水へと変える。水を司る能力とは水を操作するだけでは無い。何かを水に変えるなどの力もあるのだ。

 

総司は正雪の身体を操作してグランドホテルの屋上の隙間を伝って中に入る。後ろで絶叫している正雪は無視して排水溝の中に入って無頭竜の幹部たちがいる部屋を目指し、辿り着いた。

 

「ちょ、吐く、吐いちゃいますから……」

 

「水になってるから吐けないけど」

 

「あ、そうだった……」

 

気を取り直してから自分と正雪の身体を元の状態へと戻す。そして正雪にやたら豪奢な扉を切断させる。

 

「な、なんだぁ!?」

 

扉が細切れになると中にいた無頭竜の幹部たちが叫び声をあげる。正雪が次はどうするのかと総司の方を見ると、総司は手を幹部たちが座っている席の後ろにいる人間に手を伸ばす。

 

「とりあえず気の毒ではあるけど水に変われ」

 

無頭竜の幹部たちが次の瞬間、さらに大きい声で叫び声を上げた。

 

「ジェネレーターが水に!?どういうことだァァァァ!?」

 

「……やはり、あれがジェネレーターか。人間としての尊厳を捨てさせるその技術、胸糞悪いな」

 

ジェネレーターとは戦闘中に安定して魔法を行使できるよう仕上げられた生体兵器である。脳を弄り、薬で言うことを聞かせるその悪魔のような行いに顔を顰めながら総司はジェネレーターを全て動きもしない水に変える。

 

「少しうるさいですが、斬りますか?」

 

「ま、待て!命だけは助けてくれ!金でも女でもくれてや「黙れ」がァァァァァ!?」

 

「まだ許可出してないんだがな」

 

「申し訳ありません。ですが虫唾が走るので」

 

「……まぁいい、全員殺すことに変わりは無い」

 

その言葉に無頭竜東日本支部の面々は顔を青くする。このままだと殺される。そう思って無頭竜東日本支部のリーダー、ダグラス゠黄が総司に話しかけ始めた。

 

「何故我らを殺す!我々は君に何も「あぁ、別に俺が実害を受けたわけではないな」なら…!」

 

「お前らを殺す理由は主に3つある。1つ、九校戦に手を出した。2つ、魔法師を粗末に扱った。3つ、日本に手を出した。他にもいろいろあるがな」

 

「まさか……そうか、お前は一条総司か!!」

 

「やっとわかったのか、遅いな……あとはお前だけだ」

 

ダグラス゠黄が総司の正体に気づいたが時すでに遅い。総司が九校戦に巣食っている無頭竜の構成員を探っている時に撤退しておけばこうはならなかったのだ。

 

「な、頼む!私ならボスの情報もなんでも知っている!ボスをお呼びすることも可能だ!私の命を助けてくれ!」

 

「確かに魅力的な提案だ、教えてくれ」

 

「分かった!」

 

ダグラス゠黄は首領の名前、住まい、行き付けのクラブなど洗いざらい吐いた。総司はそれを静かに聞いていた。

 

「これで全部だ、さぁ私を「さよなら」な、何故……」

 

指をダグラス゠黄に向けて水のレーザーを放ち、静かに殺した。死に際に総司を見ていたが、総司はその視線を気にしなかった。

 

その後死体を全て水に変えて蒸発させた。正雪の斬撃で飛び散った血も、何もかもが全てが蒸発し、ただの綺麗なホテルの一室の状態になった。

 

「こっちは終わったが、そちらはどうだ?」

 

『ちょっと精神干渉系の魔法を使うジェネレーターに苦戦してます!応援誰か来てください!』

 

「了解した、行くぞ正雪」

 

「わかりました」

 

総司は水蒸気を操作して正雪とともに浮き上がる。どうやって持ち上げているのか、それは総司にしか分からない。空中を飛ぶ方法を水を司る力でやるにはと考えてなんかできたらしい。突入前のグランドホテルの真上に飛んでいたのもこの方法だ。

 

『あ、こっちも応援お願いします!ちょっとハイパワーライフル持ってる奴らが多くて!』

 

「あぁ、わか『こっちもです!なんか直立戦車出してきて苦戦してます!』はぁ!?『アンティナイトがキツイのでこっちもお願いします!』……分身を一班に一人つけとくんだった!救援要請出してる奴ら、座標を教えろ!」

 

『『『了解です!』』』

 

総司が少しやっておくべきだったことを嘆いていると座標がスマホに送られてくる。

 

「……よし、数は把握……神之怒(メギド)!!……は使えないんだった。夜だからなぁ……光が無い……ならこうだな」

 

「え?どうするんですか?」

 

正雪が聞いてくるが、総司のCADであるアーカイブにはこういう状況のための魔法もある。

 

「形状決定……ハルバード、ロングソード、三叉槍、破城槌。偽・王の財宝(フェイク・ゲートオブバビロン)……発動」

 

総司は氷の武器を神之怒を発動しようとした時に形成した水のレンズから大量に亜音速で放射する。

 

英雄王のような性能の武器では無いものの、殺傷性と刺突に特化した殺意の高い武器が直立戦車以外の制圧を妨害する敵を串刺しにする。

 

直立戦車には破城槌を両横から射出して押し潰した。直立戦車を押しつぶさなければならなかったので水のレンズも大きくしたようだ。

 

『……こちら直立戦車沈黙。あとはおまかせを!』

 

『アンティナイト部隊、全員死にました!行くぞお前らァァァ!』

 

『クソうるさかったハイパワーライフルの音が聞こえなくなった!よし、総攻撃開始ィィィ!!』

 

魔法師の弱点を的確に攻めてきた奴らを総司が倒すと私兵は全員、宛てがわれた所を全て制圧した。

 

ちなみに数あるアジトの中で直立戦車を出してきたのは1つだけだったらしい。

 

「……直立戦車なんてどうやって持ってきたんだ?そこだけめちゃくちゃ気になるな……少し横浜中華街を洗う必要がありそうだな……こんなことならそこの構成員だけ生かしておけば良かったが……もう片付けられてるならしょうがないか」

 

日本は直立戦車を作っていない。どこからそれが来たのか、その疑問がとあることに繋がるのだが、そのことをまだ総司は知らない。




神之怒は夜には使えないことを知ってどうしようか悩んだ末に王様に縋りました。

総司以外の転生者を無頭竜の用心棒として出してみようかと思いましたが、書いててこんがらがったので出しません。あと総司のチートが加速してるので中途半端なの出しても瞬殺ですし。

──追記
水を操作して記憶を読み取るというところを書き換えました。指摘があったのでよくよく考えたら水と神経は関係ないよなと思って変えておきました。

……あと偽・王の財宝も指摘がありましたので少し変えておきました。確かにロングソードとかだと直立戦車の装甲貫けませんもんね……

指摘してくださったメリクリウス様、透明紋白蝶様、ありがとうございました。


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新人戦・モノリス・コード/再成の持ち主

テストが終わったので投稿します。


「勝手なことをしないで欲しい。君はまだ学生の身だろう」

 

「……『大天狗』風間玄信少佐ですか。いや申し訳ない、この間潰した組織の幹部が無頭竜東日本支部に逃げていたことが分かりまして」

 

総司が正雪達と無頭竜東日本支部を壊滅させ終わって2日が経った。その間新人戦ミラージ・バットがあったが、第一高校が一位と二位の座を手に入れている。

 

2日経ってからようやく異変に気づき、こうして総司の元にやってきたのは風間玄信。国防陸軍第101旅団所属の独立魔装大隊の隊長である。

 

「屁理屈を言ってくれるな」

 

「そもそも俺がこうやって動くのは許可されている事だということをお忘れでしょうか?」

 

「……分かってはいるが」

 

総司が金沢周辺付近の闇に紛れる裏社会の組織を子供ながら部下を率いて滅ぼすことが出来たのはとあるところからの許可があったからである。風間もどこから来た許可なのかはわかってはいないが、直属の上司からこの件に手を出すなと言われている。

 

「風間少佐、ひとつお聞きしたいことがあるんですが」

 

「何かな?」

 

「摩醯首羅について教えていただけませんか?教えていただければこれから我々が得た情報を貴方方にも流させていただきます」

 

実を言うと総司はほとんどの国防軍の者と仲良くない。遠山つかさと国防軍の情報部という例外を除いて、総司は仕事を奪っていく厄介者と思われている。

 

総司も邪険に扱われるのもここまでにして国防軍のどこかの部署と協力して事に当たりたいと考えていた。戦力は足りているが人手は多い方がいいと思っているということもある。

 

だが無償で「協力させてくれ!」というとこちらがなめられるため、摩醯首羅という情報とこれからの情報の交換でどうかと願い出たのだが……

 

「摩醯首羅など私は知らないな……他を当たってくれ」

 

「そうですか、では俺はこれで」

 

シラを切られたと総司は思った。摩醯首羅の情報は使う魔法のことと日本の魔法師ということだけ。再生と分解を操るその魔法師は誰なのか知りたかったが、答えないなら仕方ないと思って総司はこれから始まる本戦 ミラージ・バットの観戦に向かうのだった。

 

「(流石に情報の釣り合いが取れていなかったか……夏休みに戦力増強を狙わないとな……飛行魔法も効率よく使わないと……)」

 

凡そ高校生の考えるものでは無いことを考えながら。

 

その後、総司は新人戦モノリス・コードの代表選手が追い詰められた対戦相手の放った過剰な魔法攻撃(オーバーアタック)によって出場停止になり、代わりの選手として達也と達也の推薦した二科生が出ることを知るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これまた珍しい形のCADを持ってきたもんだな……硬化魔法を応用して刃を飛ばすなんて普通思いつかないと思うんだが」

 

「あれよく持ってましたよね。普通の規格のCADじゃないですよ……」

 

「達也さんが知り合いに作ってもらって送って来られたジョークグッズって言ってた」

 

「ご都合主義が過ぎるだろ……」

 

総司と雫、そして石山という割と異色な組み合わせが新人戦モノリス・コードの試合を観戦している。エリカなどの面々とは別で観戦しているのは石山がいるからだろう。雫は総司を探しに行ってそのままこうなった。

 

彼らは今、レオが対戦相手をなぎ倒すのに使っている武装一体型CADの中でもあまり見ないCADである小通連に注目していた。

 

「使い手も中々ですね、正雪さん程ではありませんがパワーがあります」

 

「正雪はもうゴリラみたいなもんだからなぁ……」

 

「いやいや、あの西洋剣はかなりの重さを誇りますし、それを魔法無しで持ち上げて尚且つ凄まじいスピードで振りますからゴリラの中のゴリラですよ、正雪さんは」

 

「「あははは!」」

 

「2人とも、後ろ……」

 

総司と石山がレオの小通連の威力にも目をつけ、身近なパワーがエグい正雪と比べて正雪をゴリラと称していると何故か顔を青ざめさせている雫から肩を叩かれて後ろを向いた。すると……

 

「あははは……誰がゴリラを超越したキングオブゴリラなんですか?」

 

「……俺は比喩で言っただけだ、キングオブゴリラだと断定したのは石山だから俺は悪くない」

 

「ちょ、総司様!?ってギャァァァァァ!?」

 

怒り狂ったわけではないが般若みたいな化身が後ろにいる正雪がそこにいた。責任転嫁されて石山は撃沈した。ついでに総司にもゲンコツが落とされた。総司はたんこぶが出来た頭を抑える。

 

「……私としてはあの古式魔法師に目が行きますね。索敵に鎮圧など多種多様なことが魔法で全て出来るのは少し羨ましいところです」

 

「こ、細かい作業は全て私に任せきりですからね……さすがのうき「またやられたいですか?」……すいません」

 

正雪は達也の推薦でチームに入ってきた吉田幹比古の古式魔法の多様性に目を惹かれたらしい。茶々を入れた石山は氷のような睨みを受けて瞬時に縮こまった。

 

「吉田家の次男は俺と同じで評価は良くなかった気がするが……力を保管していたのかな?」

 

「ううん、スランプに陥っていたのを達也さんが助けたみたいだよ、総司」

 

「……司波くんはとんでもないな。ジョークグッズを持ってくる上九校戦の試合に投入したり、吉田家の次男のスランプを解決したりと……本当に同級生か疑わしいんだけど」

 

「貴方がそれを言いますか」

 

「総司が1番言っちゃダメな言葉だと思う」

 

「総司様…少し自分のやってきたことを思い返してください……ね?学生のやることじゃないでしょう?」

 

「従者と友達の言葉が辛い……!」

 

吉田幹比古は神童と言われていたが力を失って評価が下がったという話を聞いていた総司は自分のように力を隠していたのかと考えていたが、そうではなく、達也がスランプを解消させたと聞いて達也のチートぶりに頭を抱えそうになった。

 

まぁ一瞬でお前も同じようなもんだと雫達に言われてしまったが。

 

「このまま行くと総司のお兄さんとぶつかることになるね」

 

「……なんかやな予感するなぁ……」

 

順調に勝ち進む達也達を見て雫が呟いた言葉を聞いて将輝がなにかポカをやらかさないか少し不安になる総司だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マジでやらかしやがったアイツゥ!?」

 

「落ち着いて総司!?」

 

「貴女もですよ雫さん!」

 

総司の懸念通り、将輝はやらかした。新人戦モノリス・コード決勝戦は草原のステージで将輝率いる第三高校チームと達也率いる第一高校補欠チームが激突した。

 

薄いマントを硬化魔法で盾にすることで真紅郎の不可視の弾丸(インビジブル・ブリット)を防いだりとここでも達也の作戦が見れて総司は今度は何が出るんだろうとワクワクしていた。

 

そんな中、事件は起こった。障害物がほとんどない草原のステージで将輝と達也は偏倚解放と術式解体を撃ち合って互いに近づいていっていた。

 

撃とうとしていた偏倚解放を全て破壊されるというあまり遭ったことのない状況に将輝は追い詰められて操作が鈍ったのか想子の量を多めに使って普通の威力より遥かに高い偏倚解放を放ってしまったのだ。

 

「……いや待ってください。無傷じゃありません!?」

 

「どうなってるんでしょうか……」

 

「……見つけたかもしれない」

 

「「「え?」」」

 

だが達也は骨折するほどの威力の魔法を食らっても立ち上がった。その姿に総司は目を見開いて呟いた。その言葉に3人が総司を見る。

 

「ハハハッ……こんな身近にいたのか……いやまだ確定はしてないけどさ……どう見ても普通に動いてるよ!あの威力の魔法を食らって!再成か!再成なのか!再成なんだね司波くん!!」

 

「お、落ち着いて総司!」

 

ずっと、沖縄の時の大亜連合侵攻の時に現れた神の如き力を振るった摩醯首羅を探し求めてきた。それに当てはまるかもしれない存在を見つけて総司はキャラが崩壊した。

 

いつもの総司ではなくなった総司を見た雫が慌てて落ち着かせることで総司は少し落ち着いたが顔から笑みは消えていない。

 

「直立戦車の件もあるけど追加でいいかな?」

 

「え、はい」

 

「司波達也の過去の情報を探してきてくれ、主に沖縄侵攻の時の渡航記録とかをさ」

 

「わ、わかりました」

 

いつもの冷静な総司をずっと見てきた石山や正雪も困惑しながら総司の頼みを承諾した。

 

この試合は達也率いる第一高校補欠チームが優勝した。見事急な試合を乗り切り十師族の将輝を踏み越えた達也に新たな災難がやってくることを、まだ達也は知らない。




達也くんが再成を使ったことでキャラが少し狂った総司。今後もちょくちょくこうなると思います。


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本戦・ミラージ・バット

投稿遅れて申し訳ないです!TS劣等生の婚約者もよろしくお願いします!


総司がモノリス・コードにていつもは見れない様子を見せた翌日、総司は頭を抱えていた。理由は簡単。なんであんなことやっちまったんだろうと。

 

「いくら2年前から探している再成と分解の持ち主かもしれないのが司波くんだからってあの暴走はやばい。石山と正雪はまだいいけど雫に見られちゃったしな……」

 

「総司、入るね」

 

「(し、雫!?)」

 

落ち込む総司の元に雫がやってくる。いつもなら動じることは無いのだが、今回はやらかした後だ。様々な企業に対して支援を持ちかけたり、ホクザングループに企業を誘致させるなどを行っているために顔に出すことは無いが、心の中では動揺しまくっている。

 

「今日は深雪が出るミラージ・バットだよ?早く行こう」

 

「あ、あぁ(……気にしてないのか?)」

 

やらかしたことについて全く触れてこないことを不審に思いながら総司は雫について行く。そして部屋から出ようとした瞬間、雫が口を開く。

 

「あの時のことは夏休みの特訓の時に教えてね」

 

「……わかった」

 

忘れられているなんてことはなく、総司は自分のやらかしたことだ、仕方ないと割り切り、雫に対して自分の目的を雫の特訓を行った後に話すことを決意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っ!」

 

「むっ……!」

 

雫に連れられてミラージ・バットの観戦席に向かおうとしている総司の目の前に愛梨が現れた。愛梨はミラージ・バットの試合に使う服を着て、栞と一緒に歩いていたのだ。

 

会った瞬間にバチバチと目から黄色い稲妻を出して睨み合う二人を見て栞はため息をつく。

 

「随分と余裕そうだね、流石稲妻(エクレール)。調整とかしなくていいの?」

 

「もうやることが終わったからとデートですか。いいご身分ね、北山雫……!」

 

「総司、おはよう」

 

「おはよう栞」

 

総司を取り合うライバルとして負けられない2人は言葉による応酬を繰り広げる。そんな2人を尻目に栞と総司は普通に挨拶する。

 

「愛梨、応援してるぞ。ミラージ・バットでも優勝できることを期待してる」

 

「私の対戦校に所属しているのにそんなこと言っていいのかしら?まぁ素直に受け取っておくわ」

 

愛梨は総司に応援してると言われて顔をほんのりと赤く染めながら礼を言う。少し言葉がキツイかもしれないが、内心とても嬉しがっている。

 

だがそんな2人の様子が気に入らないのか雫はジト目を愛梨に向ける。雫のジト目に耐えきれず愛梨はこほんと咳払いした。

 

「行きましょう、栞。あの司波深雪は油断ならないし、調整を完璧にこなしておかないとね」

 

「ええ、じゃあね総司、北山さん」

 

愛梨と栞はそのままスタスタと歩き去っていった。

 

「……もう少し愛梨に対しての口調、どうにかならないか?」

 

「ふん!」

 

いくら総司の言葉であってもそれだけは認められないと、雫は顔を横にそらして嫌だという意思を総司に示した。

 

それからまた少し歩くと今度は達也と深雪がやってきた。2人がやってくるのを見て、大丈夫かなという目を総司に向ける雫。だが総司は雫の懸念とは違うことをした。

 

「……兄が過剰攻撃(オーバーアタック)をしたことに対して謝罪させて欲しい」

 

「……いや大した怪我は無かったから大丈夫だ」

 

「頭をあげてください、そもそも貴方が悪い訳では無いでしょう!」

 

「そうだ、それに十師族に頭を下げさせたなんてことが知れたら噂に尾ひれが着く」

 

総司は深々と深雪と達也に向けて頭を下げたのだ。頭を下げた理由は家族の行ったことについて。

 

「俺は十師族の中でも評価が低い。俺が頭を下げたところで尾ひれが着くことなんざ皆無だ……俺の頭などで溜飲が下がるとは思えないが、家族の行ったことについて頭を下げない訳には行かないんだ」

 

その言葉を聞いて謝罪を受け取った司波兄妹。総司はようやく頭を上げると達也に紙を手渡す。

 

「俺の財界で動いている時の電話番号だ。俺ができることなら1度だけなんでもしよう……誠に申し訳無かった」

 

総司は再成を見て舞い上がって狂喜乱舞していたが、同時に兄である将輝の行いについて静かな怒りの炎を燃やしていた。もしその怒りの炎がもっと大きければ狂喜乱舞などせずにいたかもしれない。

 

「あぁ、ありがたく受け取っておく」

 

「では私たちはこれで」

 

深雪と達也が去っていく。2人を見送ってから雫が総司に尋ねた。

 

「あれ、渡しちゃって良かったの?」

 

「……いやいいだろう。司波くんとの繋がりがこれでまた強化された。近い未来、俺や雫の所に司波くんが来てくれるかもしれないしな」

 

謝罪の気持ちとしてのものであるはずなのに、それを利用して繋がりを強めようとする総司に抜け目がないと思いつつ、雫は優れた調整技術を持つ達也が来る未来を予想して嬉しそうにする。

 

 

 

だが、2人が予期した未来とは違った未来が2年後、実際に訪れることになるとは、まだ総司も雫にも予想することが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あははっ、飛行魔法か。驚いたなこれは……」

 

「大丈夫、総司?発狂しない?」

 

「大丈夫だ。それにしても飛行魔法とは畏れ入る……本当に欲しいな、いやマジで」

 

総司の背中を擦る雫に大丈夫と手を向ける総司。総司と雫は今2人で観戦していた。何故2人で観戦しているのか、その理由は簡単。総司が発狂しても大丈夫なようにである。

 

そして総司と雫は空を見上げていた。ミラージ・バットは本来、跳躍魔法を使用して光の球体を叩いてポイントを得る競技で、滞空時間はとても短いのだが、たった今見せたものは今までのミラージ・バットの常識を根底から覆すものだった。

 

飛行魔法、最近新しく魔法師の常識を塗り替えたその魔法は、今度はミラージ・バットに投入することでミラージ・バットの常識を塗り替えたのだ。

 

使ったのは司波深雪。飛行魔法を調整したのは司波達也だろう。

 

滞空時間が短いとかいう話ではなく、空を自由に飛びまわり、球体を何個も壊していくその姿はまさに妖精であり、見るもの全てを容姿と併せて魅了していた。

 

「……一色愛梨、勝てるのかな」

 

「……分からないな、これは」

 

そんな深雪が飛びまわる様子を見て2人はそう零したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

飛行魔法とかいうミラージ・バットにおいてのチート魔法が使われてすぐに他の高校も飛行魔法を使い出した。そんな中、飛行魔法を使っていない魔法師が1人だけ存在していた。愛梨の事だ。

 

「栞、調整はどうかしら?」

 

「……これで多分行ける。これなら愛梨が本当の稲妻になることが出来るはず」

 

別に出し惜しみしている訳では無い。第一高校以外の他の高校に配られた飛行魔法はさらなる力を元々強者である生徒たちに与えた。

 

だが愛梨はそれをまだ使っていなかった。

 

「……まさか、これを使う羽目になるなんてね」

 

「……迅雷(ライトニング)だっけ?」

 

「ええ。稲妻と同じ速さ……ううん、稲妻になれる魔法。私が普段使う魔法よりも早いけど、扱いが難しいから総司から渡されたのに使わなかった魔法……だけど、司波深雪に勝つために私はこれを使うわ」

 

「真紅郎に手伝って貰えなかったらこんな短期間で合わせられなかったわよ……とりあえずこの魔法の魔法名は疾風迅雷(ライトニング・ストーム)……これで決勝で司波深雪に勝ってきなさい!」

 

「必ず勝つわ!」

 

総司から貰った魔法と飛行魔法を組み合わせた魔法を持って、稲妻こと一色愛梨が司波深雪と相見える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本戦ミラージ・バット決勝戦、その会場には思い思いの煌びやかな衣装に身を包んだ少女たちがいた。その中でも一際輝いている少女が2人。

 

1人はアイス・ピラーズ・ブレークにてとんでもない魔法力を見せつけ、難易度の高い魔法をふたつも使いこなして優勝して見せた司波深雪。

 

もう1人は稲妻(エクレール)という異名をリープル・エペーで轟かせ、危なげなくクラウド・ボールで優勝した師補十八家の一色愛梨。

 

この2人がこの決勝の台風の目になり得ることを見ている観客も、参加している選手もそれを悟っていた。

 

「(私に完璧な調整をしてくださったお兄様の為に!必ず勝ちます!)」

 

「(総司、そして北山雫!見てなさい、私が勝つその瞬間を!)」

 

2人がそれぞれの決意を胸に抱き、カウントダウンが始まった。そして決勝戦が始まった。

 

深雪は始まって直ぐに飛行魔法を使用して、熟練の動作と言っても過言では無い動きで球体を叩いて着実にポイントを得ていく。

 

「(さぁ、始めるわよ!)」

 

そんな深雪の動きを見ても全く動じない愛梨。そして愛梨は栞と真紅郎が作り出した魔法を発動させた。

 

発動させた瞬間、愛梨の身体が高速で球体の所まで移動させられ、すぐさま別の所へと移動させられる。もちろん愛梨は移動させられる前に球体を破壊している。

 

明らかに違うそのスピードに深雪を含めた選手が驚いている。

 

疾風迅雷とは、総司がノリで作り出した最高スピードを身体に負荷をかけて一瞬で生み出すことが出来る迅雷と飛行魔法を組み合わせ、なおかつ迅雷によってかかる負荷を減らした複合魔法である。

 

疾風迅雷は移動する際に稲妻を使って精神から直接身体へと進む方向を入力しないと使えないため、これは愛梨にしか使えない魔法でもある。

 

身体に負荷をかけるため、いくら弱めていたとしても長時間の使用によりかなりの負荷がかかるはずだが、愛梨は長い間リープル・エペーで鍛えてきた体力と総司への思いで耐えている。

 

深雪が愛梨のいない所の球体を叩こうとしても、愛梨はすぐ様反応して深雪の叩こうとした球体を叩いていく。

 

「(お兄様に完璧な調整をしてもらったのに!?)」

 

「(身体がキツイ!今にも魔法が使えなくなりそう……!だけど……負けられない!!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合結果は、愛梨の勝ちだった。決勝戦まで跳躍魔法を使用し、最後の最後で飛行魔法を使えば深雪が優勝していたかもしれない。だが、この試合の勝者は愛梨である。

 

「勝ったわよ、総司!」

 

「おめでとう、愛梨。まさか迅雷を使ってくるとは思わなかった。使ってくれてありがとうな」

 

総司の言葉に愛梨は頬を赤く染める。ミラージ・バットが始まる前のような、ほんのり赤くではなく、本当に赤くなっていた。

 

この時ばかりは雫も邪魔したりしない。雫も仲が悪い愛梨に対して賞賛の拍手を送っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……申し訳ありません、お兄様。負けてしまいました」

 

「一色選手があんな隠し球を持っているとは思わなかった俺も悪い。気にするな、深雪」

 

「でも……」

 

「来年、必ず勝つぞ」

 

「…………はい!!」




飛行魔法を使ったのは本戦に出てる他の選手が強かったから。愛梨に苦戦している様子は見られなかったし、オリ主の強化を含めてカーディナルと数字的連鎖を完璧に扱えるほどの頭脳を持つ栞が調整すれば勝てるんじゃないかな?と思ってやってみました!


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九校戦を終えて

疾風迅雷(ライトニング・ストーム)……肉体に負荷を掛けてスピードを雷のようにして、さらに稲妻(エクレール)を使って方向転換……本当に無理したな、愛梨」

 

「勝ちたかったから……司波深雪に勝ちたかったから、仕方ないわ」

 

「……はぁ。どうして雫もお前もこう負けず嫌いなんだかね……」

 

総司はため息を吐く。ミラージ・バットを終えた翌日、総司は病室にいた。いつも一緒にいる雫はいない。用があるからとほのか達の方へ向かわせて、今頃本戦モノリス・コードで十文字克人の無双劇でも見ているのではないだろうか。

 

「骨は折れてないが身体が随分と疲れている。脱臼しているところもあるな。それに精神も疲労していてとても動ける状態では無いな」

 

「医者にも言われたわよ、それ」

 

「……こうなったのは俺が迅雷を渡したからでもあるからな。責任は取る」

 

「……責任って?」

 

クールに振舞っている愛梨だが乙女である。好きな総司から「責任は取る」という言葉を聞いて病床で寝ていながら頬を少し赤く染めている。

 

「俺の能力ならお前の肉体の修復も可能だ」

 

「……ちょっと待って、貴方の能力は水を操る能力よね?どうやって治すのよ……!」

 

愛梨の疑問は最もである。水を司る能力を持つ総司が肉体の修復や疲労を回復させることなんて不可能だと思うだろう。

 

「愛梨、お前はRPGのゲームをやったことがあるか?」

 

「……少しだけならやったことあるけど」

 

「だいぶ前に俺の秘密を知ってる部下がな、ゲームでよく見る回復薬とか作れないのか、と俺に聞いてきた」

 

「……」

 

「俺は戦闘しか使えないと思っていたんだが、よくよく考えてみたら温泉とかの効能とかって再現出来たっけと思ったわけだ……で、再現しようとしたら出来た」

 

総司の秘密を知っている部下とは正雪のことである。正雪は酒に酔ってこんなことを聞いてきたのだ。

 

『総司しゃまぁ〜疲れましたぁ〜』

 

『……珍しく酒に酔ってるな、普段のお前なら酒をそんなに飲むわけないのに……』

 

この時の正雪は長いこと任務に没頭していたため、ストレスが溜まっていた。そのストレスを解放するために酒に溺れたというわけだ。で、酔った。

 

『総司しゃま〜ゲームの回復薬ってつくれないんですかぁ〜』

 

『ちょ、本当に酒臭いから……回復薬?』

 

『総司しゃまなら作れますよね〜、ねぇ〜』

 

正雪のその言葉によって総司はなんか覚醒した。

 

正雪が酒臭いとかだる絡みしてくるとかは一切合切無視して総司は正雪が言っていたそれを再現して見せた。

 

水の成分を変えるという力は簡単ではなく、最初は鰹節の出汁をとった水とかそんなものしかできなかったが、最終的にはなろう小説とかによくあるポーションが再現できるようになったのだった。

 

「……それ治癒魔法超えてないかしら?」

 

「他にも俺よりすごいのあるからセーフ」

 

「……で、それってどこにあるの?」

 

「俺の身体だが」

 

「……は?」

 

「俺の身体の中でそれを今生成している。いつもは小瓶の中に入れて保管しているんだが、さすがに金沢の俺の事務所まで取りに行くのはめんどくさい」

 

総司は淡々と話しているが愛梨はポカーンとしたまま動かない。

 

「さてと」

 

「ちょっと待ちなさい!どうやってそのポーション?を私に使う気なの!?」

 

「身体の中に入れるんだよ、口からでもどこでもいいんだけど……」

 

「ちょ……」

 

愛梨は顔を赤く染める。試合を終えた後よりも赤い。好意を寄せる総司がキスをするようなことを言ったからだろう。だがそんな淡い期待は簡単に打ち破られることになる。

 

「まぁ腕から注射して流動させる方が楽だからそっちにしようか」

 

「……ガクッ」

 

寝ているから項垂れて地面に這い蹲るのは無理だが、動けたら間違いなくそうしようとするくらいには愛梨は落ち込んだ。

 

「(2つの競技優勝したんだからこれくらいのご褒美があってもいいじゃない……!?)」

 

ちなみに総司の作ったポーションは肉体と精神の状態を完璧に治癒させた。売ってもいいんじゃないかと愛梨は言ったが、総司は売る気は無いようだ。

 

「勿体ないわね……」

 

「これが大亜連合やら新ソ連やらにでも流通してみろ、最悪の事態になりかねない。この国を守るにはこれを流通させるのは得策じゃないよ……それにこれ以上煩くなるのは仕事の邪魔になるし」

 

「?」

 

総司の言葉に首を傾げる愛梨。もう立ち上がれるくらいには回復しており、最後の後夜祭のパーティーには出れるようになっていた。

 

「アイス・ピラーズ・ブレーク、スピード・シューティング、そして先のブランシュ壊滅などの功績で評価がガラッと変わったようでね、九島と四葉、十山、愛梨達の家以外が俺の事務所に電話を掛けまくってるんだよ……」

 

『あの魔法はどうなってるんだ』『なぜ隠していた』など色んな声が一条家と総司の仕事の事務所に届いていた。元より事情を知っていた家や、総司のことを気にしていない家などは連絡してこなかったが。

 

「あらら……」

 

「あらら……じゃない……仕事にならないって事務所の職員が言ってくるからどうしようか悩んでるんだからな……」

 

そんな総司の様子にそういう事情をまだよく理解していない愛梨は押し黙るしか出来なかったそうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………将輝の気持ちがよくわかるよ」

 

「将輝はあれに付き合ってるのよ?」

 

「あいつ偉いな」

 

愛梨は無事退院し、総司とともに九校戦終了後のパーティーに出ていた。少し遅れて出席したようで学生が男女で踊っていた。

 

総司の評価が上がり、少しでも縁を作りたい魔法師の名家の令嬢や総司と踊りたいという女子学生が詰め寄ってきたが、そばにいた愛梨がそれを弾く。

 

「私も総司がいるから踊らなくて済むわね」

 

「そんなにいやか?」

 

「えぇ、下心が透けて見えるわ」

 

「……愛梨は綺麗だから仕方ないと思うけどな」

 

「あら、ありが…………え?」

 

愛梨は自分が持つ美しさとその実力や名声によって近づいてくる者が苦手なようで辛辣な言葉を吐いている。

 

そんな時に総司がいつもは言わないような褒め言葉を言ったので愛梨は反応が遅れた。

 

「(……え、今綺麗って言った?)」

 

「まぁ踊らない訳にも行かないだろうし……愛梨、少し俺と踊らないか?」

 

「…………えぇ、踊りましょうか」

 

愛梨は総司の言葉を反応を少し遅れさせてから了承した。総司も案外慣れているようで愛梨をリードして踊りの輪の中へ入っていく。

 

「……謝ったのかな?」

 

「え?」

 

総司の目に深雪と将輝が踊っている様子が映る。楽しげに踊っているので将輝は達也と深雪にオーバーアタックについて謝れたのかな?と思う。

 

総司と愛梨、深雪と将輝。2組のダンスは周囲で踊っている人すら魅了していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「疲れたな……結局色んな人と踊る羽目になった」

 

「お疲れ様、総司」

「!……雫か」

 

総司は愛梨と踊ったあと沓子や栞、そして他の学校の生徒数人と踊ることになってしまった。

 

そのせいで少し疲れてしまい、総司はパーティー会場の外の庭で疲れをとっていた。

 

雫はそんな総司を見ていたらしく、総司の後をつけていたということらしい。

 

「……夏休みからよろしくね、総司」

 

「あぁ、任せてくれ。必ず雫を勝たせてみせるさ」

 

総司は雫の訓練を九校戦終了後に行うことを約束している。

 

「……ねぇ、総司は将来どうするの?」

 

「……俺は俺の夢を叶えるために動く。それだけかな」

 

「そう……」

 

総司の夢というのがよく分からないが、まだアプローチの余地はありそうだと雫は思う。

 

「…………踊ろう」

 

「え?」

 

「最後がよく知らない人なのは後味悪いし、雫と踊ってないからね……どうかな?」

 

「……うん!」

 

月の光に照らされて2人は踊った。疲れ果てるまで踊り続けた2人はとても楽しそうだった。




……なんか長かったなと思います。後よくエタらなかったなと思います。リロメモで星4イベントキャラが全く出なかったり、呼延灼とかのFGOの欲しい星5キャラが出なかったりで落ち込んだりして時間がかかったんですがね……

番外編的なのを予定しています。

①雫の訓練
②追憶、正雪・石山との出会い
③総司のお見合い?

をやろうと考えてます。①と②は必ずやりますが、③はたぶんやる気がなくなりますね。そのまま横浜騒乱に行きそうです。

TS劣等生の婚約者は少し遅くなりそうですね。今八男って、それはないでしょう!と無職転生にハマってて遅くなりそうです。あとモルガン祭とか。

まぁこれからも気長に待ってくれると嬉しいです。来年は受験が本格的に始まるのでもっと投稿スピードが遅くなりそうですしね。


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雫の特訓①

「…………や、やっと終わったぁ…」

 

総司の気の抜けた声が総司の事務所に響く。周りには机に頭と腕を乗せて半分気絶している職員が沢山いる。

 

職員は全員総司の件について問い合わせてきた十師族や有力な魔法師の家……まぁ端的に言えば総司をこれまで馬鹿にしてきた奴らがこぞって文句やらなんやらを投げかけてきたのを一個一個丁寧に片付けていたのだ。

 

職員だけにやらせる訳にもいかないので総司もやっていたが、電話を掛けたのが総司なのがバレると厄介なので声帯を自分の体を操って変化させて違う声で対応していた。結果、ストレスと細かい操作で疲れてしまったのだ。

 

「やっぱり効かないんだよな……」

 

総司が回復薬を作れることを知った石山(総司の能力は知らない)がAP回復薬、俗に言うスタミナ回復薬を作れるか聞いてきて作ったものを口に含むが、総司には効かない。

 

回復薬も総司には効き目が薄い。どうやら自分の身体から生成したものは使っても身体に戻るだけなので効き目が薄いらしい。

 

職員には効くのだが、それを使うことはしない。もうずっとそれを服用して連勤しているので休ませてないといけないからだ。とりあえず総司は職員を寮の中に1人ずつ入れてきた。

 

「明日、雫が来る日だな……とりあえず準備しとくか」

 

総司は自身が持つCADであるアーカイブから抽出した魔法を入れて置いたCADを何個か用意したあと死んだように眠ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『本当に忙しい時期に申し訳ないね、総司くん』

 

「いえ、こちらから申し出たことですから」

 

『そう言ってくれるとありがたいな、じゃあ雫のことお願いするよ』

 

翌日、雫が来る少し前に潮から連絡が入っていた。総司に起きた沢山の連絡を潮は知っていたらしく、総司の身を案じていたが、その心配が杞憂だとわかると雫のことを頼んで電話を切った。

 

ちなみに総司は今、分身体で動いている。本体は昨日までの怒涛の連絡で疲れ切っているため、本体の活動を停止させることで休養を取っているのだ。

 

「……とりあえず、仕事の方はもう一方の分身体に任せるとしようかな」

 

……前言撤回、休養なんて取ってなかった。ふたつ分身体を動かしている時点で休養なんてあったもんじゃない。

 

そんなことを考えていたら一台のコミューターがやって来て雫が降りてきた。

 

「おはよう、総司」

 

「いらっしゃい、雫。金沢まで来させて申し訳ないね」

 

「総司が忙しいのは知ってるから大丈夫」

 

総司の事務所には何回か来たことがある雫。総司が鬼電の嵐のせいで忙しいことも知っており、ここに来る前に達也達と海で遊んだりしたがそれには呼ばなかった。

 

総司が仕事やらで来れなくて申し訳なさそうにするのをいつも見ているからだ。

 

「今日から夏休み明けまでここにいるってことで大丈夫かな?」

 

「うん。私は大丈夫だけど、総司は大丈夫なの?」

 

「大体一段落着いてるから大丈夫だよ」

 

総司の予定を心配する雫だったが、総司は問題ないと言った。だがそれは嘘、総司は分身体を仕事のために1体動かしている。一段落着いているわけが無い。

 

「今から訓練を始める?それとも少し休んでからにする?」

 

「訓練やるから休みは大丈夫。コミューターで少し寝てきたし」

 

「わかった」

 

総司は雫を自前の訓練場にまで連れていく。その訓練場は今は私兵の魔法訓練に使われているものだが、大多数の私兵は夏季休暇を取っていて空いている。

 

つまりは使い放題であり、雫のために何時間でも訓練できるようになっている。

 

「基礎的な体力がまだ足りないからランニングを入れようか悩んだけど毎朝やってるみたいだからこれは除外して振動系魔法の習熟を進めるとしよう」

 

「具体的には?」

 

「俺が出す氷を破壊してもらう。形式はクラウド・ボールと同じ感じでね?」

 

「クラウド・ボール?」

 

「俺が氷の塊を雫の方に向けて流すからそれを振動系魔法で破壊していくんだ。どんどんスピードを早めるから振動系魔法……いや、共振破壊で1番効率的に破壊できる所を見つけられるよう頑張ってくれ」

 

「わかった」

 

総司は氷の四角い塊を雫がいる方向へとゆっくりと撃ち出す。雫はそれを共振破壊で破壊しようとする。だが共振破壊で破壊するために必要な共鳴点を見つけることが出来ずにそのまま雫のところまでたどり着いてしまった。

 

「この訓練は共振破壊をする上で必要な共鳴点を速やかに見つけるためのものだ。このスピードで破壊できるようになったら、スピードを上げたり、個数を増やす!いいね?」

 

雫は無言で首を縦に振る。総司はそれを見た上でまた同じスピードで氷を撃ち出す。

 

「(移動していて共鳴点が中々見つからない……!)」

 

この訓練の難しいところは移動している氷の共鳴点を見つけなければならないところだ。

 

共振破壊は対象物に無段階で振動数を上げていく魔法を掛け共鳴点を探し、「振動させる」という事象改変に対する抵抗が差異も小さい共鳴点を発見した時点で、対象を振動破壊する魔法だ。

 

達也が調整した共振破壊は地面から共鳴点を探すのでこの移動する氷を破壊するのには合わないために元々の共振破壊を使っている。

 

何回もトライ&エラーを繰り返しているうちにやっと1個氷を破壊できた。だけどその後また同じスピードで氷を撃ち出されたが、破壊出来なかった。

 

「同じ氷じゃないから共鳴点はまた別のところにあることを忘れるな」

 

「うん」

 

何度か挑戦しているうちに雫はこのスピードに慣れてきて、氷を連続で破壊できるようになった。

 

「そろそろステップアップと行こう。2個に増やすぞ」

 

「うん…………え?」

 

 

 

 

 

 

 

3時間後、雫は魔法の使いすぎと集中しすぎでダウンした。2個の氷を破壊することが出来ずに一日目が終了し、雫は総司の事務所の居住スペースで寝た。

 

「総司様、この娘一応ホクザンのご令嬢ですよね?ここに寝かせていいんですか?」

 

「え?……紅音さんと潮さんのどちらもが俺がいつも寝てるところでいいって言ってたんだよ、なんでかはよく分からないけどね」

 

「……あ〜なるほど」

 

「……何がなるほどなんだ?居住スペースここしかないから俺どこで寝ればいいのかもわからん」

 

「ここで寝ればいいと思いますよ、事務所には総司様と雫さんしかいないんですから管理とかの問題もあります。この娘1人にするのはダメです」

 

「あぁ、それもそうだな。ありがとう」

 

「いえいえ……(つまりは総司様と雫さんがくっつくのを助長させたいんですね?唐変木な総司様が雫さんの恋心に気づく良い機会じゃないですか)」

 

総司にも恋人くらい居ても良いだろうと考える正雪は総司に悟られぬように一緒の部屋で寝ることを促す。

 

総司が変に配慮して一緒の部屋になるかよく分からないな、と潮達が思っていたところに察しのいいお姉さんがテコ入れした瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、フォノンメーザーは使っちゃダメなの?」

 

総司の訓練を始めて早3日、2個3個同時に破壊することが10回に1回くらいできるようになってから、雫は総司に尋ねた。

 

「この訓練は共振破壊を迅速に発動するための訓練だからな。フォノンメーザーはもう少し経ってからにするさ」

 

「?」

 

「いや、フォノンメーザーを砲撃みたいに使えるようにする訓練を考えていたんだが、さすがに無理があるからな。とりあえず共振破壊を極めるのを第1に考えろ」

 

「わかった」

 

雫は総司の言うことを素直に聞いて、翌日には2個3個同時に破壊することがいつもできるようになったのだった。

 

「じゃあ次はスピードを上げて2個3個同時に破壊することができるようになってくれよ」

 

「…え?」

 

この後また苦戦する羽目になり、疲れ切って眠ることになるのだった。




雫の訓練は2~3話続く予定です。

総司の見合いは雫の訓練と仕事で忙しいからシャットアウトっていうことにしといてください。このまま行くと総司が同じ時間に4体いるなんてことになりかねませんし。

あと長すぎると横浜騒乱に行けないので正雪と石山の過去とかは横浜騒乱の後にやります。というか正雪の案は出てるんですけど石山の過去がまだ練れてないので……

こんな作品ですが、これからもよろしくお願いいたします。


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雫の特訓②

あけましておめでとうございます、今年もよろしくお願いします




総司の鬼のような特訓でどんな状況下でも即座に共振破壊で目標物を壊すことができるようになった雫。そんな雫は今、総司とアイス・ピラーズ・ブレークで試合をしていた。

 

総司自体ということではなく、深雪と同じ魔法構成で雫と戦っている。この前にもやっており、栞やエイミィ、上級生では千代田花音と言ったアイス・ピラーズ・ブレークに出ていた選手の模倣と雫は戦っている。

 

あの特訓を終えた後に雫は次の特訓と称してこの模倣選手との試合に望んでいる。そのため苦戦らしい苦戦はしていない。

 

花音の素早い地雷原による破壊も、栞の計算された攻撃も、エイミィの氷柱飛ばしにも対応できるようになっており、共振破壊だけで深雪以外には善戦どころか快勝している。

 

ただ深雪は別格なのか、共振破壊とフォノンメーザーを使っても中々倒せていなく、良くて引き分けが精々だったりする。

 

「み、深雪に勝てない……」

 

「お疲れ様、水置いとくな」

 

「う、うん……」

 

深雪は十師族四葉家の最高傑作と称される程の実力者である。総司も雫も与り知らぬことではあるが。本気を出してはいないにしろ、簡単に勝てる相手でないことは確かだろう。

 

ため息をつく雫、そんな雫はふと思いついたことを呟く。

 

「……というかどうやって他の選手の魔法能力を再現しているのか気になるんだけど、そもそも総司の秘密、まだ聞いてないんだけど……」

 

「……確かにな、休憩がてらに教えておこうか」

 

「え?」

 

今教えられるのかと驚く反面、すごく聞きたいと言う衝動に駆られる雫。

 

「……俺はBS魔法師だ」

 

「……それだけ?」

 

「いや、例えばな……」

 

雫の目の前で雫に渡したペットボトルの中の水を操作して氷にし、剣を精製する。そしてそれを今度は自分の身体に突き刺して吸収する。

 

「……手品?」

 

「手品ではないな……」

 

信じていない雫に今度は何も無いところから水を大量に生成して氷のゴーレムを作ったり、自分の身体を水に変えて某魔王なスライムみたいに身体をスライムにしてみたりしていると次第に総司の能力の詳細がわかったのか顔を青ざめさせる。

 

「……水を司る、それが俺の能力だ。父さんが昔俺の能力を伝えたことがあったけど信じられなかったけどな」

 

総司は目を虚空に向ける。あれから誇張だのなんだのと馬鹿にされることが多くなり、無能の烙印が押されたのだ。まぁ本当に使えるのだが。

 

「誰が他にこのこと知ってるの?」

 

「そうだな、俺の家族は全員知ってて、後は真紅郎と愛梨と栞と沓子と正雪くらいだな」

 

「私に伝えて良かったの?」

 

「え?そういう約束だったし、雫は安易に人に話したりしないだろ?」

 

「!」

 

雫に対する信頼が重く、雫は少し恥ずかしがっている。総司はそれを不思議そうに見ながら立ち上がる。

 

「さて、秘密を話し終えたことだし……」

 

「?」

 

「手札を増やすぞ、地雷原とA級の魔法を覚えてもらう」

 

「へ?」

 

「司波さんに勝ったら次は俺と試合だからな!」

 

雫は嬉しい気持ちから一転、絶望へと落ちていった。千代田家のお家芸たる地雷原とA級魔法の手札を使えるようにしなければならなくなったのだから当然である。

 

雫は総司の出した選択肢の中からニブルヘイムを選択、それを習得するために励むのだった。

 

ちなみにそれらを習得するのは並大抵のものではなく、疲労感は共振破壊を使いこなす時の練習よりキツイものだったと後で雫は語る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何です、この魔境?」

 

久しぶりに総司の元に帰ってきた石山、彼は夏季休暇を早々に終わらせて詳しい調査をしようと戻ってきていたのだが、訓練場で繰り広げられている魔法合戦を見て途方に暮れていた。

 

雫はニブルヘイムと地雷原を2週間程で習得し、残る1週間弱は全て模倣深雪と総司との試合につぎ込んでいた。

 

ニブルヘイムは習得が難しいと思われたが、総司のわかりやすい説明によって割と早く習得することができていた。水を司る能力を持つ総司の面目躍如である。

 

話を戻して、石山が途方に暮れている魔法合戦をやっているのは当然総司と雫。総司は深雪を何とか破り始めた雫を見て、次は自分自身で相手しようと自分の魔法で雫の氷柱を攻撃し始めた。

 

使う魔法は爆裂ではなく、アイス・ポーン、アイス・バーサーカーなどの兵を作り出す魔法。雫はそれを地雷原と共振破壊で難なく破壊していた。

 

そんな雫を見て熱くなったのか、総司は砕かれた兵隊の欠片を使って細かい攻撃をしていく。雫はそれを共振破壊を使って破壊していくが如何せん数が多くて対処が出来ず、氷柱が破壊されていく。

 

そんな現状を見て雫はニブルヘイムを発動して欠片を凝結させていく。総司はニブルヘイムを発動されたのを確認すると水のレンズを生み出す。

 

「あの光のレーザー?でも屋内だからそれは使えない!」

 

「……それはどうかな?」

 

幾層にも作られた水のレンズは混ざり、大きな水の塊へと変化し、巨大な氷の塊となる。

 

そしてそれを落下させた。それはまさに隕石のように。ニブルヘイムなど関係ないとばかりに巨大な隕石を落とす総司に雫は正気を疑うような目で総司を見る。

 

雫は急いで共振破壊を使って氷の隕石を破壊しようとするが、何故か壊れない。そして思い出す、総司は水を司ることが出来ることを。

 

「……まさか、共振破壊で破壊されてるところをくっつけてる?」

 

壊れない氷の隕石はそのまま雫の氷柱へと激突し、雫は負けた。

 

だが総司は調子に乗って氷の隕石を落とすという愚行を行ったことで石山に説教を食らうことになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう、総司」

 

あの後も総司と試合をやることで経験を積んだ雫、明後日には学校という日になって帰ることになった。

 

雫は数倍強くなっており、世間のA級魔法師の数段上くらいの実力になっているはずである。深雪にも勝てるくらいの実力は確実にある。

 

総司は雫を見送りに門前に来ており、雫は迎えの人に迎えに来てもらっていた為そのまま車に乗り込む。

 

「じゃあ、また学校で」

 

「うん!」

 

雫は帰った。総司の見送りを受けながら。

 

 

 

帰り道、雫は気づいたことがあった。

 

「……そういえば総司と同衾してない!?」

 

特訓を終えたらいつも疲れていたため、とてもそんなことに気をかけるほどの体力を割けなかったのだ。

 

せっかく潮にも紅音にも同じ部屋でいいと言ってもらっていたのに、その利点を利用できていなかった。

 

気づいた時には既に遅く、総司との特訓で強さは手に入れたものの、アピールすることは出来なかったと落ち込むことになるのだった。




……長ったらしい修行パートをやめて騒乱編に入りたかったんや、勘弁してください。あと投稿が大体2ヶ月くらい遅れてすみません。

騒乱編、どうやって絡ませよう。なんかコンペあるよー➝大亜連合と遭遇➝準備万端で横浜戦➝戦略級魔法ブッパ!

って感じで達也達と絡ませることがなさそうな気がするんですよね……

意見とかあったらドシドシお願いします。総司に使わせたい力とかもあればお願いします!


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不法入国者

「……こうやって一人で対処するの、久しぶりかもしれないな」

 

闇夜の中、総司が一人呟く。悲しみを目に宿らせているように見える。総司にそんな気はさらさらないが、約立たずの烙印を押されて一人だった頃のことを思い出しているのかもしれない。

 

夏休みを終えて、雫と共にまた学校に通い始めていた。全国高校生魔法学論文コンペティション、通称論文コンペで生徒が騒がしくなる中、人が足りないことが原因で総司は部下の代わりに対処に来たのだ。

 

その問題とは、密入国。石山や正雪、そして総司の精鋭達がここ横浜山下埠頭に密入国者がやってくることを知らせてくれたのである。

 

敵の正体は未だ掴めてはいないが、この密入国者を捕まえれば少なくともその正体と目的くらいは掴めるだろうと総司は横浜山下埠頭までやってきたのだ。

 

「……あれは千葉の長男かな?」

 

総司は既に神之瞳(アルゴス)という魔法を発動している。色々な場所に分身体を置いて神之怒(メギド)と同じ原理のレンズを操作して色々な目視できない所を観察できる魔法である。

 

その魔法を使うことで総司は遠くにいる千葉の長男こと千葉寿和と彼が率いる警察の群れを確認したのだった。

 

「千葉家の剣士はエグイのが多いって正雪が言ってたからなぁ……先に船に乗り込んで確保するか」

 

『近接魔法師は普通の魔法師にとってキツイ相手ですけど遠距離で動かさなければ何とかなります、ですが千葉家は遠距離攻撃も多彩ですからあまり戦わないようにしてください。もちろん千葉家以外にも頭おかしい近接魔法師はいっぱいいますからね!』

 

正雪が口酸っぱく言っていたことを思い出して総司は密入国者のいる船の中に侵入することにした。

 

「侵入完了」

 

侵入した後、密入国者を確保しようと高速でその者達の元に向かおうとした瞬間、ダガーが飛んできた。

 

ダガーの数は十数本、総司はダガーを咄嗟に氷の盾を作ることで防ぐ。

 

「……もう気づかれたのか」

 

「警戒してた。日本には外敵を許さない鬼がいるってアイツらが言ってたからずっと警戒しとけって言われてた」

 

「……そうか、まぁお前の言うアイツらとやらは確保させてもらう、お前もだが」

 

見るからに小柄な女の子が何も心を感じさせない声で話し、さっき投げてきたダガーと同じものを構えて襲いかかってくる。

 

総司は女の子の攻撃を捌きながら分身体を飛ばす。何となく長丁場になりそうだと思った総司は分身体に他の密入国者を確保してもらおうとしたのだ。

 

「お前、見た目の割に強いな」

 

「何言ってる?私は18歳、大人のレディー」

 

「……雫と同じタイプか」

 

雫と同じ子供体型ということを理解した。だがそれと同時にその子供体型で近接魔法師である正雪と拮抗できる総司を押すことができるその実力に総司は感嘆の声を漏らす。

 

「……きついなコイツは」

 

ダガーによるラッシュ、そして時折挟まれるダガー投げに愚痴をこぼす。中々攻撃を挟むことが出来ずにいた。

 

「このまま押し切る!」

 

トドメを刺そうと急接近してくる相手に総司は身体を流体化して避け、そして通り過ぎた女の子に手を向けて意識を落とす。

 

それが終わったあと、船に強烈な振動が響き、分身体が消えたことが確認された。どうやら千葉寿和率いる警察が強力な魔法を船に叩き込んだらしい。

 

分身体がぐらついたその隙に密入国者はそのまま海に飛び込んで逃げたようだ。総司の分身体は警察が乗り込んできたためそのまま消えたということだった。

 

「……逃げられたか。まぁコイツを捕まえて置けばいいか」

 

アサシンっぽい自称18歳の女の子ごと流体化して家まで帰ることにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前の所属とか諸々吐いてくれ」

 

「吐くわけない、寝言は寝て言え」

 

家に着いた総司は自分で作った氷の縄を使って捕縛した女の子に対して尋問していた。まぁ結果はご覧の通りであり、睨まれるだけで終わった。

 

「……仕方ないか」

 

総司は先程意識を落としたように女の子の前に手を向ける。その様子をキョトンとした様子で見る女の子は手を向けて何かを発動した瞬間に目が虚ろになった。

 

「お前の情報を全部吐け」

 

「私は林 夜鈴(リン イーリン)、14歳、大亜連合の人造魔法師の一人で要人警護が役目。身体強化が得意魔法」

 

「本当にそれだけか?お前が常日頃から隠していることとかはないか?」

 

身体強化だけで総司と互角以上に打ち合えるとは考えられない。14歳まで訓練すれば行けるのかもしれないが、生憎と正雪も特殊な生まれである。それだけで勝てるとは思わず、総司はさらなる尋問を行った。

 

「腐れジジイからお菓子とかお金を盗み取ってる。それとこの前スケベジジイの悪口をネットに書き込んだ。それに……」

 

「…………」

 

総司は隠していることを聞いて後悔した。出るわ出るわ夜鈴のお偉いさんへの嫌がらせ。総司はそれを遮断しようとする。

 

「後は、私は転生者ってことと……」

 

「!?」

 

 

遮断しようとした瞬間に夜鈴のふと言ったその言葉に総司は動揺する。そして操作をミスった総司は夜鈴を操っていた術、心理掌握(メンタルアウト)を解除してしまう。

 

「!……何をした!」

 

「……転生者だと?」

 

「!?」

 

「俺以外に転生者がいたことに驚きだ」

 

「……洗脳か何かか!」

 

「違う、お前の意識を操作しただけだ」

 

洗脳と言われて総司は咄嗟に否定する。まぁ心理掌握も洗脳もほとんど同じようなものではあるから訂正しても変わらない。

 

「意識の操作!?なんだそのチート能力!」

 

「うるさいぞ年齢詐称女」

 

「年齢まで……」

 

「なんか悪いな」

 

勘違いした夜鈴に悪口を言うとそこまで知られているのかと落ち込んだ。それに対して少し謝ると気分を持ち直したのかじっと総司を見つめてくる。

 

「それで、ここまで捕らえて何する気?」

 

「情報が欲しいだけだ。大亜連合から来たってことが知れたからな。もう用済みだ」

 

「!?そんなわけない!こんな美少女捕まえて何もしないなんてありえない!」

 

「……なるほど、死がお望みか」

 

「違う違う、そんな殺伐してるのじゃなくて、ほらもっとあの……」

 

「もっとあの?」

 

「せっくモガッ!?」

 

夜鈴がなにか言おうとした瞬間に口を塞ぐ総司。

 

「何言おうとしてんだお前」

 

「くっ……」

 

「いや、くっじゃねぇよ」

 

呆れ返る総司。何を言おうとしたのかは分からないが、言ったら健全なこの小説のイメージが崩れそうになるかもしれないのだ。

 

「……で、私はどうなるの?返してくれるの?」

 

「……帰っても死ぬぞ、お前」

 

「へ?」

 

「お前と同じ姿でお前の仲間を襲ったからな、お前が裏切ったとでも思ってるんじゃないか?」

 

「そんなことできるわけ…………意識の操作か」

 

「いや、認識を操作しただけだ。霧と水を乱反射させて俺の分身体をお前だと誤認させただけ」

 

ご丁寧に分身体が取った作戦を映像付きで見せると夜鈴は諦めたようにため息をつく。

 

「チートすぎ、どんな特典もらったの」

 

「水の操作だ」

 

「なるほど、それなら納得がいく」

 

「お前は?」

 

「身体能力強化。やろうと思えばコンクリートを指で粉砕できるようになる」

 

「そうか」

 

夜鈴の特典を聞くと総司はふとこんなことを言った。

 

「雇われる気は無いか?」

 

「え?」

 

「まぁ敵だったお前にこんな事言うのもあれだがな」

 

「給与は?」

 

「え?……基本月給がこんな感じで手当とかも含めてこれくらいか?」

 

「乗った!」

 

「はぁ!?」

 

「そもそも大亜連合の人造魔法師ってだけだから思い入れないし……給料低いというか貰えない時もあったから」

 

頭を抑えながら言ってしまった上に可哀想な話を聞いたので仕方なく首輪付きで夜鈴を雇うことにした総司だった。




感想で一騒動あった心理掌握と使って欲しい能力募集で来た鏡花水月の偽造能力とだいぶ前に教えてもらった神之瞳を使ってみました。心理掌握と鏡花水月と神之瞳はこれからも多用されそうです。

転生者は複数にして行きます。今回は2人目なので大亜連合から登場させましたが……寝返らせました。夜鈴はモデル未定です。決まったら書きますが、雫くらいの身長の子です。

というか総司がフルで動くと原作勢で勝てそうなの達也レベルの魔法師ぐらいなんですよね。近接で勝つのにもバイオライダー的な能力もありますから難しいですし。

ほとんどの戦略魔法に勝てますから転生者を投入しないと本当に作業で終わりそうなので、転生者複数で行きます。

感想と評価、お願いします。


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同じ転生者

「私は反対です!」

 

「えぇ……」

 

夜鈴が総司の首輪付きの部下になった翌日の夜、総司は部下を一度全員帰還させた。夜鈴にした尋問で相手の正体が分かったからだ。

 

部下が全員帰ってきて、夜鈴のことを説明するとほとんどの部下が夜鈴の雇用を認めなかった。理由は簡単、大亜連合の人造魔法師で大亜連合に愛着がないにしろ、雇い主を簡単に裏切る奴を信じられるわけが無い、という理由である。

 

「愛されてるね、総司」

 

「総司様を呼び捨てにするのも気に入りませんが、絶対この人裏切りますよ」

 

ほかの部下もそう思っているのか首を一斉に縦に振る。

 

「夜鈴には首輪が着いてる。正雪と石山、それと夜鈴と行動することになる人にはそれを作動させるスイッチを渡す。なんかあったら独断で消して構わない」

 

「……酷くない?」

 

「裏切る部下なんて要らないからな」

 

まぁそれならと正雪達は仕方なく夜鈴の雇用を渋々認めた。まだ夜鈴を睨みつけている部下も何人かいるが。

 

「さて、提供された情報と想定するべき敵を組み合わせると主な敵の戦力は呂剛虎と直立戦車、ジェネレーターにハイパワーライフル持ちの兵士、戦艦だろう。流石に俺とお前らでこれを全て片付けれるわけが無い」

 

「そうですね、他に持ってこれる戦力ってないんですか?」

 

「一条と七草と十文字は動かせるだろうが……証拠がないんだ、夜鈴の証言だけじゃあ十師族は動かせない。一条はそもそも担当地域が違うしな」

 

総司は軍とのコネクションがない。仕事関係で遠山つかさ辺りとコネがあるが、数が足りないだろう。

 

「なぁ夜鈴、そもそもアイツらは横浜山下埠頭からどこに行くつもりだった?」

 

「知らない、私は護衛でそれ以外は何も」

 

「使えませんね」

 

「む」

 

夜鈴は護衛で守るだけだったために何も知らなかった。まぁ総司が侵入してきた時に一人で警戒していたことからも中枢にいた訳では無いということだろう。

 

「……横浜からそう遠くには行ってないはずだ、大亜連合を受け入れるところ、なんかないか?」

 

「あぁそれなら横浜中華街では?」

 

「中華街か」

 

横浜中華街は現在、戦後の再開発でビルが壁になっており、四方の門からしか入れない城のような作りになっている。商売しか考えていない者もいるだろうが、大亜連合に協力する者もいるだろう。

 

「とりあえずは横浜中華街に探りを入れるか。残りは相手の出方の警戒、後通常業務を行ってくれ」

 

「わかりました!」

 

部下が全員出ていき、総司と夜鈴だけになった。正雪と石山が心配そうな顔をして部屋に残ろうとしたが総司が目で部屋から出るように伝えてきたため渋々出ていった。

 

「で、お前にまだ聞きたいことがあるんだが」

 

「なに?」

 

「俺とお前以外に転生者はどれだけいる?それと大亜連合に転生者はいるのか?」

 

あの時の心理掌握でも答えなかった……というか聞きそびれていたことだ。

 

「転生者はいると聞いてる。でもどれだけいるかは分からない。年代、出身地はバラバラだから」

 

「なるほど、それで大亜連合には?」

 

「末端の護衛にそこまでの情報は回ってこないから分からない」

 

「分かった」

 

夜鈴が転生者関連で知っていることはほとんどないということがわかると総司は端末を取り出して操作する。夜鈴の仕事の説明のためだ。

 

そんなことをしていると夜鈴は不思議そうな顔をして総司を見つめる。総司が端末を操作し終え、端末を見せようとすると夜鈴の不思議そうな顔に気づいた。

 

「なんだ」

 

「いや、心理掌握使わないのかなって」

 

「使う必要は無いだろ、これからは俺の部下なんだし」

 

「は?」

 

「部下のことを信頼するって決めている。一度部下にしたら裏切らない限り俺はそういうことはしないとね」

 

「馬鹿なのか?」

 

「馬鹿ならこんな危険なことしてないぞ」

 

総司はそう言いながら端末を見せて夜鈴に夜鈴がやる仕事を説明するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ、司波くんが論文コンペに出るんだ」

 

「うん、ほのかがすごい喜んでた」

 

「市原先輩だったっか、今回のメイン」

 

「そう」

 

論文コンペ、正式名称は全国高校生魔法学論文コンペティション。全国に散らばる魔法科高校の生徒達が大学、企業、研究機関に向けて魔法学や魔法工学の研究成果を発表する場である。

 

総司が投資をしている会社やホクザングループの傘下に入れた会社も見ていることから規模が大きく、かつ社会に浸透していることが分かる。

 

「それとエリカ達が殺気立って出て行ってた。多分なにかあったんじゃないかな?」

 

「……そうか」

 

雫は総司の元で魔法技能の強化を図っていた際に殺気というものを感じれるようになっていた。普通の魔法が使える女の子が殺気を感じ取れるようになったのは良いのか悪いのか分からないが、どうも申し訳なく感じる総司。

 

何故殺気という普通なら感じ取れるはずのないものを感じ取れるようになったのか、それは総司のところで訓練していたら殺気立って戻ってきた部下に出くわしたりしていたからだ。

 

回避させようにも雫の訓練ができる場所はそこしか無かったので仕方ないことではあるが。

 

「千葉さんが殺気を纏うって相当だな……最近妙なものを見るから気をつけてくれ、もちろん潮さん達にも」

 

「うん、わかった」

 

「そろそろ時間だな、送っていくよ」

 

総司は雫を連れて北山家まで送る。警戒を怠るつもりは無い。数少ない友達を全力で守るという意志がそこに見える。

 

「ありがとう、総司」

 

「どういたしまして、それじゃあまた明日」

 

「うん」

 

雫と話していたらもう夜が遅くなってしまい、総司は流体化でさっさと帰ってしまおうかと思いながら歩く。流石に公衆の場で流体化を使う訳には行かない。

 

「あれ?」

 

北山家から離れて繁華街を通りながら一条家の別邸に帰ろうとする。だが気づくと総司は見当外れのところにおり、人が沢山いる賑やかな通りではなく路地裏にいた。

 

「……どうなってる?」

 

「来たか」

 

総司は目の前に引き締まった体つきの大男を見た。

 

「一条総司、我々にとって邪魔な存在はここで排除する」

 

「……大亜連合関係か、とりあえず倒して情報を吐かせるか」




サブタイトルは適当です。変わるかもです。


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虎と皇帝

恐ろしく早い貫手。それによって総司の心臓は貫かれたかのように見えた。だが実際には貫かれておらず、敵の貫手は空気を突いただけで終わっていた。

 

心臓を貫いたにしては変な感触に大柄な男は顔を顰めていた。そして総司がいつも通りの声を出すとその顔は驚愕に染まる。

 

「速すぎだろ……普通に見えなかったぞ!」

 

今度は総司が攻撃を放つ。氷のダガーが何十本も放たれ、敵の身体を貫こうとする。だが敵はそれを腕を振るだけで破壊してしまった。

 

総司はそれを見て攻撃の仕方を変える。右手に水を作ってそれを勢いよく放出する。超高圧水流、それを放出するだけで鉄を貫通できるそれが男に迫る。

 

だが男はそれを手刀で切り裂いてみせた。鉄を貫通させられるほどの意力を誇る超高圧水流を何もつけてないただの手でだ。

 

その様子を見てようやく総司の顔色が変わった。今まで倒してきた人間とは何かが違うと判断したのだ。

 

「……なるほど、確かに厄介だな。潰してこいと言われるわけだ」

 

「大亜連合でこれだけのことが出来るやつはそうはいないな、お前は呂剛虎か」

 

「どうだろうな」

 

「まぁ、答えるわけが無いか」

 

相手が呂剛虎だったとしてそれを認めるわけが無い。総司の問いかけに呂剛虎は答えず、総司もそれがわかっていたかのように振る舞うと今度は氷を両手に生み出す。

 

総司は呂剛虎が自分に向かってくるタイミングで氷からビームを撃つ。氷から撃ち出されたビームは呂剛虎に向かって行くついでに路地裏を構成しているビルを氷結させていく。

 

呂剛虎はそれをまた手刀で切り裂こうとするが、突如としてその動作をやめて横に飛んだ。ビームはそのまま直進し、呂剛虎の後ろのゴミ箱を凍らせた。しかも1秒も経たずに。

 

「……避けたか、ならこれならどうだ?」

 

氷の礫を生成し呂剛虎に向けて発射する。それは凄まじいスピードで進み、呂剛虎の左腕に直撃する。礫は着弾と同時に呂剛虎の腕を凍らせた。

 

「厄介だな……フンッ!!」

 

「おいおい嘘だろ?」

 

呂剛虎は凍った左腕を勢いよく建物の壁にぶつけることで腕を覆う氷を粉砕したのだ。本来ならば血管と骨まで凍らせる代物であるのだが、まだ砕くのが早かったため、最低限の血液を流すだけで済んだようだ。

 

「(物理がダメなら心理掌握だ、これで意識を落とす!)」

 

総司は呂剛虎が物理攻撃を当てても倒せないのを知ると夜鈴にも使った心理掌握を使うことにした。

 

「(……あれ?)」

 

「どこを見ている?」

 

心理掌握を発動させた総司。だが心理掌握を使った次の瞬間、総司は衝撃波を食らう羽目になる。呂剛虎に向けて心理掌握を発動させたはずなのに、心理掌握が効いていないのだ。

 

そして呂剛虎は学習していた。拳が効かないならと空気を殴ることで発生する衝撃波を飛ばすことで攻撃したのだ。総司は呂剛虎の放つ衝撃波で吹き飛ばされる。

 

総司は吹き飛ばされながらお返しとばかりに氷の礫を放つ。だがそれもあらぬ方向へと飛んでしまう。

 

「(どうなって……まさか精神干渉系魔法か?確かに俺に精神干渉系魔法は一定の効果がある。ここまで来たのも方向を誘導させられたからか?……なら!)」

 

鏡花水月を総司と呂剛虎の周りで発動する。そして領域干渉を全開で発動させ、総司にかけられている精神干渉系魔法の妨害と発動を邪魔する。

 

領域干渉で精神干渉系魔法を一度無効にし、鏡花水月で外部から総司のことを認識させなくしたのだ。総司はもう一度氷の礫を放って今度こそ呂剛虎に着弾したのを確認する。

 

呂剛虎は凍った腕をまた壁にぶつけて凍るのを回避したが目に見えて焦っていた。そしてその様子を見逃す総司ではない。

 

「今度は確実に止めるぞ」

 

総司は手を振ることで水を生成して氷の檻を作り出して閉じ込める。そして氷の風を吹かすことで呂剛虎の身体を凍らせていく。

 

呂剛虎も殴って檻を壊そうとするが、総司の作った檻は壊したらすぐに修復され更に強固になるため意味が無い。そして氷の風によって体力と身体の温かさが徐々に消えていく。

 

「このまま凍ってしまえ」

 

情報も大事だがこの男の場合はそれを優先すべきでは無い。情報を尋問している間に逃げられでもしたらまた捕まえなければならないのだ。

 

そんなことはありえない?大亜連合の戦力の1つと数えられる男なのだ。総司に襲撃をかけるような手間と危険が伴う作業をしてでも大亜連合は助け出そうとしてくるだろう。

 

万が一こんなのが戦場に投入されたら総司や正雪、石山、夜鈴はともかくとして他の部下が死にかねない。部下を守るためにもこの男は殺す必要があるのだ。

 

「!?」

 

霧と水流の乱反射によって総司達を見えなくしていた鏡花水月が消え去った。というか吹き飛ばされた。それを感じ取るや否や振り返るとそこには黒い犬が数匹いた。

 

黒い犬は襲いかかってきて、総司はそれを氷の刃と化した腕で全て切り落とす。切り落とした瞬間、後ろで爆発音が数度響いた。

 

振り返ると氷の檻は粉々に砕け散っており、そこには呂剛虎がいなかった。氷の檻は総司が意識を向けていなかったために修復できなかったのだ。

 

「……逃げられたか」

 

総司は手を虚空へと向け、何かを操作すると端末に手を伸ばして部下に連絡するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「多分それは鬼門遁甲かと。大陸系の術師が使う意識を誘導する精神干渉系魔法ですね」

 

「鬼門遁甲か……」

 

呂剛虎に逃げられた総司は想定した時間より遅い時間に帰ってきていた。総司は風呂に入ってサッパリした後に総司に呼ばれていた大陸系の魔法と技術に詳しい古式魔法師の部下に話を聞いていた。

 

呂剛虎が使っていただろう技術の数々全てを聞くと総司は立ち上がって古式魔法師の部下にこう伝えた

 

「……御前に話を通すぞ、大亜連合を潰しに行く」

 

「え、御前にですか!?それに潰しに行くって……」

 

「楔は打った。後は掃討するだけだ」

 

「……かしこまりました」

 

御前とは総司の活動の支援者である。北山潮が総司の表での支援者なら、御前は総司の裏の支援者である。

 

総司は古式魔法師の部下を置いて部屋に戻り大亜連合を潰す作戦を立て始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「手酷くやられましたね」

 

「全くだ……まさかあそこまで手酷くやられるとは」

 

「とりあえずスパイに任せて息を潜められては如何でしょう?」

 

「そうさせてもらう」

 

横浜中華街のとある店で40歳程の髭が特徴的な男と貴公子のような風貌の若者が話していた。

 

その策が無駄に終わり、これから直ぐにとんでもないことが起きるとは知らずに。




呂剛虎をちょっと強化しました。それに鋼気功とか組み合わせたらこれくらいできますよね。呂剛虎は近接戦最強格との事ですので

御前のイメージは大分前から決めていました。本当は来訪者編で初登場する予定でしたが、ここで登場させます。まぁ口調が難しいのでちょっと変えますけど……後元老院メンバーではないです。

これからもよろしくお願いします。


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護国の鬼

「どうかしたのか、親父?」

 

「いや、総司が話がしたいと言ってきてな」

 

「?」

 

「あぁ、忍びの方ではない。魔法師の方だな」

 

鎌倉のとある屋敷で2人の男が話していた。その内の1人の男の名を聞けば政治関係の人間は震え上がり、軍関係の人間は敬意を表することになる。

 

その男の名は風鳴訃堂。魔法師が本格的に戦争に参加した第三次世界大戦で魔法師でないのにも関わらず敵国の魔法師を斬り殺して行って護国の鬼と恐れられていた男だ。

 

訃堂は紆余曲折あって総司のことを支援していた。最初はそこまで期待していなかったのだが、金沢から犯罪シンジケートを消し去ったり、社会から爪弾きにされた魔法師を拾って私兵にしたりしていたら思ったより使えると思われて訃堂は総司の後ろ盾兼支援者をしていた。

 

「一条総司か。親父、何かあったのか?」

 

「分からんが……大方大陸の連中のことだろう。最近魔法科高校でスパイ騒動があったと慎次達から聞いておるからな」

 

「八紘兄貴も呼ぶか?」

 

「そうだな、儂と八紘で行こう。三人で出る訳には行かないだろう」

 

「まぁそうか……久しぶりに話したかったんだが……」

 

残念そうにするのは風鳴訃堂の息子で次男、風鳴弦十郎。赤い髪、赤い服と特徴的で、風鳴家の中で一番総司が話しやすい人間。災害救助部隊の指揮官をやっている。

 

ちなみにこの男、災害救助の際は誰よりも前に出て障害を魔法無しの拳で破壊し、ただの手刀の振りで炎を消し去ると言った超人技を行うことが出来る。どんな災害だろうと必ず前に出て確実に命を救う為、災害救助部隊の隊員は「アンタだけでいいだろ!?」と内心思っているとかいないとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……カッコつけて言ったけど御前に会うのめちゃくちゃ緊張する」

 

「風鳴訃堂の名は諸外国にめちゃくちゃ効きますからね……魔法師にはあまり浸透していないというか老師にかき消されてますけど……」

 

「恐ろしさは御前の方が上だよ……なぁ石山、正雪、俺準備してるから2人で行ってくれたりしないか?」

 

「勘弁してください……」

 

「いやぁ、あの護国の鬼に私たちで会うのは無理がありますって……」

 

総司と正雪、石山は3人で日本魔法協会の関東支部がある横浜ベイヒルズタワーに向かっていた。総司の住んでいる一条家の別邸は大亜連合から寝返った夜鈴が帰ってくることもあるので石山が横浜ベイヒルズタワーで会談しようと言ったのだ。

 

十師族の伝手とかの諸々を使って防諜対策がきちんとしている応接室を借り、そこで訃堂達と会談しようということになったのだ。

 

「……なぁ石山、お前にも言っておくことがある。これから御前と話すのにお前だけ俺の力を知らないのはちょっと困るしな」

 

「……その言い草だと正雪さんは知ってるんですね?」

 

「そうだな、俺の家族と金沢の友達、正雪、御前と八紘さん、弦十郎さん、後雫が知ってるな」

 

「結構いますね!?」

 

石山から驚きの声が上がる。側近の1人なのに今まで教えてくれなかった理由がタイミングが分からなくて、ということに今度は落ち込んだ。

 

「水の操作が俺の能力だ、やろうと思えば地球上の水を一瞬で消し去ったり津波を連続で発生させたりできる」

 

「…………いやいや、そんな魔法がある訳」

 

「石山、氷の兵士とか忘れてません?」

 

「あ……あれってその魔法があるからですか?」

 

「魔法じゃなくて超能力的なやつだが、まぁそうだ。今回の呂剛虎に撃ち込んだやつもそれで出来たものだからな」

 

「……分かりました。とりあえずベイヒルズタワーに急ぎましょう…………総司様の下に着いてて良かった……

 

総司の能力を聞いた石山はその能力の強大さに拾われた時に総司の下に着くことを即決した自分を褒めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりだな、総司君」

 

「お久しぶりです、八紘さん」

 

総司がまず最初に出会ったのは風鳴八紘。風鳴訃堂の長男であり、日本の安全を保障する内閣情報官の1人である。

 

総司が尊敬する人間であり、たまに情報が欲しい時に頼ったりする人物である。風鳴家の中では一番関わりが深い。

 

「大亜連合かい?」

 

「そうです。2回交戦しています。細かいことは応接室で……御前はどちらに?」

 

「もう応接室にいるよ」

 

「分かりました」

 

待たせてしまったらしい。総司は八紘と正雪達と共に応接室まで急ぐ。

 

「待っておったぞ」

 

「遅くなり申し訳ございません。この度はお忙しい中御足労いただき誠にありがとうございます」

 

応接室の中で待っていた訃堂にこれまで見たことが無いほどかしこまる総司。そのかしこまり様は潮に向ける物よりも格段にレベルが高い。総司がお辞儀をすると後ろの2人もお辞儀をした。

 

訃堂と八紘に対するように総司を真ん中に左右に正雪と石山が座ると会談が始まる。

 

「うむ、それで何用だ。お主は大体のことを自分の組織で片付ける。ブランシュ、無頭竜……よくやっていると聞いているが」

 

「戦力を貸していただきたいのです。如何にこの身が厄災をも操ることが出来る程の力を持っていたとしても私一人では限界があります。優秀な部下も居ますがそれでも足りないのです」

 

無頭竜はギリギリ壊滅できたもののやはり数年で出来た組織故に練度と数が足りない。正雪や石山、他数人はかなりの強者であるが、他は稀有な力を持っていても戦闘はあまり得意としていないのだ。

 

風鳴訃堂は軍や政界に多大な影響力を持っている他に忍び大量に保有している。戦力を借り受けるのにこれ程適した人物はいないだろう。

 

だが訃堂の答えは冷たい。

 

「……大亜連合か。確かに敵は強大だが……貴様は十師族だろう。戦力など十師族から持ってくればいい。国を護る為の十師族だろう?」

 

「私の能力を知るものは少ない上に、十師族を動かすことは私にはほぼ出来ません。動くとしても実家くらい。呂剛虎という軍の上層部の側近だろう男に楔を撃ち込んだと言っても信用されないでしょう」

 

総司は財界にコネがある。だが軍と肝心の十師族にはコネも伝手もない。

 

呂剛虎に逃げられる時に咄嗟に彼の身体の水分を使って発信機のようなものを作っておいたものの総司の能力が証拠では十師族は動かない。軍なんてもってのほかだ。

 

「……国が焼かれ、人が連れていかれ、殺される可能性が高いのです。どうか御力をお貸しください……!」

 

総司は深々と頭を下げる。

 

「わかった、軍に要請をかけておく。戦力が秘密裏にこの地に来ているのであればお主も知らない程の数が来ているやもしれん。討ち入りの際には緒川達を貸してやろう」

 

「……ありがとうございます」

 

戦力の貸出が了承されたことに総司はほっとする。それに軍も動かしてくれると言ってくれた。これで大亜連合を何とかできると安心した時……

 

「だが条件がある」

 

「!?」

 

訃堂にこのようなことを言われた。どんなことを吹っ掛けられるのか、総司は分からなかった。が、とてつもなく嫌な予感がする。

 

「お主に軍と十師族間のコネも伝手もないのは後々困ることになる。故にお主には戦略級魔法師になってもらうぞ」

 

「……どのように?」

 

「儂の見立てではお主の突き止めた場所以外に戦力があると思う。それらをお主1人で押さえつけよ。その場には軍の者達も居る。お主が戦略級魔法師になることは間違いないだろう」

 

まさか大亜連合が呂剛虎含めた少数で日本に来るはずがない。総司が知らないだけで横浜には大量の大亜連合が潜んでいるに違いないと踏んだ訃堂。

 

総司が突き止めた場所を攻めれば潜んでいる大亜連合も蜂起してくるはず。それを総司の力で押さえつけろ、ということらしい。

 

「方法はお主に任せるが、戦略級魔法を使え。それだけは守れよ」

 

「……分かりました」

 

戦略級魔法師になるのは総司にも利点がある。拾ってきた魔法師達を総司の私兵なんて言う不安定な職場ではなく軍に所属させたりできるかもしれない。それに今までは入ってこなかった情報や、動かすことの出来る兵の数が増えるはず。

 

総司は訃堂の言うその条件を承諾した。




……叩かないでください。正雪と石山がバディファイトとハリー・ポッターからイメージを取ってるから使ってもいいと思ったんです。

軍と政界に影響力がある人間なんて訃堂と江田島平八しか思いつかなかったんです……男塾はYouTubeの切り抜きしか見たことないですし……戦姫絶唱シンフォギアの風鳴家を持ってくるしかなかったんです……許してください。

ここの訃堂はシンフォギアみたいに息子の妻寝取ってません。総司は綺麗な訃堂に力を貸してもらってます。

これからもよろしくお願いします。


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横浜の戦略級魔法 前編

戦略級魔法、どれにしようかなって悩んでたらこんなに日数かかりました……


「ご協力感謝します、父上。わざわざ金沢から横浜まで……本当にありがと「礼は良いから理由を話せ」?」

 

訃堂との会談から少し経った10月23日。全国高校生魔法学論文コンペティションの1週間前のこの日、総司は日本魔法協会関東支部がある、訃堂と会談した横浜ベイヒルズタワーの屋上にいた。

 

そこには訃堂の要請によって集められた国防軍の上層部が何人か、そして総司の父親である剛毅がいた。

 

そして現在、総司は剛毅に肩を持たれながら揺さぶられていた。

 

「そんなきょとんとして「私何かしましたか?」みたいな顔をするな!こっちは何故か風鳴訃堂に呼び出されて急に息子が戦略級魔法師になるから見に来いとか言われたんだぞ!?」

 

「あぁ、戦略級魔法師になれって言われてこっちも「あんた何言ってんだ?」っていう感じになりましたよ父上」

 

父親がパニックになるのも無理は無い。何せ剛毅は総司が訃堂と協力していることも知らなかったし、大亜連合とドンパチやってることも知らなかったのだ。

 

補足として八紘が事情を説明すると親友の論文コンペの準備を見守っていた将輝と一条家の魔法師を引き連れて仕事休んで横浜までやってきたのだ。

 

現在横浜は国防軍と十師族の協力体制で防衛が行われている。大亜連合にバレると行けないのでステルス等を使って隠れてではあるが。

 

総司ではここまで動かせない。訃堂が国防軍を様々な伝手を使って動かし、国防軍のゴタゴタに勘づいた十師族(七草と十文字)が協力体制で防衛をしている。

 

訃堂は「大亜連合が日本に潜んでいて横浜を襲おうとしている。未来ある魔法師を持っていかれないようにお前ら守るの手伝え」みたいな感じで国防軍を動かしたらしい。

 

1分くらい揺さぶっていると落ち着いたのか、剛毅は総司の肩から手を離して静かな声音で話し始めた。

 

「……はぁ、まぁいい。それでどうやって大亜連合の軍勢を止める気だ?まさか全員の水を蒸発させるとか言わないよな?」

 

「いえ、もっとシンプルですよ。御前にも見栄えよく、誰もが俺を戦略級魔法師として認めるような魔法を見せろと言われているので」

 

「……そうか」

 

総司のことを信頼しているのか、これ以上追求してくることはなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

呂剛虎がいると言われた場所、そこには総司の私兵達がいた。ただ先導しているのは石山。その隣には正雪と風鳴家から貸与されている忍者が何人かと夜鈴がいた。

 

「……ねぇ、何で私前にいる?流石に可笑しい」

 

「何も可笑しくありませんよ。まだ信じられないだけです」

 

「総司様はどちらかというと甘い御方ですから……私達がそういうのを見分けないといけないんですよ。前に出て戦ってもらいます」

 

「コイツらやばい!」

 

夜鈴も来ている。戦力が欲しいから連れていくことを許可したいと正雪と石山が総司に願ったから来ているのだ。総司は数人の部下と共に置いておこうかと考えていたのだが、2人がそう言ったので連れて行かせた。

 

総司からしたら同じ境遇の人間で大事な戦力だが、正雪と石山、そして総司の私兵からしたら突如として湧いてきた大亜連合を簡単に裏切る小悪魔みたいな存在だ。

 

そう簡単には信じることが出来ないだろう。いくら総司が首輪をかけていると言ってもだ。故に前に出て戦ってもらって判断することにした。古巣である大亜連合と戦わせることで。

 

「そろそろ着きます。短期決戦で行きます。接近戦ができない魔法師は遠距離から援護を、今回の戦いで総司様の支援は望めませんから、死なないように」

 

最後の「死なないように」に力を込めて言うと、呂剛虎達が潜む所に入って攻撃を開始する。

 

「なっ、しんにゅ「黙れ」」

 

武器を持たずに屯っていた兵士に向かって正雪が魔眼を向け剣を振るう。まさか嗅ぎつけられて攻めてくるとは思わないだろう。魅了の魔眼によって意識を正雪にしか向けられなくなった兵士は簡単に命が刈り取られていく。

 

何人かの兵士が死んだ後にようやく緊急事態を告げるアラートがなる。兵士がこちらに向かって来た。

 

「霧雨さん、石山さん、何人か連れて早く先に進んでください!ここは僕達で何とかしますんで!」

 

総司の私兵を2人と同じくらいやっている魔法師が指揮を代わり、正雪達に先を急ぐよう言う。正雪達は無言で頷くと

加速魔法で移動を開始した。

 

何体かの化生体が現れてこちらの行方を妨害したり、ハイパワーライフルの弾が飛んできたりすることもあったが……

 

「セイッ!」

 

夜鈴が身体強化を身体が耐えうる極限まで行い、ダガーを投げつけることで化生体とハイパワーライフルの弾を破壊していく。

 

ハイパワーライフルの弾はかなりの速度で向かってくるはずなのにダガーで破壊していくのを見て石山は目が丸くなった。

 

「うわぁ、物凄いパワー」

 

「言ってる場合ですか?」

 

夜鈴の活躍で向かってくる兵士がやられていく。正雪達は大して苦労せずに日本に潜入していた大亜連合が使っていた司令室に辿り着く。

 

そこにはここから離れようとする男とそれを護衛する複数人の兵士がいた。その中には呂剛虎も。

 

司令室に入ってきた正雪達を見て呂剛虎が咄嗟に向かってくる。拳を握りしめて石山を殴ろうとする。

 

「セイッ!」

 

「ムッ、フンッ!」

 

夜鈴は石山に襲いかかってきた呂剛虎に対してダガーを飛ばす。だがそれは呂剛虎の動きを少しの間止めるだけで終わった。

 

「私がやる、お前らは先に行け」

 

「…石山、貴方と残りの人員で捕えられるでしょう?私と夜鈴で呂剛虎を倒します。行ってください」

 

「いやいや、確実性を取りましょうよ…私達はここで呂剛虎を抑えます。残りの人員は逃げたのを追いかけてください」

 

結局夜鈴、正雪、石山の3人で呂剛虎を抑えることになった。正雪と石山のペアは連携できるにしても夜鈴はどうするのか疑問であったが……

 

「グッ!?」

 

夜鈴優先で攻撃させて正雪と石山がそのフォローに回るという戦法を取ったのでそこまで苦なく連携することが出来ていた。

 

「私はダガーだけじゃないッ!」

 

ダガーを飛ばすだけでなく身体強化を全身に施して砲弾のようなスピードで呂剛虎に近づき、鋼気功を貫通できるほどの威力を誇る拳を叩き込む。

 

ただ突っ込むだけでは呂剛虎には届かないだろうが正雪が牽制入れたり、石山が呂剛虎の動きを妨害したりして呂剛虎に届かせている。

 

「総司様は苦戦なさっていたようですが……鋼気功の貫通を行える人材と動きの阻害を行える人材が居れば抑えることは難しくなさそうですね」

 

「確か呂剛虎は白い鎧を着てた、それがないと出力が落ちるらしい」

 

白い鎧とは白虎甲(バイフウジア)という呪法具のことだ。これを纏って鋼気功を使うと装甲車の機関砲を跳ね返せるようになるがそんなものは現在ない。

 

というかあったら総司と戦う時に使っている。仮にも「水の皇帝」なんて異名で新ソ連に恐れられているのだから。

 

「貴様は林 夜鈴……裏切っていたのか」

 

「金払いがいいところに雇われただけ」

 

「人はそれを裏切りと言うんですよ」

 

「大亜連合の労働環境が悪い」

 

呂剛虎が思い出したかのように夜鈴について言及してきたが夜鈴はそんなこと知ったことかと振る舞う。多分悪いと思ってすらいないだろう。

 

まぁ悪いと思っていないというのが石山達が信頼も信用もできないという所以であるのだが。

 

「しかしまぁここまで頑張ってもまだ戦えるって流石近接最強の1人ってことでしょうか」

 

「我々では千日手ですね……正雪さんには都合のいい必殺剣なんてありませんし、私の忘却術も鋼気功で意味が無いです」

 

「私もない」

 

「手段を自ら話すとはどういうつもりだ?」

 

「……毎回情けないですね、私達は」

 

呂剛虎が正雪達の発言を訝しみながら警戒していると石山が氷のオーブを取り出す。呂剛虎はそれを危険と判断したのか人間とは思えない速度で破壊しにかかるが……

 

「させませんよ」

 

正雪がそれを阻む。そして石山に目線を送ると石山がそれを地面に叩きつけた。

 

すると呂剛虎の脚が凍りつく。呂剛虎は瞬時にそれがこの前総司にやられた攻撃の類だと判断すると気を循環させて破壊しようとする。

 

「動けないならこちらのものですね」

 

正雪が呂剛虎に魔眼を向ける。魅了の魔眼によって気の循環より優先して正雪に気が向いた。鋼気功も解かれる。

 

忘れよ(オブリビエイト)

 

石山の固有魔法、忘却術。それを喰らえば記憶が無くなる。証拠隠滅に使われるそれは今回に限って、攻撃に使われた。

 

祖国、上司、今までの生活、そして己の価値であった戦い方の全てを記憶から消し去った。これにより呂剛虎は何も覚えていない人間となってしまった。

 

「……何したの?」

 

「呂剛虎の記憶を全て消し去りました。これで彼は再び学ぶか思い出すかしないと二度と戦うことが出来なくなります」

 

「恐ろしい」

 

「貴女も裏切ったら記憶を消します。総司様に歯向かったらこうなることを忘れないでくださいね」

 

石山の行いと今石山が浮かべている笑みが夜鈴に刻み込まれたのか、夜鈴は総司を裏切ることがないように決心するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「追い詰めたぞ、ここで捕らえさせてもらう!」

 

石山達が呂剛虎を相手することで逃げた残りの大亜連合の潜伏者達を追い詰めた総司の私兵たち。

 

だが大亜連合の潜伏者の1人であり、この作戦の隊長でもある陳祥山(チェンシャンシェン)は不敵な笑みを浮かべていた。

 

「ここがバレるとは思っていなかったが……仕方ない。ここ横浜と魔法協会を占領させてもらうとしよう!」

 

陳祥山が手を振りあげると横浜の至る所に向かってミサイルが放たれた。そして直立戦車や大型の装甲車両が何十機も現れて攻撃を開始した。

 

勝ち誇った表情を浮かべる陳祥山は次の瞬間、その表情を引っ込める羽目になった。

 

「戦略級魔法・四界氷結 発動」



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