『植物図鑑』片手に過ごす辺境伯生活※現在十六話まで改訂済 キャラ挿絵追加 (とおりすがりのふに族団長)
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第一話『転生特典レース』

初のオリジナル作品となります。


俺の名前は片山恭介。年齢20の普通の大学生である・・・いや、正確には『だった』と言う方が正しいか。

何故なら俺は、ついさっき交通事故で死んだのである。

青信号を渡ってたら、暴走トラックが突入という異世界転生作品のテンプレートな死に方をしてしまった。いや、情けない事に全く動けなかった。

起きてしまったことはどうしようも無いとして、問題は俺が置かれている状況である。

ついさっきまで体の感触が無い、曖昧な感じだったのにいきなり五感が回復している。ケガもなさそうだ・・・

一瞬、『大きなケガせずに助かったでは?』等という甘い考えが過るが、前方で我先に前に進もうとダッシュしている方々の頭にある輪っかがその考えを否定する。

自分の頭部は見えないがおそらく俺も彼らとと同じく頭の上に死人の証(?)と思しき輪っかが付いているのだろう。

「そういや、みんな我先に前に行って・・・何を争ってるんだ?」

よくよく見ると、前方には机が並べられており、その上に置かれた武器や防具や本を皆が奪いあっている。

気に入った物を取ったやつは順次さらに奥に設置されているアニメでしか見た事無い転送ゲートっぽい所に向かって、ニコニコ笑顔の天使さんの案内でゲートから姿を消して行く。

「モシモシ、片山恭介さん?あなたも早く行かないと良い特典が無くなりますよ?それとも説明受けてませんか?」

争いに参加していない俺が気になったのか、天使さんの一人が声を掛けてくれた。

「わざわざありがとうございます。確かに説明は受けて無いんですけど、状況は見れば大体わかりますよ。皆、より良い『転生特典』を争ってるんですよね?」

「その通りです。しかし説明が無かったとは災難でしたね・・・というか分かってて行かないんですか?」

ビックリしてる天使さん。

「いや、人数分無いってことは無いと思うんで。『余り物には福がある』作戦で行こうと思ってます」

「確かに人数分有りますけど・・・こんな人初めてですよ」

そりゃカッコ良さげな剣や槍とか銃とか気になるけど、平和に生きてた俺にはどうせ扱えないだろうし、皆の様子をみるに武器系が残る可能性は低いので、魔導書や道具系が残る確率が高いと踏んでいる。

~5分経過~

俺を除く全員が『特典』を持ってゲート前に並んだので、俺も机の前に進む。

最初は人が多くて気が付かなかったが、なんか天使さんと比べて明らかに違うオーラ纏ってる人・・・ではなくおそらくは『神様』の前に立つ。

最後だからか手渡すつもりなのか、その手には『特典』と思しき本が有る。

「おう、若いの!20で交通事故とは災難だったな。これがお前さんの『特典』だ。残り物とはいえ立派な『神のアイテム』だからしっかり使いな!!」

がっしりとした手で俺の頭をわしゃわしゃと乱暴に撫でて『特典』を渡して来る。

「『植物図鑑』ですか?」

渡された本・・・というか『図鑑』のタイトルをそのまんま読み上げる。『植物図鑑』って聞くと一瞬ガッカリしそうになるけれど、異世界で使える確かな知識が有るというのは有難い。草も生えない荒れた土地に行かない限り、食べれる植物が分かれば大抵は何とかなるはずだ。最低でも毒草を自分で積むことも無いだろう。

「勿論ただの図鑑じゃないぜ。詳しくは『ヘルプ機能』を参照しな。転生先では達者に生きろよ!」

神様から励ましの言葉を貰ってちょっと感激・・・おっと、天使さんがゲートの列への移動を促してくれたので神様に一礼して列に並ぶ。

自分の番を待ちながらヘルプ機能を使用して、この『植物図鑑』の機能を把握する。

何でもこの『図鑑』は俺が元々住んでいた世界に存在する全ての植物を網羅しているそうで、俺の体力を引き換え(消費量は植物のレア度による)にして種or実物を召喚することが可能。

育成方法も基本的には記載されており、多少気候が本来の条件と違っても高い確率で育ってくれるらしい。

上手く使えば、異世界スローライフを実現できそうなアイテムでテンション上がる。なんで売れ残ったんだろ?タイトルからしてただの『図鑑』と判断されたのかな?

確かに図鑑から種や現物取り出せるなんて思わないよな。この辺りは神様のイタズラ心なのかな?

尚、行った世界の植物に関しては、一定の量を『蒐集』する事で『図鑑』に登録できるそうだ。

普通の野菜を作るのは低コストで行けるみたいだから、余程酷い場所じゃない限りは第二の人生即終了ってことは無さそうで安心した。

図鑑の機能把握に勤しんでたら、まだまだ先だと思っていた順番があっという間に来た。

「それではこのゲートをくぐり抜けたら貴方の新しい世界です。貴方の新しい人生が良い物になる事を祈っています」

「ありがとうございます。それでは ノシ」

天使さんに手を振ってゲートをくぐる。はてさて、どんな世界が待っているのやら。

~転生者が居なくなった会場~

「これで終いか・・・何時もの事だが、どうしようもない連中ばっかりだったな」

ゲートを見ながら『不慮の死を遂げた人を転生させる』業務を担当している『神』は嘆息する。

「強い武器を欲しがるのは自由だけど、それを手にしたら相応に修羅の世界に送られるって発想は無いのかね?」

「ちょくちょく居ますよね、強い武器を手に入れて、数日で通常の『転生』する羽目になる人」

天使が相槌を打つ。実際、己の実力と『特典』のバランスを取れなかったばかりに、転生早々に無茶をして『普通の転生』をする人間は後を絶たない。

「後、悪行の限り尽くして普通に『地獄送り』になる奴。『死後』の世界を体験した上にやり直しというアドバンテージ得てるというのに・・・」

「まぁ、『地獄』云々はここの業務管轄外なので一々説明されませんからね。」

「説明なくても想像くらいしてもよさそうだけどな・・・その点、さっきの小僧はちょっとだけ他よりマシだったな」

「それですよ!それ!!良いんですか?一人だけ頭撫でた時に『加護』なんて与えて」

「大した『加護』じゃないから大丈夫だよ。『特典』を争わない人間なんて珍しいからな。暇つぶしにアイツの行き先の映像見ながら次の『特典』作りに取り掛かるか」

「はぁ・・・貴方様に与えられた権限内の事だから五月蠅く言いませんけどね」

ジト目で自信を見る天使を無視して『神』は自分の仕事に取り掛かった。




そんなイジワルは無いと思いますが、『聖剣』選んで現代社会に転生させられたら滅茶苦茶困りますよね(;^_^A


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第二話 異世界生活スタート・・・と思ったらゴーストタウン!?

ゲートを通ると、そこは誰もがイメージするファンタジーって感じの世界だった。

そこそこ大きな街なのか、中央通りの石畳もちゃんと整備されてるし、道幅も大きい。

自分自身の装備を確認すると、街ゆく人たちとそんなに変わらない服にお財布(というか皮袋)。中には金貨や銀貨がそこそこ入ってるので、まずは何か買って通貨の価値を調べないと。

「さしあたっては街を一通り回ってから今日の宿を探すか!」

~ 一時間後 ~

「活気無さすぎぃぃ!!」

一時間街を歩き回った正直な感想がこれである。

ちょっとメインストリートで開いてる店が少ないと思ったら、飲食店が殆ど開いておらず、開いてる他の店ですれ違う人間は口々に物価の高さにため息と不満を漏らしている。

「何だ何だ!?もしかしていきなりハードモード搾取型の領主が治める所に転送されてしまったのか?」

情報収集するべくさらに人の会話に耳を澄ました結果、おおよその事情が分かった。

前提として、この国は現在、魔族を崇める物騒な隣国と戦争中だそうで、国王率いる大遠征軍が隣国に向かう際にかなりの食料を持って行かれて食糧難に陥っているそうだ。

この領地は国の西側に位置しており、物騒な隣国と国境を接している。

そんな地方故に、住民も行政も食料の備蓄をしていない訳では無かったのだが・・・問題は軍が通常の備蓄を貰うだけでなく、兵隊を使って田畑から作物を強引に収穫した将軍が出たせいでこの先の収穫がお先真っ暗になった事である。

何考えてるのか『勝利の後、占領地にて使う』という意味不明な理由で種まで持って行ったらしい。

その為、野菜を含む食料の生産供給の先行き不安でこの領地全体が暗い雰囲気になっていたという事らしい。

「考えようによっては俺の能力を活かすチャンス!」

問題はより良く買ってくれる相手にアピールしたい所だが、急に空腹な事を自覚する。

「そういや元々腹ペコ状態で帰宅中だったな。まずは宿決めて飯を食おう」

碌に飲食店が開いて無いので、何か食べたい一心で宿屋街へと歩みを進める。ってちょっと待った。宿屋の前に街の風景にそぐわないめっちゃ綺麗なメイドさんがおる!?

ありゃ『クラシックメイド』ってやつだな。メイドさんなんてコスプレ喫茶位でしか見た事無いからな~ しかも着てるのが滅茶苦茶な金髪の美人さんだから一瞬で目を奪われた。

「っと見とれてばかりは居られない。めっちゃ男に囲まれてるじゃん!?」

ちらっと状況を観察するに、露店やってる商人とその用心棒達と言い争っているようだ。商品が野菜な辺り、色々とお察しだな。

「今が商売時という考えは理解しますが、物には限度があります!!通常の3倍以上を吹っ掛けるなんて正気ですか?しかも解凍に別料金を取るなんて」

「嫌なら買わなきゃ良いんだよ。それに解凍に金払いたく無いなら自然解凍させて食えば良いのさ!たとえアンタの主人の辺境伯にでも文句言われる筋合いはないね!!」

大分近づいたから会話が良く聞こえる。それに野菜が凍ってるのと、後ろにローブと杖装備した魔法使いらしい男も見える。

(どれどれ・・・キャベツ一個銅貨一枚(約750円)とか高過ぎぃぃ!!)

これに解凍代まで取るとか商売じゃないだろ・・・本来生ものなのに魔法で長期保存できるのが強気の秘密かな?もしかしたら特別な魔法で魔法で解凍するまでずっとそのままの可能性もありえるな。

つーか辺境伯?聞きなれない爵位だけどメイドさんの服を見る限り上等な服っぽいし貴族だよな。売り込み半分、異世界で美人にカッコつけたい半分で話に割って入る。

「メイドさん。なら俺が同じ量の野菜をこの街の皆に売ってあげるよ。もちろん標準価格でね♪」

『図鑑』を手の上に出してざっと露店に出てる野菜と同じ量の野菜を次々に出現させる。

「とりあえずお近づきのしるしに、リンゴ一個どうぞ」

突然の事態に目を白黒させてる金髪碧眼メイドさんにリンゴを手渡しする。

つーか前世で円が無い位の美人さん過ぎてマジで直視するのがキツい。

背丈は176の俺がギリ勝って感じだから170位。それで居て小顔という埒外性生命体(=リアル8等身)。最初はクールな印象を抱いたけど、リンゴ渡された時に見せてくれたキョトンとした顔は可愛かったな。

メイドさんは暫し手渡されたリンゴを眺めると、一口齧った。

『ア、アイリーンさん!(さま)』

彼女の行動に、周囲の野次馬達が声を上げる。多分彼女はこの街では有名人なんだろう。周囲からは止めるように進言する声もあるが、無視してリンゴを齧るアイリーンさん。

「ごちそうさまでした。美味しいリンゴありがとうございました。この品質なら普通に2倍でも売れるかもしれませんね」

笑顔で言われたお礼の言葉と称賛がこそばゆい。やはり慣れないことはするもんじゃ無いな。

「ど、どういたしまして。そっちのアンタも食ってみなよ」

ちょっとこれ以上アイリーンさんを直視するとさっき気付いた豊満な胸部に目が行きそうになるので、商人の護衛の一人にリンゴを投げる。

「・・・確かに信じられん位美味い。全てこの品質なら、凍らせてしまったこの野菜では相手にならんな」

正直な感想と冷凍野菜への不満を吐き出す護衛さん。

「俺も買って良いのか?」

「ちゃんと並んだらな。」

悪徳商人を無視して、アイリーンさんに手伝って貰いながら急造の八百屋さんを始めた結果、終了時にはかなり疲労したけど、商人を撤退させる事と、護衛の人達の切り離しには成功した。

その後、彼女の誘いを受けて、辺境伯のお屋敷に招かれる事になったのだが、馬車に乗り込ん暫くして、大問題が発生した。

「腹減ってるの忘れてた」

めっちゃドでかく腹を鳴らした挙句、断じて故意では無いけど・・・アイリーンさんの膝の上に乗っかった所で意識を手放してしまった。

後に皆から『ギルティ』と言われたけど、断じて違うと言いたい。何にも覚えて無いんだっつーのorz

 

 

~神様監視中~

「・・・ギルティ」

「良い事したんだから大目に見てあげましょうよ・・・ギルティ」

 



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第三話 初めての遠出。牧場を救え!

通常の畑で使用する種やら野菜やらの陳情はほぼ落ちついて、今度は家畜の餌の為の牧草などの陳情が増えて来た。

中でも、領内一の牧場が牧草が足りずに大変という陳情に俺達はユニゾンで頭を抱えた。

困ったことに軍隊は農作物に加えて家畜や馬に必要な牧草まで持って行ってしまったらしい。

牧草となると、必要量が膨大になるので事実確認も兼ねて、現地に行こうという話になり、アイリーンさんと共に馬車で陳情のあった牧場に向かっているという次第である。

「一難去ってまた一難・・・これって畑の作物よりヤバくない?」

「はい、完全に想定外の出来事です。まさか大牧場から草を持って行くなんて・・・それに不自然に感じます」

地図を見ながらアイリーンさんが解説してくれる。

今回俺達に救援を依頼してきた農場は、軍が通った中央から西の国境への街道からは途中で少し外れて北上する必要がある場所にある。

「軍馬用の草が欲しいなら西の国境付近の軍用の蔵に十分に貯えがあるはずなのに・・・これは戦後に問題になるかもしれません」

「俺はここの国民じゃないから分からないんだけど、今回の略奪に近い行為は国王主導だと思う?」

俺の質問に彼女はきっぱりと首を横に振る。

「あり得ません。国王も第一王子様も勇猛な人物ですが、人民を絞り上げるという発想を是とするとは思えません。この点は我らの主も同じ意見でした」

だからこその事実確認の為に俺達セットでの視察。代行と言う立場を得てるとは言え,ポッと出の俺では協力が得られないこともあるだろう。

「それと一つ気になったんだけど、陳情書に書かれてる「時渡り様のお力添えを」って俺の事だと思うんだけとどういうこと?」

「それはですね、伝承なので事実かどうかは不明なのですが・・・過去に恭介様の様に不思議な力を持った人の話を吟遊詩人が『時渡り』と呼んで語り継いでいるんです。近年は創作が多いですけど」

何と・・・俺みたいな転生者が過去に存在していたとは。

「ち、ちなみに伝承の『時渡り』さんたちはどんな力を使ってたの?」

「主に伝承として残っているのは2名で、それぞれ別の種類の力で正反対な行いをしています」

簡単に概要を聞くと、ホントに正反対で『聖剣を持って邪竜を打ち取った勇者』、『異形の生物を操って国を乗っ取った悪役』として伝わっているらしい。

共通してるのは、どちらも常識外の『道具』を持っていた点。最初アイリーンさんに適当に魔法と説明して即バレしたのは先達が伝承として残っていたかららしい。

「最初は私も内心身構えていましたが、恭介様が邪な心を持っている方で無い事は直ぐに分かりましたから」

「それは普通に嬉しいけど、そもそも俺の能力なんて大した悪事出来ないと思うけど?」

「はぁ・・・ある意味恭介様らしいお答えですね」

少しジト目で俺の意見に嘆息するアイリーンさん。

いや、確かに『図鑑』には毒草などの危ない植物も多々あるが、あくまでそれを『召喚』出来るだけであって、それを加工して利用するスキルは備えていない。

「しかし、牧場のサイロ一杯の牧草なんて作れるかな~」

「そこは難しいでしょうね。牧場の草の消費量は尋常ではありませんから。そこは出来た量で対応を考えましょう。恭介様は神様じゃ無いんですから。」

牛一頭で一日青草50Kg以上と考えると気が遠くなる。草だからコストは低いけど量が量だからなぁ。1トンは行けると思うけど2トンは厳しい感じがする。

そんな会話をしていたら御者さんから合図が入ったので外の景色を見る。

いうだけあって滅茶苦茶広い牧場だが・・・やはりあちこち荒らされた形跡があり、牧草を育成してると思しき場所も刈り取られの荒れ放題って有様である。

草を貯蔵するレンガ造りのサイロが複数あるけども中身はどれほどあることやら。

「こりゃ苦労しそうだなぁ」

アイリーンさんも表情を曇らせながら頷く。

さて、『図鑑』の力でどこまで力になれるかな?

 

 

~ 神様の反省会 ~

「武器系は高い能力あったハズなのに何で皆直ぐ脱落してしまうん?次回に向けて原因を見つけねば!」

神様からの問いかけに天使は少し資料を確認した後に返答する。

「一番は武器を持つのに慣れてないから『武器を抜くタイミング』が精神的な意味でも物理的な意味でも遅いのが原因とレポートされてます」

「だったらあんなキラキラした顔で『武器』を持って行くんじゃないよ!!」

反省会をするつもりが、安易な選択をする転生者達に怒りをぶつけてしまう神様。

「じゃあ皆さんが持ち慣れた『スマート●ォン』とかどうでしょう?」

「ダメに決まってんだろ!!」

改善はしたいが、パクリは容認できない神様であった。



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第四話 現状把握ともう一人の『時渡り』の影

さっそく牧場(正確には牧場含めたこの辺り一帯)主であるメルバーン子爵家一同から出迎えを受ける俺達。

大げさな出迎えは不要と伝えていたが、そこは向こうも貴族。家族全員と、それぞれの専属使用人総出で出迎えてくれた。

本物の貴族相手に『代行』としてちゃんと振舞えるか心配だったが、ちゃんと前日にしつこくメイド軍団から『指導』を受けたので何とか乗り切れた。(死ぬほど弄られたけどな...( = =) トオイメ)

しかし、話には聞いてたけど夫人もお子さんも多すぎ( ゚Д゚)。

奥さんが6人に娘さん10人男子は小さい子2名以外のこの場に居ない4名は現在遠征軍に帯同中とのこと。

皆容姿のレベルが高くて、特に娘さん達と挨拶するたびにドギマギしてるのを隠すのに必死だった。

挨拶終わって貴賓室に通されて当主さんを待ってる間に、アイリーンさんからは『全然隠せてませんでしたよ。だ・い・こ・う様♡』とキツいお言葉とローキックを頂いた。

でも仕方なくない?10~20位までの女の子10人いて、全員アイリーンさんレベルなんだから。

いや、待てよ。『アイリーンさんレベル』本当にそうか?最近ずっと一緒にいるから評価点が下がってはいないか?ここはフラットな気持ちで再評価せねばなるまい。

まぁ、改めてどの位のレベルかと言われたら困るけど・・・容姿だけでも『綺麗なのは当然として、顔ちっさ、腰ほっそ!』+『美味しいお菓子や手作り動物のぬいぐるみ作ってあげたり、上手い事弄れば可愛い姿も見せてくれる』クール可愛い一挙両得の美少女と考えると先程の評価は改めるしかない。

最初は同格に考えてた子爵令嬢達には申し訳ないが、アイリーンさんには一歩劣ると表現するのが正しいか・・・謹んで訂正しよう。

という思考を完全に声に出してしまっていた為に、いつの間にか部屋に入って来たメルバーン子爵は大爆笑してるわ、顔真っ赤にしたアイリーンさんによる『口アイアンクロー』を受けるわ、危うく本作が第四話で終わる所だった。

~ 閑話休題 ~

「真面目な話をする事を思い出して頂けたようで何よりですが、『閑話休題』と言えば話の流れが元に戻る訳ではありません!!」

あきれ返って明後日の方向向きながらも、ツッコミ役をやってくれる。俺達のやり取りを見ながら、爆笑から回復したメルバーン子爵が俺達の前に腰掛けて説明を始めてくれる。

「ここから草や食材を持って行ったのは王国軍の第二補給部隊です。彼らは滅多に発行されない『戦時下特例権』を持ち出して当家に協力を要請してきました。おかしいとは思いましたが、馬車の数もそれほど無かったので楽観視していたのですが・・・」

「実際は大量に物資を持って行かれたと・・・筆頭は家畜や馬に必要な青草、干し草・・・と言うわけですか?」

「はい、いざという時の為に地下に予備のサイロを用意していなければ大変なことになっていました」

持って行かれた物のリストに俺とアイリーンさんの目が点になる。

「牧草(箱詰)×99 青草ロール×99、干し肉×80・・・なんで100を超える品目が一つもないんだ?」

全部が全部99個持って行かれているわけではないが、草が100を超えていないのはおかしい。わざわざ箱のサイズで分けているのは不自然だ。

というか現代に生きる方々ならもうお察しの事だろう。これは某国民的RPGソフトの主人公たちが使う『道具袋』だ。テントやコテージを99個入れられるわけだ。

「同期か先輩なのかは知らないけど、随分派手な事してるなぁ・・・メリットが読めないけど」

輸送部隊を率いてる位の高い貴族(確か伯爵家だった気がするけど名前まで覚えてない)に雇われてるとして、アイテムをこんな使い方して貴族と持ち主は何が目的なのかね?

おっと、さっきから俺一人で分かったような顔して一人言喋ってしまっていた。二人に相手方にもう一人俺みたいなやつ(時渡りって言ったかな?)が居る可能性を語ってみた。

「何と、名前さえ違えば重量関係なしに運べるとは・・・流石『時渡り』の方が扱う魔道具の効果は常識外れですな」

「一見、無害そうな道具ですが、何でも入れられるというなら、恐るべき道具ですね。」

念の為、魔法で転送とか『道具袋』と類似した魔法or魔道具無いかと『魔法アカデミー』出身のアイリーンさんに見解を求めるが、転送魔法は設置と運用コストが膨大で大量の荷物の輸送は向いていないからNG。魔道具の場合はここまで便利なものは存在しないらしい。やはり『神のアイテム』は別格なんだな。

となると次は目的だが、中々三人一致する見解が出ない。

一旦切り上げて草の召喚作業に入ろうかと提案しようとしたら部屋の外から執事さんが子爵を呼ぶ声。何やら急ぎの要件らしい。

5分後、手紙を持って俺達の元に戻って来た子爵の顔は怒りに震えていた。乱暴に投げられた10通の手紙を許可を得てから一つ一つ二人で読んでいく、が一つ目を読んだ時点&10という数で全ての察しが付く。

「うーわ、ご丁寧に娘さん10人分の縁談の手紙とは・・」

ちょっと発してる殺気が怖すぎて、アイリーンさんの表情を窺う事は出来なかった。

最初から何となく予想はしていたが、この仕事は草を召喚して牧場運営を元に戻すだけでは終わりそうに無い。

 

 

~神様鑑賞中~

「まさか一つの世界に『特典持ち』が複数出るとはな」

「調べてみたら、10年前に転生した『先輩』さんですね。出来たら転生者同士の戦いは見たくないのですが・・・」

「戦いと言っても『植物図鑑』と『道具袋』・・・吟遊詩人が依頼されたらキレそうな具材だな」

「神様は当然、恭介さんを応援するんですよね?」

「あんなキレイな娘10人囲おうとしてる・・・じゃなかった、牧場運営を妨害して結果周辺住民を苦しめるなぞ言語道断!坊主には代行としてしっかり働いて貰いたいね!」

「結局怒りポイントは『女の子』なんですね。神様なんだから好きに2人目3人目娶れば良いじゃ無いですか?」

「ウチ、奥さんが怖すぎて・・・」

「ア、ハイ」

神様も色々世知辛いと知る天使さんであった。




恭介のアイリーンさん可愛いエピソード①。
いわゆる『動物パン』を作って振舞ったら、自身に配られた「クマ型」のパンを食べる決意を固めるのに2時間かかり、食べたら当然硬くなってたので涙目になった。
その後、物凄いプレッシャーを受けてパン一つを焼く羽目になったが可愛い笑顔と絵描きが得意なメイドさんによる絵が手に入ったのでヨシとした恭介であった。
後日、その絵が見つかって守るのに偉い苦労をしたのは別の話。


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第五話 クールに敵の影を捕捉したと思ったら死にかけた件について

アイリーンさんの怒りが収まるのを待って、輸送部隊を率いてる伯爵家の情報を確認する。

『ヒューム伯爵家』国の首都からすこし北上した所に、メルバーン領とは比較にならない規模の牧場&穀倉地帯を持つ貴族であり、国軍を支える第二補給部隊をほぼ自前で運営している。(第一部隊は近衛部隊が兼務)

「伯爵家の中でも名門でしたが、10年前から、直系親族が次々に亡くなって、跡取りを残すために、壮年の当主が女狂いになったともっぱらの噂です。」

「壮・年・期!?ドラ息子共にあてがうとかじゃ無くて、オッサン当主一人が美少女10人囲おうとしてるっつー話なの!?」

怒りを抑えたマジな表情で頷く二人。

身内に起きた不幸は分かるがやり過ぎ・・・って待てよ?

「アイリーン。ちょっと調べたい事があるから『調査票』出してくれる?」

『調査票』とは『伯爵』以上の貴族に与えられる国の諜報部への依頼書兼回答書である。特に決められた名称がある訳じゃないから俺が勝手に命名した。

造形としては羊皮紙に小さな宝石(魔力が込められた魔石)が埋め込まれてるだけの代物。仕組みは以下の通り。

①羊皮紙に質問書いてサインを書くと、羊皮紙が諜報部に転送される。書いた人の手元には魔石だけが残る。

②しばらくすると回答が魔石の持ち主に転送されて来る。(時間が掛かる場合は回答が2回になる)

「はい、此方に」

さん付けをしない時は『辺境伯代行』として振舞うのが俺達の間のルール。

彼女は何の疑問も口にする事なく、小型の『アイテムボックス』から取り出した羊皮紙とペンをテーブル上に用意すると一礼して席を立って俺の後ろに立つ。

つられてメルバーンまで立ち上がって笑いそうになる自分を必死に抑えてペンを走らせる。

問い合わせ内容は『ヒューム伯爵家で勤続10年になる人の情報』。ヒューム伯の周囲で変化が合ったのが10年前なら、あっちの『転生者』はその辺りで彼に近づき、当主一人を残して元々居た『家族』と『部下』を残らず『始末』したんじゃないか?

ハズレたらアイリーンからキツいお小言ラッシュだけど、これに関しては確信に近いものがある。

サインをすると、羊皮紙が青い光に包まれて消えて、俺の手の中に青く光る『魔石』だけが残る。

待つこと約5分。返事の羊皮紙が転送されて来た。

「ビンゴ!アイリーンさんにメルバーンさん。もう良いよ」

『辺境伯代行』モードを解いて二人に声を掛ける。

「いやはや、今の堂々たる所作、若き日の『辺境伯』のようでしたぞ!!」

興奮ぎみに賛辞をくれるメルバーン子爵。嬉しいけど、あのエロじーさんに似てるとは複雑な気分だ。

「それで恭介様。人探しの調査で返信が一枚。『袋』の持ち主は絞れたようですね」

「ああ、その名は『ジョージ・マケイン』。俺の世界的には『ジョージマ・ケイ』って所だな」

似顔絵もついてたが、明らかに『ジョージ』って顔じゃない。

「どうみてもこの東方の国の顔立ちですね(な)」

「だよねぇ~。後は彼を捕らえれば終わりだね。今から向かって間に合うかな?」

「国境警備隊に足止めするように魔法で文書を送りました。子爵から速達用の馬車をお借りすれば一日で追いつきます」

ヒューム伯がどの程度共犯者なのか?あるいは被害者なのか?って所は俺の管轄外だから国の捜査の上でしっかり処分を受けて貰えば良い。

俺にとっての問題はこの『ジョージ』先輩である。

国が発行した書類で度を越した『辺境伯』内での物資や人材の徴発。これは後々発覚すれば確実に国家への反逆と見なされるだろう。

だが、『辺境伯』は大きな権限を認められた地方長官という立場。

最初アイリーンさんは『戦後、問題になる可能性』を指摘していたが、公衆の面前で『袋』を見つけて中から大量の『証拠』が出てくれば俺が裁いてしまっても問題ないだろう。

「そうと決まれば『草』だけ作って出発しよう・・・う!?」

言いかけた所で、部屋の扉の前に唐突に現れた少女に目を奪われる。

短髪のアッシュブロンドに褐色の肌が特徴的な少女・・・メルバーン子爵の娘さんの一人で名前は「ヴァネッサ」だったな。

さっきは赤ロングスカートのドレスだから分からなかったけど、短いスカートに代わってるせいで、その足の長さが強調されており見るものを魅了する。(チラ見したらアイリーンも同じとこ見て目を奪われた)

この世界における南国の女性の特徴だと聞いて、正直話半分で流してたけど、ここで実物を魅了されることになるとは。

メルバーンさんが親として娘を諫めようとするのを手で静止してヴァネッサに発言を促す。ホントは怒らないといけない所かもしれないけど、生足ガン見した後にカッコつけるのはちょっと気が引ける。

「あの、不躾な願いなのは重々承知の上でお願い申し上げます。辺境伯代行様が『時渡り』の奇跡を見せて頂きたいのです。」

片膝ついて頭下げて頼み込むヴァネッサ。ああ、そういうことか。父親の方に顔を向けると「好奇心強い娘ですみません」と言いたげに苦笑してる。

「『ミス・ヴァネッサ』奇跡と呼べるほどかは俺には分からないけど、存分に見て貰って構わないよ」

彼女の手を取って立たせながら許可を与えると、先ほどのしおらしい態度は何処へやら、飛び跳ねて喜んで俺の腕を取って草置き場に案内しようとする。

困り顔のメルバーン子爵とやっと再起動したアイリーンが後に続いた。

 

~ 蔵 ~

「恭介様!こちらです。思う存分出しちゃってください♪」

最初は手を取るだけだったのに、いつの間にか左腕に抱き着いているヴァネッサの案内で刈った草を入れる蔵に案内される。普段は草や飼料で一杯だろうに、今はガラガラである。

「さてと、始めるか」

右手に『図鑑』を出す。それだけで目をキラキラとさせるヴァネッサ。アイリーン程じゃ無いけど中々破壊力ある胸の感触を左腕に感じるけど鉄の意志で気にしないようにする。

後ろから感じる2つの殺気もキニシナイ。オレ、仕事スル(必死)。

この『図鑑』は見た目は普通の本で、開いても白紙。そこに俺の意思が乗って初めて『図鑑』として機能する。今回は青草を思い浮かることで青草の絵と説明文が浮かぶ。

説明文と育成方法は今回見る必要がないので『青草の絵』を指で押して、出力地点を見つめて大体の生産量を考えて意思を込めることで種か現物としてこの世界に出力される。今回は一回に100キロ単位で出力する。

地味な光景だと思うけど、ヴァネッサは凄い凄いとはしゃいでいる。

さっきまで俺に殺気ある視線を向けていた子爵もこの光景に言葉を失っている。

やはりチートなんだなーと思いながら結果として2トンちょい出せた。

馬車の中でアイリーンさんに「可愛い女の子に応援されると違いますね~」と氷点下の視線で言われたけど気にしない。あくまでシリアスに仕事をこなしますよ。

後、椅子に座って足伸ばしても足は伸びないよとツッコミ入れたら、対決前に死にそうな目に合った。

 




褐色美少女って良いですよね(唐突)


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第六話 どうやらは俺は「なろう系」の主人公には向いていないようです

~ 国境の街 ~

メルバーン領を出てからほぼ一日かけて夜明け直前に国境の街に到着したが・・・なんかおかしい。

街の入り口は開けっ放しで門番居ないし、街の広場には大量の荷馬車・・・おそらく『第二補給部隊』の馬車が乗り捨て状態で放置されてて、馬もぐっすり眠っている。

「兵士の姿が全く見当たらないってどういうこと?」

「わかりません。待ち伏せをされているわけでも無いようです。この辺りにはホントに馬しか居ませんね。」

俺の前に立って魔法で周囲を索敵したアイリーンさんが報告してくる。普段のロングのクラシックメイド服から少しミニな物にチェンジしている。

その右手には、普段持ってない『魔法使い』の杖を持っている。何でも特別な神木から作った杖の先端にやたら綺麗な赤い宝石(多分ルビー)が埋め込まれている。なんでも『魔術アカデミー主席の証』らしい。

一応、警戒をしながらゆっくり進んで、確実に24時間人が居る筈の警備兵の詰所に向かって足を進めると、にわかに人の声が聞こえて来る。

「確か此処飲み屋と宿屋ばっかだろ?夜明け前なのにまだ飲んでる奴いるのかよ?」

「そのようですね・・・ですがやっと話が聞けそうな相手を見つけました。」

そう言って指さす方向には一人の獣人の少女が、王国軍の鎧を脱いで軽装になっている兵士(おそらく第二補給部隊所属)達を1on1で次々にちぎっては投げループを繰り返していた。

「どうした!どうしたぁぁlこの合法●リのケモミミ美少女『リスティちゃん』を倒して『ワンナイト・カーニバル』するんじゃなかったのかー!!」

ダウンして、精魂尽き果ててる兵士たちを見下ろして声を上げる獣人の少女・・・いや、訂正。自称ケモミミ(狼)美少女&この街の警備主任の一人『リスティ』(AGE:2●)である。

テーブルに銀貨(現代日本円に換算して約3000円)が乱雑に置かれて一山出来ている所を見るに、何も知らない兵士から巻き上げていた様だ。彼女の正体を知る街の野次馬達はその光景を酒の肴に夜明け直前なのに上機嫌に酒を飲んでいる。

「リスティさん、お小遣い稼ぎはもう十分でしょうから、状況の説明をお願いして宜しいですか?」

深いため息を吐きながら、前に出て、説明を求めるアイリーンさん。

「やっと来た~!来るの遅いからもう全部終わっちゃったよ♪」

「遅いって・・・これでも馬車で最速で来たんだけどな・・・っていうか終わった!?」

俺の言葉に頷くリスティ。

「うん、歓迎するフリして娼館の綺麗どころ使って少し飲ませただけであっさりとお寝んねだもん。張り合いなさ過ぎだったよ」

『マケイン先輩』以外の兵士達も少しづつ、女の子つかって誘い出して引き離した結果の一つが、『此処でリスティの体求めて延々と勝ち目無いバトルをする地獄』というわけだ。

「とりあえず詰所に行って顔だけ見る?まだ寝てるだろうけど」

リスティの提案にため息を吐きつつ頷くおれたちであった。

なろう系主人公みたいな俺&従者つえーバトルはまだまだ早いらしい。

 

 

〜 神様鑑賞中〜

「え!?犯人追求シーンは?ミニスカメイドの魔法バトルシーンは!?」

「余計な犠牲が追加されなかった事を喜びましょうよ(汗)」

 

 



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第七話 恐るべき『どうぐ袋』の活用法

あっさりと『ハニートラップ』に引っかかって捕らえられてる『マケイン先輩』が捕らえられている詰所に向った俺達三人。

道中話を聞いた所、メルバーン子爵の息子さん達は特に危害を加えられては居なかったので、夜明けと同時に家に戻って貰う手配が済んでるそうな。

そして、驚くべき事に、最大の懸案だった『袋』までリスティは確保していた。

「恭介の『図鑑』と違ってこの『袋』は持ち主が許可与えれば他人でも使えるみたいだよ。」

何でも飲みの席で自慢げに見せびらかした所でロリっ子モード全開のリスティがおねだりをして、あっさりと手渡して使えるようにしてもらったらしい。

恐らくは手元から離れても戻せるという余裕からの行動だと思うが、そのまま意識を失ったから『袋』はリスティの手元に未だに残っている。

「王国軍に徴収されて空になってた蔵に、アタシの権限で出せるものは全部入れておいた。これでメルバーン領の問題は解決できると思うよ」

「助かったよリスティ。流石はベテラン・・・・って褒めてるのに蹴るな!?」

「ベテラン扱いするな!ターゲット一人で能力も大体分かってるんだから、これくらい簡単だよ。他人に使用権限与えられるタイプで助かったけど」

「恭介様の『図鑑』は他人が持っても白紙の本ですからね。」

俺の『図鑑』との違いか・・・F●式の『どうぐ袋』はパーティ共有だからかな?一時的にリスティをパーティに入れる事で使用可能にしたって考えるのがしっくりくる。

「それにしても風の浮遊石とか『コテージ』とか生じゃない食料・・・しかも割とリッチなのが大量にあるんだけど何なんだろね?」

なんですと?

「袋」を持ってるリスティの腕を掴んでリストを見る。確かに「コテージ」が数個と、大量の保存食(軍用ではない)がある。

「よく見れば瓶の果実ジュースもある。軍人がこんな物飲むか?」

リストを見れば見るほどヤバい想像が頭を駆け巡る。

「アイリーンさん。人を魔法でもっと眠らせるって出来る?」

「可能ですが、魔法を被疑者になると、リスティさんに一筆書いていただく必要があります。」

「別に書くのは良いけど、恭介は何を気にしてるの?」

「俺は『コテージ』の中に人が居ると思ってる。恐らくは『ヒューム伯爵家』の関係者だと思う」

俺の回答が相当予想外だったのか、リスティの顔が青ざめる。

「で、でも生ものを入れられないって・・・」

「正確には『直接』入れられないだろ?だから『コテージ』に入れたんだろうな。絶対逃げられない軟禁場所とは恐ろしい・・・」

どういう経緯でこうなったのかは正直知らないが、恐ろしい上に非効率的な支配の仕方だと思う。

決定的な証拠が見つかりにくいのは確かだけど、ずっと管理下に置かないといけないストレスと伯爵家の乗っ取りは釣り合うだろうか?

「兎に角、詰所行はキャンセルだな。リスティには悪いけど街の公園でコテージ開封できるように医者とか手配して貰って良い?」

「わかった、急いで準備する。」

「俺達は俺達で王室向けに書類揃えないと。アイリーンさんサポート宜しく」

国王は遠征中とはいえ、執務の代行者位は居る筈だから、この件を知らせる準備をしないと。

「はい、王室向けの書類は少し面倒ですからお手伝いします」

リスティと分かれてから4時間後、『ヒューム伯爵家』の関係者が続々と保護されたというニュースが飛び込んで来た。

 

〜神様鑑賞中〜

 

『エェ〜〜!!そんな使い方有りかよ!?』

人間の発想怖いとガタガタ震える神と天使であった。

 

 

 



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第八話 第三王子の訪問、事後処理開始

王国の第二補給部隊の暴走に始まり、国境堺の街で亡くなったとされていた『ヒューム伯爵家』の面々が次々と発見されるという事態に発展した今回の事件。

対応は王国軍に引き継いだが、館に戻った俺達には次の難題が待っていた。

第三王子「ベイリー」殿下の訪問である。遠目でも分かる豪華な馬車と大きな旗は直系の王族が貴族の邸宅を訪問している証である。

今ここに来る可能性がある王族は彼しかいない。

「国境から帰って来たと思ったら、館が近衛騎士団に占拠されていたでござる。」

馬車を降りるなり寸劇を始める俺。アイリーンさんの視線が氷点下の冷たさだけどキニシナイ。

近衛兵の何人かが「いや、占拠してねーし」とツッコんでるのもキニシナイ。

「そうか、自分なりに正しい事をしたつもりだったが、伯爵家のお家騒動に首を突っ込んだばかりにじーさんは権力闘争に敗れたんだな・・・まさに慚愧の極み」

俺はアイリーンさんと逃げるから、頑張れよじーさん。と叫んで踵を返してアイリーンさんの手を取ろうとするが、待っていなのはデコピンだった。

「何時ものノリでふざけるのはお止め下さい。この方々、職務中に笑ったら『罰金』なんですよ」

俺からのパスを綺麗に受け取って近衛さん達を笑わせにかかるアイリーンさん。俺の分かり易い寸劇には『まだまだ』って感じだったが、クールビューティメイドからの一撃には、陥落者がちらほら見える。

しかし、それ以上に反応してたのは彼らの本丸、馬車の扉を開けて姿を現した「ベイリー」殿下だった。

「あははは!ホントに諜報部の報告通りの方なのですね。」

豪華な馬車からふわりと空中をあるくように飛んで俺達の目の前に着地する殿下。これは彼の身体能力が高いわけでは無く、王族が持つ特権『風の精霊の加護』による現象だ。

「初めまして。王位継承第三位ベイリー・オ・オンディーヌと申します。お疲れの所大人数で押しかけて申し訳ございません。」

「もったいないお言葉です。私は「キョウスケ・カタヤマ」。辺境伯『代行』を務めさせていただいております。ご尊顔を拝し、恭悦至極に存じ上げたてまつりまする」

ついつい、時代劇のノリで受け答えしてしまった。

「まずは此度の一件に関して謝罪と感謝を。疑念は抱きつつも有効な手を取れなかった結果、領民を苦しめた結果は王家の落ち度と言わざるを得ません」

頭を下げる王子に俺は慌てる。立場上やってることなんだろうけど子供に謝罪されるの精神衛生上きついっす。

「いえいえ、俺は自分に出来る事をやっただけなんですよ。だから頭なんて下げないで下さい。殿下位の歳の子に頭下げられるとこっちの心がキツイです!」

本音全開で焦る俺に周囲の近衛さんたちがとうとう爆笑してしまう。

その様子を暫しポカンとした顔で見つめてる殿下。

「成程、確かに普通の子供はこんなに頭下げないですよね。ではこの話はこれで終わりにしましょう」

ヨシ!!殿下が折れてくれたので、玄関付近のメイドさん達にハンドサインを送る。

「どうせ、色々とお話が有るでしょうから続きは中でしましょう。宜しければ未知の果物をお出ししますよ」

確実に能力のことは知れらてる前提で殿下を招き入れる。結構あちこちで振舞ったから仕方ないね。

「はい、それは是非とも味わいたいと思っていました」

お、殿下は年相応にフルーツ好きなクチか・・・それならワンチャン言ってみるか。

「ちなみに殿下、この後のお話が『辺境伯家お取り潰し』で俺解任みたいな話なら出す果物のランク2つ上げますけどどうします?」

「そんな話はありませんが、果物のランクは2つアップでお願いします♪」

全国民が愛する美少年スマイルでキッパリと要求される殿下であった。




どうでも良いですが、最近『ジャガイモ警察』なるものを知りました。
異世界設定は大変だ...( = =) トオイメ
ここからのほほん路線に戻して行きたい


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第九話 フルーツ祭りと就任要請

何でも出してくれる『植物図鑑』だが、例外が存在する。

所謂『品種改良品』に関しては基本的に消費する『体力』+『イメージ力』と『運』が作用する。確実に手に入る訳ではないのだ。

ただの図鑑に載っている標準的なイチゴ(図鑑の力のおかげか、それでも十分美味しい)を出す分には問題ない。(そもそも果物系はコスト高)

その先の銘柄品でより良いイチゴを出そうとすると、強いイメージが必要になる。たとえ銘柄品が表示されたとしても、この場合は確定ではない。寧ろハズレが出て来る場合もある。

成功確率は体感20%って感じで消費体力は成否に関わらず二倍程度になる。

単純計算するとイチゴ1パックのコスト10としたら、標準ならコスト100で10パック、高級品狙うとコスト100で1パック個作れるかどうか?という確率になるので、普段は標準のランクの果物しか出さない。

しかしある日、俺が自分で食べる為に美味しいイチゴ出してた所で唐突に背後に現れたアイリーンを筆頭としたメイド軍団に見つかりボコボコにされた。それ以来はちょくちょく『あま●う』クラスのイチゴを要求される俺であった。

そんな俺の苦労話を(背後から襲ってくるアイリーンの鉄拳を避けながら)殿下に披露しているのだが、残念ながら俺が用意した最高レベルのフルーツ盛にキラキラ目で夢中になっている彼には届いていなさそう。

そこまで大盛では無いが、メイドが盛り付けた最高級フルーツ盛を出されるなり、毒見役を振り切って食べ始めた殿下。

毒見役さんが役目を果たせなかったからか美味しそうなフルーツを食べれなかったからか、何とも言えない表情を見せる。ウチのメイドが『後で皆さんの分も用意してます』と書かれた手持ち看板をそっと近衛の皆さんに見せたら皆さん目が殿下同様にキラキラと光り出した。

「あー美味しかった。ご馳走様でした。こんな美味しい未知の味を独り占めしてたらそりゃ怒られますよ!」

「あ、ちゃんと聞いてた」

「もちろん聞いてますよ。でも、確率低いと言う割に複数種類の果物が有るのは何故なんですか?あまり体力を使ったようにも見えませんけど?」

「あぁ、それはこの機能だよ」

『図鑑』の末ページを見せる。図鑑は通常白紙だが末尾の1ページだけ縦横に線が引かれていて50個の果物が表示されている。これに裏があるので最大100個の出力結果を『キープ』できる。

「野菜不足が解消されつつあるから最近やっとストックを貯められるようになったんですよ」

「やはり『時渡り』のアイテムは凄いですね。我々の知る魔道具とはレベルが違い過ぎますよ」

この世界の魔法や魔道具は単純な効果の物が多く、ちょっと複雑な物は大体国家機密レベルの物になってしまう。

召喚魔法とかもあらかじめ自分が飼ってる動物を呼び寄せるとかが関の山で、「ドラゴン召喚とか出来ないの?」と聞いて、アイリーンさんにアホの子を見る目で見られた時は異世界なのにロマンの無さに涙で枕を濡らしたものだ。

「僕・・・というか王家と先代『辺境伯』の意志は貴方の力を生かしてこのままこの地を治めて頂きたいと考えてます」

ん!?聞き逃せない違和感を感じる。

「『先代』ってのはどういう事でしょうか?」

「言葉の通りですよ。『先代ヴァーデン辺境伯』は既にここを去りました。これからは別の国の知り合いの元で厄介になるそうで」

それでか・・・じーさん付きのメイドさんが居ないのは。というか国にすら居ないとは!?

「第一、貴族って世襲じゃないの?俺の『代行』って立場もおかしいんじゃ無いかと思ったりするんですが?」

「普通の貴族ならそうですが、『オンディーヌ王国・ヴァ―デン辺境伯領』だけは先代『辺境伯』の指名と中央の貴族院で過半数が認めれば継承が認められます。」

「マジで!?」

争いのある国と国境を接しているのはこの『辺境伯領』のみだからこんな独自ルールがあるのか?聞いてねーぞじーさん(泣)

「どうしてもと言うならば、『先代』の出した唯一の条件を断れば『辺境伯』にならずに済みますね」

「何だ、あるんじゃん選択の余地。さぁ早くその条件教えて下さいよ殿下!」

「『自分の娘との婚約』だそうです」

おいおいおい、あのじーさんいい年だぜ。娘とか言った確実に40オーバーやん。これは勝ったな。

「殿下、こう見えて俺は婚約相手へのハードルは高い方なんですよ」

「でしょうね。ちなみに好みを伺っても?」

「年齢がどうとかは言いませんが、容姿はアイリーンさんレベルで、胸もできればおっきい方が。後、話しててノリの良い子が好きです」

「要求多いですね~。婚期を逃す考え方ですよ。でも運が良い事にこの『娘』さんは全ての条件満たしてるか大事にしてあげてくださいね」

殿下の言葉に『いやいや御冗談を』みたいな顔でリアクションする俺。

「じゃあ恭介さんの後ろに立って貰ってますから挨拶して下さい」

殿下がそんなに言うなら仕方無い。幾ら容姿良くても絶対年齢的に話が合わないだろうけど、あいさつするだけしましょうか・・・あれ?

「///代わり映えしない顔で申し訳ございません。『アイリーン・ヴァ―デン』です。一応、恭介様の要求は全部満たしてると思います」

「いや、こちらこそ(?)」

顔真っ赤にしてぎこちない挨拶をするアイリーンさんに、それ以上にぎこちない挨拶を返して殿下の方に顔を向ける。

澄ました顔で紅茶飲んでやがるよおいィィ!!選択の余地なんぞあるかー!!



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第十話 宴の前にもうひと説明

唐突に明かされた事実と選択肢のない就任要請の受諾。

ちょっと落ち着いてアイリーンさんと話したかった所だが、ウチの屋敷の連中舞い上がって大急ぎでパーティの準備始めたり、アイリーンさんをおめかしする為に回収して行きやがった。

「どいつもこいつも歌いながら作業してるんじゃないよ」

●ィズニー映画じゃないっつーの。

「殿下。騒がしい連中で申し訳ございません。」

「いえいえ、僕の近衛兵も一緒になってるんで同罪ですよ。もうちょっと説明させて貰って良いですか?」

殿下の言葉に応えて席に着くと、急に騒がしい声が聞こえなくなる。殿下が風の加護を使って無音の結界を作ってるのか?

「ちょっと機密事項が入るので結界を張りました。父や兄様達の様な派手な使い方は出来なくて情けない限りです」

「そんな事無いと思うけどなぁ。ちなみに機密って?」

「はい、アイリーンさんの出自の背景にも関わる事なんですが、順番にお話します。」

殿下の話を要約すると、以下の通り

①この領土は、長く隣国との戦いで疲弊していた事。その中で爺さんは自身も高レベルの魔術師かつ家族&領民&王国軍と連携して一番上手い事戦っていた辺境伯として評価されていた。

②が、30年程前に一大決戦で相手の主力の殆どを撃退した代わりに爺さんは家族と信頼する部下の殆どを失てしまった。

③だからこそ、その後に生まれた唯一の娘は自身から離れた所で育てたそうだ。

④そしてここ数年は後任探しと西の国との決着の方法を国王と話し合うと事が多かったらしい。

「ん、じゃあアイリーンさんを雇ったのは?」

「それは分かりません。先代ははぐらかしたそうなので。後継者を見つけて去る前に顔を見たかったのかもしれませんね。」

「じゃあ爺さんの後任の話は?」

「丁度貴方が代行を始めた頃に、先代から貴方を正式に後任に推したいという提案が有りました。王国側は悩みましたが、今回の実績でほぼ本決まってて、最終的にはさっき僕が決めました」

侯爵にも近い『辺境伯』を王子とは言え12歳の少年に任せてしまうとは・・・やっぱこの子アイドル扱いされてるだけじゃ無いんだな。

「ん・・・ちなみに『遠征軍』は今どうなってるの?」

「ここだけの話ですが、もう終わりました。第一王子が率いる通常の進撃を囮に、国王率いる精鋭軍100人が相手の王都を占拠しました。」

あまりに突拍子もない殿下の返答にこの間アイリーンさん直伝の『アホの子』を見る目で見てやる。

「ホントの事言ってるんですからアホの子を見る目は止めて下さい!荒唐無稽に思われるのは理解しますけどね。」

「おおう、って事はマジなのか」

怖っわ!国王こっわ!?

「勝負を決めたのは父の武力ですが、それを支えた長年の諜報力あっての結果です。敵の本丸の正確な情報無くて少数精鋭での制圧は出来ません」

「てっきり邪神を崇めてるっていうから本丸墜とそうとしたらラスボスが出てきそうなのに」

完全に元の世界のRPGのイメージでしゃべってしまう。殿下は

「実際、世間一般の人たちのイメージは恭介と同じだと思いますよ。でも実際はちょっと違いまして」

曰くこの国も隣国も他の国も、信仰する『守護神』たる神様はそれぞれ属性が違うだけでその力に大差はないそうだ。

国を護る『神』に信仰を捧げることで『神』は『神格』を維持、その見返りに王族に加護、国王には神の力を現世で顕現する為の『宝具』を授ける。

この魔法は『神威魔法』と言い、個人で天変地異レベルの威力を誇るらしい。この世界における戦略兵器と言える。

それ以外で祈りをささげるのは主に『五穀豊穣』や『無病息災』などの国民全体へのざっくりとした祈り。偶に病に伏した要人の回復を祈る事もあるらしいが、範囲の狭い願いの成功率はイマイチらしい。

肝心の隣国さんはこれを他国の災いや呪いなどの『邪な願い』を繰り返し、通常の祈りでは成功率が低いとみるや国民を必要以上に動員して無理やり祈らせるそうだ。要は『邪悪』なのは神じゃなくて王家とその行為で恩恵を受けてる僅かな連中だけってことか。

「えぇ、なぜそんな道に走ったのかはまた歴史と『時渡り』の伝承が絡む長い話ですがら、『聖剣の勇者』伝承とその後を調べると良いですよ」

ちょうど気になる所で話を切る。後は自分で本を読みなさいという事らしい。

「イジワルしてるわけじゃありませんよ。綺麗になったアイリーンさんを見てあげて下さい」

指パッチンと共に結界が解除されて、後ろを見るまでもなく、かなりの人数の気配を感じる。

さっきと同じ動作で振り向くと、青いドレスに身を包んだアイリーンさんが居た。

「その、こういう席縁が無くて、お母様のお古でお恥ずかしいのです・・・」

まーた、顔真っ赤で俯いてる。

「おれだってじーさんのおさがりだからお互い様だって。それよりレディ。踊って頂けますか?」

殿下の話聞きながら一個しかないとっておきの青バラ中心に青い花で作ったちっこい花束を渡す。

喜んでくれたのが泣きそうになりながらやっと笑顔を見せてくれる。この夜の臨時就任パーティは、その場にいる人間で間に合わせでやったにしては楽しくて良いパーティになった。

ストックの美味しいフルーツ全部持って行かれるわ、メイド軍団の『エンダーァァ!!』が喧しいわ、近衛兵の方々のちょっと危険な下ネタ入りまくりの宴会一発芸祭りに最初は温厚に笑ってた殿下の視線の温度が徐々に下がり、アイリーンさんとのユニゾン魔法で『超冷風の刑』に処されたりと数々のドタバタ劇は、記憶力高い殿下によりしっかりと後の世に俺の伝記の1シーンで描写されることになり、泣いて黒歴史の描写の軽減を嘆願する数名の騎士と、ドS顔でどうしようかと嗤う『殿下』の姿が確認されたというが、それはちょっと未来の話。

 

~翌日~

「せっかく良いパーティで夜は『お楽しみ』確定のハズだったのに、何でそんなボコボコにされてるんですか!?」

「いや、途中まではパーフェクトだったんだけど、『つい最近に知らされるまでじーさんの子供とは夢にも思わなかったから何か似てる所あるかな?』って話になって正直に『むっつりスケベな所?』って答えたら殺されそうになり候」

「やれやれ、魔法で治してあげますけど、後で公開説教です!」

肝心な所でイマイチ決まらない俺だった。

 




神に祈ってトントンの世界で祈らなかったら自然災害とか疫病大変そう。(小並盛)


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第十一話 王の凱旋

講和条約結んだら、国境の街で凱旋と俺の就任式(仮)を行うとの事で一月ぶりに国境の街を訪れる俺達。

ふだんはガラの悪い兵士や傭兵達があちこちで喧嘩OR女遊びOR酒の三択で所せましと暴れてる街なのだが、今回ば王の凱旋とあって皆、殆ど着た事が無いと思われる国境警備兵の標準服の姿で出歩いている。

「すっげ、別の街に来たみてぇ」と俺もアイリーンもビックリの変わり様である。

どの建物も国旗を掲揚して、いつも以上に露店が一杯出ててお祭りみたいな状態になってる。

多分、街の食堂のキッチンだけでは王国軍含めた人間の腹を満たせる料理を作り切れないから、簡単に作れる串焼き等の料理を屋台任せにしていると思われる。

「近衛でも行軍中の食事はストレス溜まる出来らしいですよ」とは殿下からの入れ知恵。

中央公園の広場に到着して馬車から降りて目に入った物は騎士!騎士!騎士!ベイリー殿下の近衛とはランクが明らかに違う強者の一団が三つに分かれて整列していた。

おそらく中央が国王直属、右が第一王子、左は騎士というには軽装な鎧の一団だけどなんの部隊だろ?指揮官の顔を見ようと列の先頭をみるとすっげーイケメンな男装の麗人が立っていた。

まぁ、服装が男性用なだけで髪もメイクも普通にしてるからベ●薔薇的な人では無さそう。

「はいはい、恭介さんの女性好きは良く分かりましたから、今は父、国王陛下との演説に集中してください!」

唐突に放たれた肘をモロに喰らってダウンしそうになる俺だが、小中学生の肘で倒れるわけには行かないと、何とか踏ん張る。頑張って殿下に着いて行くと最前列付近で殿下が足を止めた。

「第三王子ベイリー殿下、並びに新ヴァ―デン辺境伯『キョースケ・カタヤマ』様が到着なされた!これより陛下が皆に伝えたい言葉があると仰せだ。姿勢を正して拝聴せよ!!」

『ハハァッ!!』

陛下の傍にいる騎士(多分騎士団長)の言葉にピッタリと大きな声で返答する騎士達。

そして騎士達の声に呼応するように玉座(仮)から立ち上がる国王陛下こと「オンディーヌ14世」。御年55と聞いているけど、それを感じさせない精悍な顔立ちをしている。

ちなみにこの世界の王は即位と同時に「国名+XX世」という呼称になるそうで、即位前の元の名前は身内か即位前から親しい人間との間位でしか使われなくなるそうだ。

「まずは我が王家に使える勇敢な騎士団諸君、並びにこの街に生きる全ての戦士諸君に感謝を伝えたい」

離れてるはずの王の声が、近くから聞こえる・・・ってこれは『加護』を応用してるのか!?つーか言葉通りに捉えると、この街に居る人間全部に語り掛けてるのか!?

そこからは王に呼ばれて先日の一件を褒め殺して、王都に戻ってから正式に行われる叙勲式と一緒に俺の辺境伯への就任式が執り行われることが宣言された・・・までは規定ルートだったが、王様はここでとんでもない事を言いやがった。

「これはまだワシの思い付きの段階だが、既に嫁ぎ先が決まってる第一皇女以外から一名をヴァ―デン辺境伯と婚約させようと思っている」

え!?何それ聞いて無いんですけど~( ゚Д゚)。しかし、騎士や街の皆さんは完全に祝福ムードなので異論をはさむ等不可能な空気。あわてて殿下の方見ても『今は諦めて下さい』とばかりに首を横に振られた。

言いたい事言った後は街全体を会場にした慰労パーティが開かれ、騎士の皆様や街のお偉方・兵士に散々玩具にされ続けて、宴の始まりは正午位くらいだった筈が、解放されたのは日が落ち始めた頃。実に約6時間拘束されてた事になる。

~ 王族用の天幕の中 ~

「つ~か~れ~た~」

解放された所で、殿下の騎士に救出されて天幕内に案内される俺。

「お疲れ様です。・・・と言いたい所ですが戻って速攻アイリーンさんの膝枕とは良い身分ですね。」

メイド姿のアイリーンの膝の上でグッタリしてる俺に呆れた様子のベイリー殿下。

ちなみに、婚約決まってしばらくは普通の服着てメイド軍団から『若奥様』扱いされてたアイリーンだが、三日目位で『飽きた&若奥様扱いがうるさい&メイド長候補が居ない』という事でまだしばらくはメイドという立場を続けるらしい。

「王家のお姫様来るとか聞いて無いんですがががが」

「安心して下さい。父は王にして珍しく政略結婚せずに恋愛のみですから、綺麗な姫ばっかりですよ」

「そんな事は聞いてねぇぇぇ!!」

「はいはい、聞きたいのは理由ですよね。父の行動の理由は簡単ですよ。『未来の為』です。父と前辺境伯は個人的に親しく『戦友』と呼ぶべき関係でしたが、兄上と恭介さんは違いますから」

「そんなもんかねぇ?」

「そんなものです。それに皇女を輿入れということは恭介さんの評価が高いという事です。もっとも、父は政略結婚が嫌いなので、少し付き合って恋愛関係に発展しなかったらこの話は立ち消えになることでしょう」

お、今回はちゃんと回避ルートがある。つまりはそれとなく「結婚相手としてこれは無いな」と思わせれば良いのか!

「じゃあお見合いの席で『や●ないか?』を熱唱すれば完璧?」

「完璧ですけど・・・実行したらその日を命日にしてあげますね♪」

「殿下のお手を煩わす前に私がそのお役目実行します」

宴会芸でやったネタで嫌われる作戦は実行前に中止せざるを得なくなった。アイリーンのパウンドラッシュはUF●ファイター並みの威力を誇るのだ。(U●Cファイターのパウンド喰らったこと無いけど)



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第十二話 宴継続中:狼娘(リスティ)と恭介

「あ、そうだ!みんな正装してるならリスティ探さないと!」

南国でもないのにいっつも短パンとへそ出しキャミソール姿の狼娘を探し出して弄らねば!

「そういえば、広場には居なかった様に思えますね」

「リスティ?あぁ、恭介さんの『二号さん』でしたっけ?」

天幕を出ようとしていた俺に後ろからとんでもないデマ砲撃が突き刺さる。

「オイ!オイ!オイ!殿下さんよぉ?アンタの情報網を今日まで高く評価してたけど、買い被りだったみたいだナァ」

「不服なのは伝わりましたけど、そのチンピラみたいな声は何処から出てるんですか(汗。ちなみにアイリーンさんのご意見は?」

「え?殿下と同じ認識だったので本人の意思を聞いた上で館に招くつもりでしたけど」

なおも不服そうな表情の俺にアイリーンが追撃を入れて来る。

「最初は思いっきり騙されたらしいですけど、その後も『仲良く』してるじゃないですか。本当は恭介様が招くべきだと思いますよ」

ちゃんと男として責任取りなさいと言わんばかりの言い方だが、俺にも言い分はある。

「いやね、出会いは兎も角、結構気が合うからちょっと前に誘ったんだよ。でも『もっと強い雄と番にならないといけないから』って言われて振られてるの!」

「番・・・確かに亜人種の中でも狼種は『力』にこだわる傾向が強いと聞きます」

そうなんだよなー。年中戦いがあるこの街なら強い男に会えると思ったらしいが、リスティ以外の3人の警備主任を務める強者の男たちは全員既婚者。

それ以外の兵士達は中々お眼鏡にかなわなかったらしい。

「え!?振られてるのにあんなに『仲良く』してたんですか!?」

目を点にしてビックリしてるアイリーン。殿下いるとは言え『仲良く』とは随分柔らかく表現したものだ。えぇ、認めましょう。はい、振られてる女とこの間館帰る前に朝ギリギリまで『仲良く』してました~。

「開き直られても困りますけど・・・彼女、確かに奔放な人でしたけど、恭介様と知り合って以降は誰とも『仲良く』してないみたいですよ」

「変な話ですね、それだけ『仲良く』してるのに結婚は嫌って・・・迷信だと思ってましたけど、案外あの伝承は本当なのかな?」

ん!?伝承とはなんぞ?最近は殿下をgo●gleかテリー●ンの様に扱ってしまって申し訳ないが、興味が勝ってしまい説明に聞き入る。

「今でこそ人間と神の橋渡しは王家が行っていますが、昔の神はそれぞれの土地で知性の高い動物を神の使いとしていました。その動物が『神威魔法』で人に変身して、人と交わった結果が今の亜人種と言われています」

あー、だからこの世界で人魚とかの話は聞かないのか。

「で?伝承っていうのは?」

「さっき言った『神の使いと人』のカップルの殆どは神様に問題視されませんでした。ただし一組だけ特殊なケースが生まれたんです。『人間側も神の使い』というケースです」

「『巫女』とか『シスター』さんって事?」

「『巫女』が正解です。狼と彼女は隣の地域の代表だったので神が怒って『自由恋愛を禁じて自分より強い雄との間にしか子供が出来ない』呪いを掛けられたと言います。」

あれ?神って個人攻撃苦手と違うの?、

「この場合は縁がある相手ですから特別です。ちなみに今の時代だと、王家が神格を保てない場合はかなりキツい呪いが掛かるらしいですよ」

「つまり、リスティがその末裔だから頑なに『強い男』を探してるって事?」

「はっはー、恭介さん・・・頭に脳みそ入ってますか~?彼女は貴方と会ってからそれをして無いってアイリーンさんが言ってたでしょう。貴方の『加護』なら彼女を護るなんて簡単な事じゃ無いですか!!」

おや?なんか殿下の言葉が、説明から俺を非難する言い方に変わってる。

「俺って『加護』持ってるの?」

思わず漏れた言葉に目が点になる殿下。

「『時渡り』の人って持ってるのが当たり前じゃ無いんですか?」

「いや、『図鑑』には丁寧な説明書付いてたけど、俺自身への説明は何も無かったな」

強いて言えば俺一人だけ頭撫でられたっけ・・・まさかあの時にオマケして貰ったのか。

「なるほど・・・神様ってのはつくづく大雑把ですね」

曰く、俺の加護は『家族や身内を保護する力』に見えるそうな。元の世界の言葉にすると『家内安全』って所だろうか。

「でもこれで呪いなんて防げるの!?」

「神は争いを徹底的に避けますから、前例から考えれば間違いなく効果を無くすと思いますよ」

「って事は天幕に聞き耳立ててる狼娘捕獲して口説き治せば万事解決か」

入り口でビクッと動くちっこい人影を先手必勝で捕獲して抱え上げる。

ひとたび地面を蹴って走り出したら止まらない獣人も、地面から足を話したら無力な物である。やっぱり白の軍服が似合わなくて笑いを堪えるのが大変。

「はーなーしーてー!私は自分より強い雄を探さないといけないんだから!」

「だったらここの近衛兵誰か誘えば良いだけだろ?話聞いてたなら俺の『加護』が有効かすぐ試そうぜ」

そう言って殿下とアイリーンに手を振って天幕から出て宿屋街に繰り出した。

 

~ 神様鑑賞中 ~

「いや、しかし当人じゃ無くて子孫に呪いかけるとか器小さい神だなぁ」

「ちなみに、その神様はこの事件から程なくして神格を失ったようですね」

「そりゃ何よりだ。軽い気持ちで『家内安全』の加護付けたけど、彼の力になったようで何よりだ」

「いやいや、上からお小言あったの忘れないで下さいよ」

「どうせ『次』なんてそうそうねーよ。3か月位しか経ってないのに80%脱落してるんだから」

「加えて言うと、残り10%が来世地獄行きコースですから、天使としては悲しい気持ちになります」

「『特典』以外の委細を話すことは禁じされてるから精一杯の抜け穴として『良い人生になる事を祈っています』って別れの挨拶を殆どの天使がしてるのになぁ」

肩を落とす天使を見ながら、恭介はそうなって欲しく無いなぁと願う神様であった。

 




「最初思いっきり騙された」=初期の頃、じーさんと娼館街でブイブイいわせて調子乗ってる時に『リスティちゃん17歳』を自力ナンパ成功したと勘違いして、後で大恥をかいた。
以後、その辺は自重するようになった+『リスティちゃん17歳』より素のリスティの方が何だかんだ気が合ったので関係が発展。

思うまんま書いてたのでアイリーンとの出会いとかこの辺も書こうと思ってます。


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第十三話 一難去ってまた一難 決闘とか出来ませんが何か?

結論から言えば、リスティの『呪い』とやらはあっさりと解呪された。俺は経過報告と確認の為に殿下の天幕に戻って来た。

何をやったかと言われると、説明に困るけど・・・ただ抱きしめて口説いてキスしたら『加護』の対象にリスティが入った感じがしたのと同時に、彼女を取り巻いてた黒いモヤが消えるのが見えた。

「これで『呪い』は消えたと考えて良いんですかね?殿下」

「『加護』を自覚した事で対象がちゃんと分かるようになったんですね。もちろん恭介さんがそう感じたのならその感覚は正しいと思いますよ。一瞬で消えたのは、相手の『神格』が既に無い証拠ですね」

『神格』

神様が神様として信仰させることで世界じゃら与えられる格付けだそうで、現代では『大国を護る守護神』が神として認識されている。

古代だとそれぞれの細かい土地の高位精霊等を神として崇めていたらしい。しかし村が町に、町が街に、そしてそれを束ねる英雄により、国家が形成される中で神様の数は『一国一神』という流れがスタンダードになったそうだ。

ちなみに『神格』を失うと紙だろうが石碑だろうが人の記憶に至るまで「名前」が失われるらしい

「どうせ消えるなら『呪い』も自動的に消えれば良いのに」

「『呪い』というのは厄介なんですよ。もちろん『神格』と一緒に消える事例もあります。嫉妬深い神様だったんでしょうね」

肩を竦めて予想を述べる殿下。あれ?そもそも・・・

「リスティのご先祖様の誰か一人が誰かの『加護』の庇護下に入れば済んだんじゃ?もしくは教会とかで解呪してもらうとか」

「その意見は最もですが・・・ハードルが高いと思いますね。『加護』は戦闘技術をほしがる人が多いですから。『呪い』の解呪は高等技術の上に『神』からとなると聖女でも難しいかと」

「何故!?」

『加護』にしろ『転生特典』にしろ、世界は違っても人が求めるものは似通ってくるらしい。それは兎も角として、教会がそもそも対応不可能とは驚きだ。

「教会の人間が使う『神聖魔法』は神とは言いつつ、『天使』の力を借りる魔法だからです。だから、呪文唱えて簡単に解呪とは行かないんです」

あ、そうか。神の力借りてたら『神威魔法』になっちまう。

「じゃあ教会が祈り捧げる『神様』ってどちら様?」

「所謂この世界の頂点に座する『主神』と呼ばれる神様ですね。名前が無いのは『恐れ多い』からと言われていますね」

ふーむ、成程成程、これで大体疑問は解決したかな。リスティもここの引継ぎ終わったら俺の『護衛』として館に来る事を約束してくれたので一件落着といえるだろう。

「という事で、滅茶苦茶顔面殴られたから回復して貰って良い?」

「宿屋街行くまで持たずに、公園の中で堂々とキスしてたらそりゃ殴られるでしょう」

それまで黙ってたアイリーンが呆れた顔と目で追撃してるのが非常に痛い。はい、前回の終わりから天幕戻って来るまで10分とかかっておりません。

~ 10分後 ~

治療を受けながらアイリーンのお小言を喰らいまくって10分程経過した所で天幕の外が騒がしくなってることに気付く。

いや、元々騒がしかったけど・・・これは何と言うか『トラブル』の気配がする。

「やれやれ、幾ら無礼講とは言え王族の天幕近くで騒ぐとは・・・アイリーンさん、ウチの腑抜け連中で対処出来なかったら『パウンド地獄』お願いして良いですか?」

おいおい、人のメイド勝手に使わないで・・・っておまゆうの視線&ノリノリのアイリーンに黙殺される俺。

3人で外に出ると、殿下の近衛兵3名が必死で押さえつけようとしてるのを一人で突き進もうとする騎士さんが居た。

「我は王国軍第三軍歩兵軍団長『アルベルト・モロー』辺境伯に決闘を申しこーむ!!」

「「「おやめください!モローどのぉぉ」」」

殿下の近衛は細身の人間が多いから、アメフトのラインマンみてーなあの騎士さんを止めるのはちょっと無理かな。

「所であの人は何をしたいんだ?」

「残念ながら万能説明係になってる僕でも、酔っ払いの胸中は説明出来ないんですよ」

頭抱えて明後日の方向見てそんな事を言う殿下。

しかし何でまた俺と決闘?俺戦闘力あんまり無いけど?

首を捻ってると吹っ飛ばされた近衛一人が詳細な情報を教えてくれた

「ど、どうやら『ヴァネッサ・メルバーン』嬢が辺境伯に輿入れするという噂が広まってまして・・・『厄介なファン筆頭』の彼が酒もあってあの有様でして」

(。´・ω・)ん?ヴァネッサちゃんってそんなに人気者なの?

「はい、母親は南国で有名な踊り子でして、その娘さんであるヴァネッサ嬢も容姿端麗の上で舞も美しいので、人気者で引く手数多らしいですよ。本人と子爵のガードが硬くて殆ど面会もかなわないと聞いてます」

はー、やっぱりあの子は特別だったんだ~アイリーンでも普通に足長いと思うのに、それを軽々こえてたもんな~。

「殿下殿下、ちなみにウチのアイリーンさんは館のメイド達に『足を長くする方法』を相談した結果、バケツ持って廊下に立たされるという面白エピソードがって痛い痛い痛い!!」

すげぇローキックが右足を襲うが、面白い話を続ける為に構わず続ける。

「しかも、何やってるのか聞いたら『こんな事して足長くなるんでしょうか』って怒られてることに気付いてないというってマジで痛いから止めて~!!」

とうとう耐え切れずに屈する俺とめっちゃ笑ってる殿下。

そして顔を真っ赤にしたアイリーンの怒りの矛先は『アルベルト・モロー』さんへ

「き・さ・ま・のせいかー-!!」

「いや、どうせそのうち披露されてたと思いますけど」

「流石は殿下、俺って人間の事分かってるじゃないですか(キリッ」

「褒めてませんよ。そういうエピソードは許可を取ってからにして下さいね」

強烈なタックルから氷魔法で体を固めてからの鬼パウンドの音と悲鳴をBGMにそんな呑気なやり取りをしてる俺達だった・・・ってまた輿入れ!?



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第十四話 知らぬ間に・外堀埋まる・辺境伯

6年前特例で12歳での魔術アカデミーへの入学を許された少女『アイリーン』はただひたすらに戦闘力の向上を求める修羅だったらしい。

魔法の才能もさることながら、体術と絡めた1 on 1で無類の強さを誇った彼女は在学4年中3年間は魔法戦技術の部門の主席。最後の年度では総合の主席を獲得するという快挙を果たした。

アカデミー内の誰もが、王国軍か宮廷魔術師になると確信していたが、彼女は、唐突に辺境伯家に連れていかれ、後にメイドとして働くことになったという知らせに皆が驚愕したそうな。

「うわ~、我ながら良く今日まで生き永らえて来たな俺。流石はアカデミー時代『氷の鉄槌』として恐れられてたアイリーンさんや!」

殿下の近衛兵によるレフリーストップに救われて、仲間に抱えられて去って行くアルベルトさんの背中を見送りながらしみじみと呟く。

「本当っぽい嘘は止めて下さい。そんなあだ名付けられてません!!それにしてもヤな感じの方々ですね。非礼も詫びずに去って行くなんて」

「謝罪出来ないでしょあの有様じゃ・・・確かに彼の取り巻きも全員ガラ悪かったけど・・・」

スゲー睨まれたせいで誰かの陰に隠れたくなる衝動に駆られたが、よくよく考えれば、アイリーンの鬼パウンドの恐怖に比べればどうという事はないので堂々振舞う事が出来た。

「ヴァネッサちゃん好きにしても行き過ぎただろ・・・どこの世界も厄介なファンは居るもんだな」

(そんな身持ちお堅い女の子と思わなかったからな~)

「あの時は時間が無いからすぐに出発しましたけど・・・一晩あったら絶対にヴァネッサの部屋行ってましたよね」

ジト目で言ってくるアイリーンの視線が痛いけど、俺は動じずにはぐらかす。(ローキックははぐらかせないので泣きそうだけどorz)

「まぁ、恭介さんはピンと来ないでしょうけど、凄い人気なんですよ。でも気にすることもありませんよ。本人も当主も乗り気な縁談なんですから」

「あの子煩悩そうな子爵さんが乗り気!?」

「いやいや、ヴァネッサ嬢も17ですから、認めた人間が居れば即決しますよ。ちなみに父が王家との縁談の話を宣言しなければ大量の縁談が来たと思いますよ」

あれ?そう言えばメルバーン邸行った時は俺はまだ正式に就任してた訳じゃないのに、せっかち過ぎない?さらに言えば・・

「何で殿下がそんな情報をご存じなのか・・・ってまさか!?」

王国諜報部驚異の調査力なのかと戦慄する構えをとったが、殿下のため息を見るに違うらしい。

「そんな力あったら先日の一件は起きてませんよ。単純に侯爵家以上(辺境伯も含む)の婚姻には王都の貴族院でチェックが入るから聞いただけです。王都でも嘆いている人多いですから、正式な叙勲で王都来た際は気をつけてくださいね」

気を付けろと言われても・・・どうしろと言うのか。アイドルや可愛い娘にいきなり好かれるなろう系主人公に憧れた事もあったけど命の危険はノーサンキューでござる。

「叙勲を待たずに襲われたりしないだろうな俺」

「それは無いでしょう。彼らだって爵位は欲しいですから貴方を暗殺や襲撃して全部おじゃんなんてお間抜けしませんよ。きっと酒の勢いでしょう」

その後は特にトラブルも無く、夜通し宴は続いた。

「あれ?第三軍の司令官のにアイリーンさんスカウトされそうになって『彼女は私の婚約者なのでご遠慮下さい』とか言ってキスして盛り上がってのはトラブルに計上しないんですか」

うちの屋敷の連中の影響受けて『エンダァァ~!』を習得した殿下の近衛連中が喧しく歌い上げて、影響された出来上がってる騎士や街のみんなに囃し立てられたなんて事は無い。いいね?

兎も角、叙勲式が行われるのは2か月後らしいからゆっくりと『図鑑』を利用して落ち着いた実験が出来る・・・そう思ってた時期が俺にも有りました。

『何?この依頼書の山』

「あ、お帰りなさい。旦那様!これ全部植物関係で困ってる街や貴族からのお手紙だそうです。国外の貴族からのものも合ったよ♪」

赤を基調にした(多分この時代にしては珍しい)メイド服に身を包んだヴァネッサちゃんの姿と抱き着いてきた感触を楽しんだり姿にツッコミを入れる暇も無く、眼前の依頼書の山がもたらす仕事量に頭を抱える俺とアイリーンであった。



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改定 第一話『転生特典レース』

ちょっと何も考えずに書き過ぎたので、ここで改定してみました。
最初よりは良く描写できてると思うので読んで頂ければ幸いです。


俺の名前は片山恭介。年齢20の普通の大学生である・・・いや、正確には『だった』と言う方が正しいか。

 

何故なら俺は、ついさっき交通事故で死んだのである。

 

青信号を渡ってたら、暴走トラックが突入という異世界転生作品のテンプレートな死に方をしてしまった。いや、情けない事に全く動けなかった。

 

起きてしまったことはどうしようも無いとして、問題は俺が置かれている状況である。

 

ついさっきまで体の感触が無い、曖昧な感じだったのにいきなり五感が回復している。ケガもなさそうだ・・・

 

一瞬、『大きなケガせずに助かったでは?』等という甘い考えが過るが、前方で我先に前に進もうとダッシュしている方々の頭にある輪っかがその考えを否定する。

 

自分の頭部は見えないがおそらく俺も彼らとと同じく頭の上に死人の証(?)と思しき輪っかが付いているのだろう。

 

「そういや、みんな我先に前に行って・・・何を争ってるんだ?」

 

よくよく見ると、前方には机が並べられており、その上に置かれた武器や防具や本を皆が奪いあっている。

 

気に入った物を取ったやつは順次さらに奥に設置されているアニメでしか見た事無い転送ゲートっぽい所に向かって、ニコニコ笑顔の天使さんの案内でゲートから姿を消して行く。

 

「モシモシ、片山恭介さん?あなたも早く行かないと良い特典が無くなりますよ?それとも説明受けてませんか?」

 

争いに参加していない俺が気になったのか、天使さんの一人が声を掛けてくれた。

 

「わざわざありがとうございます。確かに説明は受けて無いんですけど、状況は見れば大体わかりますよ。皆、より良い『転生特典』を争ってるんですよね?」

 

「その通りです。しかし説明が無かったとは災難でしたね・・・というか分かってて行かないんですか?」

 

ビックリしてる天使さん。

 

「いや、人数分無いってことは無いと思うんで。『余り物には福がある』作戦で行こうと思ってます」

 

「確かに人数分有りますけど・・・こんな人初めてですよ」

 

そりゃカッコ良さげな剣や槍とか銃とか気になるけど、平和に生きてた俺にはどうせ扱えないだろうし、皆の様子をみるに武器系が残る可能性は低いので、魔導書や道具系が残る確率が高いと踏んでいる。

 

~5分経過~

 

俺を除く全員が『特典』を持ってゲート前に並んだので、俺も机の前に進む。

 

最初は人が多くて気が付かなかったが、なんか天使さんと比べて明らかに違うオーラ纏ってる人・・・ではなくおそらくは『神様』の前に立つ。

 

最後だからか手渡すつもりなのか、その手には『特典』と思しき本が有る。

 

「おう、若いの!20で交通事故とは災難だったな。これがお前さんの『特典』だ。残り物とはいえ立派な『神のアイテム』だからしっかり使いな!!」

 

がっしりとした手で俺の頭をわしゃわしゃと乱暴に撫でて『特典』を渡して来る。

 

「『植物図鑑』ですか?」

 

渡された本・・・というか『図鑑』のタイトルをそのまんま読み上げる。『植物図鑑』って聞くと一瞬ガッカリしそうになるけれど、異世界で使える確かな知識が有るというのは有難い。草も生えない荒れた土地に行かない限り、食べれる植物が分かれば大抵は何とかなるはずだ。最低でも毒草を自分で積むことも無いだろう。

 

「勿論ただの図鑑じゃないぜ。詳しくは『ヘルプ機能』を参照しな。転生先では達者に生きろよ!」

 

神様から励ましの言葉を貰ってちょっと感激・・・おっと、天使さんがゲートの列への移動を促してくれたので神様に一礼して列に並ぶ。

 

自分の番を待ちながらヘルプ機能を使用して、この『植物図鑑』の機能を把握する。

 

何でもこの『図鑑』は俺が元々住んでいた世界に存在する全ての植物を網羅しているそうで、俺の体力を引き換え(消費量は植物のレア度による)にして種or実物を召喚することが可能。

 

育成方法も基本的には記載されており、多少気候が本来の条件と違っても高い確率で育ってくれるらしい。

 

上手く使えば、異世界スローライフを実現できそうなアイテムでテンション上がる。なんで売れ残ったんだろ?タイトルからしてただの『図鑑』と判断されたのかな?

 

確かに図鑑から種や現物取り出せるなんて思わないよな。この辺りは神様のイタズラ心なのかな?

 

尚、行った世界の植物に関しては、一定の量を『蒐集』する事で『図鑑』に登録できるそうだ。

 

普通の野菜を作るのは低コストで行けるみたいだから、余程酷い場所じゃない限りは第二の人生即終了ってことは無さそうで安心した。

 

図鑑の機能把握に勤しんでたら、まだまだ先だと思っていた順番があっという間に来た。

 

「それではこのゲートをくぐり抜けたら貴方の新しい世界です。貴方の新しい人生が良い物になる事を祈っています」

 

「ありがとうございます。それでは ノシ」

 

天使さんに手を振ってゲートをくぐる。はてさて、どんな世界が待っているのやら。

 

~転生者が居なくなった会場~

 

「これで終いか・・・何時もの事だが、どうしようもない連中ばっかりだったな」

 

ゲートを見ながら『不慮の死を遂げた人を転生させる』業務を担当している『神』は嘆息する。

 

「強い武器を欲しがるのは自由だけど、それを手にしたら相応に修羅の世界に送られるって発想は無いのかね?」

 

「ちょくちょく居ますよね、強い武器を手に入れて、数日で通常の『転生』する羽目になる人」

 

天使が相槌を打つ。実際、己の実力と『特典』のバランスを取れなかったばかりに、転生早々に無茶をして『普通の転生』をする人間は後を絶たない。

 

「後、悪行の限り尽くして普通に『地獄送り』になる奴。『死後』の世界を体験した上にやり直しというアドバンテージ得てるというのに・・・」

 

「まぁ、『地獄』云々はここの業務管轄外なので一々説明されませんからね。」

 

「説明なくても想像くらいしてもよさそうだけどな・・・その点、さっきの小僧はちょっとだけ他よりマシだったな」

 

「それですよ!それ!!良いんですか?一人だけ頭撫でた時に『加護』なんて与えて」

 

「大した『加護』じゃないから大丈夫だよ。『特典』を争わない人間なんて珍しいからな。暇つぶしにアイツの行き先の映像見ながら次の『特典』作りに取り掛かるか」

 

「はぁ・・・貴方様に与えられた権限内の事だから五月蠅く言いませんけどね」

 

ジト目で自信を見る天使を無視して『神』は自分の仕事に取り掛かった。



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第二話 異世界生活スタート・・・と思ったらゴーストタウン!?

ゲートを通ると、そこは誰もがイメージするファンタジーって感じの世界だった。

 

そこそこ大きな街なのか、中央通りの石畳もちゃんと整備されてるし、道幅も大きい。

 

自分自身の装備を確認すると、街ゆく人たちとそんなに変わらない服にお財布(というか皮袋)。中には金貨や銀貨がそこそこ入ってるので、まずは何か買って通貨の価値を調べないと。

 

「さしあたっては街を一通り回ってから今日の宿を探すか!」

 

~ 一時間後 ~

「活気無さすぎぃぃ!!」

 

一時間街を歩き回った正直な感想がこれである。

 

ちょっとメインストリートで開いてる店が少ないと思ったら、飲食店が殆ど開いておらず、開いてる他の店ですれ違う人間は口々に物価の高さにため息と不満を漏らしている。

 

「何だ何だ!?もしかしていきなりハードモード搾取型の領主が治める所に転送されてしまったのか?」

 

情報収集するべくさらに人の会話に耳を澄ました結果、おおよその事情が分かった。

 

前提として、この国は現在、魔族を崇める物騒な隣国と戦争中だそうで、国王率いる大遠征軍が隣国に向かう際にかなりの食料を持って行かれて食糧難に陥っているそうだ。

 

この領地は国の西側に位置しており、物騒な隣国と国境を接している。

 

そんな地方故に、住民も行政も食料の備蓄をしていない訳では無かったのだが・・・問題は軍が通常の備蓄を貰うだけでなく、兵隊を使って田畑から作物を強引に収穫した将軍が出たせいでこの先の収穫がお先真っ暗になった事である。

 

何考えてるのか『勝利の後、占領地にて使う』という意味不明な理由で種まで持って行ったらしい。

 

その為、野菜を含む食料の生産供給の先行き不安でこの領地全体が暗い雰囲気になっていたという事らしい。

 

「考えようによっては俺の能力を活かすチャンス!」

 

問題はより良く買ってくれる相手にアピールしたい所だが、急に空腹な事を自覚する。

 

「そういや元々腹ペコ状態で帰宅中だったな。まずは宿決めて飯を食おう」

 

碌に飲食店が開いて無いので、何か食べたい一心で宿屋街へと歩みを進める。ってちょっと待った。宿屋の前に街の風景にそぐわないめっちゃ綺麗なメイドさんがおる!?

 

ありゃ『クラシックメイド』ってやつだな。メイドさんなんてコスプレ喫茶位でしか見た事無いからな~しかも着てるのが滅茶苦茶な金髪の美人さんだから一瞬で目を奪われた。

 

「っと見とれてばかりは居られない。めっちゃ男に囲まれてるじゃん!?」

 

ちらっと状況を観察するに、露店やってる商人とその用心棒達と言い争っているようだ。商品が野菜な辺り、色々とお察しだな。

 

「今が商売時という考えは理解しますが、物には限度があります!!通常の3倍以上を吹っ掛けるなんて正気ですか?しかも解凍に別料金を取るなんて」

 

「嫌なら買わなきゃ良いんだよ。それに解凍に金払いたく無いなら自然解凍させて食えば良いのさ!たとえアンタの主人の辺境伯にでも文句言われる筋合いはないね!!」

 

大分近づいたから会話が良く聞こえる。それに野菜が凍ってるのと、後ろにローブと杖装備した魔法使いらしい男も見える。

 

(どれどれ・・・キャベツ一個銅貨一枚(約750円)とか高過ぎぃぃ!!)

 

これに解凍代まで取るとか商売じゃないだろ・・・本来生ものなのに魔法で長期保存できるのが強気の秘密かな?もしかしたら特別な魔法で魔法で解凍するまでずっとそのままの可能性もありえるな。

 

つーか辺境伯?聞きなれない爵位だけどメイドさんの服を見る限り上等な服っぽいし貴族だよな。売り込み半分、異世界で美人にカッコつけたい半分で話に割って入る。

 

「メイドさん。なら俺が同じ量の野菜をこの街の皆に売ってあげるよ。もちろん標準価格でね♪」

 

『図鑑』を手の上に出してざっと露店に出てる野菜と同じ量の野菜を次々に出現させる。

 

「とりあえずお近づきのしるしに、リンゴ一個どうぞ」

 

突然の事態に目を白黒させてる金髪碧眼メイドさんにリンゴを手渡しする。

 

つーか前世で円が無い位の美人さん過ぎてマジで直視するのがキツい。

 

背丈は176の俺がギリ勝って感じだから170位。それで居て小顔という埒外性生命体(=リアル8等身)。最初はクールな印象を抱いたけど、リンゴ渡された時に見せてくれたキョトンとした顔は可愛かったな。

 

メイドさんは暫し手渡されたリンゴを眺めると、一口齧った。

 

『ア、アイリーンさん!(さま)』

 

彼女の行動に、周囲の野次馬達が声を上げる。多分彼女はこの街では有名人なんだろう。周囲からは止めるように進言する声もあるが、無視してリンゴを齧るアイリーンさん。

 

「ごちそうさまでした。美味しいリンゴありがとうございました。この品質なら普通に2倍でも売れるかもしれませんね」

 

笑顔で言われたお礼の言葉と称賛がこそばゆい。やはり慣れないことはするもんじゃ無いな。

 

「ど、どういたしまして。そっちのアンタも食ってみなよ」

 

ちょっとこれ以上アイリーンさんを直視するとさっき気付いた豊満な胸部に目が行きそうになるので、商人の護衛の一人にリンゴを投げる。

 

「・・・確かに信じられん位上手い。全てこの品質なら、凍らせてしまったこの野菜では相手にならんな」

 

正直な感想と冷凍野菜への不満を吐き出す護衛さん。

 

「俺も買って良いのか?」

 

「ちゃんと並んだらな。」

 

悪徳商人を無視して、アイリーンさんに手伝って貰いながら急増の八百屋さんを始めた結果、終了時にはかなり疲労したけど、商人を撤退させる事と、護衛の人達の切り離しには成功した。

 

その後、彼女の誘いを受けて、辺境伯のお屋敷に招かれる事になったのだが、馬車に乗り込ん暫くして、大問題が発生した。

 

「腹減ってるの忘れてた」

 

めっちゃドでかく腹を鳴らした挙句、断じて故意では無いけど・・・アイリーンさんの膝の上に乗っかった所で意識を手放してしまった。

 

後に皆から『ギルティ』と言われたけど、断じて違うと言いたい。何にも覚えて無いんだっつーのorz

 

 

 

~神様監視中~

 

「・・・ギルティ」

「良い事したんだから多めに見てあげましょうよ・・・ギルティ」



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第三話 『辺境伯』との邂逅。どんどんスローライフから離れてる件

意識が戻ったっと思ったら、偉いデカくて豪勢な食卓で出される料理を山賊のように食い散らかしてた(;^_^Aこれは恥ずかしい。

正直腹が減り過ぎていて、今までの記憶が全く無い。

俺の前方の席には車いすに乗った老人と、それを支えるメイドさん・・しかも滅茶苦茶色っぽいエルフさん。

横にはアイリーンさんが控えてて、俺の食事の世話をしてくれている。

「おや?ようやく私に気付いてくれたね。この館の主でありカイル・ヴァ―デン辺境伯だ」

「あ、片山恭介・・・いや、『キョースケ・カタヤマ』です。お見苦しい姿で申し訳ありません」

「気にしないでくれ。この国の『辺境伯』は特別でね。中央から離れているから貴族特有の舞踏会とかもあまりやらないし、私自身も貴族の生まれでは無いから他の貴族からは毛嫌いされている」

え!?そうなの?

「そうとも。元々この領地の殆どは私が若き日に先代の国王陛下と若き日の現陛下と共に隣国との戦争の結果獲得した領土でね」

40年ほど前に挑発的な小競り合いを国境沿いで仕掛けて来た隣国に対して国境警備の担当者だった若き日のカイルさんがキレて逆に相手の国境付近の村に乗り込んだ。

そこで見たあまりに酷い隣国の貴族による搾取に苦しむ人々を見かねて当時の国王に進言して征伐に動いたそうだ。

「そうして私がここを治めるようになって40年。私なりに領民に以前よりは安定した生活を提供出来たと自負している。

が、連中は思ったよりしつこくてね。見ての通り私は後継者を得られぬままこの年まで来てしまった。」

カイルさんが身を粉にして戦ってきた40年に報いるために、現国王は征伐軍を編成して現在、国境の街を超えて隣国に侵攻中だそうだ。

しかし、現在起きているのは王国軍(正確には本隊から遅れて王都を出た補給部隊)による辺境伯領民への略奪行為。

街であの有様だと、町や村だともっとこの混乱でダメージを受けている所が多いのではないだろうか?

「被害については部下を領内に走らせている。被害状況を把握次第、君の『時渡りの神器』の力を借りてこの事態に対処したいと考えている」

「いや、えーとこれは俺の召喚魔法でして~」

「あぁ、誤魔化しは不要だよ。実はこの世界には『前例』が合ってね。吟遊詩人たちは君たちの事を『時渡り』と呼称して物語を紡いている」

あー、なるほど。あの『転生特典レース』って定期的に行われてる行事だったのか。

「ちなみにウチのアイリーンは『時渡り伝承』の大ファンでね。キミの補佐に付けるから宜しく頼む。

ひとまず部下の情報が纏まるまではアイリーンからこの世界の常識を学んでくれ。」

そういうとメイドエルフさんに連れられてカイルさんは去って行った。こっちの返事位聞いて欲しいもんである。

・・・もっともめっちゃ横で期待のまなざし向けて来るアイリーンさん相手に断るという選択は不可能かもしれないけどさ。

 

~ 一週間後 ~

「ちょっとアイリーンさんや?これは何かね?」

「はい、恭介様のお召し物になります。東方の服とは大分異なりますから着慣れないとは思いますが。辺境伯の代行を行う以上はそれなりの服を召して頂かないと」

いや、俺が言ってるのは眼前に並ぶ高級服の山では無く、机上に光る純金製のヴァ―デン辺境伯の紋章バッチの事なんですけどどどど!?

後、東方の服とやらもあんまり馴染み無いですorz。

「俺はじーさんの手伝いするだけじゃなかったっけ?」

「嬉しくないのですか?食客で終わる所が辺境伯の代行ですよ!!」

そりゃ普通の人は嬉しいかもしれんけど!

「辺境伯領って滅茶苦茶広いじゃんか!?いきなりこんな領土の領主なんて荷が重いわ!!」

『辺境』って文言で侮ってたけど、領土・領民・税収どれも半端無いんですけど!?ホントにこれ一回の戦争で奪った領地なの?

寧ろこれだけの土地を失った西の国とやらはよく40年も持ってるもんだと感心する。

小心者の俺としては、できればもうちょい小さい所から始めたい所存。

「その領地が今、食糧危機で崩れそうになっているんです。この危機を救えるのは恭介様の『図鑑』だけです!旦那様が後継者に考えるのは不思議な事ではないと思います」

元々『時渡り伝承マニア』のアイリーンさん、この一週間『図鑑』の能力を見て俺の株が急上昇らしく、興奮気味に持論を述べる。

確かに今回の暴挙が国王に伝われば処分はされてもかなり先の事になるだろう。事は食料の問題なだけに普通の領主さんには解決が難しいかもしれない。

「それに小さな領地からなんて仰ってますが・・・これだけの種を作れてしまう『図鑑』を持ってたら直ぐにパンクしますよ?」

一週間かけて召喚した領内各地に送る為の大量の種を仕分けしてる他のメイドさん達を指さす彼女に返す言葉が無くなる。

現物に比べて種はコストが大分低いので、概ね要望通りの数を生産出来てしまった。

「それに恭介様の体力からして農業の実労働はあまり出来ないでしょうから、労働力が一杯あるこのポジションを確保するべきです!」

目をキラキラさせながら追撃で人の弱点を抉ってくる。ええ、認めましょう。農業侮ってすいませんでしたァァァ!!

ヤケクソ気味に叫んでたらメイドさん達から五月蠅いだのイチャイチャするなだの超文句言われた。

あれ?もしかしてこの能力ってスローライフに収まらないヤバい能力なんじゃ?

と思い始めたけど、あらかじめ頼んでおいたアップルパイ(当然リンゴは『図鑑』製)とアイリーンさんの淹れた紅茶が美味しすぎたので頭の隅っこに追いやった。



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第四話 休養と俺付きのメイドさん達との日々

屋敷の前に大量に並んでいた数台の荷馬車が夜明けと同時に次々と出発する。これで昨日メイドさん達が仕分けした種が辺境伯内の農家に配られるはずだ。

「これでひとまず先行き不安は無くなるだろう・・・ってあれ!?」

唐突に視界が揺れて後ろに立ってたアイリーンさんにぶつかりそうになって支えられる。厚い生地の服の上からでも推定90以上あるバストは存在感がある。

「大丈夫ですか!?朝から顔色が優れないような気はしていましたが・・・特に酷くなっていますね。失礼します」

何事か早口&小声でつぶやくと漫画の戦闘キャラばりに赤色のオーラを纏った彼女が俺をお姫様だっこで俺を部屋のベッドまであっという間に運んでしまった。

「いやぁ、済まないねぇ」

ベットに放り込まれながら呟いた(つもり)の謝罪は彼女に届いただろうか?それを確かめることも出来ずに俺は強烈な眠気に意識を手放した。

(生憎と知ってる天井だなぁ)

なんてアホな感想を考えられる程度には体が楽になっている。そばにはエルフのメイド長とアイリーンが居て、何事か話している。

「見た所、病気というより過労のようね。秘薬で応急処置はしたけれど、ちゃんと休むことね。例の『図鑑』が主な原因でしょうけど、夜にカイルと遊びに行ってるからよ。しばらくこの代行さんを夜遊び行かせちゃダメよ」

「ありがとうございました。後は私が責任を持って看病します!」

そして俺の世話役メイド軍団(主にアイリーン)による看護(監視)体制が始まった。

体調自体は一日休んで大体回復したのに、アイリーンを筆頭に俺付きのメイドさん達によるジェットストリー●アタックが開始された。

~その①~

「あの、アイリーンさんや?なぜ手つなぎ添い寝!?」

「恭介様を逃がさない為です。お気になさらず、存分にお休み下さい」

気にしないとか無理やろー-(心の中で絶叫)

~その②~

「ねーねー、娼館なんて行く位なら私の踊り見てよー-!」

元気な声を挙げながら目の前で踊る褐色赤髪ツインテ少女の名前はヴァネッサちゃん(16)。アイリーンより小柄だけど、この子もまた埒外性生命体(=リアル8等身)だ。

普段のメイド服でも気になってたけど踊り子衣装のせいで足の長さが特に目立つ。

お母さんが此処より南の国で人気の踊り子さんで、この国の貴族に見初められて第×夫人として迎えられたそうな。

つまりは立派な貴族の子女なのだが・・・落ち着きが無いので指導と花嫁修業の一環でここの見習いメイドやってるそうだ。

踊りを終えるなりアイリーンと同じく手つなぎ添い寝を始める。

「お嫁さんに迎えてくれるなら手をだしてもいーよ♪」

なんて言ってるけど、ドアから発散される殺意とちらっと見える金髪を見る限り手を出すのはムリッすね(;^_^A

~その③~

「あの~自分、若旦那のこと結構好きなんで、癒しになるなら胸も尻も触って貰って全然OKなんスけど・・・そんなに尻尾触ってて楽しいっスか?」

続いて登場したのは狼獣人のリスティ。この娘はメイドというか、俺の護衛という位置づけになる。

メイド服ではなく、ショートパンツにへそ出しタンクトップという動きやすさ重視の服装。話によれば体術はかなりの物らしい。

ヴァネッサちゃんよりさらに小柄だけど破壊力高い胸を装備したケモミミ娘(18)。最初は小学生位かと思って接して、酷い怒りを買ったもんだ。

「ん~、俺の世界に獣人はいなかったから念願叶って幸せなんじゃ~(モフモフ)」

「・・・いや、若旦那が良いなら良いんですけどね」

銀色の綺麗な毛並みの尻尾をモフモフしてる俺を見ながら、何故か拗ねた声でそんな事を言うリスティだった。

 

三日ばかりそんな生活をして無事仕事に復帰。遅れて来た陳情の対応や『図鑑』のテストも始められそうだ。

「お、元気になったようだな!今夜快気祝いにどうだ?」

朝食の席で明るい声で誘ってくるじーさんだったが・・・背後のエルフメイドさんとアイリーンのプレッシャーに言葉を続ける事は出来なかった。

 

~神様監視中~

「え!?羨ましくて言葉も無いんだけど」

「定期的に神様達はそんなこと言って下界に転生して裕福な暮らしした挙句『ツマンネ』って言って帰って来るじゃ無いですか!?」

「隣の芝生は青いってやつだねぇ...( = =) トオイメ」




と、いうわけでキャラクターの出現タイミングを替えてみました。


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第五話 『図鑑』色々実験中、セーブ機能のお披露目

農家に次回作る為の種を配ったり、じーさんが減税の約束する書状を街町の長に送った影響か街中の混乱は収まりつつあるようだ。

例の補給部隊は徐々に国境沿いの街に集結しつつあるそうだ。それはまだ領内で山賊行為行ってる連中が居るという事に他ならないが、一旦連中の行為はスルーするというのがじーさんの意思だ。

「というわけで、今日は『図鑑』を使ってる間に気付いた新技を諸君に見せてやろう!!」

「諸君って・・・私しか居ませんけど?」

朝食後の食堂で宣言する俺にジト目でツッコむアイリーンはさておき、ボウルの中に大量のイチゴを作成する。

「アイリーン君、イチゴは好きかね?」

「ハイ!大好きです!!」

普段のクールさは何処へやら。ピョンピョン跳ねながら手を挙げて答えてくる。

「では、この中に違和感ある物が有るのに気付いたかな?」

「?どれも同じに見えますけど・・・あ!?これ、凄い大きい粒のイチゴがあります!」

「見つけたな。それを食べてみるがいい」

おれの言葉に従って大粒のイチゴを食べるアイリーン。数秒間フリーズしたかと思えばいきなり襟掴んでガクガク揺さぶられる。

「何ですかこのイチゴじゃないイチゴは!!普段出してる物と違い過ぎませんか?」

植物の種と実の現物を出してくれる『図鑑』だが、それはあくまで園芸店で買えるレベルの物まで。品種改良が行われた品は基本的に対象外である。

しかし、強くイメージすると偶に有名銘柄と思われるものが出現することに気付いた。

「でも、狙って出せないとなると困りものですね。果物だから冷凍すると味が落ちますし・・・」

ちょっとションボリしているアイリーン。だが、こんな事態を想定してなのか、図鑑の末尾に新しいページが生まれた。

縦横に線が引かれていて50個のマスに果物が表示されている。これに裏があるので最大100個の出力結果を『キープ』出来るのだ。具体的は主力時にレアが出るとキープか出力か図鑑に選択ボタン出るので押すか脳内で答えると選択した方をやってくれる。(ちなみに放置すると10秒で自動出力される)

「ちょいとアイリーンさんや?何故に裏のページを開こうとしているんでしょうか?」

「どうせ恭介様の事だから裏には女の子口説く時用の花をキープしてるんじゃないかと予測したので確かめようと・・・」

ヤメテ!俺の心を読まないで!!ぶっちゃけ予想通りなので賄賂(この世界では珍しい桃)を姫に献上することで許しを請う。(桃は栽培が難しいからか結構コスト高いが仕方ない)

桃を美味しそうに食べてるアイリーンを眺めてると、匂いに釣られたのか、食堂の入り口に目を閉じて鼻を嗅いで歩いてるリスティが通りかかる。

「あー!アイリーンさんズルいっスよ!一人だけ若旦那から桃貰うなんて!」

馬鹿デカい声で叫ぶものだから、あっという間に食堂が人だらけになって、桃祭りを強要される羽目になった。ちなみにダメ元で高級品種イメージしたら、1つだけ修験したので小さく切って主要メンバーで食べたら最初のアイリーンと同じ反応のリピートになった。

ちなみに、残念なことに種の場合は高級品種は出て来ないようだ。ロイヤリティを払わないとダメなのかも分からんね。

 

そんな平和な一時が、慌てて入って来た赤紙ツインテメイドのヴァネッサちゃんによって破られる。

「大変!大変!!ウチの実家が大変なの!恭介様助けて」

ダッシュで俺に接近して手紙を見せて来る。どれどれ、差出人は彼女の実家の「メルバーン子爵」から。

「どうせ作物を補給部隊に取られたんだろ?俺が補填支援すれば・・・ってサイロの干草丸ごと取られた!?」

いやいやいや、サイロってあのレンガ造りのドでかいやつでしょ?

どう考えても馬車の部隊で持って行ける量ではない。じーさんと話し合って、俺とアイリーンとヴァネッサで現場に赴く事になった。

リスティは、補給部隊が集結してる国境近くの街に一足先に連中の様子を探りに出る事になった。

じーさんに確認したが、牧場から草を大量に持って行くなんて事案は確認されていない。どうなってるんだ?

 



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第六話 消えた牧草。牧場を救え!!

ヴァネッサちゃんの実家である「メルバーン子爵家」は、辺境伯領で一番農耕に向いている土地一帯の管理を任されている貴族だ。

先代は西の国の農家の代表の一人で、じーさんと先代国王の進行に力を貸したことで武功を挙げて爵位を得たらしい。

二代目の現当主からは完全に牧場&農場経営に注力してる。

中々のやり手らしく、上手くリソースを使って大量生産を実現して、領土持ちの貴族顔負けの豪邸を構えているらしい。

ある意味俺が最初描いた理想を自分の手一つて成功させている尊敬すべき人物だ。

「パパってあんまり顔良く無いけど、凄いモテるよ!なんたって私のママ落とせるんだから♡」

とは娘からのメルバーン子爵評である。右手で作ってた〇マーク(お金持ち)は見なかった事にしておこう。

「zzz~待っててね~牛さん、馬さん。直ぐに恭介が助けてくれるから~zzz」

「えらく具体的な寝言だなオイ!」

最初は実家を心配してか真剣な表情を見せていたが、昼食用のサンドイッチを食べるなり速攻寝始めるヴァネッサちゃんの様子に苦笑いしながら、外の風景を見る。

補給部隊によって荒れた田畑を耕している農民の姿が多く見える。もう、子爵が管理する土地に入ったらしい。

っていうかデカ!?屋敷でっか!?

遥か先に見える建物の大きさにビックリする。領主であるじーさんの屋敷よりデカくねー?

「いや、辺境伯邸は今半分以下しか使ってないからそう感じるだけです。しれぶメルバーン子爵家は大家族でもありますから」

その数何と奥さん6人に10女6男だそうな。そりゃデカい豪邸が必要になるわな。

遠目では気が付かなかったが、やはりと言うべきが、たくさんの人があわただしく動いている。

眠ったまんまのヴァネッサちゃんを背負って馬車から降りたら、歓迎の為に出て来た『メルバーン子爵家一同』様が皆目を点にしてこっちを見てる。

あれ?俺の服装なんかおかしい所あったかね?

「いや、服では無くて背負ってる『装備』に問題があります」

やれやれといった感じでツッコんで来るアイリーン。

「も、申し訳ございませー-ん。」

顔面蒼白でダッシュからのジャンピング土下座スタイルで謝罪を始める子爵を宥めるのに苦労した。イカンイカン、ついつい普段の感覚で居眠り娘を運んでしまった。

ヴァネッサちゃんは別室で兄弟&母親連合にこってり絞れられているみたいなので放っておいて、案内された貴賓室で子爵と被害の詳細を教えて貰う。

「ご存じの通り、ここから草や食材を持って行ったのは王国軍の第二補給部隊です。彼らは滅多に発行されない『戦時下特例権』を持ち出して当家に協力を要請してきました。おかしいとは思いましたが、馬車の数もそれほど無かったので楽観視していたのですが・・・」

 

「実際は大量に物資を持って行かれたと・・・筆頭は家畜や馬に必要な青草、干し草・・・と言うわけですか?」

「はい。どうやって複数のサイロの干し草を持って行ったのかは皆目見当もつかないのですが、彼らは妙な置き土産を残していまして・・・」

一枚の画用紙が目の前に差し出される。そこに書かれているのは干し草を撒いて束ねられた物体、現代社会で言う所の『ロールベールサイレージ』ってやつだ。

ひとつで350キロ以上はある物を作った挙句にわざわざ置いて行ったのか?

「どうも、99個以上は彼らには不要だったようで、他にも無くなった物を調べると99以上持って行かれるものはありませんでした」

・・・オイオイオイ、マジですか・・・転送魔法という線はコストの面でハナから無いと魔法アカデミー元主席のアイリーンが太鼓判を押していたから予想していなかった訳じゃ無いが・・・

「どうやら恭介様以外に『時渡り』が居るようですね」

アイリーンの言葉に頷く。まさか転生特典持ちが同じ世界に来ることが有ろうとは・・・

 

~神様鑑賞中~

 

「マジか・・・確かに一々重複チェックなんてしてないけど、相当なレアケースだな」

 

「調べてみたら、10年前に転生した『先輩』さんですね。出来たら転生者同士の戦いは見たくないのですが」

 

「戦いと言っても『植物図鑑』と『道具袋』・・・吟遊詩人が依頼されたらキレそうな具材だな」

 

「神様は当然、恭介さんを応援するんですよね?」

 

「あんな綺麗な娘さん達・・・じゃなかった、牧場運営を妨害して結果周辺住民を苦しめるなぞ言語道断!坊主には代行としてしっかり働いて貰いたいね!」

 

「結局怒りポイントは『女の子』なんですね。神様なんだから好きに2人目3人目娶れば良いじゃ無いですか?」

 

「ウチ、奥さんが怖すぎて・・・」

 

「ア、ハイ」

 

神様も色々世知辛いと知る天使さんであった。

 



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第七話 二人目の『時渡り』の影

この世界には俺の様に異世界から来た人間(通称『時渡り』)が所持する不思議なアイテムを持って成した偉業を伝承として吟遊詩人たちが語り継いでいる。

しかしその多くは単純に新たな発明を理解できてない人々に『時渡り』扱いされたものであったりハナから作り話というのが殆どらしい。

実話を元にしているのは2つ。『聖剣を持って邪竜を打ち取った勇者』、『異形の生物を操って国を乗っ取った悪王』どちらも強力な戦闘力を持つ神器だったようだが、この二つは随分時代が違ったらしい。

だから勝手に『時渡り』は同じ世界に二人同時に現れないと思ってたけど、この状況からして今回はそうでは無いらしい。

今回の首謀者が持つアイテムは恐らく生前の世界で人気だった某RPGゲームプレイヤーが使用する『謎の容量を持つ道具袋』だと推測される。

コテージだろうが剣だろうが同じ名前のアイテムを99個入れられるという、よくよく考えたら凄いアイテムだ。

恐らく一度袋に入れたら重量関係なくなるからサイロ一杯の草も仕訳け方を変えて詰め込んだんだろう。

アイリーンとメルバーン子爵に俺の予想を説明した所、子爵は常識完全無視のこ『時渡りアイテム』の力にかなり驚いた様子だった。

「しかし、これは困った。野菜やら作物の種はどうにか『図鑑』で補填出来たけど、この量は補填できないぞ。どうにか相手から奪い返さないと」

幸いなことに非常用の干し草はあるらしいが、当然全てを賄って冬を越すことなど出来ない量なので早く回収しないと『間引き』を考えないといけなくなる。

一度システム化した物が狂うと元に戻すのは難しい。この辺境伯領の畜産も担ってるここが崩れる事は何としても阻止しないと。

「そもそもこの部隊ってどの貴族が率いてるの?」

「第一王子の直轄で実際に部隊を統率しているのは『ヒューム伯爵家』になります。」

アイリーンの詳細説明によると、国の首都からすこし北上した所に、メルバーン領とは比較にならない規模の牧場&穀倉地帯を持つ貴族であり、国軍の第二補給部隊をほぼ自前で運営している。(第一部隊は近衛部隊が兼務)

「元々は第一王子と懇意にしてる家だったのですが最近は悪評が立っていて王子との関係も微妙な物になっているそうです」

「というと?」

「奥方と世継ぎの男子が次々と病死したという事情があるとはいえ、方々から若い貴族の子女を娶ろうとしているそうです。」

そこで子爵がおずおずと手を挙手する。

「実は、当家も年齢がヴァネッサ以下の年齢の娘3人に打診が来ておりまして・・・対応に苦慮している所です・・・」

被害者が目の前に居たー。ってヴァネッサ以下って17歳以下!?

さっき出迎え来てた子たちか!?いくら貴族でも結婚には早そうな子達だったぞ!?アイリーンに視線を向けると「伯爵は50半ばですね」というから第一王子も対応困ってるだろうな。

「アイリーン。ちょっと調べたい事があるから『早紙』出してくれる?」

『早紙』とは『伯爵』以上の貴族に与えられる国の諜報部への依頼書兼回答書である。この世界の転送魔法は一般的に固定された箇所間ならさほど難易度は高くないが、片方が固定されて無いと難易度が跳ね上がるそうだ。

それを実現しているのがこの魔道具。造形としては羊皮紙に小さな宝石(魔力が込められた魔石)が埋め込まれてるだけの代物。仕組みは以下の通り。

①羊皮紙に質問書いてサインを書くと、羊皮紙が諜報部に転送される。書いた人の手元には魔石だけが残る。

②しばらくすると回答が魔石の持ち主に転送されて来る。

「はい、此方に」

小型の『アイテムボックス』から取り出した羊皮紙とペンをテーブル上に用意すると一礼して席を立って俺の後ろに立つ。

アイリーンの仕草に釣られてメルバーンまで立ち上がってピシッと直立不動になってしまう。

いや、そんなに畏まらないでと笑いそうになる自分を必死に抑えてペンを走らせる。

問い合わせ内容は『ヒューム伯爵家で勤続10年以上になる人の情報』。ヒューム伯の周囲で変化が合ったのが10年前なら、あっちの『転生者』はその辺りで彼に近づき、当主一人を残して元々居た『家族』と『部下』を残らず『始末』したんじゃないか?

ハズレたらアイリーンからキツいお小言ラッシュだけど、これに関しては確信に近いものがある。

サインをすると、羊皮紙が青い光に包まれて消えて、俺の手の中に青く光る『魔石』だけが残る。

待つこと約5分。返事の羊皮紙が転送されて来た。

「ふーん、やっぱりここ十年で長らく使えてた人間も次々と消えてる。で、残ってるのが10年くらい前から入った人間一人。今は部隊の長だってさ」

紙をアイリーンに渡して、先に国境の街に行ってるリスティへの連絡を頼む。

「どうみても日本人顔なのに『ジョージ・マケイン』とは・・・『ジョウジマ・ケイ』って所だろうな。作れるだけ草作って明日向かおう」

「どうかよろしくお願い致します!お二人の堂々たる所作、若き日の辺境伯様を思い出しましたぞ!!」

あぁ、そっち!?

「嬉しいけど複雑だなぁ。凄い人物なのは分かるけど、俺的には年甲斐無く遊んでるじーさんにしか見えないけど」

「それは昔からですよ。かくいう私も昔は・・・」

そこまで言った所で子爵が急に口ごもる。ってアイリーンの視線が大分キツい!?、子爵にアイコンタクトして一緒に倉庫に退散する。

まずは草を用意しないと。ちなみにかなり疲れたけど1週間くらいは持ちそうな牧草を出すことが出来た。

俺の能力を見て、何故かテンションアゲアゲになった子爵が夕食の席で偉い豪華な食事で俺達をもてなして上機嫌に語るもんだから嬉しいやら恥ずかしいやら。

酒が入ってからはもはや緊張感もクソもなくて、子爵家の子女の玩具にされたり、不機嫌になったアイリーンへの対応に大わらわになったり大変だった。

調子に乗ってヴァネッサは踊り始めるし・・・しかし、元々気付いてはいたけど足なっが&踊ってる間だけ色っぽい。普段アホ面晒して居眠りしまくってる姿をスマホで撮影して子爵家の皆さんに共有できないのが口惜しい限りである。

「結局また俺がおぶって部屋に連れて行くのかよ」

「残念でしたね~コブが居るせいで手が出せなくて」

結局、ほぼ全員酔っ払いになってしまったので俺がヴァネッサちゃんを送る事になった次第なんだけど・・・いやいや、そんな事しないってアイリーンも酔ってて若干面倒な人になってる(汗。

明日か明後日には補給部隊とはいえ王国軍と一戦交えるかもしれないのにこの調子で大丈夫だろうか?

 



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第八話 移動中だからこそ緊張感ない駄弁りをたのしむべし

お久しぶりの投稿になります。


あーさーがーきーたー。

他の皆ほど酒を飲まなかったせいか気分も良いし、天気も最高!

夜明け前よりちょっと早く起きたから、アイリーンの寝室いけばワンチャン普段クール装ってる我が専属メイドが寝ぼけてる姿を見れる可能背が微レ存!

早起きしした時の謎の全能感と思い付きのままに素早く着替えてダッシュで部屋を出るが・・・

「いや、ノーチャンスですけど、何か?」

待ち構えてたアイリーンにアイアンクローで捕獲されて、馬車まで強制連行されました。

親しき中にも礼儀ありって事ですね。(白目)

朝こちらが出発した段階では本命は国境の街には着いていないそうだが、昨日あたりからちらほらと補給部隊の面々が集結しているらしい。

皆の見立てでは昼前には到着する見込みらしい。

早速馬車で出発するわけだが・・・はっや!こんなスピードで走らせて馬持つの?しかもスピードの割に揺れが小さい気がする

「屋敷下の街で馬を替えるから問題ありません。ちなみに揺れが小さいのは魔道具のおかげです。」

ついでに調整にはセンスが居るらしく、馬車の揺れぐらいで腕利きの魔導士を抱えられる力ある貴族か否かを見極める事ができるらしい。

「屋敷のデカさで分かってたけど、見た目以上に子爵はすげーんだな」

業務重視の為か、ちょっと屋敷と農業施設やら倉庫やらが近くてごちゃごちゃした建物の配置ではあった物の、かなり金がかかる建物だったのは分かる。

「つーか、あの大きさは辺境伯屋敷負ける一歩手前なんじゃ?」

「えーと・・・大きな誤解があるみたいですが、我々が今使ってるお屋敷は別館です。元々は迎賓館だったそうですよ」

「えっ!?」

ここで今まで全然知らんかった事実のカミングアウトが来た。迎賓館ですと!?

「じゃあ本館は?」

「丘を少し上がった場所にありますよ。館だけで我々が今使ってるお屋敷の5倍は広さがあります。」

ちなみに辺境伯屋敷は城下街の少し上の丘の上に位置している。確かに今の場所が天辺じゃないとは思ってたけど上に巨大な本館があるとは・・・。

「屋敷の規模の割に使用人が多いと思ったらそう言う事か・・・」

「辺境伯をなんだと思ってたんですか・・・もうっ」

まだ国境の街まで距離があるのでサンドイッチ食いながら雑談に花を咲かす事にする。

「しかしそんなにデカい建物あるとは知らなかったな」

「今の館や下の街からは直接見えにくい位置ですからね。本館から見たら裏山の陰に位置してるので」

「せっかく豪華なのに何でそんな見えにくい位置に?」

「全て話すと長い話になりますが・・・元々、西の国との戦いが最初に落ち着いたのが館のある丘だったそうです。」

戦線が一回膠着した段階で、先王は若き日のじーさんを辺境伯に任命することを宣言し、丘の上に敵側から見える豪華絢爛な屋敷を建築して自国の力と富を誇示したらしい。

やってる事が完全に小田原城を包囲した秀吉である。

「でも、そんなことしたら遠距離魔法で壊されるんじゃないの?」

「そこは魔法を防御する魔法もありますので、デカいからといって簡単に壊せる訳ではありません。」

かくて高地を奪ったじーさんと先王を戦局を優位に進めて領土拡大に成功したそうな・・・・

「この一件が片付いたらご案内しますね。『辺境伯なんて荷が重い』なんて言えなくなりますよ」

めっちゃ可愛いウインクしても辺境伯相続の件は納得しとらんぜよ!?しかしここで疑問が一つ。

「丘の上の豪邸って・・・実は不便じゃね?」

率直な疑問に対してアイリーンは明後日の方向を見るこて「良い景色ですね♪」なんて話を逸らす対応で応えた。

やはり、丘の上の豪邸は住みにくいらしい。



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第九話 あれ?なろう小説的な初バトルは???

お昼ごろに辺境伯屋敷下の街に着いた所で替えの馬車に乗り換える・・・のだがおかしなことが一つ。

「馬車一台の交換に使用人多すぎじゃね?」

エルフメイド長さん筆頭に年齢層高めのメンバーが集結してて、馬車から降りた俺に労いや期待の言葉を掛けてくれる。

いきなり大勢の大人にこんな言葉を矢継ぎ早に掛けられるという前世では未体験の事態に脳がバグってしまい、思わず

「やめてくれよ、普段は夜のお店で●●●してる癖に~(メイドと一緒に夫婦で勤めてる執事さん)」

などどいうアクロバティックな照れ隠しをしてしまったせいで、そばに居た奥さんメイドが修羅と化して和やかな雰囲気が一瞬で修羅場になってしまった(;^_^A

そのせいで、またもアイリーンに修羅場からアイアンクローで強制退場させられてしまった。

「うーむ、なぜこうなった?」

「恭介様が何時も脊髄反射で喋るからです!!」

ちゃうねん!ただの照れ隠しやねん!と良い訳する暇も無く馬車に放り込まれてしまったで候。

「気を取り直して、国境の街のこっち側の戦力って十分なの?戦争に持って行かれたりしてない?」

メイドさん達から渡された昼飯食べながら、念のために懸案点を質問すると、意外な回答が返って来た。

「力での実力行使の戦力はもちろん問題ありません。しかし、今回はとある理由で別の方法を使うつもりです。相手を殺してしまっては意味がありませんので」

「???そりゃ生け捕りが一番だけど・・理由って何?」

「もちろん確証は無いのですが、『時渡りが扱う道具は持ち主の死亡と同時にこの世界から消滅する』という定説があります」

なんでも実話の一つとされる『聖剣』は勇者が亡くなる直前まで普通に息子が使用していたらしいのだが、勇者が亡くなると同時に消えてなくなったらしい。

勇者を擁する国は必死に隠し通そうとしたが、公衆の面前で剣が消えてしまった為にあっという間に世界中に情報が拡散してしまったらしい。

もう一方の『魔導書』については自身の悪行が災いして最後は連合国による国王5人の神威魔法連打というフルボッコを喰らって居城が跡形もなく消し飛んだそうなので参考にはならないそうな。

しかし、この二つの神器が残ってたりしたら、絶対使うやつが現れるはずなのでこの話はかなり信ぴょう性が高いとみて良いだろう。

『図鑑』のヘルプ機能をみてもそんな記述は無いけれど、これはあくまで『使い方』のヘルプでしか無いってことだろう。

「理由は分かったけど、どうやって捕えるつもりなの?」

「リスティが街で対象の噂を調査した所、一方的に熱を上げてる娼館の娘がいるらしく・・・その娘に協力を依頼して捕獲するつもりです。」

おおう、なんというピンポイントで刺さりそうな作戦。しかも一方的というのが泣ける。いや、そうしう産業なのは死ぬほど分かってるけど!?

「でも任務中なのに夜遊びするのかね?」

「当人の話だと任務中なのに店に来ることもしょっちゅうだそうなので確率はかなり高いと思いますよ。ダメならなるべく手勢が少ない所で奇襲ですね。どちらにしろリスティが上手くやりますよ」

おや?

「え!?俺のすることは?」

「特にありませんね。しいて言えば王軍の前線に送る為の物資が失逸したときの補填位でしょうか」

「ちなみに、相手を断罪、糾弾するシーンとかは?」

「それ、裁判の席で良く無いですか?」

ぐうの音も出ない正論に反抗する為に、食後のデザートにストックしてたイチゴを『図鑑』から出して一人で食べようとする。

18歳の専属美人メイドを相手に本気の取っ組み合いをしてイチゴを奪い合う主人公の姿がそこにはあった。

もちろん負けた。俺にカッコいい対決シーンは無理かもわからんね。



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第十話 あっけない勝利と予想外の展開

「農場から移動してきただけなのに、何故そんなボロボロになってるんっすか?」

国境の街に着いて合流してリスティから呆れた口調で言われて言葉も無い。(正確には喋る元気がない)

一方のアイリーンと来たらノーダメージですました顔で俺の後ろに控えている。

さっき凄い形相でイチゴを奪ってきたあのシーンを撮影できるスマホとかデジカメをこの世界に持って来ることが出来なかったのが残念でならない。

「俺のダメージはさておいて、状況は?」

「バッチリですよ♪こちらをご覧あれ」

どや顔ウインクでしながら取り出りたのは一見なんの変哲もない川の袋。でも俺は直感でこれが自分の『図鑑』と同じものである事を感じる。

「ちなみに既に牧草は全部街の倉庫に格納済みです」

「え!?もうそこまでやってるの?有難いけどさ!!」

詳しく話を聞くと、お気に入りの娘からの手紙を受け取るなり、一人で昼間はあまり人気のない娼館に向かった所を捕獲したそうな。

その後、どうやって言う事を聞かせたのかは深い追及は避ける。

何せ長年に渡り戦争と小競り合いを繰り返していた最前線。スパイや敵兵から情報引き出したり懐柔したりするノウハウは幾らでもあるはずだ。

その辺りのダーティな話はあえてスルーして聞きたい情報だけを聞く。

「一応軍人のクセにちょっと捕えてヤキ入れたら簡単に言いなりになりましたよ」

可愛い顔して悪い顔になってるリスティに苦笑いしながら手渡された『袋』のリストを見るが・・・想像以上にエグい内容に戦慄する。

辺境伯領各地から搾り取った異常な量の食料のみならず、金品が大量にリストに載っている。そして明らかに異質を放つ項目が一つ。

「大量にある建物の名前は何?」                                            

原典にあるコテージやテントに始まり、家やら蔵やらがあるってどういう事だ?

「いや、それがですね・・・」

途端に表情を暗くして歯切れが悪くなるリスティ。

さらに話を聞くと、恐るべきことに『袋』は建物ごと人を閉じ込めることが出来るらしく、

『ヒューム伯爵家』の子女達が取り出した建物の中から見つかったそうだ。

「人質にして好き勝手を始めた訳か・・・でもそれだけで済むわけないよな」

そこから先の話は・・・自分で促しておいて何だけど、あまり愉快な物では無かった。

人身売買に輸出禁止な希少動物等を大量に保有していたそうな。街の広い公園はその『被害者達』への対応で野戦病院状態らしい。

きちんと耳を澄ませば、街の入り口からでも大分慌ただしい人の動きと喧騒が感じ取れる。

「まさか建物に入れれば『生き物』ごとを格納できるとは・・・」

原典にそんな機能は無かった筈なので、俺の品種改良品を出すのと同じく追加で実装された機能なのだろう。

殺せば『袋』ごと中身が消失の可能性大とあっては伯爵もどうしようも無かっただろう。

「他の輸送部隊の連中はどうしてる?」

「殆どは娼館や飲み屋で頃酔い潰されてると思うッス。その他の留守番連中は自分と街の守備隊で捕縛済みです」

何でもここ数年ガラが悪くなって軍隊として練度が低いと悪評が他くなっているこの第二補給部隊は簡単に捕えることが出来たらしい。

まぁ、そもそもトップが任務中に娼館に行ってしまうんだから下の連中のモラルも推して知るべしって感じか。

「良し、ここ数年で隊の連中が変わってる事実と併せて全員真っ黒だからそのまま牢に入れてくれ。問題は補給部隊の荷をどうするかだよなぁ・・・」

袋以外の普通に運んで来た荷物だって約3万単位の軍の補給なんだから相当な量だ。

「言うまでもありませんが一々検品している余裕はありません」

「分かってるけどさ~こんな連中の食料を前線に運んでいいか考え物だよな~」

やっぱり俺が馬車馬のようになって食料を供給するしかないか・・・

領内に種を送るのとは訳が違う未体験ゾーンの稼働を覚悟していると、リスティが五指のポシェットからやたらと豪華な封蝋付きの手紙を差し出して来た。

「誰からの手紙・・・ってこの封蝋は王家のじゃん!?」

「はい、こっちに向かう直前に諜報部を名乗る人に渡されました。前線に居る国王陛下からだそうです」

え!?俺が国の諜報部のお力借りて調査してから殆ど1日しかたってないのに王から手紙来るってどういうこと!?



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第十一話 王の手紙と後始末

明けましておめでとうございます&お久しぶりです。



渡された手紙の封をナイフで切って中身を確認する。

前世では全く偉い人から手紙を受け取るなんて機会は無かったから相手がこの場に居るわけでも無いのに緊張する。

「どれどれ、どんな事が書かれているのかな・・・」

こらこらアイリーンとリスティさんや、後ろからのぞき込もうとするんじゃありません。

見せないように避けようかとも思ったけどその必要は無かった。あまりにも文章が短かったからだ。

定型の挨拶文が終わると指示が2つ。

ひとつめは街にいる被害者の対応は王国軍が行うので引き継いでほしいとの事。

ふたつめは屋敷に戻って今回の事態に関する損害額を算定されたしとの事。

読み終えるなり、街の門から数名の王国軍の兵士さんが姿を見せた。

屋敷下の街でも王国軍の兵士を見かけたことが有るけど、彼らとは纏ってる雰囲気と鎧の装飾が違う。

「はい、恭介様が考えている通り、彼らは王家直属の近衛騎士です」

聞かなくても補足してくれるアイリーンはマジ有能。これだけ手回し早いという事は向こうもこの件には疑念を持って網を張ってたか。

俺が求めた情報とリスティの動きをチェックしてればこのタイミングで近衛が出て来る素早さも納得できる。

「リスティ、ここは任せて良い?」

「良いッスけど・・・ちゃんとイチゴ一杯用意して下さいよー!!」

近衛騎士さん達にリスティを預けて国王陛下からの指示通り屋敷に戻るべく馬車にUターンする。

「所でアイリーンさんや?」

「なんでしょうか?」

「近衛騎士の隊長さんが俺の事を『代行』呼びしなかったんだけど・・・どういうこと?」

「詳細は良く分かりませんが、既に陛下と先代の間で話がついていたようですね。」

お祝いの言葉必要ですか?などどいうアイリーンの言葉に耳を塞いで聞こえないフリしつつ、辺境伯就任イベントを回避する手段が何かないかない頭を回転させる俺であった。

「しかし『ジョージ』先輩はこれからあの近衛兵達から取り調べ受けるのか・・・キツそうだなぁ」

だが。簡単に現状を覆す策など簡単に思いつくはずも無く、ただの雑談を始めてしまう俺。

「いえ、確かに彼らの取り調べは厳しい物でしょうが、私はリスティの方が厳しいと思いますよ」

「マジで!?」

意外な意見にビックリする。確かに辺境伯屋敷の用心棒的なポジションだから強いとは思ってたけど、軍人より評価が上とは・・・

「直接見た事はありませんが、彼女がこの領地に来て以来というもの、スパイや重犯罪が劇的に減ったのは数字でハッキリしています」

その数字たるや来る前と比較して50%!?一人でそんなに抑止力になるとかおかしいだろ!?

「背景には少し前までは年老いた上に世継ぎが決まっていなかった先代様を狙おうと考える勢力が多かったみたいです」

いや、過去形で言ってるけど世継ぎはまだ決まって無いんじゃないですかね!!(切実)

獣人の中でもレアな狼タイプの高い戦闘力を持つ彼女は戦闘の他に、相手の口を割らせるのが上手いそうな。

「強いのは分かってるつもりだったけど意外だったなぁ」

「昔はもっと尖ってましたから、最近のリスティの姿には驚きですよ」

その後はしばし尖ってた頃のリスティ談義で花を咲かせた。

後にリスティをこのネタで弄ったら、報復として尖ってた頃のアイリーンネタが提供されて地獄の争いが勃発してのはご愛敬。



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第十二話 第一王子の憂鬱

恭介が国境の街から屋敷にトンボ帰りしている頃、最前線で戦う第一王子「ヘンリー・オンディーヌ」率いる第一軍は連戦連勝の快進撃を続けていた。

「オンディーヌ王国」は風の神を祭っている国であり、大陸の中央に位置している。

全方位他国から攻められる可能性があるが、建国以来領土を奪われた事がいちども無い堅守の国として有名である。

一方、対する西の国の名は「ザラマンドル王国」火の神を祭り、かつて『時渡りの剣聖』たる勇者が所属した事で、最盛期は大陸一の領土を誇っていた国である。

しかし、こちらは先代オンディーヌ王とカイル辺境伯の圧倒的戦闘力と不満が溜まっていた自国民に裏切られる形で大きく領土を失っていた。

先の戦争から時間がたっても一度失った国勢というものは中々回復せず、それが今までの戦いの結果として明らかになっている。

今日もオンディーヌ王国陣地では夕暮れ時に引き上げて戻って来たヘンリーを称える声で沸いている。

「やれやれ、毎日飽きもせずに良く騒げるな。飯を食ったらさっさと休んで欲しいのだが」

天幕に入り呆れたように副官に愚痴をこぼすヘンリー。年の頃は20半ば。180センチ越えの眉目秀麗な金髪碧眼の青年である。

「ごもっとですがお許しください。なにせここ数十年戦争が無かったので兵達も殿下のお見事な戦いぶりに高揚感を抑えられない者が多いのです」

かつての戦争を知る壮年の副官が苦笑いしながらフォローを入れる。

しかし、ヘンリーの表情には連日の格下相手への連戦での若干のモチベーションの低下が見え隠れしている。

「相手が弱すぎるだけだ。歴史に名を遺す火炎魔法騎士団・・・本当に形骸化しているようだな」

「前の戦争まではそこそこの戦力だったみたいですが、若き日の陛下とカイル辺境伯の前に敗れて以降は技術継承が上手く行かなかったようですな」

事前に諜報部から情報は得ていたものの、流石にここまで情報通りだと拍子抜けする。

「それに、戦は順調かもしれないが、こちらも問題を抱えている」

「補給部隊の造反の一件ですか・・・伯爵家のクーデターでは無さそうだったのが唯一の救いでしたな。」

「いや、それよりも俺が懸念しているのはここで父上が・・・」

ヘンリーの言葉は天幕内に慌てた様子で入って来た騎士達の声で中断させられる。

「殿下ー!たった今、国王陛下が近衛兵を連れて出陣されました!!」

王子は頭を抱えた。

「やはりこうなったか・・・急いで援軍を編成するぞ!」

「はっ!!」

急いで軍を再編成して夜間の強硬出撃をした兵士達が夜明けと共に、ボロボロになった城の城壁の上で近衛兵と酒盛りを始めてる国王の姿だった。

 

~ その頃の恭介 ~

とんぼ帰りを指示されたとはいえ夜間の移動は難しいのでは?

と思っていたら近衛の皆さんから夜間も移動できる馬車という明らかにバグってる馬車を提供されたので好意に甘えたが本当に快適でワロスw

アイリーンに起こされてるまで完全に寝てた。馬車ではありえん快適さだった。

「それは良いんだけどアイリーンさんや」

「わかりません」

「いやいや、俺史上最優秀専属メイドたるアイリーンさんならこれくらいの説明わけないでしょ?」

「それって私一人しかいませんよね!?」

いやーだって聞きたくなるでしょーよ。

勝手に爵位譲渡された挙句に屋敷もどったら王国の近衛兵の方々に占拠されてるんだから。



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第十三話 第三王子の訪問、事後処理開始

うーむ、この状況を何と言うべきか・・・

例えるなら勤め先の会社の警備員さんがただの制服から防弾チョッキにヘルメット被った重装備になってしまった感じ。

つまりは重装備の近衛兵の皆さんが館を警備してて滅茶苦茶ものものしい。

しかし、よくよく見れば元々のウチの館の門番も居る。

「ベテランのゴードンさんさえ居れば見劣りしないのに・・・今日はお休みかな?」

そんな事を考えながら門を通る時に状況を聞いたら、第三王子「ベイリー・オンディーヌ」殿下が来訪中との事。

近衛の皆さんが重武装なのは、一応戦時中の要人警護任務の際の決まりだそうで・・・

「ぶっちゃけ鎧脱いで警備したいッス((;^_^A」

という切実な本音を聞いて吹きそうになった。

国境で見た人たちに比べると大分親しみやすい雰囲気だ。ウチの屋敷と相性良いかもわからんね。

「ちなみに第三王子のベイリー殿下 IS 誰?」

「・・・そういえば話題に出したことが有りませんでしたね。第三王子にあたる御方で、去年10歳で社交界に現れて一気に注目を集めているそうですよ」

ちなみに、上の王子もそろってイケメンらしいが、あまり社交界の場に姿を見せないらしく、完全に高値の花扱いだそうな

貴賓室でお待ちとの事なので急いで向かう。

「はてさて、どんな人なのかな~っと」

迎賓館の扉を開けて近衛兵に囲まれてソファに座っていた少年と目が合う。

いやいやいや、金髪碧眼やらリアル8等身やらのアニメ外見の見目麗しい人物に見慣れたこの目を焦がさんばかりのキラキラした貴公子がそこには居た。

自分の目で見たものが信じられずにひとまず扉を締めてアイリーンに一言。

「ちょっと人外の生物が居て直視出来ません!!」

「ちょっと何言ってるのか分からないんでさっさと部屋に入って挨拶してください!」

慌てた近衛の人が内側から扉を開けたのとアイリーンのツッコミキックが上手い事コンビネーションとなって。

貴賓室にダイビングヘッドで突っ込む羽目になり、そのままゴロゴロと転がり、上下反転した司会で貴公子と対面するハメになった。

「こんなカッコで申し訳ありません。辺境伯代行務めてる片山恭介です」

「こちらこそ初めまして。オンディーヌ王国第三王子、ベイリー・オンディーヌです。既に伝わったうえでとぼけているみたいですが、もう貴方は『辺境伯』ですよ」

なんてこった!王子から直々に告げられてしまった以上は認めざるを得ない。

「ちょっとお待ち下さい殿下。ちょっくらじーさんと話つけてきますので」

マンガ走りで走り出そうとした俺だったが、瞬時にアイリーンのアイアンクローでキャッチされる。

「殿下に失礼ですから止めて下さい。それに、カイル様を探しても無駄です。」

「無駄って、じーさん居ないって事?」

「はい、屋敷に戻ってから使用人の年長メンバーが一人も見当たりません。」

言われてみればいつもは半々位のローテーションで見かけるのに今日に限って若い面子ばっかりで「王子の相手してるのかな?」とも思ったが、

貴賓室で応対してるメンバーは若手ばかり。エルフメイド長も昨日俺の暴露で奥さんにおっかけ回されてた執事長も見当たらない。

「アイリーンさんの言う通り、前辺境伯は古参の部下の方々と共にこの地を去ったそうです」

アイアンクローから解放されてロボットみたいにぎこちない動きで後ろを振り返ると置手紙らしきものを懐から取り出す殿下。

うすうす分かってはいたが、どうやら俺のスローライフ志望は木っ端みじんに打ち砕かれたらしい。



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第十四話 フルーツ接待祭り開催

何か事件のどさくさに紛れて雲隠れした前辺境伯ことカイルのじーさん。

ベイリー殿下曰く、元々後継者問題を解決次第隠居するという話は現国王と前々から進んでいた話だそうな。

「僕も正式に引継ぎをしてはどうかと提案してみたのですが・・・」

殿下の正論に対してじーさんは何とも軽い口調で『ダイジョブダイジョブ~♪』等と軽い口調で去って行ったそうだ。

まぁ、それ自体は俺が文句言ってた時の反応とほぼ同じだからあまり驚かないが・・・ストレスでも溜まってたのだろうか?

「引退って事は領内のどこかに隠居するって事?」

「それが一般的ですが、彼の場合は違うようです。国外にあるメイド長さんの実家にお世話になると言っていましたね」

あー、あのエルフメイドさんの地元?

エルフの悟って森の隠れ里的なイメージだけど・・・じーさん含めた年齢高めのメンツで大丈夫だろうか?

「きっと恭介様は森で苦労してる一行をイメージしてると思いますが、彼女の実家は人以外を中心にした亜種族の国家の上位貴族らしいので大丈夫ですよ」

良かった、定年後に地方移住して苦労するじーさんは居なかった!落ち着いたら収穫した果物を土産に持って行って文句の一つも言いに行こう。

「殿下は何故こちらに?」

まさかもう戦が終わったので凱旋の出迎えをする為に国境に向かう途中・・・な訳ないよなぁ。なろう系ラノベの主人公じゃあるまいし。

「父上から貴方を見極めるように仰せつかって来ました」

用は国王はじーさんを信頼しているから俺に辺境伯領を任せることを基本的には了承している。

しかし、今回の騒動の中で露見した『時渡り』の悪行に国王陛下は大きな関心を寄せてくれているそうな。

今回の事件が貴族・世間に拾って行く中で『時渡り』の俺がこのまま前任者の新任だけで就任すると騒ぎ出す外野の声が多くなるだろうと予想している。

「ホントにそんな事になるの?」

「基本的に暇人で野次馬根性強い方が多いですから、前任者の新任だけですと・・・確かに陛下の予想通りになるかもしれません」

でも住人からの新任もらえるでしょうから大丈夫ですとフォローしてくれるアイリーンさんマジ天使。

「僕もアイリーンさんと同意見ですね。まぁ、僕の社会勉強の一環みたいなものなのであまり構えないで下さい。」

出来れば『図鑑』の力を良く見たいとの事だが、種の力は直ぐに結果でるものじゃないしな・・・やはり手っ取り早いのはこれか

「辺境伯屋敷不定期開催のフルーツ祭り、はっじまっるよー!!!」

「合点承知しましたぁー!!」

教育チャンネルに出てきそうな俺の爽やかボイスと共に殿下の護衛をものともせずに部屋に突撃してくる辺境伯屋敷の若メイド部隊。

アイリーン以上に俺による文化汚染を受けてノリが良い娘達だ。あ、いつの間にかヴァネッサも戻って参加してるw

「凄い豪華な果物が出て来たのもビックリしたんですけど・・・それに対応して一瞬でテーブルと皿が用意されてるのは何故ですか?」

「当家のメイド特殊な訓練を受けておりまして・・・こういう事が稀に良くあります。普段の仕事がこれくらい早いと私の苦労が減るのですが・・・」

頭抱えてるアイリーンを他所におバカなノリでメイド達を指揮して殿下をもてなす準備を始める俺であった。



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第十五話 接待から久々のお茶会

「さぁさぁ寄ってらっしゃい見てらっしゃい!異世界産高級フルーツとケーキだよ食わなきゃ損だよぉ!」

図鑑から取り出した果物は即座に処理して皿に並べて貰い、まずは予め帰還時に俺達が食べる為にと用意して貰ってたケーキ類を前面に押し出す。

館のメイドを骨抜きにしたイチゴショートと和栗モンブランの二大巨頭に殿下と側近の毒見役が衝撃を受けたように夢中になって食べ始める。

「さぁ、この美味しいケーキを作りたるはァァァ!!前辺境伯邸のシェフ夫妻のの長女。黒髪ポニテ委員長風美少女!その名はぁぁクレア」

レニー・●ートさん張りの声でこの館の厨房主たるクレアちゃんの名前を高らかに叫ぼうとしたら眉間にすっごい裏拳が突き刺さって悶絶した。

「殿下の前なんだから少しは自重しなさい!恭介様の記憶から私たちが再現した異世界のお菓子です。存分にご賞味下さい」

普段はめったにみれない営業スマイル全開で対応してるクレアに抗議の声を上げる。

「いや、これはふざけてるわけじゃ無くてね、クレアの料理の腕前を殿下一行しらしめようと・・・」

「うーん、どうせなら素材の味が強いケーキじゃ無くて夕食でアピールして欲しいんだけど・・・とゆうか何故メモに隠れ巨乳だの安産型の良いお尻だの書いてあるわけ?」

最初は照れてて可愛かったのに、手にしたメモを見られた途端にスッゴイ怖い笑顔で詰められる。

「もちろん果物も美味しいですけど・・・このクリームと台座のカステラみたいな部分の味も見事ですよ。夕飯も楽しみにさせて頂きますね」

詰められてる俺に救いの天の声ならぬ殿下の声が投下された為に、クレアちゃんの制裁から逃れた俺はテーブルに近づいて別のメイドに指示を出す。

「続いては異世界の茶葉から作った紅茶を召し上がれ。提供するのわぁ」

体をかがめて再び叫ぼうとしたらやんわりかつ有無を言わせぬ魔法パワーで次のメイドに画面外へ弾かれる俺。

俺と入れ替わって優雅な仕草で殿下の前で一礼するのは異世界なら出羽のピンク色のツインテ髪が特徴的な小柄なメイドだった。

「縁あって辺境伯様のお世話になってあります。エリスと申します。我が主の神器から作り出した茶葉となります。どうぞご賞味くださいませ。」

挨拶と同じく優雅な仕草で紅茶を淹れるエリス。なんでも名のある貴族の末子らしいのだが、望まぬ厄介な婚約関係から彼女を護るためにじーさんが引き取ってる女の子だ。

最初は俺と同じく館の客人という扱いで、アイリーンが別の仕事で俺の傍に入れない時とかにこのせかいの常識の教育係&仕事の手伝いをやってくれていたりしたが、最近俺付きのメイドとなることを選択したそうな。

「これは香りも味も良い物ですね。でも『図鑑』から加工品は作れない以上。一から作るのは手間だったでしょう?」

「はい、さらに恭介様と来たら『何がケーキに合うかわからんから適当に試してみて』言って数十種類の茶葉を私とクレアさんに丸投げされてしまったのでそれはそれは苦労しましたわ」

そういえば葉っぱから紅茶にする過程の苦労をスッパリ抜け落ちてたから紅茶の知ってる名前適当に『図鑑』から生成して二人に丸投げした記憶が蘇る。

俺がエリスに平伏してお小言と代金と言う名の欲しい物メモ(買い物行く日時指定済み)を受け取ってる間に果物を処理し終えたクレアが盛り付けた皿をヴァネッサとアイリーンが皆さんに配って茶会が始まっていた。

「このイチゴのケーキすっごく美味しい!もっと食べたーい」

「今日はあんまり数が無いからダメ!今度たくさん作ってあげるから」

ブーブー文句を言ってるヴァネッサを制するクレア。おや?いつの間にか殿下の前に家臣の列が

「殿下・・・・長らくお世話になりました。ちょっと暇を頂いて再就職したい先が出来まして(キリッ」

「いや、キミたち近衛入った時点で終身雇用だから」

声にならない悲鳴を上げる一同。大丈夫か?王国近衛兵・・・

その後も目まぐるしくぎゃいのぎゃいの騒いでクレアが夕飯の準備あるからと撤収を宣言するまで続いた。

形としては殿下への接待だが、久々に皆とおバカなやり取りしてお茶とお菓子楽しめて良かった。

「問題はレア果物のストックが無くなったことだけどまあいい『早急に対策して下さい!』」

満場一致で言われてしまったので早急な対策が必要らしい。



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第十六話 図鑑能力アップの為の考察

さて、翌日からは陛下から依頼されてる被害額の算定作業が始まって居るのだが・・・ぶっちゃけまだ情報の取りまとめを屋敷の文官担当がやってる段階なのでやる事が無い。

なので昨日皆から要求されたレア果物の増産方法とか考えてみる。とはいえ図鑑使用時の消耗率は品種ごとに違うし可視化もされていないので効率的な運用は出来ていないのが実情である。

「ステータスオープン!とかいってMP見れたら楽なのに」

「恭介様・・・お疲れでしたらお部屋でお休みになりますか?」

「寝ぼけてるんだったらエリスの魔法で水ぶっ掛けてもらったら?」

可愛そうなものを見る目で優しい提案をしてくるエリスといつも通りツンの度合い強いクレア。あ、ちょっと閃いた!

「エリスって魔法得意だよな?」

「ええ、当然アイリーンさんにはとても敵いませんが」

「いや、今俺が聞きたいのは運用方法についてなんだ。その辺彼女に聞いても要領を得なくて」

何とは言っても普通の魔法なら特にMP切れとか起こさないと豪語する人間にMPやりくりの方法聞いても参考にならないのだ。

「確かに魔力は数値化が難しい物ですわね。一般的には自分の属性魔法の基礎魔法を何回連発出来るかを基準にしていますわ」

右手にソフトボール位の火の玉を出しながら説明してくれる。

「基準点を作るのか。通常の種とかを生産する時には計画立てやすくなるかな」

しかし、今一番欲しい情報は使用回数を増やす方法だ。

「と言われましても、恭介様が所望するような飲んで魔法力が回復するような薬は有りませんし・・・」

大体、体の成長が終わるのと同時に魔力量が固定されてしまって、そこから自力で回数が増えることはあまり無いそうな。

例外として、精霊等と契約することで上限を超える事が可能らしいが、契約コストや体の許容量を超える力を扱うリスクなどを考えるとお勧め出来ないらしい。

「後は緊急的に気付け薬を使うとかが有りますけど、焼け石に水ですわねぇ」

「ですなぁ」

美味しい紅茶を味わっても中々新しいアイデアは出て来ない。

「いっそのこと溢れる煩悩パワーをエネルギーにしてくれればいいのに!」

「あら大変!もしそうなったら館が果樹園になってしまいますわね」

「アンタや上級貴族の人間は三大欲求殆どMAXでみたしてるでしょーよ。そ・れ・と!いつまでも人のお尻触ってると夕飯干し肉にするわよ?」

アホな事言ったら今度はダブルツン口撃されてしまった。真っ昼間からセクハラはゴメンナサイ。それでも干し肉用意してくれるクレアちゃんマジ天使!

バカな事ばっか言ってないでちゃんと働きなさい!って真っ赤な顔で捨て台詞残して去って行くクレア。いや、まだ仕事が来ないのでこんなバカ話してるんですが。

「そしてエリスさんや?何故さっきまでクレアが居た場所に立つのでせう?紅茶のお代わりが欲しいのですが?」

「え?この場世に立てば恭介様に可愛がって頂けると聞きまして」

ダメです。キミまだ13でしょーよ。本人も当然分かってるから笑いながら離れて紅茶を淹れなおし始める。

「では魔法から一回離れてこういうのは如何でしょう?」

「古今東西あらゆる殿方にやる気を出させるのに有効な手段はただ一つ。『ご褒美』ですわ!!」

「ご褒美・・・・だと!?」

その甘い言葉の響きに浸ってる俺を他所に部屋の棚の一つから巻貝を取り出して持って来る。

「私たちメイドが毎日代わる代わる応援メッセージとご褒美を吹き込みますから、それでレア果実狙いで100個ほど作って試すと言うのは如何でしょう?」

「おぉ、なんかやる気が出そうな気がする。でも皆乗っかるかな?」

「誰も乗らないなら私の独り勝ちとして果物独り占めさせて頂きますわ」

アニメキャラ並みの決めウインクしてそんな強気な事をいうエリス。

結論から言えば。この試みでレア出現率がちょっとだけ上がった。

上昇率トップがエリスだったので、、超ドヤ顔してたけどその内容が『13歳にしては随分とおませなASMR(かなり柔らかい表現)』だと俺が自首したので、二人揃ってバケツもって廊下に立つ羽目になった。

「うーん、何で毎度毎度この屋敷は少し離れると不可思議な状況が広がってるんすか?」

国境から戻って来たリスティの呆れた声に俺は返す言葉が見当たらなかった。

 

 



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第十七話 久々にお仕事

小説情報にAIで作成したキャラ挿絵を乗っけてみました


かくかくしがじかと事情を説明したら、リスティにめっちゃ笑われた。

ひとしきり笑われた所で文官たちが書類持って来たので執務室でまじめに仕事を始める。

リスティは難しい話はパスと言ってお腹抱えながら去って行った。おのれ笑われた分、後で糖度抜いたイチゴ提供してやる。

執務室には俺とアイリーン&エリス、視察中のベイリー殿下と近衛2名。資料の内容を説明する文官さん4名の計10人で話が始まった。

久々に結構な長丁場の会議できつかったが、文官の苦労を考えるとせめてこの場で寝るとかの無様はされせない(さっきまで廊下に立たされていたけど)

「こちらが辺境伯領全体の請求予定額となります。」

文官の代表のケーラさんから説明が終わると、執務室には何とも言えない空気が流れる。

「すんごい額だけど・・・伯爵家とは言え払えるの?」

去年の辺境伯領の収益の3倍位の値段だけど。

「そう言われましても・・・過去の小さな事例と重ね合わせるとこれくらいの額になってしまいます。」

そりゃそうか。辺境伯領って滅茶苦茶広いもんな。西側の屋敷から国境の街いがい全部で略奪と田狩り行為が行われたとあってはこれ位になっても仕方ないか。

リスティからの報告で金品等についてはかなりの量を捌かれる前に確保できているとの報告が有り、これでも額は抑えている方らしい。

「殿下、俺はケーラさん含めた皆を信頼してるのでこのまま出そうと思ってますが、ぶっちゃけどうでしょうか?」

「僕も若輩なので金額の妥当性は良く分かりませんが、最終的に兄さま(第二王子)が落としどころを決めると思います。だから内外諸侯に舐められない額と言えるなら良いと思いますよ」

殿下からお墨付き貰ってホットするケーラさん。

皆の緊張がほぐれた所で手を叩いて外でスタンバイしてたクレアを呼んで、複数のレア素材を使ったフルーツタルトをご賞味頂く。

「はーい、私達より13歳の囁き声で頑張った薄情なご主人様のおかげで出来た美味しいタルトは此方でーす」

のっけからクレアのツンがMAXレベルで突き刺さる。いや、さっき罰は受けたじゃないっすかーっと言いたいが皆有無を言わせない目で睨んで来る。

「あらあら、エリスちゃんに出し抜かれたのを恭介様のせいにするなんて酷いメイド達ですね~あんな娘達より今夜は私と過ごしませんか?」

いきなりプライベートモードになったケーラさんが後ろから豊満なオッパイを押し付けながら抱きしめてそんな事を言ってくる。

ビキッ!!

聞こえる筈の無い時空の歪む音が聞こえて、殿下と配下の兵士はタルトを持ったまま風魔法で窓から逃げやがった。ずりぃ!

文官男性の皆様はいつも通りの事なので音が鳴る直前にエリスの手引きで部屋の外に退避している。

「貴方と恭介様が『仲良く』するのを一々咎めるつもりはありませんが、今夜はお忙しいので貴方の相手をする時間はありません」

ケーラさんに対抗して正面からにらみ合うアイリーン。

今日は薄い素材の服だからバスト90超えの胸に挟まれて、男としては夢のような状況のハズだが、頭上の二人が発生させてる時空のゆがみのせいで感触を楽しむどころではない。

助けを求めて残りのメイド様子をみても、クレアは勝手にしなさいとばかりにそっぽ向いてタルト食べてるし、エリスもクレアと一緒に状況を無視してタルトを美味しく頬張っている。

つまりは孤立無援である。

「夜誰を抱くか決めるのは『辺境伯』である恭介の勝手でしょ?メイド長になったからって奥様気取りってわけ?」

「まさか、我々が恭介様に何かを強制したことなど一度もありません。文官のトップを務める割には妄想癖が激しいみたいですね。」

ゴゴゴゴと空気が不穏になって行く中、唐突に執務室に入って来る人の気配。

「ちわーっす!会議終わったって聞いたので若を頂きに参上しましたー!」

全く空気を読むことなく2人の美女の胸に挟まれてた俺を捕獲した上でお姫様抱っこで窓から飛び出す。

「最近ご無沙汰だったから今日は若を半日もらい受けるッスー!!」

あっという間の出来事にポカーンとしてる才女2人の表情をカメラに収められないのが惜しいな~と思いながら、ジェットコースター以上の3次元浮遊体験を強制される羽目になった。

でもあのまま女の子のケンカが続くよりは良いか。



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