カオス転生異聞 デビルズシフター (塵塚怪翁)
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第一部
第一話 Q、あなたはまた死にたいですか?


他の方の作品を読んで浮かんだものを勢いで初めて投下。


   第一話 Q、あなたはまた死にたいですか?

   

 

 

 それをぼんやりと自覚したのはいつだっただろうか?たぶん、6歳頃だったと思う。

 

 なぜ、自分はいい年をして子どもたちとお遊戯や文字の勉強をしているのだろう?

 なぜ、自分は日本人のはずなのに英語をペラペラと話しているのだろう?

 なぜ、周囲にいるのが白人や黒人やヒスパニックの子だけなのだろう?

 なぜ、地元の小さい教会を仕切っているノリスと呼ばれるこの白人のおっさん神父が父親で、乳飲み子を抱いた銀髪ショートのユキカと呼ばれるこのエロい女性が母親なのだろう?

 

 自分の最後の記憶は、仕事帰りで疲れからフラフラと歩道を歩いていた所に、スマホを見ながら運転する茶髪のおばさんの車がハイビームのまま突っ込んでくるところで終わっている。

 夜、自分の部屋で窓ガラスに映るそこそこ整ったそこだけは変わらない目の死んだ黒髪の男の子どもの顔を見ながら、そこまで考えた所で、生前の癒やしやうるおいのためによく読んでいた小説のような生まれ変わりだと考えついた。

 その時は自分が自分でないような感覚はあったが、せっかくの第2の人生で生前よりも環境も悪くない生活だし今回は上手くやろうと深く考えず、安いマンションの薄い壁の向こうから聞こえる母の嬌声を無視して眠りについてしまっていた。

 

 

 

 それをはっきりと自覚したのは10歳の頃だったと思う。

 

 確か、教会の仕事に忙しい両親に代わり妹の相手をしながら見ていたテレビの、佳境に入っていた大統領選挙の放送が熱をかなり帯びている年だった。

 東海岸から伝播してきた一神教の新宗派が父の教会を接収する話が来て断る話をするために他の司祭と出かけた父が、焦点の合わない目をしながら「ハレルヤ」と言いつつ帰ってきたのが始まりだった。

 

 そこからの母の行動は素早かった。あの時の行動と判断の速さは、今考えても我が母親ながらすごすぎると、妹共々にしみじみと素晴らしいと思い返している。

 人が変わったように新しく来る新司祭の素晴らしさを語り自分たちにも会うように強く勧める父を宥めすかし、最低限の家族の荷物をまとめ父のいない内に賃貸に引っ越した上で、弁護士を雇い離婚調停を進めつつ日本の母の実家に逃げる段取りまで付けていたのだから知ったときは唖然としたものである。

 当然、薄気味悪く思っていたので妹も素直に一緒に脱出し、有能だった弁護士のおかげで、離婚もこちらのやや有責ではあったが親権を母が獲得して書類が受理され、明後日には日本への機上の人となれるため空港の近くのモーテルに泊まっていた時にそれは起こった。

 

 夕食を食べそろそろ寝ようかという時間に、外の入口に近い駐車場で悲鳴や爆発音と共に、神と天使を高らかに謳い上げる父の声が鳴り響いた。

 母の判断は早く妹を抱き上げ、持っている最低限の手荷物のリュックを身につけると逃げるために部屋を出た。そして、運が悪かったのだろう。

 廊下で小型端末を手に持った悪鬼のような狂信者の顔をした父と、白い貫頭衣と白い翼を身に着け宙に浮かぶ白人男性と出会ったのだから。

 

 

「どこに行こうとしてるのかね、ユキカ? 

 子どもたちまで連れていなくなるだなんてひどいじゃないか。

 せっかく、家族で素晴らしい神の家に行こうと言っただけなのに。

 こうして、御使い様にも来て頂いたのだよ、ユキカ」

 

「連絡は弁護士を通してと言っていたでしょう?

 それに離婚も成立して、あなたとは他人になっています。

 そもそも、『御使い様』って誰のことです?」

 

 

 訝しげに見つめる母に、やれやれと首を振りつつ答える父と『御使い様』。

 

 

「やはり、真に目覚めないと尊きお言葉は聞こえないのですね。

 我が妻ながら悲しい者です、御使い様」

 

「我が使徒、ノリスよ。こうすればよいのです。 【ドルミナー】」

 

 

 たちまち意識を失い、崩れ落ちる母。庇うように、前に立つ自分。

 

 

「さてこれで連れていけますね、使徒ノリスよ。

 妻と娘はよいマリア候補に、息子もよい使徒にと……おや?

 わたしが見えているとは、何たる良き才能!

 テンプルナイトにもなれるかもしれませんね、我が使徒の息子は」

 

「お褒めに預かり、光栄です。偉大なる『メシア教』の御使い様!

 さあ、お前も来るの……?」

 

 

 (『メシア教』?メシア教??女神転生に出てくる極悪カルトのメシア教?)

 

 前世の知識が一気に吹き出しくらくらするが、自分の中にいた自分にそっくりな「何か」が成り代わり、一気に駆け出して持っていた木のバットを常人からは外れた力で天使の脳天に叩きつける。

 

 

「何をッ、ウゴッ!止めるので、ウグッ!この【ドルミ……、ぐほっ!

 誰だと思って、……おごっ!やめっ、……うげっ!

 頼むからやめ、……ぐっ!神よ、助け、……あがっ」

 

 

 自分も無我夢中だったためはっきり憶えていないが、あとから聞いた話だがあの時に妹も覚醒し一部始終を母の側で見ていたようだ。

 並外れた速さで跳躍し、持っていたバットを脳天に叩きつけたあと天使が消えてしまうまで殴り続けたらしい。別れ際にバットをくれた親友だった野球少年のマイケルくんには、感謝してしきれない思いだ。

 そして、後に残ったのは天使が傷を癒やすために生命力を吸いつくされ気絶した父と叩き壊した【COMP】らしき端末、そして家族たちだけだった。

 

 それからはもう語ることはそんなに多くない。

 警察が到着し、父は逮捕後心の病院に行き、そして母と自分たちは無事機上の人となり日本へ渡った。神戸の母の実家に着き、生活環境を整え、日本の生活に慣れていった。

 あんな化け物がいるならと鍛えるために妹と異界に踏み込んだり、母の仕事相手の会社にアルバイトとして雇われ全国を渡り歩いたり、高校では気配を消して無難に過ごしたり、地元に「見える」関係の友人が出来たりといろいろな事があった。

 

 

 

 そして、あの事件から9年。高校を卒業から1年後、念願の一人暮らしと原付きバイクを手に入れ、次のバイトのシフトを確認していた夏のある日、アパートの自分のところへ血相を変えて息も絶え絶えの妹の花蓮がやって来た。

 

 

「あのカズマお兄様?前世の記憶を持った転生者の方が大勢いる、女神転生や悪魔の話題を出している掲示板を見つけたのですが?」

 

「オーマイファッキンゴッド」

 

 

 花蓮からアドレスのメモを貰い、これまた大金を張って買ったデスクトップを動かし入力して暫し待つ。

 

 

「『★転生者雑談スレ その24』。これかぁ」

 

「ああ、やっぱりあったのですね、これ」

 

 

 

 

 

 

 自分たちを転生させた神様がいるのなら、こう言いたい。

 

 

「もう一度死にたくないが、それはそれとして一発殴らせろ」、と。

 

 




あとがきと設定解説

・間藤カズマ(まとう かずま) 開始時19歳  この話の主人公

中肉中背で黒髪のモブ顔。
前世は、大卒で就職に失敗し独身のまま派遣で働きながら50間際で交通事故死。
オタクとしては、雑食でおっぱい星人だった。
覚醒時のスキルは、「外道 ドッペルゲンガー」に変身する「デビルシフター」。

・間藤花蓮(まとう かれん) 開始時15歳 

主人公の実妹。
ロシア人クォーターのため銀髪でスタイルが良いが、胸がやや小さいのが悩み。
前世も女性(享年27)で、ブラック社畜の過労死で乙女ゲーが唯一の癒やしだった。
主人公に鍛えられ、ニフラム(ハマ)、ヒャド(ブフ)、ホイミ(ディア)、ザメハ(パトラ)が使える。


勢いで設定をもりもり作り、勢いで人生で初投下してしまいました。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。
あと、続けるかどうかは未定です。



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第二話 Q、死にたくないのならば努力はしたのか?

コロナで仕事が休みで、わりと早く続きました。

今回は、会話文の練習も兼ねた現状把握回。
設定や状況を固めて、頭の中で会話させて出力するとするするとかける不思議。


 

 

 第二話 Q、死にたくないのならば努力はしたのか?

 

 

 

 デスクトップの画面に現れる『★転生者のデビルサマナーだけど何か質問ある?』などの転生者関係の掲示板を妹の花蓮と見ること1時間、さすがに目が疲れたため休憩することにした。

 途中で用意した麦茶を二人で飲んで一息つく。

 

 

「大体のことはわかりました。父のこともありましたし。

 だけど、お兄様? その、『大破壊』とか『核戦争による終末』とか本当にありえますの?

 9歳の時に『転生者』だとバレて『生き残りたいなら来い』と引っ張り出されて、異界巡りをさせられたので『悪魔』についてはもう十分理解していますけど。

 それと、私に化けて『来ないなら裸で表を歩き廻る』と脅した件は忘れていませんよ」

 

 

 一応、頭を下げてそれに答える。そして、冷房は残念ながら無いため扇風機を強めにする。

 

 

「脅したことは許してくれないか?

 あの時は一人では行き詰まっていて焦っていたんだから。

 そもそも、ファミ○ンのBGMの話をしている時に、存在しない乙女ゲーの声優陣を熱く語りだした花蓮のほうが悪いと思うんだけど。

 それに強くなったことで健康にもなって、そこらの運動部の子たちよりも走るスピードとかすごいじゃないか。勧誘されたんだっけ、陸上部に」

 

「新入生だからって、部活には入りませんよ。

 12の頃から続けてる教会のお手伝いだってあるんですし。

 もっとも、大きい教会はメシア教が専有しているので、他の宗派が管理してる結婚式場付きの小さい教会ですけど。他にシスターらしいシスターもいませんし」

 

 

 そう言って、麦茶を飲み干す花蓮。もう、3杯目である。暑いから仕方ないが。

 

 

「……その、メシア教のこともあるし、一神教のシスターを続けるのか?」

 

「今世の父がアレなことになりましたけど、その前はまっとうな神父でしたしそれくらいは受け継いでもいいかな、と思ったので」

 

「そっか。何かあったら、知らせてくれよ。これでも兄貴なんだし。

 もっとも、ぶん殴るか、相手に化けて社会的に殴るしか出来ないが」

 

「十分ですというか、しないで下さい。葵さんにも迷惑がかかりますし。

 そうなると、友人の雫にも影響があるんですよ。妹さんなんですから」

 

 

 月城葵(つきしろあおい)。

 表向きは短大卒業後、地元の福祉NPO団体の事務をしている。

 裏向きには、ヤタガラスの系列の霊能者組織だったがほとんど福祉団体と化した今の組織の唯一の能力者らしい。

 5年前に妹と修行代わりに地元の中小異界を潰して回っているときに知り合ったが、異界の見廻りをしていて悪魔に襲われているのを助けたのが切っ掛けだった。

 呪いがけとお祓いは得意だと言っていたが、たぶん【ムド】と【ハマ】だろう。

 そして、妹の花蓮の同級生である雫(しずく)ちゃんのお姉さんでもある。

 

 

「……彼女、なにか言っていたのか?」

 

「裏向きは特に何も。……ただ、一人暮らしを始めたのなら何か家事で困ってませんか、とだけ。うふふふ」

 

 

 視線を外して含み笑いをする花蓮。何か寒気を感じるが、咳払いをして話を続ける。

 

 

「話をもとに戻すが、『大破壊』や『核戦争による終末』は充分に起こり得ると思うぞ。

 ただ、自分の知識は不完全でね。

 公式でやり込んだのは南極の巨大異界に軍の一員として乗り込む話で、他は小説やや○夫スレの2次創作の知識でしかないんだ。

 そもそもこの『前世の知識』が誰かに刷り込まれた物かもしれないのが、『女神転生』の世界なんだ。

 花蓮の方は、何か知らないのか?」

 

 

 含み笑いを止め、真顔で話し出す花蓮。

 

 

「花の20代を、仕事と家の家事と癒やしの乙女ゲーだけですり潰して死んだ私にそれを言うのですか?」

 

「正直、すまなかった。でも、知らないというのは分かった」

 

 

 ふと、時計を見る。お昼を廻っている。

 

 

「もう、お昼か。昨日の残りのカレーがあるが食うか?

 レンジで温めれば、すぐに食えるけど」

 

「夏場だけど、大丈夫なのですか?」

 

 

 その質問に、指を指しながら得意げに答える。

 

 

「一人暮らしをするから貯金をはたいて、冷蔵庫、電話、レンジ、デスクトップ、原付きバイクを新しく買って、駅前の新築1DKアパートに入居としたんだ。大丈夫だ。

 貯金の残高は、正直、怖すぎるが」

 

「何でそんなに得意げなのか」

 

「前世の生活を思えば、まだ足りないぞ家電。エアコンと掃除機は諦めたし。

 それより、食べるのか?」

 

「食べますよ。お腹空いたし、お兄様のカレーは何故か美味しいですし」

 

「そこは、長年の市販カレールーの組み合わせの研究の結果だな。

 苦労したんぞ、これ」

 

「いつ研究したんです?」

 

「前世で。個人情報はもうほぼ忘れたのに、こういうのや趣味のことだけはしっかり憶えているんだよなぁ。本当に不思議だ」

 

 

 冷蔵庫からカレーを入れたタッパーと一人分をサランラップで冷凍にしたご飯を出し、客用の皿も用意して二人分のカレーライスを用意する。

 

 

「ほんと、こういうのマメですね。お兄様」

 

「こういう事は好きなところは拘らないと。

 食事と餌は違うんだし。

 あ、皿とかは流しに置いといてくれ」

 

「後片付けの洗いくらい、私がしますよ。やらせて下さい」

 

「分かった。頼む」

 

 

 

 

 

 

 

 

 食事が終わり、一息ついてからまた相談を始める。

 

 

「さて、今日は俺には予定がないから大丈夫だが、続けるか?」

 

「日曜ですし、大丈夫です。緊急事態なのだから、一日くらい掃除しなくても大丈夫ですよ。小さい教会ですし」

 

「……まあ、いいか。続けるよ」

 

 

 引き出しから、神戸市の地図出して広げる。

 いくつかの地点、神戸に来てから自分で見つけたものや月城さんに聞いて判って潰した異界の地点が記されたものを指差す。

 

 

「この9年間で、神戸・明石・姫路市内の中小の知っている異界は粗方潰し終えている。

 あと、記録に残っているのはロープウェイのある山の頂上近くのものと、姫路城の天守閣と花蓮の行っている学園のものしか無い。

 天守閣のは個人的に潰したくないし、山や学園のは何かの封印だから接触禁止になっている。

 記録を見せてもらった月城さんのご先祖が残した修行方法も、強い霊地がないと役に立たない」

 

「霊地って、受け継ぐものではありませんの?」

 

「戦後すぐに曽祖父母と祖父母が米軍に連れて行かれて、何も知らない両親が買取に応じて屋敷ごと売り飛ばしたんだと。

 月城さんが悔しそうに言っていたな」

 

 

 本当に悔しそうに言っていた月城さんの顔を思い出す。

 

 

「それで、その霊地は今はどこに?」

 

「メシア教会のある所在地」

 

「………ええっ!?」

 

「まあ、そういう事なんだろう」

 

 

 何か思い当たる節があるのだろう。引きつった笑みで話し出す花蓮。

 

 

「お、大阪の方や淡路島の方には行けませんの?」

 

「俺たちは一応月城さんの所の組織に異界侵入の許可をもらって活動しているから、そっちの方は別の組織のもので、その組織とは規模的に交渉もできないんだって。

 だから、管轄外で無断でやるとヤタガラスに睨まれるんだと」

 

「ヤタガラスって、確か……葵さんによると、護国機関でしたっけ?」

 

「中心は、帝都の結界を管理している築地根願寺らしいけど。

 まあ、メシア教の手下みたいだけど」

 

 

 さらに、引きつった顔で話す花蓮。気持ちはわかる。

 

 

「……日本自体が詰んでいるのでは?」

 

「うん、状況証拠を見るだけでも詰んでる。

 たぶん最悪だと、数十年後には花蓮は天使の子どもをぼこぼこ産まされて、俺はうつろな目で神を称える唄を歌う尖兵になってる」

 

 

 バンと両手でテーブルを叩き、立ち上がり大声で話す花蓮。

 

 

「駄目じゃないですか!」

 

「駄目なんだよ。

 状況を覆すのに強くならないといけないのに、これ以上は今のままでは強くなれない。

 だからこそ、初回は逃したけどこれに参加してみないといけない。

 この、【富士山覚醒体験オフ会】に。花蓮も一緒に」

 

「ええ、解りましたわ。絶対に生き残って、またあの乙女ゲーを遊ぶのですから!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分たちを転生させた神様がいるのなら、こう言いたい。

 

 

「生き残る努力をさせたいなら、努力のできる環境くらい残しておけよ」、と。

 

 




あとがきと設定解説


なお、数十年どころか、十年もしない内に核ミサイルが飛んできて世紀末な未来。
あと、地方の霊能者組織もこういうところはいくつもあるだろうなと言う筆者の独自の設定です。
もし、神戸にお住まいで気分を悪くされた方がいたら、申し訳ありません。



勢いで設定をもりもり作り、勢いで続きも投下してしまいました。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第三話 Q、出かける前の準備はちゃんとしていますか?

続きました。

今回は、主人公の周りの人々の紹介と伏線をばら撒く回。

なお、伏線の回収は未定。

今回は苦労しました。プロットだともうショタオジと会っているはずなのに。


  

  第三話 Q、出かける前の準備はちゃんとしていますか?

 

 

 

 ケース1:間藤花蓮の場合

 

 

 蒸し暑い7月頭の日曜日に人生にまつわる重大なことを兄と二人で決め、今度こそは兄に頼り切りにならずに自分で生き残る選択肢を自分の力で掴んでやろうと決意していた私ではあるが、早々に疲れ切っていました。

 

 まず、教会の方は元々正式にシスターになっているわけでもないので、8月の間に兄と長期旅行に出るため来れないことを伝えたら、やたらと優しい目をされて神父さまに「気をつけて」と了承されました。

 少し疑問に思うが了承されましたので良しとし、次は友人の月城雫に同じように8月の間は会えないことを伝えましたが、一緒には行けないのかと聞いてきたので「兄と二人でないといけない」と伝えると何か仕方がないなぁとでも言いたげな態度でOKしてきました。

 他の学校の友人たちも、内容を伝えると一様に同じような納得した顔をして「わかった」と伝えてくるのです。ほぼ、全員がです。

 

 ますます疑問に思ったが良しとすることにして、次は葵さんに伝えることにしました。

 伝えた途端、愕然していたが何か考え込みだし「実の妹だし…」やら「シスターなのよね」とかブツブツ言い始めましたので「ただの旅行ですよ」と話しかけましたが返答がないので、了承されたのだと解釈して帰ることにしました。

 あとで雫から聞きましたが、葵さんは家に帰ってからも上の空だったらしいのだと。

 

 そして最後は実家の家族でしたが、悠紀華お母さんの方は何故かニコニコと神父様と同じ目線でOKしてくれましたが、問題は鶴弥(つるや)おじいちゃんでした。

 気持ちは理解できないでもないのですが。

 留学先でデキ婚駆け落ちした一人娘が、離婚騒動の末に孫を二人も連れて出戻って来たのですから。その上、孫二人も普通の子どもではないときたものです。

 そういう事もあって普通なら距離を置かれるものと思っていましたし、9年間も同居しているのに普通の家族の距離を保っていましたので大丈夫だとも思っていました。

 それが今回、過保護な方向に爆発してしまいました。それも、「女孫ラブ」が。

 ただ非常に、厄介でありました。

 

 

「だから、兄と一緒に避暑も兼ねて富士山に観光旅行に行くだけじゃないですか。

 ちゃんと、定期的に連絡もしますし、夏の課題も片付けてから行きますのに。

 何がご不満なんですの、お祖父様?」

 

「だって最近、行方不明や猟奇的な事件が増えていると盛んにテレビで騒いでおるし、長期の個人の旅行など心配なんじゃもの。

 おまけに、一緒に行くカズマときたら高校を卒業しても定職にも就かずにしておるし、アルバイトなどと称してふらふら出歩いているのだから余計に心配にもなるわ。

 ……まあ、落ちぶれたとはいえ名家であるあの月城のお嬢さんと交際している点は評価しないでもないが。で、どの程度仲は進んだのかの?」

 

「まだ、はっきりとお付き合いしているわけでもないのですけど、兄の方も絆されてはいるようですし、葵さんも距離を徐々に詰めているので時間の問題かと思います。

 ……そうではなく!旅行の話でしょう、お祖父様?」

 

「いつものように、“おじいちゃん”と呼んではくれんかのぅ。

 とにかく、心配なんじゃよ。旅行先で悠紀華もあんな事になったんじゃし」

 

 

 このように学校帰りから始まった旅行に関するループする話し合いは深夜にまで至ったのですが、途中で仕事から帰って来て参加したお母さんの助言により、

 「そんなに文句ばかり言うなんて、お祖父ちゃんなんか大嫌い!」

 の、一言で折れた祖父に色々と譲歩の条件は飲まされはしたが、ようやく8月の富士山行きが決定したのです。

 ああ、とても精神的に疲れた時は癒やしが欲しい。

 乙女ゲーがしたいが、テレビは居間にしかないから監視が厳しくてできない。

 現実では、あんなイケメンに口説かれるようなことはないのだから。

 

 後に、好みドストライクのIKEMENシキガミに口説かれるまであともう少し。

 

 

 

 

 

 ケース2:間藤カズマの場合

 

 

 さて、翌月の8月の間に長期の旅行に出るならいくつか報告しておかなければならない所があるのは、誰しも同じだろう。家族、勤め先、友人などである。

 

 まず家族ではあるが、今の自分は一人暮らしを開始したばかりであるし、そちらは実家住まいの妹がしてくれるだろう。あの逸般人の母もいることだし大丈夫だろう。

 ちなみに、アメリカでの事もあったので、それとなく母も他にもいた「転生者」かと疑っていくつかワードを試してみたが、反応が無く違った。

 では、アメリカでのあの行動の速さは何だったのかと聞くと、一言、「女の勘よ」である。

 つまり、家に帰ってきたあの父を一目見て「この人はもうダメだ」と思ったから、らしい。

 女の勘、怖い。

 

 次に友人であるが、中学と高校を気配を消して過ごしたのでボッチである。体質のこともあるので、当然の結果である。

 寂しくはない。寂しくなど無いのである。ただ、前世もそうだったのか対人の距離のつめ方が苦手なだけで面倒に思ったわけではない。

 ただ時々、高校でストレスの発散のために、いじめを主導していた奴の姿で裸になり走り回ったことは何度かあったが、捕まらずに逃げ切ったしランナーズハイで楽しかったし関係ないと思う。

 後に、同じ高校に入学してきた花蓮が自分の妹と認識されなかったり、妖怪ストリーキングのことがバレて折檻された以外は問題ない。無いのである。

 

 次に、勤め先である。

 今の勤め先は、税理士をしている母の紹介でアルバイトとして雇ってもらっている所で、名前は「田中カンパニー」で、自分も含めて4人しかいない神戸市内の雑居ビルにある零細輸入業である。

 主に、海外の雑貨や海外コミックなどを輸入し国内で販売している会社である。

 自分の仕事内容は、倉庫の整理や社内の雑用、そして帝都や大阪などへの物品引き取りのため派遣である。

 なぜ自分が商品をわざわざ現地まで受け取りに行くのかと聞くと、商品が高額なので母の紹介で信用はあったし、社長の田中さんや営業の赤城さんは大都市圏、特に帝都に行くと体調を崩すので自分に行ってもらって助かっているらしい。

 それに、20歳になったら正式に社員待遇になるので頑張って欲しいと言われているので頑張っている。

 

 つらつらと思い出している間に、市内の通りから外れた雑居ビルに着く。

 事務所は最上階の4階だがエレベーターが無いので階段を上がる。

 相変わらず、景気は良くなっているのに1階と2階は空き室のままである。

 3階は、倉庫と仮眠室なので上に上がる。

 4階の事務所に着き、ガタツキの良くないドアをノックをする。

 

 

「間藤ですけど、社長、いますか?」

 

「ああ、はいはい。空いていますからどうぞ」

 

 

 「失礼します」と言ってから入ると、昭和のドラマに出てくるような安っぽい事務所に二人の男性がいた。

 一人は、社長の田中文雄さん。30代半ばの髪をオールバックにした中間管理職が似合いそうな男性である。いつも着ている白の作業服がトレードマークでもある。

 

 

「おや、今日はどうしたんだい、間藤くん?

 経理の河野さんも休みだし、シフト表もまだ作っていないよ」

 

「実は、来月の事で相談がありまして。8月の間、お休みさせて欲しいのですが」

 

 

 驚いた顔で答える、田中さん。

 

 

「急にどうしたんだい? そんな事を言うなんて珍しいじゃないか。

 ご家族に何かあったのかい?」

 

「いえ、家族は元気なんですが」

 

「来月はお盆もあるし、休んでも大丈夫だとは思うが。

 理由が聞きたいな。それによるかな、許可できるのかは」

 

 

 通じるかは分からないが、考えてきた言い訳を話す。嘘はついていない。

 

 

「人生の一大決心をするため、山梨の神社で行われる自己啓発セミナーに参加したいのです。

 ただ、それが8月いっぱい掛かるかも知れなくて」

 

 

 口をポカンと開けて動きの止まる田中さん。

 すると、横の机でニヤニヤと黙って聞いていた赤城さんが大笑いしながら話し出す。

 

 

「アハハハハハ、あ、あまり冗談を言わないカズマくんがこ、こんな事を言うとは思わなかった。

 ぐ、ふふ、いいじゃないか、田中さん。面白いから行かせてあ、あげようじゃないか。

 オ、オーナーの方にはボクから話しておくよ。

 帝都の業者を使わないといけない商品は来月は控えるようにす、するからさ」

 

 

 この大笑いしている人は、赤城克幸さん。この社の営業兼海外エージェントでもある。

 いつもデザイン違いの赤いスーツとサングラスをしているのが特徴の、髪を金髪に染めている渋い声の二枚目でもある。

 ただ、この人は「最近見た作品は?」と聞くと、

 「あ○りちゃん、ミン○ーモモ、とき○きトゥ○イト、ペ○シャ、魔神○雄伝ワ○ル」

 と、にこやかに言う人なので妹には会わせられない。

 その趣味以外は、にこやかで話が合う人なんだけど。

 

 

「だけどね、赤城くん。オーナーからこの社を頼まれている以上、わたしにも責任というものがあるのだけどねぇ。

 面白さで物事を決めるのはどうかと思うよ?」

 

「いいじゃないですか、田中さん。

 元々この会社はオーナーが伝手を広げるために立てたものですから、多少の赤字はどうとでもなりますよ。……それにね」

 

 

 机から立ち上がり、田中さんの近くでサングラスを外し覗き込むように言う。

 部屋の気温が下がったように感じる。部屋のエアコンはポンコツなのに。

 

 

「オーナーが懇意にしている女性の方たちが、そろそろ始めたいとおっしゃっているのですよ。例のお話を。

 物は出来上がっているので、微調整してカードの種類を決定したら完成だそうなので」

 

「わ、わかった。間藤くんが休むことは、河野君にはわたしから伝えておくよ。

 オーナーにはよろしくと伝えておいてくれ」

 

 

 冷や汗をかく田中さんをニヤリと笑うと、そのまま事務所を出ていく赤城さん。が、立ち止まってこちらに振り返って言う。

 

 

「そういうことだから帰ってきたら連絡をお願いするよ、カズマくん。

 そう、来年の正式雇用の前祝いさ。

 君にいいものをプレゼントするから、楽しみにしていてくれ。

 オーナーやボクが用意する素晴らしいものだからさ。

 君のかわいい妹さんにも、よろしく言っといてくれ」

 

「いえ、前にも言いましたが、できれば妹とは接近禁止で。

 それと、前に実家に送られてきた『椅子に座る金髪美幼女の精緻な油絵』みたいな物だったら勘弁して下さい。

 自分の宛名だったので、家族会議から審議で裁判になったんですよ?」

 

 

 愕然とした表情で振り返りこちらに来ると、大げさな身振り手振りであの絵の良さを語りだす赤城さん。

 ああ、こうなったらしばらく止まらないなぁ。

 

 

「いいかね、カズマくん!

 あの絵の素晴らしさが解らないなんて損をしている!

 あの少女の、華奢さ、儚さ、無垢さ、ボクが同志と共に見つけた究極の美はね…」

 

「二人とも、業務時間内だ。せめて、外でやってくれ」

 

「それはいい考えだ!

 カズマくん、近くの喫茶店でおごるから話を聞いていきたまえ!」

 

「カズマくん、すまないが彼の相手をしてやってくれ。

 休みの件は処理しておくから」

 

 

 結局、赤城さんに引きずられ、近くの喫茶店で一時間くらいあの人の持論を聞く羽目になってしまった上に、赤城さんは語るだけ語り満足したように醒めたコーヒーを飲むと勘定を払って意気揚々と出ていった。

 趣味を除けば、悪い人じゃないんだよなぁ。

 ただ、店を出る時の店員のドン引きの視線が忘れられない。

 あの店、胸の大きいかわいい店員さんがいたから贔屓してお昼をよく食べに行っていたのに、値段も手頃だっただけにもう行けなくなるのは結構、痛い。

 気がつくともう夕方になっているので、気を取り直して最後の所に行くとしよう。

 

 

 市内を郊外へ原付きで移動することしばし、新興住宅街とオフィス街の間にある公民館のような建物が見えてくる。看板には、「NPO法人 ライフムーン」の文字が。

 駐車場の隅にバイクを止めて、裏口の事務所入口の方から入っていく。

 

 

「すみません。間藤ですけど、所長と月城さんは……」

 

 

 そう言いかけた所で、声をかけた併設された「幼稚園 やすつき」のベテラン保母さんが、大声を出しながら奥の方へ小走りに去っていく。

 

 

「あら、まあ!うんうん、わかってるわぁ。

 ちょっと、待っててねぇ。所長さ~ん、あおいちゃ~ん!

 あおいちゃんの年下の彼氏が会いに来たわよ~!」

 

「ちょっと!その呼称にはいろいろと問題が!」

 

 

 止める間もなくおばさんが奥に行くと、パタパタと奥から赤面した女性が出てくる。

 腰まであるウェーブした黒髪を揺らしながら、慌てたように出てくる事務員の制服を着た絶滅危惧種の貞淑な大和撫子然とした美人の彼女が、月城葵さんである。

 若干、妹の雫ちゃんよりは胸部が残念なのが惜しい所である。

 

 

「か、カジまくん、こ、こんにちは。何か、ご、誤用でも!?」

 

「カズマです。噛んでますし声裏返ってますよ、葵さん。

 今日はちょっと裏のお話があって来ました。所長さんは?

 あ、菓子折りがあるんで皆さんでどうぞ」

 

「しょ、象徴なら所長室にいます。お茶入れて往きますね」

 

 

 菓子折りを持ったままふらふらと奥へ行く葵さん。大丈夫かな?

 花蓮が言っていた「天然であざとい」とはこういうことなのだろうかと考えつつ、所長室にノックして入る。

 

 

「失礼します。裏のお話のことで相談がありましてよろしいでしょうか?」

 

「ああ、いいとも。もう定時で子どもたちもほとんど帰ったし、大丈夫だとも。

 裏の話なら、月城くんもいた方がいいかな?

 ちょっと待っていよう」

 

 

 しばらく待つと、緑色のワンピースに着替えた葵さんがお茶とさっき渡した菓子折りのお菓子を皿に盛って入ってくる。

 若干、頭が冷えたのか頬はまだ赤みがあるが、もう冷静らしく部屋に入りドアを閉じると入口近くにある木彫りの月の輪熊に触れ何事か唱えると、来客用ソファにいる自分たちのところへ来てお茶を並べ所長の隣に座る。

 

 

「人払いと遮音の呪物を働かせたので話を始めても大丈夫ですよ。

 話って、昼間に花蓮ちゃんから聞いた富士山旅行のお話ですか?」

 

「わたしも初めて聞いてね、困っているんだ。

 裏の人間としては、本家の資料を隠し持っていただけの何の力もない人間には判らないことだらけなんだ。すまないね。

 古い知り合いがいる小さいところなら交渉くらいは出来るんだがねぇ」

 

「富士山と言ったら、浅間神社くらいですよね?

 観光かお参りでも?」

 

 

 どこまで話していいか難しいので思案してから口にする。

 「転生者たちがたくさん集まって覚醒修行するので参加してきます」とは言えない。

 

 

「人づてに富士山の近辺に強くなれる所があるらしいので、花蓮と二人で観光がてら探しに行くだけですよ。

 月城家の記録に残っていたのと自分たちで見つけたもので、攻略できそうな異界がもうこの辺にないのが問題なんですよ。今のままだと強くなれない」

 

「もう充分にカズマくんはこの辺で一番強いじゃないですか!

 何でもっと強くなろうとするんです!?」

 

「【鬼ヶ島】」

 

 

 前にいる二人の顔色が変わる。

 そりゃそうだ。月城家にある資料にもこの近くの異界で攻略不可能とあるのと、日本で一番有名な童話にも残る大きな異界なのだから。

 

 

「そりゃ物理一辺倒の鬼だったら今の自分だけでもさばけますけど、複数体出てきたり、攻撃魔法を使ってきたら花蓮と二人でも厳しいんです。

 せめて、中に入れなくてもいずれ出てきた奴を余裕で倒せるくらいにはならないと、近くにあるこの街や大切な人が死ぬかも知れないんですよ?」

 

「…………………」

 

「…………………」

 

 

 よし、本音も混ぜて必死に考えたにしてはいい方向だぞ。

 どこぞのドイツにTS転生した人も、「嘘には真実を混ぜろ」と言っていた気がする。

 このままの方向性で押し切ろう。これは勝ったな。

 そう思った時、考えが甘かったことが理解させられた。

 何しろ、涙を流しながら所長さんが頭を膝まで下げたのだから。

 

 

「異能をたまたま持っただけの市井の一般人に過ぎない君に、我々がすべき事をしてもらったばかりか、そこまで考えさせるとは全くもって不甲斐なく恥じ入るばかりだ。

 播磨霊能組織やすつきの総代として、詫びさせてもらう。

 本家の霊地も、祭ずるべき分け御霊も失った寄る辺なき我等ではあるが、君のその気持に最大限報いらせてもらう事を祭神カヤノヒメに誓おう!」

 

 

 続けて、真剣な面持ちの葵さんが話し出す。

 止めて、ゲームみたいに強くなれることが判ったから異界に行っただけなの。

 止めて、良心というライフがもう持たない。止めて。

 

 

「受け継いでそんなに自覚は無いけれど、言います。

 『やすつき宗家である月城家の直系にして後継者の月城葵が祭神の名に於いて誓います。

 我らが持つものに於いて最大限報いるものとして、直系の女児二人の身と心を差し出すもの也』」

 

 

 顔が真っ赤だけど、真剣な顔の葵さん。

 少し待って、今は平成。平安じゃないの!

 ちょっとラッキーかもと思わないでもないけど、色々と重いの。

 しかも、『女神転生』の世界で呪力を持って宣誓しちゃ駄目ぇ。

 どこからか圧のある視線を感じるの、待って貰えませんよねぇ。

 

 

「ど、どうかしら、カズマくん。私たちの組織で一番価値があるのが私と雫なの。

 二人とも、女性としては魅力があると思うし。

 報酬として、ど、どうか受け取って貰えないかしら?」

 

「富士で無事修行を終えて、帰ってきたら二人と婚約ということで。

 雫ちゃんとご両親の説得はお願いします。あと、実家との交渉も。

 それで、よろしいですか?」

 

 

 震える声で、それだけ答える。

 満面の笑みの葵さんと涙を流しながら喜ぶ所長さん。

 喜びの感情と約定破りはどうなるのか分かるよなという、どこからかの視線も強くなった。

 ちょっと、連絡に来ただけなのに何でこうなるのだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  自分たちを転生させた神様がいるのなら、こう言いたい。

 

 

「これは旅行や修行に行く準備ではなくて、人生の準備では?」、と。

 




あとがきと設定解説

・女神 カヤノヒメ

「播磨国風土記」に記されている女神。
日本神話の草の神様。野椎神(ノヅチ)とも呼ばれる。
春夏秋冬山の神オオヤマツミに抱かれて様々な色に染まるという。

・退魔組織「保月(やすつき)」・NPO法人「ライフムーン」

月城家が主催していた崖っぷちの退魔組織。
祭神の分け御霊は異界ごとメシア教により消滅。
福祉系のNPOとして活動しながら、残った資料を保存していた。
裏の人員は、古株の所長と月城葵ほか、月城家の人が数人。

追い詰められた地方の零細異能組織が、好意的に貢献してくれたサラブレッドを逃がすはずがないんだよなぁ。

それはそれとして、シキガミヒロイン多いけど、地元霊能組織の幼馴染ヒロイン、すこ。
天パと勇者少女の組み合わせ、すこ。

次回は、いよいよ富士山到着。長かった。
勢いがある内に、続けたい。

勢いで設定をもりもり作り、勢いで続きも投下しています。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第四話 Q、自分の足元はちゃんと確認していたつもりだったのか?

続きました。

今回は、富士山に移動して着くだけになってしまった回。

二人の現状認識も、ちょこちょこと。


  第四話 Q、自分の足元はちゃんと確認していたつもりだったのか?

 

 

 8月になり、出発の日になりました。

 

 掲示板経由で申し込んだ【第×回・富士山覚醒体験オフ会】の案内状が郵送されて来たので、合流地を目指し新大阪から静岡へ新幹線で現在移動中である。

 隣の席の花蓮が、今に至って無言のままなのが大変恐ろしい。

 原因は、あれしかない。

 地元の駅の見送りで、衆人環視の中で雫ちゃんが真っ赤な顔で頬にキスをし、葵さんは濃厚なのを唇にし二人で「いってらっしゃい」と言ってくれたことだろう。

 近くにいた花蓮の眼差しが、氷点下になっていたので間違いない。

 花蓮は二人から色々と話しをされていたようなのだが、この調子ではどこまで納得したのかも聞けない状態である。

 彼女の機嫌が治るのを待ちつつ、これからの事などいろいろ考えることにする。そうしよう。

 

 女神さまの視線を感じる中で約定を取り交わした日、所長さんは葵さんのご両親に早速連絡したそうだが、最初は訝しげだったのが、それが説明後にはつつがなく大変喜ばれたらしいのだ。

 何でもご両親は帝都の商社に出向したのではなく、組織の代表としてヤタガラスと根願寺の指示で帝都の結界の維持作業をしていたとかで、持ち回りの結界担当も落ち着いたようなので一度婿殿の顔を見に戻ってくるとか。

 雫ちゃんは今回の件について、裏の事情を含めて葵さんと「女の話し合い」をし両親とも電話で相談した上で決めたそうである。

 彼女には妹の友人なので、失礼にならない様にふくよかな大きすぎる膨らみを見ない様にするなどの態度で接していたのだが、どこでどう好感度を稼いだのか分からない。

 長年一緒の地元で暮らして情も湧いているので断るという選択肢はもうないが、葵さんもご両親も乗り気で二人姉妹をまとめて娶ってくれというのがそもそも解らない。

 前と今を合わせて70年近くのヘタレ童貞には、難解過ぎる疑問である。

 

 さて、気分を変えるために修行の方に考えを切り替えよう。

 そのためにも、まず能力のことを知るべきだろう。

 

 第一に花蓮であるが、【ハマ】、【ブフ】、【ディア】、【パトラ】が使えるのは相当に優秀であろう。

 基本的に自分が前衛で、花蓮が後ろから援護する形になる。傷薬とか殆ど無いのでこうするしかないだろう。痛みや怖さにはもう慣れているし問題はない。

 そして葵さんが使える【見鬼の術】で強さもわかるらしいが、花蓮は葵さんよりやや強く自分は葵さんの倍近く強いらしい。大まか過ぎである。

 

 第二に自分であるが、これも能力が大まかにしか判っていない。

 まず、発動方法である。

 神戸に来た最初の子どもの頃は発動するやり方も判らず、試行錯誤した。

 自分の内側から何かが変わる感覚なので【ペルソナ】かと思い試してみたが、【ペルソナ】関連で思い出せるのが【番長】【屋根ゴミ】という単語とゲームの戦闘画面で「ペルソ~ナ」と言いつつ変なポーズを取っていることだけである。

 それなので、ジョ○ョのス○ンドのようだと考えいろいろなジョ○ョ立ちをしつつ「ペルソ~ナ」と言っても変化がない。ポーズが悪いのかと、母がいない内に部屋の姿見を見ながらやるとなんと成功した。

 そこでようやく気がついたのだが、どうやら【ペルソナ】ではなく【自分にそっくりの悪魔の姿に変わる】のが能力なのだ。

 他の姿に変われないか母の写真を見ながら【変われ】と思うと、母の姿になったので服を脱ぎ下着を取り裸になった。小さい頃に見たままの姿であり、触覚や味覚もそのままで体格の変化による動きの変化も感じない。そして、もとに戻ると脱いだ服などが消えてしまった。

 これ以降、手鏡を持ち歩き写しながら【変身】とやると成功するようになったので、気分が乗るので今でも続けている。

 

 次に、耐性とスキルである。

 これは敵がいないとわからないので、近所のお化け屋敷で幽霊で試すことにした。

 【変身】後に相棒のマイケルくんバットで殴り掛かる。もちろん、反撃が来るので躱すが子どもなので避けきれない。

 しかし、当たったと思ったのに相手の方が痛みを訴えている。

 避けるのを止めてみると、そのまま勝手に怪我をして消えてしまった。

 【物理反射】の耐性である。

 これは強い武器となると喜んで天狗になり2年ほどあちこちに突撃を掛け続けだが、体に羽がない首が骨になっている変な鳥の【アギ】の魔法をモロに喰らい、怪我をして怒られてからは慎重になるようになった。

 怪我が治りしばらくして次の場所に行った時、またあの鳥に【アギ】を喰らい咄嗟に手を掲げ【喰らいたくない】と考えると、体から力が抜けて光の壁が出てそれを跳ね返したのである。

 たぶん、【マカラカーン】のスキルである。と、同時に他の種類の何かを防ぐ光の壁を出せるようになったが判らなかった。

 それが分かったのが花蓮を連れ出すようになってしばらくしてからで、慎重に奇襲をすることを前提に隠れて異界付近を行動している時に、悪霊に怨念の塊を投げつけられている葵さんに出会った時だった。

 とっさに彼女を庇い、夢中で光の壁を出すとそれが防いでくれた。

 そして、悪霊は花蓮の【ハマ】で倒すことが出来た。

 【呪い防御】と呼んでいるスキルの発見である。

 あと、感覚的にもう一つスキルがありそうなのだがよく分からないのが現状である。

 それに、自分の攻撃手段が現状、人並み外れた力任せにバットの【マイケルくん14世】の殴打しか無い点もかなりの問題点である。

 

 そして、あと問題なのが花蓮がシスターを続けて行くつもりであることと、生まれがアメリカだったので、二人とも一神教の洗礼を受けているのがどう作用するか分からない点である。

 メシア教と天使という頭の痛い存在が、これでもかと影を差しているのが不安でしょうがない。

 

 これら全部の事を、向こうで何かヒントだけでも聞ければよいのだが。

 

 

 

 静岡から電車を乗り換え、迎えの車が待つ最寄りの駅まで移動する。

 もちろん、着替え等の入った大型の荷物は全部自分が運んでいる。

 移動する時はこちらを見るが、相変わらず無言で移動する花蓮。

 座っている間は、携帯電話をいじっている。そう、携帯なのである。

 確か、今の時期はポケットベルとただのガラケーの過度期だったはずだが、花蓮と自分には、月城家からそれぞれネットにも対応している最新期のガラケーを贈られているのである。

 ネット対応のそれは10年以上早いと思ったのだが勘違いだろうか?

 

 

「なぁ、花蓮。少しいいかな?」

 

「………何です? 重婚お兄様。何か弁解でも?」

 

「そこが疑問なんだが。

 葵さんと婚約するのはいい。嫌じゃないし、年齢的には早すぎるとは思うけど。

 だけど、何で雫ちゃんも一緒に娶ることになるんだ?

 もちろん、雫ちゃんが魅力的ではないと言うわけではないけど」

 

 

 ため息を付いて、呆れたように顔を上げる花蓮。

 

 

「戦い方だけは異様に上手いのに、その辺の事情は何も知らないんですね、お兄様。

 私も葵さんから聞いて気づいたので、あまり悪くは言えませんが。

 強い力に覚醒した人の側にいる覚醒していない人は、霊障にかかり命を落とし易いのだそうです。

 ですから、当人の力を抑える護符や霊障避けのお守りや結界が必須なんです。

 学校や幼稚園、うちの実家や葵さん家にも結界がありましたし、雫は覚醒していませんからお守りを持っていましたのよ」

 

「うちの実家にも?」

 

「ええ、落ちぶれたけどうちの間藤家も一応、月城家の分家なんだそうですよ。

 もっとも、ほとんど繋がりは消えていたそうですが。

 そして、今回お兄様が重婚されることになって雫にも祭神様の加護が降りて、霊障に悩まされることは無くなるという事なんですの。

 だから、個人的にはひじょーに複雑ですが、雫が死ぬかも知れないことから開放されるから今回の重婚約にOKを出したんです」

 

「知らなかったんだが、何も聞かされてはいないし」

 

 

 そこでハンッと鼻で笑う、花蓮。なんかイラッと来るな、今の表情。

 

 

「私だって、今回の件で葵さんから聞かされるまで知らなかったんですもの。

 お兄様が知っているわけがありませんわ。

 帰ったら正式に結納もするでしょうし、この辺のことはその時に説明されるんじゃありませんの?

 そろそろ着きますわよ。

 ああ、それと先程も葵さんとメールして浮気はさせないようにとの事ですので、見張らせて頂きますからね、お兄様。うふふふ」

 

「ちょっと待てぇ!人聞きの悪い事は言うんじゃありません!」

 

 

 ニコニコと笑う花蓮を追いかけて電車を降りる。

 大量の登山客に混じって、ポツポツと変わった容姿の人が紛れているのに気づく。

 登山客とは違って軽装で、下は小学生から上は中年の人まで外国人ぽい人まで混じっている。

 案内状の指定するレーンのバスに乗り込むと、車内がすごい光景になっていた。

 変わった容姿の人だらけである。しかし、周りの人は一様に無言だったり友人と話していたりするが、興奮しているのは変わらない。

 そういう自分や花蓮も楽しみにしながら、目的地のロッジまで着いた。

 

 案内係の腕章の付いた人に先導され、ゾロゾロと歩いて行くとロッジの奥に大きな鳥居があり、皆そこをくぐっていく。

 くぐった先には驚く光景が広がっていた。足は止められないが、周囲の人と一緒に驚きながら歩いていく。

 

 霊地らしいとても澄んだ空気、遠くに見える社と家屋。急ピッチで道沿いにいくつも建設されている建物群。

 空やその辺を飛び交う一反もめん、修行をしているらしい擦り切れた格好の修験者や僧侶やコスプレの集団、奇声を上げながら走っている白衣の男を、制圧しているガタイのいい白スーツの男性と白饅頭のような男性。

 すごいカオスな光景です。

 

 そうこうするうちに、他の人は案内の人が来たらしく散り散りになっていく。

 花蓮と二人でどこに行こうか探そうとした時、いつの間にか側に少年とも青年とも取れる男性が立っていた。

 

 

「やあ、ようこそ。日本最大の霊地である富士山を預かる日本最高の神社、【星晶神社】へ。

 君のことは噂で聞いているよ、神戸の【撲殺鬼】くん」

 

 

 

 

 

 

  自分たちを転生させた神様がいるのなら、こう言いたい。

 

 

「人のことをとんでもない二つ名で呼ばないで欲しい」、と。

 

 

 

 

 




あとがきと設定解説


・星晶神社 (せいしょうじんじゃ)

世界線がズレた結果、この名前になりました。
将来、ガチャを大体的にやるのでこの名前でいいかな、と。

霊能組織関係は、独自の設定ですのでご了承下さい。


次回は、いよいよ富士山での修行開始。
勢いがある内に、続けたい。

勢いで設定をもりもり作り、勢いで続きも投下しています。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第五話 Q、すぐにでも修行で強くなれると勘違いしていませんか?

今回は、他の方だとさらっと流す覚醒修業前のショタオジとの面談回。

特異な事情の相手ならそれなりに注意してみるよねという設定。
ショタオジが上手く再現できていればいいが。



 

 第五話 Q、すぐにでも修行で強くなれると勘違いしていませんか?

 

 

 開口一番に変な二つ名で呼ばれたのは気になるが、まず宿舎に荷物を置いてからにしようとクスクスと笑いっぱなしの花蓮を連れ、緑色のどこかで見たような事務の女性に部屋まで案内される。

 着いた所がビジネスホテルの内装そのままで、隣り合う部屋にそれぞれ個室を用意してもらった。中も、シングルルームそのままである。

 はて? 掲示板で見たのとは違うような?

 

 

「すみません、事務員さん。聞いていた話と違うような気がするんですが?

 確か、宿舎に男女分けて大勢で集団部屋でと聞いていたのですが?」

 

「ああ、それは未覚醒の方が受けるコースの宿舎ですね。

 お二人はもう覚醒している上に、実力もあるじゃないですか。

 こちらは別のコースの方(の隔離)用ですので大丈夫です。

 あ、1時間後に神主との面談があるので用意しておいて下さい」

 

 

 そういうと事務員の女性は去っていった。ぽつんと取り残される二人。

 

 

「取り敢えず、ひと月近くここに泊まるんだ。

 一旦休憩して、荷物を置いて出れるようにしとくか、花蓮」

 

「そうですね。面談もするようですし、少し休みますわ」

 

 

 それぞれカードキーを使って部屋に入り、葵さんに「すごい神社に着いたよ」とメールを送りながら待つと、しばらくして【撲殺ニキご案内】と達筆で書かれた一反もめんに案内され、ツボに入って動けなくなった花蓮を引っ張って談話室に向かう。

 神主さん、天然か煽っているのかが分からない。どっちだろう?

 静かに境内の掃除をしたり、奇声を上げていて作業員に回収されたり、一反もめんに追われ擦り切れた格好で全力で走っていたりする人々を横目に見ながら本殿らしき建物に入る。

 カオスな風景である。

 

 談話室に入る。何か力の場のような空気の木の床の部屋である。

 正面に、先程の神主さん、横に緑の事務員の女性と白スーツのマルボウみたいな人がいる。こちらも、失礼します、と言って藁で編んだらしい座布団みたいなものに花蓮と腰を下ろす。

 すると、神主さんが話し出す。

 

 

「どうかな、案内の式神。分かり易かったと思うんだけど?

 別に、馬鹿にしているわけじゃないから勘違いしないでね。

 式神のデモンストレーションでもあるんだ。

 で、こっちの緑の子がピヨちゃんで、こっちのでかいのが霊視二キ。

 あと、神主でもショタオジでも好きに呼んで。

 それでそっちは?」

 

「自分のことは間藤カズマで、【撲殺ニキ】は止めて下さい。

 こっちのうずくまって動けなくなっているのは、妹の花蓮です」

 

 

 そういって、ペシペシと花蓮を叩く。

 微妙な表情の3人を尻目に、花蓮が復帰するまで10分少々掛かった。

 神主さんも忙しいでしょうからと説明を始め、復帰した花蓮も加わって今までの経緯を最初から順に思い出しながら話し始める。

 覚醒した時の話ではかなり驚かれ、9年間の異界巡りの話ではこの人は正気なのかと言わんばかりにドン引きされ、掲示板を見つけてここに来るまでの話には苦笑されてしまった。

 出してもらったお茶を飲んで一息ついてから、ここでどうするのかを話し始める。

 

 

「じゃ、妹ちゃんから始めよう。【アナライズ】をするんで、そのままね。

 霊視二キも頼むよ」

 

「ああ、すまないが視させてもらうぞ」

 

 

 息を呑んで待っている花蓮を横目に、紙を取り出して何か相談しながら書き込んでいる。

 これ、と渡された紙にはこう書かれていた。

 

 

・人間 間藤花蓮  レベル9

・ステータス:魔・運型

・耐性:破魔無効

・スキル:【ハマ】【ブフ】【ディア】【パトラ】

 

 

 思わず、「甘味とイケメン弱点がないですね」と言ってしまい花蓮に叩かれたのを笑われてしまったが、この年でなかなかすごいそうだ。

 学生なので土日や祭日に兄と走り回っていましたからと、得意げな花蓮。

 クスクスと、他の二人と笑いながら言う神主さん。

 

 

「うん、全体としては充分に強いね。

 再覚醒修行は、ノーマルコースで他の人と楽しみながらやるといいよ。

 ただ、話を聞く限りでは、妹ちゃんは座学にだけは真剣に取り組んで欲しい。

 危機感が足りないからね。

 じゃ、ピヨちゃん。妹ちゃんの案内お願い」

 

「そうだな。その辺は俺もフォローさせてもらう。

 【俺たち】のメシア教の被害者は、もうこれ以上出したくない」

 

「確かにそうだなぁ。

 花蓮のことだからとこの辺、甘やかしてなぁなぁにしていたのも悪いな」

 

 

 神主さん、霊視二キ、自分に続いて言われ、疑問符がいっぱいある表情のまま、じゃあ、こちらへ、とピヨちゃんさんに案内されて出ていく花蓮。

 手をひらひらとして合図して見送る自分。

 

 さて、と。出ていったあとで表情を変える神主さん。

 次は自分だと、視てもらう。難しい顔の二人。

 もう一度視るから変わって、というので手鏡を見ながら【変わる】。

 うーん、と微妙な表情で書き込みながら、もういいよ、というので戻って待つ。

 渡された紙にはこう書かれていた。

 

 

・人間? 間藤カズマ  レベル12

・ステータス:平均的(やや運寄り)

・耐性:破魔無効

・スキル:【悪魔変身】

 

・外道 ドッペルゲンガー(変身後) レベル25

・耐性:物理反射・銃反射・破魔弱点・呪殺弱点

・スキル:【サバトマ】【マカラカーン】【テトラジャ】

 

 

 どうかな、という顔でこちらを見る二人。

 自分でもある程度は検証できていたが、見せられてはっきり分かる。

 【破魔弱点】と【呪殺弱点】。

 ゲームではない以上、蘇生手段がないのでは悪魔の姿でも死ねば終わりである。

 今まで生きているのが幸運であり、いくつかのヒヤッとしていたかもしれない事を思い出して冷や汗がにじみ出て来る。

 

 

「自分が今まで随分と幸運に恵まれていたのかが、よく分かりました。

 【テトラジャ】が【呪い防御】ですね。【テトラカーン】と響きが似ているし。

 【サバトマ】というのは?」

 

「色々と自覚できたみたいだね。

 【テトラジャ】は、一度だけ味方全体を破魔と呪殺属性の魔法から防ぐ魔法だよ。

 【サバトマ】は、契約した悪魔を呼び出す魔法だ。悪魔が眷属を呼ぶのとは違って、今の君には使えないね。

 それにしても、ペルソナ能力者以上に珍しい悪魔変身能力者がまた見つかるなんてねぇ」

 

「ああ、珍しいものを見せてもらったな。まだ、数例しかいない貴重な能力だ。

 ぜひ、強くなって一緒に天使共をぶっ潰して欲しいが、【破魔弱点】では厳しいか」

 

「そうだね。その点も考えて修行プランを決めよう。

 あと、申し込み書にもあった攻撃能力を手に入れたいというのは何だい?

 攻撃スキルがないのはさっき解ったけど」

 

「今の自分達だと、花蓮の【ブフ】と【ハマ】に自分の特製バットくらいしか攻撃手段がないんです」

 

 

 そう言って携帯でバットの写真をいくつか見せる。

 金属製や木製、バットに付ける重りを応用した金属製の打撃部分などの、いくつもの銃刀法に負けない工夫をこらした自分の相棒のバット【マイケルくん】たちである。

 

 

「なるほど、これが神戸の悪魔たちを撲殺や殴殺して回ったという【撲殺鬼】の噂の出どころかぁ。

 これでどう殺ったんだい?」

 

「基本は、奇襲や石とかを投げて注意をそらして殴り掛かるやり方です。

 でも、今日来て今までかなり幸運に助けてもらっていたと、いろいろ分かったので相談させて下さい。

 それと、何でそんな噂が流れているんですか?」

 

 

 手元の書類入れから、資料らしい紙束を出して見ながら答える神主さん。

 

 

「もちろん、相談には乗るとも。

 噂についてだけどね。最近、うちに来る除霊依頼をメンバーにいくつか頼んでいるんだけど、関西に行ったメンバーからそういう退治屋がいるって聞いたんだよ。

 でも、聞いていた姿とは違うから化けていたのかな?」

 

「何かトラブルになった時、子どもだけでは危ないので大人の姿で行っていたんです。

 姿に関しては、頭に思いついたのが『まともだった頃の父』だったので」

 

 

 そこまで話すと、パンと手を打ってこちらを見る神主さん。

 それを見て引きつった顔で、スススとフェードアウトしていく霊視二キ。

 嫌な予感がして助けを求めて見るも、そっと視線を逸らされ消えていくニキ。

 

 

「よし、再覚醒修行に関しては聞きたいことは全部聞けた様だし、さっそく午後から始めよう。

 できるだけ強くなりたいとの要望らしいから、『死亡同意書』が必要ないギリギリのラインまでのスペシャルハードコースで行こう。

 郷里で美人の嫁さんが二人も待っているそうだし、婿入したらぜひうちの関西方面の伝手にもなって欲しいからね。

 自分か分身が直接指導するから、絶対に死なせるようなことはしないとも。

 ああ、他意はないから誤解しないでね。

 予定は一ヶ月だと聞いたから、上半期はペルソナの想起訓練とか変身後の破魔と呪殺の耐性訓練に、武器の取り扱いのために生身でうちの使い魔と戦闘訓練かな?

 下半期は、訓練用の異界も最近用意できたから試しがてら籠もれるだけ籠もってみようか。

 さあ、行こう」

 

 

 こちらに微笑みながら、ほぼ一息に話す神主さん。

 そして、楽しそうに青い顔で同意書にサインした自分を連れて、部屋をスキップで出ていく神主さん。

 

 

「あ、昼の時間だけど胃の中のものはどうせ全部吐くだろうから、このまま修行場に行くよ。

 いろいろと試したい新しい訓練もあるし、珍しい能力者の訓練だしなぁ。

 楽しみだなぁ」

 

 

 

 

 

 

 自分たちを転生させた神様がいるならこう言いたい。

 

 

「ショタオジって掲示板の噂のようにドSなのは間違いないようです」、と。

 

 

 

 

「何か面白いことを考えたみたいだから、すこし厳し目でいこう」

 

「止めて下さい」

 




あとがきと設定解説


・TRPG版デビルシフターの悪魔変身

 シーンまたは戦闘終了まで、レベルが(使用者の命運上限値+レベル)以下の契約している悪魔を自分の身体に顕現させる。能力値、スキル、各種数値、相性は顕現した悪魔のものを使用するが、HPとMPは元のまま変化しない。変身している間、本来の相性や装備している武器・防具の効果は失われる。

主人公の能力はこれを元にいろいろ改変しています。


次回は、幕間。某大赦とは違う地方の組織の事情です。

もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第六話 幕間その一・とある地方の零細霊能組織の職員の記録

今回は、幕間です。

内部の人から見た「霊能組織やすつき」の様子。
人の側に変な余裕があると別のものが拗れますよねという話


 

 

  第六話 幕間・とある地方の零細霊能組織の職員の記録

 

 

 わたしは、立花白乃(しらの)といいます。

 この兵庫県の神戸市近辺をヤタガラスに任されている霊能組織やすつきの一員で、そこそこの美少女です。

 一員と言っても、月城家のご夫婦や葵さん、そして元実家のクソ兄貴のように覚醒めることも出来ない半端者なので、こうして雫ちゃんと護衛代わりに一緒に学校に行き、帰ったらお忙しい葵さんやご夫婦に代わり家事をすることしか出来ません。

 

 現在、組織のやすつきには覚醒めたご夫婦と葵さん、筆頭分家だと威張り散らすクソ兄貴の立花時忠(ときただ)に、覚醒めていないわたしと所長さん、雫ちゃん、そしてご夫婦の護衛と秘書の方の10人に満たない人しかいません。

 あ、あと、5年前に急に現れて、シスターの銀髪のきれいな妹さんとご夫婦の結界で抑えきれなくなってきていた異界の多くをバットを片手に潰して回る、変化の術を使う変な男の人、協力者の間藤さんがいました。

 

 何でも5年ほど前に、異界の結界石の確認のため見廻りをしていた時に漏れ出た悪霊からの救い主だと聞いています。

 葵さんは、ご祖父の資料から得た悪霊祓いと呪い込めはご夫婦も認める腕前なので、奇襲されなければ大丈夫だったと思いますが。

 噂話に聞く交流の少ない四国の組織のように、わたしや雫ちゃんが人柱にならないのはご夫婦の結界と彼のおかげだと聞きました。

 助けられたその頃から葵さんは彼に懸想していたようで、彼のことを聞かれ、変わった人と答えた時は笑っていたけど、葵さん、目が笑っていませんでした。

 

 雫ちゃんは彼のことをどう思うのかそれとなく聞くと、周りの男の子よりも大人で素敵だそうです。

 よく聞くと、好きな海外の本を探すのを手伝い彼の勤め先から手に入れてきてくれたり、他の男の子の様に胸をジロジロ見ないとか、ときどき彼の妹さんと遊ぶ時に甘いものを差し入れてくれたりするのだそうです。

 わたしだって葵さんよりそれなりにありますが、16歳にしては際立って大きい(黙ってブラを見たら90!)雫ちゃんのそれに、目を向けないのはまあまあ評価が高いですね。

 おすそ分けで貰った地方銘菓は美味しかったですし。

 

 確かに顔だけは良くて黙っていれば紳士然としたクソ兄貴に比べれば、モブ顔で目も死んでるどこにでもいそうな男なのに性格はいいようです。

 ただ、ときどき話していると所長さんみたいなおじさんと話している気分にさせられるのは困ります。本当に、20歳前ですか?

 

 わたしの仕事はご夫婦が結界術での業務委託の出稼ぎに帝都に出てらしているので、葵さんと交代で朝食と弁当を作り、雫ちゃんと高校に行き校内でもそれとなく様子を見て一緒に下校し、買い物や夕食などの家事をし、庭にある祭神様の祠を掃除してお祈りして寝るのが日課です。

 

 

 そんな日々が続いていた7月の暑くなった日にそれは起こりました。

 

 何を血迷ったのか、葵さんが間藤さんにプロポーズしたのだそうです。

 その間藤さんは、妹さんと一緒に山梨にある霊地?にて一ヶ月の修行に行かれた後に戻り次第、葵さんと結納を交わす予定だそうです。

 しかも、雫ちゃんまで祭神様の神託により内々の妻にと仰せで本人も了承したとか。

 ご夫婦揃って乗り気で一度戻られるとか、間藤さんが実は2、3代前に縁の切れていた分家で向こうも乗り気だとか情報量が多すぎて混乱します。

 その上、本人も悪からず想っていた人といられる上に、御加護でお守り無しでもご家族といられると喜んでいました。どうなっているんでしょう?

 

 その日は、わたしの来年の高校卒業後の就職先として葵さんの後に事務に入らないかと聞かれ、詳しい話を聞くためにNPOの事務所に行ったときでした。

 雫ちゃんはもう帰宅しており大丈夫なので安心して事務所に行くと、入り口で怒鳴っている人がいます。

 会いたくもないクソ兄貴でした。

 確かクソ元両親の勧めで警察に就職したはいいけど、常に上から目線の性格がたたって車で1時間の山奥の過疎村の派出所に飛ばされたはずです。

 

 

「だから、前から言っているだろう!

 筆頭分家の血筋で、優れた力にも覚醒め、エリートでもある警察官にもなったわたしの方が彼女の相手に相応しいと!

 それを、市井のどこの馬の骨とも分からない男を伴侶とするなど間違っているはず!」

 

「分かった。分かったからその話をするから奥へ着いてきてくれ、立花くん」

 

「分かりました。行きましょう。あと当然、葵さんも同席して頂きます!」

 

 

 奥に入っていく二人。 

 あんのクソバカ元兄貴、こんな所にまで乗り込むなんて。

 黙っていられません、頭にきました。話しをつけます。

 事務所の入口から入り、所長さんの部屋へ行こうとすると葵さんがいました。

 ひいっ駄目です、葵さん。怖い目つきでオーラみたいなの出さないで下さい!

 わたしのお守りが、びりびり震えています。

 

 

「あ、葵さん。わたしが入りますから待って下さい。

 お願いですから、待って下さい」

 

「あ、白乃ちゃん。

 人払いは済ませてるけど、大丈夫? アレと会ったりして」

 

「小さい頃のわたしじゃないんです。

 しょせん、プライドだけのアレなんですから」

 

 

 にっこりと笑って中に入る。

 だって、普段は温厚で大和撫子な葵さんがキレるよりは安全です。

 

 

「久しぶりですね、クソ元兄貴。

 ここに顔を出していいんですか?

 月城のご夫婦の勘気にまた触れるんですか?」

 

「ちっ、我が家から放逐された半端者が何の用だ?

 わたしは忙しいんだ。お前に用はない」

 

 

 相変わらずイラッとさせるのは天才的ですね。

 睨めば怯えた小さい頃のわたしはもういません。

 困り顔の所長さんの隣に座ります。

 

 

「わたしは直接、葵さんに今回の婚約の正式な撤回を説得に来たんだ。

 覚醒めも出来ないお前には用はない。

 すぐに彼女を呼んでこい」 

 

「その覚醒めたクソ兄貴は、異界を何個鎮めたんです?

 今まで封印するだけで手一杯だった異界を、あのボンヤリ顔の人は10近く鎮めたらしいですよ。

 同じことが出来るんですか?」

 

「異界をいくら鎮めようと、まともな術も使えないではないか!」

 

 

 まともな術って、家伝の資料でたまたま使えるようになった火の玉の術じゃないですか。

 確かに素人なら下手したら一撃で死にますけど、火炎瓶で同じことが出来ますよね?

 

 

「術なんて、今の時代に化け物と戦う以外で役に立つことがあるんですか?

 いつまでも戦前の感覚で儀式をしても未覚醒だからと、5歳の娘を施設送りにしようとしたエリートさまは違いますね。

 そんなだからご夫婦の勘気に触れて当主命令に加え、弁護士まで立てられて屋敷の出入りと雫ちゃんへの接近禁止まで言われるんですよ。

 もっともわたしは今の境遇になれたので、追い出してくれてありがとうと言いたいですけどね!」

 

「だ、だが婚約するというのに定職にも就いていないじゃないか、あの男は!」

 

 

 それを聞くと、所長さんもいい加減我慢が来たようだ。

 

 

「いい加減にしたまえ、立花くん。

 確かに、彼は今は市内の会社のアルバイトに過ぎないがね?

 成人して正式に婿入したらこのNPOの正式な役員にもなってもらうし、夫婦としてヤタガラスや根願寺にも挨拶に行く予定なんだ。

 それに君は知らないようだが、昨今は周辺の他組織から内々に彼に応援に来て貰えないかと高額の提示の連絡が来ているんだ。

 やすつきの総代としても、君の言い分は通らない。

 ご当主様の方にもこの事はじき連絡が行くから、帰りたまえ」

 

「総代とは言え、そこまでこの優秀なわたしに言ったんだ。覚悟したまえ。

 家として正式に抗議するからな!」

 

「通らないと思うがね。ああ、接近禁止の念書は守るんだぞ」

 

「そんなことは分かっている!」

 

 

 顔を真っ赤にして立ち上がり、足音も荒く出ていくクソ兄貴。ざまぁ。

 ドアくらい丁寧に閉めなさいよ。

 

 

「祭神様から雫ちゃんもまとめて娶れって神託きたの知らないんですかね?

 あのクソ兄貴。クビになればいいのに」

 

「ああ、もともとあそこの家族は組織の人員も少ないし覚醒者もいるから一応、組織の一員とは言っているが、いろいろとやらかしでハブられているから“葵さんが婚姻”としか伝えていない。

 それに、クビは難しいと思うぞ」

 

「どうしてです?」

 

「腐っても『筆頭分家』を名乗れるくらいの地方の旧家だからね。

 組織外の親戚筋への影響力は馬鹿にできないんだよ。

 外とのやり取りをしているこちらの胃痛もわかって欲しいよ」

 

「ごくろうさまです」

 

「本当にご苦労さまです、所長さん。白乃ちゃんもね」

 

 

 お茶とお菓子を持って葵さんが入ってきました。

 もう怒ってないようでなによりです。

 このあとは楽しく話ながら、葵さんの後に入る話をして内定を貰いました。

 

 これでもっと月城家のために役に立てるそうその時は思っていたんです。

 近い将来に、兄貴のやらかしと『世界の終末』なんてものが来なければ。

 




あとがきと設定解説


・立花白乃(たちばなしらの)

月城姉妹の又従姉妹。立花時忠の妹。
栗色の波だった長髪が自慢のわりと強かな子。
理由は作中の幼少時に家庭板なイザコザがあって、現在は月城家の養子。

地方の田舎の闇にメガテン世界事情が絡むと、もっと闇が深くなりますよね。

次回は、ショタオジの地獄の特訓回のあれこれです。

もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第七話 Q、修行と苦行と荒行は親友だと知らなかったのか?

今回は、前半主人公の修行の様子で、後半が初の掲示板回。

ショタオジの計算ずく?の地獄の特訓の様子、上手く再現できているかな?


 第七話 Q、修行と苦行と荒行は親友だと知らなかったのか?

 

 

「う~ん、テステス。入っているかな?

 OK? よし。

 

 やあ、みんなが尊敬する『星晶神社』の神主であるショタオジだ。

 今回は、地方から来た『転生者』の仮称【撲殺マスオニキ】の記録を撮ろうと思う。

 彼は【アナライズ】の結果、他に滅多にいない変わった能力の【デビルシフター】で、さらに珍しいタイプだったんで貴重な記録になるだろう。

 あとで顔にモザイクなど編集するんで、ダイジェストのようになると思う。

 さてなんと、彼は地元の霊能組織に婿入りし二人も美人の嫁がいるらしい。

 これを知れば、あとでこの記録を見る人も彼の過酷な再覚醒の修行に掛ける覚悟も納得できるだろう。

 彼には、いずれ出来るだろう地方の支部長のテストベットも努めてもらう予定なので、ぜひ頑張ってやり遂げて欲しい。

 では、始めよう」

 

 

 1.能力を把握するためのペルソナ起想体験

 

 

「やあ、××くん。

 【アナライズ】の結果、君の種族名が【人間?】になっていたんだ。

 変身先の悪魔のレベルも高いし、なにしろ【ドッペルゲンガー】だ。

 これは、変身先が君の変異した【シャドウ】で侵食の可能性もあるんだ。

 もし、これが想定した事態なら早期に解決する必要がある。

 だから、ペルソナ能力者と同じ様に体験してみよう。頑張れ」

 

・ 

 

「お前はいいよな。俺みたいに結婚もできずに死ぬまで働いた末に事故死でおしまいだじゃないんだ。特別な力も手に入れて俺つえええで楽しいか?きれいで好意的な妹がいて楽しいか?いつまでも綺麗な母親がいて嬉しいか?自分を認めてくれる仕事仲間がいてやりがいがあるか?姉妹丼確実のハーレムがあるのは楽しみか?自分と同じ境遇の仲間が近くに大勢いて楽しいだろう?自分を助けてくれる頼もしい存在がいて安心なんだろう?なあ、そこを代わってくれよ。俺を忘れて消そうとしたって無駄だ。俺はお前で、お前は俺なんだ。俺にだってその権利はあるだろう?」

 

「ああああああ、黙って死んでろぉぉぉ!!」

 

 

「さて、数時間の一人での戦いの末、彼は勝った。

 彼は完全に能力を把握し支配した。【アナライズ】の結果も正常になった。

 多少のトラウマは誤差の範囲だろう。

 彼の【悪魔変身能力】が【ペルソナ】の変異という珍しいものだと記録でき、いくつかの【ペルソナ】への仮説もできた。

 これで、次の訓練に移ろう」

 

 

 2.変身後のスキル変化と弱点の補正の訓練

 

 

「やあ、××くん。疲れは取れたね? トラウマ? 大丈夫だよ。

 さて、【ペルソナ】の中には自分の耐性に対して【~~見切り】という対抗スキルを覚えるものがいることが確認されている。

 もう、分かったね? 君の【破魔弱点】と【呪殺弱点】だ。

 つまり、【テトラジャ】以外に君も覚える可能性がある訳だ。

 そこで、仮想の心象空間で【ハマ】と【ムド】をありったけ掛けるから変身して頑張れ」

 

 

「ハマ、ムド、ハマ、ハマ、ムド、ムド、ハマ、ムド、ハマ、ハマ、ムド、ムドオン、ムド、ハマ、ムド、ハマ、マハンマ」

 

「ああああああ」

 

 

「死なない心象空間の中とは言え、彼は過酷な訓練に耐え抜き見事手に入れた。

 【悪魔変身能力】の変身後のスキルが変化することも確認できた。

 彼が得た素晴らしい結果だと思う。

 それでは、次の訓練に移ろう」

 

 

 3.戦闘能力の向上訓練

 

 

「やあ、××くん。よく眠れたかな?

 悪夢を見て、夜中に飛び起きた? 大丈夫、他の皆もしているよ。

 さて、君の戦い方は耐性任せに突っ込んで、持っていた鈍器で急所を力任せに殴るやり方だ。それではいけない。

 中には、耐性を貫通して攻撃する奴や武器を巧みに操る相手もいるからね。

 もちろん、魔法を使うのはたくさんいるとも。

 だからこそ、不意を打たれた場合に対処するためにも、生身で一週間ほど神主特製の使い魔たちと戦闘訓練をやるよ。さあ、頑張れ」

 

 

「ぜいはあ、ぜいはあ」

 

「棒きれ一本でこんなに粘るなんて生意気だにゃ。

 少し、本気だすにゃ。【マリンカリ~ン】」

 

「ああああああああ」

 

 

「ぜえ、ぜえ」

 

「【フォッグブレス】、【ジオンガ】」

 

「あががががががが」

 

 

「こうして、彼は訓練に耐え抜き、捌きや回避などの躱し方や効果的な打撃の仕方を学べただろう。

 彼が、ボコボコにされたようにしか見えない?

 地味な武器の扱い方の訓練の部分はカットしているからね。

 最後の方は上手くやれていただろう?

 それでは、訓練の記録はおしまいだ。

 この後は、訓練用の異界に長期間潜ってレベル上げに移ったんだ。

 折れない彼の意志を敬して、ご視聴ありがとうございました」

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

★ガイア連合山梨セクタースレ その6

 

 

91:名無しの転生者

今日も見たし、気合の入ったコスプレガチ勢はやっぱり強いでFA

 

92:名無しの新人転生者

相談ってこちらでよいと聞きました

いくつかよろしいですか?

 

93:名無しの転生者

お、新しくきた人かな?

 

94:名無しの転生者

専門の相談スレもあるけど、話題ならこっちでいいか

 

95:名無しの転生者

はよ、話題はよ

 

96:名無しの新人転生者

今月の頭に兄と来て、私は座学の詰め込みと先輩の方と異界で訓練をしておりましたの

 

97:名無しの転生者

来てそうそうに訓練用とはいえ異界に入るとは只者じゃないな?

 

98:名無しの新人転生者

>>97 こちらに来る前から兄と地元で潜っていましたの

今回も白スーツの方と行きました

 

99:名無しの転生者

もしかして、霊視ニキと?

 

100:名無しの転生者

>>98あ、もしかして「カ○ン・オル○ンシア」そっくりの子?

FGOの第二再臨そっくりの服着てた子?

 

101:名無しの新人転生者

>>100 すみません、実名や特定はちょっと

 

この服は、制作班?とかいう方に「これを着て『ぼるかみぜーりあ』と罵るように言ってくれ」と言って渡されたんです

物はいいから受け取ったほうがいいと白スーツの方に言われたので受け取りましたが

あ、「はいていない方?は自重した」とか言っていましたけど

 

102:名無しの転生者

何やってんだよ、制作班ww

お前ら、出来てから数週間しかたってねぇだろwww

 

103:★運営

>>100はーい、悪い子は閉まっちゃおうねぇ

あとで該当レスも削除します

 

104:名無しの転生者

 

 

105:名無しの転生者

匿名の掲示板で特定するとかバカか

同じバカでも制作班は突き抜けてるがw

 

106:名無しの転生者

馬鹿だからやるんだろうな

そして制作班は極めし馬鹿、ちい覚えたw

で、相談てどんなこと?

 

107:名無しの新人転生者

ショタオジさんと面談した日に兄とは離れ離れになって、

私はそれなりに強くなれてメシア教の怖さも大体わかって、

依頼をこなしてシキガミを手に入れてと随分たちました

 

108:名無しの転生者

こっちに来て一ヶ月でシキガミとかうらやま

そんで?

 

109:名無しの新人転生者

あれ以来、兄に会っていませんの

あと数日で8月も終わりで帰りますのに

事務の方に聞いても、「元気です」の一点ばりですし

シキガミのことを聞いたら兄からは詳細なデザインが送られて、

それくらいしか返事が無くて困っていますの

 

110:名無しの転生者

>ショタオジさんと面談した日に兄とは離れ離れになって

あっ(察し

 

111:名無しの転生者

あ、あー

 

112:名無しの転生者

生きてはいるさ、どんまい

 

113:名無しの転生者

ど、どんまい(震え声)

 

114:★運営

ショタオジから伝言です

「ごめーん☆ 忙しすぎて連絡するの忘れてた」です

 

115:名無しの新人転生者

今から伺いに行きます!!!!

 

116:名無しの転生者

ショタオジの新たな犠牲者が

 

117:名無しの転生者

無事に会えるといいが、南無

 

 




あとがきと設定解説


・ガイア連合山梨セクター

世界線が少しズレた結果、この名前に。
一番好きなメガテン公式リスペクト。

セクター・ヤマナシ ボス Lv.??? 人間ショタオジ


次回、修行の終わりと神戸への帰還。

もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第八話 Q、あなたは今でもまた死にたいですか?

今回は、星晶神社での修行の終わりとその後のお話。

オリジナルさまの時系列で、だいたい5~6話の辺りです。


  第八話 Q、あなたは今でもまた死にたいですか?

 

 

 意識が浮かぶ。白い天井が見える。

 

 

「知らない天井だ。一度言ってみたかった」

 

「何を馬鹿なことを言っているんです。心配したんですよ」

 

 

 横を見ると呆れた顔で花蓮が椅子に座っている。

 皆さん、同じことを言いますね、と笑いながら簡単に体をチェックして出ていく看護師さん。やっぱり、定番だからみんな言うんだなぁ。

 自分がどうしていたか思い出す。

 確か、訓練用の異界の深層に放り込まれ、後ろにショタオジ?を引き連れ何徹か戦いっぱなしだったはずだ。

 病室にいるのは回収されたのかな?思い出せない、頭痛がする。

 ふと、気になり花蓮に聞いてみる。

 

 

「今はいつかな?窓の外は明るいから白夜かな?」

 

「8月29日の午後3時です。目は覚めましたの?」

 

「起き抜けに可愛い妹の顔も見れて、元気だとも」

 

「やっぱり、まだどこかおかしいですわね。

 神主さまから伝言です。

 『修行は終わり、お疲れ様。今日は休んでまた明日に会おう☆』、だそうですわ」

 

「わかった。もう寝るね」

 

「ゆっくり休んでくださいね、お兄様」

 

 

 横になり、目をつぶる。

 気がつくと、ほとんど泊まらなかったホテルルームで朝になっていた。何故?

 とりあえず、あまり使わなったカバンから着替えを出して、シャワーを浴びて着る。

 ラウンジで花蓮と朝食を食べていると、ピヨちゃんさんがやって来る。

 

 

「おはようございます。気分はもうよろしいですか?

 お知らせしたいことがあるんですが」

 

「食べ終わったし、いいですよ。花蓮は?」

 

「もうよろしいですわ」

 

「では、お部屋から荷物を全部持って1時間後に本殿の方へお越し下さい。

 チェックアウトの手続きをしますので」

 

 

 随分慌ただしいが、事前に決めていたことだ。

 二人してすぐに準備し、早めに本殿に行く。

 いつものカオスな修行風景を横目に中に入ると会議室に通された。

 中には、ショタオジ(もう神主さんとは呼ばない)、霊視ニキ、中年の男性がいる。

 横に「ちひろ」と名札のついた事務員さんが控えている。

 パイプ椅子の席につくと、ショタオジが話し出す。

 

 

「事前に紹介しておくね。

 こちら、事務の総括をしている【千川ちひろ】さんと転生者の【マシュマロおじさん】こと日下(ひげ)さん。

 うんうん。修行の成果はばっちりだね。強くなった。

 どう、霊視ニキ?」

 

「ああ、これなら大丈夫だろう。

 ずいぶんな荒行をやったんじゃないか?」

 

「彼の強くなりたいという意志を尊重したのさ。

 同じような訓練は、他の人(後の古参幹部クラス)もやっているし大丈夫さ。

 彼が帰るのに合わせていくつか計画を前倒しにして間に合わせるようにしたら、連絡するの忘れて妹ちゃんには悪いことしちゃったね。

 その点は、ごめんね?」

 

 

 左手で拝みながら、軽く頭を下げるショタオジ。

 自分から出来るだけ強くしてくれと同意書にサインはしたからここでは何も言わないが、いずれ一発その顔をぶん殴ってやると誓う。

 ブスッとしていた花蓮に続けて、千川さんが話し出す。

 

 

「もういいですわ。

 お兄様も無事でしたし」

 

「じゃあ、そういう事で。ちひろさん、お願い」

 

「お話も済んだようなので、こちらからも話させて頂きますね。

 わたし、この度出来ました【ガイア連合山梨セクター】の千川といいます。

 【転生者】向けサービスを代行する組織として設立されました。

 我々は来たるべき【終末】に備え、急拡大でいくつも計画を併行して進めています。

 そこで、お二人にお願いしたいことがあるのです」

 

 

 そう言って、テーブルの上に書類をいくつか並べる。

 そこには、こう書かれていた。

 『ガイア連合地方セクター(仮)設立計画』、と。

 パラパラとめくると、具体的な霊地の建物の場所、やすつきの組織や人員の内容経歴、神戸一帯の大まかな異界の状態、周辺組織との関係、などなど短期間によくもここまでという風に調べ上げてあると、二人で感心する。

 一通り見たのを見て、千川さんとショタオジが続ける。

 

 

「ご覧いただけた通り、我々はこれから地方に支部ないし派出所を作るにあたってのノウハウの構築のため、間藤さんが地方の組織に正式に加入するのに合わせてテストベットとしてご協力いただきたいのです。

 もちろん、交渉自体はこちらにいる日下さんとうちの事務である音無が行います。

 間藤さんには、交渉の顔つなぎと正式に稼働した際の【地方セクター長(仮)】になっていただきたいのです」

 

「強引に進めているように見えるなら謝るけど、こちらとしては【転生者】の貴重な仲間が状況に流されて、地方の組織に取り込まれて使い潰されるようにしか見えないんだ。

 君たちもここに来て理解しただろう?

 地方とここの霊地の質や知識と技術の格差、他の人員の能力差を。

 君たちのところは、カヤノヒメの権能の加護の性か結界が幸運にも保ったのと、危なそうなのは君が潰したおかげで10年近く霊的な被害は出ていない。

 まあ、こうして今、安全が見込める土地だからこの計画に選ばれたのもあるけれど、たまたま幸運が重なっただけでいつ破綻するかわからない状況だ。

 だから、君に決めて欲しいんだ。

 現地民の誰かにどれだけ肩入れするかは、個人の自由に任せているんだ。

 君は、君たちはどうするんだい?」

 

 

 花蓮と顔を見合わせる。もう決めている。

 前のように、ただ生きて死ぬ人生はもう嫌だ。

 前では得られなかった何かが手に入りそうなんだ。

 生まれ変わってから、10年も過ごしてきた故郷と家族だ。

 いずれ来る【世界の終末】から出来るだけ守るために、ここに来たのだから。

 

 

「決まっていますわ。

 もともとここには真相を知って、本当なら大切なものを守れるようになりに来たのですから」

 

「話し合いがまとまるかは分かりませんけど、大切な人達がいるんです。

 守れるように協力して下さい」

 

「その言葉が聞きたかった。

 それじゃあ、よろしく頼むね☆」

 

 

 ショタオジと霊視ニキと握手して別れ、事務の音無さんと護衛の日下さんと日下さんのシキガミ、協力の見返りとしてショタオジに貰った謹製の妹用高級シキガミ【クーフーリン】と一緒にワンボックスカーで、一路、山梨から神戸に向かうことになったのだった。

 

 

 

 それから月日は流れ、色々あった。

 

 帰ってから、つつがなく行われた結納式。

 会場に乗り込もうとした連中がいたらしいが、着飾った葵さんと雫ちゃんに見とれていて気にもならなかった。

 

 間もなく始まった【ガイア連合】との交渉。

 行き詰まりを感じていたらしい帰郷していた義両親や所長さんが中心になって、組織としてのやすつきとの合併計画は進められた。

 何度も乗り込んできて邪魔しようとした地元のガラの悪い連中を、優しく撫でて帰っていただく事もあった。

 

 田中さんのところは正式にアルバイトは辞めることになった。

 子どもに娘ができたら云々と思い出したように聞いてくる赤城さんを適度に相手しつつ、商品の受け取りだけは暇があれば時々受けるようになった。

 

 建物の建設が始まり、建設霊地候補の一つだった間藤家の実家の場所にセクターが建設され始めた。

 祖父と母はそれなりの引っ越し代を貰い自分が住んでいたアパートに引っ越して、自分と花蓮は、昔の当主の妾屋敷だったらしい無駄に広い月城家邸に越すことになった。

 一緒に暮らすことに浮ついていた自分に、花蓮と白乃ちゃんが白い目を向けることが多くなった。

 

 引っ越しついでに、忙しくてしばらく顔を出してなかった教会の様子を花蓮が確かめに行ったらしい。

 結婚式場の教会もメシア教の物になっていて、前任の神父さんは自宅を引き払っていたとすごい落ち込んでいたので、ケーキを買ってきて慰めた。自棄食いしていた。

 

 支部長(仮)に相応しい知識をと原付きだけでは不自由なので、とりあえず教習所に車の免許を取りに行き、年末ギリギリにようやく取れた。

 かっこいい車をどうやって手に入れようか考えていたら、お金はこちらで出すからと葵さんたちがミニバンのカタログを自然に広げていたのは少し悲しかった。

 

 周辺組織から悲鳴のような助けを求める要請が届くようになった。

 日下さんは天パの若い男性と四国に行き、他の場所には自分たちや他の連合の派遣メンバーで向かってなんとかすることが続いた。

 一員の一人だとかで威張っていた立花とかいう若い男が、依頼に失敗し大怪我をして帰ると嫌がらせがピタリと止んだ。

 

 年が明けて、神託により如月吉日の結婚式。

 女神様の視線を感じる中、神前式の葵さんは綺麗だった。

 初夜に無事【脱・童貞】を果たし「とても素晴らしかった」と転生者掲示板で煽りに行ったら、呪術を使う奴に「祝ってやる」と呪いを掛けられて苦労した。

 

 この様子だと新婚旅行は難しいので、屋敷の離れを改造し3人で住む場所のリホームをした。

 葵さんと雫ちゃんから今後の綿密な家族の増やし方計画を聞き、前世でもなかった何か未知の感覚を初めて味わった。

 

 そして、春には全部の建物も完成し【ガイア連合神戸セクター】は稼働を開始した。

 

 

 

 

 

 自分たちを転生させた神様がいるならこう言いたい。

 

「死にたい訳なんかない。前世でもなかった大切なものが出来たんだ。

 【終末】が来ようと、守ってみせる」、と。

 

 

 

 

 つづく

 

 




あとがきと設定解説

・修行後の主人公たち

花蓮:レベルが1上がり、メシア教への警戒度が大幅アップともろ好みのシキガミゲット

カズマ:レベルが4上がり、変身前に【精神異常無効】と変身後に【破魔耐性】【呪殺耐性】取得

・【クーフーリン】

花蓮の護衛用に依頼した高級シキガミ
デザインは知り合いになった制作班の人の配慮で好みを反映した槍兄貴
耐性:物理耐性・衝撃耐性・呪殺無効。
戦闘スキルは、突撃、チャージ、食いしばり、かばう。
汎用スキルは、食事、会話、槍術。


今回で一応、第一部の完結です。
続きは、リアルの都合と何かが降りてくればと考えています。
それでは、読んでいただきありがとうございました。


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閑話
第九話 幕間その二・とある地方の零細霊能一家の入婿の記録


仕事のストレスで色々書いていたら降りてきたので、早く書き上がりました。


今回は、少し短い幕間です。
ガイア連合の支部開設の際の地方組織との合併に関する話で、
こんなものではないかというのでふわっとしていますのでご留意下さい。


 第九話 幕間・とある地方の零細霊能一家の入婿の記録

 

 

 それは年が明け正式に葵さんと結婚をして、離れの改装と【神戸セクター】の完成を来月に迎えたある日の事だった。そしてその日は、雲ひとつ無く春もまだなのに暖かったよく晴れた日だったことを今だに鮮明に覚えている。

 

 この家にまつわることを直接伝授する家族会議を行うというので、奥座敷に葵さんと雫ちゃんを両隣にして入って行った。

 そこには、こちらを頼もしげに見る義父にあたる恭也さんとひたすらニコニコとしている義母にあたる忍さんがいた。

 あと、奥にある神棚から期待の籠もった視線を感じる。 

 二人の態度が疑問だったが3人で席につくと、おもむろに恭也さんが頭を下げ話し始めた。

 

 

「今日は来てもらってすまない。

 まずは私たち夫婦が数年間も留守にしている間、娘たちを守ってくれたことに改めてお礼を言いたい。本当にありがとう。

 そして、多大な貢献をしてくれた上、祭神様の認めた娘たちの良き伴侶となってくれたことは私も肩の荷が下りる思いだ。重ねて、本当にありがとう」

 

「お父さんも大げさですね。

 でも、母親のわたしとしてもお礼を言いたいわ。

 ありがとう」

 

 

 恭也さんの足に手を置いて、話し出す忍さん。

 葵さんによく似て淑やかな御婦人といった風情で上品に笑っている。

 心なしか、恭也さんの表情が固い。

 

 

「まず、これからのことだけど、あれだけの力と技術を持った組織の下につくのだから組織としてのやすつきは終わりにすることにして、非覚醒の総代と白乃ちゃんには完全にNPOの方をお願いすることにしたわ。

 現地組織の人員を雇ってもらえるとの事なので根願寺での経験も生かして、恭也さんはガイア連合の張る結界の維持と補修の技術者として雇ってもらえたわ。

 そして、わたしと葵は事務の資格をいくつか持っているので、【ガイア人材派遣神戸支社】の事務員としてこれからよろしくお願いするわね。支社長さん。

 私たちの補佐をしてくれていた二人は、それぞれ夫の実家に戻ったわ。

 それと、立花の家には絶縁状を送ったので知っておいて下さい」

 

「あ、ああ、彼らは本当にやり過ぎた。ここの場所にはもう関わって欲しくないな。

 それでは、本題に入るとしようか」

 

 

 忍さんが手元の桐箱からいくつかの古い書物を取り出し、机に並べて見せながら説明を始める。メシア教から守り抜いた、ざっと戦国時代より前の資料らしい。

 

 

「私たちの家は東のカヤノヒメを祀る神社の一族の巫女が始まりで、本家の庭にあった分け御霊を祀るのとヤタガラスから頼まれた都市部の結界の維持が代々の役割だったの。

 直系の家は代々女の子しか生まれなくて女系の家長が物事を決めてきたのだけど、戦後のGHQとメシア教に祖母を始めとして大人たちは連れて行かれ、本家の家屋敷もカヤノヒメ様の異界ごと買い上げられてしまったの。

 当時、わたしはまだ幼くて、総代にはこの家の事と言い本当にお世話になったわ。

 あの時に風見鶏でしかなかった立花を始めとした親戚連中は、これを機会に縁を切らせてもらったわ。法的にも、弁護士の先生にお願いしたから内容証明も届いているはずよ。

 本当に、せいせいしたわ」

 

 

 葵さんも雫ちゃんもうんうんと頷いている。よほど、嫌いだったのだろう。

 個人的には自分の母や花蓮に手を出さずに正面から妨害に来ていただけ、まだ憶えている前世のクソ同僚よりははるかにマシに思える。

 恭也さんが話しを続ける。

 

 

「話しを戻そう。

 カヤノヒメさまは家の屋根にカヤの草を用いていた頃に生まれた神様だ。

 権能は、【家の守護】と【草野】を司っている。

 だから、我が家に伝わる結界術は【家の守護】の権能からカヤの草で編んだしめ縄で要所の結界石を飾り、各所に配置するのが要点だ。

 別の地の神社では、漬物やタバコ、農業や着物や染め物の守護神として祀られている。

 だから、うちにも秘伝の漬物があってね。

 忍のそれはとても美味しいぞ。葵や雫にも少しずつ教えているようだから、カズマくんも楽しみにしているといい」

 

「お父さんったら、照れるじゃない。いやだわぁ。

 そんなに言われたら、この子達にもちゃんと教えておかないとね」

 

「大丈夫よ、お母さん。

 わたしがしっかりと作るから」

 

「そうだよ、お母さん」

 

 

 雫ちゃんも頷く葵さんに負けないとばかりにやる気になっている。

 葵さんと食事をしていると、やけに美味しい漬物が時々出ていたのはこれかとようやく分かった。

 そういえば前世を思い出して覚醒してから、洋食より野菜多めの和食に好みが変わったのをふと思い出す。子供の好きそうなものを食べなくなって、母に変な顔をされたなぁ。

 前世でもよく読んでいた転生物を実体験すると、思い出す前の自分と後の自分はどちらが本物の【間藤カズマ】なのか分からなくなる。

 その変なこだわりが作用して、この変な能力に覚醒めたのだろう。

 ショタオジの地獄訓練でもその辺はよく理解させられたし、頭が痛くなるので思い出すのは止めよう。

 気づくと、長い間考え込んでいたのだろう。

 周りの人たちが全員、こちらの顔を見ている。

 

 

「どうかしたの、カズマくん。

 何か嫌なことでも?」

 

「そうだよ、カズマさん。どうかしたの?」

 

 

 心配そうにこちらを見ている葵さんと雫ちゃんに言う。

 

 

「何でも無いよ。

 ただ、強いて言うなら漬物は茄子や大根のものが好みだと思っていただけだよ」

 

「よかった。なら、漬物はそれを中心にして夕食に出さないとね。

 メインは、カキフライとアボガドのシーザーサラダね。

 それと、薬味のたっぷり入ったしらす入りのだし巻き卵も用意するわ」

 

 

 ん?あれ?

 

 

「お姉ちゃん、ほうれん草とオクラの和え物と山芋のすり下ろしたのと麦飯も用意しないといけないよ」

 

 

 おや?ヤケに豪勢ですね?

 

 

「葵、雫、朝ごはん用のブルーベリーのスムージーとバナナとオートミールも冷蔵庫に入れてあるから頑張ってね。

 みんな休日だし、わたしもお父さんと久々に市内に明日の夜までお出かけするから。

 雫用のお薬とアレ(ゴム)はいつものところだからね?

 カヤノヒメさまからも応援の神託来ているからしっかりね」

 

「わ、わかったわ。お母さん」

 

「う、うん。あたしはまだ駄目だけど、こっちは頑張る!」

 

 

 あの、二人とも?

 確かに明日は休日ですし嫌じゃないし拒否はしませんが、そこまで真っ赤な顔で気合を入れなくともいいんですよ?

 そこにポンと肩を叩き、同朋を見る目でこちらを見る恭也さん。

 

 

「わたしも入り婿でね。気持ちはよく分かるよ。

 男親としては複雑だが、伝統のある霊能者の一族の家はこういうものなんだ。

 あと、部屋に焚く香は吸いすぎると止まらなくなるから気をつけて。

 自分は娘二人が限界だと思っているんだが、うちの家系の女性は火が入ると収まりがつかないからお互い生き残れるように頑張ろう」

 

 

 神棚から親指を立て素敵な笑顔のイメージを送ってくる女神様。

 諦めた顔で忍さんと出ていく恭也さん。 

 二人に引っ張られていく自分。

 生き残れるように頑張ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 記憶が飛び飛びになり、気がつくと翌日の正午ごろで三人とも裸で部屋の中がすごいことになっていた。できれば、DT気分が抜けていないのでもう少しお手柔らかにして欲しい。

 後日、転生者掲示板のスレで霊視ニキのある書き込みを見た時は、励ましのメールを送っておいた。

 「頑張りましょう」、と。

 




あとがきと設定解説


・月城恭也 (つきしろきょうや)

月城姉妹の実父。
二〇代の時に、ヤタガラスからの報告で根願寺から神戸市の結界の調査に来た。
そして、その時にその能力も見込まれて忍に捕まった。

・月城忍 (つきしろしのぶ)

月城姉妹の実母で現当主。現在は、お淑やかな御婦人風。
雫の今の年には葵がもうお腹にいたらしい。
ちなみに、第一話の時点で、葵22歳、雫16歳である。

・ヤタガラス

この世界線だと、ただ分解されたのではなく中途半端に情報機関の部分が残ったため、地方と中央を結ぶ連絡相互会のようになっている。
ただ、情報の行き来はあってもなくてもそんなに変わらないのが実情。


次回は、多分また幕間です。
一応、プロットを組んだのですがネタが浮かぶといろいろ考慮中です。

もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第十話 幕間その三・とある地方のガイア連合地方セクターの関係者の記録

続きました。

今回は、妹の花蓮の視点で地方支部の開設に関するお話。
設定のあれこれはふわっとしたものなのでご了承ください。

オリジナルさまの時系列で、だいたい7~8話頃の想定です。


  第十話 幕間・とある地方のガイア連合地方セクターの関係者の記録

 

 

 私は、間藤花蓮。私立蛍原学園に通う高校2年生の16歳の乙女です。

 他の方と違う所と言えば、ロシア人の血を引くため銀髪の日本人離れした容姿と【ガイア連合所属の転生者】というところでしょうか?

 あとは同じ転生者である実の兄の【間藤…ではなく、【月城カズマ】お兄様がいることでしょう。

 

 現在のお兄様はかなり忙しく動き回っておられます。

 この春に完成した表向きは【ガイア人材派遣神戸支社】の社屋となる、地下二階地上三階の【ガイア連合神戸セクター】内の稼働準備が忙しいためです。

 

 この建物はかなり大きい建物です。

 何しろ、私の元実家を含む一戸建ての4件分くらいの広さですから。

 もっとも、月城邸にも近い古くからの住宅街でもともと「この辺は出る」と言われていたので、不動産会社との交渉は楽だったそうです。

 

 外観は既存の目立たないビルにして、看板には「(有)ガイア人材派遣」、地下一階に各種倉庫と回復施設、地下二階に簡易シェルターと結界の中枢やラボがあり、一階が事務室と一般売店、二階が宿泊施設、三階が会議室などのレンタルルームなのだそうです。

 ちなみにこの建物の設計は【派出所】の雛形であり、ここの建設内容から【支部】の施設の設計をブラッシュアップするそうなので、お兄様たちは報告書の作成に苦労されていました。

 

 ただ、苦労されているはずなのにときどきこの忙しい中で、葵さんたちと仲良くしすぎているのはもう注意するのも諦めました。

 そんなだから役職ではなく後々に【初代マスオニキ】なんて呼ばれるんですよ、お兄様?

 

 もちろん、私もここの人材派遣に登録したという形で出入りしています。

 

 職員としては、私とお兄様の他に、山梨から来てここの事務を取り仕切る音無さん、内勤を希望されている派遣されてきた方々の取りまとめをされている日下さん、地下の重要区画の技術関係担当の六堂さんと氷室さんと他、臨時で来られる方たちが転生者で、現地の方は葵さんと葵さんの母の忍さんが事務で、施設外の結界の点検などをする葵さんの父の恭也さんが常勤しています。

 あとは、厳選して契約した宿泊関係の掃除や洗濯などの業者さんなどでしょうか?

 

 音無さんはここの転生者に関する事務のほとんどを管理されていて、機密の低いものは葵さんたちに任されているようです。

 その手腕には尊敬していますが、「心の癒やし」とかでお腐れも含んだ自分の趣味の周囲への布教は止めて下さい。

 覚醒修行の厳しさに折れて事務に転向したけど、シキガミの恋人は諦めていないのではないのですか?

 

 日下さんは、マシュマロ型のシキガミを連れた温和な男性で膝を悪くされているようですが、ご家族を大事になさっているとても良い方です。

 派遣されてくる中のどうしようもない人たちのトラブルも、平和に解決されているのは本当に助かっています。

 ただ、しきりと四国の現地霊能組織のことを気にされているのは何故でしょう?

 

 六堂さんと氷室さんは地下にある結界の中枢、装備庫内の装備、回復施設のお風呂、簡易シェルター、非常用の電源といった試作部品も混じった複雑な技術関連を担当されています。

 山梨で頂いた【呪殺無効】のこの服を造れるくらいの技術者で、何でもお二人は向こうでは【オネロリネェ】と【オネショタネェ】と呼ばれ、理想の銀髪ロリのシキガミとピンク髪男の娘のシキガミを作ろうとしてやらかして、ショタオジ様にこちらに出向させられたそうです。

 理想の娘と理想の彼氏を創るのが夢とのことですが、容姿もスタイルも男性が向こうからたくさん来そうですのにどうしてこうなんでしょう?

 

 恭也さんと忍さんは非転生者の覚醒者ですが、現場でのことや他の組織との交渉の際に間に入られたりと経験を活かされて本当に助かっています。

 ですが、兄の子どもの命名や誰かいい人はいないのかなど聞かれても困ります。

 今は、私の専用のシキガミの【クーフーリン】の育成で手一杯なのですから。

 

 シキガミの【クーフーリン】は、女神転生でも有名なイギリスの英雄なのだそうです。

 兄からはスキル構成が、デザインは同僚の女性技術者が主導した「型月プロジェクト」?の雛形から六堂さんたちが私の好みに合わせてプロト?にしてくれて、私はショタオジ様に言われ髪を一房提供しました。

 そして、初めて出会った時こう言われました。

 

 

「よう、お前さんが俺のマスターか? そうか。

 いや何、なんかお前さんとはこうシキガミとしてではなく、別の繋がりがあるんじゃねえかと思ってな?

 まあ、気にしないでくれ。これからよろしくな、マスター」

 

 

 ああああ、笑顔であんなことを言われたらあの癒やしの時間を思い出して限界化しちゃうじゃないですかぁ!

 それを用意してくださった皆さんが優しい笑顔で見ていらしたのは、顔から火が出る思いでした。でも、後悔しない。

 そして、緑の服の事務員の方はどこかネットリとした笑顔でこうもおっしゃいました。

 

 

「近いうちに彼も使える素晴らしい装備やスキルカード、他にも便利なグッズが手に入れられる【ガイア連合ガチャ】を開始するからたくさん稼いでね」

 

「ガ、ガチャですか?」

 

「そう。当たり装備やスキルなら彼にあげれるし、外れ装備や消費アイテムでも周囲の気に入った方に渡せば、ほら、無駄がない」

 

「む、無駄がない?」

 

「それにガチャだけでないの。

 人の体により近くなり、強くなる有料のシキガミアップデートもあるんですよ。

 愛しの彼を魅力的に強くするには効果的なのですから、頑張らないと」

 

 

 ガ、ガチャ。ガチャは悪い文明だと誰かが言っていましたが、私には関係ない大丈夫だとその時は思っていました。

 が、それが始まった数ヶ月後、見事に沼にハマり、かなりの散財をして彼自身に苦言を呈される羽目になったのは黒歴史というものでしょう。

 でも、大丈夫。

 今後は、計画的に上限を決めて余裕のあるときにしかしませんから!

 理想のシキガミを追い求める同志である音無さんや六堂さんに氷室さん、彼女らと共に進んでいくのですから。

 メンバーに不安しかない? 気にしないで下さい、クーフーリンとお兄様。

 私は気にしませんので。

 

 

 そして、しばらく立ちもうすぐ夏になりそうな頃、山梨から2つ連絡が来ました。

 

 一つは、先日、異界が抑えきれなくなっていた【恐山】がガイア連合の精鋭によって沈静化し、ガイア連合と同盟を結び最初の【大型地方セクター】になるとの知らせです。

 私たちは、こちらでの業務や生活と試験項目の実施などで忙しく参加する暇もありませんでしたが、霊視ニキさんの婚約と言い嬉しいお知らせでした。

 

 そして、次の作戦として【瀬戸内鬼ヶ島】の異界攻略が決定されました。

 物資と攻略人員をここ神戸と新たに派出所を作った四国の【大社】に集め、船に乗り込み夜襲をかけ私や日下さんも参加する橋頭堡部隊が陸上地点を確保し、夜明けを待ちお兄様も参加する精鋭を集めた切り込み隊が異界に殴り込む作戦でした。

 

 作戦は熾烈を極めました。

 

 基本、【鬼ヶ島】の名の通りに襲ってくるのは【妖鬼】たちでした。

 持ち込んだ【アナライズ】の出来る装備で、ほぼ全ての敵が物理スキルの攻撃技のみであるのと同時に物理耐性を備えていたと分かり、徐々に進みながら攻撃魔法で掃討することを繰り返して山の洞窟までたどり着いた後、切り込み隊が乗り込みました。

 

 上陸地点を守っていたこちらには、正面から【妖鬼オニ】の群れとそれを率いる【妖鬼モムノフ】が、水中から船を破壊するべく【妖鬼アズミ】の群れが来て私も貴重な【チャクラドロップ】を使い切るまで魔法を放ち、ようやく撃退できていました。

 

 後で聞いた話ですが、異界の内部には鬼ではなくアズミを大量に従えた【龍神】がいて激戦だったそうです。

 質はともかく数的にはこちらは不利で、兄を含めた決死隊が活路を開き、倒した竜神のその霊器を利用して豊穣神を降臨させ一気に壊滅に追い込んだそうです。

 

 こちらとしては、疲弊して次の襲撃に備えていた時に島が一面の水田に変わっていくのは忘れることの出来ない思い出になりました。

 そこで、やっと終わったのだと分かり周りの皆と喜びました。

 

 

 

 そこからは、めぐるましく時間が立ちました。

 

 降臨された豊穣の日本の女神様が異界のボスとなったため、【ヒノエ島】と名前が変わりました。

 そして、異界の中まで水田と変わっていたこの島は貴重な霊的な質もある米を産出することが分かり、二番目に出来た【大型地方セクター】となってしまいました。

 隣の地区の我々も日常の業務に加え、ここの開設のお手伝いもあり忙しい毎日が続いていました。

 

 そして、星晶神社に向かった夏のあの日から一年後、その事件は起きたのでした。

 




あとがきと設定解説


・【初代マスオニキ】

かなり初期のこの頃に、婿入りを堂々と宣言して実行してのけた勇者に後に贈られた称号。
外様神や穏健派がガイア連合員の取り込みを積極的に始める前だから、【初代】。

・【オネロリネェ】こと六堂さん

某作品の銀髪ロリ暗殺者といた女性にそっくりの覚醒転生者の技術者。
理想のパートナーシキガミを生み出すのを至上命題にしている変態。
銀髪なので、花蓮に絡んだ。

・【オネショタネェ】こと氷室さん

某作品のピンク髪の男の娘に執着していた女性にそっくりの覚醒転生者の技術者。
理想のパートナーシキガミと結婚を夢見るアラサー。
やらかしで飛ばされた件の主犯。

ちなみに、友人であり同志とは思っているけど、お互いの性癖には内心少し引いている。

次回から、第二部の予定。
ストックは尽きているので、リアルの都合と合わせて時間がかかります。

もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。




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第二部
第十一話 Q、お話するだけで何事もなく帰れると思っていませんか?


今回から、第二部。

今回は、会話中心の伏線回。

そろそろ、世界線が違うという独自色を出していかないと。


  第十一話 Q、お話するだけで何事もなく帰れると思っていませんか?

 

 

 8月に入って暑い日が続くある日、久々に報告や相談したいことなどがあり、忙しいショタオジに事前に会うための予約を取って星晶神社の談話室で会った途端、こう切り出された。

 

 

「青森、ヒノエ島、東京、山梨第二含むガイア連合全国19か所の大型セクターの建設及び雇用の準備が完了したんだけど、どう思う?」

 

「むちゃくちゃ早くありません?

 うちのセクターが建って、まだ半年ですよ?

 もろもろの細かい報告書を出したの、GW前でしたよね?」

 

「いや、うん。ねぇ。

 こっちとしてもはえーよとは思うんだけど、完了しちゃったんだよねぇ。

 基本的にはいいことだしプラスになることだけど、かかったお金も財界の俺らがどうにでもしそうなんだよねぇ。株価も4万円越えたって言ってたし。

 まあ、いつメシア教がやらかすか分からないから【終末前借り】したってのもあるし」

 

「【終末前借り】?」

 

「終末が来ることを見越してぇ、期限数十年ローンで莫大なお金を借りてぇ、終末の文明崩壊で無かったことにする借金だよ☆」

 

「割りとひどい。

 自分なんか、この間ようやくクレジットの審査通ったのに。

 そういえば、前の時も、バブルが弾けて超氷河期になって関西と関東で大地震とかひどかったなぁ」

 

「嫌なことを思い出させないでくれるかな」

 

 

 そこまで言って、お互いに冷たいお茶を飲んで一息入れる。

 この部屋は冷房が効いていて、外の暑さが嘘のように感じる。

 この暑さの中でもかなりショタオジも忙しいようで、この面会は休憩も兼ねているようでニコニコしている。

 部屋の入口にいる時計をチェックしているお世話係さんの方は、見ないようにしているが。

 ちなみに花蓮も一緒に来ていたが、クーフーリンと一緒に施設の見学をすると言うので別れている。後で聞いたが、この時にこの半年で稼いだマッカを注ぎ込んでガチャで大爆死していたらしい。

 ショタオジと提出した書類を見ながら、話し始める。

 

 

「かなり忙しいようですが、こちらでは何かありましたか?」

 

「この間、神奈川県の古墳にある異界に直接、話しをつけに行ったのが久しぶりの外出でよかったなぁ。

 ヴィクトルやDrスリルといった技術者も雇えたし、いくつか潜んでいたのも潰せたのも大きかったよ。

 そうだ。この【日本古代文明論】って知ってる?」

 

「知りませんね。何かの学説書ですか?」

 

「ああ、知らないならいいんだ。

 あとは、財界の俺らがアメリカに行っていない【門倉】くんや【櫻井くん達】を大金を投資したガイア系の情報企業に引っ張り込んで雇っていたことで、あの情報都市計画自体が白紙になったのもあったかな?」

 

「聞いたことはないんですけど、有名な人たちなんですか?

 業界で有名な技術者とか?」

 

「プログラマーとしては有能な人たちだよ。

 これも知らないんだ。失礼だけど、前の時はどの【原作】をしていたの?」

 

「通勤中にやった携帯ゲーム機の南極のやつだけです。

 他は、ネット上の創作をいくつかだけで」

 

「そっか。

 修行優先で、座学はサラッと流す程度にしかしなかったのがいけないなのかなぁ。

 まあ、いいや。それで、わざわざ来たのは何か話があるのかな?」

 

 

 わりとがっかりとした表情のショタオジ。

 何か悪いことをしたのかが分からないが、こちらの要件も言わないと。

 居住まいを正し、懐から【母子手帳を持った葵さんと一緒に雫ちゃんが写る笑顔の写真】を見せて頭を下げる。

 

 

「妊娠3ヶ月だそうです。

 子どもが出来たので、この間の【鬼ヶ島】の攻略参加の報奨も兼ねて機密を扱える事務員を下さい。

 来る人が増えたのに、葵さんが産休に入るので手が足りないんです。

 求人は身元の調査や面接をしている暇もないんです。

 音無さんや部下の事務員さんたちに、ネチネチと嫌味にならない愚痴を聞かされるのは辛いんです」

 

「あー、それはおめでとう。

 それじゃあ、君の分のシキガミはまだだったよね?

 それでいいかな?」

 

「事務の方に今から予約だと、高級シキガミは半年は先だと聞きました。

 割り込みは多すぎて認められないと」

 

「転生者の事務員の増員は……」

 

「支部がたくさん出来たばかりですよね?」

 

 

 そこまで言うと、ショタオジは思案顔になり何か無かったかな?、と、お世話係さんからカバンを受け取りゴソゴソと探している。

 何かの御札や書物や訳の分からない品を取り出しては考え込んでいたが、小さい紋章が刻まれた10cmくらいのストローのような蒼い金属筒を取り出すと、これだと言わんばかりに持ってきて蓋を開ける。

 そうすると、黒い長い髪をした胸の大きい眼鏡を掛けた着物の美少女が現れた。

 

 

「……神主様、召喚に応じました。何か御用ですか?」

 

「この【マスオニ…ではなく、【月城カズマ】くんと仲魔として契約して。

 仕事の内容は、秘書としての事務仕事だから」

 

「……わかりました。【鬼女 文車妖妃】です。

 これからよろしくお願いします」

 

「待ってください。

 説明して下さいよ、この女の子とその筒は何ですか?」

 

「この筒は【封魔管】。神道系の術で悪魔と契約して封印しておくための物だよ。

 この娘は、江戸時代の頃の書物を運ぶための車の付喪神の妖怪。

 以前、京都で仕事を受けたメンバーが貰ったらしいのだけど、シキガミがいるからいらないと預けていったんだ。

 戦闘は得意じゃないが、書類仕事は得意だぞ」

 

 

 こちらを不安げに見ている彼女。どうかな、と、こちらを見るショタオジ。

 ショタオジが契約して提示した悪魔なら、まあ、大丈夫だろう。

 葵さんが産休に入った場合、下手をすると忍さんも仕事を休みがちになるかもしれない。

 その上、音無さんが休みの日はとても酷いことになるのだろうから、背に腹は代えられないし、人間でない仲魔は頼りになる増員となるだろう。

 ショタオジから筒を受け取り挨拶をする。

 

 

「じゃあ、これからよろしく。

 なんて呼べばいいのかな?」

 

「……どうぞ、お好きなように。

 以前は、フグルマ、読子、栞子と呼ばれていました」

 

「似ているし、自分が知っている文学少女と言ったらこれしかないな。

 香る文と書いて、【文香】で。

 よろしく、文香さん」

 

「……素敵な命名、ありがとうございます。

 よろしくお願いしますね。ご主人さま」

 

「いや、名前で呼んでね。いろいろとその呼び名は差し障りがあるから」

 

「……はい、カズマさま」

 

「いやー、上手くいったようで何より。

 何しろ、カズマくんは大切な手ご…、人ばし…、幹部候補だからね。うん。

 それじゃ、今日はこれでおしまいだね☆」

 

「時間です、次の仕事に移動します」

 

 

 こちらが見ている前で、お世話係さんに笑顔のまま連行されてゆくショタオジ。 

 取り敢えず、ショタオジに両手で拝んで別れを告げることにする。

 不思議そうに、こちらを見ている彼女に告げる。

 

 

「それじゃあ、行こうか。文香さん」

 

「……はい」

 

 

 

 

 

 その後、合流した花蓮に紹介して「女を連れ帰るとは何事か」と怒鳴られ、筒から出し入れする事と仲魔だと説明をして時間をとることになり、一泊してから帰ることになった。

 そして、翌日の帰りの移動の途中に駅のホームで、『先に終わった湾岸戦争において活躍したアメリカ軍パイロットの“空を飛ぶ聖女”メアリー・スー少尉が~」というニュースを携帯で見ていた自分に、雫ちゃんと話していた花蓮が驚いた声で告げてきた。

 

 

「神戸メシア教会のシスター・ギャビーという方からお話ししたいことがあると連絡があった」、と。

 

 




あとがきと設定解説


・鬼女 文車妖妃 (きじょ ふぐるまようひ)

作中で説明した通り、付喪神の妖怪。
レベルは12で、耐性は火炎耐性、氷結弱点、衝撃弱点。
スキルは、アギ、ドルミナー。

彼女の容姿は、鷺沢文香か読子・リードマン、お好きな方で想像して下さい。


次回は、神戸に戻ってからの話。

もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第十二話 Q、名ばかり役職だからと交渉事から逃げられると思っていませんか?

今回は、伏線も込みの神戸のメシア教会の登場回。

厄介な味方になるか、厄介な敵になるかはこれからで。


  第十二話 Q、名ばかり役職だからと交渉事から逃げられると思っていませんか?

 

 

「と、言うわけで、こちらが星晶神社で契約してきた仲魔の文香さんだよ。

 主に、自分の秘書と音無さんの補佐と代行をしてもらうのでよろしく。

 それじゃあ、音無さん、貴女が早く楽になれるように早急に教育してあげて下さいね」

 

「……あの、来たばかりなんですが?」

 

「ええ、もちろん任せてくださいよ。

 求人をする暇もないくらい、人手の、足らない、貴重な事務員を孕ませた支部長の紹介ですからね。

 PCのオフィスソフトから書式の決まりまで、一月で覚えてもらいます」

 

「……え?」

 

「ああ、音無さん。彼女は本と甘いものが大好きみたいでね。

 彼女にもお小遣いを出すので、近くのお店とか教えてあげて下さい。

 あと、趣味の布教してもいいから、コレクションを貸してあげて下さいね」

 

「よっしゃ!趣味仲間、増やせる!」

 

「……え?え?」

 

「「「シフトに余裕ができるぞ!やったぁー!」」」

 

 以上が、神戸に戻ってきての文香さんと現場のやり取りである。

 この後、ネットの小説投稿サイトの存在と本のネット注文の事を教えると、ほぼ一週間で一通りのことを憶えてしまったのは、頭がいいのか趣味への執着かはよく分からない。

 ただ、彼女の私物用の棚に大量の書物がすぐに増えていたのは、この環境に慣れていっているのだから良い事だと思う。

 あと、葵や雫(敬称を付けるなと言われた)と何か話し込んでいたが、黙っていて内容は教えてくれなかった。

 

 

 

 さて、問題の神戸メシア教会である。

 山梨セクターにも連絡はしてあるが、会談の指定の期日までにいろいろと調べておこう。

 

 まず、この神戸という土地柄の一神教の特性を語っておかなくてはいけない。

 神戸は、幕末に外国人居留地があったおかげで一神教の教会も設立が1874年と歴史が古く、大阪と帝都に次いで約二千を越える多数の教会が兵庫県内にあり、教会巡りをするだけでも神戸観光が成り立つほどである。

 

 これに加えて、戦後にアメリカの後ろ盾があるメシア教会が徐々に派閥を増やし、今の代表である穏健派の茂部(もぶ)神父と実務を取り仕切るシスター・ギャビーの代でほぼ全ての兵庫県内の教会はメシア教のものになったそうだ。

 この変化は、【幸子】という穏健派の女性が日本支部の代表になった後から始まったというのだからその女性代表とあのシスターは何らかの関係があるのだろう。

 

 神戸教会の代表の茂部神父は、エクソシストとしては一流だが影が薄く代表としては凡庸な人物らしいとしか解らなかった。

 

 次に、シスター・ギャビー自身についてである。

 ガイア連合のデータベースで調べてゆくと、いろいろと分かった。

 

 容姿はピンクブロンドの長い髪で青い目のダイナマイトボディの白人女性であり、自分が日本に来る少し前にアメリカから亡命してきて色々あって今の地位に就いたらしい。

 資料にもわざわざ『このおっぱいでシスターは無理でしょ』と書かれているように、遠方からの望遠らしい写真を見ても二〇代の半ばの魅力的な女性にしか見えない。

 温和で面倒見がよく悩みを持った信徒に抜群の助言をするのが得意のようで、地元の新聞の投稿欄に美談としていくつかあった程である。

 

 ただ、メシア教は海外の過激派のような直接的な危険はなくても、穏健派も善意でこちらに侵食してくるので油断がならないのは変わらないだろう。

 だからといって、殴り掛かるのは現代社会ではご法度という奴だろう。

 自分たちガイア連合は、頭ヒーホーではあっても頭ヒャッハーではないのだから。

 

 

 

 そして、神戸に帰ってきてから明後日の会談の当日が来た。

 万一に備え、花蓮や葵に雫といった面々はセクターの方に籠もってもらい、自分を指名していたため、書類一式を持って事務服の文香さんと黒のスーツとサングラスを付けたクーフーリンと共に指定の場所に向かった。

 

 場所は、かつての月城家の本屋敷がありこの周辺では一番の霊地だった教会である。

 そこは最近建て替えたらしくかなり真新しい建物になっていて、年若いシスターに案内され奥の部屋に入って行くと、目的の部屋らしい扉の前に一人の神父らしい男が立っている。シスターが来客を告げると、その神父は中の人物に声をかけ扉を開けた。

 すれ違いざまに見ると、顔は印象に残らないタイプなのにかなり鍛え込んでいる様子が分かる。

 そして、中に入ると応接間らしく奥のソファに全身に白色の祭儀服に身を包んだシスター・ギャビーが座っていた。

 うん、そんな豊満な胸でシスター服は無理があると思う。

 現に、護衛らしきさっきの神父もあえて見ないように視線の先を固定しているし。

 

 さて、交渉に入るとしよう。

 こちらを見て話しかけてこようとしたので、懐から名刺入れを取り出し一枚取って、ビジネスマナーに則り軽く頭を下げ差し出す。 

 名刺には、表の役職と名前、電話番号とFAX番号が書いてある。

 

 

「本日はお招きいただきありがとうございます。

 わたくし、ガイアグループのガイア人材派遣神戸支社の月城と申します。

 本日はどんなご用向なのかお聞かせ願えればと思います。

 では、こちらに失礼させてよろしいでしょうか?」

 

「……は? あ、はい。いえ、どうぞ?」

 

「失礼させていただきます」

 

 

 そう言って、文香さんと並んで座る。クーフーリンは腕を組んで後ろに立つ。

 どうやら、困惑しているようで機先は制したようである。

 ちなみに今の自分の格好は、伊達メガネと七三分け、女性陣の選んだ紳士服屋で奮発して買った少し高めのスーツと新調した革靴にしている。

 霊能組織の代表として来るのだろうと思っていたようだが、あくまでビジネスライクにとことん外してやるつもりである。

 

 

「それでは、お話の方をお伺いさせていただきます。

 そちら様は弊社にどのような人材をお求めなのでしょうか?

 詳しい内容の方をどうぞ」

 

「えーと、あなた方は最近、勢力を伸ばし始めた退魔組織の『ガイア連合』よね?

 私と同じくらい強い貴方がここに来るのだから、私たちの他に異界を滅ぼせるのはあなた方くらいしかいないはずよね?

 今まであった霊能組織の人とは違いすぎるんだけど大丈夫なのかしら」

 

「あいにくと他の組織の方は存じ上げないので、我々はこうだとしか申せません。

 お話の内容は、異界の処理ですね。現地の情報をお教え願えませんか?

 それによって、派遣する人員や時間を考慮し料金が発生いたしますので」

 

 

 変なものを見る目で見た後、考え込みだしたおっぱいシスター。

 今までの会話で、事前にある程度こちらを調べている事、この女性がこの前の戦いで強くなったレベル20の自分と同程度である事、ある程度機械や術無しでこちらの強さを観れる事、自然と魅惑的になる仕草をしながらこちらと会話している事などが分かった。

 嫁が二人いて定期的に搾り取られていなく童貞のままだったら、このおっぱいシスターはやばかったかも知れない。

 いくらスキルで【精神異常無効】があっても、スキルに寄らない魅惑には効果が薄いのだから。

 自分が出てもいない汗を拭う仕草をした時、ますます変な物を見る目をして話し出すおっぱいシスター。ついでに、随伴の二人や神父もこちらを変な目で見ている。

 

 

「……気にしないことにします。

 本当は別に話したいことがあったのだけど、お願いしたいのはつい先日、私たちが過去に封じていた異界が活動を再開したから代わりに処理をして欲しいのです。

 場所は、神戸にも程近い場所にある観光遺跡の『鬼ノ城跡』。

 祠と再現した門と石垣しか無いはずなのに、一昨日、ハイキングがてら点検に行ったシスターたちが行方不明になっているのと、それを捜索に行った天使を連れたエクソシストたちも帰ってきていないから相当に手強くなっているはずです。

 そこで、救助と出来れば異界の処理もお願いしたいのです」

 

「人数と連れて行った天使の強さはどのようなものでしょうか?」

 

「シスターが3人とエクソシストは4人で、【アークエンジェル】を連れていたわ」

 

 

 もし全員が覚醒者なら、普通の地方現地組織ならかなりの被害である。

 確か、その城跡って7世紀頃に建てられた桃太郎こと吉備津彦命による鬼の温羅退治の伝承の縁の地だったはず。

 そしてつい最近、関係のありそうな【鬼ヶ島】を潰していたよなぁ、自分たち。

 救助もそうだが、山頂の山城跡とはいえ市街地に近すぎる。

 すぐに動かないと駄目だろう。

 

 

「ご依頼の件、わかりました。

 お引き受けさせていただきます。

 これから戻り次第、人員を策定し行動に移らせていただきますので、こちらの契約内容と契約書を確認の上、サインをお願いします」

 

 

 この契約条文と契約書は、地元の依頼先との報酬を巡るトラブル回避のために本部の連中が日下さんなどに急かされ急ピッチで作られたもので、もちろん呪的な効力も含まれている。

 しばらく確認した上で、渡した契約書に神父が持ってきたペンでサインするシスター・ギャビー。

 そして、サインした契約書を返し艶然と微笑む彼女。

 

 

「ぜひ、解決されることを願っています。

 来たるべき【約束の時】を見極めるためにも。

 神のご加護があらんことを」

 

「それでは失礼させていただきます。本日は、ありがとうございました」

 

 

 最後の意味深なセリフと微笑みに背中に何か冷たいものを感じ、二人を急かして早々に教会から退出した。

 何故か全員、早歩きでセクターに向かう。

 二人とも、強張った表情である。

 

 

「……カズマさま、ひどいです。

 初めての秘書の仕事が、あんな場所に行くことになるなんて。

 ……本当にひどいです」

 

「悪いが、俺も嬢ちゃんに同感だ。

 あの神父もあのシスターも、素手の今の俺じゃすぐに殺されちまう。

 少なくとも、あのシスターは天使の生まれ変わりかなんかだぜ。

 肉体があるのに、天使の雰囲気が強すぎらぁ」

 

「自分も途中で『エロいシスター』とでも考えていないと怖かった。

 できれば、交渉係は誰かやってくれないかなぁ」

 

「嫌です」

 

「俺もゴメンだ。本職は花蓮の嬢ちゃんのお守りだからな」

 

 

 そういうと、書類カバンをこちらに渡し封魔管に引っ込む文香さん。

 彼女には悪いことをしたと思う。

 この件が片付いたら何かご機嫌を取ろう。

 もう、神戸セクターが見えてくる。

 もともと、あの教会も歩いて行ける距離にあるのも問題なんだよなぁ。

 たぶん、自分と花蓮が出るのは確実だからちゃんと準備して出るようにしよう。

 

 

 

 

 

「そういえば、やけに受け答えがはっきりするようになったな。クーフーリン」

 

「嬢ちゃんが溜め込んでたマッカを、この間、山梨に行った時に全部つぎ込んでくれたからな。

 まあ、この借りは槍働きで返させてもらうさ」

 

「じゃあ、妹と何かあったら責任は取れよ」

 

「冗談でも止めてくれ、旦那」

 

 

 真顔で言うクーフーリンに、笑いながら言い返し建物に入る。

 さあ、命がけの大仕事の時間である。

 

 




あとがきと設定解説


・神戸の教会

これはほぼリアルに即しています。
歴史の古い教会巡りは、神戸の観光の華の一つだと思います。

・【アークエンジェル】

レベルは8で、ハマと物理技を使うので弱いわけではありません。
この天使は、穏健派に味方するくらい聞き分けが良い方でした。


次回は、遺跡内での戦闘。
やっと、引っ張っていたキーアイテムの登場です。

もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第十三話 Q、すんなり攻略が終わると思っていませんか?

早くできました。
キーアイテム登場に合わせて、正式な題名にしました。

今回は、異界攻略の前哨戦と伏線にしていたつもりのアイテム登場回。
そろそろ、主人公にも戦闘で活躍できる力がないと表現が難しい。


  第十三話 Q、すんなり攻略が終わると思っていませんか?

 

 

 暗い山道を行くのは危険なので、現地へは日が暮れる前に行くべきだろう。

 現場までは社用車のワンボックスで移動するとして、問題は今回のメンバーである。

 

 この間の鬼ヶ島攻略も含めいろいろ他の地の異界攻略にも参加しているため、レベル20になった自分とレベル12の花蓮、レベル9に成長したクーフーリンは決定であるし、文香さんは止めておいた車の番をしてもらうつもりである。

 

 葵は妊娠中だから駄目であるし、他のメンバーはセクターの要員だから駄目。

 日下さんは今、他の初心者グループの付き添いでいないし、メシア教絡みのため期待していた霊視ニキや鬼ヶ島攻略で一緒にいた人たち、【ヒノエ島セクター】の人たちも、各地のセクターが稼働したばかりであるため他の仕事や生活で応援には来れないらしい。

 おまけに、いつも逗留している人たちも今は手が空いていないらしい。

 

 とりあえず、この3人で入り口で一当てして様子を見るしか無いだろう。

 愚図る文香さんにいろいろとプレゼントする約束をしてなだめたり、葵と雫の二人に甘い雰囲気で見送られ周りの人を呆れさせたりしながら、現場の【鬼ノ城城跡】に向かったのだった。

 

 

 

 車でビジターセンターの観光用の駐車場まで移動し、文香さんに車を任せ下車する。

 行方不明者が出たということなので山道を警察が封鎖した跡があり、人が他にいないのはこちらとしては助かるというものだ。

 

 車から各種アイテムをポーチに入れ、自分とクーフーリンと分けて持つ。

 後衛の花蓮は、開設時山梨から送られてきた【試作型アナライズシステム】というごつい金属製のゴーグルとケーブルにつながった金属製のデータベースの入ったバックパックを身につける。

 最初は竹や木の槍だったクーフーリンも、金属製の槍を手にして感触を確かめている。

 

 文香さんに後を頼み、封鎖した脇から山道を登り、程なくして唯一再現復元された城門につく。

 門の下を覗くと向こう側が山裾が見えるはずなのに、古代の城の中の風景になっている。そして、チョロチョロといくつか動き回っているものが見える。

 

 

「【アナライズ】できましたわ。

 【魔獣カソ】、レベル4、耐性は火炎耐性と氷結弱点。スキルは、アギを使いますわ。

 鬼じゃありませんのね?」

 

「この程度の連中なら、群れてもメシアン共が殺られるのはおかしいぜ。

 大物が奥にいるんだろうさ。どうする、旦那?」

 

「どちらにせよ、異界に入るには門をくぐって入らないと行けないようだし、正面から一当てしてみよう」

 

「うし。じゃ、一番槍はもらうぜ」

 

 隠れながらこそこそ話していたが、合図と同時にクーフーリンを先頭になだれ込む。

 この辺には数匹しかいなく、攻撃される前に全部倒せた。

 周りを見ると、いつもの城跡ではなく奥に立つ本丸に続く石垣の塀に沿った道が続いている。

 慎重に進んでいくと、城の前庭らしい広場につくとそこには大量のカソと、ヒョウ頭の青い馬に乗った両腕が蛇になっている赤い服の男がいた。

 

 

「またニンゲンが来たのか。

 以前来た神の崇拝者たちとは違うようだが、何用か?

 立ち去れ、今はあの愚か者共の始末で忙しいのだ」

 

「【堕天使オリアス】。レベル7で、火炎が弱点ですわ!

 とりあえず、【ブフ】ですわ」

 

「大将首だろ、とりあえず死んどけや。【突撃】!」

 

「なし崩しだけど、とりあえず殴る」

 

 

 花蓮とクーフーリンが先制し、自分は変身して馬の脚をバットで殴る。

 それなりのダメージが入った所で、オリアスが動き出し馬の移動スピードで動き回りながら魔法をかけ始める。

 おまけに、物陰にいたらしい鉄の胸当てを付けた装飾の派手なミノタウロスまで出てきて魔法を放ってくる。

 

「この愚か者めが!まず、そこのシスターから惑うがいい、【プリンパ】!

 カソ共、一斉に攻撃しろ!」

 

「「「「「【アギ】」」」」」

 

「祭祀の準備の邪魔をしようというのか!

 喰らうがいい、【マハラギ】!」

 

「やばい、【マカラカーン】!

 クーフーリン、そこの混乱した花蓮を連れて撤退!」

 

「わかったぜ、旦那!

 おうりゃ、虎の子の【スタングレネード】だ」

 

 

 閃光と爆音を背に、迫りくる火炎から何とか逃れつつ城門を駆け抜け一気に駐車場まで駆け戻った。

 幸いなことに、多少の怪我はしたが深手は負わずに逃げ切れたようであるが、花蓮が正気に戻るまで少し時間がかかった。

 そして、怪我も花蓮のディアで治ったので相談を始める。

 

 

「状態異常で動きを止めて焼き払うとかひどい連携だ。

 たぶん、これで天使諸共にエクソシストはやられたんだろう。

 花蓮、オリアスのスキルとあのミノタウロスみたいなのは分かるか?」

 

「オリアスのスキルは、……【プリンパ】【ハピルマ】【ドルミナー】ですわ。

 牛男の方は、はっきり見てませんので分かりません」

 

「……たぶん、ミノタウロスではなく雄牛のような悪魔ですから、ミノタウロスではないのではないでしょうか?

 たぶん、牛頭人身ならば【魔王モラクス】だと思います」

 

「花蓮、モラクスのデータはある?」

 

「ちょっとお待ち下さい、お兄様。……ありましたわ。

 レベル15、耐性は、火炎反射、氷結弱点、呪殺無効。

 スキルは、物理技の【巨角の連撃】と状態異常の【ゲヘナ】ですわ。

 火炎呪文を使うのはデータにありませんわ」

 

「……そもそも鬼ではなく、何故、堕天使や魔王がいるのでしょう?」

 

「裏に何があるのかはっきりしないけど、今回の件、メシア教に騙し討ちされるような可能性は薄いんだよなぁ」

 

 

 文香さんも合流し、敵の正体や詳細を相談して対策を練る。クーフーリンは黙って周囲を警戒してくれているのは助かる。

 それにしても、この花蓮が付けているデータベースも付いているアナライズの機械には情報面では本当に便利で助かっている。いずれは、小型化するつもりのようだがハードがまだ追いついていないそうだ。

 いかに、ゲームの彼らはプレイヤーフレンドリーで助かっていたんだなぁと思う。

 さて、ボスクラスが二つでどうするか。できれば、若干脆い方の厄介な堕天使の方から落としたい。

 

 ああでもないこうでもないと相談していると、自分たち以外には来ないように話が通っているはずなのに山道を車が近づいて来るのが見えた。

 相談を一時止めて警戒していると、義父の恭也さんが運転している大型のバンが入ってくる。そして、近くに停まると恭也さんと2メートル近い体格の【レスラーニキ】が降りてきた。

 

 

「やあ、レスラーニキ。来てくれて助かるよ。

 よくここに来れたね?」

 

「ちょうど興行明けにメールに気づいて応援のために神戸支部に来たら、こっちの人がマス…じゃねぇ、支部長に荷物を届けに行くって言うんでな。

 乗せてって貰ったんだわ。で、まだ出番がありそうだな?」

 

「ニキが来てくれたんなら、打開できそうだ。

 待たせてすいません。恭也さん、荷物って何でしょう?」

 

「ああ、これだよ。

 君たちが出ていってしばらくした頃に、赤いスーツを着た【赤城】と名乗る男性が来てね。

 『やっと完成したのでぜひすぐにでも届けて欲しい』と必死に懇願されてね。

 まあ、ときどき取り引きもしている田中さんの所の人だとは聞いていたから、持ってきたんだけども何かまずかったのかい?」

 

 

 首を振ると、助手席に置いてあった金属製のアタッシュケースを渡してくる恭也さん。

 周りの人も興味深そうにしている中、手に取る。

 見ると、ケースの表面に【人類娯楽史研究所】の文字があり、ロックを外して中を見ると、全体は基本的には黒く銀色の金属部と金色の装飾がされた片腕に装着される様に作られたらしい精密機器が入っている。

 そして、説明書とは別に、同封されているメッセージにはこう書かれていた。

 

 

『カズマくん、完成させるのが遅れてしまってすまない。

 オーナーと開発者に無理を言って、ボクの趣味を全面的に反映させてしまったからなんだ。

 オーナーによると悪魔変身能力者は、悪魔の一部をその身に宿し単一の姿にしか変われない者と、契約した悪魔それぞれの複数の姿に変われる者の2種類いるそうだ。

 君は後者の素質が有るのだが、それには悪魔を契約・封印したカードと変身するためにカードを励起させるアイテムがないと不可能だという。

 そこで開発したのが、この【デビルズアブゾーバー】と【赤城特選悪魔カードセット】だ。

 せひ、君の戦いに役立たせて欲しい。

 そして、このアイテムは、必ず君の力になり我々の目的も果たしてくれることだろう』

 

 

 

 

 

 確かに1年前、赤城さんはこう言っていた。

 

『君にいいものをプレゼントするから、楽しみにしていてくれ。

 オーナーやボクが用意する素晴らしいものだからさ』

『物は出来上がっているので、微調整してカードの種類を決定したら完成だ』

 

 これが自分の力になるのなら、せっかく出来た大切なものを守れるなら、この先に起こるだろう【大破壊】で生き残れるなら、喜んで使わせてもらうことにする。

 そして、自分はその【デビルズアブゾーバー】を左腕に取り付けた。

 




あとがきと設定解説


・【鬼ノ城城跡】こと、鬼城山(鬼ノ城)

「日本100名城」のひとつ。大和朝廷によって国の防衛のために築かれたとされる古代山城。鬼ノ城は歴史書には一切記されておらず、その歴史は解明されずに謎のままです。
現在は史跡調査や整備、復元を行っており、角楼跡や城門跡を訪れることができます。
復元された西門から望むパノラマ風景は素晴らしい。
山頂の手前には復元の過程や遺跡が出土した時の様子を紹介した「総社市鬼ノ城ビジターセンター」があります。
城壁に沿って整備された全長2.8kmのウォーキングコースもおすすめです。 
(岡山県観光スポット案内より)

・【プリンパ】【ハピルマ】【ドルミナー】

いずれも敵単体に、混乱、快楽、睡眠の状態異常を付与する。

・【ゲヘナ】

敵全体に、恐怖の状態異常を付与する。


次回は、異界攻略の続き。
キーアイテムも活躍できればいいのだけど。

もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第十四話 Q、便利な道具はただ便利なだけだと思っていませんか?

今回は、初のアイテム戦闘回。

戦闘場面の描写が難しい。
切りが良いところまでなので少し短いです。


  第十四話 Q、便利な道具はただ便利なだけだと思っていませんか?

 

 

「それじゃ、わたしは一旦戻るから。頑張ってくれ」

 

 

 そう言って、そのまま車で戻っていく恭也さんを見送る。

 左腕に【デビルズアブゾーバー】を付けたはいいが、使い方が分からないので説明書を見ながら起動することにする。新品の物は、必ず説明書を読んでからでないと落ち着かない。

 周りも見ている中、不思議そうに花蓮が聞いてくる。

 

 

「それは何ですの? お兄様。

 力は感じますが、特撮の成り切り玩具にしか見えませんが」

 

「よく話していた赤城さんが持ってきた自分の能力を向上してくれるものらしい。

 ほら、以前、金髪少女の油絵を贈ってきたあの人だよ。

 怪しげで胡散臭い人だとも思っていたけど、こっちの業界の人なら納得できるな」

 

「……大丈夫なのですか、カズマ様。不安しかない方のようですが?」

 

「趣味以外は、仕事もできて頼りになる真面目な人なんだ。趣味以外は」

 

「本当に大丈夫なのか、それ。

 オレもいるんだ。殴った方が早くないか?」

 

「とりあえず、使ってみよう。

 かなり、厄介な連携をしてくるからバット以外の手段は多い方がいいし」

 

 

 口々に、不安だと言われる。

 もっともだとは思うが、最悪、全員動けなくなって火あぶりよりはいいだろう。

 説明書と付属品をケースから取り出す。

 

 

「まず、『専用アクセスカードのプレートを最初にはめて下さい』、と。

 装飾の派手なプレートだなぁ。下地が赤の金色のハートの模様とか。

 次は、『システム音声の仕様は無理だったので、ピッと音が鳴り上部のLEDが青く点灯していれば大丈夫です』、と。

 システム音声とか何を喋らす気だったんだろう?

 えーと、『右側のカードスライダーを展開するため、手前の押しボタンを押して下さい』?

 これかな?」

 

 

 カード差込口の下にあるボタンを押すと、右側の出っ張った部分からガシャっという音と共に3枚のカードの入ったスライダーが展開する。

 裏側は下地が赤く黄色い星のような模様で、表には、白い着物を来た少女、浅黒い肌で動きやすそうな白い服を来た少女、髪の毛が翼になっている赤い服の少女の姿がそれぞれ描かれている。

 カードの左上には赤でハートと「FG」の文字が、絵の下の部分に【ユキジョロウ】【ナジャ】【モー・ショボー】の名が記されている。

 

 メッセージに【赤城特選悪魔カードセット】と記されていたので覚悟はしていたが、『容姿とスキルには熟選を重ねた』とか趣味に走り過ぎてはいないだろうか?

 もっとも本人に聞いたとしても、「性能がいいなら、男やBBAよりはいい」と言うのは分かっているのでカードについてはもう聞かないが、この機械自体にはこの件が終わったら聞くことにしよう。

 

 とりあえず、この場で一番有用そうな【ユキジョロウ】のカードを取り出し、プレートの下の隙間にカードを差し込むとLEDが点滅しピッピッと音が鳴るといつもの変わる感覚がして、サバゲー専門店で買った型落ちしたアメリカ軍の迷彩服と防弾チョッキを着た男が、白い着物を着た10代前半の少女の姿に変わっていた。

 しげしげと興味深そうに集まる周囲のメンバー。

 

 

「お兄様がえらく可愛らしくなったわ。高さもちょうどいいし、頭も撫で心地が良い」

 

「止めてくれ。頭を撫でるな」

 

「……少しヒンヤリしていますね。この時期なら、抱きまくらにいいかも」

 

「文香さんも撫でないで。あと、冷房機じゃない」

 

「旦那、声まで可愛らしくなってんのな。ククク」

 

「うちの興行で、歌ったり踊ってくれないかのぅ」

 

「クーフーリンやレスラーニキまで変なことは言わない!

 この姿なら強い氷結系魔法も使えそうだから、作戦を立てて突入するよ!」

 

 

 微笑ましげにこちらを見る面々に考えた作戦を言い、撫でようとする女性陣の手を避けながらようやく突入を再開するのだった。

 

 

 作戦自体は単純である。

 移動力の落ちた自分と花蓮を両脇に抱えたレスラーニキとクーフーリンが突っ込み、出会いざまに魔法をぶっ放して、二人を手放したらレスラーニキはモラクスを、クーフーリンがオリアスを仕留める作戦である。

 

 作戦は上手くいった。

 

 こちらが逃げ帰ったと思っていたのだろう。

 エクソシストの腕らしき残骸をカソたちに与えている所に、クーフーリンと2m近い体格の両腕に女性を抱えた白い半袖シャツとGパンの男が突っ込んで来たのだから。

 呆気にとられる顔を見ながら、花蓮はモラクスに自分は全体にぶっ放す。

 

 

「喰らいなさい、【ブフ】!」

 

「【マハブフーラ】!」

 

「がああああ!」

 

 

 自分の方は【氷結ブースタ】付きである弱点の氷結魔法を喰らい、全滅するカソと悲鳴をあげるモラクス。

 先ほどのダメージがまだ残っていたらしい重傷のオリアスが魔法を放つ。

 

 

「おのれ、ニンゲンごときが!【プリン…」

 

「【チャージ】、もう言わせねぇよ。死ね、【突撃】!」

 

「ぐほっ」

 

 

 【チャージ】を掛けながら走り寄ったクーフーリンの槍に頭を刺し抜かれ、消滅するオリアス。

 そして、自分と花蓮を手放したレスラーニキとモラクスが激突する。

 モラクスの攻撃を全部受け止め、角を叩き折るレスラーニキ。

 

 

「死ぬがいい!【巨角の連撃】!」

 

「効かん!レスラーを舐めるな!【牙折り】!」

 

 

 そして、そのまま慌てるモラクスの後ろに回り両腕でがっちりロックすると、暴れる巨体をそのまま持ち上げ後ろに叩きつけた。

 

 

「何をする!止めろ!我はかの偉大な…」

 

「お前など知らん!【気合】!ふんぬぅぅ、【渾身脳天割り】!」

 

 

 きれいなブリッジのニキと頭頂から鮮血を出し通路の石畳に沈むモラクス。

 そのまま塵になって消えかけた時、スキルが働く感覚がして、緑の光に包まれてモラクスがカードと化し自分の手元に飛んできたので掴んでそのまま仕舞う。

 

 わりとあっけなく戦闘が終了した。

 周りを見渡すと、レスラーニキが怪我を負ったくらいで被害は少ない。

 花蓮が治療している間に周囲を調べるが何もなく、あとは門を固く閉めた3階建ての本丸があるだけだった。

 門をぶち破れないか試したが、レスラーニキの全力の飛び蹴りでも無理だった。

 あとは、よじ登って窓から入るくらいだろう。

 

 

「クーフーリン、行けるか?」

 

「登れるが、あそこの窓は小さすぎて俺じゃ入れねぇ。

 嬢ちゃんはもちろん、今の旦那でも無理じゃないか?」

 

「これなら行けるんじゃ?」

 

 

 【ユキジョロウ】のカードと【ナジャ】のカードを入れ替える。

 カードを入れてLEDが青く点滅した途端、浅黒い肌に骨のペンダントをして白い服を着た少女に姿が変わる。

 いつもの自分より素早くて体重もかなり軽いので、しばらく動かしてから周りに合図を送り登りだす。

 

 

「中に潜り込んで扉を開けるから、突入の準備はよろしく。

 じゃあ、行ってくる」  

 

「こっちもこっちで可愛らしいですわ」

 

「中身が旦那じゃなきゃ、心配しかしねぇ格好だな」

 

「うむ、こっちも興行で受けるだろうな」

 

「だから、容姿の寸評はいらないんだけど」

 

 

 まるで、手慣れたようにスルスルと登っていく。

 それにしても、この姿の【ナジャ】という悪魔はどこの伝説や伝承のものなのか、まるで見当がつかなく知識にない。

 赤城さんはその趣味から来る情熱でどこで見つけてきたのだろう?

 不思議でならない。

 

 

 そして、そんなことを考えながらも最上階のベランダにたどり着き、隙間から中に潜り込んだのだった。

 




あとがきと設定解説


・【赤城特選悪魔カードセット】

彼の趣味が特別に反映されまくったカード群。
主に、従来の同名の悪魔よりイラストレーターが違うレベルで容姿に力を入れている。

・【レスラーニキ】

主に、関西で過激な興行をしているプロレス団体の古参のヒールレスラーで選手のまとめ役。
レベルは16。耐性は、物理耐性、火炎耐性、衝撃耐性、破魔無効、呪殺無効(装備)。
スキルは、牙折り(関節技)、渾身脳天割り(投げ技)、デスバウンド(ジャイアントスイング)、気合、挑発。

・【鬼女ユキジョロウ】

赤城の趣味の入りまくった悪魔カードの一つ。
レベルは26。耐性は、火炎弱点、氷結吸収。
スキルは、ブフーラ、マハブフーラ、ドルミナー、永眠への誘い、氷結ブースタ、火炎耐性。


次回は、異界のボスとの戦闘。

もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。




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第十五話 Q、現実も敵を倒して終わりになってくれないかなとか思っていませんか?

続きです。

今回は、難産だったボス戦闘回。
やっぱり、戦闘描写は難しい。


  第十五話 Q、現実も敵を倒して終わりになってくれないかなとか思っていませんか?

 

 

 最上階のベランダに飛び道具用の窓があり、中を覗いて誰も居ないことを確認して体を滑り込ませるようにして潜り込んだ。

 

 それにしても、この少女の体はすばしっこいくせにやたらと柔軟性があり、元の自分では絶対に出来ない両足を体が付くほど開いて前に伏せるポーズも出来るのだろう。

 後日、本当にやって出来た。ちなみに、同じ様に忍さんと雫が出来たのには驚かされた。

 花蓮や音無さんたちも挑戦したらしいが、妊娠中でやらなかった葵以外は腰を痛めただけに終わったらしい。

 年上の忍さんに出来たのなら自分にだってと、思ったとか思わなかったとか。

 

 

 入ってすぐの内側は廊下になっているようだが奥から聞こえる人の声以外は何も聞こえず、そちらの方に足音を殺して近づいていく。

 普通なら、雑魚の悪魔が湧いて周辺にいるものなのに一体も見かけない。

 こちらとしてはありがたいが、ますますこの異界がおかしく感じる。

 同じような廊下が続くが、角を曲がった時に扉を見つけそっと覗いてみる。

 

 扉の内側の廊下は吹き抜けの通路に続いているもので、下の様子を見ることが出来た。

 部屋の中央に魔法陣があり、陣の中央には鎧兜を付けた木乃伊がありその足元には干からびた神父服の死体が2つ転がっている。

 また、近くにはこの儀式を主導しているだろう中東の人種らしい男性が何か母国語でそれをなじっている。

 

 陣の近くの壁際には、裸になった金髪の女性が3人とも後ろ手に鎖に繋がれて転がされている。

 乱暴はされた形跡があるが、全員が虚ろな目をしており薬か何かされているのだろう。

 

 こちらに気づいている様子はないし、一階は大広間のようで魔法陣と反対側の扉を開ければ外の仲間も入れるだろう。

 ただし、常人では動かせないような大きさの閂(かんぬき)をどうにか出来ればだが。

 日の本の国に来たのだから、日の本言葉でしゃべればもっといろいろと分かったろうに。

 

 男のほうが大声で叫びながら、鎖を外すためか右手に鍵を持って女性たちの方へ移動し始めた。

 これ以上、訳の分からない儀式を進めてもまずいだろうと考え、3階の高さはあるが飛び降りて、女性に当たらないように頭上から男に【ガルダイン】を叩き込んだ。

 放った衝撃でうまく着地もでき、結果はどうかと男の方を見ると男は案の定四散していた。

 

 ただ問題なのは、どこかに飛んでいった鎖の鍵はどうにでもなるが、男が脇に持っていた黒い本が魔法陣の近くに落ち、そのまま塵になって舞い足元の死体も一緒に木乃伊が取り込んだことである。

 あ、やばいと思うも既に遅く、木乃伊が変化し異形の怪物になってしまった。

 

 体長は2mを越えている体躯で、顔の中央に大きい一つ目があり、草のような箕を体にまとい腰で紐を結ぶタイプの赤茶色の布のズボンを履いている。そして、もっとも嫌なのはこちらを見て股間が大きく膨れている点である。

 後ろの裸の女性たちだろうなと思い、視線を避けるように横に移動するも焦点はこちらである。

 

 こっちを見て、欲・情・す・る・んじゃねぇ!

 

 ジリジリと入口の方に下がるも、怪物は笑いを浮かべながら、前傾姿勢のままジリジリとこちらに来る。

 このままこちらに来れないといいなと思うも、さして抵抗もなく消え去る魔法陣。使えねぇ。

 カードを交換しようにも、視線を外したら一気に襲ってくるだろう。

 胸と腰をガン見してくるのが、こんなに気持ち悪いとは思わなかった。

 前の怪物を見て、後ろの扉を見る。いちかばちかやるしかないなと覚悟を決める。

 

 

 首元の服を引っ張り胸元を見せて、舌を出す。 

 ニンマリと笑みを浮かべ【ガル】とこちらの足に向けて放ってくるが、今は【衝撃無効】であるので効果はない。驚くそいつに今度はこちらが【ガルダイン】を叩き込む。

 全身を切り裂かれ、怒りに震えて突進して来るそいつに合わせて入り口を背に立つ。

 【暴れまくり】。

 こちらの手足をへし折りそうな拳打を連続してくる。

 躱しきれずにいいのをもらったが、扉ごと外に吹き飛ばしてくれて上手くいった。

 こちらを見て驚いている面々がいる。

 声をかけると、真っ直ぐ突っ込んでゆくレスラーニキとクーフーリン。

 

 

「お兄様!怪我が!」

 

「大丈夫、要救助者3人が中に!攻撃して!」

 

「おうさ!」

 

「おうとも!うおりゃー!」

 

 

 そのまま地面に落ち、転がるように着地する。

 治癒魔法をかけようとする花蓮に、自分で回復すると告げて立ち上がる。

 すると、二人の攻撃を振り払うように怪物が魔法を使う。

 

 

「おで、男いらない。【マハガル】」

 

「ぐお」

 

「ぬう」

 

「きゃあ」

 

 

 怪物が全体衝撃魔法を放つが、花蓮を庇った自分は【衝撃無効】であり前の二人も耐性があるためそれは悪手だろうだと思ったが、二人の様子がおかしい。

 怪物を視た花蓮が驚いた声を上げる。

 

 

「【アナライズ】、……【妖鬼ヤマワロ】。

 スキルは、【暴れまくり】【ガル】【マハガル】ですわ。

 データではレベル24のはずなのに、32もあるなんて!」

 

「【ディアラマ】。花蓮、弱点は?」

 

「破魔と呪殺です。お兄様?」

 

「レベルのステータス差で3人でも長い時間は無理だから、花蓮の【ハマ】が頼りだ。

 攻撃は引き付けるから掛けるんだ。頼むぞ」

 

 

 物理耐性持ちの二人でもレベル差で傷が増えていく。

 並のメンバーだったらもう殺されているだろう。

 二人の横に駆け出し、ヤマワロからMPを吸い魔法で援護に入る。

 

 

「【吸魔】。クーフーリン、大丈夫か? 【ディアラマ】」

 

「すまねぇ、旦那。クソ硬てぇなコイツ!」

 

「これはきついぞ。ええい、【牙折り】!」

 

 

 レスラーニキが攻撃力を下げるが、まだキツイ。

 近づいた花蓮が魔法を掛ける。

 体を震えさせるが、効いていないヤマワロ。

 

 

「【ハマ】! 弱点なのに、何で効きませんの!? もう一度…」

 

「おで、飽きた。【暴れまくり】」

 

「がは」

 

「ぐう」

 

「きゃあ」

 

 

 怪力の拳打が複数回、またこちらを襲う。

 レスラーニキが膝を付き、花蓮を庇ったクーフーリンは【食いしばり】で虫の息だ。

 自分も最後の攻撃を避けそこない、両腕ごと胴体を掴まれてしまう。

 抜け出し魔法で攻撃しようとするが、ミシミシと指で締め付けられる上に、親指の腹で胸の感触を楽しんでいるのに気づき気持ち悪さで硬直してしまった。

 ニンマリと笑みを浮かべ、ヤマワロが言う。

 

 

「おで、女、犯して喰う。男、いらない。

 たくさん、たくさんある。でも、足りない。

 おで、外に出て、もっと犯して喰う!

 昔の頭領みたい。お前ら、邪魔」

 

 

 ヤマワロの前に、唯一、行動可能な花蓮が泣きながら立ち上がる。

 空を見上げ、叫びだす。

 

 

「あんたみたいな悪魔なんかに食われてたまるもんですか!

 仮にも見ていると言うのなら、悪魔ばかりでなくこっちにも力を貸しなさいよ!

 そんなんで、造物主を気取るな!バカ!

 神様なら、みんなを助けなさいよ!【ハマ…オン】!」

 

 

 花蓮から出た光が周囲を包み、光に触れたヤマワロが粒子となって消えていく。

 ヤマワロが呆気にとられた表情のまま消え地面に落ちる自分だが、【デビルズアブゾーバー】がバチバチと火花が出て動きを止め、元の姿に戻ってしまった。

 そして、周囲が振動し、崩壊が始まる異界。

 皆、顔を見合わせ、救助者と拾えるものは拾って走って脱出したのだった。

 

 

 

 それからも、帰るまで大変だった。

 運びきれないので、電話で教会の車を呼び布で巻いた3人の女性を引き取ってもらう。

 運転して来た茂部神父とスタッフに彼女らは回収されていった。

 神父は礼を言い後日会いましょうと去って行ったが、車の中に隠れていたはずの花蓮を見ていたので目をつけられたかもしれない。

 そして、レスラーニキも含め車でぎゅうぎゅう詰めになりながら帰り、そのまま全員セクターの宿泊施設のベッドへ倒れてしまった。

 

 そして、翌日の朝。

 それぞれに別行動の他の人とは違い、自分は地下の研究室で六堂さんと氷室さんに、貰って早々に昨日壊してしまった例のものを直せないか見てもらっていた。

 カード類と蓋を外して中を調べる二人は、苦々しげに言った。

 

 

「わたしはこういうのは専門外だからあまり言えないけど、少なくともこのカードは今のガイア連合で作るのは難しいし、データベースにある悪魔と容姿もスキルも違っているくらいしか分からないよ。

 氷室の方はどう?」

 

「研修から逃げた元医師の六堂とは違って、アタシは理系畑の人間だけどさ。

 一見、玩具にしか見えないのに、こんな事ができるようになるなんて信じられないよ。

 少なくとも、こいつはアタシには直せない。

 支部長の知り合いの贈り物だか知らないけど、こんなもの作れるなんて常人じゃないよ。

 悪いけど、調べるだけ調べて山梨へ報告させてもらうよ」

 

「終わるのにどれくらいかかる?」

 

「本当ならこれをそのまま送りたいけど、支部長の私物を勝手にするわけにもいかないからね。

 構造は単純だから、もう調べ終わるよ。

 ただ、基盤がいかれているんで中身は分からないけどね」

 

「直せないなら、現物を持って直接訪ねに行くことにするよ。ありがとう」

 

「気をつけなよ。その【人類娯楽史研究所】って、ガイア連合の調査リストにも上がっていたはずだからね」

 

 

 

 

 

 受け取って、ケースに収め地上に上がる。

 このまま二人の嫁の所に戻って溺れたい気分だが、そうもいかない。

 そして、自分は原付きに乗り、田中さんの会社に向かうのだった。

 




あとがきと設定解説


・【幻魔ナジャ】

赤城の趣味の入りまくった悪魔カードの一つ。
レベルは23。耐性は、氷結弱点、衝撃無効、破魔無効。
スキルは、ガルダイン、吸魔、ディアラマ、ポズムディ、回復ブースタ、氷結耐性。


次回は、いよいよ伏線を張りまくっていた相手の登場。

もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第十六話 Q、まだ自分がただの運のない凡人だと思いこんでいませんか?

今回は、『オーナー』の登場回。

キーアイテムの登場に合わせて、色々と回し始めます。
今回、最大級のネタ枠を登場させるので世界観を壊さないようにしないと。


  第十六話 Q、まだ自分がただの運のない凡人だと思いこんでいませんか?

 

 

 神戸市内の田中さんの会社がある雑居ビルに着く。相変わらず、この辺は路地が多くゴミゴミとしている。

 いつも来ていたように入口横にバイクを止め、例のケースを入れたバッグを背負って階段を登っていく。

 念のために着てきた普通の服に見える霊装防具が汗ににじむ。

 中は静かで相変わらず人の気配が全然いない様子である。

 四階の事務室に着き、ノックする。中には田中さんだけ居たようで、返事があり入る。

 いつもの机に座って書類を見ていた田中さんが、来客用のソファに座るように勧めてくる。

 一礼して座り、話を始める。

 

 

「やあ、間藤じゃなくて、月城くん久しぶりだね。

 先月に、そちらの関連の運送会社の『ユーアーイーツ』に荷物の配送の仲介を頼んだ時以来だね。

 それにしても改めて思うんだが、ここを辞めて結婚した上にベンチャー企業の支社長になるなんて、本当に自己啓発セミナーってすごいんだねぇ。

 それで、今日はどうしたんだい?」

 

「今日は赤城さんに聞きたいことがあって来たんですけど、今はどこにいますか?」

 

「ああ、オーナーに何かかなり無理を言ったらしく、先日から長期出張でアメリカに行っているよ。

 最近、宗教界からポリティカルなんとかでコミック出版社への風当たりが強くなってね。

 批判が入りそうなバッ○マンやウォッ○メン、パ○ッシャーや○ポーンなんかの作品を、大至急、手に入れられるだけ廃刊にされる前に回収してこいと言われたらしくてね。

 日本側の受け取りはここだから分かるが、現地のエージェントも総動員で動いているらしいよ。

 彼が何かまたしたのかい? 今度は、少女の彫像を送りつけたとか?」

 

「流石に、こちらも結婚して近々子どもも生まれますので彫像はないですよ。

 別の意味でしでかしましたが。

 それと、【人類娯楽史研究所】ってご存知ですか?」

 

「おや、ここのオーナーが経営している財団法人のことだよ。

 話したことがあったかな?」

 

「いえ、赤城さんに貰ったものにその名前が書いてあったんで知っているかなと思ったんです。

 よければ、そこに案内してもらえますか?」

 

「今からかね? 先方に電話するので少し待ってもらえないかな?」

 

 

 そういうと田中さんは、事務所の古いFAX機能付きの電話で連絡している。

 程なくして都合がついたらしく、案内してくれる事になった。

 

 自分はバイクで、田中さんは荷物を積み込んだ小型トラックで移動していくが、道はどんどん市街地を外れ高尾山の方に入っていく。

 元は登山道だったのだろう。公園やお寺を通り過ぎて、車一台がギリギリ通れる広さの道を登って行く。遠くの方にケーブルカーとロープウェイが見えたので、そちらから行くほうが楽そうである。

 朝方、部屋に閉じ籠もり朝食にも出てこなかった花蓮が少し気になったが、かなり回りくねった道を時間を掛けて登り、山腹にあるきれいな鉄筋コンクリート製の観光ホテルのような建物に着き、小さめの駐車場にお互いに停めて背伸びをしたり腰を左右に動かして一休みをする。

 

 

「大変だったんじゃないかい、月城くん?

 もともとここは山上の廃業した観光ホテルを20年前ほどに買い取って社屋にしたらしく、交通の便が悪いんだ。

 ケーブルカーの『虹の駅』って所からの方が行くだけなら手軽なんだがねぇ。

 さて、ここがオーナーのいる【人類娯楽史研究所】だよ」

 

「いえ、大丈夫ですよ。

 かなり古そうな建物ですけど、綺麗ですね?」

 

「昔、台風の被害で営業停止になったところを、オーナーが大枚はたいて買い取って補強工事で一部建て替えたので頑丈らしいよ。

 わたしは10年くらい前に赤城くんに会って雇ってもらってから、時々は来ているよ。

 さあ、入り口はこっちだ」

 

 

 入口の横にプラスチックのプレートで『(財)人類娯楽史研究所』とあるのを見つつ、荷物を抱えた田中さんと中にはいって行くと、えらく恰幅のいい警備員の横を通り少女漫画の単行本に熱中している赤髪のきれいな受付嬢の所まで来る。

 こちらが近くに来たのに気づいたのか慌てて隠しているが、複数冊の単行本が隠れているのが見えている。

 

 

「あ、あら、田中さん。来るのが早いですね。

 に、荷物でしたらいつものようにうちの者に渡してくださいな」

 

「めったに人は来ませんけど、森さんは相変わらずですね。

 それと彼が連絡したオーナーに会いたいという月城くんですよ」

 

「どうも、田中さんにはお世話になっている月城カズマです。

 よろしくお願いします」

 

 

 自己紹介すると、森さんは気の毒な人を見る目でこっちを見るのが気になる。

 自分は案内で奥に行くが、田中さんは荷物をやって来た作業員の人に渡すとこれから戻るという。

 

 

「それじゃあ、カズマくん。

 わたしはここで失礼するよ。荷物の受け取りが会社宛で誰かいないと駄目なんだ。

 オーナーは気さくな人だから、大丈夫だよ」

 

「案内ありがとうございました、田中さん」

 

 

 そういうと足早に田中さんは帰っていった。

 見送って森さんの方を見ると、しげしげとこちらを見ている。

 気になったので聞いてみる。

 

 

「何かありましたか?」

 

「いえね。あなたも田中さんみたいに、オーナーの趣味と目的に巻き込まれた人かと思ってねぇ。

 わたしは上司がオーナーの知り合いで出向しているからしょうがないのだけど、あの人は生まれが特殊だったからねぇ。

 あなたもそうなのかしら?」

 

「特殊と言えばそうかもしれませんね。

 そういえば、少女漫画がお好きなんですか?」

 

「そ~よ~。『花と○め』も『り○ん』も『マー○レット』もくまなく読んでいるわぁ。

 だから、オーナーの目論見も上手く行って欲しいのよ。

 あ、案内するわね。あと、読みふけっていたのはオーナーには言わないで」

 

「ひとつ聞きたいのですけど、いいですか?」

 

「なに?」

 

 

 次の行動に移れるように、回りを把握しながら聞く。が、あっけらかんと彼女は答えた。

 

 

 

「あなた方も悪魔の関係者ですか?」

 

「そうよ。悪魔そのものよ。

 あなたたちの組織もクソ天使たちを敵対視しているようだし、もともとここに拠点を構えているのだってオーナーの趣味と目論見のためだし。

 さ、オーナーやみんなが待っているし、答え合わせは揃ってからね」

 

「敵対はしないと? 人間になにかするつもりですか?」

 

「逆よ、逆。敵対なんかしたら、漫画が読めなくなるじゃない。

 そのために、ここも特別な感じにしてみんなここにいるんだし。

 もう、行くわよ」

 

 

 そう言って歩いて行く彼女。

 もし彼女の言う通りなら、ここは異界のはずなのにそんな感じは全然しない。

 歩くこと少し、階段を登りきり最上階の奥の部屋に通された。

 そこは応接室らしく豪奢な内装で、3人の男性がいた。

 

 一人は、恰幅のいい白衣を着た男性。もう一人は、白い作業服を来た老人。

 そして、最後は威厳のある顔にオールバックの髪型で整えた顎髭、特徴的な模様の革のベストとスーツを恰幅のある体躯で包んでいる。

 あれ、あの服装と革のベストの模様、見覚えがある。

 思い出す。漫画で見た主人公とトランプの賭け事で負けた男の服装じゃないか?

 あのシーンは好きなので、よく今世でも読んでいた。

 自分が気づいたことが分かったのだろう。

 ニコニコと語りだした。

 

 

「やあ、よく来てくれたね。赤城くんが見つけてきた協力者よ。

 紹介しよう。

 そこにいる白衣の男が、技術関係を丸投げしている円場(つぶらば)博士こと【マルバス】。

 そっちの老人が、ネット環境保全のため乗騎のワニを電霊化させた阿賀こと【アガレス】。

 彼女が、女っ気が足りないので来てもらった森くんこと【ゴモリー】。

 そして私が、ここのオーナーにして謎の投資家リチャード・フォロカルスこと、宝物庫の番人にして数多のサブカルチャーの財宝を集める【ルキフゲ・ロフォカレ】だとも!

 あ、頬に模様はないが、この服装は特別にそっくりに仕立てたものでね。

 なかなかいいものだろう?」

 

「あの、一つ聞いていいですか?」

 

「何かね? あ、奇妙な冒険なら3部がオススメだ」

 

 

 背中のバッグに入れていたケースを取りだし、故障した【デビルズアブゾーバー】、そして、3枚の少女悪魔カードと【モラクス】のカードをテーブルに置く。

 

 

「このアイテムといい、今まで田中さんを通していろいろ買い付けている事といい、赤城さんが色々動き回っている事といい、あなた方は何がしたいのですか?」

 

 

 全員が顔を見合わせて、答える。

 

 

「わしが再現した特撮アイテムで、それで天使どもをぶっ殺して欲しい」と、円場博士。

 

「乗騎を早く返してほしいので、仕事を早く終わらせたい」と、阿賀さん。

 

「まだ全部少女漫画を読み尽くしてないから、漫画家と出版社を守って」と、森さん。

 

「まだこの世界のサブカルチャーを蒐集しきっていないので、日本だけでも守ってくれんか?

 新しいその【COMP】を改造した機械も渡すし、融資もするので君の上司に取り次いでくれると嬉しい」と、フォロカルス氏。

 

 

 

 

 

 情報が多すぎて、頭を抱えて座り込む。

 こういうことはもっと優秀な主人公ぽい奴に言って欲しい。

 そう思っていると、後ろを金髪の女性が通り過ぎって行った。

 

 

「南極のアレが御破算になって暇なの。あなた達を見て楽しむことにするわ。

 せいぜい、頑張って」

 

 

 後ろを振り返っても誰もいない。今のは誰だ?

 




あとがきと設定解説


・【人類娯楽史研究所】のモデルになった建物の「旧摩耶観光ホテル跡」

1930年代のモダニズム建築で作られた「廃墟の女王」。
倒壊の危険があるため、現在は一部を除いて立入禁止。
2021年6月24日付官報にて告示され、登録有形文化財となった。


主人公は、色々振り回されてなんぼだと思う。

次回は、キーアイテムの裏側のお話とその後のお話。
リアルの都合で続きはしばらく掛かります。

もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。



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第十七話 Q、サブカルチャーとはそんなに万能だと思っているのですか?

リアルの事情のお陰で、早めに続けました。

今回は、オーナー側の事情や主張と花蓮の回。

設定だらけでかなり長いです。
これは、ここ独自のものなのでふわっとこういうものだと思って下さい。


  第十七話 Q、サブカルチャーとはそんなに万能だと思っているのですか?

 

 

「まず、言っておこう。

 私の専門業務は財宝の蒐集と管理であって、造幣とあの方の相手は業務範囲外である!

 造幣とあの方に関するクレームはその担当の私に言って欲しい!」

 

「急に立ち上がってどうしたんです?」

 

「なに、これは私なら言っておかねばならないのだ。

 失礼した。話しを続けよう」

 

 

 仕事があると言って阿賀さんと森さんが出ていった後に、おもむろにオーナーが立ち上がって大声で叫んでいる。

 疑問に思って尋ねると、恥ずかしげに座って息を整え話を続けようとするオーナー。

 後頭部にどこからか投げられた缶ビールの空き缶がぶつかるが無視している。

 正直、こんなに気さくに話している魔王とか訳が分からないし、話と言われても情報が足りないので聞くことにする。

 

 

「そもそも何でこんな事をやっているのだとか、どうやってやっているのだとか、何で自分にこれを預けたのだとかいろいろ聞きたいのですが?」

 

「ふむ、では少し長くなるが話すとしよう。

 最初に注目したのは、戦後のここの日本が他の世界に比べ異様にサブカルチャーの発展が著しかったことだ。

 そこで、私が自分から派遣され、良い趣味を持っていて協力者となってくれた赤城くんといなくなってしまったが趣味への熱い激論を交わした友人と出会い、クソ天使どもの目を盗んでここに拠点を作り、人の姿を取るように言ってあの三人を呼び、田中くんを雇ってサブカルチャーの財宝蒐集を進めてもらって今に至るのだよ。

 技術的なことは後で円場博士に頼むが、何故君に注目したのかは簡単だ。

 たまたまそこにいたのと、君の体質と意思がちょうどよかったからだよ」

 

「ちょうどよかった?」

 

「そうだ。

 赤城くんにもっと協力者を増やせないか探してもらった時に君を見つけたんだよ。

 変わった能力、優れた素質と強運、子どもの頃から鍛えている特異性。

 そして、中学生の頃に出会った近所の綺麗なお姉さんを助けたいという恋心と結婚まで持ち込んだその意思と行動力が……」

 

「あああああ、待って。分かりました。

 充分に自分を選んだことは理解できましたので、ここの異界とこの機械についてどうぞ!」

 

 

 顔から火が出る気分になり、早口で話題を変える。

 少し残念そうであるが、円場博士に続きの説明を頼むオーナー。

 満足気にこちらを見ていた博士が朗々と話し出す。

 

 

「わしの大元は、隠されたものや秘密に関する知識と工芸に関する優れた知識を持ち、人の姿を変化させることもできるという権能があってな。

 わしは、その方面に専門化した分霊なのだよ。

 さて、前提条件として我々の全ての技術は、【悪魔召喚プログラム】と【マグネタイトバッテリー】の技術があればこそだ。

 まずこの『変身アイテム』についてだが、あの方が嫌がらせついでにアメリカから盗んできたものとあの方のコレクションらしい物の混合で出来た【悪魔召喚プログラム】の産物だ。

 どうやって手に入れたか? 詳しく聞くな、"あの方だから"だよ」

 

 

 どうやら、彼らの上司の「あの方」とはとてもフリーダムな人?らしい。

 あまり、触れたくないような人のようだ。

 今度は、博士の後頭部にどこからか投げられた缶ビールの空き缶がぶつかるが、同じ様に無視している。

 まだ、博士の話は続く。

 

 

「そして、わしはオーナーのライブラリでは特撮が好きでな。

 特に、ここではまだ放映されていないものも合わせて様々なギミックで戦う孤高の仮面の戦士たちが好きでなぁ。

 君に重なるものを見たのだよ。

 君のような悪魔変身能力者は、三種類有ってな。

 【喰奴】は『アマ○ンズ』、【アウトサイダー】は『仮面戦士○騎』の戦士たち、【デビルシフター】は『仮面戦士電○』だとわしは思っとる。

 君は三番目だな。

 そこでこの【悪魔召喚プログラム】を積んだ【COMP】を安全性と趣味性で改造し、システムはカードを扱うのにベルトより腕のほうが良いと思ってあの形にしたのだ。

 変身先についてはわしはとくに拘りはなかったので、オーナーと赤城くんに任せたら【悪魔合体】を心配になるほど繰り返してこのカード群になったのだ。

 この壊れたやつは赤城くんが持ち出したものだが、より完成したここに新しいものがあるぞ。

 名付けて、【デビルズアブゾーバー・マークⅡ】だ。持っていくといい」

 

 

 そういうと、博士は新しい方をテーブルの上に置き古い方を手元に取った。

 形状は殆ど変わっていないが、よく見ると所々プラスチックだった部分が金属製になり幾分か重くなったがかなり頑丈になっている。

 そして、【モラクス】のカードを指さして言う。

 

 

「これを腕につけて変身している間、君は二つのスキルを得る。

 調整済みの悪魔カードの対象に変わる【悪魔変身】と、倒した悪魔をカードにする【カードハント】だ。

 そして、このカードは低確率にだが自動発動する【カードハント】により作られる。

 君はこのカードの悪魔にはなれないが、わしに貰えれば臨時収入にはなるぞ。

 もちろん、君がこれを自由にするのも構わん」

 

「このカードは何に使うんですか?」

 

「もちろん、合体材料だとも。

 赤城くんたちがかなり使い込んだので、在庫が無くなりそうなのだ。

 【悪魔全書】から引っ張ってくるのもマッカが足りんからな。

 造幣局のオーナーは渋いからのぅ」

 

 

 博士が横目でオーナーを見ているが、無視しているオーナー。

 ため息を付き、冊子のより整った新しい説明書と新しい少女悪魔カードを渡してきた。

 

 

「使用法とカードの中身の詳しい内容はそれを見てくれたまえ。

 ここまではよいかの?」

 

 

 それらを受け取りうなづくと、一休みするようだ。

 最近、発売されたばかりのペットボトルの緑茶を備え付けの冷蔵庫から出し、コップに注いで皆で飲むようだ。

 ここまで来て警戒するのも何なので、自分も飲む。冷たくて美味い。

 そして、不思議に思う。

 冷蔵庫に電灯、奥の執務机には有線ケーブル付きのパソコンがあり、ここに来るまでの中の風景は元がホテルを改造したオフィスにしか見えなかった。

 ここが異界なら、どうやって電気や電話線やネット回線を引き入れているのだろう?

 周囲を見回していると、自慢したかったのだろう鼻息も荒くオーナーが話し出す。

 

 

「ここの様子が不思議に思ったかな?

 クソ天使共からの隠蔽性と余計なマグネタイトの放出を抑えるには、どうしたら良いか自分も考えたのだがね。

 答えは、サイエンスフィクションに有ったのだとも!

 建物を窓ガラスも分厚く強いものにしたシェルターのようにし、ここをいわゆる結界と『ここが私の宝物庫だ』と私の権能で固定してビル全体を【マグネタイトバッテリー】のような状態にして異界化を制御した結果、こうして快適な現代生活が送れているのだよ」

 

「発想したのはオーナーだが、実現したのはわしを含めた他のメンバーだと忘れないで欲しいな、オーナー。

 『見つかりにくい異界』と『電線やネットを繋げた快適な現代生活』を両立させるために、どれだけ苦労したかもな」

 

「すまんな、円場博士。もう後は、私が話すとしよう。

 たしか、果実と侍の仮面戦士だったかの続きを見に行って構わんぞ」

 

「そうかそうか。では、失礼するとしよう。♪~」

 

 

 ニコニコと何かの歌を口ずさみながら、円場博士も出ていった。

 二人きりになり、雰囲気を変えて話し始めるオーナー。

 

 

「さて、話せることは大体話したかな? 

 では、こちらの目的はさっきも話した通り、『我々が天使共に邪魔されずにサブカルチャーに耽溺できる生活』だ。だから、他の娯楽も用意してあの方にも東京で暇つぶしをされないようにもお願いしている。

 君のいるそちらの組織にお願いしたいのは、『できるだけ長く日本のサブカルチャーを護って欲しい』のと『買い付けに手が足りないからお金は払うので手を貸して欲しい』の二点だ。

 このまま天使共に一人勝ちされて、全てを灰やガラクタにされてはたまらんからな」

 

「じゃあ、自分が田中さんの所でしていたアルバイトも?」

 

「もちろん、そのへんの信用も込で君を見込んでいる。

 田中くんは堕天使の転生者で覚醒はしているが、余計なトラブルを回避するためにこちらの事情はあまり話していないのでね。

 君が荷物を受け取りに行ってくれたのは大いに助かったとも」

 

「具体的に、自分は何をすればいいのですか?

 ここのことをむやみに口外しないのは当然でしょうが」

 

 

 そこまで言うと、オーナーはテーブルに二つの物を置く。

 いくつかの書類も入っているらしい厚手の大型の封筒と、拳銃とパソコンが合体したような形の何かだ。

 

 

「君にやって欲しいのは、その変身アイテムはこちらが見返りの一つとしてテコ入れし続けるので、データ取りのためにも時々、持ってきて調整して欲しいのが一つ。

 二つ目は、手紙と書類を直接君の上司、出来れば主導している人物に渡して欲しい。

 三つ目は、君たちの組織に見返りとして譲渡する『完全に再現したGUMP』があることを、写真は書類の中にあるがしっかりと伝えて欲しい。

 この三つだな」

 

「……分かりました。

 書類はお預かりしてこちらで届けますね。

 連絡は?」

 

「書類にあるここの固定電話番号で頼むと、伝えてくれ。

 よろしく頼むぞ」

 

 

 正直、もう自分で判断できないくらい疲れたので、これを持って行ってショタオジに投げることにする。

 一礼すると、書類と変身機を入れたケースをカバンに入れ背負うと帰ることにした。

 森さんがまた玄関まで案内してくれるようだ。

 

 

「終わったみたいね~。

 どう? 上手く行きそう?」

 

「政事的なことは分かりませんよ。

 しょせん、自分は戦うことが得意なだけですから」

 

「でも、往々にして運が悪いそういう人間がいろいろと巻き込まれるのよ。

 ま、頑張りなさいな」

 

 

 手をひらひらと振る森さんに別れを告げ、バイクでまた帰ることにする。

 思いかけずに長時間いた為、昼を回っている。

 電話に出た文香さんに連絡をして、どこかで食べてから戻ることにする。

 バイクで走っていると、公園で普段着を着たクーフーリンと花蓮を見つけた。

 デートかなと思ったが、花蓮の方が屋台のたいやきを大量に自棄食いしているので違うと思い近づいてみる。

 

 

「おーい、どうしたんだ? 

 クーフーリン、何かあったのか?」

 

「よう、旦那。

 朝から出かけていたようだが用事は済んだのかい?」

 

「こっちは大丈夫だ。

 で、これは?」

 

「あー、旦那が居ない間にちょっとあってな」

 

 

 こちらに答えようとした花蓮が詰まらせて、慌てて自動販売機から買ってきたミネラルウォーターを飲ませてベンチに座って二人から話を聞く。

 

 

「苦しかったですわ。

 はー、なかなかうまく行きませんわ、色々と」

 

「で?」

 

「今回のことで満足な槍働きも出来ないのに嫌気が差してね。

 強くなろうと、一念発起して嬢ちゃん立ち会いで本霊に連絡したんだわ」

 

 

 普段は外的干渉を潰されている高級シキガミが、自分を分霊として本霊に接触するのはかなりリスクを伴う行為であるはずだ。

 しかも、本霊と言ったら女神転生でも有名なケルトの英雄である。

 そこまで、今回のことを悔やんでいたのかと知らされる。

 

 

「詳細は省くが切り札を教えてもらったのは俺としちゃいいんだが、その時に本霊に嬢ちゃんの事を指摘されてね」

 

「何を言われんたんだ?」

 

「曰く、『お前の魔法は信仰によるものでなく、お前の素質に依るもんだ。いつまで勘違いをしている』ってな。

 それを聞いて、こうして自棄食いしているんだわ」

 

「お兄様も知っている通り、そもそも私は幼い頃のまともだった父の唯一の思い出として神様を信仰していたんです。

 でも、過去に天使が父をおかしくしたわ、お世話になっていた神父様もメシア教に追い出されるわでいい所がなかったんですが、今回の事件で魔法が強くなったのでやっと声が届いたのかと喜んでいたのですがこれですの。

 思い出も何もどうしたらいいか、もう分かりませんわ」

 

 

 ゴクゴクと水を飲み干し、ペットボトルを握りつぶすとゴミ箱に投げ入れる花蓮。

 外れたので入れ直してくるクーフーリン。

 何となく、熱気のこもる空を三人で見上げる。

 

 

「それでどうするんだ?」

 

「こっち側のことですもの母たちには言えませんし、月城家の皆さんに言うのは何か違う気がしますので山梨でどなたかに相談しますわ。

 お兄様は今日はどちらにお出かけに?」

 

「あの機械の修理をしてもらって、そこの修理先からショタオジに手紙を預かったんで直接届けに行くんだよ。

 昼を食べてないんで、余ったたいやき食べてもいいか?」

 

「どうぞ。今は夏休みですし善は急げで、明日にでも早速、山梨へ行きましょうか」

 

「むぐ。じゃ、そういうことでいいかな? クーフーリン」

 

「俺には反対する意見は無いわな」

 

 

 そうして、皆に連絡し急遽、山梨へ行くことになった。

 メシア教会からは、報酬は振り込んだが話したいことがあるのでと連絡があったが、後日にと返しておいた。

 山梨には、自分と花蓮、クーフーリン、技術系の報告者として氷室さんが同行することになった。

 文香さんの筒は、子どもが出来ることでレベルが上っていた葵に任せることにした。

 音無さんとドウタンとかリバジライとか言っていたが、楽しそうだったので問題はないだろう。

 

 

 

 

 

 

 今日は雫と同衾する日で、うっかり思い出したヤマワロの気持ち悪さを忘れるためにかなり攻めてしまい、翌日、起きられないと怒られるトラブルは有ったものの出発することが出来たのだった。

 




あとがきと設定解説


・円場博士の長い主張

あくまで、彼独自の理論展開と技術立証によるものです。
他の3人は、理論は分からないが結果的に成功しているからいいかと思っています。

・【あの方】

南極の見学に出かけるつもりの用意が無駄になって暇にしているあの方です。


次回は、再び星晶神社へ。
2部終了もあと少し。

もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第十八話 Q、今の大切なものを想わずに昔のことに拘り過ぎていませんか?

続きです。

今回は、星晶神社での出来事と主人公の心境についての話。

主人公の心境の変化がうまく表現するのが難しい。


 第十八話 Q、今の大切なものを想わずに昔のことに拘り過ぎていませんか?

 

 

 ふと気づくと周りは暗闇で、自分が座っているパイプ椅子のところだけにスポットライトが当たっている。

 確か花蓮たちや氷室さんと山梨に向かうため、半日かけて電車で移動中だったはずだ。

 憶えているのは、周りが話し込んでいる間に新しいデビルズアブゾーバーの説明書を読んでいたはずである。

 

 周りを見ると、それぞれ別の形の椅子に座った彼女たちがライトに当たって姿を現す。

 円陣を組むように変身用カードに描かれた少女たちが、右側に【モー・ショボー】と人魚が、左側に【ナジャ】と【ユキジョロウ】が座っている。そして、自分と向かい合うようにひときわ豪華な椅子がある。

 とりあえず、新規の人魚の子に話しかける。

 

 

「これは自分の精神世界とか夢みたいなものかな?

 人魚の君は新しい子だね。

 とりあえず、みんな初めまして力を貸して貰っている月城カズマだ。

 話したいことがあるなら話して欲しい」

 

「…【鬼女マーメイド】、よろしく。

 お兄さんは私たちが怖くないの?」

 

「円場博士が嘘を言っていないなら、あの機械を通して君たちとは契約しているのだろう?

 他の子は体を奪い取りにも来なかったし、君もしないだろう?」

 

 

 首を上下に振って答えるマーメイド。

 皆を代表してか、ナジャが話しかけてくる。

 

 

「アタシたちはおにーさんに力を貸すって契約したからここにいるのに、体を奪い取ろうなんてしたらあの怖そうなおじさん達に消されちゃうよ。

 特に、奥の方で見ていた一番怖そうな金髪のお姉さんとか」

 

「そのお姉さん、頭の両方に白い小さな角の飾りがなかったかい?」

 

「付いていたよ。知っている人?」

 

「直接の面識は無いけど、『あの方』ってやっぱり南極のあのヒトだったか。

 あのヒトはね、あそこで一番偉い人で、何か隠していても聞かないで言われたことに素直に驚いてあげると喜んでくれるんだよ。

 あと、姿を現さない時は気づいても気づかないふりをしてあげてね」

 

「うん、わかったよ」

 

 

 素直でいい子達である。

 話しかけられたり特定の話題で空き缶が飛んでくるから、嫌な予感がしたので余計なことは言わないでいて正解だった。

 直接関わり合いになるのはゴメンなので、そこはオーナーに頑張って欲しい。

 今度はモー・ショボーが話してくる。

 

 

「あたしたちは悪魔で契約だからこうしてここにいるのに、ニンゲンのあなたがどうしてこの機械を受け取ったの?

 あたしだったら逃げているのに、どうして?」

 

「君の逸話みたいに脳を啜らせろとかいうのだったら、さすがに拒否していたけどね。

 判りやすく『力をやるから、こちらの娯楽のために動いてくれ』、でしょう。

 こっちも既に守りたいものがあるから生き残るために力が得られるし、全部の事は言っていないだろうけど自分に騙す価値はないだろうから受け取ったんだよ」

 

「こっちをいつでも消せるようなヤツもいるのに?」

 

 

 心底、不思議そうな顔で聞いてくる。

 他の子も同様のようだ。

 星晶神社に近づくと思い出すようになった昔をはっきり思い出して、両腕を膝の上に置き話し出す。

 

 

「敵対する時ははっきりと直接襲ってくるし、やって欲しいことをはっきり言ってくれるからありがたいし、約束はわりと守ってくれるんだから人間よりむしろ君たちの方がつき合いやすいんだ。

 周りの空気を察して動けとか、気安く訊くなというのに勝手にやるなとか、理由もなく気に入らないだけで排除するとか、グループ内独自の暗黙の了解を守れとか、清潔感とかいう謎指標なんか悪魔にはあまりないしね。

 ルールの裏をかくのはあるかもしれないけど契約を遵守してくれるだけでも嬉しいんだ」

 

「今までどんな所にいたのよ、それ?」

 

「今の場所に来る前だけど、何も得られずに長時間人生をすり減らして死ぬようなところかな」

 

 

 答えた途端、ドン引きしている。

 そういう前世だったので、嘘は言っていないのだが。

 今まで黙っていたユキジョロウが何か決意を込めた顔で言う。

 

 

「わたしの逸話の通り、あなたが違えないならわたし達は約束を守るわ。

 そこの空いている椅子に座る最後の子にも守らせる。

 だから、ここでは生きなさい、サマナー。

 わたし達の姿の時は、わたし達は貴方なのだから」

 

「ああ、わかった。

 これからも、よろしく」

 

 

 彼女と握手をすると景色がぼやけてくる。

 目が覚めるのかなと思っていると、花蓮に揺さぶられているのに気づく。

 新幹線が目的の駅に到着したようだ。

 

 

「起きて下さい、お兄様。目的の駅に着きましたわ」

 

「いつの間にか寝ていたみたいだな。昨日、頑張りすぎたせいだな、うん」

 

「バカなことは言っていないで、行きますわよ」

 

 

 荷物をまとめ、電車を乗り換える。そして、最寄りの駅で車に乗り換えてようやく半日がかりで到着である。

 もともと泊りがけのつもりだったので部屋をまず確保し、花蓮とクーフーリンは相談者を探すというので千川さんのところへ行った。

 自分と氷室さんは事前に連絡していた通りに部屋に通され、そこにはショタオジ、霊視ニキ、白いスーツでメガネを掛けた小太りの男性もいた。

 挨拶もそこそこに、ショタオジには例の書類を、霊視ニキと制作班の人だというスーツの人には氷室さんが出掛けまでまとめていた報告書と現物のアブゾーバーのケースを渡し、検分が終わるのを座って待つ。

 書類を読み終わったショタオジがチベットスナギツネの顔でこちらに話し出す。

 

 

「これは、何かの仕返しかと、思いたいくらいの情報だね、【TSマスオニキ】。

 君の持ってきたこの情報はすごい爆弾だよ。

 爆弾なのに書類の全部が、親善の手紙と、『仲良くしましょう』って内容のガバガバの契約書と、【GUMP】の仕様説明書と、サブカルチャーの物品購入に関する事業提案書、そして変身アイテムの仕様書だけな訳?

 その場に行動の不明だった聖書の大悪魔たちがいたんでしょ?

 なのに行動方針が、『天使たちの行動は気に入らないけど、物見遊山と娯楽追求優先』とか何を企んでいるの?

 変身アイテムを使用する際の契約条項も、研究所への攻撃の禁止とデータ取りと点検の関することだけとか完全にうちで作った無害な趣味アイテムと同じなんだけど?」

 

 

 そんな顔で聞かれても、事実そうなのだから自分としては答えようがない。

 彼らにとっては、【終末】などサブカルチャーが失われるかどうかにしか興味が無いのだろう。

 アブゾーバーを調べていた面々も終わったようで、難しい表情の氷室さんが話し出す。

 

 

「これ、ケースが普通の鉄やステンレスじゃないですよ。

 今度は専用工具じゃないと開けれないネジで締めてありますし、プレートやカードも一見、やっぱり玩具にしか見えないのにかなり頑丈なものだという他は、構造としては仕様書以上に分かることはありません」

 

 眼鏡を外しこめかみを揉んでいるスーツの男性こと【少佐】も結果を話し出す。

 一緒に視ていた霊視ニキも目を揉んでいる。

 

 

「わたしの【サイコメトリー】で本体を視てみたがね。

 大音量のBGMメドレーと一緒に口ずさむ壮年男性の声しか聞こえんのだが。

 それにカードの方は、威厳のある老年の男性と若い男性が興奮しながら悪魔合体を繰り返していると思わしき声と、少女悪魔の苦情の声が聞こえるのだよ。

 まあ、割りと悪ノリに乗り切ったうちの開発現場でも時々見るのと似ているな。

 霊視ニキはどうだね?」

 

「呪いとか悪意のあるものは視えないが、強い力で護られて彼専用にされているのは分かる。

 ただ、視るたびにランダムで特撮物の主題歌が脳裏に流れて妨害してくるのは技術の無駄遣いだとしか思えん」

 

「確かにその点は同意する。

 しかも、無駄にOPサイズに編集された勢いの良いものを選んで今も脳裏に残るようにしているのは製作者の趣味だろう」

 

 

 割りと趣味に走った碌でもない霊的妨害装置が付いてたのはどうなんだろう?

 どちらにしろ、ここではこれ以上結論は出ずに会議をした上で決定することになった。

 

 会議が終わるまではそれなりに掛かると言うので、その間に変身した際の戦闘能力の検査をするのでと場所を移し模擬戦をいくつかすることになった。

 ただ、途中で制作班主催の美少女撮影会になったのは【俺ら】らしいと言えばらしいだろう。もちろん個人情報は伏せた上での健全な内容で、プロマイドの売り上げの5%は取り分とされた。

 まあ後々、腕の機械の部分は加工して消されていたが他にこんな能力の持ち主はいないので簡単に特定されて、撮影を頼まれるようになったり、ショタオジの差し金で【TSマスオニキ】の通称が定着したのは売り上げの金額に比べれば些細な問題と考えるようになった。

 

 

 

 そして、夕食の時間までずれ込んだため大急ぎで宿泊施設に戻るが花蓮はいなかった。

 かわりに伝言が届いており、『相談に乗ってくれた女性たちと話し込んだのでこちらに泊まる』とのことだった。

 自分では明確に花蓮の問題をなんとかしてやれないのは複雑ではあるが、上手くいくことを願ってその日は寝ることにした。

 

 明くる日、クーフーリンが二日酔いになった花蓮を背負って戻ってきた。

 ホテルの部屋に寝かせると、クーフーリンから詳細を聞くことにした。

 

 なんでも、千川さんの呼びかけでいま山梨にいる花蓮と同じ問題を抱えた人やファッションやコスプレでシスターの格好をしている人たちを10数人集め、鬱憤晴らしも兼ねての女子会を開いたのだそうだ。

 

 当然、途中で酒が入り、クーフーリンは途中で部屋の外に他のシキガミと退避したそうで中での途中の会話は聞き取れなかったそうである。

 次に部屋に入ったのはしばらくして中でシュプレヒコールしていたときで、その後に動けなくなったパートナー達を他の無事だったシキガミと協力して引き上げてきたとのことだ。

 

 会議の結果はまだ届いていなかったので、自分は花蓮をクーフーリンに任せ、制作班に頼まれていたプロマイドのセット撮影に行くことにする。

 

 そして、お昼ごろに帰ると花蓮は復活していたので詳しく聞くことにした。

 

 

「それで、もう大丈夫なのか?」

 

「ええ、大丈夫ですわ。

 このたび、スキルが変化して【リカーム】を覚え、ディアとパトラが【ディアムリタ】になっていたので自分にかけてスッキリです」

 

「体調は見れば分かるから、結論の方だよ」

 

「諸先輩方から薫陶や経験談を聞き、具体的な数字を見てようやく覚醒めましたの!」

 

「何に?」

 

「『ファッションやコスプレならともかくそんな物に構っていたら男が逃げる』、と!

 そして、『せっかく男前のシキガミがいるんだから喪女になる前に行動しなさい』、と!

 そうです。思い出は思い出として信仰なんかに拘らずに忘れなければいいのです」

 

「……ええぇ?」

 

 

 何を諸先輩方の女子の皆様から吹き込まれたのだろうか?

 隣を見ると、呆然とした顔のクーフーリンがいた。

 うん、これは彼に任せよう。

 結論はついたようだし、もともと花蓮の面倒をみさせる目的もあって彼には来てもらったのだから。

 未成年の妹に酒を飲ませた苦情も入れないといけないので、彼の肩をたたいて後は任せることにする。

 

 

「後は任せた。頑張れ」

 

「旦那!?」

 

「さあ、まずは服を買いに行きますわ。

 ここにはスポットが多くありますので出かけますわよ。クーフーリン」

 

 

 彼には悪いが、部屋を大急ぎで離脱した。

 事務の方へ行き飲酒の件にクレームを入れていると、こんな知らせがあった。

 

 

 

 

 

 ショタオジ率いる精鋭チームが直接交渉に現地へ出向き交渉をまとめた、と。

 




あとがきと設定解説


・【少佐】

初出は、オリジナル様の某所。
後続の転生者で、作成班の一人。
某作品の大隊指揮官殿にそっくり。

・【鬼女マーメイド】

赤城の趣味の入りまくった悪魔カードの一つ。
レベルは12。耐性は、氷結耐性、雷撃弱点、衝撃耐性。
スキルは、嵐からの歌声、ウィンドブレス、メディア、セクシーダンス、ブフーラ、無限のチャクラ。


次回もまだ、星晶神社で続きます。

もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第十九話 Q、超人なら多少の正気度が減少しても大丈夫だと思っていませんか?

少し長いですが、続きです。

今回は、星晶神社でのいろいろと神戸に帰るお話。

今回から、人数が増えるので「ハーレム」タグを追加します。


 第十九話 Q、超人なら多少の正気度が減少しても大丈夫だと思っていませんか?

 

 

 花蓮に飲酒させた件について一言言うつもりで千川さんを探していたら、事務室の奥の方で騒ぎが起こっていた。

 『ショタオジ率いる精鋭チームが直接に現地へ出向き重大な発見をした』との事だった。

 ついで、続報が『ショタオジが半日ほど療養に入る』である。

 これはちょっと朗報と飲酒の件よりこの情報の真偽を知るべく、手近な男性事務員に尋ねると意外と落ち着いてる様子で答えてきた。

 

 

「すみません。今、ショタオジに何かあったと騒いでいたようですが大丈夫ですか?」

 

「ああ、大丈夫ですよ。

 前にも仮病で仕事を抜け出そうとしたので、またそれでしょう。

 あのショタオジが童貞は拗らせても、死ぬような怪我するわけないじゃないですか」

 

「いや、とりあえず千川さん呼び出しかけてもらっていいですか?

 飲酒の件で月城カズマが探していると」

 

「ああ、はいはい。

 心配する必要はないと思いますがねぇ。

 じゃあ、そこのソファに座って待っていて下さい」

 

 

 言われるままソファに座って待っていると、

 『既婚男性の月城様が飲酒の件で千川さんをお探しです。問題になる前に早く事務室受付まで来て下さい』

 と、あまり洒落にならない放送が流れ、すっ飛んできた千川さんにさっきの男性事務員が襟首を絞められている。

 

 

「おう、何しとんじゃワレ。冗談にもならんじゃろが?」

 

「この方が早く来てくれるでしょう。ほら、早く謝って下さい」

 

「何でわたしの方が仕出かしたと考えるんですかねぇ?」

 

「千川さん、千川さん。周りが見てるんでその辺で」

 

「コホン、失礼。

 ちょうど探していたんですよ、月城さん」

 

 

 男性から手を話し居住まいを正してこちらに向き直る千川さん。

 そして、わりと平気な顔で立ち去る男性事務員。頑丈だなぁ。

 とりあえず、こちらへと相談用の個室に移る。

 お互いに椅子に座って話し始める。

 

 

「気持ちの整理もついた様なので感謝はしますけど、一応、花蓮は今は未成年なので酒の席は勘弁して下さい。

 『前と合わせたらどうせアラフォーよ』、じゃないんで」

 

「酒を持ち込んだ人には厳罰にしておきますのですいません。

 こっちで主催する合コンにしばらく出禁にすれば反省するでしょうし」

 

「ああ、噂に聞いた女性転生者のシキガミ以外の恋愛成就率を聞くとそれは厳罰ですね。

 こちらの件はもうそれでいいです。

 ショタオジの方は大丈夫ですか?」

 

「あの人が怪我なんてするはずありませんよ。

 精鋭チーム揃えてすごい気合い入れてた外出から戻ったら、珍しく疲れたと言ってふて寝してるだけですよ。

 あと、神戸に関する件でガイアグループあてに大口の依頼が来たから処理するように指示が来てますね」

 

「指示ですか?

 神戸セクターにも何かあります?」

 

 

 そう聞くと、持っていた書類入れから千川さんがこちらに渡してくる。

 それは、例の書類の中にあったサブカルチャーの購入代理事業のこちら側の計画書である。

 それによると、輸送や購入の実務はガイアグループの系列企業で、受け取り手の窓口は『田中カンパニー』、こちらの管理業務は『ガイア人材派遣神戸支社内事業所』になっていた。

 今はただでさえ人数がぎりぎりで、事務手続きも遅れているのに仕事を増やす気かな?

 自分なんか手伝うと仕事が増えるから、確認の印鑑だけ持っていてくれと言われているのに。

 

 

「目は通されました?

 確認されたら、末尾の欄にサインして下さい。

 帰られる時に、そちらのレンタルルームを一つお借りして事業所の事務室にするので代表の者を同行させますね。

 それで、住居などの目処が立ったら追加の事務員も送りますので」

 

「手が空いている時は、こちらの事務の手伝いもお願いできたりは……」

 

「全員、後方勤務希望の転生者ですから大丈夫ですよ」

 

 

 よし、これで音無さんたちに愚痴を通り越して嫌味を言われるのが減るぞ。

 仕事が増えるのとリア充爆発とかの両方の意味で。

 喜んでサインして渡し、明日帰る際に同行すると言うので了承する。

 明日帰ることと仕事の同行者が帰る時にいると花蓮と氷室さんにメールすると、花蓮からは『了解、今デート中。連絡不可』と返って来た。

 氷室さんは、『明日に伸びたのならもう一度試験倉庫まで来て欲しい』とあった。

 昨日もやったプロマイドのセット撮影も兼ねた環境試験だろう。

 向かうことにする。

 

 

 

 少し歩いたところにある試験倉庫に着くともう用意が整っていた。

 海を模した巨大な水槽があるので、昨日全員の姿に変わったが一番露出度が高いマーメイドに変わって欲しいのだろう。 

 男性陣の視線は気味が悪いが、自分もそうなので気持ちは分かる。

 真面目に試験を行おうとする氷室さん達女性陣と、高性能カメラを用意した男性陣に分かれているのはいかにも【俺ら】らしい。

 男性陣を睨みつけながら、氷室さんが話しかけてくる。

 

 

「カメラだらけでごめんね、支部長。止めさせる?」

 

「いや、プロマイドを出した時の取り分あるので大丈夫ですよ。

 おい、お前ら。出来るだけ、エロく泳ぐからしっかり"健全に”撮れよ!」

 

「「「「おおう、任しとけ!」」」」

 

「ほんとにコイツラは。

 ねえ、その機械、昨日も長時間、冷凍庫や水中にいたけど大丈夫?」

 

「説明書には『完全環境対応。物理的には壊れません』らしいし、異常はないね」

 

「そう、じゃ始めようか」

 

 

 水槽の端に立ち、ケースから取り出して服は着てても大丈夫なのでそのまま左腕に付ける。

 ハートマークのプレートを取り出し、装着。

 

『ABSORB DEVIL』

 

 【鬼女マーメイド】のカードをスリットに入れ、飛び込む。

 

『FUSION GIRL』

 

 緑色の髪をした儚げな容姿の人魚に変わり、水の抵抗をあまり感じずに水中を泳ぎ回る。

 この姿のままだと、水中でも呼吸が出来るのは【悪魔変身】スキルの力だろう。

 それにしても、このシステム音声はどっかのマダオなどでとても聞き覚えがある。

 説明書には、『システム音声もオリジナルを完全再現』とあるのでどうにかしたのだろう。

 なお、後にシステム音声のオンオフを希望するもロマンがないと却下されている。

 

 ここ星晶神社にいると地獄の訓練で貰ったトラウマで前を思い出して気分が悪くなるが、だんだんマーメイドの気分になり、氷室さんの指示を聞きながら夕方まで泳ぎ続けてとても気分がスッキリした。

 変わっている間は視線は気にならないし、ときどき【セクシーダンス】も混ぜて泳いでいたので男性陣にはとても好評だった。

 ただ、陸に上がって機械を拭いた後に変身を解くと、あからさまに「ああっ」とため息をつくのは止めて欲しい。

 もう時間が時間なので、別れを告げ宿泊施設に帰ることにする。

 

 歩いて行くには面倒な距離なので、【モー・ショボー】に変わり飛んでいく。

 これもここの検査で試して分かったが、飛び方は飛行機のそれでなくヘリコプターに近い。

 かなり自在に浮遊や急停止などが出来て、最高速度は原付きよりは出せそうである。

 真○ッターのジグザグ飛びも再現しようとしたが、気持ち悪くなり失敗した。

 

 面倒なので、そのまま部屋まで入ってゆく。

 さすが山梨セクター、モー・ショボーのままなのに誰も騒いでいない。

 むしろ、「ショボたんがいる」とか言って携帯で撮影するのはどうかと思う。

 花蓮は帰っているのかどうかは無粋なので確かめなかった。

 ただ、クーフーリンの無事を祈るばかりである。

 

 

 

 翌朝、不機嫌な花蓮と安堵の表情のクーフーリンを見て察したが、あえて触れるのは止めて帰りの支度に専念した。買ったものは宅配便で送ったため手荷物だけの花蓮たちはいいとして、氷室さんが親しげに話しかけている男性は同行者の人だろうか?

 こちらに気づくと、30歳前後くらいの男性が話しかけてくる。

 

 

「どうも初めまして、最近ここに来た元商社に勤めていた【赤羽根】と申します。

 一応、覚醒してますが、覚えたのが【クロスディ】だったので気にしないで下さい。

 事業所の代表として、事務の統括と事業面からの監視をしますのでお願いします」

 

「こちらへはどうして希望されたんです?」

 

「悪魔事件で会社が潰れてそれでやっと気づいて掲示板を見つけて来たのですが、戦うのは無理なので後方を希望していたらこちらからの話がありまして来ました。

 取引先がとんでもないのは聞かされていますので、直接はそちらにお願いします」

 

「戦いは無理でも交渉なら得意なんですよね。

 出来ればメシア教との交渉の補佐を……」

 

「お断りします。業務外です」

 

「ですよね」

 

 

 一礼して握手をし、連れ立って移動を開始する。 

 帰ってからああするこうすると話している花蓮とクーフーリン、甲斐甲斐しく赤羽根さんのお世話とお話をしている氷室さん、それぞれ忙しそうなので帰り際に渡された書類を見る。

 

 それは、一昨日の撮影の前に各々の姿で採取した口内細胞と血液の比較が書いてある。

 やっぱり姿が変わった後では、元々の自分のものと血液型やDNA配列にかなりの差異が見られたそうであるが、『受肉した悪魔』など他にいないので比較のしようもないのが現状だ。

 変身先の彼女らを信頼してはいるが、こういうフィクションものでは人間に戻れない例が多くあるので不安といえば不安である。

 妹は頼りになりそうな相手も見つけたし、いま一番自分の大事な二人を思い出して会いたくなる。

 そして、半日かけて夕方頃、ようやく神戸に到着した。

 

 

 

 神戸セクター内で氷室さんと争うように音無さんが赤羽根さんを案内しているのでそちらは任せ、花蓮は花蓮でクーフーリンと攻略に行く異界の情報を見るというので別れ、月城邸に急いで帰り着く。

 そこには、会うのを切望していた二人がいた。

 

 

「おかえりなさい、カズマく…いえ、あなた。

 お夕飯、これから作りますね」

 

「おかえりなさい、カズマさん。

 あの日は一日、あたし大変だったんだよ。少しは手加減してよね」

 

「……お帰りなさいませ、カズマ様。置いてきぼりはひどいと思います」

 

 

 そういえば、文香さんの封魔管は葵に預けて出かけていたな。

 ご機嫌を取るのも約束だけしてそのままだったのは悪かったなぁ。

 土産代わりに選んだ本は、宅配便で頼んだからまだ来ていないしどうしよう。

 そう考えていると、ズイ、と文香さんが近づいて話し出す。

 

 

「文香さん、山梨で手に入れた興味を引きそうな本とかは数日中に届くから勘弁して欲しいな。

 あと、気になるお店があるなら4人で出かけようか?」

 

「……そちらはありがとうございます。でもですね、カズマ様?

 ……葵さんに預けられていましたが懐妊されていますので、マグネタイトをあまり吸うのは悪いのでまともに顕現出来なかったんですよ。

 事務の間は節約して何とか出来ましたが、文車妖妃なのに本がまともに読めませんでした。

 ……ですので、待遇の改善を要求します」

 

「待遇の改善?」

 

「……存分に長時間読書が楽しめられるだけのマグネタイトを要求します」

 

 

 マグネタイトと言われても、それらしい手持ちはマッカや魔石ぐらいしかない。

 けれど、それで顕現が賄えるとは聞いたことがない。

 そこに、文香さんが書物を出して得意げに語る。

 

 

「……これです。『真言立川詠天流解説ノ書』。

 とある好事家から譲って戴きました。これがあれば大丈夫です。

 ……充分なマグネタイトも手に入れられます」

 

「すごい嫌な響きの本を手に入れたね、文香さん!?

 ねぇ、葵、雫、助けて下さい」

 

「複雑ですけど、わたしはまだ安定期に入っていないのでお相手できませんし。

 文香さんはあなたと契約した使い魔という身内でもあるので、尚更、労使契約はしっかりしないといけませんよ」

 

「正直、カズマさんの相手をするのはとてもいいんだけど、最近どんどん急激に強くなったみたいで、あたし一人だと精神的にも体力的にも限界なんだよね。

 特に、この間みたいに暴走気味で本気を出されるともうダメ。

 その本のやり方なら、なんか突破口が開けるらしいし」

 

 

 なんか前に見たような展開になってきたぞ。

 そういえば、人の気配がここにしかない。

 

 

「……ご両親は空気を読んで逢引へ、お手伝いの白乃さんは一両日はお休みです。

 そして、妹様にはすでに連絡して、向こうも決める気だそうなので情報と引き換えに快諾を頂いています。

 ……お二人と祭神様には、書物の実践内容を伝授する契約で快諾されました」

 

 

 ちょっと待とう。でも、明日は山梨帰りだからみんな仕事をお休みするのは知っている。

 しかも、まだ夏休みだし、根回し済みか!

 

 

「ごめんなさい、あなた。

 音無さんから見せていただいた本の中に、閨のこともたくさんあって試してみたくなっちゃって。

 せめて、お夕飯は冷凍ですけど国産のうな重を用意していますからね」

 

「明日の分の勉強とお風呂を済ませたら、お姉ちゃんと合流するから文香さんよろしくね」

 

「……御任せ下さい。かわりに今日は私が主にお相手しますので」

 

 

 3人とも語尾に可愛くハートマークを付けないで。ああ、連れて行かないで。

 身内に淫魔はいないはずなんだがなぁ。あ、文香さんは悪魔だったな。

 

 

 

 

 

 

 その日と翌日、何があったのかは4人とも黙して語らないことにし、勝ち負けは問題ではなく危険すぎるため書物は祭神様の祠に封印することにした。

 




あとがきと設定解説


・マーメイドの露出度

真・女神転生5の日めくり悪魔動画のマーメイドを御覧ください。

・【システム音声】

ブレイドやダブルのアイテム音声のあの人。
円場博士が苦労して再現した。
ちなみに、趣味で他の音声もいくつか再現済み。

・【凶鳥モー・ショボー】

赤城の趣味の入りまくった悪魔カードの一つ。
レベルは17。耐性は、銃弱点、電撃弱点、衝撃耐性。
スキルは、ガルーラ・チャームディ・ウィンドブレス・衝撃ブースタ・銃耐性・電撃耐性

・『真言立川詠天流解説ノ書』

某作品の月の裏側で地球を変なことに使うラスボスをしていた女僧の流派の書。
夜の指南書でもあるが、素人には大変危険なブツ。

ハーレムの定義は、「3人以上の相手と関係を持つ」で良かったはず。


次回は、神戸側での面倒事いろいろ。

もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第二十話 Q、悪魔と天使と人間の内どうしようもないのはどれだと思っていますか?

続きです。

今回は、神戸側のいろいろ、研究所と教会のお話。

他の三次創作の方のキャラがちらっと出ます。


  第二十話 Q、悪魔と天使と人間の内どうしようもないのはどれだと思っていますか?

 

 

 例の夫婦間の事件の数日後、体調が戻った自分は書類と荷物を持ちケーブルカーを経由して徒歩で【人類娯楽史研究所】に向かっていた。

 一応、取引先に当たるので菓子折りを数個とヱ○スビールを1ダース用意して渡したのが良かったのか、玄関ロビーに置いてある来客用のソファーで、自分に向けてご機嫌のオーナーが身振り手振り付きでショタオジが来訪した時のことを語っている。

 

 

「君らの盟主、彼は凄まじいね。彼一人でも我々は殺されていただろう。

 だから、全て答えたのだよ!

 親善の手紙の意味とは? 取り引きがしたいからさ!

 このガバガバの契約書は? ただの業務提携の契約書に何かしかける訳がないぞ!

 今まで何をしていた? サブカルチャーを集めて楽しんでいたとも!

 この仕様説明書は? 贈答品の詳細な目録だとも!

 カズマくんに目をつけたのは? たまたま見つけただけだとも!

 支払いは? 財テクは得意だから、マッカでなく現金で頼むと!

 何を企んでいるのか? 引き籠って娯楽に耽溺したいだけだとも!

 【終末】? サブカルチャーが失われるので御免だとも!

 メシア教? サブカルチャーを理解しない神の下僕共は嫌いだとも!

 『あの方』はどうしたのか? 私の楽しむ時間が減るので私もお帰り頂きたぁあっ!」

 

 

 どこからかすごい勢いで飛んできた中身入りの缶ビールが後頭部に炸裂し、悶絶して床を転がるオーナー。高そうな紫のスーツとドクロマークの模様のネクタイが汚れていく。

 横にいた円場博士が迷惑そうに飛び散った液体を拭きながらそれを横目で見て、チェックの終わったアブゾーバーを渡してくれる。

 

 

「それで、色々と聞き終えた彼は、向こうの業務の交渉役との話が纏まって帰るまで黙っていたのは印象的だったな。

 そういえば、ここが天使共に見つからないように密閉構造にして地脈からは切り離して閉じ籠もっているのを聞いた時が一番驚いていたぞ。

 まあ、流石にそれに関する技術のことは偶然の産物だから教えられないがね。

 代わりに、彼らが欲しがるであろう【悪魔召喚プログラム】関連のアプリ技術や【GUMP】を提供したのだから。

 ふむ、問題もないようだな。持って行きたまえ」

 

「それじゃあ、【悪魔合体】をここでやってくれとか言われないんですか?

 このカードたちもそうやって作っているんですよね?」

 

「もちろん、出来るできないで言えば出来るがね。

 君は自宅に昼夜問わず、不特定多数の他人を招きたいと思うのかね?

 わしはゴメンだ。技術開発はわしの趣味であって、商売にするつもりはない」

 

「それじゃ、もうカードは作らないんですか?

 あの赤城さんなら、有名な『あの娘』を作らないはずがないんですが」

 

「今は本人がアメリカにいるから中断しているが、もちろん開発中だとも。

 ただ、『究極の美少女』にするつもりでいるから時間とマッカが足りんようだがね。

 あと、オーナーが『乳が足りん』と言っていたから他にも作るんじゃないか」

 

 

 そう言って、森さんに出された冷たいお茶を飲む円場博士。

 いつの間にか座ってホコリを払い、お茶を飲んでいたオーナーが続ける。

 

 

「『ボリュームに欠ける』とは言ったが、人聞きの悪い事は言わないでくれるかな?

 赤城くんの趣味には外れるが、ボリューミーな知人が興味を示しているのでね。

 この間、その知人がデザインしたイラストも込みのものが大元から送られて来てね。

 それを試しに創ろうかというだけの話だとも。うん」

 

「それになるかは約束できませんよ。

 どうせ、スケベな格好の高位の知悪魔なのでしょう?」

 

「創って飾るだけだとも。間違って来られでもしたら大迷惑な痴人なのでね。

 私だって、脳筋でトラブルメーカーの部下は呼んでいないのだから」

 

 

 自分も出されていたお茶を飲む。

 オーナーのボリューミーな知人というと、夜魔にしろ地母神にしろ心当たりが多い。

 ふと、我に返って思う。

 なんで自分は魔王と差し向かいでお茶を飲んでいるんだろう?

 聞きたいことも聞けたし、深く考えるのは止めて仕事の事を考えよう。

 

 

「渡した書類の通り、実働は秋になります。

 こっちの事業所の担当が田中さんの所に伺うので、購入品目のリストと支払用の口座とかその辺はお願いします。

 それでは、他にも伺う所があるので失礼しますね」

 

「そうかね。では、また様子を見て来たまえ。

 赤城くんが戻ってきたら知らせるよ」

 

「はい、それでは失礼します。

 森さんもいずれまた」

 

 

 こちらを見るオーナーと手を振る森さんにそう言って一礼し、後にする。

 

 人のない下りのケーブルカーの座席に座って思う。

 友好的ではあるけれど、自分も彼らの娯楽の一部なのだろう。

 まあ、それならそれでもいいので力をくれるなら協力しようと思う。

 子沢山の祭神様の加護多き血筋の葵と雫のことだから、いずれ彼女たちも子沢山になるかも知れない。

 【終末】が来てお金が紙切れになることを考えると貯蓄が足りない。

 父親になるのだから、強くなって稼がなければならない。

 ただ、祭神のカヤノヒメ様って、双子を4回産んで計8柱のお子さんがいるんだよな。

 そんな、まさかな。

 ある意味幸せだけど怖い想像を振り払い、神戸セクターに帰った。

 

 

 

 友好的な魔王の次は、今度は翌々日の怖い天の御遣いである。 

 

 前回の依頼は報告書の提出と報酬の払い込みで終わりとなったはずだが、今度はシスターギャビー直々の異界攻略の護衛依頼で、しかも名指しのご指名である。

 怖いので多忙を理由に断ろうかと考えたが、行き先の地点がこちらでも把握していなかった廃村の場所であることから受けた方がいいと音無さんから言われた。

 

 ガイア連合の支部やメシア教会のある地域は地脈がそこに集中し、異界の発生が発生しにくくなり野良悪魔の出現が無くなるが外れている地域はそうではない。

 件の山岳部の廃村にある異界は、こちらが把握していないメシア教だけが知っている可能性が高く情報の収集のためにも受けていいのではとの山梨側の見解らしい。

 

 そういう訳で単独は怖いがメシア教関連なので花蓮を連れて行くのは避けようと思い、今回は【レスラーニキ】こと関本さんに同行をお願いし車で移動した。すでに、シスターたちは車で村の入口で待っていた。

 

 現地で集合した自分たちとシスターギャビーたちとで異界に入る打ち合わせをする。

 いつものサバゲー服装で霊木を削り出して作った新バットの【ミスターマイケル】を右手に持ち、アブゾーバーはケースごとアナライズの機械も入った大型背嚢に入れた自分が一番最後に、白い半袖シャツにジーパンのいつもの格好の関本さんが前衛に立ち、真ん中にシスターギャビーと同行している3人のシスターの順番でと決まる。

 移動中、ねっとりとこちらを見るおっぱいシスターと巨乳シスターたちが話しかけてくる。

 

 

「お久しぶりですね、カズマさん。

 まあ、またお強くなっている上に、今日はとても凛々しい格好をなさっているのですね?

 お会いしてお話したいと連絡したのに、お仕事でないと来て下さらないのですのね。

 前回はとても上手く達成されたようで、救出されたこの子たちもお礼が言いたいと言っていましたのよ。

 ほら、皆さんもお礼を言いなさい」

 

「マリーです。助けてくれてありがとうございました」

 

「メアリーです。ありがとうございます」

 

「モイラだよ。ありがとう」

 

「仕事でしたし、ここにいるレスラーニキや他の人も協力してくれたので、既婚者の自分に過分なお礼はいりませんよ。

 なあ、レスラーニキ?」

 

「お、おう。もっとも一番活躍したのは支部長だがな!」

 

 

 視線で関本さんと押し付け合っていると、異界の入り口である洞窟が見えてくる。

 一度立ち止まって、もう一度確認する。

 

 

「ここの異界は戦後にそちらが封印したもので、今回は攻略して消去します。

 前衛にレスラーニキが行き、自分は後ろを警護し、シスターたちが魔法で援護する。

 これでいいですか?」

 

「ええ、それでよろしいですわ。いいですね?」

 

「「「はい!」」」

 

 

 その返事を聞き、シスターギャビーが入り口の封印に聖書の文言を唱え結界が消えたので、決めていた順番で入っていく。

 

 自分は最後をそっと取り出したゴーグルを付けながら歩く。

 機械のスイッチを入れ、確認する。

 この間、異界で全裸で助けた子たちは皆同じく、レベル5、破魔無効、【ハマ】【ジオ】【ディア】が使えると出る。

 後遺症らしきものもないので魔法で治療されたのだろう。

 

 さて本命のギャビーだが、レベル20、他は『unknown』としか出ない。

 不思議に思っていると、こちらを見て薄く笑っているのが見える。

 事前に気づいて対策済みだったのは想定内ではあるが、情報が抜けなくて残念だ。

 

 異界の攻略は順調に進んでいる。

 出てくるのも【悪霊ディプク】や【幽鬼ガキ】に【凶鳥オンモラキ】、たまに【妖虫ウブ】や【邪鬼イッポンダタラ】が出るくらいで、こちらが抑えている間に【ハマ】や【ジオ】の援護ですぐに殺られていくので非常に楽である。

 一度だけ集団で来られ危なかった時にシスターギャビーが【マハンマオン】で蹴散らしたのと、後ろからのいろいろと揺れ動く光景が道中の収穫である。

 そして、数時間とかからない内に最奥までたどり着いた。

 

 そこにはかつて何かがいたであろう破壊された祭壇とその前に異界のボスであろう金属の鎧と錫杖を持った【天使プリンシパリティ】がいた。

 こちらに気づき話しかけてくるのにシスターギャビーが返答する。

 関本さんと自分はいつでも飛び出せるように身構えている。

 

 

「ここは我が使命により封印を見守る地。立ち去れ。

 ……ふむ。同じ神の使徒か、何用か?」

 

「この地を見守った天使よ、ご苦労様でした。

 この地での使命は終わり、貴方は海の外の聖なる戦いに赴いて下さい。

 私たちがそこまで送り届けましょう」

 

「…………」

 

 

 黙ってそれを聞いていた天使は少し考え込んだ後、ニヤリと笑うと錫杖をふるいここの地のマグネタイトを使い【天使エンジェル】の群れを呼び出した。

 そして、錫杖をかかげ宣言する。

 

 

「伝言役、ご苦労。

 しかし、いかに貴女とてこのように零落し受肉した威の無き貴女に従う義務はありませんな。

 ここは男どもは殉教者となり、女性方は我々のマリア候補となって頂くのが一番良いですな。

 貴女もよい次代の御子を育まれるがよろしかろう!」

 

「その言、承りましたわ。愚か者。

 主の威を受けなさい!【マハブフダイン】!」

 

「「「【ジオ】!」」」

 

 

 シスターギャビーの極低温の氷嵐と彼女たちの雷撃が天使たちに降り注ぐ。

 そこに、関本さんは近くにいた残りの天使共に、自分は変身しプリン何とかに突撃する。

 関本さんが転倒していたエンジェルの両足を掴みグルグルと回転すると、【デスバウンド】の掛け声と共にエンジェルが飛んで行きビリヤードのように次々と当たって天使たちが消えていく。

 呆気にとられて見るシスターたちの視線の先で、プリなんとかにぶち当たるとそのエンジェルは消滅した。

 ちょうど自分もバランスを崩したその天使に組み付き、地面へと引き釣り落とす。

 上手く上に落ちることが出来、左足で錫杖を踏み右足と左手で相手を抑えると右手に持った【ミスターマイケル】で頭を中心に殴り続ける。

 

 

「【マカラカーン】。オラッ、死ねやっ!オラッ、オラッ!」

 

「ぐへっ、ぐほっ。おのれぇ、【ジオンガ】!がぁぁぁぁ!

 ぐ、が、ニンゲンなど殴り殺してぇ。ぐほぉ、何故我がぁぁ」

 

「支部長、そのままだ!喰らえ、【渾身脳天割り】!」

 

 

 関本さんの声に振り向くと宙を舞う彼の姿が見え、慌てて飛び退くと全体重を掛けたエルボードロップがプリなんとかに突き刺さる。

 驚愕の表情のまま消えてゆくプリなんとか。そして、困惑の表情でそれを見るシスターたち。

 シスターたちはそのままに周囲を探り、全て消えた後のマッカや魔石を回収する。

 そして、どうしていいかわからない表情のままの皆を連れ異界を出るのだった。

 

 シスターギャビーが我に返ったのは異界を出てからのことだった。

 異界が消えるのを確認していると、大きく深呼吸をしてから話しかけてきた。

 

 

「このあと、いろいろとお話しするつもりだったけど帰りましょう。

 それでは、失礼しますわ。……状態異常の回復魔法でも無理ね、この気分」

 

「「「えーと、失礼します。カズマ様」」」

 

「あ、はい。報酬の払い込みは同じ口座でお願いしますね」

 

 

 そういうと、彼女たちは待っていた車に乗って帰っていった。

 戦力的にも後のお誘い的にも関本さんを連れてきてよかったと、心から思った。

 そして、自分たちも帰るべく車に移動する。

 

 

「関本さん、今日は本当にありがとう。

 報酬の山分け、多めに回すね。理想の嫁を注文するために貯めているんでしょう?」

 

「そいつはありがたいな。

 山梨で見かけた、あの可愛くて色っぽい妖精国の女王陛下のシキガミが欲しいからなぁ」

 

「六堂さんによると、あれはシキガミじゃなくてそっくりの転生者らしいよ。

 しかも、抜群の腕の開発班らしくて『肖像権の侵害』を盾にして、自分と同じ顔のシキガミ制作依頼を尽く握り潰しているから別の人にした方がいいって」

 

「そ、そんな馬鹿な!理想の嫁に出会えたと思っていたのに!」

 

「それから、本人も既婚者で大きい娘さんもいるから口説くのも無理だよ」

 

「むうう、なら支部長。

 今日は変身していないし、あの可愛らしい姿に変わって和ましてくれんか?」

 

「嫌だよ!

 手札を彼女らに見せたくないから、今日は使わなかったのに変われるかっ!」

 

「なら、彼女らの胸や尻を見ていたことは嫁さんたちには黙っておくから、な?」

 

「な? じゃないが? エロいのだからしょうがない」

 

「うむ、色々と得体が知れないのもあったが、確かにエロかったなぁ。

 ああ、理想のシキガミの嫁が欲しい」

 

 

 

 

 

 そんな馬鹿な会話をしながら神戸へと帰るのだった。

 




あとがきと設定解説


・妖精国の女王陛下そっくりの転生者

同じ三次作品の謎の食通氏作の「終末が来たりし世に英傑の旗を掲げよ」より。
この作品の辣腕開発者美人人妻さんのことです。
六堂さんと氷室さんには、技術者の腕と寿退社的な意味で羨望の対象です。


馬鹿なことを言い合える同性の友人はとても貴重。


一応、今回で第二部おしまいです。
次回は、幕間の予定。

もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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閑話
第二十一話 幕間その四・とある地方の男と女それぞれの会合


続きです。

今回は、幕間で神戸でのとある日常?のお話。

会話文の書き分けが上手く出来ているだろうか。


  第二十一話 幕間その四・とある地方の男と女それぞれの会合

 

 

 ケース1:ある男同士の飲み会

 

 

 色々あったあの夏からしばらく立ち秋になった頃、事業所の方も稼働し我が神戸セクターの事務状況も改善していた。最初は山梨の方も注意深く見ていたようだが、主に『ガイア出版』や『ガイアアニメスタジオ』の作品や本、DVD、果てはカセットブックやフィギュア、プラモデルまでここぞとばかりに貪欲に買い集める様を見て、逆に資金の方をこちらが心配する有様である。

 赤羽根さん達と田中さんもその注文を捌くのに先週までデスマーチだったらしい。

 

 それも落ち着いた事業所の休みの日、異界の探索依頼も片付いたため、ちょうど暇にしていた【レスラーニキ】こと関本さんと赤羽根さんを飲みに誘うのだった。

 ちなみに、覚醒者は並の酒では酔えなくなるので飯の旨い居酒屋に向かった。

 奥の個室を取り、各々の注文した料理が届くとそれぞれに話しながら食べ始めた。

 

 

「お疲れ様でした、赤羽根さん。すごい量だったなぁ。

 大手を振って手に入れられるからってあの注文量はないわぁ」

 

「そうですよ。田中さんと抜けが無いかチェックして、車が一台分しか通れない山道を小型トラックで何度も往復してと、あれ、大型一台分はありましたよ。

 途中で支払いにドルやポンドも出たので、両替もしなきゃいけませんでした」

 

「何でもオーナー曰く、『今まで貯めていた分を大放出した』とかですので出処が少し怪しいですけどね?

 『綺麗にはしたから大丈夫だぞ』とか自慢してましたし」

 

「前に、ニュースで海外の強奪された大金を誰かが盗んだのでないとかやっていたのはそれかのぅ?

 よし、唐揚げ取り分けるぞ」

 

「それかもなぁ。あ、唐揚げにレモンのネタは無しで」

 

「定番ですけど、本当にはしませんよねー。刺し身の取り分けの方はこれで」

 

「それじゃ、乾杯で」

 

「「乾杯」」

 

 

 2m近い筋肉の三十代の大男の関本さん、メガネを掛けた二十代の真面目なサラリーマン風の赤羽根さん、普通の大学生風の自分の三人で、各々、好きな味の酒を飲み食べて男同士のバカな話が始まる。 

 

 

「そういや何で、支部長は二十歳の身空で婿入して結婚までしたのか不思議なんだが。

 シキガミの注文が待てんかったのか?」

 

「十代の性欲に負けてポロッと喰われたとか?

 最近でも、時々喰われているようですし」

 

「喰われたとか言わないでくれるかな?

 子供の時分に覚醒して、いつ南極のアレに巻き込まれるか分からないから我武者羅に強くなろうとしていた時に、近所の儚げで綺麗なお姉さんが非力ながら悪魔をなんとかしようとしているんだぞ。

 勘違いしていたバカが助けたいと思わないほうがおかしいだろう?

 向こうからの申し出で覚悟を決めて婚約して星晶神社に行ったら、いろいろと解って悟ったけどね」

 

「子どもも出来たようだし、支部長がそれならそれでいいんだがな」

 

「まあ、そうですね。

 義妹の雫ちゃんに妖怪の彼女も加わったみたいですけど」

 

「不義理なことはしないよ。

 まあ、文香さんは行為を楽しむというより、エネルギー補給の方が優先らしいよ。

 積極的になるのも箱で本が来たときで、この間、ペリー○ーダンとかグ○ンサーガが全巻来た時はかなりすごかったし」

 

「その辺は悪魔っぽい感覚なのか?

 でも結局、女子高生の義妹にも喰われてるなら節操はないんじゃないか?」

 

「そっち方面では流されそうなカズマさんですし、喰われたのほうが合っていますね」

 

 

 そっと視線を外して、別の話題になるように答える。

 

 

「……責任はとるから。

 そういう赤羽根さんだって、音無さんと氷室さんには露骨にアピールされてるみたいですが?」

 

「甲斐甲斐しくアピールしている様は、何というかこう何も言えなくなるな。

 うん、職場で修羅場だけはゴメンだぞ」

 

「はは、その辺は上手くやりますよ。前職で慣れていますし」

 

「確か、前職って悪魔事件で倒産したんでしたっけ?」

 

「女性慣れする会社で悪魔事件で倒産とかいまいちピンと来ないが?」

 

 

 不思議そうな顔をする関本さんに、遠い目をした赤羽根さんが一気にグイッと飲み干すと話し出す。

 

 

「自分としては真っ当なアイドル事務所だと思っていたんですよ。

 でも、一族経営の社長や専務がいわゆるダークサマナーでしてね。

 グレーな人身売買染みたことをしていて、顧客とトラブった際に相手が炎を放って暴れられまして延焼と人死が出てそれっきりですよ。

 そして、そこにガイア連合の人がトラブル処理に来て話を聞いてここに来たんです」

 

「それは運がいいのか悪いのか」

 

「非覚醒のままなら命があっただけ良かったのかものぅ。

 それで、話は戻るがどちらが好みなのだ?」

 

「上手くやりますから。

 それより、聞きましたよ? 関本さんこそシキガミどうするんです?」

 

 

 少し慌てたように、今度は赤羽根さんが話題を変える。

 

 

「妖精国の女王陛下のデザインは駄目だから、誰にするんです?」

 

「ネミッサだ」

 

「ソウルハッカーズのヒロインの彼女ですか?

 確かに魅力的な女性ですけど」

 

「資料だと、悪魔に憑依された女性で銀髪で胸元が露わな黒い服を来た美少女ですよね?」

 

「気づいたんだがな。俺は銀髪が好きだったらしい。

 だから、理想の嫁には彼女のデザインが最適だと思うのだ!」

 

「……まあ、頑張ってください。そろそろ追加注文しますか」

 

「そうだね。自分はこの焼鳥にするかな」

 

 

 この夜はこうして更けていった。

 なお後日、デザイン申請した関本さんの所に、憑依元の女性と同じ容姿と名前の人物が確認されトラブル防止のため却下する旨の知らせが届いたそうだ。

 

 

 

 ケース2:ある女性同士の食事風景

 

 

 カズマさんが飲み会を主催していたのとほぼ同時刻の月城邸の離れ。

 もともとは古い平屋建ての木造建築だったそこもリフォームされて、地下にシェルターにもなる地下室を備えた2階建ての新築の建物に変わっています。

 

 本邸から中庭を通って行った先にある建物の横には家庭菜園が広がっているのですが、この中庭にはもともと草の神である祭神さまの祠がある霊地であり、最近カズマさんの会社の本社から送られた霊力のあるキャベツと大根の苗が栽培されており、神戸セクターにて回復効果のある漬物として買い取られ家計の足しにされているのです。

 

 今日は仕事先の人と飲んで帰るとの連絡を受けたので、あたしこと雫と葵お姉ちゃんと最近ここに来た文香さんと食事をしています。

 本来、食事を必要としない彼女ですが、ここの菜園の野菜の漬物は美味しそうに食べています。

 食べ終わり、お茶を飲んでいるとその彼女が聞いてきました。

 

 

「……雫さん、カズマ様に聞いた限りではあなたは覚醒されていないはずなのに、何故こちらの姿が見えるのですか?」

 

「ん? んーー、言ってなかったっけ? 最近、出来るようになったんだよ」

 

「祭神様の御神託で、あの人と何度か深く交わることで覚醒できると言われたんですよ。

 わたしも交わることで魂の階梯も上がり、身ごもることが出来ましたもの」

 

 

 そういうと、嬉しそうに下腹部を撫でているお姉ちゃん。

 あたしも最近ははっきり聞こえるようになった祭神さまによると、祭神さまの加護のある野菜を食べてカズマさんとすることで同期?して神話再現?して強くなれるのです。

 実際に、学校の生活でも胸が大きくて運動の苦手だったあたしが、花蓮も驚くくらい体力が付いたのはとても助かりました。

 

 

「……それで、いつまで私の封魔管は葵さんがお持ちになるのですか?

 懐妊されているのに、負担になるような事は避けたほうがよろしいのでは?」

 

「あの人は、わたし達の身を案じて預けると仰言っていたのですよ。

 文香さん、もしかして、あの人の側にいてつまみ食いをするつもりではありませんよね?」

 

 

 お姉ちゃんと二人で見つめると、ついと視線をそらす文香さん。

 本を長時間読むのにたびたびそんな事をされたんではこっちが困ります。

 ただでさえ、独占する時間やお姉ちゃんと一緒にする時間が減っているのに。

 

 

「しばらく、あなたのこれはわたしが預かります。

 文香さんも、あの人が私に信頼して預けるという言葉は違えませんよね?」

 

「……それは大丈夫です。

 それはそれとして、直接に許可を貰いに行きますから」

 

「ごちそうさま。部屋で勉強するね」

 

 

 お腹をなでてアピールするお姉ちゃんとお姉ちゃんより大きい胸を誇示している文香さんのバチバチと視線を交わす二人に巻き込まれないように、食器を下げて部屋に逃げ込むあたし。

 

 部屋につくと鍵をかけて、ベッドに倒れ込む。

 そして、枕の下からもう彼の写真だけを撮りだしてから3冊目になるアルバムを取り出す。

 花蓮のお兄さんとして出会って、変な男から助けてもらってから集めだした隠し撮りも含めた大事な大事なお姉ちゃんも知らない『宝物』をゆっくり見返す。

 見ていると、彼のことを思い出し体の奥が切なくなってくる。

 

 でも、周囲にはこの事はバレないようにしないといけない。

 祭神さまとした約束を思い出す。

 高校にいる間は何があっても身ごもることはないが、卒業後にする時は必ずあたしも身ごもるようにすると。

 そして代わりに、氏子となりお姉ちゃんと同じ様に安全な加護のもとで彼の子を産むと。

 やがて、子どもたちの写真も増えてアルバムも増え、『宝物』も増えていくのだろう。

 この部屋でするその日が楽しみでたまらない。荒い息と笑みが浮かんでくる。

 

 

「その日を待っていてね。カズマさん、…ううん『お兄ちゃん』!」

 

 

 

 

 

 飲み会も終わり、帰路につく自分に悪寒が走る。

 周囲を見るが何もいない。

 葵や雫が待っている。早く帰らないと。

 




あとがきと設定解説


・月城雫の『宝物』

意識してから撮り続けたカズマの写真集。3冊ある。
隠蔽率を高めるためにアルバムに仕舞っている。
初期は隠し撮りが多く、最近は2ショットなど記念写真が増えた。
満たされるが早かったので写真の収集しかしていません。


守護神さまの見守りと愛があるから大丈夫。

次回も、幕間の予定。

もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第二十二話 幕間その五・とある地方の組織の幹部会議の記録

続きです。

今回は、幕間で世界線がズレたことに関するお話。
わりと、重要な伏線回。


  第二十二話 幕間その五・とある地方の組織の幹部会議の記録

 

 

 ケース1:ガイア連合神戸セクターの会議

 

 

 さて【ガイア連合】に所属する自分も含めた【転生者】は、【終末】を生き残ろうという目的を持ちショタオジを中心として集まった個人主義の集団である。

 転生者は、三種類いると言われている。

 一つ目は、オカルトや終末が来ることなど信じない普通の生活を送る者。

 これには、非覚醒の一般人と変わらない者や自分からガイア連合に背を向けて【転生者】であることを考えないようにした者も含まれる。

 二つ目は、非覚醒、覚醒含めそれぞれの目的のために強くなろうと行動する者。

 これは、ほぼ一般の活動する連合員だろう。

 レベル上げや物欲のためにマッカ稼ぎをするために異界を巡り戦う者、技術を生かして何かを作る者、事務や医療などの組織を円滑に動かす後方勤務の者である。

 三つ目は、掲示板でも時々固有名で語られる幹部クラスも含まれるガチ勢である。

 組織運営の幹部に携わったり、危険な海外の戦地に渡ったり、一人で【タルタロス】に突っ込むような何かとがいる一般人ではなく逸般人の者たちである。

 自分はと言うと、二つ目から三つ目に片足を突っ込んだ位の者であろう。

 なお、ショタオジは堂々の規格外殿堂入りである。

 

 後に、4つ目として、金銭のために転生者のための特典を売り払う者や終末が迫り転生者であることを理由に連合に寄生する者が現れるが今は割愛する。

 

 そんな個人主義の集団でも組織であるなら会議やミーティングを行うものであり、ここ神戸セクターも例外ではない。

 今回、参加しているのは自分と小鳥さん、六堂さん、赤羽根さんである。

 暖房をつけると窓が曇るほど外はそろそろ寒くなり始めた三階の一室を、会議室として話し合っている。

 折りたたみ式の机とパイプ椅子があり、机の上には議題となる報告書や『★終末原因特定スレ part4』を始めとした掲示板のログ、写真などが挟まった書類などが並べてある。

 ちらりと音無さんの方を見た赤羽根さんが書類を持って話し始める。

 

 

「では、まずこちらから。

 現状、研究所との取り引きは依然として続いています。

 相変わらず新刊や新作を中心にしてサブカルチャーの買い取りは続いていますが、最近は絶版した物やキャラクターソングCD、ポスター、成り切り玩具、コンビニのコレクターアイテムまで更に幅広くなっています。

 注意してはいますが、依然としてサブカルチャー以外ではスナック菓子や酒類などの嗜好品のみでこれと言って怪しげなものは購入されていません」

 

「自分も時々、ご機嫌伺いの名目で何度か行っているけれど、入り口ロビーの来客用ソファで歓談するくらいで初日のあの時以来奥の部屋には通されていないなぁ。

 そういえば、赤城さんも今度はヨーロッパに行ったらしく顔も見ていない」

 

「赤いスーツの若い男性ですよね。

 田中さんと神戸市内の事務所で話している時にお会いしましたよ。

 聞いていた通り、胡散臭げな人でしたね」

 

「この間、電話があって『娘さんが生まれたらぜひ会わしてくれ』だとか『美少女に姿を変えた気分はどうだい?』とか『ぜひ写真を撮らしてくれ』とか言われたけど、またすぐに立つとかで忙しそうだったな」

 

「あの人もあそこに出入りしているんですよね?」

 

「基本的に趣味以外は真面目な人だけど、その事が分かった以上注意はした方がいいね」

 

「判りました」

 

 

 そう言って終わると、今度は六堂さんが話し出す。

 

 

「そこのログにもあるけど、少し前に連合員では確認される初めての死者が出た件に関することです。

 ショタオジが救助して、ちょうどシキガミのボディ専用の3Dプリンターが導入されていてふんだんに在庫があった女性シキガミのパーツと本人の資質もあって蘇生処置をした結果、その男性が【TS魔人ネキ】になって蘇った件が関係しているんだけれどね。

 それがシキガミパーツの人体への移植が可能になる事例になったおかげで、わたしの腕でもパーツがあれば、ここでも高級シキガミの四肢欠損までのダメージは治療できるようになったからね」

 

 

 その事を話すと、全員が「…性転換」とつぶやいてこっちを見てくる。

 ログの彼女?の様に性別が変わって喜んでいるんじゃないんだが。

 ゴホンと咳をして話題を戻して、六堂さんに話しかける。

 

 

「TSの事はいいから、治療の件はすごいですね。

 今までは、治療魔法か回復施設の自然治癒任せでダメージが酷いと難しかったのに」

 

「パーツをこちらにも少し分けてもらえるように説得したんですよ。

 ただ、花蓮ちゃんみたいな男性シキガミや女性型以外タイプのパーツはほとんどありませんけど」

 

「作っている人たちの趣味で、高性能の装備品もほとんど女性用しかないからね。

 女性用の防具というか、高性能の女性用服飾品防具は本当にバラエティ豊かなんだよな。

 防具の関係で仕方なく、女装している人もいるくらいだから」

 

「この間見かけた白い饅頭みたいな男性といた人たちとかですか?」

 

「そうそう、亀を持ったペルソナがスライムの人の友人さん。

 仲間が現地の友人で装備費の関係で仕方なくやっているんだって」

 

 

 彼とその仲間もしょうがなくしているのだから、音無さんも見なかったことにしてあげて欲しい。

 霊的装備品が工業化出来なくて職人のハンドメイドだけな上に、作れば売れるから製作者の趣味の品ばかりになるのはしょうがないのだろう。

 

 だからといって、「プロマイドを見ました」とかピッタリのサイズのものを送って来られても処理に困ってしまう。売ったりするには耐性付きなどの高価な品なので出来ずに困って、自宅に持ち帰り「将来の子供用」として取っておくことにした。 

 事情を話した時の葵や雫の「もう親ばかかな?」という視線は忘れたい。

 

 さて、次の話題が一番重いのだが、音無さんが資料を提示して話し始める。

 

 

「この資料にあるように、エジプトにおいてメシア教と戦っていた【多神連合】が敗れアフリカが落ちたようです。

 しかも、表向きにはアメリカ軍と現地武装勢力が争い、ピラミッドや首都を吹き飛ばす威力の大型爆弾やBC兵器が使われたとされていますが、実際はもっと酷い事になっているようで」

 

「もしかして、核とか?」

 

 

 赤羽根さんが深刻な顔で聞くが、首を振った音無さんは笑えないと言った顔で話す。

 

 

「戦いの最中にエジプト神話群の神々が勝手に損切りを考えて、敵味方関係無く病や呪殺の範囲攻撃を撃ち込んだそうです。

 しかも、他の陣営から来ていた一流の能力者をミイラやマミーにして死後の魂の所有権を主張して魔界にお持ち帰りして勝手に帰っていったのだそうで、首都まで瓦礫の山になって多神連合側もかなりの被害を受けて撤退したようなんです」

 

「メシア教側の被害はどうなんです?」

 

「不明ですけど、あのメシア教ですから補充はすぐに利くんじゃないでしょうか?」

 

 

 赤羽根さんや音無さん、六堂さんも難しい顔をしている。

 アメリカの生産力を手に入れて人道とか『無死』するメシア教の過激派を考えると、被害も時間が立てばすぐに微々たるものになるのは明白だろう。

 

 世界地図を頭に描く。

 中東も中東の一神教が強い地域であることを考えると、イギリスやアイルランド、北欧、インド付近まで戦線を押し込まれるだろう。そして、それぞれの勢力を各個撃破し、最後に日本を焼けば終末が来て大洪水の末に【神の千年王国】の樹立というのがアメリカのメシア教過激派のプランだろう。

 かといって、日本の一地方の霊能者にすぎない自分に何が出来るのだろうと考える。

 そして他の皆も驚くが、音無さんからもう一つの聞き逃がせない情報が出る。

 

 

「あともう一つ情報があります。

 メシア教の動きを探っていたら判明したんですが、南極のシュバルツバースを先に占拠して小粒サイズで固定封印に成功したようだと」

 

 

 ふと、オーナーと初めて会ったときを思い出す。

 

『南極のアレが御破算になって暇なの。あなた達を見て楽しむことにするわ。

 せいぜい、頑張って』

 

『だから、他の娯楽も用意してあの方にも東京で暇つぶしをされないようにもお願いしている』

 

 あの発言の内容と、情報が一致する。

 先日、自分の氏名が記録された【ブラックカード】が届いた。これは連合員として真っ当に活動しているほぼ全ての【転生者】に配られる会員カードの【ブラックカード】に、幹部用の権限が付加されたものである。

 幹部にだけ見られる情報と転生者掲示板のまとめを見比べると、我々の前の世代がいかに頑張っていたかがよく分かった。先を知っているだけに、原作の終末の原因になるものを尽く判ったものは潰していたようだ。

 先日のショタオジが言っていた話題の件とそれにより【ファントムソサエティ】が沈黙した事、【黄昏の羽根】が無い事、【ミロク経典】が戦後のメシア教の焚書で焼滅していると確認した事など、まだ霊地の活性化などいくつかは残っているがそこまでしていた事にショタオジや財界ニキたちを改めて尊敬する。

 黒いカードを眺めながら考えていると、恐る恐る音無さんが話しかけてくる。

 

 

「あの、まだ続きが。ショタオジからの伝言で、

 『エジプトの件で避難してきた【墓守の一族】の避難場所を瀬戸内の無人島にするから、代表のマナさんという方との交渉窓口よろ☆』、だそうです」

 

「何故、自分が担当に??」

 

「何でも、『嫁がいるなら【クレオパトラ】の転生体のハニトラにも引っかからないだろうし、【研究所】の事もあるんだし一つ位増えても、魅了や洗脳は効かないんだから大丈夫だと確信しているよ。何かあれば助けるから、ガンバ☆』、と。

 とても、にこやかに言っていたそうで」

 

 

 気の毒そうに見る皆の視線を気にしながら、自分は気分を落ち着けるため温くなった缶コーヒーを一気に飲み下した。

 

 

 

 ケース2:神戸メシア教会

 

 

 そこは神戸メシア教会本部の居住部の最奥、シスターギャビーの寝所である。

 執務を終え、沐浴が終わった彼女はガウンに着替え温かいココアを飲みながら、最近側仕えのシスターから良い気分転換になると教わり、読みふけっている小説を寝るまでの一時読んでいた。

 そこに、扉は開いていないが誰かの影が浮かび上がる。それは、黒い髪と翼、そして仮面で顔を覆う天使だった。

 それに気づいた彼女は不愉快そうに本を置き、慇懃な笑みを浮かべるそれに話しかける。

 

 

「久しぶりね。何の用向きかしら、マステマ?

 仮にも女性の寝所に、こんな時間に来るなんて失礼ではなくて?」

 

「いえいえ、単なるご機嫌伺いですよ。ガブ…いえ、シスターギャビー。

 それと、今のわたしの事は【マンセマット】とお呼びください。

 アメリカを脱出するのを手助けして以来ですか、お会いするのは?」

 

「そうね。

 依代を使った【大天使降臨計画】、あの日降臨した我々を襲った狙撃と依代の変異。

 そして、その後の内紛。変異を逃れたミカエルと変異を神罰とされ追われたわたし、逃げ出すのは本当に大変だったしあなたの手助けにも感謝しているわ。

 でも、忘れないで。あなたの手を借りたのはあくまでも【主の告知】があったから。

 信用しているとは思わないで」

 

 

 変わらず慇懃な笑みを浮かべたままそれは、彼女の手元の本と一角にある本棚を見て笑みを深くする。

 

 

「いえ、か弱き人の姿に変わり世俗を楽しんでいらっしゃるようですね、シスターギャビー。

 ハーレ○イン・○マンスですか?

 表題からすると、仕事のできるOLと年下の男性との後に男性上位になる恋愛物ですね。

 複数あるのは、相当に気に入れられたようで、クク」

 

「人の趣味をあざ笑うのは失礼でしょう?

 もともと階級社会の天使だからこそ、一番、趣味にあったのよ。

 だから、あなたは同じ天使にも堕天使にも信用されないのよ」

 

 

 真っ赤になって話すギャビーに視線をそらして笑っていたそれが、別の意味の慇懃な笑みを浮かべ話しかける。

 

 

「その様子を見ると、あなたの見初めた【ヨセフ候補】は見つかったのですね。

 時間を掛けてこの地を【ノドの地】や【方舟】とし、ミカエルから守るつもりですか?」

 

「そうよ。

 日本支部代表のあの娘が彼の組織の盟主と結ばれ、わたしはリリスが死ぬのを待ち力強き寿命も人を越える愛する彼と結ばれる。

 やがてガイア連合とメシア教穏健派は一つとなり、この地は新しい神の愛を世界に伝える真なる【カテドラル】となるのです。

 そして、あの娘の子どもやわたしの御子、彼の仲間たちと結ばれた教会の仲間の子どもたちが世界を神の愛に満ちる素晴らしいものへと変えていくことでしょう。

 だから、マンセマット。直接に、彼らに手を出すのは控えてちょうだい」

 

「わたしの目論見も諦めろと?」

 

「そうではないわ。

 こちらの障害にならないなら、あなたの【唄い手】を探すのは止めないわ。

 彼の周囲に手を出すのを控えてというだけよ」

 

 

 それは一旦喋るのを止め、考え込む。

 そしてニコリと嘲笑うと頭を下げ、姿を消す。

 

 

「分かりました。

 あなたの見初めた彼の周囲に、【直接に】手を出すのはしませんとも。

 それでは、あなたの計画が上手くいくように願っています。

 神のご加護があらんことを」

 

「ええ、あなたもね。神のご加護があらんことを」

 

 

 それが消えるのを見終えると、冷めてしまったココアを飲み干し眠るためにベッドに向かう。

 そこで彼女はふと疑問に思ったが、気にすること無く眠りについたのだった。

 

 

 

 

 

「『今のわたしの事は【マンセマット】とお呼びください』?

 では、その前は、何と呼ばれていたのかしら?」

 




あとがきと設定解説


・ハーレ○イン・○マンス

1988年に日本でも販売され始めた女性向け小説のレーベル。
キャッチコピーは「あなたが探していた愛は、きっとここにある」「恋は、本屋さんに売っている」。
ちなみに、この頃に流行っていたトレンディドラマにもこの後にハマる事になる。


次回は、第三部開始の予定。

もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第三部
第二十三話 Q、家族の問題もちゃんと解決しようと思いませんか?


第三部開始、続きです。

今回は、出番の久しくなかった実の母親の話。



 第二十三話 Q、家族の問題もちゃんと解決しようと思いませんか?

 

 

「お母さん、再婚しようと思うんだけどどう思う?」

 

 

 その言葉を聞いたのは、年も開けしばらく立った頃だった。

 葵が臨月になり入院し、月城家と封魔管は預かっているが文香さんも家の中の手伝いをして月城家が大忙しの時期にたまには息抜きをと言われ、花蓮と共に久々に間藤家の家族と外食をしているときの事だった。

 相変わらず母の発言は悟ったような顔の祖父と吹き出しかけてむせている花蓮、自分も母さんのことだからと思っているので冷静に聞いてみることにした。 

 

 

「また突然だけど、どうしたの?

 誰かと付き合っていたとか聞いていないけど、花蓮は知っていた?」

 

「知るわけ無いですわ。

 この所、自分のことで手一杯で時間も合わないのでろくに話も出来ていなかったのですから」

 

「いえね。私もまだ30代じゃない?

 カズマはもう結婚して孫も生まれるし、花蓮も彼氏を捕まえたようだし私だってまだ恋愛してもいいかなと思ったの。

 それでね、仕事先の紹介でお話が来ているの」

 

 

 彼氏を捕まえたの部分で赤面している花蓮だが、当のクーフーリンは別席にて食事をしている。先のクリスマスに一線を越えるつもりだったらしいのだが、体のアップデートをもう一回と【性交】のスキルカードがないと出来ないことを失念していて失敗に終わったと安堵の表情の彼自身から聞いている。

 そもそも彼自身は花蓮に対しては守護者としての意識が強く、本霊と交信したことで肉食系の女性が苦手になっているらしく花蓮のアプローチに大変困っているようである。

 まあ個人的には、母とももうかなり親しげにしているし、高校を卒業する頃までには決着が付きそうなのでこのまま応援していたい。

 花蓮のことはさておき、母の話を聞くことにしよう。

 

 

「それで相手って誰なんだ、母さん。

 もう、挨拶とかしたの?」

 

「それなんだけどねぇ。ほら、今は私、税理士を仕事にしているでしょう?

 この間、新規で契約を貰った外資系の会社の方からお話があったの。

 お相手は、在日米軍予備役大尉のアンソン・スーさん。

 今は横須賀基地で働いていて、パイロットをしている娘さんもいるそうよ」

 

「ま、待って下さい。お母さま、受ける気ですの?」

 

「そうだよ、母さん。成人の娘がいるなら高齢じゃないのか?」

 

「まだ、40代で真面目で温厚そうな人なんだけどね。

 大丈夫よ。ほら、お父さんのこともあったじゃない?

 何か嫌な予感がするので相手がいるとかでお断りしたいのだけど、誰か勤め先にいい方はいない?」

 

 

 コース料理も食べ終わり食後のお茶を飲みながら、母をじっと見る。

 間藤悠紀華、現在36歳。銀髪の髪をボブショートにして基本、スーツ姿。

 二人の経産婦なのに、この歳で花蓮と並んで街を歩くと姉に見られる若々しさ。

 スタイルもよく、しっかり者で税理士の資格を持つくらい頭もいい。

 少し考え込み、母に許可をもらって写真を取り目当ての人物に『見合いをしてみない?』とメールを送る。

 宵の口とは言え仕事もあるだろうに、5分とかからず乗り気の返信があった。

 【レスラーニキ】こと関本さんである。

 

 

「母さん、いい人がいるんだけど会ってみる?

 関西日本プロレスの選手で関本順一郎さんといって、年齢はほぼ同じでうちの人材派遣で時々副業として働いている人だよ。

 身長が高くて強面だけど、真面目な人だよ」

 

「ああ、関本さんなら真面目で信用はできますけど、いいんですの?

 最近、山梨の方にデザインをしきりに送っていたみたいですけど」

 

「本社からは要請が却下されていたからね。

 それに、母さんは彼の好みの真ん中だし」

 

 

 心配そうに聞いてくる花蓮に答えていると、不思議そうに聞いてくる母さん。

 それに、ネットの団体のホームページに載っている彼の写真を携帯でいくつか見せて答える。

 

 

「怖そうだけど、仕事には真面目な方みたいね。

 それで、山梨の本社に何を要請していたのかしら?」

 

「お見合いだよ、お見合い。

 男やもめで、先方の都合が付かなくて通っていないみたいだから」

 

「そうね、では会ってみようかしら」

 

 

 こうして、母親の見合いが急遽、決まることになった。

 こちらとしても、メシア教の関係者とか変なのに引っかかるよりはいいので複雑ではあるが進めることになり、お互いに社会人でもあるので連絡を取り持った以外は順当に日時や場所も決まっていったのだった。

 なお、祖父はそれを見ながら楽しそうに黙って過ごしていたのはさすがはあの母の親だなぁと感心してしまった。

 

 

 

 当日は、月末の休日の夕方に行われることになった。

 自分の方は懸念だった葵の出産が双子の子が産まれるというので予定日が伸び、後ろ髪を引かれるが参加する事になった。

 場所はヒノエ島と淡路島の間にある瀬戸内の2番目に大きい島のホテルであり、参加者は関本さん側は一人で、こちらは自分と花蓮と母、そしてクーフーリンも妹の彼氏ということで参加している。

 ただ、今日のホテルは人が多い。入り口の看板を見ると自分でも知っているそこそこ有名な女優のディナーショーがあり、参加する母より年上の女性の方々がたくさんいるようである。

 そして、予約したレストランの個室には関本さんが既に来ていて待っていた。

 いつもならラフな格好の彼が、筋肉にはち切れそうなスーツ姿でいるのは自分で紹介してなんだがそこまで気合をいれることなのかと思う。

 ちなみに、母の方もめったに見ない気合の入った服装と化粧で別人になっている。

 自分たちは一応、スーツと制服なので大丈夫だとは思う。

 母が席に付き、関本さんに挨拶をする。

 

 

「今日は来てくれてありがとうございます。関本さん。

 息子のカズマです」

 

「えーと、娘の花蓮です。よろしくお願いします」

 

「二人の母の悠紀華と申します。

 こんな大きな子供のいるおばさんですみませんね」

 

「何を言われますか! まだ、若くてお美しいではありませんか!

 支部長。複雑な立場ではあるが、今回の場を設けてくれてありがたいと思うぞ。

 何しろ、生まれてこの方スポーツばかりでこういうのは初めてだからな!」

 

「自分たちを産んでくれた母ですから滅多な人では反対していましたが、ことここにいたっては、こういう場を設けるしかありませんでしたのでよろしくお願いします。

 じゃあ、ここは二人きりということで自分たちはロビーにいるので頑張って下さい」

 

「ガンバですわ、関本さん」

 

「……え?」

 

 

 そういうと3人で個室を離れ、外はもう暗くなったホテルロビーに移動する。

 コース料理が運ばれながら会話を楽しむプログラムだが、高い料金を自腹で出したので上手く行って欲しい。

 一泊はするつもりで、男性ニ人と女性ニ人の二部屋を予約もしている。

 荷物を横に置きロビーの椅子に座ると、不満そうな顔の花蓮と飲み物を飲みながら話し始める。

 

 

「関本さんなら何度も一緒に戦っているので信用の出来る方だとは思いますが、上手くいったとして義理の父親と思えるんですの?

 ああは言いましたが、急に言われても難しいですわ」

 

「自分たち【転生者】を二人も産んだ母さんだよ?

 何故かあの『空を飛ぶ聖女』の父親と話が出るくらい注目されているのに、『終末を起こそうとしているメシア教に狙われています』とか正面からは言えないよ。

 まだ、同じ転生者で信用のおける関本さんなら納得はできるし。

 それにもし、一般人の母さんに【終末】が来るとか裏のことを話して嫌われたらどうするんだ?

 今までのことだってそれらしい話でごまかしているのに、自分は前みたいに親不孝にはなりたくない」

 

「それを言ったら私だって嫌ですわ。

 前みたいに、金を稼ぐ道具のように扱うような親ではないのに嫌われたくはありませんわ」

 

「おう、旦那、嬢ちゃん。

 話し込んでるところを悪ぃが、ちぃとヤバげな雰囲気だぜ」

 

 

 クーフーリンの声に振り向くと、上の方で爆発音が鳴り電気が消え、建物が揺れる。

 あちこちで悲鳴がして人々が逃げ惑い始めたが、ホテル地下への階段の空気が次第に淀み死臭の漂う空間へと変わっていく。

 そして、館内放送が鳴り響いた。

 

 

「メシア教を支援するぬくぬくと平和ボケした貴様らに、現実という名の我らの嘆きを教えてやる。

 我らを教え導く者の名に於いて、聖戦を!」

 

 

 念のために持ってきておいたデビルアブゾーバーを身に着け、地下から彷徨い出て来た死人の群れを見ながら花蓮たちに言う。

 

 

「あそこが異界の入り口のようだから行ってくる。

 花蓮たちは支部や母さんたちと連絡したら、ここで溢れてくるのを防いでくれ」

 

「お兄様一人では危ないですわ。

 ここで抑えて応援を待つ方が良いと思います」

 

「屍鬼や幽鬼なら物理だけだから相性がいいし、レベル差もある。

 どちらにしろ、ここの入り口を封鎖できるのが装備がない二人にしか頼めない。

 行ってくる」

 

 

 そう言い残すと、自分は地下からふらふらと歩いてきていた死人を階段下に蹴り落とし変身しながら降りていった。

 

 

 

 元々はホテルの従業員しか入れない地下通路だったのだろう非常灯が赤く照らす廊下を、元は守衛や従業員だったらしい群れがバイオ○ザードのように歩き回っている。 

 隠れながら周囲を見ても呪殺を撃ちそうな悪霊は見えないので、慎重に殴り倒して行く。案の定低レベルである上に、毒や麻痺を伴った噛みつきや引っかきが主らしく物理反射もあって一人でも比較的楽に倒せている。

 ただ、流石にバットなどの武器もなく素手で殴り倒しているために感触が気持ち悪いのと、変身していたとしても染み付いた臭いなどで去年に買ったばかりのお高いスーツが駄目になるのがとても悲しかった。

 

 地上への階段が見える範囲で地下一階を歩き回ってみたが、異界化で内部が変化したらしく明らかに広くなっている上に、一番奥の下に続く階段の前に縦横2、3mはある死体が組み合わさった蠢いている腐肉の塊がいて通れない。

 曲がり角から覗き込んでいると、そいつが一定時間ごとに死人を吐き出しているのが分かった。長時間こいつを放置しているのは見るからにやばいだろうが、こういうタイプの敵は襲ってきた奴をかじるなり取り込むと体力が回復する手段がありそうだ。

 問題は、その手段が物理の技なのかナジャの【吸魔】のスキルのように万能属性なのか分からないのと、レベルが自分に近い強さであろう点、弱点は破魔と火炎だと思うが今の自分だと氷結と衝撃系の技しかない点だろう。

 

 奥を伺いながらどうしたものかとしばらく考えている時に、入り口の方角から二人の人影が歩いてくるので、物陰に隠れ様子を伺うと姿が見えて来る。

 一人は黒い警察用に似たボディアーマーで目元以外隠している体格のいい男性で、二人目がこの場に似つかわしくない中世風の金属の防具がついた深い青の服を身に着けた金髪の少女であった。

 自分のいた所を通り過ぎて肉塊の前に行き、それが反応する前に腰のポケットから米粒の入った袋を取り出し振りかけると悲鳴を上げて肉塊が消えていった。

 終わるとこちらに二人とも振り向き話しかけてきた。

 

 

「神戸所属の【マスオニキ】だな?

 連絡を受けて応援に来た【卑劣ニキ】だ。

 それでこっちが本部からの預かりものだ、挨拶しろ」

 

「初めまして、マスター。

 私は、ガイア連合試作造魔2号の【英傑ジャンヌ・ダルク】です。

 データ試験後、貴方用のシキガミとして調整されこちらに来ました。よろしくお願いします」

 

「ジャンヌ・ダルク? 何で造魔で英傑が??」

 

「お前の関係先から来た技術と以前確保された市井の技術者が、ドリーカドモンとやらで技術部総出で実験やろうとしたら出来たらしい。

 それで、試験が終わってコイツの引き取り先がモデルも相まって見つからなくてな。

 神主の楽しそうな一言で、以前に採取されていたお前の血なんかを使ってシキガミと同様の契約処置をしてお前のところに来たそうだ。受け取れ」

 

「何故、FGOデザイン?」

 

「素体のデザインがこれだったんだと。

 それとも、フランス国旗マントのデザインの方が良かったのか?

 とりあえず、一度戻るぞ」

 

 

 自分としてもいろいろと言いたいことはあったが、手が足りないのも事実であるのでジャンヌとシキガミとしての契約の確認作業をすると地上に戻ったのだった。

 




あとがきと設定解説


・階段前にいた肉塊

レベル18の【屍鬼コープス】。
スキルは、デスタッチ、仲間を呼ぶ、麻痺引っかきでした。
破魔弱点なので、アイテムの施餓鬼米であっさりやられました。


『将を射んと欲すれば先ず馬を射よ』、誰の策でしょう?

次回は、ホテル編の続き。

もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第二十四話 Q、トラブルは何時でも向こうから来るものだと思いませんか?

ホテル編、続きです。

今回は、第三部の敵役の顔見世も兼ねた騒動の決着がつく話。




  第二十四話 Q、トラブルは何時でも向こうから来るものだと思いませんか?

 

 

 地上に戻るとそこは戦場になっていた。

 【卑劣ニキ】と同様の警察の特殊部隊の格好と顔を隠した人たちが島中に湧いたと思われる屍鬼や幽鬼を退治して回っている。これらの人員はガイア連合のメンバーであり、顔を隠して後で警察の特殊部隊の治安出動ということで内々に処理をするつもりらしいと説明を受ける。

 一般人はと言うと、テロリストがこのホテルに来たという建前で全員最上階のディナーショーをしていた大会場に待機してもらっているらしい。

 

 周りを見渡すとロビーの入口側の一角にバリケードを作った待機所があり、そこに槍を手に入れてそこの警護をしているクーフーリンと救護所と思われる場所で動き回っている花蓮を見つけたのでバリケードの側まで近寄っていく。

 

 

「おーい、花蓮。大丈夫か? この状況は何だか教えてくれ」

 

「お兄様、臭いのでそれ以上近づかないで下さい。

 それと、そこの女性は誰です? 葵さんが大変な時期に何をしているのですか!」

 

「彼女は大丈夫だから。山梨から送られて来たシキガミだよ。

 君からも説明して、……何でやけにキレイなの?」

 

「綺麗なのは、破魔属性の魔法は浄化でもありますのでちょっとしたコツです。

 私は、このたび神主さまの意向によりマスターの意向に従うように派遣されて参りましたジャンn……むぐ」

 

「彼女の名前は、シキガミの【ジャネット】だから。ジャネット、君もこれからはそう名乗って」

 

 

 慌てて彼女の口をふさぐ。こんな場所でジャンヌ・ダルクとか名乗られたら余計なトラブルになりそうである。彼女が頷いたので手をどけるが、花蓮は一層訝しげに見ている。

 あと周囲には彼女の姿を知っている者もいるみたいだが、『おっぱい聖女』や『あのおっぱいで聖女は~』とかつぶやくのは止めて欲しい。

 変なワードを聞いて、腕を組んで睨みつける花蓮。見返すジャネット。

 

 

「今ほど、マスターより命名頂きましたジャネットです。お見知りおきを。

 マスターの妹様ですね。情報の共有をしたいのですが?」

 

「今こっちは見ての通り、私は救護所で回復役として待機中。

 島中に屍鬼が湧いたから総当たりで駆除しているところよ。

 後は、ここで外からとそこの異界から湧いてこないか監視中ね」

 

「こちらは、地下一階で大型の屍鬼と遭遇し駆除。

 マスターと合流しましたので一時的に戻ってきました。

 この後、再度地下に行きこれを起こした人物を排除します」

 

「花蓮、母さんたちは?」

 

「さっきの個室に扉にテーブルを立てかけて籠城しているから、関本さんもいるし大丈夫みたい。

 指揮している人がうかつに動き回られるよりはいいって」

 

 

 そこに、他のメンバーと話していた卑劣ニキが戻ってくる。

 相変わらず、覆面をしたままなので表情が分からない。

 

 

「状況が変わった。

 突入は、マスオニキとシキガミの二人で行ってもらう。

 俺も行くが、調査しなければいけないことが起きたので途中で別行動に移る」

 

「二人だけだと不安が残るな。花蓮たちは連れていけないか?

 前衛と破魔と治療もできる後衛だけど」

 

「駄目だ。この場に10レベル越えのリカーム持ちは彼女だけだ。

 呪殺持ちが考えられる死霊が確認されているので動かせない。

 そこのシキガミは、モデルに合わせて前衛でのタンクと治療役のスキル構成だから問題ない。

 あと、代わりにこれをシキガミに持たせろ」

 

 

 そう言うと、バッグから取り出した大型ゴーグルとコードで繋がれた精密機器のガントレットをジャネットに装着させた。以前から、うちにも有ったアナライズシステムに似ている。

 それを懐かしそうな目をしながら話し出す。

 

 

「そいつは、【ハンドヘルドPC】だ。

 中にアプリとして、アナライズ、エネミーサーチ、ハニー・ビー、百太郎、タイムガールが入っている。

 サポート役の奴に持たせた方がいいだろう。

 そのアイテムの報告は聞いているので、これと回復アイテムがあれば大丈夫だろう。

 行くぞ」

 

「お兄様!?」

 

「花蓮はそこにいてくれ。行ってくる」

 

 

 渡された回復アイテム入りのウェストポーチを付け、ジャネットと卑劣ニキと階段を降りてゆく。そして、最初の曲がり角で「俺はこちらに行く」と声がして振り返るともうそこには彼の姿はなかった。

 

 

 

 先ほどまで腐肉の塊のせいで通れなかった下への階段を降りる。

 周りを注意しながら、隣を歩く武器らしい鉄の棒を持ったジャネットに懸念している事を聞いてみると、にっこりと笑って彼女は答えた。

 

 

「あの男も居ないようだから聞くけど、あの聖女と関わりがあるようだけどその辺はどうなんだ?

 シキガミと同様の契約しているというから大丈夫だと思うけど」

 

「確かに自分はあの聖女のようであれと生まれましたけど、ぶっちゃけ面倒です。

 神様も自分の部下もろくに管理もできていないのに従えと言われてもねぇ。

 それなら破魔や呪殺は効きませんし、剣や旗でなく鈍器でマスターの敵を殴るほうが私は簡単で好きです」

 

「お、おう。そうですか。

 じゃあ、頑張って殴って下さい。

 ただし、待つように言ったら待って下さいね」

 

「大丈夫です。私、脳まで筋肉じゃないのでその辺は心配しないで下さい」

 

 

 そう言いつつ、敵がいましたーと鉄の棒でゾンビを殴り潰すのはいかがなものだろうか?

 奥に行くに連れてゾンビの数も増えてきて、このままでは対応しきれないので変身することにする。

 

『ABSORB DEVIL』『FUSION GIRL』

 

 氷結と睡眠主体のユキジョロウと多彩な攻撃はあるが移動が難しいマーメイド、回復主体のナジャとあるがここは衝撃主体のモーショボーで行く。

 可愛いとか言って撫でてくるのを止めつつ、衝撃ブースタの乗った【ウィンドブレス】で群れにダメージを与え自分より頑丈で腕力もあるジャネットが潰して回るやり方で奥へと進んでいった。

 

 それにしても、この携帯PCは便利である。

 敵の接近はすぐに分かるため奇襲はされないし、名前とレベルと耐性が判明して連携が取れやすくなるし、周辺の地図も分かるといいことづく目である。

 そして各階の階段前にいる肉塊を施餓鬼米で消し、そのまま進むこと地下五階。

 ハニー・ビーによるとすぐそこにボス部屋らしい大きな部屋があると、地図画面に写っている。お互いにMP回復用の不味い飲み物を飲み干すと、自分の似姿のドッペルゲンガーに姿を戻し両開きの大きい扉を蹴破って入っていった。

 

 そこは元は地下倉庫のようであったようだが、どこかで見たような魔法陣がありその中央には清掃員の姿をした中東人の男性がこれもまたどこかで見た覚えのある黒い本を持って立っていた。

 自分たちが入ってくるとその男は、赤く光る目でこちらを見ながら楽しそうに笑いかけてくる。

 

 

「おやおや、また君かい?

 その腕の女性に姿が変わる機械、前にもボクの遊びの邪魔をしてくれたよねぇ。

 せっかく、この辺でもう一人のボクや宰相閣下が遊んでいるみたいだから、イベントを用意したっていうのにせっかちだねぇ。

 君も、あのまま一つ目の奴の巨大なアレに、犯し殺されていればよかったのに」

 

「うるせぇ、黙って捕まって白状しろっ!」

 

 

 そのセリフに自分の何処かがキレて、飛びかかるも透明な壁に邪魔をされる。

 壁を殴る自分を慌てたジャネットが止めるのを見つつ、男はニヤニヤと笑みを深くする。

 

 

「いいよ、いい。そういう反応でないと達せないよ。

 かなりそそる容姿の聖女様も連れて来たようだし、イイなぁ。

 まあ、もうこの男にも飽きたし、さぁ、ヤろうか!」

 

 

 眼の前で魔法陣が光り、黒い本と男が黒い泥のようなものに融合し三つに分かれて実体化する。黒い服と黒い鎌を持つ白い肌の男が両脇に立ち、中央に逆さまの大きいコウモリが現れ襲いかかってきた。

 【ヒートウェイブ】、【ベノンザッパー】。

 コウモリの黒い翼と白肌の男の黒い鎌が連携して自分たち二人に斬り掛かる。

 防御して耐えるジャネットに、攻撃を反射する自分。

 思わぬ痛打を受け下がる二体を見た最後の白肌の男が、とどめを刺すべくジャネットに魔法を放つ。

 呪殺の呪文、【ムドオン】。

 しかし、効いた様子もなくジャネットが叫ぶ。

 

 

「アナライズ。【凶鳥カマソッソ】と【悪霊マカーブル】が2体!

 物理耐性・電撃弱点と呪殺無効・破魔弱点です。

 数を減らしましょう。【天罰】!」

 

「分かった。『FUSION GIRL』ユキジョロウ、【マハブフーラ】!」

 

 

 敵全体を襲う破魔属性の光の柱と増幅の乗った氷雪の嵐、攻撃の反射で深手を負っていたマカーブルが一体消え、残りの二つも体力を削られたようである。

 カマソッソが羽根を刃のようにしてもう守りはないぞと言わんばかりに自分に【残影】を放つ。ついで、マカーブルも【ベノンザッパー】を放って来る。

 毒も受け、深手を負う。それを見たジャネットが魔法を使う。

 

 

「マスター、今直します。【メディラマ】!」

 

「ありがとう。もう一度、【マハブフーラ】」

 

 

 傷も癒え、もう一度全体氷結魔法を放つ。

 崩れ落ちるマカーブルが、最後にこちらに【ムドオン】を放つ。

 その途端、姿が元に戻りデビルアブゾーバーから灰色になったカードが排出される。

 その様子を見て、哄笑するカマソッソ。

 その隙を見逃さずに、武器で殴り掛かるジャネット。

 怒りを抑えて自分も別のカードを入れ、攻撃を加える。

 

 

「これでも喰らいなさい!」

 

「『FUSION GIRL』ナジャ、【ガルダイン】」

 

 

 ジャネットの一撃と魔法により切り裂かれ、笑い続けるカマソッソが崩れていく。

 そこに、スキルの発動を感じると緑の光に包まれカードになったカマソッソを見つけ、拾う。

 ひと息をつくと、目の前と足元が揺れるので毒を受けていたのを思い出す。

 慌てて【ポズムディ】を自分にかけ、座り込んでしまった。

 マッカなどを拾っていたジャネットが近づいて来たので笑いかけると、通路の奥から卑劣ニキが歩いてくる。

 そして、そのままバッグから大根を取り出しへし折ると、周りの風景が変わり異界も消えた地上への階段下に着いていた。

 マスクを外し鋭い眼差しの壮年の男性の顔を晒すと、興味深そうにこちらを見てくる。

 

 

「ほう、報告とプロマイドは見たがこれはまた愛らしい姿に変わるものだな、マスオニキ。

 その手の愛好家なら、好まれそうだな」

 

「余計なお世話だよ。今までどこに……むぐぅ」

 

「ああ、マスター。可愛らしい姿に! 本当に可愛らしい」

 

「…離して、目の前が…できな…ぐふ」

 

 

 余計なことを言われたので言い返そうとした所、ジャネットに抱きつかれそのまま彼女の腕の中で気絶するという漫画のオチのような事をしてしまったのだった。

 

 

 

 そして、気がつくと明け方になっており元の姿で医務室らしき所で目が覚めた。

 服装も患者用の簡易服で、横にジャネットが待機していた。

 視線を向けると、こちらが目を覚ましたのを気づいたのか話しかけてくる。

 

 

「気が付きましたか、マスター。

 どうやら、戦闘後の気の緩みとMPの使いすぎで気を失っていたようです。

 【静寂の祈り】も掛けたので異常はもうないはずです。

 何からお聞きになりたいですか?」

 

「そうなのか? じゃあ、まず……」

 

 

 ジャネットからあの後のことをいろいろと教えてもらった。

 

 ここはガイア連合がチャーターした船の医務室で、神戸に向かっていること。

 あの男は中東からの亡命異能者でこちらに来てからは真面目に働いていたのに、何故あの凶行に走ったのかは動機や方法が不明なこと。

 ディナーショーをしていた女優が日本のメシア教団体の会員だったのが原因でテロに走り騒動を起こしたあと死亡したと警察から発表があったこと。

 卑劣ニキは今回の報告のため、もうここを発ったこと。

 母と関本さんは一足先に戻り、二人の交際が始まったこと。

 

 そうして話していると、神戸港に着いたようだ。

 いつの間にか用意してあった綺麗になっていたスーツに着替えると、ジャネットと一緒に部屋を出る。

 ふと見ると、マナーモードのままだった携帯の着信やメールが十数件あり急いで確認するとこう書いてあった。

 

 

 

 

 

「葵お姉ちゃんが産気づいたから急いで戻って来て!」、と。

 




あとがきと設定解説


・【卑劣ニキ】

山梨から来ていた転生者。某忍者漫画の有名なキャラにそっくり。
秘密が多く、口調もかなりぞんざい。
データは非公開。

・【悪霊マカーブル】

レベルは18。耐性は、破魔弱点、呪殺無効。
スキルは、ムドオン、ベノンザッパー。

・【凶鳥カマソッソ】

レベルは31。耐性は、物理耐性、銃反射、電撃弱点。
スキルは、ヒートウェイブ、残影、生命の泉。

・【英傑ジャンヌ・ダルク】

研究所からの技術を見た開発部がヴィクトルやDr.スリルを巻き込んで勢いで技術の粋をブチ込んでやった結果、偶然に生まれた造魔英傑。
データ取り後、メシア教関係で引き取り手がいなかったので鶴の一声で主人公に渡された。
耐性は、火炎弱点、氷結耐性、電撃耐性(装備)、破魔無効、呪殺無効。
スキルは、天罰、メディラマ、静寂の祈り、サマリカーム、回復ハイブースタ、火炎反射。

・大根

山梨で栽培の試作が始まっていた【カエレルダイコン】。


次回は、生まれた子供とその後の話。

もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第二十五話 Q、自分の大切にしたいものが増えていくのはどうですか?

続きです。

今回は、子どもが出来たこととジャネットのお話。

時間も進めつつ終わりに向けて進んでいきます。


  第二十五話 Q、自分の大切にしたいものが増えていくのはどうですか?

 

 

 前からの癖で着メロが苦手なのでマナーモードにしていた携帯のとんでもない知らせに、慌てて入院先の総合病院に電話でタクシーを呼んで向かう。本当はこのまま走っていけば一番早く着くのだが、もう朝方なので人目があるのでそれは出来ないだろう。 

 そわそわとタクシーを待ちながら、ふと隣を見てジャネットがそのまま立っているのに気づく。大型のトランクを持ち、自分が寝ている間に着替えたのだろう普通のブラウスとパンツルックである。こちらをキョトンと見返すので聞いてみる。

 

 

「ジャネット、そのまま付いてくる気かな? 妻の葵が出産しそうなんだが」

 

「はい。私の最上位使命は、マスターの守護です。

 今回のホテルのように、いつ巻き込まれるか判りませんので随行します。

 奥様が大変なようなので、室外にてお待ちします」

 

「わかった。だけど、一旦はロビーで待機してくれ」

 

「わかりました」

 

 

 いつ巻き込まれるかと言われると今回のこともあるので断りきれないが、この後にその辺のことも話し合おうと決める。

 30分程経ち、タクシーが来たので乗車し向かう。

 途中、今向かっているとメールをすると、雫から「今、分娩室にいるから早く!」と返信がある。携帯の時計に見入りながら、到着を待つ。

 そして到着した途端、ジャネットがタクシーのトランクから荷物を出すのを待たずに5千円札を渡して釣りはいらないと言い早歩きで移動する。

 遅れて彼女が来てロビーで待ちますという声も聞かずに、病室に行くと忍さんと雫がいた。

 こっちに気が付き、話しかけてくる二人。

 

 

「遅~い。何をやっていたの? 連絡が付かなかったんだけど」

 

「母の見合い会場で事件に巻き込まれてね。

 ほら、昨日の離島のリゾートホテルでの騒ぎのやつ」

 

「取り敢えず、こういうものは時間がかかるから座って待ちましょう」

 

「忍さん、恭也さんはどちらに?」

 

「居てもどうしようもないから、生まれたら知らせると言って仕事に行かせたわ。

 向こうでトラブルになっていなければいいけど」

 

 

 後で聞いた話だが、トラブルは起こしていなかったがロボットのように無言で集中して動き回るので気味が悪かったらしい。

 そしてジャネットを紹介し、昼食を食べ、夕方に恭也さんが到着してすっかり暗くなった頃に、看護師から生まれたと聞き静かに病室に入っていった。

 そこには、元気そうな葵と二人の子どもたちが眠っていた。

 こちらを見て上体を起こし穏やかに微笑む葵を見て、近づいてそっと抱きしめ自然とポロポロと涙を流しながら語りかける。

 自分は気づいていなかったが、この時に他の人達は外に出ていたらしい。

 

 

「ありがとう。何を言っていいか分からないけど、ありがとう。

 手に入れられなかったものがここにあるんだよ」

 

「お帰りなさい、あなた。

 祭神様も見ていてくださるから、この子たちは元気だから」

 

「名前はもう決めたのかい?」

 

「女の子の2卵生双生児だそうだから、お母さんや雫と相談して決めてあるの。

 【凛】と【桜】よ」

 

 

 葵がそう言うと二人の子が目を覚まし、目も開けきっていないのにじっとこちらを見てくるのが分かる。二人の手を握って「初めまして、お父さんだよ」と言うと、キャッキャと喜ぶ不思議な光景を目にした。

 そうしている内にしばらくは入院するので安静にと看護師に出され、外に出て夕食がてら月城家の家族と話をすることになった。

 ホテルでの事件では心配され、山梨から特別に派遣されたジャネットの事や今後のことなどを話し合った。

 ジャネットは結局、月城邸の母屋に自立のため一人暮らしを始めた白乃ちゃんが住んでいた一室を借り、表向きはうちの人材派遣で働く留学生ということになった。

 最初はジャネットに敵対心を向けていた文香さんも、後日、かなり元気なので早めに退院して戻ってきた葵と雫の4人で何やら話し合いの末、自分には内容は教えてはくれないが仲良く過ごすようになっていった。

 なお、葵のことを自分から連絡するのを忘れていたため、花蓮と母さんにはしこたま激怒されてしまったことも付け加えておく。

 

 

 

 それから数日後、自分は絵の部分が灰色になったユキジョロウのカードのため研究所を訪れていた。アブゾーバーの付属の説明書には本当に数ページの使用法と付属のカードの説明しか書いていないので、直接、尋ねることにしたのである。

 入り口の来客用ソファで、ジャネットと二人で座っていた。

 最初は一人で来るつもりだったが、ちょうどいいから運んでくれるようにと軽い気持ちで引き受けた田中さんに渡された今月の追加発注分の荷物が重くジャネットに手伝ってもらったのである。

 荷物を預けた作業服の社員も受付に座る森さんも、すまし顔のジャネットのことを警戒して見ている。

 しばらく待っていると、奥から円場博士が現れた。隣りにいるジャネットを興味深そうに見てから話し出した。

 

 

「おお、暫く振りだな。

 面白いものも連れてきて、何か用かの?」

 

「ユキジョロウに変わっている間に呪殺を受けてから、変われなくなってしまったので相談に来ました。

 こっちは自分と契約をしているシキガミのジャネットです」

 

「マスターの守護をしているジャネットです。

 皆様のことはいろいろと聞いています。よろしくお願いします」

 

「ハッハ、敵対する理由がないのだから天使じゃないならわしには関係ないな。

 どれ、見せてくれ」

 

 

 そう言われたので、ケースごと渡すと円場博士は検分を始める。

 そして、ふむふむとユキジョロウのカードを見ていて分かった様である。

 

 

「なるほど、変身時に破魔や呪殺で即死した場合の安全装置は入れておいたが、カードがこう変化するのは面白い。

 よいかの、そもそもこのアブゾーバーは『悪魔召喚プログラム入りのCOMP』を改造したものだ。だから、変身時はその悪魔を召喚しているのと同じ仕組みの訳だ。

 召喚時の悪魔は死亡すると、『DEAD』の状態異常でCOMPのストックに帰還する。

 元に戻すには蘇生させればよいのだが、普通に蘇生魔法を掛けても元には戻らんぞ。

 カードになるという特別な契約状態だからの、蘇生できるのはわしかお主らの盟主くらいじゃろう。

 それで、素材を使うから有料になるが戻すかね?」 

 

「もちろん。これでいいですか?」

 

 

 そう言うと、ポケットのホルダーからこの間のカマソッソを始めとしたカード化した悪魔をいくつか取り出す。以前、博士はこのカード化悪魔を高額で買い取ると言っていたので大丈夫だろう。

 満足そうに見た博士は幾枚か取り、ポケットから取り出した小型の香炉に木のような物を入れて火を付け出た煙にユキジョロウのカードをしばらく翳すと、元々の状態に戻り返してくれた。

 

 

「うむうむ、反魂香で戻したからもう平気じゃぞ。

 他のカードはマッカにでも替えていくかね? 次からはマッカでも支払いは可能だぞ」

 

「かさばるので替えてもらっていいですか?

 あと、値段はどれ位します?」

 

「一枚につき買い取りはこれくらいで、蘇生は特別割引でこれくらいだな」

 

 

 蘇生の値段を教えてもらって、運営のガチャ一回分なら安いなと考える。

 口に出ていたのか、今まで黙って様子を見ていたジャネットがこちらの服を引っ張り首を振っている。これは、自分もガチャに関して花蓮のことは言えないかもしれない。

 用件も終わったので、いつもの菓子折りを渡して研究所を後にする。

 その帰り道、ジャネットは真剣な顔で話し出す。

 

 

「マスターは彼らとの取り引きをどう考えているのですか?

 彼らは曲がりなりにも魔王ですのに」

 

「友好的な契約上のビジネス。自分が道化かもしれないことも含めてね。

 彼らは自分にアイテムを施す。自分は彼らに娯楽を提供する。それだけ」

 

「それだけですか?」

 

「だから、早く強くなりたいんだよ。守りたいものも増えたし。

 もちろん契約とは言え、変身先の彼女らも文香さんも君だってもう家族なんだからね」

 

「…はい!」

 

 

 少し気障な事を言ったのかもしれないが、機嫌が良かったのでよいと思う事にしよう。

 ただ、眠った先でご機嫌のユキジョロウたちと長時間話す夢を見たのは寝不足になったのは少し困ってしまった。

 

 

 

 それからは暫くの間、比較的に穏やかな時間が過ぎることになった。

 

 育児に関しては、この子たちは不思議と世にいう夜泣きなどの大変な事態も少なく、逆に余りにも泣く事が少ないので心配になるほどこんなに手がかからないのは珍しいと忍さんが驚いていたこともあった。

 

 しばらくぶりに連絡のあった赤城さんから大量の海外の絵本が届き、置き場所に困ることもあった。

 

 メシア教会のシスターギャビーからも知らせていないのに、子どもが生まれたことに対する祝辞と花が届いたのは驚いた。相変わらず、異界関連の仕事の依頼は他にやり手が居ないため自分が請けていたが、ジャネットの事もあり一段とネットリとした視線に晒されるのは正直言ってキツイ仕事になった。

 

 前に山梨から頼まれていたエジプト避難民の代表との交渉は、先の事件の影響もあり避難場所が別の地域の離島になったため、子供のこともあるからと交渉役は別の人が代わることになった。

 

 夏も過ぎ晩秋になる頃には、神戸や関西の空港に霊的感知結界を置くことや航空交通管制に対霊機器の配備及び簡易の式神の設置することになり、自分たちも駆り出され警備や外出される根願寺の方を優しく連れ戻す任務をこなしていた。

 

 そして冬になり、母も再婚して関本さんの関西の家に移り住むようになる頃にそれは始まった。 

 

 

 

 その日は、掲示板で賑わっていた地方セクターに配備され始めていた【アガシオン】と【管狐】の正式販売が始まり、花蓮とクーフーリン、自分とジャネットの4人で山梨に泊りがけで出かけた帰りの日だった。

 向かいの席にいる貯めていたマッカでクーフーリンの肉体のアップデートも終わり残るはスキルカードのみと楽しそうに笑う花蓮と、渡された新しいイギリスの留学生扱いのパスポート書類と花蓮を見ながら複雑な顔をしているクーフーリンから視線を外し、機嫌良さそうにしているジャネットと話す。

 

 

「マスターも本当に家族思いですねぇ。

 購入条件を満たしたからと言って、早々にアガシオンと管狐の購入申込みをしているのですから。

 もっとも、管狐の方はあの文香を貰っているから購入できなかったというのは笑っちゃいますね」

 

「指輪型のアガシオンは、葵と雫の警護用にね。

 自分の一部も入れて調整も受けているから強いといいんだけど。

 名前も葵のが【ルビー】で、雫のは【サファイア】にしたよ。

 花蓮も自分で買っていたっけ。確か名前も合わせて、【エメラルド】だったかな?」

 

「そのはずですよ。

 帰ってから文香に言い返すいいネタが出来ました。

 『あなたはガイア連合からは管狐と同じような認識だぞ』って、ウフフ」

 

「いや、やるなとは言わないけどマウントの取り合いは程々にね。

 あくまでも、同じ家に住む家族なんだから」

 

 

 そう言うとジロッとこちらを睨み、顔を近づけて不機嫌そうに言うジャネット。

 何か地雷を踏んだらしい。

 

 

「いいですか? 

 我々悪魔にとって契約は守るべきルールであり契約者のマスターは別ですが、同じモノ同士なら人と同じ様に序列も生まれます。

 私はマスターに付き従い戦場でもどこでも伴にあるようにと契約し、ここにいます。

 それを文車妖妃の文香は同じ契約した者同士でも、自分が前任で夜の寝室へも呼ばれているので序列が上だと認識しているのです。

 シキガミの私だって序列は同格のはずです。もう半年以上も付き従って伴にあるのにどうして夜に呼ばれないのですか?」

 

「自分は結婚もして愛している妻も子どももいるし、もう一人の雫もいるんだよ?

 文香さんのあの行為は、読書で長時間出ているためのマグネタイトの補給目的でしょう?」

 

「上位の悪魔である祭神さまの強力な庇護下にある葵さんと雫さんは別格です。

 既に『一族の少ない我が家では相談した上で彼が受け入れるなら構わない』と言質はお二人から文香共々頂いています。

 それに、文香だって女ですよ。楽しむための建前でもあるのに決まっているじゃないですか」

 

「契約と言うなら、そもそもジャネットは『聖処女』の概念もあるからそういうことは出来ないと思うんだが?」

 

 

 何かに呆れたように、ため息を付いて首を振るジャネットがこちらを指さして話し出す。

 

 

「そんな物、マスターが名付けてくれた時に消えました。

 『名付け』とは、我々にとってそうであれと変質し縛ることです。

 今の私は、ジャンヌ・ダルクではなくマスターの貴方だけのシキガミ【ジャネット】です。

 文香だって、もうただの文車妖妃でなく貴方だけの悪魔の【文香】なのです。

 それと、マスターはもう我々コミュニティーのリーダーです。

 【終末】はそこまで来ています。忘れないで下さい」

 

 

 そう言うと彼女は髪を揺らし、目的地に着いた電車を花蓮たちと降りてゆく。

 家族、ファミリー、コミュニティー。

 葵と雫も、祭神様を通して危機感を感じ生き残るために動いているようだ。

 自分も失いたくないなら、とにかく行動するしかないだろう。

 まず、降り遅れないように電車から降りないと。

 

 

 

 

 

 そして、神戸に着いてNPOライフムーンの所長からこう知らされることになった。

 仕事中に立花白乃ちゃんが姿を消した、と。




あとがきと設定解説


・赤城さんからの大量の海外の絵本

主人公が少女の作品のみでレパートリーが無駄に多いのが特徴。

・ジャネットの考える現在の序列

マスター≧葵と子ども=雫>>私≒文香>カードの子たち
※上位の別枠で祭神のカヤノヒメ。なお、死後の魂は…


ハーレム展開は好きな方だけど、女性側にも出来るだけ納得できる理由がある方がいいのでは?

次回は、次の事件への続く話。

もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第二十六話 Q、何かをする時にちゃんと物事の区別は出来ていますか?

コロナで忙しいですが、続きです。

今回は、事件の導入編の回。

一部に不愉快な描写があるのでご注意ください。


  第二十六話 Q、何かをする時にちゃんと物事の区別は出来ていますか?

 

 

 自分がその一報を聞いたのは、神戸に戻り早々に母屋に帰る花蓮たちと別れ、自宅で寝ている凛と桜の顔を見てから葵や雫にお土産を渡しながら文香さんやジャネットも交えて話している時だった。

 

 

「取り敢えず、葵と雫には身を守るための指輪を渡しておくよ。

 これには、アガシオンと呼ばれている神戸セクターにある壺の中の精霊のような使い魔が入っているんだ。

 このルビーの宝石が有る方の方が葵ので、サファイアの方が雫のだよ。

 使い魔の名前も宝石と同じだから呼べば出てくるからね」

 

「綺麗。こんな貴重なものを頂けるなんて」

 

「ふわぁ~、あたしには大人すぎるんじゃないかなぁ」

 

 

 そう言うと、指輪ケースに入ったそれらを彼女たちに渡す。

 薬指の指輪を結婚指輪と付け直し頬を染めながらうっとりと微笑む葵、同じく薬指にはめてニコニコしながら早速呼び出して白いぬいぐるみのようなそれを抱きかかえている雫、二人とも喜んでくれたようで何よりである。

 その隣で早速、管狐のくだりを話して言い合いをジャネットとしている文香さんに話しかける。

 

 

「文香さんへのお土産の本は、また宅急便で届くから受け取っておいて。

 それから、自分は管狐と同じとか思っていないからね。

 ジャネットも言い過ぎないように」

 

「……ジャネットがそう言っているだけなのは解っています。

 喧嘩をしている訳ではありませんし、気にしていませんよ。

 ……それでは、この間手に入れた狐耳と尻尾の作り物を付けて夜にお見せしますね」

 

「どっからそんな知識をって、文香のことだから本からですよね。

 おまけに、マスターに無断でそんなものまで手に入れて」

 

「……大丈夫です。3人分揃えてありますのでバッチリです」

 

「私の分は無しですか」

 

 

 真っ赤になっている葵とニコニコしている雫、得意げな文香さんに悔しそうなジャネット。

 その狐耳尻尾と奥の壁に掛けられた高校の男性用学生服は気になるが、皆に尋ねないといけない事を思い出し話題を変える。

 

 

「なあ、葵に雫。文香さんはなし崩しだったけど、ジャネットまで夜に呼んでいいと聞いたんだけどどうしてだい?

 文香さんだけでも申し訳がないのに」

 

「あなた、今の月城家で覚醒した人の数は、親戚筋を切ったためうちにいるだけなんですよ。

 人の数は力です。

 今の時代には妾や愛人とかはおかしいかも知れませんが、この家を守るためには少しでも多くの高い力を持った家族が居ないと"また奪われる”かもしれないんです。

 わたしはこれ以上、家族が居なくなるのは嫌なんです」

 

「そうだよ。カズマさん。

 あたしも再来年の春に卒業したら、資格の勉強しながら子どもを産むつもりだし。

 確かに今の世の中的には変かもしれないけど、祭神さまも言っているの。

 『備えよ。増えよ』って」

 

「マスター、お願いですから一人だけ外に置かないで下さい。

 私は、マスターと伴にあるだけが全てなのですから」

 

「……私もジャネットが加わるのに反対はしません。

 それはそれとして、契約したモノとしては私が一番古参ですけど」

 

「分かった。ジャネットは信頼してるし、除け者にはしないから安心して。

 でも、世間体だってあるんだから程々にね」

 

 

 ニコニコしているジャネットに比べ、今の言葉を聞いて苦笑いのような微妙な笑みで、ちょうどかかって来た電話に合わせて用事を思い出したという風にこの場を後にする三人。

 これは、近所で自分がどんな風に言われているのか知るのが怖くなる。

 そこへ、電話に出ていた雫が聞いてきた。

 

 

「カズマさん。

 所長さんからで、白乃ちゃんがお昼を食べに行ったまま帰って来ていないらしいんだけど何か知らない?

 自宅にも居ないみたいで、こっちにも来ていないの」

 

「いや、何も。忍さんたちに連絡は? 警察に知らせた?」

 

「警察にはまだだけど、お母さんたちはまだ仕事中だよね?」

 

「こっちの携帯で掛けるから待ってて」

 

「うん。所長さん、明日も連絡が取れないなら警察に届けるからって」

 

 

 携帯を取り、神戸セクターに電話をする。 

 ちょうど、忍さんが出てくれた。

 

 

「はい、こちらはガイア人材派遣神戸支社です。

 ご要件は何でしょうか?」

 

「あ、忍さん。カズマです。先ほど、山梨から戻りました。

 白乃ちゃんがいなくなったらしいんですが何か知っていますか?」

 

「いえ、こちらには何も。

 何もなければいいのだけど、夫にも知らせてすぐ帰りますね」

 

 

 その日は心当たりの場所を手分けして探しても見つからず、翌日の夕方には警察に捜索願が出され結果を待つことになった。

 それからの数日は、近隣の異界攻略や心霊依頼の解決、後続の転生者たちの育成の付き添いなどをこなし、いつものように過ごすことになった。

 

 

 

 事態が動いたのが、それから五日後のことだった。

 

 白乃ちゃんは姓こそ立花だが戸籍上はうちの養子になっているため、警察から連絡があり恭也さんと忍さんが出向いた事が始めだった。

 

 コインパーキングの監視カメラが彼女の姿を捉えており、事務所から大通りへの近道だった路地を通っている途中に私服になっていた彼女がアジア人らしい男性グループの黒のワンボックスカーに連れ込まれて拐われる様子が写っていたそうである。

 その上、事情を尋ねに警察が立花家の実家を訪れたところ、近所の人から数日前に家族揃って車で出かけてから見ていないという事まで知らされたそうだ。

 昨今は地方でも死亡者や行方不明が多発しているので、県警でも本腰を入れて捜査を始めるので何かあれば連絡してくれと言われて戻ってきたと二人から聞かされた。

 

 問題なのは、それを聞いて山梨の占術のかなりの使い手に探してもらった所、誰かに妨害をされて弾かれたということだった。ただ、現在は山梨の方も自衛隊のゴトウ氏の退魔部隊との折衝中なので手が離せないという事だった。

 この間のような明らかに自分の手に負えない悪魔事件ならともかく、こういった悪魔絡みらしいトラブルのような今の状態では個人で出来るだけ何とかするしかないだろう。

 戦闘能力ならともかく事件調査など自分にも出来る力も宛もないので、神戸や近隣のガイア連合セクターに自腹で報酬を用意して捜索依頼として出すことにした。

 そして、依頼を出してから1時間と立たずに情報が来たのである。

 

 

 

 情報を知らせてくれたのは、ここのセクターに登録し仕事をしている3人組だった。

 以前の事件で自分が助けたメシア教のシスターたちであり他の連合員メンバーは距離を置いているが、全員レベル5以上ありハマとディアとジオを使いこなすため、真面目な上に胸の大きい金髪美女揃いと何も知らない一般の依頼者には現地民のチームでは高い評価のチームである。

 この依頼票を張り出してすぐに彼女たちが知らせたいことがあると言ってきたので、ジャネットと共に個室で話を聞くことにした。

 流石にシスター服でなく動きやすい格好ではあるようだが、改めて見ても3人とも姉妹ではないらしいがよく似た顔立ちである。背の高さや肉付きまで似ているため自分は髪型で基本的に判別しているが、肩までの長さの子がマリー、腰までの長さでリボンで纏めている子がメアリ、ショートでやや童顔の子がモイラである。

 リーダーらしいマリーから話し出した。

 

 

「カズマさん、話を聞いてくださってありがとうございます。

 他の方には距離を取られているので、いつも仕事の際にもお付き合いして頂いているのは感謝しているんですよ。ね、メアリ?」

 

「だから、今回のこともすぐにお知らせしようと思ったんです。ね、モイラ?」

 

「そうですよ。シスターギャビーより私たちの方が役に立つと証明したいんです。

 だから、ほらマリー、早く」

 

「すまないけど、早くしてくれないかな? 身内が拐われているんだ」

 

 

 そういうと慌ててマリーはバッグを取り出し、中から折りたたんだメモを出してきた。

 それからメモの方を見て読み上げ始めた。

 

 

「『閉館した兵庫県A市の国際会館に出入りする人物あり。調査せよ』。

 大阪と神戸の間にある高級住宅街の山手に、数年前に閉鎖したアメリカの事業家が資金を出して作った国際会館があるんです。

 最近、そこに出入りする人がいるらしくてわたし達に上から調査に行くように言われていたんですが、そこに出入りしている車の種類がこの依頼票のと似ているんです。

 そうよね、メアリ?」

 

「はい。ナンバーまでは判りませんが、車の種類が特徴的ですので警察もすぐに所有者を割り出すと思います。

 ですが、この間のリゾートホテルの件で面子を潰されたと考えた関西方面の司教がシスターギャビーに早期の解決を言ったらしくて。ね、モイラ?」

 

「そうなんです。シスターギャビーとは折り合いの悪い人らしくてあげつらうように言われたとカリカリしてて。

 その調査の手助けに来て欲しいと相談しながら来たら、これが張り出してあったんです」

 

「しかし、それは機密に当たるんじゃないのかい? 話して良かったのかな?」

 

「3人だけで行って、また捕まってあんな事があったりするのは嫌です。

 それなら、あまり偏見の目で見ずに接してくれるカズマさんに頼ります」

 

 

 マリーはそう言うと、他の二人と少し赤い顔をして頷いている。

 それを見てジャネットが脇腹に肘をぶつけて来るが、出身が出身だから他の人たちとは孤立していて一般の依頼人も来ることがある仕事上の関係だからこそ、彼女たちとは普通に接していただけなんだがなぁ。

 ただ、この情報はかなり重要だし、人手も多い方がいいだろう。

 その建物は地上二階地下一階の木造で、約三百坪というから小学校の体育館と同じくらいと考えるとかなり大きい。

 時間を見ると、まだ夕方である。

 

 

「分かった。

 こっちの準備が整い次第すぐに出るから、準備しておいて。それじゃ」

 

「「「はい!」」」

 

 

 相手の人数がわからないのが痛いが、すぐに動けるメンバーで行くことにする。

 準備をするためにジャネットとも別れ個室を出て総当たりで連絡するが、動けるのは自分とジャネット、花蓮とクーフーリン、そしてあの三人だけだった。

 葵に今夜は仕事になるとメールを打ち、音無さんに詳細とこれから出ることを伝えて個室でいつものサバゲー装備一式を整え車庫に向かう。

 そこには、アームターミナルと鋼鉄の錫杖を持ちいつもの青いドレス鎧を着たジャネット、着慣れた呪殺無効の赤いコートを着て怒りに燃えている花蓮、新調したばかりの槍と革の防具を身につけたクーフーリン、霊装らしいシスター服に着替えこちらのメンバーの装備を見て驚いている彼女たちがいた。

 一番大きい大型のバンに乗り込みながら声をかける。

 

 

「花蓮、準備はいいか?」

 

「白乃を助けれるかもしれないのでしょう。すぐに行きましょう」

 

「クーフーリン」

 

「おう、問題なしだ。嬢ちゃ…「花蓮、ですわ」花蓮の嬢ちゃんは任せな」

 

「ジャネット」

 

「アイテム類も全て異常なし。何時でもいけます」

 

「マリーさん、案内を頼みます。メアリーさんとモイラさんもよろしく」

 

「はい、任されましたわ!」

 

 

 全員の返事を聞き、車を車庫から出し助手席に乗せたマリーさんの案内で目的の建物へと向かったのだった。

 

 

 

 神戸から車で移動すること数時間、案内に沿って高級住宅街を過ぎ湖の側を通り湖畔にある目的の建物の近くに来た。近くに車を止めて歩いていくと、施設に近づくための道路は近隣住民によって閉鎖されているようだがそのための障害物が倒されており、タイヤの溝が何本も残っているのが見えた。

 そこで女性陣にここで待つように言い、クーフーリンと数十メートル先にあるそこに忍び寄る。

 

 そこは教えられた通りの古い二階建ての木造建築であり、板が打ち付けてあった思わしき正面玄関の片側が剥がされており、奥の庭の方には黒の大型車が二台ありその側にアジア人男性が二人ほどたむろしておりバンの方を見ながら分からない言葉で話しているのが見える。

 クーフーリンとこいつらから話を聞いてみようと決める。

 

『ABSORB DEVIL』『FUSION GIRL』

 

 マーメイドに姿を変え、小脇に抱えてクーフーリンに近くの茂みまで運んでもらう。そして、片腕で胸を隠すようにし上半身だけ見せるように茂みから出し身をくねらせる。

 

 

「おにーさんたち、ちょっとお話し聞かせて。【セクシーダンス】」

 

 

 魅了が効いたのかふらふらと頬骨が特徴的なのが二人ともやって来た。自分も含めて男ってバカだなぁと思いつつ話しかけてみる。

 

 

「おにーさん、日本語分かる?」

 

「#$%&…分かる。お前、いくらだ?」

 

「値段は後で。あの車の中で何をしているの?」

 

「あの男から貰ったおこぼれの女で仲間と楽しんでる。お前も後で行く」

 

「その女の子って、栗色の長い髪の若い女の子?」

 

「違う。近くで捕まえた若い女。お前とも楽しむぞ」

 

「そ。もういいぞ、クーフーリン」

 

 

 茂みから飛び出したクーフーリンが、反応も出来ない男たちの頭を二つとも掴み地面に叩きつけ無力化する。そして、その男たちはそのままリピートバンドで拘束し茂みの奥に放置する。

 

 次は、車の中である。

 ユキジョロウに姿を変えて忍び寄ると、車の軋む音と男達の怒声、くぐもった女性の声が聞こえる。

 しつこく姿が見えない位置からノックすると、一人顔を出したので【ドルミナー】で眠らせる。そのままその男が崩れ落ちて地面に落ちたため、中にいた残り二人の男たちが驚いて出てきたが一人はクーフーリンが無力化し、もう一人の方は首を掴んで引きずり出した。

 中にいた女性はドルミナーで眠らし、男たちは拘束して部分的に凍らせながら尋ねるとこいつらは中東人の男に金で雇われたことが分かった。

 建物の中の様子を聞いても、非覚醒なのも相まって怖くて分からないとしか答えない。

 仕方ないので残りもドルミナーで眠らせ、バンドで拘束して全員同じ場所に置いてくることにした。

 

 姿を戻して戻ると、クーフーリンが呼びに行っていた女性陣が男たちから剥いだ衣服で体を拭き被害者の女性を手当していた。

 クーフーリンは視線を外すように建物の方を警戒している。

 こちらに戻ったのを見た花蓮たちが話しかけてきた。

 

 

「お兄様、これをしたクズどもはどこにいるのです?」

 

「そこの茂みの奥に刃物でも切れないバンドで両手足を拘束して置いてあるよ。

 あいつらは終わるまで放置するよ。

 それと、マリーさんたちはその女性を連れて自分たちのバンで待機していて」

 

「それではお役に立てません」

 

「いいかい、これは重要なことだからね。

 今の時刻は、もうすぐ22時だ。これから自分たちが建物に入って夜が明けても出てこなかったら、神戸セクターに応援を呼んでくれ。頼んだよ」

 

 

 自分と被害者の女性を見比べ逡巡していた彼女たちは、結局その女性を運んで車の方に戻って行った。残ったいつものメンバーが寄って来る。

 

 

「マスター、彼女たちはあのままでよろしいんですか?」

 

「ああ。やっぱり手の内はできるだけ見せたくないし、彼女たちは3人揃っていないと実力が落ちるのが心配だ。

 あの男たちも『中東人の男に雇われた』と言っていたからな」

 

「確かに治療と攻撃魔法も使えますけど、単独だと不安ですわね。

 それにしても、また中東人の男ですか?」

 

「前の実力と厄介さを考えると、この4人だけの方がまだやり易いんだ。

 じゃあ、行こうか」

 

 

 それに答えて、準備をし行動し始める三人。

 自分も安価な不味いMP回復ドリンクを飲んで入り口に向かって行った。

 




あとがきと設定解説


・アメリカの事業家が資金を出して作った国際会館

実際にあったが既に取り壊されて無くなったいわくつきの廃墟がモデルです。
現実では、閉鎖後に買い取られましたがこちらではそのまま閉鎖されています。


次回は、建物に侵入してからの話。

もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第二十七話 Q、顧みられなかった者の気持ちは分かると思いますか?

続きです。

今回は、伏線になったいたある男の話。

伏線にちゃんと出来ていたかな?


  第二十七話 Q、顧みられなかった者の気持ちは分かると思いますか?

 

 

「マスター、来ます」

 

 

 鉄杖を構えたジャネットが警告する。

 花蓮、クーフーリンといつもの陣形になり振り返ると、先ほど拘束していたはずの男たちがグルグルと唸りながら茂みから出てきた。

 その姿は、皮膚の色が緑色に変わり、全身の筋肉が一回り膨れてボロボロになったズボン以外身につけていない。瞳が赤くなった目で、舐めるようにジャネットと花蓮を見ている。

 城跡に出来た異界で木乃伊と死体を悪魔に変えた中東人の男が持っていた黒い本と、ホテルの地下の異界で魔法陣の中心にいた中東人の男を悪魔に変えた黒い本の事を思い出す。

 

「嫌な予感が当たったよ。

 ここ最近の事あったからなぁ。

 【中東人の男】が雇っていたとか、ただの非覚醒者なワケがないよな!ジャネット!」

 

「アナライズ。レベル10、【外道フーリガン】? 耐性は氷結と衝撃が弱点です!」

 

 

 五体のフーリガンは、かぎ爪の付いた両手を構え牙の生えた口からよだれを垂らし襲いかかってきた。

 鏡を見て姿を変え、左横から回り込もうとした二体の前に立って迎え撃つ。

 何かの毒液らしい液体を滴らせた爪で殴るも反射され、手傷を負う二体。

 右側で「くっ」と声がする。横目に見ると、槍の長さをうまく使い近寄らせないクーフーリンの向こうで、一体と相対していたジャネットが怪我を負い動きが鈍り膝をつく。

 後ろで霊木バットの【ミスターマイケル】を構えていた花蓮が走り寄って叫ぶ。

 

 

「ジャネット! 【ディアムリタ】」

 

「すみません、花蓮。このぉっ!」

 

「良い判断だぜ、嬢ちゃん!【突撃】!」

 

「皆、頭を下げて!『FUSION GIRL』ユキジョロウ、【マハブフーラ】」

 

 

 弱点の全体氷結魔法がフーリガン達を襲い、自分の側の二体が凍りつきクーフーリンが手傷を負わした一体が倒れる。動きの鈍った相手を屈んでいたジャネットは、下から鉄杖の先を間抜けに開けていた口の中に突っ込むと引っ掛けるように地面に叩きつけると、鉄の防具の付いた足で頭を蹴り飛ばして黙らせた。

 クーフーリンの前にいたもう一体は、大きく払った槍に邪魔をされ近づけない。

 花蓮がそのフーリガンにこの一年で成長し覚えた【ブフーラ】を撃ちジャネットとクーフーリンの攻撃が沈め、残りの凍結していた二体にもそのままタコ殴りにして倒すことに成功した。

 

 ユキジョロウのまま、マグネタイトになり消えていくフーリガン達を見つつ考える。

 こいつらは何時から、ただの人間から悪魔になっていた?

 やはり、どこかおかしかった。魅了を受けた時も普通に受け答えをしていたし、魔法で眠らした時も普通に寝ているだけだった。しかし、話していた時の内容はただの覚醒していないチンピラに過ぎなかった。

 もしかして、術の使い方が上手くなった? 何か特別なものを手に入れた?

 ホテルの事件の時の記録は卑劣ニキや自分たちが報告書を上げたが、魔法陣や黒い本を含めて詳細は不明のままで分からないままだ。

 考えても分からないが、嫌な予感は続いている。

 こちらを見ていた花蓮たちに話しかける。

 

 

「花蓮、音無さんと赤羽根さんにメールを打っておいて。

 『前と同じ術を持つかもしれない中東人の男がいるらしい。念のため、後詰めの用意を』、って」

 

「後詰めって何です? 缶詰?」

 

「増援のことですよ、花蓮さん」

 

「わ、分かりましたわよ。そ、それで、シスターたちはどうしますの?」

 

「現状維持。今のままだと足手まといになるし」

 

 

 花蓮にメールを頼み、姿をドッペルゲンガーに戻し気分を落ち着ける。

 アブゾーバーを一年以上使い続けているが、最近、少女悪魔の姿になっていると気分が高揚して好戦的になってきている上に、変わっている間は嗜好が引っ張られている気もする。

 その上、長時間使用して帰った後は反動からか女性を激しく求める衝動が出るようになっており、相手に文香さんやジャネットがいるか多人数でないと治まらない事があるのも含めて問題である。

 一度、円場博士やショタオジに聞いてみたが悪魔変身能力そのものが希少すぎてデータが無いので解らないと返答された。だがかと言って、これが無いと攻撃力がガタ落ちするため使わないという選択肢も早々に選べないだろう。

 今は解決が先だと考え、入り口に向かう。

 

 

「じゃあ、行こうか。多分、もう来ていることはバレているから気をつけて行こう」

 

「そんじゃ、俺と白の嬢ちゃんが前で、旦那が最後尾だな。それでいいかい?」

 

「ああ。花蓮は術で援護してくれ。ジャネット、アームターミナルは任せる」

 

「分かりましたわ」

 

「了解です」

 

 

 今度こそ、落ち着いて入り口をくぐる。中は荒れ果てた木造の廃墟のはずが、古い木造の校舎のようになっていた。道は廊下になっており、左が窓で右側が教室になって真っ直ぐ続いている。廊下の窓の先の風景は、見たことのない夜の森であり空に赤い満月が光っている。

 通り過ぎるたびに教室の中から話し声がするが、窓は磨りガラスになっており開けても声が止み誰もいないか引き戸は開かないのでそのまま進むしかなかった。

 

 

 

 エネミーソナーにも反応が無いまま30分くらい歩いただろうか、それは突然にエネミーソナーと百太郎が激しく反応し起こった。

 今までハニービーではマップに表示の無かった開かない扉が勢いよく開けられ、大量の悪魔の群れが廊下を埋め尽くす勢いで突進してきたのである。

 

 姿もとんでもない物が多く、ラバーマスクで顔を覆った下着だけの男や全身をラバー系のマスクと服で締め上げた男、赤い革製のボディコンを着込んだ男達の群れに紫色の肌の見慣れた【幽鬼ガキ】が混じっているという相手にしたくない群れだった。

 引きつった表情のジャネットに導かれ、誰もいない空き教室に逃げ込む一同。そして、後ろの扉を花蓮とクーフーリンが立ち、教壇のある方に自分とジャネットが立って塞ぎ防戦することになった。

 

 

「くっ、ジャネット、こいつらはなんだか分かるか? うおっ、肌がおかしいからゾンビか?」

 

「直視したくないんですけど、アナライズ。革マスク全裸男がレベル1の【屍鬼フェイスバインド】で、全身ボンテージ男がレベル11の【屍鬼パドロック】、女装男がレベル4の【屍鬼ドラッグクイーン】です。呪殺無効は分かるけど火炎耐性がある屍鬼って何なのっ?」

 

「花蓮、聞こえたか? 一番レベルが高いパドロックに【ハマ】を、ジャネットは【天罰】を順次掛けてくれ。

 うおっ、クーフーリン、そっちは任せた!」

 

「おうさ、おらよ【ヒートウェイブ】!」

 

 

 狭い入り口で数を限定して戦えたのが功を奏して、パドロックが麻痺魔法と【アギ】を使い、ドラッグクイーンが【ブフ】を使うのと見た目のため苦戦したが、地力で勝っていたためMP回復アイテムをほとんど使い切って一時間近くかかってようやく全て倒し終えることが出来たのだった。 

 周囲に散らばった魔石やマッカを拾う余裕もなく、座り込む花蓮と自分。シキガミの二人は息こそ乱れているが、外の警戒を続けている。

 

 

「はあはあはあ、姿を変える暇もなかったぞ。花蓮、無事かぁ?」

 

「体力はギリギリですけど、大丈夫ですわ。MPドリンク、頂けます?」

 

「ほら、これだよ。

 ドロップの飴状にするのを惜しんで砂糖も抜いて瓶詰めしただけの【チャクラドリンク】とか、誰が考えたのやら」

 

「あー、不味いですわね。安いのは確かに助かりますわ。

 効果がランダムな【マッスルドリンコ】はもう飲みたくありませんし」

 

「【HAPPY】になった花蓮と麻痺して動けなくなった自分とか、ジャネットがいなかったら社会的と尊厳的にやばかったなぁ。

 安全な場所での試飲だからと油断していたよ」

 

「思い出させないでくださいます、お兄様! 黒歴史ですわ、黒歴史」

 

「元気は出たようですね、マスター、花蓮。

 おや、今のでレベルアップしていますね。

 花蓮が18で、マスターは30を超えましたね。

 色々と拾い終わりましたし、敵も途切れたようなので進みましょう」

 

 

 苦笑いを浮かべて立ち上がり先程と同じ並び方で通路を進む自分たちだが、右側の教室が途切れ上に続く階段が現れた。

 登り出した他の皆に遅れずに踏み出そうとした途端、足元の床が無くなりジャネットの「マスター!?」という声を最後に下の方へと落ちていった。

 

 

 

 体感で数階分だろうか落下し、足に少し怪我を負ったが着地する。 

 振り向く間もなく後ろから銃声がしたが「ガッ」という悲鳴が聞こえたので振り返ると、そこには高級そうなスーツを着込んだ若い男が立っていた。右手にリボルバーを持ち、さっきの反射した銃弾で怪我を負ったのか肩の所が赤く滲んでいる。

 かなり大きい広間の端に立ったその男はこちらを睨みながら、銃を突きつけ吐き捨てるように話し出す。

 

 

「銃弾を反射するなんて馬鹿げた力を持っているようだな、馬の骨。

 殴られたら跳ね返すのは知っていたが、どうせ何かの呪具でも持っているんだろう?

 おもちゃの銃を打ち合うような格好の上に、馬鹿なデザインの玩具を左腕に付けているときた。

 凡俗の出のくせに、俺が妻にすべき葵や義妹になる雫にも関係を持っているとは許しがたいにも程がある。

 さあ、這いつくばって命乞いでもするがいい!」

 

「……?? 誰だ、あんたは?」

 

「この神戸を守る霊能組織やすつきの筆頭分家の当主、立花時忠だ!

 顔も知らないとはどういうことだ、無礼だろう!?」

 

 

 名前を聞いて、この怒りに顔を赤くしている男について思い出す。

 結婚前にさんざん嫌がらせをした上に月城家自体から絶縁されて、うちに来た依頼を勝手に引き受け失敗し大怪我してからは何もして来なくなったので忘れていた。

 右腕をグルグルと回し、肩を叩きながら呆れるように話しかけた。

 

 

「『筆頭分家』ってもう組織のやすつきはガイア連合に吸収されたし、忍さんたちから法的にも絶縁食らっているのに何を言っているんだ、お前は。そもそも会ったこともないだろう?」

 

「結納の時に家族総出で参加しようとしたら、警備員に警察を呼ばして排除したのは貴様だろう!

 その後に家の若いのが連れ立って説得に行った時も、話しも聞かずに警察に持ち帰らせたのは無礼だろうが! 

 そもそも、お前の方から頭を下げに来るべきだろう!

 しかも、俺が警察を辞めさせられて怪我の治療と再就職で苦労している間に、子供まで産ませたなどと死んで詫びろ!」

 

「そんなことはどうでもいいから、白乃ちゃんはどうしたんだ?

 確か、お前の実の妹だろう?」

 

「人の話を聞かない無礼なやつだな、お前は!

 そんなにあの出来損ないが大事なのか? 好色家め!

 我々に素晴らしい力を捧げた外国人の男にくれてやったぞ。残念だったな!」

 

「それだけ聞ければ充分だ」

 

 

 そう言って殴り掛かるために走り寄るが、男はニヤリと笑うと距離を離し【ドルミナー】を唱えてくる。強い眠気に襲われ前のめりに倒れそうになるが、とっさに変身を解除し倒れるのを回避する。

 また、怒りに震え今度はもう一度銃を撃ってくる。今は変身していないため避けようとするが避けきれず、脇にかすめて怪我を負わされてしまった。

 それを見ていた男は何かに気づいたように笑い出した。

 

 

「わかったぞ。お前、今、眠らされるのを防ぐために呪具か何か入れ替えたな?

 さては、攻撃を跳ね返すのと防ぐのは同時に出来ないんだろう?

 はははは、種さえ分かればお前を殺してすべて奪うのも簡単だな!」

 

「ちっ」

 

 

 そう叫ぶと、男は距離を開けながら銃を撃ち続けてくる。レベルはこちらが上なのだろうが、素早さは向こうがかなり上のようで弾を補充するときでも追いつけない。

 プライドが高いだけの抜けたやつなのに、何でこういう事にだけは鋭いんだ。

 確かに、素の状態でいれば【精神異常無効】のスキルで眠らされることはないが攻撃は受けてしまう。逆に、ドッペルゲンガーになれば銃は効かないが眠らされてしまう危険がある。

 そしてドッペルゲンガーの変身解除は一瞬だが、変わるには立ち止まって一手、必要になる。

 それならと使うのに少し躊躇いがあるが、アブゾーバーで姿を変えて魔法を放つ。

 

 

「『FUSION GIRL』ナジャ、いくぞ、【ガルダイン】!」

 

「何だそれはぁ、がああっ」

 

 

 少女の姿に変わったのは意外だったのかまともに衝撃魔法を喰らい、吹き飛ぶ男。 

 この隙に、MPの回復アイテムがもう少ないので魔石で体力を回復する。

 単体衝撃魔法で一番強い魔法を喰らったせいか、男はボロボロになりながらも立ち上がって喚き始めた。

 

 

「何なんだ、なんなんだそれはぁ、子どもの女悪魔に姿を変えて魔法を放つなんて聞いていないぞぉ!

 顔も上気させやがって、この変態野郎めぇ!」

 

「うるさい、もう一度か二度喰らったら死ぬぞ。

 死にたくなかったら、その外国人の男のところまで案内しろ」

 

「ちぃっ!これでも喰らえ!」

 

 

 口うるさく罵っていた男は舌打ちすると、懐から石を取り出し投げつけてきた。

 すると、石が砕け広範囲に電撃が広がり喰らってしまって麻痺状態になってしまった。

 動けなくなった自分を見てその男は、奥の壁のところに行くと喚きながら叩き始めた。

 

 

「おい、ここを開けろ!

 オレは選ばれたエリートなんだぞ、助けるのは当然だろう!

 あの出来損ないをくれてやったんだぞ! 早くしろ!」

 

「じゃあ、死になさいよ。【爆砕拳】」

 

「あえ?」

 

 

 壁が両開きの扉に変わり、その扉を粉々に吹き飛ばす勢いで突き出された剣が男を貫き細切れの肉片へと変えてしまった。

 

 

 

 

 

 視界が開けるとそこにいたのは、裸身の白乃ちゃんであった。

 しかし、肌は青白くなり自慢だと言っていた栗色の長髪は金髪に変わって体の要所を隠し、右手に剣を持ち金の冠を付け両腕に金の腕輪をしている姿だった。

 向こう側の部屋には魔法陣があり、中央には内側が輝いている二つに割れた岩が転がっていた。

 男が変わった肉片を何度も何度も踏みにじり、こちらを向いて赤い瞳の目の光が消えた笑顔で話しかけてきた。

 

 

「ねぇ、お嬢ちゃん。カズマさんの声が聞こえた気がしたんだけど、どこにいるの?

 たくさん、話したいことがあるんだ。

 歯牙にも掛けられなかったわたしが、生まれ変わった姿を見て欲しいの。

 ねぇ、ど・こ・に・い・る・の・か・な?」

 




あとがきと設定解説


・【外道フーリガン】

レベル10。耐性は、銃耐性、氷結弱点、電撃耐性、衝撃弱点。
スキルは、狂乱針、毒針。

・【屍鬼フェイスバインド】

レベル1.耐性は、火炎耐性、破魔弱点、呪殺無効。
スキルは、引っかき。

・【屍鬼ドラッグクイーン】

レベル4。耐性は、火炎耐性、破魔弱点、呪殺無効。
スキルは、ブフ、高揚の歌。

・【屍鬼パドロック】

レベル11。耐性は、火炎耐性、破魔弱点、呪殺無効。
スキルは、シバブー、ラクンダ、アギ。

・【立花時忠】

悪魔【外道ナイトストーカー】に変わり果てていた。
レベルは、22。耐性は、破魔弱点。
スキルは、ダマスカスクロー、ドルミナー、道具の知恵・攻。


次回は、今回の事件の大詰めの話。

もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第二十八話 Q、他人の考えに振り回されるのはどう思いますか?

続きです。

今回は、悪魔と化した立花白乃との決着の話。


 

 

  第二十八話 Q、他人の考えに振り回されるのはどう思いますか?

 

 

「ねぇ、お嬢ちゃん。カズマさんの声が聞こえた気がしたんだけど、どこにいるの?

 たくさん、話したいことがあるんだ。

 歯牙にも掛けられなかったわたしが、生まれ変わった姿を見て欲しいの。

 ねぇ、ど・こ・に・い・る・の・か・な?」

 

「ここにいるよ、白乃ちゃん」

 

 

 ニコニコと笑いながらも、いつでも剣を突きつけられるようにしながら近づいて来る白乃ちゃん。

 彼女も望んでいるようなのでアブゾーバーからカードを抜き姿をもとに戻すと、一瞬驚くも一層笑みを深くして剣を降ろし目の前に立った。

 

 

「何だ、カズマさんもわたしみたいに悪魔に姿を変えられたんですか。

 しかも、戻ることが出来るなんて便利ですね、それ。

 どこで手に入れたんですぅ? わたしとぜんぜん違うなぁ」

 

「ちょっとした伝手でね。

 何故、そんな姿になったのか聞いてもいいかな?」

 

「いいですよぉ。わたしは今、最高に気分がいいです。

 こうして、憎んで憎んで憎んで殺したかった連中を皆殺しに出来たんですから。

 おまけに、こうしてクソ兄貴を自分のこの手で消し去れたんですから思わずイってしまうくらい気分がいいんです。

 カズマさんには、こんなに手伝ってもらって感謝しているんですよぉ」

 

「手伝う?」

 

「だって、クソ兄貴を追い詰めただけじゃなく、上にいた大量のゾンビの群れ、今までわたしを馬鹿にしていた立花家の連中なんですもん。

 それを全部片付けてくれたんですから、お礼くらい言いますよぉ」

 

 

 そう言うと彼女は少し離れると剣で床を二、三度叩き、今までただの木の床の大広間だったのが赤いカーペットを敷き詰め天井から飾りがたくさん吊るされた荘厳な広間へと変えた。 

 そして、こちらを向くと変わらず微笑みながら話しかけてくる。

 

 

「だって、嬉しいじゃないですかぁ。

 こんなところまで来るなんて、わたしを助けに来てくれたんでしょう?

 そして、こうやって覚醒してすごい力を持ったわたしを見せられるんですから。

 どうです、すごい綺麗になったでしょう?」

 

「確かにすごい力を手に入れたようだし、キレイにはなったよ。

 でも、その力は誰にもらったんだい?」

 

「んー、個人的にはよく知らないんですよねぇ。

 連れて来られた後に、変な水晶を体に埋め込られて気を失ったんです。

 目が覚めたら岩の中にいて、目の前で『初めて成功した』とか『オレに従え』とか騒いでいたのでついクソ兄貴みたいにバラバラにしちゃったんですよねぇ。

 そしたら、持っていた黒い本もバラバラになって取り込んじゃったみたいで、空いていたお腹も膨れましたしここの場所も自由に出来るようになったんですよぉ。

 ほらぁ」

 

 

 にこやかにそう言いつつ壁の方に剣を振ると、テレビの大画面のような物が出来てそこには地上階の様子と思われる風景が写っていた。

 

 一つ目の画面は、花蓮たちであり外への窓がない様子から地下の入口を見つけ歩き回っているのだろう。ジャネットが指を指し道を示しているため、ハニービーの効果で道には迷ってはいない様である。

 

 しかし、二つ目の様子は酷かった。

 二階から溢れてきたと思われる自分たちが長時間を掛けて倒した屍鬼の群れを、蹂躙するが如くあっという間に叩き潰した集団が写っていた。

 そこには、魔法を放っていた数人と護衛らしいまちまちな格好のシキガミのガイア連合のメンバーらしい集まりと、アサルトライフルを一糸乱れぬ撃ち方で放った自分もよく知っている金属のバケツのようなヘルメットとボディスーツを身につけた数人を含めた迷彩服の集団には自分も白乃ちゃんもかなり引いてしまった。

 地上の集団の方を指さしつつ、興奮もすっかり冷めきったらしい白乃ちゃんがこちらに話しかけてきた。

 

 

「カズマさん、あんなの呼ぶなんて非道くありません?

 確かにわたし、太陽神の力を手に入れてカズマさんにも勝てるようになったんですよ?

 邪魔者は全て排除したし、これであなたに勝ってここの異界で飼うつもりだったのに、自衛隊やあんなに強い人たちまで呼ぶほど嫌だったなんて!」

 

「いや、助けに来たのに飼われたくはないなぁ。

 あと増援は呼んだけど、自衛隊まで呼んだ覚えはないよ。

 それに、花蓮たちも周辺のマップが分かる機械があるからどんな迷路でも時間があればここまで来るんじゃないか?」

 

「え?」

 

「ところで、ゾンビの群れってまだ出せるの?」

 

「……ここの場所、急造だったみたいで感覚的にもう維持するだけしかエネルギーがありません。

 最後のあれだって、ここにいたクソ家族や親戚たちから搾り取ったものなのに」

 

「白乃ちゃん。もう詰んでるんじゃないかな?」

 

 

 自分の言い方が悪かったのだろう。

 こちらを睨みつけ、白乃ちゃんはぽろぽろと涙を流しながら剣を突きつけてきた。 

 

 

「月城家の人たちには感謝していますけど、さんざん非覚醒の出来損ないと影で言われ続けられたわたしがこうしてすごい力に覚醒めて、クソ兄貴とバカたちを始末して、人でないモノに変わったわたしを変わらずわたしだと見てくれる人と一緒にいようとして何が悪いんですか!?」

 

「運とタイミングかな? とにかく一緒に戻ろう、大丈夫だから」

 

「アハハハハ、大丈夫なわけがないじゃないですか。こんなに大勢殺しているのに」

 

「それは死んだあのバカの所為だから、ね。

 白乃ちゃんの本人証明とか職場の復帰とか協力するから。さあ、戻ろう」

 

 

 そう言うとニッコリと笑って彼女は、自分に向かって斬り掛かって来た。

 とっさに、鏡を取り出した。

 

 

「誰かに殺されるくらいなら、わたしと一緒に死にましょう? 【爆砕拳】」

 

「待ちなさいって、変身!」

 

 

 かろうじて変身が間に合い、細腕が放つとは思えない勢いの攻撃をはね返す。

 衝撃が跳ね返り、たたらを踏んで後ずさる白乃ちゃん。

 口元に流れた血を拭い、今度は左手をこちらに突き出した。

 

 

「!、【マカラカーン】」

 

「【マハブフダイン】、…っ! 

 ふふっ、これもはね返したのは驚きましたけど、氷雪魔法は無駄ですよ」

 

 

 ジリジリと距離を開けながら、内心、かなり焦っている。

 今までの例から考えると、彼女にボス補正のようなものがあるなら呪殺と破魔は無効化されて状態異常もかなり効きにくいだろう。

 かける言葉にも失敗し、決め手にも欠けるとなれば出来るだけ粘って時間を稼ぐしか無い。

 それならばと魔法を使うタイミングを見計らうように身構えていると、彼女は薄く笑って左手を突き出すと自分の知らない術を使ってきた。

 

 

「【マカラカーン】、ぐへっ」

 

「【幻虚夢】! これは、はね返せないみたいですね。うふふふふ」

 

「魔石で回復を、…? 力が抜ける? 精神力が減る状態異常?

 万能属性でデバフ付きかよ」

 

 

 姿を変えれば眠らせることも出来るが賭けに出るのは危険過ぎる。やはり、ドッペルゲンガーのままの方が時間稼ぎに向いてはいるのでこのままやるしかない。

 決め手がないまま、自分では分からないが数十分か数時間か粘っていたが傷を癒やす道具が無くなり、それに気づいた隙を付かれまともに食らって倒れ伏してしまった。

 そこに、疲れの全く見えない彼女が近づき自分を見下ろしている。

 

 

「【幻虚夢】……ふう、やっとですか。もう終わりですよ。

 さあ、カズマさん。わたしのものになって下さい。

 太陽神の力をここに、【秩序の光】」

 

「ごふっ」

 

 

 自分の知らない即死系の術なのだろうか、全身の力が抜け目の前が暗くなっていく。

 そして、走馬灯のように今までの情景がぐるぐるとものすごい勢いで見える。

 最後に、二人の子どもたちを抱えた笑顔の葵が見える。ああ、失いたくないなぁ。

 気を失う瞬間、誰かに呼ばれた気がしてそれに答え、自分は意識を失った。

 

 

『■■■さん、私を呼んで!』「……わかったよ。……【サバ…トマ】」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここから語り手の視点が切り替わるので注意していただきたい。

 

 立花白乃、いや【魔王ミトラス】の力を手に入れたその女性は、倒れ伏した彼の身体を抱き上げ頭を膝の上に寝かせ撫でながらささやくように告げた。

 

 

「……カズマさん、わたし、雫ちゃんと一緒に話している頃からいいなと思っていたんですよ。でも、わたしは覚醒も出来ない落ちこぼれです。

 だから、諦めるために一人暮らしを始めてお屋敷から出たし、ガイア連合にも近づかなかったんですよ。

 なのに、こんな風に来てくれたら夢を見ちゃうじゃないですか。

 それじゃ、一緒に逝きま……」

 

「【メギド】」

 

 

 剣を逆手に持ち自分の胸に突き立てようとした彼女に収束した魔法が放たれ、不意をつかれた彼女はそれを胸にまともに喰らい10メートル近く吹き飛ばされ床に倒れ伏す。

 ごほっと血の塊を吐きながら、手から放さなかった剣を杖代わりにして立ち上がり飛ばされた方を見ると、倒れた彼の身体の近くに見たことのない女性が立っていた。

 青地に金色の模様の描かれた民族衣装に身を包んだ紫の色の髪のその女性は、彼の近くにひざまづくと【サマリカーム】と魔法をかけ彼を蘇生させていた。

 そして、懐から取り出したカードを彼の左腕にあった機械に差し込んだ。

 

『Warning,warning.NON-REGULAR FUSION』

 

 倒れていた彼の姿は大きく変わっていた。

 腰まである紫色の長い髪をした豊かなボディラインの女性で、腹部から胸元から背中に大きく肌を見せている夜の色をした特徴的な赤いラインが入った全身金属鎧を纏っている。

 仮面に顔を隠されているが、隣りにいる民族衣装の女性とよく似ていた。

 そして立ち上がると、二人で彼女の方を見ながら相談を始めた。

 

 

「『あの人』はどうです? “私”」

 

「身体に異常は無いし、深く静かに眠ってもらっているわ。

 『あの人』と契約していた4人の娘と“丁寧にお話”して判って貰えたから。

 ねえ、“私”。それで、アレは壊していいの?」

 

「巫山戯た考えをしていましたが、姉さんを押しのけて来たのですし壊すのはまずいと思います。

 助力してくれた祭神様としては、覚醒はしたし氏子を産んで欲しいんじゃないですか?

 まあ、もう二度とこんな考えを起こさないように徹底的に教育はしてあげないと、“私”の将来に禍根が残りますね。

 もし死んでも蘇生させますから、少しぐらいやりすぎても大丈夫ですよ」

 

 

 その話を立ち上がりながら聞いていた彼女は、『彼を巻き込んだ攻撃』という恐怖のあまりに最も悪い手段を選び実行してしまった。それこそ、そこにいる二人の女性の尾を思い切り踏むような行いを。

 

 

「い、いやーーっ、1人で死にたくない。【幻虚夢】!」

 

 

 消沈という状態異常を付与する全体万能魔法という今一番頼りにしている力を放つ彼女。

 そして煙が晴れたあとに彼女が見たのは、傷を負い怒り狂う顔でこちらを見る二人だった。

 恐怖で硬直し、動けない彼女。

 

 

「予定変更です、【ベルセルク】の“私”。

 歩き回っていれば精神力は回復するので、思いっきり殺って下さい」

 

「こっちは勝てば全回復するからあの女の回復だけ頼むわ、【パールバティー】の“私”。

 【ラスタキャンディ】、【ラスタキャンディ】、【ラスタキャンディ】。

 喰らいなさい、【狂気の暴虐】!」

 

「いやあああああぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

 そして、彼女が見たのは補助魔法を掛け自分に向かって鋼鉄の拳を振りかざして飛びかかってくる暗黒騎士の姿であった。

 それでは、視点を彼に戻そう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 深い暗い底にいた感覚から、揺り動かされる衝撃で目が覚める。

 目の前で泣きながらジャネットがしがみ付いているので心配は無いという風に髪を撫でると、泣きそうな顔の花蓮やクーフーリン、地上で見た人々の何人かが近づいてくる。

 上体を起こされたので周囲を見ると、異界のあの大広間でなくどこかの建物の地下室全体が何かが暴れたように破壊されている。

 すでに来ていた人たちの手で調査も始まっているようだ。

 

 ふと見ると、自分の隣を担架に乗せられた白乃ちゃんが運ばれてい行く。すっかり髪の色も元々の栗色に戻り人間に戻っているようだが、「死にたくない、死にたくない」と震えながら掛けられた毛布で顔を覆いながら運ばれていった。

 自分は確か彼女に殺されたはずである。ただあの様子を見たからか彼女には怒りや憎しみという感情は不思議と浮いて来ないが、自分が気を失っている間に何があった気になってしょうがない。

 

 自分も担架で運ばれるようである。

 担架を持ってきたのが自衛隊の人だというのに気づいたが、周囲をジャネットや花蓮たちが固めそのまま運ばれていく。

 地上に出ると周囲を自衛隊の人たちが封鎖しており、自分たちはこのまま彼らの大型車両で移動するようだ。

 中に入り、車両の簡易ベットで寝かされ横に座ったジャネットに撫でられていると眠気が出てきたようだ。

 そして、自分はこんな言葉を聞きながら眠りに落ちていった。

 

 

 

「ゴトウ一等陸佐指揮下の【デモニカ】試験部隊地方派遣班班長の唯野仁成と~」

 




あとがきと設定解説


・【魔王ミトラス】

立花白乃が、中東人の男に体内にフォルマを無理やり埋め込まれ奇跡的な確率で力に覚醒した。
レベルは29。耐性は、銃耐性、氷結無効、疾風弱点、破魔無効、呪殺無効。
スキルは、マハブフダイン、秩序の光、幻虚夢、爆砕拳、暴れまくり。

・【秩序の光】

ストレンジジャーニーのボス悪魔の【魔王ミトラス】が使う専用技。
ゲーム内では、主人公たちで一番魔の数値が低い者が即死させられる万能属性の技。


【天使の羽】もフォルマの一つ。

次回は、この事件の後片付けと調査の回。

もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第二十九話 Q、女難の相も幸せならまだ良し悪しだと思いませんか?

続きです。

今回は、主人公サイドでの今回の事件の裏側の話。

キャラに勝手に会話させているとプロットがズレていく。


 

 

  第二十九話 Q、女難の相も幸せならまだ良し悪しだと思いませんか?

 

 

「久々に会ってみたら、こんな事になっているなんてね。

 君、かなり酷いことになっているよ。

 初めて会った時はそうでもなかったのに、今では女難の相も色濃く出ているよ」

 

 星晶神社でデスマーチに追われているはずの久方ぶりに顔を会わせたショタオジから、出会い頭にこんな事を言われてしまった。

 

 あの事件があった日から数日後、自分はまだ神戸セクターの地下にある転生者以外は入れない治療施設の一室にいた。あの事件の背後調査に合わせ、自分は身体の調査のためにここ数日の間泊まり続けている。

 回復魔法でも治癒しきれないのか全身が激しい筋肉痛になり動くこともままならないため、付き添っていたジャネットに着替えや食事、果てはシモの世話までに任せることになった。

 とても上機嫌の彼女に世話をされるのは、かなり羞恥を覚えるため彼女には口止めしなければならない。

 

 さすがにテロと言っても過言ではない一連の事件の調査のため、事態を重く見たショタオジを中心とした調査チームが跳んで来ているらしい。

 面会に来て早々に冒頭のような事を言い椅子に座ったショタオジと、介助付きなら体は起こせるようになったがベッドの上で話をすることになった。

 

 

「さて、どこから話そうか。

 まず、今回の一連の事件の生きた物証でもある君が救助に向かった彼女の事からかな?

 眠らせてから記憶や残留マグネタイトも含めて隅々まで調べてみたんだけど、色々なことが分かったよ。

 彼女を始め色々な人間が悪魔化していた原因は、身体に埋め込まれたフォルマが変質を促して悪魔化させていたんだ。原理としては、海外の天使が羽根を人間に埋め込んでするアレと同じだよ。

 それで今回のはそれをものすごく雑にしたものだから、失敗すると屍鬼や外道の悪魔に変わり成功するとそれ以外に変わるというものさ」

 

「それで、今は彼女はどうしていますか?」

 

「ああ、彼女かい?

 君が意識を失っている間に、何度も殺されて蘇生してを繰り返したらしくてね。

 発見された時には、覚醒はしているけど悪魔の力は失っていたよ。

 今回に関する記憶はこっちで記録した後に全部消して、体内の残留物も回収してから治療して眠っているよ。

 自衛以外でこっちに危害は加えられない様に契約で縛ったから、こちらとしてはもう用はないよ。

 あとは、君たちの方で何とかしてね」

 

「それであの、白乃ちゃんに埋め込まれていたのは何だったんですか?」

 

「自分たちでも最初はよく解らなかったんだけど、たまたまそれに詳しい人が来ていてさ。

 彼曰く、【輝くトラペゾヘドロン】の欠片だってさ。

 解りやすく言うと、古代の邪神の祭具の一部だよ。

 彼自身はここで情報を得たらすぐに中東に向かったから、決着は着くんじゃないかな?」

 

 

 その彼とは自分は面識がないが、ショタオジと古い知り合いでその邪神を追っているペルソナ使いの幹部の人らしい。数人の仲間とその邪神を追って世界中を飛び回っているのだそうだから、とてつもなく強いのだろう。

 ペットボトルの緑茶を一口飲むと、ショタオジは話しを続ける。

 

 

「それで中東人の彼らですけど、わざわざ日本に来て彼らは何のためにこんな事をしていたんですか?」

 

「彼女の中に残っていた物や星見で視たんだけどね。

 彼らのリーダーから暗示による指示を受けていたみたいなんだ。

 『ここから逃げた先でこの黒の書の通りにすればメシア教への復讐の力が手に入る』って、わざわざ神戸付近に行くように言い含めていたんだからねぇ。

 まあ、今回の件で死んだ男が日本まで来れた最後の奴だからもういないよ。

 こっちにしてみれば迷惑な話だよ。本当に」

 

 

 もうこんな事件に巻き込まれる事は無くなるようで何よりである。

 ただ、何故自分の周りで連続して起きたのかまでは判らなかったらしい。

 そして、ショタオジは横のサイドテーブルの上の物を指さしながら、雰囲気を変えて話し出す。

 テーブルの上にあるのは、ケースに収められたデビルズアブゾーバーである。

 

 

「あれを使い続けるのはもう止めた方がいい。

 今、体が動かなくなったのも無理な変身による反動だよ。

 あの夏の特訓で体の変化は止まったはずなのに、また進行、いや浸蝕が進んでいるよ。

 そのうち、戻れなくなるかもしれない」

 

「自分はあの時一度死んだはずです。けれど、こうして生きている。

 何があったんですか?」

 

 

 そう言うとにこやかな表情になるショタオジ。

 何か寒気がする。

 

 

「君の上役だとして自宅を拝見したよ。

 なかなか広い家で、霊地としてもしっかりしたものじゃないか。

 それと君の奥さんたちと娘さん、美人ばかりとか羨ましいよ。

 “生まれて間もないのに君の死を感じ取って、祭神の力添えも受け、血縁という契約の穴を突くような形で自分の意志を実体化させた”んだからすごい才能だよ、君の娘さん達」

 

「凛と桜が?」

 

「そう、『君の娘さんたちがあの彼女たちによく似ていた』、『俺たちに匹敵する才能がある』、『FGOに関する知識を何故か知っていた』、そして、『君に干渉する手段や条件が揃い過ぎていた』。

 だから、あの機械を使って君を助けに行けたんだ」

 

 

 そこまで言うとショタオジは懐から3枚のカードを出してきた。

 【女神パールバティー】、【女神イシュタル】、【妖鬼ベルセルク】。

 それぞれ、FGOの彼女たちと狂戦士になった湖の騎士の鎧を着た女性の絵が描かれている。

 そして彼は、それを渡してきた。

 

 

「今回は君を助ける結果になったけど、こんな事が続いたら君も娘さんたちも死ぬことになる。

 事後承諾で悪いけど、君の家のカヤノヒメとも話をつけてこうさせてもらった。

 彼女たちは【女神の転生者】でもあったから、その早すぎる覚醒めた意志はこのカードに封じたよ。

 彼女たちが充分に成長した後で手に持たせれば力は戻るはずだけど、それが何時かは父親なんだから君が判断してやるんだ。

 それまでは、そのカードは使おうと思えば使えるが君が封印しておくといい。

 あと娘を玩具として売り渡したくないなら、あの研究所の悪魔たちには見せようなどとしない方がいい」

 

 

 カードを手に見続けていると、涙がポロポロと溢れてくる。

 どんな形であれ、今世ではなんと家族に愛されているんだろう。

 そう思うと、嗚咽が出て泣き出してしまった。

 そして、しばらくした後にジャネットからタオルを貰い、泣き止むことが出来た。

 優しい笑みを浮かべて見られると、余計に恥ずかしくなる。

 

 

「すいません。見苦しい所を見せてしまって」

 

「いや、いいよ。

 君はどうも成長が早い代わりに、死に急ぎすぎるような所があるからこれでいい。

 家族は君を繋ぎ止める鎖にちゃんとなっているようだし、そこのジャンヌ・ダルクも懐いているようで何よりだ」

 

「ジャネットが何か?」

 

「うん? もしかして、ただ新婚家庭に女性を送りつけて楽しんでいるとでも思っていたのかい?」

 

「はい、少し」

 

「そう思われるような言動が多いからですよ、神主殿」

 

 

 ジャネットもそう思っていたのか、頷いている。

 憮然とした顔のショタオジ。少し置いて、ため息を付いて話し出す。

 

 

「偶然とはいえ、もともと造魔からの合体で作る英傑は並の幹部よりもレベルが大きいんだ。

 そこにいるジャンヌ・ダルクは合体成功時、レベル42だった。今は少し上がっているね。

 いくら契約で縛っても、本来は悪魔というのは自分の力量より下の相手には従わない。

 行き先としてはちょうど良かったから、あの研究所の悪魔達へのカウンターとしてこっちが主導して君のシキガミとして契約させたんだ。

 万が一の時は、彼らを監視し相手取って戦えるように」

 

「でも、ジャネットは今はそんなことはしないで済んでいますよ。

 戦場では背中を守ってもらえる大事なパートナーですし」

 

「マスターってば、もう」

 

「いや、赤面して甘い雰囲気出さないでもらえるかな?

 たとえ、そういう行為で人の側に引っ張り返せるとは言えね。

 まあ、マスオニキの愛が重いタイプの女性ホイホイな所はもういいから。

 じゃあ、今まで言ったことは他言無用で頼むよ。少し喋りすぎたし」

 

 

 そう言って立ち上がり、帰ろうとするショタオジ。

 そこで思い出し慌てて聞く。

 

 

「待った。デモニカの事は聞いていませんよ。

 掲示板で自衛隊に渡すことは知っていましたけど、ここにいるなんて聞いてませんよ。

 それに一人だけ、やけにあのオリジナルにそっくりなのを着ていたのは?」

 

「ん? 彼らの事かい?

 彼らはあのゴトウさんの部隊の生え抜きで、これからは神戸の埋立地にある基地に居留してレベル上げのためにこの辺の異界に挑むそうだからその際は協力してあげてね。

 それと、他の人がアポロ宇宙船の宇宙服みたいなのに比べて一人だけ最新式のやつを着ていたのは、彼が【タダノヒトナリ】だからだよ」

 

「もしかして、ストレンジジャーニーの主人公?」

 

 

 これ以上無く、ニッコリと笑うショタオジ。

 聞かなきゃよかった。

 

 

「デモニカやAIは例え出来ても、レッドスプライト号みたいな超兵器の船は作れないからね。

 彼のデモニカには他のとは違ってオリジナルに近くなるように、ヘルメットは高性能化して疑似ハーモナイザーも付いてあるから彼が強くなるように手助けしてあげてね。

 もし、南極のアレが活性化した時の保険は多いほうがいいからね」

 

 

 判らずにきょとんとしているジャネットと青ざめている自分を置いて、ショタオジはくすくすと笑いながら帰っていった。

 その後、自分が自宅に帰れたのは、今回の会話が切っ掛けで盛り上がったジャネットに病室で上に伸し掛かられた所を見つかり、六堂さんに強制退院として放り出された翌日のことだった。

 

 

 

 場面は移り、家に帰ったその日の夜のことである。 

 

 夜も遅く、月明かりだけが部屋を照らしている。

 こちらに都合のいいように脚色されてはいるが今回の件の通知で、自分が死にかけたことまでは誤魔化し切れずにいたようで戻るなり半泣き状態の二人に寝室に引っ張り込まれ先程まで相手をしていたのである。

 

 ちなみに、ジャネットは抜け駆けの罰として子どもたちの側にいるためここにはいない。

 

 2戦交えて荒く息をしている葵を頭を撫でながら体の上で寝かせ、仰向けの状態になった自分は布団の周りを見る。

 雫は、左側に敷いた布団の上で眠るというか気絶している。 

 右側を見ると、部屋の隅の板床の上で下着姿の首から『わたしは祭神様に手を貸した愚か者です』という看板を首からかけた文香さんが正座で座っている。

 そしてその隣には、いつの間にか家に戻っていた真っ赤な顔をした全裸の白乃ちゃんが正座をして座っていた。

 この二人は自分が部屋に来たときからこの状態であり、じっと無言のままでこちらを見ていたのは葵の決定だという。

 息を整えた葵がこちらを見て話しかけて来る。

 

 

「ごめんなさいね、あなた。何も言わずにここへ連れ込んでしまって。

 こうでもしないと、わたしも雫も不安でどうにかなりそうだったの。

 先日いらしたあなたの上役だという方から、あらましは全て伺いました。あの子たちや白乃の事も。

 結果的にあなたを助けることにはなりましたけど、わたしの知らないうちに祭神様があんな事をするとは思わなかったんです。

 そしたら、あの上役の方に同席頂いてカヤノヒメ様とはお話をつける事が出来ました」

 

「引っ張り込まれたのは、まあ理由も分かるからかまわないよ。

 それより、どうつけたんだい? 簡単なことじゃないだろう?」

 

「今回の件は善意とはいえ、わたしの子どもたちが利用されたんです。

 確かに、代々信仰して氏子にはなってきましたがその事だけは許すことは出来ません。

 そこで上役の方特製の呪的契約用紙を複数枚、頂いたので使いました」

 

 

 両手をついて上体を起こし、ちらと文香さんを見てから言葉を続ける。

 視線に気が付き、ビクッとして冷や汗を流している文香さん。

 

 

「子どもたちについては、上役の方が何とかしてくださったと聞きました。

 実際、あの子たちもそれ以来、普通の子と変わらない様子を見せていますので安心です。

 カヤノヒメ様には、子どもたちに成人するまで直接強く干渉するのを禁止させて頂きました。

 文香さんには、あなたと同じ強さの命令権を改めて頂きましたのでヤンチャは控えてくださいね?」

 

 

 ニコリと目の笑っていない笑みを浮かべて見る葵に、ブンブンと首を縦に振る文香さん。

 これが正妻の貫禄かぁと、他人事のように経産婦とは思えない美しさの葵を見上げて考える。

 そして、視線が隣に移る。真っ赤な顔が真っ青になる白乃ちゃん。

 人の顔色がこんなに激しく変わるのは初めて見たなぁと、ぼうっと考える自分。

 

 

「白乃、邪悪な術師に唆されたとはいえあなたが彼に死にかけるようなことをしたのは、月城家の当主としても個人的にも罰を与えないといけません」

 

「葵、彼女が何をしたのか聞いたのかい?」

 

「ええ、邪悪な術師の手先として彼女の兄のアレが手引きし、操られた彼女があなたの不意を突いて背後から刺したと。

 そして、それを察知した祭神様が子どもたちの力を使ってそれを助けたのだと」

 

 

 間違いではないが、微妙に違う内容を知らされているようだ。

 白乃ちゃんを見ると、こちらを見て何か思い出したのかビクッと震えている。

 

 

「白乃ちゃん、何をしたのか覚えているかい?

 怒らないから言ってごらん」

 

「は、はい。うろ覚えですけど、

 クソ兄貴が扇動して親戚を集めたりわたしを誘拐したこと。

 自分の気持ちを伝えてカズマさんを刺したこと。

 クソ兄貴やクソ家族たちや親戚が皆いなくなっていたこと。

 何か恐ろしいものに叩きのめされて気を失ったことです」

 

 

 ふーむ、記憶処理はして傷は癒やしたけど、心の奥底にはトラウマが残ったままのようである。

 演技をつけて、少し問いかけてみる。

 

 

「これは憶えているかな?

 『だって、嬉しいじゃないですか。

  こんなところまで来るなんて、わたしを助けに来てくれたんでしょう?

  そして、こうやって覚醒してすごい力を持ったわたしを見せられるんですから。

  どうです、すごい綺麗になったでしょう?』とか、

 『月城家の人たちには感謝していますけど、さんざん非覚醒の出来損ないと影で言われたわたしがこうしてすごい力に覚醒めて、変わったわたしを変わらずわたしだと見てくれる人と一緒にいようとして何が悪いんですか!?』とか」

 

「あーーー、あーーーー、ああああああぁぁぁ!

 わたし、そんな恥ずかしいことをぉぉぉぉ!?」

 

「へぇ、そんな情熱的なことを言ったんですか? へぇ。

 それに、よく憶えてましたね? あなた」

 

 

 真っ赤になって顔を覆い叫ぶ白乃ちゃんと真顔になる葵。

 あ、これは彼女への意趣返しどころか失敗したかも知れない。 

 また、ニッコリと怖い笑顔を見せる葵。

 

 

「家を差配する当主として、契約書の罰を決めました。

 白乃、助力は惜しみませんから、あなたは分家としての誰もいなくなった立花家を再興させなさい。

 そのために、最低4人はこの人との子どもを産みなさい。

 いいですね?」

 

「ま、待って下さい。

 カズマさんの事は好きですけど、わたし、男の人とは誰も付き合ったことはなくて…」

 

「文香さん、サポートしてあげて下さい。ただし、あなた自身はしばらく接触禁止です。

 祭神さまの加護は、家内安全、諸病免除ですから大丈夫です。

 それじゃあ、今から早速始めましょう。

 今退きますから、自分で旦那様をその気にさせてから貰いなさいね」

 

「ええ、そんな!?」

 

「……せ、接触禁止」

 

 

 立ち上がり、いつぞやの酷いことになった家伝の香【金蛇精根】を焚く葵。

 香の匂いで目覚め、自力で回復スキルを使いムクリと起き上がる雫。

 目がグルグルとしているが真っ赤な顔で近づいてくる白乃ちゃん。

 絶望した顔でこちらを見る文香さん。

 生き残るためには筋肉痛がどうのと言っている場合じゃない、上体を起こし迎い討つ。

 さあ、来いやぁ!

 

 

 

 

 

 

 無事撃破に成功するも、明朝まで複数人で搾り取られ、部屋の臭いと皆の状況が前以上に酷いことになったは言うまでもない。

 なお、動けないのが仇になり代わる代わる絞りに来るため、復帰には1週間かかったのを追記しておく。




あとがきと設定解説


・【輝くトラペゾヘドロン】

小箱と宝石。宝石は、黒光りして赤い線が走る多面結晶体。
この宝石が、箱の内面に触れることなく、金属製の帯と奇妙な形をした7つの支柱によって、箱の中に吊り下げられている。
箱は不均整な形状をしており、異形の生物を象った奇怪な装飾が施されている。
凝視すると、心に異界の光景が浮かび上がってくる。
星の智慧派が崇拝した「闇をさまようもの」=ナイアーラトテップを召喚する道具である。

・【タダノヒトナリ】

原作において、1号艦「レッドスプライト号」に搭乗する日本出身の兵士であり主人公。
厳しい戦闘訓練と幹部教育中に見せた能力を買われ、国連から指名されて調査隊に抜擢されたというエリートとなるのは未来の姿で、今は新人の隊員にすぎない。
タダノヒトナリを敢えて漢字表記にするなら「唯野仁成」らしい。


次回は、今回の事件への悪魔サイドでのお話。
一応、次で第三部終了予定。

もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第三十話 八百万の神と悪魔は天と地にあり、人の世は全てこともなし

続きです。

一応、今回で一区切りの第三部の終了の回。


 

 

  第三十話 八百万の神と悪魔は天と地にあり、人の世は全てこともなし

 

 

 主人公が周囲の女性たちに搾り取られつつ療養していた頃、中東の某所に彼らの姿はあった。現地の案内人に連れられた3人の男女は、現地の装束で顔を隠しているが明らかに中東人ではなく一様に普通の人とは違う雰囲気を持っていた。

 少し前にエジプトの決戦で負けて以来、メシア教に対して多神連合の戦線はジリジリと後退し続けているが、今彼らがいるのはそこから少し外れた廃村になっている岩山に面した集落だった。

 既にメシアンの狂信者と天使の群れに襲撃され廃墟となったそこを、彼らは周囲を警戒しながら足早に進んで行く。そして村の一番奥の目的地に着くと、案内人が隠されていた仕掛けを動かして岩を退け地下の古代の墓所へ通じる階段が現れた。

 そして、案内人は振り返ると彼らにこう告げた。

 

 

「ここが、あんた方が探していた【隠されたファラオの墓所】だよ。

 この場所を守っていた部族は、大体はメシアン共に殺されるか連れ去られて少数が逃げ散ったらしいけどね。

 オレが案内できるのはここまでだよ」

 

「ありがとう。君は早く逃げた方がいいよ」

 

「うんじゃ、あんた方も気をつけてな。

 金は貰っているからな。ま、迎えの車は前の街に用意してあるからよ」

 

 

 彼らのリーダーらしい白髪の若い男は、フードを取り彼に笑いかけると仲間とともに地下に降りていった。

 それを見送り、貰った日本製のタバコに火をつけ案内人の男は来た道を戻り始めた。

 

 

「邪教崇拝していたカルトの住んでたこんな所にやって来るなんて正気じゃないな、あの連中。

 おお、怖い怖い」

 

 

 リーダーを先頭にライトをつけて地下墓所を進む彼ら。

 周囲の廊下はエジプトの独特の壁画に覆われていたが、奥に行くに連れて模様だけになっていった。そして最奥の玄室に着くと周囲が明るくなり、一人の男らしい人物が拍手をしながら出迎えていた

 その男は、褐色の肌に古代の王家の人物が着るような装束を身に纏い彼らを見ていた。ただ、その男の顔は目元が闇に覆われはっきりと表情が見えなかった。

 唯一見える口元に笑みを浮かべ、よく通る声で話し始めた。

 

 

「やあやあやあ、はるばる日本からようこそ探索者たちよ。

 ここが、かの有名なアメリカホラー小説のモデルになった場所だよ。

 それに合わして、【ネフレン=カ】と名乗ろうか」

 

「挨拶はいいよ。質問に答えてもらおうか。

 わざわざ、こんな事をした理由は?」

 

「やれやれ、せっかちだねぇ。

 どうやら、あの遊びは楽しんでもらえたようだね。

 計画はもちろん思いつき。

 ここにいた彼らを使ったのも偶然。

 宰相閣下の玩具を選んだのも偶然さ。

 ちなみにいまいち面白くなかったけど、今回の遊んだ内容は別のワタシが役に立てるんじゃないかな?」

 

「そうか、じゃあ始めるか。【ペルソナ】!」

 

「本当に、せっかちだねぇ。貴様らの生に意味などないと知るがいい!」

 

 

 強大な力が地下の玄室でぶつかり、激しい振動が付近を襲ったのだった。

 

 

 

 

 

 体重は若干落ちたが完全に回復し久々に出勤した神戸セクターの支部長室で、『~と、こうして事件の元凶は始末されたよ』と軽い口調のメールでショタオジから知らされた。

 これはどういうことなのか聞こうとして電話するも、『お呼びになった神主は電源が入っていないか電波が届かない所で仕事中です』と事務の人に返されてしまった。

 デスマーチに追われているなら、またの機会にするとしよう。

 それならば、また金策をしなければいけない。

 今回の事で自分も同意して白乃ちゃんを受け入れると決めた以上、また拐われないように彼女用のアガシオンの指輪を購入するべきだろう。

 そのためにも、一番儲かるのが異界の攻略なのだからと早速出発することにする。

 情報のあった異界へ出かける旨の連絡をして、花蓮たちやジャネットと共にまだ肌寒い外へと出かけていった。

 

 途中、日下さんが指導している新人転生者の一団とすれ違う。

 そして、彼らの趣味と性癖を余すことなく表現した色とりどり大小様々な女性型シキガミの数体が、こちらに挨拶してくる。

 全体の4割を占める女性型シキガミであるが、デザインの目や髪の色にカラフルなアニメ色を使う人はもう少し周囲を考えて欲しい。

 シスターたちも出入りしているおかげで、地元に本部のある日本最大のその筋の人たちから、「人材派遣の会社だが風俗の派遣もしているのか?」と抗議と問い合わせの連絡が来て対応した事はあまり思い出したくない出来事である。

 彼女らに軽く挨拶を返し、頭を振ってその場を後にした。

 

 

 

 場所は変わりその数日後、近隣にある大型異界【鳥取大砂漠地獄】や【スーパーうどんマウンテン】の付近に発生する小型異界の掃討や溢れ出た悪魔の退治をする遠征から帰ってきた。

 

 今回は金銭的なだけではなく、デビルズアブゾーバーは点検のため研究所に預けて色々と試す意味でも収穫があった。

 それは、今まで自分でもほとんど使うことのなかった【サバトマ】である。

 原作ではCOMP内の悪魔を他の悪魔が召喚する魔法だったため、自分は使えないものと思い込み使っていなかったが、先の事件で自分が呼んだことで介入を招いたと聞き、それならばと【ユキジョロウ】を呼んだら時間制限はあるが出てきたのである。

 やはり、数は力である。一度に一人だけとはいえ自立して行動してくれる彼女らを呼べるようになったので戦闘も楽になった。

 

 そして、帰ってきた日の夜の寝室。今日は葵や雫たちには遠慮してもらい、今後の仕事の話し合いをするべくここには文香さんとジャネットしかいない。

 二人もいつもの雰囲気とは違い、田中さん経由で研究所からデビルズアブゾーバーと共に送られてきた2枚のカードと手紙をどうするか悩んでいた。

 

 目の前のテーブルには2枚のカードが置いてある。

 一枚目は、白いリボンが特徴的な深い青色の服を着た金髪の少女の絵が描かれたカード。

 二枚目は、赤い紐のような露出の激しい水着を着た頭の後ろで髪を複雑に編み込んだ16歳位の豊満なスタイルの金髪の美少女の絵が描かれたカードである。

 

 手紙は円場博士からであり、一枚目のカードについてこう書かれていた。

 

 

「『外せない用事が出来てしまったので、手紙で失礼する。

 外部からのアクセスで妙な挙動をしたようだが、データが残っとらんのは残念だがもう干渉されんようにしておいたぞ。

 さて、一枚目のカードは見てわかるように、デザインの監修はまた海外に行かされた赤城くんが行なっておる【魔人アリス】じゃ。

 赤城くん曰く、

 【究極の美少女である彼女を創るため専用の分霊を用意し、魔人としての死と災厄をもたらすとかいうクソくだらない本能は破棄し純粋な無垢さをインストール!声に関しても、幾多の彼女のサンプルデータから選び抜いた珠玉の美声。さらに、ディテールを凝り未成熟な少女の体躯の完全黄金率を再現!彼女が着る素敵なドレスや靴も細かいデザインや着色から手を掛けた究極の一品物!髪に付ける白いリボンも数十種類に及ぶ候補の中から選びに選び抜いた物!スキル構成も彼女をイメージし選び抜いた厳選を重ねた構成!さあ、姿を変えてみよう。そして、究極のその姿を焼き付けた写真を送って欲しい!】との事じゃ』

 個人的なコメントは差し控える」

 

「マスター、やっぱり友人は選ぶべきだと思います」

 

 

 手紙を読み上げると、真顔のジャネットがそう提案してくる。

 隣の文香さんは、この欲望ダダ漏れの文章に何か思いがあるのか苦い表情をしている。

 趣味以外は仕事では頼りになったんだけどなぁ。

 まあ、ガイア連合の方で他の娘の姿で「悪魔ガールプロマイド」シリーズも売っていてぼちぼち収入もあることだし、それくらいならいいだろう。

 取り敢えず、後日に撮影データを田中さんに送って彼に渡すかと決める。

 そう話したら、向かいのジャネットが額に手を置いているのは無視することにする。

 

 さて、問題の二枚目である。手紙の続きを読む。

 

 

「『それは以前、オーナーが話していた厄介な依頼者の持ち込み作品じゃ。

 本当は作っても死蔵するつもりだったんじゃが、お主に使わせないと終末後に別の姿で文句を言いに来ると言われたのだ。

 カードの名称は、【魔神大淫婦バビロン】じゃ。

 依頼者曰く、

 【全ての女性の悪魔で一番の美と淫蕩さを誇る余であるが、それを知らしめるためにちょうどよい物を宰相閣下が作ったと聞き専用の分霊を用意して送ったのだ。

  何でも、日本では余のモデルとなった女性をパートナーとする強者がいるとも聞いたのでな。

  そのデザインを見て、余が一番ピンときた装いで作ったのだ。

  レベルも抑え、お主に配慮して種族もアライメントの良いものに変え、スキルは山盛りにしたのだぞ。

  しばらくは待つことにするが、終末後でも使わぬと言うのなら余の魅力を理解させるためこの分霊の姿で直々に向かうことにするので覚悟するが良い!】との事じゃが、本当にすまんのだが使用を検討して欲しい』、だって。

 これはまあ、終末が来るまで封印だな」

 

「……カズマさま、前から不思議に思っていましたが、それがCOMPだとしてそもそもその機械のレベル上限はどうなっているのです?」

 

「【サバトマ】の召喚が自分のレベル以下だとすると、変身する際は上限がだいたい10プラスされる感じだな。それ以上の強い悪魔だと、この間みたいにきつい反動が来る。

 だから、今だと変身はアリスは可能だがバビロンは無理だ」

 

 そう言って、アリスの姿に変わってみる。

 

『ABSORB DEVIL』『REVOLUTION GIRL』

 

 鏡で自分の姿を確認する。

 あの赤城さんが全力を注いだ渾身のデザインと言うのは間違いないだろう美少女が、そこにいた。これは犯罪性の高いその手の趣味の人の前に出たら、即行連れ去り一択だろう。

 すでに前にいる二人が、赤面して抱きつきたいと言わんばかりに構えている。

 それに、鈴が鳴るような非常に可愛らしい声で話しかける。

 

 

「触るのは無しだからな。

 真面目な話し合いをしているのだから落ち着きなさいって」

 

「……あの、口調をもっと可愛らしくして下さい。違和感が酷いです」

 

「そうです、そうです。マスター」

 

「変身できるのは分かったし、戻るわ」

 

「「ああーーっ」」

 

 

 二人が抗議の声を上げるが、許可して抱きつかれたら話し合いにならずに朝までになるので構わずに戻る。

 もとに戻り、話を続ける。

 

 

「さて、とにかく自分の強さとしては、今が35レベルだからこのバビロンのカードが使えるようになるレベル50が目標だ。だから、終末までにもっと強くならないといけない。

 かと言って、放りっぱなしにしないでここにいる家族も守らないといけない。

 そこで終末を見据えて、自分が今一番契約している仲間で信頼の置ける二人に意見が聞きたい」

 

「……はい」

 

「わかりました、マスター」

 

「じゃあ、ごほん。文香、まず現在のこの家の状況を説明してくれ」

 

「……はい!」

 

 

 嬉しそうに言った彼女は、彼女独自の【トラポート】を唱える。

 これは自分が所有する書物だけを手元に持ってくるもので、戻す時には自分で持っていかなくてならないという変な転移魔法である。

 取り寄せた分厚い日記帳にはこの家に関する記録があるらしい。

 

 

「備えとしましては、本邸と元離れのこちらの両方に核シェルターが完備済みです。

 中庭に祭神さまの祠があり、それを中心にこの邸宅自体はそこそこ強い霊地になっています。

 祭神さまの影響もあるので、中庭に畑を作り霊的作用のあるらしい大根、キャベツ、茄子の栽培をしています。

 ただ、本来の効能は発揮できていませんが、本家の女性陣が漬物に加工すると体力回復と一部の状態異常回復が可能なため少量ですがそこそこの売上になっています。

 防御としては、祭神さまの結界の他にカズマ様が買い漁ったアイテムでかなり堅牢だと思われます。

 家屋については以上です」

 

「マスター、わたしや文香もいる時は警護しているので、不在時でもレベルが二桁の集団の襲撃でもなければまず大丈夫です」

 

「まだ何かガイア連合から買い込んだほうがいいものはあるかな?」

 

「今はまだ過剰になり過ぎるので必要ありません、マスター」

 

 

 それなら、家屋については充分だろう。次は、人について聞いてみる。

 

 

「じゃあ、次は人について教えてくれ」

 

「……はい。まずカズマ様のご実家ですが、祖父の鶴弥さまは全額前払いでガイア連合系列の老人用マンションに入居済みです。

 お母さまの悠紀華さんは、懐妊が分かり連合員の関本様と正式に結婚され関西の家に引っ越されています」

 

「20歳以上年の離れた兄弟とかはちょっと複雑だけど、まあよしとしよう。

 うちの実家はこれで大丈夫と」

 

「……次に、妹の花蓮様。

 雫様と一緒に春には高校3年生になられ、カズマ様とのチームで順調に強くなっておいでです。

 シキガミでもあるクーフーリンとの仲は、外堀が全て埋められ卒業時には試合終了かと」

 

「マスター、現時点でお二人は共にレベル18。

 花蓮様のスキルは、ハマオン、ブフーラ、ディアムリタ、リカームだそうです。

 クーフーリンは、突撃、ヒートウェイブ、チャージ、食いしばり、かばうです。

 切り札があるそうですが、秘密にされています。

 これに、カズマ様と一緒に買われた指輪のアガシオン【エメラルド】が加わります」

 

「この二人も充分に強くなったなぁ。花蓮とか2年前の倍のレベルだ」

 

 

 花蓮が転生者の掲示板を見つけてきたのが、全ての転換点だったなぁ。

 それも、懐かしく感じる。

 喪女のお姉様方に諭され吹っ切ってからは、もう神戸ではエースコンビだろう。

 文香が別の日記帳を呼び寄せ、めくりながら続きに移る。

 

 

「……次に、月城家の方々です。

 先代当主夫妻の忍さんと恭也さんは、50歳を前にしてもう楽隠居に入るようです。

 先日、葵さんを当主に任命し、ガイア連合で働きながらのんびり過ごされています」

 

「当主の交代は聞いていないんだけど?」

 

「……はい。私の目の前で3人で楽しんでおられた前日に。

 これならすぐに次の娘も出来るだろうから頑張って、と軽い口調で」

 

「もしかして、あの日やたらと葵が行動的だったのはそれで?」

 

「……カズマ様が死にかけたのも含めて、危機感からああされたのかと」

 

 

 そう言われると改めて、ますます死ぬことは許されないなぁと考える。

 ある意味、自殺でない死を望んでいた前の生とは大違いだ。

 考え込むのを止めて、次を促す。

 

 

「……それでは、その月城葵さんです。

 年下の旦那様を迎え、当主に就任し家の舵取りを任させるようになり、子どもたちも順調に育っているという彼女にとっては今はとても幸せでしょう。

 事務関連の資格もいくつか所持し、覚醒者としても成長していますので能力は充分でしょう。

 閨に於いては、完全に正室として君臨しています。

 こんなに妻の方から女を増やして嫉妬や独占欲はないのかと聞いたら、

 『そういうのも確かにあるけれど、感情的になっても彼が逃げるだけでしょう?

  あの人はわたしに惚れているし、あの人の居場所を作るのはわたしなのよ。

  それに、一人で相手をして激しく続けられるのは天国と地獄なの』

 そう言って微笑みながら、だからわたしが選ぶのよ、と。

 分かりましたか? すけこまし」

 

「現状で、彼女のレベルは8。

 使える術は、簡易アナライズの見鬼の術、【ハマ】、【ムド】、【ディア】、【パトラ】。

 これに、カズマ様が贈られた指輪のアガシオン【ルビー】があります。

 すでに地方では一流の術者ですよ。ベッドヤクザのマスター」

 

「……………」

 

 

 基本的に誰が来るかや内容は女性側が決めているので、求められる物をしているだけなんだが自分も楽しんでいるので視線をそらして次を促す。

 

 

「……次に、月城雫ちゃんです。

 今度の春に高校3年生になり、卒業後は葵さんの補佐と彼女のように資格を取りつつ主婦になるそうです。

 最近は忍さんに漬物の秘伝を伝授されたらしく、霊的効能のある漬物作成では葵さんより上になっています。彼女はこっち方面に才能があるみたいですね。

 あと彼女にも、女が増えて嫉妬や独占欲はないのかと聞いたら、

 『そういうのも無いわけじゃないよ。

  みんな、そういう感情的にトラブルを起こす人ではないのは分かっているから何も言わないだけなんだよ。

  そういう人は、居なくなってもらうだけだし。

  そう、お兄ちゃんは皆のものなんだから』

 と、目のハイライトが消えていたのでこれ以上は止めました」

 

「術者としては、レベル5。

 使える術は、回復スキルの【実りの舞】と【パトラ】ですね。

 これに、同じくマスターが贈った指輪のアガシオン【サファイア】があります。

 地方の術者としては、まずまずですね」

 

 

 雫は家に居ての後方支援としては安定していているのは助かるなぁ。

 姉妹ともに愛が重いのはいつものことだから、次に行こう。

 

 

「……では、次に一番新しく加わった立花白乃さんです。

 先の事件の被害者で、現在はガイア連合の治療で傷は癒えています。

 しかし、心理的には何らかのトラウマがまだあるみたいですね。

 その性か葵さん曰く、以前は強かで独立的な娘だったのが、今では従順で誰かに従うのが当たり前になっているそうです。

 今は住んでいる所もこの家に戻り、前と同じくNPOの事務と家の家政婦をしています。

 あと彼女にも、女が多くて嫉妬や独占欲はないのかと聞いたら、

 『他の人は他の人だし、憶えてないけど、あの人に所有されていると思うと安心するの』

 と、顔を赤らめて答えていました。やばいですね」

 

「マスター、その彼女もアナライズしてみたんだが、レベル5でまだこれはいいんです。

 スキルですが、【アギ】、【自然治癒】、【狂乱の陶酔】なんですよ。

 やばいと思います」

 

「【狂乱の陶酔】?」

 

「……データによると、『敵の物理攻撃を受けた時、攻撃してきた敵を中程度の確率で魅了状態にする』とあります。

 彼女、変な覚醒をしたのだと思います」

 

 事件後のこれまでの白乃の事を思い出す。

 月城家の人や花蓮にこれまでと変わりなく付き合っている事。

 文香やジャネットともそれなりに打ち解けようとしている事。 

 アガシオンの【ガーネット】入りの指輪を贈った時の喜んでいた顔。

 依存気味だが、許容範囲内の好意。

 

 

「問題なし。家族として扱うように」

 

 

 そう言うと、二人は顔を見合わせて仕方がないなぁとでも言うように了承してくる。

 解せぬ。

 最後にと、ジャネットが文香をちらっと見てから話し出す。

 

 

「マスター、文香ですが現在レベルが16になり、【ラクカジャ】と変な【トラポート】を身に着けています。

 実戦にも出ずにここまで成長したので、彼女は【鬼女】でなく【夜魔】では?」

 

「……失礼なことを言わないでください。当然の報酬を貰っているだけです」

 

「楽しんでいるのだから、同じでしょ?」

 

 

 楽しそうに、喧嘩を始める二人。

 手を叩いて止めさせると、結論を述べる。

 

 

「はいはい、そこまでにして。現状の事はよく分かった。

 これなら、方針は変わらないよ。

 『終末になっても、強くなって皆で生き残る』

 二人とも、これからもよろしく」

 

「はい、マスター。いかなる戦場へでも付き従いあなたを護ります」

 

「……はい、カズマ様。幾久しく、お願い致します」

 

 

 最初の4人の変身したカードの娘たちも喜んでいるように感じる。

 大切なものを守るためにも、自分ももっともっと強くならないといけない。

 改めて、その決意を決める自分だった。

 

 

 

 

 

 翌朝、文香から葵が四国の知り合いの巫女と共同執筆した本を見せられて、決意が揺らいだのは横に置いておく事にするつもりだ。

 

『私はこれで某組織の誘致に成功した! あなただけにそっと教える、強くて頼りになるあの人を地元に繋ぎ止める必勝法』

 

 とりあえず、話を持ちかけた巫女の方に抗議を入れるとしよう。

 




あとがきと設定解説


・【カヤノ漬け】

神戸セクターでのみ販売されている回復効果のある漬物。
種類は、大根とキャベツと茄子のぬか漬け。
効果は、魔石+ポズムディ。

・【魔人アリス】

赤城が趣味を入れ込みまくった自称最高傑作の悪魔カード。
レベルは、39。耐性は、物理耐性、銃反射、破魔耐性、呪殺無効。
スキルは、死んでくれる?、エナジードレイン、子守唄、夢見針、永眠への誘い、破魔無効。

・【魔神 大淫婦バビロン】

オーナーの知り合いの女性が持ち込んだ作品。
容姿については、「あかいいなずま」を検索して欲しい。
レベルは、60。耐性は、物理反射、火炎耐性、雷撃吸収、衝撃弱点、破魔耐性、呪殺耐性。
スキルは、バビロンの杯、女帝のリピドー、マハジオダイン、コンセントレイト、デクンダ、精神異常無効

・『私はこれで某組織の誘致に成功した! あなただけにそっと教える、強くて頼りになるあの人を地元に繋ぎ止める必勝法』

漬け物石さんの作品「幼馴染が終末思想のヤバいカルト宗教にハマってしまった件」より、お借りしたネタ。
あの巫女さんならやりかねないと思うので。


プロットはありますが、次回は未定です。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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閑話
第三十一話 幕間その六・『★地方に婿入したけど質問ある?』スレの記録


続きです

今回は、電波を受信したので、急遽、ネタ多めの掲示板回。


 

 

  第三十一話 幕間その六・『★地方に婿入したけど質問ある?』スレの記録

 

 

「えーと、地方に婿入りしたけど質問ある?、と」

 

 

 3月になり暖かくなったある日、いつもの依頼や書類の決裁もその日は無かったが、習慣で決まった時間に出勤し事務室の奥の自分の机で座っていた。たまに空いた時間にしか掲示板を見れないため、ちょうどよいのでジャネットや文香と共にそれらを見ていた。

 

 今日は、花蓮とクーフーリンは母の所に遊びに行っている。自分はと言うと、30代半ばの母が20歳以上年下の弟妹を身籠ったと聞いて複雑な気持ちで会いに行けていない。

 また、以前はよくこちらでも仕事を受けていた義父のレスラーニキこと関本さんも、こちらにはあまり顔を出さないのは色々あるのだろう。

 

 過去ログを含めて、ここ1、2週間分の掲示板を情報を求めて流し読む。

 掲示板の情報から、先日行われた【ショタオジVSゴトウ部隊~怪獣大決戦】の映像データと、皆には内緒で自衛隊ニキネキ主演の【蘭子の転落人生、はじめての風俗面接】は既に注文している。

 そこでふと、文香から聞かれることがあった。

 

 

「……カズマ様は、スレ立てとかしないのですか?

 かなり特異な経験をしていると思うのですが?」

 

「そんなに変な経験しているかな? …………しているなぁ」

 

「……文車妖妃を仲魔しているのは多分カズマ様だけですし、変な機械でTS変身をして、おまけに一神教の聖女のデザインの造魔のシキガミとか一品物じゃないですか」

 

「そういえば、シキガミでも同じ顔の人はいませんね?

 ああ、前に一度だけ銀髪の黒い服のそっくりなシキガミに会って嫌な顔をされましたね」

 

「オルタはいるだろうなぁ。えっちぃし可愛いし」

 

「まあ、マスターったらそんなに褒めなくても!」

 

「……あなたのことじゃありませんよ。剛力性女」

 

「わかってますよ。夜魔の文車妖妃」

 

「……うぬぬぬ」

 

「ぐむむむ」

 

 

 じゃれ合いの様なそれを見ながら思いついたので、ひとつスレを立ててみることにした。

 

 

★地方に婿入りしたけど質問ある?

 

1:★マスオニキ

こちら、地元の幼なじみの霊能者の家に婿入りしたものです。

相談受付もします。

ちなみに原作のマスオさんは、磯野でなくフグ田マスオだから婿入りはしていないから。

 

2:名無しの転生者

立て乙

なんという無駄知識w

 

3:名無しの転生者

たておつ

本物? 証拠うpはよ

 

4:名無しの転生者

立て乙

嫁の胸、うpはよ

本物なら、マーメイドたんのおっぱいうpはよ

 

5:名無しの転生者

はよ!

 

6:名無しの転生者

はよ!

 

7:名無しの転生者

(ノシ´・ω・)ノシ バンバン

 

8:名無しの転生者

(ノシ´・ω・)ノシ バンバン

 

9:★マスオニキ

おっぱい、うpなんぞせんわ

ほれ、嫁の白無垢。顔は見せん http//xxxxx

 

10:名無しの転生者

おお、綺麗だなー

 

11:名無しの転生者

人形みたいだなぁ

 

12:名無しの転生者

顔が分からんから美人かわからん

 

13:名無しの転生者

>>9 これ、いつの?

 

14:★マスオニキ

1年以上前。大和撫子な年上美人だぞ。

どこぞの四国でJCを弟子と言って囲った天パとは違うぞ。

 

15:名無しの転生者

つまり、その嫁を毎晩可愛がっているのか

もげろ

 

16:名無しの転生者

もげろ

 

17:名無しの転生者

もげろ

 

18:名無しの転生者

もげろ

 

19:名無しの転生者

自慢話だけをするなら帰るぞ

 

20:名無しの転生者

折れろ

 

21:★マスオニキ

自慢じゃなくて、こっちの経験から語れる事を話す趣旨のスレだぞ。

最近ガイア連合は躍進したせいで、俺らが高い素質を持っているのが知れて、

恐山の霊視ニキの件みたいに父親欲しさに集まってきているのよ。

薬や酒を盛られて逆レからの既成事実したいのか?

 

22:名無しの転生者

ヒエッ

 

23:名無しの転生者

ヒエッ

 

24:名無しの転生者

ひえっ、じゃああの時はやばかったのか

 

 

(各々の思い当たるフシや体験と実体験で捕まった友人の例などを言い合っている)

 

 

157:名無しの転生者

つまり、その辺はもうショタオジが対処済みと

 

158:名無しの転生者

そういうことだな

何かあったら、通報一択だ

なお、そういう過激な手段を取るようなのは海外から来た外様神が多い

 

159:名無しの転生者

でも、個人情報を調べて成功率の高い相手を送り出すメシア教も怖い

 

160:名無しの転生者

こわいなー、とづまりしとこ

やっぱ、理想の嫁はシキガミちゃんだけだわ

 

161:名無しの転生者

それな

 

162:名無しの転生者

それな

 

163:名無しの転生者

それなと言いたいけど、予約ががが

 

164:名無しの転生者

カカシ、その言葉はオレに効く

 

165:名無しの転生者

これでも予約は一年待ちじゃなくなっただけでもましかと

 

166:★運営

デザイン等の注文をこちらに任せて貰えれば早くなります

と言うか、お前ら! 注文が細かすぎんだよ!

分厚い注文書を送ってくんじゃねえよ! 

乳の形まで具体的にイラスト指定入れてんじゃねぇ!

 

167:名無しの転生者

(めそらし)

 

168:名無しの転生者

記憶にございません

 

169:名無しの転生者

ちっぱいが至高

 

170:★マスオニキ

自分が揉み育てた嫁のが至高だぞ。

人間でもでシキガミでも。

 

171:名無しの転生者

だから、まだ予約待ちだよ!

 

 

(理想のシキガミ嫁の造形と理想のおっぱいの組み合わせに関する議論中)

 

 

 

212:★マスオニキ

自分の理想は自分で手に入れろで〆るぞ。

話しをもとに戻すぞ。

 

213:名無しの転生者

おk

 

214:名無しの転生者

つかれた、了解

 

215:名無しの転生者

んで、何だっけ?

 

216:★マスオニキ

シキガミ以外の嫁についてだな。

まず、俺らに来る霊能力者の嫁は約9割宗教持ちで、およそ1割が一般だ。

ほぼ間違いなく美女か美少女が来るが、

外様なら100%神の紐付きで、ねんごろになったらその神の居留地へお持ち帰りだ。

日本の神様でもほぼ紐付きで、まだ結婚には融通が効くぞ。

メシア穏健派? 世間体も良いままで、善意で家族諸共取り込まれるぞ。

 

217:名無しの転生者

ヒエッ

 

218:名無しの転生者

しめやかに失禁

 

219:名無しの転生者

夢も希望もないな

 

220:★近飯ニキ

こっちは近くにいるから、笑えないんだよなぁ

 

221:名無しの転生者

お、学校に根願寺の美少女とメシアの金髪美少女が転校してきた近飯ニキじゃないか

どっちかにもう喰われたか?

 

222:★近飯ニキ

まだだよ!喰われていないよ!

 

223:名無しの転生者

時間の問題だということか

 

224:名無しの転生者

南無

 

225:名無しの転生者

そういや、マスオニキだって嫁複数いるだろ?

 

226:名無しの転生者

なに???

 

227:名無しの転生者

聞き捨てならないな??

 

228:名無しの転生者

だって、神戸セクターで働いていた現地の美人姉と巨乳妹が連れ立って同じ指輪をしていたぞ

しかも、薬指にアガシオン入りの

 

229:名無しの転生者

ほう、マスオニキ釈明はよ

 

230:名無しの転生者

はよ

 

231:名無しの転生者

はよ

 

232:★マスオニキ

さらば!

嫁2 現嫁の妹 ウェディングドレス http//xxxxx

嫁3 現嫁の親族 ウェディングドレス http//xxxxx

嫁4 金髪美人のシキガミ ウェディングドレス http//xxxxx

 

233:名無しの転生者

釈明じゃなくて、自慢じゃねぇか!

しかも、増えてるし

 

 

 勢いでこの間式場で撮ったレンタルドレスの記念写真を、顔を隠してスレに貼り付けて閉じてしまった。相談を受けると言いつつ、雑談と自慢で終わってしまったなぁ。

 後ろから覗いていた文香が、自慢顔で照れているジャネットを見ながらふくれ顔で言い始める。

 

 

「……スレを立ててはと言いましたが、誰が自慢しろと言ったんです?

 しかも、あの写真は何ですか?? ジャネットまで撮っているなんて知りませんでしたが?」

 

「んもー、マスターったらそんなに自慢したかったんですね?? 恥ずかしい!」

 

「……黙っていてください、カズマ様に聞いているんです」

 

「だって、文香は普通の写真機には写らないでしょ?」

 

「……あああ、そうでした」

 

 

 がっくりと項垂れる文香。鼻息も荒くドヤ顔のジャネット。

 こうなるとこちらが悪い気になってくるので提案をしてみる。

 

 

「文香でも撮れる写真機なら、ガイア連合なら売っていると思うから今度探してみようか?

 普通に服は着替えられるんだし、ドレスも着れるだろう」

 

「……絶対ですよ、絶対」

 

「もちろんだよ。仕事が終わったらね」

 

 

 真っ赤な顔で意気込んでくる彼女に約束し、その日は就業時間終了まで穏やかに過ごせた日だった。

 

 

 

 

 

 そして、後日。無事、文香の分のウェディングドレスの写真も撮ることに成功した。

 そのお返しと称して文香が考案と発注した全員分のデザインの違う水着は、大変に素晴らしいものだったのでまたスレ立てして自慢しようかと考えている。

 




あとがきと設定解説


・★近飯ニキ

ガイヤさんの作品「【カオ転三次】俺が不幸なのはどう考えてもメシア教が悪い!」の主人公の彼。
続き、お待ちしています。

・ウェディングドレスの撮影

近場に出来たジュネス内のブライダルサロンで撮影した。
複数人来ている事には、顔に出さないプロの撮影だった。


次回も、リアルの都合で電波が降りたら閑話をやります。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第三十二話 幕間その七・夢という名の厄介事を見たことによる変化の記録

続きです。

今回は、幕間で夢枕に立つのも考えて欲しいお話。


 

 

  第三十二話 幕間その七・夢という名の厄介事を見たことによる変化の記録

 

 

 夢を見ている。

 

 わたしは、王族出身の旅人だった。

 わたしは、旅先でその国一番の美女とされる女性と懇意になり、一夜を共にした。

 わたしは、その後、見聞を広めるため各地を旅をして廻った。

 わたしは、数カ月後、もう一度その女性に会いに行った。

 わたしは、その女性に子どもを身籠ったと言われた。

 わたしは、一夜だけの関係で子どもがそうそうできるのかと問うた。

 わたしは、その女性に自分はあなた以外の男性とは関係を持っていないと言われた。

 わたしは、思案した。

 わたしは、それを確かめるために女性を閨に連れ込み、甘やかしながら聞くことにした。

 

 どこかで膝を叩きながら笑う男性の声と呆れた女性の声を聞くと、場面が切り替わった。

 

 わたしは、王から信頼された武将であった。

 わたしは、地方を平定したある日、王から話を受けた。

 わたしは、王の娘を娶り息子にならないかと問われた。

 わたしは、喜んで了承した。

 わたしは、嫁入りの日、部屋には二人の女性がいるのを見た。

 わたしは、醜女と評判の姉の方を見る。

 わたしは、美女と評判の妹の方を見る。

 わたしは、二人共に来るとは王から聞いていないと問うた。

 わたしは、二人にこれが王の意志だと言われた。

 わたしは、これが醜女の姉かと見ながら噂は駄目だなと思案した。

 わたしは、とりあえず初夜なので二人とも閨に連れて行き共に可愛がることにした。

 

 どこかで笑いながら噎せている男性の声と女性の長いため息を聞きながら、目が覚めた。

 

 目を開くとまだ夜明けも来ていない自分の寝室だと分かる。

 仰向けで寝ている自分の両脇には、今日の順番だった葵と雫が寝ている。

 夢の内容を思い出し、二人を抱き寄せると再び眠りに落ちていった。

 

 

 

 視界がはっきりすると、前にも見かけた光景が目の前にある。 

 前と同じ様に上からそれぞれにスポットライトが当たっており、自分はパイプ椅子に座り、マーメイド、モー・ショボー、ナジャ、ユキジョロウ達が左右に座り、正面の一際豪華な椅子にはアリスが座っている。

 これも夢を利用した物なのだろうと思い、話しかけることにする。

 

 

「こんばんわ、みんな。いつも力を貸してくれてありがとう。

 それと、初めましてアリス。友達にはなるけど、死なないからね」

 

「おにーさん、わたしの定番のネタを潰すのはよくないと思うの。

 もう、【魔人アリス】よ。今後ともヨロシク」

 

「うんうん、他の子達も可愛いけどアリスも可愛いね。

 赤城さんから貰った君の絵は、今も家に飾ってあるよ」

 

「もー、赤のおじさまったら恥ずかしいことをしないで欲しいわ。

 今日はね、わたしの他にもご挨拶したい娘がいるから呼んだの。

 おにーさん、後ろを向いてくれる?」

 

「後ろ?」

 

 

 そういうと、椅子ごと床が回転し自分は後ろを振り向く。

 

 そこにはそれぞれ豪奢な椅子が3つあり、右には黒髪をツーサイドアップにしビキニ水着のような衣装に身を包んだイシュタル、左には青い布地に金色の模様の衣装を身につけた紫髪のパールバティー、そして正面にある赤いいつも乗っている騎獣を模したソファにそれはいた。

 よく見ると自分の知っている姿とは少し違い、赤い紐水着と赤いサンダルはそのままだが金色の王冠を被り白い薄絹を羽織り右手に豪華な杯を持っている大淫婦バビロンである。

 左右の二人は不機嫌そうだが、彼女はこちらを笑みを浮かべて見ている。

 それなので、二人の方から話し始める。

 

 

「よくぞ、来……」

 

「とりあえず、こうして会うのは初めてだね。

 イシュタル、パールバティー、それとも桜や凛と呼んだ方がいいのかな?」

 

「イシュタルでいいわ。お父様。

 私たちはあの子たちの力が姿を取っただけだから」

 

「そうです、お父さん。私もパールバティーと呼んで下さい。

 勝手なことをしたのは私たちなのですから」

 

「でも、助けてくれたことには違いないよ。ありがとう。

 だけど、何故本来のではなくその姿になったのかを聞いてもいいかい?」

 

 

 呆気にとられているバビロンを視界の端に置きつつ、当然まず娘の一部でもある彼女らと話す。機嫌を直し、笑みを浮かべて答えてくれる二人。

 

 

「それはもちろん、夢を通してお父様の記憶を見たからよ。

 向こうではよくしていたゲームの姿なのでしょう?

 それに今の私たちも成長したら、ほぼこの姿になるからちょうどいいし」

 

「向こうのお父さんてば、私と同じ顔の娘にばかり力を入れて全部集めて全部成長しきっていたのは照れてしまいます。

 そんなに私が大好きだったなんて嬉しいです」

 

「ああああ、お願いだから前の時の話はしないでね。

 映画も最後まで見れなかったのが悔しいくらいだよ、これでいいかな!?

 理由は解ったから、これ以上は禁止で」

 

「マスター!余が一番ここでは強いんだぞ!

 最初にあれだけ熱い視線を捧げながら、この美この体に何か言うことはないのか!?」

 

 

 顔を赤くして和やかに談笑している自分に、若干、涙目になって近くに来て服を引っ張りながら言うバビロン。

 この分霊、ガワの性格に引っ張られすぎていないだろうか?

 

 

「はいはい、とても扇状的で色っぽいよ。

 これでいいかな?」

 

「おざなり過ぎではないか、マスターよ。

 せっかくお主に合わせて創られた余なのだから、もっと褒めても良いのだぞ?」

 

「まあ、わざわざ来てくれたことには感謝はするけれど、そもそも君の本体は何を考えているのかい?

 オーナーも迷惑がっていたよ?」

 

「うむ、簡単に言うと南極のシュバなんとかが駄目になったのでこちらに来る機会を探していたら、宰相閣下の息抜きのここをちょうど見つけただけだぞ。

 おまけに、お主のような面白い契約者もいるのでな。

 暇でもあったのでこうして余を創って送り出したのだ!」

 

 

 ふんすふんすと得意げに言っているバビロン。

 その割には、どうしようもない理由で来られたこちらが迷惑である。

 しかし、この場にいるということは契約済みなのは間違いない。

 けれど、これだけは言っておかないといけない。

 

 

「ねえ、バビロン」

 

「何かな? 我がマスターよ」

 

「この場における本来の契約は、アリスたち五人が正式な相手なんだよ?

 特別な事情のある自分の娘であるこの二人とは違って、君は本来無理やり来たんだ。

 おまけに、君だけは強すぎて姿も変えれないしサバトマでも呼び出せないんだけど」

 

「な、何だと、マスターよ。本当なのか!?」

 

「本当だよ。だから、自分が強くなるまで待っていて欲しい。駄目かな?」

 

 

 葵直伝の雫や白乃の機嫌の取り方に従って両手を握って目を見て話しかけてみると、驚いた顔をして視線をそらして頷くバビロン。

 周囲の視線は痛いが、彼女は大人しくソファに戻ってくれた。

 背後から、不機嫌そうなアリスの声がする。 

 

 

「おにーさん、話がついたならそっちに座って」

 

「? ああ、わかったよ」

 

 

 答えると左側にどこでも売っていそうな一人用のソファが現れる。

 それに座るとパイプ椅子は消え、相変わらず周囲は真っ暗で椅子のある場所にライトが当たってるのだが椅子の並びが変わった。 

 時計でいうと、6の位置に自分が、1の位置にモー・ショボー、2の位置にユキジョロウ、3の位置にアリス、4の位置にナジャ、5の位置にマーメイド、7の位置にパールバティー、9の位置にバビロン、11の位置にイシュタルが配置される様になった。

 何だろうこれは? 意味がわからない。

 12時の位置の暗闇を指差しながら、アリスが説明を始める。

 

 

「いい、おにーさん。

 わたし達はここを【召喚の円座】と呼んでいるわ。要するに、待機部屋ね。

 で、この並び方は契約したわたし達の関係を表しているの。

 これは、円場博士曰く、あの女が来たからアプデをしたらしいわ。

 今までは変身すると、こちらのステータスに上書きされて行動していたの。

 でも、わたし達は契約時のレベルで強さが固定されてるの。

 だから、わたし達よりおにーさんが強くなるとかえって弱くなる欠点があったの。

 だけど、今回から変身した時のみおにーさんの強さに合わせてわたし達も強くなれるわ。

 サバトマでも呼び出せるけど、その時は固定された本来の力しかないから注意してね」

 

「だいたい分かったよ。だけど、そこの闇の中に誰かいるのかい?」

 

「そこにはおにーさんを乗っ取りかねないものが鎖に繋がれているわ。

 自分が肉体を得たいのではなく、おにーさんと一つになりたいと望んでいるの。

 そんなこと許すはずないじゃない。

 契約は有効だから消せないけど、行儀が良くなるまでは椅子は渡さないわ」

 

 

 闇の中から赤い目の光が見える。

 こちらを認識したようで、近づこうとしているのかガチャガチャと金属の音がする。

 泣いているのか女性の声で押し潰したうめき声もしてきた。

 周囲を見渡し視線を合わせていると、パールバティーだけが視線を逸らす。

 何となく『彼女』の正体がわかり、声をかけてみる。

 

 

「いいかい。

 自分が強くなって必ず扱いこなせるようになるからね。

 それまでいい子にして待っているんだよ、【桜】」

 

「………!」

 

 

 闇の中から何かが喜んでいる様子が分かる。

 力が抜け、座り込むと視界がぼやけてくる。

 誰かの「また会いましょう」という声を聞きながら意識が薄れていった。

 

 

 

 目が覚めると、朝になっていた。

 葵と雫はもう起きたのかここにはいない。

 自分もシャワーを浴びて起きなければと思い、上体を起こし出かける用意を始める。

 ふと思い立ち出かける前にもう1歳になる子どもたちの顔を見ることにし、葵と白乃がご飯をあげている横から顔を見る。

 自分に気がつくと二人ともに笑い、「ぱぁぱ」と言ってくれる。

 それを見て一緒に笑う大事な家族である皆、守らなければという気持ちが湧いてくる。

 皆に行ってくると挨拶し、自分はジャネットと共に神戸セクターに出かけて行った。

 

 

 

 

 

 

 その日の午後、「魂の融合」というスキルに目覚めているのが判明した。

 それは悪魔変身者が人のままで変身する悪魔のスキルを一つだけ使えるという物らしかったが、そのスキルを認識した瞬間、脛毛と脇や腕の毛が消えおまけに全身の肌のほくろや黒ずみが消えてしまった。

 医師の六堂さんには、自分の契約相手によるとても羨ましい副作用だと言われてしまった。

 鏡で自分の顔を見ながら考えてしまう。自分はどこに行こうとしているのかと。

 




あとがきと設定解説


・最初の夢

主人公を神話時代の婿に見立てたとあるご夫妻の試験。
夫のほうが爆笑して合格を出し、加護としてスキルに目覚めさせた。


男性には女性を理解するのは難しい。

次回から第四部の予定です。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第四部
第三十三話 Q、日々のお仕事は順調だと思っていますか?


続きです。

今回から、第四部開始。


 

 

  第三十三話 Q、日々のお仕事は順調だと思っていますか?

 

 

 5月になり暖かくなる中、神戸セクター内でも少しづつ変化が起きている。

 

 事業所長の赤羽根さんに音無さんと氷室さんがアプローチを掛けていた件で、どうやら音無さんと正式につき合い出したらしく氷室さんは失恋が決まったようだ。

 これが切っ掛けになったのか、地下のラボに2人の新しいメンバーが加わった。

 

 氷室さんのシキガミ【アストルフォ】と六堂さんのシキガミ【ジャック】である。

 

 以前、彼女らは山梨にいる時に制作班の立場を悪用し、書類を改ざんして自分たちの順番を早めようとしてバレて神戸の開設メンバーに飛ばされた過去がある。現在では真面目に職務をこなして、もう禊も済んだと判断されたためか購入許可が降りたようだ。

 そして、氷室さんは完全にシキガミを旦那にすることに決めたらしい。

 さっそく花蓮と相談して意気投合している様であり、クーフーリンとアストルフォも仲良くなっているようで何よりである。

 自分には頑張ってくれとしか言えない。

 

 

 

 それはさておき、ここのところ個人的に困っていることがある。

 

 先日、突然に変わった体質ついては、我儘紐水着姫が「余と同一になるのだから最低限これくらいは美しくせよ」とのことからの干渉らしい。

 まあ実害はないのでそれはそれでよしとするが、他にもっと悩みがあった。

 

 それは、レベル上げである。

 花蓮とクーフーリンはレベルに見合った異界を見つけては他にメンバーと共に潜っているようだが、レベルが40近くになろうかという自分に合った異界が近場にはもう無いのである。

 出来るだけ早く強くなるとはあの娘と約束もしたが、遠方の中国・四国地方の大型異界に出張しないとレベルアップに合う悪魔を相手にできない。

 だがそれではたぶん上がり切るまで数ヶ月の長期になり、家族にこまめに逢えなくなるのが辛い。

 

 何か短期で出来るよい方法はないかと掲示板を見ていたら、こういう記述を見つけた。

 曰く、『ペルソナ使いしか入れない異界のタルタロスでは敵が無数に湧いてくる』

 曰く、『現在の攻略者は一人しかいないため、人員募集中である』

 曰く、『レベル10以上の悪魔が群れで湧くことがある』

 前に自分は、ショタオジにペルソナ寄りの悪魔変身能力だと言われたことがあった。

 これはなんとか出来るかもしれないとそう思い、ここの事務記録にあるペルソナ使いに連絡することにした。

 

 連絡を取ったトラポートを使うペルソナ使いの彼に、目的地である月光館学園の近くの支部である磐戸台に連れてきてもらった。

 周囲を窺いながら彼は受付の男性にことの詳細を告げると、自分に「全て終わって協力者が居なくなってから連絡してくれ」と言い残し逃げるように消えてしまった。

 

 タルタロスに入るには午前0時にならないと行けないため、まだ夕方だったので約束の時間まで部屋を借り仮眠を取ることにした。

 アラームが鳴り22時となっているのを確認し、用意をして起きる。

 今回はジャネットは同行できないので、いつものサバゲー服に右腕にアームターミナルを左腕にデビルズアブゾーバーを付け一人で向かうことになる。

 

 部屋を出てロビーに向かうと、一人の女性、いや少女がいた。

 茶髪の髪をポニーテールにした制服を着た目の光が尋常でない活発そうな少女だった。

 お願いを聞いて貰う立場なので、こちらから挨拶をする。

 

 

「初めまして、今回手間をお掛けする神戸セクターのマスオニキです。

 失礼ですが、【ハム子ネキ】さんでしょうか?」

 

「いえいえ、こちらこそ初めまして。

 何でも悪魔変身能力者だそうで、こちらで入れそうなら一緒に行ってくださるとかで。

 助かります。今、アイギスも治療中で大変だったので」

 

「それでは、その異界を認知できて同行した場合は規則に乗っ取った分配でお願いします。

 もし入れなかった場合は、お手数をお掛けしたお礼をいくらかさせて頂く事でよろしいでしょうか?」 

 

「ええ、ええ、それでいいですよ。それじゃあ、早速行きましょうか!」

 

 

 元気でハキハキと喋るいい所のお嬢さんなのだなとの印象を受け、連れ立って目的地に向かう。

 近くまで来てこちらはドッペルゲンガーの能力を伝え連携する際の手順を話し合っていると、目の前の学園が変形し巨大な塔へと変わっていく。

 これがペルソナ3の舞台になった異界・タルタロスなのかぁ。

 感心して見上げていると、認識できているのに気づいたのか彼女が嬉しそうに話しかけてくる。

 

 

「ショタオジから聞いていた通り、シャドウから派生した能力なんですね。

 見えるようですし、行きましょう!」

 

「分かりました。では、行きましょうか」

 

 

 この時、自分は軽く考えていた。

 今までに行った異界より敵が湧くとはいえ、何とかなるだろうと。

 

 確かに彼女は強かった、敵の湧きがゲームの無双シリーズのようでなければ。

 物理反射と銃反射を持ちマカラカーンとテトラジャを使う高レベルの自分は、さぞかし使いでのある前衛の壁役だったのだろう。

 1日目は、遠慮がまだあったのだろうか、低層で慣らしもあったので楽であった。

 2日目から中層に登り、広範囲攻撃を掛け声はあれど巻き込むようにぶっ放された。

 3日目からはシキガミのアイギスという娘も加わり、さらに状況は過酷さを増していく。

 4日目の最終日はいつも行くという最前線の階層で、溢れ出る蟻のように来る敵と死ななければ安いをリアルでやる彼女から生き延びることだけを考えて最後まで戦い抜いた。

 

 正直、サバトマも他の姿に変わる隙もないほどの戦いの連続で、敵の攻撃だけでなく彼女の広範囲攻撃のフレンドリーファイアも避けながら戦い続けることになった。

 約束のゴールデンウィークの祭日が続く週が明けた時には、自分はもう疲労困憊であった。

 

 よほど、便利で戦いやすかったのだろう。

 ハム子ネキだけでなく彼女のシキガミらしいロボ少女にまでここに残ってくれと言われてしまったが、これ以上は家にいる妻と子どもが待っているのでと伝え、疑問符だらけで硬直した彼女を後目に逃げるように帰ってきた。

 

 トラポートの彼に忠告された通りだった。

 確かに稼ぎもよくレベルは短期間で急激に上がったが、これでは体が持たない。

 これからのレベル上げは、大人しく近隣の大型異界に短期で出張することにしよう。

 この後、何度か彼女からお誘いの連絡があったが丁重にお断りする事にした。

 

 

 

 さて、レベル上げの次はお付き合いの方である。

 

 地獄のタルタロスから帰ってきて数日後、自分が直接担当している依頼案件の処理が溜まっていたので処理することにする。

 神戸メシア教会のシスターギャビーからの依頼である。

 メシア教会関連ではあるが、こと依頼となると報酬額も他のより一桁は多くなるため塩漬けにするのはもったいないし、他にやりたがる人もいないので自分が担当しているのである。

 

 助手席のジャネットと共にワンボックス車を出し教会に向かうと、この時期にコートを着たシスターギャビーがカバンを持って待っていたので車を止め声をかける。

 

 

「お久しぶりです、シスター。

 今日は依頼の方を受理しに来ました。よろしいですか?」

 

「…え、ええ、こんばんは。今日はよろしくお願いしますね」

 

 

 そういうと、車の後部座席に彼女だけが早足で乗り込んでくる。

 周囲にはお付きの人たちはいるが、彼女がドアを閉めると「いってらっしゃいませ」と頭を下げている。

 疑問にも思いながらも車を出し、一つ目の依頼の現場に向かいながら話し始める。

 

 

「依頼書には同行者を希望するとありましたけど、何故、幹部のあなたが一人で来たんです?」

 

「こちらにも、いろいろとありまして。

 実は、去年の事件で全滅した私が直接動かせる実働部隊の補充がいないのです。

 今の手持ちは貴方も知るシスターのあの娘たちだけですし、茂部神父は守りの要なので動かせません。

 それと、稼ぎ時である来月のジューンブライドの準備のために今、手が空いているのは私だけなのです」

 

「そんな事を話してしまっていいんですか? 機密じゃないですか?」

 

「聖処女の姿をした彼の使い魔さん。

 確かに機密ですけど、貴方の主のように隔意を持って接して来ない上に守秘義務を守ってちゃんと仕事をしてくれる信用できる方って少ないんです。

 同じ我々の身内でも、地区が違えば対立もします。

 それに比べて、私は彼を深く信頼していますから」

 

「仕事の内容は秘密にしてくれって依頼にありますから、受けた以上喋らないのは当たり前ですよ。

 とりあえず、一つ目の依頼場所に来ましたよ。降りましょう?」

 

 

 もしかしてこの人ボッチなのではと思わなくもないが、車を止めて二人と連れ立って目的地に歩いて行く。

 そこは先日、自分が死にかけたあの建物跡だった。

 一つ目の依頼は、自分が彼女を連れてこの場所に来ることだった。

 もともとあの建物はメシア教会の管理物件だったが、自衛隊の閉鎖後に完全に取り壊され更地になっている。

 シスターギャビーは、その建物があった所まで来ると少し待つように言うと祈り始めた。

 しばらく立っただろうか、彼女はこちらに戻ってくると難しい顔をして自分の左腕を見ながら話し始める。

 

 

「カズマさん、“今日は左腕に機械は付けていませんのね?”」

 

「腕時計は邪魔なので荒事が起きるようなら外していますよ、シスターギャビー」

 

「……………」

 

「……………」

 

「……話しては下さらないのですね?」

 

「この業界ですから、奥の手は出来るだけ秘密にしますよ。

 それに、あのシスターたちや貴女は他のメシア教徒よりは信用していますから、あなた方から仕掛けて来ない限りはそちらに向けては使いませんよ」

 

「わかりましたわ、カズマさん。今はその言葉だけで充分ですわ。

 そうですね、時間は私の味方ですし」

 

 

 そういうと、彼女はこちらを見て嫣然と微笑むと車へと戻っていく。

 ここで起きた事の何にどこまで気づいたのだろう?

 不安ではあるが、アブゾーバーのケースが入ったカバンを背負い直し自分もジャネットと車に戻って行った。

 ただ、暑くなり始めたこの時期にコートを着込んだままなのは平気なのだろうか?

 

 車に戻り、かなり離れた二つ目の依頼場所に向けて車を走り出す。

 今度の依頼は、メシア教が情報を掴んだダークサマナーの拠点の襲撃である。

 場所は、大阪と神戸に間にある治安が悪い地域の廃ビルだという。

 車内の冷房に安堵している彼女が、今回の経緯を話し出す。

 

 

「今回の依頼は、私の政敵のある司教の調査の際に判明しました。

 その男の部下が周囲に黙って、アメリカの過激派から洗脳装置を手に入れて横流ししたというものです。

 あの男もまだ掴んでいないそれを買ったダークサマナーの拠点がそこになります。

 そこへ直接に私が乗り込んで潰してしまえば、あいつの顔も潰れるでしょう」

 

「政治的なあれそれは置いておいて、相手の規模は分かりますか?」

 

「小規模カルトのようですが、多くて2,30人ほどでしょう。

 裏口もない古いビルですから正面から行って、潰した後は警察に引き取ってもらいます。

 こちらに協力してくれる信徒も大勢いますので」

 

「後始末をしてもらえるのならいいですけどね。そろそろ着きます」

 

 

 目的地の近くの路地裏に車を止めて、目的地の廃ビルに向かう。

 物陰に付いた所で入り口を伺うと、見張りが二人いる。

 どうしようかと振り返るも止める間もなく正面から乗り込んで行く女性二人が、声を上げようとした見張りを殴り飛ばして動けなくしている。

 こちらに来てと合図をするので近づいて行く。

 まだ息がある男二人を、手慣れた様子でロープで縛り見えない位置に隠す女性陣。

 こちらは中を窺うも、壊れたエレベーターと階段だけで誰も出てこない。

 

 中には入ったところで、シスターギャビーが赤い顔でコートを脱ぐ。

 下に着ていたのは、両腕の白い篭手と白いブーツに、首から肩や背中、胸元にかけて露出した下が銀色のハイレグのレオタードになっている無駄にエロい戦闘服である。

 呆気にとられて見ていると、恥ずかしそうに話し出すシスターギャビー。

 

 

「……決して趣味で着ているんじゃないんですよ、この服。

 今回の件の司教が、私の追加人員の要請を握り潰した時に送ってきたんです。

 『ガイア連合から手に入れたこの高性能の装備があれば一人で大丈夫だろう』って。

 確かにすごいのです、この装備。

 防御力は並みの霊装を超えていますし、物理耐性に呪殺無効に精神耐性まで付いているのですから。

 でも上に何か着ると効果が失われるし、また全部セットで着ないと駄目なんです。

 しかも、名前が【告知天使のレオタード】って喧嘩売られてますよね?」

 

「いや、ある意味似合ってはいますけど、どうやって手に入れたんだろう、その司教?

 おまけに堂々とセクハラまでするとか」

 

「あの、マスター。

 実は、わたしも電撃耐性のある中に着れるデザインの【大天使のブラ】を着けています。

 私は向こうから来る時に移籍料代わりに神主殿の名義で買いましたが、連合員の紹介があれば売って貰えるのでそうやって手に入れたものかと」

 

 

 確かに、金を積めばそのくらいのことは俺たちの中にもやる奴はいるだろう。

 恥ずかしそうに脱いだコートを畳んで仕舞うシスターギャビーを見ながら、この変な空気を変えるべくそのまま今の発言を流すことにする。

 

 

「よし、先頭は自分で、ジャネットはシスターの次でアームターミナルを起動して補佐はよろしく。

 シスターは大技は取っておいて下さい。行きましょう」

 

「そ、そうね。行きましょう」

 

「あーえー、了解です。マスター」

 

 

 それからは特筆することもなく鎮圧することが出来た。

 

 ほとんどが非覚醒か一桁のレベルの構成員なので自分が前にいると、手加減して殴り倒して電気コード用のプラスチックワイヤーで拘束を繰り返す作業となった。

 一番強かったのは、最上階にあったリーダーらしき男が説明書を読んでいた洗脳装置が変形したロボットだっただろう。

 それも、痴女だの女子プロレスラーだのと散々連中に言われていたシスターギャビーが、怒りと共にぶっ放したマハジオダインで破壊されて終了である。

 

 リーダーを拘束して転がし、ビルを出て車に帰った所で一息つく。

 シスターギャビーが協力者らしい警察関係者に電話し終えると、ストレス発散も出来たのかいい表情でこちらに微笑みかける。

 なお、このワンボックスの後部の窓はスモークだからまだいいが、あの格好のままであるので休憩中の女子レスラーに見えていまいち真面目な空気になれない。

 

 

「警察の方へも連絡は済みましたので、これであの司教の面子も少しは潰れたでしょう。

 わざと現場に説明書を落としてきましたし、ほんといい気味。

 カズマさんも、ありがとうございますね。

 個人的にもお礼をしたいので、よろしければこの後お話でも?」

 

「お仕事は終わりですので、マスターはこれから直帰です」

 

「あら、使い魔さんも貴女なら構いませんのでご一緒にどうです?」

 

「あのですね……」

 

 

 戦っている間はあれだけ息が合っていたのに、ジャネットと言い争っているのをこうして見ていると最初の頃の凄みがどんどん消えていくようである。

 天使も世俗化するとこうなるのか等と考えるも、明け方までまだ時間があるので近くのビジネスホテルで仮眠を取ることにするため車を走らせる。

 それと、シスターギャビーが忘れているようなのでそろそろ注意する。

 

 

「疲れもあるでしょうから近くのビジネスホテルで仮眠を取りますけど、シスターもどうぞ」

 

「あら、積極的ですのね? カズマさん」

 

「……マスター??」

 

「まだ、仕事中ですよ。一人づつ個室は別に決まっているじゃないですか。

 それと、シスターギャビー。着替えずに、その格好で歩き回るのですか?」

 

「……あ」

 

 

 慌てて赤い顔で持っていたカバンからコートを取り出すシスターギャビーを鏡で確認し、車を走らせるのだった。

 

 

 

 

 

 

「そういえば、シスターギャビー。

 あなたが対立しているそのイイ性格の司教は、何て名前なんです?」

 

「関西地区総主教の言峰璃正師の息子の【言峰綺礼】です。ご存知なのですか?」

 

「いや、まあ、うん。名前だけはですがね」

 

 ああ、もし知っている性格なら関わりたくないなぁ。

 




あとがきと設定解説


・アストルフォとジャック

ほぼ原作と同じ姿と性格のシキガミ。
ただし、服はまともです。

・トラポートを使うペルソナ使いの彼

ブロウタスさんの作品「ガイア連合武器密輸課職員の日常」の主人公のイナバニキの事。
詳しく知りたい方は、そちらの作品もお薦めします。

・ハム子ネキ

一人でタルタロスを攻略中のペルソナ使いの女子高生。
たぶん、今の主人公より二回りはレベルが上の超人。
性格的に、ぼっちなのだと思われる。

・【告知天使のレオタード】

画像は、グランブルーファンタジーの羽根のない彼女を検索して下さい。

・洗脳装置が変形したロボット

複雑な機械の仕様を把握中に襲撃されたため「非常ボタン」を押したら変形した。
名称は、【マシン・エデュケーター】。レベルは21。
耐性は、電撃弱点、破魔無効、呪殺無効。スキルは、九十九針。


次回は、次の出来事へ。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第三十四話 Q、日々のお仕事は順調だと思っていますか? ぱーと2

続きです。

今回は、多数の設定を盛り込んだ説明回。
あくまでも、ここの設定はここ独自のものです。


 

 

  第三十四話 Q、日々のお仕事は順調だと思っていますか? ぱーと2

 

 

 今年もまた年々温度が急激に上がっている季節の夏に入った。

 最初にあのスレを見つけ星晶神社に行ってから、3度目の夏である。

 

 この数年で自分の周囲だけでなく、日本全体や世界の情勢もまるで急ぐかのように激しく変化してきている。

 世界的にも既にアフリカとヨーロッパは落ち、イギリス、北欧、インド方面にまでメシア教過激派の侵略は進んでいる。

 パナマ運河以南の南米は、ゲリラと麻薬マフィアとメシア教と政府軍とケツアルコアトル信者とテスカトリポカ信者の混沌とした乱戦中である。

 アメリカ国内でもメシア教過激派による軍や天使を伴った過激としか言えない統制が行われているが、内戦の様相を呈し始めているとアメリカからの避難民から口々に言われている。

 最初のエジプトからの避難民を始めとした外様の神々の避難民からもその酷さの訴えからも、徐々に世界は終末へと時計の針を進めているのが知らされたのである。

 ただし、これらの事実は一般には知らされることはなく、ガイア連合員か一部の関係者にのみ知らされているだけであるが。

 

 そして日本の自衛隊もこの時期中東へ派遣され、改良型デモニカの試験運用でデモニカのアナライズでは解析不能、つまりレベル30以上の天使の個体が戦地にて確認されたという凶報がゴトウ陸将から知らされた。

 先日行われたショタオジと自衛隊の大決戦もクーデターを持ちかけたこのゴトウ氏の頭を冷やすためだったとの事で、協議の結果、自衛隊と共同路線を取り国内の霊地と異界を合同で攻略することが発表されガイア連合とデモニカ隊で行われる事で、転生者用の掲示板は議論や参加の申込み等々で大賑わいである。

 

 もちろん我々神戸の面々も参加の要請があり、関西や中国、四国方面のこれに参加した。

 久しく顔を会わせていなかった義父のレスラーニキこと関本さんとも会い、母の様子を聞くことも出来た。

 20歳以上下の弟は順調のようで、今度の秋に産まれるという。姓に関しては、母と弟は関本にして花蓮は間藤のままでいると聞いた。

 もっとも、花蓮たちと関本さんはともかく自分は高レベルの幹部クラスということもあり、あまり話す暇もなく別々に攻略に参加することになった。

 

 

 

 そして、8月も半ばの盆の時期に6月から始まった自衛隊合同での早急に何とかしなくてはいけなかった国有地にある大型異界や日本神の封印霊地の攻略も一通り終わり、山梨第2セクターで行われた成功祝賀会の片隅に自分はいた。

 久々にショタオジと顔を合わせたので「以前にも言ったけど、アリスと大淫婦バビロンと契約したよ」と軽く報告だけしてジャネットが取り皿に大盛りで食べているテーブルに戻ろうとしたら、「待て待て待て」と慌てて呼び止められたので座って話すことにした。

 

 

「詳細は確かに聞いたけど、言い方軽いね!?

 仮にも、魔人と2体も契約しているんだよ? 何とも無いのかい?

 ……直接見ても、何ともないね。人間のままだよ」

 

「それは基本的にあの4人の娘たちしか使っていませんし、彼女らのデータも合わせて伝えましたよね?

 アリスは他の4人の娘たちと同じ様にいい子ですし、バビロンも『魔人マザーハーロット』でなくもう完全に大淫婦(笑)な可愛い『魔神赤王ちゃま』ですよ。

 それに、夢の中で頻繁に会って話し合いはしていますから大丈夫ですよ」

 

「夢の中で何を話し合っているんだい? 

 頻繁にそういう夢を見るのは良くないんだけど」

 

「娘の凛と桜もいますから、普通のことですね。

 その日何があったとか、現実の凛と桜がこんな事をしたよとか、最近ではこういうのが流行っているよとか、お母さんたちがこんな事をしたよとか、おじいさんやおばあさんたちはこうだよとか……」

 

「わかった。わかったから、既婚者ムーブは止めてくれないか?」

 

「霊視ニキもお相手が見つかったんだし、ショタオジも後継者問題抱えているんだし早く見つけた方がいいですよ?

 ほら、あそこにいる恐山の巫女の彼女とかいいと思いますけど?」

 

 

 ガイア連合という組織が出来て順調に軌道に乗り始めた時に、誰かが言った「ショタオジがいなくなったらどうするの?」という問いに「後継者を造らせればいいんじゃね?」という冴えた答えが返ってきてから程なくして秘密裏に始まった「ショタオジ結婚トトカルチョ」は、幹部クラスのノリのいい奴は皆それに大枚を叩いているのは彼には内緒である。

 ちなみに、自分も倍率ではど本命の「日本霊場の女性幹部」に大口投資している為、どこかの霊地の良さげな女性とぜひ彼も結ばれて欲しいものである。

 逃げようとしているショタオジに、こんなチャンスは滅多に無いのだからと滾々と家族がいる良さを語ろうとした時に彼らは話しかけてきた。

 

 

「神主殿と歓談中に失礼するがよろしいか? 婿殿」

 

「婿殿?」

 

「重要なお話みたいだから、失礼するね!」

 

 

 それは男女の二人連れで男性の方は日本の昔の衣装を着た岩のような大男であり、女性は緑の髪をした胸の大きい同じ様に昔の衣装を着た美少女である。

 そちらに振り向いた瞬間にショタオジには逃げられてしまったが、自分としては重要な方々の様なので改めて座って話すことにした。

 

 

「神主殿は、お忙しい方のようじゃの。

 改めて、ワシは国津神の【大山津見神】で、こっちにいるのが…」

 

「こうして話すのは初めてですね、婿殿。

 わらわは、あなた方の家の祭神【鹿屋野比売神】です」

 

「ああ、初めまして。

 それと婿殿呼びは、出来ればあっちにいるDQNの前では絡まれたくないので止めて下さいね。

 祭祀に関しては妻たちに任せきりなので解りませんが、何か御用で?」

 

「どきゅん、ですか? どのような意味で?」

 

「『性格の悪い暴れん坊』ですよ。

 ほら、向こうにいるだいたい鬼神とか破壊神で呼ばれるあの人です」

 

「「ああ」」

 

 

 ほぼ同時に二人して納得したと言う様に手を打っている。

 やっぱり、あの人はこの人たちからもそういう認識なのか。

 そう思っていると、二人とも居住まいを正して軽く頭を下げてきた。

 

 

「婿殿を助けるためとは言え、妻が婿殿の娘を利用したのは悪手であった。すまぬ。

 決して悪意からしたことではないと、それだけは理解して欲しいのじゃ」

 

「神主殿が立会の上で貴方の正室とも約定しました故、過干渉はもうしませぬのでよしなに頼みます。

 何せ近頃稀に見る素質の氏子の娘が生まれたので、思わずクシナダとどちらの氏子が良いか話してしまうほどよい気分がしていたのです。

 これからは見守るだけに致します」

 

「わかりました。

 良き祖父や祖母としてであれば、子どもたちにも話しかけてあげて下さい。

 助けてくださったのには感謝しますが、【家族は自分の全て】ですので、忘れないで下さい」

 

「うむ、ワシとしてもあやつのように容姿で選り好みせずに姉妹共に閨に連れ込むような好き者ならば、子も多くなりカヤノヒメの氏子も安泰よな。

 今回ワシも封印より解き放たれた上に、加護を授けるに値する見込みのある者も見つかり愉快愉快」

 

「それでは、わらわ達も他に挨拶もする所がある故、また」

 

 

 そう言うと機嫌も良さそうに連れ立って、他の所に談笑しに行ったようだ。

 あの数々のはっちゃけていたようなイメージの伝言の数々からは、想像できないくらい楚々とした御婦人だったカヤノヒメ。

 日本の神さまらしいと言えばらしいが、神さまも孫のことでハイになるとは思わなかったなぁ。

 それと、自分は容姿で奥さんを区別せずに等しく相手をするだけであって、好き者という訳では無いんだよなぁと考えつつジャネットの元に戻って行った。

 

 

 

 

 さて今、ガイア連合では自衛隊との協力で国内の地固めと共に、メシア教への妨害のために国外の反メシア団体への物資の援助を大規模で始めている。

 もちろん、ガイア連合は民間組織であるから表向きには「災害支援」の形をとっており、その中には食料も含まれている。

 

 そして今回、わざわざ山梨まで来たのは祝賀会に出るだけでなく商談のためでもあった。

 現在の月城家の収入は、ガイア連合からの給料と依頼の報酬の大半、副業のプロマイド【悪魔っ娘倶楽部】のモデル収入、【カヤノ漬け】の販売収入が主である。

 ちなみに、この間赤城さんに送って大絶賛されたアリスの写真データとこちらに来て撮った新規の物は、新プロマイドとしてかなりの売り上げを記録した。

 

 このカヤノ漬けであるが、元々は邸内の家庭菜園でヒランヤキャベツやカエレルダイコンにミガワリナスの栽培に挑戦したのだが、栽培は出来たものの想定の効果はなく苗を増やすことしか出来なかったため、試しに漬物にしてみたら毒消しと回復効果のある漬物になった偶然の産物である。

 うちの中庭では栽培しても苗を増やすことしか出来ないのであればと、漬物担当の雫が逆の発想をし考えついた。

 そこで自分が、微々たる量ではあるがうちでの苗の増産を売り込みに来たのである。

 本当は漬物の方を売り込みたかったが、糠漬けはぬか床から出すと足が早いため断念せざるを得なかった。

 施設の建設ラッシュが続く星晶神社付近では大規模農場も殆ど無いため商談の方はうまく行き、事前に葵たちと話し邸内の中庭の半分以上を菜園にする事を決めていたので手が足りなくなることも考え、作業用の農業スキル持ちの小型シキガミも購入できた。

 

 髭を生やした白人男性でブルーのシャツとジーパンを履いた身長1mほどの全身が四角いシキガミである。

 名前は【スティーブ】と言うらしい。

 このような姿でも作業には問題がなく、一般人には普通の人に見える偽装もあるらしい。

 昔やったゲームか何か、どこかで見た記憶がある。

 

 

「よろしく、スティーブ。

 こっちは先輩のシキガミのジャネットだよ」

 

「よろしくお願いね」

 

「…………(コクコク)」

 

「無口なんだね」

 

『意思表示はこれでします』

 

 

 そう返答を書いた木の立て札を、スティーブはどこからか取り出した。

 やっぱり見覚えがあるので気になるが、そろそろお土産も買ってホテルに戻るとしよう。

 

 

 

 用事も終わり、一泊してからの帰りの電車内で掲示板をチェックする。

 

 『★ガイア連合対メシア教対策総合雑談スレ その17』

 

 自分は商談があるのと家族の顔を早く見たかったために会場を抜け出していたが、そこでとても聞き流してはならない内容が話されていたと書いてあった。

 花蓮にも見るように言おうと思ったが、またガチャで爆死したのか隣の席で真っ白になりダウンしているので後で言うことにしよう。

 

 それによると、【俺たち】こと転生者はメシア教に封印される直前の日本神たちが悪あがきで呼び出されたのが原因らしい。

 【高レベルの素質を持つ愛国心のある日本の人間】を対象に【この世界とそれなりに似た平行異世界の地球の冥界】から、対象や時間を無作為ランダムに日本周辺限定で呼び出したのだと言うことだ。

 つまり、アメリカで生活していた自分と花蓮は、日本出身の母が費用が安く済んで安全だと日本で出産していなければここにいなかったという事になる。

 これは今度生まれる弟の祝いも兼ねて良いものを、葵と相談して贈らないといけない。

 

 続きを見る。

 そこには、俺らを呼び出したことが霊地の急激な活性化とゲートパワーの上昇を起こした大元の原因だと書かれている。その上に、天使が大量に溢れ出していることで魔界とこちらの行き来を妨げる壁は、もう壊れかけで終末を防ぐのではなく軟着陸させる段階にもうなっているそうだ。

 自分でももう生き残ることを目的にしているので、そういうものかと思い次を読む。

 

 次には日本メシア教と正面から交渉を行い内容の承諾を得て、今回の大規模攻略に必要な詳細な情報を貰ってメシア教の黙認の上で行われたとある。

 日本の霊地は【既に管轄外なのであくまで人間主導で霊地管理を続けるなら問題ない】と黙認する代わりに、【日本メシア教への過激な迫害の禁止と信仰の自由の保障】を要求されたとある。

 ただ、日本神たちもこの件は認めているのでガイア連合の上層部も飲むようである。

 

 それはそれとして、上層部は【国津神と天津神の仲違い】と【日本神の恨みから来る根願寺への突撃】を宥めるので忙しいらしい。

 この場合、自分は国津神の側になるのだろうか?

 道理で、オオヤマツミに話しかけられた後で好奇の視線と疑心の視線を感じたので、両陣営からそういう風に見られた事になるのだろう。

 

 そういえば、シスターギャビーも6月は忙しくなると言っていたが、ジューンブライドの準備などではなくこの交渉の事だったのだろう。もしかしたら、5月に会ったのも事前の情報を探っていたのかもしれない。

 情報が多く考えることが多すぎる。個人的には、トトカルチョ的な意味でショタオジをロックオンしたイタコがいたという情報も気になるが、頭痛もしてきたのでこの辺で読むの止めた。

 考えすぎてもしょうがない。

 まずは家に帰って出来ることをしよう。

 

 

 

 家に帰って2日後、本邸に近い所と祠の周辺以外の日当たりの良い所にはきれいな畑が広がっていた。

 それも、スティーブのおかげである。

 

 家族に紹介してこの辺からこの辺を畑にしてくれと頼むと、作業台とつるはしとシャベルをどこからか取り出すと処分する予定だった枯れた木の部分も含めてみるみる内に整地して畑へと変えてしまった。そして、そこの隅の一角に豆腐のような小さい家を建てると自分の家として扉に『すてぃーぶ』と名札を付けて住んでしまった。

 食事は渡したもので一人で済ましているようだが、畑で作業をしている家族と仲良くやれているようで安心である。

 何せ彼が加わったことにより、子どもたちの世話や家事に外での仕事もあり家族だけでは常に管理するのが難しかった畑を安心して任せることが出来るのである。

 彼には頑張ってもらいたい。

 

 

 

 畑が出来上がった日の夜、その日は葵だけが寝室に来る日で彼女が満足するまで相手をした後に、寝物語で土産話ではしなかった直接カヤノヒメと会ったことを話した。

 

 

「なあ、葵。

 山梨でオオヤマツミ様とカヤノヒメ様に直接会ったよ」

 

「どうでしたか、あなた。話してみて」

 

「カヤノヒメ様は、以前送られてきたはっちゃけたイメージとは大違いだったよ。

 楚々とした美人で、葵や忍さんみたいな雰囲気だった。

 オオヤマツミ様には、神話の婿と違って姉も寝所に連れ込む好き者だと言われたよ」

 

 

 自分の腕に頭を乗せ、こちらを向いて微笑む葵。

 その状態から顔をこちらに寄せると、どこかカヤノヒメに似た嫣然と微笑みを浮かべて話し出す。

 

 

「好き者でいいじゃないですか。わたし達はそれを是としているのですから。

 カヤノヒメ様は山野の野草の神ですが、一度荒ぶると全てを飲み込む大蛇の神【野槌】となります。

 わたしも雫も白乃もあの方の血族であるなら、あなたの全身に絡みつく3匹の翡翠色の蛇になるかも知れませんよ。うふふ」

 

「自分もそれを承知で受け入れたんだよ。

 それに、蛇の交尾は情熱的だとも言うしなぁ。

 その3匹に、黒蛇と白蛇も加えたら傍目にはブリーディングボールだろうなぁ」

 

「他の女性のことを言うのはいけませんよ。

 あなたを一番愛しているのは、わたしとあの娘たちなのですから」

 

「そうまでは言われては目の前にいる可愛い奥様を愛さなくてはダメですね。

 まだまだ家族を増やさないといけないのだから」

 

「あ♪」

 

 

 蛇が絡み合うような行為をする好き者とまで言われたのなら、せいぜいご期待に添えるように少し本気でやるとしよう。

 まだ、夜は長いのだから。




あとがきと設定解説


・【悪魔っ娘倶楽部】

変身後の姿を見たある制作班の男性陣と立ち上げたプロマイドのレーベル。
ホームページからのWEB販売も実施中。
アリスの物は爆発的な売り上げを上げたらしい。
HN「レッドアンクル」の各プロマイドの適切な紹介レビューは、売り上げを伸ばす一因になっている。

・【スティーブ】

某ゲームの彼そっくりの小型シキガミ。
当然、戦闘もこなせる。わりと義理堅い性格のようだ。

・ブリーディングボール

多数の蛇が乱交のために絡み合った様がボールのように見える所から出来た単語。
画像を検索する際は注意。

5/22・指摘を受け、台詞を一部改定。

次回は、次の事件へ。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第三十五話 Q、日々のお仕事は順調だと思っていますか? ぱーと3

続きです。

今回は、依頼で請け負った事件の前編回です。

※ 今回の話の設定は差別を助長や容認するものではなく、メシア教が存在した場合を考えたらこうなるだろうと言うものです。その点はご了承下さい。


 

 

  第三十五話 Q、日々のお仕事は順調だと思っていますか? ぱーと3

 

 

 9月になった。

 まだ夜になっても残暑の厳しい季節であるが、今いる場所は冷房が効いていてそれを感じさせない。

 自分と隣にいるジャネットは二人共にいつもの異界に突入する姿であり、向かいには自分たちの交渉担当を振られたのだろう疲れた雰囲気の中年の男性が座っている。

 彼は自分の身分証を示しながら話し始める。

 

 

「ああ、どうも。

 大阪府警特殊事件捜査係第二資料室長の周防といいます。

 いや、根願寺さんから紹介されて来る専門家が、こんなに若い二人組だと聞いていなかったんだがねぇ。

 その辺どうなんです?」

 

「自分はガイア連合から来た月城カズマで、こっちは助手のジャネットです。

 依頼内容に合わせて指名されて来たのでお任せを」

 

「よろしく」

 

 

 現在の自分たちは、大阪湾に面する港湾地区に程近い一見倉庫に見える建物の近くで、そこから隠れるように停められた警察の銀色の装甲車両の中で話している。

 今回は根願寺から経由して来た依頼のために大阪まで来ている。

 何でも、極左の活動家の武装組織が潜んでいる情報を察知して特殊部隊で突入しようした所、建物内が異界と化しており犠牲者も出たため封鎖だけして能力者の要請をしたら自分たちが来たという事情のようだ。

 

 

 

 事情の背景の説明がいるだろう。

 

 今のこの日本は戦争に負けた影響で、裏の世界ではアメリカとその力を背景にしたメシア教が長い間最大勢力であった。

 ただ、最大勢力なのは能力者の業界だけでなく宗教の面でもそうなのである。つまり、霊能組織の面を持つ古くからある物から新興の物まで含めるという意味で、金銭面、信者数、悪魔も使える暴力の面どれも他の宗教組織よりも上なのだ。

 

 そして、あれだけ古くからの組織を弱体化させていたメシア教が新興の宗教組織やカルトを監視しないはずが無いのである。

 だから今のこの日本には、地下鉄に毒ガスを撒いたあのカルトも、隣の国からわざわざ来た詐欺カルト達も、前の世界では与党の一つになった政党を作ったあの宗教団体も彼らに目に余ると思われて全部綺麗に潰されて消えている。

 

 ただここに、近年急速に高い技術力と金銭を持ち力を付けてきたガイア連合が出てくる。

 大陸系の国々にはとても欲深い習性の持ち主がいるため、それら一部の馬鹿がこちらにいる同胞に働きかけ、今回の件の暴力組織に注力したことで依頼に繋がったようである。

 

 

 

 窓の外では野次馬やマスコミが入り込まないように検問を敷いて辺りを封鎖している。

 こちらに見せても構わないように作られたらしい資料を提示しながら、周防警部は話し始めた。

 

 

「元々は、この件は公安のヤマだったんですよ。

 日本の宗教施設から盗みを働いたアジア人の集団から足がついて、極左のふりをして大陸から大量の武器とコンサルタントがセットで来るという情報を掴みましてね。

 それで2日前に拠点の倉庫の位置を特定して突入したら、連中、コンサルタントってそちら方面の術者だったみたいで犠牲者が出てそちらに依頼が回ったんです」

 

「連中の詳しい規模を説明をお願いします」

 

「情報では大陸系アジア人が20人ほどで、持ち込まれた武器も部品の状態の『歩槍』と『黒星』という話でした。

 しかし、突入した我々に被害を与えたのは、目も追えないスピードで動く派手な中華風の仮面を被った中華拳法を使う男でした。

 銃撃戦の最中に乱入し、銃弾を無視してボディアーマーを着た警官を殴り殺す明らかにそちら側の男です。

 こちらも手早く撤退するだけで数人の犠牲者が出ました。

 現在は外に出て来る様子もないので、根願寺の術者の方にも来て頂いて周囲を封鎖して監視しています」

 

「ところで、これだけの大騒ぎするような事件なんですから、自分たちの他に中に入るメンバーはいますよね?」

 

「情報は封鎖されるので一般にはただの事件になるでしょうが、こちらとしてはこういう事件だと関西のヤタガラスさんに派遣を要請することしか出来ないんですよ。

 そうしたら、向こうで『相談役』って人があなたの名前を上げて彼の強さなら一人でも大丈夫だろうと指名されたのであなた方だけです」

 

「……その相談役って誰です?」

 

「その辺は機密だから教えるのは無理だと」

 

 

 誰だか知らないが、余計なことをしてくれるものだ。どうにも誰かに痛くもない腹を探られるようで気分が悪い。このまま不快だからと席を立つのは簡単だが、それをするとその誰かに侮られる気がするし信用問題にもなるかもしれない。

 先月まで行われていた大型異界の攻略では、ジャネットと呼び出せるようになったパールヴァティーが治療と完全蘇生が出来る事から、最前線では回復役になりいまいち敵を倒せる機会が回ってこなかった。 

 いい機会でもあるし準備はできているので、この鬱憤はそのテロリスト達にぶつけよう。

 

 

「わかりました。

 入り口にはこれまでのように誰も近づけさせないで下さい。

 行くよ、ジャネット」

 

「了解です、マスター」

 

「それじゃ、すいませんがお願いしますね。ご武運を」

 

 

 敬礼をしてこちらを見送る周防警部に会釈し、車から出て建物の入口に入る。

 外は既にライト以外は明かりのない暗闇だというのに、中は明るいオフィスビルのようになっている。ただの広い倉庫のはずだった上に空気が変わっているので、明らかに異界と化している。

 ジャネットにアームターミナルを起動させ、自分もデビルズアブゾーバーを左腕に付け起動しドッペルゲンガーに変わる。

 

『ABSORB DEVIL』

 

 それにしても今更ながら、このプレートの赤の下地に彫刻のは入った金色のハートマークという徐々に派手になっているデザインはどうなのだろう?

 他のスートマークだと駄目なのだろうか?

 頭を振って妙な考えを振り払い、ハニー・ビーを使い先導するジャネットについて行く。

 

 

「ジャネット。広さはわかるか?」

 

「いつからこうなっていたのかは知りませんが、かなり広いです。

 マップは下層に続いているみたいです」

 

「じゃあ、慎重に行こう」

 

 

 しばらく歩き回ると休憩室らしい広間に出た。

 ここで銃撃戦があったらしくバリケードにしたのだろうかソファやテーブルが散乱している。そして、警察の巡査らしい死体が手前に、奥にあるのは明らかにどこかの軍の夜間迷彩服を着たアジア人の死体が転がっている。

 違和感があり、ふと考え足を止める。『警察の巡査らしい死体』?

 そこに、ジャネットの警告が飛ぶ。

 

 

「エネミーサーチに反応。こいつら、屍鬼です!」

 

「!」

 

 

 ジャネットと同時に後ろに下がると同時に、巡査の死体が3体とテロリストの死体6体が起き上がり小法師のように立ち上がるとリボルバー拳銃とアサルトライフルを撃ち始めた。

 【サバトマ】。

 物陰にモー・ショボーを呼び出し、ジャネットと共に支援をしてもらう。本来なら銃弱点なのだが彼女は銃耐性へと変わっている。

 

 

「アナライズ、レベル6【屍鬼ゾンビコップ】とレベル10【屍鬼ゾンビアーミー】!

 破魔と火炎が弱点です!」

 

「二人はそこで魔法で援護して! 自分は突っ込む!」

 

「「了解」」

 

 

 後ろからモー・ショボーの【ウィンドブレス】とジャネットの【天罰】が叩き込まれ銃撃が止まった隙に、奴らの中に姿を変え飛び込む。

 さあ、出番だ。アリス。

 

『REVOLUTION GIRL』

 

 小柄な金髪の少女の姿に変わり、今までより素早く姿勢を低くして手近のゾンビアーミーに近づくと、後ろに回り右足のアキレス腱を蹴り砕く。そして、後ろに倒れてきたそいつの頭を殴り砕き、ライフルを拾うとこちらに振り向いた連中に向けて乱射した。

 アリスの自分が銃を撃ち殴り蹴り砕き、二人の魔法でまとめて吹き飛ぶ。

 10分ほど立つ頃には、相手は全滅していた。

 汚れた手と足を振ってこびりついた欠片を払うと、二人に可愛らしい声で話しかける。

 

 

「怪我はないか、二人とも。やっぱり、全力で動き回るのは気分がいい」

 

「それはこちらの台詞ですよ、マスター。

 何でその子の姿になったのに、魔法でなく格闘戦なんですか?」

 

「おまけに、普段のあの子を知っているから違和感がひどいわ」

 

「違和感には慣れてくれ、モー・ショボー。

 それと、ジャネット。仮にもこの子は魔人で、ステータスは同レベルのドッペルゲンガーより高いんだ。

 それに呪殺も眠りも効かない相手だと、物理耐性や銃反射もあるし避けやすいから殴ったほうが早いんだ」

 

 

 呆れる二人を置いておいて、屍鬼たちの方を見る。

 警官の屍鬼は既にマグネタイトに変換されて姿は無く銃だけが落ちているが、ゾンビアーミーの方はアジア人の死体が残ったままである。

 ただの屍鬼が死んだふりをして奇襲をかけようとした事や同じ屍鬼でも消え方が違う点、そして情報にある謎の男。

 ただのテロリストではないようである。どんな能力者だろうか?

 頭の隅に置いて先に進むとしよう。

 

 

 

 迷路状になった通路を時々襲ってくる低レベルの屍鬼の群れを倒しながら進んでいくと、下り階段が見えて来る。階段の踊り場に案内板らしき看板が付いているが、日本語でも漢字でもない暗号のような隣の国の言葉で書かれているため読むことも出来ない。

 

 下の階には赤い絨毯の敷かれた広間と両開きの扉、そして、扉の上にはこれもまた同じ言葉で書かれた一際豪華な看板がかかっている。 

 罠がないか確認し扉を開くと、そこには異界とは思えない光景が広がっていた。

 

 そこは小学校の体育館くらいの広さはあり、周囲の壁はガラスケースの展示物になっていて室内も所々にある太い柱を除けばガラスケースが並ぶ博物館であった。

 民族衣装や木像、色々な旗や書物や壁掛け、木の近くで男性と熊が会話している絵や古代の大陸が自分の国だったという地図などなど色々と納められているが、字は読めないため絵だけで推察するにお隣の国の歴史博物館だろうか?

 

 三人揃って入り口から呆気にとられて覗き込んでいると、アームターミナルの百太郎が反応し物陰から仮面を被った派手な赤い中華の民族衣装を着た男が襲いかかってきた。

 

 散開して後ろに下がるも、その男はまっすぐ自分に向かって走り込み右腕を突き出してきた。

 躱しきれずに両腕でガードしたはずなのに、そのまま突き破って腹を殴られ口から血を吹き出しダメージを負う。物理耐性が効いていない?

 そのまま突き飛ばされて着地した所にまた来ようとした男にジャネットが鉄の錫杖で殴りかかり、モー・ショボーが【ガルーラ】を叩き込む。

 その隙にドッペルゲンガーに戻り、ガルーラで動きの止まったその男に拾った拳銃を撃ち込むも効いた様子もない。

 その男がコマのように回転し、ジャネットとモー・ショボーが悲鳴と共に数メートル程吹き飛ばされる。

 

 ちょうどサバトマの効果時間が切れ消えるモー・ショボーを見つつ、飛んできたジャネットを抱きとめる。

 無言のまま立ち上がりジリジリと距離を詰めるその男を見ながら、ジャネットが叫ぶ。

 

 

「マスター、そいつデータにない高レベルの屍鬼です。気をつけて!」

 

「中華拳法を使う屍鬼とかどうすりゃいいんだ? ええい、【サバトマ】」

 

 

 近くにナジャを呼び出す。

 相変わらずその男は自分狙いのようで、走り寄ると自分の視界から消えるようにしゃがみ込み片手を付いて頭を目がけて蹴りを放った。

 嫌な予感がして首をひねって躱すが、足が頬をかすめる。物理反射も駄目か。

 

 

「マスター!【ガルダイン】!」

 

「こっちも、【天罰】!」

 

 

 強烈な疾風と破魔の光の柱がその男に当たると、全身を切り裂かれ煙を上げて燃え出し動きが止まる。そして、もう一度同じを攻撃を食らうとようやく崩れ落ちて今度こそ死んだようだ。

 こちらに走り寄ったナジャが、ディアラマを掛けてくれて傷を癒やしてくれた。

 倒れたその屍鬼は、姿が消えずそのままである。仮面が割れて外れたその顔はあちこちが縫合された跡があり、着込んでいた切り裂かれた衣装の隙間から見える肌にも同様の跡が全身にある。

 アームターミナルを弄りながら、機械式のゴーグルでそれを見ていたジャネットが話す。

 

 

「マスター、アナライズ出来ました。名前は、……【屍鬼リビルドゾンビ】でしょうか?

 レベルは25。耐性が破魔と火炎が弱点で、物理耐性、銃無効、呪殺無効、状態異常無効!?

 ス、スキルが、貫通の拳と八相発破!?

 何ですか、これ!? こんなモノ、知りませんよ」

 

「マスター、これ何かな?」

 

 

 ナジャが仮面を拾い、こちらに見せる。割れた仮面の裏側のそこには、中央に筆で書かれた中国語の札が張ってある。

 最近劇場で8作目が公開されていた香港映画が頭に浮かぶ。もしかして、これキョ○シーに似た何かか?

 

 今の戦闘音を聞きつけたのか、一番奥にある緑色のランプのついた金属製の扉から3人の人物がなだれ込んで来た。

 

 一人は黒い帽子と黄土色の映画のものとそっくりの服装の男と、肩と足が丸出しのチャイナドレスを着た出る所が出た黒髪の美女、そして最後に男の近くにいる白い帽子とおそらく隣の国の白い民族衣装を着た顔を左右に赤と青色にした一本足の男という変な姿の悪魔である。

 こちらの姿を見た女の方が、こちらを指差しながら男に叫んでいる。ただ、中国語のようで自分には分からない。

 

 

『ほら、見なさい。日本の警察だけでなく、あのガイア連合のヤツまで来ちゃったじゃない!

 だから、あんな連中から買った封印された悪魔だなんて使おうとするから、こんな事になるのよ!』

 

『ええい、うるさい!

 こんな異界を作る位に確かに頭は変だが、内に秘めた力量はお前の屍鬼と変わらないぞ!?』

 

『そんな物と私の傑作を同じに見ないで頂戴!

 だいたいその変な悪魔に部下の連中を食わせた上に、こんな異界を作らせるなんて頭がおかしいんじゃない!?』

 

『倒せばいいだろう、こんな連中。こいつとお前の屍鬼なら可能だろうが!?』

 

『あれを見なさいよ。もう既に一体、私の傑作が壊されているのよ!

 これ以上は赤字になるわ。国に帰るから、後は好きにしなさい!』

 

 

 女の方が太ももにベルトで付けた札を入れるホルスターから複数枚の札を取り出す。

 攻撃されると思いとっさに駆け寄るが、男の術者が取り出したハンドベルを鳴らし元はテロリストだっただろう男たちの屍鬼を10体以上も呼び出して阻まれた。

 その隙に、女の術者は符からもう一体の青い服装のリビルドゾンビを呼び出すとかき消すように姿を消してしまった。

 舌打ちした男の術者がこちらを指差して叫ぶと、悪魔たちが襲いかかってきた。

 




あとがきと設定解説


・周防警部

大阪府警特殊事件捜査係第二資料室と言うオカルト事件の担当部署という閑職に、上に嫌われて左遷された人物。
達哉と和哉という息子がいる。

・【屍鬼リビルドゾンビ】

中華系の秘術で死体を縫い合わせて作られた高性能の人工の屍鬼。
レベルは25で、耐性は、物理耐性、銃無効、火炎弱点、破魔弱点、呪殺無効、状態異常無効。
中華拳法も使うため、スキルも【貫通の拳】と【八相発破】を使用する。
優秀な性能に合わせて色々使うため、材料費が一体外国産高級車一台分である。


次回は、事件の後編。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第三十六話 Q、日々のお仕事は順調だと思っていますか? ぱーと4

続きです。

今回は、依頼で請け負った事件の後編回。


 

 

  第三十六話 Q、日々のお仕事は順調だと思っていますか? ぱーと4

 

 

 舌打ちした男の術者がこちらを指差して叫ぶと、悪魔たちが襲いかかってきた。

 

 

「アナライズ、そこの変な悪魔はレベル26【妖鬼トケビ】、衝撃吸収、破魔と呪殺耐性です!

 それと、その男は異能者で破魔と呪殺は効きません。気をつけて!」

 

「【サバトマ】、ユキジョロウ。ぶっ放せ!

 ついでに、マハラギストーンも喰らえ!」

 

「了解、【マハブフーラ】!」

 

 

 火炎と氷雪が敵全体を覆う。

 群れをなした屍鬼たちは数を減らしたが、ダメージを気にせずトケビはジャネットに、リビルドゾンビはこちらに襲いかかってくる。

 中華拳法らしい独特の移動法で近づいたリビルドゾンビは、素早くこちらに右拳を打ってくるのを避けきれずに当たりダメージが来る。やっぱり、反射も無効化して攻撃できるようだ。

 横合いからユキジョロウが【ブフーラ】を撃ち込むも意に介していないリビルドゾンビ。

 

 ジャネットは組み付いてくる屍鬼の群れの影からトケビに攻撃され、錫杖で打ち払うも【マモリクズシ】と叫んだトケビに掻い潜られ強かに殴られ悲鳴を上げている。しかも、その後に一本足で器用に距離を取り、わらわらとやって来る屍鬼たちの後ろに回りニヤニヤ笑っている。

 

 男の術者の方もさっきの全体魔法を屍鬼たちに隠れてやり過ごしたようで、向こう側から【アギ】を打ち込んでくる。

 動きの鈍い屍鬼の群れを盾に使うかなり慣れた戦い方からも、この男の術者も侮れない。

 

 攻撃用のストーンはさっきので使い切った。パールバティーは回復主体、イシュタルは攻撃が衝撃のみ。奥の手を切るか。

 

 

「ユキジョロウはジャネットのところへ。こっちは何とかする」

 

「え? わかりました。気をつけて!」

 

 

 最近になって、かろうじて変身だけは出来るようになった彼女に力を借りよう。

 

『Warning,Warning. NON-REGULAR FUSION』

 

 腹部から胸元に背中まで肌を露わにした夜の色をした赤いラインのある全身金属鎧の女性の姿に変わる。自分が頼られた事への歓喜と敵への憤怒が湧いてくる。これは【妖鬼ベルセルク】の彼女の感情だろう。

 

 

「…アアアアaaaaa!」

 

 

 自分の姿が変わった事へは興味も示さずにリビルドゾンビがこちらに打ち込んだ右腕をそのまま掴む。

 【狂気の暴虐】。掴んだ左腕はそのままに、衝動のまま右腕を振りかぶり何度も殴りつける。

 

 

「これでも喰らいなさい!【天罰】!」

 

「【マハブフーラ】!」

 

 

 向こうで、屍鬼の群れとトケビを巻き込んだ氷雪と破魔の光の範囲魔法が炸裂し、屍鬼の群れが全て崩れ落ちる。

 焦った表情をしているトケビが、ジャネットに向けて魔法を唱える。

 【ドルミナー】。抵抗しようとするも崩れ落ちるジャネット。

 何か叫びながら、ユキジョロウに【アギ】を打つ術者の男。しかし、彼女は火炎が弱点ではなく耐性になっている。

 倒れないながらも、怪我を負っているユキジョロウを見て猿のように騒ぐ男たち。

 それを見て、その愚かさに笑みが浮かぶ。

 

 しつこくこちらの防御を抜く攻撃をするゾンビの顔面を右手で思い切り掴むと、男たちに投げつけた。

 符の付いた仮面が砕けながら飛んできたゾンビに驚きこちらを振り向くのを見つつ、魔法を使いながら駆け寄りジャネットの錫杖を拾ってそれを振り抜いた。

 

 

「【ラスタキャンディ】。これで終わりっ、【月影】!」

 

 

 振り抜いた錫杖が、投げつけたリビルドゾンビと視界を塞がれたトケビの胸部を破壊しながら貫通する。モータルジハードと遜色ない威力を持つスキル【月影】により完全に死亡し動きを止めたリビルドゾンビと崩れて消えていくトケビ。

 完全に壊れた錫杖を放り、尻餅をついてガタガタ震えてこちらを見上げる男の術者の腹を加減して撫でることで痙攣して動けなくしてから小脇に抱える。

 ユキジョロウに起こされたジャネットが近づいてくる。

 

 

「錫杖を壊してしまってごめんな、ジャネット。さあ、脱出しよう」

 

「あなたは、マスターですか?」

 

「ん? 自分以外に誰がいるのかな?」

 

「ふう、どこかで見覚えのあるエッロい格好した女性ならここに」

 

 

 答えようとしたが、振動が起き異界の崩壊が始まったので来た道を駆け戻ることにする。

 さあ、急いで脱出しよう。

 

 

 

 入り口を飛び出し、抱えていた男を地面に放る。ユキジョロウは途中で既に戻っていて、ジャネットと二人で息を整えている。 

 ゴゴッという音がして振り返ると、中が普通の古びた倉庫に変わっている。異界が消えたのだろう。

 終わったようなのでカードを戻し、変身を解除しアイテムで傷を治す。

 

 そういえば、放り出した男は向こうの符術使いだったなと思い出し、ジャネットに押さえつけて貰って下着以外は剥いで調べることにする。

 ハンドベルや服のあちこちにある隠しポケットの札の束などを確認していると、周防警部とお坊さんが警官隊と共にやって来た。

 警官隊の多くはそのまま倉庫の中に入っていき、残った数人がマニュアルでもあるかのように手早く手錠と猿轡でただの禿げたおっさんになった男を拘束すると、渡した色々な物を持ったお坊さんも連れ添って連行していった。

 それを見送った周防警部が、会釈をしながら話しかけてくる。 

 

 

「ご苦労様でした、月城さん。

 入ってからまだ3、4時間しか立っていないのに実行犯を拘束してくるとは、ガイア連合さんはすごいんですねぇ。

 だてに、破廉…露し…痴じ…色っぽい女性の姿に変わるだけではないんですねぇ」

 

「そういう物なので、気にしないで下さい。

 とにかく、気にしないで下さい。

 それより、この入口からチャイナドレスを着た女が出てきませんでしたか?」

 

「いえ、監視班からはそういう報告はありませんが?」

 

「そうですか。これでひとまず終わりなら、休ませて貰えませんか?」

 

「こちらで押さえたホテルがあるのでそちらへどうぞ」

 

 

 かなり疲れていたので、車を廻してもらいビジネスホテルに着きダブルの部屋に入る。

 お互いに汚れを落とすためにシャワーを浴び、室内着に着替えて座ると備え付けの冷蔵庫から飲み物を取り出したジャネットが話しかけてきた。

 

 

「マスター。緑茶です」

 

「ああ、ありがとう。それにしても、外国の術者の上澄みって侮れないな。

 あんなモノが出てくるなんて思わなかった」

 

「確かに、あれには驚きました。

 でもそれより、私とナジャが二人がかりで倒したあの屍鬼を一人で倒したマスターの変身の方が驚きです。

 喧嘩殺法な動きじゃないあれは、マスターの戦い方じゃないですよね?」

 

 

 鏡に向かって結っていた髪を梳いているジャネットに、冷たいペットボトルのお茶を飲み笑って答える。 

 

 

「基本的に自分の変身は、彼女らの姿になって自分の意志で力を振るっているんだ。

 でも、彼女たちにも意志があるからね。時々は、彼女たちがこうしたいというやり方でやってもいるんだ。

 今回のも、ベルセルクのあの娘のやりたい動き方で殺っただけだよ」

 

「結局は、『娘大好き』が理由ですか。

 ん? 今、何か発音が変じゃありません?」

 

「おかしくないよ。ああ、ちょうどいい。

 ちょっと待ってて」

 

 

 ケースからカードを取り出し、サバトマで呼び出した娘達にマッカや魔石を渡す。

 変身している間はHPとMPは自分自身のものを消費するが、サバトマで呼び出すと彼女たち自身のものを消費することになる。

 その消費した分は、こうして補填しないと回復に時間がかかる。

 戦闘時の手段と手数は増えるが、こうして支出が増えるのも痛し痒しである。

 出てきた子がジャネットと視線だけでする意味の分からないやり取りは気になるが、渡し終えるとカードを覗き込みながらジャネットが隣に座る。

 

 

「そういえば、あの警部さんも言いかけていましたけどベルセルクのあの鎧のデザインは扇情的すぎません?

 誰がデザインしたんでしょう?」

 

「ふうむ。さあ、分からないなぁ」

 

 

 自分も知らない作品ものなので、気になったので変身して詳しく見よう。

 

『ABSORB DEVIL. Warning,Warning. NON-REGULAR FUSION』

 

 変身して立ち上がり、夜の窓に全身を写しながら見てみる。

 

 基本的に狂戦士のランスロットなのだろうが、全体的に肌が出すぎで扇状的な出で立ちである。

 頭部は兜と言うより仮面やバイザーと言う方が合っているが、左側で髪の一部をリボンでサイドテールにしているのはおしゃれであろうか?

 長い髪と黒い飾りの付いた赤い紐をかきあげて後ろを見ると、背中が丸出しである。

 胸と両脇を覆っている部分はかなり可動的で、ぐにゅぐにゅと動く大きな胸に合わせて零れそうに動いている。

 お腹には何か赤いラインが描いてあり、履いていないように見えるが腰の鎧の隙間を覗くとちゃんと黒い革かゴムのような小さめのパンツもちゃんと履いている。

 

 確かめている内に、どんどん顔が紅潮している。

 おむつも替えたうちの可愛い桜はこんなにもスタイルの良い美人になるだなぁと考えていると、顔が熱を持ったように赤くなったので悪い事したなと思いカードを抜きもとに戻った。

 ジャネットにもやり過ぎだと叱られたので、朝になるまで寝ることにした。

 

 

 

 夜の闇の中を一人の女性が走っている。すでにその姿は、目立つチャイナドレスなどの派手な物ではなく隠れ場所に用意しておいた洋服である。 

 今の日本でメシア教以上にとんでもない戦績と技術力を示しているガイア連合、あそこにいた男は間違いなく、自分が作り上げたあの2体を潰したのだから幹部クラスの奴だろう。本当についていない。

 

 代々大陸の田舎で他の術者に僵尸を作って売り細々と暮らしていた家で生まれたわたしは、成人してまもなく父が一山当てると言って莫大な借金とその金で買った高名な武術家の脳を二つ残して死に、それらを抱えて途方に暮れていた。

 そこへあの神父服の男が、地元の軍を引き連れて話しかけてきたのだ。

 

『そこに抱えたもので2つ君が操るモノを作り仕事をすれば助けようじゃないか』、と。

 

 頷いたわたしはそれから上海に連れて行かれ、そこであの二つの脳を埋め込んだ最高傑作の僵尸を作ることが出来た。他の体の部分の調達費や用意された設備の費用や生活費で借金が高級車一台分買えるくらいに加算されてはいたが。

 そして、それらが完成した日にあの男はまた現れてこう言った。

 

『日本に渡り、かの国にいる同胞たちを救ってはくれないか?』、と。

 

 今になって冷静に考えれば、本当に馬鹿だろう。根拠もなくあの男の言葉を信じ切っていた為に、迂闊にも自称名門術者の男と黒社会の連中と組んだことで、今こうやって逃げ惑っているのだから。

 秘蔵の転移の札で逃げ込んだ隠れ場所で着替えている時に、あの僵尸との繋がりが消えた。

 どんな耐性の化け物でも貫き殺す僵尸を倒すあそこにいた男は本物の化け物だ。

 今はとにかく行方をくらませて、大陸に逃げ込まないと。

 倉庫街を抜けてもう少しで繁華街に入るというところで、体がしびれ動けなくなり転倒してしまった。

 周囲にメシア教の武装した者達を引き連れ、あの長身の神父服の男がそこにいた。

 そして動けなくなったわたしの顔を覗き込むように、妙に響く低い声で自分にも分かる大陸語で話しかけてきた。

 

 

『やれやれ、どこに行こうというのか。

 借りた金は返しなさいと教わらなかったのかね?』

 

『こ…ど…わか…なに…』

 

『ふむふむ、質問かね? 答えてあげよう。

 身体に埋め込んだ機械式の発振器は便利にできているし、ガイア連合産のシバブーストーンは実に優秀だ。

 君の父親が死んだ事から今に至るまで、私が全て計画を立てて進めたのだからこの結果は必然だとも。

 理解したかね?」

 

『なん…こ…わた…』

 

『ふむふむ。

 ただの小娘にすぎない君に大量の資金を投じたのか、かね?

 単に君に才能があり、かつ運が悪かっただけだとも。

 残念ながら浸透勁を会得した武術家の保存した脳はもう手に入らないが、君にはもっと僵尸を作ってもらわないといけない。

 君の作品群には是非とも海外で活躍してもらうのでね』

 

『こ…の…げ…ど…う』

 

『褒めてくれてありがとう。

 こういう時はこう言うべきだな。“この魂に哀れみを”

 連れて行け』

 

 

 近くに黒塗りのバンが止まり、僵尸術者の女性を乗せると走り去った。

 黒いカソックを着たその鋭い目つきの男は、カズマたちが眠るホテルの方角を見るとニヤリと笑みを浮かべこう言った。

 

 

「神の声は聞こえるが愛するが故、ただの小娘と化しつつある大天使が見初めた男か。

 人の世を守る中庸たらんとする組織に属し、地獄の宰相に力を授かり、己が小さな家族に固執する道化。

 貴様や周囲の者たちの懊悩や苦悩、この【神の悪意】が愉しませてもらうぞ」

 




あとがきと設定解説


・【妖鬼トケビ】

お隣の半島の民間伝承によく登場する一本足の鬼。
レベルは、26。耐性は、衝撃吸収、破魔耐性、呪殺耐性。
スキルは、ドルミナー、ラクンダ、ショートジャブ、マモリクズシ。

・【妖鬼ベルセルク】

彼の娘の桜が、その重い愛情の発露として生み出したもう一人の彼女。
外見は、某作品のサクランスロットを検索して下さい。
レベルは、53。耐性は、物理耐性、火炎弱点、氷結耐性。
スキルは、狂気の暴虐、月影、ラスタキャンディ、物理ハイブースタ、火炎反射、勝利の雄叫び。


次回は、次の事件へ。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第三十七話 Q、日々のお仕事は順調だと思っていますか? ぱーと5

続きです。

今回は、最近の彼の日常と新しい事件の話。


 

 

  第三十七話 Q、日々のお仕事は順調だと思っていますか? ぱーと5

 

 

 あの事件から時も経ち、10月になった。

 

 結局、あの大陸から来たテロリストと一緒にいた女の術者は行方不明のままだった。

 耐性を貫通するスキルを持つ屍鬼を作れる術者など放って置けるわけでもないので、ショタオジにも報告しガイア連合でも注意喚起と情報の提供を呼びかけている。

 無論、警察でも本名不明ではあるが似顔絵付きの指名手配を行っている。

 何しろ、あの事件の生き残りは逮捕された男と手配中の女性のみであり、物証は倉庫の中には遺体もなく中途半端に組み立てられた武器類のみが見つかっただけで他にはなく、彼らを手引した大陸人のブローカーが何人か捕まっただけだった。

 術者の男や関係者の自白から、オカルトも用いられようとした武装組織の蜂起未遂として警察や根願寺では結論が着いたようで自分たちも報酬を貰い神戸に帰ることになった。

 

 

 

 あれからこちらは変わりのない日常を送っている。

 

 恒常的に出る異界の討滅や新人の育成、プロマイドの新規撮影などの依頼をこなし、レベル上げのため数日掛けて大型異界へと遠征し、家に帰って畑や漬物作成の手伝いや子どもたちと過ごし、夜には皆に代わる代わる搾り取られる何気ない日常である。

 

 ただ、変わった事といえばいくつかある。

 

 例えば、山梨セクターでPVの撮影をしたことだろうか。 

 

 以前の事件で死にかけて蘇生した【TS魔人ネキ】とTS悪魔化してAV撮影した【自衛隊ニキ】、そしてマーメイドの姿になり上着を着た【TSマスオニキ】こと自分たち3人が、TSした事による周囲の反応や意識の変化や困ったことなどをお茶を飲みながら話す座談会という需要がどこにあるのかよく分からない健全なPVだった。

 もともと自分の5人の悪魔娘の姿のプロマイドのプロモーション会社の取締役が、あの自衛隊ニキのAV作製の関係者だったことから始まった企画らしくそれなりにお高い報酬もあり実現したのだ。

 個人的にも、この方面で相談や話ができる相手ができたのは助かっている。

 ちなみに、その後に全員で一人ずつ何枚かプロマイドを取り3人のそれぞれの物をランダムに一枚ずつ封入して売られる形で販売され、かなり売り上げを伸ばしたというのだから業の深い話である。

 

 例えば、人生相談された事だろうか。

 

 山梨セクターでPVの撮影後、「マスオニキでしょうか?」と思い悩んだ顔の男子高校生に呼び止められて相談を持ちかけられた。

 彼曰く、一般人の幼なじみの女の子を終末から助けるべく強くなろうとしているが、彼女には信じてもらえず怪しげな冊子に踊らされた地方霊能組織のお嬢様に押しかけられて困っているということだった。

 真剣に困っているようだったので、助けるのはその彼女だけか家族も助けるのかどこまでかはっきりと決めてから全部打ち明けて話す方がいいと答えた。

 ただ、力になれるかもしれないから何かあれば神戸へ連絡しても構わないと言ったらとても喜ばれたが、自分はそのお嬢様が幼なじみで結婚して子どももいると答えたらとても微妙な表情をされたのは納得がいかない。

 

 例えば、娘たちに関する神託があったことだろうか。

 

 葵から聞かされたのだが、将来、凛と桜には運命の人である士郎(仮)くんが現れた場合、二人共に好きになり、争いの末に刃傷沙汰の未来があり得るので注意しろという祭神様から神託があったらしい。

 信じ難いが一応は神託でもあるためどうしましょうと相談されたので、もしそうなって信頼できる男なら自分のように姉妹で共有するように教えればいいと言ったら嬉しそうに頷かれ、そういう事になった。

 いずれ現れるだろう士郎(仮)くんには、大事な娘を預けるのだし自分には出来たことなのだから是非とも頑張って貰いたい。

 

 例えば、夫婦の寝室のことだろうか。

 

 ふと気づくと、色々な仕事の制服や学生服に革製の服や専用の下着が増え、布団を敷く頭の近くに簡易式の拘束用の留具があったり、いろいろな多用途の小道具が増えたり、参考映像資料や参考文献が増えたり、多人数のためそれらを保存するために押入れの下段が埋まったりと子どもたちには見せられない有り様と化していた。

 自分も受け入れて楽しんでいるのでそれに不満はないが、それらの定期的な手入れのために洗ったり磨いたり陰干ししていると、これらがほとんどガイア連合系企業の製品である事に気づきそっと見ないことにした。

 

 

 

 そういった事を色々と思い出しながら掲示板を見ていると、いくつかの掲示板では色々と論議が続いている。

 春先に起きた井の頭公園の殺人事件についてである。

 資料によると、この事件を切っ掛けに【真・女神転生】の物語が始まりやがて核ミサイルが東京に落ちる大破壊に繋がるらしいが、現在は悪魔召喚プログラムはばら撒かれてはいないため主人公と思わしきメンバーは補足し監視している状態だという。

 他にも、既にミロク法典は始末済みのため東京受胎は起きず、平崎市と天海市の騒動は処理済み、後は核ミサイルを防げれば真2と真4の歴史は実現しないという。

 東京封鎖は関係者や関係組織が存在しておらず起きる可能性は低いため、後はペルソナと南極に関してだけだという事らしい。

 自分もそれらの考察スレに「帝都なら根願寺より公にお伺いを立てた方がいい」と打ち込んだ所で、声をかけられた。

 

 

「お兄様」「お義兄ちゃん」「旦那」

 

「やあ、珍しいな。学校帰りでこっちに顔を出すなんて」

 

 

 そこには、制服を着たままの花蓮と雫、革ジャン姿のクーフーリンがいた。

 最近は自分ほどレベル上げに積極的にならずに普通の生活を楽しんでいる花蓮は、レベルの差がついて別に行動していたのだが、今日は雫と一緒に学校から帰ってきたようだ。

 二人は地元にあるそこそこ大きな歴史だけはある私立蛍原学園に通っている。

 葵と白乃もそこの卒業生で、自分も通っていたが特に思い出はない。

 今日は依頼もなく定時で家に帰るつもりだったのだが、3人は相談したい事があるとかで応接室で話を聞くことにした。

 

 

「お兄ちゃん、ごめんね。急に話を聞いてもらって。

 実は、うちの学校にいる妖怪の人から頼みを聞かされたの。

 それで、出来れば会ってあげて欲しいのだけど」

 

「そうなのです、お兄様。出来れば同行して頂きたいのです」

 

「花蓮たちだけでは駄目なのか?」

 

 

 そう聞くと、クーフーリンは顔をしかめて答えた。

 

 

「あのな、旦那。

 異界や戦場ならいくらでも花蓮の側についているがよ、女子トイレは無理だわ」

 

「じょしといれ?」

 

「なんでもそこに出る妖怪とやらが関係あるんだと」

 

「そうなんです、お兄様。

 私たちだけでは不安でしょうがないのです。

 何しろ、数だけは多いようなので」

 

「とにかく詳しい説明をしてくれないか?」

 

 

 そこで、雫と花蓮から説明を受けることになった。

 もともとは下級生の女子生徒から受けた相談が始まりだった。

 夜遅くなった部活の帰りにその子が複数の男子生徒と学校内の人物でない人影が、誰もいない教室内で奇声を上げていたのを見たのだと。

 彼女の訴えで教師陣が調べたが何も出ず、件の男子たちも何も憶えていないと証言してその一件は片付いたが不安になった彼女は花蓮に相談したのだそうだ。

 それと同じ頃に、雫の方も3年生の教室がある3階の女子トイレのいる花子さんに自分が見えることが分かり、助けて欲しいと相談を持ちかけられたのだという。

 夜な夜なスマホを片手に、自分を探して回る男子生徒がいて気味が悪く迂闊に姿も現せないそうだ。

 二人ともこういう相談を受け、解決するのに自分の力を頼りに来たという事だった。

 

 

「話はわかった。今夜にでも行けばいいのかな?」

 

「それでね、お兄ちゃん。

 出来れば学校には内緒で忍び込む形でして欲しいの」

 

「学校には何か言えない理由でも?」

 

「お兄様。今の校長先生と教頭先生はオカルトは信じませんし、学歴や社会的地位で物事を判断される色々と面倒な方々なので秘密しておかないとトラブルになります」

 

 

 そういうことならと準備をして夜に行くことになった。

 夜になり中に入り込むことにしたが、最近は神戸市内でも行方不明になる事件が多いため防犯カメラが設置している正門は避けて塀を乗り越えて入ることにした。

 今回は久しぶりに花蓮とクーフーリン、そしてジャネットと自分の4人組である。雫もついて来たがったが、危険なので家で待っていてもらうように説得した。

 塀を乗り越え、カメラを気にしつつ順調に進んでいく。

 校舎の裏側にある非常用出口の金属製の扉に着くと、花蓮がヘアピンとドライバーであっという間に鍵を開けて中に入ることが出来た。

 音を立てないように進みながら、声を殺して花蓮に聞く。

 

 

「なあ、花蓮。ピッキングだなんて誰から教わったんだ?」

 

「誰からって、山梨の先輩方からですわ。

 “ピッキングは乙女の嗜み”なので、他にも色々と伝授して頂きましたの」

 

「花蓮さん、花蓮さん。後でわたしにも教えて下さいね」

 

「ええ、もちろんですわ。犯罪に悪用しないのならば、他の事もお教えしますわ。

 だって、【All's fair in love and war. 】ですもの!」

 

 

 横を歩いていたクーフーリンに視線を送るも、すっと逸らされる。

 そういえば、以前は「嬢ちゃん」と呼んでいたのに最近は「花蓮」と呼んでいると気づき、槍を持っていない左肩を軽く叩くと複雑な表情のクーフーリンと進み、目的地である3階の女子トイレの前に着いた。

 入り口で警戒するというクーフーリンを置いて、中を覗き込むと花蓮とジャネットが一つだけ閉まっていた扉の前で中の人物に話しかけている。

 返ってきた声は小さい女の子のようだった。

 

 

「エネミーソナーの反応はここですね」

 

「ねえ、花子さん。ここにいるのでしょう? 出てきてくださいな」

 

「な、何ですか、あなた方は?

 あなた方みたいな強大な方があたしなんかに用事があるのですか?」

 

「あなたが相談された雫さんの友人の花蓮です。

 何か男子生徒に付きまとわれているとか?」

 

「えーと、あの大人しそうな顔をして、時々すごい色気を出してる胸の大きな髪の短い娘の雫ちゃん?」

 

「ええ、その雫さんです。

 こちらにいるのが私のお兄様とシキガミのジャネットさん。

 廊下にいるのが、私のパートナーのクーフーリンですわ」

 

 

 扉が開いて顔を出したのは、白い服に赤い吊りスカートを着たおかっぱの小学生くらいの女の子である。イメージした通りの『トイレの花子さん』である。

 話をしようとした所で、バタバタと足音がして誰かが近づいて来た。

 振り返ると、最新式のスマホを持った大人しそうな顔をした男子生徒がこちらに来ていた。

 そして、こちらを指差すと話し始める。

 

 

「何やってるんだよ、お前ら。そこにいる花子さんは俺のもんにするんだから、そこをどいてくれ」

 

「何の話だ?」

 

「男なんかに使いたくはないけど、『廊下の端で大人しくしてろ』」

 

 

 そう言うと、彼は怪しげなピンク色の瞳のマークをした画面を見せてきた。

 その画面を見た途端、クーフーリンはふらふらと廊下の端まで歩きぼうっと立ち止まっている。身構えて黙って見ていると、不審げにこちらを見て同じことを繰り返したので近寄ってそのスマホを取り上げた。

 取り返そうと殴りかかってきたので、とっさに変身して反射するとダメージを受けて顔を押さえて痛い痛いと転がっている。

 女子トイレから中の面々が慌てて出てきた。

 花蓮がディアムリタを掛けるとクーフーリンも正気に戻る。

 床で転がっている男子生徒を見て、花子さんがこの男だと騒いでいる。

 自分の方を見たジャネットがアームターミナルに何か反応があったようで、持っているスマホを指差して言い出した。

 

 

「あの、マスター。その手に持っているの、悪魔です。

 アナライズでレベル1【怪異サイミンアプリ】と出ているんですが」

 

「これが?」

 

 

 疑問に思い、スマホを見るが操作しても画面も変わらずよく分からない。

 皆で取り囲み、この生徒から話を聞くことにしよう。

 しゃがみ込んでスマホを示しつつ、座り込んでこちらを震えながら見ているこの男子生徒(花蓮によると田中と言うらしい)に話しかける。

 

 

「色々と話を聞かせて欲しいんだが、まずこれはどこで手に入れたんだ?

 そして、花子さんを狙った理由は?」

 

「な、仲間内でオカルトに詳しい佐藤のやつが変な機械を手に入れたんだよ。

 家族旅行で関西に行った時に教会から持ってきたとかで、それがあれば漫画に出るような美少女悪魔が呼び出せるってあいつが言ってて、部室棟のオカルト研の部屋で動かしたんだ。

 そしたら、男の天使が出てきて俺たちと約束したんだ。

 “好みの美少女を自分の物に出来るようにする”って」

 

「それで、好みの美少女が花子さんなのか?」

 

「そうだよ。好みの小さい女の子に言うことを効かせられるそれを貰ったけどさ。

 非合法な本物に手を出したら犯罪じゃん。なら、ここにいるって分かっている花子さんなら合法ロリだからいいと思ったんだよ」 

 

「戯け者! あたしだって嫌なものは嫌よ。

 しかも、言うに事欠いて『合法ロリ』とか呼ぶんじゃない!」

 

 

 今まで黙って見ていた花子さんが我慢しきれずに田中に怒っているのだが、当の田中は「本当にいたぁ」と喜んで話している。

 まだこちらの話の途中なので、花子さんには後ろに下がってもらって話を続ける。

 

 

「それで、他の仲間はどこにいる?」

 

「毎晩集まっていたから、他は幽霊部員しかいない部室に今も皆いると思う。

 鈴木と高橋は好みの娘を貰えたから、部室で楽しんでいるじゃないか?

 佐藤はあの天使に細かい注文をつけていたから、まだ交渉してんじゃないかな?」

 

 

 色々と頭の痛くなる話が聞けた。

 つまり、その佐藤という生徒が関西の教会から天使を呼び出すCOMPを盗んでこの事態を引き起こしている上に、何故かその天使はこんな変な怪異を呼び出している、と。

 おまけに、この田中は花子さんが見えているという事は覚醒していると言うことで、とにかくどちらにしろ全員覚醒していようがいまいが、保護しなければならないという事だ。

 ここは二手に別れた方がいいだろうと思い、花蓮に話しかける。

 

 

「花蓮。すまないけど、この田中くんを保護して神戸セクターに行って応援を呼んで来てくれないか?

 自分とジャネットは今からそこに乗り込むから」

 

「でも、お兄様。お二人だけで大丈夫ですか?」

 

「ジャネットやカードの娘達もいるし、大丈夫だよ。

 天使に踊らされているとは言え、ただの高校生を3人ほど保護しに行くだけだからね」

 

「大丈夫ですよ、花蓮さん。マスターは私が守りますから」

 

 

 新調した鉄の棒を振るって勇ましく答えるジャネット。

 ここで自分たちは二手に分かれ、場所を聞いた部室棟の部屋に行くことになったのだった。

  

 

 

 

 

 田中が抜け出す時に開いたままだった部室棟の入り口を通り、『オカルト研究会』とプレートの扉を開けてジャネットと呆然としてしまった。

 その中は、ただの部室ではなく異界と化してしまっていたのだから。

 

 

「異界の入り口がラブホテルの入り口ロビーなのはどういうことだよ」




あとがきと設定解説


・【怪異トイレノハナコサン】

最近の急激な伝承の変化で、特に萌え化の著しい個体。
レベルは、7。耐性は、銃無効、破魔弱点、呪殺無効。
スキルは、タルンダ、スクンダ、ラクンダ、パニックボイス。

・【怪異サイミンアプリ】 

契約者の言う通りに動く自我のない悪魔。
レベルは、1。耐性は、電撃弱点、衝撃弱点、呪殺耐性。
スキルは、マリンカリン。


次回は、事件の続き。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第三十八話 Q、日々のお仕事は順調だと思っていますか? ぱーと6

続きです。

今回は、事件の中編。

異界の設定上、オリジナル悪魔が出るので注意して下さい。


 

 

  第三十八話 Q、日々のお仕事は順調だと思っていますか? ぱーと6

 

 

「異界の入り口がラブホテルの入り口ロビーなのはどういうことだよ」

 

「マスター。最近は、ブティックホテルとかレジャーホテルって言うんですよ」

 

 

 名称はどちらでもいいが、異界の入り口がホテルのロビーになっているのは間違いない。

 入り口の左手すぐ横に各部屋の写真パネルと料金表がその横に精算機と鍵の出る機械があり、反対側には誰もいないフロントと事務所への扉があってその前にソファと小テーブル型の灰皿、本来なら地下駐車場への出入り口のある所はシャッターが閉まっている。

 フロント横の廊下から奥は部屋になっており、一番奥の方で上に続く階段があるのが見える。

 ジャネットと手分けしてこの辺から調べることにしよう。

 

 

「そっちの扉はどう? ジャネット」

 

「事務所への扉は開きませんね。

 ハニー・ビーだとここの扉も奥のそれぞれの扉もいくつかは奥に部屋があるみたいなのですが。

 マスターの方は何か判ります?」

 

「いや、この部屋のパネルがおかしいんだ。今じゃあり得ない」

 

「どこがです?」

 

「いや、料金もやけに安いし、この部屋のレイアウト。

 ほら、ほとんどの部屋に丸い回転ベッドとか鏡張りになっている壁とかマジックミラーで見れるシャワールームとかミラーボールとかあるんだよ。

 風営法が改定になって届け出が必要になってから、こういうのは姿を消したはずなんだ。

 葵や白乃と泊まりデートで行った地元のホテルやジャネットと地方に行った時のホテルには、こういうのはもう無かったんだろう?」

 

 

 ジャネットはこちらに来てしげしげとパネルを見て、アームターミナルの扉の向こう側に多数の敵反応のある画面をこちらに見せてからこう言った。

 

 

「確かに何度もマスターとは泊まりましたけど、よほど古いホテルじゃないとこんなコテコテの物は見ませんでしたね。

 一度見つけた時は大騒ぎではしゃいでましたけどね、マスター?」

 

「騒いでいたのは、ジャネットだろう?

 行為中に自分の全身が鏡に映るから恥ずかしいって、余計に頑張っていたのは誰だっけ?」

 

「あれは上になっている時に、わざわざ回転させ始めるマスターが悪いんです!」

 

「だって、あれは恥ずかしがっているジャネットが可愛かったからなぁ」

 

「「「俺たちが出待ちしているのにイチャイチャしてるんじゃねぇぞ、バカップル!」」」

 

 

 そう大勢の男達の声が響き、敵の反応のあった客室の扉から頭部が三角にとんがった目の部分だけくり抜いた覆面を被った全身黒尽くめの集団が現れた。

 20体以上はいるだろうか、先頭の奴が指を突きつけて叫びだした。

 

 

「どこの誰だか知らないが、このラヴキングダムに土足で踏み込んでイチャイチャするなど万死に値する!

 男の方はすぐに出て行け!その金髪おっぱいは俺のものだ!」

 

「馬鹿野郎!あれを揉むのは俺だ」

 

「あのむっちりしたふとももは俺のに決まっているだろう?」

 

「いいや、あの巨乳は俺のだ」

 

「俺のだ」

 

「俺の……」

 

 

 ジャネットを見ながらこいつらは仲間割れをし始めた。何を考えているんだろうか、彼女はお前らの物ではないのに。

 顔を赤くしながら自分の後ろに隠れて、ジャネットが言う。

 

 

「マスター。こいつら、アナライズで【怪異???】って出たんですけど。

 データにないってことは新種の悪魔ですよね、これ?」

 

「名前はもうレイパーでも童貞でもいいから、片付けようか。ジャネット」

 

 

 先頭にいた連中がその言葉を聞き、怒りで顔を赤くしながら叫んできた。

 

 

「キィサァムァ、リア充の分際で言ってはならん事を言ったなぁ!」

 

「そうだそうだ。俺たちのどこがそう見えるんだ!?」

 

「マスター、早く片付けましょう、気持ち悪いです。

 破魔が弱点で、呪殺に耐性があるので気をつけて下さい」

 

「分かった。【サバトマ】、おいでパールバティー」

 

 

 ジャネットに急かされ連中を無視して自分がサバトマを唱えると、近くに青いインドの民族衣装を着た紫の髪のパールバティーが現れた。 

 仲間割れを起こし口論や殴り合いを始めていた奥の方の連中も、こちらに気づき一斉に振り向き凝視する。

 

 

「「「巨乳美少女、フエターーー!」」」

 

「【天罰】」「何ですかこれ、【メギド】」

 

「「「ぎゃあああ」」」

 

 

 破魔と万能属性の範囲攻撃魔法が一斉に飛び連中をなぎ倒したが、ムクリと一斉に起き上がりこちらに両手をわきわきとさせながら殺到してきた。

 腕に蕁麻疹が出たが、無視してまた薙ぎ払う。

 

 

「「「うぬうう、我らがリビドーは【不屈の闘志】!」」」

 

「【天罰】!」「何なんですかこれ、【メギド】!」

 

「「「ぎゃああああ!くそお、まだだ!【食いしばり】!」」」

 

「【天罰】です!!」

 

「いい加減にしろ、マハラギストーン!」

 

「本当に何なんですかこれ、【メギド】!」

 

「「「ぎゃあああああ!!」」」

 

 

 攻撃をするでもなくひたすらジャネットとパールバティーにしつこく近づいて来ていた連中は、ようやく全員倒すことが出来た。まるで行動パターンがどこかの漫画のキャラのようにひたすらにおかしい連中だった。 

 そういえば持ったまま来ていたが、この【怪異サイミンアプリ】と言い都市伝説にしてもあまりにも変であり過ぎる。

 もしかして、この異界の悪魔はこんな連中ばかりなのだろうか?

 嫌な考えが頭をよぎるが、とりあえずMPを回復してから進むとしよう。

 

 

 

 扉の開いた一階の部屋を確認しながら廊下を真っ直ぐに進むも、ただの客室があるばかりで成果はなく一番端の昇り階段で上に進んだ。パネルには一番大きい部屋番号が『310』だったので、三階建てだろうと思われる。

 二階に上がり覗き込むも、やはり両側に扉がある直線の廊下で一番端に昇り階段が見える。

 一旦立ち止まって、三人で話し合うことにした。

 

 

「あのお父さん。呼び出してくれるのは嬉しいのですが、ここは何なんですか?

 下の階で出てきた敵もおかしいのばかりでしたし」

 

「パールヴァティー、実は自分にもよく分からないんだ。

 呼び出せる中で万能魔法で薙ぎ払える君を、とっさに呼び出したのは悪かったよ。

 ジャネット、敵の反応はあるかい?」

 

「部屋のいくつかに強い反応が。一番強いのは、205の部屋ですね」

 

 

 少し考え、敵の反応の一番近い部屋に行き扉を開ける。鍵はかかっていなかったらしくそのまま開いたので中に入ると、蛍原学園の制服を着たピンク色の髪の美少女がベッドに座っていた。自分が先頭になって入って行くと、その少女はにこやかに笑って話し出した。

 

 

「あれぇ、新しい人が来るなんて聞いていないだけどなぁ?

 まあ、いいや。あたしと気持ちいい事をして生まれ変わろうよ、ね」

 

「生まれ変わるってどういう事か、教えてくれるかな?」

 

「あれ、何で? えい、えい」

 

 

 しきりにこちらを見て魅了しようとしているようだが、効かないのに焦って繰り返している。その隙に後ろから飛び出したジャネットが、その少女悪魔を持っていた鉄の棒で打ち据えて拘束し、パールバティーは扉に鍵をかけて内側から押さえる連携をしている。床に押し付けられた少女悪魔にもう一度聞く。

 

 

「さて、生まれ変わるってどういう事か、教えてくれるかな? お嬢さん」

 

「マスター。この悪魔、名称不明の女装した男の悪魔ですよ」

 

「は?」

 

「何よ、そんなでかいもの二つも胸からぶる下げて恵まれているあんたに何が分かるのよ。

 そうよ、男だけどそれがどうかしたの?

 あたし達は、そういう物だって決められて生まれてくるんだからしょうがないじゃない」

 

「夜魔か?」

 

「夜魔じゃないわよ。あたし達は【怪異トラップガール】。

 魅了した男と交わって一つになると本当の夜魔に生まれ変われるのよ。

 ここの主にそういう悪魔だと決められているのよ」

 

「ここの異界の主と男子生徒はどこにいる?」

 

「さあ、知らないわ。あたし達は部屋にいるのが役目だもの」

 

 

 確か海外では、少女のような男性のスラングがトラップだったなぁ。本当にトラップでもあるとか皮肉にもならないな。さて、聞けることはだいたい聞いたしどうするか。

 そうしていると、ドアを叩く音と外から呼びかける声がし始める。

 ドアを押さえていたパールバティーを手招きして自分の後ろに下げて、姿を変える。

 

『REVOLUTION GIRL』

 

 アリスに姿を変えたのを見たトラップガールが驚いているが、無視してジャネットたちに作戦の指示をする。 

 

「パールバティーは待機。

 ジャネット、扉が開けられたらそれを入り口に投げつけて。

 そのまま魔法を叩きつけるから」

 

「了解です」

 

 

 それを聞いて、大声を出そうとしたトラップガールを自分も押さえつける。

 しばらく待っている内に、扉の外に大勢集まっているようでざわざわと何か話しているのが分かる。鍵を開けて入ってくるのが同じトラップガールだと確認して、ジャネットが抱えて投げつけるのと同時に【子守唄】を叩き込んだ。

 入り口の近くにいた数体のトラップガールが、投げつけたそれと一緒に倒れ伏して眠っている。

 【永眠への誘い】のスキルを使い、そのまま彼らを即死させる。

 マグネタイトになり消えていくそれらを見ながら廊下に出ると、205号室の扉が開いており廊下には短い黒髪で浅黒い肌をした水着のような姿の少女のような悪魔がそこにいた。

 それは消えていく彼らを指差して、激怒しているようだ。

 

 

「おま、お前ぇ、何をしてくれんだよ!よくも俺の恋人達を殺したなぁ!」

 

「マスター。あれは【夜魔アルプ】です。

 だとすると、もう誰かが悪魔になっているのでは?」 

 

「何をごちゃごちゃ話しているんだ!こっちの話を聞け!」

 

 

 男子生徒が姿を変えたのなら、ちょうどアリスの姿をしているのでうまく話を聞き出してみよう。

 横で身構えている彼女らに待つように手でサインして、しおらしく上目遣いをしながら話しかける。

 

 

「怒らないで、おにーさん。

 だって、無理やり魔法を掛けられて襲われたんですもの。

 仕方がないわ」

 

「そ、そんな仕草で騙されないぞ。そ、そうだ。

 お前たち、なかなか綺麗だから俺の恋人にしてやってもいいぞ」

 

「それも魅力的だけど、わたし、人を探しにここに来たの。

 田中くんていう男の子に、友達の高橋くんと鈴木くんに佐藤くんを見つけてってお願いされたの」

 

「田中が? 鈴木と佐藤なら上でお楽しみ中だろ?

 高橋ならもう死んで、人間を超えたこの俺に生まれ変わったんだぞ」

 

「ふーん、そうなんだぁ。

 じゃあ、何でその姿になったの?」

 

「あ? 何でって、つまんない人間のままよりその方が好き勝手に女が抱けるじゃん。

 この力があれば、親や警察なんかには負けないしな。

 ほら、教えてやったんだから、部屋に行って他の奴と一緒に抱いてやるよ」

 

 

 そういうと他の部屋の扉から覗いていたトラップガールが数体ほど出てきて、アルプの横に並び股間を大きくさせながらニヤニヤと笑っている。

 種族的にも精神的にも既に元には戻れないのだろうから、引導を渡してやろう。

 

 

「ねえ、おにーさん達。【死んでくれる?】」

 

「え? 何したんだよ」

 

 

 トランプとクマのヌイグルミが多数現れて、彼らを取り囲み黒い霧になって消えてゆく。

 そして、魔法に抵抗したらしいアルプを除いて倒れ伏す彼ら。

 呆然としていたアルプに、走り寄ったジャネットが思い切り鉄の棒を叩きつけた。

 「へぎゅ!?」という言葉と共に、頭を潰されたアルプが倒れ伏しそのまま消えていった。

 

 マッカやフォルマを回収し、残りの敵がいないか探していると205号室のベッドの上で彼の遺体を発見した。

 それは男性が女性を後ろから組み敷いた状態で一つになった形で、背中に大きく割れた切れ込みと中に空洞が見える状態の繭だった。 

 自分たちはそれを確認して、三階に上がって行った。

 

 

 さて、とても教育に悪い風景の三階である。

 階段に伏せながら覗き込むと、廊下の形状はそれまでのとほぼ同じだが大勢でお楽しみの最中であるようだ。両方の部屋の扉は開け放たれていて、部屋の中でも廊下でも嬌声を響かせながら所構わず犯っている。主にいるのが、二階にいたトラップガール達とボンテージ衣装の女性達である。

 そして、廊下の一番奥に階段がある位置に巨大なベットが鎮座し、黒いコウモリの羽が生えた赤い肌の男がボンテージ姿の女性達とお楽しみである。

 一旦、踊り場まで戻り、作戦を練る事にする。ちなみに、パールバティーは赤面し過ぎてフリーズしたので戻ってもらった。

 

 

「ジャネット、アナライズは出来たかい?」

 

「はい。ボンテージの女性達はまた名称不明です。取り巻きは全部で20から30程でしょうか?

 翼の生えた男は、レベル23の【夜魔インキュバス】です。

 耐性は、電撃弱点、衝撃耐性、破魔無効に、睡眠無効ですね」

 

「じゃあ、周りの取り巻きを片付けてから、インキュバスに交渉と行こうか」

 

 

 それでは、別の姿で相手をすることにしよう。

 

『Warning,Warning. NON-REGULAR FUSION』

 

 黒髪をツーサイドアップに纏め金の冠をし、白いビキニ状の服に黒と金で装飾された装束を纏った金星の女神イシュタルの姿である。

 モデルのように大きい弓はないが、充分に強いのでいらないだろう。

 それではと、ジャネットに合図をし踏み込むことにする。

 宙を舞い、三階に乗り込みジャネットと同時に魔法を放つ。

 

 

「喰らいなさい、【魅惑の暴嵐】!」「【天罰】」

 

「な、何、きゃああ」

 

「いやあああ」

 

 

 強力な暴風と破魔の光の範囲魔法を喰らって吹き飛ばされる悪魔たち。中でも、ボンテージの女性型悪魔は破魔が弱点だったようで、光に触れただけで焼き消えていく。奇襲を喰らい混乱し始めた集団の中で、あのインキュバスがやはりリーダーなのだろうか周囲の女達を跳ね除けると下着をつけて立ち上がり指揮をし出した。

 

 

「ちっ、下の奴ら、たかが女二人に役に立たねえなぁ。

 おいお前ら、盛ってねえでさっさと戦え。

 痛めつけてから、楽しんでやる。おら、お前らも行け!」

 

「マスター、範囲外のやつが向かって来ます。気をつけて」

 

「【魅了突き】」「【魅了突き】」「【魅了突き】」「【溶解ブレス】」

 

 

 奥にいた連中はこちらに走って来ているが、周囲の連中が当たるのも嫌なピンク色の光球を次々と打ち込んでくる。おまけに、ボンテージの女悪魔は近づくと溶解性の液体を吐きかけて来る。

 返事をする余裕もなく躱し続けているが、広範囲にばら撒かれた溶解ブレスを喰らって自分もジャネットも服が溶けて半裸になっている。おそらく、ゲームでは防御力を下げる効果なのだろうが現実だとこうなるのか。

 溶解ブレスで防御力を下げて魅了効果付きの攻撃でダメージを与えるのだろうが、そんなに見たいのなら魅せてやろう。 

 

 

「魅とれたいならとくと見なさい。【ファイナルヌード】!」

 

「チャンス!【天罰】!」

 

 

 さすが世に聞こえる魅了スキルである敵のほとんどが動きを止め、一部が同士討ちを始めている。ジャネットが魔法を撃ち込むのを横目に見ながら肝心の部分は隠し、この隙にもう一度舞う。 

 

 

「休憩は終わりだよ、パールバティー。【招来の舞踏】」

 

「あっ、なんて格好しているんですか。ええい、もう。【メギド】!」

 

 

 呼び出したパールバティーの万能魔法で魅了され動きを止めていた周囲の敵が粗方消滅するが、インキュバスがこちらに飛んで近寄り攻撃してきた。

 

 

「くそぉ、何でこんな事をしやがるんだ、クソ女ども!【ガルーラ】!」

 

「残念だけど、それは吸収するよ。ついでにっ」

 

「がああっ」

 

「この変態が!」

 

 

 殴りつけた事で地面に落ちた相手に半裸になっていたジャネットが走り寄り、怒りを込めてインキュバスの股間に付けていた先の尖った筒を金属のブーツの前蹴りで蹴り砕いた。

 死んではいないが白目をむいて崩れ落ちたインキュバスを見ながら、ブツブツと言いながら【静寂の祈り】を使い服を元の状態にしたジャネットと【メディラマ】で皆の傷を癒やすパールバティーに礼を言いつつ近くの部屋のベッドのシーツを使って拘束を始める。

 苦労させられた分、こいつにはいろいろ喋って貰わないといけない。

 

 

 

 残った敵の掃討と拘束が終わり、嫌そうな顔のパールバティーには悪いがコイツの怪我を治し、翼も含めてシーツで固くグルグル巻きにしたインキュバスの尻を平手で叩いて起こすことにする。

 叩いて目が覚めたようだが、「あふぅん」と気持ち悪い声で起きたので萎える気分を我慢して聞くことにする。ちなみに、押さえつけているジャネットは、とても嫌そうな顔をしている。

 

 

「あれ、何か天国と地獄を味わったような?」

 

「目が覚めたか、インキュバス。それでお前は、鈴木か佐藤のどっちだ?」

 

「鈴木ならとうに俺になったぜ。人間だった頃の俺に何のようだ?」

 

「『繭』が無いようだが? それに、佐藤はどこだ?」

 

 

 そこまで聞いたところで意識がはっきりしたのだろうか、周囲を目線でグルグルと動かし自分の状況を把握したようだ。

 舌打ちすると、しぶしぶ答え出した。

 

 

「ちっ、俺の女どももみんな殺されちまったようだし、もう終わりかよ。

 どうせ死ぬなら、こんな事に引き込んだ佐藤のやつも道連れしないとなぁ。

 あいつなら、一階のフロントの奥にある警備室にいるぜ」

 

「入れなかったんだが、鍵はどこだ?」

 

「俺がいたベッドに隠してあるぜ。探せばいいだろ。

 それに、俺だった『繭』とか他にいた連中が喰ったんだろ」

 

「そうか。聞きたいことはこれくらいかな?」

 

「そうかよ。本当ならお前らとは一発犯りたがったが、まあいいや。

 先に行って、佐藤の奴を待っているか」

 

 

 インキュバスの頭を掴み、【エナジードレイン】を連続で使って塵に返しとどめを刺した。

 「おうっおうっ」と気持ち悪い声を上げながら笑って逝ったので、まあ良かったのだろう。

 自分たちがそうしている間にパールバティーが見つけてくれた鍵を受け取り、諸々の回収も済ませて一階に戻ることにした。

 

 

 

 

 

 さて、これでこんな変な趣味の入った異界の探索は終わりにしたいものだが、素直には終わらないだろうなぁと考えつつ自分たちは階段を降りて行った。




あとがきと設定解説


・【女神パールバティー】

彼の娘の桜に転生した本来の分霊。
容姿は、FGOの姿を検索して下さい。
レベルは、32。耐性は、火炎弱点、氷結耐性、破魔無効、呪殺耐性。
スキルは、メギド、メディラマ、サマリカーム、アムリタ、回復ハイブースタ、チャクラウォーク。

・【女神イシュタル】

彼の娘の凛に転生した分霊。
容姿は、FGOの彼女を検索して下さい。
レベルは、45。耐性は、衝撃吸収、破魔無効、呪殺弱点。
スキルは、魅惑の暴嵐、招来の舞踏、ファイナルヌード、エナジードレイン、衝撃ブースタ、呪殺無効。

・【怪異チェリーボーイ】

一階に大勢いたこの異界独自の悪魔。
『童貞の負のイメージ』が顕在化した。
レベルは、10。耐性は、破魔弱点、呪殺耐性。
スキルは、アギ、突撃、不屈の闘志、食いしばり。

・【怪異トラップガール】

二階に大勢いたこの異界独自の悪魔。
『男子生徒の高橋が望んだ異性』が顕在化した。
レベルは、9。耐性は、氷結弱点、電撃耐性。
スキルは、セクシーアイ、魅了突き、誘惑、同化。

・【夜魔アルプ】

高橋が同化の末に変化した悪魔。
レベルは、8.耐性は、破魔無効、呪殺耐性。
スキルは、プリンパ、ハピルマ、ドルミナー、シバプー、パトラ。

・【怪異ソドムクイーン】

三階に多数いたボンテージ姿の女悪魔。生やすことも出来る。
『男子生徒の鈴木が望んだ異性』が顕在化した。
レベルは、10。耐性は、電撃耐性、衝撃弱点、破魔弱点。
スキルは、セクシーダンス、魅了突き、溶解ブレス。

・【夜魔インキュバス】

鈴木が同化の末に変化した悪魔。
レベルは、23。耐性は、電撃弱点、衝撃耐性、破魔無効。
スキルは、ガルーラ、魅了突き、溶解ブレス。


次回は、ボス戦と事件の解決。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第三十九話 Q、日々のお仕事は順調だと思っていますか? ぱーと7

続きです。

今回は、この変な事件の解決の話。

設定のあれこれはここ独自のふわっとしたものなのでご了承ください。


 

 

  第三十九話 Q、日々のお仕事は順調だと思っていますか? ぱーと7

 

 

 異臭の漂う三階の奥にあった4、5人は横になれる大きさのベッドからパールバティーが見つけてきた柄の部分が王冠の形をした金色の玩具のようなデザインの鍵を受け取り、姿を元に戻し一階へと降りて行く。

 

 降りながら、この異界について考えてみる。

 

 データベースになかった独自の悪魔や異界の内部の構造、罠のように悪魔と人間を一体化させて新しい悪魔にするやり方など過去に資料で見た色々な逸話を思い出すが、異界の主がどのようなものか思い当たるものが出てこない。

 多分、男子生徒の佐藤という人物が盗んだメシア製COMPで呼び出した天使が関係しているのだろうが、こんな事をする天使など居ただろうか?

 ましてや、魅了の魔法を使えるだけのレベル1の悪魔が、ガチガチに契約で固められた【主以外からの精神状態異常無効】が付与されているショタオジ監修のシキガミであるクーフーリンに影響を及ぼすなど考えられない。

 そんな事を考えながら降りていたからだろう二階から降りかけた時に、ジャネットに声を掛けられて気づいた。

 

 

「マスター。一階から戦闘音が聞こえます。

 あの声は、クーフーリン?」

 

「急いで降りるぞ、パールバティーも戦闘用意!」

 

「はい、お父さん」

 

 

 急いで一階まで降り廊下を走っていくと、クーフーリンと花蓮が入口で数体の悪魔と戦っている。

 そいつらは、猪の頭部をした剛毛の肌をした人間型で革鎧と革の兜を着込み鉄製の斧を振るっている。おまけに、気絶している数人のここの学校の生徒を盾代わりにされているためか苦戦しているようだ。

 自分たちも廊下から走り寄ってきたのに気づいたのか、生徒の首を掴んで持ち盾のようにしながらこちらにも3体ほど移動して来るのでドッペルゲンガーになり迎撃する。

 

 

「交代だ、パールバティー。【サバトマ】、アリス!」

 

「はーい、今度はこっちなのね。ブタさん達はとりあえず、【死んでくれる?】」

 

「マスター、こいつらは【邪鬼オーク】です! 私は彼女たちの援護に!」

 

 

 こちらに来たオーク達が死の黒い霧で倒れる側を横から通り抜けたジャネットは、向こうを向いていたオークの頭を背後から鉄の棒で殴りつけた。頭が棒の形に凹み、崩れるオーク。ジャネットに気づいたクーフーリンと花蓮が連携をし、仲間を倒され動揺したオークの隙を突き全部倒すまでそう時間は掛からなかった。

 倒れていた生徒たちを横にあったソファに寝かせ、一息つき花蓮たちと話し始める。

 

 

「花蓮、あの田中って生徒を神戸セクターに連れて行ったんじゃないのか?

 まだ2、3時間位か、戻ってくるにしてはやけに早いな」

 

「お兄様、もうこちらでは朝になっています。

 心配になって他の方と戻ってきたら、朝練に来ていた運動部の生徒たちが襲われていたんですよ。

 異界化も部室棟全体に及んで来ていて、応援の方たちは他の場所の救出をしているんです」

 

「旦那、このオーク共、何か変だぜ。

 普通のオークと言えば、全身に体毛なんて生えていないし妙に小賢しいやり方なんてしない狂戦士みたいなはずなんだが?」

 

「この異界は明らかに異常だからな、奥の方で出た悪魔も他の場所じゃ見られなかった。

 表に出たのはこのオークだけか?」

 

「ああ。コイツラがぞろぞろとな。

 『飯だ』とか『女だ』とか言っていたから、拐って巣に運び込むつもりだったんだろ」

 

 

 耳を澄ますと、入口の外の方で文字通りの豚の悲鳴や銃の連射音も聞こえる。

 自衛隊のデモニカスーツ部隊か?

 

 

「今、ここは警察と自衛隊が出張って封鎖していますわ。

 応援を要請したら、自衛隊のゴトウさんが出張って来て『生徒が不発弾を見つけた』という理由をつけて上を説得してノリノリでデモニカ隊の皆さんを派遣されましたの」

 

「助かるっちゃ助かるが、あの御仁、フットワークが軽すぎるわ。

 ありゃ、近くに居たら自分が来ていたぞ」

 

「ちょうどいいと言えばちょうどいいか。

 花蓮たちはここで生徒たちを守っていてくれ。

 自分はボスを潰してくる」

 

「あのお兄様、中にいた男子生徒たちはどこに?」

 

「悪魔になっていたよ。おそらくボスもそうだろう。

 じゃあ、ここは頼んだ」

 

 

 頷く花蓮たちと別れ、話している間暇だったのか生徒たちを指でつついていたアリスを抱き上げて、ジャネットと共に悪趣味な鍵で扉を開けると中にある下への階段を降りて行った。

 

 

 

 階段を降ると、赤い絨毯と中世の城の中のような装飾のまっすぐ続く廊下の先に両開きのゴテゴテした金色の扉があった。そのまま近づきアリスがしっかりと抱きついているので、横でジャネットが準備しているのを確認し足で蹴り開ける。  

 中は文字通りの玉座のある謁見の間であり、右側には多数のモニターが左側には巨大なベットと漫画で見るような拷問器具が揃っている。

 

 そして、中央の段上にそれはいた。

 

 王冠を被り、金色の王笏を持ち赤い白の装飾が施されたマントを身に着けた体長3メートルはあろうかという黄色い肌の牙を生やしたオークが座り込んでいた。

 それは人が2,3人は入りそうな膨れた腹を左手で撫でつつ、こちらを横柄に見下ろし妙に甲高い男の声で話し始めた。

 

 

「よくも、オレの城であるラヴキングダムをめちゃくちゃにしやがったな。

 幹部に取り立ててやったアイツラも盛ってるばかりで役に立たないし、ほんとにクソゲーだな」

 

「お前は、佐藤って名前か?」

 

「ああ? 口がなってねえぞ、NPCのくせによぉ。

 佐藤なんて、地味な呼び方するんじゃねぇよ。

 たく、ろくにチートも寄こさないで転生させたくせに、苦労してダンジョンマスターになった途端にご破産だよ。

 勇者か何かのつもりか、お前?」

 

「マスター、アナライズ出来ました。こいつは、【魔王オーカス】です」

 

「んん? おいおい、何で生きたフェイトのジャンヌ連れてんだよ、お前。

 おまけに抱えてるのメガテンのアリスじゃん。

 どこで拾ったんだよ、教えろよ。

 教えたら、許してやってもいいぜ」

 

 

 ところどころ内容がおかしいが、どうも発言が本当ならこいつも自分と同じ【転生者】か?

 二人の胸や腰を舐めるように見るそれに、不愉快そうなジャネットと冷たい笑みを浮かべるアリス。腕から降りるとそれに近づき、アリスが話しかけた。

 

 

「あら、おじさまやマスター以外にもわたしのことを知っている人がいたなんて面白いわ。

 でも、ダーメ。わたしはマスターと契約しているから、もうマスターのものなの。

 そこにいるジャネットもそーよ。それでも欲しいの?」

 

「当たり前だろう。オレは魔王になった転生者だぜ。

 おっと、呪殺は効かねえから『オトモダチ』には出来ねえぞ。

 この豚の姿は気に入らないが、そのうちイベントが起きてイケメンになるだろ。

 魔力さえあれば、飲み込んだ願いを叶える天使を使えばいけるだろ」

 

「ふう~ん。それであなたは、何の転生者なの?」

 

「?? 転生者は転生者だろ、何言ってんだ?」

 

「アリス、そいつは何だったのかも忘れてその姿になった奴だよ。

 危ないから、こっちにおいで」

 

「はーい」

 

 

 素直に頷くと、アリスはこちらに戻ってきたので抱き上げる。

 少しヤバかったかも知れない。こいつが馬鹿で助かった。

 【俺たちがメガテンとしての転生者ではない】ことは、あまり知られたくない。

 気づいたり、知っている奴はいるかもしれないが。

 それよりも、『願いを叶える天使』とは何だ?

 

 

「オーケー、分かったよ。同じプレイヤーの誼だ、教えてやるよ。

 彼女たちは、あるイベントをこなせば手に入るんだ。

 『願いを叶える天使』について教えてくれるなら、その場所まで案内するよ」

 

「何だ、お前もプレイヤーかよ。

 結構課金してんだろうから、めちゃくちゃにした分働いてもらうからな。

 で、天使だっけ?実はな…」

 

 

 誰かに自慢したかったのだろうか、得意げに語り出した。

 

 曰く、前のより使えない両親と関西の教会に巡礼に行き、スマホをガメたらその中に悪魔召喚プログラムがあり、いつも入り浸ってるこの部室で願いを叶える奴来いと動かしたらしい。

 そうしたら、頭がライオンの天使が出て来て、お前には豚の姿がお似合いだと言われこの姿に変えたので飲み込んだんだら、本当に思った通りの事ができる様になり、上にいた彼らも良い目を見させる代わりに手駒に変えたのだそうだ。

 どうもここの悪魔や異界のデザインの大本は、大量にここへ持ち込んでいた漫画や小説を元にしてこいつが作り出したと言っている。

 それならばと、例のサイミンアプリを取り出して見せる。

 

 

「なあ、田中って奴にこれを渡したか?」

 

「ん? 何だ、あのバカも倒されてたのか。やっぱ、使えねぇ。

 まあ、漫画と同じノリで相手に誤認させて催眠をかけるように作ったやつだし役には立たねえだろうな。

 じゃあ、そろそろいいだろ。早くその場所に案内してもらおうか。

 今からお前を食い尽くしてなぁ!【エアダイブ】!」

 

 

 そう言うとオーカスはあの巨体で飛び上がり、自分たちの上へと落下して来た。

 とっさに、アリスとジャネットを突き飛ばす。避けれずに自分は奴の下敷きになるが、ダメージは負っていない。

 ダメージを受けたのだろうオーカスは、叫びながら下半身を尾が生えた四足獣に変化させて立ち上がりこちらを睨んでいる。

 この隙に距離を取った自分にジャネットが叫ぶ。

 

 

「ブォーノ! ダメージを跳ね返すとかチートだな、お前!」

 

「マスター! そいつは、物理耐性で火炎と電撃が弱点です!」

 

「てことは、アリスは交代だ。【サバトマ】、ナジャ!」

 

「久々の出番! くらえ、【ガルダイン】!」

 

 

 強力なカマイタチがオーカスを切り裂く。破魔も無効なのか、ジャネットは別の方向から鉄の棒で激しく殴っている。ナジャを背中に背負うとジャネットとは少し離れた場所に移動する。見るからにパワーファイターなので、コイツ向けの挑発も兼ねてこの状態で続けるほうがいいだろう。

 その様子を見たオーカスが叫ぶ。

 

 

「お前ぇ、何人、美少女を呼び出しやがる。

 しかも、オレと戦っているのにおんぶして戦うとか舐めてんのかぁ!」

 

「べぇーだ! マスターくらいに体重落としたら、…んんっ」

 

「よっと」

 

「ブォォーノッ!」

 

 

 オーカスが怒り任せに前足を叩きつけるに合わせ、左手でナジャの尻を掴んで振り落とさないように固定し右腕でそれを受け止める。

 受けた反射ダメージと顔は見えないが自分にきつく抱きつくナジャの様子を見て、オーカスが怒りに震えている。

 その横でジャネットが、いつもより勢いのあるスイングでオーカスの足の脛を殴っている。

 

「くぉんのぉ!」

 

「ブォォーノ!脛ばかり狙うな!」

 

「ナジャは魔法を連打してくれ。防御はどうにかする」

 

「……うん、マスター。【ガルダイン】」

 

「ブォーノ!」

 

 

 やはり異界の主だけあって、ダメージは蓄積しているようだが耐性も強いし耐久力もあるようだ。

 しばらく同じように続けていると、しっかり掴まってはいるがMPが尽きたのかナジャは荒い息をしながら【吸魔】に切り替えている。

 こちらからの魔法が飛ばなくなったのをチャンスと見たのか、ジャネットの方を振り向き噛みついた。

 躱しきれずに傷を負い、たたらを踏むジャネット。しかも、よく見るとオーカスの傷が治っていく。

 そのさまを見て、笑うオーカス。

 

 

「ブオッホ。傷を負っても【丸かじり】すればどうということはないわ!」 

 

「くっ、まだまだ」

 

「…んんっ、マスターこのままだと不味いよ」

 

「確かに、まずいな。こちらを無視し始めている」

 

 

 しばらく経って頭が冷えてきたのか、ジャネットに攻撃をし出すようになった。 

 こちらに集中してくれれば、楽だったのだが。

 思わず左手に力を込めてしまったが、右手でウェストポーチを右側に寄せる。

 

 

「ナジャ、ガルダインを撃つのに吸魔は何回必要だ?」

 

「2、3回やって一撃分くらい。どうかしたの?」

 

「よし、じゃあそのまま続けてくれ。こっちももう大盤振る舞いだ」

 

 

 自分たちの攻撃魔法は、氷雪と疾風と破魔に偏っているので物理が効きにくい相手だと火力が出にくくなってしまう。それを補うために火炎と電撃のストーンを買ってはいるが、常に品薄であり一つ数百マッカする使い捨て品となっている。

 今回の依頼は、身内の頼みであり掛かった経費は全て持ち出しになる。工夫してなんとか安くできればと思ったが、命には変えられない。

 こちらに注意を引くため、ナジャには悪いが左手を妖しく動かす。

 

 

「アアアァン! ダメだよ、マスター」

 

「何をしているっ、ブォーノ!」

 

「何をしているですかっ! それはそれとして、回復回復」

 

 

 怒りでこちらに来るオーカスにアギラオストーンとジオンガストーンを投げつける。

 弱点の火炎と電撃で大きなダメージを負うオーカス。

 これも作戦なのだから睨みつけないで欲しい、ジャネット。

 そしてこの後、完全にパターンに入り、ナジャの肉体とジャネットの精神に過大な負荷をかけて勝利しオーカスは倒れ伏したのだった。

 

 

 倒れ伏し、身体が消えていくオーカスを注意しながら見る。

 隣にはとても不機嫌な表情のジャネットがこちらを睨みつけて立っている。

 ナジャの方は背中から滑り落ちるように地面に降りると、こちらが振り返る前に消えてしまった。声を出して貰うために、最後の方はときどき痙攣もしていたので本当に悪いことをしてしまった。

 オーカスがこちらを憎々しげに見て、話しながら血の涙を流し消えていく。

 

 

「ブォーノ。貴様はそんなことをしてまで勝ちたいのか!

 オレの夢を、オレだけのハーレムを作るのを邪魔しやがって!

 リア充に呪いあれ!その勝利に修羅場あれ!

 いつか人生の墓場に落ちながら、オレの怒りを思い出せ!」

 

「いや、自分はもう結婚して子どももいるぞ」

 

「グォッフ」

 

 

 今度こそ、完全に消え去ったオーカス。

 しかし、その消えた後にどろどろに溶けてスライム状になった天使が残されている。

 それはこちらを見ると、何か話しかけてきた。

 

 

「わ、わ、わた、わたしは、だ、だい、大天使あ、あ、アリエル。

 か、神の、し、獅子、で、であり、ひ、人の、こ、子のねが、願いを、かた、形にする、て、てつ、手伝いを、す、する者。

 か、かい、解放し、してく、れて、かん、感謝し、ます。ひ、ひと、人の子よ。

 ……ありがとう」

 

 

 そういうと天使は身体の核になっていたノートパソコンが崩れるのと同じように消えていった。そして、部屋全体が揺れ始め崩壊が始まった。

 後で話があると言うジャネットを宥め、急いで二人して拾えるものを拾うと一目散に階段を駆け上り、生徒たちを運び出していたデモニカの人たちや花蓮たちと走って脱出した。

 

 

 

 

 さて、その後のことを語ろう。

 

 蛍原学園だが、事件の後始末のため一ヶ月近く休校となった。

 学生の行方不明や大騒動になったため、教師陣の入れ替えが行われたようだ。

 

 あと、学園内の怪異も今回の事件で力を奪われていたらしく、生き残りはハナコさんだけとなっていたようだ。その優秀なスキル群もあり、彼女はこちらでスカウトして神戸セクターに引っ越してもらった。強い霊地でもあるためか、快適にここのトイレに落ち着いていた。

 

 今回の生き残りでもある【田中一郎】くんは、調査の結果、あのオーカスと化した彼と同じく【俺らと同じ転生者】だと分かった。

 彼自身は吉祥天を祀る神社の跡取りで、前世のことはただの夢だと割り切っていたのだが調子に乗った今回の件で実家経由で山梨セクターに送ることになった。

 今回のシキガミへの干渉の件では、このサイミンアプリの相手の認識を変えて催眠をかける能力を彼自身の自覚しないスキル【煌天の幻視】で無理やり突破している事も分かり、そのセキュリティホール解決のためショタオジの仕事が激増したそうだ。

 

 

 

 

 

「人前であんな事をするマスターは、いろいろと買って貰うので許してあげるよ。

 ねぇジャネット、ル・○ランのこれでしょ、ル○ンジュのこれもいいなぁ。ベイ○ヴェールの詰め合わせスイーツもどうかな?」

 

「ええ、そうですねナジャ。5桁くらいの詰め合わせスイーツで手を打ちましょう。

 足立○衛門や松○助京都本店のもなかなか美味しそうです」

 

「その辺で勘弁して下さい」

 

 

 自分はと言えば、今回のボス戦での件でジャネットとパールバティー、そしてナジャのご機嫌取りのために、経費と合わせてへそくり貯金を大部分消失することで今回の事件は終了したのだった。

 




あとがきと設定解説


・【邪鬼オーク】

容貌は、某国民的RPGのそれに近い。
レベルは、11。耐性は、銃弱点、電撃弱点。
スキルは、ディア、仲間を呼ぶ。

・【魔王オーカス】

男子生徒の佐藤が変化した。
この世界を、ゲームや物語のように認識していた。
他者を吸い込み取り込む能力がある。
レベルは、28。耐性は、物理耐性、火炎弱点、電撃弱点、破魔無効、呪殺無効。
スキルは、丸かじり、麻痺引っかき、エアダイブ、タルンダ。

・【田中一郎】

吉祥天を祀る神社の息子で超幸運で守られていた自覚のない覚醒転生者。
レベルは、6。耐性は、破魔無効。
スキルは、煌天の幻視(一定期間に一度だけ、自分を除く、味方1人の判定の失敗またはファンブルを成功に変更する)、幸運な助言(一定期間に一度だけ、自分以外の味方1人が何らかの判定を行う際に、その判定に+20%の修正を与えると共に、判定値の1/4でクリティカルする)、幸運(一定期間に一度だけ、自分に対する攻撃のダメージと追加効果を完全に打ち消す)

つまり、【主人以外からの精神状態異常無効】なら相手に主人だと誤認させて無理やり判定に成功すれば突破できる、という屁理屈みたいな理論で干渉された。
(クーフーリンの運の値が低いことも含む)


次回は、次の事件へ。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第四十話 Q、日々のお仕事は順調だと思っていますか? ぱーと8

続きです。

今回は、一話で収めたかったのでかなり長いお話です。

仕事が忙しい。


 

 

  第四十話 Q、日々のお仕事は順調だと思っていますか? ぱーと8

 

 

 秋もそろそろ終わり、寒さも目立ち始めるようになる11月になった。

 

 先日の一件での細かい状況を纏めた報告書は山梨に報告したが、ショタオジから苦言を呈する内容のメッセージを受け取った。

 

 シキガミとの契約に抵触した例の内容と山梨に送った田中一郎くんの件では、極めて稀なケースでシキガミの五感によるユーザー認識の隙をつくような事になったのだが既に対抗処置は施したと言う。だからショタオジは現在、電化製品のリコール対応と同じように技術班と共にデスマーチに突入していると、同じように対応で追われている神戸セクターの技術担当である六堂さんと氷室さんから目のクマの目立った顔で愚痴混じりで知らされた。

 今度彼女らに何か賞与のようなものを用意しようと思う。

 

 ショタオジが苦言を呈したのは、もう一つの事である。

 ガイア連合はもともと同じ転生者たちが集まって終末を生き延びようという目的を持って寄せ集まった互助組織である。ショタオジ自身、仲間の転生者の死は歓迎できないと公式に発言してもいる。

 そして今回の件で問題なのは、悪魔に変わり果てたとはいえ幹部の転生者が未発見だった転生者を殺したのは見過ごせないのだと言う連中だ。

 状況が状況であるからショタオジ自身は沈黙を守るが、情報をどこからか入手した自分を敵視している連中からは絶好の叩くネタになるそうだ。

 

 彼らからすると自分は、ショタオジに取り入り神戸セクターの支部長に大抜擢された若造であり、地方の潰れかけの霊能組織に潜り込んで若い女を多数侍らしていて、地元のメシア教会のシスター達にいい顔をする好色者であり、外部の得体の知れない連中から貰った機械で多数の女の悪魔に姿に変える危険人物であり、女の悪魔に姿を変えて自分の写真を売り出すような淫売の変態だと言う事になっているそうだ。

 加えて、今回の件で自分たちガイア連合に多大な不安と迷惑をかけたので、幹部クラスの恩恵は取り上げるべきだと周囲を煽っているらしい。

 

 そう言われてしまえば自分自身も若干心当たりがあるので家族に手を出さないなら陰で何を言われようが構わないのだが、そういった声を沈静化するのも仕事の内だと言うのならば拒否するつもりもない。

 そこで、基本的に中立であるショタオジ付近ではない上層部からその辺の発言を払拭するため、幹部級でないと扱えない難易度の高い仕事を何件か処理して功績を上げて黙らせるようにとの正式の依頼が来たのだった。

 

 

 

 現在、自分はジャネットと共に依頼の現場に向かう船上にいた。

 船と言っても小型のクルーザーではあるが、今後の海外への進出する際の霊的な装備を施した技術試験船であり生え抜きの現地能力者達チームを率いている幹部級転生者の【卑劣ニキ】が拠点にしている船との事である。

 ここには今、自分とジャネットの他に卑劣ニキことチームリーダーの【アルファ】と『チームフォネティック』のメンバーが3人ほど乗っている。相変わらず、彼らは以前のホテルで会った時のように目出し帽と警察の特殊部隊によく似た装備で統一されているために個人の識別が難しい。

 久しぶりに会ったからか、笑みを浮かべたように話しかけてきた。

 

 

「よう、いつぞやの大量に屍鬼が現れた事件以来だな。

 改めて、自己紹介しておこう。俺は掲示板では【卑劣ニキ】で今は【アルファ】だ。

 そう、呼んでくれ」

 

「よろしく、アルファ。

 自分はこれから異界の攻略に向かうから合流するように言われて来たんだが?」

 

「説明しようか。

 俺はお前さんが受ける今回の複数の案件の仲介とサポートをするように言われている。

 拘束期間は最大12月の上旬まで。件数は、充分だと判断されるまでだ。

 行動中の記録では、お前さんは【ゲスト1】で、そっちのシキガミは【ゲスト2】だ。

 お前さん達のプロフィールと能力は概ね把握しているが、達成したと判断するのは上の方なので理解してくれ。

 使用した道具などの経費は報酬から天引きするが、必ず手に入るので安心して使ってくれ」

 

 

 そう言うと彼は日本地図を取り出し、四国と紀伊半島の間にある伊島という島を指で示して話を続ける。

 

 

「まず一件目だ。これを見てくれ。

 この島はちょうど四国と紀伊半島の間にあり船の航路の直ぐ側にある。

 この島の東端に数日前、洞穴が出来て異界になった。

 通報を受けて、調査員が調べたところ異界の主が船を難破させる逸話の【妖精ローレライ】だと分かった。

 レベル30以上の大物ということでお前さんの出番だ」

 

「マスター。妖精ローレライはデータによると、レベル31。

 耐性は、火に弱く氷結と破魔や呪殺に耐性があります。

 主なスキルは、子守唄にマリンカリンと回復魔法です」

 

「ゲスト2の言う通りだ。

 お前さんは精神状態異常無効があるし、そっちはシキガミだ。

 当事者なんだから、例のアプデももう受けているんだろう。

 封鎖は俺らがやるから、突入してきてくれ」

 

「わかった、準備は出来てる。何時でもいいぞ」

 

 

 船はそのまま洞窟近くの岩場の海岸に着くと、ゴムボートを用意して上陸した。

 そして、洞窟まで案内すると、異界の中でも使えるビデオカメラを付けたドローン型のステルス式神をこちらのお供につけて自分たちを異界内に送り出した。

 

 ジャネットと慎重に奥へと進む。内部は明るく自然洞窟が続いており、奥から唸り声のようなものが小さく響いている。そのためか、中に進むに連れて内部の様子がおかしくなっていた。

 たぶん、ここの異界に湧いたのだろうジャックフロストやジャックランタン、ゴブリンといった妖精たちがあちこちに倒れている。死んだのならマグネタイトに戻り消えるのだが、こちらに気づいているようだがそのまま痙攣して倒れたままである。

 アナライズでも状態異常の麻痺だと出ているのでちょうどよいので手早くとどめを刺しながら奥へ進んで行くと、奥に進むに連れて唸り声のようなだみ声のような音は大きくなっていき、とうとう最奥だと思われる両開きの扉が奥にある広間に着いた。

 

 妖精郷を模したのだろうか中央にきれいな泉があり花畑と集まって騒げる空き地や木々も生えている空間であるが、そこかしこに麻痺して動けなくなったかなりの数の妖精たちが転がっているのはシュールである。

 自分たちが広間に着き覗き込むのと同時に唸り声も止み、扉から女性が顔を出した。美女ではあるが、緑の髪に青い衣のここの主のローレライその者であった。

 

 

「ちょっと~、わたしの練習した歌を聴きなさいと言ったのにぃ、起きれないなんて根性がないわよ~。

 起きなさいってば~」 

 

 

 どうやらあの唸り声は練習した歌だったらしい。

 一緒に覗き込んでいたジャネットが、微妙な顔で小声で話す。

 

 

「マスター。あのローレライ、スキルが【子守唄】じゃなくて【バインドボイス】です。

 音痴でスキルが変わるなんて初めて聞きました」

 

「あれが歌声かぁ。唸り声にしか聞こえなかったぞ」

 

「誰!? 今、わたしを音痴って言ったのは!?」

 

 

 耳ざとく聞かれてしまったらしい。ジャネットと共に部屋に走り込み、戦闘を開始する。

 

 

「【サバトマ】、アリス。お片付けをお願い」

 

「は~い。お片付けするね。【死んでくれる?】」

 

「私はあいつを」

 

「何てものを呼び出すのよ、あんたたちは。…へぐっ」

 

 

 呼び出したアリスの呪殺で周囲の妖精を一掃し、驚いていたローレライに走り寄ったジャネットが振りかぶった鉄の棒で側頭部を殴り飛ばした。なまじ開けた扉から覗き込む態勢だったのが災いし、そのまま扉に頭を叩きつけられてふらつくローレライ。

 ローレライも根性を見せて自分に魅了の魔法を放つが、自分は新スキル【魂の融合】で変身時でも【精神異常無効】が効いているので無効である。

 その後はさして抵抗もなく、そのまま3人がかりで囲んで叩いて消滅させ脱出した。

 

 外の時間でも数時間ほどだったのだろう。

 脱出して来たこちらを見て、少し驚いた様子で見ているアルファ。

 連れているアリスを見て、何故か納得した感じで出発の用意を始める他のメンバー。

 何か釈然としないが、船に戻り出発した。

 船内でアリスを戻し休憩を取っていると、船室にアルファがやって来て話し始めた。

 

 

「よう、ドローンの映像も確認した。成功のようだな。

 それじゃあ、次の地点に向かうからしばらくここを使え。

 ああ、それとここで盛るなよ」

 

「まだ、次があるんだろう?

 仕事中にそんな事をするわけがないだろう」

 

「そ、そうです」

 

「お前の女はその気みたいだぞ。ハッハッハッ」

 

「ジャネット?」

 

「からかうのは止めて下さい。その分はまた後にしますから」

 

「そうか。ま、頑張れよ」

 

 

 そんな会話の数時間後に船は日が傾きつつある大阪港に着き、驚くことに今度は大型トラックの荷台にある拠点車両に乗り換えて次の地点に向かうことになった。

 車内は空調も効いており、狭いが複数人が泊めれるようになっている上に装備もいくつか積んでいるようだ。互いに椅子に座り、車内を見ていると自慢気にアルファは話し始めた。

 

 

「驚いたか? うちのチームはこういう車両をいくつか所有している。

 ゲスト1みたいに地元は無いが、全国を飛び回る緊急対応もこなすからな。

 俺が個人的に集めたチームだから装備もしっかりしているし、俺以外は現地人だが、メンバー全員これでもレベル12は越えているんだぜ」

 

「まあ、俺たちは個人事業主みたいなものですからそれぞれだと思いますよ。

 それで、次はどこに行くんです?」

 

 

 今度は、秘書役のメンバーが持ってきた大阪北部の地図を広げて見せる。そして、ある一点で指を指してみせた。

 

 

「ここは阪神高速道路の大阪側に一番近い入り口だ。

 で、そこの近くで彼氏とデート中だった女子高生が行方不明になった。

 ここからが問題でな。その女子高生はお金持ちのお嬢様で、ガイア連合と大きい取引のある会社の重役の娘で橘優香と言う。

 彼氏曰く、『並んで歩いていて大型車が通り過ぎたら突然彼女が消えた』。

 付近のカメラからも確認したら本当にすれ違いざまに引っ張り込まれていたが、非覚醒者の彼氏にそう見えていたんならその車は悪魔だという推論が成り立つ」

 

「警察はどうしたんです?」

 

「その車が悪魔なら非覚醒の人間には見えないように出来るからな。

 目撃情報は集まっても捕まえられないから、こちらに話が来た」

 

「それじゃ、一番目撃されている場所で囮でもしますか?」

 

「ああ、話が早くて助かるな。ぜひ、やってくれ」

 

「はい?」

 

 

 そういう事になった。

 

 いくら強いとは言え自分が嫌なので、囮役は自分がやることにした。

 姿は、以前に自宅の寝室で写真を撮ったとてもあざとい『JKブレザージャンヌ』でいくことにする。ちなみに、この服装は『エイプリル・マジカル』と共に実際にガイア連合製の霊装として販売中である。

 顔を真っ赤にして抗議するジャネットを宥めて近くに待機してもらい、頭上に式神ドローンを浮かべ人通りの少ない目的の地点に立つ。

 アルファ達の大型トラックは少し離れた駐車場に停まっている。

 

 ここに立って、もうすぐ日付が変わるくらい経過しただろうか?

 ナンパや売春と勘違いしてくるサラリーマンをさばきながら立っていると、運がいいのか悪いのか情報にあったグレーのハイエースが近づいてきて扉が開き、無数の手によって車内に引っ張り込まれてしまった。

 

 勢いよく走り出す車。

 

 車内を素早く確認すると、運転席に1人、写真にあった橘優香と思しき女性を代わる代わる弄んでいるのが3人、そして自分にのしかかって服を脱がそうとしているのが1人の男の影の集団がいる。

 多分、低レベルの実体化も出来ない悪霊だろうが、触れるなら簡単だ。

 のしかかっている奴とは力が違うのでそのまま持ち上げ運転席の方に放ると、ハンドルを切り損ねて電柱にぶつかった。

 車内の全員態勢を崩しているので、目的の女性を掴んで抱えそのままドアを2、3度思い切り蹴って壊し車外に出る。そこへ、怒り心頭で走ってきたジャネットの【天罰】が掛けられとどめを刺してしまった。

 後には、大破したままの車と魅了を掛けられたのか意識のはっきりしない裸の女性だけが残された。

 

 解決してみれば、あっけないものだった。

 程なくして、警察とアルファたちが到着し、警察に彼女を預けると自分たちはお役御免となった。

 今日、宿泊となるホテルに向かう車内でアルファが話しかけてくる。

 

 

「ご苦労さん。

 後処理のことは、警察の周防警部に任せておけばいいから休んでくれ。 

 しかし、運が良かったのか食いつきが良くなるほどあの姿が良かったのかどちらかねぇ」

 

「どちらでも構わないだろう?

 レイプ魔の集団の悪霊が取り付いた車の悪魔とか早めに潰しておいた方がいい」

 

「そうだな。あの車自体、盗難車だったようだ。

 大方、事故か抗争で死んでも同じことを繰り返していた馬鹿どもだろう。

 こっちとしては、橘優香が生きて確保されればそれでいいからな」

 

「そもそも今回の件、簡単過ぎて自分が出る必要があったのか?

 ジャネットのあざとい姿になっただけだぞ」

 

「マスター!?」

 

「簡単だ。

 俺のチームに女はいないし、俺は女は式神でも信用しない。

 それに、今回の件みたいな事件に名乗り出る女の能力者はいないし、お前さんがしてみせた様にシキガミでも自分の女にそんな事をさせる奴はそうそういないってことだ。

 ああ、次の件は2日後になるから、その間は休んでくれ」

 

 

 その言葉を聞いて、ジャネットが黙ってはいるがアルファを睨んでいる。

 自分としてもその辺ははっきりしておきたいので聞くことにする。

 

 

「わかった。一つだけ聞いていいか?」

 

「何だ?」

 

「チームに女性を入れない理由は?」

 

「ああ、仕事の邪魔になるからだ。

 俺個人は性欲なら専用の娼婦で済ますし、お人形遊びにも興味はない。

 部下たちには個人で好きにさせているが、仕事の邪魔になるなら部下も含めて切り捨てるだけだ」

 

「そうか、もうこの話は止めにしよう」

 

「そうしてくれ。ほら、ホテルに着いたぞ」

 

 

 アルファはくだらなそうにそれだけ言うと、ジャネットの方は興味もないという様に顔も向けずに車で去って行った。

 その辺はもう個人の信条の問題だから、自分はもう口にしない。

 だが、自分のパートナーを『お人形遊び』と言った事は忘れない。

 結局、この言葉のお陰で荒れるに荒れたジャネットを宥めるため、一日中ホテルの部屋に籠もることになった。

 

 

 

 予定の期日の朝になった。 

 休みの間にいろいろとしてジャネットを落ち着かせていたので、観光に出かける気分にもならなかったので食事はルームサービスでご飯だけ頼みレトルトガイアカレーだけで済ますことになった。

 指定の場所で待っていると、彼らの大型トラックがやって来たので乗り込む。

 相変わらず目出し帽と特殊部隊服のアルファたちが出迎えた。

 座る時に無表情のジャネットの肩を軽く叩いて着席すると動き出した。

 こちらを見るとアルファは、前置きなしで地図を出して話し始めた。

 

 

「体調は問題ないようだな。

 今回は大阪市内の6階建てのビルにある異界の攻略だ。

 このビルはヤクザのフロント企業の通信会社の物だが、あるターゲットがそこにいてマークしていた。

 しかし、突入する期日になって突然に異界化した。

 目的はそのターゲットの確保だ」

 

「そのターゲットとは誰です?」

 

「こいつだ。【氷川】だ」

 

 

 見せてくれた写真には、30前後位の白いスーツを着たM字の前髪が特徴的なインテリヤクザが写っている。

 『氷川』というと、ガイア連合でも原作に関わる重要人物として捜索されていたはずだ。

 それが見つかったとでも言うのだろうか?

 

 

「ようやくこいつを見つけ出した。

 とにかくゲスト1と2は、正面からの陽動だ。

 自分たちは屋上と裏口から突入する」

 

「向こうの戦力はどうなんだ?」

 

「異界になったのが数時間前だから、まだ分からん。

 だが今のGPから考えても、お前たちならそうそう負けることはないだろう」

 

「わかった。やるだけやってみよう」

 

 

 大型トラックを近くの路地裏に停め、朝方の人のいないオフィス街を二手に分かれて移動する。

 もちろん、自分は正面から乗り込んでいく。

 入口横の『サイバース・コミュニケーション』と書かれたパネルを確認し、ガラスの扉を開ける。周囲には誰もおらず、受付とソファに自動販売機と普通の入り口である。

 振り返り、ジャネットに確認する。

 

 

「ジャネット、ハニー・ビーの反応は?」

 

「普通のビルの間取りじゃなくなっているので異界化は間違いないです。

 エネミーサーチに反応が無いのが不気味ですが」

 

 

 自分たちは陽動役なので敵が来ないと困るのだが、とにかく誰かいないか探し回ることにした。そして、2階にあったサーバールームでそいつを発見できた。

 部屋の中でコンピューターを操作していたスーツの男は、あのM字前髪から見て氷川に間違いないだろう。

 部屋に入っていくと、氷川はこちらを振り向いて機嫌悪そうに話し始めた。

 

 

「なんだ、貴様らは?

 今、私は忙しいんだ。黙って出ていくなら殺さないでいてやる」

 

「氷川だな?

 高尾裕子はどこだ? ナイトメアシステムは完成したのか?」

 

 

 メモを見ながらそう言うと、ぎょっとした顔でこちらを見てサーバーの方に後ずさる。

 

 

「貴様ら、何を知っている?

 まあいい、私はこれで世界を作り変えるためにボルテクス界に渡るんだ。

 お前らの強そうなその力、足りないマガツヒの足しにしてくれる!」

 

 

 そういうと後ろの扉が閉まり、氷川は緑のマントと白い下帯だけ身につけた豹頭の獣人に姿を変えると、両手に剣を持ち襲いかかってきた。

 正面に自分が立ち、アナライズを終えたジャネットが叫ぶ。

 

 

「うそっ、レベル41の【堕天使オセ】!?

 破魔耐性と呪殺無効です!」

 

「よし、【サバトマ】、ユキジョロウ!」

 

「マスター、おんぶはしませんからね。【ブフーラ】!」

 

「ぐぬっ、おのれ。反射とは、くだらぬ真似を」

 

 

 両手の剣でそれぞれ切りかかってきたが、それを受け止めた反射したダメージと顔を赤くしたユキジョロウの放つ氷雪の魔法で傷を負い距離を置くオセ。

 2人をかばうように動く自分を見て、ニヤリと笑うともう一度斬り掛かって来た。

 

 

「ジャネットは回復優先。ユキジョロウは攻撃を。防御はまかせろ」

 

「ククッ、女たちをかばうつもりでも、もう高価な物反鏡はあるまい。

 喰らうがいい、2連【ベノンザッパー】!」

 

「くっ、毒は無しです。マスター」

 

「これで、【ブフーラ】!」

 

「ぐふっ。おのれ、反射は貴様自身の能力か!」

 

 

 両手の剣で同時にスキルを込めた攻撃を放ったのは驚いたが、ユキジョロウのみはかばうことが出来た。その際に、最初の攻撃で壊れたいつも持っているドッペルゲンガー用の鏡の欠片を、大事そうに地面に撒いたのに騙されたようだ。毒を付与する全体攻撃は経験済みだが、後は単体物理か魔法か分からない。

 次にどうするか伺っていると、何やらブツブツと呟いているオセ。

 

 

「こんな連中にバレて深手を負うなど、役に立たないサマエルめ!

 情報操作は任せろと言ったのは出鱈目か!?

 シジマの思想に共感したのではなかったのか!?

 くそっ、余力を残して向こうに行けぬとは」

 

 

 よく分からないが、今のうちに火力を上げて短期決戦としよう。

 

『Warning,Warning. NON-REGULAR FUSION』

 

 腹部から胸元に背中まで肌を露わにした夜の色をした赤いラインのある全身金属鎧の女性の姿、サクラベルセルクに姿を変える。

 そして、霊木を削り芯の部分に鋼鉄を加えた新しいバットいやスワッターの【ザ・マイケル・スラッガー】を構えて彼女の感覚に任せ走り出す。持った手から赤い線が走り、力が組み込まれていくのが分かる。

 上段に打ち据えた力づくの攻撃を、こちらに気が付き両手の剣で防ぐオセ。

 こちらの姿が気になるのだろうか、受けた体勢で全身を確認すると叫んできた。

 

 

「貴様も悪魔の姿になれるのか。

 バットを振り回す鎧を着た夜魔か鬼女など聞いたこともないぞ」

 

「妖鬼ベルセルクだよ」

 

「ふざけるな!

 そんなに露出度の高い胸をブルンブルン震わせながら、バットを振るうベルセルクなどいるものか!

 声まで女の声に変わっているようだが、貴様に羞恥心はないのか!?」

 

「この姿に恥じる要素などどこにもない!

 お前こそ、人のことが言えるのか?」

 

「この筋肉美とただの痴女を一緒にするな!」

 

「もとよりそのつもりだが、死ね!【月影】!」

 

「貴様が死ね!【怪力乱神】!」

 

 

 それぞれの大技が激突し、双方に大きなダメージが入る。

 だが、自分には仲魔がいる。

 

 

「マスター、今治療します。【メディラマ】!」

 

「この、【ブフーラ】!」

 

「くそ、この私がぁ。貴様だけでも、2連【怪力乱神】!」

 

 

 こいつの必殺技だろうそれを、物理耐性と体力を信じて踏み込む。一撃を紙一重で受け流すがそれでマイケル・スラッガーは砕けもう一撃は避けきれず兜状のバイザーが砕けるが、両腕を掴み抱え込むことに成功する。

 

 

「捕まえたぞ」

 

「離せ、痴女ベルセルク!」

 

「【月影】」

 

「ごふっ、貴様…止め…」

 

「【月影】、【月影】、【月影】、…【月影】」

 

「…………」

 

 

 両腕を固定したまま、頭突きで相手の顔面を目掛けてスキルを連続で放つ。

 血まみれになりながら相手の顔面を潰し、最後に動かなくなった所をスキルを加えた前蹴りで蹴り飛ばした。

 奥にあったサーバーや機械を大破させて倒れ込んだオセいや氷川が、こちらに顔を向けて言う。

 

 

「欲にまみれた人間など世界の歯車として生きるのがお似合いだ。

 天使どもの言う唯一神の恩寵の一部になるのとは違う世界の一部だ。

 この世界を作り変える私の夢が。…ぐふっ」

 

 

 そう言い残すと、大量の血を吐きマグネタイトになって消える氷川。

 奥にあった機械やサーバーが火を拭き、爆発音と共に止まると周囲が異界から普通のビルに戻っていた。その途端、激しくドアに大きなものがぶつかる音がして、ドアに体当りしていたチームフォネティックの面々がなだれ込んで来た。

 それを見ながらユキジョロウを戻し、ジャネットに怪我の治療を受け変身を解除した。

 アルファがゆっくり入って来て周囲を見渡し、ため息をつくと話し始めた。

 

 

「上手く行ったようだな。

 こっちが異界にもなっていないビル内を、3桁はある死体のそれぞれを氷川を探して確認して回っていたのは無駄になったようだが。

 まあいい。後始末は警察に任せて引き上げるとしようか」

 

「あの氷川って奴は、確保でなく殺すことになったが良かったのか?」

 

「どちらでも構わない。この分だと、どちらにしろ殺すことには変わらないからな」

 

「そうか。なら、引き上げよう」

 

 

 こうして自分たちはビルの裏口から大型トラックに乗り込み、ここを後にした。

 そして、その後にいくつかの異界の攻略を終え依頼は完了と判断され、神戸に戻ることが出来たのだった。

 

 

 

 

 

 大阪のガイア連合の所有のビルにその男はいた。

 出資しているチームフォネティックからの報告を受け取り、山梨向けの報告書とメシア教向けの報告書を作りメールは信用出来ないので文書の形で送り出す。

 

 彼の名前は、【利根川幸雄】。財界起業家の俺らの一人である。

 あの漫画の人物そっくりだった彼は、冗談交じりで『帝愛金融』を立ち上げ前の世の知識を利用して業績を上げていた時に、同じ転生者たちと知り合いガイアグループに参加した。

 微妙な覚醒具合もあり彼は、水が合っていたのだろうやはり金儲けが大好きになった。

 現在は表の本業の金融業はそのままに、山梨の黙認のもとに同じ転生者でもいわゆる『福本モブ』のような連中の管理を一手に引き受ける裏の『人材派遣』を手掛けていた。

 

 今回の神戸セクター長の月城カズマの風評の処理の件もこれに絡んでいた。

 彼が氷川を始末したことで、色々と彼に関して騒いでいたクズどもを処理する口実が出来て日本に来た外様神にレンタル名目で売り払うのと、内々に情報を回してくれた言峰司教からの礼金でかなりの利益を上げることが出来た。

 彼が姿を変えたと言われる悪魔っ娘倶楽部のプロマイドの数々を前に、利根川は祝杯を上げた。

 

 

「これからもぜひとも活躍して目立ってくれれば、もっとマッカがもっと金が私の手に入るだろうな。

 これも彼のおかげだろう。貧乳の幸運の女神に乾杯!」

 

 

 ちなみに、利根川の嫁のシキガミはグラン○ルーファン○ジーのカリオストロでありプロマイドの会社にも出資している。

 業の深い裏事情ではあるが、終末後に彼が生き残るのかモデルのように消えるのかは彼次第といったところであろう。




あとがきと設定解説


・【妖精ローレライ】

珍しい音痴の個体。
レベルは、31.耐性は、火炎弱点、氷結耐性、破魔耐性、呪殺耐性。
スキルは、マリンカリン、メディア、バインドボイス。

・【怪異ハイエース】

チンピラ紛いの集団の悪霊が車に取り憑いた付喪神に近い個体。
レベルは、10。耐性は、電撃弱点、破魔弱点、呪殺耐性。
スキルは、突撃、マリンカリン、取り込み。

・【堕天使オセ】/氷川

サマエルから教えられたオセの召喚法と簡易ターミナルの情報で、準備を進めていたこの世界の氷川。
両手で同時にスキルを放てたのは、彼自身の戦闘センスの賜物。
レベルは、41。耐性は、破魔耐性、呪殺無効。
スキルは、怪力乱神、ベノンザッパー、デクンダ。

・サイバースビルの異界

氷川が向こう側への一方通行のターミナルで展開した疑似異界。
ビル内の社員をマガツヒに変換し、世界の穴を開けようとした。
主人公たちだけが入れたのは、レベル40以上の対象だけが異界に入れる様にしたサマエルが仕掛けたバックドアのおかげ。

・利根川幸雄

あの漫画のキャラにそっくりな覚醒転生者。老け顔だが40代。
ガイアグループの金融会社「帝愛金融」の社長で、裏人材派遣「地下帝国」の社長。
あの会長もいないし、社員も黒服でなく普通のスーツの真っ当な会社。
金を儲けること自体が大好きで、それに合わせて生活や性癖すらもコロコロ変えている拝金主義者。


次回は、幕間か次の章に。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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閑話
第四十一話 幕間その八・悪魔の娘達といろいろ話した事の記録


続きです。

今回は、久々の研究所でのお話。
そろそろ加速をつけていかなくては。


 

 

  第四十一話 幕間その八・悪魔の娘達といろいろ話した事の記録

 

 

 

 もう今年もあと少しで終わりとなる12月になった。

 

 クリスマスと大晦日から3が日にかけて、体力の限界に挑む毎年恒例の夜が来る月でもある。もう既に有給は取る前提でいつ誰が側にいるのかを決めてあるスケジュールが、ニコニコしている葵たちから伝えられて申請済みである。終末が来るかもしれないが、これはこれそれはそれである。

 そのためにも、子どもたちに顔を忘れられない程度に仕事を受けて稼ぎを良くしないといけない。

 

 そんな休日のある日、最初は秘書役を期待されていたのに最近は守衛かおさんどんか子守りばかりをしている仲魔だという事を忘れられつつある文香が話しかけてきた。

 

 

「……あの、カズマ様。最近、私、家の見回りや食事の支度や本を読んでいるしかしていないんですが、書物に関する付喪神の鬼女の文車妖妃なんですよ。

 ……皆さんに、白乃さんと同じように妾に扱われるの少しおかしくありません?」

 

「いや、『少し変わった体質の妻の一人』って立ち位置に不満でもあるの?

 自分なりに大事な家族の一人だと思って接していたんだけど」

 

「……不満はありませんが、アイデンティティの問題です。

 だって、例の『真言立川詠天流解説ノ書』の房中術の部分を解読してカズマさん相手に実践してレベルが4も上がったら、ジャネットから夜魔呼ばわりですよ。

 ……ひどいと思いませんか?」

 

「日頃、家にいる時に見る文香はいつアナライズで種族が変わってもおかしくないと思う。

 あの寝室にあるあれこれ、ほとんど文香が購入したものじゃないか?」

 

「……あ、あれはそのいろいろと有用な知識を手に入れて、他の方のためにも良かれと思って?

 ……ほ、ほら、先日生まれたカズマ様のかなり年下の弟の『慎二』くん、あの子だって葵さん経由で色々とご両親にお伝えしてご夫婦で頑張ったからなんですよ」

 

「古今東西の薄い本系のHENTAIムダ知識を無駄に手に入れているだけじゃないか。

 それで、何が言いたいのかな?」

 

「……そ、そうでした。

 カズマ様、一昨日まで長期の仕事に出ていたじゃないですか。

 帰られたその後は休暇を取って、皆さんが代わる代わる出入りして寝室に籠られていたので今日の朝まで伝える雰囲気じゃ無かったんですよ。

 ……一度死にかけたあの時から長時間姿を見ないと、葵さんは娘さん達がいるからまだ大丈夫ですけど雫さんと白乃さんの2人は情緒不安定なんですよ」

 

「長期で家を空ける度に3人が満足するまで相手をするのは、もう慣れたしそれが当たり前だからなぁ。

 まぁこっちから攻めないと、白乃の全裸で庭でお散歩でとか、雫の予備の制服を破いてとか、葵の赤ちゃんみたいにとか話し合いが必要になるけど」

 

「……何であんなに性癖が拗れたんでしょうね。

 じゃなくて、私が対応できるお客様は対応しているんですけど、赤城さんでしたか菓子折りと一緒に御出でになって、時間が出来たらぜひ研究所の方に来て欲しいと伝言を受けました」

 

「赤城さんが直々にか、何だろう? これから行ってみるか」

 

 

 研究所に行くのはずいぶん久しぶりな気がする。

 最後に行ったのが、今年の年始の挨拶のときだったはずだ。

 ちょうどいいから、ショタオジの助言で先日の仕事の報酬の一部をスポンサーのコレクションから、『響30年』や『山崎18年』に、『マッカラン12年』、『バランタイン17年』、『クルボアジェXO』といろいろ貰ったが、ウチの人間は誰も飲まないので贈答用に何本か持っていこう。

 専用のケース入りでお高そうなこれらをいくつか持って、ジャネットと人類娯楽史研究所に出かけて行った。

 

 

 

 昼過ぎだというのに12月の空気も冷え冷えとした細い山道を車で登り、狭い駐車場に車を停めて中に入る。

 いつものように受付席で積まれた少女漫画を読んでいたゴモリーこと森さんが、こちらに気づいて歩いてくる。

 

 

「あら、久しぶりね。いらっしゃい。

 そっちから来たという事は例の変態共の件ね」

 

「お久しぶりです。

 赤城さんからこちらに伺うようにとの事で来ましたが、変態共?」 

 

「ああ、気にしないで。

 今は地獄の業務外の時間だけど、私の担当が女性の愛情についてだからちょっとね。

 円場博士には知らせたから案内するわ」

 

 

 こちらの先に立って案内を始める森さんだが、付いていく自分たちを見てクスリと笑う。

 何だろうか?

 

 

「相変わらずそっちの聖女の娘は、ご主人さまと違って警戒を止めないのね?」

 

「当たり前です。それが私の意義ですから」

 

「うんうん、それが貴女の愛情なのだから頑張りなさいな。

 ほら、もう着いたわ」

 

 

 気がつくと、マルバスこと特撮オタクの円場博士の部屋の前だった。

 森さんと別れ、ノックをして入る。

 今日はいつもよりかなり広い倉庫のような金属製の壁と床の部屋である。入り口の横に接客用のソファセットがあり、部屋の奥には大きな機械があり部屋のあちこちには光る丸いメーターのような装飾がついている変わった様子の部屋だった。

 すると、円場博士と赤城さん、それに見慣れない人物がいる。

 黒いスーツを着た白髪の痩せぎすの若い男である。

 円場博士がこちらに気が付き、声をかけてくれた。

 

 

「おお、よく来たな。今日はゲストが来ておってな。

 ほれ、挨拶せんか。お主らの娘の預かり主じゃぞ」

 

「やあ、本当に久しぶりだね、カズマくん。

 メシア教のクソ天使のお陰で、これ以上の海外のサブカル回収作業が出来なくなって戻って来れたんだよ。

 あの娘たちは元気にしているようだね。ああ、良いことだ。

 少女たちが活躍するさまは良いものだ。

 セー○ームーン、姫ちゃんの○ボン、ミラ○ル☆ガールズ、赤○きんチャチャ、ああ、変身少女物はいい!」

 

「ベリア…ああ、赤城、本当にお前はそればっかりだな。

 よう、初めましてだな。

 ようやくここ向きのアバターが出来たんで来たんだが、ネビロ…じゃなくて黒木だ。

 それと赤城、個人的には最初のやつは年齢上限は土星の娘だぞ。

 特に、他のはまだマシだが天王星と海王星と冥王星の奴はちょっとな」

 

「うむ、そうだな。その3人は妙な色気が出ていてちょっとな。

 色気と言えば、『ママは小○4年生』とかバブミの先駆者だと思う」

 

「少女は愛でるもんであって、母性を求めるのは難しいと思うが?」

 

「いやいや、そうでもないぞ。

 確かにカズマくんに預けたアリス以外のあの娘らは【JC】歳基準だったが、あの娘らとてふとした拍子に魅せる眼差しは充分にあったぞ」

 

「お主ら、いい加減にせんか。本題に入れんじゃないか!

 すまんが、そこのソファに座って話すとしよう」

 

 

 そういえば、呆気にとられて立ったままだった。

 円場博士に促されたソファにジャネットと座った。正面には、円場博士が座り赤城さん達は部屋の大型機材の準備をしている。

 そういえばと渡し忘れていたお土産の酒類とアブゾーバーのケースをテーブルに置く。 

 

 

「円場博士、これ、お土産のウィスキーです。

 自分は飲まないので、上司の方と皆さんで召し上がって下さい」

 

「ほう? ほうほうほう。なかなかに良いものが多いじゃないか。

 うむうむ、これは後で楽しませてもらおうか。

 さて、わざわざ来てもらった上にこんな物まで土産に貰ったのでは、少々本気で掛からんとな。

 わざわざ来てもらったのは、あそこにいる保護者の2人がようやく必要なマッカとフォルマとデビルソースを集め終わってな。

 悪魔合体でアリスを強化する予定なのじゃよ」

 

「今のままでも、あの娘は充分に役に立っていますけど?」

 

「お主、先日ようやくあのバビロンにも姿を変えれるレベル50になれたじゃろう?

 お主がそこまで強くなると、最初に渡したあの娘らでは力不足よ。

 特に、あの大淫婦バビロンの対抗馬となるような仲魔がおらんのが問題だ。

 そこでだ、当初の予定通り合体をするつもりだったのだがなぁ。

 あやつらが1年以上も凝りに凝って時間を掛けよってからに」

 

 

 部屋の奥に動力源と思われる大型機械とチューブで繋がれた魔法陣の書かれた台座が中央に一つある。そして、その横の台の上に合体で使うものだろう金貨や羽根やら角やら尻尾やら雑多なものや、所謂写せ身やデビルソースと思われる水晶がごろごろと山のように置いてある。

 これが全部悪魔合体で使うものだとすると、どれだけアリスに過保護なのだろうこの2人は。

 あと、自慢げに勝ち誇って見られるのは少しムカつく。うちの凛と桜も可愛いんだぞ。

 その様子を呆れた顔で見ていた円場博士が話しかけてくる。

 

 

「さて、見てもらった通り合体にはお主に預けて忠誠度も最高にまでなっている5人全員を使う。

 最高の結果を出すには犠牲がいるものだからな。

 あと、費用はあの保護者の2人が全部持つから心配はいらん」

 

「でも、あの娘達も今でも役に立っていますよ。それを突然言われても!」

 

「もともと悪魔合体とはそういうものじゃ。

 一つになって新しい姿になっても、その意志は残るものだよ。

 それに、何か勘違いしていないかな? 

 お主の本質はデビルシフターじゃ。サバトマで仲間を呼び出すのは余技に過ぎん。

 お主の強みは、わしが作ったデビルズアブゾーバーで単一の姿でなく多数の姿に変われることだ。忘れるな」

 

「そうですね。4人とお別れくらいはいいですか?」

 

「もちろんじゃ。サバトマで呼び出してするといい」

 

 

 サバトマで4人を呼び出し、別れを告げることになった。

 

 マーメイドが言う。

 

『大事にしてくれてありがとう。童話の人魚姫とは違うけど嬉しかった』

 

 モー・ショボーが言う。

 

『一番呼び出してくれなかったのは不満があるけど、嫌いじゃないから。さよなら』

 

 ナジャが言う。

 

『あんな事までされて許したのは、あなたが希望だったからだよ。またどこかで』

 

 ユキジョロウが言う。

 

『力不足は悔しいですけど、雪女はしつこいんですから忘れないで下さいね。さようなら』

 

 大事な家族ではあった彼女たちとの別れは本当に悲しいが、これから来る終末と天使の軍勢を思えば家族を守るためにも立ち止まってもいられない。横にいたジャネットにも肩を借り少し泣いてしまった。

 その様子を満足気に見ていた円場博士がケースからアリスのカードを取り、同じく自分から渡された4人娘のカードを持ち均等になるように五芒星に並べている。そして、赤城さんと黒木さんは陣の中央にせっせと台の上のものを積み上げている。

 操作台の計器を見ながら、円場博士が言う。

 

 

「本来なら、お主に渡した5人で変身用の姿は終わりにするはずだった。

 だが、大淫婦バビロンのカードが来て、お主が見せようとせん他のカードがあり、何かに追い立てられるかのように急速にお主は強くなった。

 もともとこの保養所を管理するだけの我々と違い、お主の活躍を見ておったあの方はお出かけになられた。

 後に疲労困憊して動けなくなったオーナーとサタナキアを残してな。

 何が起きるかは判らぬが、魔人と魔神の姿の二つなら生き残れようて」

 

「あの」

 

「何じゃ?」

 

「あれ、大丈夫ですか?」

 

 

 カードを乗せた直径1メートルほどの五芒星の魔法陣だが、赤城さんと黒木さんが積み上げたものが溢れて零れそうになりカードが埋まっている。

 近くでいい仕事をしたと満足げの2人が、はよはよと博士に視線を送っている。

 ため息を付いた博士はそれを無視しておもむろにスイッチを入れた。

 

 

 

 魔法陣に閃光が走り、光が薄れると陣の中央には一人の少女が立っていた。

 背丈や姿は15歳くらいだろうか。ウェーブの掛かった肩で切り揃えた金髪に、赤いヘアバンドのようなリボンで髪を纏めている。青いワンピースの服にロングスカートは変わらないが、足元は革のブーツ、肩には白いケープを羽織り首元は赤いリボンで腰は白いリボンで飾られている。

 左手には、『ALICE IN WONDERLAND』と書かれた少女が表紙の絵本を持っている。

 そして、こちらを見るとニッコリと笑って話し出す。

 

 

「改めまして、こんにちは。わたしのマスター。

 5人の少女が1人になって、新しいわたしが生まれたの。

 わたしは、【魔人アリス・キャロル】。

 恋しいあなたと寂しいわたし、一つの夢を繋ぎましょう」

 

「よろしく、アリス。これからも、力を貸してくれ」

 

「違うわ、マスター。あなたはわたしで、わたしはあなた。

 2人でハッピーエンドを見つけるの」

 

「あああっ、アリスが……あの娘がこんな立派な乙女になるなんて!」

 

「おおおっ、我らが悲願は果たされた!」

 

 

 アリスと話している横で、ジャンヌを見つけたジルドレイのように号泣している赤城さんと黒木さん。ジャネットと博士も距離を開けている。

 そちらを見たアリスは笑みを深くし、栞のように挟んでいた自分のカードをこちらに渡し宣言した。

 

 

「これで、わたしも大人で立候補できるわ。

 今までのわたしは子ども過ぎて、そうとは見て貰えなかったもの。

 マーメイドは、自分の恋に命をかけたわ。

 モー・ショボーは、愛も知らずに男の人を誘惑するの。

 ナジャは、愛する人のためその人の恋人と魂を同じくしたの。

 ユキジョロウは、愛する人との約束はずっと守り続けたの。

 わたしたちは、そこの聖女にも、あの赤い痴女にも、あの鎧痴女にも、あの変な本ばかり読む人にも負けないんだから!」

 

「む、む。これは難題だ。

 アリスを預けるくらいにはカズマくんを信用していたが、アリスからこう来るとは!?」

 

「お、おい、赤城よ。この男は大丈夫なのか?

 由々しき問題だぞ。

 とりあえず、この男の家族構成や資産、性癖など詳しい情報を精査して、場合によっては考えなくてはならないぞ!」

 

「ねえ、赤のおじさま、黒のおじさま。黙ってみていて下さいね?

 ずうっとお話したくなくなるかもしれないので」

 

「「はい」」

 

 

 アリスはそう言うと、自分の頬にキスをするとカードに消えていった。

 硬直している2人を見ながら博士が言う。

 

 

「この2人は嫌だがこちらで片付けておくから、帰ると良い。

 わしは、お主が大切なもののために生き残って戦うのを楽しみにしておるからの。

 また、何かあったら来るといい。それではの」

 

「はい、では失礼します」

 

 

 そう言って自分たちは、もうすぐ夕暮れになる山道を車で神戸まで帰ることになった。

 引きつった笑みのジャネットが、助手席でぶつぶつと言っている。

 

 

「迂闊でした。

 てっきりあの娘らは子どもだから、マスターの射程範囲外だと思っていたのに。

 あのアリスは、目算でも上がC寄りのBで下も安産型。

 隠してある趣味の本の通りなら、充分にいけますね。

 これは、文香にも相談しないと」

 

 

 これは聞かなかったことにして、帰ったら個人的なお宝本は別に移すとしよう。

 そう決めて自分は家路についたのだった。

 

 

 

 

 

 こうしてドタバタとした12月も過ぎ、年末と年始に自分が休みを取り増員もされた体力の限界に挑む毎年恒例になった夜に挑戦している間に、アメリカからの移民船『ギガンテック号』が神戸ポートアイランド港に寄港した事から次の事件が始まることになる。




あとがきと設定解説


・『響30年』、『山崎18年』、『マッカラン12年』、『バランタイン17年』、『クルボアジェXO』

ゲームの龍が如くで知って検索して驚いた1本5、6桁するウィスキー。
もちろん、利根川は号泣した。

・セー○ームーン、姫ちゃんの○ボン、ミラ○ル☆ガールズ、赤○きんチャチャ、ママは小○4年生

当時、実際に放映していたアニメ。
ジャンプの作品とこれらが当時のコスプレの全盛だったことは薄っすら憶えている。

・【魔人アリス・キャロル】

初期から彼と一緒にいた彼女たちが5体合体した姿。
2人の保護者が大量にボコじゃかと加えた物により、色々と特別製のアリスになった。
容姿は、FGOのナーサリー・ライムの本を持ったに○もん式アリス。
レベルは、50。耐性は、破魔弱点、呪殺反射、全状態異常無効。
スキルは、死んでくれる?、マハムドオン、絶対零度、ソウルドレイン、サバトマ、破魔反射。


次回から、最終章の第五部の開始。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第五部
第四十二話 終わりの始まり


続きです。

今回から、第五部開始。終わりの序章。


 

 

  第四十二話 終わりの始まり

 

 

 年が明け、1月になった。

 

 うちでは新年のお参りは中庭の祭神さまの祠で済ますので、まだ子どもたちも小さいし遠出は余りせずに近場に皆で遊びに行く位だろうしか出来ないのが残念でならない。また、子どもたちの世話の殆どを夜の間は文香にお願いするのは本当に助かっている。

 

 そういえば、年末年始の1週間で体重が3キロ近く落ちてまた絞られた感じがする。

 確かに、原因はあれだと判ってはいる。しかし、彼女たちに突き合うのは旦那の務めだろうと思っている。

 もっともこういう話題は夢の中では、アリスとパールバティーは顔を真っ赤にして停止するし、イシュタルは聞こえないふりをして耳をこちらに向けているし、バビロンはもっと過激なやり方を提案するし、ベルセルクが一番聞き入っているはで一度だけバビロンに問われた時から禁句にしている。

 同じ悪魔でも、嬉々として実践に参加するジャネットと文香より清楚なのは面白いところではある。

 変な考えになりそうなのでこの思考はもう終わりにしてすぐに出勤するとしよう。

 

 

 

 さて目下、この神戸セクターが一番追われているのは神戸港に停まっている大型タンカーの『ギガンテック』であろう。

 この船は航行用の燃料を除いて空だったタンカーを、メシア教に追われていた一団が強奪して日本まで逃げてきたのだという。もちろん、船室など足りないので200人ほどの避難民は全長約340m幅60mあるこの船の甲板にテントを張って暮らすという無茶苦茶なやり方で海を越えてきたので、神戸の自衛隊の人たちや移民担当のガイア連合の担当者も交えて対応に追われている。

 

 ただ、追われているのは事務方や医師や現場で動く人たちであって、過剰戦力になる自分は待機である。一度、リーダーの元アメリカ軍人のライアン大尉には交渉の席で会った時には、部下の人たちもこちらの実力が判ったらしく始終警戒されて交渉の席には出れなくなってしまった。実質、事務処理関係を一手に引き受けている赤羽根さんと音無さんが無難に救助物資や健康診断などの手配を済ませているので出番は無いわけだが。

 

 さて、暇になるならバビロンとアリスの変身の慣らしをしたいのであるが、それをやる場所が近場にない。いまいちスキルを把握し切れていないアリスに、赤いスリングショット水着で万能全体魔法をばら撒く大淫婦バビロンである。

 ベルセルクの姿はまだコスチュームのようでもあるので我慢はできるが、動くと色々見えてしまうこの水着の姿はあまり人前では勘弁してもらいたい。

 こうなると思いつくのは、最近できたばかりの大阪城近くのあの場所に行くことにしよう。

 さっそく、暇そうにお菓子をぱくついていたジャネットを連れ車で向かうことにした。

 

 

 

 

 そこは表向きには、大阪城近くの公園内にある廃墟でもともとは戦前の化学工廠だったが、唯一残ったこの建物が異界化しガイア連合の転生者たちがアクセスの良いこの場所を気に入り制圧後に訓練用の異界とした通称『大阪裏ホール』である。

 

 基本的に出てくる悪魔は、妖鬼のオニやモムノフ、妖獣カクエン、邪鬼イッポンダタラ、妖鳥コカクチョウ、幽鬼ガキ、妖虫オキクムシなどのレベル10前後の連中が出て来て、中は広大なダンジョンと化しておりどこまでも続く廊下を進み最奥の広間まで行きそこに出るボス悪魔を倒すと、強い武具やマッカが得られる仕組みになっている。

 

 近くの駐車場に止め偽装された入り口に近づくと、入場係の金髪碧眼美少女シキガミ体の【妖鬼キンキ】がいる。もうすっかり自分たちとは顔見知りのため、挨拶をする。

 

 

「よう、こんにちは。また利用させてもらうよ。

 これ、入場料の2人分の20マッカ」

 

「げ、マスオニキじゃない。

 レベルが違いすぎるんやから、鳥取砂丘や四国のうどんランドに行きなさいな」

 

「仮にもお客なんだから、それはないだろう。

 自分もジャネットもスキルカードや手に入れたもので新しくしたから、慣らしに来たんだよ」

 

「やり過ぎないでな?

 ここはガイア連合でも有数の管理異界にするんだってオンギョウキ様も張り切っているんやから。

 あと、マスオニキも気をつけや。

 ガイア連合内の黒板持ちでも何人か消えたらしいんよ」

 

「異界で死んだじゃなく消えたって、どういう?」

 

「帝都の方で、小学生の足立透って子とオリンピックが期待されていた鴨志田卓って大学生に、赤根沢偉出夫って中学生の子が行方不明になった事件があったんよ。

 この人らはガイア連合の方で何故かマークしていた人物で、色々とこの人らに便宜を図っていた未覚醒で金のある黒板持ちが同時に消えたって情報がね。

 これ、幹部クラスの人だけに知らせるように緘口令が出ているから、リストは帰る時に渡すかんで宜しゅう」

 

「いろいろと情報をありがとう。

 それじゃ、中にはいるよ」

 

「ええ、気いつけて」

 

 

 かなり気になる情報を渡してくれたキンキと別れ、異界の中に入る。

 中は薄暗いホールになっていて、ここから各々が扉を開けて進むと途中で誰にも会わずに行けるようになっている。

 休憩していたと思しき連合員がちらほらと見えるが、気にせず奥に行こうとすると女性が数人ほど近づいて話しかけてきた。

 

 

「そこの強そうなお兄さん、これから行くなら一緒に行ってもいいかしら?

 わたし達、ここ初めて来たのよ」

 

「そうそう。一緒に行ってくれるなら、色々と後でサービスしてもいいわよ?」

 

「そうよ。こんなに大勢の女の子に囲まれるなんて嬉しいでしょ?」

 

 

 首元を開けて胸元を強調したり腕を組んで胸の大きさを強調したりとやたら甘い声で同行していくれと言ってくるが、こんな露骨な美人局で成功すると思っているのだろうか?

 呆れた顔で見ていると、ジャネットが持っていた鉄棒でドゴンッと辺りに響く大きさで床を打ち不機嫌そうに前に出る。

 

 

「ひっ!」

 

「ハッ。

 うちのマスターにそんなちゃちな色気で釣るやり方が通用する訳がないです。

 せめて、プロのキャバ嬢に教えを請いてから来て下さい」

 

 

 ジャネットが彼女らの誘い方を鼻で笑い、シッシッと手を振って向こうに行けと言っている。

 確かに転生者か現地民かは知らないが、レベルも大きく違うし着いて来られると色々と迷惑である。

 しばらくこちらを見ていた彼女らだが、こちらに目がないと分かると舌打ちをして去っていった。

 

 

「ちっ。あ~あ、強そうだけど女のシキガミ連れた陰キャだし上手くいくと思ったのに」

 

「次探そ、次。陰キャの非モテ君なら大勢いるんだしさ。カモなら他にもいるっしょ?」

 

「ほんと、ガイア連合の男って、みんな『理想の嫁』ってシキガミに走るんだよねぇ。最低」

 

「あれ、あのシキガミって、もしかして?」

 

「じゃーねー、陰キャくん。そこのお人形のおっぱいでもしゃぶってなよ。アハハ」

 

 

 どうせ変身するからと、黒の上下のスウェットにスニーカーで来たが陰キャに見えるのだろうか?これでも背は175はある上に、最近は腹筋だって6つになっているんだがなぁ。 

 これからという所で気分が削がれてしまった。

 ジャネットも不愉快だったようで早く行こうと腕を引いてくる。

 これは中の悪魔には悪いが、気分転換に付き合ってもらおう。

 扉を開け進むと自動的に扉が閉まり、大きなホール会場の廊下が続いている。

 自分たちで最後までクリアするか救助役のオンギョウキに助けを求める仕様になっているので安心して試すことにしよう。

 ケースからデビルズアブゾーバーを取り出し、カードを入れ変身する。

 

『ABSORB DEVIL』『Warning,Warning.EMERGENCY FUSION』

 

 王冠をし片手に宝石を散りばめた黄金の盃を持ち、赤いサンダルと透き通った白いケープを羽織り赤いスリングショット水着の大淫婦バビロンである。

 彼女は両手を腰にやり、得意げに胸を揺らして高らかに言った。

 

 

「うむ! ようやく華麗なる余の爆誕である!

 見よ! この美しくも淫らな装いと完璧なボディの結晶を!

 マスターといるイシュタルにもパールバティーにも出せぬこの色気よ。

 おお、そういえば一体となったのでマスターには見えぬな。あっはっは」

 

(主導権が彼女主体となるのか。ふむ?)

 

「あうぅ。いきなり頬を引っ張るのは何故だ? マスター」

 

(ベルセルクと同じで自分でも動かせるようだな。ちゃんと言うことを聞くんだぞ、バビロン)

 

「もちろんだとも。余の姿になるのが恥ずかしいとか言うからこうしたのだぞ。

 完全に身体を乗っ取るなどして何が楽しいのだ?

 マスターがいるこの状態だからこそ、見物も出来て余は楽しいのだ」

 

「マスター!? 大丈夫ですか?」

 

「おお、お主がジャネットか。

 こうして話すのは初めてだな。こほん。

 余こそが、マスターの最強の写し身にしてマスターだけの魔神、大淫婦バビロンである!

 ちなみに、マスターにだけ大淫婦の予定である!」

 

「マスターの意志はどうしたんです?」

 

「怖い顔をするでない。

 マスターがこの姿でいるのは流石に恥ずかしいと言うので、同一になる時は余が主導権を握るだけの事よ。

 ちゃんと今も見聞きしておるぞ、主にジャネットの胸とか……!?

 すまぬ、謝るからマスター、腹をつまむのは止めてくれ!」

 

「確かに、演技じゃないようですね。それじゃ、初めましてバビロン。

 私は、シキガミにして造魔でもあるジャンヌ・ダルクにしてマスターに名付けて頂いたジャネットです。

 ちなみに、もう未通じゃありませんし、終末が来たらマスターの子を産む予定です」

 

(自分はそんな事は聞いていないのだけど)

 

「ほう、それは羨ましい。本体も出産はそうそう経験はないようだしな。

 まあ、マスターの同胞のシキガミ嫁は今は1000体を越えるそうだが、そのうち約3%が余と同じ姿でこの間知り合いのリリスに自慢して楽しかったと本体から聞いたぞ。

 そっちの方の余が経験するであろうよ」

 

 

 こうして彼女らの話を聞いていて気分は良くなったが、目的の試し撃ちを忘れてはいけない。

 的には、出来るだけ判りやすく大勢で来て欲しいものである。

 こうしてそろそろ奥に行くように指示を出すと、バビロンとジャネットは楽しくおしゃべりしながら奥に向かい出した。

 

 途中の有り様はまさに蹂躙であった。

 バビロンの杯は威力過多なので無しにしたが、魅了を付与する女帝のリピドーも付与することもなく万能魔法の威力で吹き飛びマハジオダインも多数を黒焦げにする。

 おまけに、物理反射もあるので物理耐性持ちの鬼たちやイッポンダタラは、気の毒なことにジャネットと一緒に体の良いサンドバックとしていた。

 まあ、いつも来ては同じような事をしていたので、ジャネットの顔を見て「ああ、またか」という顔をして消えていく奴がいるのは笑えばいいのだろうか?

 

 そうこうするうちに廊下の最奥まで来たようだ。

 廊下の奥の壁には両開きの扉があり、中から強い悪魔の気配が漂ってくる。

 ここで前と同じように入り口まで戻りもう一周して来ようと思ったが、一匹のオニが悲壮な表情で目の前に立て札を立てると逃げていった。

 そこには、こう書かれていた。

 

『いつもお世話になっております。

 当ホール主催のオンギョウキと申します。

 この度は当ホールをご利用いただき誠にありがとうございます。

 本日は誠に残念ながら、このまま奥に進まれるように伏してお願い致します。

 マスオニキ様のご利用のお役に立てるように全力で当たり、

 本日のご利用に関する課題を取り組ませていただきたいと思います。

 立て札にて恐縮ですが、

 どうぞ、今後ともよろしくお願い申し上げます』

 

 どうやら今日は許容量を越えて殺り過ぎてしまったようだ。

 もともとここには戦い方の研究のために来ていたから、出てきたマッカやフォルマは全部出口で渡していたので出禁にされてはいなかったが、今日のことは後日に何かお返ししなければならないだろう。

 

 

「ううむ、詰まらぬな。まだ、余は暴れ足りぬぞ。

 盃でさえまだ使っておらぬのだが?」

 

「オニたちは物理耐性持ちですから殴りがいがありましたけど?」

 

「うむ、あれは楽しかったな。

 殴り方一つでも工夫して変えるとあんなにも吹き飛ぶのは面白かった!

 『車田落ち』とやらも見れてまたやりたいな」

 

「あれは良かったですねぇ。

 多数に囲まれてどう捌くかのいい練習になります。

 マスターは何か言っていますか?」

 

(今日は終わり。MP回復してボス部屋へ)

 

「マスターも本日は終わりにせよとの事だ。

 チャクラポッドはくれぬか?」

 

「今日のは、『缶入りメロンソーダ味チャクラドリンク』ですね。どうぞ」

 

「うむ。甘くて美味しいな。さて、回復も出来たし奥へ進もうか」

 

 

 チャクラドリンクを飲んで回復した2人は扉を開け、奥へと進んだ。

 奥へ進むと、大きいホールに出て目の前には小さなリングが置いてある。

 ネットもロープもないがボクシングのものに近い。

 リングの周囲には衝立のような壁があり他とは隔絶しているが、遥か高くの天上には空いた部分があり衝立で何個にも区分けしているのだろう。

 だが、いつもなら対戦相手がいるはずだが見えない。

 

 他所からは戦いの音や爆発音、殺される悪魔や人間の断末魔が響いている。

 ここで修練している人たちの声だろう。

 まあ、死んだら回収されて、蘇生の後にリカーム代を請求されるだけだが。

 リングに登り周りを見ていると、不意に強い気配が上から降ってきた。

 

 

「ふおぉぉぉぉぉ!」

 

「「きゃあああああ」」

 

「おおおお、…………ふう」

 

 

 自分の口から出たとは思えない女性らしい悲鳴がジャネットと共に辺りに響く。

 それは、バビロンも驚くだろう。

 上からプロレスのマスクを被ったムキムキの変態が奇声を上げながら飛び降りてきた挙げ句、更に奇声を上げながら服を破いた所でこちらを凝視して動きを止めているのだから。

 そして、そいつは向こうを向き前かがみになって何やらゴソゴソとしている。

 ピンときたらしいバビロンは、ニヤリと笑って声をかける。

 

 

「お主、余の身体に見惚れて欲情したのか。ククッ。

 仮にも、挑戦者にその態度は失礼ではないか?

 あと早すぎるのはいささか問題があると思うが」

 

「ぐふっ」

 

「ああ、そういう事ですか。確かに、早すぎるのは男性としてどうかと思います」

 

「ぐほっ」

 

 

 自分を見て欲情されるのは気持ち悪いが、それはそれとしてその発言は同じ男として止めてあげて欲しい。

 そいつは、ふらふらとこちらに振り向くとまだやや前かがみになって話し始めた。

 

 

「よ、よく来たな、挑戦者たちよ。

 我が名は、【怪異シットマスク】! アベックを打ち砕くもの!

 アベックの挑戦者の前には必ず現れるのだが??」

 

「うむうむ。余が挑戦者なのは間違いないぞ。

 それに余は男女両方イケるし、マスターとジャネットもいるのでアベックでも間違いではないぞ」

 

「えーと、【怪異シットマスク】。物理、火炎、電撃耐性で、呪殺無効、氷結弱点ですか。

 まあ、初めての相手ですが、いつものように殺りますか」

 

「エロい痴女と女性シキガミのアベックとでも言うのか!?

 ならば良し!それならば戦うまで、【暴れまくり】!」

 

 

 敵全体にランダムに複数回攻撃するスキルであるが、ここは現実で相手は一人である。

 ジャネットの前に立ち、全部の攻撃を受け止めるように位置を変える。

 ボスを務めるだけはあり、かなりの威力を込めていたのだろう。

 それを全部反射して返し、大ダメージを受けている。

 

 

「どうした? 余の胸に触れることも出来ぬぞ。

 残念だが、余は物理反射である。

 他の攻撃は無いのか?」

 

「な、ならば、怒りの一撃、【シットフレイム】!」

 

 

 今度はマスクでよく分からないが、焦った表情で炎をまとった拳で殴りかかってくる。 

 その剛腕の一撃を今度は腕でガードして受ける。

 火炎耐性はあるが、それなりのダメージを受けた。

 しかし、ジャネットの回復ハイブースタの乗った【メディラマ】ですぐに治してしまう。

 自分は黙ってみているだけだが、今連載中の漫画のキャラが悪魔化して召喚されてこれからひどい目に合うのはすこし可哀想でもある。

 考えを読んだのだろうか、バビロンが突き出されたシットマスクの右手を左手で優しく掴む。

 混乱している相手に、胸を強調し優しげに話しかける。

 

 

「余の姿を見て充分満足したであろう、童貞の悪魔よ。

 後は冥府にて自慰でもするがよい。【コンセントレイト】」

 

「あっ、それなら私の新スキルからいきますよ。

 【天罰】改め、【ラスタキャンディ】」

 

「あ、スミマセン。次の挑戦者が来るので失礼します」

 

「もう遅い。ではな、さらばだ。【バビロンの杯】」

 

「アイ、シャル、リターーン!」

 

 

 傾けた右手の盃から零れ出た万色の虹のような光が、リングごとシットマスクを爆発的な勢いで包み消し飛ばした。

 後に残っていたのは、床ごと削れたクレーターのみである。

 むふんと自慢気に腕を広げて、高らかに言うバビロン。

 

 

「余のデビュー戦としては、いささか華のない相手ではあったが気持ちよく放てて満足である!

 余は何時でもよいので、次の出番も早めに頼むぞ。マスター」

 

 

 そう言って彼女自身がカードを抜き取り、変身を解除した。

 一息ついていると、いつの間にかロッカーが無数に立ち並ぶロッカールームらしき広間にいた。

 ロッカーの反対側にはズラッと自動販売機が並んでいて、ここで休憩も出来るようになっている。 

 壁を見ると、『攻略お疲れ様でした。またのお越しをお待ちしています。出口→』という看板が掛かっている。日に日に、アトラクション化が進んでいる。

 周りには自分と同じようにくぐり抜けた挑戦者たちが何人もいて、手に入れた武器や傷を癒やしている。自分も自動販売機でお茶を買い、ジャネットと休憩をして聞きたいことがあったのでベンチで話し始める。

 

 

「なあ、ジャネット。

 いつの間にスキルの入れ替えを?」

 

「マスターももう色々と強力な攻撃魔法を放てるようですし、いまいち威力の小さい攻撃魔法より強力な支援魔法の方がいいと思って変えました。

 あ、入手先は本霊を煽ってカジャ系でなく【ラスタキャンディ】を手に入れました。

 元ネタ的に、旗の宝具ってこれにそっくりですし」

 

「あんまりそういう事はしちゃ駄目だよ。

 あの人はいろいろと不幸な最期を遂げたんだし」

 

「いいんですよ。あんな恋人なし=年齢の恋愛クソザコの本霊なんか。

 私の話に興味津々のむっつりですし」

 

 

 そんな聖女のあることないこと本霊の事を語って休憩を終え、そろそろ夕方になるので神戸に帰ることにした。

 

 

 

 

 

 車を停めた駐車場の向こうの方で、入る前に絡んできた女性達とある女性が話し込んでいた。

 あの女性は自分と同じ転生者で覚醒はしたもののトラブルを起こしまくり、ショタオジ直々に山梨への出禁になったその筋では有名な女性である。

 確か、『新党・女性維新』を立ち上げて関西の何処かから国政に立候補する予定の【幸原みずき】だったはずだ。

 彼女らにバレない内に出発しようとしたが見つかってしまったようだ。

 彼女たちの中の1人がこちらを指差し、急ぎ足で近づいてくる。

 

 どうしようかと思った瞬間、足元が大きく揺るぎ周りを飲み込むように立っていられない程の大地の震えが起きた。

 そして、駐車場の横にあった古い雑居ビルが自分たちに向けて倒れてきた。

 逃げられない体勢の自分には、やけに向こうのビルの電光掲示板がはっきり見えていた。

 

 そこにはこう写っていた。『1996・01・17 17:46』と。




あとがきと設定解説


・【大阪裏ホール】

関西方面の訓練場として整備された異界。
だいたい10~20レベルの敵が用意されている。
ここの管理悪魔のキンキやオンギョウキは、星晶神社の守護をしているオンギョウキから株分けされた個体。

・【妖鬼キンキ】

シキガミ体を貰って張り切っているここの管理悪魔の一人。
他にも、スイキやフウキもいる。
キャラ付けの個性を出すため、変な方言で話している。

・『缶入りメロンソーダ味チャクラドリンク』

技術部が作ったチャクラポッドやチャクラドロップの廉価製品。
主に缶入りドリンクの形で販売され、偶に『スポーツドリンク風俺の汗・レモンヨーグルト味』や『国産牛カルビキムチ味』や『おでんスカッシュ味』などのゲテモノ味がガチャによく排出されて怨嗟の声が聞かれている。

・【怪異シットマスク】

出版社にガイア連合系企業のテコ入れがあり、いち早く一躍有名になった挙げ句に悪魔化した。
レベルは、10~30。耐性は、物理耐性、火炎耐性、氷結弱点、電撃耐性、呪殺無効。
スキルは、暴れまくり、モータルジハード、食いしばり、シットフレイム(力依存の火炎攻撃)、しっとの心は父心!押せば命の泉沸く!(パッシブ。アベック(百合あり)相手だと、ダメージと被ダメージが30%増減。男だけだとステータス30%減)。


日付は間違いではありません。

次回から、最終回へ加速開始です。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第四十三話 終わりの始まり その2

続きです。

今回は、まだまだ序盤。


 

 

  第四十三話 終わりの始まり その2

 

 

 【幸原みずき】、彼女は人一倍人権意識が強かった。

 前も今の世も裕福な家庭で育ち、弱者は守らないといけないという義務感があった。

 20代も半ばを過ぎ偶然知った転生者掲示板も詐欺か何かだと思い、抗議してやろうと山梨まで乗り込んで世界の裏側を少しだけ垣間見た。

 結界に足を踏み入れただけの覚醒後に、そのまま家に戻った彼女は自分はどうするべきかを考えた。

 ちょうどガイア連合とガイアグループが出来上がったのを見た彼女に、スキルと共に天啓が降りた。

 

 『自分が転生し覚醒したのは弱者である日本の女性を救う為だ』、と。

 

 そして、目覚めたスキル【惹きつける話術】と【洗脳】はそれを後押しした。

 自分に同調する女性たちを集め、計画を練り、素晴らしい世界を実現するための一歩を踏み出すため彼女は富士山へと向かった。

 彼女はガイア連合の中枢である山梨セクターに乗り込み、連合内の女性達に向けて持ち込んだスピーカーとスキルを全開にしてこう呼びかけた。

 

『終末が来るなどという嘘に惑わされるな。

 覚醒の恩恵は、非力な女性に邪悪な男性と対等に戦える力を与えてくれるものだ。

 全ての日本女性が覚醒すれば、もう女性は男性に怯えることも、男性に媚びを売る必要もなくなり、男性という搾取者から解放された真の意味での自由を得られるのだ』

 

『だから、ガイア連合の全ては女性の財産として開放しろ。

 男が利用するなら我々の許可を得て、得たものは全て女性に分配するべきだ。

 悪魔でも女性の姿をした者を使役するのは性的搾取になるので禁止し罰則を設けろ。

 もし受け入れられないなら、そいつは女性を差別する性犯罪者だ』

 

 それからまもなく彼女は洗脳なしでも同調したシンパと諸共、怒りを露わにしたショタオジを始めとする幹部メンバーを含むガイア連合員に鎮圧され、強力な呪力込みの契約を結ばされガイア連合の関係各所に一切の立ち入りが出来なくされ追放された。

 追放されても、彼女は諦めなかった。

 情報を集め、あくまでも民間の組織の体裁を取っているなら政権を奪取して従えさせればいいと考えた。前の世の両親はそれで与党を倒して議員になっていたのだから。

 

 その足掛かりに利用するのにちょうどいい人物が地元に現れたと施設に紛れ込ませたシンパから連絡を受け向かうと、前に軽く情報を集めたことのある神戸の支部長をしている若いが強さだけが取り柄の女性を侍らして悦に浸っている男がいた。

 契約によりメンバーへの直接の接触は禁止されているが彼らが憎いため無視した彼女は、その男をこき使おうとスキルを込めて話しかける所で手下と一緒にビルの下敷きになった。

 

 

 

 危ないところだった。

 

 こちらは装甲車両と化していたガイア連合製の事務所のバンが盾になったのと、何故か吸い寄せられるようにビルが彼女たちの頭上に落ちていったので大した怪我はしなかった。 

 代わりにこちらに来ようとしていた女性達は瓦礫に埋もれ手の施しようが無くなっている。

 周囲のあちこちの建物も倒壊したり火が出ており尋常ではない事態だ。

 この間ガイア電気から買った、出たばかりの3Gスマホでも回線が繋がらない。

 

 もし、地震がおきたと言うのならそれはおかしい事である。

 なぜなら、今の日本の霊脈と地脈は富士山の星晶神社にて完全に制御され地震が起こるはずがないし、関西のあの地震なら去年起きているはずである。

 

 前の世の1995年1月17日5時46分52秒におきた阪神・淡路大震災。

 あの日本でも5本の指に入る規模の被害をもたらしたのと同規模の地震がおきたというのなら、今の神戸はどうなっているのか想像するだけで恐怖で震えてきた。

 それを見た今まで瓦礫に潰されかけている車の側で抱き合っていたジャネットが、両手でこちらの頬を掴むと正面から話しかけてきた。

 

 

「マスター、しっかりして下さい!

 こういう時は速やかに避難するべきです。安全な場所に移動しないと」

 

「…………!

 もう日が落ちて街灯も地震で壊れてなく真っ暗だ。

 荷物は今持っているものだけで、車はもう使えない。

 神戸に戻ろうにも道はどこが安全に通れるか分からない、と。ジャネット」

 

「マスター? 大丈夫ですか?」

 

「緊急事態だ。すぐに神戸に戻る」

 

 

 ジャネットに話しかけられ、我に返る。

 自分には待っている家族がいるんだ。呆けている訳にはいかない。

 どうやって戻るのかを聞くジャネットにこうだと、アブソーバーを取り出し姿を変える。

 

『Warning,Warning. NON-REGULAR FUSION』

 

 人目を気にする余裕はない。

 イシュタルに姿を変えると、そのままジャネットを抱き上げ空中へと舞い上がった。

 ビルより上の高さまで舞い上がると、全力で西へと飛び去った。

 しがみ付いているフル装備のジャネットがかなり重かったのは黙っておこう。

 

 

 

 さすがイシュタルである、本気で飛ぶと大型バイクと変わらないスピードですっ飛んで来れた。

 上空から神戸の様子が見えてくる。

 いつか見たニュース映像の倒壊したビルや燃え盛る地域、あの映像でも象徴的だった横倒しになった高速道路とよく似た風景が夜間ながら広がっている。

 スピードを上げて、先に自宅へと向かう。

 

 自宅と神戸セクターは中心街から少し離れた住宅街にあり、あの辺は木造住宅が多かったはずだ。ガイア連合の方でもあの大震災のことは覚えている人は多くいたからこそ神戸セクターは最新工法と表に出せない技術で設計されていたし、自宅も結婚した時のリホームする時に当時の貯蓄の殆どを使って建て直していたのだから大丈夫のはずである。

 見えてきた周辺地区は時間帯が時間帯だったので、家屋が倒壊したり燃えていても逃げ出した人たちが大勢いた。

 気づかれない内に直接中庭に降りると、畑にいたスティーブが大丈夫だと合図している。 

 変身を解除し、母屋の方にジャネットと共に行くとこちらに気づいた文香が走って来た。

 

 

「……カズマさま! 大阪に出かけて連絡がないと知らされていたのにどうやって!?」

 

「こっちは夜間だし、空を飛んできた。皆は?」

 

「揺れが来てから皆さん、漬物倉庫の地下のシェルターに。ご無事ですよ」

 

「よかった。と、ジャネットは電話が通じるなら神戸セクターの方に連絡をしておいてくれ」

 

「わかりました!」

 

 

 ジャネットが離れの方に行くを見て、自分は文香と母屋に向かう。

 少しガタついている引き戸を開けて入ると、地下の階段から顔を出していた白乃と視線が合う。みるみる泣き出してこちらに抱きついてくる白乃。

 

 

「ああっ、カズマさん、カズマさん!

 突然大きな揺れが来て、みんなで地下に逃げ込んで、カズマさんがいなくて、でも電話も通じなくて、ゆれが治まったから顔を出したらカズマさんがいて、それで、…………んっ」

 

 

 いつものあの様子になっているようなのでキスをして黙らせる。

 落ち着くまで続けるが、周りを見ていると桜を抱いた雫と凜を抱いた葵が地下から上がって来てこちらをジト目で睨んでいる。

 落ち着ついたのか身を離した白乃は「白乃?」と葵に冷たい声をかけられ、後ろから見られていたことに気づき冷や汗を流して直立している。

 葵や雫に娘たちも無事なのを確認し安堵するが、何人か足りないのに気づく。

 葵と雫が不安そうに話し出す。

 

 

「突然の揺れでしたので家にいたわたし達だけで逃げ込むのが限度でした。

 花蓮さんと彼氏さんは状況を確認するとあなたが戻られる前に社屋の方へ行かれて、たまたま外出していたお父様とお母さまに連絡がつかないんです。

 あなた、どうしましょう?」

 

「お父さんとお母さん、二人でいつもいるからすぐに分かると思うんだけど。

 あたし達は家から離れられないし」

 

「忍さんと恭也さんはどこに行くって言っていたか憶えている?

 あの二人は神戸セクターの所員だからそっちにいると思うけど」

 

「マスター!」

 

 

 神戸セクターに連絡していたジャネットが駆け込んでくる。

 何か事故でもあったんだろうか?

 

 

「連絡が付きました! 皆さん、無事です!

 あと、忍さんからメッセージがあったんですが……」

 

「え、お母さんに何かあったの!?」

 

「いえ、

 『この地震の被害で各地の結界の補修と点検をするメンバーに恭也さんと一緒に行く事になったからよろしく。

  しばらく帰らないから、次の孫もお願いね。

  あと、雫ももうお腹が目立つ前に卒業できるからよろしくね』、と」

 

「よろしくね、じゃないよ。おか~さ~ん」

 

「お母さまらしいわ」

 

「大奥様らしいですね。大旦那様は黙って頷いているんでしょうね」

 

 

 メッセージに頷いている葵と白乃に、座り込んで嘆いている雫。

 これだけ騒いでいるのにすやすやと眠っている凛と桜は大物になるなぁ。

 とりあえず、自分も一度神戸セクターに行かないといけない。

 

 

「ジャネット、自分たちも神戸セクターに行くぞ。

 葵、緊急時だからうちの家族以外の人は中に入れないで。

 雫、白乃、葵の手助けを頼む。

 文香、ここの守りを頼む。

 みんな、俺の帰る家を故郷を頼む」

 

「了解です、マスター」

 

「はい、あなた」

 

「まかせて、お兄ちゃん」

 

「はい、旦那様」

 

「……カズマさまも気をつけて」

 

 

 皆に声を掛けて疲労はあるが、神戸セクターに移動するため外に出る。

 自分たちが外に出た所で、文香に内側からきっちりと鍵をかけてもらう。

 こうするのも理由がある。

 周囲はこの災害で倒壊したり火事になっている家々があるのに、月城邸と神戸セクターの建物は綺麗なままだからかなり目立っている上に周囲を飛び交っているモノがいる。

 正門の結界の前で溜まり、寄り集まって悪霊ディブクになりかけていたモノを蹴り潰す。

 一般人には見えないが、都市のあちこちに雑霊の群れが浮遊している。

 これは千人単位で死者が出たあの地震と同規模の震災にならば、インフラが破壊されるのと同時に霊的なインフラにも被害が出ているという事だろう。

 一刻も早く情報が欲しい。

 門の周りに施餓鬼米を撒いて、駆け足で神戸セクターに向かった。

 

 

 

 神戸セクターでは多数の人員が戦場のように動き回っていた。

 その中で1階の受付の前でよく皆が集まるロビー広間に花蓮とクーフーリンがいるのを見つけた。

 奥の方に簡易寝台がいくつか並び、そこで六堂さんと怪我を負って運ばれてきた者の手当をしているようである。

 花蓮に近づいて声をかける。

 

 

「花蓮!」

 

「お兄様! よくご無事で、大阪に出かけて巻き込まれたはずでは?」

 

「色々あって早く帰れたよ。うちの方は寄ってきたので大丈夫だ。

 それで、状況は?」

 

「テレビの情報が正しければ、震源地も強さも規模も【前のとほぼ同じ】です。

 状況から考えるに、誰かが人為的に起こしたのは間違いないって山梨からも連絡がありましたわ。

 応援も時期に来るそうですが、交通が遮断されているのでトラポートで数人ずつだそうで」

 

「旦那も見ただろ、都市内に漂うあの雑霊ども。

 今の神戸は、ガイア連合の建築物とメシア教会で霊脈が安定して結界になってるんだ。

 ああいうのは出ないようになってるはずなんだよ。

 おかしくないか、ほぼ同時期にこんな事が起こせるなんて」

 

「どこかが組織的に動いたっていうのか?

 一番怪しいのはメシア教会だが、今のガイア連合を取り込みたがっている穏健派がそんな事するか?」

 

「それもそうですわね。

 しかも、神戸のトップはお兄様がお付きも纏めて口説いてるあのシスターギャビーですし」

 

「口説いてなんていないぞ。

 周りから忌避されているから仕事が回らないんで、たびたび手助けしただけだぞ。

 普通の女性の仕事相手として、距離感を持って接していたけど?」

 

 

 呆れ顔の2人と話していると、こちらを見つけた赤羽根さんが駆け寄って来た。

 ジャネットもいる事を確認して安堵している。

 状況がつかめない。

 

 

「よかった。月城さんが戻って来てくれて。

 今、ここの守りを頼めるような強さの人は花蓮さん達だけだったので動かせなくて」

 

「何がありました?」

 

「洋上の船のギガンテックを見張っていたメンバーから知らせが!

 黒のゴムボートに乗った特殊部隊のような数人が神戸の街へ行ったと。

 そこに居た自衛隊も追いかけようとしましたけど、港の道路が液状化して車が早く動かせないそうで」

 

「応援に行って自分に止めろと? 夜だしどこにいるのか分かりませんよ」

 

「いえ、そうでなく……」

 

「赤羽根さん、支部長は? ……ああ、良かった。いてくれた!」

 

 

 今度は音無さんが駆け寄ってきた。

 何だというのだろう?

 

 

「警察から自衛隊とこちらにも連絡が来てて、神戸メシア教会で銃の連射した射撃音が聞こえたとかで向かったパトカーが応援を呼んでいるんです。

 『化け物が出た』って!」

 

「それでその悪いのですが、月城さんに……」

 

 

 手をかざしてそれ以上言うのを止める。

 消費する物資の補充を終えていたジャネットを見て、メシア教会に向かうために皆に声を掛ける。

 

 

「どっちにしろ、あそこのメシア教会はここから歩いて30分くらいで行ける距離にあるので誰か見に行かないと駄目でしょう。

 それに、最近請け負った仕事でこういうのは慣れましたから、ここと周辺のことは頼みます」

 

「お兄様!気をつけて!」

 

「ああ、ここが落ち着いたら家の方も頼む」

 

 

 こうして、自分のかつてない程の長い夜は始まったのだった。




あとがきと設定解説


・【幸原みずき】

偏った思想を持っていた転生者。
リストより情報抹消済み。非公開。
震災後の調査の際に、瓦礫の下から潰れた状態で発見。
仲間とみられるメンバーにも生存者無し。

・阪神・淡路大震災

1995年(平成7年)1月17日5時46分52秒、兵庫県の淡路島北部(あるいは神戸市垂水区)沖の明石海峡を震源としておきた、マグニチュード7.3の兵庫県南部地震。
特に震源に近い神戸市の市街地(東灘区、灘区、中央区(三宮・元町・ポートアイランド)、兵庫区、長田区、須磨区)の被害は甚大で、犠牲者は6434人にも達した。

彼らがいるのは、大体中央区と灘区の間の辺りの架空の住宅街です。

次回は、神戸メシア教会での出来事。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第四十四話 メシア教会にて

続きです。

今回は、新しい彼女の誕生の話。


 

 

  第四十四話 メシア教会にて

 

 

 災害により電気が全て消え、明かりが個人が持つものか火事で燃えている家々の中を教会へと向かって走る。少なくとも、今あそこのメシア教会が機能不全になるのはまずい。

 もし、この人為的だと思われる地震が死者数千人出る規模のものならば、必ず手が足りなくなるはずだ。 

 

 曲がり角を曲がればもうすぐで教会に着くという時に、指を鳴らす音がした。

 立ち止まると周囲がおかしい。一緒に走っていたジャネットも時が止まったように走ったままの姿で停まっている。

 ペルソナ使いの吸血鬼でもいるのかと周囲を見ると、前を大きく開けた黒いシャツに真新しいジーンズを履き左手にビニール傘を持った黒髪の男性が片手を上げてこちらに歩いてくる。

 そして、彼はよく響くいい声で話しかけてきた。

 

 

「やあ、忙しいだろうが話をしよう。

 見ての通り、時間を止めているから心配しなくてもいい。

 楽しませてもらっているよ」

 

「どこかで見覚えがあるような?」

 

「君の考える一番知名度の高い私の姿になろうとしたら、こうなったんたがね。

 普段の偽名は使えないしなぁ。まあいいか」

 

「それで御用は何でしょう? 急いているんですが」

 

「ああ、確かこうだったな。『そんな装備で大丈夫か?』」

 

「えーと、『一番いいのを頼む』だったような?」

 

「じゃあ、これ。

 サタナキアに言ってグリゴリ総出で超特急で作らせたから、効果は抜群だ。

 使い方はその時になったら頭に浮かぶから、使うも使わないも君次第だ」

 

「ありがとうございます?」

 

「スパチャみたいなものだから。じゃあ、頑張りたまえ」

 

 

 彼からいつも使っているのとは少し違う白紙の悪魔カードを受け取ると、再び彼の指を鳴らす音がして自分は意識を失った。

 

 曲がり角を曲がればもうすぐで教会に着くという時に、なにか違う気がしてふと立ち止まる。周囲を見るが誰もおらず気のせいだと思い、訝しげにこちらを見ていたジャネットと走り出した。

 

 

 

 教会前に到着したが、そこには無線と受ける銃弾の音を鳴り響かせているパトカーと既に撃ち殺されている男性の警官が2人、聖堂の入口前にアサルトライフルを構えこちらを牽制するように時々こちらに撃っている金属のヘルメットにガスマスクをした迷彩服の男が2人いた。

 他に誰も居ないのを確認し、ドッペルゲンガーに姿を変えジャネットを後ろにして中に走り込む。

 無言でこちらに掃射する迷彩服の男たち。しかし、跳弾を受けたように反射した銃弾を受けバランスを崩す隙に走り寄ったジャネットが鉄の錫杖で打ち伏せた。

 崩れ落ちる彼らに話を聞くべく襟をつかんで起こしガスマスクを外すも、元は西洋人らしい緑色の肌をした顔で笑うと2人共連鎖的に【自爆】した。

 

 万能属性のダメージを与えるスキルでもこちらとの実力差により、たいしたダメージにはなっていないが周辺は瓦礫とかしている。

 スキルを使うまでもなく魔石で怪我を直し周囲を見ると、聖堂の壇上に複数の爆発で殺された茂部神父が、あちこちに応戦しようとして撃ち殺された他の関係者の死体が転がっている。

 そして、奥の方から爆発音が聞こえそちらの方に走り出す。

 確か、生活している居室がある方向である。

 

 

「汚れし覚醒をした大天使の出来損ないよ。消えて我らが主に懺悔するが良い!」

 

「狂信者が! くらいなさい、【マハジオダイン】!」

 

 

 轟音ともいうべき雷撃の音と爆発音、それに負けない大きさの発砲音が聞こえた。

 そこに駆け込むと凄惨な場所と化していた。

 

 一番奥にある居室のようなのでシスターギャビーの部屋だったのだろうそこは、入口のドアは粉々になり廊下には襲撃者と思しき黒ずんた死体が幾つも転がっている。

 部屋の奥には3人の半裸の女性たちが転がっており、3人共に背中から白い羽が生えだしており彼女たちは声もなく泣き叫んでいる。よく見ると、彼女たちはあのヤマワロの異界で助けた神戸セクターで仕事も引き受けていたマリーとメアリにモイラだった。

 そして入り口には、至近距離での自爆と大口径の銃で胸を撃たれ胸と口元が鮮血に染まったシスターギャビーが倒れていた。

 駆け寄って抱き上げ、とりあえず魔石を使うが効果がない。それを見たジャネットが状態異常を消す【静寂の祈り】を使うが、マリーたちもシスターギャビーにも効果がない。

 治療するさまを見ていたシスターギャビーが薄く微笑んで話す。

 

 

「ゴホッ、普通の手段ではもう無理です。

 私が受けた弾丸はあの【毒】の名を持つ堕天使の毒を使ったゴホッ、特別性ですし、彼女たちはもともと身体に処置されていた天使化が進んでいるんです。

 こんなゴホッ、メシア教のシスターであるわたし達を助けようとするなんて、あなたは本当に奇特な方ですね。

 だ、だからゴホッ、夢を見てしまうのですわ」

 

「寝覚めが悪いから、目の前で困っていたのを助けたけだよ。

 他の連中みたいに、あなた達は改宗とかハニトラとか空気も読まずにして来なかったし」

 

「くすっ、それはその方が上手くいくと思っていただけですよ。

 ミカエルの思惑が進むのは口惜しい限りですが、お願いがあります。

 カズマさん、あなたの手でわたし達にとどめを刺して下さい」

 

「何故!?」

 

「このままですと彼女たちは過激派の天使にその体を乗っ取られ、私の魂もミカエルの手に落ち新たなガブリエルに生まれ変わるよう処置されるでしょう。

 そうこの身体に処置が施されているのです。

 神がそう言っているのです。

 貴方の手にかかれば、私たちの魂はミカエルの手を離れ救われると」

 

 

 彼女はガブリエルでもあるから【神の啓示】を受けるある種のスキルがあったのは薄々分かってはいたが、ここまで具体的なメッセージを受け取れるまでとは判らなかった。

 その彼女がそこまで言うには他に手段が無いのだろう。

 そこまで考えた時に、脳裏に声がする。カードを出せ、と。

 何かに突き動かされるように、アブソーバーのケースから持った憶えのない他のとは背の模様が違う白紙のカードを取り出した。

 

『選ぶと良い。彼女たちにとどめを刺すか、このカードで彼女たちと契約するかだ。

 どちらでも選ぶのは君だ。好きにするといい。

 契約するのを選んだのなら、このカードを掲げ衝動に身を任せると良い」

 

 そのカードを見て困惑の表情の彼女を見ると、どこからか声がして自分の中に抗いがたい征服欲が湧き上がる。

 その衝動に身を任せるのは何かを失う気がして必死に耐えていると、どこかで再び声がする。

 

『時間は止めてあげるのだから、衝動のままに彼女らを愛してあげればより完璧に出来たんだが、まあいいか。

 君の血を先にあの3人から舐めさせて、最後にガブリエルにすれば完成だ。

 早くしないと、時間がないぞ』

 

 シスターギャビーをジャネットに任せ、言われるままに苦痛の中で驚いている彼女たち3人に深く切った指を口に突っ込み、最後にシスターギャビーにももう一度切って突っ込む。

 この非常時に何をしているのかと怒るジャネットに説明しようとした時にそれは起きた。

 

 

「「「ああああああああああああああああああ!!!」」」

 

 

 最初にシスター達3人が、続いてシスターギャビーが断末魔とも思える悲鳴を上げながら、体をねじり、口の端から唾液をこぼして苦痛と微かな喜悦に表情を歪ませている。

 そして4人の体が宙に浮き、光の塊となった3人はギャビーの身体に吸い込まれる。

 いつの間にか身につけていた告知天使のレオタードは白から黒へと変わり、背中に出た6枚羽の翼やピンクブロンドの髪も端から漆黒へと染まっていき最後に頭上に浮かんだハイロウが砕け散り、翼を広げ彼女はそこに降り立った。

 

 

「ここに契約はなりました。私は、私たちは【堕天使ガブリエラ】。

 大天使の霊器を捨て、あなたの隣に立つために堕天した堕天使です。

 神の秩序と信仰を捨てたこの私を、本霊は許さないでしょうしグリゴリの者たちはあざ笑うでしょう。

 でも、後悔はありません。幾久しく永久に侍りましょう、マイロード」

 

 

 カードを見るとそこには黒い6枚の翼の彼女の姿が描かれている。

 それを確認し、視線を上げると微笑みながら彼女は消えていった。

 埒外の事が起こり、ぽかんとしていたジャネットに声をかける。

 

 

「ここを離れるよ、ジャネット」

 

「何があったのですか? マスター」

 

「どうもシスターギャビーじゃなくて大天使ガブリエルが、堕天して自分と契約してくれたみたいだ。

 この間のアリスの時に、研究所に行った時に円場博士が新しいカードを入れてくれたのかな?」

 

「何がどうしてこんな事になっているのですか??」

 

「自分にもわからないよ。

 とにかく、時期にここは警察だらけになって拘束されると不味いから離れるよ」

 

「どこへ行きます、マスター?」

 

 

 もう一度ガブリエラを呼び出して事情を聞こうにも、今の状況では多くの一般人に姿を見られるのはかなりまずいだろう。

 表に警察らしき大人数が来たらしく騒がしくなっている。

 ここで勾留されては後で色々と面倒になるので、ここは山裾が近いので裏から森へと脱出させてもらうことにし移動をした。

 

 

 

 移動することしばらくもう教会は見えない場所まで移動し、少し開けた場所で一休みをする。

 近くの切り株に座り込んだジャネットがこちらを見て言う。

 

 

「それでどうするんです? マスター」

 

「まずは彼女に事情を聞いてみよう。

 契約してカード化したのなら、大丈夫だろう。

 何かあったら頼むぞ、ジャネット」

 

「判りました、マスター」

 

 

 彼女から少し離れ、デビルズアブゾーバーとガブリエラのカードを取り出しセットする。

 

『ABSORB DEVIL』『Warning,Warning.EMERGENCY FUSION』

 

 ガブリエラの姿に変わった。 

 以前に着ていたレオタードも白地に銀色の縁取りでなく黒地に金色の縁取りに変わり、髪も黒色になっただけだがワサワサとしている背中の6枚の翼が少し邪魔である。そして、足元が見えないのは同じだが、これはベルセルクやバビロンより大きいようだ。

 少し動き回り体の動きには問題ないようである。

 調子を確かめていると、ジャネットが話しかけてくる。

 

 

「それでどうするのですか、マスター?」

 

「仮にもメシア教穏健派の幹部の大天使を、堕天させて自分の仲魔にしたわけだろう?

 上司には報告しておかないと」

 

「はい?」

 

 

 バッグから自分の携帯を取り出しアンテナが立っているのを確認すると、意識を集中しガブリエラが自分の意志で話せるようにする。

 最近ベルセルクやバビロンに変わる際に、身体の主導権を切り替えるのをやっている内にコツを掴んだやり方である。

 携帯には山梨の人たちや母や関本さんなどの離れた地域にいる人たちからの安否を問うメールが、十数件入っている。

 一律で「自分は元気です」と一斉送信し、おもむろにショタオジの番号にかけた。

 コール数回の後に、彼が出てくる。

 

 

「はい、もしもし。今忙しいんだけど。

 この番号はマスオニキか。そっちは大丈夫かい?」

 

「もしもし、ショタオジですか?

 マスオニキです。 

 今、どんな状況になっているんですか?」

 

「……? 聞き慣れない声だな。

 誰だ、お前は。何故、彼の番号で電話してきた?」

 

「マスオニキ自身ですよ。

 ちょっとした事情があって報告しないといけなくなったんです。

 ほら、ガブリエラ、挨拶して」

 

『神主殿には、先日以来お久しぶりですね。

 シスターは廃業して、今は堕天してマイロードの情婦になっています』

 

「何を言ってるの!?」

 

「はあああ??」

 

 

 ショタオジの聞き慣れない疑問の声が響いた。耳がとても痛かった。

 

 

 

 

 

 

 どこともしれない場所で黒い服のジーパンを履いた男性が、左手でビニール傘をクルクルと回しながら愉快そうにどこかに携帯電話で話している。

 

 

「やあ、オレだよオレ。いや、マッカは君の領分だろう?

 いやあ、急拵えとは言え上手くいったよ。彼女の堕天。

 彼、君が見つけた人材にしては本当に面白いね。

 他の世界でもなかなか見ないよ、彼女の分霊がああなるなんて。

 成功した時は腹が痛いほど笑ったさ。

 そうそう、少し今回あいつはやり過ぎたからね。

 あのハゲに嫌がらせをするならといろいろあいつに都合したけど、この震災は興ざめだ。

 彼がこれを止められるのかを見物するよ。じゃ」

 

 

 機嫌良さそうに通話を切ると、ふと何かに気づいたようにこちらを見た。

 こちらを向くとニコリと笑いながら指を鳴らす。

 すると視界が曇り、場面は暗転していった。




あとがきと設定解説


・【外道アーミートルーパー】

今回の教会襲撃犯の正体。
レベルは、15。耐性は、銃耐性、破魔無効。
スキルは、精密射撃、掃射、自爆。

・【毒】の弾丸

毒の名を持つある堕天使が自分の毒を濃縮したらどうなるかを試してできた劇物。
信号弾用の拳銃で使用し、高確率で、猛毒、麻痺、魔封を付与する。
治療には、彼以上の力量の術者の治療が必要になる。


彼女たちの事情については次回。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第四十五話 メシア教と堕天使と妖精と

続きです。

今回から、ラストダンジョンへ。


暑さとうちに帰ってからアプデでPCが使えなくなるのが辛い。


 

 

  第四十五話 メシア教と堕天使と妖精と

 

 

「はあああ??」

 

 

 めったに聞かない困惑に満ちた彼の声がする。

 彼女の発言には自分もジャネットも困惑している。

 今は自分の身体でもあるが、彼女が楽しげに笑みを浮かべ話す。

 

 

『ほら、先日メシア教日本支部の代表団の一員としてお会いしたシスターギャビーです。

 この度、色々ありましてシスターも大天使も辞めて堕天したので、マイロードに養って頂こうかと。

 こうして、この人と一つになれる契約も結んで姿を同じにもしていますし、もう離れるつもりは無いのですから覚悟してくださいね、マイロード』

 

「ちょっと待ってください、マスターには私の他にも先約があるんですよ?」

 

「ジャネット。今は少しだけ待ってくれ」

 

「うん、君の女性の趣味にはもう何も言わないけど、君は人間で家で帰りを待つ人間の奥さんたちがいる事も忘れないでよ、マスオニキ。

 声が一緒で紛らわしいけど、ほら説明して」

 

 

 改めて一からショタオジに説明を始める。

 大阪の訓練場での出来事、地震の事、一度帰って自宅と神戸セクターの安全を確認した事、騒ぎを聞きつけてメシア教会に急行した事、教会の惨状と死にかけていた彼女らが堕天し自分の仲魔になっている事、今は近くに隠れて連絡している事とジャネットも交えて説明した。

 電話の向こうのショタオジが難しい顔をしているのが分かる声で話す。

 

 

「そちらの状況はだいたい分かったよ。

 状況を整理しようか。

 まず、君と一つになっている彼女に分かることを全部説明してもらおう」

 

「そうですね。ガブリエラ、頼む」

 

『ではもう黙っている義理もないので、簡単に。

 私は元々は四大天使降臨計画で用意された大天使ガブリエルの依代ですが、降臨直後の狙撃で分霊が変質しこの姿へと変わりミカエルに殺されかけたので日本に逃げました。

 力は大きく失いましたが、告知天使なので神とメールをやり取りできるスキルが残っていたので今までやって来れました。

 私も、私と一緒に逃げて来た改造されていたシスターたちも襲撃で死にかけていたので、このまま死ぬよりは良いと思って皆も同意し一緒の堕天使になって彼の仲魔になりました。

 こんな感じの三行でいいですか?』

 

「待って。待ってくれないかな。

 まず、【四大天使降臨計画】とか【降臨直後の狙撃で分霊が変質】とか何?」

 

『そうですね。

 スティーブンという技術者の協力で天使を降ろすことに特化したプログラムが出来たので、数年前に厳選した依代を用意して四大天使を降臨させたのが、四大天使降臨計画。

 避けたミカエル以外の三大天使が美少女に変質したのは、狙撃に使われたライフル弾に何か仕掛けがあったのでしょうか?

 私たちが日本に逃げるのをミカエルと敵対していたマンセマットが協力してくれたので、狙撃も彼の手引だと思います』

 

「天使長が何故あなたを狙う必要が?」

 

『それは、天使長に素直に従わない者は大天使でも必要無いようで、公然と反論したらこのガブリエルは出来損ないだと罵られて教団員に作り直せと命じていたので逃げたのです。

 今回、こうやって殺しに来たのは新しいガブリエルが何かの理由で必要になったのでしょう』

 

 

 自分の口から語られる彼女の知るメシア教の闇のあれこれに、開いた口が塞がらない思いである。

 実際にジャネットはポカンとしている。

 ショタオジは話を続ける。

 

 

「あと、堕天して彼の仲魔になったとかどうやったの?」

 

「自分にはシステム的な事はさっぱり」

 

『大雑把な事でよいなら説明できますが?』

 

「じゃあ、お願い」

 

『はい、マイロード。

 まず、あの3人の彼女たちは孤児院で育った天使の依代兼聖母候補として身体改造されていたシスターたちです。

 襲撃された時、体内に埋め込まれていた【天使の羽根】が何かの影響で暴走し、天使に成りかかっていたのを部屋で治療できないか試していました。

 そして、私は襲撃者に特製の毒の弾丸で撃たれた上に、襲撃者の部下たちの自爆で死にかかっていました。

 マイロードが私たちに血を舐めさせた事で、お持ちになっていたカードの霊装とほぼ強制的に契約のパスが結ばれ、私が失った力を補うように彼女らと一つになり堕天しこの姿に成りました。

 彼女らの魂は今は私と共にいます』

 

「そうか、じゃあ彼女らもこれで良いのなら一緒に来てくれ」

 

『はい。幾久しく、マイロード』

 

 

 ジャネットはメシア教にかこちらの会話に対してか不機嫌な顔でいる。

 こちらが話している間、黙って聞いていたショタオジが周囲の人に何か指示を出してからもう一度話し出す。

 

 

「ああ、なるほどねぇ。堕天は別として、事態がだいたい見えてきたよ。

 10隻を超える大型の移民を乗せた船、一度に来たので各地で受け入れの検査や準備に手を取られていたけどそれが目的みたいだね。

 本命は、神戸にある船『ギガンテック』だったみたいだね。

 まったくどこであの地震の事を知ったのかは分からないが、地脈を押さえているのはこっちだよ。

 馬鹿にしないで欲しいなぁ。同じ規模で起こさせるわけがないじゃないか。

 マスオニキ。

 今、あの船にオカルト案件の臨検名目で現地のデモニカ隊を中心に踏み込んだみたいなんだ。

 神戸市内と教会の方はこっちで人を出すから、君もそれに同行できるかい?」

 

「わかった。問題はないからこれから行きますよ、ショタオジ。

 他には何かあります?」

 

「そうだね。

 流していたけど、その二重に話せる事とかも合わせてこの一件が全て終わったら、こっちでとことんまで調べるつもりだから。

 必ず山梨セクターへ出頭するように。いいね?」

 

 

 その色々と抑えた声に冷や汗が出て、思わず答えずに通話を切り電源を切ってバッグに携帯をしまう。

 かなり、時間が立っていたようだ。遠くから教会の方で、幾つものサイレンが聞こえる。

 ジャネットの方を向くと、またですかという顔をしている。

 早く行くためにはそうするしかないのだからしょうがない。

 

 

「ジャネット。翼があるから首の後ろに手を回して。

 そう、その辺。荷物はもうちょっとこっちで」

 

「マスター。こうですか?

 お互いに胸が大きいとこういう時は困りますね」

 

 

 大阪から来た時のように空を飛んで行こうとしたが、お互いに標準よりかなり大きい胸のために抱きついて飛び上がるのに少し手間取ってしまった。

 どこからかイシュタルの抗議の声が聞こえたような気がするが、今は急ぐことにしよう。

 ジャネットをしっかりと抱き上げると、翼を広げ上空へと舞い上がり港へ向かった。

 

 

 

 消防や警察、マスコミなどのヘリが飛び回っているので、それに注意をしつつ港の方向へと飛んでいく。

 大型タンカーのギガンテックが見えてくる。

 桟橋にある船の横にあるタラップの所で、戦闘が起きている。

 逃げ惑う難民、その難民から体の一部が天使に変わって暴れている者、人を襲う翼の生えたスライム、それを避難誘導をしつつ苦戦しているデモニカ隊と新人らしいガイア連合のメンバー達が見える。

 援護するべく、そこに着地する。

 ジャネットは降りるとそのまま背中からいつもの鉄杖を持ち、それを振るってスライムを片付け始める。

 自分は天使化し狂気のまま暴れている者にスキルを放つ。

 【まどろみの渦】。敵全体に睡眠と幻惑をかけるスキルである。

 動きの鈍くなった彼らを鎮圧していく彼ら。

 ここのガイア連合メンバーのリーダーらしい男性が話しかけてくる。

 

 

「えーと、助けてくれてありがとう。すっげぇエロい堕天使さん。

 どっかのメンバーのシキガミすか?」

 

「ああ、うん。そんなところです。

 ところで、あなたは何でそんな格好を?」

 

 

 彼は腰まですっぽりと覆うダンボール箱を上から被り、それ以外には黒い水着のブーメランパンツのみである。 

 さっきまでは、足技で戦っていたようだが、地元でこんな人は見た事がない。

 

 

「ああ、これっすか?

 格好はこんなでも『状態異常耐性』と『全門耐性』が付くすげぇ霊装なんす。

 防御も視界も大丈夫ですけど、他の服着ると効果が無くなるんすよね。

 性能目当てで安かったから買ったんすけど、今は愛用しているっす」

 

「そうなんだ。まあいいや。

 自分たちは船内に行くけど、ここを頼める?」

 

「任せて下さいッス。それじゃ」

 

 

 そう言うと彼はそのまま別の場所へと走って行った。

 スライムを粗方片付けたジャネットと合流し、艦橋の入り口へと向かう。

 そして、扉の前に着くと蹴り開けた。

 

 

 

 扉の中は、異界と化し船のそれではなかった。

 今いる場所はビルの屋上で、広いが森と化しており来た扉はそのビルの階下への入り口と同化している。

 周囲を見ると、自分たちの立つ場所を含め無数の白い高層ビルが乱立し、空はオレンジ色になり赤く燃える雲がたなびきビルの下には黒く光のない海が広がっている。

 それならばとジャネットと共に奥と思われる方向に飛ぼうとすると、声を掛けられた。

 

 

「ちょっとちょっと、迂闊に飛ばないほうがいいわよ。

 どこかに消えて戻って来られなくなるから」

 

「誰だ?」

 

「誰って、そこの金髪女に歌の練習していたら殴り倒されたローレライよ」

 

 

 よく見ると、それはいつぞやの異界で奇襲し倒した音痴のローレライのようだった。

 何故、ここにいるのだろうか? 復讐にでも来たのだろうか?

 そう思い身構えると、彼女はワタワタと手を振って慌て出した。

 

 

「ちょっと、止めてよ。戦う気なんて無いのよ。

 むしろこの異界を何とかしてくれないと帰れないの」

 

「ふうん、じゃあすぐにでも教えて下さいね?」

 

「ひいっ、ちょっとそこの堕天使の人! 

 教えるから、そこの鉄の棒をぶんぶん振り回すの止めさせて!」

 

 

 わざとやっていたジャネットの威嚇を止めさせて、続きを促す。

 ホッとしたのかローレライは話し出した。

 

 

「ここの異界を作った奴は、ここを【疑似フォルナクス】って呼んでいたわ。

 飛んでいったピクシーが消えたから、ここの空って空間がグチャグチャみたいなのよ。

 そして、私を勝手に召喚した上に一方的に言ったのよ。

 『貴様らは最奥の真理へと続く扉の番人である。

  貴様らに縁深き奥への道を臨む者が来たなら、番人としての役目を果たせ。

  もし、貴様らも奥への道を望むなら番人より鍵を奪うがよい』って」

 

「番人なのに戦わないんですね、ローレライ」

 

「だから、私は歌の練習に忙しいの。

 はいこれ、鍵ね。扉は森の奥にあるから」

 

「ああ、どうも」

 

 

 こちらに鍵を渡すと、もう興味はないという風に「あ、あ~」と声の調子を確かめている。

 どうするとこちらを見るジャネットに首を振り、急いで森の奥へと向かう。

 程なくして見つけた木製の扉に貰った柄がクローバーの金の鍵を差して開け、すぐに次の場所へと向かう。

 背後に、「ホゲ~~~~~~」という歌声を聞きながら。

 

 

 

 

 

 異界の最奥で両開きの扉の前でその男は扉の装飾の一部である石細工に腰掛け、わざわざ召喚した者たちと中に入り込んできた者の争いを楽しそうに見物している。

 そして新たに入ってきた目当ての人物が、よく知る女性の堕天使になった姿をしているのを見て舌打ちをして呟く。

 

 

「チッ。見物をするだけと言いながら相変わらず余計な真似をする、あのクソ上司。

 これは、私が始めた物なのだから手を出すな。

 あんたは別の場所で、黙って地母の晩餐を喰らうかライドウに真っ二つにされるか女装していてくれ」




あとがきと設定解説


・【堕天使ガブリエラ】

レベル20の劣化したスキルのガブリエルだった彼女と、過激派ネームド天使に成りかけていた彼女たちが一緒になり堕天した姿。
レベルは、60。耐性は、火炎耐性、氷結耐性、電撃耐性、衝撃弱点、呪殺耐性。
スキルは、魅惑の雷撃、メギドラ、まどろみの渦、エナジードレイン、リカームドラ、破魔無効。

・【ダンボールアーマー】

ガイア連合の変態技術者たちの考案した作品。
通常は、裸(パンツあり)で身につけると、「状態異常耐性」と「全門耐性」のスキルを発揮する。
極秘だが、もし美少女(18歳以下)が全裸(下着なし)で身につけると、「状態異常無効」と「真・全門耐性」に「耐万能」となる。
視界と保温性と防御力は問題なし。


次回は、ダンジョンアタックの続き。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。








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第四十六話 過去の縁から来た刺客

続きです。

今回は、ダンジョンアタックの続きの回。


 

 

  第四十六話 過去の縁から来た刺客

 

 

 最初の扉を抜けると、そこは変わらずビルの屋上のようであるが周囲が機械のような装飾が刻まれた白い壁に囲まれている。エリアとしては中途半端に広く、10メートル程先の一番奥に大仰な機械の装飾が施された扉とその前に人型の者が何かを喚いている。

 近づいていくと、こちらに気づき振り向いた。 

 そいつは全身が肌色の無毛の人型であるが、両目の部分から1メートル程の管が伸びてその先にある目でこちらを見つめ、口から股間まで体の前面が鋭い牙の生えた口になっている姿だった。

 

 

「おオ、おおオオお、貴様はいツぞやの我らの悲願を潰した痴女レスラーとお付きの乱暴女ドもではなイか。

 仲間と運ばれてイた車が爆発で吹き飛んだと思ったラ、このような場所にいタのも我らが神が復讐の機会をくれたのダろうなぁ。

 おぉ、我が神ヨ!」

 

「その物の言い方は、洗脳装置をロボットにしてきた間抜け達か。

 警察に引き渡したはずなのに爆発?」

 

「経緯はどウでもいい! 今コの時、貴様らを倒シその肉を我が神に捧げヨう!」

 

 

 そいつが片手を上げこちらに振り落とすと、周囲から赤い人の顔をした煙の塊が湧き出てこちらに向かって来る。

 アナライズをしたジャネットが叫ぶ。

 

 

「マスター! 周囲のやつは、【幽鬼モウリョウ】です。電撃、疾風、破魔が弱点。

 あのリーダーは、【邪鬼ビシャーチャ】。火炎弱点です!」

 

「なら、【魅惑の雷撃】!」

 

「マた、電撃かァぁ!」

 

 

 敵全体を強烈な電撃が襲い、湧き出ていたモウリョウ達が消し飛ぶ。

 ビシャーチャがこちらに喚きながら走り寄り、スキルを使う。

 

 

「死ネ、【バイツァ・ダスト】!」

 

「何、これは!?」

 

 

 スキルを受けると、喉元に爆弾のような黒い球体を吊り下げた金属製の首輪が現れる。

 どこかの女性の手が好きな殺人鬼の技と同じ名前がするということは、これが爆発する?

 哄笑を上げ、こちらの首元を指差すビシャーチャ。

 

 

「さあ、我が部下たチよ。あレを狙え!」

 

「マスター、【静寂の祈り】です!」

 

「エ?」

 

「そっちが死になさい、【メギドラ】」

 

 

 再び湧いたモウリョウがこちらに攻撃する前にジャネットが状態異常を解き、こちらが放つ万能全体魔法が薙ぎ払う。

 薙ぎ払った後には、黒焦げたビシャーチャだけがふらふらと立っていた。

 

 

「お、オのれ異教徒共め。まタしても、我が神ヘの贄を拒否スr…」

 

「うるさい、【メギドラ】!」

 

「ああアああァぁァ……」

 

 

 再び叩き込んだ万能魔法により消し飛ぶビシャーチャ。

 そして、消えたその場に柄が歯車の形をした鍵が転がっていたので拾う。

 それにしても、腑に落ちない無いことを言っていたのが気になる。

 彼らは拘束して転がした後に警察に通報して回収されたはずなのに、その後に誰かに殺されたのだろうか?

 考えは尽きないが扉の前で姿を戻し少し休憩した後に、扉を抜け次の場所へと移動した。

 

 

 

 扉を抜けた先の様子は、またこれまでと違っていた。

 木の床板に木の柵があり、四隅には木の大きな柱が立ち瓦の屋根を支えている寺院のようである。巨大な象が暴れ回っても問題ないほどに広く、最奥の扉の前には大きな人型の何かが座っていた。 

 それは、自分が入って来たことに気づくと振り向いて立ち上がる。

 身の丈3メートル以上はある筋肉質な体に、3面6腕の濃い褐色の肌をしたインド神話風の服を着たその男は自分を見下ろしている。

 しばらくこちらを見た後に、彼のそれぞれの顔は話しかけてきた。

 

 

「我はこの扉を守る番人【魔王アスラ】なり」

 

「汝、奥へと進まんとする者か?」

 

「……? 汝らに見覚えがある。凶鳥と悪霊へとなった我を倒せし者か」

 

「それは本当か? 我よ」

 

「黒き邪神に玩具とされた時に見た。間違いないぞ、我」

 

「そこの男、黒き本で悪魔の姿になる者に憶えはないか?」

 

「心当たりはあるが、きっちり倒したはずだぞ?」

 

 

 そう答えると満足そうに頷き、身構えて答える。

 

 

「我ら三人、元は邪神の玩具として死した者なり」

 

「いかなる理由か、このようにして召喚されたり」

 

「なれば、今一度こそ日本の民に海の外の戦いに赴くように試練を課すが肝要」

 

「「「いざ、まず汝の魂を磨くとしようぞ」」」

 

「余計なお世話だ!」

 

 

 こちらも身構え、闘うことになった。

 ジャネットも鉄杖を構えて、アナライズをし叫ぶ。

 

 

「マスター、これは【魔王アスラ】。

 氷結弱点で、火炎と衝撃は反射します。気をつけて!」

 

「なら、【サバトマ】。アリス!」

 

「マスター、わたしの出番ね。

 じゃあ、みんなも一緒に踊りましょう。【サバトマ】」

 

 

 自分が呼び出したアリスがこちらを見てから身構えると、左手の絵本がめくれて子どもの大きさのとても既視感のある雪女の人形が現れた。よくみると、右手に人形繰りの指輪とそれと人形が繋がる糸が見える。

 その糸に手繰られるように、人形が【ブフーラ】をアスラに放つ。

 これが、彼女独自のあの4人を人形として呼び出せる【サバトマ】である。

 余裕の笑みを見せるアスラがこちらへと踏み込み、スキルを放つ。

 

 

「試練を与えよう! 【阿修羅】!」

 

「ちっ」

 

「ああっ」

 

「くっ」

 

 

 六本の腕を振るってこちらの全員を殴打するアスラ。

 しかし、自分への攻撃は反射されダメージを負うのは驚いている。

 こちらとてやられるばかりではない。

 

 

「【ラスタキャンディ】!」

 

「こっちは、【絶対零度】と【ブフーラ】よ!」

 

「小癪な真似を、【マハラギダイン】!」

 

「遅い、【マカラカーン】」

 

「我に炎は効かぬ。……ぬう!?」

 

 

 アスラは放った全体火炎魔法が全てマカラカーンで反射されるが、自身は火炎反射を持つので余裕で受け止めるもその炎が消え去るのを見て驚く。

 奴は知らなかったのだろう。

 ガイア連合では、現実となってある意味未知の技術になった魔法に関しては色々研究されているのだが、もし反射持ち同士がその属性の魔法を放ったらどうなるかの実験もあった。

 正解は、『一度放たれた魔法が反射された場合、反射される度に威力が減衰し最終的に消える』である。

 だから、強力な全体魔法でも2度目の単体の反射を経て少し強い単体魔法に威力が落ちたなら、投げたブフーラストーンで相殺できるのである。

 奴が驚く隙にも、ジャネットとアリスは2度目のバフと氷結魔法でダメージを与える。

 

 そして、傷を負わされたのと自慢の火炎魔法を妙な小細工で打ち消されたのが腹に据えかねたのか、6本の腕で妙な構えを持ってこちらを殺しにかかるようだ。

 火炎魔法が得意なら、こちらも手を変えるとしよう

 

 

「おのれ、我が与える試練にこのような手妻染みた手段を取るとは!

 本気を出してくれる! 【コンセントレイト】」

 

「もう一度、【ラスタキャンディ】!」

 

「もう、【絶対零度】! 【ブフーラ】!」

 

「『Warning,Warning. NON-REGULAR FUSION』。よし、アリスはジャネットと自分の後ろに!」

 

「はい!」

 

 

 カードを取り出し、腹部から胸元に背中まで肌を露わにした夜の色をした赤いラインのある全身金属鎧の女性の姿、サクラベルセルクに姿を変える。そして、ジャネットと共にアリスを庇うように前に出る。

 その様子をあざ笑うようにアスラは全部の腕を突き出し、複数の黒い火炎弾を放ってきた。

 

 

「何をしたのかは知らないが、そんな肌を露わにした格好で我の炎を防げると思うな! 【極炎の闇】!」

 

 

 2人でその複数の炎弾を受け止めるように防御する。  

 その様子を見ていたアスラは笑みを止め、自分の最強の技が簡単に防がれ驚愕しているようだ。

 それはそうだろう。ジャネットもサクラベルセルクも火炎反射なのだから。

 反射され見る間に威力が落ちて数が少なくなったのを見て、そのままアスラに突撃する。

 

 

「ジャネット、強化停止。アリス、攻撃継続! 【月影】!」

 

「ぐほっ。おのれ、まだだ! 【阿修羅】!」

 

「ぐっ」

 

「もう一度、【絶対零度】! 今度はこの子、【サバトマ】!」

 

「よし、【メディラマ】!」

 

 

 敵全体に乱打を与えるスキルで6腕のめった打ちを喰らうが、物理耐性とジャネットの回復で踏み留まり殴り返す。

 ここが勝負の決め所だろう。

 アリスがユキジョロウの人形をマーメイドの人形に変える。

 

 

「ここで、【ソウルドレイン】! この子は【嵐からの歌声】よ!」

 

「ぐおお、まだだ。まだ、負けぬ」

 

「勝機! 【月影】!」

 

「ぐぶっ、……ぐおお、お、卑怯な……がっ」

 

 

 万能属性の吸収魔法と弱点の氷結魔法のダメージを受け蓄積した負傷でふらついた隙をつき、スキルを込めて膝蹴りで股間を蹴り上げた。

 そして、ぐにゃりとした感触と共に横の二つの顔が白目をむき、前のめりに崩れ落ちるアスラ。

 慎重に後ろに一旦下がり、目の前に下りて来た後頭部に両手を組んで振りかぶって叩きつけるのと同時に顔面に膝蹴りを叩き込み、アスラにとどめを刺した。

 何も言えずマグネタイトになり消えたアスラのいた場所に、今度は柄が卍の形をした鍵が落ちていたので拾う。

 疲れたので、出口近くの仏教風祭壇の端に腰掛ける。

 そして、近寄って来たジャネットとアリスに声をかける。

 

 

「お疲れ様。二人とも、回復薬はたくさん用意してあるから飲んで。

 まだかなり先があるようだし、一息つこう。

 それにしても、アリスのサバトマはあの娘たちを操り人形の形で呼び出せるのか」

 

「そうよ、マスター。彼女たちの意志はわたしと一つになったからこういう形になったの。

 だって、バッドエンドはこりごりよ。もう見飽きてしまったわ」

 

「あー、こうして肉体を持っていると薬で回復はし易いですけど、お腹がポタポタになりますね」 

 

「あの娘たちとこういう形でも会えるのは嬉しいな。

 あと、トイレが近くなるから飲料薬は控えめにしないと」

 

「そうなんですよね。なまじ、元が造魔から出来ているのでこの体、ほぼ人間に近いのも良し悪しです」

 

「ふうん、わたしにはよく分からない感覚ね。

 おじさま達は、『アイドルはトイレになんて行かない』とか言っていたけど?」

 

 

 あの二人は何をアリスに吹き込んでいるんだろうか?

 それも気になるが、ここに出てくる敵対悪魔たちもおかしい。

 最初があのローレライ、次が印象の薄かった洗脳機械の男、そして邪神の本で悪魔になっていた多分中東人の男たち。

 今後も自分に縁がある奴が出てくるとなると、この異界の主は本当に性格が悪い。

 一休みできたので考えるのを止めて、2人に声を掛けて次の場所に移動するため扉をくぐるのだった。

 

 

 

 

 

 そして、くぐった先でもうあまり会いたくない連中にまた出会ってしまった。

 一面、ピンクの絨毯にピンクのカーテンの掛かった柱と柵、一番奥のピンクの金属の扉、天井はピンクのベッドの天蓋のような広場で、周りから湧いてくる20体以上の夜魔リリムと中央にいる緑色の巨大な卑猥なスライムがいたのである。

 アリスは帰しておけばよかったと後悔した。




あとがきと設定解説


・【邪鬼ピシャーチャ】

シスターギャビーと制圧した洗脳装置のダークサマナーのリーダーの変わり果てた姿。
レベルは、45。耐性は、火炎弱点、呪殺無効。
スキルは、毒ひっかき、ウィンドブレス、バイツァ・ダスト。

・【幽鬼モウリョウ】

シスターギャビーと制圧した洗脳装置のダークサマナーの手下たちの変わり果てた姿。
レベルは、17。耐性は、火炎耐性、氷結耐性、電撃弱点、衝撃弱点、破魔弱点、呪殺耐性。
スキルは、特攻、デクンダ。

・【魔王アスラ】

邪神の本で破滅した3人の中東人の男たちの変わり果てた姿。
レベルは、37。耐性は、火炎反射、氷結弱点、衝撃反射、破魔無効、呪殺無効。
スキルは、マハラギダイン、コンセントレイト、極炎の闇、阿修羅、デカジャ。

・アリスの【サバトマ】

彼女と一つになったマーメイド、モー・ショボー、ナジャ、ユキジョロウを操り人形の形で召喚する。
人形に自我はなく、人形のスキルの消費MPはアリスの物を消費減少して使う。


次回は、ダンジョンアタックの続き。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第四十七話 過去の縁から来た刺客 その2

続きです。

今回は、女神転生でも有名なあの方の登場回。

直接表現は避けていますが、R15なアレな表現が出てくるので注意して下さい。


 

 

  第四十七話 過去の縁から来た刺客 その2

 

 

 次の場所への扉をくぐった先は、長居したいとは絶対に思えない場所だった。

 

 そこは一面、ピンクの絨毯にピンクのカーテンの掛かった柱と柵、一番奥のピンクの金属の扉、天井はピンクのベッドの天蓋のような広場で、周りから次々と湧いてくる20体以上の夜魔リリムと中央にいる緑色の巨大な卑猥な形のスライムがいた。

 

 それは広場の中央にいて丘のような大きさであるが、頭頂部と伸びた首の部分は巨大な男性のアレの形をしており、太い胴体から生えた尾のような何十本あるか分からない数の触手を生やし、それで10体以上はいるリリムを体に巻き付けるように拘束し貫いて貪っている。

 そして、凄まじい快楽なのだろう痙攣し反応が失くなったリリムを全面にある大きな口で飲み込むと、頭頂部から白い粘性の液体を噴出して周囲に撒き散らし、それに触れたリリム達の白い衣服を全て溶かして全裸にするとまた新たに体を拘束して貪るという行為を続けている。

 

 周囲には、むせ返るような臭いと耳が痛くなるくらい繰り返される様々な少女の嬌声が響き渡っている。その不快さに、こちらにいるジャネットは顔をしかめている。

 この姿からすると戦車の無いマーラ様のようであるが、それにしてはかなり異質な行動であるし何か召喚に失敗してこのような状態になったのだろうか?

 相手の夜魔の数が数なので攻撃を躊躇っていると、向こうもこちらに気づいたようだ。

 周囲にいたまだ取り込まれていないリリム達が、赤面した表情で話しかけてくる。

 

 

「あれー、珍しー。私たち以外に召喚された女悪魔がいるなんてー。

 もしかして、マーラ様にお相手してもらいに来たのー?」

 

「なかなかイカした格好の娘もいるじゃない。

 でも、なーんかニンゲンの臭いと悪魔の匂いとぉ、……コロンとジーパンの匂い?」

 

「まあ、なーんかあのマーラ様も変なのよねー。

 私たちリリムしか呼ばないんだけどー、貴女たち来たから私の順番来るかなぁ?」

 

「とりあえず、アリス戻ってね?」

 

「…はっ! は、はーい」

 

 

 顔を真っ赤にしながら眼前の大乱交スマッシュシスターズをガン見していたアリスが、声を掛けると正気に戻り視線を逸らしてそそくさと戻って行った。

 

 さて、あのマーラ様を倒すのもここを通る目的になるだろうが、もう一つ目的が出来た。

 ここに大量にいる夜魔リリムである。

 このデビルズアブゾーバーには変身機能ともう一つ対象の悪魔をカードにして持ち帰るカードハント機能がある。つまり、大量のリリムカードはガイア連合の同胞たちには高く売れるだろう。コレクションにするも良し、契約して従えるも良しだ。

 思わずベルセルクの狂気的な表情の笑みがこぼれ、リリム達が後ずさる。

 では、アレを相手にするのに相応しい彼女にお出まし願おう。

 

『Warning,Warning.EMERGENCY FUSION』

 

 それは、宝石の王冠をし片手に宝石を散りばめた黄金の杯を持ち、赤いサンダルと透き通った白いケープを羽織り赤いスリングショット水着の大淫婦バビロンである。

 彼女の姿を見て顔を青ざめて散らすように逃げるリリム達を無視し、サンダルの踵をガツッと打ち付け左手を掲げて彼女は叫んだ。

 

 

「うむうむ。こういう事ならば余が呼ばれるのも道理というもの。

 見るがよい! 余こそ、魔神、大淫婦バビロン!

 艶やかで清らかでもある余、登場である!」

 

「また、マスターったら。彼女に主導権を渡すなんて」

 

「心配するでない。『聖非処女』よ。

 愛するマスターに何かするはずがなかろう。

 余はそなたと違って、まだマスターに抱かれておらぬ故清らかであるのだし?」

 

「誰が、『聖非処女』ですか。失礼なことは言わないで下さい。『大淫婦(笑)』」

 

「(笑)を付けるでない。お主の淫蕩さこそ、『性非処女』であろうに」

 

「はっ、『処女の大淫婦()』とかちゃんちゃら可笑しいです」

 

「それは、マスター以外に抱かれる予定はないのだから当然であろう。

 あと少しでマスターの力量も余と並び、サバトマで呼び出せる時が来るので良いのだ」

 

「私は肉体を持っていますから、長年の間に培ったマスターとの夜の経験はこちらが上です」

 

「たかが、1、2年の事ではないか。

 それならば、『乙女の床上手』である余がお主以上にベッドでマスターを満足させれば良いな。

 ふふん、素人に毛が生えた程度の技術で余に勝てるわけがないぞ!」

 

「いいえ、マスターはですねぇ、……」

 

 

 ギャーギャーと言い争いしながらも向こうの動きに注意している辺りは流石だが、あのマーラ様にこちらの言い争いを完全に無視して行為に没頭されているのはどうかと思うんだがどうだろう?

 それに、それを見たリリム達にも無視され始めているのだが。

 そう考えたのが伝わったのだろう。言い争いを止めた不機嫌な様子のバビロンが向こうに声を掛けた。

 

 

「余がここにいるのにいつまで盛っておるか、マーラよ!

 久しぶりに顔を見たかと思えば、こんな所で何をやっておるか!?」

 

「…んん? 久しいのぅ、えらい扇状的な格好ではな……おっほ、紐水着のネロちゃまとかエッロ犯りてぇぇ……何だ今のはワシの意志が……ああ、褐色微乳のリリムにも飽きてきたしなぁ。揉みしだいて後ろからガンガン犯りてぇなぁ……んぬぅ、ワシの意識が消え……隣のおっぱい聖女も押し倒して抱きてぇ……ぐぉぉ、スライムのように召喚するだけで飽き足らず、ワシのこの逞しくなりつつあるボディをニンゲン風情が乗っ取ろうなど許さん!」

 

「マーラよ、しっかりせい! 仮にも魔王の名が泣くぞ!」

 

「すまぬ、マザーハーロットよ! こやつら本気でお主を襲う故、ワシらを倒してくれ!

 このような召喚に従うわけにいかぬ!」

 

 

 このような場所に召喚されこのような事を延々と続けていたのは、マーラ自身の意志ではなくこのスライム体の霊器の元になった人間達の意志のようだ。

 先程のマーラの発言を聞き、周囲にいたリリム達もこちらに敵意を抱いたようだ。

 マーラ自身も触手で犯していたリリム達を放り捨てると、こちらに襲いかかってくる。

 

 

「アナライズ! 仮称【外道マーラスライム】は、物理耐性、氷結弱点、破魔無効、呪殺無効。

 【リリムの群れ】は、氷結弱点、電撃・破魔・呪殺無効です!」

 

 

 ジャネットがアナライズの結果を叫ぶ。

 それに合わせて、バビロンがスキルを放つ。

 

 

「それ、お主らに相応しいであろう。【女帝のリビドー】!」

 

「「「きゃああああ」」」

 

「……痛ってぇ、何しやがるこの女ぁ。今、ヒィヒィ言わ……黙っておれ、ニンゲン。ほれ、【溶解ブレス】」

 

 

 周囲にいたリリムが消し飛んで消えるも、引き続き周りから湧いてくるリリムの集団が、こちらへと殴りかかってくるのと同時に十数発に及ぶマリンカリンやハピルマやプリンパが飛んでくる。そうしたリリム達の攻撃に邪魔されて避け損ない、リリム達ごと撒き散らされた白い液体を浴びてしまった。

 ジャネットは色々と見えてしまう半裸状態になり、リリム達とバビロンは全部モロ見えになっている。

 それに構わずバビロンは膝から下の両足を赤いドラゴンの物に変えて、くるりと翻るように回転した上段回し蹴りでリリム達を薙ぎ払う。ジャネットも周囲にいたリリムを鉄杖で殴り払う。

 掴みかかって来るのはともかくリリム達の状態異常はこちらには効かないので無視していたが、リリム達を薙ぎ払った先で頭部をピンとこちらに向け構えているマーラが目に入る。

 スキルを使う隙もないと考え、一気に走り寄り右足で飛び蹴りをする。

 しかし、リリム達を薙ぎ払う膂力の蹴りでも打撃はもちろん、足のかぎ爪でさえも弾力のある硬さで跳ね返される。

 蹴りを喰らったマーラは残念そうに言う。

 

 

「残念じゃが、いかにお主の色々と見える魅惑的な蹴りでも、物理耐性を持ち【仁王立ち】でもあるワシのバッキバキなボディには通用せんよ。

 ほれ、【チャージ】じゃ」

 

「くっ、バビロン。【ラスタキャンディ】です!」

 

 

 リリムの群れを突破し、こちらに走り寄って補助魔法を掛けるジャネット。

 物理攻撃が来るなら物理反射で対抗しようと、ジャネットをかばって防御する。

 そして、突撃して来るのではなくマーラの頭頂部から白い液体が弾丸のように発射された。

 

 

「すまんが、甘いのぅ。今のワシの【地獄突き】は銃属性じゃ」

 

「ごふぅっ、げほっ」

 

 

 文字通り弾丸のような白い塊が剛速球のように飛び、腕をすり抜け自分の腹部に命中する。

 そのまま宙に浮かび、後ろにいたジャネットに抱き止められたまま数メートル程後ろに下がる。

 意識が飛びそうになる激痛に、身体の主導権を切り替える。

 そして、後ろから追いついて来たリリムの群れが自分たちに放つ無数の【ジオンガ】が視界に入る。

 とっさにジャネットの上に覆いかぶさり地面に伏せた瞬間、自分たちへと炸裂し周囲が白熱し視界が見えなくなった。

 

 周囲のリリム達が歓声を上げ、自分たちの快楽の儀式を邪魔した高位の悪魔を倒せたのを喜んでいる。

 攻撃の手を緩めるように抵抗していたマーラの意識も諦めたために抑え込まれ、この霊器の元になった男たちの統合された淫欲に狂う自我が完全に表に顔を出した。

 目のないその卑猥な頭部で、白煙の晴れないその場所を見て舌打ちをする。

 

 

「ちっ、もったいない事をしちまった。

 あれだけの胸のでかい上にマグネタイトもあった雌が二匹もいりゃ、愉しんだ上で早く完全に魔王に成れるのによぉ。

 あ、いいこと思いついた。身体の欠片でも残ってりゃ、悪魔なんだから再生できんじゃね?

 マグネタイトはここの場所の魔法陣で無限湧きするこいつらから奪えばいいか。

 おい、淫魔ども。お前らが吹き飛ばした女たちの欠片を拾って持って来い!

 そうすりゃ、また続きをしてやるぞ!」

 

「なるほど、そういう訳ですか」

 

「有り難いが、ペラペラとよく回る舌だな。【女帝のリビドー】」

 

 

 動き出そうとした彼女らへ、薄れた白煙を吹き飛ばすように周囲を消し飛ばす万能魔法スキルが炸裂する。

 また消し飛ばされるリリムの群れと、攻撃を喰らいスキルに付与された効果で魅了されるマーラスライム。

 現れた自分たち二人に、ふらふらと顔を向けるマーラスライム。

 

 

「あれぇ、何で生きてんだぁ。あれだけの電撃を喰らったのにぃ?」

 

「魅了されたか。何故って、バビロンは電撃吸収だからだよ。回復も出来たぞ」

 

「卑怯だぞぉ。そんな事は知らないぃ。いかにもヤらせてくれそうな格好のくせにぃ」

 

 

 ジャネットとお互いの全裸と半裸の格好を見て、ため息をつく。

 そして、【デクンダ】を唱えると防御低下の効果が完全に消えて二人とも服も元に戻った。

 改めて、マーラスライムの方を向き尋ねることにする。

 

 

「聞いていいか。お前らは、いやお前は何者だ?」

 

「そこの金髪おっぱいの連れの男に殺された元魔王の俺と、車でレイパードライブしていた連中なんかが一緒になったのが『俺』だぁ。

 ここに来て力を貯めてもう一度魔王になれば、女を犯し放題に出来たのにぃ」

 

「それで、マーラ様の意識はどうしたの?」

 

「今も力づくで抑え込んでいるぞぉ」

 

「ここの場所のボスや情報を知ってる限り話せ」

 

「ボスは知らねぇ。

 鍵を渡されて、ここに来てからずっとリリムを犯し放題にするだけだったから他の場所も知らねぇ」

 

 

 こいつに聞いても、もう意味がないだろう。

 先に進むことにして、ジャネットに合図をする。

 

 

「なぁ、俺をどうするんだぁ?」

 

「【ラスタキャンディ】」

 

「そうだなぁ。どうしたい?」

 

「【ラスタキャンディ】」

 

「もちろん、魔王になって女を犯し放題にしたいぃ。なぁ、そっちの金髪女、何言ってんだぁ?」

 

「【ラスタキャンディ】」

 

「さぁ、お前が気にする必要はないよ。【コンセントレイト】、【バビロンの杯】」

 

 

 周囲のピンクのカーテンも絨毯も吹き飛び、仕掛けてあったリリムの召喚陣も残りと共に吹き飛んだ。

 後に残ったのは、残骸の山と自分たちと焼け焦げて半壊状態になったマーラスライムだけだった。

 絶叫を上げてのたうち回っている魅了が解けたらしいマーラスライム。

 

 

「ぎゃああああああ、痛てぇえええええ! 嫌だぁぁぁああ、死にたくねぇぇぇ!

 そ、そうだ、【テトラカーン】!」

 

「効くわけ無いだろう。やっぱり、しぶといなぁ。【マハジオダイン】」

 

「いぎゃあああぁぁぁ!止めてくれぇぇぇぇ!」

 

「あのな、強姦魔の悪魔が嫁や娘のいる家の近くにいるなんて見逃すわけがないだろう?

 消費が重いが、さっさと消えてくれ。【コンセントレイト】、【バビロンの杯】!」

 

「い、嫌だ、まだ俺は犯し足りな……」

 

 

 先程と同じくこの場所にもダメージがいく威力の万能魔法スキルが炸裂し、マーラスライムを完全に消し飛ばす事が出来たのだった。

 

 

 

 消え去ったのを確認し一息つきふと見ると、足元に鍵とカードが落ちている。

 鍵は柄が白い丸の形をしており先の方が矢印の形をしている金属製で、カードの方は表面に大きく『魔羅』と達筆で書かれている。

 カードを持っていると、マーラ様の声がする。

 

『手数を掛けて、すまなんだのぅ。

 開放してくれた、せめてもの礼じゃ。ワシの残った力をお主等にやろう。

 ではな、マザーハーロットの契約者よ』

 

 そう声がすると持っていたカードが消え、全身に熱が回ったかのように力が湧いて来ている。

 バビロンの変身を解除し、白い線で丸の下に十字のマークが描かれた蛍光ピンクの扉の前でちょうどよく倒れていた石柱に座り休憩する。

 

 部屋の周囲を回り、落ちていた魔石やマッカ、フォルマなどの拾得物をジャネットが嬉しそうに回収している。

 自分も12枚ほどあるリリムカードと1枚だけあった氷結ブースタのスキルカードを見て、これが終わった後の収支を考えている。

 今回はなし崩しに異界攻略になったので持ち込んだアイテム代も考えると、これで充分お釣りが来るだろう。

 そう思って休んでいると、回収し終わったジャネットがこちらを見て慌てた顔で走ってくる。

 どうしたのだろうと思っていると、バッグから曲がり角を覗き込む時に使う鏡を取り出し自分の顔を写し出した。

 

 

「いったいどうされたのですか、マスター! そのお顔は!?」

 

「ああ、どうなっているんだろうか?」 

 

 

 ドッペルゲンガーの変身は基本的に自分の似姿をしているが、その鏡に写るのは髪が銀色になり両目が金色になった自分の顔だった。

 何らかの兆候かも知れないが、顔に入れ墨も無いし服装がボディスーツになっている訳でもないからこの件が終わるまではまだ大丈夫だろう。

 心配そうに見ているジャネットに言う。

 

 

「さっき倒した時に、マーラ様が何か力を分けてくれたみたいだからこうなったんだろう。

 どちらにせよこの件が片付いたら、山梨の星晶神社で診てもらうから大丈夫だよ」

 

「絶対ですよ。帰ったら必ず診て貰いますからね?」

 

「ああ」

 

 

 頷いて答える自分にホッとした顔で答えるジャネットだったが、微妙に彼女の視線から身体をずらしているのに不審に思ったようだ。

 そのまま自分の隣に座りそれに気がつくと、視線を向けながら顔を赤くして尋ねてくる。

 

 

「あの、マスター。立って歩けます?」

 

「いや、痛いくらいに立っているので歩けない」

 

「じゃあ、休憩も兼ねて何とかしますね。マスター」

 

「すみません、お願いします」

 

 

 

 

 

 

 結局、普通に立ち上がって歩けるようになるまで鎮めるのに、嬉々としたジャネットの助けもあったが約2時間程かかった。

 見張りを頼むためサバトマで呼び出し、真っ赤な顔でこちらを見ないように頑張ってくれたアリスに悪いことをしてしまった。

 その事で謝ったが、ニコニコしていたのは何故なのだろうか?




あとがきと設定解説


・【外道マーラスライム】

元々はオーカスだった男を中心にそれ目的で統合された自我が霊器だった似非マーラ。
マーラ様の意識も吸収し、この場所で魔王になったら表に出ていくつもりだった。
レベルは、36。耐性は、物理耐性、氷結弱点、破魔無効、呪殺無効。
スキルは、地獄突き、肉体の解放、溶解ブレス、テトラカーン、チャージ、仁王立ち。

・【軍勢リリムの群れ】

マーラスライムがいた場所に設置された魔法陣で一度に多数湧くように召喚されていた。
召喚時の仕様で、マーラスライムに従うようにされていた。
レベルは、30。耐性は、氷結弱点、電撃無効、破魔無効、呪殺無効。
主なスキルは、ジオンガ、夢見針。他に、マリンカリン、ハピルマ、プリンパなど。

・【氷結ブースタ】のスキルカード

氷結魔法のダメージ増加と氷結する確率を上昇させる効果を持つスキルカード。
割りとレアなカード。
ちなみに、出た枚数は実際に100面ダイスの結果。


ここのアリスは割りとムッツリの耳年増。

次回も、ダンジョンアタックの続き。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第四十八話 過去の縁から来た刺客 その3

続きです。

今回は、あの女性の登場回。

※実在の業界や思想を揶揄したものではないので注意して下さい。


 

 

  第四十八話 過去の縁から来た刺客 その3

 

 

 連続した戦闘の疲れと直前の戦いの色々あったアレな事のせいで興奮状態の身体を鎮めるために、流石に異界の中で本格的にする訳にもいかないので時間が立てば大丈夫だろうと2時間ほど仮眠を取ることにした。

 ジャネットも連続した魔法の使いすぎで精神的にも疲労していたので一緒に休むことにして、自分も【サバトマ】で呼び出したアリスに見張りを頼むと2人で試供品の回復睡眠薬【レストインピース】を飲んでジャネットと抱き合うように眠りについた。

 

 ちなみにショタオジ曰く、ハイグレードの女性型シキガミにはエロMAG供給システムが標準搭載されており、それにより男性主人とのレベル同調と安定化を行っているそうだ。加えて、肉体が造魔で形成されているジャネットにはより多くするべきだと以前、本人がいる前でニコニコしながら言われた。

 その後、満面の笑みでジャネットに宿泊所に連れ去られる自分を笑顔で見送ったショタオジには、不意にそんな事を思い出して腹が立ったので今度本気でやり返そうと思う。

 

 また、後で聞いた話だが、見張りを頼まれ自分たちが横になるのを見た後で、アリスにとっては周囲の様子よりとても元気になっていた自分のアレが大人しくなっていく様子が気になって仕方がなかったらしい。

 COMPのアプリのタイムガールに掛けたアラームで約2時間後に起きた時にアリスがやけに真っ赤な顔をしてこちらをチラチラと見ていたのはそういう事だったのだが、その時の自分は気づかずにアリスに戻るように頼むと慌てるように戻って行ったのを見送り、何故か満足気な顔で呼ぶジャネットに伴なわれ次のエリアへと悪趣味な扉を開いて移動した。

 

 

 

 開いた先は、今までで一番狭いエリアだった。

 完全に密閉した薄暗い部屋となっており、正面にある通路に沿って両側に複数人が座れる白いソファと丸い小さなテーブルが幾つも並んでいた。そして一番奥には、右側にカウンターバーが通路の突き当りには小さいステージがあって壇上のテーブルの上にはシャンパングラスを積み上げてピラミッド状にしたものが乗っていた。

 どう見ても、営業中のホストクラブそのものです。

 

 テーブルの幾つかには接客を受けている女性が幾人かとレディース漫画のホストを立体化したような男性が、お酒と軽い食事を出しながら談笑している。

 そして、しばらく眺めていると店内が明るくなりステージ上に赤いスーツを着たどこかで見かけた女性と白人男性のホストが両脇を固めて現れ、自分たちを除く店内の連中が騒ぎながらステージに集まってシャンパンを飲み始めている。

 

 

「こちらの、姫様にぃ、いただきました!」

 

「もっとちょうだい!」「まだまだ飲める!」

 

「グイグイ、グイグイ、グイグイよし来い!」

 

「「「グイ、グイ、グイグイよし来い!」」」

 

 

 受付と待つためのソファが置いてある入り口のスペースで、それを眺めながらぽかんとそれを見ていたジャネットに話しかける。

 

 

「ジャネット。あいつら、アナライズ出来るか?」

 

「はい、ええと。ホスト達は【夜魔インキュバス】、女性客は【幽鬼チュレル】、あのステージ上の女性がここの主ですね。

 データには、【狂神アラミサキ】とあります」

 

「なあ、ここの異界の法則性が見えて来たと思うんだが?」

 

「どういう法則でしょう?」

 

「まず、多数のエリアごとにそこの主が居て普通の異界のように特色が反映されている。

 次に、自分がここ数年で敵対したか関係がある者達が高位の悪魔になって現れる。

 しかも、連続したエリアごとの出入りが入り口のドアと出口のドアだけだ」

 

「ええ、それは判ります。

 しかも、出てくる悪魔が揃いも揃ってレベル30超えがゴロゴロといるのがおかしいです。

 今のGPからすれば、そんな高位の連中がこんなにひょいひょいと出て来る訳がないんですよ」

 

「それは今回の地震で4桁の死傷者が出ているなら、マグネタイトの総量的には一時的にだがあり得ると思うぞ。

 ただ、『100人以上の避難民を甲板に乗せてアメリカから来た普通の大型タンカー』に、そんなことを可能にしてこんな大型の異界を形成させる何かがあるのもおかしい。

 待てよ。教会を襲撃した人間じゃない人間の行動をする兵隊や、大規模な地震を人為的に起こす何かに天使化する避難民とか、最初から普通じゃないとしたら?」

 

「ちょっとそこのいる奴、こっちに来なさい! 挨拶もしないなんて失礼でしょ」

 

 

 そこまで話した時エネミーサーチに反応があり、奥に居たステージ上のここの主らしい女性から大声で呼ばれた。音楽も止み、ミラーボールに反射するようにクルクルと辺りを照らしていたライトも今は消えていた。

 入り口から店内に入ると、ステージの周囲に居た連中がこちらを不快気に一斉に見ている。

 明かりに照らされて、はっきりと見た女性たちの顔を思い出す。

 確か、大阪で自分たちの代わりにビルの下敷きになって死亡した女性たちである。

 その女性は不愉快気に顔をしかめ、イライラとした様子で話し出した。

 

 

「何、あんた達。勝手に人の場所に入り込んで『すいません』の一言も無いわけ?

 そこの男、顔が日本人風だけど髪が銀色なのはハーフなの?

 これだから、半分でも日本人の血が入った男はダメね。はあぁあ」

 

「あんたがここのリーダーか?」

 

「だ、か、ら、先に『ここに入ってすいませんでした』の言葉が先でしょ?

 それに、何を勝手に質問しているのよ。質問していいのは、私。

 いい、先に謝罪する所から始めなさい」

 

「マスターが謝る必要なんて無いです。あなたがマスターの質問に答えなさい」

 

「何、白人の女性なのにこんな男を『マスター』なんて呼ぶなんて厭らしい。

 シスター服を改造したようなそんな衣装をしているなんて、あなたシキガミ?

 あなたも女性なら価値観をアップデートしなさい」

 

「自分の今の状況を理解しているのか、あんたは。

 そもそも、何でこんな所でホストクラブなんてあるんだよ」

 

「あんたみたいな女性への理解の足りない男にも教えてあげるけど、ここは私の支配する場所なの。

 日本の女性たちが日々の疲れを癒やし、身長も甲斐性も女性への優しさも足りないジャッポスに代わって理想の男性と出会える場所を提供するのよ。

 いずれこの場所を広げて、わたしの主張を理解もせずに排除したあの山梨の連中にも理解させてやるわ」

 

 

 いかん。一を言えば十の訳の分からない価値観の言葉が返ってくる。

 もう面倒なので力づくで蹴散らす方がいいかもしれない。

 そんな事を考えていると、アームターミナルの画面を見ていたジャネットが彼女に尋ねる。

 

 

「貴女、山梨で洗脳騒ぎを起こしてガイア連合から追放された『幸原みずき』ですよね?

 大阪で死んだ貴女達がここにいる方が可笑しいんですよ。

 ホスト趣味のくせに、何が『理解させる』ですか。ああ、可笑しい」

 

 

 鼻で笑ったジャネットに、切れたその女は髪を掻きむしると叫びだした。

 同じように怒る女性たちに、薄笑いを浮かべていたホストインキュバス達がドン引きしている。

 

 

「私達は死んでいない! ここにいるのよ! 生まれ変わったのよ!

 無理解だった社会と違ってここに私を呼んだ存在は、理解者なのよ!

 矮小だった昔の私とは違うのよ! 男の消費物にすぎない人間の私を超越したの!

 これならわざわざ選挙なんてしなくていい!

 偉大な思想を持つ私に傅く栄誉を、ジャッポス共や雄を庇う名誉男性共に与えてやるのよぉぉぉ!」

 

 

 そう叫ぶとその女は肌がオレンジ色に目が瞳もない緑色の目に変わり、頭部が細長く伸びて管のようになり着ていた赤いスーツも赤い日本の古代の頃の着物に変わった。周囲に居た女性たちも肌が灰色になり着ていた洋服も茶色のフード付きの貫頭衣へと変化し、かぎ爪を構え襲いかかってきた。

 

 

「マスター! アラミサキは、銃・破魔・呪殺・精神状態異常無効。

 チュレル達は8体。破魔弱点、呪殺無効。

 インキュバスは16体。電撃弱点、衝撃耐性、破魔無効です!」

 

「『Warning,Warning.EMERGENCY FUSION』、ならガブリエラ!」

 

 

 6枚の黒い翼を持つ黒のレオタード風の衣装を着た堕天使ガブリエラに姿を変え、ジャネットを抱き上げ宙を舞うと店内の配置から包囲されない位置に移動しスキルを放つ。

 【魅惑の雷撃】。

 敵全体を襲う強力な電撃が、通路を移動していた彼女らに炸裂した。

 それなりの怪我の女性陣とは違い、弱点の電撃を受けたインキュバス達は一気に致命傷を負って動きも鈍り、ホストの擬態も解けていた。付与された効果により一部の魅了されたインキュバスは、仲間に襲いかかっている。

 それを見たアラミサキは叫ぶ。

 

 

「醜い、醜い、醜いぃィィ。それもこっちに襲いかかるなんて非常識ィィ!

 そんなクソオスなんか要らないィ! キィィアアアァ!」

 

 

 こちらに襲いかかっているチュレル達をジャネットと相手していると、アラミサキが混乱しているインキュバス達を右手に作り出した剣でスキルを使った連続攻撃で殺している。

 粗方の偽装の解けたインキュバスを殺すと、アラミサキはまた叫びだした。

 

 

「さあ、もっとボトルを入れるわよ!」

 

「姫ちゃん、飲みたい騒ぎたい!」

 

「はいっ! 胃腸に関して自信があるある!」

 

「漢方漢方漢方、漢方一気漢方!」

 

 

 アラミサキが叫ぶと意味不明な掛け声と共に、複数のホストの姿に擬態したインキュバスが現れた。どうやら、ここも手下が湧いてくる仕掛けがあるようだ。

 数が多くて不味い。チュレルはかぎ爪の攻撃とマリンカリンだけなので攻撃を捌くだけでいいが、インキュバスは光弾と衝撃魔法を飛ばしてくるので油断できない。

 

 

「マスター、【ラスタキャンディ】です!」

 

「この、【メギドラ】!」

 

「「あああああ」」

 

 

 今度は万能魔法で薙ぎ払うが、この攻撃で深手を負ったチュレルが下がりホストインキュバス達が庇うように前に出てきて攻撃を放つ。

 幾つもの風刃の【ガルーラ】や【地獄突き】の光弾が飛んでくる。

 躱しきれずに、ガブリエラの衝撃弱点を突く複数の攻撃に致命傷とはいかないが深手を負ってしまった。

 この様子に機嫌を良くしたのかアラミサキは、ホスト達に【スクカジャ】を掛けている。

 

 傷は直ぐ様ジャネットの【メディラマ】でだいたい治ったが、範囲攻撃で薙ぎ払おうにもガブリエラもバビロンも衝撃弱点であるし呪殺主体のアリスではこの連中には効果が薄くじり貧となるだろう。

 こうなればベルセルクでと思いカードを取り出した所で、どこからか声がした。

 

『こうも早くワシの力が必要になっとるようじゃの。

 ほれ、ワシとも何か縁の深いその娘っ子に力を分けようぞ。

 この、マーラ・パーピーヤスの力を』

 

 声がすると同時にカードの絵柄が変わり、そのカードを差し込むと姿が変わる。

 

『Warning,Warning.UNPLANNED EVOLUTION』

 

 その姿は、どこかで見たことのある薄い紫の髪をした豊満な少女の肢体を、四肢と申し訳程度に身体を覆う紫の薄衣に蓮の花を思わせる黄金の飾りで身体の重要な部分を覆う衣装をしている。巨大なヴァジュラは無いが金色で装飾された弓を持ち、足元にいるはずの蓮の花を背中に出した赤と緑色の鸚鵡はここには邪魔なのでいない。

 それは、某ゲームにおける彼女の高校生くらいの姿をしている【秘神カーマ】である。

 自分の姿を見下ろし、彼女はニヤリと笑う。

 

 

『ああ、ベルセルクも悪くないですが、ようやく私本来の姿になれました。

 これでパールバティーより私の方が役に立つと、よりお父さんに示すことが出来ます。

 ありがとうございます、マーラ様。

 それで、この人たちを屠ればいいのですよね、お父さん?』

 

「存分にやりなさい。ジャネット、援護を!」

 

「は、はい。もう、また違う姿ですか、マスター。【ラスタキャンディ】!」

 

 

 男の姿から扇状的な堕天使のガブリエラを経てさらに扇状的な姿の少女であるカーマに変わったことで、カーマの姿に見惚れて動きが止まっていたホストインキュバス達にキレたアラミサキが金切り声を上げて叫んだ。

 

 

「何を見とれているのよ、あんた達はァァァ! 私達に傅くのが生存価値の癖にィィ!

 若い女だとすぐにそっちを向くのは雄の悪癖ィィィ!

 しかも、男が女に姿を変えるようなこんな性犯罪者がいるなんてキモくてゾッとする!

 おまけに、オタクに媚びるような格好で奇形の巨乳なんて耐えられない!

 あああ、余りにも気持ち悪くて、怒りに震えて、涙が止まらないわ!」

 

『こっちの方が気持ち悪いです。

 独りよがりの妄想を他人に押し付けるのは止めてくれません?

 いくら私が愛の神でも、貴女みたいなのには売り切れです。【チャージ】』

 

「何をしているの、あんた達ィ!

 ゾーニングも出来ないようなオタクの産物をさっさと消しなさいィ!」

 

 

 弓に複数の矢をつがえて構えるカーマとキレて叫ぶアラミサキ。

 両方を見比べて、やってられないとばかりに姿を消すホストインキュバス。

 自分たちを庇ってくれていたホスト達が消えてオロオロとするチュレル。

 そんな様子に関係なくスキルを放つカーマ。

 

 

「重たいのあげますね、【天扇弓】!」

 

「「「いやああああ」」」

 

「ちょ、ちょっと、あ、あなた達」

 

 

 【銃ブースタ】と【銃ハイブースタ】と【チャージ】が乗った大威力の全体攻撃の矢の雨が彼女らに撃ち込まれ、チュレル達はあっという間にマグネタイトの粒子に変えられた。

 1体だけ銃無効を持っていたため無傷のアラミサキは、周囲をキョロキョロと見回すとまだ弓を向けているカーマに猫なで声で話しかける。

 

 

「ね、ねぇ、貴女、愛の神なんでしょう?

 それなら『愛の矢』を使うべきなのは、私のような優秀な思想と能力を持った女性で当然でしょう?

 だって、愛でなく性欲なら男同士で解消してればいいんだし。

 それに、私は貴女の弓は効かないわよ。

 ほら、そんなクソオスとは縁を切って私と行きましょう?」

 

「…………【魅了の神弓】」

 

「ギャアアァァァ!」

 

 

 発言内容と話しかけ方が虫唾が走るように感じたカーマは、無言で万能属性の矢でアラミサキの右目を吹き飛ばし、貫通した矢はそのまま背後の奥にあったステージ上のシャンパンタワーを粉々にしている。

 ジャネットは彼女の邪魔をしないように、いつでも動けるようにはしながらも近くの椅子に座ってその様子を見ている。

 アラミサキは目を押さえながらヨロヨロと後ろに下がると、背後の方に叫ぶ。

 

 

「も、もっとボトルを入れるわよ!」

 

「……………で?」

 

 

 今の言葉が召喚の合図だったのだろうか?

 ただ、ホスト姿のインキュバス達は現れない。

 つまらなそうにそれを見たカーマは吐き捨てるように言う。

 

 

「シヴァの邪魔をするように言ってた連中みたいね、あなた。

 自分が常に正しいと思いこんでいるんですもの。

 ダメ人間は好きだけど、貴女みたいなのはゴメンだわ。

 さよなら、【魅了の神弓】」

 

「イギャアァア!」

 

 

 カーマはもう一方の目を消し飛ばし、もう一度心臓に打ち込んでアラミサキにとどめを刺した。

 

 

 

 アラミサキが消えた場所の床にここの鍵が落ちている。

 柄の部分が円になっており外側に十字架の女性のシンボルだが、丸の中央に握りこぶしが十字から突き出るように描かれているのは何かのマークなのだろう。

 扉の方はステージの衝立てを倒すと裏側に隠すようにあった。

 何の変哲もない鉄のドアで上に非常口と書かれた緑のプレートがあるだけである。

 

 身体の主導権を戻してドアに近いソファに座り、普通のチャクラポットを取り出して飲みMPを回復させる。

 周囲を見渡すが、既に閉店して何年も放置されたかのような様子の廃墟の店のようになっている。

 近くに座っているジャネットから話しかけられる。

 

 

「マスター。それがベルセルクから変わった新しい姿ですか?」

 

「そう、秘神カーマだよ。

 インド神話で、社長の夫婦仲を取り持つように上司に強要されて社長に愛の矢を撃ったらビームで体を灰にされた愛の神さま。

 桜に転生していた元男神のもう一人の女神様だね。

 カーマ自体が高レベル過ぎてベルセルクに変異していたようだけど、近しいマーラ様の力を取り込んでこの姿になれたみたいだ」

 

「ベルセルクにはもうなれないんですか?」

 

「いや。その辺は切り替えが効くみたいで同一のカードでも大丈夫みたいだ。

 ここ最近では彼女が切り札になっていたから愛着もあるしね」

 

『そう言ってくれるのは嬉しいのですが、カーマの姿になった以上こちらがメインですから。

 それにしても私のこの姿に成れるくらい急激に強くなっていますよね、お父さん。

 不思議ですが、何故そんなに強くなろうとしているんです?』

 

「もちろん、カーマやカードの仲魔の皆も含めた家族を守るためだよ。

 少なくとも、君たちから別れを言われるまではね。

 だから、バビロンやガブリエラとの関係を受け入れるにしても、まず一度家に戻って葵たちとの挨拶と相談をしてからだね。自分の一番の妻は、葵だから」

 

『ふむ、ふむふむ。そういうつもりなんですね?

 じゃあ、「お父さん」の呼称はパールバティーと被るので、以後は私も「マスター」と呼びますね。

 シュリンガーラヨーニ、煩悩無量誓願度、と。うふふふ♪』

 

「? 別にかまわないけど?」

 

「はあ、これは戻ったら色々相談しないといけませんね。本当に」

 

 

 機嫌の良くなったカーマと頭を抱えているジャネットに不思議に思いながら、しばらくの静かな休憩は続いたのだった。

 

 

 

 

 

 おしゃべりしながらの休憩もこれで終わりでいいだろう。

 このカーマの姿は見慣れないために奇襲になるかもしれないので、この姿のまま次のエリアに向かうことにする。

 既にかなりの数のボスクラスの連戦だったのだ。 

 そろそろ終わりも近いだろうとそう考えながら次のエリアへと移動すると、闘技場のようなそのエリアでは地面に倒れ伏した者とそれにとどめを刺そうとしている男が居た。 

 その男は、以前会った時のように目出し帽と警察の特殊部隊によく似た装備していた。

 そして、こちらに気づくと声を掛けてきた。

 

 

「誰だ? ……ああ。そっちのお人形は見覚えがあるな。

 新しい女の姿か、マスオニキ?

 相変わらず、お盛んな事で結構だ」

 

「久しぶりだな、アルファ。いや、卑劣ニキ。

 もう会いたくはなかったんだが」




あとがきと設定解説


・回復睡眠薬【レストインピース】

ガイア連合の制作班で主に使用されるサトミタダシで販売中のお薬。
1回分服用し1時間寝るだけで、HPMPが回復し3時間分の睡眠が得られる。
副作用? マッスルドリンコよりは安全ですし、直ちに害はありません。

・「ジャッポス」

「日本人の雄」のこと。「ジャップ」と「オス」を混ぜたある人たちの造語。

・掛け声

実際のお店でもよく使われているらしい「コール」。

・【狂神アラミサキ】

幸原みずきの変わり果てた姿。漢字では「荒御前姫」。
レベルは、52。耐性は、銃無効、破魔無効、呪殺無効、精神状態異常無効。
スキルは、ベイバロンの気、ヒステリービンタ、闇討ち、スクカジャ。

・【幽鬼チュレル】

彼女の取り巻きの変わり果てた姿。
レベルは、24。耐性は、破魔弱点、呪殺無効、魅了無効。
スキルは、吸魔、マリンカリン。

・【夜魔インキュバス】

マグネタイト目当てにホストの擬態をして召喚に応じていた。
レベルは、23。耐性は、電撃弱点、衝撃耐性、破魔無効、睡眠無効。
スキルは、ガルーラ、地獄突き。

・【秘神カーマ】

ベルセルクの姿からマーラ様の力を吸収して進化した。可変可能。
レベルは、72。耐性は、物理耐性、銃無効、火炎弱点、破魔無効。
スキルは、天扇弓、魅了の神弓、チャージ、銃ブースタ、銃ハイブースタ、火炎無効。


アラミサキの発言のトレースは語彙は多いが精神的に辛かった。

次回は、卑劣ニキとの対峙。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第四十九話 決戦の幕開け

続きです。

今回は、決戦前の口上回。


 

 

  第四十九話 決戦の幕開け

 

 

「誰だ? ……ああ。そっちのお人形は見覚えがあるな。

 新しい女の姿か、マスオニキ?

 相変わらず、お盛んな事で結構だ」

 

「久しぶりだな、アルファ。いや、卑劣ニキ。

 もう会いたくはなかったんだが」

 

 

 目の前に、以前会った時のように目出し帽と警察の特殊部隊によく似た装備をした卑劣ニキが立っている。左手はマジックストーンを持ち、右手には自動拳銃が握られて床に倒れ伏す男に向けており、こちらに話しかける時も射線を外していない。

 

 周囲のエリアは先程の店とよりやや広い大きさがあり、エリアの外周は腰までの高さの白い石の壁が並び彼らはその中央にある石で出来たどこぞの少年漫画の武闘会のステージの上にいる。舞台の向こう側とこちら側に、同じような周囲の壁の一部となっている金属製の扉があるのが見える。

 近づいてよく見ると倒れ伏しているのは、豹頭人身でマントをし離れた所に2本の剣が転がっている男で麻痺しているのか身動きもできないようだ。

 もしかして、こいつはあの時の【堕天使オセ】ではないか?

 こちらに視線を向け、気づいたオセが卑劣ニキに話しかける。

 

 

「ちっ、貴様……よくも……誇りはないのか?

 口上も無しに……麻痺させて……仲魔を呼ぶとは……つまらん奴だ。

 これなら……まだあの痴女ベルセルクの……方が敵としてマシだ」

 

「害獣駆除で正面切って闘うのは馬鹿のすることだ。

 便利な道具や罠があるなら、使う方が利口だろう?

 お前は、一度死んだんだ。早く死ね」

 

 

 そう言うと持っていた自動拳銃で、淡々とマガジン1本分を頭部に叩き込んでオセを始末してしまった。

 そして、左手のアイテムをポケットにしまうとホルスターに銃を収め話しかけてきた。

 

 

「なるほど、我々より先行しているはずなのに遅れてくるのは面白いな。

 しかも、出入り口は共通か。

 興味深いが、奥に行く方が先だな。マスオニキ、同行するか?」

 

「その前に説明できることはして欲しい。

 こちらは突破はして来たが、情報が足りない」

 

「ああ、それもそうだな。

 おっと、怖い顔をするなよ、そこのシキガミ。

 お前もシキガミなら主の意に従うことだ。

 人間だって組織で働くと、自分の感情は抑えるものだ」

 

「…………そうですか。分かりました」

 

 

 不愉快気なジャネットの肩を軽く叩き、彼を見たくないようなので周囲の警戒を頼む。

 自分もドッペルゲンガーに姿を変え、話をする事にする。

 

 彼の説明によると、こうである。

 彼の率いるチームフォネティックも自分から遅れること約1時間ほどで船に到着し、現場の指揮をしていたダンボールニキから難民の方はほぼ沈静化したと聞いたそうだ。

 だが、突入していった色っぽい堕天使のシキガミ(自分のことだろう)が戻ってこないと言うので、メンバーをここの応援に残し自分とは別の入口から突入したと言う。

 ズレた時間については戦い方が違うからと言い、敵対した悪魔については過去の作戦の機密に触れるからと口を閉ざされた。

 

 自分の方も説明する。

 こちらに来た経緯や敵対した悪魔の能力などを、こちらの実力や能力については全て省いて説明する。

 敵対した連中には彼が絡んだ件もあるし、そもそもガイア連合向けの詳細な報告書は山梨に上げているので彼の立場なら見れるだろうと思いその点については詳細に説明した。

 髪の色が変わったことや先ほどの姿についても彼に聞かれたが、「自分の手の内を得意げに晒すつもりはない」と突っぱね不満気だったが聞くのを止めさせた。

 

 お互いの説明も終わり、オセが落としたらしい柄に交差する剣が描かれた鍵を持ち卑劣ニキは尋ねてくる。

 「同行するのか?」、と。

 彼とはとことんに折り合いや相性が悪いし人としてはあまり信頼できないが、戦力的な事や自分の消耗を考えると同行者としての実力は信用できるのだから同行して奥に行く方がいいだろう。

 同行することに頷き、鍵を使い扉を開け先に進む彼の後をついて自分たちも次のエリアに移動した。

 

 

 

 そこは今までで一番広いエリアだった。

 一番奥には両開きの一軒家程の大きさの赤く光る扉が彫刻の施された石の柱と共に鎮座している。扉の上空には6角形の回転する黒い石柱が浮かんでおり、石柱の表面には赤く光る幾つもの漢字が彫りつけられている。

 そして、はるか上空にある渦から降り注ぐ赤い無数の光の欠片を集めて、扉へと導き吸収させているようである。

 

 周囲には、白い石畳と古い石で出来た廃墟が立ち並んでいる。

 扉の向かって右側には黒い神父服を着た黒髪の男が座っており、反対側には身体の右足から背中が樹木に変化した白色の髪の全裸の女性が立っている。

 その女性は正気を失っているようで、目の焦点が合っていない。

 

 自分たちは、彼らと10メートル程離れた所まで行き立ち止まるが、卑劣ニキはさらに進み彼らと自分たちの中間で立ち止まり振り返った。

 こちらの様子を見ていた神父の方が立ち上がり、こちらを見ながら彼女の方へ歩いていくと無造作に乳房を掴み揉みしだき始めた。

 「ああ、ああ」と、声にならない声を上げている彼女。

 訝しげに見ている自分たちに、神父はよく通る低い声でこちらに話しかけてきた。

 

 

「ほう、好色と聞くだけあって彼女が気になるのか?

 まあ、彼女も君とは面識があるから気になるのだろうが、暇つぶしにはちょうど良いぞ。

 良ければ、抱いてみるかな?」

 

「いらん」

 

「こっちも結構だ。

 それより、その女性は自分と面識があると聞いたが誰だ?」

 

「分からないかね?

 君とは彼女が造った屍鬼に手酷い目にあっただろう?」

 

 

 もしかして、物理反射を無視して攻撃してきた拳法家の屍鬼のことだろうか?

 あの時、すぐにいなくなったのでよく覚えていない。

 自分たちの微妙な態度が分かり、つまらなそうに彼女から手を離すと話しを続けるようだ。

 

 

「何、演劇なら悪役が主人公の知らない悪だくみを説明する場面なのだが必要かね?

 それとも、あの扉のことなどどうでも良くすぐにでも殺し合うというのなら、私はそれでも構わないが?」 

 

「言峰綺礼、それではわざわざここまでこいつを案内した意味がないぞ。

 こいつは、既に俺より力量だけなら上だ。

 おまけに、お前の同僚から変身能力を授けられているんだ。

 観客にするにしても説明してやる必要はあるぞ」

 

「それもそうだな。

 ふむ、見れば、彼も我らと同じ『出来損ないの模造品』のようだ。

 いや、原典からすると彼は成功した方かもしれないな」

 

「なあ、卑劣ニキ。

 ガイア連合を裏切って、こいつの手先にでもなったのか?」

 

 

 そう尋ねると、卑劣ニキは心底可笑しいとでも言うように笑い始めた。

 神父の方も、楽しそうに笑っている。

 

 

「ははははは。面白いことを言うなぁ、お前は。 

 俺は、ガイア連合を裏切ってなどいないさ。

 俺は傭兵で、最初から雇用主がこいつと言うだけだ」

 

「そうだとも。

 彼にとっては、私もガイア連合も取引先というだけだ。

 こちらの提示する報酬でもって雇っているのだとも」

 

「報酬?」

 

「これを使う事だ」

 

 

 卑劣ニキは、背後にある巨大な扉の魔力装置を親指で指差した。

 そして、おもむろに目出し帽を外し顔を現した。

 白髪に赤い目の整った男性の顔であるが、彼は何かを諦めた笑みを浮かべると語り出した。

 

 

「お前は、生まれてきたのを後悔したことはないか?

 いや、ある意味幸福なのだから、お前はないだろうな。

 『千手扉間』。

 この俺にそっくりだという忍者漫画のキャラだとさ。

 前も今も漫画なんぞ読みもしなかった元警察官僚の俺が、そんな物知るわけがないだろう!

 この顔から転生者だとばれ、訳の分からない儀式で覚醒させられ、この世界がゲームによく似た世界だなどと言われて、おまけに『世界の終末』ときた。

 水遁? 避雷針? 江戸転生? そんな訳の分からない術など使えるものか!

 これが怒らずにいられるものか!」

 

 

 彼の独白を楽しげに聞いていたが、続けて神父も語りだす。

 

 

「そう、その男こそが今のこの分岐した世界を生み出す原因となった男だ。

 その名を消された男の行動が、あの宰相の憩いの場を作る手伝いをし、この男と私を結びつけた。

 彼の脳は私の君たち転生者に関する知識の源となり、彼の肉体が四大天使を変質させた情報汚染する弾丸の材料になり、そして彼の魂は散逸し名は忘れ去られた。

 彼に感謝したまえ。

 彼がいない世界では、君は父親の手で家族諸共アメリカのメシア教に消費されるか、日本の異界で今の君の妻と共に人知れず悪霊の呪殺で死んでいただろう」

 

「その男は戦後に生まれた『俺たち』の第1世代だった。

 俺をこの世界の真実に引きずり込み、その礼としてそこの言峰綺礼に渡してやったのさ。

 もともとお節介が過ぎて仲間内でも嫌われていたから、簡単だった。

 家族でさえも居なくなっても誰も気にしなかったからな」

 

「宰相がこの世界で拠点を作り、それに惹かれて私が『言峰綺礼』として転生し、降臨した四大天使が変質したことでこの世界は完全に分岐した。

 そして、もう一度この世界を変えうる可能性を持っているのが、この望んだ過去へのアカラナ回廊の道を繋げられる『扉』だ」

 

「俺の望みは過去へと戻り、メシア教に日本の霊能組織と神を根底まで破壊させ、転生者などという巫山戯た代物が生まれて来なくすることだ。

 これで理解できたか?

 さしづめ、俺たちは世界を破壊する魔王とその幹部、お前たちはそれを止めに来た勇者と聖女の役だ。

 さあ、どうする?」

 

「彼の絶望と苦悩はとても素晴らしいものだ。

 この装置を使うに値する動機だとも。

 私は彼との契約を履行するが、さて、どうするのかね?」

 

 

 いろいろな情報が頭を巡り、一つだけどうしても聞かなくてはならないことがあった。

 それを聞くことで色々と面倒なことになるかもしれないが、心配気にこちらの腕を掴んでいるジャネットに大丈夫だと笑いかけてから尋ねた。

 

 

「何故、自分をここへ呼び込むようなことをした?

 何故、そんな『役』をオレにやらせようとするんだ? 

 答えろ」

 

 

 その神父は『言峰綺礼』の姿をした男は、愉しげに答えた。

 

 

「簡単な事だ。

 あのルキフグスも言っていただろう、偶然そこにお前がいたからだ。

 偶然、全ての条件にちょうどいいお前がそこにいたからだとも。

 分かるか? この世界の『間桐雁夜』。

 原典のお前が恐れた『間桐臓硯』は既にメシア教に処分されていたのはどう思う?

 原典のお前が切望した『禅城葵』の身体は美味だったか?

 原典のお前が憎悪した『遠坂時臣』を殺せたのは嬉しかったか?

 原典のお前が夢見た娘たちは可愛いか?

 原典のお前が誇った狂戦士は今もお前と共にいるようだな。

 どうだ、力も絆も全てを手に入れられた気分は?」

 

 

 クックッと愉しげに笑い、神父は後ずさるこちらの目を見て言い放つ。

 

 

「お前が必死に強くなろうとしていたのは、『家族のため』ではない。

 本能的に恐れていたのだ。『失う』ことを。

 今のお前は、手に入れた夢の宝物を失うことを恐れている。

 認めろ。

 求める物を追い求めて力に溺れ破滅するのは、お前の宿痾で運命だ」

 

「あ、あああああ」

 

「マスター!?」

 

 

 多すぎる情報量と巻き込まれるトラブルの理不尽さとよく分からない焦燥に苛まれ、頭を抱えて膝をつく。

 支えてくれているジャネットの言葉も耳に入らず、力が抜けていく。

 その様を見ていた神父と彼は、愉しげに談笑する。

 

 

「どうかね? 私流の説法と切開は。

 仮にも私は、『神の悪意』で『神の毒』でもあるサマエルだ。

 なかなか堂に入った言葉の毒だとは思わないか?」

 

「こいつがこのままでも、手間が省けるだけで予定に変更はない。

 それでこれはいつになったら使えるようになる?」

 

「時間が掛かるが、もうすぐだ。

 何しろこのタンカーの艦底のドックにあった小型潜水艦に、デイジーカッターとバンカーバスターと二液混合型爆弾を混ぜた狂気の産物を乗せて海底の例の地点で爆発させて地震を起こしたのはいいが、例の知識にあるほど被害がなくマガツヒの集まりが悪い。

 少し待つといい」

 

 

 彼らが会話のため視線を外した隙に、ジャネットがホルダーからカードを取り出しデビルズアブソーバーのスロットに入れた。

 

『Warning,Warning.EMERGENCY FUSION』

 

 姿が変わり、黒い6枚の翼を広げ、怒りに顔を歪ませるガブリエラが立ち上がった。

 少し驚いたようだが、笑みを浮かべてこちらを見る二人。

 

 

「ほう、マスオニキはいつの間にメシア教会のシスターに姿を変えられるようになったんだ?

 しかも、なかなかそそる姿じゃないか」

 

「これはこれは、久し振りではないか。シスターギャビー。

 その姿は、宗旨替えかね?」

 

「減らず口を!

 お前たちがミカエルに私の居場所を教えたのは知っているのですよ!

 よくも、教会の皆を死なせるようなことをしてくれましたね!?

 その上、マイロードにも毒を流し込むとは!」

 

「ほう、『マイロード』とは。

 あの情報汚染の弾丸でただの女になったかと思えば、グリゴリのようにニンゲンを愛して堕天するとはお笑いだ。

 しかも、肉体を失いその男と融合するとはとても愉快だ」

 

「余計なお世話よ。

 私の友人でもあった彼女たちの仇でもあるのだから、覚悟なさい!」

 

「彼女たち?

 ああ、天使の羽根を埋め込んだ一緒にいたシスターたちか。

 天使化するようにラジオで音波を流したことが気に入らないのか?

 もともとこの船は、過激派の連中の実験施設船なのだから試してみただけだが」

 

「その辺の事は我々にも聞く権利があるわ、サマエル!」

 

 

 その女性の声が響くと、それに合わせて大勢の賛美歌が聞こえてきた。

 そして、赤く雲が渦巻く空の一角にヒビが入り砕け散った。

 空から白い羽根が舞い無数の白い翼の天使たちが現れ、その中心からリーダーらしき女性が現れた。

 その女性は、4枚羽根で腹部に正面が男の顔、右が雄牛、左に獅子の顔があり両足が機械の鷲の姿の天使の上に乗り、首元から胸元が露わになった顔の下半分が隠れる大きさの襟の白い餃子のようなボディスーツの服を着てこちらを見下ろしている。

 そして、こちらによく通る声で叫んできた。

 

 

「わたしは、【審判者メアリー・スー】。

 かの偉大な大天使マンセマット様に見出され、使徒としてこの地へと来た。

 答えよ。

 この船は本来は在日米軍の監視下に置かれ、日本メシア教が管理するはずだった。

 どの様な詐術を持って奪い取った?

 答えよ。

 襲撃を受け、行方不明だったガブリエルがその姿でここにいるのかを。

 主の御名に於いて疾く、答えよ」

 

「貴様に答える必要はない。

 失せるがいい、天使の傀儡人形よ。

 貴様らにくれてやる物など何もない」

 

「私は……」

 

「貴様には聞いていない、大天使ガブリエルの出来損ない。

 いや、ガブリエルの名を名乗るのも烏滸がましい。

 貴様はこれより、【堕天使ハモン】だ。

 その場に伏して、神の誅罰を待つがいい」

 

 

 答えようとしたガブリエラに審判者気取りの女は冷たくそう答え、サマエルを指差し天使達に攻撃の下知を下した。

 それに対し、サマエルと卑劣ニキも戦い始めるため、門の側の木の女性にも声をかける。

 

 

「起きろ、スクーグスロー。

 貴様の作品共の出番だ」

 

「あ、あアあぁあアァあア!」

 

 

 サマエルがスクーグスローと呼びかけた女性が叫びだすと、周囲の瓦礫が崩れ中から屍鬼の群れが現れる。そして、そのまま天使の群れに麻痺させる唸り声や呪殺呪文が飛び、天使達からも破魔呪文や万能呪文が飛び群れ同士の戦闘が始まる。

 しばらくして降下してきた天使の女と乗騎の天使に対し、サマエル、卑劣ニキも戦い始める。

 

 

 

 

 

 悔しげに黙っていたガブリエラから身体の主導権を戻し、ドッペルゲンガーの姿になる。

 もはや自分を無視して戦い始めた連中を見て思う。

 もういい。連中の言う事や都合はどうでもいい。全部殴り倒してあの扉も壊して家に帰ろう。

 驚いているジャネットに合図を出す。

 自分もカードを取り出し、姿を変えた。




あとがきと設定解説


・『彼』

生前は、ソシャゲが趣味で重課金しても許される裕福な家の中学生。
無駄に明るく、無駄に行動的で、致命的に周囲の空気が読めない性格だった。
こちらに来ても変わらず行動し、オーナーや赤城と友人になり研究所の設立に協力した。
最期は、卑劣ニキを無理やり善意で地方の組織で覚醒させた後、彼によって生きたままサマエルに引き渡された。

・「四大天使を変質させた情報汚染する弾丸」

転生者の肉体と魂を加工し、情報生命体の悪魔に深刻なミーム汚染を起こし突然変異させる弾丸。
今回の『彼』の場合、「過去の全ての存在を彼が好きだったソシャゲの美少女にする」である。
そのため、ミカエルを除く三大天使は依代の容貌もスキルや能力も分霊の意識も含めてそれらしくなるように突然変異した。
作り方は、某這い寄る神から。

・「デイジーカッターとバンカーバスターと二液混合型爆弾を混ぜた狂気の産物」

「放射能汚染しない核爆弾」を目指して何故か出来た狂気の産物。
開発者は「主の天啓」と言うが、違うだろう。ナイア神父も引いた。
2発作られ、1つはエジプトで処分がてら使用された。

・大型タンカー「ギガンテック」

大型タンカーに偽装したメシア教過激派の実験施設を乗せた船。
艦底に脱出用の潜水艦を係留したドックがある。
動力は、試作型のプラズマ動力炉。

・【妖樹スクーグスロー】

元はサマエルに捕えられた中国人女性の屍鬼作製術師。
逃亡防止の為、悪魔に変えられた。
レベルは、19。耐性は、火炎弱点、衝撃耐性、破魔耐性、呪殺耐性。
スキルは、タルカジャ、八百万針、屍鬼作製。

・【堕天使ハモン】

「イザヤ書」10:13についての聖ヒエロニムスの注解によれば、ハモンは天使ガブリエルのもう1つの名である。出典:『第3エノク書』;ギンズバーグ『ユダヤ人の伝説』Ⅵ


次回は、決戦開始。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第五十話 決戦開始

続きです。

今回から、戦闘開始。


 

 

  第五十話 決戦開始 

 

 

「それで、マスター。

 意気込んだのは良いのですけど、どっちを先に殺りますか?」

 

「サマエル共だ。

 突然、自分にしか分からない御託を並べて、訳の分からない理由で災害を引き起こし、意味のない装置を自慢し、自分をこんな所に連れ出した、自分に酔った大馬鹿野郎どもだ。

 穏健派みたいだから、襲ってこないなら天使側は無視!」

 

「了解です。

 アナライズ。サマエルは電撃弱点、破魔・呪殺反射。

 あの男は、破魔・呪殺無効。

 壁になってる2体の【屍鬼コープス】は火炎と電撃が弱点で、銃・氷結・破魔・呪殺耐性です」

 

 

 ディスポイズンの空き容器を投げ捨てて、ジャネットに答える。

 自分がこの世界の間桐雁夜だとか、葵がこの世界の遠坂葵とかそんな事はどうでもいい。

 得意げに上から目線で自分理論とマイルールを語るのは、前の世のクソ上司だけで充分だ。

 ただでさえ、地震で家や勤め先が大変なことになっているのに、妄想を垂れ流された上におかしな真似までされてもうまともに付き合う気も失せた。

 まずは、手数を増やそう。

 

 

「【サバトマ】、アリス! そして、バビロン!」

 

『Warning,Warning.EMERGENCY FUSION』

 

「あー、ごほん。頑張るわ、マスター。【絶対零度】!」

 

「これが、返答だ。【マハジオダイン】!」

 

 

 この場に似つかわしくない青のワンピースドレスを着て大きな絵本を持ったアリスが、赤い顔でサマエル達に範囲氷雪魔法を放ち、自分はもっと似つかわしくない紐水着のバビロンになり全体電撃魔法を叩き込む。

 こちらの攻撃に驚くサマエルと困惑する天使達。

 こっちには攻撃を当てて来ないのを理解したのか、天使達は攻撃を続けるようだ。

 

 

「ふん、その姿は気に食わないけど、味方をするのなら今は見逃してあげる。

 滅びろ主の敵よ、【メギドの雷火】!」

 

「【MA・HANMAON】」

 

 

 メアリー・スーの方から全体に降り注ぐ閃光のような電撃が、足元の天使は全体破魔魔法を放った。

 サマエル達の前衛だった屍鬼コープスは、電撃のダメージと破魔への抵抗に失敗し2体とも消え去った。

 サマエル達もかなりのダメージを負うものの、致命傷を負った卑劣ニキは取り出した宝玉で全て回復している。

 あれって、ガイア連合だと販売最低価格1250マッカするんだよな、魔石は5マッカなのに。

 生き残るのに必死な卑劣ニキを他所に、体のあちこちが焼け焦げているサマエルがこちらを見て叫ぶ。

 

 

「何故、動ける!?

 お前の情報を洗い、お前の知らぬ大量の情報と共にお前に合う『設定』という俺の『毒』を精神に流し込んだはずだ!

 天使共の横槍を排除した後、貴様も従順な手駒と出来たものを!」

 

「元々自分は精神状態異常は無効だし、自身で得意げに毒だ毒だと言っているんだから毒消しくらい飲むだろう?

 言葉と臭い息だけで『思考誘導する毒』を受けさせるとか、シャレにならないけどな」

 

「ニンゲンのくせに、玩具のくせに、俺の馬鹿にし否定するだと!?

 アダムやこの男のように愚かでいれば良いのだ!

 もういい、お前らに合わせたこんなガワなどいらぬ!

 俺の力を見るがいい! 【神の悪意】!!」

 

 

 そう叫ぶとサマエルは、『言峰綺礼』としての姿から体長数十メートルはある6枚の皮膜の羽根を持つ巨大な赤い蛇の姿である【邪神サマエル】へと姿を変え、天使達や自分たちへとエリア全体を覆うような巨大な赤い霧を放って来た。

 強力な万能属性のダメージに加え、様々な状態異常を付与するようだ。

 屍鬼の群れと戦っていた天使達が、ある者は威力で力尽き、ある者は状態異常で動きが止まったところを屍鬼に捕まり潰されるなどして数を減らしている。

 こちらでも、麻痺と魔封を食らったらしいメアリー・スーが乗騎にしていた【天使ケルブ】が一緒に地上へ落ち、メアリー・スーも負傷してふらついている。

 負傷はしているもののしっかりと立っているのは、状態異常に対策している自分たちだけのようだ。

 周囲の混乱に注意を向けた隙に、卑劣ニキが走り寄ってきた。

 

 

「あの扉を使うのは俺だ! 

 邪魔をするなら、お前らも死ね! 【刹那五月雨撃ち】!」

 

「ちっ!」

 

「マスター! 【メディラマ】!」

 

 

 自動拳銃でスキルを込めた乱射をし、左手でマハザンストーンをこちらに放る卑劣ニキ。

 その攻撃に正面から突っ込み、赤い竜に変えた右足で胴を蹴り飛ばす。

 自分の横に走り寄っていたアリスもスキルを放つ。

 

 

「この、【ソウルドレイン】!」

 

「がああああ!」

 

 

 蹴り飛ばされながら、アリスのディアラマと遜色ない回復量の万能吸収魔法を食らう卑劣ニキだが、膝を付きながらもこちらを睨んでいる。

 

 

「力を貸してください、主よ。【ライトハンド】!」

 

「GUGOGOGO」

 

 

 メアリー・スーの叫び声がして、突き上げた右手に光が集まる。

 すると傷も癒え、前よりも力強く動き出すメアリー・スー。

 自身が動けず、悲しげな声を上げるケルブに声を掛け、サマエルに物凄い速さで突っ込んで行く。

 

 

「そこで見ていてね、お父さん。

 滅びろ、邪悪なる蛇め! 【断末波】!」

 

「天使の傀儡が! 【猛反撃】!」

 

「く、くそ。【ピュアブルー】」

 

 

 周囲を薙ぎ払う衝撃波を伴う拳の一撃と赤い巨大な蛇の尾が激突する。

 その余波を喰らい、回復スキルを使っている卑劣ニキ。

 天使達との戦いに余裕ができたのか、また屍鬼コープスが卑劣ニキの近くに現れる。

 こちらににじり寄るコープスにスキルを放つ。

 

 

「マスター、【ラスタキャンディ】です」

 

「これで、【マハジオダイン】!」

 

「【絶対零度】!」

 

 

 2つの攻撃スキルを喰らいダメージで動きが止まるコープスだが、コープスの影にいたはずの卑劣ニキの姿がいない。

 不意に後ろに姿を現した卑劣ニキが、ジャネットを目掛けて銃を撃つ。

 

 

「【トラフーリ】! 回復役の人形が死ねばぁ! 【刹那五月雨撃ち】!」

 

「相性って大事だよな。この世界だと」

 

「ぐはっ、があっ!」

 

 

 とっさにデビルズアブゾーバーからバビロンのカードを抜き、射線上に立つ。

 ドッペルゲンガーの銃反射で、スキル込みの乱射を自分で受ける卑劣ニキ。

 怪我を負いふらつくも、銃は手放さずに左手でポーチからなにか取り出そうとする。

 すかさず右から回り込んだアリスが腰の入った左の拳で背中から肝臓の辺りを殴って動きを止めると、ジャネットが鉄杖で左腕を痛打し掴んでいたものが床に転げ落ちる。

 2人して笑い合っているが、アリスに何を教えているんだかジャネットは。

 

 それでも、よろけながらこちらに銃を向ける卑劣ニキ。

 門の近くで乱闘を続けているサマエルとメアリー・スーの音を聞きながら、彼の前に立つ。

 

 

「ぐふっ、もう少しで転生者共を消せるのに、何故邪魔をするんだ?」

 

「邪魔も何も卑劣ニキ、それはな……」

 

「俺をその名で呼ぶな! 俺は、…」

 

「アリス、葬送ってくれ」

 

 

 頷いたアリスが彼の前に出てくる。

 彼女の顔を見て、笑う彼。

 

 

「俺でも聞いたことがあるぞ、魔人アリス。

 言っておくが俺に呪殺は効かないぞ。はは、残念だったな」

 

「安心してくれ、もし後で回収できたら蘇生してやるから。

 それと、うちのアリスの呪殺はな。

 1日に1度だけど、敵単体に呪殺属性の貫通を得た魔法型ダメージを与えて、死亡時に踏みとどまるスキルを無視して100%の確率で即死させるんだ」

 

「は? 待て、おい…」

 

「じゃあ、【死んでくれる?】」

 

 

 派手なエフェクトもなく、アリスの手から飛んだ黒いナイフが彼の身体を貫くと崩れるように彼は倒れた。確認しても、完全に死亡している。

 遺体はとりあえずそこにある廃墟の陰に置き、次はサマエルの対処に移ろう。

 彼が落としたメギドストーンを拾って、今だにタイマンを続けている門の方へ移動した。

 

 

 

 途中でかく座したままの天使ケルブを見つける。

 今だに状態異常が解けないらしく、何か唸っている。

 この船のあれこれの後処理を穏健派らしい彼女らに面倒なので押しつけるのも手だと考えるが、ふとある事を思い出した。

 確か、あの女性は「マンセマットに見出された使徒」と名乗っていたはずだ。

 あのストレンジジャーニーのロウエンドで彼の言う通りにクリアすると、高層ビルのように巨大な女性の聖なる柱に白い服を着て神への賛美歌を歌い続ける日々が人類に待っていた終わりだった。そして、あのメアリー・スーと言う女性が着ている服は、その柱になったゼレーニンの服そのままである。

 おまけに、そこで動けないままの天使ケルブを「お父さん」と呼んでいたが本当に実父なら完全にアウトだろう。

 駄目だ。過激派の分派みたいなものじゃないか。

 幸い、ここはサマエルがボスの異界である。彼が悪かったことにしよう。

 ジャネットに話しかける。

 

 

「ジャネット、天使側のアナライズは出来た?」

 

「はい、大丈夫です。

 天使ケルブが、電撃弱点、衝撃反射、破魔無効、呪殺無効。

 あの女性の方が、銃耐性、電撃反射、衝撃弱点、破魔と呪殺無効です」

 

「そこの彼は動けない?」

 

「かなり強力な麻痺と魔封のようですので他者が治療出来ないと無理ですね」

 

 

 周囲を見ると、自己回復しか出来ないらしい彼女はサマエルとドツき合っているし、屍鬼の群れとの戦いに忙しい他の天使はいない。

 無駄に高レベルのようなのでとどめを刺すのも手間である。

 放置することにしよう。

 ケルブは近づいたこちらを訝しげに見ているが、ジャネットに門を指差し無視して通り過ぎる。

 こちらに向けて何やら唸っているようだが、そのままそこで見ているといい。

 門の方を見ると、サマエルとメアリー・スーがまだ殴り合っている。

 傷が酷くなると、双方に回復してさらに殴るという事を繰り返している。

 疲れた表情のアリスを一旦戻し、ジャネットとチャクラドロップを飲み走り寄って行く。

 

 

「なあ、ジャネット。あの今にも吹き飛びそうな木の女性は?」

 

「【妖樹スクーグスロー】ですね。

 耐性は、火炎弱点、衝撃耐性、破魔耐性、呪殺耐性です」

 

「確か彼女、サマエルが元は屍鬼を作成する術師だったって言ってたよね?」

 

「そうですね」

 

「周囲で暴れてる屍鬼の群れって、彼女が死んだらどうなるだろう?」

 

「………」

 

「………」

 

 

 確かめてみることにしよう。

 1人と1体が文字通りに殴り合いをしている場所に近づくと、お互いがこちらに気づき離れて距離を置いた。

 双方とも息を切らしてハァハァと肩を揺らしているが、こんな行動をする6枚羽根の赤い蛇は初めて見た気がする。

 サマエルの方が蛇なのに舌打ちして先に話しかけてくる。

 

 

「お前ら、契約者を殺したな!?

 あの玩具が死んだ事で契約は破棄され、この異界を造った意味が失われた!

 この扉を作り上げた事で閣下からの不興を買い、ミカエルとの取引の意味も全て無意味となった!

 お前らを殺して肉や魂を噛み砕いても怒りは……、おい、聞いているのか?」

 

「お前たちはここの地のガイア連合の者だと聞いている。

 あの堕天使ハモンについては釈明を……。

 ねえ、ちょっと聞いているの!?」

 

 

 2人が話しかけて来るのを無視し、拾ったメギドストーンとまだ残っていたアギラオストーンを今だに「あアあァア」と呻いているスクーグスローにジャネットとぶつける。

 やる事に気づいてサマエルが邪魔しようとしたが間に合わず、万能魔法と火炎魔法がスクーグスローの身を炭へと変えていく。体が燃えるに従い正気に戻ったのか、彼女はこちらを見ると「ありがとう」と呟き消えていった。

 彼女が消えると同時に、今まで天使とのみ戦っていた屍鬼の群れが同士討ちと共食いを始めた。

 

『Warning,Warning.UNPLANNED EVOLUTION』 

 

 薄い紫の髪をした豊満な少女の肢体を、四肢と申し訳程度に身体を覆う紫の薄衣と蓮の花を思わせる黄金の飾りで身体の重要な部分を覆う衣装のカーマの姿に変わる。

 勝機と見てサマエルに襲いかかろうとしたがこちらが姿を変えたことに驚き、動きを止めたメアリーを尻目に弓を全周囲に放つ。

 

 

「【チャージ】、【天扇弓】!」

 

 

 多数に分かれて飛んだ矢は雨のように降り、ケルブ以外の生き残っていた天使たちを全て貫きマグネタイトへとその身を変えた。   

 こちらを睨み付けるサマエルと目を見開いて驚くメアリーに、あのBBの口調を真似て煽ってみる。

 

 

「あー、ざーんねーん。奮闘虚しく、サマエルの操る屍鬼の群れに哀れ天使さん達は全滅してしまいましたぁ。

 サマエルも、もう少しの所で契約者を乱入してきた天使さん達に殺されてしまいましたぁ。

 これはもう、お互いのリーダーを殺して憂さを晴らすしか無いですねー?

 ねぇ、サマエルさぁん。私の『設定』はお気に召しましたぁ?

 ねぇ、メアリーさぁん。マンセマットに選ばれた不運を呪って死んでくださいねぇ?」

 

「マンセマット様から預かった天使達をよくも! 殺す!」

 

「とことんまで馬鹿にしやがって! 殺してやる!」

 

 

 目を血走らして襲ってくる2体に、笑って対峙する。

 いいかげんこっちの方がキレているんだよ。死ぬならお前たちが死ね!




あとがきと設定解説


・【屍鬼コープス】

屍体が寄せ集まって出来た大型ダンプほどの大きさの塊。
レベルは、30。耐性は、銃耐性、火炎弱点、氷結耐性、電撃弱点、破魔耐性、呪殺耐性。
スキルは、バインドクロー、吸血。

・【死者の群れ】

屍体が寄せ集まって出来たビルほどの大きさの塊で、防衛装置。
レベルは、40。耐性は、呪殺無効。
スキルは、ポイズンクロー、吸魔、バインドボイス。

・【天使の群れ】

マンセマットが率いる天使の一派。
レベルは、43。耐性は、銃弱点、破魔無効、呪殺弱点。
スキルは、マハンマ、メギド。

・【卑劣ニキ】

千手扉間に瓜二つの顔の、この世界をとことん嫌っていた転生者。
こちらでの本名、「千住飛空(せんじゅとびら)」。
『彼』によって覚醒させられる時にトラブルが起こされ、警察でのキャリアが終わった過去がある。
それ以降は、表立って出ずに活動していた。
レベルは、45。耐性は、破魔無効、呪殺無効(装備)。
武器は、主に自動拳銃。他に、アイテム多数。
スキルは、刹那五月雨撃ち、掃射、ピュアブルー(自身のHP回復・能力ダウン効果消去)、トラフーリ、不屈の闘志、魅了無効。

・サマエルのスキル【神の毒】

創世記でアダムを唆したように己の持つ「毒」の権能がスキル化したもの。
「言葉」と共に目に見えない毒霧を散布し、相手を毒状態にして洗脳する。
文字通り、「毒」が回りきるとその「言葉」を疑う事はなくなる。
目に見えるほど濃くなると、ぶどう酒のように赤くなる。
治療や解除にも制限のある厄介な毒。


次回は、決戦の続き。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第五十一話 決戦

続きです。

今回は、真のラスボス登場の回。


 

 

  第五十一話 決戦

 

 

「主よ! 敵を打ち砕く力を!」

 

「充分、馬鹿力だろうに!」

 

「マスター!」

 

 

 レベルではこちらが上回っているはずなのに、この栗色の髪をした金色の瞳の女性は小柄な体つきにも関わらず重く鋭い一撃をしてくる。

 飛んできた右の拳をジャネットの横槍でかろうじていなし、次に来た膝蹴りを右腕で受けながら彼女の腹を蹴り数メートルほど下がる。

 そして、動きが止まった所へ自分たちとメアリー・スーが諸共に潰すように振り下ろされる赤い蛇の尾を全員で飛び退って避ける。

 

 少し、やっかいなことになっている。

 挑発し頭に血が上った隙を突くはずが、引っかかったのは眼の前のメアリーだけである。

 サマエルは殺してやると宣言したのだが、感情の読めない緑の目の蛇の頭でじっと見ながら時々こちらを潰すように尾を叩きつけるだけしかしない。

 メアリーとの撃ち合いで消耗し、こちらの動きを読んでいるのだろうか?

 今の奴について解っているのは、電撃が弱点で破魔と呪殺魔法を反射し、様々な状態異常をばら撒く全体万能魔法の【神の悪意】、洗脳毒を使う、物理攻撃をカウンターする【猛反撃】、メアリーと打ち合っていた時に使っていた回復魔法の【メシアライザー】である。

 

 つくづく思うが、回復役のジャネットに毒と麻痺を無効化する【頑丈のピアス】を渡しておいてよかった。これで、シキガミの精神状態異常無効化で防げる魅了や睡眠や魔封などと合わせて無力化する状態異常はほぼ無くなるのだから。

 

 そう考えていると、メアリーが回し蹴りを放ちこちらを重く打ち据える衝撃波が自分とジャネット、サマエルに叩きつけられる。

 物理耐性持ちの自分でも辛い一撃がガードした腕の上からキツく入る。

 

 

「悪魔よ打ち砕かれよ! 【断末波】!」

 

「マスター、【メディラマ】!」

 

「今! 【メギドの……、くっ、卑怯だぞ!」

 

「そんな事を言ってられるか、ぶっ」

 

 

 距離が離れ、右手を突き出し前に放ったレーザービームのような電撃を撃とうとしたので斜線上にかく座したままの天使ケルブが入るように動く。流石に、大事な「お父さん」諸共に撃たないのは助かる。

 口に溜まった血を吐き捨て、眼の前のメアリー・スーを見る。

 

 こいつは、銃に耐性があり電撃を反射し衝撃が弱点で破魔と呪殺は効かない。

 スキルは、さっきも撃とうとしたビームのような電撃で薙ぎ払う【メギドの雷火】、物理耐性でダメージを軽減していたので物理属性の衝撃波を撃つ【断末波】、傷の回復とどうも能力の向上もしているらしい【ライトハンド】を使っている。

 ただ、ゼレーニンと同じなら不可思議な力を持つ『天使の歌唱』も使えるはずだ。敵対した傭兵たちを従順に従わせ、周囲の人物の傷を癒やし、あの隠されたメムアレフの実体も浮かび上がらせる驚異の歌を。

 それを、性格的に使えないか使わないのかそれは分からない。

 

 力は籠もっているが、ただ払い除けるようなサマエルの尾の横薙ぎを避け考える。

 まずいのは、格闘戦に持ち込まれてカーマのスキルの起点である弓を引く隙がない事である。

 かと言って、距離を離して闘うスタイルのガブリエラでは躱しきれないしバビロンは自身の消耗がでかすぎる。騎獣の鸚鵡を出して空を飛んでも、すぐに撃ち落とされるのが目に見えるようである。

 しょうがない、切り札を切ろう。

 カードを抜き、ドッペルゲンガーに変える。

 男の姿に変わったことに、メアリーの方が赤面して罵ってくる。

 

 

「悔い改めなさい、そこの男!

 さっきからコロコロと破廉恥な女性の姿で、男性としてのプライドはないの!?

 ご家族は何も言わないの!?

 そんな不道徳な姿に変わる能力など捨てて、主に祈りなさい!

 必ず主は、そんな貴方でも見捨てずに救って下さるでしょう!」

 

「ぶふっ、小娘も中々の煽り方をするじゃないか。クックッ」

 

 

 ははは、急に正論で煽って来るとはな、この直情女が。

 サマエルも笑っていられるのも今のうちだ。

 

 

「【サバトマ】、バビロン。ブチかませ!

 ジャネット、援護開始。アイテムの使用は制限なし。いくぞ!」

 

「援護します。【ラスタキャンディ】!」

 

「余を初めて呼び出すのが褥ではなく戦場とはな、マスター!

 よいぞ、【バビロンの杯】!」

 

 

 号令と同時に、【デカジャの石】を投げつける。

 切り札とは、家に入れるのとは別の今まで個人で貯めてきたマッカと貯金を変えたアイテムの大放出である。

 今回の事件は大規模な地震を起こすような相手なので、今まで溜め込んでいたアイテムと買えるだけのアイテムを総浚いして持って来ている。

 

 ガイア連合では、生産したアイテムは需要と供給の関係で値段が大幅に変わる。なので、生産者保護のために取引最低価格があり相場により上限が時価になるアイテムもある。

 例えば、レベル10~20の異界の攻略をして収入が500~3000マッカ位だとして、自分が主に使用するMP小回復薬のチャクラドロップが500マッカ、MP全回復のチャクラポッドが3000マッカ、技術部の努力によるチャクラドロップと効力が同じの廉価品のチャクラドリンクでも250マッカする。

 ちなみに、魔石は5マッカでマッスルドリンコが25マッカである。

 使い捨てのマジックストーンならだいたい300~500マッカで、卑劣ニキが持っていたメギドストーンも最低でも750マッカするのだから彼もそれだけ本気だったのだろう。

 

 しかし、デカジャの石(250マッカ)なんて使う相手がガイア連合員以外にいるとは思わなかった。

 この石だって、今度山梨のクソ猫にリベンジする時に使うつもりだったのだが。

 ただ、メアリーにはよく効いたようだ。見るからに動きが鈍り、まともに食らって吹き飛ばされている。

 ダメージを負ったサマエルもこちらに尾を振り下ろしてくる。

 

 

「この、あああっ」

 

「ちいっ、潰れろ!」

 

「蛇よ、余とマスターは物理反射だぞ。MPが心許ないのか?」

 

「ぐっ」

 

 

 弾き返した一撃で怯むサマエル。 

 こいつの持つスキルはMP消費の激しいものだから、調子に乗って使っていればそうもなるだろう。

 

 

「ほら、もう一度だ。【バビロンの杯】」

 

「ぐおっ」

 

「くっ、ううう。主よ、【ライトハンド】」

 

「強化はさせないよ、デカジャの石だ」

 

 

 こうして、しばらくこのパターンの状態が続くことになった。 

 サマエルもメアリーもボロボロになり、順調に進む戦闘にどこか油断していたのだろうか?

 苦し紛れの【神の悪意】や【断末波】により怪我や状態異常を受けても、すぐにアイテムも使って治療することで途切れることなく放つ6度目の【バビロンの杯】で彼女のMPが尽きる時にそれは起きた。

 

 

「マスター、余はもうMPが切れるぞ。どうする?」

 

「彼女たちに因縁のあるガブリエラに止めを任すよ。ご苦労さま」

 

「ほう、粋な計らいではないか。うむ、気持ちよく放てて満足だ。ではな」

 

「【サバトマ】、ガブリエラ。出番だよ」

 

「マイロード、御前に。これはこれは、中々に愉快な状況ですね」

 

「……! マスター、敵の反応がっ!」

 

 

 ジャネットの声に振り返ると、今まで後ろにいて動けないものだとばかり考えていた天使ケルブが、自分たちの背後に浮かんでいた。

 中央の男の顔がこちらを睨んでいる。

 

 

『主よ、我が娘を助ける力を授け給え! メアリー、生きろ。Amen』

 

「お父さんっ!?」

 

 

 メアリーが叫ぶのと同時にケルブは閃光に包まれ、自分たちを巻き込んで大爆発を起こした。

 それを見たサマエルは好機とばかりに動き出す。

 

 

「はは、ははは。

 扉に力は集まりきった。今こそ、お前たちも消し去ってくれる!」

 

 

 そう叫ぶとサマエルは空を飛び、扉の上空で回転し今までマガツヒを扉に集めていた石柱に絡みつく。

 石柱が赤い光を放ち、サマエルの傷がみるみる内に治っていく。

 哄笑を放つサマエルは、こちらに向けて赤い竜巻のようなスキルを解き放つ。

 

 

「今度こそ、死ぬがいい。【神の悪意】!」

 

 

 元は優しかった父が吹き飛んだ方向を見て、メアリー・スーも絶叫する。

 そして、その彼女からも黄金の光が衝撃波と共に辺りを薙ぎ払う。

 

 

「ああああああああっ、ア、a、Laaaaaaaaaa!!」

 

 

 サマエルの放つ赤い竜巻とメアリーの放つ黄金の光がぶつかり合い、先程の爆発よりも大きい爆発が周囲を吹き飛ばす。

 ジャネットやガブリエラの安否を気にする間もなく自分も吹き飛び、意識を失った。

 

 

 

 ふと目が覚めると、12の席のあるいつぞやの彼女たちの部屋にいた。

 周囲を見ると、アリス、バビロン、カーマ、ガブリエラがこちらを心配そうに見ている。

 自分はどうなったんだろうか? ジャネットは?

 そう考えると、ガブリエラが答える。

 

 

「彼女は大丈夫です、マイロード。

 私が【リカームドラ】を使い、マイロードと彼女の蘇生は出来ています」

 

「余も気づけておれば、すまぬ。マスター」

 

 

 ぼんやりした頭で頭を下げるバビロンに首を振る。

 自分があいつらを倒せると思って、油断したせいもある。

 ただ、「ピンチで隠された能力が目覚める」みたいな真似をされたのではこちらはたまらない。

 どう対抗したものか、そう考えているとアリスが神妙な顔でこちらを見ている。

 どうしたのかと聞くと、彼女は答え始めた。

 

 

「マスター。今のままでは彼らに対抗するのは難しいわ。

 だけど、一つだけ方法があるの。

 その仕掛けをこの機械にセットしていると、円場博士は教えてくれたわ。

 ただ、それをすると普通の人には戻れなくなるわ。

 どうする、マスター?」

 

「どういうことだい、アリス?」

 

「マスターも薄々判っていたでしょう。

 私たちの姿に多く変わるに連れて、マスターの身体も人間からは離れていくことを」

 

 

 そこまで言って、顔を真っ赤にして話を続けるアリス。

 

 

「マスターが、その、女の人を多く抱いて子供を残そうとしているのも、本能的に身体が判っているからなの。

 今のままでは、いずれ『男の自分という自我』が失われかねないから。

 だから、普通の感覚ならおかしいと思うはずでも、真摯に女性に求められれば受け入れて自分のものにしようとするのもそう」

 

「…………」

 

「それに、彼らだけじゃないの。

 扉の向こうからとても『恐ろしいモノ』が、こちらに来ようとしているわ。

 これを追い返すのも、今のままでは難しいの」

 

「それをすれば、家族は、君たちや家で待つ葵たちは助かるんだね?」

 

「可能性はかなり上がるわ」

 

「なら、やってくれ」

 

「いいの?」

 

「家族のアリスなら悪いようにはしないだろう?」

 

 

 そう言って笑うと、アリスも微笑み手に持っていた書を広げる。

 すると、ページが光り7枚のカードが空中に浮かぶ。

 パールバティー、イシュタル、ベルセルク、マーメイド、ナジャ、モー・ショボー、ユキジョロウのカードである。

 

 

「ねえ、マスター。

 私が悪魔合体で生まれた時に、おじさまたちが積み上げていた財宝はどこに消えたと思う?

 私の能力を整えるのに使ったのは微々たるもので、殆どはこの書に使われたわ。

 この書は、この機械を使うマスターだけの【悪魔全書】。

 だから、相応の代価を払えば、登録された私たちが呼び出せる。

 こんな風に」

 

 

 彼女の周りでカードから実体化したマーメイドやナジャ、モー・ショボーにユキジョロウが笑っている。

 今度はイシュタルとパールバティーのカードを翳す。

 

 

「この2つのカードは本来、マスターの娘さん達の力なのは分かっているわ。

 だから、この2つのオリジナルはもう神戸のあの家に届いているはずよ」

 

「どうやって届けたんだ?」

 

「ジャネットと相談して、彼女のライバルの力を借りて。

 あの家にいる文香さんは、書物を自分の手に取り寄せるトラポートが使えるわ。

 だから、マスターが寝ている内に事前の取り決めていた通りに合図をして送ったの。

 ごめんなさい。

 だから、ここにいる2人は姿と能力は同じでも違う彼女たちよ」

 

「どう違うんだ?」

 

「基本的には同じよ。でも、マスターの娘さんに転生した彼女らとは違う分霊よ」

 

 

 そう言うとアリスはカードを渡してきた。

 カードには中央に赤い宝石のある円形の模様と両側に『WILD』と描かれている。

 

 

「起きたらこのカードをスロットに差し込んで、そうすれば完了よ。

 分からないことがあったら、呼んでねマスター。頑張って」

 

 

 そう言って、彼女に頬にキスをされるとまた意識が遠くなっていった。

 

 

 

 ふと目覚めると、頭が柔らかいものの上にあり見上げると大きい胸とジャネットの顔が見える。そして、横を見ると卑劣ニキの遺体が転がっている。

 自分が起きたことに気づいたジャネットが、声を潜めて話し始める。

 

 

「よかった、マスター。気を失ってから目を覚まさないので心配しました」

 

「あれからどうなった?」

 

「それは……」

 

 

 ジャネットが答えようとした所で、地響きと共に爆発音が聞こえる。

 2人で陰からそっと覗き込むと、サマエルとメアリー・スーがまた戦っている。

 しかし、今回はお互いにブレスのように赤い霧を吐き出すサマエルと直径1メートルはありそうな黄金のビームを放つメアリーが濃密な殺意を持って殺し合っている。

 炸裂した場所が吹き飛んだり、黒く変色しているのはまともに喰らいたくない攻撃のようである。

 そんな様子を見ながら、ジャネットは言う。

 

 

「あの時、身体がバラバラになるような痛みを感じたのですが、起き上がると傷はありませんでした。

 ただ、かなり吹き飛ばされてあの男の所まで飛んできたようです。

 それから、見つからない内にここの建物の影まで引っ張ってきました」

 

「そうか、とにかく無事で良かった。さて、あれをどうにかしないと」

 

「どうにか出来るんですか、マスター?」

 

「どうにか出来る手立ては用意してくれたよ。アリスたちが…」

 

 

 そう言った所で、今度はバタンと地響きのする扉を開ける音がする。

 また、そっと覗き込むと扉が片方開き、焼け爛れた巨大な女性の左腕が中から突き出されメアリーを掴んでいる。

 

 

「い、いや、主よ、助けてください。主よ!

 嫌、嫌だ。助けてっ、おとーーさーーー!!」

 

 

 身動きできないまま悲鳴を上げながら、扉の中に連れ去られるメアリー・スー。 

 そして、程なくしてバリバリと何かを噛み砕く音が絶叫と共に聞こえてきた。

 上空の石柱に絡んだままガタガタと震えていたサマエルは、その音を聞き逃げようとしたが遅かった。

 扉の中から伸びてきた腕が、石柱ごとサマエルを握りつぶすように掴む。

 サマエルもまた、そのまま扉の中へと消えていく。

 

 

「待て、俺は神のアク、ぎゃあああああああ!!

 喰うな、喰うんj……」

 

 

 途中で消えた絶叫と、中からブチッと何かを引き千切る音とガリゴリと噛み砕く音が聞こえてくる。

 ジャネットが、また聞いてくる。

 

 

「あのマスター。

 本当に、あれをどうにか出来るんですか?」

 

「どうにかするんじゃなくて、どうにかしないと生きて帰れないよ。

 場合によっては、メムアレフやシェキナーとも殺り合う必要があるんだし」

 

 

 そう言いつつ、自分は『WILD』と描かれたカードを取り出しデビルズアブゾーバーに差し込んだ。

 

 

「変身!」




あとがきと設定解説


・【審判者メアリー・スー】

マンセマットが使徒に選んだ「天使の歌唱」の唱い手。
在日米軍ヘリパイロット。
レベルは、63。耐性は、銃耐性、電撃反射、衝撃弱点、破魔無効、呪殺無効。
スキルは、ライトハンド、メギドの雷火、断末波、咎歌。

・【天使ケルブ】

メアリー・スーの実父。
天使人間の実験に娘を守るために自ら参加した信仰心篤き軍人。
4枚羽根で腹部に正面が父親の顔、右が雄牛、左に獅子の顔があり両足が機械の鷲の姿。
レベルは、50。耐性は、電撃弱点、衝撃反射、破魔無効、呪殺無効。
スキルは、メギドラ、マハンマオン、天扇弓、自爆。

・【邪神サマエル】

人間として転生した分霊。他人が苦しむのを愉しむ趣味があり、虚言癖持ち。
「言峰綺礼」の姿は、『彼』の知識を知って以降はかなり気に入っていた。
レベルは、75。耐性は、電撃弱点、破魔反射、呪殺反射。
スキルは、神の悪意(敵全体に万能属性大威力攻撃・各々低確率で毒、麻痺、魅了、魔封付与)、神の毒(戦闘時は使用不可)、メシアライザー、猛反撃、勝利のチャクラ、火炎無効。


次回も、決戦の続き。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第五十二話 決着

続きです。

今回の事件のようやくの決着の回。


 

 

  第五十二話 決着

 

 

「変身!」

 

 

 立ち上がって思い切りよくするためだが小声で言い、『WILD』と書かれたカードをデビルズアブゾーバーのスロットに入れる。

 

『EVOLUTION』

 

 その音声と共に12枚のカードが自分の頭上で宙に浮き、円形の輪を作ったかと思うと自分へと降り注ぎそのまま身体の中へ消えていく。そして、淡い白い光に全身が包まれたかと思うと、それは終わったようだ。

 文字通り「俺は人間を止めるぞ」案件なのだが、元々この左腕の機械が仮面ライダーのアイテムを真似て作られたと聞いていたので若干は期待して全身を見てみたが、左腕の機械のプレートの赤地に金色のハートだった物が緑地になっているのと右手の甲に赤い3つの欠片で出来た手裏剣のような模様くらいしか分からない。

 鏡が無いので、ジャネットに聞くことにする。

 

 

「なあ、ジャネット。何か変わったように見えるか?」

 

「マスター、冷静に聞いて下さいね。

 いま、ドッペルゲンガーに変わっている訳でもないのに、髪が銀色になって瞳が金色になっています。あと、肌が少し浅黒くなっています。

 あと、アナライズした結果なのですが……」

 

 

 ジャネットによると、自分のアナライズ結果がこうなっていたそうだ。

 

『種族:覚醒人 名称:カズマ レベル:測定不能

 耐性:物理反射・銃反射・破魔耐性・呪殺耐性

 スキル;サバトマ・テトラジャ・マカラカーン・精神状態異常無効

 特殊スキル:悪魔変身・魂の融合』

 

 結局、よく分からないのでアリスを呼んだ。

 彼女の説明から、だいたい判った。

 つまり、ドッペルゲンガーと1つになり悪魔人間っぽい何かになって今までと同じような事が出来るようになったけど、容姿の変更などは無しにしたようだ。

 アリス曰く、かなりあっさりしているように見えるが、カードの娘たちが自分との将来的な事や死後の魂の行方的な事を考慮して色々と頑張ったらしい。

 この件が終わってから、聞いているジャネットと彼女たちに何を要求されるのかが少し怖い。

 

 

 

 こちらで自分たちが色々としている間に、向こうも変化があったようである。

 扉の向こうで何かを飲み下す音がし、声が頭に痛いほど響く。

 

 

『まだ滋養は足りぬが、まあよい。

 こちらに来よ、ニンゲン。妾との対面を許そうぞ』

 

 

 無視しても埒が明かないため、ジャネットとさっきの腕がギリギリ届かない位置の扉の前まで移動する。

 扉の向こうから、赤い鱗の肌をした栗色の長髪の女性が皮膜の羽根を羽ばたかせてその巨大な身体でこちらを覗き込んでいる。

 金色に光る爬虫類の目でこちらを見ると、声を発した。

 

 

『妾を呼びしは、汝ではないな。疾く、来よ』

 

 

 声が響くと、門の前に一人の男が立っている。

 確かに、殺したはずの卑劣ニキである。

 

 

「殺したのに、どうしてって顔をしているな?

 元々この扉は俺が望んだものだ。

 あのクソ蛇野郎は黙っていたが、この扉は過去へも行ける『異なる世界へ行く扉』だ。

 大方、俺が行った後で大口を開けて笑うつもりだったんだろうな。

 『間抜けが行き先を選べないのに、信じて行った』ってな。

 大笑いだぜ。あの天使女共々、『母』の滋養になったんだからな!」

 

「お前は何を呼び出した!?」

 

「死んだ俺の魂を救い上げてくれた『母』さ。

 俺の望みは、【この世界の転生者の抹殺】だ。

 それで、『母』によって生まれ変わって気づいたんだ。

 【俺のように全ての日本人を母が悪魔に産み直せばいい】ってな!

 そうすりゃ転生者共はいなくなるし、『母』も新たな国生みが出来るだろう?」

 

『妾はこのモノが呼び出した大霊母の影。

 この異界が地球の記憶を留めるフォルナクスに繋がる故、こうして深淵より妾は来た。

 このモノが勝てば、望みどおりにこの世界に降り立ち新たに全てを産み直そうぞ。

 汝が勝てば、この仮初の姿は消え、妾はまたあの地で眠ることだろう』

 

 

 楽しそうに哄笑し始めた彼に、無数の炎が集まってきて周囲を焦土と化した。

 そして、炎の中から彼が現れた。

 身の丈3メートルはあろうかという偉丈夫な黒い肌の体躯と、身体のあちこちを紅く光る模様があり彼の顔もまたその紅く光る模様で構成されている。

 その彼が笑みを浮かべ、話しかけてくる。

 

 

「力が溢れて、い~い身体だろう?

 お前もかなり悪魔に近づいたようだが、そんな華奢な体じゃまだまだだな。

 俺に勝てるはずがないのだから、いい加減、お前もそんな中途半端な状態じゃなく俺みたいに悪魔になっちまえよ。

 まだ、ニンゲンに未練でもあるのか?」

 

「あるに決まっているだろう。

 家族の安否だって気になるし、あの地震の中で駆け回っている身内や友人がいるんだ。

 自分にだって、戻って片付けないといけない事が山ほどあるんだよ。卑劣ニキ」

 

「何だ、そんなちっぽけなつまらない物に拘泥していたのか。

 それと、その名で呼ぶな! 今の俺は、【大地人マコト】だ!

 さあ、決着をつけようぜ!

 俺の爪でお前とその人形を引き裂き、俺は使命を果たすんだ。

 間違って、ニンゲンに生まれちまった連中を救う使命をなぁ!」

 

 

 そう叫ぶと、卑劣ニキではない悪魔人間マコトは襲いかかってきた。

 物は試しと言わんばかりにかぎ爪を振って、2人に衝撃波を叩きつけてくる。

 

 

「ほうら、まずは軽くいくぞ。お前の力を見せてみろ」

 

「きゃっ」

 

「そらっ」

 

「ぐっ、そういやお前は物理反射だったな」

 

 

 まずは、態勢を直さないといけない。

 サバトマでバビロンを呼び出し、本日4つ目のチャクラポットを使って彼女のMPを全回復する。

 MP回復薬は一番多く持ってきたが、一番安いドリンクとドロップはもう無くポッドも残り少ない。卑劣ニキの荷物から拝借していなければ、もう無くなっていただろう。

 

 

「アナライズ。【大地人マコト】、銃耐性、火炎吸収、氷結弱点、破魔無効、呪殺無効です!

 援護します。【ラスタキャンディ】です」

 

「【サバトマ】。バビロン、頼む」

 

「うむ、余に任せよ。

 しかし、悪魔としては珍妙な名よな、お主。【バビロンの杯】!」

 

 

 万能魔法を喰らった事よりも、名前について触れられた事が勘に触れたらしい。

 怒りと共にスキルの攻撃が飛んでくる。

 

 

「これは俺の元々の名前だ!

 俺をお人形のように扱うここの世界の母親を名乗るクソ女の付けた名前じゃない!

 俺の名を馬鹿にするな! 【ケイオスタック】!」

 

「ぐむっ、いかん!」

 

「バビロン!」

 

 

 彼の左手に穴が空き、突き出された腕から黒い鉄球のような弾が連続して打ち出される。

 銃属性なのか数発喰らったバビロンの負傷が酷い。

 ジャネットは自分の後ろにいるので、こちらに来た分は跳ね返して痛打は与えたが。

 アイテムはまだあるので惜しまずに使う。

 

 

「ジャネットは援護の後、治療待機。

 まだ出来るな、バビロン? マコト、お前が持ってたブフーラストーンだ」

 

「了解です、【ラスタキャンディ】」

 

「余を甘く見るなよ、マスター。【マハジオダイン】!」

 

 

 石の氷結魔法と電撃魔法がその大きな体躯に撃ち込まれる。

 ニヤリと笑うと、彼は左腕を掲げる。

 

 

「おっと、強化魔法なら俺も使えるぜ。【レフトハンド】。

 俺は頑丈でお前らよりも剛力だ。いつまでその華奢な体で耐えられるかなぁ。

 ほら、攻撃してこいよ。ははははは」

 

「余を甘く見るなよ。【女帝のリピドー】!」

 

「もう一つ、ブフーラストーンだ」

 

「はっは、お前みたいなアバズレに魅了されるわけがないだろうが。

 それと、俺の荷物を漁ったのか? 

 いいぜ、ハンデとしちゃ充分だろう。ほら、【レフトハンド】だ」

 

 

 こちらの攻撃が堪えていないのだろうか?

 今だに笑ったまま、左腕を上げている。

 アバズレと言われたバビロンが少しキレたようだ。

 彼に言い返しながら、魔法を唱えている。

 

 

「余は、本霊みたく誰にでも股を広げるような女ではないわ!

 次の一撃を喰らうがいい! 【コンセントレイト】!」

 

「はっは、そんなアバズレ同然の格好で面白い事を言うなぁ。

 おっと、こんなのはどうだ? 【シャッフラー】!」

 

 

 こちらも最後の攻撃魔法石のジオンガストーンをぶつけているが、一顧だにされていない。

 彼が右手を突き出すと、赤い霧が周囲を覆いバビロンの首に爆弾のついた首輪が現れる。

 慌てて、ジャネットに彼女を指差して言う。

 

 

「ジャネット、爆弾化だ。治療を…」

 

「遅いぞ、【地獄の業火】!」

 

「喰らうがいい、【バビロンの杯】!」

 

 

 強力な威力の万能魔法が彼に炸裂するが同時に放たれた範囲火炎魔法が自分たちを包み、バビロンの首に現れた爆弾が爆発する。

 その爆発で致命傷を負ったバビロンの姿が消えていく。

 

 

「バビロン、すまない!」

 

「あれはまだ立っているぞ。隙を見せるな、マスター。

 余は、そなたの勝利を願っているぞ」

 

 

 そう言って、カードへと戻り帰っていくバビロン。

 バビロンの攻撃で深手を追うも、彼は笑い続けている。

 

 

「アバズレにしちゃあ、いい攻撃するじゃねぇか。

 俺をこんな風にした奴の女なんだ。それくらいじゃねぇとなぁ!

 ハハハハハハッ!」

 

 

 さて、この状況をどう切り抜けるか。

 バビロンが倒れ、ガブリエラは【リカームドラ】を使い死亡したまま、アリスではこいつの攻撃力は強烈過ぎる。

 そこへ自分を使えと言わんばかりに、デビルズアブゾーバーのカードホルダーが展開しカードが姿を表す。黒いドレスを纏った少女の姿のカードである。

 奴を相手では確かにカーマやベルセルクでもきついとなれば、選択肢はないだろう。

 そのカードをスロットに差し込む。

 

『EVOLUTION FUSION』

 

 薄い紫の髪、左の髪にある赤いリボン、赤いハイライトのない瞳、左頬から全身の肌にある赤い血管のような模様、体のラインがそのまま出る裾が幾つも枝分かれしている赤い縦縞の服と「マキリの杯」「黒桜」とも言われているガワの姿に引っ張られた悪神アンラ・マンユの愛人にして母でもある【鬼女ジャヒー】であった。

 もとより娘の桜の中にいたこの闇の部分は、彼女の中に戻さずにいずれ自分が連れて逝くつもりではあったが、こうもストレートにこの姿になったのは自分としては複雑である。

 

 笑っていた彼がこちらを見て感心したようにしている。

 ジャネットの方は、自分がどんな姿になってももう慣れたと言わんばかりに【メディラマ】をかけてくれている。 

 

 

「ハハハッ。

 おいおいおまえは、一体、何人の女悪魔を従えていやがるんだ?

 コロコロと変わりやがるが、その姿で何人目だよ。

 変わり過ぎだろうが? 

 そんなに女の姿がいいなら、女の悪魔に生まれ変わりなぁ!

 そら、【ケイオスタック】!」

 

「確か、こう」

 

 

 彼の左腕から放たれた弾丸を、スカートの裾が広がり幾つもの影の帯となって防御する。 

 幾つか食らうものの無視して、ジャネットに持っていた石を投げて彼に走り寄る。

 彼女が投げたデカジャの石とこちらのスキルを重ねる。

 

 

「【ランダマイザ】!」

 

「なんだと、体が!?」

 

 

 強化されていた身体が一気に鈍り、動きが止まる彼。

 そこにスキルを込めて右腕の裾の影帯を彼に伸ばす。

 

 

「これで、【夜桜の舞い】!」

 

「ぐはっ、まだだ。【地獄の業火】!」

 

 

 槍状になった影の帯で身体を複数貫かれながらも、こちらに豪炎を放つ彼。

 それならばと、右腕の帯を引き抜き今度は左の帯で貫く。

 

 

「もう一度、【夜桜の舞い】!」

 

「ぐほっ、ああ、楽しぃなぁ! 【ケイオスタック】!」

 

「がはっ。なら、【ランダマイザ】」

 

「もっと攻撃してこいってんだよぉ! 【ケイオスタック】!」

 

「これでどうだ。【夜桜の舞い】!」

 

 

 後で聞いた話だが、この時の凄絶な殴り合いにジャネットは手が出せなかったという。

 その殴り合いが数分ほど続いた後、ボロボロになった自分と彼が相対していた。

 こちらが攻撃の起点になっているため潰した左腕と全身から燃えるような熱を持つ赤い血を流す魔人と、躱しきれずに数か所にいいのを貰いかろうじて動ける状態の自分。

 本当に楽しそうに笑い出す彼。

 

 

「ククッ、ハハハハハッ!

 こうしていると生きているって実感が湧いてくるぜ。

 さあ、これでラストだ!

 生き残りたきゃ、せいぜい抵抗するんだなぁ! 【ダークマター】!!」

 

「自分は生きて帰るんだよ! 【オーバードレイン】!」

 

 

 彼から放たれたこちらを全て押し潰す大きさの黒い球体状の万能魔法と、こちらが放った足元の影から溢れ出た全てを押し流す勢いの影の奔流の万能魔法がぶつかり合い、辺り一帯を吹き飛ばした。

 自分の姿を見失ったジャネットが叫ぶ。

 

 

「マスター!」

 

 

 周囲の視界がひらけた時、そこには身体が崩れ始めた彼と傷がある程度癒えている自分が立っていた。

 こちらを悔しそうに見た彼は、振り返って扉の向こうの『母』へと祈る。

 

 

「…完全に、…悪魔になった俺が…こんな中途半端な奴に…敗れるなんて…な。

 いや…まだ…『母』がいる。…終わりじゃ…ない…。

 頼むぜ…大霊母…よ。…貴女の眠る地で…蘇らしてくれ…。

 今度は…最初から…悪魔として…。グオォォォッ」

 

「もういい加減に眠れよ、マコトさんよ」

 

 

 そのまま赤い光の粒となって消えていく彼。

 それを見届けた扉からこちらを覗くその『母』は、こちらに声をかけて来た。

 

 

『妾はその男との約定通り、彼の地へと戻り眠るとしよう。

 されど、忘れるな。いずれ妾は南極の地より目覚め、地球を取り戻すでしょう。

 地球を我らが席巻する時、また会おうぞ。今だニンゲンであろうとする者よ』

 

 

 そして、扉は地響きを立てて閉じられたと同時に、地面が揺れ崩落が始まった。

 傷と体力の消費で身動きが出来ない自分たちは、せめて別れないようにと抱き合い崩落により落ちてゆく地面と共に奈落へと落ちていった。




あとがきと設定解説


・【覚醒人カズマ】

オリジナルのアイテムの彼のように、悪魔変身のやり過ぎで不安定化した彼の肉体を、ドッペルゲンガーと同化することで何とか安定化させて4割悪魔6割人間くらいにした悪魔人間。
体質が悪魔よりになったけど、出来る事は変わらない。
要は、カードの娘たちが自分たちの番を人修羅やナホビノっぽく強くして色々と仕込んだのが今の状態で、もちろん彼女たちからは聴かれなければ何も言わない。

・【大地人マコト】

一度死に冥府に落ちる彼の魂の強烈な願いが『母』に届き悪魔として生まれ変わった姿。
炎を全身に纏う固まった溶岩の肌を持つ偉丈夫の魔人。
レベルは、70。耐性は、銃耐性、火炎吸収、氷結弱点、破魔無効、呪殺無効。
スキルは、ケイオスタック、地獄の業火、レフトハンド、シャッフラー、ダークマター。

・【鬼女ジャヒー】

ベルセルク、カーマと来てある意味闇の部分である彼女の本当の姿。
メガテン世界に合わせているので、原典のような極悪な強さやデメリットはない。
レベルは、75。耐性は、物理耐性、衝撃無効、破魔無効、呪殺無効、全状態異常無効。
スキルは、夜桜の舞い(敵全体物理大威力・魅了付与)、マハムドオン、ファイナルヌード、オーバードレイン(敵全体に万能大威力・HPMP吸収)、ランダマイザ、不屈の闘志。


次回、最終回。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第五十三話 彼の旅は、まだ続く

続きです。

駆け足気味ですが、今回で最終話。


 

 

  第五十三話 彼の旅は、まだ続く

 

 

 その後のことを語ろう。

 

 結局、自分とジャネットはあの事件から数日後、船の動力室で発見された。

 同時に、卑劣ニキと思われる遺体も発見され、山梨で蘇生処置が行われたが魂が見つかることは無く死亡と確認され荼毘に付された。

 何故、数日も経った後で在日米軍とガイア連合が共同で調査をしている最中に、突然現れたのかは分からないと言う。

 ちょうど、主に調査していた試作型プラズマ動力炉の試運転を始めた途端に、周囲の空間に歪みが発生し自分たちを発見したのだそうだ。

 原因となった船「ギガンテック」は、船内に天使人間や合成兵士の研究生産の施設も発見され調査の後に横須賀で厳重な監視下で分解・廃船されると決定している。

 

 

 

 この事件に関する事は今だに占術などでは見通せないことが多く、いろいろと調査が難航していると言う。

 ただ、今回の事件まで色々と暗躍していた連中が消え、ショタオジやトールマン大使やメシア教穏健派の女性代表や自衛隊のゴトウ氏などは風通し良くなりやり易くなったと安堵している。

 それらの人物について触れていこう。

 

 1人目は、大天使マンセマット。

 彼は、今回の件に『扉の奪取』などという目的で首を突っ込むという余計な事をしたばかりに、配下の天使の殆どと育てている途中だった使徒のメアリー・スー、天使達の現場指揮官だった天使ケルブを全て失い、さらに根拠地としていた在日米軍三沢基地を強制的に空間を開くという無茶な儀式の反動でかなりの被害を出して現在は行方が知れない状態だ。

 ただ、まだ活動しているのは間違いないだろう。

 自分宛てに、「私の使徒を失う一因を担ったという借りはいずれ返させてもらう」と言うメッセージが届いたのだから。

 

 2人目は、言峰綺礼こと邪神サマエル。

 卑劣ニキの実質的な扇動者で、自分の愉しみのためにあちらこちらに手を出しては隠蔽していた被害者が把握しきれない愉快犯だった事がその後の調査である程度明るみになった。

 そもそも今回の地震で占術などの妨害をしていたのもこいつで、事件解決後にかなり広範囲に見通せるようになったと言うのだからどれだけ隠蔽していたのかが全貌の解明にも時間がかかるだろう。

 あと、人間としての父親である言峰璃正氏は、自分の責任だと言い全ての公職を退き引退したという。

 サマエル自身は今回の件でかなり痛い目にあった上に遊びが過ぎたと上司からこっぴどく笑われ、もうこちらに来る事は出来ないだろうと大笑いするオーナーからデビルズアブゾーバーの点検をお願いしに行った時に教えられた。

 オーナー達としても、彼には色々と煮え湯を飲まされるような事があったらしく全員が暫くの間はすこぶる機嫌が良かったのはよく憶えている。

 

 3人目は卑劣ニキこと、『佐藤誠』。

 サマエルに、実働人員兼契約者という名の玩具扱いされていた男性だ。

 後にガイア連合から見せられた資料によると、未成年の時は「千住飛空(せんじゅとびら)」と言う名で、成人後に精神的DVの非道かった母親とその実家と縁を切り父側の姓と改名手続きをしたと言う。

 国立の大学を優秀な成績で卒業後は警察のキャリア官僚として順当に働いていたが、ある時友人を名乗る人物と共に記録上では数ヶ月間行方をくらまし、連絡が取れないまま本人名義で印刷された文面の退職届が届き、それが当時彼を嫌っていた上司の手で受理されて以降は表の記録には残っていない。

 この頃から、復讐を考えているのをサマエルに浸け込まれていたと見られている。

 その後は、転生者の利根川を通して表に出始めた頃のガイア連合と接触し、サマエルの政治的呪的隠蔽の元、ショタオジや周辺の人物とは直接面識を持たないフリーの傭兵のように行動していたようだ。

 取り残されていた元部下の連中の証言から分かったが、地震が起きた頃から明らかに精神に変調を来していた様子で、帝都でガイア連合がマークしていた子供を含む複数人とガイア連合に所属していた数人の人物を依頼だからと異界で殺し処分した後に神戸に来て1人で船に乗り込んだそうだ。

 彼もある意味被害者ではあるが、彼がした事は許されるものではない。

 

 あと、彼らの後始末と調査に利根川という中年の男性が奔走しているようである。

 一度、直接こちらに出向いて来て裏で手を貸していたと謝罪されたが、彼には直接何かされた訳でもないので丁寧に答えたら『悪魔っ娘倶楽部』の新作のプロマイドを熱烈に要求して帰って行った。

 やっぱり、ガイア連合の幹部には変な人が多いと思った。

 

 

 

 今回の震災の被害は前の世のものと比べると、建物などの被害はそう変わらないが死傷者に関しては半分ほどで済んだ。

 ただ、自分たちの知り合いでも被害者はおり、自分も世話になった田中さんが崩落する事務所のある雑居ビルで亡くなったり、母の父である祖父の鶴弥が事故に巻き込まれて亡くなるなど葬儀にも何度か出席することになった。

 約2000人程の死者や行方不明者の出た今回の震災ではあるが、ガイア連合系の企業も復興に本格的に参入し、ジュネスなどの施設も以前よりかなり増えている。神戸も、霊的にもより安全な都市になるだろう。

 

 

 

 霊的に安全といえば、神戸メシア教会もその勢力を大幅に落として関西メシア教会の一部になる事が決定し、人員もかなりの人数が今回の襲撃で失われた為、責任者であったシスターギャビーもその責任を取って公職からは引責辞任となった。

 もっとも、ガブリエラの事もあるため彼女のふりをして参加していた自分からすると、身体の主導権を渡していた際、穏健派の女性代表に「寿引退で一抜け」と散々にマウントを取って半ば本気のキャットファイトをしているのを見ていたので何も言うことはない。

 

 もう一方の研究所も変わらず、購入事業は続いているが何かするという様子は見せず、完全にそちらの方たちのプライベートの休養施設になっているのでこちら側からは接触する人はいなくなっている。

 時々、お土産を持って挨拶に行くときに完全に気を抜いた感じのそれらしい人たちに出会うので間違いないだろう。

 赤城さんも田中さんが亡くなって研究所に落ち着くことに決めたらしく、アリスの事で相談に行った時にそう挨拶された。

 その直後に、相方の黒木さんに「中学生はBBA」と言われ、性癖の年齢上限で言い争いを本気で始めていたのですぐに何か企むような事は無いだろう。

 

 

 

 さて、自分たちが発見された時の事であるが、意識のなかった自分たちはその場にいたガイア連合側の現場責任者だったダンボールを被っていた彼からの発見の報を受けショタオジが直接跳んで来て山梨の病院施設まで運んだくれたそうだ。

 発見の翌日に目が覚めた自分たちは、診断の後にあの日何があったかを分かる限りで詳細に話した。

 そして、ショタオジは難しい顔で自分の体が悪魔人間になっている事を告げ、誰か呼び出すように言うので呼び出したアリスと別室で話を聞いた後で真剣な顔で聞いてきた。

 

 

「マスオニキ、こんな事を言うのは嫌だがもう俺たちでも元の人間には戻すことは出来ない。

 それでも、彼女らを受け入れる気なのか?」

 

「なあ、ショタオジ。それって、要は人修羅みたいなものなんだよね?」

 

「診断結果からすると、デビルマンの方が近いね」

 

「副作用とかあるのかな?」

 

「まず、普段でも初期の人修羅みたいに破魔でパトる可能性があるから気をつけて。

 一緒になったのが元々自分の姿ばかりさせていたドッペルゲンガーだから、意識の混濁も無いね。

 悪魔に近くなったから、寿命は伸びて老化も緩くなったね。

 容姿はまあ、悪魔っぽくないから服とかでごまかせるね。

 あと、男性機能の保全と向上は彼女たちが最も気を使ったと言うから、子どもも大丈夫じゃないかな」

 

「概ね、今までとそう変わらない?」

 

「TS魔人ネキよりは人間に近いから、そうとも言える。で、どうなんだい?」

 

「彼女たちは家族なんだから、受け入れるつもりだよ。

 家族を失うのだけは嫌だから」

 

 

 それを聞いてショタオジは、アリスの方を見てもう一度聞いてくる。

 側にいるアリスはニコニコとして聞いている。

 

 

「今そのCOMPの中にいるほぼ全員が、家族じゃなく男女の関係を希望していても?

 他に、別室で休んでいるシキガミのジャネットに、俺が紹介した文車妖妃もいるんだよね?

 もちろん、婿入した現地組織の家で待つ3人の人間の奥さんたちもいるんだけど大丈夫?

 あ、向こうには無事に見つかってこちらで療養してから戻ると連絡はしといたから」

 

「…………」

 

 

 改めてそう訊かれると、ぶわっと汗が出てくる。

 走馬灯のようにグルグルと考えが浮かび、混乱した頭でそのまま答える。

 

 

「えー、その件に付きましては、正妻を葵として立てることを条件に向こうで相談の上、受け入れる方向性で」

 

「そうか、うん。マスオニキがそのつもりなら頑張ってとしか言えないな。

 それなら、この連絡先の彼に夫婦関係の相談をするといい。

 彼、既に30体以上の高級シキガミを自分で作って全員嫁にして等しく愛している超人だから」

 

 

 ショタオジは自分を憐憫というか元気づけるような眼差しで肩を叩くと、連絡先のメモを置いて出ていった。

 それを聞いたアリスはニコニコとして自分にキスをすると、「皆、逃がすつもりはないからね」と言い残し帰って行った。

 無人になった病室で今回の件で使ったアイテムの総額を思い出し気分が悪くなったので、とりあえずもう一度寝ることにした。

 

 その後神戸に戻ってから、月城家、花蓮とクーフーリン、まとめての大家族会議の末にまとめることに成功した時の事はあまり思い出したくない。

 その時に葵と雫に白乃の3人が同時に妊娠していたとその後判明したり、半月近く仕事を休んで彼女ら全員と昼と夜に色々と相談したことでこの体質なのに体重がかなり減ったり、その後のブラック勤務など本当に色々あったのだった。

 

 

 

 

 

 それから、数年の時が過ぎる。

 

 

 

 

 

 

 200X年、自分は今、南極に向かう探査船『レッドスプライト』の後部甲板で海を見ている。

 霊地活性化が限界に達し、メシア教に封印されていた『シュバルツバース』が解き放たれたからだ。

 この船は、ガイア連合がその総力を上げて海外が終末化した際のために造られた最新鋭の船である。

 この船には『シュルバツバース探索隊』として、自衛隊のデモニカ隊やガイア連合の精鋭、それにメシア教穏健派や在日米軍からも人員が派遣されている。

 ぼうっと海を眺めていると、後ろから声を掛けられた。

 

 

「何をしているんですか? カズマさん」

 

 

 振り返ると、最新式のデモニカのスーツを身につけヘルメットを脇に持った少女が立っていた。 

 肩まで伸ばした黒い髪をしきりに気にしながら、大きな胸を揺らして近づいてくる。

 彼女は、シスターラビアン。

 あの事件の船ギガンテックに乗っていた避難民の生き残りの一人で、反メシアの一神教のエクソシストの元で修行していたが今回の作戦で縁のある自分に補佐役として付けられた少女である。

 彼女の派遣をある意味人身御供として決定させた穏健派の神父から、監視とハニトラを言い含められたらしいが真面目な16歳の彼女に分かるわけもなく真面目に補佐をこなしてくれている。もっとも、その神父としては「協力はした」という意味で彼女をメンバーに押し込んだのだろう。

 振り返って彼女に答える。

 もちろん、自分にはデモニカは必要ないため、黒のスウェットの上下というラフな出で立ちだ。

 

 

「ああ、故郷の家族のことを思い出していたんだ」

 

「確か、たくさんいらっしゃるんですよね?

 わたしは家族をアメリカで失ったので羨ましいです」

 

 

 冷や汗が流れるが、努めて冷静に返す。

 あの後、葵が2組目の双子ともう一人娘を産み、雫が卒業してすぐから3人の娘を、白乃も姉妹と3人目の娘がお腹にいる状態で見送られ、ジャネットも2人目の娘が出来たので今回は不参加となっている。

 ジャネットはシキガミではあるがその体はより人間に近い構造の造魔であるためか、この体質になってから以後に出来た。

 本人は出来た時、とても喜んで本霊とシキガミ専用スレに詳細に喜びを語り『祝福』を受けたらしい。

 「君は孕ませたシキガミの代わりに来て貰った」などと言えるはずがない。

 

 

「そう、たくさんいるんだ。だから、心配でね」

 

「そういえば、今の日本も大変なことになっているんですよね?」

 

「ああ、日本の帝都を護っていた大結界が機能不全を起こして、殆どのリソースをそっちに費やしているんだ。

 それも、アメリカのメシア教過激派が膠着状態で大人しいからここにいられるんだけど」

 

「わたしも、四大天使同士で仲違いを起こして機能不全になるとは思いませんでした」

 

 

 最初の四大天使の降臨で躓いてから、この世界のミカエルは失策続きだった。

 感情的な行き違いでガブリエルを罵倒したおかげで、変質して宗教的熱狂から覚めていた他の二人に半ば見限られた。

 ウリエルは彼に賛同した自分を恥じて自裁する形で自らの炎で依り代ごと燃やし尽くした後は召喚を拒否し、ラファエルは消極的中立を宣言し自分に従う天使達と信徒を引き連れ彼の元を離れた。

 

 後に、サマエルとマンセマットに踊らせられたガブリエルの抹殺の失敗とICBMの制御を手に入れようとした事で、ラファエルとその時の政権と決定的に対立し政治の中枢だった東部から西部に追いやられた。

 

 ナイ神父によって引き起こされた巨大なクトゥルーの召喚も、あの場でミカエルから外れた自分を変質した弾丸を回収していたラファエルがそれをクトゥルーに打ち込み少女化した所を討ち取る成果を上げたのに対し、ミカエルは何も出来なかった。

 

 自分の右腕として欧州派遣十字軍の指揮を任せていたアブディエルも、アフリカ制圧と欧州進駐後に東欧諸国に高圧的且つ敵対したら叩くことを続けた結果、陰で遊んでいた某這い寄るものによりロシアや東欧内の一神教各勢力が内ゲバの挙げ句にロシアや東欧の敵対派閥と欧州のメシア教にロシアの核をぶっ放すという暴挙を招いた。

 その結果、英国や北欧を除く欧州の主要国は燃え、シベリアやロシアの北方面は悪魔と雪嵐のはびこる氷土となり、南はメシア教と反メシアの残党勢力とインド勢と中東一神教の執拗なテロで戦線が膠着状態になった。

 

 膠着の打開を求め、物理的に制圧した西部のサイロにあったICBMで自分が躓く遠因がいる日本を狙うも全て撃ち落とされ、敵対する東部に向けたものも事前に知らされていた上に準備されていて全て不発となった。

 こうして、ミカエルは西部で自勢力の拡大のために沈黙した。

 

 

「そういえば、ガブリエルはどこに消えたんでしょうか? 不思議です」

 

「そうだね。フシギダネ」

 

「案外、日本にいたりして」

 

「ははは、ソウカモシレナイネ」

 

 

 言えない。

 ガブリエルもこの世界に新たに派遣するのが億劫になって、ガブリエラに面倒だからまだ分霊をやってくれと一方的に伝言が届いたと2人で頭を抱えたのは彼女には言えない。

 そう話していると、館内放送が鳴る。

 

 

『各員に告げる。まもなく、当船は南極に到着する。

 上陸部隊に配置されている人員は、速やかにストームボーダーへ移動せよ。

 繰り返す、……』

 

「呼んでます、カズマさん」

 

「行こうか」

 

 

 ラビアンと共に荷物を持ち、格納庫に移動する。

 そこには一台の大型車両があった。

 

『次元境界潜航艇ストームボーダー』

 

 現時点での最新技術で再現された原作における調査艦を再現した水陸両用車両である。

 後部のデッキから乗り込み、司令室に行く。

 そこには、突入メンバーが揃っている。

 皆に挨拶し、自分の席に付きシートベルトを締める。

 そうすると、画面に光が入りエンジンが駆動し始め、声が聞こえる。

 

 

『こちら、ストームボーダー制御AIアーサー。

 各員の到着を確認。

 システム、オールグリーン』

 

「こちら、レッドスプライト。

 接舷完了。ハッチ解放。発車、どうぞ」

 

『こちら、アーサー。状況を開始します』

 

 

 接舷したレッドスプライトのハッチのシャッターが開き、ストームボーダーがすごい勢いで南極の極点へと走り出す。

 100キロ近いスピードで走る荒い運転にシートに押し付けられる。

 南極点が近づくと、アーサーの声と眼の前の画面にカメラの映像が映る。

 

 

『警告。前方にて、戦闘中。

 奥にある黒い円柱状の物体がシュバルツバースと推測。

 湧き出した悪魔の群れと迎撃中の人員を発見。

 データ照合。【大天使メタトロン】と【推定・アレックス】が共闘している模様。

 ミッション、「迎撃中の人員の援護、及び、情報の収集」を発令』

 

「各員、突入」

 

 

 ベルトを外し、在日米軍から来ていたゴア大佐の掛け声で移動を開始する。

 一番前にいるのは、唯一完成していた悪魔召喚プログラム搭載のオリジナルデモニカを着用したタダノヒトナリ一尉が銃を構えかけていく。

 後方援護要員のラビアンがヘルメットを着用し動けるのを確認した後、自分も車外に走り出す。

 前方で各々連携しているデモニカ達と金属製のロボットのような身長3メートルはあろうかという天使、黒いボディスーツに赤い外套を着た黒髪の少女が溢れ出てくる悪魔たちと戦っている。

 

『妾はその男との約定通り、彼の地へと戻り眠るとしよう。

 されど、忘れるな。いずれ妾は南極の地より目覚め、地球を取り戻すでしょう。

 地球を我らが席巻する時、また会おうぞ。今だニンゲンであろうとする者よ』

 

 忘れていないさ。

 お前が家族に手を出すなら、自分から殺しに行ってやる。

 デビルズアブゾーバーを左手に着け、走り出す。

 

 

「変身!」

 

『EVOLUTION FUSION』




あとがきと設定解説


・シスターラビアン

今回の作戦に政治的な思惑で放り込まれた現地人の見習いシスター。
『天使の羽根』を摘出された経験あり。
レベルは、12。耐性は、破魔無効。
スキルは、ディア、メディア、メパトラ、ジオ。

・探査船『レッドスプライト』

ガイア連合製の呪的装備を付けた大型砕氷船。
主に、南極でのベースキャンプの役割を担う船。

・次元境界潜航艇ストームボーダー

某ゲームのシャドウボーダーを一回り大きくした大型車両。
原作のレッドスプライト号をできる限り再現している。
開発室などの一部のものは再現できていない。


今まで読んでいただき有難うございました。


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