空条承太郎の友人 (herz)
しおりを挟む

友人との日常
プロローグ



★こちらは、シリーズを読む前の注意書きです★


・この作品は二次創作小説です。

・あらゆる妄想を詰め込んでいます。

・キャラ崩壊あり。(特に承太郎)

・男主が登場します。

・ジョジョの混部(1部から6部)時空。

・作者はジョジョシリーズについてよく知りません。大体ネット知識。

・ご都合主義、捏造過多。

・登場人物の口調がおかしいかもしれません。

・作者に文才はありません!

・それでもいい、と思ってくれる方は、どうぞ!!






 ある日。高熱を出して寝込んだ俺は、不思議な夢を見た。……今の俺ではない、誰かの人生を追体験していて――

 ――その誰かが見ていたアニメや、漫画の登場人物の中に、見覚えのある奴らの姿があった。

 

 

 はっと目を覚ました俺は、思わずベッドから勢いよく起き上がった。

 しかし、すぐに目眩を起こして再びベッドに沈んだ。……体が熱い。どうやら、まだ熱が下がっていないらしい。

 

 

(…………あれは、所謂前世の記憶か)

 

 

 前世の俺の事とか、今世の俺の顔が前世の俺のモブ顔よりもイケメンだとか、その他もろもろ気になる事があるがそんな事より!!

 

 

(――この世界、ジョジョの世界じゃねぇか!?しかも混部だ、混部!!)

 

 

 今世の俺が通っている中高一貫のマンモス校では、まるでアイドルのようにちやほやされている連中がいる。

 

 ジョジョシリーズの2部から6部までの主人公達と、その仲間達だ。

 

 特にシリーズの主人公達は、それぞれファンクラブがある程の大人気。

 既にこの学校を卒業している1部主人公、ジョナサン・ジョースターのファンクラブもあったらしい。……さすがジョースター家。半端ねぇ。

 

 そこまで考えた俺は、現在の俺の人間関係を思い出し、冷や汗を流す。

 

 

 俺は今、高校2年生だ。高1の時に今の学校に入学した。その時から今まで、広く浅い付き合いを心掛けてきた。学内に限るが、人脈は広い方だと思う。

 

 しかしそんな俺でも、ジョースター家とその仲間達と繋がりを持つ事は極力避けていた。ファンクラブに所属する奴らの目が怖いからだ。

 

 彼らの中には過激派がいて、ジョースター家の人間やその仲間達とちょっと話しただけで、暴力を振るわれた奴もいるらしい。

 高校に特待生入学をした俺は、そういったトラブルに関わると学校側からの援助を打ち切られるかもしれないと考え、人間関係には気を使っていたのだが……

 

 高校に入学して半年が過ぎた頃。とんでもない人物と知り合いになってしまい、周囲の人間の目を盗んで交流を続けた結果、今では友人関係になっていた。

 

 

 ――おい、まだ記憶を取り戻してなかった時の俺。何やってんだ!さっさと離れたら良かったのに何で友人に昇格してんだよ!?

 

 いやいやいやいや、だって、しょうがねぇじゃん!あいつと俺、何でか知らないけど本当に気が合うんだよ!!

 読書仲間だし、会話楽しいし、意外に冗談も通じる面白い奴だし!離れるの勿体ないだろ!?

 

 分かるけど!超分かるけど!!でもあいつのファンクラブの規模って学内最大じゃねぇか!?

 この関係が過激派にバレたら死ぬぞ。いや、マジで。ガチで殺される……!!

 

 ――うん。詰んだね。御愁傷様。ハハッ。

 

 現実逃避してる場合かぁぁぁっ!?

 

 

 ……と、脳内で1人漫才しても、現状が変化するわけもなく。

 

 

「――っ!?」

 

 

 その時、スマホから通知音が聞こえた。……サイドテーブルに手を伸ばしてスマホを取り、メッセージアプリを開く。

 

 画面には一言、"生きてるか?"というメッセージが。

 

 

 "生きてるよ。ベッドと仲良しだけど"

 

 "仲良くなるな"

 

 "おや、嫉妬?"

 

 "あ?"

 

 "冗談だよ。画面の向こうで凄まないで。いや、呆れ顔かな?"

 

 "何故俺の今の顔が分かった?"

 

 "分からいでか"

 

 "今日は学校来るのか?"

 

 "相変わらず急に話題が飛ぶね。多分無理かな。さっき起きようとしたら目眩がした。体も熱い"

 

 "分かった、休め。熱も測れ"

 

 "今測ってる"

 

 "それ終わったら水分取れ"

 

 "うん"

 

 "食欲あるなら、何か食え。レトルトの粥、家に置いてあるだろ"

 

 "何で知ってるの?"

 

 "この前そっちに行った時に見掛けた"

 

 "やだ、エッチ"

 

 "死ね。で、体温は?"

 

 "38度越えてまーす"

 

 "とっとと寝ろ!普段はあまり悪ふざけをしないてめーが、さっきから女みてえなふざけたセリフを言ってたのはそのせいだな!?"

 

 "あら、心配してくれるの?優しい。惚れ直しちゃう♡"

 

 "寝ろ(^言^)"

 

 "はい寝ますごめんなさい"

 

 

 そこでメッセージアプリを閉じて、素直に横になる。

 

 あいつが滅多に使わない顔文字を使うのは、本気で怒っている時や心配している時ぐらいだ。大人しく従った方がいい。これで風邪をこじらせたら、あいつ絶対怒るだろうし……

 

 それに。不器用だが、実際は誰よりも優しい友人を心配させるのは、嫌だ。……早く体調戻そう。あと、前世の記憶の整理と、今後の事も考えねぇと――

 

 

(――だめだ、ねむい)

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 額に、冷たい何かが乗っている。それを自覚して、ゆっくりと目を開けた。……誰かがいる。

 

 

「――起きたか」

 

「…………あ……?」

 

 

 前世で聞いた事がある、某調査兵団某団長と同じ声を聞き、そこでようやく覚醒する。

 

 

「――なっ!?じょ、承太郎、っ、くん……?なん、で?」

 

 

 思わぬ事態に素が出そうになったが、慌てて軌道修正した。……危ない危ない。こいつにはまだ、"真面目な特待生"としての一面しか見せてないからな……

 

 

「……覚えてねえのか?お前、俺を出迎えるために家のドア開けて、そのまま気絶したんだぜ。俺が受け止めなかったら、地面と激突してたぞ」

 

「え……」

 

 

 マジか。全然覚えてねぇ。

 

 

「ご、ご迷惑をお掛けしました……」

 

「全くだ。……こうなる前に、体調管理はしっかりしとけ。馬鹿が」

 

「……ごめん」

 

「何に対する謝罪だ」

 

「それ、は――」

 

 

 ふと、ベッドの隣で膝を突く美丈夫の顔を見る。……彼の翡翠色の瞳が揺れていて、僅かに顔色が悪くなっている事に気づいた。

 

 

「――心配掛けて……ごめんね」

 

「っ、」

 

「……君に、そんな顔をさせてしまって、ごめん」

 

「…………どんな、顔だ」

 

「迷子みたいな顔」

 

「……迷子、か。…………当たらずといえども遠からず、」

 

「え?」

 

「いや、何でもねー」

 

 

 承太郎は学帽を深く被り、目元を隠して立ち上がった。そして俺を見下ろす。

 

 

「……腹、減ってるか?」

 

「あ、うん。朝も昼も食べて無い……」

 

「…………はぁー……世話の焼ける野郎だぜ。粥作るから、待ってろ」

 

「いや、レトルトあるから、俺が自分で――」

 

「――っ、いいから寝てろ!!」

 

「!?」

 

「あ、」

 

 

 突然怒鳴られて驚いていると、彼はばつが悪そうな顔をして、俺に背を向けた。

 

 

「寝てろ。……頼むから」

 

「……ん、分かった。任せるよ」

 

「あぁ」

 

 

 キッチンに向かう背中を見送った後、ベッドの上で仰向けになる。……前世で見た、3部のストーリーを思い出した。

 

 

(――俺は、承太郎のトラウマを刺激してしまったのかもしれない……)

 

 

 3部のストーリーの中で、あいつの母親であるホリィさんは、突然目覚めたスタンドと、DIOの呪縛のせいで死にかけていた。

 その時承太郎は、無理に行動しようとした彼女を強く叱り、それを止めた。今まさに、俺を止めた時のように。

 

 おそらく、あいつには前世の記憶があると思う。確証は無いが、俺がまだいろいろ思い出していなかった頃の記憶を探ると、それらしい言動を見せる時もあった。

 

 当時、実の母親が苦しんでいた時の姿と、今の俺の姿が重なって見えたのではないか?

 

 

(あー……悪い事した……)

 

 

 罪悪感を感じながら寝返りを打つと、視線の先のテーブルの上に、スーパーのビニール袋がある事に気づいた。

 その中から冷却シートの箱と、スポーツドリンクがはみ出ているのを見て、罪悪感が増す。

 

 学校帰りに、あれらをわざわざ買った上でお見舞いに来てくれたって事か?どんだけ優しいんだよ、お前……!!

 

 

 やがて、承太郎が手作りのお粥を持って来てくれた。

 

 

「……おら、冷めないうちに食え」

 

「ありがとう。いただきます」

 

「…………さっき、怒鳴って悪かった」

 

 

 謝る必要なんて無いのに、そんな事を言ったそいつに対して、俺はこう言う。

 

 

「――んん?何の事?」

 

「は?」

 

 

 つまり、無かった事にしたのだ。

 

 

「それより承太郎くん、これ、上手いよ。粥も、あと冷却シートも貼ってくれたんだよね?本当にありがとう。助かるよ。……持つべき者は、やっぱり君みたいな友達だよね」

 

 

 さらにそうつけ加えれば、詮索するつもりは無い事、これからも変わらず友人関係を続けるつもりだという事が、伝わるだろう。

 

 

「…………」

 

 

 まじまじと俺を見る承太郎に向かって、意識して笑い掛ければ、彼は呻き、学帽を取って頭を掻く。おっ、取っ太郎だ。珍しい。

 

 

「……俺にとってはありがたいが、お前は時々、物分かりが良過ぎるぜ」

 

「ええ?どういう事かな、それは?」

 

「――持つべき者は、やはりお前のような友だという事だ」

 

「――――」

 

 

 つい、固まってしまった。……口調と、雰囲気。そして何より穏やかに微笑むその表情が、まるで、6部の承太郎のようで――

 

 

「……おい、どうした?もう食べられねえのか?」

 

「!い、いや。食べるよ。まだ食べる」

 

「なんなら、俺が食べさせてやろうか?」

 

「ハハハ、結構です。俺、子供じゃないから。1人で食べられますよーだ」

 

「くく……」

 

 

 次の瞬間には、いつも通りの承太郎に戻っていた。……こいつがこんな冗談も言える奴だと知ったのは、つい最近の事だ。

 前世で見たアニメや漫画の中では基本クールなキャラクターだったから、きっと気難しい男なんだろうと、勘違いしていた。

 

 だが。蓋を開けてみれば、こいつは人を思いやる心を持つ優しい男で、しかしそれを表に出す事が苦手な、ただの不器用な奴だった。

 

 今、俺の目の前にいるのは、原作のキャラクターの"空条承太郎"ではなく、生きた人間である"空条承太郎"だ。

 

 

 俺が見ているのは"過去の"承太郎ではなく、"今の"承太郎なのだ。

 

 

(――それを、忘れるな)

 

 

 

 

 

 

 





 ハーメルンでも承太郎の友人シリーズを始めました!pixivにて、先行更新中。
https://www.pixiv.net/novel/series/8520860


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

空条承太郎の友人は、旧図書館にいる

・第三者視点。

・承太郎のキャラ崩壊に注意。

・いろいろ捏造たっぷり。


 ――空条承太郎だって、友人とふざけて馬鹿笑いしたい時があるはず。




 

 

 

 とある教室にて。その日の授業が終わると、廊下側の後ろの席に座っていた花京院が立ち上がる。彼は窓側に向かい、目的の人物に声を掛けた。

 

 

「――承太郎」

 

「何だ?」

 

「さっきポルナレフとジョースターさんから、放課後何処かに遊びに行かないかって誘われたんだ。君も一緒に来ないか?」

 

 

 これは、彼らの間ではよくある事だった。

 

 誘いを掛けるのは大体、現在彼らが通っている高校の3年生である、ポルナレフとジョセフ。それとは逆に、高校2年である承太郎と花京院の方から、ポルナレフ達に声を掛ける事もある。

 途中で占い師の仕事をしているアヴドゥルも合流し、5人で何処かに出掛ける場合もあった。

 

 ――前世から転生し、その記憶を思い出した彼らは、あの旅の中ではできなかった事を、思う存分に満喫している。

 

 

 花京院は、承太郎は断らないだろうと思っていた。どうしても外せない用事があった場合を除いて、いつも二つ返事で了承するから。……しかし、

 

 

「……すまん。今日は他に行くところがあるんでな。遠慮する」

 

「……そうか……分かった。残念だが、ポルナレフ達にもそう伝えておくよ」

 

「あぁ。悪いな」

 

 

 承太郎は誘いを断り、一足先に教室から出て行った。置いていかれた花京院は、たまにはそういう事もあるだろうと納得し、携帯のメッセージアプリでポルナレフに承太郎の事を伝える。

 

 そこで、ふと思う。

 

 

(――そういえば。高2に進級してから、承太郎が僕達の誘いを断る事が少し増えたような……?)

 

 

 首を傾げて、最近の承太郎の行動を思い出そうとした時。ポルナレフから返信が来る。

 承太郎が来ない事について、わざとらしく泣き顔の顔文字を送って来た。それも、女子高生が使うような可愛い顔文字を。

 

 花京院はそれに対して、"似合わないから止めろ(真顔)"と返した。それから、ポルナレフとジョセフがいる3年の教室に向かう。

 

 

 承太郎の行動を疑問に思った事は、彼の頭の中からとっくに消えてしまっていた。

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 承太郎達が通っている学校は中高一貫校であり、中等部と高等部で校舎が分かれている。それぞれの校舎は渡り廊下で繋がっていた。

 そんな2つの校舎から離れた場所に、年季の入った建物が一棟、ポツンと建っている。

 

 中高一貫校が設立された当初から存在している、旧図書館だ。

 

 現在は校舎内に新しい図書館が設立されているため、この旧図書館を利用する者はほとんどいない。それどころか、生徒の中には旧図書館の存在を知らない者もいる。

 学校の土地に植えられている木々によって隠されている事が主な理由だが、できる限り秘密にして欲しいという、旧図書館の管理人の意向がある事も、その理由の1つである。

 

 

 花京院と別れた承太郎は今、そんな旧図書館の入り口に立っている。扉をノックすると、中から誰かが出て来た。白髪がある中年男性だ。

 しかめっ面をしていた男性だったが、承太郎の顔を見て、その表情から僅かに険がなくなる。

 

 

「……お前さんか」

 

「邪魔するぜ。……あいつは?」

 

「もういるぞ。入れ」

 

 

 男性の後に続いて旧図書館に入った彼は、扉を閉めて入り口付近のカウンターに向かう男性を見送り、自身はさらに奥へと進む。

 古い本棚が並ぶ通路を歩き、最奥に到着した。読書スペースとして設けられているその場所で、高校の制服を着た青年がハードカバーの本を読んでいる。

 

 黒髪で、細身の男だった。前髪は長く眼鏡も掛けているため、顔が伏せられていると、彼がどんな目をしているのかが見えない。

 見た目だけなら根倉な男としか思えないが、承太郎は彼がそんな人間ではない事をよく知っていた。

 

 

「――園原」

 

「ん、……やぁ、承太郎くん。待ってたよ」

 

 

 青年――園原志人(そのはらゆきと)は、本に栞を挟んでそれを閉じ、顔を上げる。彼は明るく笑って承太郎を迎えた。

 

 承太郎が園原と出会ったのは、中等部から高校に進学して半年が経過した頃。偶然の出会いから知り合いとなり、彼を通じてこの旧図書館の存在を知った。

 それ以来、2人が直接会う時はこの場所を利用している。ここなら、行きと帰りに誰かに目撃されない限り、秘密裏に顔を合わせる事ができるからだ。

 

 この方法を提案したのは、園原だった。

 

 

「承太郎君ファンクラブの過激派に見つかったら、俺の身が危ない。いや、冗談ではなく」

 

 

 出会ったばかりの頃にそう言われた承太郎は、深く納得した。

 

 ファンクラブの危険性については、同じくファンクラブを持つ自分の血族の者達や、花京院達から聞いているし、自身もよく知っている。

 まだ中学生だった時にいろいろと事件が起こり、それに巻き込まれた事で、その危険性を理解せざるを得なかったのだ。

 

 園原と承太郎が友人になった際、ファンクラブ対策として、2人でルールを決めた。

 

 基本的に、顔を合わせる頻度は控え目に。会うとしても、週1回会うか会わないか程度に抑える。会う場所は学校内の旧図書館、もしくは学校の近辺を避けた、別の場所。

 主な交流方法はメッセージアプリや、電話での会話。学校では、互いを見掛けても他人のふりをする。

 

 そして、旧図書館の管理人である三谷――今カウンターにいる中年男性の事――を除いて、自分達が友人関係である事を誰にも明かさない。

 

 

 当時。園原は、自分の身の安全のために、面倒なルールを作る事になってしまったと、承太郎に謝っていたが、承太郎は全く気にしていなかった。

 彼にとって、園原は価値のある存在だった。園原との友人関係を守るためなら、それぐらいは造作もない事だったのだ。

 

 

「……ほらよ」

 

「おっ、本当に読み終わったんだ。さすが、早いなぁ」

 

 

 園原の隣に座った承太郎は、彼に1冊の文庫本を差し出す。先週、園原から借りた小説だった。それを受け取った園原は、大事そうに学生鞄に仕舞い込む。

 

 

「……で、ご感想は?面白かった?」

 

 

 わくわく、といった様子で承太郎を見つめる園原に対して、彼はさっそく口を開き――ちょっとした悪戯心から、こんな言葉を投げ掛ける。

 

 

「――その続きはどうなる?」

 

 

 きっと彼なら、気づくはずだ。……そう信じて反応を待つと、承太郎の言葉に面を食らった園原が、ニヤリと笑う。

 

 

「――あっと驚く展開が待っているよ」

 

 

 ほら、乗って来た。承太郎は思わず、僅かに口角を上げる。

 

 

「……気になるな」

 

「本当に?」

 

「――Absolutely(もちろん)

 

 

 この一連の流れは、園原が貸した推理小説の中で、探偵役と助手役が初めて出会った時の会話の一部だ。

 

 承太郎のセリフを最後に、一瞬、間が空く。

 

 

 

 

 

 

 ――そして、2人同時に噴き出した。

 

 

「ちょっ、はは、はははははっ!は、発音、あはっ、良過ぎ、っ、ひい……!!」

 

「くく、く……っ!おいおい、そんなに笑う事ねえだろ……!」

 

「だって、おま、っ、君から始めた事だろう!?」

 

「おう。よく乗ってくれたな。……関西弁じゃねー事が不満だが」

 

「俺にそこまで求めんといて!こちとら生粋の関東人や!」

 

「っ、ぶふ……話せる、じゃねえか……!」

 

 

 そのまま笑い続けていたら、カウンターから読書スペースにやって来た三谷から、静かにしろと叱られてしまった。2人揃って真面目な顔で謝ると、彼は呆れ顔で立ち去って行く。

 

 残された2人は顔を見合せ、今度は声を押し殺して笑い合う。

 

 

(――嗚呼、楽しい)

 

 

 承太郎は、心の底からそう思っていた。これだから、園原の友人は止められない。……もっとも、彼が園原と友人になる事を望んだ本当の理由は、別にあるのだが。

 

 

 一方、園原はこう思っていた。

 

 

(うん。原作(・・)と全然違うな、こいつ)

 

 

 やっぱり、"今の"承太郎と"過去の"承太郎を比べちゃ駄目だ。――転生者である園原は、内心でそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

空条承太郎の友人は、出会う

・男主視点。

・前回も登場した、図書館管理人のオリキャラがいます。過去編です。


 ――空条承太郎だって、何の偏見もなく接してくる同い年()の男子生徒と出会ったら、何がなんでも友人になりたいと思うはず。




 

 

 

 空条承太郎と出会った時。高校1年生だった俺は、まだ前世の記憶を思い出していなかった。

 

 

 その日は旧図書館の管理人、三谷さんから頼まれて、校舎内の新しい図書館から古くなった本を回収するために、目的地に向かっていた。

 

 新図書館に到着すると、既に話は通っていたらしく、すぐに司書から本を預かる。……予想外だったのは、その本の数がかなり多かった事だ。

 しかし、だからといって往復するのは面倒だったため、多少無理をしてでも一気に持って行こうと、当時の俺は考えた。

 

 全ての本を積み上げ、それを持ち上げると、大体俺の口元までの高さになった。これなら多分いけるだろう。……そう、油断してしまった。

 

 

 事件が起きたのは、新図書館から出て廊下を歩いていた時だ。

 本を落とさないように慎重に歩いていた俺だったが、そちらに集中し過ぎて、騒ぎが近づいて来ている事に気づかなかった。

 

 

「――っ!?」

 

「うおっ!?」

 

 

 下の階に下りようと、階段の前に差し掛かった時。下から駆け上がって来た誰かと、衝突してしまったのだ。

 当然、積み上げた本はバラバラと床に落ち、俺も尻餅をつく。

 

 

「……悪い。大丈夫か?」

 

 

 あれっ?この声、何か聞き覚えがあるぞ?

 

 そう思って顔を上げると、見上げる程に身長が高い男がいた。学帽を被っている、黒髪緑目の美丈夫――

 

 

(く、空条承太郎……!?)

 

 

 驚いた俺が最初に考えた事は、彼のファンクラブの人間に半殺しにされる心配――ではなく。

 

 

「……誰かに追われてるの?」

 

「あ、あぁ……喧しい女共にな」

 

「分かった。こっち」

 

「は?」

 

「いいから、隠れて!俺が良いって言うまで出てくるなよ!」

 

 

 追われている彼をどうやって助けるのか、だった。……何故?そこんとこだが、俺にもよく分からん。

 

 いや、本当に何でだろうな?前世を知らなかった頃の自分の行動が、よく分からない。

 まぁこの行動のおかげで、俺は今でも承太郎の友人をやってるわけだが。

 

 

 近くの空き教室に彼を匿い、扉を閉めて元の場所に戻る。すると、すぐにバタバタと複数の女子生徒が階段を駆け上がって来た。

 

 

「うわ、どうしたの?君達」

 

「ちょっと、あんた!ジョジョを見なかった?」

 

「えっと、どのジョジョかな?……あっ。空条君なら、俺にぶつかった後に向こうに走って行ったけど、」

 

「向こうね!」

 

「行きましょう!」

 

 

 そして、彼女達はお礼も言わずに立ち去って行った。足音が遠ざかるのを確認してから、空き教室の扉を開ける。

 

 

「もう大丈夫だよ。あとは、来た道を引き返せば逃げられると思う」

 

 

 俺は彼にそう声を掛けて、廊下に散らばった本の回収を始める。……と、そんな俺の側にしゃがみ込み、それを手伝う美丈夫が――って、何故まだここにいる?

 

 

「待って。手伝わなくていいよ。早く逃げた方がいい」

 

「いや。……いつもの調子なら、あいつらはそろそろ諦める。問題ねえよ」

 

 

 それだけ、追われる事に慣れてるって事か?モテる男は苦労するなぁ。

 

 

「……助けてくれた礼に、手伝おう。何処に運ぶんだ?」

 

「いやいや。助けたのは俺が勝手にやった事だし、他人に運ばせるのは悪いから」

 

 

 そう言って彼の手から本を取ろうとしたら、さっと避けられてしまった。そして、俺が運んでいた本のほとんどが、彼の手に積み上げられている事に気づく。

 

 

「あっ、いつの間に!?」

 

「おら、行くぜ。何処に行けばいい?」

 

「待って待って、そっちじゃないから!」

 

 

 仕方なく先導し、校舎の外に出た。さすがにおかしいと思ったのだろう。彼は訝しげに問い掛けてきた。

 

 

「……一体どこまで行くんだ?」

 

「あぁ、えっと……今から行く場所の事、誰にも言わないでね。あの場所が大人数にバレたら、管理人の三谷さんに怒られる」

 

「管理人?」

 

「旧図書館。……この学校が作られた当時からある、昔の図書館だよ」

 

「ほう……」

 

 

 三谷さんと知り合いになった俺は、特別に旧図書館の利用を許可されていた。今のところ旧図書館の事を知っているのは、在校生の中では俺しかいないらしい。

 うるさい奴や、本を大切にしない奴には教えるな、と言われていたが……彼なら大丈夫だろうと判断して、そのまま連れて行く事にした。

 

 旧図書館の前で、その扉を叩く。……しかめっ面の中年男性が出て来た。彼が、三谷さんだ。

 

 

「ようやく戻って来たか。……誰だ?その不良は」

 

「……俺は不良じゃねえ」

 

「そうですよ、三谷さん。彼はここまで本を運ぶのを手伝ってくれた、優しい人なんです。不良じゃありません」

 

 

 ……何故か、背後から強い視線を感じていたが、気にせず三谷さんに事情を説明する。

 

 

「……つまり、往復を嫌って横着した、お前さんが悪いんじゃないか」

 

「うっ!ま、まぁその通りですけど、そもそも回収する本がこんなに多いとは聞いて無かったし……」

 

「それは……そうだな。俺も知らなかったからお前さんに任せたが……向こうの司書の伝達ミスだな。後で言っておく」

 

「あ、はい。ありがとうございます」

 

 

 そうそう。たまにこうやって素直になるんだよなー、このおっさん。

 

 

「……で、これは何処に置けばいいんだ?」

 

「あぁ、ごめん!三谷さん。彼を中に入れても?」

 

「…………この場所の事を誰にも言わない事。本を雑に扱わない事。これを守れ。でないと即刻追い出す」

 

「分かった」

 

「ありがとう、三谷さん」

 

「ふん……」

 

 

 中に入り、積み上げられた本を入り口のカウンターの側に置いてもらう。それを三谷さんと手分けして、カウンターの先の別室に運び、再び戻って来ると、彼は興味深そうに本棚を眺めていた。

 

 

「……なぁ。ここの本を借りたい場合は、どうすればいい?」

 

「残念ながら現在、ここの本は全て貸出禁止だそうだよ」

 

「……図書館なのにか?」

 

「以前は貸出もやってたらしいけど――」

 

「貴重な本を借りると見せ掛けて、それを盗み出して売り払った馬鹿な生徒がいたんだよ。そんな本を人目につく場所に置いた俺も悪かったが……以来、貸出は二度とやらないと決めたんだ」

 

「――という事情があってね」

 

「……なるほど」

 

 

 三谷さんの説明に頷いた彼は、少し名残惜しそうに本棚を見つめている。

 

 

「……気になるなら、時間がある時にここに来て、読みたい本を読めばいいんじゃないかな?俺は週1回ぐらいのペースでそうしてるよ」

 

「おい、眼鏡坊主!」

 

 

 眼鏡坊主というのは、三谷さんがつけた俺のあだ名だ。基本的に素直じゃないこのおっさんは、俺の名前を滅多に呼ばない。

 

 

「三谷さん。彼はあなたの言い付けをしっかり守ってましたし、本に興味を持ってるし、静かな人ですよ。あとは誰にも言わない事さえ守ってくれたら、資格は充分だと思いますが……」

 

「…………」

 

「どうしても納得いかないなら、俺の時みたいにテストしてみたらどうです?」

 

「テスト?」

 

「あぁ。俺が三谷さんにここに通いたいって頼み込んだ時は、読書家ならよく知っているであろう作品のタイトルや、作者名を当てる問題を、3つ出題されたんだ。それに全問正解したら、許可をもらえたよ」

 

 

 本当に基本的な問題だったから、答えるのに苦労はしなかった。大体が中学で習った内容だったし。

 

 

「試しに、やってみてもいいんじゃないかな?」

 

「……まぁ、それで許可がもらえるっていうなら、やるが」

 

「だってさ、三谷さん」

 

「……勝手に決めやがって……しょうがねぇな」

 

 

 むすっとした顔の三谷さんが、彼に向き直り、さっそく問題を出題した。

 

 

「……山椒魚の作者は誰だ?」

 

「井伏鱒二」

 

 

 おっ、即答。どうやら、基本的な知識は頭に入っているようだ。

 

 

「……中島敦の著書の中で、虎になってしまった男が登場する作品のタイトルは?」

 

「山月記」

 

 

 順調、順調。次で最後だ。……すると、三谷さんが意地の悪い顔をした。

 

 

「お前さんがついさっき持って来た本の中で、1番上に積み上げていた本のタイトル名と作者名を答えろ」

 

「む……」

 

 

 最後の最後で、彼が口をつぐんだ。その問題はさすがに意地悪過ぎる。

 

 俺が抗議しようとした時、彼は口を開く。

 

 

「――太宰治の、走れメロス……だったはずだぜ」

 

「…………ちっ。正解だ」

 

 

 なんと、正解してしまった。記憶力すげぇ!!

 

 

「やったね、空条君!おめでとう!というわけで、いいよね?三谷さん」

 

「…………仕方なく、ここの使用を許可してやる。……ただし、ここの存在は他言無用!本は大事に扱え!それから飲食と喫煙禁止だ!いいな!?」

 

「分かってる……ルールは守るさ」

 

「その言葉を忘れるなよ、不良坊主!」

 

「不良じゃねえ。そのレッテルを貼られているだけだ。……俺には空条承太郎という名前がある」

 

「……空条、承太郎?」

 

 

 と、三谷さんが首を傾げる

 

 

「……そうだ。誰かに似てるなと思ったら、お前さんジョナサン・ジョースターの親戚か」

 

「あ?……あの人を知ってるのか?」

 

「卒業するまでは、ここの利用者だったからな」

 

「へぇ……」

 

 

 それまで無表情だった彼は、ここで初めて大きく表情を変えた。それ程驚いたのだ。もちろん、俺も驚いた。

 

 この時。記憶を取り戻していたら、内心で大興奮してたかもしれない。年がもっと近かったらニアミスしてたかも、なんて考えて。

 

 

「……まぁ、奴の親戚なら教養があってもおかしくないか……じゃあ、学帽坊主だ」

 

「…………不良って呼ばなきゃ何でもいい、と言ったつもりはねえが……いや、もうそれでいい」

 

 

 呆れたように頭を振る彼の様子に、思わず笑ってしまう。すると、彼がこちらに顔を向けた。

 

 

「……それで、てめえの名前は?」

 

「え?あぁ……園原志人だけど」

 

「じゃあ、園原。ここに置いてある本の中で、何かお勧めは無いか?次に来た時に読みたい」

 

「おっ、それなら良い物があるよ!こっち!」

 

 

 ……その日はお勧めの本を紹介したり、互いが好んで読む本のジャンルについて話したりした後、その場で別れた。

 何度も会うわけじゃないし、ファンクラブにバレて無いからこの程度は大丈夫だろうと、安心していたのだが……何故かその日以来、旧図書館で何度も遭遇する事になった。

 

 さらには、俺の何が気に入ったのか、会う度に向こうから話し掛けてくる。これはまずいなと思って、彼にファンクラブの過激派の存在と、そのせいで俺の身が危ない事を伝えた。

 どうやら、彼もその危険性をよく理解していたらしく、俺の言葉に納得してくれたが……

 

 しかし、だからといって貴重な読書仲間を失いたく無い。話し掛けるのは旧図書館にいる時だけにするし、学内では他人のふりをするから、それ以外では連絡先を交換して、電話やメッセージアプリを使って話さないか?

 

 ……そう言われた俺も、彼と同じ気持ちだったので、喜んで連絡先を交換した。

 

 

 もしもこの時点で記憶を取り戻していたら、俺はこう思っていたはずだ。――流されてるぞ!と。

 何故そこで上手く断らなかった!?もうその時点で知り合い以上に昇格してしまった事に何故気づかなかった!?友人扱いされ始めたのもその直後だった気がする!!

 

 いや、待てよ?俺が流されただけの話か?それとも――承太郎が確信犯だった……?

 

 

(いやいやいやいや……まさか、な?)

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

空条承太郎の友人の、素顔

・プロローグの直後の話。

・最初、男主視点。最後に承太郎視点。


 ――空条承太郎だって、友人に愚痴を言いたい時があるはず。




 

 

 

 

 承太郎が作ってくれたお粥は美味しく頂いた。ファンクラブの人間にバレたら極刑物だろうが、今は気にしない事にする。

 

 

「……良い食べっぷりだった。完食できるぐらい元気なら、問題は無さそうだな」

 

「うん、ごちそうさま。美味しかった」

 

「おう。……ところで、お前――」

 

「――え、」

 

 

 何気無い様子で伸ばされた手が、俺の前髪を上げる。

 

 

「……そんな面してたんだな。眼鏡も伊達のようだが、わざと隠しているのか?それは」

 

「……ああっ!!」

 

 

 慌てて承太郎の手を払い、サイドテーブルに置いた眼鏡を掴み取り、それを身に付ける。……おそらく、気絶していた時に見られたんだろう。不覚だ。

 

 

「今さら眼鏡掛ける意味、あるか?」

 

「いや、その……俺と目が合ってると、ずっと睨まれてるような気がしない?」

 

「……そんな気もするが、俺は気にしねえ。お前、本気で睨んでるわけじゃないんだろ?」

 

「それはそうだけど……」

 

 

 眼鏡越しに承太郎の様子を見ると、確かに彼は気にしていないようだ。……そりゃそうか。滅多に動じないこいつが、この程度の事で動揺するわけ無いよな。

 安心した俺は、眼鏡を外して前髪を掻き上げた。承太郎は俺の顔を観察しているようだ。視線を感じる。

 

 

「……随分整った面してるくせに、何故隠す?」

 

「承太郎くんには負けるよ。……それに、顔は良くても目付きはこれ(・・)だからね。高校に入学する前は、いろいろと大変だった」

 

「その、睨むだけで人を殺しそうな目付きの悪さか」

 

「…………君、結構言うね」

 

 

 思わず睨むと、一瞬目を見開いた彼は、わざとらしく両手を上げた。

 

 

 承太郎が言うように、俺の目付きは悪い。とにかく、悪い。"睨むだけで人を殺しそう"というのは、決して言い過ぎでは無い。

 多分、生まれつきだと思う。今世の記憶を辿ると……あぁ、いや、全てを思い出すのは止めよう。嫌な記憶が甦る。小学校も中学校も酷いものだった。

 

  とにかく。今世ではこの目付きのせいでいろいろあったから、せめて高校では普通の学生生活を送りたいと思って、前髪を下ろし、眼鏡を掛けて、口調まで変えた。

 中学生の時、この目や乱暴な口調のせいで教師から悪い意味で勘違いされ、勝手に成績を落とされた事がある。高校でもそうならないとは限らないからな。

 

 特待生入学した以上、学校側からの援助を打ち切らせないために、気を使わなければ。

 せっかく入学試験を頑張って、学費全額免除を勝ち取ったのに、問題を起こしてそれがパアになるのは避けたい。

 

 

「……いろいろと大変だったというと、何もしていないのに教師に目を付けられたり、道を歩いているだけで絡まれたり、周りに怯えられたり……ってところか?」

 

「よく、分かったね?」

 

「…………俺にも、身に覚えがあるからな……」

 

「あっ」

 

 

 つまり不良のレッテルですね?察した。

 

 表情あまり変わってねぇけど、こう、落ち込んでいる雰囲気を感じる。もしかして、原作……前世でも、実はこっそりダメージ食らってたのか?

 でもこいつの場合、未成年で喫煙してたし喧嘩もしてたし、学ランも改造してたし、レッテルを貼られているというか事実、不良だったと思うが……

 

 いや。それは前世の話だな。今世の承太郎の見た目は、前世と全然違うのだ。

 

 

 まず、うちの学校の男子生徒の制服は学ランだ。行き過ぎた改造は禁止されているが、式典以外では着崩す事を許されている。

 とはいえ、前世でも長ランに鎖付けるぐらい好き勝手やっていた承太郎なら、教師に何を言われても改造するはず……と、思うだろ?

 

 ところがどっこい。実はこいつ、学ランを着崩してはいるが、改造は全くしていないのだ。

 

 さすがに現代の流行に合わせたのか、教師に注意されたのか、はたまた前世の仲間達に何か言われたのか……あるいは、何か心境の変化があったのか。

 真実は不明だが、前世よりも見た目が大人しくなっている事と――煙草の匂いが全くしない事は、確かだ。

 

 

 とすると、今世では比較的大人しくしていたのに、それでも素行の悪い不良だと勘違いされている、とか?……もしもそうだとしたら、同情する。

 

 

「……気づいたら番長扱いされてた」

 

「ん……?」

 

「校内で煙草の吸殻が見つかって、俺が犯人じゃないかと担任に疑われた。冤罪だ」

 

「お、おう……」

 

「他校にまで番長の噂が広がって、不良に喧嘩売られる事がよくある。返り討ちにしたら噂にまた尾ひれがついた。ちょっと目が合っただけでも下級生に怯えられる。……つーか、番長っていつの時代の話だ。それに、俺よりも裏から学校を牛耳っているジョルノの方が番長、というか裏番――」

 

 

 その時。はっと、口を閉じた承太郎は、気まずそうに目を逸らす。……どうやら俺の想像以上に、ストレスが溜まっているらしい。

 

 

 なお。"裏番はジョルノ"という、恐ろしい話は聞かなかった事にしたい。

 

 

「……すまん、忘れてくれ」

 

「遠慮しなくても、愚痴吐きたいならいつでも聞くけど?」

 

「……いい、のか?」

 

「友達相手に、そんな気を使わなくていいよ。それで承太郎くんがすっきりするなら、いくらでも付き合う。……その代わり、たまには俺の愚痴も聞いてくれよ?」

 

 

 変に遠慮させないために、わざとニヤリと笑ってそう言えば、苦笑いを返された。

 

 

「さっきもそうだが、お前は気配りが上手いな。相手に気を使わせないための言動が、自然と出てくる……ような気がするぜ」

 

「……何の事かなぁ?」

 

「……あぁ、分かった分かった。そういう事にしておいてやるよ」

 

 

 今度は承太郎の方がニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべる。止めろ、からかうな。

 

 ……今世の記憶を思い返すと、最近のこいつは徐々に表情が豊かになっている気がする。

 無表情よりはその方が良いけど、こっちは落ち着かねぇんだよなぁ……慣れるしか無いか。

 

 

「それで?」

 

「え?」

 

「お前がその顔を隠す理由は?」

 

「あ、そっか。ごめんごめん」

 

 

 そういえば、そんな事を聞かれていたな。

 

 

「この目付きのせいで、小学校でも中学校でも苦労したからさ。せめて高校生活は平和に過ごしたいと思って、最初から隠しているんだ。

 特待生入学してるから、先生達に目を付けられるようなトラブルに巻き込まれるのは困る。せっかくの学費免除が無かった事にされたら嫌だし」

 

「そうか……試験、難しかっただろ。外部の入試、それも特待生の試験は相当難易度が高いと聞いた事がある」

 

「まぁね。でも、苦労した甲斐はあったよ。入学する前と比べたら、今の学校生活は凄く楽しい。旧図書館っていう、良い場所を見つけて――不器用だけど、優しい友達とも出会えたからね」

 

「……それは、俺の事か?」

 

「…………違う、と言ったら?」

 

 

 先ほどの仕返しを、と思ってわざとそんな事を言うと、承太郎は困ったような、寂しそうな顔を見せた。えっ?何その表情。初めて見た。

 

 

「――本気でそう言われたら、へこむ」

 

「へ、」

 

 

 へこむ。……こいつが?泣く子も黙る"ジョジョ3部主人公"様が、へこむ?

 

 

「――っ、はっ!はははははっ!!」

 

「…………おい……!」

 

「う、嘘だろ、承太郎、っ、くん!ふふ、ははははっ!!」

 

 

 やばい。笑いが止まらねぇ……!

 

 

「っ、てめえ、いい加減に、」

 

「ふはは、っ、うわ、あ、やば……」

 

「!?園原っ!」

 

 

 突然目眩に襲われ、あえなくベッドに沈む事になった。なんとか仰向けになると、承太郎が上から俺の顔を覗き込む。呆れ顔だが、目を見れば心配されている事が分かった。

 

 

「……やれやれだぜ。あんなに笑うからそうなるんだ。病人は大人しくしてろ」

 

「あはは……ごめん」

 

「もういい。……眠れ」

 

 

 大きな手で目を隠されると、急に眠くなってきた。……眠る前に、誤解を解かねぇとな。

 

 

「承太郎、くん……」

 

「何だ?」

 

「――俺の言う、不器用で、優しいダチ(・・)に当てはまるのは……お前(・・)だけだ」

 

「――――」

 

「……おやすみ」

 

 

 少し冷たい手の平がびくり、と震えたのを最後に、意識が遠退いていく。

 

 

(……確か、手が冷たい人は心が温かい、だっけ――)

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

「……寝た、か?」

 

 

 手を退けると、園原はすやすやと眠っていた。あんな爆弾を放り込んどいて、呑気に眠ってやがる。

 言い逃げされたことに腹は立つが……それ以上に、こいつの言葉が嬉しかった事は事実だ。

 

 

「……ダチ(・・)に、お前(・・)、か。……それが、本来のお前か?園原」

 

 

 そういや、たまに俺の事を"君"じゃなくて"お前"と呼びそうになったり、さっきも俺の名前を呼び捨てしそうになったりしてたな。…………いっそ、呼んでくれよ。俺にお前の素顔を見せろよ。

 

 ――お前、何か隠してるんだろ?

 

 高校に入学する前の話を、詳しく聞かせてくれない事。家族の話が全く出ない事。……そして、顔を隠す理由。

 園原は目付きの悪さを隠すため、と言っていたが……俺が"目を隠す"理由ではなく、"顔を隠す"理由と聞いても、否定しなかったしな。

 気のせいなら、それでもいいが……俺の勘は"気のせいではない"と言っている。

 

 

 俺は、園原の存在に救われている。

 

 これからも友人として付き合っていきたいし、こいつが困っていたら、何がなんでも助けてやりたいと思う。できれば、隠している事を明かして欲しいし、俺を頼って欲しい。

 そして、園原にはいつか、俺の前世の話をしたい。……こいつなら、それを知っても変わらずにいてくれるのではないかと、期待しているんだ。

 

 園原は、俺に関する噂やファンクラブの存在を知っていたのに、最初から、俺の事を"普通の人間"として扱ってくれたから。だから、こいつならきっと――

 

 

(…………やめだ。我ながら女々しいぜ)

 

 

 これ以上は、今は考えるな。

 

 ベッドで眠る園原に掛け布団を掛けてやり、粥を食べ終わった皿を片付ける。最後に、サイドテーブルに書き置きを残し、帰る事にした。

 玄関から外に出て、扉を閉める。合鍵なんて持っていない俺では、普通なら鍵を掛けられない。……そう、普通なら(・・・・)

 

 

(――スタープラチナ)

 

 

 心の中で呼び掛けて、自分の分身を呼び出す。スタープラチナの腕が扉をすり抜けて、内側から鍵を掛けた。これで良し、と。

 頭の良い園原なら、自分が寝ている間に俺がどうやって鍵を掛けて帰ったのか、疑問に思うだろう。だが、スタンドの存在を知るはずが無いあいつでは、答えに辿り着けない。

 

 …………そういえば、今まで試した事が無かったな。

 

 

(今度、園原の前でスタープラチナを出してみよう)

 

 

 スタンド使い同士は、ひかれ合う。……これは今世でも通用するらしく、俺達はそれぞれ、あまり間をおかずに、前世の記憶を取り戻したスタンド使いの仲間達と再会した。

 だが、時には前世では出会わなかったスタンド使いと出会う事も、ある。

 

 そいつらとは和解する事もあるし、敵対する事もある。……もしかしたら、互いにスタンド使いである事を気づかないうちに出会っている可能性も、あるかもしれない。

 

 もし、園原もそうだったとしたら?

 

 

(……園原がスタンド使いだから、俺と出会ったのか。それとも、俺と園原の出会いは、本当に偶然だったのか)

 

 

 個人的には本当に偶然だった場合の方が嬉しいが、さて、実際はどうだろうな?

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

空条承太郎の友人、危機一髪



・前半、第三者視点。後半、男主視点。


 ――空条承太郎だって、目の前で友人に危機が訪れたら、心臓が止まるような思いをするはず。

 即座に、時も止めるはず。





 

 

 

 

「――あー、やっと終わったぁ!」

 

「腹減ったな。食堂行こうぜ」

 

「……園原。行けるか?」

 

「うん」

 

 

 授業が終わり、昼休みに入った。自作の弁当を手にした園原は、クラスメートである3人の男子生徒と一緒に、教室から出る。……園原は基本的に、学内ではこの3人と行動を共にしていた。

 

 彼らは3人は全員、同じ部活の部員同士だ。1年の頃から仲が良かったらしく、2年で同じクラスになってからはずっと3人で行動していた。

 園原は、2年になってからすぐにそのグループの1人と仲良くなり、自然と残りの2人とも仲良くなった。それ以降、彼らは4人で行動している。

 

 

 教室から出た彼らだったが、前方で女子生徒達の黄色い声援が聞こえ、その足が止まる。

 

 

「うおっ……相変わらず、すげー……」

 

「あぁ、A組の空条と花京院な。いつもいつも女子からキャーキャー言われやがって……!」

 

「男の嫉妬は醜い。モテない奴のそれは特に醜い」

 

「なんだと、コラ!」

 

「……あ、そろそろ来るよ。3人共、端に寄って」

 

「おっと」

 

 

 道の真ん中にいた3人は、園原の声に従い、廊下の端に寄った。

 

 万が一、前から来る2人にぶつかってトラブルになってしまった場合、何処かにいるであろう承太郎のファンクラブの人間に、目を付けられてしまう可能性がある。

 彼のファンクラブには承太郎に恋する女子生徒だけでなく、承太郎の強さに憧れた男子生徒まで入っているというのだから、恐れ入る。

 

 ファンクラブ持ちの人間やその仲間達を見つけた時は、必ず道を譲る。もしくはその場から離れる事。……これは、この学校で余計なトラブルを生まないための、暗黙のルールである。

 

 

「お腹空いたな。早くお昼食べようか」

 

「おう。……あいつらは?」

 

「えっと……あ、今連絡来た。いつもの場所で待ってる、との事だ」

 

「ん」

 

 

 そんな会話をしながら、承太郎と花京院が横を通り過ぎて行く。

 

 

(――!)

 

 

 その時、園原は一瞬目を見開く。すれ違い様に、承太郎と目が合ったからだ。……彼は、園原だけに分かるように目を細め、一度だけゆっくりと、瞬きをした。

 

 

(器用な事するなぁ、あいつ。瞬きで挨拶って、お前は猫かよ。さながら黒猫……いや、黒豹か?)

 

 

 園原は自然な動作で口元を隠し、笑いを耐える。……今度すれ違った時は、自分も同じ事をしてみようか、なんて思いながら。

 

 

「……女にモテるし、なんか仲間がたくさんいるらしいし、あの2人試験でいつも1位と2位勝ち取ってるし、頭も良いんだろ?いいよなぁ、人生勝ち組って感じで」

 

「そうだなー。苦労する事が何も無さそうで、羨ましいや」

 

「――いや。苦労する事が何も無さそう、というのはさすがに無いんじゃないかな?」

 

 

 一緒にいたクラスメート達の会話を聞いた園原は、思わず口を挟んでしまった。

 

 

「彼らだって、1人の人間なんだよ?きっと何かしらの苦労はしているはずだ。……むしろ、苦労して努力を重ねた結果が、君達の言う人生勝ち組?なんじゃないかな?」

 

 

 園原はそう言って、承太郎達がいる方へ振り返る。……彼らの背中を見て、原作のストーリーを思い浮かべた。

 3部の、戦い続きのあの旅を経験した彼らが、何も苦労していないはずが無いのだと、園原は思う。

 

 

「……もしそうだとしたら、その苦労や努力をひけらかす事なく、堂々としている彼らって――凄く、カッコいいと思わない?俺なら、尊敬するね」

 

 

 それからクラスメート3人の方へ振り向き、最後にそう言って笑い掛けると、彼らはポカンと口を開き、園原の発言に言葉を失っていた。

 

 3人の心境は、こうだ。――嫉妬するどころか純粋に人を尊敬する園原の方が、余程カッコいいのでは?

 

 

 

 

 

 

(――まぁ、そんなカッコいい奴らも、過去には"不良のレッテル(・・・・)を貼られている"と言いながらもガチの不良だったり、海中で襲われて死にそうになってる最中に、某フランス人と"ピシガシグッグッ"なんてアホな事やってたりするんだけどな)

 

 

 しかし、3人に尊敬されていた園原は内心でそんな事を考えていたため、いろいろ台無しである。

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 放課後。俺は旧図書館に向かった。

 

 旧図書館には、大体週一回ぐらいのペースで通っていた。基本的にバイトが休みの日に行って、最終下校時間ギリギリまで本を読んでから、帰る。

 前世でも今世でも、俺は本が大好きだ。しかし、今世ではバイトで生活費を稼ぐのが精一杯で、本はたまにしか買えない。

 

 だから、バイトが無い日に旧図書館で本を読む事で、その欲を発散させているのだ。ここの本は全て貸出禁止だから、その場で読まなければいけない。

 ここには貴重な書籍も、まだ読んだ事がない小説もたくさんある。……さすがに卒業するまでに全て読み終わるのは、無理だろうなぁ。

 

 そんな訳で。今日は先週来た時に、読み終わらなかった本の続きを読むために来たのだが……旧図書館に入って早々、三谷さんから仕事を頼まれる。

 

 

「……悪いな。先日その本を取って読み終わるまでは良かったんだが、今日は腰が痛くて梯子を上れない。それで困っていたんだ」

 

「いえいえ。大丈夫ですよ。それじゃあ、戻して来ます」

 

 

 先日。三谷さんは旧図書館の本棚の一番上からとある本を取り出し、今日それを読み終わった。さっそく元の場所に戻そうとしたのだが、朝から腰が痛くて、このままでは梯子が使えない。

 そこに若い男である俺がやって来たので、三谷さんは俺に本を戻して欲しいと頼んだ訳だ。

 

 三谷さんにはカウンターで休んでもらい、俺は梯子が掛けられた本棚に向かう。本を持ったまま一番上まで上がり、それを元の場所に戻した。

 ちらっと下を確認したが、想像以上に高い場所だ。早く下に戻ろう。

 

 

「……園原」

 

「あ、承太郎くん。ちょっと待ってて。今降りるから」

 

 

 本棚の入り口付近に、承太郎が立っている。……決して示し合わせた訳でも無いのに、この遭遇率の高さよ。最近では驚く事が無くなった。

 

 どちらか一方が"直接会おう"と携帯で連絡しない限りは、互いにいつ旧図書館にいるのかが分からない。……そのはずなのに、かなりの頻度で出会うのだ。

 承太郎は、"連絡しなくてもどうせ会えるだろう"と考えている節がある。俺もこの遭遇率の高さが面白くなってきたので、こいつにはあえて、バイトがいつ休みなのかを教えていない。お互い様だ。

 

 今日もいつも通り、互いの隣で本を読み、たまに会話を楽しんで、時間が来たら別々に帰る。そんな平和な流れになるのだろうと……そう、思っていた。

 

 

 ――バキッ、という。不吉な音が聞こえるまでは。

 

 

「っ、!?」

 

「――園原ぁっ!!」

 

 

 足場が無くなって息を呑んだ、刹那。俺は突然の浮遊感に襲われていた。

 承太郎の、今まで聞いた事が無い程の必死な声。そして、仰向けに落下している事を自覚した俺は、咄嗟に両腕で頭を覆って目を瞑る。

 

 

 

 

 

 

 ――落下の衝撃を覚悟していた俺だったが、何かに受け止められたのを感じて、恐る恐る瞼を開けた。

 

 

「…………承、太郎?」

 

「…………やれやれだぜ。危ねえな。無事か?」

 

「あ、あぁ……」

 

 

 俺を受け止めたのは、承太郎だった。……どうなってる?

 

 

「お前、今、……あぁ?何でだ?どうやってあの場所から、ここに、」

 

「それより、園原」

 

「な、何だよ?」

 

「――俺の後ろに、何か、見えないか?」

 

 

 混乱している俺は、訳も分からずに承太郎の背後を見た。

 

 

「――何も見えねぇけど……それがどうかしたか?」

 

「……ふ、……そうか。見えないなら、それでいい」

 

 

 何故か、嬉しそうに微笑を浮かべた承太郎は、俺を抱えていた状態から慎重に床に下ろした。地に足が着いて、ようやくほっとする。

 

 

「おい、坊主共!何があった!?」

 

「あ、三谷さ――」

 

「――おい、そこの管理人」

 

 

 獣の唸り声のような、恐ろしい声が聞こえた。三谷さんが震えている。

 

 

「……ここの整備は、一体どうなってやがる。この木製の梯子は随分古いぞ。――だから園原が、梯子の天辺から落ちる羽目になった。あれを見ろ。踏み場の一部が腐って折れてるだろうが。園原はあそこで踏み外して落ちて来たんだぞ……!!」

 

「な、なに!?」

 

「間一髪で俺が受け止めたから良かったものの、間に合わなかったら俺のダチが大怪我するところだったぜ――殴られる覚悟はできたか?」

 

「じょ、承太郎!待て、落ち着けぇっ!!」

 

 

 承太郎よりも背が低く、細身の俺が頑張ってしがみついて引き留めた結果。なんとか怒りを収めてくれた。昼間にこいつを黒豹に例えたが、なるほど確かに猛獣だった。

 今日はもう読書をする気になれず、早めに帰る事にした。承太郎に改めて助けてくれたお礼を言い、さすがに肝を冷やしたのか、素直に平謝りする三谷さんを宥め、旧図書館から外に出る。

 

 

 しばらく歩き、周りに誰もいない事を確認した俺は、顔面を覆って深めのため息をついた。

 

 

(――あっっぶねぇ……!!)

 

 

 先程、承太郎に助けられた時の状況を冷静に確認した俺は、自分が綱渡り状態にあった事に気づいた。

 

 梯子から落ちる前。俺がいたのは、本棚の一番奥。読書スペースに繋がる出口付近だ。

 承太郎が立っていた入り口付近から、あいつが走ったとしても、梯子から落ちた俺を助けるのは不可能だったはず。それ程に距離があったのだ。

 

 しかし、承太郎は間に合った。つまり――

 

 

(――あいつ、時を止めやがった)

 

 

 自分の分身の力を使い、俺を助けてくれた。それには本当に感謝したい。

 

 だが、問題はここからだ。その後、承太郎は自分の後ろに何か見えないかと、俺に聞いた。梯子から落ちた直後で混乱していた俺は、それに対して何も考えずに正直に答えた。何も見えない、と。

 どう考えても、その時承太郎の後ろにいた(・・)のだろう。――彼のスタンド、スタープラチナが。

 

 見えなくて良かった。本当良かった!スタンド使いじゃなくて本っ当に良かったぁ!!

 

 もしもスタンドが見えて、万が一スタープラチナの名前を呟いてしまったら?確実に怪しまれていただろうな。

 あの承太郎を前にして誤魔化せるはずが無いし、下手したら俺の前世まで明かさないと納得してもらえない事態に陥っていたかもしれない。危なかった……

 

 それから、もう1つ。……俺、あいつの前で素の口調で話してしまったんだが。

 

 あれは"真面目な特待生"の口調ではなく、高校に入学する前の、乱暴な口調を使っていた時の俺だ。……承太郎が何も突っ込んで来なくて良かった。これなら、次会った時も大丈夫だろう。

 

 

 だがしかし、後日。俺の考えが甘かったのだと知る。

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

空条承太郎の友人と、楽しい休日の始まり


・男主視点。


 ――空条承太郎だって、友人を好き勝手に振り回したい時があるはず。





 

 

 

 

 それは、俺が梯子から落ちた事件が起こった日から、1週間ほど経過した時の事。

 

 

「先週は本当にありがとう。おかげで怪我をせずに済んだよ」

 

「……お前が無事なら、それでいい。だが、次からは上る前に自分の足場の確認をするぐらいは、しっかりやれ。何かが起きてからじゃ遅いぜ」

 

「……そうだね。君の言う通りだ」

 

 

 1週間ぶりに旧図書館で顔を合わせたので、改めて礼を言えば、そんな正論を返された。ごめんなさい、反省します。

 ただ、その後に承太郎が三谷さんを殴ろうとしたのは、やり過ぎだと思う。なんとか止める事ができたが、あれ以来、三谷さんは承太郎に苦手意識を持ってしまったようだ。

 

 俺に言われて、三谷さんが怖がっている事に気づいた承太郎は、彼に対して丁寧に謝罪していた。……あれが無かったら、三谷さんは承太郎の事を怖がって、旧図書館から追い出していたかもしれない。

 

 

「助けてくれたお礼に、何か俺にできる事は無いかな?」

 

「……お礼、か」

 

 

 なんでも、とまでは言えないが、承太郎のために何かできる事は無いかと聞いてみた。……すると、承太郎は意味あり気な笑みを浮かべる。

 

 あ?……まさかとは思うが、俺がお礼の話を切り出すのを待っていた、とか?この笑顔を見ると、そうとしか思えないんだが。

 

 

「……なら、優しいお友達の園原クンに、お願いがあるんだが」

 

「その言い方、怖いなー……何をお願いする気?」

 

「簡単な事だ。……土日、空いてるか?」

 

「土日?ちょっと待って。バイトのシフト確認する。…………あ、今週の日曜日なら空いてるけど」

 

「分かった。その日、1日空けとけ。――遊びに行くぞ」

 

「はいぃ?」

 

 

 承太郎の口から"遊びに行くぞ"とか、なかなかのインパクトだな――って、それは置いといて、

 

 

「……もしかして、君の仲間達も一緒?」

 

「いや、違う。俺とお前の、2人だけだ」

 

 

 おぉ、それは良かった。ならば断る理由は無いが……

 

 

「何処か、行きたい場所があるの?」

 

「……行きたい場所というか、遊ぶ事自体が目的だな」

 

「それはまた……いきなりだね?」

 

「…………嫌、か?」

 

「嫌じゃないよ!?ただ、今まで一緒に外で遊んだ事が無かったから驚いただけで…あー、だからそのショボくれた目と雰囲気は止めて!?」

 

 

 表情は全く動いてないのに、目と雰囲気が分かりやすい。こいつ不器用なくせして、こういう時は変に器用なんだよな……!

 

 

「よし。じゃあ今週の日曜日、10時ぐらいに学校の最寄り駅に集合な」

 

 

 そして切り替えが早く、強引!

 

 

「待って待って。何処に行くの?」

 

「海側」

 

「よーし、もう突っ込まないよ?とりあえず最寄り駅から電車でどれくらい掛かる?」

 

「大体1時間くらいだぜ」

 

「OK。それで、何して遊ぶの?」

 

「……最後に行く場所は決まっている」

 

「最後……?」

 

「で、その時間が来るまでは適当に遊ぶ」

 

「まさかのほぼノープラン!?」

 

「突っ込まないんじゃなかったのか?」

 

「はっ……!って、今のはさすがに突っ込むよ!?」

 

 

 もしかして、花京院達も毎回こんな感じで、こいつのゴーイングマイウェイに振り回されてんのか?うわ、大変だな……

 

 

「……あぁ、そうそう。言い忘れていたが」

 

「何?」

 

「――当日はその目、隠すな。素顔のまま来い」

 

「はぁ!?」

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 ――そして、日曜日。

 

 承太郎に言われた通り、前髪を上げて眼鏡を外し、素顔をさらしたまま学校の最寄り駅までやって来た。

 思ったよりも早くに着いてしまったせいか、承太郎の姿は見当たらない。

 

 

 数日前に承太郎に言われた時は驚いたが、よくよく考えてみれば、素顔をさらしたままにするのは悪く無いなと思った。

 

 万が一。承太郎と一緒にいるところを、同じ学校の誰かに見られたとしても、素顔のままならファンクラブ関連の問題は起こらないはずだ。

 学校にいる時の俺と、素顔をさらした俺では、容姿が大分違うからな。俺が園原志人である事に気づく奴はいないだろ。多分。

 

 

 待ち合わせ場所に立ち、メッセージアプリに連絡を入れる。……すぐに既読が付き、返事もあった。向こうもあと少しで到着するらしい。

 と、前から数人の男達が歩いて来た。それをちらりと確認して、ぶつからないように距離を取る。

 

 しかし、男達のうちの1人が、不自然な動きで俺の肩にぶつかった。

 

 

「痛っ!てめぇ今わざとぶつかって来ただろ!?」

 

 

 いや、ぶつかって来たのはてめぇの方だろうが。俺は離れたんだよ。……あーあ、ちらっと見た時から嫌な予感はしてたんだよな。だからちゃんと距離を取ったのに!

 小さくため息をついて顔を上げると、絡んできた不良と目が合った。相手は一瞬震えたが、すぐに睨んで来る。

 

 俺の目付きの悪さに怯んだのだ。今まで、何度も見慣れている反応だった。

 

 

「……すみませんね。今、友人と待ち合わせしてるんで、これで失礼します」

 

「はぁ?ちょっと待――っ!?」

 

 

 できる限り穏便に済ませようと、こちらから謝罪し、その場を離れようとする……が、手首を掴まれた。それを素早く払い、相手を無視して離れる。

 そんな俺の前に、別の男が立ち塞がった。周りを見ると、囲まれている。人目がある駅前なのに、随分と大胆な真似をする奴らだ。今度は大きくため息を吐いた。

 

 

「……何の用ですか?」

 

「ちゃんと謝れよ。今なら金を出せば許してやるぜ」

 

 

 あー、カツアゲですか、はいはいはい。

 

 

「俺、貧乏なんですよね。金なんて大して持ってませんよ」

 

「嘘つけ。ちょっと飛んでみろよ」

 

 

 うわぁ、今時でもそんな事を言う奴がいるのか――

 

 

「――そもそも今時カツアゲとか、シンプルにダサい奴らだな」

 

「あ"ぁ!?」

 

「何だと、てめぇ!!」

 

 

 あ、いっけなーい!つい本音が漏れちゃった☆

 

 ……いやいや、そうじゃない。やべぇ。わざとじゃなくて、本当にうっかり本音を言ってしまった。自分から火に油注いでどうするんだよ。

 

 

「――っ、ふ……!」

 

「ん?」

 

 

 何処からか、小さく噴き出す音が聞こえた。振り向くと、俺が背にしていた柱の陰から、誰かの体がはみ出ている。…………おい、てめぇ。

 

 

「……承太郎くーん?いつからそこにいたのかなぁ?というか早く声掛けてよ」

 

 

 マジでいつからそこにいた?気配が全く無かったんだが?

 

 

「……すまん。お前が普段どうやって相手をあしらっているのか、気になってな」

 

「そんなの気にする必要ある?俺、君の事を首を長くして待ってたんだけど?」

 

「悪かった。そう怒るな。今から何とかする、」

 

「おい、てめぇら!!無視すんじゃねぇ!」

 

「喧嘩売ってんのか!?」

 

「「先に喧嘩を売ったのはそっちだろ」」

 

 

 あ、被った。……その時。柱の後ろから出て来た承太郎が、俺の肩に腕を掛けた。重いぞ。

 

 

「なっ……!?」

 

「でっ、でけぇ……!!」

 

「さて――俺のダチに何か用か?てめえら」

 

「「失礼しましたぁ!!」」

 

 

 そう言って、男達は逃げて行った。……最初から最後まで三下キャラだったな。

 

 

「全く、」

 

「やれやれだぜ」

 

「……俺のセリフを取るな」

 

「そんな事より、乗る予定の電車の時間は?」

 

「…………あっ」

 

「えっ?」

 

「――あと1分」

 

「それ早く言ってよ!?」

 

 

 その後。慌てて全速力で走り、なんとか電車に間に合った。

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 承太郎と共に、とある駅で電車から降りた。眼前には海が見える。前世以来、久々に見た海が懐かしく思えた。

 

 

「はー、潮風が気持ちいいねー……で、まずは何処に行く?」

 

「……園原」

 

「ん、何?」

 

 

 見上げると、承太郎はいつになく真剣な表情で、俺を見つめていた。それを見て、俺も表情を引き締める。

 

 

「……ここなら、もういいんじゃねえか?」

 

「…………何が?」

 

「ここならさすがに、あの学校の生徒はいないだろう。――お前の、素顔を見せてくれ」

 

「――――」

 

 

 素顔。……眼鏡を外して、前髪も上げた今の状態が素顔、と言っても納得しねぇよな。

 って事は、だ。俺が梯子から落ちたあの日に見逃された事を、今追及しているのか。こいつは。なるほど、俺の考えは存外甘かったらしい。

 

 

「……聞いてもいい?」

 

「何だ?」

 

「まさか、俺をここに連れて来た本当の目的って、素の俺を知るためだったの?」

 

「……あぁ、そうだ。最後に行きたい場所がある、というのは本当だし、お前と外で遊びたかったのも事実だが、主な目的は園原が言う通り、お前の素顔を知るため」

 

「…………そんな事のために、わざわざ?」

 

「俺にとっては"そんな事"じゃねーな。重要な事だ。……どんな事であろうと、自分のダチの事を知りたいと思って、何が悪い?」

 

「…………」

 

 

 ……正直、承太郎の方からここまで踏み込んで来るとは思わなかった。もしそうなるとしても、大分後になって俺の方から踏み込む事になるのでは?と、そう思っていたんだ。

 やはり原作とは大違い――いや、だから原作と現実を比べるなって!気を抜くとすぐにこうなってしまう。気を付けよう。

 

 とにかく。承太郎がそこまで言うなら、まぁ、ご期待に応えるとしますか。

 

 

「――分かった分かった。素を出せばいいんだろ?……承太郎には、そろそろ見せてもいいかと思っていた」

 

「!」

 

「俺だって、素を隠したくて隠してるわけじゃねぇ。学校じゃあ"真面目な特待生"としてやっていかないと、学費免除がパアになるかもしれないからな。貧乏は辛いぜ」

 

「……分かってる。頑張って猫を被ってるんだろ?」

 

「そうそう、猫被り。ニャーニャー」

 

「ボケが雑だな」

 

 

 俺に素を引き出させた男は、くつくつと笑っている。機嫌が良いようだ。

 

 

「……たまには学校から離れた場所で、普段の自分を忘れてストレス発散といこうじゃねえか。付き合うぜ」

 

「と言いつつ、自分がストレス発散したいだけとか?」

 

「そうとも言う。……ところで、腹減らねえか?」

 

「減った。ちなみに事前の調べによると、この近くにうまい蕎麦屋がある」

 

「決まりだな。……少し早いが、先に昼飯を食おう。何処だ?」

 

「あっちだぜ」

 

 

 俺が先に歩き出すと、承太郎が隣に並ぶ。……楽しい休日の始まりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

空条承太郎の友人は、理解者



・男主視点。

・後半、承太郎がちょっと弱っています。

・キャラ崩壊と、いろいろ捏造注意。


 ――空条承太郎だって弱ってしまう時があり、そんな気持ちを友人に吐き出したくなる事が、きっとあるはず。






 

 

 

 

「よーし、来い!今度こそ――」

 

「――オラァ!!」

 

「え、ちょっ……!?速過ぎ速過ぎ!無理ゲー!」

 

「……おいおい、頑張れよ園原。お前、まだ0点じゃねーか」

 

「承太郎てめぇ、大人気無い野郎だな」

 

「大人じゃねえからな。お前と同い年だ」

 

 

 あぁ、今世はそうだろうよ。だが前世を含めるなら、精神年齢が40代である事を知っているぞ!言えないけどな!

 

 

 ……さて。昼飯を食べ終わった俺と承太郎が何をしているのかというと、現在ゲームセンターで遊びまくってます。

 今やっているのは、エアホッケー。会話から分かる通り、承太郎の圧勝だ。こいつは力に物を言わせて、ご自慢のパワーとスピードで円盤を打ち込んで来る。……まさか、スタンド使って無いよな?

 

 

「くっそ……!これが終わったら、俺がやりたいゲームに付き合わせるからな?覚悟しろよ」

 

「いいぜ。これが終わったら、な。せめて俺から1点だけでも奪ってみせろ」

 

「1点だけは絶対取る!」

 

 

 ……最終結果、0点。承太郎の哀れみの視線に、プライドが傷付いた。

 

 

 という事で、復讐実行。

 

 

「…………本当に、これをやるのか?」

 

「覚悟しろって言っただろ?俺が付き合えって言って、それに頷いたのはお前だぞ」

 

「……仕方ない、か」

 

 

 俺が選んだのは、ダンスゲームだ。筐体が大きい最新の機械で、高1の頃、クラスメートと共に何度か遊んだ事がある。承太郎はやった事が無いらしい。

 

 

「とりあえず。1回俺がプレイするから、見てろよ」

 

 

 お手本代わりに、俺がやっているところを見せる。これ、慣れると良い運動になるんだよな。

 

 

「よっ、ほっ……おっと!」

 

 

 視界の端で、承太郎が唖然としているのが見えた。何だその顔。面白いぞ。

 

 プレイが終わって、画面に結果が表示される。……よっしゃ。なかなかの高得点。久々だったが、体は鈍ってなかったようだ。

 

 

「……とまぁ、こんな感じだ。さぁ、君もレッツプレイ!」

 

「いや、無理だろ。何だ、あの動きは!」

 

 

 顔をひきつらせて拒否する承太郎を、無理やりゲームの台の上に立たせて、プレイ開始。……俺はまだエアホッケーの屈辱を忘れていないからな。諦めろ。

 

 

「ほらほら、動きが固いぜ!頑張れー」

 

「くそったれ……!」

 

 

 最初は愉快だった。承太郎は大分戸惑っていたからな。見ていて楽しかった。……だがしかし、主人公属性は腐っても主人公属性だったのだ。

 

 

「……なるほどな。コツが分かって来たぜ」

 

「嘘だろ承太郎……!」

 

「嘘じゃねえぜ」

 

 

 なんと、こいつはたった数回のプレイで、俺ほどではないが高得点を出せるようになってしまった。3部主人公、半端ねぇ。

 

 

 その後。そろそろ別の場所に移動しようと、ゲームセンターの出口に向かっていた時。承太郎が急に立ち止まった。

 

 

「承太郎?」

 

「…………」

 

 

 彼の視線の先にあったのは――クレーンゲーム。それも、大きなイルカのぬいぐるみが景品になっている。

 元海洋学者だから、海洋生物が好きなのか?そういえば、原作では帽子にイルカのバッチを付けている事もあったな……

 

 

「……承太郎。お前、大きい景品を取るコツ、知ってるか?」

 

「……いや、知らない」

 

「俺が教えてやるよ。やってみようぜ」

 

「…………だが……」

 

「やりたくないなら、このまま別の場所に行ってもいいが……どうする?俺はどっちでもいいぞ」

 

「…………やる」

 

 

 承太郎が何故躊躇ったのかは分からないが、とにかく挑戦。

 

 イルカのぬいぐるみは、既に落下口の近くにある。それも、重そうな頭の方が落下口の方に向いている。これは狙い目だ。

 承太郎に指示をして、頭側が落下口に飛び出るように、クレーンで掴んでは離しを繰り返す。数回程度で、頭と胸ビレが落下口に飛び出す形となった。あとは簡単だな。

 

 

「ここまでくれば、終わりが見えて来る。尻尾を持ち上げれば、後は頭の重さで落ちるはずだぜ」

 

「分かった」

 

 

 いつの間にか、承太郎の表情はかなり真剣になっていた。……クレーンが尻尾を掴み、それを持ち上げる。

 

 

「あ、――」

 

「――よし。取れたぞ、承太郎。ほら!」

 

 

 取り出し口から、イルカのぬいぐるみを手にする。なかなかの大きさだ。俺が笑ってそれを承太郎に差し出すと、やけに慎重な……壊れ物を触るような手つきで、受け取った。

 

 そしてぬいぐるみを見つめて――ゆるりと、微笑む。

 

 

(おお……!?)

 

 

 今までにも、こいつが小さく笑う顔は見た事がある。表情はその時と変わらないが、雰囲気が全然違う。

 なんというか、背後で花が飛んでいる感じだ。ふわふわしている。超絶ご機嫌状態だという事が、よく分かった。

 

 そんな承太郎が、俺の目を見る。翡翠の瞳が、細められた。

 

 

「――ありがとう、園原」

 

「――――」

 

「……園原?」

 

「いや、何でもない。何でもないんだ。その……あぁ、もう、何でもねぇよ!」

 

「?」

 

 

 ほんの一瞬。俺に見せた、今まで見た事が無い表情――目元も口元も緩んだ、あの幸せそうな笑顔は、一生忘れられないだろう。

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 あの後。承太郎がぬいぐるみを持ちながら、何やら困った雰囲気を出していたので、何か心配事があるのかと聞いてみたら……

 

 

「……自室にこれを置いておくと、一緒に住んでいる奴らに見られるかもしれない」

 

「あぁそういえば、お前。親戚も含めた家族皆で、デカい家に住んでるんだっけ?……もしかして。似合わないとか言われるのが嫌なのか?男のくせにー、とか?」

 

「……そうだ」

 

 

 そういう事を気にするのは意外だったが、それなら俺が預かろうか?と申し出た。

 もしも卒業後など、この先俺のように一人暮らしをする可能性があるなら、その時に俺から引き取ればいい。友人なのだから、遠慮するな、と。

 

 すると、承太郎が大きく目を見開いた。珍しく仰天しているらしい。

 

 

「…………卒業後も、俺と友人関係を続けてくれるのか」

 

「そうだが?……えっ、何?お前、俺と縁切るつもりでいたのか?」

 

「違う!そんなわけねえだろ。……あー、……悪かった。ありがとう」

 

「あ?おう……どういたしまして?」

 

 

 謝罪された理由も、礼を言われた理由も分からなかったが、それはさて置き。

 

 街をぶらぶらと歩いたり、本屋に寄ったり、他の店にも寄ったりして……気が付けば、もう夕方だ。承太郎が時計を見て、"そろそろか"と呟く。

 

 

「今日の最後に行きたい場所か?」

 

「あぁ。……駅の方に戻るぜ」

 

 

 承太郎の後をついて行き、駅まで戻って来た。しかし足は止まらず、駅を通り過ぎる。

 やって来たのは、駅から近い場所にある、海辺まで続く階段の側。そのちょうど真正面に、海に沈みかけている夕陽が見えた。

 

 ――絶景だった。夕陽が海に反射している様子は、まるで夕陽まで続く一本の道のようだ。それが、俺達が立っている階段まで続いているように見える。

 

 承太郎が、徐に階段を下りて行き、その中程の手すり側に座った。俺はその後ろに続き、立ったまま手すりに寄り掛かる。

 しばらく、2人して黙ったまま夕陽と海を見つめていたが、その沈黙を破ったのは承太郎の言葉だった。

 

 

「……たまに、1人でここに来る」

 

「うん」 

 

「――昔の事も、何もかも、忘れたくなった時に……ここに来て、夕陽が沈むまで眺めている」

 

 

 思わず夕陽から目を離し、承太郎の後ろ姿を見る。……不思議と、その背中がいつもより少しだけ、小さく見えた。

 

 

「……もう、宿命も使命も無い。一度失ったものが、今ではどういう訳か側に在る」

 

 

 ポーカーフェイスが崩れそうになり、必死に耐えた。

 

 宿命に、使命。それは――ジョースター家の運命や、DIOとの因縁の事か?それに"一度失ったもの"や、"今では側に在る"とは……まさか原作、いや前世で失った仲間達の事を言ってるんじゃないだろうな?

 もしもそうだとしたら、何故それを"何も知らない"俺に話す?俺はこのまま話を聞いていいのか?

 

 俺は今、承太郎の心の内側に触れてしまっているのでは?

 

 

(……いや。そもそも、絶対に俺に聞かせたく無い話なら、こいつが口を滑らすわけが無い、か)

 

 

 それなら俺は、承太郎の言葉にできる限り過剰な反応をしないように気をつけて、かつ、話を聞いているという態度を取らなくてはならない。

 前世の事を知らないはずの俺に、わざわざそんな話をするのは、きっと何か理由があるのだろう。

 

 

 寄り掛かっていた手すりから離れ、承太郎の隣に座った。……痛いほど視線を感じても、俺は夕日から目を逸らさない。

 よく分からない話をされても突っ込まないし、話す理由を無理に聞くつもりは無い。でも、話自体はちゃんと聞く。……俺のそんな意思が伝わったのか、視線が無くなると同時に再び口を開いた。

 

 

「……俺は、ずっと求めていた日常を手に入れた。一度失った者達と、共に笑い合う……昔ならあり得なかった日常だ。

 最初は嬉しかった。あいつらや、昔は仲違いしていた子や、あえて連絡を断っていた者達と互いに歩み寄り、穏やかな時間を共にする事が、何よりも幸せだった。

 

 だが、そのせいなのか……欲が出てしまった。

 

 皆と話している時に、気づいた。――皆が見ているのは今の俺ではなく、昔の俺なのだ、と。無意識なのか否かはともかく、誰も、今の俺を見ようとしない。

 だから俺は、昔の俺よりも今の俺を見て欲しいという、欲が出た。……昔の俺は、自分でも記憶を抹消したくなる程に、酷い有り様だったからな。

 

 今の俺を見てもらうために……言葉で主張するのは苦手だから、態度でいろいろ示してきた。

 

 昔のような"不良のレッテル"を貼られないように、できる限り真面目にやってきた。

 あいつらや、あの子達が遊びに誘ってきた時も付き合った。……苦手なりに、少しでも言葉で気持ちを伝えようと、頑張っていたつもりだ。

 

 それでも……通用しなかった。いつの間にか昔と同じく"不良のレッテル"を貼られていて、あいつらもあの子達も――"昔の俺"こそが"俺の全て"なのだと、信じている。少しも疑おうとしない」

 

 

 承太郎は、いつになく饒舌だった。……それ程に、溜め込んでいたのだろう。こんなにも複雑な感情を、たった1人で抱え込んでいるのだ。

 

 

「決して、あいつらやあの子達に対して不満を持っているわけではない。これは、そう――俺の、我が儘。ただの願望だ。

 

 ……そんな事を考えていると、だんだん疲れてきてな……昔の事も、何もかも、忘れたくなる。

 そういう時は1人でここに来て、この光景を見てひたすらぼーっとして、満足したら帰る。すると、多少は心が楽になるんだ」

 

「…………」

 

「……悪かったな。訳の分からねえ話だっただろ?どうか、忘れてくれ」

 

 

 最後にそう言って黙り込んだ承太郎に対し、俺はこいつの話を思い出しながら、慎重に言葉を掛ける。

 

 

「……確かに、俺には何が何やら、分からん話だ。……でもな。承太郎の話を聞いて、分かった事がある」

 

「分かった事……?」

 

「お前が、今まで本当によく頑張ってきた事。お前には、昔の自分よりも今の自分を見て欲しいという、強い願いがある事」

 

「…………」

 

「そして――訳の分からない話をしてようが、何しようが、俺が承太郎の友人である事に変わりは無い事」

 

 

 大きく見開かれた翡翠と目を合わせ、さらにこう続けた。

 

 

「あと、これは俺の考えだが……"昔のお前"と"今のお前"で区別する必要って、あるのか?」

 

「……何?」

 

「"昔のお前"と"今のお前"。その全てをひっくるめて――空条承太郎という、1人の人間である。……そんな解釈じゃ、駄目か?」

 

「――――」

 

 

 ……あれ?固まった?

 

 

「お、おい、承太郎?……大丈夫か?おーい!」

 

「っ!!」

 

 

 肩を揺さぶると、我に返ったようだ。見開かれた目が元に戻る。……しかし次の瞬間。承太郎は片手で目を覆って天を仰ぎ、大笑いし始めたのだ。何で!?

 

 呆気に取られていると、笑いを収めた承太郎は俺を見て、少年のような無邪気な笑みを浮かべた。

 

 

「そう……お前がそういう男だから、俺は今も、これからも、お前の友人であり続けたいんだよ。園原」

 

「……はぁ?」

 

「くくっ……!はははは……!」

 

 

 まだ笑うか、こいつ。……よく分からん奴だな。やれやれだぜ。

 

 

(でも、まぁ……すっかり元気になったみたいだし、何でもいいか)

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スタンド使いは、ひかれ合う
空条承太郎の友人は、心配している



・男主視点。


 ――空条承太郎だって、友人に心配されて思わず嬉しくなってしまう時があるはず。





 

 

 

 いつものように旧図書館に行くと、今日は承太郎の方が先に来ていたようだ。分厚い本を読んでいる彼に、声を掛ける。

 

 

「よう。……待ってたぞ」

 

 

 そう言って、承太郎は優しく微笑む。……2人で海側まで遊びに行った日以来、こいつがこうやって笑う事が増えた。

 むしろ、無表情の時がかなり少なくなった気がする。さすがに、ある程度は気を許されているんだな、と察する事ができた。

 

 あと、愚痴が増えた。主によく一緒にいる奴ら……3部の旅仲間について。

 

 

「……花京院とポルナレフの、喧嘩という名のじゃれ合いが多過ぎる。2人で喧嘩するだけなら勝手にやりやがれって話だが、何故かあいつらは俺を間に挟もうとしやがる。

 で、あの生徒会長サマは俺達を見てニヤニヤ笑ってるだけだ。身内の俺を助けろよ、あの野郎」

 

 

 承太郎の言う生徒会長様とは、前世はこいつの祖父だったが、今世では親戚であり、ジョナサンの弟でもあるジョセフの事だ。

 あのジョセフが生徒会長って、うちの高校大丈夫か?と思っていたが、そこは前世でジョセフの兄弟弟子だったシーザーが副会長になり、上手く手綱を握っているらしい。閑話休題。

 

 

「花京院とポルナレフ先輩が、喧嘩?」

 

「そうだ。……あいつらは、"喧嘩する程仲が良い"を地で行ってる奴らでな。些細な事で口喧嘩になる」

 

「へぇ。例えば?」

 

「ちょうど、今日の昼にこんな事で喧嘩になってたぜ。――犬と猫、真に可愛いのはどちらか」

 

「ぶはっ!?ちょ、待て待て。あの人ら、本当にそんな下らねぇ事で喧嘩したのか?マジで?」

 

「マジだ」

 

「あっははは!やべぇ、俺の中のイメージが崩れる……!」

 

「……ちなみに、どんなイメージだ?それは」

 

「あー、花京院は王子様、ポルナレフ先輩は騎士って感じかな?

 

 あの邪魔そうな前髪と、電柱みたいな髪型が気になるが」

 

「電っ、柱……!!」

 

「おっと?珍しくツボった?」

 

「ふふ、電柱って、園原、おま……っ、ふは!!」

 

「いや、だってそうとしか思えないだろ。通学路とかで日常的に見てるわけだし」

 

「電柱……っ!!」

 

「……お前、普段ツボに入らない分、入った時はなかなか抜け出せなくなるんだな。今知ったけど」

 

 

 ……と、まぁ。今日は愚痴よりも馬鹿話にシフトしてしまったが、最近の俺達は直接会った時や、電話で話している時は大体こんな感じだ。

 

 しばらく笑い続けた承太郎だったが、笑いを収めると、俺にこんな話題を振ってきた。

 

 

「……隣町で、妙な事件が起こった話を知っているか?」

 

「隣町というと……」

 

「――変死体が出た、という事件だ」

 

「あぁ。やっぱり、それか」

 

 

 数日前。俺や承太郎が住んでいて、今通っている学校もある地域の隣町で、変死体が立て続けに発見されたらしい。

 ニュースでさらっと報道されていたが……承太郎がこの話を振って来たなら、ちょうどいい。こいつの意見も聞いてみよう。

 

 

「それさ、なんか変だと思わないか?」

 

「……変?」

 

「変死体が立て続けに発見される、っていうぐらいだから、どれも似たような死に方をしてるわけだろ?そんなの、マスコミが騒ぎ立てそうじゃねぇか。

 だが実際はそんな事もなく、最初はニュースで報道されていたが、その後はピタリと報道が止まった。気になってネットで調べても、最新情報は入って無さそうだった」

 

「…………」

 

「警察が情報規制をしていたとしても、現場の近所では何かしら噂が出て来るはずだ。ネット社会である現代だからこそ、それがネットで広まっていてもおかしくない。

 しかしこの事件には、そういう規制の漏れが無い。情報規制が完璧過ぎるなぁと思ったんだよ。……なぁ、承太郎。お前はどう思――ん、ぐ?」

 

 

 承太郎が片手を伸ばし、俺の口元を塞ぐ。何だよ、と目で訴えたが、彼が険しい表情をしていたので驚いた。

 

 

「……好奇心は猫をも殺す、という言葉は知ってるよな?興味を持ち過ぎて、厄介事に首を突っ込むのは止めておけ」

 

「……むむ」

 

 

 俺の口を塞ぐ手を軽く叩き、退けろと伝える。大きな手が離れていった。

 

 

「……君子危うきに近寄らず、という言葉は知ってるよな?俺は"お前はどう思うのか"と疑問を口にしただけだぜ?首を突っ込むつもりなんて無いし、そもそも普通に生活してたら関わる事も無いだろ」

 

「……そうか。なら、いいんだ。……悪かった」

 

 

 ほっとしたのか、ため息をついた承太郎は素直に謝った。俺の事を思って忠告してくれたようだ。

 

 

「……だが、隣町の事件とはいえ、油断はするな。夜遅くに1人で外を出歩くんじゃねえぞ。不審者に目を付けられたら危ねーからな」

 

「……へぇ――そんな言葉を口にするという事は、変死体は外で発見されていて、しかもその変死体を作り上げた犯人が存在するわけか。ニュースでは、隣町の何処で死体が発見されたのかすらも報道されていなかったんだが?

 それにお前、さっきから隣町の件を事件(・・)と言っているようだが、報道では警察は事件と事故の両面で調べを進めていると言われていたぞ?それなのに、これが事件だと断定しているんだな」

 

「…………俺はそんな事を言った覚えはねえぞ」

 

 

 ……無表情だが、動揺しているな。滅多に動じない承太郎が一瞬固まった。やはり、こいつは何かを知っている。

 

 

「……悪い。思わず気づいてしまったから口にしたが、これ以上詮索するつもりはねぇよ。

 お前は何かを知っていて、それを秘匿するべき立場にいるのに、それでもバイトで家に帰るのが遅くなる事がある俺を心配して、警告してくれた……ってところかな」

 

「…………」

 

「無言は肯定と取るぞ。……ありがとな、承太郎。警告はちゃんと受け取ったぜ」

 

 

 眉間に皺を寄せて唸っている。顔が怖いぞ。

 

 

「……本当に、気をつけろよ?」

 

「あぁ。バイトの後も寄り道せずに、人通りが多い道を選んで帰るさ。……でも、お前だって気をつけてくれよ?俺は、事情を知っている承太郎の方が不審者に狙われやすいんじゃないかと、心配しているんだ」

 

「……俺を?」

 

「そう、お前を!きっと俺よりも喧嘩は強いだろうが、それでもただの人間だからな。俺が梯子から落ちた時のように、何かがあってからじゃ遅いんだよ。

 はっきり言ってしまえば、俺は見知らぬ誰かよりも、お前に何かがある方が嫌だ。例え誰かが襲われているところを目撃したとしても、その誰かを助けたり通報したりするよりもまず、逃げて欲しい。

 

 ……承太郎は、不器用だけど優しい奴だからな。多分、とっさに襲われている奴を助けようとするんじゃないかと思う。でも、駄目だ。お前の身の安全を優先してくれ」

 

 

 そこまで言って、我に返った。いつの間にか俺は身を乗り出していたし、承太郎は唖然としている。やっちまった。

 

 

「あっ、あー、その……すまん。何か、変な事言ったな。忘れろ……とは言えねぇけど、うん。照れ臭くなってきたから、突っ込まないでくれると助かる……」

 

 

 照れ臭いと言って両手で顔を隠したのは本心だが、それ以外にも顔を隠した理由がある。いろいろと鋭い承太郎に怪しまれないか、心配になったのだ。

 我ながら、今のは踏み込み過ぎたんじゃないか?まるで、承太郎が事件に首を突っ込む事を確信しているかのような口振りだった。

 

 だって、察してしまったんだ。――これ、絶対スタンド使い案件だ、って。

 

 スタープラチナがいるという事は、おそらくこいつの仲間達もスタンド付きだろう。ならば、その仲間達以外のスタンド使いがいてもおかしくない。それこそ、スタンドを悪用する犯罪者とかな。

 変死体が出た事件。完璧過ぎる情報規制。スタンド使いである承太郎が、何か知っている素振りを見せた。……これだけ情報があれば、原作を知っている奴なら誰だって勘づくだろ。

 

 完璧過ぎる情報規制については、今世では全く話を聞かないがSPW財団か、もしくは似たような組織が裏で動いたのではないかと予想している。承太郎は、その組織から情報をもらったんじゃないか?

 

 

 ……と、そこまで考えた上での発言が怪しまれるのではないかと思って、恐る恐る指の隙間から承太郎の様子を伺う。

 

 

「――承、太郎?」

 

 

 おい、何だよその顔は。……心底安心したかのような、気の抜けた表情なのに、何故か泣きそうな雰囲気を感じる。

 しかし次の瞬間。その表情は引っ込んで、穏やかな笑みを浮かべる。……何だったんだ、今の。

 

 

「お前は、本気で俺の事を心配してくれるんだな」

 

「あ?当たり前だろ。自分のダチを心配して何が悪い?」

 

「いや、悪いとは言ってねえ。ただ……俺の身に何かが起こる事を、確信しているような言い方が気になってな。どうせ、"俺なら何かあっても大丈夫だろう"と言われるのではないかと、」

 

「はっ、……はぁ!?お前、まさか自分の力を過信してるのか?冗談じゃねぇ。俺もお前も同じ人間だろうが。だから万が一、何かがあってからじゃ遅いつってんだぞ!」

 

 

 一瞬、見透かされたかと思ったが、違った。何だそりゃ!自信過剰も大概にしやがれ。

 ここは漫画やアニメの世界じゃなくて、現実だ。そこにスタンドバトルなんて危険な要素が混ざれば、いつ死んでもおかしくない。だから心配してるのに!!

 

 なんて事を、馬鹿正直に言える訳もなく。仕方ないのでひたすら"過信はするな"、"俺は心配している"と伝えたところ、この男は何故か若干嬉しそうに話を聞いていた。

 

 てめぇ、本当に分かってんだろうな!?

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

空条承太郎は、フラグを回収する


・承太郎視点。ちょっと女々しい。メンタル弱めかもしれません。

・原作では、ジョナサンは茨のスタンドがあるようですが、このシリーズではスタンドを持っていないという設定で進めます。


 ――空条承太郎だって、"最強のスタンド使い"という肩書きに重圧を感じる時が、きっとあるはず。





 

 

 

 夜中。自宅であるジョースター家の邸宅にある談話室で、俺は約束の時間が来るのを待っていた。

 

 

「――おっ。承太郎さん、早いっスね」

 

「……ちょっと意外。てっきり、父さんはもっと遅くに来るんじゃないかと思ってたわ」

 

 

 談話室の扉が開き、最初にやって来たのは仗助と徐倫だった。

 この2人は前世の記憶を取り戻した後、いつの間にか仲良くなっていた。どうやら気が合うらしく、よく2人で話し込んでいたり、徐倫が仗助に付き合ってゲームをしている事もある。

 

 次いで、約束の時間の5分程前に談話室に入って来たのは、ジョナサンとジジイ――今世ではジョセフと呼んでいる――だった。

 

 

「おっとォ?1名意外な奴がいるが、みんな時間前行動か。感心、感心!」

 

「待たせてごめんね。……あれ?残り2人はまだかい?」

 

「さっき、ジョルノと会いました。あの人連れて来るって言ってたっスよ」

 

「あぁ、なるほど……」

 

 

 それから、あと2人が来るまで俺以外の面子が談笑している。普段、俺は向こうから話を振られるまでは口を開かない。

 ……やがて、再び扉が開く。中に入って来たのはジョルノと――

 

 

「あ、来た。――ディオを呼んで来てくれてありがとう、ジョルノ」

 

「いえ、構いませんよジョナサン。ついででしたから」

 

「……ふん」

 

 

 金髪金眼の、無駄に容姿の整った男……ディオは、ソファーや椅子に座る俺達から離れた壁際に、腕を組んで寄り掛かる。

 

 

 今世のディオは、ジョルノと共にジョースター家の養子になっていた。

 

 俺が前世の記憶を取り戻した時、既に養子となっていたため、前世の因縁が原因で一騒動起きたが……俺達の間にジョナサンが入り、いろいろと話し合った結果。今では俺もジョセフも、同じ屋根の下で生活する事に納得している。

 仲良し小好しはごめんだが、少なくとも俺は"敵対しないならそれで良い"というスタンスだ。向こうも俺も、互いに話し掛ける事がほとんど無いからな。

 

 この関係に落ち着いたのは、ジョナサンの働きが大きいようだ。

 ジョナサンとディオが記憶を取り戻したのはほぼ同時期で、ジョナサンが何度もディオに話し掛け、2人で話し合い、それを繰り返した末にディオの方が丸くなった……らしい。詳しくは知らないが。

 

 

「ディオ。こっちに座らないのかい?」

 

「……私はここで良い。それより、さっさと話を進めろ。――例の変死体の事件について」

 

 

 そう。奴が言うように、俺達がここに集まったのは、ジョセフからその話を聞くためだった。

 

 数日前に、隣町で変死体が立て続けに発見された事件。……前世とは違い、表舞台には全く出ずに裏で活動しているSPW財団の調査によって、この事件の犯人がスタンド使いである事が判明した。

 変死体は何らかの方法で血液のほとんどを抜き取られ、干からびた状態で発見されている。それが、犯人のスタンド能力によるものと推測されているようだ。

 

 これらの情報は、俺達の中で(一応)代表者として扱われているジョセフが、財団からの連絡で得たものだった。そして今日、新たな情報が入って来たという。

 

 

「――ついに、うちの地域でも変死体が出た」

 

 

 ジョセフの言葉で、談話室は緊張感に包まれた。

 

 

「遺体が発見された時の状況から、隣町の事件と同一犯である事は間違い無いってよ」

 

「うえぇ、マジかよ」

 

「ちっ……胸糞悪いわ。今あたし達が話し合っている間にも、犯人は次のターゲットを探しているんでしょうね」

 

「そうだね。……僕達の手で、何とか捕まえられるといいんだけど……」

 

「スタンド使いでは無い貴様はすっ込んでいろ、ジョナサン」

 

「うっ……分かってるよ」

 

 

 この中でただ1人、スタンドを持っていないジョナサンに対し、ディオが釘を刺す。

 ジョナサンは優れた波紋使いだが、スタンド使いでは無い。目に見えないスタンドが相手となると、多少は気配を察知する事ができるが、どうしても不利になる。

 

 

「……ジョセフさん。犯人について、他に何か分かった事はありますか?」

 

「おう、よくぞ聞いてくれた!財団の人間の調査の結果、犯人の特徴が分かったぜ!」

 

 

 ジョセフから聞いた、犯人の特徴を頭に叩き込む。その後は今回の情報を、各自知り合いのスタンド使い達……特に、同じ学校に通っているスタンド使い達とは必ず共有するようにと、指示された。

 スタンド使いは、ひかれ合う。……何かの拍子に今回の事件の犯人と、仲間のうちの誰かがひかれ合い、接触してしまうかもしれない。ジョセフが危惧しているのは、それだ。

 

 万が一、財団からの連絡が来る前に接触してしまった時に備え、少しでも情報を共有しておいた方がいい。

 俺達は基本、財団からの要請があるまでは動く事が無い。しかし現在、今回の犯人を捜索し、捕らえる作戦を財団で立案中だという。近いうちに、俺達も作戦への参加を求められる可能性が高い。

 

 

「えーっと、もう伝え忘れは無いか?……無いな。よし!そんじゃあ今日の会議はこれにて終了っ!お疲れちゃん!」

 

「あ、お疲れ様でした。では、失礼します」

 

「ふん、やっと終わりか」

 

「ディオ。まだ眠くないならチェスでもどう?」

 

「…………まぁ、いいだろう」

 

「徐倫、良かったらまた対戦ゲームやらねえか?今から」

 

「いいわよ」

 

「…………相変わらず、揃いも揃ってリアクションが薄い!なァ、承太郎!お前もそう思わねえかァ?」

 

「興味ねーな」

 

 

 他の奴らに続いて、談話室の外に出る。1人残されたガキ(精神年齢は老人)はうるさいが、無視して自室に戻る事にした。

 

 

(園原のためにも、早く犯人を取っ捕まえて、安心させてやりたいんだが……)

 

 

 あいつには無茶をするなと、この前心配されたばかりだからな。ほどほどに取り組むとしよう。……心配、か。あれほど真剣な顔で心配されたのは、いつぶりだ?

 

 "自分の力を過信してるのか?"……だったな。それは否だ、園原。――俺は、自分が如何に無力であるかをよく知っている。

 

 財団の人間や、あまりよく知らないスタンド使い達から、俺は"最強のスタンド使い"だと言われる事がある。仗助なんかは、前世で"無敵のスタープラチナ"とか言ってたな。

 最強?無敵?……そんな事、一体誰が言い始めたんだ。俺は最強なんかじゃねえし、スタープラチナだって無敵じゃねえ。

 

 

 本当に最強で、無敵だったら、前世の俺は"大切なもの"を全て守る事ができたはずだ。

 

 

「――っ、」

 

 

 携帯から通知音が聞こえ、我に返った。……自室のベッドで仰向けになっていた俺は、傍らに置いてあるスマホを手に取る。

 画面には、園原からのメッセージが映っていた。……そういえば、あの会議が始まる前にもメッセージアプリで会話していたんだった。

 

 

 "もしかして、寝落ちしたか?"

 

 "してねえよ"

 

 "起きてたか。別に無理しなくていいぜ。眠いなら寝ていい"

 

 "いや、まだ起きてる。明日は学校休みだからな、多少は遅くても問題ない"

 

 "そうか。じゃあ、もう少し話そう"

 

 

 自然と、口元が緩んだ。先程まで心に巣食っていた、鬱々とした思いが晴れていく。……そう。お前は違ったな、園原。

 

 お前は、俺の事を"自分と同じ人間だ"と言ってくれた。

 

 

 "ところで、さっき親戚同士でちょっとした話し合いをしていたんだが"

 

 "おう?"

 

 "話し合いの最後に、お疲れちゃん!とか言ってふざける何処ぞの生徒会長サマの事をどう思う?"

 

 "は"

 

 "は?……どうした?"

 

 "wwwwwwww"

 

 "なんだ、ツボに入っただけか"

 

 "なんだ、じゃねぇよ!おい、嘘だろ会長さん!お疲れちゃんとか、死語じゃね?"

 

 "なるほど、奴はジジイだったか"

 

 "おい、こらw身内をジジイ扱いすんなww"

 

 

 実は精神年齢が本当にジジイだったと知ったら、お前はどんな顔をするんだろうな?

 

 いずれ、園原には前世の話をしたいが、そうなるとスタンドの事も話さなくてはならない。あいつは既に、俺が側にいる時に何度か"不可思議な体験"をして、それを疑問に思っているはずだからな。

 ……スタープラチナの事を知っても、園原は俺の事を普通の人間だと言ってくれるだろうか?この前のように、俺の事を本気で心配してくれるだろうか?

 

 

 しばらく話した後。園原の方が眠気に負けてしまったらしく、"ねむい、ごめん、おやすみ"というメッセージの後に既読が付かなくなった。

 俺も"おやすみ"とだけメッセージを送り、ベッドに横になる。……良い夢が見れそうだ。

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 翌日の朝。俺は徐倫と共に、家の最寄り駅へ向かっていた。

 徐倫は今日、友人と遊びに行く約束をしていたらしい。以前から計画していて、今日が来る日を楽しみにしていたようだ。

 

 前世での娘、今世での妹が上機嫌で歩いている様子は、見ていてとても微笑ましい。決して、顔には出さないが。

 

 しかし朝とはいえ、例の変死体事件の犯人が潜伏している中、女を1人で歩かせるわけにはいかない。だから俺が、徐倫を駅まで送る事にした。

 

 

「ここまででいいわ。ありがと、兄さん」

 

「あぁ。……楽しんでくるといい」

 

「ん……兄さんだから心配いらないと思うけど、1人で帰るんだから、一応気を付けてよね」

 

「…………分かっている。まぁ、家までそう遠くない距離だ。その間に例の犯罪者と遭遇する事は、さすがにねえだろ」

 

 

 それから徐倫と別れ、歩いて家に帰る。……この時の俺のセリフを園原が聞いていたら、きっとこう言っていただろう――

 

 

 

 

 

 

 ――承太郎、それはフラグだ。……ってな。

 

 

「ひひ、ひひひ――っ、お前の血を寄越せぇぇ!!」

 

「…………やれやれだぜ」

 

 

 事の始まりは、帰り道にある小さな公園の前を通り掛かった時だった。

 普通に道を歩いていた俺は、突然背後から殺気を感じたため、長年で培った勘に従い、公園の中に逃げ込んだ。

 

 スタープラチナを出しながら振り向くと、先程まで俺がいた場所を、無数のナイフが通り過ぎていく。

 

 そして現れたのは、昨夜ジョセフから聞いた犯人の特徴と一致する男と、その背後に佇む、赤黒いコートを着た人型のスタンドだった。

 男は俺がスタンド使いだった事に驚いていたが、それよりも俺の血に興味があるらしい。曰く、俺からは美味しそうな血の匂いがする、と。

 

 てめえはDIOか。……いや、今はもう吸血鬼じゃなかったな。

 

 それはともかく、敵は自分のスタンドの能力について得意気に語った。

 奴のスタンドは無数のナイフで相手を攻撃し、傷付ける事で、相手の血を吸い取る事ができるという。また、本体はスタンドの影響で血の匂いや味に敏感になる。

 

 スタンドが血を吸い取ると、その味が本体にも伝わるらしい。……血の味に魅了された結果、男は殺人を繰り返すようになった。それが、一連の事件の真相だ。

 

 

 さて。能力さえ分かってしまえば、こっちのものだ。要は、あのナイフに当たらなければいい。

 奴のナイフは、一気に出してしまうと次の発動まで少し時間を置く必要があるようだ。ならば、わざとそれをやらせて、無防備になった瞬間を狙って時を止め、ラッシュを決めて終わらせる。

 

 

「――オラァ!!」

 

 

 簡単にまとめた作戦は成功し、男は殴り飛ばされて公園の外へ。……殴ったのは本体だから、手加減はしている。あとは拘束して財団に引き渡せば解決だな。

 

 その時。男を飛ばした方向から悲鳴が聞こえた。

 

 急いでその場に向かった。男にはまだ意識が残っていたのか?あの悲鳴は誰のものか?――それらの疑問は、現場を見た瞬間に氷解し、直後に絶望へと変わる。

 

 

「――ふはは、ひひ、あっははははは!!今日はついてるぜぇ!まさか負ける直前に栄養補給源(・・・・・)が向こうからやって来てくれるとはなぁ!!ひひひっ!ゴチソウサマァ!!」

 

 

 

 

 

 

「――――園、原……?」

 

 

 男の狂った笑い声が響く中。体中から血を流して倒れている、大切な友人の姿を目にして、俺は固まるしかなかった。

 

 

 何故。何故だ。何故俺は、いつも、いつも、いつも。肝心な時に大切なものを守れない?

 

 

(――もう、何も失いたくないのに、何故いつもこうなる?)

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

空条承太郎の友人は、護りたい


・男主視点。

 ――空条承太郎だって、不意打ちで親友と呼ばれたらこっそりテンションが上がるはず。

 そしてちゃっかり、自分も相手の事を親友と呼んで既成事実にするはず。


 

 

 

 ――【悲報】自転車が盗まれました。

 

 脳内で、そんなテロップが流れた気がする。……昨日まで自転車があった場所を見つめて、ため息をついた。

 

 

 今日は学校も、バイトも無い休日だ。朝から自転車で生活用品と、食材の買い出しに行こうとアパートの駐輪場へ向かったら、既に自転車が消えていた。

 どうやら無理やり鍵を壊されて、持っていかれたらしい。その形跡が残っている。……念のために、スマホで現場の写真を撮っておく。

 

 盗難届を出すかどうかは、後で考えよう。買い出しに行く方が先だ。あ"ー……ついてねぇなぁ。

 

 

 ――この時点で、俺の運命が確定したのかもしれない。……そう思ったのは、全てが終わった後だった。

 

 

 普段買い出しの時に利用しているスーパーまで、歩いて向かっていた時。俺は小さな公園の前を通り掛かったのだが……その公園から誰かがすっ飛んで来て、俺の目の前に転がった。

 思わず悲鳴を上げると、何故かボロボロになっている男が俺を見て――ニヤリと嗤う。

 

 刹那。俺の体は、見えない何かによって切り刻まれていた。

 

 

「――――」

 

 

 視界がぐらりと傾き、地面に倒れ込む。……体中が、痛い。そして何故か、俺の血が空中に浮いて、男に向かって急速に流れていく。

 俺の血は、立ち上がった男の背後に流れ付くと、見えない何かに吸い込まれているようだった。それに比例して、男の怪我が治っている。

 

 おい、これ、まさか、

 

 

「――ふはは、ひひ、あっははははは!!今日はついてるぜぇ!まさか負ける直前に栄養供給源(・・・・・)が向こうからやって来てくれるとはなぁ!!ひひひっ!ゴチソウサマァ!!」

 

 

 男は笑い狂い、恍惚とした表情を浮かべている。奴は吸血鬼のように、俺の血を吸収して怪我を治したらしい。

 

 

「――――園、原……?」

 

 

 そして、今世で聞き慣れた声が聞こえた。……公園の入り口で、美丈夫――承太郎がこちらを見て、立ち尽くしている。

 

 はい、確定。――スタンド使い同士の戦いに、巻き込まれた。

 

 

(……マジで、ついてねぇぞ、俺……)

 

 

 と、バタバタと駆け寄って来た承太郎が、俺の体を抱き起こす。

 

 

「園原!園原、園原……っ!!」

 

「……聞こえ、てる」

 

 

 いつもの仏頂面はどうした?……そう聞きたくなる程、承太郎は必死に俺の名前を呼んでいる。

 目の前に焦っている奴がいると、逆に冷静になるっていうのは、本当だったんだなぁ。吸血されてる最中なのに、頭は冷えていた。

 

 すると、承太郎は俺の血が奴に向かって流れている事に気づいたらしい。恐ろしい形相で、男を睨んだ。

 

 

「てめえっ!よくも俺のダチを……!!」

 

「おやおやぁ?トモダチだったのかぁ、それは御愁傷様。なかなか美味だぜぇ!」

 

「っ、スタープラチナ――」

 

「おっと待て待ていいのか!?今オレをボコボコにすれば、その分トモダチの血もなくなるぞぉ?オレはそれを吸収して回復すればいい話だからなぁ!!」

 

「っ!!」

 

「これ以上血を失えば――そのトモダチ、死ぬかもよぉ?」

 

「……ぐ、うぅ……っ!!」

 

 

 歯軋りをして男を睨む承太郎に対して、男はニヤニヤ嗤っている。……俺を、人質に取った。

 

 承太郎の、足枷になってしまった。

 

 これでは原作の時と同じだ。ラバーズ戦でジョセフを人質に取られた承太郎は、花京院達がジョセフの頭の中にいたラバーズを追い出すまで、その本体のスティーリー・ダンにいいように使われていた。

 あの時は頼りになる仲間達がいたが、今は承太郎だけだ。……このままだと、こいつはきっと――

 

 

「そうだなぁ……やっぱり君の血が欲しいなぁ!君の血をオレにくれるなら、もうトモダチから血は取らないと約束しよう!!」

 

「…………」

 

「……っ、承太郎……!」

 

 

 駄目だと、そう言いたくて、震える手で彼の服を掴んだ。……承太郎は俺の手を優しく包み、服を掴んでいる指をほどく。

 それから俺を置いて立ち上がり、男の方へ向き直る。両手を大きく広げた。

 

 

「……いいぜ。そのナイフで、好きなように刺せよ」

 

「いやいやぁ、その前にスタンドをしまってもらわなきゃなぁ」

 

「…………ほら。これで満足か?」

 

「だめ、だ……承太郎、やめろ……っ!!」

 

 

 腕で体を支えて起き上がり、承太郎を引き留めた。……彼は俺の方へ顔だけ振り向き、優しく微笑む。

 

 ――嗚呼、駄目だ。こいつ、もう覚悟が決まってやがる。

 

 

「……俺には当てても良いが、間違っても俺の後ろにいる園原に当てるんじゃねーぞ。少しでも当たったら、その時は――死んでも、呪ってやるぜ」

 

「…………は、はは……分かってるさぁ……」

 

 

 男は顔を引きつらせながら、両手を承太郎に向ける。……肌を刺すような空気を感じた。俺の目には見えないが、奴のスタンド能力が承太郎を狙っているのだろう。

 

 このまま、俺は黙って見ているしか無いのか?

 

 

(誰か――誰かいないのか!?承太郎を助けてくれるスタンド使いは、近くにいないのか!?)

 

 

 誰でもいい!承太郎を、俺のダチを、親友(・・)を助けてくれるなら、誰でもいい!!助けてくれ。承太郎を、誰か助け、

 

 

(……いや、誰かって、誰だよ?そんな奴、今は何処にもいないじゃねぇか)

 

 

 ここは漫画やアニメの世界じゃなくて、現実だ。そこにスタンドバトルなんて危険な要素が混ざれば、いつ死んでもおかしくない……俺は以前、自分でそう思った。

 そう、現実なんだ。都合よく誰かが駆け付けてくれる訳が無い。

 

 承太郎が自分の身を守る気が無いなら、こいつを助けられる人間は……俺しかいないだろ!!

 

 

 他の誰かじゃねぇ!!俺だけが、俺が――

 

 

「――俺の手で!承太郎を護るんだ!!」

 

 

 そう叫び、邪魔くさい前髪と眼鏡を取っ払い、自身を奮い立たせ、自力で立ち上がる。

 

 

 

 

 

 

 ――その瞬間。白いドーム状の何かが、俺と承太郎の周りを包む。

 

 それは透き通っていて、外から無数のナイフ(・・・・・・)が当たり、全て弾かれるのが見えた。

 ドームの先で、男の背後に赤黒いコートを着た人型の何か(・・・・・)が浮かんでいる。

 

 

「「「――はっ?」」」

 

 

 奇しくも、その場にいた人間3名の声が重なる。承太郎がばっとこちらに振り向き、俺を見て目を点にした。

 いや、違う。見ているのは俺じゃなくて、俺の後ろだ。……ある事を確信しながらも恐る恐る、振り向く。

 

 ――純白の鎧と、翼。肌も真っ白で、顔には不思議な模様の金の刺青があった。長くて細い杖を手にしている。髪と瞳は黒い。そして、目付きの鋭い男だ。

 

 

「な……っ、誰だ?」

 

「――俺は、君自身だよ」

 

 

 って、喋るのかよ!?

 

 

「おいおいおいおい!?聞いてないぞぉ!?君までスタンド使いだったのかぁ!?」

 

「園原、お前……!?」

 

 

 あーっと、どうしよう。下手にスタンドの事を知ってたのがバレる発言をしたら、承太郎に怪しまれてしまう。この場では、どうするのが正解だ?

 

 

「大丈夫。俺に任せて」

 

「えっ?」

 

「……さぁ、志人。分からない事は俺が教えるから、まずは君が何をしたいのか、もう一度言葉にしてくれ」

 

「俺が、何をしたいのか……?」

 

 

 ……そんなの、決まってる!

 

 

「承太郎を――俺の親友を、俺の手で護りたい」

 

「そうだ。その意志を緩めないように、心を強く保ってね。……承太郎」

 

「!?」

 

「俺はね。護る事はできるけど、今の時点では(・・・・・・)まだ、攻撃は全くできないんだ」

 

 

 今の時点では?……それはいずれ、攻撃もできるようになる可能性があるという事か?

 

 

「だから、承太郎――俺達(・・)の分まで、そいつをボコボコにしてくれないか?

 

 俺と志人がこの結界を保っている限り、そいつはもう志人から血を吸い取る事ができない。思う存分に、殴れるよ!」

 

「なっ、何だってぇ!?そんなはずは――な、なっ、本当だぁ!吸い取れない!?」

 

 

 これには俺も承太郎も驚いた。……確かに、さっきよりも体が楽だな。血も吸い込まれていない。

 

 承太郎が嘲笑を浮かべ、男を見下す。美形の嘲笑&見下し、怖い。

 

 

「……そいつは、良い事を聞かせてもらったなぁ」

 

「ひ、ひひっ!?」

 

「スタープラチナ……!」

 

 

 承太郎の背後に、屈強な戦士のスタンドが現れる。……な、生スタープラチナだ!!背中しか見えないけどカッコいい!!

 

 

「ほら、志人。見とれている場合じゃないよ。承太郎を護りたいんだろう?」

 

「お、おう!……って、俺は何をすれば?」

 

「簡単さ。イメージだよ。まずは、奴の目の前まで結界を広げる事を想像して。あ、奴を結界の中に入れたら駄目だからね。気を付けて」

 

 

 言われた通りの事をイメージすると、結界が一気に広がった。男のスタンドが何度もナイフを投げても、結界は壊れない。そこへ、承太郎とスタープラチナが迫る。

 

 

「そう、上手。次は承太郎を護りつつ、スタープラチナによる攻撃の邪魔をしないように、結界の性質を少し変える必要がある。……さぁ、志人ならどうする?」

 

「イメージすればいいんだな?――結界は敵による攻撃を防ぐが、味方による攻撃なら通す!」

 

「正解!」

 

「承太郎!結界はスタープラチナの邪魔をしない!そのまま殴れ!俺達の分まで!!」

 

「――任せろ、親友(・・)

 

 

 嬉しい事を言ってくれた承太郎は、休日でも被っている帽子のつばを触り、男に向かってびしっと人差し指を突き付ける。

 

 

「……親友とそのスタンドの分まで、この空条承太郎が、じきじきにブチのめす。――てめーは俺を怒らせた!それこそが敗因だ!!」

 

 

 名台詞の重ね掛けと共に、オラオララッシュが始まった。……えっ、ちょ、長い?長いな!?ラバーズ戦の最後よりも長いかもしれない。

 

 …………生きてると、いいな。あの男。

 

 というか、生きてないと承太郎が殺人犯になってしまう。もしも死んでたら、さっきの承太郎じゃないが呪ってやる。

 

 

「――オラオラァ!!」

 

 

 それにしても生オラオララッシュ、迫力満点!半端ねぇ!!

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 戦闘後。結界の外に出た承太郎はブチのめした男を拘束し、地面に転がす。……男は気絶しているだけで、生きているようだ。承太郎が殺人犯にならなくて良かった。

 

 安心すると同時に、念のためにまだ出しておいた結界と俺のスタンドが消えて、俺自身は体の力が抜けて倒れてしまった。承太郎が慌てて駆け寄って来る。

 

 

「園原!!」

 

「う……ありがと、な。俺達の分まで、ちゃんと、仕返ししてくれて、」

 

「もういい!無理に喋るな!気をしっかり持て。今から治療ができる奴を呼ぶ!!」

 

「――その必要は無いぜ、承太郎!」

 

「承太郎さん!!」

 

 

 前世のアニメで聞き慣れた声が、2人分聞こえた。

 

 

「っ、ジョセフ!仗助!」

 

「お前がなかなか帰って来なかったんで、探しに来てみたら……いやぁ、派手にやったなぁ」

 

「その人、血だらけっスね!俺が治療しますよ」

 

「頼む、仗助」

 

 

 ……何だ?何かを、忘れている気がする。

 

 

「そんじゃ、すぐに治すんで、ちょっと待って――あ、え……?」

 

「……仗助?」

 

「ん、どうした?」

 

 

 

 

 

 

「――シド(・・)、さん……?」

 

 

 シド。――そう呼ばれた瞬間、俺の頭に激痛が走った。

 

 

「あっ、がっ、あ"あ"あ"あぁぁぁ!?」

 

「園原!?」

 

「しっ、シドさん!?」

 

「こいつは……まさか、記憶が戻る前兆!?」

 

「うぐ、ぁ、いた、い……っ、があぁぁっ!?」

 

「しっかりしろ!園は、っ――志人!!」

 

「シドさ、っ、シドさん!シドさん!!」

 

「ぎっ、!!あ、――ジョー……?」

 

「え、」

 

 

 痛みで目を限界まで開いた時。見知ったリーゼントの少年の、泣きそうな顔を目にしたのを最後に、視界が真っ暗になった。

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

空条承太郎の友人は、思い出す



・男主視点。

・仗助の過去を捏造しています。


 ――空条承太郎だって、親友との距離を縮めるためなら、あだ名で呼び始めるという単純な手を使う時があるはず。

 サブタイトル:黒豹の狩りの始まり





 

 

 

 

 ――夢を、見た。

 

 その夢の中で、俺は複数の男子高校生(見るからに不良)に絡まれている、中学生ぐらいの少年を見つけた。……その少年は、何故か髪型をリーゼントにしていた。

 髪型はともかく、少年はなかなか勇ましい奴で、高校生相手に上手く立ち回り、苦戦しながらもよく戦っていたため、俺は少年の方に加勢する。

 

 高校生達を追い払った後。なんとなく、流れで少年と雑談する事になった。……彼は、俺の目付きの悪さに驚きはしたが、怖がらなかった。俺はそんな彼に興味を持つ。

 

 そして、雑談中に彼の髪型に関係する話を聞いたのだ。

 

 

「――へぇ。その恩人を尊敬して、髪型も真似するようになった、と。……それはいいな。グッと来る理由じゃねぇか」

 

「本当に?……本当に、そう思うか?」

 

「あぁ。その恩人もカッコいいが、恩人を尊敬している証としてリーゼントに誇りを持つお前も、俺から見れば充分カッコいいぜ?」

 

「……へへっ!ありがとう」

 

 

 高校生との喧嘩で顔には傷が残っていたが、良い笑顔だった。

 

 

「…………でも、」

 

「ん?」

 

「でも、他の奴らは、あんたみたいにこの髪型を認めてくれねえんだよ。

 

 同じクラスの奴らも、学校の先公も、俺の髪型を見て馬鹿にしたり、不良だと決めつけたりしやがる。それに、さっきの奴らみたいに絡んで来る奴らもいる。

 俺はただ、恩人を尊敬しているだけなのに……命を救われた思い出を大切にしたいだけなのに、何でみんな、分かってくれないんだ!」

 

「ふーん……ところで、お前は普段学校ではどんな態度で過ごしてるんだ?」

 

 

 そう聞いて、彼からさらに話を聞いた俺は、彼自身にも、周りから批判される理由があるのだと指摘する。

 

 

「お前、中身が不良になってるぞ。多分、その髪型を馬鹿にする周囲への反抗心から、自然とそうなっているんだろう。

 本当に恩人を尊敬し、リーゼントを誇りに思っているなら、お前自身も、周囲の人間に歩み寄る必要がある。

 

 馬鹿にされたくない、不良だと勘違いされたくないなら――心と、頭で勝負しろ」

 

「心と、頭?」

 

「そうだ。……お前、高校生を相手にあれだけ上手く立ち回るんだから、元々頭の回転が早いんだろ?じゃあ上手く頭を使え。よく考えて、世渡り上手になれ。

 無闇やたらに売られた喧嘩を買うのではなく、基本的に自分から喧嘩を売らないように、そして、本当に買うべき喧嘩と、買う必要が無い喧嘩を見極めるんだ」

 

「買うべき喧嘩と、そうじゃない喧嘩……」

 

「頭が良いお前なら、すぐにそれが分かるはずだ。……で、次は心。さっき思ったが、お前は素直にお礼が言える奴だから、きっと心が優しい男なんだろう。

 最初は、できる限りで良い。先生にも、同級生にも、先輩にも後輩にも、穏やかに、優しく接してみろ。例えば、年上相手には敬語を使ってみたり、同級生に笑顔で話し掛けてみたり、とか」

 

「…………」

 

「――歩み寄る事を、諦めるなよ。どっかで聞いた事はないか?"他人は自分を映す鏡"だって。……お前の優しい心を見せれば、相手だって優しくなるさ。きっとな」

 

 

 すると、少年は頷いて納得し、年相応の笑顔を見せた。よしよし、良い笑顔じゃねぇか。

 

 

「ありがとう!俺、頑張ってみるっス!」

 

「はははっ!そうかそうか、頑張れ!」

 

 

 俺もつられて笑い、そろそろ帰ろうかと立ち上がる。少年も立ち上がった。

 

 

「じゃあな、少年。健闘を祈るぜ」

 

「あ、待った!あんた、名前は?」

 

「…………シド」

 

「シドさん?……名字?名前?」

 

「どっちでもない。今、即興で考えたあだ名さ。……次会えた時に、本名を教えてやるよ。で、お前の名前は?」

 

「俺はじょう…いや、ジョー!今考えた、俺のあだ名っス。俺もまた会えた時に、本名を名乗る!」

 

「いいぜ。約束だ。――またな、ジョー」

 

「うっす!――絶対、また会おう!シドさん!」

 

 

 ……こうして、再会の約束をした俺達は、その場で別れた。

 

 

 

 

 

 

 しかし。その約束は果たされないまま、俺は――

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

「――園原!」

 

「シドさん!」

 

「…………ぅ、ん?」

 

 

 目を開けると、イケメン2人……承太郎と仗助に顔を覗き込まれていた。

 

 

「……承、太郎……」

 

「大丈夫か?……起き上がれるか?」

 

「おう……」

 

 

 どうやら、俺はベッドで眠っていたらしい。起き上がってみても、体は問題なさそうだ。

 自分の体を見ると、あの怪我は綺麗さっぱりなくなっている。やったのは仗助のクレイジー・ダイヤモンドか?

 

 

「……ここ、何処だ?」

 

「俺達の家の中にある、客室だ」

 

「俺達の家って……あの豪邸の中か」

 

 

 俺の自宅は、承太郎達が住んでいる家の近場にある。そのため、外観だけだがジョースター家の豪邸を目にした事があった。あれの中にいるのか……マジで?

 

 

「あ、……あの!」

 

「ん?」

 

「……俺の事、覚えてるっスか?」

 

 

 と、ベッドを挟んで、承太郎とは反対側にいた仗助が、俺に話し掛ける。……俺は彼の目を見て、口を開いた。

 

 

「――園原志人。……それが、俺の本名だ」

 

「!!」

 

「……次に会えた時に、互いに本名を名乗る約束だったよな?ジョー。……それで、お前の本名は?」

 

「っ――東方……東方仗助っス!やっと、やっと会えた!」

 

 

 あの時よりも成長しているが、笑顔は変わっていない。良い笑顔だ。

 

 

 いやぁ、まさかこんな事ってあるんだなぁ。

 

 ――前世だと思っていた記憶が実は前々世(・・・)の記憶で、混部の世界に転生する前に、4部時空に転生していた前世があったなんて。

 転生が二度目って、そんなのありかよ?……そう思いながら、4部に転生していた時の記憶を思い出す。

 

 

 当時の俺は、前々世の記憶を思い出していなかったため、偶然仗助と出会った時も、見所のある年下だとしか思わなかった。

 本名を名乗らなかったのは、当時も今世と同様に、高校で真面目な生徒を演じていたからだ。素顔の自分と、見た目が根倉な自分を結び付けないために、咄嗟に"シド"と名乗った。志人はシドと読めなくもないからな。

 

 だが、仗助とまた会いたいという気持ちはあったので、再会の約束として、次に会ったら本名を名乗ると宣言した。多分、仗助も同じような事を思ったから、俺に付き合ってくれたんだろうな。

 

 

「仗助、と呼んでもいいか?」

 

「もちろんっスよ!じゃあ、俺は志人さんって呼んでもいいスか?」

 

「あぁ。それでいい。……お前、良い面構えになったな。あの後、うまくいったのか?」

 

「うっす。志人さんの助言のおかげで、俺の髪型を馬鹿にする奴は大分減ったし、不良扱いされる事も減ったんスよ!志人さんのおかげっス。本当に、ありがとうございます!」

 

 

 ……うん。ワンちゃんかな?犬の尻尾と耳が生えている気がする。こいつ、前世でも承太郎に対してはこんな感じだったのかもな。

 

 

「それで、あの……承太郎さんから聞いたんスけど――志人さんも、スタンド使いだったんスね」

 

 

 しかし、そんな言葉と共に、無邪気な笑顔は一転して真剣な顔になった。承太郎も似たような顔をしている。……前々世の事がバレないように、上手くやらないとな。

 

 

「あー……そもそも、そのスタンド使いって、何だ?あの時俺の後ろにいた白い鎧の男が、スタンドと呼ばれるものだという事は、なんとなく理解してるんだが……」

 

「えっ?知らないんスか?」

 

「……なら、まずはスタンドについて説明する」

 

 

 そう言って、承太郎が簡単に説明してくれた。内容は、大体が原作で明かされていたものと同じだった。……ある話を除いて。

 

 

「……そして、これは今世に限った話だが――スタンド使いのほとんどが、前世の記憶を持っている」

 

「今世に、前世……やっぱりあの夢は、俺の前世の記憶だったのか」

 

「夢?」

 

「眠っている間に、仗助と初めて会った時の記憶とか、他にもいろいろ見た。あれが前世の記憶だと思えば、納得がいく」

 

「そうか……」

 

 

 承太郎が黙ると、今度は仗助が口を開く。

 

 

「志人さんは、前世でもスタンドを持ってたんスか?」

 

「いや、持ってなかったぜ。普通の人間だった」

 

「えぇっ?」

 

「……そいつは妙だな。今世でスタンドを発現した奴は、前世でもスタンドを持っていたはずだ。お前と同じ例は聞いた事が無い」

 

「そう言われてもな……」

 

 

 こればっかりは嘘じゃないから、そう言われても困る。本当に持ってなかったんだよ。あの白い鎧のスタンドを見たのは、今世が初めてだ。

 

 

「……うーん、じゃあ全然関係無い話なんスけど、そもそも俺と志人さん、どうして前世で会えなかったんスかね?同じ杜王町に住んでたし、どっかで再会してもおかしく無かったのに……」

 

「…………」

 

「……園原?」

 

 

 ……2人の反応が心配だが、言うしかないな。

 

 

「会えなくて当然だぜ、仗助。なんせ、俺は――お前と出会った後に、死んだからな」

 

「…………え?」

 

 

 仗助は呆然。承太郎は眉間に皺を寄せた。……顔は怖いが、目と雰囲気で悲しんでいる事が分かる。

 

 

「……といっても、死んだ時の記憶はかなり曖昧なんだ。人気の無い道を歩いていた事と、後ろから腰に何かが刺さった事は覚えているんだが……」

 

「刺さった……?」

 

「それともう1つ。男の声で"また駄目だった"って言われたような、」

 

「っ、確実に誰かに殺されてるじゃねえか!?しかも刺さったって、まさか、それって弓矢じゃ――」

 

「――仗助!!」

 

「あっ」

 

 

 ……承太郎の怒鳴り声も、仗助の青ざめた顔も、気にならなかった。

 

 それよりも先に、脳裏にある光景が浮かび上がったからだ。

 

 

「弓矢……そう、弓矢だ」

 

「……園原?」

 

「俺は地面にうつ伏せに倒れて、頭を動かして下を見たら、腰に……刺さってたんだよ、矢が。それから、――っ!!」

 

 

 それが刺さった時。全身が熱くて、痛くて仕方なかった。熱い、痛い、苦しい。そんな感覚で頭がいっぱいになった頃、誰かが……そうだ。特徴的な髪型と、前々世で聞いた事がある声の、男。

 

 

 ――また駄目だった。……あいつを殺せる奴は、一体いつになれば――

 

 

 

 

 

 

「――――志人!!」

 

「ぁ、っ!?」

 

 

 気がつけば、俺は息を止めていた。慌てて呼吸をして、息を整える。……その間、承太郎はずっと背中を擦ってくれた。

 

 

「……ありがとう、承太郎……助かった」

 

「いや……気にするな。もう大丈夫か?」

 

「あぁ。大丈夫」

 

「志人さん……ごめんなさい、俺……俺のせいでっ!!」

 

「待て待て。泣くなよ?仗助。俺はこの通り無事だから」

 

「でもっ、うう……!!」

 

「よしよし、落ち着け落ち着けー」

 

 

 仗助の頭を軽くポンポンと叩いたり、背中を擦ってやったりしながら落ち着かせた。……あ、しまった。俺、リーゼント触っちまった。

 まぁ、本人が気にしてなかったみたいだし、別にいいか。……おい、そこの元博士。信じられない、みたいな目で俺を見るな。

 

 

「……で。俺が死んだ時の話なんだが、」

 

「待てコラ」

 

「もういいっスよ!無理に話さないで!!」

 

 

 両側から強い力で肩を掴まれた。痛い。でも続ける。

 

 

「お前らの反応から察するに、俺に刺さった矢の事で、何か知ってるんだろ?」

 

 

 と言いつつ、俺は既に察しているが、ここでちゃんと聞いておかないとな。

 

 

「……お前に刺さった矢。それは間違いなく、スタンド使いを生み出す矢だろう」

 

 

 案の定。承太郎が例の弓と矢について話してくれた。……これで、俺がスタンド使いになったきっかけが分かった。

 だが、何故だ?前世で矢が刺さって死んだなら、俺にはスタンド使いの素質が無いはず。それなのに、今世ではスタンド使いになっている……謎だな。

 

 

「……園原がスタンド使いになった原因は分かったが、問題は……前世ではスタンドを発現できなかったのに、何故今世では発現したのか、だな」

 

 

 承太郎も、同じ事を疑問に思っている。こいつにも心当たりは無いのか……

 

 

「……いや。今考えても答えは出ねえな。とりあえず、そろそろあいつらを呼ぶか」

 

「あいつら?」

 

「この家の住人の中でも、前世の記憶を持つ奴らの事だ。……仗助。呼んで来てくれ」

 

「うっす。いってきまーす」

 

 

 ……仗助が部屋から出て行くと、承太郎が俺を見て柔らかく微笑む。最近見慣れた顔だ。

 

 

「本当に……お前が無事で良かった。巻き込んで悪かったな」

 

「巻き込む……あー、あれか。結局、俺が気絶した後はどうなったんだ?あの吸血男は?」

 

「お前の血を奪ったクソ野郎は、例の変死体の事件の犯人だった。奴は然るべき組織に引き渡したから、二度と会う事は無い」

 

「お、おう」

 

「それから、お前の怪我を治療したのはジョセフだ。実は、スタンド以外にも波紋法という特殊な力があってな。ジョセフは、その使い手だ。……詳しくは、いずれ見せてもらうといい。きっと驚くぜ」

 

「そいつは楽しみだな」

 

 

 本当に楽しみ。波紋も生で見たい。……あっ、そういえば、

 

 

「俺の眼鏡は?」

 

「……ここにあるが、もう掛けても無駄だぜ。今この家にいる奴は全員、お前の素顔を見たからな」

 

「やっぱりそうかぁ。……いや、でも起きて話してるところは見られて無いだろ?それなら、」

 

「諦めろ。今さら隠したところで、戻って来た仗助に指摘されるだけだ」

 

「なるほど、詰みか」

 

 

 じゃあ仕方ない。腹を括るとしよう。

 

 

「潔いな。……なぁ、園原」

 

「ん?」

 

「俺に前世があると聞いて、どう思った?……ちなみに、俺はこれでも前世で40過ぎまで生きていたんだが」

 

「40!はー、なるほどなぁ。お前、年齢の割には落ち着いていたが、そういう事だったかぁ」

 

 

 ちょっとわざとらしいリアクションをしてしまったが、それはともかく。

 

 

「どう思った?と聞かれてもな……あの時、海辺で俺が言った事と同じだ。――昔のお前と今のお前。その全てをひっくるめて、空条承太郎という、1人の人間である」

 

「――――」

 

「まだお前の前世については聞いてないが、前世で歩んで来た人生と、今世で歩んで来た人生。それを合わせたのが今の"空条承太郎"だろ?……俺が知っているのは、そんなお前だ。それでいいんじゃねぇの?」

 

「――――」

 

 

 ……あれ?デジャビュだ。固まった承太郎の肩を揺さぶると、すぐに我に返ったらしい。

 

 

「承太郎?」

 

「ふっ――ははははははっ!!」

 

 

 あっ、まただ。大笑いしてやがる。

 

 

「……なぁ。今、笑える要素あったか?」

 

「ははっ、くく、はははは――っ、お前、もう……勘弁しろよ!」

 

「はぁ?」

 

「あ"ー、クソ。……こうなったら、責任取りやがれ親友」

 

「えっ?何の責任?」

 

「さぁ、何の責任だろうなぁ?……ところで、聞かせてくれ。今世でお前をシドと呼ぶ奴はいるか?」

 

「いや……いないな。いても仗助ぐらいだろ」

 

「そいつはちょうど良い。仗助なら、まだ良いが――今後は、俺以外の誰かにそう呼ばせるんじゃねえぞ」

 

「はい?」

 

「ってわけで――改めてよろしくな、シド」

 

 

 ニヤリと笑った、美丈夫。キラリと輝く翡翠の瞳とその表情は、何故か以前もイメージした黒豹を彷彿とさせる。

 ……副音声で"逃がさねえぜ"って言われたような?いやいや、気のせいか。

 

 

 というか、楽しそうだなお前。

 

 

 

 

 

 

 

 






※園原が眠っている間の承太郎と仗助の会話

「――で?てめえは何で園原の事を知ってるんだ?仗助……」

「え、いや……あの、承太郎、さん?何か、目が怖い気が……?」

「そうか?気のせいだろ。で?」

「……えっと、まぁ、その――かくかくしかじか(前世の園原との出会い)――でして」

「…………へぇ」

「今度はいつもより声が低い気がする……!!」

「気のせいだ。――――俺よりも先に会って、しかもあだ名で呼び合うだと?…………ふーん」

「……じょ、承太郎さ、」

「あ"?」

「ひえっ」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

空条承太郎の友人と、歴代主人公ズ+α



・男主視点。

・スタンドについて捏造過多。

・これ以降、オリジナルの男主のスタンドが登場する機会が増えます。


 ――空条承太郎だって、親友のためなら過保護になる時があるはず。





 

 

 

 

 承太郎と共に待っていると、仗助が戻って来た。そして彼と共に部屋に入って来たのは、歴代主人公ズ+α。……この+αがとんでもねぇ人物だった。

 

 

(――アイエエエ!?DIO様!?DIO様ナンデ!?)

 

 

 マジでそう叫びたくなったが、頑張って表情筋を引き締めて、不自然にならない程度に目を逸らした。

 DIO、じゃなくてディオの方だが、この人何でジョースター家にいるの??えっ?何で??

 

 

「よお!体調はもう大丈夫か?」

 

「あ、はい。……会長が俺の怪我の治療をしてくれたんですよね?承太郎から聞きました。ありがとうございます」

 

「あー、固い固い!もうちょい気楽に!会長とか堅苦しい呼び方じゃなくて良いからさァ」

 

「えっ?あぁ、じゃあ……ジョースター先輩?」

 

「もうひと声!」

 

「ジョセフ先輩?」

 

「んっ!……それ、新鮮な呼び方だな。採用!!」

 

「は、はぁ……」

 

「……おい、ジョセフ。こいつが困ってるから、止めろ」

 

 

 ジョセフのノリに付いていけない俺に気づいたのか、承太郎が助け船を出してくれた。

 

 

 その後。ジョセフは歴代主人公ズとディオの簡単な紹介と、前世での関係について説明してくれた。

 

 俺は全ての話に、"初めて聞いた"というリアクションを取る。……ジョルノとディオが、今世でジョースター家の養子になっているという話には、本当に驚いたが。

 また、ジョセフと仗助の関係や、ジョナサン、ディオ、ジョルノの関係については特に、聞けば普通に驚く話なので、ちゃんと驚いた後にさらっと流す。

 

 誰だって、他人には家庭の事情に突っ込んで欲しくないだろうからな。

 

 

「……なるほど、ね。父さんがあんたを友人と呼んだ事には驚いたけど……なんとなく、父さんがあんたを友人にした理由は分かった」

 

 

 とは、徐倫の言葉だ。……どういう事だろう?

 

 

「……そうだ。ねぇ、ちょっと教えてくれない?あんた、父さんとどうやって友人になったの?」

 

「あっ、それ!俺も気になるんスよね!」

 

「そうそう!園原くんが眠ってる間に何度も聞いたんだけどよォ、これが全っ然ダメで、承太郎のやつが何も教えてくれねえんだよ。お兄さん達に教えて?」

 

「あー、あー…………すみません。それは俺も言えないですね」

 

「えーっ!?志人さん、そりゃねえっスよぉ!」

 

「悪いな、仗助」

 

 

 承太郎との関係には、旧図書館が深く関わっている。管理人の三谷さんの意向を優先しないといけないし、承太郎のファンクラブの事もあるし……できる限り、情報を漏らさないようにしなくては。

 旧図書館の存在を知っているジョナサンならまだいいが……それ以外は、ちょっとなぁ。

 

 

「……そんな事より、シドのスタンドについても話す必要があるだろうが」

 

「そうですね。僕もそちらの方が気になります」

 

「……承太郎の友人関係という下らん話よりは、それの方が有意義だな」

 

「はぁん?下らない話だとォ?俺達にとっては重要なんだよ」

 

「まぁまぁ、ジョセフ。その話は後でもできると思うよ。落ち着いて?……ディオも、毎回人を煽るような言い方をしない!」

 

「ぐっ……まぁ、確かにそうか」

 

「……ふん!」

 

 

 ……少しずつ、主人公ズ+ディオの関係が分かって来た気がする。おそらく、ジョナサンが他の主人公ズとディオの関係を取り持っているんだな。

 で、ジョセフはジョナサンの言う事を割と素直に聞く。ディオはまだよく分からないが、少なくともジョナサンの言う事に文句は言わない。

 

 あと、ジョルノと承太郎はマイペースなのか何なのか、先程の小競り合いには無関心な様子。……前世でのDIOとの因縁も、あまり気にしていないように見えるな。

 対して、仗助と徐倫は黙っていたが、小競り合いの様子を気にしていた。……前世での因縁を気にしているのは、むしろ彼らの方か?

 

 

 さて。俺のスタンドについての話だが。

 

 

「まずは、シドのスタンドを出してくれ」

 

「……どうやって出すんだ?」

 

「頭の中で、出て来いと念じてみろ」

 

 

 承太郎に言われた通り、出て来てくれ、と念じてみた。背後に気配を感じる。

 

 

「――やっと呼んでくれたね。待ってたよ、志人」

 

「おぉ!本当に自我がある……」

 

「真っ白……綺麗ね。まるで天使だわ」

 

 

 天使って。……まぁ、見た目はそれっぽいが、これは俺自身であって……なんか、気恥ずかしい。

 

 

「ありがとう、お嬢さん。……さて。俺自身の能力について話せばいいのかな?」

 

「ほう?説明してくれるのか」

 

「全ては言えないけどね。簡単な説明でいいなら、話せるよ」

 

 

 そう言って、俺のスタンドが話してくれた内容をまとめた物が、以下の通り。

 

 

 スタンドのパラメータで表現すると、破壊力:E、スピード:B、射程距離:C、持続力:A、精密動作性:A、成長性:A……と、大体こんな感じだという。

 基本はあの白くて透明な結界で守る事に特化していて、攻撃はからっきし。スタンドが持っている杖で殴る事もできるが、大したダメージにはならないようだ。

 

 そして特殊能力である結界だが、これは敵からの攻撃を何でも防ぐ事ができる。

 そう、何でも(・・・)、だ。物理だろうが特殊能力だろうが何だろうが、スタンド攻撃だけでなくそれ以外の攻撃も、本体の意思次第で全てを防ぐ。

 

 まさしく、防御に特化したスタンド。……スタープラチナのような、純粋な破壊力やスピードに優れたスタンドとは正反対だな。

 

 

「……これは、近接パワー型のスタンドと組ませたら、手強くなりますね」

 

「あぁ。……こいつのスタンドの力は、あの吸血野郎との戦いで実感した。シドとそのスタンドの存在は、頼りになったぜ」

 

 

 ジョルノの言葉に承太郎がそう返すと、ディオ以外の面々が俺を興味津々といった様子で見つめてくる。

 やめろ、視線が刺さる。仗助は露骨に目をキラキラさせるな!承太郎も頼りにしてくれるのは嬉しいが、わざわざ主人公勢の前で言わなくても……!

 

 

「しかし、この人1人で戦わせるのはまずいでしょう。敵からの攻撃を防ぐ事ができても、反撃できなければ勝利はありません」

 

 

 そうそう。そんな意見も欲しいんだよ。ありがとう、ギャングスター。

 

 

「うーん……じゃあ、やっぱり財団に登録してもらって、いざという時に助けを呼べるようにしてもらった方が良いよね」

 

「そうだなァ」

 

「財団……?」

 

「シド。前世で聞いた事はないか?――SPW財団の名前を」

 

「……前世じゃ有名だったが、今世では全く聞いて無いぞ?」

 

「今は裏に潜ってるからな。聞いて無いのも当然だぜ。……前世では医療や自然動植物保護の面でも活躍していたが、今世では超自然現象への対処を中心として動いている。出来る限り、表舞台には上がらないようにしてな」

 

「へ、へぇ……秘密結社かよ」

 

「まぁ、簡単に言ってしまえば、それだな」

 

 

 これは、前に変死体事件の件で推測した事が、当たっている可能性が高いな……財団すげぇ。

 

 

「……その財団にスタンド使いとして登録しておくと、万が一吸血野郎のようなスタンド使いの犯罪者と接触した時に、財団を通して味方のスタンド使いに助けを求める事ができる」

 

「それは助かるが……多分、それだけじゃないんだろ?逆に、こっちが助けを求められる事もあるとか?」

 

「さすが、察しが良いな。その通りだ。……時には財団側から連絡が入り、協力を求められる事もある。協力に応じれば、それなりの報酬が支払われるぜ。

 もちろん、正当な理由があれば断る事ができるし、学生の間は学校生活を優先しても構わない。社会人の場合も同じく、本職優先で問題ない。

 

 主なデメリットは……様々な個人情報を把握される事か?いろいろ調べられる事になるだろう」

 

 

 個人情報、か。

 

 

「……それは家族の情報とか、俺の小学校や中学校時代の事も?」

 

「……そうだな」

 

「情報が外に漏れる事は無いか?」

 

「そこは心配無用だ。そもそも、財団自体が裏で動く組織だからな。……お前の情報が外部に流出する可能性は無い」

 

「…………承太郎がそこまで言うなら、信じてみるか。分かった、登録する」

 

「よし。……ジョセフ」

 

「はいよォ。登録の手続きについては、後日この家に財団の人間を呼ぶから、その時にまた詳しく説明するぜ」

 

「よろしくお願いします」

 

「……お話、終わった?じゃあ志人にお願いがあるんだけど」

 

 

 と、俺のスタンドがそんな事を言い出した。どうした?

 

 

「――俺に、名前を付けてよ」

 

「名前?」

 

「うん。君自身が考えた名前を、俺に付けて欲しい」

 

「……シド。スタンドの名付けは重要だぞ。そいつはお前自身の心の力……名付ける事で存在を確立させれば、今後も強くなる」

 

「なるほど。……それもそうだが、いつまでも名前が無いままじゃ、寂しいよな」

 

 

 真剣に考えよう。俺のスタンドには、どんな名前が相応しいのか。

 

 

 3部のスタンドはタロットカードやエジプトの神々のカード、それ以降のスタンドは楽曲やバンド名が名付けの由来になっていた。

 しかし、無理にそれに合わせる必要は無いだろう。もっと視野を広げて、良い名前を見つけないと。

 

 俺のスタンドは、護る力を持つ。味方の盾になれるのだ。

 

 ……盾。盾、か。そういえば有名な盾の中に、良い名前があるな。だが、それだけではちょっと寂しい。下に何か付けよう。

 そうだなぁ……全身で主張してるし、これで行くか。勝手に共通点を作ってしまう事になるが、それは俺の自由だ。本当の理由を誰にも言わなければいい。

 

 となると、盾の名前の方はラテン語よりも英語の方が語呂が良いか?……よし。決まりだ!

 

 

「――イージス。……イージス・ホワイト、というのはどうだ?」

 

「……ほう?イージス、か――ギリシア神話の戦女神、アテーナーが持つ盾、アイギスの事だな?」

 

「えっ?あ、……はい。その通りです」

 

 

 まさか魔王……違う、ディオが即座に反応するとは思わなかったから、つい動揺が表に出てしまった。

 

 

「イージス……あれ?どっかで聞いた事があるな?」

 

「……仗助。あんた、多分何かしらのゲームの中で聞いてるわよ。イージスの盾って、たまに出て来るでしょ?」

 

「あぁ!そういえば、そんなアイテムもあった!」

 

「それの元ネタは、ディオさんが言った通りだ。戦の女神、アテーナー……日本ではアテナの方が馴染み深いか?そのアテナが所持している盾が、ラテン語でアイギス、英語でイージスと呼ばれている。

 有名な話だと、英雄ペルセウスがメデューサを退治した時の話があるな。ペルセウスは、退治したメデューサの首をアテナに捧げた。アテナはそれをアイギスに取り付けて、より優れた防具へと進化させたとか……」

 

「へえぇー……!志人さん、物知りっスね!」

 

「……父さんみたい」

 

 

 年下2人……特に仗助のキラキラした視線を感じて、そわそわする。

 あと、ディオからも観察されている気がするなぁ、なんか怖いなぁ。俺は無害な一般人。取るに足りない村人ですよ、魔王様。

 

 

「あー、それよりもどうだ?アイギスは、ありとあらゆる災厄を払う、魔除けの力を持つとも言われていてな。

 スタンドの能力を考えると、ぴったりなんじゃないかと思ったんだが……この名前でも良いか?」

 

「うん。……うん、最高だよ志人!俺の名前は、今日からイージス・ホワイトだ!」

 

 

 良かった。気に入ってくれたらしい。

 

 ちなみに。ホワイトは単純に、こいつの鎧と翼と肌が真っ白だったから名付けた、という理由もあるが……他にも個人的な理由がある。

 承太郎の旅仲間達のスタンドの名前に、イギーのザ・フール以外だが、色の名前が付いていた事。……勝手ながら、3部の仲間達との共通点を作らせてもらったのだ。

 

 だって俺、原作の3部勢好きだもん。いいじゃん、ちょっと共通点作るぐらい。俺が誰にも言わなければ無問題だ!

 

 

「……志人。素晴らしい名前をありがとう。俺はイージスの名の通り、君と君が護りたい人を、ありとあらゆる災厄から護ると誓おう」

 

「おう。……これからもよろしく頼むぜ、イージス」

 

「……ふふ。名前の由来や見た目の事を考えると、まるで園原君の守護天使みたいだね 」

 

 

 イージスが俺の中に戻った後。ジョナサンがそんな事を言うので、俺は苦笑いを浮かべた。

 

 

「ジョナサンさ、ん」

 

「ジョナサンでいいよ。呼びにくいだろう?皆もそうしてるから、大丈夫」

 

「……では、ジョナサン。俺はクリスチャンではありませんよ?イージスも俺の心を善へと導く天使ではなく、スタンドです」

 

「おぉ……!さっきのアイギスの話といい、やはり君は博識だな。僕の言う守護天使が何の事なのか、分かったんだ?」

 

「えぇ、まぁ……確かキリスト教では、神が人間達に遣わせた存在で、人間達に善を勧めて自ら悪を退けるように、その心を導く天使……と言われていたはず」

 

「その通りだよ。本当に、よく知ってるね」

 

「読書が好きなので、いろいろ読んでいるうちに自然と頭に入りました」

 

「そっか。それなら、後でうちの図書室に行ってみるといい。貴重な本もあるから、きっと楽しめると思うよ」

 

「はは、そうですね。またこの家に来る機会があった時に……」

 

「え?――君は今日、うちに泊まるんだよね?後で見に行けると思うけど……?」

 

「…………何、だと……?」

 

「あれ?」

 

 

 ちょっと待て。何だそれ、聞いてねぇぞ!?

 

 思わずばっと承太郎の顔を見れば、即座にさっとそっぽを向かれる。……なるほどなるほど、そういう事ね?

 

 

「……承太郎くーん?君、わざと黙っていたね?」

 

「…………何の事だか、さっぱり分からん」

 

「俺の目を見て同じ事言ってみろよ、てめぇ」

 

 

 相手の胸ぐらを軽く掴むと、何故か数人の小さな悲鳴が聞こえたが、それは置いといて承太郎を尋問だ。

 

 

「俺はな、ここに泊まるなんて一言も言ってねぇんだよ。怪我を治してもらったり、目覚めるまでベッドで寝かせてもらったりした挙げ句、一晩泊まるなんて迷惑を掛けられるはずがねぇだろうが」

 

「気にするな。迷惑じゃない」

 

「気にするわ!そもそも俺は今日、生活用品その他諸々の買い出しに行く予定だった。明日からまたバイトだから今日のうちに買わないといけないし、というか今日俺自転車盗まれてさ、歩きで行かねぇと」

 

「あ"?盗まれた?犯人見つけてぶっ飛ばす」

 

「止めろ馬鹿。つか、話逸らすな。だからそもそもお泊まりなんてしてる余裕がねぇって言ってんだよ」

 

「明日一緒に行ってやる。荷物持ちに使え。だから早くバイト先に明日休むと連絡しろ」

 

「てめぇ何がなんでも俺を泊めるつもりか!」

 

「今さら気づいたのか?お前には端から拒否権なんざねーよ」

 

「もう嫌だこのジャイアン。で、本音は何だ?」

 

「吸血野郎に血を取られたお前が帰った後に貧血で倒れたらと思うと気が気じゃねえから泊まれ、頼むから」

 

「それならそうと最初から言えよ馬鹿め、心配ありがとう。お前明日荷物持ち決定な」

 

「はい、喜んでー」

 

「ド低音で棒読み止めろ」

 

「この俺に、裏声を使え、と……?」

 

「いつ誰がそんな事言った?ってかお前ふざけ始めると本当になかなか止まらねぇな?もう止めるぞ」

 

「アイアイサー」

 

 

 さて、話はまとまった。ジョナサン達の方へ振り向き、お世話になりますと頭を下げようとする。……が、彼らは何故か石化したように固まっていた。

 

 ディオ様、承太郎さん。あんた達時止め使ってないよな?

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

空条承太郎の友人は、孤独ではない



・男主視点。

・混部時空でのジョースター家について、捏造過多。


 ――空条承太郎だって、拗ねると子供っぽい行動を取る時があるはず。

 別名、空条ゴーイングマイウェイ太郎。





 

 

 

 

 バイト仲間に電話してシフトを変わってもらった後、ジョースター邸の皆さんと夕食を取る事になった。

 

 

 現在。この家には主人公ズとディオ以外にも、前世でのジョナサンの両親に、ホリィさん、朋子さんがいる。

 承太郎の父親である空条貞夫さんは、前世と同様にミュージシャンとして活躍中で、滅多に家に帰って来ないようだ。

 

 それから、前世ではジョセフの不倫相手だった朋子さんの今世での夫だが……仗助が生まれたばかりの頃に、離婚したらしい。

 前世といい、今世といい、朋子さん超苦労してるなぁ……

 

 さて。ここで今世のジョースター家について、整理するとしよう。

 

 

 まず、この豪邸の家主であるジョージ・ジョースターと、その家族。

 

 ジョージさんの妻である、メアリーさん。前世では馬車の事故で亡くなっていたが、今世では生きている。ちなみに、かなりの美人だった。

 それから、そんな2人の実の子供3人……大学生である長男のジョナサンと、次男のジョージ2世。高校3年である三男のジョセフ。

 それに加えて、養子である大学生のディオと、中学3年であるジョルノ。……以上7名が、今世のジョースター家だ。

 

 なお、今は家にいないジョージ2世……前世ではジョセフの父親だった彼は既に家を出ていて、なんと、恋人になった同い年のリサリサ(前世の記憶あり)と2人で暮らしているという。

 ジョージ2世は前世ではディオが生み出したゾンビにやられて亡くなっていたし、リサリサと一緒に是非幸せになって欲しい。

 

 次に、空条家と東方家。今世では、ジョースター家の遠い親戚扱いになっているようだ。

 空条家は、貞夫さんとその妻のホリィさん。2人の子供である高校2年の承太郎と、その妹で中学2年の徐倫。東方家は朋子さんと、一人息子で高校1年の仗助だ。

 

 ……以上が、現在ジョースター邸に住んでいる方々である。前世と今世でごちゃごちゃになりそうだな。

 

 

 そんな大人数で共に食事をするため、料理の数が多く、そして豪華だった。1人暮らしで自炊している俺は、食べながらも勉強させてもらった。

 食後も気になる事があって、料理担当の女性陣にいろいろ話を聞かせてもらっていたのだが……

 

 

「……おい、シド。うちの図書室に興味があるんじゃなかったのか」

 

「いや、まぁ気になるけど、今はホリィさん達から料理の話を、」

 

「今からついて来ないと、貴重な本を読ませてやらねえぞ」

 

「なっ、何!?ちょっと待て。せめてもう少し、」

 

「カウントダウン。5、4、3、2――」

 

「――っだあぁもう!分かった、今行く。……すみません、皆さん。料理の話、また明日聞いてもいいですか?」

 

「え、えぇ、いいわよ」

 

「ありがとうございます」

 

「行くぞ」

 

「分かったから、押すな」

 

 

 ……という、承太郎の我が儘のせいで、続きは明日という事になった。てめぇ、次から空条ゴーイングマイウェイ太郎と呼ぶぞ、この野郎。

 

 だが、我が儘に付き合った甲斐はあったな。ジョースター邸の図書室には旧図書館程ではないが本がたくさんあって、見た目は古いが貴重な本もあった。

 ついテンションが上がって、承太郎に笑われた事がちょっと恥ずかしい。

 

 

「お前は、本当に本が好きなんだな。いつもは落ち着いているくせに、この時ばかりは年相応だ」

 

「そんな子供を見るような目は止め……って、そういえば、お前の中身は40過ぎのおっさんだったな」

 

「おっさん呼ばわりするな。今はこの通り、若々しい17歳だぜ。……シドは、何故そんなに本が好きなんだ?」

 

「別に特別な理由はねぇよ。小さい頃から、俺の主な娯楽が読書だっただけだ。……それに、どんな事であれ知識を得る事は損にはならねぇ。――時には、生き残る術を教えてくれるからな」

 

 

 本当に、ガキの頃から本には何度も助けられている。

 

 

「……シド?」

 

「あ、……いや、何でもない。それより、承太郎のおすすめの本を教えてくれよ」

 

「それは構わねえが……なぁ、シド」

 

「ん?」

 

 

 本棚の間の通路で承太郎が立ち止まり、後ろにいる俺の方へ振り向く。

 

 

「……お前は、あの日。海辺で俺が訳の分からねー話をしても、黙って聞いてくれたよな」

 

「……あぁ」

 

「そうして話を聞いてもらった手前、こんな事を言うのは、我ながら勝手だと思うが――俺はいつか、お前の昔の話を聞きたい」

 

「っ、」

 

「何故、高校に入学する前の話を詳しく話さないのか。何故、家族の話をしないのか。……何故、普段から目付きの悪さだけでなく、素顔も隠そうとしているのか」

 

 

 うおぉう……こいつ、核心に迫ってやがる。なんて鋭さだ。

 

 

「……俺が自分の前世の話をするのが先か、お前が過去を話すのが先か……どちらが先になるかは分からないし、どちらが先になっても構わねえ。

 

 分かっている事は、たった1つ。――俺が、園原志人の親友であり、親友の事をもっと知りたいと思っている事だ」

 

「――――」

 

「……どんな話を聞いても、俺はお前の親友であり続ける自信がある。なんせお前は、昔の俺も今の俺も、丸ごと受け入れてくれた男だからな。……俺だって、お前の事なら丸ごと受け入れるさ。当然だろ?」

 

 

 こっ……こいつ、とんだ殺し文句を……!?

 

 

「……おい……おい、空条承太郎……!」

 

「あ?」

 

「てめぇ――そういうとこだぞっ!!」

 

「はぁ?」

 

「ちくしょう、この主人公属性が……!」

 

「……それは暴言か?褒め言葉か?」

 

 

 その言葉には答えず、髪を掻き乱し、頭を抱えて、照れと喜びと少しの理不尽な怒りを紛らす。

 

 

「はあぁー…………もう少し、」

 

「?」

 

「もう少しだけ、待ってくれ。俺だって、親友のお前には話したいさ。でも、俺にはまだ勇気が足りない」

 

 

 承太郎の前世と比べたら、俺の過去なんてちっぽけな物だ。ありきたりな、暗い過去。

 しかしそれでも、今世の俺にとっては、ただ話す事さえも勇気がいる事で……

 

 

「だが、お前を信じて事情を打ち明けたいと思っている事は、確かだ。だから承太郎――待ってて、くれるか?」

 

「……あぁ、もちろんだ。いつまでも、何十年経っても待ってるぜ」

 

「はは、そんなに長くは待たせねぇと思うぞ。多分」

 

「それだけお前との友情が長く続くと、信じているだけだ」

 

「だからそういうとこだぞ!?俺だって信じてるけどな!」

 

「くっ、はははははっ!!そうかそうか。そいつは何よりだ!」

 

 

 こいつの大笑いにも、さすがに慣れてきたな。良い笑顔で子供みたいに笑うんだよなぁ。中身おっさんのくせに。

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 客室に戻り、1人になった俺は、部屋に鍵を掛けてからイージスを呼び出した。

 

 

「……イージス。お前に聞きたい事がある」

 

「うん?何かな?」

 

「話す前に、ちょっと試したい事があるんだが……例の事件の犯人と戦った時、俺のイメージで結界の性質を変えたよな」

 

「そうだね」

 

「じゃあ――結界で防音とか盗聴防止をする事も可能なのか?」

 

 

 俺がそう聞くと、イージスはにっこりと笑う。

 

 

「もちろん、君のイメージ次第では可能だ。……いやぁ、志人なら気づくのも時間の問題だと思ってたけど、予想以上に早い。君が気づかなかったら、ずっと成長できないままだったと思う」

 

「その言い方だと、お前は俺が気づくまで何も言わないつもりだったのか」

 

「そうだよ。俺が親切に説明するのは初めての戦闘の時と、志人が俺の能力について自分で気づいた時だけにすると、最初から決めていたんだ。……何故だか、分かるかい?」

 

「…………俺の想像力や、発想力を鍛えるため?」

 

「正解!」

 

 

 なるほど。納得した。さっそく俺とイージスを包むように結界を張り、とりあえず防音効果を期待して、結界自体を厚くするイメージで……

 

 

「……どうだ?」

 

「うん。ちゃんと防音できてるよ。今の声の大きさなら、部屋の外に会話が聞こえる事は無い」

 

「よし。これで、ようやく本題に入れるな。――お前は、俺に前々世の記憶がある事を知っているのか?」

 

「……あぁ。知っているよ。――君が前々世の記憶を持っているからこそ、俺はここに存在している」

 

「何だと?」

 

 

 前々世の記憶があるから、イージスが存在している?……待てよ?それなら、俺が前世でスタンドの矢が刺さって死んだのは――!

 

 

「……前世では、前々世の記憶を思い出していなかった。だから俺は、スタンドの矢が持つウイルスに耐え切れずに死んだのか……!?」

 

「……そうだね。その解釈で、間違ってないよ。もしも志人が前世で、前々世の記憶を思い出していたら、矢のウイルスを克服するための土壌が整っていたはずだ。

 

 前世でも今世でも、志人の状態は……例えるなら、2つの魂が混ざった状態なんだ。

 承太郎達の世界の人間の魂と、別世界で生きていた人間の魂が混ざった存在……それが、園原志人として生きている。

 

 しかし、前世では前々世の記憶を思い出していなかった君は、魂が不完全な状態だった。その時はまだ不安定な存在だったから、本来なら耐えられるはずが、ウイルスに適応できずに死んでしまった。

 そして……前世で君がスタンドの矢に刺された時に生まれた俺は、今日君が覚醒するまで、ずっと君の中で眠っていたんだよ」

 

「……ずっと?」

 

「そう、ずっと。……君が学校でも、家でも辛い思いを抱えながら生きていた時も、呑気にずっと眠っていたんだ。志人が覚醒した時に、俺には前々世の記憶だけでなく、前世と今世の君の記憶も流れ込んで来た」

 

 

 ……そうだったのか。俺が知らなかっただけで、俺の中にはずっとイージスがいたんだな。そして記憶も共有している、と。

 

 

「……そりゃ、悪かったな。随分見苦しい様を見せてしまっ、」

 

「馬鹿。何で志人が謝るんだ。見苦しい訳ないだろ。君はずっと、ずっと一生懸命生きて来ただけだよ」

 

 

 逸らした視線を元に戻すと、イージスは悲しそうな表情をしていた。

 

 

「何で、お前がそんな顔をする?」

 

「俺が君自身だから。……君が悲しいと、俺も悲しい」

 

「……確かに、悲しくないと言ったら嘘になる。だが、今は少し心境が変わった。……俺の中にはずっと、お前がいた。――俺は、知らなかっただけで孤独ではなかったんだ」

 

「――――」

 

「お前がいてくれて、良かったぜ。イージス・ホワイト」

 

 

 今度はくしゃっと、泣き笑いのような顔になる。……俺も今、似たような顔になっているのだろうか?

 

 

「……俺だけじゃないよ」

 

「ん?」

 

「今の君には、不器用だけど優しい親友がいるだろ?」

 

「!!……っ、はは!あぁ、あぁそうだな……俺にはお前だけじゃなくて、あいつもいる」

 

「いつか、彼にも話せるといいね」

 

「……あぁ。承太郎には、知ってもらいたい」

 

 

 もう少しだけ、待っていてくれ。親友。……俺の踏ん切りがつくまで、本当にあともう少しだと思うんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 






※ジョナサンとディオの会話(ディオがかなり丸くなっています)

「…………」

「ディオ、何してるの?」

「!……ジョナサン」

「そこ、君の部屋じゃなくて園原君の部屋だよ?」

「……ふん。分かっている。俺は客人に用があるからここにいるのだ」

「駄目だよ、ちょっかいなんて出したら。……承太郎が牽制してたじゃないか」

「何だ。気づいていたのか」

「君の近くにいたから、偶然気づいたんだよ。彼、一瞬ディオの事を睨んでいた。……今までディオの事を気にしてなかった承太郎がそうする理由といえば、園原君の存在しか考えられないからね」

「ふっ……だからこそ、面白いじゃないか。奴をそうさせる程の"何か"が、この扉の先にいる客人の中にある」

「……駄目だよ?今は承太郎も落ち着いてるけど、下手に刺激したらどうなるか分からないんだからね?今度こそ財団から目をつけられて、ますます自由が無くなるよ」

「…………ちっ」

「うん、分かってくれて良かった!……でもね、ディオ」

「何だ?」

「園原君の方からディオに接触したくなるようなきっかけができた時は、関わってもいいんじゃないかなと思うよ」

「……ほう?」

「それなら、承太郎も渋々許しちゃうんじゃないかな?今日の様子を見る限り、園原君には甘そうだったし……」

「……確かにな」

「だから、時が来るまで待とう」

「……俺の方から、その時を待つ時間を縮める事もできるな」

「あ、それは駄目。ディオが少しでも意図的に行動したら、バレた時が怖いよ。承太郎は勘も鋭い」

「では、どうしろと?」

「だから待とうと言っている。偶然、その時が来るまで」

「……気の長い話だ」

「そうでもないと思うよ」

「何?」

「だって――"スタンド使いはひかれ合う"、だよね?案外、そう遠くないうちに機会が訪れるんじゃないか?」

「…………そんな楽観的な事を言うのは、貴様ぐらいだろうな。……まぁいいだろう。その話に乗ってやる。ありがたく思え」

「わー、ありがとう、ディオ」

「ふん!」




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

空条承太郎の友人は、馴染む



・男主視点。


 ――空条承太郎だって、スタンド使い同士のルールを信じたくない時があるはず。




 

 

 

 

 

「朋子さん、出来ましたよー」

 

「ありがとう!本当に、助かるわぁ」

 

「いえいえ、どういたしまして。……にしても、作ってる間も思いましたが、本当に凄い量ですね」

 

「うちの子達はみんな食べ盛りだから……あ、徐倫!お醤油ちょうだい」

 

「はいはい、母さん。……っと、園原先輩。そこの小皿取ってくれる?」

 

「あいよ、どうぞ」

 

 

 

 

「…………1日だけで随分馴染んだな、お前」

 

「おっ?おはよう承太郎」

 

「おはよう、シド。……で。どういう状況だ、これは?」

 

「見れば分かるだろ?一宿一飯の恩を返すために、朝飯作るの手伝ってんだよ」

 

 

 という訳で、翌朝。朝早くに起きた俺は今、女性陣と一緒に朝食を作っている。

 

 俺が起きた時には既に、彼女達は料理の準備に取り掛かっていたので、手伝いを申し出たところ歓迎された。

 最初は簡単な事を任されていたのだが、俺が料理に慣れている事が分かると、仕事がどんどん増えていった。料理は嫌いじゃないから、仕事が増えても問題ない。

 

 承太郎が起きて来た今もちょうど、一品作ろうとしていたところだ。

 

 

「そうだ、ちょうどいい。お前、料理できるんだろ?野菜切るの手伝ってくれよ。ちゃちゃっと野菜炒め作りたいんだが、量が多くてな」

 

「分かった。手伝う」

 

「えっ!?」

 

 

 俺が承太郎に手伝いを頼み、こいつがそれを引き受けると、隣で徐倫が驚いた。他の女性陣も、声には出さないが驚いているらしい。

 

 

「ま、待って?父…じゃない、兄さんって料理できるの!?」

 

 

 "兄さん"と言い換えたのは、スタンドも波紋も使えないため、記憶を取り戻していない他の女性陣がいるからだろう。

 

 

「……できるが、言った事はなかったか?」

 

「聞いてないわ!……って、さっそく野菜切ってる。えっ?つーか、手際良過ぎ!?」

 

「すごーい!承太郎ったら、本当に慣れてるのね!」

 

 

 女性陣が揃って驚いている。承太郎が料理ができる事を、本当に知らなかったようだ。

 

 

(……あれ?じゃあ俺が高熱出した時にお粥作ってくれたのって、かなり珍しい事だったのか?)

 

 

 とすると……彼女達にそれを教えたのは、ちょっと勿体なかったかもしれない。

 

 

 それから、続々と起床したジョースター家の皆さんが、承太郎がキッチンにいるのを見て一様に驚いていた。

 特に、ジョセフと仗助が大げさに驚き、キッチンの側で騒いでいたが、スタープラチナによって摘まみ出されている。

 

 その際。スタンドが見えない人達が驚いていなかった事を不思議に思ったが、後で聞いた話によると、記憶を取り戻していない人達は、スタンドと波紋の存在だけは知らされているらしい。

 

 

 閑話休題。朝食も食べ終わり、昨日の約束通り承太郎を買い出しの荷物持ちとして連れて行こうとしたのだが……その途中で、仗助に声を掛けられた。

 

 

「志人さん。昨日、承太郎さんと話してる時に、自転車盗まれたって言ってたっスね?」

 

「あぁ、そうだけど?」

 

「……今、その自転車の鍵とか持ってないっスか?」

 

「持ってるぞ」

 

「それ、買い物行ってる間だけでいいんで、ちょっと貸して欲しいんスよ」

 

「構わねぇが……何に使うんだ?」

 

「それは後のお楽しみっス!」

 

 

 と言って、にこやかに笑う仗助。……嫌な物は含まれていないな。それなら、まぁいいか。

 自転車の鍵を取り出して彼に渡すと、お礼を言って立ち去って行った。本当に何に使うんだ?

 

 

「ふっ……なるほど。そういう事か」

 

「承太郎には分かったのか?」

 

「まぁな。……後のお楽しみ、だぜ」

 

 

 承太郎も、今答える気は無いようだ。……じゃあ仕方ない。さっそく買い出しに行くとしよう。

 

 

 

 

 

 

「おーい、ジジイ」

 

「今はジジイじゃねえ!ピッチピッチの10代よン!……何だ?仗助」

 

「ここに、志人さんから借りた、あの人の自転車の鍵があるっス」

 

「……ほほう?そういや、昨日盗まれたとか言ってたなァ?……で?」

 

「分かってんだろ。――ハーミット・パープルの念写」

 

「フフフ……!いいぜ。その代わりに自転車がある場所が分かったら、面白そうだから俺にも付き合わせろよ?」

 

「いいっスよォ。んじゃ、よろしく」

 

「はいはーい」

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 スーパーで必要な物を買い、一旦自宅に帰って来たところで、昨日1日中洗濯物を干しっぱなしにしていた事を思い出し、慌てて取り込んだ。雨降らなくて良かった!

 洗濯物をしまってから振り向くと、承太郎がテーブルの上のとある残骸を見つめている。……ちゃっかり、以前クレーンゲームで手に入れた、あのイルカのぬいぐるみを抱えていた。

 

 

「……シド。これは?」

 

「あぁ、それか。多分、犯人が自転車盗む時に、鍵掛ける部分を無理やり壊してから持って行ったんだろうな。その残骸だよ」

 

「……これ、うちに戻る時に持って行くぞ」

 

「え?何で?」

 

「後のお楽しみ、だ」

 

 

 スマホを操作しながら、承太郎がまたそんな事を言った。……さっきの仗助の行動に、承太郎の言葉。これは、もしや――?

 

 

 ……気を取り直して、買い物のついでに買った材料で簡単に昼飯を作り、2人で食べた後。自宅から出てジョースター邸へ向かっていた時……あの吸血野郎と戦った、例の公園の前を通り掛かった。

 

 俺が足を止めると、それに気づいた承太郎が振り向く。

 

 

「シド?」

 

「…………もしも自転車が盗まれてなかったら、俺はそれに乗って買い出しに向かっていたはず。

 そうなったら、承太郎が戦い始める前にここを通り過ぎて、あの場に居合わせる事も無かったのかもしれない」

 

「……後悔、してるのか?」

 

「いや、全然。それは無いと断言できる」

 

 

 その言葉に偽りは無い。あれが無かったら、イージスが目覚める事も無かったし、それだと承太郎を護る事もできなかった。

 まぁ、そもそも俺がいなければ、承太郎に対する人質になる事もなく、無事に戦闘が終わっていた可能性が高いが、な。

 

 俺のせいで、危うく承太郎の方が血を取られ…って、そんな事言ったら怒られるか?止めておこう。

 

 

「ただ……不思議だな、と思ったんだよ。承太郎がここを通り掛かった時に、偶然吸血野郎に目を付けられた事。自転車を盗まれて歩きで買い物に向かっていた俺の目の前に、偶然瀕死の吸血野郎がすっ飛んで来た事。

 

 俺とお前の偶然が重なった結果、あんな事になって、俺がスタンドを発現して。

 しかも承太郎を探しに来た仗助が俺の顔を覚えていて、あいつの言葉が俺の前世の記憶を呼び起こすきっかけになって……一体どういう巡り合わせだよ。

 

 神の存在なんか信じてねぇが、こればっかりは神とやらの悪戯なんじゃないかと疑った」

 

「――スタンド使い同士は、ひかれ合う」

 

「!」

 

 

 承太郎の言葉にはっと顔を上げると、彼は真っ直ぐに俺の目を見ていた。

 

 

「……前世からの、スタンド使い同士のルールみたいなものだ。どういう訳か、俺達スタンド使いは相手の正体を知らなくても、同じスタンド使いと偶然出会ってしまう事がよくある」

 

「……へぇ。そんなルールが……」

 

 

 そのルール、今世でも通用するのか。だからあんな偶然が続いた、と?

 

 

「……あっ。俺とお前が旧図書館で遭遇する事が多いのも、それが理由か?」

 

 

 あの遭遇率は異常だから、そういう事ではないかと思ったが、承太郎が眉をひそめた。……もしかして、拗ねてる?

 

 

「……俺は、そうじゃねえと思いたい。そう言われると、互いにスタンド使いではなかったら出会っていなかった、と言っているようにも聞こえる」

 

 

 なるほど。確かに、そう聞こえてもおかしくないな。……じゃあ、こうしよう。

 

 

「……俺が承太郎と出会った時は、まだ前世の記憶を思い出していなかったし、イージスだって俺の中で眠っていた。

 それから俺が梯子から落ちた時、何をしたのかは知らねぇが、スタープラチナの力で俺を助けてくれたんだろ?」

 

「あぁ。……スタープラチナは数秒間、時を止める事ができる。俺は止まった時の中でお前の落下地点まで駆け寄り、再び時が動き始めた瞬間、お前を受け止めた」

 

「時を止める!?すげぇな、そりゃ……あー、それはともかく。その時の俺は、スタープラチナが見えなかった。

 

 ――だから、俺と承太郎が出会った時、俺がスタンド使いじゃなかった事は確実だ。俺とお前の出会いに、スタンド使いかそうでないかは全く関係が無かった。……そうだろ?」

 

 

 すると、承太郎はゆっくりと目を見開き、そして嬉しそうに微笑んだ。うむ、良い笑顔だ。

 

 

「……あぁ、そうだ。俺達はきっと、スタンド使い同士じゃなくても必ず出会っていた」

 

「俺もそう思う。……足止めて悪かったな。行くか」

 

「おう」

 

 

 承太郎が背を向けて先に歩き出したので、俺もその後に続く……と、

 

 

「――っ、いってぇ!?てめー、何処見てんだよ!」

 

「うわ、デカ…っ、やんのかコラァ!!」

 

 

 曲がり角から出て来た不良の1人と、承太郎がぶつかった。向こうは人数が多い。…………あー。

 

 

「……なぁ、シド。俺はな、ついさっきまではお前のおかげで最高の気分だった」

 

「……おう」

 

「それがたった今、最悪の気分になった」

 

「…………おう」

 

「――こいつらぶっ潰してもいいよな?」

 

「こらこら、待ちなさい」

 

 

 今にも暴れそうな猫科の猛獣の腕を両手で掴み、説得を開始する。

 

 

「不良のレッテル貼りは嫌なんだろ?止めとけって。早くお前の家に戻ろう。な?」

 

「ちょっと殴るだけだ」

 

「お前の"ちょっと"は、絶対に"ちょっと"じゃない。というか本当にちょっと殴ったとして、相手が解放してくれると思うか?思わねぇだろ?」

 

「じゃあ全員まとめて、」

 

「だから待てって。それ悪化してるから。"じゃあ"じゃないから」

 

「っ、無視すんじゃねーよ!死ね!!」

 

 

 承太郎の腕を片手で掴みながら前に出て、不良共に背を向けて立ち塞がる。

 すると痺れを切らしたのか、不良の1人が暴言を吐きながら俺を殴ろうとしたため、念のために自由にしておいたもう片方の手で受け流す。

 

 

「悪いんだけど、邪魔しないでくれませんかね。俺、今こいつの説得で忙しいので」

 

「なっ、っ、なにガン飛ばしてんだ!」

 

「何だその目付きは!やる気か!?あ"ぁ!?」

 

「……睨んでねぇっつの」

 

 

 あ"ー悪化したぁぁ!面倒くせぇ!! ……って、また殴って来た!?

 だが、その時。俺が掴んでいた承太郎の腕が急に引かれ、俺がその力に負けて引き寄せられると同時に、後ろで鈍い音と悲鳴が聞こえた。……殴られたな。承太郎に。

 

 

「……やれやれだぜ。――俺の親友を、二度も殴ろうとしやがったな?よし、潰す」

 

 

 【任務】黒豹の手綱を握り、喧嘩を阻止せよ。

 

 ――ミッション、失敗。

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 ……あれからしばらくして、承太郎の方から着信音が聞こえて来た。あいつはスマホを取り出すと、その場で電話に出る。

 

 って、この状況で出るのかよ。

 

 

「……仗助?どうした」

 

「承太郎さん、今どこに――」

 

「てめー余裕ぶっこいてんじゃ、ぐえっ!?」

 

「――あー、なるほど理解したっス」

 

 

 しかもスピーカー!そして相手は仗助だった。

 

 

「……あれ?じゃあ志人さんは?」

 

「仗助。俺もここにいる――ほら、足元がお留守だぜ!」

 

「うぎゃあっ!?」

 

「……グレート!今世でも喧嘩はできるみたいっスね。無事なら良かった。あっ、でももし殴られたら俺に言ってください!怪我治すし、すぐに駆け付けて志人さんの分まで殴りに行くっスよ!!」

 

「いや、そこまでやらなくていい。……ちょうど今、終わったからな」

 

「あらァ、それは残念。俺も混ざりたかったのに」

 

「……その声、ジョセフ先輩ですか?あなたもいたんですね」

 

 

 地面には死屍累々……死んではいないが、主に承太郎にボコボコにされた不良達が転がっていた。俺は大体適当にあしらって、たまに殴るか蹴るかぐらいだったし。

 人が来る前に去ろうと、2人揃って早足で現場から離れながら、承太郎が電話で話す。

 

 

「……で、そっちはどうなった?」

 

「上手くいったっスよ!」

 

「へっへっへ!多分事情が分かってないと思う園原くんは、帰ってからのお楽しみィ!じゃあな、待ってるぜ」

 

 

 そんな言葉を最後に、電話が切れる。……その後、承太郎と共にジョースター邸に戻ると、玄関の前で仗助とジョセフが待っていた。

 

 その傍らには、1台の自転車。

 

 

「――まさかとは思っていたが……本当に俺の自転車を取り返してくれたのか!」

 

「へへ、そうっスよ!ジジイが志人さんの自転車がある場所を見つけくれて、2人で取り戻しに行って……」

 

「ところが偶然、自転車を盗んだ犯人と鉢合わせてなァ……ちょおっと、おはなし(・・・・)した上で取り返したぜ」

 

 

 ……きっと、お話し(物理)だったんだろうなぁ。深くは聞かないようにしよう。

 ついでに、ジョセフのスタンドであるハーミット・パープルの能力を教えてもらった。仗助から受け取った俺の自転車の鍵を媒介に、念写で場所を突き止めたそうだ。

 

 最初はジョセフのスタンドの事をすっかり忘れていたから、鍵を借りに来た仗助の意図が分からなかったんだよな。

 

 

「志人さん。これから最後の仕上げをやるっス。……承太郎さん。それ、さっき言ってた残骸っスよね?こっちにください」

 

「おう」

 

 

 承太郎がビニール袋に入れた、鍵を掛ける部分の残骸だ。

 やはりこれを持って来たのは、物を直す能力を持つ仗助に渡すためだったんだな。そして彼が残骸の事を知っているのは、あの時携帯を操作していた承太郎が、仗助にそれを伝えたから。

 

 

「――クレイジー・ダイヤモンド!」

 

「ドラァ!」

 

「お……おおっ!直った!」

 

 

 仗助のスタンドによって、俺の自転車は完全に修復された。原作で見た事はあるが、実際に現実でそれを見ると感動する!

 

 

「これなら使えるな。ありがとう、仗助!クレイジー・ダイヤモンド、だっけ?その能力凄いな!」

 

「いやいやァ!そんな事は……まぁ、あるんスけどね!へへへっ!」

 

 

 俺に褒められて嬉しそうな顔をするので、ついまた頭を軽くポンポンと撫でてしまった。……リーゼントを崩さないように気をつけてるし、仗助は怒らないから、まぁいいよな?

 

 

 承太郎とジョセフには、凄い目で見られているが。

 

 

 

 

 

 

 

 






※以下はおまけの、イカサマ親子の会話。

「――よォし。程よくボコボコにしたし、後は綺麗に治して帰るぜ、仗助」

「うっす。……あぁっ!?今気づいたけど鍵の部分が壊されてる!?」

「あー、鍵をちゃんと掛けてたのに、それを壊して持って行ったって事ねェ」

「…………もうちょっと殴っても、」

「止めろって、仗助。気持ちは分かるが、それよりも早く園原くんに返してやろうぜ」

「でも……あれ?承太郎さんからメッセージ来てる」

「おっ?何だって?」

「……"自転車取り返しに行ってるんだろ?シドは自転車の鍵を犯人に壊されたらしい。残骸を発見した。持って行くから、後で直してくれ"、と」

「おお、ナイスタイミング。……つか、承太郎の奴、お前が何をする気か分かってたのね」

「本当に承太郎さん、さすがっスね。"了解"っと……あ、続き、が、」

「……仗助?」

「――"お前の事だから、鍵を壊されたと知って必要以上に殴りたくなるだろうが、自重しろ"」

「ギャハハハハ!読まれてるゥ!!」

「"というか、"」

「ン?」

「"俺だって殴りたいが、そもそも目の前に犯人がいないから我慢している。だからお前も我慢しろ"」

「ぶほっ!?私怨かよ、承太郎ちゃん!!」

「"じゃあ承太郎さんの分までボコりますか?"、送信」

「えっ」

「おっとォ?――"許可する。一発だけ頼んだ"。……グレート!!」

「ちょっ、はは、ギャハハハハ!!マジか承太郎……!」

「ってわけでもう一発いきまァーす!!」

「仗助ちゃん、生き生きしてるゥ!!」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

空条承太郎の友人は、検証する



・男主視点。

・SPW財団とスタンドについて、超捏造過多。


 ――空条承太郎だって、親友と遊び()たくなる時があるはず。





 

 

 

 

 俺がスタンドを発現した日から、数日後。ジョースター邸にSPW財団から人が来たと聞き、再びお邪魔させてもらった。

 相手はスーツを着た男性で、見た目は普通のサラリーマンにしか見えない。だが、とにかく誠実な人だった。

 

 まさか、登録の手続きの前に真っ先に謝罪されるとは思わなかった。

 

 結果的にスタンドを発現したとはいえ、一般人だった俺を例の事件に巻き込んでしまった事を、酷く申し訳なく思っていたらしい。

 もちろん、謝罪は受け入れたが……その後、人払いをして今世の俺の過去に触れると、財団として何か協力できる事があれば、いつでも言って欲しいと言われた。

 

 何故そこまで?……そう聞いたら、こんな言葉が返ってきた。

 

 

「例の事件に巻き込んでしまったお詫び……という理由もありますが、一番の理由は――あなたが、空条承太郎さんの大切なご友人だからです。

 我々は前世でも、今世でも、財団の創設者であるロバート・E・O・スピードワゴン様の意向で、ジョースター家のサポートをする事が、重要な行動理念となっております」

 

 

 前世、と聞いて驚いたが、実はこの男性もスタンド使いだった。今世の財団の構成員は前世よりも少ないが、代わりにその半分がスタンド使いで構成されているとか。

 どうやら事前に承太郎から、"園原志人は自分の友人だから、万が一彼の身に何かあった時は助けてやって欲しい"と、頼まれていたらしい。

 

 

「……時に。私が"空条さんの前世の事をお教えしましょうか?"と言った場合、あなたはそれを聞きたいと思いますか?」

 

「……質問の意図が読めませんが、もしもそう聞かれたら、答えは"いいえ"です。俺はあいつが自分から話してくれるまで、別の誰かから話を聞くのは避けたいと思っています。

 あいつも、俺が自分から過去を話してくれる時を待つと言ってくれましたから。俺だって、その信頼に応えたい」

 

「なるほど。……空条さんにも、似たような事を言われました」

 

「え?」

 

「これは私の失敗談になるのですが、実はあなたの過去について調べた後、ご友人ならそれを知りたいだろうと思って、私は空条さんに先にご報告しようとしました」

 

「っ!……それで?」

 

「――怒鳴られました」

 

「……はい?」

 

「今世では滅多に怒鳴らなくなったあの方に、それはもう叱られました。

 "報告しろと頼んだ覚えは無い。俺はシドが自分から過去を話すまでいつまでも待つと、あいつに伝えた。あいつはその言葉を信じてくれている。俺にその信頼を裏切らせるつもりか"……と」

 

「――――」

 

「……その信頼関係、絆の強さに敬服いたしました。また、相手がご友人とはいえ、あなたの過去について調べた結果を勝手に他人に明かそうとしてしまった事、深く謝罪いたします。申し訳ありませんでした」

 

「は、はぁ……」

 

「これからはその罪滅ぼしを兼ねて、園原さんの事を全力でサポートさせていただきます。どうぞ、よろしくお願いいたします」

 

「あぁ、えっと……はい。よろしく、お願いします」

 

 

 承太郎の言葉に赤面すればいいのか、目の前にいる財団の構成員の尊敬の眼差しに目を逸らせばいいのか、非常に迷った。

 

 でも、嬉しい。ちくしょう、やっぱお前そういうとこだぜ空条承太郎……!

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 それから、さらに数日後の休日。俺は承太郎と共に、ある場所へ向かった。

 

 都心から少し離れた場所に建てられた、見た目はごく普通のビル……の、横にある細道を通り、ビルの裏手に回る。

 そこには行き止まりにシャッター付きの小さな倉庫があるだけで、他には何も無い。

 

 

「…………おい。まさか、あの倉庫が入口だとか言わないよな……?」

 

「その、まさかだ。よく見てろ。次はお前1人でも行けるようにな」

 

 

 承太郎はシャッターの横にある電子ロックに手を伸ばし、番号を入力する。

 

 

「……この電子ロックの暗証番号は、定期的に更新される。番号が変わると財団からメールが来るから、ちゃんと確認しておけ」

 

「了解」

 

「ちなみに。財団に登録したスタンド使いを含む財団関係者以外が電子ロックに触れた場合、軽い電気ショックに襲われる。

 それから、この倉庫への破壊活動が確認された場合は警報が鳴って、スタンド使いの警備員が駆け付ける。……もっとも、この倉庫自体が頑丈だから、余程の事がない限りは壊れないはずだ」

 

「うーわ、素敵な厳重警備デスネー」

 

「くくっ……!そうだな。全く、素敵な、厳重警備だ」

 

 

 番号の入力が終わると、倉庫のシャッターが自動で開いた。その向こうには両開きの自動ドアがあり、これも開く。

 

 

「――エレベーター……?」

 

「おら、早く乗れ」

 

「アイアイサー…って、突っ込み所あり過ぎだろ。マジで秘密結社のアジトの入口じゃねぇか」

 

「ふっ……実は俺も、最初見た時にそう思った」

 

「だよな」

 

 

 中に入ると扉が閉まり、エレベーターが地下へと動き出す。……やがてエレベーターが止まり、ドアが開くと――

 

 

「さぁ――ようこそ。SPW財団、東京支部へ」

 

 

 ――真っ白な空間の中で多くの人が行き交っており、誰もが忙しそうにしていた。見上げると、天井が高い。それが、この空間をより広く見せている。

 

 承太郎は俺について来いと声を掛けると、迷う事なく前に進み、受付へ向かった。

 既に話は通っていたようで、俺と承太郎は今日の目的地――スタンド使い専用の訓練場へ向かう。

 

 

 今日。俺達がここに来たのは、イージス・ホワイトの大体の能力を把握するためだった。

 承太郎にイージスの能力を把握するために、いろいろ試せるような場所はないかと聞いたところ、ここに連れて来られたのだ。

 

 案内ついでに自分が検証に付き合ってやる、とも言われた。前世での戦闘経験が豊富な承太郎の申し出はありがたいので、遠慮なく頼らせてもらう。

 

 

「イージス」

 

「はいはい。……承太郎、今日はよろしくね」

 

「おう。……さっそく始めるぞ。まずはどうする?」

 

「最初は、イージスのバリアの強度を確かめたい。こいつは何でも防ぐと言っていたが、強度については何も言ってなかったからな」

 

「……ふふ。良いね。何でも自分の目で確かめようとする姿勢は、素晴らしい」

 

 

 訓練場に到着した俺は、手始めに結界――最近、バリアという呼び方に変えた――の強度を確かめる事にした。

 ちょうどパワーに優れたスタンドを持つ承太郎がいるし、こいつの本気のラッシュにバリアがどれだけ耐えられるのかを知りたい。

 

 

「――オラオラオラァ!!」

 

 

 結果――数秒で破壊された。……なるほど。近接パワー型の本気のラッシュだと、あまり耐えられないようだ。

 

 ただし。……今のは、俺が何も考えていなかった場合の検証だ。次は違う。

 

 

「……拍子抜けだぜ。こんな物か?」

 

「いいや。まだ、試したい事がある」

 

 

 イージスによると、バリアは俺のイメージ次第で性質を変える事ができる。……その強度も、変化させる事ができるはずだ。

 俺がイメージするのは、ジェダイトという宝石。この宝石は硬度が高くないため、傷は付きやすいが……その代わりに靭性――衝撃への耐性が非常に高い。宝石の中では、1番割れにくい石だ。

 

 それにジェダイトは、日本で言う翡翠。それは、俺にとっては見慣れた色――承太郎の瞳の色と、同じだ。

 

 あいつの目には、いつも意志の強さを感じている。芯の通った強い目。それは時に不安や悲しみで揺れる事があるが、濁る事は無い。

 その本質は変わらず、あいつの目は強い意志によって輝き続ける。根本的な部分は決して折れない。

 

 

 その強さこそが、何でも防ぐというバリアのイメージに相応しい。

 

 

「――イージス・ホワイト。……俺のイメージ通りに、バリアの性質を変化させろ」

 

「……これ、は――っ、はは!良いね、志人。最高のイメージだ!」

 

 

 イージスが杖を振り、俺のイメージをバリアに付与する。……白いバリアが、翡翠色に変化した。

 

 

「……さぁ、承太郎。今度のバリアはちょっと違うぞ。試してみろ!」

 

「……分かった。いくぞ!」

 

 

 再び、スタープラチナのラッシュが始まる。……数秒経過しても、バリアは破れない。

 

 

「っ――スタープラチナ!」

 

「オラァ!!」

 

 

 驚いた承太郎は、さらに猛攻を仕掛けた。しかし、それでもバリアは健在だ。……やがてラッシュが終わり、それとほぼ同時にバリアが自然消滅した。俺は両膝に手をついて、息を整える。

 

 

「……なんか、さっきよりも疲れてるんだが」

 

「……正確な良いイメージはね、その分かなりの効果が出るけど、本体である君の体力や精神力を削るのさ」

 

「そうか……イージスは、この状態を俺に経験させたかったのか?」

 

「正解!……体力と精神力の大切さは分かったね?これからは出来る限り体を鍛えて体力をつけて、いろんな事を経験して精神力を強くするといいよ」

 

「分かった。ちょっと考えてみる。……あ?って事は、俺の体と精神にダメージがあると、その後のバリアの効果にも悪影響が出る……?」

 

「うんうん、その通りだよ。その調子で、想像力と発想力をもっと鍛えてね」

 

「おう……」

 

 

 そこへ、承太郎が歩み寄って来た。……複雑そうな表情だな。

 

 

「……初めてだ」

 

「ん?何が?」

 

「スタンドの拳で殴っている最中に、自分の拳の方がじんじん痛み出したのが。……見ろよ。俺の手が少し赤くなってるぜ」

 

「……何か、すまん」

 

「謝らなくていい。俺もまだまだだという事が分かった。鍛練の時間、もっと増やすかな」

 

 

 お前、これ以上強くなってどうすんだよ。

 

 

「……敵にすると厄介だが、味方ならお前以上に頼もしい守護者はいないだろう」

 

「それはお前にも言える事だが、まぁ、ありがとう。……そろそろ、次の検証に付き合ってくれるか?」

 

「おう、任せろ」

 

 

 その後も、バリアを利用して敵を閉じ込める想定で検証したり、バリア自体にどれ程の効果を付与できるのかを試したり……いろいろ実験した。

 

 そして最後に、こんな事を試してみる。

 

 

「――俺と同化して、戦う?」

 

「あぁ。……攻撃手段が無いと、万が一1人で敵と戦闘になってしまった時がきついと思って、ちょっと考えてみたんだ。

 それに、バリアも万能じゃない。例えば、バリアを張る前にスタープラチナの時止めを使われたら、一瞬でバリアの内側に入られて、俺が殴られて終わりだ。今後、敵にそれと似たような真似をされたらアウトだろ?」

 

「……確かにな。シドの懸念は正しい。だが同化したところで、その後はどうやって戦うつもりだ?」

 

「イージスがちょうど、手頃な武器を持ってるから、俺がそれを使おうかと思ってる」

 

「手頃な武器って……まさか、この杖の事かい?」

 

 

 その通り。俺は、イージスが持つ長くて細い杖で戦おうと考えていた。

 棒術、という技術がある。棒はやり方次第で応用が利く武器だ。ただ打つだけでなく、突けば槍の代わりになるし、薙げば薙刀の代わりになる。

 

 数日前から棒術についてネットで調べたり、過去に本で読んだ内容を思い出したりしていた。素振り程度でいいから、少し試してみたい。

 

 

「ふむ……もちろん、志人のイメージ次第で同化する事は可能だけど、どうせなら杖だけでなく、他も利用して欲しいな」

 

 

 そう言って、イージスが背中の翼を大きく動かし、再びしまう。その翼、動くんだな。……って、

 

 

(えっ?マジで?……これ、いけるのか?)

 

 

 いや。イージスが言うなら、俺のイメージ次第で本当に利用できるんだろう。……完成形を想像して、試しにやってみるか。

 イージスに声を掛けて、さっそくやってみよう。今回はより集中するために、目を閉じて想像する。……やがて、背中と手元に違和感を感じたが、それもすぐに収まった。

 

 

「……よし、どうだ?承太郎」

 

「…………」

 

「……承太郎?」

 

「――――天使がいる」

 

「はっ?」

 

「いや、何でもねえ。……同化は成功だな。杖もあるし――翼も生えてる。ただ同化の影響なのか、顔にイージスと同じ金の刺青が出て来たぜ」

 

「えぇー……?派手だなぁ。鏡見るのが怖い」

 

 

 とにかく。その場で棒術の素振りを行い、さらに翼を動かして浮いてみた。……不思議とバランスが取れている。低空飛行だけなら問題無い。イージスのおかげか?

 

 そういえば、イージスと意志疎通はできるのか?

 

 

(――できるよ)

 

(うおっ!?)

 

 

 どうやら、頭の中で会話ができるらしい。便利だ。……と、その時。承太郎がぶつぶつと、独り言を呟いている事に気づいた。

 

 

「承太郎?……どうした?」

 

「――スタープラチナと、同化するイメージ」

 

「あ?」

 

 

 それは、突然だった。……目を閉じる承太郎の背後にいたスタープラチナが、彼自身に溶け込むように消えていく。

 見た目はそこまで変わらなかった。両手にスタープラチナのグローブと、首元にスカーフ?が追加されたぐらい。

 

 だが、身に纏う空気が圧倒的強者のそれだ。

 

 

「……ほう。こいつは良いな。力が漲る……」

 

 

 好戦的な笑みを浮かべた承太郎は、俺を見てさらに笑みを深める。うわぁ、嫌な予感しかしない……!

 

 

「なぁ、シド。――このまま、ちょっと遊ぼうぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

花京院典明は、星屑十字軍と共に愕然とする



・花京院視点。

・SPW財団とスタンドについて、超捏造過多。


 ――空条承太郎だって、最高にハイ!!になる時があるはず。




 

 

 

 

 

「――前にちょっと話した事あるだろ?新しくスタンド使いとして目覚めた、園原志人っていう奴の話!

 そうそう、前世では仗助の知り合いで、今世ではなんとォ!承太郎のお友達っていう、あいつや花京院の同級生の事。

 

 で、花京院は承太郎から紹介してもらったかァ?……まだ?じゃあやっぱりちょうど良いな!

 さっきジョルノから聞いたんだけどさ、承太郎の奴、園原くんを財団の東京支部に連れて行って、案内ついでに園原くんのスタンド能力の検証に付き合ってるらしいよン。

 

 ――どうよ?今から会いに行かねーか?

 

 ポルナレフもアヴドゥルも、園原くんにはまだ会ってないらしい。

 ポルナレフは家で飼ってるイギーを散歩ついでに連れて来るっていうし、前世の旅仲間全員集合で、さらに承太郎には内緒で!そのお友達を歓迎してやるってのはどうだ?」

 

 

 ……休日に、ジョセフさんからそんな電話が掛かってきたので、僕は喜んでその話に乗った。

 

 

 1週間程前。承太郎が変死体事件の犯人であるスタンド使いと戦闘になったと聞いた時は驚いたが、彼ほどのスタンド使いなら大丈夫だろうと、そこはあまり心配していなかった。

 

 だがそれ以上に驚いたのが、その戦闘に一般人が巻き込まれた事。しかしただの一般人ではなく、土壇場でスタンドを発現させた事。

 前世では、承太郎の年下の叔父である仗助君の知り合いだった事。――今世では、承太郎の友人である事。

 

 承太郎に前世の仲間以外の友人がいるとは、知らなかった。……前世の旅仲間である僕達も、今世の家族であるジョースター家の人達も、誰も知らなかったというのだから、本当に驚いた。

 さらにジョセフさんの話によれば、随分仲が良さそうだったという。

 

 それなら、付き合いは長いのかもしれない。いつ何処で出会ったのか、どんなきっかけがあったのか、僕達に教えなかったのは何故か、その友人はどんな人物なのか……疑問は尽きない。

 

 

 そんな、謎に包まれた承太郎の"秘密の友人"が今、SPW財団の東京支部にいる。……会いたくなるのは当然だった。

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 東京支部のロビーで、僕、ジョセフさん、ポルナレフ、イギー、アヴドゥルの4人と1匹が合流し、承太郎達がいるという訓練場へ向かう。

 

 

「おっと。下に行く前に、あいつらがどんな事をやってるのか、ちょっと上から覗いてみようぜ」

 

 

 そう言って、悪戯っぽく笑うポルナレフに、ジョセフさんが賛成し、僕とイギーとアヴドゥルもそれについて行く。

 この訓練場の上には、中の様子を見物できる場所がある。そこには財団の構成員の中でも、スタンドについて研究している者がよく集まるのだ。

 

 特に、今日訓練場を利用しているのは、最強のスタンド使いである承太郎と、最近スタンドを発現した新人。……きっと、いつも以上に集まっているだろうな。

 

 上に行くと案の定、人がたくさん集まっていた。……だが、予想以上にざわざわしている。

 

 

「……イギギ」

 

「これは、何事だ?随分と賑やかだが……」

 

 

 途中でポルナレフに抱えられ、その腕の中にいたイギーが煩わしいと言わんばかりに目を瞑り、アヴドゥルが首を傾げる。

 同じように首を傾げたジョセフさんが、財団の研究員の1人を捕まえて事情を聞いた。

 

 

「おい。何の騒ぎだ?」

 

「あぁ、ジョセフさん!あれを見てください!空条さんも凄いですけど、彼と戦ってる園原くんも凄いんです!」

 

「あん?承太郎と戦ってるゥ!?園原くんが!?あいつのは防御特化のスタンドのはずだろ?どうやって戦ってんだ?」

 

「それがですね……あぁ、とにかく見てもらった方が早いです!どうぞ!」

 

 

 興奮気味の研究員に通されて、訓練場の中を見られる場所まで移動する。

 

 

 ――そこで繰り広げられていたのは、異次元の戦闘だった。

 

 まず僕が目にしたのは、白い翼を生やし、細長い杖を持つ人の姿だ。黒髪黒目で、承太郎並みに顔が整っている若い男。何故か顔に金の刺青が入っている。……そして目付きが悪く、怖い。

 あれが、園原志人。承太郎の友人?……ちょっと怖そうな人だな。本当に今の僕や承太郎と同い年なのだろうか?

 

 そんな彼は低空飛行で飛びながら、承太郎に向かって杖を振り回している。……それをいなし、代わりに拳を向ける、承太郎。

 彼の姿も変化していた。首元には見覚えのあるスカーフがあり、両手にも見覚えのあるグローブがついている。……あれは元々、スタープラチナが身に付けていた物じゃないか。どうなっている?

 

 そして、何よりも!

 

 

「…………おい、花京院」

 

「……何だ、ポルナレフ」

 

「俺は、夢でも見てんのか?――承太郎が、笑ってるんだが……」

 

「いいや、これは夢じゃない。僕も見ている」

 

「私も見ているぞ、ポルナレフ。……これは現実だ」

 

「俺の目にもはっきりと見えてるぜ……承太郎が、いっそ怖いくらいに笑ってるところがよォ……!」

 

「「…………嘘だろ承太郎」」

 

 

 思わずポルナレフと共にそう呟いた僕は、改めて承太郎を見る。……間違いなく、好戦的な笑みを浮かべていた。僅かに口端を上げるのではなく、顔全体が笑顔になっている。あの、承太郎が。

 

 

「……しかし、あの姿は何だ?彼の背中に生えた翼に、承太郎が身に付けているグローブ……あれは私の見間違いでなければ、スタープラチナの物に見えるぞ」

 

「そうです、アヴドゥルさん。――彼らは今、スタンドと完全に同化した上で戦っているのです!」

 

「なっ、」

 

「なにぃぃっ!?スタンドと完全に同化だとォ!?」

 

 

 僕達は揃って驚愕した。そんな事が、可能なのか!?

 

 当然だが、承太郎のスタープラチナは物質同化型のスタンドではない。それが本体と完全に同化するなんて……!

 

 

「始まりは、園原さんの思い付きのようでした。彼の提案に対して、自我を持った彼のスタンド、イージス・ホワイトができると頷き、彼らは完全に同化しました。

 さらにそれを見ていた空条さんが、彼らを真似て自分自身もスタープラチナと同化したんです!それからは、あの力を試そうと模擬戦をする事になり……現在、あの状態となっています」

 

 

 研究員の説明を聞いて、再び異次元戦闘に目を向ける。

 

 ちょうど、承太郎が反撃に出るところだった。地面を蹴り、人間離れしたジャンプ力で、空中にいる彼に迫る。

 承太郎が振り上げた拳を、彼が杖の持ち手側で跳ね上げた。その勢いで回転させた杖先で、カウンターを図る。

 

 下から振り上がるそれを、片手でガッと掴み取った承太郎は、もう片方の手で彼を殴る。それを、高く上げた片足で防ぐ彼。

 しかし。承太郎の力が強過ぎたのか、彼はそのまま吹っ飛ばされた。このままだと、地面に激突する!

 

 ……と思いきや、彼は空中で回転し、上手くバランスを取って地面に下り立った。

 

 

「何だ、あの一瞬の攻防は……!」

 

「いくら喧嘩慣れしてるとはいえ、承太郎のあの動きはかなり異常じゃねぇか……!?」

 

「あれはスタープラチナのパワーとスピードだな。今の承太郎はそれで強化されてる。あと、脚力もそうかァ?あのジャンプ力は人間には出せねえだろ」

 

「そうですね、ジョセフさん。それに彼……園原君もなかなかですよ。人間に翼が生えた状態なんて、普通はバランスが取りにくいはずなのに、今見ている限りではトリッキーな動きも可能ならしい。

 それに、杖を上手く扱っていますね。確か、日本では剣道や柔道といった技術以外にも、棒術の技術があると聞いた事がある……花京院。お前はどう思う?」

 

「…………」

 

「……花京院?」

 

「えっ!?あぁ……すまない、アヴドゥル。あの戦闘に集中し過ぎて、聞いてなかった」

 

「いや、構わないさ。気持ちは分かる」

 

 

 慌ててアヴドゥルと話を合わせるも、考えるのは別の事。

 

 承太郎も、彼も。心底楽しそうに戦っている。……僕達とスタンドを使った模擬戦をしている時、承太郎があんな風に笑っていた事は一度も無い。

 常に冷静で、笑っても僅かに口端を上げるだけ。だから、それだけでも承太郎なりに楽しんでいるのだと、そう思っていた。

 

 そもそも、他人の前では口元さえもあまり動かない無表情だから、僕達には気を許してくれていると思っていたのに。……どうやら、それは勘違いだったようだ。

 

 

 真に気を許されている相手は、彼……園原志人なのかもしれない。

 

 

「――あっ!?」

 

 

 その時。突然、空中を飛んでいた彼と、彼のスタンドと思われる人型が分離した。

 彼の下に立っていた承太郎が分かりやすく驚いて、慌てた様子で彼を受け止め、共に地面に倒れ込んだ。……それと同時に、承太郎とスタープラチナも分離する。

 

 

「ちょっ……っ、空条さん、園原さん!大丈夫ですか!?」

 

 

 研究員の1人がマイクに手を伸ばし、訓練場の中にいる2人に声を掛ける。……彼らはこちらに向かって手を振った。無事だったようだ。

 

 

「全く、しょうがねえなァ!俺、下に行って波紋で治療してくる!」

 

「あ、ジョセフさん!俺も行く!」

 

「アギッ!」

 

「私も行こう。……花京院は?」

 

「もちろん、行くよ」

 

 

 ジョセフさん達と共に、訓練場に下りると――大きな笑い声が聞こえてきた。

 まさか、と思いながらそちらを見る。……彼と承太郎が、2人揃って仰向けに転がり、大笑いしていた。僕達は思わぬ出来事が起こったせいで、誰も動けない。

 

 

「……2人共。笑ってる場合じゃないよ?君達は怪我人なんだからね?」

 

「ふははっ!あっはははは!あぁ、悪いイージス……っ、駄目だ!笑い止まらねー!!」

 

「ははは!くく、あはは、ははははっ!!あ"ー――」

 

「「――楽しかったぁっ!!」」

 

 

 ……無邪気な子供のように、彼らは笑い合う。

 

 

「だあぁ、くそーっ!最初はお前と戦うなんて面倒くせぇと思ってたのに!」

 

「酷い野郎だな!てめえ、そんな事思ってたのか!?俺はまたやりたいと思ってるのに!」

 

「あっ、それはマジで遠慮するわ」

 

「はぁ!?何でだよ!」

 

「疲れるからだ!!俺が突然イージスと分離したのだって、そのせいなんだぞ!受け止めてくれてありがとう!」

 

「どういたしまして!で、本当に次はねーのか?あんなに楽しい模擬戦、初めてだったんだぜ!」

 

「知るか!次なんざねぇよ!!」

 

「そう言わずに次もやるぞ!なあ!?」

 

「だが断る!!」

 

「こら!無駄に言い争いして体力を削るな!!」

 

「「ごめんなさい」」

 

 

 ……かと思えば、子供っぽい口喧嘩をして、翼を生やした白いスタンドに怒られ、口を揃えて謝る。

 

 

 何なんだ、あれは?本当に……本当にあれは、僕達が知っている空条承太郎なのか?

 あぁ……何だろうな。このスッキリしない感覚。胸がモヤモヤして仕方ない。承太郎に対しても、彼に対しても、複雑な思いを抱いている。これは、強いて言えば――

 

 

「――面白くねーなぁ……」

 

 

 一瞬、自分の心の声が出てしまったのかと思ったが、違う。……そう言ったのは、ポルナレフだった。

 

 

「あー……ポルナレフの気持ちは俺も分かるわァ」

 

「ジョセフさんも?」

 

「……不本意だが、僕も、分かる」

 

「えっ!?花京院も?……アヴドゥルは?」

 

「うむ……分からなくはないが、私はお前達ほどではないな」

 

 

 興味無さそうに欠伸をしているイギーはともかく、僕のこの感情をポルナレフ達も感じている事が分かった。……この感情の正体も、分かった。

 

 

(これは、嫉妬だ)

 

 

 承太郎と無邪気に戯れる彼に対して、僕は嫉妬している。……そして、僕達にはあんな笑顔を見せてくれない承太郎に対しても、少し苛立っていた。

 

 

「よっ……と、あ?」

 

「どうした?」

 

「……おい。承太郎の仲間達が来るなんて聞いてなかったんだが?また黙ってたのか?お前」

 

「何?」

 

 

 先に起き上がり、僕達の存在に気づいた彼がそう言うと、承太郎も起き上がってこちらを見る。承太郎は目を見開くと……すぐにいつもの無表情になり、軽く首を傾げた。

 

 

 ――嗚呼。やはり君は、僕達にはあの笑顔を向けてくれないんだね。

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

空条承太郎の友人と、星屑十字軍



・男主視点。

・タロットカードと占いについて、捏造過多。


 ――空条承太郎だって、昔の仲間に対して怒る事もあるはず。





 

 

 

 

 スタンドとの完全同化と模擬戦を終えた俺と承太郎は、ジョセフの波紋で怪我の治療をしてもらった。今世で初めて見た波紋に感動していたら、横で承太郎が得意気な顔を見せた。

 お前がやったわけでもないのにその表情って、やっぱり前世のお爺ちゃんを密かに尊敬してるのかな?こいつ。

 

 その後。さっそく筋肉痛に襲われながらも、承太郎達と共に別室に移動する。互いに、自己紹介をするためだ。

 

 

 だが、その前に。まずは心の中でこっそり叫ばせてくれ。

 

 

(――アイエエエ!?星屑十字軍!?星屑十字軍ナンデ!?)

 

 

 いやマジで不意打ちにも程があるわ!!また承太郎に嵌められたのかと思ったが、今回はこいつも知らなかったようだし……うん、疑って悪かった。

 あぁ、目の前で星屑十字軍が勢揃いしてる!!イギーまでいる!うわぁ、マジかうわぁ……!!

 

 ……よし。大分頭が冷えてきた。ちなみにこの間、ポーカーフェイスは怠っていない。むしろちょっとでも緩んだら精神的に死ぬ。

 

 それから自己紹介したところ、同じ学校に通っている今世高校生組はともかく、アヴドゥルとイギーが今世で何をしているのかが分かった。

 アヴドゥルは前世と同じく、占い師。イギーはなんと、ポルナレフの家で飼われているという。脱走とかしなければいいが……

 

 

「そ、れ、で!お前ら随分仲良いよなー?いつ何処でどうやって知り合ったらそんなに仲良くなるんだ!?いい加減に教えてくれよ!!」

 

 

 そう言って、ポルナレフがソファーに座って休んでいる俺に、ぐいぐいと迫って来る。思わず仰け反ると、承太郎が間に入って庇ってくれた。

 

 

「……ポルナレフ、近い。シドが驚くだろ」

 

「シド……?」

 

「あぁ、それは俺のあだ名みたいな物です。元は前世で仗助にそう呼ばれてたんですけど、そうしたら承太郎もそう呼びたいと言って……今そう呼ぶのは、こいつしかいませんけど」

 

「今後も俺以外には呼ばせねえ。……で、シドと出会った時の話だったな」

 

「え?あ、あぁ、そうそう!何があったらそんなに仲良くなるんだ?」

 

「大した事じゃねえよ。俺が喧しい女共に追われていた時に偶然ぶつかって、その時に女共から匿ってもらった。……それ以来、連絡先を交換して友人になった。それだけだ」

 

 

 あれ?意外にもあっさり説明したな。……でもまぁ、そうだな。それぐらいなら旧図書館の話には全く触れてないし、問題無いだろう。

 

 

「……じゃあ、僕達に園原君の事を隠していたのは、何故だい?」

 

「……俺のファンクラブの過激派から、シドを守るためだ。こいつも同じ高校の同学年だからな。万が一誰かに俺との関係がバレたら、こいつが集中攻撃を食らう。

 お前らにシドを紹介しなかったのは、こいつの事を探して欲しくなかったからだ。シドがお前らとも関わる事になれば、吊し上げにされるのは確実だろ?」

 

「……あー、そういう事か。それなら、承太郎が頑なに園原くんの話をしようとしなかった事にも、納得がいくなァ」

 

「お前のファンクラブの女の子達、怖いもんな……」

 

 

 ジョセフが何度か頷いて納得し、ポルナレフが遠い目になる。……女好きのポルナレフがそうなるって事は、やっぱり相当酷いんだな。

 

 

「でも、彼は本当にうちの生徒なのか?同学年で、しかも……その容姿だろう?一度見たらなかなか忘れないはずだが、僕は記憶に無い」

 

「普段は上手く擬態してんだよ、こいつは。……ほら見ろよ、この睨むだけで人を殺しそうな目を」

 

 

 その言い方止めろ。……口で抗議する代わりに、承太郎の腰辺りをちょっと強めに叩いた。デコピンが返って来た。痛いっつの!

 

 

「……このままにしておくと、面倒事に巻き込まれるからな。実際、シドは高校に入る前もこの目付きの悪さのせいで苦労したらしい。だから、学校では隠している。……見覚えが無いのも当然だぜ、花京院」

 

「……なるほど。よく分かったよ。確かに、苦労しそうだね」

 

 

 花京院から同情の視線を感じた。……止めろ、惨めになる……!

 

 

「しかし、まさか、お前があんなに笑えるとはなァ!俺達にもあの顔見せてくれてもいいんじゃねえのォ?承太郎ちゃーん」

 

「……気色悪い呼び方をするな、くそジジイ」

 

「にゃにおう!?今の俺はピッチピチの10代だぜ!?」

 

「……ジョセフさん。死語を口にしている時点で、説得力はありませんよ」

 

「だな」

 

「うそォ!?」

 

 

 承太郎達の賑やかな様子を大人しく見ていると、横から声を掛けられる。……アヴドゥルと、その腕に抱えられたイギーだった。

 

 

「隣、座ってもいいか?」

 

「は、はい。どうぞ」

 

 

 アヴドゥルは、俺と少し距離を置いた場所に座る。俺と彼の間にはイギーが座った。……イギーにじっと見つめられている。

 

 ……人間から犬に挨拶したい時って、先に匂いを嗅がせるんだっけ?

 

 普通の犬より頭の良いこいつに通用するかどうかは分からないが、確か人間の手の甲が、犬達にとってはマズル……犬の鼻の部分に見えるらしいな。

 犬同士の挨拶では、互いにマズルを近づけて匂いを嗅ぐ。それを手の甲で再現するわけだ。

 

 イギーを怖がらせないように、自然な動きで、手の甲を彼の視線の下から近付ける。匂いを嗅がれた。……結構、念入りに匂いを嗅いでいるな?

 しばらくして、イギーは鼻を鳴らし、ソファーの上で立ち上がると……

 

 何故か、俺の膝の上に移動する。

 

 

「な、何……?」

 

 

 隣からアヴドゥルの戸惑う声が聞こえたが、俺はそれどころではなかった。イギーが意外にも可愛くて、ついつい手を伸ばしてしまう。

 耳の付け根や、顎下を軽く掻くように撫でる。……やがて落ち着いてくれたのか、膝の上で丸まって目を閉じた。

 

 

「……生意気な奴とか言ってたが……なんだ。可愛いじゃねぇか」

 

 

 よしよし、と撫で続けていると、いつの間にか周りが静かになっている。それに気づいて顔を上げれば、イギー以外のスタクルにガン見されていた。

 

 

「…………えっ?何?」

 

「シド、お前……仗助といい、イギーといい、よくもまぁ、上手く手懐けたもんだな……」

 

「おぉ、そうだぜ!お前ら、よく聞け!園原くんはなァ、仗助のリーゼントに触っても全然怒られないんだぜ!?」

 

「なっ、何だとぉ!?」

 

「それは……っ、まさか、本当に!?」

 

「マジな話だ。びっくりだろォ?」

 

「信じられない……!!」

 

 

 ……この様子を見るに、仗助のリーゼント関係のぶちギレ具合は周知の事実のようだ。再び賑やかになった彼らはさておき、俺はアヴドゥルの方へ向き直る。

 

 

「それで……俺に何か用があったのでは?」

 

「あ、あぁ……用、という程ではない。ただ、君と話をしてみたかっただけだ。承太郎があれ程気を許す相手がどんな人物なのか、気になってな」

 

「そうですか……」

 

 

 確かに、承太郎がある程度俺に気を許してくれている事は分かる。無表情が減ったし。

 

 

「……シド、か。それに、自分以外には呼ばせないと言っていたな」

 

「ん?……それが何か?」

 

「承太郎はすぐに話を逸らしたが……彼が誰かをあだ名で呼ぶのは、初めての事だ。少なくとも、私は一度も聞いた事が無い」

 

「……それは初耳です」

 

 

 言われてみれば、原作であいつはスタクルの事を名字で呼び、仗助達年下の面子を下の名前で呼ぶ。だが、誰かをあだ名で呼ぶ描写は無いな。

 呼ばれているのは、俺だけ。……正直に言うと、悪い気はしない。ちょっと照れ臭いが。

 

 と、アヴドゥルに観察されている事に気づいた。この目は……あぁ、

 

 

「――意外にも大人しいな、」

 

「っ!?」

 

「って、思っていたんじゃないですか?」

 

「……驚いたな。君は、心が読めるのか?」

 

「まさか。たまたま俺が、今のアヴドゥルさんの目に見覚えがあっただけですよ。そういう目をしている人は大抵、俺の見た目と性格のギャップに驚いているんです」

 

「そう見られる事に、慣れているのだな」

 

「はい。……この目付きの悪さなので、"不良のレッテル"を貼られる事には慣れてます」

 

 

 含みのある笑みでそう言うと、彼は目を見開き、それから苦笑いを浮かべる。

 

 

「なるほど……だからこそ、承太郎と気が合った訳か」

 

「まぁ、それが理由の1つである事は確かだと思いますよ」

 

「他にもある、という言い方だな。それは」

 

「そうですけど……詳しくは話しませんよ。俺と承太郎にもプライバシーの権利ってものがあるので。……でも、俺を探りたいという気持ちは分かります。

 

 こんな目付きの悪い"不良"が、大事な仲間の側にいたらそれは心配になりますよね。承太郎が話してくれないなら、せめて俺がどんな人物なのか、承太郎に悪影響を及ぼさないかどうか、確かめたくなるのも当然です。

 ……あいつ、本当に良い仲間に恵まれてますね。あなたのような仲間想いの大人が側にいるのは、あいつにとっても頼もしいんじゃないかな」

 

「…………君、やっぱり心が読めるんじゃないか?」

 

「ふはっ!違いますよ。アヴドゥルさんの仲間を想う気持ちが強かったおかげで、俺でもあなたの意図を読む事ができたんです」

 

 

 やはり、そうか。アヴドゥルは大人として承太郎の人間関係を心配して、俺がどんな奴なのか知りたいと考えたんだ。

 

 

「……恐ろしく口が上手い」

 

「本心ですが?」

 

「そこがまた、恐ろしい。……君、人脈作りが得意だろう?」

 

「よく分かりましたね」

 

「分かるよ。…………もしや、承太郎もこれ(・・)にやられたのか?」

 

「はい?」

 

「いや、何でもないよ。……承太郎と気が合うのも納得だ。彼も君も察しが良く、そして達観している。

 

 そんな君に、回りくどい事をする方が間違いだったな。……だから、直球で聞くとしよう」

 

 

 アヴドゥルの目付きが鋭くなった。反射的に背筋を伸ばす。

 

 

「――君にとって、承太郎はどんな存在だ?」

 

 

 いつの間にか、また静かになっているが……絶対に他のスタクルにも聞かれるよな?いや、でも――ええい!言ってしまえ!!

 

 スタクルの誤解を解くためだ!腹を括れ!!

 

 

「――最も親しい友。掛け替えのない親友です。……それが何か?」

 

 

 つい、挑発的な言葉を付け足してしまったが、次の瞬間。横合いから伸びてきた手が俺の頭をぐしゃぐしゃと撫でたので、それを気にするどころではなくなった。

 

 

「くく――っ、はは!はははははっ!!あー、くそ最高だなBest friend(親友)!それともBuddy(相棒)か?はははっ!」

 

「テンション高いな、Buddy(相棒)!ちょっ、止めろ、首痛い首痛い…って、ああ!イギーが逃げちまったじゃねぇか!」

 

 

 せっかく気持ち良さそうに眠ってたのに!……だが、まぁ……承太郎にこんなに喜ばれると、こっちも嬉しくなったので、仕方なく許してやる。

 

 

「はーっ……やれやれだぜ。これで満足か?アヴドゥル。……おそらく、花京院達もグルだろうが――俺の親友(・・・・)を試すような真似は、二度とするんじゃねえぞ」

 

 

 空気が、ピリピリしている。誰かの息を呑む音が聞こえた。……黒豹がお怒りだ。なんとかしないと。

 

 

「……承太郎。アヴドゥルさんは、お前の事が心配だっただけだ。俺は試されたとは思ってない」

 

「…………」

 

「彼も、花京院も、ポルナレフ先輩も、ジョセフ先輩も……もしかしたら、イギーも。皆がお前の事を心配してくれたんじゃねぇの?――仲間想いの良い人達じゃねぇか。大事にしろよ。

 

 あと、俺のために怒ってくれて、ありがとな」

 

「――――」

 

 

 翡翠の目を大きく見開いて、俺を凝視する。

 

 ……ややあって、深くため息をついた承太郎は、アヴドゥルをソファーから立たせて代わりに自分が座り、俺と肩を組んだ。いつの間にか、ピリピリとした空気が霧散している。

 

 

「……優しい優しい俺の親友に免じて、これ以上言葉にする事は止めておくが……次はねえからな」

 

「わ、分かった。……すまなかった、園原。お前には本当に、失礼な事をしてしまった」

 

「いやいや。アヴドゥルさんは悪くないから」

 

「アヴドゥルと、呼び捨てで構わない。……お詫びと言ってはなんだが、どうだろう?一度、お前の好きな事を占ってみないか?もちろん、無料で」

 

「……いいんじゃねえの?試してみろよ、園原くん。アヴドゥルの占い、当たるって評判なんだぜ?」

 

「そうなんですか?」

 

「おう!アヴドゥルの占いは前世でも今世でも、本当によく当たるぞ!」

 

「そうだな……僕もおすすめするよ」

 

 

 スタクルの間では徐々に悪い空気が、良い空気になりつつある。……承太郎は、まだ機嫌が悪そうだが……彼らは気にしないのだろうか?

 それはともかく、アヴドゥルの占いか。確かに、興味がある。……まだまだ気まずい雰囲気も、俺が話に乗ればなんとかなるかもしれないし、お言葉に甘えよう。

 

 

「……では、お願いできますか?」

 

「あぁ、任せてくれ。さっそくだが、何を占いたい?」

 

「じゃあ……ある人物との、人間関係について」

 

「お?もしや、女か?」

 

「あはは、さぁ?どうでしょうね?」

 

「怪しいなぁ?」

 

「おい、ポルナレフ。下世話な勘繰りはよせ。男が皆、お前のように下半身で生きてる訳じゃないんだぞ」

 

「おまっ、失礼な奴だな、花京院!」

 

 

 どうやら、前世でも今世でも、花京院はポルナレフに厳しいらしい。……そんな事をしているうちに、準備が整った。

 アヴドゥルはテーブルの上でタロットカードをシャッフルして、それをまとめると、そこから4枚のカードを引き、並べる。

 

 

「まず、お前がその相手に対して、どんな事を思っているのか――おお?」

 

 

 ――星の、正位置。

 

 

「……このカードの基本的な意味は希望や直感、そして実現する可能性が高い夢。恋愛で言えば、成就しやすい恋という意味もあるが……」

 

「……とりあえず、人間関係全般の意味の方でお願いします」

 

「……ふむ。分かった。それなら、こうだな。

 

 お前は相手に対して、フィーリングが合うと思っている。相手の個性や才能を認めており、共に切磋琢磨し合える相手だとも思っている。そして、お前に良い影響を与えている人物。……当たっているか?」

 

「全く、その通りです」

 

 

 さすが占い師。当たってるわ。

 

 

「では、次に。相手がお前をどう思っているかだが――ほう?女帝の正位置、か。基本的な意味は居心地の良さや、包容力。

 人間関係で言うと……おそらくこの相手は、お前と一緒にいるとかなりリラックスできるのだろう。気の置けない相手だと思っている。自分を受け入れてくれる懐の深い人物だ、とも……園原。お前はこの相手に相当信頼されているようだぞ」

 

「……それは、何よりです」

 

 

 いやいやいや、そんな馬鹿な……あいつが?本当に?

 

 

「次に、お前と相手の現状についてだが――おっと?」

 

 

 ――恋人の正位置。……はぁ?

 

 

「おいおいおい!やっぱりそういう相手なんじゃねぇのぉ?」

 

「ポルナレフ!からかってやるな!」

 

「こーれは、面白くなってきたなァ?」

 

「ジョセフさんまで!……すまない、園原くん」

 

「いや……お前が苦労してるって事は分かったぜ、花京院」

 

「ありがとう……!分かってくれて嬉しいよ!」

 

「あー……続けていいか?」

 

「お願いします」

 

 

 アヴドゥルによると、俺と相手の人間関係の現状は、とても良い状態のようだ。意気投合できる、居心地の良い関係性。トラブルがあっても、共に乗り越える事ができる。……問題無さそうだ。良かった。

 

 

「最後に、お前と相手の関係の未来について――太陽、か……凄いな。

 お前と相手の関係は、将来にわたって長く続くようだ。絆が深まり、さらなる信頼関係を築く事になるだろう。現在の関係も、今後の関係も、全く問題無しだ。

 

 これほど良い結果が出る相手は、滅多にいないはずだ。その相手は大切にした方が良い」

 

「――もちろんですよ。……大切にします」

 

 

 俺がそう言うと、ポルナレフとジョセフにはまた揶揄されたが、花京院とアヴドゥルが止めてくれた。お疲れ様です。

 

 

 ……ふと気がつくと、隣に座っている承太郎の機嫌は直っており、イギーも俺の膝に戻っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 






※おまけの男主と承太郎の会話。財団の拠点からの帰り道。

「……今日だけでいろいろあったなぁ。筋肉痛もあるし、俺、もうくたくた」

「そうだな。……ところで、シド」

「ん?」

「実は、星の正位置は俺と関係が深いんだが――」

「っ!?」

「……動揺したな?って事はやっぱりそうか。くく、はははは……!!」

「てっ、てめぇ、何で……!?」

「星はともかく、女帝のカードの説明を聞いた時、"もしや"と思ってたんだ。あれは俺の心境をピタリと言い当てていたからな」

「何っ?」

「それに加え、現状も未来も全く問題無しで、お前は相手との関係を大切にすると言い切った。おかげで俺の機嫌もすっかり直ったぜ」

「は?お前の機嫌が直った理由ってそれかよ!?」

「むしろ、それ以外に何がある?――占いとはいえ、俺とお前の人間関係がこれからもちゃんと続く事が分かった。その仲も至って良好!そう聞いたら嬉しくなるのも当然だろ?Buddy。……それとも、お前はそう思わないのか?」

「…………いや。俺もそう思うよ、Buddy」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

空条承太郎の友人は、トラウマに遭遇する



・男主視点。

・キャラ崩壊注意。


 ――空条承太郎だって、親友がぶちギレる瞬間を見て青ざめる時があるはず。




 

 

 

 

 

 それは、花京院達との交流を終えて、全員で財団の拠点から出ようと、ロビーに向かった時に起こった出来事だ。

 

 

「――あれー?承太郎さん?」

 

「あ?……億泰?」

 

 

 虹村億泰。前世でも今世でも、仗助の親友である高校生。今世で彼と出会ったのは初めてだが……胸が、ざわざわする。

 

 理由は、既に分かっていた。――嗚呼、嫌な予感がする。

 

 

「……お前、何故ここに?」

 

「兄貴と一緒に財団から頼まれた仕事を終わらせてよぉ、兄貴が今日中に報告終わらせたいっていうから、ここまで来たんだ」

 

「兄貴――っ、あいつもいるのか!?」

 

「えっ?おう」

 

 

 あ、それはやばい。

 

 

「――おい、億泰!勝手に他所に行くな!」

 

「あ、兄貴」

 

 

 咄嗟に、声が聞こえた方へ振り向いてしまい、その存在を認識して――思い出す。

 

 

 全身が熱くて、苦しくて、痛くて、腰に……矢が刺さった場所から広がる、熱と痛みと苦しみ。熱い、熱い、熱い、痛い、痛い痛い痛い熱い痛い――苦し、い。

 

 

 ――また駄目だった。……あいつを殺せる奴は、一体いつになれば――

 

 

 

 

 

 

「――――息をしろっ!!志人!!」

 

「っ、は!?ぁ、かは……っ!!」

 

「園原!?」

 

「イギィッ!?」

 

「お、おいどうした!?」

 

「園原くん!」

 

「待てぇっ!!てめーは近づくんじゃねえぞ、形兆!!」

 

「な、何っ!?」

 

「えっ?あ、えっ?ジョ、ジョセフさん??あの人、一体どぉしたんスか?」

 

「承太郎!こいつらには俺が説明するっ!お前はそいつを抱えてさっきの部屋に戻れ!そいつを落ち着かせろォ!!」

 

「分かってる!!志人、抱えるぞ!……イギーはついて来てくれ。お前の力を借りたい」

 

「イギ?……イギギ」

 

 

 ……気がつけば、俺はまた息を止めていて、必死に呼吸を整えている間に承太郎に抱えられ、さっきまでいた別室に戻って来た。

 俺はソファーの上に下ろされて、膝の上にはイギーを乗せられる。……撫でてると、ちょっと落ち着く。

 

 

「イギー。お前はそのままシドに付き合ってやれ。お前でもアニマルセラピーにはなるだろ」

 

「…………イギィ……」

 

 

 仕方ねぇな、と言わんばかりに鼻を鳴らし、俺の指を少し舐めると、膝の上で丸くなった。……慰めてくれたのか?

 

 

「……そろそろ落ち着いたか?」

 

「あぁ……ありがとう、承太郎。イギーも……付き合わせて悪いな。ありがとう」

 

「ん」

 

「イギ」

 

 

 そして静かになって……俺から、また口を開く。

 

 

「――虹村形兆」

 

「っ!!……知って、たのか」

 

 

 原作で知った、とは言えないので。別の理由を話す。

 

 

「そりゃ、ファンクラブ持ちのジョースター家の人間と、その周辺にいる奴の顔と名前ぐらい、覚えてるさ。下手に近づいたら、ファンクラブが怖いからな。

 だが、その中でも虹村形兆の事は、苦手だった。あいつ、俺達と同学年だろ?だから、記憶を取り戻す前も学校ですれ違う事があったんだが……その度に、胸がざわざわしてさ……嫌な感じがしたんだよ」

 

「……シド」

 

「あれってやっぱり、本能的に察してたんじゃねぇかな――前世で、自分を殺した相手を」

 

 

 そうだ。俺は以前から……それこそ、前々世の記憶を思い出す前から、形兆の事を警戒していた。だが、今まではそれすらも忘れていた。

 おそらく、無意識に形兆に関する記憶を封じていたんだ。俺の心を、守るために。

 

 それが今回。4部時代の前世を思い出した俺が、改めて本人を目にしたから、パニックになったのではないか?最近は学校でも奇跡的にすれ違ってなかったし。

 

 

「……なぁ、承太郎。お前、億泰くんが"兄貴もいる"って言ってた時、妙に焦ってただろ?」

 

「!」

 

「あれって、知ってたんじゃねぇのか?前世の俺を殺した人間が、あいつだって」

 

「…………それ、は」

 

「あ、待った!……そう泣きそうな顔すんなよ。俺はお前を責めるつもりはない。不器用で優しいお前の事だ。俺が殺された時の事をなるべく思い出さないように、黙っててくれたんだろ?」

 

「…………」

 

「無言って事は、そうなんだな。ありがとう、俺を気遣ってくれて。……でも、できればあいつの事で、お前が知っている事があるなら、今ここで教えて欲しい」

 

「なにっ!?」

 

 

 まぁ、聞かなくても前々世の記憶のおかげで大体知ってるんだけど。

 聞ける時に聞いておかないと、後で俺が知るはずの無い事をうっかり言ってしまったら、まずい事になる。

 

 ぎょっとしている承太郎を見て、強く頷く。

 

 

「今の俺なら、大丈夫だと思う。……俺が前世のトラウマを乗り越えるために、その第一歩として、お前が知っている事を教えてくれ。承太郎」

 

「…………分かった。だが、お前が辛くなったらすぐに止めるからな」

 

「おう。頼む」

 

 

 ……承太郎が話してくれたのは、原作でも知られている、虹村兄弟の過去。弓と矢を使った理由。俺以外にも、何人も殺害している事。そして、最期は弟を庇って死んだ兄。

 

 

「そうか……うん、大体分かった。ありがとな、承太郎」

 

「……平気そうだな?」

 

「あぁ。意外と落ち着いてる。……多分、虹村が俺の予想通りの人間だったから、かな」

 

「予想通り?」

 

「お前と同じで、不器用だけど優しいタイプの人間」

 

 

 まぁ、原作読んだ時から分かってたが。承太郎から話を聞いた事と……俺がさっき、こいつに運んでもらう前に一瞬目にした彼の表情から、やっぱりそうなんだと確信した。

 

 

「虹村の奴、お前が俺を抱えた時に――ほんの一瞬、凄く心配そうな顔で俺を見てたんだ。その顔が……俺が高熱出して寝込んだ時に、お前が見せた表情と似ていた」

 

「……俺と、似ていた?」

 

「そう。……きっと、あいつはお前と同じタイプの人間だなと思った。そう思ったら、ちょっと安心したんだよ。だから落ち着いてる。……また本人を目にした時にどうなるかは、分からないが」

 

 

 その時、部屋のドアがノックされた。承太郎が応対する。……相手は、アヴドゥル、ポルナレフ、花京院だった。

 

 

「……ジョセフから事情は聞いたか?」

 

「あぁ……弓と矢、だろ?前世で死んだのに、今世ではスタンドを発現した例なんて、聞いた事はないが……」

 

 

 沈痛な表情の3人だが、特にポルナレフはそれが顕著だった。こいつは前世で弓と矢との関わりが深いからな。

 

 

「……で、あいつらはどうなった?」

 

「…………」

 

「……おい?」

 

 

 承太郎の問い掛けに、3人は黙ったまま、互いにアイコンタクトを取り合っている。……やがて、ポルナレフがこう言った。

 

 

「――形兆が、園原に会って罪を償いたいと言っている」

 

「――あ"?」

 

「わあっ!ちょっ、落ち着け!!」

 

「スタープラチナをしまってくれ、承太郎!!」

 

「気持ちは分かるがスタンドを出すのは止めなさい!!」

 

 

 ポルナレフ達が怒れる黒豹を宥めようとしている中、俺はこう言った。

 

 

「――俺も会いたいんだけど、それでも駄目か?」

 

「あ"ぁ!?……馬鹿か、てめえは。何言ってんだよ」

 

 

 幸い、スタンドはしまってくれたので、そのまま話を続ける。

 

 

「さっきも言っただろ?俺は、前世のトラウマを乗り越えたいんだ」

 

「……焦るな。それは今じゃなくてもいいだろ?」

 

「今じゃないと、駄目なんだ。……今日を逃したら、虹村はもう俺と会ってくれない気がする。

 おそらく、お前もそうなんじゃないかと思うが、時間があればある程いろいろ深く考え過ぎて、ドツボに嵌まって自滅する、もしくは自己完結して周りの人間を拒絶するタイプだと思う。だから、時間を与えたら駄目だ」

 

「…………悔しいが、お前の言いたい事はよく分かるし、当たっていると思う。だが……本当に、大丈夫なのか?」

 

 

 承太郎の目と雰囲気で、めちゃくちゃ心配されている事が分かる。良い親友を持ったなぁ、俺。

 

 

「大丈夫。いける」

 

「……分かった。一応、俺が間に入るが……無理はするな」

 

 

 花京院にジョセフと虹村兄弟を呼んでもらい、部屋で対面する事になった。最初に花京院、ジョセフ、億泰が入り……最後に形兆が姿を見せる。

 最初の3人までは良かった。だが、形兆が近づいた時。思わず体が震えそうになり、それを抑えて耐える。

 

 

「――ヴウゥゥ……!!」

 

「イギー?」

 

「……形兆。それ以上進むな。シドが耐えられない」

 

「……分かりました」

 

 

 突然、イギーが唸った。それからすぐに、承太郎が形兆を止める。……どうやら、イギーが俺が緊張した事に気付き、承太郎がその意図を察したらしい。実はこいつら、気が合うんじゃないか?

 

 

「……シドに会って、罪を償いたいと言ったそうだな」

 

「……はい」

 

 

 承太郎の言葉に頷くと、形兆は床に両膝をつき、俺に向かって深く頭を下げた。所謂、土下座だ。

 

 

「あ、兄貴!?何して、」

 

「お前は黙ってろ!!億泰っ!!」

 

「っ、……兄貴」

 

 

 弟の悲痛な声を聞いても、兄は止まらなかった。曰く、自分は許されざる者だ。やってはならない事をした。俺を含め、何人もの人間を私欲のために殺した。

 罪を償いたいとは思っているが、許して欲しいとは思っていない。一生恨まれても構わない。俺にはその権利がある。なんなら――

 

 

「――あなたが望むなら、この命も捨てます」

 

「兄貴ぃ!?」

 

 

 そう言われた途端、自分の中で何かが切れる音が聞こえ気がする。

 

 

「――――はぁ?」

 

「っ、シ……シド……?」

 

 

 思ってたよりも自分の声が低く聞こえたな、とか。振り向いた承太郎の顔が少し青ざめてるな、とか。イギーが脱兎の如く逃げて行ったな、とか。

 

 全部どうでもよくて、とりあえず立ち上がって形兆の胸ぐら掴んで無理やり立たせた。

 

 

「な、何を――」

 

「――そんなに軽々しく!自分の命を捨てるとか言うなぁっ!!」

 

「は、」

 

 

 あぁ、そうだよ。俺はその言葉に腹が立ったんだ。

 

 

「てめぇ、その命が自分1人だけの物だと、そう思ってんのか!?あ"ぁ!?」

 

「それ、は、」

 

「違うに決まってんだろっ!?てめぇの命はてめぇだけの物じゃねぇ!!――今もそこで泣きそうになってる弟の物でもあるんだよぉっ!!」

 

「えっ……?お、俺?」

 

 

 俺に指を指された億泰が、ポカンと口を開く。……その間抜け面を見て多少冷静になった俺は、形兆の胸ぐらから手を離した。

 力が抜けたように尻餅をつく彼の前に、俺もしゃがみ込んで目を合わせる。

 

 

「……承太郎から聞いた。お前と弟くん、前世では母親を亡くして、父親がロクデナシだったって?」

 

「あ、あぁ……」

 

「――俺もだ」

 

「はっ?」

 

「今世の俺も、母親を亡くした。残った父親は、あらゆる意味で酷い野郎だ」

 

 

 背中に、強い視線が刺さる。……承太郎かな?

 

 

「詳しくは、話せない。自分の過去を最初に明かす相手は親友だと、心に決めている」

 

 

 あ、視線が痛くなくなった。やっぱり今の承太郎の視線か。

 

 

「まぁ、お前らの父親は救いようがあるロクデナシで、俺の方は救いようがないクソ野郎という違いがあるが、それはさておき。

 

 俺はまだ良いさ。母親亡くして父親がクソ野郎でも、兄弟がいなかったから。当時は俺が死んでも後に残されて悲しむ奴がいないからと、結構気楽だった。

 あ、今はもちろん親友を始めとした知り合いがたくさんいて、俺が死んだら悲しむ奴らがいる事は分かってるし、そんな事は考えて無いぜ?

 

 だからその拳を下ろしてください承太郎くん。……おう、ありがとう。

 

 で、話の続き。……よく見ろよ。――てめぇが死んだら、こんなに悲しそうな顔した弟を残して死ぬ事になるんだぞ」

 

「――――」

 

 

 俺が再び億泰を指で指すと、形兆はそちらを見て、ゆっくりと目を逸らした。ほぉら、罪悪感感じただろ。

 

 

「……お前らの両親が今世ではどうなってんのかは知らないが、少なくともお前が死んだら、弟くんは確実に悲しむだろう」

 

「そ、そうだぜぇ、兄貴!!俺、兄貴がまた(・・)死んだら悲しいぜ!」

 

「あぁ、よく言った弟くん。そう、また(・・)だ。……前世だけじゃなく、今世でも死んで彼を悲しませる気か?

 もう分かったな?てめぇの命は、てめぇ1人だけの物じゃねぇんだよ」

 

「……それなら――っ、それなら俺は!どうやって償えばいいんだ!?」

 

「生きろ」

 

「……何?」

 

「ただ、生きてろ。前世ではできなかった事をやれ。弟くんや他の家族を大事にして、学校の友達と遊んだり、喧嘩したりして、将来は愛する女性と結婚して、子供作って、孫も出来て、最期はその家族に看取られて死ね」

 

 

 おそらく、こいつにとっては最も困難な事だろう。

 

 

「――普通の、幸せな人生を送れ。……それが、お前が出来る唯一の償いだ。俺や弟くんに対して罪悪感を感じなくなれば、なお良し、だな」

 

「なん、だと……?」

 

「お前、自分は許されない人間だからって、自分から不幸になる事を望んでるんだろ?

 

 だから俺は、お前の望みの正反対の生き方をしろって言ってるのさ。――自分を殺した人間が望む断罪なんて、俺は一生やってやらねぇ」

 

「なっ……!?」

 

「っは!ざまあみろ!!」

 

 

 精一杯、ゲスな顔で笑ってやる。存分に幸せになりやがれ、虹村兄弟!!

 

 

「弟くん、話は終わりだ。そいつ、連れ帰ってくれ。あと、そいつが償いをサボってまた不幸になろうとしないように、お前が見張っておくんだぞ。そいつが幸せにならなきゃ、償いにならない」

 

「っ、おう!任せろ!!」

 

「ふ、ふざけるな億泰!何を勝手に返事をしてるんだ!?あっ、おい離せこらぁっ!!」

 

「ありがとなぁ、あんた!あんた、えっと……?」

 

「園原志人だ」

 

「志人さん!ありがとなぁ!!」

 

「億泰ぅっ!!」

 

 

 最後は弟に引きずられて出て行く情けない兄貴を、笑顔で見送ってやった。

 

 

「……と、いう訳で解決ですね。ジョセフ先輩達にはご迷惑をお掛けしました。すみません」

 

「お、お、前――っ、めちゃくちゃ良い奴だな志人!!」

 

「はい?」

 

 

 なんか、ポルナレフが号泣してるんですが。

 

 

「形兆に殺されたんだし、あいつを恨むのは当然だろうなって思ってた!でも、お前は恨まなかった!それどころか幸せになれだと!?どんだけお人好しなんだ、ちくしょう!!」

 

「は、はぁ……」

 

「俺も下に妹がいるから、あいつら兄弟の事を知ってからはちょっと気にしてたんだけどよ!あれならきっと、もう大丈夫だろ!うう、ありがとな、志人……!!」

 

「いや、あの……?」

 

「やっと、やっと承太郎がお前を親友と呼ぶ理由が分かった気がするぜ!さっきは疑ってごめんなぁ!!」

 

「……その謝罪は受け取っておきます」

 

 

 苦笑いするしか無かった。こっちの話を聞こうとしない。俺は自分を殺した相手に仕返しをしただけだから、礼を言われる筋合いは無いのだ。

 形兆を振り回した事で復讐は終わってるし、その後彼らがどんな風に幸せになるかは、知った事ではない。

 

 

「……それにしても、園原くん。自分を殺した相手に対して、よくあんなに強気に出られたね?怖くなかったのかい?」

 

「いや、怖いぞ」

 

「は?」

 

「今、花京院に言われて恐怖を思い出した。見てくれ。両手が超震えてる。……あ、膝も震えてきたわ。これはやばいな、ハハ」

 

 

 血の気が引くのを感じながら、花京院に向かってそう言えば、一瞬静かになり、

 

 

「――ばっっっか野郎ぉっ!!」

 

 

 承太郎にそう叫ばれて、耳が死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

空条承太郎の苦悩
空条承太郎の友人は、見抜く




・男主視点。

・キャラ崩壊注意。


 ――空条承太郎だって、ライトノベルに嵌まる事もあるはず。





 

 

 

 

 虹村兄弟と遭遇した日から、数週間が経過した。その間、俺が発狂したと聞いた仗助から鬼電が来て安否確認されたり。

 財団側から、スタンドとの完全同化の研究について協力を求められたり、イージスの能力による護衛任務を頼まれたり。

 

 それから、何故か定期的にジョースター家に呼ばれて、夕食を共にしたり。……最初は遠慮したんだがなぁ。

 承太郎と仗助、それと女性陣からの押しに負けてしまい、ご一緒する事になった。正直、貧乏人にとっては一食分の費用が浮くだけでもありがたい。

 

 

 と、いろいろあったが、最も大きな変化が1つ。――旧図書館での読書仲間が、1人増えた。

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

「……そうだ。この前、仗助に頼まれて弟くん……違う、億泰くんと会って来た」

 

「あ?……大丈夫だったのか?」

 

「弟1人なら問題無さそうだ。側に仗助もいたし、大丈夫だったぞ。……で、その億泰くん。兄の事で俺に改めてお礼がしたかったらしく、」

 

「ほう」

 

「といっても、俺は改めて礼を言われるような事をやった覚えはねぇな。

 兄が幸せになるのを許してくれた、とか言われたけど、別に大した事でも無い。俺は彼を好き勝手に振り回して、満足しただけだ」

 

「そういうとこだぜ、お人好し」

 

「俺のどこがお人好しなんだよ?……それでな、億泰くんは仗助と俺に繋がりがあるのを知って、仗助に頼んで俺と会った訳だが……」

 

「うん」

 

「ボクサー犬がパグになってた」

 

「うん――うん?待て、何の話だ?」

 

「億泰くんの話」

 

「それが何で犬の話になった?」

 

「いやな?億泰くんに対する俺の最初の印象が、ボクサー犬なんだよ。図体デカいし、顔はブサカワだし、」

 

「ブサ、カワ……っ、ふ、……そ、それで?」

 

「そのボクサー犬。俺が待ち合わせ場所に来る前に一緒に待ってた仗助と何を話していたのか、あいつは俺の顔を見るなり、目をキラキラ輝かせて"志人のアニキ"って呼んできて、」

 

「何故そうなった」

 

「俺にもよう分からん。まぁ、そのキラキラ輝く目と俺の幻覚の犬耳と尻尾が見えて、」

 

「うん」

 

「あ、こいつパグだなって思った。あれもブサカワだし」

 

「唐突……!また、ブサカワ……っ!」

 

「ちなみに、その時隣にいた仗助は柴犬な。黒柴」

 

「く、ろ、し、ば……っ!!」

 

「あ、入ったな」

 

「黒、柴っ!仗助が、くろ……っぶふ!!」

 

「……うーん、しばらく待たなきゃ駄目だな、こりゃ」

 

「黒柴って……!ははっ!!」

 

 

 

 

 

 

「……そろそろ収まりましたか?」

 

「ん、」

 

「おっ、」

 

「「よう、ジョルノ」」

 

「……こんにちは、お2人共。相変わらず仲良しですね」

 

 

 という訳で。彼が新しい読書仲間、ジョルノくんです。

 

 

 俺と承太郎が、初めて旧図書館でジョルノと出会った時。

 

 普段は旧図書館にいても前髪と眼鏡を取っ払わない俺だが、その時は承太郎の前だからと気を抜いて、素顔を晒した。

 その瞬間を偶然、最近三谷さんと縁があって旧図書館に出入りできるようになったジョルノに、見られてしまったのだ。

 

 もちろん、口止めした。ファンクラブ怖い。

 

 するとジョルノも、自分は息抜きのためにここに来ているので、仲間達にも、誰にもこの事を言わないで欲しいと頼んできた。

 利害は一致しているので、お互いの秘密を守る事にした。あと、校内で前髪を下ろして眼鏡を掛けている俺を見ても、声を掛けないでくれとお願いする。

 

 そもそも、中等部と高等部で分かれているから、出くわす事は滅多に無いかもしれないが……念のためだ。

 その日は、互いに口止めをするだけで、それ以上の会話は無かったのだが……後日。ジョルノが好む本のジャンルを知った俺と彼の会話が弾み、一気に仲良くなる。

 

 ジョルノは、ライトノベル好きだった。

 

 ミステリや歴史小説も読まないわけではないが、1番はラノベだという。意外だった。

 ジョルノには、ラノベの中でも1番お気に入りのシリーズがあり、俺もそのシリーズを知っていたものだから、そりゃあ会話も弾む弾む。

 

 こうなると残りの1人である承太郎も、今まで興味を持たなかったラノベを、一度読んでみたくなったようだ。

 せっかくなので、会話が盛り上がっていたそのシリーズの第一作を、承太郎に貸してみた。

 

 

 結果、嵌まりました。以下は、その時のジョルノと承太郎の会話。

 

 

「……こんな世界を自由に旅してみたい」

 

「分かります。何のしがらみも無い状態でバイク……いえ、モトラドに乗って逃げ、違う。旅に出たい」

 

「喋るモトラド、いいよな。退屈しない」

 

「そうですね。良い話し相手です。人間の同行者は正直いらない。無駄」

 

「あぁ、いらねえな。そもそもこの本の世界じゃ、最も怖いのは人間のような気がするぜ」

 

「現実世界でもそうですよね」

 

「全くだ。……スタンドを扱う人間は、特に怖い」

 

「ええ、本当に。……その点、この世界は基本的に銃器で修羅場を切り抜けています。超自然現象なんて訳の分からない物は、ほとんど存在しない」

 

「……むしろ、俺達の現実の不可思議具合を見る限り、この本の世界の方が現実に近そうだな」

 

「なるほど、こちらの世界の方が現実でしたか。……何もかも忘れてこの世界に飛び込みたい」

 

「物騒な世界だが、自由はありそうだな。是非とも行きたい」

 

「この本の主人公のように、美しい世界を見て回りたいですね」

 

「同感。…………ジョルノ。お前、意外に話が合う奴だったんだな」

 

「承太郎さんって、意外に話が合う人だったんですね」

 

 

 

 

 

 

「…………お前ら、さ。同じ家に住んでるんだから、ストレス溜まってるなら定期的に愚痴大会でも開いたらどうだ?

 本の話でそれだけ気が合うなら、現実の愚痴を言い合っても話が合うだろ、多分」

 

 

 無表情で本の感想を語り合う2人の間にいた俺は、2人の言葉の端々から感じられる闇に耐えかねて、思わずそう提案してみた。

 この後。俺の提案を採用した2人は、本当に愚痴大会を定期的に開くようにしたという。余程ストレスが溜まってたんだろうな。

 

 しかしそれでも足りないのか、旧図書館にいる時は俺に聞き役を求めてくる。何故だ。

 

 

「お前なら話をちゃんと聞いて、適切な言葉を返してくれるからだ」

 

「ですね。僕達2人だけだと、愚痴をぶつけ合って言葉で殴り合いをしているだけなので」

 

「それでも多少はスッキリするが……言葉による癒しを求めている時は、シドを頼る」

 

「僕もそうしています」

 

「俺はいつからお前らのカウンセラーになったんだ……?まぁその分、俺もお前らに愚痴吐いてる訳だから、別にいいけどな」

 

 

 お前らに頼られるのは、嫌いじゃないし。……そう言うと、承太郎とジョルノは口を揃えて、"お人好し"と言った。だから、俺のどこが?

 

 

 ……それからまた時間が経過した、ある日の夜のこと。自宅で寛いでいた俺のもとに、ジョルノから電話が掛かってきた。

 

 

「――承太郎の様子に、違和感?」

 

「はい。……承太郎さんは今日、財団からの要請に応えて、スタンド使いの犯罪者を捕まえに行ったそうです。任務は成功したらしく、つい先ほど家に帰って来たんですが……何というか、」

 

「……ん?」

 

「いつもより、さらに無表情だった気がするんです。……僕の気のせいなら、いいのですが」

 

 

 いつも以上に無表情、ねぇ……?

 

 

「そりゃあ、何か隠してそうだな」

 

「やはり、そう思いますか?」

 

「あぁ。実際に承太郎の今の顔を見たわけでは無いから、はっきりとは分からないが……あいつ、何かあってもそれを隠すのが上手そう」

 

「確かに」

 

「動物の中でも、猫は弱みを隠すのが上手いらしい。あいつも同じような物だろ」

 

「……承太郎さんが、猫……?」

 

「おう。ネコ科の猛獣。黒豹だな、あれは」

 

「くろひょう。…………分からなくもないですが、今はそれよりも違和感の方です」

 

 

 おっと、そうだった。話を戻さないと。

 

 そうだな……えっと、明日のシフトは……お、ラッキー。ちょうど貸しがある奴が休みじゃねぇか。代わってもらおう。

 

 

「おそらく、僕よりも志人さんが見てくれた方が、その違和感の正体が分かると思うんです。ですので明日、もし時間があるようでしたら、承太郎さんと会ってもらえませんか?」

 

「……考える事は同じ、か。俺も、直接話したいと思っていた。今バイトのシフト確認したら、俺に借りがある奴が休みになってたんでな、ちょっと代わってもらってバイトを休む。時間はたっぷり取れるぞ」

 

「そんな、わざわざ……いいんですか?僕の気のせいである可能性もあるのに……」

 

「構わねぇよ。あいつを心配してくれるお前の気持ちを、無駄にしたくないし。そして何よりも――自分の金稼ぎ優先して、様子がおかしい親友の方を無視するなんて、できるわけが無い」

 

 

 バイトと親友、どっちを取るか?当然、親友だろ。

 

 

「…………そういうとこですよ、志人さん」

 

「あ?何が?」

 

「いえ、お気になさらず。……あの人の心の内は、僕達では見抜けませんが、志人さんなら理解できるのでしょう。よろしくお願いします」

 

「……そうか?あいつ、分かりやすいだろ」

 

「僕達と一緒にいる時とは違い、あなたの前では無表情でいる事の方が少ないので、そう思うのも無理はありませんが……」

 

「いや、それは最近になって俺もちょっと分かってきたけど……無表情の時も、案外分かりやすいぞ」

 

 

 旧図書館でジョルノと会うようになってから、承太郎が俺の前で見せる表情と、他の奴らに見せる表情が大分違うと、ジョルノに言われた事がある。

 

 曰く。自宅で家族に見せる顔はほとんどが無表情なのに、旧図書館で俺と会っている時は機嫌がいいのか、よく笑っている。

 

 言われてみれば、そうかもしれないと思った。俺が定期的にジョースター家にお邪魔している時、周りに家族の誰かがいると、あいつの表情筋があまり仕事しない。

 だが、俺と2人きりになると感情表現が豊かになる。大笑いする事も珍しくない。

 

 旧図書館でジョルノと3人で一緒にいる時も似たようなものだから、気のせいじゃないかと一度は思った。

 しかしジョルノからは、彼と2人きりで愚痴大会を開く時は無表情の方が多いから、気のせいでは無いと言われた。

 

 

 でもな。例え無表情でも、感情が出ていないわけでは無いぜ。

 

 

「無表情な分、目とか雰囲気に感情が表れやすい。ほら、目は口ほどに物を言うって言葉があるだろ?表情の動きだけで判断しようとするから、見抜けねぇんだよ。もっと観察してみろ。慣れると分かりやすくなるから」

 

「……確かに、あなたが言う事も一理ありますね。今度、しっかり観察してみます」

 

「おう。……とりあえず、明日旧図書館で会わないかと、誘ってみるかな」

 

「それなら、"相談したい事があるから会いたい"と言った方が、来ると思いますよ。あの人は志人さんに頼られると嬉しいみたいですし」

 

「そうなのか?……分かった、そう言ってみる」

 

 

 最後にジョルノにお礼を言って電話を切り、承太郎に連絡を取って旧図書館に誘う。……ジョルノに言われた通りにすると、疑う事もなく二つ返事で了承してくれた。ちょっとだけ、罪悪感を感じる。

 あとはバイト仲間に連絡して、明日のシフトを代わってもらい、準備完了。

 

 

 翌日。放課後に旧図書館で待っていると、承太郎がやって来た。

 

 

「……悪い、待たせた」

 

「――――」

 

「……シド?」

 

 

 ……おい、ジョルノ。これのどこが、違和感がある気がする(・・・・)、だって?

 

 

(――"気がする"どころじゃねぇだろ!全然違うじゃねぇか!!)

 

 

 いつもと違う。全然違う!!目と雰囲気で分かる。俺の親友は今、相当落ち込んでいるのだと。

 

 

「…………俺の家」

 

「ん?」

 

「俺の家に行くぞ、来い」

 

 

 とにかく、他人の気配が無い場所で、2人きりになろうと思った。その方が承太郎も安心して話せるだろうと、そう考えて。

 承太郎の腕を掴み、旧図書館から出ようとするが、こいつは動こうとしない。

 

 

「おい、シド。いきなりどうし、」

 

「お前絶対に何かあっただろ。何だ、その酷い目は!?」

 

「っ、」

 

「いいから、来い。――てめぇに拒否権は無い」

 

 

 珍しく俺から強引にそう言うと、承太郎は――心底安心したかのような、気の抜けた表情。

 何故か、泣きそうな雰囲気を感じる。……それは、あの変死体事件の話を聞いた時。俺が承太郎を心配した時と、同じ顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 






※承太郎とジョルノの愚痴大会(キャラ崩壊注意、愚痴の内容捏造)

「今日もふざけたファンクラブの女共が喧しくて頭が痛かった」

「分かります。ちょっと廊下に出ただけでキャーキャーと無駄に騒ぐ。まるで動物園の猿」

「分かる。学校で気の休まる場所が旧図書館しか無い」

「僕もです。……そして、うるさいのはファンクラブの女子生徒だけじゃありません」

「……まさか、前世の仲間達か?」

「そうです!フーゴもナランチャもミスタもトリッシュも、喧嘩するほど仲が良いのは構いませんが、僕を間に挟まないで欲しい」

「俺のところだとポルナレフと花京院だな。あいつらも俺を間に挟む。そしてクソジジイはニヤニヤするだけで俺を助けてくれない」

「両隣でキャンキャンされるのは嫌ですよね」

「全くだ。普段は女共が喧しいからこそ、あいつらにはちょっとでも静かにして欲しい」

「同感です。しかし嫌っている訳では無いので、怒れない」

「あぁ。……前世で若い頃はよく怒鳴っていたが、今では怒鳴る気力も無い」

「怒鳴っても体力を消費するだけですからね。無駄」

「そうだな。……あいつらの口にガムテープ貼ってやりたい」

「あるある。……耳栓が欲しい」

「あるある。……ずっと黙っていると、"ちゃんと話を聞いているのか"と言われてこっちに矛先が向く」

「あるある。……かといって、言いたい事を言うと口答えされる」

「あるある。……それにしても、」

「ええ、それにしても、」

「――お前本当に話が合うな!?」

「――あなた本当に話が合いますね!?」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

空条承太郎の友人は、親友の幸せを願う



・男主視点。

・承太郎が弱っています。

・SPW財団に対する、若干の厳しめ表現あり。


 ――空条承太郎だって、心の叫びを上げたい時が、きっとあるはず。

 園原「とにかくお前は幸せになれ!!」





 

 

 

 

 途中まで承太郎の腕を引っ張って歩くと、逃げないから離せと言われる。……仕方なく解放し、たまについて来てるかどうかと、周囲に人がいないかを確認しながら、学校を出る。

 承太郎と一緒にいるところが誰かに見つかったら、次の日俺が晒し者にされてしまう。

 

 

 自宅に到着した後は、承太郎を座らせて飲み物を用意。これで、ようやく話せる。

 

 

「……お前、何か相談したい事があるんじゃねえのか?」

 

「まだそんな事を言うのか、てめぇ。それよりもお前の方が大事だ。俺の話は後でもできる。……何があった?」

 

「…………」

 

「……言いたくないなら、それでもいい。だが、ここから出て行くのは許さない。ベッド貸してやるから、せめて少しでも眠っていけ。……寝てないんだろ?」

 

「…………何で、分かった?」

 

「クマができてる。学帽で陰になってて、少し分かりにくいが……まぁ、とにかく寝ろ!今適当にベッド整えるから」

 

 

 座っていた場所から立ち上がり、承太郎の横を通ってベッドに向かおうとする。……何かに引っ張られて、足を止めた。

 承太郎が、俺の制服の裾を掴んでいる。……俺は黙って、こいつの隣に腰を下ろした。

 

 

「…………昨日、」

 

「おう」

 

「昨日……財団からの要請で――」

 

「っと、ちょっと待った。……イージス」

 

「呼んだ?」

 

「あぁ。……バリア展開。防音付与」

 

「うん、任せて」

 

「……そんな事もできるのか」

 

「内緒話には、もってこいだろ?」

 

 

 イージスを呼び出し、防音効果のあるバリアを展開する。……それから、ぽつりぽつりと話してくれた事は、承太郎にとってはあまりにも、理不尽な出来事だった。

 

 

 数日前。承太郎は財団側から、とあるスタンド使いの犯罪者を捕らえるために協力して欲しいと頼まれ、財団の構成員と共に念入りな計画を立てている途中だった。

 しかし昨日、事態が急変した。犯罪者の動向を見張っていた構成員達のミスで、その存在が相手側にバレてしまったという。

 

 承太郎の下にその連絡が届いたのは、放課後。自宅に向かう帰り道を歩いている時だった。

 こいつは即座に方向転換して、急いで現場に向かったそうだ。……現場に到着した時には既に、犯罪者と構成員達が戦闘に入っていて、重傷者もいた。

 

 幸い、犯罪者自体は承太郎とスタープラチナにとっては敵では無い相手で、無事に勝利を収める。……問題は、この後だ。

 

 

「――あんたがもっと早くに来ていたら!彼女はあんな事にならなかった!!もしこれで彼女が死んだらどうするんだ!!」

 

 

 それは財団の構成員の中で、恋人が重傷を負った男が、承太郎に放った暴言だった。そいつは他の構成員に取り押さえられたが、後に他の構成員達から、承太郎に対する陰口が聞こえたらしい。

 到着が遅過ぎる、もっと急いで来い。あんなにあっさり倒せるなら、あいつ1人でもよかった。最強ならこんな被害を出させるな。……等々。

 

 

「……それぐらいならもう慣れてるから(・・・・・・・・)、別にいい。ただ、久々に悪夢を見た。――前世では、一時期よく見ていた悪夢だ」

 

 

 その悪夢とは……前世で承太郎が失った仲間達皆から、承太郎のせいで自分達が死んだのだと、責められる夢。昨夜はそれを見たせいで、眠れなかったという。

 

 

「前世ではそれを見る度に、自分が如何に無力であるかを思い知った。……だから俺は、知っている。

 

 俺は最強のスタンド使いなんかじゃない。スタープラチナは無敵じゃない。

 俺に任せておけば後は全て上手くいくだとか、俺なら何の心配もいらないとか、俺なら皆を必ず守ってくれるだとか、そんなの……そんな話は、周りが勝手に言い始めただけだ!

 

 本当に最強なら!本当に無敵なら!俺は前世で守りたい物を全て守れたはずなんだ!!そうじゃなきゃおかしいだろうが!!

 

 なれるものなら――っ、本当に最強に、無敵になれるなら!俺はそうなりたかった!自分の手で大切な物を全て守りたかった!!」

 

「――――」

 

 

 ……最初の話を聞いて、"その構成員達は自分達のミスの責任をお前に押し付けてるだけだ"とか、"お前のせいじゃない"とか。

 それ以外にもいろいろ言葉が思い付いたが、そんな事言ってる場合じゃねぇな、これは。

 

 重い。……あまりにも、重い。

 

 こいつが背負っている――否、周りから背負わされている責任が、重過ぎる!!

 

 

(は?ふざけんなよ!?俺の親友に何て物を背負わせてんだ、こら!!)

 

 

 こんなの、漫画とかアニメとか、二次元の世界ならあり得るだろうが、普通は現実で生きてる人間が背負える物じゃねぇ!

 

 そう、現実だ。前々世の人間達にとっては"空条承太郎"は漫画の登場人物だが、この世界や、前世の世界の人間にとっては、現実に存在する人間だろ?

 それが何故、二次元世界の無敵のヒーローのような扱いをされなきゃいけないんだ?

 

 いくらなんでも、無理があるわ。

 

 今の承太郎は前世の記憶はあるが、17歳の高校生だぞ?精神年齢は40だと本人は言ってるが、おそらく中身が肉体年齢に引きずられているはず。

 俺だってそうだ。俺の精神年齢は実は承太郎に近い。だが4部時代の前世と、今世が高校生だから、実際の中身はかなり若くなっていると思う。

 

 

 という事は?財団の構成員である大人達(・・・)は、現在17歳の高校生に……しかも、前世ではきっと大活躍していた相手に恩を仇で返すような、とんでもない責任を背負わせている事になるわけで?

 

 

(――とどのつまり、最低な大人達)

 

 

 ただ今、現在進行形で財団に所属する駄目な大人達への好感度が、だだ下がりしております。

 

 ……いや、分かってるぜ?財団にはそういう駄目な大人ばかりじゃなくて、この前俺のスタンド使い登録の説明をしてくれた人のように、誠実な大人もいるのだと。

 だがしかし。俺の親友がこんなにも傷つけられている事は、紛れもない事実だ。

 

 

 とはいえ、今はそれどころじゃない。俺の個人的な怒りは二の次だ。心の叫びをぶちまけてから黙り込んでしまった親友に、何か声を掛けてやらなくては。

 

 

「……あのな、承――」

 

「お前の力は、いいよな」

 

「は、」

 

「……志人と、イージスの力が――護る力が俺にもあれば、前世で誰も死なずに済んだかもしれない」

 

 

 ――刹那。俺は承太郎の胸ぐらを本気で掴み、叫ぶ。

 

 

「――馬鹿野郎!!」

 

「っ!?」

 

「てめぇ1人で何でもかんでも背負うんじゃねぇ!!その重荷は周りが勝手にお前に押し付けた物だろうがぁ!!それを……そんな物を!てめぇ自ら背負ってどうすんだよ!!

 

 そんな事してたら――いつか、お前の心が死んでしまうぞ、承太郎……!!」

 

「――――」

 

「……志人。少し落ち着いて。バリアが揺らいでいる」

 

 

 イージスの言葉で我に返り、承太郎の胸ぐらから手を離して心を落ち着かせた。バリアの揺らぎが収まる。……なるほど。俺の精神が不安定だとああなるんだな。不本意だが、勉強になった。

 

 

「……承太郎。俺が前に言った事、覚えてるか?自分の力を過信するなって話」

 

「……あぁ、覚えている。……嬉しかったよ。お前が本気で俺の事を心配してくれて、心底安心した。――お前は、俺の事を過剰に信頼しなかったから」

 

「……そうか。あれはそういう事だったんだな。お前、俺がひたすら"過信するな"とか"心配してる"って言う度に嬉しそうにしてたから、ちゃんと話を聞いているのかと疑ってたんだぞ」

 

「それは、悪かったな。……なぁ、志人」

 

「ん?」

 

「お前は、俺とスタープラチナの力を知った今でも――俺の事を、普通の人間だと言ってくれるか?」

 

「そんなの、当たり前だろ。例えどんな力を持っていようがお前は、空条承太郎っていう名前の、普通の人間。

 漫画やアニメで活躍しているようなヒーローじゃねぇ。現実の、等身大の人間。できない事があるのが当然な、ただの人間。

 

 ――俺は今も、これからも。親友としてお前を信頼するが、二次元のヒーローを相手にするような過剰な信頼は寄せない。……それで良いんだろ?」

 

「……あぁ――充分だ。ありがとう、志人」

 

 

 俺が承太郎の意図を察してそう言えば、こいつは嬉しそうに微笑む。……それまで揺らいでいた翡翠の瞳は、既にいつものように輝いていた。

 

 

「……今なら、話せそうだな」

 

「……何を?」

 

「俺の前世の話だ」

 

 

 思わず、背筋をピンと伸ばした。

 

 

「だが、話をする前に……イージス。そこにあるイルカのぬいぐるみ、取ってくれ」

 

「あぁ、これかい?はい、どうぞ。……志人の記憶を見たよ。承太郎はこれがお気に入りなんだろう?」

 

「まぁな。……何か柔らかい物を触ってた方が、落ち着く。……さて、聞いてくれるか?シド」

 

「もちろんだ。……聞かせてくれ」

 

 

 ……そして語られたのは、空条承太郎の波瀾万丈な人生。

 

 前々世で漫画を見た時とは違い、その登場人物が語る"現実"は、臨場感の溢れる話だった。……リアル過ぎて、たまに泣いてしまうぐらい。

 

 それを見て慌てた承太郎が話すのを止めようとした時は、必死に止めた。

 怖かったわけじゃ無いんだよ。お前がいろいろ背負っていく様子が分かって、それが悲しくて思わず泣いたんだよ!なんなら、泣かないてめぇの代わりにもっと泣いてやる!!

 

 

 お前どんな形でもいいから、とりあえず幸せになってくれ!!

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

園原志人の過去
空条承太郎は、親友の仮面を剥がす




・承太郎視点。


 ――空条承太郎だって、親友の異変にはいち早く気づくはず。


 

 

 

 

 

 放課後。俺は旧図書館でシド、ジョルノと共に静かに本を読んでいた。

 

 こいつらとは愚痴の言い合いをする時もあるが、今日のように何も話さず、なんとなく近くに集まってそれぞれが好きに読書をして過ごす事もある。

 これが不思議と、居心地が良いのだ。……側にいる2人の顔を盗み見て、先日の出来事を思い出す。

 

 

 先日、俺は2人の行動のおかげで救われた。

 

 俺の様子がおかしい事に気づき、シドに連絡してくれたジョルノ。そしてジョルノの頼みを引き受けて、様子を見るために俺を呼び出し、その後も俺の心を癒してくれたシド。

 2人には何かお礼がしたいと伝えたのだが、シドは"改めて礼をされるような事はしていない"と、相変わらずのお人好し発言。

 ジョルノは"最初にお礼を言ってくれた時の激レアな笑顔を見れただけで充分"と、よく分からん事を言って遠慮した。

 

 仕方ないから、いつかこいつらに何かがあった時、無条件で力を貸す事で借りを返すと決めた。

 

 

(……そういや、結局俺が前世の事を話す方が先になったな)

 

 

 シドがスタンドを発現させた日の夜。自宅の図書室で話した事を思い出す。

 俺はあの時。どんな話を聞こうが、シドの事を丸ごと受け入れるし、過去を話してくれるまでいつまでも待つと伝えた。

 

 現時点でシドの隠し事について分かっている事は、高校入学以前の自分について話したがらない事。素顔を隠したい何らかの理由がある事。

 母親が既に亡くなっており、父親が存命である事。……その父親は、お人好しのシドが"救いようが無いクソ野郎"と罵る程に、酷い人間だという事。

 

 それ以上の事は、まだ分かっていないが――

 

 

「おい、眼鏡坊主」

 

「あ、はい。何ですか?三谷さん」

 

 

 と、管理人の三谷が顔を出した。彼は俺と目が合うと、さっと目を逸らす。

 シドが梯子から落ちた時に俺が怒りをぶつけた件が、未だに尾を引いているようだ。すまない、管理人。

 

 

「……今から本の補修をやるが、お前さんも付き合うか?」

 

「やります!」

 

 

 シドの表情が、パッと明るくなった。……普段、俺達以外の人間の前では猫を被るシドも、この時ばかりは素が出る。

 読書を好むシドは本を修理する事にも興味が向くようで、俺と出会う前から何度も本の補修を見学しており、今では三谷に簡単な作業を任されるようになったという。

 

 

「……本の補修って、専門業者には依頼しないんですか?」

 

「金髪坊主はまだ知らなかったか?旧図書館にある本は、全て俺が補修している」

 

「へぇ……見学してもいいですか?興味があります」

 

「……静かにするなら、構わん」

 

「ありがとうございます」

 

「……なら、俺も見学させてもらうぜ」

 

「…………好きにしろ」

 

 

 三谷の後をついて行き、入口のカウンターの先にある事務室に向かった。中に入ると、本が積み上げられたテーブルと、いくつかの椅子。小さな本棚などがある。

 

 

「眼鏡坊主はそっちを片付けてくれ。全部、ページが取れている本だ。補修の方法は覚えてるな?」

 

「はい。覚えてます」

 

「よし。……それが終わったら、俺の作業を好きに見学していい」

 

「はい」

 

 

 テーブルを挟み、向かい合って座った2人は、それぞれ作業を始めた。

 

 シドの方は、取れたページを水糊で張り合わせて元に戻す、一見簡単な作業だ。

 しかし糊を付け過ぎると、張り合わせる時に他のページにくっついてしまう場合があるため、意外と気を使う作業なのだと、以前シドが言っていた。

 

 そして向かい側にいる三谷は、破れてしまったページや、背表紙の補修をしていた。かなり慣れているのか、手際が良い。

 短い時間で補修が終わり、いくつもの本が綺麗になっていく様子を、静かに観察する。……横目でジョルノを見ると、こいつも面白そうに観察していた。

 

 シドの様子に目を向ける。……真剣な表情と、本に優しく触れる手つき。陳腐な表現になるが、本に対する愛が滲み出ているように見えた。

 

 

 それを見た時、ふと思った事を口にする。

 

 

「なぁ、シド。――お前将来、司書になったりしないのか?」

 

「…………司書って、図書館司書?……俺が?」

 

 

 手を止めて顔を上げ、思ってもみない事を言われたと、そんな表情で俺を見るシド。……本当に意外そうな顔をしている。少しも考えなかったのか?

 

 

「お前、本が好きだろ?なら将来の選択肢として、少しは視野に入れてるんじゃねえかと思ってたが……違うのか?」

 

「……あー……うん、ええーと……考えた事、無かった、かも」

 

「本当ですか?……僕は志人さんが三谷さんの仕事を手伝っているのは、その将来のためだと思ってました」

 

「……俺もそう思っていたが、違うのか?眼鏡坊主」

 

 

 俺達3人が揃ってそう言うと、シドは目を泳がせた。……こいつがここまで動揺するのは珍しいな。

 

 

「……本の補修を手伝うのは、本が好きだっていう理由もあるけど……個人的に、本自体に恩返しをしているつもりでいるんだ」

 

「恩返し?」

 

「うん。……昔から、本には何度も助けられていたから」

 

 

 昔から?……過去に何かがあるのか。そういえば、以前本についてこんな事を言っていたな。"時には、生き残る術を教えてくれる"……と。

 

 

「ボロボロになっても、読む人を楽しませてくれる数多くの本に対して、"いつもありがとう"、"お疲れ様"っていう気持ちを籠めて直しているんだ。

 ……いや。壊れた本を直すというより、怪我をした(・・・・・)本の治療をしているような気分になっているのかもね」

 

 

 照れ笑いを浮かべたシドに対し、普段は仏頂面の三谷が、珍しく微笑む。

 

 

「……この子達(・・・・)も、お前さんのように本に優しい奴が治療してくれたら、喜ぶだろう」

 

「はは……本当に、そう思ってくれてるといいな」

 

「……志人さんも三谷さんも、心から本を愛しているんですね。しかし、だからこそ気になります。志人さんは本当に、司書になろうと考えた事は無いんですか?」

 

「そう、だね。……卒業したら、すぐに働く事しか考えて無かったな。今やってるバイトをそのまま続けようかな、と」

 

「……大学は行かないのか?坊主。そこで必要な科目を取るか、もしくは2年以上在学してから司書講習を受ければ、図書館司書になれるぞ」

 

「いや。それよりも、自立する事の方が俺にとっては優先度が高いですね。……あっ、そろそろ補修再開しませんか?俺、早く三谷さんの作業の見学したいので!」

 

「あ?お、おう……仕方ねぇな」

 

 

 あからさまに、話を逸らしたな。……司書になる事を考えた事が無かったというのは、本心だろう。大学より自立する方が優先度が高いという言葉にも、おそらく嘘は無い。

 

 だが……何か、引っ掛かる。

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 学校でシドと別れ、ジョルノと共に家まで帰って来た。

 

 最近はシドが定期的にうちに夕飯を食べに来る。今日がその日だった。シドは一度自分の家に戻ってからこっちに来るだろう。

 元々、これはうちの女達が提案した事だった。1人暮らしをしているシドが寂しくないように、たまにはうちに呼んでみたらどうか、と。

 

 反対する者はいなかった。あとは俺と仗助、女達が説得するだけ。……押しに弱いシドは、こちらが粘れば頷いてくれた。

 

 

 後にシドも合流し、全員で夕飯を食べ終わった頃。俺は徐倫の様子がおかしい事に気づいた。

 表情はあまり変わっていないが、少し顔色が悪く見える。夕飯の時も、いつもより食欲が無さそうだった。そして下腹部によく触れている――あっ。

 

 

「……徐倫。そっちのソファーに座って待ってろ。辛いなら、横になってもいい」

 

「えっ?ちょ、兄さん……?」

 

 

 すぐに別室に移動し、必要な物を取ってリビングに戻る。……ん?シドがいない?

 いや、今は徐倫優先だ。ソファーで大人しく座っている徐倫の下半身に、持って来たひざ掛けを掛け、クッションも持たせる。

 

 

「……無理に動くな。少し休んでから部屋に戻れ。……いつもより、腹の痛みが強いんだろ?」

 

「なっ、何で分かったの?」

 

「あー……前世での経験だ。あいつ(・・・)も、普段はそこまで辛くならないが、たまに……今のお前のように、痛みが強くなって調子が悪くなる時があった」

 

 

 あいつ――前世の妻に対しても、今の徐倫にやっている事と同じ事をやった記憶がある。

 俺の言うあいつが、前世の自分の母親の事だと分かったのだろう。徐倫は気まずそうに、俺から目を逸らした。……しまったな。気を使わせたらしい。

 

 

「……とにかく、そこで少し休みなさい。いいな?」

 

「……ん。ありがと」

 

 

 思わず、徐倫の父親だった時の口調が出てしまった。素直に頷く徐倫の頭を撫でる。……いつもなら振り払われるところだが、今回はそうされなかった。

 

 と、背後から人が近づいて来る気配を感じる。振り向くと、いつの間にか何処かに消えていたシドが、コップを手にしてこちらに向かっていた。

 

 

「徐倫ちゃん、豆乳は飲めるか?」

 

「豆乳……?飲める、けど」

 

「なら良かった。ほら、温かい豆乳。……豆乳には、女性のそういう時の(・・・・・・)痛みを和らげる効果があるぜ。苦手じゃないなら飲んでおいた方がいい」

 

「志人さんまで、何で分かるんだよ!?」

 

「んん、まぁ、何となく?それより、ほら。どうぞ」

 

「あ、ありがとう……」

 

 

 シドがいなかったのは、それを準備していたからか。……両手でコップを受け取った徐倫は、一口飲んで目を見開き、ほっと息をつく。気に入ったようだ。

 

 

「……なんか、ちょっと痛みが引いた気がする」

 

「それは何よりだ。女の子は、体を冷やさないようにしないとな」

 

「……明日もまた学校だからな。暖かくして早めに寝ろ」

 

「うう、2人共優しい……」

 

「男が弱ってる女性に優しくなるのは当たり前だろ。なぁ?」

 

「あぁ。そうだな」

 

 

 徐倫はたまに男よりも強い時があるが、それでも女である事に変わりはない。シドの言う通り、こういう時は特に優しくしてやるべきだ。

 

 

「…………」

 

「……徐倫?」

 

「――志人さんも、お兄ちゃんに欲しいわ……」

 

「はっ?」

 

 

 シドが間の抜けた声を出し、目を点にしている。……なるほど。

 

 

「うちの子になるか?シド」

 

「はあぁ?」

 

「お前なら、兄弟になっても良いな」

 

「面白そうな話をしてますね」

 

「ジョルノ?お前、いつの間に……」

 

 

 いつから会話を聞いていたのか、ジョルノがするっと間に入ってきた。

 

 

「志人さんもジョースター家の養子になりますか?それなら、僕の兄になりますね」

 

「はいはい!東方家の養子もありっスよ!」

 

「仗助」

 

 

 お前も何処から来た?

 

 

「何言ってんのよ、あんた達。志人さんは空条家の養子になるのよ」

 

「いやいや、ジョースター家ですよ。僕やディオ兄さんのような前例がありますから」

 

「いや、そこは俺の家だろ!だって俺、一人っ子だぞ!志人さんみたいな兄貴が欲しい!」

 

「…………おい、お前ら……」

 

 

 ……俺はシドに対する冗談のつもりで言ったんだが、話がややこしくなってしまった。これは俺が悪いだろうと、シドに謝る。

 

 

「シド、悪かっ――おい、どうした?」

 

「……あ?何が?」

 

「お前、その顔、」

 

「さぁて、俺はそろそろ帰るぜ」

 

「えー!?」

 

「いつもはもう少しいるじゃない」

 

「……それでも帰るなら、せめて何処の養子がいいか教えて欲しいです」

 

「…………どの家族も暖かそうで、俺なんかには勿体ねぇよ。ジョルノ。……じゃあ、またな」

 

 

 俺達に背を向けたままひらひらと手を振って、シドはリビングから出て行った。すると、ジョルノが俺の隣に並び、小声で話し掛けて来る。

 

 

「……先程の質問への答えから察するに、養子よりも家族というキーワードがネックになっているように見えました」

 

「あぁ。……ちょっと、見送って来る」

 

「お願いします」

 

 

 急いでシドの後を追いかけ、その背に声を掛けて呼び止めた。……振り向いた、その表情は、

 

 

「……やっぱりな。――お前、泣きそうじゃねえか」

 

 

 さっき謝ろうとした時に見た顔と、同じだった。それを確認したついでに、1つ問い掛ける。

 

 

「今日のお前、なんか様子がおかしくねえか?……旧図書館で俺達が司書にならないのかと聞いた時も、さっきの話も、いつもならもっと上手く答えてかわしてるはずだろ」

 

「…………」

 

「……何かあったのか?それとも、これから何かがあるのか?」

 

「――なんでバレたのかなぁ……本当に。その観察力は俺なんかに発揮しなくてもいいだろ……!」

 

 

 そう言って頭を抱えたシドは、上手く取り繕っていた表情を崩し、誰が見ても分かる程に涙を我慢する。

 

 

「……親友が無理しているかどうかを見抜くのは、観察力の正しい使い方だ。……この前はお前だって、俺が無理をしている事を見抜いたじゃねえか」

 

「それは、そうだが」

 

「それで?……何があった?」

 

「……何かがあるのは、これからだ。……承太郎」

 

「何だ?」

 

「ちょっと、予定空けといて欲しい日があるんだが……いいか?」

 

 

 不安そうに俺の様子を窺う親友の問いに、俺は一も二もなく頷いた。

 

 

(――俺はお前に何度も心を救われた。だから今度は、俺が助ける)

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

空条承太郎の友人は、過去を明かす



・男主視点。


 ――空条承太郎だって、涙を流す親友のために胸を貸すはず。




 

 

 

 

 

 ある日の放課後。バイトも無く、いつもなら旧図書館に行くところだが、今日は違う。

 真っ直ぐに家に帰り、支度をして外に出る。……途中で承太郎と合流して駅に向かい、電車で隣町へ。

 

 承太郎にはあらかじめ、何も聞かずについて来て欲しいと伝えてある。目的地に向かうまでに、俺達の間には会話が無かったが、こいつが相手なら沈黙は苦にならない。

 

 目的地の最寄り駅で降りて、駅から歩くこと数分。

 

 

「――教会?」

 

「……あぁ」

 

「…………お前、前にクリスチャンじゃねえって言って無かったか?」

 

「あぁ。言った。……キリスト教徒なのは、俺じゃない。俺の身内だ」

 

「身内……」

 

 

 小さな教会の敷地を歩き、建物の中に入る。幸い、聖堂には誰もいなかった。……普段は首に掛けて服の中にしまっているネックレスを、外に出す。

 

 

「……ロザリオ、か。お前、本当にキリスト教徒じゃ無いんだよな?」

 

「違う。これは亡くなる前に祖母が俺の母親に譲った物で……母が亡くなった時、遺書と共に俺に託された物――祖母と母の、唯一の形見だ」

 

 

 首から外したロザリオを片手に握り、祭壇に続く道を進み……祭壇の前で跪く。握ったロザリオを胸に抱き、目を閉じた。

 

 俺は神の存在を信じていない。だが、キリスト教徒だった母の事なら、信じている。……普段俺が祈りを捧げている相手は神ではなく、母だ。

 ふと、背後に気配を感じる。跪いたまま振り向くと、イージスが勝手に出て来ていた。……彼は困ったように笑い、俺に寄り添っている。

 

 俺もきっと、同じように笑っているのだろう。それから前を向き、再び目を閉じた。

 

 

 ……しばらく祈って満足した俺は、イージスを引っ込めて立ち上がり、振り返った。何も言わずに待っていてくれた承太郎に笑い掛ける。

 

 

「待たせて悪かった。……帰ろうぜ」

 

「っ、……もう、いいのか?」

 

「?……あぁ」

 

 

 何故か動揺している承太郎に首を傾げつつ、用は済んだからと出口に向かう。……すると、先に扉が開いた。

 

 

「……おや。礼拝に来られた方ですか?」

 

「……はい。ついさっき終わって、これから帰るところです」

 

「そうでしたか」

 

 

 現れたのは、この教会の神父だった。柔和に笑う男性だ。……そんな彼が、俺を見て目を見開く。

 

 

「……失礼。つかぬことをお伺いしますが」

 

「何ですか?」

 

「あなたは、去年の今頃と今年の春頃にも、こちらに礼拝に来られたのでは?」

 

「!?……確かに、その時期にもここに来ましたが……神父さんとお話したのは、今日が初めてですよね?」

 

「えぇ。直接話した事はこれが初めてですが、実はあなたが祈る様子を見た事がありまして……その時のあなたの雰囲気が印象的で、覚えていました」

 

 

 まさか、そんな事で覚えられているとは思わなかった。雰囲気が印象的って、どういう事だ?

 

 

「失礼ながら――とても哀しげで、今にも消えそうな……そんな雰囲気を纏っていました。それでいて、他者を拒絶しているような空気もあり……神父としては恥ずかしい事に、私はその空気に圧倒され、ついぞ声を掛ける事ができませんでした」

 

 

 …………なるほど。思い当たる節は、あるな。

 

 

「……その時のあなたと、今のあなたがすぐには結び付かず、一瞬別人かと思いましたよ」

 

「はは、そうでしょうね……その時の俺には――彼が一緒にいなかったので」

 

「!」

 

 

 急に自分の話になって驚いたのだろう。目を見開いている。

 

 

「……ご友人ですか?」

 

「はい。頼りになる、親友です」

 

「そうでしたか……あなたの雰囲気が様変わりしていたのは、ご友人のおかげだったんですね。……ご友人も、こちらの宗派の?」

 

「いいえ。……実は俺も、祖母と母はクリスチャンですが、自分自身は違いまして……」

 

「それでは、何故こちらの教会に?」

 

「――春頃が母の命日で、今日が祖母の命日なんです。……訳あって本人達の下へ墓参りに行く事ができないので、代わりにここで祖母と母に祈りを捧げていました」

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 教会からの帰り道でも、俺達の間に会話は無く、夕方に自宅の最寄り駅まで帰って来た。

 俺は承太郎を自宅に招き、テーブルを挟んで向かい合って座る。……その時、あのイルカのぬいぐるみが目に入り、それを手に取った。前に承太郎も言っていたが、確かに柔らかい物を触っていると落ち着く。

 

 ……うん。今なら、話せる。イージスを呼び、念のために防音のバリアを張って、口を開いた。

 

 

「――俺が素顔を隠そうとする理由は、あのクソ野郎から……実の父親から、逃げるためだ」

 

 

 その言葉を皮切りに、俺は自分の過去を語る。

 

 

 今世の俺は、中学生までは両親と共に3人で暮らしていた。……近所に住む人達からは、仲の良い家族だと思われていただろう。

 そりゃそうだ。あのクソ野郎は、外ではそう見えるようにしろと、俺と母に命令していたからな。

 

 その分、家の中では酷いものだ。クソ野郎は俺にも母にも暴力を振るい、暴言を吐いた。それが何年も繰り返されたせいで、俺も母も心を折られ、抵抗を諦めていた。

 しかし途中から、父親は俺への暴力を止めた。……その代わりに、母への暴力が増えた。

 

 母が俺を庇い、身代わりになったのだ。

 

 自分の事はいくらでも殴っていいから、俺を傷つけるのは止めて欲しい、と。そう言ったその日から、母への暴力が増えた。

 俺は、母に守られた。……情けない事に、俺が母を守る事はできなかった。母に言われるがままに隠れて、暴力を振るわれる母の悲鳴を聞きながら、震える事しかできなかった。

 

 俺にできた事と言えば、片っ端から本を読んで知識を身に付けて、母のためになる事をやるだけ。

 

 自分が生き延びるためにも、母のためにも、本は必須だった。当時の俺は携帯を持っていなくて、パソコンを使う事も禁止されていたから、本から知識を得ていたのだ。

 俺が通っていた小学校には大きな図書館があって、本がたくさんあった。時間が許す限り、本を読み続けた。……幸い、俺の目付きの悪さを怖がって、誰も近づいて来なかったからな。読書に集中する事ができた。

 

 

 そんな事をしているうちに中学生になり、俺は学校の教師や父親に隠れて、バイトを始めた。……とある計画のために、金が必要だったのだ。

 今思うと杜撰な計画だが……俺は、母と共に父親から逃げる計画を立てた。

 

 金を貯めて、奴から逃げた後に俺と母の2人で住める物件を探して、そこに住めるように。母と話し合って、2人がそれぞれ別の場所で働いて、金を貯めた。

 ……母が働いて得た金は、そのほとんどが父親にむしり取られていたが、俺がバイトしている事は必死に隠したし、母も黙っていてくれた。

 

 そのおかげで、順調に金を稼ぐ事ができた。

 

 

 当時の俺は余計な金が掛かるからと、高校に行くつもりが無かった。だが、母はそれに反対した。"俺の将来のためには、中卒程度の学歴では駄目だ。せめて高校まで行って欲しい"と。

 俺は渋々納得して、母と2人で住む予定の場所から近い高校を受験しようと思った。……それが、今通っている高校だ。

 

 金の節約のために、俺は特待生入学を狙う事にした。この高校では外部からの入学、それも特待生となると試験は相当難易度が高い。

 それでも必死に勉強した結果、入試に合格し、学費全額免除も勝ち取った。……その日、母は父親にバレないように、俺を祝ってくれた。

 

 金も充分貯まったし、良い物件も見つけて、高校受験も成功した。あとは、父親の目を盗んで母と共に逃げるだけ。……中学を卒業した日に、俺はそう思っていた。

 

 

 

 

 

 

 ――卒業式の翌日に、母が首を吊って自殺するまでは。

 

 

「な、……自殺?」

 

「そう……あのクソ野郎も、俺も家にいなかった時に、母さんは1人で死んでいた」

 

 

 驚愕する承太郎を前にして、俺は淡々と続きを語る。

 

 

「最初に母さんを発見したのは、俺だった。あの人は自分の部屋で、死んでいた。……俺は頭が真っ白になって、気がついた時には自室に閉じ込められていた。

 俺が母さんを見つけた後に、あいつもすぐに帰って来て、俺は邪魔だからと、自分が良いというまで部屋から出て来るなと言われたのだと……落ち着いた時に、それを思い出した」

 

「…………」

 

「……それから、自室の机の上に、何かが置かれている事に気づいた。――母さんからの、遺書だった」

 

 

 遺書には、勝手に死んでしまった事への謝罪と、自殺した理由が書かれていた。

 

 

 どうやら、母の心は既に限界を迎えていたらしい。クソ野郎からの暴行に、稼いだ金のほとんどをむしり取られ、働いた事が無駄になる……そんな日々のせいで、本当はいつも死にたかったのだ、と。

 

 だが、愛する息子である俺がいたから。せめて俺の卒業式を見届けてから死のうと、そう思っていたらしい。

 俺が1人で金を稼ぎ、逞しく生きている様子を見て、俺なら1人でも大丈夫だと、安心したそうだ。

 

 それから、小学校と中学校で楽しめなかった分、父親から逃げた後は、高校生活を楽しんで欲しい。幸せに生きて欲しいという、母の最後の願いが記されていた。

 

 遺書の最後には、母が祖母から譲ってもらった高価なロザリオと、父親に知られないようこっそり隠しておいた、母が稼いだ金の一部の在処も書かれていた。

 おそらく父親は、母の遺品を全て売り払う。そうなる前に回収して欲しい、とも書かれていた。奴は祖母が亡くなった時も、母が必死に止めたにも関わらず、その遺品を全て売り払ったから、と。

 

 

 まさか、そんな事まで本気でやるのか?と、さすがに半信半疑だった。しかし――あのクソ野郎は、本気でそれをやりやがった。

 母は自分の所有物。母の持ち物も自分の所有物。死んだ後もそれは変わらない。だから売って、金にする。……クソ野郎はそう言っていた。

 

 こうして、俺に遺された母の遺品は、今も首から下げている高価なロザリオのみとなった。……祖母の遺品でもあるから、これは本当に大切な物なのだ。

 母の遺書には、"困った時はロザリオを売って金にして欲しい。これは相当な価値のある物だから"と書かれていていたが、売るつもりは毛頭無い。

 

 

 クソ野郎の所業は今でも許せねぇが、当時の俺にとってはチャンスだった。奴が母の葬式や、遺品を売り払う手続きに掛かりきりになっている間、俺は放置されていたから。

 その間に隙をついて逃げ出し、行方を眩ませ……そして、今に至る。

 

 

「……俺は元々住んでいた場所から逃げ出して以来、その地域には行ってない。

 どうしても、小さいガキの頃に暴力を振るわれた記憶が呼び起こされて、あの野郎を前にすると体が震えて仕方ない。……奴に関する記憶が甦るような場所には、近づきたく無いんだよ」

 

「……さっきも、神父には"訳あって本人達の下へ墓参りに行く事ができない"と言っていたな。それが理由か」

 

「あぁ。……母と祖母の墓がある場所に行けない代わりに、2人の命日にはあの教会に行って、祈っていたんだ」

 

「……それで、そのクソ野郎がシドを探しているのか?」

 

「…………分からない。だが、念のために素顔を隠している。奴は俺が前髪を下ろして、眼鏡を掛けた状態を見た事が無いから、見つかってもすぐには分からないはずだ」

 

「そう、か」

 

 

 承太郎は眉を下げて悲しそうにしているし、イージスは俺の肩を抱いて今にも泣きそうだ。

 

 

「……とまぁ、これが今世の俺の昔話。どうって事は無い、ありきたりな暗い話だ。……承太郎の前世と比べたら大した事ねぇよ」

 

「――そんな訳あるか!!」

 

 

 そう言って怒鳴った承太郎に、思わず肩を震わせた。承太郎はそれを見て一言謝り、話を続ける。

 

 

「……大した事がねえだと?ふざけるなよ。話をするだけでそんなに震えてるくせに」

 

「……震えてる?」

 

「馬鹿野郎が。よく見ろ」

 

 

 隣に来た承太郎が、俺の両手を掴んだ。自分の手を見ると……確かに、震えている。気づかなかった。

 

 

「だからイージスも、お前の肩を抱いて安心させようとしてんだよ」

 

「……そうだったのか。ありがとう、イージス」

 

「無理しないでね?本当に……」

 

「あぁ。……なぁ、イージス」

 

「うん、何?」

 

「……俺のスタンドの力が、護る力になったのは……もしかしたら、根底に母親を守れなかった事への後悔があったせいかもしれない。俺はずっと、母さんに守られてばかりだったから」

 

 

 母に守られてばかりで、俺は何もできなかった。あのクソ野郎を前にして震えるだけで、何もできなかった。

 

 小学生の時は、まだいい。だが中学生になってからは喧嘩に慣れたし、体もそれなりに成長したから、俺が身代わりになる事もできたんじゃないか?

 そうすれば、母もまだ耐えられたのでは?――あの時、自殺する事も無かったかもしれない。

 

 

 俺は、母さんを守れなかった。

 

 

「……それが、親という生き物だ」

 

「え、」

 

「――親が子を、身を挺して守る事は、当然の事だ。……その後悔は、お前が背負う物ではない」

 

 

 俺を見つめてそう言った承太郎の目は、まさしく親が子を見る目そのもので。

 

 

()には、シドの母親の気持ちが痛い程によく分かる。……親は、子を守るためなら咄嗟に自分を犠牲にする。私は、徐倫を庇って死んだ」

 

「承、太郎」

 

「……お前の母親は、お前がずっと後悔し続けるよりも、お前が幸せになってくれた方が喜ぶはずだ。もしも私が同じ立場にいたら、私だって徐倫に対して同じ事を思う。

 遺書にもそう書いてあったんだろう?……高校生活を楽しんで欲しい。幸せに生きて欲しい、と」

 

「……それは、」

 

「でもなあ、シド。お前の母親の気持ちは確かに分かるが、俺はそいつにちょっと言いたい事があるぜ」

 

「はっ?」

 

 

 急に、6部承太郎が3部承太郎になった。変わり身早過ぎだろ。

 

 

「お前が母親から見て逞しく見えたとか、1人でも大丈夫そうに見えたとか、遺書にはそんな事が書かれていたらしいが……当時のお前は、中坊のガキだぞ?

 そんなガキを、暴力を振るう父親の下に1人置き去りにして勝手に死ぬなんざ、いくら心が限界だったとしても、普通は母親がやってはならない事だと思うぜ。

 

 ……まぁ、前世で妻と娘を守るためとはいえ、離婚してしまった私が言える事では無いと思うが……いや、それはともかく。

 

 だからお前は、もっと母親に文句を言っていいんだ。ずっと母親に守られていた事に負い目があったとしても、言っちゃ悪いが相手は死人だ。

 今生きているお前が、死人に好き勝手に文句を言っても、誰にも咎められないだろ?」

 

「……そんな、でも――」

 

「――母親に死んで欲しくなかった。……そうだな?」

 

 

 言葉を遮られ、そう問われた俺は、小さく頷く。……そうだ。当然だろ。俺は母さんに死んで欲しくなかった。

 

 

「お前は自分だけじゃなく、母親と共に逃げたかった」

 

「っ、……あぁ」

 

「母親の死体を見た時……裏切られたと、そうは思わなかったか?」

 

「あぁ……あぁ、思った!」

 

「何故勝手に死んだのか、どうして自分に何も相談してくれなかったのかと、本当は母親にそう言って怒りたかったんじゃねえのか?」

 

「――そうだ!俺は、俺はあの人に怒りをぶつけたかった!!」

 

 

 一度怒鳴れば、もう止まらない。俺は今まで溜め込んでいたものを、全て吐き出した。

 

 本当はいつも死にたかった?知るかよ、そんな事!俺が逞しく生きてる?1人でも大丈夫?ふざけるな!!全っ然大丈夫じゃねぇんだよ!!

 母さんが側にいないなんて嫌だった!もっと一緒にいたかったのに!!一緒にあのクソ野郎から逃げようって、約束したのに!!

 

 何でだよ!何で勝手に死んだ!?ふざけんな、くそっ、くそが、嗚呼――

 

 

「――俺を置いて逝くなよ、母さんの馬鹿野郎!!うあぁ、あ"あ"ああ……っ!!」

 

 

 そうやって思い切り泣き喚く俺に、承太郎は服が濡れても構う事なく、胸を貸してくれた。……背中を撫でる手付きが優し過ぎて、もっと泣いた。

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

空条承太郎の友人は、立ち向かう



・男主視点。

・キャラ崩壊注意。


 ――空条承太郎だって、予想外の人物の予想外な行動を目の当たりにすれば、咄嗟に動けなくなるはず。





 

 

 

 

「……そういえば、」

 

「ん?」

 

「徐倫達がお前を養子にするだの何だのって騒いでた時、様子がおかしくなったのは何でだ?それに、司書にならないのかって聞いた時も。

 お前の祖母の命日が近くて、不安定になってたんだろう、って事はなんとなく分かるんだが」

 

「…………あー」

 

 

 承太郎に過去を明かし、最終的に大泣きした俺が泣き止んだ後。俺は拒否したんだが、承太郎に引きずられて、今夜もジョースター家の食卓にお邪魔する事になった。

 確かに、今日は元から夕食を共にする予定だったが、こんな泣き腫らした顔で行きたくないと拒否したのに、承太郎は聞いてくれず……結局、俺の方が根負けした。

 

 で、今は2人でジョースター邸に向かっている最中だ。

 

 

「…………ジョルノに言った通りだよ。どの家族も暖かそうで、俺なんかには勿体ない。……母の事を思い出したり、暖かい家庭がつい羨ましくなって……悲しくなった。上手く隠せたはずなのに、お前にはバレちまったけどな」

 

「……そう、か。…………うちの夕食に付き合わせるのは、辛いか?」

 

「いや、そうは思ってない。悲しくなったのは祖母の命日が近くて母さんの事を思い出したせいだし、もう"墓参り"を済ませた後だから、今は問題ねぇよ」

 

「なら良いが……無理はするな」

 

「てめぇ、俺を強制的に連れ出しといて今さら何言ってやがる」

 

「…………すまない」

 

「あ"ー、分かった分かった、そんな悲しげな顔をするな!無理はしてねぇ!こんな酷い顔のまま行きたくなくて拒否してただけだって!」

 

「どこが酷い顔だ?泣いた後でも変わらず整った顔立ちだぞ」

 

「彫刻みたいな美形の承太郎に言われてもな……」

 

「それで。司書にならないのかと聞いた時に様子がおかしくなった理由は?」

 

 

 ……こいつの話が急に飛ぶところにも、大分慣れてきたな。

 

 

「……あれは、だな。……高校卒業したら、本格的に逃げるための計画を立てようかと考えてたんだ。だから、大学に入学する気は全くなかった」

 

「……父親から、逃げるため?」

 

「そう。……大学に通うとなると、そこに数年は縛られる。奴がもしも俺を探していたとしたら、その間に見つかるのが怖くてな……でも、」

 

「……でも?」

 

「今は、迷ってるんだ。……お前に話を聞いてもらったおかげで、いろいろマシになったんだろう。――あのクソ野郎との縁を切るために、立ち向かう必要があるんじゃないかと……そう、思っている」

 

 

 承太郎の足が止まった。俺も、足を止める。彼は振り返り、俺を見た。そして目を見開くと、困った顔になる。

 

 

「……無理はするなって言っただろうが。また泣きそうになってるぜ」

 

「……悪い」

 

「謝るな。……お前のせいじゃないだろ」

 

「…………」

 

「……シド。結論を出すには、まだ早いと思うぜ。これからゆっくり考えろ。いつでも相談に乗るし、辛くなったら話も聞いてやる」

 

「あぁ……ありがとう、承太郎」

 

「ん」

 

 

 こういう時、さすがは元父親だなぁ、と思う。さっき大泣きした時も黙って受け止めてくれたし。

 俺は前々世で恋人がいた事もあったが、結局最期まで独身だった。元は子を持つ親だった承太郎には、いろいろ負けている。

 

 

 まぁ、承太郎の言う通り、クソ野郎との関係についてはこれからゆっくり考えるか……

 

 

 

 

 

 

 ――しかしその後。ジョースター邸にお邪魔した俺は、そんな呑気な事を考えた自分を、思い切りぶん殴りたくなった。

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 ジョースター邸に到着すると、玄関には何故かジョジョ主人公ズとディオが勢揃いしていた。何事だ?

 

 

「……おい。何があった?」

 

 

 訝しげに彼らに問い掛ける承太郎には誰も応えず、代わりにジョセフが険しい表情で俺を見た。

 

 

「園原。お前、虹村兄弟と初めて会った時。自分の家族の事もちょっと話してたよなァ?母親が亡くなって、残った父親は酷い野郎だって」

 

「……はい。そう、ですけど」

 

 

 何で、今。その話を……?

 

 

「……俺は、志人さんを信じるっスよ!良い人そうだけど、そう見せかけてるだけじゃねえのか?」

 

「僕もそう思いますよ。あれはどう見ても、無駄に人が好い。胡散臭いですね」

 

「まァ、そうだろうなァ。あいつからは人を騙そうとしてる臭いがプンプンするぜ」

 

「……どうしよう。今面会している父さんの事も心配だけど……志人君と会わせない方がいいのかな?」

 

「そこは志人さん次第じゃない?」

 

「ちょっと待て。……まさか――シドの父親が、来てるのか?今、ここに?」

 

「……はい。今応接室にいて、ジョージさんと話しています」

 

 

 悲鳴が出そうになって、思わず口元を押さえた。血の気が引く中、俺の背を撫でてくれる承太郎のおかげで、少しずつ落ち着いていく。

 

 

「……志人、さん?真っ青じゃないっスか!?」

 

「ちょっと、大丈夫!?」

 

「あー、こいつは……本人の意思は関係なく、会わせない方が正解か?」

 

「……いや。もう手遅れのようだぞ」

 

「あァ?」

 

 

 今まで黙っていたディオのそんな発言を聞き、全員の目がそちらに向けられた。……それと同時に、すぐ近くの応接室の扉が、開く。

 

 

「――志人?」

 

「あ、」

 

「……志人。志人じゃないか!あぁ、会えて良かった!」

 

「……っ、!!」

 

 

 ジョージ・ジョースターと共に出て来た男……今世の父親が俺の名前を呼び、わざとらしく喜色満面といった様子で俺に近づこうとする。

 俺が悲鳴を呑み込んで後退りすると、承太郎が俺の前に出た。さらに、その前にジョセフ達も立ち塞がる。

 

 

「……おや?すまないが君達、そこを退いてもらえないか?私は大事な息子と話がしたいんだ」

 

「……ジョージさん」

 

「な、何かな?承太郎」

 

「あんたはその人と、どんな話をした?ちょっと教えてくれ」

 

 

 父親は、自分が無視された事に一瞬顔をしかめたが、すぐに笑顔を貼り付けた。

 

 

「ああ……志人くんのお父上は、志人くんが突然自宅から姿を消してしまい、全く連絡が取れなくなった事を心配して、ずっと探していたそうだ。

 もしかしたら、自分が知らないうちに彼に何かしてしまったのかもしれない。本当にそうなら、ちゃんと話し合って仲直りがしたいと言っていた。

 

 ここに来たのは、優秀な探偵を雇って志人くんの居場所を突き止めたから、だそうだよ。

 彼が何度か我が家に出入りしている事が分かったので、息子が迷惑を掛けている事への謝罪と、もし良ければ、息子との仲直りに協力してもらえないかと頼まれて……」

 

「なるほど――よく、分かった」

 

 

 常よりも低い声。そして下で強く握られた拳……承太郎は、怒っている。だが、こいつはその怒りを深く息を吐く事で抑え、落ち着いた様子で俺に小声で話し掛けてきた。

 

 

「……志人。俺達が側にいれば、奴に立ち向かう事ができるか?」

 

「……俺、達?」

 

「俺とジョルノ、徐倫に仗助、ジョセフとジョナサン、ついでにディオ。――俺達、ジョースター家がお前の味方になれば、奴と戦えるか?」

 

「――――」

 

 

 …………正直に言えば、怖い。だが、ジョースター家の人間の強さを、俺は原作を見て知っている。

 さっきはクソ野郎との関係を、これからゆっくり考えればいいと、先伸ばしにしようとしたが……今はそんな呑気な事を言ってる場合じゃねぇ。……この場で、立ち向かうべきだ。

 

 

 大丈夫。……大丈夫。ジョースター家もそうだが――俺には、最も頼りになる親友が、承太郎がついている。

 

 

「どうする?志人」

 

「……戦える。……いや、戦う。だから――お前達の力を、俺に貸してくれ……!」

 

「――上等」

 

 

 顔だけ振り向いて、ニヤリと笑った承太郎は、次いでクソ野郎に声を掛ける。

 

 

「……仲直りがしたい、と言ったな。じゃあ協力してやるよ」

 

「おお……それはありがたい」

 

「承太郎さん!?」

 

「兄さん、何言ってるのよ!」

 

 

 ニコニコと胡散臭い笑顔を見せる父親と、承太郎を止めようとする仗助達。それに動揺する事なく、承太郎はこう言った。

 

 

「ただし――この場にいる人間全員を、立ち会わせる事。……これが守れねえなら、1人でさっさと出て行け」

 

「……何だと?」

 

「俺達ジョースター家の人間にとって、定期的に食卓を共にしているこいつ……園原志人は、もはや身内のようなものだ。

 そんな身内が、あんたと顔を合わせただけでこんなにも震えているんだぜ?心配になって当然だろ。なあ?」

 

「……ははーん?そういう事ネ?確かに承太郎の言う通りだ!俺の可愛い後輩でもある園原がこんな状態じゃあ、そりゃあ心配になるぜ!なァ、お前ら!」

 

「全くですね」

 

「そうね。異議なし」

 

「承太郎さんに、さんせーい!」

 

 

 ニヤリと悪い顔をしたジョセフが承太郎に同意し、さらに仗助達に同意を求めると、その意図が分かったのだろう。彼らもそれに賛成した。

 

 

「……い、いや、しかし……他人にそんな迷惑を掛けるわけには、」

 

「いいえ!遠慮しなくてもいいですよ。僕達としても、志人君がお父上と仲違いしたままというのは心苦しいので、ぜひ協力させてください!ねえ?父さん。父さんもそう思うだろう?」

 

「あ、あぁ。そうだな。ジョナサンの言う通りだ。どうぞ、応接室を使ってください」

 

「で、ですが、」

 

「それとも……あんたには、何か疚しい事でもあるのか?」

 

「それは……その……」

 

「何も無いなら、俺達の前でも話せるはずだ。……それができないなら、逃げても(・・・・)いいぜ?まぁ、そうすると俺達からの疑いを晴らす事もできず、シドと仲直りする機会も無くなるかもしれないが。

 

 ――本気で子供と仲直りしたい父親なら、俺達の目の前で、やれるよなあ?」

 

 

 ……このように、ジョースター家の連携と、承太郎が止めを刺した事で、俺達は全員で応接室に入る事になった。

 

 

 

 

 

 

「……ジョルノ」

 

「何ですか?承太郎さん」

 

「お前に、頼みたい事がある――」

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 豪華なローテーブルを挟むように設置されている、これまた豪華なソファー2台の片方に父親、もう片方に俺とジョージさんが座った。

 俺の隣には承太郎が立っていて、その側にジョルノ、徐倫が立っており、父親の背後にはジョセフ、仗助、ジョナサンが立っていた。ディオは、俺達の中間あたりの壁に寄り掛かっている。

 

 

「では……ここからはどうぞ、親子で話し合ってください」

 

「ありがとうございます、ジョースターさん。……志人。お父さんは、お前に何かしたかな?どうして急に家を出て行ってしまったんだい?私には何も心当たりが無い……私は、お前に何もしていない。そうだろう?」

 

 

 畳み掛けるようにそう言った父親は、口元は笑みを作りながらも、目は俺を睨んでいる。

 これは幼い頃から、周りに家族以外の誰かがいた時によく見た目だ。"余計な事を言えば、家に帰ってから殴るぞ"と、俺を脅すための目。

 

 俺が奴と一緒に外出した時は、いつもこの目に怯えていた。

 

 

「もちろん、私が悪いとすれば謝るよ。だがそれと同じくらい、私にもお前に言いたい事があるんだ。ちゃんと話し合って、お前が自分の間違いを認めれば私だって悪いようにはしない。必要なら、私も謝罪しよう」

 

「…………」

 

「志人。お父さんがお前の話を聞いてやるから、一緒に家に帰ろう?お母さんもいないし、1人じゃ寂しいだろう?お父さんがまた一緒にいてやるからさ。なぁ?」

 

「…………」

 

「……さっきから黙ったままだな。お前からも何か言いなさい。……それとも、やはり他人の前では話しにくいか?そうか、そうだな。やっぱり別の場所で2人きりで話そう。家族水入らず、ゆっくり、話し合おうじゃないか」

 

「…………」

 

「早くここを出よう。お前の事だ、どうせジョースター家の皆さんに散々迷惑を掛けているんだろう?これ以上迷惑を掛けてはいけない。これはお前と、私の、親子の問題だ。部外者が介入すべきではない。……分かっているね、志人」

 

「――さっきから、」

 

「……あ?」

 

「さっきから、何を焦っているんですか?……そんなに他人の目を気にするなんて……自分側に疚しい事があると見られても、文句は言えないですよ」

 

 

 やけに饒舌なクソ野郎に向かって俺がそう言うと、奴の目付きがさらに鋭くなった。……昔なら、それだけで萎縮して何も言えなかっただろう。

 だが、今は違う。……途中から、承太郎が俺の肩に手を置いてくれた。その手が、俺に勇気をくれる。

 

 

「……何を言ってるんだ、志人。私は焦ってなんか、」

 

「じゃあ、もう少しゆっくり、ここで話しましょう。疚しい事が何も無いなら、それができますよね?」

 

「っ、」

 

「ところで、俺が家出をした理由について、本当に心当たりが無いんですか?……少しも、考えなかったんですか?」

 

「…………お母さんが、亡くなったせいか?」

 

「それはきっかけに過ぎません。……もっと大本の原因がある。あなたは、それを知っているはずだ」

 

「何が言いたい」

 

 

 徐々に、クソ野郎の化けの皮が剥がれつつある。この男は沸点が低い。昔はすぐにカッとなって、母を殴っていた。

 

 

「あなたが幼少期の俺や、母さんに日常的にやっていた事ですよ。分かるでしょう?俺が、何を言いたいのか」

 

「……確かに、私はお前と妻に厳しい事をしていたかもしれない。だが、あれはお前達のためを思ってやった事だ」

 

「へぇ?俺達のため?はぁそうですか、へぇ――日常的に暴力振るうわ、暴言吐くわ、その上、他人の前では仲の良い家族を演じろ、誰かに話せば半殺しにする、と言って脅すわ、母が必死になって稼いだ金のほとんどをぶん取るわ……それら全てが、俺達のために、やった事だって?」

 

「なっ……!?」

 

「あ"ぁ!?」

 

「何、それ……!」

 

「暴力?暴言?脅す?稼いだ金をぶん取る?……志人さんとその母親に?――はぁ?」

 

 

 主人公ズやジョージさんが、それぞれ驚きの声を上げたり、威嚇したり。……あ、ちょっとそこのクソ野郎の後ろにいる黒柴くん?人を殺しそうな目をしないで?落ち着け?

 

 

「なっ、でっ、デタラメを言うな!何て事を言うんだ、志人!!皆さんを誤解させてはいけない!今すぐに謝罪しなさい!!」

 

「……謝る必要がありますか?俺は事実を言っているだけです。

 俺と母さんはずっとあなたから虐待を受けていた。だからあなたから逃げるために金を稼いでいた。逃げた先で部屋を借りて、俺と母さんの2人で住むためにな。

 

 しかし、それさえもあんたにむしり取られ、虐待もエスカレートしていく日々に耐えきれず、母さんは自殺した!てめぇのせいで母さんが死んだ!!」

 

「黙れ黙れ黙れ黙れぇ!!」

 

 

 そしてついに、クソ野郎の化けの皮が剥がれた。

 

 

「お前は俺の息子だ!俺の所有物だ!!物風情が俺に逆らうんじゃねぇ!!」

 

「所有物だと?ふざけるな!!俺は物じゃねぇ!母さんもそうだ!あの人はてめぇの物じゃない!それに――あの人の遺品も……!!」

 

 

 母さんの事を自分の所有物だと言い、遺品すらも自分の物だと言い、嬉々として母の遺品を薄汚い手で漁り、金にしようとする、クソ野郎の醜い姿。

 

 あの姿を忘れた事は、一度も無い!!

 

 

「――母さんの遺品のほとんどを勝手に売り払いやがって!!このクソ野郎!俺はてめぇを一生赦さない!!」

 

「――っ、」

 

「赦さない?赦さないだって!?この俺に向かって!偉そうな口を利くんじゃねぇ!!」

 

 

 その時。クソ野郎が立ち上がり、ローテーブルを足蹴にして俺に掴み掛かろうとした。隣から腕を強く引かれ、承太郎に庇われ、仗助達の怒号と悲鳴が聞こえて――

 

 

 

 

 

 

 ――瞬きをする間に、クソ野郎が目の前から消えていた。…………えっ?

 

 

「ぎゃあっ!?」

 

 

 そんな悲鳴が聞こえた方向を見ると、何故かクソ野郎が壁に叩き付けられている。

 

 ――魔王の手によって。

 

 

「あっ、これはまずい――じゃなくて、父さん!ちょっと外に出ようか!」

 

「な、何?」

 

「僕も一緒に行くから!ね?さあさあさあ、行くよ!!」

 

「ま、待ってくれ、ジョナサン!?何をするんだ!」

 

 

 と、それと同時にジョナサンがジョージさんを応接室の外に連れ出す。……な、何だ?何が起ころうとしている?

 

 

「おっとそうだ、ディオ!」

 

「あ"?」

 

「ほどほどにね!!」

 

「…………」

 

「ディオ!返事!!」

 

「…………分かった」

 

「うん、じゃあ後は任せたよ!」

 

 

 そして、ジョナサンとジョージさんが出て行くと、ディオはクソ野郎の胸ぐらを掴んで持ち上げた。奴の足が浮いてる……!

 

 俺と、残された主人公ズの誰もが……あの承太郎さえも声を出せずに、固唾を呑む。

 

 

「……実の息子と妻を、己の所有物として扱う、か。その支配欲――あまりにも矮小、そして醜い!!」

 

「う、ぐ……っ!?」

 

「これ以上貴様の言い分を聞けば耳が腐る。不愉快だ」

 

 

 そう言って、クソ野郎を床に投げ捨てたディオは、床に仰向けに倒れる奴の顔の横に向かって、長い足を思い切り振り下ろした!

 

 ガァン!!と、物凄い音の後に、クソ野郎の情けない悲鳴が響く。

 

 

「……今すぐ、失せるがいい」

 

「は、はひ、」

 

「ジョースター家と――園原志人には、二度と関わろうとするな。もしもまた余計な手出しをしてみろ……次は無いぞ、人間」

 

「あ……あ、ああ……っ!」

 

「――――失せろぉっ!!」

 

「ひ、ひぃっ!?うわ、ああぁぁぁ!!」

 

 

 まるで人智の及ばない化け物にあったかのような、そんな悲鳴を上げながら、奴は逃げて行った。

 

 

「…………おい、日本人共」

 

「へっ!?」

 

「は、はい!!」

 

「…………何だ」

 

「こんな時、日本では確か"塩を撒く"という文化がなかったか?」

 

「――仗助、徐倫!お袋達からありったけの塩もらって来い!!」

 

 

 承太郎のその言葉を聞いた瞬間。仗助と徐倫がバタバタと出て行き、遠くで"塩ください!!"と叫ぶ声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 






※主人公ズ&ディオによる塩撒きラッシュ(キャラ崩壊あり。良い子は真似してはいけません)

「――オラァ!!……あのクズ、もしも次も来たらぶん殴る。いや、殴らせろ!」

「俺も殴りたかったのにさっさと逃げやがってクソ野郎!!ドラララララァ!!」

「よォし、撒け!どんどん塩撒けェ!!」

「オラオラァ!!……それにしても息子の志人さんとの差があり過ぎるわ、あの男。きっとお母様の教育が良かったのね!」

「確かに。志人さんのお母様には、志人さんを産んで育ててくれた事に感謝ですね。――無駄無駄無駄無駄ァ!!」

「…………」(無言&真顔で大量の塩を撒くディオ)
 
 
 
 

「あれ?志人君はもういいの?」

「はい。2、3回撒けば、もう充分です。……ジョナサンは?」

「僕も、それぐらいで充分だなぁ」

「ですよねぇ」

「……あれ、さ。今は夜だから暗くて周りがよく見えないけど……朝になった時の事を考えると……」

「あっ。あー……掃除、手伝います」

「いやいや、大丈夫だよ。掃除は明日の朝、彼らを叩き起こして自分達でやらせるからさ……」

「……お疲れ様です」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

空条承太郎の友人と、始まりの二人



・男主視点。

・キャラ崩壊注意。特に、ディオがかなり丸くなっています。


 ――空条承太郎だって、自分に非があると分かれば、前世の宿敵が相手でも素直に謝罪するはず。




 

 

 

 

 

 主人公ズとディオと俺による塩撒きが終わった後、承太郎がジョルノに声を掛けた。

 

 

「そういや、ジョルノ。俺が頼んだ事は?」

 

「抜かりは無いですよ。……ほら、この通り」

 

 

 そう言って、ジョルノがスマホの画面を俺達に見せる。……応接室での出来事の一部始終が、録画されていた。

 

 

「……ん。よくやった」

 

「はァー、何かこそこそ話してるな、と思ってたらこれか!」

 

「ちゃんと証拠を残したんスね!さっすが承太郎さん!ジョルノもグレート!」

 

「本当にさすがだな……これなら、俺の方はいらなかったか?」

 

 

 そう言って、俺もスマホを取り出し……録音アプリを開く。先ほどまでの会話が、音声として流れた。

 

 

「……どうせ戦うなら、今後の役に立ちそうな証拠を手に入れようと思ったが、ジョルノの方が確実だったな」

 

「……くくっ。やるじゃねーか、シド」

 

「証拠が多いに越した事はありませんよ。志人さんのそれも、ちゃんと役に立ちます」

 

 

 承太郎が俺の頭をぐしゃぐしゃと撫で、ジョルノも微笑む。……ようやく緊張が解けた気がする。

 

 

「……助かったぜ。承太郎達がいてくれたおかげで、あいつに立ち向かう事ができた。それから、迷惑掛けてすまな、」

 

「あぁ、待て。謝罪はいらねえ」

 

「そうよ、志人さん。あたし達は、誰も迷惑だなんて思ってないから」

 

「お礼だけなら、ありがたく受け取るっスよ!」

 

「……そう、か。じゃあ――本当に、ありがとう」

 

 

 お礼を言って笑うと、承太郎がまた頭を撫でてきた。それ、止めろ。ぐらぐらする。

 

 それから、俺は少し離れた場所でこちらを見守っていたジョナサンと、ディオの下に行って、彼らに頭を下げた。

 

 

「ジョナサン、ディオさんも……ありがとうございます。特に、ディオさんのおかげでスカッとしました。

 俺、あいつのあんな情けない姿を見た事が無かったので、凄くスッキリしたんです。恐怖心も何処かに飛んで行ったみたいで……本当に、ありがとうございまし――た……?」

 

 

 お礼の途中で伸びて来たディオの手が、止める間もなく俺の頭に届いて……優しく、撫でられる。ほんの一瞬の出来事だった。

 

 

「…………あ、あの、」

 

「おい」

 

「は、はい!?」

 

「先程、遺品のほとんどを売り払われた、と言っていたな?……ほとんど、という事は何か残っている物があるのか?」

 

「……はい。あります。……これです。俺は違いますが、母と祖母がクリスチャンで、亡くなった祖母から母へ。母から俺へ受け継がれたのが、このロザリオでした。

 あの男は過去に、母が必死に止めたにも関わらず、祖母の遺品も全て売ってしまったらしいので……俺にとっては、祖母と母から残された、唯一の形見です」

 

 

 ロザリオを取り出し、ディオに見せる。……彼はそれを見て、ゆっくりと目を細めた。まさか、笑ってる……?

 

 

「……そうか。――ならば、大切にしろ。絶対に手放すな」

 

「放しませんよ。絶対に」

 

 

 自信を持って、即答する。言われなくても手放すつもりは無い。これは、俺の命の次に大切な物だから。

 そう伝えると、ディオは誰の目にも分かる程に笑った。……こいつ、本当にあの(・・)ディオか?

 

 ……いや。この人もまた、今は漫画の世界のキャラクターではなく、現実で生きている人間だ。それなら笑っていても、おかしくない。

 心の中で魔王様って呼ぶの、止めようかな。前世とは違い、今世のこの人は俺が思っている程、恐ろしい人では無いのかもしれない。

 

 

 俺が納得した時、ディオはすれ違い様に俺の頭をポンと撫でて、立ち去って行く。するとすぐに、承太郎達が寄って来た。

 

 

「園原、お前!何したんだよ!?何したらディオにあんな顔をさせられるんだよォ!?」

 

「あ、あんな顔、とは?」

 

「笑顔ですよ。……あんなに柔らかく笑う兄さんは、初めて見ました」

 

 

 どうやら、あの笑顔はレア物だったらしい。

 

 

「――前世のディオは、幼い頃。父親から母親の遺品を売って、酒代にするよう命じられ、それに従った。……従うしか、なかったんだ。彼も父親から暴力を振るわれていたから」

 

「――――」

 

 

 ジョナサンの言葉で、原作のディオの過去を思い出した。……そうだ。あの人の家庭環境もかなり酷かった。

 父親を毒殺しているが、その根底には自分や母親に対する虐待への恐怖と、怒りがあった。……俺と、同じだ。

 

 俺も一歩間違えていたら、今世の父親を殺していたかもしれない。

 

 

「君の父親と、前世の父親が重なり、志人君に前世の自分を重ねてしまったのかも。……ところで、さっき言ってた証拠の扱いはどうするの?それに、志人君の父親についても」

 

「あ、ああ……そう、だったな。とりあえず財団に報告するのは当然として――」

 

 

 ジョナサンが話を逸らそうとする空気を感じ取ったのか、ジョセフは空気を読んでそれに乗った。

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 それから。夕食を食べ終わった俺は、承太郎の提案で今日だけはジョースター家に泊まる事になった。

 今日は俺の祖母の命日、しかもその日中に今世のトラウマが襲来したせいで疲れているだろうから、泊まっていけ。……というのが、承太郎の言い分だ。

 

 明日は学校が休みで、俺のバイトも午後からだし、泊まっても明日に支障は出ない。……俺も今日はいろいろあり過ぎて1人になりたくない気分だったし、お言葉に甘える事にした。

 

 

 夕食後。承太郎と一緒に図書室に行くと、そこには先客が2人。

 

 

「あ、ディオさん。ジョナサンも」

 

「ん?……何だ、貴様か」

 

「やぁ。2人も本を読みに来たの?」

 

「はい」

 

 

 備え付けられたソファーに、ディオとジョナサンが隣り合わせで座っている。承太郎が眉間に皺を寄せた。

 

 

「……シド。場所を移すぞ」

 

「え、やだ」

 

「やだって、ガキかよ。……いいから、行くぞ。ここじゃなければ何処でも良い」

 

「何でだよ。お前、さっき"今日は本を読みたい気分だ"って言ってたじゃねぇか。俺だってその気分だ」

 

「……俺の部屋にも本がある」

 

「そっちは読み終わったやつばかりだ。こっちにする」

 

「…………他に人がいない方がいい」

 

「なら、俺もいない方がいいんだな」

 

「そういう事じゃねえよ」

 

「じゃあ、ジョナサンか?」

 

「は?」

 

「――それとも、ディオさんか?」

 

「っ、」

 

「なるほど、ディオさんだな。そうか」

 

 

 承太郎の反応から、ここを離れたがる原因がディオにある事が分かった。

 

 

「前世の事を話してくれた時、今は向こうが下手に構って来ないならどうでもいいって言ってただろ?それなら、わざわざ場所を移さなくてもいいじゃねぇか」

 

「俺はいい。だが、お前は駄目だ」

 

「あ?何で?」

 

「お前は奴に初めて会った時からずっと興味を持たれている。その危険性を自覚しろ」

 

 

 えっ?まだ興味持たれてたのか?

 

 イージスの名付けの時に話し掛けられてから、今日頭を撫でられるまでは、向こうから何かを言ってきた事は無かった。

 だから既に無関心になっているのだろうと、そう思っていたのだが……どうやら違ったらしい。

 

 

「ふーん……ちょうど良いな。俺も今日、ディオさんに興味持ったところだ」

 

 

 最初は怖かったが、今日のディオの様子でこの人も普通の人間だという事が分かったし、今は興味しか無い。

 

 

「シド、お前な、」

 

「じゃあ聞くが、今世のディオさんも吸血鬼なのか?」

 

「あ?…………それは、違うが」

 

「ほら、普通の人間だろ?」

 

「普通、の……?いや、どこが普通だよ」

 

「じゃあお前も普通の人間じゃねぇのか?それなら俺は対応を変えるぜ」

 

「嫌だ」

 

「だろうな。……ディオさんだって、もしもお前と同じ立場だったらそう思うんじゃねぇの?」

 

「う……」

 

「自分が人にされて嫌な事は、他の人にもやったらいけないんだぜ?知ってたか?」

 

「…………知ってる」

 

「分かってるなら最初からやるな」

 

「はい」

 

「ってわけで、今日はここで本読むぞ。よし、決定」

 

「…………はいはい、仰せのままに」

 

「――ぶふ……っ!!」

 

 

 後ろから、誰かの吹き出す音が聞こえた。振り向くと、ジョナサンがディオの肩口に顔を埋めて震えている。ディオはこっちを見てニヤニヤ笑っていた。あれ?

 

 

「あは、あははははっ!ふふ、はははは……っ!!」

 

「……主導権は承太郎にあるのかと思っていたら、実は園原の方が握っていたのか。くく、これは傑作だな」

 

「……主導権?」

 

 

 それは、聞き捨てならないな。

 

 

「ディオさん。……そういう言い方、止めてくれませんか。俺達にはどっちが主導権を握るとか、そういう上下関係は無いので」

 

「……ほう?」

 

「俺と承太郎は親しい友人同士で、対等です。承太郎が俺より下だと思うのも、俺が承太郎より下だと思うのも、どちらも止めてください。――正直に言わせてもらいますが、不快です」

 

「っ、シド!」

 

 

 承太郎に肩を掴まれた。下手に逆らうな、とでも言いたいのだろうか?ディオの隣で爆笑していたジョナサンも、今は目を点にして俺を見ている。

 

 

「…………ふ、」

 

「ん?」

 

「ふふ、くくく……っ!おい。今の聞いたか、ジョナサン。この小僧、俺に逆らったぞ」

 

「……そう、だね。僕も驚いた。前世のディオの事を知った上で、ここまで堂々と文句を言った人って、ジョースター家の人間を除けば、初めてじゃないかな?」

 

「ははは!なるほどなァ。あの時、貴様が密かに牽制してきた理由が分かってきたぞ、承太郎……」

 

「…………ちっ」

 

 

 牽制?……何の事だ?

 

 

「……理由が分かったからって、こいつに余計な手出しはするんじゃねえぞ」

 

「ふん……今はもう、その気は無い。だがその代わりに1つ、聞かせてもらおうか。……園原」

 

「はい?」

 

「――貴様は前世の存在について、どう思う?」

 

「どう思う、って……」

 

 

 ディオの質問の意図が読めない。何が言いたいんだ?

 

 

「……そんな事言われても、俺の前世の人生は短くて、呆気なく死んでしまったから、何とも言えないですよ」

 

「あぁ……死因は、弓と矢だったな。そして虹村形兆……あれには前世の私にも関係がある」

 

「虹村の前世の父親に埋め込まれた肉の芽、ですよね?承太郎の前世の話を聞いた時、その話もしてました」

 

「それを知っているなら、話は早いな。……前世の自分が死んだ原因の大本が、私の存在にあると知った時。貴様はどう思った?」

 

 

 ……あー。なんとなく、ディオの言いたい事が分かってきた。それなら正直に答えよう。

 

 

「――そういう事だったのか、と納得しました」

 

「……それだけか?」

 

「はい。……別に、てめぇのせいで死んだのか、とかは思ってないです」

 

「ほう?私を恨むつもりはない、と?」

 

「全く無いですね。前世は前世、今世は今世なので。……死んだ時のトラウマが今でも残っているのは別として、前世の出来事を今世にまで持ち込みたくないし」

 

「……続けろ」

 

 

 いつの間にか、ディオとジョナサンの表情が真剣になっていた。隣を見れば、承太郎も同じ顔だ。

 

 

「俺にとっての前世とは、"既に終わったもの"です。そして今の俺は、今世の人生が"始まったばかり"。……終わったものに構っている暇は無いです」

 

 

 前世の事も、前々世の事も。俺はできる限り今世には持ち込まないようにしている。今の俺は"前々世の俺"でも、"前世の俺"でもなく、"今世の俺"だから。

 

 

 前々世は言わずもがな、前世は今世と同姓同名だが、今世の俺とは歩んでいる人生が違う。

 例え前世と姿形が同じでも、俺は前世で一度死んでから今世に新しく生まれ変わったのだ、という認識をしている。

 

 前々世と前世の人生を否定する気は無い。どちらも俺の人生だ。特に前世では仗助と出会ってるし、その出会いを否定したい訳じゃねぇ。

 ただ、その人生は俺に例の矢が刺さって死んだ時点で、終止符を打たれた。……もう、再び始まる事はない。

 

 その代わりに新しく始まったのが、今世の俺の人生だった。それだけだ。……この考えは、俺が前世の記憶を持つ人達と関わる時も変わらない。

 

 ディオの場合、原作1部と3部のラスボスだった事もあって、今までは前世と絡めて警戒し過ぎていたが、それは例外だ。

 俺は相手の前世のみを気にするのではなく、今世も含めた"その人自身"を知りたいと思う。直接顔を見たり、話したりして、相手がどんな人間なのかを判断する。偏見は持たない。

 

 

 ……という長い話を、前々世や原作云々を除いて、簡潔に話した結果。

 

 承太郎に肩を組まれ、ぐしゃぐしゃと頭を撫でられた。ジョナサンはニコニコと満面の笑み。

 そしてディオは……なんか、すげぇ優しい顔して笑ってるんですが?さすがに今世のディオは丸くなり過ぎだろ。何があったんだよ、あんた。

 

 

「……承太郎が君の事を気に掛ける理由が、よく分かったよ。ディオもそうだろう?」

 

「あぁ。……私やジョナサン、承太郎に……おそらくジョルノもそうだな。

 ――我々のように、前世の因縁に区切りをつけ、今世を生きたいと願う人間にとっては、園原のような人間が、他の誰よりも必要なのだろう」

 

「…………ディオ。お前、」

 

「前世の自分よりも、今世の自分を見ろ。……周囲の人間に、そう言いたいと思った事は無いか?承太郎」

 

 

 承太郎が目を見開き、息を呑む。……ディオの言葉は、以前承太郎が俺に吐露した気持ちそのものだった。

 

 

「私とジョナサンにとっては、今世の自分を見ようとする相手が互いしかいなかった。貴様にとってのその相手は、園原なのだろう?」

 

「……あぁ」

 

「ならば、もう園原に余計な手出しはしない。……私とて貴様と同じ立場なら、ジョナサンにちょっかいを出されたら腹が立つからな。……納得したか?」

 

「…………分かった、もう疑わねえよ。――俺は、今世のあんたを見誤っていた。……悪かったな」

 

 

 帽子を深く被り、そっぽを向きながらも謝罪する。……今までのディオへの態度を考えれば、承太郎はこれでも、かなり素直になったと思う。

 

 

「……いや。私も1つ、謝罪しよう」

 

「何?」

 

「貴様らのどちらかが、主導権を握っている。……そんな見方をした事だ。貴様らの関係を侮辱した事は、悪かったと思っている」

 

「あぁ、その事ですか。こちらこそ、生意気な口利いてすみませんでした」

 

「……一応、謝罪は受け取っておくぜ」

 

「ふん」

 

 

 ……丸く収まった、かな?じゃあ、そろそろ良いだろ。良いよな?

 

 

「承太郎。本選んで来ていいか?」

 

「待て、俺も行く」

 

 

 本を求めて歩き出すと、承太郎もついて来た。さぁ、読むぞー!

 

 

 

 

 

 

「…………もしも、」

 

「……ディオ?」

 

「もしも俺が、前世で園原のような心根を持っていたら。その時の俺とお前は、園原と承太郎のような関係性になっていたのだろうか?……どう思う?ジョナサン」

 

「……うーん……どうかな?――彼らのような綺麗な友情が、僕達に似合うと思う?」

 

「…………なるほど。俺とした事が、下らない質問をしてしまったな。確かに、俺達には似合わん」

 

「そうだよ。前世での憎悪が混ざった友情とか死後に首から下を奪われたとかその他諸々を考えたら、彼らの純粋な関係と僕達の関係には天地の差があるよ?」

 

「……貴様、今世に生まれ変わってからは毒を吐く事が増えたな?そんなに俺が嫌いなのか?」

 

「え?――あんな前世があっても、今世では老衰で死ぬまで友達でいたいな、って思うぐらいには嫌いじゃないし、好きだと思うけど……?」

 

「そういうところだぞジョジョ貴様」

 

「んっ?何が?」

 

「知らん。自分で考えろ」

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ジョースター家と沖縄旅行
空条承太郎の友人に、拒否権は無い




・男主視点。


 ――空条承太郎だって、気を抜ける面子の前ではテンションが上がるはず。




 

 

 

 

 

 クソ野郎の襲来から、数日後。SPW財団の職員である六車さん――以前、スタンド使い登録の手続きをしてくれた職員――が、承太郎と共に俺の家を訪ねて来た。

 

 

「……それは、本当ですか?」

 

「はい。……念のために、こちらから監視をつけますが……ジョルノさんと園原さんから頂いた証拠を突きつけて脅し、ゴホン。説得しましたので、園原さんの父親があなたやジョースター家の人間に接触する事は、二度とありません」

 

「……という訳だから、シド。もう奴から逃げなくても大丈夫だぜ」

 

「…………」

 

「……シド?」

 

「園原さん?」

 

 

 六車さんと承太郎から話を聞いても、しばらくは内容が頭に入らなかった。

 だが、やがてその内容を理解して、もう逃げなくていいのだと、過去の呪縛から解放されたのだと分かった。

 

 

「…………来年、」

 

「ん?」

 

「――来年の春に、母さんの墓参りに行きたい。婆ちゃんも眠ってる、あの教会の墓の前に行きたい。……今はまだ、昔の事を思い出すから、元々住んでいた地域に戻るのが怖いけど……来年の春には、絶対に行きたい」

 

「……その時は、俺も一緒に行っていいか?」

 

「あぁ……あぁ、連れて行く!母さんと婆ちゃんに大事な親友を紹介する!

 

 ……嗚呼。もう、逃げなくていいんだな。無理に顔を隠さなくてもいい。あいつに、怯えなくてもいいのか――そうか……!!」

 

 

 そう言って嗚咽する俺の背を、承太郎が優しく撫でて慰めてくれた。来年の春の墓参り、絶対にこいつ連れて行こう。

 

 

 ……六車さんは、そんな俺達を見て号泣していた。あんた、真面目な顔して意外と涙脆いんだな。

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 あと数週間もすれば、学校の1学期が終わる。それはつまり、とある行事が迫っている事を示していた。

 

 そう――期末試験です。

 

 まぁ、人生二度目どころか三度目の俺には大した苦にならない……と、思うだろ?

 ところが。俺にとってこの行事は、かなり気を使わなければいけない物なのだ。……周りに怪しまれない程度に、テストの点数を落とさなければいけないからな!

 

 

 俺の学年には、試験の度に毎回学年1位と2位を争う奴らがいる。……承太郎と花京院だ。

 

 あの2人は1年の頃からずっと、1位と2位以外になった事が無い。内部生の1人に話を聞いたところ、中学の時からずっとそうだったという。

 高校1年の、最初の中間試験を受ける前にそんな話を聞いた俺は念のため、試験では教師や生徒に怪しまれない程度に、手を抜く事にした。

 

 その試験後。俺は自宅に持ち帰った問題用紙を使って自己採点を行い、手を抜いた場合の結果と、本気でやった場合の結果を記録して、試験結果が返って来る日を待った。

 そして当日。学年ごとの順位と点数が廊下に貼り出され、自分が本気でやった場合の結果と照らし合わせた俺は――この学校の試験では本気を出してはいけないと、確信する。

 

 だって、ファンクラブ怖い。

 

 俺が本気で問題を解いたら、間違いなく承太郎と花京院に並んでしまう。という事は、今までずっと2人でトップ争いをしていた奴らの間に割り込む事になる。

 そんな悪目立ちをしたら、ファンクラブの過激派が俺を血眼になって探すだろう。そして吊し上げだ。

 

 心配し過ぎ、とは言えない。ファンクラブの過激派は、過去に何度かやらかしているらしいからな。何がきっかけになるかが分からない以上、下手に目立つとまずい。

 

 

 ……という理由から、何度も手を抜いてやっているうちに、目立たない程度の高得点を取るのも慣れてきた。

 今では学年10位前後をうろちょろするぐらいで落ち着いているのだが……ある日。そんな俺の地味な工作が、承太郎とジョルノにバレてしまった。

 

 

 事の発端は、いつも通り俺と承太郎とジョルノの3人で旧図書館にいた時。次の期末試験の話が話題となり、ふと何かを思い出した様子のジョルノが、こんな事を口にする。

 

 

「――そういえば、志人さんは特待生の入試で歴代最高得点を出したらしいですね」

 

「な、」

 

「は?……おい、シド。それ本当なのか?」

 

「あれ?承太郎さん、志人さんから聞いてなかったんですか?」

 

「聞いてねーよ、そんな話。……シド。本当か?」

 

「――何それ俺も知らねぇ」

 

「あ?」

 

「おや……?」

 

「いやいやいやいや聞いてない聞いてない!」

 

 

 マジで知らねぇよ!何だ、その話は!?

 

 

「入試の結果は返って来てねぇし、返って来たのは学費全額免除の知らせだけだったし……」

 

「結果はネットで公開されていたはずですが……」

 

「……俺、その時はまだスマホ持ってなかったんだよ。パソコンの使用も禁止されてたし。……あのクソ野郎は、俺と母さんには雀の涙程度の金しか渡して来なかったからな。

 隠れてバイトしてた時にスマホ買ったとして、クソ野郎にそれがバレたら俺が金を稼いでる事もバレる訳で――」

 

「もういい。それ以上何も言うな!」

 

「奴を思い出させるような事を言ってごめんなさい!」

 

 

 多分死んだ目をしている俺を見て、承太郎とジョルノは言葉を遮って止めて来た。……そうだな、話を戻そう。

 

 

「……で、ジョルノくん?君はどうやってそんな情報を手に入れたのかな?」

 

 

 個人情報保護の観点から見れば、普通は生徒が入手できるような情報では無いはず。ジョルノは何処でそんな話を聞いたんだ?

 

 

「それは――秘密です」

 

「アッ、ハイ」

 

 

 ジョルノは、意味深に笑う。……深くは聞かない方が良いと、直感した。承太郎から聞いた、"裏番はジョルノ"という言葉も、思い出さなかった事にする。

 

 

「……歴代最高得点、か。それだけ実力があるなら、試験の順位も――あ……?」

 

 

 あっ、やばい。承太郎が気づいた。勢いよく俺を見る承太郎に合わせて、目を逸らす俺。……黒豹の唸り声が聞こえる。

 

 

「シド、てめえ……今までの試験、手を抜いてやがったな?」

 

「な、な、何の事だか俺さっぱり、」

 

「わざとらしく惚けるぐらいならさっさと理由を吐け」

 

「アッ、ハイ」

 

 

 ちょっとふざける事も許されなかった。……正直に事情を説明すると、承太郎とジョルノは驚き、そして呆れた。

 

 

「お前、徹底してるな……」

 

「それだけ、ファンクラブの過激派を警戒しているという事ですよね……まぁ、警戒するに越した事はありませんが……」

 

「だが、手を抜いていた事が分かった今、そのままにしておくのは癪に障るぜ」

 

「……俺は何を言われても、この学校の試験では本気を出さないからな?」

 

「分かってる。それは強制しねーよ。……その代わりに、」

 

「あ?」

 

「――夏休み。俺が今から指定する日の予定を空けておけ」

 

 

 そう言って承太郎が口にしたのは、8月初旬の5日間連続。……これからバイトの日数増やして、代わりにこの5日間を休みにしてもらって……うん。いけるな。

 

 

「……別に構わねぇが、この日に何をするんだ?」

 

「それは……いや、ギリギリまで秘密にしておくぜ。後のお楽しみだ」

 

「おい。何を企んでる?」

 

「お前が嫌がる事ではない。……まぁ、困らせる事にはなるか?」

 

「何だそれ怖い」

 

「心配するな。最後は楽しくなるだけだ」

 

「怖い怖い怖い」

 

 

 承太郎が意味あり気な笑みを浮かべている……!これ、前にも見たぞ!

 俺が梯子から落ちた後。こいつに"助けてくれたお礼に何かできる事はないか"と聞いた時と同じ顔だ。あの時は最初から最後まで、ゴーイングマイウェイ太郎に振り回された。今回も振り回される予感がする。

 

 

「とにかく、その5日間は何も予定を入れるな」

 

「…………あぁ、もう、分かったよ!ちょっと今からバイト先に電話してくるわ。早めにシフトの相談をしておく」

 

「おう」

 

 

 最終的に、俺の方が折れた。……仕方ねぇ。何があっても対処できるように、覚悟しておこう。

 

 

 

 

 

 

「……何故5日間なんですか?あれ(・・)は4日間ですよ?」

 

「最初の日にシドを連れて、あいつに必要な物を買いに行こうと思ってる。……何も言わずに連れて行く詫びとして、金は全部俺から出す」

 

「あぁ、それで5日間でしたか。……それなら、ジョージさんに事情を話してみたらどうです?志人さんが苦労している事を知ってますし、向こうからお金を出してくれるかも」

 

「……そうだな、そうしよう。当日、お前も買い物に付き合うか?」

 

「いいですね、是非。……荷物が多くなるでしょうね。誰かに車を出してもらった方がいいかもしれません」

 

「……女共に頼むと、うるさくなるな。シドを連れて行くと聞けば、もっと騒ぐはず」

 

「では、男性陣から。ジョージさんは仕事が忙しいはずですから、それ以外だと……ジョナサンか、兄さんか」

 

「……どうせあの2人はセットだろ」

 

「でしょうね。そして兄さんは基本、ジョナサンに運転を任せます」

 

「消去法でジョナサンしか残らねえ……」

 

「では、後日お願いしてみましょう」

 

「おう」

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 期末試験も終わり、夏休みに突入。承太郎に指定された日までバイトをしたり、学校から出された宿題を大体終わらせたり、忙しい日々を送っていた。

 

 そして、8月初旬。指定された5日間の初日に、俺は承太郎に呼び出されてジョースター邸までやって来た。

 そこで待っていた承太郎とジョルノ……そして、何故かジョナサンとディオも含めた5人で、ジョナサンが運転する車に乗り込む。

 

 

「……で、一体何処に行くんだ?」

 

「ショッピングモールで買い物ですよ」

 

「買い物?」

 

「――さて、ここで問題だ」

 

「あ?」

 

 

 そう言った承太郎はニヤニヤしていて、運転席のジョナサンは楽しそうに笑っているし、ディオとジョルノは似たような意味深な笑みを浮かべている。……事情を分かっていないのは、俺だけか。

 

 

「今日買う物は、もう大体決まっている。ほとんどがお前に必要な物だ。……今からそのリストを教えるから、これが一体何のための買い物なのかを、当ててみろ」

 

 

 そのリストとは、4日分の着替え、水着、洗面用具、日焼け止め、エトセトラ……そして最後に、それらを詰め込む大きなバック、もしくはスーツケース。

 

 

「…………旅行……?」

 

「――Exactly(その通り)

 

 

 えっ。お前が某館の執事のセリフ言っちゃうの?ディオの前だぞ?……とか思ってる場合じゃねぇ!!

 

 

「……おいおいおいおい承太郎くーん?誰が誰といつ何処に旅行に行くんだ!?」

 

「お前が、ジョースター家と、明日から、3泊4日の――沖縄旅行に出発だ!」

 

「――はああぁぁぁっ!?」

 

 

 俺がすっとんきょうな声を出すと、承太郎達4人に大笑いされた。

 

 

「待て、待ってくれ!それ飛行機だろ!?」

 

「既に席は予約済みだ」

 

「今日の買い物も合わせて俺そんな金払えねぇぞ!?」

 

「大丈夫です。それは全て、ジョースター家が払います」

 

「今日の買い物も、父さんから前もってお金を渡されてるよ!」

 

「遠慮はいらんぞ、園原」

 

 

 マジですか。

 

 

「それから4日分の着替えだが、1日ずつ、俺達4人が選んだ服を着せるからな。そのつもりでいろ」

 

 

 マジですか!?

 

 

「…………俺に拒否権は、」

 

「「「無い」」」

 

「あはは……ごめんね、志人君」

 

 

 ――マジかよ。

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

空条承太郎の友人は、悪巧み同盟を結成する


・男主視点。

・今回、ジョセフの扱いが悪くなってます。


 ――空条承太郎だって、遊びに夢中になって、はっちゃける事があるはず。




 

 

 

 青い空、白い雲――そして超強い日射し!暑い!!日焼け止め必須だわ、これ。

 

 

 さて。朝から飛行機に乗って、やって参りました沖縄。空港からレンタカーに乗り、向かった先はジョースター家が所有する別荘。

 別荘に到着し、車から降りた俺は一度伸びをして周りを見る。……別荘は海の側の高台に建てられているため、綺麗な海と地平線がよく見える。本当に良い場所にあるなぁ。

 

 おっと、そうそう。……本日の俺のファッションは、ジョナサンのコーディネートだ。

 

 白のカットソーの上に、七分袖の黒いサマーカーディガン。下は青いスキニージーンズ。……爽やかで、落ち着いた雰囲気が出る服装だ。

 一言で言うと、ジョナサンらしい。この人ならこういう感じの服を選ぶだろうなぁ、というイメージ通りの服装。

 

 俺の今の年齢を考えると、ちょっと背伸びし過ぎか?と思っていたが、昨日俺にこの服を着せたジョナサンが、よく似合っていると喜んでいたから、多分大丈夫なんだろう。

 

 

「……シド。荷物運ぶぞ」

 

「あ、悪い。今行く」

 

 

 承太郎に呼ばれて、別荘の中に荷物を運ぶのを手伝う。……18人分の荷物だからな。運び込むのは大変だ。

 

 実は今回の旅行。普段ジョースター邸にいない人達も同行している。……現在、恋人と2人暮らしをしているジョージ2世に、承太郎の父親の空条貞夫さんだ。

 久々の家族団欒のためにと、元々話は通っていたらしい。ジョージ2世はともかく、貞夫さんの方は仕事が忙しい中でなんとか時間を作ってくれたそうだ。

 

 それから、ジョナサンとジョージ2世とジョセフ、3人それぞれの恋人達まで同行している。

 エリナさんに、リサリサさんに、スージーさん……原作のジョースター家の女性達まで勢揃いだ。なお、この中で記憶を取り戻しているのはリサリサさんだけである。

 

 やはり、前世の記憶を取り戻しているのは、波紋やスタンドが使える人間のみのようだ。

 

 

 さて。そんな彼らに、俺が加わって全18人――ではない。……1人足りない!と思った人は、大正解。そう、もう1人同行している。

 しかもその人は、俺と似たような経緯でこの旅行に参加した人物――

 

 

「JOJOは……おっと。ここにいる間はジョセフと呼んだ方がいいか。

 あいつが俺に詳しい事は何も言わず、この4日間は絶対に予定を入れるな!と念押ししてくるものだから、何か大事な用があって、俺の力が必要なんだろうと思っていたら、朝早くから呼び出されてハイテンションで沖縄行くぞ!と言われ、あれよあれよという間に飛行機に乗せられて今ここにいる。

 

 俺は!何も!聞いてないっ!!何も準備していない!!それを訴えたら金は出すから現地で買えと言われ――ああぁぁ、クソ、あのスカタン!!」

 

「……た、大変でしたね。それはどう考えてもジョセフ先輩が悪い」

 

「だろ!?そう思うよな!ああ、まともな感覚を持ってる後輩が一緒で本当に良かった!!」

 

 

 ――という事で、こちら。ツェペリさん家のシーザーさんです。

 

 

 いやあ、今日最初にシーザーを見掛けた時はびびった。なんせこの人、無言だったけど例の貧民街テンションの雰囲気をバリバリ出してたからな。

 俺と同じく、ジョースター家の人間の友人という立場のこの人と一度話してみたいと思ったが、その時は怖くて話し掛ける事ができなかった。

 

 だが、話し掛けるチャンスは早くにも訪れた。

 

 俺と承太郎が別荘の入り口付近にいた時。外に出掛けていたシーザーが、両手に大きな買い物袋を持って帰って来た。

 その際。彼はなんだかとても疲れた顔をしていて、それを心配した俺が部屋まで荷物を運ぶのを手伝おうかと声を掛け、承太郎もそれに付き合ってくれた。

 

 ……ちなみに。この別荘にいる18人の部屋割りは、以下の通り。

 この別荘には本館と別館があり、本館の方にジョースター家の本家組とその恋人達が泊まり、別館の方に親戚組と俺とシーザーが泊まる事になった。

 

 部屋は全て2人部屋なので、本館の方は夫婦同士、恋人同士でペアになり、余ったディオとジョルノが同室になっている。

 別館の方は空条夫婦のペアは当然として、残った女性である徐倫と朋子さんが同室になる事も決まる。そして俺と承太郎、仗助とシーザーがそれぞれ同室となった。

 

 

 現在。俺と承太郎は仗助とシーザーの部屋にいる。仗助も一緒になって、俺達3人でシーザーの愚痴を聞いていたのだ。

 

 

「……あのクソジジイ……何をやってるんだ。さすがに俺でも、シドを相手にそこまではやらなかったぜ」

 

「クソジジイはいつまで経ってもクソジジイかよ」

 

 

 承太郎と仗助も呆れていた……って、承太郎くーん?てめぇとジョセフには前日にいきなり伝えるか、当日に伝えるかぐらいの違いしかねぇと思うぞ?大差ないだろ。

 まぁ、前日に伝えてくれただけ、ジョセフよりもマシか。承太郎が空けておけと言った日も、余裕を持って5日間だったし。

 

 

「……承太郎の言葉から察するに、志人も俺と同じか?」

 

「あ、鋭い。そうなんですよ。俺もこいつに、旅行の前日まで内緒にされてたんです。

 余裕を持って5日間を空けておけと言われたおかげで、旅行の準備は昨日のうちに終わらせる事ができましたけど、ジョセフ先輩の所業と大して変わらな、痛い」

 

 

 隣から承太郎の手が伸びて来て、頭を軽く叩かれた。

 

 

「……確かに黙ってた事は悪かったが、お前だって楽しんでただろ?おら、ちゃっかり昨日ジョナサンが選んだ服を着てるしよ」

 

「やめろ、服を引っ張るな。せっかく俺のために選んでくれたんだから、着るのは当然だろ」

 

「俺が選んだ服も持って来てるんだろうな?」

 

「あるよ、あるある。旅行中にちゃんと着る」

 

「ちょ、ちょっと待ってください2人共!志人さんの服を選んだって、何の話っスか?」

 

 

 何故か仗助が食い付いたので、昨日の買い物について説明する。……ディオとジョナサン、承太郎とジョルノが俺の服を選んだ話をすると、彼は大げさに嘆いた。

 

 

「俺も志人さんの服選びたかった!!」

 

「……あー、分かった分かった。今度一緒に買い物に付き合ってやるから」

 

「マジで!?よっしゃあ!!」

 

 

 何がそんなに悲しいんだか。黒柴がしょげてたから、買い物に付き合ってやると言うと、すぐに復活した。尻尾振ってるなぁ。

 

 

「…………いいなぁ、志人は」

 

「あっ」

 

「シ、シーザーさん……」

 

「承太郎はお前の良い友達だな。ジョセフよりもちゃんと友達の事を考えて行動したみたいだし……あぁ、仗助にとってはデリケートな話題になってしまうが、言わせてくれ。

 

 ――承太郎と仗助は本当にあのスカタンの孫と息子だったのか!?どちらもよく出来た子達で奴とは比べ物にならん!!」

 

「…………ハハ」

 

 

 珍しく、承太郎が空笑いをした。前世のジョセフに関するあれやこれやを思い出したのだろう。遠い目をしている。

 

 

「……はぁ……まぁ、とにかく話を聞いてくれてありがとう。多少はすっきりしたよ。ジョセフの事はさっき、スージーQや先生……リサリサさんも叱ってくれたし、奴も謝って来たからな。

 しばらく根に持つつもりでいるが……一応、許してやろうと思っている」

 

 

 懐の大きい兄弟子だな。ジョセフはこの人の事をもっと大切にした方がいいと思う。

 

 

「……いやァ、シーザーさん。それだとシーザーさんがずっとモヤモヤするだけじゃないっスか。――どうせなら、もっとスカッとする事、やりません?」

 

 

 そう言って、仗助が悪い顔になる。おやおや?何か面白そうな気配がするぞ?

 承太郎もそれを感じ取ったのか、俺を横目で見てニヤリと笑った。俺も、目を合わせて同じ顔で笑う。……ただ1人、シーザーだけが困惑していた。

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 仗助の話を聞いたシーザーは、それはもう乗り気になった。俺と承太郎も、それに便乗させてもらう事にした。

 シーザーにはいつも通りにジョセフと接して気を引いてもらい、その間に俺達は味方を増やそうと、ジョルノと徐倫に声を掛けた。……この2人を加えて、10代悪巧み同盟を結成するのだ。

 

 

「何ですかその面白そうな話は。もちろん参加しますよ」

 

「あたしも、さすがにひいお祖父ちゃんはやり過ぎだと思ってたし……というか楽しそうだし、やるわ」

 

 

 そして2人も参加決定。あとは仗助、ジョルノ、徐倫に必要な物を好きに買って来てもらい、俺と承太郎はその間にとある人物に協力を求める。

 

 

「……という訳だから、一時的にジョセフからスージーさんを遠ざけて欲しい」

 

「お願いできますか?――リサリサさん」

 

「……いいでしょう。そういう事なら、彼女は私が引き留めておくわ」

 

「ありがとうございます!」

 

「助かるぜ、リサリサさん」

 

 

 承太郎にロータッチを求められたので、それに合わせて手を打つ。……こいつ、ハイタッチはやらないけど、これなら結構やってくれるんだよな。

 

 と、クスクスと笑い声が聞こえる。

 

 

「……リサリサさん?」

 

「……彼と仲が良いのね?承太郎」

 

「それはそうだろ。こいつは俺の親友だからな」

 

「ふふ……そう。大事にしなさい」

 

「おう」

 

 

 ……なんか、子を見る母親って感じの目だな。ちょっと気恥ずかしくなって来た。

 

 

 さて、気を取り直して。準備を整えた俺達がやって来たのは――プライベートビーチ。別荘に残っている一部の人達を除いて、ジョースター家の人達は皆水着を着てここに来ている。

 ……リサリサさんがスージーさんの事を呼び寄せて、ジョセフが1人になった。

 

 作戦実行。

 

 

 

 

 

 

「――っ、うわ、冷てえ!?」

 

「目標、ジョセフ・ジョースター!」

 

「総員、撃てえぇっ!!」

 

「ぎゃあああっ!?」

 

 

 ――3部から6部主人公とシーザーによる、一斉射撃の始まりだ。

 

 

 仗助達が店で買って来てくれた水鉄砲は、海に囲まれた沖縄だからこそなのか、種類が豊富だった。様々な水鉄砲だけでなく、水風船バズーカなんて物まであったらしい。

 それらの中から好きな武器を手に取り、俺以外の全員が近距離で撃ったり、遠距離から狙ったりしながらジョセフを追い掛け回す。

 

 え?俺?……俺は水補給係だ。主人公ズやシーザーのように戦闘慣れしてない俺は、自主的にサポート役になる事にした。

 余分にある水鉄砲や水風船にひたすら水を入れて、玉切れになった物と交換する。これなら攻撃が途切れる事はない。

 

 

「くく……なかなか愉快な事になっているな?園原」

 

「みんな楽しそうだね」

 

「ディオさん、ジョナサン。どうも。……ちなみに、この作戦はアイデア提供、東方仗助。作戦立案、空条承太郎でお送りしてまーす」

 

「あはははっ!」

 

「それはそれは……前世の息子と孫に見限られたか」

 

 

 ニヤニヤしているディオと、ニコニコしているジョナサンが話し掛けてきた。2人も楽しそうにしてるな。

 

 

「……ちょっと意外ですね。てっきりジョナサンなら、"程々にね"と言うのではないかと」

 

「今回は止めないよ。……ジョセフには僕の前世の師匠の孫の事を、もっと気遣って欲しかったから。ああなっても仕方ないかな、と」

 

「、前世の師匠の、孫ですか?シーザー先輩が?」

 

 

 危ない。一瞬頷きそうになって、すぐに軌道修正した。その話は、今世ではまだ聞いてない。

 

 

「うん。僕は前世で、シーザー君の祖父である、ウィル・A・ツェペリさんに波紋を教わったんだ。ツェペリ家とジョースター家は、昔から縁がある」

 

「へぇ……!じゃあ、前世の師弟の孫同士が、今世で友人になってる訳ですか。なんか運命的ですね」

 

「そうそう。僕も後で聞いたけど、ジョセフとシーザー君は前世では波紋の兄弟弟子になってたみたいだし……さらにその師匠は、前世ではジョセフの母親だったリサリサさんだとか」

 

「凄いな。何ですか、その繋がり。いくらなんでも縁が深過ぎ」

 

「ふふ、そうだね。僕もそう思う」

 

 

 知らない体で話をしながら、水補給の手は止めない。……で、

 

 

「ディオさん、さっきからスマホで何やってるんです?」

 

「あの愉快な騒ぎを動画に収めている」

 

「最高です、ディオ様。もし良かったらそれ、後で俺の携帯に送ってくれませんか?」

 

「そうだなァ……明日、お前が私の選んだ服を着ると言うなら、送ってやろう」

 

「もちろん、着ますよ!」

 

「ふふ、いいだろう。では後程、送信する」

 

「ありがとうございます!」

 

 

 送ってもらった物は、後で悪巧み同盟の皆で楽しむとしよう。……あれ?

 

 

(……ジョセフが徐々にこっちに近づいてる気がする)

 

 

 気のせいか?……と思っていた次の瞬間、ジョセフが俺達と承太郎達の間に入るような位置取りをした。

 

 

「――イージス!バリア展開!!」

 

「任せて!」

 

 

 咄嗟に、俺とジョナサンとディオを包むバリアを展開。……間一髪!ジョセフが避けた瞬間に飛んで来た大量の水が、バリアに直撃した。

 

 

「うわっ、志人さん!?」

 

「シド、すまん!」

 

「イージスが防いだから大丈夫!」

 

「……補給源を断つついでに、言い争いが起こるかもと期待してたけど……ンー、残念」

 

 

 そんな事を呟いて、ジョセフがまた逃げていく。すぐに補給地点を狙うとか、さすがだな。それも仲間割れまで狙ってる。……やっぱり2部主人公は侮れない。

 

 

「イージス。また狙われたら、バリアを頼む」

 

「うん、分かった」

 

 

 とりあえず、イージスはこのまま出てもらって――

 

 

「イージスが防がなければ、真っ先に水が直撃していたのは、ジョナサンだっただろうな。よくやった、園原」

 

「あ、はい……ありがとう、ございます?」

 

「ジョナサン。動画の撮影は任せる」

 

「あ、うん」

 

「園原。これは、どうやって使うんだ?」

 

「……それ、結構重いやつですけど、大丈夫ですか?」

 

「問題ない」

 

 

 それならと、使い方を教えて試し撃ちも済ませる。……ディオが手にしたのは、現代の重装兵が使いそうなデザインの、大型の水鉄砲だった。

 

 

「さて――あの猿め。このディオが仕留めてやる」

 

 

 悪巧み同盟に元魔王様が加入しました!!これで勝つる!!

 

 

「……よう。あんたも参加か?それなら、ジョセフを海側に行かせないようにしてくれ。波紋には水面を歩ける技もあるんだろ?」

 

「うん、あるよ。そっちに逃げられてしまうと、追い掛けるのが難しくなるね」

 

「なるほど。では、そうするとしよう」

 

 

 バックパック型の水鉄砲を持った承太郎が水補給のためにやって来て、それと入れ替わるようにディオがジョセフのもとへ。……直後に、"何でディオの野郎まで!?"という悲鳴が聞こえた。

 

 

「……それで?何で急にディオがやる気になったんだ?」

 

「あー……さっき、ジョセフ先輩がわざとこっちに来て、同士討ちを狙っただろ?その時、俺とイージスが水を防がなかったら、ジョナサンに直撃してただろうなって言って……」

 

「それ以上は言葉にしなかったけど、あれは明らかにジョナサンのために動いたんだろうね」

 

「そうだな。ジョナサンのためとしか思えない」

 

「……そういう事か。気持ちはよく分かる」

 

「あ、やっぱりそういう事だったんだ。……僕の事は気にしなくてもいいのに」

 

 

 俺とイージスの説明に、承太郎は深く頷き、ジョナサンは呆れたようにそう言った。……しかしその表情は笑っていたので、実は喜んでいたりするのか?

 

 

「……俺もディオに続くぜ。シドを狙った罪は重い」

 

「それ、俺の分までよろしくね承太郎。俺の本体を狙った罪は重い!」

 

「おう。任せとけ」

 

 

 好戦的な笑みを浮かべた承太郎が、バックパック型から、ディオが持って行った物と同じタイプの水鉄砲に切り替えて、再び向かって行く。……あ。前線にいるディオと合流して挟み撃ちにし始めた。

 すげぇ。3部主人公とラスボスが息ぴったり。持ってる水鉄砲も同じだから、バディ組んだ傭兵同士のコンビプレイにしか見えない。仲良しか。

 

 

 ……その後。へとへとになったジョセフは、"もう二度と同じ事はやらない。もっとシーザーに気を遣う"と誓った。シーザーもそれを受け入れたので、承太郎達もこれで勘弁してやろうと納得した。

 

 これにて、悪巧み同盟によるジョセフ・ジョースター襲撃作戦は終了!

 

 後に、ディオから送られて来た動画を承太郎達や、協力してくれたリサリサさんにも送り、笑いを提供した。

 それに気づいたジョセフに消せと言われても、彼らはもちろん、拒否したという。

 

 

 

 

 

 

 





※3部主人公とラスボスの共同戦線(第三者視点)
 
 
 ――ジョセフ・ジョースターは混乱していた。

 突然の水鉄砲による奇襲。味方は誰もいない。そして何よりも、敵が自らの血族と前世の兄弟子である事。……さらに、現在の状況。
 
 
(なーんでディオの野郎と承太郎が共闘してるのかなァ!?)
 
 
 ジョセフは今、前世の孫とその宿敵によって追い詰められていた。
 
 
 承太郎とディオは、共に同じタイプの水鉄砲を手にしている。現代の重装兵が使いそうなデザインの、大型の水鉄砲だ。
 ジョセフを挟み撃ちにしている2人は、揃って無表情。真顔でひたすら撃ってくる。逃げる方からすれば、恐怖でしかない。

 片方の攻撃をジョセフが避けると、もう片方はそれを予測していたのか、ジョセフが避けた位置に的確に攻撃してくる。
 また、同時に攻撃して逃げ場をなくす事もあった。息ぴったりだ。

 承太郎とディオは、アイコンタクトやハンドサインで互いの意思を確認し、即興のコンビネーションを行っている。
 互いに利害が一致しているからこその、阿吽の呼吸だった。

 承太郎は園原が、ディオはジョナサンが、ジョセフの策略のせいで被害に遭いそうになったため、その報復を行っているのである。
 
 
 そんな2人が、目を合わせて一度頷く。
 
 
(そろそろ、終わらせようぜ)
 
(いいだろう。お前に合わせてやる)
 
 
 言葉にするなら、おそらくそんな会話になっていたはずだ。
 
 
「承太郎ォ!お前、何でディオに味方して――」
 
「――オラオラオラオラァ!!」
 
「――無駄無駄無駄無駄ァ!!」
 
「うぎゃっ!?待っ、ちょ、わぶっ!?」
 
 
 ラッシュの掛け声と共に、2人は一斉に水鉄砲の連続撃ちをして、ついにジョセフに膝を突かせた。

 もはや、動く気力も無いジョセフを見下ろしてニヤリと笑い合った2人は、ロータッチで互いの健闘を称えた。
 
 


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

空条承太郎の友人による、人たらし爆撃


・男主視点。


 ――空条承太郎だって、好きな分野の事なら夢中で解説したくなるはず。




 

 沖縄旅行、2日目の朝。俺と承太郎が部屋で身支度をしていると、何故かディオとジョルノが来訪した。朝から一体何の用だと、承太郎が尋ねる。

 

 

「承太郎。今からここの洗面所と、園原を借りるぞ」

 

「は?」

 

「園原……ふむ。やはり私の見立てに狂いは無いな。その服はよく似合っている」

 

「は、はぁ。そう、ですね?」

 

「だが、やるからには完璧にだ。ちょっと来い」

 

「えっ?ちょっ、えー!?」

 

「おい、ジョルノ。どういう事だ?」

 

「まぁまぁ。兄さんに任せてください」

 

 

 背後で承太郎とジョルノの会話が聞こえるが、俺はディオに手を引かれて洗面所へ。……そこでいろいろ手を加えられて分かったのは――ディオ様のセンスが半端ねぇ、という事だ。

 

 

「承太郎、ジョルノ。出来たぞ」

 

「……よう、お前ら。どう思う?これ」

 

「「――誰?」」

 

「ですよねー」

 

 

 数分後。全身ディオ様コーディネートになった俺が、こちらです。

 

 服装は白いタンクトップの上に、薄いピンクの麻混シャツ。下はクロップドデニム。それから、普段は服の中に仕舞っているロザリオも、タンクトップの上に出している。

 俺さえ良ければ、ロザリオを表に出して欲しいとディオに言われ、たまには良いかと服の中から外に出してみた。それを見たディオが嬉しそうに笑ったので、素直に出して正解だったと思う。

 

 そんな服を着ている俺が洗面所で最初にやられた事は、スキンケアだった。そして、眉毛を整えるなどの軽いメイクまで施される。

 さらに髪型。いつもは掻き上げているだけの前髪を下ろし、片側を耳に掛けて、ディオが持って来ていたピンでそれを止められた。

 それとは逆側の前髪は、横に軽く流す。……仕上げに、俺が学校で使っている伊達眼鏡を装着。

 

 

 最後に鏡を見れば、そこには別人になったイケメンがいたわけだ。……いや、それは外見だけで、中身はいつもの俺だが。承太郎とジョルノが"誰?"と言いたくなる気持ちは、よく分かる。

 

 

「……ディオがその服を選んだ時から、ピンクのシャツが意外と似合うなと思ってはいたが……」

 

「髪型を変えてメイクまですると、大分印象が変わりますね。伊達眼鏡のおかげで、目付きの悪さも全く気になりませんし……」

 

「確かに……」

 

「昨日のジョナサンが選んだ服を着た志人さんは、大人っぽい爽やかさがありましたけど、今の志人さんは年相応の爽やかさがありますね」

 

「……年上の女から好かれそうな見た目だな」

 

「分かります」

 

「…………そんなにじろじろ見ないでくれ」

 

 

 恥ずかしくなってそっぽを向くと、そこには満足そうな顔をしているディオの姿が。

 

 

「お前は目付きは悪いが、素材が良い。普段からそうしていれば、この私ほどでは無いが良い男だぞ」

 

「……ありがとうございます、ディオさん」

 

 

 その後。他の人達よりも遅れて、朝食を取るために本館の食堂に行くと、さっそく女性陣に囲まれてしまった。

 カッコいいだの可愛いだのキャーキャー言われて困った俺は、とにかくディオを持ち上げる事にした。このコーディネートは全てディオに手掛けられた物で、俺がこうなったのは彼のおかげだ、と。

 

 すると、女性陣はこぞってディオを褒め称える。……さすがの彼も照れ臭かったのか、ちょっと居心地悪そうにしていた。

 そんなディオをからかって小突くジョナサンと……何故かディオを睨む、ジョセフと仗助。後で聞いたところ、彼らはディオのセンスの良さに嫉妬していたとか。

 

 

「あの野郎の事を俺の恋人まで褒めてたんだぞ!?睨むのも仕方ねえだろ!?」

 

「俺だって志人さんをこんな風にコーディネート出来るようになってやる!!」

 

「……ジョセフはともかく仗助。お前、それでいいのか……?」

 

「いくらなんでも、仗助は志人さんの事が好き過ぎるのでは?」

 

 

 仗助のずれた発言と、それを聞いた承太郎とジョルノの呆れ顔がなかなか印象的だった。

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 視線、視線、視線。……視線が刺さる。あと、女性達がざわざわする声。

 

 

「……2日前、ジョナサンも入れた5人で買い物に行った時もそうだが……本当にお前らといると視線が刺さるな!」

 

「いや、今回は俺達だけのせいじゃねえだろ」

 

「そうですよ。志人さんも原因です。むしろ、いつも以上に注目されている気がします」

 

「ふっ……私のコーディネートのおかげだな」

 

「でしょうね!」

 

 

 現在。俺と承太郎、ジョルノとディオの4人は、かの有名な美ら海水族館に来ている。ちなみに、ジョナサンは恋人のエリナさんと一緒に別の場所でデート中だ。

 最初はここに行きたいという承太郎に付き合う形で、俺と2人で行く予定だったが、途中で暇そうにしているジョルノとディオを見つけたので、せっかくだからと誘ってみた。

 

 その時誘った事を、ちょっとだけ後悔している。

 

 

(ディオのコーディネート効果がすげぇ……)

 

 

 今までに無いくらい、俺にも視線が刺さっている。落ち着かない……!

 

 

「……な、なぁ承太郎。このヒトデの名前、分かるか?」

 

「ん、ああ。それはな――」

 

 

 落ち着かないので、元海洋学者を巻き込んでその解説を聞きながら、気を紛らす事にする。

 と、最初は気を紛らす事が目的だったんだが、今では解説の方が面白過ぎて、それを聞くのが目的になっている。

 

 

「――そもそも、ヒトデってどういう生き物なんだ?」

 

「棘皮動物、だな。ナマコやウニもここに含まれる。ちなみに、世界にいる棘皮動物の種類は6000以上だと言われている。その中で、ヒトデは2000種類ほど」

 

「えっ?ヒトデ、多過ぎだろ。見分けつくのか?」

 

「そうだな、俺でも覚え切れない。見分けも難しい。……その2000種類の中でも、日本にいるのは約250種ほどだという。世界に比べたら少ないな」

 

「……承太郎さん。僕、ヒトデには血液や脳が無いって昔聞いた事があるんですが、それって本当ですか?」

 

「ああ、本当だ」

 

「マジで?じゃあ血管もねぇのか?そんなの、どうやって体に栄養運んでんだよ。酸素とか必要だろ」

 

「ふっ……良い着眼点だな。確かにこいつらには血管は無いが、代わりに水管がある」

 

「……水管。名前から察するに、海水を取り入れているのか?海中には植物プランクトンや海藻があるからな。それらのおかげで、海水には酸素が含まれている」

 

「……ディオも鋭いな。その通りだ」

 

 

 俺以外にも、ジョルノとディオが興味を示して承太郎に話を振る。……水族館に設置されてる解説板を見るよりも、承太郎の話の方が分かりやすいんだよなぁ。

 そして承太郎の解説は、ヒトデだけでなく他の海洋生物にも及ぶ。

 

 

「はいはい、承太郎先生!」

 

「何かな、シド君」

 

 

 おっ?ノリが良いな、先生。

 

 

「ジンベエザメの名前の由来って何ですかー?」

 

「あの体の模様が、夏着の甚平に似ている。もしくは、上から見た時の姿が甚平を身に付けているように見えたから、その名前がついたとされている」

 

「……承太郎先生。ジンベイザメと一緒に泳いでいる、あのエイは何ですか?」

 

 

 ジョルノまで先生呼びを始めた。こっちもノリが良い。

 

 

「ナンヨウマンタだ」

 

「マンタ……エイとの違いは?」

 

「マンタはエイの一種だな。エイは体の下に口があるが、マンタはジンベイザメのように真正面に口がついている。それから、エイは主にカニやエビ、貝などを食べるが、マンタはプランクトンを食べる」

 

「へぇ……」

 

「詳しいなァ、承太郎先生?」

 

「…………てめーにそう呼ばれると鳥肌が立つ。止めろ、ディオ」

 

「くくっ……!」

 

 

 あ、さすがにディオに呼ばれるのは嫌だったらしい。

 

 

 このように、承太郎の解説を聞きながら水族館を回っていれば、視線なんて気にならない……と思いきや、そうはならなかった。むしろ周りに人が増えた。

 周囲の観光客が、承太郎の解説を盗み聞きしていたからだ。そりゃ分かりやすいからな!気持ちは分かるが、群がるのは止めて欲しい。

 

 承太郎達もそれに気づき、途中から解説は止めて普通に回る事にした。……大勢に注目されるよりも、女性達の視線を我慢した方がまだマシだった。

 

 

 館内の観光が終わった後に、水族館のショップに寄り道した。ここで全員と別れ、それぞれ好きに見て回る事に。……が、

 

 

「君、1人?やだ、カッコいい!」

 

「えー?カッコいいより、可愛いじゃん」

 

「良かったらこの後、私達と遊ばない?」

 

「い、いや、あの――」

 

「悪いが、こいつは俺の連れなんでな。他を当たれ」

 

「あ、ちょっと!」

 

「あらー、残念……」

 

 

 1人になった途端、俺は年上の女性グループに囲まれてしまい、颯爽と現れた承太郎によって回収され、2人で行動するようになった。

 

 

「……シド。お前、因縁付けてくる野郎共は上手くあしらうくせに、ああいうしつこい女のあしらいには慣れてねえんだな」

 

「……そうだよ、悪いか!?俺は目付き悪いせいで普段のてめぇみたいに女に囲まれる事が皆無なんだよ!どうやって切り抜ければいいのか分かんねぇし!」

 

「眼鏡外して睨めば一発じゃねえか」

 

「それは最終手段だ!1人の男として、女を睨むなんてできる訳がねぇ。こんな目で睨まれた人が可哀想だろ」

 

「……本当にお人好しだな、お前は」

 

「そんなんじゃねぇよ。この配慮は女子供限定だ」

 

「と言いつつ、男が相手でもあまり睨まないようにしてるだろ?」

 

「…………」

 

 

 図星を突かれて思わず沈黙すれば、承太郎がため息を吐く。

 

 

「……そういうところがお人好しなんだよ。つけ込まれないように気をつけろ」

 

「はーい、先生」

 

「もう先生じゃねえ。……親友として、忠告してるんだ。本当に気をつけろよ?」

 

「……分かった」

 

 

 承太郎がそこまで言うなら、気をつけた方がいいんだろう。……ただ、まだあまり自覚できて無いんだよな。具体的に、俺のどういうところがお人好しなんだ?

 

 その時、承太郎の足が止まった。……視線の先にあったのは、小さなストラップになった海洋生物達。種類がたくさんある。

 

 

「……ザトウクジラってさ、」

 

「……ん?」

 

「ディオさんのイメージがあるんだよな」

 

「待て待て、それはどういう……ああ、いつもの癖か。何故そう思った?」

 

「何かの本で読んだ記憶があるんだが、ザトウクジラは他の海洋生物を助ける事があるんだって?」

 

「……そうだな。以前からそれ以外の鯨類や、海洋生物以外の生物にも利他や博愛精神があると言われているが……

 昔、別種のクジラの子供が母親とはぐれてしまい、シャチの群れに襲われていたところを、ザトウクジラの群れが助けるという行動が確認されたらしい。……それの事か?」

 

「そう、それだ!」

 

 

 さっすが博士。よく知ってるわ。

 

 

「……その行動と、この前ディオさんがあのクソ野郎から俺を守ってくれた時の事が、重なったんだ」

 

「…………」

 

「あの時のディオさんの背中は、クジラみたいに凄く大きく見えた。……その子供のクジラもさ、ザトウクジラの群れが守ってくれた時、俺と同じような事を考えたんじゃないか……なんて思ったりして」

 

 

 話している途中で照れ臭くなり、ザトウクジラのストラップをなんとなく手に取って誤魔化す。

 すると、その手の中に誰かの手が伸びて、勝手にストラップを取っていった。それから頭をぐしゃぐしゃと撫でられる。

 

 

「え、」

 

「――そういう事なら、私はこれを買うとしよう」

 

「ディオさん!?」

 

 

 犯人はディオだった。あんた、いつからいた!?いつから話聞いてたんだ!?

 

 

「志人さん」

 

「うわ、ジョルノ!?」

 

「僕を海洋生物に例えるとしたら、どれですか?」

 

「お前を?……あー、そうだな……」

 

 

 これまたいつの間にか側にいたジョルノに驚きつつ、俺は1つのストラップを手に取る。

 

 

「――アシカ……?」

 

「……ジョルノが?」

 

「……海のギャングの異名がある、シャチを選ぶんじゃないかと思ってたぜ」

 

「それも考えたけどな。アシカは頭が良くて芸達者だし……それに、英語ではSea lion(海のライオン)と言うらしい。海洋生物縛りじゃなければ、俺はジョルノにライオンの雌のイメージを持ってるし」

 

「ライオンの……雌、ですか」

 

「野生のライオンの群れは、雄よりも雌の方が狩りをするだろ?前世でギャングのボスだった時のお前の事はよく知らないから、今世のお前に対する勝手なイメージになるが……

 ――ライオンの雄みたいに緊急時にのみ動くリーダーというより、他の雌達と共に、自ら積極的に動く方が好きなタイプじゃないかと思ってな」

 

「――――」

 

「あと、俺は後ろでふんぞり返ってる雄ライオンより、ジョルノみたいに気高い雰囲気がある雌ライオンの方が好きだから……って、ジョルノ?どうした?」

 

 

 目を見開いて固まっているジョルノの前で、アシカのストラップを揺らす。……しかし次の瞬間、急に動いた彼がストラップを奪った。

 

 

「これ買います。絶対買います!」

 

「お、おう。好きにすれば?」

 

「ジョルノお前……ふふ、耳、赤いぞ……!」

 

「フッ、くくく、ふは……っ!おい、園原……っ、ジョナサンはどうだ?」

 

 

 何故かそっぽを向くジョルノと、笑いを堪える承太郎とディオ。……首を傾げつつ、ディオの問いに答えた。

 

 

「ジョナサンは……スナメリですかね?」

 

「すなめり。……何故だ?」

 

「よく笑ってるから。スナメリの顔って、ずっと笑ってるように見えるでしょう?……で、これは本人には言えないんですが、」

 

「ん?」

 

「――よく笑っているからこそ、その時に腹の中で何を考えているかが分からない」

 

「よし、ジョナサンはスナメリだな。間違いなくこれだ。私が買っておく」

 

「あ、はい」

 

 

 ディオは不自然な程に早口でそう言うと、スナメリのストラップを手に取る。……やっぱり、今世のあの人は腹黒系なのか?

 

 

「……なぁ、シド。俺は?」

 

「承太郎もか?そうだな、お前は……これ」

 

「……アザラシ、ですね」

 

「アザラシだな。……承太郎が、アザラシ?」

 

「…………」

 

 

 承太郎にアザラシのストラップを見せると、目で"どういう事だ、てめえ"と訴えられたので、説明する。

 

 

「アザラシは元々、好奇心旺盛。承太郎もそうだろ?あと、漢字にすると海豹って書くから。海洋生物縛りじゃなければ、お前のイメージは黒豹だし」

 

「黒豹……」

 

「あぁ。別に普通の豹でも良いんだが、黒豹の方が見た目カッコいいし、俺は動物の中だと黒豹が一番好きだし」

 

「は、」

 

「豹は木登りが得意だ。得物を狩った後もその場で食べるんじゃなくて、わざわざ木の上に持って行く。それって、狩りを成功させた後も、安全な木の上に行くまで気を抜いてないって事だろ?

 お前も同じだ。戦闘後も気を抜かず、油断しない。冷静なプロのハンターで、歴戦のスタンド使い。それと、喧嘩やってる時の動きも豹みたいにしなやかで――」

 

「もういい充分、充分!分かったから黙れ」

 

「むぐ?」

 

 

 承太郎の片手で口を塞がれた。何だよ、最後まで言わせろよ。

 

 

「ふふ……耳が赤いですよ、承太郎さん?」

 

「はっ!ふ、くく、はははは……!!」

 

「てめえらも黙りやがれ!!」

 

「……アザラシいらないなら戻すが、」

 

「待て、シド!……それは買いだ。寄越せ」

 

 

 ……乱暴な言葉とは裏腹に、やたら丁寧な手つきでストラップを取られた。

 

 結局。承太郎達はそれぞれストラップを購入。さらに承太郎が、イルカのストラップを買って俺に渡した。何でイルカ?

 

 

「イルカは万人に好かれる。嫌いだという人間はいないはずだ。それに、アニマルセラピーでも活躍しているからな。……つまり人たらしであり、誰かの心を癒す力も持っている。お前にぴったりだろうが」

 

「はぁ?……まぁ、くれるって言うならもらうが、お前はイルカじゃなくていいのか?好きだろ?良かったらアザラシと交換するけど」

 

「……そうだな。イルカが好きだ。だからこそお前に――あー、いや。何でもない。とりあえず、イルカはお前が持ってろ。俺はこのアザラシが良い」

 

「?……分かった」

 

 

 ……後に、これらのストラップはジョナサンも含め、5人それぞれの携帯に付けられる事になった。お前ら、男同士でお揃いとか気にしないのね?

 俺は恥ずかしくて一度外そうとしたんだが、承太郎とジョルノに捨てられた子猫みたいな目で見つめられてしまったので、渋々やめた。

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

空条承太郎の友人は、手綱を握れない


・男主視点。

・ご都合主義、捏造過多。

・オリジナルのスタンドと、スタンド使いが登場します。


 ――空条承太郎だって、前世の宿敵とその息子と共闘する時があるはず。





 

 

 

「――――え?」

 

「志人!?」

 

 

 今、何が起こった……?

 

 

「なっ、何だよ今の……!と、とりあえずバリア!って、駄目だ使えない!?志人、しっかりして!君の心が安定しないとバリアが使えないんだ!!」

 

 

 勝手に出て来たイージスの、焦った声が聞こえる。……聞こえるが、上手く処理できない。だって、俺の、俺の大事な――

 

 

「――っ、承太郎!承太郎!!こっちに来てくれ!承太郎ぉぉっ!!」

 

 

 ――ロザリオが、母さんと婆ちゃんの形見が、消えた。

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 時は、少し前に遡る。

 

 水族館の館内から出た俺は、承太郎達に待ってもらってトイレに向かった。そして用を済ませて外に出る。……それは、突然だった。

 

 首筋に一瞬冷たい何かが当たって、ぴりっと痛みが走り、首に掛けていたロザリオが落ちていくのが感覚で分かる。

 慌てて下を見てそれを取ろうとしたら――目の前で、見る見るうちに消えていった。

 

 

「…………え?」

 

 

 パッと消えるのではなく、まるで景色に溶け込むように消えたのだ。その場にしゃがみ込んで地面を触っても、ロザリオはどこにも無い。

 その事実を呑み込めずに呆然としていたら、イージスが大声で承太郎の名前を呼ぶのが聞こえて、バタバタと駆け寄って来る音も聞こえた。

 

 

「イージス!どうした!?」

 

「承太郎、志人の首!ロザリオが!!」

 

「首?――志人、お前、それ……っ!!」

 

「切り傷ですか!?すぐに治療を、」

 

「待て、ジョルノ!ここでは人目が多過ぎる。場所を移せ!」

 

「はい、兄さん!……承太郎さん、志人さんをお願いします」

 

「ああ!……志人、行くぞ。来い!」

 

 

 ……承太郎に引きずられ、喧騒から離れた場所にやって来た。

 ジョルノのスタンドによって首の切り傷を治療されたあたりで我に返った俺は、まずジョルノにお礼を伝え、それからディオに謝罪した。

 

 

「すみません。ディオさんが選んでくれた服、血で汚してしまって、」

 

「そんな事を気にしている場合か!?それに貴様が謝罪する必要は無い!……いいから話せ。何があった?」

 

「……俺も、状況がよく分かって無いんですが……」

 

 

 ありのままに、自分が見た事を説明すると、承太郎達は険しい表情になった。

 

 

「――スタンド攻撃?」

 

「……おそらく、そうだな。園原を狙った理由は分からないが……あのロザリオは、かなり高価な物だろう?」

 

「はい。……母の遺書にも、そう書かれていました。犯人は、ロザリオを売って金にする事が目的なのかも……」

 

 

 自分で言いながら、腹が立ってきた。大事な形見を盗んだ犯人に対しても……油断していた、自分に対しても。やはりロザリオは隠しておくべきだった。これは俺の責任だ。

 

 俺が、自分でなんとかしないと。

 

 

「……触れた物を透明にするという能力を持つスタンドには、心当たりがある」

 

「何?」

 

「だが、これはあの子の能力では無い。あれは不可視化する能力だが……シドの話では、背景に溶け込むようにして消えたようだからな。不可視ではなく、迷彩の能力じゃないか?」

 

「……迷彩、ですか。それなら、僕が知っている元暗殺者が、そんな事もできる能力を持っていますが……

 今世では足を洗ってますし、彼は僕と繋がりがある人を狙うような、無駄に馬鹿な真似をするはずが無いので、彼は犯人ではないでしょう」

 

 

 あー……某赤ちゃんと、某暗殺チームのリーダーですね、分かります。というか某リーダー、足洗ってたのか。それなら、他のチームメンバーも……?

 

 いや、それよりも。2人のおかげで、敵スタンドの正体のヒントを掴めた気がする。

 

 

「切られる前に、首に何か冷たい物が当たった感覚があった。今思うと、あれは……吸盤だったかもしれない」

 

「吸盤――っ、タコの触手か?」

 

「なるほど。タコなら保護色という能力がありますね」

 

「だが、触手で首が切れるのか?」

 

「それの正体がスタンドなら、触手を鋭利な物に変化させる事ができても、おかしく無いだろう」

 

 

 保護色の能力と、鋭利な触手を持つスタンドか……それさえ分かれば、あとは犯人を探すだけ。

 

 

「……もしも犯人の目的が、ロザリオを売り払う事だとしたら、急がねえとな」

 

「……園原の母の形見を売り払うなど、やらせてたまるか」

 

「せめてロザリオの一部が残っていれば、僕が生命力を与えて生物に変化させ、ロザリオ本体の下に戻ろうとする性質を利用して、それを追う事ができるのですが――」

 

「――あるよ」

 

 

 そう言ったのは、イージスだった。彼は握っていた片手を広げて見せる。……ロザリオの珠だ!

 

 

「1個だけ落ちていたのを見つけたから、念のために拾っておいたんだけど、役に立てそうだね」

 

「よくやった、イージス!……ジョルノ、頼む」

 

「……分かりました。お借りします」

 

 

 イージスから俺へ、俺からジョルノへと渡ったそれは、生命力を与えられ、テントウムシになった。

 

 

「では、行きましょう」

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 テントウムシに導かれ、やって来た場所は人気の無い廃墟。慎重に歩を進め、ある建物の前に到着すると、誰かの話し声が聞こえてきた。

 その時点でテントウムシは回収し、元の珠の姿に戻した後は、俺の服のポケットに入れられている。

 

 

「――あーあ!何やってんだよ、お前!このロザリオ、傷が付いちまってるじゃねぇか!!いつも言ってるだろ。てめーのスタンドを使う時、ネックレスとかの類いはもっと上手く切り取れってよぉ!」

 

「ごめん、兄貴」

 

 

 ロザリオに傷。そう聞こえた瞬間、中に飛び込みそうになり、ギリギリで耐えた。……俺の両肩に手を置かれたおかげでもある。後ろにいる、承太郎の手だ。

 冷静さを取り戻し、思考する。……どうやら、犯人は2人の男のようだ。そして会話から察するに、謝った男の方が実行犯だな。

 

 それに、今スタンドって言った!やっぱりスタンド使いか。

 

 

「……まぁいい。他に盗んだ物も合わせれば、これがあまり売れなくても問題ねぇだろ」

 

「……そのロザリオ、本当に売れるのかな?何か古そうだし、安物っぽく見えるぜ」

 

 

 安物じゃねぇ!!俺の大事な形見を馬鹿にするな!!

 

 

「おい……オレのスタンドの力を疑うのか?あぁ?」

 

「あ、ご、ごめん、兄貴!疑ったわけじゃない。兄貴のスタンドのおかげで、今までも儲けられた事は分かってるから……」

 

 

 先頭にいたジョルノが少しだけ体を起こし、扉の無い入り口から中を覗く。俺もそれに続いた。

 建物の中には、会話している男が2人。実行犯の方は体格が大きく、兄貴と呼ばれた方は小柄だ。

 

 

「本当に分かってんのか?盗みを実行するのはお前のミミックだが、そもそもオレのテイスティング・アイが無ければ、良い獲物が見つかんねぇんだぜ?オレのスタンドの、物の価値を正確に見破る力が無ければな!」

 

「あぁ、分かってる!」

 

「……ふん!」

 

 

 ミミックに、テイスティング・アイ……それが、こいつらのスタンドの名前か。そして、兄貴と呼ばれている男のスタンドは、物の価値を正確に見破る能力を持つ、と。……戦闘向きじゃないのか?

 

 

「……今回盗んだ物を全部売り払ったら、そろそろ充分な金が貯まるはずだ。そしたら、次は……」

 

「――イタリアか?」

 

「そうさ!」

 

 

 と、思わぬ言葉を聞いたせいだろう。ジョルノの肩が揺れた。……何故イタリア?どう見ても、奴らは日本人なのに。

 

 

「兄貴からパッショーネっていう組織の事は聞いたけど……今世もあるのか?その組織」

 

「オレが出来る範囲で調べても何も情報は出て来なかったが、前世であったんだから、今世だってある!きっとな!」

 

「そっか、兄貴が言うならあるんだろうなぁ」

 

 

 しかもパッショーネ!?……俺、承太郎、ディオの3人で顔を見合せ、揃ってジョルノを見る。

 

 

「……お前の組織って、今世もイタリアにあるのか?」

 

「ありませんよ!」

 

 

 小声で尋ねると、小声で叫ばれた。……なるほど。じゃあ奴らの勘違いか。

 

 

「オレは前世でも日本人だったが、イタリアで育った。その時はパッショーネの下っ端でしかなかったし、ちょっと失敗してすぐに死んじまったが、今世では違う!

 お前とコンビを組めば、2人なら成り上がれる!絶対だ!今度こそ幹部まで上り詰めて――ドン・パッショーネに会うんだ!!」

 

 

 いるぞ?ドン・パッショーネはここにいるぞ!?

 

 

「そのドン・パッショーネって、すげーカリスマがあるっていう奴だっけ?」

 

「馬鹿野郎!奴とか言うな!あの方と言え!!

 

 オレはまだ会った事はねぇけど、前世で聞いた話じゃ悪のカリスマであり、どんな奴でも膝を折りたくなるとか、あの方のためなら命を差し出しても構わないとか、多くの構成員にそう思わせるような魅力を持つボスなんだってよ!あと、とんでもなく美しい金髪の男だとか……」

 

 

 ジョルノが頭を抱えている。確かに、今のジョルノのイメージとはかけ離れてるよな。とんでもなく美しい金髪の男、というのは当たっているが。

 ……ん、待てよ?そういえば、そのイメージに完全に当てはまる人間は他にいるな。ちょうど、俺と承太郎の後ろに。

 

 

「……おい。あの野郎、前世のディオの話をしてるんじゃねえんだよな……?」

 

「私に聞くな、承太郎……」

 

 

 そんな小声の会話が聞こえたので振り向くと、ディオをジト目で見る承太郎と、頭を抱えているディオがいた。……黒歴史ってやつですね、ディオ様。

 

 

「とにかく、そんな悪党の中の悪党であるあの方に、オレは憧れている!イタリアに行ってまたパッショーネの一員になり、あのお方の目に留まる事が当面の目標だ!お前と組んで盗みをやって金を稼いだのは、そのためだからな!」

 

 

 あーあ。確実に実現不可能な夢を語ってやがる。というか、ジョルノが悪党の中の悪党だと?ふざけんな。今世のこいつはそんなんじゃねぇよ。侮辱するな。

 

 

「……そういや、兄貴。今日の最後に盗んだ、このロザリオの持ち主の事なんだけどよ」

 

 

 と、向こうの話題が俺の話になった。

 

 

「あのガキ、何でロザリオなんて持ってたんだろうな。それも、金になるようなやつを」

 

「あぁ?知らねーよ、そんな事。大方、これの価値も知らずに、カッコつけたくて首に掛けてた悪ガキだったんじゃねぇか?年相応に遊んでそうな見た目だったし、やけに整った顔だったしな」

 

「それか、本当にクリスチャンだったり?」

 

「はぁ?っ、ハハッ!がははははは!!おいおい、お前にしちゃあ面白い冗談だな!そんなわけねぇだろ。

 今時、キリストを信じる馬鹿なんていねぇよ。神を信じる奴らの気が知れないな。本当に神がいたら、オレ達みたいな悪党は存在してないだろ?」

 

「……それもそうかぁ」

 

「だろ?……でも、そうだな。盗んだ後はすぐに逃げたから、今ガキがどうなってるかは知らねーが、もしも本当にクリスチャンだったら、今頃困ってるだろ。

 なんせ、不幸な事が起こったから祈りを捧げて安心したいって時に、肝心な祈るための道具が手元に無い!――"助けて、神サマ!"ってなぁ!ぎゃははははっ!!」

 

 

 大声で嗤う、クソ野郎共の不快な声が聞こえる。奴らは、キリスト教徒を馬鹿にした。それはつまり、キリスト教徒だった母と祖母の事も馬鹿にしている。

 

 それを理解した俺が、怒りのままに行動を起こそうとした瞬間――背筋が冷えた。

 

 

(…………う、後ろ見たくねぇ……!!)

 

 

 前にいるジョルノからは、背中しか見えないのに威圧感を感じるが、それよりもやばいのは後ろだ、後ろ!!勝手に体が震える……!

 なんか、こう、空気が重い。ちょっと息苦しいぐらいに。……もしかして。これが殺気というやつなのか?

 

 本当は、俺の油断が原因だからと、犯人を見つけた後は自分の力でロザリオを取り返そうと思っていた。……しかし。そんな考えはたった今、消え失せた。

 俺、怒ってる場合じゃねぇわ。むしろストッパーに回らなきゃ駄目だわ。……え、待って?俺ストッパーになれるの?これ。

 

 

(前にいるのは雌獅子、後ろにいるのは黒豹とザトウクジラ――否、海洋生物縛りじゃなければ、虎。そのうち翼が生えそうな、最強の虎)

 

 

 …………いや、無理だ。無理無理無理。手綱握れない。無理。

 

 

「……シド、ジョルノ」

 

「お、おう」

 

「はい」

 

「さっき話した手筈通りに行くぞ」

 

「了解。……では、僕は一旦離れますね。準備が整ったら、承太郎さんの携帯にメッセージを送ります」

 

 

 そう言ったジョルノが静かに離れ、建物の裏側に回り込む。

 作戦は既に、ここに到着する前に立てていた。俺以外の3人は皆、優秀な頭脳を持っているからな。作戦の立案は簡単だった。

 

 

「さて……ディオ。どっちがどっちを殴る?ちなみに、俺はついさっきシドを侮辱しやがった野郎の方を殴りたい」

 

「……譲る気は、無いようだな。……はぁ。ならば仕方ない。私は園原の首を傷つけた上、大事な形見まで盗んだ男の方で我慢してやろう。その代わり、私の分まで殴れ」

 

「ああ、いいぜ。やってやるよ。……シド。それでいいよな?」

 

「…………あー、うん――程々に、な?」

 

 

 2人からの返事は、無かった。……マジで行き過ぎた時は、頑張って止めよう。

 

 

「……ジョルノからメッセージが来た。シド、そろそろだぞ」

 

「了解」

 

 

 いつでもバリアを使えるように、身構えておく。……それから間もなく、奴らの悲鳴が聞こえた。

 

 

「――蛇だぁ!?」

 

「な、なんだこいつらは!?」

 

 

 ゴールド・エクスペリエンスが、割れた窓の破片に生命力を与え、複数の蛇を生み出し、それを奴らの元へ放ったのだ。

 

 

「おい、逃げるぞ!」

 

「ま、待ってくれ兄貴ぃ!!」

 

 

 もしも弟分(仮)の方がスタンドで対処した場合に備え、別の作戦も用意していたが、その心配はいらなかったようだ。向こうはパニックになって、スタンドを使う事を忘れている。

 慌てて、1つしか無い出口……俺達がいる方へ逃げて来る。さぁ、俺の出番だ。

 

 

「イージス、やれ!」

 

「了解!」

 

 

 イージスのバリアによって、奴らを囲む。……いつものバリアは俺を中心として広がるが、今回はバリアの中に俺がいない。

 

 以前検証した結果。このバリアは中に俺がいなくても、射程距離内の何処かに出現させる事ができると分かった。ただし、その場合は自由に大きさを変えられない。

 一度大きさを決めたら、そこから範囲を広げたり、狭めたりする事はできないらしい。

 

 だが、敵を捕らえたい時は役に立つ。

 

 

「す、スタンド使いだと!?おい、ミミック出せ!このドームを破れ!!」

 

「わ、分かった!」

 

 

 弟分が出したスタンドは、俺達の予想通り、タコによく似た人型のスタンドだった。鋭利な刃物のような触手がバリアを破ろうと、攻撃してくる。……しかし、

 

 

「あ、兄貴!これ硬いぞ!?壊せない!」

 

「なっ、なにいぃ!?」

 

 

 イージスのバリア……ジェダイトをイメージしたバリアは、スタープラチナのラッシュでも破れなかった。生半可な攻撃で突破できるわけが無い。

 

 

「よくやった、シド。イージス」

 

「後は任せるがいい」

 

 

 承太郎とディオが、スタープラチナとザ・ワールドを出したまま進み出る。……震えが止まらねぇ。スタプラさんとザワさんのタッグ、夢みたいな組み合わせだが、これは酷い。

 

 "混ぜるな、危険"とは、この事だろうか?

 

 

 俺が感じている恐怖以上のものを抱いたのだろう。奴らの血の気が引いていた。

 

 

「お、おお、おい!オレごと擬態しろ!!早く!!」

 

「えっ!?あ、そうか、わ、わ、分かった!!」

 

 

 と、ミミックが奴らの手を掴むと、背景に溶け込むように消えていく。……全然見えない。

 

 

「む……やはり、擬態の能力を持っていたか」

 

「確かに、人間の肉眼ではよく見えん。だが――人間ではない生き物が相手なら、どうだろうなァ?」

 

 

 そう。ここには人間ではない生き物もいる。そいつらは、奴らのすぐ側まで迫っていた。

 

 

「――ひいいいぃぃっ!?へ、蛇が……!?」

 

「くそっ!離れろ!!な、何で分かったんだこいつら!?」

 

「……それはそうだろう。蛇はピット器官という、熱を探知する器官を持っているのだから」

 

 

 割れた窓から建物内に侵入したジョルノが、そう言いながら悠然とこちらに歩いて来る。……蛇のピット器官を利用する事を考えたのは、もちろん彼だ。さすがである。

 

 

「姿は見えにくいが、人体の熱はそのままだ。ならばそれが分かる蛇達にお前らを囲ませて、居場所を把握すればいい……」

 

「こ、この蛇はてめーの仕業か、ガキ!誰だてめーは!!何なんだよ、てめーらは!?」

 

 

 あちゃー……よりによって、ジョルノにそれ聞く?馬鹿だなぁ。

 

 

「おや?僕をご存知ではない?さっきあれ程褒め称えていたのに?」

 

「へ?」

 

「――前世のイタリアンマフィア、パッショーネのボス、ドン・パッショーネこと、ジョルノ・ジョバァーナは、僕です。……それが何か?」

 

 

 とっても素敵な、凄みのある笑みを見せたジョルノは、まさしくマフィアのボスだった。

 

 ご本人登場という、まさかの出来事に言葉を失ったのか、奴らは静かになる。ついでに擬態も解けた。

 

 

「……さて。覚悟はいいな?」

 

「やれやれだぜ。――お楽しみターイム、だ」

 

「「アッ」」

 

 

 その後の展開は……まぁ、ご想像の通りだ。

 

 

 ――もしかしてオラ無駄ですかーッ!?

 

 

「オラオラオラオラァ!!」

 

「無駄無駄無駄無駄ァ!!」

 

 

 ――YES!YES!YES!"OH MYGOD"……老ジョセフがこう言いたくなる気持ちが、よく分かったわ。

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

空条承太郎の友人は、出張カウンセラー


・男主視点。

・ご都合主義。捏造過多。

・後半、ジョルノの過去について捏造あり。ジョルノが弱ってます。


 ――空条承太郎だって、弟が欲しいと思う事があるはず。




 

 

 

 ロザリオを盗んだ犯人達は、承太郎とディオにボコボコにしてもらった後。SPW財団――なんと、今世では沖縄にも支部がある――の構成員を呼び、回収してもらった。

 それから数多くの盗品も、財団の方で持ち主を探してくれるという。それも財団に任せてロザリオを回収した俺達は、ディオが運転する車で別荘まで戻った。

 

 別荘に到着した俺達は、傷ついたロザリオを直してもらうために、仗助に声を掛けたのだが――

 

 

「――ぎゃあっ!?ゆっ、志人さん!?何スかその血はぁっ!?」

 

「あっ」

 

 

 そういえば服についた血はそのままだったと、仗助に言われて思い出した。ロザリオを直してもらったら、早めに脱いで洗濯しなければ。

 

 仗助の叫びを聞いて集まって来た、ジョースター家の皆さんとその恋人達、それからシーザーも含めて大騒ぎになったが、事情を説明して安心してもらった。

 その後。仗助のスタンドでロザリオを修復。……前よりも綺麗になったかもしれない。仗助に頭を下げてお礼を言うと、慌てて頭を上げてくれと言われる。

 

 

「……ところで、志人さんの首を傷付けたクズはどこにいるんスか?俺にも殴らせてくださいよ」

 

「もう財団の人達に回収されたぞ」

 

「ちっ……!殴って治してのエンドレスやりたかったのに」

 

 

 怖い。怖いよ、黒柴君。

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 沖縄旅行、3日目。さーて、本日の俺のファッションは――

 

 青いグラデーションの半袖サマーニットの上に、五分袖の黒いパーカー。下は真っ白なクロップドパンツ。……1日目、2日目とは違い、男らしさが出ている服装だ。

 

 

「……やっと着たな、それ。待ってたぜ」

 

「待ってたのか」

 

「ああ。……なんせ、お前は他の男が選んだ服ばかりを着て、一向に俺が選んだ物を着ようとしなかったからなあ」

 

「おい、その言い方止めろ。上半身裸で言ってる時点でいろいろアウトだ」

 

「焦らしていたのか、もしくは――浮気か」

 

「色気を仕舞え、色気を。焦らしてもいねぇし浮気でもねぇし、そもそも俺達はそんな仲じゃねぇだろうが、ダーリン」

 

「ふはっ!つれないなあ、ハニー?」

 

「やべえ、そのセリフ超似合うぞお前……!」

 

「はははははっ!!」

 

 

 ……まぁ、そんな訳で。今日の俺は承太郎コーディネートだ。

 朝から馬鹿話を始める程ご機嫌な様子を見るに、俺がこの服を着るのを待っていたのは、本当だったのかもしれない。

 

 

「……にしても、ちょっと意外だな」

 

「あ?何がだ?」

 

「承太郎がパーカーを選んだ事だよ。お前、普段パーカー着てねぇだろ。だから、それ以外の服を選ぶんじゃないかと思ってた」

 

 

 私服の承太郎は何度も見たが、こいつがパーカー……フードが付いた服を着ているところは、見た事が無い。おそらく、フードよりもキャップを被る事を好んでいるせいだと思うが。

 

 

「……選ばねーよ。パーカー以外は」

 

「えっ?何で?」

 

「だって、お前。パーカー好きだろ?」

 

「…………んん?」

 

「違うのか?」

 

「いや、合ってる」

 

 

 確かに、俺が好んで着る服はパーカーだが……?

 

 

「それに、私服は黒とか暗い青系統の服をよく着てるよな?」

 

「お、おう……よく見てるな?それは俺の好きな色だ」

 

「だろうな。――だから、選んだ」

 

「はっ……?」

 

「最初から、俺は自分好みの服をお前に着せるつもりはなかった。

 お前が気に入る服を……旅行が終わった後も好んで身に付けてもらえるような、そんな服を探して、意図的にそれを選んだ。それだけの話だ」

 

「――――」

 

「……どうだ?それなら、今後も使いたいって思っただろ?」

 

 

 ニヤリと。男臭く笑った親友に対して、俺が次に取った行動は……フードを思い切り被って、自分のベッドの枕に顔を沈める事だった。

 

 

「ふぐううぅぅぅ……っ!!」

 

「……シド?」

 

「――してやられたぞ、くそったれ。ふざけんな、このいけめん」

 

「あぁ?」

 

「これからも重宝するっつってんだよ!!」

 

 

 顔を上げてそう叫ぶと、一瞬目を見張った承太郎は、それはもう良い笑顔を見せる。そんな嬉しそうにすんじゃねぇ!ますます照れるだろうが!!

 

 

 その後。午前中はそれぞれ自由に過ごしたのだが、午後からはジョースター家+α全員で、琉球村に向かった。

 この琉球村は夏のみだが、営業時間後に夏祭りを開いているらしい。事前に予約した人だけが参加できるイベントで、全員が参加できるように、ジョースター家の方で既に予約していたそうだ。

 

 その時間が来るまでは、全員自由行動だ。

 

 

「……おい、シド」

 

「ん?……あぁ。とりあえず、一度は声を掛けておくか」

 

 

 琉球村に到着し、他の人達がそれぞれグループを作って移動していく中。ポツンと、1人だけ離れた場所にいる人物。……俺と承太郎は、そいつに声を掛けた。

 

 

「――ジョールーノ!」

 

「うわっ」

 

「どうした?来て早々にへばってんのか?」

 

「……熱中症にでもなったか?」

 

「……いえ。大丈夫です。お気遣い、ありがとうございます」

 

 

 表面上は大したことは無いと微笑みを浮かべるジョルノだが……俺は承太郎と顔を見合せ、それからジョルノの頭を撫でた。承太郎も、それに続く。

 

 

「なっ、……何ですか?」

 

「いや、別に?気にすんな」

 

「……ちゃんと水分取れよ」

 

 

 それだけ言い残し、ジョルノを置いて立ち去る。……うん、布石はこんなもんだな。

 

 

「……本当に、あれだけで良かったのか?」

 

「あぁ。むしろ、最初はあれだけに留めておいた方がいい。ジョルノの場合は下手に構うよりも、"こっちはお前の事を気にしてるんだぞ"っていう意思を仄めかす程度で良いんだ。

 ジョルノは賢いから、あれだけで俺達があいつの異変に気づいている事を、理解したはずだ。

 

 ……後は俺達に話すのか、それとも別の誰かに話すのか、自分1人で解決するのか……そこはジョルノが決めるしかない」

 

「そうか……」

 

「まぁ、だからといって、放置するわけじゃねぇぞ?あいつを見掛けたら観察して、さらに変化が無いかどうかを確認する。……今できる事は、それぐらいだな」

 

「……分かった。……俺は人の機微とかそういう話になると、てんで役立たずになっちまう。だから、お前の判断に任せるぜ。シド」

 

「おう」

 

 

 俺達が、ジョルノを気に掛ける理由。……それは、午前中に俺達の下へ訪ねて来たディオが、ジョルノの異変について相談しに来た事がきっかけだった。

 

 

「――昨夜から、ジョルノの様子がおかしいのだ。……声を掛けても反応が遅い。上の空になる事が多い。それから今朝の様子を見るに、あまり眠っていない。

 私が知る限り、あの子がああなったのは初めてだ。何があったのか聞きたいが……素直に話すとは思えん。

 

 だが、もしかすると……私やジョナサンではなく今世では同年代で、仗助や徐倫よりも関わりが深いお前達であれば、あの子も事情を話す気になるかもしれない。

 

 お前達3人は、数ヶ月前から急に仲良くなっただろう?……何故分かったか、だって?私はジョルノを、ジョナサンは承太郎の事を特に気にしていたからな。

 互いに無関心だったジョルノと承太郎が、互いに関心を持つようになった。そして2人は、園原がいると3人で話している事が比較的多かった。……気づくのも当然だ。

 

 とにかく。ジョルノの事を気に掛けてやってくれ。やり方はお前達に任せる。それと何か協力できる事があれば、私かジョナサンに声を掛けるといい」

 

 

 ……という、ディオの話を聞いた俺達は、しばらくジョルノの様子を見て、確かに何かおかしいなと判断した。それが、先ほどの声掛けに繋がっている。

 

 

「承太郎は家族4人で一緒に回るんだろ?じゃあ、この辺で一旦別れて、」

 

「何言ってやがる。お前も行くんだよ」

 

「はぁ?いやいや家族水入らずの邪魔をするわけには、」

 

「今さらだろうが。来い」

 

「えぇー……?」

 

 

 承太郎に引きずられ、空条家と合流。そこでも俺は邪魔だからと離れようとしたら、徐倫とホリィさんにまで捕まり、結局5人で回る事になった。

 既に面識がある3人はともかく、この旅行で初めて会った貞夫さんにとっては迷惑じゃないかと心配していたが、そんな事は無かったらしい。

 

 貞夫さんは物静かな男性だ。俺が合流した時も、一言"構わない"と言っただけで、反対する事は無く。俺達が歩いている時はいつも最後尾にいて、静かに家族を見守っている……そんな人だった。

 しかし、一度だけ。承太郎達が側にいない時に、俺に声を掛けて来た事があった。

 

 

「――君は、承太郎の事をどんな人間だと思っている?」

 

 

 それは、たまに会話の途中で話が飛ぶ承太郎のように、脈絡の無い問い掛けだった。

 今まで話し掛けて来なかった人が、突然そんな事を言ったから驚いたが、その分何か意味があるのだろうと思って、俺は正直に答えた。

 

 不器用だけど優しい、普通のいい男だ。

 

 ……俺がそう言うと、貞夫さんは目を大きく見開いて固まる。あれ?何か既視感があるぞ?と思った次の瞬間、彼は大笑いしていた。

 以前何度か見た、承太郎の大笑いとよく似ている。……それから彼は、"承太郎は良い親友を見つけたな"と呟いて、満足そうな顔を見せた。

 

 それ以降。俺を見る貞夫さんの目が、優しくなった気がする。

 

 

 やがて、琉球村の営業時間が終了し、夏祭りが始まった。いろいろ屋台が出ていて楽しい。

 食事も遊びも楽しんで、完全に日が落ちた頃。最後のイベント……ホタルと星座の観察ツアーが始まる時間になった。普段都会で見られない物を見るために、俺も承太郎も参加するつもりだったが……

 

 

「――志人さん、承太郎さん……ちょっと、いいですか?」

 

 

 と、ジョルノが声を掛けて来たので、そちらを優先する事にした。……どうやら、彼は俺達に話す事を選んだらしい。

 先にジョナサンとディオに声を掛けて、俺達3人が抜ける事を他の人達が気にしないように、上手く言い訳して欲しいと頼んだ。

 

 人気の無い場所まで移動し、ジョルノを間に挟んで、3人並んで座った。例のごとく、イージスに防音バリアを張ってもらう。

 

 

「……昨日。前世ではパッショーネに所属していたという男と接触して、自然と、当時の事を思い返したんです」

 

 

 なんとなく、予想はしていた。様子がおかしくなるきっかけらしき物は、それぐらいしか無いだろうと。

 

 

「僕はギャング達の活動によって腐ってしまった街を変えるために、パッショーネという1つの組織を乗っ取った。……その事に後悔はありません。失った物は多かったが、それと同時に得る物もあった。

 

 しかし、問題はその後。……僕が新たにボスになった経緯は上手く隠しましたが、今まで素性を隠していたボスの正体が、こんな若造だった事に勝手に失望し、僕のやりたい事に反発する者、足を引っ張る者が大勢いました。

 それらを統率して、足並みを揃えて……一枚岩にするために、何年も費やした。これでようやく、本格的に街の浄化に着手する事ができる。……そう思っていましたが、それも難航しました。

 

 前世のヨーロッパは僕の予想以上に、腐りきっていた。

 

 政治家や警官の汚職に、麻薬の温床。犯罪の増加……それらは、パッショーネの力でも押さえきれない程だった。

 それどころか一度は統制したパッショーネも、末端から再び腐っていき、そちらも制御しなければならない事態となりました。

 昨日の、元パッショーネ所属だという男。あのように腐りきった人間が増えたんです。

 

 ……そして結局。僕は前世で生きている間に全てを浄化する事ができずに、今世に転生した。

 今までは前世は前世、今世は今世と割り切っていました。ジョルノ・ジョバァーナではなく、ジョルノ・ジョースターとしての人生を新たに始めた。……その、つもりだった」

 

 

 そこで一度言葉を切ったジョルノは、深く、ため息をつく。

 

 

「……でも僕は昨日、1つだけ、未練がある事を自覚してしまったんです。

 

 ――何もかも中途半端なまま、転生してしまった。……それが、僕の未練だ。

 

 前世のパッショーネやヨーロッパを浄化しきれなかった事で、助けられなかった命が多かった。……多過ぎた。

 僕は1つの組織の上に立つ人間として、失われた命を背負い、全てを浄化しなくてはならない責任があった。……彼らから受け継いだ物を、さらに"先"へ進めなくてはならなかった。

 

 それなのに……僕は一度背負った物を下ろす事も、受け継いだ物をさらに先へ受け継ぐ事もできていない。……ほら。何もかも、中途半端だ」

 

 

 ジョルノはそう言って、自嘲する。……その疲れきった表情が、以前海辺で見た承太郎の表情と重なった。

 

 

「……そんな事を昨日から、ぐるぐると考え続けていたんです。無駄な事は嫌いなはずなのに、どうしても考える事を止められなくて……」

 

「……なるほど。それは――確かに、無駄な事だ」

 

「おい、シド」

 

 

 承太郎が視線で俺を咎めるが、それに構わず続ける。

 

 

「お前の前世は終わった。……終わった人生は、もう二度と始まらない」

 

「…………そう、ですね」

 

「既に今世の新たな人生が始まっている以上、前世には戻れない。ジョルノの言う通り、前世の未練についていつまでも考え続ける事は、無駄な事だぜ。

 はっはっは。馬鹿だなぁ、お前。考え続けて1日無駄になっちまったぞ?ほら、空を見ろ。もう真っ暗だ!」

 

「……ふふ。全くですね。あーあ、1日無駄にした!」

 

「そうそう、笑え笑え!はははっ!!」

 

「ふ、ふふ、あはははっ!!」

 

「……お前ら、どうした……?」

 

 

 1人困惑する承太郎には悪いが、とりあえず、ジョルノの話を笑い話にしてやる。

 こいつの場合は承太郎とは違い、励まされるよりも、あえて思い切り笑い飛ばしてやった方が気分も晴れるのではないかと、そう思った結果だ。

 

 笑いが収まった頃。次に口を開いたのは承太郎だった。

 

 

「……重いよな。責任ってのは」

 

「……承太郎さん?」

 

「俺もそうだ。自分1人で、何もかも背負わなければならないと、無意識にそう思っていた。

 俺の周囲の人間は、俺の事を勝手に最強のスタンド使いだと言い始めた。……そんなわけあるか。俺が最強でも無敵でも無い事は、無力な人間である事は、俺自身が一番よく分かってるのに……

 だが、俺は。それでも無意識に、周りから勝手に背負わされた責任を、そのまま背負い続けようとした。

 

 ……まあ。そんな俺の胸ぐらを掴んで"馬鹿野郎"と、"そんな事してたらいつかお前の心が死んでしまうぞ"と、叱ってくれた奴がいてな。それのおかげで、体も心も大分軽くなったよ」

 

 

 ……俺の事じゃねぇか。あの時は胸ぐら掴んですみません。

 

 

「……そうですか。承太郎さんでも、そんな事があったんですね」

 

「当然だろ。俺は普通の人間なんだぜ?時には弱音を吐く事もある。……お前も同じだ」

 

「……僕も?」

 

「そう――ジョルノも、普通の人間だ。……そうだよな?シド」

 

「……あぁ。ジョルノは普通の人間だ。お前も、承太郎も、現実で生きている等身大の人間なんだ」

 

「僕が、普通」

 

 

 きょとんとしている顔は、年相応だ。そうそう。今世のお前は普通の中学生なんだよ。もう、ギャングスターじゃない。

 

 

「そう。……それでも、どうしても前世の未練が気になるっていうなら、それを今世で果たせばいいじゃねぇか」

 

「え?」

 

「おいおい、シド。今世でもギャングスターになれ、とでも言うつもりか?」

 

「んなわけねぇだろ。……俺が言いたいのは、前世で助けられなかった分だけ、今世の誰かを助ければいいんじゃねぇか?って話だ」

 

「今世の、誰かを?」

 

「あぁ。極端な話になるが、前世で助けられなかった人が100万人いたとして、今世では同じ数の人を――いや、その倍の人数を何らかの形で助けられたとしたら、前世の未練なんてどっかにすっ飛ぶだろ。きっと」

 

「――――」

 

「……もっとも、今のはただの一例だ。他に何か、前世の未練に決着をつける方法を思い付いたら、それをやればいい、」

 

「ふふ、」

 

「ん?」

 

「――そうか。……そうすれば良かったのか」

 

 

 と、晴れやかな笑みを浮かべたジョルノは、自らの両手を見て、それから手を握る。

 

 

「志人さん、承太郎さん。ありがとうございます。……これなら、前世の未練に決着がつきそうです」

 

「おう。……良かったな」

 

「良い顔になったじゃねぇか」

 

 

 承太郎はジョルノの頭を撫で、俺は背中を軽く叩く。ジョルノは照れ臭そうに笑い、

 

 

「――Fratello(フラテッロ)

 

 

 そう、呟いた。

 

 

「……んん?何だって?」

 

Fratello(フラテッロ)……確か、イタリア語で兄弟という意味だったか?」

 

「はい。承太郎さんはイタリア語も分かるんですね。……志人さんと承太郎さんは、僕の兄のような人達だなと、そう思って……だから、Fratello(兄さん)です」

 

「ははっ!そうか。俺達にとっても、お前は弟みたいなものだな。なぁ?承太郎」

 

「弟……ちょうど欲しかったんだよな」

 

「おや。可愛い弟ができて良かったですね?」

 

「自分で言うな」

 

「お前は可愛いより、あざといの方が似合うんじゃね?」

 

「……お兄ちゃん達、ひどい」

 

「あざとい。以上」

 

「顔と態度をまるっと別人にしてからやり直せー」

 

「本当にひどい」

 

 

 ……そんな訳で、俺達に元ギャングスターの弟分ができました。

 

 どうやら今世のジョルノは末っ子属性だったらしく、これ以降、3人でいる時は俺と承太郎によく甘えるようになる。……やっぱり可愛いかもしれない。

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

空条承太郎の友人は、洞察力が高い


・男主視点。

・キャラ崩壊注意。

・SPW財団に対して、少し厳しめ表現あり。


 ――空条承太郎だって、身内に親友を取られたら拗ねるはず。




 

 

 

 沖縄旅行、最終日。本日のファッションは、最後となったジョルノのコーディネートだ。

 

 白い半袖のTシャツに、黒のテーパードパンツ。それから、赤チェックシャツを腰に巻いている。シンプルだが、なかなかスタイリッシュだと思う。

 ジョルノ曰く、腰巻きのやり方にもいろいろあるらしく、格好良く見える結び方や見せ方を朝に教えてもらった。

 

 

「……うん。さすがは僕のFratello(兄さん)。よく似合ってますよ」

 

 

 そう言って、にっこりと笑う弟分。……昨夜からこいつは、俺や承太郎の前ではよく笑うようになったと思う。良い変化だ。

 

 

 荷物は昨日のうちにまとめたので、後は別荘内を軽く掃除し、それから全員車に乗って空港に近い国際通りへ。飛行機の時間まで、最後の観光を楽しむ事になった。

 

 

「シド。行こうぜ」

 

「おう――って、あれ?」

 

 

 国際通りに到着し、承太郎に呼ばれた俺がそちらへ行こうとした瞬間。何かが手首に巻き付いた感覚がして、動きを止める。

 

 手首を見ると、そこには糸が――糸?

 

 

「っ、うおっ!?」

 

「はい、ゲットォッ!」

 

「志人さん、もーらいっ!」

 

「悪いわね、兄さん!」

 

「すまん、承太郎!志人を借りるぞ!」

 

「じゃあな!」

 

「なっ、てめーら、待ちやがれ!おい!?」

 

 

 手首に絡んだ糸……ストーン・フリーの糸に思い切り引っ張られ、後ろに倒れた俺を受け止めたのはジョセフ。

 そんな俺の腕を引っ張って走り出した仗助。さらに合流する徐倫とシーザーとジョセフ……えっ?どういう状況?

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 仗助達に拉致された俺は、突然の出来事に抵抗する事も忘れて、されるがままに走り続け……かなり離れたところで足が止まった。

 

 

「いやァ、やっちまったなー……志人さんと遊ぶためとはいえ、後で承太郎さんの反応が怖いぜ」

 

「そうね……でも、いつまでも志人さんを手放さない兄さんが悪いと思うわ」

 

「そうそう!俺達とも遊ばせろってな!」

 

「仗助と徐倫ちゃんはともかく、俺とお前の目的は違うだろ、JOJO」

 

「いや?園原と遊びたいのも本当だぜ?」

 

「どうだか……」

 

 

 えーっと?会話から予測するに、仗助と徐倫は俺と一緒に観光する事が目的で、ジョセフとシーザーは俺に何か別の用事があるって事か?

 

 

「……とりあえず、ジョセフ先輩とシーザー先輩の用事が先ですかね?仗助と徐倫ちゃんは、後で一緒に遊ぶとして」

 

「おっ?いいんスか!?志人さん!」

 

「あたし達、結構強引に連れて来ちゃったけど……本当に付き合ってくれるの?」

 

「あぁ。……確かに、2日目と3日目はほとんど承太郎と一緒にいたし、最終日ぐらいはな」

 

「やったぜ!」

 

「いえーい」

 

「今から承太郎にもそう言っておく」

 

 

 ハイタッチする年下2人に和みつつ、携帯を取り出して……承太郎からの鬼電を無視してメッセージアプリを開き、事情を説明。

 ……渋々といった様子だが、とりあえず納得してくれた。

 

 

「承太郎はこれでいいとして……それで?ジョセフ先輩達は俺に何の用ですか?」

 

「おう。……場所、変えるぜ」

 

 

 5人で人気の無い場所まで移動し、さっそく口を開いたジョセフだが、俺はそれを止めた。

 

 

「ちょっと待ってください。……イージス。念のため、防音バリアを頼む」

 

「はーい。任せて」

 

「防音?はァー、そんな便利な物が使えるのか」

 

「俺には見えないが……イージスというのが、志人のスタンドの名前か?」

 

「はい。正式にはイージス・ホワイト……こいつはバリアによる防御に特化したスタンドですが、俺のイメージ次第で、バリアに様々な効果を付与させる事ができます」

 

「へぇ……」

 

 

 スタンドが見えないシーザーに軽く説明してから、本題に入る。

 

 

「多分、園原の父親がうちに突撃して来た日の事がきっかけだと思うが……お前と承太郎とジョナサンと……ディオ。それに、ジョルノもか?この5人の距離が急に縮まった気がするんだが、当たってるか?」

 

「……確かに、以前よりも関わるようになりましたけど……それがどうかしましたか? 」

 

「いやいや。今までの俺達の事を知らない園原にとっては何でもない事でも、こっちにとっては割と一大事なんだぜ?なァ?シーザーちゃん!」

 

「ちゃん付けするな。……このスカタンが言っている事は本当だ。

 

 前世ではジョースター家の人間や俺の家……ツェペリ家の人間と敵対していたディオだが、今世では敵対する事はなく、必要以上にこちらに接触する事もなかった。

 その状況が今、お前と関わるようになった事で大きく変化している……それが一大事なんだ」

 

「そう!……大体はディオとセットのジョナサンや、前世ではその息子だったジョルノはいいとして、問題は承太郎なんだよ。

 今世のあいつは最初、前世の宿敵であるディオといろいろ揉めたんだが、それ以降は無関心だった。向こうが敵対しないならそれでいいってな。

 

 それが今では、ジョナサン達も含めて一緒に買い物に行く、海で俺を挟み撃ちにして共闘、水族館で仲良く観光、敵のスタンド使いが相手でも共闘して一緒に財団に突き出す、そもそも普通に会話してる!……昔じゃ、あり得ねェ事だ」

 

 

 ふむふむ……で?

 

 

「結局、俺に何を聞きたいんですか?」

 

「何がどうして意外な2人が仲良くなったのか教えてくれっ!!」

 

「気になるんだよ!!」

 

 

 ジョセフとシーザーの食い気味の言葉が返ってきた。後ろで仗助と徐倫が何度も頷いているので、彼らも気になるんだろう。

 

 

「そう言われましても……本人達の許可なく、勝手に話すのはちょっと……」

 

「そこをなんとか!少しだけでも頼むぜ、園原!」

 

「あー……強いて言うなら、誤解が解けた、ですかね」

 

 

 前世に関しての見解とか、承太郎達の"前世よりも今世の自分を見て欲しい"という願望とか、そのあたりの話は本人達が普段あまり口にしないから、言わない方がいいと判断した。

 そうなると話せる事は、あの日ジョースター邸の図書室で、承太郎がディオに謝罪した事ぐらいだ。

 

 

「承太郎は、俺に興味を持ち始めたディオさんの事を警戒していたらしいです。だからディオさんと俺を接触させないように、気を配っていた」

 

「ほうほう」

 

「それが、あの日。父親の件でディオさんに助けてもらった俺が、彼に興味を持って話し掛けた時に承太郎に止められて……まぁ、流れでディオさんといろいろ話す事になった結果。あいつは彼の事を誤解していた事に気づき、それについて謝ったんです」

 

「謝った!?……承太郎が、ディオに?」

 

「はい。彼らが普通に会話するようになったのは、その後からだと思います。……俺が話せる事は、これぐらいですね」

 

「……承太郎はもう、ディオの事を警戒していない、と?」

 

「おそらく、そうだと思います」

 

「……父さんがそう判断したなら、あたしは文句無いわ。……あの神父との繋がりを考えると、ちょっと複雑だけど」

 

「……俺はまだ割り切れないな。俺自身が直接関わったわけでは無いが、俺の前世の祖父が死んだ原因はディオにある」

 

「それ言うなら俺も……億泰の家族の事があるし、まだ微妙に納得できねえなァ」

 

 

 徐倫、シーザー、仗助はそれぞれ自分の考えを口にする。……そうか。彼らは前世と今世を区別していないタイプか。

 俺や承太郎達のように、前世の事に区切りをつけて、今世で生きる事に集中するタイプは少数派なのかもしれない。

 

 ああ、でも。彼らはちょっと勘違いしていると思う。

 

 

(承太郎が警戒していないのは、今世の(・・・)ディオだ。……多分、前世のディオの事は許していない)

 

 

 承太郎が俺に前世の事を話してくれた時、前世のディオに対する怒りが所々で滲み出ていた。

 今世のディオが前世と全く違うどころか、自分と同じく前世と今世を区別しているタイプだったから、警戒するのを止めたようだが……

 

 警戒するのを止めただけで、前世のディオの所業を許すと口にした事は、一度も無い。

 

 

 その時。ふと、ジョセフの様子が目に入った。……珍しく難しい顔をしている。

 

 

「ジョセフ先輩。どうかしましたか?眉間にシワ寄ってますよ」

 

「っ!?……あァ、ははっ。悪い悪い。ちょっと考え事があっただけだ。財団の奴らに――いや。何でもねェ」

 

「……財団?」

 

「とにかく、聞きたい事は聞けたし、俺はそろそろスージーQと合流するかな!シーザーはどうする?」

 

「あ、あぁ。俺も行く」

 

「なら行くかァ。じゃあな、お前ら。また後で」

 

 

 ジョセフはシーザーと共に踵を返し、立ち去ろうとする。……それを見ながら、俺は頭をフル回転させた。

 

 財団。……何故今の話でSPW財団が出て来る?何か、財団が関わる要素があったか?

 

 

(思い出せ。会話の内容と、ジョセフの反応を)

 

 

 会話の内容は、承太郎とディオの関係。ジョセフは最近仲良くなった2人の事を特に気にしていた。

 

 俺の話を聞いている途中。承太郎がディオに謝ったと聞いて驚き……そういえば、念押しするように"承太郎はディオの事を警戒していないのか"と、俺に問い掛けていた。

 それに何か、問題があるのか?……承太郎が、ディオの事を警戒していないといけない理由がある?

 

 その理由に、財団が絡むと……どうなる?

 

 財団で連想できる物といえば、ジョースター家のサポート役。スタンド使い関連の対処。……今世では前世よりもスタンド使いの職員が多い。

 スタンド使い。つまり、漏れ無く前世の記憶持ち。前世での、ジョースター家とディオの因縁を知っている職員だっているはず――

 

 

「――イージス・ホワイト」

 

「……分かった」

 

 

 バリアの範囲を広げ、外に出ようとするジョセフ達を止める。

 

 

「……園原?」

 

 

 大股でジョセフの下へ近づき、悪いとは思ったが、その腕を下に引っ張り、下りて来た耳元に口を寄せて、小声で話す。

 

 

「――――」

 

「っ……!!」

 

 

 効果はあった。ジョセフは息を呑み、身を起こして俺の両肩を強く掴んだ。ちょっと痛い。

 

 

「――園原ちゃーん……!?お前はちょォッと想像力というか洞察力があり過ぎだなァ!?しかも正解導き出してるしよォ!?」

 

「やはりそういう事だったんですね。……他に、この事を知っている人は?」

 

「おい、ジョセフ。志人。何の話をしている?」

 

「2人だけで納得してないで、俺達にも教えてくれよ」

 

「……あたしも知りたいわね。どういう事?」

 

「あっ。あー……どうしたもんかなァ」

 

「……シーザー先輩だけでなく、ジョースター家の人間である仗助と徐倫ちゃんまで知らないという事は、知っている人間はかなり限られている、と?」

 

 

 それは失敗だったな……気づいても、黙っているのが正解だったかもしれない。

 

 

「……すみません。今の質問は無かった事にします。俺は今気づいた事は誰にも言わないし、ジョセフ先輩にも何も聞きません。……それでいいですか?」

 

「……助かるぜ、園原。お前は察しが良過ぎるが、それと同時に随分賢い。だから分かっているだろうが――自分から探ろうとするな、首を突っ込むな。

 シーザー、仗助、徐倫。お前らにもそう言っておくぜ。この件に関しては何も聞くな。気になるからと勝手に調べようとするな。仲間の中でも家族の中でも、話題に出すな。

 

 何も知らない方が、厄介事に巻き込まれずに済む。……いいな?」

 

 

 ジョセフの鬼気迫る表情を見て、本当に知らない方がいいと理解したのだろう。3人は神妙な顔で頷く。

 

 

(――財団には、ディオの事を快く思わない人、あるいは人達がいるのではないか?そして承太郎は、そいつらからディオに対する抑止力として扱われているのでは?)

 

 

 俺がジョセフの耳元で話したのは、そんな推測だった。

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 あの後。待ち合わせ時間が来るまで、仗助と徐倫に付き合い、国際通りを見て回った。2人はジョセフに言われた通り、例の話を話題にする事はなかった。

 

 観光も終わって飛行機に乗り、沖縄から出発する。……最後は知らない方がいい事を知ってしまったが、それ以外は楽しい旅行だったな。

 

 

「……シド。スマホ出せ」

 

「え?いいけど、何でだ?」

 

 

 機内で隣に座っている承太郎が、スマホの画面に目を落としながらそんな事を言った。……言われた通りスマホを取り出すと、画面にこんな通知が出た。

 

 ――承太郎があなたを「旧図書館組」に招待しました。……はい?

 

 メッセージアプリのグループの通知だ。……とりあえず参加すると、そのグループには承太郎とジョルノと……何故か、ジョナサンとディオも参加している。

 グループの名前からして、旧図書館の事がバレたのか?それとも承太郎とジョルノが自ら明かしたのか?

 

 

 "えっ?これ、どういう事だ?ジョナサンとディオさんに旧図書館の事話したのか?"

 

 "詳しい話は後だ。今は別件について話す"

 

 "――ジョセフさんから聞きました。志人さんは察しが良過ぎる、と"

 

 "財団という単語が出た途端、驚異的な洞察力を発揮したそうだな。園原"

 

 "元はと言えば、ジョセフが口を滑らせた事が悪いんだけどね"

 

 "そうだな。そもそも、俺達ではなくシドに探りを入れた事自体が失敗だ"

 

 

 思わず、画面から目を離して承太郎の顔を見た。……横目で俺を見たこいつは、何も言わずに頷く。

 

 

 "シド。今後は外でこの件について話すのは禁止だ"

 

 "何か聞きたい事があるなら、このグループで聞いてね"

 

 "じゃあ、さっそく。この件について知っているのは俺達5人とジョセフ先輩と、あと誰だ?"

 

 "あとは財団の職員ぐらいです。前世の仲間達のほとんどが知りません"

 

 "OK、ありがとう。で、承太郎達4人はどういう経緯でこの件を知ったんだ?"

 

 "何年も前に、ジョセフから聞いたぜ。俺の意思に関係なく、勝手に抑止力にされていた"

 

 "今世の私は、前世のような騒動を起こすつもりが全く無い。今世では財団に対してかなり協力的に接していたというのに、まだ疑っている者がいるようだ"

 

 "前世のディオの狂った所業を考えたら仕方無い事だけど、今世で10年以上大人しくしていてもまだ信用できないと言う人達が一部、財団内にいるんだ"

 

 "本当ならもっと早い段階でジョースター邸から出て、一人暮らしを始めたかったが、財団からの疑いを晴らすためにあえて留まっていたというのに"

 

 "まぁそのおかげで、その一部の人達を除いて大半は信用してくれたから、無駄では無かったと思うよ"

 

 "その一部の人達は、僕の事も疑っています。前世では兄さんの息子だったから、という理由だけで"

 

 "ジョルノは前世の僕の息子でもあるのに疑われているんだ。酷いよね"

 

 "ジョルノについては前世で、俺が康一に調査を頼み、問題無しと報告したはずなんだが……それは無かった事にされているらしい"

 

 "兄さんや僕が暴走した時にそれを止める役目は承太郎さんにしか任せられないと、信頼という名の責任を押し付けているくせに、肝心な時に限って承太郎さんの言葉を信用しないって、本当にどういうつもりなんでしょうかね"

 

 "ディオとジョルノを、まるで化け物のように扱う奴もいるようだな。……つい最近までディオを警戒していた俺が言うのもあれだが、今世のこいつらは間違いなく人間なのに"

 

 

 一気に情報が増え過ぎた。整理、整理。

 

 ディオが財団職員の一部に良く思われておらず、承太郎が抑止力として扱われている件を知っているのは、俺達5人とジョセフ、それから財団職員達で、他の前世の仲間達は知らない。

 承太郎が抑止力である事は、本人の意思が無視されていて、勝手にそういう事にされていた。

 

 今世のディオは財団に対して協力的で、彼らからの信用を得るためにジョースター邸から離れず、10年以上大人しくしていたのに、一部の財団職員はまだ疑っている。

 ジョルノも前世ではディオの息子だったからという理由だけで疑われており、原作の5部の始まりで承太郎が広瀬康一に頼んだ調査結果も、無かった事にされているらしい。

 

 そして承太郎は、この件についても駄目な大人達に責任を押し付けられている。それから、ディオとジョルノを化け物扱いする奴もいる。

 

 

 ――はぁ?

 

 

 "一体何処のどいつですか、そんな頭の固い野郎共は。今世のディオさんもジョルノもごく普通の人間なのに、人権どうなってんだ?

 つーか承太郎はまた責任背負わされてんのかよ、クソだな、そいつら。イージスと同化した上で殴り込みしていいか?"

 

 "……志人さん、もしかして滅茶苦茶怒ってます?"

 

 "ああ。俺の隣で殺人鬼みたいな目になってるぜ。落ち着け、シド"

 

 

 そのメッセージと共に、隣から手が伸びて来て肩を叩かれた。……ちょっと頭が冷えた。

 

 

 "悪い、ありがとう。落ち着いた"

 

 "おう。……話を戻すが、ジョセフがシドに探りを入れた理由は2日前、シドのロザリオを盗んだ犯人達を財団職員に引き渡した時。

 俺とディオの様子がついでに報告され、俺がディオに懐柔されたのではないかと勘違いした馬鹿共が、ジョセフに確認を取った事がきっかけになったようだ"

 

 

 懐柔って、おい。そんなにディオの事を悪者にしたいのかよ、そいつらは。

 

 

 "ジョセフは俺の事もディオの事も疑っていないようだが、最近普通に会話するようになった事は確かに疑問だったからシドに聞いてみた、と言っていたな"

 

 "ジョセフは無意識に、未だにディオの事を疑っていたんじゃないかと、僕は思うけどね"

 

 "そこはどうでもいい。問題は、他にも邪推する愚か者が出るのではないかという、懸念だ"

 

 "ジョセフさんは、なんとか上手く誤魔化して報告する、と言っていましたが……承太郎さんと兄さんは、しばらくはあまり接触しない方がいいかもしれませんね。僕もですが"

 

 "面倒だが、表向きはそうした方が良さそうだな。5人揃って会話するなら、このグループを使えば充分だろ"

 

 

 確かに、承太郎の言う通りだ。これからはこのグループでの会話が増えるだろう。メッセージアプリって本当に便利。

 

 

 "とりあえず、たまに愚痴を聞いてくれ、お前ら4人なら誰でもいいから"

 

 "本音が出てるぜ、承太郎"

 

 

 お前むしろ、それが一番の目的だろ!?

 

 

 "僕の愚痴も聞いてください"

 

 "ジョルノお前もか。2人の愚痴大会はどうした?"

 

 "愚痴大会とは何だ?"

 

 "承太郎とジョルノが自宅でこっそり定期的に開く、ストレス発散の場の事です"

 

 "いつの間にそんな面白そうな事を……!?僕もたまに混ぜて欲しいなぁ。愚痴を聞いて欲しい。ディオの事とかディオの事とかディオの事とか"

 

 "おいジョジョ貴様"

 

 

 思わず噴き出した。……同じタイミングで、承太郎も噴き出している。ジョナサン、どうした?あんたそんなにズバズバ言う人だったっけ?

 そして、承太郎も俺と同じ事を考えていたらしい。次のメッセージで突っ込んでいた。

 

 

 "さっきから気になっていたが、ジョナサン。あんたちょいちょい毒舌吐いたり、結構ズバズバ言ってるな?どうした?"

 

 "あっ、ごめんね(´・ω・`)つい、普段ディオと話してる時のノリで打ち込んでしまって……"

 

 "そう、これがこいつの笑顔の下の本性だ。お前達も発言には気をつけるがいい"

 

 "ディオ、後でちょっとお話しようか"

 

 "断る"

 

 "兄さんww"

 

 "即答かよ"

 

 

 即答しているあたり、ディオの必死さを感じる。……水族館でスナメリのストラップを選んだ理由が、バレませんように。

 

 

 

 

 

 





※承太郎、ジョルノ、ジョナサン、ディオの会話(キャラ崩壊注意。会話長め)

「……あれ?承太郎さん。志人さんはどうしたんですか?」

「…………取られた」

「承太郎さん?」

「――前世の祖父と叔父と娘とついでに祖父の兄弟子に、今世の親友を取られた」

「は?――っふ!はは!はははははっ!!」

「笑うんじゃねえ!」

「いや、だって……ふふ、ちょっと、Fratello!あなた、珍しく拗ねてるんですか?」

「うるせえ。……ちっ。シドからも結局、今日は仗助と徐倫と3人で遊ぶってメッセージ来やがったし……」

「それはそれは……じゃあ、僕と一緒に行きます?」

「…………そうする」

「では、行きましょう。……あっ、そういえば、」

「あ?」

「メッセージと言われて思い出したんですが……良かったら、僕と承太郎さんと志人さんで、グループ作りませんか?」

「あー……そういや、まだ作ってなかったな。後でシドにも話して、3人のグループ作るか」

「はい。……グループ名は……そうですね、単純に旧図書館組でどうでしょう?」

「なら、それで――」

「「――旧図書館?」」

「「あっ」」
 
 
 
 
 

(偶然近くにいたジョナサンとディオに問い詰められ、互いに事情を説明)
 
「――管理人から、ジョナサンが利用者だった事は聞いていたが、ディオもそうだったとは……」

「承太郎は知ってたのかい?それなら早く言ってくれたら良かったのに……」

「悪い」

「兄さんは在学中にジョナサンと一緒に利用していたんですか?」

「ああ。中学の頃から、ずっとな。……しかし、なるほど。お前達3人が何故急に仲良くなったのか、その経緯が分からなかったが……そういう事だったのか」

「……こうなったら、ジョナサンと兄さんも入れて、5人で旧図書館組グループを作りますか」

「いいね!作ろうよ」

「……いいぞ、それでも」

「私も構わない」

「では、後で志人さんにも話して……あっ」

「どうした?」

「ジョセフさんから連絡が――って、は?」

「は?」

「…………えー、原文そのまま読みます。"悪い!財団内で未だにディオが疑われている例の件について、園原にバレちまった!ちょっと口を滑らせただけだったのに、園原ちゃんの洞察力高過ぎィ!!"」

「「「――――は?」」」
 
※この後。ジョセフはジョルノに鬼電され、出た瞬間にスピーカーでジョルノ達4人に問い詰められる未来が待っている。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

縁切り事件
空条承太郎の友人は、お人好し



・最初、男主視点。途中から第三者視点。


 ――空条承太郎だって、親友に縁を切られそうになったら必死に謝るはず。




 

 

 

 夏休みが終わり、新学期に入った。俺は夏休み前と変わらず、バイトをしながらも学校に通い、週1回のペースで旧図書館に行って、承太郎、ジョルノと読書を楽しむ。そんな日常を過ごしている。

 

 そうそう。旅行の後に承太郎から、ジョナサンとディオに旧図書館の事がバレた話と、2人が在学中に旧図書館を利用していた事を聞いた。

 だからメッセージアプリのグループ名が、旧図書館組だったわけだな。……そのグループの通知は、あの旅行以来時々届く。

 

 5人の内の誰かが愚痴を聞いてもらいたい時や、暇な時にメッセージを送ると、必ず誰かが反応していた。

 俺はバイトで参加が遅れる事が多いが、後でその会話の記録を見ると……"こいつら、本当に前世で過酷な運命に立ち向かった男達と、その宿敵なのか?"と疑いたくなる程に、馬鹿話を繰り広げていたりする。

 

 今世ではまだ10代の男2人と、20を過ぎたばかりの男2人だし、それも仕方ない……のか?

 この前なんか会話でしりとりして、ルール破ったら罰ゲームとか、超下らない事やってたけど。

 

 ちなみにその時、罰ゲームをやる事になったのはジョナサンだ。罰ゲームの内容はしばらく女言葉で会話する事。

 何故かノリノリでやってくれたから、笑い過ぎて俺を含む残り4人の腹筋が死んだ。

 

 

 さて、閑話休題。……今日の俺だが、実は機嫌が悪い。

 

 バイトが休みで、いつも通り旧図書館に向かうと、既に承太郎とジョルノが待っていた。俺が声を掛けると、承太郎はニヤニヤと笑い、

 

 

「――よお、王子サマ」

 

 

 と言った。……あぁ、やっぱりこいつの耳にも届いていたか!

 

 

「……王子様?どういう事です?」

 

「……そうか。さすがに、今日中に中等部にまで噂が広まる事はないか。……実は今朝、こんな事があったらしい――」

 

 

 そう言って承太郎が話し出したのは、俺の機嫌が悪くなるきっかけとなった出来事だ。

 

 

 今日の朝。俺はいつも通り登校し、学校の昇降口で偶然出会ったクラスメートと共に、教室がある階まで階段で上がっていた。

 次の階段を上がれば到着する……という段階で、上から女性の悲鳴が聞こえた。顔を上げると、1人の女子生徒が階段から落ちそうになっていた。

 

 俺は咄嗟に前に出て片手で手すりを掴み、もう片方は通学鞄を手放し、女子生徒を抱き留める。

 間一髪だったが、何とか彼女を助ける事ができた。……しかし不幸な事に、女子生徒は足首を捻ってしまったらしく、痛みで歩けない状態だった。

 

 男として、怪我した女性を見捨てるわけにもいかない。……仕方ないので、まず一緒にいたクラスメートに俺の鞄を教室まで持っていくよう頼んだ。

 そして俺自身は女子生徒を背負い、彼女の友人だという別の女子生徒と共に、保健室まで向かった。

 

 だが。ここでもタイミングが悪い事に、ちょうど保健室の先生が不在だった。

 ……仕方ないので、俺が応急処置をやった。過去に本で読んだ内容を思い出しながら、治療を行う。

 今世の母親が、あのクソ野郎に暴力を受けていた時。その怪我を少しでも治したくて、応急処置の方法は早いうちに勉強していた。

 

 それが終わる頃にようやく先生が来たため、後を任せて教室に向かうと、俺の鞄を持って行ってくれたクラスメートが一部始終を大げさに語っていたらしく、教室にいた全員に囃し立てられてしまった。

 

 ……それだけで話が終わればまだ良かったが、問題はここからだ。

 

 俺が助けた女子生徒は、同じ学年の別クラスの生徒だった。

 そんな彼女は自分の教室に戻ると、友人達に大声で俺の事を語ったらしい。――まるで、本物の王子様のようだった、と。

 

 特に。俺が彼女の足に応急処置を施した時の事が大げさに語られており、優しく足に触れて治療する様子が、お姫様に靴を履かせる王子様のように見えたのだとか。

 

 この話は、俺がそれなりに人脈が広かった事が災いし、俺の名前と共に高等部で広まってしまった。

 そのせいで俺は多くの生徒、果ては教師にまで揶揄されながら、今日1日を過ごし……今は、相当不機嫌になっている事を自覚している。

 

 

「――とまぁ、そんな事があったわけだ」

 

「……なるほど。ところで承太郎さん、いいんですか?」

 

「何がだ?」

 

「志人さん、凄く怖い顔になってますけど」

 

「は……っ、!?シ、シド……?」

 

 

 承太郎が俺を見て、顔を引きつらせた。……俺の顔からはおそらく、表情が抜け落ちていると思う。

 

 

「てめぇまで俺をからかうのか。そうかそうか分かった――帰る」

 

「待てシド悪かった謝る、ちゃんと謝るから待ってくれ本気で――っ、待て!待ってくれ頼む志人!!俺が悪かった!!」

 

 

 我ながら、感情の無い声が出た。背を向けた直後、必死に謝る承太郎に引き止められ、渋々戻る。……お前、そんな声出せたんだな。驚きだ。

 

 

「あんな必死な顔と声を出す承太郎さんは、初めて見ました……」

 

「うるせえぞ、ジョルノ。俺は親友から縁を切られないように必死だったんだよ……!」

 

「……俺を引き留めたからには、ありったけの愚痴を聞いてくれるんだよなぁ?」

 

「ああ、もちろん聞く。もうからかったりしないから、好きなだけ言え」

 

 

 ならば、遠慮なく。

 

 

「――俺が王子様だと?そんな訳あるか!!この見た目を見ろよ!前髪下ろして眼鏡掛ければ立派なモブ顔だろうが!!俺を最初に王子様とか言った奴は眼科行け!目に変なフィルターが掛かってんだろあの女!!」

 

「お、おう……」

 

「これは……志人さんにしては珍しく、相当ストレス溜まってますね……」

 

 

 ……それからしばらく愚痴を吐き、ようやくスッキリした俺の心は、先ほどよりも穏やかになった。

 

 

「はぁ……落ち着いた。2人共ありがとう。付き合わせて悪かったな」

 

「どういたしまして、Fratello(兄さん)

 

「それは構わないが……これでそろそろ分かったんじゃねーか?お前」

 

「え?」

 

 

 承太郎が、ため息混じりに俺に言う。

 

 

「俺が予想していた展開とは大分違うが……以前、お前はお人好しだから、つけ込まれないように気をつけろと言ったはずだぜ。シド」

 

「……水族館に行った時の、あれか」

 

「それだ。……あの時もお前、相手が女だからと強く出られなかっただろ?眼鏡外して睨めばすぐに追い払えたのに、こんな目で睨まれたら可哀想だからと言って、やらなかった」

 

「…………」

 

「今回は、咄嗟に動いて助けた事はよくやったと思う。さすがは俺の親友だ。

 でもな、その後わざわざ女を背負って運ぶ必要はなかったと思うし、応急処置だって養護教諭に任せればよかったと思うぜ。本来なら女を運んだところで、お前の役目は終わりだろ。

 

 最後まで優しくし過ぎたから、今日みたいな事になったんじゃねえのか?」

 

 

 ……言いたい事は、なんとなく分かるが。

 

 

「背負って運んだ方が早いと思ったし、応急処置は気がついた時にはもう、自分で救急箱を手に取ってたから……」

 

「そんな行動を躊躇いもなくやってしまう事が、僕達があなたをお人好しと呼ぶ理由なんですよ」

 

「う……」

 

 

 ジョルノにまで言われてしまった。

 

 

「……何も、お前のそれが悪いとは言ってねえ。それはお前の長所だ。情けは人の為ならずって言葉もあるぐらいだからな。巡り巡って良い事が返って来る可能性は高いだろう。

 だがそれと同じくらい、面倒事が降り掛かる可能性だって高くなる。……経験談だが、人から寄せられる好意による影響は、案外良い影響よりも、悪い影響を引き寄せる事の方が多い」

 

 

 経験談。……確かに、承太郎の言葉には重みを感じるな。こいつは前世でも今世でも、多くの人間から様々な好意を寄せられている。

 しかし、その好意が強過ぎて女性に囲まれて辟易したり……強過ぎる信頼を寄せられて、プレッシャーに潰されそうになったり。そんな経験をしているのだ。

 

 

「……もう一度言うが、つけ込まれないように気をつけろ。これに懲りたら、見知らぬ相手に優しくする時は、その後の影響をよく考えた上で行動しろよ?」

 

「…………分かった。今度からはちゃんと、考える」

 

「よし」

 

 

 今後は厄介事に関わらないために、真剣に考えないとな。もしかしたら最悪の場合、承太郎達を巻き込む事になるかもしれないし……マジで気をつけよう。

 

 

「……ところで、お2人はこんな噂を知ってますか?――最近、この学校内で破局する恋人同士や、友人同士が増えているらしいですよ」

 

 

 と、空気を変えるためなのか、ジョルノがそんな話題を口にした。

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 ――1人の女が、前世の記憶を思い出した。

 

 

 前世では非常に病弱な人間だった。調子が良い時は外を少し散歩するぐらいはできるが、基本的にベッドから離れる事ができない。

 女はいつも、健康的な体に恵まれた人達の姿を、指を咥えて見ているしかなかった。

 

 そんな女の側には、物心ついた時から不思議な物があった。それは女の周囲の人間の目には見えない物で、その存在を認識しているのは女だけだった。

 

 その不思議な物とは――真っ赤な鋏。自分の意思で出現させたり、消したりする事ができる。

 

 女にとっては、不気味な物だった。自分から離れる事が無く、自分以外の人間には見えない。他人に相談しても幻覚を見ているのだと、頭や心の方を心配される始末。

 しかし。側にあるだけで、女に害をもたらす物ではない。……ならば、ずっと消したままにしていれば気にならない。そんな結論を出し、女はしばらくその鋏を出現させる事を止めた。

 

 

 だが、ある日の事。女はその不気味な鋏に、とある能力がある事を知る。

 

 女の家はとても裕福で、自宅である豪邸には使用人が大勢がいる。……その中でも、女が特に気に入っていた男の使用人がいた。

 誰に対しても、優しい男だった。病弱な女の事は特に気に掛けていて、甲斐甲斐しく世話をしてくれる。女の両親からも頼られていた。……女は自然と、男に恋心を抱くようになる。

 

 しかし、女の恋が成就する事はなかった。

 

 男の使用人は、同じ豪邸に勤めていた女の使用人と恋仲になっていたのだ。そんな2人の逢瀬を、女は偶然目撃してしまった。

 ……あんなに優しくしてくれた男の使用人に弄ばれたような気分になり、相手である女の使用人の事も妬む。――嗚呼、憎い!

 

 そう、強く思った途端。それまで存在を忘れていた、あの不気味な鋏が出現する。そして、女の目には鋏以外の別の物も見えた。

 ――赤い糸だ。……それは、男の使用人と女の使用人の胸の中心を繋いでいる。

 

 衝動的にそれを"斬りたい"と思った、その時。赤い鋏は女の側から2人の間に瞬間移動して、その糸を斬った。

 シャキンッ!という音が聞こえ、斬られた赤い糸が消える。……その後の展開は、女にとっては見物だった。

 

 今まで仲睦まじく会話していた2人が、突然口喧嘩を始めたのだ。その騒ぎは他の使用人にも伝わり、ついには女の両親の耳に入る。

 

 女の両親は病弱な娘には甘かったが、他人に対しては厳格な人間であり、使用人の礼儀作法にはうるさい。

 仕事時間中に逢瀬をしていた上、口喧嘩で周囲に迷惑を掛けたとして、男の使用人と女の使用人はすぐに解雇された。

 その結果を聞いた時。女は1人で、こっそり大笑いした。……ざまあみろ、と。心の底から嗤ったのだ。

 

 

 ――他人の不幸は蜜の味。

 

 

 ……病弱で、自分の人生に対する諦めや絶望を嫌というほど味わっていた女にとって、それは久々に感じた悦楽だった。

 味を占めた女は、不気味な鋏の能力をいろいろ試してみた。……この鋏は、自分以外の人同士の縁を切る事ができる。

 

 その縁は、赤い糸などの紐状の何かとなって、女の目に現れる。それが細いとそれだけ人同士の縁も浅いが、太いと縁が深く、絆も強いようだ。

 紐状の何かの色は、全て赤。だが、よく見ると紐は2本あり、それが絡み合う事で1本の紐になっている。これは人同士が互いに好意的であればある程、複雑に絡み合うらしい。

 

 また。縁を繋ぐ紐状の物を斬りたい時は、縁を切らせたい相手同士が会話をしている時でなければ、鋏を使う事ができない。

 

 糸が細ければ簡単に斬れるが、太いと斬りにくい。時には、失敗して弾かれる事もある。

 縁切りに失敗すると、縁が繋がっていた者同士の心臓に、激痛が走るらしい。それはすぐに収まるが、それを見てから女の行動は慎重になった。

 

 何かの拍子に、異変の原因が女にあると、周囲にバレてしまうのは避けたい。縁を切る前に、ターゲット達の縁の紐の太さを確認し、斬れそうな物だけを選んで斬るようにした。

 ……自分の手で、幸せそうにしている他人の仲を壊し、相手を不幸にする事は、それはもう楽しかった。

 

 結局。女は自分が病気で死ぬ間際まで、その歪んだ遊びを楽しんだ。

 

 

 

 

 

 

 そんな前世を思い出したのは――1人の女子高生だった。

 

 女が前世を思い出した時。今世の女は既に高校2年生になっていた。見た目は前世とほとんど同じだったが、体はとても健康的だった。

 前世を思い出してからしばらくは、病弱な体ではできなかった事を、大いに楽しんだ。今世の友人達や、高校に入学してから出来た恋人と過ごす時間は、本当に楽しかった。

 

 しかし、ある日の事。……女は、恋人と些細な事で喧嘩になってしまい、それがきっかけで別れる事になる。女の怒りは収まらず、元恋人を憎むようになった。

 それから間もなく、元恋人が別の女子生徒と仲良くなっていると、友人達から吹き込まれる。

 

 実際に、その女子生徒と元恋人が楽しそうに会話している様子を目撃した女は……前世の使用人達の逢瀬の様子を思い出し――あの2人の縁を切りたいと、強く願った。

 その瞬間。あの真っ赤な鋏が現れて、前世のように赤い糸を斬るのを見て、女は驚いた。まさか、今世でも使えるとは思っていなかったのだ。

 

 元恋人と女子生徒の口喧嘩と、その後の関係の破綻を見届ける。……前世で感じた暗い喜びが、女の心を満たした。

 

 

 ――他人の不幸は蜜の味。

 

 

(もっと、もっと――もっともっともっと!あの快感を感じたい!欲しい!!)

 

 

 ――斯くして。ジョースター家の一族や、その前世の仲間達が通う学校で、1人の女の心に、悪意が甦った。

 

 

 

 

 

 





※旧図書館組のグループ会話(キャラ崩壊注意。長い。 ☀️はジョルノ、★は承太郎、⛄は園原、⏰はディオ、✴️はジョナサン。マークは適当)

☀️"――眠くなって来たんですが、この会話はいつまで続くんですか?"

★"過程は関係なく、誰かがミスをするまで続く"

⛄"くそ面倒になってきたな"

⏰"なぁ、園原は段々私達に対しても口が悪くなって来てないか?"

✴️"堅苦しいよりは、マシだと思うけどね"

☀️"「ね」で攻めるのやめてください"

★"いろいろな意味でカオスだ"

⛄"だってそもそも、この面子がカオスだから"

⏰"楽に終わればよかったのだが、やはり上手くいかないか"

✴️"感嘆に終わったら面白くないね"

✴️"あ"

⏰"ジョナサン、誤字だ"

⛄"アウト!"

✴️"……見逃してもらえない?"

★"駄目だな。一度でも誤字があればアウトというルールだ"

☀️"罰ゲームタイムですねwwwww"

⛄"ジョルノが楽しそうで何よりww"

★"「ね」で攻められた腹いせだろ"

☀️"正解。……罰ゲームの内容、僕が決めてもいいですか?"

⏰"いいぞ、好きにしろ"

✴️"ディオ絶許"

☀️"では、ジョナサンは今日1日。このグループのメンバーの前では女言葉で話すという事で。
 あ、普通に口で会話する時はやらなくていいですよ。視界と耳の暴力になるので、メッセージアプリで会話する時のみにしてください"

⛄"wwwwwwww"

★"辛辣だな、ジョルノ。そして罰ゲームが地味にえぐい"

✴️"――じゃあ今からそうするわ。こんな感じでいいかしら?"

☀️"え"

★"おっと?"

⛄"ジョナサンwwwノリが良いですねww"

⏰"意外と躊躇いなく切り替えたな"

✴️"あ。そうだわ、ディオちゃん!"

⏰"は?"

☀️"ディオちゃんwwww"

⛄"呼び方まで変わったww"

★"……既読が減ったな"

⛄"そうだな"

☀️"見てないのはジョナサンと兄さんですか"

⛄"もしかして、電話してる?ジョナサンが女言葉で特攻仕掛けてるとか?"

★"いや、そんなまさか"

⏰"――そのまさかだ!!園原はそんなところで洞察力を発揮するな!"

★"はっ?"

☀️"ちょwwwwwww"

⛄"嘘だろジョナサンwwww"

✴️"本当にやったわよ?ジョルノちゃんが耳の暴力になるって言ってたから、参考にしたの!"

⏰"想像してみるがいい。耳元でジョナサンの声で女言葉を使われた時の、あのぞわぞわする感覚をwwww"

★"wwwwwwwwwww"

⛄"承太郎が死んだwww俺もww死wwww"

☀️"むりwwwwwwwww"

※この後。延々と女口調のジョナサンと他4名の馬鹿話が続く。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

空条承太郎の友人は、宣言する


・男主視点。

・オリキャラが登場します。


 ――空条承太郎だって、親友からの好感度を無意識に爆上げさせている時があるはず。




 

 

 

 俺が王子扱いを受ける不本意な事があった日から、数日。この学校では、おかしな出来事が多発している。……この前ジョルノが話してくれた、噂の通りに。

 

 最近、この学校内で破局する恋人同士や、友人同士が増えているらしい。

 

 それも、徐々に仲が悪くなって関係が壊れるのではなく、直前まで仲良く会話していた人達が突然口喧嘩を始めて、最終的に絶交状態になるとか。

 いくらなんでも、おかしい。俺も、承太郎も、ジョルノも。そう結論付けた。俺達だけでなく、学校に通う前世の仲間達の中でも数人、この件については怪しいと睨んでいる。

 

 ――もしかしたら、俺達以外のスタンド使いの仕業ではないか、と。

 

 という訳で、この件については目下調査中だ。犯人や、スタンドを持たない学生と教師達に怪しまれないよう、慎重に事を進める必要がある。

 学校に通う前世の仲間達には漏れ無く知らされ、もし何か手掛かりを見つけたら、学校の裏番――もとい、情報通であるジョルノに報告するようにと、指示されていた。

 

 

 だが。今の俺は、そんな調査をする余裕が無い。

 

 

「――園原くん!」

 

「あ、お姫様が来たぞ。王子様」

 

「行って来い、リア充め!!」

 

「いや、だから俺は、」

 

「そう恥ずかしがるなよ、園原」

 

「そうだそうだ!さっさと行け!水野さんが待ってるだろ!?」

 

「…………はぁ……」

 

 

 有無を言わさない周りの空気に負けて、俺は長い黒髪の女子生徒……水野さんの元へ向かった。……ここ数日、彼女からの猛アタックを受けている。

 

 水野さんは、数日前に俺が助けた同学年の女子生徒だ。彼女は俺が助けた日の翌日から、別クラスだというのにわざわざ俺のクラスまでやって来て、とにかく俺と話そうとする。

 頬を赤らめて上目遣いで話す様子は、元の顔が可愛いので男連中にもそれなりに人気だ。……彼女に好意を寄せられているな、というのは察する事ができた。

 

 ただ、今のところ今世では誰とも付き合う気が無い俺にとって、彼女の猛アタックは困る物だ。

 むしろ最近は、周囲の人間が囃し立てて来る元凶でもあるので、迷惑な存在になりつつある。……承太郎が言っていた通り、俺は優しくし過ぎたのだろう。

 

 追い払えるものならそうしたいが、周りの反応が怖い。

 

 他の生徒達は、俺と水野さんの動向を面白半分に見ている。水野さんはそれなりに人気のある女子生徒であるため、彼女を拒否すれば、酷いバッシングを受けるだろう。

 例え俺が被害者側になったとしても、問題を起こして教師に目を付けられて、特待生の学費免除が水の泡になったら、貧乏学生である俺が泣きを見るだけだ。

 財団からたまに仕事を依頼されて、それのおかげで前よりも金が貯まっているが……できれば、それは貯金しておきたい。

 

 ――父親から解放された事で、俺には新しい目標ができた。それを達成するためにも、金が必要だ。

 

 

「……ねぇ、園原くん?聞いてる?」

 

「っ、ああ、聞いてるよ。遊びに行く話だよね?……ごめん。俺、一人暮らしでバイトしながら生活してるからさ。

 最近、放課後は特に忙しくて時間が無いんだ。悪いけど、それは遠慮させてもらうね」

 

「えー?……じゃあその代わりに、これからはお昼一緒に食べようよ!もっと園原くんとお話したいの」

 

「い、いや。俺、いつも友達と食べてるから、」

 

「何言ってんだ園原。それぐらい気にするな!」

 

「そうだぞ。こっちの事は気にせず、水野さんと一緒に食べればいい」

 

「お前は水野さんとイチャイチャしてりゃいいんだよ!!」

 

「やだ、イチャイチャなんて……!でも園原くんの友達もああ言ってるし、いいよね?」

 

「…………うん、いいよ」

 

 

 またこの流れだ!事を荒立てないためにも、俺は棒読みで許可するしかない。あー、憂鬱。……また承太郎に愚痴聞いてもらおう。もしくは、旧図書館組のグループでも――

 

 

「――マリちゃん。そろそろ準備しないと、移動教室の授業、間に合わないよ」

 

「あ、ほら。お迎えが来たよ、水野さん。授業に遅れないようにしなきゃ」

 

「…………もう、しょうがないなぁ。じゃあ、園原くん!お昼休みにまた呼びに来るね!」

 

「あぁ、うん、はいはい」

 

 

 助け舟が来た!これ幸いと、昼休みにまた来るという言葉は適当に聞き流し、水野さんを送り出す。

 しかし、マリちゃん?……あぁ、そういえば水野さんの下の名前はマリエだか、マリコだった気がする。漢字は全く覚えていないが。

 

 と、水野さんをマリちゃんと呼んだ女子生徒……火宮幸恵がこちらに振り向き、ジェスチャーで謝って来る。俺は苦笑いで手を振り、それに応えた。

 

 火宮さんの名前は、すぐに覚えた。水野さんが階段から落ちた時に一緒にいた彼女の友人で、その繋がりで何度も顔を合わせているし。

 何よりも、今回のように俺から水野さんを引き離してくれる、ありがたい存在だからな。……見た目が華やかな水野さんの陰に隠れてしまっているが、個人的には火宮さんも美人だなと思う。

 

 何はともあれ、やっと解放された。早く中に戻、

 

 

「――っ!?」

 

 

 勢いよく、振り返る。

 

 

(今、気味の悪い視線を感じたような……?)

 

 

 財団から任された仕事をやっているうちに、少しずつ不穏な気配を感じられるようになった気がしていたが……それも確実では無い。

 あまり過信しない方がいいだろう。気のせい、という事にしておく。

 

 

 ……その日の昼休み。俺を呼びに来た水野さんと2人きりで昼食を取る事になり、何かと距離を縮めようとする彼女の猛攻をかわしながら、昼食を終えた。

 それから、水野さんと共に教室がある階まで戻って来た俺は、生徒達が行き交う廊下を歩いている途中で――シャキンッ!という音を聞いた。……あ?

 

 

「――もういいわ!あなたと付き合ってた私が馬鹿だった!」

 

「あぁ、ボクもそう思うよ!君を好きになったのは間違いだった!」

 

「!?」

 

 

 その時。後ろからそんな声が聞こえて振り向くと、女子生徒と男子生徒が言い争いをしていた。その周囲も、彼らを見ながらざわざわと話し合っている。

 そんな言い争いの現場の奥に、目立つ男がいた。……承太郎だ。隣に花京院もいる。

 

 承太郎は俺が見ている事に気づいたようで、しばらく騒動に目を向けてから、再び俺と目を合わせた。ゆっくりと、瞬きをする。

 

 

(……分かってるぜ、承太郎)

 

 

 例の噂の突然の仲違いが、目の前で起こっている。俺達以外のスタンド使いに関する手掛かりがないかどうか、よく観察した方がいいだろう。

 

 

「……園原くん。教室戻らないの?」

 

「え?……あぁ。彼らの事が、ちょっと気になってね」

 

「あの状態ならどうせ別れちゃうよ。それよりも時間ギリギリまでお話しよ!ほら、行こう行こう!」

 

「あっ、ちょっと水野さん……!?」

 

 

 彼女に手を引かれ、振り払ってでもその場に留まるかと一瞬考え……結局、止めた。

 既に男女のいざこざが起こっているこの場で、新たな騒動を起こして目立つ訳にはいかないと、冷静に考えた結果だった。

 

 後に、昼休みが終わる直前に承太郎にメッセージを送り、先程の事を謝る。……すると、あいつはむしろ俺の事を心配してくれた。親友の優しさが心に染みる……!

 

 

 さらに。俺はその日のうちにジョルノにもメッセージを送る。

 

 あの言い争いが起こる前に聞いた音について、念のために報告した。まるで――鋏で何かを切ったような、あの音。

 最初は気のせいかもしれないと、半信半疑だったのだが……ジョルノによると、あの場にいた承太郎と花京院も同じ音を聞いたらしい。

 

 という事は、偶然ではない。……しかし、承太郎達がその場にいた人達にさりげなく聞いてみたところ、俺達が聞いた音と同じ音を聞いた人間はいなかったそうだ。

 

 まさか……スタンド使いにしか聞こえない音?もしそうだとすれば、あの音はスタンドから出た音なのか?だが、俺はスタンド像を見ていない。

 承太郎達も、あの男女が言い争いを始める瞬間を目撃したそうだが、スタンド像は見えなかったという。

 

 ようやく手掛かりを掴んだと思ったが、肝心のスタンド像は同じスタンド使いでも見えず、そして使い手も不明。……一筋縄では行かない、か。

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 そんな、ある日の事。

 

 

「――園原くん!私と、付き合って欲しいの!!お願い、恋人になって!」

 

「…………は?」

 

 

 出会ってからまだ間もないというのに、水野さんから告白されました。――放課後、クラスメートがまだほとんど残っている、教室内で。

 

 

(――正気か?この女)

 

 

 脳内が宇宙猫状態の俺は、クラスメートが一斉に囃し立てる中。この状況をどう打開しようか、必死に考えている。

 

 水野さんは俺に脈があると思っているのか?俺は彼女のアピールに全く反応していなかったはずだ。

 いや、俺が彼女を無視する事を諦めていた時点で、勘違いされていた可能性もあるか?俺が普段よく一緒にいるクラスメート3人が、俺が彼女に対して照れていると勘違いしているように。

 

 しかし……水野さんの、やけに自信満々な様子が気になる。

 

 

「……ここで答えないと、駄目かな?」

 

「うん。この場で答えて!」

 

「園原、うじうじすんなよ!」

 

「男ならびしっと決めろー!」

 

「女の子に恥掻かせるな!!」

 

 

 何だか偉そうな彼女と、さらに盛り上がるクラスメート。……そんなクラスメート数人の言葉と、いつの間にか俺と水野さんを囲むように立っている男子生徒達。

 

 

(…………あぁ、なるほど理解)

 

 

 こいつら、謀りやがったな。

 

 俺は充分この女に優しくしてたし、クラスメートと争わないように我慢した。

 だが、承太郎やジョルノが言うように、俺がお人好しだったから結果的にこうなってしまったのだろう。自業自得だ。

 

 仕方ない。ここではっきり、宣言しよう。お人好しが過ぎる自分から脱却するための、第一歩だな。

 

 

「……水野さんに恥を掻かせないために、別の場所に移動したかったんだけど、仕方ないね」

 

「え、」

 

「君には悪いが、その告白は断らせてもらう」

 

 

 すると、クラスメート達が一斉に俺を非難する。だが俺は怯まずに、大声でこう言った。

 

 

「――俺が逃げられない状況を作った君達に!非難される謂れは無い!!」

 

 

 普段は猫被って大人しくしている俺が、初めて怒った事に驚いたのだろう。彼らは静かになった。

 

 

「……最初に言っておくよ。俺はこの先、誰かと恋人関係になるつもりは全く無い。なぜなら、今の俺には目標が――将来の夢があるから。

 その夢を叶えるために、俺は大学に行くつもりだ。そのために勉強してるし、バイトしてお金を貯めている。凄く忙しいんだ。

 

 俺の事を想ってくれる水野さんには、本当に悪いと思ってるけど、今の俺には恋愛をしている余裕が無い。だから、君の告白は断らせてもらう。……本当に、ごめん」

 

 

 下げたくない頭を無理やり下げて、誠心誠意謝罪しているように見せ掛ける。

 

 

「でもね。これだけは言わせてもらうよ、水野さん。――告白するなら、自分1人の力でぶつかって来て欲しかったな、俺は」

 

「っ!?な、どうして、」

 

「どうして分かったか?……分かるに決まってるじゃん。クラスメート達は不自然なくらい囃し立てるし、いつの間にか男子達が俺と水野さんを囲むように立ってるし?

 これ、どう考えても俺を逃がさないようにするための包囲網だろ?」

 

 

 そう言って男子生徒達や水野さんを一人ひとり見つめると、全員が目を逸らした。ほら、やっぱりな。この下衆共が。

 

 

「……そういう訳で、俺はそろそろ帰らせてもらうよ。じゃあね」

 

 

 通学鞄を持って歩き出すと、クラスメート達はおどおどした様子で道を開けた。……廊下に出ると、野次馬がたくさんいる。

 

 

「……お騒がせしました!うちのクラスがうるさくしちゃって、本当にごめん!……俺も、みっともなく怒鳴っちゃったし……」

 

 

 潔く謝罪し、次いで申し訳なさそうな様子を見せると、彼らは口々に気にするなと言い、むしろ面白半分で見ていた事を謝って来た。

 ……よし。これなら、俺の方が被害者であると印象付ける事ができただろう。他クラスから非難される事は、これで回避できるはずだ。

 

 あとは、クラスメートや水野さんが教師を巻き込むような騒動にしない限り、俺の学費免除は安泰……と、思いたい。

 最後に彼らの罪悪感を刺激したつもりだし、それでこれ以上俺を悪く言う事も無い……と、いいなぁ。

 

 まぁ、何とかなるさ!

 

 

 早歩きで昇降口に向かい、靴を履き替えていると、後ろから声を掛けられた。……火宮さんだ。髪を揺らしながらこちらに駆け寄って来る。

 

 

「園原くん。マリちゃんが、ごめんね」

 

「あぁ。別に、もういいよ」

 

 

 作り笑顔で、そう言った。……俺を罠に嵌めようとした事を許すつもりは、さらさら無いけどな。

 

 

「そっか……優しいね、園原くん」

 

「そうかな?」

 

「うん。そうだよ」

 

 

 火宮さんは、俺の真意を見抜けなかったようだ。俺は"許す"とか、"気にしてない"とか、そんな類いの言葉は一言も言って無いのだが。

 

 

「あ、もしもマリちゃんがまた何か言って来たら、良かったらわたしに言って!園原くんに迷惑掛けないように、何とかするから」

 

「あはは、ありがとう。助かるよ」

 

 

 と言いつつ、彼女に期待はしない。……確かに、水野さんよりは大分マシだが、火宮さんには水野さんをコントロールする力が無いと思う。

 もしもそんな力があったら、今日の出来事を未然に防ぐ事ができたはずだ。

 

 それに、火宮さんが本当に水野さんを止める気があるなら、あの場ですぐに止めるべきだった。……彼女は野次馬の中にいたが、何もしないで見物しているだけだった。

 

 

「……じゃあ、俺はバイトがあるからお先に失礼するよ」

 

「あ、うん。バイバイ!また明日ね」

 

 

 火宮さんと別れ、学校の外に出た。……バイト終わったら承太郎に電話するか、旧図書館組のグループで愚痴を聞いてもらおう。

 

 今日は絶対に吐き出さないと気が済まねぇ!!

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

空条承太郎の友人は、尾行される


・男主視点。

・キャラ崩壊注意。旧図書館組がメッセージアプリ内で草生やしたり、ふざけたりしています。

・オリジナルスタンドが登場します。

・念のために注意。not腐向けです。


 ――空条承太郎だって、親友を心配するあまりパニックになる時があるはず。




 

 

 

 "――という経緯から、俺はさっきまで承太郎に電話で愚痴を聞いてもらっていたんですが、まだまだ収まらないので、グループの方にも吐き出しに来ました!"

 

 "なん、というか。……うん。いろいろ酷いね!"

 

 "その水野とか言う女、正気か?"

 

 "そう!俺もそう思ったんですよ、ディオさん!告白するにしても場所考えろ!そもそも男共に協力させるとか狡い真似すんじゃねぇ!!"

 

 "志人さん、ご愁傷様です……"

 

 

 バイトが終わった後。俺は水野さんに告白された時の事を、電話で承太郎に聞いてもらっていたのだが、まだスッキリしないので、グループの方にも愚痴を吐き出した。

 ジョルノ達3人が俺に同情し、励ましてくれた。優しい……!親友もこのグループの面子も大好きだわ、俺。

 

 

 "さっきも言ったが、お前は本当によく頑張ったと思うぜ。自分の気持ちをはっきり言った事は偉い。お人好しが過ぎる性格も、大分マシになったんじゃねえか?"

 

 "俺が女だったらお前に惚れてるぞ、親友"

 

 "志人さんwwww"

 

 "突然の告白ww"

 

 "承太郎、親友が告白して来たぞ?どうする?ww"

 

 "とりあえず抱き締めてやる"

 

 "僕の前世の玄孫がイケメン過ぎる……!?"

 

 "何言ってるんですか、ジョナサン。俺の親友がイケメンなのは当たり前です。というか俺が女なら、って話は冗談のつもりだったが、ほんの一瞬ぐらついた"

 

 "志人さんの気持ちが分かります。これは男も惚れ込む漢ですね"

 

 "承太郎、さては貴様女にモテるな?"

 

 "モテ過ぎて女共がうぜえ。マジで"

 

 "即レスwww"

 

 

 特に、承太郎に対しては好感度が超上がっている。こいつ、本当に優しいんだよな!俺が欲しい言葉を掛けてくれる。

 ディオも言っているように、承太郎が女にモテる理由がよく分かった。本人は心底嫌がっているが……

 

 

 "つーか、俺も自分が女に猛アタックされた事で、初めて承太郎の気持ちが分かった気がする"

 

 "と言うと?"

 

 "行き過ぎた好意は迷惑にしかならないって事だ。俺の場合は1人だけだが、承太郎は水野さんみたいな人が何人も追い掛けて来るんだろ?精神的にかなりきついわ"

 

 

 そうそう。承太郎は凄い。原作でも女子に対してすぐに怒鳴っていたが、あれだって仕方ないんだろうなと思った。

 というか、今はそんなに怒鳴らない分、ストレスも溜まりやすいんじゃないかと心配している。

 

 

 "承太郎はあれによく耐えてる。超頑張ってる。お前、普段からもっと愚痴吐いてもいいんじゃねぇか?怒っても許されるだろ。というか俺が許すし、お前だって無理すんなよ?"

 

 "シドおま"

 

 "承太郎?"

 

 "……あれ?承太郎さん?"

 

 "おや?途中で言葉が切れた?"

 

 "おい、息はちゃんとしているか?"

 

 "一瞬息が止まってた。お前が女だったら俺は今頃全力で囲い込んでたぞシドてめえ"

 

 "wwwwww"

 

 "相思相愛じゃないかwww"

 

 

 腹を抱えて笑った。そう思ってくれる程に、俺の言葉は承太郎に届いていたらしい。

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 告白を断った日以来、クラスメートは最初は気まずそうに俺と接していたが、俺の様子が表面上は何も変わっていない事に気づくと、いつも通りに戻った。

 俺は表面上は変わっていないだけで、お前らには愛想が尽きてるんだけどなぁ……やっぱり分からないか。

 

 水野さんは、以前のように頻繁に教室に来なくなったし、昼食を一緒に取る事もなくなったが、俺を見掛けると普通に話し掛けてくる。どういう神経してんだか。

 火宮さんもそうだ。彼女は大体水野さんと一緒にいて、水野さんと一緒に俺と会話する。まぁ、火宮さんは水野さんよりもマシだし、知り合い程度の関係でいてくれるなら害は無い。

 

 あと、少し嬉しい事があった。……俺がたまたま職員室に用があってそこに行った時、告白騒動について聞いたらしい教師達が、俺の事を心配してくれたのだ。

 どうやら、この学校の教師は俺が通っていた小学校や中学校の教師とは異なり、良い大人が多いらしい。中には俺が大学入学を目指している事を知って、協力を申し出てくれる教師もいた。

 

 ……もしかしたら、学費免除取り消しとかは、必要以上に心配しなくても大丈夫なのかもしれない。教師の事を疑い過ぎていた。ちょっと反省。

 

 

 しかし、最近はそんな良い事ばかりではない。

 

 

(――っ!!)

 

 

 移動教室のために廊下を歩いていた時、何処からか視線を感じて、振り向く。……視線の主は分からない。

 

 最近、気味の悪い視線を感じる事が増えた。おそらくだが、あの告白騒動の後から急に増えた気がする。……その件について、俺個人に恨みがある人間の視線、なのか?

 視線に籠められた意味は分からない。ただ、気持ち悪いという感覚だけが残る。……さすがにこれは気のせいでは無いだろうと、疑惑が確信に変わりつつある。

 

 正体不明のスタンド使いの件もあるし、そろそろ承太郎やジョルノに相談しようかと思っていたところだ。ちょうど今日はバイトが休みで、旧図書館に行こうと思っていたからな。

 2人には今日の昼休みに、"相談したい事があるから、放課後はできれば旧図書館に来て欲しい"と、メッセージを送った。幸い、どちらも了承してくれた。

 

 

 ……ようやく放課後になり、俺は人目を気にしながら旧図書館へと向かう。そして、人気がなくなった頃。

 

 

(――尾行されている?)

 

 

 あの気味の悪い視線と共に、後ろから微かに足音が聞こえる。……振り向きたい気持ちを抑えて、ゆっくり歩き続けた。

 俺が気づいている事に気づかれたら、相手がどんな行動に出るかが分からない。……イージスを出す事も却下だ。

 

 もしも万が一、相手が正体不明のスタンド使いだった場合。雲隠れでもされたら、発見がさらに遅くなってしまう。

 犯人がどうやって人同士の仲違いを起こしているのか、そしてそれを引き起こしている理由は何か。それが分からない今、下手に刺激する訳にはいかない。

 

 ……とりあえず、今日は旧図書館には行けないな。承太郎に電話して、その事を伝えよう。

 後ろにいる奴には俺が尾行に気づいている事や、電話の相手が承太郎である事を悟られないようにしなくてはならない。

 

 自分が取るべき行動を、頭の中で念入りにシミュレーションする。……それが完了したのは、校舎から外に出る出口付近を歩いていた時だった。

 

 

「――あっ。……あー、しまったなぁ……」

 

 

 そんな独り言を呟き、後ろにいる相手を騙すための演技を始めた。足を止めてスマホを取り出し、承太郎に電話を掛ける。

 

 

「……シドか?どうした?」

 

「あ、もしもし?今大丈夫かな?」

 

「あ、あぁ。大丈夫だが……お前、その口調って事は近くに誰かがいるのか?」

 

「そうだよ。……それでね、悪いんだけど今日はそっちに行けなくなった。さっき、今日中に済ませないといけない用事を思い出しちゃって……」

 

「……ほう?……緊急事態か?」

 

「うん」

 

「――それは、今電話している最中に、現在進行形で起こっている事か?」

 

「うん」

 

 

 さっすが承太郎!予想よりも早くに気づいてくれた!

 

 

「……スタンド使いか?」

 

「あー、それが分からないんだよね……」

 

「なら、例の水野という女が関わってる件か?」

 

「それも分からない」

 

「……答え方がはっきりしないな。質問を変えよう。俺とジョルノが助けに向かった方がいいか?」

 

「いや、心配はいらないよ」

 

「…………もしも、今から言う俺の予想が的中したら、"ありがとう"、外れていたら"大丈夫"という言葉を使ってくれ。――まさか、尾行されているのか?」

 

「――うん、ありがとう」

 

 

 ……本っ当にさすがだわ。相変わらず勘が鋭い。思わず笑って、本気でお礼を口にする。

 

 

 ――異変が起こったのは、その直後だった。

 

 

「分かった。それなら――ぐうっ!?」

 

「――いっ!?が、あ……っ!?」

 

「志人!?」

 

「イー、ジス……バリア、を……!」

 

「分かった!」

 

 

 ガキンッ!!という金属音が聞こえた後、俺と承太郎は同時に悲鳴を上げた。俺はスマホを落とし、胸を押さえてその場に踞る。勝手に出て来たイージスには、かろうじて指示を出す事ができた。

 そんな俺の胸から、赤い何かが伸びている。何だこれ!?赤い――ワイヤー、か?2本のワイヤーが絡み合っている。それに、

 

 

「――鋏……!?」

 

 

 バリアの先で、俺の胸から伸びるワイヤーの側に、真っ赤な鋏のスタンドが浮いている。しかしその瞬間、ワイヤーと鋏が俺の目の前で消えた。

 

 

「志人!後ろにいた奴が逃げたよ!?」

 

「っ、イージス!追えるところまでで構わない!バリアを解除して追跡しろ!!」

 

「うん、行って来る!」

 

 

 遠隔操作型と比べると、イージスが動ける範囲は狭いが、少しでも手掛かりを掴む可能性があるなら、それに懸ける!

 いつの間にか、胸……というか、心臓?の激痛が治まっていたので、スマホを拾って立ち上がった。

 

 

「あ、そうだ承太郎!大丈夫か!?……って、あれ?電話切れてる……」

 

 

 落とした瞬間に切れたのか?それとも向こうが――

 

 

「――志人!!」

 

「志人さん!無事ですか!?」

 

「なっ、お前ら!?」

 

 

 承太郎とジョルノが、俺の下に駆け寄って来た。何故来たのかと怒鳴る前に、承太郎に両肩を掴まれる。

 

 

「大丈夫か!?どこか怪我してないか!?」

 

「お、おう……!?だっ、大丈夫、だが?」

 

「本当に?無理してないか?本当に無事か!?」

 

「待て待て待て待て落ち着け落ち着け」

 

Fratello(兄さん)、一旦落ち着きましょう?それ以上はいくらなんでもセクハラになってしまいますよ?」

 

 

 俺の体をベタベタ触って無事を確かめようとする承太郎を落ち着かせて、戻って来たイージスと共に近くの空き教室の中に入った。

 部屋の鍵を掛けて、最近ようやく使えるようになった、新たなバリアを張る。

 

 

「――不可視のバリア、ですか?」

 

「あぁ。……沖縄旅行の時に遭遇した、タコみたいなスタンドの能力。

 そして後に承太郎から詳しく教えてもらった、自分や周囲の物を不可視化するスタンドの能力を参考にして、バリアに不可視の効果を付与してみた」

 

 

 旅行から帰って来た後。あのタコみたいなスタンドの能力を、バリアに付与できないかと考え、承太郎に協力してもらいながら試行錯誤を繰り返し、ようやく完成させたのが、今発動しているバリアだ。

 これを使えば、バリアの外にいる人間には、バリアの中にいる人間やスタンドの姿が見えなくなる。

 

 ただし。防音効果は無いため、そこは注意が必要だな。

 

 ……ちなみに、承太郎が話してくれた不可視化能力を持つスタンド使い……透明な赤ちゃんは、財団の人間が探し回っても、未だに発見されていないという。

 もしや、今世には存在しない?あるいは、これから今世に生まれる予定、とか?

 

 

 閑話休題。

 

 

「これで教室の外から覗かれても、俺達の姿は見えない。……ゆっくり話し合える」

 

「あぁ。……まずは、シド。お前から何があったのかを話してくれ」

 

 

 冷静になった承太郎に頼まれたので、最近感じていた気味の悪い視線の事と、先ほど尾行に気づいた事。それから、承太郎に電話した後の出来事について説明する。

 

 

「で、お前らが駆け付けた後の事は、お前らも知っての通りだ。

 来てくれたのは嬉しかったが、欲を言えば先に電話で俺の安否確認をしてから来て欲しかったな。万が一、俺とお前らが一緒にいるところをファンクラブの人間に目撃されたらどうする?」

 

「突然、お前の悲鳴と共に電話が切れたから、敵のスタンド使いと戦闘になったんだと考えた。安否確認する暇は無いと思った。……ファンクラブの事よりも、優先すべきはお前の命を守る事だろ」

 

「――承太郎さんは、自分の心臓の痛みも気にせずに、電話が切れた事に気づいた瞬間、旧図書館から飛び出したんです。

 僕は追い掛けるだけで精一杯で、この人を止める事ができませんでした。……でも、僕も承太郎さんに賛成です。あの時何よりも優先すべき事は、志人さんを助ける事だったと思います」

 

「…………そう、か。あー……えっと、ありがとう」

 

 

 まさか、こいつらがそこまで必死になって助けに来てくれたとは……嬉しいが、そわそわしてしまう。仲間として認められているようで、なんか、照れる。

 

 

「……あっ、そ、そうだ!イージス、犯人の姿は見たか!?」

 

「ふふっ……!はいはい、今話すよ」

 

 

 露骨に話を逸らす俺を見て笑いながら、今度はイージスが事情を話す。

 

 

「残念ながら、犯人は途中で見失ってしまったけど……後ろ姿は確認したよ。――女の子だった」

 

「女?」

 

「うん。学校の制服を着た、長い黒髪の女の子だ」

 

「……上履きの色は見たか?うちの学校は中学から高校まで、学年で色が異なる。6色だ。それが分かれば、大分絞れるんだが……」

 

「うーん……あっ、それ!志人と承太郎が履いてる物と同じだった!」

 

「青……高2の女子生徒か」

 

 

 長い黒髪の、高2の女子生徒。それってまさか――いや、待て。結論付けるにはまだ早い。

 

 

「……あと話すべき事といったら、スタンドの事か?」

 

「……志人さんが見たという、真っ赤な鋏のスタンドですね?以前志人さん達が聞いたという音の正体は、その鋏だった訳ですか……」

 

「おそらくな。あと、俺の胸から伸びていた、真っ赤なワイヤーの事だが」

 

「それについてですが……実は、承太郎さんの胸からも同じ物が伸びていました」

 

「えっ?」

 

「何?」

 

「……って、何で承太郎まで驚いてるんだよ。自分の事だろ」

 

「あの時はシドの事しか考えてなかった。そんな物、目に入らねーよ」

 

「うお、おう……」

 

 

 不意打ちを食らった。真顔で小っ恥ずかしい事を言うな!

 

 

「そこの照れ顔と真顔のFratelli(兄さん達)、話を進めていいですか?」

 

「あっ、ハイ」

 

「いいぞ」

 

「では。……そのワイヤーは一瞬で消えてしまいましたが、伸びていた方向は覚えています。――志人さんがいる方に向かって、伸びていましたよ」

 

 

 ……という事は、あの時。俺と承太郎はワイヤーで繋がっていた?それって、まるで――

 

 

「――運命の赤い糸?」

 

「っ!!……あの、志人さんのその発言のせいで、嫌な事を思い付いてしまったんですが……」

 

「何だ?ジョルノ」

 

「……突然仲が悪くなる、不可思議な現象。志人さんと承太郎さんを繋いでいたと思われる赤いワイヤーに、真っ赤な鋏。

 

 つまり、敵のスタンドの能力は――人と人の縁を切る事なのでは?」

 

 

 ジョルノがそう言った途端。承太郎が纏う空気が重くなった。……沖縄旅行中にロザリオを盗まれた事件の時と同じ、殺気だ。

 

 

「……そのスタンド使いは、俺と志人の縁を切ろうとしたのか。ふふ、そうか……ああ、そうか。よく、分かった。

 

 ――見つけ出したら、俺が潰す。女だろうが関係ねえ。絶対に、潰す」

 

 

 出た、黒豹!!もう手綱は握れない!……しかし、それにしても、

 

 

「別に、そこまで怒らなくても……」

 

「ちょっと志人さん、あなた本気で言ってます?僕は承太郎さんの気持ちが凄く理解できるんですが。僕だって犯人をボコボコにしたい」

 

「ジョルノまで……?」

 

「志人。承太郎とジョルノの怒りは当然だよ?君だって、承太郎との縁を勝手に切られるのは嫌だろう?」

 

「嫌だ。それは無理。断固拒否」

 

 

 そう、無理。……だが、俺が怒るならともかく、承太郎がそこまで怒る程の事なのか?それが疑問なんだ。

 

 俺が首を傾げていると、イージスは深くため息をつく。

 

 

「――駄目だ、この本体。自分がどれ程の好意を周囲から向けられているのか、ほとんど理解できてないよ……」

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

空条承太郎の友人は、対峙する


・男主視点。

・オリキャラが登場します。

・ご都合主義。捏造過多。


 ――空条承太郎だって、シリアスな場面でも笑ってしまう時があるはず。




 

 

 

 今まで正体不明だったスタンドを目撃した日から、数日後。ようやく敵のスタンド使いを特定した俺達は、そのスタンド使いを捕らえる作戦を実行する事にした。

 

 作戦の参加者は、俺を入れて7名。そのうち、俺を含めた5人が高校生、残り2名が中学生だ。

 俺と承太郎とジョルノが参加するのは最初から決まっていたのだが、残り4名の中で自主的に参加したいと言い出したのは、2名。

 

 まず1人目が、仗助だ。今回、俺と承太郎が敵の攻撃を受けたと知り、犯人が許せないと参加を強く希望したので、仲間入り。

 そして2人目だが……意外な事に、虹村――否、形兆が参加を希望した。

 

 形兆とは、実は今日に至るまでに何度か財団の支部で顔を合わせており、そのおかげで徐々に前世のトラウマを克服しつつある。

 今では背後や横合いから突然声を掛けられたり、物理的に距離を縮めたりする事さえ無ければ、ごく普通に会話をする事が可能だ。

 

 その形兆が、何故参加したのか。

 

 

「……別に。個人的に、犯人が気に食わないだけだ」

 

「兄貴は志人さんが犯人に攻撃されたって聞いた時、結構怒ってたんだぜぇ?ダチだから心配だって――」

 

「億泰っ!!」

 

「いってぇ!?」

 

 

 と、弟である億泰の頭に拳骨を落とす形兆。……否定しないって事は、そういう事なのだろう。そうか。俺の事を、ダチだと思ってくれてたのか。

 俺が一方的にそう思っているだけだと思っていたら……嬉しい誤算だな。

 

 ……で。作戦に参加する残りの4人のうちの3人目が、この億泰である。彼は自主的な参加ではない。仗助と形兆の間を取り持つために呼ばれた。

 この2人は表立って争う事は無いが、前世の俺が形兆に殺された件が原因で、あまり折り合いが良くない。仗助は形兆が側にいると、ピリピリしてしまうのだ。

 

 ……当初の予定では、これで参加者を締め切る予定だったが、俺がそれに待ったを掛けた。

 

 

「――1人、女性のスタンド使いにも同席して欲しいな。……相手のスタンド使いは女だから、男のみで囲うと無駄に警戒させてしまう。1人女性がいるだけで、少しはマシになるだろ」

 

 

 俺の提案は採用され、もう1人女性のスタンド使いに参加を求める事になった。……今回は、相手を捕らえて終わりではなく、話し合いもする予定だ。

 鋏のスタンドの詳しい能力や、彼女が今回の騒動を引き起こした理由について、話を聞く必要がある。

 

 彼女がこちらに協力的だった場合、財団に登録してもらって、構成員の監視の下で更生してもらう事も、視野に入れていた。

 

 さて。その最後の1人である女性のスタンド使いだが、徐倫で決定した。

 ちょうど、作戦決行日が徐倫以外の女性スタンド使いにとって都合が悪い日だったから、という理由もあるが……彼女は承太郎が被害にあったと聞いた途端、乗り気になったので……まぁ、そういう事だろう。

 

 

 そんな訳で、この7人が作戦に参加する。

 

 作戦を開始したのは、今日の放課後。犯人を指定の場所まで誘導する役割を担うのは……俺だ。

 彼女にこっそりと、"相談したい事があるので、2人きりになりたい。どうしても君にしか頼めない事だ"と話す。……すると、彼女はそれを快諾した。

 

 もしかしたら、俺を尾行していた件がバレていないと思い込んでいるのかもしれない。

 あの一件があった翌日以降も、俺を避けようとしなかったからな。むしろ向こうから話し掛けて来る始末。

 

 まぁ、俺達にとっては相手が無防備である方が都合が良い。そのまま勘違いさせておき、皆が待っている場所まで誘導する。

 到着した場所は、とある空き教室。中の窓も、廊下に続くドアにも遮光カーテンが掛かっており、中は真っ暗だ。先に彼女を入れて、俺も中に入った瞬間。教室の電気が点く。

 

 

「――あ、えっ……!?な、何で!?」

 

 

 そこには、作戦に参加している全員が勢揃いしていた。驚くのも無理は無い。ジョセフ以外のファンクラブ持ち4人が揃っているからな。

 驚く彼女を尻目に、出入口の近くにいる仗助と虹村兄弟のうち、虹村兄が素早くドアを閉めて鍵を掛け、遮光カーテンも閉めた。

 

 

「兵隊くん達は、もう外にいるのかい?」

 

「バット・カンパニーと呼べ。……既に配置済みだ」

 

「そっか、ありがとう形兆。外の見張りは君に任せるよ」

 

「…………その口調、どうにかならんのか?気持ち悪いぞ」

 

「あははは、大きなお世話だこの野郎。……彼女がいるからね。できる限り素顔は見せたくないんだ。俺の素顔を知るのは、君や承太郎達のような仲間だけでいい」

 

「……ふん!」

 

 

 あ、今ちょっと照れたな?このツンデレくん。

 

 例の王子扱いされた件のせいで、俺の名前と容姿は高等部全体に知れ渡ってしまった。

 この場にいる面子にもバレているし、もう猫を被っても意味は無いんだが……知り合い程度の、それも今回の事件の犯人がいる場所で素は見せたくない。

 

 

「それよりも、早くお前の仕事をしろ」

 

「あぁ、そうだった。……イージス・ホワイト。防音バリアを頼む」

 

「はいはい。任せて」

 

 

 彼女の横を通り過ぎながら、イージスを呼び出して教室内にバリアを張る。これで、外には音が漏れない。

 ……承太郎の隣に立った俺は、仗助と虹村兄弟が出入口を塞ぐのを確認してから、口を開いた。

 

 

「騙すような真似をして、ごめんね――」

 

 

 形だけの謝罪をした俺は、彼女の名前を呼ぶ。

 

 

 

 

 

 

「――火宮さん」

 

「……園原、くん?どういう事なの……?あの透明な壁と、その天使みたいな人は何!?それに、この人達と知り合いだったの!?一体どういう関係、」

 

「おっと!志人さんへの追及はそこまでにしてください。……何故こんな状況になっているのかは、ご自分がよく分かっているのでは?」

 

 

 と、ジョルノが意味深な笑みを浮かべ、彼女に声を掛ける。

 

 

「最近。この学校を騒がせていた、突然恋人同士や友人同士が仲違いする事件……その犯人が、あなたなのだから」

 

「なっ、……何の、話?」

 

「あなたが鋏のスタンドを所持している事は、既に分かっていますよ」

 

「すたんど……?」

 

「……おや?スタンドの事自体が、そもそも分からない?今あなたに見えている、天使のような人……志人さんのスタンドである、イージス・ホワイトというのですが、彼がそのスタンドの一種です。

 あなたの鋏も、イージスと同じくスタンドに含まれます。……そして、スタンドは基本的にスタンド使いにしか見えないというルールがありまして。

 

 イージスの姿や、バリアを目にする事ができるのは、スタンド使いである事の証明となります。つまり、あなたはスタンド使いだ。……ここまでは良いですか?」

 

 

 冷や汗を流した彼女は、黙ったまま、何も反応しない。

 

 

「……無言は肯定と取りますよ」

 

「……ジョルノ。ちょっと待って」

 

「徐倫?」

 

「いつまでも立たせたままだと、可哀想だわ。適当に座らせてあげましょう」

 

「……そうですね。確かに、その通りです。……火宮幸恵さん。どうぞ、好きな場所に座ってください」

 

「は、はい……」

 

 

 これは、元々打ち合わせしていた流れだ。唯一の女性である徐倫が彼女を気遣う事で、気を緩ませる。その方が、多少は口が軽くなるだろう。

 

 

「……さて、話を続けます。勝手ながら、あなたについて調べさせてもらいました。

 

 夏休みが終わり、新学期に入ってからすぐの事。あなたは恋人と些細な事で喧嘩になり、直後に別れていますね?

 さらに、それから間もなく。その元恋人と他の女子生徒が仲良く話していたところ、突然口喧嘩になり、破局したという小さな事件がありました。

 

 この出来事を皮切りに、仲の良い恋人同士や友人同士が突然破局するという事件が多発しています。……これらは全て、火宮さんがやった事ですね?」

 

「…………」

 

「……まだ認めませんか。僕達の中には、ある恋人同士が目の前で破局するのを目撃する直前に、鋏で何かを切る音が聞こえたと、証言した者が数名いるのですが……」

 

「…………」

 

 

 だんまり、か。……なら、あの日の事も話すとしよう。

 

 

「ジョルノ。代わってもいいかな?」

 

「……いいですよ。ここからは、志人さんに任せます」

 

「ありがとう」

 

 

 火宮さんの前に立つと、何故か彼女は安心したように笑った。……勘違いされてるなぁ。俺は君を庇うつもりは無いぜ。

 

 

「……ねぇ、火宮さん。俺はね、君や水野さんに出会った後から、度々妙な視線を感じていたんだ」

 

「妙な視線?」

 

「そう。なんというか――体に纏わり付くような、気持ち悪さが後に残る……そんな視線だった」

 

「…………」

 

「その視線は俺が水野さんに告白されて、それを断った日を境に、急に増えた気がしている。

 最初は告白騒動で俺に恨みを持った人達のうちの、誰かの視線だと思ってたんだよね。例えば、水野さんとか」

 

 

 そう。俺は最初、水野さんを疑っていた。俺に好意を持っている女で、振られた後も何か言いたい事があって視線を向けていたのではないかと、そう思っていたのだが……

 

 

「でも、数日前……鋏のスタンドに攻撃された日。水野さんは犯人では無い事が分かった。

 俺のスタンド、イージスが犯人の後ろ姿を目撃したんだけど、その特徴に水野さんは当てはまらなかったから。

 

 犯人の特徴は、制服を着た女子生徒。上履きの色は青、つまり高校2年。そして――長い黒髪を、ポニーテールにしている」

 

「っ!」

 

 

 俺がそう言うと、火宮さんの肩が跳ね上がった。……腰まで届く程の、長いポニーテールが揺れる。

 

 

 あの日。俺は犯人の女の特徴をもう少し絞るために、イージスに聞いてみた。……女はどんな髪型をしていたのか、と。

 イージスによると、低い位置で髪を結んでいて、長さは背中を優に越していたという。

 

 初めに長い黒髪と聞いていたから、肩を越す程の長さの黒髪を持つ、水野さんが犯人ではないかと疑っていたが……彼女よりも火宮さんの特徴と一致してしまい、首を傾げた。

 

 同じ学年の女子の中で、イージスが言う特徴に当てはまる人は、俺が知る限りでは火宮さんしか思い付かない。

 その後。承太郎や花京院、形兆の手を借りて、同学年の女子全員の容姿を調べてみたが、やはり火宮さん以外にその特徴と一致する女子はいなかった。

 

 水野さんよりはマシな女であり、大人しくて優しそうな……それこそ、虫も殺さないような顔をしている彼女が、今回の騒動を引き起こしたのだ。意外過ぎる。

 

 

「この特徴を持つ、俺と同学年の女子生徒は……火宮さん。君しかいないんだよ。……それに、この理由以外にも、犯人は君しかいないと決定付ける証拠がある」

 

「……証拠?」

 

「うん。――この学校には、中等部から高等部に掛けて、俺達の仲間のスタンド使い以外のスタンド使いは、君しかいないんだ。

 これは俺達全員が数日掛けて念入りに確かめた事だから、間違い無い」

 

「えっ!?」

 

 

 作戦決行日である今日が来るまでに、俺達は危険を承知で数日間。他の生徒や教師達の前で、頻繁にスタンドを出してみた。

 良い機会だからと、今回の犯人以外に、この学校にスタンド使いがいないかどうかを調べたのだ。……その結果。俺達以外のスタンド使いは、彼女しかいない事が分かった。

 

 

「もちろん、君の前にもスタンドは現れたはずだ」

 

「そ、そんな!?わたし、そんなの見てないわ!」

 

「いや、見ているよ。……そうだよね、形兆?」

 

「……ほーら、見ろよ。お前は数日前に、こいつを見たはずだ。……見覚えがあるだろ?」

 

「――あ……っ!」

 

 

 そう言う形兆の手の平の上には、バット・カンパニーの兵隊のうちの1体が乗っていた。それを見た彼女は、やはり見覚えがあったのだろう。口を両手で覆って驚いている。

 形兆は、火宮さんや水野さんのクラスメートだ。同じクラスの生徒や担任の前でバット・カンパニーを出した時、それが見えていたのは火宮さんだけだったと、数日前に証言していた。

 

 

「……これで分かったよね?俺達の仲間の中には鋏のスタンドを使う人間はいないし、人同士を突然破局させる能力を持つ者もいない。

 消去法で、あの鋏のスタンドを使う人は君しかいない、という結論になる訳だ。……ねぇ火宮さん。そろそろ、認めてくれないかな?」

 

「……なんで?」

 

「え、」

 

「なんでよ!どうしてわたしを疑うの!?酷い、酷いよ園原くん……!!」

 

 

 突如として、火宮さんがヒステリーを起こした。やれやれ、面倒な……いや、待てよ?これはチャンスか?

 

 

「……どうして、と言われてもね。犯人はどう考えても君しかいないよ。数日前に俺に攻撃して来たのも、君だろう?」

 

「知らない!そんなの知らない!!園原くんに攻撃なんかしてないし、そもそもあなたの後を追う事もしてない!」

 

「……へぇ?じゃあ鋏のスタンドの事は?」

 

「赤い鋏の事だって何も知らないわ!!それに、その天使みたいな人の証言だって、本当に信用できるか分からないじゃない!?」

 

「……何故そう思うのかな?」

 

「逃げた犯人の後ろ姿を見ただけでしょう?彼が犯人の容姿を見間違えてる可能性だって――」

 

「「――ぶふ……っ!!」」

 

 

 その時、2人分の噴き出す音が背後で聞こえた。次いで、大笑い。……承太郎とジョルノだ。

 

 

「くふっ、ふは、ははは、はははははっ!!」

 

「ゆき、と、さんっ、Bravo(素晴らしい)!!あははっ、はは……っ!!」

 

「……父さ、じゃない、兄さんもジョルノも、どうしちゃったの……!?」

 

「じょっ、承太郎さん……!?」

 

 

 俺と承太郎とジョルノ以外、全員が唖然としている。……そういえば、この2人が旧図書館組の面子以外の前で、こんなに腹を抱えて笑ったのはこれが初めてかもしれない。

 普段はグループの中でも草を生やす事が珍しくない2人だが、他の仲間達はそれを知らないからな……

 

 

「くくく、はは……!おいおい、シド!お前、よくもまあ、そいつに上手く墓穴掘らせたもんだな!」

 

「ふふ、本当に……いやあ、さすがですよ志人さん」

 

「……正直、上手く嵌まり過ぎて俺が一番驚いて、というか困惑してるんだけど?」

 

「っは!そうだな、違い無い。……さあて、未だによく分かってない奴らにも、分かりやすく説明してやるよ」

 

 

 承太郎が俺の隣に立ち、俺と一方的に肩を組む。……先程までの大笑いとは一転して、酷く冷たい表情で火宮さんを見下していた。

 もしや、これが俗に言う"養豚場の豚を見るような目"か……?リサリサさんが乗り移ってるぞ、親友。

 

 

「……てめえに聞きたい事は、3つだ。1つ目――何故、犯人がシドを尾行した事を知っている?」

 

「え……?」

 

「2つ目――何故、鋏のスタンドの色が赤である事を知っている?」

 

「……あ、」

 

「3つ目――何故、犯人が逃走した事を知っている?」

 

「…………そっ、それ、は、」

 

Answer(答え)――俺達以外に、犯人しか知り得ない情報を知っていた理由は、てめえ自身が犯人だから。……はい論破、ってな」

 

 

 ……そう。俺は今までの話の中で、尾行された事、鋏のスタンドの色、犯人が逃走した事を口にした覚えは無い。

 それを火宮さんが知っているという事は……後は、承太郎の言う通りだ。

 

 ヒステリーを起こしたのを好機と見て、口を滑らす事を期待したのは事実だが、墓穴を掘るのが早過ぎだろ。

 

 

「……火宮さん。君は何故こんな事をしたんだ?仲の良い人同士を意図的に仲違いさせるなんて、何故そんな事を?」

 

「――――他人の不幸は、蜜の味」

 

「……あ"?」

 

「わたしは、それが大好物なの」

 

 

 そう言って、女は醜悪な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

空条承太郎の友人は、親友と大喧嘩する


・男主視点。

・オリキャラとオリジナルスタンドが登場します。

・後半、シリアス。承太郎が弱っています。

・ご都合主義。捏造過多。

・またもや念のため。not腐向けです!


 空条承太郎は、大切な存在を護るためなら、自らを犠牲にする事を躊躇わない。

 いつだって、誰かの前に堂々と進み出て、自分が護りたい人達には背を向ける。

 ……そうやって、誰かを護る事には慣れていた。彼の前にはいつも、誰もいなかった。誰かの背中を見る事はなかった。

 だから――
 
 
 ――空条承太郎だって、目の前に突然、自分が護りたいと願う、大切な存在の背中が現れたら、愕然とするはず。
 
 
「――俺の手で!承太郎を護る!!イージス・ホワイトは、そのために目覚めたスタンドだ!!」





 

 

 

 今までの大人しそうな顔とは打って変わり、醜悪な笑みを見せた火宮さんは、自分の前世について語った。

 

 生まれつきのスタンド使いだった事。病弱だった事。自分の人生への諦めと絶望。

 使用人に恋をしたが、相手には既に恋人がいる事を知り、その関係に憎しみを抱き……その時、スタンドの能力が判明した事。

 それ以来、他人の不幸を見るのが楽しくて仕方なかった事。

 

 ついでに、鋏のスタンドの大体の能力が分かった。……このスタンドはやはり、人同士の縁を切る能力を持っているようだ。

 

 人同士の縁は赤い紐状の物となって、互いの胸から伸びた物が絡み合い、1本の紐になっている。それが細いと縁も浅いが、太いと縁が深く、絆も強いという。

 紐は互いに対して好意的であればある程、複雑に絡み合っているらしい。

 

 細い紐は簡単に切る事ができるが、太い紐は切りにくい。時には鋏が弾かれて、失敗する事もある。……失敗すると、紐で繋がっている者同士の心臓に、激痛が走る。

 俺と承太郎が感じた心臓の痛みは、これが原因だったのか。……俺達は紐じゃなくてワイヤーだったようだが、その場合はどうなんだ?

 

 

 おっと、それは後で聞くとしよう。

 

 火宮さんの動機を聞いて、承太郎達が殺気立っているため、今はそれを聞ける状態ではない。

 

 

「な、なんて女だ!根っからの悪かよ!?」

 

「兄貴、あいつイカれてるぜぇ!」

 

「ちっ……!言われなくても分かっている」

 

「そんな理由で、無関係の人間を巻き込んだんですか……どうしようも無い人間ですね」

 

「全くね……とんでもないクソ女だわ」

 

「…………」

 

 

 口々にそう言い、怒りを露にする仗助達と、さらに目を冷たくして火宮さんを睨む承太郎。……もちろん、俺だって怒っていた。

 

 

「……君が俺の後を付けて、電話中に攻撃してきた事も、それが理由だったのか!」

 

「……いいえ。園原くんの時だけは、理由が少し違うわ」

 

「何?」

 

 

 つい、眉間にシワを寄せた。俺の時は違うって、どういう事だ?

 

 

「だって――だって!園原くんがわたしを裏切ったから!!」

 

「は……?」

 

「マリちゃんに告白された時。誰とも付き合うつもりは無いって言ってたから安心してたのに、だから鋏も使わなかったのに――電話で誰かと凄く仲が良さそうに話してたじゃない!

 どうせ相手は女なんでしょ!?わたしに隠れて知らない女と恋人同士になってたのね!?

 

 見た目が細くても切れない縁の紐なんて初めてだった!大して太くないのは、まだ出会って間もなくで縁がそこまで深く無いんでしょ?

 それなのにわたしの鋏で切れなかったって事は、余程お互いに好意的で絆も強くて凄く仲が良いって事よねぇ!?

 

 許さない……許さない許さない許さない許さない――!!わたしを差し置いて別の女となんて許せないわ!!」

 

「おいおいおい、仗助ぇ!これって……!?」

 

「ああ、そうだな億泰。――由花子だ。この女、康一に対するプッツン状態の由花子と同じだぜ……!!」

 

 

 億泰と仗助の話を聞いて、納得した。誰かに似ていると思ったら、山岸由花子……広瀬康一の恋人で、ヤンデレである彼女が暴走した時と、よく似ている。

 

 水野さんに引き続き、それ以上にヤバイ女に好意を寄せられていたようだ。どうしよう……って、いつの間にか承太郎とジョルノが俺の側でスタンド構えてる!?

 

 

「待て、お前ら…じゃない、君達!ちょっと待ちなさい!!一旦スタンドを引っ込めよう?まともに会話が出来なくなっちゃうから。ね?」

 

「いい加減、もうぶっ飛ばしていいと思うんだ」

 

「僕も承太郎さんに激しく同意します」

 

「待てっつってんだろうが」

 

「そこを退け、シド。お前は俺が守る」

 

「大丈夫です。ちょっと終わりが無くなるだけなので」

 

 

 それなんてレクイエム!?ループはダメ、ゼッタイ!!阻止!!

 

 

「はいはい頭を冷やそうね、っと!!」

 

「いてっ」

 

「あいたっ」

 

 

 その時。イージスが杖の先で、スタープラチナとゴールド・エクスペリエンスの頭を叩いた。

 軽いダメージが通ったようで、2人が頭を押さえる。……殺気が霧散した。イージス、ありがとう!!

 

 

「ほら、志人。今のうちに話を進めなきゃ」

 

「お、おう。そうだな……あー、火宮さん?まず、君は誤解している。あの時、俺が電話していた相手はこいつ……承太郎なんだ」

 

「えっ……?」

 

 

 あの日の俺の行動について、火宮さんに説明し……ふと思い付いて、こう言ってみた。

 

 

「なんなら、今この場で鋏のスタンドを出して、確かめてみなよ」

 

「ちょっと、志人さん。それはいくらなんでも軽率じゃない?そいつ、あんたに攻撃するかもしれないのよ?」

 

「そうなる前に、俺がぶっ潰す」

 

「あっ、そうね。問題無いわね。安心したわ」

 

 

 承太郎の言葉に安心して、あっさり引き下がった徐倫。……うーん。こういう信頼の強さが承太郎の重荷になったのだと思うと、少し複雑だが……今は、それは置いといて。

 火宮さんが、無言で赤い鋏のスタンドを出す。……襲撃を受けた時に見た、あの鋏だ。これで、赤い鋏のスタンド使いの正体は、彼女であるという証明になるだろう。

 

 

「……本当だ。あの日見た物と、同じ……」

 

「分かってもらえたかな?俺は嘘は言って無い。俺に恋人はいないし、これから先も誰かと恋愛関係になる予定は無い、」

 

「なんだ!あは、そうだったんだ!良かった!!――じゃあ、やっぱりいつかはわたしの恋人になってくれるのね?」

 

「…………は?」

 

 

 思わず固まった。……何言ってんだ?この女。

 

 

「将来の夢を叶えるまでは恋愛するつもりが無いんでしょう?それなら、わたしはそれまで待ってるから!夢を叶えたら迎えに来てね!絶対よ!!」

 

「…………」

 

「……シド、気をしっかり持て」

 

「気持ちは分かりますけど、現実から目を逸らしたら駄目ですよ」

 

 

 頭痛が痛い、とはこの事だろうか?こめかみに指を当てて、目を閉じる。だが、承太郎とジョルノに肩ポンされて我に返った。

 

 

「……ごめん、火宮さん。念のため、一応……うん、念を押して聞いておくね。何故そういう結論に至ったのかな……?」

 

「えっ?だって、わたしの事が好きだからマリちゃんの告白を断ってくれたんだよね?

 わたしに好きって言わないのも、将来の夢を叶える方が先だからでしょ?大丈夫よ!わたしはいつまでも園原くんの事を待ってるから!」

 

「あ、駄目だこいつ。話が通じねぇ」

 

「素が出てるぜ、園原」

 

「黙れ形兆。……そんな同情に満ちた目で俺を見るな!仗助と億泰もだぞ!!」

 

 

 仗助と虹村兄弟に、憐れみの視線を向けられた。……とにかく、この女の勘違いを正さなくては。

 

 

「あのね、火宮さん。俺がいつ、君にそんな事を言った?」

 

「……えっ?」

 

「俺が君の事を好きだなんて、いつ言った?夢を叶えたら迎えに行くなんて、いつ言った?何をどう考えたらそんな考えになるんだい?

 はっきり言わせてもらうけど、俺は君に恋愛感情は持ってないし、むしろ友人とも思ってない。水野さんと同様に、ただの知り合いに向ける感情しか無いんだ」

 

「ゆ、志人のアニキ……!」

 

「志人さん、あまり刺激しない方が――」

 

「え、」

 

「――なんで?」

 

 

 億泰と仗助の焦った様子に目を向けた瞬間、感情が乗っていない声が聞こえ、はっと振り向いた。火宮さんの目からハイライトが消えている……!!

 

 

「どうして?なんでそんな事を言うの?園原くんはわたしの物だよ?だからそんな事を言ったら駄目なんだよ?

 

 ――わたしの物はわたしの言う事を聞かなきゃ駄目なんだよ!お前は黙ってわたしを迎えに来ればいいんだ!!言う事を聞け、志人ぉっ!!」

 

「――喧しいっ!!」

 

「承太郎!?」

 

 

 と、承太郎が俺を自分の後ろに隠し、叫ぶ。

 

 

「志人がてめえの物だと?ふざけるな、クソ女!!こいつは誰の物でもねえ!そもそも、志人を――俺の親友を!!物扱いするな!!

 あのクソ野郎といい!てめえといい!何故どいつもこいつも志人を所有物として扱うんだ!?」

 

「うるさい!わたしの、――わたしの志人を!!返せえぇぇっ!!」

 

「承太郎さん!!」

 

「危ねぇ!!」

 

 

 激昂した女が赤い鋏を握って、承太郎に突撃する。――体が勝手に動いて、気がついた時には承太郎の前に出ていた。

 

 

「っ、志人――!?」

 

「――イージス・ホワイトォッ!!」

 

「任せろ!!」

 

 

 咄嗟にイメージしたのは、イージスの名前の由来となった――アイギスの盾!

 

 イメージ通りの丸い盾が、イージスの手の中に現れ、それが赤い鋏の攻撃を防いだ。さらに、

 

 

「体が、動かないっ!?」

 

 

 火宮さんの動きが、鋏で攻撃した状態でピタリと止まる。……神話では、アイギスの盾にはメデューサの首が取り付けられていたという。

 それを思い出し、攻撃して来た相手を数秒固まらせるという能力を付与する事を思い付いた。

 

 そして固まった彼女の後ろに素早く回ったジョルノが、その首に腕を回し――ゴキッ。

 

 

「なっ、ジョルノぉぉ!?」

 

「まさかっ、死んで、」

 

「ませんよ。……殺してはいません。気絶させただけです」

 

 

 火宮さんが床に崩れ落ちたのを見て、仗助達が騒いだが……彼女は気絶しただけのようだ。ジョルノが殺人犯になってしまったらと、本気で焦った。

 元ギャングは人を気絶させる術まで習得しているのか……!?逆らったら駄目だな。コロネ様怖い。

 

 

「それよりも……志人さん?」

 

「ひいっ」

 

 

 黒いオーラを背負ったジョルノが、笑顔で俺を見る。目が笑ってない!

 

 

「……危ないところでしたね。イージスが新たな力を発現させたおかげで何とかなりましたが、それが無かったらあなたは大怪我を負っていたかもしれない。

 僕と仗助がいるので、治療は問題ありませんが、あなたの身の危険を間近で見た僕達の心が危機ですよ?何て事をやらかしてくれやがったんですかFratello(兄さん)

 

「う……その、体が、勝手に動いてしまって、つい……心配させて、すまなかった」

 

 

 深く、頭を下げる。……確かに、これは俺が悪い。その気持ちが伝わるようにと、すぐに頭を下げた。

 

 

「……まぁ。僕はそれで納得しますけど――黒豹さんは何と言いますかね?」

 

「は、っ!?」

 

 

 後ろから肩を掴まれて、無理やり振り向かされ、直後に胸ぐらを掴まれた。……黒豹、もとい承太郎がお怒りだ。

 

 

「志人……!!」

 

「……心配させて、悪い。でも……ごめんな。俺はきっと、今後同じ事が起こったら、同じ事をやると思う」

 

「っ、何を言って、」

 

「――先に俺を庇ったのはてめぇだろ!?」

 

 

 俺も相手の胸ぐらを掴み、怒鳴る。怒っているのがてめぇだけだと思うなよ、馬鹿野郎が!!

 

 

「その女を怒らせてしまったのは俺だ。俺が不用意な発言をしたせいで、あんな事になった。

 だから、お前がわざわざ前に出て、自分に憎しみを向けさせる必要は無かったんだ!お前がそうしたのは俺を護るためなんだろ!?

 

 ――俺だって!承太郎の前に出たのは、お前を護るためだった!!」

 

「……俺を、護る?」

 

「忘れたとは言わせねぇぞ。俺がスタンド使いとして目覚めたきっかけを!」

 

 

 あの吸血野郎にやられて、承太郎が俺を護るために犠牲になろうとしていた時。イージスが目覚めた。

 

 

「――俺の手で!承太郎を護る!!イージス・ホワイトは、そのために目覚めたスタンドだ!!」

 

「――――」

 

「次に同じ状況に陥った時、俺は再び、お前という盾を越えて前に出る。俺の手で護るためにな!」

 

「……志、人。俺は、」

 

「俺とイージスがお前を護って、お前とスタープラチナが敵を倒す!適材適所だろうが。それの何が悪い?」

 

「志人――」

 

 

 

 

 

 

「――いいから黙って俺にお前を護らせろ!俺を頼ってくれよ、承太郎……!!」

 

 

 前世ではいつも自分を犠牲にして誰かを護っていたお前を、俺の手で護りたい。

 ……スタンドを発現した日から今日までの間に、いつの間にか、俺はそう考えるようになっていた。

 

 

 だが。それは、俺の思い上がりだったのだろうか?……ああ、そうか。そうだな。確かにそうだ。

 俺が承太郎を護ると言っておきながら、実際は承太郎の方が俺を護っている。……せっかく護る力を手に入れたのに、これでは意味が無い。

 

 

「……やっぱり、俺じゃ、駄目か」

 

「……志人?」

 

「――俺なんかじゃ、頼りないよな」

 

「っ!?」

 

「ごめん、承太郎。無理を言ったな。……悪い。火宮さんの事とか、後は任せる。イージス、帰るぞ」

 

「…………うん、分かった。……帰ろう、志人」

 

 

 承太郎達に背を向けた俺を、後ろから包むように、イージスが消えていく。……気を遣わせたか。ごめんな。

 

 

「ま、待て、志人!」

 

「……じゃあな」

 

 

 呼び止める声を無視して、空き教室から外に出た。

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 ――と、帰ろうとしたのに。

 

 

「……何でこっちに来ちゃったかなぁ」

 

 

 俺の足は昇降口ではなく、旧図書館の方へ向かっていた。今はちょうど、数日前に襲撃を受けた廊下を歩いている。

 気がついた時にはここにいた。……これからは、承太郎がいる旧図書館には行けない。行ったら気まずい思いをする。だから最後に、一度だけ行きたかったのかもしれない。

 

 

 その時。背後から誰かが走って来る音が聞こえた。

 

 

「志人!!」

 

「っ、」

 

 

 誰の声かは、すぐに分かった。だから逃げようとしたのに、直前で肩を掴まれた。……絶対、時止めただろ、今。足音からして、大分距離があったはずなのに。

 

 

「逃げるな!……逃げないでくれ」

 

「…………承太郎。何で、俺がここにいると分かった?」

 

「……形兆のバット・カンパニーが、お前を追跡していた」

 

「ちっ……あの野郎」

 

「志人、頼む。俺の話を聞いてくれ!」

 

「話って、何を?頼りない俺に何の用だ?」

 

「誰がいつそんな事を言った!?……いや、すまん。まずは、さっきすぐに否定しなかった事を謝らないとな。……本当に、すまなかった。俺は――

 

 ――俺はいつも、肝心な時に限って言葉が足りなくなる。何も言えなくなるんだ。

 だから前世でも、自分から望んだ事とはいえ、いつの間にか1人になっていた。……妻と離婚した時も、そうだった」

 

 

 俺の肩を強く掴み、頭を下げるその姿は、まるで……親にすがり付く、子供のように見えて。

 

 話を聞いてやらないと。……そう、思った。

 

 

「……志人。俺は……お前がいないと、自分がすぐに壊れてしまいそうで、怖くて仕方ない。

 

 確かに俺は、表面上はお前を頼ろうとしていなかったかもしれない。

 だがそれは、既に別の面でお前を頼り過ぎていたから、その分だけお前を護ろうと、お前に頼ってもらおうと考えた結果なんだ。

 

 俺がお前を頼っているのは、精神面だ。……俺の心は、お前の存在によって護られている。

 

 限界に近づいていた俺の心を救ったのは、間違いなく志人だ。お前がいなかったら、俺は今頃笑う事さえできないくらい、壊れていたと思う。

 そんなお前に何かがあったら、俺の心は今度こそ壊れるだろう。

 

 友人を、仲間を――ましてや、親友を失う事なんて、大切な人達を失うなんて、二度とごめんだ……!!

 だから俺は、お前を護りたい。……そのせいで誤解させた事は謝る。ごめん。ただ、これだけは信じてくれ。

 

 ――お前を頼りないと思った事は、お前と出会ってから今まで、一度も無い。むしろ志人は頼り甲斐があり過ぎる。つい、甘えてしまうんだ」

 

 

 …………なんか、今すげぇ事言われてる気がする。さっきまで落ち込んでいた事も、すっ飛ぶぐらいの爆弾が放り込まれている。

 

 不器用なりに必死に言葉を尽くして、俺を頼っている事、だからこそ護りたいのだという事……大切な物を二度と失いたくないという、強い想いを語っていた。

 

 

「……お前の気持ちは、理解できた。でも俺は、承太郎に護られたままでいるのは嫌だ。親友として、お前の後ろじゃなくて、隣に立ちたい」

 

「……あぁ。俺も、さっきのお前の言葉を聞いて、お前ならそう言うだろうと思っていた。だから――」

 

「……そう、だな。だから――」

 

「――志人は俺を、」

 

「――承太郎は俺を、」

 

「「護る」」

 

 

 互いに、護り合う事。……そうするしか無い。

 

 どちらかが自分を犠牲にしてもう片方の前に出るのではなく、どちらも前に出て肩を並べ、互いの身を護るんだ。

 

 

「……極端に言えば、死なば諸共、だぜ」

 

「おい、やめろ。フラグを立てるんじゃない。互いに生きたままで心も体も護り通さなきゃ、意味がねぇんだよ。野郎と心中なんてごめんだ」

 

「つれねーな、ハニー」

 

「茶化すな、ダーリン」

 

 

 ……数秒睨み合い、そして笑い合う。こいつとは初めて喧嘩らしい事をしたが、これで仲直りできたと思っていいかな?

 

 

「……そういえば、お前。何でこっちに来たんだ?帰るって言ってただろ」

 

「あー、その……これからは、お前がいる旧図書館に行ったら気まずいよなぁ、もう行けないなぁって思ってたらいつの間にか、」

 

「あ"ぁ?……何考えてんだてめえ……!!」

 

 

 凄い形相で睨まれて、両頬を引っ張られた。痛い!

 

 

「いひゃい、ひゃめろ、いひゃい、あ、待てこめかみグリグリも止めいててててっ!?」

 

「これからも来るよな?……俺と会ってくれるよな!?」

 

「分かった分かった俺が悪かったって!」

 

「誓え!これからも旧図書館に行くと、俺と会ってくれると、急に連絡を断つ事もしないと、――これから一生、俺の親友として、俺の隣にいると」

 

「いだだだだぁっ!?分かった、誓います、全部誓うからもうこれ止めろぉぉ!!」

 

「よーし、言ったな?忘れるなよ」

 

「はい、忘れませ……んっ?あれ?」

 

 

 何か今、どさくさ紛れにデカイ要求が入ってたような?……恐る恐る、承太郎を見上げると、それはもう素敵な笑顔でこう言った。

 

 

「――全部誓うって、言ったよな?」

 

「アッ、ハイ」

 

 

 

 

 

 





※園原が立ち去った後(ジョルノ視点。長め。キャラ崩壊あり)
 
 
 志人さんが出て行ってしまい、それでも立ち尽くしたままの承太郎さんを見て、僕は怒ろうとした。早くあの人を追い掛けろ、と。
 しかしそれよりも前に、徐倫が動いた。彼女は承太郎さんの胸ぐらを両手で掴み、こう言ったのだ。
 
 
「――何やってんだよクソ親父!!」
 
「徐倫……?」
 
「追い掛けろ!追い掛けて志人さんに謝れ!!早く――っ、早く行かないと!前世のママやあたしの時みたいに!手遅れになるだろうが!行けよ、早く!!」
 
「っ……!!」
 
 
 前世の娘に発破を掛けられた彼は目を見開き、弾かれたように出口に向かう。
 
 
「おい、承太郎さん!……バット・カンパニーが園原を追跡している。そいつが案内するからついて行け」
 
「……分かった。頼む!」
 
 
 と、意外な事に形兆さんがそう言って、バット・カンパニーの1体を承太郎さんの前に出す。それを追って、彼は走り去って行った。
 
 
「本っ当に、馬鹿なんだから……!」
 
「……そうですね。本当に。……徐倫が言わなかったら、僕が怒鳴ってましたよ」
 
「やっぱりそう思う!?そうよね、よくやったわよね、あたし!」
 
「おう!徐倫、グレートだぜ。あの人達はちゃんと仲直りしなきゃ駄目だ!」
 
「よく分かんねぇけど、俺もあのままじゃ志人さんと承太郎さんが何かやばいってのは分かってた。徐倫はよくやったと思うぜ!」
 
 
 僕だけでなく、仗助と億泰も徐倫を褒め称えた。……本当によくやってくれた。あの人達を放って置いたら、余計拗れていたと思う。

 全く、世話の焼ける兄さん達め。
 
 
「……それにしても、志人さんってすげぇな。あの最強のスタンド使いを守る、だってよ」
 
「そうだなぁ!さすが志人のアニキ!」
 
「父さんは守られる必要があるほど弱くはないと思うけど……それでも守りたいと言い切るあたり、さすが父さんの親友というか、何というか……とにかく男前ね」
 
「そうそう!俺もあの人や承太郎さんみたいなカッコいい男になりたい!」
 
「俺もなりたい!」
 
「というか、なってみせるぞ億泰!」
 
「おぉ!なってやろうぜ仗助!」
 
「……やれやれだわ」
 
 
 ……最強のスタンド使い。守られる必要があるほど弱くはない……か。
 
 
(――何を言ってるんだ、お前達は)
 
 
 承太郎さんは、志人さんがよく言っているように、ごく普通の人間で、心だってそこまで強いわけじゃないのに。

 さっきも表面上はあまり変わらない様子だったが、よく見ればいつもより覇気が無かったし、顔色も悪かった。
 志人さんのように完全に見抜く事はできないが、最近承太郎さんを観察し続けたおかげで、僕にも彼の感情の変化がようやく分かるようになって来た。

 彼らには、それが分からないようだ。
 
 
「……おい。それよりも、その女の処分は?」
 
「おっと。そうでしたね。――とりあえずこの女には、財団を通じて理由をでっち上げてこの学校から速やかに退学してもらうという事で」
 
「っは!そいつはいいな。やってしまえ」
 
「やっちゃえ、ジョルノ!」
 
「グレートだぜ、ジョルノ!」
 
「おー!!」
 
 
 全員からゴーサインが出たので、遠慮なくやってしまおう。

 ……今日に至るまで、"彼"の仕事が忙しくて協力してもらえなかったから、自力で犯人を突き止めるしかなかったが、今度こそ"彼"――アバッキオのスタンドの力を借りようと思う。
 ムーディー・ブルースの力があれば、数日前に志人さんが襲撃された時の状況も、今日の状況も再生する事ができる。

 それを元に証拠を作り、理由をでっち上げてこの女を退学させるのだ。その後は、財団の監視下に置かれるだろう。
 
 
(――僕の大事な兄達が喧嘩したのは、この女のせいだ)
 
 
 絶対に、許さない。
 
 


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ファンクラブ騒動
空条承太郎の友人と、一難去ってまた一難


・最初は男主視点。途中から第三者視点。

・ご都合主義。捏造過多。

・not腐向け


 ――空条承太郎だって、大勢の前だろうが関係なく、親友に対して悪ふざけをする時があるはず。




 

 

「――緊急事態です。ジョナサンと兄さんも含めて学生組は全員談話室に集合。特に、志人さんと承太郎さんは強制参加で」

 

「え?」

 

「あぁ?」

 

 

 火宮さんによる縁切り騒動が解決した、その日の夜。俺は例の如く、ジョースター家で夕食を共にする事になった。

 だが、ジョースター家にお邪魔して間もなく、ノートパソコンを手にしたジョルノがそんな事を言い出した。とりあえず、呼ばれた全員で談話室まで移動。

 

 

「……とりあえず、これを見れば状況は把握できると思います。どうぞ」

 

 

 そう言って、ジョルノが俺達にノートパソコンの画面を見せる。そこには――

 

 

「――承太郎さんと、志人さんの写真……っスね」

 

「ついにバレたってことかァ……あちゃー」

 

 

 俺と承太郎が、一緒に写っている写真だった。……喧嘩の後、仲直りした時に撮られたのだろう。俺の笑顔と、承太郎の後ろ姿が写っている。

 ジョルノが見せたのは、学校の裏サイトだ。そこに何者かが盗撮した写真が載せられ、掲示板は荒れに荒れていた。

 

 水野さんが原因で、俺の存在は学校中で話題になっている。そんな中での、これだ。

 ……迂闊だったな。承太郎と仲直りできた事は良かったが、その代わりに一難去ってまた一難……あーあ。

 

 

「…………俺、来週学校行ったら承太郎のファンクラブに殺されるな……」

 

 

 明日、明後日と土日で、学校は休みだ。だが、来週に行けば間違いなく袋叩きにされるだろう。

 

 

「来週が命日か……」

 

「命日になんて誰がさせるかよ」

 

「そうよ志人さん!ジョルノが何のためにあたし達を集めたと思ってるの?この状況を何とかするためでしょう。……そうよね?」

 

「はい。そのために、ジョナサンと兄さんも呼びました。2人にも知恵を借してもらおうと思って」

 

「そういう事か。……いいだろう。協力してやる」

 

「とりあえず、掲示板から情報を集めてみようか。何か役に立ちそうな情報があるかもしれない」

 

「よーし。じゃあ全員まずは裏サイトに入って、それぞれ情報を集めようぜ。……あ、園原はうちの学校の裏サイトへの入り方、知ってるか?」

 

「はい。高1の時に、内部生のクラスメートから教えてもらいました」

 

 

 今は広く浅い付き合いをやっていたせいで、いろんな奴に顔を知られて面倒な事になっているが、外部から入学して来た当初は、この付き合いのおかげで裏サイトの事やいろんな情報を知る事ができた。

 よって、この付き合い方にも利点はあるが……これからは、狭く深い付き合いにシフトした方がいいかもしれない。

 

 王子サマ扱いされた事、告白騒動、そして今回の一件。……総合して、中途半端に顔が広いとろくな目に遭わないという事が、よーく分かった。

 

 さて、閑話休題。……自分のスマホで裏サイトに入り、掲示板の書き込みを見る。

 

 

「こいつら……っ!志人さんの事を好き勝手に馬鹿にしやがって……!!」

 

「仗助。ムカついても書き込んだら駄目ですよ」

 

「分かってる!」

 

 

 仗助が言うように、俺はボロクソ言われていた。承太郎に関係する事もそうだが、それとは関係無い事……水野さんに関係する事もいろいろ書き込まれている。

 大体が承太郎に馴れ馴れしく接している事の恨みや妬み、水野さんが告白した時に恥を掻かされたとか……これは間違いなくクラスメートの誰かだな。それから、

 

 

「……やっぱ、人間は顔が全てなんだな」

 

 

 "こんなモブ顔、ジョジョには相応しくない!"、"醜いガリ勉"、"これに惚れた女は眼科行け"、"承太郎様に近づくな不細工"……エトセトラ。

 

 そんな、俺の容姿に文句を言う書き込みが特に多い。……俺だって好きで顔隠してる訳じゃねぇよ。目付きの悪さでてめぇらを怖がらせないようにわざわざ!こんな見た目になってんだよ!

 

 

「あ?人間は中身だろうが」

 

「そうだそうだァー!」

 

「顔は二の次っスよ!」

 

「外面だけを気にする人間とはお近づきになりたくないですね。やはり、中身でしょう」

 

「女も男も中身よ、中身!」

 

「そこの顔面国宝級家族は黙らっしゃい」

 

「顔面、国宝級……?新鮮な言葉だね」

 

「園原はたまに、よく分からん言葉を口にするな……」

 

「そこの大学生組。他人事みたいな顔してますけど、俺はあんた達も含めて顔面国宝って言ったんですよ?」

 

 

 確かに俺も人間は中身だと思いたいが、それをジョースター家の人間に言われたくない。お前らは代々国宝級遺伝子を受け継いでるだろうが。

 

 

「それにしても……この人達は志人君の事をよく知らないくせに、本当に好き勝手に言ってるね。

 志人君の容姿だって、隠してるだけでその下はカッコいいのに……その事を知ったら、この人達はどんな反応をするかな?」

 

「!……ジョナサン」

 

「ん?何だい、ディオ?」

 

「――それだ」

 

「えっ?……どれ?」

 

 

 きょとんと首を傾げる、ジョナサン。その隣にいるディオは得意気な顔をして、俺達にある事を提案した。

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 週の始まり。1人で学校に登校した園原は、前髪と伊達眼鏡で隠された眉間にシワを寄せていた。……周囲から自分に集まる視線が、煩わしい。

 

 

 裏サイトで承太郎と園原の写真が投稿された日から今日までに、その情報はほとんどの生徒に知れ渡っていたようだ。

 ファンクラブの生徒は園原に聞こえる程の声で口々に暴言を吐き、ファンクラブに入っていない生徒は園原に憐れみの視線を向ける。

 

 だが、当の本人である園原は背筋を伸ばし、真っ直ぐ前を向いて歩いていた。周囲を気にしている様子は、全く見られない。

 その堂々とした姿に驚く者や、呆れる者、苛立ちを募らせる者がそれぞれいた。

 

 

 園原が下駄箱に到着し、自分の上履きが入っている扉を開けると、

 

 

「…………うわぁ」

 

 

 思わずそんな声が出てしまう程に、酷い状態だった。上履きはボロボロで、中は汚れやゴミだらけになっている。……周囲から、ひそひそと話す声や嫌な笑い声が聞こえた。

 

 念のために予備として自宅に残していた新品の上履きを、持参した袋の中から取り出し、それに履き替える。

 

 

「――こいつは酷いな」

 

「まさしく、いじめの典型例」

 

「ん?……あぁ、おはよう。承太郎、花京院」

 

「おはよう」

 

「おはよう、園原君」

 

 

 周囲がざわついた。……承太郎と花京院が何でもないように、ごく普通に、園原に話し掛けたからだ。園原自身も堂々としている事が、周囲を驚かせる。

 

 

「――よお、志人!」

 

「おっはよー、園原!」

 

「あ、おはようございます。ポルナレフ先輩、ジョセフ先輩」

 

 

 さらに。後からやって来たポルナレフとジョセフまで、親しげに話し掛けたものだから、周りは大混乱だ。

 何故、あんな冴えない男が承太郎やジョセフ、その周囲の人間に構われているのか。そして園原がそれを当然のように受け入れているのは、何故か。

 

 この状況を見ていたファンクラブの過激派は、混乱すると同時に激怒していた。

 今すぐにあの場から園原を引き離し、暴力によって黙らせてやりたい!そう考える者もいた。……しかし承太郎達が側にいる限り、それはできない。歯を食いしばって我慢するしか無いのだ。

 

 ついには、承太郎達が園原の下駄箱の片付けを手伝い始めてしまった。

 自分達が仕掛けたくせに、彼らに汚い物を触らせた園原に対しての憎しみが増していく。……当然だが、それは逆恨みである。

 

 

「にしても、誰だよ!こんなひでぇ事やったのは」

 

「さぁな。……だが、犯人は確実に――今この場にいる生徒達の中に紛れ込んでいるだろう」

 

 

 そう言って、花京院が周囲を見る。……彼の言う通り、その場で様子を見ていた者達が一斉に目を逸らした。

 

 

「へー?何でそう思うんだ?花京院」

 

「いじめをする人間は、いじめの対象の反応を見たがるものだ。どうせ、園原君の反応を見て陰で嗤うつもりだったんだろう。当てが外れて残念でした、ざまあみろ」

 

「…………花京院ちゃーん?何かお前、いつもより当たりが強くないかァ?」

 

「あぁすみません、ジョセフさん。……昔、似たような事をやられた記憶が甦ってしまって、つい」

 

「はぁ!?お前が!?」

 

「そうだよ、僕が!……といっても本っ当に、昔の事だ。かつての僕には人間の友達がいなかったからね。周りにはこういう事をしてくる奴らもいた」

 

 

 花京院が話しているのは、今世ではなく、前世の小学生や中学生時代の話だ。……彼の友達は、自身のスタンドであるハイエロファントグリーンだけだった。

 

 

「まぁ、だからこそ。僕には1つ、分かっている事がある。――こんな事をする奴らの心根は間違いなく、相当腐っているぞ」

 

 

 花京院が再び周りを見ると、周囲の生徒達は静かになる。

 

 

「……だからね、園原君。そんな奴らの言い分とかは、気にしないでいいんだよ」

 

「ありがとう、花京院。……大丈夫。俺もよーく、分かってるよ。そういう奴らは気にするだけ無駄だって事は、小学校と中学校で学んだから」

 

「……まさか、君も?」

 

「そうなんだよ!いじめってさ、大体やられる事決まってるなぁって思わないか?下駄箱汚すのは当たり前だろ?あと、どうせ教室行ったら机も汚れてるんだ、きっと」

 

「分かる!僕の時は机の中に生ゴミ入れられてた」

 

「俺の時は机の中に虫の死骸がたくさん入ってた」

 

「あるあるだね!それから机いっぱいに落書きされる悪口のオンパレード」

 

「そうそう。あれ、犯人達語彙力どうした?って心配になるぐらい悪口のレパートリーが少ないと思わない?」

 

「確かに。大体いつも書かれている事が同じだ」

 

「だよねぇ?」

 

「…………おい、てめえら。その辺にしておけ……」

 

「俺達が精神的に地味なダメージ食らってるから止めて!」

 

「いろいろ、チクチクと心に刺さる……!!」

 

 

 陰湿ないじめの経験者2名の話に、残りの3名は耐えられなかったのか、そんな声を上げた。……それから間もなく、下駄箱の片付けが終わる。

 

 

「手伝い、ありがとうございました。本当に助かります。何かお礼がしたいんですが……」

 

「そんなの気にすんなって!仲間助けるのは当たり前だろ?」

 

「そうだぜ、園原!お前は承太郎のダチらしく堂々としてろ!」

 

 

 仲間。承太郎のダチ。……そんなポルナレフとジョセフの言葉に、再び騒がしくなる周囲。

 

 あんな奴が彼らの仲間、ましてや承太郎の友人だなんて信じられない。似合わない。釣り合わない。相応しくない。

 ファンクラブの者達は、そんな事を小声で話しているが……それ以外で、この状況を冷静に観察している数人の傍観者は、既に察していた。

 

 ファンクラブの人間は、手を出してはいけない相手に手を出してしまったのだ、と。

 

 

「……シド」

 

「ん?」

 

「礼がしたいっていうなら、今からちょっと大人しくしてろよ」

 

「え?何?何するの?」

 

「心配するな。ちょっと生まれ変わるだけだ」

 

「はい?あ、ちょ!?俺の眼鏡!」

 

「花京院、これ預かってくれ」

 

「はいはい」

 

「ポルナレフ。シドを押さえてろ」

 

「おう、任せろ」

 

「先輩!?」

 

 

 と、何故か承太郎が園原から眼鏡を奪って花京院に預け、ポルナレフに園原を押さえさせる。ジョセフはそんな様子を、ニヤニヤしながら見届けた。

 それから、承太郎が鞄の中から取り出したのは……ヘアピンなど、髪を整えるための道具だった。彼はそれを使って、園原の髪型を勝手に整えていく。

 

 そして最後に、眼鏡を掛けさせた。……園原の顔を見たポルナレフが軽く口笛を吹き、同じく彼の顔を見た花京院が唖然とする。

 

 

「よし、完成。……お前、これからはその髪型で学校に来い。その顔出しておけば、やっかみもマシになるだろ」

 

 

 承太郎が離れると、周囲の人間にも園原の素顔が見える。――そこには、別人がいた。

 

 前髪の片側が耳に掛けられ、もう片方は横に軽く流されている。そのおかげで、彼の顔がよく見えた。

 綺麗に整えられた眉に、つり目。鼻筋が通っており、眼鏡を掛ける事で涼しげな印象が出ていた。……そんな顔立ちの男が眉を下げて困った顔をしているため、少々幼く見える。

 

 可愛い。いやいやカッコいいでしょ。いや、あれは可愛い。とりあえず美形。うんうん。正直、ジョースター家の人よりも好みかも……

 ……女子生徒達から、そんな声が上がった。とんだ手の平返しである。ファンクラブの人間も、思わず黙り込んだ。

 

 

「すげーな……髪型変えるだけで、こんなに違うのか」

 

「前髪上げて眼鏡外したところを見た時は、目付きの悪さ以外は承太郎並みの美形だと思っていたが……その目付きも緩和されると、本当にただのイケメンだな」

 

「花京院?それ、実は俺の事さりげなくディスってない?」

 

「そんな事は無いよ?爆発しろとか思ってない。思ってないから」

 

「それ絶対本気でそう思ってるやつだろ?なぁ?」

 

「いやいや」

 

「……シド」

 

「何?承太郎」

 

 

 花京院とじゃれ合っていた園原は、承太郎に呼ばれて振り向く。……じっと見つめられた。さすがに困惑して、園原が首を傾げる。

 

 

「何だよ?」

 

「いや――お前はやっぱり、顔を隠さない方がいいな」

 

 

 周りで女子生徒達の喜びの悲鳴が上がる。……普段、人前では滅多に無表情を崩さない承太郎が、園原の顎に指を掛け、優しい微笑みを向けたのだ。

 

 

「…………そうかな?ありがとう」

 

 

 と、園原もふわりと笑う。……さらに悲鳴が上がった。

 

 ……だが、そんな園原の表情が引きつっている事に気づいた人間は、彼女達の中にはいない。そして彼の引きつった表情を見て、一瞬ニヤリと笑った承太郎に気づいた人間も、いない。

 

 

(――アドリブ(・・・・)なんていらねぇよ!?わざわざ人前でそんなセリフ言ったり笑ったりする必要はねぇし男が男に顎クイとか何処に需要があるんだ!?)

 

 

 園原は、内心でそう叫んでいた。

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

空条承太郎の友人の、新たな日常


・最初、男主視点。途中から康一視点。


 ――空条承太郎だって、お茶目な一面があるはず。




 

 

 

 数日前、ジョースター家の談話室で話し合った時。ディオがこう言った。――どうせなら、堂々と素顔を見せてしまえばいい。

 

 

 それから、今後俺や承太郎達が取るべき行動について語った。

 

 実際に写真を撮られてしまった以上、下手な誤魔化しは通用しないだろう。

 だからファンクラブの人間を牽制するために、承太郎達ジョースター家の人間や、その仲間達が常に俺の側にいた方がいい。

 

 出来る限り、俺を1人にしない事。俺も、1人で行動しない事。……これは絶対だと、ディオは言った。

 そうだな。1人になった途端、囲まれるのは目に見えている。特に、承太郎のファンクラブは学内最大らしいからな。

 

 ただ、それだけでは現状の維持にしかならない。むしろ、ファンクラブからのヘイトを俺に集中させるだけだ。……そこで、俺が堂々と素顔を見せるという話に繋がる。

 

 沖縄旅行中に、俺の見た目がディオの手で劇的に変化した、あれ。……あれを、生徒達の前でもやれという。

 見た目の良さを利用して、承太郎のファンクラブ以外の女子生徒を味方につける。あとはそんな俺と、承太郎達が一緒にいる事が日常になれば、そのうち周りも文句を言わなくなるだろう。

 

 ……というのが、ディオの提案だった。それを採用した結果が、今朝の下駄箱前でのやり取りだ。

 

 既に、俺の現状は学校に通う前世の仲間達に知らされている。

 特に、高校生組は俺を見掛けたら話し掛けても良い、むしろ話し掛けて俺が彼らに受け入れられている事を周囲に見せつけろ、という話になっていた。

 

 

 閑話休題。……ジョセフ、ポルナレフと別れ、俺は承太郎、花京院と共に高2の教室がある階へ向かう。

 周囲からの視線は痛いが、もちろん無視。俺は堂々としていないといけない。ファンクラブの人間が付け入る隙を見せてはいけないのだ。

 

 2人は念のため、俺のクラスまでついて来てくれた。……俺の机が無事ではなかった場合、片付けを手伝ってくれるという。優しい。

 俺の席は、廊下側の1番前。だから、教室に入ってすぐに自分の机の惨状が目に入った。先ほど花京院と話した"いじめあるある"の通りに、机いっぱいに落書きされている。

 

 

「……うん。やっぱりレパートリーが少ない」

 

「そうだね。……それにしてもいつも思うが、学校の備品にこんな事をするとは、なんて奴らだ」

 

「ちなみに。学校の机は椅子とセットで、1つの値段が一万を越えるらしいよ?」

 

「うわ、なかなかの損害」

 

「……シド。机の中身は無事か?」

 

「あぁ、そうだったね。……あれ?意外と無事みたい」

 

 

 承太郎に言われて机の中を見ると、意外な事に何もされていな、……おっと?

 

 

「…………あー、いや。俺の手が、危うく無事じゃ済まなくなるところだった」

 

「何?」

 

「……どういう事だい?」

 

「ちょっと待って、今取るから…………はい、じゃじゃーん」

 

 

 と、俺がふざけた声で机の中から取り除いたのは――剃刀の刃。

 

 

「教科書やノートで上手く隠されてたよ。何も確かめずに手を突っ込んでいたら流血沙汰だ。……いやぁ、これは新しいパターンだね」

 

「――あ"ぁ?」

 

「待て承太郎!落ち着くんだ!!」

 

「そっ、そうだよ!俺は無事だったから!何とも無いから暴力は止めて!?」

 

 

 流血沙汰と聞いてキレたのか、黒豹が拳を握って俺のクラスに押し入ろうとした。慌てて花京院と2人掛かりで止める。……クラスメート達から恐怖の悲鳴が上がった。

 

 

「君が暴力振るったら全部君が悪い事になっちゃうよ!」

 

「園原君の言う通りだ!気持ちはよく分かるが、頭を冷やせ!」

 

「…………ちっ」

 

 

 俺達の言葉は届いたようだ。冷静になった承太郎が引き下がった。……と、教室の外から承太郎を呼ぶ声が聞こえる。

 

 

「承太郎さーん!持って来たっスよ!」

 

「ん、来たか」

 

 

 承太郎を呼んだのは、仗助だった。何故高2の階に?……そう思って首を傾げたが、彼が机を運んでいるのを見て納得した。

 いつの間に連絡したのか、承太郎が仗助に、俺のために空き教室から新しい机を持って来いと、指示したのだろう。

 

 

「あ、志人さん!おはようございます!」

 

「おはよう、仗助。……わざわざ持って来てくれたんだね。ありがとう」

 

「いやいや。俺の恩人の志人さんのためなら、これぐらいどうって事ないっス!」

 

 

 ニコニコと、俺を恩人と呼ぶ仗助の好意的な態度に、周囲が驚きの声を上げ、ざわざわと話し出す。

 

 

「で、問題の机は……あぁ、派手にやられてるなァ。胸糞悪い……んん?剃刀の刃!?剥き出しじゃないスか!どうしたんスか、これ」

 

「シドの机の中に仕込まれていた物だ。教科書やノートで隠されていたらしくてな。もしもシドが何も知らずに手を突っ込んでいたら……あとは、分かるな?」

 

「――はぁ?」

 

「わあー!待って待って!待て!!」

 

「仗助まで暴力で解決しようとするな!承太郎も火に油を注ぐような真似は止めてくれ!!」

 

「事実を言っただけだ」

 

「君なぁ!?絶対こうなるって分かっててやっただろ!?」

 

 

 今度は黒柴狂犬くんがキレた!おっかねぇ。……再び花京院と共にそれを止めた後。机の中を片付けて、新しい机と交換する。

 

 

「そんじゃあ、ボロボロになった方は俺が持って行くので!」

 

「本当に助かるよ。ありがとう仗助」

 

「どういたしまして!……あ、ついでに剃刀の刃も処分しておくっスよ」

 

 

 仗助は最後に、ハンカチで剃刀の刃を包み、それをポケットに入れて、ボロボロの机を持って立ち去った。

 

 

「……さて。僕達も自分の教室に戻ろうか」

 

「あぁ。……シド。また何かされたらすぐに俺達に言え。それから――昼休み、迎えに来る。あいつらも一緒に、屋上で飯食うぞ」

 

「うん、分かった。また後でね」

 

 

 ……再び、クラスメート達が騒ぎ出す。屋上と聞いて驚いたんだろうな。

 

 この学校の屋上は、生徒同士の暗黙の了解で、昼休みは立ち入り禁止となっている。なぜなら、そこはジョースター家の人間とその仲間達が昼食を取る場所だから。

 承太郎曰く、食堂に行く方が多い奴もいて、常に全員が集まる訳ではないらしいが。

 

 とにかく、一般生徒が入ろうとしない場所に、俺が呼ばれた。

 ……後ろから視線が刺さる。敵意を持って睨む奴が多いのだろう。このクラスには、承太郎のファンクラブに入っている人間が多いから。

 

 これでますます、1人で行動するのは危険になったな。

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 ――会わせたい人がいる。……数ヵ月前。仗助くんにそう言われて、由花子さんと一緒にその人と顔を合わせた。

 

 

 園原志人さん。目付きは凄く怖いけど、話してみるとごく普通の人だった。……前世の仗助くんの恩人である、その人。

 

 今世では僕達よりも1つ年上で、高校2年生の先輩。そして、あの承太郎さんが親友と呼び、信頼している人だという。

 承太郎さんの親友と聞いて驚いたけど、僕にとってはそれよりも、仗助くんの恩人だという話の方が気になった。

 

 実は前世で、仗助くんから彼について聞いた事がある。中学生の時に出会った、"シドさん"という人物。それが、志人さんの事だったんだ。

 

 仗助くんのもう1人の恩人の髪型を真似した、リーゼント。当時は誰もがそれを馬鹿にする中、"シドさん"だけが認めてくれたと、仗助くんは嬉しそうに話していた。

 "馬鹿にされたくないなら、心と頭で勝負しろ"、"周りに歩み寄る事を諦めるな"。……その言葉に従ったら、本当に髪型を馬鹿にする人が減った、と。

 仗助くんは、志人さんとの再会を楽しみに待っていた。僕も、そんなカッコいい人に会ってみたいと思っていた。

 

 ……でも結局、仗助くんと志人さんが前世で再会する事はなかった。その理由は――彼が、あの弓と矢によって形兆さんに殺されていたから。

 

 後に仗助くんから、志人さんが今世で形兆さんと出会った時に、自分が死んだ時の事がフラッシュバックして、呼吸困難に陥ったと聞いた。

 だから仗助くんは、形兆さんが側にいる時は少しピリピリしている。……恩人を殺した相手だから、無理もないと思う。

 

 しかし驚く事に、今世の志人さんは形兆さんと友人になったらしい。今では、以前よりもトラウマを克服しているとか。

 前世で自分を殺した相手と友人になれる、その度胸の良さというか、器のデカさというか……うん。純粋に凄いと思う。さすがは承太郎さんの親友。

 

 

 授業終わりの昼休みに、屋上でいつもの面子が集まってご飯を食べている中。堂々と形兆さんに話し掛けている志人さんを見て、僕はそんな事を考えていた。

 

 

「形兆。お前、その弁当は自分で作ったのか?」

 

「……あぁ、そうだ」

 

「やっぱり?弁当の中身がきちっと整えられてるから、そうじゃないかと思ったんだよな。超几帳面だろ?お前」

 

「何だ。文句でもあるのか?」

 

「何でそうなるんだ。違う違う。俺も自分で作ってるから、ダチがどんな弁当作ってるのか気になったんだよ。……え、すげぇ。卵焼きの形が綺麗」

 

「……そういうお前の方はボロボロだな。作るならちゃんと作れ」

 

「いや、だって。卵焼き用の四角いフライパン持ってねぇし」

 

「馬鹿め。丸いフライパンでもやり方次第で綺麗になるんだぞ」

 

「えっ、マジ?そのやり方、教えてくれ」

 

「自分で調べろ。……それより、お前。卵焼きの中に何か入れているようだが、それは何だ?」

 

「これ?明太子だけど」

 

「明太子?」

 

「そうそう。明太子の塩気、卵焼きに合うんだぜ?ご飯と一緒に食べると最高のおかず」

 

「…………前言撤回だ」

 

「ん?」

 

「情報料代わりに、さっき言ってた卵焼きの作り方を教えてやる」

 

「やったぜ!ありがとな、形兆!」

 

「……ふん」

 

 

 ……会話の内容が主婦のそれ、というのがちょっと気になるけど、予想以上に彼らの仲が良い。形兆さんが丸くなってる。

 

 

 今まではファンクラブの事を気にして、学校では僕達と関わらなかった志人さんだが、今日からはむしろ、僕達と一緒に行動した方が安全になる。

 

 いつかはバレるんじゃないかと心配していた通り、承太郎さんと一緒にいるところを写真に撮られてしまったらしい。

 承太郎さんのファンクラブは、他の人のファンクラブよりも規模が大きく、過激派も多い。志人さんが1人になった時に狙われたら、どうなるか分からない。

 

 ファンクラブ対策は、主に3つ。僕達と一緒に行動する事。僕達が積極的に話し掛けて、志人さんが僕達に認められているという事をアピールする事。

 それから、志人さんの素顔を見せて、味方を増やす事。……確かに、志人さんは目付きはとても悪いけど、承太郎さんや仗助くんと同じくらいカッコいい。

 その目付きの悪さを眼鏡で隠せば、女子生徒からも次第に人気が集まると思う。

 

 ……それにしても、仗助くんの話を聞く限り、志人さんって今世ではいろんな事に巻き込まれてるんだなぁ。

 

 数ヶ月前に、志人さんがスタンドを発現させて、前世の記憶を取り戻した時の事件。ジョースター家の人達と仲良くなって、定期的に夕飯を一緒に食べていたり、沖縄旅行に一緒に行ったり。

 それから最近の、人同士の縁を切れるスタンド使いの事件。そしてこの事件が解決したと思いきや、今度はファンクラブの人間に承太郎さんとの繋がりがバレてしまった。

 

 

(露伴先生が、志人さんの事を知ったら――)

 

 

 あ、駄目だ。あの人絶対本にしたいって暴走する!そうなると、志人さんをとにかく尊敬している仗助くんがプッツンして――うん、駄目だ。黙っておこう。

 

 その仗助くんはというと、志人さんと仲良く話している形兆さんの事を静かに睨んでいる。億泰くんがそれを宥めていた。

 

 

(――そういえば、)

 

 

 仗助くんは、志人さんと形兆さんが仲良くしている事を、あまり良く思っていないみたいだけど……承太郎さんはどうなんだろう?

 彼は志人さんと形兆さんが今世で初めて出会った時に、その場にいたらしい。親友が呼吸困難になったところを見ていたはずだし、承太郎さんだって仗助くんと同じなのでは?

 

 そう思って恐る恐る、彼の様子を窺う。……あれ?普通だ。いつも通りの無表情で、怒っているような雰囲気は感じない。

 

 と、承太郎さんが顔を上げて、志人さんの事を見た。そして――

 

 

(…………えっ?)

 

 

 ――ふわりと、笑った。……一瞬で無表情に戻ってしまったけど、何というか、ほっと安堵しているかのような、そんな笑顔だった。

 承太郎さんのあんな顔は、前世でも見た事がない!僕が唖然と彼を見つめていると、何の前触れもなくこちらを見た彼と、目が合ってしまった。

 

 承太郎さんは一瞬、目を見開き――それから片目を閉じて、人差し指を一本立てて、唇の前に。

 

 ばっと、顔を背けた。……今の、何だ?ウインク?あれっ?承太郎さんってあんなにお茶目な人だったっけ??

 それとも今世ではまだ高校生だから、精神的にも若いって事かな?……い、意外な一面だ。でも、何だろう。この見ちゃいけない物を見たという感覚は。

 

 

「……康一くん?どうかしたの?」

 

「なっ、何でもないよ由花子さん!」

 

 

 隣にいた由花子さんに問われて、慌ててお弁当を食べたら喉に詰まった。由花子さんをさらに心配させてしまった。……恥ずかしい。

 

 あの貴重な笑顔を目撃した事は、当分は僕だけの秘密にしておこうと思った。

 

 

 

 

 

 





※仗助が園原の机を回収した後(仗助視点)
 
 
 ボロボロになった志人さんの机を、空き教室まで持って行った。
 中に入って机を置き、スマホで落書きされたところを写真に撮り……ジョルノに送信っと。

 今回、志人さんがいじめられている証拠は全て、ジョルノの元に集められる。
 最終的には志人さんの意思次第だが、犯人達を追い詰めるのに役立つので、念のためにこうして、いじめの証拠になりそうな物は残しておくのだ。

 ……おっと。これも撮っておかねえとな。

 ポケットから、ハンカチに包んだ剃刀の刃を取り出して机に置き、写真に撮って追加で送信した。
 もちろん、これがどんな風に仕掛けられていたのかも報告する。

 すると、ジョルノから即座に電話が掛かってきた。
 
 
「もしもォーし」
 
「仗助、いきなり爆弾放り込むの止めてくださいよ。この怒りの行き場が無いんですが」
 
「俺だってそうだ。承太郎さんから話聞いてすぐに志人さんのクラスに殴り込もうとしたけど、その場で志人さんに止められちまったんだよ」

「……気持ちは本当に、本当によく分かりますが、僕も君も落ち着きましょうか。あの縁切りのスタンド使いはともかく、今回の相手は一般人なので、被害者である志人さんが望まないなら、僕達も行動に出る事はできません」
 
「…………分かってるよォ」
 
 
 ため息を吐き、怒りを飛ばした。……やっぱそうなるよなァ。残念だが、我慢するしかない。
 
 
「……そうだ。その机なんですが、直さないでそのままにしておいてください。一応、その机自体を証拠として残しておきたいので、後で別の場所に移動して保管します」
 
「了解」
 
「あと、剃刀の刃もそのままで。……机も合わせて、ジョセフさんの念写で犯人を突き止める事もできるかもしれない」
 
「そうだな、分かった。残しておく」
 
「では、よろしくお願いします」
 
 
 電話が切れたスマホを仕舞い、落書きされた机を見下ろす。
 
 
 ――ガァンッ!!
 
 
「……あっ。やべ」
 
 
 気がついたら、隣にあった別の綺麗な机の方に拳を叩き付けていた。……へこんでしまった机をスタンドで直し、空き教室から廊下に出る。
 
 
(――嗚呼、殴りたいなァ)
 
 
 俺の恩人を貶す奴らを、1人残らず。……まぁ、志人さんが駄目っていうなら、我慢するけど。
 
 


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ジョルノ・ジョースターは、奮闘する


・最初、男主視点。途中からジョルノ視点。

・キャラ崩壊注意。

・ご都合主義。捏造過多。


 ――ジョルノ・超MVP・ジョースターによる、大奮闘。

 結論、ジョルノしか勝たん。




 

 

 

 最近、徐々に俺に味方をする者が増えて来た。

 

 というのも、今回ばかりは未だに染み付いて離れないお人好しな気質が役立ったらしい。

 以前よりは意識して、そういった行動を取る前に止めるようにしているが、無意識に取ってしまった行動の方は止められない。

 

 そういった部分が"顔も良いし優しい男だ"と、女子生徒を中心に評判になっている……らしい。そんな噂が中等部にまで届いていると、ジョルノから聞いた。

 

 

「まぁ、そうなるように意図的に噂を流したんですが」

 

「えっ」

 

 

 どうやら、最初は高等部だけで流れていた小さな噂を、ジョルノが中等部に意図的に流して大きくしたようだ。

 情報操作はお手のものってか。さすがです、ドン・パッショーネ。

 

 だが、それでも俺に対するいじめは止まらない。物はよく無くなるし、下駄箱と机は汚されるし、階段から突き落とされるし……その他諸々。

 まぁこれぐらいなら、問題無い。想定内だ。むしろ昔いじめられていた時よりも、今の方が楽だな。承太郎達が手を貸してくれるから。

 

 

 

 

 

 

 ――と。油断していた事が、この状況を生み出したのかもしれない。

 

 

(1人で倉庫に入らなきゃ良かった!!)

 

 

 現在、俺は校庭の体育倉庫に1人で閉じ込められている。

 

 先程まで校庭で体育の授業があり、それが終わって後片付けをしていたのだが。

 最後に1人で道具を持って倉庫内に入ったら、後ろからガラガラッ!という音が聞こえ、振り返るとちょうど両開きの扉が閉められている最中で……そして、今に至る。

 

 扉を叩いたり、大声で開けろと言ったり。いろいろ試してみたが、扉は開かない。

 最終手段でイージスの力も借りたが、破壊力:Eのイージスが倉庫の頑丈な扉を破壊できる訳もなく。……俺と同化してやっても、それは変わらず。

 

 今の俺は体育の授業で体力を消耗しており、いつもより疲労している。……さらに、

 

 

「ど、どうしよう……これじゃあ、いつ出られるか分からないじゃないか!」

 

「…………」

 

「……志人?」

 

 

 目眩がして、その場に座り込んだ。背中にある壁に寄り掛かる。

 

 

「――暑い……」

 

 

 夏休みが過ぎたとは言え、まだ残暑。時には気温がかなり高くなる日がある。……今日がその日だった。

 

 大量の汗を流しているが、手元に水分を取れる物が無い。連絡手段であるスマホは、体育中に持ち歩く訳にもいかず、教室の鍵付きロッカーの中。助けは呼べない。

 倉庫には窓が無く、密室だ。この炎天下の中では地獄のような暑さとなる。

 

 もはや、動く気力も残っていない。ずるずると、床に倒れ込んだ。……朦朧としている。

 

 

「志人っ!気をしっかり持て!!意識を失ったら、俺は君の中に戻ってしまう!!俺が君の代わりに大声で助けを呼ぶから!頼む、しっかりしてくれ!!」

 

「…………」

 

「あ、駄目だ、消える――っ、志人!!」

 

 

 イージスが消えると同時に、俺は意識を失った。

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 志人さんが行方不明になったと聞いたのは、昼休みに入ってすぐの事だった。

 

 最初に異変に気づいたのは、昼休みに志人さんを教室まで迎えに行った、仗助達高校1年組。彼らが教室に行った時には既に、いなかったらしい。

 志人さんのクラスメート曰く、体育の授業が終わった後、校舎の中に入ったところは見たが、いつの間にかいなくなっていたようだ。

 

 その言葉が何処まで信じられるかどうかは分からないが、高校生組は全員、校舎内を手分けして捜索中だという。

 僕や徐倫達中学生組にも、手が空いていたら探して欲しいと、承太郎さんからメッセージが届いていた。

 

 もちろん、僕はその捜索に加わった。ミスタ、トリッシュ、フーゴ、ナランチャにも声を掛け、捜索に協力してもらう。

 

 

「で?まずは何処を探すんだ?ジョルノ」

 

「場所は決まっています。――校庭です」

 

「校庭?確か、園原さんのクラスメートの話だと、校舎内に入ったのは見たって言ってたんでしょ?」

 

「だから承太郎さん達は校舎内を探してるんだろ?」

 

「……クラスメートの言葉が、本当に信用できるのか、だな」

 

「その通りです、フーゴ」

 

 

 フーゴの言う通り、僕は志人さんのクラスメートを疑っていた。志人さんのクラスには、承太郎さんのファンクラブの人間が多いらしい。

 もしも、校舎内に入ったのを見た、と言った相手が実はファンクラブの人間だったら?……志人さんに不利な証言をしていても、おかしくない。

 

 

「とりあえず、校庭に行ってみましょう。……ナランチャのエアロスミスの出番です。頼みましたよ」

 

「おう、任せろ!」

 

 

 それから全員で校庭に向かうと……さっそく、エアロスミスのレーダーに反応が出た。

 

 

「反応……出るには出たけどよ……」

 

「どうしたの?」

 

「――1つだけ、ポツンと向こうに……なんか、超弱ってる反応がある」

 

 

 ナランチャが指差す方向の先には、遠く離れた場所に体育倉庫があるだけだ。その扉は閉じられている。……この炎天下で、その方向に弱った反応が1つ?――まさか!

 

 

「っ、フーゴ!職員室に行って倉庫の鍵を借りて来てください!早く!!」

 

「わ、分かりました!」

 

「おっ、おいジョルノ!?」

 

 

 フーゴに指示を出すと同時に、倉庫に向かって走る。残ったミスタ達も追い掛けて来た。

 

 

「いきなりどうしたんだよ、ジョルノ!?」

 

「ナランチャ!エアロスミスの反応は!?」

 

「え、あ、えっと……あの倉庫の中!」

 

「くそっ!やはりか!!」

 

「それって――あの倉庫の中に閉じ込められてるって事かァ!?このクソ暑い中!?」

 

「ちょっと、それ、ヤバイじゃない……!」

 

 

 事の重大性を理解したのだろう。僕以外の3人の走るスピードが上がった。……倉庫の前に到着し、扉に手を掛ける。

 

 

「開かない……!っ、志人さん!いたら返事をしてください!志人さん!!」

 

「レーダーの反応、全然動かねーぞッ!!」

 

「おい園原さん!返事しろよ、おい!!」

 

「園原さん!!」

 

 

 何度呼び掛けても、中から声は聞こえないし、音も聞こえない。……その後、フーゴが戻って来た。

 

 

「ジョルノ!持って来た!」

 

「貸してくれ!」

 

 

 フーゴから鍵を受け取り、扉を開けた瞬間、酷い熱気に襲われる。直後に、壁側に横たわっている人影が見えた。

 

 

「っ――志人さん!?」

 

 

 駆け寄って呼び掛けるが、目は固く閉じられたまま、体も動かない。……意識は戻らない、呼吸が浅い、体も相当熱い!

 

 

「熱射病……!ミスタ、志人さんを抱えてくれ!高等部の保健室まで運ぶ!フーゴは電話で救急車を呼べ!!」

 

「了解!」

 

「ちょっと待ってください、ジョルノ!生徒が勝手にそんな事したら、後で教師が何というか――」

 

「それぐらいは僕がどうにかします!いいから早く通報しろっ!!」

 

「は、はい!!」

 

「ナランチャとトリッシュ!君達もついて来てください!トリッシュは仲間全体のグループに、志人さんを発見した事と、僕達が高等部の保健室にいる事を報告!」

 

「おっ、おう!」

 

「分かった!」

 

 

 志人さんを背負ったミスタと僕を先頭に、保健室まで走る。

 途中、走りながら電話しているフーゴに問われ、志人さんの症状について簡潔に説明し……通報し終わったところで、保健室に到着した。

 

 中に入り、養護教諭に簡潔に事情を説明するが……こいつは突然の事態に弱いらしい。おろおろしていて頼りにならない!

 

 

「――もういい!全て僕が指示を出す!!フーゴは学校の門の前に行け。救急隊員が来たらここまで誘導しろ!」

 

「りょ、了解!行ってくる!」

 

「ミスタは廊下で待機。承太郎さん達が来たら現状を説明!何人か暴走するかもしれないが死ぬ気で止めろ!保健室に入られたら邪魔になるだけだ。絶対に中に入れるな!!」

 

「ちょっ!?それマジ…っ、あー、くそ、やってやるよォ!!」

 

「トリッシュ、ナランチャ!この部屋の何処かに氷枕や氷のうがあるはずだ。それをたくさん準備して持って来てくれ!」

 

「はい!!」

 

「よ、よし、探そう!」

 

 

 全員がバタバタと動く中。僕は志人さんの靴を脱がせ、服を緩める。それから足の下に枕を敷いて、足を高くした。

 

 人間は体に熱が溜まり過ぎると、それを体外に逃がすために、多くの血液が手足や体表に集まる。

 だがそうなると、脳に回る血液が減ってしまい、それが意識を失う原因となる。……しかし足を高くして心臓への血流を良くすれば、それがやがて脳にも届く。

 

 これなら、意識が戻りやすくなるはず。……最近、医学部予備校で学んだ事を実践し、ナランチャとトリッシュを待つ。

 

 

「ジョルノ!」

 

「持って来たわ!」

 

「ありがとう」

 

 

 2人から渡された氷枕と氷のうを、志人さんの頭の下や首の付け根、脇の下や太ももの付け根などに当てる。

 後は救急車が来るまで、待つしかない。今の僕達に出来るのは、志人さんに呼び掛ける事ぐらいだ。

 

 さっきから廊下が騒がしい。仲間達が集まって来たようだ。絶対に中に入れるなよ、ミスタ。

 

 

「――おい、そこ!担架が通れねェだろうが!!道を開けろォーーッ!!」

 

 

 フーゴの声!キレてはいるが、言っている事はまともだ。……やがて保健室の扉が開き、救急隊員が担架を持って入って来た。

 救急隊員には僕から状況を説明し、後の事を任せる。担架に乗せられた志人さんと共に廊下に出ると、仲間達の誰もが必死に彼の名を呼んだ。

 

 

「――志人……!」

 

 

 その中でも小さな、震えた声で呼ぶ人……承太郎さんは、顔面蒼白だった。

 

 

「……承太郎さん。志人さんの付き添いで、病院に行ってください。目が覚めた時にあなたがいれば、志人さんも安心すると思います」

 

「……お前は、いいのか?」

 

「もちろん、僕だって行きたいですよ!でも、これから先生方への説明だったり、この場を収めたり、やる事がたくさんあるので行けません。

 だから、この中で一番、僕が信頼しているあなたに頼むんです――Fratello(兄さん)

 

「――――」

 

「さぁ、行ってください。志人さんの事、頼みましたよ!」

 

「……分かった。――ありがとう、ジョルノ」

 

 

 承太郎さんが救急隊員と共に立ち去るのを見送り、それから振り返って、集まった仲間達に事の経緯を話した。

 

 ……あっ、まずい。1人こっそり離れようとしている奴がいる!

 

 

「――誰か!そこの狂犬、じゃない、仗助を取り押さえてください!!」

 

「おう!」

 

「ちょォっと大人しくしようか仗助!!」

 

「ハイエロファント!!」

 

 

 僕の声に即座に反応したのは、ポルナレフさん、ジョセフさん、花京院さんだった。

 仗助の両腕はポルナレフさんとジョセフさんがそれぞれ押さえ、胴体に花京院さんのスタンドの紐が絡む。

 

 僕は、足を止めた仗助の前に立ち塞がった。……仗助は、ドスの利いた声で、静かに話し出す。

 

 

「……3人共、離してくれませんかね。ジョルノも、そこ退け。どう考えても、志人さんのクラスメートの仕業としか思えねえんだよ。……あいつら、1人残らず締める」

 

「駄目です。……今までの志人さんへの被害に関しては、既に証拠が集まっていますし犯人も分かっていますが、今回は突発的な事件で確実な証拠が無い。

 今の段階では、こちらが何を言っても犯人が名乗り出る事は無いでしょう」

 

「だから1人残らず締めるっつってんだろ!」

 

「やらせませんよ、そんな事。……それをやれば、停学処分になるのは犯人ではなく、君の方になってしまう」

 

「俺はそれでも構わねえ!!志人さんが、っ、俺の恩人が死にかけてるんだぞ!?このまま黙ってられるはずが、」

 

「――いい加減にしろ、仗助」

 

「ジョ、ジョルノ……!?」

 

「おいおい、お前も落ち着けよ!?」

 

 

 つい、怒りを抑えられずに仗助の胸ぐらを掴んだ。フーゴとミスタが僕の隣に来て、2人に肩を掴まれる。……分かってる。分かっているが、これだけは言いたい。

 

 

「――志人さんを殺しかけた犯人をこの手で殴りたいと思っているのは!お前だけじゃない!!」

 

「…………ジョルノ……?」

 

「僕だって形振り構わず疑わしい人間は全員潰してやりたいと思っている!!だが――それを誰よりも望まないのは!間違いなく志人さんだ!!そうだろ!?」

 

「あ、」

 

「それが分かっているから僕は必死に怒りを抑えていたというのに!お前は……!!」

 

「ジョルノ、よせ!」

 

「落ち着け!そんな暴走は、ジョルノらしく無いぞ!!」

 

 

 ミスタとフーゴによって、仗助から引き離される。……僕らしく無い、か。

 

 

「――僕らしさ、なんて。一体いつ、誰がそんな事を決めたんだ……」

 

「え?」

 

「いえ、何でもありません」

 

 

 無表情を装い、怒りを無理やり鎮める。……今は病院にいるであろう優しいFratelli(兄さん達)に、無性に会いたくなった。

 

 

「とにかく……誰彼構わず手を出して君が教師に目をつけられてしまったら、悲しむのは志人さんですよ。お人好しで優しいあの人なら、それは自分のせいだと思い込んでしまいそうだ」

 

「……確かになぁ。志人のアニキなら、自分を責めるだろうなぁ」

 

「そうだよ、仗助くん!冷静になるんだ!」

 

 

 そう言って仗助の側に近づいたのは、億泰と康一だった。

 

 

「気持ちは分かるけどよ、落ち着けって仗助」

 

「……仗助くん、前世で僕に志人さんの話をしてくれたよね。その中にこんな話があったはすだ。――本当に買うべき喧嘩と、買う必要が無い喧嘩を見極めろと、志人さんに言われたって!

 ねぇ、よく考えてよ!この喧嘩は買うべきか、そうじゃないのかを!」

 

 

 へえ。志人さんが、過去にそんな事を……そういえば、仗助は前世で志人さんと出会っていたな。羨ましい。

 

 と、仗助から力が抜けた。……どうやら、2人のおかげで落ち着いたらしい。彼を取り押さえていた3人も、拘束を解いた。

 

 

「……志人さんは、望まない……そう、だな……あの人は、本当に、優しい人だから……被害者であるあの人が望まないなら、この喧嘩は買うべきじゃ、ない」

 

「仗助くん……」

 

「でも……でもよ――このまま、志人さんが戻って来なかったら……?もしも志人さんが死んじまったら?俺、っ、俺は、どうすりゃいいんだよ……!!」

 

 

 ボロボロと涙を流し、崩れ落ちる仗助を、億泰と康一が支える。……僕も泣きたいが、そんな暇は無いようだ。

 

 向こうから教師達が駆け寄って来た。僕は彼らに事情を説明しなくてはならない。

 救急車を勝手に呼んだ事もいろいろ言われるだろうが、人命救助のためなら当然の対応だと、堂々と言ってやる。

 

 

 ――さあ、もう一仕事だ。

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

空条承太郎の友人は、涙腺クラッシャー


・男主視点。

・キャラ崩壊。

・ご都合主義、捏造過多。


 ――空条承太郎だって、親友が生還したら泣いて喜ぶはず。




 

 

 

 ――目を開けると、真っ白な天井が見えた。これが所謂"知らない天井"……もとい、病室の天井か。

 

 

「志人……?」

 

 

 か細い声が聞こえてそちらを見ると、見るからに憔悴した様子の承太郎がいた。

 

 

「承太ろ…、ごほっ!」

 

「っ!!無理に喋るな!今医者を呼ぶから!」

 

 

 名前を呼んだら咳が出た。異様に喉が乾いている。承太郎が慌ててナースコールを押した。

 

 

 病室に入って来たのは男性の医者と、何故かホリィさん。水をもらって喉の渇きを癒し、医者の問診を受けながら、彼女がいる理由も聞いた。

 

 俺は重度の熱射病で、意識不明のまま病院に運ばれたらしい。事前の適切な応急処置のおかげで一命を取り留めたが、それがなかったら命を落としていた。

 あるいは、命が無事でも生活に支障をきたすような後遺症が残っていた可能性が高いという。……その応急処置をしてくれたのが、ジョルノだった。

 

 仲間達と共に俺を発見したのがジョルノ、その後の応急処置もジョルノ。……あいつには感謝しかないな。命の恩人じゃねぇか。

 

 沖縄旅行が終わってから、あいつは自分で医学部予備校を見つけて、そこに通い始めたという。

 ――医者になって、前世で助けられなかった分、今世の誰かを助ける。その、新たな夢のために。

 

 あの時。俺が提案をした事をそのまま、しかも医者になる事で実行するつもりらしい。最初聞いた時は、俺のせいで無理をしているんじゃないかと心配したが……

 むしろ俺のおかげで、今世の自分ができる事が見つかったのだと。謝らないで欲しいと、ちょっと怒られた。

 

 

 で、ホリィさんがいる理由についてだが。

 

 俺は今日と明日、経過観察のために入院する事が決まった。

 その事も合わせて病院側は、俺の親に連絡して病院まで来てもらいたいと考えたそうだが……俺の付き添いだった承太郎が、それを止めてくれた。

 

 なんせ、母は亡くなってるし父はあれ(・・)な物で。……そんな事を病院側に掻い摘んで説明し、保護者代わりとして呼んだのが、自分の母親であるホリィさん。

 

 あんな騒動があったので、ジョースター家の人は全員、俺の家庭環境について大体知っている。ホリィさんもそうだから、俺が眠っている間に保護者代わりとして、医者とやり取りしてくれたらしい。

 入院費も空条家が負担すると聞いて、必死に頭を下げる。退院したら絶対に返すと言ったが、いらないと言われてしまった。その代わりに、もっとジョースター邸に顔を出せ、と。

 

 そう言われてしまえば、仕方ない。出来る限りその頻度を増やそうと思う。

 

 

 その後。一度ジョースター邸に戻るというホリィさんを見送り、医者も退出した後。承太郎に声を掛ける。

 

 

「……一応聞くが、お前学校は?」

 

「早退した。俺とお前の通学鞄は、後で花京院達に持って来てもらう」

 

「そうか。……あー、その、」

 

「謝るんじゃねえぞ」

 

「う、」

 

「シドは何も悪くねえのに、お前が謝ってどうする」

 

「……だって、お前――泣きそうな顔してるだろ」

 

 

 ベッドにいる俺の隣で、承太郎は必死に、泣くのを我慢していた。……そんな顔にさせているのが俺だと思うと、謝りたくなってしまう。

 

 

「…………っ、う……!」

 

「……いいよ、泣いていい。今誰もいねぇし、大丈夫だろ。……俺は窓の外見てるから、承太郎の泣き顔は見えない」

 

 

 俺は何も見ていないと、承太郎から目を離し、窓の外を見る。……と、左肩が重くなった。そちらを見ると、学帽を外した承太郎が、そこに顔を埋めている。

 

 

「……っ、見ていい、から、肩貸せ……!」

 

「……ん。分かった」

 

 

 震えた手で片手を強く握られ、左肩は彼が静かに流す涙で濡れる。……俺は自由になっている片手で、承太郎の背を何度も撫でた。以前、承太郎が俺にそうしてくれたように。

 

 

「良かった――お前が、生きて、っ本当に、良かった……!!」

 

 

 俺も、生きてて良かったよ。――お前やジョルノ、他の仲間達を置いて逝かずに済んで、本当に良かった。

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 承太郎が落ち着いた頃に、ジョースター家の大人組とジョナサン、ディオがお見舞いに来てくれた。

 特にジョージさんと大学生2人は、それぞれ仕事や大学の授業を放り投げて駆け付けてくれたというから、頭を下げるしかない。

 

 身内の一大事なんだから、これぐらい当たり前だと言われてしまったが……俺はいつからジョースター家の身内になったんだ?身内"みたいなもの"、ではなかったのか?

 

 それはさて置き。……この見舞いは、始まりに過ぎなかった。

 ジョースター家の人達が帰った後、今度は学校終わりに学生達が次々と見舞いにやって来た。最初に来たのは、2部勢、3部勢、6部勢だ。

 

 そこで初めてエルメェス・コステロ、フー・ファイターズと顔を合わせた。彼女達は、今世では徐倫の同級生だ。

 ……エルメェス兄貴はともかくF・F、あんたは今世でもプランクトンなのか?それとも女囚エートロの見た目で人間になったのか?

 

 本人はそれについて何も言わないし、俺も聞けないけど。

 

 

「ふーん……あんたが承太郎さんの親友?……へー」

 

「ちょっと、エルメェス。じろじろ見るのは失礼よ」

 

「おっと、悪いわね。改めて見ると、思ったより見た目がなよなよしてそうな男だったから、意外だと思ったのよ」

 

「確かに……もう少し、ガタイのいい男ではないかと。目付きの悪さはそれらしいが」

 

「F・Fまで何言ってるのよ!……志人さん、2人が失礼な事言ってごめんなさい」

 

「大丈夫だ。それぐらいなら気にしないさ」

 

 

 思わず苦笑いが出た。今世でも、彼女達は物事をはっきり言うタイプのようだ。

 

 

「……徐倫、やけにしおらしいわね?……あぁ、そういやこの人が担架で運ばれてた時、半泣きだったよなぁ?」

 

「ちょっ、何で今それを言うんだ!?」

 

「その後、鼻をすする音も聞こえたわ」

 

「F・Fてめー!余計な事を言うな!!よりによって志人さんの前で……!!」

 

「もしかして、あれか?年上のオニイサンへの憧れ的な、」

 

「エルメェェェス!!」

 

 

 6部女子組の仲が良いようで、何よりです。……それから2部、3部、6部勢は帰って行ったが、3部勢が帰り際にこんな事を言い残した。

 

 

「――仗助の事を気に掛けてやってくれ。……あいつ、ボロボロ泣いてたからなァ」

 

「園原君の事を、凄く心配していたよ」

 

「これからすぐに来ると思うし、多分めちゃくちゃ泣き喚くと思うけどよ……受け止めてやれ」

 

 

 ……その言葉通りに、次にやって来たのは4部勢だ。仗助は俺の顔を見るなり、水分が無くなるかってぐらい泣いた。

 泣きながら何かを話していて、正直ほとんど聞き取れなかったが、これだけは聞こえた。

 

 ――俺がまた(・・)死んでしまったらと思うと、怖かった……と。

 

 この発言を聞き、離れた場所で俺達を見ていた形兆が、歯を食い縛ってうつ向く。……ごめんな。お前にそんな顔させて。

 

 

「……前世に、未練は無い。あの時死んだ事も、今は後悔していない」

 

 

 仗助と形兆が、伏せていた顔を同時に上げた。

 

 

「そりゃ、前世で死んだ時の事が今世でトラウマになるぐらいには、怖かったけどさ。でも俺は今世に転生して――仗助と、形兆に出会えて、本当に良かったと思ってるぜ。

 死んで良かった、とまでは言えないが……今では、前世で死んだ事が気にならないぐらい、今世の生活が楽しいよ。承太郎や、ジョースター家の人達、それに前世の記憶がある仲間達と、出会えたから。

 今日も死にかけたが、ジョルノや仲間達皆に助けられた。……お前達と出会えたおかげで助かった。

 

 ――お前達が、俺を生かしてくれた。今、俺は生きている。……その事実があるだけで、俺は満足だ」

 

「――――」

 

「……それじゃあ、駄目か?仗助」

 

「――全然!全然駄目じゃないっスぅぅっ!!」

 

「おいおい、それ以上泣いたら脱水症状起こすんじゃねぇか?水分取れ、水分」

 

「それはあんたの方っスよォォ!!」

 

「……お前がさらに泣かせてどうすんだよ、シド。ほら見ろよ。高1の奴らが全員泣いてるじゃねえか。それに形兆だって、」

 

「俺は!泣いてないっ!!」

 

 

 承太郎に言われてそちらを見ると、皆がボロボロ泣いていた。奥にいる形兆は泣いてはいないが、目頭を押さえている。……何で??

 

 

「ぐす……っ!おい、形兆」

 

「…………何だ」

 

「今まで、悪かったな」

 

「…………別に、いい。俺も、悪かった」

 

 

 と、仗助と形兆が話していた。仲直りの前兆か?そういうフラグは大歓迎。

 

 

 大泣きしていた4部勢が帰ると、次に来たのは5部勢だ。他の皆の話によると、ジョルノと彼らの活躍のおかげで、俺は助かったらしい。

 ……だが、肝心のジョルノの姿が無い。承太郎もそう思ったのか、俺の代わりに聞いてくれた。

 

 

「……お前ら、ジョルノはどうした?」

 

「後で必ず行くって言ってたぜ」

 

「ジョルノは、他にやる事があると言って、まだ学校に残っています」

 

 

 ……あいつ、無理してないかな?ジョルノの事は心配だが、とりあえず5部勢と自己紹介をし合う。彼らとも、初めての顔合わせだ。

 

 

「本当に、あんたが無事で良かったよ!これで死んでたら、すげェ頑張ってたジョルノが報われねーしさ!」

 

「おい、ナランチャ。少し無神経だぞ。……すみません園原先輩。こいつはバカでアホですけど、多分、きっと、悪い奴ではないので……」

 

「庇っているようで、庇ってないわね」

 

「いつもの事だろ」

 

 

 今世でも明るいナランチャと毒舌フーゴ。……フーゴは、やっぱりキレたら怖いのかな?それからトリッシュとミスタ。

 ジョルノによると、彼らも花京院とポルナレフのように、喧嘩するほど仲が良いを地で行ってるらしい。……うるさい、いや、賑やかそうだな。

 

 

「そういや、あんた達なら知ってますかね?ジョルノがやけに医学に詳しい理由」

 

「園原さんを助けた時、かなり指示が的確だったわよね?……前世でも、あんなに医療に詳しかったかしら?」

 

「僕が通報している時に、ジョルノに園原先輩の症状を聞いたら、専門用語を使って簡潔に答えてましたし……」

 

「応急処置の時も何ていうか……迷い?が無かったよな?トリッシュ」

 

「そうね」

 

 

 おや?……彼らはジョルノから何も聞いてないのか?

 

 

「……知らないのか?ジョルノは今、」

 

「待て、承太郎」

 

 

 話そうとした承太郎を止めて、頭を振る。

 

 

「ジョルノが話してないなら、俺達から勝手に話す訳にもいかないだろ?」

 

「……そうだな」

 

「うん。……悪い。そういう事で、俺達からは話せないから、気になるならジョルノに聞いてくれ。それから……話を聞いても、頭ごなしに否定するような事は止めてくれ。ジョルノは、本気なんだ」

 

「……分かった。あいつに直接聞いてみる」

 

 

 俺の言葉から何かを感じ取ったのか、彼ら4人は真剣な表情で頷いた。

 

 

 こうして、5部勢も帰って行き……最後に、ジョルノがやって来た。病室に入った直後は疲れた顔をしていたが、俺の無事を確認した後は少し顔色が良くなった気がする。

 

 

「……救急隊員や、シドの担当医がお前を褒めてたぜ」

 

「そうそう。ジョルノのおかげで、俺は死なずに済んだ。本当にありがとうな!俺の命の恩人だよ、お前は」

 

「……僕は、Fratello(兄さん)の役に立てましたか?」

 

「あぁ。お前には感謝しかないよ。……お礼に、何かできる事はないか?またお人好しだと言われようが、今回ばかりは俺にできる事なら何でもやるぜ」

 

「俺にも、何かできる事があれば言ってくれ。何でもいい。……大事な親友の命を救ってくれたお前には、多大な恩があるからな」

 

「…………本当に、何でもいいんですか?」

 

「あぁ」

 

「いいぜ」

 

 

 俺と承太郎が揃ってそう言うと、しばらく迷っていたジョルノは――

 

 

「――じゃあ2人で、ぎゅって、してください。あと、褒めてください」

 

 

 両腕を広げて、恥ずかしそうにそう言った。俺達は迷いなくそうしてやった。……やっぱりこの弟分可愛いな?知ってた。

 

 

「……よく頑張ったな、ジョルノ。ありがとう。お前のおかげで、志人を失わずに済んだ」

 

「本当によくやってくれた。ありがとう。……それに、」

 

「それに?」

 

「――将来、多くの命を救うジョルノ先生が、最初に救ったのが俺なんて……凄く嬉しいし、身に余る光栄だな」

 

「――――」

 

「お前は絶対、良い医者になれるよ。俺は、そう信じている」

 

 

 ジョルノなら絶対、良い医者になれる。これからは誰もが、その命を救われるだろう。前世の未練が本当にすっ飛ぶ程の、多くの人間達が。

 

 

 ……あれ?ジョルノの反応が無い。

 

 

「……ジョルノ?」

 

「う、」

 

「う?」

 

「――うあ、っ、ぐす、ああぁぁ……っ!!」

 

「なっ、え、はぁ!?何でそんな大泣き!?」

 

「あーあ、また泣かすような事言いやがって……」

 

「俺のせいか!?」

 

「他に誰がいるんですか……!!」

 

「えー……!?」

 

 

 その後も泣き続けたジョルノは、泣き止むまでずっと、俺にしがみついたまま離れなかった。ごめん、俺が悪かったって……

 

 

「……志人さん、承太郎さん」

 

「ん?」

 

「何だ?」

 

「――志人さんを倉庫に閉じ込めた犯人が、分かりましたよ」

 

「あ"ぁ?」

 

 

 一瞬で黒豹が殺気立ちました。落ち着け落ち着け。

 

 

「というか、ばっちり映ってました。監視カメラに」

 

「監視カメラ?そんな物があったのか?」

 

「はい。校庭全体が映る物と、倉庫前を映す監視カメラが設置されていたので、高校の先生方と一緒に確認しました。

 昔、学校に不審者が侵入した事があったらしく、それ以来。数は少ないですが、学校の至るところに監視カメラを設置しているそうです」

 

「へぇ……それで、シドを閉じ込めたのは誰だ?」

 

「志人さんのクラスメートの、3人の男子生徒です。名前は――」

 

 

 ……それは、よく知っている奴らだった。

 

 

「2年に上がってすぐに仲良くなって、ファンクラブのいじめが始まるまでは、俺がいつも一緒に行動していた奴らだ。

 よりによって、あの3人……?何でだ?あいつら、誰のファンクラブにも入って無いのに……」

 

「……例えば。ファンクラブに関係なくお前に恨みを持っていて、今なら何をやっても、全てファンクラブの人間の仕業だと思わせる事ができると考え、犯行に及んだ、ってのはどうだ?」

 

「……ありそうですね。それに志人さんは、クラスメートの男子生徒に恨まれる覚えなら、少なくとも1つはあるのでは?」

 

「水野さんに告白された件、だな」

 

「はい」

 

 

 確かに、あいつらは水野さんに好意的だったし、水野さんの告白にも真っ先に協力しそうだ。

 

 それにあいつらは所謂、クラスのカースト上位にいる奴らで、クラス全体への影響力がある。

 水野さんの告白を成功させるために、彼女と共に他の男子生徒に協力を求めたのも、あいつらだったのかもしれない。

 

 

「……さて、志人さん。1つお願いがあります」

 

「何だ?」

 

「――志人さんを倉庫に閉じ込めた奴らと、いじめの実行犯複数人。……こいつらに、僕達の手で仕返しをさせてください」

 

「暴力を振るう事さえしなければ、好きにやってくれ」

 

「そうですよね、やっぱり駄目――んん?」

 

「どうした?」

 

「シド、お前……今、好きにやってくれって言ったか?」

 

「あぁ、言った」

 

 

 ジョルノと承太郎は、目を丸くして驚いている。そうだな。今までの俺なら止めていただろうな。

 

 

「今回ばかりは、お人好しを封印する。……皆には散々迷惑を掛けた。それが報われるような方法があるなら、それで仕返しをやろう。

 

 ただし、これだけは守って欲しい事が2つある。1つはさっきも言ったように、お前らが暴力を振るう事は禁止。

 そしてもう1つは――何か問題が起こった場合、その責任は全て、俺に取らせてくれ。例えば、教師達に咎められた時は、俺が全ての責任を背負って退学する」

 

「何を言ってやがる!?」

 

「そんな事させませんよ!?」

 

「じゃあ、あいつらは停学処分程度で済ませてくれと、先生達にお願いするしか無いなぁ」

 

「志人!!」

 

「志人さん!!」

 

 

 それ以降は、何を言われても首を縦には振らなかった。

 これだけは譲れない。散々迷惑を掛けた皆に対して俺ができる事なんて、全ての責任を負う事ぐらいしか思い付かないから。

 

 

「……分かりましたよ。あなたが言う条件を呑みます」

 

「ジョルノ!?」

 

「ただし!……僕が言う条件2つも、呑んでもらいますよ。

 

 1つ目。この報復の実行日は、明日。つまり、入院中のあなたは参加できません。あなたに与えるのはあくまでも、何かがあった時に責任を取る役目のみ。

 2つ目。……ある人が、一度だけ、1人だけを一発ぶん殴る許可をください。また、これだけは殴った本人に責任を取らせてください。

 本人も、それを覚悟の上で、それでもやりたいと言うはずですから」

 

「……その言い方だと、やりたい事はもう決まってるんだな?じゃあ、その内容を全部聞かせてくれ。全部聞いて、納得できたらその条件を呑む」

 

「分かりました」

 

 

 ……そして作戦内容を全てを聞いた俺は、いろいろ迷った末に――ジョルノが言う条件を、呑んだ。

 

 

 1つ気掛かりなのは、全てを聞いた承太郎が超乗り気だった事だ。こいつが暴走するような事態にならなければ、いいんだが……

 

 

 

 

 

 





※ジョルノが帰った後。園原とイージスと承太郎の会話。

「イージス?……イージス!おい、イージス・ホワイト!」

「シド?……イージスがどうした?」

「……何度呼んでもイージスが出て来ない」

「何っ?」

「何で出て来ないんだよ、おい、イージス。おい!!……お前がいないと困るんだよ、イージス!俺に何か原因があるなら言ってくれ!ちゃんと謝るから、」

「――謝るべきなのは俺の方だっ!!」

「うわぁ!?」

「おお、出て来た。……どういう事だ?イージス」

「だって、……だって、俺、志人の事を護るって言ったのに、護れなかった……!気絶した後も外に出られたら良かったのに、出られなかった。……志人が苦しんでるのを、見てるしかなかったんだ!!」

「イージス……」

「…………お前、」

「……だから、自分が情けなくて……呼ばれても、出たくなかった。志人は何も悪くない!謝るべきなのは、俺の方なんだよ……!!」

「……泣きそうな顔してるのに、涙は出ないんだな」

「ただのスタンドから涙が出るわけないじゃないか」

「俺にとって、お前はただのスタンドじゃないよ。……ずっと、ずっと側にいてくれた俺の半身だ」

「……側にいるだけで、護れなかった」

「違う。……それは俺の責任でもある。お前は、俺だ。俺がまだ未熟だったら、俺が油断したから今回みたいな事が起こったんだよ」

「そんなわけない!志人は悪くない!!」

「じゃあお前も悪くねえだろ。……お前はシド自身だからな」

「ほら、承太郎だって……俺達の親友だってそう言ってるんだ。お前も、俺も、悪くない」

「……でも、」

「それでも納得できねえなら――強くなれよ。シドと共に、強くなれ。……スタンドの特訓なら、俺とスタープラチナがいくらでも付き合ってやるから」

「そうだぜ。次は油断しないように、もっと、もっと経験を積む!精神を強くするんだ」

「……志人」

「それとも、お前は俺と一緒に強くなる事に何か不満でもあるのか?」

「無いよ!そんなの無い!!」

「だったら、つべこべ言わずにこれから先も俺に付き合え。……お前だけが護るんじゃねぇ。――俺と、お前で護るんだ!分かったな?イージス・ホワイト」

「うん。分かった!」

「よーし。……心配させて悪かったな。でも、これからは何があっても、俺とお前はずっと一緒なんだからな?それを忘れるなよ、俺の半身」

「…………う"う"うぅぅぅ……っ!!」

「お、おい、どうした!?」

「……器用だな。涙が出ないのに泣いてるぜ」

「…………承太郎、助けてくれ」

「お前の半身なんだろ?自分でどうにかしろ。……やれやれだぜ。俺といい、仗助達高1組といい、ジョルノといい、お前はどれだけ人を泣かせれば気が済むんだ?」

「好きで泣かせてるわけじゃねぇよ!!」

※涙腺クラッシャー被害者数、新たにプラス1。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ジョースター家と仲間達による、楽しい楽しい宴

・第三者視点。

・キャラ崩壊。

・ご都合主義、捏造過多。


 ――ただし、この宴は断罪対象にとって地獄でしか無い。




「――昼休み中、失礼するぜ。……高校2年の空条承太郎だ。放送部には悪いが、今日は俺が放送室を使わせてもらう」

 

 

 それは、突然始まった。

 

 

 園原が熱射病で倒れ、病院に運ばれた日の翌日。昼休みにスピーカーから流れたのは、いつもの放送部による放送……ではなく。

 学内最大規模のファンクラブを持つ、空条承太郎の声だった。……彼のファンは皆、女も男も歓声を上げる。

 

 しかし。彼らは喜んでいる場合ではない。これから始まるのは――楽しい楽しい、断罪の宴なのだから。

 

 

「……さて。俺は回りくどいのは好きじゃねえ。さっさと本題に入るとしよう。――昨日の昼休み中、ある生徒が救急車で病院に運ばれた」

 

 

 承太郎がそう言った瞬間。放送を聞いていた者は皆、口を閉じた。……その話は、ほとんどの生徒が知っていた。

 

 最近、ジョースター家やその仲間達の輪に、新たに加わった生徒……園原志人。彼が、意識不明の重体で病院に搬送された事件。

 担架で運ばれる園原の側について、顔面蒼白で必死に園原の名を呼ぶ承太郎の姿は、何人もの生徒が目撃していた。

 

 ぐったりとした園原の姿を見て、いい気味だと嗤ったのは、ファンクラブの過激派。

 そして。顔面蒼白の承太郎を見て彼と園原を心配したのは、ファンクラブの穏健派と、ファンクラブに入っていない者達だ。

 

 園原の味方は、順調に増えていた。容姿もそうだが、彼の優しさや、ジョースター家とその仲間達に認められている事。それらの事実を受け止め、彼を認める者は決して少なくない。

 だが過激派のように、まだ園原を認めようせず、未だに彼をいじめている者も、少なくない。

 

 そんな中で、園原が病院に搬送され、さらに今日の承太郎による放送。――嫌な予感を感じた者は、大正解である。

 

 

「……その生徒は、昨日の炎天下の中。校庭の体育倉庫の中に閉じ込められ、重度の熱射病で意識不明の状態で発見された。

 生徒を発見したのは、うちのジョルノとその仲間達だ。その後に救急車を呼び、生徒に応急処置を施したのも、ジョルノ達だ。

 

 ……生徒の担当医によると、その応急処置が無ければ――あいつは今頃、死んでいた可能性が高い」

 

 

 ざわっ!と、生徒達に動揺が広がった。まさか、そこまで危険な状態だったとは思わなかったのだ。

 

 

「……ジョルノ、ミスタ、フーゴ、ナランチャ、トリッシュ。改めて礼を言わせてくれ。――お前達がいなければ、あいつは助からなかった。本当に、ありがとう」

 

 

 ……この放送は、中等部の放送室にいる徐倫のスマホを通して、そちらでも全体的に放送されている。

 

 放送室の外には、エルメェスとF・Fが待機しており、万が一誰かに妨害されそうになった時は、それを防ぐ役目を任されていた。

 また、高等部の放送室の前には、花京院とポルナレフが待機していた。こちらも、エルメェス達と同じ役目を任されている。

 

 ジョルノの根回しによって、中等部と高等部の教師達の許可を得た上で、この宴を行っているが……もしも生徒達の中で妨害しようとする者が出た場合は、彼らの出番だ。

 

 

「……まだ名前は言ってないが、病院に運ばれた生徒が誰なのかは、もう分かったよな?

 

 ――さあて、ここで問題だ。……俺達ジョースター家と、その仲間が、大事な仲間を殺しかけた相手の事を、許すと、思うか……?」

 

 

 おそらく、わざとだろう。承太郎は低い声で、何度か言葉を切りながら、ゆっくりと問い掛ける。

 

 

「答えは、もちろん――許さねえよ!クソ野郎共がぁっ!!」

 

「承太郎!うるさいぞっ!!」

 

「あ、すまん」

 

 

 マイク越しに叫ばれたら、文句を言われるのも当然だ。……スピーカーからドアを開く音と、花京院の声。それから素直に謝る承太郎の声が聞こえた。

 

 

「失礼、取り乱した。……続きを話そう。とにかく、俺達は犯人を許さねえ。

 さらに。今後俺達の仲間をこれ以上危険にさらさないためにも、良い機会だから一気に大掃除(・・・)する事を決めた」

 

 

 大掃除?……そう聞いて大半の者は首を傾げたが、一部の勘のいいガキ共は察した。――つまり、あらゆる意味で(・・・・・・・)園原に手を出した奴らを粛清するつもりだ、と。

 

 

「……俺達は全ての証拠を握っている。その犯人の名前も全員、分かっている」

 

 

 ……園原を倉庫に閉じ込めた3人の男子生徒の顔は、青ざめていた。一体何をされるのか、怖くて仕方ない。……自分達の行いを、今さら後悔しても、遅いのだ。

 

 しかし、そんな彼らに救いの手が差し伸べられる。

 

 

「……ここで突然だが、今は入院中のあいつから、こんな言葉を預かっている。

 "犯人達が、放課後に自分から職員室に行き、自分達がやった事を全て告白して反省してくれるなら、反省文を書かせるだけで許してやって欲しいと、先生達にお願いしている"……だとさ」

 

 

 3人の男子生徒の表情が明るくなった。やっぱり園原はお人好しだ。――馬鹿な奴。……それぞれ、似たような思考でそんな事を考えていた。

 

 水野が園原に告白した時。園原が彼女の告白を断った事、自分達や他のクラスメートに恥を掻かせた事に対して不満を抱いていた3人は昨日、ちょっとだけ懲らしめてやろうと、そんな軽い悪戯心で彼を倉庫に閉じ込めた。

 それがあんな大騒動となってしまい、自分達の行いがジョースター家の人間にバレる事自体は恐れていたが……園原に対しての罪悪感は、微々たるものだった。結果的に生きていたのだから、それで良いじゃないか、と。

 現に園原は、反省文程度で自分達を許してくれる、お人好しなのだから……と。

 

 

 ――だがしかし。……園原の親友である承太郎を筆頭に、その仲間達が彼ら3人の所業を許す訳が無い。

 

 

「……やれやれだぜ。本当に、あいつは――俺の親友は、お人好しが過ぎる。優しい奴だ。まぁ、そういうところがあいつらしくて、俺は結構好きだけどな」

 

 

 またざわりと、動揺が広がる。あまりにも柔らかな、優しい声。……承太郎が園原の事を、人前で親友と呼んだのは、これが初めてだった。

 ファンクラブの過激派が、怒りを募らせる。あんな奴が自分達のアイドルの親友?――論外!烏滸がましい!!奴に承太郎の親友という立場はもったいない!承太郎は、園原の偽善に騙されているのだ!!

 

 

「……そんな訳で、犯人達は放課後に全員、職員室に行けよ。

 さもないと――俺達ジョースター家は、ファンクラブを強制的に解散させるからな。もちろん、卒業したジョナサンとディオのファンクラブも、全てだ」

 

 

 一瞬、室内の音が全て無くなり――直後に、阿鼻叫喚の巷と化した。……自らの"推し"のファンクラブが無くなる。それは彼らにとって、何よりも耐え難い罰だった。

 

 

「恨むなら、俺達の仲間に手を出した犯人達を、存分に!恨めばいい。……ファンクラブが解散の危機にあるのは、あいつに手を出した犯人達の責任だ」

 

 

 承太郎の言葉に反応した、園原に手を出していない者達は、一気に殺気立つ。……犯人を探し出して、この怒りをぶつけてやりたい、と。

 

 そんな彼らの耳に、朗報が聞こえた。

 

 

「では今から、あいつを体育倉庫に閉じ込めた犯人達の名前を読み上げる――」

 

 

 ……名前を呼ばれた3人は血の気が引き、その周りの生徒達の血走った目が、彼らに集中する。

 

 しかし。それだけでは終わらない。

 

 

「――続いて、あいつにいじめ行為を行った者達、全員の名前を読み上げる」

 

 

 誰かが、えっ?と言っている間に、次々と列挙される名前。

 園原の下駄箱と机を汚す常習犯や、園原を階段から突き落とした者。さらに、裏サイトで誹謗中傷を行った者達……などなど。中学生から高校生まで、名前を呼ばれた生徒は様々である。

 

 その全員が、周囲から殺気を向けられた。

 

 

「……以上の生徒は、放課後に職員室へ行き、自らの罪を告白し、反省しろ。

 なお、罪の告白ができる時間は放課後のみだ。それ以外の時間は受け付けないようにと、教師達に頼んである。

 

 ――犯人達は放課後になるまで、他の罪のない生徒達の怒りを全て受け止めろ。それが、俺達からてめえらに与える罰だ!」

 

 

 ファンクラブの過激派や、ファンクラブの関係者ではないが、面白半分にいじめに参加していた者達の体が、震える。

 今まで園原にやった事が全て、倍となって自分達に返って来るであろう、その恐怖。……まぁ、自業自得なのだが。

 

 

「……おっと、悪い。もう1人粛清対象がいた事を、すっかり忘れていた。

 それも、ある意味一番罪が重い生徒――俺とあいつが一緒にいるところを盗撮し、その写真を大勢の目に晒した、全ての元凶の名前だ」

 

 

 名前を呼ばれたとある男子生徒は、自分のクラスの教室にいた。彼は勢いよく立ち上がり、廊下に出ようとする。

 

 

「――おおっと?……何処に行くつもりだ?貴様」

 

「ここは通さねぇよ。そうしろって頼まれてるからなぁ」

 

 

 そんな彼の前に立ち塞がる――虹村兄弟。彼は慌てて、もう1つの出口に向かう。しかし、

 

 

「……ごめん。ここも通さないよ」

 

「あんたの運命は、もう決まっているわ」

 

 

 そちらにも、康一と由花子が立ち塞がる。……そんな彼の背後に近づく、1つの影。

 

 

「最初に聞いた時は、耳を疑ったぜ……」

 

「あっ、ひぃ……っ!」

 

「まさか――全ての元凶が、俺のクラスメートだったなんてなァ……!!」

 

 

 怒り狂う狂犬黒柴――もとい、仗助が鋭い目で彼を睨む。

 

 

「ゆっ、許してくれ!オレは、オレは園原先輩に恨みがあった訳じゃないんだ!ただ、空条先輩のファンクラブの人達は、空条先輩の事なら何でも知りたがるだろうと思って、そう、オレは純粋な親切で!あの写真を裏サイトにあげただけで――」

 

「もういい」

 

「へっ?」

 

「何を言っても、てめえの運命は変わらねえんだよ」

 

 

 その言葉を裏付けるように、承太郎のこんな声が聞こえた。

 

 

「おら、仗助。……ここまでお膳立てしてやったんだから、俺達仲間全員の恨みを籠めて――思い切り!一発だけ!ぶん殴れ!!」

 

「――任されましたァーーッ!!」

 

「ぐぎゃあっ!?」

 

 

 渾身の、一撃。……仗助の拳は、全ての元凶の顔に綺麗に入った。

 

 

「いいぞ、仗助っ!」

 

「よくやった!!」

 

「ありがとう、仗助くん!」

 

「良いパンチだったわね。スッキリしたわ」

 

 

 億泰達4人が拍手すると、罪のないクラスメート達もつられて拍手する。確かに良いパンチだったと、誰もがが思った。

 

 

「これで俺も、初めての反省文かァ……でもまァ、志人さんの仇取れたし、超スッキリしたから結果オーライだな!」

 

 

 そう言って、仗助は良い笑顔で笑った。

 

 

「……さて。これで放送を終わりにするが……最後に言っておくぜ。

 今後、俺達の仲間に手を出す奴は――こんなもんじゃ、済まさねーからな。もう二度と、俺の親友に手を出すんじゃねえぞ。……返事は"はい"か"Yes"しか聞かねえ。以上だ」

 

 

 承太郎のそんな言葉を最後に、その放送は終わる。……彼の感情が乗っていない声を聞き、生徒達の誰もが恐怖で震えた。次は本当に、こんなものでは済まされないだろう、と。確信したのだ。

 

 

 ……その日。園原に手を出した犯人達は、放課後まで多くの罪の無い生徒達に責められる。今まで園原にやった所業が全て、倍以上となって自分達に返って来た。

 犯人達は疲労困憊といった様子で、放課後になるのを今か今かと待ち続けた。

 

 そしてようやく放課後になり、犯人達は我先にと全員職員室に向かう。

 その間。廊下ですれ違った生徒達に罵声を浴びせられたり、わざと足を引っ掛けられたり、散々な目にあっていた。

 

 だが。彼らは知らない。――本当の地獄は、ここからだという事を。

 

 

「――はァーい、いらっしゃいクズ共。……んじゃ、順番に罪を告白してもらうよン」

 

「今後の会話は俺達生徒会役員の手で、全て記録させてもらう」

 

「もちろん、これらの記録は今後の内申に響くから、覚悟しなさいね!」

 

 

 まず。高等部の職員室で待ち構えていたのは、ジョセフ、シーザー、スージーQの生徒会役員3名だった。

 ジョセフとスージーQは口元は笑っているが、目は笑っていない。シーザーは表情も目も冷たい。まるで、某師匠の某目付きのようだ。

 

 この3名は、沖縄旅行中に園原と交流した結果。園原の事を素直で可愛い後輩だと認識していた。……そんな可愛い後輩が死にかけた事を知れば、もちろん黙ってはいられない。

 

 ジョセフ達がジョルノから任されたのは、職員室に押し寄せる犯人達への対応である。

 素直に反省しているようなら、それで構わないが……反省が見られなかったり、未だに園原を恨んでいたり。そんな生徒達を見極めて、マークする。それがジョセフ達の役目だった。

 

 後に。マークされた生徒には、絶対にバレない手で、地味な嫌がらせを実行する事が決まっている。

 

 

 一方。中等部の職員室では――

 

 

「――ほら、さっさと吐いてください。後が詰まっているんですよ。無言は時間の無駄です」

 

「……早く言った方が多少は楽になるわよ。多少は」

 

「フーゴ。こいつ面倒臭いな!殴ったらダメ?」

 

「駄目に決まってるだろ、ナランチャ。……それは最終手段だ」

 

「じゃあ指詰めでもするか?」

 

「それはもっと駄目だろ、ミスタ!……時代が時代なら、やってやりたいところだが」

 

 

 中等部の生徒会役員である、ジョルノ、トリッシュ、フーゴに加え、役員ではないがナランチャとミスタ。この5人が、犯人達への対応を行っていた。

 

 ミスタ達4人は今朝、ジョルノから彼の新たな夢について聞いた。

 

 医者になって、前世で助けられなかった分、今世の誰かを助ける……そんな夢を語るジョルノの姿は、前世でギャングスターになる夢を持っていた時のように、輝いていた。

 彼らは、ジョルノの新たな夢を応援しようと決めた。……そんなジョルノに、その夢を抱かせるきっかけとなったのが園原である事も、彼らは知っている。

 

 ジョルノが園原を心から慕っていて、今回の一件に酷く憤慨している事も、よく知っていた。

 仲間の怒りは、自分達の怒りに等しい。それが前世の自分達を導いてくれたジョルノの怒りなら、尚更だ。

 

 だから彼らは、園原のためというよりも、ジョルノのためにこの報復作戦に協力している。

 

 

 高等部でも、中等部でも。犯人達はジョースター家とその仲間達によって、最後まで、徹底的に、きつく、絞られる事になる。

 こうして、彼らによる楽しい楽しい――犯人達にとっては地獄の――宴は、幕を閉じた。

 

 

 後に、事の経緯を承太郎達に嬉々として語られた園原は、顔を引きつらせてこう言った。

 

 

「――犯人達、生きてるよな……?」

 

 

 

 

 

 









目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

旧図書館組とブックフェス
空条承太郎の友人は、夢を明かす




 pixivの方は完結したので、こちらでも続きを投稿していきます!完結まで、1日1回更新です。
 早めに続きを読みたいという方は、pixivの方へどうぞ!



・男主視点。

・ご都合主義、捏造過多。


 ――空条承太郎だって、親友の将来の夢を知ったら素直に応援するはず。




 

 

 

 

 承太郎達から、俺が入院していた日の出来事について、その経緯を聞いた。

 

 

(とりあえず、犯人達生きてるよな?)

 

 

 校内放送による公開処刑。その後の周囲からのヘイト集中砲火。さらに2部と5部勢による尋問。……いや、これ犯人達死んでるな?精神的に。

 それに、表向きはこれで断罪は終わりだが……終わったのはあくまでも、ジョースター家と仲間達による断罪だ。――罪の無い生徒達による断罪は、終わっていない。

 

 だからこそジョルノは、犯人達への処分を反省文(枚数過多)のみに留めたのだ。停学や退学処分では、犯人達は家に引きこもってしまうから。

 あえて今後も学校に通わせる事で、罪の無い生徒達の怒りを彼らにぶつけさせる。……それも合わさって初めて報復が完了するのだと、ジョルノが言っていた。

 

 

(いやいやオーバーキルだろ!?)

 

 

 だが、そう思っているのは俺だけだった。承太郎達は皆、それでようやく満足できるという。お前ら、殺意高過ぎェ……

 

 

 そして退院後、初めて学校に登校した日。……周りから陰口は聞こえない、足を引っ掛けられる事もない、下駄箱も机も綺麗。

 俺に対するいじめは、止まったと思っていいだろう。本当に承太郎達様々だ。

 

 しかしその代わりに、別の面倒事が始まった。……やり方はそれぞれだが、クラスメート達が媚を売って来る。

 

 承太郎や、他のジョースター家の人間を紹介して欲しい、彼らの写真が欲しい、昼休みに仲間達が集まる屋上に連れて行って欲しい……エトセトラ。

 遠回しだったり直球だったり。それら全てを上手くかわすのは大変だった。奴らは授業の休み時間中も俺を囲み、自分達の欲望のためにひたすらご機嫌取りをするのだ。

 

 とにかく対応が面倒臭い。……という訳で、

 

 

「――形兆!」

 

「……また来たのか、お前は」

 

「とか言って、構ってもらえるの嬉しいくせに」

 

「追い出してやろうか?」

 

「ごめんごめん、冗談だって」

 

 

 

 

「――承太郎!花京院!」

 

「おう。……またか?」

 

「うん、まただよ。多分これ、ずっと続くと思う」

 

「君も大変だな……いつでも来ていいからね」

 

「ありがとう。本当に助かる」

 

「……やれやれだぜ。なんなら、俺がお前のクラスに乗り込んでやろうか?」

 

「いや、それは逆効果だな」

 

「最終的に承太郎がぶちギレるだけだと思うよ。"喧しい!"ってさ」

 

 

 ……休み時間中は、形兆のクラスや承太郎と花京院のクラスに逃げ込む事にした。戦略的撤退って、本当に立派な戦法だよな。

 

 

 そんな日の放課後。俺はバイトに行こうと早歩きで教室の外に出たのだが、あるクラスメート達に引き留められる。

 

 

「園原っ!」

 

「頼む、話を聞いてくれ!」

 

「……俺、これからバイトなんだけど」

 

「そこを何とか……!」

 

 

 俺を引き留めたのは、俺を体育倉庫に閉じ込めた3人の男達だった。……今さら何の用だ?できれば、こいつらとは長話したくない。バイトを理由にして退散しよう。

 

 

「……用があるなら、手短にこの場で終わらせて欲しいな。バイトの時間に間に合わなくなる」

 

「あ、いや……この場では、ちょっと……」

 

「じゃあ話はここまでだ。悪いけど、そろそろ行かないと本当に間に合わないから」

 

「っ、待て!!」

 

 

 彼らに背を向けて歩き出すと、後ろから手首を掴まれた。

 こちらが離せと言っても聞いてくれない。それに、意外と力が強くて振りほどけない。……と、彼らの背後を見て顔が引きつった。

 

 

「あの、離してくれないかな?……これは君達のために忠告してるんだけど」

 

「本当に俺たちのためになりたいなら、話を聞けって!」

 

「バイトなんて、1日休んでも平気だろ?」

 

 

 いやいや、既に入院で2日休んでいるんですが?だから今日こそは行かないといけないのに。というか自分勝手だな?本当に何の用だよ…って、そうじゃねぇ!

 

 

「今すぐにその手を離さないと、君達が大変な事に――」

 

「――おい、てめえら。俺の親友に何の用だ?」

 

「ここは廊下なんだが……通行人の邪魔だよ、君達」

 

「あっ……!」

 

「ひいっ」

 

 

 はい、アウトー……黒豹こと承太郎と、花京院の登場です。御愁傷様。2年の教室がある廊下でこんな大騒ぎやってたら、それはこうなるよなぁ。

 

 

「……シド。バイト頑張れよ」

 

「園原君、また明日!」

 

 

 奴らへの当て付けなのか、承太郎は柔らかい声で、花京院は笑顔で俺を送り出す。……俺は忠告した。それを聞かなかったのは奴らだ。俺は悪くない。よし。

 

 引きつった笑顔で2人に手を振り、彼らに背を向けて早歩き。

 

 

「……自分達が殺しかけた被害者を、あんなに無理に引き留めるなんて……どういう神経をしているんだろうな?」

 

「腐りきった神経だろ」

 

「ああ、なるほど!……じゃあ、その腐りきった神経は直さないといけないなぁ。……でも、直るかな?」

 

「直らねーなら、その時は廃棄処分(・・・・)にするしかねえな」

 

「そうだね。……では、そういう事で」

 

「おう。……ちょっと面貸せ、てめえら。――お話の時間だぜ」

 

 

 俺は、何も、聞いて、無い!!そういう事にしておく!!

 

 

 ……後に、承太郎達から聞いた話だが。クラスメート3人は他の生徒達による断罪から逃れるために、俺に直接謝って、取り成してもらおうとしていたらしい。

 承太郎じゃないが……やれやれだぜ、と言いたくなるな。奴らの罪悪感は一体何処に消えたんだ?……そんな奴らも、翌日からは逆に俺との接触を異常な程に避けるようになったのだが。

 

 承太郎、花京院。お前ら、何したんだ?

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 残暑が過ぎ、秋も深まった頃。今日も旧図書館で過ごしていた俺、承太郎、ジョルノの3人は、管理人の三谷さんからこんな話を聞いた。

 

 

「ブックフェスティバル?」

 

「まぁ、とどのつまり古本市だがな。規模がデカイからそういう名前になった」

 

 

 テーブルに出されたチラシに、3人揃って目を落とす。……読書の秋に因んだ祭りで、たくさんの古本が出品されるようだ。開催される日は、今週末。

 個人が数多くの古本を出品したい場合は、主催者側からテントや机を貸りて、そこで出店として古本を売り出す。……で。三谷さんは今回、それをやるらしい。

 

 

「自宅にある古本や、この図書館にある本のいくつかを出品しようと思っている。かなり数が多くなったからな。そろそろ整理しないといけない。

 

 本を車に詰め込んで運ぶまではいいが、会場に行ってもテントの設営は自分でやる必要があるし、借りたテントがある場所まで本を運ぶ必要もある……人手が足りないんだ。

 一応、俺の従兄弟の1人にも協力してもらう予定だが、2人だけだときつい。……坊主共の中で、1人だけでもいい。当日の準備を手伝ってもらえないか?

 

 もちろんバイト代は少ないが払うし、それに加えてこの図書館にある本の中からそれぞれ1冊だけ、好きな物をやろう」

 

 

 そんな事を頼まれた俺は、思わず身を乗り出した。この図書館から好きな本を1冊?マジで?

 

 

「三谷さん。好きな本を1冊って、珍しい本でもありですか!?」

 

「……まぁ、そうだな。お前らなら、本をあげてもそれを大事にしてくれるだろうし、構わないぞ」

 

「ぜひ、手伝わせてください!」

 

「俺もやる」

 

「僕もやります!」

 

「…………ちなみに、お前らは何の本が欲しいんだ?」

 

 

 それぞれ欲しい本を言うと、3冊全てが珍しい本だった。……3人共被ってなくて良かった。

 

 

「……分かった分かった。ちゃんと最後まで手伝ってくれるなら、3冊全部くれてやるよ」

 

 

 やったぜ!承太郎とロータッチ、からのジョルノとハイタッチ。……ジョルノも最近は旧図書館組のグループだけでなく、現実でもノリが良くなって来たな。いいぞいいぞ。

 

 あ、旧図書館組で思い出した。……三谷さんが立ち去ってから、2人に声を掛ける。

 

 

「なぁ、ジョナサンとディオさんにも、この祭りの事教えてあげようぜ」

 

「そうですね。グループで話してみましょうか。……本当なら、5人で一緒に見て回りたいところですが」

 

「家以外の場所で接触するのはさすがに、な……財団の人間の目が何処にあるかも分からん」

 

「でも場所が東京じゃない分、まだマシじゃないか?」

 

 

 そう。会場は東京ではなく、千葉。三谷さんとは祭りが始まる前に、会場で合流する予定だ。東京支部から離れているし、大丈夫じゃないかと思うんだが……

 

 

「――それなら、こうしましょうか」

 

 

 すると、ジョルノがある事を提案する。……正直に言って子供騙しのようなものだが、それなら万が一また何か言われても、言い逃れする事ができる……はずだ。

 外で5人揃って過ごす事は沖縄旅行の時以来久々だし、短い時間だけでも一緒に楽しめるといいな。

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 当日。3人でブックフェスの会場に向かい、待ち合わせ場所である駐車場で三谷さんと合流する。……三谷さん以外は誰もいない。

 

 

「あれ?……三谷さん。従兄弟の人も手伝いに来るって言ってませんでしたか?」

 

「……車に本を詰め込むまでは、手伝ってもらった。だが、急に仕事が入ったようでな……そっちに行かせた。

 何度も謝って来たが、謝るよりも早く仕事に行けと、自宅から出発する前に送り出したばかりだよ」

 

 

 面倒くさそうに言ってるけど、表情は珍しくちょっと笑っている。従兄弟の事は嫌いじゃないらしい。

 

 

「じゃあ、さっそく手伝ってもらうぞ」

 

「はい。……うわ、本当に凄い数」

 

「……これを全部売るのか?」

 

「売れ残るのでは?」

 

「……いや。案外、ちゃんと売れるかもよ」

 

 

 車の中に積まれている本をざっと観察したり、何冊か手に取ってパラパラとページを確認。……うん。綺麗だな。

 

 

「保存状態が凄く良い。これ、ぱっと見ただけじゃ、誰かが読んだ後とは思えないんじゃないかな?」

 

「確かに、そうだな……」

 

「珍しい本に加えて、見た目が綺麗だとお客さんが手に取りやすい。……他の古本売ってる人達がどうなのかは分からないけど、周りとの差別化にはなると思うよ」

 

「なるほど。同じ古本でも、綺麗な方を買いたいと思うのは当然でしょうね」

 

「ごちゃごちゃ言ってないで、早く持って行くぞ。これからテントも立てないといけないんだ。……特に、学帽坊主。お前には力仕事も任せるからな」

 

「ああ、分かってる。任せろ」

 

 

 とりあえず、それぞれ持てる分だけを持って、会場に入る。主催者側に決められた場所まで来たら、まずはテントを設営。

 その後。三谷さんには本を並べてもらい、俺達は往復して本を運ぶ。……車からテントまでは距離が遠い。結構手間が掛かるな。

 

 ……そして、何往復かしてようやく全て運び終えた。フェスの開催まではまだ時間があるため、休憩がてらテントの下で雑談をする。

 

 

「……そうだ。さっき、志人さんは本の保存状態が良いって言ってましたけど、そもそも本は何故傷んでしまうんですか?」

 

「あぁ、それか。……実は、本に使われている紙そのものが、劣化しやすい成分で出来ているんだ」

 

 

 まず、紙の原料となっている木材の中の成分。この中に、光が当たると変色してしまうという性質が含まれている。

 紫外線は人にとって有毒だが、本にとっても有毒だ。紙自体の劣化と、印刷物の色褪せの原因になる。変色しやすい性質がある分、尚更な。

 

 次に、現在は基本的に使われていないが、インクが滲むのを防ぐために使われていた、酸性の薬品。古本の紙がパリパリと固くなって、脆く砕けてしまうのは、この薬品で紙が酸化してしまうせいだ。

 

 現在はそれが問題視されて、酸性紙の代わりに開発された中性紙が使われるようになったため、その後に作られた本なら、紙が酸化する事は無い。

 しかし当然ながら、中性紙が開発される前に出来た本は、その多くが酸性紙で構成されているため、保存するのに細心の注意を払わなければいけない。

 

 本が痛む原因として、その他にも空気中の有毒ガスや虫食い、乱暴に扱う事による物理的な破損。それから、温度や湿度の変化で発生するカビなどがある。

 

 

「さすが、詳しいですね。勉強になりました」

 

「……やはりお前は、本の内容だけでなく、本そのものが好きなんだな」

 

「別に、そんなに深く感心される程の事じゃないと思うんだけどなぁ……」

 

「……眼鏡坊主」

 

「はい?」

 

「お前が言った、木材に含まれる変色しやすい成分の名前と、酸性の薬品の名前は分かるか?」

 

 

 突然、三谷さんがそんな事を聞いてきた。何でいきなり?……まぁ、答えるけど。

 

 

「変色しやすい成分はリグニン、薬品はサイズ剤ですね。確か、硫酸アルミニウムが含まれていたかな」

 

「……本の保存に適した温度、湿度は?」

 

「温度は約20℃、湿度は約60%。それを大きく越えると、紙の劣化が早まるらしいですね。温度も湿度も、あまり上下しないような環境で保管するのが理想、と」

 

「…………本に有毒なガスの名前」

 

「ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アンモニア、それから――」

 

「もういい、よく分かった」

 

 

 ん?もういいのか?……首を傾げていると、承太郎とジョルノが目を点にして俺を凝視している事に気づいた。何だよ。

 

 

「…………まるで、美ら海水族館で解説してくれた時の承太郎さんみたいですね」

 

「ほぼノータイムの解答……すげえな、シド」

 

「将来に備えて少しずつ勉強し始めてるからね。これぐらいなら、」

 

「将来?……眼鏡坊主、お前まさか――」

 

 

 3人の注目を集めてしまい、照れ臭い気持ちを誤魔化すために頭を掻く。……そういえば、誰かの前ではっきりと口にした事はまだ無かったな。

 

 

「はい。――大学に行って、図書館司書を目指す事にしました。……今の俺の、将来の夢です」

 

 

 あのクソ野郎から解放された今、卒業後すぐに働く必要はなくなった。……奴から逃げる必要が無い。もっと時間を掛けて勉強しても良い。夢を追いかけても良いんだ。

 真っ先に思い浮かんだのは、俺が好きな本に関係する事。そして以前、旧図書館で本の補修を手伝っていた時に聞いた、承太郎の言葉。

 

 

 ――お前将来、司書になったりしないのか?

 

 

 ……あの言葉を思い出したら、視界が一気に開けたような、そんな気がした。

 

 

「いろいろあって、卒業直後に働く必要がなくなりました。だから、本気で夢を叶えるために今から行動しようと思って、バイトで大学に行くためのお金を稼いでる途中です」

 

「……そうか。……まぁ、司書関係で分からない事があったら、俺に聞け。気が向いたら答えてやる」

 

「はい!ありがとうございます、先生」

 

「先生は止めろ」

 

 

 ……と言いつつ、三谷さんは何だか満更でも無さそうな顔をしているので、たまに先生呼びしてあげようかなと思う。

 

 

 そこでちょうど、フェスの開始時間になった。三谷さんと別れ、3人で他のテントの古本を見て回る事に。……三谷さんがいるテントから離れると、ジョルノが口を開いた。

 

 

「卒業直後に働く必要がなくなった、って……もしかして、例の父親の件ですか?」

 

「……あぁ。承太郎には言ったが、俺は卒業後にあの男から本格的に逃げるための計画を立てようとしていた。

 大学に入学したら、数年はそこに縛られてしまう。その間にあの男に見つかったらまずい。……そう考えて、すぐに働いて金を貯めて、それから遠くに逃げるつもりだった」

 

「しかし父親の件が解決したので、その必要がなくなって、大学入学を目指す事にした?」

 

「そうだ」

 

「……あなたが、あの男から解放されて、本当に良かったと思います。――僕のFratello(兄さん)に、籠の鳥は似合わない。志人さんは、自由であるべきだ」

 

 

 思わず足を止め、ジョルノを見る。……彼は微笑み、さらに言葉を続けた。

 

 

志人(ゆきと)、という名前はお母様が付けてくれたんですか?」

 

「いや。祖母が名付け親だと、母から聞いた」

 

「そうですか。……とても良い名前ですよね。だって、"志す人"と書いて志人でしょう?志すという言葉は、今の志人さんにぴったりじゃないですか」

 

 

 そう言われて、目を見開く。……確かにそうだな。志すとは、心に決めた目標に向かって突き進む事。今の俺はまさに、そんな状況にある。

 

 

「名は体を表す、って言葉は本当だな。シドには志人という名前がよく似合うぜ」

 

「……承太郎」

 

「――お前なら、本を愛する最高の司書になれると信じている。なんせお前は……園原志人は、この俺が頼りにしている親友だからな」

 

「――――」

 

 

 咄嗟に、目頭を押さえる。

 

 

「……シド?」

 

「…………ジョルノ。前に病室でお前が泣いた理由が今理解できた気がする……!!」

 

「あぁ、やっと分かりましたか。こういう純粋な信頼から来る言葉は、涙腺を直撃するんですよ!気をつけてください」

 

「身を持って理解した……!」

 

 

 外だから我慢したが、周りに他人がいなかったら本気で泣いてたかもしれない。

 親友からの信頼は嬉しい、嬉しいけど、こう、なんか、あ"あ"あ"あ"ーっ!って、なる。くそう、やっぱりそういうとこだぞ空条承太郎!!

 

 

「本当に承太郎って無自覚に不意打ちで胸に刺さる言葉を吐くよなぁ!言う前にこっちに心の準備をさせてくれ……」

 

「お前にだけは言われたくない」

 

「ブーメランですね」

 

「えっ??」

 

 

 2人揃って、呆れたような声音でそんな事を言った。……味方がいない。何故だ。

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

空条承太郎の友人は、年上を諭す



・男主視点。

・ご都合主義、捏造過多。


 ――空条承太郎だって、気心知れた秘密の仲間達と、お祭り騒ぎしたい時があるはず。



 

 

 

 

 ブックフェスティバルの会場は、広い。三谷さんが規模がデカイと言っていたが、その通りだった。予想以上に賑わっている。

 3人で見て回り、いくつか気になる本を見つけて購入。……さすが古本市。値段がかなり安いので、貧乏学生にとっては大助かりだ。

 

 

「……っ、と」

 

「どうした?」

 

「悪い、靴紐が解けた。……2人は先に行っていいぞ。すぐに直して後を追うから」

 

「分かりました。ゆっくり歩いてますね」

 

 

 靴紐が解けた事に気づき、承太郎とジョルノに声を掛けてから道の端へ。そこでしゃがみ、靴紐を結んでいると……誰かの影が掛かって暗くなった。

 

 2人が戻って来たのか?そう思って顔を上げたら、

 

 

「――やぁ」

 

 

 にっこり笑う紳士がこんにちは――って、

 

 

「っ、うおおう!?ジョナサン!?」

 

「ちょ、ふふ……っ!志人君、何だい、その声!?」

 

「ハハハッ!!愉快な反応だなァ?園原」

 

 

 2人も会場のどっかにいるだろうなと思っていたが、まさかこんなに早くに合流できるとは思ってなかったし、そもそもさっきの影は承太郎とジョルノだと思ってたし!

 想定外過ぎて、変な声を出して驚いてしまった。……靴紐を結び終えて立ち上がると、承太郎とジョルノが戻って来た。

 

 

「……いやあ、偶然ですねえ。兄さん達」

 

「――"スタンド使いは、ひかれ合う"。このルールは侮れねえな」

 

「っく、……!全くだ」

 

 

 ジョルノのわざとらしい言い方に笑いそうになりながら、承太郎に同意する。

 

 

 ブックフェスを旧図書館組の5人で楽しむために、財団からの勘繰り対策としてジョルノが提案した事は……スタンド使い同士がひかれ合うというルールを、逆手に取る事だった。

 

 ジョナサンとディオには、メッセージアプリのグループ内でブックフェスの存在と開催日時は教えたが、2人と待ち合わせはしていない。

 俺達3人と彼らで互いに何処にいるのかと、グループ内でやり取りしていた訳でもない。

 

 本当に、偶然、この場で出会ったのだ。……スタンド使いである俺達3人と、同じくスタンド使いであるディオ……と、一緒にいたジョナサンが。

 

 ……そんな屁理屈で、財団側には旧図書館組のグループの存在を隠し、俺達はここで出会うつもりはありませんでしたよー、という事にする。

 子供騙しだが、万が一財団の人間に目撃されて、後日問い詰められたとしても、"偶然の出会い"という理由を押し通すつもりだ。

 

 最初から一緒に行く予定だった、と話すよりも、互いの予定を知らずに当日に偶然出会った、という話の方が、財団の一部からの疑いも多少はマシになる……はず。

 

 そして出会った後は、"前世のジョースター家とディオの関係について深くは知らない園原の前で、一応は家族である者同士が険悪な雰囲気を出す訳にはいかない"。

 "園原に不信感を抱かせないために、あえて5人で行動していた"……という事にしておいて、共に行動していた本当の理由を隠す。

 

 付け焼き刃だが、財団の一部にまた何か言われた時は、これで誤魔化す予定だ。グループの存在さえバレなければ、俺達の出会いが意図的だったという証拠は残らないしな。

 

 

 さて、閑話休題。

 

 

「良い本は買えた?」

 

「はい。……これとか」

 

「あっ、それ!僕も探してたんだ!」

 

「それなら、読み終わった後に貸しましょうか?」

 

「本当に?ありがとう、ジョルノ」

 

「ジョナサンは何か良いやつありました?」

 

「あったよ、志人君。……ほら、これ!」

 

「んん?……そ、それ、絶版本じゃないですか!俺、まだ読んでない!」

 

「ふふ。じゃあ今度貸してあげるね」

 

「ありがとうございます!」

 

「……おい、ディオ。その本は……」

 

「ああ、これか?内容が面白そうだったから買ったんだが……」

 

「それも絶版本だぜ」

 

「何?……それは知らなかったな」

 

「…………」

 

「……ふっ。読みたいか?ならば、お前が持っているその本と交換だ。私はそっちの方が先に読みたい」

 

「……いいだろう。交渉成立だ」

 

 

 互いに収穫した品を見せ合い、貸し出しを約束したり、その場で本を交換したり。……その後、今度は5人で古本を見て回る。

 

 

「……そういえば、志人君は今日は眼鏡を外さないの?」

 

「あ、はい。さっきまで三谷さんと一緒にいたので。……あの人は学校の人だから、素顔は見せないようにしています」

 

 

 ジョナサンが言うように、今日の俺は学校にいる時のように、前髪を片側だけ耳に掛けて眼鏡を付けている。

 おかげで周りの視線が痛い、痛い。今は承太郎達4人も一緒にいるから、尚更だ。

 

 

「それに、俺の目付きの悪さがバレたら何を言われるか分かりません。今は眼鏡坊主って呼ばれてますけど、もしかしたら承太郎じゃなくて、俺の方が不良坊主って呼ばれるかも」

 

「あぁ……やっぱり、三谷さんにあだ名を付けられたんだね」

 

「あの人、絶対に本名で呼ぼうとしませんよね。僕は金髪坊主って呼ばれてます。……兄さんはどうでした?」

 

「貴族坊主、だそうだ」

 

「おお、それっぽい……」

 

 

 というか、確かにディオは前世では元貴族だよな。ジョースター家の養子だったし。

 

 

「ふん……承太郎は園原曰く、不良坊主との事だが?」

 

「それは出会った時に呼ばれたあだ名だ。……ジョナサンの親戚で、教養があると知られてからは学帽坊主になった」

 

「なんだ、つまらん」

 

「つまらねえって何だ。俺は不良じゃねーぞ」

 

「今はそうだろうが、むかーしは、なァ?……あの改造された学ランでは説得力が無いだろう」

 

「ぐっ」

 

「ところで園原、知っているか?承太郎はむかーし、学ランの上着にデカい鎖を、」

 

「あああっ!止めろディオ!!」

 

「ハハハハハッ!!」

 

 

 珍しく、承太郎がディオにからかわれて取り乱している。……もちろん、俺は前々世の記憶で承太郎の前世の格好を知っているが、それを悟られないように首を傾げておく。

 

 

「それよりも!……ジョナサンは?あんたは何て呼ばれてた?」

 

 

 話を逸らすためだろう。承太郎がジョナサンにそう聞くと……彼は笑顔のまま固まった。おや?

 

 

「あぁ……えっと、ね、」

 

「――毒舌坊主だ」

 

「ちょっとディオ!!」

 

「あれはお前の自業自得だろう」

 

「そうだけど!」

 

「なるほど納得しました」

 

「ぴったりですね」

 

「そのままだな」

 

「止めてくれ、3人揃ってそんな言い方!」

 

 

 うん、仕方ないな。ジョナサンが顔に似合わず毒舌だって事は、この場にいる4人全員が知っている。

 

 

「……そうだ、この際聞きたいんだけど。承太郎と志人君が、出会った経緯や仲良くなった経緯を話してくれなかった理由って、やっぱり旧図書館が絡んでいたから?」

 

「そうですよ。……今はもうファンクラブの問題が解決したので、旧図書館の外でも普通に話してますけど、当時は俺達が何処で会っているのか、その情報をファンクラブに漏らさないために隠してました。

 三谷さんとの約束もあって、旧図書館の存在を知られたくなかった、という理由もありますけどね」

 

「いつ出会ったの?」

 

「高校1年の……あ、ちょうど今頃でした」

 

「へぇ……どんな出会いだったんですか?」

 

 

 ジョルノに問われ、承太郎と出会った時の事を話す。……懐かしいな。もう1年が経つのか。あの偶然の出会いが無かったら、俺は今頃どんな風に過ごしてたんだろうな?

 そう思いながら話し終えると、ジョルノがゆっくりと首を傾げる。

 

 

「――少女漫画?」

 

「「ぶふっ……!!」」

 

「んふ、ふふ、ジョルノ……!」

 

「あえて、っ、言わずにいたというのに貴様、ククッ……!!」

 

「いや、だって、……ふっ……!!」

 

 

 承太郎と同時に噴き出す俺。笑いを耐えようとして耐えられないジョナサンとディオ。そして、遅れて噴き出すジョルノ。

 やっぱり、そう思っていたのは俺だけじゃなかったようだ。後々承太郎との出会いを冷静に考えてみたら、少女漫画だとしか思えなかったんだよな……!

 

 

「ふふ、なるほど、っ、あの出会いは運命だったようだなシド、いや、ハニー……!」

 

「おい、やめ、止めろ、これ以上笑わせんじゃねぇよ、ダーリン……!」

 

「それは、はは、っ、こっちのセリフだよ!!」

 

「ふざけるなよ貴様ら……!ハハハ、……ッ!!」

 

「あははっ!ははははははっ!!」

 

 

 ジョルノが大笑いしたのを皮切りに、全員が耐えられなくなった。駄目だ、腹筋、腹筋が、死ぬ。

 

 

 人前で全員揃って大笑いしたせいか、周りからの視線が別の意味で痛くなったが、それはさておき。

 

 会場内を大体見て回り、一度会場の外に出て昼食を取った俺達は、再び会場に戻って来た。今度は、三谷さんのところに顔を出すつもりだ。

 ジョナサンとディオも久々に会いたいと言っているし、あの大量の本を1人で売っている彼が疲れたりしていないか心配になったので、様子を見に行く。

 

 

「意外な事に、三谷さんはライトノベルもいくつか読んでいるらしく、それも売っていたんですよ」

 

「えっ?あの三谷さんが?」

 

「はい。……本人曰く、内容さえ気に入れば何でも読む、との事で」

 

「その気持ちは分からなくは無いが……確かに意外だな」

 

 

 俺の話を聞いて、ジョナサンとディオが驚く。俺も、三谷さんが持って来た古本の中にライトノベルを発見した時は驚いた。

 ジョルノの1番のお気に入りで、承太郎が初めて嵌まったラノベである、某旅人シリーズや、池袋を舞台とした某首無しさんが登場するシリーズまで。その他にも知っているシリーズがいくつか……

 

 

「さて。そんな若者にも人気の本に加え、絶版本やその他の貴重な本。それらが保存状態ばっちりで綺麗なまま、安値で売られていたら……どうなると思う?承太郎」

 

「…………他の出店に並べられた本と比べて、綺麗な本は手に取りやすい。さらに幅広い種類の本があれば、買いに来る年齢層の幅も広くなる。

 

 つまり――あのように、大勢に囲まれる」

 

「はい、大正解」

 

 

 俺達の視線の先には、大勢の老若男女が集まる、三谷さんの出店があった。……予想以上に忙しそうだ。人混みを避けて裏から回り、三谷さんの後ろ姿に声を掛ける。

 

 

「三谷さーん」

 

「あ"?……って、眼鏡坊主?」

 

「お久しぶりです、三谷さん」

 

「忙しそうだな」

 

「毒舌坊主に貴族坊主まで……何しに来た?」

 

「お客さん捌くの大変でしょう?良かったら手伝いますよ」

 

「あんた、昼飯もまだ食ってないんじゃねえか?」

 

「僕達が代わりに対応するので、その間に昼食を取って来てください」

 

 

 5人揃って手伝いを申し出ると、三谷さんは眉間にシワを寄せた。

 

 

「……俺は本を紙のカバーで丁寧に包む作業までやってる。本を守るためにな。お前らのようなガキが、そんな事までできるのか?俺の代わりに?」

 

 

 あぁ、そこまでやってくれるから、こんなに人気なんだな。……しかし、だ。ガキを嘗めるなよ、おっさん。

 俺は三谷さんの横に立ち、ちょうどテーブルの上にあったカバーで包む前の本を手に取り、さっと包む。

 

 

「な、何……?」

 

「会計終わってます?」

 

「あぁ、終わってるが……」

 

「じゃあ、はいお姉さん。お待たせしてすみません」

 

「あ、ありがとう……」

 

 

 営業スマイルで手渡すと、何故か周りから女性達から黄色い声が上がる。……あ、ディオ様プロデュースの髪型だったせいか。納得。

 

 

「さて――現在、本屋でアルバイトやってる俺ですが、何か問題あります?」

 

「…………よし、頼んだ」

 

「任されました!今のうちにお昼食べて来てください」

 

「では、園原はその作業を継続。私とジョルノで会計。ジョナサンと承太郎は客を上手く整列させろ」

 

「はい、兄さん」

 

「了解!」

 

「おう」

 

 

 ディオの指示で役割を分担し、さっそく行動開始だ。俺は客から渡された本をひたすら紙カバーで包み、ディオとジョルノはその間に手早く会計。承太郎とジョナサンは、客を並ばせて混雑を解消する。

 で、顔の整った奴らがそんな事をしていれば、女性客が惹き寄せられる。……おかげで、三谷さんが帰って来る頃には人がさらに増え、結局そのまま手伝い続行。

 

 日が落ちる前に、あれだけたくさんあった古本が完売してしまうという、驚きの結果となった。

 

 

「……何冊かは売れ残るだろうと思っていたのに、完売だと……?信じられん」

 

「皆、お疲れ様でーす!」

 

「お疲れ様でした……」

 

「やっと終わったな……」

 

「お疲れ。……女共が喧しくても怒鳴るの我慢した俺を誰か褒めてくれ」

 

「承太郎、よく我慢したね!凄いよ、偉いよー!」

 

「もっと褒めろジョナサン」

 

 

 三谷さんが唖然とする中、俺達5人は互いを言葉で労う。いやー、働いた働いた。まさか本屋アルバイトの経験が、こんな場面で活かされるとは……

 

 

「……こりゃあ、奮発しないとな。おい、毒舌坊主と貴族坊主。今度時間がある時に旧図書館に来い。あそこから好きな本をそれぞれ1冊だけ、好きに持っていけ。その時にバイト代も必ず払う」

 

「旧図書館の本を!?本当にいいんですか?」

 

「あぁ。眼鏡坊主達3人にも、同じ報酬を約束している。遠慮はいらん」

 

「それは良い。あそこにはどうしても欲しい本があったんだ」

 

 

 ついでにテントの下で後片付けも手伝いながら、そんな話をしていると、

 

 

「――大星(たいせい)兄さん!遅れてすまない、何か仕事は、」

 

「今来たのか、拓海(たくみ)……もう完売したぞ」

 

 

 後ろから誰かの声と、三谷さんの応対する声が聞こえる。……三谷さんの下の名前って、"たいせい"って言うのか。初めて知った。

 

 兄さん……って事はもしかして、三谷さんの従兄弟?どんな人だろう?

 

 

「は?完売?あんな大量にあった古本が、全部か!?」

 

「あぁ……そっちの坊主達が手伝ってくれたおかげでな」

 

「坊主達って――あ、え?……空条さん?」

 

 

 承太郎と共に振り向き、従兄弟さん(仮)を見る。……その人は、どう見ても俺がよく知っている人で。

 

 

「――六車さん!?」

 

 

 私服姿だが、間違いなく財団職員の六車さん……俺が財団に登録する時や、父親の件でお世話になった人だった。

 

 

「……えっと、あなたは?」

 

「えっ?」

 

「シド、顔」

 

「あ、そうか!……はい。これで分かりますよね?」

 

「園原さん!?も、申し訳ありません!すぐに気づけなくて……」

 

「いやいや、しょうがないですよ。この顔を六車さんに見せたのは、初めてなので」

 

 

 眼鏡を外し、前髪を上げて素顔を見せると、平謝りされた。相変わらず真面目な人だ。……三谷さんが俺を見てぎょっとしたので、さっと元に戻す。

 

 彼は俺から目を外し、六車さんに声を掛ける。……良かった。突っ込まれなかった。

 

 

「……おい、拓海。お前、この坊主達とはどういう関係だ?」

 

「あぁー……うん。兄さん曰く、"へんてこな力"が関わった仕事の、知り合いだ」

 

「何ぃ?まさかこの坊主達もお前と同じ、あの見えない力が使えるってのか!?」

 

「そうだよ」

 

 

 "へんてこな力"……もしかしなくてもスタンドの事だな。三谷さんは見えないと言っているから、彼はスタンド使いでは無いらしい。

 

 

「あの……三谷さん?あなたが言ってた従兄弟って、六車さんの事ですか?」

 

「あ、あぁ。そうだ。こいつが、俺の母方の従兄弟の拓海」

 

「改めて、お見知り置きを。……私の従兄弟が大変お世話になりました。テントの設営などを高校生2人と中学生1人に手伝ってもらうと聞いていましたが、まさか、それが空条さん達の事だったとは……それに、」

 

 

 そこで言葉を切り、俺達の後ろを見る。

 

 

「――ジョルノさん達まで、大星さんの知り合いだったとは……驚きました」

 

 

 ……相手は、いくらお世話になったとはいえ、財団職員。この場にいるのは、前世で因縁を持っていた主人公2名とラスボス。そしてラスボスの息子。

 六車さんが、例の財団内でディオとジョルノを敵視している一部の職員に含まれているのかどうかは、不明。……が、今はとりあえず、

 

 

「六車さん。もう本は完売したけど、まだ片付けが残ってるんですよ。手伝ってもらえませんか?」

 

「え?」

 

「おお、そうそう。後片付けぐらいは坊主達の代わりに、お前が働け」

 

「わ、分かった。やろう」

 

 

 六車さんも加わって、片付けを再開する。……承太郎が何か言いたげな目で俺を見ているが、今は無視。それよりも、俺にはやるべき事がある。

 

 

「ディオさん、ディオさん」

 

「ン?……何だ?園原」

 

 

 視界の端で、六車さんの肩が跳ねた。そうそう、こっちを気にしてくれよ?

 

 

「ディオさんはライトノベル読まないんですか?ジョルノが大好きなんですよ。なぁ?ジョルノ」

 

「え?あぁ……はい。ミステリや歴史小説とかも好きですけど、1番はラノベですね」

 

「承太郎も最初は全く興味がなかったんですけど、俺とジョルノが好きなシリーズがあって、それを貸したら見事に嵌まったんですよ。……承太郎!まだあのシリーズ読んでる?」

 

「……あぁ。読んでる。あの世界観は好きだ」

 

「ほう……?お前までライトノベルを?」

 

「僕も気になってきた。それってどういうシリーズ?タイトルは?」

 

 

 ジョナサンも加わり、4人で某旅人シリーズについて仲良く話し始める。俺はそこから一歩引いて、六車さんの様子をこっそり観察した。

 ふむ……驚いているな。そして疑いの目を向けてはいるが、ディオ達を睨んだり、顔をしかめたりするような素振りは見られない。

 

 その後も片付けをしながら観察し――彼なら、まだ修正(・・)できる可能性が高いと判断した。

 

 

「六車さん」

 

「は、はい」

 

「あれを見て、どう思います?」

 

 

 会話をしながらテントを片付ける承太郎達を示し、六車さんにそう声を掛ける。

 

 

「どう、とは?」

 

「――俺には、普通の大学生2人と、普通の高校生1人と、普通の中学生1人が仲良く話しながら片付けをしている様子にしか見えませんよ」

 

「――――」

 

「あなたは、どう思いますか?」

 

「…………そう、ですね。――私にも、そう見えます」

 

「ですよね?」

 

 

 良かった。彼の目は正常だ。

 

 

「今世の彼らは、基本あんな感じです。……前世で吸血鬼になって、ジョースター家と敵対した巨悪。

 それからその息子で、前世のヨーロッパ全土に影響を及ぼした元マフィアのボスが混ざってますけど、それでも楽しそうに会話してるでしょう?」

 

「っ、園原さん……あなたはディオ・ブランドーとジョルノ・ジョバァーナの前世を知った上で、」

 

「訂正してください」

 

「え?」

 

「彼らは今世ではもう、ディオ・ジョースターと、ジョルノ・ジョースターなんです。……すぐに訂正してください」

 

「……申し訳ありませんでした。確かに、その通りですね。訂正します。……今の彼らは、ディオ・ブランドーと、ジョルノ・ジョバァーナでは、無い」

 

 

 そう言うと、六車さんは視線を落とし、何かを考えるような仕草を見せる。

 

 

「……園原さんは、ディオさんとジョルノさんの事が怖く無いんですか?」

 

「……正直に言うと、ディオさんの事は最初はちょっと怖かったです。でも……話してみたら、全然そんな事はなかった。普通の年上のお兄さんでした。

 やっぱり人間って、直接会って話をするまでは、相手の事が永遠に分からないままだと思うんです。

 

 前世の事とか、他人の話だけを聞いて"この人はこういう人だ"って決めつけて、その人を拒絶する――それは、空条承太郎が嫌っている、レッテル貼りそのものですよ?」

 

「っ!!」

 

「あんた、そのままでいいのか?」

 

 

 はっと、俺を見た彼に向かって静かにそう告げると、彼は俺に深く頭を下げた。

 

 

「――貴重なご指摘を、ありがとうございました。……彼らは、私と話してくれるでしょうか?」

 

「ディオさんもジョルノも、最初は六車さんの事を不審に思うかもしれませんが、ただ話すだけなら、応じてくれると思いますよ」

 

「分かりました」

 

 

 よーし、修正成功!あとは2人と話せば、自ずと今世の彼らは無害だと理解してくれるだろう。

 で、ディオ達の味方になった六車さんから、財団内で彼らを敵視する一部の職員達について情報をもらえるようになったら、御の字だ。

 

 しかし。予想外だったのが、六車さんの行動の早さだった。

 

 彼はテントの後片付けを終えた俺達に、従兄弟を手伝ってくれたお礼がしたいから、夕飯を奢らせてくれと言い出したのだ。

 きっとこの機会に、ディオとジョルノと会話したいのだろう。そう思って、俺は財団職員である彼を疑うディオ達を説得した。

 疲れが溜まっているから先に帰るという三谷さんを見送り、俺達6人は一緒に夕食を食べに行く。

 

 ……その結果。六車さんはディオとジョルノを信用してくれたし、ディオ達も六車さんを信用してくれた。良かった、良かった。

 

 

「……で、シド。お前、さっき六車と2人で何か話してたよな?」

 

「あれから急に態度が変わりましたし、志人さんが彼に何かを話した事がきっかけになってますよね?」

 

「今思うと、後片付けの時に私に声を掛けたあの時から、お前の策略が始まっていたんだろう?」

 

「一体何をしたのかな?」

 

「んん?――内緒!」

 

 

 後に承太郎達から問い詰められても、俺は口を割らなかった。別に大した事は言って無いし、結果良ければ全て良しってな!

 

 

 

 

 

 

 ――しかし。この時の俺は、知る由も無い。……俺のこの行動が、とある人物が動く間接的なきっかけとなった事を。

 

 

 

 

 

 

 






※園原達と別れた後の六車の話(第三者視点)
 
 
 ディオ・ジョースターと、ジョルノ・ジョースターは、今世では信用できる人物である。……それを確信した今、六車は悩んでいた。
 六車は園原達と、彼ら5人の関係や、ブックフェスティバルで出会った事は誰にも言わないと、約束した。

 しかし……どうしても、今回の一件を報告したい相手が、1人いる。

 その相手は前世ならともかく、今世であれば、今回の話を聞いても悪いようにはしないだろう。
 できれば、"あの方"にはディオやジョルノと直接会話してもらいたい。
 
 
(人間は、直接会って話をするまでは、その相手の事が永遠に理解できないままである。……全くもって、その通りだ)
 
 
 六車は、園原に言われた言葉を反芻する。……彼が発した何気ない言葉は、六車に大きな影響を与えていた。もちろん、園原にその自覚は無い。
 
 
 大切な事に気づかせてくれた園原や、尊敬する承太郎。そしてジョナサン、ディオ、ジョルノとの約束を守るか。
 それとも。彼らとの約束を破り、今すぐに"あの方"に報告するか。
 
 園原達を裏切るような真似は、したくない。……だが、"あの方"に報告し、ディオとジョルノに直接会って話をしてもらえたら――
 
 
(――彼らを敵視する一派を押さえ、彼らを本当の意味で自由にする事も、可能かもしれない)
 
 
 同僚から"真面目過ぎる"とよく言われる六車は、悩んだ。大いに、悩んだ。……そして、天秤が傾く。
 
 
(……空条さん、園原さん。――申し訳ありません!)
 
 
 心の中で、神に懺悔するような勢いで謝罪した六車は、スマホを取り出し、"あの方"に電話した。
 
 
「……お忙しいところ、恐れ入ります。実は、ご報告したい事がありまして――」
 
 
※"あの方"が動き出すまで、あと――?



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ディオ・ジョースターとクリスマスパーティー
空条承太郎の友人の、極秘任務




・前半、男主視点。後半、承太郎視点。

・ご都合主義、捏造過多。

・キャラ崩壊あり。


 ――空条承太郎だって、どうしても許せない事があるはず。




 

 

 

 

 

 12月に入ったばかりの頃。最近顔を見る事が多くなった六車さんが、俺の家を訪れた。

 

 

 あのブックフェスで、偶然出会った日以来。俺が財団から仕事を依頼される時は、基本的に六車さんから説明を受けるようになった。

 俺が自分から頼んだ訳ではなく、六車さんが俺の担当になりたいと強く希望した結果だ。もちろん、俺の合意の上で。

 

 財団側から六車さんの希望について聞かされた時は驚いたが、見知った人が担当になってくれるのはありがたいと、二つ返事で引き受けた。

 

 しかし、何故六車さんが俺の担当になる事を希望したのか。……その理由は、ブックフェスの時に大切な事に気づかせてくれた恩を返したいから、との事。

 そんな大げさな!と言ったのだが、本人は普段承太郎に向ける目と同じくらいキラキラ輝いた目で俺を見るものだから、その理由を信じるしか無かった。

 

 あんた、その目を向ける相手を間違ってませんか?俺は何処にでもいるガキですよ?……厳密に言えば、前世だけでなく前々世の記憶まで持っている特殊なガキ()だが、それは秘密。

 

 

 閑話休題。……六車さんが俺の家に来たのは、あのクソ野郎の件で承太郎と一緒に来た時以来だ。さて、何の用かな?

 

 

「……最初に、園原さんに謝罪しなくてはならない事があります」

 

「謝罪?」

 

「私は、園原さんの担当を強く希望した理由として、あなたに恩を返すためだと言いました。……それは決して嘘ではありませんが、実は他にも理由があったのです。

 それを隠していた事を先に謝罪します。申し訳ありませんでした」

 

「いや、それを受け入れるかどうかは、その隠し事の内容にもよるんですが……?」

 

 

 相変わらずクソ真面目な六車さんに困惑しながら、理由を問う。……彼は頭を上げて、頷いた。

 

 

「では、説明いたします。――単刀直入に言いますと、園原さんの仕事ぶりを評価し、ある方にそれを報告するためでした」

 

「……その話、周りに聞かれるとまずい話ですか?それなら防音バリア張りますけど」

 

「……そうですね。念のため、そうした方が良いでしょう。お願いします」

 

「イージス」

 

「了解」

 

 

 イージスを呼び出して防音バリアを張り、続きを聞く。

 

 

「そのお方は財団の関係者で、今は外国にいらっしゃいます。私は表向きは財団の平職員ですが、裏ではそのお方の"耳"として、日本の財団支部に関する情報を定期的に報告している者です」

 

「……内部監査、みたいな物ですか?」

 

「はい」

 

 

 マジか。この人、そんな事任されてたのかよ。意外だな。……で、そんな人が何で俺の仕事ぶりを評価する必要がある?"ある方"とは何者だ?

 

 

「……今まで園原さんが遂行した、護衛任務。その全てが、依頼人や同行者からの評価が高い」

 

「ん?」

 

「スタンドの能力もそうですが、あなた自身に好印象を持つ人が多いんです。財団内でも最近では、護衛任務は園原志人に任せれば確実だ、という声がよく上がります」

 

「ははっ。買い被り過ぎですね」

 

「いいえ。正当な評価です。……財団職員達が、あなたの事をこう呼んでいました。

 

 ――"最強の盾"。……空条承太郎が"最強の矛"なら、その親友であるあなたは"最強の盾"だと」

 

 

 そう言われた時。俺が真っ先にした事は、

 

 

「――っは!」

 

 

 財団職員達を、嘲笑う事だった。……最強。最強、ねぇ?全く、どいつもこいつも、どうしようもねぇな。……苛立ちが募る。心底、不快だ。

 承太郎だけでなく、俺にまで責任を押し付けるつもりか?……承太郎が背負っている物を半分くらい肩代わりできると思えば多少は納得するが、不快である事に変わりは無い。

 

 

「勝手な事ばかり言いやがる……俺もあいつも、最強なんて評価はいらねぇんだよ」

 

「……志人。バリアが乱れているよ」

 

「おっと」

 

 

 イージスに言われて、精神的に不安定になっている事に気づいた。冷静になる事を意識し、バリアの揺らぎを止める。……最近では心を落ち着かせる事にも、随分慣れた。

 

 

「……あの、……園原、さん?」

 

「……あ、すみません!六車さんに怒っている訳ではないんです。話を止めてしまってごめんなさい。どうぞ、続きを」

 

 

 六車さんには悪い事しちゃったな……この人は多分、俺の事を褒めたかったんだろう。俺が過剰に反応してしまっただけだ。反省しなくては。

 

 

「……分かりました。……あなたが遂行する護衛任務の評判は、あの方にも届いています。だからこそ、私に園原さんの仕事ぶりを評価し、詳しく報告するよう指示したのです。

 あなたに護衛任務を依頼するためには、あなたの実力を確かめる必要があった。あの方の側近達が、そうしないと納得できないと言い出したようで……」

 

「依頼するために、実力を確かめる?……実力を確かめてから、依頼するかどうかを決める、ではなく?

 その口振りだと、俺に依頼する事自体は確定していたと、そう言っているように聞こえるんですが」

 

「……さすが、鋭いですね。園原さんの言う通りです。あの方は、園原さんと直接会って話がしたいと言っています」

 

「何故です?」

 

「……ここでもう1つ、謝罪させていただきます。……ブックフェスティバルの日に約束した事を破り、あの日の事をあの方に報告してしまいました。本当に、申し訳ありません!」

 

 

 そう言って、六車さんは深く頭を下げた。嘘だろ、おい……!

 

 

「"あの方"とやらは財団関係者だと言ってましたね?まさか、ディオさん達を敵視している一部の人間に含まれるんじゃ、」

 

「それはあり得ません!……それだけは、違います。むしろあの方なら、ディオさんやジョルノさんと直接話し合えば、彼らに害は無い事を理解してくれる。

 そうすればきっと、彼らを敵視する一派を押さえ、彼らを本当の意味で自由にする事もできるはずだ!」

 

「!……もっと詳しい話を聞かせてください。この際、何故俺と会って話がしたいのか、その理由はどうでもいい。

 それよりも、"あの方"とやらが護衛任務を依頼する理由と……"あの方"の正体を、先に教えてくれ」

 

「……あの方の目的は、一部の信頼できる者を除いた財団職員達には内密で来日し、ジョースター家を訪問。

 そして、ディオさんとジョルノさんに会い、今世の彼らがどんな人物なのかを、自分の目で確かめる事です」

 

 

 一部を除き、財団職員達には内密に?……そうか。目的が目的だから、ディオ達を敵視する奴らにバレないようにしたいんだな。

 

 

「なるほど、目的は理解しました。……それで、"あの方"とやらの名前は?」

 

 

 ……六車さんから"あの方"の名前を聞いた俺は、驚きの余り、しばらく言葉を失った。

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 学校も無い、休日の夕方。自室から出た俺は、階段を降りて下の階に向かう。……その時、ちょうど玄関からチャイムが聞こえた。今日は来客があるとは聞いて無いが……誰だ?

 階段の中程にいた俺がそちらに向かう前に、近くにいたお袋がインターホンの前に移動し、応対する。

 

 

「はーい――あら!」

 

 

 モニターを見た瞬間。お袋が驚いて、すぐにドアを開けに行った。知り合いのようだ。お袋がドアを開けると、その人物が中に入って来る。

 

 

「こんにちは!お久しぶりです!」

 

「やぁ、どうもホリィさん。……おや、以前よりもさらに美しくなったのでは?」

 

「あらら、もう、口が上手いんだからぁ」

 

「ははは!」

 

 

 帽子を外し、恭しく一礼した中年の男の名は――ロバート・E・O・スピードワゴン。

 SPW財団の創設者だ。前世ではジョナサンの友人で、ジョセフとも本当の家族のような関係だったという。

 

 今世の彼は波紋使いでもスタンド使いでも無いため、前世の記憶が無い。……だが、スタンド使いの財団職員やジョセフから前世の話を聞き、その存在自体は知っているらしい。

 そして今世でも、前世と同じく外国では石油王として有名だ。今世では裏に潜った財団の代わりに石油会社を立ち上げ、そこで稼いだ金の幾らかを財団の活動資金として利用している。

 

 その石油会社や、財団の本部がアメリカにあるため、スピードワゴンは普段アメリカにいる。日本に来る事は珍しいのだ。

 そんな彼が、何故先触れも無しにうちに来たんだ?……何かあったのか?

 

 と、彼の後ろからもう1人現れる。

 

 

「――まぁ、志人くん!」

 

「お邪魔します、ホリィさん」

 

 

 何でお前まで!?

 

 

 俺が凝視していると、シドは俺の視線に気づいたようで、顔を上げる。……無表情で軽く手を振られた。あの態度は、仕事中か。

 

 最近のシドは、仕事とプライベートで態度をはっきりと分けるようにしている。

 仕事中に余計な話はしないし、任務の達成を最優先に考える。そして、あまり表情が変わらない。仕事さえ終われば、いつも通りのシドに戻るが……

 

 本人曰く。あのスイッチの切り替えは、ある護衛任務がきっかけで仲良くなった、前世は元警官のマフィア、今世は探偵の某イタリア人の影響を受けたらしい。

 

 

 財団創設者の、護衛任務。……スタンドに目覚めてから短期間で、そんな重要任務まで任されるようになったのか。

 少し心配だな。財団側からそれほど信頼されているなら、そのうち無茶な依頼を押し付けられる事もあるかもしれない。……今度、六車にでも聞いてみるか?

 

 それはさて置き。……お袋が驚く声が聞こえたのか、家族が集まって来た。ひとしきり騒いだ後、スピードワゴンに用件を尋ねる。

 

 

「ジョナサンと承太郎に……ディオとジョルノ。そして志人くん。君達と話したい事があってね」

 

 

 ……おい、待て。その面子って事は、まさか、

 

 

「ちょっと待った。……そのメンバーなら、俺もいていいんじゃねェの?スピードワゴン」

 

「うん、確かにそうだが。まずは彼らと話をさせて欲しい。ジョセフの事は、後で必ず呼ぶ」

 

「……ンー、いまいち納得できねェけど、分かった」

 

「おい、何の話だよ」

 

「どういう事?」

 

「仗助と徐倫はもう知ってるはずだぜ?……沖縄旅行の最終日に、何も知らない方が厄介事に巻き込まれずに済むって言っただろ?」

 

「……あっ」

 

「その話だったのね……分かったわ。あたし達は何も聞かない」

 

「ン、良い子だ。それでいい」

 

 

 そういえば仗助と徐倫も、ジョセフがシドに探りを入れた時の現場にいたんだったな。……ディオとジョルノが財団の一部の人間に敵視されており、俺が勝手に抑止力として扱われている件。

 それを知っているジョセフも呼ばれるのではないかと思っていたが……省かれたという事は、まさかブックフェスの事がバレた?

 

 六車が裏切ったのか?……だが、それにしたって何故わざわざ財団のトップが出て来る?

 

 

 ひとまず、スピードワゴンに呼ばれた面子で応接室に移動。部屋の鍵を閉めると、シドがイージスを呼び出し、防音バリアを張る。

 

 

「さて……まずは、私がここに来た経緯を話すとしよう」

 

 

 ……六車はスピードワゴンの"耳"として、内部監査をしていたらしい。

 その六車が、ディオとジョルノの財団内での立場を改善するために、ブックフェスがあった日のディオとジョルノの様子をスピードワゴンに報告し、今世の彼らに害は無いと伝える。

 

 さらに、彼らと一度直接会って話をした方が良いと、スピードワゴンに進言した。

 

 それを聞いた彼は、六車にその行動を取らせるきっかけになったシドに興味を持ち、シドの護衛任務の評判の良さも聞いていた事から、彼に護衛任務を依頼。

 そして信頼できる一部の職員を除き、財団側には来日している事を隠し、秘密裏にジョースター邸までやって来た。

 

 今世のディオとジョルノがどんな人間なのか、自分の目で確かめるために。

 

 

「……という事は。ディオ達と話した結果次第では、スピードワゴンが直接動いてくれるのかい?ディオ達を、自由にするために?」

 

「そうだよ、ジョナサン。……六車くんから進言された事で、私も目が覚めたんだ。

 

 私に前世の記憶は無いが、それでも今世で初めてディオの姿を目にした時。私の中の"何か"が、ディオの存在を強く拒絶した。

 それ以来、私はできる限りディオの事を避けた。前世の記憶がある財団職員達からも、前世の私に何があったのか、ディオがどんな男だったのかを聞いて、拒絶して正解だったのだと思ってしまった。

 

 だから、財団内部でディオとその前世の息子を敵視する一派がいても、それを放置してしまったんだ」

 

 

 それは……無理もない。スピードワゴンは前世で、ジョナサンと共にディオに立ち向かった。しかし彼は波紋使いではない普通の人間で、ジョナサンのように戦う事はできなかったと聞いている。

 

 吸血鬼という人外に対する恐怖。前世のディオ自身に対する嫌悪感。

 それらが、今世のディオを拒絶する理由になったのだろう。例え記憶が無くても、本能がそれを覚えていたんだ。

 

 

「しかし……六車くんが言ったんだ。――人間は、直接会って話をするまでは、その相手の事が永遠に理解できないままだ、とね。

 正確に言えば、それは志人くんからの受け売りだったそうだが……そのおかげで大切な事に気づいたのだと、六車くんはそれはもう志人くんに強く感謝していて、」

 

「あの、スピードワゴンさん?その話はもう止めません?」

 

「おや、志人くん。君は仕事中に余計な話をしない主義では無かったのかね?」

 

「余計な話をしてるのはあんただろうが、っと失礼。……とにかく、話を先に進めてください」

 

「はっはっは!やはり、君は面白いな!」

 

 

 やれやれだぜ……六車だけでなく、スピードワゴンにまで気に入られてやがる。

 シドの言葉は、不思議と他人に大きな影響を与え、好感を持たせる。……それに気づいていないのは、本人だけだ。

 

 

「優秀な護衛に怒られてしまったから、さっそく本題に入ろう。……私は今世のディオとジョルノ、2人の事を知りたい。私と、話をしてもらえるかな?」

 

「……いいだろう」

 

「僕も、いいですよ。……しかし何を話せば?」

 

「そうだな……君達が、自分の前世についてどう思っているのかを、聞かせて欲しい」

 

 

 すると、ディオとジョルノが目を合わせる。……互いに頷き合い、最初に口を開いたのはジョルノだった。

 

 

「では、僕の話から」

 

 

 ……ジョルノが話したのは、沖縄旅行中に俺とシドに話した事と、ほとんど同じ内容だった。スピードワゴンは時々気になった事を問い掛けながら、真剣な顔で話を聞いている。

 

 

「……なるほど。それで君は、今世で医者を目指している、と?」

 

「はい。……もっとも、そう考えるようになったきっかけは、志人さんが言った言葉なんですけどね。

 例えば、前世で助けられなかった人が100万人いたとして、今世では同じ数の人を……いえ、それどころか、その倍の人数を何らかの形で助けられたとしたら、前世の未練なんてどっかにすっ飛ぶ……だそうですよ?」

 

「あっはははは!志人くんがそんな事を!?」

 

「おい、ジョルノ……!」

 

「何ですか?事実でしょう?」

 

「いや、そうだけど!」

 

「おいおい、シド。仕事中は冷静さを保たないといけないんだろ?落ち着け落ち着け」

 

「そこ!ニヤニヤすんじゃねぇよ承太郎!!からかうな!」

 

 

 あーあ、シドの猫被りが台無しだ。面白い。

 

 

「くっくっ……!仲が良いなぁ、君達は。……さて。次はディオの前世の事を聞いても?」

 

「あぁ」

 

 

 ディオはソファーに座り直し、真っ直ぐにスピードワゴンを見る。……ゆっくりと、口を開いた。

 

 

「……スピードワゴン。私は、前世の自分を否定しない。前世の自分の行動が"悪"であると自覚はしているが、後悔は無い。私は自分が正しいと思う事をやった」

 

 

 ……あぁ、そうだよな。てめえはそういう奴だ、ディオ。――だから俺も、前世の(・・・)お前の事は一生許さない。

 今世のお前とは上手く付き合える自信があるが、前世のお前が相手なら、断固拒否する。……俺も、前世のディオを殺した事に後悔は無い。お互い様だ。

 

 

「ジョースター家を乗っ取ろうとした事も、ジョナサンと対峙した事も、ジョナサンの首から下を奪った事も……そして承太郎。お前の仲間達を殺した事も、お前と対峙した結果敗れた事も、今では悔いは無い」

 

 

 歯を食い縛り、拳を強く震わせる。……DIOへの怒りは、未だに俺の中で根付いている。

 俺の殺気を感じ取ったのだろう。ディオは俺を、静かに見つめる。俺が殴り掛かってもおかしく無い、とでも思ってそうだな。……やらねえよ。

 

 殺気を収めると、奴は再びスピードワゴンに目を向けた。

 

 

「……だからこそ、今世で同じ事をやろうとは思っていない。私の前世の人生は終わり、今世の新しい人生が始まった。

 ――せっかく生まれ変わったのだから、普通の人間として生きたい。……そう思うのは、おかしい事だろうか?」

 

「……おかしい事では、無いな。だが、今世には前世の君の行動の結果、人生を狂わされた者も転生している。そういった者達が復讐しに来たとしたら、君はどうする?」

 

「受けて立つ。……逆恨みでも無い限り、私に復讐しに来る者にはその権利があるからな。

 前世の私なら、そういった者達を有象無象と称してまともに相手をしようとは思わなかっただろう。だが今世では、私にはそうする義務があると思っている」

 

「……その末に、命を落とす事になったとしても?」

 

「そうだな。その覚悟はある。……しかし、簡単に殺されるつもりは毛頭無い。今世では特に、死ねない理由があるのだ」

 

「死ねない理由?……それは何かな?」

 

 

 スピードワゴンの問い掛けに、ディオは視線を動かし、目を細める。……その視線の先には、ディオの隣に座るジョナサンがいた。

 

 

「――この俺に向かって、あんな前世があっても、今世では老衰で死ぬまで友達でいたい、などと言う酔狂な友人がいるのでな……俺の死に方は老衰のみだと、心に決めている」

 

「誰が酔狂な友人だって?」

 

「お前しかいないだろ、ジョジョ」

 

 

 へえ?ジョナサンがディオにそんな事を、ね。

 

 

「……承太郎?その微笑ましいものを見るような目、止めてくれないかな?ジョルノと志人君もその笑顔は止めなさい」

 

「おっと、失礼……」

 

「ふふ。すみませんでした」

 

「普段あれだけディオさんの事ボロクソ言ってるくせに、」

 

「ゆ・き・と・く・ん?」

 

「何でもありませーん」

 

 

 黒い笑みを見せるジョナサンに対し、両手を上げて降参だと示すシドの態度は、既にプライベートのそれになっている。取り繕う事は諦めたようだ。

 

 

「…………ふむ。やはり、そうか」

 

「ん?」

 

「ディオ・ブランドー……いや、ディオ・ジョースター」

 

「……何だ、改まって」

 

「――君からは、悪人の臭いがしない」

 

「「っ!!」」

 

 

 悪人の、臭い?

 

 俺とジョルノが首を傾げ、少し遅れてシドも首を傾げたが、ジョナサンとディオにとっては何か大きな意味を持っていたらしい。2人揃って、珍しく驚愕していた。

 

 

「私には昔から、善人と悪人を臭いで判別できるという奇妙な特技があった。……今君と話していても、その悪人の臭いがしないのだ。もちろん、ジョルノからもその臭いはしない。

 直接会って話をしたのは正解だった。今世の君達に害は無いのだと、確信する事ができた」

 

「……って事は、ディオ達の立場を改善するために動いてくれる、と?」

 

 

 俺がそう言うと、スピードワゴンは深く頷いた。

 

 

「もちろんだ。私にできる事をやらせてもらうよ。さっそくジョセフも呼んで、その話をしようか。君達にも、協力してもらいたい事があるのでね」

 

「……一体、何をするんですか?」

 

「ふっふっふ」

 

 

 ジョルノの問いに悪戯っぽく笑った彼が、懐から何かを取り出した。……白い封筒が、8枚?

 

 

「――君達には、SPW財団東京支部主催のクリスマスパーティーに出席してもらう!!これは、その招待状だ!」

 

「「「「「――はあ?」」」」」

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

空条承太郎の友人は、パーティーに参加する



・男主視点。

・ご都合主義、捏造過多。キャラ崩壊あり。


 ――曰く、空気清浄機。曰く、圧倒的光属性。




 

 

 

 

 都内某所。……日が沈んだ頃。その場所に1人で訪れた俺は、入り口に立っていた男性2人に招待状を見せる。

 

 

「……園原志人様ですね。確認しました。どうぞ、お通りください」

 

「ありがとうございます」

 

 

 2人が開けてくれた両開きの扉をくぐり、会場の中へ。そこには既に大勢の人がおり、賑やかになっていた。

 財団に登録してるスタンド使いって、こんなにいるのか……スタンド使いじゃない財団職員も混ざっているだろうが、それにしたって参加者が多い。

 

 周りをぐるっと見渡すと、広い会場の奥にある演壇の上。そこに掛かっている舞台看板には、SPW財団クリスマスパーティーと書かれている。

 

 

 学校が冬休みに入ったばかりの12月23日。東京支部主催、クリスマスパーティーが開かれた。

 

 クリスマス当日や前夜では無いが、そういう名目でパーティーが開かれている。

 24日か25日を開催日にしてしまうと、家族や恋人と過ごしたいという人達が参加できないだろう、という配慮から23日になったのだと、俺達に招待状をくれたスピードワゴンが言っていた。

 

 このパーティーは財団職員と、財団に登録したスタンド使いであれば参加できる。あと、波紋使いの面子も。……つまり、参加者のほとんどが前世の記憶を持っている人達である。

 パーティーは立食形式。ドレスコードは無い。入退場も自由だから、パーティーが終わるまでに入れ替わり立ち代わりでいろんな人達が来るかもしれない。……その方が、俺達にとっても都合が良い。

 

 今日の俺達の行動の一つひとつが、今後のディオとジョルノの立場の改善に繋がる。

 そして彼らが本当の意味で自由になれたら、承太郎が抑止力として扱われる事も無くなる。あいつが周りに背負わされている責任を、たった1つだけでも軽くする事ができるんだ。

 

 

 ……さて。承太郎達が来るまでは、あの人の所にいるとしよう。俺に紹介したいって言ってた人も、一緒にいるだろうし。

 スマホを取り出して、メッセージアプリに会場に入った事を知らせる。……すぐに返事が来た。会場の窓側の隅にいるらしい。

 

 そちらに向かい、目当ての人を見つけて声を掛けた。

 

 

「――アバッキオ!」

 

「おう」

 

 

 以前ある任務中に、彼……レオーネ・アバッキオの護衛を担当した。その依頼の後に夕食を奢ってもらった時以来、彼とは何度か顔を合わせている。

 

 今世のアバッキオは個人で探偵業をやっており、その仕事の最中に護衛が必要だった場合、財団を通して俺に指名依頼を出すのだ。

 アバッキオ曰く、俺のスタンドは役に立つし、俺とアバッキオの相性も悪くない。何より、彼自身が俺の事を気に入ったから、今後は護衛が必要な時は俺を指名する、との事。

 

 今日に至るまでに数回、アバッキオに指名されて彼の護衛を担当している。仕事の後はいつも飯を奢ってくれるので、俺にとってはとても良い依頼人だ。

 

 

「……お前、今日は承太郎と一緒じゃねーのか?」

 

「あいつは後で家族と一緒に来る」

 

「……ジョルノもそう言ってたな。てっきり、志人もそっちに混ざるんじゃねえかと思ってたが」

 

「何でだよ。ジョースター家の人達とはありがたい事に仲良くさせてもらってるが、あの一家の人間じゃない俺が一緒に入場したら、変に注目されるだろ」

 

 

 俺は今後の行動で、間違いなく視線を集める事になるはずだからな。ジョースター家がいない今だけは、自由にさせて欲しい。

 ……実を言うと。承太郎には一緒に行こうと誘われたんだが、それを拒否したら期末試験の結果で勝負して、俺が負けたら要求を呑めと言われ……という話は、思い出すと疲れるし、止めよう。

 

 

「お前はジョースター家の身内だって聞いたぞ」

 

「は?誰に?」

 

「ジョルノ」

 

「…………あいつは、全く……!それは誤った情報だから、鵜呑みにしないでくれ」

 

「なんだ。お前が養子にでもなるんじゃないかと思ったぜ」

 

「無い無い。……確かに定期的に夕食一緒に食べるし、最近はジョースター邸にお邪魔する事も増えたが、それは俺が1人暮らししている事を心配して、向こうが頻繁に呼んでくれるってだけだから」

 

「…………おい。お前それ、もしかしなくても外堀、っ、いや、何でもねー」

 

「んん?」

 

「――Guardare e non toccare è una cosa da imparare……だな」

 

「えっ、急なイタリア語止めて?何て言ったんだよ」

 

「さあな」

 

「ええー……?」

 

 

 これは教えてくれないやつだ、と察していたら、アバッキオと一緒にいた人がくつくつと笑う。

 

 

「思っていた以上に、彼を気に入ってるんだな。アバッキオ」

 

「あ?……そうか?」

 

「生意気そうなガキは嫌いなんだろ?それも、まだ出会って数ヶ月しか経ってない相手なのに、随分仲が良さそうじゃないか」

 

「…………まぁ、あんたがそう言うなら、そうなんじゃねえの?」

 

「くくっ……!」

 

 

 おや、アバッキオが照れてる。珍しいな。

 

 

「園原志人、だったな。――ブローノ・ブチャラティだ。よろしく」

 

「はい、こちらこそ」

 

 

 前世ではジョルノの仲間の1人で、護衛チームのリーダーだった男。

 アバッキオには大分前から彼を紹介したいと言われていたが、互いになかなか予定が合わず、今日になってようやく会えたのだ。

 

 

「君の事は、ジョルノとアバッキオからよく聞いているよ。……大分前の話だが、熱射病で倒れて大変だったそうだな?その後の体調は大丈夫だったか?」

 

「えぇ。2日入院した後、すぐに学校に行けましたし、今も元気です。……ジョルノやミスタくん達は、前世ではブチャラティさんの部下だったと聞きました。彼らのおかげで、本当に命拾いしましたよ」

 

「ああ。トリッシュだけは、護衛対象だったから部下では無いが、仲間の1人だ。……俺の仲間達が協力して1人の命を救った事は、とても誇らしい」

 

 

 そう言って、彼は嬉しそうに笑う。……この人、本当にジョルノ達が好きなんだな。アバッキオも含めて、彼らがこの人を慕う気持ちがよく分かる。

 

 

「……前世で助けられなかった人が100万人いたとして、今世ではその倍の人数を何らかの形で助けられたとしたら、前世の未練なんてどっかにすっ飛ぶ……だったな?ジョルノが医者を目指すようになったきっかけは」

 

「えっ。……ちょっと待ってください。もしかしてジョルノやつ、いろんな人にその言葉言い触らしてるんですか!?」

 

「少なくとも、俺の部下達は皆知っているぞ?」

 

「他には言わないでくださいよ!?恥ずかしいから!」

 

「ははははっ!」

 

 

 笑い事じゃねぇんだよ!くそう、ジョルノにも言い聞かせておかないと……!!

 

 

「ジョルノが言うには、君はこの言葉を何気ない様子で口にしたようだが……投げやりな気持ちで言った訳では無いんだろう?」

 

「はい。……あいつにそれを強要するつもりは無く、前世の未練に決着を付ける方法の一例として、提案しました。

 100万人という数は我ながら極端過ぎたなと思っていますが……ジョルノはデカい目標さえあれば、それに向かって迷い無く突き進む事ができるんじゃないかと思って、そう言ってみたんです」

 

「……なるほど。確かに、あいつは前世でもギャングスターというデカい夢に向かって突き進んでいた。

 それと同じぐらいデカい夢を持った今、迷いが消えたという事か。……志人君はそこまで考えていたのか?凄いな」

 

「いや、そうなれば良いなーっていう漠然とした気持ちだったんですけど……まさか、それであいつが医者を目指すようになるとは……」

 

「思考がぶっ飛んでるなぁ」

 

「ぶっ飛んでますねぇ」

 

「……前世でも、あいつはたまに突拍子も無い事をやってたからな……」

 

 

 いろいろ思い出したのか、ブチャラティは遠い目をしている。……お疲れ様です、リーダー。

 

 

「……しかし、俺にとっても君の言葉は参考になる。――今世では、警官をやっている身だからな。

 俺も前世で救えなかった分、警官として今世の誰かを助ける事ができたら……いろいろ、スッキリするかもしれない」

 

 

 けいかん。

 

 ……警官?警察官!?ブチャラティが!?今世のアバッキオが警官じゃなくて探偵になったと思いきや警官になったのはあんたの方かよ!?

 

 

 でも、待てよ?ブチャラティが警官、か……

 

 

「――似合う」

 

「えっ?」

 

「交番の前に立って、通学路を歩いている小学生とか、その地域のお爺さんお婆さんに笑顔で挨拶してるイメージが頭に浮かびました。……似合いますね」

 

「――――」

 

「……ブチャラティさん?」

 

「……初めて言われたぞ。そんな事」

 

 

 余程驚いたらしく、まだ少し呆然としている。

 

 

「君のイメージ通り、今の俺は交番に勤務している。だが、ミスタやナランチャには意外だとか、なんとなくしっくり来ないとか言われたんだ。

 俺は交番勤務よりも、犯罪捜査をする刑事の方が似合うんじゃないか、とも言われた事がある」

 

「そうなんですか?俺としては物騒な事件の捜査をするよりも、地域の人達に寄り添って、お悩み相談とか受けてる方がそれっぽいなと思いました。……まぁ、ただの勘ですけど」

 

 

 原作……否、前世ではカタギの人間から声掛けられたりとか、何か相談を受ける事もあったみたいだし、交番のお巡りさんなら案外似合うと思ったんだよな。

 

 もちろん、マフィアらしい冷徹な一面もあったが、仲間想いの優しい一面もあった。

 そういう二面性を持つ男だが、彼の過去……幼い頃から父親に寄り添い、父親を守るために必死になっていた事を考えれば、本来のブチャラティは心優しい人だと思う。

 

 

「……というか、刑事の方が似合うってちょっと酷くないですか?

 もちろん、ミスタくん達にそんな気は無かったと思いますが、刑事の人達だって好きで物騒な事件を捜査してる訳では無いと思うんですよね。

 

 それが似合うと言われたら、俺だったらなんか悲しくなるというか……え、何ですか?」

 

 

 急に、頭を撫でられた。……俺の周りには何故か、突然俺の頭を撫でたがる人が多い。普通は俺の目付きの悪さに一度は怯むはずだが、ジョジョの登場人物達はそれにもお構い無しだ。

 

 ……実を言うと、撫でられるのは嫌いじゃないから、それは構わない。だが理由が分からないし、自分よりも身長が高い人に撫でられた時は複雑な気分になってしまう。

 ブチャラティは俺よりもほんの少しだけ背が高い程度だからまだ良いが、承太郎やアバッキオに撫でられると、身長寄越せって言いたくなる。

 

 

「……アバッキオが、たまに君の頭を無性に撫でたくなる時があると言っていたが……そうか、これだな」

 

「はい?」

 

「ありがとう、志人君。君は優しい子だな」

 

「はぁ……?」

 

 

 ニコニコと笑顔を向けられても、俺は首を傾げるしかない。

 

 

「――何だこのマイナスイオン空間……2人揃うと空気清浄機になるのか、お前ら」

 

「……マイナスイオン空間?」

 

「空気清浄機……?」

 

「…………いや、気にするな。戯れ言だ」

 

 

 そう言うと、アバッキオは片手で目を覆って項垂れた。……今度はブチャラティと顔を合わせ、2人で首を傾げる。

 

 と、その時。会場が急にざわざわし始めた。

 

 

「……お、来たぜ」

 

「全員揃うと壮観だな……」

 

「顔面国宝級家族ですからね。あそこは」

 

「字面が凄いな」

 

「……言い得て妙だ」

 

 

 ジョースター家7名様、ご案内ってか。……分かってはいたが注目度が高いな。見知らぬ女性達がキャーキャー言ってるぞ。

 

 

「……意外だな。前世のジョルノの父親も参加しているのか。前世でジョースター家や財団と敵対していたという話は聞いたし、財団主催のイベントには来ないだろうと思っていた」

 

「確かに、そうだな」

 

 

 ……まぁ、ディオも最初は嫌がったが、今後の立場改善のために仕方なく参加している。

 

 

「……志人。あっちと合流しないのか?」

 

「今注目の的になっている中で話し掛けろ、と?無理に決まってるだろ。……それに、行くにしてもあの人が離れた後の方がいい」

 

「あの人って……」

 

「……今、彼らに話し掛けた男か?ボディーガード付きの」

 

「そうですよ。……あの人が、ロバート・E・O・スピードワゴンさん。SPW財団のトップです」

 

「「何っ!?」」

 

 

 ぎょっとした顔で、2人がスピードワゴンさんを凝視する。あ、やっぱり顔見た事なかったんだな。

 あの人は普段アメリカにいるから、今世の日本の支部に所属している者達の中で、彼の顔を見た事がある人は少ないらしい。それこそ、ジョースター家の人間や財団職員ぐらいだとか。

 

 

「あれが、財団の創設者……」

 

「……ちょっと待て、志人。何でお前が財団創設者の顔を知ってる?知り合いか?」

 

「いや。承太郎に教えてもらっただけで、顔を会わせた事はまだ無いぜ」

 

「ああ、そういう事か……」

 

 

 はい、嘘です。……今世の俺がスピードワゴンの顔を初めて知ったのは、例の極秘任務の時だ。あの任務について関係者以外には誰にも話せないから、顔合わせはまだ、という事にしておかないと。

 

 

「……またざわざわし始めたな。今度は何だよ?」

 

「…………へえ?どうやら財団のトップは、ジョルノの前世の父親に好意的ならしい」

 

「え?アバッキオには会話が聞こえたのか?この距離で?」

 

「本人達の会話は聞こえねーよ。その周りがひそひそと話している内容の断片を聞き取り、それを繋げて大体の事情を把握してるだけだ」

 

「アバッキオは耳が良いからな。……探偵になってからは、その聞き耳の技術がさらに上がっている」

 

「……すげぇ」

 

 

 要は盗み聞きだが、探偵には必要な情報収集の技術だよな。

 

 

「…………ジョルノとその前世の父親は、確か今世ではジョースター家の養子だったな?」

 

「あぁ」

 

「財団のトップは例え養子でも、2人の事もジョースター家として扱っているらしい。……財団の行動理念に従って、今後もサポートするつもりのようだ」

 

「そうか……ジョルノはともかく、ジョースター家と敵対していた父親の方は、周囲の反感を買いそうだな」

 

「…………そういう声も、確かに聞こえる。だが……財団のトップが認めたのであればと、納得している声も少なくないな」

 

 

 よしよし、さっそく効果が出てるぞ。

 

 

 ディオとジョルノの立場を改善するための、最初の布石。――財団創設者が、公の場で2人の存在を認める事。

 ジョースター家のサポートを、重要な行動理念としている財団。そのトップが、ディオとジョルノもジョースター家の一員だと見なしている事は、非常に大きな意味を持つ。

 

 今後、ディオとジョルノに対する誹謗中傷は、ジョースター家の人間に対する誹謗中傷になってしまうのだ。

 

 財団に登録しただけのスタンド使い達にとってはあまり関係無いだろうが、財団職員にとっては違う。……財団創設者の意向に、その財団の職員達が逆らう訳にはいかないからな。

 そう――これは、2人の事を敵視し、承太郎の事を勝手に抑止力扱いしている、一部の財団職員への牽制だ。

 

 既にディオ達の事を疑っていない大半の職員も、これで彼らの事をジョースター家の人間として正式に認めるはず。

 その流れに逆らう職員は、他の職員達から厳しい目で見られるだろうな。

 

 

 しばらく承太郎達の様子を見ていると、スピードワゴンが離れて行った。それからジョセフ、仗助、徐倫も離れて行く。

 ジョセフ達はそれぞれ、自分の仲間達の下へ向かうのだろう。……彼らにはディオの事で、仲間達に質問攻めにされる未来が待っているはずだ。頑張れ。

 

 4人が離れると、承太郎が懐からスマホを取り出して操作し、耳に当てる。

 

 

「――っ……おっと」

 

 

 あいつの電話の相手は俺だったらしい。アバッキオ達に断りを入れて、電話に出る。

 

 

「もしもーし」

 

「今何処にいる?」

 

「会場の窓側」

 

「早くこっちに来い」

 

「……なぁ。俺、どうしても行かなきゃ駄目か?そんな目立つ場所に行きたくねぇ」

 

「駄目だ。来い」

 

「えー……?」

 

「……ディオとジョルノのためだぞ」

 

「分かってる。俺もそれはどうにかしたい。……でも、さっきの財団のトップの行動のおかげで、ますます視線集まってるだろ、そこ」

 

 

 

 

「……その電話相手、承太郎か?」

 

「そうなのか?なら、行ってくれば良いじゃないか。親友なんだろう?」

 

 

 と、アバッキオ達が言う。……あっ、そうだ。

 

 

「悪い、ちょっと待っててくれ。……アバッキオ」

 

「あ?」

 

「――一緒に行こうぜ♪」

 

「あ"ぁ!?」

 

 

 1人が心細いなら、道連れを用意すれば良いじゃないか!

 

 

「俺は行かねーよ!」

 

「前に承太郎とは話が合いそうだって言ってただろ?紹介するぞ」

 

「それは今じゃなくていい!」

 

「1人じゃ心細いからついて来てよ兄貴!」

 

「それが本音か、てめえ!?」

 

「ははっ!ははははははっ!!」

 

「ブチャラティ!あんたも笑ってないでこいつを止めろ!!」

 

「くふ、くくく、はは……っ!しょうがないなぁ。じゃあ志人君。アバッキオの代わりに、俺が一緒に行ってあげよう」

 

「はぁ!?」

 

「良いんですか!?」

 

 

 これは意外な展開。まさか、ブチャラティがそう言ってくれるとは。

 

 

「あそこにいるジョルノの様子が気になるし……前世のジョルノの父親、いやディオ・ジョースターがどんな人物なのか、興味があるんだ。少し話してみたい」

 

「っ、おいおいおい!それ、マジで言ってんのか、あんた!?」

 

「ああ、本気だ。……だって、今世のジョルノが兄と慕う人物だぞ?あの(・・)ジョルノが、だ。……気になるだろ?」

 

「…………それは、まぁ……」

 

「ふふ、お前も来るか?」

 

「…………行く」

 

 

 わーい、道連れが2人になったぁ……って、アバッキオ。あんた、いくらブチャラティが相手でもチョロ過ぎないか?……いや、彼が相手だからこそ、か?

 

 

「……待たせて悪い。ちょっといろいろ話してた」

 

「……揉めていたようだが、何があった?」

 

「あぁ。……1人だと心細いから、アバッキオについて来てもらおうと思ったら拒否されて、そしたらブチャラティさんがついて来てくれる事になって……結局アバッキオも一緒に来る事になった。このままそっちに行っていいか?」

 

「アバッキオとブチャラティも?」

 

 

 ……すると、今度は向こうが何か話し合っている様子。こっちよりも短い時間でそれが終わると、承太郎がこう言った。

 

 

「ジョルノが早く来いって言ってるぜ。2人にディオを紹介したいと」

 

「了解。すぐに行く」

 

 

 電話を切った後に3人で移動し、承太郎達と合流。……周りがまたうるさくなったが、無視!

 集まった面子で、まだ顔合わせしてなかった者達が自己紹介。それが終わると、さっそくブチャラティがディオに声を掛けた。

 

 

「ジョルノから、あなたの事はよく聞いています。とても良い兄だと」

 

「ちょっと、ブチャラティ?」

 

「……ほーう?ジョルノがそんな事を?」

 

「はい。前世では先に亡くなってしまった父親でしたが、今世では本物の兄で、接する機会が増えて嬉しいとか、」

 

「ブチャラティ!!」

 

 

 おお、珍しい。ジョルノが目に見えて焦ってるし、照れている。それに対して、ディオは嬉しそうにニヤニヤしているし、ブチャラティもニコニコだ。

 

 

「……ところで、ブチャラティ。貴様は私が怖くないのか?……私は、前世では吸血鬼だった男だが」

 

「今世では人間で、ジョルノの兄でしょう?なら、怖くありませんよ。……あ、でも、」

 

「ん?」

 

「前世の吸血鬼がどんな存在だったのかは、ちょっと興味がありますね。どんな感じでしたか?」

 

 

 ……これまた、珍しい。ディオが小さく口を開けて唖然としている。

 

 

「……クッ――ハハハハハッ!!俺にそれを直接聞くか!なかなか肝が据わっている!」

 

「そうですか?ありがとうございます」

 

「ふふふ、クク……ッ!なるほどなるほど、よく分かった。――お前は、園原と同じタイプか」

 

「え?俺と?」

 

「……どういう事ですか?」

 

 

 そういえば、アバッキオにも同じ事を言われたような……?

 

 

「園原は前に聞いたはずだ。……我々のように、前世の因縁に区切りをつけ、今世を生きたいと願う人間にとっては、お前のような人間が、他の誰よりも必要なのだろう、と」

 

「……確かに、そう言ってましたね」

 

「ブチャラティも、その類いの人間だ。……お前達の存在は、我々のような人間の心を救うのだよ」

 

 

 心を救う……?

 

 

「いやいや、むしろ――」

 

「そうだな。むしろ――」

 

「「――救われているのは、こっちの方」」

 

「だと思います」

 

「だろうな」

 

 

 ブチャラティと顔を見合せて、頷き合う。俺は承太郎達の存在にいつも助けられているし、きっとブチャラティも俺と同じで、仲間達に助けられているんだろう。

 

 

「救うよりも、救われる方が多いと思います」

 

「俺もだ。アバッキオにも、ジョルノ達にも。いつも助けられているし、感謝している」

 

「俺もそうです。承太郎達がいなかったらトラウマ乗り越えられなかったし、ジョルノ達がいなかったら、あの日熱射病で死んでたかもしれないし」

 

「俺も前世でジョルノがいなかったら、早々に死んでいたはずだ」

 

「皆に感謝しか無いですよねぇ」

 

「本当に感謝しか無いなぁ」

 

 

 ブチャラティとは気が合うかもな。仲良くなれそうだ。

 

 

「――空気清浄機……」

 

「っ、やっぱりお前もそう思うか!?」

 

「ああ、思うぜ。あいつらの周りだけ、マイナスイオンが発生している」

 

「俺もさっき、全く同じ事を考えた」

 

「……あんたとは気が合いそうだな、アバッキオ」

 

「今世でお前が成人したら酒飲みに行こうぜ、承太郎」

 

「おう」

 

「空気清浄機、ですか……的を得ていますね」

 

「別に光ってる訳じゃないのに、こう……眩しく感じるのは、何でだろうね?」

 

「圧倒的光属性。……ジョナサンもそっち側ではないかと思っていたのですが、実際は黒い、」

 

「何か言った?ジョルノ」

 

「アッ、何でもないです……」

 

 

 ……ジョナサンとジョルノの会話はともかく、いつの間にか、承太郎とアバッキオが仲良くなっている。

 

 

「…………貴様らはそれぞれ、自身の影響力の強さを早く自覚するがいい。貴様らに振り回される周囲の人間達が不憫だ」

 

 

 最後にそう言って、ディオが苦笑いを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 




 今回登場したアバッキオは、シリーズの番外編から逆輸入されています。
 男主とアバッキオの出会いが気になる方は、こちらをご覧ください。https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=17393180


※高校の期末試験の結果が出た時の、園原と承太郎の会話(キャラ崩壊あり)

「さーて、結果はどうなったか、な……?」

「…………」

「…………」

「――っ、よし!勝ったぁ!!というか承太郎と一点差じゃん!危ない……!」

「…………」

「……ん?承太ろ、っ、いたたたた!?待って、それ、前に止めてって言ったよね!?頭ぐりぐりしないで、痛い痛い痛い!!」

「…………」

「分かった、分かったから、悔しいなら言葉で言えよ!?俺に八つ当たりするなぁぁっ!!」

「俺の上に行くんじゃねえ」

「理不尽だな!俺にテストで本気出せって言ったのは承太郎の方だろう?」

「…………」

「ちょっ、正論言われたからって俺の耳引っ張ろうとするの止めよう?ねぇ、止めよう?……とにかく、勝負は俺の勝ちだよ。君の要求は聞かないからね」

「…………ちっ」
 
 
 
 
 
 
「…………ところで、そこの学年1位と学年2位」

「んん?」

「あ?」

「学年3位の僕から進言させてもらうが、君達――ここが廊下だって事を忘れて無いか?試験結果が貼り出されている場所だから、同級生達が周りにたくさんいるんだが?」

「「あっ」」


※実は近くで一部始終を見ていた花京院の、冷静なツッコミ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

空条承太郎の友人は、「世界」を引き寄せる



・男主視点。

・ご都合主義、捏造過多。キャラ崩壊あり。


 ――ディオ・ブランドーだって、分不相応だと、自虐してしまう時があるはず。





 

 

 

 

 

 アバッキオとブチャラティも交えて、7人で立食と会話を楽しむ。だがしばらくすると、彼ら2人はそろそろ帰ると言い出した。

 

 

「明日からまた仕事があるんだ。……警官の休みは、ほとんどあって無いようなものだからな」

 

「俺も、明日は朝早くから依頼人が来る予定なんだよ」

 

「…………お勤めご苦労様です。でも帰る前に、一度ミスタ達に会って行きませんか?僕も今から行くつもりなので」

 

「ああ、それはもちろん」

 

「……正直、気が合う奴との会話が楽し過ぎて忘れてたぜ」

 

「こらこら、アバッキオ。そんな事を言うな」

 

 

 そんな会話の後、ジョルノ達3人が去って行く。……続いて、承太郎とジョナサンもそれぞれ仲間の下に向かうという。

 

 

「……そろそろ、あいつらも事情が気になり過ぎて限界が来る頃だろ。こっちに突撃される前に、行って来るぜ」

 

「僕もそうするよ。……志人君はどうする?」

 

「お前も、俺と一緒にあいつらのところに行くか?」

 

「いや。俺はディオさんと一緒にいるぜ」

 

「ん、分かった」

 

「じゃあ、また後でね」

 

 

 会話を終えて、承太郎とジョナサンも立ち去る。こうして、俺とディオの2人きりになった。……実はこの状況も、スピードワゴンがやった牽制ほどではないが、大きな意味を持っている。

 

 

 ジョースター邸での作戦会議中。スピードワゴンから聞いた話によると――俺の存在は財団内部で、ある意味ジョースター家と同じくらい重要になっているらしい。

 そんな馬鹿な、と。最初は冗談だと思っていたが、冗談じゃなかった。

 

 ジョースター家と関係が深く、彼ら全員と友好的な関係を築いている俺は、"ジョースター家のお気に入り"と呼ばれている……との事。

 

 もしも俺の身に何かがあったら、ジョースター家から何を言われるか、彼らがどんな行動に出るか……財団内部はそれを恐れているという。

 もちろん。仕事の依頼は俺自身の能力に合わせて、適任と言えるものを任せているようだが、それ以外では俺に見えないところでかなり気を使っていたそうだ。

 

 

「……さすがに、そこまで怖がる必要は無いのでは?俺の身に余程の事があったとか、財団側に明らかな非が無い限りは、財団の皆さんを酷く責める事は無いでしょう。

 ジョースター家の皆だって、財団にはお世話になってるはずですし……そうですよね?」

 

「……あー、うん。そ、そうだなァ!」

 

「……無い、と思うぜ」

 

「……そうですね。大丈夫だと思いますよ」

 

「……うん、大丈夫!」

 

「……おそらく、無いだろう」

 

「待て。何で誰も俺と目を合わせてくれないんだ?なぁ??」

 

 

 当時、その場にいた1、2、3、5部ジョースター+元ラスボスさんに問い掛けると、一斉に目を逸らされて滅茶苦茶不安になった事をよく覚えている。

 

 

 閑話休題。……とにかく、"ジョースター家のお気に入り"である事に加え、今世で初めてスタンド使いになったばかりの未熟な少年()である事。

 そのせいか、俺はまだ"守られるべき対象"として見られる事が多いようだ。

 

 ジョースター家の人間……それも、前世でディオと直接対峙したジョナサンと承太郎が、そんな"守られるべき対象"をディオと2人きりにした上で、立ち去ってしまう。

 

 ジョナサンと承太郎が、ディオを信頼しているからこそ、この状況になる事を許した。……と、周りがそう見てくれたら御の字。

 スピードワゴンによる最初の牽制を、この行動で駄目押ししているのだ。

 

 

「……ところで、ジョルノから聞いたぞ。図書館司書を目指しているそうだな?」

 

 

 相変わらず周囲から刺さる視線は気にせずディオと会話していたら、そんな話題になった。

 

 

「最初はジョナサンと共に驚いたが、よく考えたら我々5人の中でも一番の本の虫であるお前が、それを目指さないはずが無かったな」

 

「本の虫って……止めてくださいよ。確かに本は大好きですけど、ずっと読んでばかりって訳じゃないです。むしろバイトしてる時間の方が多い」

 

「では、ビブリオマニアか?」

 

「それは常に本を読むか集めるかしないと死んじゃう病だろうが!?違うっつの!」

 

「お前は冗談に対してまともに突っ込んでくれるから、面白いよなァ」

 

「すいませんね、性分なもので!」

 

「ククク……ッ!!」

 

 

 ……最近になって気づいたが、ディオは自分の冗談に対して誰かが突っ込んでくれると、機嫌が良くなる。……構ってチャンかな?言わないけど。

 

 

「さて、冗談はここまでにしておくか。……真面目な話だ。司書を目指す事にしたきっかけは何だ?」

 

「え?ジョルノから聞いて無いんですか?」

 

「……聞いたのだが、それはお前に直接聞いて欲しいと言われた。特に、私はそうした方が良いと」

 

「……そうですか」

 

 

 わざわざディオにそう言ったという事は……父親の件は俺から説明した方がいい、って事か。

 

 

「一番大きなきっかけは、承太郎に司書にならないのか?って聞かれた事ですね」

 

「ほう?」

 

「ですが、大元は……父親の一件が解決したから」

 

「!」

 

 

 承太郎とジョルノに話した内容を、ディオにも説明する。……彼は眉間にシワを寄せて舌打ちした。

 

 

「全く、度し難い人間だな。あの男は……やはり、あの時。一度殴っておけばよかった」

 

「いえ。俺はあれで充分だったと思いますよ。あんなの殴ったら、ディオさんの手が汚れてしまう。……でも、そうか。

 

 あの時。ディオさんがあいつを追い払ってくれたおかげで、俺の中にあった父親への恐怖心が薄れた。

 それが無かったら、奴が俺達に接触する事は二度と無いと分かっていたとしても、恐怖心が邪魔をして、安心して夢を追い掛ける事ができなかったかもしれない」

 

 

 そう言って顔を上げると、ディオは大きく目を見開いていた。俺は笑って、ディオにお礼を言う。

 

 

「――ありがとうございました。……あの時、あいつを追い払ってくれた人がディオさんで、本当に良かったと思ってます」

 

「…………はあぁぁ……」

 

「ディオさん?」

 

「お前、……お前な!そんな顔を俺に向けてどうする……!?」

 

 

 片手で顔を隠して項垂れた男は、深くため息をついてそんな事を言う。

 

 

「そんな顔って、どんな顔です?」

 

「……心底安心しきった顔だ。悪人である俺を相手に無防備が過ぎるぞ、貴様」

 

「それは前世の話でしょう?今世は違うから大丈夫です。俺、ディオさんの事信頼してますから」

 

「だから……!あー、いや、もう良い。お前はそういう奴だな、ああ……ああ、そうだ。うん――敵わない」

 

 

 元ラスボスに敵わないと言われてしまった。

 

 

「……俺のこんな無様な姿を見れば、ジョジョのやつは一体何と言うか――」

 

「――皆様、お待たせいたしました!これより、クリスマスプレゼント抽選会を行います!!」

 

「ん?……あぁ。スピードワゴンが言っていたイベントか」

 

「そうみたいですね」

 

 

 会場のスピーカーからそんな声が聞こえたので、演壇の方へ目をやると、演壇の上からスクリーンが下がって来た。

 クリスマスパーティーらしいイベントとして、抽選会をやるという話は、スピードワゴンから聞いていた。俺達に配られた招待状にはそれぞれ番号が振られており、それが抽選番号になるという。

 

 スピードワゴンが抽選番号が書かれた紙が入った箱の中から1枚引き、その番号の招待状を持った人に壇上へ上がってもらい、さらに別のくじを引いてもらう。

 そして、そこに書かれた番号に割り振られた景品をもらう事ができる……という流れで進むらしい。

 

 何の番号がどんな景品なのかが分かるように、スクリーンには全ての景品が表示されていた。パーティーの参加人数が多いせいか、その分景品も多い。さすがSPW財団。太っ腹だな。

 

 

「最新ゲーム機に、最新家電。高級肉のセット。大人気テーマパークのチケットに、海外旅行のチケット、エトセトラ……ふーん。すご、って、あっ!図書カード一万円分!あれ欲しい!」

 

「っふ……!最新ゲーム機やら、海外旅行やらには反応が薄いくせに、図書カードに食い付くとは……欲があるのか、無いのか。面白い奴だな」

 

「えぇ?じゃあディオさんは、あの中なら何が欲しいですか?」

 

「ンー…………図書カード、だな」

 

「ほらぁ!人の事言えないですよ!」

 

 

 やっぱり、本好きには図書カード一択だろ。

 

 景品も分かったところで、抽選会が始まった。もしも抽選番号に該当する人がこの中にいなかった場合、景品のくじもスピードワゴンが引いて、後日その景品を本人の自宅に送るという。

 次々と人が壇上に呼ばれ、景品のくじを引いていく。呼ばれるのはジョジョの登場人物の誰かだったり、見知らぬ人だったり。

 

 個人的に面白かったのは、ジョセフが抽選に当たって、景品のくじで海外旅行チケットを手に入れた時だ。

 ジョセフはそれが当たったと知ると、壇上からシーザーの名前を呼び――

 

 

「この旅行、一緒に行くかァ?」

 

「誰が行くかこのスカタン!!お前は大人しくスージーQと2人で行け!このリア充がァッ!!」

 

 

 ――と叫び返され、会場中が笑いの渦に包まれた。俺とディオも大いに笑わせてもらった。

 

 

「さて、次の番号は……107番!抽選番号107番の者はいるか!?」

 

 

 抽選会の終わりが近づいて来た頃。スピードワゴンのそんな声を聞いてぎょっとする。慌てて招待状を取り出した。

 

 

「園原?お前、まさか……」

 

「――107番でーす……嘘だろ」

 

「何をしている?早く行け」

 

「いや……このまま行かないで終わらせます。1人で壇上に上がるとか、無理無理。ただでさえ今日は超目立ってるので、スピードワゴンさんに景品のくじも引いてもらえば良い」

 

 

 きっと俺以外にも、同じような事を考えてあえて前に出なかった人もいると思うんだよなぁ。

 

 

「……1人じゃなければいいんだな?」

 

 

 顔を上げると、ディオの背後にザ・ワールドが出て来て――瞬きの間に、目の前にスピードワゴンさんがいた。はぁ!?

 

 

「お、おお!?ディオじゃないか。どうした」

 

「園原が107番だ。連れて来た」

 

「ははは!そうだったのか!……確か、園原志人君だったね?初めまして」

 

「あ、はい、初めまして……」

 

 

 "表"でスピードワゴンと顔を合わせたのは、これが初めてだからな――って!!

 

 

「ディオさぁぁん!?わざわざ時止めてまで連れて来るとか何考えてんだよ!!」

 

「1人は嫌だと言ったじゃないか」

 

「言ったけど!!」

 

 

 あぁ、ほら!会場が一気にうるさくなったし視線は痛いしもう!!

 

 

「あー、もういいや!とりあえずさっさと引いてさっさと戻らせてもらいます!」

 

「くっくっ……!分かった分かった。さっそく引いてくれ」

 

 

 小さな箱の中に手を入れて、さっと紙を取り、スピードワゴンさんに渡す。

 

 

「…………おや!」

 

「え?」

 

「いやあ、君がこれを引くとは!運命だな!」

 

「はい?」

 

「おーい!21番の景品を持って来てくれ!」

 

 

 スピードワゴンの言葉に、先程とは違った意味でざわざわし始める会場。……財団職員の1人が持って来たのは、小さなジュエリーケースだった。

 それを受け取り、スピードワゴンから開けるように言われたので、ケースを開く。

 

 

「――ブローチ?」

 

「……ほう?」

 

 

 銀色のブローチだ。西洋の盾に槍が重なっているデザイン。俺の肩口あたりに顔を寄せ、それを見たディオが興味津々だ。

 

 

「これは……本物のシルバーか。それにこの刻印は、イギリスの有名ブランド……」

 

「さすがディオ、お目が高い!確かにそのブローチはブランド品で、なかなかの値打ち物だよ」

 

「ふん……あのブランドなら、大体5、6万かそれ以上だろう」

 

「ひえっ」

 

 

 見た目はシンプルだけど絶対高いだろうなと思ってたら、案の定だ!何でこんな扱いに困る物を当てちゃったんだよ、俺!!

 

 

「で、園原がこれを当てたのが運命だ、というのはどういう事だ?」

 

「あぁ、そうだった!……このブローチのデザインは、とある神話を元に考えた物でね」

 

「神話……?」

 

 

 デザインは西洋の盾と槍。そして俺が当てたのが運命。……という事は、

 

 

「――ギリシア神話の戦女神、アテナが持つアイギスの盾がモチーフになっているのだよ。……スタンドの名前は、イージス・ホワイトだったな?

 イージスという名前もそうだが、誰かを守る事が得意なスタンドを持つ君にはぴったりだな!」

 

 

 やっぱりか。すげぇ偶然。……でも、なぁ。いくら共通点があったとしても、ブランド品は俺には分不相応なんだよなぁ。

 しかもシルバーアクセサリーは、ちゃんと手入れをしないとすぐに駄目になるって話をどっかで聞いた事がある。

 

 スピードワゴンさん曰く、"俺とブローチの運命"に盛り上がる会場はさて置き。壇上から下りて元の場所に戻った俺は、改めてブローチを見る。

 それから、隣に立っているディオと見比べて……うん、こっちだな。

 

 

「ディオさん。このブローチ、貰ってくれませんか?」

 

「何?」

 

「どう考えても、俺には似合わないし分不相応です。それに、自分がこれを付ける姿よりも、ディオさんがこれを付ける姿の方がイメージしやすい」

 

「……いや、駄目だ。それはお前が持っていろ」

 

「でも、手入れとかしないとすぐに駄目になるんですよね?俺、毎回それをやれる自信が無いし……ディオさんの方が大切に扱ってくれるでしょう?」

 

「確かに、手入れは必要だが……」

 

 

 ……何だ?いつもより歯切れが悪い気がする。様子が変だな。

 

 

「志人さん、兄さん」

 

「ん?」

 

「……ジョルノか。どうした?」

 

「さっきのブローチに興味があって、見せてもらおうと思って来たんですけど……」

 

 

 そこへ、ジョルノがやって来た。彼は訝しげな表情でディオさんを見る。

 

 

「……兄さん、何か気掛かりな事でもあるんですか?」

 

「…………」

 

 

 どうやら、俺の勘は当たっていたらしい。ジョルノに図星を突かれたのか、ディオは黙り込んで困った顔になる。

 

 

「ディオ兄さん?」

 

「…………似合わない、だろ」

 

「えっ?」

 

「――女神の盾をモチーフにしたブローチなんて……それこそ、私の方が分不相応じゃないか。……悪人である私よりも、悪とは無縁の園原の方が相応しい」

 

「「――は?」」

 

 

 思わず、ジョルノと口を揃えて呆れてしまった。何言ってんだ、この人。ついさっきも悪人だったのは前世の話で今は違うって言ったばかりなのに!

 

 

「……志人さん。ちょっと」

 

「ん?」

 

 

 ジョルノにある事を耳打ちされた俺は、彼と頷き合い、さっそく行動に出た。

 ディオの手を掴んだジョルノが、彼の手を引いてずんずんと歩き出し、ディオの背後に回った俺が彼の背を押す。

 

 

「おい、何をするんだ貴様ら!?」

 

「いいから黙ってついて来てください」

 

「あんたに拒否権無いので!」

 

 

 俺達を見てざわつく奴らの間を突っ切り、目的の人物達がいる場所へ。

 

 

「承太郎さん、ジョナサン」

 

「あ?」

 

「あれ?3人共、どうしたの?」

 

 

 事前に打ち合わせしていなかった行動なので、2人は驚いていた。彼らの周りには1部と3部の仲間達がおり、全員がディオを警戒している。

 とんでもないところに爆弾を持って来てしまったような気分だが、今はそれどころでは無い。

 

 

「これ、さっき俺が当てた景品なんだが」

 

「……ああ、見てたぜ。ブランド物なんだろ?」

 

「それがどうかした?」

 

「俺が付けるよりも、ディオさんの方が似合うよな?」

 

 

 そう聞くと、2人はブローチとディオを交互に見て、それから頷く。

 

 

「そうだな。ディオが付けた方がしっくり来る」

 

「うん。志人君には悪いけど、さすがにこれは背伸びし過ぎかな。ディオならぴったりだよ」

 

「ですよね?……ほら、兄さん。2人もこう言ってますよ」

 

「全然、分不相応じゃないです!」

 

「……何の話だ?」

 

 

 俺が承太郎とジョナサンに事情を説明すると、2人もディオの言葉に呆れたらしい。

 

 

「馬鹿だな」

 

「馬鹿だね。それも大馬鹿」

 

「誰が馬鹿だって!?」

 

「ディオしかいないだろ。本当に何言ってるんだか……」

 

「てめえが悪人だったのは前世の話だ。今世は違う。……女神の盾がモチーフだろうが何だろうが、お前は分不相応じゃねえよ」

 

「さっきも言った通り、それはディオにぴったりだ」

 

「…………だが、俺は、」

 

「――前世で君と戦って、君の凶悪さを深く理解した僕と承太郎がそう言ってるんだよ?……今世の君は、その美しいブローチが似合う程の男に生まれ変わった。僕達は、そう認めている」

 

「俺もジョナサンに同意するぜ。……ディオ・ブランドーは確かに、ディオ・ジョースターに生まれ変わったんだ」

 

 

 ……ジョナサンと承太郎の言葉に息を呑んだのは、ディオだけではない。1部と3部の仲間達と、周囲の野次馬。全員が一斉にそうしたせいか、その音はよく聞こえた。

 

 

「……ディオさん」

 

「園原……」

 

「このブローチを当てた時に俺が引いた番号、何番だったか覚えてますか?」

 

「番号?確か……21?」

 

「そうです」

 

 

 その番号は、ディオと深い繋がりがある。

 

 

「以前、アヴドゥルに占いをしてもらった時。タロットカードに興味を持って、ちょっと調べたんです。そうしたら……アヴドゥル!」

 

「な、何だ?」

 

「タロットカードの大アルカナ。その21番は?」

 

「21番、は――世界。……っ、THE WORLD(世界)だ!!」

 

 

 その場にいた全員の視線が、ディオに集まる。……そう。ディオのスタンドの名は、ザ・ワールド。

 

 

「俺とこのブローチの繋がりを運命と言ってくれたスピードワゴンさんには、大変申し訳ないですけど――本当の運命はディオさんにあったのだと、俺は思います」

 

「――――」

 

「女神の盾を持つのに、今のあなたは決して分不相応じゃない。……これはきっと、ディオさんの下へ導かれたんだ」

 

 

 ディオの手を取り、そこにブローチを乗せて、握らせる。……彼はそれを、徐に自分の服に取り付けた。

 

 

「……どうだ?」

 

「お似合いです!」

 

 

 

 

 

 

「――――ふふ……っ、そうか」

 

 

 その時。ディオが見せた無邪気な笑顔は、文字通り世界を止めたんじゃないかと思った。

 

 

 ……後に。1部と3部の仲間達がディオを警戒するのを止めたのは、この笑顔がきっかけだったのだと、ジョナサンと承太郎は語る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




※本編最後、ディオ視点(独白。キャラ崩壊)
 
 
 神話の戦女神が持つ、魔除けの盾をモチーフにしたブローチ。
 
 そんな神聖な物が、俺に似合うはずがない。分不相応だと……そう、思っていた。
 
 
「――前世で君と戦って、君の凶悪さを深く理解した僕と承太郎がそう言ってるんだよ?……今世の君は、その美しいブローチが似合う程の男に生まれ変わった。僕達は、そう認めている」

「俺もジョナサンに同意するぜ。……ディオ・ブランドーは確かに、ディオ・ジョースターに生まれ変わったんだ」
 
 
 前世の宿敵達は、そう言って俺を認めた。
 
 
「女神の盾を持つのに、今のあなたは決して分不相応じゃない。……これはきっと、ディオさんの下へ導かれたんだ」
 
 
 今世で出会った子供は、そう言って俺にそのブローチを手渡す。……そこでようやく、分不相応では無いのだと、納得する事ができた。
 
 
 子供の手が引き寄せた、21番という番号。タロットカードの大アルカナでいう「世界」――ザ・ワールド。……俺のスタンドの名前だ。
 それとブローチを結び付け、本当の運命は俺にあったのだと、その子供が言った。
 
 ――否。正確に言えば、番号と俺のスタンドの繋がりだけでなく……子供の存在もまた、俺の運命だったのだ。
 
 
 あの時。俺がお前を、壇上まで無理やり連れて行かなかったら?
 お前の手が、21番を引き寄せなかったら?……このブローチは、俺の手に渡らなかっただろう。
 
 ブローチが俺の下へ導かれたと、お前は言ったな。
 
 
 ――そうなるように導いてくれたのは、間違いなくお前だ、園原志人。
 
 
(……お前には本当に敵わないな。しかし何故か、それが嬉しくて仕方ない)
 
 
 自然と、笑みがこぼれた。
 
 


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

親友組の誕生日
空条承太郎の友人は、親友を祝う




・男主視点。

・ご都合主義、捏造過多。

・承太郎の誕生日は公式では不明ですが、ネットでは2月だと言う話があったので、2月が誕生日という設定でいきます。


 ――空条承太郎だって、親友に最高のプレゼントをもらったら、満面の笑みを見せてくれるはず。




 

 

 

 

 

 財団主催のクリスマスパーティーから時が過ぎ、今は既に2月。……1ヶ月以上経過する間に、ディオとジョルノの立場は以前よりもマシになってきた。

 

 財団内部の情報を集めてくれたジョセフによると、俺達の狙い通りディオとジョルノを擁護する職員が増えて、彼らを敵視する一部の職員が静かになったようだ。

 パーティーがあった日から数週間後。財団内部で高い役職についており、ディオ達の事を敵視していた一派の中心人物が、突然辞任した。……一部の職員が静かになったのは、それも理由の1つだとか。

 

 辞任した理由は、持病が悪化したのでしばらくゆっくりしたい、との事だが……さて、本当なのかなぁ?その辺りは真相を知るのが怖いから、何も突っ込まないけど。

 

 

 さらに。ディオが財団側からの疑いを晴らすために、ずっとジョースター邸に留まっていた件だが。

 

 ディオは現在、ジョナサンと同じく大学3年生。今年の4月には4年生になる。……再来年には卒業だ。

 それまでの間に、特に大きな問題を起こす事がなかったら――ジョースター邸を出て、1人暮らしをしても構わない。……と、スピードワゴンがそう言ってくれた。

 

 財団トップからお許しが出たという事は、あとは言われた通りに約1年間大人しくしていれば、本当の意味で自由になれる。

 ディオは財団の事を気にして、ジョースター邸に10年以上留まっていた。……そろそろ、解放されて然るべきだと思う。

 

 これで、承太郎が責任を負わされる心配も無くなるだろう。

 このままディオ達の疑いが晴れなかったら、承太郎も本人の意思に関係なく、高卒後もジョースター邸に留まる羽目になっていたかもしれない。

 

 実際、彼らを敵視していた一部職員の中で、そんな話も出ていたらしい。

 どうにかしてディオ達と承太郎を同じ場所に置き、彼らが暴走した時は真っ先に承太郎に動いてもらえるように、と。

 

 ハハハこの駄目大人共め、ふざけんなよ?承太郎もディオもジョルノも、てめぇらのお人形じゃねぇんだよ。勝手にその自由を奪おうとしやがって。

 

 

 ……思い出したら腹が立ってきたが、今日はせっかくの"めでたい日"だ。そんな事は持ち込みたくない。ぱっぱと忘れてしまおう。

 

 今朝。承太郎、花京院と共に学校へ登校すると、いつも以上に賑わっていた。

 

 

「――ジョジョ!!誕生日おめでとう!!」

 

「ハッピーバースデー!!」

 

「誕生日おめでとう!承太郎さーん!!」

 

「空条先輩、誕生日おめでとうございます!!」

 

「ジョジョー!!」

 

「承太郎様ぁぁ!!」

 

 

 ……あ、そろそろ来るな。

 

 

「花京院、耳栓いる?」

 

「おお!用意周到だな。ありがたく頂くよ」

 

 

 俺が余分に持っていた耳栓を花京院に渡し、2人揃ってそれを付けて、さらにその上から手で耳を塞いだ瞬間、

 

 

「――――喧しいッ!!」

 

 

 響き渡る承太郎の怒声(大音量)と、その直後の黄色い声多数(大音量)。

 

 という訳で。今日は"めでたい日"――俺の親友、空条承太郎の誕生日である。

 

 この学校では、在学しているジョースター家の誰かの誕生日当日になると、毎回こんな大騒ぎになる。承太郎は学内最大のファンクラブ持ちなので、その中でも一番のお祭り騒ぎになるのだ。

 そのせいか、ファンクラブに入っていない生徒も含め、ほぼ全員がジョースター家一人ひとりの誕生日を知っている。

 

 初めてそれを知ったのは、高1の4月にジョルノの誕生日が来た時だったか?あの時は本当に驚いたし、なんなら女子(一部男子)の大音量の歓声で耳が死んだ。

 その時、俺は決意したのだ。ジョースター家の誕生日当日は、必ず耳栓を持参しよう、と。

 

 

「そんな経緯で用意した物が、こちらの耳栓になりまーす」

 

 

 と、花京院に説明したら彼は"それが正解"と深く頷く。……承太郎には複雑そうな表情で謝罪された。お前のせいじゃねぇから気にすんなって。

 

 

 校舎内に入っても承太郎のファンクラブが騒がしく、それがようやく落ち着いたのは昼休みだった。

 朝から大音量の歓声を浴びせられた承太郎は現在、ご機嫌斜め。屋上にいつもの面子が集まる中、一言も喋らない。

 

 実は。俺と仗助とジョセフ以外の面子は、承太郎へのプレゼントを持参しているのだが、こいつが"話し掛けるなオーラ"を出しているせいで、それを渡せずにいた。……やれやれだぜ。

 

 こちらに背を向けてあぐらをかき、膝に頬杖をつく、不機嫌を態度で示している男の背後に立ち、学帽を奪って髪の毛をぐしゃぐしゃに掻き乱してやった。

 

 

「ちょっ、ゆ、志人さぁぁん!?」

 

「この馬鹿ァッ!!何やってんだァッ!?」

 

 

 後ろから仗助達の恐怖の悲鳴が聞こえ、ため息をついた承太郎がこちらに振り向き、胡乱な目付きで俺を見上げる。

 

 

「…………何だよ、シド」

 

「あ、やっと喋った。先に昼食べるか?それとも皆からプレゼントもらう?」

 

「…………昼飯」

 

「よし。……皆さーん、今日の主役は先に昼飯をご所望でーす!プレゼントは後にしましょー」

 

「……あのオーラをものともせずに……肝が据わってやがる」

 

「しかも奪った学帽を自分の頭に被せるというその度胸……」

 

「…………志人さん、ある意味グレートっス」

 

 

 あれ?ドン引きされてる?……まぁいっか。腹減った。

 

 承太郎の隣で一緒に弁当を食べながら、ひたすらこいつの愚痴を聞く。普段は旧図書館組の面子以外の前では言わないのだが、さすがに耐えられなかったようだ。

 先程までずっと無言だった男が饒舌になった事に、他の奴らは目を白黒させて驚いている。

 

 途中で俺がこいつの学帽を被ったままだった事を思い出してそれを返却するまで、承太郎は口を止める事なく愚痴を吐き続けた。

 

 

「そろそろスッキリしたか?」

 

「……ああ」

 

「じゃあプレゼントタイムだな。おーい、今なら渡しても大丈夫だぜ!」

 

 

 昼飯を食べ終わり、愚痴も吐き出してストレスを解消したところで、皆からのプレゼントタイムだ。

 数多くの誕生日プレゼントをもらったおかげで、承太郎の機嫌も良くなったらしい。屋上に来た時の"話し掛けるなオーラ"はもう無い。

 

 

「……あれ?志人。お前はプレゼント持って来てないのか?」

 

「今は持ってないですけど、俺は後で――っと、すみません。ちょっと待ってください」

 

 

 俺と仗助とジョセフ以外の全員がプレゼントを渡した後、ポルナレフの問いに答えようとした時。スマホに着信があった。

 画面を見ると、バイト先の先輩の名前が表示されている。……嫌な予感。

 

 皆に一言断ってから、少し離れた場所で電話に出る。

 

 

「もしもし。……はい、大丈夫ですよ。今昼休み中なので…………え、シフトを代わって欲しい?」

 

 

 嫌な予感は的中。理由を聞くと、祖母が急病で病院に搬送されたと悲痛な声で訴えて来た。この人が超良い人で、お婆ちゃん子である事も知っていた俺は、彼の頼みを引き受ける。

 

 ……電話を切って真っ先にした事は、事情を説明して承太郎に謝る事だった。

 

 

「……って訳で、本当に悪い!パーティーにも参加できないと思う。バイト終わったら、プレゼントだけ渡しにお前の家に行くから」

 

 

 今日の夜。ジョースター邸で夕食兼誕生日パーティーを開くからお前も来い、と大分前から誘われていた。

 プレゼントは家族と一緒に、その時に渡して欲しいと言われたから、学校には持って来なかったのだ。

 

 

「…………そうか。分かった」

 

「……本っ当にごめんな」

 

 

 無表情だが、目と雰囲気で落ち込んでいる事が読み取れる。そこまで落ち込まれるとは思わなかった。何か、本当、すまん……

 

 

 

 

 

 

「……後でパーティーに参加するから、持って来なかった訳か。……つーか、ジョースター家のみのパーティーに参加できる志人って、何者?」

 

「今さらだな、ポルナレフ。ジョースター家のお気に入りだろう?財団内の噂を聞いたのはつい最近だが」

 

「そういや、俺も最近そんな話を聞いたような……?」

 

「――今、ジョースター邸に住んでる奴ら総出で、じわじわと、外堀埋めてる真っ最中!花京院もポルナレフも邪魔しないでねン♡」

 

「マジかよジョセフさん……」

 

「うわぁ……って、ちょっと待ってください。総出って事は、まさかディオも……!?」

 

「おォ。あいつは財団のクリスマスパーティーがあった日以来、積極的に動いてるぜ」

 

「…………うわぁ」

 

「志人の逃げ場が何処にもねぇぞ……」

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 ようやくバイトが終わったのは、夜の9時過ぎ。放課後にバイト先である本屋へ向かう途中、自宅に寄って承太郎に渡すプレゼントも一緒に持って来たから、このままジョースター邸に直行できる。

 

 自転車に乗る前に、シフトを代わった先輩から連絡が来た。代わってくれた事への感謝と、祖母の命に別状はなかった、との事。良かった、良かった。

 ……もしも亡くなってしまったらと思うと、辛いもんな。俺は既に母を亡くした身だが、気持ちはよく分かる。

 

 シフトを代わってくれたお礼に、今度俺が代わって欲しい時は自分に頼めと言ってくれた。もしもその時が来たら頼むとしよう。

 それから、メッセージアプリを使って承太郎にこれから向かう事を伝える。……すぐに既読がついて電話が掛かって来た。いきなりかよ。

 

 

「もしもし?」

 

「おう、バイトお疲れ。……お前、夕飯は食べたか?」

 

「いや。まだ食べてねぇぞ」

 

「それなら、うちで食べていけばいい。お前の分は残してあるから食え」

 

「え。そんな、わざわざ、」

 

「じゃあ、気をつけて帰って来いよ。待ってるぜ」

 

「おい、ちょ、…………切りやがった」

 

 

 毎度の事ながら、勝手な奴め。……わざわざ俺のために残してくれた物だし、食べ物に罪は無いし、食費は浮くし……仕方ない。ありがたく頂こう。

 

 

 自転車を走らせ、ジョースター邸に到着。中に入ると、玄関のドアを開けた仗助が笑顔で出迎えてくれる。

 

 

「志人さん!おかえりなさいっス!」

 

「あ、おう。ただいま……」

 

「今皆で手作りケーキ食べてるんスよ。志人さんも夕飯食べた後にどうぞ!」

 

「ええー……?パーティーに参加しなかったのに、夕飯頂く上にケーキまでもらうのは申し訳ない、」

 

「いいから、いいから!ほら、皆待ってるんで!」

 

「待て待て、押すな」

 

 

 仗助に背中を押されて、リビングへ向かった。そこにいた承太郎達やホリィさん達にも、"おかえり"と言われる。

 

 最近。俺がジョースター邸にお邪魔する時、仗助達は決まって"おかえり"と言うようになった。

 最初は戸惑って何も言えなかったが、あいつらは無言で俺が返事するのを待つものだから、今では"ただいま"と返すのが常となってしまった。

 

 高1の時は誰もいない一人暮らしの自宅に帰るのが当たり前だったから、"おかえり"と言われるのが何だか気恥ずかしい。

 

 

 あ、それからもう1つ。大きな変化があった。

 

 

「おー、志人。おかえり!バイトお疲れー」

 

「おかえり、志人」

 

「志人、おかえりなさい。外は寒かっただろう?早く夕飯を食べて温まると良いよ」

 

 

 この3人……ジョセフとディオとジョナサンが、俺の下の名前を呼び捨てし始めた事。

 

 親しい人達から呼ばれるなら、別にどう呼んでくれても構わないが……その理由を聞いたら、3人揃って"呼びたくなったから呼んでるだけ"、と一点張り。

 詳しく聞こうとしても、のらりくらりとかわされてしまうから、早々に諦めた。この前世爺トリオめ。

 

 

 その後。夕飯を食べ終えた俺は、バックの中からラッピングされたプレゼントを取り出し、承太郎に渡す。

 

 

「遅くなって悪い。誕生日おめでとう」

 

「おう、ありがとな。……開けていいか?」

 

「どうぞどうぞ」

 

 

 承太郎が丁寧に包みを開ける手元を、他の主人公ズとディオがじっと見つめる。……大した物じゃないから、そんなに見られても困るんだが。

 

 

「おォ?――フォトフレームか!」

 

「色もデザインも海がテーマ……承太郎さんに似合いますね」

 

 

 俺がプレゼントしたのは、縦向きのフォトフレームだ。フレームの色は水色で、イルカやヒトデなどの海洋生物がデザインされている。

 まだ写真が無いから、中身が寂しい。……実は1枚、ある写真を現像してここに持って来ている。

 

 承太郎に渡すプレゼントを探しに出た時。雑貨屋でこのフォトフレームを見て、ある光景が目に浮かんだ。

 フォトフレームを買った後にその光景が見られる場所に行ったら、ちょうど天気が良くて、より一層綺麗に見えて……思わず写真に収めた。

 

 それを、親友にも見てもらいたい。

 

 

「承太郎。それを今全部開けて、もう1回俺に渡してくれないか?」

 

「それは構わねーが、何をするんだ?」

 

「すぐに分かる」

 

 

 全部開けてもらったフォトフレームを受け取り、承太郎達に背を向けて、前もって現像しておいた写真を嵌め込む。……思った通り、綺麗だ。それを裏返して、承太郎に返す。

 

 

「ほら、ひっくり返してみろ」

 

 

 俺に言われた通り、フォトフレームをひっくり返し……その写真を見た承太郎は息を呑み、大きく目を見開いた。

 

 

「――グレート!綺麗な夕陽っスね!」

 

「夕陽と海……これ、何処の写真?本当に綺麗!」

 

「フォトフレームも海がテーマだし、写真とぴったりだ。……額縁に入れられた風景画みたいだね」

 

「良い写真じゃないか」

 

 

 水色のフォトフレームとの補色で、夕陽のオレンジ色が良く映える。それが海に反射している様子は、まるで一本の道のよう。

 その道は、写真の一番下に映っている階段まで伸びているように見えた。

 

 

「…………志人。この場所は――」

 

「――そう。お前が連れて行ってくれた、あの場所だ」

 

 

 承太郎が、前世の事も何もかも忘れたくなった時に訪れるという、あの海辺の写真。

 

 

「このフォトフレームを見つけた時に、あの場所の夕陽を思い出してさ。これに入れたら似合うかもしれないって思った」

 

「…………」

 

「で。それを買った後に行って……あまりにも景色が綺麗だったから、思わずスマホで1枚撮った。

 現像してそれに嵌めたらもっと綺麗に見えるだろうと、そう思って。……あ、もちろん俺が勝手にそう思っただけだから、それはもう外してもいいぜ」

 

「いや、このままが良い。……志人」

 

「ん?」

 

「――俺は、お前とあの場所に行って以来。あそこに行きたいと思う事が無くなった。……今この写真を見て、久々に思い出したぐらいだ」

 

 

 今度は俺の方が驚いた。それって、つまり。そういう事(・・・・・)だよな?

 

 

 昔の自分よりも、今の自分を見て欲しい。……そんな願い。あの日、俺に打ち明けるまでは1人で抱え込んでいた、複雑な感情。

 それを考えるあまり、心が疲れて、辛い思いをして。……昔の事も、何もかも、忘れたくなってしまう時がある。

 

 そんな時、承太郎はあの海辺に夕陽を見に行く。そうすれば多少は心が軽くなるから、と。

 だが、こいつはあの場所に行きたいと思う事が無くなったという。それどころか、写真を見て久々に思い出したらしい。

 

 

 それは――今の承太郎が辛い思いをしていないという、何よりの証拠だ。

 

 

「……もう、大丈夫なのか?」

 

「ああ。……少なくとも今は、あの事を気にしなくなった。そうなるぐらいに、お前らと馬鹿やったりする日常が楽しい」

 

「そうか……良かった。承太郎が辛い思いをしていないなら、それで良い」

 

「……ああ。――ありがとう。今日一番の、最高のプレゼントだ」

 

「――――」

 

 

 なるほど――お前の満面の笑みは周りの時を止めるのか、とか。

 時止めを使えるスタンド使いは全員(といっても2人だけ)笑顔のみで時止め可能なのか、とか。他人事のようにそう思った。

 

 ……俺達が一切動けなくなった事に気づいたのか、笑顔を引っ込めて訝しげに首を傾げる。

 

 

「……何だ?どうかしたか?」

 

「――っ、どうかしたかじゃねェェッ!!」

 

「何スか今の何スか今の何スか!?今の顔!!」

 

「父さんもう1回!もう1回見せろよ!!」

 

Fratello(兄さん)!連写するのでもう1回お願いします!」

 

 

 

 

「……ン?志人、それは?」

 

「そろそろ来そうなので、準備を……」

 

「あ、僕にもちょうだい。ディオも付けた方が良いよ」

 

「……分かった」

 

 

 ジョナサンとディオに、バックの中から取り出した耳栓を渡す。3人揃ってそれを付けて、さらにその上から手で耳を塞いだ。

 

 

「――――喧しいッ!!」

 

 

 まぁ、そうなるよな。

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

空条承太郎の友人は、親友に祝われる



・最初は承太郎視点。途中から男主視点。

・ご都合主義、捏造過多。キャラ崩壊。


 ――空条承太郎だって、親友のために最高に良い思い出を作ってやりたいと思うはず。




 

 

 

 

「――お前、誕生日はいつだ?」

 

 

 高1の頃。まだ前世の記憶を取り戻していなかったシドに、そう聞いた時があった。

 

 俺の問いに、シドはゆっくりと瞬きをして、にこりと笑う。それはどう見ても作り笑いで……あいつが、初めて俺を拒絶した瞬間だった。

 

 

「――今日かもしれないし、明日かもしれないね」

 

「…………はぁ?」

 

「まぁ、何でもいいじゃないか。……悪い。今ちょうど盛り上がってる場面だから、読むのに集中していいか?」

 

「……ああ」

 

「ごめんね……ありがとう」

 

 

 そう言って、シドは再び本に集中する。……何も聞かないでくれ、という意思表示だろう。その気持ちを考えて、それ以降は話題に出さないようにした。

 だが、誕生日がいつなのかは分かった。俺がそれを聞いた日の日付は、2月28日。そして"今日かもしれないし、明日かもしれない"という曖昧な言葉。

 

 つまり――閏年の、2月29日。……それが、シドが生まれた日だ。

 

 去年は閏年ではなかった。だから2月29日も無かった。それが、"今日かもしれないし、明日かもしれない"という言葉の意味。

 2月28日か3月1日が、誕生日の代わりだと言いたかったのだろう。

 

 しかし何故、普通に答えようとしなかったんだ?それを答えたくなかった理由は、何だ?

 

 

 ……その疑問が解決したのは、今世のシドの過去を聞いた後だった。

 

 

「…………高1の頃。俺の誕生日はいつかって聞いてきた時があったよな?」

 

「……"今日かもしれないし、明日かもしれない"。その言葉の意味は、2月29日が誕生日だという事だな?」

 

「はは、やっぱり気づいたか。そりゃ、お前なら気づくよなぁ」

 

「……あの日。シドが正直に答えようとしなかった理由は、お前の過去と何か関係があるのか?」

 

 

 俺がそう聞くと、シドは小さく頷いた。

 

 

「……父親のせいで、俺も母さんも自分達の誕生日を盛大に祝う事ができなかったんだ。

 金は全部父親が管理してたから、俺達に与えられたのは必要最低限の金だけ……俺がバイトを始めるまでは、その金で生活するのに精一杯で、誕生日を祝う事なんてできなかった」

 

「…………」

 

「まぁ。その後に俺が稼いだ金は、父親から逃げる計画のために全部貯金してたし、父親と学校の教師にバイトしてる事を隠すのに神経使ってたから、そもそも誕生日を祝う余裕も無かったんだよな。

 そして余裕が無かったのは、母さんも同じだ。俺の分まで父親からの暴力に耐えていたし、仕事もしてた。……自分の誕生日がかなり過ぎた後にそれを思い出すのが、当たり前になった。

 

 でも……中3の時に突然、母さんが父親の目を盗んで、俺の誕生日を祝ってくれて――」

 

 

 その日。バイトから帰って来たシドに、サプライズで誕生日を祝ってくれたそうだ。

 正直に言って質素な誕生日パーティーだったが、ちょうど閏年で、記憶にある限りでは初めての誕生日パーティーだったから、それはもう喜んだという。

 

 

 しかし――母親は、その数週間後の卒業式の翌日に、首を吊って自殺している。

 

 

「母さんはきっと、死ぬ前に一度だけ、息子の誕生日を祝ってやりたかったんだ。俺に、喜んでもらいたかったんだろう。

 

 ――そんな事よりも、生きていてくれた方が、嬉しかったのにな……」

 

「――――」

 

「誕生日の祝いなんていらねぇから、ただ……ただ、母さんに生きていて欲しかった。高1の時に、お前の問いに答えなかったのは、これが理由だ。

 誕生日が近づくと、どうしても母さんの事を思い出して、辛くなる。だから忘れようとしたんだが……あの日。お前がちょうど28日にそれを聞いてきたから、思い出してしまった。

 

 あの拒絶は、聞かれたくない事を聞かれた俺が、承太郎に八つ当たりしてしまった結果なんだ。……本当に、悪かった」

 

 

 ……その全てを聞いた俺は、決意した。

 

 

(来年は、こいつの誕生日を盛大に祝う!)

 

 

 ジョースター邸にいる家族も全員巻き込んで、シドの誕生日パーティーを開くのだ。

 金が足りなくて誕生日を祝えなかった?そもそも祝う余裕が無かった?初めて母親が祝ってくれた誕生日も、良い思い出が無い?

 

 

 ――上等じゃねえか。シドが何と言おうが、絶対に、祝ってやるぜ。……最高に良い思い出にしてやるよ!

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 その日は休日で、バイトは午前中のみ。ジョースター家からは例の如く、夕食を食べに来いと誘われたので、夜はそっちに行く予定だ。

 午前中のバイトが終わり、午後からは家でのんびり本を読んでいた。……ちょうど一冊読み終わった時点で、既に夕方。

 

 

(――あ、そうだ)

 

 

 早めにジョースター邸に行って、夕飯を作る手伝いをしよう。とりあえず女性陣の誰か……そうだな、徐倫の携帯に電話掛けて確認してみるか。

 

 

「……も、もしもし」

 

「徐倫ちゃん、今話しても大丈夫か?」

 

「ええ、大丈夫。どうかしたの?」

 

「良かったら、そっちに早めに行って夕飯作るの手伝おうかと思って電話したんだが、」

 

「えっ」

 

「んん?」

 

「ああ、いえ!何でもない。……人手は足りてるから、志人さんは家でゆっくりしてて良いわ」

 

「本当か?いつも忙しそうなのに?」

 

「だ、大丈夫よ!こっちが呼ぶまで待ってて。ね?」

 

「いや、だが……」

 

 

 何もしないで待ってるだけ、というのは申し訳ないからな……こっちは定期的に夕食食べさせてもらってる身だし。

 

 

「……あ、ちょ、父さん!?」

 

「……シド。ちょっといいか?」

 

 

 あれ、承太郎もその場にいたのか。

 

 

「何だ?承太郎」

 

「時間があるなら、ちょうど相談したい事があってな……お前の家に行ってもいいか?」

 

「相談?……そっちの料理の手伝いはしなくても大丈夫なのか?」

 

「ああ。今日は本当に人手が足りてるらしいぜ」

 

「そうか……分かった。待ってる」

 

「ん、ありがとな。今からそっちに行く」

 

 

 そこで電話が切れたので、承太郎が来る前に何か飲み物でも用意しようと立ち上がった。……相談って何だろうな?声音からして、深刻な悩みでは無さそうだったが。

 

 

 しばらくして、自宅にやって来た承太郎を招き入れ、2人でテーブルを挟んで座る。イージスに防音バリアを張ってもらい、本題へ。

 

 

「それで、相談ってのは?」

 

「……ジョルノは医者。シドは図書館司書」

 

「ん?」

 

「じゃあ、俺は?……そう考えた時に思い浮かべたのは、やはり海洋学者でな」

 

 

 なるほど、今世の将来の話か。

 

 

「……だが。本当にそれでいいのか、と。少し迷っている」

 

「というと?」

 

「昔と全く同じ道に進んでいいものか……それを、迷っているんだ。といっても、それ以外の別の道は何も浮かんでいないんだが」

 

「ふーん……」

 

「……そもそも、承太郎って前世では具体的にどんな事をやってたの?」

 

「あ、そうそう。それは俺も知りたい。海洋学者で、ヒトデの研究してたって話はちょっと聞いたけどさ。他にはどんな事やってたんだ?」

 

 

 イージスの問いに乗っかって、俺もそう聞いてみた。イージスは俺と前々世の記憶を共有しているから、原作の事も知っている。

 だが。ヒトデの研究で博士号を取った事以外、詳しい描写が何も無いため、それ以外では何をしていたのかが分からない。

 

 

「主な専門は海洋生物学だった。ヒトデの研究を中心にやっていたが、イルカやクジラやシャチ、それからサメ……その他諸々の海洋生物の研究をした事もある」

 

「へー……って、それだけ?」

 

「それだけしか、できなかった。……40過ぎたばかりの頃に死んだからな。それに、財団からの依頼を受ける事もあったし」

 

「あっ、そうか……」

 

 

 それもそうだよな。本格的に海洋生物の研究を始めたのが、おそらく20代半ばから後半だとして……40代で死ぬまでの間は、20年にも満たない。

 その間。4部の杜王町の事件に関わって、他にも財団からの依頼を受けて……それ以外の時間で研究をしていたとしても、そこまで長い時間を掛けられなかったはず。

 

 

「……だったら、昔と全く同じ道、にはならないんじゃねぇか?」

 

「……どういう事だ?」

 

「それを説明する前に。……自分で"それだけしかできなかった"って言っただろ?何故、できなかった事をそのまま放置しようとする?」

 

「!」

 

「お前、実はその事が少し心残りになってんじゃねぇか?ジョルノが前世でいろいろ中途半端のまま転生して、それが未練だと言っていたように」

 

 

 はっと顔を上げた承太郎に続けてそう言うと、こいつは目を見開いて、それから少し考える。

 

 

「…………どうやら、そうみたいだな。別の道を考える事ができなかったのは、おそらくその心残りのせいだろう」

 

「って、自覚無かったのかよ」

 

 

 だが、そういう事なら問題は早めに解決しそうだ。

 

 

「で、さっき言ってた"昔と全く同じ道"にはならないとは、どういう事だ?」

 

「あぁ……要は、俺がジョルノに言った事と同じだ。前世の未練が気になるなら、今世でそれを果たせばいいって事」

 

「……前世ではできなかった研究をやれ、と?だが、それにしたって同じ海洋学者の道だ」

 

「海洋学って言っても、細かく分けたら生物関係以外にも何か別の物があるはずだろ?海水そのものを研究したり、海底の何かを研究したり」

 

「海洋物理学や海洋化学に、海洋地質学か」

 

「正式名称は知らないが、まぁそんな感じで海洋学にもいろいろある訳だ。だから、やろうと思えば全く同じ道にはならない。

 それに。同じ海洋生物学をやるとしても、主な研究内容をガラッと変えたらその時点で別の道だと言える。……少なくとも、俺はそう思うぜ」

 

「……お前は、そう思うのか。俺が前世と同じ海洋学者になったとしても」

 

「同じなのは表面上……肩書きだけだろ?実際にやってる事が前世と違うなら、それは別の道に進んでるって事だ。

 

 そう思うのはきっと俺だけじゃない。旧図書館組の面子は確実にそうだろうな。あの3人は外面だけでなく、中身もちゃんと見てくれる。

 何故なら。お前と同じく、前世ではなく今世の自分を見て欲しいと考えているから。……彼らならきっと、何も言わなくても分かってくれるだろう」

 

 

 極端に前世だけを見る奴なら、今世も同じ道に進んだと勘違いするかもしれない。だが、勝手に勘違いしている奴は放置すればいい。

 大事なのは、前世とは違う道に進んでいるのだと、承太郎自身がちゃんと認識する事だ。

 

 

「……そう、だな。……とりあえず、お前やジョルノ達が分かってくれるなら、それで良いか」

 

 

 1つ頷いた承太郎は、きりっとした表情で俺を見る。どうやら、今世で進む道を決めたようだ。

 

 

「まずは、何処かの大学の海洋学部入学を目指す。そこで勉強し直して、海洋生物学以外に興味を持つ分野を見つけたらそっちに進み、見つからなかったらまた海洋生物学を専門にする。……そして、前世とは違う研究をしようと思う」

 

「おう、いいじゃねぇか。それで行けばいい。――前世で散々責任押し付けられた分、今世ではそんな事気にせず、思い切り好きな事をやれよ。……承太郎には、それが許されるはずだ」

 

 

 お前は今世で存分に幸せになればいいんだよ、と。俺は笑う。

 

 

「つーか、それを許さねぇ奴がいたら俺がそいつのところに殴り込みに行く。ジョルノとジョナサンとディオさんに言えば絶対に協力してくれるはずだから、4人で行ってやる」

 

「わあ、過剰戦力……相手が可哀想になるね」

 

「何だよ。イージスは反対か?」

 

「まさか!承太郎のためなら殴り込み大賛成!」

 

「だよなぁ。やっぱりお前は俺だわ」

 

 

 我ながら最強の布陣だと思って、イージスと頷き合っていたら、承太郎が突然大笑いし出した。え?何か笑える要素あったか?

 

 

「く、はははっ!はは……っ!!そうか。俺は、自分の好きな事をやっていいのか!」

 

「いいんだよ。俺達が許す!」

 

「くくく……!よーし、分かった。――頼りにしてるぜ?親友」

 

「任せとけ、親友」

 

 

 ……しかし、そうか。大学……こいつなら、レベル高いところに行くだろうな。進む道も俺とは違うし――

 

 

(――承太郎と一緒に学生生活ができるのは、あと1年だけか……)

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 相談事が解決したところで、承太郎の携帯に電話があった。……夕食の準備が出来たらしい。承太郎と共に家を出て、ジョースター邸に向かった。

 

 

「……にしてもお前、本当に忘れてるんだな」

 

「あ?何が?」

 

「いや……気にするな。いずれ分かる」

 

 

 ジョースター邸に到着すると、ジョルノが出迎えてくれた。

 

 

「おかえりなさい、Fratelli(兄さん達)。さぁ、志人さんは先に中へどうぞ」

 

「えっ?な、何だ何だ?」

 

「まぁまぁ、そのまま進んでください」

 

 

 ジョルノにぐいぐいと背中を押され、リビングに続く扉の前へ。言われるがままに扉を開けると――立て続けに、破裂音が聞こえた。

 

 

「っ!?何――」

 

「――ハッピィバースデェェッ!!」

 

「志人さん、誕生日おめでとうございまーす!!」

 

 

 ジョセフと仗助のそんな声を始めとして、ジョースター家の皆が次々と祝いの言葉を口にする。

 

 

「なっ、え、……あ、今日28日……!?」

 

「そう。お前の誕生日……の、代わりの日だ」

 

「今年が閏年では無い事が残念ですが、お祝いはしなければ」

 

 

 振り返ると、承太郎とジョルノが小さく笑っている。……そうか。承太郎が彼らに教えたんだな?

 

 

「……承太郎。悪いが、俺は、」

 

「ほら、進め進め。今日の夕飯は豪華だぜ」

 

「後でケーキもありますから」

 

「待てっ、おい!?」

 

 

 ジョルノに手を引かれ、承太郎に背中を押され、仕方なく料理が並べられた席へ向かう。……確かに豪華だ。それも、ほとんどが俺の好物。

 

 周りを見れば、リビングの派手な飾り付けが目に入った。

 

 壁には"Happy Birthday"という文字のアルミバルーンと、ウォールステッカーが貼られている。

 ペーパーフラッグのガーランドが壁から壁に掛けられ、ペーパーフラワーが天井から吊るしてあったり、至るところでカラフルなゴム風船が浮いていた。

 

 

 何じゃこりゃ。承太郎の誕生日の時も飾り付けはあったが、こんなに派手じゃなかったぞ!?

 

 

「ククッ!いい顔をしてくれるなァ、志人」

 

「サプライズ大成功だね!」

 

 

 ディオとジョナサンが笑ってそう言った。……サプライズ?

 

 

「って事は、さっき承太郎が俺の家に来たのは時間稼ぎか?」

 

「まぁな。だが、相談したいと言ったのは本心だぜ。おかげで悩みは解決した。……騙した事は謝る。悪かったな」

 

「いや、それは気にしてないけど……俺は誕生日に良い思い出が無い。その事は話したはずだろ?」

 

「ああ。だからこそ、シドのために誕生日パーティーを開いてるんだ。――お前にとっての誕生日を、最高に良い思い出にするためにな」

 

 

 ニヤリと笑う承太郎に唖然としていると、ジョージさんが飲み物を持って立ち上がった。

 

 

「それでは、志人くんの18歳の誕生日を祝って――乾杯!」

 

 

 それからは、全員で飲んで食べての大騒ぎだ。数多くの料理も、10人以上で楽しく会話しながら食べればすぐに無くなる。

 

 夕食後に出て来たのは、18本の蝋燭が立てられた、かなり大きなホールケーキ。それも、ジョースター家全員の手拍子と歌付き。

 待ってくれ、イケボやら癒しボイスやらが混ざってとんでもない事になってるって!!何だこの高級感溢れるバースデーソングは!?

 

 

「志人さん、早く火を消して!ほら、"フーッ"って!」

 

「思い切りっスよ!」

 

「遠慮せずに、さあどうぞ!」

 

「…………はいはい、分かったよ……」

 

 

 年下組3人の言葉に呆れて笑い、火を吹き消す。……全ての火が消え、皆が盛り上がる暗闇の中。泣きそうになっていた俺は、必死に涙を堪えた。

 

 

「そんじゃ、お待ちかねのプレゼントターイム!!まずは俺からだ!開けていいぜ!」

 

 

 ケーキを食べ終わると、ジョセフがそう言って小さな包みを俺に渡す。……その中身は、

 

 

「眼鏡ケース?しかもデニム生地……おしゃれで良いですね」

 

「そう!伊達眼鏡を外してる時は、良かったらこれを使ってくれ。これならバックに入れても嵩張らないだろうし、持ち歩きも楽だろ?」

 

「はい。……ジョセフ先輩、ありがとうございます。大事に使わせてもらいます」

 

 

 青いデニム生地がおしゃれで、持ち歩くのに便利。とても良い物だ。

 

 

「はいはい!次は俺っスよ!どうぞ、開けてください」

 

 

 次に渡されたのは、仗助のプレゼント。その中身は、黒地に青のラインが入ったウエスト・ポーチ。ポケットの数が多く、全てチャック付き。

 

 

「志人さんって普段うちに来る時、スマホとサイフを服のポケットに入れて来てるっスよね?それが何というか……言い方悪いっスけど、危なっかしく見えちゃって」

 

「あっ。あー、なるほど……ありがとな。これは助かる。色もデザインも好みだし、気に入った。次から使わせてもらうぜ」

 

「へへっ、良かった!」

 

 

 今まであまり気を使ってなかったが、確かに服のポケットに貴重品を入れて歩くのは、落としたり盗まれたりしやすいし、端から見ればかなり危なっかしいよな。

 照れ臭そうに笑う仗助の頭を軽く撫でてやれば、すっかりご機嫌だ。

 

 

 次は、徐倫からのプレゼント。

 

 

「いつもバイト頑張ってる志人さんが、家でリラックスできるように、それにしてみたんだけど……どう?」

 

「ビーズ・クッションのミニサイズか……四角い形のなんてあったんだな」

 

「丸っぽいやつだと、男の人が使うのは抵抗があるかもと思って」

 

「確かにな……うん。これ結構良いぜ。触り心地も良いし、疲れも飛ぶかもな。ありがとう、徐倫ちゃん」

 

「ふふ、どういたし、……まし、て」

 

「あ」

 

 

 思わず仗助とかジョルノにやるノリで、女の子の頭を撫でてしまった!

 

 

「わ、悪い!つい、妹みたいな感覚で――」

 

「っ!!」

 

「あれ、徐倫ちゃん……?」

 

 

 徐倫は俺に背を向けて駆け出し、側にいた承太郎の背の後ろに隠れる。

 

 

「…………すまん。さすがに嫌だっ、」

 

「嫌じゃねえよッ!!」

 

「え?」

 

「心配するな、シド。……この子はお前に妹と呼ばれて照れただけ、」

 

「うるせえクソ親父!!」

 

「えっと……?」

 

「ふふ、ふは……っ!ま、まぁまぁ志人。徐倫の事は、今はそっとしておいて。はい、これ。開けていいよ」

 

 

 ジョナサンが笑いを堪えながらプレゼントを渡して来たので、とりあえずその包みを開ける。

 

 

「革製のブックカバー……!」

 

「もしかしたら、既に他の誰かからもらってるかもしれないけど、本が大好きな志人なら、いくつあっても困らないだろう?革製なら本が型崩れしにくいし……良かったら、使ってみて」

 

「ありがとうございます!」

 

 

 これは重宝決定だな。大事にしよう。……と、ジョナサンの横からひょっこりと顔を出したジョルノが、俺にプレゼントを渡す。小さな包みを開けて、中をみると……

 

 

「置時計?……フレームが木製か。これも良いな」

 

「以前。志人さんの家にお邪魔した時に、時計がない事に気づいたので、それを選びました」

 

 

 あー、そうそう。時間ならスマホを見ればいいと思って、時計は買わなかったんだよな……よく気づいたな、ジョルノ。

 

 

「ありがとう、ジョルノ。大事にする」

 

 

 そう言って頭を撫でると、無意識なのか何なのか。俺の手に頭をすり寄せて来た。猫ちゃんかな?

 

 

「ほら、次は私からだ。開けてみろ」

 

 

 ジョルノの次は、ディオだ。この人は基本センスが良い。何が入っているか、楽しみだな。

 ドキドキしながら中身を見ると……意外な事に、シンプルなステンレス製のマグカップだった。ただし、側面に英語の筆記体でメッセージが記されている。

 

 

「それは二重構造でな。保温も保冷もできる。そして、側面のメッセージだが……読めるか?」

 

「May all your dreams and wishes come true――あなたの夢と願いが、全て叶いますように……?」

 

「正解だ。……文面ではただの願いだが、それは激励の意味を籠めている。貴様の夢も、願いも。全て自分の手で叶えてみせろ」

 

「……はい。必ず、叶えてみせます」

 

 

 ディオの目を真っ直ぐに見つめて、そう宣言した。俺は必ず、承太郎が言ったような最高の図書館司書になってやる。

 

 

「ふっ……いいだろう。励め」

 

 

 彼は満足げに笑って、俺の頭を撫でてから離れていく。……そんなディオと入れ替わるように、承太郎がやって来た。

 無言で渡されたのは、四角い、厚みのある包み。……承太郎の顔を見ると頷いたので、さっそく開けてみる。

 

 

「……スクラップブックか?これ」

 

「ただのスクラップブックじゃねえよ。中身を見ろ」

 

 

 リングタイプのページをめくってみると……それの正体が分かった。

 

 

「――アルバム……」

 

「そう……沖縄旅行から、最近までの写真が貼られている。うちの家族や高校に通ってる奴らから写真のデータをもらって、現像してそこに貼った」

 

「…………」

 

 

 別荘にいる時の写真。プライベートビーチでの写真。美ら海水族館や琉球村、国際通りの写真。

 夏休み中に承太郎達と遊んだ時の写真、学校の屋上で仲間達皆と撮った写真。ブックフェスの時や、クリスマスパーティーの時の写真。

 

 他にも、たくさんの写真が――思い出が詰まっている。

 

 

「……ふふ、……はははっ!」

 

「シド……?」

 

「何だ、これ……最高じゃねぇか」

 

 

 耐えきったと思った涙が、また溢れそうになる。

 

 

「ジョースター家と一緒の写真が、多いな」

 

「……そうだな。うちの連中が、お前が映っている写真をたくさん持ってたから。……それがどうかしたか?」

 

「いや……大した事じゃ、ない。ただ、」

 

 

 嗚呼、駄目だ。勝手に涙が落ちた。せめて……笑おう。悲しくて泣いてる訳じゃないのだと、皆に分かってもらえるように。

 

 

「俺が――まるで、お前らの本当の家族みたいだなって、そう、思って……」

 

「――――」

 

 

 視界が滲んで、今のお前の顔がよく見えないけど。それでも精一杯、笑ってやる。

 

 

「――ありがとう、承太郎。今日一番の、最高のプレゼントだ……!」

 

 

 また涙が落ちて、視界がクリアになった瞬間。横合いから誰かが俺を強く抱き締めて来た。

 

 

「まるで、じゃねェよ!!お前はもううちの子だろうがァッ!!」

 

「じょ、ジョセフ先輩……!?」

 

 

 おいおい泣きながら抱き締めて来たのは、ジョセフだった。ちょ、待って。締まる締まる。

 

 

「う"う"う"!志人さぁぁん!!俺、志人さんの弟になるっスゥゥ!!」

 

「あたしが妹になる!!」

 

「俺がお兄ちゃんになってやるからなァァ!!」

 

 

 仗助と徐倫まで泣きながら抱き着いて来たから、既にぎゅうぎゅう詰めだ。息苦しい。

 

 

 ついにはホリィさん達大人組まで集まって来て、俺はもみくちゃにされた。

 承太郎達、旧図書館組の面子やイージスが救出してくれなかったら、窒息して危なかったかもしれない。

 

 

「ちょっと皆!うちの子を殺す気か!?」

 

「この愚か者共がァッ!!」

 

「感極まったからってやって良い事と悪い事の区別ぐらいつかないんですか馬鹿ですね!!」

 

「全員揃ってオラオラの刑にしてやろうか」

 

「すみませんでしたァッ!!」

 

「反省してるっス」

 

「ごめんなさい……」

 

「志人、生きてる?大丈夫!?」

 

「むり」

 

「しっかりして本体!!」

 

 

 

 

 

 






※誕生日当日、サプライズ準備中(キャラ崩壊あり)

「こっちの風船はこんなもんかァ?……そっちはどうだ?」

「あともう少しですね。これが終わったら次はガーランドを取り付けて、ペーパーフラワーも天井から吊るして……」

「あはは、やる事がたくさんだね。大変だ……」

「その準備が楽しいんじゃないスか!」

「……それもそうか。志人が喜んでくれるといいね」

「ふっ……あの子の驚いた顔が目に浮かぶな」

「おい。お袋達の料理とケーキの準備も、もう少しで終わるらしいぜ」

「おォ、それは朗報!じゃあこっちも早く終わらせ……ん?誰か、携帯鳴ってないか?」

「あ、ごめん、あたしだわ――って!?」

「徐倫?どうかしたか?」

「ゆっ、志人さんから電話来たァ!!」

「何ィッ!?」

「全員静かに!……徐倫、出ろ」

「分かった。……も、もしもし?……ええ、大丈夫。どうかしたの?……えっ……ああ、いえ!何でもない。……人手は足りてるから、志人さんは家でゆっくりしてて良いわ。……だ、大丈夫よ!こっちが呼ぶまで待ってて。ね?」
 
 
 
 
「……あァ、いつものお人好しな性格から来る行動だな?なるほど理解。……志人ちゃん優し過ぎィ」

「最近は他人に対してお人好しになる事は減ったはずなんスけど……」

「一度気を許した相手に対しては、変わらずお人好しのままですからね」

「でも、このままだと本当に来てしまいそうだよ?どうする?」

「ふむ……承太郎。お前の言う事なら、志人も素直に聞き入れるんじゃないか?」

「……ちょうど、足止めする方法を思い付いたところだ。行って来る」

「ああ、頼んだ」
 
 
 
 
「徐倫、携帯貸せ」

「あ、ちょ、父さん!?」

「シド。ちょっといいか?……時間があるなら、ちょうど相談したい事があってな……お前の家に行ってもいいか?……ああ。今日は本当に人手が足りてるらしいぜ。……ん、ありがとな。今からそっちに行く」

「……何とかなった?」

「おう。こっちを怪しんでいる様子は無かった。……あとは俺が時間稼ぎしてやるから、お前らで早く終わらせろよ」

「了解っス!」

「さァ急げ急げ!この際スタンドも使って超特急で準備終わらせるぞォ!!」

「最初からそうすれば良かったわ……」

「準備に必死になり過ぎて忘れてました」

「…………僕、スタンド無いんだけど」

「貴様はそもそも波紋以外では自分の肉体が武器だろうが。地道にやれ」

「はーい……」
 
 


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

園原志人誘拐事件
空条承太郎の友人の、墓参り




・男主視点。

・ご都合主義、捏造過多。

・念のため。not腐向けです!


 ――空条承太郎だって、親友の墓参りにはついて来てくれるはず。




 

 

 

 

 3月中旬の、ある日の放課後。承太郎とジョルノと共に電車に乗って、とある駅で下車。そこで、先に来て待っていたジョナサン、ディオと合流。

 緊張で、手足が冷たくなるのが分かった。……大丈夫。今の俺なら、きっと。

 

 

「……おい、シド」

 

「あまり無理をしないでください。顔色が悪いですよ?」

 

 

 両脇にいた承太郎とジョルノに心配され、先に歩き出していたジョナサンとディオも立ち止まり、こちらに振り向く。そんな彼らに対して、首を横に振った。

 

 

「確かに、自信を持って大丈夫だとは言えない。だが……承太郎達が一緒にいてくれたら、なんとかなるだろ。今の俺なら、いける」

 

「……分かった。行こう」

 

「本当に無理だと思ったら、すぐに言ってください」

 

「あぁ」

 

 

 陰が掛かっている駅構内から、光が差す方へ向かう。……外に出た俺が目にしたのは――およそ2年ぶりの、地元の風景だった。

 

 

「――っ、!」

 

 

 嫌な記憶が、甦る。……父親の怒鳴り声。母親が暴力を振るわれている姿。その後の悲鳴。隠れて震える事しかできなかった自分。

 

 首を吊った、母親の体が揺れて――

 

 

「――志人」

 

「!!」

 

「ほら、これ見ろよ」

 

 

 親友の、声。落ち着いた低音を聞いて我に返り、承太郎が持つスマホの画面に目を落とす。

 

 

「……っ、ふ、おい承太郎、貴様……!何故今それを流す!?」

 

「――ぶふっ!?沖縄でジョセフが襲撃された時の動画じゃないか……!!」

 

「あはっ、ははははっ!!」

 

 

 3人の笑い声が、遠くで聞こえている気がする。画面の中では、ジョースター家の皆が馬鹿をやっていて――ふっと、笑みが溢れた。

 

 

「……ククッ。なるほど、そういう事か。それなら……旅行の時に、ジョナサンが居眠りしている間抜け面の写真を撮ったんだが、」

 

「あっ!そういう事やる?じゃあ僕も遠慮なく……見て見て、初めてゴーヤチャンプルー食べた時のディオの笑える表情」

 

「おい!?そんな物、いつ撮った!?」

 

「じゃあ、僕はブックフェスの時の動画を」

 

「なら俺は、財団のクリスマスパーティーの時の写真でも……」

 

 

 あれもこれもと、俺の前に出て来る数多くの写真や動画。大切な思い出。……それを見ていたら自然と笑えて、嫌な記憶も薄れ、良い記憶で上書きされた。

 

 

「……もう大丈夫だ」

 

「いいのか?」

 

「あぁ……ありがとう、承太郎。助かった」

 

「おう」

 

 

 多分、俺の様子がおかしい事に気づいて、とりあえず笑わせようとしてくれたんだろうな。おかげで元気になれた。

 

 

「……志人。本当に、大丈夫かい?」

 

「はい、大丈夫ですよ。ジョナサン。……じゃあ、行きましょうか。少し歩きますけど――俺の母と祖母の墓は、この先です」

 

 

 今日は、母さんの命日だ。

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 数日前。旧図書館組のグループで、俺の母親の命日が近いから、良かったら一緒に墓参りについて来てくれないか、と。皆を誘った。

 承太郎達は二つ返事で了承してくれて、当日の放課後、墓地がある教会の最寄り駅で待ち合わせする事に。

 

 親友だけでなく、趣味を通じて仲良くなった弟分や……兄のような人達の事を、母さんと婆ちゃんに紹介したい。

 そのうち、他のジョースター家の人達も紹介できるといいな。さすがに人数が多過ぎるから、日を分けて数人ずつ案内するか。

 

 

「……ここ、か」

 

「綺麗な教会だね」

 

「いや……俺が知ってる外観は、もっと汚れてたはず…………あっ。ネットには去年改装したって書いてあります」

 

 

 教会に到着し、記憶とは違う外観に驚く。ネットでホームページを見たら、改装されていた事が分かった。

 最後にここに来たのは、2年以上前。母と共に祖母の墓参りに来た時だ。

 

 父親が母の葬式や、遺品を売り払う手続きに掛かりきりになっている間に逃げ出したから、母の葬式には参加する事ができなかった。

 

 

 教会の裏手に回り、母と祖母が眠る墓の前に来た。

 

 キリスト教では通常、1人につき1つの墓地に土葬されるのが主流だが、それはキリスト教の文化が根付いており、土地が広い外国だからこそできる事。

 

 日本では土地が狭いため、幅を取ってしまう土葬よりも火葬の方が主流だ。

 日本のキリスト教徒も、基本的にそれに合わせて火葬されるため、1つの墓地に複数の人が入ったり、親族との関係で仏式の墓に入る場合もあるとか。

 

 俺の母と祖母も、同じ墓で眠っている。……2年以上来ていなかったせいで、墓は大分汚れていた。

 

 

「……すみません。墓参りについて来てもらった上に、掃除まで手伝ってもらって……」

 

「構わん。我々は自分の意思でやっている」

 

「こっちは好きでやってるんだ。気にすんな」

 

 

 最初は俺1人でやるつもりだったのだが、いつの間にか5人で掃除する事になっていた。ファンクラブの奴らが知ったら卒倒しそう……学校の近くじゃなくて良かった。

 

 

「……よし。これで終わりかな?」

 

「綺麗になりましたね。……さあ、志人さん」

 

「……俺達は待ってるから、好きなだけ話せばいい」

 

「ありがとう。……母さんからは、婆ちゃんが昔は面食いだったって話を聞いた。美形が揃って掃除してくれたから、喜んでるかもな?」

 

「ふっ……冗談を言えるぐらいには、調子が戻ったか」

 

「おかげ様で」

 

 

 承太郎に笑ってそう言うと、優しく背中を押されたので、墓の前に跪く。……花を供え、ロザリオを取り出し、母と祖母に祈りを捧げる。

 

 

「2年掛かっちまったけど――久しぶり。……話したい事が、たくさんあるんだ」

 

 

 父親から逃げ出した後の事。その後の暮らしに、親友との出会い。彼を通じて出会った、前世を持つ仲間達の事。

 前世の事まで話すかどうかは迷ったが、前々世の事だけは自分の墓場まで持っていけばいいと考え、思い切って話す事にする。

 

 それから、俺を捕まえに来た父親の話。……承太郎達に助けられ、財団の人間が父親と話をつけてくれたおかげで、もう何も心配はいらないのだと、そう伝えた。

 

 そこまで話し終えたところで、後ろを見る。

 

 

「ディオさん!」

 

「ン……?」

 

 

 きょとんとした顔のディオを隣に呼び、母さん達に紹介する。

 

 

「さっき話した、ディオ・ジョースターさん。父親を追い払ってくれた人。この人のおかげで、トラウマが何処かにすっ飛んだ。

 

 ――それが無かったら、きっと。地元に来るだけで凄く怖くなって、ここに墓参りに来る事もできなかったかもしれない」

 

「!」

 

「だから、ディオさんには凄く感謝してる。……ジョナサン!」

 

「はーい」

 

 

 固まってしまったディオはさておき、次にジョナサンを呼んだ。

 彼はディオを小突いてニコニコしている。……からかわれて我に返ったディオが、ジョナサンの背中を叩いた。

 

 

「この人が、ジョナサン・ジョースターさん。ディオさんと仲が良い友人で、義兄弟。たまに毒舌を吐くけど、」

 

「こら、志人?」

 

「――誰かの心を本気で傷付けるような言葉は、絶対に使わない人。

 この人は誰よりも優しい。だからこそ、その場面で言っていい言葉と悪い言葉がある事をちゃんと知っている。そんな人なんだ」

 

「…………」

 

「……ほーう?」

 

 

 今度はディオの方がニヤニヤしながら、ジョナサンを見る。見られた方は目を逸らした。

 

 

「次、ジョルノ!」

 

「はい」

 

「彼がジョルノ・ジョースター。ディオさんの弟で、ジョナサンとも義兄弟。それからいろいろあって、この後に紹介する親友と俺の弟分になった奴。

 あと……実は俺、一度熱射病で死にかけた事があったんだけど、その時に将来医者になる事を目指しているジョルノに救われた。

 

 ――こいつは俺と親友の可愛い弟分で、俺の命の恩人なんだ」

 

 

 ジョルノの頭を撫でると、無邪気な笑顔が返ってきた。……さすがディオの弟。クリスマスパーティーの時にディオが見せた笑顔と、よく似ている。

 

 

「次……承太郎」

 

「おう」

 

「……空条承太郎。何度も話に出て来た、俺の親友」

 

 

 そして、母さんと婆ちゃんに一番紹介したかった奴。

 

 

「こいつとは、そもそも出会い方が面白くてさ。学校の廊下で大量の本を無理に運んでた俺が、女子生徒複数に追い掛けられて走って逃げてたこいつと激突して本全部落として、それをこいつが拾い集めてくれて……っていう、少女漫画みたいな話」

 

「おい、まだネタにする気か?」

 

「いいじゃん。一生笑えるネタだぜ。それに、お前に教えた推理小説のシリーズの中で、探偵役と助手役が大学の階段教室でナンパみたいな出会い方して、その後14年も友人関係が続いてるってやつがあっただろ?」

 

「……ああ、Absolutely(もちろん)か」

 

「ちょっ、その覚え方……!くふ、っ、と、とにかく!まるでその2人みたいな出会い方で、面白いなって話だ」

 

 

 前々世を思い出したばかりの頃、承太郎と旧図書館でやった悪ふざけを思い出してしまった。あれは笑ったなぁ。

 

 

「え、何ですか?その推理小説」

 

「そんなストーリー、聞いた事がないよ!」

 

「気になるから、後でそのシリーズを教えろ」

 

「はいはい。これが終わったら詳しく話しますから」

 

 

 気を取り直して、承太郎の話に戻す。

 

 

「承太郎は、この中で一番付き合いが長い奴なんだ。こいつのおかげで、ディオさん達とも出会えた。……承太郎が、俺にいろんな縁を運んでくれた」

 

 

 そう。全ての始まりはきっと、あの日承太郎と出会った事だ。

 

 

「本当はこいつの事で話したい事が山程あるんだけど、確実に長くなるし、また今度。……だから、今日は短めにまとめる」

 

 

 これを本人の前で言うのは正直、小恥ずかしい。でも母さん達に簡潔に伝えるとしたら、これしかない。

 

 

「母さんと婆ちゃんには悪いが、俺は神の事を信じていない。

 

 でも――承太郎との出会いという、これ以上無い幸運を俺に与えてくれた事だけは、神に感謝したいと思う」

 

「――――」

 

「……神を信じていないのにこんな言葉はおかしいだろうが、承太郎との出会いは俺がそう言う程に嬉しかった事で、っ、おい、何だよ!?」

 

「てめーは!もう!!黙ってろッ!!」

 

 

 承太郎が俺の頭を、両手で潰すような勢いでぐしゃぐしゃと撫で回す。

 ディオ達が大笑いする声が聞こえるが、無理やり頭を下げられている俺には見えない。首痛い、痛い痛い。

 

 

「じょ、たろ、っ、顔が、ふふ、顔……!!」

 

「耳まで真っ赤じゃないですか!!」

 

「クククッ、ハハハハハッ!!」

 

「お前らも黙れッ!!見世物じゃねえんだよ!!」

 

「っ、何でもいいから手を退けろ!こっちはまだ紹介したい奴が残ってるのに!!」

 

「あ"?……俺で最後だろ?」

 

「最後じゃねぇって!もう1人大事な奴がいる!」

 

 

 そう。大事な、俺の半身を紹介しないと。

 

 

「イージス!」

 

「え、何?」

 

「……ああ、そうか。確かに、そいつは大事な奴だな」

 

「亡くなった方々にはスタンドが見えるんでしょうか?」

 

「さぁな。見えるかどうか分からないが、紹介したいから紹介する」

 

 

 とりあえず、見えていると信じて紹介しよう。

 

 

「今、俺の後ろにいる白い鎧を着た奴が、イージス・ホワイト。さっきも少し話したけど、俺や承太郎達が持つスタンドっていう力……こいつは俺自身で、俺の大事な半身だ」

 

「……志人」

 

「初めて会った時から今まで、俺や承太郎達の事をずっと護って来てくれた」

 

「これからも、護るよ」

 

「あぁ、分かってるぜ。……俺が生まれた時から、イージスはずっと俺の中にいた。――俺は1人じゃなかった。イージスが側にいてくれたんだ」

 

「――――」

 

「イージスも、承太郎達も側にいてくれるから……もう、寂しくない。大丈夫」

 

 

 最後は、自分に言い聞かせるようにそう言って、今世の大事な仲間達の紹介を終えた。

 

 

「……それじゃあ、俺はそろそろ帰るぜ。母さん、婆ちゃん。絶対、また来るからな」

 

「おっと。帰る前に、ちょっといいですか?」

 

「ん?」

 

 

 そう言って、ジョルノが墓の周りにある芝生に手を付ける。

 

 

「志人さん。お母様とお祖母様が好きだった花は何か、分かりますか?」

 

「……そうだな。キリスト教では墓前に白い花を供えるのが一般的だから、白い花全般が好きで……いや、待った」

 

 

 そういえば、その中でも特に好きな花があるって、母さんが言っていたような――

 

 

「――思い出した。白いカーネーション!あれは婆ちゃんが好きな花で、母さんも好きだって言ってた。

 花言葉が"私の愛情は生きている"。そして……"亡くなった母に、生前の感謝を込めて贈る"という意味も持つ。だから母さんは、白い花の中でもそれが一番好きだ、と……」

 

「では、それにしましょう。――ゴールド・エクスペリエンス!」

 

 

 ――一瞬だった。……墓の周りが、白いカーネーションで埋め尽くされる。

 

 

 これは、前世でジョルノがやったやつか!亡くなったナランチャの遺体の周りに弔いの花を咲かせた、あの能力……!アニメだと、アバッキオの周りにも同じ事をやってたよな?

 

 イージスと顔を見合わせ、互いに笑顔になった。

 

 

「凄く、綺麗だ……!」

 

「ありがとう、ジョルノ!」

 

「ふふ、どういたしまして。喜んでもらえて何よりです」

 

「ほう?粋な計らいだな」

 

「これなら、志人のお母様とお祖母様も喜んでくれるよ、きっと!」

 

「……シド、写真撮ったぞ。送ってやろうか?」

 

「欲しい!現像して、お前からもらったアルバムに貼る!あれにはまだ余白があるし」

 

 

 思わぬサプライズのおかげで気分が晴れ、良い気分で帰路につく。……あの教会の神父達は後で驚くだろうけど、まぁ、いいか。

 おそらく、あの小さな事件の原因は不明、という事で片付けられるだろう。

 

 

 ようやく心残りだった墓参りに行く事ができた。承太郎達の事も紹介できたし、あとは高校生活最後の1年を過ごしながら、大学受験に集中するだけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――さて、この墓参りから数週後の春休み中。ありのまま、今起こった事を話そう。

 

 

(バイトが無い休日の今朝。買い物に向かうために自転車に股がろうとしたら、足元に洋風の扉が現れた)

 

 

 そして驚いた瞬間に扉が開き、自転車を置き去りにしてそこへ落下した。さらに、何処かの部屋の床に着地。

 

 ……な、何を言っているか分からねぇと思うが以下略!!

 

 

「イージス・ホワイト!バリア展開!!」

 

 

 咄嗟にイージスを呼び、自分の周りにバリアを張った。

 

 

「な、何!?志人、今一体何が起こったんだ!?」

 

「俺にも分からねぇ!ここは何処だ?」

 

「――くく……!我々のアジトの最上階だ」

 

「!?」

 

 

 声が聞こえた方へ振り向くと、部屋の暗がりから数名の男達が現れる。……そのうちの1人が、俺達に近づいて来た。

 ガラの悪い、外国人の男だった。髪は金髪で、目の色は赤。顔は整っているが、ニヤニヤと嗤う表情は醜悪だ。

 

 

「……園原志人。前世では東方仗助の知人。今世では前世を思い出す前から空条承太郎の友人にして、親友。

 SPW財団関係者の間ではジョースター家のお気に入り、または最強の盾などと呼ばれている」

 

「な、」

 

「スタンド名、イージス・ホワイト。能力は防御特化。前世ではスタンドを所持していなかったが、今世ではスタンド使いになったという、非常に珍しい例。

 また、スタンドとの完全同化という攻撃手段を持つが、同化以前よりも力は増すものの、元々のスタンドの攻撃力がほぼ皆無であるため、やはり決定打に欠ける。

 

 だがしかし、防御力に関しては最強の盾と呼ばれるに相応しい能力を持つ。

 空条承太郎と何度も模擬戦闘を行っているが、無敵のスタンドであるスタープラチナの拳でも未だに破れぬ程、そのバリアの強度は高い……」

 

「――――」

 

 

 ……馬鹿な。何故、そこまでの個人情報を知っている!?特に、スタンドとの完全同化については、財団関係者外部に漏れないよう、細心の注意が払われているはずなのに!

 

 

「……何者だ、てめぇ」

 

「くくく……っ!!知りたいか?ならば、教えてやろう。私の名は、トリスタン・ウッド」

 

 

 男……トリスタンは続けて、誇らしげにこう言った。

 

 

「――我が王……ディオ様の、忠実な僕だ。私はディオ様の命令(・・・・・・・)により、貴様を捕らえたのだよ。園原志人」

 

 

 

 

 

 

 






※ある女性達の会話

「――元気そうで良かったわねぇ。それに、カッコいいお友達が4人も一緒にいてくれて……」

「…………うん……」

「あらまぁ、何て顔してるの。泣くの我慢するぐらいなら泣いちゃいなさい」

「……う"う"……う"ぁ、ああ――っ!良かったぁ、志人……!!ごめんなさい、こんな、っ、こんなお母さんでごめんね……!!」

「あんたは良くやったわ。志人をあんな良い子に育てたんだもの」

「でも、……でも、わたし、あの子を1人にして勝手に死んじゃった……っ!あの時は志人1人でも大丈夫だと思っちゃったけど、うう、わたし、何て事を!!」

「……そうねぇ。あたしも最初は、何て馬鹿な事をしたんだと思ったよ。……でもね。志人はここに来れなくても、1年に2回は別の教会で、あたし達のために祈ってくれた。……あの子は、あんたの事を恨んでないの。分かるでしょう?」

「分かるよ、分かるわ!でも……!!」

「ほら、もううじうじ言うのは止めなさい。一度死んだら、後はどうしようもないの。今も懸命に生きてるあの子を、見守る事しかできないわ!いいわね?」

「……はい」

「よしよし。……それに、志人の側には良いお友達がたくさんいるみたいじゃない!特に、ほら。親友の承太郎くん?顔真っ赤にしてたのが体大きいくせして可愛いかったけど、あれは良い男ねぇ。あの子が信頼してるのがよく分かったわ」

「そう、ね。あと、す、すたんど?のイージスくん。出て来てからはずっと、志人に寄り添ってくれてた……」

「うんうん、あの子も良いねぇ。……他の3人の子達もいれば、志人はもう安心よ」

「うん……あの子達以外にも、たくさん友達がいるみたいね。……本当に、良かった」

「……ところで、あんたはあの子達の中で誰が一番カッコいいと思う?」

「えっ?」

「あたしはねぇ、志人の弟分だっていうあの子がいいね。絶対に将来有望よぉ!お墓の周りをあたし達の好きな花でいっぱいにしてくれたのもいいねぇ、カッコいいわぁ」

「……ふふ。もう、お母さんったら……」

※子、もしくは孫を見守っていた、とある母親と祖母



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

空条承太郎の友人の、最終手段



・前半、男主視点。後半、六車(オリキャラ)視点。

・オリキャラとオリジナルスタンドが登場します。今回、承太郎は登場しません。

・ご都合主義、捏造過多。今回から始まる園原誘拐編は特に注意。いろいろおかしな点があると思いますが、見逃してくれるとありがたいです。


 ――園原志人は、覚悟を決めた。

「承太郎に伝えてくれ。――イージス・ホワイトの奥の手を使う。後は頼んだ、と」




 

 

 

 

(――言ってる事が分からない。イカれてるのか?この状況で)

 

 

 と、6部承太郎のセリフを言いたくなる程に、俺は混乱していた。表面上はポーカーフェイスと無言を保っていたが。

 ディオの命令で俺を捕らえた、だと?――ふざけるな!今世のあの人はこんな馬鹿な真似はしない!!

 

 しかし、感情的になれば相手の思う壺だ。今は少しでも、情報を入手する事を優先しよう。

 

 

「……で?何のために俺を捕らえたんだ?」

 

「ほう?冷静だな。まるで、ディオ様が貴様らを裏切る事が分かっていたかのような態度だ」

 

 

 裏切る……って事は、こいつは今のディオがジョースター家や財団側の人間である事を分かっている?

 さらに、俺の個人情報まで知っている……まさかと思うが、財団に登録しているスタンド使い?だから財団関係者しか知らないような情報も……

 

 いや、それにしては俺について詳し過ぎる。スタンドとの完全同化の事も、承太郎との模擬戦の事も。……それを指摘しても、ディオから聞いた、と答えられて終わりそうだな。

 

 この男の真の立場が分からない。本当にディオの信者で、何らかの理由でディオに命令されたと思い込んでいるのか。

 それとも信者を演じており、ディオに罪を擦り付けたいのか。

 

 ディオが本当に俺達を裏切ったという可能性は考えない。俺は自分の目で見て、言葉を交わしたディオ・ジョースターの事を信じる。

 

 

 ならば。次に確かめるべき事は……

 

 

「勘違いすんなよ、クソ野郎」

 

「……何?」

 

「俺はあの人が……ディオさんが裏切ったなんて微塵も思ってない。前世のあの人は承太郎達が倒した大悪党で外道でクズだが、今世のあの人はそんな奴じゃ――」

 

 

 ――ガンッ!!

 

 

「っ!?」

 

「――このクソガキがああぁぁっ!!あのお方を!我が王を侮辱するとは!!余程命が惜しくねぇようだなぁ!?

 その上ディオさん(・・)だと!?あの方の名を気安く呼ぶんじゃねぇ!ディオ様と呼べ!!」

 

 

 豹変したトリスタンは、憤怒の表情でイージスのバリアを殴り、そう叫んで俺を睨んだ。殺意を感じる……!

 だが、挑発した甲斐はあった。この反応は演技とは思えない。……どうやら、本気でディオの事を崇拝しているようだ。

 

 つまり。何らかの理由で、ディオが奴に俺を誘拐しろという命令を下したと思い込んでいる。

 ……この男自身が勝手にそうだと勘違いして動いているのか、それとも別の誰かがそう勘違いさせて利用し、裏で糸を引いているのか。

 

 

「……志人、あまり刺激しない方がいいんじゃないか?」

 

「……そうだな。挑発はもう止めておく」

 

 

 イージスと小声で話していると、ようやく怒りを収めたのか、トリスタンの荒い息が整っていく。

 

 

「……くく。まぁいい。その余裕は、もう1人ゲストが来れば、すぐに消えるだろう」

 

「ゲスト……?」

 

 

 俺が眉をひそめた、次の瞬間。離れた場所にいる数人の男達の隣。何も無い場所に突然、洋風の扉が現れる。俺の足元にも現れた、あの扉だ!

 

 扉の中から人間が2人と、まるでドアマンのような格好をしたスタンドが1体出て来た。

 スタンドが扉を閉めると、その扉が消える。……扉を生み出す事で、何処かと何処かを行き来できる能力なのか?

 

 人間2人は、どちらも日本人。1人は茶髪の知らない男。……しかし、もう1人は――

 

 

「――六車さん……!?」

 

 

 知らない男に拘束されている、六車さんだった。

 

 

「トリスタン様。六車の自宅に向かわせた奴らは、ちゃんと働いたようです。俺がそこへ扉を繋いだ時には既に済んでいたようで、拘束してそのまま連れて来ました」

 

「ご苦労。……おい、待て!そのまま動くな。それ以上こちらに来ると、園原のバリアの射程距離内に入る。そいつをバリアで守られてしまっては意味が無い。

 そして、六車から離れるな。貴様が六車の近くにいる限り、園原は六車の周りにバリアを張れない。その状態でバリアを張れば、貴様までバリアの内側に入ってしまうからな」

 

「は、はっ!失礼しました」

 

「ちっ……!」

 

 

 思わず舌打ちした。……バリアの射程距離や、バリアを張る事ができない条件を具体的に知っているなんて、これはいよいよおかしい。

 

 俺は東京支部の訓練場で、何度かスタンド能力の検証をしている。その時に財団の研究者達にスタンドの能力を分析されたが、それらのデータは全て、財団で厳重に管理されているはず。

 俺以外のスタンド使いも、スタンド能力の検証のために訓練場を利用する事がよくあるらしいが、もちろんその情報も管理され、外部に漏れる事は無い……その、はずなのに。

 

 それに。六車さんを拘束している奴は、六車さんの自宅の事を口にしていた。

 財団職員の住所に関しても秘匿されるべき個人情報だ。何故こんな奴らが六車さんの自宅の場所を知っている?

 

 

 ――まさか。財団内部にこいつらの協力者が紛れ込んでいる?

 

 

「園原さ――っ、うぐ!?」

 

「なっ!?おいてめぇ!その人に何しやがる!?」

 

 

 その時。六車さんを拘束している男が、彼の首にナイフを当てた。慌てて声を上げると、奴らの不快な嗤い声が聞こえる。

 

 

「ははははっ!!やはり、貴様のようなタイプには人質を取るのが効果的なようだな!」

 

「このクソ野郎……!!」

 

「くくくっ!……六車拓海に手を出されたく無ければ、バリアを解け。スタンドも出すな。抵抗も許さない」

 

「……俺に何の用がある?人質を取ってまで、俺に何をやらせようとしているんだ!?」

 

「ふっ……違うな。別に貴様に何かをやらせるつもりは無い。

 ――貴様の存在自体が、ディオ様の空条承太郎への復讐と、ジョースター家への宣戦布告に役立つのだ!!」

 

 

 復讐は分かる。間違いなく前世の事だろう。しかし、宣戦布告?……何を言ってるんだ、こいつは。

 

 

「それよりも、ほら。早く解け。さもないと……六車はどうなるかなぁ?くく、くくく……っ!!」

 

 

 六車さんを人質に取られた状態では、下手に動く訳にはいかない。…………やむを得ない、か。

 

 

「イージス」

 

「駄目だ……っ、駄目だ志人!このままじゃ、君が何をされるか分からないだろ!?」

 

「あぁ、そうだろうな」

 

「俺は護るためのスタンドなんだぞ!?」

 

「でもこのままだと、俺は護れても六車さんの事は護れない」

 

「っ、」

 

 

 大事な半身が、泣きそうな顔で俺を見つめている。……ごめんな。我が儘言って。

 

 そんな彼に、小声でこう伝えた。

 

 

「――時を待て。……六車さんを助けるチャンスが来たら、すぐにお前を頼るから」

 

「…………分かった」

 

 

 最後に俺を強く抱き締めたイージスが、バリアと共に消える。

 

 

「……さぁ。これで良いんだろ?」

 

「…………ふん」

 

 

 無言でつかつかと、俺の目の前までやって来たトリスタンは、

 

 

「っ!!」

 

「くくっ!ははははははっ!!この、クソガキ!さっきはよくも!我が王を!侮辱して!くれたなぁ!!」

 

 

 好き勝手に俺を殴り、床に倒れた俺の体を思い切り蹴る。六車さんの、俺の名を必死に呼ぶ声と、この男の仲間達が大笑いする声が聞こえた。

 ……まぁこの程度なら、あの父親からの暴力や不良との喧嘩で慣れてる。大丈夫。

 

 

「……あぁ、そうだった。貴様にとっては私よりも、この男(・・・)が相手になった方が効果があるのだったな」

 

 

 そう言って、奴は一旦俺を蹴る足を止めた。……俺が顔を上げると、奴の背後にスタンドが出現する。マネキンのような見た目のスタンドだった。

 

 その姿はぐにゃぐにゃと歪み――ある男(・・・)の姿へと、変化する。

 

 

「――――っ!!」

 

「……くく、くくくくっ!ははははははっ!!良いぞ!顔色が変わった!イイ顔じゃないか、なぁ?」

 

 

 どう見ても、あのクソ野郎……今世の父親と、そっくりだった。

 

 

「私のスタンド、イミテーション・ドールの能力だ。私が記憶している中の誰か、あるいは何かに変身する事ができる。

 例えば。相手の恐怖の対象に変身し、そのまま攻撃を仕掛けて恐怖を煽る事も可能だ……今から何が起こるのか、もう分かったな?」

 

「あ、」

 

「拘束はあえてしないが……抵抗するな。そして逃げるな。もし少しでもそんな行動に出れば……おい、やれ!」

 

「はい」

 

 

 六車さんの悲鳴が聞こえた。すぐに体を起こしてそちらを見ると、彼の腕に切り傷が付き、そこから血が流れている。切られたんだ!

 

 

「六車さん!!……っ、てめぇ……!!」

 

「くく……あのように、貴様が抵抗したり逃げたりする度に、六車の体には傷が増えていくぞ?――それが嫌なら、大人しく自分の父親からの暴力を受ける事だ。

 いや、親から子への教育的指導と言うべきか?貴様は幼い頃からそれを受けていたそうだな?ふふふ……!!」

 

 

 また1つ、情報が増えた。……俺の父親の事、そして暴力を振るわれていた事を知っているのは、ジョースター家の人間と、財団職員ぐらいだろう。

 ジョースター家の皆が、誰かにそれをバラす訳がない。という事は、財団職員の中の誰かから得た情報。

 

 やはり、財団内部に俺の情報をリークした奴がいるようだ。

 

 

 そこまで考えて、拳を振りかざす父親……に化けたスタンドの姿が見えたので、目を閉じる。――地獄の時間が、始まった。

 

 

(だが、諦めない。……チャンスが来るまで、耐えてみせる)

 

 

 きっと、俺を護りたいのだろう。勝手に出ようとするイージスを心の中で抑えながら、俺は改めてそう決意した。

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

「――くははっ!はははははっ!!」

 

 

 嗚呼、何故俺のスタンドは非戦闘タイプなんだ。空条さんのような戦う力があれば、こいつらと戦う事ができるのに!

 園原さんのような守る力があれば、あなたを守る事ができるのに……!!

 

 ――俺が人質になったせいで、園原さんは理不尽な暴力に抵抗したくても、抵抗できない。

 

 あの男のスタンドが園原さんの父親に化けた時、彼の表情は一気に青ざめた。

 以前、トラウマはディオさんのおかげですっ飛んだと言っていたが……あの表情は、未だに父親への恐怖が残っているという証拠だ。

 

 だが、園原さんは……まだ一度も抵抗していないし、逃げてもいない。そのおかげで俺は、傷付けられる事なく守られていた。

 俺はSPW財団の職員だ。ジョースター家や、その仲間の方々のサポートをする事が役目だ。……それなのに、俺がその足枷になってしまってどうする!?

 

 

 ……事の発端は、今朝。俺がまだ自宅にいた時の事。

 

 その日の仕事が始まるのは午後からで、俺に用があるからと、従兄弟の大星兄さんが自宅に来る予定だった。

 家のドアホンが鳴ったので対応すると、予想通り相手は大星さんだ。そして、彼を招こうとドアを開けた瞬間――横合いから大柄な男達が出て来て、彼を人質に取った。

 

 俺のスタンドは少し特殊で、俺が普段裏で遂行している任務……内部監査にはもってこいの能力なのだが、戦闘では役立たずとなる。

 攻撃手段がほとんど無いので、戦闘は基本的に他のスタンド使いに任せるしか無いのだ。

 

 奴らはスタンド使いで、スタンドの手で大星さんの首を締めようとしたため、慌てて止めて要求を聞いた。

 

 

「――てめーは、ジョースター家のお気に入りに言う事を聞かせるための人質だ」

 

「大人しくついて来やがれ」

 

「っ、お前ら、園原さんに何をするつもりだ!?」

 

「余計な口を利くな!いいからついて来い!このオッサンがどうなってもいいのか!?」

 

 

 抵抗せず、大人しくついて来れば大星さんに危害は加えないという。……仕方なく奴らについて行く事にしたが、何も出来なかった訳ではない。

 

 

「拓海!!」

 

「……兄さん。――兄さんの図書館の常連さん達に、よろしく言っておいて欲しい」

 

「――――」

 

「頼んだぞ」

 

 

 あの人ならきっと、俺の言葉に隠された意図に気づいてくれたはず。

 

 "兄さんの図書館の常連さん達"とは、旧図書館の存在を知っている空条さん達の事だ。

 ブックフェスでの一件の後。俺と大星さんは、空条さん達5人と連絡先を交換した。その日、大星さんは彼らが俺と同じ"へんてこな力"……スタンドが使える事を知った。

 

 今回はそれ絡みだと察していると思うし、俺が連れ去られた事や園原さんの話も合わせて、空条さん達に知らせてくれるだろう。

 そう信じて大柄な男達について行くと、今度は何も無い場所に扉が現れ、そこから茶髪の男とスタンドが出て来た。

 

 大柄な男達は、俺の身柄を茶髪の男に引き渡した。茶髪の男は俺の両手を後ろ手錠で拘束し、扉の中に連行する。

 

 ……そして。扉をくぐった先の部屋には既に園原さんがいて、俺は彼に対する人質にされたのだ。

 

 

 奴ら……というより、トリスタンという男の目的は何だ?何故ディオさんの名前が出た?……あの人が裏切ったのか?いやいや、そんな馬鹿な。

 

 俺は実際にあの人と話して、今世のあの人に害は無いと確信した。

 園原さんの事を、まるで本当の弟のように扱っているあの人が、彼にこんな酷い事をする訳がない!ディオさんは我々の信頼を裏切らない。絶対に。

 

 しかしだとすれば、こいつらは誰の指示で動いている?

 

 

「……ふー……一旦休憩しよう。今貴様に死なれたら困るからな」

 

 

 と、奴のスタンドの手が止まる。……今のところ、園原さんを殺す気は無いという事に、安堵した。

 彼の体はボロボロだった。何度か血を吐いてしまったのか、床には赤色が飛び散っている。……歯を食い縛り、耐えた。感情的になるな、落ち着け!

 

 

「…………じゃあ、聞きたい事が、あるんだが……」

 

「何?」

 

 

 園原さんの声が聞こえた。まだ意識を保っているのか!あれほど暴力を振るわれていたのに、何という精神力……!

 

 

「結局、てめぇらの目的は、何だ……?俺の存在が、復讐やら、宣戦布告に役立つ……とか、何とか言ってたよな……?」

 

「……まぁいいだろう。休憩がてら、教えてやる。……まずは復讐の事だが、我らが王は前世で空条承太郎に敗北した。

 その復讐として、空条承太郎の大切な存在を壊す事にした。しかし、奴の大切な存在といえば複数いる。……その中からディオ様がターゲットに選んだのが、貴様だった」

 

 

 確かに、空条さんにとっての大切な人は他にもたくさんいるだろう。

 例えば、前世の旅仲間である花京院さん達。例えば、ジョースター家の人達。特に、スタンドも波紋も使えない人達は狙いやすいはず……

 

 そんな中、あえて園原さんをターゲットにした理由は?

 

 

「理由は様々だ。貴様が一人暮らしをしている事や、普段はジョースター家の人間から離れた場所にいる事。城戸……そこで六車を人質に取っている男の事だが、そいつに誘拐させるのは簡単だったぞ。

 そして、スタンド使いとしてはまだ未熟。さらにスタンド自体の攻撃力がほぼ皆無である事。防御特化だが、人質を取ってしまえば無力化する事ができる。今のようにな。

 

 しかし何よりも大きな理由は、貴様が空条承太郎と関わったのは今世が初めてであり、その上親友と呼ばれる程に親しい存在となった事だ」

 

「……どういう、事だ?」

 

「くくく……っ!そんな貴様が、自分と関わったせいでこんな目に遭ったのだと奴が知ったら……どう思うだろうな?

 ――間違いなく、自分を責めるだろう!前世ではジョースター家とディオ様の因縁に全く関係が無かった貴様が、今世では自分の親友になったせいで、その因縁に巻き込まれたのだと!!」

 

 

 ……な、何て事を考えやがる!?あの屑野郎!!

 

 奴の狙いは精神攻撃だ。空条さんの心を傷付けようとしている!いくら最強のスタンド使いでも、これはさすがに大ダメージになるだろう。

 

 

「ジョースター家への宣戦布告も、これと似たようなものだ。ジョースター家のお気に入りだが、本来なら因縁とは無関係である貴様を狙う事で、奴らの罪悪感を煽る。

 そして再び、ジョースター家と敵対するという意思を表明する!ふふふ、素晴らしいだろう?ディオ様はジョースター家の人間全員と戦うつもりなのだ!さすがは我が王!!

 

 きっと奴らはディオ様に敵わない!それを確信したからこそ、今まで影で活動していた私に声を掛けて下さったのだ!今こそ空条承太郎とジョースター家を、打倒する時が来たのだ!!」

 

 

 …………いや。それはむしろ、ジョースター家の敵意を煽るだけだと思うのだが……?

 分かってはいたが、やはりこれを考えたのはディオさんではないな。彼が考えたにしては、余りにも無謀過ぎる。

 

 ジョースター家のお気に入りに中途半端に手を出せばどうなるか、それが分からない人ではないし、そもそもあの人は手を出した奴に報復する側だし。

 今世のジョースター家は、ディオさんやジョルノさんも含めて、ジョースター家だからな……つまり、園原さんは彼ら2人のお気に入りでもある訳だ。

 

 

「……話はそろそろ終わりにして、続きといこう。手加減はしてやるし、ある程度私の気が済んだら終わりにしてやる。同志の話では、いずれディオ様も我々に合流すると――」

 

「――同志(・・)、だと?」

 

 

 今まで黙っていた園原さんが、顔を上げた。……彼の目は、まだ輝きを失っていない。

 

 

「……ふふ、ははは。あぁ、なるほどなぁ。いろいろ繋がったわ」

 

「…………何を言って、」

 

「その同志ってやつはSPW財団の職員だろ?」

 

「っ、」

 

 

 園原さんの言葉に、奴は分かりやすく動揺を見せた。……正直、その可能性はあまり考えたくなかったのだが、やはり財団職員が関わっていたのか!

 

 俺の家を知っていた事や、園原さんの父親の顔と、その父親に暴力を振るわれていたのを知っていた事。それらの情報は財団で厳重に管理しており、外部に漏れる事はあり得ないはずだった。

 しかし実際は、こいつらに情報が漏れていた。……財団職員の誰かが、こいつらに情報を渡したのだろう。

 

 

「今話した事や、俺の個人情報とかは全て、その同志から聞かされた事だな?」

 

「……だったら、何だ?」

 

「いや、別に?尚更馬鹿やったなぁ、と思っただけだ。きっと知らないんだろうけど――財団職員が、他でもない六車さんを誘拐しちまったら、なぁ?後が怖い」

 

 

 ……そうか。俺がスピードワゴン様の"耳"として動いている事を言っているんだな。確かに、あの方は俺のスタンドの能力や、俺自身の人柄を買ってくれている。

 俺が誘拐されたと知ったら、他にも財団内に数名いる内部監査役を動かし、こいつらに情報を流した財団職員を探してくれるだろう。

 

 そして何よりも、ジョースター家のお気に入り、それもスピードワゴン様まで好意的に思っている園原さんの誘拐に協力した相手を、あの方が許す訳がない。

 

 

「――いっ……!?」

 

「クソガキが!何を訳の分からん事を……!」

 

 

 不安を煽ったせいだろう。再び奴のスタンドによる暴力が始まったが、先ほどよりも勢いが強い。……俺はただ、それを見ている事しかできなかった。

 

 

(……何故逃げない?何故抵抗しない!?)

 

 

 何度殴られても、蹴られても。園原さんは一度も逃げず、抵抗もしなかった。

 間違いなく俺のためだろう。あんなに体が震えているのに、俺が傷付けられないように、俺を守るために恐怖を我慢している!

 

 本人がどれだけ乗り越えたと言っても、記憶に刻み込まれた幼少期のトラウマを、完全に消す事はできないはず。

 このまま父親に化けたスタンドによる暴力が続けば、それがまたトラウマになる可能性だってあるのに!それでも、園原さんは……!!

 

 

「――っ、園原さん、もういい!頼む、逃げてくれ!!抵抗してくれ!!俺はどうなってもいいから……!!」

 

「……くく。だそうだが?どうする、園原?」

 

 

 思わずそう叫ぶ俺を見て、トリスタンがニヤニヤと嗤う。対して園原さんは……俺と目を合わせて微笑むと、そこから打って変わり、奴を強く睨んだ。

 

 

「――だが断る!!俺は逃げないし抵抗しない!ほら好きにしろよ、トリスタン・ウッド!!」

 

「くくくははははははっ!!良い度胸だが、それがいつまで続くかなぁ!?」

 

 

 そう言って、奴のスタンドが再び拳を振り上げた時――下の方から轟音が聞こえ、建物が僅かに揺れた。

 

 

「な、何だ!?」

 

「何が起こった!?」

 

 

 トリスタンも含め、奴らの仲間に動揺が広がった瞬間、

 

 

「――イージス・ホワイトォォッ!!」

 

「待ってたよ、志人!!」

 

 

 園原さんの叫びと共にイージスが現れ、園原さんの体にイージスが溶け込むように消えていき――完全同化を果たす。

 さらに翼を広げ、俺がいる方に猛スピードで飛んで来る!

 

 

「六車、屈め!!」

 

「っ!!」

 

 

 指示通りに屈むと、白い杖が俺の頭の上スレスレを通り、俺の真後ろに立っていた城戸に直撃した!

 

 

「ぐあっ!?」

 

「っ――この間抜けがあぁぁっ!!」

 

 

 トリスタンの叫び声が響くと同時に、俺は園原さんの手に引き寄せられ、彼と共にイージスのバリアに包まれる。……園原さんとイージスの同化が解かれ、彼は床に跪いた。

 

 

「志人!!」

 

「園原さん!大丈夫ですか!?」

 

「まぁ、何とか。……誰だか知らねぇが、奴らの隙を作ってくれた事に感謝しないと。……あ、そうだ。

 六車さん、すみません。俺とイージスの力だと、手錠は破壊できないし怪我の治療もできないので、しばらくそのままになってしまいますが……」

 

「そんな事気にしませんよ!!」

 

 

 ああ、もう、このお人好しめ!!本当に仕方ない人だな!!

 

 

「あと、もう1つ。……このバリアですが、長くは持ちません」

 

「えっ?」

 

 

 囁かれたその言葉に、耳を疑った。……今、トリスタン達のスタンドが総出で破壊しようとしているにも関わらず、びくともしないこのバリアが?

 

 

「俺の体力と……精神力的に、そろそろバリアにヒビが入る頃だと思います」

 

「あっ……!」

 

 

 そうか、そうだよな……この人は偽物とはいえ、先程まで父親からの暴力を受けていた。表面上は涼しげな顔をしているが、精神的にも肉体的にもかなりきつくなっているはず。

 よく見ると顔色は悪いし、体もまだ震えている。……申し訳ありません。私が人質になってしまったせいで……!!

 

 

「だから――最終手段を、使います」

 

「最終手段……?」

 

「志人……本当に、いいの?それを使った後にどうなるかは、俺でも分からないんだよ?」

 

 

 と、イージスが不穏な言葉を口にする。……イージスでもどうなるか分からないような、危険な事をするつもりなのか!?

 

 

「それって、まさか命に関わるような事じゃ……!?」

 

「使った直後にそうなる訳ではありませんよ」

 

「つまり、後々そうなる可能性があるんですね!?」

 

「…………さぁ?それは俺にも、イージスにも分からないので、賭けですね」

 

「園原さん……!!」

 

「使った後に俺達が戻って来れるかどうかは――承太郎次第、かな」

 

 

 ……何故、そこで空条さんの名前が出る?

 

 

「……っ、まずい、ヒビが入り始めた!時間が無い、イージス!」

 

「志人……」

 

「もうこれしか無い!俺と六車さんがまた人質になったら、最後に傷付くのはきっと承太郎達だ!!俺は嫌だぞ、そんなの!」

 

「俺だって嫌だ!」

 

「なら、分かるよな?……他でもない俺が責任を押し付けるなんて、あいつには本当に申し訳ないけど――承太郎を、俺達の親友を信じるしかねぇ!イージス・ホワイト!!」

 

「――――分かった」

 

 

 ヒビが入る音と、奴らの勢い付く声が聞こえる中。園原さんは最後に、俺に伝言を頼んだ。

 

 

「承太郎に伝えてくれ。――イージス・ホワイトの奥の手を使う。後は頼んだ、と」

 

 

 バリアが砕けて、消える。奴らの歓声が響いた、その刹那――新たなバリアが張られた。

 

 それは、いつもの緑色のバリアの上に、イージスの顔にある金の刺青と似た模様が張り巡らされ、キラキラと輝いている。

 さらに下を見ると、バリアの円の中に緑色の魔法陣があった。これは……五芒星か?

 

 その時、園原さんとイージスがふらりと、床に倒れ込んだ。慌てて声を掛ける。

 

 

「園原さん!?イージス!?」

 

 

 近づいて大声で呼んでも、2人の目は固く閉じられたまま。

 ……イージスの不穏な言葉を思い出した。恐る恐る、園原さんの心音を確認する。……良かった、ちゃんと動いてる……!!

 

 だが、これはまさか――眠っている?一体どういう事だ?

 

 

「――いってぇ!?」

 

「何だこれ、さっきのバリアよりも固いぞ!?」

 

「何をやっている!?早く壊せ!!」

 

「だ、駄目です!攻撃が効かない!!」

 

「ちいっ!城戸!!貴様の能力でバリアの中にドアを!」

 

「さっきからやってますけど、出来ません!!」

 

「この役立たず共が!!」

 

 

 バリアの外では、奴らが騒いでいる。どうやら、今度のバリアはより強固になっているようだ。これがイージス・ホワイトの奥の手か……これなら、この中にいれば安全だろう。

 

 しかし、園原さんとイージスの様子が気掛かりだ。息はしているし、眠っているだけとはいえ、いくら呼んでも目を覚まさないのはおかしい。

 それに。わざわざ俺に、空条さんへの伝言を頼んでいる。ただバリアを張って眠って起きるだけなら、あんな覚悟の決まった表情で"後は頼んだ"なんて伝言は残さないはず。

 

 ……覚悟の決まった表情?後は頼んだ?

 

 

(…………おい、ちょっと待ってくれ園原さん)

 

 

 ――あなたはちゃんと、目を覚ましてくれるんだよな……?

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

空条承太郎は、その信頼を裏切りたくない



・最初、長い会話文が入りますが、承太郎視点です。

・オリキャラが登場します。

・ご都合主義、捏造過多。園原誘拐編は特に注意。いろいろおかしな点があると思いますが、見逃してくれるとありがたいです。

・キャラ崩壊あり。

・念のため。not腐向けです!


 ――空条承太郎だって、形振り構っていられない時があるはず。




 

 

 

 

「――イージス・ホワイトの奥の手?」

 

「そう。……万が一、どうしようもない事態に陥った時に使う最終手段。切り札が欲しいと思ってな。大分前からそれを考えていたんだが、最近になってようやくイメージが固まったんだ」

 

「へえ?そんなものを考えてたのか。……どんな技だ?」

 

「……イージスのバリアは、俺の意思次第でどんな攻撃でも防ぐ。だが、バリアの強度は俺の体力や精神力によって強くもなり、弱くもなる。

 俺はその不安定さをどうにか安定させて、より強いバリアを作りたいと考えた。本当に、誰にも破る事ができないバリアを」

 

「…………」

 

「で、それなら単純に、俺の意思に関係なく全てを防ぐような効果にすればいいかなと思った。それなら、俺自身の体力や精神力が不安定でも問題ない。ただし……」

 

「……ただし、何だ?」

 

「……その技を使った後。敵がいなくなって周りが安全になった後でも、バリアが解けるかどうかは分からない。

 ――俺達が目覚める事ができるかどうかも、分からない。……イージスはそう言っていた」

 

「はあ!?目覚めないって、まさか死ぬとか言わねえだろうな!?」

 

「さすがにそれは無い。俺とイージスが眠るだけだから」

 

「眠る?……いや、それにしたってバリアも解けずに眠り続けたら後々死ぬんじゃねえか!?」

 

「…………あ、その可能性があったか」

 

「おい!?」

 

「でも、もうイメージ固まっちゃったしなぁ」

 

「眠り続ける以外に方法は無いのか?何故そんなイメージにした?」

 

「そもそも意識が無い状態なら、まず精神的に不安定になる事は無いだろ?

 それで、眠った状態なら体力も回復していくはずと考えて……そういえば、睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠っていう2つの種類があったなぁ、と思い至った」

 

「……レム睡眠は浅い眠り、ノンレム睡眠は深い眠りだったな?

 特に、ノンレム睡眠の方は脳が休息状態となり、誰かの声や音に反応する事がなくなり、疲労回復も促進させるという。

 

 ――バリアを張った後にノンレム睡眠に入れば精神が不安定にならずさらに体力も回復するし一石二鳥じゃんとか考えてそんなイメージにした訳だなこの馬鹿野郎!!」

 

「今の息継ぎどうなってた?」

 

「話を逸らすな!!」

 

「すみませんでした謝る、謝るから頭ぐりぐりは止めてください本当にお願いします親友様いたたたたたたっ!?」

 

 

 

 

 

 

「……で?本当に、それ以上どうにかならねえのか?その奥の手は」

 

「……あぁ。どうにもならない。これ以外に良い切り札は思い付かなかった。……でも、イージスとも話し合ったんだけどさ……」

 

「ん?」

 

「――承太郎。……お前なら、どうにかできるかもしれない」

 

「俺が?」

 

「うん。……この切り札は、例えどんな攻撃であっても必ず防ぐし、バリアを張る前からその内側に入っている人以外は、例え誰であってもバリアをすり抜ける事はできない。

 だが、承太郎だけは……もしかしたら、例外にする事ができるんじゃないか、と」

 

「……俺なら、切り札のバリアを張った後でも、その中に入れる?」

 

「あぁ、多分」

 

「何故だ?」

 

「…………あー、」

 

「?」

 

「その……イージスのバリアの色は、何も意識してない時は白だけど、基本は緑色だろ?あれはジェダイトっていう、緑色の宝石をイメージした結果なんだ。

 その宝石は衝撃への耐性が強くて、宝石の中では1番割れにくい石と言われている」

 

「ほう……その宝石と俺に何の関係があるんだ?」

 

「ジェダイトは、日本語で言うと翡翠。――お前の瞳の色だ」

 

「――――」

 

「お前の目にはいつも、意志の強さを感じている。不安とか、寂しさとか、悲しさとか……ネガティブな感情で揺れる事はあっても、濁りはしない。お前の根本的な部分は、折れない。

 その意志の強さが、何でも防ぐというイメージとぴったりだった。……あのバリアはジェダイトだけでなく、お前の目をイメージして作られたものだ。

 

 だから、イージスのバリアと承太郎には深い縁がある。……そんなお前なら、外側の全てを拒絶するバリアの内側に入れるんじゃないかと、そう思う。確証は無いけどな」

 

「…………責任が重い」

 

「すまない。俺もそう思った。……俺だけはお前に責任を負わせはしないと、そう決めていたんだがな……本当に、ごめん」

 

「いや。他でもない、志人から負わされる責任なら……お前に頼られるなら、それは悪くないものだ」

 

「!」

 

「もしも万が一、お前が切り札を使わなければいけない状況になった、その時は……遠慮なくそれを使え。

 全部終わって安全になったら、俺がバリアの内側に入って、お前とイージスを起こしてやる」

 

「……本当にお前がバリアの中に入れるかも、俺達が目を覚ますかどうかも、分からないんだぞ?」

 

「ああ、知ってる。正直に言うと、俺もそれが怖くて仕方ねえ。……だが、それでも俺はやってみせる。――お前が、俺ならやれると信じてくれるなら、な」

 

「……分かった。お前を信じるぜ、承太郎。万が一その時が来たら――後は頼んだ」

 

 

 ――――その信頼を、裏切るわけにはいかない。

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 その事件は、ジョナサンの下に掛かって来た電話から始まった。

 

 電話の相手は、旧図書館管理人の三谷。……ブックフェスの時に連絡先を交換して以来、電話を掛けて来た事はこれが初めてだったため、ジョナサンはすぐに電話に出た。

 この判断は、正解だった。――六車がスタンド使い数名によって、拐われたらしい。

 

 さらにそいつらが六車を誘拐した理由は、ジョースター家のお気に入り……シドに対する人質にするためだった。

 

 三谷からそれを聞いたジョナサンは、自宅にいたスタンド使い6人を集めて簡潔に事情を説明。

 それから全員でシドの自宅へ向かったのだが……そこで、荷物が入れられたまま横に倒れている、シドの自転車を発見した。

 

 どう見ても、既に誘拐された後だった。

 

 

「クソッ!何処の誰だよ志人さん拐った野郎は……!!」

 

「……電話でアバッキオを呼んで、状況を再生してもらいます。志人さんが誘拐されたと話せば、すぐに来てくれるはず」

 

「よし、頼んだぞジョルノ」

 

「はい!」

 

「それなら、俺は財団の方に連絡を、」

 

「ジョセフ、待て」

 

「え?」

 

 

 シドの自宅アパートの前にて。アバッキオを呼ぶというジョルノに続いて、財団に連絡しようとしたジョセフを止める。

 

 

「……六車を誘拐したという奴らは、何故六車の住所を知っていた?それに、シドに対する人質として利用できると考えた理由は?」

 

「あん?――っ、そうか!財団職員の個人情報が、そんな簡単に漏れるはずが無い……」

 

「そうだ。……財団に連絡するのは、まずいかもしれねえ」

 

「どういう事っスか!?」

 

「2人だけで納得しないで、教えて!」

 

「――財団職員の中に、裏切り者がいる可能性……お前達は、それを危惧しているのだな?」

 

 

 と、ディオが険しい表情でそう言った。隣にいるジョナサンも、似たような表情をしている。仗助と徐倫が驚いた。

 

 

「財団の中に、裏切り者!?」

 

「……そっか。そうよね!財団職員の個人情報もそうだけど、その六車という人は志人さんの担当職員なんでしょ?

 そういう情報だって外部に漏れるはずが無いから、そもそも志人さんと六車さんが知り合いだって事を知る人は、基本的に財団職員ぐらいよね」

 

「……あ、なるほど!つまり、六車さんを志人さんの人質として利用できる事を、財団職員の中の誰かが犯人に教えた……!?」

 

「そういう事だね。……もちろん、財団職員を脅して情報を手に入れたとか、何らかのスタンド能力によって手に入れたとか、そんな可能性もあると思うけど……」

 

「もしも本当に裏切り者がいた場合、今財団に連絡すれば、こちらの情報がそいつの耳に入ってしまう」

 

「……ン、財団への連絡は無しだな。とりあえず保留!」

 

 

 そこへ、電話を終えたジョルノが戻って来た。アバッキオはちょうど近い場所にいたらしく、すぐに駆け付けてくれるという。

 また。ジョセフがシドの自転車から、ハーミット・パープルの念写で何か読み取れないかと確かめたところ……

 

 

「――扉?」

 

「……洋風の扉、だな。何故そんなものが?」

 

 

 アパートの敷地の地面に、洋風の扉が描かれた。……六車を拐った奴はスタンド使いだったらしい。この扉も、もしかしたらスタンドの能力に何か関係がある?

 すると、ようやくアバッキオが到着した。さっそく、シドの身に何があったのかを再生してもらう。

 

 

「……えっ!?」

 

「お、落ちた?今、落ちたっスよね!?」

 

「落ちたなァ。……どういう事だ?」

 

「……これ以上は追えないのか?」

 

「あぁ。ムーディー・ブルースの挙動を越えた動きまでは再生できない……」

 

「そして、人やスタンドの行動を再生する事はできますが、その能力自体は再生できません」

 

「何?……もしや、さっき俺が念写したあの扉……」

 

「ええ。あれがスタンドの能力だったとしたら、志人さんの足元に出現して扉が開けば、そこに落ちる」

 

「……2つの場所を、扉で繋ぐ能力かしら?」

 

「可能性はありますね」

 

 

 シドの身に何があったのかは分かったが、これでは追跡は不可能だな。……ならば、次だ。

 三谷に連絡して、六車の自宅の住所を教えてもらった。ジョナサンが運転する車に乗り、全員でそこに向かう。

 

 六車の自宅前から、ムーディー・ブルースの能力の再生を行った。……しかし。六車の動きを追って行くと、彼は途中で消えてしまった。

 

 

「……志人の動きを再生した時と同じだ。これ以上は追えない」

 

「ええっ!?八方塞がりかよ……!」

 

「いや、まだだ。……これがスタンド能力だった場合、その能力を使ったスタンドや、その本体を再生すれば何か分かるかもしれねえ」

 

「それから、三谷を人質に取ったという大柄な男達の方も、だな」

 

「ああ。……とりあえず、スタンドから再生するか」

 

 

 その後。スタンドが、ホテルのドアマンのような格好をしている事。スタンドが扉を開くような動きをした事から、あの洋風の扉がスタンド能力である可能性が高まった事。

 スタンドの本体が茶髪の男で、音声の記録から、トリスタンという名前の人間から指示を受けていた事が分かったが、六車が何処に連れて行かれたのかは分からなかった。

 

 しかし。三谷を人質に取った男達のうちの1人を再生すると、そいつらが車で拠点に向かおうとしている事が分かった。その先に、シドと六車がいるかもしれない。

 

 

 ……大柄な男達を追跡して行くと、都心から離れた場所にある大きな廃ビルにたどり着いた。物陰に隠れて様子を窺う。

 

 

「扉が閉まってるし、遠目からじゃ中の様子は分からねェが……周りが静かだからか、声はよく聞こえるな」

 

「結構ガヤガヤしてない?」

 

「……確かに、そうですね。どうやらそれなりに人数が多いようだ」

 

「全部スタンド使いっスかね?」

 

「……さあな。だが、それを想定して動いた方がいいだろう」

 

 

 俺がそう言うと、後ろから肩を捕まれた。……アバッキオだ。

 

 

「……その言い方、まさかこのまま突入する気か?」

 

「ふふ……そうだよ、アバッキオさん。僕達は最初から、そのつもりでここに来ている。志人と六車さんの事が心配だからね」

 

 

 ジョナサンの言葉に、ジョースター家の全員が頷く。……中ではシド達が何をされているか分からねえ。早く救出しなければ。

 

 

「……俺だって志人の事は心配だが、いくらなんでもこの人数で行くのは無謀だろ。財団に応援を、」

 

「それなんですけど、アバッキオ」

 

「あ?」

 

「あなたは先にここから離れて、財団に連絡して事情を説明し、応援を呼んでもらえませんか?それから、応援が来るまでは何処かに身を隠してください。その間に、僕達が突入します」

 

「はあ!?」

 

「応援が来たら、ここまでの道案内をお願いしますね」

 

 

 なるほど。既に敵の拠点に到着したし、もう財団に連絡を入れてもいいだろう。裏切り者がそれに気づく頃には、俺達は襲撃を開始している。

 

 

「待て!ジョルノ、」

 

「お願いします」

 

「…………はあぁ……分かった分かった。言われた通りにしてやるよ」

 

「ありがとうございます」

 

「ったく、相変わらずクソ生意気なガキめ……おい、承太郎。志人拐った奴、俺の分まで殴っておけよ!」

 

「ああ、任された」

 

 

 最後に俺にそう頼んでから、アバッキオが離れていく。…………さて、

 

 

「――これで、もう我慢しなくてもいいな」

 

 

 全員で顔を見合せ、笑う。……だが、互いに目は笑っていない。

 

 ここに来るまで我慢し続けた怒りを、ようやく奴らにぶつける事ができる……!!

 

 

「突入する前に、1つだけいいかな?皆にお願いがあるんだ」

 

「お?何スか?ジョナサン」

 

「中にいる奴らが全員スタンド使いだったら、スタンドが見えない僕は、サポートに回るしかなくなってしまうよね?」

 

「……まァ、そうだな。それで?」

 

「だから――最初の一発だけは是非、僕に思い切りやらせて欲しいんだけど……どうかな?」

 

 

 いっそ怖いくらいの、満面の笑み。それを見たジョセフ、仗助、徐倫が、ビクリと体を震わせた。

 どうやら、今のジョナサンは腹黒い一面を隠す気が無い程に、怒っているらしい。

 

 

 ……廃ビルの閉ざされたドアの前まで全員で静かに近づき、それからジョナサンが前に出る。

 

 

「……それじゃあ、いくよ。全員、準備はいいかい?」

 

 

 ジョナサンの言葉に、全員が頷いた。何が起こっても対応できるように、それぞれスタンドを出す。ジョナサンは俺達に背を向け……構えた。波紋の呼吸音が聞こえる。

 

 

「……山吹色の(サンライトイエロー)――波紋疾走(オーバードライブ)

 

 

 落ち着いた声とは裏腹に、その拳の威力は桁違い。――たった一発の拳が扉にめり込み、轟音と共に外れた扉が、建物内に吹き飛ぶ。

 

 ……あ、数人が扉の下敷きになった。ご愁傷様だぜ。

 

 

「…………今、建物がちょっと揺れたわね?」

 

「ぐ……グレートッ!ジョナサンすげえ!!」

 

「俺が生身で同じ事やっても、あの扉はあんなにぶっ飛ばせねェなァ……」

 

「僕達の前世のご先祖様、さすがに強過ぎですよね。生身なのに」

 

「おそらく。スタンドが目に見えていれば、こいつなら生身でも互角にやり合えるだろうな……」

 

「……やれやれだぜ」

 

 

 会話しながら全員が中に入ると、敵は既にスタンドを構えている。……おお、ぞろぞろと出てきやがる。これは全員スタンド使いと見ていいか?

 

 

「て、テメーら!何処から来やがった!?」

 

「何者だ!?」

 

「……ああ、そういえば。派手にノック(・・・)する事に気を取られて、ちゃんと挨拶してなかったね。ジョセフ」

 

「ははははッ!!そうだなァ、ジョナサン!んじゃ、俺が代表してご挨拶しちゃおうかな!

 

 ダイナミックお邪魔しまァァす!!ジョースター家でェェす!!でもって――

 

 

 

 

 

 

 ――うちの子返せよクソ野郎共ォッ!!」

 

 

 ジョセフの叫びを合図に、戦闘が始まった。

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

「「――オラオラオラオラァ!!」」

 

「「無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!」」

 

「ドラララララララァ!!」

 

波紋疾走(オーバードライブ)!!」

 

「……いいなぁ、皆スタンドが見えて……あ、こらこら。逃げちゃ駄目だ、よっ!!」

 

「ぎゃあああぁぁっ!?」

 

「ジョナサン!右に飛べ!」

 

「了解!」

 

「っ、くそ!スタンド見えねえくせに避けるなぁ!!」

 

 

 ジョナサン以外は敵を速やかに倒していき、戦意を失って外に逃げようとする奴はジョナサンが倒していた。

 スタンドが見えない彼の側では、ジョセフが彼に指示を出し、スタンドの攻撃を回避させる。

 

 

「……敵は、これで全部倒したのかしら?」

 

「下っ端はそうかもしれませんが……おい。お前達のボス、トリスタンというやつは何処にいる?」

 

「だ、誰がお前らなんかに、教えてやるか……!」

 

「まぁ、そう言わずに。……ほら。この怪我を治してあげますから」

 

「へ?――っ、いだだっ、痛い痛い痛いぃぃっ!?」 

 

「あ、すみません。言い忘れてました。僕のスタンドによる治療って、要は麻酔無しの手術なので、結構痛いんですよ。

 

 で、ボスは何処にいる?それを止めて欲しかったら、さっさと言え」

 

「うう上だぁ!さ、最上階にいるぅ!!」

 

「ありがとうございます。……だ、そうですよ。早く行きましょう」

 

「…………ジョルノ。お前って、綺麗な顔してやる事えげつねーな……」

 

「そうですか?今さらですよ、仗助」

 

「やれやれだわ……そういえば、ジョルノは元マフィアのボスだったわね……」

 

 

 ジョルノのおかげで、こいつらのボスの居場所が分かった。全員で最上階まで駆け上がると、1つだけ、何やら騒がしい部屋があった。

 

 その部屋の扉を、スタープラチナの拳で破壊。全員で中に突入する。

 

 

「っ、今度は何だ――なっ、貴様は……!?」

 

「空条さん!!」

 

 

 金髪赤目の目立つ男と、アバッキオのスタンドで再生した時に見た、茶髪の男。それ以外のスタンド使い達。

 その奥に、いつもと違うバリアで守られている六車と――バリアの中心で倒れている、ボロボロになった志人とイージス。

 

 それを見てしまえば、形振り構っていられなくなった。

 

 

「スタープラチナ――」

 

「「――ザ・ワールド!!」」

 

 

 時を止める声が、重なる。……隣にいたディオと一瞬目を合わせ、その直後に二手に分かれた。

 

 

「オラオラオラオラオラオラァ!!」

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!」

 

 

 それぞれの目の前にいる敵に、1人残らずスタンドの拳を叩き込み――

 

 

「「――そして時は動き出す」」

 

 

 再び、時が動く。

 

 

「……あ、えっ!?」

 

「あーーっ!!俺も殴りたかったのに!!」

 

「承太郎、ディオ!!お前らなァ……!!」

 

「……駄目ですね。全員ノックアウトされてます」

 

「ちょっと父さん!あたし達が殴る分も残しとけよ!?」

 

「んな事言ってる場合か!?志人があんなにボロボロになってんだぞ!?」

 

「その通りだッ!治療できる奴!早く志人を治療しろォ!!」

 

「ああっそうだったァ!!お、俺が行くっス!志人さん!!」

 

 

 敵は全員、俺とディオで倒した。ディオの治療しろという声に仗助が即座に反応し、シドの下へ走る。

 

 

「あっ、待ってください東方さ――」

 

「――いってェッ!?」

 

「仗助!?」

 

「……通れないかもしれないと、言おうとしたのですが……」

 

「もっと早く言って欲しかったっス……!!」

 

「申し訳ありません……!」

 

 

 バリアに激突した仗助が、頭を押さえて仰向けに倒れてしまった。

 

 

「……っ、駄目だわ。通れない!」

 

「イージスのバリアって、味方は自由に通れるはずだろォ!?どうなってる!?」

 

「志人さん!ここを通してください!……志人さん!?」

 

「意識が無いのか……!?」

 

「六車さん、何があったんだ!?志人は無事なのか!?」

 

 

 他の奴らもバリアまで駆け寄るが、誰も通れないようだ。……シドとイージスは倒れたまま動かない。それに焦ったジョナサンが、六車にそう聞いた。

 

 

「……園原さんとイージスは、このバリアを張った後に眠ってしまったんです。それで……っ、そうだ!伝言!!空条さん、園原さんから伝言があります!」

 

「伝言?」

 

「――イージス・ホワイトの奥の手を使う。後は頼んだ。……園原さんは、そう言っていました!」

 

「――っ!!」

 

 

 その伝言を聞いた途端、脳裏を過ぎる、数ヶ月前の会話。

 

 

 

 

 ――……分かった。お前を信じるぜ、承太郎。万が一その時が来たら――後は頼んだ。

 

 

 

 

(――その信頼を、裏切るわけにはいかない)

 

 

 数ヶ月前、シドと話したイージスの奥の手について。ジョナサン達にも簡単に説明した。

 

 

「……じゃあ、承太郎さんならここを通れるかもしれないんスね!?」

 

「文字通り"全て"を防ぐ……否、"拒む"と言うべきか?そして、その代わりに眠り続ける。……随分、リスクの高い奥の手だな」

 

「それを使わざるを得ない程に、追い込まれてしまったんだね……」

 

「……ねぇ。六車さんはそこから出られないの?」

 

「それはまだ試していません。今、やってみます」

 

 

 後ろ手に手錠を掛けられた六車が立ち上がり、バリアの前に。……一歩踏み出すと、すり抜ける事ができた。

 

 

「出られた!」

 

「あ、怪我してるじゃないスか!治します!」

 

「手錠も壊すぜ」

 

「ありがとうございます……」

 

 

 バリアの外に出て来た六車の怪我をクレイジー・ダイヤモンドが治し、スタープラチナの腕力で手錠を破壊する。

 

 

「……ちなみに、六車さんは外から中に入れますか?」

 

「えっと……あ、あれ!?」

 

「通れなくなった……!」

 

「……やっぱ、承太郎に賭けるしかねェようだな」

 

 

 バリアの中にいた人間でも、一度外に出てしまうと中には入れないらしい。

 

 

「父さん……!」

 

「承太郎さん、お願いします!」

 

「……行って来る」

 

 

 俺はバリアの前に立ち、ゆっくりと片手を伸ばす。……頼む。通してくれ!

 

 

 

 

 

 

「――あ、」

 

「……と、通った!!」

 

「承太郎、行き来はできるか?」

 

「……ああ、出来るぜ。中からも外からも、バリアをすり抜ける」

 

「僕達は先程と変わらず、通れないままですね……やはり、承太郎さんは例外みたいです」

 

「……あとは、志人とイージスを起こせるかどうかだ。頼んだぜ、承太郎!」

 

 

 ジョセフに言われるまでも無い。すぐにシドとイージスの下へ向かう。……近くで見ると、彼の怪我の多さが分かった。

 

 足蹴にされたのか、服には誰かの靴跡がついている。さらに切り傷も無いのに服に血が付いている事から、もしかすると血を吐いたのかもしれない。

 整った顔は、大きく腫れている。口から血が流れていた。顔色も悪い。……この分だと、服の下も酷い事になっているだろう。

 

 一体、何があったのか。……それを聞くのは、こいつが目を覚ましてからだな。

 歯を食い縛る事で、志人をこんな目に遭わせた奴らへの怒りを、なんとか呑み込んだ。俺が志人の体を、スタープラチナがイージスの体を抱き起こし、呼び掛ける。

 

 

「……志人、イージス。起きろ」

 

「…………」

 

「……いつまで寝てるんだ。外はもう安全だぜ。起きていいぞ」

 

「…………」

 

「――っ、なあ早く起きろよ親友。俺を信じるって言ってくれたじゃねえか!志人!!」

 

「…………」

 

「起きろ!目を覚ませ!!」

 

 

 怪我人の体を強く揺らすなんて、本当はやりたくなかった。だが、死んだように眠る志人を見て、堪らず冷静さを取っ払う。

 

 俺ならどうにかできるかもしれないって、先に言ったのはお前の方だろうが!!

 

 

「最高の司書になるって夢も叶えずに!そのまま眠り続けるのか!?おい!!」

 

 

 だが……嗚呼、分かってる。数ヶ月前、万が一の時は遠慮なく奥の手を使えと言ったのは、お前達を起こしてやると言ったのは……俺だ。

 その後に、俺を信じると言ってくれたのが、お前だ。俺を信頼して、後の事を任せてくれた。

 

 

 ――その信頼を、裏切りたくない!!

 

 

「っ、お前が俺を!俺がお前を!互いに護り合うと言っただろ!?

 

 ――どっちか片方が欠けたら意味がねえんだよォッ!!目を開けろ!園原志人!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう叫んだ刹那――バリアが、消えた。

 

 

「なっ、」

 

「……はは、」

 

「!?」

 

「そうだな……片方が欠けたら、意味が無い」

 

 

 視線を下ろすと、相も変わらず睨んだだけで人を殺せそうな目が、俺を見上げていた。

 

 

「お前を信じて正解だったぜ――おはよう、親友」

 

 

 そう言って呑気に笑うそいつを見たら、涙が勝手に溢れる。

 

 

「――――こんの寝坊助が!!遅いッ!!」

 

「ごめんって」

 

「あはは、大寝坊だねぇ志人」

 

「そうだなぁイージス」

 

「てめーら……っ、ああ、もういい……お前らが笑ってるならもう何でもいいぜ、俺は……」

 

 

 涙を拭い、背後から家族がバタバタと駆け寄って来る音を聞きながら、深く、安堵のため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

空条承太郎の友人は、黒幕を知る



・男主視点。

・オリキャラが登場します。

・ご都合主義、捏造過多。園原誘拐編は特に注意。いろいろおかしな点があると思いますが、見逃してくれるとありがたいです。

・キャラ崩壊あり。


 ――ジョースター家だって、身内のためなら過激な尋問……という名の拷問をしたくなる時があるはず。




 

 

 

 

 

「――よかったあ!ゆきとさァァん!!」

 

「あのまま起きなかったら、起きなかったら、ぐすっ!う"う"……!!」

 

「承太郎はよくやったぞォ!!さすが親友だなァ!!」

 

「分かったから、っ、止めろ、くっつくな!!」

 

「ま、待て待て、俺潰され、」

 

「あっ、シドすまん!」

 

「はいはい!皆さん解散ですよ、解散!!」

 

「こら!またうちの子を潰す気か!?」

 

「志人、こっちだ。避難しろ!」

 

「あ、ありがとうございますディオさん……死ぬかと思った……」

 

 

 

 

「…………お前ら、何やってんだ?」

 

「アバッキオ!」

 

「おう。無事か?志人」

 

「承太郎達のおかげで何とか……」

 

「そうか、なら良い」

 

 

 承太郎のおかげで目が覚めた後。仗助のスタンドのおかげで怪我が完治した俺は、仗助と徐倫に泣きながら抱き着かれ、ジョセフにぐしゃぐしゃと頭を撫でられた。

 その次に、ジョセフは承太郎にくっついて、まだ承太郎に抱えられていた俺ごとぎゅうぎゅう詰め。

 それを見て手を叩き、解散を告げたジョルノと、ジョセフ達を叱るジョナサン。俺を救出してくれたディオ。

 

 そして、一連の流れを見て呆れた表情でツッコミを入れるアバッキオ。……彼は財団職員達と共に、後からやって来たようだ。

 

 

 財団職員達によって、まだ気絶しているトリスタン以外の奴らが回収されていく。

 トリスタンには後でいろいろ聞きたい事があるため、拘束してこの場に残す事になった。今は財団職員数人に加え、承太郎達が見張っている。

 

 奴が目覚める前に、俺達はそれぞれ情報を交換する事にした。まずは、六車さんが誘拐された時の話から。

 三谷さんが人質にされたと聞いた時は驚いた。それから、六車さんが機転を利かせて密かに承太郎達に連絡するようにと頼んだらしい。そのおかげで、承太郎達はいち早く事態に気づく事ができた。

 

 俺は六車さんに、三谷さんに電話して無事だと伝えた方がいいと提案した。六車さんはそれに頷き、財団職員の1人に携帯を借りて、一度この場から離れる。

 

 

「……ところで、さっきからずっと聞こうとしてたんだけどよォ。その三谷って奴とお前らはどういう知り合いなんだ?六車の従兄弟とは聞いたが……」

 

「確か、アバッキオさんが六車さんの行動を再生した時。"兄さんの図書館の常連さん達"って言ってたっスよね?」

 

「で、その常連さんが父さん達の事なんでしょう?どういう事?」

 

「すみません。それは内緒です」

 

「三谷さんとの約束があって、教えられないんだ。ごめんね?」

 

「えー!?」

 

 

 三谷さんとの関係性を気にしたジョセフ、仗助、徐倫の疑問はのらりくらりと回避。その間に六車さんが戻って来たので、これ幸いと次の話へ。

 皆は俺に何があったのかを聞きたがったが、それは一番最後に回してもらう。……聞いたらさすがに怒って話どころじゃなくなるだろうなぁ、と。俺でも予測する事ができたからだ。

 

 という訳で、次は承太郎達がどうやってこの場所を突き止めたのか。

 

 三谷さんから連絡をもらってすぐに俺の自宅に向かった承太郎達は、荷物が入れられたまま倒れている俺の自転車を発見。俺が誘拐されたと判断し、アバッキオを呼んで状況を再生してもらった。

 さらに。六車さんの自宅に向かい、六車さんや彼を拐った犯人の動きを再生。その再生された犯人を追跡し、ここまでやって来たという。

 

 その後の戦闘については、苦笑するしかない。下にいた敵スタンド使い達は運が悪過ぎたな。ジョジョ主人公ズと元ラスボスによる襲撃とか、それなんて災害?

 しかも、最上階に来た後も承太郎とディオが実質0秒で戦闘終了させたって……嘘だろチートコンビ。いや、マジでやったらしいけど。

 

 また。イージスの奥の手についても、どんな状況だったのかを聞いた。

 

 防御力に関しては、大成功。六車さんによると、奴らがどんな攻撃をしても破れる気配が無かったようだ。

 ただし。俺とイージスが予測した通り、承太郎しか通る事ができなかった。バリアの中にいた六車さんは外には出られたが、再び中に入る事はできなかったという。

 

 ……本当に、承太郎には感謝しかない。こいつが必死に呼び掛けてくれたおかげで目が覚めたからな。

 

 

(できれば、この奥の手はもう使いたくねぇな)

 

 

 片方が欠けたら意味が無いという、悲痛な叫び。目覚めた時に一瞬見えた、承太郎の真っ青な表情。今まで見た事が無い程に青ざめていた、あの顔。

 あれがどうしても忘れられなくて、罪悪感に襲われた。……あの時は呑気に笑って誤魔化したが、そうでもしないと泣いて謝るところだった。

 

 承太郎には、これ以上の責任を負わせたくないし悲しませたくない。互いに護り合うと約束したのに片方が……俺が欠けたら意味が無い。その通りだ。

 親友のためにも。あの奥の手は、俺に極端な負担が掛からない形で使えるようになりたい。

 

 できれば使いたくないが、今後も未来で何が起こるか分からねぇ。今のうちにどうにかして改良を――

 

 

「――シド、おい!」

 

「あ、え?……わ、悪い。聞いてなかった。何だ?」

 

 

 承太郎に肩を揺さぶられて、我に返った。……周りを見ると、俺に視線が集まっている。

 

 

「次はお前から話を聞こうとしたんだが……やっぱりいい。ちょっと休んでろ。話は六車から聞く」

 

「いや、話すだけなら平気、」

 

「いいから、静かに休め!……これ以上心配させないでくれ」

 

「……分かった、そうする。六車さん、とりあえず奴の目的に関わる話は抜いて、俺の身に何があったのかだけを話してください」

 

「それは構いませんが……何故?」

 

「あの話まで全部一気に話したら、絶対にとんでもない揉め事になるでしょう?それに、人払いもしないといけないし……後回しにした方がいいと思います」

 

 

 最悪の場合、ディオ1人が責められる事になるかもしれない。それから、財団内部に裏切り者がいると分かった今、他の財団職員が話を聞いている時に全部言ってしまうのはまずい。

 ……という話を、六車さんだけを側に呼んでひそひそと話せば、彼は納得してくれた。

 

 承太郎達には横になってもいいと言われたが、さすがにそれは遠慮して、壁に寄りかかって座るだけにする。

 仗助曰く。クレイジー・Dの能力で怪我を治したが失った血は戻ってないし、疲労も"直した"わけではないため、安静にした方が良い、との事。

 

 ……言われてみれば、確かに体がだるい気がする。今は治っているが、何度か血を吐いたし内臓に損傷があったのかもしれない。あと、骨も折れてたかも。

 

 

 そして六車さんの口から、俺が六車さんを人質に取られ、トリスタンに暴力を振るわれていた事が語られると――

 

 

「…………スタンドが、あのクソ野郎に化けた?」

 

「そいつに暴力を振るわれた、だと?」

 

「六車さんを守るために、抵抗するのも我慢してずっと殴られてたんスか――よし、あの金髪殴って直してのエンドレス決定」

 

「オラオラの刑にしてやるわ」

 

「無駄無駄の刑も追加しましょう。その上、僕のスタンドの能力で麻酔無し治療ですね」

 

「それで完全に治ったら、今度は俺の波紋疾走(オーバードライブ)ぶち込んでやるぜ」

 

「僕も付き合うよ、ジョセフ!」

 

「待て待て、ちょっ、待って!全員待って!アバッキオと六車さんも止めるの手伝ってくれ!!」

 

「いや、無茶言うなよ!?」

 

「無理です無理です無理です!!」

 

「……つーか、そもそも志人の父親に何かあるのか?」

 

「あ?……そうか。アバッキオは知らねーのか。今世のシドは、幼い頃から父親に暴力を振るわれ、父親のせいで母親が自殺に追い込まれ、いろいろあって父親から逃げる形で一人暮らしを始めたんだよ」

 

「は、」

 

「その父親は財団を通して説得、というか脅迫したおかげで、もう二度と志人さんの前に現れる事はありませんが、それでもトラウマは残っています」

 

「――俺も混ぜろ!!」

 

「混ざるなぁ!!」

 

 

 暴走ジョースター家にさらに物騒な人が加わろうとしている!止めて兄貴!あんたは元警官だろうが!?その後マフィアだけどさぁ!?

 

 ……その後。俺1人で必死に全員を止めようとしたのだが、立ち上がった瞬間。立ち眩みした俺が倒れそうになったのを見るや、心配し過ぎて全員怒りが収まったらしい。急に大人しくなった。

 

 

「えーと、とにかく。もう1つ話したい事があってだな……あ、六車さん。人払いお願いできますか?」

 

「分かりました」

 

 

 六車さんに他の財団職員の人払いをお願いして、トリスタンの見張りは俺達全員でやる事に。

 さらにイージスの防音バリアを張ってから、奴が俺を誘拐した目的と、財団内部に裏切り者がいる事を説明。

 

 話し終えると、承太郎達の視線がディオに集まった。……ディオはこめかみを押さえて、ゆっくりと首を横に振る。

 

 

「……念のために断言するが、今世の私はそのような愚かな真似をするつもりは無いし、何よりも志人に危害を加えるなど、あり得ないぞ」

 

「ああ、分かってる。……今世のあんたは、そんな事をする奴じゃねえ」

 

「本気でやるとすれば、ディオはもっと上手くやるはずだよなァ。そもそも志人をターゲットにしねェだろ。無駄に敵を増やす事になる」

 

 

 承太郎とジョセフが言うように、理由はそれぞれだが、ディオ以外のジョースター家はディオの事を疑っていない。

 今世のディオと直接話して、彼の人となりを知ったアバッキオと六車さんもそうだ。

 

 

「ディオさん。トリスタン・ウッドの名前に聞き覚えは?」

 

「…………前世では腐る程に部下を増やしたからな。もしかしたら、その中にそんな名前の奴がいたかもしれんが……さて、どうだったか」

 

 

 つまり。覚えていない、と。

 

 

「……とりあえず、さっそく奴に吐かせようぜ。シドと六車の情報を漏らした奴の名前を」

 

「あぁ。じっくりと、聞かせてもらおう。一体誰が私の名を騙ったのかを、なァ」

 

「――ちょォッと待ったァ!!」

 

 

 承太郎とディオが、トリスタンの下へ向かおうとした時。ジョセフがそれを止めた。

 

 

「承太郎とディオ!お前らは尋問に加わるの禁止!」

 

「あ"ぁ?」

 

「何だと?」

 

「さっき俺達の殴る分を残してくれなかっただろうがァ!!」

 

「確かに、そうですね」

 

「父さんもディオさんも大人しくしてて」

 

「ここは俺達に譲ってください!」

 

「あと、できれば君達が近くにいない方が良いと思うんだよね。トリスタンが恨んでる相手と崇拝している相手だから、2人が目に入ったら話が進まなくなると思う」

 

 

 他の主人公ズに反対された承太郎とディオは、渋々引き下がった。

 

 ……そんな彼らは今、座っている俺を間に挟んでいる。承太郎は俺の隣に片膝を立てて座り、ディオは壁に寄りかかって立っていた。

 端から見ると凄い状況だな。片方は3部主人公、片方は1部と3部ラスボス。そして間に挟まれる俺……

 

 

「で、どうやって起こすの?軽くあたしが殴ろうか?」

 

「いや。波紋で軽くショックを与えて起こすよ。ほら」

 

「うぎゃっ!?……な、なん、えっ!?」

 

「ハロォー?ご機嫌いかがァ?……よくもうちの子狙ってくれたなァ、クソ野郎」

 

「なァ、尋問は1回俺がボコボコにして全部直した後でもいいか?」

 

「駄目ですよ。仗助にやらせたら、なし崩しにエンドレスに突入するでしょう?」

 

「あ、バレた?」

 

「何故バレないと思った?……それに、直すのは僕のスタンドがやった方が効果的ですよ。痛みを伴うので」

 

「…………随分、物騒な家族だな」

 

「空条さんとディオさんが加わって無い分、まだマシだと思いますよ……」

 

 

 俺達から少し離れた場所で、不穏な会話をするジョースター家。それを聞いてドン引きするアバッキオと、苦笑いを浮かべる六車さん。……六車さんの言葉には激しく同意する。

 

 

「さァて、正直に答えろよトリスタン。……てめえに志人と六車の情報を渡したのは、財団職員の誰なんだ?」

 

「……ふん!誰が言うものか。他でもないジョースター家の人間に、ディオ様を慕う同志を売るような真似はしない!」

 

「へえ、仲間思いね。……それがいつまで続くかしら?」

 

 

 そして始まる、ジョースター家による尋問。たまにアバッキオによる脅迫も加わり、聞いているだけで恐ろしい。

 俺がイージスと一緒に小さく震えている中、両脇にいる承太郎とディオは平然としていた。今も小声で会話している。

 

 

「……結構粘るな、お前の信者」

 

「私は志人に手を出した奴を信者だと認めない」

 

「……分かった、訂正。自称信者だな。……何であそこまで頑ななんだ?」

 

「そうだな……ジョースター家への反抗心。それから、私への忠誠心だろうか?同志とやらの名前を言えば、私に迷惑が掛かる……とでも思っているのかもしれん」

 

「実際は、今世で奴が信じる"王サマ"なんざ何処にもいないってのに……可哀想な奴だぜ」

 

「ククッ……本心は?」

 

「――ざまあみやがれ」

 

「ふはっ!」

 

「お前こそ、自称信者に何か言ってやらないのか?」

 

「――さっさと黒幕の名を吐け」

 

「っは!」

 

 

 ……あーあ。こっちも悪い会話してるぞ。俺を間に挟んでその会話は止めて。トリスタンに同情したくなっちゃうから。

 

 

「……しょうがないな、質問を変えよう。君は今世でディオと会った事があるの?」

 

 

 と、ジョナサンがそんな事を問い掛けた。何故、今そんな話を?

 

 

「……同志を通して、ディオ様から命令を受けた」

 

「じゃあ直接会って無いんだね。……それって、本当にディオからの命令だって、自信を持って言えるかい?」

 

「何だと、」

 

「何故、ディオは君と直接会って命令してくれなかったのか。そして、その同志の言葉は本当に信用できるのか。

 

 ――君が尋問されている中、何故ディオはそこで平然と傍観しているのか」

 

「は、」

 

「それも、誘拐された被害者である志人と、その親友の承太郎も一緒にいるんだけど?」

 

 

 

 

「…………おい、こっちに飛び火したぞ」

 

「承太郎達が目に入ったら話が進まなくなるって言ったのはジョナサンなのに……!」

 

「……いや。あいつの事だから、もしかすると最初からこちらに話を振るつもりだったのかもしれんぞ」

 

「あ、確かに」

 

「腹黒ジョナサンがやりそうな事だな」

 

「聞こえてるよ?承太郎」

 

「すまん」

 

 

 まさかの飛び火に驚いたが、ディオが言うように、今世のジョナサンならそんな事を考えそうだ。奴が口を割らなかったから、この手段を取ったのかも。

 今までジョナサン達が壁になっていたせいか、俺達がいる事に気づいていなかったのだろう。トリスタンの顔色が悪くなった。

 

 

「…………あ、えっ?……ディオ、様?」

 

「――ああ、そうだ。トリスタン・ウッド。全く馬鹿な真似をしてくれたものだ。ジョースター家だけでなく、このディオの"お気に入り"でもある志人を狙うとは……」

 

「っ、」

 

 

 今、ディオのスイッチが切り替わった気がする。声音で分かった。これは、支配者の声だ。

 どうやらディオも、ジョナサンの無茶振りを利用してトリスタンを揺さぶるつもりらしい。……しかし、何故わざわざ床に膝を突いてまで俺の頭を撫でる?

 

 

「今は仗助のスタンドのおかげで綺麗に治っているが……治す前は酷いものだった。あんなにボロボロになって……可哀想に」

 

「ディオ様が、そうするよう命令したのでは……?」

 

「……志人の話では、承太郎への復讐と、ジョースター家への宣戦布告のためにこの子を誘拐したとの事だが、」

 

「そ、そうです!私はそのために、ディオ様のためにそのガキを誘拐したんです!あなた様の命令で――」

 

「――俺がいつ貴様に命令した!?このマヌケがァ!!」

 

「ひいっ!?」

 

 

 俺も悲鳴を上げたくなった。いきなり豹変止めてください怖い怖い。……と、また頭を撫でられた。

 

 

「すまなかったな志人。お前を怖がらせたかった訳ではないのだ」

 

「は、はい……」

 

 

 何だその子供に掛けるような甘ったるい声は。その差も怖い。……トリスタンへの当て付けか?

 

 

「ところで――貴様は一体誰だ?」

 

「え……?」

 

「前世でトリスタン・ウッドなどという名前は聞いた事がない。イミテーション・ドールというスタンド名も聞いた事がない。……貴様の存在に、全く覚えが無いのだよ」

 

「ま、まさか、そんな……!わ、私は前世では失態を犯したせいで、ヴァニラ・アイス様のスタンドによって始末されましたが……」

 

 

 前世の死因は"ガオン"かよ!?そりゃ、ご愁傷様……

 

 

「そうなるまでは、ずっとあなた様のために働いていました!!」

 

「失態を犯して始末された?……ふむ」

 

 

 少し考える様子を見せたディオは、パッと表情を明るくして、満面の笑みを浮かべた。おや?もしかして何か思い出した――

 

 

「――ならば、私がわざわざ思い出す必要は無いな。アイスも取るに足りないからと、私に報告しなかったのだろう。忘れてしまったのも当然だな」

 

「――――」

 

 

 あ、奴の心にヒビが入る音が聞こえた気がする。

 

 

「…………お綺麗な顔して、やる事えげつねえな……さすがジョルノの今世の兄」

 

 

 承太郎が俺の隣で、ぼそっと呟いた。なるほど血は争えない、と。

 しかし、ここで終わらないのがディオ様だ。彼は先程とは打って変わり、優しい声で奴の心をくすぐる。

 

 

「だが……貴様の行動次第で、その名前を覚えてやってもいい」

 

「……ほ、本当ですか……?」

 

「この私を疑うのか?」

 

「い、いえ!そんなつもりは……!!」

 

「では、私の問いに答えろ」

 

 

 と言いつつ、先程から俺の頭をずっと撫でている。何故?……ついには俺の髪に指を絡めては解かし、絡めては解かしを繰り返す。

 さすがに気になってそちらを横目で見ると、ディオは既に体をこちらに向けて、トリスタンから目を外していた。

 

 その状態で、話を続けるつもりらしい。……マジかよ、あんた。

 

 

「志人と六車の情報を漏らした相手――このディオの名を騙り、貴様に私のお気に入りを誘拐しろと指示した財団職員は、誰だ?

 それを明かせば、貴様の名前を覚えてやってもいい。……私の僕を自称するなら躊躇うな。早く言え!」

 

「っ――否笠(ひがさ)(あつし)。それが、同志の名です」

 

「!」

 

 

 ……否笠陸。ディオとジョルノを敵視していた一派の中心人物……財団内部で高い役職についていたが、数ヶ月前に突然辞任したという男の名前だ。

 俺は咄嗟に六車さんを見る。目が合った彼は一瞬、口の前で一本指を立てた。あぁ、分かってる。今この場では、余計な話は口にしない。

 

 

「……そうか、よく分かった。ご苦労」

 

「お、お役に立てましたか?」

 

「ああ、もちろんだとも。約束通り、貴様の名前は覚えておくぞ、トリスタン・ウッド」

 

「ディオ様……!!」

 

 

 目を輝かせるトリスタンに対し、ディオは満面の笑みを見せて、続けてこう言った。

 

 

「――ただし。覚えているのは、今日1日だけだがな」

 

「え、」

 

「明日以降は綺麗さっぱり忘れてやろう。このディオの記憶に1日だけでも残してやるのだから、ありがたく思え」

 

「――――」

 

 

 あ、奴の心が完全に折れる音が聞こえた気がする。ボキッと。

 

 

「おい、六車。それ(・・)はもう用済みだろう?他の財団職員を呼んで、片付けさせろ」

 

「は、……はい……」

 

 

 顔を引きつらせた六車さんは、人払いしていたところに財団職員を呼び寄せて、トリスタンを回収させる。……奴は抵抗する事もなく、無言で連行されて行った。

 

 

「……ディオ、お前。意外に大人しいと見せかけておいて、実は相当怒ってたんだな?」

 

「ん?……ああ、まァな。奴は志人を使って、ジョースター家に精神攻撃をしようとしていたようだから、逆にこちらが精神攻撃してやろうと決めていたのだ」

 

「何だそれ最高かよ」

 

「ハハハハッ!!もっと褒めていいのだぞ?承太郎」

 

「…………結局ディオに全部持ってかれたぜ、くそォ」

 

「予想以上に口が固かったから、ディオの方に話振ったけど……もう少し尋問時間を長く取るべきだったかな?」

 

「殴って直してのエンドレス、結局できなかった」

 

「ストーン・フリーの糸でもっと強く縛って置けばよかったわ。まだちょっと仕返しし足りない」

 

「……黒幕も分かりましたし、足りない分はそっちにぶつけましょうか」

 

「お前ら、あれでもまだ足りねーのかよ……」

 

「言っても無駄かもしれませんが、できる限り自重して欲しいです……」

 

 

 相変わらず物騒なジョースター家。さらにドン引きするアバッキオ。諦めたように笑う六車さん。

 ……トリスタン・ウッド、か。特に惜しくもない奴を失ったな。最後の心が折れた瞬間にはさすがに深く同情したが。

 

 

 さーて。そんな事よりも、ようやく黒幕が分かったぞ。元々、あんな事をやって得をするのはディオに敵意を持っている人間ぐらいだろうと予想していたが……

 

 

「……で、否笠陸ってのは何者だ?財団職員だって事は分かったが」

 

「あァ……そうだな。アバッキオと仗助と徐倫は知らないよなァ……ここまで巻き込んでるし、こいつらにも全部話しちゃう?」

 

「うん。ここまで来たら、何も説明しない訳にはいかないね」

 

 

 ディオとジョルノが財団の一部職員に疑われていた事、承太郎がその抑止力として扱われていた事に関して、事情を知らない3人に説明。

 さらに。クリスマスパーティーの裏側と、否笠陸が何者なのかも説明した。……仗助と徐倫は驚き、アバッキオは深くため息をつく。

 

 

「面倒な事に巻き込まれちまった……」

 

「……何か、ごめんな。アバッキオ。俺のせいで、」

 

「誰がお前のせいだって言った?……結果的に、俺のスタンドが志人を助けるのに役立ったんだ。それなら別に、巻き込まれても構わねーよ」

 

「アバッキオが優しい……」

 

「俺はいつでも優しいだろうが」

 

 

 ぐしゃぐしゃと頭を撫でられた。……ツンデレ兄貴、とか思ってごめんな。

 

 

「……ところで、お前。それは放っておいていいのか?」

 

「え?何が?」

 

「髪の毛。――一部が三つ編みにされてるぞ」

 

「えっ!?」

 

「「ぶふっ……!!」」

 

「ふふ……!」

 

 

 慌てて髪を触ると、確かにそれっぽい感触がした。そして同時に噴き出す、承太郎とディオ。クスクスと笑っているイージス。

 なんか髪いじられてるなぁ、とは思ったけどさ!まさか尋問中に三つ編み作られてるとは思わないだろ!?

 

 

「っ、ディオさん!!何やってんだよあんた!?承太郎とイージスも気づいてたなら言えよ!?特にイージス!お前、俺の本体だろうが!?」

 

「はははははっ!!ふは、っ、ははは!」

 

「クククッ!ハハ、ハハハハハハ……ッ!!」

 

「あはは、っ、ふふふふ!ご、ごめん、ね、志人……!!」

 

「おい、てめぇら!!」

 

「いいじゃねえか。似合ってるぜ?」

 

「アバッキオもニヤニヤすんな!!」

 

 

 そう怒りながら、三つ編みを解いていく。……それから、真面目な話に移った。

 

 

「否笠陸については、こちらで上に報告します」

 

「……上に(・・)?」

 

「はい。上に(・・)

 

 

 六車さんは財団トップの"耳"だ。上とはつまり、そういう事になる。……これはすぐに動きそうだなぁ。

 

 

「トリスタンの証言は既に録音済みですから、それを上に報告し、先に拘束してから詳しい証拠を集める形になるでしょう。その際は、アバッキオさんにもご協力を願う事になると思います」

 

「ああ、分かってるぜ。予定はできる限り空けとく」

 

「ありがとうございます」

 

 

 アバッキオは大忙しだな……ムーディー・ブルースって本当に便利な能力。

 

 

「……おい、六車」

 

「はい。何ですか?空条さん」

 

「――否笠を拘束する時は、もちろん、俺達も同席していいんだよなあ?」

 

「あっ、いや、あの、」

 

「――なあ?」

 

「うぐっ…………て、手荒な真似をするのは、否笠が抵抗した時のみにしてください……」

 

「あ"ぁ?」

 

「そっ、そこだけは譲れません!それを許したらおそらく相手が死んでしまう可能性が高くなるので……!どうか、お願いします!!」

 

「…………ちっ……仕方ねえな。おい、お前ら。それでいいか?」

 

「……まァ、しょうがねえよな。その場への参加禁止を言い渡されるよりはマシだろ」

 

「殴って直してのエンドレス……」

 

「駄目だよ、仗助?」

 

「うう……我慢するっス」

 

「よし、偉い偉い」

 

「……糸で縛るぐらいなら、」

 

「駄目ですってば、徐倫。全員が我慢するんですから、抜け駆けも禁止です」

 

「ちっ……」

 

「お前ら……いや、もう何も言わねえ。……おい、志人。こいつらの手綱、ちゃんと握っておけよ」

 

「え、無理」

 

「そんな簡単に放棄しないでください園原さん!あなたが頼りなんです……!」

 

「いや、無理だって」

 

「ククッ……責任重大だなァ?志人」

 

「あんたが言うな」

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

空条承太郎の友人と、相容れない黒幕



・男主視点。

・オリキャラが登場します。

・ご都合主義、捏造過多。園原誘拐編は特に注意。いろいろおかしな点があると思いますが、見逃してくれるとありがたいです。

・キャラ崩壊あり。


 ――空条承太郎だって、苦手とする人間がいるはず。

 ある男は、"空条承太郎は普通の人間だ"と思った。

 ある男は、"空条承太郎は英雄"だと主張した。

 ――今世の空条承太郎は、前者には全幅の信頼を寄せ、後者には苦手意識を抱く。




 

 

 

 

 

 他にも仕事があるからと言って先に帰って行ったアバッキオを除き、全員で廃ビルの1階まで下りる。……激しい戦闘の跡が残っていた。

 

 

「……これだよな?ジョナサンが吹っ飛ばしたっていう扉は。……うわ、拳の跡が残ってる。めり込んでるじゃねぇか」

 

「さ、さすがですね……確かにこれなら、上の階まで響く轟音が聞こえてもおかしくない」

 

「そのおかげで、俺が六車さんを奪還する隙が生まれたんだよな……ジョナサン、本当にありがとうございました。助かりましたよ」

 

「ふふ。結果的にそうなったなら、扉を吹っ飛ばした甲斐があったね」

 

 

 マジで助かった。……あの時はトリスタンに大口叩いたけど、実はそこまで余裕があった訳じゃなかったからな。

 

 

「む、六車!ちょっと来てくれ!」

 

「今行く!……すみません、ちょっと失礼します」

 

 

 と、六車さんが他の財団職員に呼ばれて、俺達から少し離れた場所に移動した。……そこでは財団職員達が集まっていて、何やら小声で話し合っている。

 

 

「……何かあったのか?」

 

「もしかして、否笠の方に何か動きがあったとか?」

 

「ふっ……もしも逃走した、とかだったら願ったり叶ったりだぜ。抵抗したと見なして、ボコボコにできるじゃねえか」

 

「怖い怖い」

 

 

 凶悪な笑みを見せる承太郎とそんな会話をしていたら、向こうに動きがあった。何故か、六車さんが他の財団職員達に押されるようにしてこちらに戻って来たのだ。

 

 

「六車さん?」

 

「……どうした?顔色が悪いぞ」

 

「何があったんですか?」

 

「えっと、その……あー……」

 

 

 冷や汗をかいていた彼は何やら言い淀んでいたが、意を決した様子で話し出す。

 

 

「皆さんにとって、残念なお話がありまして……」

 

「残念なお話、っスか?」

 

「はい――否笠陸が、東京支部に自首して来ました……何も、抵抗せずに」

 

「――あ"ぁ!?」

 

「ひっ!!」

 

 

 そして彼は、一気に殺気立つジョースター家全員に問い詰められる事になった。……哀れ、六車さん。

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 ジョナサンが運転する車に乗って、東京支部に向かう。……ジョースター家が全員揃ってやって来る事は滅多に無いらしく、東京支部にいた財団職員達がざわついていた。

 否笠は既に、ある人のスタンドによって無力化され、東京支部内にある取調室で拘束されているという。今はそのスタンド使いが、そのまま見張りをしているらしい。

 

 否笠がいる取調室の前の廊下で、そのスタンド使いが佇んでいた。

 

 

「――プッチさん!」

 

「志人君。……誘拐されたと聞いたよ。大丈夫かい?」

 

「はい。承太郎達に助けられたので」

 

「そうか。無事で何よりだ」

 

 

 6部のラスボス、プッチ神父。……今世の彼はディオと同じく無害であり、俺達と同様に前世と今世を区別しているタイプだと、ディオとジョナサンから聞いた。

 

 以前、ディオとジョナサンと共にいた彼と遭遇した日以来。互いに東京支部で見掛けたら、声を掛け合う程度の仲である。

 今世の彼の職業は、前世と同じ神父。今はごく普通の教会に勤めているようだ。あまり表情が変わらないがとても穏やかな人物で、前世よりも神父らしい。

 

 そんな彼に近づこうとすると、右腕を徐倫に、左腕を仗助に取られ、さらに俺の前にジョセフが立つ。

 

 

「あんな奴に近づいたら駄目よ、志人さん」

 

「そうっスよ。……俺は詳しくは知らないっスけど、前世の承太郎さんと徐倫を殺した男だって話は聞いてるっス」

 

「うちの子に近づくんじゃねーぞ、プッチ神父。……志人。いつ知り合ったのかは知らねェが、あまりこいつと関わらない方がいいぜ」

 

「……おやおや」

 

 

 プッチは困ったように、苦笑い。俺も多分同じ顔をしている。……そこへ、俺達の後ろから前に出た男が、何気ない様子で彼に近づいた。

 

 

「おい、プッチ。否笠は?」

 

「あ、あぁ。……この部屋の向こうにいるよ。小窓から見えるだろう?拘束されている、白髪の男だ」

 

「……へえ、あの男か。スタンドDISCはちゃんと抜いたんだろうな?」

 

「もちろん、抜かりなく。……ほら、ここにあるよ」

 

「ん。……抵抗されたか?」

 

「……私を見た時は、強い憎しみが籠った目で睨んで来たが……抵抗はしなかった。不思議な事に」

 

「そうか……財団職員からも否笠の様子は聞いたが、よく分からん奴だな」

 

「――って、父さん!?」

 

「なに普通に会話してんだお前は!?」

 

「承太郎さん!そいつに近づいちゃ駄目っスよ!?」

 

 

 前世でプッチに殺された承太郎がそんな様子だったので、徐倫達が焦っている。……まぁ、そうなるよな。

 

 

「……大丈夫だ。今世のこいつは、ディオと同じで無害だからな」

 

「はァ!?」

 

「そうそう。今世のプッチはディオだけじゃなく、僕の友人でもあるんだよ」

 

「ジョ、ジョナサンの友人!?」

 

「プッチさん、こんにちは」

 

「やぁ、ジョルノ」

 

「ちょっと!ジョルノまで……!?」

 

 

 ん?ジョルノは既にプッチと会っていたのか。それは知らなかった。

 

 実は、プッチと初めて遭遇した日。俺は承太郎と一緒にいた。

 最初は承太郎もプッチの姿を見た途端、今のジョセフのように俺を背に庇ったのだが、いろいろあって今世の彼が無害である事を知り、警戒を解いたのだ。

 

 

「……そういう訳で、特に問題無いから離してくれよ、2人共」

 

「駄目!」

 

「駄目っス!」

 

「…………参ったな」

 

「クク……ッ!その2人が安心するまで、そのままでいてやったらどうだ?志人」

 

「えっ」

 

「「それ採用」」

 

「えっ!?」

 

 

 ディオの余計な一言により、俺は"両手に花"ならぬ、"両手に4部6部主人公"状態で取調室に入る事になった。

 今から取調するって時に何やってんだろうな、俺もこいつらも。

 

 ジョースター家と俺とプッチが取調室に入ると、中にいた数人の財団職員達と、拘束されたまま座っていた白髪の男が顔を上げてこちらを見る。白髪の男は、柔和な笑みを浮かべた。

 あいつが否笠陸……この状況で、何故笑っていられるのだろうか?

 

 

 ちなみに。スタンドDISCを抜かれたのに衰弱していない理由は、プッチのスタンド……ホワイトスネイクの能力が改良されたおかげだ。

 今世で試行錯誤して、スタンドDISCを抜いた後でも死なずに済む方法を編み出したという。

 

 抜かれたDISCの代わりに、生命力の塊である別のDISCを入れれば、その後も生き続ける事ができるらしい。……なお、スタンド能力は抜いたDISCを再び入れない限り、永久に失う事になるという。

 これを利用して、あの縁切り事件の犯人である火宮幸恵も、スタンドと記憶を抜き取られてごく普通の一般人になったと聞いた時は驚いたな……

 

 

 閑話休題。

 

 

「ジョースター家の皆様――この度は、このような騒動を起こしてしまい、大変申し訳ありませんでした。ご迷惑をお掛けしました」

 

「あ?」

 

 

 開口一番、否笠が謝罪の言葉を口にしたので、誰もが困惑した。……自首した時点でそうだろうとは思っていたが、否笠はこの騒動の黒幕が自分であると、認めているのか。

 

 

「……あんたはトリスタン・ウッドを利用して、志人と六車を誘拐した件の黒幕が自分だと、認めるんだな?」

 

「はい。全て、私が計画した事だと認めます」

 

 

 俺達を代表してジョセフがそう聞くと、否笠はあっさりと認めた。

 

 

「まさかとは思うが――最初から、自首するつもりでやったのか?」

 

「……はい。そのつもりでやったので、お恥ずかしい事に計画自体も杜撰な物になりましたが……」

 

 

 確かに、あっさりと黒幕にたどり着いたのは上手く行き過ぎてるなと思っていた。だが、そもそも自首する事が前提の計画なら、そうなるのもおかしくない……か。

 

 

「……じゃあ、さっそく聞かせてもらうぜ。何故こんな事をやった?財団職員の話では、俺達が来た時にその理由を話すと言ったらしいが」

 

 

 そう。否笠は自首した後、ジョースター家が来た時に理由を話す、の一点張りでずっと黙秘していたという。

 

 

「てめえはディオとジョルノを敵視する一派の中心人物だった。……ディオに罪を擦り付けるためにやったのか?」

 

「…………そうですね、どこから話すべきか……やはり、この騒動を起こすと決めたきっかけから話すべきでしょうか」

 

 

 ほんの一瞬。目付きを鋭くさせた否笠は、ジョセフの問いに答えず、勝手に話し始めた。

 

 

「きっかけは、財団主催のクリスマスパーティーです。……あの日、スピードワゴン様はディオ・ブランドーとジョルノ・ジョバァーナの事を、ジョースター家の一員として認めてしまった。

 そして空条博士や、他のジョースター家の方々もそれを認めている。……そう聞いた時、私はこのままではいけないと思いました」

 

 

 否笠のディオとジョルノの呼び方を聞けば、奴が今世の2人をジョースター家の人間だと認めていない事は明らかだ。

 なるほど。この騒動を起こした罪自体は認めているが、ディオとジョルノに敵意を抱いたままだという事か。

 

 

「私は以前から、ディオ・ブランドーとジョルノ・ジョバァーナの存在について、財団内部で警鐘を鳴らして来ました。

 最初は私に同意する者が多かったのですが……数年前からそれが徐々に減っていき、あのクリスマスパーティーを機にほとんどいなくなってしまった。むしろ、2人を擁護する声が強くなったようだ。

 

 財団創設者の意向に逆らう訳にはいかないので、そこは仕方ない事だと思います。財団職員達は悪くない。

 悪いのは――そんな流れになるように全てを仕組んだ、ディオ・ブランドーだ」

 

「……何だと?」

 

 

 ディオを睨む否笠に対して、睨まれた本人も眉を寄せる。……酷い言い掛かりだな。

 

 あのクリスマスパーティーでの出来事のきっかけになったのは、スピードワゴンだ。ディオとジョルノの立場を改善するために、彼が自ら動いてくれた。

 そのスピードワゴンが動いたのは、六車さんがディオ達と直接会って話をした方が良いと進言したから。……ブックフェスでの出会いは間違いなく偶然だし、ディオは何も企んでいない。

 

 

「ディオ・ブランドーは前世で、ジョースター家を乗っ取る事を計画した。……今回は前世よりも長い時間を掛けて、同じ事をやろうとしたに違いない」

 

「……なるほど。前科がある事は認める。確かに、私は前世でジョースター家を乗っ取ろうとして失敗した。だからこそ、今世ではそれを成功させようとした……そう思われても、おかしくないだろう」

 

 

 言い掛かりを付けられても、ディオは冷静だった。相手の主張を聞いて理解を示し、その上で"だが"と続ける。

 

 

「今世の私に、その気は無い。現代ではわざわざジョースター家にこだわらなくても、上を目指す方法が他にもあるからな。……今通っている大学に進んだのも、そのためだ」

 

 

 おや、それは初耳。そして言っている事はもっともだ。

 いろんな意味でハイスペックなディオ様なら、ジョースター家に固執しなくても別の場所で何処までも上を目指せるはず。

 

 

「それに……ジョースター家の人間の強さは、前世で深く理解した。今世ではジョナサン、ジョセフ、承太郎だけでなく、その前世の息子や娘まで身近にいる。

 そんな状況でジョースター家の乗っ取りなど、いくらなんでも無謀だ。こいつらを敵に回しても得が無い。むしろ共存した方が良いと思っ――」

 

「――黙れ、この化け物!!そうやって、前世の息子と共に彼らを油断させようとしているのだろう!?私は騙されんぞ!!」

 

「おい!」

 

「大人しくしろ!!」

 

 

 徐倫、仗助と共に思わず肩を震わせた。……いきなり鬼の形相で叫ぶなよ。驚いた。

 椅子を蹴り倒す程の勢いで立ち上がった男を、財団職員達が慌てて取り押さえ、再び座らせる。

 

 

「……全く、とんだ言い掛かりだ。僕と兄さんは間違いなく人間だというのに、化け物だなんて」

 

「体は人間だろうが、心までは変わらないだろう!?ジョースター家に、空条博士に仇なす邪悪共め!!」

 

「あー待った待った!ちょっと落ち着け。……ディオとジョルノはしばらく黙ってろ。相手を興奮させるな」

 

「……ちっ」

 

「分かりました……」

 

 

 ジョセフが間に入ってそう言うと、不満そうにしながらもディオとジョルノが引き下がる。

 

 

「……で?クリスマスパーティーがきっかけになったのは分かったが、それが何で志人と六車の誘拐に繋がるんだ?

 特に。俺達の身内である志人は、てめえの計画のせいで酷い目に遭ってる。六車もそうだ。……俺達全員が納得できる説明をしてくれよ。なァ?」

 

「はい、もちろんです。――私は、他でもないジョースター家の皆様のために、この計画を実行したのですから」

 

「あ"ァ?俺達の身内に手を出したくせに、それが俺達のためだと?ふざけてんのか!?」

 

 

 そう言ったジョセフだけでなく、承太郎達やプッチ神父も無言で殺気立つ。落ち着け、待て、特に仗助と徐倫!俺の腕を掴む手に力が入り過ぎてるって!痛い痛い。

 

 

「……クリスマスパーティーの後。私は今回の計画のために、まず辞任する事にしました。持病が悪化したのでゆっくりしたい……という理由を作って。

 そうする事で、ある程度の自由を手に入れたのです」

 

 

 あの辞任は本当に自分の意思だったのか。上から圧力が掛かったんじゃないかと、勝手に想像していたが……違ったんだな。

 

 

「ある程度自由になった後は、財団の目を盗んで1人で動きました。私の計画に利用する、ディオ・ブランドーの信者を探すために。

 

 そして数ヶ月探し回って偶然見つけたのが、あの愚かな男……トリスタン・ウッドでした。

 

 私は自分がディオ・ブランドーの信者であり、同志であると偽って奴に近づき、ディオ・ブランドーが空条博士への復讐と、ジョースター家への宣戦布告を計画しており、その実行犯にトリスタンを指名していると嘘をついた。

 あぁ、もちろん。計画の目的自体はデタラメですからね?私には、ジョースター家の方々を害する意思はありません。

 

 あの愚かな男はそれを信じて、私の言った通りの行動を取りました。……それが、園原志人と六車拓海を誘拐させた経緯です。ここまではよろしいでしょうか?」

 

 

 淡々と話す否笠に対して、俺達はただ頷くしかできなかった。……なんか気味が悪いな、この男。

 

 

「それでは、私がそんな計画を実行した理由を説明します。その全てはジョースター家……特に、空条博士の目を覚まさせるためでした」

 

「あ?……俺の?」

 

「――そうです!私はジョースター家の方々の中でも特に!あなたのためにこの計画を実行したんですよ!」

 

 

 急にテンションが上がった。否笠は承太郎を一心に見つめて、目をキラキラと輝かせている。まるで、子供のように。

 それは今の状況と釣り合わなくて、不気味だった。……承太郎もそう思ったのか、訝しげな表情で否笠を見る。

 

 

「あなたも、ジョースター家の方々も。皆がその化け物に騙されている。

 空条博士。あなたは、ディオ・ブランドーとジョルノ・ジョバァーナをジョースター家の一員であると認めてしまった。それは大きな間違いだ!

 

 今はまだ大人しくしているかもしれない。しかしこの先、その化け物が私が起こした計画と似たような真似をしてもおかしくないのですよ!

 私が実行した計画は謂わば、その時のためのデモンストレーションです。いずれ来る未来の戦いに備えてもらうために、警鐘を鳴らしたんです。

 

 ――あなたは油断し過ぎている!ディオ・ブランドーは敵だ!あなたの宿敵だ!そいつはまんまと空条博士の懐に入り込んだんですよ!?騙されないでください!!」

 

「…………何を、言っている?宿敵だったのは前世の話だろ。今世では俺も、ジョースター家の人間達も、その因縁から解き放たれたんだ。

 ディオやジョルノと直接話し合った事で、俺は今世の2人に俺達に対する敵意が無い事を確信した。今世のこいつらは、ジョースター家と敵対しない」

 

「目を覚ましてください!あなたはディオ・ブランドーに踊らされている!!」

 

 

 ……駄目だ、このクソ爺。話が通じない。年を取って頑固になり過ぎたんじゃねぇか?そして何故か、承太郎に固執している。

 それに。おそらくこの爺は、今世よりも前世を極端に重視するタイプだと思う。俺や承太郎とは正反対で……承太郎が、苦手とする人間。

 

 

「……仗助、徐倫。ちょっと離してくれ」

 

「え?」

 

「いいから早く離せ」

 

「わ、分かったわ……」

 

 

 両脇で未だに俺の腕を掴んでいた2人にそう言って、解放してもらう。……苛立ち混じりに催促してごめんな。

 解放されてすぐに向かったのは、承太郎の隣。……今も一見冷静に否笠の言葉に反論し続けているが、こいつの目と雰囲気から感じ取れるのは……不安と動揺と、僅かな恐怖。

 

 

「とにかく空条博士!もっとその化け物を警戒して、できる限り近くで見張るようにしてください!いずれそいつが暴れ出した時に止められるのは、あなたしかいないんです!!最強の――」

 

「――はいはいはい!ちょっといいですかねぇ?せっかくベラベラと妄想垂れ流してるとこ遮って悪いとは思うけど、かなり話がズレてるんで、そろそろ戻してもらえません?」

 

「っ、シド……?」

 

 

 危ねぇ。奴が承太郎の地雷を完全に踏み切る前に、割って入れて良かったぜ。

 承太郎の背中に手を伸ばして、俺がいる方とは反対の、高い位置にある右肩に手を置く。そのままゆっくりと叩くと、承太郎は左手をそこに伸ばして俺の手の上に置いた。

 

 揺れている翡翠の瞳が、俺を見る。……目を合わせて、1つ頷いた。大丈夫だ、俺がいる。

 

 

「もう少し詳しい事が知りたい。……まず、何で自首する事を前提とした計画を立てたんです?こういうのって、普通はバレたくないものだろ?」

 

「……ふん。空条博士やジョースター家の方々に、ご迷惑を掛けないためだ。事件をすぐに解決できた方が、この方々の手を煩わせないで済む」

 

 

 急に偉そうな態度になったな。俺はてめぇが起こした事件の被害者の1人なんだが?

 ……ふーん?この爺、ジョースター家以外は眼中に無い感じか?その中でも特に固執している相手が承太郎、と。

 

 

「じゃあ、もう1つ。……何故承太郎1人にこだわる?万が一、ディオさんが前世の時と同じような事をやらかそうと暴走した場合、承太郎に相手をさせようという魂胆は分かってるんです。

 

 ですが、承太郎たった1人にその責任を負わせようとする神経は理解できない。今世には大勢のスタンド使い達が転生しているんですよ?

 別に、その役目は承太郎1人じゃなくてもいいはずだ。他のスタンド使いに任せてもいい。承太郎には拒否権がある。

 

 前世でずっと戦い続けてくれたスタンド使い1人を休ませてあげようと、そんな事を少しでも考えようとは思わなかったのか?」

 

 

 ――空条承太郎は普通の人間だ。

 

 二次元のヒーローなんかじゃない。現実で生きている人間なんだ。……俺の親友にばかり、重い責任を押し付けるな!

 

 

「……全く、君は何も分かってないな。空条博士にそんな心配はいらないのだよ。

 

 ――空条承太郎は英雄だ。

 

 前世ではさすがに40過ぎまで生きて年を重ねたせいか、スタンドの力も衰えてしまったが、今世の彼は全盛期の肉体とスタンドを手にしている!

 最強のスタンド使いであり、無敵のスタープラチナがいる空条博士に敵う者はいない!化け物退治は彼に任せるのが確実なんだ!

 

 貴様のその心配は、最強の戦士に対する侮辱だぞ!?やはり私の判断は間違ってなかった!貴様は空条博士にも、ジョースター家にも相応しくない!

 彼の事も、その家族の事も何一つ理解していない貴様が、空条博士の親友?ジョースター家のお気に入り?烏滸がましいにも程があるぞ、若造!!」

 

「――――はぁ?」

 

 

 おい何だよ、その主張は。ふざけるな。……だが、ぶちギレた俺が怒鳴ろうとした時。奴が次に吐いた言葉には耳を疑った。

 

 

「だから貴様を空条博士とジョースター家から引き離すために、その心を折るために!!わざわざターゲットに選んだというのにトリスタンめ!中途半端に失敗を――」

 

 

 そして一気に空気が重くなった瞬間、俺は咄嗟に叫んだ。

 

 

「――イージス・ホワイトォォッ!!」

 

 

 イージスを呼び出し、即座に否笠の周りにバリアを張った。

 

 

 ――そこに殺到するスタンド6体の拳と波紋疾走(オーバードライブ)から、否笠を守る。

 

 

「あ……危ねぇぇっ!!間一髪ぅぅっ!!イージス、よくやった!!」

 

「い、いや……俺は志人の指示に従っただけだし、これは志人の判断のおかげだよ!よくやった本体!!」

 

 

 さらにそう叫び、互いに褒め合った。……本っ当に危なかった。マジで危うく1人死人が出るところだった。

 ……正直、こいつらのスタンドと波紋使いの攻撃を一気に防ぐバリアを張ったまま維持するのはきついけど、解除するとまた攻撃するかもしれないから、それはできない。

 

 一度深呼吸して心を落ち着かせてから、周りを見る。

 

 スタープラチナ、ザ・ワールド、G・エクスペリエンス、クレイジー・D、ストーン・フリー、ホワイトスネイク。

 それから、まだ波紋を纏っている男がいる事を確認して、ため息をついた。

 

 

「あんた達、揃いも揃って何やってんだ!?今の攻撃、全部そいつを殺せるぐらいの威力だったぞ!?」

 

「そりゃそうだろ、殺す気でやったんだからな。……シド。早くバリアを解け。

 そんな下らねえ理由で、俺の親友を狙ったクズを許す訳にはいかねえんだ。そいつは殺す。絶対に、殺す」

 

「俺の親友とその家族に人殺しなんてやらせるかぁっ!!バリアは解除しない!」

 

「……志人君。いい子だからそのバリアを解いてくれないか?ホワイトスネイクの能力で、その男の肉体を溶かしてやりたいんだ」

 

「溶か…っ、何ですかその能力怖い怖い!」

 

 

 知ってるけど。原作で知ってるけど!今世の俺はDISCを抜き取る能力については聞いているが、相手を眠らせてから溶かす能力についてはまだ聞いてないので、知らないふり!

 

 

「というか、そもそもそんなクソ爺!承太郎達が殴る価値もねぇだろ!?そいつのせいで人殺しの罪を被る必要は無い!!

 ……お願いだから、スタンドと波紋を引っ込めてくれ。俺は大事な親友にも、ジョースター家の皆にも、プッチさんにも、人殺しになんて馬鹿な真似はやらせたくない!」

 

「…………仕方ねえな。全員、スタンドと波紋を仕舞え。こうなったら俺の親友は、梃子でも動かねえぞ」

 

 

 承太郎がそう言って真っ先にスタープラチナを引っ込めると、それに続いて全員のスタンドと波紋が消える。……もう、誰もスタンド出してないな?波紋もないな?よーし、

 

 

「バリア解除…っ、は、」

 

「シド!?」

 

「志人!?」

 

 

 解除と同時に、膝から崩れ落ちる。そんな俺を承太郎とイージスが支えて、倒れ込むのを防いでくれた。……その周りに、ジョースター家とプッチが集まって来る。

 

 

「廃ビルであんな強力なバリア使ったその日にまた強いバリアを張ったら、そりゃそうなるっスよね!?しかもあの大怪我を俺が治した後だし……!」

 

「無茶しないでくださいFratello(兄さん)!!」

 

「全くだわ。安静にして!」

 

「……その無茶を、させたのは……何処の、誰だと、思ってやがる……」

 

「あっ……す、すみませんでした」

 

「ごめんなさい」

 

「すみません、反省します……」

 

 

 んん、素直でよろしい。……年下組の謝罪に続いて他の奴らも口々に謝ったから、それで良しとしよう。

 

 ……これで全員の怒りが収まったのだと、俺は安心して……油断していた。だから、気づくのが遅れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――ある人物が、否笠に向かって拳を突き出した事に。

 

 

「ぐがあっ!?」

 

「え、」

 

「っ!?」

 

「――――ジョ、ジョジョ……?」

 

 

 否笠の悲鳴が聞こえる。……ディオは珍しく、震えた声でその人のあだ名を呼んだ。

 

 

 

 

 

 

 






 今回登場したプッチ神父は、シリーズの番外編から逆輸入されています。
 男主とプッチ神父の出会いが気になる方は、こちらをご覧ください。
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=17389275




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

空条承太郎の友人は、黒幕を哀れむ



・男主視点。

・オリキャラが登場します。

・ご都合主義、捏造過多。園原誘拐編は特に注意。いろいろおかしな点があると思いますが、見逃してくれるとありがたいです。

・キャラ崩壊あり。特にジョナサン。


 ジョナサン・ジョースターの主な"武器"は、その肉体や身体能力、そして波紋。

 だがしかし。……今世の彼は、それ以外の新たな"武器"を磨いていた。

 ――ジョナサン・ジョースターだって、口が悪くなる時があるはず。……ただし、確信犯である。




 

 

 

 

 否笠はスタンドDISCを抜かれ、さらに拘束されて座っていた。ろくに抵抗できずに殴られ、床に倒れる。

 その否笠を殴った、まさかの人物――ジョナサン・ジョースターは、追撃を加える事なく静かに否笠を見下ろしていた。

 

 俺達からは、彼の大きな背中しか見えないが……否笠の近くにいた財団職員達が、恐る恐るといった様子で離れていく。

 彼から発せられる威圧感と、殺気。……ジョナサンが怒りを露にしている事は、明白だ。

 

 

「…………なァ、ディオ。もしかして、俺の前世のお祖父ちゃん……本気で怒ってる……?」

 

「……わざわざ俺に聞かなくても分かるだろう?ジョセフ。それ以外に何がある?」

 

「ですよねェ……!」

 

 

 ジョセフとディオの小声の会話が聞こえた。周りを見ると、ジョースター家とプッチ神父。その全員の顔色が悪い。

 ちょうど全員俺の周りに集まっていたので、なんとなく皆で身を寄せ合って、ジョナサンの様子を窺う。

 

 ……また殴りそうになったら、否笠をバリアで守る必要があるかもしれない。イージスは外に出したままで――

 

 

「――志人」

 

「はっ、はい!?」

 

 

 いきなりジョナサンに呼ばれた。心臓が飛び出るかと思った。

 

 

「ごめんね。せっかく君が守ったのに、僕が殴ってしまって……」

 

「あ、い、いえ……別に、それは気にしませんが……?」

 

「そうか、ありがとう。……あと、もう1つ謝りたい事がある」

 

「……何ですか?」

 

「以前。志人は僕の事を、誰かの心を本気で傷付けるような言葉は絶対に使わない人……誰よりも優しい人と、そう言ってくれたよね?」

 

「はい。……それが、どうしました?」

 

 

 母親と祖母の墓参りに行った時、俺はジョナサンの事をそういう人だと紹介した。その話の事だろう。

 

 

「誰よりも優しいかどうかは、ともかく。確かに君の言葉は当たっている。……でも、ごめん」

 

「?」

 

「――今回だけは、それを破らせてもらう」

 

「えっ?」

 

 

 それは、どういう事だ?

 

 

「さて。そろそろいいかな?否笠さん。僕はあなたと、少し話がしたくてね……」

 

「は、はい……」

 

 

 なんとか体を起こした否笠に対して、ジョナサンがそう声を掛ける。……俺と話していた時と比べて、明らかに冷たい声だった。

 

 

「最初に、あなたの話を整理しようか。あなたは、僕達の大事な家族の一員であるディオとジョルノが化け物で、いずれジョースター家と敵対する……と言っていたね?間違いは無い?」

 

「は、はい。ありません」

 

「では、次に。志人と六車さんを誘拐する計画を立ててトリスタンに実行させたのは、ディオに騙されている僕達ジョースター家の……特に、承太郎の目を覚まさせるためだった。これにも、間違いは無いかな?」

 

「はい、もちろんです」

 

「次に……ディオが万が一、暴れ出した時。それを押さえる役目は、あなた曰く、英雄だという承太郎しかいないと思っている。

 だからできる限り近くで、ディオの事を見張ってもらいたい、と?」

 

「ええ、そうです。間違いありません」

 

「最後に、志人を誘拐した理由について。……志人は承太郎にも、ジョースター家にも相応しくないから、彼を僕達から引き離すためにトリスタンに狙わせた?」

 

「はい。……その若造のトラウマを利用して恐怖を煽り、心を折れば、ジョースター家からすぐに離れるだろうと考えました。

 誘拐された理由を知れば、怖い目に遭ったのは自分が空条博士の親友を自称していた上、ジョースター家のお気に入りと呼ばれていた事が原因だと、頭の足りない若造でも理解できたはずですから」

 

「――あ"ぁ?」

 

「っ、バリア展開!」

 

「はいはい!」

 

 

 承太郎のドスの効いた声と共に、再び殺気立つ主人公ズと元ラスボス2名に気づき、俺達の周りにバリアを張った。

 これで、承太郎達はバリアの外に出られない。……承太郎達の物言いたげな視線が、俺に刺さる。

 

 

「…………シド」

 

「駄目だ、外には出さない。……それに、ほら」

 

「あ?」

 

「ジョナサンが"邪魔をするな"って目で訴えてるぜ。……逆らわない方がいいんじゃないか?」

 

「…………」

 

 

 こちらに振り向いたジョナサンの表情は、珍しく無表情。しかし、目はギラギラと輝いていた。非常に怖い。

 それを見たのだろう。承太郎達が急に大人しくなったので、バリアを解除する。

 

 

「……失礼。話を続けようか。……ちなみに、僕達の目を覚まさせる事と、志人を僕達から引き離す事。そのどちらが一番の目的だったのかな?」

 

「もちろん、一番の目的はディオ・ブランドーに騙されてしまっている、ジョースター家の皆様の目を覚まさせる事でした。

 しかしそれに失敗しても、せめて園原志人の心を折り、ジョースター家から引き離す事ができればそれでいいと思っていました。

 

 今のうちに引き離す事ができれば、皆様の心の傷は浅いもので済む……そう考えました。

 

 おそらく最初のうちは、お優しいジョースター家の皆様であれば、自分達のせいで園原志人が酷い目に遭い、そのせいで離れて行ったのだと、罪悪感を抱くでしょう。

 ですが。皆様ならきっと、それは一時の気の迷いだったとすぐに気づいて、園原志人の存在を忘れる。

 

 何故なら、まだ付き合いの短い今であれば――その若造の存在に、価値などありませんから。

 

 父親に暴力を振るわれていたという過去や、六車拓海という人質を上手く利用すれば、若造の心など簡単に折れて、すぐにジョースター家から離れようとするはず。

 ……そう予想していたのですが、当てが外れてしまいました」

 

 

 …………長々と語られても、理解できなかった。むしろ、俺の心と頭がこのクソ爺の主張を理解する事を拒否している。

 

 

「……俺の存在に、価値が無い――?」

 

「――そんな訳あるか!!」

 

「っ!?」

 

 

 承太郎が大声で叫んだ事に驚き、勝手に肩が跳ねる。俺の両肩をガッと掴んだ承太郎は、顔を上げてジョナサンを呼んだ。

 

 

「あんたの邪魔はしないから、少しだけ、そのクズ野郎に俺が言いたい事を言わせてくれ」

 

「……いいよ、分かった。言ってみて」

 

「おう。……否笠。てめえが言う志人の評価は、全て間違っている。勘違いも甚だしいぜ。

 

 園原志人は……俺の掛けがえの無い親友は!価値があるか無いかで測れる程度の男じゃねえんだよ!!

 俺にとっても、ジョースター家にとっても!志人の存在は価値があるどころの話じゃねえ!その存在は、必要不可欠だ!!」

 

「――――」

 

「――俺の親友を!ジョースター家の身内を!侮辱するなァッ!!」

 

 

 承太郎の言葉が、その信頼が。涙腺を刺激する。……頑張って涙を我慢した。

 

 俺の存在が必要不可欠、か……本当にありがたい言葉だ。きっと、一生忘れられない。

 

 

「そうだそうだァ!よく言ったぜ承太郎!」

 

「父さんの言う通り、志人さんはジョースター家の大事な身内なんだから!」

 

「志人さんが俺達から離れるなんて、そんなの考えられねえ!そうならないように、今後は俺達の手で絶対に守ってやる!!」

 

「僕のFratello(兄さん)に、志人さんに価値が無いなんて、もう言わせない!」

 

「っは!貴様程度の男では、志人の存在の尊さを一生理解できないだろうなァ!……いや、むしろ理解するな。下手に近づかれたらこの子が穢れてしまう」

 

「……以上だ。ジョナサン、もういいぜ」

 

「うん。……皆、ありがとう。志人の存在価値について、僕が言いたかった事をほとんど言ってくれた」

 

 

 ジョナサンの声が柔らかくなった。もしかしたら、機嫌が少し直ったのかもしれな、

 

 

「今の聞いたかい?否笠さん。僕達にとって、志人の存在はちゃんと価値があるんだよ?……志人の事を侮らないでくれ」

 

 

 ……そんな事はなかった。相変わらず、否笠と話す時の声は冷たい。

 

 

「……そうでしたか。――もはや、手遅れだったんですね。出会ってから短期間でここまで取り入るとは……若造め。一体どんな卑怯な手を使ったんだ!?」

 

「取り入るとか、卑怯な手とか……そんな事、人付き合いをする上で考えた事も無いんだが」

 

「何だと!?そもそも取り入っている自覚さえ無かったのか!」

 

「いや、自覚があるとか無いとかの話ではなく、」

 

「黙れ小僧!口答えするな!!」

 

 

 あぁ、駄目だ。分かってはいたが、この爺とは相容れないな。人の話を全く聞いてない。

 

 

「大体貴様は、」

 

「否笠さん」

 

「あ、はい!何でしょう?」

 

 

 ジョナサンが呼ぶと、鬼の形相からころりと変わり、穏やかな表情になる。何だ、あの変わり身は。気持ち悪い。

 ジョースター家の人間が相手だと、本当に対応が大きく変わるんだな。

 

 

「――口答えしているのはあなたの方だろ」

 

「え、」

 

「承太郎達も言ったはずだよね?志人を侮辱するなって。

 

 年を取ったせいかな?耳が遠くなったようだね、ご老人。補聴器でも着けたらどうだい?」

 

「――――」

 

「…………ジョナ、サン?」

 

「え、待って。あの人ってあんなにズバズバ言う人だったかしら……?」

 

「いやいやいや徐倫……普段は滅多にあんな事言わねェし、前世のエリナ婆ちゃんの話でも、そんな話題出なかったぜ?」

 

「そっ、そうよね……」

 

 

 仗助、徐倫、ジョセフが驚いている。……それ以外の面子は、プッチも含めて今世のジョナサンが腹黒属性である事をよく知っているため、平然としていた。

 

 しかし……何というか。いつもの毒舌よりもかなり刺々しいような気がするんだが……気のせいか?

 

 

「あなたの話の整理は済んだし、次はそれらを1つずつ否定していくとしようか。……前世でディオ・ブランドーと戦った男の言葉だ。よーく聞いて、頭に叩き込んでくれよ?」

 

「…………」

 

「返事は?」

 

「は、はい」

 

「よし。ちゃんと聞こえているね?それなら、これから話す事も聞こえるはずだよね?

 さっきは補聴器が必要じゃないかと思ってたけど、そんな心配はいらなかったわけだ。良かった良かった!」

 

 

 今、さりげなく言質を取ったな。これで否笠には、ジョナサンの言葉がしっかり聞こえている事になる。……聞き逃した、なんて言い訳は使えない。

 

 

「まずは、ディオとジョルノがいずれ僕達と敵対する、という話の事だけど……特別に、あのクリスマスパーティーの裏側について説明してあげるよ。

 あ、そちらの財団職員さん達も聞いてもいいですが、他言無用でお願いしますね」

 

「はいっ!」

 

「誰にも言いません!」

 

 

 あーあ。同席していた財団職員達も、すっかり怯えてしまっている。

 

 ジョナサンは、例のクリスマスパーティーの裏側について。そもそものきっかけである、ブックフェスでの六車さんとの偶然の出会いから、懇切丁寧に説明した。

 六車さんが、スピードワゴンの耳役である事も。俺が護衛任務を任された経緯についても。全てだ。

 

 

「……と、そういう訳だから、あのパーティーでスピードワゴンがディオとジョルノの事を認めてくれた事は、彼自身がそう判断した結果なんだ。

 僕達、ジョースター家の人間が2人の事を認めたのも、僕達が自分の目で彼らを見て、話した結果。そう判断しただけの事だよ。

 

 彼らは何も仕組んでいない。ディオとジョルノは、今世では周りの信頼を得るために、ずっと努力し続けた。その行いが実を結んだから、皆が彼らを認めてくれた。

 ……特にディオは、前世の記憶を取り戻してから10年以上。SPW財団に積極的に協力して、ジョースター邸という籠の中に自ら留まり、大人しく監視されていたんだよ」

 

 

 ジョナサンは肩を震わせ、拳を強く握る。……必死に、怒りを抑え込んでいる。

 

 

「僕はずっと、そんなディオの姿を見続けた。時に挫けそうになりながらも、信頼を得るために努力し続ける彼の事を、彼の一番近くで見て来たのだと自負している。

 ――そんな僕が、ジョナサン・ジョースターが……っ、ディオ・ジョースターの心の友が!彼の弛まぬ努力と!その存在を認めているのだッ!!

 

 ディオの事をよく知ろうともせず!前世の行いだけで化け物と決めつけて唾棄するお前を!僕は一生許さないぞッ!!否笠陸!!」

 

 

 隣で、息を呑む音が聞こえる。……そちらを見ると、ディオの琥珀色の瞳が潤んでいるのを目にした。

 彼は唇の動きだけで"ジョジョ"と呼び、それから歯を食い縛る。……泣くのを我慢してるんだなぁ。気持ちはよく分かる。

 

 

「……そんな……っ、そんなはずは!」

 

「おっと、口答えは止めてくれ。あなたの耳は正常なんだろう?僕が話したクリスマス・パーティーの裏側は、全て事実だ。……承太郎。そうだよね?」

 

「ああ。……ジョナサンの話の中に、嘘は1つも無かった」

 

「ほら。あなた曰く英雄である、承太郎がそう言ってるんだよ?……僕だけでなく、承太郎まで疑うのかい?」

 

「い、いえ!あなた方を疑うなんて、あり得ません!!」

 

「なら、分かるだろう?ディオとジョルノは、今世ではジョースター家の乗っ取りどころか、それ以外にも何も企んでいないんだよ」

 

「ぐ、……うう……っ!」

 

 

 すげぇ。逃げ道を全部潰して、否笠を黙らせた!……今世のジョナサンは肉体だけでなく、言葉という"武器"も磨いたらしい。

 

 

「さあ、次だよ。志人と六車さんを誘拐して、ディオが僕達と敵対した場合のデモンストレーションを行い、僕達の目を覚まさせようとした……という話だけど。

 

 ――これはディオが何も企んでいない事が分かったし、あなたがやった事は全て無意味だね!」

 

「むっ、……無意味?」

 

 

 おおう、グサッと来る一言……!

 

 

「むしろ。僕達ジョースター家の敵意を煽りまくってるし、財団のトップであるスピードワゴンにとってもお気に入りである志人と、彼と繋がりがある六車さんに手を出した時点で、あなたの処罰は相当重くなるという事が簡単に予想できる!」

 

「……あ、」

 

「志人と六車さんにスピードワゴンとの繋がりがある事を知らなかったとはいえ、手を出してはいけない相手に手を出してしまったね。あはは、ご愁傷様!」

 

 

 おそらく、わざとだろう。明るい声で、楽しそうに、否笠に対して現実を突きつけている。……邪ナサンもといジョナサンが、怖い。

 否笠の顔色が悪くなっていく。ようやく、自分の立場の不安定さを理解したようだ。

 

 ここに来て俺も、理解した。……ジョナサンが俺に言った言葉の意味を。

 

 

(俺は以前。ジョナサンの事を、"誰かの心を本気で傷付けるような言葉は絶対に使わない人"だと言った。……彼は、"今回だけはそれを破らせてもらう"と言った)

 

 

 つまり。ジョナサンは――誰かの心を本気で傷付ける言葉を使い、否笠を精神的に攻撃するつもりなのだ。

 

 

「では次に……承太郎の事は最後に回して、志人を誘拐した真の理由について話そうか。

 あなたは志人の心を折り、僕達から引き離そうとした。志人は僕達に相応しくないから、と」

 

「そ、そうです!その若造は、空条博士とジョースター家に取り入り、我が物顔で振る舞う身の程知らずだ!」

 

「……僕も承太郎達もさっき、志人を侮辱するなと確かに言ったはずだよね?

 

 ――それでもまだ、僕達の大事な大事な身内を、侮辱するのか……へえ?これで二度目なんだけどなあ?」

 

「っ、ひっ……!」

 

 

 今度は一気に冷たい声になった。……後ろ姿しか見えないが、きっと目も冷たくなっているのだろう。落差が激し過ぎる!

 

 

「……トリスタンは、スタンドを志人の父親の姿にした上で、志人がその暴力に抵抗したり、逃げたりすれば、その度に人質の六車さんの体をナイフで傷付けると、脅したらしい。

 しかし。志人は一度も抵抗せず、逃げる事もしなかった。ずっと父親からの暴力に耐えて、恐怖と戦っていたという。……六車さんを、守るためにね。

 

 そのおかげで、彼が怪我をしたのは志人を脅した時の最初の一回だけだった。

 さらに、志人は隙をついて六車さんを奪還し、それ以降は僕達が助けに来るまで、自らの命を危険にさらすリスクの高い力を使ってまで、護り通した。

 

 そんな偉業を成し遂げた子のどこが、頭の足りない若造なんだ?」

 

 

 偉業……?それはさすがに言い過ぎじゃないか?俺は確かに六車さんを護るためにトリスタンに従ったが、あれは自分のためでもあった。

 

 俺はずっと、母さんに護られて来た。母さんは、父親による暴力に怯える俺の事を、自分を犠牲にして護ってくれたんだ。

 ――だから。今度は俺が、自分以外の誰かの事を理不尽な暴力から護りたいと思った。ただ、それだけの話。

 

 

「……そういえば。以前、ジョセフから良い言葉を教えてもらったよ。この言葉はきっと、志人の偉業に似合う言葉だ。

 

 ――正義の輝きの中にあるという、黄金の精神。

 

 それから前世で僕の師匠が言っていた、人間讃歌という言葉。それも当てはまるだろう」

 

「――――」

 

 

 ――"ジョジョの奇妙な冒険"の世界観において、正義の心の象徴とされている言葉、黄金の精神。

 

 それが、俺に似合う?そんな事を黄金の精神の大本のような存在であるジョナサン・ジョースターに言われるとか、光栄過ぎて体が熱くなる。1人だったら絶対泣いてた。

 

 

「こんな素晴らしい男が、承太郎にも、ジョースター家にも、相応しくないだって?……そんな訳無いだろう?

 というか。僕達に相応しいかどうかなんて、どうしてあなたが勝手に決められるのかな?……そもそも、僕達なら相手が自分達に相応しいかどうかなんて、偉そうな事を言ったりしないし。

 それで……あなたは一体誰の許可を得て、僕達に相応しいか否かを決めつけているんだ?

 

 ――本当の身の程知らずとはッ!黄金の精神をその身に宿す園原志人ではなくッ!お前の方だろう!?」

 

 

 ……あ。否笠の表情が、ディオによって心にヒビが入った時のトリスタンと、全く同じ表情になった。

 

 

「……次で最後、だね。あなたは承太郎の事を、英雄と評した。……前世で僕の代わりにディオを倒してくれた事には、僕も承太郎に感謝している。

 その功績を指して英雄と呼んでいるなら、承太郎は確かに英雄なんだろう。……でもね。その評価を本人に押し付けるのは、正直どうかと思うよ」

 

「……押し付ける?違いますよ。私はただ事実を言っただけです。私は空条博士に敬意を表して、」

 

「敬意?いいや、違うね。あなたのそれは――レッテル貼り、と言うんだよ?……承太郎が大っ嫌いな、あのレッテル貼りだ」

 

「…………え?」

 

 

 信じられない事を言われた、って顔だな。やっぱり自覚が無かったのか。

 

 

「きっと世の中には、英雄と讃えられたら喜ぶ人もいるんだろうけど……承太郎は違う。そう呼ばれて喜ぶどころか、嫌悪感を抱く。

 だって、自分でちゃんと分かっている……いや、思い知ったんだ。

 

 ――自分は、その器では無い、とね。……もしも自分が本当の英雄なら、守りたい物を全部守れたはずだから、と」

 

 

 承太郎が、息を呑んだ。……ジョナサンを凝視して、目を見開いている。

 

 

「……なーんて、ね。今の承太郎なら、そんな事を考えるんじゃないかなあと思ったんだけど……承太郎、合ってる?」

 

「…………ああ。心を覗かれたんじゃないかと思うぐらい、ぴったりと一致してたぜ」

 

「あはは、そうか。ただの勘だったんだけど……それはともかく」

 

 

 承太郎を見て苦笑いしたジョナサンは、再びこちらに背を向けて、否笠を見る。

 

 

「承太郎はきっと、大袈裟に讃えられる度に、自分の無力さを思い知って、神経をすり減らしていたんじゃないかな。

 つまり。あなたの言葉は承太郎の心に傷を付けて、その傷口に塩を塗っていたのさ。

 

 それから、あなたは志人が承太郎を心配した事を、最強の戦士に対する侮辱だと言っていたね?

 さて。それは本当に侮辱だったのかな?……承太郎。正直に言ってみて。志人の心配は君に対する侮辱だったのか、否かを」

 

 

 俺を含め、全員の視線が承太郎に集まる。彼は不敵な笑みを浮かべ、俺の肩に腕を回した。

 

 

「――全然、全く、これっぽっちも、侮辱じゃねーな」

 

「なっ、」

 

「むしろ、俺の事を心から心配してくれているのだと思うと、嬉しくて仕方ない。……さすがは俺の掛けがえの無い親友にして理解者だな。

 俺の事を最も理解している人間は、間違いなく園原志人だ。……それに比べたら、否笠。てめえの理解はこいつに遠く及ばねえよ」

 

 

 承太郎を見つめて、真っ青になっている否笠。……最初よりも老け込んでいる気がする。

 

 

「これで、もう分かったね?あなたが散々侮辱した園原志人こそが、承太郎の真の理解者だよ。

 

 そんな志人の事を否定し、的外れな持論を展開して!悦に入っていたお前こそが――空条承太郎という人間を!最も理解していない男だったんだッ!!」

 

「あ、……っ、そ、そんな――」

 

「――例え何度生まれ変わろうとも!お前は一生、承太郎を理解する事ができないッ!!承太郎の前世の先祖である、このジョナサン・ジョースターが!そう断言するッ!!」

 

「――――っ!!」

 

 

 ジョナサンの言葉の刃によって止めを刺された否笠は、声にならない叫びを上げて……倒れた。

 

 

「お、おい!?どうした!?」

 

「…………き、気絶してるぞ……」

 

「……嘘だろ」

 

 

 否笠を取り囲んだ財団職員達が、ざわざわと話し合っている。……そんな彼らに背を向けたジョナサンが、俺達に向かって微笑む。

 

 

「あんなに偉そうにしてたのに、呆気ないね」

 

「……そう、だなァ……呆気なかったなァ……」

 

「ぐ、グレート……っスね、はは……」

 

「最初は黒幕ボコボコにしたいと思ってたのに……もう、そんな気も失せたわ」

 

「……人間って、言葉だけで気絶させる事ができるんですね……勉強になりました」

 

「ジョルノ。あんな事は勉強しなくていい。あれができるのはジョジョたった1人でいい。速やかに学んだ事を忘れなさい」

 

「は、はい、兄さん」

 

 

 ジョルノの肩を掴んで訴えるディオの様子が必死過ぎる。……そうだよな。確かに、ジョナサンみたいな規格外は1人いれば充分だろう。

 

 

「あ、そうそう。プッチ」

 

「な、何だい?ジョナサン」

 

「僕から後でスピードワゴンに相談してみるけど――後日。否笠さんの記憶DISCを、前世の分も今世の分も全部抜いて、何も知らない一般人になってもらおう。

 

 ジョースター家とその身内に、二度と関わらないようにしてもらわないと、ね?」

 

「…………分かった」

 

 

 邪ナサン降臨。……口は笑ってるのに、目が笑ってない。あのプッチ神父が気圧されている……!

 

 

「…………やれやれ、だぜ。……ジョースター家の家訓に一筆加えておこう――ジョナサン・ジョースターだけは怒らせるべからず、ってな」

 

 

 そう言って深く帽子を被り、目元を隠した承太郎の手は……よく見ると、震えていた。

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

最後の高校生活
空条承太郎の友人は、進級する




・男主視点。

・ご都合主義、捏造過多。


 ――空条承太郎だって、嬉しい偶然があればご機嫌になるはず。




 

 

 

 

 否笠陸は、俺が誘拐された日の翌日にプッチのスタンドで記憶DISCを抜かれ、財団から除籍され、一般人になったらしい。

 ジョナサンがスピードワゴンに相談した事もそうだが、今回の事態を重く見た彼は、除籍という処分を躊躇わなかったという。

 

 財団職員と、財団に登録したスタンド使いの個人情報が外部に漏れてしまったのは、財団側の不手際。

 今後。同じ事を二度と起こさないようにするために、否笠だけでなく、彼に同調していた数人の協力者達にも厳しい処分を下したようだ。他の財団職員達への、見せしめのために。

 

 しかし。そのせいで、ジョースター家のお気に入りと呼ばれる俺が今まで以上に腫れ物のように扱われた事は、ちょっと納得いかない。

 俺に回す任務も安全性の高い物ばかりにしようか、という話が財団内で上がったらしいが、そこは六車さんを通して、今まで通りにして欲しいとお願いした。

 

 

 ……あ、その六車さんの事だが。

 

 実は一度、財団側から六車さんを担当から外そうか、と打診された。とある財団職員が、俺の家に直接相談しに来たのだ。

 彼が人質にされたせいで、俺がトリスタンから暴力を受けざるを得ない状況になったのだから、その責任を取らせるとか。六車さんよりも優秀な担当者を用意するとか言われた、が。

 

 ふざけんなよ、と一蹴させてもらった。

 

 六車さんには何も落ち度が無い。むしろ、彼も俺と同じく今回の事件の被害者だ。俺に対する人質にされたから、俺に迷惑を掛けたから、なんて理由で解任されたら堪ったもんじゃねぇ。

 それに、彼よりも優秀な担当者だと?俺は六車さんこそが優秀な担当者だと思っている。

 

 彼は俺に依頼を持って来る時。俺が求めている情報を前もってまとめてくれたり、依頼の同行者がどんな人物なのかを詳しく調べて、相手とのコミュニケーションを取り易いようにしてくれたりする。

 そして何よりも人柄が良い。六車さんは真面目過ぎるのがちょっと困る時もあるが、その分誠実な人だ。俺は優秀か否かよりも、その人柄を気に入っている。

 

 だから、六車さんは担当者継続でお願いします。……そう言ったのだが、俺に相談しに来た財団職員曰く、六車さんの方が担当を外して欲しいと財団側にお願いしたとか。

 

 俺はその時点で、何かがおかしいと思った。六車さんなら、財団側にお願いするよりも先に俺に話を通すはずだ、と。

 それに。俺に相談しに来た財団職員は、所々傲慢というか、そんな気質が見え隠れしていて……

 

 と、その財団職員を怪しんでいた、ちょうどその時。六車さんと数人の財団職員達が、慌てた様子で俺の家にやって来た。

 

 俺が怪しんでいた財団職員は、俺を通してジョースター家と"お近づき"になろうとしていた人間の息が掛かっていたという。

 六車さんを担当者から外す、という打診は全くの嘘。財団側ではそんな話は上がっていなかったらしい。

 

 最初にやって来た財団職員は拘束され、後に財団側で処罰したそうだ。……しかし、念のため。俺から財団側に意思表示しておいた。

 人間関係の悪化など余程の事が無い限り、俺が六車さんを担当者から外す事はあり得ない、と。

 

 後日。そんな俺の言葉を聞いた六車さんに、泣きながら感謝された。あんたって真面目な顔してるくせに、本当に涙脆いよな。

 そしてそれ以来。六車さんは俺がちょっと褒めたり感謝したりする度に、表情はキリッとしているが目だけはキラキラさせて喜ぶようになった。幻覚の犬耳と尻尾が見える。

 

 

「――という訳で。六車さんはシェパードだなって思ったんだ」

 

「くくっ……!なるほどな。確かに似ているかもしれない」

 

「だろ?」

 

「僕はその六車さんという人に会った事が無いから分からないが……園原君の例え方は面白いな」

 

 

 春休み明け、最初の登校日。今日から高校3年生になる俺は、承太郎、花京院と共に学校を目指し、承太郎ファンクラブにキャーキャー言われながら、六車さんの話をしていた。

 

 去年最高学年だったジョセフやポルナレフ、シーザーは卒業したため、高校には来ない。

 それがちょっと寂しいが、代わりにジョルノ達、前世の護衛チームの若者組とトリッシュが高校に入学するため、賑やかさは変わらないだろう。

 

 

「ところで、僕は君からすれば何に見えるのかな?」

 

「花京院は……うーん、そうだなぁ」

 

 

 普段の花京院の様子と、見た目から判断すると――

 

 

「――コリーだね。ラフコリー」

 

「ラフコリー?……えっと、どういう犬だっけ?」

 

「……こういう奴だ」

 

「ああ、そうだったそうだった。茶色の大型犬だね」

 

 

 承太郎がスマホで調べたらしく、2人で画像を見て頷き合っていた。

 

 

「それで、どうして僕がラフコリー?」

 

「うん。……ラフコリーは、人の気持ちを汲み取るのが上手いらしい。花京院もそうでしょ?

 

 周りの人をよく観察していて、人と人の間を取り持つために積極的に動いてくれる。でも、その気遣いを周りに気づかせない。相手に気を使わせないために、いつもさりげなく行動する。

 それから、コリーって賢いイメージがあるからさ。見た目も気品があるし、頭が良くて観察眼もある花京院にはぴったりかと思って……

 

 ……あれ?どうかしたの、花京院?」

 

 

 顔を覆い、小さく呻き声を上げていた。……やがて顔を上げた花京院は、承太郎と小声で何かを話し始める。

 

 

 

 

「…………これは確信犯か?無自覚か?」

 

「無自覚だ。……うちではこれを"無自覚砲撃"、あるいは"人たらし爆弾"と呼んでいる。ジョセフ曰く、シドは"愛すべき爆弾魔"だとか」

 

「愛すべき爆弾魔って、何だその字面。言いたい事は非常によく分かるが」

 

「……ちなみに。この無自覚砲撃に対して、うちの中で一番耐性が低いのがディオだ。簡単に動揺するし、被害に遭った時はよく固まる」

 

「えっ、意外過ぎる……!」

 

「奴は純粋な好意に弱い」

 

「へ、へえ……本当に意外だな」

 

 

 

 

「おーい。先行っちゃうよ?」

 

「あ、ごめん」

 

「今行く」

 

 

 ゆっくり歩きながら、小声で話し続けていた2人に声を掛けると、駆け足で合流して来る。

 

 

 学校に到着し、廊下に貼り出された新しいクラスの名簿を確認……したかったのだが。人が多過ぎてよく見えない。

 仕方ないので、周りよりも一回り大きい身長の承太郎に、俺達の名前を探してもらう事にした。

 

 

「承太郎、見える?」

 

「今探して――おお?」

 

「ん?」

 

 

 承太郎が珍しく、声をワントーン上げた。……それから、これまた珍しく嬉しそうに笑い、俺を見てロータッチを求めて来た。

 人前なのに、ご機嫌なのを隠そうとしないしロータッチも求めるとは。本当に珍しい。隣で花京院がビックリしてるぞ。

 

 

「――1年間、よろしく!」

 

「んっ?……あ、あぁ!そういう事か。やったね!」

 

 

 俺と同じクラスになったのを喜んでいたらしい。それは俺も嬉しいので、ロータッチには喜んで応じた。

 

 

「で、花京院は?あと、ついでに形兆の名前も探して」

 

「ついで、とか言うな」

 

「あ、形兆。おはよう」

 

「おはよう、形兆君」

 

「よお」

 

「どうも」

 

 

 そこへちょうど、形兆もやって来た。噂をすれば何とやらだ。

 

 

「……花京院と形兆は、同じクラスだぜ。俺とシドのクラスの隣だ」

 

「おや、そうか。あと1年、よろしくね」

 

「……必要以上に関わるつもりは無いぞ」

 

「はいはい」

 

 

 形兆がツンデレ気味だという事は、高校生組なら誰もがよく知っているため、花京院も軽く流している。

 彼はさっきも言ったように、人の気持ちを汲み取るのが上手いから、形兆とも何だかんだ言って仲良くなれると思う。

 

 新しいクラスに向かい、花京院と形兆と別れ、教室に入る。……中にいた女子生徒達(と、一部男子生徒)が、承太郎を見て大歓声を上げた。相変わらずの大人気である。

 出席番号の関係で、承太郎の席は窓側の一番後ろ。俺の席はその隣だった。席に座ると、黒板に貼られた出席番号と生徒の名前が記された紙が見える。

 

 

 それを確認した俺は、"ある事"に気がついた。

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 登校初日から、数日後。既に通常授業が始まっている放課後に、旧図書館で承太郎、ジョルノと共に過ごしていた時。ふと、初日に気づいた"ある事"を思い出した。

 

 

「なぁ、ジョルノ。……承太郎でもいいんだが、ちょっと教えて欲しい事がある」

 

「はい?」

 

「……何だ?」

 

「俺は新しいクラスに初めて入って、黒板に貼られた名簿を見た時に――高2で同じクラスだった奴らが、誰もいない事に気づいたんだ」

 

「………」

 

「………」

 

「もしかして、教師側に何か働き掛けたのか?……去年、俺がいじめを受けていた件で」

 

 

 そう問い掛けると、承太郎とジョルノは顔を見合わせる。

 

 

「……いや。何もやってないぜ」

 

「僕もです。さすがにクラス替えには干渉できませんよ」

 

「…………そうか。変な事を聞いて悪かったな」

 

「いえ、構いませんよ。……ところで。受験生のお2人は、もう行きたい大学が決まっているんですか?」

 

「ああ……決まってる」

 

「俺も決まってるぞ」

 

 

 話を逸らすジョルノに合わせて、何事も無かったかのように次の話題へ移る。

 2人共、聞いて欲しく無さそうだったからな。クラス替えの話題はもう出さないようにしよう。気になるが、追及したくなる程の事では無いし。

 

 

「志人さんはどんな大学に行くんですか?」

 

 

 ジョルノに聞かれて大学名を答えると、隣に座っていた承太郎にガッと両肩を掴まれた。

 

 

「おい。それは第一志望か?」

 

「そ、そうだけど」

 

「よし、もう変更するなよ。あとお前なら心配いらねえだろうが、絶対合格しろ」

 

「はぁ?」

 

「…………承太郎さん。まさか、あなたが決めた大学は――」

 

「――シドと同じ大学だ。俺もその大学の海洋学部が第一志望なんだよ!」

 

「えっ!?」

 

 

 何という偶然!!

 

 あれ?あの大学って海洋学部あっ……たな、そういえば!でも、待てよ?

 

 

「承太郎の成績なら、もっとレベル高いところに行けるんじゃねぇか?」

 

「確かにそうだが、そこの大学院に海洋学研究で気になる論文を出した教授が、1人在籍しているんだ。それに興味を持ってな。

 入学後にその教授の講義を聞いたり、直接話ができればと思っている」

 

「なるほど、そういう理由でしたか」

 

 

 そんな理由なら、確かにレベルなんて気にしないか。俺も承太郎と同じく、司書養成科目が取れる大学ならレベルに関係なく何処でも良かったし。

 

 

「お前こそ、もっとレベル高いところに行けるはずだろ?学年1位」

 

「……お前、地味に根に持ってるな?」

 

「うるせえ」

 

 

 去年のクリスマスパーティーの前。期末試験で勝負して負けた事を、未だに気にしているらしい。承太郎は、俺と一点差で学年2位だった。

 

 

「……で?何でその大学が第一志望なんだ?」

 

「司書養成科目がある、っていうのが一番の理由だが、スカラシップ制度の授業料全額免除がある」

 

「……確かに、志人さんにとってお金の問題は重要ですよね」

 

「……財団からの依頼で金を稼いでいるとはいえ、シドはスタンド使いになってからまだ1年も経っていない。バイトで稼いだ金を合わせても、充分では無いだろうな」

 

「苦学生は辛いんだよ……」

 

 

 思わず遠い目になった。……大学入学に合わせて引っ越す予定だし、まだまだ稼がないと。途中で受験勉強に集中するために、バイトは辞める事になるだろうが。

 

 

「……あと、もう1つ理由がある」

 

「ん?」

 

「――その大学、元々住んでいた場所に近いから。……母さんと婆ちゃんの墓参りにも行きやすい」

 

「……そうか。お前は本当に家族想いだな」

 

 

 微笑ましいものを見る目で見られた。その目は止めてくれ、元父親。なんか照れる。

 

 

「とりあえず、来年からもまたよろしく頼むぜ、親友」

 

「はは、こいつめ。もう互いに合格するつもりでいやがる……」

 

「当然だろ。去年の学年1位と2位だぞ、俺達は」

 

「はいはい、分かったよ」

 

 

 新しいクラスが分かった時のようにロータッチをして、ニヤリと笑い合う。……俄然やる気が出て来た。絶対に合格してやろう。

 

 

「……いいですよねえ、Fratelli(兄さん達)は。大学も一緒になりそうで……承太郎さんも卒業後は一人暮らしを始めるようですし。家で愚痴大会を開けなくなります」

 

「……確かに、そうだな。……まぁ、いつでも電話しろよ。直接会わなくても電話で話せるぜ」

 

「直接会う機会が減るのが寂しいです……その大学、医学部は無いんですか?」

 

「こら、一時の感情に任せて進路を決めるな。……それにお前、もう入学したい医科大学が決まったって言ってただろ?」

 

「そうなのか?俺は初耳だぞ」

 

「はい。高校に入る前に決めたんですが、すみません。志人さんにも言ったつもりになってました」

 

 

 ジョルノから希望している大学名を聞いた俺は驚いて、次にスマホでその大学を調べた。……あぁ、やっぱりそうだ。

 

 

「志人さん?」

 

「……ジョルノ、朗報だ。――俺達が希望してる大学の場所と、その医科大学がある場所はまぁまぁ近いぜ。ほら」

 

「えっ?…………あ、本当だ」

 

「承太郎が何処で一人暮らしをするかは分からないが、場所次第では気軽に会えるようになるんじゃないか?

 あと、俺も今住んでる場所から大学の近所に引っ越す予定だし、上手くいけば定期的に3人で会えるようにな――」

 

「――Fratelli(兄さん達)!引っ越した後はどちらも絶対に住所教えてください!いいですね!?僕も卒業後はその近くに引っ越します!!」

 

「分かった分かった。決まったら真っ先に教えるから」

 

「……やれやれだぜ」

 

 

 可愛い弟分の必死な様子に、俺と承太郎は思わず笑ってしまった。

 ……まぁ。俺達が卒業した後は、ジョルノが卒業するまで2年間合流できない訳だが……水を差さないためにも、今だけは黙っておこう。

 

 

 

 

 

 

 






※本編後。承太郎とジョルノだけが知る、真実(会話のみ)

「……志人さんならいずれ気づくだろう、とは思っていましたが……早過ぎですね」

「……あいつ、前よりも勘が鋭くなってる気がする」

「本当ですか?……それなら、次から志人さんに隠し事をする時は気をつけないといけませんね。すぐにバレてしまいそうだ」

「いや。シドなら気づいても、俺達が本気で隠したい事には突っ込んで来ないだろう。……現にさっきも、俺達が何かを隠していると察していた。あの顔はそういう顔だ」

「……いつもの涼しげな表情にしか見えなかったんですが」

「俺には分かるぜ」

「そのドヤ顔やめてください。ちょっとイラッとします。……とりあえず、これからも志人さんには隠すという事でいいですか?もちろん、この事を知らない他の仲間達にも」

「ああ。――あの日。シドを倉庫に閉じ込めた奴ら以外のクラスメイト達も、あいつが閉じ込められた瞬間を目撃したくせに、見て見ぬ振りをして校舎に戻っていく様子が、校庭の監視カメラに全部映っていた……そんな残酷な真実、わざわざ知る必要は無い」

「本当なら、志人さんのクラスメイト達を、いじめに加担していなかった奴らも含めて全員断罪したかったところですが……いじめに直接加担していない限り、罰する事はできません。教師側ともかなり揉めましたけどね」

「……断罪の対象をそこまで広げたら、倉庫に閉じ込められる以前のいじめ行為を見て見ぬ振りした奴らも、その全員が対象になってしまうからな……学校側にとってはかなりの痛手だ」

「その断罪ができない代わり、教師側には"せめて志人さんと、その元クラスメイト達だけは、3年で同じクラスにならないようにして欲しい"という要求を通した訳ですが」

「……なあ。それって本当に、俺も同じクラスにするように操作はしてないんだよな?」

「はい。"元クラスメイト達を別クラスにする事以外は、変な気は使わなくていい"と、教師側にはそう言いましたから」

「そうか、ならいい。……誰かに操作される事なく、偶然同じクラスになれた。その事実さえあれば、俺はそれで構わない」

「……最近になって分かりましたけど――承太郎さんって、志人さんが関わると急にロマンチストになりますよね」

「うるせえ。……そんなもん、とっくに自覚済みだ」

「ふふ……」
 
 


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

空条承太郎の友人と、体育祭



・男主視点。

・ご都合主義、捏造過多。書きたい部分を書いただけ。

・キャラ崩壊注意!!


 ――空条承太郎だって、親友に無茶振りする事があるはず。




 

 

 

 

 

 ――さて。今年もやって参りました、体育祭。

 

 この学校は中学と高校、それぞれ土日で2日に分けて体育祭が行われる。初日は高校、2日目は中学の体育祭だ。

 高校の体育祭では、赤、白の2つのチームに分かれて競い合う事になっていた。1つの学年から3クラスずつ、それぞれのチームに分かれる。

 

 つまり、うちの高校は一学年につき6クラス。そして中学も同じく、6クラス。ちなみにどちらも、一クラス大体40人ほど。

 中学と高校全部を合わせると、とんでもない生徒数になる。だから、学校の敷地もかなり広いのだ。

 

 

 今回、前世の仲間同士で上手い具合にチームが分かれた。

 

 俺と承太郎に、ジョルノ達5部の面子が赤組。花京院と形兆に、仗助達4部の面子が白組。……と、綺麗に2つに分かれている。

 競争意識が高まっており、体育祭当日よりも前から燃え上がっていた。やる気は充分だ。

 

 

 体育祭当日。登校し、体育着に着替え……赤いハチマキを巻いた俺と承太郎は、校庭に向かう。

 その途中で、ジョルノ達5部組とばったり出会った。さらにその直後、別の方向から来た花京院と形兆、仗助達4部組が現れ――

 

 

「……よう、花京院。負ける準備はいいか?」

 

「君こそ、足を掬われないようにね?承太郎」

 

 

 3部相棒組を中心に、現在互いの間で火花が散っております。……おお、怖い。

 俺以外は全員、前世でそれぞれ苦しい戦いを乗り越えて来た面子だからな。勝利への執念は強いし、勝負事に関しては誰もがマジになる。

 

 

「……おい」

 

「ん?……形兆?どうかした?」

 

「お前はあっちに混ざらないのか?」

 

「えぇ……?無茶言わないでくれ。あんな闘気の高まってる場所に行ったら火傷するよ」

 

 

 承太郎達が睨み合っている場所から少し離れた場所に立っていたら、わざわざ形兆が声を掛けてくれた。

 

 

「……お前も、そこまでやる気があるわけでは無いんだな」

 

「いや、あるよ」

 

「何?」

 

「彼らと俺のやる気は、ちょっと違う」

 

 

 お前"も"という事は、形兆にはあまりやる気が無いのかもしれない。だが、俺は少し違うのだ。

 

 

「承太郎達のやる気は、"勝ちたい"だけど――俺のやる気は、"勝たせてやりたい(・・・・・・・・)"」

 

「!」

 

「親友と弟分があんなに気合いを入れてるし、だったら俺もあいつらのために勝ちたいな、と。そう思ってるんだよ。

 お前は?弟とその仲間達を勝たせてやりたいと、少しでも思わないか?」

 

 

 そう問い掛けると、形兆は目を見開き……ニヤリと笑った。おや、レア顔。

 

 

「なるほど……そういう考え方もある、か」

 

「おっ?やる気出た?」

 

「…………まぁ、億泰は負けたらしばらく落ち込んで、うざったらしい事になりそうだからな……それは面倒だ」

 

 

 相変わらず、素直じゃないツンデレ兄貴だな。

 

 

「それに、」

 

「んん?」

 

「あの人――花京院さんが勝ちたがってるしな」

 

 

 おやおや?……そういえば。最近は昼休み中に屋上にいる時、花京院と2人で話している姿をよく見るし、仲良くなってる?……へぇ?

 

 

「……おい、何だその顔は!?」

 

「別に何もないよ?」

 

「嘘つけ、そのニヤついた顔は絶対に余計な事を考えているだろ!?」

 

「いやいや」

 

 

 形兆が順調に幸せになっているようで、何よりです。

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 体育祭が始まる前から、校庭には生徒の保護者達が集まり、賑やかになっている。

 

 ジョースター家の人達がいる場所は、すぐに分かった。なんといっても目立つ。とにかく、目立つ。

 卒業したジョセフとジョナサンとディオがいるし、明日の中学の体育祭に参加予定の徐倫もいるからな。ファンクラブの人間の注目が集まっていた。……そういや、去年もあんな感じだったか?

 

 

 そして始まる体育祭。……全体的になかなか面白い事になっていたが、その全てを語ると切りが無い。よってここからは、印象に残った種目のエピソードを語っていこう。

 

 

 まずは、女子の100メートル走。ちょうど赤組のトリッシュと、白組の由花子が競い合う事になった。

 この2人も、始まる前から火花を散らしていたな。片や、元マフィアのボスの娘。片や、ヤンデレ女子高生。……下手したら男同士よりも、女同士の方が怖いかも。

 

 彼女達の対決が始まるや否や、他にも走っていた女子生徒は一気に引き離され、2人がトップを独走する展開となった。……結果はギリギリで、赤組トリッシュの勝利。

 

 その後。観客席ではジョルノ達5部組に祝福されるトリッシュと、恋人の康一に泣きつく由花子の姿が見られた。

 由花子はそんなに悔しかったのか。大袈裟だな……と思っていたら、これが康一のやる気に火を付けたらしい。

 

 

「え、康一くん凄いな!?大活躍じゃん……」

 

「……あいつは普段は大人しいが、やる時はやる男でな。……昔から、なかなかの根性を持っている」

 

「へぇー……」

 

 

 承太郎の言う昔とは、前世の事だろう。確かに、承太郎は彼に一目置いていたようだし。

 

 

 康一が大活躍した種目は、騎馬戦だった。乱戦状態の中、赤組の生徒が付けているハチマキを次々と奪っている。

 

 まともに組み合うのではなく、相手の隙をついてハチマキを奪っているようだった。……さらに騎馬役は仗助と虹村兄弟という、豪華な面子。

 体格の良い奴らが騎馬役になっているため、それがぶつかっただけで相手の騎馬を崩す事もある。

 

 だがしかし。そんな快進撃を止めるために、立ちはだかる者達がいた。

 

 

「あっ、ジョルノ達とぶつかった!」

 

「ほう……面白くなってきたな」

 

 

 実は、騎馬戦にはトリッシュを除いた5部組も参加していた。騎手はナランチャ、騎馬は他3名だ。……てっきり、騎手はジョルノになるのではないかと、この時はそう思っていた。

 

 後にジョルノに話を聞いたところ。身長差を考えて、4人の中で一番身長が低いナランチャに騎手になってもらったらしい。

 それから。自分が騎馬の先頭になって指示を出した方が、騎手として他3人に指示を出すよりもスムーズに動けた、との事。……あと、もう1つ理由があった。

 

 それは――戦闘時の勘の良さは、ジョルノよりもナランチャの方が上である事。

 

 

「……ナランチャのやつ、避けるのが上手いな」

 

「うん。……康一くんの手が何処に伸びるのか、それを察知してるみたいだね」

 

 

 前世ではお世辞にも頭が良いとは言えなかったが、戦闘での立ち回りには目を見張るものがあった。今世でも、それは健在のようだ。

 結局、康一はナランチャにハチマキを取られてしまい、退場。……しかし、それまでに康一が勝利した回数の方が多く、そのおかげなのか最終結果は白組の勝利だった。

 

 なお。観客席に戻った康一は、感極まった様子の由花子に抱き着かれていた。片方はヤンデレだが、微笑ましいカップルだ。

 

 

 そしていくつか競技を挟み、次に印象に残ったのが……二人三脚。赤組からはミスタとフーゴ。白組からは仗助と億泰が出場したのだが、この4部相棒組が凄かった。

 

 

「――行くぜ億泰ゥッ!!」

 

「おう!!」

 

 

 観客席まで聞こえるような大声でそう言うと、2人は全速力で走り出した。

 全く足並みが乱れず、転ぶ事なく、そのままゴールしてしまったのだから驚きだ。観客席も白組側は大歓声、赤組側はざわざわしていた。

 

 相当練習したんだろうなぁ。さすが、4部勢を代表する相棒同士だ。

 ……ちなみに。ミスタとフーゴの方は、仗助達の次に走ったのだが、ちょっとしたアクシデントが起こって転んでしまい、フーゴがぶちギレていた。ミスタ、ご愁傷様。

 

 

 さて、再びいくつか競技を挟んだ後の――

 

 

「――今だッ!承太郎さん!!」

 

「オラァッ!!」

 

「っ、この馬鹿力がァァッ!?」

 

「承太郎さん強過ぎっスよォォッ!?」

 

 

 ――綱引き。赤組、ジョルノと承太郎に、他の多数生徒達。白組、花京院と仗助に、他の多数生徒達。

 結果、赤組の圧勝。……頭脳派元ギャングスターが的確な指示を送り、195センチ&筋肉ムキムキの男が、最後尾で思い切り縄を引っ張るだけの、簡単なお仕事です。

 

 

 はい、次。

 

 

「承太郎、眼鏡預かってて。さすがに危ないから」

 

「おう。……1位以外は認めねーぞ」

 

「やめて、プレッシャーかけないで。……まぁもちろん、全力でやるけどさ」

 

 

 出場者、赤組からは俺。白組からは康一。種目は――障害物競争。

 康一とは、直接競い合う事になった。他にも赤組と白組の生徒が数人いる。……こいつらを全員抜いて、1位か。頑張ろう。

 

 

 スタートラインに立ち――空砲が鳴り響いた瞬間、走り出す。

 

 初めの直線で、できる限り競争者達を引き離す。それから1つ目の障害物……ハードルで数人に追い付かれ、2つ目の障害物である跳び箱を飛んだ後に抜かれてしまうが……問題無い。

 3つ目と4つ目の障害物は、体育祭が始まる前にコツを調べたからな。

 

 3つ目、網くぐり。……これはあえて、競争者のうちの1人を先に行かせる。その1人が網を上げた隙間を上手く抜けて、再び1位になった。

 

 4つ目、平均台。高さが違う物が3つ、低い順に直線に並べられている。……ここで、他の競争者達を一気に引き離す。

 

 

「えっ――ええェェッ!?」

 

 

 本来なら速度を落としてバランスを取りながら進むものだが、それだとこの後にある最後の障害物で、余裕が持てない。

 だから。思い切って平均台に飛び乗り、速度を落とさずに走り抜ける!……その方が意外と、バランスも保てるのだ。

 

 後ろから康一のすっとんきょうな叫びが聞こえたが、気にせず最後の障害物……借り物競争に挑戦する。

 コースの途中に置いてある紙を拾い、その中に書かれたお題の物、もしくは人を連れて審判の生徒の下へ行き、お題が認められたらゴールだ。

 

 素早く1枚の紙を拾う。人だと探すの面倒だから、物であってくれ!

 

 

「っ、これは……!」

 

 

 お題は面倒な事に、人だった。……これ、どうしよう?俺の頭の中には1人しか浮かんでいないが、審判に合格をもらえるかどうかが分からない。

 あいつはおそらく、周囲からはそんなキャラじゃないって思われてるだろうし――っ、ええい!どうにでもなれ!!

 

 

 目的の人物がいる場所まで、一直線に走った。

 

 

「――ジョルノ!来い!!」

 

「っ、はい!」

 

 

 観客席が一気にざわつく中、駆け下りて来たジョルノと手を繋ぎ、審判の下へ。お題が書かれた紙を渡した。

 

 

「えー、お題は――学校一可愛い弟、もしくは弟分……?」

 

 

 マイクを使って話す審判が首を傾げ、観客席からも困惑の声が多数聞こえる。

 やっぱりそうなるよなぁ!こいつは普段の振る舞いから、ジョースター家以外では弟って印象無いだろうし。

 

 選んだ理由を答えて欲しいと、マイクを向けられたので、怪しまれないように堂々と話した。

 

 

「ジョルノはジョースター家の末っ子で、可愛がられてるし――俺にとっても、可愛い弟分だから」

 

 

 そう言うと、横からするりとジョルノが抱き着いて来た。それにぎょっとしていると、彼はマイクに向かってこう話す。

 

 

「――僕は志人お兄ちゃん(・・・・・)の可愛い弟分ですが、何か問題あります?」

 

 

 女子生徒達が一斉に黄色い声を上げた。多分、ジョルノのファンクラブだ。……その勢いと、ジョルノの笑顔の圧に押された審判が合格判定。無事に1位を勝ち取った。

 

 

「フォローありがとう。でも、抱き着く必要あった?」

 

「仲良しアピールですよ、志人お兄ちゃん(・・・・・)

 

「その呼び方やめろ。いつも通り志人さんか、Fratello(兄さん)でいいから」

 

 

 その後。観客席に戻った俺は、承太郎から頭をぐしゃぐしゃと撫でられながら労われ、ジョルノは5部の仲間達に笑われていた。

 

 

「くく、っ、ジョルノ、お前!弟って柄かよ!?」

 

「ええ、そうですよ。僕は志人お兄ちゃん(・・・・・)の可愛い可愛い弟分です」

 

「あははははははっ!!」

 

「ど、ドヤ顔……!ぶはっ!?」

 

「だからその呼び方やめろって言ってんだろ」

 

 

 ……午前の部が終わり、今は昼休憩の時間だ。その間はさすがに競争意識も何も無いため、赤組白組の前世の仲間達が集まり、1つの場所で仲良く昼飯を食べる……はずだったのだが。

 

 何故か、仗助がムスッとした顔で俺を見つめている。

 

 

「……仗助?何だよ、その顔は」

 

「あはは……えっと、さっきの借り物競争で、志人さんがジョルノくんを連れて行った事に、納得がいって無いらしくて……」

 

「……弟分なら俺を選んで欲しかったっスねえ」

 

 

 康一の言葉に続いて、仗助がボソッとそう呟いた。そんな事言われても……

 

 

「だって仗助は今回白組だし、味方の赤組じゃなくてそっちに行くのはちょっとな……」

 

「そりゃあそうっスけど……」

 

「それに、お題は学校一"可愛い"弟、もしくは弟分だったから」

 

「へ?」

 

「――学校一"カッコいい"弟、もしくは弟分だったら、お前を連れて行っただろうな」

 

「なっ――だあァァッ!!これだからこの愛すべき爆弾魔はァッ!!」

 

「はぁ??」

 

 

 愛すべき?爆弾魔??なんじゃそりゃ。

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 午後の部が進み、いよいよ最後の種目である男子リレー走。……ここまでの得点で、赤組は少し負けている。リレーで何とか逆転したいところだ。

 出場者は赤組と白組からそれぞれ4名で、赤組のうち2人は俺と承太郎、白組のうち2人は形兆と花京院。俺と形兆が第三走者、承太郎と花京院がアンカーである。

 

 "勝ちたい"者と、"勝たせてやりたい"者が互いに競い合う事になるのか。良い展開だな。

 

 

「どっちが勝っても負けても恨みっこ無しだよ、形兆」

 

「ふん……そういう奴に限って、案外簡単に負けたりするんじゃないか?お前なら確かに、恨みはしないだろうが」

 

「フラグだって?あはは。そんな、まさか」

 

 

 第三走者の待機場所で形兆と話していると、空砲と共に第一走者が走り出し……え、

 

 

「――嘘だろ」

 

「あー……お前の言う"フラグ"とやらはよく分からんが、あれの事か?」

 

「……ハハ」

 

 

 赤組の第一走者が、盛大に転んだ。白組と差が開く。……思わず空笑いが出た。

 さらに、第一走者は動揺してしまったのか、第二走者へのバトン渡しにも失敗した。白組との差がまた開いてしまい、赤組観客席からのブーイングが聞こえる。

 

 

「……もはや、勝負にならないかもしれないな」

 

 

 そう呟いた後、形兆は第二走者からのバトンを受け取って走り出した。……勝負にならない、だと?馬鹿を言うな。

 

 ――勝負は、ここから始まるんだよ!

 

 白組に遅れて、第二走者からバトンを受け取り、思い切り地面を蹴った。形振り構わず手と腕を動かし、一心に走る。

 ようやく、形兆の背中が見えた。向こうも俺の追い上げに気づいたのだろう。スピードが上がった。……悔しいが、形兆には勝てない。

 

 だが、第三走者の仕事は勝つ事ではなく、アンカーにバトンを託す事。……俺は"勝ちたい"ではなく、承太郎を"勝たせてやりたい"んだ。

 

 既に、形兆と花京院はバトンパスを開始している。俺の方もそろそろ、次の走者が走り出す場所に掛かるが……その時。俺を呼ぶ大声が聞こえた。

 

 

「――志人ッ!!全力で!走れェェッ!!」

 

 

 承太郎がそう叫び、ゆっくりと走り出す。おい待て。予定よりも走り出しが早過ぎるぞ!?

 

 あぁくそ!やればいいんだろ!?やれば!!

 

 

「――上等だァッ!やってやるよォッ!!」

 

 

 気合いを入れるためにそう叫び返し、後の事を気にせずさらに速度を上げて走った。急速に、承太郎の背中が迫る。

 ……あいつ、もう俺に背を向けてやがる。そこまで信頼されたら、応えないわけにはいかねぇだろうが!!

 

 

 それから手を伸ばし――バトンを渡せる範囲内ギリギリで、なんとか託す事ができた。

 

 

「――いっけえェェッ!!」

 

 

 勢い余って転がってしまったが、それに構わずすぐに体を起こし、そう叫んだ。

 赤組と白組の観客席からも、それぞれ声援が飛ぶ中。承太郎は花京院と並び……ゴールの手前で、彼を抜いてトップになった!

 

 

「っ――負けるかァァッ!!」

 

 

 だが、花京院の追い上げも凄かった。抜かれた途端にスピードが上がり、再び承太郎と並ぶ。そして――

 

 

 

 

 

 

 ――テープを切ったのは、両者だった。……審判も同着と見なし、結果はドロー。

 

 勝敗は、つかなかった。……悔しいなぁ。勝たせてやりたかったなぁ。

 

 

 両膝に手をついて、まだ完全には整わない息を落ち着かせようとしていると、影が掛かった。……顔を上げた先にいたのは、俺と同じく"勝たせてやりたい"という気持ちを持っていた男で。

 

 

「……なに?形兆……俺、疲れてて、今話せる余裕が、」

 

「――悪かったな」

 

「……はい?」

 

「俺は園原を甘く見ていた。……だから、謝っているのだ」

 

 

 目を限界まで見開いて、形兆の顔を見る。目を逸らされた。

 

 

「もしかして、"勝負にならないかもしれない"って言った事を気にしてるの?」

 

「…………」

 

「……ふふ、別にいいよ。――だって俺、あの一言のおかげで火が点いたからね。逆にお礼が言いたいところだよ」

 

「――――」

 

「ありがとう、形兆」

 

「…………っは!このお人好しが!」

 

「いててて、ちょっと、頭押さえるの止めろよ!?」

 

 

 体勢が低いままなのに、上から頭をグリグリと押さえられた。痛いって!……でもなんとなく、形兆も笑っているんだろうなと思った。

 

 

 リレー選手が全員退場し、観客席に戻る。……先に戻って赤組の皆に囲まれて歓迎されていた承太郎を呼び、こう言った。

 

 

「俺にここまで全力出させたんだから、後で高級アイス奢れ!!」

 

 

 すると。一瞬唖然とした承太郎は、続いて大声で笑った。今度は周囲が彼を見て唖然としている。

 

 

「お前なぁ!?無茶振りされて怒るどころか、求める報酬が高級アイスって……!はははははっ!!」

 

「何?別におかしくないよね?」

 

「あー、いや、もう気にすんな。お前はそういう奴だよな、ああ……分かった分かった。後でいくらでも奢ってやるよ!」

 

 

 承太郎に無理やり肩を組まれてぐしゃぐしゃと頭を撫でられていると、俺まで皆に囲まれた。

 口々に何かを言って来て、誰が何を言ってるんだかよく分からなかったが、とりあえず俺も褒められている事だけはよく分かった。

 

 

 リレーで同点という事で、最終結果は白組の勝ちとなってしまったが、赤組の奴らは承太郎も含め、あまり悔しがっていないようだ。

 承太郎達が何やら満足しているようだし、俺もリレー頑張ったし結果オーライか、と。納得する事にした。

 

 

 そして後日。学校新聞で、このリレーの出来事が大きく取り上げられる。

 承太郎や花京院だけでなく俺にも注目が集まり、ついには俺のファンクラブを立上げたいという血迷った事を言い出す生徒が現れ、俺が丁重にお断りするという珍事件が起こったのだが……それは、また別の話。

 

 

 

 

 

 

 




 pixivの番外編にて。6部女子組が登場する中学体育祭編を公開しています!
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=17664690


※応援中の1部、2部、6部、元ラスボス(本編の二人三脚、綱引き、障害物競走、最後のリレーの話。キャラ崩壊あり。長い会話文)

「――おおおォォッ!!仗助と億泰すげェェッ!!」

「二人三脚が、二人三脚じゃないわ……あれ、どうなってるの?」

「息ぴったりだね!承太郎と志人みたいだ」

「あの2人は……身長さえ近ければ、同じ事ができただろうな。おそらく」

「あはは……確かに、承太郎が大き過ぎるかな」
 
 
 
 
 
 
「…………花京院さんと仗助も叫んでたけど、兄さん強過ぎじゃない?」

「ジョナサンが高校生の時に綱引きをやった時も、あんな状態だったな……覚えているか?」

「もちろん、覚えてるさ。――だから、承太郎にも綱引きのコツを教えてあげたんだ!」

「な、何だと……?」

「…………つまり。あの惨状にはジョナサンも間接的に関わってると、そういう事ネー……?」
 
 
 
 
 
 
「さて!次は志人ちゃんの活躍をしっかりカメラに収めないとな!」

「録画は準備できてるよ!」

「……写真を撮ったら、例のアルバムに貼ってくれるだろうか?」

「連写しなきゃだわ。……あ、始まった!」

「…………ハードルと跳び箱で追い付かれちゃったね」

「抜かれちまったぞ!」

「いや……わざとだろう」

「……おォ、本当だ!志人を抜いた奴にネットの隙間を作らせて、自分が通りやすいようにしたんだな!」

「よし!これなら1位にもなれるかも――って!?」

「すっ、すげェ!?今の撮ったか!?」

「撮ったわ!」

「平均台の上なのに、一気に走ったね!落ちなくて良かったよ……」

「素晴らしいバランス感覚だ。……さて、借り物はどうだ?」

「……何を引いたのかしら。一瞬固まってなかった?」

「……おっ!?」

「ジョルノを連れて行ったな。借り物は人だったのか」

「…………学校一可愛い弟、もしくは弟分」

「クク……!なるほど、それはジョルノだろうな。志人にとっては」

「けどよォ、他の生徒にとってはそんなイメージじゃ――ぶぶっ!?」

「あはっ!ははははははっ!!」

「志人お兄ちゃんって、ちょっと、ジョルノ……!!」

「普段そんな呼び方しないくせに、あいつめ、っ、クク、ハハハハハッ!!」
 
 
 
 

  
「ふむ。これで最後の種目か……」
 
「今のところ、赤組がちょっと負けてるみたいだね」

「兄さんと志人さんがいる赤組に勝って欲しい……」

「お、始まっ……あちゃあ、これは痛いなァ」

「ちょっと!何転んでんのよあいつ!!」

「まぁまぁ、徐倫。落ち着い……あ、」

「バトン渡しも失敗か」

「…………僕も彼を殴りたくなっちゃったなぁ」

「落ち着け、ジョナサン。そろそろ志人が走るぞ?撮らなくていいのか?」

「ああ、そうだった!」

「志人ォ!頑張れェ!!」

「……あ、志人さん速い!」

「形兆に近づいた!いけいけェッ!!」

「さすがに追い付くのは無理があるだろうが……承太郎が花京院を抜いてくれるかもしれんな」

「――って、兄さん!?走り出すの早過ぎじゃない!?」

「全力で走れって、っ、だはははははッ!!承太郎ちゃん、無茶振りィッ!!」

「あれではバトンを渡せる範囲を越えてしまう――っ、いや!」

「さっきより速くなった!志人も無茶するね!?」

「志人さん!!」

「届け届け届け届け――ッ、届いたァ!!」

「承太郎、頑張れ!!」

「兄さん走って走ってェッ!!」

「――抜いた!!」

「うおおォォッ!!承太郎ォォッ!!」

「あっ、花京院君が追い付いた!?」

「承太郎!もう一回抜けェッ!!」
 
 
 
 
 
 
「――あァー!兄さん惜しいッ!!」

「もう少しで抜いてたかもしれないのに……残念」

「こんなに盛り上がる最後は、なかなか無いだろうな」

「そうだなァ!良い勝負だった!」

「……途中で録画よりも応援に夢中になり過ぎて、ちゃんと撮れてるかどうか分からないなぁ……あはは」

「あっ!あたしもゴールした瞬間、写真撮って無い!!」

「そこは抜かり無い。私が撮っておいた。――さらに言うなら。志人と承太郎の、バトン受け渡しの瞬間も収めたぞ」

「うそっ!?ディオさん、ナイスッ!!」

「お前すげェな!?よくやった!!」

「……あ、録画もギリギリ綺麗に撮れてたよ!」

「よっしゃァ!ジョナサンもナイス!」

「後で皆で見ましょう!」
 
 
※この日の夜。ジョースター家+園原の観賞会は大いに盛り上がった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

空条承太郎の友人と、文化祭



・男主視点。

・ご都合主義、捏造過多。書きたい部分を書いただけ。

・キャラ崩壊注意!!


 ――空条承太郎だって、ノリノリでコスプレする事があるはず。




 

 

 

 

 

 体育祭から数ヶ月経過し、季節は秋。……文化祭の時期がやって来た。うちの学校の文化祭は一般公開されるため、体育祭以上に人が集まる。毎年大盛況だ。

 中学から高校まで出し物が様々で、去年も承太郎達と一緒に見て回り、文化祭を大いに楽しんだ。

 

 

 さてさて。今年の出し物はどうなったのか……とりあえず花京院と形兆のクラスや、ジョースター家の面子のクラスがどうだったのかを紹介しよう。

 

 まずは、花京院達のクラス。

 

 

「――お帰りなさいませ、ご主人様」

 

「……どうぞ、こちらの席へ」

 

 

 にっこりと笑う王子様系イケメンと、無表情の強面系イケメンが、燕尾服を身に付けて接客している。……彼らのクラスの出し物は、執事&メイド喫茶だった。

 おそらく偶然だろうが、彼らのクラスには花京院達も含めて、基本的に顔が良い男女が揃っている。それを活かした出し物にしようと考えた結果が、この喫茶だったとか。

 

 一番驚いたのは、花京院と形兆が大人しく燕尾服を着て接客している事――ではなく。

 

 

「形兆って、髪全部下ろすとそんな感じなんだね!?」

 

「……お前、普段からそのままにしとけばいいんじゃないか?」

 

「じろじろ見るな!」

 

 

 形兆がいつもの髪型を崩して、サラサラヘアになっていた事。長い髪は、後ろで緩い三つ編みにされている。

 

 

「…………花京院さんが、無理やりこの髪型に……」

 

「ほう?……良いセンスだな」

 

「花京院、グッジョブ!形兆がいつも以上にカッコよくなった!」

 

「ふふ、そうだろう?燕尾服を着るなら、絶対にこっちだなと思ったんだ。クラスの女子にも女性客にも、大好評だったよ」

 

 

 いつもの近寄りがたい雰囲気が、髪型のおかげでかなり緩和されている。そりゃあ女にモテるよな。俺と承太郎が店にいる間も、何度か女性客に声を掛けられていたし。

 それに戸惑う形兆を、花京院が上手くフォローしていた。……逆に、花京院が客にしつこく話し掛けられていた時は、形兆が睨みを利かせて救出する。

 

 あの2人、なかなか良いコンビになって来たなぁ。

 

 

 次に、仗助と億泰のクラス。このクラスの出し物は、縁日だった。

 輪投げとヨーヨー釣りという懐かしい遊びと、ダーツやモグラ叩きといったゲーセンにある遊び。俺と承太郎も、ちょっと遊ばせてもらった。

 

 

「承太郎さん、すげぇなぁ!ダーツが全部ど真ん中だ」

 

「君の命中率どうなってるの?俺、全然中心に当たらないんだけど」

 

「お前は力が入り過ぎだ。もっとリラックスして投げてみろ」

 

 

 承太郎はダーツも得意だった。このハイスペック博士め。……そんなこいつの隣で拍手するパグもとい億泰の側に、仗助の姿は無い。多分、そろそろ戻って来ると思うが……

 

 

「――お待たせしました!たこ焼き出来たっスよ!」

 

 

 そこへ、教室の外から2人分のたこ焼きを持った仗助がやって来る。

 このクラスでは縁日の懐かしい遊びだけでなく、別室で調理したたこ焼きの販売もしていた。仗助は俺と承太郎がそれを頼むと、すぐに作って来ると言ってバタバタと出て行き、今戻って来たばかりだ。

 

 

「どうっスか?」

 

「ん、美味い!」

 

「美味いぞ」

 

「よっしゃ!」

 

 

 尻尾を振る黒柴を横目にたこ焼きを完食し、仗助達と別れて次に向かった先は、ジョルノとミスタのクラス。……彼らのクラスの出し物は、ちょっとした変わり種だ。

 

 

「――忍者探し?」

 

「おう。高校の校舎の何処かにいる、忍者達を探すゲームだ」

 

「……何故、忍者?」

 

「発案者曰く、ただの人探しだと定番過ぎて面白く無いので、忍者という設定で数人に変装……忍者以外の格好をさせたり、隠れさせたりして難易度を上げてみたらどうか、との事です」

 

「ルールは簡単だぜ。探し当てた忍者達からスタンプをもらい、最終的にそれを持ってこの教室に戻って来ればいい。

 忍者達にはそれぞれ難易度が設定されていて、難易度が高い程ポイントも高い。で、そのポイントの合計でもらえる景品も変わるんだ」

 

 

 ミスタの説明によると、難易度が低い者は忍者のコスプレをしていて分かりやすいが、難易度が高くなると一般人に変装していたり、本気で身を隠していたりするため、分かりにくい。

 もちろん、ノーヒントではない。挑戦者には、変装している者の変装前の写真や、隠れている者の隠れ場所のヒントが書かれた紙も一緒に渡される。

 

 それから大ヒントとして、忍者達には全員に共通する特徴があるらしい。……ふーん。

 

 

「どうする?さっそく挑戦するか?」

 

「……挑戦したいのは山々だが、時間がちょっとな」

 

「うん。……俺達、自分のクラスの出し物のシフトがこれからだから、あまり時間取れないんだ。徐倫のクラスも見に行く約束してるし……せっかく説明してもらったのに悪いけど、遠慮させてもらうね」

 

 

 俺達は午前中に自由時間をもらったため、午後になったら教室に戻らなくてはいけない。特に、承太郎には大事な役目があるからな。

 

 

「ええ?何だよ、つまんねェな……」

 

「ごめんね、ミスタくん。……あ、でも――忍者達全員の共通点は分かったよ」

 

「ああ、それは俺も分かったぜ」

 

「っ、何だと!?」

 

「いきなりですね。……ちょっと、端の方に行って聞かせてもらえませんか?周りのお客さんに盗み聞きされないように、小声で」

 

 

 4人で教室の端に移動し、小声で話す。

 

 

「……忍者達の共通点は――指輪、だろ?この教室にいる忍者の格好をした数人の生徒達は全員、何処かしらに玩具の指輪を付けている」

 

「そう!俺もそれに気づいた。指輪が小さ過ぎて、分かりにくかったけど」

 

「…………正解だ。鋭いなァ、あんた達」

 

「お見事です」

 

 

 この教室に入った時から、忍者達一人ひとりを観察してみて気づいた事だ。最初はそれもコスプレかと思ったが、ミスタから忍者達に共通点がある事を聞いて、おそらくこれがそうだろうと考えた。

 

 それから、もう1つ気づいた事がある。

 

 

「忍者の格好をした人以外の生徒達は、その指輪を付けていない。でも……この教室には1人だけ、忍者じゃなくても指輪を付けている生徒がいる」

 

「!」

 

「……くくっ!ああ、いるな。――俺達の目の前に」

 

 

 俺と承太郎は、ジョルノに目を向ける。……彼は観念したようにため息をつき、右手をヒラヒラと振った。その人差し指には、玩具の指輪が付けられている。

 

 

「……おいおいおい。困るぜ、お2人さん!ジョルノは最高難易度の忍者だぞ!」

 

「えっ?そうだったの?」

 

「さっき説明し忘れたが、最高難易度の忍者は顔写真も無いトップシークレット扱いでな。探し当てた忍者達からヒントをもらって、ようやく発見されるっていう設定だったんだよ!」

 

「……それは、すまなかったな」

 

「あはは……ごめんごめん。周りには内緒にしておくから」

 

「当たり前ですよ。忍者の頭領の存在は、そう簡単にバレてはいけないんです」

 

「ふっ……マフィアのボスから、忍者の頭領に転向したのか?」

 

 

 承太郎がそう言ってからかうと、ジョルノはキリッとした表情でこう言った。

 

 

「――このジョルノ・ジョースターには、忍者の頭領になるという夢がある!」

 

「ちょっ、ぶはっ!?ジョ、ジョルノ、ってめェ、笑わすな……っ!!」

 

 

 忍者の頭領……もとい、元マフィアのボスの悪ふざけによって、元部下の腹筋が死んだ。ギャングスターになる夢をネタに使うなよ。俺まで笑いそうになっちまった。

 

 

 さて。最後は徐倫達、6部女子組3名がいるクラスだ。

 

 

「いらっしゃいま――っ、志人さん!兄さんも来てくれたのね!」

 

「やぁ徐倫ちゃん。よく似合ってるね、それ。ツインテールも」

 

「ふふ、ありがとう。……兄さん、これどう?」

 

「ん。可愛いぞ」

 

「うえっ!?……ま、まさかそんなストレートな感想が返ってくるとは……!」

 

「モテる男は違うなぁ」

 

「?……妹を褒めるのは、兄として当然だろ?」

 

「あ、なるほど。ただのシスコンか……」

 

 

 徐倫ちゃんの格好は、よくあるカフェ店員の格好――の上から、猫耳カチューシャと尻尾。髪型はいつものお団子頭ではなく、ツインテールだ。

 

 このクラスの出し物は、猫耳カフェだった。男も女も、全員が猫耳と尻尾を付けている。

 最初は女子のみメイド服を着せられそうになったらしいが、徐倫達が猛反対してそれは無しになったとか。

 

 

「おーい、そこの妹ネコ!オニイチャンと憧れのオニイサンが来て嬉しいのは分かったから、尻尾振ってないで働けー!」

 

「誰が尻尾振ってるって!?エルメェス!」

 

「とりあえず、席に案内する……にゃん」

 

「……無理に語尾を付けなくてもいいんだよ?フーちゃん」

 

 

 ひょっこり現れたF・Fのぎこちない喋り方に、苦笑いを浮かべた。

 

 以前聞いたのだが、彼女は見た目は女囚エートロの姿のままで、フー・ファイターズという人間の女性として転生したという。スタンド能力であるプランクトンの力は、そのまま使えるらしい。

 ただ、性格の方は元々の性格とエートロに成り済ましていた時の性格が混ざりあって、口調と共にいろいろ落ち着いたようだ。

 

 今では周囲に、見た目は可愛いけど不思議ちゃん、という印象を与えている。

 なんというか、F・Fからは心を学び始めたアンドロイドのような気配がするんだよな……いや正真正銘、人間だけど。

 

 

 席に座って飲み物を注文すると、エルメェスが持って来てくれた。エルメェス兄貴の猫耳と尻尾……

 

 

「……何だよ、園原さん。どうせあんたも似合わないって思ってんだろ?」

 

「うーん……正直に言うと、ドレッドヘアとは合ってないかな?エルメェスちゃんなら、それを下ろしたり結んだりすれば可愛いと思うよ」

 

「…………」

 

「……え?どうかした?」

 

「いや、あー……何でもない。ただ、やっぱりあたし達を"ちゃん"付けで呼べるのはあんたぐらいだろうなと、改めて思っただけ」

 

「前にも言ったけど、嫌なら呼び方を変え、」

 

「あんたはそのままで良いんだよ!」

 

「わ、分かった」

 

 

 以前、最初にちゃん付けで呼んだ時。F・Fもエルメェスも固まってたんだよな。……何故か、徐倫は爆笑してたが。

 

 

「くふ、ふふふ……!エルメェスってば、普段あまり女の子扱いされないからって、動揺し過ぎじゃない?」

 

「おそらく、園原が下手に取り繕う事もなく、真面目な感想を返したから動揺したのだろう。笑えるわ」

 

「うるせえ!!」

 

 

 ……そんな事をやっているうちに、俺達のシフトの時間が近づいて来た。徐倫達と別れて、自分達の教室に向かう。早く着替えなくては。

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

「――船長!飲み物持って来ましたよー」

 

「……ん、ご苦労だったな副船長。船内の様子に変わりは無いか?」

 

「異常ありません!」

 

「そうか。引き続き業務に当たれ。客と余計なトラブルを起こさないようにしろよ」

 

「アイアイサー!」

 

 

 

 

「――ぶはっ!?」

 

「おま、えら……っははははは!!」

 

「ノリノリだな……」

 

「似合っている、似合っている、が……っ、ノォホホ……ッ!!」

 

「…………承太郎さんのノリの良さが意外だ」

 

「いやいや、形兆。普段俺達2人でふざける時は、大抵こいつから始まるよ」

 

「やめろ、俺の中のイメージが崩れる……!」

 

 

 俺達の教室には現在、スタクル面子+形兆が遊びに来ていた。……本当はイギーにも会いたかったが、さすがに校内には入れないので、ポルナレフの実家でお留守番しているという。

 さっきからホリィさん達や、ジョナサンとディオとプッチ、それからアバッキオとブチャラティを含めた元護衛チームなど。ひっきりなしに人が訪れては去って行く。

 

 そんな俺達のクラスの出し物は――海賊喫茶。

 

 クラスメイト全員、俺も含めて海賊船の船員の格好をして、接客する。そんな出し物である。……ただし、承太郎は接客しない。"船内の一角で寛ぐ船長"という、オブジェクト扱いだ。

 こいつは今、船内……教室の一番後ろに設置したソファーに寝転び、本を読んでいる。船長のコスプレが嵌まり過ぎて、本当に映画のワンシーンを切り取ったかのような光景だな。

 

 俺は基本、別室での調理担当で稀に接客をする程度。……それなのに、何故か副船長扱いされている。

 最初に呼び始めたのは承太郎で、それに影響されたクラスメイトまで俺を副船長と呼ぶようになってしまった。何故だ。

 

 

「しかし……船長、か」

 

「ン?どうした、アヴドゥル」

 

「なんか気になる事でもあったか?」

 

「いや。大した事ではないさ、ポルナレフ。――昔の、香港からシンガポールへ、船で移動しようとしていた時の事を思い出しただけだ」

 

 

 あっ。ダークブルームーン戦……

 

 

「…………おい、アヴドゥルてめー……嫌な野郎の事を思い出させるんじゃねえ」

 

「ああ、すまない!そんなつもりは無かったんだが……」

 

「……前世の話か?」

 

「……そうだよ。僕達は例の旅の途中で船を使ったんだが、DIOが送り込んだ敵のスタンド使いが、その船の船長を殺してすり替わっていてね……そいつは結局、承太郎が倒したんだけど」

 

「ほう……」

 

 

 花京院が小声で形兆に説明した通り、ダークブルームーンという半魚人のようなスタンドを使っていた偽船長は、承太郎によって倒されている。

 その偽船長と、自分が海賊船の船長になっている事を結び付けてしまったのか、承太郎は心底嫌そうな顔をしていた。

 

 おっと。こいつのやる気が無くなる前に、軌道修正しないとな。

 

 

「承太郎が前に話してくれた時、そいつはチャーター船の船長に化けてたって聞いたけど……今の承太郎は海賊船のカッコいい船長じゃん。そいつとは違うだろ?」

 

「……そうか?」

 

「そうだよ。――本を読みつつさりげなく船員達を見守っていて、いざという時は助けに入ろうとしている、不器用だけど優しい我らが船長!でしょ?」

 

 

 実は、こいつ。ただオブジェクト役に徹しているわけではなく、船員……クラスメイト達が客とトラブルになっていないかどうか、こっそり見守っていたのだ。

 気づかれると思っていなかったのだろう。承太郎は思わず身を起こしかけて、中途半端な位置で止まり、再びソファーに寝転んだ。……それから、船長の帽子を顔面に被せる。

 

 

「あはは、図星?ねぇ、図星?」

 

「…………いいからとっとと調理に戻りやがれ、副船長」

 

「はーい、船長!」

 

 

 親友の照れ隠しにニヤニヤしながら、俺は教室の外に出た。

 

 

 

 

 

 

「……なるほど。さすが、副船長だね」

 

「ご機嫌取りをするだけでなく、船長の意を正確に酌んでいる……」

 

「承太郎さんをあんな風にからかっても怒られないのは、園原だけだろうな」

 

「承太郎ちゃん、かわいいー!そんな事考えてたんだなァ?」

 

「ちっ……黙れ、ジョセフ」

 

「船長の鑑じゃねぇか、なぁ?」

 

「ポルナレフもニヤニヤしてんじゃねえ。殴るぞ」

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 スタクル面子と形兆が去った後。俺は引き続き調理中心でやっていたので、教室にはあまり顔を出さなかった。……そして久々に、教室に顔を出した時。

 

 

「……いいところに来たな、シド。悪いが、少しの間船長代理を頼んだぜ」

 

「えっ?ちょ、ちょっと、承太郎?」

 

 

 一体何があったのか、かなり不機嫌そうな様子の承太郎が、俺に船長の帽子を被せて上からコートも羽織らせて、教室から出て行ってしまった。

 さすがに床に引きずる程ではないが、俺にとっては大き過ぎるコートだ。

 

 

「……ねぇ、何があったの?」

 

「それが――」

 

 

 クラスメイトの1人によると、女性客の中にかなりしつこく絡んで来る奴がいて、つい先程なんとか追い払ったばかりらしい。

 それで不機嫌だったのか。席を外したのは、頭を冷やすためだろうな。……それなら仕方ない。船長代理を引き受けるとしよう。

 

 帽子とコートはそのままで、ソファーに寝転ぶ。……その直後、入り口辺りが騒がしくなった。そちらに目を向けて――思わず帽子で顔を隠し、内心で叫ぶ。

 

 

(――アイエエエ!?アナスイとウェザー!?アナスイとウェザー、ナンデ!?)

 

 

 6部の徐倫の仲間達が、エンポリオ以外勢揃いしている!!文化祭は一般公開されてるし、もしかしたら来るかもと思ってはいたがマジで来た!!

 

 きっと、承太郎に会いに来たのだろう。あいつがいない今、彼らに話し掛けられるのは間違いなく俺だ。落ち着け落ち着け。

 

 

「……もしや、園原か?」

 

「……そうだよ、フーちゃん。承太郎はちょっとしたトラブルがあって不機嫌になっちゃってさ。今は頭を冷やすために席を外してる。その間、俺が船長代理」

 

「ああ、だからその格好だったのね。……志人さんも似合うわよ」

 

「ありがとう、徐倫ちゃん」

 

「船長役は承太郎さんだって聞いてたから、一瞬あの人が縮んだんじゃないかと思ったわ。やけに小さくてな」

 

「小さくて悪かったね、エルメェスちゃん。でも、これでも男の平均身長を越えてるんだけど?」

 

「それは見れば分かるけど、細っこいからなあ」

 

 

 失礼な、これでも腹筋ちょっと割れてるんだぜ。……そう思いながら身を起こすと、彼女達の後ろにいるアナスイとウェザーが、同じ方向に首を傾げていた。

 

 

「徐倫ならちゃん付けは分かる、が…………フー、ちゃん?」

 

「エルメェス、ちゃん……?」

 

「おう、お前ら。言いたい事があるなら言ってみろよ、すぐに殴ってやるから」

 

「……えっと、そちらの2人は?」

 

「今紹介するわ。あたし達の仲間で、髪の長い方がナルシソ・アナスイ。帽子を被っている方がウェス・ブルーマリン。彼の事はウェザーって呼んであげて。ちなみに2人共、大学生よ」

 

 

 徐倫に紹介され、互いに自己紹介を済ませる。……前世やスタンド能力についての話は、ここで詳しく話す訳にはいかないので、また後日という事になった。

 前世ではプッチと双子の兄弟だったウェザーは、今世での繋がりはどうなっているんだろうか?気になるが、何も知らないはずの俺ではプッチとウェザーにそんな話は聞けないし……

 

 

「ところで、園原」

 

「はい」

 

「――テメーは、徐倫の何だ?」

 

「え?」

 

「ちょっと、アナスイ!」

 

「あ、始まった」

 

「いつものあれ(・・)ね」

 

「……アナスイ、あまり怖がらせるなよ。相手は年下だぜ」

 

 

 6部面子の反応から、なんとなく事情を察する。……前世のアナスイは、徐倫との結婚を望む程に彼女を愛していた。ただし、終盤に至るまでは彼の一方通行である。

 今世での2人の関係は不明。何が目的でそんな事を聞いてきたのかも、不明。……だが、彼女と俺の間に恋愛感情は無いため、正直に答えても問題無いだろう。

 

 

「俺は徐倫ちゃんの先輩ですよ。彼女の事は、いい後輩だと思っています。妹分のような存在ですね」

 

「そうよ、アナスイ。あたしにとって、志人さんはもう1人の兄のような存在なの!」

 

「…………」

 

 

 アナスイが、じっと俺を睨んで来る。元殺人鬼の鋭い眼光は怖いが、目を逸らしてはいけないと直感し、俺も彼の目を見たまま動かない。

 

 ……やがて、彼の目付きはほんの少しだけ優しくなった。

 

 

「確かに、徐倫に対して邪な感情は無さそうだ。許してやろう」

 

「いや、何様だよお前……園原さんは何も悪くないのに」

 

「いつも思うが、自分が一番邪な感情を抱いているくせに、何故この男はこんなにも偉そうなのだろうか……?」

 

「はぁ……悪い、園原。アナスイが迷惑を掛けた」

 

「いえ、構いませんが……今の質問の意図は?」

 

 

 頭を抱えるウェザーに問い掛けると、答えたのは彼ではなく、アナスイだった。

 

 

「恋敵かどうかを確かめるためだ。俺はいずれ徐倫と結婚する。そのために障害は排除しなくてはならない」

 

「――なお、最も大きな障害は承太郎オニイサマである」

 

「ぶふ、っ、こら、笑わせんじゃねえよ、F・F……!!」

 

「アナスイにとっては、笑い事では済まされないだろうがな……」

 

 

 あ、なるほど把握。つまり、前世の終盤で徐倫との結婚について承太郎と問答したあれが、今世でも続いているって事だな。……しかし、徐倫の気持ちはどうなんだ?

 

 

「……徐倫ちゃん、彼と付き合ってるの?」

 

「いえ……そもそも、交際すっ飛ばして結婚しようとしてるのよ、アナスイは」

 

「は?それって、徐倫ちゃんの気持ちを無視してるって事?」

 

「そ、そうじゃないわ。……あたしだって嫌ではないのよ。でも……押しが強過ぎてちょっと困っているというか……あー、できればゆっくりとお付き合いから始めたいけど今さら自分から申し出るのは恥ずかしいというか……その、うん……」

 

 

 誰にも聞かれないように、こっそりと徐倫に聞いてみると、そんな答えが返って来た。……確かに彼女は嫌がってはいないようだが、結局アナスイの押しが強過ぎるのが悪い、と。

 

 つーか。いくら精神年齢が大人でも、今世の徐倫はまだ中学3年生だぞ?結婚できる年齢に達していないし、まだまだ若い少女だ。

 そんな彼女に大学生の男が迫ってるって、どう考えても事案じゃねぇか。それは承太郎が許さねぇわ。ブチャラティさん、こっちです。

 

 ……"万が一の時は、ブチャラティさんに相談すれば?"って承太郎に言ってみようかな。今世では現役お巡りさんだし、きっと頼りになるはず。

 

 

「そうだ、園原!お前も協力してくれ。徐倫が言うように、お前が本当に承太郎の親友なら説得もできるだろ?」

 

「はぁ?な、何を言って、」

 

「頼む。俺と徐倫の幸せな未来のために協力すると言え」

 

 

 突然、アナスイがそう言って俺に迫って来た。頼むと言っておきながら命令してんじゃねぇか。何だこいつ。マジでブチャラティ呼び出すぞ、こら。

 

 

「アナスイ!志人さんを巻き込むのは、」

 

「おっと、待て。徐倫」

 

「え、ちょ、ウェザー?」

 

 

 と、アナスイの後ろで徐倫がウェザーに引きずられて離れていく。いつの間にか、エルメェスとF・Fまで離れていた。

 

 俺、見捨てられた?……と思っていたら、

 

 

「――俺の親友に何やってんだ?てめえ……」

 

「じょっ、承太郎、っ、さん……!?」

 

 

 こわーい黒豹様がこんにちは。……そうか。ウェザー達は承太郎が戻って来た事に気づいて、避難したんだな。

 

 

「……やれやれだぜ。今までは徐倫が本気で嫌がらない限りは、俺もこれ以上強く咎めるつもりは無かったんだが――俺の大事な大事な親友まで巻き込もうとするなら、話は別だな」

 

「あ、その、これは、」

 

「副船長。お前には本っ当に悪いが、船長代理をもうしばらく継続してくれ。俺はこいつと、ちょっっとお話しなきゃならねえんだ。……頼めるか?」

 

「…………あ、アイアイ、サー……」

 

「ん、ありがとよ。……おら、てめえはこっちだ。来い」

 

 

 承太郎はアナスイの首根っこを掴んで引きずり、再び教室から出て行った。

 

 アナスイに、合掌。

 

 

 ……その後。承太郎と共に戻って来たアナスイは、魂が抜けたようになっていた。そんな彼を、ウェザーが俺と承太郎に何度も謝りながら回収し、立ち去って行く。

 今世のウェザーは苦労人か?前世で暴走していた時のあれが嘘のようだ。

 

 

「……徐倫ちゃん達は、アナスイさんの事心配しなくてもいいの?」

 

「問題ない。奴の自業自得だ」

 

「馬鹿やったなあ、とは思うが、心配する程では無いな」

 

「志人さんを巻き込んだんだから、ああなって当然よ。ちゃんと反省してくれるなら許すけど」

 

「そ、そうか……」

 

「あの犯罪者予備軍はどうでもいい。そんな事より、副船長。代理業務ご苦労だったな。代わるぜ」

 

「あっ、ハイ船長。どうぞどうぞ」

 

 

 内心で、再びアナスイに合掌した。……今世のアナスイの扱い、割と雑だな。

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

空条承太郎の友人と、修学旅行~前編~



・男主視点。

・ご都合主義、捏造過多。書きたい部分を書いただけ。

・キャラ崩壊注意!!


 ――空条承太郎だって、前世で経験できなかった"仲間達と楽しむ修学旅行"が実現したら、ご機嫌になるはず。





 

 

 

 

 

 年内最後の行事、修学旅行。これが終われば高校3年生は皆、受験勉強に集中しなければならない。

 

 それが分かっているせいなのか、修学旅行が始まる前から早々に戦争が勃発した。

 

 

「――ジョジョ!園原君!私達と班組みましょう!」

 

「いいえ!あたし達の班に、」

 

「そんなうるさそうな班よりも、私達の班の方が静かにできるわ」

 

「あんた達は黙って!!」

 

「待て待て。女子の班は疲れるだろ?男同士の方が気が楽だし、うちと組もうぜ!」

 

「承太郎さん!!ぜひ、僕達の班に……!」

 

「むさい男共はすっ込んでなさい!」

 

「そうよ、汗臭いところよりも花のある班の方がいいに決まってるわ!」

 

「ふん!花になるような女子なんて、このクラスには何処にもいないだろ」

 

「何ですって!?」

 

 

 女3人揃えば姦しい……どころの話ではなく、男まで混ざって酷く喧しくなった教室。――ただ今、修学旅行の班決めの時間です。

 俺と承太郎でペアになるまではよかったのだが、その直後。俺達の周りにクラスメイト達が集まって来て……今に至る。

 

 そろそろ、承太郎の"喧しいッ!!"が来そうだが、今日は耳栓ないし、すぐ隣でそんな大声聞きたくないし……という訳で。

 

 

「――はいはーい!!先生!提案がありまーす!!」

 

「っ、シド……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――で。僕達が巻き込まれたんだね」

 

「全くお前は、時々本当に突拍子の無い事を言い出す……」

 

「悪いな花京院、形兆。俺の思い付きに付き合わせちまって……」

 

 

 昼休み。屋上で昼食を取りながら、苦笑いの花京院と呆れ顔の形兆に謝罪した。

 

 

「いや……実は、園原君の提案は僕達にとっても助かったんだよ」

 

「……こっちも、女共が群がって来た」

 

「あ、なるほど。お前らもモテるしな……」

 

「それだけではない。……承太郎さんの仲間と一緒にいれば、自由行動中にそっちと合流する話が出るんじゃないか、なんて考える馬鹿な奴らもいたのだ」

 

 

 と、形兆が苦い顔をする。……そんな奴らもいたのか。それって花京院と形兆をついでのように扱ってるとか、承太郎を引き寄せる餌のように扱ってるとか?どちらにせよ、気に入らない。

 

 

「もしもそんな人達と組む事になったら、意地でも承太郎達と合流しないつもりだったけどね」

 

「……花京院。スタンド使いはひかれ合うんだぜ?」

 

「あっ!そうだね、承太郎。それは盲点だった……」

 

「――どちらにせよ、俺達と園原達で班を組む事になったのだから、それでいいだろう」

 

 

 そう……俺が担任に提案したのは、隣のクラスの花京院、形兆と班を組む事だった。

 

 もちろん。花京院達の意思を優先して欲しいとは伝えたが……こうした方が、承太郎と一緒の班になれた人となれなかった人の間で差が生まれない。

 それなら、修学旅行中やその後にいざこざ(・・・・)も起こらないはずだ。……と言ったら、うちの担任は少し顔色を悪くして、すぐに隣のクラスの担任へ相談しに行った。

 

 いざこざという言葉を使ったが、それはつまりいじめの事であると、担任も察したのだろう。なにせその提案をしたのが、去年虐められていた生徒だったからな。

 その後。花京院達の同意を得て、俺達と花京院達の4人班になる事が決まった。不満を漏らすクラスメイト達は、承太郎の鶴の一声で静かになったので、問題無し。

 

 

「シドは本当によくやった。……これなら、班行動中は観光に集中できる。中学の時よりは、まともな修学旅行になりそうだ……」

 

「そういえば、君は確かに大変な目に遭っていたね……」

 

「……あれでは、観光するどころじゃ無かっただろうな」

 

 

 遠い目になる内部生3人を見て、察した。どうやら、中学の修学旅行ではとんでもない事になっていたらしい。……承太郎に群がる女子生徒達の姿が、容易に想像できてしまった。

 

 

「……僕達が3年になった時も使えそうですね。志人さんの提案、使わせてもらっていいですか?」

 

「俺達も!班決めでクラスメイト達がうるさくなったら、同じ事提案してもいいっスか?」

 

「あぁ、それは構わねぇが……」

 

「……聞いてたのか、お前ら」

 

 

 ジョルノ達5部面子と、仗助達4部面子がいつの間にか静かになったなと思っていたら、こっちの話を聞いていたようだ。

 

 

「――行き先は今年も京都と奈良っスよね?お土産よろしくっス!」

 

「楽しみに待ってるぜぇ、兄貴!」

 

「……ふん。期待はするな、億泰」

 

 

 と言いつつ、面倒見のいいお兄ちゃんである形兆は、お土産を真剣に選ぶんだろうなぁ。

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 修学旅行当日。朝早くから出発し、最初の観光場所である奈良に到着したのは昼前だった。

 この修学旅行は、2泊3日で行われる。1日目は奈良での学年全体の観光と班別行動。2日目は京都での学年全体の観光と、クラスごとの観光。最終日に京都での班別行動だ。

 

 学年全体での東大寺の観光が、終わる。次は班別行動。……ここからが勝負だ。

 

 

「……いくつかの班がついて来るね」

 

「やっぱりそうかぁ……気のせいだと思いたかった」

 

「……承太郎さん。予定通りに行くか?」

 

「ああ。……道が開けたら、俺の合図で一気に行くぜ。いいな?」

 

「分かった」

 

「はーい」

 

「了解」

 

 

 合流した花京院と形兆を含め、4人でひそひそと話し合い、人混みを抜けた。

 

 

「……カウントダウン。5、4、3、2、1――走れ!!」

 

 

 承太郎の合図と共に、一斉に走り出す。後ろから慌てた声と、駆け出す音が複数聞こえた。……その後、俺達はあらかじめ目を付けておいた路地裏に入り――

 

 

(――不可視のバリア、展開!)

 

 

 俺がイージスを呼び出して、4人を囲む不可視のバリアを張った。……それなりに体格のいい奴らが小さいバリアの中で身を潜めると結構狭いが、しばらく我慢だ。

 

 

「えっ、もういない!?」

 

「何処行ったの!?」

 

「ジョジョー!!」

 

「そういや、あいつら体育祭のリレーで大活躍してたもんな!」

 

「足が速いのは当然か……!」

 

 

 そんな声と共に、数人が俺達のすぐ側を走り抜けていき、その後も複数の生徒達がバタバタと通り過ぎて行く。……やがて、静かになった。

 

 

「……もう解いても大丈夫か?」

 

「いや、ちょっと待って園原君。――ハイエロファント」

 

 

 花京院のスタンド……ハイエロファント・グリーンの体が紐状になり、表通りの方へ伸びていく。周囲の状況を調べているようだ。

 

 

「……よし。さっきより人が少なくなってるし、今なら大丈夫だろう」

 

「了解。……イージス、バリア解除。ありがとな」

 

「うん。それじゃあ、また後で」

 

 

 バリアが解除され、イージスが俺の中に戻る。ハイエロファントも消えた。

 

 

「……やれやれだぜ。これでようやく、安心して観光に行けるな」

 

「……最初は二月堂に行って、次に春日大社だったか?」

 

「おう。ちょっと遠回りだが、そっちからのルートなら他の生徒達は少ないだろうし、承太郎のファンクラブにも見つからないだろ。大体の生徒が、南大門の前の通りを歩いて外に出るはず」

 

 

 ……学年全体の観光が終われば、尾行しようとするファンクラブの人間が出てもおかしくないと、俺達はかなり前から予測していた。

 

 それに備えて、学校で班別行動のルートを決める時は周りに誰もいない時に相談したり、さりげなくこっちの予定を探ろうとして来た奴には偽の情報を流したり。

 その上で、当日は早々に尾行を撒いてから移動しよう、という話になっていた。

 

 

「もしかして、世のアイドルグループとか俳優とかも、こんな風に事前に作戦立てて、追い掛けて来るファンを撒いてるのか?大変だな」

 

「……つまり、俺がそのアイドルや俳優の立場で、お前らはそのマネージャーかSPってところか。頼りにしてるぜ、マネージャー」

 

「えっ、俺がマネージャー?スケジュール管理がヤバイ事になりそうなんだが。お前、絶対テレビで引っ張りだこだろ」

 

「バラエティーか?音楽か?ドラマか?」

 

「お前がバラエティーに出るつもりでいる事に驚いたぜ、俺は。……あー、貞夫さんの息子だしミュージシャンとか歌手とか?それなら音楽番組か」

 

「歌手か。――俺の美声を聞いて惚れるなよ?」

 

「きゃー、じょうたろうさま、すてきー」

 

「――ぶはぁっ!?だ、駄目だ、も、無理、ふは!ははは、っ、ノォホホッ!!」

 

「っくそ、クク、ッ、こんな、事で……っハハハッ!!」

 

 

 承太郎に乗せられて軽くふざけると、花京院と形兆のツボに入ってしまったらしい。……彼らが落ち着くのを待ってから、再び歩き始める。

 

 

「君達なぁ!いきなり真顔でふざけ始めるなんて予想外だったぞ!?特に承太郎!」

 

「……文化祭の時、2人でふざける時は大抵承太郎さんから始まると言っていたが……本当だったのか」

 

「あー、まぁそれは本当なんだが……珍しいな。文化祭の時は多分、船長のコスプレが気に入ってはしゃいでたから積極的にふざけてたんだろうけど……」

 

「待って、はしゃいでた?承太郎が?」

 

「……そんな風には見えなかったんだが」

 

「え、そうか?目がキラキラしてたし、雰囲気もふわふわしてたし、結構ご機嫌だったぞ?お前らがうちのクラスにいた時は」

 

「目が、キラキラ……?」

 

「雰囲気も、ふわふわ……?」

 

 

 花京院と形兆が、同じ方向に首を傾げている。この2人、段々動きもシンクロしてきたな。形兆がこんな行動を取るようになるとは……花京院の影響か?

 

 

「駄目だ、違いが分からない」

 

「園原お前……よく分かるな。昔の仲間の花京院さんでも見抜けない事を……」

 

「……日頃の観察の賜物じゃないか?知らねぇけど。

 

 で、承太郎。お前が人前、それも屋外でふざけ出すとか珍しいな。機嫌も良さそうだし」

 

 

 いつもなら、承太郎は旧図書館組以外の仲間がいる場所では、滅多にふざけない。それこそ、文化祭の時のように余程機嫌が良くなければ。

 

 

「何か良い事でもあったか?」

 

「……良い事、か」

 

 

 承太郎はぽつりと呟いて……花京院を見る。

 

 

「……中学の修学旅行はお前らも知っての通り、あまり良い思い出が無い。花京院達とも班が違ったしな。だが……今の修学旅行では班が同じで、しかもファンクラブの邪魔が入らない。

 "昔"の仲間と共に安心して楽しむ事ができる修学旅行は、これが初めて(・・・)だ。……"昔"の花京院とは、そもそも学年も違ったしな。そりゃあ機嫌も良くなるだろ」

 

「――あ、」

 

 

 花京院が限界まで目を見開き、口元を震わせる。承太郎が言う"昔"とは、間違いなく前世の事だろう。……こいつは例の旅で花京院を失った後、1人で高校生活を送った。

 

 

「承、太郎……その、」

 

「ああ、謝るなよ花京院。……正直に言えば、"昔"の修学旅行は空しいものでしか無かったが、それはお前の責任じゃねえ。

 今から楽しむ事ができるなら、俺はそれでいい。これ以上は"昔"の事なんて気にしねえよ。

 

 ――だから、辛気臭い顔はやめろ。俺はお前と、シドと、形兆と。最初で最後の(・・・・・・)修学旅行を楽しみたい。それだけなんだ」

 

「――――」

 

 

 言うだけ言って、学帽を深く被った承太郎が先に歩き出す。……あれは照れ隠しだな。

 

 と、花京院が駆け出して、承太郎の隣に並ぶ。……やがて、彼らは肩を組んで笑い合った。原作で見たかったなぁ、あの光景……

 

 

「……いいのか?」

 

「んん?」

 

「あの人の隣を、花京院さんに譲っても」

 

 

 形兆が何故か、複雑そうな顔でそんな事を聞いてきたので、首を傾げる。

 

 

「譲るも何も……承太郎の隣は誰の物でも無いだろ?」

 

「いや、そういう事ではなく……あー、お前は承太郎さんの"今"の親友で、花京院さんは……謂わば、承太郎さんの"昔"の親友だろう?羨ましいとか思わないのか?」

 

「羨ましい?……考えた事もなかったな」

 

 

 今まで、そんな事を気にした事はなかった。別に承太郎の親友という立ち位置は俺だけの物ではないし、親友が複数いたっていいと思うし。

 

 俺にとっては今のところ、親友という立ち位置にいるのは承太郎だけだが、承太郎には花京院もポルナレフも、アヴドゥルもイギーもいる。

 親しい友、あるいは仲間が複数いるのだ。ジョセフは祖父で家族だから、また違った枠だと思うが……

 

 

 それはさて置き。結論を言ってしまうと、

 

 

「とりあえず――承太郎が幸せなら、俺は何でもいい」

 

「――――」

 

「……ん?形兆?」

 

 

 突然、形兆が足を止めた。……振り向くと、珍しくポカンとしている。レア顔、写真撮ってもいいですか?

 

 

「園原、……っ、お前な……!」

 

「え、何だよ?」

 

「…………はあぁ……もういい。

 

 ……なるほど。人たらし爆弾とかいうものはこれだな?……今回は承太郎さんが聞いていないから被弾していないが……いや、ある意味俺に被弾して――」

 

「形兆?」

 

「何でもない!……それよりも、少し急ぐぞ。あの人達に置いて行かれる」

 

 

 いつの間にか、俺達と承太郎達の間に距離が生まれていた。早歩きで追い付く。

 

 

 二月堂、裏参道……土塀が立ち並ぶ石畳と石段の道を歩いた。古めかしいが、むしろそれが良い。歴史が感じられる道で、風情がある。

 何度か見かける鹿に和みつつ、二月堂に到着。そこから見える奈良の町並みを眺め、それを写真に収めた。……できれば夕焼けが見たかったが、今回のスケジュール上、断念するしかない。

 

 うちの学校の生徒達も少数いたが、こちらを遠巻きに見て来るだけなので、落ち着いて観光する事ができた。静かなせいか、承太郎の機嫌も良い。

 

 

 そこからさらに歩き、春日大社へ。……朱色の美しい外観。回廊に並ぶ数多くの釣灯籠。この灯籠は約1000基もあるらしい。

 これら全てに火が灯ったら綺麗だろうなぁ。異世界に迷い込んだような気分になれるだろう。……あ、俺にとっては今生きてる世界が異世界みたいなもんか。2回も転生してるし。

 

 ……おっと。忘れないうちに、せめて一回はやっておかないとな。

 

 

「なぁ、4人で写真撮ろうぜ」

 

「いいね。撮ろうか」

 

「……3人で撮れ。俺は入らな、」

 

「はいはい、形兆君はこっちだ」

 

「お前も一緒に撮るんだよ、逃げんな」

 

「おい、ふざけるな貴様ら!離せ!」

 

「承太郎、今のうちだ!撮れ!」

 

「おう」

 

「待て、っ、おい!?」

 

 

 若干一名。恥ずかしがり屋の兄貴が記念写真を拒否したが、俺と花京院で捕まえて、その隙に承太郎に撮ってもらう。

 撮れた写真には、満面の笑みの俺と花京院。微笑を浮かべる承太郎。……それから、"仕方ないな"と言わんばかりの顔で笑う、形兆の姿があった。

 

 なんだ、形兆もいい顔してんじゃねぇか。これも承太郎に送ってもらって、現像してアルバムに貼ろう。そうしよう。

 

 

「……おっ。さっそく反応があった」

 

「……何の反応だ?」

 

「さっき承太郎に送ってもらった写真を、学生組全体のグループに送ったのさ。今はちょうど昼休みの時間だろうし、皆見てるんじゃないかな?」

 

「なっ!?花京院、っさん!何を勝手な事を……!!」

 

「あ、億泰君が"兄貴が楽しそうで良かった!"だって」

 

「消せ!!今すぐに!!」

 

「ははは、嫌だね!」

 

 

 花京院と形兆がグループに送った写真を消す、消さないでわちゃわちゃしているのを横目に、俺もグループを見る。

 続々と返信が来ていた。皆、暇なのか?……あ、そうだ。

 

 

「……シド?何を撮ったんだ?」

 

「写真タイトル――"花京院と形兆の、仲良くケンカしな♪"で、グループに送信、っと」

 

「ぶふっ!?」

 

 

 花京院と形兆がわちゃわちゃしている写真とそのタイトル、さらに花京院が写真を送信した直後に起こった出来事だと説明すると、学校にいる皆から大反響。

 

 後に、それに気づいた花京院と形兆に怒られる俺――の様子を、承太郎が笑いを耐えながら写真に撮ってグループに送った事で、また大反響があったのだが……それはさて置き。

 

 

「ま、待て待て、もう何も持ってないって、ほら!囲まないでくれ!!」

 

「本当に鹿せんべいを持っていないのに、何故か鹿の集団に囲まれる園原君……」

 

「ハハッ!"猛獣使い、鹿に囲まれる"ってタイトルでグループに写真を送ってやろう」

 

「形兆、てめぇ!?つーか、誰か助けてマジで!!」

 

「……やれやれだぜ」

 

 

 奈良公園にて。定番の鹿せんべいで餌やり体験をやっていたら、早々に鹿せんべいが無くなったのに鹿達が解放してくれない。何で!?

 

 見かねた承太郎が割って入って俺を助けてくれるまで、包囲網から抜け出せなかった。これ以上鹿に近づきたくないので、早々に奈良公園から脱出。

 

 

「――お前、あの時イージスのバリア使えばよかったんじゃねえか?」

 

「あっ」

 

 

 承太郎にそう言われてはっとした時には既に、奈良の観光が終わっていた。

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

空条承太郎の友人と、修学旅行~後編~



・男主視点。

・ご都合主義、捏造過多。書きたい部分を書いただけ。

・キャラ崩壊注意!!


 ――空条承太郎だって、子供のような我が儘を言う時があるはず。




 

 

 

 

 

「――お前それ……ロザリオか?」

 

 

 そう言って形兆が目を見開いたのは、旅館で夕食を食べ終わり、大浴場の脱衣所にいた時だった。

 

 

 奈良での観光を終えた俺達は、他の生徒や教師達と合流し、京都のとある旅館に向かった。修学旅行中は、ここで寝泊まりする事になる。

 

 泊まる部屋は4人部屋で、承太郎、花京院、形兆と同室。

 修学旅行が始まる前。いっその事、班だけでなく部屋も一緒にしてしまった方がトラブルにならなくて済むのでは?と考えた教師側から提案された事だ。もちろん、俺達は喜んで受け入れた。

 

 

 そして、夕食を食べ終わった現在。何部屋かごとに順番で大浴場を利用する事になり、俺達と他の部屋に泊まっている数人の男子生徒達に順番が回って来たところだ。

 そこで上半身裸になった俺を見て、形兆が言った言葉が冒頭の発言である。……ロザリオ、部屋に置いてくれば良かったな。

 

 形兆の後ろから花京院も顔を出し、首を傾げる。

 

 

「どうしたんだい?それ」

 

「……まさか、クリスチャンだったのか?にしては、今までそれらしい様子を見せる事は無かったと思うが……」

 

「…………あー、それは……」

 

「おっ?園原、何だそれ?」

 

「おしゃれにしては地味だな。変なの」

 

 

 と、横から数人の男子生徒に声を掛けられる。彼らは俺と承太郎のクラスの生徒達だ。

 

 俺は水野さんとの一件をきっかけに、必要以上にお人好しになる事や人脈を広げる事を止めたが、そんな今でもクラスメイト達とは当たり障りない交流を続けている。

 だから今のように、何気なく話し掛けられるのはよくある事だ。……しかし、その後の行動が良くなかった。

 

 クラスメイトの1人が、ロザリオに触れようとしたのだ。

 

 

「――っ、触るな!!」

 

「うわ!?」

 

 

 ついカッとなって、その手を強く払ってしまった。すぐに我に返り、慌てて謝る。

 

 

「ご、ごめん!つい反射的に、」

 

「おいおい!こっちはちょっと触ろうとしただけだろ?」

 

「その態度はさすがに無いんじゃねぇの?」

 

「いや、本当、ごめ、」

 

「――おい。……お前はもう謝らなくていい」

 

 

 その時、承太郎が割って入って来た。……何故か怒った顔をしている。

 

 

「……次に謝るべきなのは、てめーらの方だぜ。

 

 シドのロザリオはな――こいつの母親と祖母の、大事な形見だ。

 しかも訳あって、こいつに遺された形見はこのロザリオだけで、他には何も遺されてねえんだよ。……文字通り、何も残ってねえ。ロザリオ以外、全て売り払われちまったからな」

 

「えっ!?」

 

「何だと……!?」

 

 

 花京院と形兆が、思わずといった様子で勢いよく俺を見る。……俺は目を逸らし、俯いた。

 

 

「……そんな状態で、唯一の形見に無遠慮に手を伸ばされたら、それは振り払うだろうよ。俺だって、もしもシドと同じ立場だったらそうするぜ。……で?謝罪は無いのか?」

 

「あ、……園原、えっと、……本当に、悪かった」

 

「いやいや!そっちは知らなかったから仕方ないし、そもそもロザリオを部屋に置いて来なかった俺が悪いし……俺の方こそ、いきなりごめんね」

 

「おう……」

 

 

 それから、気まずそうな様子で先に風呂場に向かうクラスメイト達を見送った。……残された4人の間で、沈黙が流れる。

 

 

「…………部屋に戻ったら、花京院と形兆にも話すよ。俺の家庭事情ってやつ」

 

「おい、シド!」

 

「大丈夫だよ、承太郎。無理はしてない」

 

「…………」

 

「あはは、そんなに心配しなくても大丈夫だって!だから、ほら。皆も早く風呂入って部屋に戻ろう」

 

「…………分かった」

 

 

 わざと明るく声を掛けると、承太郎達は渋々といった様子で動き出した。

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 承太郎達と共に、寝泊まりする和室に戻った俺は、イージスに防音バリアを張ってもらい、花京院と形兆に今世の家庭事情を語る。

 

 ……全てを話し終えると、花京院は今にも泣きそうな表情に。形兆は悲しいような、苦しいような、そんな表情になっていた。

 

 

「……2人共、そんな顔すんなよ。今の俺は承太郎とジョースター家の人達のおかげで、もうほとんど立ち直ってるんだ。心配しなくても大丈夫だぜ。

 それに……承太郎、見ろよ。お前に初めて話した時は手が震えちまったけど、今は全然震えてない。進歩してるぞ。

 

 ……だからさ、本当に大した話じゃないんだ。俺のは何処にでも転がってるような家庭事情だし、承太郎や花京院の前世の旅の話とか、形兆の前世の話の方がよっぽど――」

 

「「「――そんな訳あるか!!」」」

 

 

 あれ、デシャビュ。

 

 そういえば、以前承太郎に話した時もこんな風に叫ばれたっけ?今回は花京院と形兆も加わって、とんだ大音量だ。防音バリア張っといて良かった。

 

 

「本っっ当にそういうところはいつまで経っても学習しねえな、てめえは!?」

 

「何が"何処にでも転がってるような家庭事情"だ!?そんな重い過去なんて、そうそう無いだろ!?何を言ってるんだ君は!!」

 

「俺に幸せになる事が償いだとか言ってた貴様こそ幸せになるべきでは無いのか!?この馬鹿め!!」

 

「?……何言ってるんだ、形兆。今の俺は充分幸せだぜ?」

 

 

 そう。今の俺は、昔と比べて凄く幸せだ。自分が恵まれている事は分かっている。

 

 

「親友がいるし、ジョースター家の皆は俺を心配して頻繁に家に呼んでくれるし、形兆や花京院みたいな友達や、ジョルノ達みたいな可愛い後輩達、アバッキオやブチャラティさんみたいに頼れる大人達……全部引っ括めて、仲間がたくさん出来たし。

 あ、それから。財団が仕事を回してくれるから、金もしっかり稼いで安心して生活できてる。そのおかげで大学に行く目処が立った。

 

 承太郎達と出会うまでは、俺の中で眠っていたイージスと2人だけで生きてたし、高校に入学した当初はいろんな意味で余裕なんて無かったしな。

 そんな昔と比べたら、今の俺は満たされてる。恵まれているんだ。これ以上幸せを望んだら、バチが当たっちまうだろ?まぁ、俺は神を信じて無いんだけどさ」

 

 

 笑ってそう言うと……形兆と花京院は唖然とした表情になり、次に真顔で承太郎を呼ぶ。

 

 

「こいつは、本気で言っているのか?」

 

「冗談では無いのかい?……重い過去だけでなく、去年のいじめ騒動で死にかけた事も加えると、園原君はもっと幸せを求めても良いんじゃないかと僕は思うよ」

 

「……ジョースター家は俺も含め、こいつの中の幸せ指数を上げようとあの手この手でいろいろやって来たんだが……結果は何も変わらず、今もこのままだ」

 

「嘘だろ、承太郎……」

 

「ああ、嘘だぜ、と言えればどんなに良かったか……間違いなく、こいつは本気で言ってる。こればっかりは数年掛ける覚悟でいるぜ、俺は」

 

「……どうしよう。ジョースター家が過保護になる理由がよく分かってしまった……」

 

「……あんた達が見るからに過剰に構っていたのは、これが理由か?」

 

「理由はこれだけじゃねえが……まあ、大きな理由の1つだな」

 

「…………俺の本体が、なんか、本当にごめんね?俺はずっと眠ってるだけで、志人に何もしてやれなかった負い目もあるから、これに関しては強く言えなくて……」

 

「お前のせいじゃねえよ、イージス。……全てはあのクソ野郎が悪いんだ」

 

「……うん。……うん、そうだね!全てはあのクソ野郎が悪い!」

 

 

 ……困った。承太郎達の話がよく理解できない。

 

 

「……なぁ。俺は何か間違った事を言ってしまったのか?それなら謝るが、」

 

「謝るな!!」

 

「君のせいでも無いから謝らないでくれ!!」

 

「そうだよ、志人!全ては志人の今世の父親が悪いんだからね!!」

 

「……今は何も気にしなくていい。――例え何年掛かろうとも、俺達がお前に本当の幸せってやつを教えてやるからな」

 

「は、はぁ……?」

 

 

 ……もしかして、何か勘違いさせた?本当の幸せも何も、今の俺はこれ以上無いくらい幸せなんだが……?

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 修学旅行、最終日。朝から、京都での班別行動が始まる。東京に帰る集合時間まで、時間がたっぷりあった。今日は昨日の学年全体とクラス別の観光で行けなかった場所に行く予定だ。

 

 さて。今日始めにやる事は――

 

 

「……カウントダウン。5、4、3、2、1――走れ!!」

 

 

 性懲りもなく俺達を尾行しようとする奴らから、逃げる事!

 

 

「あーっ!また逃げられたぁ!!」

 

「ジョジョー!!どこー!?」

 

「くそっ!足速過ぎだろ、あいつら!?」

 

 

 初日と同じ手順で生徒達を撒き、さっさと目的地まで歩き出す。

 

 

「……本当に懲りないね、彼ら」

 

「事務所側からクレーム出したいところだぜ」

 

「え?そのネタ、まだ続いてたのかよ」

 

「承太郎さんのイメージのぶれが酷いのだが」

 

「諦めろ、形兆」

 

 

 馬鹿話をしながらやって来たのは、伏見稲荷大社。ずらっと並ぶ千本鳥居で有名な場所だ。数え切れない程の鳥居の下を歩く。……神秘的だな。

 ふと、俺達の先頭を歩く承太郎の後ろ姿が目に入った。ちょうど、承太郎の前には誰もいない。……足を止めて、スマホを取り出した。

 

 

「おい、どうした?」

 

「園原君?」

 

「――承太郎!ちょっとこっち見てくれ!」

 

「あ?」

 

 

 承太郎が振り向いた瞬間を狙って、1枚撮った。

 

 

「ふむ……タイトルは"見返り美丈夫と千本鳥居"ってところか?我ながら綺麗に撮れた」

 

「おい、こら」

 

「グループに送信っと!」

 

「シドてめえ!?」

 

 

 ……後に。承太郎に頭グリグリされる俺の姿を、花京院が写真に撮ってグループに送り、後輩達に笑いを提供するまでがワンセットである。

 

 

 鳥居を抜けた先にある、奥社奉拝所。そこには、おもかる石という不思議な石が置かれている。

 石を持ち上げた時に、予想よりも軽く感じたら将来願いが叶い、重く感じたら願いが叶わない、あるいは叶う日は遠い。そんな事が分かる石だという。

 

 最初にそれを持ち上げたのは、花京院だった。

 

 

「ぐっ……!?お、重い……!!」

 

「あらら」

 

「……願いが叶う日は遠い、か」

 

「花京院さんは何を願ったんだ?」

 

 

 おもかる石を置いた花京院は振り向き、形兆の問いに答える。

 

 

「――ポルナレフが静かになりますように」

 

「はあ?」

 

「ぶはっ!?ちょ、花京、院、お前……!ははははっ!!くだらねぇー!」

 

「っふ、くく……!!」

 

 

 形兆は呆れ顔。俺は爆笑。承太郎は頑張って笑いを耐えていた。なるほど、つまりポルナレフはこれからもうるさ、ゲフン。賑やかなままである、と。これは笑う。

 

 

「承太郎もやるかい?」

 

「ん。……ほらよ」

 

「待て待て待て待て、スタープラチナは反則!!」

 

「それは間違いなく軽く感じるだろうが!」

 

 

 周りに人がいないからまだ良いが、誰かに見られたら"独りでに浮かぶおもかる石"という心霊現象だ。

 

 

「ところで、そうまでして叶えたい願いとは?」

 

「――この4人で、また旅行がしたい」

 

 

 スタープラチナによる蛮行とは裏腹に、願いは実に可愛らしいものだった。

 

 

「ってわけで、絶対にまた行くぞ。花京院は形兆が嫌がったら引きずってでも連れて来い」

 

「引きずってでもって、あんたなぁ……ガキの我が儘かよ」

 

「脅しじゃねぇか。もちろん、行くけどさ」

 

「はいはい、分かったよ。また皆で行こうね」

 

 

 形兆も否定しなかったし、きっとまた行ってくれるつもりなんだろう。そう信じる。

 

 

「……次、俺がやってもいいか?」

 

「ほう?……珍しいな。いいぞ」

 

 

 珍しく、形兆がやる気だ。……承太郎が退いた場所に立ち、ゆっくりと石を持ち上げる。

 

 

「どうだ?」

 

「…………軽い。拍子抜けだ」

 

「おぉ、良かったな。願いは叶うってよ。……で、何をお願いしたんだ?」

 

 

 くるっと振り返った形兆が、俺を見て――柔らかい笑みを浮かべた。

 

 俺がぎょっとすると、次の瞬間にはその表情が意地の悪い笑みに変わる。な、何だったんだ?今の……

 

 

「……っは。教えねえよ」

 

「ええ?僕と承太郎は言ったのに……!」

 

「教えろよ、形兆」

 

「絶対に言わない。それより、次。園原がやれよ」

 

「……あー……おう。分かった」

 

 

 ここで神を信じていないからと言って突っぱねたら、願いを祈った3人の行動を馬鹿にするようなものだよなー……仕方ない。やるか。

 しかし、願い。願いかぁ……自分の願いは自分の力で絶対に叶えるつもりだから、おもかる石に願う程でも無いし……あっ、そうだ。

 

 

「……あ、軽い」

 

「何を願ったんだい?」

 

「内緒」

 

「え、君まで言わないのか?」

 

「願い事は口にしたら叶わなくなるっていう話を、どっかで聞いたしな。言わない」

 

「ああ、俺も。それは聞いた事があるから、言わない」

 

「……じゃあ願い事を口にした俺はどうなるんだよ」

 

「承太郎のはほとんど脅しだろ?俺達がまた旅行行くって約束したからそれでいいじゃねぇか」

 

 

 これは意地でも言わない。……特に、承太郎には。

 

 

(――空条承太郎が、幸せになりますように)

 

 

 ……なんて、本人に言えるかよ。恥ずかしい。

 

 

 伏見稲荷大社から出て、花見小路通や本能寺など、いくつかの観光地を巡る。そして、禅林寺永観堂までやって来た。

 ここの紅葉の美しさは有名で、秋になると境内は紅葉でいっぱいになるとか。……実際に目にすると圧巻だ。想像以上に綺麗だった。

 

 だがしかし。観光客が多過ぎる。

 

 

「……視線が、うぜえ」

 

「はは、だろうな……」

 

「承太郎と園原君の顔が良過ぎるのがいけない」

 

「いや、あんたもだろ。何を他人事のように……」

 

「一旦人気の無い場所に行って休憩しようぜ」

 

「賛成」

 

 

 女性客がキャーキャーとうるさいので、人気の無い場所まで移動。……ようやく一息つけた。周りを見ると、ここも紅葉だらけだ。

 

 

「……こんなに背景が赤いと、花京院のハイエロファントとか映えそうだよな。明るい緑色だし」

 

 

 俺がそう言うと、花京院がハイエロファントを出してくれた。うん。思った通り映える。……指で枠を作り、その中に紅葉とハイエロファントを入れた。

 

 

「あー、いいなぁこれ。写真に撮りたいけどスタンドは映らないのが残念過ぎる……!」

 

「そうだね……ジョセフさんの念写ならやれそうだけど」

 

「ここにジョセフ先輩いねぇし……」

 

「……あ。君のイージスも映えるんじゃないか?真っ白だし」

 

「よーし、イージス!」

 

「はいはい。何?」

 

「君とハイエロファントが、紅葉の色に映えるっていう話だよ。……クリスマスカラーだね。とてもよく映えるけど」

 

「ふはっ!季節違い」

 

 

 花京院の言葉に、思わず笑った。確かに言われてみれば、赤と緑と白ってクリスマスカラーじゃねえか。

 

 

「……イージスと一緒に写真に撮りたかったな。撮れたら良い思い出になるのに」

 

「……俺も、志人と一緒に映りたい」

 

「絵なら描こうと思えば描けるけど、僕も写真に残せたら良かったな。ハイエロファントとは付き合いが長いし、せめて1枚だけでも……」

 

 

 そういや、花京院は前世で肉の芽付いてた時に、承太郎の絵を描いていたな。やっぱり本人も絵が得意なのか。

 

 

「……おい、お前ら。しばらくそのまま動くなよ」

 

「え?」

 

「承太郎?」

 

 

 と、承太郎がスタープラチナを呼び、大きめのメモ帳と鉛筆を持たせた。ま、まさか……!

 スタープラチナの手が高速で動き、何かを書いている。……やがて、出来上がったそれを俺達に見せてくれた。

 

 

「――すげぇ……!写真みたいだ!」

 

「さすがの精密動作だな……」

 

 

 俺とイージス、花京院とハイエロファントが、背景の紅葉と一緒に描かれている。白黒だが、リアルだ。スマホでそれを写真に撮って保存した。

 

 

「凄いね、俺と一緒に映ってるよ志人!」

 

「あぁ!……ありがとう、承太郎!」

 

「ありがとう。僕にとっても良い思い出になったよ」

 

「いや……礼は形兆に言え。俺にスケッチを頼んだのは形兆だ」

 

 

 おや、そうだったのか。……俺と花京院がお礼を言うと、形兆は無言でそっぽを向く。照れ隠しか。

 

 

「それにしても、よく知ってたね。スタープラチナのスケッチの事」

 

「……何言ってるんだ。あんたが大分前に教えてくれた事だろう?」

 

「あれ、そうだったかな?」

 

「あんたからは承太郎さんとスタープラチナの話を耳にタコができる程聞かされているからな。この前だって、前世の承太郎さんが如何にカッコ良かったのかを延々と――」

 

「わあわあわあァァー!!もういい!分かったから!!」

 

「……だってさ、承太郎」

 

「ノーコメント」

 

 

 おやおや。こっちも学帽を深く被って照れ隠しだ。前世の相棒同士が仲良しで何より。

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

「……修学旅行はもう終わり、か。あっという間だったね」

 

「次は受験かぁ……」

 

「止めて園原君。現実に戻さないで。……ああ、そうだ。君と承太郎にも聞こうと思っていたんだ。卒業した後にどうするのか」

 

 

 観光を終えて、4人で集合場所に向かっている途中。学生らしい話題になった。

 

 

「ちなみに。僕は美大に、形兆君は工学部に進学する事を目指している」

 

「へぇ。美大と工学部か……」

 

「……絵が得意なのは知ってるが、花京院はゲームも好きだろ?そういう大学には行かないのか?」

 

「そっちは趣味でもいいし、もしくは将来的にゲームのデザイン系の仕事に進んでもいいかな、と」

 

「あ、なるほど。そういう道もあるよな」

 

 

 確かに、美大を卒業した後にそういう道に入る人も少なくない。

 

 

「それで……形兆は、何故工学部に?まあ、お前は理数系に強いし、そっちに進んでもおかしく無いだろうが……」

 

 

 そう。承太郎が言うように、形兆は理数系に強い。あと、俺と承太郎と花京院に続いて試験で学年4位になるぐらいには勉強もできる。

 

 そんな形兆が工学部……あ、

 

 

「――もしかして、バッド・カンパニー?……几帳面な形兆の事だ、自分のスタンドについて結構詳しく調べてるだろうし、そのうちにヘリとか戦車とか輸送機器に興味を持った、とか?」

 

「……さらっと人の心を読むんじゃねえ」

 

「わーい、当たったー」

 

「棒読みも止めろ」

 

 

 やっぱりそういう事か。形兆らしい理由だな。

 

 

「……園原は?卒業後にどうするんだ?」

 

「図書館司書を目指すために、大学に行く」

 

「司書、か。本が好きな園原君にはぴったりだね。……でも、司書ってどんな大学に行けばなれるんだい?」

 

「特定の大学に行く必要は無い。司書養成科目っていうのがある大学に行って、必要な単位を修得して資格を取ればいいだけだ」

 

「なるほど。……承太郎はどうするんだ?」

 

「海洋学部に進学する」

 

「前世と同じ職業?」

 

「…………職業自体は同じ海洋学者だが、前世とは違う物を研究する予定だ」

 

「そうか……見事に進路がバラバラだね」

 

 

 俺は図書館司書、承太郎は海洋学者、花京院は美大に進学し、形兆は工学部に進学……それぞれ分野が全く違う。

 

 

「当然、通う大学も全員違うだろう?……一緒に過ごせる時間が少ないな」

 

「……卒業した後だって、会おうと思えば会えるだろう。繋がりが完全に断たれる訳でも無い」

 

「形兆君からそんなセリフが出るとは思わなかった……!?丸くなったね!」

 

「…………あんたとだけ連絡を断ってやろうか?」

 

「ごめん、待って、さっそく連絡先削除しようとしないで!」

 

「……やらねえよ。さすがに、連絡先が消えたら困るからな……いろいろと」

 

「僕はもっと困る」

 

 

 …………あー、

 

 

「しんみりした雰囲気のところ、悪いんだが――」

 

「――俺とシドは第一志望が同じ大学だ」

 

「「はあッ!?」」

 

 

 2人に問い詰められたので、4月に俺達が互いの第一志望が分かった時の出来事を話すと、ジト目で見られた。

 

 

「……本っ当に偶然なのか?」

 

「どちらか片方がわざと合わせたんじゃないか?特に園原は、司書養成科目とやらがあれば、どの大学でもいいらしいからな」

 

「いやマジで偶然なんだって。承太郎から話を聞くまで、その大学に海洋学部がある事をすっかり忘れてたし」

 

「俺も、興味のある論文を書いた教授がそこにいるから選んだだけで、その大学に司書養成科目があるとは知らなかった」

 

「…………本当かなあ?」

 

「疑わしいな……」

 

「何でだよ」

 

「冤罪だ」

 

 

 結局。花京院と形兆には、集合場所に到着するまで疑われ続けた。俺達は無実です。

 

 

「いい加減にしろ、貴様ら。この悪ふざけコンビめ」

 

「冤罪だっつってんだろ。あと、その呼び方は嫌だ」

 

「親友同士と訂正しろ」

 

「なるほど。悪ふざけを好む親しい友人同士、略して親友同士だね」

 

「「違う、そうじゃない」」

 

 

 

 

 

 

 





 pixivの番外編にて。形兆視点の話を公開しています!
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=17670486


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

空条承太郎の友人は、親友に感謝を伝える



・男主視点。

・ご都合主義、捏造過多。書きたい部分を書いただけ。

・キャラ崩壊注意!!

・念のため。not腐向けです!


 ――空条承太郎だって、時には人たらし爆弾を投げるはず。※ただし、相手は親友限定。




 

 

 

 

 

 また新たな1年が始まり、さらに時が過ぎて――2月。今日は特別な日だ。

 

 

「緊張する……」

 

「……そんなに心配しなくても、俺とお前なら大丈夫だろ」

 

「結果を見るまで安心できねぇんだよ!逆にお前、何でそんなに落ち着いてんの?」

 

「二度目だから」

 

「そうでしたネー……」

 

 

 って言っても、俺も前々世で経験したから二度目なんだけどな!それでも緊張すんだよ!

 

 

 そんな訳で――本日は、大学入試の結果発表日です。

 

 志望している大学が同じである俺と承太郎は、試験結果が張り出される会場に向かっていた。

 同じく受験生である花京院と形兆は、既にそれぞれ美大と工学部の入試に合格している。俺達もそれに続きたいところだ。

 

 

 さてさて。ここで突然だが、学校を卒業して大学に行ったジョセフ、シーザー、ポルナレフ。

 そして4月から大学院生になるジョナサンと、社会人になるディオの将来の予定について語ろう。

 

 まずは、ジョセフ。彼は前世でやっていた不動産の仕事を、今世でもやるつもりらしい。大学卒業後は自分の不動産会社を立ち上げると意気込んでいた。

 次にシーザーだが……今世で将来何をするか、ギリギリまで悩んでいたそうだ。しかし、それを見かねたジョセフが、

 

 

「俺と同じ大学に入れよ!んで、そこでも将来の夢が見つからなかったら――その時は不動産会社社長になる俺の、秘書になれ!」

 

 

 と言って誘ったところ、シーザーはそれに乗っかってジョセフと同じ大学に入学した。彼の将来がどうなるのか、楽しみだな。

 

 次はポルナレフ。こちらも将来に悩んでいたようだが、とある大学の部活を見学した事が転機となり、アスリートを目指す事にしたという。

 そのとある大学の部活というのが――フェンシング部。間違いなく、彼のスタンドの影響だろうな。いつかは一流アスリートとして、名を馳せる時が来るかもしれない。

 

 次。大学院生になるジョナサンだが、彼も前世で学んでいた考古学を学び直し、将来は考古学者になる予定との事。

 目指す職業は違うが、承太郎も彼と似たような経緯で海洋学者になるのだろう。

 

 

 最後は、ディオの将来。……これがなかなか意外だった。彼はジョセフと同じく、自分の会社を立ち上げてその社長になる予定だが、その会社とは――

 

 ――サイバーセキュリティ会社。

 

 ディオは大学に入学する前から、IT関係の仕事に目をつけていたらしい。それで大学でも専門分野を学び、その中でも特に興味を持ったのがサイバーセキュリティだったという。

 前世で学生やってた時は法律を学んでいたし、てっきりその方向に行くのかと思っていたら……想定外だ。

 

 現代では特に重要な役割を担っているIT関係……その分野で上を目指そうとは、さすがですディオ様――

 

 

「……掲示板はあっちか。シド、行くぞ」

 

「…………」

 

「シド?」

 

「あっ、ハイ。今行く……」

 

 

 ――はい、現実逃避終了です。

 

 

 掲示板の前は、大勢の受験生達でごった返しになっていた。合格の喜びの声と、不合格の嘆きの声が聞こえて来る。

 さて、承太郎は全然心配無いだろうけど俺の受験番号はあるかなぁ……?不安になりながらも、番号を確認した。最初の方だからすぐに見つかるはずだが……

 

 

「……俺はあったぜ。シドは?」

 

「えー、文学部、は――――あった!良かった、ようやく一安心……」

 

「心配し過ぎなんだよ、てめえは。……ほら」

 

「おう」

 

 

 求められたロータッチに応じて、手を合わせる。

 

 

「4年間、よろしくな!」

 

「ああ」

 

 

 これで不安要素は消えた。住む場所も決まってるし、少しずつ荷物整理も始めている。

 実は去年の夏休み中に、承太郎と一緒に合宿免許を取りに行ったので、運転ができるようになった。荷物は少ないから、レンタカーで引っ越しを済ませる予定だ。

 

 

 そうそう、引っ越しと言えば。承太郎とジョナサンとディオも、俺と同じく3月に新居へ引っ越しする。

 順番で言えば、最初に引っ越しするのは俺。その数日後に承太郎。そのまた数日後にジョナサンとディオだ。

 

 ……何故ジョナサンとディオが同じ日に引っ越しするのかというと――あの2人、ルームシェアするんだってよ。

 

 相変わらず、今世の始まりの2人は仲良しだ。……旧図書館組で集まった時に2人がルームシェアするって話を聞いたんだが、それを聞いた承太郎が俺を見ながら"その手があったか"と凄く悔しそうにしていた。

 深く突っ込む事はしなかったが、俺はルームシェア反対派だ。誰かと一緒に暮らす事に慣れたら、いろんな意味で自立が難しくなる。

 

 ……俺は承太郎に本気で頼まれたら断れる気がしない。ルームシェアの話が出たのが、互いに住む場所を決めた後で本当に良かったなと思った。

 ちなみに。ジョルノもその話を聞いた時に"Fratelli(兄さん達)とルームシェア……"と呟いていたが、悪いな。諦めてくれ。

 

 というか。お前は俺達のそれぞれの家の近くに住む予定なんだから、それでいいだろ。……おっと、閑話休題。

 

 

「……そうだ、承太郎。引っ越しの事なんだが」

 

「ん?」

 

「お前、うちにあるイルカのぬいぐるみはどうする?お前が一人暮らし始める時に、引き取ればいいって話をしただろ?」

 

 

 もう一昨年の話になるが、承太郎と一緒に初めて外で遊んだ日。ゲームセンターのクレーンゲームでゲットした、あのイルカのぬいぐるみ。

 自分の部屋に置いたら家族に見られると嫌がっていた承太郎に、一人暮らしをするまでは俺が預かっておくと言って、ずっと俺の家に置いといた物だ。

 

 以来、承太郎は俺の家に来る度にあのぬいぐるみを手にしていた。かなりのお気に入りなんだろう。

 

 

「……シドさえ良ければ、お前の新居に一緒に持って行ってくれないか?」

 

「え?……いいのか?引き取らなくて」

 

「ああ。できれば、お前の家に置いて欲しい」

 

「分かった。とりあえず持って行くが、引き取りたくなったらいつでも言えよ?」

 

「ん、ありがとう」

 

 

 俺の家と承太郎の家は徒歩圏内にあるから、互いの家を行き来するのも簡単だ。引き取るだけならいつでもできる。

 

 

「……グループがお祭り騒ぎだぜ。さっき合格したって報告したからな」

 

「おぉ、本当だ……」

 

 

 スマホを見ると、学生組のグループが大騒ぎだ。……承太郎の方は家族のグループでも凄い事になってそうだな。

 

 

「よし、帰るか。今日の飯は豪華だぜ」

 

「おー!ご馳走になりまーす!」

 

 

 今日はジョースター家で、合格祝いの豪華な食事会がある。新居に移ったら、ジョースター邸にはなかなか行けなくなるしな。今のうちにホリィさん達の美味しい料理をしっかり味わっておこう。

 

 

「…………他人行儀だな。これ以上はまだ染まらないか……」

 

「んん?何か言ったか?」

 

「いや、何でもねえ」

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 入試の結果発表から1週間後。休日の学校に訪れた俺と承太郎は、旧図書館へ向かった。

 

 

「……来たか。さっそく働いてもらうぞ」

 

「おう」

 

「はーい」

 

 

 出迎えてくれた三谷さんと共に始めたのは――旧図書館の大掃除である。

 

 数日前。俺達は三谷さんに、"今までお世話になったので、卒業する前に何かお礼がしたい"と申し出た。その時に頼まれたのが、旧図書館の大掃除の手伝いだ。

 なんでも、ジョナサンとディオが高校を卒業する時も、三谷さんに何かお礼がしたいと言って来たらしい。その時も大掃除の手伝いを頼んだという。

 

 

「……旧図書館に来るのも、これが最後……か」

 

「……寂しくなるな」

 

「ああ……」

 

 

 俺もそうだが、承太郎もいつもより元気が無い。……今日は3月の始めで、あと数日もすれば卒業式だ。卒業後に引っ越しすると、この学校は遠くなる。

 学校が文化祭で一般公開された時なら入れそうだが、それ以外だと来られなくなるだろうな……

 

 

「……三谷さんに、一緒に写真に移ってもらおうかな。お前も入れて3人で写真撮りたい」

 

「いいんじゃねえか?またあのアルバムに貼るんだろ?」

 

「あぁ」

 

 

 よし。後で三谷さんに頼もう。……最初は渋るかもしれないが、頼み込んで頷かせてやる。

 

 

 ……掃除が終わった後。俺達はそれぞれ、ある物を三谷さんに渡した。掃除をするだけではお世話になったお礼としては足りないと思い、プレゼントを用意したのだ。

 

 

「――マグカップと、コーヒーバッグのセットか……」

 

「三谷さんが前にコーヒーが好きだって言ってたのを思い出したので、プレゼントするならそれかなと思ったんです」

 

「……どうだ?」

 

「…………ふん。坊主達にしちゃあ、気の利いたプレゼントだな。……ありがたく貰っておこう」

 

 

 言葉はぶっきらぼうだが、笑っている。どうやら気に入ってくれたらしい。……と、三谷さんが"ちょっと待ってろ"と言って事務室に引っ込み、それから何かを持って戻って来た。

 

 

「……ほれ」

 

「えっ?」

 

「……これは?」

 

「開けてみろ」

 

 

 俺達に1つずつ渡された物。その包みを開けてみると――

 

 

「――っ!?」

 

「えっ!?み、三谷さんこれ……!?」

 

「……お前さん達、それを探してただろ。偶然手に入れたんでな。卒業祝いだ。持って行け」

 

 

 中身は、俺達がそれぞれずっと探していた絶版本だった。まさか、これが手に入るなんて……!?

 

 

「……どうやって見つけたんだ?」

 

「いろいろ伝手があるんだよ」

 

「何にせよありがとうございます!最高の卒業祝いです!」

 

「ありがとよ。……大事にする」

 

「……まぁ、大学でも精々元気にやれ」

 

 

 最後に、三谷さんに頼み込んで一緒に写真に写ってもらい、お世話になったお礼を告げて旧図書館の外に出た。

 

 旧図書館に背を向けて歩き出し、離れたところで振り返り、その外観を眺める。

 

 

「……シド?」

 

「……この場所があったから、俺と承太郎は交流する事ができたんだよな。ファンクラブの人間が知らない場所だったから」

 

「……そうだな。旧図書館が無かったら、学校内で顔を合わせて話すのは難しかっただろう」

 

「そもそも――旧図書館が無かったら、俺達は学校では出会えなかっただろうな」

 

「あ?」

 

「俺が三谷さんに本を運ぶように頼まれて、あの日無理して本を運んでいたから、あのタイミングで承太郎とぶつかった訳だろ?

 旧図書館が無かったら、俺は三谷さんに出会えなかった。という事は、俺が頼み事をされる事も無かったはず……」

 

「……そうなると、俺達が出会うきっかけその物が消えてたって事か」

 

「うん」

 

 

 まぁ、俺の中にはイージスが眠っていたし、もしかしたらそのうち"スタンド使いはひかれ合う"の法則で、承太郎と出会っていたかもしれないが……少なくとも学校では出会えなかったはずだ。

 ファンクラブを警戒して、俺の方から承太郎に近づく事は絶対にしなかったと思うから。

 

 そう話すと、承太郎は眉間に皺を寄せた。

 

 

「――お前と定期的に会えない高校生活なんざ、クソだな」

 

「こらこら。そこまで言う程の物じゃねぇだろ。前世の仲間達が一緒に学校に通ってるんだぜ?」

 

「シドがいないと楽しくない」

 

「ははっ!そりゃ光栄だ。俺もお前と出会えなかったら、退屈な高校生活を送ってただろうな。……卒業しても、父親から逃げるために大学には行かなかったと思うし」

 

 

 そうだ。承太郎と出会ってなかったら、ジョースター家とも関わって無いはず。……彼らがいなかったら、俺は父親に立ち向かえなかった。

 

 承太郎がいなかったら、図書館司書の夢を抱く事もなかった。

 

 

「…………なぁ、承太郎」

 

「ん?」

 

 

 

 

 

 

「――俺と出会ってくれて、友達になってくれて、ありがとう」

 

「――――」

 

「……な、なんてな!はは、ちょっと言ってみたかっただけだ!」

 

 

 自分で言ったくせに、恥ずかしくなっちまった。慌てて誤魔化し、早歩きで承太郎の隣を通り過ぎる。……その時、手を引かれた。

 

 振り向くと、承太郎は俺の手を両手で掴み、そのまま上に上げる。俺の手の甲に自分の額を当てた。こいつは下を向いているから、表情はよく見えない。

 

 

「……承太郎?」

 

「やっぱり。お前は分かってねえな、志人」

 

「何が……?」

 

「お前よりも、俺の方が数倍……いや。数百倍は、お前と出会えた事に感謝している」

 

 

 そんな大袈裟な、と言おうとしたが、顔を上げた承太郎は真顔だった。あ、こいつマジで言ってる。

 

 

「……縁切り事件の時に言ったはずだよな?俺の心は、お前に護られている。救われている。お前の言葉が、存在が、何度も俺を救ってくれた。

 お前はきっと大した事はしてないって言うだろうな。知らないのはお前だけだ。お前は自分がどれだけ影響力の強い人間なのかを知らない。

 

 俺はずっと前から――園原志人と出会えた事を、奇跡だと思っている」

 

「――――」

 

「俺と出会ってくれた事。親友と呼んでくれた事。いつも俺を護ってくれている事。前世も今世も引っ括めた俺を受け入れてくれた事。それから……それから、っ、嗚呼、上げれば切りが無い……!

 

 お前が俺に与えてくれた全ての事に感謝したい。――ありがとう。今世の俺を初めて受け入れてくれた存在がお前で、本当に良かった」

 

「…………」

 

「……志人?どうした?」

 

 

 柔らかい声と、真剣な眼差し。そして嬉しくて堪らないと言わんばかりの笑顔。それら全てが、こいつの言葉が冗談ではない事を物語っている。

 

 

 それが分かった途端、顔に熱が集まると同時に思わず叫んだ。

 

 

「っ、――この人たらし野郎がぁっ!!」

 

「てめえにだけは言われたくねえッ!?」

 

 

 直後に、そう叫ばれてしまったが。

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

空条承太郎の友人は、卒業する



・男主視点。

・ご都合主義、捏造過多。書きたい部分を書いただけ。

・キャラ崩壊注意!!


 ――空条承太郎だって、涙腺崩壊でダウンする事があるはず。





 

 

 

 

 

 この学校の卒業式は、学校の敷地内にある大きな講堂で行われる。高校の卒業生と在校生が全員出席するため、それなりの規模だ。

 中学の卒業式は高校の卒業式から数日後に行われるため、本来なら中学生は誰もいないはずだが……今日は中学の卒業生と在校生も複数、講堂の外で待機している。

 

 そのほとんどが、承太郎のファンクラブの人間だ。この機会を逃したら、承太郎の姿を学校で見られなくなるからな。

 最後に一目見たいとか、あわよくば何か思い出を作りたいとか、それぞれ思惑があるんだろう。

 

 ――まぁ、卒業式が終わったら、それらの思惑をガン無視して逃走するんだけどな!

 

 花京院と形兆も一緒に、修学旅行の時と同じ撒き方で逃げて、ゲームセンターに遊びに行く予定である。後に他の学生組も合流して、全員で遊びまくるのだ。

 

 

 そんな、後のお楽しみは置いといて。

 

 

「――園原志人」

 

「はい」

 

 

 現在、卒業式の真っ只中。卒業証書授与が始まっており、俺の名前を呼ばれたところだ。

 俺の前に承太郎が壇上に立った時は、ボリューム小さめの黄色い声援が上がっていた。ファンクラブもこういう時は控えめにしてくれるらしい。

 

 壇上に上がり、卒業証書を受け取って一礼。後ろに振り返って顔を上げ――

 

 

「――――」

 

 

 ……ある一点を凝視して固まり、すぐに我に返って壇上から下りた。自分の席へ戻り、片手で顔を覆う。……信じられない物を見た。

 

 

 卒業式が終わったら、遊びに行ってる場合じゃない。――あの場所(・・・・)に、行かなくては。

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

「シド。花京院達と合流するぞ」

 

「…………」

 

「……おい、シド!」

 

「っ、あ、悪い!ぼーっとしてた。……合流するんだよな?分かった」

 

「…………行くぞ」

 

 

 卒業式が終わり、講堂の外に出る前に承太郎から声を掛けられ、花京院達と合流する。

 それから、追い掛けてくるファンクラブの生徒達から逃げて、物陰でイージスの不可視のバリアを発動。……生徒達がいなくなるのを待ち、こっそりと学校から出た。

 

 

「……これでよし、と。僕達が逃げ切った事はグループに報告したよ。仗助達も、何人かを足止めしてくれてたみたい」

 

「そうか……追い掛けて来る生徒が予想よりも少ないと思っていたが、道理で。あいつらにしては、よくやった方だな」

 

「素直じゃないなぁ、形兆君は。もっと褒めてあげたらいいのに」

 

「…………これでも褒めている」

 

「はいはい分かってるよ。……さて。さっそく遊びに行こうか!」

 

「……高校生活の最後だ。遊びまくろうぜ」

 

「おや。珍しく乗り気だね、承太郎」

 

 

 賑やかに話しながら先を歩く、俺以外の3人。……彼らには申し訳ないが、俺はここまでだ。

 

 

「……3人共、悪い。俺、用事があってさ。先に行っててくれないか?」

 

「ああ?」

 

「えっ?……どうしたんだい?園原君、あんなに楽しみにしてたのに」

 

「そうなんだけどな……行かないといけない場所ができたんだ。後で必ず合流する。じゃあな」

 

「おい、園原!?」

 

「園原君!?」

 

 

 呼び止める声を無視して、走り出す。……早く、行かなければ。

 

 

「――待て!志人!!」

 

「っ、」

 

 

 しばらく走ったところで、後ろから肩を掴まれる。振り向くと、息を整えている承太郎がいた。

 

 

「……何やってんだ。花京院達と一緒に行けよ」

 

「後からシドを連れて合流すると言っておいた。そんな事よりお前だ。……何があった?

 卒業証書を受け取った後に一瞬固まってたし、卒業式が終わってからも、ずっと様子がおかしかったよな?」

 

「…………」

 

「…………ああ、分かった。質問を変える。お前が言う、行かないといけない場所に、俺がついて行ったら駄目か?」

 

「それ、は、」

 

「志人。……正直に言え。――1人がいいのか、1人は嫌なのか」

 

 

 …………そんな事聞かれたら、答えるしかないじゃねぇか。

 

 

「――1人は、嫌だ」

 

「……よし。それでいい」

 

 

 ぐしゃぐしゃと頭を撫でられた。……泣きそうになって、困る。

 

 

「で、何処に行くんだ?」

 

 

 俺が"行かないといけない場所"を教えると、承太郎は目を見開いた。

 

 

 ……ありがたい事に。目的地に向かうまでの間、承太郎は何も聞いて来なかった。お互いに無言のまま歩き、向かった場所は――母と祖母が眠る、墓の前。

 白い花を供え、ロザリオを取り出して祈る。……イージスが勝手に出て来た。

 

 こいつが勝手に出て来るのは、大体が緊急時か……もしくは、俺が精神的に不安定になっている時だ。

 

 

「…………卒業証書をもらった後に、後ろに振り返ったら……いたんだ。――母さんと、婆ちゃんが」

 

「っ!!」

 

「講堂の奥の、入り口の前に立ってて……笑って、手を振ってくれた。次に瞬きした時には、もういなかったけどな。

 きっと、俺の願望が見せた幻覚なんだろう。それは分かってる。でも……居ても立ってもいられなくなって、それで、」

 

「志人、もういい。……ああ、勘違いするなよ。もう聞きたくないって訳ではなく、お前が無理に話す必要は無いって事だ」

 

「……うん」

 

 

 俯くと、跪く俺の隣に承太郎もしゃがみ込んだ。肩に腕を乗せられる。

 

 

「……重い」

 

「これぐらい慣れてるだろ。……幽霊なら、前世で一度女の幽霊を見た事がある。お前も住んでいた杜王町にいたんだぜ」

 

「え、」

 

 

 ……杉本鈴美の事か。

 

 

「仗助とその仲間達も知っている。……今世では前世の記憶は無く、スタンドを持っていない普通の人間として生きているようだが、彼女もまた、仗助達の前世の仲間の1人だった」

 

「…………」

 

「前世で実際に見た奴がいる。それなら――今世にもきっと、幽霊は存在する」

 

「――――」

 

「お前が卒業するのを、わざわざ天から降りて見に来てくれたんじゃねえか?……幻覚だとか、予防線を張る必要もねえだろ。

 お前が見た物が全てだ。少なくとも、俺はお前が見た物を信じる」

 

「…………そう、か」

 

「……俺も、志人が見た物を信じるよ。だって俺が……スタンドがこの世に存在するんだから!幽霊だって絶対にいるよ!!」

 

「……うん、……そう、だな……!」

 

 

 涙が止まらない俺に、承太郎とイージスが寄り添ってくれた。

 

 

「……母さん。婆ちゃん。来てくれて、ありがとう……!」

 

 

 ――"幸せになってね"と、誰かに言われた気がする。……幻聴では無いと、信じる事ができた。

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

「園原君、どうした?その目……」

 

「腫れてるぞ」

 

「いや……大丈夫だ。気にしないでくれ」

 

「……承太郎、園原君は……」

 

「……何があったんだ?」

 

「本人が気にするなって言ってんだ。深くは突っ込むな」

 

 

 ゲーセンで合流した花京院と形兆には、涙で腫れた目の事を真っ先に指摘されたが、母と祖母の幽霊の事は、承太郎以外には話さないと決めている。承太郎にもさっき口止めした。

 一度話して、ちょっとでも否定されたらと思うと不安だからだ。俺は母さんと婆ちゃんが本当に卒業式を見に来てくれたのだと、そう信じたい。

 

 その後。既に花京院達と合流していた仗助、ジョルノ、徐倫とそれぞれの仲間達にも目の事を心配されたが、追及されても何も話さなかった。

 

 

「志人さん達はどれで遊びますか?」

 

「あたし達は大体遊んだわ」

 

「まだ時間あるし、承太郎さん達が好きなゲームをやった後に、予約しといたカラオケに行こうかって話してたんスよ」

 

「あー、そうだな……どれにしよう?」

 

「……シド、あれ」

 

「んん?……おっ!ここにもあるのか」

 

 

 筐体が大きい、ダンスゲームの機械。一昨年、俺が使い方を教えて、承太郎が初めて遊んだ機械と同じ物だ。

 

 卒業する前。たまに承太郎とゲーセンに遊びに行った時はよく使っていた。

 どうやら承太郎も俺に影響されて嵌まったらしく、今では俺並みの高得点を簡単に取れるようになってしまった。ちょっと悔しい。

 

 

「たまには2人でやるか。記録更新目指そうぜ」

 

「……そうだな。お前の個人記録を抜くのはまた今度にしてやる」

 

「うわ、やだー。俺いつ抜かれるかってびくびくしてんのに……」

 

「えっ。承太郎さん達、ダンスゲームなんてやるんだ!?」

 

「い、意外……!」

 

「会話からして何度かゲーセンに来てるっぽいのがそもそも意外なんだが」

 

「動画を撮ってもいいか?」

 

「撮るな」

 

 

 俺も承太郎も動画はお断りして、レッツプレイ!

 

 

「お――おおッ!?」

 

「本格的だ!?」

 

「何だあれ、本職のダンサー並みか?」

 

「え、やば。あたしの兄さん達カッコ良過ぎかよ!」

 

 

 機械の上で俺が前に、承太郎が後ろに立ち、ステップを踏む。

 最初の頃は互いの腕や足がぶつかってしまう事がよくあったが、今ではもう慣れたもの。ぶつかりそうになっても上手く避けられる。

 

 

「――よっしゃあ!」

 

「記録更新!」

 

 

 いつもよりテンション高めのロータッチをして周りを見ると、盛大に拍手された。前世の仲間達だけでなく、一般客も集まっていたようだ。

 

 これは……さすがに目立ち過ぎたな。

 

 

「志人のアニキかっけぇ!!」

 

「承太郎さんもすげえ!!」

 

「今度俺にもダンス教えてくれ!」

 

「カッコよかった!!」

 

「はいはい分かった分かった」

 

「喧しい」

 

 

 黒柴とパグや、何人かの後輩達の興奮を宥めながら、一般客の間で騒ぎになる前に、全員でその場から離れてカラオケ店へ向かった。

 ……実は。俺はあまり歌う事が好きじゃないのだが……それはさて置き。

 

 

 承太郎と形兆はあまり歌ってくれないが、それ以外の面子は大盛り上がりだ。

 

 例えば、6部女子組が香水の英語がグループ名の、某女子3人グループの曲を歌ったり。4部の恋人組が某有名アニメ映画で、主人公とヒロインが魔法の絨毯に乗って歌う曲を歌ってたり。

 例えば、形兆が億泰に頼まれてやる気無さそうにデュエット曲を歌ってたり、花京院に頼まれて一緒にアニメの主題歌を歌っていたり。

 

 例えば、トリッシュと承太郎がそれぞれ有名な洋楽を歌い、抜群の歌唱力で俺達を黙らせたり。

 仗助と5部の男子4人が、とある天候がグループ名の某男子5人グループの曲を歌ったり――豪華声優陣による歌番組のようで、超楽しい。

 

 

 俺は歌の合間に、後輩達と一緒に写真を撮らせてもらっている。

 もちろん、あのアルバムに貼るためだ。……そろそろいっぱいになるんだよな、あれ。新しいのを買わないと。

 

 

「…………ところで、てめえら。気づいているか?」

 

「え?」

 

「何がですか?承太郎さん」

 

「――俺達の中で、まだ一度も歌ってない奴が1人だけいる事に」

 

 

 あっ、やばい。……気配を消して逃げようとしたら、スタプラさんに首根っこを掴まれました。

 

 

「……ああッ!!」

 

「た、確かに!園原さんがまだ歌ってない!」

 

 

 くそう!上手くステルスしてたのにバレた!!

 

 

「……俺は結構前に気づいて、今までずっと黙ってやってたんだがなあ……そろそろいいだろ?」

 

「い、いや、だってさ。お前ら歌上手いしそんな中で俺が歌っても何処にも需要がないし下手な歌を聞かせるとか恥ずかしいし、」

 

「いいから歌え」

 

「アッ、ハイ」

 

 

 強面に凄まれたので、仕方なく歌います。……やけくそ気味に、高1の時のクラスメイト達とカラオケに行った時。俺が歌ったら何故か全員固まってしまった曲をわざと選んで入れた。

 あれ以来。俺は次に誰かとカラオケに行った時は、ステルスしてできる限り歌わないようにしようと心に決めたのだ。

 

 あれってつまり、固まってしまう程に歌声が酷かったって事だろ?自分は普通に歌っていたつもりだが、やっぱり他人に聞いてもらわないと分からない事もあるよな。

 でも、学校の音楽の授業中は歌っても何も言われなかったから、音痴では無いはずなのに……

 

 そもそもカラオケ店に行く事も避けていたのだが、今回は後輩達との思い出作りのためにと我慢した。

 ちょっとだけなら歌ってもいいかなと、最初は思っていた。しかし、こいつら全員歌が上手過ぎてそんな気は早々に失せた。

 

 だから気配を殺して歌わないようにしてたのに、くそう。

 

 

 なお。選んだ曲は果物の名前がタイトルになっており、法医解剖医が主人公のとあるドラマのエンディング曲だ。

 あのドラマも曲もまぁまぁ有名だし、皆知っているだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ちょっ!?何で泣いてるんだ!?」

 

「ぐすっ……!むしろ泣かないはずが無いだろうッ!?君は何故それを選んだ!?」

 

「ある意味選曲ミスだ馬鹿め!!ジョースター家の人間が軒並み崩れ落ちたぞッ!?」

 

「な、何で……?」

 

「自分の境遇を忘れたのか貴様ァッ!?」

 

「いや、歌詞に感情を籠め過ぎて境遇を知らない人でもかなりのダメージになってるよ!

 ジョースター家以外も泣いてるし泣いてない奴でも固まってるじゃないか!!くそ、涙が止まらない……!」

 

 

 俺が歌い終わると、大体が泣いてるわ、泣いてなくても固まってるわ、カラオケルームが大変な事になっていた。

 そして泣きながら叫ぶ花京院と、涙目の形兆の2人に怒られる俺。解せぬ……

 

 

 

 

 

 

 






※本編後。ジョースター邸に帰って来た3、4、5、6部。強制連行されて来た園原。5人を出迎えた1部、2部、元ラスボスの会話。(キャラ崩壊注意!)

「おう、お前ら!お帰り――って、おいおい……」

「えっ、皆どうしたの!?」

「……随分と目が腫れているぞ。何があった?」

「あァー、もしかして卒業式で皆で泣いちゃった?」

「いえ、違います。それではありません」

「あん?」

「あんた達も道連れにしてやるっス」

「志人さん、お願い」

「…………マジでやらないと駄目か?」

「駄目に決まってんだろうが。俺達を泣かせた罰だと言っただろ」

「……泣かせたのは志人だったのか?」

「本当に何があったの……?」

「俺メロディーと歌詞がないと無理、」

「メロディーは既にスマホで準備完了です。いつでも再生できます」

「ほら。歌詞もあたしのスマホの画面に出したから、これ見てね」

「…………せ、せめて聞かせるのはお前らとジョセフ先輩とジョナサンとディオさんだけで!ホリィさん達は呼ばないでくれ!」

「……まあ、いいだろう。確かにお袋達がいたら、喧しくなるしな」

「それじゃあ、談話室使います?あそこならリビングから離れてるし、多分聞こえないと思うっス」

「よし、そっちに移動だ」

「何なんだ?一体……」
 
 
 
 
 
 
(園原がカラオケで歌った曲を、ジョナサン達にも歌って聞かせた後)

「――――シィィザァァ……ッ!!」

「う"う"っ、ぐす……うわぁぁ……!!」

「…………」(無言でジョナサンを慰めつつ、自分も涙目のディオ)

「こ、効果抜群っスね……うぅ……ッ!」

「どうしよう、何度聞いても泣いちゃうぅ……」

「道連れは成功しましたけど……駄目ですね、これは。僕達まで巻き添えに……」

「……これで分かったな?シド。さっきも説明したように、お前の歌は全く下手じゃない。むしろ、人の心を強く揺さぶって泣かせる程に上手過ぎるんだ」

「おう……」

「だから、今後お前が人前で歌うのは明るい曲だけにしろ。別れの歌とか悲しい曲は絶対に歌うんじゃねえぞ。いいな!?」

「わ、分かった」
 
 
※ステルス園原被害者の会に、プラス3名加入。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

最終話
空条承太郎の友人




※後書きに今後のシリーズについてお知らせあり!


・男主視点。

・ご都合主義、捏造過多。書きたい部分を書いただけ。

・今回は特殊な捏造設定あり!かなり設定が甘く、穴だらけ。後書きでも謝罪していますが、賛否両論があると思います。

・キャラ崩壊注意!!


 ――俺達は財団職員達が言う"最強の矛と盾"でも、ジョナサンの言う"人間と守護天使"でもない。普通の人間で、対等の親友同士だ。

 これから先も、永遠に。俺は空条承太郎の友人……親友として。その隣に――




 

 

 

 

 

「ディオさん。この荷物はここで良いですか?」

 

「ああ。そこに置いてくれ」

 

「はーい」

 

「……おい、ちょっとそこ通るぞ」

 

「おお、スタンドの力はやっぱり凄いね。荷物の運び込みが楽だ」

 

「……その重たいソファーを、スタンドも無いのに何で1人で持てるんだよ、あんた……」

 

「本当に規格外ですね……」

 

「ジョルノ。そこのカッターを取ってくれ」

 

「はい、兄さん」

 

 

 ……卒業式が終わり、俺と承太郎の新居への引っ越しも終わって、さらに数日後の現在。俺、承太郎、ジョルノは、ディオとジョナサンの引っ越しの手伝いをしている。

 既にレンタカーを使って、ジョースター家から新居へ荷物を運び終わり、今は荷解きの最中だ。

 

 俺が引っ越しをする前に、ジョースター家で盛大なお別れ会を開いた。俺達が引っ越す時期が近かったため、4人分のお別れ会を一度に済ませる事になったのだ。

 去年の俺の誕生日パーティーの時はサプライズも含め、飾り付けや料理も派手だったけど、今回はそれ以上の派手なパーティーだった。あれは楽しかったなぁ。

 

 

「朝からやったおかげか、大分片付いたな……そろそろ休憩にしようか。時間的にも皆お腹空いて来たよね?何か買ってくるよ」

 

「あ、俺もついて行っていいですか?コンビニで買いたい物があるので」

 

「もちろん。一緒に行こうか」

 

 

 ジョナサンが他の3人に食べたい物を聞いた後、2人で外に出た。

 

 

「……やっぱり、この辺りは良いですね。桜が沢山あって綺麗だ」

 

「ふふ、そうだろう?実は僕とディオもそれを期待して、あの家に決めたんだよ。初めて見に来た時は桜が咲いて無かったから、ちょっとパッとしなかったけどね」

 

 

 2人の家の近くには、桜が沢山咲いている街路があって見栄えがいい。あの家は窓からも桜が見えるから、ちょっとしたお花見が出来そうだ。

 

 

「……ジョースター家と志人の付き合いも、あと数ヶ月で2年になるね。あ、承太郎は3年か」

 

「んん?……どうしたんですか?改まって」

 

「うーん、何というか……まだ(・・)2、3年も経ってないんだなあと思ったのさ。たまに、君と僕達はもう何年も前から付き合いがあったんじゃないかって、錯覚してしまう時がある」

 

 

 なるほど、その気持ちはよく分かる。俺にもその錯覚は覚えがあるからな。

 特に承太郎とは、既に前世から付き合いがあったんじゃないかと思えるぐらい……まぁ、それは言い過ぎか。前世では承太郎と出会う前に死んでたし……

 

 イージス曰く。前世の俺が前々世の記憶を取り戻していたら、スタンドの矢が刺さっても生き残り、スタンドを発現していたはずだという。

 

 あの時生き残っていれば、いずれ杜王町にやって来る承太郎とも出会えた……あ、でも生き残っていたら、形兆とは友人になれなかったかもしれない。加害者と被害者の関係だしな。

 俺が形兆と友人になれたのは、あくまでも今世だったからだ。前世の事を、今世にまで持ち込みたくないと考えていたから。

 

 それに、承太郎も。相手は年上だし、4部の承太郎はいろんな意味ではっきり線引きしてそうだ。

 その内側に入ろうとしたら拒絶されて、向こうが固い殻の中に閉じ籠ってしまいそうな気がする。

 

 それさえ間違わなければ付き合っていけそうだが、あいつとも友人にはなれなかった可能性が――

 

 

「――志人が前世の承太郎と、」

 

「!」

 

「……おっと、ここは外だから念のため……えっと、昔の承太郎と出会っていたら。承太郎は、もっと早くに救われていたかもしれない」

 

 

 一瞬。ジョナサンに心を読まれたかと思ったが、違った。……もっと早くに救われていたかもしれない?どういう事だ?

 

 

「君はあらゆる意味で偏見を持たない子だ。だから今の僕達をそのまま受け入れてくれた。……そんな君なら、昔の承太郎の事も救ってくれたんじゃないかな……」

 

「……昔の俺がどうするかは、承太郎と実際に話してから決めると思いますよ。もしかしたら偏見も持って離れていくかもしれないし……」

 

「あはは!そこで何も考えずに無責任な肯定をしないのが、志人だよね。……そういう君だからこそ、承太郎も救われたんじゃないかと思うんだ」

 

「そうですかね……?こんなガキの事なんて、相手にしないと思いますが」

 

「いいや。昔の承太郎ならきっと、遅かれ早かれ君に救われていたと思うよ」

 

 

 やけに自信満々だな。……というか、

 

 

「あの、ジョナサン」

 

「何かな?」

 

「――何か、ありましたか?」

 

「…………」

 

「いつもより、ちょっと様子が変な気がするんですけど……俺の気のせいですか?」

 

 

 そう聞くと、ジョナサンは困った顔で笑った。

 

 

「……本当に、鋭いよね。君は。……でも、ごめんね。理由は話したくないな」

 

「話したくない……話せない、ではなく?って事はジョナサン自身の問題である可能性が高いと」

 

「志人……お願いだから冷静に分析しないでくれる?君、心理学者にでもなるつもりかい?」

 

「あ、すみません。これ以上は聞きませんよ。……その様子を見る限り、切羽詰まった問題では無い事が分かったので」

 

「…………確かにその通りだけど末恐ろしいなあ、君は。前よりも人の気持ちを察するのが上手くなったね」

 

 

 俺の探りに対してジョナサンは怒る事もなく、困った顔のまま軽い冗談を口にした。

 その様子から深刻な問題を抱えている訳でも、余裕が無い訳でもない事が分かったから、安心して引き下がったのだが……末恐ろしいなどと言われてしまった。

 

 

「……ちょっと話を変えるけど、君が僕と初めて会った日。イージスが君の守護天使みたいだって言った事を、覚えているかい?」

 

「えっと……あぁ、あれですね。俺がジョナサンにそう言われた時、クリスチャンでは無いと否定したやつ」

 

「そう、その話だ。あの時はクリスチャンでは無いのに、どうしてキリスト教の話に詳しいのかと思ってたけど……本を読んで覚えただけでなく、お母様とお祖母様がクリスチャンだったから?」

 

「はい。……実は、母から教わった事だったんです」

 

「…………そうか」

 

 

 ジョナサンが悲しげな顔を見せる。……しまった。話題を修正しなければ。

 

 

「それで、その守護天使がどうかしましたか?」

 

「ああ、そうだったね。――僕は、志人の存在こそが、承太郎の下に遣わされた守護天使なんじゃないかと、常々思うんだ」

 

「…………はぁ??」

 

 

 おいおい。ぶっ飛んだ事言い始めたぞ、この人。

 

 

「ジョナサン、大丈夫ですか?熱あるんじゃないですか?」

 

「その心配の仕方は止めて。……本当の守護天使だと言ってる訳ではないよ?守護天使のような(・・・)存在だと言いたかっただけ」

 

「それにしたって、俺なんかにそんな大層な表現はちょっと……」

 

「いや。承太郎にとって、君の存在はそんな大層な表現をしたくなる程、大きいんだよ」

 

 

 と、ジョナサンが真顔で言う。……どうしよう。旧図書館の掃除をした日に、承太郎が俺に"数百倍は感謝している"と言った時とほとんど同じ顔なんだが。

 

 つまり、マジで言っている。

 

 

「……俺の存在が大きいという事は、なんとなく分かりました。でも、守護天使はやっぱり言い過ぎだと思います。

 

 守護天使は、人間達の心を導く存在……導くって、なんかその人の前に立ってるイメージがあるんですよね。

 というか、そもそも守護天使自体が人間よりも上位の存在って感じがしますし……

 

 それだと、駄目なんだ。

 

 俺は承太郎の前に立って上位者として導くのではなく、その隣に立ちたい。あいつとは対等でありたいんです。

 どちらか片方がもう片方を導いたり、守ったりするような一方的な関係ではなく、互いの隣に立って互いを護り合うのだと……そう約束しました。だから――

 

 

 ――俺は、空条承太郎の友人だ。

 

 

 決して、守護天使にはならない。不器用で優しい普通の人間である承太郎の、普通の友人として……親友として、その隣に立つ」

 

「――――」

 

「……なんて偉そうな事を言っておきながら、今のところは承太郎が俺を護ってくれる事の方が多いんですよね……いつかはそれと同じくらい、あいつを護れるように、」

 

「いいや、違う。……充分過ぎるよ」

 

「え?」

 

 

 珍しく食い気味にそう言ったジョナサンは……何故か、泣きそうな顔で笑っている。

 

 

「ジョナサン……?」

 

「君の方が、承太郎を護っているんだ。充分過ぎる程に。……本当に、君が前世の承太郎と出会ってくれたら良かったのに。君ならきっと、承太郎の心を護ってくれたはずだ。

 

 ――僕にはどう足掻いても出来なかった事が、志人なら出来たはずなんだ……ッ!」

 

「っ、ジョナサ、」

 

「さて!ちょっと急ごうか!承太郎達が待ってる!」

 

「…………分かりました」

 

 

 ……あの泣きそうな笑顔は、鉄壁の作り笑いの下に隠されてしまった。ジョナサンが踏み込んで欲しくないなら、俺は引き下がるしかない。

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 買って来た昼食を食べた後。荷解きを再開して……夕方には終了した。それから料理の材料を買って夕食を作り、5人で会話を楽しみながら食べ終わる。

 

 名残惜しいが、そろそろお暇する時間だ。別に今生の別れでは無いし、携帯で連絡を取り合う事も、直接会いに行く事もできるが……やはり寂しい。

 

 

「では、私はジョルノをジョースター邸まで送るついでに、レンタカーも返して来る」

 

「じゃあ、僕は承太郎と志人を駅まで見送ろうかな」

 

「……これでしばらくは、5人で集まれなくなる訳ですか」

 

「そういう事をわざわざ言うなよ、ジョルノ……ますます寂しくなるだろ?」

 

「……だが、話すだけならグループを使えばいつでもできる。一昨年も財団の目を盗んでやっていた事だ」

 

「…………承太郎さん、冷たいですね」

 

「……すまん。そんなつもりは無かったんだが」

 

「あ、ごめんなさい。僕もそんなに傷つけるつもりは無かったんです……!」

 

 

 旧図書館組の前では割りと表情豊かになる承太郎が、分かりやすく落ち込んだ。ジョルノが慌てて謝罪する。

 これはどっちもどっちだな。承太郎は言い方がちょっと悪かったし、ジョルノも言葉を間違えた。

 

 

「承太郎はジョルノを励まそうとして、ちょっと失敗しただけだもんな?ジョルノも承太郎に甘えたかっただけだろ?お互いにそれぐらいにしとけよ」

 

「……ん、悪かったな、ジョルノ」

 

「はい……僕も、すみませんでした」

 

 

 よしよし。どっちも素直でよろしい。

 

 

「ククッ……!そうしていると、お前達は3人兄弟のようだな」

 

「志人が長男らしいね」

 

「俺が長男?」

 

「……お兄ちゃん」

 

「……兄貴?」

 

「ジョルノはその呼び方止めろっつっただろ。承太郎もふざけんな。お前は弟にしてはデカ過ぎる。つか同い年だろうが」

 

「志人さんが長男だとすると、僕が末っ子で承太郎さんが次男でしょうか?」

 

「そうだな。お前は間違いなく末っ子だ」

 

「え、続けるのか?その話。……じゃあ、俺の上の兄としてジョナサンとディオさんを入れて、5人兄弟だな」

 

「おや、巻き込まれた」

 

「そうなると、長男は私か」

 

「えっ?僕だろう?ディオの弟とか嫌だよ?」

 

「……俺だろ」

 

「いや、僕だって」

 

「待て待て、話を振ったのは俺だが面倒だなあんた達。――争うぐらいならあんた達は二卵性の双子の兄弟でどっちも長男!はい決定!!」

 

「「双子!?」」

 

「ぶはっ!?くふふ、っ、はははははっ!!」

 

「双子……ディオ兄さん達が双子……っ、ふふ、はははははっ!!」

 

 

 何がツボだったのか、承太郎とジョルノが爆笑している。それに釣られて俺達まで笑う羽目に。……そのおかげで、比較的明るい気分のまま別れる事ができた。

 

 ディオ、ジョルノと別れ、残りの3人で最寄り駅へ向かう。……人気の無い駅前に到着した時、ジョナサンが承太郎を呼んだ。

 

 

「何だ?」

 

「承太郎は――今、幸せかな?」

 

 

 そう問われ、目を見開いた承太郎は……心底幸せそうな、子供のような笑顔になる。

 

「――幸せだ。……昔よりも自由だし、毎日が楽しい。昔の自分よりも、今の自分を見て欲しいという気持ちを理解してくれる奴らがいるし……そして何よりも、

 

 ――親友であり、理解者である志人と出会えた。これに勝る喜びはない」

 

 

 またこいつは爆弾放り込みやがって!!と、赤面する顔を片手で覆う。……すると、ジョナサンが囁くような声でこう言った。

 

 

「――――承太郎が幸せになってくれて、本当に良かった」

 

 

 顔を上げると、ジョナサンは笑っていた。……しかし、珍しい表情だった。口元はあまり動いておらず、目だけで笑っている――

 

 

「――――嗚呼、」

 

「……承太郎?」

 

「あんたは……嗚呼、なんだ、――っ、そういう事だったのか……!!」

 

 

 承太郎は、何かに気づいたような様子でそう言って、泣き笑いを浮かべる。……何だ?どうした?

 

 

「ジョナサンが奴を……否笠を言葉で追い詰めていた時、疑問に思った事がある。……それの答えが、どうしても分からなかった」

 

「……っ、」

 

「一度、心を覗いたんじゃないかってぐらいに、俺の考えを言い当てた時があったよな?」

 

 

 ……そういえば、あったな。

 

 否笠が承太郎への敬意を表して、英雄と呼んでいたのだと言った時。ジョナサンはそれを、承太郎が嫌う"レッテル貼り"だと断言した。

 その後に、承太郎の心境を正確に言い当てて――んん?あれ……?

 

 

「……なぁ、承太郎」

 

「何だ?志人」

 

「一昨年、お前が一度すげぇ不安定になった時があったの、覚えてるか?

 お前の様子がおかしい事に気づいたジョルノが俺に連絡くれて、俺が放課後にお前を家まで連れて行って話した時の……」

 

「ああ、よく覚えてるぜ。……お前のおかげで、随分気が楽になった」

 

 

 俺が承太郎に今世の家庭事情を明かす前。財団職員の心無い言葉がきっかけで、前世で見ていた悪夢を今世でも見て、承太郎が精神的に不安定になってしまった時があった。

 その時に聞いた、承太郎の心の叫び。……今でも、鮮明に覚えている。

 

 その叫んでいた言葉と、ジョナサンが否笠に言っていたある言葉(・・・・)のニュアンスが、よく似ていた。

 

 

「――"もしも自分が本当の英雄なら、守りたい物を全部守れたはずだから"……ジョナサンは確か、こう言ってたよな?

 そしてお前も、あの時叫んでいた。――"本当に最強に、無敵になれるなら。俺はそうなりたかった。自分の手で大切な物を全て守りたかった"、と。

 

 ……よく似ていると思うのは、俺の気のせいか?」

 

「いや……気のせいじゃねえよ。俺が気になったのも、その言葉だ」

 

「……お前、俺以外の人間にその気持ちを打ち明けた事は?」

 

「――無い。俺は今世どころか、前世でも口にした事は無かった。誰にも言えずにずっと抱え込んでいた。

 

 つまり。本当に最強に、無敵になれるものなら、そうなりたかったという想いも……もしも本当の英雄なら、守りたい物を全部守れたはずだからという想いも……

 それらを知っているのは、志人だけ。そのはずなんだ……!」

 

「…………承、太郎」

 

「だから、ジョナサンがそれを知っているのは本来ならおかしい事だ。……本来なら、な」

 

 

 ジョナサンは、今までに見た事が無いくらい、動揺している。

 

 

「ついさっき、俺に向かって笑った時の顔。あれは俺が知っているジョナサンらしくなかった」

 

「……そう、かな?」

 

「いつもなら、口も一緒に笑ってるはずだった。目だけで笑うなんて、あんたらしくない。……だが、俺はその笑い方を何度か見た事がある。――前世でな」

 

 

 前世で、だと?

 

 

「……その笑い方をする奴は、いつもは無表情なくせに、ごく稀に笑う事があった。それは決まって――俺に制御されていない時(・・・・・・・・・・・)だった。今世では何故か、一度も笑わないんだが。

 

 まあ、それが普通なのかもしれないな。前世が特殊だっただけなんだろう。……自我はあるようだが、前世でも今世でも会話をしてくれないし、確かめようが無いけどな」

 

 

 ――はっ?

 

 制御?自我?会話をしてくれない?…………待て。待て待てまっ――えっ!?

 

 

「ジョナサン・ジョースター。……あんたは前世で死んだ後、一体何があってそうなったのかまでは分からねえが――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――こいつの中で(・・・・・・)蘇った。……そうだろ?」

 

 

 承太郎はそう言って――背後に浮かぶ、スタープラチナの胸の中心を、拳で軽く突いた。

 

 

「――――っ!!」

 

 

 ジョナサンはカッと目を見開き、胸元を強く握りしめる。……それはまるで、承太郎の拳が彼の胸に届いたかのような仕草だった。

 

 もちろん。実際は感覚がリンクしているなんてあり得ないが、ジョナサンにとってはそう錯覚してしまう程の衝撃だったんだろう。

 

 

「荒唐無稽だが、そう考えれば納得がいく。俺の心を覗いたかのような発言が出来たのは、あんたが俺自身だったから。……前世のスタープラチナの中にいたからだ」

 

「……承太郎、僕は――」

 

「待て。……その反応だけで、充分だ。これ以上はもう何も聞かねえ」

 

 

 スタープラチナを中に戻すと、承太郎は表情を和らげる。

 

 

「ただ、あんたに……いや、お前(・・)には言いたい事がある」

 

「な、何……?」

 

「……前世の俺はいつも、お前に助けられていた。確かに全ては守れなかったが、それでも何も守れなかった訳じゃない。

 そもそも。お前がいなかったら、俺は戦えなかったんだ。俺がスタンド使いじゃなかったら、あの旅にも行けなかっただろう。仲間達にも出会えなかったかもしれない。

 

 お前は無敵じゃないから、守れない物もある。失ってしまった物もある。

 でもな。お前がいたおかげで手に入れた物だって、確かにあるんだ。おじいちゃんと、花京院と、アヴドゥルと、ポルナレフと、イギー……それに仗助達や、徐倫達も。

 

 ほら。こんなに沢山、仲間がいる。……全部お前のおかげで手に入れた、大切な宝物だ」

 

「――――」

 

「ありがとう、俺の相棒。――前世の俺はいつも、お前を頼りにしてたぜ」

 

「…………承太郎」

 

「ん?」

 

「抱き締めてもいい?」

 

「ちゃんと加減してくれるなら」

 

 

 ……それから。ジョナサンは承太郎を抱き締めて、泣きながら謝っていた。

 

 承太郎の大切な物を守れなくてごめん、一族の宿命を背負わせてごめん、承太郎の心を護れなくてごめん、と。……ひたすら、謝っていた。

 

 きっとジョナサンは、前世の記憶を取り戻してからずっと、それを抱え込んでいたんだろうな。

 

 

 やがて泣き止んだジョナサンは、最後には笑顔で去って行った。承太郎が彼の抱え込んでいた想いを受け止めてくれたおかげだろう。……承太郎もまた、涙目になっている。

 

 

「……ジョナサンが、スタープラチナの中に、」

 

「志人。……その話は、もう二度と口に出さないようにしろよ」

 

「えっ?」

 

「――ジョナサンは、ジョナサンだろ。……今世のあの人はスタープラチナではなく、ジョナサン・ジョースターだ」

 

「……分かった。前世は前世、今世は今世!前世の事は今世に持ち込まない!」

 

「ああ、それでいい」

 

 

 承太郎はジョナサンに、彼がスタープラチナの中にいた事を明言させなかった。今世ではあくまでも、ジョナサン・ジョースターとしての彼と接していくつもりのようだ。俺もそうしよう。

 

 

「……実はあの人、昼間から様子がおかしくてな」

 

「そうなのか?」

 

「あぁ。昼飯を買いに行った時に2人で歩きながら話していたんだが、その時になんとなくいつもと違うなと思って……

 あっ、そうそう!あの人、俺の存在こそが承太郎の下に遣わされた守護天使なんじゃないか、とかぶっ飛んだ事を言ってたぜ」

 

「はあ?……守護天使って、確かキリスト教の話だったな?どういう事だ?」

 

 

 かくかくしかじか、と。ジョナサンがぶっ飛んだ事を言い出したところから、俺が守護天使である事を否定して、承太郎の普通の友人だと主張した事までを説明する。

 

 全て聞いた承太郎は、ニヤリと笑った。

 

 

「よく分かってんじゃねえか、親友。お前の言う通り、俺もお前も普通の人間で対等だ。

 守護天使だとか、目に見えない上位の存在として俺の前に立つのではなく、人間の親友として隣に立ってもらわねえとな」

 

「当然だろ、親友」

 

 

 そう。俺達は財団職員達が言う"最強の矛と盾"でも、ジョナサンの言う"人間と守護天使"でもない。普通の人間で、対等の親友同士だ。

 

 

 これから先も、永遠に。俺は空条承太郎の友人……親友として。その隣に――

 

 

 

 

 

 

(――って。そういや縁切り事件の時に、どさくさ紛れにそう誓わされたなぁ……ハハッ)

 

 

 

 

 

 

 




※今後のシリーズについてのお知らせの下に、おまけの会話あり。


 これにて、空条承太郎の友人シリーズは完結です!
 最後までお付き合いしてくれた読者の皆様、本当にありがとうございます!( ;∀;)

 まずは、最終話について謝罪を。作者はジョナサン=スタープラチナ説が好きなので、それを話に入れてしまいました。
 実際、その説はあり得ないという事を理解しているのですが、どうしても書きたくなった結果がこれです。
 シリーズを書き始めた当初から、既にこの最終話が頭に浮かんでおりまして……作者の妄想を詰め込みました。

 いろいろ設定に穴はありますし、賛否両論だと思いますが……お目汚し失礼しました。


 最後に。今後のこのシリーズの予定ですが。pixivでは読者様からのリクエストもありますので、番外編を投稿したり。
 新しいシリーズとして、大学生もしくは社会人になった男主と承太郎さんの話を、時系列バラバラで投稿したりする予定です。

 ここまで閲覧していただき、ありがとうございました!

※新たにハーメルンでも番外編の投稿を始めました!https://syosetu.org/novel/310440/






※本編後。帰宅したディオとジョナサンの会話(キャラ崩壊&捏造注意)

「――ただいま」

「…………おかえり、ディオ」

「……どうした、その泣き腫らした顔は。酷いぞ」

「そのストレートな言葉の方が酷いよ……」

「はいはい。で?」

「…………バレた」

「ン?」

「承太郎に、バレた……」

「――っ、前世の事か」

「うん……さすがだよね。志人も鋭いけど、承太郎も本当に鋭い」

「やはり、あれが駄目だったのではないか?否笠との一件の時に、承太郎の考えを言い当てた……」

「そうだよ正解……あの時から疑問に思っていて、僕の笑顔の違いで確信を得たらしい」

「笑顔の違い?」

「ジョナサン・ジョースターの笑顔と、スタープラチナの笑顔は違うんだって……いつもの僕は口元と目が一緒に笑うけど、スタープラチナは目だけで笑うから、って」

「その笑顔を承太郎の前で出してしまったのか」

「だって――だって仕方ないじゃないか!僕が幸せかって聞いたら、あの子は、っ、子供みたいに笑って幸せだって答えてくれて……!!」

「――良かったな。お前の愛し子が救われて」

「うん……良かった、良かったよ、承太郎……っ!!」

「……さて。子供達は帰ったし、大人は飲むぞ!ちょうど帰りに酒を買って来たところだ」

「飲む!今日はたくさん飲みたい!!」

「ああ、飲め飲め。今日だけは特別だ、乾杯!」

「乾杯!!」
 
 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。