この素晴らしいボーダーに入隊を! (こしあんA)
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C級隊員編
第1話 この厳しい試験に合格を!


ワールドトリガーについて詳しい設定など知らないことが多いので指摘してくれると助かります。


2022.5.6やや修正。



4月も半ば

今年から高校に入って不安やドキドキもあった。しかし、入学式から2週間も経ち、ようやく高校生活にも慣れてきた。

 

 

 

キーンコーンカーンコーン♪

授業終了のチャイムが鳴り昼休みとなるのと同時に廊下からドタドタと慌ただしい音が近づいてくる。

 

ああ、なんかこの後の展開に予想がつくな。

 

「かじゅまさーん!」

 

その音の正体は教室の戸を勢いよく開け、俺の机へと飛びつくやいなや、わんわんと泣き出した。

 

「聞いてよかじゅま!……うう、もう今月のお小遣いがないの!お願い来週には返すから貸して!」

 

こいつはアクア……不本意ながら俺の幼馴染だ。

本名は違うのだが、数年前ひょんなことから新興宗教のアクシズ教にのめり込み込んでしまったのだ。詳しくは割愛するが、そのアクシズ教はタチが悪く関わりたくはない。

 

 

その宗教の御身体は水色の髪をした女神でありアクアはその容姿にそっくりだったのだ。そしていつからか自分の事を女神アクアだと名乗り出すようになった。

本名で呼ぶと怒ってめんどくさいから俺も呼ぶようにしたが、もうアクアという名前に慣れすぎてもはや本名が思い出せないまである。

 

「いやだ。お前これで何度目だ、それにたしか今日バイト代が出るんじゃなかったのか?」

 

菓子代だのゲーム代だの散々浪費の絶えないこいつは、中学を卒業してから、日々バイトの日々を過ごしていた。

 

「……」

 

「おい待て、なんだその顔。またか!?もしかしてまたクビになったのか!今度は何しやがった」

 

「じつは……」

 

どうやら居酒屋のバイト中、領収書と一緒に自分の入ってる新興宗教の入信書をこっそり渡して苦情が入ってクビになったらしい。そのほかにも皿を割ったり、仕事をほっぽりだして客とだべって一緒に飯を食べたりなどしてたこともあり、バイト代の大半が弁償などで消えていったそうだ。

 

「おまえバカか?いやバカだ!今までに何回クビになった!」

 

「……4回」

 

「5回ですぅ!自分の失敗の数すら覚えられないのかこのクソバカ!」

 

3月の頭に中学を卒業してすぐバイトを始めてかれこれ1ヶ月半ほど経っているのだがそのわずかな期間に5回もクビになっているのだ。

呆れるほかない。

 

「うう……お願いよ!もう頼む相手がカズマさんしかいないの!これじゃ昼の食堂代も払えないの、お願いよ!」

 

涙鼻水を垂らしながら必死にカズマにしがみつく。

 

「やめろ鼻水が付くだろバカ!……分かった!分かったから!昼飯代だけ貸してやるよ。本当にこれで最後だからな! それと新しいバイト先探して今度は真面目に働け!」

 

 

「ほんと!?ありがとカズマさん。いつもはパッとしないけど、いつか絶対やる男だって私思ってたの」

 

「……利息トゴな?」

 

「なんでよー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼休みも過ぎ、午後の授業も終わり放課後となる。

筆記用具とノート類をカバンにしまいそそくさと帰る準備をする。

すると昼と同様ドタドタと慌ただしい足音が近づいてくる。

 

「カーズーマーさーん!」

 

いったい今度はなんなんだ

 

 

さっき金貸したばかりの手前、金の無心ではないとは思うのだが。もしそうなら今度は確実に縁を切ってやる。

 

「かずまさん!いいバイト先見つけたわ!」

 

バンッ!と俺の机に叩きつけられたパンフレットに目を向ける。

『ボーダー隊員募集! ボーダーは君たちの活躍を待っている!』

という煽り文句が目に入る。

 

「生徒指導室の前にあったんだけどボーダーって結構お給料いいらしいじゃない!?それにA級になれば安定したお金が毎月入ってくるらしいの!それにボーダーに入ればみんなにチヤホヤされるの!でねでね、私1人だと心細いからカズマさんも一緒になんて……」

 

その後アクアは申請方法などの手順を得意げに説明し出した。

どうやら昼飯後にこれを見つけて午後の授業中もこのパンフレットの隅々まで読んで調べたらしい

こいつ金が絡むと急にやる気が上がるな。それを普段の勉強とバイトにも向けれればな。

 

しかしボーダーか、大規模侵攻でそちら関係は敬遠していたが確かに憧れはある。俺もあんな風にチヤホヤされたくないわけでもない。

それにやっぱ侵略者から街を守るとかは男子なら誰でも一回は妄想するシチュだろう。

 

「ま、まあ他でもないアクアの頼みなら?一緒に入隊してやることもやぶさかではないが?」

 

「ほんと!?なら今すぐ申請書を出しましょ。大丈夫こんな事もあろうかと既にカズマさんの書類も作っておいたわ!あとはハンコを押すだけよ」

 

もちろん授業中にねと言う

よく見ると俺の筆跡を完璧に真似してやがるし住所、郵便番号、電話番号も正式な書き方をされており間違っている部分が見当たらない。

ほんとこう言うとこだけ器用だよな。

 

 

「お前なあ……というかA級目指すとか言ってたけどそいつらはトップクラス

なんだろ?俺たちが簡単になれるのか?」

 

「当たり前じゃない!今までもそうだったし、今回も私とカズマが一緒ならきっと上手くいくわよ!」

 

はにかんでは満面の笑みを浮かべるアクア。その顔が一瞬夕焼けと重なり、不覚ながら少しドキッとした。

いつもこうだったらいいんだがな。

 

「そういえばそうだったな……一緒にA級!目指せチヤホヤ生活だ」

 

「「えいえいおー」」

 

その後帰りに二つの書類をポストに入れ2人は帰路に着いた。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

数日後

俺たちはボーダーの試験を受けた。

 

筆記試験

簡単で大量の計算問題、文章問題を時間内にどれだけできるかと言う内容だった。これは俗に言うspiというやつではないだろうか。

一問一問は簡単だが、早く、多く解くというだけでめんどくさい。

 

なんだろう、軽い気持ちできたのに就活をしてる気分になってきた。さっきまでのやる気が消えたし、もう家に帰ってゲームしたい。

 

筆記試験終了後、アクアの方を見るとげっそりとした顔を浮かべていた。

 

「なあアクア、もう帰らないか?こんなに人いるんだし2人くらい抜けてもバレねえよ」

 

そう、受験者が思ったよりいたのだ。パッと数えて百人はいるのではなかろうか。

よくテレビ番組やCMでもボーダー関連のものを見るが、ここまで人気だとは思わなかった。

受験者の顔も期待に満ち溢れた顔をしており、邪な考えで受験している俺の心が痛くなってくる。

 

「嫌よ!せっかくここまで来たんだもの!もう後には引けないわ!!……それにもう嫌なの!バイト先で怒られて給料を減らされて泣く日々は!」

 

どうやらアクアの意思は固いらしい。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

体力試験

 

「はあ、はあ、地獄だ……地獄のメロディだ……」

 

 

あの地獄のメロディーがまだ鳴り響く中俺は全身から汗を垂らし、地面に這いつくばる。こう言う時は上を向いて息をするのがいいと体育の教師が言っていたが、今は四つん這いになりながら地面に水滴を垂らして喘ぐことしかできない。

最初は何人か辞めたあとに抜けようと思っていたのだが誰も離脱しなかったのだ。

流石に最初に離脱するのは視線が怖いし俺のプライドが許さない。それでも誰も離脱する事なく俺は最初に離脱してしまった。

 

 

「クソっ……70……回いったら……誰か離脱しろよ……」

 

 

 

70回も行けば流石に誰か離脱すると思い、根性だけで走っていたのだが70後半で俺を支えていたものが壊れてしまい、床に這いつくばる。

 

アクアは余裕の表情で体力試験を乗り越え、俺はシャトルランで死んだ。

だが後は面接のみだ。内容はボーダーへの志望理由だけらしい。

アクアが生徒指導室の先生を捕まえて散々練習させられたんだ。言う内容だって完璧に覚えたんだ余裕に決まってる。

 

 

 

しかしカズマは知らない。

先生曰く

『アクアくんはよかったけどカズマくんはねえ? 内容が薄いし表面的な事しか言ってないから受かるか怪しいな。入り方の動作はかなり良くはなったけど』

とのこと。

 

そうアクアはバイトをクビになるたび新しいバイトを始める。その度に面接を行なっているため面接だけは一丁前なのだ。

 

 

 

◆◆◆

 

 

面接試験

 

 

「それでは019番の佐藤和真さん。中にお入りください」

 

 

深く深呼吸をしてから立ち上がる。

あれだけ練習したし先生にも『そこはかとなくいいんじゃないかな』って言われたんだ。自分を信じろ。

 

 

「はい、失礼します」

 

 

ドアの前で大きく声を発しドアを開ける。

中に一歩入り一礼をして席の脇へと歩みを進めた。

 

 

「それではお座りください」

 

「はい、失礼します」

 

 

一礼して着席する。

 

「それではなぜボーダーに入ろうとおもったのかな?」

 

「はい、やはりテレビなどの広告などでボーダーの活躍を知り私も是非この街を守る一員になりたいと思いましたそれで……」

 

 

そうしていくつかの問いに対して回答をしていく。

 

「ふーんなるほどね、ありがとう。では君は大規模侵攻を知らないと言うことかな?たしか君のご自宅はあの時の場所とそう遠くはないと思うんだが?」

 

含みを持った言葉でこちらへと面接官は問いかけてくる

 

「……いえ、幸い私と家族は無事でしたが知人は自分以外の家族を失いました……」

 

「!!……いや、すまない。こちらこそ深入りしすぎた。不快ならやめても構わない」

 

面接官はバツが悪そうに謝る。大規模侵攻はここ数年前の事だ。トラウマを抱え話したくない者もいるだろう。

しかし面接とは話の深掘りしてその人物像などを知るためのものなのだ仕方ないといえば仕方ない。

 

「いえ、話を続けさせていただきます。その知人はその日から性格が変わってしまいました。大人しかった知人がそれ以降人前で、私の前でもおちゃらけた顔ばかりしているんです……すいません何が言いたいのかわからなくなってちゃいましたね」

 

頭をポリポリ掻きながら作り笑いを浮かべる。

その後深く息を吸い

 

「でも知人をそんな風にしたネイバーは許せませんね」

 

『では失礼します』

そう言うとカズマは席を立ち一礼して面接室から出て行った。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

「トリオン量は平凡、体力は平均以下、学力は高い……これは合格には難しいな」

 

そう、ボーダーは一時期大量に入隊者を募集したのだが大半はC級のままなのだ。そのため少し前から合格ラインを厳しくしている。以前のボーダーラインであれば合格なのだが今回の基準では受かるかどうかは五分を切る。

 

佐藤和真の写真の載っているA4用紙には三つの欄があり、その中に△、✖️、○と記入されている。

そう言って面接官は先ほどの少年の顔を思い浮かべる

 

面接で大規模侵攻時の自分の悲惨な体験から云々という言葉は散々聞いてきた。しかし彼のは他人の事。他人を面接のダシにするのは気分がいいとはいえない。

そのため最初のような中身のない志望理由になったのだろう。

 

『でも知人をそんな風にしたネイバーは許せませんね』

 

先ほどの彼がそう言った時の顔を面接官は思い浮かべる。

冷たくも確かに燃える炎を宿したかのようなあの瞳が脳裏に着いては離れない。

 

「あんな顔して……よくもまあそんな言葉で済むものだ」

 

フッっと鼻を鳴らしながら引き出しを漁る。そうして取り出した印鑑を面接官は机に出ていた資料へと押す。

 

 

佐藤和真 合格

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「ぬわわあぁーーー!やっちまった!」

 

面接室を出たカズマは急足で会場を抜けしばらく進むと急に大きな声を上げ建物の壁に顔を擦り付ける

 

「なんであんな柄にもない恥ずいことを!おれのバカ!バカ!バカ! つい勢いであんなことを。しょうがないじゃん大規模侵攻の話されたら言っちゃうよ!そもそも面接なんてものが気に食わないんだ!」

 

だからおれは入試に面接のない今の学校を選んだのに!

そんなふうに項垂れていると……

 

「あ!カズマさん」

 

ヘラヘラとした顔をしたアクアがこちらにやってくる。

 

「聞いて私面接した入ったら『いや〜君はかなりの逸材だ!見るだけでわかるよ。面接の必要もないくらいだ。今日は疲れただろう。面接はナシでいいから帰ってゆっくり休みなさい』って。やっぱわかる人にはわかるのよ。これからはカズマさんも私を敬っても構わないわよ」

 

「……やっぱお前今ここで貸した金全部返せ」

 

「調子乗ってごめんなさい!!!」

 

 

数日後俺たちの下に合格通知が届いたのだった。

 

 

 

 




1話目にしてカズマさんキャラ崩壊してるよ。こんなこと言うキャラじゃないのに……アクアも若干キャラとして弱いけど現代社会で異世界と同じ奇行させるわけにも……
めぐみんもダクネスも出す予定だけどいつ出るのやら。


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第2話 この新入隊員に洗礼を!

一話書いたあと間違えて投稿してしまったので死に物狂いで書きました。
ワクチン打って怠い中書いてたせいか(一話目も)2話目読み返したら訂正したいものが多すぎて完全に違う話になりました。
なので消し忘れた分などがあるかもなので誤字脱字報告お願いいたします
この話のゴールは一応大規模侵攻までで、後日談とかで玉駒第二と絡ませたいなって思ってます。

2022.3.31
読み直したら余りにも誤字脱字が多かったので訂正しました。


ボーダー隊員正式入隊日

 

俺たち合格者はボーダーの本拠地に集まり入隊式を行うことになった。

現在はここの偉い人、本部長とやらが来る時間まで各々が人脈を広めようと交流を図ったり、親しい親しい人で集まったりとしていた。

 

ちなみにC級隊員専用のトリガーを渡されて現在はトリオン体という特別な体に変わっている。

 

身体能力が大幅に上がりどんなに傷を負っても生身は無事で済むらしい。更にB以上になるとベイルアウト機能というやられたら本拠地に戻る機能まで付くらしい。というかそれがなかったら子供を戦わせられないわな。

 

だからなのかC級隊員は外での使用は禁止でこの基地内だけとなっている。

そんな説明を先ほど受けた。

 

「待たせてすまない」

 

声がすると皆整列し直す。

 

「私はボーダー本部長、忍田真史だ。君たちの入隊を歓迎する。

先ほど説明もあっただろうが君たちは本日をもってC級隊員……つまりは訓練生となるが、三門市の、そして人類の未来は君たちにかかっている。

日々研鑽し正隊員を目指してほしい! 君たちと戦える日を待っている」

 

 

そう言って敬礼をして以上だと伝える。

 

 

演説は短いながらもC級隊員の士気を高めるには十分なほどだった。

カズマもこれからの自分の活躍を想像して胸を高鳴らせた。

 

 

「この先は嵐山隊に一任する」

 

 

そういうと忍田本部長はこの場から去っていきよくテレビで見るボーダーの人がやってきた。

 

 

「俺は嵐山隊の嵐山准、改めて入隊おめでとう。早速だが正隊員……B級に上がるための説明をする」

 

 

説明はこうだった。

大体の人は1000ポイントから始まり、4000ポイントまで貯めれば晴れてB級隊員に昇格。

 

自分の手の甲を見ると『1000』と表示されている。

誇らしげに手の甲を掲げる者が何名かいたので見てみると『2500』『2800』『2400』などとと書かれていた。

 

ちなみにアクアが誇らしげに『2500』と表示された手を向けてきたので引っ叩いておいた。

あとであいつからポイントを奪ってやろう。

 

4000点に届くまではひたすら訓練とランク戦(対人戦)をやり続けること。

C級は一つのトリガーしか持てないのでそれ一本で頑張れとのこと。

 

B級は多くセットできるらしいがC級は一つしか使えないのは酷いとは思うがそこまでコストをかけていられないんだろう。となると、とことん自力勝負になってしまう。

 

複数を含めて使うと強い人とかは一生C級のままになるのは少し可哀想とは思うがそう言う人たちのために訓練が備えられてるんだろう。

 

 

 

「まずは訓練からやろうか」

 

そう言って案内されたのは体育館ほどの広さはあろうかと言う真っ白で何もない大きな部屋だった。

 

嵐山が合図をすると口の中に印象的な目玉のある巨大な怪獣が出現する。よくテレビで見る奴だ。

 

「こいつはバムスター、みんなには1番馴染み深い奴だと思う。こいつは装甲は硬いが動きも遅く1番倒しやすい敵だ。5分間測るから時間内に倒してくれ。早ければ早いほど加点されるから高スコアを目指して頑張ってくれ」

 

『そうだな。まずは君から行こうか』と俺に指を差してくる。

 

きたきた。ここでハイスコアを出して『こ、これはすごい』『なんて逸材なんだ!』『さすカズ』になる流れだ。

 

高まる高揚感を抑え一歩前へ出てスコーピオンを右手に出す。

 

「はじめっ!」

 

その合図とともに駆け出す。

トリオン体は生身と比べ物にならないほどの速度でトリオン兵との距離を詰める。

 

「おりゃあ!」

 

そして前脚へとスコーピオンを振り下ろした。

 

カーン

「……はっ?」

 

スコーピオンは怪物の脚を少し削っただけで、弾かれてしまう。何度も叩きつけるように同じ場所を斬りかかるが擦り傷が増えるだけである。

 

バムスターはようやく動き出しのっそりと前脚を上げこちらを踏みつけてくるが、大きく後ろへ飛び避ける。

 

 

 

「いやいやいや、おかしいだろ!こう言う敵はまず脚を崩して倒れた隙に顔殴る系だろ!無理じゃん接近武器じゃあの高さまで届くわけないじゃん。弾トリガー一強だろこんなの!」

 

俺のさすカズ計画が一瞬で頓挫してしまった。

 

「何言ってんのよ、トリオン体ならそれくらい飛べるってさっき説明映像つきで色々紹介されてたじゃないプークスクス カズマさんたら私より頭悪いんじゃないかしら」

 

「おまえ!後で絶対八つ裂きにすっかんな!」

 

たしかに説明時ちょっと寝てたけど

クソ見てやがれ!

 

 

 

一気に駆け出し跳躍してバムスターの背に乗る。

確かにさっきも感じたが生身と比べてトリオン体時の身体能力は桁違いだ。今だって4、5メートルは飛んだぞ。

 

そのまま頭めがけて突き進みスコーピオン突き刺す

 

 

「記録1分30秒」

 

 

その後俺が弱点を叫んだせいで顔を狙う奴が続出することとなる。

 

攻撃手はピョンピョン跳ねて顔面斬りつけたり

射手と銃手、狙撃手は顔面集中攻撃したり

 

結果としては記録上位者は銃手がかなりの割合を占めており、俺の記録は真ん中よりやや下であった。

攻撃手のほとんどは俺と似たような結果に終わった。

 

 

 

途中スコーピオンを体から生やしている奴がいたがそんなこともできるのかと感心した。他にも、スコーピオンを二つ持ってる奴がいたので不正では?

と呟くと

 

『それは一本のスコーピオンを別々に生やして二つに持ってるように見せてるんだよ。ランク戦でも稀にやってる人はいるね。たしか説明の映像にも軽く載ってたと思うよ』

 

嵐山隊の時枝さんが説明してくれた。

 

 

 

 

「よし、全員終わったな。それにしても佐藤くんすごいな。初見で弱点を見つける人はそうそういない。この訓練方式だと先に始めた人の方が情報的に不利になって低い記録になってしまうんだ」

 

『やるね』と嵐山は爽やかな笑顔で称賛を送る。

 

「あ、ああ……ありがとうございます!!」

 

 

カズマの想像していた『俺TUEEE!』なボーダーライフとは違うが、A級の実力者に無償の賞賛を送られ胸がこそばゆくなり声がうわずってしまった。

 

 

 

 

ちなみにアクアは孤月で10秒台を出して嵐山さんにめっちゃ褒められていた。

 

 

 

 

 

その後はモールモッドという戦闘に特化したトリオン兵との戦闘訓練が行われた。自動車ほどの大きさをもつ蠍のような姿、そして多数の脚は鎌のような鋭利さを持っており喰らえばひとたまりもないであろうことが容易に想像できる。

 

 

今回は出番まで時間があるのでそれまでは戦闘を見ていたが、予想通り攻撃を食らった隊員は1、2発でやられている。

おまけに奴は移動速度も攻撃速度も速く攻撃手は複数の脚を使った手数のある攻撃で負けている。一手目を凌ぐことはできても即座にやってくる二手目、三手目でやられるのだ。

そもそも一手目で半分以上がやられたのだが。

 

 

射手や銃手は近寄られる前にやろうとするがすぐに距離を詰められ負けてしまう。

それでも近付かずに撃てるお陰で攻撃手よりは善戦はしていた。

他にも後続の射手、銃手は下がりながら撃つなどしたのだが、ひよっこの技量じゃ弾がブレブレでちっとも当たらず、あっという間に距離を詰められ負けてしまった。

 

そしてとうとう俺の番が来た。

 

 

試合スタートの音とともにわしゃわしゃと脚を動かし接近するモールモッド。

モールモッドが右前脚を振り下ろしにかかる。

バックステップで回避し距離をとる。しかし、完璧には避けきれず足から僅かにトリオンが漏れている。

 

それでもモールモッド全体を視界に入れられる距離感を必ず保ち相手に対応できるようにする。

初見ならまず負けただろう。だが何回もの戦闘を見て行動パターンはある程度分かっている。あとは考えた策が通じるかだ。

 

 

 

すかさずもう一度、前脚が振り下ろされるので同じようにバックステップで距離を取りながら機会を窺う。

 

前脚が振り下ろされその度に後ろへと下がる。しかしそのたびにかすり傷が増えトリオンが漏れ続ける。さらにあと数回後ろに下がれば壁にぶつかってしまう所まで来てしまった。

そうして反撃の機会は訪れず、とうとう背が壁にぶつかってしまう。

 

そして次の瞬間、モールモッドは俺にとどめを刺すべく攻撃を仕掛ける。

横薙ぎの構えだ

 

ここだ!

壁を蹴り勢いよく飛び、モールモッドの鎌の僅か下を潜り抜ける。そしてモールモッドの腹下へと潜り込みスコーピオンを生やした腕でモールモッドの腹を縦に裂き、それがブレーキとなり壁を蹴った勢いが殺され腹下に止まった。

腹の下なら前脚も届くまい!

 

これであとは腹にグサグサ刺していけばいつかは勝てるって寸法よ!

さすがはシュミレーションゲームで搦手だけのカズマさんと呼ばれただけはある。

 

 

 

 

勝ち誇っていたカズマに次の瞬間、モールモッドの脚が腹下へと収納され下にいたカズマはアイアンメイデンのように串刺しにされたのであった。

 

 

その後攻撃手では孤月使いが一撃目を捌き、返す刀で口の中の目を斬り裂いた。そしてスコーピオン使いの1人は完全に防御を捨てた突撃で振り下ろされる鎌と同時にスコーピオンが奴の目玉突き刺さり相討ちの形で撃破した。

 

ちなみに言うまでもないとは思うが遠距離系はそこそこ撃破率が多かった。

ちなみにアクアは「うおりゃあ!」って孤月で牙突みたいに突進して倒してしまった。

 

 

なんだろ……思い描いてたのと全然違う。

こう……あれじゃん初見で数秒で倒したり、みんなが倒せない敵を自分だけが倒して見に来てる上位チームの人に一目置かれるとか。そう言うイベントじゃん。

 

 

俺あれよ?アイアンメイデン食らうやつの気持ちわかっただけだからね?

一生トラウマになるわ。とりあえずしばらくモールモッドは見たくない

 

 

 

 

 

 

 

その後入隊式は終わった直後、嵐山さんにトリガーを変更する方法を尋ねた。

・本部に常駐しているオペレータに頼む

・エンジニア達に頼む

この2つらしい。

 

ボーダーの女性たちはみんなレベルが高いのでオペレーターの所へ行ってぜひお近づきになりたいが、一人で行くにはちょっとハードルが高い。

仕方なく俺はエンジニアのところへ向かった。

 

 

エンジニアルームにたどり着き、扉をノックする。

すると中から『はーい』と言う声が聞こえ扉が開く

 

「どちら様ですか?」

 

眠たげな顔をした男性職員が目を擦りながら呟く

 

「あっ、今日新しく入隊した佐藤和真です。トリガーを変更したいんですがお願いできますか?」

 

「ああ、どうぞ。上がって」

 

 

 

「っで、何にしたいの?」

 

「はい、射撃系のトリガーでお願いします。出来ればキューブを使う方で」

 

「あー、はいはい射手ね。ちなみにどんなトリガーがあるかは分かってる?」

 

「……いえ、全く」

 

「じゃあ説明するぞ。いや、まず射手の特徴からのがいいか。キューブを幾つにも分割して撃ったり、あらかじめ弾を別の場所に置いて発射したりできる。

分割して撃つことで命中率が上がる。いきなりは無理だろうが置弾は別方向からの射撃によって相手を多角的に攻撃できる。あとは練習して感覚を掴むほかないな」

 

 

 

 

「よし、じゃあ次は3つの弾トリガーについて紹介するアステロイド、こいつはこの中で最も威力が高く、シンプルなトリガーだ。

次にハウンド、こいつは追尾性能のついたアステロイドだと思ってくれて構わない。その分アステロイドより威力は劣る。ちなみに追尾性能の強弱も設定できるぞ

そして最後にバイパー、こいつはピーキー過ぎるからあんまりオススメはできないな。発射前に弾道を描きその通りに飛んでいく。もちろん毎回弾道を引くのは手間だから何通りかの弾道を設定して使うのが基本だ」

 

(まあリアルタイムで弾道引く変態もいるけど)

 

「余談だがメテオラというものもある。爆発する弾とでも思ってもらえればいい。でもメテオラをメインで戦う奴なんていな……いや1人しかいないからな」

 

 

なるほど、バイパーは使おうとしたら頭がこんがらがって負ける未来しか見えない。

そうしたらハウンドかアステロイドだな。

ハウンドは不意打ちなら刺さりそうだがハウンドメインで戦うとなると威力不足で負けそうだ。

 

「アステロイドでお願いします」

 

「はい了解」

 

男性職員は電動工具でトリガーを解体し、中のチップを違うチップと取り替える。

 

「ほらできたぞ」

 

「へえ、割と簡単に変えられるんですね」

 

「そうだな、正隊員のなかにはしょっちゅうトリガー構成変える奴もいるから今のうちに覚えておいて損は無いぞ。今日は無理だけど今度来た時教えてやるか?」

 

「それはありがたいんですが、なんで初対面の俺にそこまで親身になってくれるんですか?それに俺まだC級だし」

 

「ああ、C級でトリガーを変更したいなんていう奴滅多にいないから珍しくてついな」

 

「あの、やっぱり訓練生がそういうことをするな!っていう風潮とかあるんですか?」

 

 

「いや、B級に上がるためには何か一つのトリガーで4000ポイントまで稼ぐ必要がある。もし仮に3000ポイントまでやって来たけど行き詰まってしまいました。じゃあ違うトリガーに変えようとはならないんだよ」

 

 

「それは……一体なんでなんですか?」

 

 

「違うトリガーに変えたら初期ポイントの1000ポイントからやり直しになる。それに変えてもそのトリガーがうまく使えるとも限らない。だからみんなやりたがらないのさ」

 

「なるほど。確かにせっかく上がったのに振り出しに戻るなんて事になったらやる気無くしますね」

 

 

俺は戦闘訓練を終えた後、手の甲には『1500』と表示されていた。しかし今は『1000』と表示されている。

 

 

「俺はC級こそいろんなトリガーを試すべきだとは思うがね。入ったばかりの頃に色々と試した方が覚えも速いし、それにある程度自分の型が定まってくると他のトリガーにはなかなか手を出しづらくなるからな……っと話し過ぎた俺は眠いから寝る」

 

 

大きな欠伸をしてフラフラと奥の方へ歩いていく。その先をよく見てみると布団が置いてあり周りにはペットボトルやカップラーメンのゴミが山積みになっていた。

まさかこいつここで寝泊まりしてんのか!?

 

 

 

「じゃ、じゃあ……色々とありがとうございました」

 

 

そう言って一礼してそそくさ退出しようとすると

 

 

「あー、ちょっと待った、大事なこと言い忘れてた。射手は弾速、威力、射程をある程度自由に設定できる。一度仮想戦闘室で練習しとくといい。以上」

 

 

「はい、ありがとうございます」

 

 

そうしてカズマは今度こそ扉を開け、去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

そして仮想訓練室とやらへ向かおうとしているのだが、さっきから同じような場所をグルグルしてる気がする。

 

 

「おっ、C級隊員じゃん。どーしたこんなところで?迷子か?」

 

 

声の方へ顔を向けると黒と赤を基調としたジャケットを見に纏った金髪の男がこちらへと歩いてくる。

 

「はい、実は仮想訓練室で射撃の練習をしようと思ったんですけどね。道に迷ってしまって」

 

「なるほどね、ここの作りめっちゃ似てるもんな。C級隊員はよく迷うからな。で、仮想訓練室だったか。ちょうど俺の目的地の途中だし案内してやるよ」

 

 

 

 

 

 

金髪の男に案内をされ、道中雑談をしながら歩いていく

 

「へえ、攻撃手から射手に。一体どうして?」

 

 

「ネイバーとの戦闘訓練で接近戦が圧倒的に不利って思ったからですね。俺たちがひよっこだからってのもあるんでしょうけど、弾トリガーの方が突破率が高かったんですよ。だから俺も弾トリガーに移行しようかと思いまして」

 

 

「なるほどね。まあなんとも言えないがランク戦をする観点で言えばシールドの無いC級じゃ弾トリガーは有効だ」

 

 

「そのシールドってそんなに強いんですか?」

 

 

「まあ便利だ。ここ最近じゃシールドの技術も上がってきて下手な弾トリガーじゃ簡単に塞がれちまう。だから射手や銃手は味方へのアシストが主な仕事になる。まあ二宮さんみたいにトリオンがあれば射手でも十分点取屋になれるけどな」

 

 

なるほど、俺には縁遠い話だ。まだ先の話だが、B級に上がったら誰かに前衛を務めてもらって俺がその援護をするスタイルなんか良さそうだ。

いや、アステロイドどスコーピオンで撃ちながら戦うスタイルもよさそうだな。

 

 

「っと着いたぜ、じゃあ射手の先輩として一応、応援しといてやるよ」

 

 

じゃあなC級君っと手を振って彼は去っていった。

 

 

 

 

 

そして俺は射撃訓練を始めた

 

手のひらに薄緑色のキューブがフワフワと浮いている。それをまずは8等分に割くイメージをする。

するとキューブに切れ目がつき8個に分かれた。

 

「アステロイド!」

 

四つの弾が20メートル離れた的目掛け飛んでいく。

命中弾は3発。

これはひたすら射撃練習を繰り返すしかない。銃のようにただ的に向けて撃つのとは違い、それぞれのキューブから発射されるためそれぞれの角度に合った射撃をしなくてはいけない。

 

だが分割についてはなんとなく分かった。手のひらで豆腐を切るのを想像するとイメージしやすい。

 

 

次は16分割をして一斉に放つ。

命中弾は10発

なるほど集中砲火で真価を発揮するという意味が少し分かった。

 

おそらく大量にキューブを分割してそれを的目掛けて放ち弾幕の雨を浴びせる。数発程度じゃ簡単に避けられるが弾幕を張れば簡単には避けられない。だから集中砲火なのか。

 

 

次は置弾だ。

 

 

キューブを分割させそれをその場に固定させる。そしてある程度離れる。分割したキューブはそのまま宙に浮いている。

 

「アステロイド!」

 

すると固定された弾が射出される。

なるほどこうやって射線を増やして相手を多角的に攻撃できるわけか。問題はどうバレないように置弾を置くかだが。

 

 

 

次は弾の調整だ。

速い弾をイメージしてキューブを出し分割する。

 

「アステロイド!」

 

発射された弾は先ほどまでと比べ物にならない速度で飛んでいく。しかし的に届く前に消えてしまった。

なら次は遠くまで届く弾をイメージしてキューブを出現させる。

 

「アステロイド!っておっそ!」

 

とてつもなく遅い弾がゆっくりと歩みを進め何十秒かしてようやく的にたどり着いた。しかし先ほどまで撃っていたアステロイドと比べて威力がものすごく低い。

 

もしかしてこれは弾速、威力、射程をどの比率で振り分けるか見たいなものか。

 

 

試しに射程20、威力20、弾速60のイメージでアステロイドを放つ。

すると通常のアステロイドよりかなり早かった。しかし威力は落ちて小さな穴が幾つも的にできていた。

 

 

次はその場から20メートル離れた

・止まった的

・規則的に動く的

・不規則に動く的

の順に当てていく練習をする。目標は命中率70%、に達したら次の的を当てる。

それを分割の練習と並行して行っていく。

 

 

手に現れたキューブを20分割し、的の中心目掛けて一斉射撃を繰り出す。

 

命中弾10発

 

 

 

そうしてひたすら練習に励み、かれこれ5時間は経過し流石に休憩を取ることにした。

成果としては止まった的へはほぼ確実に当てられるようになり、規則的な動きをする的へは命中率70%を超えることができた。分割についてもあらかじめ分割する数を決めていればスムーズに行えた。

 

 

残る課題は不規則に動く的

あと今回はできなかった弾の調整、置弾の練習だ。

 

 

それに今はその場に止まって射撃をしているが実戦では動きながら撃つことの方が多いだろう。

不規則に動く的も終わったら、動きながら当てる練習方法を探さなからばならない。

 

 

「それにしても5時間もぶっ続けで練習してたのに全然疲れを感じないな。これもトリオン体のおかげなんだろうか」

 

アステロイドって叫びながら弾飛ばすのは楽しかったし、FPSのエイム練習みたいだったからそこまで苦でもなかったのもあるんだろうが。

 

 

 

 

 

 

 

というかアステロイド撃ってるときまるでアニメキャラにでもなったような気分だ。

っということはあれもできるのでは!

そう、それは男ならば誰しもが通る道だろう。あの日々の練習はこの日のためにあったんだ。

 

息を整え精神を統一する。

そして手のひらに分割なしのアステロイドを出現させる

 

 

「かーめーはー……」

 

 

すると仮想訓練室の扉が開き

 

 

「こら、いつまでいる気だ。もう21時を回っとるぞ」

 

 

俺は慌てて何もなかったかのように姿勢を正し、口笛を吹く。

 

 

扉を開けた男はこちらへと近づき辺りを一瞥する。

そこには穴の空いた的が大量に置かれていた。

 

 

「練習熱心なのはいいことだが子供はもう寝る時間だ。さっさと帰れ!」

 

 

「は、はい!」

 

 

男の鋭い目で睨まれた俺はそそくさと帰る準備をする。

 

 

「待て、またこんなことをされても困る。名前を言え」

 

 

「さ、佐藤和真です!」

 

 

「そうか佐藤か、覚えたからな!とっとと帰って寝たまえ」

 

 

「はい!」

 

 

俺は一礼して帰路へと着いた。

ちなみに家でも家族におこられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日

俺は朝早くからボーダーに向かい仮想訓練室で練習を始めた。

まずは昨日やったことの反復練習だ。弾を分割し、的へと当てる。止まった的に対しては昨日と同じく、ほぼほぼ命中。

 

規則的に動く的への射撃は昨日よりやや当たるようになった。

 

そしてその反復練習をしばらくやった後は昨日出来なかった不規則に動く的への射撃

それが終わったら弾の調整を素早く行う練習だ。

 

 

 

弾速、威力、射程をイメージしたらそれを放つ。

 

弾速70、威力10、射程20のイメージを浮かべて撃ち出す。

 

「アステロイド!」

 

高速弾が的へと当たり、小さい穴を幾つも作る。

 

 

 

今度は弾速10、威力70、射程20のイメージを浮かべ

 

 

「アステロイド!」

 

低速弾が的目掛けゆっくりと進んでいき、やがて的は原型が無くなるほどボロボロになった。

 

それをひたすら繰り返していくことで弾の調整もスムーズにできるようになった。

 

 

 

「あとは置弾と動きながらの射撃か……ってもう12時前だ」

 

 

 

やればやるほど確実に結果の出る射手の練習は中々に楽しい。それに分割するモーションや射撃のモーションがやたらかっこいいのもあってやめ時が見つからない。

 

 

一旦腹ごしらえのため食堂へと向かう。

昼時という事もありだいぶ人が集まっている。

中へ入るとすぐ脇に献立カレンダーが貼られている。

 

 

A定食

唐揚げ

B定食

サワラの照り焼き

麺類

きぬたたぬきうどん

カレー

コロッケ入りカレー

 

 

俺はカレーに決め食券を買う

 

「おばちゃんカレーひとつ」

 

「はいよ、福神漬けは?」

 

「あ、お願いします」

 

 

カレーを受け取り比較的空いた端っこに座る。

 

「いただきます」

 

「隣いいかい?C級君」

 

 

声の主は仮想訓練室へ案内してくれた金髪の男の人だった。

 

「貴方は……えっと」

 

「そういえば自己紹介してなかったな。俺はA級太刀川隊の出水公平だ」

 

「はっ?…………A級!?」

 

「まあ、まあ、そんな畏まんな。それで、どんな練習したんだ」

 

 

俺は食事をしながら昨日と今日の練習内容を話した。

スムーズに分割できるようにする、弾の調整、的当ての練習について

 

 

「へえ、熱心にやってんな」

 

「はい、射手の練習はやっててとても楽しいのでつい時間を忘れてやってました。まあ、そのせいで昨日4、50くらいの小柄でぽっちゃりしためっちゃ怖い人に怒られたんですけどね。今すぐ帰れー、要警戒リストにいれるぞーっとかなんとか」

 

「ああ、鬼怒田さんか。でもきっと城戸司令に会ったらその言葉訂正したくなると思うぞ」

 

「……そんなに怖いんですか?」

 

 

 

それが鬼怒田さんなりの思いやりと言うのは野暮なので出水は言わないことにした。

C級であそこまで熱心に練習していたカズマに感心し、名前を聞こうとしただけなのであった。

当の本人はゲーム感覚でやっていただけなのだが。

 

 

 

 

「それでですね、実戦のように動きながら的に当てる練習と置弾の練習をしたいんですけど、今考えている横や後ろに移動しながら撃つ練習ではあまり効果が薄いと思っているんですが、あと置弾のいい練習方法も出来れば教えていただけませんか?」

 

 

「俺が実際に教えてやってもいいけど今日はこれから防衛任務があるし……そうだな、先輩射手としてアドバイスをしてやろう。実戦と同じような練習をしたいならランク戦に潜って射手としての経験を積む事だ。実践を積む事でいろいろな課題が見えてくる。

そしたらその課題を解決するために練習をする。あとはそうだな。仮想訓練室でバムスターと戦うのもアリだな。目標は10秒以内だ」

 

 

 

そのほかにも色々とアドバイスをもらい、2人とも食事を終えた。

 

 

「色々とありがとうございました!」

 

「おう、期待してるぜC級君。ところでまだ君の名前聞いてなかったな」

 

「そういえばそうですね。佐藤和真です。今度機会があったらぜひご指導よろしくお願いします」

 

「おう、いつでも太刀川隊の作戦室に来てくれ」

 

「はい!」

 

 

 

その後カズマはにやけた顔を抑える事もせずスキップで仮想訓練室へと戻っていった。

 

 




ちなみに時系列的には本編始動の一年半前くらいです。大体ジャクソンたちと同じ学年ですね。
BBFを見る限り同期は……来馬さんですね。その前くらいに笹森、古寺、奥寺、小荒井、那須さんがいますね。



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第3話 このC級隊員に勝利の栄光を!








いや〜、A級の人に目をつけられるなんて。これだよ、こう言うのを待ってたんだよ。

実力者から一目置かれて特訓して気がつけばいつのまにか強くなってたってやつだろこの流れは!

 

それでトントン拍子に物事が進んでA級になって、ボーダー女子から黄色の歓声が聞こえてくるように……ぐへへ

そうこう妄想しながら仮想訓練室についたのだが

 

 

「どうやってバムスター出すんだ……」

 

以前的を出した際の端末を操作しているのだが全然わからない。

 

 

「おや、お困りかね?C級隊員くん」

 

 

とメガネをかけた黒髪ロングの美人が訓練室へと入ってくる。

 

「えっとあなたは?」

 

「わたし?わたしは宇佐美栞。玉狛ってところでオペレーターをやってるよ」

「これはどうも、佐藤和真です。つい先日入隊しました」

 

俺も自己紹介をしておく

美人だし是非お近づきになりたい!

 

 

「へえ、入隊したばっかなのに仮想訓練室使ってるんだ。変わってるね。まあ私もC級の人が仮想訓練室使ってるの見て珍しい!って興味本位で覗きに来たんだけどね」

 

確かにここ何日か仮想訓練室に通っているが俺と同じ白服のC級はちっとも見たことがない。

 

「みんな個人戦したり訓練でポイント稼いで早くB級に上ろうってなってるからね。なかなかこっちには来ないんだよ」

 

そういえばそうしないとB級上がらないんだった。

 

「あー、そんなこと言ってましたね。俺はアステロイドの練習が楽しすぎて個人戦のポイントのこと忘れかけてました」

 

「あはは、変なの。所で何に困ってたのかな?」

 

「そのことなんですけど、バムスターとの戦闘訓練をしたいんですけど、どうすればいいのかちっともわからなくて」

 

「ああ、なるほどね。さっき用事すませて帰るところだったけど、この後何かする予定もないから手伝ってあげるよ」

 

と言って宇佐美は端末を操作しバムスターを出現させる。

 

「じゃあ、戦闘開始」

 

合図と同時にこれまでの練習同様キューブを素早く30分割させる。

 

「アステロイド!」

 

放たれた弾はバムスターの顔面へと飛んでいき約6割弱ほどの弾が命中する。

下からの射撃のため顎の装甲に阻まれ弱点には届かなかった。

 

ならば次はと、またキューブを分割させ勢いよく地面を蹴りバムスターの顔と同じ高さまで跳躍する。そして、

 

「アステロイド!」

 

射出された弾はバムスターの口内へと飛んでいき、バムスターを撃破する。

命中弾約15発

そのうち弱点の目玉への命中弾は5発

 

「記録は30秒だね。中々いいんじゃないかな。ちなみに入隊試験時はどれくらいだったの?」

 

「あの時はスコーピオンでしたけど1:30でしたね」

 

「トリガーも変えたんだ。訓練時のポイント勿体無いね、いくらくらい貰えたの?」

 

「確か500増えて1500でしたね」

 

「あー結構勿体無いね。入隊時の訓練はポイントをかなり多く貰えるから」

 

「マジ?」

 

「マジ、ランク戦は自分よりポイントの多い人と戦うと多めにもらえるんだけど、それでも100ポイントもらえるか貰えないかだからね。他にも最初の戦闘訓練でも才能がそこそこ分かるから、才能ある人には多めにあげてチャチャっとB級に上がって貰おう!って感じ」

 

「そうなんですね」

 

先ほどの戦闘を振り返る。

分かってはいたことだがやはり動きながらだと狙いがブレる。

 

これまでの射撃練習では一直線上にある的を狙うだけだったが、今回は下から撃つなど、慣れない射撃をした為かなり命中率が下がった。

 

バムスターはいい練習相手だ。なにしろ動きが鈍く、的もデカいため狙いやすく初心者向けである。そして、有効打を与えるには跳んで弱点に当てる必要があるため、動きながらの射撃の練習もできる。

 

 

「追加のバムスターお願いします!」

 

「はーい」

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

そうして何度も何度も実戦形式での練習を繰り返した。

下からの射撃でバムスターの装甲ごと弱点を貫くために火力を集中させたり、『跳んで弱点に当てる』ことを繰り返すことで動きながらの射撃精度もだいぶ向上した。

時計を見るともう3時間は経っていたようだ。

 

 

「お疲れさま。トリオン体だから肉体的疲労はなくても3時間もぶっ続けでやってれば精神的には結構疲れたんじゃない?」

 

 

「いえ、けっこうゲームみたいで夢中になってやれたんで、疲れとかはないですね。それに出水さんに言われた目標の10秒以内撃破も達成できましたし」

 

 

バムスターの撃破時間は訓練を繰り返す度にだんだんと短くなり、9.9秒と言う自己ベストも出たのだ。

 

 

「へえ、出水くんとも面識あるんだ。意外、出水くんがC級に絡む姿想像できないな。それでつぎは?まだバムスターと戦う?モールモッドと戦う?そ・れ・と・も……」

 

服の中に手を入れゴソゴソを何かをしだす。

ゴクッ

 

 

「圧倒的なパワーと装甲!やしゃまるゴールド! 神速の斬撃ととんがったボディ!やしゃまるブラック! 女子ウケがいい!やしゃまるハニーブラウン!

やしゃまるブラックのことが気になっているが生き別れの兄弟だと言うことはまだ知らない!やしゃまるピンク!……のやしゃまるシリーズはどうかね?」

 

「……なんて?」

 

「最近私がプログラムした強化版モールモッドのこと。どう?やってみる?」

 

 

なんだよ服をゴソゴソし出したからそう言う展開だと思っちゃったじゃん。なんとなく仕事のできる美人OL感が出ててかわいいから期待しちまったぜチクショー!

 

「そもそもモールモッドを倒せないんですが」

 

「まあ、そうだよね。B級でもたまにやられる人はいるくらいには強いからね。でも今のカズマくんならモールモッドも倒せると思うよ」

 

「そんなに言うならやってみようかな」

 

「よしきた!」

 

 

宇佐美が端末を操り、モールモッドが出現する。

 

「試合開始」

 

やることは入隊式の弾トリガーたちがやったのと同じだ。

かなりの速さで接近するモールモッドが俺を鎌の間合いに入れる前にアステロイドで奴を倒す!

 

「アステロイド!」

 

分割さられた弾が一斉にモールモッドの弱点目掛け飛んでいく。

が、モールモッドは右に進行方向を変え、弾はモールモッドの装甲に防がれた。

そして、すぐに進行方向をこちらに直し、通りざまに俺を真っ二つに切り裂いた。

 

『戦闘体活動限界』

 

 

 

その後も何度も何度も同じようにアステロイドを防がれては胴体を裂かれ続けた。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

「ちょっと一旦休憩しようか。このままぶっ続けで訓練を続けても負け続けるだけだよ。ちょっと気分をリセットして対抗策を考えようよ」

 

 

「そうですね。たしかにこのまま続けても同じように真っ二つにされるだけですからね」

 

 

「うんうん。素直でよろしい。じゃあカズマくん的には何がいけなかったと思う?」

 

 

そう言われこれまでの戦闘を思い出す。

弾を集中砲火させたのはいいが、その分簡単に避けられてしまっていた。今回はある程度散らした方がいいのかもしれない。

 

ほかには、弾速の速いものならモールモッドにもあそこまで簡単に避けられなかったかもしれない。

 

パッと思いつくのはこれくらいだろうか。

 

 

「うんうん、大体そんな感じだね。アステロイドは射線を集中させるとすごい威力になる。けど、そうすると避けられやすくなるんだ。カズマ君のこれまでの練習内容を聞く限りだと集中砲火させるための練習に近いんだよね。今までのやり方と変わるから慣れないかもだけど次はもっと散らして撃ってみようよ」

 

 

「そうだな。ありがとう宇佐美さん」

 

「宇佐美でいいよ。同い年だしさ」

 

「そうか、じゃあ改めて……ありがとう宇佐美」

 

 

 

 

そうしてしばらくの休憩の後、再びモールモッドとの戦闘訓練を始める。

さっきの休憩中、おおよその勝ち筋は思い浮かべた。あとはうまくいくかどうかだ。

 

宇佐美が端末を操作しふたたびモールモッドが出現する。

 

 

「じゃあ、試合開始」

 

「アステロイド!」

 

後ろは下がりながら、弾速60、威力20、射程20の分割したアステロイドの3分の1の弾を散らして放つ。

モールモッドはそれを避けようとするが、弾速も速く散らしているため急所に幾つかは命中した。が、威力が低いため致命傷には程遠い。

 

だが、モールモッドが避けた先へ保持していた残りのアステロイドを全弾発射する。

擊ち出された弾はモールモッドの弱点に命中するものの、やはり威力が足りず、これも致命傷にはなり得なかった。だがあと2、3回当てれば倒せるだろう。

 

 

モールモッドはこちらへ再度前進を開始する。

 

バックステップで距離を全力で取りながら弾の分割、調整を急ぐ。しかし、モールモッドは素早く、だんだんと距離が詰められていく。あと数秒もすればモールモッドの間合いだ。

 

そして今、弾の調整が終わり用意が整う。

それにやや遅れてモールモッドが鎌の間合いに俺を捉え、攻撃に移行する。

だが、

 

「アステロイド!」

 

その前に、弾速50、威力45、射程5に調整したアステロイドがモールモッドの弱点をその後ろの装甲ごと貫いた。

 

モールモッドはその場で力無く倒れ、動かなくなる。

 

相手の攻撃が届く手前。そこまで接近すれば簡単には避けられない。さらに射程のリソースを威力に回すこともできる。

 

 

「いやった!やっと勝った……ハハハッ」

 

 

俺は両手を上げそのまま脱力して地面に倒れ、嬉しさのあまり笑い出す。

 

 

「いやー、おめでとうカズマ」

 

 

「というか今更思ったんだが、入隊式で戦った奴より強くない?あの時は突進しかしてこなかったのに」

 

 

「……それはね、C級隊員に本物と同じ性能のモールモッドを戦わせたら心折れちゃうでしょ。だからある程度性能を下げてあるんだ」

 

 

「……じゃあなんでいま本物と同じ性能を出したんだ?」

 

 

「いやー、割とバムスター楽に倒せてたしこれならワンチャンいけるかなって、そしたらやしゃまるシリーズもやってもらえると思って……流石に言おうとしたよ!?したけど、その後も熱心にやってたから言うに言えずで……その……」

 

 

えへへっと頬を掻き誤魔化す。

 

 

「…………」

 

「あの〜、無言で近づかないでほしいんですけど……それとなんで手をワキワキさせてるのかな〜」

 

 

俺は何も答えず栞の頬を引っ張った。

 

 

「痛い!痛い!やめて、暴力はんたーい!ほーを引っ張らないで……じょ、女性は大切にしなさいと教わらなかったのかね!」

 

 

最後に思いっきり引っ張り餅のように伸びた頬から手を離すと、伸びた頬が元の形に勢いよく戻される。

 

 

「うるさい!俺は男女平等がモットーだ!たとえ相手が女だろうとドロップキックを喰らわせられる男だ!」

 

「素で最低なこと言うね」

 

「なんだと〜」

 

「わ、今度は何……や、やめ!メガネを外そうとしないで!私のシンボルなの!」

 

 

 

その後カズマは宇佐美の願いで仕方なくやしゃまるシリーズとやらに挑んでみたが、行動パターンが変わりまくってちっとも歯が立たなかった。

 

宇佐美曰く

『正隊員がガチで戦って勝てるか勝てないかくらいの強さにプログラムしたからね!いやー私の才能って恐ろしい〜』

 

とのこと。

流石に我慢の限界だったカズマは今度こそメガネをぶんどりアステロイドで粉々にした。

 

 

 




はい、と言うことで初ワートリ女性キャラとして宇佐美先輩に出てもらいました。宇佐美さん美人OLみたいで好き。ちなみにトリオン体だったので本物のメガネは無事です。


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第4話 このC級隊員に弾バカを!

4/4ワートリ2話同時掲載が嬉しかったので日曜に上げます。




バムスターとモールモッド倒した俺はランク戦に潜るため個人ランク戦室へと向かった。

そこで待合室室へと入る。するとすぐに個人戦の申請が飛んで来た。

スコーピオン『3843』

 

どうやらかなりの手練れらしいが、最強のトリガーは弾だってことわからせてやる。スコーピオンなんて時代遅れなんだ。銃は剣よりも強し、負ける道理がない。

 

 

1戦目

 

『試合開始』

 

そしてカズマは仮想空間へと送られる。相手との距離は約10メートル

 

「待ってちか……」

 

『戦闘体活動限界、ベイルアウト』

 

迷いのない突撃で一気に距離を詰められ、首チョンパされて負けてしまった

 

 

アステロイド『990』 スコーピオン『3853』

 

 

いやいや、あれは動揺した俺が悪かった。こんどはしっかり落ち着いて……

 

 

2戦目

負け

3戦目

負け

 

 

 

分からされました。

 

刃トリガーもしかして強い?アステロイド普通に弾かれて、接近されて負けるんだが!?

流石に全部避けられるわけではないけど致命傷はかなりの確率で弾かれている。もしかすると狙われてる場所が視線でバレているのかもしれない。

 

3戦目は両腕落とせたからこのまま勝てる!と思ったのだがスコーピオンを生やした足で回し蹴りされてベイルアウトした。

 

 

 

まずはアステロイドの利点を整理しよう。

・射手のアステロイドは弾をばら撒いて角度をつけたクロスファイヤーが可能。

・置弾を使った不意打ち射撃ができる。

・弾を分割して放ち、弾幕を張ることができる。

・威力や速度、射程の調整して、威力を高くしたり、弾速を速くしたりして避けづらくできる。

 

これらの特性を利用してどう勝つか考える。ゲームでいつも考えていることとそう変わらない。

 

 

戦術を組み立ててどう戦うか考えた後、水を一口飲み再度申請を送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、対戦相手

 

ピコーン

 

「おっ、また申請来た。相手かなりムキになってんな。やっぱ相手にするなら初心者だよな。ポイントは美味くないが楽して稼げるんだからな。せいぜい俺のB級昇格の養分になってくれ」

 

ランク戦はポイントの多い者がポイントの少ないものに勝っても得られるポイントは少ない。しかし3000ポイントを超え出すとある程度動きが洗練され、勝ちづらくなる。

この男は最近入隊したばかりの相手や、2000ポイント前後の相手とばかり戦ってチマチマとポイントを集めていたのだ。

 

スコーピオン『3868』 アステロイド『975』

 

 

 

 

 

4戦目、戦闘開始

 

「アステロイド!」

 

戦闘開始と同時に相手は地面を蹴るように走り距離を詰める。

そして俺は射速10、射程10、威力80のアステロイドを自分と相手の間に展開する。 

 

「なっ!?」

 

 

相手もすぐさま足を止め、ブレーキをかけるも左膝が低速弾に触れ、その膝にクレーターができた。

 

 

「アステロイド!」

 

 

これには相手も思わず動きを止めてしまう。

その瞬間、射速80、射程10、威力10のアステロイドを相手に撃ち込む。

ポカーンとしている相手の胸をアステロイドが貫いた。

 

「くそっ!」

 

『トリオン供給器官破損、ベイルアウト』

 

 

スコーピオン『3688』 アステロイド『1175』

 

 

「よっしゃあああ!やっと勝った!見たか俺の実力を!」

 

 

 

今度は向こうから再戦の申し込みが送られてきた。

突っぱねてもいいけど、ここは取られた分取り返しておきますか!

 

その後も戦いを続け

 

5戦目

勝ち

6戦目

勝ち

7戦目

負け

8戦目

勝ち

 

 

 

 

 

5戦目は先ほどと同様に低速弾と高速弾の組み合わせで勝つことができた。

 

 

 

6戦目も同様に低速弾と高速弾のコンボをしたのだが相手は一旦距離を取り、建物などの遮蔽物を利用した奇襲を繰り広げてきた。

 

俺は家の屋根上に登り、射線の通る開けた場所を目指した。相手もそれを理解し、その前に倒そうと攻撃を仕掛ける。俺はアステロイドの弾幕で応戦した。

弾をバラけさせたせいで急所以外は致命傷とならず相手は急所に当たる攻撃のみを弾いて距離を詰めてくる。

 

そして彼我の距離が5メートルまで縮まり相手は勝利を確信したが次の瞬間側面から飛んで来たアステロイドが体を貫いた。

 

そう、6戦目は低高速弾コンボが通じなかっため見た目だけは派手な弾幕を張り、置弾の存在を相手の意識外に向けて勝利を掴んだ。

 

 

 

7戦目は試合開始と同時に相手がスコーピオンを投げナイフのように投げ、予想外の攻撃に反応できず負けてしまった。ベイルアウトする前、相手が「えっ?」って顔していた。

おそらく、やけくそで投げたら当たってしっまったのだろう。

 

 

 

8戦目は即座に低速弾の壁を張る。それを相手は地面を蹴り、飛び越え、弧を描きながらこちらへと脚にスコーピオンを生やし襲い掛かる。

しかし今度は頭上に低速弾の弾幕を張り、そこに相手が勝手に落ちて行き、肉片となってベイルアウトした。

 

 

 

 

 

 

そして9戦目

 

即座に低速弾の壁を張りながら後方へ下がる。

相手は横の家屋の屋根に飛び乗り屋根伝いにこちらを水平に追いかけてくる。

 

「アステロイド」

 

一応の応戦はするが撃つたびに屋根を遮蔽物にしてこちらを追いかける。

下からの射撃は不利と悟り、俺も道路を挟んで反対側の家屋の屋根に飛び乗る。

 

これで相手は距離を詰めるには遮蔽物のない所を通るしかない。裏どりをしようにもレーダーである程度の場所は分かる。

 

「アステロイド!」

 

分割なしのアステロイドを相手の隠れている屋根ごと撃つ。屋根には大きな穴が開くものの、相手には当たらなかったようだ。

 

「アステロイド!」

 

今度は分割したアステロイドをレーダー頼りにバラけて飛ばす。致命傷にはならなくてもダメージが蓄積していけばいずれ俺の勝利だ。

 

「アステロイド」

「アステロイド!」

「アステロイド!!」

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

まずい。このままだとトリオン漏れで負ける。

対戦相手の男は、致命傷はないものの腕や足からは少しずつトリオンが漏れていっている。

だがこのまま奴がアステロイドを撃ち続ければ奴のトリオン切れでの勝利もあり得る。

 

 

男はこれまでの戦いで確信していた。カズマのトリオン量は大したことがないことを。

いくら分割した弾とはいえスコーピオンであそこまで防げるはずがないのだ。

そう思い、この試合の前、休憩をとらせてほしいと言いボーダーの隊員情報を調べた。

 

このまま新人にやられっぱなしなのも気に食わない。絶対に負かしてやる!

男は先ほどカズマに『相当ムキになっている』と言ったが、どうやらムキになっているのは男の方らしい。

 

 

『思った通りだ』

 

 

佐藤和真

トリオン量3

 

 

このまま奴がトリオン切れまで撃ちきったら、スコーピオンで反撃。それで終わりだ。

戦闘が膠着した現在、カズマのトリオンが切れるか、男のトリオン漏洩過多でベイルアウトするか。それで勝負が決まる。

 

 

「アステロイド!」

 

 

しかしその言葉とは裏腹に何も起きない。

 

 

「マジかっ!?」

 

 

今だ!

男は飛び出し、カズマの方へと一直線に進む。

 

 

「アステロイド!アステロイド!!……アステロイド!!!」

 

 

ひたすらの手のひらを前に押し出し、そう唱える。しかし何も起こらない。

 

 

「無駄だ、トリオン切れだよ!」

 

 

アスファルトを蹴り、塀を蹴り、カズマのいる屋根上へと向かう。

カズマまで距離にしてあと約3メートル

スコーピオンを手に取り斬りかかろうとする。

 

その時男が目にしたのは、勝利を確信してゲスな笑みを浮かべるカズマの顔だった。

 

「!?」

 

なぜそんな顔を!?

理由は次の瞬間わかった。

男の真下から無数のアステロイドが射出され男の体を貫いたのだ。

 

 

「置弾!?……っく!」

 

 

ここにきて置弾だと⁉︎

 

自分のトリオンの少なさを逆手に取って、相手にトリオンが切れたと思わせ、おそらくあらかじめ伏せていたであろう置弾でトドメを刺すつもりだったのか。

俺がお前のデータを調べる事すらも計算に入れていたとでも言うのか!

 

 

『トリオン漏洩甚大、ベイルアウト』

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

8戦目が終わった後休憩させてほしいと相手が言ったが、恐らく俺のデータでも漁りに行ったんだろう。

俺のトリオン量は3、宇佐美から聞いたがこの値は戦闘員としてギリギリ入隊できるか出来ないかのラインらしい。

ちなみにアクアは10あったらしいが。

 

それで、トリオン量が少なければ威力も低く弾も多くは撃てない。なのでそれを逆手にとってトリオン切れしたふりをして置弾を仕掛けさせてもらった。

まあ、本当にトリオン切れててあらかじめセットした置弾外してたら負けてたんだけどね。

 

 

 

 

 

結果としては

アステロイド『1775』 スコーピオン『3088』

と約700ポイント強も稼ぐことができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

個人ランク戦観戦室

 

 

「あれ二宮さんじゃん。珍しいっすね他人の個人ランク戦見にくるなんて」

 

「見にきたんじゃない。たまたま通りかかっただけだ」

 

「へぇ、で誰の試合みてるんですか?」

 

「……あれだ」

 

 

と二宮の指差す方にはC級隊員同士の戦いが映し出されていた。片方はこの前道に迷っていたC級隊員だ。

 

 

「おっ、カズマくんじゃん。二宮さんの目から見てなんか光るものでもあったんですか」

 

「……いや、何もない。たいしたトリオンもなし、C級にしてはマシな方だろうが撃ち方もお粗末だ」

 

 

とアステロイドのC級隊員は低速弾と高速弾の合わせ技を放つ。

確かに低速弾の壁はあんなに広げる必要はない。それに高速弾も胴体じゃなく、足を狙えば相手の機動力を奪える。これは攻撃手にとっては致命的だ。

 

 

「まあ否定はしませんけど、頭は柔らかいみたいですよ」

 

「ふん、ただのバカの一つ覚えだ。さっきから2回連続で使っている相手も馬鹿じゃない……ほら見ろ」

 

 

画面に顔を向けると、相手のC級隊員も低速弾の壁に突撃はせず離れて仕切り始めた。

そしてカズマの攻撃を急所以外はほとんど避けようともせず距離をガンガンと詰める。

 

 

「あちゃー、弾散らしすぎだ。これじゃ斬ってくださいと言っているようなもんだ」

 

 

置弾の可能性も考えられるがC級だ。そこそこ練習しているらしいが、知識も練習量も絶対的になりない。

 

 

「あの弾幕は確かに圧巻だろう。だがあそこまで散らしてはたいして怖くもない。特にトリオンの無い奴のはな」

 

 

このままやられて終わりか、そう思った矢先スコーピオン使いの男の体をアステロイドが真横から貫いた。

 

(置弾……だと!?)

 

「……!?なるほど、さっきのアステロイドの弾幕はこのためか。このC級隊員けっこう面白いんじゃないっすか?」

 

 

二宮は鼻を鳴らして観戦室から遠ざかっていく。

 

 

「あれ?二宮さん最後まで見ていかないんすか?こいつの戦い見てて楽しいっすよ」

 

「言っただろう。たまたま通りかかっただけだ。それにトリオンの少ない射手に先はない。せいぜいB級下位が限界だ」

 

 

(へえB級には上がれるとは思っているんだ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回の試合で弾トリガーの戦い方では以下の点が重要と気づいた。

・一定の距離を保つ

・射撃で相手の行動を制限する

・いかに相手の意識外から攻撃するか

他にも練習不足が目立つ。あれだけ練習したが、実戦ではかなり外した。

地形を利用して立体的に動かれると中々当たらない。

また、飛んだりされて視界外に行かれると対応が遅れる。これは実戦経験を積むしか無い。

 

 

 

流石に実戦は神経が擦り減る。一旦待機室から出て、自動販売機の前で何を飲むか選んでいると

 

 

「おーいカズマくん」

 

「あ、出水さん」

 

「さっきの試合見てたぞ。見てて楽しかったし、結構やるじゃん」

 

「ありがどうございます。そういえばこの前バムスター10秒以内に倒せたんですよ。あとモールモッドも倒せるようになりました、1回だけですけど……」

 

「モールモッドもか!すごいな。あと弾の調整と置弾はいつ知ったんだよ?」

 

「あれはエンジニアの人に教えてもらって、そのあとはひたすら弾の調整をして的は当てる練習を止まったスムーズにできるまでやりつづけましたね。置弾はあれが初めてだったんですけど運よく決まったかんじですね」

 

 

面白いなこいつと思いながら出水は感心する。前々から少し興味は湧いていた。だが今はその好奇心が抑えられないほど膨張している。

 

 

「なあカズマくんこの後暇か?本当はB級になってから弾トリガーについて教えようと思ったんだが、とりあえず今回はアステロイドだけ教えてやるよ」

 

 

「本当ですか!?ぜひお願いします!」

 

そしてカズマはA級太刀川隊作戦室へと向かった。

 

(これがA級の作戦室か、ヤバいなんか変な汗出てきた)

 

 

「ん?ああ、おかえりなさい出水先輩……って、そっちのC級隊員はどうしたんですか?」

 

中に入るとモサモサ爽やかイケメンがお茶を飲んでくつろいでいた。

 

「ああ、こいつの戦いがけっこう面白くてさ、興味が湧いたから連れてきた」

 

「そんな興味本位で猫連れてきたみたいに言わないでくださいよ……そんなに彼強いんですか?」

 

 

「いや、全然。ただ結構頭は回るみたいでな、ただまだ技術面がお粗末なんだよ。これがマトモになったらどうなるのかって思ってな。国近先輩はいないし……京介、仮想戦闘の準備頼む」

 

「はあ、分かりました」

 

「それとコイツの戦闘映像用意したから見てみろ。前半はボロボロだけど後半は見ものだぞ」

 

と出水はCDを渡す

 

 

 

それから約1時間

置弾の使い方など教えてもらい、残りの時間ではアステロイド対アステロイドでの模擬戦を行った。

 

結果は200対0での完全敗北であった。この戦いで分かったことは実力差に差が有りすぎると課題すら見えてこないと言うことだ。

 

 

『ちょっと、出水。C級隊員いじめてどうするんですか。出水先輩がC級隊員を連れ込んで口に出すのも憚れるようなことしたって言いふらしますよ』

 

「確実に誤解されるような言い方はやめろ!」

 

 

 

 

「すいません。もう一試合だけいいですか。今度は市街地で」

 

「おっ、どうした?何か面白いことでも思い浮かんだのか?」

 

「秘密です」

 

「……おもしれえ、聞いてたか京介!市街地に変更だ」

 

すると真っ白な立方体の空間が市街地に成り代わった。

 

 

 

両者が睨み合う中戦闘開始の合図が鳴る。

その瞬間カズマは逃げ出した。

 

「……はっ?」

 

一瞬気を取られたが即座にアステロイドを撃ち込む。しかし一歩早くカズマは路地裏に入り込んだ。

出水はそこへ保持していた残りアステロイドをカズマの予想位置へと撃ち込んだ。出水の撃ち出した弾は家や塀を破壊しながらカズマが逃げ込んだ路地裏飛んでいく。しかしカズマには当たらなかった。

 

「アステロイド!」

 

カズマは路地裏に回ってすぐ跳躍し、家の壁を蹴って屋根へと登る。そして弾速80、射程10、威力10のアステロイドを散らして放つ。

出水は後ろへ跳んで回避すると同時にアステロイドをカズマのいる方へと放つ。そして、出水の足に何発か命中し小さな穴が空いた。

 

一方カズマは撃ったあとすぐに屋根から降りていたため、致命傷は避けたが右腕の手首から先が吹き飛びトリオンが漏れ出す。

 

 

そして出水の放ったアステロイドで舞った土煙の中からアステロイドが飛んでくる。

これは流石に予想外だったか出水の反応が遅れモロに受けてしまう。しかし、先ほど同様威力を犠牲にした高速弾のため小さい穴からトリオンが漏れるだけであった。

 

(やられたな。俺がさっきやった時間差射撃をやられるなんてな。いやそれだけじゃない)

 

カズマは最初のアステロイドを放った際、出水が後ろへ避けるよう手前側から奥の方へと射撃し、更に手前の弾幕を厚くすることで出水を誘導したのだ。

 

 

カズマはその隙に全速力で回り込み、曲がり角からキューブだけを出し、射出した後即逃げだす。

 

 

「アステロイド!」

 

 

出水の放った弾がカズマの進行方向に飛び出す。慌てて急ブレーキして屋根へ登ろうとするが、その前にカズマの胴体にアステロイドが命中し、下半身とサヨナラする。

 

 

「悪いな、流石に2度も同じ手は喰らわない」

 

『トリオン供給器官破壊』

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

烏丸京介は2人が練習をしている間、出水の持ってきた戦闘データを見ていた。

最初の方は確かに相手のスコーピオンがそこそこやると言うこともあり、一方的であった。

 

あれだけを見ればC級らしいといえる実力だ。しかし問題は後半だ。

 

低速弾で相手の行動を封じその隙に回避できないよう高速弾でトドメを刺す。

そのコンボの対策をされたら今度は、派手な弾幕を張って意識をそれに集中させ意識外からの置弾攻撃。 

 

低速弾の壁を飛び越えたと思ったら頭上に低速弾を張られて敵がミンチになったのには鳥丸も流石に笑った。

 

そして最も驚くのは最後の戦いだ。

しばらくすると戦闘が膠着しだした。こうなると戦闘経験の豊富さがものを言う。流石にこれは鳥丸も相手のスコーピオン使いが勝つと思った。

 

カズマがアステロイドをばら撒き、相手はそれを遮蔽物でなんとか凌ぐ。スコーピオン使いは致命傷はないがトリオンの漏洩が甚大だ。

そしてカズマはアステロイドの使いすぎだ。彼のデータを見た鳥丸はトリオン切れが近いと予想する。

そして予想したことはすぐに起きた。相手もこれを狙っていたのだろう。スコーピオン使いはカズマへとスコーピオンを向ける。が、

真下からのアステロイドがスコーピオン使いを貫いた。

 

 

「なっ!?置弾!!!」

 

 

鳥丸は目を見開く。たしかにスコーピオン使いが勝つと思いそこまでしっかりとは見ていなかったがいつ置弾を仕掛けたのかが分からない。

 

鳥丸は再び見直す。そして気づいた。カズマが先ほどからその家の屋根から動いていないことに。

また相手が外側に避けないよう外側の弾幕を厚くして内へ内へと追い込む。

そして先の置弾と自分、相手が一直線上になるよう誘導していた。

 

(この地点で置弾をセットしていたのか)

 

対戦相手も、そして観戦している鳥丸もこれはどちらかが倒れるかの消耗戦だという意識があった。

カズマはその意識外からの攻撃で相手を倒したのだ。

 

おそらく無意識的にだろうが射手としての基本がある程度できており、技術や作戦もまだまだ荒削りだが光るものを感じる。

 

 

「確かに、興味深い」

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「いやー、負けた負けた。最後は結構いいと思ったんだけどな」

 

とカズマは地面に大の字に倒れ込む。

 

「流石に入ったばっかのやつに負けるわけにもいかねえよ。だが最初のあれにまんまと誘導されちまったな。搦手だけはすげーよ」

 

「えへへ、いつか出水さんも倒すかも知れませんよ?」

 

「何を!C級のくせして偉そうに!」

 

頭をぐりぐりとしてくるが笑いが止まらない。出水さんも楽しそうに笑っている。

 

「2人ともお疲れ様でした……えっと」

 

「あ、佐藤カズマです。高1です」

 

「なんだ俺と同い年じゃんか、じゃあもうさん付けやめろよ。俺はカズマって呼ぶからさ」

 

「じゃあ俺はカズマ先輩って呼びますよ」

 

「いや、A級の人に先輩って言われるのはちょっと……」

 

「A級もC級も関係ありません。歳上は敬うのが当たり前ですから」

 

 

なんだこの爽やかイケメン。戦争の次にイケメンが嫌いって豪語してるこの俺がコイツだけは憎めない。

 

 

「それとカズマ先輩、もしB級にあがったらここに来てください。基本的なトリガーについていろいろ教えますよ」

 

「こいつはオールラウンダーって言う多彩なトリガー使う役職だからな。結構知ってるぜ」

 

「おう、ありがとう。その時は後輩だろうが遠慮なく甘えさせてもらうとするよ。あともしかしたら刃トリガー使うかもしれないからそん時も頼んでいいか?」

 

 

今は弾トリガーにハマっているが、やはり刃トリガーを使いたい気持ちも多少は残っている。B級に上がれば他のトリガーも付けられるなら是非使いたい。

 

そしたらアステロイド片手にスコーピオンで戦う近・中距離メインの戦いになりそうだ。

そう考えただけでワクワクしてくる。

 

 

「はい、喜んで」

 

「何から何までありがとな、えっと……京介だったよな。

 

「はい、今更ですが烏丸京介です。今後ともよろしくお願いします」

 

「出水さ……出水もありがとう」

 

 

じゃあ、と手を振って太刀川隊の部屋を出て行った。

 

 

 

 

 

 




おかしいですね。出水先輩はもっと先に師匠として出る予定だったのにもう出てる。なんなら鳥丸は出す予定すら決まってなかった。なんで君もう後方彼氏面してんの!?
鳥丸なら歳上にこんくらいで話すかなって思い書いたんだけどカズマへの好感度めっちゃ高そう。だからって冷たくしても鳥丸はそんな風に言わないってなる。
あとモブスコーピオン使いはもっと強い予定だったんですがモールモッドに勝ったカズマに勝つこいつ何者!?ってなって弱体化させました。そしたらサイコロステーキ先輩になった。


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第5話 このC級隊員にも狙撃手を!

今月のワートリ凄かった。てるてるがえっちすぎました。
アンケ見た限り割とカズマさんとボーダー女子のカップリング許されるんすね。カズマがモテるのはこのすば民として納得いかねえ!ってなるのかと。
あとBL好きもいるようですね。頑張ります


翌日

学校が終わると俺はボーダーへと向かった。

ちなみにアクアは、俺が散々やれと言った今日提出の宿題をやってきておらず居残りとなっている。その宿題を出した教師はうちの学校で1番怖いと評判だ。

帰り際、その鬼教師とマンツーマンで、涙鼻水を垂らしながら宿題をするアクアの姿を見た。

 

 

 

 

俺はランク戦室へと向かい待合室へと入る。

まずは3000ポイント以下の相手を探し、片っ端から申請を送る。

 

 

1回戦目

アステロイド『1775』

孤月『1840』

 

 

市街地に2人の隊員が転送され、試合開始の合図が鳴り響く

 

 

「アステロイド!」

 

孤月使いの相手が走り出すより早くアステロイドの高速弾を脚めがけて放つ。

相手は避けることもできずモロに喰らい右足は千切れ、バランスを失った相手はその場に倒れ伏した。

 

「アステロイド!」

 

そして8分割したアステロイドが、身動きの取れなくなった孤月使いの胴体を撃ち抜く。

 

『戦闘体活動限界、ベイルアウト』

 

 

 

 

 

 

 

2回戦目

 

「アステロイド!」

 

『戦闘体活動限界、ベイルアウト』

 

 

3回戦目

 

「アステロイド」

 

『戦闘体活動限界、ベイルアウト』

 

 

4回戦目

 

「アステロイド〜」

 

『戦闘体活動限界、ベイルアウト』

 

 

5回戦目

 

「アステ〜ろいど〜」

 

『戦闘体活動限界、ベイルアウト』

 

 

 

その後も攻撃手を相手に開幕即座に高速弾を撃ちトドメの通常アステロイドをぶちかまし勝利する。

その作業を永遠と繰り返し手の甲には

『2345』

と表示されている。

 

次は自分と同じ射手達へ申請を送る。

 

 

 

 

1戦目

 

アステロイド『2345』

 

ハウンド『2409』

 

 

互いに市街地へ転送される。互いの距離は20メートルほど離れている。どうやら弾トリガー同士ではすこし遠くなるようだ。

 

『アステロイド!』

 

『ハウンド!』

 

相手はその場でハウンドを撃つ。

カズマは即座に下がり弾速60、射程10、威力30の弱高速弾を放ち、相手はそれに反応できずモロに喰らってしまう。

 

それを見たカズマはすかさず相手へ向かい距離を詰める。

ハウンドはキューブから放射状に散り、やがてカズマへ目掛け収束してやってくる。

 

カズマは地面を蹴り、跳び出し、ハウンドを躱す。

その後もカズマへ向けて軌道を変えるも、家屋にぶつかりこちらを追いかけてくることは無くなった。

 

「アステロイド!」

 

そしてカズマは飛んだ勢いのまま相手へ接近し、分割なしのアステロイドを放つ。初弾で姿勢を崩した相手は、何も出来ないまま胴が吹き飛び上半身が宙に浮く。

 

『戦闘体活動限界、ベイルアウト』

 

 

アステロイド『2345→2435』

 

ハウンド『2409→2319』

 

 

 

 

 

 

2回目

 

対アステロイド

 

 

「アステロイド!」

 

『ベイルアウト』

 

 

 

3回目

 

対バイパー

 

「アステロイド!」

 

『ベイルアウト』

 

 

 

その後もアステロイドと叫んでは相手がベイルアウトする光景が繰り返された。

そして現在のポイントは『2875』まで上がった。

 

 

 

 

「いや〜、辛いわ。強すぎるって辛いわ。昨日戦ったスコーピオン使いと比べたら話にもなんないわ」

 

さすがにあともう少しでB級になる人と比べられるのは酷と言うものだろう。

『アクア追い抜くのも時間の問題だな!』と高笑いを上げていると申請が飛んできた』

 

 

イーグレット『3772』

 

3000帯か、この前のスコーピオン使いよりやや弱いと言った所か。2000帯前半とは勝負にならなかったし丁度いい。自分がどこまで強くなったかこの相手で試すとしよう。

俺はその申請を受け入れた。

 

 

 

 

 

 

2人のC級隊員が市街地へ転送され、試合開始の合図が鳴る。

 

まずは牽制の為の低速弾を展開しようとする。しかし、相手の姿はどこにも見えなかった。

 

「あれ……おーい!お相手さんいる?」

 

おーいと大声を出しても何も返って来る事はなく静寂が辺りを包んでいる。

 

 

「おっかしいな。俺だけ転送されたのか?しっかりしろよな運営。詫び石として500ポイントくらい配布しろよ……」

 

『戦闘体活動限界、ベイルアウト』

 

「ほへ?」

 

 

訳もわからず待機部屋のベッドの上へと戻される。納得のいかない俺はさっきの対戦相手とのチャットを繋げる。

 

すると画面に眼鏡をかけた少年が映る

 

 

「はい、いかがしました?」

 

「いや、いかがしました?じゃなくて!さっきの何?試合開始したと思ったら誰も居なくておかしいなって思ったら死んだんだけど!?」

 

「あー、えーと……もしかしてついこの間入った人なのかな?」

 

はい、っと相槌を返す。

 

「僕の名前は古寺章平です」

 

「あっ、どうもカズマです」

 

「それで話の続きなんだけど僕のトリガーはイーグレット。狙撃手なんだけど、狙撃手と戦う時は転送位置がかなり離れる。じゃないと狙撃手はただのカモだからね」

 

「へえ」

 

「あと互いにレーダーに映る事はなくて互いに自力で探し出すんだ」

 

「……あの、それだと逆に狙撃手有利すぎるのでは?」

 

「そうなんだ。何も知らない人はそのまま申請を受けて訳もわからずやられることが多いね。だから個人戦受けてくれる人は滅多に居ないかな。だから狙撃手は訓練を続けてB級にあがるか狙撃手同士の個人戦でポイント稼ぐしかないかな……って切れちゃってる」

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

とんでもないことを聞いた

『何も知らない人は申請を受けて訳もわからずやられることが多いね』だと!

やっぱ武器は射程が命なんだわ。射程がなきゃ一方的に負かされる。

こうしてはいられないとばかりに駆け出しエンジニア達のいる所へと向かう

 

 

「すみません」

 

「はい?ってこの間のC級隊員じゃん。もうトリガー変えるのか?」

 

「はい、狙撃用のトリガーに変えたいんですけどおススメはなんですか?」

 

「その前に狙撃用トリガーについて説明する。ついでだ、トリガー交換のやり方覚えていけ。あと来てくれるのはいいんだが、鬼怒田室長に見つかるとあんまりC級隊員を甘やかすなって俺が怒られそうだ……脱線したな。狙撃手トリガーにはイーグレット、アイビス、ライトニングの3種類がある」

 

 

そうして男性職員は狙撃用トリガーについて説明し始める。

 

イーグレット

標準的な狙撃トリガー

速度、射程、威力が整ったバランスの良いトリガー

トリオン量によって射程が伸びる

 

ライトニング

射程はやや短く、威力も低いが速度だけはとにかく早い。

トリオン量によって弾速が上がる

 

アイビス

威力がかなり高い

弾速はやや遅め

トリオン量によって威力が増加する。

 

 

との事

狙撃は一撃で仕留めるのが鉄則だってアニメや映画で言っていた。

居場所がバレるからだ。そのためには弾速の速いライトニングかバランスの良いイーグレットどちらかだろう。

ライトニングは1発で仕留めるにはそれこそヘッドショットかトリオン供給器官を狙うのがオススメらしい。だがそんなにシビアならイーグレットのほうが良さそうだ。

 

 

「じゃあイーグレットでお願いします」

 

「あいよ。それじゃこの前約束したトリガーの替え方について教える。この電動ドライバーに六角レンチを取り付けてこうやって外す。ちなみにナットは日本工業規格に則ったものだから市販の電動ドライバーで開けられる」

 

男性エンジニアはトリガーの真ん中に電動ドライバーを当てナットを外す。

 

「これがトリガーのチップだ。みんな同じ大きさだから見分けがつかなくなる。一応射手用、攻撃手用などで色分けはされてるし、パソコンにトリガーを繋げば現在の構成を見れる。だが、整理整頓ができねえとアステロイドのチップを入れたつもりがバックワームでしたなんてありえるからな」

 

そう言ってこんどは俺にトリガーの分解とチップを外す作業をやらせてくれる。

 

 

「何から何までありがとうございます。そういえば俺エンジニアさんの名前聞いて無かったんですけど教えてもらっていいですか?」

 

「ん?ああ、そういえば名乗ってなかったな。俺は五十嵐清(いがらしきよし)だ。キヨシでいいぜ」

 

「はい、改めてありがとうございます。キヨシさん!」

 

「いいってことよ。それとこれ、貸してやる」

 

 

そう言うと男はトリガーのチップセットに電動工具を俺に渡してきた。

 

 

「いいか?絶対鬼怒田室長には見られるなよ!絶対だからな!?」

 

「それはお約束的なあれですよね?」

 

「……やっぱ返せ」

 

「ごめんなさい冗談です!」

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

キヨシさんと別れると仮想訓練室でイーグレットの訓練を行う。

距離こそ違うもののアステロイドの練習と同様イーグレットで

・止まった的

・規則的に動く的

・不規則に動く的

これらにに当てる練習をひたすらに繰り返し気付けば夜遅くとなっていた。

速やかに帰り支度をし、運良く鬼怒田室長に会うことなく帰路に着けた。

 

 

翌日

今日は土曜日、学校も無いため朝早くからボーダーへと通い再び狙撃の訓練を始める。

アステロイドとは勝手が違うものの、活かせる点もあり、だいぶ的に当たるようになった。

 

あとは撃ったら隠れる、逃げる練習をしたいのだがいい方法が浮かばない。強いてあげるなら実戦を積むくらいだ。

とりあえずはランク戦に向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

一回戦目

 

孤月『1540』

イーグレッド『1000』

 

転送が開始され試合の合図が鳴る

 

「あれ?誰も居ない……おっかしいな」

 

孤月使いのC級隊員はどうしたらいいのかわからず戸惑っている。

 

「おーいイーグレット使いのひと!居ますか……っ!?」

 

『戦闘体活動限界、ベイルアウト』

 

 

その後も2000以下を相手に戦っていくが、古寺と戦った時のカズマと同様戸惑った表情を浮かべては撃破されていった。

スナイパーの練習のおかげで戸惑って動いていない相手なら確実に当てられる。

 

 

そして気付けばもうイーグレット『2400』まで上がっていた。

しかし、2000ポイント後半の人には申請を送ってもなかなか返信が返ってこなくなった。返ってくるのは10回に一回以下である。

 

「仕方ない、また下位のやつらと戦って……」

 

『ポイントを稼ぐか』と呟くと同時に申請が飛んでくる。

 

 

スコーピオン『3071』

 

俺はその申請を受け入れ試合を開始した。

 

 

転送してすぐ、高所を取るため近くにあった4階建てのビルの上へと陣取った。

スコープ越しで街を眺め、索敵を続ける。なかなか見つからずただ時間だけが過ぎて行く。おそらく相手は狙撃手との戦闘経験があるのだろう。大通りを中心に目星を付けるが一向に見つからない。

 

とその時スコープが人影を映した。

どうやら狭い小道をジグザグに進みながら俺を索敵しているようだ。

 

「ここじゃちっとも射線が通らないな」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

俺はビルから飛び降りさっきの場所への射線が通る狙撃ポイントへと移動する

が、道中運悪く相手のスコーピオン使いと出会ってしまった。

 

イーグレットを捨て身軽になった体で即座に逃げ出し、小道や路地裏などを使って撒こうとするもなかなか振り切れない。

路地裏を走り、さらに狭い道へと入り込む。

 

 

「……いない!どこ行きやがったクソスナが!」

 

先ほどまで前方を走っていたカズマの姿を見失ってしまった。

場末のスナックの並んだこの路地裏には一人の身をギリギリに隠せそうなものが多く点在している。

ゴミ箱、地面に設置されたスナックの看板。スコーピオン使いはここのどこかに隠れていると確信し慎重にあたりをクリアリングして進む。

 

「ソゲキッ!」

 

「えっ、」

 

『戦闘体活動限界、ベイルアウト』

 

しかしカズマはその路地裏に入ると地面を蹴って2階の窓になんとか張り付いていた。

そして相手が完全に止まるとトリオンを消費してイーグレット再度を出現させる。

 

そして片手で照準を定め引き金を引き、見事イーグレットの弾はスコーピオン使いに命中した。

 

 

イーグレット『2400→2490』

 

スコーピオン『3071→2981』

 

 

2回戦目

 

イーグレット『2490』

 

孤月『3950』

 

 

1回戦目同様狙撃ポイントをしらみ潰しに捜索され、カズマは狙撃するもまだ技量不足で動く相手には当たらず位置を教えるだけとなった。

 

そして現在、孤月使いに執拗に追いかけ回されている。

 

「まてや!クソスナ!!!」

 

「ひいい!!」

 

こちらは既に武器を捨てて丸腰で逃げていると言うのに得物を持ったまま追いかけてくる相手と距離が離れないどころか縮んできている。

もう逃走は無駄と判断しイーグレットを出現させる。

振り向き様に射撃するが、相手は銃がこちらに向けられると同時に跳んでそれを回避する。そしてそのまま落下の勢いを乗せて孤月を振り下ろす。

 

 

「あぶなっ!」

 

「……は?」

 

咄嗟にイーグレットを前に出せたおかげで孤月をイーグレットの銃身で受け止めることができた。これには相手も予想外の出来事に一瞬膠着する。

今この瞬間が最大にして最後の勝機!

銃口を相手に向けて引き金を引く。

 

 

ボンッ!

『戦闘体活動限界、ベイルアウト』

『戦闘体活動限界、ベイルアウト』

 

 

引き金を引いた瞬間イーグレットが暴発して2人ともベイルアウトしてしまった。

 

 

引き分け

ポイント移動なし

 

 

 

 

 

 

 

その後もランク戦を続けたのだが俺と同期のC級隊員か、狙撃手か、一部の高ポイント保持者しか挑んで来なかった。

 

その結果

俺が同期のC級隊員からポイントを巻き上げる。

そのポイントを狙撃手、高ポイント保持者が巻き上げるという事態に陥った。

 

 

 

 

時刻は現在12時30分

一旦気分転換に食堂へと向かう。今日は何を売っているのかカレンダーをみる。

 

A定食

生姜焼き定食

B定食

鯖の味噌煮定食

麺類

ねつききつねうどん

カレー

ナスカレー

 

 

 

 

なんだナスカレーって、カレーは何入れても美味いって言うけどわざわざナス入れるか。まあここは冒険せずに無難に定食系にしよう。

 

 

「おばちゃーん、生姜焼き定食ひとつ」

 

「はいよ、ごはんは?」

 

「普通で」

 

 

 

 

食事をトレイに乗せ、適当に空いてる席に座る。

すると俺の隣の机にトレイが置かれる。

 

「やあカズマさん、隣いいかい?」

 

「おや、誰かと思えば、何も知らない後輩C級隊員からポイントを毟り取った古寺くんじゃないか」

 

「ほんと、悪かったからその話はやめてくれ!周りの視線がキツい!」

 

 

 

 

 

 

「それでさ、今イーグレットで2500手前くらいまで来たんだけどそれ以降基本的に3000ポイント以上の一部の人か、狙撃手の人としか当たらないんだけどなんで?」

 

 

それを聞いた古寺は、やっぱりかと言うかのようにため息をして話し始める。

 

 

「カズマさんが人の話を最後まで聞かないからだよ。もう一度言うけど今の個人戦環境じゃ狙撃手は超有利。だから基本的に誰も戦いたがらない。

申請を受け入れる人は、過去に狙撃手にこっぴどくポイントを毟り取られた人がスナイパーキラーと化して復讐目的で受け入れるか、同じ狙撃手か、何も知らない新人なんだ」

 

「君のような、ね」

 

「うっ、耳が痛い」

 

「それでどう?前のに戻る?それともこのまま続ける?」

 

「戻るよ!あっ、でもスナイパーの隠れる基本とか色々教えて欲しいな……チラッチラ」

 

「いや、僕はまだ他人に教えるような腕じゃないし……」

 

「あ〜、ボーダーに狙撃手の、そもそもボーダーの中に誰も知ってる友達のいない俺なんかじゃ誰も教えてもらえずこのまま狙撃手として先輩の古寺にポイントを骨の髄まで啜られるんだ……オヨヨ」

 

「わかった、わかったから。教えるからさっきから僕を貶めるのはやめてくれ!」

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

数日後

 

「古寺」

 

「あっ、奈良坂先輩。なにか用ですか?」

 

「いや、流石に古寺に限ってないとは思うが……」

 

「な、なんですか。その気になる言い方⁉︎すごい不安になるんですが!」

 

「いやすまない。最近古寺が何も知らない新人からポイントを吸い上げた挙句そいつの師匠ズラして偉そうにしてるって噂が耳に入ってな」

 

「いや、待ってください!間違ってはないですけど誤解です!」

 

 

 

古寺が奈良坂に誤解(間違ってはいない)を正すのに長い時間を要したのだった。

 

 

 

 

 




古寺くん本編だと最近の話以外ではほとんど空気みたいだったのに入れるとめっちゃ面白い。
やっぱ真面目年下キャラはいじりがいがあって楽しいっすわ。

あと息抜き(話数稼ぎ)に掲示板形式にやってみたんですけど予想以上の地獄だった。あれやってる人たちバケモンでしょ。ネット民の会話で話進めんの難しくて投稿する予定ではあるんですけどやり直しが濃厚ですね。
もうやりたくない……


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6話 この狙撃手たちにハーミットを!

B級ランク戦の構想を練ってたら部隊数が足りないという事態に陥り話が進んでおりません{ランク戦を面白くするために作った話もしばらく没になる)
ランク戦入る前になにか面白いことやったりしようと思ったんですけどこれ以上A級と絡めたり練習されてカズマに強くなられると話がつまらなくなって困るというジレンマに。だから日常パート入れようかとも思ったんですけどそれも合間合間に入れるから面白い小ネタなので難しい。


イーグレットのスコープ越しに遠くの的が映る。

 

「力まないで、そのままの姿勢を維持して、撃ってください!」

 

古寺に言われた通り引き金を引く。すると弾は的のど真ん中へと飛んでいった。

 

 

「おお!すげー!!ちゃんと当たる」

 

「カズマ先輩の射撃を見させてもらいましたが、自己流でやってたせいで姿勢に変な癖がついちゃってるんです。まずはその姿勢を直しましょう」

 

俺は先日古寺に弟子入りを懇願してから狙撃の訓練を受けていた。

 

「あとランク戦も見たんですけどなんですかこれ!?」

 

というと俺が孤月と戦って爆発する映像がタブレットに映し出されていた。

 

「あー、逃げきれないから攻撃して相手の攻撃を銃身で受けて反撃したらこうなった」

 

「いや、訳わかりませんよ」

 

俺も相手の攻撃受けられるとは思わなかったし、そのせいで暴発して引き分けになるとは思わなかったよ。

 

「……しかし数日で本当によく上達しますね」

 

「そりゃそれ以前の努力もあったからってのもあるが、古寺の教え方がいいんだよ。論理的で実践すれば本当に出来るようになるんだからさ」

 

俺なんて弾当てる練習をただひたすら繰り返してなんとなくで当たるようになったが、古寺はちゃんと当てるための姿勢などを理論として持っている。

 

「そんな、僕は大したことはやってないですよ」

 

少し嬉しそうにしながら古寺は頬を掻く。

そうして姿勢の矯正を延々と続けていると古寺がある提案をしてくる。

 

「そうだカズマ先輩、このあとスナイパーの合同訓練があるんですけど一緒にどうですか?」

 

「訓練?ああ、そういえばそんなのもあったな。自己練とランク戦ですっかり忘れてた」

 

「一応説明すると、狙撃手の訓練はB級やA級の人たちと一緒に射撃訓練だったり、補足・掩蔽訓練というレーダーなし、発砲音無しで自力で見つけて撃ったりというものです」

 

「へえ、スナイパーのランク戦と同じだな」

 

「そうですね。これで3週連続上位15%になることでもB級に上がれます」

 

「いや無理だろそれ!?A級とB級も参加して連続で上位キープしろ?C級を馬鹿にしてんのか!」

 

「まあみんなそんな感じでランク戦やりますよ。でも僅かですがポイントも貰えるので経験がてらどうですか?」

 

 

確かに、姿勢については何とかなったしその前にも、スナイパーとして基本的な行動も教わった。ちなみにこればかりは実際のスナイパーとやることは変わらなかった。

 

確かにいい経験にはなりそうだ。

 

 

「いいと思うぞ。ささ、案内してくださいよ。師匠」

 

「師匠と呼ぶのはやめてください!!」

 

 

 

 

◆◆◆

 

そして2人は合同訓練室へとたどり着いた。

 

「おっ、何だ古寺?そいつが噂の弟子か?随分偉くなったもんだな?」

 

特徴的なリーゼントをした男がこちらへとやってきては古寺の頭をぐりぐりとする。

 

「いや……ちが」

 

「はい、弟子のカズマです。師匠には大変よく教えてもらってます」

 

「おう、俺は当真勇。よろしく」

 

「……だから!師匠と呼ぶのはやめてください!!」

 

周りの隊員たちの視線が古寺へと集まる。やはり師匠が周りに一目置かれると弟子として嬉しくなるな、うんうん。

 

「あんたがうちの古寺の弟子か?」

 

その声の方へ顔を向ける。

きのこ頭の好青年がこちらへと向かってくる。

 

「えっと話の流れ的に古寺の師匠ですか?」

 

「いや、ただの先輩の奈良坂透だ。うちの古寺が世話になっている」

 

「そんな、とんでもない。教わってる側はこっちですよ!こちらこそ古寺にお世話になってます」

 

「いや、カズマと訓練をしてからあいつはいい方向に成長してきている……それにお前と関わるようになってから楽しそうにしてるからな。改めて礼を言う」

 

無表情な顔をしている奈良坂は、少しだけ頬を緩ませるとそう言った。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

補足・掩蔽訓練がスタートする。

制限時間90分間の間それぞれが相手を見つけ撃つ。当たれば5点、当てられれば2点の減点だ。そして同じ相手には二度当てられない。

 

そうしてここにいる隊員全員が転送される。マップは高いビルが少々とそのほかに家屋や低いビルが点在している。

俺はすぐに近くの三階建のビルに身を隠し、しばらくここに居ることにした。窓から見えない位置に陣取り、入り口を見張る。今のところは誰も来ておらず制限時間も既に半分を切り、とうとう30分となった。

 

そろそろ動こう。

 

そうして行動を開始するとその直後後頭部に弾が当たりマークがついた。即座に後ろを振り返りイーグレットで覗くが何も見当たらない。仕方なくその場所から離れ、行動を開始した。

その後は古寺の教え通り、敵を探しては撃ちその都度場所を変えた。C級隊員は見かけたがB級や古寺、奈良坂と当真は見ることができなかった。

 

 

 

結果としては74/100位であった。

被弾は少なかったが、その分命中弾も少なく、あまりポイントを稼げなかった。

 

「なかなかやるじゃねえの、カズマ」

 

「いや、順位結構下なんですけど……」

順位一位の人が言うと嫌味にしか聞こえないんだが

 

 

「そりゃ当てた弾が少ねえからだろ?俺が褒めてんのは隠れる力だよ。まさかC級一人見つけるのにあそこまで当てるのに時間がかかるとはな」

 

「もしかして最初に俺の後頭部に当てたのって……」

 

「おれだな」

 

「いや、あそこまで辛抱強く隠れてたのに、動き出した瞬間当てられるとは思わなかったんですけど!?」

 

 

ちなみにカズマの被弾は当真、奈良坂や今回参加したB級、その他にC級の古寺その他数名の分であった。

 

 

「いや、隠れるのだけはうめーよ。おまえガキの頃ダチとかくれんぼして1人だけ置いてかれた口だろ?」

 

「……何で知ってんの?」

 

小学生の時の嫌な思い出が浮かんでくる。誰も見つけられないであろう場所に隠れてたら俺だけを残してみんな帰ってしまった。

 

「お疲れ様、カズマ先輩。それにしても途中までどこにいたんですか?残り30分切ってしばらくするまで全然見当たらなかったんですけど」

 

「転送されてすぐ近くのビルに残り30分くらいまで隠れて、一つしかない入口にイーグレット向けてた」

 

「射手やってた時と変わらず、する事がえげつないですね」

 

「褒め言葉として受け取るぞ?」

 

「本当にアステロイドからイーグレットに移行したのか……古寺が珍しく冗談言ったのかと思ってた」

 

と奈良坂も話に加わってくる。

 

 

「信じてなかったんですか奈良坂先輩……」

 

「素で信じられなかった……それにしてもカズマは何でわざわざ射手から狙撃手になったんだ?」

 

「そこの古寺に何もわからないままやられてポイント吸われたから腹いせに俺も同期の連中と他の奴らにも同じことやってやろう思った」

 

「……古寺、後で話がある」

 

「だから違うんですって!」

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

そんなこんなでしばらくの間は射手としての訓練とランク戦をやりつつ、互いに予定が合う時は古寺に稽古をつけてもらい、一緒に合同訓練に行くと言う日々が続いた。

そして今日補足・掩蔽訓練の順位は50/114位だった。

そしてカズマの被弾は当真、奈良坂、穂刈、半崎、隠岐、そして古寺のものであった。

 

 

「狙撃の腕も上がってきたんじゃないかカズマ?」

 

「そうですね。古寺も人に教える事で上達してきましたし、二人ともこのままB級に上がれそうだな」

 

「ありがとうございます奈良坂先輩」

 

「その前に俺は射手のほうでB級上がりそうだけどな」

 

「ほう、今なんぼだ?」

 

「3500くらいですね」

 

 

現状、射手の自己練、ランク戦、狙撃手の練習は3:2:5比率となっておりランク戦はそこまで出来ていないが着実にポイントを上げてきている。

 

 

「おーい師匠!」

 

むさ苦しい集まりの方へ可愛らしいC級隊員の少女がやってくる

 

「どうした日浦」

 

「聞いてください!ようやく自己ベスト更新出来たんです。しかも被弾も過去最高に少ないですよ!」

 

「よし、その調子だ」

 

「はい!」

 

なんだ、奈良坂こいつ!イケメンでしかも弟子にこんな可愛い子を取ってるだと!?許せん

 

「あっ、C級のアステロイドの人だ!なんでスナイパーになっちゃったんですか!?」

 

と顔をグイグイ近づけてなんでなんでと問いかけてくる。

マズい、これまでアクア以外の女子となんて関わった事ないから刺激が強い!

 

 

「こら、日浦あんまり迷惑をかけるな」

 

「どわっ、……だってこの前那須先輩達と歩ってたらたまたまこの人の戦闘が目に入って那須さんがいつか手合わせしたいっていってたから」

 

「へぇ、あいつが」

 

「そのナスさんってだれ?」

 

「これなんだが……ウチの従姉弟で、こいつはその那須率いる那須隊にスカウトされていてB級に上がったら加わる予定だ」

 

と奈良坂はスマホを手に画像を見せてくる。そこに映るのはスラリとした体型のショートカットヘアーの美少女だった。

 

「えっ、待って!めっちゃ美人じゃん!?従姉弟揃って美男美女とか羨ましいわ……日浦ちゃん!」

 

「は、はい」

 

「改めて佐藤和真です!那須さんには是非いつでもお相手しますと伝えてください!!」

 

「はあ、分かりました。でもカズマ先輩はもう狙撃手に移ったんですよね?那須先輩は射手として戦いたかったそうなんですけど」

 

「安心しろ日浦。こいつは気まぐれで狙撃手やってるだけで今も射手としてやってる」

 

「そうなんですね!よろしくお願いしますカズマ先輩!」

 

日浦はにっこりと太陽の様に明るい笑顔をした。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

そしてその後も同じようにスナイパーの合同訓練に参加してそれが終わると当真と奈良坂に声をかけられる。

 

「……なんかお前隠れるのばかり上達してねぇか?いや、射撃の腕もちょこちょこ上がってはいるけどよ」

 

「そうですね。今回は見つけるのに少し手こずりました」

 

訓練が終わると当真、奈良坂が絡んでくる。しばらくして知ったのだが当真はスナイパー1位で奈良坂はスナイパー2位のスナイパーと2TOPだったのだ。

しかも当真はA級、奈良坂の隊もB級だがもう少しでA級に上がれるとのこと。

 

「そんな事ないですって、見てくださいよこの被弾痕」

 

カズマの両頬には被弾痕があり、アンパンマンみたいになっており片方は当真によるものでもう片方が奈良坂によるものだ。

 

「案外てこずるもんだから出来心でついな、だろ奈良坂?」

 

「そうですね。一時の感情に流されたとはいえ当真先輩と同じことをやってしまいました」

 

「おっ、やるか?どっちが上か今ここでみせつけてやってもいいんだぜ?」

 

 

「おーい、師匠!」

 

と日浦の声が遠くから聞こえてくる。最近では男ばかりのこの空間を和ませてくれるかけがえのない存在となっている。

 

「聞いてください!わたしようやく隠れ上手なカズマ先輩に当てられました!」

 

「腕を上げたな師匠として鼻が高い」

 

「ねぇ、待って。俺君たちにどう思われてるの!?」

 

「「日に日に難易度の上がる的」」

 

と奈良坂と当真は同じくしてそう言う。

こいつら、おれがお前らに当てられないからって散々言いやがって!

 

一方、話に入ってこなかった古寺はラスト5分までカズマを見つけられず、このまま追い抜かれるのではと気が気でなかったのだった。

 

後日、奈良坂の元に古寺がやってきてこう言った。

 

「先輩……なんか日に日にカズマ先輩を見つけるのが困難になってきたんですけど……昨日なんて五分手前まで見つけられなくて、このままいけば本業射手の人に追い抜かれそうなんですけど……僕……向いてないんですかね」

 

「落ち着け、古寺……落ち着け!」

 

なおカズマは狙撃の技量はある一点から伸び悩んでおり、それと同時になぜか隠密の技量が急に上がり始めた。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「おーい、こーでらくん!あーそぼ」

 

「なんで先輩が普通に僕の家を知ってるんですか!」

 

「?……なんでって、前に奈良坂から聞いた。それより今日も補足・掩蔽訓練行こうぜ。最近は被弾も少なくなってきたしようやく楽しくなってきたんだ」

 

「……もうやだこの人」

 

胃に痛みを覚える古寺は重い足取りで補足・掩蔽訓練へと向かった。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「なあ、いくら隠れるのが上達して嬉しいのはわかるが、流石にイーグレットは持ってくれ。これはかくれんぼじゃないんだ!」

 

 

119位中2位の奈良坂は119位中119位のカズマにそう言う。

今回のカズマの得点は−10点だった。

 

そう、カズマは今回イーグレットすらまともに出現させずに90分場所を移動しながら身を隠していたのだ。

 

 

「いやいや、ちゃんとイーグレット使いましたよ?スナイパーが気にしそうな場所にイーグレット立てかけといて、まるでそこにいるかのように演出しましたし」

 

「尚更たちが悪い!!見ろ!お前のせいで古寺がこれまでにないくらい落ち込んでるじゃないか!……と言うか待て、あれお前だったのか!?」

 

普段は表情ひとつ崩さない奈良坂が今日は一生分の表情筋を使ってるんじゃないかというくらいコロコロと表情を変えている。

 

今回で初めて古寺はカズマを捕捉することはできず隅っこで三角座りをしていた。

そもそもカズマに命中させた相手が当真と奈良坂、そして噂を聞いて今回やってきた東と木崎、佐鳥の5名だけであった。

 

「いやいや、古寺はまた自己ベスト更新してもうずっと上位15%キープしてるじゃないですか、このままいけば4000点待たずしてB級昇格ですよ?」

 

「お前もう二度とこの訓練に来るな!」

 

そうしてカズマはスナイパーの合同訓練に入れてもらえなくなってしまった。その後カズマが現れなくなった事でC級隊員の士気が上がったとかなんとか。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

我々はボーダー新聞。

ボーダーで起きた出来事をボーダー内の掲示板に載せている部署のものである。

そして今回、スナイパーの合同訓練がいま話題になっているとのこと。その謎を探るため我々は3名の元にインタビューへ向かった。

 

『今回狙撃手界隈を賑わせてる彼について何か一言お願いします。東さん』

 

「そうですね、彼はけっこう隠れるのが上手です。まあ一切撃たずに狙撃銃をダミーに使ったのを見た時は流石に笑いましたね」

 

『なるほど、では次に木崎さんお願いします』

 

「そうだな。噂を耳にしてやってきたがなかなかやる。ただ、B級を目指すための訓練で他人の足を引っ張るような行為は感心しないな……何?本業は射手だと!?」

 

『では最後に佐鳥さんお願いします」

 

「見ました?俺の……」

 

 

『現場からは以上です!!』

 

 




これは本来5話目と連結させてたんですけど分けないと文字数が一万字超えてたしそれぞれ単品の方が面白かったので分割しました。
あとコメントのおかげで話数を増やせてしかもかなり整合性が取れたので万々歳です。二度と掲示板形式は作らないって決めました(緩い決意)


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第7話 このロクでもないランク戦に終止符を!

槍の勇者のやり直し面白いね(この作品を書いていないという意味)
というか今後菩薩くんが出るんだけど彼の優しさを表すために君呼びさせてたらやり直し時空の尚文みたいになってた。しかも来馬先輩君呼びしない気付いた。
この回は「魚肉ソーセージ」さんのコメントのおかげで作られたお話です。


スナイパーの合同訓練に出禁になったカズマは息抜きにイーグレットでランク戦を始めていた。

 

俺の同期も狙撃手について分かってきたのか申し込んでも、当たるのは狙撃手か高ポイント保持者のスナイパーキラーだけとなっており仕方なく俺ははそいつらに申請を送った。

 

 

 

 

ハウンド(突撃)『3450』

 

イーグレット『2490』

 

 

 

対戦相手の男はこっぴどく狙撃手にやられた者だ。

狙撃手対策として射程ガン振りの突撃銃で相手が撃って来ればそこへ向かってハウンドを撃ちながら接近して倒すという戦術をとっている。

狙撃手以外には刺さることは無いが彼は狙撃手しか相手をしないのだ。B級に上がる寸前の狙撃手からポイントを大量に奪うのが彼の生き甲斐だ。

 

そして今回も相手が撃ちたくなるような位置に陣取って狙撃を待つ。

 

パーン!とイーグレットの発砲音が聞こえる。自身の場所に射線の通る場所を警戒していたため難なく避けられた。

そしてお返しとばかりにマガジンが切れるまで撃ちながら発砲音のした方角へ駆け出す。

ハウンドはビルの一つの窓へと収束して向かって行く。

 

「そこか!」

 

狙撃を何度か受けながらもビルを登り狙撃手のいた部屋へと入り込む。

 

「って居ない!!」

 

そこにはイーグレットのみが立てかけられており、そのイーグレットも姿が消え始めている。

 

「ソゲキッ!」

 

部屋のクローゼット内に隠れていたカズマは自分の元に再びイーグレットを出現させ扉を蹴り破ってイーグレットを目の前の男へ向ける。

数メートルしか離れていないが狙撃で相手の胴体に大きな穴が空き、大量のトリオンが漏れると同時に顔にヒビができる。

 

「クソスナァァァ!!」

 

『戦闘体活動限界、ベイルアウト』

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

一方ボーダーのとある掲示板にて

 

 

1:スナイパー絶対殺すマン

おい、やばいやついるぞ

 

8:スナイパー絶対殺すマン

>>1

どしたん?

 

10:スナイパー絶対殺すマン

あの佐藤カズマって奴だよ!狙撃ポイントにまで着いたと思ったらイーグレット囮にして側面から撃ち抜いてきやがった!

 

12:スナイパー絶対殺すマン

>>10

はっ?やばいだろ。それ聞かなかったら俺もやられとるわ

 

15:スナイパー絶対殺すマン

>>10

あいつスナイパー移行したんか絶対殺す。ポイント奪ったる

 

19:スナイパー絶対殺すマン

>>15

馬鹿野郎!俺たちが殺すって言った時には……

 

26:スナイパー絶対殺すマン

>>19

既にその行動は終わっている!

 

30:スナイパー絶対殺すマン

すまん!そうやったわ

 

38:スナイパー絶対殺すマン

おっし、ならここにいるメンツで作戦会議すっぞ。あいつは304号室におって出てくる様子もない。噂じゃ何時間もランク戦に潜っとる変態らしいからな。

 

42:スナイパー絶対殺すマン

>>38

狂っとるやろ!!トリオン体だから肉体は疲れへんでも精神が持たんわ!!

 

46:スナイパー絶対殺すマン

大体なんで狙撃手なんてクソポジ移行したん?あいつアステロイドめっちゃ強いっつう噂やんか

 

48:スナイパー絶対殺すマン

>>48

それな、古寺っちゅうクソスナイパーにやられて闇落ちしたらしいねん。こっち側にくる素質あったのに勿体無いわ……

 

54:スナイパー絶対殺すマン

>>48

またクソスナかいな!もうスナイパーにやられてスナイパー堕ちしてく元同胞は見とうないねん!!

 

58:スナイパー絶対殺すマン

つーか俺らがいくら上層部に署名付きの嘆願書送ってもなんら反応せんやんけ!上層部はもう少し頭使え!!

 

66:スナイパー絶対殺すマン

>>58

せや!もっと言ったれ!!ネツキは一生影浦にアッパー喰らってろ!

 

71:スナイパー絶対殺すマン

唐突なネツキアッパーネタは草

 

74:スナイパー絶対殺すマン

マジで作戦会議に参加しろ!!あいつからポイント奪いまくるぞ!!

 

78:スナイパー絶対殺すマン

>>74

せやなすまんかったわ。まず陽動されたフリして中に入ったら隠れてそうな弾乱射すればええねん。アタッカーは隠れてそうなクローゼットとか片っ端から斬ってけばええやろ

 

80:スナイパー絶対殺すマン

>>78

天才か!

 

85:スナイパー絶対殺すマン

>>78

ちょっくら試してくる!!

 

93:スナイパー絶対殺すマン

ワイも!

 

100:スナイパー絶対殺すマン

はい、勝ち申したクローゼットごと蜂の巣になったんには笑いが絶えへんかったわ

 

107:スナイパー絶対殺すマン

ワイもベットごとあいつの首真っ二つにしてやったわ!!最高気持ちええ〜

 

112:スナイパー絶対殺すマン

ざまみろや!!入りたての新人がデカい顔しおって!!

 

 

200:スナイパー絶対殺すマン

……まずい、もう対策されたわ

 

205:スナイパー絶対殺すマン

>>200

いやいや嘘やろ!?いくらなんでも対応が速すぎる!まだ3人としか戦ってへんやろ!!

 

211:スナイパー絶対殺すマン

あいつスナイパーキラーの存在知っとるわ。おそらく徒党を組んでるのがバレた臭いで。

 

212:スナイパー絶対殺すマン

勘のいい狙撃手は嫌いだよ

 

222:スナイパー絶対殺すマン

>>200

でどないな事されたん?

 

226:スナイパー絶対殺すマン

>>222

作戦通り誘き出されたフリして行って隠れてそうな場所片っ端から切ってたらほかのビルから撃たれて死んだ。

 

233:スナイパー絶対殺すマン

>>226

まじかよ!?これじゃもう何処隠れとるか分からんやろ!!

 

241:スナイパー絶対殺すマン

>>233

いや、やられてから気付いたんだがあいつやっぱスナイパーになって日が浅いから普通のスナイパーみたいな距離では当てられないみたいなんよ。だから誘き出されたフリして途中まではそこに向かって途中でそこを狙えそうな近くのビルに行けばええんや!

 

245:スナイパー絶対殺すマン

>>241

て、天才だ!!

 

251:スナイパー絶対殺すマン

>>241

早速試してみるわ!!

 

255:スナイパー絶対殺すマン

>>241

あかん、負けた。分かっててもアタッカーで実現するのは難かしいわ。ガンナーなら誘き出されたフリしてビル行ってそこ狙える場所に弾撃った方がええ

 

257:スナイパー絶対殺すマン

>>255

たしかにアタッカーじゃキツイか。じゃあワイ行ってみるで

 

261:スナイパー絶対殺すマン

>>255

はい、勝ち申したわ!ほんまにあいつまだ遠くからは撃てないらしいな。近くのビルからスコープの反射光見えて勝てたわ。これが本職のスナイパーと同様遠くから撃たれたらしんどいわ

 

271:スナイパー絶対殺すマン

>>261

ナイス!たしかにあいつこれで技量上げられたらマジで勝てなくなるとちゃうん?

 

273:スナイパー絶対殺すマン

>>271

その前にあいつの心へし折って射手に戻させろ!!これ以上被害者が出てたまるか!!

 

281:スナイパー絶対殺すマン

あのー、なんか今度対策されて時間切れまで隠れられたんですけど……

 

288:スナイパー絶対殺すマン

>>281

ファっ!?

 

293:スナイパー絶対殺すマン

>>281

ワイもやられた……カスダメ与えられてそれ以降一生隠れられてダメージ差でポイント奪われたんだが……ちなあいつそのためにイーグレットからライトニングに変えやがった!

 

298:スナイパー絶対殺すマン

>>293

あいつ待機室から出たらんやろ!まさか自分でトリガー交換できるんか!?

 

307:スナイパー絶対殺すマン

>>298

やばいやばいやばい、それは洒落にならん。気分次第で三つの狙撃銃に変えられるって事やろ。あいつアタッカー相手にはアイビスで近距離ショットしだすかもしれへんで?

 

316:スナイパー絶対殺すマン

>>307

近距離スナイパーとかアニメでしか見た事ねえよ!!

 

320:スナイパー絶対殺すマン

>>316

逆にアニメでスナイパー二丁してるの見た事ないのにそれやっとるA級スナイパーがあるらしいな。

 

330:スナイパー絶対殺すマン

>>320

その話はやめようか……

 

340:スナイパー絶対殺すマン

待て待て待て!カズマの戦い見た一部のスナイパーが真似し始めたぞ!!流石にまだヘタクソで倒しやすいけど

 

347:スナイパー絶対殺すマン

やばいで……まじでランク戦がスナイパー環境トップになってまう……

 

348:スナイパー絶対殺すマン

もともとの技量自体がカズマより高いあいつらがマスターしたらいよいよ手出しできなくなるぞ!

 

358:スナイパー絶対殺すマン

はい……終わりました。もうおしまいだよこんなランク戦。芋砂しかおらんやんけ!!

 

367:スナイパー絶対殺すマン

今度の嘆願書は通ってくれるかな……

 

376:スナイパー絶対殺すマン

もうボーダーやめるわ……

 

381:スナイパー絶対殺すマン

あーあ、くだらん。ほんまそんな熱くなって……なんでワイらこんなことにひたすら時間費やしたんや……

 

385:スナイパー絶対殺すマン

もうこれ何もかもカズマのせいやろ!!

 

389:スナイパー絶対殺すマン

ほんま諸悪の根源!!

 

399:スナイパー絶対殺すマン

よし、C級隊員の大半の署名集めて試合映像付きで上層部に抗議しよう。もし受け入れられなかったらもう辞めようこんな組織。

 

403:スナイパー絶対殺すマン

>>399

せやな!一矢報いたる!

 

406:スナイパー絶対殺すマン

絶対やり遂げてみせる!!!

 

 

 

 

 

 

その後、彼らは必死に署名活動を行いなんとかC級の過半数の署名を得た。

狙撃手が時間切れまでひたすら隠れたりそもそも妨害目的でランク戦をやっている映像が嘆願書と共に上層部に送られドン引きした上層部はランク戦から狙撃手の参加を禁止したのであった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

狙撃手がランク戦に出れなくなったその日の事

 

「おい!カズマ!!」

 

額に青筋を浮かべた奈良坂がカズマの元に寄り胸倉を掴む。

 

「?……どうしたんだよそんなにキレ散らかして。俺はちゃんと言われた通り合同訓練には出てないぞ?」

 

カズマは呆けた顔でそう言うがそれが更に奈良坂の怒りに油を注いだ。

 

「お前のせいでC級の狙撃手がランク戦に出れなくなったんだぞ!!あと少しで4000ポイントに行くんですって喜んでたC級スナイパーの連中が今日になってから今にも死にそうな顔をしてたんだぞ!!」

 

「別に俺は狙撃の技量が足りない俺でも勝てる方法を模索した結果、ああなっただけで他意はなかったんですよ。それに俺の戦法を見て悪用した狙撃手も悪いだろ?」

 

「それは……そうだが」

 

奈良坂はハッとしてカズマから手を離し、申し訳なさそうな顔を浮かべる。

 

「まあその戦術教えたの俺なんだけどね」

 

どうやったのか教えてくれってすごい言い寄られるものだからついつい構想してた戦術を全部教えてしまった。まさかそれを発展させてあそこまでエグい戦い方を編み出すとは思わなかったけど。

 

「……少しでも悪いと思った俺に謝れ!!!」

 

カズマの前ではそのクールな表情をコロコロと変えてしまう奈良坂であった。

 




初めて掲示板形式やってみたんですけどどうですか?その前にも一個作ったけどこっちが先になったので改善されてるんですけど。
狙撃手はランク戦出ないっていうのここから本編戻すの無理やろな……ってなったけど割といけた。
カズマ単品でやばいことやってもカズマ出禁にすれば良いだけだけど、みんなやり出したら禁止するしかないよね。


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第8話 このランク戦に菩薩様を!

このお話は前回よりもだいぶ前に書いたのでちょっと「ん?作風違くね?」とか違和感を与えてしまうかもしれません。おかしいところがあれば教えてください。
ここまで貯まるとアドバイスくれても修正できないのでもう早めに投稿しちゃいます。B級ランク戦が地獄です。葦原先生ランク戦の簡易マップください……
ランク戦に限らず「こう言う戦い方は?」「こんな戦術は?」などあったら活動報告のところにコメントお願いします。皆様の妄想が頼りです。




これは狙撃手がランク戦から除外される少し前の出来事。

 

今日もランク戦に潜り申請を送っては、開始早々高速弾で脚を削って、機動力が落ちたところを確実に倒す。そんなスタイルを続けていた。

 

流石に3000後半にもなると避けられてしまうことが多いが、それ以下であれば確実に刺さる戦法だ。

また、3000P以上の射手は俺よりも射撃精度は高いが、置弾や弾の調整等はほとんど使ってこない。使っても稚拙でそれらを駆使した戦術で技量の差を埋めて勝利を収めている。

 

しかしスナイパーとの勝率は五分五分というところだ。

以前勝てないと悟り、嫌がらせに時間切れまで永遠に隠れてたら般若みたいな顔して待合室に乗り込んで来られたときには驚いた。

 

 

そうしてランク戦を続けていると申請が飛んでくる。

 

アステロイド(突)『2940』

 

この(突)はアサルトライフルって意味だろうか。つまり銃手か。そういえば銃手とは戦ったことがなかったな。

あと一戦したら昼休憩にしようと思ってたので丁度いい。俺はその申請を受け入れた。

 

 

 

アステロイド(突)『2940』

アステロイド『3300』

 

2人は市街地へと転送され、戦闘開始の合図が鳴る。

それと同時に互いが距離をとる。

そして、相手はアサルトライフルの引き金を引き、こちらは3×3×3の計27発に分割した高速のアステロイドを放つ。

 

低高速弾コンボは相手が攻撃手の時以外はあまり決まらない。相手は銃手だ。こちらと同じく距離を取るだろう。

だから威力10、射程20、弾速70に設定して確実なヒットを狙う。

互いの弾丸が交差しあう。

 

カズマの弾は相手の手足を貫き、その小さな穴からトリオンが漏れ始める。

相手の弾はカズマの右腕に大き穴を開け、そこからトリオンが大量に洩れ始めた。

 

威力を犠牲にして弾速を上げた分カズマの弾はより多く当たったが、その分ダメージが小さく、相手の弾は命中弾が少ないがダメージは大きかった。

 

 

「アステロイド! アステロイド! アステロイド!」

 

 

置弾による角度をつけた射撃を狙って大ダメージを与えようとしたり、高速弾で脚を削り機動力を落とそうとするも相手の応射で受けるダメージがの方が大きい。

 

そもそも今までやってきた置弾のやり方では相手が距離を詰めてこないと決まりにくいため中距離戦の睨み合いではあまり有効ではない。

 

現在トリオンの漏洩は止まってきているものの、右腕、左脇腹、左脹脛が大きく削られ、顔にヒビが入り出した。ベイルアウト寸前の証だ。

 

 

あとアステロイドは撃てて3発ってところだろうか。

トリオン量の差なのだろうが、どうしても中距離の射撃戦では撃ち負けてしまう。

相手は広い駐車場で陣取り車を遮蔽にしてこちらへと牽制射撃を繰り返している。

 

近づこう。この火力差では近づかないことには始まらない。

幸いにも機動力はまだ残っている。

銃声が一時鳴り止むと同時にカズマは相手に向かって走り出だした。

 

「アステロイド!」

 

何十にも分割した高速弾が一つ、二つ、四つ、八つと飛んでいく

相手も銃を構え、こちらへと射撃を繰り出す。

すかさず左斜め前方に跳んでそれを回避する。もちろん相手もこの動きに対応して即座に銃口を左に向ける。

更に俺は地面を蹴り、車の天板を蹴って高く跳躍する。

視界からカズマが外れた事により相手の対応も遅れ、こちらが先に仕掛けた。

 

「アステロイド!」

 

距離が縮まった分、射程をやや抑えて威力に振った弱高速弾を放つ。

咄嗟に避けようとするも避けきれずに、相手の銃を持った方の腕を貫き、その他に胴体にも深刻なダメージが入った。

 

銃を持った腕は穴だらけとなり銃を支えられず情けなくぶら下がる。

指も人差し指、中指を失っており射撃は不可能に見えた。

しかし、相手はもう片方の腕で無理やり銃口を上へと向け、狙いもいい加減なまま薬指で強引に引き金を引こうとする。

 

しかし、それも叶わずアステロイドが彼を撃ち抜いた。それは意識の外側から。

 

先程カズマが飛び出す前に撃ったアステロイドの残り弾であった。撃つと同時に左へ移動し高く跳んだカズマへと集中してしまっていたことが災いし最初にカズマが撃った場所が完全に疎かになっていた。

 

『トリオン漏出甚大、ベイルアウト』

 

 

それは速度重視の低威力の弾だが死に体の彼にとどめを刺すには十分な威力であった。

 

 

アステロイド(突)『2940→2890』

アステロイド『3300→3350』

 

 

 

試合が終わりカズマは待機部屋のベットへと転送される。

 

「ああ、どっと疲れが出た。あいつ本当に3000手前か?3000後半の奴くらい強いぞ……それとも射手は銃手と相性が悪いのか?」

 

そう愚痴をこぼしているとチャット申請が飛んでくるので許可する。

 

「対戦おつかれ様。互いにいい勝負だったね」

 

どうやら対戦相手だったらしい。

このおとなしそうな草食系男子が最後のあんな粘りというか執念じみたものを見せてくるとは、人は見た目によらないとはよく言ったものだ。

 

「僕は来馬辰也よろしく」

 

「どうも佐藤和真です」

 

「このあと予定はあるかな?」

 

「いや、強いて言うなら食堂行くくらいですね」

 

「それならちょうどいい。話もしたいし一緒に行かないかい?」

 

 

俺たちは二人で食堂へと向かった。

 

 

 

A定食

カレイのあんかけ

B定食

ポークソテー

麺類

きぬたそば

カレー

具沢山

 

 

 

「おばちゃーん、ポークソテーください!」

 

「あっ、僕も」

 

「はーい、ポークソテー二つね。ごはんは?」

 

「「普通で」」

 

「はいよ」

 

 

 

 

俺たちは食器をトレイに受け取り二つ並んで空いた席に座り食べ始めた。

 

「それにしてもカズマ、すごかったね。最後の既に撃った場所からもう一度弾が飛んで来たやつ。あれどうやってやったの?」

 

俺はトレイを少し端によせ、ペンとメモ帳を取り出し図を描き始めた。

 

「さっきのは置弾……というよりは時間差射撃になるのか?最初に数発撃って残りの弾をその場に置いて、任意のタイミングで撃ちだしたんだ」

 

右手で飯を食いながら左手で汚いながらも図を書いて説明する。

 

「だからこうやって自分に相手の意識を向けさせると、側面や背後から無警戒の相手を撃ち抜けるんだ」

 

「なるほど……参考になるよ。でもまずはごはんを食べてからにしようか。聞いた僕も悪いけど、作ってくれた人に失礼だよ」

 

「……はい」 

 

 

 

 

ご飯を食べ終わると再び会話を始める。

 

「置弾ね、そんなのがあったんだ。何度か射手とも戦ったことはあるけどそんなことされたこと無かったな」

 

「まあ知らないC級隊員のが多いんだと思いますよ。分かってても使い時が難しいし。あと射手は撃つ前に弾の威力とか弾速とかもかなり自由に調整できるぞ」

 

「あ、たしかにすごい速い弾を撃ってくる人とは戦ったことあるかな。あれってそう言うことなんだ」

 

「来馬先輩の方からもなんか銃手の特徴とか利点教えてくださいよ。今回わかったことは威力が高いから遠距離でチクチクやりあうと射手が負けるってことだけですよ。やっぱトリオン量の差なのか?」

 

「ああ、それは銃手には射程補正が入るからその分、射程に使うトリオンを威力に回せるんだ」

 

「まじか!?俺トリオン少ないから消費なしのボーナスは羨ましいな」

 

「僕でよかったら銃手について教えるよ」

 

「まじか!サンキュー来馬先輩!!」

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

食事を終えた俺と来馬は仮想訓練室へ向かった。

 

「まずは僕の使ってる銃手トリガーについておさらいするね」

 

来馬先輩の使うアサルトライフルは連射性能が高く火力が強く、その代わり取り回しは拳銃タイプに劣るようだ。

俺はまず突撃銃タイプを取り出し、的を狙う。

 

 

腕に伝わる反動と共にけたたましい音が仮想訓練室に鳴り響く。

放った弾の8割が20メートル先の的に命中した。

 

「おお、すっげー本物の銃撃ってるみたいだ!」

 

「初めての割に凄い当たるね。まあ射手としての経験があったからなんだろうけど」

 

「そうですね、一直線に飛んでいくんで撃つだけなら射手よりも楽ですね。ただ結構反動で狙いがブレましたけど」

 

銃手トリガーは本物の銃のように反動が発生するようでゲームのようには当てられなかった。

 

「じゃあ次は4、5発ずつ撃って反動を抑えて、その反動に慣れていこう」

 

「はい、ありがとうございます。でも次は拳銃タイプも試して見ます」

 

 

手際よくトリガーを分解してアステロイド(拳)のチップと交換する。

その光景に来馬先輩は興味津々で見ていた。

 

「カズマくんは元エンジニアだったりするのかな?そんな工具セット持ってるけど」

 

「いや、エンジニアの人にやり方教えてもらって工具とチップ貸してもらいました」

 

「へえ、カズマくんって人脈すごいんだね」

 

「えへへ、今度なにか試したいトリガーあったら手伝いますよ」

 

「うん、ありがとう。その時にはお願いするよ」

 

 

 

トリガーの入れ替えが終わり右手に拳銃を出現させる。

両手でしっかりとグリップを握り狙いを定める。

1発、2発、3発と次々撃ち出していく。

撃ち出された弾は全て的へと命中した。

 

「うわ、全弾命中だ」

 

拳銃は反動がかなり少ない。使い慣れればこれくらいの反動は無いに等しいだろう。

次に片手でも撃ってみたが、右手では全弾命中。左手では7割命中であった。

そうしてしばらく練習した後俺と来馬せんぱいは練習をやめ、ボーダーを出る。

 

「また何かあったら気軽に相談して……そうだ連絡先交換しようよ。そうすればボーダーで探し回らなくてもいいし」

 

「ありがとうございます来馬先輩!」

 

 

 

そうして互いに連絡先を交換し二人はそれぞれの家へと向かう。

その後、カズマは来馬と練習をしたり、遊んだりとちょくちょく顔を合わせるのだった。その時カズマは来馬の家へと招かれ金持ちの家ということを知って驚愕するのはしばらく先のお話。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

それからというものスナイパー合同訓練から出禁になり、ランク戦にスナイパーの参加が禁止になった為、一部を来馬先輩との銃手の訓練に充てている。

 

最初はB級になったらスコーピオンと射手のアステロイドで戦うスタイルを考えていたがスコーピオンと拳銃タイプも悪くないと思ってきている。

 

ちなみに突撃銃型は火力面は素晴らしかったのだが、やけにカクカクしていて持ちにくく、取り回しが悪いため却下した。

そして今日も拳銃タイプを右手、左手どちらの手でも片手で十分扱えるよう訓練をしている。

 

ダダダダダダダダッ!

 

一瞬にして8発の弾丸が飛んでいき全弾が的に命中する。

 

「……あのカズマくん?」

 

「どうしたんですか来馬先輩?鳩が豆鉄砲食らったような顔して」

 

「いやカズマ君のハンドガン連射性能おかしくない?どう見てもフルオートで撃ってるように見えるんだけど!!」

 

「あー、来馬先輩ゲームやらないから説明が難しいな。このまえ家行った時ゲーム機が一台もなくてびっくりしましたよ」

 

「それでうちにPS4持ってくるのは勘弁して欲しいけどね……」

 

「話が逸れましたけど、ゲームで指切り射撃っていう単発武器をフルオート並みに連射する技術があるんですよ。それ真似してボタン連打する感覚で引き金引いてたらできるようになったんですよね」

 

さすがに射撃精度は下がるが火力としては十二分に期待できる。いつか二丁持ちもしてみたいな。

 

「いや、それは異常だよ」

 

「本来これを使うとすごい連射性能を得られる代わりにしばらく鉛筆が持てなくなるくらい指に負担の掛かる代物なんですけどトリオン体だから関係ないんですよね」

 

「カズマくんゲームに命懸けすぎじゃない?勉強もしよ?」

 

ハンドガンのトロフィーを獲得するために仕方なかったんだ。それまでに何度人差し指を攣ったことか。

 

程々にねと来馬先輩が諭してくるが、ボーダーに入ってからというものカズマはゲームを余りしなくなっていた。

 

「大丈夫ですよ来馬先輩。俺ボーダーに入ってからはゲームもそこまでやってないので」

 

「ならいいんだけど」

 

「そのかわりボーダーが楽しすぎて少なくても一日5時間はここに居ますね。休みなんかだとこの前10時間ぶっ続けでボーダーいたこともありますよ」

 

「……」

 

何故ならカズマはテレビゲームよりも楽しいゲーム(ランク戦)を見つけたから。

 

 

 

 

 

そして後日、ランク戦にて

 

1戦目

ハウンド(拳)『1000』

孤月『2500』

 

 

「げっ、何でお前が……」

 

『戦闘体活動限界、ベイルアウト』

 

対戦相手はカズマの顔を見た瞬間血の気が引け後退りしてしまう。

相手は開幕の速攻を仕掛けるチャンスを失い、即座に撃ち出された弾が一直線に対戦相手へと襲いかかった。

 

 

 

 

2戦目

 

ハウンド(拳)『1140』

アステロイド『2800』

 

「ひぃぃ!!」

『戦闘体活動限界、ベイルアウト』

 

3戦目

 

ハウンド(拳)『1300』

スコーピオン『2000』

 

「何でお前……」

『戦闘体活動……』

「居るんだよ……」

『ベイルアウト』

 

と、その後もひどく怯えた顔をした隊員と当たっては開幕と同時に何発も撃ち込んでは撃破していった。

 

 

 

そして突撃銃タイプとの戦闘。

 

ハウンド(拳)『1900』

アステロイド(突)『3100』

 

 

カズマはその狂った連射性能で突撃銃タイプと撃ち合っていたがトリオン量の差、アステロイドとハウンドの威力の違いにより火力戦で押し負けていおり、互いに一本の道路の十字路の塀を背にして戦闘が膠着し出した。彼我の距離はざっと30メートル。

 

このまま撃ち合っていればトリオンが尽きるのはカズマの方が早い。それを承知のカズマが仕掛けに出た。

上空へ発砲された銃声が戦闘のゴングを鳴らす。

 

カズマは塀から飛び出し相手へと向かう。

相手が応射するも屋根に飛び乗り射線を切り引き金を引き、弾丸は相手と見当違いの方へ飛んでいくが相手の真横を過ぎたあたりで急に曲がりだす。

 

今まで追尾のない純粋な射撃戦しかしておらず敵もカズマがハウンドであるという事が頭から抜けていた。

そして不意に何発も側面からやってきて相手銃手の胴には大きな穴が生まれ、トリオンがダダ漏れだ。

そして戦闘の始まりとなった1発の弾丸が上空から相手の脳天を貫く。

 

『戦闘体活動限界、ベイルアウト』

 

 

 

カズマが息抜きに始めたハウンド(拳)でのランク戦が再びC級隊員を地獄に突き落とした。

 

 




読者さんはまだ7話までのカズマさんの認識しかないのに、さらに先にいる私がようやく思いついた戦術思いつくんですかね。しかも思いつきもしないエグい戦術考案する人居たし。天才でしょ。絶対どこかで使いたい、二宮さん倒すのとか東さん倒すのに使いたいよ。
影浦とはカズマ相性最悪だと思うから無理かな。流石に感情殺して戦うのはカズマさんじゃない。


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第9話 この愚か者に制裁を!

 あと部隊の名前って神社とかそういうのモチーフにしてるって考察あるじゃないですか。だから最初カズマの苗字どうするか悩んで結局佐藤カズマでいいやってなりました。ワートリ二次創作で俺ガイル多いのって部隊の名前として「八幡」を使えるのが大きいと思ってます。九州だったかの菩薩だが神社の名前ですよねたしか。



スナイパーの合同訓練が出禁になり狙撃トリガーがランク戦出禁になってからしばらくが経過した。

今まで狙撃手の練習に割いてた時間を射手の練習とランク戦に。そして息抜きにやる銃手のランク戦に充てている。

 

ちなみに現在の比率は射手の自己練5、射手ランク戦3、銃手の自己練1、銃手ランク戦1となっといる。

 

しかし銃手でランク戦に潜ると、俺の顔を相手が死神でも見たかのように怯えた表情をすることがたまにあるが何故だろう。

 

 

 

 

今日も今日とてランク戦だ。

あれからだいぶポイントが増えアステロイド『3834』となった。

 

しかしポイントが高くなってくると相対的にポイントの低い相手と戦う事になり、3500Pからはポイントの収穫がかなり渋くなった。

とりあえず数をこなさなければとランク戦室へ向かう

 

「なんでよおーー!」

 

と、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

アクアだ。しばらくここで見なかったがあいつ今度はボーダーでも何かやらかしたのか。

 

呆れながら声のする方。ランク戦室へと入っていくと地面に倒れ仰向けになり泣きじゃくるアクアの姿があった。

 

「なんだどうしたアクア?タンスの角に足の小指でもぶつけたか?」

 

「ちっがうわよ!この場所!この姿!私が理不尽に負けたのが分かるでしょ!?」

 

「全然」

 

要はこうだった。

最初の訓練で誉められまくって調子乗ってランク戦したら馬鹿みたいに勝ちまくったから余裕!って三日坊主になって来なくなったらしい。(学校で居残りなどもあったが)

というかあいつ、あの時宿題やらなかったのもしかしてランク戦のせいか?

 

それでしばらくして戻ってきたら射手にハメ殺され、銃手には距離の有利で負けまくったらしい。

そしたら初日で3000ポイントまで稼いだのが2400……スタート時の2500Pよりも低くなってしまったそうだ。

挙句負け分を取り戻そうとヤケになってさらにポイントを失い現在は2000Pまで落ちてしまったという。ギャンブルに負ける奴の思考回路かよ。

 

ちなみにカズマは知らないがC級隊員がここ最近強くなっているのだ。まあそこまで強くなったのはカズマのせいなのだが。

置弾に関心の無かった射手がカズマとの戦闘から、見よう見真似で稚拙ながらにも使い始めたり、カズマに散々やられた攻撃手や銃手がその経験から単純に強くなったりしたのだった。

 

 

「お前の自業自得じゃないか、お前がサボった分周りの連中が強くなった。それだけだろ?」

 

「うう、いつもは甘々のカズマさんがすごい厳しい……そうよ!そこまで言うなら勝負しなさいカズマ!」

 

「えー、めんどくさい。それにお前のトリガーじゃ十中八九負けるぞ」

 

「ふふん!ハッタリね!分かってるんだから。何年付き合ってると思ってるの」

 

その何十年俺と付き合ってるなんとかさんの目は節穴らしい。

 

「分かったわ!私に勝てないのが素直に言えないのね。しょうがないわね。まあ私が倒したサソリみたいなやつにだいしゅきホールドされて負けたカズマさんですもんね。プークスクス!今思い出しただけでもチョー笑えるんですけど」

 

だんだんとイライラしてきたカズマに対し火に油を注いでしまった。

 

「何だとこのアマァ!さっきからこっちが下手に出てたら調子乗りやがって。上等じゃねーか!やってやるよ!お前のポイントが0になるまでむしり取ってやる!」

 

そう言ってカズマはランク戦を始めた。

 

 

「ふふん、どっちが上か思い知らせてあげるわ。覚悟しなさい!」

 

アクアは一直線に駆け出し地面を蹴ってカズマとの距離を一気に詰めジャンプ斬りをする。

 

「はあ〜、アステロイド」

 

『戦闘体活動限界、ベイルアウト』

 

それを見て呆れたようにため息をつきながら低速弾を二人の間に展開する。それに触れたアクアは肉片となりベイルアウトした。

 

その後も射程の有利をとって一方的に攻撃したり、弾幕をわざと避けやすいように張り、弾幕を実力で切り抜けたつもりになって勝ちを確信していたアクアを側面から置弾で倒したりと技量や対人経験の差により勝利した。

 

たしかにアクアの身体能力は驚異的である。既にC級上位クラスの実力はあるだろう。それこそトリオン兵相手であれば十分通用する。

だが騙し読み合う対人戦では、これまでの戦闘経験や悪知恵の働くカズマの方が断然強かった。

 

その後も一方的な試合展開が繰り広げられ興味本位で試合を見ていた観戦者もドン引きして、あの騒動のを見ていた者達も僅かながらに同情の念が湧いてきた。

 

 

「ふっ、虚しいポイントだ」

 

「ううっ、ぐすっ、ひっく……かじゅまのバカァァァ!」

 

 

 

 

 

 

翌日

 

俺はとうとう3900ポイント台に突入し、B級昇格まで後少しとなった。

 

「あのー……カズマさん。大変申しにくいのですが」

 

「どうしたんだ、バカアさん?」

 

何か言いたい気持ちを必死に抑え顔を引き攣らせながらアクアは華麗な土下座を披露する。

 

「どうか、どうかこの私めにポイントをお恵みください!」

 

元入隊時期待度No. 1だったなんとかさんは恥も外聞もなくそう申し出てきた。

 

「えー、いやだよ。せっかくあと少しでB級に上がれるとこまで来たのに。それに俺には何らメリットがないじゃないか」

 

「メリットならあるわよ!」

 

「なんだよ」

 

「この私と一緒にB級に上がれ……」

 

「そっか、がんば!」

 

「待ってえええ!!!お願いよ。なんでも言うこと聞くから!もうアクシズ教の入信書もポストに入れないから!」

 

「あれお前だったのかよ!!」

 

 

カズマは損得勘定にはいる。

このあとB級に上がったら防衛任務を行うことで給料が手に入る。アクアの取り分の一部を寄越せと要求すればB級のまま半不労所得が入ってくるのではないか。

 

「しょうがねぇな。ただしなんでもだから?破ったら生身だろうがアステロイド撃ち込むからな?」

 

「分かった絶対守るわ!……やっぱカズマさんはなんだかんだで私には甘いわね」

(分かってるわよ。破ってもなんだかんだで許してくれるって)

 

「うっし、じゃあまずはアクア。それをやる前にやってもらうことがある」

 

そうしてカズマはメモに殴り書きで何かを書き出した。

 

「ここに書いてあるスコーピオン、レイガスト、孤月ってやつらどれかと戦って、そうだな。5勝……いや10勝してこい。そしたらポイント分けてやるよ」

 

「ガッテンでい!」

 

ピシッと敬礼をしてはウキウキでランク戦へと向かい出した。

 

流石に負けないよな?

一応あいつは初見でモールモッド倒せたわけだし。

 

数十分後、カズマの元にご機嫌で戻ってくるアクアの姿があった。

どうやら勝てたみたいだ。

銃手、射手とさえ当たらなければ勝てはするのだろう。

 

 

「よし、俺は101号室に入るからお前は102号室に入れ。俺が申請を送る」

 

「分かったわ!」

 

ポイントはくれてやろう。ただしアステロイド以外のな。

俺はトリガーチップを変え申請を送った。

 

1戦目

スコーピオン『1500』

 

孤月『2450』

 

 

二人は転送され試合が始まる。

 

互いの距離は5メートルほど離れている。

なるほど攻撃手同士だとここまで縮まるのか。

 

「そうだ、何点か言い忘れてたがアステロイドのポイントをやるつもりは無いし、タダでやられる気はないぞ?」

 

そう言ってカズマは右手にスコーピオンを出す。

 

「あっ、卑怯よ!ルール違反だわ!契約もムコーよムコー!」

 

「フフン、俺はポイントをやるとは言った。だが抵抗しないとは一言も言ってないぞ?」

 

「この……騙したわね!!」

 

アクアは怒りに任せて切り掛かってきた。

 

ふっ、太刀筋が見え見えだぜ。

俺はスコーピオンを両手で握り受けの姿勢をとる。

 

『戦闘体活動限界、ベイルアウト』

 

孤月が振り下ろされ、スコーピオンごとカズマを真っ二つにした。

 

「プークスクス!ウケるんですけど!!あそこまでカッコつけて呆気なくやられるなんてチョーウケるんですけど!」

 

うるさいのでミュートにして申請を送る。

 

 

 

X戦目

 

アクアの横薙ぎの一撃を避け、続け様に振り下ろされる一撃をスコーピオンで受け流してスコーピオンを振るう。

しかしそれを孤月で受け止められ返す刀で一刀両断される。

 

『戦闘体活動限界、ベイルアウト』

 

これまでの戦いでだいぶスコーピオンについて分かってきた。

どうやらこのトリガーは防御性能がかなり低く、マトモに攻撃を受けるとガラス細工のようにすぐ壊れてしまうらしい。やるとしたら先程のように軌道を逸らしたりと受け流すのが関の山だ。

 

これは相当攻撃にのみ特化しているようだ。しかし、重みがなく自由に振り回せ、様々な形に変形させたり体から生やたりすることができ、攻撃に工夫の幅がある。先程もククリナイフのような形状に変えて投げつけ片腕を斬り落とした。

 

これまでの戦いで倒しはしない。というより全力で戦っても倒せなかった。よくて手足の一本を斬り落とすのが限界だ。

まあ、もしここで勝ってしまえばこれまで与えた点以上に入ってくるに違いないのだろうが。

 

そうしてアクアのポイントの稼ぎが悪くなってきたので別のトリガーに切り替えるためチップの入ったケースを取り出す。

 

中には色々とチップが入っており、キヨシさんによる説明? らしきものが書かれている。

一部を抜粋する。

 

スコーピオン

攻撃特化の飴細工

 

孤月

万能といえば聞こえは良いがこれと言った特徴もない平々凡々トリガー

 

アステロイド

威力の高いシンプルな弾トリガー、攻撃手を一捻り!

 

バイパー

変幻自在!見よ無様な攻撃手の姿を!

 

ハウンド

どこまでも追尾し攻撃手を喰らう!

 

イーグレット

攻撃手の意識外からぶっ殺せ!

 

シールド

諸悪の根源。

 

レイガスト

レイガスト、お前は存在してはいけないトリガーだ。

 

 

とかなり私情の入った説明だ。

 

俺はその中からとりあえず孤月を選び申請を送る。

こうやって俺がトリガーの性質を覚えていく間にアクアもポイントが貯まるだろう。

 

 

X戦目

結果から言うと孤月対孤月の試合は一方的に負けた。使ってて分かった事(使う前から予想はしていた事)は工夫がし辛く個人の力の差がモロに出てしまうということだ。

 

相手の攻撃を受けたり逸らしたりするには便利だが、それ以外では俺は扱えそうにない。これは単純に技量だけを求められており剣術に覚えがあるものが使えば相当強いだろうが俺には無理だ。

 

孤月を片手で振るおうとしたが終始孤月に振り回されてしまった。両手で持っても少し振り回されてしまうのだが。

 

そして再びポイント移動が渋くなってきたので次はレイガストに変える。

存在してはいけないトリガーと書いてあったがどれほどの性能なのか試させてもらおう。

 

 

 

 

1戦目

自身の右手に得物をだす。

レイガストは重い剣という印象を受ける。形状もやや特殊だ。全く違うが思い当たる中で最も近い武器は薙刀だ。

 

アクアが迷う事なく突進をして来る。

それに対応するためこちらもレイガストを構え剣戟を交えようとする。

 

「重っ!!!」

 

『戦闘体活動限界、ベイルアウト』

 

レイガストをまともに振るう事なく倒された。

 

その後も2、3試合したが、孤月よりも重い癖に威力も低く何のために存在しているのか分からないトリガーだ。

存在価値がないという意味では存在してはいけないトリガーというキヨシさんの説明は合っている。

 

 

 

 

 

 

X戦目

このトリガーの特徴もだいぶ分かってきた。

レイガストは形を変形させシールドモードにすることができる。そうするとかなり耐久力が上がり、いくら攻撃を受け続けても壊れなかった。

なるほどこれは使われたら厄介だ。存在してはいけないとはこの事か。

 

他にもいろんな形に変形でき、盾をV字にして刺股のように拘束したりできた。

しかし盾で攻撃を受け続けているとアクアも攻めあぐねてイライラし出し攻撃が緩慢になってきている。

なかなか愉快な光景だ。

 

しかし盾だけで戦っていると、どこぞの英霊だの勇者だの某国のキャプテンだのを連想してしまう。

もしかしたらやれるか?

 

「せーのっ!」

 

一度距離をとって盾を薄い円形へと変形させそれをフリスビーを投げる感覚で勢いよく投げる。

アクアも咄嗟に反応し孤月で軌道を逸らすが、完全には流しきれず軌道がずれて右肩をスパッと切り裂き、腕が落ちる。

 

「おお、すげー本当にキャプテン・○メリカみてえだ」

 

 

 

Y戦目

 

先程の試合でも分かったが普段はライオットシールドのような見た目の大楯だが、シールドの大きさをある程度変えられるようだ。

俺はレイガストを円形のスモールシールドに変形させアクアの振り下ろした一撃を盾で受け弾き返す。

 

「ほい、パリィ」

 

「!!?」

 

アクアの大ぶりの一撃を弾くとアクアはのけぞり大きな隙をみせる。

それを見ると体が勝手に動き出しアクアの顔を勢いよく殴りつける。

 

「……あんた、いくらトリオン体だからってよくも女子にそんなことするわね。最低だわ……」

 

「すまん、お前ののけぞりを見たらつい致命の一撃をやりたくなった」

 

その後カズマはレイガストで攻撃を受け流すことにハマり一戦一戦がかなり長引いた。

アクアの攻撃をひたすら受け、隙があればダメージは与えられないがシールドバッシュをしたり、殴ったりとひたすらアクアにストレスを与え続けた。

 

そしてもうだいぶ俺の鬱憤が晴れる頃には、時間もだいぶ遅くなってきており俺たちは帰路に着いた。

 

 

 

 

 

◆◆◆

翌日

 

「……なんかわたし養殖される魚の気分なんですけど」

 

「バカアのくせに的確なこと言うじゃん。養殖か、確かにこの手法使えば誰だってB級に上がれるからな」

 

自分もそれやればよかったなと思ったが、すぐにそれを行うには付き合ってくれる友人が必要という事実に気付き、やっぱ自力でポイントを稼いだほうがいいという結論に達した。

 

そしてあの日からずっとカズマはアクアの養殖を続けていた。

 

一度銃手で戦ったら間違えて倒してしまい、30回戦してようやくアクアが得られるでおろうポイントを奪ってしまったので、仕方なくアステロイドでポイントを贈与してやった。

 

 

 

夏休みが始まる手前にアクアの養殖を終え、アクアは晴れてB級へと昇格した。

そして本日8月1日、カズマもB級へと昇格をする事となる。

 

 

ちなみに古寺は俺が出禁になった次の週にB級昇格を果たしていた。

他にも日浦ちゃんもその1週間後にB級へと昇格し那須隊へと加入したそうだ。B級昇格があまりにも嬉しすぎて大泣きしたらしい。

来馬先輩も俺やアクアよりだいぶ先にB級へと昇格していたようだ。

 

 

カズマ

アステロイド『4009』




まだ読者の妄想は待ってますので活動報告に皆様の妄想を吐き散らしてください。一つ既に来ていて読んだんですが凄かったです。流石に全部が全部使えるわけではないですが一部使いたいって物はありましたね。
キャプテン・○メリカをハメリカって呼んだ奴はきっと青藍島出身


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閑話 佐藤和真に対するボーダー隊員の反応集 ◆

俺ガイルの話したら一気にコメントがきたハメねえ。





スレッド:最近噂のC級隊員について

 

1:名無しのボーダー隊員

最近カズマとかいうC級隊員が噂になっとるらしいんだが詳しい人教えとくれ

 

4:名無しのボーダー隊員

強い雑魚

 

13:名無しのボーダー隊員

ダクソにいる奴隷

 

14:名無しのボーダー隊員

ブナハブナ

 

20:名無しのボーダー隊員

硬いだけで経験値を落とさないメタルスライム

 

26:名無しのボーダー隊員

C級にいてはいけない存在

 

29:名無しのボーダー隊員

>>13

>>14

>>20

>>26

何となく分かった。あれやろデバフ撒き散らすクソキャラみたいなやつってとこ。

ボーダー界のブナハブナが話題になるなんてC級隊員の質も落ちたんちゃう?

 

31:名無しのボーダー隊員

>>29

それはあいつと戦ったことのないやつのセリフ。戦えばどれだけ嫌らしいかが分かる。

てかあいつはよB級上がれ、もうあいつの顔見たくないんじゃ!

  

58:名無しのボーダー隊員

ワイあいつと中学のとき同じクラスだったんやがランク戦やる時の顔がゲームやってるときのそれなんだよな。

 

66:名無しのボーダー隊員

>>58

ゲーム感覚で人殺してるんか?こっわサイコパスやろ!!

 

68:名無しのボーダー

てかカズマってやつそんなにすごいん?

ワイ同期やけど普通やったで?

 

70:名無しのボーダー隊員

>>68

KWSK

 

72:名無しのボーダー隊員

>>70

バムスターの撃破時間も下のほうやったし、モールモッド戦もワイらと同じで倒せんかったし何なら一番エグイ殺され方したで?

モールモッド腹下潜ったらアイアンメイデン

あのあとはワイも飯食えんかったわ

 

76:名無しのボーダー隊員

>>72

草www

どうやったらそうなるんですかね?

 

78:名無しのボーダー隊員

>>72

でもあいつ宇佐美さんと仮想訓練室でアステロイドでモールモッド倒しっとたで?

 

86:名無しのボーダー隊員

ID:Kodera

>>78

はっ?殺す

 

92:名無しのボーダー隊員

>>78

嘘乙

あいつはスコーピオン使っとった

 

102:名無しのボーダー隊員

あいつスコーピオン→アステロイドになったで

 

107:名無しのボーダー隊員

>>102

はっ?えっ……どいうこと?

数日でトリガー変えたってこと?俺ならポイント勿体無くてできねえわ

 

111:名無しのボーダー隊員

あいつ射手になってから化けすぎやろ!?

どんだけのC級があいつの餌食になったと思っとる!!

 

118:名無しのボーダー隊員

>>111

あいつヤベーよな、低速弾と高速弾のコンボとか、それ乗り超えたと思ったら置弾で殺されるわ、弾幕避けたと思ったら置弾で狩られるわ。

やること成すこと全部搦め手やんけ!!(血涙)

 

127:名無しのボーダー隊員

>>118

確かにあいつの置弾はC級じゃ常軌を逸してる

やってくる事が分かっててもいつ来るか分からんくて対応できへんもん

 

128:名無しのボーダー隊員

なんか戦うたびに新しい技編み出してない?

最初は普通に撃ってたのに気づいたら弾の調整やり出して低速弾で擬似シールドみたいなことしたり、高速弾でこっちの機動力殺しにきたり、置弾やったり

 

150:名無しのボーダー隊員

>>128

C級でもう置弾も弾の調整も出来るんか。ワイB級やけど未だに出来へんで

 

152:名無しのボーダー隊員

>>150

正隊員さん!?

なんでB級がC級に劣ってるんですかね……

 

162:名無しのボーダー隊員

>>152

仕方ないんよ。B級になってからは相手と自分の複数のトリガーとかに意識回さなあかんのや

それで弾の調整まで意識しろなんて言われたら無理やで!!

 

129:名無しのボーダー隊員

>>128

その中でなにが1番凶悪かって言うと置弾なんだよなぁ

あれ使うようになってからあからさまに格上喰らうようになった印象やわ

 

137:名無しのボーダー隊員

あいつ水上と意気投合しそう

 

147:名無しのボーダー隊員

>>137

あの陰湿さやからな

簡単に予想出来てしまうのが恐ろしい……

 

156:名無しのボーダー

てかあいつ練習量も馬鹿みたいに多いで

この前仮想訓練室で5時間ぶっ続けで射手の練習してたらしい。搦め手だけで厄介なのに技量まで上げられたら成す術無しやわ。てかもう3000P後半の奴らしか勝てんやろ。

 

157:名無しのボーダー隊員

>>156

もう勝てないぞ♡(3800P)

 

165:名無しのボーダー隊員

>>157

ええっ……(困惑)

 

168:名無しのボーダー隊員

>>165

最初は入隊したての雑魚やと思って初心者狩りして楽にポイント稼ごうとおもったんや。でも違った。すでにモールモッド倒したあとやったわ。

 

173:名無しのボーダー隊員

>>168

笑えないけど草。立ち位置が完全にサイコロステーキ先輩のそれなんだよなぁ

 

182:名無しのボーダー隊員

>>173

なったで

 

190:名無しのボーダー隊員

えっ?

 

192:名無しのボーダー隊員

ジャンプして視界の外から襲い掛かろうとしたら足元に低速弾のシールド張られてサイコロステーキ先輩になったで

 

201:名無しのボーダー隊員

>>192

こっわ!!あいつの前で二度とジャンプできないやんけ

 

206:名無しのボーダー隊員

てかなんであいつそんなに強いのになんでまだC級やねん!C級時の那須さん位強いやろ!

那須さん数日でB級昇格やで!?

 

213:名無しのボーダー隊員

>>206

流石に那須さんほどではないだろうけどあの実力にしては遅すぎだよな

もう新しいC級隊員入ってくるで?

 

222:名無しのボーダー隊員

>>213

そのことに関してカズマが狙撃手をやっていた件について

 

229:名無しのボーダー隊員

>>222

ファッ!?

 

237:名無しのボーダー隊員

>>222

はっ?

 

245:名無しのボーダー隊員

一体どうして……

 

248:名無しのボーダー隊員

>>245

なんでも古寺と戦ったのが原因らしい

 

253:名無しのボーダー隊員

>>248

あっ(察し)

 

255:名無しのボーダー隊員

これだからスナイパーは……壊れるなぁ

 

257:名無しのボーダー隊員

運営はいい加減スナイパーナーフしろ!

 

263:名無しのボーダー隊員

運営が東さんに心臓を握られている説

 

270:名無しのボーダー隊員

>>263

東さんって単語だけで説得力出るのほんとズルいwww

 

273:名無しのボーダー隊員

それであいつ古寺にやられたことほかの奴にやってるらしい

 

274:名無しのボーダー隊員

>>273

うっわ

 

277:名無しのボーダー隊員

>>273

加古一ドン引きしたわ

 

279:名無しのボーダー隊員

>>277

加古一ってなんやねん炒飯食わすぞ!

 

285:名無しのボーダー隊員

>>273

親に自分がされて嫌なことは他人にやってはいけないと教わらなかった男

 

295:名無しのボーダー隊員

>>273

鬼畜やん

 

296:名無しのボーダー隊員

鬼畜のカズマやん

 

298:名無しのボーダー隊員

鬼畜のカズマww

 

 

306:名無しのボーダー隊員

あいつスナイパーの合同訓練に参加してるんだけどなんか日に日に隠れるの上手くなっていくんですけど

 

312:名無しのボーダー隊員

>>306

あいつ狙撃手でも頭角現してんのかよ……

 

322:名無しのボーダー隊員

>>306

ヤバwww

 

324:名無しのボーダー隊員

>>306

あいつ隠れることに快感でも覚えたのか最終的にイーグレットすら持たずに隠れてたぞ。挙句の果てにスナイパーが確認しそうな場所にイーグレット立てかけてやがったからな

 

328:名無しのボーダー隊員

>>324

陰湿すぎる

 

336:名無しのボーダー隊員

>>324

もはや変態だろ

 

346:名無しのボーダー隊員

ちな古寺泣かせて奈良坂に出禁喰らった

 

354:名無しのボーダー隊員

>>346

いや草

 

364:名無しのボーダー隊員

出禁喰らう前、最後の合同訓練でカズマに当てた人

東さん、当真、奈良坂、木崎さん、佐鳥の五名やで

 

371:名無しのボーダー隊員

>>364

化け物しかおらんやんけ!?カズマさんマジで何者なんだ。

 

378:名無しのボーダー隊員

こいつがB級ランク戦するって考えると嫌になってくる。

 

385:名無しのボーダー隊員

トラッパーとかやりだしたらえぐそう

 

395:名無しのボーダー

>>385

トリオン3やから無理やろ

それでも手札が増える分何して来るか予想つかんわ。流石にトリオン消費の激しいやつはつけられないだろうけど

 

405:名無しのボーダー隊員隊員

>>395

入隊できる最低値やん。あともう一つ下ならワイらが地獄見んで済んだのにな

 

 

440:名無しのボーダー隊員

良いニュースと悪いニュどっちから聞きたい?

 

447:名無しのボーダー隊員

>>440

なんや……どうせカズマ関連やろ

 

450:名無しのボーダー隊員

>>440

良い方から聞かせて

 

459:名無しのボーダー隊員

>>450

狙撃手がC級ランク戦から除外されました

 

466:名無しのボーダー隊員

>>459

マジ!?嘘やないよな?

 

468:名無しのボーダー隊員

>>466

ほんまやぞ。ちな悪いニュースもそれやねん(狙撃手たち向け)

 

471:名無しのボーダー隊員

ざまーみろクソ砂!!!!!

 

479:名無しのボーダー隊員

>>471

うわ、スナイパーキラーやん関わらんとこ……

 

480:名無しのボーダー隊員

というかなんで廃止されたん?そんな傾向一切なかったやん。流石にあの上層部が即会心して行動したとは思えんのやけど

 

484:名無しのボーダー隊員

>>480

カズマがクソ新戦法編み出して、それを他の狙撃手に教えてクソ環境になった。その映像を署名付きの嘆願書と共に上層部に提出した

 

490:名無しのボーダー隊員

>>484

うっわ、どんな風になったか聞きたくねえ

 

498:名無しのボーダー隊員

>>490

ワイも言いたくない。ただあれは地獄だった

 

502:名無しのボーダー隊員

つーかランク戦に狙撃手出禁ってことは……

 

512:名無しのボーダー隊員

狙撃手は合同訓練で上位15%に入るしかないですねえ!!!!!

 

520:名無しのボーダー隊員

>>512

ザマアアアアア!!!!

 

523:名無しのボーダー隊員

>>512

それはメシウマですわ

 

525:名無しのボーダー隊員

いやでもこれ通ったから良いものの、現状維持だった場合やばかったのでは?

 

534:名無しのボーダー隊員

>>525

確かに。一生スナイパーに怯える生活が待っとるやん!!

 

541:名無しのボーダー隊員

>>525

ゾッっとしたわ

 

545:名無しのボーダー隊員

というかこれもカズマのせいかよ!!あいつさえいなかったらもっとボーダーが平和やったろうが!!

 

550:名無しのボーダー隊員

>>545

でもあいつ入らなかったらこの狙撃手出禁の結果はないで?

 

554:名無しのボーダー隊員

>>550

度し難い……

 

564:名無しのボーダー隊員

おい!あいつ今度はガンナーやりだしたぞ!!

 

566:名無しのボーダー隊員

もういい加減にして……あいつがコロコロトリガー変えるせいで1000P付近の連中が、全てあいつなんじゃないかって思えてきて申請受けるの戸惑うんだが……

 

568:名無しのボーダー隊員

ワイも

 

573:名無しのボーダー隊員

もうカズマ被害者の会作ろうぜ……

 

 

 

 

580:名無しのボーダー隊員

なんかあいつ青髪の可愛い子いじめてるんやが

ひたすら女の子がミンチにされてて可哀想やわ。てかあの子結構好み♡

 

581:名無しのボーダー隊員

>>580

あいつアクシズ教ぞ♤

 

588:名無しのボーダー隊員

>>581

ヒソカ構文にするのやめてもろて

というかアクシズ教徒かよ!やっぱさっきのの無しで、いいぞカズマ

もっとやれ!!

 

593:名無しのボーダー隊員

あの戦い見とったけどドン引きやったわ。鬼畜のカズマは人の心がわからんとちゃう?サイコパスマやろこんなん

 

594:名無しのボーダー隊員

>>593

犬飼ってないさんといい勝負しそう

 

603:名無しのボーダー隊員

たしかあの女の子入隊時バムスター10秒台出してたしモールモッドも倒した実力者の筈なんやけどな

まあそのあとしばらく見なかったからサボって腕鈍ってたかもしれんけど。ちなトリオン10らしいで

 

612:名無しのボーダー隊員

10!?バケモノやん

しっかしアクシズ教ってのが悔やまれてならんわ

どんなに凄いやつでも「アクシズ教』この一言で全てが台無しになる。A級の人がアクシズ教だったらって想像してみ?

エグイで

 

622:名無しのボーダー隊員

アクシズ教徒、二宮匡貴

 

627:名無しのボーダー隊員

二宮さんをいじるのは反則や

強すぎるwwwwwwwww

 

628:名無しのボーダー隊員

太刀川さんは……なんか違和感ないな。というか隠れ信者じゃね?

 

636:名無しのボーダー隊員

>>628

A級隊員への厚い風評被害はやめてもらおう

 

642:名無しのボーダー隊員

アクシズ教徒、太刀川慶

 

647:名無しのボーダー隊員

>>642

太刀川さんの学業成績が悪い理由がここで証明されたな

 

648:名無しのボーダー隊員

>>647

太刀川さんの性格とあの宗教の信条一部が一致するのほんま草

 

649:名無しのボーダー隊員

こんどはそのアクシズ教のやつにアステロイド以外のトリガーに変えてポイント渡してB級にさせやがったで。ちなみにその数日後カズマもB級に上がったで。

 

656:名無しのボーダー隊員

>>649

ファッ!?

 

661:名無しのボーダー隊員

>>649

不正やんけ

 

666:名無しのボーダー隊員

>>649

その手があったか!みんなでそれやってB級上ろうぜ!

 

672:名無しのボーダー隊員

>>666

絶対誰か裏切る定期

カイジでもあったやろそんな展開。騙されへんで!

 

677:名無しのボーダー隊員

まあダチとじゃなきゃ無理やろな

 

682:名無しのボーダー隊員

悲報、ボッチのワイ一生C級確定

 

689:名無しのボーダー隊員

カズマも古寺も菩薩みたいなガンナーもB級に上がったことやししばらくは平和やわ

 

693:名無しのボーダー隊員

日浦ちゃんを忘れるなやボケ!!!!地下強制労働施設送ったろか!!!!

 

800:名無しのボーダー隊員

そーだそーだ、日浦ちゃんを忘れるな!

 

695:名無しのボーダー隊員

>>693

>>800

うわ、出たよ那須隊親衛隊

 

696:名無しのボーダー隊員

こいつらマジでボーダー界のSSやんけ。この前も知らんおじさんが連れてかれて「マインシューター」って叫んだあとベイルアウトさせられたからな。

 

700:名無しのボーダー隊員

>>696

我が射手は草。そりゃ那須派に殺されますわ。とりまハイルシューターとでも言っておけ

 

705:名無しのボーダー隊員

>>696

嫌な事件だったね……

あいつら狂ってるわ

 

810:名無しのボーダー隊員

狂っている?狂っているだと?

言うのが半年は遅いぞ!我々をなんだと思っているのだね?この三門市に1000人はいる那須親衛隊だぞ!私たちは日浦隊員が入隊する頃から見守っていた!那須隊長が実験としてボーダーに入った時から見守っていた!

 

820:名無しのボーダー隊員

>>810

やっぱ狂っとるわ。というかその構文使いたいだけやろ!

中途半端に使うなや!

 

823:名無しのボーダー隊員

>>820

おいバカやめろ!下手にこいつらに関わるなお前もベイルアウトさせられるぞ!

 

833:名無しのボーダー隊員

>>810

カッケー、隊長!一生ついていきます!

 

835:名無しのボーダー隊員

>>810

隊長!隊長殿!

 

839:名無しのボーダー隊員

>>833

>>835

日浦隊員の昇格に対し祝砲だ

突撃銃を持て

 

862:名無しのボーダー隊員

>>839

日浦隊員に、捧げ筒!

 

 

 

30分後

 

869:名無しのボーダー隊員

あいつら消えたか?

 

872:名無しのボーダー隊員

>>869

まだ油断するなしばらく様子見しよう!

 

882:名無しのボーダー隊員

>>872

行ったっぽいな……

 

884:名無しのボーダー隊員

あいつらアクシズ教徒の次に最悪やわ

ただのアイドルファンクラブだったらええのに過激派やもん

 

715:名無しのボーダー隊員

あいつらいくら銃の形ある程度自由に変えることができるからって見た目MP40はやりすぎやろ!あいつら黒い隊服でまとめてるからナチ感がエグイねん。迂闊に市民に見られたらやばいでホンマ

 

720:名無しのボーダー隊員

あいつらマジでボーダーから追い出されてくんねぇかな。てかネツキさんなす親衛隊の件で胃痛めてそう

 

724:名無しのボーダー隊員

>>720

このまえネツキさんが大量に胃薬飲んでるの見たで

 

734:名無しのボーダー隊員

>>724

マジでこの組織ネツキさんのおかげでクリーンなイメージ保ててるんだからな!?少しはネツキさんの気持ち考えたげて

 

737:名無しのボーダー隊員

ネツキさんのおかげで正義の味方とか特撮ヒーローみたいな扱い受け取るけどワイら正しい表現したら少年兵やからな?

 

743:名無しのボーダー隊員

>>737

ネツキさん何者なんだ……こんな戦争に使いやすいもんなんで国が介入してこなかったのが甚だ疑問だったんやがようやく謎が解けたわ

 

751:名無しのボーダー隊員

>>743

ほーんなるほどね、完全に理解したわ(理解してない)

 

761:名無しのボーダー隊員

まあこれでC級ランク戦も落ち着くしワイもぼちぼちポイント集めさせてもらうわ。また新人どもからポイント吸ったるで!

 

764:名無しのボーダー隊員

流石に次もカズマみてぇなやべー奴いねーよな?

 

774:名無しのボーダー隊員

流石にないやろ。ってかあいつは努力してあそこまで上がった感じだしもし入ってきても1ヶ月は安泰やろ

 

 

 

 

なお来期には村上鋼や木虎藍が来る模様。

 

 

 

◆◆◆

 

 

【挿絵表示】

 

 

【おまけ】

佐藤和真トリガー別パラメーター

 

スコーピオン

トリオン3

攻撃3→4

防御・援護3→4

機動6

技術3

射程1

指揮4

特殊戦術3

 

トータル28

 

【評価】

初期の評価ではあるが、剣の振り方がなっていない。機転は効くようだが応用は土台がなくては意味がない。しかしアクアとの模擬戦により多少なりとも心得を掴んだか。さらに技量が上がればその頭を使って柔軟な攻撃ができるようになるだろう。

今後の成長に期待。

(矢印は初期のデータとアクアとの対戦後の推移である)

 

 

アステロイド

トリオン3

攻撃5

防御・援護3

機動5

技術6

射程4

指揮4

特殊戦術5

 

トータル35

 

【評価】

彼の機転を活かすには相性の良いトリガーだ。練習にも励んでいるようでなかなかに技術も高い。これならB級でも通用するであろう。

何故まだC級なんだい?

 

 

イーグレット

トリオン3

攻撃6

防御・援護2

機動4

技術4

射程7

指揮4

特殊戦術3

 

トータル33

 

【評価】

隠れることに専念すれば見つけられるものは少ない。しかし合同訓練では狙撃もしようとすればその隠密性は極端に低下する。攻撃と隠密、その両立が課題である。

 

 

ハウンド(拳)

 

トリオン3

攻撃5

防御・援護3

機動5

技術6

射程4

指揮4

特殊戦術2

 

トータル32

 

【評価】

その狂った連射性能はどこから来るものなのか。このトリガーも彼の機転と相性がいいようだ。B級に上がったらどのようなトリガー構成をするのか楽しみである。

 

 

レイガスト

 

トリオン3

攻撃1

防御・援護6

機動3

技術4

射程1

指揮4

特殊戦術3

 

トータル25

 

【評価】

何故このトリガーを使ったのか理解に苦しむ。防御は他のトリガー時と比べ格段に上だ。実際の戦闘でもシールドの扱いは良かったと言える。しかし攻撃をしなくては勝てるものも勝てない。使うにしてもB級に上がってからでも良かったのでは?

 

 

【総評】

部隊を指揮する素質を伺えるもののまだ個人戦しかやっておらず防衛任務での他正隊員との連携やB級ランク戦での経験でどう伸びるか期待である。

彼は弾トリガーの扱いが得意なようだが、B級では皆シールドが使える。それをどう乗り越えるか楽しみだ。

 




最後に一応C級隊員時のパラメーター載せとこうと思いました。
シールドないのに防御援護3もあって良いのかな?1とか2でよかったかも?

よろしければ感想、評価等願いします。私めのやる気に繋がります。


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B級隊員編
第10話 このB級隊員に初陣を!


夏休み

みんなが家族と出かけたり、友人とかけがえのない日々を過ごしたりする中カズマはボーダーライフを満喫していた。正規のトリガーを与えられ手札の増えたカズマは早速トリガーのビルドを組みウキウキでランク戦室へと向かった。

 

 

現在のトリガー構成

メイン

・アステロイド

・シールド

 

サブ

・アステロイド

・ハウンド

・シールド

 

 

 

アステロイド『4003』

孤月『4506』

 

 

2人はいつもの市街地マップへと転送された。

 

「アステロイド!」

 

試合開始と同時に両手にトリオンキューブを出現させそれぞれ3×3×3の27発に分割。合計54発ものアステロイドが相手に一斉に襲い掛かる。

それを相手はシールドを展開し防ぐものの、フルアタックによる集中砲火でシールドにヒビが入り始めた。

 

孤月使いはすぐその場から跳んで逃れようとするも次の瞬間シールドが割られ脇腹、左太腿に被弾をする。

 

その後カズマは適切な距離をとりながらアステロイドのフルアタックを続ける。

しかし、両手の弾を同時に調整をするというのは思いのほか難しく、カズマの持ち味であった対応力が失われており、バカの一つ覚えのようにアステロイドによるフルアタックを行う。しかしそれが火力面では最適解といえよう。

しかし出来る事が一気に増えた弊害か1つ1つの動きが大雑把になっている。

 

 

(選択肢がなかったからこそあそこまで柔軟に動けてたってことなのか? とは言えこれは戦って慣れていくしかない……それにしても相手の動きが妙に気になる)

 

 

相手の視線や仕草が、何かを狙った動きをしている気がしてならない。メテオラか、それとも違う何かなのか。

一度射手との戦闘でメテオラを使われて負けたことがあるが、あれはかなり強力だ。当てずとも相手の足下に撃つだけで爆風で相手を削れるのだ。シールドだけでは防御しきれない。

とりあえす距離をとって安全を図ろう。

 

途中からはアステロイドとハウンドに切り替えて中距離からの攻撃を継続した。

両手のアステロイドを当てるには技量が足りず命中率が著しく下がっていた。

その点ハウンドは弾の分割をして撃つだけであとは勝手に追尾してくれるためもう片方のアステロイドに集中でき、弾の調整をするほどの余裕も生まれた。

 

 

「アステロイド! ハウンド!」

 

再びフルアタックを再開する。

相手はやはり行動が消極的でシールドで防いだり障害物を使って射線を切ってくるばかりだ。このままではこっちのトリオンが先に切れてしまう。

試してみるか。

 

「ハウンド!……からのアステロイド!」

 

アステロイドを放つと同時に、4×4×4、計64発のハウンドを上に撃ち上げる。すると空高く飛んでいったハウンドが急に角度を変え、放物線を描き敵に降り注ぐ。

目の前のアステロイドに集中したせいか相手がハウンドに気付くのが遅かった。シールドを展開しようとするもハウンドはシールドをすり抜け相手に深手を負わせる。

相手は右足の膝から下を失い、その他にも多くの被弾を受けた。高速弾数発で倒せるような状態である。

 

チャンスとばかりに自分も道路を挟んで一直線上にある家屋の屋根に飛び乗り決めに掛かる。

 

 

「!!……旋空孤月!」

 

「なっ!?」

 

相手がそれを待っていたとでもいうような顔をして孤月を振るう。するとどうだ、弧月の刃が伸びてこちらに向かってくるではないか。

 

驚愕の顔を浮かべるも咄嗟にシールド2枚を斬撃が伸びてくる先、腹部に展開する。しかし伸びた孤月はシールドを容易く破ってはカズマの胴体を真っ二つに斬り裂いた。

 

『戦闘体活動限界、ベイルアウト』

 

 

「くっそーー!負けた!!」

 

待機部屋のベットに転送されては悔しそうに体をよじる。しかしその顔は笑顔に満ちていた。

敗北こそしたものの、この戦いで多くの課題を見つけた。今はそれを実践したい気持ちでいっぱいであった。

 

その後もランク戦を続けては勝ったり負けたり負けたりを繰り返しながら試行錯誤を繰り返し最終的に以下のトリガー構成に落ち着いた。

 

アステロイドスコーピオン
ハウンドアステロイド(拳)
シールドハウンド(拳)
シールド

 

メイン

・アステロイド

・ハウンド

・シールド

 

サブ

・スコーピオン

・アステロイド(拳)

・ハウンド(拳)

・シールド

 

 

弾トリガーメインで戦っていたものの、やはりシールドが厄介で決定打を与えにくく、倒すのに時間がかかった。その間に孤月使いには出し得モーションのように旋空を使われ続け1発KO。

スコーピオン使いにはシールドを二枚張られ攻撃手の間合いにまで詰められてシールドごと叩き斬られた。

 

他にもシールドによって低速弾と高速弾のコンボもそれ単体のみだとだいぶ決まらなくなっており、行動の合間合間に、意表を突いたような使い方でなくては刺さることはなかった。そのため相手のシールドを突破し決定打を与えるべくスコーピオンを採用した。

 

又、両手にキューブを持って戦うスタイルはやはり安定しなかった為、引き金を引くだけで良い銃手トリガーを採用した。いずれはキューブによるフルアタックをできるようになりたい所だ。

そしてアステロイド+アステロイド(拳)によるフルアタックかハウンド(拳)を合わせた多角的な攻撃で相手を削りきる。もしくは削り切れずとも段々と距離を詰めてスコーピオンでトドメを刺すスタイルを取っている。

 

ハウンドであれば適当に撃っても当たるのでまだ技量の足りない俺には救いだ。

 

そして最終的な感想だがやはりシールドは弾トリガーの天敵だ。簡単に防がれてその間に距離を詰めるなり旋空を撃つなりしてやられてしまう。

対策としてハウンド(拳)とアステロイドと合わせて使う事で相手のシールドを広範囲に展開させる事で薄くなったシールドにアステロイド+アステロイド(拳)による集中砲火を浴びせ倒したり、スコーピオンでシールドごと割って相手を倒している。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

1戦目

 

アステロイド『4308』

 

アステロイド(突)『4658』

 

試合開始と共に大量に分割したアステロイドをその場に置きながら、下がって相手の射線を切り置弾で相手の追撃を封じる。

その後もハンドガンやアステロイドを駆使して応戦するもシールドで防がれ相手の反撃でこちらがダメージを負ってしまう。

 

まだシールドを使い慣れていないカズマは相手が防げるような攻撃でも防げずダメージが段々と蓄積していく。また、ハンドガンの狂った連射性能からくる火力もアサルトライフルの火力には負けてしまう。

 

やはりアサルトライフル相手では距離を取るのは愚策のようだ。

ならば来馬先輩と戦った時と同じようにすればいい。

 

カズマは上空に何発も発砲し、ハンドガンのレバーをアステロイドに切り替え射撃。

当然のようにシールドで防がれるが、上空から降り注ぐハウンドが相手に喰らいつく。

 

「くっ!!」

 

姿勢を崩した相手にアステロイドとハウンド(拳)のフルアタックが襲い掛かるもそれを2枚の固定シールドでガードする。

固定シールドはその場から動かせない代わりに防御力がかなり上がる。いくらハウンドによる多角的な攻撃でシールドの面積が広くなっているからといって固定シールドの硬さは伊達ではない。

 

このまま撃ち続ければシールドを削り切る前にこちらが弾切れになってしまう。

そうすればアサルトライフルで一気呵成に反撃に出られ負けてしまうだろう。相手もそういう勝ち筋を描いていた。

 

しかし相手に反撃の機会は訪れない。

 

相手は弾を防ぎ反撃をすることで頭がいっぱいで気付いていないが、カズマは既に攻撃手の間合いに入っている。手に持つハンドガンを手放し、その手に新たにスコーピオンが握られる。

それにようやく気付いた相手も咄嗟にアサルトライフルを構え出すもその前にカズマは相手の首を断ち切った。

 

引き金が引かれ撃ち出された弾丸は虚しく空を飛ぶ。

 

『トリオン伝達系遮断、ベイルアウト』

 

 

2試合目

アステロイド『4350』

孤月『4980』

 

2名のB級隊員が市街地へと転送される。

 

初動、相手の孤月使いが先に動く。

 

「旋空孤月!!」

 

「ふざけんな……よっ!」

 

後方へと飛んでなんとか避ける。

そしてお返しとばかりにハンドガンを抜き即座に8発もの弾丸が発射される。

撃ち出された弾丸は広がるように放物線上に飛んでいき相手に向かってやがては収束していく。

 

相手は球体状にシールドを展開し、ハウンドはそれにぶつかっては弾けていった。

 

「っ!!」

 

しかし目の前には既にカズマが接近していた。スコーピオンを生やした左手でシールドを叩き割る。

意表を突きはしたが相手は孤月で難なくそれを受ける。

 

「ハウンド!」

 

カズマの背後にあるトリオンキューブが光り山なりの弾道を描く。

初動、ハンドガンを撃って接近する前、キューブをを自身と相手の一直線上に置き、自身の体で隠していたのだ。

 

一枚のシールドを二つに分割し両側面からやってくるハウンドをなんとか防ぐ。

 

「この!当たれ!当たれ!当たれ!!」

 

「くっ!この……くそ!」

 

それをチャンスと見るやスコーピオンをがむしゃらに振り強引な攻めを続ける。それに相手は対応しきれず肩や腕に傷を増やしていく。

 

ハウンドが降り注いでいる間は優勢であったものの、それが止むと同時に形勢が一気に傾いた。

 

カズマは旋空を撃たれないよう至近距離での戦闘を展開するが、相手はそのラッシュを一つ一つ孤月でしっかりと捌いている。そして攻撃が止んだと同時に返す刀でカズマの左肩から先を切り落とした。

トリオンが噴き出した蒸気のように漏れ出す。

 

左肩を押さえながらバックステップで後退する。

 

「アステロイド!」

 

その間にも旋空を撃たれないようアステロイドによる牽制射撃を行うが、相手はシールドを展開しながらこちらへと距離を詰めてくる。

 

「せーい!!」

 

振り下ろされる孤月の軌道上に集中シールドを展開。攻撃をなんとか防ぐも現在はアステロイドによる牽制が止んでしまっている。

旋空が再び飛んでくる。

 

「旋空……!!?」

 

しかしそこで旋空を放つのを躊躇した。なぜなら眼下の敵、カズマが勝利を確信した顔をしているのだ。なにかミスをしたのか。そう思考を巡らせていると戸惑った孤月使いの背後からハウンドが襲い掛かった。

 

『戦闘体活動限界、ベイルアウト』

 

「なん……で……」

 

孤月使いはベイルアウトする寸前、ハウンドが飛んできた方向をみる。それを見てなるほどなと思い離脱する。

 

ハウンドが飛んできた方向は先程カズマと孤月使いが剣戟を交えていた場所。カズマはあの戦闘時保険にハウンドを置いていた。もっともそれはスコーピオンによるトドメを刺すための布石だったのだが。

 

◆◆◆

 

 

その後も何戦か繰り返したが、相手が防御に入ればスコーピオンでトドメを狙いに行った。

アクアのポイント稼ぎ(養殖)に付き合ったお陰でスコーピオンの扱いも初期と比べたらだいぶ良くなっているものの反撃を喰らうことがなかなかに多い。攻撃手には特に。

 

あいつらはシールドを展開して俺がトドメを刺しに行くと待ってましたとばかりに反撃してくる。シールド2枚で防御しながら壊される前に近づいてそしたらシールドを解いて相打ち覚悟で斬りかかって来たやつには恐怖を覚えた。

 

B級に上がった手前もうC級と戦うことも不可能になったため、純粋な刃トリガー同士での打ち合いをするのも不可能になってしまった。

かといって弾トリガーのような分かりやすい練習があるわけでもない。無論素振りなんてのはごめんだ。

こんな事ならスコーピオンでもC級ランク戦やっておけばよかったな。しかし嘆いていても過ぎたことは仕方がない。

 

「B級にも上がったし、久しぶりに太刀川隊の所に行くか。この前京介に頼ってくださいって言われたし刃トリガーの使い方教えてもらうか」

 

そう言ってカズマは太刀川隊のところへと向かった。

 

 




よろしければコメントや評価、お気に入り登録お願いします。
これ言っとくだけでコメントと評価つけてくれる人増える気がする。

いつか人気投票したいな。カズマはメインで成長描写とかバリバリしてるからブッチギリ一位になりそうな気はするけどオリキャラのキヨシさんがどれだけ人気になるか気になる。
雷蔵の対になるよう五十嵐って風を印象づける名前にしたし結構気に入っている。


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第11話 このB級隊員に太刀川隊を!

そろそろ投稿ペース週一に下げます。
Twitter見てると馬鹿みたいに時間って消えるね。


コンコンとノックを二度鳴らす。

 

「は〜い……おや、誰かね?」

 

太刀川隊の作戦室へ訪れるとポワポワとしたおっとり系女子が扉の前に現れる。

 

「えっと、先日B級に昇格した佐藤和真です。京介さんに用があって来たんですけどいますか?」

 

「お〜噂のカズマくんだね。いいよ上がって〜」

 

「お邪魔します」

 

「おー、射手の裏切り者。スナイパーに浮気した君が何しにきたんだ?」

 

「や、やめてくれよ出水。別に射手を止めたわけじゃないんだからさ!!」

 

「俺は悲しかったぜ、せっかく腕のある射手が入って来たと思ったらいきなり狙撃手なんかに移行して。しかも銃手にも手を出したって聞いた時には俺は利用するだけされて捨てられたのかと」

 

オヨヨと泣いたふりをしてはこちらにチラチラと視線を向けてくる。

 

「こんな風にしてますけど出水先輩はカズマ先輩が狙撃手に移行したって聞いた時本気で落ち込んでましたよ」

 

「ちょ!京介!!」

 

「しかも東さん達にベタ褒めされるもんだから『東さんにNTRされた』って言ってましたよ」

 

「いや、キモ」

 

「最後のは言ってねぇーよ!」

 

それ以外は言ったと暗に告げてしまう出水。

 

「すみません、嘘です。落ち込んでたのは本当ですけど。この前のA級ランク戦なんて心ここに在らずって感じで真っ先にベイルアウトしましたから」

 

「おまっ!それ言うなよ」

 

「ごめんな出水お前の気持ちわかってやれなくて……でも狙撃手にやられたから俺も憂さ晴らししたかったんだ……」

 

「お前まさか自分がやられた事他の隊員にやり返したのか?……って待てよ確かC級で狙撃手がランク戦禁止になってたのって」

 

「ん?ああ俺がやった。まあ俺が不幸な目に遭ったんだから他の奴も同等の不幸な目に遭わないと不公平だろ」

 

「「「クズですね(だな)(先輩)」」」

 

「はいはい、それより京介。この前なんでも教えてくれるって言ったろ?刃トリガーの戦い方教えてほしいんだよ」

 

「おいおい狙撃手の次は攻撃手にでもなろうってのか?完全万能手目指してんのか?」

 

カズマはこれまでの戦いで得た課題を説明する。

弾トリガーのみでは決定打に欠け、相手にプレッシャーを与えることもできないため不意打ちも使いにくいという事。そのためには少ないトリオンでも致命傷を与えられる攻撃手トリガーを使えるようになる必要がある事。

 

「なるほど。確かに先輩のそのトリオン量だと射撃トリガーのみだとシールドを突破できませんし攻撃手トリガーで戦う必要がでてきますね。それでどのトリガーを使うんですか?」

 

「それなんだけど孤月は純粋な技量勝負な気がするから色々応用の効くスコーピオンを使いたい」

 

「では俺もスコーピオンを使って教えますね……とは言っても孤月を使ってたんで本職には劣りますが」

 

「いや、この前出水と戦って強すぎる奴と戦うと返って得られるものがないって分かったからそれで頼む」

 

「カズマくーん?教えてやったのにその言い方はないんじゃないかな?……あとそれ終わったら久しぶりにアステロイド同士で勝負しようぜ」

 

「良いけどどうせまた全敗するじゃん俺」

 

「そりゃ俺A級だから。ダメージ与えられただけでも誇って良いんだぜ?」

 

「まあ射手としての戦闘は楽しいからいいけど……」

 

出水と俺ではトリオン量が別格の為威力が段違いなのだ。出水と戦っているとスペランカーでボスキャラと対人戦しているような気分になる。

 

 

◆◆◆

 

 

そうして俺は京介と模擬戦を行った。

まずは俺の現在の実力を見たいんだと。

 

「一通り戦ってみましたけど振り方というか体の動かし方とか色々含めて下手っすね先輩。アステロイド使ってた時の姿が嘘みたいですよ」

 

数十分ほど模擬戦を繰り返したが0勝30敗

京介には一撃も入らなかった。

 

「うるせえ!しょうがねぇだろ剣術なんて知らないし。そりゃ俺だって最初はスコーピオン使ってたよ!かっこよく剣片手にネイバー倒す妄想とかしたよ!!でも現実は無情だったんだよ」

 

「まあこのまま練習すればC級上位くらいの実力にはなると思いますよ」

 

「俺今B級なんだけど……」

 

「いえ、馬鹿にしてるわけではなくそれくらいの実力が付けばカズマ先輩の機転次第で格上も狩れるようになりますよ」

 

「本当か!?」

 

不貞腐れていたカズマはパァーっと顔を明るくする。

 

「はい……ですからまず素振りをやりましょう。体の動かし方もわかりますし」

 

「それだけは嫌だ!!!」

 

そう言ってブンブンと首を横に振る。よほど素振りが嫌らしい。射手時の基礎練習に打ち込む姿勢が嘘のようだ。

 

アステロイドの練習はゲーム感があって楽しかったが剣の素振りなど剣道の部活となんら変わらないではないかとカズマは思った。カズマはそういう体育系のことは大っ嫌いなのだ。

 

「ではこうしましょう。あと一戦俺と戦って1回でも傷を付けられたらスコーピオンの応用技を全部教えます。その代わり負けたら素振りをしてもらいます」

 

「……どうせ手足からスコーピオン生やすとかだろ?知ってるよ」

 

「いえそれ以外にもいっぱいありますよ」

 

「…………」

 

カズマは思案する。

確かにここまで応用力のあるスコーピオンだ。まだまだ知らないだけでとんでもない、それこそ初見殺しのような応用技がある可能性もあり得る。

 

「よし乗った、行くぞ!」

 

そう言って右手にスコーピオンを出して京介に襲い掛かる。

しかし、1撃目はスコーピオンで防がれ、さらに振るった2撃目を造作もなく避けられてしまう。

B級上がりたてのカズマとA級1位部隊に所属している京介との間には残酷なほど分厚い壁があったのだった。

 

技量の足りないカズマに最も勝算のあった初手の奇襲を失敗してしまい、その後はどんどんと京介に追い詰められていく。

そして京介の無慈悲な一撃がカズマのスコーピオンを叩き割った。

 

「これで5本目。また新しいスコーピオンを出しますか?そのトリオンの漏れではあと一本が限界でしょうけど」

 

奇襲が失敗してから俺は防戦一方となっている。なんとか京介の攻撃を防いでいるものの、受けきれずに肩や腕などからトリオンが漏れ続けていた。

 

苦し紛れに6本目のスコーピオンを右手に出すと同時に顔にヒビが入り出した。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

京介は割とカズマが善戦している事にすこし驚いている。攻撃の様子には無駄が多く、見るに耐えないが、受け流しの技術に関してはある程度形になっている。

これはアクアを養殖したお陰である。

 

カズマは京介との距離を詰め、左足を前に踏み出し、スコーピオンを持った右手を振るおうとする。これを叩き切ってトリオン切れで終わりかと京介は思う。

しかし最後の最後でなかなかの粘りを見せたカズマに対し、これなら応用技も素振りと並行してに教えてもいいかもしれないと思っていた。

 

そう考えるのも束の間、カズマの手からスコーピオンか消えた。

 

「!!」

 

(右手のスコーピオンが消えた。さっき踏み出した左足元の地面にヒビ……モールクローか!)

 

京介は即座に飛んで後ろに下がる。

それにワンテンポ遅れ先ほど京介がいた足元にスコーピオンが生えた。

 

「逃すか!!」

 

すかさず左足から生やしたスコーピオンを右手に出し京介に向けて投擲する。形状はククリナイフのような形をしており、投擲には適している。

 

京介は空中、体をそらす事はできない。

スコーピオンは回転しながら京介へと向かって飛んでいく。

 

「いい手ですが残念ながら技量不足です」

 

しかし京介はそれをいとも容易くスコーピオンで弾き、地面に足がつくと同時に地面を蹴ってはカズマの方へと飛んでいく。

 

カズマはそれに反応できずトリオン器官をスコーピオンで突き刺され敗北した。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

「1、2、3……」

 

右斜め上から、左斜め上から、右からの横振り、左からの横振り、真上からの振り下ろし、とスコーピオンを振りながら数を数えていく。

 

「8、9、10……」

 

「体の運びが甘いです。やり直し」

 

「そ、そんな!いいじゃん!!少しくらい」

 

「ダメです。それと少しどころかだいぶ甘いです。10時間それ続けますか?」

 

「真面目にやらせていただきます!!」

 

そう言ってカズマは素振りの練習に戻りまた1から数字を数え出す。

 

「腕だけじゃなく腰を使って、全身で振るように!」

 

「はいぃぃ!!!!」

 

これではただの部活動ではないかと泣きながらに素振りを続ける。

京介からは逃げられないと悟ったカズマは早く解放されるべく真面目に素振りを続けた。

 

その後カズマは2時間してようやく解放されたのであった。

 

ちなみに京介に

『十分と認めるまでうちに素振りをしに来てください。ああ、模擬戦で俺に一本でも取れたらやめてもいいですよ? 大丈夫です。今は夏休みなんですから、たしか先輩は最長で10時間もボーダーにいたそうじゃないですか?それくらい余裕ですよね?』

と言われた

 

それからしばらくカズマは毎日2時間は素振りと模擬戦をやらされた。

 

「はあ、ようやく素振りから解放された……射手の練習は何時間でもやってられるのに刃トリガーの練習は数分が数時間のように感じる!!」

 

疲れない分まだ部活よりマシだが

 

「よお、今日も終わったか。じゃあまた試合やろうぜ?」

 

 

そう、ここ数日は京介にしごかれたあとは出水にしごかれる。

とは言っても先ほどの地獄と比べれば天国以外の何物でもない。

そうして今日も今日とて出水に全敗した。

 

「いやー、やっぱカズマは射手やってナンボよ。最初にやった時と比べて明らかに強くなってるし日に日に上手くなってくからやってておもしれーよ。もうスコーピオンの練習なんて止めて射手極めようぜ」

 

たしかにC級での猛特訓もあったおかげで最初に戦った時よりも善戦できている。

前のように瞬殺されることもだいぶ無くなってきた。

 

「止めたいのは山々なんですけど京介の圧が怖いんだよ!俺より年上なんじゃないかってたまに思うぞ!?」

 

「まあカズマとやってる時の京介は楽しそうだしな……その時間を奪うのは先輩としてダメだよな」

 

「なに言ってんだ!先輩権限使って即刻止めさせろ!!」

 

「でもいいのか?今やめたらせっかくの応用技も教えてもらえないぞ?」

 

「ぐぐっ……」

 

そう、練習初日に心が折れ止めようとしたがスコーピオンの応用技を人質にされ逃げるに逃げれなくなってしまったのだ。

 

「おやカズマくん終わったのかね?」

 

国近に声をかけられ耳がぴくっと動く。そして満面の笑みを浮かべて振り向く。その仕草はさながら犬のようである。

 

「はい!終わりましたよ国近先輩!!」

 

「よし、じゃあ……」

 

国近とカズマは互いに目を合わせる。そして息が合ったようにこう叫ぶ。

 

「「ゲームの時間だ!!」」

 

そう、出水との試合も終わると国近とゲームをやるのであった。

 

ちなみに太刀川隊の隊長、太刀川慶は居ないのではなく会話に参加せずテーブルに置かれたきな粉餅を一心不乱に貪っている。

 

 

 

◆◆◆

 

訓練初日の事

 

「はあ、終わった!!」

 

そう言って連戦連敗を繰り返し疲労困憊のカズマは地面に膝をつく。

 

「いやー久々にカズマとやったがやっぱ楽しかったな」

 

「お〜終わったかね君たち。ここらでいっちょゲームなんてどうかね?」

 

といってカセットとコントローラを国近が取り出す。

 

「おっ、それストレートファイターの新作か?もう手に入れたのか」

 

「ん?カズマくん割とゲーマー?」

 

「おう、ボーダー入る前は毎日ゲームやってたぞ。いろんなゲームやってたけどFPSとかだと結構なランカーだったしな」

 

「もしかしてID:SATOKAZU?」

「よく分かったな……って国近先輩ってもしかしてID:KUNIUIKA0202?」

「うん、そうだよ」

 

そう言った国近は目の色が変わり、いつものほんわかした雰囲気からまるで歴戦の戦士のような雰囲気に変わった。

俺はID:KUNIUIKA0202、今目の前にいる国近とはネットで長年鎬を削って来たライバルだ。まさかこんな所で出会えるとは。

 

「やるか」

「そうだね」

「「どっちが上か今ここで証明してやる(する)!!」」

 

ここに戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 

 

◆◆◆

 

「しっかしよく国近と互角にやれるよな。俺たちとやるときは手加減されて尚勝てねえのによ」

 

「そうですね。しかもマグレで勝つと泣きながら怒りますからね」

 

「ちょっ!」

 

京介の言葉に動揺した国近はキャラコンをミスり1敗する。

国近が涙目になりながら京介をポカポカと叩きだした。

 

京介と出水にぼこされた後の癒しとしてこのように国近先輩とゲームをやっているのだが結果は勝ったり負けたりだ。

最初こそはゲームをやってなかったブランクのせいで4:6で負けていたが、数日で感覚を取り戻し今は互角にやりあっている。

 

そして2ラウンド目が始まった。

現在はカズマがやや優勢という所である。しかしどちらかが崩れれば簡単に試合が終わるほどHPは削れている。

そうなってくると国近は決まって行動を起こしてくる。

 

「えい!」

 

「のわっ」

 

国近が身体を寄せカズマと密着する。その際胸がカズマの膝に当たった。

 

ゲーム内で国近の操作するキャラが負けそうになるとわざと体を寄せて妨害をしてくるのだ。

国近の身体から伝わってくる感触、温度。そして膝に伝わってくる感触がカズマの心拍数を一気に跳ね上げた。

 

そして体が硬直した俺はは操作を誤り、回避コマンドをミスりその隙を狩られて負けてしまった。

国近先輩は自分が可愛いと分かった上俺が勝ちそうになるといつもそうやって体を寄せて妨害をしてくるのだ。

 

最初は偶然触れただけであった。それにカズマが動揺したことに味を占めた国近はピンチになるたびにタイミングを見計らっては身体をくっつけてくる。

最近はコツを掴んだのか先程のように胸も当ててきたりと緩急を付けた攻撃をしてくるのだ。

 

まあ正直役得過ぎるので最近ではゲーム時間を増やして腕を上げている。そうすれば国近先輩とボディータッチができ、しかも合法的に胸に触れられるのだ。やらない手はない。

 

「まじでやめろよ。卑怯だぞ」

 

「カズマ、鼻の下伸ばしながら言っても説得力ないぞ」

 

「私の胸ガン見してくるしね〜」

 

「……なんのことですか?」

 

どうやら女子は男子の視線にすぐ気づくというのは本当らしい。

 

「カズマくんやらし〜」

 

「う、うるさい、こんな可愛い女の子とゲームできるんだぞ!しかも負けそうになったらそのエロいボディーで妨害してきて……自分のこと可愛いって理解した上でそんな事してくるとか最高かよ!……」

 

その後も血走った目で言葉を続けると京介に静止される。

 

「先輩、それ以上はやめましょう。国近先輩が真っ赤になってます」

 

そう言われて見てみると茹でダコみたいに真っ赤になった国近先輩が俯いてモジモジしていた。

 

「おいおいどうした!もう日和ったのか!?お前のエロさはまだそんなもんじゃないはずだ!もっとそのエロい体使って、やってみせろよエロ近!」

 

「なんとでもなると思ってんのか!」

 

「太刀川先輩出番です!」

 

「おーけ、ウチのオペレーターはずかしめた罪。とことんその身に覚えさせとかないとな」

 

そう言って先ほどまできな粉餅を貪っていた太刀川は口の周りにきな粉を付けたままカズマを訓練室に引っ張っていく。

 

「わっ、ちょ!ごめんなさい冗談です!!許してくださいーーー!」

 

「「先輩(カズマ)……お前の罪を数えろ!」」

 

「ああーーーー!!!!!」

 

そして太刀川慶に千本ノックされました。

ちなみにカズマはフル装備で抵抗したものの孤月一本しか使わなかった太刀川に手も足も出なかったとの事。

 

その後カズマさんはしばらく太刀川隊から出禁になりましたとさ。

 

 

 

◆◆◆

 

 

「私ってそんなに淫乱そうにみえるのかな……」

 

顔を赤くして俯きながらにそう呟く。

作戦室のモニターには太刀川に永遠に切り裂かれつづけるカズマが映し出されていた。シールドを展開してはシールドごと斬られ、逃げに徹しては追いつかれと散々な光景である。

 

「……いやいやそんなこと無いっすよ。確かに国近先輩は可愛いですけどカズマ先輩が邪だからあんなこと言ったんですよ」

 

(まあ大抵の男はその胸で悩殺だろうけど。つーかカズマもよくあの程度で抑えたな。もっと野獣を解き放ってセクハラしたりとなにかしら行動すると思ってたが、やったことといえば向こうからの行動待ちだったのを見るに間違いなくヘタレだな)

 

 

その後、太刀川のオペレーターに手を出そうものなら戦闘員3人に千本ノックされるという噂が流れた。

 

 




何度も言ってるけどB級ランク戦が本当に難産!
ランク戦は二次創作の華ってのは理解してるけど読むのと書くのでは全然違うって理解した。してしまった。

あとB級ランク戦って1ラウンド毎に全部隊戦ってるのだろうか。正直4日に一回のペースであんな試合やらされたら精神持たないのでは?流石に休みの隊とかあって欲しいけど読み直した感じフル回転させてそうなんだよな。
これでA級ランク戦もやってたとかまじ?

最後によろしければコメントやお気に入り登録よろしくお願いします!


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第12話 この2人に祝福を!

2話分作れた(3,000文字程度)し、お気に入り登録千人行ったので記念に投稿します。それに今月はワートリないからワ民は寂しいだろうからね。
このゴールデンウィーク中小説が全く進まなかった。
(カラオケ行って行ってウマ娘のイベント行ってカラオケ行って……カラオケ行き過ぎ)


太刀川隊から追い出される数日前の事

 

「カズマ、カズマ!」

 

「カズマです」

 

ランク戦に耽っているカズマの元へアクアがやってきては待機室内へと入ってきた。

 

「そろそろ防衛任務を受けましょう!参加するだけでお金が出るしネイバーを倒せば追加金も出るのよ!」

 

「そっか防衛任務か。そういえばボーダーの目的はネイバーから市民を守る事だったな。対人戦に夢中になりすぎて忘れてたわ」

 

ふとなぜ怪物共と戦うのが本業のはずのボーダーが対人戦の場を設けているのか不思議になったが、これはこれで楽しいのでそんな疑問はすぐに消えていった。

 

「それでねそれでね夜にやると『夜勤手当』ってのでお金が増えるの!やりましょうよカズマさん」

 

「そうだな。戦えてしかも金ももらえるなんて最高だな!」

 

 

俺とアクアは事務に向かった。

 

「すみませーん!」

 

「はい?」

 

すぐに奥の方から事務の人が窓口へとやってきた。

 

「あの防衛任務を受けたいんですけどどこか空いてますか?できれば夜勤手当の貰える夜がいいんですが」

 

「本当ですか!!ありますあります!!ぜひ受けてってください」

 

深夜の防衛任務を受けるための手続きを終えた後、事務のお姉さんは泣きながら感謝していた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

深夜0時、廃墟と化した警戒区域はとても薄気味悪い。今はアクアと2人で平気だが、1人では絶対に来たくない場所である。

 

「ねえ、カズマさん。なんかあのミラーに手がベタってついてる気がするんですけど……」

 

そう言われ恐る恐るアクアの指差す方向を見る。しかし特に何の変哲もないカーブミラーであった。

 

「……おい、脅かすのやめろよ!いつもそうやってビビらせやがって。自分に神力があると思うのもいい加減にしろ!」

 

「嘘じゃないわよ!ほら!こんどはそこにある人形がギョロってこっち見た!!」

 

そう言ってくるアクアに呆れながらに指を差している方へ顔を向けるが特に何も見当たらない。

 

「……ねえじゃねえか!」

 

いい加減にしろとカズマはアクアにゲンコツを食らわせる。

 

 

 

 

 

 

とまあかなりグダグダしたが俺達の初の防衛任務が開始する!……筈だったのだが

 

「ひぃーー!無理無理無理!モールモッド三体は無理!」

 

先ほど3体のモールモッドが出現しカズマは逃げ出した。

 

「ちょっとカズマさん!なんで急に逃げるの!」

 

「ばっか!お前も俺も一体のモールモッドとしか戦闘経験ないんだぞ!?ここでベイルアウトしたら報酬がチャラどころかお叱りが待ってるんだぞ!」

 

さらに言えば2人とも1度しかモールモッドに勝った経験がないのだ。

 

「なによ!たかが2体増えただけじゃない!見てなさい私が華麗に倒してあげるわ!」

 

「ちょっ!マッ!」

 

アクアは勝手に飛び出して行き、一体目掛けて孤月を振るう。

モールモッドはヒョイっと後ろに下がって避けてはその際にアクアの右腕を切り裂く。

 

「カズマさんカズマさん!どうしよう……なんかあいつら以前戦ったときより強いんですけど!」

 

怖気付いたアクアが全力でこっちに逃げてきては泣き言を言い散らす。

 

忘れてた。入隊式の時のモールモッドは弱めに設定されてるんだった。つまりアクアは実質モールモッドとの戦闘は初という事だ。

 

「おいアクア、お前がしばらく前衛をやれ。その隙に俺が倒す」

 

「嫌よ!私より強いんだからカズマさんがやりなさいよ!!その隙に私が倒すから」

 

「お前の方がトリオン量も多いんだからシールド使えば余裕で耐えられるだろ!それとも金もらえなくてもいいのか?」

 

「ううっ……分かったわよ」

 

 

 

アクアは両手で握った孤月で攻撃を受け流し、対応できない一撃は広く展開したシールドにて防いでいる。防御に専念すれば余裕がありそうだ。

 

そういえばガキンチョの頃チャンバラごっこして遊んでた時アクアに3人がかりで攻撃したのに全部捌かれて負かされたっけな。随分懐かしい。

まあその後砂かけして負かしたけど。

 

 

以前トリオン量があんなに高いんだから射手やったら化けるのではないかと思い、試しに弾トリガー入れさせて見たのだがとことん才能がなく、現在のアクアのトリガーは弧月とシールドしかセットされていない。

こんなことになるなら斬撃が伸びる例のトリガーをセットさせておけば良かった。

 

モールモッドはだいぶ攻めあぐねている様子でカズマの事は意識外にあったようで、カズマが飛んで放ったアステロイドに気付かずにそのまま上部装甲ごと弱点を貫かれ1体のモールモッドが活動を停止する。

 

するとカズマの存在にようやく気付いたモールモッド2体が今度はカズマをターゲットにして追いかけるが、そのうちの1体をアクアが上から装甲ごと弱点部を突き刺した。

 

「ナイスだアクア!アステロイド!」

 

振り向きざまにハウンド(拳)と、弾速60、威力30、射程10のアステロイドによるフルアタックを放つ。

ハウンドを避けようとしたモールモッドは誘導されてるとも気付かずに避けた先に飛んできたアステロイドに直撃する。

モールモッドはその場で動かなくなった。

 

「やったわね! カズマ」

「ああ、アクアもナイス攻撃だ!」

 

親指を立ててお互いを称える。

その後もモールモッドが一体、バムスターが二体出現する。

 

 

「アクア!」

「ええ、先ずは!」

 

モールモッドから先に叩く。

アクアは先ほどのように孤月で攻撃を受け流したりシールドで防いだりしている。

 

「アステロイド!」

 

その隙に俺がモールモッドの横っ腹にアステロイドを撃ち込みモールモッドの動きが一瞬止まる。

その隙をアクアは見逃さず、孤月を縦に振るってはモールモッドを綺麗に切り裂いた。

 

そして残った2体のバムスターをそれぞれアクアは跳んで首を斬り落とし、カズマはアステロイドの集中砲火で顎の装甲ごと弱点突き破り撃破した。

 

 

 

その後はネイバーも出現せず防衛任務が終了する。

そしてボーダー本部に戻るとなんと合計で6万6000円も支払われた。

内訳は以下の通りだ。

モールモッド4体=4万円

バムスター2体=1万円

夜勤手当2人分=1万円

防衛手当2人分=6000円

 

それを見た二人は目の色が変わる。

 

「か、カズマさん!!」

「ああ! これからはじゃんじゃんシフトいれよう」

 

 

 

◆◆◆

 

 

翌日

 

「「乾杯!!」」

 

俺たちは初の防衛任務成功を祝い警戒区域の近くにある焼肉屋「寿寿苑」にやってきた。

 

「いやー最初はどうなるかと思ったけど案外なんとかなるものね!」

「だな、最初は2人ともベイルアウトして偉い人に怒られる未来しか見えなかったよ」

「この調子でじゃんじゃんネイバー倒してじゃんじゃん稼ぎましょう!もうバイトなんて時代遅れよ!」

「ああ、お前が旋空入れれば楽勝だ!期待してるぜ相棒」

「ええ、十分期待してちょうだい!」

「明日も!」

「張り切っていこう!」

「「おー!!」」

 

カズマとアクアは「打倒ネイバー」と高らかに叫び、再度乾杯をする。

そして肉が焼けてくると2人は舌鼓を打ち、明日からの防衛任務について話を膨らませるのだった。

 

 

 

 

 

翌日

京介と出水に揉まれ国近先輩に癒されたあと俺はいつものようにランク戦をやっていた。

あと一時間で防衛任務があるため今日は早めに切り上げアクアが居る所へ向かった。

 

今日は昨日の反省を基にアクアは仮想訓練室でモールモッドとの戦闘訓練を行っている。どうやらアイツは目の前に金を吊るされると努力できるらしい。C級の時も同じくらい頑張ってくれれば苦労はないんだけどな。

 

馬のほうがもっと賢いんじゃないか?

 

「旋空弧月!!」

 

仮想訓練室に着くとアクアが弧月のオプショントリガーの旋空によりモールモッドを切り裂いていた。

 

「なんだ自分でトリガー選ぶ知能はあったんだな」

 

「失礼ね! ちゃんとエンジニアさんの雷蔵って人に付けてもらったわよ! その前に話したキヨシさんって人には嫌な顔されて断られたけど」

 

「へえー」

 

あの人はどうやら余程刃トリガーが嫌いらしい。

俺もこの前トリガー構成にスコーピオンが入ってる事に気付かれたらすごい嫌な顔された。

 

「そんなことより早く防衛任務に行きましょ! さあ今日もバリバリ稼ぐわよ!」

 

「おう、昨日とは違うってこと一味違うってことネイバーどもに思い知らせてやろうぜ!」

 

「もちろん!」

 

 

 

◆◆◆

 

 

防衛任務にて

 

「旋空弧月!…旋空弧月!……旋空弧月!」

 

先程からアクアが旋空弧月で片っ端から倒していっている。今も3体のモールモッドを全て一刀両断したところだ。

ちなみに俺はアクアが一体ずつ処理できるように弾トリガーで牽制したりシールドを展開したりしてモールモッドを近づかせないようにしている。

 

もちろん隙を見せれば倒していくが、現在の俺の討伐数は1体のみでアクアは7体も倒している。

もちろんその討伐の仕方は全て旋空弧月である。

 

隙はでかいが当たれば一発だ。そのために俺が護衛している。

ちなみに俺の撃破内容はアクアが撃ち漏らして接近してきたモールモッド1体に低速弾を展開して撃破した。

 

 

そうしてしばらくすると新たにモールモッド3体、バムスター(?)が2体現れる。

 

「なあ、なんかあのバムスターおかしくないか?」

「ええ、なんかライ〇ップに成功したバムスターって感じがするわ」

などと言っているとライ〇ップに成功し細身になったバムスターの口が光始める。

 

「……なあ?」

「……今度は何かしらカズマさん」

「この後の展開が予想できるんだが……」

「奇遇ねカズマさん……私もよ……」

 

『それはバムスターじゃなくてバンダーよ! 砲撃をしてくるから気をつけて!」

 

ライ○ップに成功したバムスターという単語でバンダーということに気づいた今日のカズマとアクアの担当オペレーターの女性がそう叫ぶ。

本来防衛任務のオペレーターは基本その隊のオペレーターなのだが部隊を結成していない正隊員には本部のオペレーターが担当しているのである。

ちなみに前日の防衛任務での賃金も担当したオペレーターと山分けしている。

 

 

俺とアクアは顔を向き合わせると一目散に逃げ出した。すると数テンポおいて先ほど俺たちが居た場所が黒焦げになる。

さらに不幸なことにバンダーの砲撃が続く中、モールモッド三体がこちらに接近してきた。

 

「おいアクア!しばらくモールモッドの相手頼んだ。あの砲台を黙らせる!!」

「一人でこいつらの相手なんて嫌よ!一緒にチャチャっと倒せばいいじゃない!」

「馬鹿言うな!いつ砲撃が当たるか分からない中モールモッド3体なんかと戦える訳ないだろ!!」

 

「じゃあ一回!一回旋空撃つからその間だけ援護してちょうだい!そしたら行っていいから!!」

 

「……しょうがねえな!!」

 

そう言うと2人は向き直りアクアは居合の構えをする。別に鞘にしまう必要はないのだがその方が当てるイメージが付けやすいらしい。

カズマはアステロイドをモールモッドの進行方向に放ち後方に回避させる事で進行を妨害する。

 

「旋空……」

 

モールモッド1体が間合いに入りアクアに鎌を振り下ろす。

アクアは尚も構えを解かない

 

「シールド!」

 

鎌が当たる手前、カズマが固定シールドを展開しそれを防いだ。

 

「弧月!!」

 

斜めに飛び出た斬撃は目の前のシールドごとモールモッドを真っ二つに裂き、更に後ろにいたモールモッド1体の前脚も切断した。

 

「上出来だアクア!」

 

それだけ言い残しバンダーの元へと向かう。

2体のバンダーが口をこちらへと向け光線を放つ。それをバンダーから見て横に移動して避けながらハンドガンのを引き金を引く。

すると一瞬で何発もの弾丸が飛んでいく。

 

ハウンドの弾が二つの集団に分かれ2体のバンダーに向かい飛んでいく。バンダーはのっそりと首を動かし回避しようとするもその程度でハウンドの追尾を振り切れるわけもなく被弾して倒れ込む。

 

「なるほど、強いのは砲撃だけか」

 

そして動きの取れなくなったバンダー2体に対し弱点にスコーピオンを突き刺し確実に撃破する。

 

その後すぐにアクアの元へ駆けつけるが、ちょうど戦闘が終わったらしくモールモッドはすべて動かなくなっており、弧月を鞘に納めている最中だった。

 

モールモッドの傷跡から見て旋空による撃破は先程の1体のみであり2体は素の孤月で倒したという事が伺える。

いくら1体を倒し2体の内1体が手負いとはいえ2対1で旋空を発動は出来なかったのだろう。

 

やはりまだ旋空以外では上手く倒せないのだろうか、左腕が無くなっており、その他に胴体にも浅い傷が多く点在していた。

そして今日も今日とて報酬を受け取り帰路につく。

 

 

 

その後も防衛任務を繰り返し、アクアが旋空で一掃し、俺がアクアを守るスタイルと、アクアが前線を張って俺がスコーピオンとアステロイドで崩すスタイルの2つが確立された。

 

敵が1、2体であれば基本俺が援護してアクアが旋空を撃つだけで終わる。3体以上であればアクアが前衛を張り俺が隙を見つけては空いた駒を倒していくといった感じである。

 

そして気がつけば高校生が持つには多すぎるほどの大金が貯まっていた。

 

 

 

お盆にもなり、夏休みも残り2/5へと突入しだした。

そろそろ宿題に手をつけないとやばいな。

しばらくは毎日ランク戦30分、自己錬1時間に抑え、この前入れてしまった残りの防衛任務と宿題に奔走した。

 

小中学校と比べ宿題の量は減っているが、それでも手のついてない宿題を終えるのはかなりの重労働であった。

そして宿題を終える頃には夏休みも残すところあと1週間を切っていた。

 

「……俺の夏休みの思い出は?」

 




防衛任務の報酬多いかもしれない。
そろそろ本気でアクアの本名考えないとなので活動報告で募集します。
あとキャラが出きってないからキャラクター人気投票はできないけど、かわりにC級隊員編の何話が面白かったかの人気投票やってみました。

よろしければお気に入り、コメント、評価等よろしくお願いします!


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第13話 この残り僅かな夏休みを満喫せよ!①

友人にワートリ全巻セット送った礼にカズマさんの挿絵を描いて貰ったので良かったら見ていってください。閑話と目次に貼ってあります。
挿絵に関しての感想もよろしくな!!友人も喜ぶと思います。

腐女子にはやはりこれが効く。(出水、ヒュース、迅さん、風間さんとかが好きらしい)クガ✖︎オサで堕とせると思ったら堕ちなかった。



「こーでらくん!あーそーぼ!」

 

「今度はなんなんですか。言っておきますがもう絶対に先輩とはスナイパー合同訓練に行きませんよ!」

 

玄関が開くとすごく嫌な顔をした古寺が現れる。

 

「えー、つれないな。まあ出禁食らってるから行けないんだけど」

 

「……それで何のようですか」

 

「いや、あともう少しで夏休みも終わるじゃん?」

 

「はあ……そうですね」

 

心底めんどくさそうに古寺はカズマの問いに答え続ける。

 

「俺この夏休みの思い出ボーダー関連と宿題しかないんだよね」

 

「何やってるんですか?」

 

「だからさ、今日祭り行こうぜ。アクアとかも誘って……そうだ宇佐美とかも誘おうかな?」

 

「行きます!!」

 

「……お、おう」

 

古寺はかなり食い気味に言い、カズマも若干引いてしまう。

集合場所、時刻を伝え次の場所へとカズマは向かう。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「おーい、来馬先輩!あーそーぼ!」

 

「カズマくん……来てくれるのは嬉しいんだけどそのやり方はどうにか出来ないかな?恥ずかしいんだけど」

 

豪邸から来馬は出てくると門前まで歩いてきて人の目を気にするように顔を赤くしながらキョロキョロと辺りを見渡す。

 

「それでですね来馬先輩。今日祭りがあるんですよ。他の人も誘ったんだけど一緒にどうですか?」

 

「本当に急だね。一体どうしたの?」

 

「思い返したら夏休みの思い出がボーダーと宿題しかなかったから」

 

「予想以上に悲しい答えが返ってきた!!」

 

「じゃあ来馬先輩も参加ね」

 

そう言ってカズマは集合場所と時間だけを伝えまた何処かへと行ってしまった。

 

「ほんと破天荒だなカズマは」

 

来馬はまるで孫でもみるかのような目をしていた。

 

◆◆◆

 

 

 

 

「おーい、アクア!」

 

俺はアクアを誘いにボーダーへと来ている。アイツはB級に上がってからはボーダーの福利厚生で与えられた部屋で生活をしているのだ。俺もいつかこっちで生活したいものだ。そうすればランク戦も何もかもやりたい放題じゃないか。

 

しかしいくら呼んでも出てくる気配がない。おそらくまた夜勤をやったんだろう。これで夏休みが終わってから学校来れなくなっても知らんぞ。

 

「おーい、アクア!祭り!行くか?」

 

「行く!」

 

祭りという単語を発した途端中からドタドタと慌ただしい音がして扉が勢いよく開かれる。口に涎跡のあるアクアが飛び出してきた。

 

「よし、じゃあ絶対遅れんなよ!」

 

そう言いカズマはまた次の場所へと向かう。

 

 

 

◆◆◆

 

 

太刀川隊作戦室

 

出禁は既に解除されたものの、以前のことがありまだ一回も行っていない。入った時冷たい目をされたらどうしようなどと考えながらも恐る恐る扉をノックする。

 

「はいはい……って俺に千本ノックされたカスマじゃん」

 

「先日は本当に申し訳ございませんでした!お詫びと言っては何ですが折菓子です」

 

「おっ、良いとこのどら焼きかこれ?いいぜ上がれよ」

 

と太刀川はカズマの持ってきた折菓子の包装をビリビリと破きどら焼きを食べ始める。

 

「お邪魔します……」

 

「よお、カスマ久しぶりだな」

 

「あ、カスマ先輩いらっしゃい。しばらくスコーピオンの練習してなかったですしだいぶ腕も鈍ってるはずなので久しぶりに練習しましょう」

 

「やあやあ、カスマくん。どうかね久々に真剣勝負でも」

 

 

「……あの、なんか濁点が足りない気がするんですけど」

 

「「「「そうなる原因を作ったのはだれだ?」」」」

 

 

深く息を吸って吐き精神を整える。

その場で正座をし、勢いよく頭を地面に擦り付け誠意を込めた土下座を披露する。

 

「すみませんでした!!」

 

 

「よし、こいつも反省してるし許してやるか」

「そうですね。出禁解除されてすぐ来なかったのはいただけないですが」

「俺はよく分かんねえけど良いとこのどら焼き買ってきたし俺はいいぜ」

「まあ私も少しは悪いしね。ごめんね、次からはもうしないよ」

 

「いや、是非お願いします!!」

 

「……やっぱ反省が足りないんじゃないか?太刀川さんまた反省を促す千本ノックお願いしますよ」

 

「えー、嫌だよ。こいつ弱いし戦っても楽しくも何ともない」

 

「じゃあ俺がスコーピオンでビシバシやっても良いんですね?」

 

「おいおい待てよ京介。俺も久々にこいつとアステロイドで戦いたい気分なんだ。こういう時は先輩を立てるのが常識だろ?」

 

「はい、ですから先輩であるカズマ先輩に頼まれたスコーピオンの修行の続きをするんです」

 

「いや俺的にはもうスコーピオンはやりた……」

 

「やりたいですよね?……先輩?」

 

笑顔でそう問いかけてくるが京介の目が全く笑ってない。

 

「はい!やりたいです!!」

 

京介の圧力に屈したカズマはそうしてスコーピオンの模擬戦を始める。

 

 

右手にスコーピオンを出してはジリジリと距離を詰める。

やがてあと数歩で互いのスコーピオンが射程に入るという所、カズマが仕掛けた。

 

一歩大きく前に踏み出して、右斜めから斬りかかる。

京介は軽く後ろに下がり避けては返しの一撃を繰り出す。それを大きく下がっては避け、下がりざまにスコーピオンを投擲する。

 

回転しながら京介に向かって正確に飛んで行くスコーピオンは容易く弾かれ、京介は一歩一歩を強く踏み出しカズマと距離を一気に詰め一撃を繰り出す。

カズマもそれを見越して新しく出したスコーピオンで受ける。そして鍔迫り合いの末カズマのスコーピオンが弾かれ胴体がガラ空きとなってしまい、胴体にスコーピオンが刺さった。

 

『戦闘体活動限界』

 

 

2試合目

 

最初は先程と同様に距離を詰めては斬り合いが開始される。

それを避けたり、避けきれないものは体から生やしたスコーピオンで受けては反撃のチャンスを伺う。

防御に徹底すれば京介の攻撃をなんとか捌ききれる。

 

が、攻める気が一切感じられないカズマに対し回し蹴りが飛んで来る。

ダメージはないもの吹き飛ばされ視界がぐわんと歪んだ。

 

地面に体が着き、視界が正常に戻るとそこにはスコーピオンが映っていた。

投擲されたスコーピオンが脳天に突き刺さる。

 

『戦闘体活動限界』

 

 

3試合目

 

今度は開幕速攻でスコーピオンを投擲。それと同時にカズマは駆け出す。

投擲されたスコーピオンはやはりいとも容易く弾かれるが、それと同時に新しく手元に出現させたスコーピオンで斬りかかる。

しかしそれもヒョイっと簡単に避けられてしまう。そして下りざまに振られる一撃で利き腕の右腕が手首から先をスッパリと切り落とされた。

 

「くっそ!逃すか!」

 

そのまま距離をとって仕切り直そうとする京介に対し一歩、二歩と足を踏み出し、スコーピオンを生やした右腕を前に繰り出す。

確かにそれは京介を捉えていた。がしかし届かない。先ほど切られた腕分のリーチが足りなかった。京介の胸部をわずかに掠っては空を切る。

 

そして渾身の一撃も外して隙だらけとなったカズマに無慈悲にもスコーピオンが降りかかる。

 

『戦闘体活動限界』

 

 

 

◆◆◆

 

「まだ粗がありますけどまあ一応ギリギリ合格って所すかね。B級下位とC級上位の間くらいの実力にはなってると思いますよ」

 

と30戦30勝した京介さんはそう慰めてくる。

とはいえカズマはそこそこ京介に対してダメージを与えられていたし、やられるまでの時間も伸びており成長を感じられる。

まあどれも致命傷には程遠いものではあったが。

 

「俺B級なんだが?」

 

「まあまあ、この前の時は実力D級隊員でしたから随分成長してますよ」

 

「入隊すらできてねえじゃねーか!!」

 

「冗談っす。スコーピオン500Pくらいの実力はありましたよ」

 

「お前まじで覚えとけよ!いつか絶対負かしてやるからな!」

 

「だって先輩俺の意表つけたのってスコーピオンの投擲くらいですよ?ほんと飛び道具の扱いは手慣れてますね。そこだけはB級に匹敵してますよ。いっそのことスコーピオンシューターって名乗ります?」

 

「こっの!!……まあでも成長はしてるんだよな?」

 

「はい、正直このレベルに来るのはもう少し後だろうと想定してました」

 

防衛任務や最近のランク戦ではスコーピオンを使う機会が多かったためか多少は扱いが上手くなっていたようだ。

 

「おっし!ならいいや。それより応用技早く教えてくれよ!!」

 

京介のからかいはちょっと気に食わないが応用技を覚えられるってなら我慢してやろう。

 

「では次は応用技を説明しますね。まずこれが枝刃(ブランチブレード)です」

 

そう言って得意げに右腕の両サイドからスコーピオンを生やして見せる。がこれは嵐山隊の時枝さんに教えてもらったものだ。

 

「知ってる」

「……ではこれがモールクローです」

「……おい」

「……はい」

「それこの前俺がやったやつだよな?」

「はい」

「謀ったな……謀ったな京介ぇぇ!!!」

 

この後、まだ知らない応用技のマンティスと呼ばれるスコーピオンとスコーピオンを繋ぎ合わせて鞭のように伸ばす両攻撃を見せてもらった。

のだが。

 

「これがマンティスです。リーチもあってウネウネさせられるのでシールドを掻い潜って相手に当てることもできますよ」

 

「おお! まさに必殺技って感じだ! バックワーム使っての奇襲とか便利そうだな」

「使えませんよ?」

「はっ?」

「スコーピオン+スコーピオンのフルアタックなんで他のトリガーは使えませんよ」

「シールドも?」

「シールドも」

「欠陥品じゃねえーか!!」

 

唯一役立ちそうだったのはスコーピオン一つだけでマンティスの劣化版をやって多少リーチを伸ばすことだった。それ以外は本当に無意味であった。

 

「……応用技教わる必要なかったじゃん。俺ただ素振りさせられただけじゃん……」

 

「おっ、終わったか。今度は俺と射手同士勝負しようぜ!」

 

すっかり意気消沈して仮想戦闘室から出てくるカズマに出水にそう声をかける。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

出水と勝負を始めてからかれこれ数十分。0勝、30敗と未だに勝てそうにない。

 

「おいおいどうしたどうした? この調子じゃあ1勝も出来ないんじゃないか?そろそろ単トリガーのみだったら一回くらい勝てると思ったんだが俺の見込み違いか?」

 

なんならこっちは1トリガーでお前はフル装備でやってみるか、と煽る出水。

 

「なんだとこの野郎!上等だ単体トリガーだけでも勝ってやんよ!」

 

ちなみに最初の5戦はシールドありで戦ったのだが余計に勝てなくなり1トリガーのみで勝負しようという事にした。

 

「よっし、じゃあ少し休憩したらもう一戦だけやるか」

 

そう言って仮想戦闘ルームから出て冷蔵庫からジュースを出してはグビグビと飲み出した。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

「よっし、じゃあ行くか」

 

「ぜってー負かしてやるよ!」

 

 

試合開始の合図と共に両者は利き手にトリオンキューブを出現させる。

 

「アステロイド!」

 

「アステロイド!」

 

出水は通常設定のアステロイドを分割し放つ。

カズマはどうせ火力に振っても避けられるだけだと諦め射程も20メートルくらいまでに絞り弾速に極振りした弾を飛ばす。

それを出水は後ろに大きく下がる。

放った弾は射程が足りず、出水に当たる前に消えてなくなった。

 

 

 

そしてカズマにとっては1発1発が即死級の弾が何発も襲いかかってくる。それをなんとか必死に避けては小道に逃げ込んで射線を切る。

 

 

「アステロイド!アステロイド!アステロイド!」

 

出水は威力にリソースを振った弾をばら撒けてカズマの隠れる住宅地へ向けて撃ち出す。

カズマとの戦闘で警戒すべきは置弾と奇襲だ。ならそれを行うための遮蔽物を壊していけば良い。

そうやって、あわよくばキルを狙いつつもカズマの味方となる遮蔽を悉く潰していく。

 

そうしているとカズマは負け惜しみに、辺りにばら撒いていた置弾で出水へ牽制射撃をして住宅の破壊を抑えようとする。

しかしそんなもの出水に対しては全く意味をなしておらず遮蔽物はどんどんと減っていく。

こうしていれば次第にカズマは劣勢になっていき、表に出ざるを得なくなった。

 

「食らえや!!」

 

ようやく姿を現したカズマが建物の上から4×4×4に分割した計64発の弾を撃ち出し弾幕を形成。

それを出水はヒョイっと後ろへ避けると何かが足にぶつかる感触と共に体勢が崩れた。

 

出水が避けた先には、出水が壊してできた瓦礫に紛れて置弾がまきびしのように置かれていたのだ。左足は吹き飛び右足も穴だらけだ。

そして倒れる先にも無数の置弾がありこのまま倒れこめばベイルアウトだ。そうは行くかと残った右足で踏み留まる。

倒れる事は防げたものの、左足は足首から先が消え、踏みとどまるために使った右足は膝先までを喪失し、出水は機動力をほぼ失ってしまった。

 

 

思い返してみれば、先程カズマの撃った弾は前方に弾が集中していた。しかも避けやすいように弾を高速弾に調整していなかったのだ。いや、もしかしたら置弾に誘導できずに当ててしまった場合倒せるように威力重視にしたのかもしれないが。

そして出水が油断して特に何も考えずに避けたかったまんまと回避先を誘導されてしまったのだ。

 

 

そして威力99.8、射程0.1、弾速0.1に設定された高威力の弾丸を自ら踏んでしまった。

 

 

(またあの時と同じく誘導されたってことか……クソッ、こいつ!やっぱおもしれーな)

 

そうニヤリと笑みを浮かべると、カズマに追撃させないためのアステロイドを散らして放つ。

機動力の無くなった出水へ追撃を仕掛けようとしていたカズマもこれにはたまらず大きく飛んで回避する。

 

しかし欲張ってキューブ片手に深追いをしたカズマは完璧には避けきれず弾が数発掠る。そして掠っただけで左腕と左脚に大きな穴ができた。出水ほどのトリオン量となると一つ一つの威力がバカにならない為掠っただけでこれである。クソゲーもいいところだ。これで一歩リードしていたカズマが一気に不利になってしまった。

だがただでは転ばないのがカズマである。

 

回避する前に、持っていたキューブをその場になんとか置くことに成功した。まだ分割も弾の調整も間に合っていないが、確かにその場に設置できたのである。

 

「食いやがれ!俺の置弾!!」

 

その1発の弾丸は機動力の死んだ出水に向かって一直線に飛んでいく。シールドがあれば造作もなく対処は可能だ。だが今はシールドは使えない。勝つにはこれをなんとしても避けなければならない。

避けようとして地面に横になれば飛んで来る弾は避けられるが辺りに散らばっている置弾にミンチにされて負けだ。

 

(ほんといい趣味してやがるな)

 

 

幸い先ほど放った牽制弾でカズマはまだ追撃できない。

これを回避出来れば思いっきりアステロイドをぶちこめば勝てる。そう出水は大雑把に、そして現状できるであろう最良の勝ち筋を思い浮かべる。

 

もう付近にはまともな遮蔽物はほとんど残っておらず先程のように威力特化のアステロイドを乱射すれば出水の勝ちだ。

 

今飛んできてる弾を出水が避けられるか。これでこの勝負が決まる。

やるしかない。残った左膝を使って無理やり跳ぶのだ。

 

出水は集中しタイミングを見計らう。

(それにしてもカズマもだいぶ上達したもんだ。あの一瞬でここまで正確にこっちに飛ばしてくるなんて。射撃の腕自体は既にB級でも上の方だろ)

 

タイミングを見計らうために飛んで来る弾を見ながら、そうついつい考えてしまう。

 

(来た!このタイミング!)

 

膝を使って大きく飛ぶ。そしてすぐさまアステロイドを出しカズマが逃げた方へ撃ち出そうとする。が……

 

「なっ!……ハウンド!?」

 

避けたはずの弾が出水の下を通り過ぎた瞬間、急に曲がりだしたのだ。

そして背中から胸を貫かれトリオン器官を破損される。

 

『戦闘体活動限界』

 

 

今度はあの時と違い完全に読み負けてしまった。

そういえば今回カズマはアステロイドと一度も言ってないな。つまり追尾設定を切ったハウンドで戦ってたってことか。

あいつのトリオン量じゃ変えても威力に違いが無さすぎて気付けなかった。

 

 

◆◆◆

 

危なかった。出水がジュース飲んでる隙にハウンドに変えてなかったらあの後すぐにトリオン漏れで負けてた。

ずっと追尾性能を切って戦ってたから流石の出水でもハウンドとは思うまい。

これまで何百と負けてようやくA級に一勝できたのだ。

めっちゃ嬉しい。

 

 

 

 

 

「おうおう、カズマくーん。ハウンドとはよくもやってくれたな!」

 

「いやいや、ちゃんとアステロイドからハウンドに変えたんでルールは破ってないですよ? 単体トリガーですし射手同士の戦いって事自体はあってるじゃ無いですか?」

 

「……分かってるがお前にドヤ顔で言われると腹立つ」

 

「なんと言おうが今回ばかりは俺の勝ちだ!いや〜もうA級倒しちゃうなんて怖いわ〜。自分の才能が怖いわ〜」

 

「おいおい、一回勝っただけで調子乗ってんじゃねえよ。次はハウンドの力技でねじ伏せてやるからな」

 

「やめてください負けてしまいます」

 

そうやって言い合っていると互いに顔を見合わせ何がおかしいのか腹を抱えて笑い出してしまった。

そうしてもう勝負する気分じゃ無くなったのか2人は仮想戦闘室を後にした。

 




いやー、もう4万回も見られてる。すっげー!以前の作品じゃこんなに行かなかったのに。設定も割と凝って作ったのでこの伸びは嬉しい。
このまま伸びてファンアートとか来ないかな……

お気に入り、コメント、評価等よろしくお願いします。



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第14話 この残り僅かな夏休みを満喫せよ!②

いやB級ランク戦詰まってる。
何が詰まってるかって作戦会議で詰まってる。先に戦闘シーン書いてから後に作戦会議書いた方が良いかもしれない。
後ストック7話しか無いぞ。


出水との戦闘を終えてドッと疲れが出たカズマは椅子に座っては机にもたれこむ。

 

「はい、どうぞ先輩。しかし単体トリガーでとはいえよく出水先輩に勝てましたね」

 

カラカラに喉が渇いていたカズマは京介がコップに注いだジュースを一気に飲み干す。

 

「ぷはー生き返る……そうだろそうだろ!基礎練習は欠かしてないからな!」

 

「……攻撃手の基礎練もそんくらいやる気出してくれれば良いんですけどね」

 

「嫌ですぅ!!あんなのもう二度とやりません!!」

 

「まあ、こっから先は実戦もやらないと伸びないと思うんで良いっすけど」

 

「それにしてもまさか祭り行く約束しようとしたらこんなことになるなんてな……そうだよ!祭り!お前らを祭りに誘いにきたんだった!!」

 

そう言ってカズマはようやく本題に入る。

 

「なんだ俺たちと祭り行きたかったのか?」

 

「えー、カズマくん私のことエッチな目で見てくるからなあ、変なことしてきそうだしどうしようかな〜」

 

たしかに国近先輩が浴衣を着たらそのボインボインはどうなってしまうんだ。

国近先輩の浴衣姿は絶対に見たい。

 

「……お前分かりやすいくらい顔に出るな」

 

鼻の下が伸びきったカズマに呆れながらに出水はそう言う。

 

「なっ、高校男子はこんくらい普通ですよ!それに手を出すわけないじゃないですか!国近先輩が浴衣を着たらどうなるのか見たいだけですよ!!」

 

「まあヘタレだもんなお前……はあ、こんな奴に負けたって思うとなぁ」

 

「へ、ヘタレちゃうわ!」

 

「で何で急に祭りなんですか先輩?」

 

「いや、夏休みの思い出がボーダーと宿題しかなくて……」

 

「ズッゲー悲しい答えが返ってきたな」

 

「可哀想だから行ってあげる?」

 

「「「賛成」」」

 

「あっ、ちなみに他に友達も誘ってますよ。全員ボーダー関係者なんですけどね」

 

「「「「友達いたんだ」」」」

 

「おい!」

 

そうして俺の心はボロボロに砕かれるもの約束することは成功した。国近先輩の浴衣姿を見れるなら必要経費と思える、はずだ。

 

そうして俺は次に玉狛支部へと向かった。

 

 

「おーい、宇佐美ちゃん!あーそーぼ」

 

「ん?ああ、カズマくん。どうしたの急に」

 

「いや、ボーダーの知り合い集めて今日祭り行こうとしてたんだよ。で宇佐美もどうかなって」

 

「ほほう、いいね!で、他には誰が来るのかな?」

 

「古寺、来馬先輩、アクア、あと太刀川隊のメンバーかな」

 

「うわ、すごい変なメンツ。楽しそ〜、私も行く!」

 

「お祭り!今お祭りって言ったかしら!!」

 

玉狛支部の中からドタドタと慌ただしくアニメ声をしたロングヘアーの女性がやってくる。

 

「……あんた誰?」

 

「この人はね佐藤カズマくんだよ」

 

「あー。宇佐美が親切に教えてあげた挙句、宇佐美の大事なものを壊したって言う最低男ね……ってこいつが!?」

 

と激昂した女性がカズマの胸ぐらを掴みかかってくる。

 

「ちょ!宇佐美なんてこと言ってんだ!!」

 

「えー、だって間違ってはないじゃん」

 

「大いに間違ってるわ!」

 

「黙りなさい!あんたのその腐った性根を叩き直してあげるわ。栞仮想訓練室の準備して!」

 

「ラジャー!」

 

「おいおいおい、勝手に話を進めんな!……ちょっ、痛い痛い痛い!!引っ張んな!」

 

抵抗して逃げようとするも、小南に力で負けてそのまま玉狛支部へとズルズル引っ張られていく。

 

(俺、女子に負けるくらい力無いのか!?)

 

 

 

 

そのまま仮想訓練室まで連れていかれ互いにトリオン体に換装する。

 

「このアマ!絶対泣かしてやるからな!いくらB級上がりたてとはいえA級一位部隊の出水に一回は勝ったカズマさんだぞ!!」

 

「はあ?あんたなんてそこそこ隠れることしか脳のないフナムシでしょうが!分かりきった嘘付くなんてやめたら?」

 

「まあまあ、それじゃ試合開始〜」

 

「アステロイド!」

 

試合開始と同時に弾速70威力20、射程10の高速弾を放つが、それらを全て躱され、一瞬のうちに距離を詰められ、右手に持った小斧で首をバッサリと切断された。

 

 

 

 

2戦目

 

再び高速弾を放つ。

高速弾は一つたりとも当たらないものの、今度はさらに弾を分割させて弾幕を張り小南の行動を制限し、カズマの理想通りの位置に誘導できた。小南は速いがここまで一直線に突っ込んで来るなら俺も対策できる。

小南が俺と5メートルほどの距離になると同時に目の前に低速弾のバリケードを張る。

しかし、それを見るや否や両足で急ブレーキしたかと思うと勢いよく飛んだ。

そして低速弾のバリケードを飛び越えてカズマへと接近する。小南の持つ二つの小斧がカズマを射程に捉えた。

 

「シールド!……ぼへっ」

 

頭上に振り下ろされる小斧をなんとかシールドで防ぐも、もう一本の小斧が側面からカズマの首を切断した。

 

『戦闘体活動限界』

 

 

 

3戦目

 

戦闘開始と同時に後退しつつ高速弾とハウンド(拳)による多角的な攻撃による多方向からの弾幕を張るも避けるか小斧で弾くかで全てを躱されてしまう。

気づけば小南は小斧の間合いに入っていた。

そして先ほどと同じように二つの小斧がカズマを襲う。

 

「シールド!」

 

シールドで一撃目をなんとか防ぎもう一撃もスコーピオンで受けきる。

 

京介との辛い地獄のようなスコーピオン修行のおかげでなんとか防ぐことができた。アレがなければ反応すら出来なかっただろう。

京介の一撃でもこれの数十倍は受けやすいぞ。

 

こいつの一撃は一つ一つにかなり神経を割いてようやく避けれるような次元だ。

まるで太刀川さんと戦わされた時のようだ。

だがこの調子ならまだやれる。

 

しかしカズマが抵抗できたのはそこまでであった。

 

やっと攻撃を受け切ったと思うのも束の間、小南がカズマを蹴り飛ばし間合いを取る。

そして下がり様に持っていた小斧を一つ投げ、カズマの頭を薪のようにカチ割った。

 

『戦闘体活動限界』

 

 

 

その後もカズマは惨敗し続けた。

しばらくするとスコーピオンで防ぐ事も出来なくなり、シールドも通用しなくなっていた。

しかも小南はシールドを一度も使わず被弾もしていないのだ。さら言えばあの斧二つ以外のトリガーを使ってもいなかった。

これまでの相手とは根本的に何かが違うように思える。まるで獰猛な肉食獣と相手してるようだ。相手の考えが全く読めない。おそらく考えるよりさきに体が動いてるのかもしれない。

 

こっちが必死に考えてる策を力技でねじ伏せられているかのようだ。

 

 

 

そして100戦100敗をしたカズマはようやく模擬戦から解放された。

 

「すみません、倒すとかおこがましいこと言ってすみません。いっそ殺してください。こんなゴミクズ生きてる価値なんてありません。私は最低な男でございます。」

 

ランク戦が三度の飯より好きだったカズマだったが、ここまでやられると流石に泣いた。ボロボロ泣いて精神が折れてしまった。

 

「あらら、相当メンタルやられちゃったね……」

 

こんな状況にしてしまった宇佐美もかなり罪悪感を覚える。

 

「ふーん、フナムシの割にはまあまあだったわね」

 

「あのね実は……ゴニョゴニョ」

 

話の真相を聞いて青い顔をしだす小南。

 

「まじ?」

 

「まじ……その……つい出来心で」

 

「栞のバカ!ちょ、カズマくんだったわよね?ごめんなさいその……」

 

「いいんです……トリオン体とはいえメガネぶっ壊したのは事実だし……もう俺みたいなゴミ生きてる価値もない……だからカスマだのクズマだの言われるんですよ……もう早くさっきの小斧で俺の頭をかち割ってください」

 

「でもその原因作ったのは栞じゃない!ごめんなさい、ああ……泣かないで!」

 

小南は必死にカズマを泣き止ませようと背中をさすったり、頭を膝に乗せ頭を撫でたりしてなんとか宥めようとする。

 

 

 

数十分後

 

宇佐美は小南にゲンコツをくらい、小南は自分がカズマをこんな風にしてしまったという責任感から膝枕をし、頭を撫でて宥め続けている。

 

そしてカズマはというと。

もうすでに立ち直っており、今は味を占めてこの役得シチュエーションを最大限満喫しようとしていた。

 

膝から伝わる女の子特有の暖かさが心地よくいい匂いがする。そして、小南の包み込むような母性が俺をを狂わせる。

 

「カズマはできる子よ。B級上がりたてで私の攻撃を何度も防いだじゃない。そんなに落ち込まないで自信を持ちなさい」

 

「でも……」

 

「大丈夫よ私はボーダーの中で最強なんだからそれに食らいついてたカズマは十分すごいわよ。だからめげないで……ヨシヨシ」

 

と、このように弱ったフリをして散々小南に甘やかしてもらっているのである。

今の状態ならいろんなこと要求しても大抵のことはやってくれるのでは無いか。

 

「うんうん、もっと褒められたら立ち直れそう……」

 

「本当!?」

 

「……なんかカズマくんもう立ち直ってない?」

 

「あんたは黙ってなさい!」

 

「あと小南の膝に顔を突っ伏して深呼吸したら立ち直れそうな気がする。あとその胸で抱きしめてくれたらさらに立ち直れる自信がある」

 

「本当に!?」

 

「あとね、あとは……ん〜」

 

「ねえ、絶対もう立ち直ってるって!もうすでに邪な心見えてるって!」

 

「小南ぃ〜また宇佐美がいじめてくるよ〜」

 

「おー、よしよし。そんなに怖がらなくても大丈夫だから。私が守ってあげるわ」

 

小南はまるで母親のようにカズマをあやす。

 

「へええ……へっ!」

 

頭を撫でられては頭をスリスリしては、宇佐美を見て鼻を鳴らした。

 

「こ、こいつ!!」

 

しばらくは小南の膝枕を楽しんだカズマは2人と祭りの約束をし、満遍の笑みで玉狛支部を出て行く。

 

「またなんかあったら来なさいよ!」

 

「おう、ありがとう小南マ……小南!!またなんかあったら勝負しような!」

 

「今確実に小南ママって言おうとしたよね!?」

 

カズマに対して過保護になった小南に、宇佐美は腹を膝で突かれ地面にうずくまる。

 

「なん……で。私が……」

 

 

 

危うく小南にバブみを覚えてしまいそうになったが俺は至ってノーマルだ。赤ちゃんになりたいなんてそんな特殊性癖なんてありはしない。

が、あれはあれで悪くない。

 

 

 

◆◆◆

 

「ちょっ!この人冬眠カード使ってからキングボンビーとかエグすぎますよ!!」

「このくらいまだ序の口だよ……」

「いつも何されてるんですか……」

「よし、次はWe Partyでもやるか」

 

そう言って持ってきたケースのカセット群を漁る。

ちなみに来馬の家にはカズマが持ってきたカセットがいくつか置いてある。基本はみんなでワイワイできる系のポピュラーな格闘ゲームやパーティーゲームなどである。

その中で古寺達が勝てるゲームといえば知識勝負に持っていけるクイズゲームくらいなのだが。

 

「せめて銃撃戦ゲームにしましょう!それ以外だとクイズゲームくらいしか勝ち目が見当たらないです!」

 

ちなみにそのクイズゲームも出る問題の傾向を完全にカズマが覚えてしまった為勝てなくなってきている。

まさか文章の一行目が開示された地点で解答するとは古寺達も思わなかった。

 

 

「無駄だと思うけど……僕それで勝った試しないもん。本職のガンナーなのになあ……」

「2対1でも構わないぞ。銃撃戦ゲームも立ち回りだけならガンナーで戦う時の参考になるしな」

「たまにカズマと戦うけど射線管理が上手いって思ってたんだけどそれが原因!?」

「なんか先輩が狙撃手にすんなり適応できた理由が分かった気がします……」

「いや硬派なゲームはあんまやらないからスナイパーは難しかったぞ。弾1発1発金かかるしハッピートリガーとしてはあの手のゲームはあんまやりたく無いな」

 

「なんですか弾1発1発にコストかかるゲームって!それゲームですか!?」

「あるらしいよ」

 

 

その後集合時間になるまでカズマは古寺と来馬先輩の家でゲームをするのだった。

 




シン・ウルトラマン見た。面白かった。
次はククルスドアンの島と異世界カルテット見てきます。
コメント、お気に入り登録。私の好きな言葉です。


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第15話 この残り僅かな夏休みを満喫せよ!③

ようやくB級ランク戦始動出来ましたよ。
この回は前回も含め私の煩悩で構成されているのでお気を付けて。あと次の話以降はこんなことやらないので。
小南ママ、私の好きな言葉です。
国近、私の好きな言葉です。

ファンアートこないかな。


集合時刻5分前

集合場所の祭り近くの公園に、誘った連中が段々と集まってくる。

アクアは1番遅れてくると思ったが予想を裏切り1番早く来ていた。そういえばこういうイベントごとはいつも早く来ていた記憶がある。

 

「おし、全員集まったな」

 

アクア、来馬先輩、古寺、玉狛の宇佐美に小南。そして太刀川隊の太刀川さん、出水、鳥丸、国近先輩。

 

「やっぱボーダーの女子って可愛いよな。めっちゃ浴衣似合ってるじゃん」

 

「そうかねそうかね?もっと褒めてくれても構わないぞよ」

 

「はい、宇佐美先輩。今日は一段と綺麗です」

 

古寺は少し赤くしてそう言う。

 

「いや〜辛いわ。溢れ出る大人の魅力を隠しきれなくて辛いわ〜」

 

「俺はみんな可愛いっつたぞ。見てみろ国近先輩を!」

 

そう言うと男メンツは俺の指差した先、国近先輩へと向く。

 

「それはそれで可愛いところなんだが、いつもはゲームばっかしてだらしない感じが、浴衣により大和撫子のような気品を感じる。そしてはちきれんばかりのおっ……へぼっ!」

 

『おっぱいのラインがくっきりと分かって素晴らしい』と言おうとした瞬間、出水のゲンコツが頭に降り注ぐ

 

「あれれ、かずまくーん?反省してなかったのかなー?」

 

「す、すみません」

 

出水はマジで怒ってる感じでは無いが先ほどのゲンコツはめっちゃ痛かった。

 

「あはは、誰と絡んでもカズマはカズマだね」

 

「いや、笑えるようなものじゃ無いですよ来馬先輩!?」

 

「ちょっとカズマ!私は私は?」

 

と小南は自分に指を差す。

 

「いつつ……小南先輩は……」

 

そう言ってじっくりと観察する。

次第に恥ずかしくなってきた小南は顔を赤くしてやっぱいいと言ってそっぽを向いた。

 

「カズマさんカズマさん!私は?」

 

そう言ってアクアは腕を組んで自信ありげな顔をする。

しかしこいつの浴衣は見慣れてしまってるので特に何も感じない。可愛いのは認めるが中身がなあ。

 

「馬子にも衣装?」

 

「なんでよぉぉ!!みんなばかりチヤホヤ褒められてズルい!私ももっともっと褒められたい!!!!」

 

「ちょっ!やめろって浴衣脱げるだろうが!!」

 

「アクアちゃんも似合ってて綺麗だよ」

 

優しさの化身来馬先輩はアクアにそう言って宥める。

 

「そうですよアクアさん。十分綺麗です」

 

「見てくれはいいぞ」

 

と来馬先輩にもっと励ませとアイコンタクトを送られた古寺と出水はそう言う。

 

「アクシズ教徒じゃ……むぐぐ」

 

「はいストップ太刀川先輩」

 

『無ければ満点だぞ』と言おうとした太刀川を烏丸が口に手を当てて封じる。

そしてそれぞれ数人に分かれて祭りを楽しみはじめる。

 

 

 

 

古寺、カズマ、来馬達

 

「お、射的じゃん。やろーぜ」

 

「いいですね。やりましょう」

 

「じゃあ僕はスナイパー2人のお手並みを拝見させてもらおうかな」

 

そして古寺と俺は料金を払う。防衛任務でたんまりお金はもらっているんだ、ここは惜しまず50発ほど購入してやる。

 

「どっちが多く落とせるか勝負するか?」

 

「いいんですか?射撃の腕は僕の方がまだまだ上ですよ?」

 

メガネをクイッとしながらこちらを挑発する古寺。

 

「上等だ!どっちが上かここで白黒はっきりつけようじゃねーか!」

 

「はっ、いくら多彩な先輩でも僕には勝てないでしょう!」

 

そして2人は念入りにコルク銃の様子を確認する。その姿はまるで一流の狙撃手かの様。そしてあるものを取り出し、コルクの弾をいじり始める。

 

「……2人ともなにやってるの?」

 

「「ワセリンぬりぬり」」

 

「いや……えっ、なんで?」

 

「知らないんっすか来馬先輩?コルクの凸凹をワセリンで塗って空気抵抗を無くすんすよ」

 

「へえ、2人とも物知りなんだね」

 

「「それほどでも」」

 

そして2人はみるみる的を落として行き、落としたものが増えるのに比例して店主の顔が真っ青になっていく。

が、的がゲーム機など大きな景品ばかりとなってくるとコルクの残弾だけが減って行った。

 

「よし古寺!」

「ええ!」

「やっぱボーダー隊員たるもの協力だよな!」

「はい。せーのでいきましょう!」

 

互いにボルトを引いては、ワセリンを塗ったコルクを銃の先っぽに詰めては狙いを定める。

 

「「せーの!」」

 

2人の放ったコルクは景品のゲーム機の箱の右角に同時に当たり、動き出す。景品は右に斜めった。

 

「「せーの!!」

 

今度は左角に当たりまたゲーム機の箱が後退する。

 

「「せーの!!!」

 

そして今度はコルクの弾がゲーム機の箱の中央に当たりさらに後退する。そしてバランスを崩した商品は地面へと落ちた。

 

「「「「うおおおお!すげーー!」」」」

 

気がつくと俺たちを囲んで観客ができており歓喜の声が上がる。

その後も協力して撃ちまくっていると、弾が尽きるよりも先に商品が無くなった。

 

「いやー大量大量!」

「楽しかったですね」

「いや、ドン引きだよ!!店主の人すごい涙目だったよ」

「いやあれ重し入ってましたし自業自得ですよ。やっぱ悪いことしたら全部返ってくるってことですね」

「先輩がが言うとすごい説得感ありますね。経験者は語るってやつですか?」

 

誰にも見られないようコッソリと箱を開けると俺と古寺の予想通り重しが入っていた。

古寺に相槌を送って来馬の気を引いてもらっている内に店主に『黙っててやるから取った商品半分と使った金全額を取引しよう』と持ち出した。

 

店主が余りにも渋るようなので『あの大量にいる観客の前でこの箱の中身見せるぞ』て言ったら快く受け入れてくれた。

あの店主は判別の付く良い人だ。

 

「おっ、スイッチもあるじゃん。これ来馬先輩の家に置きますね。これで最新のスマブラができる」

「いいですね」

「僕の家にドンドンゲーム機が増えてく……でもいいの?せっかく取ったんだからカズマの物にすればいいのに」

「俺が持ってないとでも?ゲームガールから最新のPS5までなんでもござれですよ」

「それもそっか」

 

 

その後、ボーダー隊員出禁と書かれた射的屋が続出したのは別の話。

 

 

 

◆◆◆

 

 

その後古寺たちと別れブラブラ歩いていると太刀川隊の連中と出会した。

 

「ん?お前らなにやってんの?」

 

「おお、カズマか。いま運試しにくじ引きやってるんだけどお前もどうだ?」

 

太刀川隊はちょうど1人ずつ引き終えた所らしい。結果はみんなスカの6等で景品の飴ちゃんを舐めていた。

 

「いいのか?俺は運だけのカズマさんってソシャゲ界じゃ有名なんだぞ」

「それ言ってて悲しくならないんすか先輩?」

「え〜すごい羨ましいよ。後で私のもガチャ回してよ」

「俺のも頼む」

「ふふん、よかろう!」

 

そう言ってカズマは一回分の料金500円を払い、くじを引く。

 

「「「「うっわ」」」」

「マジで一等引きやがったぞこいつ!」

「さすが運だけのカズマさんってやつか」

「先輩、今度一緒に商店街の福引行きましょう!!」

「これはガチャの結果も期待できるね〜」

「どうだ!見たかこれが俺の実力よ!」

 

そう言って一等の景品を受け取ったカズマは上機嫌でその場を後にした。

 

一等の景品はデザートイーグルの電動エアガンだった。これは外国製のかなりお高い品物で威力も高く飛距離も長いのだ。サバゲーはしないが前々から欲しいとは思っていた物である。しかも充電もバッチリと完璧だ。

あとでガンナー、シューター、スナイパーのみんなで的当てでもやろう。京介も銃手トリガーを入れてるらしいから京介にもやらせよう。

 

 

◆◆◆

 

 

今度はアクア、宇佐美、小南を見つけたのでそちらへ向かう。

 

「よお、金魚すくいか……ってどんだけ取ってんだよ!?」

 

宇佐美は一匹も取れておらず小南は2匹取っていたが、アクアは今にもお椀から飛び出そうなほど金魚を掬っており店主のおじいちゃんは真っ青な顔をしていた。

 

「よっ、ほっ、とりゃ!!」

 

みるみる捕まえていき小南や宇佐美のお碗にもパンパンになるまで掬って行く。

 

「ふう、楽しかったわ。でも飼えないし全てリリースするわ」

 

そう言うと全てを水槽に戻した。

先程まで青い顔していた店主が正気を取り戻して行く。

 

「いやー、アクアちゃんすごかったね」

「本当よ。私も宇佐美も全然取れなかったのに」

「こいつ手先だけは器用だからな。のび◯くん並みにあやとりもできるし。それと同じくらい射撃のセンスがあればな」

 

 

どこで覚えたのか知らないがアクアは宴会芸もお手のものである。

 

 

「アクアちゃんもすごいけどカズマくん……その荷物どうしたの?」

「射的で古寺と協力して全部落として、くじ引きで一等引いた」

「すごい楽しんでるね……」

 

 

 

◆◆◆

 

 

「なあ、古寺」

「なんでしょうか出水先輩」

「あいつスナイパーやってた時どんな感じだった?」

 

射手から狙撃手に移動したことをまだ引きずっているのか出水が古寺にそう問いかける。

すると古寺はカズマとの出来事を思い浮かべては顔がだんだんと曇っていく。

 

「初めて会った時はこの人頭おかしいなって思ったんですよ。C級でいきなり射手から狙撃手ですよ?」

「だろうな」

 

ははっと軽く笑う出水。

 

「……でもおかしいのはそこからでした。初めての合同訓練では、始めたばかりにしては割と上手いなと思う程度だったんです……それが日を追うごとに隠れるのばかり上手くなって途中からはB級の人と僕以外からの被弾がなくなって……次第に僕もB級の人達も当てられなくなっていって最終的には当真先輩、奈良坂先輩、そして噂を聞きつけてやってきた東さん、レイジさん、佐鳥先輩の五名だけでした……」

 

そう言っては古寺は愚痴に近いカズマへの感情を吐き出し続ける。

来馬は古寺を慰め、出水と太刀川は爆笑して腹を抱える。

 

「はははっ、それで出禁になったのか!」

「はい、隠れることばかりで誰も撃たなかったんです。挙句の果てにはイーグレットをその場に置いてあたかもそこにいるかのように偽装して、多くのC級狙撃手にトラウマを与えました」

「それで出禁か。あいつ意外と面白いな」

「だから言ったじゃないですか太刀川さん。あいつは面白いって」

 

2人はツボにハマったのか笑いが止まらず人目も憚らず大声で笑い続けた。

 

 

◆◆◆

 

 

 

俺とアクアたちは屋台を巡って色々と食べ物を買い込んでは他のみんなの元へと向かった。

 

「おっ、カズマ。それきな粉餅じゃんか。一個くれよ」

「まあいいですよ。はい」

 

太刀川が口を大きく開けるので箸できな粉餅を入れる。

 

「もう一個くれ」

「もう食ったのかよ!」

 

喉詰まらせないでくださいよ。と言いながらまた太刀川の口へと運ぶ。

そうしてもう一個もう一個と言われカズマも太刀川の食いっぷりが面白かったのかドンドン太刀川の口に入れていくと、いつの間にか全てのきな粉餅を食べられてしまった。

 

「って俺の分がない!!」

「悪い悪い、俺の口がお前のきな粉餅を食っちまった。次は磯部焼きを買ってくるといい」

「このやろー!!」

「まあまあ。僕ので良かったらたこ焼きあげるから。ハイ」

 

そう言って笑顔でたこ焼きをこっちに向けてくる。

やはりこの中では来馬先輩が1番の癒しだ。

 

「あー、わたしもわたしも!」

 

そう言ってアクアも口を開ける。

『はいはい』と笑顔でアクアの口にたこ焼きを入れる。

 

「「うま〜」」

 

「……なんか来馬先輩がアクア先輩とカズマ先輩のお母さんに見えてきました」

 

「いや、ペットに餌やってる飼育員だろ」

 

そう出水が言うとみんなの頭に来馬がペットショップで餌をあげてる姿が容易に浮かんできた。

 

「カズマ、ほら私のも食べなさいよ」

 

小南がこちらにイカ焼きを向けてくるのでカズマは首を伸ばして焼きイカに噛み付く。

 

「うま〜」

 

カズマがハムハムと食べる姿に小南は自身の中で湧いてくる熱い何かを感じた。

 

 

その後カズマとアクアはみんなにご飯を与えられては口に入れるという作業を繰り返した。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

彼らの反応

 

京介「先輩方相手に言うのはおかしいんですが小動物に餌を与えてる時と同じ感情が湧いてきますね」

 

出水「アイツらあげればあげるだけ食べてくるの楽しいな。って俺の食う分が無くなった!」

 

小南「なにかしら、2人に対して内から湧いてくるこの感情は!」

 

宇佐美「これは……小南ちゃんの気持ちも少し分かった気がする」

 

来馬「2人とも雛鳥みたいでかわいいな」

 

古寺「やりませんよ?死んでもやりませんからね!?」

 

太刀川「?? 俺の分は?」

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

「そういえば国近先輩は?」

「そういえば居ないわね」

「……探しましょう」

「「だな変な男に絡まれてるやもしれん」」

「なんで3人は俺の方見てそういうんですかね?」

「カズマは太刀川隊で何したの?」

「イエナニモシテマセンヨ来馬先輩」

 

そうして俺たちは手分けして国近先輩を探した。

 

 

 

そうしてカズマは人気の少ない場所を中心にしばらく探し続けていると見つけてしまった。

柄の悪そうな男達が国近を囲んでなにか話しているのを。

国近先輩は恐怖からか体が縮こまって俯いている。

 

 

まずい、非常にまずい。

これは間違いなく国近先輩の貞操の危機だ。なんとかしなくてはウ=ス異本時間になってしまう。だが他の連中を呼んでる余裕もなさそうだ。

男3人は等々痺れを切らしたのか国近先輩の手を握ってどこかに連れて行こうとしている。

 

現状思いつく策を考える。

 

その1

『ごめーん待った。すいません、こいつ連れなんすよ』と言いさりげなく去る。

→見るからに暴力慣れしてる感じなのでそのまま囲まれて確実にボコされる。

 

その2

飛び込んで国近先輩を掴んで走り出す。

→相手は普段着でこちらは2人とも浴衣。確実に追いつかれる。

 

その3

俺がアイツらにタックルかまして国近先輩をその隙に逃す。

→確実に俺は殺される。

 

その4

トリガー使って威嚇する。

→豚箱行き

 

(やるしかないか)

 

 

俺はそっこりと忍足で国近先輩のところへ向かう。

必死に抵抗する国近先輩と目が合う。カズマを見ると絶望していた顔が多少マシになった。

 

俺は口元に人差し指を立てて静かにと伝える。

そして逃げる方向を指を差して伝え俺は行動に出る。

 

「あのー、すいません」

 

「「「あ?」」」

 

3人がこちらへと振り向く。

 

「今だ!クリエイトアース!!」

 

カズマはそう叫んで右手に握っていた砂を投げる。

 

3人には咄嗟に顔面を腕でガードされ防がれてしまう。だが国近先輩を掴んでいた腕が離れた。

それを見逃さず俺は、男が掴んでいた国近先輩の腕を握り走り出す。

 

「クソ!追え!!」

 

「狙撃!狙撃!狙撃!」

 

懐に入れていた電動エアガン抜き、背後へ向け引き金を3回引く。

放たれた三発の弾は闇夜に紛れて3人の眉間に的確に命中する。急に襲いくる痛みに思わず相手も立ち止まってしまう。

 

その隙になるべく遠くへと逃げる。生憎走っている方向は人混みとは真逆の方向だ。なんとしても撒かなくてはならない。

 

「こういうのって女の子抱えて走るのが定番なんじゃ無いの?」

「俺だってできたらやりたいわ!30キロの米袋すらロクに持てないんだぞ!」

「ふふ、全くムードがないな〜」

 

そう言いながらも国近は笑っていた。

 

「というよりクリエイトアースってなに?ただの砂かけじゃん」

「うっせ!あれが最良の手なんだよ。本当はカッコよく3人ボコしてお前助けて『きゃー素敵』って言われたいわ!」

「カズマくんはホントカズマくんだね」

 

もう国近は先程までの怯えた表情はどこにもなかった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

あと10メートルほどで人混みに逃げ込めるというところで3人と出会してしまった。

3人に気付かれる前になんとか隠れたのだが見つからない保証などどこにもない。

 

「くっそ!どこいきやがった」

「あいつ全身の骨という骨を折ってやる!」

「てかあいつの目の前でピンク髪の子犯そうぜ」

「「「賛成」」」

 

カズマと国近はすぐ近くの自動販売機の裏に身を隠している。あまりにも心許ない隠れ場所だがだからこそ相手の意識にはなかった。

男達は周囲の木々や草むらを中心にカズマ達を捜索する。

 

 

カズマは自動販売機の裏から顔を出しては3人の姿を伺う。

緊張からかカズマは無意識な内に身体に力が入る。

 

「ッ!!!」

 

 

 

国近はカズマに抱きしめられる形で身を隠しており、カズマの抱き締める力が強くなり、既に密着状態だったのだが、さらに全身がくっつく事となる。

こんな状況にも関わらず、あまりの事態に国近は顔が熱くなっていくことを自覚する。

 

これまでに無いほど緊迫した顔のカズマを横目に見ては割と良いかもなんて考えてしまう。

そうしてしばらくすると3人組はどこかへ消えていった。

 

 

「国近先輩」

「ひゃ、ひゃい!!」

 

こちらを見るカズマの顔が輝いて見える。

走った疲れか、極度の緊張からか、カズマから伝わってくるのぼせるほどの体温と高らかに脈打つ鼓動。それらがとても心地良い。

 

もしかしたらこのまま雰囲気でキスくらいはいっちゃうんじゃないかと考えてはさらに顔を赤らめ国近の心臓の鼓動も早くなっていく。

 

「……今スッゲー役得ってことに気づいたんでもうちょっと抱きしめてていいですか?なんならもっと胸を押し当てて……」

「ふんっ!」

「おうふっ!」

 

先程までのドキドキも煌めきも一切消え去り国近のムードは一気に冷めた。

そして先程までの照れぶりをごまそうとカズマの股間に思い切り膝蹴りをした。

 

「ごめんなさい……調子乗りました。すみません太刀川隊の人にはチクらないでください!!」

 

カズマはそれはそれは綺麗な土下座を披露した。

 

「まあ、助けてもらったわけだし大めに見てしんぜよう」

 

国近の顔はまだほんのり赤かったがカズマは知る由もない。

 

「寛大な処置恐れ入ります……」

「ふふ、じゃあカズマくん立って」

「はい!!」

 

そう言われすぐさま立ち上がりピシッと姿勢を正す。

 

 

◆◆◆

 

いつもふざけてばかりでおちゃらけてばかりのカズマくん。でもやる時はやるって分かった。頼りないながらも必死に助けてくれた。

あの時、他の人たちも呼んだ方が良かったはずなのに私が連れていかれそうになったからって一人で助けに来てくれたのだ。

でももう少しムードに気を使ってくれても良いと思う。

 

でもそれを踏まえて、カズマくんはいつどんな時でもカズマくんのままなんだな思いながら体を寄せて、姿勢を正しながら目をつぶっているカズマの首に腕を絡めて耳元で囁いた。

 

「助けてくれてありがとう」

 

そして国近は強く、そして優しく抱きしめた。

そしてしばらくカズマの体温を感じては首に絡めていた腕を離す。

そひて笑顔を浮かべては弾むように人通りの多い方へと向かい、その後すぐにアクアたち合流した。

 

「国近先輩どこ行ってたの!?心配したんだから」

「大丈夫?どこか痛いところとかない?」

「うんありがとう。大丈夫」

 

 

 

◆◆◆

 

「ふっ、モテ期到来か」

 

まだ国近の香りや暖かさが残る中そんな馬鹿なことをカズマはつぶやいた。

 

「というか股間蹴ったのも照れ隠しか?っふ、恥ずかしがり屋さんめ」

 

そうカッコつけたつもりで変なポーズをしながら自身で出来る限りのイケボを捻り出す。

 

「ままー、あれなに?」

「シッ!目を合わせない!!」

 

 

カズマは顔を赤くしてみんなの元に戻った。

 

 

 

◆◆◆

 

最後にみんなで集まってデカい花火を見た。花火なんて見ても別に感銘を受けたりはしないが、みんなと見るのは悪くない。

 

今日の出来事はカズマにとって絶対に忘れることのない思い出になった。

 

 

 

 

 

ちなみに3人組はカズマたちを見失った後太刀川隊にボコボコにされましたとさ、めでたしめでたし。




いやいつかワートリキャラ✖️カズマの怪文書投稿したい。R18展開無しだから番外編として容易に載せられる。
これで読者から離れられたらやばいな。せっかくB級ランク戦書いてるのに。

ぜひコメント、評価、お気に入りお願いします!!


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第16話 この愚か者に宿題を!

ランク戦round 1終わらせるのに4、5話使いそう。すげーなランク戦。
それもround 1はかなり練ったから話が盛れたけどround 2以降はそうもいかなそう。
でもround 1すごく盛り上がってる。楽しい。
あとアサルトライフル撃って牽制して撤退するの好きなんですよ(性癖)でも銃手同士の戦い書けない。書きずらい。
なにか良い銃撃戦の作品ないかな。



夏休み最終日

8月31日

カズマはボーダーにも行かずのんびりと家で過ごしていた。そして唯一とも言える夏休みの思い出となった日のことを思い浮かべる。

 

「また小南とか国近先輩とキャッキャウフフな出来事起きねぇかな……」

 

「かじゅまさーん!」

 

お前はお呼びじゃねえっつうの、と思いながら玄関に向かい扉を開ける。

 

「かじゅまさん助けて!夏休みの宿題が終わらないの!」

 

と言ってバックに詰め込んである宿題を取り出す。

 

「おまえ、これ宿題全部じゃねーか!しかも」

 

そう言って宿題をペラペラとめくっていく。

 

「白紙!白紙!!白紙!!! 全部真っ白じゃねえーか!」

 

「だって、だって!防衛任務とか防衛任務とか防衛任務とかいっぱいあったんだもん!」

 

「全部防衛任務だろうが!そんなん自業自得だ、自力でやれ」

 

そう言って扉を閉めようとするとカズマにしがみついて離れない。

 

「お願いよ!手伝ってよ、私もやるから!」

 

「お前の宿題だろうが!なんで自分はやらなくていい想定なんだよ!……ハア、ったくしょうがねーな!」

 

呆れ果て大きくため息をついたカズマは出水へと電話をかける。

 

『はい、もしもし?』

 

「あ、出水?悪いんだけどアクアの宿題やるの手伝ってくれないか?もちろん報酬は払うよ。アクアが」

 

「ちょっ!」

 

『悪い、うちらは柚宇さんのを手伝うので手一杯なんだ』

 

「うち’’ら’’ってことは京介も手伝ってんのか?あいつ中学生だぞ!?」

 

『京介は頭いいんで。そんでもってそれが終わったら次は太刀川さんのレポートの手伝いも残ってるんだよ』

 

「嘘だろ……」

 

『悪いな。太刀川さんこれ終わらなかったらA級ランク戦出るなって忍田本部長に言われてるんだ。流石に隊長なしで勝てねえよ』

 

「それ自力でやれって意味じゃ?……」

 

『……』

 

電話はすでに切れていた。

出水の支援は諦め、他の相手に電話をかける。

 

『はい、もしもし』

 

「あっ、来馬先輩?悪いんですけどもし今日暇ならアクアの宿題手伝ってくれますか?」

 

『いいけど。ちなみにどれくらい残ってるの?』

 

「全部です」

 

『はい?』

 

「だから全部です。全て白紙です」

 

『ええっ……わ、分かったよ今から行く』

 

来馬先輩は来てくれるようだが、これを1日で終わらせるにはまだまだマンパワーが足りない。

今度は別の相手に電話をかける。

 

『はい、もしもし?』

 

「お、古寺?アクアの宿題手伝ってくれ」

 

『僕中学生なんですけど……』

 

「いいじゃんお前頭良いんだし、それに進学校通ってるなら高校の範囲もやってるだろ?いい勉強になるぞ?」

 

『はいはい、分かりましたよ。先輩に乗せられてあげますよ』

 

 

これで戦力は3とバカ1人。しかしこの量を3人でやるとなるとかなりの時間を要するだろう。

そう考えてカズマは再び電話を掛けた。

 

『はい、もしもし』

 

「あ、小南?」

 

『あらどうしたの?」

 

「アクアが宿題終わってなくてできれば手伝って欲しいんだけどいいか?」

 

『ふふん、しょうがないわね!あっ、ついでに宇佐美も連れていくわね』

 

「おう、手際が良くて助かる」

 

今度玉狛支部に行く時は折り菓子を持って行こう。

 

 

 

そして電話した順に来馬先輩、古寺がやってきた。

玉狛支部はカズマの家と離れている為まだかかるだろう。

 

「おっし役割分担するぞ。まず一教科ずつやってくか。来馬先輩は英語をお願いします。古寺は国語を頼む。文章問題なら習ってないところがあっても解けるだろ?俺は社会系をやるからアクアは芸術系の提出課題をやれ」

 

「「「了解」」」

 

アクアはバカだが手先が器用だからな。これこそ真の適材適所だ。

そうしてしばらくすると小南達がやってくる。

小南に数学をお願いし、宇佐美には理科をお願いした。

 

 

 

 

「古寺くんすごいね……」

 

来馬先輩が口を耳に寄せてヒソヒソ話をしてくる。

 

「だな、宇佐美が来てからあからさまに問題を解くスピードが跳ね上がってる」

 

あの夏祭りの一件で気づいたが宇佐美に気があるのだろう。

古寺は宇佐美に良いところを見せようとしているのかものすごい速度で問題を解いていく。

そしてしばらくすると古寺に頼んだ宿題の分は終わってしまった。

探りを入れてみるか。

 

「すまん古寺、実は社会系あんまり得意じゃないんだ。歴史と地理ならゲーム知識使って解けたんだが公民が点でダメでさ。ちょっと変わってくれないか?他の残った課題やるからさ」

 

「カズマくんそうなの?割と頭良さそうに見えるけど」

 

「いやいや、俺普通高校の生徒よ?そんな頭いいわけないじゃん。けど古寺はめっちゃ頭良いし中学生でも解けちゃうんじゃないかなって思ってさ。現に国語はもう終わってる訳だし」

 

「あっ、本当だ。すごいじゃん古寺」

 

「いや……それほどでも」

 

ビンゴだ。

隠そうとしても隠しきれないほど顔がニヤついてる。

カズマはバレないようにニヤついた古寺の顔をこっそりと撮った。

 

そうしてさらに1時間が経過した。

 

「なあ小南。自分の分が終わったからってあんまりアクアを甘やかさないでくれ……というかアクア!てめえは自分の宿題なんだから1番やる気をだせ!!」

 

小南は割り振られた宿題が終わるとだんだんとアクアに近づいていき気づけばアクアを甘やかしていた。

カズマは、こいつら!と呆れた顔をする。

 

(カズマくん、カズマくん)

(なんだよ宇佐美)

 

膝でカズマを突きカズマに小声で話しかける。

 

(ああなったのカズマのせいだからね?)

(俺が何したって言うんだよ!?)

(カズマが桐絵ちゃんに散々甘えるから桐絵ちゃんの母性が開花しちゃったのよ!あの夏祭りの日から様子が変なの!!)

 

どうやら俺が役得で甘えたのが原因らしい。そういえば祭りの時もやけに俺にアーンしてきた気がする。

つまりあのまま甘え続けたら俺に優しい美少女系ママが誕生したというのか!?

取り返しのつかない事実に気付いたカズマは項垂れ筆が止まる。

 

 

くそ、小南は俺の母親になるかもしれない女性だったのか!!

 

「すごい悔しそうにしてるけど、考えてることがロクでもないことってことだけは分かるよ」

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

そして夕方にもなる頃ようやくアクアの宿題が終わった。

お礼も兼ねてアクアが奢りで何処か食べに行こうと話していると小南が口を開いた。

 

「そういえばあんたたち同じ学校よね?」

 

アクアの頭を撫でながら小南はそう俺に問いかけてくる。

 

「そうだけど?」

「宿題って同じものなんじゃないの?」

「……あっ!!」

「「私たちの苦労は!?」」

「「僕たちの苦労は!?」」

 

 

 

謝罪を兼ねてアクアが8割カズマが2割を出し焼き肉を奢った。

 

「アクアの宿題終了に祝って!」

 

「「「「「乾杯!」」」」」

 

「ほらアクアこのお肉焼けたわよ。食べなさい」

 

「うま〜」

 

先ほどから小南は肉が焼けてはアクアの口に運び甲斐甲斐しくお世話をしている。それを見ていたカズマは箸に力が入りミシミシと音を鳴らす。

 

「カズマ先輩どうしたんですか?そんな親の仇を見るような目をして」

「確かにな、アイツは俺から母になるかもしれない女性を奪った……」

「もしかしなくても小南先輩のこと言ってますよね!?」

「ほらカズマも食べなさい」

 

そう言って小南はカズマへも箸を向ける。

 

「あーん!」

「「うっわ」」

 

先程の恨み嫉みの募った表情から一変幸せそうな表情に変わる。そのあまりの切り返しの速さに宇佐美も古寺もドン引きだ。

 

「カズマくんこれも美味しいよ」

 

「おお、美味いな!」

 

「あー!カズマばかりずるいわ!私もちょうだい!」

「ちょっと!私の役目を奪わないでよ来馬先輩!」

「アクアも小南もはい、美味しいよ?」

 

と言って2人に自分が育ててた肉を食べさせる。

 

「美味しいわね!」

「本当だわ!」

 

その後も口を開けて肉をねだる3人を見て雛鳥みたいでかわいいなと微笑む来馬であった。

 

 

「宇佐美先輩……」

「うん、そうだね」

「「来馬先輩が1番恐ろしい」」

 

 

菩薩の前には母性も何もなにも通用しないのだ。

 

 

 




これで日常パートは終わり!
夏休みといえば祭りと宿題でしょ。ということでね。海はめぐみんもダクネスも出てないのに行くのは可哀想なのでやめました。来年の夏にはみんな揃っていけるはず。たぶん。ダクネスにスイカ割りさせたい。
前回のアレはほんとすみませんでした。あれは怪文書としてメモ帳にだけ残して眺めておけば良かったと思ってます。ハイ


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第17話 このB級隊員にメガネを!

5/25 三雲くん誕生日おめでとう!!
三雲の誕生日は覚えやすい。なぜなら社会人の大半は今日が給料日だから(20日の人もいるらしいですね)
ちなみにタイトルにメガネがあるからと言って三雲くんは出ません。



夏休みも終わり学校が始まってから早数日。

今日は14時から防衛任務が入っている。

 

カズマは病的なまでにボーダーに入れ込んでおり授業中もボーダーに行く事ができないかとバカなことを考えていた。しかしそのバカなことは実現することとなる。

なんと防衛任務参加時は学校側は公欠扱いにするというのだ。

 

三門市の学校は基本ボーダーと提携しており防衛任務の際は公欠扱いとなっている。それを悪用しカズマは学校の日に防衛任務を入れまくったのだ。

まあそれ以外にも目的はあるのだか。

 

「先生」

 

「ん、何かね?」

 

昼休み前、クラスメイト全員が集まっている時間帯を見計らって先生に話をかける。そうするとやはり話の内容が気になるのか何人かは俺の方へと視線を向ける。

 

「実は俺ボーダー隊員でして、防衛任務が14時から入っていまして……」

 

他の人にも聞こえるか聞こえないかの大きさでそう話すと予想通り耳聡い者が『ボーダー』という単語に反応してカズマの元に人だかりが出来ていく。

 

「カズマお前ボーダー隊員だったのかよ!」

 

「すげーな!」

 

はいきました!やっとこさお決まりの展開だ。

 

「ねえ、奈良坂さんって知ってる?知ってたらサイン欲しいんだけど!」

 

「「私も!」」

 

「なあ、ボーダーに那須さんっていう美人いるだろ?写真くれよ!」

 

「「俺も!」」

 

 

あれ?

お決まりの展開は一瞬で消え去り俺の話題からボーダーの美男美女の話題へと切り替わってしまった。

奈良坂とは知り合いだが絶対こいつらにはやらねえ!那須って人に会ってもこいつらには絶対に教えねえ!

 

「カズマお前もボーダー隊員だったのか」

 

そして遠巻きに見ていた白髪眼鏡の男、クラスメイトの若村麓郎が声を掛けてきた。

こいつ自身は気付いていないがかなりのイケメンで女子人気が高い。そう俺の嫌いなイケメンだ。って待てよ。

 

「……今“お前も“って言ったのか?……もしかして」

 

「ああ、ボーダー隊員なんだ。そして俺も今日14時から防衛任務が入ってる。よろしく頼む」

 

そう爽やかな笑顔で話しかけて来る麓郎にみんなの関心が移っていく。さらには会話に入っていなかった者までも加わりだす始末だ。

 

「なんか一気に奪われたなあ」

 

と先程まで那須さんの写真をねだって来たクラスメイトが哀れみの視線を向けてくる。

 

「分かるかこの気持ちが!せっかくボーダー入ったと思ったらアクアの方が人気出て!B級に上がって学校でボーダー隊員ってバレみんなにチヤホヤされると思ったらそんな事はなく!挙句クソイケメン野郎に出番奪われたんだぞ!」

 

「お、おう……ってあのヤバいのもボーダー隊員なのかよ」

 

 

 

 

 

そうして昼休み、弁当を食べ終わると麓郎と一緒に学校を後にする。

学生服のまま警戒区域を歩いてはボーダー本部へと向かっている。

 

「なあ?」

 

「……」

 

「なあ?」

 

「………」

 

「何でそんなに不機嫌なんだ?俺なんかしたか!?」

 

「うるせえこのクソイケメンが!」

 

「それは……褒めてるのか?」

 

「お前に分かるか、俺の気持ちが!ボーダー隊員になってクラスメイトにバレて『えっ、カズマくんボーダー隊員なの!?きゃー憧れる』とか『カズマくんステキ』とかチヤホヤされると思ってたら話題全部お前に奪われたんだぞ!」

 

「いや、その……なんかすまん。クラスメイトにボーダー隊員がいるってわかって嬉しかったからさ……」

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

しばらくしてようやく機嫌を取り戻したカズマは麓郎と戦術の打ち合わせをする。

 

「なんかお前のトリガー構成、欲張りセットみたいだな。射手トリガーあんのに銃手トリガーいるか?……」

 

「ほっとけほっとけ。射手トリガーじゃないといけない場面と射手トリガーだと間に合わない場面があるんだよ」

 

攻撃手トリガー、射手トリガー、銃手トリガーが入っているカズマのトリガー構成を聞いて入ったばかりでオールラウンダーでも目指しているのかと麓郎は若干引いた。

 

「でもお前が銃手なら俺が前衛でタンクをやった方がいいか。俺トリオンちっともないから火力担当は頼んだぞ」

 

「おう!任せとけ!」

 

そう息巻いて二人は防衛任務に向かった。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「あああっ!!!助けて、助けて麓郎さん!早くこいつ倒してくれ!!」

 

「ちょっ、射線が重なって撃てねえ!」

 

現在二人はモールモッド一体に手こずっている。

前衛をアクアに任せっきりだった事や、初のコンビという事もあり連携もボロボロ。

射線に敵とカズマが被っており麓郎も撃つに撃てないでいた。

 

前衛を務めていたカズマはシールドとスコーピオンでモールモッドの攻撃を防いでいたが、数発防いだだけでスコーピオンが壊れ、先程まで耐えていたシールドも破壊された。

戦線はわずか数秒で崩壊しかけている。

 

「くっそ!」

 

分かってはいたが俺のトリガー構成は防御にちっとも向いていないのである。

 

「こんな事ならレイガスト持ってくればよかったよ!……っと、アステロイド!」

 

モールモッドが鎌を振り下ろしてくるがそれを後ろに大きく飛んで避け、下がり際にアステロイドをモールモッドの左右に撃ちだす。

それにより一瞬動きを止めたモールモッドに麓郎の放った弾丸が雨のように襲い掛かり、モールモッドは活動を停止した。

 

先程までの苦戦が嘘の様に終わってしまった。

 

「……前衛張るのやめるか?」

 

「そうだな……一緒に中距離で戦おう」

 

 

 

次は2体のモールモッドが現れた。

 

「アステロイド!」

 

会敵してから即座にアステロイドの弱高速弾を両攻撃(フルアタック)で撃ちだし無数の弾丸が避けるままなくモールモッドに襲いかかった。

高速弾唯一の弱点である威力の低さを両攻撃の数でカバーするというC級隊員時ではできなかった芸当だ。

 

残ったモールモッド1体が接近するも側面の家屋の屋根に陣取っていた麓郎の射撃により大ダメージが入り動きが鈍る。

その隙を見逃さず、腰のホルスターからハンドガンを抜き構えては引き金を引く。すると瞬時に8発の弾丸が飛び出していき、弱点部位目掛けて飛んでいきモールモッドを撃破した。

 

その後も1、2体のモールモッドが出ては麓郎とフォーカスを合わせて各個撃破していった。

 

 

そうしてしばらくするとモールモッド2体、バムスター1体、バンダー1体が出現する。

 

バムスターが前に出て、それを護衛するかのようにモールモッドが側面に随伴しており、バンダーは後方で砲撃の準備をしている。

 

「おいおい、またこのパターンかよ!!」

 

早くバンダーを倒さなきゃいけないのに、とカズマは頭を抱えながらにそう言う。

 

アクアだったらあの高いトリオン量でクッソ硬いシールド張りながら旋空でバタバタと倒していくという戦術もクソもないパワープレイができる為モールモッド達を任せられる。

 

しかし麓郎のポジションは銃手だ。前衛をさせるわけにもいかない。かと言って俺のトリガー構成とトリオンじゃあ2体の攻撃を防ぎ切れる自信がない。

だがこいつらを放置して2人でバンダーの方へ行く訳にも行かない。

 

「おい麓郎どうする!?」

 

「俺が決めるのか!?」

 

そう言って冷や汗を掻いては麓郎は少し取り乱す。

 

「お前の方が経験あるんだから当たり前だろ」

 

「……しょうがねえ…………か、カズマはバンダーのとこへ行け。ここは……俺が時間を稼ぐ!」

 

「悪い。頼んだ!」

 

「おう!行ってこい!……出来るだけ早くしてくれ」

 

そう言ってカズマはバンダーめがけ一直線に駆けていく。もちろんその前方には前衛のモールモッド共が待ち構えており、1体のモールモッドが鎌を振り下ろそうとする。だが

 

「こっちだ!」

 

麓郎の射撃によりそのモールモッドは怯み攻撃のタイミングを逃す。そしてターゲットが麓郎に移った。

もう一体もカズマへ攻撃するがシールドでその一撃を防ぎ、モールモッド共を振り切ったカズマはバンダーへと全速力で向かっていく。

 

 

 

バンダーまで約100メートル。

射撃トリガーの射程内だがこうも走りながらでは当てられない。もっと近づかなくては。

バンダーは砲撃を放つが、高く跳んでそれを回避。さらに着弾した砲撃の爆風が、幸いなことにカズマの背中を押し出しバンダーとの距離をさらに近づけた。

 

空中に浮かびながら拳銃の引き金を引き、撃ち出された数発の弾丸がバンダーの弱点へ向かって軌道を変えながら進んでいく。そして数発のハウンドが命中しバンダーは地面に力なく倒れ込む。

そして接近したカズマは右手に出現させたスコーピオンで弱点を深く切り裂き確実にトドメを刺した。

 

 

 

 

◆◆◆

 

ダダッ、ダダッっと引き撃ち気味にアステロイドを数発ずつ撃ち出す。

 

引きながら射撃を繰り返す麓郎の体にはかすり傷が多く存在し、脇腹には一つ大きな傷があった。

モールモッドのどちらか1体を撃っている間に、もう一方のモールモッドが間合いを詰めてくる。

 

鎌の射程に入ったモールモッドの一撃をシールドで受けながら反撃をする。

どうしてももう一体がフリーとなり麓郎に攻撃を仕掛けてくるのでシールドで防いだり避けたりしているのだが、完璧には避けきれず多くの浅い傷からトリオンが漏れ出す。

先程もリロードタイムの隙を突かれ深傷を負った。

 

 

随伴してくるバムスターが厄介だ。装甲だけはなまじ硬い為モールモッドの盾にされてしまう為2体に決定打を与えられていない。

そして再び2体のモールモッドが攻撃を開始する。

 

(このままじゃジリ貧だ。やるしかねえ!)

 

突撃銃のレバーを切り替え、銃口を上に向け上空へと弾を撃ち出す。

天高く飛んだ弾は軌道を変えバムスターへと降り注ぎ、倒れて動かなくなる。

 

そして1体目の攻撃をなんとか避け、2体目の攻撃をシールドで受けきる。

だがそれと同時に次の一撃が降ってきた。

メイン、サブ両方のトリガーを使用しているためもうシールドは出せず回避も間に合いそうにない。

鎌はもう目の前だ。

 

(やっぱり犬飼先輩みたいにはできないのか……)

 

そう内心で悔しさに唇を噛むが、モールモッドの攻撃が麓郎に触れることはなかった。

 

「シールド!」

 

麓郎の目の前に麓郎を覆うほどのシールドが展開されモールモッドの一撃を防ぎきると砕け散った。

どうやらバンダーを倒したカズマが間一髪のところでやってきたようだ。

 

「助かったぜカズマ!」

 

そう言ってゼロ距離で先程攻撃をしてきたモールモッドの弱点にP-90の形をした突撃銃を向けアステロイドの雨を浴びせる。

残ったもう一体にも銃口を向けるが、引き金を引く前に背後から飛んできたアステロイドに貫かれ動かなくなった。

 

 

 

 

 

その後は一体のバムスターやモールモッドが散発的に出るだけでカズマがアシストして麓郎がトドメをさす形で順調に進んだ。

途中カズマのトリオンが切れるというハプニングがあったが、その後はネイバーが出てくることはなく無事防衛任務は終了した。

 

「最初はどうなるのかと思ったが上手くいってよかったぜ。あの時のシールドはホントに助かった」

 

「おう、流石に後ろからじゃ全然見えなかったから結構広めにシールド張ったんだけどモールモッドの一撃を辛うじて防げたみたいでよかったよ」

 

そう言いながらカズマはチラチラと麓郎の持つ銃に目を向ける。

 

「……ところでそのP-90みたいなメチャクチャカッコいい銃はなんだ?俺も使ってみたいんだが!!」

 

「ああ、これか?銃の形ってある程度変えられるんだよ。それで個人が持ちやすい形にデザインを変えたりもできるんだ。それで俺のは師匠のと同じにしてもらったんだ」

 

「俺もそのp-90風の突撃銃使いたいんだけど……」

 

「俺のやつコピーすれば使えるはずだぜ?」

 

「いいのか!?」

 

「おう!この後俺のとこの作戦室寄れよ」

 

「ありがとう!俺戦争の次にイケメンが嫌いって豪語してるけどお前は大好きだよ」

 

「お前拗らせすぎだろ……」

 

 

 

そうしてカズマはボーダーに戻って報酬を受け取った後、香取隊作戦室にお邪魔した。

 

「ほらできたぞ。あとは突撃銃のチップにこのデータを入れれば良い」

 

パソコンに自分のトリガーを接続しカタカタと作業していた麓郎がカズマにUSBを渡しながらにそういう。

 

「おお、早いな。てっきりもっと時間かかると思ったんだが」

 

「まあ銃のデザイン変えるだけで性能自体を弄るわけじゃないからな。SNSのアイコン変えるようなもんだ」

 

デザインの複雑さやサイズにより多少トリオン消費は変わるが。

 

「ちなみにこういうのはボーダーが作った3Dデザインのアプリで色々好きにモデリング出来るんだが、まあそういうのは基本エンジニアに依頼してやる感じだな」

 

「へえ……というか隊の作戦室ってこんな感じなんだな。なんか良いな。俺も欲しい」

 

香取隊の作戦室を見渡す。

生活スペースや作戦を話し合うためのテーブルなど置かれている。他にもオペレーター用の机だろうか。PCなどが置かれており整理整頓が行き渡っている。

 

「お前どこかの隊に入ってる訳じゃないのか」

 

そう言って何か嬉しそうにこちらを見てくる。

 

「なんだよそれ!俺そんなに友達いなさそうに見えるのか!?……まあどこの隊にも入ってないけどよ」

 

「じゃあ良かったらこの隊に入らないか?もうすぐB級ランク戦も始まるし、お前が入ってくれたら心強い!」

 

「……そもそもなんだけど隊ってどうやって結成するんだ?あとそのB級ランク戦についても教えてくれ」

 

「マジで言ってるのか?」

 

「マジマジ」

 

俺がそう言うと説明をしてくれた。

部隊は1人のオペレーターと1人以上4人以下の戦闘員で成立するという事。

そしてB級ランク戦は3チームか4チームによる三つ巴、四つ巴戦になるという事。

 

「なるほどバトロワゲーみたいなもんか」

 

「?……まあそう、なのか?詳しくはボーダーで聞いてくれ」

 

あまりゲームをやらない麓郎はパッと来ておらず頭にハテナを浮かべては話を切り上げる。

 

「そうか、ちなみに俺はアクアとA級目指しててアクアと組みたいと思ってるんだが2人分入れるか?」

 

「っとなるとウチはもう3人だから最大戦闘員数の4人をオーバーするから無理だな……というかあのアクシズ教徒もボーダー隊員なのかよ……」

 

麓郎は心底嫌そうな顔をしながら頬に汗を浮かべ、いつかボーダーがアクシズ教の温床にならないか心配になる。

 

「ところでオペレーターってどうやって確保するんだ?」

 

とりあえず俺とアクアで組むとして、ほかにオペレーターを確保しないとならない。だがフリーのオペレーターについてなんて全く知らない。

 

「そうだな。知り合いに頼むとか。そもそも隊結成ってのは知り合い同士でやる感じだし」

 

「知り合いにオペレーターなんていないぞ?」

 

「まあ……頑張ってくれ」

 

一瞬自分だけでも麓郎の部隊に入ろうかと悩んでしまった。

 

 




那須さんは容姿が良いのできっと三門市の一般人にもファンはいるはず。居て(願望)
実現させる為に那須親衛隊を作ったのでね。ヤバい方の親衛隊がインしてるけども。
今9話もストック溜まってるぜえ!アクアの名前決まったから今度はそれを入れる作業が待ってる

お気に入り、コメント、評価等お願いします!!
あと活動報告もたまに更新してるから是非チェックしてくれよな!


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第18話 このB級隊員にメガネを!2

三雲くんは出ません。ジャクソンも出ません。
今回も次回も3,000文字程度と少なめですがご容赦を。
まだround2始められておらず、round 1終わった後飯食いに行ってそこで止まってる。日常パート難しすぎンゴ


9月も中旬に差し掛かる頃。

まだ夏の暑さが残る今日、俺と古寺は共に防衛任務を行なっていた。

俺は前回の麓郎との防衛任務での反省を踏まえレイガストをセットしてきており、現在のトリガー構成は以下の通りとなっている。

 

メイン

・アステロイド(突撃銃)

・スコーピオン

・シールド

・FREE

 

サブ

・レイガスト

・ハウンド

・アステロイド

・バックワーム

 

 

 

 

そして現在カズマは出現したモールモッド2体と交戦を開始する。

2体が交互に鎌を振り、こちらが休む間もなく攻撃を仕掛けてくる。それらをひたすらレイガストで受け止め続ける。依然レイガストは傷一つ付いていない。

シールドでならこうも容易くはいかないだろう。

このトリガーはかなり重くて片手では扱いにくいがこの防御力だけは魅力的だ。状況によってはこれをセットするのも悪くは無い。

 

そしてモールモッド2体の猛攻レイガストとシールドで防ぎ続けていると、遠くで狙撃位置についた古寺がモールモッド1体の横っ腹を撃ち抜き撃破する。

 

『ナイス古寺!もう一体は任せとけ!』

 

『了解です。危険だと判断したら独断で撃ちますからね』

 

そう無線で古寺に連絡すると、以前麓郎からコピーさせてもらったP-90型の突撃銃を片手で構える。

モールモッドは1体になって尚も俺に鎌を振り続けるがレイガストで全て受けきり銃口をモールモッドの口へと向け引き金を引く。

次の瞬間マズルフラッシュと共に無数の弾丸が発射されモールモッドの弱点が蜂の巣となり動かなくなった。

 

「すっげー、やっぱハンドガンより火力あるな」

 

『何当たり前のこと言ってんですか?』

 

古寺は知らないがカズマの狂った連射性能から来るハンドガンの射撃は、突撃銃には劣るものの、割と馬鹿にできない火力を持っているのだ。

 

 

そうしてその後は、一体のみの場合は俺がひたすら防御して古寺が隙だらけの相手を撃ち、2体以上出現すれば古寺が1体倒した後俺が1体をもらってP-90の試し撃ちをする。その繰り返しで防衛任務が終了した。

 

デザインが変わってる事以外は威力も射程も弾速もなにも変わっていないが好きな銃で撃てると言うだけでかなりモチベーションがあがる。以前のは銃撃戦ゲームをする俺からしたら納得いかない形だったからな。

 

今度ハンドガンもグリップ部分を持ちやすいようにデザインを変えるのもいいかもしれない。自分だけのオリジナルデザインみたいでワクワクする。

確か麓郎がこういうのはエンジニアが得意と言っていたがキヨシさんに教えて貰えば良いだろう。射撃トリガーに関してならあの人はウキウキで教えてくれそうだし。

あとは銃手トリガーの弾丸の設定の変え方も教えてもらうのも良いかもしれない。威力特化や弾速特化な銃、もし出来るなら連射性能を馬鹿みたいに上げて発射レートを毎分1200発とかにしたら面白そうだ。

 

また、今回の防衛任務でレイガストの脅威的な耐久力を改めて認識した。

アクアとの戦闘でも、とても硬い事は分かっていたが、今回の防衛任務でモールモッドに攻撃を何度も受けたが、俺のスマホの画面くらいバキバキにヒビが入ってはいるが一度も壊れなかった。

これは弾トリガーの天敵だ。まあ攻撃力ゼロだから使う奴なんて居ないのだろう。

実際レイガスト使いの正隊員とは一度も当たっていない。

 

 

「なあ古寺?」

 

「なんですかカズマ先輩?」

 

「10月からB級ランク戦っていう面白そうなバトロワゲーが始まるらしいじゃん?」

 

「なんでもゲームで例えようとしないでください……まあ始まりますね」

 

「お前どこかの隊に入るとかって決まってるか?」

 

「いえ特には決まってないですね。強いて言うなら奈良坂先輩が呼んでくれればそちらに行こうかとは思いますけど」

 

「なるほど。素晴らしい提案をしよう。これから結成する俺の隊に入らないか?」

 

「えー、カズマ先輩の隊ですか?……いやでもカズマ先輩と戦ったら心底面倒だろうし……アリなのか?」

 

心底嫌そうな顔をしながらもカズマを敵に回すとかなり厄介という事をここ数ヶ月で痛いほどに学んでいる古寺はカズマの部隊に入った方が何倍もマシなのではと考える。

 

「何だその反応!! よし決めた、別チームに入ったらランク戦で当たった時真っ先にお前を殺す!グラスホッパーでどこまでも追いかけて殺してやる!!」

 

「怖っ!!というかグラスホッパーも使えるようになったんですか!?」

 

「いやまだ使い物にならないぞ。行きたい方向へは飛べるようにはなったんだが顔面から地面に着地するんだよな。あれ生身だったら顔面の皮が全部剥がれてるところだぞ。まあランク戦が始まるまで後2週間以上もあるし、あれ結構便利だから使えるようになりたいんだよな。知ってるか?あれ弧月とかスコーピオンとか実体のあるものなら当てると跳ね返るんだぜ?」

 

アステロイドとかはぶつかって相殺されたがな。

 

「知りませんよ。というよりどれだけトリガー極めようとしてるんですか!?たしかC級時もいろんなトリガーに手を出してましたよね?」

 

「えっと……最初にスコーピオンだろ?その次にアステロイド、お前のせいでイーグレットにライトニングも使っただろ? で次はハンドガンにレイガストに弧月に……」

 

「ほぼ全ての攻撃用トリガーじゃ無いですか!?……えっ、待ってください。散々狙撃手界隈荒らした挙句その後も他のトリガーにまで手を出してたんですか?」

 

「だってどのトリガーも使ってて面白いからな……弧月以外は」

 

弧月は片手で扱えさえすれば、スコーピオン+弧月とどこぞの深淵を監視してる人みたいなカッコいい二刀流スタイルを取れたのだが。あと旋空もやってみたいけど弧月扱えない地点で話にならない。

 

 

カズマはB級に上がってからというものスコーピオンだけは残してその他のトリガーを入れては模擬戦をしていた。

そしてグラスホッパーは対戦相手に使われて、初めてその存在を知った。

あの時は攻撃手相手に射撃戦を展開したところ、シールドを張りながらグラスホッパーで一気に距離を詰められて訳もわからないままやられた。

 

まあその試合のおかげで、以前から課題になっていたスコーピオンを使う際どうやって距離を詰めるかについて一つの解答が出たのだ。

しかし、いざ実際に使ってみると思うように移動できず、あらぬ方向へ飛んだり、そもそも足元に出したグラスホッパーを踏めず、倒されることが多かった。

 

そこでボーダー内にある運動施設でトランポリンを使い体の動かし方を覚えようとしたのだが途中、運動音痴のカズマは頭から落ちるなどのハプニングもあったがトリオン体のため助かった。

 

しかしその事件がトリオン体以外では運動をしたくないというカズマの考えをさらに促進させてしまうこととなり9月からの体育の成績はどんどん下がっていくことになる。

 

最後の手段として京介にグラスホッパーの指導をしてもらった。そしたら『まずは生身の動かし方覚えてください』と言ってレイジさんを呼んで走り込みをさせられた。

あれは地獄だった。もう二度としたくない。

まあ小南に慰めてもらったからプラマイゼロという事にしておこう。

 

 

まあその結果として、意識して使えば飛びたい方向にある程度飛べるようになった。しかし、実戦で使うにはあまりにも技量不足であり、戦闘中に使うなんてとんでもない。

せいぜい相手が劣勢になって逃げ腰になった所を詰めるか、会敵前の移動手段、この2つくらいしかできないだろう。

 

最終的には相手の隙が見えたら一気に距離を詰めてカッコよくスコーピオンでキルしたいものだ。

 

 

「分かりました、分かりましたよ!そんな粘着行為されたらたまらないので入りますよ!!」

 

「よしこれで前衛のアクア、中衛の俺、後衛の古寺と完璧な布陣だな!」

 

「えっ……やっぱアクア先輩も一緒なんですか」

 

そのメンツでやっていけるのかと色んな意味で心配になり冷や汗をかく古寺であった。

 

 




みんな活動報告にある怪文書も読んでくれよな。カズマはメスガキ適性高いと思います。(伝われ!)
今は本編進めずifストーリー書いて遊んでます。(それすら二千文字しか書けてない)ヒロインはめぐみんです。本編より先にifストーリーで出るって何。ダクネスもそっちの方が先に出てきそう。こっちのカズマさんのメイントリガーは弧月です。前にちゅんちゅん丸は?って言われたので弧月使います。(聖杯並の歪な叶え方)

コメント、お気に入り登録、評価等よろしくお願いします。毎度励みになっております。


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第19話この愚か者に制裁を!2

今年まだ半分切ってないのにネットミーム多すぎない?
サロメのせいでミズカミングのセリフが脳内で全てお嬢様言葉に変換されるんだが。
おハーブですわ〜(ミズカミングボイス)



早朝、朝日が登る頃カズマとアクアは防衛任務を行なっていた。

 

「旋空弧月!」

 

今日もカズマがアクアをレイガストで守りつつ、アクアが旋空を使ってトリオン兵を次々と倒していく。

 

現在はモールモッド3体、バムスター1体の計4体と交戦中。

アクアに接近してくる1体のモールモッドの前に出て振り下ろされる鎌をレイガストで受け止め弾いては、さらに振るわれる横薙ぎの一撃もレイガストで受けきる。

 

先ほどの旋空によりモールモッドが真っ二つにスライスされ、残る2体のトリオン兵もアクアの旋空が薙ぎ倒していく。そして目の前のトリオン兵全てを片付けたアクアはカズマに張り付いていたモールモッドに対し弧月を振るう。

 

アクアの高いトリオン能力で作られた弧月の一振りはモールモッドをバターのように斬り裂いた。

 

その後は1体か2体ほどが出現するばかりで、それらをアクアが旋空を放つだけでバタバタと敵を倒していき今日の防衛任務が終了した。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「納得がいかないわ」

 

「今度はなんなんだよ」

 

防衛任務を終えラウンジでジュースを飲みながら休憩しているとアクアがテーブルを叩いてそう言い出した。

 

「だって私が全部倒してるのにカズマにも報酬がいくのは納得がいかないわよ!次からは出来高制よ!出来高制!!」

 

「んだとテメエ!お前が旋空撃つために俺がどんだけアシストしてやってると思ってんだ!!」

 

「それはカズマさんが一人であいつらを倒す実力がないから私に頼ってるんじゃない!恩着せがましいわよ!女の子に頼ってばっかではずかしくないんですか?」

 

「こいつ……言わせておけば!俺より弱いくせに調子乗りやがって!!」

 

「はあ?私がカズマさんより弱いですって? じゃあカズマさんはいったい個人ポイントいくつなのかしら?」

 

カズマは青筋を浮かべ、今すぐにでもアステロイドを撃ってベイルアウトさせてやりたいという気持ちを必死に抑え、深呼吸を挟み心を落ち着かせる。そして手の甲に浮かぶ個人ポイントを確認した。

勝ったり負けたりでポイントの変動が激しく最近は個人ポイントなんてちっとも見ていなかった。

 

「アステロイド『4960P』にスコーピオン『4830P』だよ。そういうお前はどうなんだよ。C級で散々弾トリガー使いに負けまくったくせに」

 

「ふふん。私、過去は振り返らない主義なのよ。ひれ伏しなさい。この間マスターランクの人をも倒した私のポイントに!!」

 

そう言ってから手の甲を高らかと掲げる。

そこには弧月『7139』と書かれていた。

 

「はあ!?それマスターランク一歩手前じゃねえか!!というか待て。マスターランクの人に勝ったのか? お前が!?」

 

カズマは知らなかった。

アクアがシールドと旋空を手に入れてから飛躍的に成長した事を。

その高いトリオン能力で作られたシールドは簡単に突破する事はできず、これまで苦戦していた銃手や射手を一方的に倒していたのだ。さらにそこに旋空が加わる事で無類の強さを発揮したのだ。

まさに最強の矛と盾を手にしたのである。

 

「分かったら次からは出来高制にしてちょうだい!」

「待て、こうしよう。ポイント移動なしで10本勝負。勝ったら認めてやる」

「上等よ!」

 

現実を受け入れられないカズマはアクアにそう提案した。

そうして2人は個人戦を始めた

 

 

 

カズマ○✖️○✖️○✖️△✖️✖️✖️

アクア✖️○✖️○✖️○△○○○

 

「バカな!俺が……アクアに負けた……だと?」

 

そう言ってカズマはガクッと地面に膝をつく。

 

アクアの旋空と素の弧月の技量に押されながらも最初こそは置弾による奇襲や、スコーピオンをグラスホッパーで反射させて背後から突き刺す事でなんとか点をもぎ取っていたのだが、アクアが次第に俺の動きに慣れてくるの置弾を仕込む余裕が無くなり、搦手が通じなくなって行った。そこから先は分厚いシールドで無理やり距離を縮められては抵抗虚しく嬲り殺しにされた。

 

 

アクアの旋空の威力はレイガストをも簡単に真っ二つにするほどの脅威的な威力を持っていた。また剣の腕も、ガキの頃俺が悪友2名と3人がかりでも倒せなかったチャンバラの実力を遺憾なく発揮し、俺の技量では太刀打ち出来なかった。

 

 

7試合目は劣化マンティスで強引に引き分けに持っていけたが俺の抵抗もそこまでであった。

固定シールドが素の弧月に破られるってなんだよ。今までの試合ではそんな事なかったのに。これがトリオン能力の差ってやつか、残酷すぎるだろ。

 

「ふふん。もうカズマさんも敵じゃないわね!!次からは出来高制だからね!」

 

「……分かったよ」

 

この日カズマは枕を涙で濡らした。

そして絶対に許さないと、復讐の炎を瞳に宿らせた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

次の日の防衛任務

 

アクアは鼻歌混じりに上機嫌で警戒区域内をパトロールする。

一方カズマはだいぶ距離を置いてアクアの後ろを歩いていた。

 

「どうしたのかしら?カズマさんそんなに離れて」

 

「いや別に、射撃トリガー使いとして適正な距離を取ってるだけだよ。もうお前の援護する必要もないしな」

 

「ふふん、そんなに離れてたら私が全部倒しちゃうんだから!」

 

「どうぞどうぞ」

 

「……ねえ、まさか私が戦ってる間に私に攻撃してきたりしないわよね?」

 

「はてなんのことやら?……おっ、早速モールモッドとバムスターが出たぞ」

 

そう言ってアクアのさらに先の方へ指を向ける。そこにはモールモッドが2体と、さらにその後方にバムスターが1体出現していた。

 

「ねえ!誤魔化さないで!!……答えてよお!!」

 

だがカズマはアクアに見向きもしない。

 

「ああ、もう!旋空……」

 

「四連ソゲキッ!!」

 

アクアが鞘に納められた弧月を抜こうとするよりも早く、その後方から4つの光が2体のモールモッドに向かってそれぞれ2発ずつ、目にも止まらぬ速さで飛来した。

それがモールモッドの弱点部位に的確に命中しモールモッドは動かなくなった。

 

アクアが恐る恐る光弾が飛んできた方へと顔を向けるとライトニングを構えたカズマの姿があった。

 

「言っとくがお前が出来高制って言ったんだからな?……ほいソゲキッと」

 

話ながらライトニングからアイビスに切り替え、バムスターへと弾を撃ち出す。

対物ライフルのような見た目の狙撃銃、アイビスから放たれた弾丸はバムスターの頭部の装甲ごと弱点を容易に破壊しバムスターを撃破した。

 

カズマは今日の防衛任務を行うに当たってトリガー構成を下記のようにしている。

 

メイン

・アイビス

・ライトニング

 

サブ

・バックワーム

 

 

シールドをつけないなんとも強気な構成にしている。

それも数多くの弾を撃つためだ。

 

キヨシさんの所で以前聞いた話だが、銃手トリガーのデザインや弾丸の調整の仕方について話していると、なんでもトリガーを入れるだけでその分トリオンを食うらしい。ただでさえトリオン弱者な俺は継戦能力を考慮し仕方なくシールドを外したのだ。

 

そしてこのトリガー構成のコンセプトはアクアが手を出そうとする敵をアクアよりも早く倒す、だ。

 

「秘技!サーチ&デストロイ(お前が見つけて俺が倒す)!!」

 

「卑怯者!!!」

 

 

その後も

 

 

アクアがモールモッドを発見。

「旋空……」

「ソゲキッ!」

カズマがモールモッド撃破。

 

 

アクアがモールモッドを発見。

「旋……」

「ソゲキッ!」

カズマがモールモッド撃破。

 

アクアがバムスターを発見。

「旋空こ……」

「ソゲキッ!」

カズマがバムスター撃破。

 

 

 

 

とアクアが目をつけたトリオン兵をアクアが倒すよりも先にアイビスを使って確実に一撃で倒していった。

そして今は茹でダコのように顔を真っ赤にして弧月を振り回すアクアから俺は逃げていた。

 

先程バムスターを先に倒す為にアイビスを撃った瞬間、俺の方と旋空が飛んできたのだ。射程外だったため当たることはなかったが、それには重苦しいほどの殺気が乗っているのがヒシヒシと伝わってきた。それを見た俺は即座にバックワームを起動しその場を後にした。

 

 

「ブッコロス!!」

 

アクアは血眼で探しているが、相手は隠れることに専念すれば狙撃手では上位の者しか見つけ出せないカズマさんである。見つけるのは不可能と言っていいだろう。

 

『ちょっ、ちょっと二人とも防衛任務に集中して!!!』

 

と今回担当のオペレーターが涙混じりに言う

 

『いや、アクアが追いかけてくるもんで……言われてるぞアクア……ほいソゲキッ』

 

そう言いながらカズマはアイビスで今ちょうど現れたバムスターを一撃で撃破する。いくらトリオン量が低いカズマでもアイビスを使って頭部を狙えば容易に撃破できる。

 

「そこか!!」

 

『お前間違っても旋空で家壊すなよ?一応人様のもんだからな。そんじゃバカアくん、バイバイ〜」

 

通信越しでカズマはそう煽っては、アイビスをその場に置いてからそそくさと離脱する。

 

アクアがその場に到着した頃には「スカ」と書かれた紙がアイビスと共に置かれているだけであった。

アクアは怒りに任せアイビスを叩き切った。

 

 

その後もアクアから隠れては再度出現させたアイビスでトリオン兵を撃破していった。

そしてアクアがようやくカズマに追いつく頃には防衛任務は終了していた。

 

「よし、防衛任務任務終了っと。おっ、アクアちょうどいい。斬りたかったら斬っていいぞ。ベイルアウトで本部帰るわ」

 

「ふざけんな!!」

 

『戦闘体活動限界、ベイルアウト』

 

怒りの篭った旋空弧月によりカズマは本部へと送り届けられた。

 

 

カズマの報酬

 

モールモッド5体 5万円

バムスター10体 5万円

防衛任務手当 3,000円

 

計10万3,000円円

 

 

アクアの報酬

防衛任務手当3,000円

 

計3,000円

 

 

 

◆◆◆

 

 

「よし、これからも出来高払いな?」

 

「すみません許してください」

 

アクアはそれはそれは見事な土下座を披露した。

その後アクアはしばらくカズマと防衛任務をしなくなった。




カズマとカップリングの似合うキャラは誰だと思います?
今まで登場したキャラも、してないキャラも含めて自分なりの妄想でこいつとの絡み良いだろとか。(アクアやめぐみん、ダクネスも含まれます。これで原作カプ廚かそうでないか、BL好きか、NL好きか見極めたい)BLの怪文書なら出来てる。
アンケ出したいけど選択肢が多すぎて20個では収まらない。(活動報告で募集するか)
それにB級ランク戦に突入したらB級編で面白かった話のアンケを出すつもりなので


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第20話 この愚か者に制裁を!3

前回の話出した時
「なんでカズマのチームに古寺が入るんだよ
めぐみん達はどうなってんだめぐみん達は!
お前このすば組出すって散々言ってたじゃねえか!
分かってんのか!?
俺たちが読んでるのはめぐみん達が見たいからだろうが
まだ出ねえのかよ!?
クソったれ!(評価1)」
ってワッカ構文来るんじゃないかってビクビクしてました。そんな事はなくて安心した。




古寺がB級になってしばらくが経ち、ようやく合同訓練への出禁が解除されたカズマは久しぶりの合同訓練に参加した。

 

「おっ、鬼畜のカズマと評判のカズマじゃねーか久しぶりだな」

 

「おい、そのあだ名つけた奴について詳しく!!そいつのポイントむしり取ってやる!」

 

「まあまあ、お前がいなくなってからつまんねえ的ばっかで寂しかったんだぜ」

 

「当真先輩まだ俺の事的扱いですか!?他人を的扱いとかいくらなんでも酷いすよ!?」

 

「お前がやったC級ランク戦狙撃手出禁事件と比べたら負けるがな」

 

「いやいや、あれは悪質な狙撃手達による自業自得ですよ。純真無垢な俺は教えてくれって言われたから親切に教えただけで、それを悪用したのはその人達なんですから俺は悪くありません」

 

そうやってカズマは最大限ピュアな顔をする。

 

「お前からあの戦術教わったって言ってた狙撃手連中、口を揃えてお前が教えてる時悪魔みたいな顔してたって言ってたぞ」

 

よし、今日はそいつら狙おう。特に上位15%に到達しそうなやつからだ。もう顔は覚えているからそいつらの心を徹底的にへし折ってやる。

 

「ほら悪魔みてえな顔してる。お前の考えてることやったらまた奈良坂に出禁食らうと思うぜ」

 

そう言って当真はパシャっと写真を撮ってるとカズマにそれを見せる。

 

「なんですかこの人ならざるものみたいな顔してる人間」

「お前」

「いやいや、冗談きついですよ」

 

そんな雑談をしていると合同訓練が開始された。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

カズマは転送後すぐ物陰に隠れじっと待つ。

開始早々動いてはバッタリ出会したり、初手で好位置についたスナイパーに狙撃されるリスクがある。

 

そうして数分してから遮蔽物に沿って動き移動しながら辺りの様子を伺っては狙撃ポイントを探す。

 

「見つけた」

 

目星をつけていた狙撃ポイントにはカズマから教えを乞いていたC級隊員の姿があった。静かに銃口をそのC級隊員の方へ向け引き金を引く。

 

「ソゲキッ」

 

C級隊員の額にヒットマークが写しだされ、それに気づいたC級隊員もどこから撃たれたのか探すもカズマを見つけることができずそうしてる内に一つ二つと被弾が増えてしまった。

 

彼は先週ようやく上位15%に入ることができたのだ。B級になる為にもここで順位を落とすわけにはいかないのだ。

しかし彼は知らず知らずのうちに焦燥感に駆られ、いつものコンディションを出せずにヒットマークだけが増えていき無残な結果に終わる事となる。

 

 

その後もカズマは自分から教えを乞いた者を出来る限り狙撃していく。

隠れることに集中しなかったため前回よりも被弾は多く今回参加したA級、B級には全員当てられてしまった。

ちなみに古寺も参加しており、今回は簡単にカズマに当てられたことでこれまで失っていた自信を取り戻すきっかけとなった。

 

 

 

合同訓練が終わってしばらくすると苦い顔をした奈良坂が俺に話しかけてきた。

 

「おいカズマ」

 

「なんだよ奈良坂?」

 

「言わなくても分かってるだろ」

 

「俺から教えを乞いたくせに悪魔だなんだと罵った連中を徹底的に狙って、あいつらが目星を付けるであろう狙撃ポイントにイーグレット置いたことか?」

 

「そうだ……って待て、後者の方は聞いてない!」

 

「でも今回はちゃんと撃ったんだから前回とは違うだろ?」

 

「……ハァ、まあいい、だが自重はしてくれ……おまえ今自分がどんなあだ名つけられてるか知ってるのか?」

 

どうやら奈良坂はカズマに怒りにきたのではなく心配して来ていたようだ。

カズマは恐る恐る内容を聞いた。

 

「……ちなみにどんな?」

 

「鬼畜のカズマ、新人潰しのカズマ、サブ垢乱造クソ野郎、ゲスゲスの実(モデルゲスマ)を食べた全身ゲス人間、セクハラカズマ、道徳の教育を受け忘れた男、特級呪物、卑怯検定一級保持者のカスマ……」

 

「分かった、もういい!自重します!!だからそれ以上はやめてくれ!!」

 

「そうしてくれ」

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

スナイパーの合同訓練が終わった今日の深夜。俺は来馬先輩と防衛任務に着いていた。

現在時刻は午前2:00、廃墟と化した警戒区域はとても不気味で基本誰もやりたがらない。

 

「そういえば深夜2時って草木も眠る丑三つとも言ってお化けが出やすい時間だよね」

 

「来馬先輩やめてくださいよ。考えないようにしてたんですから!!」

 

「あはは、ごめんごめん。でもカズマってこういうの苦手なんだね。意外」

 

「いや防衛任務前にホラー系の動画見ちゃったんですよ」

 

「何やってるの?」

 

カズマは防衛任務前に仮眠を取ろうとしたが寝付けず、少し動画を見てから寝ようとしたのだが、心霊現象特集などを見てしまったのだ。

 

普段ならそこまで怖くないが、見ていた動画の内容が脳裏に鮮明に残っており、この現状とどうしてもすり合わせてしまう。

 

「来馬先輩あんまり俺から離れないでくださいよ。今日見た心霊動画が頭から離れないんですから」

 

「深夜の防衛任務やる前に動画見るのやめたら?」

 

 

そうこうしているとモールモッド3体が現れた。

 

来馬が射撃で1体の動きを牽制し、残り2体はそのままの速度でこちらへとやってくる。

 

「グラスホッパー! アステロイド!」

 

足元に出したグラスホッパーを踏みモールモッドへ一気に加速して一直線に飛んでいく。

この速度にはモールモッドも反応できず、弱点部位に分割なしのアステロイドを至近距離で撃ち抜かれて動かなくなる。

 

そしてカズマは顔面からコンクリートに着地した。

 

「カズマ早く起きて!そっちにモールモッドが行ってる!」

 

コンクリートにめり込んだ顔面を引っこ抜くと後ろからモールモッドが駆けてきており、既に鎌の射程に入っており鎌を振り下ろしてくる。

 

「シールド!……ってちがう!!」

 

トリガー構成を変えた弊害によりシールドと間違えグラスホッパーを展開してしまった。

『整理整頓できないとトリガー入れ間違えるぞ』というキヨシさんの指摘が脳裏に浮かぶ。

ちょくちょくトリガーを変えていたが、今までに1度もトリガーミスを起こしたことが無かったので完全に油断していた。

 

このまま胴体を切り裂かれベイルアウトするのかと思ったその時、グラスホッパーに当たったモールモッドの鎌が大きく後ろに吹き飛ばされ、その勢いに押され、モールモッドの身体も1、2メートルほど後退する。

 

もしかしてグラスホッパーは実体のあるものだったらなんでも弾き飛ばす事ができるのか。

 

「グラスホッパー!」

 

試しに接近してくるモールモッドの前方に分割したグラスホッパーを展開する。それを踏んだモールモッドは空高く高く飛んだ。

 

「来馬先輩!」

「了解」

 

空に吹き飛ばされ動きの取れないモールモッドの腹下にアステロイドの雨が降り注ぐ。

 

来馬が宙に浮くモールモッドの相手をしてる間、カズマは来馬が受け持っていたモールモッドの対処へと向かう。

 

そのモールモッドは既にボロボロで挙動もだいぶ悪くなっている。

これならとカズマは距離を詰めた。モールモッドはカズマに対し鎌を振るう。しかし、大した速さのない一撃は容易く避けられスコーピオンがモールモッドの口を十字に斬り裂き活動が停止する。

 

 

 

そして次はモールモッド1体のみが出現した。

もう防衛任務終了まで数十分だ。これ以上の出現はないだろう。

 

「来馬先輩、最後にモールモッドと1対1でやり合えるか試したいので手出ししないでくれると助かります」

 

すると来馬は顎に手を当ててウムムと悩み出す。そしてしばらくの逡巡の末口を開いた。

 

「……うん、分かった。でも危ないって判断したらすぐ援護に入るからね」

「はいお願いします」

 

そう言ってカズマはスコーピオン片手にモールモッドと向かい合う。

 

これまでの戦闘ではモールモッドを倒すのに射撃トリガーを使用してきていたが1体を倒すのに消費するトリオンの量がかなり多い。おそらく腕を磨けばもっと少ない消費量で倒せるのかもしれないが、攻撃手トリガーで倒せるようになれば現段階でも継戦能力は大幅に上がるはずだ。

 

それにランク戦でも射撃トリガーによる攻撃は防がれることが多くなっている。俺のトリオン量では射手として圧力がが足りていないのだ。だから相手は不意打ち以外をほとんど警戒する必要がなく、上に行けばいくほどそれが通用しなくなっていった。

 

その為にもカズマの持つ手札の中で唯一シールドを突破する事が可能なスコーピオンの技量を上げる必要がある。まずはスコーピオンでモールモッド1体を倒せるくらいの実力が欲しい。

 

 

 

 

モールモッドが間合いを詰め、右前脚の鎌を振り下ろす。

何度も見た攻撃パターンだ。後方に下がることで容易に回避ができる。そしてもう一撃、今度は左前脚の鎌が振り下ろされる。

 

スコーピオンを逆手持ちにし、左手も添える。そして体全身を使って振り上げ、振り下ろされる鎌と前脚の間、その関節を切断する。

 

それにワンテンポ遅れて今度は右前脚で横薙ぎにしてくるが、それを集中シールドで防ぐ。そして、先程スコーピオンを振るった勢いを保ったまま、スコーピオンをモールモッドへと突き出す。

スコーピオンはモールモッドのモノアイに深く突き刺さり、モールモッドは活動を停止した。

 

「や……やった!……初めてスコーピオンでモールモッドに勝った!!」

 

前々からコソコソと仮想訓練室でモールモッドとスコーピオンで戦っていたのだが中々勝てなかったが、実戦でようやく勝てた。

 

「うん、おめでとう」

 

入隊式時、モールモッドに負けた雪辱を本当の意味で果たすことができた。

 

 

 

「僕が援護する必要なんて全くなかったね。本当にカズマはどんどん強くなっていくよ。僕も頑張って負けないようにしないと」

「そうだ、来馬先輩。次のB級ランク戦どこかの隊に入るとか予定ありますか?」

「特にはないかな……ところでそのB級ランク戦って?個人戦とは何か違うの?」

 

カズマはB級ランク戦について軽く説明した。

 

「なるほど……とくに誰にも誘われてないかな」

「じゃあ俺の隊に入りませんか?古寺やアクアもいますよ」

「楽しそうだね。でも僕なんかでいいの?」

 

「はい、もちろん。俺たち4人ってなんだかんだよく絡みますし、他に誘うとしたら来馬先輩しかいませんよ。それに俺って近寄って戦う近距離型の射手なんで来馬先輩みたいなまともな中衛が欲しかったんですよね」

 

とカズマはこれまで構想していた戦術や来馬を加えた場合の連携などをパトロールをしながら楽しそうに来馬に話す。

 

「うん、話聞いてたら入りたくなってきた」

「じゃあ後はオペレーター確保するかですね。あと10日くらいしかないんで急がないと」

「じゃあ僕の方でも誰か声かけてみるよ」

 

「お願いします。なんか俺オペレーターの子に話しかけようとすると逃げられるんですよね」

「……それはカズマの噂のせいだと思うけど」

「何でそんなにボーダーで俺の悪い噂広まってるんですか!? というか本当に俺どう思われてるの!!」

 

来馬先輩はそっぽを向くだけで何も答えなかった。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

翌日の午前10時

 

防衛任務が終わり、眠りについていたカズマをスマホの着信音が呼び起こした。

夜勤明けで痛む頭を抑えながらスマホに手を伸ばす。

 

「はい……もしもしカズマです」

 

「こちらボーダーの忍田本部長だ。突然ですまないが至急司令室に来てくないか?」

 

「!!?……はい!!只今向かいます!!」

 

ボーダー上層部からの呼び出し。

その事実に寝ぼけていた頭が嫌でも目覚める。そして何かやってしまったのかと最近の出来事を思い返すが呼び出される事しか思い浮かばない。

 

一体どの件だ。あと少しでB級に上がれたC級狙撃手の心をズタボロにしたことか、ランク戦で勝てそうにない相手に時間切れまで隠れて遅延行為をしたことか。

それとも以前のC級狙撃手ランク戦出禁事件か。いくらでも心当たりが出てきてしまう。

 

カズマは重い足取りでボーダーの司令室へと向かった。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

「君が、佐藤君か」

 

そこにはボーダーのお偉いさん方。そしてトップの城戸司令が待っていた。

顔には印象的な傷跡があり、鋭い目つきが脳に焼き付いて消えない。どう見ても堅気の人間ではないだろう。

 

「は、はい!……それでどういったご用件で呼ばれたのでしょうか」

 

城戸司令にビビりまくりながらも会話を始める。

 

「水名守葵君についてだ」

「……はっ?」

「入り給え」

「失礼します」

「えっ?」

 

そう合図を送ると背後の扉が開きボーダー隊員と泣きじゃくるアクアが入ってきた。

 

「ぐすっ、かじゅまさん!!!」

 

 

アクアはトリオン能力が優秀で個人の能力もかなり高い。だから基本1人でトリオン兵を倒せる為、最近は一人で防衛任務を受けていた。カズマがトラウマを与えたのもあるが、その方が報酬が美味いからだ。

ちなみに事務の例の金髪ウェーブ髪のお姉さんはシフトに余裕が出たと涙していたらしいが。

 

 

話が脱線したが、アクアは今日も一人で防衛任務を行なっていた。しかし、事もあろうか防衛任務中にネイバーがちっとも出ないからといって居眠りをしたというのだ。

 

その後すぐ目の前でトリオン兵が出現。

その日の担当オペレーターが何度も指示を出すも返答がなく不安になったオペレーターは応援要請を出し、駆けつけた正隊員が現場でバムスターを倒すと中から泣きじゃくるアクアが出てきたらしい。

 

報告を受けた上層部はアクアの処分を決める際、アクアの手綱を握ってるカズマも一応呼ぼうという流れになり、今に至る。

 

「……やっぱりアクアはクビですか?」

「……当たり前だろう。職務怠慢でネイバーに食べられるボーダー隊員など前代未聞だ!」

 

優秀な人材がこんな事で消えていくのか、と苦い顔をして忍田本部長はそう呟く。

忍田本部長はこの短期間でマスタークラス一歩手前にまで辿り着き、そしてマスタークラスの相手を倒したという事実を聞きアクアにかなり期待していた。

 

 

「いや、その……どうにかなりませんか?C級に降格させるとか。0ポイントからでいいのでもう一回だけチャンスを」

 

「それでまたなにか問題を起こされてもねえ?」

 

「……しかしアクアのトリオン量はかなりの物ですよね?トリガーの研究でもかなりトリオンがいるってエンジニアの方から聞いたことがあります。そういったものにトリオンの提供をする代わりにボーダーに残すという事は出来ませんか?」

 

「確かにそれは魅力的だ。だがな……」

 

鬼怒田開発室長はこの中では1番カズマと面識があった。夏休み中は同じ時間に帰ることもあり親近感が湧いているのかカズマに対し若干気まずそうにしてる様子だ。

 

「では聞こう佐藤君。なぜ君はそんなに彼女を庇う?」

「そ、それは……」

 

城戸司令の真っ直ぐとこちらを見つめる瞳からカズマはつい目を逸らしてしまう。そしてアクアの方をチラッと覗く。

そして数秒の沈黙の後、何か決心を付けた顔をしたカズマは城戸司令と目を合わせ声を発する。

 

「その前にアクアを一旦退出させてもらってもいいですか?」

「……よかろう」

 

そう言ってカズマの背後に立っていた正隊員に城戸司令が合図を送るとその正隊員はアクアを連れて出て行った。

それを確認したカズマはようやく口を開いた。

 

 




もうそろそろB級編終わるけど次はB級ランク戦とifストーリーどっちからやろうかな。ランク戦はめっちゃ面白く書けた自信はあるし、ifストーリーはめぐみん出るから待ってる人にとってはこっちのがいいだろうし……悩ましいな。(ifストーリーは4、5話で終わる予定で2話まで完成した所で詰まってます)

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第21話 この悲しき過去に回想を!

誤字脱字がない事を祈るしかない


数年前

三門市に異世界との門が開き、そこからネイバーと呼ばれる存在が出現した。

 

 

「おい葵!急げ」

 

そう言い男の子は女の子の手を引っ張り必死に走る。

 

「でもお家が、ママとパパが!!」

 

女の子は泣きながら後ろを見ている。その視線の先には家ごと中にいた人を飲み込む白く巨大な四足歩行の怪物の姿があった。

 

 

男の子は女の子と遊ぶ約束をしていた。

今日こそはチャンバラで勝ってやる!そう考えていると、突如として轟音が鳴り響いた。

それからすぐに街は火の海と化した。

 

 

家を丸呑みにした化け物から逃げる道中、鋭利なものでズタズタに切り裂かれたような人の死体や犬猫の死骸を幾つも目にした。

まだ遠くからは爆音が光線と共に絶え間なく鳴り響いている。

 

 

男の子は引き返そうとする女の子の手を無理やり引っ張り走っていた。女の子の頬からは大粒の涙が流れている。

 

そしてようやく最初の化け物を撒けたと思いきや、又同じような怪物に遭遇し、自分達の背後から口を広げ地面をその顎で削りながらこちらへ向かってきていた。

 

 

男の子は走った。ひたすらに走った。肺が熱くて痛くて、怖くて、心も体もぐちゃぐちゃになりそうだった。

それでも必死に走り続けた。

大人一人が通れるような小道を使って逃げるも怪物は障害物なんてなかったかのように塀を、家を、何もかもを壊してこちらへと向かってくる。

 

男の子はもうすでに体力の限界だった。いや、限界なら既に迎えていた。今はなけなしの気力を振り絞って足を前へ出しているに過ぎない。

 

そして小道を通り抜け大通りに出ると、今度はサソリのような怪物と遭遇してしまった。その怪物の足元には人間と同じ体積の挽肉と茶色い毛むくじゃらのひき肉が落ちていた。

その死体の正体はいつも親切にしてくれた近所のおじさんである。男の子は引き裂かれた衣服と毛むくじゃらにより気付いた。

 

 

後方からはまだ白い怪獣が追いかけて来ており、サソリの怪物と挟み撃ちになってしまった。

 

(やるしかない!)

 

そう覚悟した男の子は残った僅かな気力、立ち止まった際に多少回復した体力。その全てを振り絞って前へと駆け出す。

サソリ型の怪物は赤く塗りたくられた鎌が横に振る。だが少年少女に当たることはなかった。

男の子は女の子を抱き抱え勢いよくスライディングする。

鎌は2人の頭上スレスレを横切り、無事に怪物の真下を潜り抜けることに成功した。

こればかりは()()()()()()としか言いようがない。

 

 

だがもうどうすることもできない。

身体中が酸素を求め喘ぐが、ちっとも足りず脳すらまともに機能しない。

ぼやける視界が捉えたものは目の前で口を開けてこちらに向かってくる怪獣の姿だった。

それは奇しくも最初に出会した怪獣であった。

 

もう無理だと思った男の子は脇の狭い道に女の子を突き飛ばして怪物(バムスター)の口の中へと入っていった。

 

男の子は安堵すると、疲労からか意識を手放した。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

目を覚ますと薄暗い空間に男の子は居た。

辺りを見渡すと他にも人間がおり、その全員が地面から生えている触手のようなもので拘束されている。彼らは怪物に食われたという絶望からか涙鼻水、涎を垂らしており瞳は焦点が合っていない。

 

そしてその触手が自分自身にも絡みついていることに気づいた。振り払おうにも全く取れる気配がない。

 

そして何もできずにいると、頭上から光が差し込め、人が落ち、その後すぐに光は消えた。どうやら誰かが食べられたようだ。

 

「って葵じゃねえーか!ふざけんなよ!俺がどんだけ苦労して助けたと思ってんだ、このバカ!」

 

「だって!だって!カズマが目の前で食べられちゃったんだもん。そしたら怖くて動けなくなったんだもん!!」

 

そう言って大粒の雫を滝のように落とし嗚咽をする。

しかしカズマはある事に気がつく。女の子の体には触手が巻き付いていない。食われたばかりだからだろうか。

 

「おい、葵。お前だけ触手絡みついてねえじゃんか。俺に絡みついてる触手取ってくれよ!」

 

女の子までもが触手に絡まれる前に解いてもらいなんとかここから脱出しようと試みる。

だが、女の子がカズマに絡みついた触手を引っ張るも千切れる気配がない。

 

「どうしようカズマさん!取れないわ!!」

「待て待て待て!なんか余計にキツく絡まったんだが!?……はぁ、もういいよ。お前だけでもよじ登ってなんとか抜け出せよ」

「無理よ!口から出ようとしたらあの歯にすり潰されるに決まってるじゃない!!」

「じゃあウンコとして俺と一緒に出るか?」

「それだけは嫌!!」

 

というかなんでこんな状況になっても俺は平静でいられるのだろうか。それとももうとっくに気が狂ってしまったんだろうか。

しかしよくよく考えてみれば怪物の腹の中だってのに消化も始まらずオマケに満足に呼吸も出来ている。

なんか外より安全な気がしてきた。

 

「おい葵。このまま外行ってもまた怪物に襲われて危ない目に遭うと思う。だからいっその事しばらくこの中にいないか?ここいい感じに温いぞ」

 

「ねえなんで怪物の腹の中に順応してるの!?」

 

「まあまあ。ここには他にも大人の人がいるし、時間が経てば自衛隊とかが助けてくれるはずだろうから、それを待った方が賢明だろ。あーあ、帰ってゲームやりてえな」

 

「ねえ、怪獣に食べられた人の反応じゃないんですけど!!」

 

たしかに薄暗くて気味が悪いがゲームやる時もこんな感じだし、違いがあるというならこの絡みついた触手有るか無いかくらいだろう。

 

そしてしばらく時間が経ち何人かが落ちてきた。

 

「よお、新入り」

 

ちょうど今落ちてきた男に向けそういう。絶望に浸った顔をしていた男はカズマの哀れな姿をみて一瞬で平常心を取り戻してしまった。

 

「なんでこの子供怪獣の腹の中で古参ぶってるんだ?」

 

「俺の後に来たのはお前で4人目だ。他のやつ反応ないしこの中で1番先輩なのは俺である事に間違いはない」

 

「その触手ついた状態で言われても……って俺にも絡みついてきた!!気持ち悪!!」

 

「やっぱ葵以外には絡みつくのか」

 

今の男を含め落ちてきた人間に対し葵を除いて全員に絡みついている。この事象の共通点を挙げるとするのならば、新入り共と俺は全員男だ。

この怪獣は男を束縛する趣味でもあるのだろうか。

 

「って嬢ちゃん!動けるならこの触手取ってくれ!!」

「「「「無駄だよ」」」」

「えっ?」

 

新入りとカズマが同じくして1番の新入りにそう諭す。

 

「……そうだよな。取れるならお前らも自由になってるはずだもんな」

 

俺たち男組みは変な連帯感が生まれつつある。そんな中葵はテトテトと周りを歩着回っている。

 

「ねえ、やっぱり変よ」

「なにがだよ」

「だってこの人たち息してないわよ……ってカズマさん!!」

 

何か恐ろしいものを見たかのように、葵はこちらへと全速力で逃げてきてカズマに抱きつく。

 

「ちょっ! また触手が食い込む!!」

 

「胸に……」

 

「「「「「胸に?」」」」」

 

「あの人達胸に穴空いてるの!!」

 

「「「「「はっ??」」」」」

 

そして俺たち男組みは恐る恐る反応のない古株達へと顔を向ける。よくよく見てみると今までは薄暗くて気付かなかったが、古株達全員の心臓部あたりにポッカリと穴が開いていた。

 

それを見た皆はあまりのグロさに吐瀉物を撒き散らす。

衣服に酸っぱい匂いが付いた。

 

 

そしてカズマと葵は見たくないものを見てしまった。

最奥で拘束されている男女二人の胸を触手が抉り、光るキューブのような物を取り出している光景を。

その男女は葵の両親であった。

 

 

それを見た女の子は脱力し地面に膝をついた。

顔から雫がポロポロとこぼれ落ちる。

 

カズマはその光景を見てある事に気づいた。薄暗い怪物の腹の中を薄らと照らしていた正体はその薄緑色に発光するキューブであった。

それが意識のない人間の脇には必ず置かれていた。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

そしてどれほどか分からないが時間が過ぎていった。

 

「あああああ!!やめてくれ!!嫌だ……嫌だぁぁ!!」

 

男は体を捩って後ろに逃げようとするがそのたびに触手が絡みついて動きを制限する。

男の方へと触手が伸びていく。やがて胸に触れたと思うと触手が蠢き、悍ましい音を立てて男の体内へと侵入していく。

 

「あ……ああ……」

 

男は泡を吹いてそのまま生き絶えた。

これで4人目である。

 

そして次はカズマの方へと触手が伸びてくる。

 

「ぎゃあああ!!!!やめろ!やめろください!葵ぃ!助けてくれ葵!!」

 

女の子に声をかけるが既に少女は心が壊れており、力無く地面に座り込んでいる。

目の前で親が殺され次々と人が殺されていく様を見たのだ。そんな現実受け入れられなくて当然であろう。

 

やがて触手はカズマの胸へと触れては品定めするかのように撫でる。

 

「ヒィッ!」

 

抗えない死を前に涙が止まらない。

 

気が狂いそうになるその時だった。

突如として眩しいほどの光が天井から差し込み、それと同時に触手の動きが止まる。

天井を見るとそれはそれは綺麗に切断された怪物の断面が見えた。

空は曇りだが今まで見た中で1番綺麗だった。そう思えた。

 

 

 

 

 

「誰かいるか!?」

 

サングラスかけた少年、旧ボーダー隊員の目には数十名の抜け殻と、自分より2、3歳程下であろう少年少女の姿が映った。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「……だからなんだというのだね?確かに辛い記憶だろうが今は関係ない。ボーダーに入ったからにはちゃんと役目を果たしてもらわねば困る」

 

メディア対策室長が言葉を選びつつも指摘をする。

 

「はい、分かってます」

 

「では佐藤くん再び質問だがなぜ彼女を庇う?」

 

「長くなりますが良いですか?」

 

「構わん」

 

「ありがとうございます。アイツはあれが原因でおかしくなり精神的なショックからか、あの新興宗教にのめり込こみました」

 

目の前で親が死んで更に自分以外の人間が殺されていく様を間近で見ていたんだ。致し方ないだろう。

 

「おそらく自分をアクアと名乗るのは外見がその御神体に似てたってのもあるんでしょうけど、1番の理由は名前から家族のことを思い出してしまうんじゃないかと今にして考えてみればそう思います」

 

「ではネイバーへの復讐をさせてやりたいということかな?」

 

「いえ、精神的なショックがデカすぎてあの日の記憶が消えてるので復讐って感情は無いと思いますよ?」

 

以前、中学の時のクラスメイトが大規模侵攻の話題を出た時、アクアがあまりにも他人事のような話し方をしておりあまりにも不自然だったので、探りを入れてみるとどうやらあの日の記憶がない様子だった。

 

「でも俺は憎くてたまらない。アイツをあんな風にした近界民が憎くて憎くてたまらない。……でも折角生き残ったんだし後の人生はパーっと明るく、楽しく生きようって決めたんです。そしたらしばらくしてアイツがボーダーに入ろうって言ってきたんですよ。少しドキッとしました。まあ、あお……アクアはお金目当てでしたけど」

 

自分のチヤホヤされたいという邪な考えで入隊したということは棚に上げてカズマはボロクソに言う。

 

「でもボーダーに入って、このまま何気ない日常が続けばいつか過去のトラウマを克服できるんじゃないかと淡い期待はしてます。ですからどうかアクアをクビではなく左遷くらいにはできませんか?もちろんトリオン提供には必ず応じさせます。俺もC級に降格させても構いません」

 

「たしかに彼女のトリオン量はかなり多い。あれだけのトリオンを自由に使って良いならば開発や警戒区域に設置してるトラップをさらに増やせる」

 

と鬼怒田開発室長がカズマのフォローに入る。

 

「たしかにそうすれば街の防衛はさらに安定する。メディア対策室長の私としてもその点だけであれば賛同したいが……」

 

他の玉狛支部の林道支部長と忍田本部長、外務・営業部長の唐沢は黙ったままで城戸司令の判断に委ねる様子だ。

 

「なるほど、ではこうしよう。我々はアクア君に対し定期的なトリオン提供を要求する」

 

「では……」

 

「但し、今回の件を踏まえ戦闘員をさせるわけにはいかない。オペレーターかエンジニアになってもらう。この条件が飲めるのならばボーダーに残ることを許可しよう」

 

 

その後アクアを再び入室させその条件を伝えた。

 

「なんでよ!!」

 

「おま、バカ!良い加減にしろ!!マジで今回残れたの奇跡に近いんだからな!?すみませんウチのバカが本当にすみません」

 

そう言ってアクアに無理やり条件を飲ませオペレーター転属の書類を受け取りそそくさと退出した。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「……これで満足か?迅」

 

そう呼びかけると今の今まで司令室の隅に隠れていたサングラスを掛けた男が出てくる。

 

「ええ、彼らをここで辞めさせるわけにはいかないんでね」

「それはお前のサイドエフェクトがそう言ってるのか?」

「ちょっ、城戸司令。それ俺の決め台詞ですよ!!」

 

彼の名は迅悠一。

未来を見ることができるという驚異的なサイドエフェクトの持ち主である。彼の未来予知がなければボーダーの存続は不可能と言ってもいい。

そのため彼の提言には上層部も耳を傾けざるを得ない。

 

「まったく、君が言わなかったらクビで当然だよ」

 

「あれだけのトリオンを定期的に提供されるというなら、ワシの立場から言わせてもらえば迅に言われずとも残ってもらいたいがな」

 

「ところで迅、彼らが残ることでどのようなメリットがある?」

 

「今はモヤが掛かってばかりで断片的なものばかりしか見えないんですが、その全てが良い未来なんですよ」

 

「だから手元に置いておきたいと?」

 

「そうですね。ただ一つはっきりと見える未来を挙げるなら例の問題児達の件が上手くいくのが見えます」

 

「「「「本当か!?」」」」

 

城戸司令以外の者が席から立ち上がってその話題に食いついた。

 

「あれが解決するなら是非残ってもらいたい!!これ以上あの爆音で市民からのクレームが来るのは懲り懲りだからね」

 

安堵した顔を浮かべ胃のあたりをさすりながら根付メディア対策室長はそう言う。これでもう少し胃薬の量を減らさそうだ。

 

「それが本当ならアクア君のオペレーター処分もなしにしてやってもいいかもしれんな」

「いや、流石にあんなことやって何も無しには行かないでしょ」

 

城戸司令は無言のままコクリと首を縦に振る。

 

「ちなみに彼女がオペレーターでなくエンジニアになった場合はどんな未来がみえるんだ?」

「あー、ここがボンッてなる未来がチョコっと見えましたね。あとは……これは新しいトリガーでも作ってるのか……な?前者は割とくっきりと、後者は本当に断片的です」

 

それを聞き鬼怒田開発室長は真っ青になる。

以前頭のおかしい爆裂娘が壁に大穴を開けたのを思い出したようだ。

ちなみにそれが影響してボーダーの壁は一回り分厚くなっている。

 

「よし迅、じゃあ早速ウチにいる問題児の方からさっさと送りつけるか」

「いえ、まだその時ではないですボス。それにはかなり時間が必要です」

「ではこちらの方から……」

「いえ、それもかなり先の未来ですね」

「とりあえずこの件は一旦終わりだ。今後彼らに関して確定的な未来が見えたら報告しにくるように」

「はい、それでは実力派エリート迅悠一。これにて失礼します!」

 

そう言って飄々とした笑みを浮かべては敬礼をして部屋から出ていく。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「それにしてもようやく佐藤君の本性が見えたと言う所だね」

 

根付メディア対策室長がカズマに対する面接官の評価資料を見ながらにそう言う。

 

「確かにそうだ。一見ふざけたやつに見えるがどこか芯が通っているような気がしていたが、その正体がまさかアレとはな……」

 

それを聞いた忍田本部長は、大規模侵攻時の旧ボーダー組として自分の不甲斐なさに唇を噛む。

しかしボーダーの必要性を見せるには犠牲が必要だった。仕方ないといえば仕方ないが、それによって生み出された被害者を目の前にすればやはり考えてしまうだろう。

 

それほどまでに本音を語った佐藤カズマからはドス黒い感情が垣間見えた。

 

「あれじゃあ例の彼女達の面倒を見るのは難しいんじゃないんですか?」

「玉狛の方はうっかり殺すなんてのもあり得るな」

「まあそんなことが起きれば俺や小南達が止めますよ。それにそんな未来が見えれば迅が止めるでしょう」

 

そうして上層部による話し合いが終わった。




フヒヒッようやく設定の一部を回収できたぞ。
水上葵にしなかった理由として水上の名前にアクアが反応する恐れがあった為。なので苗字は水名守にしました。

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B級ランク戦シーズン1
第22話 このB級部隊に戦略を!


皆さま大変長らくお待たせしました。ifストーリーの方はちょっと練り直し必要ですね。よくよく考えてみればかなり重要な設定を含めたifストーリーを数話で終わらせるのが無理がある。

いせかる映画2万回見ました!めっちゃ面白かったです。俺たちの求めていた盾勇二期はいせかるの中にあったんだ。2期はOPとキョウとラフちゃんだけ良かったよ……うん



「はい、皆様にお知らせがあります」

 

まだ隊を結成したわけでは無いので作戦室は無い。その為みんなをラウンジに集めた。ラウンジはよく他の部隊もミーティングに使ったりなどしているのだ。

アクアは下を向いたまま気まずそうにしている。

 

「なんと俺たちの隊にオペレーターが見つかりました」

「カズマは本当に色々なところと繋がりがあるね」

「で、誰なんですか?」

「アクアさんです」

「「はい?」」

「オペレーターのアクアさんです」

「いやいや、どういうことですか!?」

 

これまでの事の顛末を二人に話すと二人は憐れみ顔をアクアに向ける。

 

「な、なによ……」

「いや、アクア先輩は……なんか本当にアクア先輩だなって認識したって言うか……よくボーダー辞めさせられませんでしたね」

「まあまあ、アクアもきっと今回のことを反省してるよ。次は気をつければいいんだよ。アクア、一緒に戦うことはできなくなったけど改めてよろしくね」

「く、来馬先輩……」

 

アクアは泣きじゃくって来馬の膝に顔を埋め頬をすりすりとする。アクアの涙鼻水で衣服が汚れる事を構わず来馬は子供をあやすかのようにアクアの頭を優しく撫でる。

 

 

しかしこれで銃手、射手、狙撃手と前衛が存在しない部隊が完成してしまった。これで戦線維持しろとか無理ゲー。

 

本来の戦術ではアクアが前に出て、カズマと来馬がそれを援護。又は来馬のみが援護に回りカズマ、古寺の2人が狙撃支援。もしくはカズマが遊撃手としてアクア達が戦ってる所に奇襲を仕掛け場を崩す。

大まかに分けてこの三つの戦闘スタイルの構想があったのだが、今となってはその全てが不可能となった。

 

 

「でもどうするんですか。ランク戦開始までほんの数日ですよ。これまで考えてた先輩の陣形も戦術も使えないですし、新たに考えるにしても時間が全然無いですよ」

「その点は俺がスコーピオン使ってアクアの代わりを務める……つもりだ。その代わり2人共めっちゃ援護してくれ。じゃなきゃ俺は死ぬ」

「たまにアステロイド外してますし、もう射手って名乗るのやめません?」

「やめません。スコーピオン投げてるから実質射手なんだよ!」

 

「そもそもアクアはオペレーターの経験ないわけだけど今から詰め込むにしても無理じゃないかな?」

「それに関しては国近先輩に指導をもう頼んであります。あとは防衛任務で慣らすつもりです。その時に俺たち3人の連携もマトモなものにしましょう」

 

その後全員がサインした書類を事務に提出し佐藤隊が結成され、作戦室も与えられた。

 

 

そして9月30日の早朝、B級ランク戦初日の日時と対戦相手が決まった。

ボーダーのイントラネット。その掲示板には佐藤隊の名が書かれていた。

 

10月1日、B級ランク戦昼の部

B級下位

14位 間宮隊

16位 吉里隊

19位 佐藤隊

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

間宮隊作戦室にて

 

「初日、最初のランク戦は俺達だな。作戦はいつも通り全員の合流が優先だ」

 

「「はい」」

 

間宮隊は全員が射手のコンセプトチームである。特徴はなんと言ってもハウンドストームと呼ばれる3人によるハウンドのフルアタックだ。

これがどれほど凶悪か説明するならば、仮に3×3×3に分割したトリオンキューブを両攻撃で3人が撃ったとしよう。少なすぎず、多すぎず、一定の威力は担保されている分割量だ。

それがなんと約160発も襲いかかるのだ。防御に回れば大抵の相手は一瞬でシールドを壊されるであろう。

 

「新人チームの佐藤隊についてはデータが全くない。軽く調べただけだが隊長のカズマってやつの個人戦データがいくつか見つかった程度だ」

 

ちなみにアクアの戦闘データもあったのだが、彼女は数日前にオペレーターに転向したという話を耳にした為持って来てはいない。

 

USBにコピーしてきた映像を流そうとするとその前に隊員の鯉沼が手を挙げた。

 

「あっ、この人。前に一度だけ戦った事あります」

「ほう、見る前にどんな感じだったか軽く教えてくれ」

「基本的には射手トリガーをメインに使って戦います。あとは射撃による牽制をしつつ、距離を詰めてスコーピオンでの一撃も狙ってきます」

「なるほど、なら距離を詰められないよう立ち回ったほうがよさそうだな」

 

「いえ、スコーピオンの実力はそこまで大したことはないんですが射手としてはかなりの実力です。1対1の撃ち合いだと相当厳しいですね」

 

「覚えておこう。だが俺たちは……」

「「3人で1つ……ですよね」」

「そうだ。俺たちは3人が射手のコンセプトチーム。そして俺たちの強みは連携だ。それを存分に押し出していこう!」

 

間宮隊の士気は絶好調だった。

しかし映像を一通り見終えた後絶不調になった。

 

「なんでどの個人戦でもトリガー構成が違うんだ……」

 

そう言って隊長の間宮が頭を抱えては机に肘をつき、頭を掻きむしる。

先ほどから対策を構想する度に新たなトリガーが出てきてはその戦術構想をぶち壊してくるのだ。

 

カズマがいったいどんなトリガー構成なのか、そのトリガー構成に対する対策を立てるべく戦闘データを拝見していたのだが、どの戦闘データにもほとんど同じトリガー構成がなかったのだ。

 

最初はレイガスト+射手トリガーで戦っていたと思えば、2丁拳銃を使い始めたり、レイガストのスラスターを起動させものすごい速さで投擲して首を切断したり。だがしばらくしてようやくスコーピオン片手に射手トリガーか拳銃を用いての戦闘スタイルに定まってきた。

それは射撃戦をメインで繰り広げ、それで勝てないと踏んだら射撃による牽制をしながら距離を詰めていきスコーピオンでトドメを刺すという戦い方であった。

ようやく対策を立てられる。そう思った矢先、再生した次の戦闘データではグラスホッパーを使っていた。

 

 

「そもそもハンドガンであんなに弾出せるものなのか?一丁だけでも突撃銃並みの連射性能してたと思うんだが……」

 

実際は突撃銃に連射性能は劣るのだが、パッと見ただけでは同じに見えた事だろう。

 

「ま、まあ、落ち着いてくださいよ隊長。それによく見ればアステロイドとスコーピオンはどの試合でも使ってますよ」

 

否、常に入れているのはスコーピオンだけであり、アステロイドはハウンドと交換したり突撃銃と交換したりしている。

 

気を取り直して今度は佐藤隊それぞれの者の詳細について記載された資料に目を通した。2名の隊員は銃手の来馬隊員に狙撃手の古寺。これなら早川隊の隊長のような攻撃手寄りのオールラウンダーの立ち回りをしてくることが予想できる。

 

「他のメンツが狙撃手に銃手なら、きっとカズマは前衛寄りの構成をしてるんだろう……でもな……」

 

そう間宮隊長が言うと3人はこぞってため息を吐いた。

 

「「「どのトリガー入れて来るんだよ……」」」

 

レイガストを入れた防御寄りの戦い方をするのか、グラスホッパーを入れた機動力重視の構成にするのか。

間宮隊はまだ答えを出せていない。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

一方、吉里隊作戦室にて。

 

月見や北添達がやってきては席に座る。すると吉里隊長は事前に用意した翌日のランク戦とその対戦相手の資料をみんなに配る。

 

「さて、初日のランク戦に俺たちが出ることに決まった」

「相手は間宮隊と……佐藤隊?新人チームてすか」

「間宮隊は特徴がわかってるから集結する前に誰か一人でも倒すっていう対策立てれるけど、新人チームについてはデータがないから立てようもないわね」

 

「それなんだが、隊長のカズマって奴とは戦ったことがある。アイツはかなり強かった。正直言ってタイマンじゃ勝てる気がしない。他の奴とは面識はないがポジションは銃手と狙撃手らしい」

 

銃手である吉里隊長は寄られれば弱い。その為カズマとの相性は最悪である。しかし、ならば月見を当てれば良いだけのこと。

カズマは総合力であれば月見より強いが、剣術においては月見の方が上であろう。果敢に攻め、subトリガーを使わせなければカズマは本領が発揮できないはずだ。

そう勝ち筋を思い浮かべる吉里隊長だが、カズマが最近グラスホッパーを使い出したという事はまだ知らない。

 

 

「狙撃手かー……この3部隊の中で唯一のスナイパーって事はこの試合の戦局の鍵を握ってますよね。早めに片付けたい所ですけど……」

 

そう言って北添は佐藤隊に関する資料から間宮隊に関する資料にチラッと視線を移す。

そこには『三人揃うと厄介、早めに対応すべし』と書かれていた。

 

「そうだ。だからと言って間宮隊も無視できない」

 

そう言って吉里は北添隊員に顔を向ける。

 

「だからお前には今回単独行動で古寺をマークしてもらいたい。そして俺と月見で連携して間宮隊の誰か1人を確実に落とす」

「了解です。後でバックワーム入れとかないと」

「隊長。私も何かトリガーでもいれますか?」

「……そうだな。じゃあ例のトリガーをそろそろ試してみるか」

「はい!」

 

そう言って吉里隊長はオペレーターにトリガー構成の変更を頼んだ。

 

今回のランク戦の為に1ヶ月も準備した。それなりに仕上がってもいる。

大丈夫、大丈夫だ。

一歩一歩着実にやれば俺たちだっていつかは中位に入れる筈だ。

吉里は誰にいうでもなくそう自分に言い聞かせた。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

一方、佐藤隊作戦室にて

 

初日ランク戦の対戦相手の過去のログをまとめたカズマは全員を作戦室に呼んだ。

 

「よし、みんな揃ってるな。じゃあ対戦相手の過去ログ軽くまとめたから見ていくぞ。あと1日しかないんじゃ、もう連携の練習するより相手の行動知っといた方がいいだろ」

 

この2、3日は連携についての話し合いと防衛任務を通しての連携の練習をやったのだが、圧倒的に練習量が足りなかった。そして開き直った俺はもう相手の戦い方を覚えた方がマシだと考え、連携も本番のノリと勢いでなんとかしようとヤケクソ気味に判断をした。

まあそれもオペレーターの支援が他の隊と比べ満足に得られないという理由があるのだが。

 

「まあそれくらいしか無いですよね。オペレーターの支援があまり期待できない現状、個々で状況判断するしかなさそうですから」

 

「古寺、アクアも頑張ったんだからあんまりそんなこと言っちゃダメだよ」

 

あの日から国近先輩に指導してもらいつつ、防衛任務でアクアのオペレート能力の向上を図ったが全くと言って良いほど成果を得られなかった。

まあ、2日3日で得られるようなものでもないので、これはしょうがないだろう。というよりアクアの脳みそで一個でも頭に入っていれば奇跡に近い。

 

その後4人で吉里隊、間宮隊のランク戦集を視聴し、互いに気づいたところを言い合った。

これまで個人戦のログを何度か見る機会はあり、それを見るのも面白かったが、B級ランク戦のような大規模な戦闘はさながらアクション映画を見ているかのようで結構面白い。

 

「吉里隊はウチの隊から僕が抜けてアクア先輩が入ったって感じですね。もし3v3になったら、2人が気を引いている内に僕が狙撃すれば楽に倒せそうですね」

 

確かに来馬先輩からの援護を貰いつつ俺がスコーピオンで前に出て相手に圧力をかける。仮に倒せなくとも、その隙に古寺が狙撃をすればこの隊は楽に処理できそうだ。

 

ただ近中距離戦では、3対2と枚数不利が生じてしまい、火力差で押し潰されないかが心配だ。

吉里隊の戦闘スタイルとして基本は弧月攻撃手の月見隊員が前に出てそれを吉里隊長、北添隊員が援護する形がある。

俺が月見隊員の相手をしたとして、来馬先輩だけでは火力戦に押し負けてしまう。

古寺が狙撃位置に着くまではあまり相手をしない方がいいだろう。それでも誰か1人でも孤立していれば倒すチャンスだが。

 

 

「そうだな。他に分かった事と言えば間宮隊が揃うとヤバいってことだな」

 

ちょうど画面で一人の隊員が無数のハウンドに晒され、シールドごと戦闘体を貫かれてベイルアウトする映像が映った。

 

「これは……集結前に倒すくらいしか対策思いつかないね」

「フルアタックしてるなら古寺の狙撃でぶっ殺せるだろ」

 

「いや、あんなに固まってたら流石に2人は片手空けておくと思いますよ。それに僕は僕で狙われそうですし」

 

「まあこの中で唯一スナイパーのお前がこの戦局の鍵握ってるからな。間宮隊は最初に集まるだろうから吉里隊の内誰かを切り離して古寺を潰しにかかる感じか?……そうだ。俺も狙撃手に回って困惑させるか?」

 

「いやいや、来馬先輩1人に前線張らせる気ですか?銃手ですよ?それよりカズマ先輩は僕達の中で1番強いんですから間宮隊誰か一人を落としてくださいよ」

「いやいや来馬先輩とは互角だぞ?」

「それ銃手同士で戦った場合だよね?僕フル装備だと3-7で負けるんだけど」

「わかったわかった。しょうがねえな。俺が華麗に全員キルして来てやるよ!」

「……先輩が2部隊のど真ん中にスポーンしたりして」

「やめろよ!フラグって言うんだぞ。それ!」

 

そうして2部隊のログを一通り見終えた。

 

 

「よし見終わったな。あとはマップ選択権が最下位の俺達にあるけど、無難に市街地Aでいいよな?」

「ですね。個人戦でも他のマップはやったことが無いので」

「そうだね。僕も市街地Aでしか戦った事ないかな」

 

「俺は……」

 

「「言わなくても分かるよ」」

 

7割ほどのマップで戦った事あるぞと言おうとしたら2人に割って入られてしまった。

 

「でも良い狙撃ポイント少ないですね」

 

市街地Aのマップを眺めながらそう古寺が言う。

市街地Aは見晴らしの良い高層ビルやマンションがマップの四隅にいくつか存在している。それ以外にも狙撃ポイントはあるが、狙撃手がウチだけとなるとその四隅の何処かを押さえたい所ではある。

 

「最初はどこかの高層ビルで狙撃してそのあとは二、三階建ての建物から狙撃すれば良いだろ。流石にずっと有利ポジに居座ってると俺たちにヘイトが向かうからな」

 

間宮隊のログを見ると大抵間宮隊は2部隊からの集中砲火を受けていた。

それだけその3人が揃うと恐ろしいという証だ。

現にログでは3人揃うと、狙撃が複数枚重ねたシールドにより防がれていた。

 

「そうですね。ヘイトは間宮隊に買ってもらいましょう」

「分かってるじゃないか古寺!!」

「そりゃあ。先輩とはもう長い付き合いですからね」

「「ぐへへへ」」

「なんか古寺がどんどんカズマに染められていってる……」

 

 

後に2人が人とは思えない顔をしていたと来馬が同年代のボーダー隊員に呟いていたという。

 

 




これからは怪文書とか荒れそうだから出せない没ネタは活動報告の方に出すことにします。さすがにいせかる組出すなんて奇行はしませんよ?

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第23話 このB級部隊に初陣を!◆

B級ランク戦round 1監修:デスイーター様、龍流様
ご指摘ありがとうございました。
お陰様で3,000文字は増量され読み応えが増しましたし、話の質もブラッシュアップされました。(話の内容は変わりませんが表現の仕方や感情の描写、視点切り替えについてご指導いただきました)
深く、深く感謝を


10月1日正午

 

「トリガー構成ヨシッ!」

 

以前の防衛任務でグラスホッパーとシールドを出し間違えた時の経験を踏まえ、ランク戦開始前俺はトリガー構成の最終確認をしていた。

 

現在のトリガー構成

MAIN

・アステロイド(拳)

・スコーピオン

・バックワーム

・シールド

 

SUB

・アステロイド

・ハウンド

・グラスホッパー

・シールド

 

「本当にヨシですか?どうせまたハウンドとバイパー間違えてたりするんじゃないんですか?」

「古寺くーん?君のトリガー、全部シールドに変えてあげてもいいんだよ?」

「やめてくださいよ!!」

「まあそれは冗談としてアイビスは入れとくぞ?」

 

 

 

 

現状古寺のトリガー構成は以下の通りとなっている。

MAIN

・イーグレッド

・シールド

 

SUB

・バックワーム

・シールド

 

このようにかなり味気ない構成だ。基本に忠実なのだろうがせめて集中シールドを張られてもそれごとぶち抜けるアイビスくらいは入れておいて欲しい。

 

 

「まあそれくらいならいいですけど」

「グラスホッパーとシールド間違えた時以外にもやらかしてたんだ……」

「3人とも、もうそろそろ始まるわよ!」

 

そんな雑談をしていると、もう試合開始の時間になっていた。

 

「よし!行くかみんな!」

「ええ!」

「うん!」

 

俺達はトリガーを掲げて高らかに叫ぶ。

 

「「「トリガーON!」」」

 

試合開始の鐘が鳴り響き、それぞれが市街地Aに転送された。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「皆さんこんにちは!今シーズンからはなんと!ランク戦に初の実況システムが導入される事となりました!!そして栄光ある初の実況はこの私!武富桜子が務めさせて頂きます!!」

 

これまでのランク戦は各部隊が戦っている光景を個人個人がただ観戦するだけのものであったが、今実況を務めている竹富桜子が上層部に熱いプレゼンを行った結果、実況システムが上層部にて承認され諸々の準備が終わり今シーズンにてようやく実装されたのである。

 

そして今回はその実況の様子をサンプルとして上層部へ提出するため、発案した本人である竹富桜子がする事となった。

 

「そして解説には、最近玉狛支部に移籍した烏丸先輩に、前シーズンでA級入りを果たした三輪隊狙撃手の奈良坂先輩にお越し頂きました!!」

 

ちなみに桜子が誰を解説に呼ぼうか悩んでいる際、佐藤隊が出ると聞いた奈良坂と烏丸が是非にと名乗りを上げたのである。

 

「「よろしくお願いします」」

 

2人の声が会場に響き渡る。

すると場内に黄色い歓声があがった。

 

ボーダーの中でも屈指のイケメン2人の解説ともあって、女性C級隊員は蕩けた顔をしている。彼らに想いを寄せる女性隊員は多い。試合そっちのけで浮き足立ってしまうのも無理は無いだろう。

 

「そういえば佐藤隊の古寺隊員は奈良坂先輩の弟子でしたね」

 

「そうですね。あと京介もカズマの師匠です」

 

「なんと!?これは解説が楽しみですね……ん?」

 

たしかカズマ先輩は鳥丸先輩より年上だったような?と桜子の脳裏によぎったが気にしないことにした。

 

「いえいえ師匠なんてそんな。スコーピオンの使い方とグラスホッパーを教えた程度すよ」

 

「と、そうこうしている内にもう試合開始の時間となりました!それではB級ランク戦昼の部、転送開始です!!」

 

3部隊が市街地Aにランダムに転送される。

大きなモニターには各隊員の転送位置が表示されている。その中で特に興味深いのはマップ北部だ。間宮隊がやや固まって転送されていた。

 

「おっ……間宮隊はかなりまとまって転送されたな。集結されると厄介だぞ」

 

「北添隊員、吉里隊長、来馬隊員の転送位置は南部!だいぶかけ離れており間宮隊の合流阻止は難しいか!?合流を阻止できるのは同じく北部に転送された月見隊員くらいでしょう!しかし一人で突っ込めば間宮隊のハウンドストームの餌食になります!!」

 

「あとカズマ先輩は少し離れてますがこの程度ならグラスホッパーを使って間宮隊合流の前に一撃は加えられると思います。そこでだれか一人でも落とせればデカいですね」

 

「なるほど」

 

まあ、お世辞にも上手いとは言えないが、と烏丸は内心つぶやいた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

『楠本さん、詳しいマップ情報を頼みます』

 

『了解』

 

転送されてすぐオペレーターの楠本に送ってもらった詳細なマップ情報に目を通す。

 

『今回は運がいいな。皆かなりまとまって転送されてる』

 

そう間宮隊長が言って楠本さんに合流ポイントを探るよう指示を出す。その声音には喜びの色が滲んでいて、口元も釣り上がっていそうだ。

 

まあ無理もない。事実今回はとても運がいい。こんな転送位置滅多になく俺、鯉沼三弥も送られた地図を見ては口元が緩むのを実感する。

 

 

間宮隊長は北東に。俺はマップ中央からやや北に。そして秦隊員は北西にと皆北側に集中して転送されたのだ。

 

『でも隊長が1番離れてますし、近くに誰か1人いるんで不意打ちにだけは気を付けてくださいよ……はい移動経路送りました』

 

オペレーターの楠本がそう言い、それを迂回して合流するための移動経路が3人の視界に映し出された。

 

「「「了解」」」

 

俺達、間宮隊にとって今シーズンB級ランク戦は幸先のいいスタートとなった。

とはいえ、油断は禁物だ。順調だからこそ、ここはいつも以上に手堅く行こう。

そう鯉沼は自身に言って聞かせ気を引き締め直す。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「おっと!間宮隊は大方の予想通り合流の動きか!」

 

観戦室のモニターでは間宮隊の三人がそれぞれ同じ場所に向かい移動を開始する光景が映し出されている。

 

「今回は転送位置が良かったな。普段は合流前に妨害されるか、ようやく合流しても他の2部隊、3部隊から集中攻撃されるからな。ただ……」

 

「ええ、向こうの視点ではバックワームのせいで分かりませんが、カズマ先輩がグラスホッパーを使って鯉沼隊員のすぐそこまでやって来てます」

 

マップに点在するカメラがグラスホッパーとバックワームにて鯉沼隊員の下へと向かっているカズマの姿を捉えた。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

間宮隊の鯉沼は視界の隅に表示される移動経路に従い移動を開始する。

そうしてしばらく道なりに進んでいるとオペレーターから驚愕した声が聞こえてくる。

 

『っ!!……待って鯉沼!急に近くに反応が出た。すぐ後ろ!バックワームで近づいてたみたい!!』

 

オペレーターの操作する機器には先程まではなかった筈のトリオン反応が突然鯉沼隊員のすぐ背後に現れたのだ。

 

「っっ!!!」

 

振り返ると右手首から肘にかけてスコーピオンを鎌のように生やし、グラスホッパーを足元に展開するカズマの姿があった。

 

「グラスホッパー」

 

「カズマと接敵!」

 

カズマとの出会い頭、鯉沼はすぐ隊長達に状況を端的に報告する。

間宮隊の戦闘スタイルは連携が命。その為、敵と遭遇した際の状況報告だけは決して欠かさない。

そうすれば他の隊員達が対処法を考えてくれる。

鯉沼はただ目の前の相手、カズマにだけ集中すればいい。

 

カズマは足元に出したグラスホッパーを踏み一気に加速。

突き出した右腕から生えるスコーピオンが鋭い弧を描き一閃が振るわれる。

 

(速い!!)

 

ぐんぐんと急加速しながら向かってくるカズマを見て咄嗟に体を反らし回避を試みるも、避けることは叶わなかった。

肩から先をバッサリと斬り裂かれ、切られた腕は宙に浮く。

切り口からはモクモクとトリオンが溢れ出す。

 

「クッ!」

 

トリオンが漏れ出す右肩を左手で押さえトリオンの漏洩を抑えながらも、カズマを視界に捉え臨戦態勢を崩さない。

 

『鯉沼!今そっちに急いで向かってるからなんとか堪えてくれ!!』

 

そう鯉沼に1番近い秦が通信を寄越す。

声からは焦りが見受けられる。それもその筈だ。先程まで至極優勢だったのが、転じて今や間宮隊瓦解の危機なのだ。

 

しかし、次の瞬間間宮隊長からの通信が入る。その声は決して焦りなどない淡々としたいつもの間宮隊長の声だった。

 

『鯉沼、作戦変更だ。ここでカズマが来たのは逆にラッキーだ。そのまま釣り出してハウンドストームを仕掛けるぞ』

 

了解!、鯉沼はそう通信を送っては深く息を吸い、気合を入れ直す。

 

以前個人戦をした時は4-6で負けた。片腕は欠損。昨日映像を見た限りではあの日以降も更に強くなっている様だった。

 

だからといって負けるわけには行かない。俺たちだって日々強くなっているんだ。たとえそれがどんなに小さな一歩であろうとも。既にカズマには追い抜かされてるであろうとも。

 

精々隊長達が来るまでの間、精々粘ってやるよ!

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「カズマ隊長がグラスホッパーで奇襲!鯉沼隊員は右腕を落とされた!!これは痛い!!」

「カズマの失敗だな」

「えっ?確かに鯉沼隊員の腕を切り落としたはずですが……」

「あれは完全な奇襲だった。あれなら急所を狙えた筈だ。技量不足は否めない」

 

そう奈良坂は辛口な評価をする。

カズマらしくないと、カズマならもっと上手くできたのではないかとこれまでのカズマの活躍を見ていた奈良坂はそう思えて止まない。

 

「それはあれです。カズマ先輩は狙った場所に真っ直ぐ飛ぶくらいしかまだできないんですよ」

 

「「は?」」

 

2人はキョトンとした声を上げる。

 

「いや最初はもっと酷かったんですよ?狙った場所と見当違いの方向に飛んだり、体が回転しながら飛ばされたり。挙句の果てに着地ができなくて顔面から地面に着地したり。どうやったらそんな風になるんでしょうね」

 

とカズマとの訓練の日々を楽しそうに語る烏丸。

 

「スコーピオン教えるより苦労しましたよ」

 

「あいつ狙撃手やりだしたり器用なイメージだったんだが……」

 

「運動音痴なもんで、近接戦はC級以下でしたね。ですが格上を倒す戦術を持ってます。カズマ先輩は単体トリガー同士とはいえ出水先輩を一回倒しましたからね」

 

場内から驚愕の声が上がる。

烏丸はそれを内心楽しそうに聞いた。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

カズマは両足と左手を地面に着いてグラスホッパーの勢いを殺し着地の姿勢に入る。

ズザザっと手足が擦れ地面に着いて数メートルでようやく静止した。

そしてすぐさま飛び出しては距離を詰めては、足を深く踏み出しては重い一撃を繰り出した。

 

それを鯉沼は一歩、二歩と大きく後ろに下がる事で躱す。そしてすぐさま片手にハウンドを出現させ3×3×3に分割し、撃ち出す。

 

しかし、それよりも早くカズマがスコーピオンを投擲した。くるくると回転しながら鯉沼に向かって正確に飛んでいく。

 

「っく……シールド!」

 

空いていたSUBトリガーのシールドを発動。

胸前に30センチほどのシールドが展開され、スコーピオンはシールドに深く突き刺さっては勢いが止まる。

シールドにはスコーピオンを中心にしてヒビが入った。

 

その直後ダダダダダダダダッ、と機関銃の発砲音と聞き間違えるほどの発砲音がした。

眼前には、腰のホルスターから拳銃を既に抜き、こちらに構えていたカズマの姿があった。

8発の弾丸が一瞬のうちに撃ち出されては、スコーピオンの投擲によりヒビの入っていたシールドを叩き割り、尚も鯉沼隊員へ向かい進んでいく。

 

堪らず持っていたハウンドを捨て、ヒビの入ったシールドに重ねてシールドを展開し、シールドを突き破っては進む弾丸の進行を阻止する。

全ての攻撃を防いだと思ったのも束の間、既にカズマは目の前まで迫っていた。その右手には新たに出現させたスコーピオンが握られている。

 

クソ、と内心悪態を吐きながらスコーピオンの軌道上にシールドを展開。しかし、スコーピオンを前にシールドは破られてしまう。だが、その一瞬振るわれる一撃が静止した。その隙に鯉沼は大きく下がって距離を取る。

 

「アステロイド!」

 

そう叫ぶと、いつの間にかカズマの背後に置かれていたキューブが鯉沼に向かって飛んでいく。

 

「ハウンド!」

 

鯉沼も仕返しとばかりに先程置弾として捨てたハウンドをカズマに向けて飛ばす。

 

鯉沼は一直線に飛ぶアステロイドを今度は斜め後ろに下がり回避。

カズマはトリオンキューブが自身目掛けて収束したタイミングを見計らって集中シールドでその全てを防いだ。

 

「ハウンド!」

 

カズマは手元に出したキューブを3×3×3の計27発に分割。それを真横に向かって放つ。

するとハウンドはゆるやかな放物線を描きながら鯉沼の脇腹へと向かっていく。

そしてカズマはハウンドを撃ってすぐにスコーピオンを持って駆け出した。

 

「チッ!!」

 

ハウンドによる側面攻撃とスコーピオンによる正面からの攻撃。この角度をつけた攻撃に鯉沼はシールド2枚を使ったフルガードで対応する。

 

しかしこの選択が誤りだった。

 

攻撃の一切が来なくなったカズマはフルアタックを継続。シールドを2枚使ってる限りは置弾でも無い限り向こうから攻撃は飛んでこない。

 

つまりカズマは攻撃を継続している限り安全ということなのだ。

 

鯉沼はハウンドをシールドで、スコーピオンは全力で後ろに下がって避けるべきだった。もし仮にカズマがそのまま追いかけてきてもハウンドで牽制射撃すれば良いだけの事。

そうすれば展開は自然と中距離での射撃戦となり、カズマがシールドを突破するのが一気に難しくなっていた。そうなれば間宮隊集結まで楽に時間を稼げた。

 

しかし今は既に近距離戦。これは純粋な射手には厳しい。

 

 

カズマはハウンドを上空に撃ち出し、それと同時にハンドガンを抜き一気に8発もの弾丸を撃ち出す。

それを防ぐ為、胴体を覆うほどのシールドを展開。アステロイドの弾はシールドに当たっては弾けた。するとカズマは駆け出し、広がったシールドをスコーピオンで叩き割り鯉沼に迫る。

そして再び上空からのハウンド、正面からのスコーピオンが同時に鯉沼に襲い掛かる。

 

「シールド!……くっ!!」

 

上空のハウンドを受け止めスコーピオンも防ぐ。しかし今度はスコーピオンにシールドを突破されてしまった。

鯉沼は焦ってシールドを展開した分、調整が曖昧だった。そのシールドは先程スコーピオンを受けた時より面積が広くなっていたのだ。

シールドを叩き割ったカズマはさらに一歩踏み込み更なる一撃を振るう。

 

鯉沼は体をくの字に捻らせ後方へ飛ぶ。

その姿はあまりにも滑稽だが、なんとしても生き残るという信念が垣間見得た。

 

危機を乗り越えた鯉沼は大きく後ろに下がって距離を取ろうとする。幸いカズマは先ほどの渾身の一撃により大きな隙が生まれた。追撃はない、これなら距離を取れる。

そして二歩、三歩と下がっているとカズマが体勢を整えた。

 

「オラっ!!!」

 

そして大きく振りかぶりスコーピオンを投擲。

一直線に鯉沼へと飛んで行く。

 

「シールド!」

 

咄嗟に上半身を2枚のシールドで守る。これなら一枚を突破されてももう一枚で防げるはずだ。

しかしスコーピオンは予想外の方向へと飛んでいった。なんとスコーピオンは鯉沼の右足へと飛んでいたのだ。先ほどからあからさまに胴体狙いをしていた為、鯉沼はこの攻撃も胴体狙いだと思い込んでしまっていた。

 

しまったと思い体をよじろうとするも間に合わず、膝下から先を切り落とされてしまった。

バランスが崩れそのまま地面に倒れる。

 

機動力が死んだ鯉沼はもうカズマからは逃げられない。

だが鯉沼は十分に時間を稼いだ。

 

『悪い遅くなった』

 

隊長から通信が入る。そして隊長はいつもの勝利宣言を高らかにあげる。

 

『鯉沼!秦!ハウンドストームをしかけるぞ!』

 

突然、空の5割をハウンドが覆った。

鯉沼は起き上がってはニヤリと笑い、カズマに顔を向ける。

 

「ふっ、ハウンド!」

 

「こいつ!!」

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

転送されてすぐに俺はバックワームを起動した。

 

「おいアクア。早くレーダー情報送ってくれ」

「ちょっと待ってなさい……えっとこれじゃなくて……えっと……赤だから、このボタンね!!」

 

転送されカズマはすぐさまアクアに正確なマップの転送を要求する。

やはり数日の訓練では一般オペレーター並みの能力は出せないか。

 

だが国近になんとか出来ないかと頼んだ所、マップ等を出すためのショートカットキー案を出してもらい、その他諸々の設定をして、あとは分かりやすいようにそのキーを色つきにしてもらった。

 

お陰でオペレーターに関する初歩の初歩だけはなんとかこの数日で覚えることができた。

なんでもこれは国近がオペレーターとしての操作を覚える際に、どのキーが何の役割なのかを覚える為にやっていた事なのだとか。

 

 

オペレーターはマップを見て戦況を判断するのも仕事の内なのだが、アクアは頭で考えるというより野生の勘で動くタイプなのでそういう事は難しいだろうということで、転送後すぐ俺に詳細なマップデータを送って俺が判断する事にした。

本来戦闘員の仕事ではないが、アクアにマップを見て判断してもらうよりはだいぶマシだ。

アクアに相手の考えなんてわからないだろう。

 

送られてきたマップを見つめる。そこには6つの赤点が点滅しておりそれぞれが動いていた。

 

「んー……点がいっぱいで分かんねえな」

 

そうぼやきながらマップを見つめる。

しばらくすると三つの点が同じ方向に向かって進んでいることに気がついた。

 

「これか」

 

変な動きをしていたので最初は分からなかったが、レーダーを見る限りおそらく東側のやつを警戒したのだろう。

そこに古寺と来馬は居ない。つまりそいつは吉里隊の誰かである。

 

ちなみに古寺は1番東側に転送されており、来馬南側に転送されている。そして俺は中央からやや西側に転送された。

運の悪い事にみんなバラバラに転送されている。この前の祭りで今年の運を使い切ってしまったか。

 

狙撃手の古寺は基本単独行動なので大丈夫なのだが、来馬が心配だ。離れてはいるものの北東方面に敵がいる。北側で集結しているのが間宮隊だろうからこれも吉里隊の誰かだと考えられる。

 

これは来馬との合流を優先すべきか……いや、間宮隊が3人集結するのは絶対に避けたい。

 

古寺の狙撃で倒せるだろうと思ったが、あの後ログを見ると狙撃を防いでいるシーンが何度か出てきた。3人がまとまって行動する事で1人1枚シールドを展開し互いに援護し合っていたのだ。アイビスも2枚の集中シールドを張られれば突破は厳しい。

念のためアイビスを古寺に入れたが3人まとまられたらかなり厳しくなる。

 

 

集合しようとしている3点の内1点は俺からもかなり近い。もし行動するなら今しかない。

数秒の逡巡の末答えが出る。

 

「よし、俺がグラスホッパーとバックワームで奇襲かけてくる。古寺も早く狙撃位置に着いてくれ!」

 

『今近くの高層ビルに向かってます』

 

『ごめんね僕はそっちに着くの遅れそうだ』

 

「悪い来馬先輩。1人で行きます」

 

『うん、気を付けてね』

 

「はい!……グラスホッパー!」

 

そう言ってグラスホッパーを起動。足元に出た踏み台に足を乗せ、一気に加速する。

 

 

 

 

 

 

「居た」

 

グラスホッパーによる全力移動をしていると間宮隊の1人、鯉沼隊員を発見する。

そのままグラスホッパーを起動、バックワームを解除してスコーピオンを右手に一気に距離を詰める。

 

グラスホッパーを踏んだ瞬間、体が一気に加速し出す。

距離にして30メートル。それが一気に縮んでいく。

そしてタイミングを測り、スコーピオンを振る。

その寸前、鯉沼はわずかに体を反らした。

その結果、鯉沼の胴を捉えていたはずのスコーピオンが右腕を斬り落とした。

 

やはり練習量がまだまだ足りない。狙った場所には飛べるようになったものの、狙い通りの場所に当てられない。

鯉沼が寸での所で避けたのもあるが、それでもあの程度なら狙いが正しければ確実に胸を切り裂けていた。

 

しかし反省は後だ。

鯉沼に攻撃をした後すぐ体勢を立て直し、両足と左手を使い急ブレーキ。

しかし鯉沼とは20メートル以上離れてしまった。この距離ではスコーピオンは使えない。

鯉沼が手にトリオンキューブを出現させた。

 

すぐさまスコーピオンを投げやすいククリナイフのような形へ変え、投擲した。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

転送されてすぐオペレーターが間宮隊と思しき三つの点を報告し、それを見る月見隊員。

その後バックワームを起動し、オペレーターの案内の元、最も近い方へと向かう。しかし、その時には佐藤隊隊長のカズマと間宮隊の鯉沼隊員が交戦していた。

 

「隊長。佐藤隊の隊長と間宮隊の鯉沼隊員が戦闘を開始しました。どうしますか?」

 

『それなら好都合だ。間宮隊はカズマと潰しあってもらう。念のため見張っててくれ』

 

吉里隊では倒す優先基準が、3人揃うと無類の強さを発揮する間宮隊の誰か1人、そして3部隊の中で唯一の狙撃手の古寺。その次にカズマであった。

人数の関係でカズマにまで対処できなかったが、警戒していた相手が互いに潰しあっているのだ。これほど好都合な事はない。

 

そう言われた月見はカズマ、鯉沼両隊員に対しいつでも襲い掛かれる距離まで近づき様子を伺い隊長の到着を待つ。

すると吉里隊長から無線が入った。

 

『俺ももうすぐ行くから待っていてくれ……いや悪い。行けなくなった……』

 

その無線の先では吉里隊長と佐藤隊の来馬隊員が鉢合わせしていた。

 

 

 

 

 

【オマケ】

各部隊マップ転送位置

 

【挿絵表示】

 




私このラウンド1やってifストーリー完成させてめぐみんとダクネス出したらしばらく怠けてても許される気がするの。
話は変わりますが、この前ちょっと言われたのでこの場を使って言わせていただきます。ダクネスもめぐみんも必ず出ます。めぐみんはカズマより早めに入隊してます。きっと何処かでメテオラの合成弾撃つ日々に明け暮れてると思われます。なのでいつかは必ず出てくるのでそれまで待っててください。

評価、感想等よろしくお願いします。


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第24話 間宮!鯉沼!秦!ハウンドストームをしかけるぞ!

前回はいつも以上に誤字が多くて申し訳ありません。そして多くの誤字脱字報告ありがとうございました。今回はそんな事が無いよう祈っておきます。


 

『ごめんカズマ。吉里隊長と鉢合わせした。そっちに行けそうにない』

 

鯉沼との戦闘中、来馬先輩から合流不可能という一報が届く。

 

『了解、古寺はどうだ?』

 

『すいません。あともう少しで狙撃地点に着きます』

 

古寺もまだ狙撃位置に付けていないようだ。

 

支援の一切が見込めない今、尚更に早く目の前の鯉沼を倒さなくてはならなくなった。

しかし、カズマの攻撃は些か決定打に欠け、どうにも攻めきれていない。以前から感じていた弾トリガーでは突破力に欠けるという課題がほんの数分の戦闘で如実に現れていた。

スコーピオンで攻めようにもカズマの技量では相手を追い詰めるにまでは至っていない。

 

その後も何度も何度も猛攻を繰り返すも、その悉くをシールドで上手く防がれている。置弾を含めた総合的な射手としての実力ならカズマの方が上であろう。しかしシールドが絡むとそうはいかない。

 

B級に上がりたてのカズマと鯉沼ではシールドの絶対的な使用時間が違うのだ。自分でもこれは防げないと思った攻撃も何度か防がれている。

 

それでも猛攻を続け、相手のフルアタックを封じる。そして、胴体狙いと見せかけ足をスコーピオンの投擲で切り落としてやった。ついに決定打と呼べる一撃を与えられたのだ。

これで機動力の下がった鯉沼は今までのような防御は出来ない。このまま距離を詰めればスコーピオンで嬲り殺せる。

そう考えていると片足を失ったはずの鯉沼がニヤリと笑った。

 

何か嫌な予感がする。

アクアにマップを出すよう指示を出そうとすると向こうから無線が繋がった。

 

「おいア……」

 

『カズマさん。そっちに2人行ってる!』

 

「「「ハウンド!」」」

 

鯉沼が両手にハウンドを出す。それと同時に無数の弾が空に浮かび上がった。

まさに空3分、弾7分だ。

見渡す限りの空をハウンドが覆っている。それはやがて俺へと向かい降り注いでくる。

それと同時に鯉沼は3×3×3に分割した2つのハウンドを放射状に飛ばす。

 

「グラスホッパー!……シールド!!」

 

足元に出現させたグラスホッパーを踏み、後方へと勢いよく下がる。カズマを追尾していた上空のハウンドは軌道を変え始めるが、曲がりきることは出来ずに地面と衝突してはコンクリートを削る。

 

そして鯉沼が撃ち出したハウンドもシールド2枚を両側面に展開。ハウンドがシールドに衝突してはパチパチと音を鳴らして弾けて消えていく。

全ての弾を受け切ったシールドはどちらも細かく亀裂が入っており破壊寸前であった。

 

そしてグラスホッパーによる勢いのまま、後ろのT字路まで飛んでは塀に衝突し、塀に背中がめり込んでは静止する。

 

「よっこらせ……っと」

 

塀から抜け出し体についた埃を払い、顔を上げる。

視線の先には間宮隊が勢揃いしていた。3人の両手にはキューブが握られている。

 

3人全員によるハウンドのフルアタック。通称ハウンドストーム。

3人が纏まって、しかもフルアタックに入っている。古寺が狙撃位置に着いてさえいればこれほど理想的な的はない。しかし悲しきかな。その古寺はまだビルの階段を登っている最中なのだ。

 

そうしてカズマ達が最も恐れていた事。間宮隊の合流が果たされてしまった。

 

「「「ハウンド!」」」

 

2×2×2のハウンドが3つ、4×4×4のハウンドが3つ。

計208発ものハウンドが撃ち出され、その全ての弾が放射状に広がってはこちらへと飛んでくる。

ハウンドが視界を埋め尽くさんとばかりに拡散しては一点に収束し出す。

 

「くっ……グラスホッパー!」

 

苦虫を噛み潰したような顔を浮かべつつも、足元に出したグラスホッパーを踏みT字路の右側へと飛ぶ。

 

ハウンドはその大半がT字路手前の住宅群に行手を阻まれたものの、まだ3割強の弾丸がこちらを追尾して飛来している。

 

カズマはまだグラスホッパーで移動中にまともに姿勢制御ができない。このままではすぐ後ろの家に背がぶつかり身動きが取れなくなった所にハウンドが襲いくるのは明白だ。

あの量のハウンドをカズマのトリオン能力で防ぎ切れるとは到底思えない。

 

(なら!)

 

「グラスホッパー!!」

 

背後に9個に分割したグラスホッパーを自身とは斜めの向きに展開し、右方向へ軌道を変える。

ハウンドはそのまま真っ直ぐ家に衝突しては住宅の2階部分を半壊にした。

 

グラスホッパーにより吹き飛ばされたカズマは頭から地面に着地し、地面に顔がめり込む。

 

「「メテオラ!メテオラ!メテオラ!」

 

しばらくして起き上がると、住宅の奥にいる間宮隊の2人が2×2×2に分割したメテオラを立て続けに何回も撃ち出す。すると爆発と爆風で住宅がいくつも消し飛び、カズマと間宮隊を隔てていた遮蔽物が無くなり射撃戦をするには理想的なフィールドとなった。

 

「「「ハウンド!」」」

 

間宮隊がフルアタックに入ろうとする前、俺はホルスターからハンドガンを素早く抜き3人がキューブを出すよりも早く引き金を引く。

そして一斉に8発の弾丸が撃ち出され、弾は間宮隊長へと向かい飛んでいく。

 

(早っ……てか撃ちすぎだろ!!)

 

間宮隊長は驚愕の顔と共に一歩後ろ下がってはたじろぐ。

回避は間に合わず、フルアタックに入っている為シールドも出せない。

 

(決まった!!)

 

カズマはそう内心でガッツポーズを浮かべる。

これで間宮は撃破できる。否、それに鯉沼は反応した。

 

「シールド!」

 

間宮、秦の両名に守られるようにして二人の背後に立ち、一歩下がって戦場を俯瞰して見ていた鯉沼はカズマの攻撃に反応できた。そしてハウンドの構えを解き、間宮隊長の前にシールドを展開する。

それとほぼ同時に8発の弾丸がシールドに命中。8発の弾丸はシールドに罅を入れこそしたが、破壊する事は出来なかった。

それはほんの一瞬の差ではあったが、その一瞬が間宮隊長を救ったのだ。

 

「悪い鯉沼、助かった!」

 

そう間宮は感謝を述べ、秦隊員と改めて両手に出したキューブを分割する。

 

間宮隊長は2×2×2に分割した威力重視の弾を2つ、計16発。

秦隊員は4×4×4に分割した数重視の弾を2つ、計128発を精製。

 

「「ハウンド!」」

 

「クッソ!お前ら卑怯だぞ!!」

 

「「「お前が言うな!!!」」」

 

カズマの個人戦ログを見ていた3人は声を合わせてそう言う。

 

カズマはグラスホッパーを展開。踏んで後方へと大きく下がる。

それと同時に計144発もの弾が一斉に発射される。

 

カズマの視界が再びハウンドによって覆われる。

 

秦隊員はハウンドをこの開けた戦場をフルに活用して外側へ外側へと広く撃ち出し、間宮隊長はややバラけさせて射撃。

カズマは横に逃げようにも放射状に撃ち出されたハウンドがそれを邪魔し、移動を制限した。そしてそこへ嫌なタイミングで威力重視の間宮隊長の弾がやってくる。

これは敵ながら上手い連携だと評価せざるを得ない。

 

「シールド!」

 

それを30センチほどに狭めたシールドで防ごうとするが、ハウンドは程良く散らばっており、シールドを右へ左へと動かさなければ防ぎきれない。しかし、それをしても全てを防ぐ事は出来ず足や腕に被弾していき、そして遂には右腕が肘から先が千切れてしまった。

被弾痕からは多くのトリオンが漏れ出す。

 

 

 

そして外側に広がっていたハウンドが一気に収束し出す。それはまるで獲物を捉えた群狼の様。

 

「チッ!グラスホッパー!」

 

再び自身とは斜めにグラスホッパーを展開。それに背がぶつかり左へ軌道がずれる。

右に展開されていたハウンドは大きく曲がりそのほとんどが住宅の瓦礫やまだ健在している住宅にぶつかって消えていった。

後は左側に展開されたハウンドのみ。

 

「シールド!」

 

2枚のシールドを広く展開。

無数の弾がシールドに当たってはパチパチと音を鳴らして弾けていく。しかし、次第にヒビが入っていき遂に一枚が割れる。

 

(くそっ……もってくれ!)

 

残るは一枚のシールド。残りの弾は約10発。それらもシールドにあたっては弾けていく。

そしてシールドが破れるよりも前に弾が無くなった。

なんとかハウンドストームを逃れられた。

 

『もう一度だ、もう一度ハウンドストームを仕掛けるぞ!』

 

『『了解!』』

 

「「「ハウンド」」」

 

今度は鯉沼も片手にハウンドを出す。

先ほどの攻撃だってグラスホッパーがあったから何とかなったものを、これ以上さらに弾が増えたらもう避けようがない。

次の攻撃は避けられないだろう。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「おっと!カズマ隊長ここにして痛い深傷を負った!!このままではジリジリと追い詰められてベイルアウトが濃厚か!?」

 

先程まで青い顔をしていたC級隊員達はそれを見て平常心を取り戻した様だ。余程カズマに酷いことをされたのだろう。

 

「いえ、そうとも言えませんね」

 

そう言って烏丸が指を指す。その先には間宮隊とカズマの近くでバックワームを起動しながら潜伏している月見隊員が映っていた。

 

「おお!! 確かに月見隊員が近くにいますね!」

 

「部隊が散開し過ぎているとは言え、この状況なら1人でも介入するだろう。幸い間宮隊の背後を取れている。下位部隊にその技量を求めるのは酷かも知れないが、うまくやれば旋空で3人まとめて倒すことも出来る。出来ないとしても誰か1人は落とせるはずだ」

 

「なるほど!では月見隊員の動向に注目ですね!」

 

そう言って桜子はモニターに月見隊員の映像を大きく表示した。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「不味いわね……」

 

カズマと間宮隊の戦闘の様子を隠れながらに見ていた月見隊員の額からは汗がじんわりと滲んでいる。

 

警戒していたカズマが深傷を負っている事は喜ばしいが、最も警戒していた間宮隊が合流してしまい、今や趨勢が間宮隊有利に傾き始めている。いや趨勢が決しようとしている。

 

出来る事なら吉里隊長の所に向かいたいが、そこで来馬隊員を撃破してから二人で間宮隊の所に戻ったとしよう。

 

その頃には確実にカズマはベイルアウトしているだろう。そしてカズマを倒し体勢を整えた間宮隊に2人で勝てるだろうか。答えは否である。

ハウンドストームの前に2人とも撃破されるのが容易に想像できた。

 

 

ならば答えは一つ。

戦闘に介入する。

今ここで。

 

 

覚悟を決めた月見は走り出した。大地を強く蹴り、ぐんぐんと間宮隊との距離を詰める。

間宮隊は全員月見に背を向けている。

 

彼我の距離が5メートルになる頃、腰に携えた弧月を抜く。

抜き身の弧月を握る腕は、体は、緊張からか力み、強張っていた。

 

「やあぁぁ!!」

 

「!!」

 

それを自覚した月見は平常心に戻そうと言霊に縋る。

しかし、それがいけなかった。

 

バックワームを付けての弧月による奇襲。間宮隊のオペレーターは当然気付いておらず、完璧な奇襲であった。それを月見は自分自身で台無しにした。

月見の掛け声に反応した鯉沼は狙撃警戒の為空けていたsubトリガーのシールドを展開する。

 

それは直径20センチほどにも縮められた分厚いシールド。それが上段から振るわれる一撃を受け止める。が、それも長くは持たない。ワンテンポ置いてシールドに亀裂が入り始め、シールドは叩き割られた。

しかし、それは回避するには十分な時間であった。

 

2人が鯉沼を抱え飛び下がる。

 

「ハウンド!」

 

間宮隊長はすかさずカズマに撃つはずだったハウンドを、全て月見隊員に向け撃ち出し、それに遅れて鯉沼隊員も月見へとハウンドを撃ち出す。

これにはたまらず月見もシールドを展開し後方へと下がり距離を取る。

 

 

失敗した。それも下らない事で。

自分の軽率さに心底うんざりする。姉にも散々仕込んでもらったと言うのに、その全てをたった一つの行動で台無しにしてしまった。

 

「すぅーーはぁーー」

 

大きく深呼吸をし、気持ちを切り替える。

反省はした。後悔は後でいい。

 

月見は再び弧月を握り直した。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「ああ……奇襲失敗ですね」

 

会場に悲嘆の声が溢れる。

 

月見の奇襲は途中までは会場から見てた隊員からも正しくお手本のような奇襲に見えた。しかし土壇場でその全てを台無しにした。

 

「途中までは良かったんだがな。功を焦ったって所だろう」

 

「緊張でついつい大声を出してしまったと」

 

「それは月見隊員も自覚してるでしょう。反省の顔色も伺えますし、それにこれで間宮隊はカズマ先輩と月見隊員に挟まれる形となり、大きく流れが変わりました」

 

間宮隊は前方をカズマに、後方を月見がおり包囲されている。

正しく前門のカズマ、後門の月見である。

 

「しかし1人ずつハウンドストームを当てていけば良いのでは?」

 

先ほどカズマに向けた圧倒的火力。それを1人ずつ行えば容易に片付くのではないか。それは至極当然な疑問。

たしかに挟み撃ちにされた。しかし、間宮隊は鯉沼隊員が片足を欠損しているとはいえ勢揃いしておりハウンドストームは未だ健在だ。優勢がやや優勢に傾いたに過ぎない。そう思えた。

 

「それは説明するよりこの先の展開を見てもらった方が早い」

 

そう言って奈良坂は観戦を促す。

観戦している隊員は疑問を頭の片隅に置き、再び試合に意識を向けた。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

月見隊員が思わぬ介入をしてきた事で運良く命拾いした。間宮隊の意識が月見隊員にも割かれた事を察したカズマは左手で拳銃を抜き秦隊員へと発砲。

一瞬にして8発もの弾が銃口から飛び出す。

 

「シールド!」

 

鯉沼隊員がいち早くそれに反応してシールドで防御。ダダダダダダッとシールドに当たっては弾けて消える弾丸。しかし7発目にしてアステロイドがシールドを貫いた。

2発の弾が秦隊員の腹を食い破る。

 

(なっ!?……何故だ!?)

 

鯉沼隊員は先程カズマの射撃を防いだ時より少し分厚いシールドを展開した。それなのにと思う鯉沼隊員。

しかし秦隊員の方へ顔を向けると理由がすぐに分かった。

秦隊員の腹には一つの風穴が存在していた。シールドを突破した弾は2発のはずなのにだ。

 

つまりカズマは同じ場所に8発もの弾丸を撃ったということになる。それならいくらトリオン能力の低いカズマの射撃でもシールドを貫く事は可能だ。

 

これは偏に、利き腕を失っても狙った場所に確実に当てられるよう練習し続けた賜物である。

 

決定打にはなり得ないものの確かに間宮隊の態勢が崩れた。その隙を見逃さずカズマはグラスホッパーで、月見は孤月を握り間宮隊へと襲い掛かろうとする。

しかし、

 

「メテオラ!」

「アステロイド!」

 

間宮はカズマの進行方向へメテオラを放ちカズマの追撃を封じる。本来間宮のトリガーにメテオラは入っていなかった。しかし、カズマがレイガストを使ってくる可能性を考慮してメテオラを採用していたのだ。

 

そして鯉沼は自身と月見の間に威力90、射程9、弾速1に設定した弾を撃ち出し低速弾のバリケードを張る。

これは鯉沼が以前カズマにしてやられた戦法だ。その試合でカズマにこっぴどくやられたのだ。

鯉沼は脳裏にその光景が焼き付いて離れなかった。だからこそこの技を習得できたのである。

 

月見は踏みとどまろうと全力でブレーキしながら目の前にシールドを張る。

シールドがアステロイドに触れると一瞬でアステロイドの形に穴が開いた。

 

(止まれない!!)

 

勢いよく飛び出した月見は勢いを殺せずそのまま低速弾のバリケードに触れるかと思われた。

 

だが月見は機転を効かせシールドを自身の目の前まで移動させ固定。シールドにぶつかり何とか静止する。

一命を取り留めた月見は安堵するも気を抜く事なく直ぐに一歩、二歩と下がっては弧月を構える。

 

「旋空弧月!」

 

15〜18メートル程に伸びた斬撃が間宮隊へと襲う。

 

「「「シールド!」」」

 

鯉沼が2枚、間宮と秦が一枚ずつ固定シールドを展開。が、旋空を止めるには足りない。

旋空はその固定された集中シールドを易々と一枚、また一枚と破っていく。

ブレードの先端が間宮隊を捉える。

 

それでもシールドにぶつかる度に一瞬だけ勢いが止まる。

 

『秦。タイミングを合わせろ』

 

『了解です』

 

『せーの!』

 

間宮は肩を組み、秦は腹部を抱いて再び鯉沼隊員を抱えて跳躍する。

 

拡張されたブレードが全てのシールドを破壊し終える頃には旋空の軌道上に間宮隊は存在しなかった。

 

 

そうしてカズマと月見が間宮隊を挟むようにして1対3対1の三つ巴が形成された。

そして先程まで圧倒的優勢であった間宮隊はその火力を2方向に分散せざるを得なくなり戦況は一気に膠着し出し、泥沼の様相を呈していた。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「これは!!」

 

先ほどの烏丸が言っていた事を桜子が気付く。

間宮隊は持ち前の火力をそれぞれ真逆の二方向に分散せざるを得なく、攻めるに攻めきれず膠着状態に陥った。

 

「先ほどの答えが出たな。間宮隊の強みは3人による集中砲火。それも各隊員が一定の間隔を保ち複数の方面からのクロスファイヤだ。だが鯉沼隊員は機動力を失っているし、今戦力の分散をしては攻撃手の月見に食われかねない。勿論カズマにもだ」

 

「やっぱ集団戦になるとカズマ先輩のいやらしさが遺憾無く発揮されますね。まあ良い言い方すれば盤面のコントロールが上手いって言うんでしょうけど。ほら見てください」

 

そう言って映像を見る事を促す。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

火力で優勢を誇る間宮隊、それを囲うカズマと月見。

間宮隊は人数有利があるものの包囲されその本領を発揮できていない。仮に誰か1人でも落ちれば間宮隊は瓦解だ。逆にカズマと月見はどちらか1人が落ちた瞬間、3人によるハウンドストームが降り注ぐ。

 

誰か1人でも抜ければ戦況は一気に傾く。

 

それを分かっているからこそ1番ダメージの多いカズマは消極的な射撃戦のみを展開し、こちらの圧力を減らし間宮隊の意識を月見隊員へと向けさせた。

 

タン、タン、タン、と散発的に一般的な拳銃の発砲音が響く。

煩わしそうに秦がシールドでそれを防ぐ。

 

カズマからの圧力は緩和されたものの、いつ来るか分からないカズマの不意打ちを常に警戒し守勢に回らなくてはならない間宮隊は依然火力が足らず月見を落とせずにいた。

そして月見もアステロイドのバリケードと旋空を封じる濃密な弾幕により攻めるに攻められずにいた。

それでも間宮隊にダメージはなく、月見は被弾が増えていく。

 

 

戦局は月見がやや不利であるものの膠着し続けている。

その膠着を1発の弾丸が破った。

 

それはこの盤上(主戦場)の外、狙撃手からの一撃だった。

鯉沼がフルアタックに入ろうとする瞬間、東方面に存在する高層ビルの屋上で光が発生した。

古寺による狙撃である。

 

「シールド!」

 

 

しかし間宮隊の隊長、間宮はそれに気付いた。

間宮隊はその戦法ゆえに狙われやすく、狙撃手からは格好の的である。だからこそ狙撃には他のどの下位部隊よりも人一倍敏感であった。

 

シールドの大きさを20センチほどにまで縮小しガードする。今までの経験上このくらいの厚さにすれば防げていた。

 

ーーイーグレットなら

 

しかし古寺が使用したライフルはランク戦スタート前、カズマが入れたアイビスであった。

アイビスは間宮の展開したシールドを容易くブチ破り鯉沼の胴体に大きな風穴を開けた。

鯉沼の顔に亀裂が走りだす。

 

「今っ……旋空弧月!」

 

攻撃の止んだ一瞬の隙を月見は見逃さなかった。

一歩踏み出す。

緊張に手が震える。だが2度同じ過ちを繰り返すわけにはいかない。

 

弧月を構え、振るう。

拡張されたブレードは今度こそ相手の首をその軌道上に捉えた。

 

『戦闘体活動限界、ベイルアウト』

 

死に体の鯉沼を撃破し、月見隊員が1stキルを飾った。

 

 

 

「あっっ!キルスティールしやがったな!!汚ねえ!!!」

 

「「「どの口が言うか!!!」」」

 

「グラスホッパー」

 

間宮隊の2人と吉里隊の月見は口を揃えて俺にそう言った。

旋空とハウンドが飛び交う。

俺はグラスホッパーでその場から離脱した。




やりたかったこと、B級下位部隊によるランク戦。
その為にも全ての部隊の戦術を真剣に考えて気付いた、無いから下位部隊なのでは?
下位部隊の戦術レベル考慮するのはかなり難しい。中位以上の人たちが当たり前に出来てる事を出来ない描写を加えないといけないから。でも同じ人間なんだからそこまで馬鹿では無いだろうとも思ってしまう。でも間宮隊だけはハウンド撃つ事に快感を覚えてるはず。(こいつらだけこのすば適性あるんだよな)
悲しいのがやりたかった「下位部隊によるランク戦」別に書かなくてもシナリオ上何の問題もない所。


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第25話 隊長の意地

ゲーム楽しいなぁ(何もしてませんでしたという意味)


「いやー壮絶な戦いでしたね。あそこに至るまでに各部隊それぞれどんな思惑で行動してたのでしょうか?」

 

間宮隊とカズマ、月見隊員の戦闘がひと段落し、息をついた桜子がそう言う。

 

「そうだな。間宮隊は合流するはずの所をカズマに妨害されたが、すぐに釣りの戦法に切り替えた。これはナイス判断だ。C級では知れ渡っているがカズマは敵に回すと相当厄介だ。放っておくと何をしてくるか分からないからな。潰せるなら早いうちに潰しておくべきだろう」

 

そう奈良坂が言うと観戦していたC級隊員の殆どが首を縦に振るった。

 

「特になんと言ってもカズマと当たった鯉沼隊員は間宮隊の中で1番防御・援護が優れている。これが間宮隊集結までの時間を稼げた大きなポイントだろう」

 

「なるほど!」

 

「佐藤隊と吉里隊の2部隊はあからさまに間宮隊を狙う動きをしてたな。吉里隊長や来馬隊員もそれぞれ合流を目指している途中にうっかり鉢合わせしたって所だろう」

 

その二部隊は攻撃手と銃手が揃って連携した攻撃をする想定だったのだろうと奈良坂は考察する。もしその通りになっていればカズマと月見隊員は銃手の支援の下、もっと強気に攻める事が出来た。そうなれば間宮隊は早期に瓦解していただろう。

 

「吉里隊はカズマが鯉沼隊員とやり合ってるのを見て互いにすり潰させるつもりだった。だが、そこで間宮隊が勢揃いしてしまいカズマが落とされるのも時間の問題となった。そうなれば最早、間宮隊の一人勝ちに等しい。だから月見隊員はやむを得ず乱入して誰か1人でも倒そうとした」

 

「しかし迎撃され膠着状態に陥った。と……いや振り返ってみると鯉沼隊員の働きが大きいですね」

 

「ふと思ったんだが間宮隊の戦い方二宮さんに似てないっすか?」

 

そう京介が割って入る。

 

「確かにそうだな。1人じゃトリオン的にも技術的にも二宮さんの真似は不可能だが、威力重視の分割少なめのハウンドのフルアタック。弾数重視の分割多めのハウンドのフルアタック。それぞれを1人が担って擬似的に二宮さんの真似をしているようだった」

 

とは言っても、2人分のトリオンを足しても二宮のトリオン量には届かないのだが。

 

「まあ間宮隊は二宮さん信者らしいですからね。射手のコンセプトチームにしたのも二宮さんの圧倒的な火力に魅入られたという噂もありますし」

 

「「へえ」」

 

「すっごい興味なさそうですね!振っておいて!!」

 

「まあその火力も2人に挟まれた関係上分散ぜざるを得なかった。その隙をついて2人も攻めようとしたが、メテオラや低速アステロイドのバリケードで牽制された。ちなみに後者はカズマがよく使う手だな。それで互いに攻めきれず一種の膠着状態に陥った」

 

「そしてその均衡を崩したのは!」

 

「ああ、古寺だ」

 

奈良坂の頬が少しばかり緩んだ。

女性C級隊員は鼻血を出した。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

市街地Aに転送された古寺。

住宅の屋根に飛び乗り辺りを見渡す。すると、運の良いことに近くには狙撃に適した高層ビルが存在していた。そしてちょうどその西側にカズマ先輩がおり、間宮隊を発見したと一報を入れてはグラスホッパーで移動を開始したようだ。

ならあの高層ビルからカズマ先輩を狙撃支援した方がいいだろう。

 

 

そう考えひたすら長い階段を登り、ようやく高層ビルの屋上へとたどり着いた古寺。

イーグレッドのスコープ越しに映る間宮隊の3人と吉里隊の月見隊員、そして自身の隊長のカズマ先輩が戦っている光景がよく見える。

 

間宮隊は挟み撃ちにされて攻めきれてはいないものの防御に関しては依然余力を残しているようだった。

 

「……これならアイビスの方がいいな」

 

誠に不服ではあるがイーグレッドからカズマ先輩が入れたアイビスに切り替える。

そして間宮隊の誰を狙うかを吟味する。自身も狙われている身であろう事から、狙撃支援をできるのは恐らくこの1発のみ。狙う相手は慎重に狙わなくてはならない。

 

戦況を見るに間宮隊を支えているのは鯉沼隊員だろう。鯉沼隊員は的確にシールドを張り、カズマ先輩と月見隊員の攻撃から2人を守っている。

ボーダーが評価した彼のパラメーターは防御・援護が5とやや高い。

 

出来ればダメージの少ない間宮隊長か秦隊員を狙いたかったが今の状況を鑑みるに鯉沼隊員を狙った方が良いだろう。

そう考えを纏めると満身創痍の鯉沼に狙いを決めた。

 

アイビスの照準が、銃口が、鯉沼隊員を捉えた。

引き金が引かれ、撃鉄が下される。

 

それと同時にイーグレッドの比ではないほどの反動が銃床から肩を伝い、体に伝わる。そして撃ち出された弾丸は鯉沼隊員めがけて一直線に飛んでいく。

 

アイビスの弾丸は狙撃に気付いた間宮隊長の集中シールドをいとも容易く貫通して鯉沼隊員の胴体に大きな風穴を開けた。

 

先ほどの射撃の反動からも分かってはいたが途轍もない威力だ。

イーグレッドだったらあのシールドを貫けなかっただろう。

 

対物ライフルのような見た目のアイビスは見た目通り重く、取り回しが悪いからと敬遠していたがこれからは入れておいてもいいかもしれない。

 

「と、感心してる場合じゃない。早く移動しないと」

 

アイビスの発砲はイーグレッドのそれよりも目立っていた。今ので確実に居場所を捕捉されたであろう。

間宮隊は動けないにしても月見隊員が離脱してこちらに来る可能性だってあり得る。

 

階段を全段飛ばししながら駆け降りる。それでも高層ビルという事もあり、上り下りも一苦労である。

 

「こんなに高いなら屋上じゃなくても良かったんじゃ……」

 

そうふと思いながらも急いで階段を下る。

ようやく半分降りたところだろうか、下から登ってきた吉里隊の北添隊員と鉢合わせしてしまった。

 

「「あっ……」」

 

2人は互いを見つめ合って一瞬硬直する。

 

先に動いたのは北添隊員だった。

ふと我に帰った北添隊員は突撃銃の引き金を引く。

 

「シールド!!」

 

古寺は咄嗟にシールドを展開して防ぎ、扉を蹴破ってこの階のフロアへと逃げる。

北添隊員は追いかけながらも逃すかとばかりにアステロイドを撃ち続ける。

 

逃げ込んだフロアは広く遮蔽物が全くと言っていい程なく、北添隊員の射線を切れない。

しかし、それは逆説的に北添隊員も古寺の射撃も切れないという事だ。

 

(これなら!)

 

バックワームを解除し、シールドとイーグレッドを出現させ飛来するアステロイドの雨を防ぎながら北添隊員の頭目掛け発砲した。

しかし、姿を晒した狙撃手の攻撃など怖くもない。銃口の向きで攻撃場所が丸分かりである。

北添隊員は胸から上を2枚のシールドで覆う。1枚目のシールドを突き破ったイーグレッドの弾丸は2枚目で完全に止められた。

 

 

イーグレッドは再装填に入った。

それをチャンスと見た北添隊員は身軽になるため突撃銃のショルダーベルトを外し捨てる。そしてスコーピオンを右手に握り走り出した。

 

「……!?」

 

それに対し古寺はイーグレッドからアイビスに切り替え、構え直す。

北添隊員はそれを見るや、アイビスは流石に受け止められないと足を止め慌てて後方へと飛び下がる。

 

古寺はそれを待っていたとばかりにニヤリと笑っては突然、くるりと90度回転し、北添隊員に側面を晒した。

一体何がしたいんだと北添隊員が思った次の瞬間、古寺は壁に向かい発砲し出した。ビルの壁面に人1人通れるほどの穴が開いた。

 

古寺の狙いは最初から北添隊員の撃破ではなく、逃走であった。

古寺は基本がしっかりとしている。だからこそ姿を晒したまま応戦するなどという事ハナからあり得なかったのだ。最初の一撃はあたかも応戦する意志があると思わせるためのブラフ。

 

古寺はアイビスを解除し身軽になっては全力疾走で出口へと向かった。

 

(しまった!)

 

北添隊員は先程突撃銃を捨てたことに内心後悔する。あの時捨てていなければ牽制射撃が可能だった。新たに出そうにも古寺が逃げるのを阻止するには間に合わないだろう。

 

「届け!!」

 

そこで手に持っていたスコーピオンを投擲する。

しかし、カズマの戦闘を見ている古寺にとって、この程度の投擲など予想の範疇だ。

カズマならこれにグラスホッパーも加えてくる。

 

「シールド」

 

弧を描き飛んでいくスコーピオンはあっさりとシールドで防がれた。

そして一歩、二歩と強く大地を蹴り、古寺は大きく跳躍しビルの外に飛び出した。

北添隊員はすぐさま突撃銃を出現させ古寺の抜けた穴から半身を出し、銃を下に向ける。

 

突撃銃の照準越しに見える狭い視界には、古寺がイーグレッドを構えこちらに向けている姿があった。

 

引き金が引かれ、銃口が輝く。

 

「まずっ!?」

 

しかし、流石に落下中に弾を相手に当てるなどと言う芸当は出来ず、北添隊員の顔の真横を弾丸が通り過ぎた。

 

助かったことに安堵しホッと胸を撫で下ろしては改めて北添隊員は飛び降りた。

 

古寺は地面に着地すると同時にバックワームを起動。持っていたイーグレッド消し、全力で走り出した。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「おっと古寺隊員機転を効かせなんとか逃げ延びた!!」

 

「狙撃手は寄られたらまず助からない。運が良かったとしか言えないな」

 

まあ運が良ければそもそも階段を降りている最中に出会してはいないのだが。

北添隊員は古寺の狙撃を目撃したのではなく、たまたま近くにあった高層ビルを探してみようと思い登ったのである。

 

その結果思い掛けず階段で出会したのだ。

 

「おお、厳しい評価ですね」

 

 

それだけ弟子には期待してるという事ですか。とは野暮なので桜子は言わないでおいた。

 

「しかし古寺隊員、北添隊員に追いつかれてしまう!!」

 

画面では古寺を逃さないようアステロイドで牽制射を行う北添隊員の姿があった。

古寺は仕方なくバックワームを解除し下半身と上半身を二枚のシールドで守りながら逃走を続ける。

 

「これは……すごい不毛な戦いですね。北添隊員は逃さないように突撃銃を撃ち続けているので機動力が下がり追いつけずにいる。そして古寺隊員は足を削られて機動力を落とされないよう上半身と下半身の両方にシールドを張らざるを得ず、常にレーダーに映るため逃げきれない」

 

そして月見隊員は間宮隊2人に狙われ離脱出来ず、カズマは来馬の方へと向かっておりこの状況が動く要素が何一つとしてないのだ。

 

「先ほどの白熱した戦いを見た後だと何というか……」

 

あまりに見栄えのない戦闘である。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

「クソッ!待て!!」

 

拝啓、カズマ先輩、来馬先輩、アクア先輩。いかがお過ごしでしょうか。僕は今アステロイドの雨の中を必死に逃げ回っています。

僕は体育会系ではないので運動は苦手ですが幸い、トリオン体は疲れ知らずなので永遠に走ることが出来ています。ですがもう無理みたいです。

北添隊員との距離がだんだんと縮まっており、50メートルほど離れていた距離が今や5メートルほどにまで縮まっています。

とうとう北添隊員はスコーピオンを持ち始めました。カズマ先輩、合流できそうにありません。僕、古寺章平は死に場所を見つけました。

 

 

 

古寺は立ち止まり180度回転し北添隊員へと向き直る。

その手にはアイビスが握られていた。

その砲門が北添隊員へと向けられる。

 

だが北添隊員は怖気ない。

先程は自分がアイビスに怖気付いたから取り逃したのだ。ならばまた同じ事をしてどうする。

もう既に矢は放たれたのだ。

 

「いっけぇぇぇえ!!!」

 

体を捻り全身を使いスコーピオンを投擲する。それは先の一撃とは速度が全く違う。腰の入った一撃だ。

それと同時に引き金が引かれ内部の撃鉄を動かし、弾丸が撃ち出される。

 

 

スコーピオンとアイビスの弾が交差する。

スコーピオンは見事古寺の脳天に突き刺さった。そしてアイビスの弾は北添隊員の胴体を捉えていたーー先程までは。

北添隊員がスコーピオンを投げた際、体を捻った事により照準から外れた。そして、弾丸は北添隊員の頬を掠めては背後の住宅に大きな穴を開けた。

 

『戦闘体活動限界……』

 

悔しさに顔を歪める、体が光に包まれ始める。

 

『ベイルアウト』

 

しかし最後に古寺は笑った。

その意味を北添は気付かない。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

一方マップ南部

2人の銃手が睨み合っていた。

始まりはバックワームを互いに起動しての不意遭遇戦。先に仕掛けたのは来馬だった。

アステロイドの弾が射出される。

 

吉里隊長はすぐにバックワームを解除。シールドを張りこちらもアステロイドで応射。

それをシールドで防いでは下がりながらにアステロイドの弾幕を張り近づかせない。

しかし吉里隊長は遮蔽に隠れて射線を切りつつ、バイパーを射出。それは空高く飛んでは軌道を変え地面へと降り注いだ。当たりはしないものの相手は遮蔽に隠れながらこちらを一方的に攻撃できるのだ。

次第にそのバイパーは来馬に当たるようになっていった。下手な鉄砲数撃ちゃ当たるである。

 

それならこっちだって! と来馬は突撃銃のセレクトレバーをカチッと切り替え銃口を上に向けては引き金を引く。

無数に打ち上げられた弾は放物線を描き吉里隊長の下へと降り注ぐ。

 

「ちぃ!!」

 

遮蔽を使った勝負ではハウンドには勝てないと踏んだ吉里隊長は頭上にシールドを張りながら突撃。

アステロイドに切り替え、弾をばら撒く。

 

「シールド!!」

 

上半身を覆うようにして出されたシールドにアステロイドの弾は当たってはパチパチと弾けて消える。

しかし覆いきれていない腕や脹脛にいくつか被弾する。

被弾痕からはチョロチョロとトリオンが漏れ出している。

 

ダダダッ、ダダダッ、と散発的にアステロイドを放ちながら全速力で来馬を追いかける。

両者の距離は20メートル。

 

来馬は近距離での射撃戦はあまり得意ではない。それは突撃銃を持つ銃手全体にも言える事だが。しかし、相手の方が銃手の年季が上だ。これ以上不慣れな状況での戦闘を継続すれば負けるのはこちらだ。

 

そう考え、来馬は銃口を下に向ける。

 

「!?」

 

吉里隊長の足元、彼の進行方向にアステロイドの弾幕を張る。

これには思わず吉里隊長も足を止めバックステップで後方へと下がる。

 

その隙に来馬は距離を取るべく後ろ向きに走り出す。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「南部の銃手同士の戦闘は拮抗してますね。それでも吉里隊長がやや有利か!」

 

「流石に年季が違うからな。このままいけば吉里隊長が普通に勝つだろう」

 

距離をとった撃ち合いも銃手としての練度の差からか来馬の被弾ばかりが増えていく。

バイパーも駆使して隠れながら安全に攻撃も繰り出している吉里隊長。

 

「バイパーは扱いが難しいが、ハウンドじゃ曲がりきれない場所を通れるからな。今の地形的にハウンドは上空からの攻撃しか出来ない。容易に対処されるだろう」

 

来馬と吉里隊長は車一台が通れるくらいの幅しかない小道にて戦闘をしている。ハウンドの多角的な攻撃をするにはもう少し広さが欲しいところだ。

 

「それでも来馬先輩もかなり粘っている。シールドで防御しながら引き気味に戦うスタイルが割と様になってるな。これならしばらくは持つだろう」

 

画面では終始優勢な吉里隊長が、来馬予想外の抵抗に焦りの表情を浮かべていた。

 

「ですがもう……」

 

烏丸と奈良坂が口を揃えてこういった。

 

「「吉里隊長の負けです」」

 

「へっ?」

 

映像ではカズマがバックワームとグラスホッパーを使い、既に付近へとやってきていた。

そして吉里隊長を捕捉するとグラスホッパーで加速しだす。そして吉里隊長に向かい一直線で飛んで行く。左手首から肘にかけて鎌のようにスコーピオンが生えている。

それも2本もだ。

 

枝刃(ブランチブレード)

 

それは入隊時に見た技、初めて覚えた技。

それが初のランク戦にて披露された。

 

枝刃(ブランチブレード)はその名の通り途中で枝分かれすることであたかもスコーピオンを2本使っているように見せる技だ。しかし右腕から生やして左腕からも生やすと言った芸当は出来ない為そこまで便利な技ではない。

それでも使い道はある。刃を一本から二本に増やす事で単純な話、威力が2倍になる。そうでなくとも命中率は上がるだろう。

 

 

実際その通りになった。

2本ある内の一本は外したものの、もう1本の刃が吉里隊長の胴体を切り裂いたのだ。

 

 

しかし、急所を外したのか吉里はトリオンを大量に漏洩してはいるもののまだベイルアウトには至っていない。

 

そしてカズマは着地に失敗し地面に顔をめり込ませている。

いまなら確実にカズマを倒せる。今度はこっちの番だと吉里は引き金に指を添える。

しかし、アステロイドが放たれることは遂になかった。

 

 

『戦闘体活動限界、ベイルアウト』

 

吉里隊長の背後にいた来馬にトリオン器官を撃ち抜かれベイルアウトした。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「二度目のグラスホッパー奇襲は当てましたね」

 

まあその後は滑稽にも顔面からコンクリートに着地したのだが。

 

「そうですね。足りない技術を機転でカバーしたというところでしょうか。確かにアレなら命中率が上がりますね」

 

「単純かつ一定の効果は見込める良い手だな」

 

それを聞き嬉しそうな気持ちを抑え切れず烏丸もついに顔が緩んだ。

 

既に会場の女性隊員の大半が奈良坂と烏丸のコンボによって脳を破壊されダウンしている。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「「ハウンド!」」

 

「シールド!」

 

月見隊員は間宮隊2人に大苦戦をしていた。

間宮隊長が2×2×2の威力重視のハウンドを、秦隊員が4×4×4の弾数重視のハウンドを両手に出現させた。

秦隊員が側面と上空へ撃ち出し、間宮隊長は散らして放つ。

 

それに対し固定シールド2枚を使ってなんとか凌ぐも全てはガードしきれず被弾が増えていった。威力重視の弾は防げた。だが、細かい弾は防ぎきれずに小さなダメージが蓄積していく。

 

それがもはや無視できない程のダメージとなっている。特に足は蓮根のように穴が空いており千切れる寸前だ。

 

近づこうにもメテオラによる牽制やハウンドによる多方向からこ攻撃に晒され、近づくに近づけない。戦況を打開できるであろう旋空も隙が大きすぎて使えない。

 

『秦、絶対に旋空の射程に入るなよ。このまま距離を戦う。次にやつが固定シールドを展開したら一点にハウンドをぶつけてトドメを刺す』

 

『了解です』

 

そう言って2人は再びハウンドを両手に出す。

 

 

無数の小さな穴からはトリオンが漏れ続けている。もう既に大部分のトリオンが漏れ出した。

2度あの攻撃を受けただけでこの有様だ。

このままでは何も出来ずに負けてしまう。それだけは嫌だ。それでは何のために今まで鍛錬を続けてきたと言うんだ。

 

そう考えては月見隊員は呼吸を整える。

 

北添君は狙撃手を倒したばかりでかなり遠い。隊長も来馬隊員と依然戦闘中で合流は不可能。カズマさんは恐らくそのどちらかに向かった。

私も速くここから離脱しなければ。しかし、2人のハウンドストームからは逃げられないだろう。

ならせめて1人でも倒して圧力を減らし、逃げる。

 

そして月見隊員は覚悟を決めた。

 

間宮、秦、両名がフルアタックに入る瞬間。視線を秦隊員へと向ける。

 

すると、間宮隊2名の視界から突然月見隊員が消えた。

それは作戦会議で吉里隊長が入れた新トリガー。吉里隊はランク戦の行われない9月の間にコッソリとテレポーター(試作)の特訓を行なっていたのだ。

それを今、この土壇場で使用したのだ。

 

「「なっ!?」」

 

月見隊員は秦隊員の背後へと瞬間移動し、そしてくるっと振り向き、その勢いのまま秦隊員へと切り掛かる。

それに間宮隊長はいち早く気付いたが、2人はフルアタックに入っておりシールドの展開は出来ない。

 

鯉沼ならこれも防げただろうと間宮は悔やむ。それでも何もできない訳ではない。

 

「ハウンド!」

 

両手に持ったハウンドを月見隊員へ向け一直線に放つ。

月見隊員が秦隊員を斬り裂くこと同時に間宮のハウンドが月見隊員を撃ち抜いた。

 

『『戦闘体活動限界、ベイルアウト』』

 

 

 

◆◆◆

 

 

「ここで月見隊員と秦隊員が2人同時にベイルアウト!!月見隊員は新トリガーテレポーターをしっかりと決め、間宮隊長もすぐさまハウンドで月見隊員を撃破した!!」

 

「月見隊員は最後の最後で粘りを見せたな。あのまま何事もなく間宮隊にすり潰されて負けるという可能性の方が充分あり得た話だ」

 

奈良坂も十中八九間宮隊が勝つと思っており感心する。

 

「さて、間宮隊長はどう出るか。1人じゃカズマと来馬先輩の2人には勝てないだろ。距離的にも自発的なベイルアウトはまだ可能だ」

 

もしくは北添隊員も含めた乱戦に持ち込むかだ。そうすれば場が混乱した所にメテオラを撃ち込めば状況によっては勝ちの目もあり得る。

 

と、そんな事を言っていると画面ではカズマがグラスホッパーで移動を開始した。

 

「おっとカズマ隊長はグラスホッパーで先に間宮隊長の所へ急行し始めた!」

 

「自発的ベイルアウトで逃げられる可能性がありますからね。来馬先輩を置いてでも向かいたい所でしょう」

 

B級ランク戦では自発的ベイルアウトによる離脱であれば相手の得点にはならないというルールがある。と言ってもそれを使えるのは他部隊が半径60メートルに居なければという条件付きだが。

 

カズマがグラスホッパーで半径60メートルに入った後は、来馬が到着するまで待っていれば安全に間宮を倒せる。しかし北添隊員の存在があるためそう悠長にもしていられない。

今もバックワームを付けて行動しているためカズマ達の視点からはどこにいるかわからない。もたもたしていればまた吉里隊にキルスティールをされる恐れがある。それだけなら良いが自分達が不意打ちされて落とされる危険性だってあるのだ。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

『隊長!』

『隊長!ベイルアウトしましょう。射手1人では絶対に勝てませんって!』

『そうです。ベイルアウトしましょうよ!』

 

通信越しから秦、鯉沼、楠本の声が聞こえる。

 

間宮は今回の試合を振り返る。

佐藤隊の隊長、カズマは自分で戦場を動かしあの不利な場面から活路を見出した。

吉里隊の隊長は隊のみんなを信頼して各自に自由な行動をさせた。極め付けは月見隊員が使った新トリガーのテレポーターだ。

 

では俺は何ができた?

鯉沼は十分なほどの活躍をしてくれた。秦は俺がもう少ししっかりしていれば落とされることはなかった。

 

そうだ、俺は何もできていないんだ。

 

 

深く息を吸い吐き出す。そして無線を繋げた。

 

「そうした方がいいのかもしれない……いや良いに決まってる」

 

『じゃあ早く!』

 

「それでも引き下がれない!こればかりは!!」

 

『隊長……』

 

「鯉沼。お前にはこの試合でたくさん助けられた。秦。さっきは守らなくてすまん……だから最後まで戦うお前達の隊長の姿を見ていてくれ!!」

 

 

間宮は通信を終了し、南の方角を見つめる。

 

 

 




この前出たワートリのQ&Aで死んだ二次創作作者どれだけ居るんだろう。花緒ちゃんが苗字同じだけで月見の妹じゃないって言われてたら俺も死んでました。
本編の犬飼と影浦のやり取りでおそらく影浦隊がB級降格する理由が明らかになるだろうからその時は俺も死にます。水上が奨励会に入ってたって判明した時に死んだ人も何人かいるでしょう。
みなさん強く生きましょう。


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第26話 このランク戦にクライマックスを!

タイトルようやく戻す。


カズマはグラスホッパーを起動しては地面に着き、またグラスホッパーを起動するという作業を繰り返し間宮隊長のところへと向かう。

 

そしてとうとう間宮の半径60メートル圏内に入り込んだ。これで間宮はもう逃げることは出来ない。

 

「ハウンド!」

 

間宮が掌を天に掲げる。

それに呼応するように間宮の両サイドに浮くキューブが上空へ打ち上げられ、弾丸がカズマへと向かい降り注ぐ。

 

「グラスホッパー!」

 

それをグラスホッパーによる高速移動で振り切り、間宮隊長のところへと辿り着く。

彼我の距離は20メートル程。奇しくもそれは個人戦での射手同士の戦闘開始距離と同じであった。

眼窩には片手にキューブを出現させた間宮隊長の姿が映る。

 

「メテオラ!!」

 

「シールド!!」

 

メテオラがカズマの目の前、その足元に着弾しては爆風が発生する。背後に飛び退き、爆風から身を守るためシールド2枚で球体状に展開、全身を覆い尽くす。

 

球体状のそれは爆風に押され後ろへと飛ばされる。

 

「ハウンド!」

 

そこへメテオラによって発生した土煙からハウンドが襲い掛かっては薄く広がったシールドを貫きカズマの身体を貫いた。

幸い急所は外れたもののそこから決して無視はできない量のトリオンが漏れていく。

 

 

 

土煙が晴れる。

その先には既にハウンドのフルアタックの準備を終えた間宮の姿があった。

 

「ハウンド!!」

 

放射状に放たれた全ての弾がこちらに向かいやってくる。

 

「グラスホッパー!グラスホッパー!グラスホッパー!!」

 

グラスホッパーで大きく飛び身体とは斜めにグラスホッパーを展開し軌道を変え空中軌道を繰り返す。

だと言うのに中々ハウンドを振り切れない。どうなっているんだ。今までのハウンドはこれで振り切れたはずだ。さっきだって!

 

しかしハウンドは現にカズマを喰らわんと追いかけている。

 

 

そのネタは至ってシンプルだった。視線誘導によるハウンド。

だからこれまでのハウンドより追尾性能が高くなっているのだ。

 

 

シールドでハウンドを防ごうにも全弾は受け切れないだろう。

 

「くっそ!! グラスホッパー! グラスホッパー!!」

 

なお加速しても振り切れない。ならばと住宅地の多い場所へ向かいハウンドを障害物とぶつけ合わせようとする。

すると、()()()()()()カズマが住宅の影に隠れ、間宮隊長の視線から外れた。その途端ハウンドの追尾性が一気に落ち、全ての弾は住宅にぶつかり消えていった。

 

そしてカズマは地面に漸く着地する。

また間宮隊長がフルアタックに入ろうとする。

 

が、そうはさせるかとカズマはハンドガンを引き抜き発砲。瞬時に8発の弾丸が撃ち出される。

 

「シールド」

 

が、それを間宮には難なく防せがれてしまった。だが、これでフルアタックはやってこない。

 

「グラスホッパー!」

 

勢いよく飛び出したカズマはスコーピオンを千切れた右腕から生やし攻撃体勢に入った。

 

「ちぃっ、ハウンド!!」

 

間宮隊長はハウンドの弾を威力99、射程0.5、弾速0.5に設定。それをバリケードのように展開した。

これならいくらシールドを分厚くしようが防げない。このままではカズマは自分からハウンドにぶつかりに行って負けだ。

しかし、その技はカズマの十八番である。そのカズマなら対策も容易に思いついて当然だ。

 

「グラスホッパー!」

 

自身の目の前に九つに分割したグラスホッパーを展開。それにぶつかることで後方へと飛び、なんとか回避。

 

「ハウンド!!」

 

そして下がりながらも間宮にフルアタックをさせまいと3×3×3に分割したハウンドを出し撃ち出す。

それは両側面に撃ち出され、間宮は2枚のシールドで防ぐしかない。

これでまた戦いの主導権はカズマに移る。そう思えた。しかし、

 

「ハウンド!!」

 

至る所から弾が上空に飛び出した。それはまるで光の柱のよう。

 

間宮隊長は戦闘が始まる前、事前にそこら中に置弾のハウンド。隠していたのだ。気づかれないよう置く必要があった為、それらは住宅の庭などに隠されていた。だから撃つ方法といえば上空に打ち上げ雨のように降らすことしか出来ない。それでもカズマのフルアタックも封じれる。

 

「シールド!!」

 

カズマもそれに2枚の固定シールド頭上に、まるで傘でも差すかのように展開し防ぎきった。

どうせ頭上からしか降ってこないのだ。ならいくら無数の弾を降らせたところでこちらは些細な手間をかけることで対処可能だ。

 

 

「ハウンド」

 

間宮は両手にハウンドを出す。

対してカズマは左手にスコーピオンを出現させた。それはいつものそれとは異なりククリナイフのような形状をしている。

 

先に仕掛けたのはカズマであった。カズマは左手に持つスコーピオンを勢いよく投擲。

が、しかしそれは右にかなり外れて飛んでゆく。カズマの利き腕は右である。左で投擲すればそんな方向に飛んでいくのも無理もない。

 

それを見て勝利を確信した間宮はハウンドの分割に入った。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「これは勝敗が決まりましたね」

 

武富桜子の言葉に烏丸が相槌を打つ。

 

「ええ、カズマ先輩の勝ちです」

 

「えっ?」

「はっ?いやいや流石にお前の買い被りすぎじゃないか?」

 

「見てればわかりますよ」

 

誰もがまさかと思う中、カズマの勝利を、烏丸だけは確信していた。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

間宮は見てしまった。自分がハウンドの分割に入った瞬間、あまりにもゲスな笑みを浮かべるカズマの顔を。

口角を上げ、ねっとりとこう呟いた。

「グラスホッパー」

と。

 

スコーピオンが飛来するその先、そこにグラスホッパーが現れた。

スコーピオンはコツンとジャンプ台に触れる。

その途端、スコーピオンは凄まじい勢いで反射され、それは間宮の首を掻っ切っては更にその向こうの住宅の塀に深く突き刺さった。

 

「クソッ……」

 

『伝達系切断……』

 

間宮は最後の抵抗に手元にあるハウンドを放とうと、そのキューブに指示を出すべく右腕を伸ばそうとする。脳が放てと命令している。だと言うのに腕は震えるばかりで命令を聞かない。

伝達系を切断されてトリオン体が思うよう動かなかった。

 

目の前にフルアタックに入った格好の的がいるというのに何もできない。

そんなもどかしさの中、間宮隊長の視界は暗転し始める。

 

(後一歩なんだ……動いてくれよ……)

 

『ベイルアウト』

 

ついに撃つ事はなく間宮は戦場から離脱した。

 

 

 

 

 

 

「食らえ!!」

 

と、そこにようやく北添隊員が到着。

フルアタックに入り無防備となったカズマに向けアステロイドを放つ。今のカズマに避ける余力は残っていなかった。体を動かそうにも間に合いそうにない。

 

 

「シールド!」

 

 

しかしそれはシールドによって防がれた。その主は来馬である。

 

来馬も北添隊員と時を同じくしてこの場へ到着していたのだ。

声のした方へ振り向く。そこには屋根上から北添隊員を見下ろす来馬の姿があった。

銃口が北添隊員に向けられている。

 

それを視認すると同時に引き金が引かれた。

 

「!!……シールド!!」

 

北添隊員は間一髪のところでシールドを出しなんとかガード。来馬を尻目にカズマに向け再度攻撃を開始しようとする。

 

「アステロイド!」

 

「っ!?」

 

しかし、カズマがそれよりも早く2×2×2に分割したアステロイドを弾速50、威力25、射程25に調整して放つ。

北添隊員は反応できずに胸部を蜂の巣にされては光となって空を飛んでいった。

 

『戦闘体活動限界、ベイルアウト』

 

「か、勝った……?」

 

未だ勝った実感はないが戦闘が終了したことに安堵し深く息を吐く。

 

「来馬先輩、来馬先輩」

 

 

そんな来馬に対しカズマはグーに握った拳を来馬へと突き出す。その意図に気付くと来馬はクスリと笑って拳を突き合わせ、フィストバンプを交わす。

瓦礫が広がる市街地で2人の拳がぶつかる音だけが響いた。

 

 

その後2人は何となしに微笑んだ。

 

 

 

試合終了。結果は以下の通りとなった?

佐藤隊3+2=5点

吉里隊3点

間宮隊1点

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「ここで試合終了!!5対3対1で佐藤隊の勝利です!!!初のランク戦で華やかな初陣を飾った佐藤隊!!B級ランク戦下位、昼の部ラウンド1は新参チーム佐藤隊の大勝利です!!」

 

初のB級ランク戦にて5点獲得。その事実に会場は歓声に湧き上がった。

烏丸は誇らしそうににんまりとしている。

鼻血を出す、いや出せる女性隊員は既に存在しなかった。

 

 

「それではこれまでの戦闘を振り返っていきましょう!まずは、奈良坂先輩お願いします!!」

 

「そうだな。今までの試合を振り返ってみるとどの部隊が勝っていてもおかしくはなかった。現に間宮隊は早期に集結し、強力なハウンドストームが炸裂した。あそこでカズマが落とされていれば月見隊員は戦闘に参加することすらできなかった筈だ」

 

「たしかに。カズマ隊長はグラスホッパーがまだ扱えていないながらも扱えないなりに工夫をしてハウンドストームを避けていましたね」

 

その他にも戦闘を有利に進めるための工夫が色々とあった。ハウンドを側面に当たるよう撃ち、それと同時にスコーピオンを正面から攻撃して相手のフルガードを誘発する。ハウンドを両側面に撃ってシールドを2枚使わせると言う相手を守勢に回らせる戦法。1対1の勝負、特に射手同士の戦闘は一度守勢に回れば挽回は難しい。カズマは安全を取りながら攻めていたと言うわけだ。まあ、あいつを射手と呼ぶのは些か迷うが」

 

オールラウンダーを名乗るにはポイントが足りないかと呟いては話を続ける。

 

「他にも自身のトリオン量故の低威力の弾トリガーでシールドを突破するべく、弾を同じ場所に当て続けるといった事も挙げられる」

 

「それがカズマ先輩の持ち味ですね。先輩は射撃系の実力以外はC級に毛が生えた程度ですが、その実力差を覆す応用力と発想力があります。例えば先程言ったグラスホッパーや、スコーピオンの投擲。あと余談ですが間宮隊の使ってた低速弾のバリケードは元々カズマ先輩が得意としていたものです」

 

C級隊員の脳裏に嫌な記憶がフラッシュバックした。

 

「なんと!?だからあんなに容易く対処した訳ですね!」

 

「ああ、その際のグラスホッパーの使い方も見事でした」

 

烏丸はイキイキとまるで自分の事のように話す。側から見たら先輩を敬っている良い後輩にしか見えないだろう。

 

「あとは古寺の働きがデカいですね。最初の狙撃をきっちりと決めたのもそうですが、北添隊員にやられはしたがきっちり時間を稼ぎました。あれがなかったら月見隊員と北添隊員は合流して戦闘の行方も変わっていたと思います」

 

奈良坂は誰も気付かないほど小さくコクリと頷いた。

 

 

北添隊員の射撃支援の下テレポートや旋空弧月で場を崩し間宮隊を倒す。そのあとは1人でやってきたカズマを倒し残った来馬を倒す。又は自発的ベイルアウトを促し勝利する。

そういうシナリオも想定できた。

 

「間宮隊は今回もきつかっただろうな。なんせあからさまに二部隊から集中して狙われてたんだからな。1番得点は低かったがあの状況で一点取れただけでも十分だとは思う。それにあの3部隊の中ではチームとしての真価を1番発揮できていたと思う」

 

それにと付け加えて鯉沼隊員の働き、間宮隊長の最後の戦闘を称賛した。

間宮隊は基本3人行動を取る。だからこそ1対1ではやられる場面が多かった。

 

しかし鯉沼隊員はカズマの猛攻を退け合流までの時間を稼ぎ、間宮隊長は一騎打ちを挑み負けはしたものの過程自体は悪くなかった。何度かカズマを押している場面もあった。

これは間宮隊が1人でもそこそこやれるんだぞという証明になった。

 

「今回の戦法自体も悪くなかった。ただ合流するまでの間、今の試合のように機動力のある相手に絡まれる事は今後もある筈だ。だから個人で点を取れなくとも、他隊員と合流するまでの時間粘れるような戦い方を覚えれば更に強くなる筈だ。今回の鯉沼隊員のようにな」

 

彼らが学ぶとするなら今回戦った来馬であろう。

 

「あと来馬先輩も良かったですね。吉里隊長には経験や技量で負けていて終始不利でしたが、それでもあきらめずに頑強に抵抗しました。その結果としてカズマ先輩のグラスホッパー奇襲が成功し、最後には北添隊員からカズマ先輩を守ることができました」

 

烏丸はナイス援護だったと来馬を称賛する。

現にあの来馬の援護は完璧としか言いようがない。十数メートル離れた場所に的確にシールドを展開してカズマを守っては、援護射撃により北添隊員の意識を散らした。

銃手の理想的な動きである。

 

 

来馬がもし吉里との戦闘で敗北し離脱していれば、カズマはグラスホッパーによる奇襲を成功できなかっただろう。仮にカズマが吉里隊長に勝ったとしても最終的に北添隊員に奇襲され離脱。結果は吉里隊4点+生存点2点、計6点。佐藤隊2点。間宮隊1点というシナリオもあり得たのだ。

 

「最後に吉里隊だな。古寺の機転がうまく働いたとは言え、北添隊員がもう少し早く落とせていればなとは思う。あとは吉里隊長も来馬先輩との戦闘を早期に止め、月見隊員の所へ向かうべきだったな」

 

それでも終始有利だったという事実が吉里隊長の判断を狂わせた。あと一歩で点が取れる。その誘惑に吉里隊長は勝てなかったのだ。

 

「しかし月見隊員は今回大活躍だったな。まず一つは間宮隊をカズマと挟み撃ちにして本領を発揮させなかった」

 

これに関しては月見隊員はやむを得ず飛び出したに過ぎず、間宮隊が挟み撃ちになるようにカズマが盤面をコントロールしていたのだが。それは触れないでおいた。

 

「二つ目は古寺が撃った直後、旋空で強引にキルを持っていった点だ。一点リードした上に狙撃手の位置も把握できた。これはかなりデカい。そして、三つ目は試作トリガーのテレポーターだ」

 

テレポーターは視線の先に瞬間移動出来るというトリガーである。一見便利に感じるが、移動距離によってトリオンの消費が変動し、距離が長ければ長いほどクールタイムが長い。そしてセットしていることがバレていればその視線から簡単に大凡の移動先がバレてしまうのだ。

 

それにテレポートは同じ姿勢のまま瞬間移動する。つまりテレポートしたからと言ってすぐさま攻撃に入れるわけではない。相手がテレポートを使うと予想していれば反応するのは当然相手の方が速い。

 

アレは入っている事が知られていなかったからあそこまでの猛威を振るったとも言える。

 

「なるほど、話を聞くと確かにどの隊が勝ってもおかしくはなかったんですね。それでも初試合でいきなり5点も取った佐藤隊が次はどんな試合を展開するのか楽しみですね!」

 

「ああ、だがカズマは暴れすぎたな」

 

「と、言うと?」

 

「B級下位のランク戦で1番狙われるのは誰だ?」

 

と奈良坂が質問に質問で返す。

それに対し海老名隊でのランク戦を思い返す。

 

「んー……間宮隊の誰か、ですね。集結されると厄介なので」  

 

「そうだ。しかしその間宮隊の集中攻撃を退けたやつが出たら?」

 

「あっ!!!」

 

そこで桜子も気付く。

1番厄介な相手を退けた相手などそれより厄介に決まってる。さらにまだ伸び代があるというのだから狙う他ない。

他にも今回見せたカズマの戦闘スタイルにある。

 

「カズマは戦闘でグラスホッパーを使うにはまだ未熟なだけで移動には使える。つまり自分が不利になったらすぐ離脱できるし、一撃離脱でちょっかいを掛けにいける」

 

更に言えばカズマが強いからといって、来馬や古寺を狙おうとすればその背後をバックワームとグラスホッパーによる奇襲に常に晒されるリスクがあるのだ。

現にこのラウンドで吉里隊長はそれにやられたのだ。

 

強く、落としづらく、放っておくと厄介。

 

「恐ろしいですね……」

 

海老名隊としてぶつかったらどうしようと一瞬考え込んだ。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

間宮隊作戦室

 

「皆……すまなかった!!」

 

そう言って間宮隊長は頭を深く下げた。

あれだけ啖呵切って勝負に挑んで負けたのだ。部隊の皆に合わせる顔がない。

 

「ない言ってるんですか隊長!最後のアレめっちゃカッコよかったっすよ!!!」

 

「一生ついて行きます隊長!!!」

 

秦と鯉沼は間宮の戦闘を見て興奮をしていた。

 

「いやバカかあんたら!!あの場面はベイルアウトしておくべきでしょ!?……まあそれでも3人揃ってようやくって言われるウチらの評価を覆すくらいには頑張ったんじゃないの?鯉沼もね」

 

ナイス時間稼ぎ!と楠本は親指を立てる。

そして鯉沼も親指を立てた。

 

「楠本さん楠本さん、俺は?」

 

そう言ってオペレーターから褒めてもらいたそうに秦は自身の顔に指を指す。

 

「あんた隊長とメテオラやった以外特に何もしてないでしょうが!!」

 

「まあまあ、俺の攻撃に合わせて弾数重視のハウンドでカズマ隊長の移動制限してくれたし。ありがとうな秦」

 

「隊長!!」

 

 

強くなろう。

俺たちはまだ強くなれる。

 

間宮達は解説の言葉を真剣に聞いた後、今後の方針をああでもない、こうでもないと未来の自分達を想像し夢を膨らませては今後の方針を話し合った。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

【オマケ】

 

【挿絵表示】

 

各隊員の大まかな移動進路と解説。

 

間宮隊が序盤警戒してたのは鯉沼と間宮の間にいた月見隊員でした。カズマは転送直後バックワームを起動していたので認識の外にいた訳です。挿絵にバックワーム使用の描写できれば良かったんですがそんな画力はない。

 

マップを見てもわかるかと思いますが来馬と吉里はカズマ、月見と合流しようと移動していたらつい遭遇してしまった訳です(本来はそんなことはなく合流する予定だった)

北添は転送されてすぐのビルを探索した後はさらにその先、北東にあるビルを目指しました。そこで偶然階段を降りていた古寺と出会った訳ですね。それで古寺が時間稼ぎをしてくれたおかげで間宮との共闘が封じされました。

 

そんな感じでランク戦が終わったという事です。北添くんはベイルアウトしてもよかったかもしれない。

 

 

 




最後の解説いる?
とりあえずこれでランク戦round 1はひとまず終了。とは言ってもまだ2部隊の反省会が残ってますが。
イフストーリーもまだ終わらせ方を悩んでますし更に話を盛る必要がある気がする。round 2も終わり方くらいしか思いついていないので次の投稿まで長くなると思います。なのでしばらく音沙汰ないかもですが失踪はまだしないのでお待ちいただけたらと思います。

感想、お気に入り、評価等よろしくお願いします。


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第27話 このB級部隊に打ち上げを!

これで本当のround 1のラスト。


吉里隊作戦室

 

吉里隊長は、解説2人の話を聞いてはその通りだと深く反省し頭を下げた。

北添は注文通り古寺をマークし更には撃破もしたのだ。そして月見は予想以上の働きをしてくれた。

それなのに俺は……隊長としての不甲斐なさに顔が歪む。

 

「すまん月見、北添!2人ともしっかりと点をとったのに俺は……」

 

「何言ってるんですか隊長」

 

「そうですよ」

 

2人はそんな吉里隊長の手を掴んだ。

 

「俺も結局古寺隊員を倒すのに時間が掛かり過ぎちゃいました」

 

「隊長が私に新しいトリガーを使ったらどうかって提案してくれたからあんなに頑張れたんですよ?自分が何もしてないだなんて言わないでください。私のあの一点は実質隊長の一点なんですから」

 

「なんだ、じゃあみんな一点ずつ取ってるんで誰も悪くないじゃないですか」

 

 

2人の言葉が、笑顔が、曇っていた心を晴らしていく。

 

 

ありがとう

口には出来ないが心でそう大きく叫んだ。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

一方佐藤隊

 

アクアは勝った時の為に密かに準備していたクラッカーをカズマにも渡し、紐を引く。

火薬の焦げ臭さと共に紙吹雪が舞い散る。

 

「初陣大勝利おめでとう!!!!」

「おめでとう!!!!」

「やったね」

 

俺に同調してアクアが扇子で紙吹雪を飛ばす。しかし古寺は下を俯いている。

作戦通り足止めには成功した。しかし最後のあの一撃。今思い返すともっと上手く出来たはずではないかと思ってしまう。

 

理性ではそんな事はないと理解している。しかし己の心が自身を問い詰めるのだ。

自分以外の2人が点を取っていると言うことが更にそれに拍車を掛けていた。

 

 

「おいおいどうした古寺? せっかく勝ったんだぜ?」

「いえ、結局何一点も取れずにやられた自分が不甲斐ないなって」

「何言ってんだよ。お前は十分働いただろうが」

「へ……?」

 

カズマからの予想外な純粋な賞賛を受け驚愕の顔を浮かべては顔を上げる。これ幸いとあれこれつついてくるかと思っていた。

 

「おい……何だその顔!俺が褒めたらそんな顔をする理由を聞かせてもらうじゃないか!」

 

「いえ、その……カズマ先輩が素直に褒めるのが予想外すぎて」

 

「このっ!……はあ、あのな? お前は間宮隊の陣形を崩したし、北添にやられはしたが十分時間を稼いだだろ。どれも無かったら俺たちは勝ってなかった。今回のMVPは俺!……って言いたいとこだけど間違いなくお前だよ」

 

そう頭をポリポリと掻きながらそっぽを向いて古寺に言う。

古寺の心は少しばかり安らいだ。

 

そうだ。来馬先輩の優しさは異次元だとして、この人は誰かが点を取れなかったからとそんなくだらない理由で責めたりはしない。いつもふざけてコチラを困らせたり、怒らせたりしてくるがそう言った類のことはしてこなかった。

 

出来ればその他の面でもまともになって欲しいが。

 

 

「カズマさん私は?私は?」

「そうだな。思ったよりは良かったぞ」

「ふふん!当然よ!私にかかればお茶の子さいさいだわ!!」

「お前にしては難しい言葉知ってるな」

「「!?」」

 

今回俺が指示を出す前にアクアが2人が来ていると伝えたがこれは予想外だった。

今回はアクアに指示を出したらそれに従ってマップを転送してくるくらいしか期待していなかったのだ。

頼むからその調子で伸びていってくれ。

 

 

 

先程のランク戦を改めて振り返る。

間宮隊のあの集結の早さはおそらくオペレーターの支援によるものだろう。

あれで分かった。アクアが最低限オペレート出来るようにならなくてはこの先常に情報戦で負け続ける。

バトロワゲーでは情報は武器よりも重要だ。もっと国近先輩に詰めて貰うのは当然としてこの際だ、宇佐美にも頼もう。

 

「来馬先輩も最後の援護ありがとうございます。あれなかったら死んでましたよ」

 

「ううん、こっちこそ助けてもらってありがとう。最後は援護が間に合って本当に良かったよ」

 

来馬先輩はシールドを用いた防御型の戦闘が結構上手い。今度麓郎に会わせてみるのもいいかもしれない。あいつの隊B級でも上の方だったし。

 

 

 

後、今回見つけた自分の課題だが、グラスホッパーをまともに使えるようにしよう。もう一度間宮隊と当たったら今回みたいに避け切れる気がしない。

他にもスコーピオンの技量も足りてなかった。タイマンであればあの程度の技量でも工夫次第でカバーできていた。だがB級ランク戦は考えなければならない要素が多すぎて一つ一つに手間を掛けていられない。

現に弾の調整が出来たのだって来馬先輩の支援があった時だけだった。

 

これは個人ランク戦と基礎練を積むしかない。

スコーピオンの素振りはしないが。

 

「とりあえずこの後初勝利の祝いも兼ねてどこか食いに行こうぜ?隊長として俺が奢るぞ」

「よっ!カズマさん太っ腹!!」

「いいですね!」

「ええっ、悪いよそんなの」

 

この中で最年長の来馬先輩はバツが悪そうに遠慮する。

 

「良いんですよ来馬先輩。この隊の隊長としてカッコつけたいんですから。それに防衛任務でかなりお金貯まってますからね。どうせ使い道なんてゲームと漫画とアニメくらいしかないんですからこういう事にも使わせて下さいよ」

 

「そんなに使い道が欲しいなら全部FXに打ち込めばどうです?先輩()()()は良いんですから」

 

「未成年が出来るわけねえだろ!」

 

「やろうとはしたんだ……」

 

宝くじ売り場のおばちゃんからはもう二度と来るなって言われたからな。

 

「脱線したな。とりあえず今度はお好み焼き行きたいからどっか良い所教えろ」

 

「はいはい!私知ってる!!かげうらってとこのお好み焼き美味しいわよ!!この前攻撃手のみんなと食べに行ったことがあるわ!!」

 

こいついつの間にそんな人脈を……太刀川さん経由なのだろうか。

 

「まあそれならそこでいいだろ。みんなもそれで良いか?」

「はい」

「うん」

 

 

 

そうして俺たちは夕方お好み焼き屋「かげうら」とやらに来た。

 

「へい、いらっしゃい……ってアクアじゃねーか。そんでこいつらは組んでるっていう仲間の奴らか」

 

中に入ると厨房からウニみたいにトゲトゲした髪型の男がやって来た。

 

「ふふん、言われた通り今度はみんなを連れてきたわよ!ほら感謝しなさい!!」

 

「んだとゴラ!……まあお得意様だからな、今回だけは特別にその態度許してやるよ。ほら、オメーらもサービスだ。うちのオススメ食っていきやがれ!」

 

そう言って男は上機嫌で厨房に戻っていった。

 

 

「おいアクア、あの人誰だよ」

 

「あの人はB級一位の影浦先輩よ」

 

「……はあ!? B級一位だと!?お前そんな人とどうやって出会ったんだよ!?」

 

「「……」」

 

古寺と来馬はお前がそれを言うかと言う目でカズマを見つめた。

 

アクアの事の経緯はこうであった。

6000ポイント帯に到達した地点でマスターランクに到達したばかりの生駒隊の南沢という子を倒したら、その噂を聞きつけた攻撃手がどれほどの実力なのかとこぞってアクアに対戦を申し込み、なんやかんやあって最終的に仲良くなったそうだ。その中の1人がB級二位の影浦隊隊長の影浦先輩らしい。

 

 

「いやいやいや! 待ってください。太刀川さんや影浦先輩、風間さんとも戦ったんですか!?」

 

「ええ、他には米屋、イコさん、荒船さんとも戦ったわね」

 

「全員猛者ばかりじゃないですか……」

 

ちなみに古寺は影浦が元A級であるという事は知っているがその点については触れるつもりはない。

 

とそんな話をしていると影浦先輩がやってきた。

 

 

「ほれウチのオススメメニューだ。こいつのダチだからな。オマケしてやる。たんと食いやがれ!」

 

「「「ありがとうございます」」」

 

残したら許さねえからなと言っては機嫌良さそうに影浦先輩は厨房に戻っていく。

 

「お前何したらあんなに気に入られるんだ?」

 

影浦先輩が持ってきてくれたお好み焼きセットをかき混ぜては鉄板に敷きアクアにそう言う。

 

「知らないわよ。なんか戦った後に『オメーは攻撃するって感情と同時に攻撃がやってくるから戦ってておもしれー』って」

 

「そうか、さっぱりわからん。あれか?あの人実は相当の厨二病か?」

 

「それはアレですよ。影浦先輩のサイドエフェクトの感情受信体です。自分に対する感情が体に刺さるそうですよ。嫌悪や悪意などはかなり不快に感じるそうです」

 

だから不意打ちや狙撃が通じないんです。と、この中では1番の古参である古寺が言う。

なるほどアクアはバカだから考えるより先に手が出るのか。

 

「カズマさん失礼なこと考えてないかしら?」

「考えません……ところでそのサイドエフェクト? ってなんだ?」

「トリオン能力が高い人に稀に現れる特殊能力ですよ」

「力の向き変えたり電磁砲放ったりできるのか?」

 

「この前そんなアニメ見ましたね……そんな便利な物ではなく基本的には身体能力の延長線上で耳がいいとか物覚えがいいとか目がいいとかそう言うやつです」

 

「じゃあ俺がゲーム上手いのは?」

「それはただのやりすぎです」

「じゃあ缶のコーンスープの粒々を残さずに飲めるのは?」

「そんなのがサイドエフェクトでいいんですか?」

「カズマさんカズマさんもう焼けてる焼けてる!」

 

と話しに夢中になっている内に焦がしてしまうところだった。

俺はコテを両手に持ちタイミングを見計らう。

 

「せーの!!……あっ」

 

ひっくり返そうと持ち上げた瞬間べちゃっと崩れてしまった。

 

「ふふんカズマさん見てなさい!これが本当の返し方よ!」

 

と言ってアクアはヒョイっと華麗に裏返す。

 

「アクア先輩そのやりかた教えてください」

「僕もお願い」

 

2人はカズマのような失敗はしたくないとアクアに頼み込んだ。

 

「ふふんしょうがないわね!!」

 

厨房からこっそりと見ていた影浦はフッと頬をゆるめた。それはまるで孫の成長を見届ける祖父のようであった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「いやー美味かったな。また今度来ようぜ」

「いいですね」

「そうだね」

 

流石に影浦先輩から出してもらった物だけを食べて帰るのは申し訳なかったので最後にデザートを頼みその会計をしようとしにレジへ向かう。

 

「そうだろそうだろ。またいつでもこいや」

 

今度はレジに影浦先輩が立っていた。

しかしアクアがこのままボーダーの連中と関わっていけばこいつのダメな部分が解消されていくのでは?

朱に交われば赤くなるという諺があるようにまともな奴と関わればアクアも多少はまともになるかもしれない。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「今更なんだが……」

 

俺はとあることに気づき気まずそうに呟いた。

 

「なんです?」

「奢るとか言っときながら今回一銭も払ってないぞ」

「いいじゃない! カゲさんがああ言ってたんだから。得しちゃったわね!」

 

そうは言うが隊長として奢りたいと言ったのにこれでは少し恥ずかしい。

今度来た時は今回のお礼にあのお店で1番高いやつでも頼もうと心に誓った。

 

 

 




この素晴らしいボーダーに入隊を!アクアのターンとか書けそう(小並感)
いらないか。
最初はネタで辻ちゃんの予定だったけどそれだと「女の子相手ならしょうがない」で片付けられてしまうので南沢くんに負けてもらいました。



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IFストーリー①
バッドエンド、この憎きネイバーに復讐を!


三週間くらい休んでましたね。すみません。
バッドエンドと書いている地点で察してるでしょうが所々胸糞展開があります。特にラストの方では胸糞極まりない展開が待っているので覚悟のある方のみどうぞ。
一応そのお話の際には前書きで注意します。

栞の変動が見られなかったので気づいてないのかなと思い最新に変えました。全話投稿し終わり次第並べ替えます。


ある日、三門市に突如として異界と繋がるゲートが発生した。

そして、後に近界民と呼ばれる侵略者が襲来し、街は火の海と化し、家は倒壊し、そこら中に人の死体が散乱した。

 

 

そして現れた怪物共に食われたのがこの俺、佐藤和真だ。しかし俺は()()()助かった。助かってしまった、俺だけが。

 

あの時、薄れゆく意識の中、視界には額にサングラスをかけた男の姿だけが映っていた。

 

 

 

目が覚めると視界には知らない天井が広がっている。そして病院の独特な臭いで俺がどこにいるのか理解した。

その後は精密検査を受けた。特に異常はなくすぐ退院でき、俺は家に帰った。

家には誰も居なかった。

 

 

 

ふと突き飛ばした葵のことが気になった。

葵の家は既にネイバーにぶっ壊されている。それにあの地区は危険区域としてまだ出入りする事ができない。

アイツが無事なのか、そう考えると胸の奥に拭えないモヤモヤが溜まり始めた。

 

俺は居ても立っても居られずに玄関を勢い良く開け、外に駆け出した。

あちこちと駆け回り葵について調べた。調べ尽くした。

その結果分かった事は、葵の家族は死亡が確認され、葵は未だに行方不明だという事。その際、さらに知りたくない事を知ってしまった。どうやら俺の家族は葵の家族と同様、全員胸にポッカリと穴が空いている形で死んでいたらしい。

 

 

 

涙が流れた。ポロポロと流れて止まらない。

やがて膝を突いては獣のような人とは思えないような声にならない叫びを出して泣き続けた。

 

やがて涙は枯れた。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「助けて、かじゅまさん!!」

 

 

「カズマ……逃げろ!!」

「生きて……カズマ!!」

 

 

 

 

浅い眠りから目が覚める。

現在は午前4時。

激しい発汗と鼓動が煩わしい。熱いのに寒く、心臓は今にもはち切れそうだ。

 

「くそ、またあの夢か……」

 

家族を失ってから、葵を取りこぼしてから、ひたすらに見る夢。

目の前で葵が、父さんが、母さんが、化け物共に殺されていく様を何も出来ずに俺はただ目の前で眺めていて、その化け物が俺を殺そうとする寸前に覚める夢。

 

あまりに出来の悪い夢だ。俺が見ているというならば俺の望んだ通りにしてくれればいいものを。

 

「はっ、出来の悪い俺が見る夢なら当然か……」

 

独白に応える者はなくそれは虚しく消えてゆく。

否、俺の腹がぐぅ〜、と答えた。

 

こんな状況でも腹は空くんだなと思いながらも辺りを見渡す。

部屋には中身のない菓子袋やカップラーメンの容器。それらが所かしこに散乱しており、その食いカスを求めて油虫が跋扈している。

 

カズマはそれを気にしてもいなかった。

 

 

やがて唯一見つけた菓子袋の中身を食べ始める。そしてリモコンをいじってはただ虚ろな目でテレビを眺めていた。

これで今見てるアニメも10周目だ。

まだ見てないものも沢山あるが、見る気力も起こらず惰性で今まで見たアニメを垂れ流し続けていた。

 

「ああ……空になった……」

 

そう言ってまだ空腹なカズマは久々に部屋から出てリビングに向かう。家の中は線香の独特な匂いや菊の匂いが漂っている。

やがてリビングにたどり着き冷蔵庫を開ける。

 

「何もない……か」

 

正確にはあるにはあるのだがろくに家の手伝いもせずゲーム三昧だったカズマにはそれらは調理できない。母親なら出来ただろうか。

 

そう考えていると、ふと訳もわからず湧き上がった行き先の無い怒りが湧いてきて冷蔵庫を殴った。

人体からは鳴ってはいけない音がした。

 

「なにやってんだ……バカバカしい。作れねえなら買ってくれば良いだけだろ」

 

 

そうだ、金ならたんまりある。

家族が死んだお陰で大金が降りたのだ。ただ日々を過すのであれば一生不自由なく生きていけるだろう。

夢に描いたニート生活である。

 

「……こんなのが俺の夢だったのか?」

 

カズマはそう虚しくそうつぶやいた。

もう戯言に付き合ってくれる家族も友人いない。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

スーパーでカップ麺を何箱も買い込んでは自転車の後部に縛り付ける。中学に行くために両親に早めに買ってもらった自転車がここに来て役立つとは思わなかった。

 

「やめろ……くだらないことは考えるな。余計に虚しくなる」

 

自転車のスタンドを勢いよく蹴り上げ、ペダルを踏みつけるようにして漕ぎ出す。

 

人混みで溢れる街を自転車が駆ける。大規模侵攻があったというのに街の中心部は一定の賑わいを見せている。まるで何もなかったかのように。

 

それを見ていると俺だけが違う世界から来たかの様な不思議な感覚に囚われる。実は怪物が襲ってきたのは夢で、その夢に出てきた葵なんて奴も家族の存在も最初から存在し得なかったのではないか。そんなことは無いはずなのに否定する言葉が見つからない。

 

 

それを否定し現実たらしめたのは、ビルに取り付けられた大型モニターから流された一つの映像だった。それは怪物を、通称近界民を撃退したと言われている謎の組織、ボーダーによる広告。

 

立ち止まり見上げると、モニターには鋭い鼻と目付きをした男が演説を行なっていた。

狐を擬人化させるとあんな感じになるだろうな。

 

「コホン、知っての通りですが我々は異世界からの侵略者ーー近界民を撃退いたしました。それは我々が独自に近界民の技術を研究してきたからです。しかし!」

 

男の声は段々とヒートアップしていく。

その声に街行く人々は足を止めモニターに視線を移す。

その男の言葉が、俺の世界は夢でなく現実であったのだと強く再認識させてくれた。しかし、それと同時に反吐が出る。

 

「我々には圧倒的に人手が足りないのです! そこで! 前途有望な君達の力を我々に貸してくれないだろうか!! この街を、この街の人々を一緒に守っては頂けないだろうか!!」

 

 

こいつらは力を持っていた癖に何をしていたというのだ。お前らがもっと早く動いていればあんな事にはならなかった。葵が消えることも、俺の家族が死ぬことも……

 

そこまで考えて思い止まった。

では俺はどうだ。その見下しているボーダーと違い力も無く、その場に居合わせた癖に葵を救えなかった。

反吐の出る存在よりも劣っている癖に何故それを批判する。

 

ーーやめろ

 

そうやってお前は他人のせいにして自分は楽になりたかったんじゃないのか。誰かのせいにできれば無力な自分は悪くないと言い訳したいのではないのか。

 

ーーやめろ、考えるな

 

 

考えないようにしようと脳を働かせれば働かせるほど頭の奥の方まで浸透していく。結局無力な俺は誰かのせいにしたかったようだ。

こうなったのは世間が悪い、時代が悪い、環境が悪い、と言うのはいつの時代でも俺のような何も出来ない、何もしない弱者なのかもしれない。

 

 

俺はその場から逃げるように再び自転車を漕ぎだし家に辿り着いた。自転車を止めては箱を抱え玄関まで向かう。すると玄関前にあるポストに目が移った。

 

ポストには俺が引きこもっている内に送られたであろう大量の郵便物がぎっしりと詰められていた。くだらないと一蹴しようとしたが習慣というものは恐ろしい物で気付けば中身を取り出していた。

 

家に入り郵便物をテーブルの上に無造作に置く。内訳はアクシズ教とか言う新興宗教の入信書に、銀行や証券会社から融資の相談書だ。

どうやら銭ゲバのハゲワシ共は人の死で成り立つ金にすら群がるようだ。

反吐が出る。先ほどよりも強烈にだ。人が死んで出来た金がそんなに欲しいのか。なら近界民共のように自分達で勝手に人を殺してればいい。良いビジネスではないか。

 

 

 

やはりどれもこれも下らなかった。

 

手に取って損したと全てゴミ箱に入れようとしたその時、一枚の紙が床に落ちた。このまま取ろうとすれば今手の上にある憎たらしい紙切れも部屋に散らばること間違い無しだ。

とりあえず今持ってるものを全て捨ててからその落ちた紙を拾おう。

 

そうして手にあるゴミをドサっとゴミ箱に入れて落ちた紙に手を取る。

 

 

『急募!前途有望な少年少女達よ!是非ボーダーに入り共にこの街を近界民から守ろう!』

 

 

拾った紙にはそう書かれていた。

何を、と腹立たしくなると同時にそれを手放せない自分がいた。これは近界民に復讐する最大のチャンスなのではないのか。彼らは対抗し得る武器を持っている。

たしかにボーダーはクソだと思う。それでも今捨てたものと比べれば遥かにマシだとは思う。

 

俺は棚にある筆を手に取り、その応募書類に記入してポストへと投函した。

 

そうして俺は入隊試験を乗り越え正隊員となった。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

一週間後、根付メディア対策室長に呼ばれた。

あのビルのモニターに映ってた人だ。

 

その部屋に向かうと他にも入隊した者達がちらほらと何人か集まっていた。一体何事かと思いきや、どうやら一週間後に予定しているボーダー建設記念と初の入隊者のお披露目として記者会見に出て欲しいとのことらしい。

 

そしてその日に向けた打ち合わせを根付メディア対策室長直々に行った。

まずは来るであろう一般的な質問。それに対する模範解答を根付さんが準備しており、それを個人個人がアレンジを加え、それをさらに根付さんが添削する。

 

ちなみに絶対に来るであろう志望動機「なぜボーダーに入ったか?」という問いに対して俺が「近界民共をぶち殺すため、俺の家族がされたことを何倍にして返すため。奴らを絶滅させる為」

と答えたら本番でやるなよ? と言われた。

 

首を傾げると絶対にやるなよと更に念押しされた。

「振りですか?」と答えたら「良い加減にしたまえよ」とドスの効いた声で制止されたので止めておくことにした。

決してビビった訳じゃないと言っておく。

 

 

 

 

 

そして当日。

何度も何度も打ち合わせを行い初のお披露目となり、皆それぞれが「近界民から人々を守る」や「この街を守りたい」などお綺麗な言葉を並べていく。その中でも風間さんはしっかりとした受け答えで記者からの受けも良く、記者は感心して筆を走らせる。

 

その様子を見て

『これなら仕込みの記者を使う必要もないねえ』と思う根付。

 

だが、そこで1人の記者が手を挙げた。

仕込みの記者ではない。根付が目を細める。

 

「……では質問をどうぞ」

 

「ではそこの君に聞きたい」

 

まだ質問の番になっていないカズマに対し手を指す記者。

 

「はい?」

 

「次に大規模な近界民の襲撃があったら街の人と自分の家族どちらを守りますか?」

 

よく見てみればボーダーに対して批判的な記者ではないかと根付は気付いた。だが、根付は慌てない。何故ならこういう時のために彼を残しておいたのだから。

 

「もちろん街の人です」

 

場が凍りつく。

根付は涼しい顔をしている。

しばし沈黙の末思考を整えたボーダーに批判的な記者達が攻勢に転じた。

 

「つまり君は家族が大事でないと?」

 

「なんて事を言うんだ!親不孝が過ぎる!!」

 

「先の侵攻で家族を失った人もいる。そういう言い方は良くないんじゃないかな?」

 

罵声が飛び交う。彼らは反ボーダー派の記者たちだ。

カズマは口を開き始める。記者達は一体どんな返答をするのかと嫌な笑みを浮かべ始める。

 

「俺の大切な人達は先の侵攻でみんな消えていきました。だから俺にはもう守るべきものも何もありません。家族か街の人かですか? そんなもの俺にはもう街の人しかないんです。だから俺は最後まで、最期まで、矢が尽き刀が折れ、命尽きるその瞬間まで街の人たちのために戦います。これを見てる貴方も、その家族も。……もちろんここにいる貴方方も」

 

と、どこか病んだような顔でにっこりと返答する。記者達はその薄気味悪さに身震いすると共に、これ以上追及することが出来なくなった。

 

根付はそれを一瞥すると誰にも気付かれないようニィッと笑うと締めの言葉に入る。

 

後日、応募者数は今回の10倍にも跳ね上がったという。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

戦闘員数名の小規模な組織だったボーダーは根付メディア対策室長の手腕により着実に人手が増えていっている。実に喜ばしい限りだ。しかし未だに街の至る所で近界民が出没する現状、現在の戦力では街全体を防衛するのは不可能だ。

 

それに入隊者はまだ経験が浅く、そのほとんどが戦う術を知らず、満足に近界民を倒せない。その為旧ボーダー隊員の者達が率先して近界民の駆除にあたっていたのだが、しかしそれではいつまで経っても後続が成長しない。そこで忍田本部長が数名ずつ交代で入隊した者達を連れて行くのはどうかと提案した。

 

これ以上戦闘員の疲弊は避けたい為、簡単に許諾された。

 

そして最初に選ばれたのは3名である。

1人目は太刀川慶。

忍田本部長の弟子であり、戦闘技術が高く何体もの近界民次々と撃破していった。これならもう戦力として投入しても何ら問題はない。

 

2人目は風間蒼也。

旧ボーダー隊員であったの風間進の弟であり、彼もまた高い戦闘技術を有しており多くの近界民を次々と撃破した。彼ももう投入可能だろう。

 

 

2人は問題なく防衛任務に充てられると判断された。

 

しかし問題は3人目だった。

 

その3人目の名は佐藤和真。

ゲートが発生し、オペレーターが現場の隊員に座標を転送する。それを受け忍田本部長はカズマを連れ現場に急行する。

 

現場に着くと同時に黒い球体から鎌を2本携えた多足の怪物が現れる。

それを目にした途端、カズマの視界が真っ赤に染まっていく。心臓が激しく脈打ちそれ以外なにも聞こえない。しかしやがてその音すらも薄れていく。

 

そして段々と視界が狭まり、まるでここには自分とあの憎い怪物しか居ないように錯覚し始めた。

 

殺してやる!いや、殺す!!

 

カズマはドス黒い感情に飲み込まれ正気を失ってしまった。

 

「下がっていろ。まずは戦い方を見せる」

「……」

 

しかしその声はカズマには届いていなかった。

腰に携えた弧月に手を掛け抜刀する。そして、殺す殺すと呪詛を吐き散らしては駆け出してまった。

 

「っ!!……待ち給え!」

 

忍田は手を伸ばし掴もうとするが届かない。

 

モールモッドの右前脚が掲げられ、その前脚に付いた鎌が振り下ろされようとする。

しかし俺は既に一度この攻撃を見ている。

 

姿勢を低くしモールモッドの懐に飛び込んでは、振り下ろされる一撃と同時に弧月を振り上げる。その一閃はモールモッドの足と足の繋ぎ目、関節部位を斬り裂いた。

切断された鎌がコンクリートに突き刺さる。

 

散々人をひき肉にしたご自慢の鎌がざまあないな。俺達はもうただやられるだけじゃない。どうだ、思い知ったか。今度はお前らが死ぬ番だ。

 

振った弧月を脇に戻し、この勢いのまま横薙ぎを繰り出そうとする。

 

取った!!

 

そう思った瞬間、モールモッドの胴体に納められていた無数の脚が展開され始める。その一つ一つに先程のような鋭利な刃が付いていた。

 

「そん……な……」

 

それは次々と襲い掛かり、カズマを串刺しにした。

 

『戦闘体活動限界、ベイルアウト』

 

カズマは光に包まれ空を飛翔する。

 

 

 

 

それを見た旧ボーダー組の忍田は気が気でなかった。

鬼怒田さんの尽力によりようやくベイルアウト機能が完成した。だから後ろめたさはあるもののトリオン能力の成長が見込める子供を戦闘員として、兵隊として募集した。

十分安全を取っているとは頭では分かっている。だが、散って逝った旧友と今の光景がどうしても重なってしまう。

 

もしかしたらベイルアウトの誤作動で、本体が切り裂かれたまま戻されていたらどうすればいい。ベイルアウト専用のベッドにズタズタに引き裂かれた彼の姿が脳裏に浮かび、へばり付いて離れない。

気が気でない忍田は一瞬の内に残る10体のトリオン兵を倒しては急ぎ本部へと戻った。

 

ベイルアウト用のベッドに着くと、殺された事に怒り狂い壁を殴りつけているカズマの姿があった。忍田は少し安堵した。

 

それはそれとして忍田はカズマを酷く叱った。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

そして数日後、俺は再び防衛任務に参加した。

 

今回は前回の反省を踏まえハンドガンを装備して来た。東さんに銃手トリガーの使い方を指導してもらい、その他にも余りある時間を射撃訓練や弧月の素振り、模擬戦に充てており、毎日10時間以上、寝る間も惜しんで日々鍛錬を積んだ。

トリオン体というものは便利で栄養の吸収効率が良い為食事の回数も減らせ、肉体への負荷が少ない為、僅かな睡眠時間で事足りる。

そして余った時間を全て鍛錬に費やしていた。

 

他にもブレードを使いこなしたいなら体の動かし方を学べと忍田さんに言われ、死ぬほど嫌だった運動も毎日続けている。それも近界民を殺す為だ。あいつらを殺せるならなんだってやってやる。

 

 

そんな事を思い返しているとモールモッド一体が現れた。

それをハンドガンでモールモッドの射程外から一方的に攻撃し、ダメージが蓄積して動きが鈍ったところでハンドガンから弧月に切り替える。

振り下ろされる一撃は以前と比べ格段に遅い。少ない動きで易々と躱し、弧月で一刀両断した。

 

「死ね!死ね!死ね!!この前はよくも殺してくれたな!!人様を殺すから殺り返されるんだ、分かってんのかこのド低脳が!!ザマァみろ!!!………ハッハッハ!!!」

 

そしてカズマは既に生き絶えたモールモッドに対し弧月で何度も何度も刺突を繰り返していた。人間をミンチにした奴がその人間の手でミンチにされているのだ。愉快で愉快で堪らなく笑いが止まらない。

 

「佐藤君」

「……」

「佐藤君!」

「……っ!離せよ!!」

 

見かねた忍田本部長がカズマを無理やりモールモッドの死骸から引き離す。

モールモッドはすでに原型を止めておらずバラバラになっている。それでもカズマにはまだ足りなかった。

 

「憎いのはわかる。しかし何度もそう繰り返していては君の心が持たない!」

 

「いいだろ!こうでもしないと気が治まらないんだよ!!コイツらは俺の家族を殺したんだ!それ以上の苦痛を味わってもらわなきゃ気が済まない!!」

 

「いい加減にしろ!!」

 

忍田本部長は俺の右頬を殴った。

トリオン体のはずなのに、痛みはそこまで感じないはずなのに、なぜかとても痛かった。でも自然と不快には感じなかった。

 

「いいか、よく聞くんだ。これは生き物じゃ無い。簡単に言えばこれは向こうの世界……近界民が作った人形兵器なんだ」

 

「……えっ……はっ?……」

 

あまりの衝撃の事実に言葉を失った。

 

なんだよそれ。つまり俺の家族のみんなや街の人は心を持たない人形なんかに殺されたって言うのか。

じゃあ俺はさっきまでただの人形に怒りをぶつけてたっていうのか。

 

「ははっ……なんだそれ……」

 

俺は力無く地面に膝をついた。そしてあまりのやるせなさにしばらくその場から動けなかった。

それでも涙は出なかった。

 

「佐藤君……」

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

あれからというものカズマは人が変わったように落ち着きを見せた。

もう目の前でトリオン兵が現れようが錯乱することはなく、ただただゲームのデイリーを消化するかのように淡々とトリオン兵を倒していった。

 

「旋空弧月」

 

弧月の専用オプショントリガー旋空を起動。

10メートルは離れていたモールモッド2体が急に伸びたブレードに何の反応も出来ないまま真っ二つにされる。

 

そして、倒したモールモッド2体には目もくれず側面にいたバムスターへホルスターのハンドガンを向け、ノールック射撃を放つ。

一瞬にして8発の弾丸が射出されその全てがバムスターの弱点部位、その一点に命中。バムスターは動かなくなった。

 

トリオン兵の死骸を一瞥してはすぐにパトロールに戻った。

 

『そろそろ交代の時間ですよ』

 

今回の担当オペレーターが通信越しにそう伝える。

 

「いや別にこのまま続行できますよ。それに今は人手不足ですから」

 

『そんなこと言ってもう24時間もぶっ続けで防衛任務に当たってるじゃない! いい加減休まないと本当に死にますよ!!』

 

「トリオン体なんですから過労なんてあり得るわけないじゃないですか? バカですか? それにまだトリオンにも余裕あるんで弧月一本でならあと一勤務分は行けますって」

 

『そんなわけないでしょ! カズマ君のトリオン量的にそろそろ限界……』

 

するとオペレーターは嫌な予感が脳裏をよぎった。

カズマのトリオン量は3、決して高くない数値だ。いや寧ろ低いと言っていい。以前までは色々なトリガーを入れては試しまくっていた。しかしトリガーを入れれば入れるほどトリオンを食うと知ってからは極力抑えていた。

 

現に彼はシールドすら入れておらず弧月とその専用オプショントリガーの旋空。あとはハンドガンの一丁しか入れていないのだ。

 

それでもこんなぶっ続けで戦っていればトリオンだって切れるはず。いやすでに切れていてもおかしくはない。

ではなぜ未だ戦えているのか。オペレーターの脳裏に一つの答えが浮かび上がってくる。

 

『まさかベイルアウト機能を外して……』

 

「ん? 当たり前じゃん。あんな無駄にトリオンを食うなら外すに決まってるだろ?」

 

『どうしてそんな無茶な事を……というよりどうやって外したのよ!? エンジニアでもない限り外せるわけ……」

 

「エンジニアについても学んでますが?」

 

『そうだった!! そんな事勉強してないで学校の勉強してよ!……忍田本部長! 忍田本部長! 来てください! またカズマ君が!!』

 

 

今日の担当オペレーターが忍田本部長に泣きつき、大慌てで現場にやってきた忍田さんにゲンコツを食らった。

トリオン体なのに痛い。

 

「佐藤君ふざけるのも大概にしなさい!」

「ふざけてないです。トリオンを有効活用する方法を模索した結果ベイルアウト機能を外すという結論に至っただけで……」

 

シールドもどうせガラスみたいにパリパリ破られるので入れるだけ無駄と入れていない。

 

「そんな態度なら二度と剣術を教えないぞ!」

「なら太刀川さんから教わればいい……」

 

あのちゃらんぽらんから教わるのは癪だが背に腹は変えられない。きなこ餅一年分でも渡せば喜んで教えてくれるだろう。

 

「東君にもカズマ君に銃手について教えるなと通達する。そして個人戦も禁止だ!」

「すみませんでした」

 

俺はそれはそれは見事な土下座を披露した。

 

「分かったらもう二度とこんなことするなよ!!」

 

その後、この事態をきいた鬼怒田開発室長が青い顔をしながら大慌てで全隊員のトリガーからベイルアウト機能を外せないようにしたという。

 

 

 

 

 

 




長かったかもしれませんね。
本編詰まってて、こちらも途中までしか書けてないですがある程度出来てるこちらを先に投稿します。
誤字脱字あれば報告していただけると幸いです。


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バッドエンド、この憎きネイバーに復讐を!②

8話くらいで終わる予定です(本当は3〜4話構成だった)前回は9,000文字もあったので読みにくかったかなと反省しています。5,000文字くらいが良いのかなと個人的に思っているので出来るかがりそうなるよう調整します。
アフターストーリーも入れると少し話数増えるかな?(本編で回収できるかわかんないしちょっと小ネタを少々やりたい)


あれからというものカズマは依然街に出没するトリオン兵を率先して倒した。

カズマの倒したトリオン兵はその全てが綺麗に急所を破壊されていた。

 

未だトリオン兵は市街地に出没しており、現れる度に近場にいた隊員が対応しており、防衛任務のシフトは常にカツカツであった。

 

そんな中カズマは毎日のように防衛任務を行い昼夜問わず街を奔走し続けた。忍田本部長はそれを咎めたかったが防衛範囲が途轍もなく広大であり、人手が足りない今、立場的にもそれを止めさせるわけにも行かなかった。

 

 

そして今日、平日の昼間であっても防衛任務を入れている。義務教育は便利なもので、いくら出席しなくても時が来れば必ず卒業できるのだ。なら行く必要など無いでは無いか。

そんな事をしていれば当然の事ながら中学1年生の2学期の通知表は全ての科目がオール1となった。

そして先生に呼び出しを受けた。

 

「佐藤君、君は学校をなんだと思っているのだね! 幾らボーダーの仕事があるにしてもこれは異常だ!」

 

「はぁ、学校は義務教育だから仕方なく来てます」

 

「なっ……では進路はどうするつもりなのだね! このままでは碌な進路はないぞ!」

 

頭にかちんと来たがここは我慢しておこう。冷静に、まずは話し合いをしようじゃないか。俺はただ暴力の限りを尽くす近界民とは違うのだ。

 

「ボーダーに就職するので別に構いません。高校に行く気もないです」

 

「あんなものは一過性にすぎない!! もし仮に近界民が攻めて来なくなったら君は職を失う事になるんだよ! その場合、中卒となるであろう君はどうするのだねと聞いているんだ!! そもそも私はあのような子供を兵士のように扱うなどという非文明的なあの組織は嫌いだ」

 

何を知ったような口を、俺達がそんな口ばかりで理想を掲げては具体的な方策を出しもしないお前らのような身勝手なやつも守るために身を粉にして働いていると言うのに。

我慢だ、我慢しろ。

 

「……それに関して問題ありません。家族が死んでくれたお陰で金ならたんまりあります。もう一生働かなくても大丈夫なんで」

 

「な、何を……死んだ家族になんだその言い振りは!! この親不孝ものめ!!」

 

とうとう我慢の限界だった。いや既に決壊していたのかもしれない。自分で家族のことをどうこういうのは平気だというのに他人に言われるのはとても不快だ。

 

そんなのは傲慢だってわかってる。

 

それでも溢れた怒りは奔流のように流れて収まらない。

 

「先生なら……てめぇなんとかできたのか! ああ!? 俺の家族が殺されて、葵も攫われて!……それを学歴だなんだでどうにかできたのかよ!! さっきからなんだ! 散々言わせておけば、俺達が口先ばっかのてめえら守ってやってんだぞ! お前にあの怪物がたおせるのか? 俺は倒せるぞ! 何度も殺した、何度も何度も死に絶えた奴をバラバラにしてやった。何か具体的な解決方法があるってなら聞こうじゃないか!!」

 

「……」

 

我慢の限界に達したカズマは怒髪天を衝くほど怒り狂い、座っていたパイプ椅子を蹴り飛ばす。

担任の先生はそのカズマの豹変ぶりに困惑し目を丸くする。

 

「おい! 黙ってねえでなんとか言えよ!! お前らはそうやって毎日毎日理想ばかり垂れ流しやがって!! 誰のおかげでその理想にありつけてると思ってんだ!」

 

まだ怒りは収まらない。それどころかどんどんと増幅していくばかりだ。

 

「このっ! 犬の糞に群がるハエがよ!!!」

 

カズマは担任の教師を押し倒しそのまま拳を振り下ろそうとする。

 

「やめなさい!」

 

「っ!! はなせ!! クソが!!」

 

先ほどのパイプ椅子を蹴り飛ばした音を聞いた他の教師達がカズマを静止して事なきを得た。

その担任の教師はしばらくして心の病気に罹り辞めていったらしい。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

剣撃の音が何もないただ真っ白な部屋、仮想訓練室に鳴り響く。

こちらは弧月一本。向こうは弧月二本。一度受け止めた程度ではすぐさま次の一撃がやって来る。それでも両手で握る弧月を自身の元に戻しその一撃も防ぐ。そうやって相手の猛攻を退けているが、それも長くは持たなかった。

振り下ろされる一撃目を防いだまではよかった。しかし次の一撃が意識外から放たれしっかりと握っていた筈の弧月が手元から離れてしまった。

 

そしてガラ空きの胴体へすぐさま次の一撃が繰り出される。

 

「シールド!」

 

それを縦横10センチにまで狭めた固定シールドでガード。シールドの表面にヒビが入った。

シールドが割られる寸前、バックステップで距離を取って避けながら腰にあるホルスターから拳銃を取り引き金を引く。

 

そして一瞬の内に8発もの弾丸が飛び出し太刀川へと向かって飛んで行く。

それをシールドで防ぐが1発、2発と受けていく内にヒビが入り始める。そしてとうとう3発目の弾丸がシールドを破壊し、太刀川へと向かっていく。

そして6発の弾丸が飛んでゆく。そのいくつかを太刀川は弧月で切り落としたが2発の弾丸が命中し、太刀川の胴体に2つの穴を開けた。

 

カズマのハンドガンは射程を20メートル程に、弾丸を8発にまで切り詰めその分を威力と弾速に振っている。

2、3発も有ればシールドは容易に突破できる。

 

「やってくれるな、旋空弧月」

 

この攻撃は避けられない。かと言って旋空はシールドでは防げない。カズマのトリオン量では尚更である。

 

「クッ……旋空弧月!!」

 

だから此方も旋空を起動する。

拡張されたブレード同士がぶつかり合い火花が散る。やがて起動時間が過ぎブレードは元の形状に戻った。

 

「グラスホッパー」

「っ!?」

 

太刀川はジャンプ台トリガーを足元に出し踏む。

一瞬にして距離を詰めた太刀川にカズマは反応が遅れ、胴を切り裂かれた。

 

『戦闘体活動限界』

 

 

 

 

「クソ……また負けた!!」

 

「ハハハ、今回も俺の勝ちだな」

 

太刀川慶、こいつは俺の同期であり同じ師を持つ兄弟子でもある。

俺は少しでも強くなる為、太刀川さんや風間さん、小南、迅と日々個人戦をして鎬を削っている。

 

「1-9か……クソッ!なんでお前より沢山努力してる筈なのに……誰にも負けない信念もあるのに……何も考えてなさそうなお前に負けるんだよ!」

 

「ハハハッ、それは簡単だ。勝負を決めるのは戦力、戦術、あとは運だ。

お前が復讐にお熱なってる間俺は技を磨いてる。お前が一つ近界民に対する拷問方法を思いつく間に俺は一つ技を編み出して強くなってる。俺は偶々恨みを持つようなことが無かったから純粋に鍛錬できた。ハハッ、俺は運がいいな

 

そう言って何が楽しいのか俺の背中をバンバンと叩いてくる。

風間さんには2-8、小南には1-9、迅さんには3-7と全員に負け越している。

迅はどうやら俺相手だとお得意の未来予知がうまく使えないらしい。なんでも霧がかったように見えないそうだ。見えたとしても断片的すぎてぱっと見ではよくわからないらしい。

 

そうして未来を見ようとしてる内に負けてると言っていた。見ないよう努力はしてるが気になって仕方ないそうだ。

 

 

俺は迅さんが嫌いだ。

あのサイドエフェクトがあるというなら大規模侵攻だって分かってた筈だ。それにしてはあの時の行動があまりにも遅かった。

理由は大体予想がつく。大方ボーダーの有用性を理解させるために被害が出るまで黙って見ていたのだろう。俺の家族やみんなが殺される様を。

だが俺が嫌いな本当の理由はそれではない。

 

 

『そんな能力があるならなんで葵を助けてくれなかったんだ!』

 

 

そう言いそうになってしまった自分と、それを見て何を言うでもなく苦笑を浮かべた迅が嫌いだ。

 

そして迅の所属している玉狛支部に居る連中も嫌いだ。

あいつらはあんなことをした近界民と融和を望んでいるんだ。狂っているとしか言いようがない。小南もレイジさんもみんな良い人なのに、なんでそんな事思えるんだ。

俺は憎くて憎くて堪らないというのに。

 

 

「ほらまた違う事考えてるだろ。そんなんだから負けるんだよ。大方迅か玉狛支部辺りのことでも考えてたか?」

 

「……ッチ!」

 

太刀川さん(バカ)に言い当てられたことが非常に腹立たしい。

純粋な攻撃手相手に搦手、飛び道具を用いても勝ち越せない。これが今の俺の実力だ。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

今日も今日とて基礎練だ。積み重ねてきた基礎は裏切らない。そう忍田本部長に教わった。だから今日も太刀川さん達との戦闘を想定しての弧月の素振り、二刀流の相手を弧月1本で受け流すつもりで弧月を振るう。

そしてどんな状況、どんな場所でも正確に撃てるようにと射撃練習。

そしてそれが終わればひたすら個人ランク戦を繰り返す。

 

その対戦で学んだ事、見つけた自分の課題についてノートに殴り書きをする。

それを清書して重要な部分だけを残す。

そんな日々を続けていた。

 

 

 

そんなとある日の朝、ラウンジにて食事を済ませていると背後から声をかけられた。

 

「よっ、カズマ」

 

「東さん……」

 

この人は銃手トリガーを教えてくれた師匠だ。最近では狙撃手トリガーというものを開発し、運用をしている。それは文字通りトリオンの弾を発射する狙撃銃。

狙撃銃は主戦場の外から攻撃できる。つまりは意識外から攻撃ができるという利点がある。これは途轍もないアドバンテージだ。だから銃手の次に狙撃手の立ち回りを東さんから教わっていた。

 

「お前、そんなものばっか食ってたら成長しないぞ? 育ち盛りなんだからもっと色々食ったらどうだ。そして1日3食は食え」

 

俺が今食べているものは食パン2枚水である。

そのパンを無理やり口に入れては水で流し込んで胃に入れる。

 

「東さん、人はブドウ糖さえあれば生きていけるんです。そもそもトリオン体であれば1日2食で事足りるんですからわざわざ食事なんかに時間を割くくらいなら個人戦に時間を割きますよ」

 

「またそんな屁理屈を、タンパク質取らないと筋肉がつかないし他にも食べないと背が伸びないぞ」

 

「身長伸びたら良い的になるので伸びないのはむしろ好都合です。それにトリオン体であれば筋肉なんて関係ないじゃないですか」

 

目指すは風間さん体型だ。

以前どうやったらそんなに背を伸ばさずにいられるんですかと聞いたらボコボコにされた思い出がある。

 

「よーし分かった。お前がそこまで言うならしょうがない。今晩、俺の隊の連中と焼肉に行くんだがお前も来い」

 

「嫌です。そんな事なんかに時間を使って……」

 

「狙撃手の事教えてやんないぞ?」

 

この悪魔め。この人は戦術家として高い評価を受けているが俺はただ相手が嫌がることを見つけては嬉々としてやるただの陰湿な人間なのではという気がしてならない。

 

「……はあ、分かりましたよ。行けばいいんでしょ! 行けば!!」

 

「うむ、よろしい」

 

そして東は「腹を空かしておけよ」と言ってその場から立ち去っていった。

その時間になるまでカズマはランク戦を続けた。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

焼肉屋『寿寿苑』

それは警戒区域にほど近い場所にある焼肉店。

カズマはため息をつきながらその店の中に入った。

すると店内の端に東隊メンバーが座っている。長方形のテーブル。その上側には東、加古が座っており、テーブルの左側に二宮、右側に月見、テーブルの下側に三輪が座っている。

 

「よっ、カズマ。約束通り来たな」

 

どの口が言うんだと若干顔を引き攣らせながら渋々三輪の隣に座る。

 

「よしじゃあカズマ。何が食いたい?」

 

「別に……なんでもいいですよ何食べても栄養には変わらないですし」

 

カズマは不貞腐れたようにそっぽを向く。するとなんて事言うんだと三輪がカズマの足を踏んでくる。

イラッときたカズマは踏み返した。

 

「東さん最初はタン塩から行きましょうよ」

 

「そうだな。じゃあ一般的なやつから頼んでいくか」

 

「フンッ」

 

三輪とカズマが皆にバレない様、足の踏み合いの応酬繰り返す中4人がそれぞれ注文をする。

まずカルビやタン、ロースなどを頼み、次にギアラというあまり一般的ではないものが注文され、最後にジンジャーエール等の飲み物が注文された。

 

 

 

網には様々な肉が置かれ、肉の焼けるいい匂いが鼻の奥をツンと擽る。

落ち着け佐藤和真、今目の前の肉がすごく美味しそうに見えるのは幻覚だ。どうせパンと変わらない。腹に入ればどちらも同じくカロリーとなる。ならばこんな手間暇を掛けずに手早く食えるパンの方が食事として優れている筈だ。

 

「ほら焼けたぞカズマ」

 

そう言って東がトングで程よく焼けたカルビを何枚かカズマの皿に乗せる。

カズマは思わず固唾を飲んだ。

 

「食わないのか? なら狙撃手の件は……」

 

「分かってる! 分かってるから!! 食えばいいんだろ、食えば!!」

 

全部食って速攻帰ってやる。

そう考え、箸で皿に置かれたカルビを口にする。

 

「っ!!????」

 

口いっぱいに肉の旨みと塩気が広がった。その瞬間自然と涙が溢れた。

美味しかったからじゃない。いや、美味しいのだがそれだけじゃない。何か、不思議と心がポカポカとした。でもこの感覚は初めてじゃない。どちらかと言うと懐かしい感じだ。

 

一体いつこんな体験をしたのか、そう思考を巡らせるとすぐに答えが出た。これは家族と一緒にご飯を食べた時と同じ感覚だ。

鮮明に脳裏に浮かぶ家族との何気ない日々。その記憶の中には葵の姿もある。

あの日々が懐かしい。

もうかれこれ一年は経っているのか。

 

気がつけばポロポロと涙を流しながらも残りの肉を口に入れる。

 

「お、おい……」

 

先程カズマの足を踏んでいた三輪はポロポロと泣き出すカズマを見てやり過ぎたかとあたふたし始める。

 

「美味いかカズマ?」

 

「はひ……グスッ……美味しい……です……東さん……ありがどう"……ございます」

 

東は「そうかそうか」と言っては笑みを浮かべ、今度はカズマの皿にギアラを置いた。

見かねた月見はカズマの涙をハンカチで拭き、二宮はジンジャーエールを追加で注文しそっとカズマの元に置いた。

その後もカズマはひたすらありがとう、ありがとうと言いながら焼肉を食べた。

 

そしてしばらくして落ち着きを取り戻すと自身の身の上話をし始めた。家族を失ったこと。大切な人が攫われたこと。

それを皆は黙って聞き続けた。

自分の中に閉じ込めていた感情を初めて吐き出したカズマは少し気が楽になった。

 

 

また、先程足の踏み合いをしていた三輪も実は姉を失っており、互いの境遇に共感し意気投合した。

 

「さっきは悪かったカズマ」

「こっちこそ」

 

「なんの話だ?」

 

「「いえ、こちらの話です」」

 

流石に先程まで足を踏み合ってたことがバレれば今の温和な顔をした東さんが変貌することが容易に想像できる。

 

二人の間に固い結束が生まれ始めた。それは会話を織り成していく度に強固なものとなっていく。

 

「「打倒近界民!!」」

「一匹残らず?」

「ぶっ殺す!」

「手足を?」

「引き千切る!」

「老若男女問わず?」

「皆殺し!!」

 

二人は厚い握手を交わした。

ここに打倒近界民許すマジ同盟が締結された。

 

 

東は三輪とカズマの改善のため色々と画策していたのだがどうやら火に油を注ぐ結果に終わってしまったらしい。

 

 

 




挿入話だから更新気づいてる人少なさそう。ランク戦より前に書き始めてたからこっち先に出せばよかったと今更ながらに後悔。
コメントでも言ってる人いましたけど三輪くんとは仲良くなりそうですね()
コメント、お気に入り、評価等よろしくお願いします。

一体いつになったらめぐみんは来てくれるのか。まあ真打というのは遅れてやってくるものと相場が決まってるのでね。これヒロインじゃなくてヒーローだろ


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バッドエンド、この憎きネイバーに復讐を!③

イフストやりたいシーンの為にストーリー作って遠回りしてるの辛いけどそのおかげでやりたいこと詰め込めてる。


あの日以降カズマはしっかりと1日3食摂るようになった。そして誰かと一緒に食べるよう心がけた。誰かと食べるご飯は不思議と美味しかった。

 

忍田さんをご飯に誘うと「成長したなカズマ」と泣いて喜んでいたが一体何があったのだろうか。その後どう近界民を殺すか楽しく話していたらいつもの顔に戻ってしまった。

 

その次の日は三輪と一緒にご飯を食べている際、どう近界民を殺すか盛り上がっていたら周りの隊員達が何故か口に含んでいた物を噴き出していた。行儀が悪いにも程がある。

しかし駆けつけた忍田さんには俺たちが怒られてしまった。一体何故だろう。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「あらカズマくん」

 

個人ランク戦に向おうと廊下を歩いていると加古さんに声をかけられた。

 

「加古さん、こんにちは。どうしたんですか?射手の練習の時間には早いと思うんですが?」

 

そう、あの日以降俺は加古さんに射手の技術を教えてもらっている。

初めは二宮さんも「俺が教えよう」と加古さんと言い争っていたのだが、加古さんが「二宮くんが教えられるのなんてトリトン量に物言わせた物量攻撃しか無いじゃない。カズマくんには無理よ」と言い負かし二宮さんは黙ってしまった。

 

「実はね、これから炒飯を作ろうと思ってるんだけどカズマくんもどうかしら」

 

「……他にも人はいますか?」

 

「ふふっ、そう言うと思って堤くんを呼んであるわよ」

 

「行きます」

 

加古はカズマに炒飯を食べさせる時は決まって誰かを呼んでいる。そうすればカズマはすんなりと来てくれるからだ。

ちなみにカズマは今までの加古炒飯全てで当たりを引いており、ボーダー隊員からはカズマが来るかどうかが当たりの判断基準にもなっていた。

 

そして東隊の作戦室に行くと絶望に満ちた顔をしていた堤の顔が急に希望に満ちた顔に変わる。

ちなみに東隊の他メンバーは身の危険を察知し逃げていた。

 

「今日は……当たりか……」

 

堤はカズマに向けて合掌し念仏を唱える。

出されたのはシーフード系の炒飯。得体のしれない魚介類がふんだんに使われていたが味は悪くない。むしろ美味しい。

堤も美味しい美味しいと涙して食べていたが、しばらくしてダウンした。堤側のテーブルには葡萄ジュースが置かれていた。

葡萄と魚介類の相性が悪いというのは本当だったらしい。

 

その後、殺人炒飯で死んだ堤を尻目に二人は射手の特訓に励んだ。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

「だいぶ上達したわね。これなら二宮くんも倒せるんじゃないかしら」

 

「この前フル装備で戦って何回か勝ちましたけど、その後はずっとハウンドの力押しで負けましたよ?」

 

その戦いではお得意のグラスホッパー機動で弾を避けようにも濃密な弾幕の雨に成す術なくやられた。

 

途中から二宮さんの爆撃によって作られた瓦礫に紛れて置弾を設置し、身を隠しながら攻撃をした。

二宮さんが俺の隠れ場所を自身のトリオン量にものを言わせた爆撃で辺りを更地にしていく中、歩みを進めるたびに設置した置弾で反撃した。

そうしてまた瓦礫を使った不意打ちをしてくるのだろうと二宮さんに思わせたところを遠距離からのライトニングで、ポケinした二宮さんの頭を撃ち抜いてやった。

 

その後はハウンドによる追尾弾を延々と撃たれて倒された。

 

「怒り心頭じゃない、二宮くんたら大人気ない……ねえ、後でその映像ちょうだい。東隊のみんなで鑑賞パーティーを開くから」

 

そう言いながら加古さんはニヤニヤと笑っている。

 

「なら編集手伝いましょうか?」

 

「お願いするわ」

 

俺も二宮さんにやられまくった恨みがある。なるべく弄ってやろう。

 

その日、東隊にてカズマが二宮を倒す映像がかなり脚色されて流された。

翌日カズマはC級降格の3000ポイント寸前まで二宮に殺され続けた。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

本日ボーダー上層部にて近界遠征を行うという通達があった。

参加条件は今期A級ランク戦の上位3位以内。

 

それは俺が望んでは止まなかった葵を見つける手段。これまでも葵を見つけたいとは思っていた。だがこれまで具体的な方法が俺の手にはなかった。

 

それが今、俺の目の前に葵を見つける手段があって、それに手が届く距離に俺は居る。ならば俺は手を伸ばす。そう伸ばすしかないんだ。

 

たとえ見つけられる可能性が万に一つであろうと、億に一つであろうとも。

未だ過去に囚われ続けているカズマは近界遠征という沈むであろう泥舟に縋り始めた。

 

 

 

そしてすぐさま自分の隊に入ってくれる隊員を募集した。

結果は誰も来なかった。

 

俺の悪い噂が流れているせいだろう。気味悪がられて誰も近寄ってこないのだ。

 

唯一集まったのは金目当てで入隊した拝金主義者のオペレーター。腕はいいが金の分前に煩いと評判の女らしい。そいつはA級の部隊のオペレーターになれば楽して給料がもらえるからと俺の隊に志願したとの事。

正直言って腹立たしい事この上ないが背に腹は変えられない。何はともあれこれで隊としての最低限の条件は達成できた。

 

やってやるさ、一人だろうが上位3位に食い込んでやる。

いつも精気のない憔悴したような顔をしていたカズマの顔に僅かに精気が戻る。その瞳の奥には静かに燃える炎が宿っていた。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

それから幾度ものランク戦が行われ、カズマは一人奮戦した。たしかにカズマはこのボーダーでも指折りの実力者となっている。しかし、それでもA級部隊と単騎で渡り合うには厳し過ぎた。

 

 

 

 

幾度目かのA級ランク戦にて。

 

A級部隊、佐伯隊の里見隊員が住宅の屋根を蹴るように飛び、縦横無尽に駆け巡る。

そして片手に握られたスコーピオン型の突撃銃から弾幕の雨が降り注ぐ。

 

こちらも住宅の屋根を駆け抜け、回避行動を取るもそれらはこちらに向かい軌道を変えはじめる。俺は仕方なくグラスホッパーを展開。三次元機動により回避する。

 

 

佐伯隊エース、里見隊員に捕捉されてからというもの、しつこく粘着され現在に至る。それも以前までは他部隊が戦闘している最中をバックワーム+グラスホッパーによる奇襲という漁夫の利戦法を多用していた事が原因だろう。狙撃手としても一定の実力はあるカズマは一度隠れるとそう簡単には見つけられない。師匠の東さんですら苦労するほどだ。

そんないつ襲って来るか分からないカズマはすぐマークされるようになった。

 

 

そして、今回も漁夫の利を狙おうとしたのだが嵐山隊と佐伯隊がぶつかる前に里見隊員と出会してしまったのである。

落とそうと思えば落とせるが、里見隊員はかなり強く逆に落とされるリスクが大きい。

それに落とせたとしても時間が掛かりすぎる。それでは落とす前に佐伯隊に集結されて落とされる。もしくは、漁夫の利を狙った嵐山隊に横っ腹を突かれて落とされるだろう。

 

里見を落とすことは諦めどう振り切ろうか考えて始めようとするとオペレーターから警告が飛んでくる。

 

『後方狙撃警戒!』

 

「シールド」

 

拝金主義者のオペレーターにそう言われ後頭部に集中シールドを張る。

音もなく飛んできた弾はシールドに容易く防がれる。

 

その弾の主は佐伯隊の隼人隊員だ。彼はサイドエフェクト、精密身体操作によって走りながらの狙撃が可能であり、マップ中央から端へと里見隊員を誘導するように逃げていたカズマを追いかけながら狙撃したのである。

 

先ほどの狙撃はサイレンサーを使う為に、一時バックワームを解除した事によりオペレーターが気付いた。

だが、いくらオペレーターが気付けても発砲音が聞こえないから俺は反応できない。しかし、相手がガラ空きであれば狙撃手というものはヘッドショットを狙いたがるものだ。

その予想は的中し、弾丸は後頭部に展開したシールドに弾かれた。

 

「そこか」

 

俺はメイン、サブ、両方のグラスホッパーを使い加速する。

流石の機動力を誇る佐伯隊の里見隊員もこれには追ってこれず、里見隊員を引き剥がしてそのまま隼人隊員の元へ向かう。

 

あいつは機動戦に長けた狙撃手だ。だが、その彼の戦闘スタイル故に一度目の攻撃を防げれば後は容易い。隼人隊員より機動力が高ければ倒せる。

俺は里見隊員を無視し、グラスホッパーにて隼人隊員の元へ急行する。

 

コチラの思惑に気づいた隼人隊員は即座にバックワームを展開して逃げようとするがそうはさせない。

 

「ハウンド!」

 

加古さんに教わった射手トリガーのハウンドを発動。

放射状に飛んではそれが多方向から隼人隊員に向かっていく。これには堪らずバックワームを解除してシールド2枚で全方位からの攻撃を防ぐ。

 

その間に俺はグラスホッパーで更に距離を詰める。

 

『距離15メートル』

 

オペレーターが旋空の射程内に入った事を伝える。それを聞き即座に腰に携えた弧月に手を当てる。

 

「旋空弧月!」

 

その刀身が姿を露わにすると同時に鞘から抜かれたブレードの刀身が拡張され、隼人隊員が展開したシールドごと彼の胴体を切り裂いた。

 

『戦闘体活動限界、ベイルアウト』

 

まずは1点目。この調子で気を抜かずに一人ずつ倒していこう。

そう思った次の瞬間、視界の端で何かが発光したのを捉えた。

それはビルの屋上から、狙撃だ。

 

次の瞬間、弾丸が命中する。

頭部に張った集中シールドに。

 

これで防ぎ切り場所も特定した。もう一人の狙撃手も落とす。そう思った矢先だった。狙撃を防いだそのシールドにさらに1発の弾丸が飛来して来る。

 

ツインスナイプか。

ツインスナイプはその性質上バックワームを解除しなくてはならない。その為、未だ駒の多い現状、撃ってこないだろうと判断していた。

これは俺の油断だ。もう一枚のシールドはハウンドを入れる為に外している為更なる防御は出来ない。手に持つ弧月で弾こうにも間に合わない。

 

 

弾丸がシールドを突き破る様を何も出来ずに、その瞳に焼き付けながら、やるせない思いに顔を歪める。

やがてその弾丸はカズマの頭部の右半分を消し飛ばした。

 

「クッ……」

 

『戦闘体活動限界、ベイルアウト』

 

 

 

 

 

その後は佐鳥の場所を特定した里見がその場にに急行。

装填段数を少なめにした威力重視のデザートイーグル型のハンドガン、弾数重視の突撃銃による変則アタックにて佐鳥隊員を速攻で撃破。

残るは佐伯隊が佐伯、里見。

嵐山隊が嵐山、時枝。

と互いに2名が残った。

 

 

佐伯がエスクードで遮蔽を増やし、エスクードを盾に佐伯、里見の両名は持ち前の機動力で相手を翻弄。

 

嵐山隊も応射するがエスクードにより射線が限られ、思うようにお得意のクロスファイヤを組めずに苦戦。

それでも時枝が佐伯の気を引いている内に嵐山がなんとか佐伯隊長の背後を取り、撃破。2対1の状況を作り出す。しかし2人とも既にボロボロであり.あと数発も受ければベイルアウトという状況だった。

一方、里見隊員は五体満足でピンピンとしている。

 

 

そして里見が嵐山に向けハンドガンを発砲。シールドは1発受けただけでヒビが入った。更にもう1発放とうとするが時枝が里見の背後からメテオラによる射撃で牽制。

 

里見は挟み撃ちとなった。こうなってはどちらに銃口を向けてももう片方の相手からの攻撃は防げない。詰んだのである。

 

二つの異なる銃声が戦場に鳴り響いた。

 

里見隊員は時枝隊員を、嵐山隊長は里見を撃破した。

 

 

 

そして結果は以下の通りである。

嵐山隊3+2=5点

佐伯隊2点

佐藤隊1点

 

 

 

いつも通りの結果だ。俺はどんなに頑張っても精々2点止まり。順位も下から数えた方が早い。

 

原因なら分かっている。

俺の戦闘能力が低いんだ。一人で戦うというなら風間さんや小南、太刀川さんと渡り合えるだけじゃ駄目なんだ。もっと強くなる必要がある。せめて五分五分。いや、勝ち越せる位にならなくてはならない。

そう考え、俺は忍田さんの所へと向かった。

 

カズマは根本的な改善点には気付いていない。いや、気づかないふりをしている。

 

「お願いします忍田さん。30分で構いません。俺と戦ってください!」

 

「どうしたんだ急に」

 

「もっと強くなりたいんです!」

 

「待て待て待て、お前は既にボーダーでもトップクラスの実力だろ」

 

迅がS級隊員になった関係でカズマは攻撃手5位となっていた。他にも万能手としては2位である。とは言ってもそれは狙撃手の数字も加えればなので攻撃手、銃手の数字だけを出したのなら嵐山や三輪よりも低い。

 

「それでも足りないんです。1人でもA級3位になる為には忍田さんに10本中一本……いや三本取れるくらいにならないとランク戦に勝てない!」

 

「分かった。そこまで言うなら10本勝負をしてやる。但し、中途半端は許さん。十本全部取る覚悟で来い!」

 

「はい!」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

互いの弧月がぶつかり合い、鍔迫り合いに発展する。

そのたびに火花が散っては消えてゆく。

 

忍田本部長が片手で振るう一撃を、両手で構える弧月でなんとか受け切っている。

 

「どうしたカズマ。受けているだけでは、勝てはしないぞ!」

 

「分かって……ますよ!」

 

そう言ってカズマは忍田本部長を蹴り飛ばし距離を取る。

それと同時にホルスターにあるハンドガンを抜き瞬時にアステロイド8発を撃ち出す。そしてハンドガンの弾倉は空となり再装填に入る。

 

「ハウンド!」

 

ハンドガンが撃ち終わると同時にトリガーをアステロイド(拳銃)からハウンドに変更。放射状に飛ばし回避先を制限する。

 

「旋空弧月」

 

旋空、それは一見、斬撃を飛ばしているように見えるが実際はペーパーヨーヨーの様に本体を伸ばしているだけに過ぎない。だから斬撃は一つしか存在しない。その筈なのだ。

しかし、忍田本部長の旋空は早すぎて斬撃が複数に見える。しかもそれが左右、正面、とどこからともなく飛んでくる。おそらく幻踊も併用しているのだろう。

無数の斬撃は己に飛来する全ての弾丸を斬り落とした。

 

「……本当にめちゃくちゃな強さですね。忍田さん」

 

「ははっ、まだ太刀川にも勝ち越してない君に負けるわけにはいかないのでね!」

 

2人は走り出し駆け寄る。彼我の距離が一気に近づき、先にカズマが仕掛けた。姿勢を低くして懐に入り込んでは右手に持った弧月を両手で握り直し上段へと振り上げる。

それを忍田本部長は容易く防ぐ。しかしまだこれで終わりではない。先程斬りかかると同時に自身の背後に隠すようにハウンドを置いていた。それが今射出され両側面から忍田本部長へと襲い掛かる。

 

それを忍田本部長はバックステップで軽く躱す。しかしまだカズマの攻撃は終わりではない。

バックステップで下がり仕切り直そうとする忍田本部長に対し、そうはさせるかと弧月で斬りかかる。

 

両者の弧月が激突する。

これで忍田本部長を捕まえた。

 

その後も角度を変え一撃、ニ撃と弧月を振るう。そして幾度かの剣戟の末、再び弧月が合い鍔迫り合いとなる。

先に忍田本部長が仕掛けた。一瞬弧月にインパクトを乗せカズマの弧月を押し、それと同時に弧月をくるりと回し、下から斬り上げる。

 

「シールド!」

 

カズマは固定集中シールドを足元に展開。忍田本部長の一撃を防ぐ。

 

(取った!)

 

カズマは弧月を構え上段から振り落とそうとする。しかしそれと同時に浮遊感を覚え、視界がだんだんと低くなっていく。

 

やがて視界には大地が広がっていた。

 

「なん……で」

 

振り下ろそうとした次の瞬間にはカズマの首が切り落とされていた。

 

「言っただろ。負けるわけには行かないと」

 

 

忍田本部長は渾身の一撃が防がれたにも関わらず、俺が攻撃するよりも速く次の一撃を繰り出していたのだ。

 

 

結果は9-1で敗北した。

それも最後の最後、相打ちとなる形で互いの一刀が振り下ろされ刹那の差で忍田本部長がベイルアウトしたに過ぎない。実質引き分けだった。

 

「本当に成長したなカズマ。モールモッドに負けてたお前が私から一本取るようになるとは……」

 

感慨深く過去に浸る忍田本部長。

しかし、カズマがこのまま1人で戦い続けてもA級3位以内には入れないだろうと確信していた。ブラックトリガー使いでもない限り一人で戦況を動かすことはできない。しかし、彼の悪評は轟過ぎている。あの守銭奴オペレーターは別として他の者は入ろうとはしないだろう。

 

既存の隊員は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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バッドエンド、この憎きネイバーに復讐を……4

久しぶりに書くと苦痛ですね。
盾勇読んだりアニメ見たり2人の白皇プレイしたり、過酷なオ○ニーをプレイし始めたりと消費者に周ってました。
これからも消費者に周ります
やる気が出たら続きも書く……と思います。ハイ
(失踪したわけじゃないよ)


忍田本部長との10本試合から幾日もの月日が経過した。

あれ以来太刀川さん達とも互角に渡り合える日々も増え、極々稀に6-4を取れる日が出来た。

それでも俺は未だにランク戦でA級の中層と下層を行ったり来たりと繰り返していた。

 

 

A級ランク戦があと少しで終わりを告げようとしている。

 

 

1試合、1試合、過ぎていき、何も出来ない現状に焦燥感だけが募っていった。

なんとかしなければと手を変え品を変えランク戦に挑むも付け焼き刃では到底A級部隊に敵うはずがなかった。

一度限りの初見殺しを何個も考えた。しかし直ぐにネタは尽き、ランク戦終盤に差し掛かる頃にはその全てが周知のモノとなっていた。

 

 

 

不安に押しつぶされそうになりながらも今日は防衛任務にあたっている。

本当はこんな事をやっている暇は俺にはない。だが、シフトの関係上今日ばかりは入るしか無かった。

 

そうして次々とカズマは現れたトリオン兵を手慣れた様子で倒していく。するとある異変に気付いた。

 

「トリオン兵が……俺を避けてる? いや違うあれは……」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

私は高橋めぐみ。

私はボーダーに憧れていました。理由は単純でカッコよかったから。

 

私もあんな風になりたかった。だから入隊の応募をしようとしました。

 

しかし、私が応募書類を提出しようとした頃には受付期間とやらが過ぎていたようです。

私は駄々を捏ねました。ええ、それはとても。

 

けれども親はあと数ヶ月待てばいいと言うのです。なんと薄情なのだろうか。

そんなに待てるはずがないではないか。

私は今! 直ぐに! ボーダーに入りたくて入りたくてたまりません。この思いを4ヶ月も我慢できる筈がないのです。

 

私はその夜、親に黙ってこっそりと家を抜け出しました。

目指すはボーダー本部。

直談判したら、もしかして滑り込みで応募させてもらえるかもしれません。そんな淡い希望を胸に私はギュッと応募用紙を手に持ち夜の街へと駆け出しました。

 

 

 

そうして警戒区域前、張り巡らされている有刺鉄線を潜り抜けそのまま本部へと向かいました。

この時初めて私は自身の体が小さいことに感謝しました。

 

そうしてしばらく歩きましたが、目的地まであと半分という所でしょうか。しかしもう足がパンパンです。

 

めぐみが疲れて尻もちを突くのと同時にサイレン音が周囲一帯に鳴り響いた。

 

『ゲート発生、ゲート発生、座標誘導誤差10.95。近隣の皆様はご注意ください』

 

目の前の宙に浮かぶ黒いモヤモヤから怪物が現れました。

それは良くテレビで見るビルほどの背丈を持つ近界民でした。

 

「あっ……わわっ……」

 

私は突然のことすぎて動けませんでした。しかも尻餅まで付いてしまいました。

近界民はこちらに気づくとノソノソとやってきては口を大きく開けて向かってきてます。

今更になって自分のした事の重大さに気付きました。

 

 

しかしその怪物が少女に襲い掛かる事はなかった。

 

『メテオラ!』

 

薄緑色に発光する光弾が夜闇を照らしながら怪物目掛けて空を飛ぶ。

やがてそれは怪物の頭部に着弾しては爆発を起こし怪物の頭部を無きものにした。

私はその光景を、その爆発を、尻もちをつきながらただ恍惚と眺めていました。

 

「おい、大丈夫か?」

 

やがてその弾を放った主がこちらにやってきてはそう問いかけた。

月明かりに照らされて映るその男の姿が無性にカッコよかった。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

「逃げてるんじゃなくて俺を無視してるのか!?」

 

どうやら出現するトリオン兵は俺の事を無視し始めたらしい。そんな行動パターン今までなかった。

一体何事かと思いその先へ向かうとそこには子供がいた。しかも運が悪い事に目の前にちょうどバムスターが出現していた。

 

 

マズイ、非常にマズイ。

これでついうっかり『ボーダーの敷地に不法侵入した子供が偶然現れた近界民に攫われちゃいました☆ッテヘ』なんて事になったらボーダーの立場が危うくなるのでは?

 

俺の脳内の根付さんが青い顔しながら干からびるんじゃないかってくらい汗をダラダラと垂らしている。

 

ヨシ速攻だ、速攻で決めよう

 

 

 

 

……そうしてメテオラでバムスターを倒したまでは良いのだが。

 

こんな子供に記憶処理しなきゃいけないのかと頭を悩ませていると、ふとある事実に気づく。

確かトリオン兵はトリオン量の多い者を攫うためにやってきている。そのトリオン兵がこぞってここに集まり出したという事はもしかしたらこの子供は相当トリオン量が多いのではないか。

 

……これは試す価値があるかもしれない。

 

「おいお前、名前は? ここで何してた?」

 

「私はめぐみです。ボーダーに入りたくて直談判しに来ました」

 

「? なら応募すればいいだろ?」

 

「いえ、期限がちょっと過ぎてしまいまして。だから直談判して試験を受けさせてもらおうと思いました」

 

「……」

 

殴りたい、殴って修正してやりたい。

殴りたい気持ちを必死に抑えて本題に入る。

 

「……まあいい。ちょっと本部まで来てもらうぞ」

 

「いいんですか!?」

 

 

 

◆◆◆

 

ちょうど防衛任務の交代時間であったので手っ取り早く引き継ぎを終わらせて鬼怒田開発室長の所へ向かった。

 

現在は夜10時。

それでも鬼怒田開発室長は案の定残業をしていた為、連れてきた子供、めぐみのトリオンを計測させた。

 

のだが、中々計測が終わらない。

おかしいな、俺の場合1、2分で終わったような記憶があるんだが?

なんか目頭が熱くなってきた。

 

 

トリオンの計測を待っていると一緒に待っていた鬼怒田さんに脇を膝で突かれた。

 

「おいカズマ。一体どこであんないたいけな子供を攫ってきた」

 

とうとう落ちるところまで落ちたかと言うような視線をこちらに送ってくる。

 

「いやいやいや、警戒区域の中にいたんですよ。で、トリオン兵がこぞってアイツに向かってたからトリオン高いんじゃないかって思ったんです!」

 

決して俺はロリコンではない。

 

「何ぃ!? 警戒区域に入っただと!? そんなもん記憶消去処置決定だ!! 計測も中止だ。急いで記憶を消す!!」

 

「待ってくださいよ。俺もそう思ったんですけどトリオン兵に群がられるほどトリオンが高いならいっそ入ってもらった方が良くないですか? こういう輩はどうせ今日のこと忘れさせてもまたやって来ますよ?」

 

「むむ……否定できんが……しかし」

 

そうやって鬼怒田開発室長が悩んでいるとトリオンの計測が終了した。

モニターに映し出されたその数値に俺たち2人は度肝を抜いた。

 

「「トリオン量20!?」」

 

現在ボーダーで最大のトリオン量を有している二宮さんの数値すらも大幅に凌駕している。

 

「カズマ! 少しそこでその子と待っておれ! ワシは至急城戸司令に話をせねばならんくなった!」

 

そう言って鬼怒田さんはこの場を後にした。

 

「はーい」

 

 

 

 

その後上層部による話し合いの末、高橋めぐみはボーダーに入ることが決まった。

 

そしてこいつはC級の個人戦ブースにてメテオラを使い全ての対戦相手を爆殺し、わずか1日、いや数時間足らずでB級に昇格した。

 

そうして数日が経過した。次のランク戦は明日である。

そんな日の正午、高橋めぐみが個人戦ブースに来たのを見計らい声をかける。

 

「なあ、お前」

 

「お前じゃないです。めぐみんと呼んでください」

 

こいつは昨日、偶然通りかかった王子先輩にめぐみんと名付けられたのが余程気に入ったのかあれから自分の事をめぐみんと名乗る様になった。

しかし何故だろう。どう考えてもバカみたいな名前だと思うのにその名がしっくりとくる。

 

まあ今はそんな事はどうでもいいか、俺は雑談を切り上げ本題に入ろうとする。

 

「じゃあめぐみん本題に入る。俺の隊に入らないか? 俺はボーダーの中でもトップ。精鋭と呼ばれるA級に属してる。そのA級同士がぶつかり合うA級ランク戦ってのがある。どうだ? お前の実力がどこまで通用するか試してみたくないか?」

 

俺はそう煽ててめぐみんを部隊に入れようと口八丁にこいつが気に入りそうな言葉を並べる。

そうしていくとめぐみんの目があからさまに輝き始める。

 

「ふっふっふ、この邂逅は世界が選択せし定め。いいでしょう! 例えそれが仕組まれたものであったとしても乗ってあげますとも。ええ、乗って差し上げましょう!」

 

おっと、どうやら煽ててたのがばれてますね。子供の癖に察しが良い。

めぐみんは大きく深呼吸をし息を整え、高らかに叫ぶ。

 

「我が名はめぐみん! ボーダー随一のトリオンの持ち主にしてメテオラを操りし者! 我が究極の一撃にてそのなんちゃっての精鋭達を蹴散らして見せましょう!」

 

「そうか、ならその究極の一撃とやらで精々俺を楽させてくれよ」

 

「フフフッ……私が入ったからにはあなたに敗北の二文字はありません!!」

 

「そうか、改めてよろしくなめぐみん」

 

ふっ、と笑いながらカズマは手を伸ばす。

 

「ええ、こちらこそよろしくお願いしますよ。カズマ」

 

めぐみんは差し出された手を握った。

 

 

 

何はともあれ、これでA級ランク戦に対する明確な打開策が見つけられた。こいつを使ってなんとしてでも遠征部隊になってやる。

 

 

顔に手を当て何かをか考えている様子のカズマを見つめ、めぐみんは口元を緩める。

 

(煽てて入れたつもりでしょうが、私は既にあなたの所に入るつもりだったんですからね。まあ、確かに興奮はしましたが)

 

めぐみんは自分を救ってくれたカズマの姿を見た時から既にその思いは定まっていた。

 

 

 

 

 

翌日

もうすぐA級ランク戦が始まろうとしている。だが今回は1人じゃない。

めぐみんが加入して初のランク戦だ。

 

試合開始の数分前、ようやくマップが選択された。そのマップは市街地A。

そして各部隊がランダムに転送された。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「カズマカズマ!」

「カズマです」

「飛んでます! 私達空を飛んでますよ!」

 

俺に抱き抱えられているめぐみんは、グラスホッパーによる空中機動に目を輝かせている。

現在、空から二部隊の戦闘の様子を眺めているが、基本飛んでいるだけで無害と判断されたのか2部隊からは無視されている。時々ハウンドが打ち上がってくる程度だ。

 

「おい、感心するのはいいがお前をウチに入れた理由忘れんなよ?」

 

「分かってますよ。見ていてください!我が究極の一撃を!」

 

そう言って両手にキューブを出現させる。

そのキューブは直径が人の背丈以上はあろうかというほどに巨大だった。

自分のと比べると少し悲しくなる。

 

「我が名はめぐみん! ボーダー随一のトリオン量の持ち主にしてメテオラを操りし者!……」

 

「御託はいいからさっさとやれ!」

 

「はあ、まったくカズマは情緒というものがありませんね。分かりましたよ……メテオラ!」

 

おそらくこの日のために考えたであろう口上を途中で止められためぐみんは頬を膨らませながら分割も何もしていないメテオラを地面に投げつける。

 

 

それは地面に着弾すると同時に大きな爆炎を上げる。

それはまるでミサイルでも落としたかの様だった。着弾地点には大きなクレーターが形成されており、周囲の建物は爆風に晒され半壊状態だ。

しかしベイルアウトした者は居ない。どうやら外したようだ。

 

 

それから直ぐに俺たちを無視していた2部隊は俺たちを無視出来なくなり狙撃や銃手、射手によるハウンドの迎撃が上がってくるが、グラスホッパーを空中の至る所に展開し空を縦横無尽に駆け巡り狙撃を躱し、ハウンドを振り切る。

 

「ちょ! カズマ!そんな動かれては狙いが定りませんよ!」

 

「うっせ、お前のその威力なら何発も落とせば倒せんだろうが!」

 

「はぁ……当たりもしないのに撃つのは納得できませんが……隊長命令なので仕方なく!撃って差し上げましょう! メテオラ!メテオラ!メテオラ!メテオラ!メテオラ!!メテオラ!!!……」

 

何か納得いかないのか顔をムスッと膨らませては、やれやれと言った感じにため息をついては次々とメテオラを地面に落としていく。

そのたびに地表からこちらまで熱風が伝わってくる。

 

 

『戦闘体活動限界、ベイルアウト』

『戦闘体活動限界、ベイルアウト』

『戦闘体活動限界、ベイルアウト』

『戦闘体活動限界、ベイルアウト』

『戦闘体活動限界、ベイルアウト』

『戦闘体活動限界、ベイルアウト』

 

めぐみんによる無慈悲な絨毯爆撃によりA級部隊の全てが緊急脱出し俺たちは6点+生存点の2点。計8点を獲得した。

爆煙が止む頃には市街地の原型を保っていなかった。

 

「ふっ、我の力を持ってすればこの程度造作もありませんでしたね」

 

完全勝利、呆気なく手に入れたそれは未だにその実感が湧かない。

なんだよ、ずいぶん簡単に取れるじゃないか。

俺の最高得点なんて2点だぞ、2点。それをあんななんの捻りもない力押しでそれを遥かに上回る結果出すとか、今まで真面目にランク戦をしてたのがバカらしく思えてくる。

 

いや、そもそも俺1人で精鋭部隊と戦ってた今までがおかしかったんだ。

こいつが居れば3位以内なんて夢じゃないじゃないか。

 

「……ズマ……カズマ……カズマ!!」

 

「うおっ、なんだよ急に、顔が近い!」

 

考えにふけているとめぐみんの顔がすぐそばにあった。

 

「急にも何も私がずっと話しかけてるのに無視する貴方が悪いんですよ!!」

 

おっと、完全に1人の世界に入ってましたね。そもそもあの守銭奴オペは全く話してこないし今の今まで部隊で会話らしい会話なんてした事ないからな。

 

「すまんすまん、少し考え事してた……で? 話ってなんだよ」

 

「この男は! 本当に何も聞いてなかったんですね! さっきから私の爆裂はどうでしたかと聞いていたのに!!」

 

爆裂? ああ、メテオラの事か。

なんだ。点数でもつけろってのか。

 

「60点」

 

「なっ!?」

 

「撃つの遅い、分割もロクにしてない、狙いが甘い」

 

まあ狙わなくてもあの威力なら関係ないけど。それでも分割して落とせばもっと殺傷能力が高かろうに。65点に修正しておこう。もちろん俺の心の中で。

 

「それは撃つにも下準備というものがですね!」

 

「お前……まさか撃つたびにあの長ったらしいセリフ言うつもりだったのか?」

 

「?……当たり前じゃないですか。今更何を言っているのですか?」

 

こいつ! なんだその何言ってんだこいつという顔は、殴りたい、できることなら生身をグーで殴ってやりたい。

 

「これからは撃てって言ったら何も言わず即撃て、それと射手の練習はやれ、分割を覚えろ。やり方は教えてやるからさ」

 

「そんなことよりカズマ……その60点というのはどういう方式で付けたものですか?」

 

そんな事って……俺が上に行けるかどうかはお前にかかってるんだからな。

 

「威力−撃つまでの遅さ−射撃の精度の悪さ−個人的感情」

 

「まさかの減点方式!!」

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「はあっ……」

 

東春秋は佐藤隊のランク戦映像を見ては、1人、隊室でため息をついていた。

 

「……これはウチが止めなくちゃな」

 

東春秋の悩みの種はただ一つ、そう、カズマの所に新しく入った高橋めぐみの存在だ。

 

以前までの佐藤隊であればどんな手を使おうが上位3位に入ることは不可能だった。いくら彼が全てを捨て訓練に費やしていても個が群に勝つことはない。いや、難しいと言った方が適切か。

 

だが高橋めぐみという存在によってそれは一変した。

彼女のトリオン量は規格外過ぎた。

今ボーダーは彼女の話題でいっぱいだ。

やれ「あんなのはチートが過ぎる」だとか「ランク戦を真面目にやるのがバカバカしくなった」とか。そんな話題ばかりがボーダーで飛び交っている。

 

残り試合はあと2回、彼らがこの調子のまま行ってしまえば遠征選抜も夢ではない。

次の試合、カズマ達と当たるのは自分達だ。ならばやることは一つ。

 

彼らの弱点を徹底的に打つ事だ。

彼らはその強大な力故に大きな弱点を持っている。知ればなんてことない弱点だ。今は彼女の話題性でそれが露呈してないだけに過ぎない。

それを周知の事実にする。

 

「精神的に不安定なカズマを遠征に行かせるわけにはいかない……それはウチの三輪にも言えることだが、な」

 

そう言って東は今回も戦略を組み始める。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ランク戦開幕と同時に2箇所でハウンドが打ち上がった。それは転送直後のレーダー上に全ての敵が映っているタイミングを見計らって。

不味い、非常に不味い。

めぐみんはメテオラに費やすトリオンが減るからとシールドを入れるのを試合寸前まで拒んだので入ってない。こんな事なら相手の持ち物を奪うトリガーでも開発しておくんだったよチクショー!

 

おそらく二宮さんと加古さんの2人のハウンドだろう。あの2人の威力をまともに喰らったら一瞬でベイルアウトだ。

 

脳裏に俺1人で他のA級部隊と東隊と戦う映像が浮かぶ。

冗談じゃない。他の部隊はともかく東隊なんかとまともに戦ってられるか。俺が何人いても勝てる気がしないぞ。

 

めぐみんが棚ぼたキルされるなんて冗談じゃないぞ!

 

「ぐ、グラスホッパー!!!」

 

俺は一心不乱にグラスホッパーを起動しめぐみんの元に向かった。

 

 

 

 

 




「うるせー!俺は俺のやりたいように書くんだよ!黙ってろ!」って言う自分と「でもこのキャラはこんな事しない、ここ違うよね?、原作的にこの流れはおかしい」と言う自分がいて書けない。胸が痛い

もし無理だなって思ったら設定は基本このままで速攻めぐみん達と会うルートにします。というかこっちのが話数も減らせてそれでいて面白さも担保できてしまいそうなのが辛い。
(そうすると来馬や古寺達との絆が消える)


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