ハイスクールで「ブッ殺す!」~ペッシじゃないけど『ビーチ・ボーイ』~ (MISS MILK)
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プロローグ

ビーチ・ボーイを活躍させたかっただけの人生でした。


 突然だが、俺はハイスクールD×Dの世界に転生した。

 いきなり何言ってたんだコイツ、とは思うだろうがどうか聞いて欲しい。

 

 俺は前世でハイスクールD×Dというラノベを読んでいた。

 

 内容としては、主人公の兵藤一誠が、初めての彼女との初デートの際に堕天使だった彼女に殺されてしまい、その際、学園の先輩リアス・グレモリーによって救われて悪魔として転生する話だ。

 

 そういう訳で俺は今、ハイスクールD×Dの物語の舞台となる駒王町に居る。

 

 転生したとは言ったが、死因は派遣された出先で、車に乗っているときに暴走したトラックに巻き込まれて…………という感じだ。

 

 だがしかし、俺はハイスクールD×Dの舞台となる街、駒王町で生まれたのではなく、イタリアで生まれた。

 俺はイタリア生まれ、イタリア育ちなのだ。

 

 こうして今、駒王町に居るのも、父親の転勤で日本に来たからで、この世界がハイスクールD×Dの世界だと分かったのも、つい最近のこと。

 気付いた時にはメチャクチャ驚いた。

 

 ちなみに俺は今十四歳で、今年の十一月七日で十五になる。

 駒王学園内では、中等部三年生で、イタリアのジュニアリーハイスクールから転校して、中等部三年生の一組に組み込まれた。

 

 

 で、ここからが本題だ。

 

 

 この悪魔と天使と堕天使が蔓延る世界で、俺は「スタンド」を持っている。

 

 スタンド…………それは「ジョジョの奇妙な冒険」という漫画に出てくる能力のことだ。

 まったく作品や世界観が違う能力だが、俺はジョジョの奇妙な冒険の中に出てくるスタンド能力を持って転生していた。

 

 俺自身が気付いたのは六歳の頃。

 突如として右手に深緑色の竿が現れた。

 

 俺はこの竿に見覚えがあった。

 

 ジョジョの奇妙な冒険の第五部に登場する敵のスタンド、「ビーチ・ボーイ」だ。

 

 ビーチ・ボーイは竿型のスタンドで、物体を水のように透過する釣り針と糸で色々なものを釣り上げることが出来るスタンドだ。

 作中では使い手のペッシが、主人公たちの心臓や腕に引っ掛け、()()()()攻撃した。

 

 ああ…………一応言っておくが、俺はペッシのように頭がパイナップルのようではなく、見た目は普通だ。父親譲りのイタリア人の造形が整った顔立ちで、髪の色はなぜかペッシと同じで緑色だ。

 

 だが、この世界ではカラフルな髪色は結構メジャーなようで、割と赤や青、ピンクなど多種多様なヘアカラーの人がいる。

 

 

 

 ──────所で、だ。

 

 

 

 人外が多く生活する駒王町の駒王学園。

 そこへ通い始めた俺だが、何事もなく、一か月が経過していた。

 

 俺も何事もなく進む日常に安心しつつも、原作キャラや彼らの声優ボイスが聞けてホクホクしてたのだが…………。

 

 

 

「どうして…………?」

 

「あまりの恐怖に声を出ぬか。どれ一思いに殺してやる。動くなよ」

 

 

 

 今、俺の目の前には真っ黒な翼を生やした男が宙を滞空している。

 男は俺に向かって光の槍を振りかぶっているところで、俺はそれを茫然と見上げていた。

 

 俺はあの男性のことを知っていた。

 男の名はドーナシーク。主人公たる兵藤一誠を殺す堕天使レイナーレの部下だ。つまり、第一巻の中ボス的な奴だ。

 

 そして、俺は仮にもスタンドなどは人目に付くところで使ったことがなく、一般人を演じていた。当たり前だが。

 

 まあ、そして人外も同じくは通常、人間にバレない様に行動をしている。

 バレた場合、ただごとじゃないし、お互いに利益にはならない。

 

 つまり、その状況下で俺は見つかってしまった。

 

 それが、どういうことかというと…………。

 

 

「──────死ね」

 

「クソッたれがッ!」

 

 

 …………殺されるってことだ。

 

 凄い勢いで飛来する光の槍を前にして、俺はどうしてこんなことになったのかと、今日の記憶を今朝から振り返るのだった…………──────―。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 § § § § §

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の朝は早い。

 

 ジリリリと毎朝七時に鳴るように設定してある目覚まし時計の音で起きる。

 

 ペイズリー柄の布団を除けて、ベッドから降りると、扉が開く。

 扉の向こう側から現れたのは黒服スーツの男性。名前は、ベルベット・ドューグ。俺の護衛だ。

 

 

「坊ちゃん、お早う御座います!」

 

「ぅん、おはよー」

 

 

 俺は欠伸混じりに挨拶を返す。喋っている言語はイタリア語だ。

 

 スリッパを履いて、俺はベルベットと共に広間へ向かう。

 

 自慢ではないが俺のうちは大きい。

 なにせ、俺の父親がイタリアンマフィアの幹部だからだ。

 

 そこはギャングじゃないんだとは思ったけど、マフィアに劣らないぐらいには凄い。

 ギャングと違い、土地と地域の管理を行っているマフィアはイタリアの警察官にも感謝されるぐらいだ。

 

 

「今日のご飯はー?」

 

「チョコクロワッサンとカプチーノです」

 

「そっかー」

 

 

 マフィアの幹部の息子として生まれた俺は、今年の三月に、縄張りの拡大化のために日本へ進出する父親に付いて日本に来た。

 

 父親は現在一緒に暮らしてはおらず、横浜の方で頑張っている。子供の俺には高度な教育をしたい、とのことで俺は駒王学園に通うことになった。いわゆる別居だ。

 

 流石は幹部だけあってデカい豪邸に、高価な装飾、ボディガードなど色々用意がある。

 だけど、元一般人の俺には耐えられる訳がないので、学園でのボディガードは控えて貰っている。

 

 

「いただきまーす」

 

 

 俺はベルベットを含めた護衛数名とメイドさんに囲まれて朝食を摂る。

 

 十歳くらいまではずっと緊張してご飯を食べてたなー。

 今となっては懐かしい思い出だ。

 

 

「ご馳走様」

 

 

 俺はイタリアでは結構メジャーな朝食を食べ終え、食後のカプチーノを飲む。

 甘く口に絡むチョコがカプチーノの苦みに押し流されていく感触はたまらない。

 

 

「用意出来てる?」

 

「はい。こちらへ」

 

 

 メイドさんに片付けを任せて、ベルベットと一緒に部屋を出る。

 

 学校の準備は済ませて貰っているし、後は着替えるだけだ。

 個室へ入り、体操服、ワイシャツ、制服の順で着替える。

 

 用意されたリュックの中にはジャージも入っているから準備は万端。

 俺はベルベット、他護衛数名と共に家を出る。

 

 乗り込むのは二十人乗りのリムジン。リムジンの前後には護衛車として黒のボックスカーが二台付いている。

 俺の家から駒王学園までは大して遠くはないんだけどな……。ベルベット曰く、万が一のことを考えて、とのこと。

 

 

「「「「「「行ってらっしゃいませ」」」」」

 

「うん、行ってくるよ」

 

 

 車が発進するとメイドさんと護衛の人達が見送ってくれる。

 

 黒服の護衛さん達とメイドさん達が一斉に頭を下げる様子は壮観だ。

 

 

「坊ちゃん、今日のお帰りは?」

 

「う~ん…………今日は遅れるから歩きで帰るよ。偶には気分変えにね」

 

「相分かりました」

 

 

 ベルベッドと他愛もない会話を続けていると間も無く駒王学園に着く。

 

 街の人達も最初の方は驚いていたけど、一か月もしたら慣れてたよな。割とこの世界の人達は順応性が高いのかもしれない。

 

 校門前で、見送りをしてくれているベルベッドを尻目に学園へ行く。

 

 流石は幼小中高大一貫の学校だけあって人数の比が半端ではない。

 

 人波を掻き分けて中等部の校舎へと向かう。途中、友達と挨拶を交わしながら、同行者を増やして教室へ。

 

 

「今日も平和だと良いなー…………」

 

「どうしたの、二コーラ君?」

 

「ああ、いやなんでもないよ」

 

「そう?」

 

 

 小首を傾げる女子に何でもないと返す。

 

 今更だが、俺の名前はニコーラ・バルトロメオ・ペッシ。親しい人からはニコ、とかニコラと呼ばれている。

 

 そうして今日も俺の学園生活が始まった。



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第一話「校舎内の鬼ごっこ」

次回から戦闘シーンを挟みます。


 四時間目も終わり、昼下がりの午後。

 

 俺は教室でお弁当を食べていた。

 諸々の教育養護機関がまとまった駒王学園は、どこもお弁当か学食が主流だ。

 

 今日の俺のお昼ご飯は、ソーセージとサラダ。そして水筒に入れたトマトスープだ。

 うちのメイドさんが作ってくれただけあって、とても美味しい。

 

 美味しい…………けど、学校なのでそこまで時間がない。

 俺は時計を見て、かき込むように胃に入れた。

 

 昼食の時間が終われば、昼休み。

 幼年生、小学生は校庭に出て元気いっぱいに走り回り遊ぶ。

 中学生は食後のテニスやキャッチボールを始め、高校生はバスケや勉強をして過ごす。

 

 で、俺はと言うと………………。

 

 

「────―二コーラ君、ここに阿呆のイッセーが来なかったかしら!?」

 

 

 中等部校舎、三年一組の後ろ扉を精一杯開けたのは防具を身に着けた高校生のお姉さん。

 何度か話したことのある高校の先輩だ。

 

 

「先輩どうしたんです? そんなに息切らして」

 

「あの馬鹿のイッセーたち三人組が覗きをしたのよ!」

 

「またですか…………」

 

 

 覗き。

 

 俺はその言葉に思わず溜息が漏れる。

 

 この学園の中で覗きをする馬鹿なんて三人しかいない。

 

 まず、ハイスクールD×Dの主人公、兵藤一誠。

 残る二人は、兵藤一誠の中学からの友人、元浜と松田という男たちだ。

 

 

「俺の元には来てませんよ」

 

「ほんとぉ?」

 

「本当です。今度は嘘を付いていません」

 

 

 どうして俺の元に高校生の先輩が来るかと言うと、それは先週まで遡ることになる。

 

 つい先週、女子剣道部の覗きを強行した覗き魔の三人だったが、それがあっけなくバレて女子剣道部はお冠。

 いつもは高校内か校庭での鬼ごっこが開催されるのだが、三人は逃げる途中でそれぞれが散開し、その内の一人、イッセー先輩が中等部の校舎まで逃げて来た。

 

 後はお察しの通り。

 俺は原作を読んでいて知っていたので取り敢えずイッセー先輩を匿った。

 結果としてイッセー先輩からとても感謝されることとなったが…………それ以来、俺の居る教室に毎度来るようになった、という訳だ。

 

 毎回逃げにくるイッセー先輩に嫌気が差した俺は、たった昨日、能面の先輩にイッセー先輩を売り渡したという訳だ。

 まあ、犯罪スレスレの行為してる時点で仕方ないよネ。

 

 

「なんなら俺も手伝いますよ」

 

「あら、そう? なら、私は三階に行くから二コーラ君は二階をお願いね!」

 

「はい、分かりました」

 

 

 俺は先輩に引きずられて廊下に出た。

 

 哀れなものを見る目で見送る友達と担任に、行ってきますと小さく手を振って、俺はイッセー先輩を探し始めた。

 

 俺からすれば毎度ボコボコにされるのに止めないイッセー先輩も不思議だが、防具姿に竹刀持ってるのにあんだけの速度で疾走できる先輩も不思議だ。

 

 

「イッセー先輩見ませんでした?」

 

「あっ、さっきあっちの方に逃げてったよ」

 

「そうですか。ありがとうございます」

 

 

 適当に聞き込みをしていると、イッセー先輩の目撃情報がヒット。

 

 場所は高等部校舎への渡り廊下みたいだ。

 

 俺は生徒指導の先生に断りを入れて足を速めた。

 捕まらないまま昼休みが終われば、ドヤされるのは俺だ。イッセー先輩には悪いが────―全面的にイッセー先輩が悪いため捕まって貰うとしよう。

 

 

「さーて…………いた」

 

 

 一階に降りてみると目の前を高速で通り過ぎていく影が二つ。

 茶色の影と白い影だ。

 

 俺はなんの迷いもなく二つの影を追い掛けた。

 

 中学生だが、ご生憎、俺は昔から護衛の人達に護身術を習っていたため、体力だけならいくらでもある。

 

 俺は茶色の影を追い掛ける白い影に追い付いた。

 

 

「塔城先輩、どんな状況です?」

 

「……………………ニコ君」

 

 

 俺が話しかけたのは小柄な少女。

 

 彼女の名前は塔城(とうじょう)小猫(こねこ)

 身長は中学生の俺よりも小さくて、真っ白な髪の毛が特徴的な可愛い女の子だ。

 本人は知らないが、駒王学園のマスコット的存在として有名だったりする。

 

 俺が原作に登場する塔城先輩と知り合いなのは、昨日、匿っているイッセー先輩を塔城先輩に受け渡したからだ。

 

 

「…………リアス・グレモリー部長から、オカ研に相応しくない行動を慎ませるように、と」

 

「それは………厳しいんじゃないでしょうか、イッセー先輩には」

 

「私もそう思います」

 

 

 塔城先輩は嘆息した。

 

 

「時間、マズいです」

 

「え? ──────あっ、本当だ」

 

 

 腕時計を見ると、昼休みは残り五分も残ってない。

 

 俺と塔城先輩は一も二もなく速度を上げた。

 こうなったら仕方がない…………背に腹は代えられないか……。

 

 

「先輩! 俺は二階から回り込むんで追跡お願いします!」

 

「へ? あっ、ちょ、ニコ君ッ?」

 

 

 後ろから聞こえる困惑の声を尻目に俺は、直ぐ脇道にあった階段を三段飛ばしで駆け上がり、速度を更に上げた。

 

 ちょっとした豆知識だが、俺のビーチ・ボーイは流石にスタンドを持ってる奴にしか見えないってことはなく、人外や魔法が使える奴には見える。

 

 だから塔城先輩の前で出すことは出来ない。

 

 そう、()()()()()()()()、だ。

 

 

「来い、ビーチ・ボーイ!」

 

 

 俺は左手に深緑色の竿を生み出した。

 リールの部分は恐竜の頭骨で作られており、竿の部分は()()()が効く。

 

 ポチャン、と釣り針を()()()()()()()、俺は釣り針から伝わる振動でイッセー先輩の場所を探る。

 

 

「…………二十メートル先、上がって来る!」

 

 

 俺は歯を食いしばり、竿を持ったまま加速。

 階段を登って来る振動が来た瞬間、俺は竿を思いっきり引き上げた。

 

 

「──────ぬおおおぉぉぉぉぉぉ!?!?」

 

「捕まえた!」

 

 

 引いたビーチ・ボーイの釣り針は、イッセー先輩のズボンに引っ掛かって転ばせていた。

 

 俺はすかさず、ビーチ・ボーイを消してイッセー先輩の上に重なる。

 

 

「捕まえましたよイッセー先輩! 大人しくしてください! 塔城先輩に引き渡すんで!」

 

「うわっ! お前かよニコ!? 離せッ、俺はまだ死にたくない!」

 

「塔城せんぱーいっ!! 捕まえましたあああぁぁぁ! 早く来て下さーいっ!!」

 

 

 暴れるイッセー先輩を取り押さえること数秒と少し。

 すぐさま駆け付けた塔城先輩にイッセー先輩は沈黙(物理)させられた。

 

 

 

「「「「「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」」」」」

 

 

 

 周りから鳴り響く歓声の中、イッセー先輩は俺みたく引きずられていった。

 尚、後々から追い付いた女子剣道部の面々にボコボコにされたとか、されたとか。

 

 後日談だが、俺はあの後、女子剣道部の先輩から飴ちゃんを貰った。

 曰く、ご褒美らしいです。もも味でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 § § § § §

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の名前は塔城小猫。猫又です。

 昔、部長に拾われてからは部長の『戦車』を務めてます。

 

 突然ですが、私には一人、不思議な後輩がいます。

 

 中等部三年生一組のニコーラ・バルトロメオ・ペッシ君です。

 私はニコ君と呼んでいます。

 

 

 ──────ニコ君は不思議な後輩です。

 

 

 出会いはたったの昨日。

 覗きをしたイッセー先輩を引き渡してくれたことから関係は生まれました。

 

 ちなみにイッセー先輩とニコ君の、教室へ逃げ込んだことから始まったらしい交流は、ニコ君がイッセー先輩を売ったことで亀裂が入ったとのこと。

 でも、この場合はニコ君ではなく、イッセー先輩が悪いんですが、そこのところどうなのでしょう? 

 

 話してみると、ニコ君は礼儀正しい子でした。

 

 昨日会ったばかりなのに「塔城先輩」と呼んでくれるし(みんな猫ちゃんと呼ぶ)面倒くさいイッセー先輩の捕縛を手伝ってくれた。

 

 友達に話を聞けば、親の転勤が理由で駒王町にやって来たそうで、彼のご両親はイタリアのお金持ちらしく、大きな大きな家に住んでいるとか。

 

 初めてニコ君を見た時、私は驚きました。

 イタリアから来たらしいニコ君の髪は、エメラルドのような緑色で輝いていました。それに真っ黒な眼も吸い込まれそうなぐらい綺麗でした。

 

 今日だって。また覗きがバレて逃げ出したイッセー先輩を捕まえるのを手伝ってくれました。

 いきなり話し掛けられた時はビックリしましたが、直ぐにニコ君だと分かって安心したのを覚えています。

 

 私がニコ君にビックリしたのは、イッセー先輩の捕縛時です。

 昼休みが残り三分ぐらいの時のこと、ニコ君が突如、二手に分かれると言って離れました。

 

 驚いたのはそこからです。

 私が二階に逃げたイッセー先輩を追い掛けて階段を上がったら──────イッセー先輩に覆いかぶさったニコ君がいたのです。

 

 ニコ君曰く、転んだ所を捕まえた、と。

 

 『歩兵』の駒と言えど、『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』を使った転生悪魔のイッセー先輩が何も出来ずに拘束されているのは中々壮観でした。

 

 その後は女子剣道部と部長の元へ連行し、午後の授業が再開。

 何事もなく、学校は終わりました。

 

 そういえば…………階段を上がった時に見えたピンク色の糸は何だったのでしょうか?



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第二話「覚悟はいいか?」

前話プロローグ・一話にて一部変更点がございます。
なお、遅れてすみませんでした。


 時は流れて放課後。

 

 下校の生徒が後を絶たず校門を潜る。

 部活やクラブ、同好会の活動がある者だけが残る時間帯にて、俺は屋上にいた。

 

 本来ならば、図書館で勉強するなり、習い事をするなり、やることはたくさんあるんだろうが、俺は家庭教師に中学の勉強は一通り習い終わっている。学校ではやることがほとんどないし、復習の時間なのだ。

 

 俺は屋上のフェンスに寄りかかり、傾きが急な太陽に背を向けた。

 

 

「うーん…………どうしようかな」

 

 

 思わず、独り言ちる。

 

 何が、とは言うまでもない。

 

 いつ、原作に介入するか、だ。

 

 曲がりなりにも、ビーチ・ボーイの力を授かったんだ。

 何かしらは成し遂げてみたい…………と思わんでもない。

 

 だが、一人のハイスクールD×Dのファンとしては、そんなことは慎むべきなんだろう。

 そもそも原作というものは、どの作品でもギリギリの、それこそ(ヒビ)の入った薄氷の上で成り立っている物語だ。他人が勝手に乱入しては成り立たなくなるのは必至。

 

 でも、逆にファンとして原作の登場キャラクターとして活躍したいという面もある…………。

 

 

「難いなー」

 

 

 そもそも原作のキャラとは誰一人として学年が同じではない。

 この時点で既に致命的だ。塔城先輩やイッセー先輩とは関わりを作れたけど、横に浅い関係だ。到底、関われるものではない。

 

 更に言えば俺は長男だ。

 順調にいけば、次期ファミリー幹部の一員になる。到底死ぬようなことは出来ない…………ファミリーのためにも、そして俺のためにも。

 

 

「ふぅ。考えてても仕方がないか」

 

 

 俺は(おもむろ)にリュックをまさぐる。

 

 リュックの中から、空き缶を十個ほど取り出す。そうしてそれらを奥行きや間隔をそれぞれバラバラに置く。尚、空き缶は全てサイズが違うものだ。

 

 それから、一歩、二歩と下がる。

 

 

「…………もう少し後ろか?」

 

 

 大体、十メートル少し離れただろうか、空き缶は夕暮れの橙に照らされて乱反射している。

 

 目測で場所を調整して腕を回す。

 俺はビーチ・ボーイを右手に出現させ、正眼に構える。

 

 

「ふぅー…………」

 

 

 息を吐き切り、

 

 

「…………すぅ!」

 

 

 吸い込むと同時に正眼からC字を描くように左回りに一閃。

 

 

 

 ────―カカコン…………ッ! 

 

 

 

 数は十であったが響いた音はただの三つ。

 結果として空き缶は一番右奥の端にあったものを残し、釣り針を通して糸に全て刺さっていた。

 

 

「チッ」

 

 

 これは俺が駒王町に来てから定期的に……というか毎日行っているビーチ・ボーイの練習だ。

 

 ビーチ・ボーイは一見、敵の探知や防御不可の攻撃のように思える。

 しかし、それは大きな間違いだ。

 

 漫画やアニメでペッシが単純に扱うせいか、ビーチ・ボーイは手軽なうえ強いスタンドだと思われがちだが、実の所とても扱いが難しいスタンドである。

 

 

 それは何故か? 

 

 

 なぜなら、ビーチ・ボーイはジョジョシリーズの中でも珍しい()()()()()()()()()()()()()()()

 

 物体を透過する釣り針と糸、そして車両三両分ほどの長い射程。

 その二つがよく勘違いさせるが、ビーチ・ボーイは装備型のスタンドなだけで、別に自動操縦型のスタンドではないのだ。

 また、自分の意思で操作するスタープラチナのようなものでもないため、まさしく己の技術力が実力と直結する。

 

 

「もう一回…………。ちょっとなまった、かな……?」

 

 

 俺はビーチ・ボーイの釣り針に突き刺さった空き缶を抜いて並べ直す。

 

 言い訳じゃあないが、イタリアから日本(こっち)に来てからあまり練習が出来ていなかった。ファミリーの皆にもスタンドとか天使とか悪魔とか神器のことはあまり話してなかったから、日本の狭い屋敷の中では練習があまり出来ていなかったのだ。

 

 

「んにゅ…………」

 

 

 なんだかやっぱり言い訳がましくなってしまった。

 

 

「よし」

 

 

 空き缶を並び終える。前とは違う配置パターンだ。

 

 取り敢えず、今日は三回連続で十個同時に倒せるようになったら帰ろう。

 

 屋上には鍵も掛けたし、誰も入ってこれないはず。

 タイムリミットは残り、二時間弱。まだまだいける。

 

 今日も頑張ろう。

 

 

「あ、でも、どうやって屋上の鍵返しに行こう……?」

 

 

 俺は考えるのを止めた。

 厄介ごとは未来の自分へ託し、目の前の標的に狙いを定めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────今思えば、俺はこの時に直ぐ家に帰るべきだったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 § § § § §

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヤバいヤバいヤバいヤバいって!!!」

 

 

 俺は薄暗くなった通学路を駆ける。

 

 時刻は六時強。

 

 

「集中し過ぎたぁぁぁ!!」

 

 

 そう、俺は久々の練習に身が入り過ぎ…………無事、門限を破ってしまった訳だ。

 

 ウチはそこまで厳しい家庭ではないが、ここは日本。地元のイタリアではいざ知らず、いつ何時鉄砲玉のような人が襲ってくるか分からないため、日本にいる間は門限が定められていた。

 

 普段なら屋敷の皆に言ってあるからいいけど、今日は何も言ってない。マズイ。非常にマズイ。

 

 俺は咄嗟にスマホをポケットから取り出し、走りながら電話を掛けた。

 

 誰だって? もちろん、屋敷の人にだよ! 

 

 

『はい』

 

「ああ!? ベルベット? ゴメン! 遅れた!」

 

『はい。承知しております。食事は既に控えさせて貰っております』

 

「ホント? ありがと!」

 

『坊ちゃん、話は後で聞きます。今、どこにいらっしゃいますでしょうか? 迎えを回します』

 

 

 ベルベットの気遣いに涙が出そうだ。

 俺は空き腹を抑えながら応える。

 

 

 

「迎え? いいの? じゃあ────────」

 

 

 

 と、そこで俺は不本意ながら…………いや、無意識中に会話を打ち切った。打ち切ってしまっていた。

 

 俺が曲がり角を右折し、そこで目にした光景はそこまでの威力を持っていたからだ。

 

 

『…………? 坊ちゃん?』

 

 

 ベルベットの声がどこか遠く聞こえる。

 

 俺は無意識下に息をのんでいた。

 

 

 

 

 ──────────視線の先には光の槍で貫かれた女性がいた。

 

 

 

 

 

 そしてその頭上には紺色のコートを着て、幅広の背中から黒翼を生やした男がいた。

 

 ブロック塀に背中を預けた女性は、腹部からドクドクと血液を流し…………もう、息をしていないようであった。

 

 

 俺はスマホに口を近付け、喉を震わせた。

 

 

「──────ごめん、ちょっと遅れるかも」

 

『坊ちゃん、それはどういう────』

 

 

 プツッ。ツーツー……。

 

 俺は電話を切り、スマホをポケットにねじ込んだ。

 リュックを投げ捨て、俺は男と女性に近付く。

 

 

 

「む、また人間か…………面倒な」

 

 

 

 男は言葉通り、面倒くさそうに(かぶり)を振り溜息を吐いた。

 

 俺は仕草を見て内心で覚悟を決めた。

 

 

「どうして…………?」

 

 

 彼ら堕天使は一般人の女性など歯牙にも掛けない能力を持っている。記憶の操作などもお手のもののはずだ。わざわざ殺す理由が分からなかった。

 

 俺はそんな意味を込めての「どうして」であったが、

 

 

「あまりの恐怖に声を出ぬか。どれ一思いに殺してやる。動くなよ」

 

 

 返って来たそれは、あまりにも無情なものであった。

 あるいは言葉が届かなかったのか……。

 

 まあ、いい。

 

 殺そうとしてるんだ。無論、殺される覚悟もしているんだろう。

 

 

「──────死ね」

 

「クソッたれがッ!」

 

 

 俺は眼前に迫る光の槍を前にしてビーチ・ボーイを構えるのだった。



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第三話「俺は出来てる」

「クソッたれがッ!」

 

 

 俺は前傾姿勢で構え、(はらわた)が煮えくり返る気持ちを抑えて叫ぶ。

 

 

「ビーチ・ボーイッッッ!!!」

 

 

 ご生憎様、今日は練習帰りで操作は冴え渡っている。

 

 光の槍? 光で構成された槍であろうと光の速度でなければなんの脅威も持たない。

 

 俺は右手で持ったビーチ・ボーイを振り被り──────放つ。

 

 

「──―む」

 

「はァ!」

 

 

 糸が丁度光の槍とぶつかった辺りで釣竿を引き、螺旋状に絡ませる。

 柄の部分に針が掛かったのを確認して釣り上げる。

 

 

「ふ…………ッ!」

 

 

 万力の圧で引き絞られた槍は為すすべもなく霧散する。

 俺は正眼のいつもの構えに戻し、相対した。

 

 

「…………貴様、神器使いだったか。面倒な」

 

 

 男、ドーナシークは大振りな身振りで天を仰ぐ。

 

 俺は目を離さずに女性の様子を伺う。

 

 …………やはり、息をしていなかった。狙いは必死であったのか、鳩尾を貫き、肝臓、背中と突き出ている。

 即死だ。

 

 

「なんだ? そこの女が気になるのか? ふふっ、気にしなくていい。我らは堕天使ないし、君にはなんの関係もない人間だ」

 

「…………クソッたれが」

 

 

 心底どうでも良さそうに語る奴の態度に俺の眉間に青筋が浮かび経つのが分かった。

 コイツぁ、真正のゲス野郎だぜ。

 

 

「フハッ! ──────人間風情がよくほざく」

 

 

 冷静に見せかけてはいるが、声音と行動に苛立ちが顕著に出ている。

 

 それでも攻撃が先程よりも僅かに力が籠っただけのものに見えるのは、やはり俺が人間だということが起因しているのだろう。

 これらの特徴は人外によくあることだ。

 人間は確かに悪魔、天使、堕天使、妖怪、怪人、それらの種に比べれば貧弱極まりない。故に、ついさっき攻撃が防がれたのは見たこともない神器(ビーチ・ボーイ)のお陰とでも思っているのだろう。

 

 しかしだな、神器のお陰と言っても過信するのは間抜けのすることだぜ? 

 

 

「…………甘いっての」

 

 

 そもそも槍を投擲しようっても、直線で曲がりも追尾をしない。こんなのをどうやって受けろってんだよ。

 

 ビーチ・ボーイをしならせて横振りと同時に糸を伸ばす。糸は住宅地の壁をすり抜けてすり抜けるようにドーナシークへと迫る。

 どうやら油断しているようで、あっさりと釣り針は奴の服に掛かった。

 

 

「フンッ、こんなもの────―」

 

 

 ドーナシークは俺のビーチ・ボーイを鼻で笑い、槍で振り払おうとする。

 

 掛かったな、バカが。

 

 斬り付けたドーナシークであったが、斬撃はあっけなく糸を弛ませたのみ。

 寧ろ、ピンク色の糸が弾かれて、光芒の如き一閃が糸より放たれる。

 

 

「ぐ──────ぎぃあああぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 

 ビーチ・ボーイには、本体へ放たれた攻撃が釣り針に掛かっている相手へと跳ね返る効果を持つ。まさに初見殺しの性能。つまり、ドーナシークは自ら放った攻撃を自分自身で受けたことになる。

 

 次いでS字の動きを以て糸を調整し、ドーナシークの身体へと巻き付ける。

 

 

「相手が人間だからって油断したか? え?」

 

「ぐ、ぎ──―人間如きがあぁぁぁ、調子にィ、乗るなァァァ!!」

 

「む……!」

 

 

 ドーナシークは目を血走らせて体に力を込めた。

 それは人外のものだけあって強力で、魔力を込めているのか、糸が弾けそうになる。

 

 俺のビーチ・ボーイは前提として魔力を一定以上持つ者には見える性質を持つ。

 また、反射の性質により斬撃や打撃には強いが、単純な筋力などで引き伸ばされると跳ね返しようがないのが弱点だ。

 

 

「チッ! だが、ただでは外さねえ!」

 

 

 俺は竿を振り戻し、針を戻す。無論、ただでやらせるはずもなく、針は帰り際にドーナシークの肩の肉を抉って戻る。

 

 

「ギぃ!? …………やってくれたな! 人間!」

 

 

 肩部を抑えて、肩で呼吸するドーナシーク。

 

 ここまで一貫した態度だと、怒りを通り越して呆れ、あるいは関心さえもする。

 俺は針の先に着いたハイライトピンクの肉片を跳ね飛ばした。

 

 

「この期に及んで威勢を張れる根性だけは褒めてやるよ…………所で、テメェ覚悟できてるんだろうな?」

 

「覚悟、だと…………?」

 

 

 俺がこのセリフを言うことになるとはトンだ皮肉だが、マフィアの世界に身を置く者として、相対する人間として問わなければいけない。

 

 

「────―ああ、覚悟だ。覚悟とは困難を予想し、予め心意気を構えることを言う」

 

「何を……──―」

 

「俺は覚悟が出来てるぜ。いつ、どこで、何者に、どうやってどのようにして殺されるのかも覚悟している。勿論、テメェに殺されるってのも覚悟している」

 

 

 話は変わるが、俺は魔力を結構扱える。

 

 それはこのハイスクールD×Dの世界にスタンドというモノが存在しないため、魔力をスタンドパワーの代用としているからだ。

 

 まあ、元々、()()()()()()()()()()()()()だが、昔にとある出来事を切っ掛けに使えるようになった。

 正確には()()()()()()()

 

 そして、ビーチ・ボーイというこのスタンド。コイツは一口に言えば、()()()()()()()()()()()()。言うならば、最高に魔力伝導率が良い。

 

 で、そんなビーチ・ボーイに魔力を流すとどうなるか? 

 

 

「ああ、まあなんだ。長くなっちまったが、俺が言いたいのはたった一言さ」

 

「………………どこまで減らず口をたたけば──―」

 

 

 俺はビーチ・ボーイに魔力を流す。流練と注がれる魔力の本流に釣り針が跳ね、リールの恐竜がより鋭い形状へと変化する。

 最後に糸はリールから釣り針に掛けて順繰りに神々しくマゼンタカラーへと変色し、辺りを照らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────────―覚悟はいいか? 俺はできてる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────ッッッ!!!!!」

 

 

 

 息を吞む音が聴こえた。

 俺は溜息を抑えられなかった。深く、深く、溜息は吐き切り、失望の意を吐いた。

 

 

「まさか、その程度の覚悟とは思わなかったよ、ドーナシーク」

 

「──―き、貴様っ! なぜ私の名前を──────」

 

「もう、喋んなくていい。()()()()()()

 

 

 

 ドーナシークは喚きたて、指を差した状態で固まった。

 それとほぼ同時に()()()()()()()()ビーチ・ボーイの竿が戻る。

 

 

「『ブッ殺す』。そう心の中で思ったなら、その時スデに行動は終わっているんだ…………だよな、()()

 

 

 俺は魔力の流出を止めてビーチ・ボーイを払う。

 ビュッとブロック塀に朱色の一文字が刻まれた。

 

 程なくしてドーナシークの身体の節々には幾重にも広がる亀裂が入り…………

 

 

 

「──────―ぱき゜ゃ」

 

 

 

 バラバラに崩れ落ちた。

 

 ボドボドボド! と複数の数kg大の肉ブロックへ姿を変えたドーナシークは、もう何も言わぬ(むくろ)である。

 

 俺はビーチ・ボーイを消し、スマホを手に取った。

 

 

「────―あ、ベルベット? ゴメン、()()()()()()()がいたから案内してたんだ! 今から帰るね!」

 

 

 極めて明るく務める。

 

 と、そこで道路の遥か向こう……地平線の彼方から荒ぶる光条が伸びるのが見えた。

 光の数は三つ、恐らくだが懐中電灯。

 

 きっと、魔力を感知してきた悪魔の先輩方であろう。

 そう長いことここにはいられない。学校や地域では海外からやって来た転校生として通っているのだ、正体を晒す訳にはいかない。

 

 

 

「──────来世では、きっと幸せになってね。Arrivederci(バイバイ)

 

 

 

 俺は、最後にお姉さんの傍に屈んで手を合わせる。一応、日本式。

 

 

「急がなくちゃ」

 

 

 さあ、ご飯が待っている。

 でも絶対にベルベットはカンカンだろうなぁ。門限短くされたらどうしよう……。

 

 俺は胸糞悪いゲス野郎のことを忘れて、足早にその場を去るのであった。



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閑話「白猫のオカ研活動報告日記」

あの……今更なんですが、小猫ちゃんの二人称ってどうなってんですかね……?


「部長、こっちです」

 

 

 私──────搭城小猫は、夕暮れを過ぎた街を走っていた。

 

 背後には部長、副部長、イッセー先輩、祐斗先輩がいる。つまり、オカルト研究部・戦闘員総出。

 

 そして、私は今その四人を先導する形で走っています。

 

 

「ちょっと……! 待ちなさい……っ! 遠くない!?」

 

「ええ……もう、息が上がったの、リアス?」

 

「仕方ないじゃない……!」

 

 

 副部長の朱乃先輩が呆れた声で部長を咎めます。

 確かに部長は、戦士や剣士の類ではないにしろ不摂生が過ぎる。体力がなさすぎるのだ。

 

 

「ハァ……! ハァ……!」

 

「って君もかい、イッセー?」

 

 

 更にその後ろでは息を切らしたイッセー先輩が祐斗先輩に苦笑されていた。

 イッセー先輩……『歩兵(ポーン)』の駒とはいえ、悪魔なのに体力が無さすぎます。

 

 っと、危ない危ない。任務を忘れる所でした。

 

 現在は駒王町に出現したと噂の堕天使の調査を行っている最中。

 部長が魔力を感知したので部員総出で追跡している途中なのです。

 

 

「…………!」

 

「小猫? どうかしたの?」

 

「──―匂いが濃くなっています」

 

「ホント!?」

 

 

 嗅ぎ覚えのない鼻の奥にツンと来る刺激臭。それに不自然なほど濃密な魔力が空気中を漂寄ってっている。

 部長は目的地が近く、走らなくていいことに喜んでいた。

 

 

「…………あと、血の匂いも」

 

「「「「「!?」」」」

 

 

 鉄錆に似たキツく濃い匂い。これは何度も嗅いだことがある。血液の匂いです。

 それも乾いた匂いと新しい匂いが混じったもの。

 

 

「…………皆、気を引き締めていきましょう」

 

 

 部長が鼓舞して私を含めた全員が頷く。

 

 私も少し速度を落とし、皆に合わせる。先行し過ぎてやられては元も子もない。

 

 匂いと魔力の感じからして後、数十メートル以内。

 副部長は魔力を練り、祐斗先輩は剣を生み出し、イッセー先輩は籠手を装備する。

 

 

「ん…………次の曲がり角を右です」

 

「そう……皆、油断しないで」

 

「「「はい」」」

 

 

 曲がり角で速度を落とし、私が最初に曲がる。

『戦車』の駒の私が一番耐久が高いため、攻撃を食らう可能性がある先頭を行く。次いで、前陣にイッセー先輩と祐斗先輩。中陣に朱乃先輩、後陣にリアス先輩がいる。

 

 

「いきます」

 

 

 私はブレーキを掛けて曲がり角を曲がる。

 

 そして──────。

 

 

「これは…………」

 

「──―どうしたの小猫……って、何、これ……?」

 

 

 思わず立ち止まってしまった。

 そんな私を心配してか、部長が声を掛けてくれましたが……反応出来ませんでした。それ程までに目の前に映る惨劇が衝撃的だったのです。

 

 鼻腔をたっぷりと犯す濃厚な生血の匂いに、辺りへ広がる三十センチ大の輪切りの肉ブロック達。

 周囲には斬撃痕や破壊跡があり、少なからず激しい戦闘があったことが伺える。

 

 

「う……ぷっ」

 

 

 グロデスクな光景にイッセー先輩が顔色を悪くして口元を抑えます。祐斗先輩はそんなイッセー先輩へ肩を貸しながらも自らの口と鼻を手で覆っています。

 

 

「これは……堕天使の……?」

 

 

 そう言って恐る恐る副部長が地面から手に取ったのは血に濡れた黒い羽。

 副部長は顔を真っ青にしています。

 

 

「まさか……はぐれ悪魔かしら」

 

「いえ、はぐれ悪魔はこんな戦い方をしないから違うと思います」

 

 

 真剣な表情をした祐斗先輩が膝をつき、肉塊を検分しながら言いました。

 

 

「それは、どういうこと?」

 

「はい。見て下さい、この断面」

 

「断面?」

 

 

 口元をハンカチで押さえた部長が反応します。

 

 

「ええ。僕は剣を扱う者だから分かるんですが、こんな綺麗な断面、はぐれ悪魔如きには作れないと思うんです」

 

 

 確かに。

 

 はぐれ悪魔は総じてフィジカルや野生に任せた戦闘を行う特徴がある。

 よく目を凝らすと、肉片の断面は多少の波打ちはあるものの、ほとんどが真っ直ぐに切られているのが分かる。

 

 

「ここまで綺麗な断面を作れるのはそれこそ剣や刀などの鋭利な刃物です」

 

「じゃあ、誰がやったと言うのよ……」

 

「それは……」

 

「まあまあ、リアス。そんなこと言ったってしょうがないでしょ」

 

「でも……」

 

 

 この駒王町の管理を任されているリアス先輩は、この町で自分の分からないことが起きるのが我慢ならないのだろう。私だって自分の縄張りに知らない奴がいたら嫌ですし。

 

 

「────―あ!」

 

 

 話をしていた私たちの背後でイッセー先輩の声がした。

 そちらを向くと、イッセー先輩が道端に寄り掛かっている女性を見つけていた。

 

 ああ……さっきから血の匂いに混ざって(かお)っていたのはこの人の匂いだったのか。

 

 

「…………駄目ね。もう、死んでるわ」

 

「そんな!」

 

「恐らくこの堕天使か堕天使を倒した誰かの仕業ね」

 

 

 リアス先輩は冷たくなった体を横たえて瞼を下ろします。

 全員で傍に寄り、手を合わせる。

 

 

「取り敢えず、この人の遺体は身元を確かめて遺族に届けるとして……」

 

 

 部長は電話で色々な所へと電話します。

 その間に私たちは周辺の検分を行う。

 

 

「この塀の傷……剣を使った抉れ方じゃない……?」

 

「まだ血が乾いていないし……まだ近くにいるのかしら」

 

「クソッ……畜生! 女の人を狙うなんて許せねえ!」

 

 

 オカルト研のメンバーは各々思い思いの行動を取る。

 

 かく言う私もさっきから鼻を動かしている。

 警察犬代わりではないが、一応私も鼻が効く方なのだ。

 

 それに、さっきから血の匂いに紛れて嗅ぎ覚えのある匂いがしているような……。それもつい最近嗅いだことのある匂いな気がする……。

 

 ……まだ血の匂いが強過ぎます。もうちょっとだけ血が乾けば……。

 

 

「──────皆、一先(ひとま)ず現場は片付ける方向で決まったわ。それと犯人はまだ駒王町内にいるとして監視の使い魔を増やすことにしたわ」

 

 

 まあ、妥当な対応。

 部員それぞれが頷く。

 

 その後はこれからの活動方針や対応をミーティングして解散となった。

 

 

「じゃあ、また明日ね」

 

「はい、部長! おやすみなさい!」

 

 

 ブンブンと大手を振って帰るイッセー先輩。

 それから祐斗先輩、朱乃先輩と帰宅して、残るは私と部長だけになった。

 

 

「あら、小猫は帰らないの?」

 

「──────ああ、いえ、なんか嗅いだことのある匂いがある気がして……」

 

「さっきの女性?」

 

「いや──―」

 

 

 そろそろ鼻も慣れて来た。

 血も乾いて、風に乗って匂いが薄くなっている。

 

 

「もしかして、学園内の?」

 

「かも……しれません」

 

 

 ああ…………この匂い、どこかで──────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……………………あ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「部長。私、分かったかもしれません…………」

 

「本当!?!?!?」

 

「はい」

 

 

 正直、私自身でも呑み込めていない。

 本音を言うと気のせいであってほしい。あってほしかった。

 

 

「一応知り合いなので、明日の放課後に部室へ連れて行きます」

 

「そう? 気を付けてね、小猫。もしだったら使い魔も付けようかしら? なんなら、ソーナに頼んで……」

 

「大丈夫です」

 

「…………なら、小猫を信じるわ。でも、あくまで慎重にね」

 

「はい」

 

 

 最後にリアス先輩は心配そうに振り返りながら帰宅していきました。

 

 早鐘を打つ心臓。

 落ち着けるために深呼吸する。

 

 

「…………なんで」

 

 

 本当に、でも、なんで、ここに、貴方がいるんですか──────

 

 

 

 

 

「──────ニコ君」

 

 

 

 

 



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第四話「朗報と悪報」

「おはよー…………」

 

「はい、お早う御座います、坊ちゃん」

 

 

 再び閉じようとする瞼を無理に擦り、眠気を覚ます。

 

 そう、ドーナシークとの戦闘から一夜明け、今日も相変わらずの平日が幕を開けていた。

 

 昨日は帰った後、ベルベットにこってりと絞られたからあまり寝れていない。まあ、ご飯が食べられただけマシだったのかもしれないけど。

 

 はぁ……この状態で学校に行くのか……。

 

 

「今日の朝食は?」

 

「本日はビスコッティとカフェ・モカです」

 

「あぁ……随分と懐かしいものだね」

 

「はい。久々に取り寄せてみました」

 

 

 ビスコッティ。

 

 それはイタリア全土で結構食べられているビスケット菓子の名だ。

 イタリアは朝食に菓子や菓子パンを食べる文化が根付いているが、その中でも有名なのがビスコッティだったりする。

 

 日本ではあまり見かけない、というかないので食べる機会がなかったが、久方振りに取り寄せたらしい。用意周到なことだ。

 

 

「………………んむ」

 

 

 俺はビスコッティをカフェ・モカで流し込み、ぼんやりと昨日のことを思い出す。

 

 そう言えば、昨日の女性はどうなったのであろうか。

 流石にグレモリー陣営の先輩方が見つけてくれたと思うが……。

 

 …………多分、大丈夫だろう。

 

 正直な所、グレモリー陣営の、それこそリアス先輩の管理能力は杜撰(ずさん)という言葉すらも生温い。

 それはイタリアで本家のファミリーに長年仕えてコンサルトをしているウチの家系に言わせれば当たり前以前の話なんだが……それでも、ファミリーへの愛ならウチにも負けていないと思う。

 

 そもそもマフィアやギャングの類は規律と掟を順守して仲間を慮るものだが、リアス先輩の所はウチと同じかそれ以上だと俺は思うのだ。

 

 ま、悪魔の中でも割かしまともな倫理観を持つリアス先輩だし、最低限、遺族の元へ遺体を返してくれるだろう。

 でもそうなると死因のバックストーリーが大変だろうなぁ……。

 

 うん、俺が気にしててもしょうがないか。

 

 

「んく……ごちそーさま」

 

「お粗末です」

 

 

 さて、今日も学校だ。

 部屋に戻って制服に着替えて、荷物を持って学校に向かうだけ。

 

 俺は席を立とうとして、

 

 

「坊ちゃん」

 

「……ん? ベルベット、どうしたの?」

 

 

 ベルベットに引き留められた。

 

 なんだろう。

 ベルベットが引き留めるなんて……いつものお小言かな? 

 

 

「いえ、違います」

 

「…………何も言ってないはずだけど」

 

「左様ですか」

 

 

 ……実はベルベットも神器の使い手だったりしないかな? 

 

 う~ん、ちょいちょい、ウチに仕える人って人間離れしてること多いんだよな……。

 この屋敷にいるメイドさんだって、夜トイレに行く時に、音も気配もなくいつの間にか傍にいるし……。

 

 俺はチラッと侍ているメイドさんに目を向けてみる。

 

 

「…………」ニコッ

 

「…………」

 

 

 凄いニコニコしてた。うん、良い笑顔だ。

 俺は考えるのを止めた。

 

 

「で、どうしたの?」

 

「話、というよりは──────こちらを」

 

「んにゅ……これって……」

 

 

 俺は真っ白なクロスが敷かれたテーブルに置かれた、ソレを見て動きを止めた。

 

 無骨な形状にスリムなボディ、子供でも使えるように小型化された、L字の鉄の塊。

 

 

「ベレッタM84……?」

 

「はい、そうです」

 

 

 ベレッタM84

 

 それは、イタリアの銃器製造メーカー、ベレッタが開発した自動拳銃の名だ。

 中でもベレッタと名の付くものは「チーター」シリーズと呼ばれ、親しまれている。

 

 取り分け、ベレッタM84は俺にも縁があるものだ。

 ベレッタM84は重心97㎜、口径380と、ある程度子供でも扱える設計をしている。

 更に380ACPといった9㎜の軽い弾丸によって衝撃が少ないのも特徴だ。

 

 俺は昔……小学四年生後半辺りから父にこの拳銃の練習をさせられてきた。

 護身用にはビーチ・ボーイで足りるが遠距離攻撃の手段を持っていて困ることもないしね。

 

 

「持ってけってこと?」

 

「ええ。昨日、ここら周辺で殺しがあったようで」

 

「……!」

 

 

 マジか! 昨日の今日だぞ? なんで知ってんだよ……。

 

 てか、リアス先輩方は何をして──―

 

 

「今朝、ウチの手の(モン)が近所で大量の血痕跡と隠蔽後を発見しました」

 

「ま……マジか~…………」

 

 

 ウチのファミリー優秀過ぎィ……! 

 

 

「過剰な心配とは思いますが、念の為、護身用に持って行って下さい。万が一バレても玩具と思われるでしょうし、緊急時には我々をお呼び下さい。──────()()致しますので」

 

「う、うん」

 

 

 こっわ。

 

 俺も人の事を言えないが、それはそれ、これはこれ、だ。

 

 引き攣る表情を抑えて、めっちゃニコニコしてるメイド軍団を超えて部屋に戻る。

 着替えなくちゃ。

 

 

「ああ、それと、坊ちゃん」

 

 

 扉のドアノブに手を掛けた所で、再度ベルベットから声を掛けられた。

 

 

「ん? まだ何か──―」

 

「近日、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「──―本当!?!?」

 

「はい、本当です」

 

 

 振り返ってベルベットに詰め寄る。

 

 

「嘘じゃないよね!?」

 

「はい」

 

「本当だよね!?」

 

「はい」

 

「いつ!?」

 

「詳しい日程はまだ」

 

「そっか! じゃあ、()、準備してくる!」

 

 

 俺は急いで部屋を出る。

 

 朝から良いニュースが聞けた! なんかやる気出て来た! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………………………………………。

 

 

「ふふっ」

 

 

 程なくして、メイドの一人が噴き出した。

 釣られて部屋の中にいたメイドらは皆揃って笑いだす。

 

 

「これ、坊ちゃんに聞かれたらどうする」

 

「すみませんっ、しかしっ」

 

 

 ベルベットに窘められたメイド達は謝るものの笑い声は止む気配を見せなかった。

 どうやら耐えられそうにないらしい。

 

 だが、そのベルベットですらも声には出さないものの、その口元は弧を描いていた。

 

 

「『僕』ですか……いつまでも変わらないものはあるものですな、坊ちゃん」

 

 

 ベルベットは好々爺然とした表情を浮かべ、懐から出したペンダントを開いた。

 

 

「フッ」

 

 

 懐古の念が籠ったその視線の先には、幼い二コーラと彼の背後に枝垂れ掛かっている、金糸の様な金髪をショートに遊ばせた少女が映っている。

 

 

「そうは思いませんか、プロシュート様」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 § § § § §

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 楽しいことであればあるほど時が経つのは早いと聞く。

 だがしかし、楽しみなことがある場合でもそれは適応されるらしい。

 時間はもう十六時過ぎ。

 

 

 ──────今日は早く帰って寝ようかな。

 

 

 俺はそんなことを考えながら、鼻歌交じりに廊下を歩く。

 いつもは重いと感じる歴史の資料集も軽く感じる。

 

 

「────―♪」

 

 

 バイバイ、と皆に手を振って昇降口へ──────

 

 

「──────ニコ君」

 

「はえ?」

 

 

 ────―行けなかった。

 

 目の前には小さな体躯の少女が手を広げて俺を妨害している。

 俺は思わず呆けた声を出して、手に持っていた手提げを落としてしまった。

 

 なんとそこに居たのは、

 

 

「──―塔城先輩?」

 

「少し時間ありますか?」

 

「…………」

 

「…………?」

 

 

 …………………………。

 

 うん。

 

 まあ。

 

 ちょっと、待とうか。

 

 いや、昨日は姿を見られていないはずだし、ビーチ・ボーイしか使ってないから痕跡もないはず。

 

 …………もしかして、使い魔で姿を見られていたか……? 

 

 それならもっと早くコンタクトがあるはずか……。

 

 でも、バレる様なものは………………あ。

 

 

(匂いかあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!)

 

「えっと、あの…………ニコ君?」

 

「──―あ、えっと……はい! 大丈夫です!」

 

 

 大丈夫か、俺? 

 

 声は裏返ってないか? 表情は強張ってないか? 

 

 

「オカ研の部室までお願いします」

 

「…………はい」

 

 

 俺は、こっそりとベルベットに『今日も遅くなるかも』とメールを打ち、塔城先輩の小さな背中に続くのであった。



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第五話「呼び出しとそれから……」

 ──────あれ……やっぱりバレるのマズいのでは……? 

 

 今更ながらにそう思うも、多分というか恐らくというかきっとというか、絶対にもう遅い。

 だって目の前では塔城先輩がオカ研の部室の扉を開けていて……。

 

 やっべ。

 

 どうする? ワンチャン逃げ出すか──―駄目だ、どうせ塔城先輩に顔は割れてる。今逃げ出せば余計に猜疑心を残すだけだ。

 

 いや、しかし……。

 

 うん、惚けたら割とバレないかな? あの場所にいたのも俺の退学路だと言い張れば問題はないだろうし。だけど最悪のパターンは魔法かなんかでも使われることだ。

 俺は魔力を扱えるが、魔法は使えない。洗脳や催眠系の魔法でも使われたら終わる。

 

 ……ここは父に頼んで俺だけでも本家(イタリア)に戻して貰うか……? 

 でも、そんなことしたら日本に来るはずの()()に殺される……! 

 

 

「戻りました、部長」

 

「──────!! ……あら、この子が……」

 

「あれ、ニコ?」

 

 

 ……考えてももう遅い。部室に入るなり、リアス先輩とイッセー先輩に反応される。

 

 

「こんちわー」

 

 

 俺は軽く会釈して、挨拶する。

 部室にはメンバー全員が揃っていた。

 

 ヤベェ! ヤベェって! 

 どうするどうするどうするどうするどうする!? 

 

 

「あの……なんか御用です……よね?」

 

 

 リアス先輩と俺は初対面だ。

 取り敢えず、ボロを出さないようにしてこの場を凌ごう。最悪、別の学校に転校したって良い。

 

 

「初めましてね、ニコーラ・バルトロメオ・ペッシ君」

 

「……あれ? 俺と先輩って初対面です……よね?」

 

「ええ、その認識で間違ってないわ。それと貴方は駒王学園でも初の海外転入生だから高等生の中でも有名よ。ほら、剣道部の彼女ら、知ってるでしょ?」

 

「ああ……先輩方が……」

 

 

 ふぅ……一先ず、ファーストコンタクトはセーフ。そこまで怪しげなアクションは起こしてないはず。

 

 あと、剣道部の先輩方、個人情報は勘弁してください。

 

 

「まあ、取り敢えず、自己紹介ね。私の名前は、リアス・グレモリー。ここ、オカルト研究部の部長をしてるわ」

 

 

 次いで、リアス先輩は姫島先輩に視線を送った。

 

 

「──―私は、姫島朱乃。副部長をしています。宜しくね」

 

「僕の名前は木場祐斗。えっと、ニコーラ君、だっけ?」

 

「俺は言わなくても分かるよな! ニコ!」

 

「私も同じくです」

 

 

 それから順番に姫島先輩、木場先輩、イッセー先輩、塔城先輩の順で声を掛けられる。

 

 俺も軽く頭を下げて「宜しくお願いします」と言う。

 

 

「それで、今日来てもらったのには『とある』ワケがあるんだけど……分かる?」

 

「……ワケ、ですか」

 

「ええ」

 

こっち(日本)に来てから特に問題を起こした覚えはないんですが……」

 

「…………」

 

 

 いやッ、まだだッ! 

 

 この様子は、まだ本質に辿り着いていない人間の反応だッ! 

 まだいける。まだ耐えられるぞ、俺! 

 

 先輩方はまだ俺が昨夜の犯人だとは確信できていない! 

 

 オカ研の頼みの綱は塔城先輩の猫趙としての嗅覚……それなら、それを証拠としてまだ犯人の確証の得られていない一般人(おれ)にそのことを晒せるはずがない! 

 

 そうだ、ここを乗り切れば道は拓ける! 

 

 

「ちょっとこれを見てくれるかしら?」

 

「えっと…………地図、ですか」

 

 

 先輩に勧められ、席に座る。

 

 そして、テーブルの上に広げられたのは地図。駒王町のものだ。

 地図の中心には駒王学園があり、その付近に赤丸を付けられた場所がある──────俺の帰路だ。

 

 

「そうよ。そして──────これを見てくれる?」

 

「これは……」

 

 

 向かいに座ったリアス先輩は、地図の赤いライン付近に数枚の写真を置いた。その場所の実際の写真──―昨夜、事件当時のものではない──―だ。

 

 俺は表情をおくびにも出さずの耐える。

 

 反応を見せるな──―リアス先輩の向こう側にはソファの後ろでこちらを伺う木場先輩がいた。

 

 少しでも表情に出したら怪しまれることだろう。

 だがしかし、向こう(イタリア)ではビーチ・ボーイが見えないファミリーを日々誤魔化していた俺だ。早々、バレるようにことはしてない……はずだ。

 

 

「ここに見覚えはあるかしら?」

 

「ええ、まあ……ですけど、これがどうしたんです?」

 

 

 俺は首を傾げて疑問符を添える。

 

 平常でいろ。それでいて程々に不安を出せ。

 過剰に疑問を呈するとわざとらし過ぎる。

 

 

「──―……いえ。……話は変わるけど、昨日この場所に居なかったかしら?」

 

「ええーっと……この場所は俺がいつも登校してる道なんで、居たというか……なんて言うんですかね? いつも、居る……っていうか、通る? ですかね?」

 

 

 そうだ。

 

 あの道自体は俺がいつも登校する場合と下校時に使用する道だ。

 

 それに俺はまだ中等生。学園の規則で、学校側に下校する時の道順を提出してある──―交通安全のためらしい

 つまり、あの道を使っていることがバレてもなんら問題はないのだ。

 

 

「…………ッチ」

 

 

 ……今、この人舌打ちした? 

 

 

「…………それじゃあ、昨日もここを通ったってことでいいのかしら?」

 

「まあ、そりゃ下校時に使うんで……はい」

 

「一つ確認するけど、昨日この場所を通ったのはいつ頃?」

 

 

 えっと、確かドーナシークと遭遇したのが昨日の六時過ぎ頃。そして、学園中等部の部活未所属児童の下校時刻は四時から四時半。

 

 それで、俺は学園を出る前は屋上に居て、帰るときも校舎を出て直行で校門を出たから目撃情報は少ない。

 

 街中の防犯カメラを確認されたらマズイが、防犯カメラは基本的に警察機関しか確認出来ないし、させない……。

 

 ──────嘘を付いてもバレない……! 

 

 

「確か……四時半から五時の間くらいだったと思います」

 

 

 過剰では駄目だ。

 

 程よい嘘が相手を余計に惑わすのだ。

 俺はその技術をコンサルの父から学んだ。

 

 

「そう……嘘は──―なさそうね」

 

「嘘なんて……。でも、こんなこと聞いてどうするんです?」

 

「いや──―、近頃、駒王町で未成年を狙った犯罪が横行してるのよ。それで二コーラ君が通っている道近くで目撃情報があったから、一応事情聴取をしてるのよ」

 

「……なるほど」

 

 

 ふむふむ……そういう背景(バックボーン)を作る訳ね。

 

 

「──────これで事情聴取も終わったことだし、帰っていいわよ。今日はありがとね、二コーラ君」

 

「いえ。あ、でも、その……不審者? を見つけたら教えて下さい」

 

「勿論よ。じゃあ、帰り道気を付けてね」

 

「はい。ありがとうございました」

 

 

 俺は席を立ち、リアス先輩に頭を下げる。

 

 ふぃー……その場凌ぎとはいえ、時間は稼げたかな? 

 これでこのまま有耶無耶(うやむや)に出来れば……ヨシ。

 

 俺はそのまま、早鐘を打つ心臓を押さえつけ、やや速足に扉へ向かう。

 

 そして、ドアノブに手を掛け──────―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────木場君」

 

「はい──―魔剣創造(ソード・バース)!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────―ッッッッッ!!!!!!!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────────────ビーチ・ボーイ!!!!!!!!!!!」

 

 

 俺は、振り返りざまに一閃する。

 

 ギャリィッ、と耳障りな嫌な音を立てて俺に迫っていた白金の直剣は弾かれる。

 だが、俺も弾いた反動で姿勢を崩し、床に手を着く。

 

 大丈夫だ、ダメージはない。

 俺は息を瞬時に整え、口を開いた。

 

 

「──────何故」

 

「──────やっぱり。やっと正体を現したわね」

 

 

 そう言って、リアス先輩は悪魔的微笑を浮かべた。



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第六話「貴女、『覚悟して来てる人』ですよね」

皆さん、お待たせいたしました。
投稿時間が微妙なのは、二十四時予定が間に合わず五分後投稿となったからです。

そして、ここで言っておきます。
お気付きの方もいらっしゃるかもしれませんが、私はリアス・グレモリーが嫌いです。十分お気を付けてお読み下さい。


「ニコ!」

 

 

 睨み合う俺とリアス先輩の最中、イッセー先輩は悲鳴を上げた。

 塔城先輩は我関せずとばかりに欠伸している。

 

 木場先輩と姫島先輩は……戦闘態勢に入っている。

 

 

「よくもやってくれましたね……リアス先輩」

 

「ほら、やっぱり私の予想通りだったでしょ、木場君」

 

「ええ。割と早めに振ったんですけどね」

 

 

 このクソ野郎どもが……ッ。

 

 

 ──────ビキビキビキ……ッ

 

 

 俺はこめかみから首筋掛けて血管が浮かび上がるのが(おの)ずと分かった。

 

 これは新種の怒りだ。ドーナシークの時とはまた違った憤怒だ。

 

 

「……ちなみ、どうして分かったんで?」

 

「ふふん! 別に確信してたわけじゃないわ。可能性があったから試しただけ。別に殺すつもりはなかったわよ? ただ、怪我しても治して記憶消すだけだもの」

 

 

 

 …………。

 

 

 ………………。

 

 

 …………………………。

 

 

 ………………………………。

 

 

 …………………………………………はぁ。

 

 

 

 

 

 本音を打ち明けよう。

 

 

 

 

 

──────―()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 結論、俺はどこか勘違いしていたらしい。

 

 俺はリアス・グレモリーを同じく、眷属(ファミリー)を持つ者同士として認識していた。

 眷属(ファミリー)家族(ファミリー)──―意味は違えど、それらは身内を尊み、血筋を超えた絆を結ぶものだ。

 

 

 故に、俺はリアス・グレモリーへ失望を抱く。

 

 

 転生してから十と余年、俺は父の傍で、最も近い場所でファミリーを見て、見守り、見守られてきた。

 

 そこでは、前世で知っていたギャングやマフィアとは違い、暖かな空間があったのだ。

 ただ身内へ甘いのではなく、お互いに見守り、見張り、尊重し合うのがファミリーであったのである。

 

 更に、身内ならずも、地域住民や土地の先達に敬意を払い、マフィアは治安を、伝統を守る。代わりとして住民にシノギを貰うのだ。

 

 それに場所によってはイタリア政府と直接交渉しているところもあるくらいだ。

 ちなみにウチは知事と交渉して行っている。

 

 確かに、そういう意味ではマフィア同士に縄張り意識があることは否めない。

 抗争もあるにはある。

 

 だが、イタリアにおいてはたった一つの不文律の掟がある。

 

 

 

 それは、()()()()()、だ。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 なので、よく表社会で横行している抗争の大半は、違法な(ヤク)を人様の縄張りで売り捌こうとした組織や、半グレ共の寄せ集めのカス共ってことになる。

 

 そうなれば無論、領地に入って来た他のマフィアと飲むこともあれば、語らうこともある。

 基本的には他の土地に入れば、どれだけ凄いマフィアの要人であろうと、一般人と変わらない扱いを受ける。

 

 

 …………ああ、話が逸れたが、つまり俺が何を言いたいのかと言うと──────

 

 

 

 

 

「──────覚悟、出来てんだろうなァ……」

 

「……覚悟、ね。覚悟するのはどっちでしょうね」

 

 

 あ? ナニ言ってんだ、このアマ。

 

 

「人の領地に勝手に侵入して好き勝手やってくれたじゃない? 此処をどこの領地だと心得て? グレモリー家直轄地よ」

 

 

 ふぅ……押さえろ、俺。

 

 少々、()()を晒すようで嫌だが、仕方あるまい。

 

 

「そりゃァ、可笑しな話だな……」

 

「ふんっ。侵略者の言葉に貸す耳ないわ。事実しかないもの」

 

「ハハッ! 高尚な耳だ」

 

 

 俺はビーチ・ボーイを振るう。

 

 

 

「──────ぐっ!? がぁぁぁああああああ!!!」

 

 

 

 こっそりと回り込もうとしていた木場先輩の腕を、釣り針が攫う。

 鋭利な()は先輩の右手首の動脈を裂いていた。

 

 

「祐斗君!?」

 

 

 ────────BANG!!!! 

 

 

「な──―っ」

 

 

 救助に駆け寄ろうとした姫島先輩を、ベレッタM84で牽制する。

 

 こんなことをあろうかと内ポケットに入れといて助かった。

 

 

「おっと、余計な真似はせんで下さい。こっちだって被害者なんだ。……あぁ、あと木場先輩、早く血ィ止めんと本当におっ死んじゃいますよ?」

 

「──────やってくれたわね!」

 

「あぁ!? どっちの台詞じゃァ、ゴラァッ!!!!! ……ないとは思いますが、塔城先輩もイッセー先輩も動かないで下さい。手加減できる自身ないんで」

 

 

 俺は一旦ビーチ・ボーイを消し、左手でベレッタM84を構えながらネクタイを直す。

 

 

「さっきの話の続きでしたね……。俺は割と貴女達みたいなのに造形深いんですよ。そう例えば──────この地が貴女のものではないということとか」

 

「嘘よ! 駒王町は昔からグレモリー家の土地だわ!」

 

「ハイ、(ダウト)。そりゃア、テメェら悪魔の考えた都合の良い話だ」

 

 

 俺はワイシャツのボタンを外し、襟を広げた。

 再度、ビーチ・ボーイを右手に出し、俺は話を続ける。

 

 

「分かるかい、世間知らずのママっ子(マンモーニ)? 遥か古代から日本は大和(ヤマト)の神々が支配していた。だが、大和(ヤマト)の神々は鎌倉時代を境に姿を消した。なんでか、分かるかい?」

 

「…………」

 

「──────人間に支配を、発展を預けたからだよ。それがどうだ? 日本の神々が離れた途端、君達のような薄汚いゴミ共が日本に入り込んで来た。特に聖書に関連する天使と悪魔、君達が」

 

 

 俺は思わず、「我らが祖国、オリュンポスの神々を見習って欲しいものだよ」と呟いた。

 

 オリュンポスの神々は自由奔放、邪知暴虐、純真邪悪をモットーにしているが、他の神話に侵攻などはしなかった。そこだけは評価してやってもいい。

 

 だが、アポロンとヘラ、貴様らは許さん。

 

 

「そして、我が物顔で入って来た喋るゴミこと君達は──────」

 

「部長を馬鹿にするな!!」

 

「──────誰が喋っていいと言った!!!!!!」

 

 

 ──────BANG!! BANG!! 

 

 

 俺は蹲っている木場に向けて二発撃ちこんだ。

 どうやら、右手首はハンカチを巻いて止血していたよう。

 

 撃ち込まれたは箇所は、右脇腹と左太腿。

 ふぃー……脇腹と腕を狙ったつもりだったんだが……冷静さを欠き過ぎだな、気を付けよう。

 

 

「はぁ……! はぁ……! ──────―ふぅ。失礼。脇腹はどうでもいいですが、太腿は致命傷になります。縛るなり、抑えるなりしといた方がいいですよ、先輩」

 

 

 俺は、息を整え深呼吸をする。

 

 どうせ、木場先輩も悪魔だ。そう易々と死ぬこともあるまい。

 

 

「話を──────話を戻しましょうか。ええ? なんでしたっけ? …………ああ、日本の神々についてでしたっけ? あれ、違うか……っと」

 

 

 俺は動こうとする姫島先輩へ銃口を向ける。

 

 やれやれ、油断も隙もない。

 

 

「そうそう、君達ゴミクズ共が日本が入って来たところからでしたね。はい。悪魔は勝手に日本に住み着き、同族と領地を切り貼りし、転生悪魔として人間を攫い続けた。君達は悪魔にされた者達の原因が自分達とも思わなかったんだろうね? それに、無理矢理悪魔にして、逆らったら『はぐれ悪魔』として処刑。素晴らしいシステムだよ、まったく」

 

「貴方……一体どこでその情報を──────」

 

「ハハッ! 君達が思っている以上に人間は強かですよ? 第一、いきなり人ひとり消えてるんだ。戸籍社会の日本でバレないはずがないでしょう?」

 

 

 俺は(かぶり)を振って、嗤う。

 

 

「勿論、()だって調べました。知ってますか? この日本で君達人外によって消える人数は年間三万人だそうだ。実に年間行方不明者の三割以上だ! こんなに可笑しいことってあるかい!?」

 

「私はそこまでしていない!」

 

「テメェはその一味だよ、クソがッ!」

 

 

 ここに来て出る言葉が、「そこまで」。

 失望を通り越して、諦観。あるいは希望さえするよ。

 

 

「まあ……まあ。ここまではいい。正直、俺は日本に巣くう君ら人外による問題など心底どうでもいいし、はなから責任外にいる」

 

「…………貴方、一体何者──―」

 

 

 俺は溜息を吐く。

 

 コイツは何も聞いちゃあいねェ。

 

 息を一つ吸い込み、最終勧告をする。

 

 

「──────リアス・グレモリー先輩、貴女は『覚悟して来てる人』……ですよね?」

 

「は?」

 

「人を『始末』しようするって事は逆に『始末』されるかもしれない、という危険を常に『覚悟して来ている人』ってわけですよね──────」

 

 

 俺は、ベレッタM84を床に捨てる。

 それは自然な動作だったはずだ。しかし、それに反応出来たのは三人、ギリギリではあるが三人もいたのだ。

 

 

 一人は木場祐斗。死に瀕して、火事場の馬鹿力でも発揮したのだろう

 もう一人は姫島朱乃。彼女は銃口を向けられ続けた緊張によって反応したというべきか。

 

 最後の一人はリアス・グレモリー。土壇場のギリギリで気付きやがった。

 

 リアス・グレモリーは勝利の笑みを浮かべて、叫んだ。

 

 

 

 

 

「──────―やられるのは貴方の方よ!」

 

 

 

「──────不合格だッッッ!!!!! ママっ子(マンモーニ)ッッッッッ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 俺は銃を手放した刹那、ビーチ・ボーイを一瞬で両手に持ち替えて、()()()を活かして振るった。

 

 遠心力に釣られて伸縮する糸は高速で飛来し、まず、魔力を練っていた姫島朱乃を目指す。

 

 

「遅い遅い遅い遅い──────遅い!!!!!」

 

 

 釣り針が唸り、腹部を透過。

 即座に背骨へと絡みつく。あとは引くだけ。

 

 

「く、ケっ──────かほっ」

 

 

 膝から崩れ落ちる姫島朱乃を放置し、流れにそって竿を動かす。

 竿を上に引き、自分側へと引き戻す。

 

 

「ふくぶちょ──────あ──―バっ!?」

 

 

 その最中、剣を用いて立ち上がろうとしていた木場祐斗の両足首を剣ごと抉る。

 支えを失った木場祐斗は顔から地面に衝突した。

 

 

「塔城先輩、すみませんが動かないで下さいねッ!」

 

「え──―きゃ!?!?」

 

 

 走り出した塔城先輩の足を掬って転ばせる。

 

 

「イッセー先輩もですッ!」

 

「止めろニコッ!」

 

「ならば戦え!」

 

「ぐっ!?」

 

 

 俺は床に転がるベレッタを蹴り上げ、イッセー先輩の顔に当てる。

 

 

「シッ!」

 

「ちょっ、ぎぃっ──────……」

 

 

 竿を突き出し、針をブレザーに引っ掛ける。

 次点で、短くコンパクトに背負いながら引いて、天井に叩き付ける。

 トドメに背負い投げの要領で地面に叩く。

 

 

 沈黙。

 

 

 これで、イッセー先輩は気絶。戦闘に参加出来る見込みはない。

 

 

「貴女で最後です、リアス・グレモリーせんぱ──────」

 

「いいえ、私の勝ちよッッッ!」

 

 

 振り向けば、リアス先輩は胸元で禍々しい色の波動を練っていた。

 

 

 ──────滅びの魔力。

 

 

 しかし、恐るるに足らず。

 

 

 

 

 

「『不合格』と言ったはずだ!!!! リアス・グレモリー!!!!」

 

 

 

 

 

 竿を手元で操り、蛇行のような軌道を描く。

 桃色の軌跡が空間を迸り、亀裂を作った。

 

 原作において、ペッシがプチャラティー戦で見せた、瞬息のあの技だ。

 

 

「な──―きゃあぁぁぁ!?!?!?」

 

 

 両腕を絡め取り、コントロールを失わせる。

 やがてコントロールを失った魔力は弱々しく天井に放たれ、球状のシミを作った。

 

 

「ふんッ」

 

「きゃ──────ぐっ!?」

 

 

 両手首を拘束したまま、リアス先輩を地面に叩き付ける。

 

 俺は上目遣いで睨むリアス先輩の頭を踏み躙り、弾き跳んでいたベレッタM84を拾い上げた。

 

 

「──────クッ」

 

「終わりだよ、リアス・グレモリー」

 

 

 そして、引き金に指を掛け────────────―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっと、そこまでだ、ペッシ。我が愛しのペッシよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────閉じられていた扉が開いた。




幼馴染系ヒロインとはよく言ったものです。言うならば、ラスボス系ヒロイン。
イメージはFateシリーズのライネスでしょうか。

あと、文句は受け付けます。批判は受け付けません。


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第七話「姉貴と悪夢と神話とそれから」(前編)

今回は少々長いので前編後編に分けてお送りします。


 ──────ギ、ギギィ…………

 

 

 

 

 

 重苦しく開かれたオカルト研究部部室の扉。

 アルミ製のはずのそれは、重厚な重きを以て音を立てた。

 

 俺は、その様子を畏怖の面持ちで眺めていた。否、身体だけではない。身も心も凍てつく程、俺は内心焦っていた。

 

 なぜなら、俺は扉が開かれるその直前にした鈴のような声──────それに聞き覚えがあったからだ。

 

 

「ま……まさか、だ…………だってあれから一日も経って──────」

 

 

 俺は上がる心拍数に心配を感じる。

 

 そうだ。得てして、良い予感は当たらないが、嫌な予感は……──────

 

 

 

「久しぶりだね、ペッシ」

 

「──────―姉貴!」

 

 

 

 うっそだろお前。

 

 俺は思わず天を仰ぎ…………

 

 

「キャ!」

 

「お久しぶりです!!!!」

 

 

 リアス先輩を蹴飛ばし、手を揃え腰を直角に曲げて頭を下げる。

 俺からすれば、この非常事態に比べればこの部屋の惨状やオカ研部員などどうでもいいのだ。

 

 

「そう、堅くならなくていいんだよ、ペッシ。私と君の仲じゃあないか」

 

「いえ……そういう訳にも…………」

 

「ペッシ?」

 

「ですが……」

 

「ペッシ」

 

「俺と姉貴は血筋的に……」

 

「ペッシ」

 

「うっす」

 

 

 俺は諦めて頭を上げる。

 

 そして──────そこには金髪碧眼の少女がいた。

 

 俺は背筋を伸ばして、傍に侍る。

 

 

「けれど、本当に久しぶりだね、ペッシ」

 

「いや、数か月ちょいぐらいですよ? 会ってなかったの」

 

「そういう問題じゃ……ああ、まあ、いい。君は女心に疎いなあ。御父上を見習い給え。イタリアの人間として女の扱いを心得てないのは関心せんぞ?」

 

「…………はい」

 

「ん? 声が小さいな?」

 

「はい!」

 

「うむ。よろしい」

 

 

 何というのだろう、この尻に敷かれているような感じは……。

 

 とはいえ、従う他ない。

 俺はチラリと少女を見やる。

 

 ゴシック調のスマートな意匠のドレスに、ロングコートを合わせ、ベルトで引き締めた格好。

 頭にはベレー帽を被って、金糸と見間違うようなきめ細やかな金髪と蒼玉(サファイア)のような三白眼がトレードマーク。

 

 何を隠そう、この少女は俺の家系が長年仕えている本家の人間なのだ。

 しかも、本家当主第一子長女。その権力は巨大なファミリー内でも五指に入るほど。

 

 で、俺はそんな本家のお姫様と不幸なことに……

 

 

「ペッシ~、何か言ったかい?」

 

「…………いえ」

 

 

 …………幸運なことに幼馴染な訳である。

 

 とはいっても、俺と姉貴は二年違いの歳の差。

 姉貴は背が低く、よく中学生と間違えられるが、その実高校二年生なのだ。

 

 

「──────っと、忘れるとこだったよ」

 

「…………? そういえば、姉貴は何をしに来たんです?」

 

「それを今からやるところさ」

 

 

 姉貴は俺の前を通り過ぎ、地面に転がっているリアス先輩へと歩み寄った。

 

 それから姉貴はドレスの裾を上げ、右足を天高く振りかぶり……、

 

 

「よ、っと!」

 

「がッ──────ハッ!?」

 

「あちゃあー……」

 

 

 ドゴッ! と鈍い音を響かせて、思いっきり腹にローキックを見舞った。

 それはもう奇麗なフォームでだ。

 

 俺も思わず、「おお」と拍手をしてしまった。

 ああ、決してスッキリしたとかじゃない。

 

 

「かっ、ケホッ、カハッ……」

 

「やあやあ、御機嫌よう。リアス・グレモリー嬢」

 

 

 咳込み蹲るリアス先輩へ屈み、顔を覗き込む姉貴。

 

 

「こっちを見ろ、私はそう言ったはずだが?」

 

 

 姉貴はリアス先輩の髪を掴み、持ち上げる。

 

 ところが、プライドか血統の貴さ故か、リアス先輩は覗き込んできた姉貴に対し、睨んでしまう。

 

 あーあ。俺はそう漏らすが、既にもう遅かった。

 

 

「なんだ、その生意気な態度は?」

 

 

 ──────バチン……ッ!! 

 

 

「あ゛ぎっ!?」

 

 

 部屋に鋭い音が響く。

 見れば、リアス先輩の頬は鋭く紅葉が刻まれていた。

 

 姉貴は残酷な笑みを粛々と浮かべ、リアス先輩の顎を掴む。

 

 

「ほら、この私が聞いてやっているんだ。どうにか言ったらどうなんだい?」

 

「こんなことをしてただで──────」

 

 

 ──────バチン……ッッ!!! 

 

 

「あが!?」

 

「おや、なんとか言ったかい? どうも最近、耳の聞こえが悪いんだ。もう一度、言ってくれるかい?」

 

 

 姉貴はリアス先輩の端正な顔を掴み、目を合わせた。

 顔を近付け、もう一度頬を張る。

 

 

 ──────バチン……ッッッ!!!! 

 

 

「ぐぎぃっ!」

 

「おやおや、なんて不細工な悲鳴なんだ。まさか、公爵家長女・魔王の妹がこんな声を出すとはねぇ」

 

 

 更にもう一度、頬を張る。

 そして、それを何度も何度も繰り返す。

 

 

「うんうん、素晴らしく美しい顔だよ、キミ」

 

 

 声は恐ろしく優しい。

 

 白磁の肌が張り、喉が震える。

 その度に脳を溶かすような甘い言葉が放たれる。

 

 まあ、声に見合わず行為はえげつないのだが。

 

 

「知ってるかい、リアス・グレモリー? 君のことはギリシャ神話やローマ神話、北欧神話でも有名なんだよ?」

 

「………………」

 

 

 …………あんだけ、殴られりゃ意識も飛ぶか。

 

 リアス先輩は顔を腫らし、「コヒューコヒュー」と掠れ声を漏らしている。

 顔の肌は真っ赤に紅潮に腫れあがっているし、唇も切れているため喋るのは困難だろう。

 

 しかも、未だ姉貴に顎を捕まれたままだ。喋ろうとも口が開けない。

 

 

「なんとか言ったらどうだい」

 

「…………っ」

 

 

 オマケにもう一発。

 

 今度は手を放してフルスイング。

 リアス先輩は床を転がり、顔を打つ。

 

 ありゃ、トラウマになりそうだなー、怖いなー(棒読み)。

 

 だが、悪夢はまだ終わらない。姉貴は良い笑顔で口を開くのだった。




正式な名前は次話で出ます。


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第八話「姉貴と悪夢と神話とそれから」(後編)

「君に良い知らせを聞かせて上げよう」

 

 

 腰に手を当て、前屈みにリアス先輩へ近寄る。

 

 

「君の評判は天界にまで届いてるらしいよ、リアス・グレモリー。それもデカいニュースがね。まずー、なんだっけ、ペッシ」

 

「確か──────領地の監督不行き届きです」

 

「そうそう。それから…………」

 

 

 姉貴は天井に視点を泳がせ、指を鳴らす。欧米人特有の思い出し方だ。

 日本人は頭を抱えたり、抑えたりするだろう? あれだ。

 

 

「はぁ……覚えてないんですか?」

 

「まぁね」

 

「……そんなことだろうと思いましたよ。えっと、まず──────」

 

 

 俺はリアス・グレモリーが犯した愚行を口に出す。

 

 

「さっきも言った、監督不行き届き。貴女が領地管理者になってから、住民への被害が少なくとも百四十二件確認されています。確認されているだけでも、重軽傷者三十一名、死者八十七名、行方不明二十四名。器物損壊に至っては二百五十件を超えています」

 

「ふむふむ。それから?」

 

「はい。それから、はぐれ悪魔の侵入例が最低でも十五件。多種族への不法外交的干渉が四件。本家──────つまり、グレモリー公爵家への報告義務の放棄が百件を超えています」

 

「まだまだそんなもんじゃないだろう?」

 

「ええ。自らのミスによる目撃者を記憶消去した事案が四件、本家からの統治活動資金の私的利用の横領……などなど。あ、それから一般生徒への殺人未遂、致死障害未遂、ですかね」

 

「ハァ……君がそれを言うのかね?」

 

「まあ」

 

 

 姉貴に鼻で笑われる。

 

 

「ま──────今、()のペッシが語ったように『最低』でもこれだけの不祥事が確認されている。うんうん、有名で羨ましい限りだよ。おかげ様で日本神話の神々が神界を経由して文句を言ってきていてね。『このままなら、戦争を辞さない』ってな具合に」

 

「考え方によっちゃ…………戦争でもマシなくらいですね」

 

「ああ。速攻で滅ぼしても文句言えないくらいだからねぇ。で、日本で一番被害が大きいのが、この町──────駒王町ってワケ。つ! ま! り! 君達がこれ以上失態を重ねるなら、統治を辞任させることも選択肢に入らざるを得ない。いや──────」

 

「──────既に選択肢に入っている、ですね」

 

「…………そーゆーこと」

 

 

 分かっているかい? 姉貴はリアス先輩を見下し、吐き捨てる。

 

 姉貴は時期ファミリー当主として女という立場でありながら最も近い立場にある。だから、自分と同世代にも関わらず、一足先に支配者というポストに就いているリアス先輩が気にくわないんだろう。

 

 あるいは同じく支配者という域に立っているのが許せない、とか。

 私ならもっと上手くやる、とか、思ってるのかもしれない。

 

 

「…………そんなこと──────」

 

「──────ない! って、そう言いたいのかい? 残念ながら、私とペッシはローマ神話からの使者だ。辞任云々(うんぬん)の話は既に君の兄上、サーゼクス・ルシファーとも話が着いているんだよ、リアス・グレモリー」

 

「そんな…………」

 

 

 リアス先輩は……これは完全にダウンしちゃってるな。

 

 フィジカルもそうだけど、メンタル面にも大分効いたんだろう。

 心神喪失、もしくは心ここにあらずって感じだ。

 

 

「ハハッ! 文句があるなら兄上に聞いてみることだね。まったく、聖書の由来がヨーロッパだからって私達に任せなくてもねぇ……そうは思わないかい、ペッシ?」

 

「もー……勘弁して下さいよ。それは姉貴の仕事でしょう?」

 

「いいや、私とペッシ二人の仕事だね。第一、私は好きに出歩けない立場なんだ、任される訳ないだろう?」

 

「ん? そういや、どうやって学園(ここ)に?」

 

「──────抜け出してきちゃった♡」

 

「はぁ…………また、怒られますよ」

 

「いいんだよ。どうせ、みんな私に強気に出れないんだから」

 

 

 姉貴はケラケラと嗤う。

 

 ほんと、良い性格してるよ。

 

 

「じゃ、失礼するよ…………おや、このままでもいかないか」

 

 

 コートの裾を翻した姉貴だったが、部屋に惨状を目の当たりにして嘆息する。

 

 いやー、でもこれって俺のせいなんですかね? 

 原因の九割方は相手の方だと思うんですけど……。

 

 

「仕方あるまい。部下の失態は上司である私の失態だ」

 

 

 姉貴は溜息混じりに失笑する。

 

 なんだか、納得いかないが……まあいい。

 

 姉貴は懐から銀色のチューブを取り出す。

 チューブを絞ると、乳白色のクリームが出る。それを小指に出し、オカ研の部員それぞれに近寄る。

 

 失神している木場先輩には足と手、気絶している姫島先輩には腹部、イッセー先輩は頭、と順にクリームを付ける。

 

 

「ああ、君はいいや」

 

 

 リアス先輩を無視し、部屋の隅で縮こまっている塔城先輩に近寄り…………

 

 

「おや、この子には手加減したんだね、ペッシ」

 

「ん……ええ、まあ。抵抗が少なかったんで」

 

「へぇ…………」

 

「なんですか」

 

「いや、あのペッシがねぇ……と思っただけだよ」

 

「邪推しないで下さい」

 

「そんなつもりはないんだがね。──────ちょっと失礼」

 

「…………っあ」

 

 

 姉貴に顔を上げさせられた塔城先輩が声を上げる。

 塔城先輩の顎を掴み、目を合わせる。

 

 塔城先輩は緊張か恐怖のためか、耳と尻尾を露出させていた。猫趙本来の姿だ。

 

 それから、顎を動かし顔の角度を変えながらジロジロと眺める。

 

 

「あう……むぅ……」

 

 

 ヘタって座り込んでいる塔城先輩はやられ放題の様子。

 

 最後に猫耳を撫でた後、額にクリームを付けた。

 

 

「これからもウチのペッシと宜しく頼むよ。どうやらペッシは君がお気に入りのようなのでね」

 

「ちょっと! 余計なこと言わないで下さい!」

 

「フッフー! 私に命令したいならもっと偉くなることだね」

 

 

 姉貴は上機嫌に鼻歌を歌う。

 スキップ混じりに部屋の真ん中へと行き、腕を組む。

 

 これは……()()()だな。

 

 

「塔城先輩、あまり()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…………()()()

 

 

 放心状態にあった塔城先輩が首を傾げながら言う。あ、可愛い。

 

 じゃなくて、このままじゃ俺もマズイ。

 俺はポケットからハンカチを出して口元を覆う。

 

 

「それじゃあ、行こうかね」

 

 

 姉貴は両腕を大きく広げ、魔力を込める。

 俺はその様子を離れながら傍観する。下手すると俺も死にかねない。

 

 

 

 

 

 ──────アレクサンドラ・イレーネ・ダ・プロシュート

 

 

 

 

 

 何を隠そう、それが姉貴の名だ。

 イタリア人の父とフランス人の母を両親に持つ、彼女だが、名前から察せるように彼女もまた『スタンド』使いだ。

 

 俺と違って転生者ではないようだが、能力は『ジョジョの奇妙な冒険』第五部のプロシュートというキャラのもので、超一級。

 

 スタンド名を──────

 

 

 

 

 

「────────―『偉大なる死(ザ・グレイトフル・デッド)』」

 

 

 

 

 

 出現するのは異形。

 

 全長は一メートル五十センチ程。下半身がなく、肥大化した両腕で地面に立っている人型実体。

 特徴は体全体に浮かんだ金色の瞳。

 

 それが姉貴のスタンド、『偉大なる死(ザ・グレイトフル・デッド)』。

 

 

「やれ」

 

 

 ザ・グレイトフル・デッドは大きく体を逸らし、体から紫色の毒々しいガスを噴出する。

 

 俺はハンカチで口を塞ぎ、念のため息も止める。

 

 

「これは──────むぐ!?」

 

 

 塔城先輩が驚きの声を漏らし、数秒も経たない内にうずくまった。

 

 

「お、効いて来たね」

 

 

 ザ・グレイトフル・デッドの能力は──────『老化』。

 スタンドの発生させるガスを吸い込んだ対象を、自分を除き無差別に老化させることが出来る。

 

 しかし、この核兵器も真っ青なガスにも使い道はある。

 限界までガスの密度と量を絞ることにより、体を活性化させることが出来るのだ。

 

 

「知ってるかい? 老化とは細胞分裂の限界。それつまり、新陳代謝の終了を意味する。だから、ほんの少しだけ老化させれば体の新陳代謝を急速に行うことが出来るんだ。ちなみにさっき塗ったのは栄養剤と治療薬を混ぜたものだ。肌吸収であろうとも直ぐに効果は出る。まあどっちにしろ悪魔なんだ、潜在的な再生能力は高いだろうから安心したまえ」

 

 

 姉貴の言う通りだ。

 

 ただ、本当に量を絞らないと、死ぬ。普通に死ぬ。

 昔、俺で実験して毎回死に掛けてた。

 

 今出してるガスの量だって全力時の百分の一にも見たない体積と密度だ。

 

 あ、でも、悪魔になれば寿命が長くなるから、老化も効き辛くなるのか。そこだけはメリットなのかなも──────って、無理か。体中の水分が無くなればどちらにせよ死ぬだけだしな。

 

 

「ええと、そこの──────」

 

「塔城小猫です」

 

 

 やっとガスの放出が終わり、俺は姉貴の質問に答える。

 

 ふぅ……空気が上手い。深く呼吸をする。

 

 

「そう! 塔城小猫君! 暫くは体が動かないだろうが、耳は聞こえているだろう。ソレが終わった後はキチンとご飯という栄養を摂って、水分を取るといい。それにマッサージをすることだ。あと、()()()が酷いだろうから気を付けてネ?」

 

「う、うぅ……!」

 

 

 うずくまる塔城先輩からゴキゴキバキバキと()()()()()()()()()()

 あのガスの量だし一時間もしないで終わるだろうけど、結構辛いんだよね、あれ。

 

 数か月から数年分の新陳代謝が一気に来るわけだから、体各位のダメージは凄いことになる。

 量を絞ったが故に弊害って訳だ。

 

 ジョジョ由来の能力にメリットだけの最強能力などないということかね。

 

 

「さ、帰ろうか、ペッシ」

 

「はい」

 

 

 時計を見る。

 まだ、五時頃だ。問題はない。

 

 スマホでベルベットに「今から帰る」とメールを打ち、扉へ向かう。

 

 扉を開き、姉貴が出たのを確認して、俺も部屋を出る。

 

 背後から聞こえる呻き声に振り向き、

 

 

「あ、そういえば、明日から姉貴も学園(ここ)に通うそうです。よろしくお願いします」

 

 

 と、言った。



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第九話「オリュンポスの布石たち」

「お早う御座います、坊ちゃん。朝です」

 

 

 ぼんやりとした意識に聞きなれた声が染み渡る。

 

 そうだ。朝だ。

 

 俺はそう意識しながら体を動かそうとする。

 ああ、体に掛かった布団が鋼鉄のように重い。

 

 もう十分だけ寝させてはくれないだろうか。

 

 昨日は久しぶりにちゃんと体を使って疲れてるんだ。

 

 

 

 

 

 ──────もう! 遅いぞ! 早くせんか! 

 

 ──────すみません。しかし…………

 

 ──────ええい! ままよ! ベルベット、そこを退け! 

 

 

 

 

 

 あ、あれ……? なんだ? 唐突に嫌な予感が……。

 

 俺は焼け付く網膜を開き──────そこに影を見た。

 

 

「よいしょっと!」

 

「──────ぐぶべらっ!?」

 

 

 万力とも勘違いしそうな重力が俺の腹部を襲う。

 

 なんやら胃袋から色々と出そうになるのを我慢する。

 

 

「ああ、やっと起きたか、ペッシ。おはよう」

 

「ぅ、あ゛い、おはよーございます、姉貴」

 

 

 姉貴は俺より身長も低く、体重を軽いはずであるが、流石に飛び込んできた人ひとりの体重は受け止められない。位置エネルギーの恐怖である。

 

 

「さっさと支度をせんか! 朝食が待ってるぞ」

 

「はい」

 

 

 瞼を擦り、姉貴を見ると既にもう着替えているようで、駒王学園の制服を着ていた。

 

 

「着替えるの早くないですか?」

 

「いや早く起き過ぎた。時差ボケというものだよ」

 

「あー、なるほど」

 

 

 確かにイタリアと日本じゃ、東西で大きく経緯が離れている。時差ボケは相当なものだろう。

 

 

「さあ、早く! 朝食が私を待っている!」

 

「もー、分かったから引っ張らないで下さいよー」

 

 

 俺はベッドから降り、スリッパに履き替えてから、姉貴に引き摺られていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 § § § § §

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで朝を超え、学校へと趣き、時は既に下校の時刻。

 今日()変わらず、楽しく平和な日常であった。

 

 ただ一つ問題があるとすれば、

 

 

 

「Pesci, ci sei? (ペッシ、いるかーい?)」

 

「呼ばれてるよ、ニコ君」

 

「あー…………はい、そっすね」

 

 

 

 授業の終わり毎に姉貴が教室を訪ねてくることだ。

 しかも、毎回ご丁寧にイタリア語で話し掛けてくる。どうやら、本人曰く美少女留学生的なキャラでいくらしい。

 

 無理あるって……。

 

 

「大変だねー、従姉だっけ?」

 

「えーと、まあ、そんな所です」

 

 

 変にニヤケ面のクラスメイトを置いて、荷物を持ち教室を出る。

 

 こんな白昼堂々と、この人は親の勤め先(マフィア)上司(ボス)の娘で俺はその幼馴染です、って言えるかっての。

 

 俺は辟易しつつも姉貴と共に廊下へ出る。その際、姉貴の持っていたボストンバッグを代わりに持つ。

 

 

「あ、サンドラちゃんだ~! バイバイ!」

 

「Addio(じゃあね~)」

 

 

 廊下を歩けば姉貴に向かって無数の手が振られる。

 

 姉貴はルックスだけは超一級だし、どこへ行っても大体人気は高い。特に女子人気は断トツ。

 イタリアでは男子は、姉貴がマフィアの娘だと知っていたので尻込みしていたのだが、日本では……単純に気圧されているだけか。

 

 

「Se sei un uomo, sei coraggioso.(男なら度胸だよ、ペッシ)」

 

「そーは言われても厳しいものがあるんですぅー」

 

 

 そもそも中等生と高等生では校舎が離れているのに、よくもまあ態々来るものだ。

 

 というか今気付いたが、こっちの方向は昇降口ではなくないか? 

 姉貴に付いて来てしまっているが、どこへ向かっているんだ? 

 

 

「生徒会室だよ」

 

「…………ナチュラルに心読まないで下さい。普通に怖いです」

 

「フッフー! なら、気を付けることだね、ペッシ。君は戦闘時は兎も角、日常ではあまりにも顔に感情が出過ぎる」

 

「…………はい」

 

「そういうとこもだ」

 

 

 姉貴はそれ以来、ケラケラと笑う。

 イタリア語を止めた辺り、ここら周辺にはもう一般生徒はいないらしい。

 

 というか、母国語はイタリア語なんだから、わざわざ日本語にする必要はないのでは? 

 

 

「…………あれ、そう言えば、昨日姉貴は学校に一人で来たんですよね?」

 

「ん? そうだが?」

 

「なら、その時に寄って渡してくれば良かったのでは?」

 

 

 姉貴は、フッフー、と鼻息を立てて胸を張る。

 

 

「忘れたに決まっているだろう」

 

「ええ……」

 

「ちなみにローマ神話からの書状とかの諸々を渡しに行くのさ」

 

「メッチャ大事な奴じゃないですか!!!」

 

「あぁ知ってるさ。だから渡しに行くんだろう?」

 

「まあ、そうなんですが! なんて言うのかな……」

 

「そもそも今日、転入予定だったんだ。問題はない」

 

「…………確かに」

 

 

 大体、昨日のの時点で学園にいること事態がイレギュラーだったんだ。そういう理屈でいけば、昨日の内に渡す通りはない。

 

 だがなあ…………理屈でいけばそうなんだが、なんというか、な。

 

 

「さあ、着いたよ。事前に連絡はしてある、胸を張って歩きたまえ!」

 

「うっす」

 

 

 そうこう話している内に生徒会室に到着した。

 

 一応、俺は将来的にこの人(あねき)のコンサルになる予定だ。

 そうなってくると、自然にコンサル以外にも護衛や財産管理、生活近辺の世話も引き受けることになる。今もその事前練習とでも思えばいい。

 

 

 

「し──────つれいするよ、諸君!!!!」

 

「姉貴、ドアは手で開けて下さい。蹴ってはいけません。あと、声がデカいです」

 

 

 ド──────ガァン!!! 

 

 

 扉を蹴り開けた姉貴は胸を張り、そう叫ぶ。

 

 蹴るとき、俺がノブを捻らなかったら吹き飛んでたんですが? 

 

 

「………………ようこそ、と言った方がいいでしょうね」

 

 

 生徒会室の最奥、年輪の入ったデスクに座る女子校生徒は頭を抱えていた。

 

 名前を、支取(しとり)蒼那(そうな)

 しかし、その正体は二代目魔王セラフォルー・レヴィアタンの妹にして、元七十二柱シトリー家の次期当主である。

 

 真名は、ソーナ・シトリー。

 

 

「フッフー! 私としてはクラッカーを期待したいところだがね! 君ィ、持ってる?」

 

「はい」

 

 

 俺は快活に笑う姉貴にクラッカーを渡す。

 

 幼少期、イタリアに居た頃から姉貴は大きな音の出るものが大好きだ。もっと正確に言うなら派手なもの好き。

 

 スピーカーやマイク、爆弾や火薬まで音の出るものならなんでも好む。特に一番好きなのは花火だ。

 

 

「ハイ、おめでと~」

 

 

 ぱ~ん。

 

 なんとも腑の抜けた音が生徒会室に響いた。

 

 ポカ~ンとした表情のメンツに対し、姉貴はケラケラと笑っていた。

 

 

「姉貴、見てます見てます。皆、見てます」

 

「む? ああ、そっか。本題を忘れていたね。ホラ、これ。預かってたやつ。話は聞いてるだろう?」

 

「え……あ、はい」

 

 

 姉貴は依然ニコニコしたまま、支取先輩にバッグから出した蝋で封のされた手紙を渡す。

 

 蝋の印は樫の木が落雷によって裂けているデザイン。

 見るにローマ神話もといオリュンポス十二神の主神・ゼウスのシンボルである。つまり、欧神話の総意と言っても過言ではない。

 

 

「ふむ、皆様方、お揃いで~……いや~、照れちゃうね~」

 

 

 姉貴は改め体を反転させ、部屋を一望する。

 

 パッと見で確認出来るのは、まずシトリー眷属。こいつらはほぼ護衛としてで間違いない。

 

 あとは……あ、リアス先輩に姫島先輩。()()()()()()。ちゃんと治ってる。それに……少し、背が伸びたかな。体格もよくなってる気がする。

 

 

「…………マジか」

 

「んにゅ? どうしたんだい、ペッシ」

 

「いや…………あれ、グレイフィア・ルキフグスですよ」

 

「おんや~……ホントだね。それ程、真剣に捉えてるってことかねぇ?」

 

「ま、そりゃそうでしょうよ」

 

 

 グレイフィア・ルキフグス。銀髪の美女メイド。

 

 魔法や人外の世界を知る者にこのビックネームを知らないものはいない。

 

 なにせ、かの魔王、サーゼクスの『女王(クイーン)』にして“最強の女王”の異名を持つ悪魔。しかも、その実力は魔王と勝るとも劣らないとの噂。

 

 天界においてもそのネームバリュー計り知れない。

 

 

「っていうか、リアスちゃん治ったんだね~、良かった」

 

「──────ヒッ」

 

「おや~、そんなに怯えなくて――――――あ?」

 

 

 姉貴がリアス先輩に手を伸ばす。

 

 が、怯えて払い除けられる。

 まるで捕食者を前にした小動物のようだ。

 

 だけど、その反応は逆効果なんよな~。

 

 姉貴は払われ赤みを帯びた手を見つめる。それからニヤリと嗜虐的に笑って指を鳴らした。

 

 

「ハハァ……なんだ、元気じゃないか」

 

 

 カツ、カツと音を鳴らし、近付く。

 

 姫島先輩、及びシトリー眷属の何人かが構える。

 

 

「物騒だねぇ。ハッハー! 存外に活きがイイ」

 

 

 姉貴がリアス先輩に手を伸ばし──────

 

 

 

「………………っ!!!!」

 

 

 

 弾かれたように振り向き、叫ぶ。

 

 

 

「──────『偉大なる死(ザ・グレイトフル・デッド)』!!!!」

 

 

 

 出現した下半身の無い人型実体が飛来したナイフを受け止めた。

 

 うっわ。すっげ。俺でもギリギリだった。

 

 

「フッフー……これはどういうことかな、()()()()()()()()()()()()

 

「こう見えても、私はソレ(リアス・グレモリー)の義姉なので」

 

「ハハァ……家族思いなことだねぇ」

 

 

 ナイフの軌跡を辿ると、犯人はやはりグレイフィアさん。

 

 

「…………フン」

 

 

 ザ・グレイトフル・デッドは不服そうにナイフを握りしめ、小指の先程のサイズまでに丸め込む。

 

 しかし、咄嗟に出したのに片腕で直立してあの速度のナイフを受け止めるなんて、やっぱ姉貴はスゲェなぁ。

 

 だが、難点は売られた喧嘩を買っちゃう(タチ)嗜虐嗜好(サディスティック)だよなぁ。

 

 と、そんな感じで俺が嘆息していると、脇に衝撃が入る。

 

 

「──────ぐっ!?」

 

 

 姉貴に肘を入れられたようで、鈍い痛覚に眉を顰める。

 

 

「なにすんですか?」

 

「こういうのは護衛役(ペッシ)の役目だろう! 何してるんだい、もう」

 

「もー、さっきのあれは姉貴の自業自得でしょうが。それに相談役(コンサル)としての最低限の仕事はしてますって、ほら」

 

 

 そう、俺はさっきから()()()()()()()()()()

 

 俺の手から伸びる竿は、天を指し示し、桃色の糸を伸ばしている。

 向かう先は無論、グレイフィアさん。

 

 

「我慢してるけど、結構痛いでしょ? もしかして、防げると思っちゃいました?」

 

 

 ビーチ・ボーイの釣り針は正確にグレイフィアさんの心臓に刺さっている。

 

 けど、トドメは刺さない。あくまで、心臓に餌をくくるように引っかけてるだけだ。

 まあでも、合図一つでブチ抜けるけどネ。

 

 

「止めていいよ、ペッシ。流石にこっちの非だったし」

 

「うっす」

 

「こぷ……っ」

 

 

 姉貴の一声でスタンドを解く。姉貴も同時にザ・グレイトフル・デッドを仕舞った。

 

 とはいえ、心臓に針が刺さっていたグレイフィアさんは、血を口の端から吐く。

 

 

 

「で~、そろそろ読み終わったか~い、シトリー殿ぉ」

 

「え!? あっ、はい! 粗方、内容は把握しました。…………したんですが」

 

 

 支取先輩は歯切れ悪そうに口ごもる。

 

 

「フッフー! 分かるとも! いきなり、『大和神話が煩いから日本で起きてる悪魔被害をどうにかしろ』だなんていきなり言われても困るとも!」

 

「………………」

 

「でも、それをどうにかするのが、君達の仕事だろぉ?」

 

「…………っっ!」

 

「こっちはこっちで、色々手を回してやってるんだ。それくらいはそっちで片付けてくれ。そもそも責を放置し続けたのは君達だろう?」

 

 

 静寂が支配する生徒会室に姉貴のゲラゲラと邪悪な笑い声だけが響く。

 

 

「それじゃあ、私たちは失礼するよ」

 

「アッ、じゃあ俺も失礼します! 取り合えず、姉貴に用があったら俺に話通して下さい! 姉貴ほど邪険にはしないので!」

 

「おい」

 

「事実じゃないですか。──────あー、あと俺は『はぐれ悪魔』ぐらいなら言われれば割と手伝うんで!」

 

 

 俺は頭を下げて、既に部屋を出た姉貴を追う。

 

 割と時間経ったけど、アーシア加入イベントはもう終わったのかねぇ?



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第十話「屋上と格闘技と不死鳥と」

 時間が過ぎるのも早いもので、姉貴が日本に来てから約一週間が経過した。

 

 あれから、ローマ神話と悪魔と日本のお偉いさんで、なにやらゴタゴタがあったらしいのだが、下っ端の俺達には関係のないことだ。

 

 オカ研の方も、堕天使レイナーレをフルボッコにして、アーシア加入イベントを果たし、円満解決。

 俺もグレイフィアさんを経由して、姉貴と共に『はぐれ悪魔』討伐もこなしていた。

 

 一応、俺達イタリア組の立場は、“駒王町及び駒王学園の人外に対する第三者委員会”的なポストになった。

 姉貴はその組織の総長、俺は副総長兼人外顧問になった。つまり、うちの本業(おいえげい)だ。

 

 で、今俺は何をしているかというと……。

 

 

「ぐへ~…………」

 

「早いですよ、イッセー先輩」

 

 

 地面に倒れ伏したイッセー先輩の顔を覗き込む。

 

 ここは、駒王学園高等部校舎の屋上。

 

 

「クッソ……何が悪いんだ……」

 

「ま、イッセー先輩は色々と焦り過ぎなんですよ」

 

 

 俺はイッセー先輩に手を貸し、立ち上がらせる。

 

 

「さ、次は塔城先輩です」

 

「ん、了解です」

 

 

 日陰で涼んでいた、搭城先輩が手首を鳴らして出てくる。

 イッセー先輩は入れ替わりで日陰に入った。

 

 

「いつでもオッケーです」

 

「…………いきます」

 

 

 塔城先輩がこちらへ踏み込んできた。

 俺はそれを両腕をだらんと下げて迎え撃つ。

 

 なんでこんなことをしているかというと、それは三日目にまで遡る。

 特筆して言うことはないが、単純にイッセー先輩から特訓のお願いをされたのだ。

 

 原作でもイッセー先輩は修行とかに対しても割とアグレッシブだったし分かるけど、塔城先輩は正直意外だった。

 現段階だと塔城先輩はまだトラウマを克服していないし、性根は引き気味な下っ端気質。こういうのに自ら乗っかってくるのは本当に驚き。

 

 

「せい」

 

「おっと」

 

 

 踏み込みと同時に放たれる正拳突きを、手首を弾いて躱す。

 

 直後に一歩踏み込み、肩で胴体へ当身。

 それから踏み込まれ開かれた内腿へ膝を入れ、

 

 

「きゃ!」

 

 

 姿勢が崩れた所へ、足払いを掛けて倒す。

 

 

「よっと」

 

 

 咄嗟に頭の後ろへ手を回し地面とぶつかるのを防ぐ。

 

 

「惜しかったですね」

 

「…………そんな。一撃しか放ててません」

 

「いや、マジですよ。反応するのもギリギリでしたし」

 

 

 割とこれは本気。

 

 猫趙っていう種族に加え、悪魔化された肉体に、『戦車(ルーク)』の悪魔の駒。

 

 この三つだけでも殆どの下級から中級の悪魔にアドバンテージが取れる。

 下手すりゃ上級の下位ぐらいなら屠れるかもしれない。

 

 

「だけど、一芸がないんですよね」

 

「…………う」

 

「おい、ニコ。メンタルに罅が入る音がしたぞ」

 

「いや、事実ですし」

 

 

 そして、悲しいことにこれも本当のこと。

 

 どうしても仙術が使えないとなると、アドバンテージは肉体を用いた戦闘。

 だが、武術や武芸、武器術がないとなると、残る手段は殴る蹴る。あとは掴んだり関節技とかか? 

 

 しかし、それでは意味がないんだよなぁ……。

 喧嘩殺法とかなら兎も角、塔城先輩の場合はマジで殴ったり蹴ったり。

 身体能力が自分より下だったり、対応出来るほどの知能がなけりゃ良いが、身体能力が自分より上だったり、技術が上だと一気に弱体化する。

 

 特に関節技……コマンド・サンボとかとは相性悪いだろうな……。下手すりゃ人間相手でも殺される。

 

 

「なんか格闘技か習えればいいんですけどね……」

 

「そういうニコはなんか習ってたのか? 動きがなんつーのか……こう、機械染みてたからよ」

 

「まあ、習ってるちゃ習ってましたが……あれは、塔城先輩とかイッセー先輩には向きませんよ?」

 

 

 確かに俺は護衛術の他にも色々と習っていたが、悪魔である二人には向かないと思うのだ。

 

 

「俺が習っていたのは、大きく分けて三つです。

 一つは西洋式総合格闘技(マーシャルアーツ)、次にムエタイ、三つ目にMMA(アメリカ式総合格闘技)です」

 

「マーシャルアーツってのは聞いたことあるが……」

 

「まあ、あれですね。俺、こんなんじゃないですか?」

 

 

 俺は両手を横に広げて見せる。

 

 

「…………ああ」

 

「分かりました? 俺の習っているのはハンデを補うための武術なんですよ」

 

「…………だから、イッセー先輩には向かないと」

 

 

 そもそも俺は体格が小さいし、足が長くもない。

 塔城先輩と比べても、俺の方が少しだけ大きいくらい。

 

 なのに、ビーチ・ボーイを振り回す面から足腰と腕の筋肉だけが異常発達しているアンバランスな体型だ。

 

 これでは武術もクソもない。

 なので、色々な格闘技からそれぞれの利用できる点を抜いているのだ。

 

 

西洋式総合格闘技(マーシャルアーツ)ってのはヨーロッパに祖を持つ格闘技全般を指します。主に軍隊採用されている格闘技です。内容的にはナイフ術や棒術、剣術、槍術など……どんな状況下でもどんな得物でも戦えるように……って武術です」

 

「…………確かに。そりゃ、俺達には向かないわな」

 

 

 塔城先輩もイッセー先輩もバトルスタイルは、無手による徒手空拳。

 武器を使う武術とは相性が悪いだろう。返って体感崩したり、重心を崩してどちらも手付かずになる可能性が高い。

 

 

「で、二つ目のムエタイ。これはアジア地域、主にタイなどで使わる格闘技です。こちらは完全な徒手空拳の格闘技。肘や膝、肩などの硬い関節部位を使った格闘技です。その危険性から試合では死人出ることもあります」

 

 

 ムエタイは完全に俺専用。

 

 俺は体格がこんなんなので、大きく振りかぶったテレフォンパンチでも中々威力が出ない。

 そこで俺はショック……いわゆる、威力を持った攻撃より殺傷性を持ったムエタイを選んだのだ。

 

 肘や膝を使うのならば、威力どうこうも関係がない。

 適当に頭や首、関節部位を狙えば、殺害ないし昏倒が狙える。

 

 

「そして、最後。三つめはMMA(アメリカ式総合格闘技)です。これはヨーロッパではなく、アメリカ版の総合格闘技(マーシャルアーツ)と考えてくれて問題ないです。主に民族継承や技術輸入からの独自発展された格闘技です」

 

「それって、ヨーロッパのやつと何が違うんですか?」

 

「そうですね……MMAはアメリカ大陸で独自に発展した武術でして、プロレスやボクシングなどの格闘技もこれに含まれます。違いは武器は用いることが少ないことでしょうかね? 俺はこう見えても、あの人(姉貴)の護衛役も兼ねていますので、主に関節技や絞め技を中心に習っていました。襲撃者の捕縛は基本ですので」

 

 

 海外にも襲撃者は割といる。

 

 っていうか、日本よりも断然多い。

 

 理由としては、日本よりも銃が手に入りやすい銃社会であることと、人口比率の多さが挙げられる。

 銃は言わずもがな。で、極稀にギャングとかがストリートチルドレンやホームレスに爆弾を持って突貫させて来たりする。

 

 ま、代わりは一杯いるし、金で動く連中だ。扱いやすいのだろう。

 人海戦術は存外馬鹿に出来ない。

 

 

「んー、まあ塔城先輩なら多少は役に立つかもしれないですけど」

 

「「けど?」」

 

「俺は基本的にコイツを使うんで……ね?」

 

「あー」「なるほど」

 

 

 俺が片手にビーチ・ボーイを出現させると、二人は納得したように声を上げる。

 

 格闘技は人目が多かったり、手札を晒したくない時、あるいはビーチ・ボーイを使っていて身内に入られてしまった時に使うことが多い。

 そんなんだけど、ビーチ・ボーイは普通の人には見えないので普段使いすることも多いっていうね。

 

 

「ん、おや……」

 

 

 眩しく照り付ける太陽光を手で覆い凌いでいた所に、小さな影が舞い降りる。

 

 それは異形を成していた。

 直径三十センチ弱の全長は、巨大な眼球で構成され、紫苑色の捻じれた角と蝙蝠の翼を持っていた。

 小柄ら体躯から伸びる尾は鋭く、鋭利で妙に粘着質な光沢がある。

 

 見るからに化け物であったが、俺は見覚えがあった。

 それは塔城先輩らも同じのようで……。

 

 

「あれって……」

 

「はい、部長の使い魔です」

 

「通りで見覚えがあると思った」

 

 

 リアス先輩の使い魔だったらしく、通りで、と俺は独り言ちる。

 

 よく見ると、眼球の下部オマケ程度に生えた小鳥の鉤爪に一枚の紙が括られていた。

 それを塔城先輩が解くと、使い魔は用を済ませたとばかりに灰となり、崩れ去る。

 

 俺は極力見ないようにして、日陰で壁に背を預ける。

 

 身内のあれこれに部外者が関わるべきではないのだ。

 特に悪魔の身内ネタ系のゴタゴタは面倒くさいものが多い。

 

 

「!」

 

「ナニィ!?!?!?!?」

 

「うおっ。ビックリしたぁ……」

 

 

 程なくしてイッセー先輩が悲鳴を上げる。

 塔城先輩も目を見開き、驚いている様子が伺える。

 

 

「悪いニコ! オカ研に行くからまたな!」

 

「私も失礼します」

 

 

 イッセー先輩は(きびす)を返し、屋上の扉を開け階段を駆け下りていく。

 

 塔城先輩も、屋上から飛び降りて消え去る。

 

 

「やっぱ猫ってことかねぇ……」

 

 

 俺は地面に落ちたその書状を拾い上げる。

 

 いや、ただの興味本位だ。ほら、ここには誰もいないし? 

 

 

「うおっ、マジか」

 

 

 拾い上げたその書状、そこには、

 

 

 

 

 

 ──────フェニックス家から婚約者が来た。

 

 

 

 

 

 と、簡潔な一文が書かれているのだった。

 

 そういえば、時期的にはアーシア先輩加入の後だし、そうなるか。

 俺は欠伸を漏らし、「イッセー先輩、勝てるかな?」と呑気なことを考え──────。

 

 

「あ」

 

 

 そういえば今、オカ研には姉貴が居座ってんじゃん。

 

 と、最高に面倒なことを思い出してしまうのだった。

 

 絶対に面倒なことになってそうだなと思い、俺はイッセー先輩らが置いて行ったしまった荷物を拾い上げ、オカ研の部室へと急ぐのだった。



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第十一話「決闘交渉準備段階」

「いや~、どうなってることかね……」

 

 

 俺は塔城先輩とイッセー先輩のバッグを担いでオカ研部室へと歩く。

 

 やはりフェニックス家が来てるせいか、それが人力なのか、魔法なのかは計りしれないが校舎には人払いがされている。

 

 

「万が一とはいえ戦うことになったら(ダル)いなぁ……。俺とは相性悪いだろうし……どうしよっか」

 

 

 フェニックス家。またの名を不死鳥。元七十二柱三十七位の大悪魔の家系。

 

 特徴は祖である不死鳥より引き継いだ不死性。そして、業火を宿す翼。

 

 最も厄介なのは、その回復能力。本人の不死性もだが、フェニックスは他人にも再生を施すことの出来る“フェニックスの涙”を生み出せる。

 この“フェニックスの涙”のお陰でフェニックスは、名実ともに高火力アタッカーとヒーラーを兼任出来る。

 

 ジョジョの奇妙な冒険第五部でペッシが暗殺部隊に入っていたことからも分かるが、俺はそもそもガチのパワー型ではないのだ。

 

 原作でもペッシは中・遠距離からビーチ・ボーイで対象の急所を狙い撃ちにするスタイルを主軸にしている。通常は一撃必殺ないし急所への攻撃がビーチ・ボーイの華なのである。

 

 

「…………姉貴は相性いいだろうけど」

 

 

 ふむ……俺ではやっぱ難しいか。

 

 となると、俺は姉貴の護衛役かね? 

 リアス先輩の婚約者、ライザー・フェニックスにも眷属がいる。曲がりなりにも大悪魔、眷属のレベルも馬鹿に出来ない。

 

 姉貴のガスも俺なら多少は対処できる。問題は広い場所が必要なことだ。

 俺は頭の中で戦闘時のストラテジーを組み立てる。

 

 最悪、ライザー・フェニックスとも戦闘になっても左程問題ない。

 お互いに決め手がなくなるだけだし。

 

 

「よっと」

 

 

 階段を下りて、角を曲がる。

 そこの廊下を真っすぐ行けば直ぐにオカルト研究部の部室だ。

 

 さーて、どうなってい──────

 

 

 

 

ガッ、バァンッ!!! 

 

 

 

 

 

 やっべ、と俺は思わず呟く。

 

 オカ研部室を眼前にして扉が弾け飛んだからだ。

 

 扉を盛大に破壊して廊下に叩きつけられたのは、やや幼さの残る少女。

 俺はピンと来て、「ああ」と相槌を打った。

 

 あれは確か原作でイッセー先輩をボコしてたライザー・フェニックスの眷属ではなかっただろうか? 

 

 

「うん、ちょっと失礼」

 

 

 近くに屈み、衣服が破けた腹部を検診してみる。

 

 どうやら、皮膚が破けており裂傷。他に酷い内出血と打撲、あと骨折。

 幸いなのは、折れた肋骨が肝臓や胃などの主要な器官に刺さっていないことだ。

 

 

「何が……ってマジかよ」

 

 

 セルフフリーになってしまったオカ研を覗くとそれはもう死屍累々。

 

 顔面から大量出血する偉丈夫、ライザー・フェニックスに、巻き込まれたであろうイッセー先輩。そして、それを見下ろす姉貴。

 その周りをライザー・フェニックスの眷属が武器を持って取り囲んでいた。

 

 カオスだ。

 

 

「おお! ペッシ! 待っていたよ! 見てみろ、この愉快な状況を!」

 

「なーにが、愉快な状況ですか。マズイですよ、外交問題です」

 

 

 俺は眉間を抑えて天を仰ぐ。

 

 

「塔城先輩、これはどういう状況ですか? あ、これ、バッグです。置いてったでしょ」

 

「えっとそれは……あ、ありがとうございます、っていうか、あのぅ……」

 

 

 一番近くに居た塔城先輩に聞いてみるが、お茶を濁される。

 

 多分、恐らく、きっと、まともなことは行われなかっただろうな。

 

 

「いやぁ、ペッシ。私、眷属に誘われちゃったよ? どうしよ」

 

「あ~、なるほど……」

 

 

 なんとなく部屋で行われたやり取りも把握した。

 大まかにこんな感じだろう。

 

 

 

 姉貴の居るオカ研部室にライザー・フェニックス乱入

 ↓

 リアス先輩と口論開始

 ↓

 姉貴があまりの滑稽に大爆笑

 ↓

 因縁を付けられた姉貴が口説かれる

 ↓

 姉貴は断った上で煽る

 ↓

 主を馬鹿にされた眷属が食って掛かり攻撃

 ↓

 姉貴がなんか色々諸々巻き込んで反撃←イマココ

 

 

 

 大体こんな所だと思う。

 

 う~ん……俺はどうすべきだ? 

 とりま、姉貴は助けるとして、手出しちゃったしな……。

 

 このまま、引き下がってオカ研に任せるか、介入してみるか……。

 

 俺は悩めるだけ悩んで……一先(ひとま)ず、

 

 

「じゃ、いっか☆」

 

「イェイ☆」

 

 

 と、姉貴とサムズアップした。

 

 俺の立場とか仕事的に、姉貴を勧誘したライザーは敵だし、殴ったことはセーフ。あと、なんとなく顔が腹立つ。

 

 

「いいんだ」

 

「いいですか」

 

「いいのね」

 

「いいのかよ……」

 

「いいんだよ」

 

「いいんです」

 

 

 オカ研からそう突っ込みを貰う。

 

 俺は別に悪魔でも天使でも堕天使でもないし、俺にとっての一番は姉貴。

 それを狙われちゃあ敵わん。

 なら、ライザー・フェニックスを殴った姉貴をそりゃあ許すでしょ。

 

 

 

「いいわけが…………あるかあああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

 

「うわ、煩いな」

 

 

 叫びながら立ち上がったライザー・フェニックスに俺は思わずそのままの感想を吐く。

 

 流石は不死鳥か、既に傷は癒え、無事のようである。ただ、顔に付着した血液が痛々しい。

 

 

「とりあーえーず、姉貴、動かないで下さいね」

 

「はーい」

 

「やれ、お前ら!!!」

 

 

 ライザーの掛け声と同時に彼の眷属らが一斉に飛び掛かった。というか、飛び掛かって来た。

 

 俺はその様子を「あーあー」と思いながら、右手にビーチ・ボーイを呼び出す。

 さーて、ここからが俺の腕の見せ所。日本に来て腕が鈍っていたが、最近は練習多化や実践もあり戻ってきている。

 

 

「ういせっと」

 

 

 ハンドスナップでビーチ・ボーイを振る。

 ここで重要なのが針の感知能力に頼り切らず操ることだ。

 

 柄を指で揺らし、波を作って引く。

 

 不規則な軌道を描いて、伸びた糸はぐるぐると回り飛来する。

 

 

「「「「「「「ぐっ!?」」」」」」

 

「大漁っと」

 

 

 そんで出来上がったのが首を吊られた少女たち。

 釣り針が天井に掛かり、巻き込まれた少女らは天井から宙吊りで首を絞められる。

 少女たちは圧迫される糸を掴み、顔を青くする。でも、悪魔だし、平気だよね? 

 

 

「お見事」

 

「どーも」

 

 

 姉貴の賛辞に俺は腰追って答える。

 

 練習してきたかいがあるというものだ。

 ビーチ・ボーイの華は対個人戦だが、それが対複数戦を重要視しない理由にはならないのだ。

 

 

「なっ! 貴様ァ……っ!」

 

「落ち着いて下さいよ。先に手ぇ出したのはそっちでしょ」

 

 

 俺は飛び出そうとするライザーをビーチ・ボーイを締めることで牽制する。部屋に呻き声が響く。

 彼女らには苦しい思いをさせるが、悪魔っていうのは生命力は折り紙付き。窒息程度では死なんし、大丈夫だろう。

 

 

「こっちだって大事な大事な姉貴、口説かれてキレてんだよ」

 

「くっ……分かった、そのことについては…………謝罪する。だから、彼女達を離してやってくれないか」

 

「…………ま、オッケー。いいよ」

 

 

 俺はビーチ・ボーイを解き、ライザーの眷属を開放する。

 

 今回に関してはこっちに非があるような気もするが…………姉貴を悪魔にさせる訳にはいかない。っていうか、前提として()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「フッフー、ゴメンよー? ライザー。フェニックスくーん。うちの護衛は喧嘩っぱやくて」

 

「姉貴、この状況下で煽らないで下さい。話がややこしくなります」

 

「では、リアス先輩、俺らは失礼します。これ以上、部外者がいる訳にもいきませんですし」

 

「え、ええ」

 

「一応、廊下にはいるんで、なんか有事でしたら呼んで下さい。あ、こら、姉貴も廊下に出ますよ」

 

「ふぅー、なんだい。これからが面白い所なのに」

 

 

 と、俺は口を尖らせる姉貴の首根っこを掴んで廊下へと連れていく。

 ドアをくぐる際、嫌にこちらを敵意のある視線で見ていたライザーフェニックスが気になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君たちに決闘を申し込む」

 

 

 

 

 

 それだけ言って廊下を気丈に去るライザーと眷属達を姉貴と共に見送る。

 

 

「ああー、マジかー……そっち方面に『覚悟』決まちゃったか~」

 

「ハハァ……面白くなってきたじゃないか、ペッシ」

 

 

 俺は目に手を当て、俯き唸る。

 姉貴は心底楽しそうに手を叩く。

 

 

「喜んでいるとこ悪いですけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「やっぱりバレた?」

 

「ええ。どうせ、偉大なる死(ザ・グレイトフル・デッド)の実験でしょう?」

 

「まぁね」

 

 

 姉貴はしたり顔で微笑み、手を腰で組み昇降口へと向かう。

 俺は溜息混じりに後を追った。

 

 決闘するとなると、色々と準備が必要だし、忙しくなる。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()調()()()()()()()()()()()

 

 

俺はポケットからスマホを取り出し、とある番号を液晶画面に打ち込んだ。




感想でも色々言われていたんで、そろそろ設定を固めようと思います。

無理のある設定とかが、ダメって方はこれからの話は自重した方がいいかもしれません。


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