NEXT TIME 仮面ライダーヒリュウ、ファースト (祝井)
しおりを挟む

本編
起「アナザースタート2018」


 時系列はあらすじ通り「ゲイツ、マジェスティ」後です。
 また、「小説 仮面ライダージオウ」は諸事情で通過しておりません。


 

「これは何だ、加古川飛流?」

 

「……すいません」

 

 独特なイントネーションで呼ばれるのもすっかり慣れた高校三年生二学期序盤。つまり2018年9月28日金曜日。

 

 城南高校の社会科準備室。そこを自室としている社会教師の寺井戸大介先生──通称ティード先生と3年A組に所属する加古川飛流は進路面談をしていた。

 その二人の間の机に置かれていたのは一枚の書類。いくつか志望校を書き込む枠があるが全て空白になっている。

 

「お前にはやりたいことも夢も無いのも分かってるがなぁ」

 

「俺もせめて大学は選びたいんですけど、どれも魅力的に見えなくて……」

 

「それ他の奴には言ってないだろうなぁ? お前確実に病院送りだぞ?」

 

「アタル達ぐらいにしか言ってませんよ」

 

「久永アタルに鼓屋ツトム、それに遠藤タクヤか。アイツ達になら良いが……な?」

 

「分かってますよそのくらい……」

 

 つい溜息を吐いてしまう飛流。見かねたティードはフォローしようと口を開く。

 

「まぁいい。まだ時間はあるにはある、俺はお前が笑顔になれる進路を選べるように協力するだけだ」

 

「……ありがとうございます!」

 

「それが俺のタスクだからな」

 

 あっ、いつもの照れ隠しだ、と飛流は口に出さなかった。

 

 ティード先生は良い先生である。どんな生徒にも真摯に寄り添ってくれる。

 隙あらば遺跡について熱心に話して授業を一時間潰すがそこはご愛嬌である。内容がわりと面白いからいいのだ。

 笑い方が結構怖いがそこもご愛嬌。マジでビビる時もあるけど。

 

「んで、学力については問題無しと。かなり色んな大学に行けるだろうな」

 

「みたいですね」

 

 正直言って、自分がどうしてそんなに勉強に励んでいるのか飛流には分からない。部活にも入らなかったし。

 

 俺は何かがぽっかり抜けているんだ。そう思ったことは幾度もある。

 でも親はいる。友人もいる。何が抜けているのかてんで見当がつかなかった。夢は無いとはいえ。

 

「他に何かあるか?」

 

「無いです」

 

「そうかぁ……。んじゃあお疲れさん」

 

「ありがとうございました」

 

 使わせてもらっていた他の先生の椅子を立って外に出る。次の人はいなかった。

 

「次のやつ来てるか?」

 

「来てないですね」

 

「それもそうか、いつもお前との面談早く終わるし。……じゃあちょっと駄弁るか」

 

「また遺跡の話ですか?」

 

「お前は何か他に話題あるか?」

 

 せっかく振られたのでうーん、と考えてみる。遺跡の話はやはり面白いのだが、いかんせん長くなりがちである。次の人に迷惑をかけるのは避けたい。

 

 あ、とふと浮かんだことを聞いてみる。

 

「どうしてティード先生は"ティード"なんですか?」

 

「何だ、哲学的な話か?」

 

「いやあだ名の話です」

 

「そっちか」

 

 言ったこと無かったかぁ、と首を捻るティード。少なくとも俺は覚えが無いです、と首を振る飛流。

 

「なら久永アタルか兄貴のシンゴあたりに言ったんだなぁ」

 

「一人で勝手に納得しないでくださいよ」

 

「悪い。……俺のこのあだ名は月読織次ってのが名付けたんだ」

 

「つくよみおるつぐ?」

 

「ああ。漢字がこう」

 

 お土産屋に売っていたであろうメモ帳に名前を走り書きしてそれを見せてくれる。そこそこ達筆である。

 

「で、自称がスウォルツ」

 

「結構無理矢理ですね」

 

「ああ。スウォルツには気に入った奴にそんな無理矢理なあだ名を付ける習性があってなぁ……」

 

 習性て。それの犠牲となったが故のティードなんだろうが。

 

「アイツは今隣の光ヶ森で社会科と進路指導部長をやってるが、その習性は今でも生徒を襲うそうだ」

 

「どこでそんな人と知り合ったんですか?」

 

「遠い親戚なんだよ」

 

「へぇ……」

 

「そういえば最近アイツと話してて一番面白いのがな」

 

「面白いのが?」

 

「光ヶ森には王様になりたいって生徒がいるらしい」

 

「……はい?」

 

 飛流は耳を疑った。俺も最初に聞いた時そんな反応だったよ、とティードは笑う。

 

「政治家になりたいわけでも無く、天皇になりたいとか阿呆言ってるわけでも無く。ただただ王様になりたいんだと」

 

「それの方がアホでしょう」

 

「そりゃそうだがぁ……」

 

 まぁいい、と話を一旦打ち切る。

 

「お前はそうなるなよ? そんなあやふやにも程がある夢よりもっとお前に相応しい夢を探してやるからさ。……最後に決めるのはお前だが」

 

「ありがとうございます」

 

 それに言われなくてもそんな進路取りませんよ、と飛流が笑うとそれもそうか、とティードも笑った。

 

 ただ、飛流はその同級生を少し羨ましく思った。そんな滑稽な夢だろうと見れたらいいな、と思ってしまう。

 王様、というのに何かを感じたからかもしれない。その何かは自分でも分からない。でも、夢を見つけられたときにはそれも分かるかもしれない。

 

 と、ここでノックの音が。

 

「来たみたいですね」

 

「ああ。気をつけて帰れよ」

 

「はい。さようなら」

 

「さよなら。また来週」

 

 頭を下げた後、飛流は次の人と入れ替わるように外へ出て床に置かれた荷物を回収、昇降口へ向かった。

 

 昇降口はガラ空きだった。同級生達は先に帰って勉強しているか、教室で勉強しているか。後輩達は大抵が部活だろう。

 

 横断歩道を渡った後、少し明かりの入りづらい路地を通る。

 いつもなら人のいないそこに一人の中性的な女性がいた。顔立ちは整っている。が、目を引いたのは驚くほど真っ白な服だ。とても長いマントも特徴的で。

 

 なんだろうか。飛流は少し気にはなったが、職業を調べることにしていたため足早に帰ろうとする。

 しかし女性は飛流を一目見るとすぐに話しかけてきた。

 

「キミ、悩み事があるね?」

 

「無いです。急いでるので失礼し──」

 

「キミには夢が無い。違うかな?」

 

 何、と通り過ぎた女性の方を向く。言い当てられた。

 

「それもだけど、君は何か大切なことを忘れているんだよ」

 

「大切な……」

 

「知りたくないかい?」

 

 女性が口元を歪めて続けた言葉。手のひらに収まる程度の黒い物体を差し出してくる。それに飛流は少し惹かれた。かつて自分の空洞を埋めていたものを知れる気がして。

 

 そして頷いた。物体を手に取ってしまった。

 その瞬間、物体が禍々しく輝いて絵が浮かび上がる。飛流はこれを知らないはずなのに知っていた。

 

「使い方は知ってるはずだよ」

 

 勝手に、いや無意識に飛流の人差し指が物体のスイッチを押す。少女の言う通りだった。

 

〈ZI-O!II!〉

 

 丹田の右真横。そこへ導かれる物体__アナザージオウIIウォッチ。

 すると時計のバンドのような帯が繭のように飛流を包み込み、身体を変質させていく。

 

 帯が消え、飛流だったものが姿を現す。

 飛流が変貌したのは、醜い顔や弛んだ肉体をプロテクターで覆い隠した灰色のアナザーライダー。裏の王強化体・アナザージオウII。

 

「まさに再誕の瞬間って感じだね」

 

 女性がニヤニヤと見守る中、アナザージオウIIは頭を抱える。

 

 洪水のように情報が流れ込んできた。

 白い服の女。大破したバス。中年の男性と共に歩いて行く同い年の少年。右肩が露出した紫色の服を着た男。差し出された手にはブランクウォッチが握られていて。そして──

 

「常磐ソウゴォ……!」

 

 二度の敗北の記憶。それが全てを塗り潰した。この世界での記憶さえも。

 

「紹介が遅れたね。ボクはタイムジャッカーのフィーニス」

 

「タイムジャッカーだと?」

 

 アナザージオウIIは女性──フィーニスの首を掴み上げる。

 

「また俺を傀儡とするつもりか!!」

 

「いや、そんなことは無いさ。スウォルツとは前に組んでたけど離反したし」

 

 その言葉を信じて手を首から離す。それに、とフィーニスは続ける。

 

「ボクも常磐ソウゴには痛い目に遭わされててねえ」

 

「そうなのか……」

 

「でも復讐するにはボクの力だけじゃ足りない」

 

 だからキミの記憶を戻したのさ、とアナザージオウIIの頭を指で突っつく。

 

「キミが復活したことでアナザーウォッチがいくつかこの世界に誕生した」

 

 こんな風にね、と右手にアナザーウォッチを一個取り出して見せるフィーニス。アナザーダブルウォッチだった。

 

「まずはそれを回収するのか?」

 

「それはボクがやっておこう。飛流、キミは常磐ソウゴを襲うんだ」

 

「それではお前の復讐が──」

 

「今の戦力を確認するためさ。それによってやり方も変わってくるだろう?」

 

「確かにそうだ」

 

 確かに一度の襲撃で奴を倒せるとは思わない。それにこちらは情報が圧倒的に足りないのだ。

 

「なら早速行ってこよう」

 

「頼んだよ、我が友」

 

「ッ、ああ!」

 

 頷いたアナザージオウIIは時計のエフェクトに紛れて消えていく。それを見守ったフィーニスはクックッと笑う。

 

「まさかこんなにチョロいとはねえ」

 

 あのウォッチは暴走しやすくしてるとはいえ、と更に笑みを深くする。

 

「さあて。上手く踊ってくれよ、ピエロ君」

 

 フィーニスの左手には、アナザーダブルウォッチとは別の、ひび割れたアナザーウォッチが握られていた──

 

 

 

 

『NEXT TIME 仮面ライダーヒリュウ、ファースト』

 

 

 

 

 ピリリリ、とガラケーが着信音を鳴らす。ティードは相手を確認して電話に出る。スウォルツだった。

 

「どうしたスウォルツ、こんな時間に」

 

「聞いてほしいことがあってな。お前の拒否は認めん」

 

「それはいいが手短にな。帰る準備中なんだよ」

 

「分かった。あのだな──」

 

「ああ」

 

「増えた」

 

「何がだぁ?」

 

「救世主が」

 

「お前も疲れてるんだな……」

 

「オイ待てティード。ティードお前!!」

 

 受験生を大量に抱えてたり大学側との連絡なんかも大変だからそのストレスは分かるが、幻覚についての相談は範囲外だよ。

 そう思って電話を切ろうとするがうるさい。仕方なく続けることにする。

 

「うん、待つから音量下げろよな」

 

「すまない。……トンデモな進路については常磐ソウゴという前例がいるだろう?」

 

「ちょうど反面教師として生徒に話したばかりだな」

 

「何話してるんだ……それはいい。救世主の話だ」

 

「そんなこと言い出したの誰だよ?」

 

「明光院景都だ」

 

「オイ何馬鹿なことを──」

 

「マジだ」

 

 その"王様"の親友でありクソマジメで、そして柔道選手として将来を切望されていた明光院景都が。

 マジか、とティードは思う。でもそれと同時に納得も。

 

「明光院君、怪我して柔道出来なくなったもんなぁ……」

 

 だからといってそこに行き着くのは首を捻るところだが。そうティードが思っているとスウォルツは違う、と言ってくる。

 

「何が違うんだ?」

 

「おそらく救世主志望とその事故は直接関係はしていない」

 

「じゃあどうして」

 

「常磐ソウゴだ」

 

 あー、とまた納得する。

 

「類は友を呼ぶからなぁ。元々明光院君もアレだったんだろ、多分」

 

「そうか? お前には明光院と常磐が同類に見えるか? ん?」

 

「何となく」

 

「何となくで済ます問題じゃないんだが!?」

 

 またうるさくなってきた。時間もそこそこ経ったので適当に言って切ろうとする。

 

「まぁアレだよ、進みたい道進ませてやれよ」

 

「お前他人事みたいに!! 実際そうだが!!」

 

「そんじゃ頑張れよ。……ざまぁ味噌汁」

 

「オイなんだそ──」

 

 切った。それと同時に笑いがこみ上げてくる。

 

「カッハハハハハ……アーッハハハハハ!!」

 

 思わず手を広げ、叫んでしまう。ポケットから何かが転げ落ちるが気にしない。

 

「うるさいよティード」

 

「あっ悪──」

 

 時が止まる。どこからかフィーニスが現れ、ティードのポケットから転げ落ちたものを拾い上げる。アナザークウガウォッチだ。

 

「久しぶりだねえ、同志」

 

 止まった時の中にいるフィーニスの声は彼に聞こえることはない。

 

 かつてタイムジャッカーだった彼は、その記憶と力を失ってしまっていた。

 

「キミに力と記憶を取り戻してあげてもいいけど……」

 

 フィーニスは先程まで恐ろしい笑みを浮かべていた顔を近くでじっと見つめる。今は萎縮しているが。

 

「ま、いっか。これはこれで幸せそうだ」

 

 少し嬉しそうに微笑んで、フィーニスは消える。その直後、時は動き出した。

 

「──い」

 

 パッポー、と鳩時計の音が聞こえた気がした。

 

「笑い声の音量は抑えるべきだとずっと言ってるんだけど?」

 

「今回は本当に面白かったんでなぁ」

 

「それはそれで気になるねえ──」

 

 

○○○

 

 

 何故かスウォルツ先生から説教をいただいた後、普通に下校中の常磐ソウゴ。彼には魔王にして時の王者、オーマジオウとなる未来が待ってたり待ってなかったりするが──

 

「常磐ソウゴ……!」

 

「えっ、はい俺だけど」

 

「常磐ソウゴォォォォォ!!」

 

「えっちょやばぁぁぁぁぁ!!」

 

 アナザージオウIIに襲われ、絶賛大ピンチである。

 

「俺何かしたぁぁぁぁぁ!?」

 

 ソウゴはかごの中の学生鞄を捨てて自転車で逃げようとするが、アナザージオウIIはそれを予知したかのように回り込む。そのため前輪が身体に当たるが、気にすることなく進みを止める。

 

「終わりだ、常磐ソウゴ……!」

 

「もう駄目ぇぇぇぇぇ!!」

 

 振り上げられる長槍。それはソウゴの身体を真っ二つに──

 

〈エクシードチャージ!〉

 

「ハァッ!」

 

「何!?」

 

 することは無く。アナザージオウIIの身体に円錐状の赤いポインティングマーカーが突き刺さり、その身体をその場に縫い止める。

 

 アナザージオウIIを撃ったのはソウゴの友達の月詠有日菜、通称ツクヨミだった。

 

「大丈夫──じゃなさそうね常磐君!」

 

「ツクヨミ、それ何!?」

 

「ウォズさんから貰ってたの! そんなことより変身しなきゃ!」

 

「うん!」

 

 有日菜の言葉に応じたソウゴは、先程投げ出した学生鞄の中からドライバーとウォッチを取り出す。有日菜は既にドライバーを付けている。

 

「行こう!」

 

〈ジクウドライバー!〉

 

〈ジ・オウ!〉〈グランドジオウ!!〉

 

「うん!」

 

〈ツクヨミ!〉

 

 各々のウォッチを起動して装填、その勢いでドライバーを回す。

 

「変身ッ!」「変身!」

 

〈グランド・タァイム!〉

 

〈ライダー・タイム!〉

 

 ソウゴの身体は黒いボディスーツに、有日菜の身体は白いボディスーツに包まれる。

 更にソウゴの身体の各部に金色の物体が二十個貼りつき、そこからレジェンドライダー達が姿を見せる。

 

〈カメン"ライダー"ァァァァァ!!〉

 

〈カメン♪ "ライダー"・ツクヨミィ♪〉

 

 ピンクをベースに金色の縁取りがなされている"ライダー"と、三日月のような"ライダー"を模した黄色の複眼がそれぞれ二人の顔面に貼り付いていく。

 

〈グランド!ジ・オォォォォォウ!!〉

 

〈ツ・ク・ヨ・ミ♪〉

 

 ソウゴが変身したのは黄金の鳩時計のごとき仮面ライダー。平成1号ライダー全ての継承者・仮面ライダーグランドジオウ。

 

 有日菜が変身したのは顔のパールが眩しい白い天使のような仮面ライダー。美しく気高き女戦士・仮面ライダーツクヨミ。

 

「お前も変身できるのか……!?」

 

「答える義理は無いわ!」

 

「答えるも何も無いじゃん!?」

 

 困惑するアナザージオウIIに殴りかかる二人のライダー。しかしギリギリではあったがかわされてしまう。

 更に追撃をかけるがまたかわされる。ジオウは反撃も食らってしまう。

 

「どうして当たらないの!?」

 

「未来が予知されてるんだ! 何となくだけど!」

 

「確かに常磐君の勘はいつも当たるけど……!」

 

「何? お前、そんなことを忘れていたのか!!」

 

 怒りによって、急にアナザージオウIIの攻撃が激しくなる。だがそれは、ジオウの言っていたことは正しいという反応でもあって。

 

「勘は合ってたってことね……!」

 

「カラクリも分かった! ならこれで!」

 

〈ゴースト!〉〈エグゼイド!〉

 

 攻撃をいなしながらジオウは左腰と左胸のライダーレリーフを起動し、更にアナザージオウIIに攻撃をしかける。

 

「前のような無様は晒さない……!」

 

 アナザージオウIIは未来を見る。ジオウとツクヨミの攻撃を悠々と回避し、自分の二刀流で二人を地に伏せさせる未来だ。

 

「見えた!」

 

 長槍を長剣と短剣に分離させ、ジオウの攻撃を待つ。ジオウの拳が近づいてきて──

 

「はぁっ!」

 

 避けられない。いや、体が動かない。そのままパンチを受け、よろめいてしまう。

 

「何故だ、俺の未来はこんなものじゃ……」

 

「見えない相手の未来は、文字通り見れないんじゃない?」

 

 ジオウの言葉とともに仮面ライダーゴースト・オレ魂と仮面ライダーエグゼイド・アクションゲーマーレベル2が姿を現す。それぞれ霊体化能力とエナジーアイテム・透明化の力で姿を消していたのだ。

 アナザージオウIIは裏拳一発で彼らを倒してジオウへ吠える。

 

「ふざけたことを!!」

 

「未来予知の方がふざけてると思うんだけど!」

 

 未来予知も使わずに突っ込んでくるアナザージオウIIをジオウとツクヨミは蹴りで迎撃。地に伏したのはそちらだった。

 

「行くよツクヨミ!」

 

〈フィニッシュ・タイム!〉〈グランドッ!ジオォウ!〉

 

「ええ!」

 

〈フィニッシュ・タイム!〉

 

 ジオウとツクヨミがドライバーを操作し飛び上がる。ジオウの背後には、19人の仮面ライダーが。

 

「またか……また俺はぁぁぁぁ!!」

 

 最後まで抵抗しようとドライバーをなぞり、右の拳にエネルギーを集中させる。しかし。

 

〈オールトゥエンティ!〉〈タイムブレーク!〉

 

〈タイムジャック!〉

 

 19人のライダーの蹴りがアナザージオウIIに突き刺さる。そのダメージでエネルギーが霧散する。

 そしてトドメに叩き込まれるジオウとツクヨミのライダーキック。

 

 アナザージオウIIは爆発し、加古川飛流の姿へと戻される。彼から排出されたウォッチは砕け散った。

 

「また、こうなるのか……!」

 

「ねぇ」

 

 変身解除したソウゴが立ち上がろうとする飛流に近づいていく。

 

「俺のこと知ってるの?」

 

「……今何って言った!!」

 

 制服の襟元を掴み上げる飛流。ソウゴは内心ビビりながらも飛流の目を見る。

 

「俺のことを知ってるのか、って言った。俺は君と会った記憶は無い」

 

「なら俺のことを知らないのか!!」

 

「ごめん。……君は誰なの?」

 

「俺は──」

 

 言葉を続けることなく、飛流はソウゴを突き放して逃げてしまう。

 

「痛ッ、待って!」

 

「待ちなさい!」

 

 飛流を追いかける二人。その二人が消えた後、砕けたはずのアナザーウォッチが再生していく。時が巻き戻ったかのように。

 

「やっぱり、負けたねえ」

 

 そう呟きながらアナザーウォッチを拾い上げたのは、いつの間にか現れたフィーニスだ。

 

「でもタスクは果たしてくれた」

 

 それには感謝しなくちゃねえ、と懐から更にアナザーウォッチを二つ取り出す。反応し合う三つのアナザーウォッチを見てフィーニスは笑みを浮かべる。

 しかしアナザージオウIIウォッチがふわふわと離れていこうとしてしまう。先程飛流が走って行った方向だ。フィーニスは急いでウォッチを仕舞い込む。

 

 どこまでもアナザージオウというわけか、彼は。

 

「余計な演技をするピエロには退場してもらおう」

 

 また別のアナザーウォッチをいくつか取り出し起動。そのまま空に放り投げる。

 

〈OOO……!〉〈BUILD……!〉〈EX-AID……!〉〈FAIZ!〉〈GHOST!〉

 

 契約者も無く作り出されるアナザーライダー達。彼らは飛流を探すために散開する。どこにいるかがわからなくても問題無い。アナザーライダーは力を失くしたとしてもアナザーライダーと惹かれ合う。

 飛行、ワープ、高速移動、霊体化。他のアナザーライダーが自らの能力を発揮していく中、アナザービルドだけそのまま走っていく。あ、転んだ。

 

「……それじゃ追いつけないだろう」

 

 呆れ顔のフィーニスの指摘にアナザービルドはしょうがなさそうにオレンジ色と灰色の成分が入ったボトルを取り出し、それを呑み込む。

 

「鳥人間・クレー射撃! ベストマ〜ッチ!」

 

 叫んだアナザービルドの背からオレンジ色の羽根が生え、それを羽ばたかせて宙を飛んで行った。先程のようにミスをしなければいいが。

 

 それを見届けたフィーニスは更にアナザーライダーを増やしていく。

 

〈ΑGITΩ!〉〈DEN-O……!〉〈DOUBLE……!〉〈FOURZE!〉〈WIZARD!〉〈GAIM!〉

 

「君達はアレの確保を。おそらく沢芽市に残っているはずだからね」

 

 アナザーライダー達はアナザー鎧武の作り出したアナザークラックに入っていく。

 

「本郷猛。キミが歪めた歴史を作り直させてもらうよ」

 

 

○○○

 

 

「はぁ、はぁ……」

 

 無様に敗北した加古川飛流。何とかソウゴと有日菜を撒いたものの、体力はもう無い。流れの速い川の流れる橋へたどり着いていた。

 

 狂気ももう無かった。常磐ソウゴへの恨み辛みはとりあえず薄れ、周囲への申し訳なさに隠れている。

 

「父さんも母さんも、アタル達も、フィーニスも心配してるだろうな……」

 

 連絡手段は無い。あの路地に置いてきてしまった。フィーニスが回収してくれていればいいのだが。

 

「とにかく帰ら──!?」

 

 飛流の目の前に突然異形が現れた。

 

 闇夜に浮かび上がるのはゴーグルからうっすらと見えるオレンジ色の眼。アナザーエグゼイドだ。

 

 背後に次々とアナザーライダーが数体到着する。戸惑っているうちに囲まれてしまう。

 

 そんなことができる人間に飛流は心当たりはあった。あってしまった。

 

 また俺は裏切られ、利用されたのか。

 

「がっ!?」

 

 失望が怒りに変わる時間もなく、前に出てきたアナザーゴーストに首を掴まれる。

 

 あの世界での死を思い出した。青色のトンボのような異形。それがたくさん、醜く呻きながら飛流に飛びかかる。アナザージオウの力を失っていた彼に防ぐ術は無く、そのまま身体を貪り尽くされた。

 

 青くなる飛流の顔に気もくれずにアナザーゴーストは胸の目を光らせる。一度変貌したことがあるために、その意味を知る飛流は更に怯えた。

 しかし突然アナザーゴーストに何かが衝突してふらつく。そして川へ飛流を落としてしまった。

 

「────!?」

 

 声にならない叫びをあげながら落ちていく飛流。一方、アナザーライダー達はその原因を睨み付ける。

 

 アナザーライダー達の視線を集めていたのはアナザービルドだった。急いだあまり、ブレーキをかけられずにアナザーゴーストに激突したのだ。

 

 アナザーファイズがアナザービルドの頭をどつき、川を指差す。飛流が生き残る可能性を考えているのだ。

 仕方ない、と言いたげにアナザービルドは水色と黄緑色の成分が入ったボトルを飲み込む。

 

「水泳・弓道! ベストマ〜ッチ!」

 

 そう叫んでアナザービルドは川へ飛び込む。次いでアナザーオーズも体を青色の海洋生物のように変えて続く。

 

 残ったアナザーライダー達は下流にある河原へ先回りしようと移動するのだった。

 

 

○○○

 

 

──ごめん

 

 声が聞こえる。誰だろう。

 

──君にもっと寄り添えていれば良かった

 

 誰だ、お前は。俺の問いに声は答えない。

 

──君に真実を伝える。それからどうするかは君次第だよ、飛流。

 

 声がぷつりと止み、映像が流し込まれてくる。

 

 

 

 

 

『私の招待に応じて、よくぞ来てくれた。王の候補者達……』

 

『時空を超え……過去と未来をしろしめす時の王者』

 

『離しなさい! ソウゴッ!!』

 

 ……ああ、これは。

 

『"アブナイ"!!』

 

『少年よ。お前は、生まれながらの王』

 

『お前は王となり、世界を破滅から救う使命がある』

 

 なんて俺は、愚かだったんだ。

 

 

○○○

 

 

「見つからなかったね……」

 

「そうね……」

 

 一方の常磐ソウゴと有日菜。二人は飛流を見失い、夜も遅いということでクジゴジ堂に戻っていたのだ。せっかくなので夕食も一緒に食べた。

 

 腹の重みと疲れでテーブルに突っ伏しているソウゴのスマートフォンに着信が入る。明光院景都、通称ゲイツからだ。

 

「もしもしゲイツ?」

 

『ソウゴ! 無事だったか!?』

 

「あ、うん、今から話すから」

 

 すごい剣幕だ。二人で報告しよう、とスピーカーモードにする。

 

「白いアナザーライダーに襲われたけど、ツクヨミと一緒に倒したんだ」

 

「でも変身してた人は見失っちゃって……」

 

『……そうか』

 

「ゲイツは何かあったの? 俺達に何かあったこと知ってるっぽいし」

 

『大したことじゃない。ウォズと一緒にライダーの力を奪われただけだ』

 

「それは大したことだと思うけど……足は!?」

 

『とっくに治ってるだろ、まったく。それよりも、幸い明日は土曜日だ』

 

 有日菜の困惑した声をスルーしてゲイツは計画を述べていく。

 

『ソウゴとツクヨミは大天空寺へ行ってくれるか。ツクヨミは週明けに海外に行くのに悪いが……』

 

「大丈夫。もう準備はしてあるから」

 

「えっ早くない?」

 

 なら頼む、とゲイツは続ける。

 

『俺とウォズは沢芽市に行く』

 

「大天空寺に沢芽市? どうしてそんなところに行くの?」

 

『それはだねツクヨミ君。君達を襲い、私達の力を奪った黒幕の探し物がそこにあるからさ』

 

『割り込むな!』

 

「ウォズさん!」

 

「ウォズ、ゲイツん家いたんだ!?」

 

『先程までゲイツ君と話し合っていたからね、我が魔王』

 

 繰り返させてもらおう、とウォズは続ける。

 

『我が魔王とツクヨミ君が大天空寺で、私とゲイツ君が沢芽市で探し物。それを回収し、そしてそこに来た黒幕を倒す。……それで異論は無いかな?』

 

「ええ」

 

「俺も大丈夫。その黒幕を見つけたらすぐ連絡してね?」

 

「ああ」

 

「じゃあま──あ、そうだ。ちょっと気になってたんだけど」

 

『どうした?』

 

「うーん、何て言えばいいのかな……」

 

 いざ話すとなると言葉選びが難しい。

 

「俺は会った記憶が無いんだけど、アナザーライダーの変身者は俺と面識があるっぽかったんだよね……」

 

『…………』

 

「ゲイツ?」

 

『……悪い、全く見当がつかなくてな』

 

「何かゲイツ隠し事してない?」

 

『してないさ。……俺も聞きたいことがある』

 

「えっ何?」

 

 質問返しに少し眉をひそめるソウゴ。

 

『どうしてお前とツクヨミは一緒に──』

 

「夜も遅くなっちゃったし、成り行きでね」

 

『夜ぅ!? 成り行きぃ!?』

 

 有日菜の返答を聞いたゲイツが叫ぶ、ものっそい叫ぶ。

 あっこれ釈明しないとめんどくさいやつだ。ソウゴは悟った。

 

「違うよゲイツ、あの変身者を探してたら遅くなっちゃったから一緒におじさんのご飯食べただけだから!」

 

「うん、ご飯食べただけ。明光院君も食べたかった?」

 

 ゲイツが叫んだ理由も分かってなさそうに有日菜も便乗する。

 

『ああうん、そうか……そうだよな……』

 

『ホッとしてるねゲイツく』

 

『言わないでいいんだそういうのは!!』

 

『く、くるしい』

 

『じゃあ切るぞ。明日の件、よろしく頼む』

 

 普通に切れた。技かけられてたのかなウォズ。

 

「……そういえばツクヨミさ、そろそろ迎え来るんじゃない?」

 

「兄さんが来るらしいわ」

 

「相変わらず仲良いねー」

 

「そうかしら?」

 

 ツクヨミは首を傾げて笑った。

 

 

○○○

 

 

 深夜、丑三つ時。

 

 フィーニスは大きなビルの屋上に立っていた。月光に照らされて、白く長いマントをたなびかせるその姿は神秘的であった。

 目を閉じ身体を休めるその背後に現れたアナザークラックから、アナザーライダー達が吐き出される。

 

 計画におけるスケジュールよりも早く帰還し、酷く負傷しているアナザーライダー達。彼らを見たフィーニスは眉を潜める。

 

「何があったのかい」

 

 よろよろと近づくアナザー鎧武の頭蓋を掴み記憶を探る。

 

 西洋騎士のようなライダーの槍が迫る。足軽のようなライダーの長槍に薙ぎ払われる。アラビアの女王のようなライダーの放つ矢に貫かれる。

 その三人のライダーに妨害されたということか。

 

 ふうん、と興味なさげに手を離す。

 

「計画に必要な分は送り込めたのだから良しとしようか」

 

 残ったアナザーライダー達を確認し呟く。

 

 沢芽市に六体のアナザーライダーを送り込もうとした目的。それは陽動と探索、そして沢芽市の仮面ライダー達に自分達の存在を知らしめることだった。初手があの二体ならば問題はあるまい。残りは後で送り込んでも十分だ。

 

「さて、加古川飛流はどうなったか──おっと、噂をすれば影が射すとはこういうことだね」

 

 五体のアナザーライダーがぞろぞろと現れる。そのうちの一体、アナザーファイズの頭に触れる。

 

「……生死不明?」

 

 アナザービルドは必死に頷いた。信用できないので他の面々に視線を移すと、彼らも頷いたり肩をすくめたりとそれぞれ違うが肯定の態度だ。

 

 アナザーライダーは死した人間や人工人型ロボですら変身できる。しかし、生前にアナザーライダーとなった者が死した場合、死体からその力の残滓は、アナザーライダーであった痕跡は消えてしまうのだろうか。

 興味は尽きないが、ひとまず置いておく。飛流についてもだ。

 

「彼は放っておこう。これが反応しないってことは死んでるってことだろうし」

 

 アナザージオウIIウォッチを取り出してほくそ笑むフィーニス。

 

「とにかく、今は残りのアナザーウォッチを探さなくちゃねえ」

 

 そうひとりごちると、急にアナザーオーズが高笑いした。ならば私に任せてもらおう、と言わんばかりに虹色の羽根を生やして飛んでいく。

 

「……お目付けを頼んだよ」

 

 フィーニスや他のアナザーライダー達に視線を向けられたアナザーエグゼイドは渋々頷き、アナザーオーズに追いつくべくチョコブロックを召喚して空中を跳んだ。

 

「残りは六個か」

 

 アナザーディケイドとドライブは放棄しようか。下手に彼らを刺激すれば記憶が蘇るかもしれない。わざわざ力を奪われる可能性を発生させる理由は無かった。

 

「キミ達も頼んだよ」

 

 頷いて散開していった残りのアナザーライダーを見届け、フィーニスはまた身体を休めるのだった。

 





 スタート→始まり→「起」

 全四話+エピローグ+間話をいくつか、の予定です。
 現在四話以降が書けていないので、再来週より後は間話でお茶を濁す可能性もありますがご了承ください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

承「アナザーブレイド・サクセッション!?2004」

「ッ……ここは……」

 

 飛流の目に飛び込んできたのは知らない天井だった。程よい弾力を身体全体で感じ、ベッドに寝かされていることを察する。

 

「よく生き残れたもんだな」

 

 あの時は死を覚悟した。末端から冷たくなっていく感覚。沈んでいく身体。

 

 そんな俺を救ったのは、あの声の主なのだろうか。何故救けられたのかも分からない。

 分からないことが多すぎて頭の中が白くなる。ごちゃごちゃした思考がリセットされてから、飛流が真っ先に思い浮かべたのは両親や友人、先生だった。

 心配している顔が容易に想像できた。でもいいのだろうか。また、アナザーライダーになってしまったのに。

 

 暗い思考になってしまったため、それを振り切ろうと起き上がって周りを見る。壁には写真だらけだ。その中で目に止まったのは──

 

「ライドウォッチ……!?」

 

 何の力も込められていない、ブランクのものだった。それなのに手に取ると、温かさを感じる。気がした。

 

 俺がいくつも作り、使ってきたアナザーウォッチとは正反対だ。

 

 胸元に近づけ、その温もりを堪能する。少し涙が出てきた。

 

 その時、ノックの音がした。咄嗟に涙を拭い、ウォッチをポケットに突っ込む。

 返事をする前に扉が開く。現れたのは女性で、料理の乗ったお盆を持っていた。

 

「目が覚めたみたいだね。もうすぐ昼になっちゃうけど」

 

 えっと、と何かを聞こうとする。聞きたいことが多すぎて口が詰まった。その代わりとでも言わんばかりに女性が答えだす。

 

「ここはハカランダって喫茶店。……の、地下室。でもって、私は生原羽美。あなたは?」

 

「加古川、飛流です」

 

「加古川君か。ご飯食べなよ、朝食兼昼食になっちゃうけどさ」

 

「いやそこまでしてもらうわけには──」

 きゅるる。意外と可愛らしくお腹が鳴る。羽美は思わず笑いながらお盆を差し出す。飛流は顔を赤らめながら受け取った。

 お盆の上には皿が二枚とコップが一つ。皿には焼かれた食パンやソーセージ、スクランブルエッグやレタスが乗っている。コップには水が注がれていた。

 

 いただきます、と手を合わせてからフォークでスクランブルエッグをすくって口に運ぶ。その温かさに飛流の頬が緩んだ。

 

 自殺未遂の可能性は無くなったかな、と羽美は少し安堵した。

 

「加古川君はさ、どうして川に流されてたの?」

 

 その質問が投げかけられたのはパンを食べ切った直後だった。レタスとソーセージも消え、スクランブルエッグも残っていない。完食だ。

 

「……言わなきゃダメですか?」

 

 水で喉を潤してから答える。

 

 普通に言いたくないのもあるが、あの短時間で色々起きすぎて説明できるのかという懸念もある。信じてもらえるかもわからない。

 

「だってあなたのこと助けてあげたじゃない。昼食も。代金だと思ってさ。

 それにあなた、悩んでそうだし」

 

「……信じてもらえるかどうか、わからないんですが──」

 

 そこまで言うなら、と飛流は話した。前の世界での記憶が戻ったこと。また異形の化物となって復讐を果たそうとしたこと。裏切られたこと。そして変な声が真実を伝えてくれたこと。

 

 気付けば、全てを話してしまっていた。自分が今持つ、苦しみも。

 

「──昔助けてもらった相手を、俺は恨んでました。復讐にソイツの周囲の人間まで巻き込みました。俺は、その──」

 

「許せないんだ、自分が」

 

 不安の種を言い当てられた。自分でも言語化できないものを、どうして。

 

「昔ね、大きな地震があってさ。その時にパパとママとお兄ちゃんが死んだんだ」

 

 私を助けてね、と羽美は悲しげに呟いた。

 

「それで、昔の私は思ったわけだ。ヒーローなんていない、皆自分のことばっかりだって。

 バッカじゃない? だって自分のことを構わず他人を救った人がそばにいたのにさ」

 

 俺と同じだ、と飛流は思った。家族の喪失を受け入れられないために起こる、八つ当たり。

 

「そんな私にさ、剣崎っていうバカな仮面ライダーが教えてくれたんだよ。ヒーローはいないかもしれないけど、ヒーローになろうとしてる人はいるって」

 

「あなたも、そうなんですね」

 

 うん、と羽美は嬉しそうに頷く。

 

「アイツみたいなヒーローになろうって、あの時から色々やってるんだ」

 

「だから俺を助けてくれたんですか?」

 

「そういうこと」

 

 ふふん、と笑う羽美が眩しく見えた。

 

 俺もあなたみたいになれるだろうか。過去を乗り越えられるだろうか。

 

「無理に乗り越えなくていいと思うけどね」

 

「えっ」

 

「声に出てたよ」

 

 頰が熱くなる。

 

「だって私にとっての過去と加古川君にとっての過去って違うじゃん。自分なりに向き合えばいいよ」

 

「……はい!」

 

 ああそういえば、と羽美はポケットから拳大の物体を取り出す。

 

「はいこれ」

 

「これって……!?」

 

 アナザーブレイドウォッチ。アナザーブレイドの変身者は会ったことが無かったが、まさか。

 

「渡しといてって頼まれてたんだ」

 

 違うのか。飛流は内心ずっこけたがそりゃそうだな、と考え直した。この人は自分の力だけでヒーローになれる人だ。

 

「誰にですか?」

 

「この店のオーナー。実のところ加古川君を見つけたのもその子」

 

「……いいんですか?」

 

「話聞いてる限りだと間違ったことには使わないかなって。これが何かもわからないけど」

 

 ありがとうございます、と頭を下げて受け取る。

 

 すると、アナザーライダーが近づいてくる気配を感じた。まだ遠いが、これは。

 

 飛流はお盆を邪魔にならないように傍に置いてベッドを抜け出す。

 

「どうしたの?」

 

「やらなくちゃいけないことがあるので、失礼します。ありがとうございました」

 

「……頑張って!」

 

 飛流は激励に頷くと、階段を駆け上がる。

 

「服は返さなくていいからねー!」

 

 首を振る飛流を見て、羽美は笑った。律儀だなぁ。

 でも、また会えるのはちょっと嬉しかった。

 

 

 

 

 

 店を出て、走りながらアナザーウォッチを起動させ、そのまま胸に埋め込む。

 

〈BLADE……!〉

 

 胸からアナザーブレイドの顔が描かれたアナザーオリハルコンエレメントが放出される。飛流は拒絶反応に苦しみながらもそれを潜り抜け、異形へと変貌する。

 

 飛流が変貌したのは運命に操られし不死者・アナザーブレイド。

 

 アナザーブレイドは勢いをそのままに白いオーラを纏い、店に近付いていた二体の敵へタックルをかまして吹っ飛ばす。大したダメージは与えられてはいないが、少し余裕を持つ時間をつくれた。

 

 アナザーオーズはゾンビのようにゆらゆらと立ち上がり、アナザーエグゼイドは最小限の動きで起き上がる。

 

「ヴェア……!」

 

 呻き声をあげてアナザーオーズがアナザーブレイドに爪を突き立てようとする。鍔に丸鋸を組み合わせたような大剣、アナザーブレイラウザーで受け止めるが、背に受けた衝撃でつんのめって装甲に傷をつけてしまう。確実にアナザーエグゼイドの攻撃だ。手に持っているハンマー、アナザーガシャコンブレイカーによるものだろう。

 

 振り向いて剣を振るうも、そこにいたはずのアナザーエグゼイドはすぐに離脱していた。そしてまた背に衝撃を受ける。アナザーオーズの蹴りだ。

 最小限の動きで背後を確認すれば、アナザーオーズも離脱していた。両方ともヒットアンドアウェイが得意なのだ。

 

「……これはキツいなッ!」

 

 一対多数には慣れていない。基本的にはこちらが多数を引き連れて戦うことが多かったし、それにしたって基本的には負けている。勝ったと言えるのはせいぜいジオウIIとゲイツリバイブ、ディケイドを相手にしたぐらいである。

 アナザーブレイドを使い慣れていないのも痛い。せめてどちらかを倒せれば──

 

「ダハァ……!」

 

 そう考えている途中にも攻撃を何度も受ける。なるべく剣で受け流してはいるが限界はすぐに来るだろう。

 

「……一か八かだ」

 

 大剣の丸鋸を撫でる。するとアナザーブレイドの装甲が変質していく。先程同様、その装甲に攻撃が叩き込まれるが──

 

「ヴァァ!?」

 

 鋼鉄と化した装甲がハンマーの打撃と長剣、アナザーメダジャリバーの斬撃を受け付けず、逆に攻撃した側がよろめいてしまう。

 

「今だッ!!」

 

「ンンゥ!?」

 

 アナザーブレイドは右手を片方のアナザーライダーにかざす。体内のアナザーウォッチを引力で引き寄せて手の中へ。

 すぐにアナザーウォッチを"止める"。胸に開いた穴からセルメダルを溢れさせていたアナザーオーズはそのままメダルの塊となって崩れていった。

 

「次はお前だ」

 

〈OOO……!〉

 

 アナザーブレイドは奪いとったアナザーウォッチを胸に埋め込み、欲望に呑まれた古代の王・アナザーオーズへと変貌する。

 

 アナザーオーズは緑の脚に黄色い筋肉を盛り上がらせ、腕に備わった黄色い爪を構え、緑の複眼でアナザーエグゼイドを凝視する。アナザーエグゼイドは赤い達磨のようなアナザーロボットゲーマを喚び出し、変形させて装着する。

 

 先に動いたのはアナザーオーズ。チーターのごとき俊足でアナザーエグゼイドに手を伸ばす。狙うは、胸。

 アナザーエグゼイドは予測していたとばかりに赤い籠手で爪を弾く。アナザーオーズはその反動で宙を一回転し、上から蹴りを連続で繰り出す。ここから動くまいと赤い籠手に力が入る。しかし連続蹴りには耐えられず、腕をずらされてしまう。

 

 その隙を狙って爪が赤い装甲を貫く。引っこ抜かれた手にはアナザーウォッチ。アナザーウォッチを"止める"と、アナザーエグゼイドは身体を微粒子に変換しながら消滅していった。

 

「ふう。……ぐッ」

 

 人間の姿に戻ると、飛流は胸を押さえて膝をつく。アナザージオウの力を失った状態でアナザーウォッチを二つも使ったのだから当然とも言える。

 

 そのままぼんやりとした温かさの地面に倒れ込んで考え込む。

 

 これからどうしようか。追手を差し向けられたということは、フィーニスにまだ狙われていることは確かだ。家族や友人の元へは戻れない。ハカランダにも戻れない。巻き込めない。

 

「いっそ常磐ソウゴに──」

 

 そう言いかけて、馬鹿か、と吐き捨て自嘲する。襲っておいて自分と一緒に戦ってくれって都合良すぎるだろ。

 

「フィーニスを直接叩くしかない、か」

 

 とはいえ戦力が足りない。アナザージオウIIウォッチは欲しいところだが。あそこに残っているだろうか。

 

 色々と思考を巡らせながら、ふらふらと立ち上がる。とにかく移動しなければ。

 

 歩きながら服を確認する。かつてアナザージオウとしてソウゴと対峙した時のものとそっくりだった。買ってきてくれたのだろうか。

 

 そういえば制服は……と考えていると大量のアナザーライダーの気配を察知する。

 足を速めると現れたのはその通りのアナザーライダー達。そして──

 

「フィーニス……!」

 

「まさか生きてるとはねえ」

 

 驚きだよ、という言葉に嘘はないように思える。心底不思議そうな表情の彼女を飛流は睨みつける。

 

「お前は、俺を使って何をするつもりなんだ」

 

「キミはもう用済みだよ。これと他のアナザーウォッチを生み出した時点でね」

 

 アナザージオウIIウォッチを懐から取り出して見せびらかすフィーニス。

 

「計画は着実に進んでいる」

 

「計画? お前の目的は何だ!」

 

「加古川飛流。キミは仮面ライダーを何だと思う?」

 

「……ヒーローってやつじゃないのか」

 

「分かってないなぁ。ライダーは悪の兵器として生み出された。それなのに人類の自由と平和のために戦うだって? ふざけてる!

 ボクはただ、ライダーの本来あるべき歴史を創造したいだけなのさ」

 

「何……?」

 

「ボクが1971年の1号となり、人類を征服する仮面ライダーの歴史を創造する」

 

「そんなこと──」

 

 人類を征服する仮面ライダー。ライダーの在り方が変わってしまえば、羽美の過去も変わってしまう。一生、過去を乗り越えられないままになるかもしれない。

 

「──そんなこと、させてたまるか!」

 

〈BLADE……!〉

 

「へえ。初陣としては絶好の相手だ」

 

 アナザーライダー達に下がっているように目線で命令を下すフィーニス。伝わらなかったのか、アナザービルドが周囲の行動に首を傾げていたが、アナザーファイズに肩を掴まれ引かれる。

 

 その様子を呆れたように見た後、フィーニスは三つのアナザーウォッチを掲げる。アナザージオウIIウォッチがその内の一つに入っていた。

 一気に三つ使うつもりか。アナザーブレイドに変貌した飛流は警戒する。

 

 フィーニスはニヤリと笑い、アナザーウォッチを次々に起動する。

 

〈ZI-O!II!〉〈GEIZ……!〉〈WOZ……!〉

 

「この時代に存在しないはずの三つのウォッチから生まれしアナザーライダー。その力が新たな歴史を創造する……!」

 

 そのまま自分の身体に埋め込むことなく、空へと放り投げた。

 怪しく輝くアナザーウォッチは空中で混ざり合い、三角形や円に歪みながら小さくなっていく。力の密度が濃くなっていく。

 

 そして新たなアナザーウォッチがフィーニスの掌に収まった。

 

「絆の力、試させてもらうよ」

 

〈ZI-O!TRINITY……!〉

 

「トリニティ……?」

 

 ジオウとは何度も戦ったが、それは聞いたことがなかった。おそらく一度も戦ったことのない形態か。警戒を更に強め、大剣を強く握りしめる。

 

 フィーニスが胸にウォッチを押し付ける。すると時計のバンドのような帯が苦しむフィーニスをアナザージオウへと変貌させ、同時に赤の異形と緑の異形を生み出す。

 

 そしてアナザージオウの両腕が鎖に変質し二体の異形を縛り、粘土で作品を作るようにその身体をねじる。悲鳴を上げる異形はまるで腕のように変質していく。幸か不幸か顔は残っていたが。

 赤の腕は右に、緑の腕は左に、鎖によって強引に接続される。

 

 最後にアナザージオウの顔を覆う仮面を外し、胸部の装甲に押し付ける。筋肉ごと仮面が剥がれた顔には、蛇の腹のように並んだ骨とその隙間から見える白目しか残っていなかった。

 

 フィーニスが変貌したその異形は、絆の体現者・アナザージオウトリニティ。

 

 アナザージオウトリニティはかつてアナザージオウの武器であった長槍を喚び出して構える。アナザーブレイドも大剣を構えて応じる。

 

 先に動いたのはアナザーブレイドだった。丸鋸を撫で、光を纏った大剣を振り上げる。

 アナザージオウトリニティは、慌てずにドライバーをなぞり、長槍と右脚にエネルギーを纏わせる。

 そのまま長槍で大剣を受け止め、上に押し上げへし折る。そしてガラ空きになった腹に蹴りを入れて吹っ飛ばす。

 

 飛流は緑色の血を撒き散らしながら人間の姿に戻る。アナザージオウトリニティはひび割れたウォッチを取り出してその血を吸い上げていく。

 

「強いッ……!?」

 

「アナザーブレイドはかつてジオウトリニティに敗れた。ならそのアナザーであるボクに倒されるのは道理じゃないかい?」

 

「ふざけたことを……!」

 

「キミだってその論理に則ってアナザーオーズを倒したはずなんだが」

 

 まったく、とアナザージオウトリニティは溜息を吐いてそれにしても、と続ける。

 

「君を駆り立てるものは何だろうねえ。ボクへの復讐心か、それとも──」

 

〈OOO……!〉

 

 アナザージオウトリニティの興味など意に介さず、飛流はアナザーオーズへと変貌。緑の脚が伸縮し、腕の爪を突き出して跳びかかる。

 

「甘い」

 

 しかしアナザージオウトリニティの両肩から伸びた鎖が身体へ巻きつき動きを封じる。

 アナザーオーズは身体を青く染めて脱出しようとするがそれも叶わない。

 

「絆ってのは簡単に切れないものらしいからねえ。逃れるのもそう簡単じゃ無さそうだよ」

 

 アナザージオウトリニティは右手に装着したナックルダスターから二本の青い爪を生やし、それで胸を貫いて引っこ抜く。傷から青いメダルが三枚飛び出し、それによってアナザーオーズは普段の三色に戻る。

 

 メダルは先程の緑色の血液と同様にヒビの入ったアナザーウォッチに取り込まれる。苦しげに喘ぐアナザーオーズは放り投げられた。

 

「もう使い道も無いか。じゃあ頼──」

 

 背後に控えるアナザーライダー達に振り向いて呼びかけた瞬間、彼らの目を光が焼いた。無論、アナザーライダーの目は30秒もかからず再生する。

 

 しかしその僅かな時間でアナザーオーズ──加古川飛流は消え失せていた。

 彼がやって退けたことを即座に理解して、フィーニスは驚き、そして微笑した。

 

「……案外やるねえ」

 

 警戒しておくか、とフィーニスは舌を巻いた。

 

 

○○○

 

 

 

 一方、ゲイツとウォズ。朝の7時に玄関で待ち合わせである。最寄りの駅へ向かう最中、昨夜聞けなかったことを話すことに。

 

「そういえばお前、どうしてあの女を見たとき驚いていたんだ?」

 

「そう見えたかい? まぁ実際そうだったんだが」

 

 スウォルツが率いていたものとはまた別のタイムジャッカー、フィーニス。彼女もティードや加古川飛流と同じく、我が魔王の破壊と創造の範囲に含まれていたんだよ、とウォズは語る。

 

「そしてこの世界のフィーニスは新人化学教師として働いている」

 

「タイムジャッカーの教師率高いな」

 

「そこはさておくとして。つまり昨夜私達とあの形で会う可能性はほぼ無かったんだ」

 

「あの白ウォズみたいにアナザーワールドから来たってことか」

 

「ああ、おそらく」

 

 ただのアナザーワールドではないだろうけどね、とウォズは心の中で小さく反論した。

 

「問題はその方法だが」

 

「門矢士や海東大樹の力が奪われていたとするなら、既に彼らは私達に見える形で行動しているはず」

 

「俺は最近奴らを見かけていないぞ」

 

「私もだ。おっと、着いたみたいだね」

 

 きっぷを買うのにウォズが苦戦したが、無事二人は電車に揺られて沢芽市に向かっている。座席はご老人に譲った。

 

 なお、ゲイツの足の怪我はほぼ治っている。いい機会だから昨夜ウォズに尋ねると、ゲイツマジェスティウォッチに含まれるビーストの力が作用したのではないか、とのこと。

 

 ちなみに何故ストールを使って移動しないかというと。

 

『ストールも私の力の一部だと認識されたみたいでね……』

 

『変身してる時に使ったこと無かったよな?』

 

『そこについては考えてはいけないだろう』

 

 昨夜、こんなくだりがあったりした。

 

「ウォズ」

 

「どうしたんだいゲイツ君」

 

「どうして俺達は沢芽市に向かっているんだ?

 お前が言うには、奴は"始まりのライダー"とやらの力を狙っていて、この世界にそれを持つライダーは三人」

 

「門矢士と葛葉紘汰と天空寺タケルだね」

 

 門矢士は奴の目的から外してもいい、とゲイツは続ける。アイツは神出鬼没だ。

 

「天空寺タケルのいる大天空寺に、どうしてソウゴとツクヨミを向かわせた?」

 

「まずは後者から答えよう。今回の件にはツクヨミ君になるべく関わってほしくないからだ。彼女が記憶を取り戻してしまう可能性がある」

 

 確かに加古川飛流の記憶は取り戻された。ソウゴ達から聞いた言動からも明らかだ。

 

「そして、フィーニスの本命は葛葉紘汰が使った昭和ライダーロックシードだと私は睨んでいる」

 

 それが私達が沢芽市に行く理由さ、とウォズは言う。

 

「とはいえ、力としての質は天空寺タケルの持つ1号ゴーストアイコンの方が上だ。昭和ライダーロックシードも本郷猛本人が製作したものではあるが、本人の魂には及ばない」

 

「何か他にロックシードを選ぶ理由があるというわけだな」

 

「そういうことさ。ゲイツ君はなんだと思う?」

 

 ゲイツは少し考えてみるが、その理由にはたどり着けない。当たり前である。フィーニスのことなどほとんど知らないのだから。

 

 意地の悪い男だ、とゲイツは白旗を振る。

 

「降参だ」

 

「彼女には哲学がある。『仮面ライダーは世界侵略のための兵器である』というね」

 

「兵器……なるほど、そんな思想を持つやつが兵器としての在り方と真逆な魂を使うわけがない」

 

 仮面ライダー1号、本郷猛の在り方は昨夜ウォズから聞いていた。その時、かつての未来でオーマジオウが建てていたレジェンドライダーの像の中にいなかったのを思い出して不思議に思い尋ねたが、あくまでも我が魔王が継承したのは平成ライダーだからね、とはぐらかされた。

 

 平成ライダーって何だ。謎が増えただけであった。

 

「その通り。彼女が一番望むのは元大ショッカー大首領・ディケイドの持つ力だろう。しかし現在手に入れるのはほぼ不可能に等しい」

 

「消去法でロックシードを選ばざるを得ないと」

 

「おそらくだけどね。でも彼女はそういうのにうるさかった」

 

 目的も含めそこまで知っているということは奴とは知り合いだったのだろう、とゲイツは当たりをつけた。口に出しはしない。

 

「そしてこれで彼女からライダーの力を奪い返す」

 

 ウォズは自らが吸った白ウォズのものだった未来ノートを取り出す。

 

「お前に使えるのか?」

 

「海東大樹にだって使えていただろう。それに以前試したんだ。『明光院景都、月読有日菜に投げ飛ばされる』、とね」

 

「アレお前のせいだったのか」

 

 ゲイツが足に怪我をする前のことだった。万が一に備えて、海東大樹が奪っていたものを借りたのだろう。

 

 流石に公共の場だったので大声と技をかけるは控えておいた。後でやればいいし。

 

 だが、未来ノートが使えるのは大きい。なんなら戦闘の場所なども指定できるし。

 

「だが加古川飛流や他の戦力と戦うことになったらどうする。力を持たない俺達が勝てる可能性は薄いぞ」

 

「……そこは臨機応変で行こうか。やられる前にやり返せばいいしね。

 最悪、今遭遇したとしても手段はある」

 

 手段だと、と訊き返そうとしたその瞬間、電車のアナウンスが流れる。

 

「まさか移動に半日も使うとはな」

 

「安心するといい、我が魔王達も含め費用は私持ちだ」

 

「それ初めて聞いたぞ」

 

「宿泊するための費用も十分あるし帰りはストールで君の家に直行さ」

 

「どこからそんな金出てるんだ……?」

 

 然るべきところから、とだけウォズは答える。

 どういうことだ、と聞こうとしたら電車が止まり、大勢の人とともに駅のホームへ押し出される。結局うやむやにされた。

 

 

 

 

 

「──で、どこへ向かう」

 

「まずはドルーパーズへ向かおうか」

 

「ドルーパーズ?」

 

「葛葉紘汰が働いていた場所さ」

 

 向かった。そこはフルーツパーラーであった。

 

「……ウォズ」

 

「ふぁんあいえいふふん」

 

「口の中を空にしてから話せ!」

 

 ウォズの口内はフルーツでいっぱいである。それをゴクン、と一瞬で飲み込むウォズ。以前白ウォズを吸った時の光景をゲイツは思い出した。

 

「いい食べっぷりだねぇ、これサービス」

 

「ありがとうございます」

 

 ドルーパーズのオーナー、阪東清治郎から更にパフェを貰ったウォズはニッコリ笑顔だ。そんなウォズをゲイツはジト目で見る。

 

「……何だいゲイツ君」

 

「これを食いたかっただけだな?」

 

「副次目的だよ」

 

「そうは見えんが」

 

 仕方ない、とゲイツは内心ぼやく。一応店内を見渡してみてもそれらしきものは無い。

 他の場所をあたるか、と思ったその時。店外から悲鳴が聞こえる。

 

 ゲイツは迷わず店から飛び出していった。

 それを見たウォズはまだたくさん残っているフルーツパフェを吸った。空になった。ごちそうさまでした。

 

「カードで」

 

「はーい」

 

 店員のイヨに会計してもらって店を出て、ゲイツを探す。見つけた。騒ぎの中だ。

 人々が異形へと進化していっている。増える異形が人々に牙を突き立てる度に仲間が更に増えていく。

 

 かつてヘルヘイムという横暴な進化の洗礼を受けた人々が、また別の横暴な進化の洗礼を受けている光景だった。

 

 そしてそれを引き起こしているのは、仮面ライダーにされてしまった者・アナザーアギト。

 

「ゲイツ君!」

 

 ゲイツは服を着たアナザーアギトの一体に吹き飛ばされて壁に突き刺さる直前。ギリギリのところで受け止めて、二人揃ってアスファルトに転がった。

 

「ちっ、案の定か!」

 

「無茶をするね……」

 

「人を守るのが救世主だからな」

 

「だからといってもね」

 

 まだ立ち上がるゲイツにため息を吐くウォズ。

 

「生身で敵うわけがないだろう。せめてこれを使うんだ」

 

 ウォズがゲイツに投げたのはジカンザックス。

 

「どうしてこれを!」

 

「ちょっとした裏技でね」

 

「そうか、つまりこれが"手段"か」

 

〈じかーん・ざーっくす!"おの"ー!〉

 

「そういうことさ」

 

〈ビヨンッ!ドライバァー……!〉

 

「……は?」

 

 ゲイツはウォズの腰に装着されたそれを驚きをもって見る。お前もライダーの力を奪われたはずじゃ。

 

「私だってこれは使いたくないんだけどね」

 

〈ウォズッ!〉

 

 溜息を吐きながら左手でミライドウォッチを起動、ビヨンドライバーに装填する。

 

「説明は後にさせてくれると助かるな、我が救世主」

 

「我が救世主言うな」

 

〈アクション!〉

 

 ゲイツが文句を言う間にもウォズはビヨンドライバーを操作していくが、その仕草は何故か__

 

「……白ウォズ?」

 

 ──白ウォズに瓜二つだった。

 

「変身」

 

〈投影!〉

 

 ゲイツの疑問にも構わずウォズはクランクインハンドルを下から押し上げる。

 

〈フューチャー・タイム!〉

 

 ウォズの身体が銀色のスーツに包まれていく。

 

〈スゴイ!ジダイ!ミライ!〉

 

 背後の巨大時計から飛び出した水色の"ライダー"の文字を模した複眼がアナザーアギト達にぶつかって怯ませる。

 

〈カメン"ライダー"ッ・ウォズ!ウォズ!!〉

 

 頭部や身体の各部を覆うアーマーをまとい、仕上げとばかりに"ライダー"の形の複眼が顔面に貼り付いていく。

 

 ウォズが変身したのは、新たな世界の未来を主君や仲間と共に歩む預言者・仮面ライダーウォズ。

 であるのだが。

 

「我が名は仮面ライダーウォズ。未来のッ、創造者で──痛てっ」

 

「何を言っている。さっさと片付けるぞ」

 

 白ウォズの初変身の時と同じ名乗りまであげるウォズにゲイツは斧の一撃をくれてやる。

 手加減はした。一応。反応から見ても特に問題は無さそうだ。

 

「……すまないね、ゲイツ君」

 

〈ジカンデスピアッ!"ヤリ"スギッ!〉

 

「ゲイツ君は弓で私の援護及び民間人に襲いかかるアナザーアギトの牽制。必要があったら斧で近接戦を」

 

 奴らの顎には気をつけるように、と最後に言い残してアナザーアギト達の元へ走り出した。

 

「了解」

 

〈"ゆみ"ー!〉

 

 ゲイツは特に異論を唱えず、ジカンザックスの引き金をゆっくりと引き、一体のアナザーアギトを見据え、それを放った──

 

 

○○○

 

 

 たくさんの人々が広場から逃げていく。その流れに逆らって広場に向かおうとする青年が二人いた。

 

 一人は赤と黒のロングコートを纏った精悍な顔つきの青年で、もう一人は淡い色の私服を着こなした線の細い青年だった。

 その二人を見て、逃げる人々は希望を見出す。

 

 ザック。呉島光実。駆けつけた二人はこの街を守るヒーロー、アーマードライダーなのだから。

 

「どうしてインベスが現れやがった……!?」

 

「戦ってるのは……仮面ライダー?」

 

 光実もザックも様々なライダーと共闘してきたが、遠くに見えるライダーはその誰にも似つかない存在だった。

 加勢しよう、と光実は戦極ドライバーを装着する。おう、とザックもドライバーを装着することで応じる。

 

〈ブドウ!〉

 

〈クルミ!〉

 

 果物や木の実を模した錠前、ロックシードをドライバーに装填。光実のドライバーからは銅鑼の、ザックのドライバーからはギターの音声が流れる。それは戦士を鼓舞するファンファーレだ。

 と、同時に空にジッパーのような裂け目、クラックが発生。そこからロックシードの意匠と同じ、鋼の果実がゆっくりと降りてくる。

 

「変身!」

 

「変身ッ!」

 

〈ハィーッ!〉

 

 カッティングブレードが下り、巨大果実が落ちてきて二人の頭を覆う。果実が密着するのと同時にボディスーツに包まれ、二人の顔は果実の中で仮面と兜を被る。

 

〈ブドウ・アームズ!龍・砲!ハッ・ハッ・ハァッ!〉

 

〈クルミ・アームズ!ミスタァ〜・ナックルマーン!〉

 

 果実が展開して上半身と後頭部を覆う鎧となり、展開し切った瞬間に果汁が弾けた。

 

 アーマードライダー龍玄、アーマードライダーナックル。ここに推参。

 

 龍玄の精密な銃撃がアナザーアギトの動きを止め、その隙にナックルの拳が打ち倒していく。ダメージを蓄積したアナザーアギトは倒れ伏し、人間に戻っていく。

 

「人に……戻った?」

 

「インベスじゃないのか?」

 

「もしそうなら去年の白いウイルス以来だね」

 

 オーバーロードの亜種である可能性は捨て切れないが。だがインベスにせよ何にせよ、やるべきことは変わらない。戦って、この街を守るだけ。

 

 一方、ゲイツとウォズも新たな参戦者に気づく。

 

「何だあの仮面ライダーは」

 

「龍玄にナックル。この街を守るアーマードライダーさ」

 

「アーマード……確かに鎧だな」

 

 ゲイツは名称に納得しながらも手は止めない。矢がアナザーアギトを貫き、爆散する。再び別のアナザーアギトを射ろうとして、数の少なさに気づく。

 先程までのウォズとゲイツの奮闘。それに加え、龍玄とナックルの参戦によってアナザーアギトの数も残り少なくなっていたのだ。

 

「ぐっ……」

 

 そんなタイミングで、ウォズの身体にスパークが走り、変身が強制的に解除される。

 

「ウォズ!」

 

「まさかこんな短時間しか保たないとはね……」

 

 倒れるウォズにゲイツが近寄り、囲もうとするアナザーアギト達にジカンザックスを向ける。

 しかしジカンザックスの刃が届く前にアナザーアギト達は吹き飛んでいく。ナックルの拳と龍玄の射撃によって。

 

 龍玄とナックルは近づいて二人の安否を確認する。

 

「大丈夫ですか?」

 

「ありがとうございます、助かりました」

 

 なら良かった、と頷いた後に二人のアーマードライダーは敵の方を向く。

 

「残りはアイツだけだな」

 

「一気に決めよう」

 

 最後の一体は、服を着ていない。つまり、オリジナルのアナザーアギト。

 アレを倒さなければまた惨状が引き起こされる。何も知らない龍玄とナックルでも何となく確信していた。

 

 それぞれのカッティングブレードが下りる。龍玄は一回、ナックルは二回。

 

〈ブドウ・スカーッシュ!〉

 

〈クルミ・オーレ!〉

 

 ブドウ龍砲に、クルミボンバーに、エネルギーが集まっていく。

 ブドウ龍砲から紫色のエネルギー砲がほとばしる。それをもろに食らって怯んだアナザーアギトの胸にナックルの強烈な二連撃が命中し、アナザーアギトは爆発した。

 

「よっし!」

 

「やったね」

 

 拳を突き合わせる龍玄とナックル。これで倒せただろう、という喜び。

 

 爆発が晴れると残っていたのは禍々しく光るアナザーウォッチのみ。ゲイツとウォズは眉を寄せる。

 

「契約者がいない……?」

 

「どういう──何?」

 

 二人の疑問に答えるかのように、アナザーウォッチが浮かび上がる。人間大の時計の針のようなエフェクトが発生し、一周する。

 

 すると、倒したはずのアナザーアギトが復活した。

 

「復活した!?」

 

「まさかアナザージオウIIの……!?」

 

 驚愕する一同に構わずアナザーアギトは双剣、アナザーシャイニングカリバーを取り出して龍玄とナックルの鎧を何度も斬りつける。

 

 龍玄とナックルが倒れ、ナックルは変身解除にまで追い込まれる。

 

「どうする、このままじゃ同じことの繰り返しだ」

 

 ゲイツはジカンザックスの矢をアナザーアギトに放ちながらウォズに問う。現状、アナザーアギトを倒せるのはグランドジオウだけ。打つ手はない。

 

 だがウォズはまだ目に希望を灯していた。

 

「一応、まだ対抗法はある。もう少し早く来てほしかったけどね。ほら、来たよ」

 

「お前、一体何を──」

 

〈探しタカッ・タカァ〜!〉

 

 いつの間に飛来したのか、タカウォッチロイドがウォズの手に何かを落とす。その勢いでタカウォッチロイドは電流を纏ってアナザーアギトに激突し、そのまま去っていった。

 アナザーアギトは痺れて動けなくなる。だがその時間もほんの僅かだろう。

 

 だからこそウォズはすぐに手の内のロックシードをアーマードライダーに投げ渡した。

 

「これを使うんだ!」

 

 受け取ったのは、龍玄。しかし、自分で使わずザックに渡してしまい、動き始めたアナザーアギトにブドウ龍砲を向ける。

 

「お願い」

 

「ん、ああ。鎧武に……何だコイツら」

 

 いつものロックシードともエナジーロックシードとも色々と違うロックシードだが、ミッチが託したのなら大丈夫だろう。

 

 そう心の中で結論付けてザックはロックシードを解錠する。

 

〈アギト!〉

 

 クラックから降りてきたのは、仮面ライダーアギトの頭としか形容できないもの。

 

「アギトの頭ぁ!?」

 

 奇妙な光景にゲイツは困惑。

 その発言に気になるところはあったが、とにかく変身しようとザックはカッティングブレードを落とす。

 

 ギターが鳴り響き、頭が落ちてくる。頭が割れ、肩以外アギトの姿に瓜二つの鎧が現れる。

 

〈アギトアームズ!目覚めよ、その魂!〉

 

 かつて可能性の世界で見た、創造主から人の運命を取り戻した戦士。その力を鎧として身に纏う戦士の名は、アーマードライダーナックル・アギトアームズ。

 

 ナックルは静かにアナザーアギトを見据える。その姿を目で捉えたアナザーアギトは、微かに残された心を震わせながら双剣を振るう。

 ナックルはそれをいなし、腹に正拳突きをお見舞いする。

 

「……これがザック、なのか」

 

 いつもの荒々しくも頼もしい拳とは真逆の精錬された一撃。龍玄は少し不安になりながらもアナザーアギトにエネルギー弾を撃ち込んでいく。

 矢や銃撃でアナザーアギトが怯み、その隙にナックルが拳や蹴りを打ち込んでいく。その繰り返しに耐えきれず倒れるアナザーアギト。

 

〈アギト・スカーッシュ!〉

 

 この好機を逃すまいとカッティングブレードが下りる。ナックルはゆっくりと手足を動かし、構えに入る。足元には紋章が輝き、その光は右脚へ集約されていく。

 アナザーアギトが起き上がり、最後の抵抗かナックルの方へ走るがもはや無意味。ナックルは跳び上がり、アナザーアギトの胸に右脚で蹴りを入れる。

 

 ナックルは蹴りを入れた相手に背を向けて残心。先程と同じように構える。

 じたばたもがきながら後退し、アナザーアギトは再び爆散した。

 

 爆心地に残されたのは、先程と同じくアナザーウォッチ。ただし、光は失われていた。

 

 念のため、とナックルも龍玄もウォッチから目を離さず構えも解かない。そんなことを気にせずウォズが拾い上げる。

 

「大丈夫だ、再起動はしない」

 

 多分ね、と小さく付け足したのが肩を貸していたゲイツにだけ聞こえた。相変わらず嘘吐くの下手だな。

 その言葉を信じたのか、二人のアーマードライダーは変身を解いてゲイツとウォズに近寄る。

 

「ありがとな」

 

「ありがとうございます」

 

「こちらこそ助かりました」

 

「君達の力が無ければ危ないところだったからね。

 ……おっと、自己紹介がまだだった。私はウォズ。こちらは明光院景都。ゲイツと呼んでくれ」

 

 ゲイツは急に社交的になったウォズを不審な目で見る。いや、前の世界でもG3ユニットの班長である尾室隆弘と連絡先を交換していたが。

 

「俺はザック。アーマードライダーナックルだ」

 

「呉島光実です。早速聞きたいことがたくさんあるんですが、まずは一ついいですか?」

 

「先程の怪人のことなら、あれはアナザーライダーと呼ばれている。インベスではないよ。

 私達は奴らを追う仮面ライダーなんだ」

 

「仮面ライダー?」

 

「アーマードライダーとは名称が違うだけで大体同じだと認識してくれていい」

 

 なるほど、とザックと共に相槌を打つ光実。その目はチラリとザックの手の中のロックシードに注がれたが、誰もそれには気付かなかった。

 

「立ち話もなんですから、落ち着ける場所に移動しましょう」

 

「ああ。シャルモンのケーキを食べながら情報交換としようじゃないか」

 

「シャルモン?」

 

「この沢芽市が誇るケーキの店さ。そういえばアイツ来てないな……」

 

「お、お待たせ〜!!」

 

「とか言ってたら来たな」

 

 こちらに走ってくるのは燕尾服にコック帽というアンバランスな服装の眼鏡の男。何も無いところで転びかけながらも四人の前にたどり着く。

 

「ごめんごめん、パイ生地の仕込みしてる途中でさ」

 

「凰蓮さんも前にそんなこと言ってたなぁ……ほぼ負け惜しみみたいなものだったけど」

 

「やっぱ師匠と弟子は似るんだな」

 

「そこだけで判断されても困るんだけど。……ていうかこの人達は?」

 

「ウォズにゲイツ。ウォズの方はアーマードライダーみたいなもの……らしい」

 

 男の当然の問いに、ザックが答える。

 

「何だよらしいって」

 

「いや何というかだな、顔に"ライダー"って書いてあってさ」

 

「いやいやそんなことある?」

 

「…………」

 

「あるんだ……」

 

 困惑している男。そんな男にゲイツが話しかける。話を先に進めたかった。

 

「アンタもアーマードライダーなのか」

 

「ああそうそう、俺は城乃内秀保。この街イチの──パティシエさ」

 

 ゲイツは指パッチンをしてギザったらしいポーズを決めた城乃内に若干引いていた。ウォズはそんなことを気にせず『街イチのパティシエ』の部分に食いついていた。

 後でオッサンにチクッとこ、とザックは決めた。最近調子乗ってるし良い薬になるだろ。

 

 と、光実が手を叩いて周囲の注目を集める。

 

「そろそろガレージに行きましょう。僕がシャルモンでケーキを買ってきますから」

 

「どうしてここでシャルモン? まぁいいけど。

 だったら店に戻るついでに持ってくるよ。今日遅れたお詫びってことで!」

 

「ならお願い。後でお金は払うから」

 

「りょーかい!」

 

 駆ける城乃内。またすっ転びかける。おいおい、と笑みを浮かべていた光実とザックの顔が凍った。

 

 二人、いや一緒にいたゲイツとウォズにも見えたのだ。城乃内の背後に、いきなり異形が現れたのが。

 

 ゲイツとウォズはもちろんその異形を知っていた。宇宙から来た白い悪魔、その名は──

 

「アナザーフォーゼ!?」

 

「えっ!?」

 

 振り向いた城乃内にアナザーフォーゼが襲いかかる。しかし、ゲイツの矢が突き刺さってそれを阻む。

 

 後退したアナザーフォーゼの左腕と右脚に固定されていたエネルギーが霧散する。

 

「レーダーに、ステルス?」

 

 まさか、アナザーアギトを囮に昭和ライダーロックシードを探していたというのか。

 

 そんなウォズの思考をよそにザックがロックシードを投げる。危なげなくキャッチする城乃内。

 

「それを使え!」

 

「お、おう!」

 

〈フォーゼ!〉

 

 戦極ドライバーをどうにか装着した城乃内はロックシードを起動する。するとクラックから降りてきたのはフォーゼの頭。

 

「今度はフォーゼか!?」

 

「あれは、兄さんが前に使っていた……」

 

 城乃内はアナザーフォーゼの放つミサイルから逃げ続ける間に、その頭を目にした。ミサイルにびくともしない頭がふよふよ追いかけてくる光景は城乃内を困惑させるのに十分だった。

 

「あたっ、頭ぁ!?」

 

「本当に頭だったのかよッ!?」

 

「いいから早く変身して!」

 

「あーもうわかったよ!」

 

 ファンファーレと叫び声が響く中、ギリギリでミサイルを避けてカッティングブレードを下ろす。

 

〈カモォーン!〉

 

 頭が城乃内の頭に被さる。頭が割れ、肩以外フォーゼの姿に瓜二つの鎧と化す。

 

〈フォーゼアームズ!青春・スイッチオン!〉

 

 かつて可能性の世界で見た、多くの友と青春を生きる戦士。その力を鎧として身に纏う戦士の名は、アーマードライダーグリドン・フォーゼアームズ。

 

「宇宙──キターッ!」

 

 両腕を宙に突き上げるグリドンにザックは首を傾げて尋ねる。

 

「何で宇宙?」

 

「いや俺もわかんない。……ま、いいか。

 アーマードライダーグリドン。タイマン、張らせてもらうぜ」

 

 頭をキュッ、と撫で付けたグリドンはアナザーフォーゼに拳を突き付ける。するともう片方の拳から光が放たれる。

 

〈HAMMER ON〉

 

「お、ハンマーじゃん!」

 

 思わぬ愛器の登場にグリドンは仮面の下で嬉しそうに笑う。左手が変化したハンマーをポンポンと叩き、戦闘態勢へ。

 

 背中のブースターを吹かしてアナザーフォーゼに襲いかかる。さっきのお返しだ。

 強烈な一撃が胸に直撃し、アナザーフォーゼはのけぞってしまう。

 追撃だ、と再び上からハンマーを振り下ろすが、アナザーフォーゼの左腕に現れたエネルギーシールドが衝撃を吸収する。

 

「だったら!」

 

〈SPIKE ON〉

 

 左脚で腹目掛けて何度も蹴りを入れる。蹴りと伸びた棘がガラ空きの腹に何度も突き刺さる。度重なる痛みで思わずアナザーフォーゼの構えが崩れる。

 

 それでも盾でハンマーでの致命傷は防がれてしまう。ならば。

 

〈HOPPING ON〉

 

 左脚から棘の群れが消え、巨大なバネが装着される。バネが縮み、伸びる。

 先程よりも高く跳躍したグリドン。またハンマーが来るかと、アナザーフォーゼはシールドを構える。その行動は間違いだった。

 

〈CHAINSAW ON〉

 

 落ちてくるグリドンは右脚にチェーンソーを展開。勢いをそのままにエネルギーシールドを両断することに成功する。ついでに頭にハンマーの一撃を喰らわせる。

 

 多彩で強烈な攻撃を浴びせられ、アナザーフォーゼはふらふらとよろめいている。だがなお倒れない。

 

「ここまでして倒れないってのは流石だけど……ここで決めさせてもらう!」

 

 カッティングブレードが下りる。グリドンの右腕にオレンジ色のロケットが、左脚に黄色のドリルが展開される。

 

〈フォーゼ・スカーッシュ!〉

 

「ライダーロケットドリルキーック!」

 

 流星のような一撃が、アナザーフォーゼの胸を貫く。爆発するアナザーフォーゼを背後に、グリドンは地面に刺さったドリルに物理的に振り回されていた。

 

「や、やったぜ……」

 

 やっと変身を解除して、へたりと地面に倒れ込む。片手を穴が空いた場所に置こうとしてバランスを崩してしまう。

 

「大丈夫か」

 

「うん、師匠の特訓のおかげでね」

 

 城乃内は差し伸べられたザックの手を借りて起き上がる。

 

「そういえばどうするのこれから。ガレージに行くって言ってたけど」

 

「二人からあの怪人、アナザーライダーについて詳しい話を聞くつもりだったんだ」

 

 なるほどね、と納得する城乃内をよそに、ウォズがアナザーフォーゼウォッチを拾いあげる。やはり機能停止している。

 

「それにしても、二体目のアナザーライダーか。やはりソウゴとツクヨミが戦ったのは奴ということだな」

 

「ああ。そして今一番警戒すべきは更なるアナザーライダーだね。特に──」

 

 ウォズの言葉を遮るように、目の前の空間がポリゴン状に歪む。そして現れたのは髪の毛を生やした刺々しいピンク色の異形。

 

 究極の救済をもたらす病魔、アナザーエグゼイドだ。

 

「またそのアナザーライダーってやつかよ!」

 

「でもこれを使えば──」

 

「無理だ。そのロックシードにはクウガから鎧武の力しか備わっていない」

 

 もしここが大天空寺ならば、エグゼイドゴースト眼魂があるというのに。とはいえ、無い物ねだりをしている場合ではない。

 

「だが奴らは再生まで多少の時間がかかる。その隙にアナザーウォッチに直接攻撃すれば……!」

 

「倒せる可能性があるってことだね」

 

 ゲイツと光実がそれぞれの力を構える。ジカンザックスとブドウロックシード。

 それに合わせてザックと城乃内も戦極ドライバーを装着、自分のロックシードを構える。

 

 ウォズも少し遅れてウォズミライドウォッチを取り出す。が、その瞬間ウォズは呻き声をあげてふらついてしまう。

 

「おいどうし──何!?」

 

 ゲイツが見たのは想像に絶する光景だった。

 

『やぁ、我が救世主。久しぶりだねぇ』

 

「ここで出てくるのはやめてくれないか……白ウォズッ……!」

 

 ウォズと白ウォズの姿が重なっている。お互い薄くなったり濃くなったりと揺らぎが激しかった。

 

「どうしたんですか!?」

 

「わからん。コイツは俺が対処するからお前達はアナザーライダーを頼む」

 

「わかった。行こう、二人と──あれっ?」

 

「うん?」

 

「おお?」

 

 三人の前で、アナザーエグゼイドが突如苦しみ始める。ポリゴンが解けて、異形の化物が消去される。

 

 代わりに現れたのは、一人の青年。身体から三つのアナザーウォッチを排出しながら青年は倒れる。

 

「加古川、飛流……」

 

 困惑するライダー達の視線の中、または手の中で、それぞれのアナザーウォッチは光っていた。誰にも気付かれない程に小さく、淡く──

 





 サクセッション(succession)→継承→「承」

 プロット書いてた当初は羽美ちゃんではなく天音ちゃんがレジェンドの予定でした。でも剣を見ているうちにこっちの方がいいなぁと。
 ちなみに羽美ちゃんは剣35・36話に登場しております。時間があれば是非。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

転「ヘンシン2013」

「この本によれば。ちょっと頭が良いだけの普通の高校生、加古川飛流。彼に再びアナザーライダーとなる未来は待っていなかった。……事実、そのはずだった」

 

 ウォズはいつものように手元の本を読んでいたが、すぐさま閉じた。赤レンガの壁に背を預けてまた語り始める。

 

「しかし並行世界からタイムジャッカー・フィーニスが襲来、彼の記憶を取り戻させてしまう。彼が変身したアナザージオウIIは幸いにも我が魔王とツクヨミ君が撃退したが、その背後で私とゲイツ君はライダーの力を奪われてしまった。

 フィーニスの狙いを推察した私達は、二手に分かれてその野望を阻止しようと動き出す。その中で私達はアーマードライダー龍玄、ナックル、グリドンと共闘し、アナザーライダーを撃破。そしてその直後に加古川飛流が現れ、今に至る。彼は敵か、味方か──

 おっと、そろそろ彼が起きるようです」

 

 ガレージの壁から背中を離し、少し錆びた扉へとゆっくり向かっていった。

 

 

○○○

 

 

「ッ……ここは……」

 

 飛流の目に飛び込んできたのは知らない天井だった。木材ではなくレンガだった。若干硬い弾力を身体全体で感じ、ベッドに寝かされていることを察する。おそらく折りたたみ式だろうか。

 

「よく成功したもんだ」

 

 アナザーオーズの力で目眩しをして、アナザーエグゼイドの力でワープする。咄嗟に思いついた作戦だった。

 

 どうにか逃走には成功したものの、アナザーエグゼイドウォッチ内の位置データを咄嗟に選んでワープしたために、現在地はわからない。更にアナザーウォッチを同時に三つも使ったからか、無防備に気絶してしまった。

 

 拘束もなくベッドに寝させてもらっているため、フィーニスに捕まったわけではないだろう。アナザーウォッチが無いのは気になるところだが。

 

 と、毛布に包まれたまま思考していると扉が開く。ノックぐらいしてくれ、と目を擦る。ゆっくり上半身を上げると、そこにはウォズがいた。片手には欠けたドーナツが握られている。

 

「おはよう、元我が魔王」

 

「お前の我が魔王は常磐ソウゴただ一人だろ」

 

 ノック無しと皮肉には皮肉で返しておく。効くかは知らないが。

 

「……確かに君を我が魔王と思ったことは一度もないけどね」

 

 そこはさておいて、とウォズはドーナツを丸呑みしてから話題を変える。

 

「君には色々と聞きたいことがある」

 

「奇遇だな、俺もだ」

 

「なら食後にじっくりと話すことにしよう」

 

 今すぐ話した方がいいだろ、と飛流は反論しようと思ったが、急に空腹を自覚したのでやめておいた。

 

 その代わりに今最低限知っておくべきことを尋ねることにする。

 

「ここはどこだ」

 

「とあるガレージとだけ言っておこうかな」

 

「いやそういうことじゃなくて市町村的な」

 

「何?」

 

 怪訝そうに眉を少し上げたウォズは「沢芽市だ」と付け加えた。

 

「沢芽市……」

 

 タクヤから以前聞いたことのある地名だった。ストリートダンスの盛んな土地であり、タクヤの幼馴染が引っ越した地。

 そんなところとフィーニスの計画がどう関係しているのだろうか。飛流は首を捻った。

 

「……とにかく、腹ごしらえとしようじゃないか。着いてきてくれるかな」

 

 ああ、と返事をしてゆっくり起き上がる。まだ身体は気怠かった。

 

 

 

 

 

「腹ごしらえって言うからすぐに食べるもんだと思ってたが」

 

「文句はあるかな?」

 

「無い」

 

 ウォズに連れられて飛流が来たのはコンビニだった。買うものは決まっているらしく、ウォズはメモと棚を交互に見ながら買い物カゴにプラスチックの容器を重ねていく。

 

 何か買ってきなよ、と目線で指示された飛流は適当なおにぎりを二つカゴに放り込んだ。成長期の男子にしては少し物足りないと思われる量を見て、ウォズは飛流をちらりと見るだけだった。

 

「……で、どうしてそんな悩んでるんだ」

 

 弁当の棚の前で顎を手に当てて悩むポーズをするウォズ。彼に渡されたメモを飛流は読んでみる。

 

 ナックル、焼肉。グリドン、そうめん。龍玄、カレー。ゲイツ君、からあげ。

 

 ゲイツ以外は見知らぬ名前だった。カゴを覗いてみると焼肉弁当とそうめんとカレーライスは入っていた。ということは、と飛流は目線を上げる。からあげ弁当は売り切れだった。

 

「一応聞いておくが第二案は?」

 

「何でもいい、と」

 

 一番困るやつだな、と飛流は溜息を吐いた。たまにコンビニへ昼食を買いに行くことがあるのだが、父や母に同じことを結構言われる。気分を外して曖昧に感謝されるあの空気といったらもう嫌だ。

 

 それはさておき、揚げ物ならトンカツ弁当が、同じくらいのボリュームならハンバーグ弁当がある。

 飛流は決めかねた。アイツのことは全然知らなかったから。だから聞くことにした。

 

「……明光院ゲイツは鶏肉が好きなのか」

 

「食べられるものならなんでも食べると思うよ」

 

 答えになってねぇよ。飛流は心の中でぼやいた。仕方ないと棚を素早く見渡し、鶏が入った弁当を探す。無いか、と諦めかけたその時、飛流の目がある一つの弁当を捉えた。

 

「これなんて、どうだ」

 

「ん?」

 

 飛流が差し出したのは、三色弁当。鶏そぼろと炒り卵、ほうれん草が米の上に敷き詰められている。それをウォズの手に押し付ける。

 

 ウォズはなるほどね、とそれを少し眺めてからカゴに入れる。特に拒否されることがなかったので、飛流はホッとした。

 

 その直後にウォズはパンの棚へ向かい、十個くらい菓子パンを放り込んだ。メモを思い出して、若干引いた。

 

 そしてお会計。その際に追加でレジ横のからあげ棒を購入する。最初からそれを買えば良かったのでは、と飛流は思った。三色弁当と合わせればそこそこのボリュームになる。しかし何も言わなかった。

 

 会計を終え、レジ袋を提げてウォズが戻ってくる。そのまま店内から出ると、飛流は手を差し出した。

 

「持つ」

 

「いや、いい。これから行く場所でも買い物をするからね。そこで買ったものをお願いしよう」

 

「まだ何か買うのか」

 

 歯ブラシならコンビニにもあったしな、と悩む。でももっと安い店があるかもしれないし、と思案を巡らす。

 そんなことをしているうちに辿り着いたのは──

 

「まだ食べるのか……!?」

 

「その通りだよ」

 

 この街が誇るスイーツ店、シャルモンだった。

 

 

 

 

 

 シャルモンでしこたまケーキを買い込んだ後、飛流とウォズはガレージに戻っていた。もうあたりは夕焼けに包まれている。

 

「まだ帰ってきていないようだね」

 

 ウォズはレジ袋とケーキが入った三箱を冷蔵庫にそのまま入れてベンチに座る。飛流も倣ってその隣に座った。

 

 おにぎりはお預けだった。

 

 帰りを待つ間、サービスとして貰ったマドレーヌにかぶりつくウォズ。飛流も差し出されたもう一つのそれを受け取って噛み締めるように食べる。

 

「……美味いな」

 

「流石シャルモンといったところだね。この分ならケーキにも期待できそうだ」

 

 ちょうど飛流がマドレーヌを食べ終わり、ウォズが耐えきれずにケーキに手を出そうとしたその時。扉が軋む音がして、バラバラな足音が聞こえてくる。

 扉から出てきたのは四人の青年。その内の一人が誰なのかは飛流にもすぐにわかった。明光院ゲイツだ。

 

 そのゲイツは飛流への警戒心を隠しもしない。赤と黒のロングコートを着こなす青年、ザックも程度は低いがそうだった。眼鏡の青年、城乃内秀保が苦笑いをして会釈してきたので返しておくと、最後の一人に声をかけられる。

 

「起きたんだね」

 

 大した怪我がなくて良かったよ、と線の細い青年──呉島光実は笑う。が、目からはほんの僅かに警戒心が滲み出ていた。

 

 ゲイツやウォズを除けば、この場で一番敵に回したくないな。

 

 まだ名を知らぬ光実を、飛流は少し警戒する。現状は敵に回すつもりはないとはいえ、自分のことを二人からどう聞いているかはわからないし。

 

 そんなやりとりをしていると、ウォズがメモを元にそれぞれ弁当を渡していく。各々がお礼を言ってから受け取る中、ゲイツだけ少し眉をひそめる。

 

「悪いね、から揚げ弁当は売り切れだったんだ」

 

「いや、それはいいんだが……」

 

 眉をそのままにゲイツは座った。

 最後に飛流が自分のおにぎりを取って、ウォズに返す。菓子パンだらけのレジ袋の底にはからあげ棒が残っていた。

 

「さて、いただこうか」

 

 レジ袋からメロンパンを取り出して包みをビリッと破くウォズ。飛流を含めた他の面々は軽く手を合わせてから弁当を開けたりフィルムを外して食べ始める。

 

「さて、成果はどうだったんだい?」

 

 ミニクロワッサンの一つをかじりながらウォズが問う。ゲイツは飛流をチラリと見て、言葉を選びながら答える。当の飛流はなるべく話している面々を見ないようにしておにぎりを口にしていた。

 

「まだ目的のものは見つかってはいない」

 

「他にアナザーライダーがいた様子もなかった」

 

 ふぅん、とウォズはクリームパンを頬張りながら唸る。

 

「でもこれは見つかったぜ」

 

 そうめんを一房啜ってから城乃内がポケットに手を突っ込む。だがその手首はゲイツに掴まれて出てこれない。

 

「……そこまで警戒しなくてもよくない?」

 

「そうだよゲイツ君。どのレジェンドライダーロックシードなのか、共有してもらわないと困る」

 

 蒸しパンを食べながらのウォズの言葉に渋々ゲイツは手を離すと、城乃内は手を引っ張り出す。焼肉と白米を噛み締めていたザックも、ポケットから手の平大の物体を取り出して掲げる。最後に光実がプラスチックのスプーンを皿の上に置いてから物体を二個見せた。

 

 ロックシードという聞き慣れない言葉に、二個目のおにぎりのフィルムを開ける途中の飛流も流石に注目してしまう。

 

 それらは錠前のように見えた。普通の錠前と違うのは、鍵を挿す穴がないのと各部の装飾だ。恐らくライダーの仮面だろう、それがデカデカと彫られている。

 

「Wにオーズ、フォーゼ、ウィザードか」

 

 これでほぼ全部だね、とウォズはチョココロネにかぶりつきながら数える。

 

「ドライブが無いのは痛いが、致し方ないか」

 

 生クリームコッペパンの半分を一口で食べながらウォズは付け足した。

 

 クウガから鎧武までの平成ライダーならば平成ライダーロックシードで代用できるが、ドライブはその中に含まれていない。アナザードライブとの戦いは厳しいものになるだろう。無論、レジェンドライダーロックシードが存在していないアナザーゴーストやアナザービルドとの戦いも。

 

「気になっていたんだけど」

 

 今まで黙々とカレーを食べていた光実が初めて口を挟む。

 

「フィーニスが探しているロックシードの手がかりってあるのかな?」

 

「実際にアナザーフォーゼもレーダーで探していたからね……」

 

「レーダー?」

 

 訝しげな目を向けるゲイツにウォズはシュガートーストを齧りながら頷く。

 

「オリジナルのフォーゼにそのような能力があったかはさておき、先程のアナザーフォーゼはそのエネルギーモジュールを使っていた。間違いなく昭和ライダーロックシードを探していただろう」

 

 ゲイツの目付きが更に鋭くなる。どうどう、と諌めながらウォズはミニアンパンをまるまる一つ咥えこむ。

 

「……レーダーで探すといっても、所有しているデータと一致するものを発見できる程度だろうね」

 

「ならそのデータを──」

 

 そんな光景を見ながら、飛流は二個目のおにぎりを食べ終えていた。未だ残る空腹の感覚を脇に置き、飛流は先程の光実とウォズのやりとりを反芻する。

 

 すぐに思いつく。アナザーエグゼイドウォッチにこの街の位置データが保存されていたように、アナザーフォーゼウォッチ、運が良ければ他のアナザーウォッチの中にもその昭和ライダーロックシードなるものを探すためのデータが保存されているのではないか。

 

 そしてそれを知ることができるのはこの場でただ一人、俺だ。

 

 そう結論付けた飛流はそっと手を挙げる。

 

「あのー……」

 

 その瞬間、この場にいる全員の視点が飛流へ向く。彼らの会議は行き詰まっていた。

 

「どうしたんだい」

 

 ウォズが少し表情を柔らかくして続きを促してくる。

 

「えっと──」

 

 まだゲイツが不審げに見てくる中、飛流はその目を見てふと思い至る。自分の立場を。

 こんな俺が今更共闘なんてできない相手。それは常磐ソウゴだけじゃない。現に、明光院ゲイツは俺のことを疑っている。当然のことだ。

 

「加古川飛流?」

 

「──いや、ちょっと外に出て、空気を吸ってきてもいいか」

 

「……まぁ、いいけどね」

 

〈スイカアームズ!〉〈コぉダマッ!〉

 

 ウォズはようやく放たれた飛流の言葉に少々不自然さを感じながらも、ライドガジェットの一つ、コダマスイカアームズを起動する。

 

「なら、これを連れて行くといい。気休めだけど護衛にはなるだろう」

 

 変形し人型となったコダマスイカアームズは可愛らしくお辞儀すると、頷いて立ち上がった飛流に着いていく。

 

 扉が閉まり、僅かに聞こえる階段を降りる音が無くなると、ウォズは溜息を吐いてゲイツを見る。

 

「……ゲイツ君」

 

 ウォズの呼びかけには若干の非難が込められていた。すまん、とゲイツは漏らしてからまだ半分しか食べていない弁当を見つめる。

 

「これは奴が選んだんだろ?」

 

「ああ」

 

 ウォズの返事にやっぱりか、と納得する。ウォズならこれは選ばない。奴はなんだかんだで律儀だし、弁当でなくても何らかのからあげを買ってくる。

 

「ま、ほっとくしか──ミッチ?」

 

 ゲイツを見かねた城乃内が声をかけようとするが、その途中に光実が立ち上がる。

 

「ちょっと話聞いてくるよ」

 

「どうした?」

 

「あの時の僕と、同じ顔をしてたんだ」

 

「……そうか。なら行ってこい」

 

「ありがとう、ザック」

 

 光実は仲間二人に見送られ、飛流の元へ向かった。ウォズは同じく見送りながら残り僅かな菓子パンを食べる。彼にならば大丈夫だろう。

 

 袋の中にたった一つ残ったからあげ棒。ゲイツはようやく見えたそれをただただ見つめていた。

 

 

○○○

 

 

 言葉が浮かんでは弾け、浮かんでは弾け、その繰り返しだ。溜息を吐いて、星がまばらな夜空を見る。

 

 さっきはどんな言葉を言えば良かったのだろう。どんな言葉なら彼らと協力できるだろう。

 あの事故から人に関わらず生きてきた加古川飛流にも、多少妬みは買えども戦いとは無縁に生きてきた加古川飛流にもわからない。

 

 また溜息が出る。ふと横に顔を向けると、コダマスイカアームズが身動きせずにじっと飛流を見続けている。分かってはいたがやはり監視役か。

 

 三回目の溜息。ぼーっと意味もなく欠けた月を眺めていると、視界に誰かが入ってくる。

 

「隣、いいかな」

 

「あなたは……龍玄?」

 

 カレーを食べていた青年、飛流が一番警戒していた青年──光実だった。メモの内容を思い出して呼びかけると、光実は意外そうな顔になる。

 

「ビートライダーズのこと知ってるの?」

 

「……いや、知りませんけど」

 

 予想外の反応に光実は首を傾げる。まぁいいか、と気にせず自己紹介をする。

 

「さっき君が言ってた龍玄、は僕が変身するアーマードライダーの名前なんだ」

 

「そうなんですか」

 

 また新しい用語が出てきて飛流は困惑したが、『変身』と『ライダー』という言葉から仮面ライダーの親戚みたいなものか、とざっくり理解した。

 

「……どうして来たんですか? 明光院ゲイツあたりに呼び戻して来いって言われたんですか?」

 

「違うよ」

 

「ならどうして」

 

「君が何を言いかけてたのか気になったんだ」

 

「言いかけていた?」

 

 何を馬鹿な、と飛流は図星を突かれながらも誤魔化そうと笑う。

 

「あの時言ったことが全てですよ」

 

「そうかな。もっと出やすいタイミングはあったし」

 

 確かにそうかもしれない、と飛流は思う。ゲイツが城乃内の手首を掴んだときなど、まさにそうだった。

 

「怖いんじゃないのかな、拒否されるのが。それが当然受けるべき報いだとわかっていても」

 

「どうしてあなたにそこまで──」

 

「わかるんだ。僕も同じだったから」

 

 光実が真剣な眼差しで見つめてくる。……そこまで言うのなら。

 

「なら、聞いてから分かったつもりになってくれ」

 

 飛流は話し始める。羽美に話したことに加え、新たに生じた迷いも。

 

「──アイツらと一緒に戦っていいのか、迷い続けてるんです」

 

「……やっぱり、そうだったんだね」

 

 僕もだよ、と光実は自嘲げに微笑む。

 

「あんな偉そうに言ってたけど、僕は地球滅亡の片棒を担いだことがあったんだ」

 

「ちきゅ……!?」

 

「簡単に言えば、だけど」

 

 飛流は驚愕で思わず噛んでしまう。時空改変も大概だが、地球滅亡とは。

 

「自分が正しいって思いながらやってたんだ。もちろん、それは間違いだったんだけど。

 上位的存在に媚びて、大切な人達だけ守ろうとして。それ以外の仲間を、その人達すらも切り捨てて。……最後に残った人も、救えなくて」

 

 光実は目をつむる。瞼の裏に見えたのは、腹から血を流した大切な人と、心臓を奪われ変わり果てた姿で消えていく大切な人。

 

 それでも目を開けて、光実は飛流に語り出す。

 

 脳裏に浮かぶのは、兄、チームの皆、共に戦うアーマードライダー達。そして、どこか遠くの星にいる大切な二人。

 

「そんな僕にも、手を差し伸べてくれる人達がいて、どうにかここまで戻ってこれた。

 それに、一番傷つけてしまった人が言ってくれたんだ。『どんな過去を背負っていようと、新しい道を探して、先に進むことができる』って」

 

「……俺にそんなことができるとは、思えないです」

 

 弱音を吐いた。諦めないでほしい、と光実は諭す。

 

「僕にだって違う自分になれたんだ。変身だよ、飛流君」

 

「変、身……」

 

「君はもう、どうしたいか決めてるはずだから」

 

 光実はそう言い終えてから、立ち上がって来た道を見る。

 

「それに、君にもいるよ。手を差し伸べてくれる人」

 

 走ってきたのは、明光院ゲイツ。どうして、と思っていると袋を差し出される。中にはからあげ棒がポツンと入っていた。

 

「これってお前のじゃ……」

 

「お前のだ。ウォズが言うんだからそうだ。なによりおにぎり二つで高校生の腹が保つわけないだろ」

 

 そりゃそうだが、と飛流は素直に受け取る。

 

「別に、お前の所業を許したわけじゃない」

 

「……だよな」

 

「だがお前が変わろうというのなら、俺も認識を変えよう。悪かった」

 

「……顔、上げてくれ。お前が謝ることは何もない。認識は変えてもらうけどな」

 

 顔を上げながらも不満げなゲイツ。真面目か。

 

「俺は昔アナザーライダーだっただけの普通の高校生、加古川飛流だ」

 

「覚えておく。俺は元レジスタンスの普通の高校生、明光院景都。救世主を目指してる」

 

「そうか、俺も──ん?」

 

 覚えておく、と繋げようとしたが、流石に思考が止まる。

 

 ゲイツじゃなくて景都?

 

 それに救世主?

 

「どうした?」

 

「いやどうしたも何も……まぁいいか。よろしく、明光院」

 

「ああ、加古川」

 

 何となく握手する二人を見て、光実は微笑み、ある決意をするのだった。

 

 

 

 

 

 三人並んで戻ってきて。ザックも、城乃内も、ウォズも喜んで飛流を受け入れた。

 

 その後ぼかされていたり、先程言われていなかった情報を飛流は聞く。それが終わり、飛流が話す番になった。

 

「それで、さっき言いかけていたのは何だったんだい?」

 

「ああ、それは──」

 

 飛流はからあげ棒を頬張りながら先程考えていたことを話す。

 

「なるほどね。なら早速そのアナザーフォーゼになってもらってもいいか?」

 

「やめておいた方がいいね」

 

「ああ。アナザーライダーはアナザーライダー同士惹かれ合う。俺の存在だけじゃなくてこの場所もバレるぞ」

 

「そうなんだ……」

 

 ウォズと飛流の言葉に、そんなことあるんだ、と思いながら城乃内は手を下げた。

 

「まぁ、返しておくに越したことはないだろ」

 

 ゲイツにウォズは頷き返し、カウンターの裏から布の袋を引っ張り出して、一つのアナザーウォッチとともに渡す。

 

「……何だこのアナザーウォッチ。ちょっとぬめぬめしてるし」

 

「それはアナザーディエンドウォッチ。ぬめりについては気にしないでくれるとありがたい」

 

「あ、ああ」

 

 少し困惑しながらも飛流は他のウォッチを確認すべく布袋を開く。ゲイツとザック、城乃内が目を背けているのには気づかなかった。

 

 流石に、そのウォッチはウォズから吐き出されたものだなんて言えない。

 

「さっき言ってたフォーゼにアギトか……」

 

「そういえばアナザージオウないしジオウIIウォッチはどうしたんだい、君の代名詞だろう?」

 

「代名詞扱いはちょっとどうかと思うが……

 フィーニスに奪われて、お前らのアナザーウォッチと融合したんだ」

 

「何!?」

 

「で、それを使ってアナザージオウトリニティとやらになってたな」

 

「やってくれるね……」

 

 ゲイツとウォズの顔が険しくなる。

 

「……そんなに強いのか? グランドよりも?」

 

「いや、純粋な力ならばグランドジオウが勝る」

 

「だがあの力は絆によるものだからね……」

 

 それを踏み躙られて許せないってことか。飛流やアーマードライダー達は納得する。

 

「……あと、このアナザーライダーの能力は何だ?」

 

 強引に話題を変えようと飛流はアナザーディエンドウォッチをウォズに見せる。

 

「少なくとも怪人の召喚・使役能力を持っているはずだ」

 

「……怪人?」

 

「いわば仮面ライダーの敵さ。同族でもある場合が大半だけどね」

 

「同族」

 

 気になったワードをぽつりと呟くと、飛流の頭の中で今まで手に入れた情報が回り出す。

 

『フィーニスの目的は昭和ライダーロックシードの奪取』

 

『フィーニスが率いるのはアナザーライダー軍団』

 

『アナザーライダーはアナザーライダー同士惹かれ合う』

 

『アナザーライダーに対抗し得るレジェンドライダーロックシード』

 

『ライダーの同族であり敵である怪人』

 

『それらを召喚し使役するアナザーディエンド』

 

 それらが混ざり合い、飛流に一つの結論を下させる。

 

「これなら……!」

 

「どうしたんだい?」

 

「ああ、作戦を思いついたんだが──」

 

 

○○○

 

 

 飛流が作戦を話し終え、ウォズや光実のアイデアを取り入れて正式に決定した後のこと。

 

 光実とザックと城乃内は自分の家へと戻ることにし、飛流とゲイツとウォズはガレージに寝泊まりをさせてもらえることになった。

 

 未だケーキを食べ続けるウォズを遠目に、飛流とゲイツは他愛のない話を重ねていく。勉学のこと。学校行事のこと。常磐ソウゴのこと。恋のこと。進路のこと。夢のこと。

 

 話している間に、お互いの人間らしさが見えてくる。いつも対面するときは、倒すか倒されるかだけの関係だったから、どこか新鮮だ。

 

「──俺も早く将来の夢とか見つけないとな」

 

「見つけようと思って見つかるもんじゃない。なんというか、急に転がってきて体当たりしてくる」

 

「何だそれ」

 

「実際そうだったんだよ」

 

「その救世主、ってのもか」

 

「……しかしどうしてそんなに甘味ばかり食べるんだお前は。昼のパフェもそうだが、お前が大食いとはいえ異常な多さだ」

 

 誤魔化すようにウォズに話題を振るゲイツ。ウォズはマスカットケーキから目を二人に移す。彼の前に並んだ箱の内、二つは空になっていた。

 

「自分の夢とはいえ、他人に口にされると恥ずかしいかな?」

 

「うるさい、さっさと答えろ」

 

「ならそうしよう。私を保つためさ」

 

「保つ?」

 

「私を私たらしめる行動をすることで白ウォズの浸食を抑えているんだ」

 

 ウォズが強引に使っている白ウォズの力は作戦の要だ。ライダーの力も、未来ノートも。完全に分離されたアナザーディエンドの力もそうだ。

 

「確かに、肝心なところで白ウォズに邪魔されるのは困る」

 

「だろう? ……とはいえ、食べすぎたかな」

 

 そうぼやいてから、ウォズは箱の中からチョコケーキとアップルパイを取り出し差し出してくる。二人は素直に受け取って食べ始める。

 

「いつか君にも食べてもらいたいものだよ。順一郎氏のアップルパイを」

 

「それ他のアップルパイ食べてるやつに言うことか?」

 

 夜食なんてしたこともなかったが、こういうのも悪くない。飛流はパリパリとした触感と絶妙な甘さとほのかな酸味を味わいながら思った。

 

 

○○○

 

 

 夜が明け、日曜日の朝。決戦の日。ライダー達はとある裏路地に集まっていた。

 かつてはストリートギャングがはびこっていた、ブラックホーク・ストリートと呼ばれた地。今となっては小物のチンピラが細々と活動している程度でしかないが。

 

 昨日、そのチンピラの数人からザックは情報を得ていた。曰く、クラックを見た。化物を見た。眉唾物もあれば確実な情報もたくさんあったが、共通していたのはこの廃墟での話であること。

 

「じゃあ、手筈通りにお願いします」

 

 既にアナザーディエンドと化した飛流の声にアーマードライダー三人と一体は頷き、別れていく。

 

「それでは私達も行こうか」

 

「ああ。……ぶっつけ本番だが大丈夫か?」

 

「やってみせるさ」

 

〈OOO……!〉

 

「ヴェアハァ……!」

 

〈FOURZE!〉

 

「オラァ!」

 

「よし、できた……!」

 

 アナザーディエンドがエネルギーを込めて起動したアナザーウォッチを核にアナザーオーズ、アナザーフォーゼが誕生する。ホッと小さく息を吐くアナザーディエンドの肩をゲイツは軽く叩いた。

 

「まさかアナザーライダーが味方になるとはな」

 

「それは俺も思う。……こっちか?」

 

 既にレーダーエネルギーモジュールを展開したアナザーフォーゼ。それが指さす方向の真逆の道を、アナザーライダー三体と生身の二人は走っていく。

 

 しばらく移動していると、アナザーフォーゼがいきなり攻撃を食らう。一筋の赤い閃光を僅かに捉えたと思えば、アナザーディエンドがまた一撃を受ける。アナザーオーズは緑の目を光らせてスレスレで避けていく。

 

「アナザーカブトに……!」

 

「アナザーファイズ、かな」

 

 アナザードライブならば、こちらの動きが鈍くなっているはずだ。ジカンザックスとジカンデスピアでどうにかいなしながら、ゲイツとウォズは目に捉えきれない敵の正体を推測する。

 

「対処法は!」

 

「もちろんッ、ある! アナザーオーズ!」

 

「ンンゥ……」

 

 アナザーオーズは短く唸ると、両足を四本にそれぞれ分割して青いタコのように変化させる。吸盤で自らを地面に固定し、爪を構えて待ちに入る。

 するとその直後、赤い閃光がアナザーオーズに襲い掛かる。迷いなくアナザーオーズは両手を突き出す。吸盤がはがれ、体制が崩れる。しかしその爪は、アナザーカブトの胸を貫いていた。

 

「ブハハハハハ!」

 

 爆発の中で笑いながらアナザーウォッチを掲げるアナザーオーズ。調子に乗って回り始めている。

 

 そこから遠いところで、急に人影が現れる。アナザーファイズだ。睨むアナザーファイズを相手にウォズは笑みを浮かべて語りだす。

 

「所詮は10秒。時間が過ぎればもはや敵ではない」

 

「戦うのは俺たちなんだが。……ん?」

 

「どうした」

 

「もう一体来る」

 

 アナザーディエンドの言う通り、何かが走ってくる。赤と青が交差した、戦火の中でその力を振るう生物兵器。

 

「アナザービルド……そう楽にはいかないか」

 

 ゲイツが小さくぼやく。少しでも戦力をこちらによこしてくれるのは、作戦に引っかかっているということであり、ありがたいことではあるのだが。

 ジカンザックスから放つ矢がアナザービルドに殺到するが、ギリギリのところで当たらない。ゲイツは軽く舌打ちする。

 

 が、無理矢理避けたことでバランスを崩したアナザービルドがすっ転び、アナザーファイズに衝突。二体はビターンとコンクリートに叩きつけられて一瞬行動不能になる。その隙を見逃さなかったのはアナザーフォーゼ。右足にエネルギーネットモジュールを展開し、巨大電磁ネットを発生。二体のアナザーライダーはそのまま捕獲されてぎゅうぎゅうに締め付けられる。

 

「……楽になったな」

 

「そうだね……」

 

 何とも言えないような顔をしているゲイツとウォズを放置し、アナザーオーズとアナザーディエンドは必殺の態勢に入る。

 

「ヴァァァッ!」

 

「はッ!」

 

 アナザーオーズの飛び蹴りとアナザーディエンドのエネルギー波を立て続けに食らったことで、アナザーファイズとアナザービルドは爆散した。残されたアナザーウォッチを素早く"止めて"二人の元へ戻る。

 

「助かった、明光院」

 

「ああ、なら良かった」

 

「なんでそんな釈然としないような顔してるんだ……」

 

 間の抜けた光景を尻目に、アナザーライダー二体は友情のシルシを交わしていた。といっても、アナザーフォーゼからの一方的なものであり、アナザーオーズはなされるままにしながらも首を傾げていたのだが。

 

 ここは戦場であることをほんの僅かな時間に忘れてしまった最中。繋がれた手を断ち切るように、二体のアナザーライダーの間にアックスが振り下ろされる。本能的に攻撃を察知したアナザーオーズが咄嗟に手を振り払おうとするも、間に合わずに右の爪が破壊されてしまう。

 

「アァゥ……!?」

 

「……!? ラァッ!」

 

 アナザーフォーゼが急いで放ったロケットモジュールでのパンチを、下手人は易々と受け止め、出現させたナックルダスターで砕いた。

 

「やれやれ。キミ達に負ける程、ボクの絆の力は弱くは無いよ」

 

 態勢を立て直す暇も与えず、ナックルダスターが変形した丸のこはアナザーライダー二体を上下に切断した。音を立てて落ちたアナザーウォッチに目もくれず、下手人──アナザージオウトリニティは残りの三人を意外そうに見る。

 

「へえ、まさかキミ達が組むとはねえ……」

 

「フィーニス……!」 

 

「まあいいか。その見知らぬアナザーライダーの力も貰うよ」

 

 アナザージオウトリニティは長槍を喚び出し、アナザーディエンドにそれを振り下ろし──

 

 

○○○

 

 

 時は少し遡る。飛流達と別れたアーマードライダー達にも、アナザーライダーの真の手が伸びていた。

 

 最初に彼らの前へ現れたのはアナザーダブルだった。緑青の方の身体に付いた複眼にアーマードライダー達を捉えるや否や、アナザーダブルはその身体から翠の竜巻を発生させる。かつてのユグドラシルタワーには当然届かぬ高さだが、この裏路地のどこからでも発生源が概ねわかる程度には高くて目立った。

 

「うわ、さっさと倒さないと!」

 

「多分ダブルかな、お願い!」

 

「了解!」

 

〈ダブル・アームズ!サイクロン・ジョーカー!ハッ・ハッ・ハァッ!〉

 

 龍玄にロックシードを投げ渡されたグリドンが身に纏う鎧は、かつて可能性の世界で見た、二人で一人の探偵である戦士の力を秘めている。

 グリドンは背中に背負っていた棍棒、メタルシャフトを手に。そのままアナザーダブルを止めようとするが、魔法陣が唐突に現れて行く手を阻む。それからのっそりと出てきたのは絶望の魔法使い・アナザーウィザード。

 

『スリー──』

 

「らァッ!」

 

 アナザーウィザードは左手を丹田にかざそうとするが、その前にナックルの拳が突き刺さる。グリドンから引き離しながらナックルは二人に叫ぶ。

 

「コイツは任せろ!」

 

「うん!」

 

〈ウィザードアームズ!シャバドゥビ・ショータイム!〉

 

 龍玄にロックシードを投げ渡されたナックルが身に纏う鎧は、かつて可能性の世界で見た、希望の魔法使いである戦士の力を秘めている。

 両拳に巨大な爪、ドラゴヘルクローを装着したナックルはアナザーウィザードを殴り倒して、怪人を指差す。

 

「ミッチ、ソイツ連れて先に行け!」

 

「コイツら倒しとくからさ!」

 

「……わかった!」

 

 龍玄は頷き、一体の怪人を連れて先に進む。グリドンとナックルを、ゲイツとウォズを、そして飛流を信じて。

 

 この場を任されたアーマードライダーグリドン・ダブルアームズと、アーマードライダーナックル・ウィザードアームズは「さぁ──」と声を合わせる。

 

「──お前の罪を数えろ!」

 

「──ショータイムだ!」

 

 指を突き付けられても動じずに竜巻を消して、人差し指を突き付け返すアナザーダブル。すかさず武骨な拳銃を喚び出して撃つ、撃つ。グリドンはそれをかわしながらだんだん近づいていく。

 

「長物の使い方も、拳銃を使ってくる相手の対処法も、師匠から学んでるんだよ!」

 

 拳銃が地面に叩きつけられる。メタルシャフトが弾いたのだ。うろたえるアナザーダブルに闘士の一撃が加えられ、地面を転がった。

 

「これで決まりだ」

 

〈マキシマァムドライブ!〉

 

「メタルブランディング! とりゃあ!」

 

 カッティングブレードを一回落とす。メタルシャフトの両端が熱く燃え上がり、グリドンはその勢いを利用してアナザーダブルの胸を強く打ち付けた。

 

 二色の爆発の中から出てきたアナザーウォッチを華麗にキャッチしてグリドンは仮面の下でクールに笑う。少なくとも本人はそのつもりで。

 

「決まったぜ」

 

 一方、アナザーウィザードは怨嗟の声をあげて何度も丹田に左手をかざす。大量の火の玉が殺到するが、ドラゴヘルクローで全て弾く弾く弾く。慌てたアナザーウィザードが作り出した土壁もナックルはあっけなく打ち砕いた。

 

「フィナーレだッ!」

 

〈スペシャルプリーズ!〉

 

 カッティングブレードを二回落とす。ドラゴヘルクローに魔力が集中し、繰り出されるストレートがアナザーウィザードの胸を砕いた。

 

「ナンデエェェェェェッ!!」

 

 アナザーウィザードは泣きわめきながら爆散した。ナックルは飛び出してきたアナザーウォッチを危なげなくキャッチし、最期の悲鳴に後味悪いものを感じながらも、疲れからか溜息を吐いた。

 

「ふぃー……」

 

 グリドンとナックルが一つの戦いを終える中、龍玄は怪人を連れて走る。怪人の両腕の刃、ダウジングホーンが示す方向へ全力で駆けていく。

 

 その前に立ちふさがる錆び付いたクラック。そこからライオンインベスとコウモリインベス、ヤギインベスが飛び出してくる。最後に将軍かのように現れたのは、腐りはてた落ち武者──

 

「アナザー、鎧武……!?」

 

 右肩の鎧に刻まれた『GAIM』の文字を見て、龍玄は驚愕する。そうしている間にも、インベスは怪人に近づいていく。怪人はダウジングホーンの能力でインベス同士をぶつけて妨害するも、アナザー鎧武は止められていない。

 

 龍玄は手の中のロックシードを見る。平成ライダーロックシード。大きく鎧武の仮面が彫られたそれを、昨日使えなかったことを思い出す。

 

 一目見て、かつて使ったことのあるレジェンドライダーロックシードの一種であることはわかった。あの時自分で使わずザックへ渡したのは、迷いが生じたためだった。

 

 世界を救った伝説の戦士たちの力。そんなたいそれたものを、使う資格が自分にはあるのだろうかと。可能性の世界で彼らの雄姿を見たことがあるからこそ、使うのを躊躇したのだ。

 

 しかし、昨夜加古川飛流が『変身』しようとする姿を見て、光実は決意したのだ。弱い自分に、負けていられない。

 

「紘汰さん。力、借ります」

 

〈鎧武!〉

 

 頭上にクラックが開く。現れたのは鎧武の頭。戦士を鼓舞する銅鑼が鳴り響く中、龍玄はカッティングブレードを下ろす。

 

〈ハィーッ!〉

 

 アナザー鎧武が自分と同じ力に反応したのか龍玄の方を向く。既に、鎧は展開されていた。

 

〈鎧武アームズ!フルーツ鎧武者・オンパレード!〉

 

 かつて、そして今も、光実の大切な仲間である戦士。彼の力を身に纏った姿の名は、アーマードライダー龍玄・鎧武アームズ。

 

「ここからは、僕のステージだ」

 

 龍玄がそう宣言したその時、アナザー鎧武の視界が塞がる。生成されたクラックからエネルギーを纏ったパインアイアンが飛び出し、アナザー鎧武の頭を覆ったのだ。必死にパインアイアンを外そうとするが、果汁で手が滑って掴むことさえできない。

 まごうことなきチャンスに、龍玄は動く。まずはイチゴクナイをインベス達に投げつける。注意をこちらに向けさせるためだ。

 

 狙い通り、インベス達は龍玄に襲い掛かってくる。大橙丸と無双セイバーで迎撃しつつ、武器二つを合体させてナギナタにする。龍玄がナギナタを振るうと、ロックシードを装填していないのにも関わらず、両刃からエネルギーが弾けて二体のインベスをまとめて拘束する。そして一閃。コウモリインベスとヤギインベスは爆散する。

 

 運よく拘束から逃れたライオンインベスは、まだ四苦八苦しているアナザー鎧武に近寄ろうとするが、後ろからの衝撃に倒れてしまう。すぐさま立ち上がったライオンインベスの目に映ったのは、オレンジとレモンの切り口を模したエネルギー体の列と創世弓ソニックアローを構えた龍玄だった。光矢がエネルギー体を取り込みながら迫る。今度は逃げることも叶わず、ライオンインベスは胸に大穴を開けて爆散した。

 

 残されたアナザー鎧武は、ようやくパインアイアンを外し終えたところだった。未だに果汁が滴るそれを乱暴に投げ捨て、大剣を召喚して龍玄に斬りかかる。ソニックアローで対抗するが、予想以上にアナザー鎧武の腕力は強い。

 

 押されに押され、廃工場の壁に背中が付く。手に蹴りが入り、その痛みでソニックアローが手から滑り落ちる。力強く踏み抜かれて創世弓は消滅していく。大剣が振るわれ、鎧やアンダースーツにダメージが入る。崩れ落ちる龍玄を見下ろし、アナザー鎧武が勝利を確信して小さく笑う。

 

 絶体絶命だ。でも。

 

「お前みたいな偽物に、負けてやるもんか……!」

 

 諦めない。咄嗟にクラックを開き、喚び出すのは無双セイバー。逆手で引き抜き、油断していたアナザー鎧武の鎧を一閃。まともに防御姿勢も取れなかったアナザー鎧武はたじろいで後退する。

 

 その隙に龍玄は火縄大橙DJ銃を召喚、無双セイバーと合体させて大剣にする。虹色のエネルギーが大剣に流れていき、溢れ出してさらに巨大な刃と化していく。

 

〈鎧武・スパーキィーング!〉

 

「セイハァァァァァッ!」

 

 カッティングブレードを三回落とす。巨大な刃は大剣を軽々と突破し、アナザー鎧武を真っ二つに斬り裂いた。

 

「やっ……た……」

 

 龍玄はポツンと残ったアナザーウォッチを拾い上げて、仮面の下で笑う。流石に疲れた。ブドウアームズにアームズチェンジして、少しでも身体を回復できるようにする。

 

 このまま地面に倒れこんで休みたいところだが、まだ戦いは終わっていない。昭和ライダーロックシードの回収と破壊を任されたのは、彼らアーマードライダー達なのだから。

 

 追いついたナックルとグリドンがよろめく龍玄に肩を貸す。クワガタ虫のような姿をした青い怪人──ピクシス・ゾディアーツが龍玄に並ぶ。その両腕が示すは正面に続く一直線の道。

 

「行こう」

 

 アーマードライダー達とピクシスが頷きあう。龍玄はロックビークル・サクラハリケーンを起動し、ピクシスを後ろに乗せる。グリドンもロックビークル・ローズアタッカーにナックルとともに跨った。

 

 二台のバイクが裏路地を駆け抜ける。エンジンの唸り声しか聞こえない中、前だけを見て進む、進む。遠くに見える倉庫が近づく程、ダウジングホーンがそこを強く指し示す。

 

 これで終わる。龍玄も、グリドンも、ナックルも、そう考えていたその時。円盤状の何かが二つ、後方の横道から高速で飛来して機体へ衝突した。三人と一体は地面に投げ出されて体を強打する。

 

 咄嗟に受け身を取ってダメージを抑えたグリドンが真っ先に立ち上がり、周囲を警戒しようとする。が、飛来してきたであろう円盤状のものを見てしまう。

 

「な、なんだよこれ──」

 

 絶句するグリドン。声には出さないが、次いで起き上がった龍玄とナックルも同じである。ピクシスはダメージを限界まで蓄積していたのか、立ち上がることもできていないが、それを気に留めることが出来ないほどの衝撃が三人を襲う。

 

 それはマンホールの蓋だった。直径60センチメートル重量40キログラムの鉄製の円盤が、ロックビークルを破壊したのだ。

 

 得体の知れない恐怖の存在に戸惑う中、一帯が闇に覆われる。暗闇の中、誇り高き夜の魔物が次々に現れる。

 ムースファンガイア、真名『太陽、あるいは魚の目に刻まれた轍』。クラブファンガイア、真名『辞書や胸骨を模した囮』。サンゲイザーファンガイア、真名『水面に連鎖する堕落の残像』。

 

 そしてファンガイア達の後ろから現れたのは、夜の魔物を統べる女王・アナザーキバ。

 

 アナザーキバは地面──否、そこにはめられているマンホールの蓋を踏み抜く。飛び上がったそれを掴み取り、アーマードライダー達へと投擲する。アーマードライダー達はギリギリ避けられたが、マンホールの蓋はロックビークルの残骸に当たり、倒れたままのピクシスを巻き込んで爆発した。

 

 ともに戦った怪人の死を悲しむこともできずに、アーマードライダー達は昭和ライダーロックシードを手に入れるための最後の障害へ立ち向かっていく。

 

 

○○○

 

 

 ──アナザーディエンドが張ったバリアに受け止められる。しかし、長槍から手を離したアナザージオウトリニティは、すぐさま矢でアナザーディエンドの腹を撃つ。衝撃で後退してそのまま近場の廃工場に逃げ込み、床に転がりながらアナザーディエンドは飛流に戻る。ダメージの蓄積による強制解除ではない、とアナザージオウトリニティは訝しむ。

 

「……何のつもりだい?」

 

「さて、どういうことだろうな?」

 

 にやり、と腹部を押さえながら不敵に笑う飛流。あまりにも無防備な姿に呆れたように息を吐きながら、アナザージオウトリニティは丸のこを振り下ろす。

 

〈"ヤリ"スギッ!〉

 

 しかし、フューチャーリングキカイに変身したウォズの横槍が入る。そのまま人工筋肉を限界まで稼動させ、飛流から勢いよく離していく。

 

「そんな力でボクに敵うはずがないさ」

 

「それはどうかな?」

 

〈フィーチャーリングシノビ!"シノビ"ッ!!〉

 

 ライダーウォズはシノビの力を身に纏い、その身体を増やしていく。六人に増えたウォズは高速移動でアナザージオウトリニティを攪乱しながら、全員ドライバーを操作して鎌と化したジカンデスピアのタッチパネルを高速でなぞる。

 

〈ビヨンド・ザ・タイムッ!〉〈フィニッシュタイムッ!〉

 

 六人のウォズは紫の閃光とともに廃工場の床と壁を跳び回る。四方から伸びる閃光は太く頑丈な帯へ変化し、アナザージオウトリニティを何重もの拘束で空中に固定する。

 

〈忍法・時間縛りの術!〉〈イチゲキカマーン!〉

 

「今だ!」

 

『仮面ライダーゲイツと仮面ライダーウォズの力、ゲイツと黒ウォズの元に戻った』

 

 望む未来を書き込まれた未来ノートが淡く輝き、未来を導く。

 

 両肩と化しているアナザーゲイツとアナザーウォズの顔面が咆哮する。身体が変貌した手をゲイツとウォズに伸ばす。帯の拘束が緩み、だんだんと近づいてくる手をゲイツとウォズは掴み取ろうとする。

 

「無駄だよ」

 

 しかし、二人は空を掴んだ。掴もうとした手は、アナザージオウトリニティの両腕が変貌した鎖によって引き止められていた。鎖は先程以上に腕を締め付けて胴体に接続させ、それでもまだ暴れようとする両腕を無理矢理広げることで完全に制御下へ戻す。その時放たれたエネルギー波で帯が全て消滅してしまう。

 

「言っただろう。そんな無理矢理引き出してる力で、ボクの絆の力に敵うはずがない。ほら、もう限界じゃないか」

 

 ゲイツと飛流を庇い、エネルギー波をもろにくらったウォズ。彼は変身解除し、更には白ウォズと姿が交差している。

 

「せっかくだ。それも貰おうかな」

 

 未来ノートに手を伸ばすアナザージオウトリニティ。それを止めようとするのはアナザーディエンド。高速移動で掴みかかるが、文字通り一蹴されてしまう。

 

「加古川!」

 

 今度こそ本当に強制解除された飛流に叫ぶゲイツ。その時、もだえ苦しんでいたウォズが突然起き上がり、ゲイツを羽交い絞めにする。

 

「何!?」

 

『久しぶりだねェ、元救世主ゥ……!』

 

「白ウォズ……!?」

 

『甘味ごときで私を抑えられるとでも?』

 

 いやらしい笑みを浮かべた白ウォズは、アナザージオウトリニティへ声を張り上げる。

 

『私も君に協力しよう! これとディエンドの力を交換しようじゃないか!』

 

「……考えておこう。ひとまずは明光院ゲイツを任せたよ」

 

『踏み倒さないことを願っているよ』

 

 信用できないな、とアナザージオウトリニティは内心思う。ウォズから出てきたモノであるならば、ボクの目的を知っていてもおかしくない。それに未来ノートを手放そうとしている。ディエンドの力を求めたあたり、白ウォズの正体はボクと同じく別時間軸からやって来たモノだろう。

 

 ライダーの力は精々先程ウォズが行使したものが限度であろうから今は何もできないと思いたいが。目的がわからない以上、更なる力は与えたくはない。

 

 とにかく、今は加古川飛流の始末を優先しよう。思考に区切りをつけたアナザージオウトリニティは飛流の方を向く。

 

〈BLADE……!〉

 

 アナザーブレイドに変貌した飛流は白いオーラを纏ってアナザージオウトリニティへ一直線。わざわざその一撃を受け止めてから蹴とばし、長槍で何度も斬りつけてまた強制解除させる。

 

「……敵わないと知りながら何故戦うんだい?」

 

 また地べたに這いつくばる飛流に問う。嘲りではなく、純粋な疑問だった。何が恨みだらけの彼を変えたのか。何がかつての敵と手を組ませたのか。

 

「罪滅ぼしかな? でも、キミの過去は消えないよ」

 

「……俺を動かすのは、お前に騙された恨みだけじゃない。確かに、無くしたい過去なんていくらでもある」

 

 でもな、と飛流は叫ぶ。脳裏に浮かぶのは、あの二人。

 

「それも含めて人ってのは今ここにいるんだよ……! そんな大切なものをねじ曲げようとするお前を、俺は許せない」

 

「キミだって、歴史を歪めたことがあるじゃないか」

 

「……そうだな。許されることじゃないし、俺も俺を許せない。だから俺は、その過去を背負って生きていく」

 

 立ち上がり、アナザージオウトリニティを見据える飛流。

 

「俺は過去を守りたい。全ての人達の、かけがえのない過去を!!」

 

 飛流の叫びを聞き届けたブランクウォッチが輝き、ポケットから飛び出す。光が収まると、飛流の手には水色と金のライドウォッチが。

 

「これは……」

 

「でもドライバーがなければそれは使えない。無駄なあがきだねえ」

 

「無駄なんかじゃない!」

 

「何?」

 

 ゲイツはあっけにとられていた白ウォズを投げ飛ばし、未来ノートを取り上げてそれに叫ぶ。

 

「『加古川飛流、ライダーの資格を手にする』!!」

 

 未来ノートが再び呼応し、望む未来を手繰り寄せる。

 

〈ジクウドライバー!〉

 

 そして飛流の腰にはライダーの資格、最後の一つが。

 

「これが、ドライバー」

 

「使い方は分かるか!?」

 

「……嫌というほど見てきたからな!」

 

 ゲイツと軽口を叩き合い、アナザージオウトリニティに向かってウォッチを構えた。

 

〈ヒリュウ!〉

 

 ウォッチを装填すると、巨大な白い時計が背後に出現する。針は折れ曲がり、時計盤の数字の順番はばらばらで、フレームは欠け、挙句の果てに竜頭が抜けて壊れた時計。

 

 これはかつての己だ。捨ててはならない、背負わねばならないもの。

 

 ソウゴとゲイツの変身に似た体捌きで、飛流は下から左手でドライバーを掴む。

 

「……変身」

 

 ドライバーが回り、それと共に背後の時計が修復され、空色に染め上げられていく。

 

〈ライダー・タイム!〉

 

 ドライバーを回した左腕と残していた右腕を交差させ、ゆっくりと開く。

 

〈カ・メェーン"ライダー"!〉

 

 飛流の身体は灰色のボディスーツに包まれる。しかしすぐさまその上に時計から吐き出された大量の鱗が貼り付いていき装甲と化していく。

 

〈ヒーリューウゥー!〉

 

 仕上げとばかりに時計から"ライダー"の四文字が飛び出し、飛流の顔面へ飛び込んだ。

 

「おお……」

 

 飛流は未知の感覚に驚き、自分を覆う装甲を見たり触ったりしている。

 

 透き通った空色の鱗を纏った体は、まるで青龍のごとし。夕陽のような暖かい色の複眼。形は刺々しいが例に漏れず"ライダー"の文字を象っている。

 

 変身した本人含め、この場にいる全員が飛流の姿に釘付けになる。

 そんな中で、ゲイツは白ウォズ──否、その中で抵抗しているウォズに言う。

 

「黒ウォズ、祝ってやれ」

 

『何、馬鹿な──』

 

「──私の、プライドに、懸けてェェェェェッ!」

 

 白ウォズを振り払って立ち上がったウォズは勢い良く右腕を掲げる。

 

「祝え!! 偽の鎧から解き放たれ、自分を取り戻した過去の守護者!

 その名も仮面ライダーヒリュウ。まさに生誕の瞬間である!」

 

 勝手に付けられた名前に飛流──ヒリュウはウォズにツッコむ。

 

「まんまか!」

 

「どうどう、私やゲイツ君、ツクヨミ君だってそうだよ。……初めてツッコまれたね、このこと」

 

「そんな暇もなかったからな、"前"は」

 

 二人を余所に、ヒリュウは左腕を構える。飛流が持っていたアナザーウォッチが、アーマードライダー達が収集していたアナザーウォッチが、フィーニスが意図的に回収しなかったアナザーウォッチが。そしてヒリュウの胸から現れたアナザーウォッチが、左腕に殺到して融合し一つに昇華されていく。

 

〈ANOTHER TIMER〉

 

 歪んだ針が目を惹く、アナザーウォッチに似ているがそれよりも少し大きなデバイス。その名は偽騎召喚器・アナザータイマー。

 

「何だいそれは!?」

 

「俺は裏の王だった。その過去は俺が未来永劫背負っていくもの。これはその証だ」

 

〈────〉〈AGITΩ──〉〈RYUKI──〉〈FAIZ──〉〈BLADE……!〉

 

 アナザータイマーの針を一と四分の一周、回す。アナザータイマーのウィンドウにアナザーブレイドの仮面が浮かび上がり、輝く。

 

〈ANOTHER FORCE!〉〈BLADE……!〉

 

 スターターを親指で押すと、喚び出されるのはアナザーブレイラウザー。ヒリュウはそれを掴み取ってアナザージオウトリニティに斬りかかる。

 

 アナザージオウトリニティは咄嗟に長槍で防ごうとするが、手から即座に弾き飛ばされる。それどころか両腕に絡みついていた鎖を一刀両断されてしまう。

 

「その剣に、そこまでの力はないはずだッ……!?」

 

「俺は裏の王、アナザーライダーの王だ。王が臣下に負けるわけないだろ」

 

〈ANOTHER FINISH TIME……!〉

 

 残った鎖を無理矢理腕に戻そうとするアナザージオウトリニティ。その疑問をヒリュウは一蹴。アナザーブレイラウザーを床に突き刺し、アナザータイマーのスターターを押してから針に手をかける。

 

〈HIBIKI──〉〈KABUTO──〉〈DEN-O──〉〈────〉〈DECADE──〉

 

 先程と同じくらい回したところで、先程まで腕だったアナザーライダー二体が襲い掛かってくる。一旦針から手を離し、アナザーブレイラウザーを再び手に取り応戦する。

 アナザーゲイツの斧とアナザーウォズの鎌での連携攻撃。防ぐことは容易だが、それ以上行動できる隙をヒリュウに与えない。

 

 厄介だ、と内心舌打ちしていると、アナザーウォズの脇腹を深紅の円錐状のものが貫き、アナザーゲイツの腕を矢が正確に射貫いた。

 

「明光院、ウォズ……」

 

「裏の王サマには必要なかったか?」

 

「いや、助かる!」

 

〈DOUBLE──〉〈OOO──〉〈FOURZE──〉

 

 連続攻撃が止んだ隙に少しだけ針を回してから、アナザーゲイツの背中をアナザーウォズごとアナザーブレイラウザーで串刺しにして蹴り飛ばす。

 

〈WIZERD──〉〈GAIM──〉〈DRIVE──〉

 

 地面とアナザーゲイツに挟まれたアナザーウォズがもがいているうちに更に針を回す。ゲイツとウォズはサンドイッチ状態の二体を警戒しつつ、アナザージオウトリニティの動きを妨害しようとジカンザックスとファイズフォンXを撃つ撃つ撃つ。

 

〈────〉〈EX-AID──〉〈BUILD──〉

 

 あと少しのところでアナザージオウトリニティが両腕の再生を終え、矢や光弾を物ともせず長槍で斬りかかってくる。ヒリュウはどうにか右手で切っ先を掴み取り、それで針を動かす。

 

〈ZI-O……!〉

 

 エネルギーがアナザータイマーから右手へ、そして長槍へ。身に纏うそれと同質のエネルギーがアナザージオウトリニティを襲い、耐えきれずに長槍を手放してしまう。

 

「このぉ……!」

 

「俺の武器だ。返してもらうぞ」

 

 そう言い放ったヒリュウはスターターを右手で押す。長槍に禍々しいエネルギーがまとわりつく。アナザーゲイツとアナザーウォズがようやく立ち上がるが、もはや手遅れだった。

 

〈ANOTHER TIME BREAK!〉

 

「これがお前への罰だ!」

 

 ヒリュウは跳び上がり、長槍を一閃しながら三体のアナザーライダーへ突っ込む。時計の長針と短針のような斬撃が放たれ、アナザーライダー達はもがき苦しんだ後に爆散した。

 

〈ゲイツ!〉

 

〈ウォズッ!〉〈ギンガッ!〉

 

 フィーニスの胸から飛び出したアナザージオウトリニティウォッチが砕け、ゲイツとウォズにライダーの力が戻っていく。ウォズは珍しく安堵した顔で緩く笑う。

 

「ようやくもう一人の私の力を使わずに済むね」

 

「やったな」

 

「ああ。……お前の計画も終わりだ、フィーニス」

 

 うつむいたままのフィーニスに長槍を突き付けるヒリュウ。フィーニスが顔を上げると、笑っていた。

 

「終わり? 終わりだって? ハハハハハ!!」

 

 フィーニスが不意に突きだしたのはひび割れたアナザーウォッチ。また力を奪われるかもしれないと三人は後ずさるが、そのウォッチが吸収したのは先程砕けたアナザーウォッチだった。

 

「まさか力の残滓を吸収しようと……?」

 

「違うよ、何もかも。今このウォッチが求めたのはそんなものじゃないし。

 なにより、ボクの計画は終わるどころか最終段階に進んだのさ」

 

 その手に握られたアナザーウォッチが鼓動する。ヒビが塞がっていき、更にその色を変えていく。

 

「想定外だったのはボクを倒したのがキミであること。ボクが倒されること自体は計画の中核だよ」

 

「何……?」

 

「てっきり、ボクを倒すのは常磐ソウゴか、あるいは葛葉紘汰、呉島貴虎──まあ、終わったことはいいか」

 

 教えてあげるよ、とフィーニスは笑みを深くする。

 

「アナザーライダーの進化には、外的要因が必要なんだ。かつてティードが特異点の少年を狙ったように、ボクがタイムマジーンを取り込んだようにね。特に興味深かったのはキミさ、加古川飛流」

 

「俺……?」

 

「キミはアナザージオウの力を、恨みを糧にIIにまで至らせた。特別な物品ではなく、普遍的でありながらも概念的なものでね」

 

 確かにそうだった。早瀬が変貌したアナザーウィザードなど、他のアナザーライダーにも見られることではあったが、飛流のそれは規格外だった。

 

「だったら、幾度も継承されながらも、毎度ライダーに倒されたアナザーライダーの恨みなら? どれほどの力になるのか、と」

 

 僅かに差し込む日光が反射して、禍々しく照る黄金のアナザーウォッチ。

 

「ネオアナザーウォッチは完成した。実験は成功したのさ」

 

「だが昭和ライダーロックシードはこちらで押さえてある」

 

 アナザータイマーに融合していないのはおそらくまだ起動しているであろうアナザーウォッチだ。つまりフィーニスに残っている駒はアナザークウガ、アナザーキバ、アナザーゴースト。

 

 アーマードライダーや、ソウゴと有日菜が向かった大天空寺にどれほどアナザーライダーを放ったのかはわからない。しかし彼らが傀儡を相手に、そう簡単に奪わせるはずが無い。ヒリュウもゲイツもウォズも、そう信じていた。

 

「なるほど。確かにかつて語ったボクの思想から考えれば、本命が昭和ライダーロックシードだと思われるのも当然か……」

 

 結果的にブラフになったわけだねえ。そう呟いてフィーニスは上を──屋根を見る。

 

「どれでもいいんだよ、今回は。力だろうと魂だろうと関係ない。在るべき歴史に正すのは変わらないからねえ」

 

「……まさか」

 

 本命は、ゴースト眼魂──!?

 

「流石だよ、ティード。キミも、キミが遺してくれた物も素晴らしい」

 

 屋根が破られる。落ちてきたのはアナザークウガ。その身体が消失していくと同時に、更にネオアナザーウォッチへ怨念が充填される。

 

「彼風に言うなら──タスクは果たされた」

 

 フィーニスが立ち上がり、ネオアナザーウォッチを天に掲げる。その瞬間、スローモーションかのごとく、彼女の挙動がはっきりと見えた。

 

 降り注ぐ屋根の破片とホコリ。その中に紛れて落ちてきたのは眼のような小さな物体──1号ゴースト眼魂。それがネオアナザーウォッチに触れると、一瞬で白く空っぽの器になってしまう。

 

〈ICHIGOU……!NEO!〉

 

「今日からボクこそが、時代の創造者で新時代の1号だ」

 

 フィーニスはブランク眼魂を踏みつぶして、そう宣言した。

 





ヘンシン→変身→「転」

 ちなみに、この作品は「ゲイツ、マジェスティ」のストーリーラインをなぞっております。と、いうことは……?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

結「ファーストコネクト2018」

 

 先程追っていたアナザークウガが墜落した工場が爆発し、濃い煙の中で巨大な何かが生まれ出て産声を上げる。

 

 ブースタートライドロンに乗ったグランドジオウとツクヨミは、その様子を呆然と見ていた。

 

「何が起きてるの……!?」

 

「わっかんないよ……」

 

 煙の中から小さい影がふらふらと飛び出してくる。それを叩き落とそうしているのだろうか、巨大な影が腕を振り回す。それによる風圧で煙が晴れ、巨大な影の全貌が二人にも見えてきた。

 

 色は黒と深緑。上半身は筋肉隆々のヒトガタ、下半身は蜘蛛。下半身をよく見れば、巨大な錆び付いたバイクから蜘蛛の足がにょきにょき生えているのだとわかる。しかし車輪は潰れ、もうそれで道を駆け抜けることは不可能に思われた。背には鷲の翼が生え、腰に備わった機関からは禍々しい瞳が睨みつけてくる。

 

 その異形の名はネオアナザー1号。時代の創造者になろうとしたフィーニスの計画の集大成たる存在。

 

 おぞましい。その姿を一目見たグランドジオウとツクヨミは同じ感想を抱いた。

 

 ネオアナザー1号の剛腕をスレスレで避けながら、小さな影が少しずつ近づいてくる。ツクヨミがそれが見慣れた友人であることに気づき、グランドジオウに伝えようと指を差す。

 

「常磐君、あれ!」

 

「ゲイツとウォズに──誰あれ?」

 

 二人の目線の先には、背中に鱗だらけの翼を広げた空色のライダーと、その身体にしがみつくゲイツとウォズが。とにかく二人を回収しようとブースタートライドロンを加速させる。巨大な手に握りつぶされる寸前で、横から颯爽と三人を救い出した。

 

「大丈夫!?」

 

「ああ」

 

「助かったよ、我が魔王」

 

 グランドジオウに頷いたゲイツは同じくトライドロンに乗った空色のライダー──ヒリュウの方を向く。

 

「助かった、加古川」

 

「それはどうも……」

 

 ヒリュウは小声で答えてからゼエゼエと息を吐く。まさかアナザーライダーの力無しで飛べるとは思わなかったし、二人も抱えてなおかつネオアナザー1号の攻撃を避けながらの初飛行だったためにそれなりに疲れていたのだ。

 それにしたって小さい返事だったが、ソウゴに正体を知られてこじれた状況に陥りたくないのだろうとゲイツは察した。正直こじれるとは思わなかったが、そんな場合でもないので追及するのはやめておく。

 

「お前ら……自分で飛べたんじゃないのか」

 

「……突然のことだったからそこまで頭が回らなくてね」

 

〈"ギンガ"ッ・ファイナリーッ!〉

 

「すまん……」

 

〈リ・バイブ・疾風ゥー!〉〈疾風!〉

 

「だからといって今更変身しなくても……」

 

「必要だから変身したんだけどね」

 

「ちょっと待って!?」

 

 勝手に進む話にストップをかけるのはグランドジオウ。

 

「あれ何!?」

 

「俺達の力を奪っていた奴だ。奴を倒さなければ未来は無い」

 

「君誰!?」

 

「そ、それは──」

 

「今は彼について話している時間は無いよ、我が魔王」

 

「じゃあ私からも! あんな巨大な怪物どうやって倒すの!?」

 

「そのための変身だよ」

 

 ウォズギンガ・ファイナリーの答えにゲイツリバイブ・疾風が同意するように頷いてから続ける。

 

「先手必勝だ。対応するライダーの力が無い以上、強引に砕く!」

 

〈フィニッシュ・タイム!〉〈リ・バーイブ!〉

 

「今攻撃を仕掛けてこないあたり、遠距離攻撃は使えなさそうだからね。そういう意味でも好機ということだ」

 

〈ファイナリー!ビヨンド・ザ・タイムッ!〉

 

 ジクウドライバーが回り、ビヨンドライバーのレバーが叩かれる。ウォズギンガがゲイツリバイブの足を掴み、その身体をハンマー投げのようにぐるぐる回し始める。

 

〈超銀河エクスプロージョン!!〉

 

 ギンガアーマーから供給されるピュアパワーが、ウォズギンガの手を通じてゲイツリバイブに注ぎ込まれる。そしてゲイツリバイブは純粋な腕力と重力操作によって超高速で投げ飛ばされた。

 

 ゲイツリバイブは自身の能力で更に加速。右脚を突き出すその姿は、まるで青い彗星のごとし。

 

「でやぁぁぁぁぁっ!!」

 

〈百烈ゥ!〉〈タァイム・バースト!〉

 

 一瞬で超加速したしたゲイツリバイブのライダーキックは、ネオアナザー1号に防御する隙を与えない。それどころか、腕を動かす一瞬の時間すら許さない。

 

 胸に埋め込まれたネオアナザーウォッチが砕ける感覚が、ゲイツリバイブの右足に伝わってくる。

 

 これで終わりだ。ウォッチを砕いたゲイツが、彼を投げ飛ばしたウォズが、ただ見ていたジオウとツクヨミとヒリュウが、そう確信した。

 

「……残念だったねえ」

 

 しかしネオアナザー1号は爆散することなく、なお健在だった。その様子を見たヒリュウは、急いでアナザータイマーの針を回していく。

 

「馬鹿な、ウォッチは間違いなく砕いたぞ!?」

 

〈ANOTHER FORCE!〉〈OOO……!〉

 

「再生している……!?」

 

「何!?」

 

 アナザーオーズの鷹の目を宿したヒリュウには、かつての自分のウォッチのように再生するネオアナザーウォッチが見えていた。

 

「正解。ネオアナザーウォッチには、世界のルールを打ち破る力さえも通用しないのさッ!!」

 

 ネオアナザー1号は吼えると、空中に血のように赤いエネルギー球を大量に展開。真っ先にゲイツリバイブへ数個をぶつけ、残りはトライドロンの方へ。

 一瞬浮かんだ勝利への確信が、彼らを地に墜とす。しかし、ライダー達は地面の染みにならなかった。それどころか、身体が地面に叩きつけられもしない。

 

「何とか間に合った、ようだ」

 

 ウォズギンガがとっさに重力を操作したからだ。そのおかげで、ライダー達は墜落による怪我を負うことは無かった。しかし、エネルギー球によるダメージでゲイツとウォズは強制的に変身解除され、ツクヨミも白い装甲が一部焦げている。

 一番強固な装甲を持つグランドジオウと、アナザーブレイドの力で鱗だらけの装甲を鋼鉄にしたヒリュウ。その二人が最も被害を抑えていたと言えるだろう。

 

「ここ、は……」

 

 見渡してみると、大きな広場だった。住民の姿が見受けられないのは、単に奇跡か、災いに慣れているためか。とにかく、この状況には感謝しなければ。

 

 グランドジオウはゲイツに、ヒリュウはウォズに肩を貸して立ち上がる。ツクヨミも自力で立ち上がり、四人と共に周囲を警戒し始めた。

 

 気配を感じた。ツクヨミが咄嗟にファイズフォンXを向けると、ビルとビルの間を銃口は向いている。

 

 ビルの陰から現れたのは、髑髏があしらわれた黒いタイツを身に纏ったモノ達。その後ろには、多くの異形が控えている。蜘蛛をヒトガタにしたようなモノ。蝙蝠の羽と牙を持つモノ。左手をさそりのはさみに改造されたモノ。他にもカマキリ、コブラ、トカゲ、ドクダミ、シオマネキ、その他種類豊富な動植物の特徴を持つモノ達がいる。その中にはツタンカーメンに似たモノもいる。蟹と蝙蝠、イソギンチャクとジャガー、これらのように複数の生物の特徴を合わせ備えたモノ達もいる。

 

 そんな大量の怪人達の中でもひときわ目立つ個体が四体いた。黄金の毛皮を持つ人狼。死神か悪魔かと思わせる形相のイカ。地獄へと誘うような鋭い眼のガラガラヘビ。ヒルとカメレオンが混ぜ合わされた真っ黒の異形。

 

 周囲を囲んでくる怪人達を見渡し、ウォズが苦々し気に声を出す。

 

「ショッカー、か……」

 

「ボクが地獄から蘇らせたのさ。悪魔の軍団をね」

 

 ウォズに答えた声は空から聞こえてきた。ネオアナザー1号のものだ。腰の瞳から禍々しい色の霧を垂れ流している。建物の上に八本脚で着地すると、口を大きく歪めた。

 

「さっきので全員始末してもよかったんだけど、邪魔な相手は許さない主義なんだ。とことん苦しんでもらおうと思ってね」

 

「そんな悠長にしていていいのかい。過去に渡る術を持つからこそ私達は邪魔な相手、なんだろう?」

 

「じゃあそのまま返すけど、このアナザーウォッチを壊せない状況で悠長にしていていいのかい?」

 

 胸に手を当てるネオアナザー1号。事実、その方法を見出さなければ苦しんで死ぬ未来が待っているだけだ。だが、ウォズには得策が無いわけではなかった。

 

「我が魔王、お手を──」

 

「させないよ」

 

 早速動こうとしたウォズを牽制するように、ネオアナザー1号は再びエネルギー球を放出。エネルギー球はショッカー戦闘員を大勢巻き込みながらウォズのみならず他の面々にも迫る。

 

「危ないッ!!」

 

 無防備でかつ生身のウォズとゲイツを、焦げたツクヨミを、そしてグランドジオウを。ヒリュウは翼を開いて包み込み、背中で庇う。エネルギー球をもろに受け、それに加えて蓄積していたダメージで変身解除して倒れこんでしまう。晒された素顔を見て、ツクヨミは仮面の下で目を見開いた。

 

「あなた、は──」

 

「そう、キミ達を襲ったあのアナザーライダーその人さ!」

 

 追い打ちの言葉と共に極太レーザービームが飛流に放たれる。飛流は未だ装着されたままのアナザータイマーに指を伸ばそうとするが、間に合わない。飛流は自分の運命を覚悟し、瞳を閉じた。

 

〈キィング!ギリギリスーラッシュ!〉

 

 だが、最悪の運命は訪れない。グランドジオウの最強の一太刀が、ショッカーの怪人達ごとレーザービームを断ち切ったのだ。

 

「……なんでだよ。アイツの言う通り、俺はお前を襲ったんだぞ」

 

 助かった。その一言が言えず、嫌味のような言葉をぶつけてしまう。そんな言葉にもグランドジオウは仮面の下で小さく微笑んで答える。

 

「だって助けてくれたじゃん、今」

 

『過去のためじゃなく、今のために生きようよ……!』

 

 飛流の脳裏に、かつてソウゴから与えられた言葉が蘇る。あの時は納得できなかった言葉。失ったものを再び手にし、全てを知った今だからこそ、彼の厳しくも優しい言葉が今更心に沁みる。

 

 あの時も今も、ソウゴは自分を消そうとした者にさえも手を伸ばした。彼は記憶を失おうとその本質は変わっていないのだ。

 

「そうだ、そういう奴だよなお前は……」

 

 飛流は立ち上がり、常磐ソウゴをまっすぐ見る。それは前を含めても初めてのことで。

 

「常磐ソウゴ」

 

「何?」

 

「お前は一昨日、俺が何者か聞いたな」

 

「えっ?」

 

 なんで今それを。更に訊ねたい気持ちができたが、グランドジオウは抑えた。それが彼にとって必要なことだと、そんな気がしたから。

 

「俺は加古川飛流。お前には及ばないかもしれないが、皆の過去を守るために戦いたいと思ってる。今だけでいい。一緒に……一緒に、戦ってくれないか」

 

 飛流は許しを請うように、恐る恐るグランドジオウの答えを待つ。

 

「……うん!」

 

 グランドジオウは嬉しそうに頷く。飛流は憑き物が落ちたような泣き笑い顔になった。

 

「何青春してるん──ガァッ!?」

 

 再びレーザー砲を撃とうと口を大きく開けるネオアナザー1号だが、そこに砲弾やビームが撃ち込まれて未然に防がれる。空に浮かぶのはダンデライナー二機とスイカアームズ・ジャイロモード。

 

「邪魔するのは無粋だよ」

 

「……ありがとうございます!」

 

〈ヒリュウ!〉

 

 アーマードライダー達がネオアナザー1号を妨害している隙に、飛流は自分のウォッチを付けたままのドライバーに装填する。ショッカー怪人達が襲い掛かろうとするが、グランドジオウやツクヨミに阻まれた。

 

「変身ッ……!」

 

〈ライダー・タイム!〉〈カ・メェーン"ライダー"!ヒーリューウゥー!〉

 

 ドライバーが回る。背後の空色の時計から吐き出される同色の鱗を身に纏い、飛流は再び仮面ライダーに変身した。

 

「変身、できたんだね」

 

「はい!」

 

 空から降りてきたのはアーマードライダーグリドン、ナックル、そして龍玄。龍玄の手には昭和ライダーロックシードが収まっていた。

 

「結果オーライ、だね」

 

 そのロックシードを見てウォズは勝ち誇るような笑みを浮かべる。更に勝ち筋は増えた。

 

 対照的に、ネオアナザー1号はそのロックシードを見つけると内心舌打ちする。グランドジオウの力だけならば、レジェンドフォームの知識を唯一持つウォズを牽制し続ければいい。

 しかし昭和ライダーロックシードは誰かに使われさえすれば、それに宿る意志と力がネオアナザー1号の破滅へと確実に導く。しかも現時点でさえ使用可能なライダーは三体もいる。もし呉島貴虎や凰蓮・ピエール・アルフォンゾ、葛葉紘汰が帰還すれば、もしアナザー鎧武達が遭遇したアーマードライダー達が襲来すれば、その数は更に増す。

 

 ウォズの前では結果的にブラフになったと嘯いたが、本当は全て確保しておきたかったのだ。所在不明の破壊者のライダーカードも、敵対者に確保されたロックシードも、手中にある魂も。かつての戦いからフィーニスはラーニングしたのだ、逆転負けに繋がる可能性のあるものは全て取り除かなければならないと。だからこそ加古川飛流の記憶を復活させて大量の手駒を用意したというのに。

 

 予定変更だ。ネオアナザー1号は統率下にある四体の大幹部へ、更に彼らを通じて地獄の軍団へ指令を出す。早急に仮面ライダーを抹殺せよ、と。

 指令を受け取った大幹部は吼え、触手を地面に勢いよく叩きつけた。すると戦闘員と怪人達は先程よりも苛烈にライダー達に襲い掛かる。

 

「急に攻撃が激しくなったな……!」

 

〈ゲイツ!〉〈ゲイツマジェスティ!〉

 

「流石に遊んでいられなくなったというわけだ」

 

〈タイヨウ!〉

 

 ゲイツとウォズはジカンザックスとジカンデスピアで戦闘員達のナイフを捌きながら、ウォッチを起動してようやく戻ってきたドライバーに装填する。周囲に現れる平成2号ライダーのライドウォッチも、それぞれ固有のエネルギーを纏って戦闘員達に突進して倒していく。

 

「変身!」

 

〈マジェスティ・ターイム!〉〈ゲイツ!マジェ~ス・ティ~♪〉

 

 ドライバーが回る。ゲイツが変身したのは、全身にライドウォッチを身に着け、背にマントをはためかせる赤と金の仮面ライダー。真の救世主・仮面ライダーゲイツマジェスティ。

 

「変身」

 

〈ファイナリー・タイム!〉〈ヘイヨー・タイヨウ!ギンガッ・"タイヨウ"ッ!!〉

 

 レバーがドライバーに叩きつけられる。ウォズが変身したのは、ウォズギンガ・ファイナリーと瓜二つなものの、"タイヨウ"という字を体現した燃える複眼を持つ仮面ライダー。仮面ライダーウォズギンガ・タイヨウフォーム。

 

「皆、円陣だ! 落ち着いて隣の奴の背中を守ってくれ!」

 

「消耗を抑えて粘れば、ってやつね!」

 

 かつて慕っていた男の作戦を借りたナックルにグリドンは軽口を叩きながら従う。クルミボンバーとドンカチが怪人達を蹴散らしていく。

 

 このままライダー達は自然に円陣を組み、ショッカー戦闘員や怪人達を倒していく。しかし数は減らない。ネオアナザー1号の生み出す霧が怪人に再び命を吹き込むのだ。

 

「無限湧きってわけか……!」

 

「さっさと本体を叩いた方が良さそうだ。では我が魔王、呉島光実──」

 

 ウォズギンガが二人に呼びかけた瞬間、その二人に黄金狼男とガラガランダが迫る。同時に、グリドンとナックルにイカデビルとヒルカメレオンが襲い掛かった。

 

「させない!」

 

「ツクヨミッ……!?」

 

 幸い、ツクヨミが割り込んだおかげでグランドジオウは襲われることはない。しかし、襲われた四人は四体に押されて円陣から引き離されていく。しかもガラガランダの猛攻により龍玄は昭和ライダーロックシードを落としてしまう。ヒリュウが回収したが、この場に戦極ドライバーの使い手はいない。狙いは各個撃破か。

 

「やむを得ない、か。ゲイツ君! ショッカーは頼んだよ!」

 

「相変わらず人使いの荒い……」

 

〈バース!〉〈マッハ!〉〈クローズ!〉〈イクサ!〉

 

 現れるのはCLAWs・サソリと弾丸型の魔獣。機械仕掛けのサソリは両手のハサミで怪人を切り刻みながら針代わりのドリルで戦闘員を蹴散らし、サメにも似た魔獣は怪人を食らっていく。ゲイツマジェスティ自身もブリザードナックルとイクサナックルを両拳に装備し、怪人を殴り倒していく。片方で殴られた怪人は氷漬けになってから一瞬で砕け、もう片方で殴られた怪人は吹っ飛んで爆散した。

 

 ヒリュウもまたショッカーを倒していたが、ウォズギンガに引っ張られる。曰く、「我が魔王と私の護衛を任せる」とのこと。

 

「では我が魔王、お手を拝借」

 

「え、うん」

 

 三度目の正直。戸惑いながらも頷いたグランドジオウの右手を取り、ウォズギンガはライダーレリーフに触れさせていく。まずは胸から左肩へ。

 

〈ディケイド!〉〈ビルド!〉〈エグゼイド!〉

 

 肩から前腕へ。急に左手首を掴まれたグランドジオウはビクつく。ネオアナザー1号のエネルギー球が彼らを狙うが、ヒリュウのアナザーダブルの力で撃ち落とされる。

 

〈オーズ!〉〈フォーゼ!〉

 

 前腕から腰、そして脚。ウォズギンガに言われるがままに膝を上げるグランドジオウ。

 

〈ゴースト!〉〈鎧武!〉

 

 グランドジオウの背後で七つの門が開く。現れるのは七人の仮面ライダー。それぞれの手に握られているのは、オーズとビルドを除いてどれも1号を模したアイテムばかりだ。

 

〈1号!〉〈レッツゴー・1号!〉

 

 カードが、桃と鷲が描かれたメダルが、スイッチが。ヒリュウが持つものと同じロックシードが、先程フィーニスが力を奪ったものと同じ眼魂が、ガシャットが、振られたグリーンと赤のフルボトルが。各々の手で掲げられ、起動しそれぞれのドライバーに装填される。

 

〈KAMEN RIDE──〉〈ICHIGOU〉〈ロック・オン!〉〈アーイッ!〉〈ガッ・シャットォ!〉〈バッタ!バァイク!ベストマッチ!〉

 

 空にクラックが開き、1号の頭が降りてくる。ドライバーから飛び出したパーカーゴーストが空に躍り、ネオアナザー1号の攻撃を捌いていく。背後にゲーム画面が表示される。ビルドドライバーのレバーと歯車が回り、スナップライドビルダーを展開、そこからバッタの形の眼を持つ半身の装甲とバイクの形の眼を持つ半身の装甲を生成する。

 

〈Are you ready?〉

 

 ビルドドライバーの問いかけに答える代わりに、ライダー達はバックルを閉じ、スキャナーを唸らせ、スイッチを押し、カッティングブレードを下ろし、トリガーを押し込み、レバーを開く。

 

〈タカ!イマジン!ショッカー!〉〈ソイヤッ!〉〈カイガン!〉〈ガッチャーン!レベルアーップ!〉

 

 風に包まれ、三種のメダルエネルギーを胸に受け、巨大な頭が展開し、パーカーゴーストと一体化し、ドライバーから飛び出したエフェクトに通過され、スナップライドビルダーに挟まれ、フォーゼ以外のライダーの姿が変わっていく。フォーゼの左脚にはコズミックエナジーが凝縮され、新たな装備と化していく。

 

〈──1GO!〉

 

〈ターマーシ!タマシ・ターマーシー!ライダァーッ……ダ・マ・シ・イ!!〉

 

〈ICHIGOU ON〉

 

〈1号アームズ!技の1号・レッツゴー!〉

 

〈カメンライダー!相棒はバイク!必殺はキック!〉

 

〈ライダージャンプ!ライダーキック!ライダ・ライダ・アクション!ゴーッ!!〉

 

〈1号!〉

 

 ディケイド1号。オーズ・タマシーコンボ。1号ライダーモジュール。鎧武・1号アームズ。ゴースト・1号魂。エグゼイド・1号ゲーマーレベル2。ビルド・1号フォーム。

 

 どれも1号やその根源であるショッカーの力を秘めた形態だ。オーズを除いたレジェンドライダーは、右手を左上にビシッと伸ばし、左拳を腰の位置で力強く握っている。ディケイドはかったるげだが。

 

「なるほどな、コイツらなら……」

 

「ああ。彼女のアナザーウォッチを停止させることもできるだろうね」

 

 ウォズギンガは仮面の中で笑みを浮かべ、グランドジオウを導くようにネオアナザー1号を指し示す。

 

「では我が魔王、彼らと存分に──」

 

「あれ、あの人達何してるの!?」

 

 グランドジオウの困惑が滲み出た声に反応し、ウォズギンガはきょろきょろと周囲を見渡す。すぐにレジェンドライダー達は見つかったが、その彼らはヒリュウを囲んでいた。

 

「……えっ?」

 

 呆気にとられるヒリュウに対し、レジェンドライダー達は右手を突き出した。加害のためではない。少なくとも当事者のヒリュウ以外──ネオアナザー1号さえそう思った。

 

 そして、レジェンドライダー達は手を空に掲げる。暴風が吹き荒れ、ヒリュウに、厳密にはその手に収まったロックシードに凄まじい力が注ぎ込まれていく。

 

「これはまさか、ライダーシンドローム……!?」

 

「させないよッ!!」

 

 ネオアナザー1号の一声で、地獄の軍団の大半がヒリュウに差し向けられる。更に自分自身も重い腰を上げて始末に動く。

 

「それはこちらの台詞だ!!」

 

 だが、それは一人の救世主により防がれる。

 

〈バロン!〉〈ブレイブ!〉〈メテオ!〉

 

 ネオアナザー1号を囲むのは、地面に突き立てられたバナスピアーから放出された巨大バナナの群。更に突き立てたガシャコンソードによって氷漬けになり、それらは強固な檻となる。そしてその中に射出された、流星のように輝く独楽が縦横無尽に暴れまわってネオアナザー1号の動きを阻害した。唸るネオアナザー1号を放置し、ゲイツマジェスティは更にライドウォッチのスターターを押していく。

 

〈G3-X!〉〈ギャレン!〉〈伊吹鬼!〉〈ディエンド!〉〈ビースト!〉〈スペクター!〉

 

 ショッカー軍団に向けるのは銃だ。GX-05、ギャレンラウザー、音撃管・烈風、ディエンドライバー、ビーストマグナムが宙に浮き、シンスペクターの力で無限に増殖していく。シン・ダイカイガン、ラストバレット。

 

 ゲイツマジェスティの手に握られたガンガンハンドの引き金が引かれると同時に、周囲の銃も火を噴いた。天使ですら殺すGX弾が、炎の強化弾が、清めの音が、カード型エネルギーに囲まれた極太レーザーが、五種の動物が混ざり合ったキマイラ型の魔力弾が、再生怪人達を一掃していく。

 

「おのれェッ!!」

 

 ネオアナザー1号は衝撃波を全身から放射して氷バナナの檻を破壊し、独楽を弾き飛ばす。腰から再生の霧を再び漂わせながら、今度こそヒリュウを始末しようと動きだす。 が、またもやその前に立ち塞がるライダーがいた。今度はウォズギンガだ。

 

 自分の全長よりも大きい手と拳を打ち合わせるウォズギンガ。小さい拳から伝わってくる極熱をネオアナザー1号は手首を振ることで逃がそうとする。ウォズギンガはその隙にドライバーを操作する。

 

〈ファイナリー!ビヨンド・ザ・タイムッ!〉

 

「今だ!」

 

〈バーニングサン・エクスプロージョン!!〉

 

 ウォズギンガの全身から放たれた熱線がネオアナザー1号の腰の瞳を溶かす。霧の発生が止まり、復活しかけの再生怪人の身体がグズグズに崩れていく。同時に残っていた霧も晴れていく。

 

 その時、空洞ができた腰の機関から大蛇が何体も飛び出してくる。ウォズギンガは慌てずに発光することで目を眩まして離脱した。

 

「もう一回頼んだよ、ゲイツ君!」

 

「言われるまでもない!」

 

〈ナイト!〉〈カイザ!〉〈ゼロノス!〉〈アクセル!〉

 

 再びゲイツマジェスティがネオアナザー1号に対峙する。鏡写しのように自分の姿を増やしてから、喚び出した三台のモンスターマシンに飛び乗る。ダークレイダー・バイクモードはゲイツマジェスティのマントに覆われることで、黄金の巨大弾丸になり鷲の翼を貫く。サイドバッシャー・バトルモードは腰から生えた大蛇をミサイルで始末する。

 そしてゼロガッシャーを担ぐゲイツマジェスティを乗せたアクセルガンナーは地を駆ける。大砲で動きを鈍らせながらネオアナザー1号に近づき、ゲイツマジェスティはドライバーを回す。

 

〈エル・サルバトーレ!〉〈タァイム・バースト!〉

 

「でやぁぁぁぁぁっ!!」

 

 ゼロガッシャーに全身のライドウォッチのエネルギーが集約し、巨大な剣になる。ゲイツマジェスティはそれを横に薙いで、バイクの勢いで蜘蛛の足ごと下半身を真っ二つに斬り裂く。

 

 ネオアナザー1号は地面に投げ出されながらも身体を再生させようと腕だけで起き上がろうとする。その時複眼が捉えたのは、ヒリュウが構える一つのライドウォッチだった。

 

 

 

 

 

 時は少し遡る。ライダー達が手を下げると、暴風は止み、ロックシードに彫られた1号の仮面が輝いた。そしてロックシードは蓄えられた力を一気に放出する。

 

 それは凝縮されて物体になり、ヒリュウの手のひらにぽとりと落ちる。それは一つの指輪だった。1号の仮面を模しているそれは、1号レジェンドライダーリングだ。

 

 これは一体何なのか。手のひらを覗き込むヒリュウとグランドジオウにそう考える暇も与えず、レジェンドライダー達は元の姿に戻って黄金の粒子となって消えていく。誰も彼もヒリュウに向かって頷きながら。

 

「俺に何をしろと……?」

 

 ヒリュウは首を傾げざるを得ない。こうして最後に残ったディケイドは軽く手を叩き合わせた後、グランドジオウの脚のライダーレリーフに軽く蹴りを入れる。

 

「痛っ」

 

〈ウィザード!〉

 

 門が一つ開き、現れたのは仮面ライダーウィザード。ディケイドは手のひらから1号リングを掻っ攫うとウィザードに放り投げる。キャッチしたウィザードの肩をポン、と叩いてディケイドも消えていった。頷いたウィザードはヒリュウの右手を取り、リングを中指に填める。そのままウィザードはヒリュウの右手をドライバーにかざす。

 

〈イチゴォーウ!プリーズ!〉〈ライダライダライダァーッ!!〉

 

 不思議な呪文がドライバーから流れ出し、同時にバッタとバイクが合わさったようなマーク、ライダーズクレストが宙に浮かぶ。それを見届けると、ウィザードはこっそり姿を消していた。

 

 ライダーズクレストが輝くと、仮面ライダーディケイドが変身した1号──否、仮面ライダー1号その人が現れる。その証拠に、腰には風車が回っていた。

 

 1号はヒリュウに向かって手を差し出す。ヒリュウはおずおずと手を握る。握り返されると、なんだか勇気が湧いてきた。ヒリュウは強く握り返す。すると、右腕のホルダーに収められたブランクウォッチが緑色に淡く光った。取り出してみると、先程のライダーズクレストと1971という数字が表示されている。

 

「ありがとうございます」

 

 ヒリュウが頭を下げると、1号は頷く。

 

 君には君にしかできないことがある。頼んだぞ、新たな仮面ライダー。優しげだが厳しそうな声が聴こえた気がした。

 

 ネオアナザー1号が暴れている方向へヒリュウは振り返る。その後ろで、1号は静かに姿を消していた。

 

〈1号!〉

 

 右手で緑色のウォッチを構えて起動し、ドライバーに装填する。

 

「……1号さん」

 

 その流れでドライバーのロックを外し、右腕を一回転させてから左上に持ってきてピンと伸ばす。左拳を腰で力強く握りしめる。

 

「力、お借りします!!」

 

 そして、ベルトを勢いよく回した。

 

〈アーマー・タァイム!〉

 

 ドライバーのモニターから"イチゴウ"の文字を象った夕陽色の複眼が飛び出す。その動線に身体全体を覆えるだろうアーマーが現れ、先程のヒリュウとおなじポーズをとる。するとすぐさまアーマーは弾け、ヒリュウの各部に装着されていく。

 

〈ライダァー!"イチゴウ"!〉

 

 最後に、緑の仮面の何も収まっていない部分に複眼が音を立ててはまり、淡く輝いた。錠前のような肩に備え付けられた風車が勢いよく回り、風になびく赤いマフラーと共にその存在を強く示す。

 

「これは……祝わねば!!」

 

「だろうな……」

 

 ウォズギンガが素早く手を掲げるのを見て、ゲイツマジェスティは呆れたように肩をすくめる。

 

「祝えッ!! 継承されし正義の鎧を纏い、時の王者の隣に立つ過去の守護者!

 その名も仮面ライダーヒリュウ・1号アーマー。まず一つ、始まりのライダーの力を継承した瞬間である!」

 

 ウォズギンガの祝福を受けたヒリュウは一人、ネオアナザー1号の元に駆けて駆けて駆けていく。エネルギー球が殺到するが、繰り出したライダーチョップが全て叩き落とした。

 その間に身体の再生を完了させたネオアナザー1号はパンチを繰り出す。が──

 

「ライダー返しッ!」

 

 その勢いを利用され、ヒリュウに投げ飛ばされてしまった。ネオアナザー1号の身体は瓦礫に埋まり、抜け出ようともがく。

 

「どうしてキミがその力を使えるんだ……ッ!! キミは、所詮道化なのに……ッ!!」

 

 悲鳴にも似たネオアナザー1号の問いかけに、ヒリュウは拳を握りしめて当たり前のように答える。力強い手の感触を思い出しながら。

 

「道化だからこそ、期待には応えなきゃだろ」

 

「ほざけェェェェェッ!!」

 

 ネオアナザー1号は瓦礫を弾き飛ばして空を飛ぶ。次いで瓦礫を集めて巨大な脚を構築し始めた。すぐさま完成した巨脚の膝に当たる部分に蜘蛛の足を添わせ、地上に落下する。

 

「常磐ソウゴ……行くぞッ!」

 

〈フィニッシュ・タイム!〉〈1号!〉

 

 グランドジオウの隣に歩み寄ったヒリュウは声高々に宣言し、ドライバーのウォッチを起動する。マフラーがたなびく程の強風が吹き荒れた。肩のタイフーンが風を取り込み高速で回転し、それにより生み出されたエネルギーをヒリュウの右脚に限界まで供給していく。

 

「ああ!」

 

〈フィニッシュ・タイム!〉〈グランドッ!ジオォウ!〉

 

 それに応えたグランドジオウも同様にドライバーのウォッチを起動。全身に刻まれたライダーレリーフから溢れ出したエネルギーがグランドジオウの右脚に集中していく。と同時に、ピンクをベースに金色の縁取りがなされている"キック"の巨大な文字が二十個、ネオアナザー1号の周囲を囲む。

 

 そして、ドライバーが回った。

 

「ライダーッ、ジャンプ!」

 

「とおっ!」

 

 ヒリュウとグランドジオウは一緒に跳び上がり、岩石脚に向かって右脚を突き出した。先程の"キック"の文字が一つに重なりあい、グランドジオウの足裏にくっついて複眼と共に輝く。同時に、ヒリュウの足裏に刻まれた"キック"の文字が緑色に淡く輝いた。

 

「ライダァーッ、ダブルキィィィィィック!!」

 

〈ライダァーッ……!〉〈タイムパニィーッシュ!〉

 

「だぁぁぁぁぁッ!!」

 

〈オールトゥエンティ!〉〈タイムブレーク!〉

 

 二人の脚は岩石脚をあっけなく貫き、ネオアナザー1号の身体さえも貫き、ネオアナザーウォッチを割った。

 

「まだだァ、ボクは、始まりのライダーにぃぃぃぃぃ──」

 

 空に悲鳴が響こうとしたその瞬間、ネオアナザー1号の巨体は爆散した。

 地面を削りながらヒリュウとグランドジオウは着地する。背後では二つに割れたネオアナザーウォッチが落ちて砕けた。

 

 それを確認した二人は変身を解除し、互いの顔を見て気が抜けたような息を吐くのだった。

 

 

○○○

 

 

 それぞれの戦いを終えたライダー達も戻ってきた。再会できた喜びもそこそこに、光実とザックと城乃内はこの場を去ろうとする。フィーニスが消えても、アーマードライダー達には後始末が残っている。

 

「待ってください!」

 

 飛流は昭和ライダーロックシードを取り出す。戦いの中では気づけなかったが、その1号の部分は力を失ったかのように黒ずんでいた。それでも、と飛流は差し出すが、光実はその手を押し止めた。

 

「それは君が持っておくべきだ」

 

「いや、でも……」

 

「これは君に力を貸したんだろう? ならこれからも君の力になってくれるよ」

 

「……ありがとうございます」

 

 飛流は頭を下げた。光実は握ったままの手を上から包み込む。別れの時間だ。

 

「一緒に戦えてよかったです」

 

「僕もだ。……またいつか。できれば戦いの中ではなく、日常で」

 

「はい、またいつか」

 

 手をそっと離し、今度こそアーマードライダー達はこの場を去っていった。

 

「さて、私達も帰るとしよう。私達の日常にね」

 

「俺お腹空いたな~」

 

「ならお昼にしましょ」

 

「いいね。いい店を知っているんだ」

 

「またスイーツじゃないだろうな……? まぁいいか。加古川、お前もどうだ」

 

 少し離れた場所で聞いていた飛流は小さく首を振る。お前達の日常に、俺はいなくていい。

 

「最後に一つ、いいか」

 

 重々しい言葉に眉をひそめながらもソウゴは頷く。

 

「常磐ソウゴ。俺とお前が、これ以上交差する運命にあるかはわからない。これっきりかもしれない。

 だがもし、また交わる時が来るなら……その時は共に戦おう」

 

 飛流はおずおずと手を差し出した。ソウゴはきょとんとするが、直後に手を掴んだ。

 

「頼もしいや。……でもさ」

 

 握る力が強くなる。ソウゴの予期せぬ行動に、飛流の顔が強張った。

 

「これっきりにはしない」

 

「へ?」

 

 ソウゴはウォズに目配せをする。ウォズは頷いて首に巻いたストールをほどき始めた。

 

「俺、もっと君のこと知りたいんだよね」

 

 そう告げたソウゴが微笑んだのを飛流は見た。その光景を飛流の脳が処理できるかできないかの一瞬で、ストールが一行を包んだ。

 

「……ジャカランダ?」

 

「ハカランダじゃない?」

 

「ウォズにしては結構洒落てる店だな」

 

「一言余計だよ、ゲイツ君」

 

「お前、まさか……」

 

 辿り着いた喫茶店、ハカランダについて三者三様に初見の印象を述べているが、飛流だけは驚愕の声を上げていた。

 

「言っただろう、いい店を知っていると」

 

 してやったりと言外に含ませながら、ウォズは黒い空間に跳躍する。真・逢魔降臨暦を開き、かつてのように同僚達へ報告を始めた。

 

「かくして、加古川飛流は仮面ライダーヒリュウに覚醒し、彼と我が魔王によりタイムジャッカーフィーニスは撃破された。まさか加古川飛流が改心し変身するだけでなく、昭和ライダーの力を継承するのは非常に予想外でしたが」

 

 広げた本を音を立てて閉じ、ウォズは面白そうに笑みを浮かべる。

 

「これもこれで悪くない。少なくとも私は、そう思いたいね」

 

 そう話を締めると、いつの間にか存在していた台の上に、どこからか取り出した大量のレシートや領収書をそっと置いた。

 

「……あと、このランチも経費に計上するので。そのつもりでよろしく」

 

 しれっと都合の良いことを言い残して、ウォズは黒い空間を後にするのだった。

 

 

○○○

 

 

「あー、疲れた」

 

 飛流は二日振りの湯舟に浸かって、気持ちよさそうに息を吐いた。肩まで自分の身体をお湯に沈めながら、過去イチぶっ飛んでいた週末の出来事を振り返っていく。ぽっかり空いた穴が急に埋まって、たくさん悩んだし、肉体的にも精神的にも苦しかった。

 

「でも、良かった」

 

 身体に微かに残る傷を撫でる。ようやく、常磐ソウゴに、自分に向き合えた。

 

 ハカランダでのランチを思い出す。羽美さんと再び会えて、お礼を言った。あなたが救ってくれたからここに俺はいるのだ、と。羽美さんは「なら良かった」と笑っていた。その時に、服はあらためてプレゼントとして贈られてしまった。今は洗濯籠の中にあるそれを思うと、頬が緩む。

 

 その後は昼食をいただきながら、ソウゴや明光院、ウォズ、月読と土曜日の夜のように他愛のない話をした。月並みな言葉で言うと、楽しかった。文化祭に招かれたが、行けるだろうか。

 

 眼を閉じる。羽美さんの笑顔や、月光に照らされる光実さんの横顔。そしてソウゴ、明光院、ウォズ、月読と楽しく会話していた楽しい時間。

 

 頭に浮かんでくる出来事を噛みしめながら、確信する。彼らが生きる今を、形作る過去を守りたい。それが俺の夢だ。でも、俺に何ができるのか。

 

「戦って守る、しかないが……」

 

 夢のカタチは出来上がっても、具体的にどうすればいいのかが出てこない。タイムマシンなんて持っていないし。ウォズに訊いてみるのもいいかも。うーん、わからん。

 

 そんなとりとめのないことを考えながら飛流は風呂から出て、着替えて、髪を乾かし、両親におやすみ、と一言残して自室に入る。まだぼんやりとした頭で、両親についてふと気づいたことを口に出す。

 

「そういえば週末のこと、何も聞かれなかったな……」

 

「今更そんな心配か。私達がいい感じに誤魔化しておいたから安心するといい」

 

「ならいいか──いや誰だよ!?」

 

 独り言に反応した男に、飛流は大声を上げる。飛流のベッドに腰掛けて漫画を読んでいるのにも驚いたが、一番はその服装だ。男が身に纏う服装がウォズと瓜二つなのだ。その大きな特徴から推測できることを飛流は恐る恐る問う。

 

「ウォズの同僚か何かか……?」

 

「概ねそんな認識で構わないが、あの常磐ソウゴの家臣ではない、ということは言っておこう。

 俺達はQuartzer。まぁ、この本に出てくるタイムパトロールみたいなもんだ」

 

 男は先程まで読んでいた漫画の表紙を飛流に見せてから本棚にスッと仕舞う。様々な時代を駆ける男女コンビのタイムパトロールの物語だ。昔、飛流も夢中になって読んだ覚えがある。

 

「単刀直入に言おう。君は選ばれた」

 

「は?」

 

「王からの承認は出ていないが、君が受け入れさえすれば時間の問題だ」

 

「え、いや、何に?」

 

「呑み込みが悪いな。我々の仲間に、だ」

 

 その言葉にぼんやりしていた頭が冴えていく。唐突に生えてきた、夢への最短ルート。流石に都合が良すぎる。だが──

 

「いいだろう」

 

「は?」

 

 男は飛流の即答に思わず困惑の声を上げる。正直、騙そうとしているのではないか、くらいは言われるかと思っていた。そんなことをしても王の怒りを買うだけなのでやらないが。

 

「確かに、お前達が俺を騙そうとしている可能性は考えた。だが、もしそうだったとしても。お前達の思惑を超えてやろう。俺は裏の王だからな」

 

 飛流の大言壮語に、男は笑う。なるほど、かつてよりも面白くなったものだ。

 

「ならば歓迎しよう。歴史の管理者、Quartzerに」

 

 男は芝居がかった仕草でお辞儀をする。

 

「詳細は追々話していこう。もう夜遅いしな」

 

「……まず一つ聞いていいか」

 

「何だ?」

 

 飛流は鞄から一枚の書類を取り出す。未だに空白が多いそれは、進路希望調査書。

 

「これにどう書けばいい?」

 

 

○○○

 

 

 オーマジオウは溜息を吐く。王座の前で家臣を跪かせて、今回の事件について話を聞いていたのだ。確かに、これ以上ウォズを縛るわけにもいかないし。それに──

 

「彼が望んだんだろう? なら、いいよ」

 

 家臣は顔を上げた。そこには、隠しきれない安堵感が漂っていて。それが妙に嫌で、さっさと下がらせた。

 

 変身を解く。独りになると、いつも彼らのことを思い浮かべる。

 

 俺の手の中で息絶えた、かつて敵だった少年。上位存在に復讐しようとするも返り討ちにあった少女。俺のために俺を裏切り、俺に自分の世界を託した少女。妹への憎悪を絶やすことなく果てた男。そして、最期に俺の名前を呼び、背を押してくれた友。

 

 変身していなくてもなお機能するパラレルラトラパンテを通じて、更に記憶が流れ込んでくる。

 光剣で腹を貫かれ、眠るように死んでいった忠臣。光弾から俺を庇って亡くなった叔父さん。そして、空に開いた穴に吸い込まれていく青年。伸ばした手は何も掴めなくて。

 

「今度こそ、誰も死なないでくれ」

 

 オーマジオウ──常磐ソウゴは祈る。最高最善を尽くしているが、それでもアナザーワールドの白ウォズは、フィーニスは現れた。彼にできるのは、祈ることだけなのだ。

 

 

○○○

 

 

「おはようアタル」

 

「おはよー飛流。……決めたの、進路?」

 

「まぁ、一応」

 

 飛流はクリアファイルに挟まった進路希望調査書を眺めていた。それには男__Q-KENZOと一緒に捻り出した進路が書かれている。嘘を書いているような気がして、なんかむず痒くなってしまう。Q-KENZOが言うには、大学で見分を広めることも大切なことだと言っていたが。

 

「なぁアタル」

 

「何?」

 

 親しい人には、ちゃんとどんな夢を抱いたのか伝えておきたかった。笑われてもいいから。

 

「俺、皆の過去を守りたいって夢を見つけたんだ」

 

 でも、アタルは茶化すようにではなく、本当に嬉しそうに笑った。

 

「いいじゃん、愛と正義のタイムパトロール」

 

「いや、そこまでは言ってないけど。……笑わないのか?」

 

「笑わないよ。だって飛流がようやく見つけられた夢じゃん」

 

「おはよ、二人で何話してんだ?」

 

「ツトム、タクヤ、おはよー。実はさ──」

 

 アタルは勝手に飛流の夢を友人二人に話した。いいな、とツトムもタクヤも我が事のように笑う。ツトムは嬉しそうに飛流の肩をポンポン叩いた。

 

「まぁ鬼がいるんだからタイムパトロールくらいはいるだろうしな。それにしても偶然だな。タクヤもやりたいこと見つけたんだよ」

 

「おっ、なんだなんだ──」

 

 飛流は三人の会話に混ざりながら先程のアタルの言葉を咀嚼する。顔が緩むのが自覚できた。

 

 愛と正義のタイムパトロール、か。悪くない響きだった。

 





コネクト(connect)→繋がる→「結」

 ついに完結しましたね。まだエピローグや間話がありますが。
 ちなみに、この作品の構想自体は2020年6月に生まれました。起承は2021年6月に、転は同年12月に、そして結は14日前に書き終わらせました。なんだかんだで約2年間書いてきましたので、ちょっと感慨深くもあり、寂しくもあり。まだ書いてない間話もあるんですが。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EPilogue「21人のジオウ!」

 二話同時投稿です。先に前話、結「ファーストコネクト2018」を読んでいただけると幸いです。
 この話は映画でいうところのポストクレジット的なものです。ヒリュウのエピローグであり、今後投稿する作品のプロローグでもあります。ヒリュウだけで完結したい方はブラウザバックしていただいた方が良いと思います。


 

「ショッカーの強みは、何度やられても蘇るしぶとさなんだよ」

 

 バチバチ、と火花が散る。フィーニスは破れた服から機械の身体を晒したまま、咄嗟に逃げ込んだ地下水道で身体を休めていた。壁に背中をもたれて、瞳を閉じる。

 

 ネオアナザーウォッチは失われた。だが、まだ手はある。この世界の自分からアナザー1号ウォッチを作成できれば──

 

「今度こそ、ボクが歴史の──」

 

「貴様ごときにその器はない」

 

 かつて聞いた覚えのある、しわがれた老人の声がする。文字通りグギギと音を立てながら音源を見てみると、一人の幼い男の子だった。

 

 反射的にブランクウォッチを突き付けようとするが、その時には右腕ごと崩れて消えていて。やはりキミなのか。

 

「オーマ、ジオウ」

 

「終わりだ。貴様の歴史は」

 

 諦念を浮かべたフィーニスに、男の子は手をかざす。すると先程の右腕と同じく、彼女の身体は崩壊していった。

 

「さて。何だ、貴様は」

 

 男の子は振り向いた。視線の先には誰もいなかったが、男の子が手を振るだけで化けの皮が剥がれる。

 

 変身解除して水浸しの地面に落ちたのはウォズ。昼食を食べ終えソウゴ達をクジゴジ堂に、飛流を自宅に帰した後、フィーニスを探していたのだ。

 

「なるほど、私ではない常磐ソウゴの従者か」

 

 パラレルラトラパンテが早急にウォズの情報を脳に伝達する。男の子はしゃがみ込み、倒れているウォズの顎を掴む。ウォズは恐怖した。

 

「ならば仕えるがいい。真実の常磐ソウゴである、私に」

 

「……わかり、ました」

 

 ウォズは小さい声で応えることしかできない。男の子──否、真実のソウゴは満足したように頷いて立ち上がる。

 

「始めようではないか。新たな命の選定を」

 

 真実のソウゴの背後が歪み、異世界を映し出す。異世界に控える化物達が、歓喜の声をあげた。

 

 

○○○

 

 

 城南高校に所属する、ちょっと遺跡が好きなだけの普通の社会科教師、寺井戸大介──通称ティードは喜んでいた。彼が気にかけていた生徒の一人である加古川飛流が、ついに自分の夢を見つけ、進路を定めたのだ。

 

「それにしても、図書館の司書さんか……確かにアイツ、歴史に割と興味あったしなぁ」

 

 普段の授業態度を鑑みても納得できる進路だった。個人的にも後輩が増えて嬉しくもある。しかし、どうして急に決められたのか、少々気になるところではあるが。

 

 無粋だな。邪推を振り払おうとティードは再び進路希望調査に目を通す。

 

「まぁいい」

 

 さっさとデータベースに登録しておこう、とティードがノートパソコンを起動した時、社会科準備室の扉が勢いよく開く。古いんだから勘弁してほしいんだが、と扉の方を向くと、そこには新人化学教師、日西彗美──通称フィーニスが息を整えながらスマートフォンをいじっている。

 

「何、どうしたよ」

 

 ただ事ではない行動をする遠縁の親戚その二に声をかけると、スマートフォンが突き出される。

 

「ティード、これ」

 

 その小さな画面に映っていたのは、SNSに投稿された動画。動画に添付されていた文章にはただ事ではないことが書いてあって。信じられないから、恐る恐るティードはそれを読んでいく。

 

「教師や生徒と共に──」

 

 

 

 

 

「──光ヶ森高校が消えた……?」

 

「ああ」

 

 同時刻。光ヶ森高校があったはずの場所。下校途中の加古川飛流はQuartzerにメールで呼び出されてここまでやって来た。

 空っぽになった敷地を囲んでいる野次馬も含めた大勢から少し離れた場所で、飛流はQ-KIMIと名乗る昨日とは別のQuartzerに詳細を聞いている。

 

「全ては"真実のソウゴ"を名乗る常磐ソウゴが引き起こしたことだ」

 

 曰く、彼はこの世界とはまた別の並行世界の常磐ソウゴ──いわゆる並行同位体である。

 

 曰く、彼は既にオーマジオウに覚醒している。

 

 曰く、彼は別の世界で無限に繰り返されるデス・ゲームを引き起こし、多くの被害を出したために多くの並行世界のQuartzerに存在を把握されている。

 

 曰く、彼は今回この世界の一部を奪い取り、複数の並行世界から同様に奪った一部と融合させて一つの異世界を誕生させた。既に時の流れは切り離されている。その中には侵入できず、様子も窺い知ることはできていない。しかし、他世界のQuartzerとの情報交換により、異世界の中には複数の常磐ソウゴが存在していることが逆説的に判明している。

 

 曰く、彼がそこまでの行動を起こした理由は未だに完全不明。

 

 飛流には伝えていないが、真実のソウゴは別のオーマジオウのパラレルラトラパンテによる探りをシャットアウトさえしている。といっても、Quartzerに協力するオーマジオウは、Q-KIMIが把握する限り一人しかいない。

 

「情報量が多すぎるッ……!」

 

「まぁ、常磐ソウゴ達にとっても、俺達にとっても危機的状況なのをわかってくれればいい。今回はウォズとも連絡がつかないからな……」

 

 昨日愚痴ってたし着信拒否してるんじゃねぇかな、と飛流は一瞬思ったがすぐさま否定する。常磐ソウゴの危機に動かないウォズではない。

 

「王を含めた他の奴らは門矢士を動かそうとしているらしいが、奴が想定通りに動くとは思えない」

 

 Q-KIMIは肩を竦める。門矢士とは一回戦ったきりだが、相当な問題児なのか。飛流がそう認識をあらためたところで、Q-KIMIの話はようやく本題に入る。

 

「ということで、だ。俺とKENZOの独断だが、お前にも動いてもらうことにした」

 

「それ自体は俺にとっても歓迎すべきことだが……」

 

 Quartzerとして動くには知識や経験が足りないのではないか、という懸念点がある。飛流はそれを素直に伝えると、織り込み済みだと返答された。

 

「経験については時間も事件もないからどうしようもない。代わりに知識を限界まで蓄えてもらう」

 

 Q-KIMIは指を鳴らす。すると飛流は黒い空間に跳ばされた。巨大な時計が中心にそびえ立っており、その前には一個の机と椅子が。

 

「いい手段ではないが、今回は詰め込み学習装置とアガスティアベースの本を併用していく」

 

「何だよここ……!?」

 

「大丈夫だ。すぐ知ることになる」

 

 台車を押しながらQ-KENZOが現れる。台車の上には、仰々しい機械と大量の本が乗っていた。Q-KIMIは飛流を椅子に座らせ、仰々しい機械を頭に装着していく。

 

「とにかく今は時間がない。厳密に言えば、こちらとあの異世界での時の流れがどれほど違うのかすらもわからないから、早く対処するに越したことはない、ということなんだが」

 

「KIMI、説明が長い」

 

 Q-KENZOがQ-KIMIにぼやく中、飛流はQ-KIMIが言っていたことについて思考を巡らす。こっちの1秒があっちでは1日に相当する可能性もある、ということか。

 

「荒療治になるぞ」

 

「覚悟はしている」

 

 生きていろよ。明光院、ウォズ、月読、ソウゴ。俺に何ができるか、今はわからないけれど。きっと、お前達のために。

 

 目をつむると、学習装置が音を出して起動する。情報の洪水が飛流の脳味噌に流れ込んでいく──

 

 

○○○

 

 

 時は遡って、放課後の光ヶ森高校。校舎の内外では生徒達が盛り上がりながら文化祭の準備をしていた。

 

 光ヶ森高校に所属する、色々と普通ではない社会科教師の月読織次──自称スウォルツは、生徒が斜め上の暴走をしないように見回りをしていた。今は昇降口付近にいて、買い出しに行く生徒や終わらせて戻ってくる生徒を見ている。

 

 生徒指導部長でもある彼としては、受験も近づきつつある10月に文化祭をするのはどうなのだろう、という気持ちはある。だが、それはそれとして息抜き──悪く言うと現実逃避は程々に必要なのはわかっていた。

 

 だからこそ特に抗議もせず、普通に業務に取り組んでいるわけだ。だがそこまで忙しくはない。生徒達は注意される時間は無駄なのをわかっており、ちょっと騒ぐくらいで済ましているために。

 

 故に本業とは別のことを考える時間ができるわけで。日曜日の早朝のことだ。もっと言えば、金曜の放課後からのことだ。

 

「あのアナザーウォッチは何だったんだ……?」

 

 金曜日の放課後に唐突に生まれ、よくわからないから奪われないように保管していたら、日曜の朝にこれまた唐突に飛んで行ったアナザーディケイドウォッチ。

 まぁ、アナザーディケイドウォッチは今もポケットの中に入っているのだが。何故か残っていたオーマジオウの力の一片から、万が一のために以前作っておいたものだ。

 

 明光院景都──通称ゲイツが救世主を夢にしだしたり、それこそ先週末のアナザーウォッチの発生に、今日から海外にボランティアに行くはずの我が妹にして生徒会長──有日菜の遠出だったりと、最近何か変なことが多い。

 

 確実に何かが起きている。とはいえ、王家の力をほとんど失ったスウォルツにはそれを知る術は無いのだが。

 とにかく、記憶を無くしているらしいソウゴ達に何かあった時は俺自身が動かねばなるまい。

 

 そう心の中で決意したところで、スウォルツが見たのは大声をあげて走る生徒達。互いを押しのけ追い越し、ただ事ではない様子だ。

 

「オイお前ら、何して──ッ!?」

 

 声をかけようとしたら、生徒達の後ろに何かの群れが見えた。それは、この星にいてはならないはずの異形。ある一人のライダーが、自分を犠牲に背負っていったはずの存在。

 

「何故インベスが……!?」

 

 スウォルツも多少はライダーの歴史を知っている。だからこその困惑。だが理由をどうこう考えている暇は無い。今は生徒を守ることだけ考えねば。

 

「校舎に入れ! 昇降口にバリケードを作って閉じ籠もるんだ!!」

 

 先頭を走る男子に怒鳴ると、スウォルツは跳び蹴りでインベスを後退させる。

 

「せんせー!!」

 

「いいから早く行け! 意見は求めんッ!!」

 

 襲われかけていた女子生徒の背を押すと、スウォルツは残された王家の力とオーマジオウの力の一片をミックスさせて自分の身体を強化する。

 

 そしてインベスに殴りかかる。この時、ヘルヘイムの種子を備えるインベスの爪に触れないようにしなければならないが、スウォルツはギリギリのところで避けながらインベスを次々に昏倒させていく。

 

 本当はアナザーディケイドになりたかったが、生徒を更に怖がらせるのは論外だしそもそもその時間が無かった。

 

「ギャァァァァァーッッ!!」

 

「ああああああああああ!!」

 

 スウォルツが群れ全てを昏倒させて消し去ったところで、校庭側から、別の校門がある方向から悲鳴が聞こえる。

 

「まさかッ……!?」

 

 スウォルツは最悪の可能性を予感しながらも、ここから比較的近い校門側に向かって走る。

 

 到着して見えたのは、インベスに多くの同僚や僅かな生徒が貪り食われている光景。何故インベスが人間を食らっているのかとか、そんな些細な疑問は頭から吹っ飛んだ。

 

「ガァァァァァァァァァァッ!!」

 

〈DECADE……!〉

 

 怒りの咆哮と共に、スウォルツはアナザーディケイドへと変貌する。まだ生き残っている生徒からインベスを引きはがし、無茶苦茶に殴って命を完膚なきまでに壊していく。壊して壊して、また獣のように咆哮する。

 

 そんなアナザーディケイドを見て、さっき助けた生徒が腰を抜かす。まだまだたくさんいるインベスはその生徒を逃さず噛みつく。また悲鳴が、哀しみの咆哮が上がる。

 

 地獄は当分、終わりそうになかった。

 

 

 

 

 

 一方、校庭ではジオウとゲイツが生徒と共に逃げながら戦っている。ライダーも化物も生徒達にとっては謎の存在だったが、言語コミュニケーションができて自分達を守ってくれているライダーに従うことを選ばない者はいなかった。いや、生徒達にそこまで考える余裕はなかったのだが。

 

 ジオウとゲイツの姿はいわゆる通常形態だった。最強の力であるグランドジオウライドウォッチとゲイツマジェスティライドウォッチは、いかなる理由か起動しなかったのだ。

 

 ジカンギレードの銃モードやジカンザックスの矢で怯ませることで、距離に余裕を持たせているが、流石に化物の数が多い。

 

 校舎がだんだん近づいてきたその時、複数の化物が突然ジャンプして生徒達に跳びかかる。もちろんジオウとゲイツは反応して銃弾と矢で撃ち落としていくが、それでも撃ち漏れは出てしまう。襲われる生徒が出てしまう。

 

 ソウゴの仲の良いクラスメートの一人である、小和田もその一人だった。

 

「小和田ッ!!」

 

 ジオウは走って小和田に手を伸ばす。しかしその背には化物の爪が迫っていて。

 

「ソッ──ジオウ!!」

 

 ゲイツは化物達を蹴って走る生徒達から距離を離してから、ジオウを押しのけて化物の爪をジカンザックスで受け止める。ジオウはそれでちょっとつんのめってしまう。

 

 これでジオウは傷つくことはなかった。

 

「だずげ──」

 

 だが、小和田は化物にその身体を咀嚼されていく。ゲーマーになるには健康な体が必要だと考え、最近ストレッチを始めてちょっと引き締まってきたその身体が。

 

「小和田ぁぁぁぁぁッ!!」

 

 手を伸ばしても、もう届かない。化物は既に食事を終え、群れに合流している。

 

「ジオウ。……すまん」

 

 ジオウは無言で首を振り、生徒達の元に戻るべく走った。

 

 

 

 

 

 夜。生き残った生徒の数は、三学年二十一クラス中、精々三クラス分程度。教師で生き残ったのは、スウォルツのみ。

 

 そして、外は何故か化物だらけの荒野になってしまっており、生き残った生徒は事実上、この高校に閉じ込められてしまったことになる。

 

 スウォルツの主導の元、存在していなかったはずの給食センターに詰め込まれたもので夕食を終えると、何故か用意されていた寝袋にくるまって眠る。

 

 だが、ソウゴは眠れない。寝袋を抜け出して、廊下に出る。月光に照らされるグランドジオウウォッチが光源の役割を果たしてくれた。

 でもそれだけだ。ソウゴが祈るようにスターターを何度押しても、ウォッチは開かない。

 

「何が、最高最善の魔王だよ……」

 

 展開しないグランドジオウウォッチを額に当てて、ソウゴはすすり泣いた。孤独な王を見ていたのは月だけだった。

 

 

○○○

 

 

 太陽に照らされながら、崩壊した校舎の間を堂々と歩く者がいた。ああ、その名は真実のソウゴ。

 

「変身」

 

〈祝福の刻……!〉

 

 最高最善最大最強の、この世を統べる王である。

 

 そんな素晴らしき王が複数の並行同位体を選定なさっている。シェフ見習いのソウゴがいた。OREジャーナルのファンのソウゴがいた。クリーニング店のアルバイトをするソウゴがいた。人類基盤史に興味を持つソウゴがいた。

 

 まだまだいた。鬼に弟子入りしたソウゴがいた。サバ味噌が好きなソウゴがいた。多重人格でタイムパトロールなソウゴがいた。天才ピアニストで初恋の人を探し続けるソウゴがいた。

 

 探偵事務所に入り浸るソウゴ。ストリートダンサーのソウゴ。警察に憧れているソウゴ。霊感が強いソウゴ。様々なソウゴがいた。

 

 だが誰も、真実のソウゴのお眼鏡には適わない。恐らく、今選定しているソウゴもそう。

 

〈ファイナリィー・タァイム!〉〈超天才!"ビルド"・ジィ~ニアァ~ス♪〉

 

「お前を、倒ォすッ!!」

 

〈ジーニアス!〉〈タイムブレーク!〉

 

 ビルドの最強の姿、ジーニアスフォームの力を持つアーマーを纏ったジオウは、超高速でオーマジオウに殴りかかる。その腕はハリネズミの針が無数に生えてドラゴンと不死鳥の二色の炎を宿し、ダイヤモンドの固さとゴリラの筋力とロケットの噴射力とを合わせ持っていた。しかも身体を発光させて目をくらまし、薔薇の鞭や鎖で拘束することで必ず当たるように計算されている。

 

「なるほど、悪くない」

 

 その拳を受けて、オーマジオウは唸る。これまで戦ってきたソウゴの中でも、この一撃は高水準。

 

「だが、お前は成長しきっている。完成してしまっている。残念なことだ」

 

「んなもん、わかっとるわァ!」

 

 ジーニアスジオウには、隣に立って共に戦う仲間がいなかった。師匠達と違って。自覚はあったし、だからこそ残り僅かな高校生活で見つけようと思っていたのに──

 

 無駄な思考を振り払う。再び成分をかけ合わせながらジーニアスジオウは跳び上がって空で大の字になる。ドライバーが再び回り、電子音声も再び鳴り響く。放つは、右脚に全ての成分を流し込んだ最終必殺。

 

 しかしその一撃は、オーマジオウが張った時計型のエネルギーシールドに阻まれて本体には届かない。更に無防備な腹にオーマジオウは拳を振りかぶる。咄嗟に固くしたため変身こそ解除されなかったものの、その衝撃はジオウの──ソウゴの内臓をぐちゃぐちゃにした。

 

 仮面の下で血反吐を吐くジオウを見下ろし、オーマジオウは溜息を吐く。

 

「選定は失格、だな」

 

「……は?」

 

 さらりと言ってのけたオーマジオウに、ジオウは血を吐きながら問いただす。

 

「バケモンをけしかけたのも、学校壊したのも、アイツら全員殺したのも、並行世界混ぜこぜにしたのも、全て──」

 

「そうだ。全ては私、真実のソウゴが新たな命を得て、世界を良くするためだ」

 

 意外に頭が回る。オーマジオウは感心して、要らぬことさえ喋ってしまう。

 

 その内容にジオウは絶句した。そんな意味わからんことに、学友は巻き込まれたのか。

 

「ふざ──」

 

「興が乗りすぎたか」

 

 オーマジオウは腕の一振りでジオウを吹き飛ばした。残っていた壁にぶつかり、更に身体が悲鳴をあげる。

 

「さて、次の私候補を探しに行くとしよう」

 

 そう軽い調子で言い放ち、オーマジオウは手をジオウに向ける。手のひらに凄まじいエネルギーがほとばしるのを見て、ジオウは自分の運命を理解した。

 エネルギーが放たれようとするその時、突然オーマジオウの身体が発火し、エネルギーが消失していく。

 

「……ほう」

 

 オーマジオウは即座に力を上空に逃がす。その衝撃で天候が変わり、雨が降ってきた。もう一人ライダーが現れる。四本の禍々しい角に、肩を始めとした刺々しい身体。しかし、その複眼はピンク色だった。

 

「ようやく私の手を取る気になったか」

 

「これ以上、あなたの選定は行わせない」

 

〈凄まァじき戦士!"クウガ"ァ~・アルティメェットォ~ッ!!〉

 

 壁の残骸の向こう側から現れたジオウ・アルティメットアーマーはジオウ・ジーニアスアーマーに向かって親指を立てる。

 

「大丈夫。アイツは、俺が倒すからさ」

 

 そう言い残して、雨に濡れながらジオウは走り出し──

 

 

 

 

 

 意識を失っていたらしい。眼鏡をかけたソウゴは目を覚まして起き上がる。ジーニアスの力で身体はどうにか治癒できていたが、身体は重い。

 

 瓦礫による埃を払いながら周囲を探索したが、ここに残った命は自分だけだとあらためて再認識しただけだった。

 

 だがあの子供──真実のソウゴが、死んでいるとは思えなかった。真実のソウゴに創られたこの世界はこの世界のままだったから。

 

 このままのたれ死ぬのもありかもなァ、と地面に寝っ転がってぼうっとしていると、あのジオウのサムズアップを思い出す。

 

 やれやれ、と独り言ちて、ソウゴは立ち上がる。あれとかあれとかあれはどこに埋まってるやら。

 

「あの野郎、今に見ときィ……!」

 

 まだ頬の筋肉に力が入らず、吐いた血の跡を遺したまま、ソウゴは凶暴に笑うのだった。

 





「NEXT TIME 8人のジオウ!」で、いずれまた。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ボーナス・コンテンツ
結の回・カットシーン


 ツクヨミは戦闘員をファイズフォンXで怯ませながら、黄金狼男と睨みあう。膠着状態だ。するとよろめきながら近くに寄る戦闘員達の首筋に、黄金狼男は次々に牙を立てていく。噛まれた戦闘員は苦しみもがいて倒れ込む。

 

「何をしているの……?」

 

 ツクヨミの疑問にすぐ答えは出た。戦闘員の骨格が変わり、体表に毛が、口からは牙が生えてくる。黄金狼男によってウルフビールスを注入されたのだ。

 

 狼男と化した戦闘員達はすぐさま起き上がり、指先に新しく備わった器官から弾丸を発射する。ツクヨミはそれをマントで防ぎつつ回避しようとするが、一部をもろにくらってしまう。狼男達の攻撃は先程よりも強くなっており、ツクヨミは痛みに歯を食いしばる。

 

 その隙を付いて、脚の筋肉を膨張させた黄金狼男がツクヨミに一瞬で近づき、懐に入り込んで胸装甲を下から上に引っかく。ツクヨミは胸装甲から火花を散らしながら吹き飛び、敷き詰められたタイルの上を転がる。

 

 そして黄金狼男の牙が、ツクヨミの首筋に迫る──

 

 

 

 

 

 龍玄はガラガランダと対峙する。ガラガランダはその右手と一体化した鞭を乱暴に振り回すが、あまりに乱暴なので龍玄は飄々と避けることができた。回避された鞭はタイルやコンクリートを粉々にする。龍玄もブドウ龍砲で反撃するがガラガランダは逃げ回り、更に地面は粉々になっていく。

 

 足元を悪くして戦うつもりか。龍玄は先程よりも足に力を入れる。ガラガランダはそれに構わず龍玄と地面に向かって鞭を振るい続けた。その結果、地面はボロボロになって砂埃が舞う。砂塵で視界が遮られる中、龍玄はガラガランダを見失ってしまった。

 

「しまった……!」

 

 油断せずブドウ龍砲を構える龍玄の背後から破壊音が鳴る。振り向くが、何もいない。その時、龍玄の背後__さっき向いていた方向の地面からガラガランダが顔を出し、脛に噛みついて毒を注入する。龍玄はあまりの痛みに膝を落としたが、苦しみながらも龍砲を撃つ。しかしガラガランダはまたもや姿を消して、再び背後から顔を出し──

 

 

 

 

 

 ナックルはイカデビルの胴体に何度も拳を叩きこむ。だが殴った感触に確かな手ごたえはなかった。その証拠に、イカデビルは殴られた場所を軽く払うだけで大したダメージを負っていない。

 

「ただのパンチじゃ効かねぇってか……!」

 

 ナックルはならばと強化ロックシードとゲネシスコアを取り出して自身のドライバーに装着しようとする。

 

 しかし、それを悪魔の使い・イカデビルが許すはずがない。イカ墨を吐き出してナックルの視界を遮ったのだ。ナックルは反射的に複眼をぬぐおうとして、ゲネシスコアを装着することから意識を逸らしてしまう。

 

 その隙にイカデビルは手を天に掲げる。するとイカデビルの頭部が一瞬だけ赤く光り、空からたくさんの隕石が降ってきた。隕石は戦闘員を巻き込みながら爆発し、視界をどうにか取り戻したナックルにも多大なダメージを与える。

 

「クッ……!?」

 

 倒れ込んでしまいそうなナックルを、イカデビルは伸縮自在のイカ脚で絡めとってコンクリートの床に放り出す。そしてイカデビルは生き残った戦闘員と共にナックルを囲み、鎌を振り上げ──

 

 

 

 

 

「ったく、あの怪人はどこに消えたんだよ……!?」

 

 グリドンは戦闘員をドンカチで叩きのめしながら周囲を見渡す。先程自分を引きずってきたゲルショッカー大幹部・ヒルカメレオンの姿が文字通り見えないのだ。

 

 その様子を見て、周囲の景色に溶け込んだヒルカメレオンはしめしめと音を立てずに笑う。吹っ飛ぶゲルショッカー戦闘員から起きる爆発をこそこそと避けつつ、グリドンに少しずつ近づいていく。狙うは、腰に装備された戦極ドライバーとそれに装填されたロックシード。

 

「これで全部か。俺も舐められたモンだね」

 

 周囲の戦闘員を倒し終え、少し気が抜けた状態でグリドンはドンカチをクルクル放る。絶好の機会だ。ヒルカメレオンは素早くグリドンに接近し、そしてドライバーに手を伸ばし──

 

 

○○○

 

 

 ──が、牙がツクヨミのアンダースーツに突き立てられる寸前のところで黄金狼男の動きが止まった。否、止めさせられた。

 

〈バーストモード!〉

 

 黄金狼男の腹にφの記号が刻みつけられている。ファイズフォンXのエネルギー弾が黄金狼男の身体を一瞬硬直させたのだ。ツクヨミはタイルの上を転がって距離を離す。

 

 再び狼男達が指先に備わった器官をツクヨミに向けるが、射線が黄金狼男に重なり下手に撃つこともできない。その隙にツクヨミは立ち上がってファイズフォンXをドライバーに装填した。

 

〈エクシードチャージ!〉〈フィニッシュ・タイム!〉

 

 ドライバーのウォッチを起動すると、右脚にポインター555が装備される。回し蹴りしながらポインター555を黄金狼男に向けると、そこから円錐状のマーカーが射出されて黄金狼男の身体を狼男達ごとその場に固定した。

 

「一撃で、決める!」

 

〈ライド・ガジェット!〉〈タイムジャック!〉

 

 ツクヨミは飛翔し、月光のように輝く中心にφの記号が赤く光る右足を突き出す。勢いよくマーカーを潜り抜けると、狼の群れは灰になって崩れていった。

 

 

 

 

 

 ──噛みつこうとするが、その顔面に銃弾が叩き込まれる。ガラガランダは急いで地面から這い出ようとするが、更に降り注ぐ銃弾がそれを襲った。ならば、と再び地中に潜って距離を取る。

 

 一方の龍玄も、次の攻撃の予想はできたものの、足にじんわりと広がる酷い痛みで動くことができず、龍砲でガラガランダの動きを阻害して遠ざけるのが精一杯だ。……今のままならば。

 

〈ドラゴンフルーツエナジィー!〉

 

 ドライバーにゲネシスコアを拡張した龍玄は、起動したエナジーロックシードを装填して素早くカッテイングブレードを下ろす。

 

〈ジンバー・ドラゴンフルーツ!ハハーッ!〉

 

 龍玄は烈風纏いし双龍・ジンバードラゴンフルーツアームズにアームズチェンジ。ソニックアローにエナジーロックシードを装填し、構える。

 

 それほど遠くもなく近くもない距離の地面から飛び出してきたガラガランダ。それを視野に入れると、龍玄はレモンを絞るようにゆっくりと力強く矢を引き絞る。

 

〈ドラゴンフルゥツエナジィー!!〉

 

 そして、手を放す。二匹の龍となったエネルギーの矢は、一方は叩き落とされたもののもう片方はガラガランダの喉を噛み切った。万歳をするようなポーズを取りながらガラガランダは倒れ、すぐに爆散した。

 

 

 

 

 

〈ジンバァーマロン・スカーッシュ!〉

 

 ──たが、ナックルから飛び出した棘が戦闘員を貫き爆散させ、イカデビルの頭部に突き刺さる。イカ脚を引き千切ったナックルは既に、熱拳構えし闘拳士・ジンバーマロンアームズに変わっていた。

 

 棘が刺さったままのイカデビルの頭部からは煙が出ている。ナックルが知る由は無いが、イカデビルの頭部には隕石誘導装置が内蔵されており、それが破壊されたのだ。

 

「弱点は頭か!」

 

 頭を押さえるイカデビルの様子を見て、ナックルは確信する。ならこの熱く燃え滾る拳を叩き込むだけだ。

 

〈ジンバァーマロン・オーレェ!〉

 

 カッテイングブレードを二度下ろす。拳同士を打ち付けあうと、両拳が燃え上がる。走り出したナックルの拳は正確無比にイカデビルの頭を捉えた。

 

 イカデビルは後ずさり、次第に熱を増していく頭を抱える。その瞬間、衝撃と熱が軟体生物の肌を超えて、隕石誘導装置を爆発へと導いた。

 

 

 

 

 

「分かってんだよ、そんなの」

 

 ──その手首をグリドンに掴まれる。驚きのあまりヒルカメレオンは透明化を解除してしまう。ヒルカメレオンはヒルの口を伸ばし突き立てて手を離させようとするが、グリドンの力は緩まない。

 

「お前みたいな奴の対処法は、師匠から学んでるんだよ……!」

 

〈ドングリ・スパーキング!〉

 

 グリドンは左手でカッテイングブレードを三回下ろした。上半身を覆うドングリアームズが展開前に戻り、巨大なドングリと化しエネルギーを蓄えていく。

 

 そしてお見舞いするのは全力の頭突き。その衝撃でグリドンは手を離してしまい、ふらつきながらもどうにか踏ん張る。手首を解放されたヒルカメレオンはふらつきながら倒れ、そのまま爆散した。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

資料集

○仮面ライダー

 

・仮面ライダーヒリュウ

〈カ・メェーン"ライダー"!ヒーリューウゥー!〉

身長:200.0cm

体重:92.0kg

パンチ力:31.3t

キック力:72.5t

ジャンプ力:82.3m(ひと跳び)

走力:2.0秒(100m)

登場話:転「ヘンシン2013」、結「ファーストコネクト2018」

 加古川飛流がヒリュウライドウォッチを用いて変身した姿。

 裏の王であるため、どのアナザーライダーでも倒すことができる能力を持つ。

 また、専用武器であるアナザータイマーはアナザーライダーの能力の行使や召喚ができる。

 必殺技はタイムパニッシュ。劇中では披露していないが、十二個の夕陽色の「キック」の文字が敵を囲み、それらが重なって敵の胸にくっつく。それに向かってヒリュウがライダーキックし、その足に刻まれた「キック」の文字と敵に刻まれた「キック」の文字が重なる__というようなものである。

 

 

 

・仮面ライダーヒリュウ・1号アーマー

〈ライダァー!"イチゴウ"!〉

身長:200.0cm

体重:100.0kg

パンチ力:50.0t

キック力:110.0t

ジャンプ力:120.0m(ひと跳び)

走力:0.7秒(100m)

登場話:結「ファーストコネクト2018」

 加古川飛流がヒリュウライドウォッチと1号ライドウォッチを用いて変身した姿。

 1号が持つ多種多様な技を行使することができる。また、肩に備わったタイフーンに風を受けることによって身体を強化できる。

 必殺技はライダータイムパニッシュ。シンプルなライダーキック。

 

 

 

・アーマードライダー龍玄・鎧武アームズ

〈鎧武アームズ!フルーツ鎧武者・オンパレード!〉

 

・アーマードライダーナックル・アギトアームズ

〈アギトアームズ!目覚めよ、その魂!〉

 

・アーマードライダーナックル・ウィザードアームズ

〈ウィザードアームズ!シャバドゥビ・ショータイム!〉

 

・アーマードライダーグリドン・フォーゼアームズ

〈フォーゼアームズ!青春・スイッチオン!〉

 

・アーマードライダーグリドン・ダブルアームズ

〈ダブル・アームズ!サイクロン・ジョーカー!ハッ・ハッ・ハァッ!〉

 

・アーマードライダーグリドン・キバアームズ

 

 呉島光実、ザック、城乃内秀保がレジェンドライダーロックシードを用いて変身した姿。

 キバアームズは劇中未登場だが、アナザーキバを撃破している。

 

 

 

・1号モジュール

 グランドジオウに召喚された仮面ライダーフォーゼが1号スイッチを使用することで装着したモジュール。

 フォーゼを介してヒリュウに力を与えた。

 

 

 

・仮面ライダーエグゼイド・1号ゲーマーレベル2

〈ライダージャンプ!ライダーキック!ライダ・ライダ・アクション!ゴーッ!!〉

 グランドジオウに召喚された仮面ライダービルドがレッツゴー1号ガシャットを使用して変化した姿。

 ヒリュウに力を与えた。

 

 

 

・仮面ライダービルド・1号フォーム

〈バッタ!バァイク!ベストマッチ!〉〈1号!〉

 グランドジオウに召喚された仮面ライダービルドがバッタボトルとバイクボトルを使用して変化した姿。

 ヒリュウに力を与えた。

 

○アナザーライダー

 

・アナザージオウトリニティ

身長:203.6cm

体重:116.4kg

特色/力:絆の鎖

登場話: 承「アナザーブレイド・サクセッション!?2004」、転「ヘンシン2013」

 アナザージオウIIウォッチ、アナザーゲイツウォッチ、アナザーウォズウォッチを融合させることで生まれたアナザージオウトリニティウォッチを用いてフィーニスが変貌した姿。

 アナザージオウ、ゲイツ、ウォズが使用する武器を使って戦う。また、両腕に変化させたアナザーライダーを解放して使役することも可能。

 劇中未登場の能力だが、他のアナザーライダーを腕にすることもできる。

 もし加古川飛流が変貌していたならば、鎖や武器の行使だけではなく、アナザージオウの未来予知、アナザージオウIIの歴史改変、アナザーゲイツリバイブの高速移動、アナザーウォズの未来ノートを使用することができる。

 

 

 

・ネオアナザー1号

身長:15.0m

体重:18.0t

特色/力: 巨体を利用した格闘攻撃/飛行/ショッカー怪人の復活/エネルギー球/レーザービーム/念力

登場話:結「ファーストコネクト2018」

 ネオアナザーウォッチ(ブランク)に、1号ゴースト眼魂に込められた1号の魂を吸収させることで生まれたネオアナザー1号ウォッチを用いてフィーニスが変貌した姿。

 腹部に備わった、ゲルショッカー首領を模した瞳から霧を発生させ、その霧からショッカー怪人を復活させることができる。

 その他多彩な攻撃が可能。技の1号の力だからだろうか。

 また、ネオアナザーウォッチの特性により、ジオウIIやトリニティ、ゲイツリバイブ、ウォズギンガファイナリーなどが持つ、アナザーウォッチを破壊する能力が通じない。

 これを破るには、オリジナルのライダーの力を得る必要がある。

 

○アイテム

 

・アナザータイマー

 仮面ライダーヒリュウのメインウェポン。アナザーウォッチ十七個が融合し完成(倒されたアナザークウガ、アナザーキバ、アナザーゴーストのものも後に融合)。

 ライドヘイセイバーのように針を動かすことでアナザーライダーの力を発揮する。

 また、ヒリュウがアーマータイムしている時は使用できない。

・アナザーフォース

〈ANOTHER FORCE!〉

 針を回してからスターターを一度押すと発動。アナザーライダーの能力を行使する。

 劇中ではアナザーブレイドの大剣を召喚したり、アナザーオーズの力でネオアナザー1号の体内を見たり、アナザーダブル・ルナジョーカーの力で腕を伸ばしてネオアナザー1号のエネルギー球を撃ち落とすなどしていた。

・アナザーサモン

〈ANOTHER SUMMON!〉

 針を回してからスターターを二度押すと発動。アナザーライダーを召喚する。

 劇中では使用なし。

・アナザータイムブレーク

〈ANOTHER FINISH TIME……!〉〈ANOTHER TIME BREAK!〉

 スターターを一度押してから針を回し、更にスターターを押すと発動。必殺技を放つ。

 劇中ではアナザージオウのアナザーギリギリスラッシュを発動。

 

・ネオアナザーウォッチ

 フィーニスが作り出した新たなアナザーウォッチ。ひび割れたブランクウォッチ(かつてアナザー1号ウォッチだったもの)にアナザーライダーの負の感情と力の残滓を回収することで進化したもの。

 通常のものの紫色の部分が金色に変わっており、ジオウII、ジオウトリニティ、ゲイツリバイブ、ウォズギンガの持つアナザーウォッチを破壊する力を無力化する。しかし、世界のルールには逆らえない。

 

 

 

・1号スイッチ

・レッツゴー1号ガシャット

・バッタボトル

 グランドジオウが召喚したレジェンドライダー達が持っていた1号の力を秘めたアイテム。

 なお、下記のリングを含めてバッタボトル以外は発売されていた。

 

 

 

・1号レジェンドライダーリング

 レジェンドライダー達が力を注いだ昭和ライダーロックシードから生み出されたウィザードリング。

 ウィザードが使うことで1号を召喚することができる。




ちなみにヒリュウのスペックはジオウII以上トリニティ以下、アーマータイムするとウォズギンガ以上グランド・マジェスティ以下を想定しております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スピンオフ短編集
「オーラの進路と食事情2018」


 スピンオフ短編第一弾です。



 

 2018年。その9月下旬のある日の昼休みのことだった。

 

 光ヶ丘高校の進路指導室に先生が一人、生徒が二人。

 

 先生は月読織次。あだ名はスウォルツ。ちなみに自称。

 

 生徒の一人、一年生の男子は宇都宮澄春。あだ名はウール。ちなみに名付けたのはスウォルツ。

 

 もう一人の生徒、三年生の女子は大森愛良。あだ名はオーラ。ちなみに名付けたのはスウォルツ。

 

 先生一人と生徒二人は長机を挟んで向かい合っていた。机には小さめの弁当が二つと少し高そうな黒い茶碗、そして一枚の紙が置かれている。

 

「で、これなんだが」

 

 スウォルツは紙を指し示す。そこには大森愛良と名前が記されている。アンケートのようだ。

 

「オーラ、お前の進路が『救世主のお嫁さん』に変わったのがどういう理由なのか、詳しく聞かせてもらおうか。お前の拒否は認めん」

 

「ゲイツの進路が『救世主』に変わったからだけど?」

 

 予想はしていた答えだが、開き直るようにケロっと言われてどう返せと。スウォルツは内心頭を抱え、心を落ち着かせようと茶碗の中の白米を頬張った。いつも通り美味しかった。

 

 

○○○

 

 

 ことの始まりは今朝だった。ウールが登校するなり、同じく出勤直後のスウォルツにオーラの進路アンケートを突きつけて来たのだ。

 

『スウォルツ先生、これオーラが進路だって……』

 

『まさかこれ奪ってきたのか? 後々大丈夫か?』

 

『オーラの今後に比べれば大したことないですよ』

 

『健気だなお前は……お前のような弟を持ってオーラは幸せだな』

 

『弟じゃないです』

 

 ウールの健気さに負けたスウォルツは、昼休みに時間をつくって三者面談をすることにしたのだった。今回は親の代わりに実質弟みたいな関係のウールだが。

 

 その後ウールはオーラにこちょこちょの刑に処されたとさ。

 

 

○○○

 

 

「……前の進路はどうした? お前なら十分行けるだろう」

 

「いや、ゲイツに合わせてただけだし」

 

「人に合わせて進路を決めるのは……高校受験までだぞ」

 

「何よその間」

 

「気にするな」

 

 チラッとウールを見て『中学生だってしないぞ』と言いかけたのを変えただけである。ウールはソウゴに憧れてこの学校に来たのだから。

 

 ウールやオーラ、ここにはいないがソウゴやゲイツとは長い仲であるから、ウールのそういった事情も知っていた。

 

「あとこのことは親御さんは知ってるのか?」

 

 本来学校で執り行った三者面談はもう二ヶ月も前である。

 

「……まだ言ってないけど」

 

「まずはそれからだな。ちゃんと伝えるんだぞ?」

 

「……はーい」

 

 渋々ながら返事をしたオーラを見て今まで口を挟まなかったウールは小さくガッツポーズ。良かったな、としみじみ思う。

 

「ついでだ、ここでご飯も食べていけ。戻って食べても良いが」

 

「僕は食べていきます」

 

「私も。ここで食べてくるってピナに言っちゃったし」

 

 ピナとはオーラの同級生でありスウォルツの妹、月読有日菜のことである。

 

「案外仲が良いものだな」

 

「恋敵なのに、って?」

 

「俺的には仲良くしてほしいところだが」

 

 スウォルツの言葉にフッ、とオーラは口を緩める。

 

「安心しなさい、ピナと私はズッ友よ。それにピナはゲイツのこと友達としか思ってないし」

 

「……そうか」

 

 それはそれで悲しいなオイ、とスウォルツはゲイツを哀れに思った。一瞬だけ。

 

 そしてまだ温かい白米を一口。美味い。

 

 目の前の弁当にはどんなおかずが詰まっているだろう、と気になったスウォルツは開かれたそれらを眺めた。いつも通りしっかり作られていて美味しそうだ。

 

 しかし何か違和感を感じ、ウールにそれを尋ねることにする。

 

「いつもと何か違くないか?」

 

「いやまあ、何というか──」

 

「ダイエットよ、ダイエット」

 

 言われてみれば、量が少なくなっている気がする。

 

「お前達の歳でダイエットは早すぎるだろう」

 

「デリカシー無いわね……」

 

 まぁスウォルツにそこは期待してないけど、とオーラ。

 

「最近順一郎さんに夕飯をお呼ばれすることが多いんですよ」

 

「確かに有日菜も夕食を済ませて帰ってくることが多くなったな」

 

「勉強会の流れで食べていくことが多いんだけど……その、美味しいのよね、すごく」

 

 わかるぞ、とスウォルツは同意した。あまり頻度は高くないがやはり食べたことがあるからわかる。すごく美味しい。特にスウォルツは彼のつくった天丼が好きだった。

 

 以前冗談で「お食事屋をやられてはどうです?」と言ったら「僕、時計屋だからね?」と真顔で言われたのを思い出した。

 

「それにおかわりも沢山あるから、つい食べすぎちゃうわけ。そして体重計から悪い知らせが……」

 

「だからって僕も巻き込まないでよ……」

 

「こんなに肉をつけておいて?」

 

「わきばらっ!?」

 

 オーラに脇腹を掴まれ、思わず跳び上がるウール。なるほど、制服の上から僅かに分かるぐらいでしかないが、ウールは太ったようだ。

 

「というわけで私達はダイエットしてるわけ。あ、ごちそうさま」

 

「ごっ、ちそうさまでした……あー痛い……」

 

 喋っている間に二人はもう食べ終えたようだ。スウォルツも自分の茶碗を確認するともう無くなっていた。追加するか、と部屋に置いてある炊飯器を開ける。

 

「うわぁ……」

 

「食いたいならやるぞ?」

 

「それはいいけど」

 

「オーラ!?」

 

「よくそんなこと許されてるわねスウォルツ」

 

 それだけの理由はあるんだぞ、とスウォルツはぼやく。

 

「俺は進路指導主任だ。クラスの担任から相談を持ちかけられることも少なくない。特にこの学年相手ではな」

 

「常磐君ね……」

 

 明光院やお前もだぞ、とは言わなかった。

 

「そういうことなら仕方ないか。食べ終わったし私は戻るわ。ウールは?」

 

「僕はまだ残るよ。進路関係で話したいことがあるし」

 

「ふーん。じゃあまた放課後」

 

「うん!」

 

「親と相談するのを忘れるなよ?」

 

 分かってるわよ、と言い残してオーラは足早に去って行った。

 

「……さてウール、お前はこれが欲しいんだろう」

 

 炊飯器の中から覗いている白米を見てウールはゴクリと唾を飲む。白米が輝いて見えた。

 

「さっき体育だったんで今日はほんとヤバくて……ふりかけと交換でいいですか?」

 

「いや、今日はプレーンの気分だ。自分で使うといい」

 

「あざぁっす……!」

 

 ふりかけをかけてガツガツと食べ始めるウールとともにスウォルツもまた先程ついだ白米を食べ始めた。問題児どもの進路をどうすべきか考えながら。

 





 ヒリュウのスピンオフ、としての投稿ですが、むしろ8ジオや後に投稿予定(この作品の投稿当時EP1は完成している)の「ツクヨミ、トゥルース」の方が展開的に繋がっているような気もしますがまぁいいでしょう。
 時系列はゲイツ、マジェスティとヒリュウの間であるため、そういう意味ではスピンオフとしてピッタリなのですが。
 ちなみにこの作品は2020年の8月末に執筆されました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

「昔の懐かしく愛おしい夢2018」

 スピンオフ短編第二弾です。



 

「おはよー飛流」

 

「おはようアタル」

 

 4月28日。土曜日であったが、三年生は校内模試のため登校しなければならない日である。

 

 二人はいつものように並ぶと、今日の模試はどうしようやら、ガチャで金が飛んだやらといつも通り駄弁りながら歩いていた。

 

「そういえば今日、懐かしい夢を見たんだ」

 

 懐かしい夢、と繰り返すアタルに飛流は頷く。

 

「ちょうど9年前に行ったイチゴ狩りだったんだけどさ」

 

「イチゴ狩り!?」

 

「お、おう」

 

「えっ事故とか大丈夫だったの!?」

 

「事故て」

 

 コイツ特撮の話じゃないのに妙に食いつきいいな、と飛流は内心困惑した。それはそれとして食いつきがいいのは嬉しいので話を続ける。

 

「事故とかも起きなかった普通のイチゴ狩りだったよ」

 

「……へぇー」

 

「何でそんな嬉しそうなんだよ」

 

「え、いやまぁ良い休日だったんだなって」

 

「そうだったけど、うん」

 

 なんか釈然としないな、と思いつつも。アタルと話していてたまにそんなことはあるのでこれ以上考えるのはやめておく。

 

「そういえば同じバスに結構な人数の団体が同乗しててな。俺は親と一緒に行ったんだけど」

 

「そんな印象に残るほど多かったんだ」

 

「子供の人数のわりには大人が少なかったからかもしれないな。同年代の子供6人に二十歳ぐらいが1人だったか」

 

「10人もいないじゃん」

 

「それでも何故か印象に残ってるんだよ」

 

「まさか、お前がちょくちょく言ってる空洞と何か関け──」

 

「それは無い」

 

「いや俺にはそれとしか──」

 

「無いから」

 

「アッハイ」

 

 とは言ったものの、ちょっとだけ何かを感じた気はする飛流。認めなかったのは確信が無いからだった。

 

「こんな話してるとイチゴ食べたくなってくるな……帰りにどっか寄って買ってかないか」

 

「無茶を仰ることで」

 

 

○○○

 

 

「おはよーゲイツ、ツクヨミ」

 

「おはよう常磐、月読」

 

「おはよう常磐君。明光院君もおはよう」

 

 4月28日。土曜日であったが、三年生は校内模試のため登校しなければいけない日である。

 

 三人はいつものように並ぶと、今日誕生日なのにどうして模試なのかやら、王様になるから模試受けなくてよくないかやら、でも叔父さんのケーキが待ってるじゃないかやらといつも通り駄弁りながら歩いていた。

 

「ケーキといえばさ、俺昔の夢見たんだよね」

 

 昔の夢、と繰り返す有日菜にソウゴは頷く。

 

「ちょうど9年前の今日に皆で行ったイチゴ狩りの」

 

 ああ、と二人は得心が行く。

 

「順一郎さんは仕事で行けなかったけど皆で行ったわね!」

 

「スウォルツさんやウール、オーラ……あと誰だったか?」

 

「ツトムだよ。今は鬼の弟子やってる」

 

「ああアイツか……」

 

「それにしても、どうしてそんな夢見たんだろ?」

 

「──めちゃくちゃ良い知らせなんじゃないかしら、その夢。皆おはよう」

 

「いや模試の時点でそれは無いでしょ……おはようオーラ」

 

 会話に入ってきたオーラはソウゴの自転車の籠に小さな箱をポトンと落とす。

 

「プレゼント。めちゃくちゃ良いお菓子よ」

 

「ありがとうオーラ。……またイチゴのやつ?」

 

「お察しの通りよ」

 

 ほんの少し苦々しい顔になるソウゴ。イチゴ狩りの時に食べ過ぎてしまったことで腹を壊し、それ以降少しイチゴが苦手になってしまったのだ。後に持ち帰ってきたイチゴで叔父さんが作ってくれたショートケーキを食べられなかったのはツラかった。

 

 それを気の毒に思っているのかはたまた面白がっているのか、その翌年からオーラからの誕生日プレゼントはイチゴのお菓子である。ちなみにとても高い。

 

「お返しは常磐君の高得点でいいわよ」

 

「無茶を仰ることで……」

 

 

○○○

 

 

 王座に腰かけた青年、常磐ソウゴ。彼は目蓋を開けると同時に夢から覚めた。何とも愛おしく幸せな夢だった気がする。

 

 ふわあ、と口に手を当てあくびをするソウゴの歳は19だが、髪だけは色が抜けて雪のように白くなっていた。そもそも外見での年齢は彼にとって無意味なのだが。時の王者であるが故に。

 

 19歳で白髪の常磐ソウゴはいつの間にか置かれていたショートケーキを初めて認識した。側に置かれていたメッセージカードらしきものをざっと読み、問題も無さそうなので食べようとフォークを手に取る。

 

 食事を取る必要は無い。夢の影響か、イチゴを食したいと思ったのだ。

 

 しかし頂点のイチゴを見て片頬がピクリと動くのを感じた。

 

 未だにトラウマは消えないか。

 

 変わらぬ自分に苦笑しつつ、そのイチゴにフォークを突き刺して口へ運ぶ。甘さよりも酸味が勝っている。あまり美味しくはない。

 

 残ったケーキ本体も小さく分けながらゆっくりと食べていく。ケーキ自体は特に可も不可も無い味に思えた。叔父の料理で舌が肥えている自信はあるため、その評価が正しいのか分からないが。

 

 食べ終えて一息ついているその時に、6人の男が現れた。かつての家臣、ウォズと同じ制服を身に纏ったQuartzerだ。その内の一人、Q-KENZOが進み出て王座に跪く。

 

「如何か、我らが王。私達のプレゼントは」

 

「……叔父さんのケーキなら言うことは無かったんだけどね」

 

 それにしても、とソウゴはQuartzer達にギラリと疑問の目を向ける。

 

「何も無いのにプレゼントなんて何のつもり?」

 

「今日は逢魔の日だ。……かつての、だが」

 

 どの逢魔の日?とソウゴはぼやくが、即座にQuartzerにとっての逢魔の日は1日しか無いことを思い出す。

 

「なら尚更叔父さんのケーキが欲しかったな」

 

「無茶を仰ることで」

 





 これはある種試験的な作品でした。三種類書きたいストーリーラインがあり、それを一つの作品としてまとめるにはどうしようかと。その結果生まれたのが「無茶を仰ることで」であり、この作品なのです。
 時系列は劇中で示されている通り2018年4月28日土曜日です。土曜日なので模試があってもおかしくない。
 当然のごとく皆の記憶は戻っていません。とはいえ、不審な言動をするアタルや19歳で白髪の常磐ソウゴはなんなんでしょうね。前者はともかく、後者は拙作「8人のジオウ!」を読めばわかるかもしれません(ダイマ)
 ちなみにこの作品は2020年の10月に執筆されました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

「ゲーム・ウィズ・進路2018」

 スピンオフ短編第三弾です。



 

 金曜日の放課後。ちょっと大きめのゲームセンター、アミューズメント幻夢。そこに二つ並んだドレミファビートの筐体で競い合っている高校生が二人。

 

 今回の勝負は新曲『タイムキングダム』。難易度は"鬼"。

 

 二人は隣を気にすることなく曲に合わせてボタンを押し、レバーを引く。キメワザを発動してフィニッシュ。さて、結果は──

 

〈PERFECT!〉〈GREAT!〉

 

「よしフルコンッ!」

 

「あと少しだったんだけどな……流石だな」

 

 その言葉を聞いて少し嬉しそうにしている高校生は鼓屋ツトム、ツトムを称賛した高校生は遠藤タクヤといった。

 

「次回は"神"だな」

 

「お前も毎度よく幻夢特有のクソ難易度に挑もうとするよな」

 

「まぁフルコンはできないけど楽しいし。それに鬼だからな」

 

「まだ弟子になれることが確約されてるだけだろ」

 

 それに音ゲーと鬼って特に関係無いだろ、とタクヤは言おうと思ったが心の中に留めておいた。反射神経を鍛えるために必要なのかもしれないし。多分。

 

「まぁな。……もう一戦やるか?」

 

 今回は新曲の攻略も兼ねていたが、ツトムは『義心暗鬼』、タクヤは『Climax High』が元々好みだ。それをやるのもいいだろう。

 

「……やるならノックアウトファイターかメダルゲームだな。ビート二連続は集中できる自信が無い」

 

「じゃあメダルやるか」

 

 付き合わせていたのは自分なので素直に引き下がると、ツトムとタクヤは預けておいたメダルを引き出しにカウンターへ向かう。

 

 店員から受験大丈夫なのか、と言わんばかりの視線を貰った以外は特に何も無くメダルゲームを始める。

 

「……なぁ」

 

「ん?」

 

「俺進路どうすればいいかな」

 

「流石にこの時期でそれ言ってるのはヤバいぞ」

 

 この時期にゲーセンに来てる時点でヤバいぞ、とツッコみ返す人間はこの場にいなかった。飛流なら返していた。

 

「やりたいことが特に無いっていうかさ」

 

「特にお前はお姉さんの看病に人生かけてたもんだからな」

 

「そこまで立派じゃない」

 

 そう卑下すんなよ、とツトムはタクヤの肩を片手で軽く叩く。もう片手はメダルをタイミングよく投入している。

 

「でも良かったよ、お姉さんの病気が完治して」

 

「……姉ちゃんについてはお前らにも感謝してる」

 

「どーも。一番その感謝を受けるべきは飛流だけど、とりあえず」

 

 彼に切れないものは無いとまで言われる天才外科医・鏡飛彩。彼の手術によって難病を完治した息子を持つ飯田。

 

 飛流は飯田と近所付き合いがあり、その繋がりで飛彩を紹介してもらったのだ。

 

「鏡先生に診てもらおうって言ったのもあいつだったな」

 

「それは初耳だ」

 

「初めて言うからな。……んで、進路どうすんの」

 

「ここで話題戻すかお前」

 

「そもそもその話題を持ちかけたのはお前」

 

「……だったな。お前はどう思う」

 

 うーん、と唸りながらタイミングよくメダルを投入する手は止めず。

 

「あ」

 

「どうした」

 

 画面に『大当たり』と出てファンファーレが鳴り響く中でツトムは手を叩く。

 

「ダンスはどうなんだ」

 

「……ダンス?」

 

 特にピンと来ていないタクヤに急いでツトムはまくし立てる。

 

「ほら、ドレミファダンシングでも結構良い点数取ってるしさ、去年の文化祭とかのクラス発表のダンスすごいカッコ良かったし」

 

「……そういえば昔、近所のお兄さんに教えてもらったような」

 

「ユキヒロさんだったりして」

 

「あのひ──義兄さん、運動神経悪いから」

 

 つまりそれは無いよというわけである。

 

「なんて酷い言われ様」

 

「その人は結構前に沢芽市に引っ越した記憶がある」

 

「沢芽といえばビートライダーズだな。その人もダンスの方面に行ったのかもな」

 

「…………ダンスかぁ」

 

「お、結構興味あり?」

 

 うーん、と唸るのはタクヤの番だった。

 

「さては金の方面を心配してるな?」

「……ああ」

 

 タクヤの家は親が共働きの一般家庭だ。しかし、姉の通院などもあって無闇に大金は使えないという状況である。

 

「ユキヒロさん家に出して貰えばいいんじゃないか?」

 

「……それはあっちに悪い」

 

「ユキヒロさんはお前の進路を出来る限り支援したいって言ってたぞ」

 

「今日は初耳が多いな……」

 

 やっぱり言ってなかったのか、と二人の未だに修復途中な関係に苦笑するツトム。

 

「まぁ、とりあえずその方面で考えてみたらどう」

 

「……ああ、そ──」

 

 時が止まる。どこからかフィーニスが現れ、二人のポケットからはみ出ているアナザーウォッチを摘み上げた。

 

「……響鬼に電王か」

 

 両方とも鬼だな、と取り留めのないことを考えながら出口へ向かう。

 

「さて、次は聖都大学附属病院だ──」

 

 フィーニスが消え、時が動き出す。

 

「──うしてみる」

 

「じゃあ帰ったらちゃんと調べろよ? 思いついたが吉日とも言うし」

 

「ああ」

 

 頷いて、タクヤはメダルを入れようとして──止めた。

 

「……なぁツトム」

 

「やるか、ドレミファダンシング」

 

 ツトムは笑い、メダルをかき集める。先程よりも二割くらい増えていた。

 

「……ありがとう」

 

 タクヤも少し減ったメダルをかき集めて席を立つ。

 

「うーん、後は飛流だけだな……」

 

「アイツ俺よりも希望薄くないか?」

 

「いかんせん成績が高いからどこにも行けなくも無いのが難しいところだ」

 

「だな」

 

 その後、タクヤはドレミファダンシングでツトムを感嘆させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 飛流が失踪したことを告げられたのは、その帰りだった。

 





 ヒリュウ起の回で言及され、結の回でちょっとだけ出てきた元アナザーライダーな二人の話です。時系列は起の回と同時刻くらいです。
 執筆当時、私も受験生だったのでその悩みがモロに出てますね。
 それにしても年齢不詳のキャラ(遠藤タクヤ)をよく高校生にしたよね私……
 演者さんが舞台斬月に出演していたらしいので鎧武系の小ネタを入れたりしてます。他にも元アナザーライダーの方々の話を盛り込めたので満足です。
 ちなみにこの作品は2020年11月に執筆されました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。