NEWGAME P.S!! (しゅみタロス)
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プロローグ

2016年 9月

 

アメリカ フロリダ州 ビッグバンホール EF0 世界大会会場。

 

観客「うおおおおおお!!」

司会「さあ、いよいよ今年最大のファイナルマッチ、バンカーvs名倉マーク!!ここまで4タイトルのゲームで優勝を果たした名倉マーク、今大会最後のタイトルとなるのは今年発売したばかりのシリーズ最新作、ザ・キング・オブ・ファイターズ14、熱戦の果て、お互い持ちキャラは1体のみ、さあ、ここで全てが決まる、全世界の諸君、刮目せよ!!」

 

バンカー「俺のチャン・コーハンがお前をズタズタにしてくれるぜ!!ハッハッハー!!」

名倉「なあ、あんた、地面を舐めた事があるか?」

バンカー「あん?」

 

名倉はコントローラーに手を伸ばし、ホームボタンを解除する。

 

名倉「行くぞ、不知火舞!!」

 

名倉はコーハンの剛力をまるで踊るように躱し、カウンターを繰り返す。

 

バンカー「何だ、俺の攻撃を躱しやがって、逃げてるだけじゃねえか」

名倉「あっそう、逃げなくても平気ならやってもいいか」

 

突如として名倉は一気に攻撃を行い始めた、先ほどまでの動きとは打って変わって不知火舞の攻撃がコーハンを追い詰める。

 

バンカー「バカなッ!!ガードと回避が追い付かない!!」

名倉「さっきの2戦でお前の動きを見てて正解だったよ、おかげで簡単にお前をぶちのめせる」

 

ここでバンカーは気付いた。

 

バンカー(まさかこいつ、序盤の俺の動きを見るために、敢えて舐めプしてたのか?名倉マーク、こいつは勝つためなら全てを斬り捨てる怪物だ!!)

名倉「チェックメイトだ!!」

 

KO!!

 

司会「き、決まったあああああ、EF0世界大会、キングオブファイターズ部門を制したのは、日本代表、名倉マーク、だあああああああ!!」

観客「ワアアアアアア」

 

歓声の中、ゆっくりと立つ名倉はトロフィーと小切手を受け取る、その背後でバンカーに名倉はこう伝えた。

 

名倉「どうだ?ザラザラした地面の味は」

バンカー「俺を煽ってんのか!!」

名倉「その地面の味を俺は何百回も味わった、これでお相子だな」

バンカー「お前、まさか……」

名倉「地面を舐める事を繰り返せ、俺に勝ちたきゃ戦い続けろ、だが、間違っても怪物(モンスター)じゃなく卑劣者(マーダー)にはなり下がるなよ」

 

名倉はそう言い残して、会場を後にした。

 

 

 

 

帰国後

 

名倉「久々だな、この場所も」

 

東京の品川にある巨大電気企業へと足を運んだ名倉はオフィスの会議室に足を踏み入れる。

 

するとそこには1人の役員が名倉の前に座っていた。

 

役員「フロリダの件、話には聞いているよ。まさか、君が融資をお願いするとは思わなかったがね」

名倉「こっちも公に出来ない事情がありましてね、あんたには全て伝えてると思うが悪い話じゃないだろ?」

 

役員は黒いホルダーを取り出し、契約書を見せる。

 

役員「融資については我々もビジネスになる以上、賛成と言わせてもらう。だが、君には少しうちの抱えているある大型案件に力を貸してほしい」

 

机の上のスコーンを齧りつつ、名倉は返す。

 

名倉「聞いてるから、好きに話していいよ」

役員「今、わが社がプ○イステーション4用に開発中のゲームにフェアリーズストーリー2があるだろう」

名倉「ああ、確か製作が難航してる事で有名なイーグルジャンプの大型タイトル、フェアリーズストーリーの続編か」

 

役員はコーヒーを啜ると話を続けた。

 

役員「このゲームはわが社にとって大きなビジネスチャンスだ、ここで失敗は出来ない以上この大型案件に君の力が必要だ、これが成功した暁には今回の融資に全面的に協力する。やってくれないかい?」

名倉「ククッ」

 

不気味に笑う名倉は役員にペンを指す。

 

名倉「最高にイカした案件じゃねえか、乗らないは手は無いな」

 

名倉は契約書を書き、役員に渡す。

 

名倉「良いぜ、やってやるよ」

役員「それじゃあ、君には明日よりイーグルジャンプに移動となる、しっかり頼んだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてあの出来事から2年。

 

東京 イーグルジャンプ

 

名倉「さて、始めるか」

 

名倉はイーグルジャンプに入社しフェアリーズストーリー3開発に携わっていたのだが……

 

名倉「ゼビウススコアタイムアタック、開始」

 

ゲームに熱中してロクに働いてなかった。



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CHAPTER1 新入りの挨拶?興味ないね。

2018年 9月

 

イーグルジャンプ オフィスビル

 

桜の散るビル街の一角で、何度も息をするように声を紡ぐ少女がいた。

 

青葉「新入社員の涼風青葉です、新入社員の涼風青葉です、よし」

 

彼女は涼風青葉、この年からイーグルジャンプに入社することになった新人、彼女が意を決してビルに踏み込もうとする瞬間。

 

りん「あのー」

青葉「ふぇッ?」

りん「ここ、未成年立ち入り禁止だけど~」

青葉「ちちち違います!?、私、未成年だけどちゃんと社会人ですよ。涼風青葉です、聞いてませんか!?」

 

その名前を聞いて思い出す。

 

りん「あー、ごめんね~そう言えば一人若い子が入るって話忘れてた、初めまして、遠山りんです、イーグルジャンプのAD アートディレクターよ」

青葉「新入社員の涼風青葉です、よろしくお願いします!!」

 

挨拶を済ませた青葉はりんと共にエレベーターに乗り、イーグルジャンプのオフィスに足を踏み入れた。

 

様々なスペースで区切られたエリアの一角、そこに案内された青葉は…

 

コウ「zzz」

青葉「う、うわあああ!!」

コウ「はがあ!!」

 

パンツ丸出しで眠る女を目撃し、青葉の大声で飛び起きた。

 

りん「もう、また、パンツのまま寝てたの?」

コウ「うんごめん」

 

ズボンを履きつつ青葉の方を見つめる。

 

コウ「ああ、例の新入社員?」

青葉「はい、涼風青葉です。18歳、よろしくお願いいたします」

 

青葉の挨拶を聞き、ニヤリとする。

 

コウ「イーグルジャンプ、キャラクターデザイナー兼キャラ班リーダーの八神コウ、25歳で貴方と同じ高卒出身よ」

青葉「ええ!!あのフェアリーズストーリーのキャラクターデザインのあの八神さんですか!!」

コウ「そう、あなたの上司でもあるからよろしくね」

青葉「はい!!」

 

するとりんはコウに宅配ピザの箱を手渡すと告げる。

 

りん「彼にも挨拶よろしくね」

コウ「わかってる、人使い荒いんだから」

青葉「八神さん、彼って?」

 

コウは箱を手に青葉を先導する。

 

コウ「歩きながら話すわ」

 

細い通路を通り、コウは話を始めた。

 

コウ「うちのゲーム事業は大手電機企業を取引先にゲームを開発してる、それ故にうちのゲームは取引先の企業が販売するプ○イステーションでの販売が基本なの」

青葉「確か、フェアリーズストーリーの1作目もプ○イステーション3、つまりPS3での独占販売でしたね」

コウ「その後フェアリーズストーリー2開発難航で突然その取引先から社員が送られてきた。技術はあるしいい奴なんだけどね…」

 

そう言いつつ扉を開ける。

 

コウ「名倉、ピザ持ってきたぞ~、それと新入りの挨拶ぐらい聞いてやれ~」

 

青葉に背を向け、ヘッドホンを被り、ゲームに興ずる赤髪の人物、彼はヘッドホンを外すとゲーミングチェアに座ったまま身体を前に向けた。

 

名倉「新入りの挨拶?興味ないね」

青葉「お、男の人!!」

コウ「ああ、この会社の唯一の」

名倉「聞くに値するかわからないが、誰だ?」

青葉「新入社員の涼風青葉です、よろし」

名倉「あのさぁ、敬語やめてくれない?調子狂うんだが」

青葉「え?」

名倉「俺は名倉マーク、ゲームアドバイザーだ」

青葉「あ、はいよろしくお願いいたします、名倉……さん?」

 

何かを悟ったのか、コウが弁解する。

 

コウ「青葉、一応は言っとくがこいつの言う事は極力真に受けない方が良い、社員は慣れっこだが名倉は普通の人間じゃ無いから」

名倉「人をアンブレラ社のBOWみたいな言い方すんじゃねえよ」

青葉「え、今なんて?」

名倉「おい青葉、人の言葉の気にする前に学ぶことが沢山あるぞ、ドラクエの呪文並みに」

青葉「だから真面目な話に何か混じってる気がするんですが……」

 

そう言いつつ名倉は分厚い付箋の付いた本を一冊渡す。

 

名倉「こいつを全部頭に叩き込め、お前の配属はキャラ班のモデラー、一度モデリング作ってから俺んとこに来い」

青葉「え?八神さんじゃなくて?」

コウ「残念だけど私なんかよりも名倉が割と適任だからね、まあ、頑張りな」

青葉「は、はぁ」

 

キャラ班 

 

カタカタカタカタカタカタカタカタ

青葉(ある程度予習しておいて良かった、大まかな部分はスムーズに行ける)

 

青葉はその周囲にいる同業者をチラチラ見ながら仕事を進める。

 

青葉「出来た」

 

だがその時

 

ピロン

 

青葉「え?」

 

画面右上に表示される吹き出し、恐る恐るクリックすると。

 

[やっほー、私は貴方の席の後ろにいる赤いリボンのカワイイ滝本ひふみだよ、この機能は社内メッセ―ジって言って何か誰かに質問したいときに使える機能だよ♪一応連絡網も兼ねてるから入ったメッセージはこまめに確認してね♡、それじゃあ、伝えておくけど出来たCGモデリングはスクリプトのブラウザコピーでアドレスとネームを選択して相手に送れるよ、送ったら必ず本人の元に向かって話を聞いてね。特に名倉君は基本ヘッドホン付けてるから通知に気付いてない場合あるから教えてあげてね。それじゃあ、これからもよろしくね。青葉ちゃん(^O^)/]

 

メッセージを見た青葉はすぐに返信を送った。

 

青葉[ありがとうございました、これからもよろしくお願いします。ひふみ先輩]

 

青葉の様子を見る後ろの少女、滝本ひふみは嬉しそうにしていた。

 

そしてデータを送った青葉はすぐに名倉の元へ向かうのだった。

 

青葉「名倉さん、出来上がったモデル見ましたか?」

名倉「こいつ、コーナリングド素人だな。新参か?」

青葉「え?」

 

この時青葉は気付く、名倉が目にしてるディスプレイはPCではなく、モニターに接続したPS4である事を。

 

青葉「ってあれ絶対、グランツーリスモスポーツじゃないですか!!」

 

ヘッドホンを外し、名倉は話を始めた。

 

名倉「確かにグランツーリスモスポーツだ、対戦相手は三流だがな」

青葉「あのー仕事中ですよね?ゲームやってて大丈夫なんですか?」

名倉「想像だけじゃあゲームは作れない、大きなインスピレーションやリアリティーを得るには他のゲームから学んだ方が良い」

 

名倉はゲーミングチェアで移動するとPCで送られたモデリングを凝視する。

 

名倉「素人にしてはよく出来てるが色彩のセンスはまだまだだな」

青葉「そうですか……」ガックシ

 

名倉その様子を見るな否や立ち上がると……

 

ガンッ!!

 

青葉「!!」

 

突然の壁ドン、動揺する青葉に名倉は無表情で答える。

 

名倉「そう言う顔をする奴ほど見飽きた物はない」

青葉「え?」

名倉「出来るとわかってて逃げる奴はそんな顔をする、これから青葉に教え込むのはホテルで犯されるレベルじゃ済まないぞ」

青葉(えええええ、な、何言ってるのこの人!!!何教え込むつもりなの?!未成年に対して容赦なくイケナイ事を!!このままじゃ私……)

 

動揺する青葉に名倉は更に言葉を続けた。

 

名倉「フェアリーズストーリーのキャラデザについて基本的な事を全部教えてやる、但し明日な」

 

・・・

 

青葉「え?」

 

名倉は手を放すと悪魔の笑みを浮かべる。

 

名倉「お前も案外、面白い反応をするんだな。本気で犯されると思ったか?」

青葉「ま、まさか……」

 

名倉「ただのジョークだって、本気にする奴の反応チョーサイコー」

青葉「ば、バカアアアア!!」

 

PM8:00

 

りん「初日お疲れ様」

コウ「何か、とてつもない叫び聞こえたけど大丈夫?」

青葉「名倉さんいつもああ言う感じですか?」

コウ「まあ、あいつの事はすぐに慣れると思うよ」

名倉「青葉、初日から大絶叫だったな」

青葉「誰のせいだと思ってるんですか?」

 

すると名倉はコウに聞く。

 

名倉「明日は取引先との面談、朝9時元町カフェな」

コウ「フェアリーズストーリー3について上層部も知りたがりだな」

青葉「ええ!!」

 

青葉の反応に一同が顔を揃える。

 

青葉「今、作ってるゲームって、フェアリーズストーリー3なんですか!!」

名倉「ああ、だからフェアリーズストーリーについて明日教えるのさ」

 

名倉は青葉にすれ違うと肩を叩く。

 

名倉「明日は寝かさないぜ、青葉」

青葉「ピギャァ!!」

 

そうして帰って行く名倉を見届けつつも、青葉は若干顔を引きつらせた。

 

青葉「名倉マークさん、あの人は注意が必要だな……」

 



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CHAPTER2 飲み会か、楽しみすぎて狂っちまいそうだ。

入社してから2日、青葉は電車を乗り継ぎ、会社へと向かっていた。

 

青葉「今日も一日、がんばるぞい!!」

 

意気揚々とエレベータに乗り、オフィスに向かうが……

 

青葉「ってあれ?開かない?」

 

青葉は何度も距離を取っても動かない扉に青葉は困惑するばかりだった。

 

そんな立往生をする青葉の後ろから何者かが近付いてきた。

 

ピッ!!

 

ゴウゥゥゥゥ

 

青葉「あ、空いた!!」

名倉「思った通りだ、お前の事だから入口のシステム何も知らないと思ってな」

青葉「名倉さん!!」

 

手に大量の紙袋を持った名倉は青葉に話を始めた。

 

名倉「このオフィスの入口は自動ドア方式じゃなくてカードキー方式だ、特別な理由がない限りこのオフィスは入れないからな」

青葉「そう言えばりんさんも入る時何かカード使ってた様な……」

 

青葉のリアクションに少し笑いを感じつつも名倉は胸ポケットからカードを取り出し……

 

ブスッ!!

 

青葉「ひゃあッ!!」

 

青葉の胸に谷間に突き刺した。

 

名倉「おお~案外18にしては中々だな」

青葉「いいい一体何を挟……え……」

 

胸から引き抜いたカードを見るとそれは青葉の名前と写真の付いたカードだった。

 

名倉「お前の社員証だ、カードキーも兼ねてるからそれで中に入れる。紛失したら紛失届を八神に出せば再発行できるけど無くすんじゃねぇぞ」

 

すると青葉は顔を真っ赤に染めながらキレた。

 

青葉「作って渡してくれてご丁寧に説明まではありがたいですが……

 

何も渡し方ってモノがあるでしょう!!いきなり未成年の胸にカード突っ込むとかセクハラですよ!!以前も壁ドンの挙句セクハラ発言な冗談も言ってますからね!!」

 

名倉「直に肌に触れた訳でもねえのにギャアギャア喚くな、思春期も発情期もまだ卒業してないのか?これだから処女(ヴァージン)の未成年は手に余る」

青葉「しれっと何か嫌な批判してません?」

 

すると名倉は……

 

ガアン!!

 

青葉「ヴェアアアア!!」

 

突然、名倉がロッカーを蹴って道を塞ぎ、名倉は怒るように告げる。

 

名倉「セクハラ、パワハラ、モラハラ、世の中を都合のいい見方をする自己中心的な奴はハラスメントを盾に逃げるのがテンプレだ」

青葉「え……」

名倉「中にはハラスメントを笠に着て平気で人の人生を奪う奴もいる、お前もそいつと同類か?」

青葉「……」

 

突き付けられた何も返せない正論、名倉は青葉から離れると話を続けた。

 

名倉「世の中は理不尽なゲーム、お前もこの先正しくやっていくならゲームキャラの様に肯定できる人間性を持て」

 

青葉「ごめんなさい、何もわからずこんな事言って……」

名倉「言葉は不要だ、謝罪は仕事で返せ」

青葉「はい!!」

 

デスクに着いた名倉と青葉は仕事を始めた。

 

名倉「それじゃあ、フェアリーズストーリーについて軽く話そう」

青葉「はい」

 

名倉「そもそもフェアリーズストーリーはかのJRPGの一つ、テイルズオブシリーズの影響で生まれたシリーズだ」

青葉「テイルズオブシリーズ、ファイナルファンタジーと双璧を成すJRPGの代表作ですね」

名倉「フェアリーズストーリーは当時PS3で販売されたテイルズオブゼスティリアの歴史的失敗によって生まれた所要代替シリーズ、ゼスティリアによって崩壊したテイルズの人気を維持するために大手電機企業の出資の元作られたシリーズだ、1作目は良かったが2作目はハードルが高く、ゼスティリアの失敗を恐れたが為に開発は停滞期を迎えていたのさ」

 

ここで青葉は気付く。

 

青葉「じゃあ、その頃に入社したのが名倉さん?」

名倉「そうだ、そしてフェアリーズストーリーの真の意味での終わりはテイルズオブシリーズが復権したその時だ。PS4の最新作でゼスティリアの続編であるベルセリアの成功で徐々に人気が戻っている今、俺のこの仕事に残された時間は僅かだ。だからこそ俺はパワハラやセクハラと言われようがこの仕事には正しい俺でありたい、言葉より信頼に値するのは自分を顧みない行動と意思だけさ」

 

青葉はこの時気付いた、名倉の行動や言動は身勝手ではなく、自らの正しさに従って行動している事、青葉はこう呟くのだった。

 

青葉「カッコいい人だ……」

 

名倉も青葉の気持ちを察しつつ棚を探り始めた。

 

名倉「それじゃあ、さっきの言葉通り、お前も行動で示せ」

 

そう言うと名倉が青葉に手渡したのは……

 

青葉「え……

 

ええええええ!!ゼスティリアのPS3ソフトおおおおおお!!」

名倉「国内当時のオリジナルディスクだ、こいつを4時間キッチリやってもらう」

青葉「あれだけ酷評されてるゲームを人に勧めるんですか?」

 

名倉はヘッドホンを被ると、ニヤリと笑う。

 

名倉「失敗から学ぶことは多い、一人前になりたきゃ失敗から目を背けるな、いいな」

 

こうして青葉はゼスティリアを4時間キッチリやったそうな。

 

PM7:00

 

八神「名倉、そろそろ行くぞ」

名倉「お‼飲み会か、楽しみすぎて狂っちまいそうだったぜ」

青葉「えっ!!飲み会!!何も聞いてないけど!!」

名倉「敢えて伏せていたのさ、青葉の歓迎会」

青葉「おおおお~」キラキラ

 

名倉(やっぱこいつのリアクション面白いな……)

 

 

そして……

 

青葉「おお~」

 

テーブルを支配するのは巨大な牛肉の揚げ焼き、骨付きのソーセージの鉄板焼き、キャベツのピクルスと思われる千切り、白アスパラのサラダと小さいパン。

 

見た目もどこか異国の雰囲気を感じられる店内に青葉は眼を輝かせる。

 

名倉「ここは俺行きつけのドイツ料理の酒場だ、まあ俺がドイツのクラフトビール以外飲まないのもあるがな」

ひふみ「寧ろ名倉君は同じ物しか口にしないからでしょ」

八神「まあ、そういうのは置いといて、青葉、入社を祝って……

 

カンパーイ!!」

 

全員「カンパーイ!!」

 

牛肉を切り分ける中、横で二人が声を掛ける。

 

はじめ「青葉ちゃん、仕事では一緒だったけどこうして話すのは初めてだね」

ゆん「何か不思議やわぁ、初めてやのに普通に感じるの」

青葉「えっと……」

 

はじめ「それじゃあ改めて、私は篠田はじめだよ、よろしく」

ゆん「飯島ゆん言います、仲良くしたってや」

青葉「よろしくお願いします、はじめ先輩、ゆん先輩」

はじめ「別に先輩って呼ばなくていいよ」

ゆん「ええよ、好きに呼んでも」

青葉「それでしたら、さん付けで呼ばせてもらいますね」

 

そんな3人から目を逸らしながら、ビールを飲み進める名倉。

その横でひふみは名倉の服をつまむ。

 

名倉「何か用か?」

ひふみ「さっきから黙ってばっかりだったから、何考えてるのかなって?」

名倉「なぁに、ただただ感慨深いだけさ、あいつらが先輩の立場にいるのが」

 

するとひふみは名倉の肩に寄り掛かり、不意打ち気味に呟く。

 

ひふみ「嘘つき……」

名倉「お節介」

ひふみ「……」

 

二人が醸し出す謎の空気感。

 

青葉「あ、あの……」

 

名倉は若干得意げにとてつもないジョークを繰り出す。

 

名倉「イイ女だろ、俺がホテルで何度もヤった女だ」

青葉「びゃあああああ!!」

ひふみ「ちょ……名倉君!!」

八神「ひふみんいつの間に!!」

りん「何度もってそんな……」

ひふみ「違う、違うから!!」

 

するとひふみは、まるで威嚇するネコのように羞恥に染まった顔で名倉を睨んだ。

 

名倉「アハハハハ!!やっぱ、ひふみのリアクションマジ面白ぇ、こいつは傑作だ」

ひふみ「こ、この傍若無人なエロサディストゲーマー!!」

 

パァン!!

 

 

 

あれから2時間後

 

名倉「ビールおかわり」

 

全員はしゃぎ過ぎたのか完全に眠っており、名倉と八神だけが飲み続けていた。

 

八神「随分と強くやられたな、顔が赤く腫れてるぞ」

名倉「ほっとけ、こんなのひふみと関係続けていれば普通の事だ」

 

八神はウィスキーを飲み干すとタブレットを取り出し、名倉に見せる。

 

八神「今日の喫茶店の会談の時、お前何か投資してたよな?この投資資料、ドイツ語で書かれてるが何の資料だ?」

名倉「その資料は大手電機企業と俺の間にあるパイプを使った投資のログだ、主にフェアリーズストーリーの北米版の為のな」

八神「北米版!!いつの間にそんな事……」

名倉「あいつらのおかげで海外展開に期待できるほど、シリーズとしてフェアリーズストーリーは成功できると確信した、これはあいつらの努力が実を結んだ結果だ。だがこの投資は3作目制作以前から既に始めててこれが成功しなかった場合、投資した金は全部ドブの中、文字通りギャンブルなのさ」

 

八神は唖然とした、何故なら名倉は他人に肩入れするような人間ではない所か平気で人を利用する様な正に魔王、そんな彼が人の為に危険な賭けをしているのだ。

 

八神「どうして……」

 

名倉はポケットから煙草を取り出し、ライターで火をつけると語り始めた。

 

名倉「俺さ、このフェアリーズストーリー3の制作で入ったこいつらの事、最初は全然信じてなかったし、興味も無かった、寧ろ嫌いだったんだ」

八神「容赦なく人のプライバシーを傷つけるな、お前」

名倉「もっと言うとこいつらが俺の求める仕事を1ヶ月以内に出来なかったら完全に見限るつもりでもあった」

八神「それが人間の言うセリフかよ」

 

名倉「だが、あいつらはやってくれたぜ、俺をここまで突き動かすに値する物、俺の望むフェアリーズストーリーをここまで作り上げた、まだまだやることは多いがいずれ完成するこの作品は俺にとっての誇りだと思ってる、社員全員含めてな」

 

名倉は煙草の火を消すと立ち上がる。

 

名倉「八神、このバカ共運ぶの手伝ってくれ」

八神「やれやれ、今日はオフィス泊まりか?」

名倉「オフィスで寝てるお前が言うな」

 

青葉「ん……」

 

この時二人は気付かなかった。

 

さっきの話を青葉は全部聞いていた事、青葉は皆に対し、この事を告げるか朝まで悩む事となった。

 



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CHAPTER3 スタンバーイ・スタンバーイ。

飲み会から一夜明けたイーグルジャンプ。

 

カタカタカタカタカタカタカタカタ

 

青葉「よし」

 

出来たCGモデリングを名倉のパソコンに送ると青葉は席を立ち、報告に向かう。

 

カチッ、カチッ、

 

名倉「ふーん」

青葉「どうでしょうか?」

 

名倉はピザの箱を開けるとそれを食べ始める。

 

名倉「青葉、ピザを色覚的に見るとどう見える?」モグモグ

青葉「え、えーと……」

 

突然ピザの色について聞かれる、何故と思いつつ青葉は答えた。

 

青葉「名倉さんの食べてるピザはマルゲリータピザだから……赤、白、緑……ですね」

 

名倉はピザの二切れ目を食べ終わると話を始めた。

 

名倉「シンプルな色調は常に人の目線が遠くても認識できるが複雑な色調はそう簡単には行かない、キャラデザはパーソナルカラーをベースに2色を加えたトリコロールカラーがキャラを作るのに最も重要だ」

青葉「なるほど、3色に限定すれば確かに分かりやすい……」

 

名倉は青い缶ドリンクを手渡すとニヤリと笑う。

 

名倉「てなわけで、ゼロから全部やり直しな。頑張れよ、俺の愛玩動物(モルモット)

 

 

青葉「うう~、人を何だと思ってるんだろう?」

 

机の上で突っ伏す青葉、その横ではじめが声を掛ける。

 

はじめ「このままだと青葉ちゃん可哀そうだね……」

ゆん「ほんなら、ちょっと早いけど休憩入ろう」

ひふみ「今日の朝焼いてきたクッキーあるから食べよう、青葉ちゃん」

青葉「皆~」

 

そうして始まった仕事合間のティータイム、互いにお菓子と紅茶を嗜みながらトークを始めた。

 

青葉「ありがとうございます、お陰で落ち着きました」

ゆん「気にせんでええって」

青葉「それにしても皆さん、あの名倉さんといて平常心でいられるの凄いですね」

はじめ「まあ、あの人の身勝手は今に始まった事じゃないし、キッチリ仕事も見てくれるし決して間違ったことする人じゃないから」

ゆん「あの人はイーグルジャンプの勇者でもあり魔王やから、逆らったらあかん存在やわ、でもいない方が逆にしっくりこないんよ」

青葉「相当毒されてますね」(汗)

 

勇者であり魔王、これだけ見ると名倉さんの存在や目的は周囲に(良くも悪くも)大きい影響を与えていると自覚する。他の社員とは見ている物のスケールが全然違うのだと改めて知った青葉。

 

青葉「ところでひふみ先輩って名倉さんの事どう思ってるんですか?何か普通の関係とはちょっと違うみたいですけど?」

 

ひふみは紅茶を飲み干すと語り始める。

 

ひふみ「ダメな人……」

青葉「え……」

ひふみ「彼、ダメな人なのよ、平気で丸々一週間洗濯しないし服はいつも着っぱなしだし、部屋はポテチの袋がそこら辺中に散乱してるし、一日3食ジャンクフード。

 

だから名倉君は一人に出来ないの、私がいないと何も出来ないから……」

 

ここで3人は気付く。

 

青葉(うわあ……この人ダメ男に献身的に尽くすタイプの人だ……)

 

ゆん「そんな男よりもっとええ男いるやろ?」

ひふみ「いや、他の男性と一緒だと気が休まらないと思う、多分」

はじめ「じゃあ、なんで名倉さんはいいの?」

ひふみ「名倉君は自分の事しか考えてないから、それに彼とは同期だし、色々あったから……」

青葉「ええっ!!ひふみ先輩名倉さんと同期なんですか!!」

ひふみ「ちょうどフェアリーズストーリー2の時期に一緒に入って来た」

 

涙目で開いた口が塞がらない青葉、すると後ろから……

 

名倉「何顔芸してんだ」

青葉「な、なななな名倉さん!!」

 

名倉は親指を後ろに向けて青葉を呼ぶ。

 

名倉「お前に会わせたい奴がいる、ちょっと付き合え」

青葉「は、はい!!」

 

そうして名倉は青葉を連れて奥の個室に案内した。

 

青葉「プログラムチーム?」

名倉「おーい、連れてきたぞ、マザコン!!」

 

ガチャッ!!

 

青葉「!!」

 

突如突き付けられた拳銃に名倉は手を上げる。

 

名倉「おっと、リアルでコールオブデューティは勘弁してほしい物だな」

うみこ「だったらそのふざけた名の呼び方をやめてもらおう」

名倉「やりにくいよなあ、こういうジョークの通じない相手ってのは」

青葉「あ、あの……」

 

若干涙目でこちらに視線を向ける青葉。

 

うみこ「これは、突然驚かせて申し訳ない事をした、涼風青葉さんですね」

青葉「は、はい……」

 

少し恥じらいつつも名刺を渡す。

 

うみこ「こういう者だ」

青葉「阿波根うみこ?」

うみこ「珍しいでしょう、沖縄の呼び方なんです」

青葉「よ、よろしくお願いします」

 

名倉「挨拶は済んだか?」モグモグ

うみこ「人のソイジェイを勝手に食べないでください」

名倉「それより、あいつはどうしたんだ?」

 

名倉はソイジェイの袋を捨てるとウィナーインゼリーを開ける。

 

うみこ「人の机の食べ物を平気で食べるあなたの図太さは筋金入りですね、彼女なら別室の会議室ですよ、多分今なら話せます」

 

名倉は指の間にソイジェイを3つ手にすると個室を去っていく。

 

名倉「サンキューな、貰ってくぜ」

うみこ「あなた、人の物を……!!」

 

青葉「本当に良いんですか?勝手に食べて……」

名倉「良いさ、どうせ30本は隠し持ってるから多少貰ってもな」

青葉「だからって勝手に貰ってくのはちょっと……」

 

ソイジェイを食べ終わると次の会議室へと移動し、扉を開ける。

 

名倉「おーい、しずく、新入りだぞ」

 

しずく「やあ、こうして会うのは初めてだね、ディレクターの葉月しずくだ。よろしく、涼風君」

青葉「よろしくお願いします」

しずく「名倉君の管轄のチームは苦労が多いだろうが、君の努力を期待してるよ」

青葉「ありがとうございます、葉月さん」

 

すると名倉は青葉の肩に手を置く。

 

名倉「青葉、ちょっと席を外してくれ」

青葉「え?」

名倉「ちょっと話ずらい事話すから、要は企業秘密だ」

青葉「そ、そそれなら」

 

青葉が仕事場に戻るのを確認すると話を始める。

 

名倉「しずく、例の投資の件、うまく行ってるぜ」

しずく「それは良かった、ここまで企業に頭を下げた私に感謝してよ」

名倉「あんたに頼んでよかったよ、俺の様なただの雇われじゃあ力不足だからな」

 

名倉はポケットの青い缶ドリンクを渡す。

 

しずくカシュ「それで、フェアリーズストーリーの北米版についての話に上層部のアレが関わってるって事、皆が知ったらどんな顔するだろうねぇ?」

 

 

ドリンクの缶を投げつけ、ゴミ箱に捨てると戯言を口にする。

 

 

名倉「所詮は、俺もただのプレイヤー、この上層部の思惑ををどう俺の思い通りに誘導するか、それがこのゲームの面白い所さ」

しずく「命知らずだね、君は」

 

 

名倉「ああ、正々堂々、命をかける。

 

 

 

ゲーマーの悪い癖さ」

 

 

 

 

 



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CHAPTER4 セ―ガ―♪

青葉が入社し1週間、週末明けの月曜日の出社と同時に青葉は名倉の元を訪れる。

 

青葉「名倉さん、おはようござい……」

名倉「ああ、おはよう、元気そうだな、お前……」

青葉「名倉……さん?」

 

どう見てもいつもの雰囲気ではなく、かなり冷めた印象に変わった名倉。

 

名倉「青葉、1から12で好きな数字言え」

青葉「え、急にどうして数字?」

名倉「良いから」

青葉「それじゃあ8で」

 

名倉は2つのダイスを手にするとそれをコーヒーの紙コップに入れ、地面に閉じ込めるとカップを開いた。

 

名倉「見事に8だな、少なくとも退屈な日にはならなそうだ」

 

名倉が始めたゲームに理解の追い付かない青葉。

 

青葉「名倉さん、それって……壺振りですよね……」

八神「やっぱ、壺振り始めたか」

青葉「え、やっぱりって……」

 

八神はゲーミングチェアに座ると話を始めた。

 

八神「よくある話さ、一ヶ月の内、ゲームソフトの新作が出ない日は決まって名倉は壺振りをはじめ、仕事に手を付けなくなるんだ。通称ゲーム枯れ。こうなると私でも手が付けられないぐらいめんどくさいんだよね~」

青葉「名倉さんって病的なゲーマーですね」(汗)

 

すると名倉は財布とジャケットのポケットにしまうと青葉に告げる。

 

名倉「青葉、買い出しの仕事行くからついて来い」

青葉「か、買い出し……」

名倉「八神、後は頼むぜ」

八神「わかった、今の名倉には仕事は任せられないしな、その代わり金だこでたこ焼き買ってきて」

名倉「当然(オフコース)、それなら安い、行くぞ青葉」

青葉「ま、待ってくださ~い!!」

 

そうして名倉と青葉はイーグルジャンプを出るのだった。

 

 

 

 

 

揺れる電車の中、座席でゲームに興じる名倉にその横で青葉が聞く。

 

青葉「どこに向かうんですか?」

名倉「もうすぐ着くさ」

 

アナウンス「間もなく、池袋、池袋になります」

 

名倉「降りるぞ」

 

2人は駅を出ると交差点に出る。

 

 

青葉「凄い!!私、池袋初めてなんですけどこんな場所だったんですね!!」

名倉「それじゃあ、仕事場に行くぞ」

 

名倉に案内され、辿り着いたのは……

 

青葉「ここって……

 

S○GA池袋!!」

名倉「ここなら退屈しないで良いだろ?」

青葉「大丈夫なんですか!?仕事中にゲーセン行って!!」

名倉「良いから入れ」

 

名倉に押され、青葉はゲーセンへと入店した。

 

名倉がクレーンゲームをやる横でぎこちない表情を浮かべる青葉、名倉はそんな彼女に聞く。

 

名倉「仕事中のゲーセンは非常識と思うか?」

青葉「はい、何かサボってる気が……」

 

名倉「青葉、ゲーマーってのは他人のルールに従うのを異常なまでに嫌う、従うのは自分と公式とゲームマスターのルールだけだ。俺は自分のルールでそれが正しいかを決める。お前はただ従えばいいのさ」

 

青葉はその名倉の言葉にある種の正しさを知る。

 

青葉「それなら私も名倉さんのルールに従います」

名倉「そうか、じゃあ、これ全部くれてやる」

青葉「え?えええええええ!!」

 

青葉の足元には大量のミルクコーヒーがクレーンゲームの台から転がっていた。

 

名倉「200円で15本、まずまずの成果だな」

青葉「名倉さん、これどうやって取って……とても200円じゃあこんなに……」

名倉「驚いただろ、やったら100%店員に嫌われる裏技その1、土台ごとひっくり返すの術さ、その証拠にほら」

青葉「状況的にこれどう見ても違法でしょ!!」

名倉「大丈夫だ、これでも景品はちゃんと取った扱いになるから」

青葉「この人無茶苦茶だよ!!」

 

名倉は青葉をからかいつつ、コーヒーを開ける。

 

名倉「青葉、お前が欲しい物、なんかあればとってやるぞ。何が欲しい?」

青葉「良いんですか?」

名倉「折角連れてきたんだ、何かくれてやる」

 

青葉は長考の末、ある物を希望する。

 

青葉「ソニックのぬいぐるみ、取れますか?」

名倉「それなら」

 

そう言うと名倉はアームを動かし、ソニックのぬいぐるみを押し付けた。

 

ガコッ!!

 

名倉「ほらよ」

青葉「凄い、一回で簡単に、名倉さんクレーンゲームも上手すぎます」

名倉「やったら100%店員に嫌われる技その2、アームで押し付けて下に落とすの術さ」

青葉「上手い以前に違法な取り方だった……」

 

そんな様子を楽しみつつ名倉はゲーセンのある台を見つける尋ねる。

 

名倉「青葉、バーチャファイターの経験はあるか?」

青葉「え?バーチャファイター?少し触ったぐらいには……」

 

名倉は100円を投下すると名倉名義のAIMEカードを読み込む。

 

名倉「やってみろよ、初心者でも勝てるコンボを教えてやる」

 

ガタガタガタ

 

高速でボタンを押す青葉、横で名倉が的確に指示を出す。

 

名倉「パンチとキックを主体に回避を多用、相手の鋭い強攻撃はガード、相手が攻撃を受け続けて怯んだ隙にカウンターだ」

青葉「これでどうだ!!」

 

KO

 

青葉「ゼーハーゼーハー何とか勝てた……」

名倉「素人にしては中々だった、ていうかテンパり過ぎだろお前」

青葉「久々にやった格闘ゲームだから」

名倉「息抜きに音ゲーでもやるか?向こうにチュウニズムあるぞ」

青葉「チュウニズム!!私、高校時代よくやってましたよ」

名倉「それなら二人で対戦と行こうか?」

青葉「負けませんよ!!」

 

タンタンタン!!

 

名倉「この譜面についてこれるか」

青葉「嘘でしょ、名倉さんと差が開きすぎてる」

名倉「お前、JUSTICEで慢心しすぎだ。俺なんかJUSTICE CRITICALしか出してないぞ」

青葉「何、その神業!!おおよそ上手いと自負してた私が恥ずかしいよ!!」

名倉「俺に勝てると思ったか?10年早いんだよ」

 

最後の譜面を終えるとスコアが表示され、青葉はSS評価、名倉SSS+と実力の高さを見せつけられ、青葉は崩れ落ちる結果となった。

 

PM6:00

 

イーグルジャンプに戻った名倉と青葉はコーヒーを片手に休んでいた。

 

青葉「今日はありがとうございました」

名倉「ありがとうって一応は仕事だからな?」

青葉「それでも楽しかったです、ソニックのぬいぐるみまで頂いて……」

 

名倉は青葉の嬉しそうな表情に満更でもない顔をする。

 

名倉「お前みたいな年下ほど可愛いもんはねぇな、別に遊びのつもりじゃなかったがその言葉、受け取っといてやる。だが、明日は容赦しねぇからな」

青葉「どーんと来いです!!」

 

名倉は以前うみこから奪ったソイジェイを開けると席を立つ。

 

名倉モグモグ「俺はまだやることがあるから、先には帰れない。青葉も暗くならない内に帰れよ」

青葉「はい、お先に失礼します」

 

帰って行く青葉を見送ると名倉は八神の元を訪れる。

 

八神「案外気に入ってるんだな、青葉の事」

名倉「何の事かな?あいつに肩入れする覚えは無いが?」

八神「ホント、嘘つきだよねぇ。あんたも」

 

ソイジェイを食べ終わると名倉はタブレットを取り出す。

 

名倉「フェアリーズストーリーのデバックプレイのバイト、そろそろ募集かけとくべきだと思うが、青葉がそれなりにキャラデザを理解し始めた辺りから本腰を入れると思う。もう少し、あいつに手をかけるべきだな」

 

八神はペンを止めると仰け反るように名倉と目を合わせる。

 

八神「寧ろ内心面白がってるんじゃないのか?デザイン案全部見たけど案外使えそうな気がするんだけど?」

 

名倉は不敵な笑みを浮かべ、八神に告げる。

 

 

名倉「ゲーマーは手段を選ばず、慈悲も情けもかけることは無い。あいつと本気でやってるこの悪趣味なゲーム……

 

 

 

 

 

 

じっくりと楽しみたいじゃないか、その為にはあいつにもう少し理不尽なルールを与えても良いかもな♪」



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CHAPTER5 お前への贈り物を考えていた、絶望を送ろうか?

青葉「今日も一日、がんばるぞ~い」

 

意気揚々とPCを起動すると以前作ったファイルを開く。

 

だがそれは地獄の所業の始まりだった。

 

青葉「え?

 

嘘……ファイルが全部消えてる!!あれだけ保存したデータが一瞬で!!」

名倉「よお、朝から良いリアクションするな」

青葉「名倉さん、これって……」

 

すると名倉は緑のUSBメモリを取り出す。

 

名倉「ファイルが無くて当然だ、こいつで盗み取(スチール)ったんだからな」

青葉「ええええ!!じゃあ名倉さんの仕業、何で!!」

 

名倉は青葉を挑発する様に指を動かし、邪悪な眼をする。

 

名倉「俺の部屋に来い、説明してやる」

 

青葉は昨日と打って変わって恐ろしい雰囲気を纏う名倉に内心怯えながらも話を聞くことにした。

 

名倉「話を始めよう、これは俺とお前のゲームだ」

青葉「ゲーム?」

 

名倉は机の横に置かれたチップを手に告げる。

 

名倉「これからお前にはファイルや情報を頼らず、終業時間までに2体のキャラモデルを作ってもらう」

青葉「ええ!!じゃあゼロからキャラを作ってみろってことですか?!」

名倉「その内生み出したキャラを俺が評価し、どちらか片方でも俺を納得させる事が出来るか、キャラクターは採用となり、メインクリエイターとして複数のキャラクターを自由にデザインできる権利を与えてやる」

 

青葉は驚愕した、自分がメインクリエイターとして大成できるか名倉は試しているのだと。

 

だが彼は優しくは無かった。

 

名倉「だが、仮に2体共ダメだった場合。こいつを書いてもらう」

 

名倉が青葉に黒いバインダーを渡す。

 

青葉「こ、これって!!」

名倉「辞表届だ、このゲームのバッドエンドはお前の退社だ、つまり、お前のクビイィィィィィ!!」

青葉「ヴェアアアア、そんな無茶苦茶なアアアア!!」

 

入社して2週間、いきなりクビになるかもしれない仕事をやらされる青葉。

 

青葉「っていうか、これゲームですよね?!ゲームで人の人生かけるなんてそんなのどうかしてますよ!!」

名倉「甘いぞ、青葉。俺はこれまで危ない橋渡って200億儲けたんだぞ。お前も俺の下でゲーム開発やりたいならこのぐらいの理不尽に耐えて見せろ」

 

そして名倉はケースから大量のチップを取り出す。

 

名倉「このゲームはお互い賭けにしようじゃねえか」

青葉「賭け?」

名倉「俺はこのゲーム、俺が青葉のキャラを認めるに12万チップ賭ける、お前はどうする?」

 

青葉は名倉の机の上に乗せられたチップを手に告げる。

 

青葉「私も、名倉さんが認めるに、6万チップ賭けます!!」

 

名倉に対し、覚悟を決めた眼をする青葉。

 

名倉「良い、良いよその目、ゾクゾクする様な感覚、やって見せろよ。青葉!!」

青葉「絶対に、認めさせます!!」

 

そして名倉は青葉のバッグをゲーミングチェアに置く。

 

青葉「あ!!私のバッグ!!」

名倉「こいつは預かっておく、飯も休みも与えるつもり無いから覚悟しろ」

青葉(うう、この人本当に理不尽だ……)

 

心の中でそう呟きつつ、仕事を始めた。

 

カタカタカタカタカタカタ

 

青葉(考えろ、考えろ、考えろ……)

 

長考を繰り返して約2時間、何も情報が無いままキャラクターをデザインし、色を乗せていく。

 

そして3時間経過

 

青葉「うう……頭が痛くなってきた……水も飲んでない……」

 

喉の渇きを潤すため、水を飲もうとすると……

 

名倉「少しでも飲んだら、クビだぞ」

青葉「はゥゥゥゥ!!」

 

背後から名倉の声を聞き、水をその辺に隠す。

 

4時間経過

 

青葉「ああ……喉も渇いたしお腹も空いた、今何時だっけ……」

 

満身創痍の中で青葉はモデリングを続けるとふとある事に気付く。

 

青葉「そうだ、あの時……」

 

名倉(世の中は理不尽なゲーム、お前もこの先正しくやっていくならゲームキャラの様に肯定できる人間性を持て)

 

青葉「肯定できる、人間性……それを生み出せるのは、私自身だけ……」

 

青葉の心に光が差し込み、青葉は今の自分の考えうる限りの自分の気持ちでキャラクターを作り上げた。

 

青葉「出来た……これなら……」

 

ピコン

 

名倉「来たか……」

青葉「な、名倉さん……どうでしょうか?」

 

名倉は2人のキャラを交互に見比べると、手元のチェックシートでキャラクターを評価していく。

 

横で気を張らせる青葉が見つめる中、名倉は優しく告げた。

 

名倉「思った通りだ」

青葉「え?」

 

名倉「2体の内、A案を見て気付いた。お前を見くびっていたってな……」

青葉「じゃ……じゃあ……」

 

ビリッ!!

 

名倉は辞表届を破り捨て、青葉に告げる。

 

名倉「お互い、信じた結果が引き分けだ、このゲーム、やってよかったぜ。よくやったな、青葉。採用だ」

 

青葉は眼を輝かせ、名倉に頭を下げる。

 

青葉「ありがとうございます!!」

 

名倉は青葉にバッグを返すと自らもバッグを背負う。

 

名倉「青葉、ちょっと付き合え」

青葉「どこへ?」

 

名倉と青葉は電車に乗りどこかへと向かう。

 

移動の途中、名倉は青葉に質問した。

 

名倉「なあ、青葉、人は何故弱いと思う?」

青葉「突然なんですか?」

名倉「今日のお前、一番自分の弱さを感じたんじゃないか?」

青葉「確かに……そんな気はします……」

 

名倉はスマホをしまうと告げた。

 

名倉「本当はこの世界に置ける弱さってのは、自分の辛い事から逃げてる奴の事を言うんだ。やられたらやり返す、何度も負けても挑み続ける、納得が行かないとゼロからやり始める。それを繰り返してる奴が一番強くなれる、生まれ持った天才は少なくても、努力の天才はこの世で一番ありふれてるんだ」

 

青葉はここで気付く。

 

青葉「もしかして、それを私に教えるために……」

 

名倉「人間の一番強い時ってのは何度やってもダメで完全に追い詰められた時が一番強い、俺も長らくEスポーツって言う敵しかいない世界の中で追い詰められた事がある。そんな中で俺も悪い癖で変な負けず嫌い起こして衝動のままコントローラー叩きまくってたら勝ってたなんて事があった」

 

青葉はその話を聞くたびに名倉の生きてきた世界がどれだけ過酷で辛かったかを理解する。今の自分と同じことを何回も経験しているんだと。

 

青葉「随分苦労してきたんですね、私以上に……」

名倉「だから、わかって欲しかったんだよ。俺が出来た様に、お前にも出来るってな」

青葉「本当に、ありがたいですけど、こんなやり方しなくても良かったんじゃ」

名倉「残念だが、俺はこんなやり方しかやれないんじゃなくて出来ない人間だからな」

青葉「紛らわしいですよ、ホント……」

 

アナウンス「間もなく、築地、築地に止まります」

 

名倉「行くぞ」

青葉「は、はい!!」

 

名倉に案内され、店に入る青葉、そこには……

 

青葉「嘘……」

板前さん「らっしゃい、おっ名倉のぼっちゃんか」

名倉「大将、客人招いてるんだサービスよろしく」

板前さん「おう、どんとこい!!」

 

見た目で寿司屋と分かるがカウンター席しかなく、目の前に寿司ネタがショーケースに並び、貫禄のある寿司職人。

 

青葉「ここってまさか!!」

名倉「俺の行きつけの寿司屋だ、軽く6万ぐらい持ってかれる築地屈指の名店だ」

青葉「いやいや、そんな凄い店に何故私を!!」

名倉「お前の今日の晩飯だ、好きなだけ食え。なあに、金の事は気にするな。こいつで払ってやる」

青葉「サラっとブラッククレジットカード、この人凄い……」

 

 

 

この日、青葉は今日一日の仕事もあって飢えていたため我を忘れて目の前にあった寿司をとにかく食べまくったらしい。

 

結果的に名倉と2人で14万円分ごちそうになった。

 

 

翌日

 

ゆん「青葉ちゃん嬉しそうだね」

青葉「えへへ~別に♪」



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CHAPTER6 デビルサマナーは惹かれ合う。

会社帰りの夜7:00

 

とある居酒屋。

 

名倉「……」

 

一人アーモンドをアテにウィスキーを飲む名倉、ただ無意味に過ぎていく時間の中、後ろの客の会話に耳を傾けていた。

 

青葉「今日はありがとうございます、まさか奢ってくれるなんて」

ひふみ「良いよ、色々話したい事あるならこれくらい」

 

青葉とひふみの二人が仲良く食事に来ていた、名倉は他人のフリをしつつオーダーをする。

 

名倉「フライドポテト、大盛りでマスタードソース」

 

出されたフライドポテトを手に、名倉は2人の会話を聞き始めた。

 

青葉「とりあえず、聞かせてください。名倉さんとひふみさんの関係♪」

ひふみ「話すのは良いけど、割と衝撃的だよ。大丈夫?」

青葉「どーんと来いです!!」

名倉「あんなわかりやすい死亡フラグも中々見ないな、最近の未成熟少女(ティーンズガール)は命知らずだ」

 

そしてひふみは日本酒のロックを片手に話を始めた。

 

ひふみ「あれはそう、今から2年前……」

 

2016年 11月

 

コウ「ダメだアアアア!!」

りん「コウちゃん、落ち着いて、完成まであと4ヶ月だから」

コウ「このままじゃあ、ゼスティリアの二の舞だ!!もう終わった……」

 

ひふみ「あのー」

りん「?」

ひふみ「私、滝本ひふみと言います、このイーグルジャンプにプログラマーとして来たんですが……」

コウ「ああ、話は聞いてるよ。ってもう一人どこ行った?」

ひふみ「もう一人?」

りん「ええ、取引先の上層部から来るはずだったんだけど……」

 

名倉「俺の事か?」

ひふみ「え?」

 

この時の名倉はデビルサマナーの様なカジュアルなファッションで大きなケースを手に会社にやって来た、ガムを噛みながら。

 

コウ「何よその姿、っていうかあんたが上層部の人間?」

 

名倉「名倉マークだ、まあ上層部からの意向でここに来たがこのフェアリーズストーリー2を成功させたいなら……

 

ここにいる全員俺のルールに従ってもらう。ここは今日から俺の物だ、会社も、制作も、社員も全部な」

 

コウ「何よこいつ!!口を開けば偉そうにッ!!」

りん「コウちゃん落ち着いて~」

 

暴れ出す、コウをガン無視し、りんのPCに勝手に座るとゲーム全体のファイルを見始める。

 

りん「ちょっと、私のPC……」

名倉「成程なあ、こいつはゼスティリアよりかは酷くはねえが改善する必要がある」

 

すると、後ろからプログラマーのうみことしずくがやって来る。

 

名倉「あんた、プログラマーか?」

うみこ「はい、これは私がプログラムしたモノですが……」

しずく「何か分かったかな?新入り君」

 

名倉「技コマンド、こいつが複雑すぎるのとアクションの多くがマニュアルじゃあ誰もついていけない、オートマチックUIを使いつつ可能ならアクションをボタン操作で比較的にシンプルに出来ればそれでいい」

うみこ「たった5分のデモビデオでそこまで!!」

 

名倉はレプリカの拳銃を手に語る。

 

名倉「アクションゲームにおいて最もいい例なのはデビルサマナー葛葉ライドウ2部作だ、開発の参考にすると良い」

 

この場に居た誰もが理解しただろう、名倉の潜在的なプレイヤーセンスと天才的なゲーム知識に。

 

それを見たりんとコウは手の平を返した。

 

コウ「驚いた、どうやら見くびっていたみたいだ」

りん「名倉君、力になってくれる?」

名倉「寧ろそのつもりだ、俺に従うなら成功は保証する。ついて来い!!」

 

一気に会社内で信頼を勝ち取った名倉、その横でひふみは気付いていた。

 

ひふみ「デビルサマナー、知ってる人がいたんだ……」

 

ひふみは当時から誰にも共有できない趣味として女神転生シリーズを愛好していた。その中でもデビルサマナーシリーズを好んでいたため、名倉がその作品に精通したゲーマーであると知り、彼を気にするようになった。

 

 

名倉とひふみが入社して1ヶ月

 

制作の中で名倉からアドバイスを受ける度にひふみはそれを実行した、ひふみは名倉との仕事にやりがいを感じていたその頃……

 

ひふみ「名倉君!!」

名倉「ん?何か用か?」

 

ひふみ「私と、ご飯食べない?」

名倉「そいつは良い、あんたとも話がしたいと思ってた、好きなんだろ?女神転生」

ひふみ「ついて来て」

 

とあるバー

 

名倉「今のご時世女神転生はペルソナシリーズに食われてる気がするが真・女神転生やアバタールチューナー、デビルサバイバーと良作揃いだ。この中でデビルサマナーの新作は俺も望むところだな」

ひふみ「ソウルハッカーズの新作とか売れそうなのにね」

名倉「これも時代だ、昔の様にうまく行きやしないさ」

 

すると名倉はある話を切り出す。

 

名倉「俺さ、ここに来る前に次世代機向けに開発中の女神転生の制作に顔を出していたんだ」

ひふみ「嘘、凄い!!」

名倉「ただしこの事は内密にな、2017年に某ゲーム企業が次世代機のプレゼンテーションで発表する事になってるから」

ひふみ「それ、話して大丈夫?」

名倉「バレなきゃいいのさ、バレても共犯がいれば問題なし(ノープロブレム)だからな」

ひふみ「凄く嫌な考え方するね……」

 

若干引きつつも名倉を笑顔で見つめる、その様子を見た名倉はひふみの肩を自分に寄せたため、その表情は一瞬で動揺に変わる。

 

ひふみ「ちょ、ちょっと……」

名倉「言葉では嫌がってても身体は抵抗しないんだな」

 

名倉はひふみと顔を近付けて聞く。

 

名倉「俺の事を見て、何を考えてた?答えろ」

 

ひふみは少し、間を置くと語り出す。

 

ひふみ「私、わかって欲しかったんだ。女神転生が好きな事、でも私の周りにはそんな人居なくて、ずっと燻ってた。でも名倉君と出会って、嬉しかった。似た者同士だから」

 

名倉はひふみの頭を撫でて言った。

 

名倉「人には常に理解できない物がある、それは無知から対立、そして経験が伴って初めて理解できるんだ。でもこれだけは忘れるなよ、自分が持つ解釈と結果論が正しい事だとは誰も思わない、そしてそれを強要するのは人の道をから外れる事だ。それでも正しいと言える共感性を持っていたからこそ俺と言う理解者に会えた。ある意味奇跡だな」

ひふみ「ありがとう、名倉君」

 

 

ひふみ「それ以来、名倉君とはプライベートでも仲良くしてるの。彼は非常識だけどああ見えて中身は子供っぽい所あるから」

青葉「名倉さんと関係続けて疲れませんか?私、いつも振り回されてるんですけど」

ひふみ「当たり前だよ、だって私は名倉君の一番の理解者で名倉君の初めてだから」

青葉「え?」

 

青葉は最後の言葉に疑問が浮かぶ。

 

青葉「初めてって一体何の……?」

 

ひふみは若干悪戯な笑みで呟く。

 

ひふみ「名倉君と私、実はもう経験済みなの

 

 

エッチな事」

 

青葉「え、

 

 

えええええ!!」

 

名倉「見事なフラグ回収だな、ありゃ」

 

ウィスキーをグラスに注ぎながら名倉は笑う。

 

青葉「てっきり名倉さんの事だからジョークだと思ってました」

ひふみ「因みに以前の歓迎会でのリアクションは全部嘘、本当は私、名倉君を私なしじゃ生きられないようにするのが目的、彼の全ては私のモノよ」

 

青葉は恐ろしいひふみの本性を知り、名倉とは別ベクトルの狂気を見せつけられる事となった。

 

青葉「あ……」

 

バタッ!!

 

ひふみ「ああああ!!青葉ちゃん大丈夫!!」

 

気絶した青葉を我に返った様な反応で運び、共に店を出た。

 

その様子を見送りつつ名倉はひふみの様子を見送るとウィスキーのグラスを手に笑う。

 

名倉「言っとくがひふみはヤンデレになり切れてない純情ヤンデレだからタチが悪いんだよなあ、あいつとの関係、この先ずっとこんなもんだろうな。へへッ」

 

名倉はそう言うと代金を払い、店を出た。

 

 

 

 



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CHAPTER7 狂気の意味を教えてやる。

 

とある喫茶店

 

ねね「あおっち、それで仕事どうなの?」

 

青葉の親友、桜ねねと休日を過ごす青葉、ねねの質問に青葉は青い顔で答える。

 

青葉「まあ、充実してるよ。衝撃的な出来事多すぎて普通の感覚麻痺してるけど」

ねね「何があったの?それだけ悪い会社に!!」

青葉「違うって、まあ、私と一緒に仕事してる人が非常識の塊でさ……」

ねね「そんなに怖い人なの……」

 

不安がるねねに青葉は弁解する。

 

青葉「でもその人は大きな夢の為に頑張ってるいい人なんだよ安心してねねっち」

 

その日の夕方

 

カタカタカタカタ

 

ねね「イーグルジャンプか……」

 

会社概要を見たねねはイチゴのプレッツェル口に咥える。

 

ねね「良い会社なのは間違いないみたいだね……ってあれ?」

 

ねねは会社のTwitterに書かれたある広告を見つける。

 

ねね「フェアリーズストーリー3のデバックプレイの人材、求む……」

 

ねねはその広告を見るな否や、自然と手が動いていた。

 

 

翌日

 

青葉「ええええええええええ!!ウチにアルバイトで来る!!」

ねね「っていう事でこの夏の間の10日間アルバイトで一緒に働く事になったよ」

 

余りにも驚きに青葉は口が開いたままだった。

 

青葉「じゃあ、しばらくの間一緒に居られるんだね」

ねね「そうだよ♪よろしくね!!」

青葉「大歓迎だよ!!」

 

こうしてねねがアルバイトでやって来ることになり、ここからねねは青葉とあの男の仕事を目の当たりにすることになる。

 

イーグルジャンプ

 

コウ「名倉―、そろそろバイト点呼よろしくなー」

名倉「やれやれ、また俺がこの役か……」

 

名倉は気だるげに入口の前に立ち、点呼を始める。

 

バイト1「見て見て、あの人」

バイト2「マジ、本物の名倉マークじゃん!!」

バイト3「あのEスポーツプレイヤーの」

バイト4「マジヤバ~、カッコいい」

ねね「あれが、名倉マークさん……」

 

ピンク色の声を上げる女子たちに名倉は手を上げる。

 

名倉「全員、落ち着け」

 

名倉はニヤリとし、バイトの女子たちに言葉を告げる。

 

名倉「やあ、この地獄に何も知らずに志願しやって来た雌犬の諸君」

 

バイト全員「「「「「めっ、雌犬!!!!」」」」」

 

余りの衝撃に横に居た青葉が割り込む。

 

青葉「ああああ!!、皆さん、落ち着いてください、当社名物名倉式ジョークです。遊び半分で聞いてください!!」

 

名倉「ここでは基本デバックプレイをやる以外ではお前らの自由は保障する。だが勘違いするな、この地獄で生み出された至高なる努力の結晶を穢そうものならお前たちにこの仕事がどれだけ過酷か俺が調教してやる。一つのミスも許さないぞ、ゲーム開発なめんじゃねえ、わかったな!!返事はハイだ!!」

 

「「「「「ハイ!!」」」」」

 

青葉「あの人たち、名倉さんに任せて大丈夫かなぁ……」

 

不穏なスタートとなったデバックプレイの仕事、そんな中で青葉は一抹の不安を抱えながら自分のデスクに戻ったが……

 

名倉「今日のお前の仕事場はそっちじゃないぞ」

青葉「え、じゃあ名倉さんの部屋?」

 

名倉「ご名答、お前には別の仕事をやってもらう。少々手厳しいぞ」

 

デバック班

 

カタカタカタカタカタカタ

 

ねね「開発段階とはいえ、凄い作り込み。これを全部名倉さんとあおっちが……面白い……」

 

ゲームのありとあらゆる場所を動き回りながらゲームのバグを見つけていく地道な作業、周囲にいる女性たちも目を光らせていた。

 

ねね(あおっちも名倉さん……ああ言う人と仕事してるんだ……確かに大変な気もするよ……)

 

デバック班のプレイ中、隣から名倉と青葉の声が響く。

 

青葉「これ、本当にやるんですか?まだ私慣れてないんだけど」

ねね「あおっち?」

名倉「ここまで来て怖気づいてるのか、逃げようたってそうはいかねえぞ」

青葉「これが本当に正しいんですか?正気じゃないんだけど……」

 

ここでデバック班にとてつもない衝撃が走る。

 

名倉「はなから共犯だろうが、ここに来た奴ら全員皆殺しにして身ぐるみ全部剥がす計画だっただろうが」

 

ねね「ええええ!!」

バイト1「今聞いた!!」

バイト2「皆殺しってさっき……」

バイト3「身ぐるみ剥がすってまさか……」

バイト4「ここ、ヤバいんじゃ……」

 

青葉「本当にやったら後戻りできませんよ」

名倉「この仕事でどれだけ儲けたと思ってる、お前の為に武器、弾薬、逃走用の車全部そろえたんだぞ、後は突入するだけ、奴らを血祭りに上げて、その身ぐるみ売り捌けばいい金になるぞ」

青葉「最早人のやる事じゃないよ!!」

 

ねね「ああああ、あおっちが犯罪者に……」((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル

 

道を踏み外す一歩手前に立たされている青葉の姿が脳裏に過り、ねねはとうとう

……

 

ねね「あおっち、ダメええええええええええ!!」

 

部屋を飛び出し、隣の部屋へと向かった。

 

するとそこには……

 

名倉「おお、何か見つけたか?」

青葉「ねねっち!!」

ねね「あおっち、やだよ、そんな犯罪者みたいなことしちゃ……」

青葉「ねねっち、これは……」

 

名倉をクスクスと笑いながら説明を始める。

 

名倉「何か誤解してるだろ?まあ、落ち着いて聞け。さっきの話はこういう事だ」

 

名倉はゲームのパッケージをねねに渡すとねねは気付く。

 

ねね「これって……ファークライ3!!」

 

名倉は以前クレーンゲームで手に入れたミルクコーヒーを飲みながら話す。

 

名倉「ファークライ3、PSハードで展開されている18禁FPSの定番、ファークライシリーズの3作目。さっきの会話はファークライ初心者の青葉に俺が直々にレクチャーしてただけさ」

ねね「じゃあ、ここに来た全員皆殺しって言うのは……」

名倉「ゲーム内でこれから敵のアジトに突っ込む前の会話だ、別にお前らに言ったわけじゃないぞ」

 

ねねはその場にへたり込む。

 

青葉「ねねっち、しっかり!!」

ねね「良かった……あおっちが道を踏み外さなくて……」

 

名倉はねねの反応を見て堪え切れずに笑いだす。

 

名倉「ハハハハハ、やっぱ何にも知らない未成年の反応程面白いモノねーや、マジ最高、ハハハハハ」

青葉「名倉さん、まさか……」

 

名倉「全部意図的にこうなるように敢えてこの会話をしてた、お陰で面白いモノ見たわ、ホント……」

 

この悪趣味なジョークを笑い倒す名倉、その目線にはどす黒いオーラを身に纏った青葉が静かに立つ。

 

ねね「あ、あ、あおっち……」

 

青葉「この……

 

大バカ野郎オオオオオオオオ!!」

 

バーーーーーン。

 

名倉「ぐあああああ!!」

 

青葉の渾身の右ストレートが名倉の腹部に炸裂し、その音が社内に響き回った。

 

 

PM7:00

 

とあるバー

 

ひふみ「それで、バイトの子たちと飲みに行かなくて良かったの?」

 

ウィスキーのロックを片手に名倉は話す。

 

名倉「誰が付き合いの無い端切れの奴らと飲むかよ、第一他の女に手を出したら怖い奴がいるしな」

ひふみ「誰の事言ってるのかしら?」

名倉「わかってる癖に恍けるなよ」

ひふみ「フフッ、バレた?」

 

名倉はテキーラを注文し、ひふみに聞く。

 

名倉「今晩はどうする?」

ひふみ「それ聞くって事は、シたいの?私が誘ってもスルーしてたのに」

名倉「たかが2週間焦らしただけだろ?」

 

ひふみは名倉の耳元で囁く。

 

ひふみ「良いよ、私の中で、名倉君のぐちゃぐちゃしたモノを吐き出してよ……」

 

名倉はテキーラを飲み干すと呟く。

 

名倉「熱すぎて火傷するなよ、俺はそんな責任取り切れないからな」

 

ひふみは名倉に顔を近付ける。

 

ひふみ「寧ろその位刺激的な方が、私は好きだよ」

名倉「ひふみ……ん……」

 

 

 

互いにディープキスを交わす、背徳の夜……

 



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CHAPTER8 グウェントでもどうだ?

カタカタカタカタ

 

ねね「あおっち、大丈夫かなぁ……」

 

画面から視線を逸らした先には名倉の部屋、ねねは名倉との一件で一つの不安があった。

 

ねね「あの人に振り回されてるのは確かに大変だなぁ」

 

イーグルジャンプの勇者であり魔王、名倉とはそんな男だが……

 

 

ピッ ウィーン

 

コウ「!!」

 

午前10時、本来なら開くはずのない扉が開く。

 

そこに現れたのは……

 

名倉「よぉ、仕事は進んでるか、露出狂(フラッシャー)

ひふみ「ちょっと名倉君、その言い方無いでしょ?!」

コウ「どういうつもりだ、8時から仕事にも関わらず10時に出勤するとは?」

名倉「ちょいと昨日は刺激が強すぎてなぁ、どれだけ乱れたか分かんないぐらい」

ひふみ「その事は言わないってさっき言ったよね?!」

りん「ふーん、そういう事なんだ~」

ひふみ「ああ……」

 

この世の終わりの様な顔をするひふみを見て笑いを堪える名倉。

 

コウ「兎に角、ちゃんと遅刻届は出してもらうからな」

名倉「は?書く訳ねえだろ」

ひふみ「火に油掛けてどうすんのよ!!」

コウ「はあ、やっぱりあんたは私の手に余るよ」

名倉「書類や印鑑より最も信頼に値するのは力と行動だけだからな」

 

コウは納得したかのように告げる。

 

コウ「まあ、反抗的な態度を取ってないだけまだマシか。わかったよ、さっさと仕事やりなさい」

 

それぞれ仕事に入るとモデリングを組む青葉にひふみは社内メッセージを入れる。

 

青葉(名倉さんとひふみ先輩の関係、やっぱり恋人同士だと分かったけど、ちょっと妬んじゃうな……)

 

青葉が何故名倉とひふみの関係で妬むのか、青葉の心は若干のモヤモヤに苛まれていた。

 

ピコン

 

青葉「ひふみ先輩?」

 

メッセージを開くと……

 

ひふみ[おっはよー、横から見てて思ったけど今の青葉ちゃん以前の居酒屋の件でちょっと悩んでるんじゃないかな?]

青葉「!!」

 

青葉はすぐに返信を送る

 

青葉[はい、名倉さんとの関係知ってからちょっとジェラシー感じてます]

ひふみ[やっぱり、気持ちも考えずに話しちゃったから不安だったんだよ、ごめんね]

青葉[いえ、私が聞きたかっただけなので。ただ変に名倉さんの事考えてるとなんか変に熱くなるんですよね。これってやっぱり……]

ひふみ[そっか、青葉ちゃんも名倉君の事、好きなんだね]

 

青葉「!!!!」

ゆん・はじめ「どした?」

青葉「いや、何にも……ははは……」

 

沸騰した顔で再び画面を凝視する。

 

青葉[なんだろう、一番この気持ちの結論が付いた気がする、恥ずかしいけど]

ひふみ[良いよ、悪くないと思う。私はもう名倉君の恋人だけど青葉ちゃんも名倉君が好きなら一緒に仲良くやろう]

青葉[その方が良いと思います、ていうか案外ひふみ先輩寛容ですね]

ひふみ[名倉君が好きな子に悪い人はいないから]

青葉[はい、ありがとうございます]

 

会話を終えると後ろから……

 

名倉「ガールズトークは済んだか?」

青葉「ひゃあっ!!」

 

猫の様な反応を見せる青葉に後ろに名倉が立って居た。

 

青葉「名倉さん、声ぐらいかけてください」

名倉「ははは、つい癖でな」

青葉「もう、それで、また何か仕事ですか?」

名倉「ああ、お前のゲーム研修の続きだ。俺の部屋に来い」

 

名倉の部屋に案内された青葉、名倉はゲーミングチェアに座ると話を始める。

 

名倉「自宅課題のファークライ3は継続してやったか?」

青葉「はい、大分掴めてきました、今はクラフトでの身体強化の薬の生成をやってます」

名倉「流石の吞み込みの速さだ、賞賛に値する」

青葉「ありがとうございます」

 

名倉は席を立ちPS4を起動する。

 

名倉「それじゃあ、ここで本題だ。ファークライ3である程度18禁ゲームに慣れてきたなら是非とも遊んでほしい名作がある」パチン!!

 

指を鳴らすとその手にPS4のソフトが握られる。

 

青葉「何かしれっと凄い高度な事やってません!!」

名倉「簡単だ、左手で指を鳴らした瞬間に右手でソフトを後ろから投げてキャッチするだけの単純トリックさ」

青葉「逆にそれ出来ないと思うんだけど普通なの?」

 

名倉はそんな青葉のツッコミに乾いた笑いをしつつ話を続ける。

 

名倉「青葉にはこいつを3時間やってもらう」

 

ゲームソフトを受け取るとそれは……

 

青葉「これ、ウィッチャー3 ワイルドハントじゃないですか!!」

 

名倉「その通りだ、ハイクオリティな映像と壮大なスケール、完璧なシナリオ、高いゲーム性から西洋ファンタジーゲームの最高傑作と謳われるウィッチャーシリーズの3作目。完璧と言われる一方で残忍さやモンスターデザインはグロテスクの極みと称されるが世界で受け入れられ、ゲームオブザイヤーを獲得している名作だ」

 

青葉はパッケージを見るな否や、目を輝かせる。

 

青葉「このゲームの存在はネットで知って大人になったらやろうと思ってたんです!!まさかこんな形で遊ぶことが出来るなんて」

名倉「ただし、このゲームはドラクエやFFなんかとは違ってシビアなゲームだ。自分のレベルより、アイテムの使い方と下準備、立ち回りがモノを言うからな」

 

青葉はディスクをPS4に読み込むとヘッドホンを被り、ゲームを始める。

 

名倉「良いか、死にたくなきゃあ俺に従えよ」

青葉「はい!!」

 

一方その隣、デバック班では

 

ねね「あおっち、今日はウィッチャー3やってるんだ、そう言えば私も買ったきり全然パッケージ開けてないなぁ、多分それ含めて8本ぐらい積んでる」

 

ゲーマー特有の問題、積みゲー。

 

名倉「バカか、回避出来ない相手だから常に間合いを制御するのが普通だろうが」

青葉「この岩の怪物ホントに倒せるの?!」

名倉「だから、近くの村で専用装備集めたんじゃねえか!!ファークライ3の時に学んだこと活かせよ!!次は5秒後に真っ正面だ!!」

青葉「兎に角ダメもとだあああ!!」

 

デバック班

 

バイト1「向こう楽しそう……」

バイト3「そりゃあ、ゲームやってるだけだからね」

ねね「一応は仕事なんだろうけど、ちょっと羨ましい……」

 

ガタッ!!

 

名倉「何が、楽しそうだって?奴隷(スレイブ)共」

ねね・バイト全員「「「「「ヒッ!!」」」」」

 

名倉は笑顔を向けるがその目は完全に笑っていなかった。

 

名倉「お前ら忘れてないか、ゲーム開発をあれほど見くびるなと」

バイト1「そ、それは……」

 

名倉「俺達は本気で面白いゲーム作るために命を懸けてんだ、一介のゲームプレイヤーとゲーム企業はそれでこそ平等だと思うだろうがそれは見当違い何者でもない。あんたらがそのデバックの一つ一つの重さを知らずにこのバイトをやってるなら俺はお前らに金をやるつもりは無い」

 

バイトのメンバーは自分のやっている事の重大さを知ると沈黙した。

 

名倉「この業界を目指すなら地面を舐める事を続けろ、それがお前らの力になる。俺もそうしてきた」

 

ねねは理解したのか、椅子を名倉の方へ向ける。

 

ねね「ごめんなさい……」

 

名倉「任せたぞ」

 

その言葉を隣で聞いていた青葉は顔を赤くしつつ呟く。

 

青葉「カッコイイ……」

 

名倉が部屋に戻ると仕事を続ける。

 

青葉「酒場の人との会話、この選択肢はどれ選べば良いんですか?」

名倉「それならすぐに仲良くなれる無難な選択肢がある」

青葉「と言うと?」

 

名倉はポケットからカードケースを取り出し、青葉に見せつけた。

 

名倉「この場合、選択肢は一つだ。魔法の言葉……

 

『グウェントでもどうだ?』以外、ありえないだろ?」

 

青葉「か、カードゲーム……ですか?」

 

唐突のカードゲーム、グウェント。

 

確かに仲良くなれそうである。

 

名倉「始めるぞ」



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CHAPTER9  親愛なる隣人に愛を込めて

デバック班

 

カタカタカタカタ

 

バイト1「今日でこの仕事も終わりだね」

バイト2「心臓に悪い仕事だったよ~」

バイト3「名倉さんとの仕事、慣れたらちょっと寂しいかも?」

バイト4「ねねちゃんはこの10日間どうだった?」

ねね「時間感覚が歪むぐらいの衝撃だったよ……」

バイト3「マジでそれ!!」

バイト4「しっくりくるね、その言葉」

 

コントローラーを手に仕事を続けながらも思い出話に花を咲かせる中、デバック班にあの足音が近付いてくる。

 

名倉「全員、コントローラーを止めろ」

全員「「「「「はい!!」」」」」

 

声を揃えてコントローラーを置くと名倉は話を始める。

 

名倉「雌犬諸君、この10日間よくデバックプレイの仕事に尽くしてくれた。お陰で改善点や不要な物を排除する事に成功した。

 

よって、お前たちは用済みだ。ここで死んでもらおう!!」

 

ガシャッ!!

 

全員「「「「「ヴェアアアアアアアアアアアアア」」」」」

 

突き付けられたアサルトライフル、絶体絶命かと思いきや。

 

うみこ「バカタレ!!私のアサルトライフルでバイトを脅すな!!」

名倉「はいはい、これ以上はやりませんよ、ロリコン」

うみこ「阿波根だ!!」

バイト1「これ、何の漫才?」

バイト2「さあ……」

 

名倉はアサルトライフルをうみこに返却すると、真面目に話を始める。

 

名倉「てなわけで、現時刻を以ってバイト契約は終了、各自、荷物を持ってこのイーグルジャンプからは解雇だ。好きなようにすればいい、ご苦労」

 

全員「「「「「ありがとうございます!!」」」」」

 

こうしてメンバーが帰って行く中、ねねは浮かない顔で出ていこうとする。

 

ねね(名倉さんの事は結局何も掴めなかったな……)

 

すると後ろから……

 

名倉「お前だけをみすみす帰すと思うか?」

ねね「ヒッ……」

 

目の前で待ち構えていた名倉がねねの腕を掴む。

 

ねね「ちょっと、どこへ……」

名倉「俺の部屋だ」

 

部屋へ案内されると、そこには青葉が座っていた。

 

ねね「あおっち!!」

青葉「お疲れ、ねねっち!!」

名倉「青葉の友人と聞いてな、ちょっとお前には用があったんだ」

ねね「と言うと?」

 

名倉はねねにコーヒーの缶を差し出すと話を始める。

 

名倉「青葉が心配でここに来たんじゃないのか?主に俺の事で」

ねね「そ、それは……」

青葉「安心して、話してくれればいいよ」

 

ねねは自分の本心を伝えた。

 

ねね「最近のあおっち、一緒に居てもなんか疲れてそうで。話を聞くと何か悪い大人の人に振り回されてるんじゃないかって、もしかしたら凄く辛い事我慢してると思って不安だったんだ。だからそれを調べるために……」

 

名倉はコーヒーを飲み終わると答えを返す。それは……

 

名倉「興味ないね」

ねね「え?」

名倉「俺は自分がベストを尽くしてゲームを生み出すのが仕事だ。その為なら手段も人間の私情もなりふり構わず利用して当然だ」

ねね「ええッ!!」

名倉「世の中はゲームと同じだ、少しでも判断を誤れば一気に堕ちる所まで堕ちる。俺が青葉に教えてるのはそんな世界で生き残る術だけだ。だから青葉の身の回りの解釈や意見など俺には興味ない。

 

信じるなら俺よりも俺が強くしてやった青葉を信じてやれ」

ねね「名倉さん……」

青葉「私を信じてよ、ね♪」

 

ねねはようやく名倉の本質を知り……

 

ねね「名倉さん、ありがとうございます!!」

名倉「ようやく理解したか」

 

互いに笑い合い、ようやく分かり合えたのだった。

 

すると名倉は……

 

名倉「それじゃあ、誤解も解けたし仕事に入ろう、ねねも参加してもらう」

青葉「またゲームですか?」

 

名倉「ちょっと変わった趣旨の話でな、イーグルジャンプじゃなくて上層部からの話だ」

 

すると名倉は引き出しから取り出したのは……

 

青葉「映画のDVDですか!!」

 

その映画は青葉たちが驚くべき物だった。

 

名倉「上層部から今度PS4向けにスパイダーマンの新作ゲームを発売するだろ?」

ねね「まさか、Marvel`s Spider-Man!!」

 

ねねは眼を輝かせて飛びつく。

 

名倉「おーっと、飛びつくのは良いが話は座って聞こうな、それじゃあ、経緯を説明するとそのスパイダーマンの新作ゲームのアドバイザーとしてこの間開発本部に世話になっていたんだ」

青葉「開発本部ってPSスタジオ!!」

名倉「その通りだ」

 

名倉は2本目の缶コーヒーを開ける。

 

名倉「俺はかつてPSハードでスパイダーマンのアクションゲームを全てプレイしている身だ、PSスタジオで実際に新作をプレイしたときの印象は最高のモノだった。本当は色々語りたいが開発中のモノだから上層部との機密保持の関係で話せないがな」

 

青葉「じれったいですよ~、そんな贅沢な仕事やってたなんて……」

ねね「名倉さん、案外某電機企業に信頼されてるんですね……」

名倉「一応、俺の上司だし、そこの雇われだからな。実際良い様に使われてる気がするが相手を逆に利用するのも俺のやり方だ」

 

改めて名倉の凄さを理解するねね、名倉はDVDを開けるとPS4にセットした。

 

名倉「これが上層部の仕事、4Kで蘇ったアメイジングスパイダーマン2部作だ」

青葉「アメイジングスパイダーマン2、エレクトロで有名なスパイダーマンの第2シリーズの2作目ですね」

 

名倉は机の下から3つのカップを取り出す。

 

名倉「この映画を見ながらコーラとポップコーンを嗜む、それが俺達の仕事だ」

青葉・ねね(ただ遊びたいだけだよね……)

 

仕事かどうかはさておき、3人は映画観賞を始めた。

 

前半1

青葉「私この映画で電気ウナギがトラウマになったんだよね……いつ見てもショッキング……」

 

前半2

ねね「この街中での戦いで車背負うシーン凄いカッコいいなあ」

 

前半3

名倉「ハリーとの歪んだ関係、悪くない」

 

中盤1

青葉「ハリーがエレクトロを解き放った!!」

 

中盤2

ねね「発電所で戦い、凄い事になってる!!」

 

中盤3

名倉「グウェンに助けられたな、だが……」

 

終盤1

青葉「ハリーがグリーンゴブリンに、グウェンが危ない!!」

 

終盤「あああああ、グウェンが死んじゃった!!」

 

終盤3

名倉「何度も見たがこれだけは解せんなあ、墓の前のピーターが精神にクるぜ……」

 

 

最後まで見終わると同時に名倉はコーラを飲み干した。

 

名倉「なあ、お前ら、スパイダーマンが世間から認められたのは何故だと思う?」

青葉「あんまり、考えた事無かったね……」

ねね「普通にカッコ良くて面白いから?」

名倉「それだけじゃない」

 

名倉は暗くなった空を見上げながら告げる。

 

名倉「不可能を可能にした技術だ、技術無くして大成は成せない、世間はそういう新しい何かを取り込んで日々進化してる。スパイダーマンはそれを示した存在だ」

 

名倉は青い缶ドリンクを二本手に部屋を出る。

 

名倉「俺はまだやる事があるから帰れない、お前たちは先に帰っていいぞ」

青葉「はい、お疲れ様でした」

名倉「ねねも元気でな」

ねね「はい、お世話になりました」

 

帰って行く二人を見送るとしずくの元へ向かう。

 

しずく「何か用かな?」

名倉「そろそろ上層部が文句言って来るんじゃないかと思ってな」

しずく「PSスタジオからしてみればこの会社は君にとってつまらないと思うのだが……」

名倉「おいおい、随分な言い草だな。ここをクソ移植の劣化ゲー量産してゲーマーから見捨てられた某ノーツ企業と一緒にされたくないな」

しずく「もっともな意見だ」

 

青い缶ドリンクを開け、それを喉に流し込むとしずくは名倉に聞く。

 

しずく「話は聞いたよ、いずれはここを離れるんだよね?」

 

 

 

 

 

 

名倉「ああ、潮時さ」



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CHAPTER10 世の中クソだな

名倉「以上が現状のイーグルジャンプだ、質問は結構だが内容によっては機密事項(シークレット)になるが。何かあるか?」

 

名倉は東京・品川にある大手電機企業の本社ビルで報告を行っていた、出された茶菓子のチーズケーキをフォークを使わずに手で掴んで食べる名倉に役員は資料を見て聞く。

 

役員「事情は分かった、君の持ち出した要件はこちらで上に話しておこう。近い内に君の思惑通りになると思うよ」

名倉「使われるだけじゃ面白くないだろ、あんたとのゲームにはこっちにも策がある事を覚えておけ」

役員「怖い男ですねぇ貴方は、精々足元を掬われないよう気を付けると致しましょう」

 

話を終えた名倉は礼も無く扉を開けて去っていく。

 

その後ろ姿を見た役員は呟くのだった。

 

役員「父親に似て、つくづく面白い男だよ。カイジ君……」

 

カチッ!!

 

品川駅東の喫煙ルームで煙草を吸う名倉、ガラス越しの人通りに眼を向けると3人の女子の姿が見えた。

 

名倉「あいつら、品川に何しに来たんだ?」

 

ゲーセンの前で男2人に泣き付いていたのは青葉、はじめ、ゆんの3人だった。

 

ただならぬ雰囲気を察した名倉は喫煙ルームを飛び出し彼女たちの方に向かう。

 

 

 

男1「ゲームで勝ったんだから、それなりに出すもん出してもらおうか、なぁ?!」

青葉「だからって、現金は……」

ゆん「無茶言わんどいてぇ!!」

はじめ「勝たせてくれるって言ったくせに、ボロ負けじゃん」

男「金出せないなら映像だけでも残していけよ、丁度良いビジネスホテルあるからさぁ」

 

建物の陰で話を聞いた名倉は煙草を地面に捨て、踏みつける。

 

名倉「俺として自業自得だが、しょうがないな」

 

強引に腕を掴んで連れ込もうとする男2人、その目の前に名倉は現れた。

 

名倉「おい、お前ら随分なやりたい放題じゃねぇか、どこの奴だ」

青葉・ゆん・はじめ「名倉さん……」

 

男1「ああ、俺達YouTubeで賭け対戦ゲームの実況してるんだ」

男2「そんでもって弱そうなやつ嵌めて、ゲームに勝って金全部貰って払わなきゃ……」

男1「おっと、それ行ったら面白くないし、放送禁止映像だぜ」」

男2「それで察せるだろ、大概のシチュエーションは!!」

 

名倉「へえ、随分と楽しそうだなあ、だが博打(ベッド)遊女(セックス)はゲーム社会じゃ別問題だ。混合されたら困る」

 

青葉「た、助けて……名倉さん……」

 

涙目でこちらに訴える3人、名倉はポケットから財布を取り出す。

 

名倉「残念だがお前らの今連れ込もうとしてる女は俺が最も嫌いな女でな、何ならゲームで負けたんだから好きなだけ犯しても良い」

ゆん「助ける気ゼロやん!!」

はじめ「裏切者!!」

 

名倉「だが」

 

名倉は財布から一枚の紙切れを取り出すとペンで何かを記す。

 

男1「そいつは!!」

 

名倉「お前もゲーマーなら実力で上に行ってみろ、俺はこの勝負にそこの3人に加えて、2億円を賭ける、それがこの小切手だ」

 

男12「に……二億円!!」

名倉「受けるか?」

 

男1「上等だ、チャンネルの前でお前の醜態晒してやるぜ!!」

男2「良いぜ、俺のカメラで見届けてやるよ!!」

名倉「交渉成立だ、種目は何だ?」

 

男1「俺の得意なこいつだ!!」

 

ゲーセンに置いてあったのは……

 

名倉「ほう、ペルソナ4、ジ・アルティメット・イン・マヨナカアリーナか」

男1「通称P4U、ペルソナシリーズの対戦格闘ゲームだ」

 

名倉は100円を取り出し、コイントスをすると本機に入れ、コントローラーを手にする。

 

名倉「お前が得意と豪語するならそれなりの実力があるんだろ?やって見せろよ」

男1「全力で行くぜ!!」

 

相手は白鐘直斗、名倉は里中千枝を選ぶとコールと共に第1ラウンドは幕を開けた。

 

男1「先手必勝、散れや俗物!!」

 

いきなりの銃攻撃を受けるが、名倉は空中回避を繰り返す。

 

間合いを詰めた、その瞬間……

 

名倉「デッドエンドだ」

 

突如としてまるで覚醒したかのようにコンボを羅列していく、その勢いは男がこれまでの倒した相手と全く違う鬼気迫る物だった。

 

男1(こいつ、普通じゃない!!攻撃方法もコンボの繋げ方も全て躊躇いなく叩きこんでる)

 

名倉「ジャックポット!!」

 

怒涛の攻撃で容赦なく叩きのめされた男は拍子抜けし、地面にへたり込む。

 

男1「何なんだよ!!お前!!」

 

名倉は煙草に火を付け、コントローラーのレバーを倒す。

 

名倉「元Eスポーツゲーマー、イーグルジャンプゲームアドバイザー、名倉マークだ」

 

男2「な、なななな……」

男1「う、嘘だろ……俺達は……」

 

名倉は席を立つ。

 

名倉「敗者にはそれ相応のエンディングがある、そうだな……ムショ暮らし、奴隷、タダ働きに拷問、どれが良いか迷うなぁ……」(ニチャァァァ)

 

青葉・ゆん・はじめ(完全なサディストだよこの人!!)ドンビキ

 

男12「ああ……あ……」

 

名倉「それじゃあ、お前たちの末路は……

 

俺のおもちゃとして半年の拷問刑だ!!精々苦しみな!!」

 

男12「ギャアアアアアア!!」

 

すると後ろから

 

青葉「名倉さん、いくら何でもジョークが悪趣味すぎるよ!!」

はじめ「いくら何でもそれはやり過ぎだと思う……」

 

目の前でビビる男どもに20万円を叩きつけると名倉は告げる。

 

名倉「その金でPSでも買えばいい、これに懲りて悪い遊びはこれっきりにしろよ、行くぞバカ共」

 

男1「20万円……」

男2「PSでも買えっていきなり言われても……」

 

困惑する男2人だった。

 

 

 

品川駅前のバーガーキング

 

名倉「全く、お前らはバカなのか?あからさまにイカサマゲームに引っ掛かって身売り寸前とかゲーマー界隈の笑い話にもならんぞ」

青葉「ありがとうございます、もうしません……」

ゆん「ホンマ助かったわ……」

はじめ「生きた心地しなかったよ……」

 

名倉は5つ目のチーズバーガーを開けると大手電機企業のビルのある方角を見つめ、呟く。

 

名倉「親父……」

 

青葉・ゆん・はじめ「へ?」

 

名倉はチーズバーガー齧ると風に流す様にに伝える。

 

名倉「俺のゲーム人生の始まりはあの場所から始まった、今じゃあ大きくなりすぎたけどな」

ゆん「名倉さんの人生?あの大手電機企業さんと関係あるん?」

 

名倉は告げる。

 

名倉「聞いてみたくないか?俺の一族の偉業って奴を」

 

3人は名倉の話に飛びつく。

 

青葉「ぜひとも聞かせてください!!」

ゆん「ウチも興味ある!!」

はじめ「私も!!」

 

名倉「それなら場所を変えるぞ」

 

名倉は3人を連れて向かったのは……

 

青葉「何故休日なのにイーグルジャンプへ?」

名倉「話をするのに切っても切れないキーアイテムがあってな」

 

名倉の部屋に案内された3人は席に着く。

 

名倉「これがそのアイテムだ」

 

ゴトッ!!

 

青葉「初代プ○イステーション、PS1……」

ゆん「何でPS1がキーアイテム?」

はじめ「話が見えてこないんだけど……」

 

名倉「こいつはただのPS1じゃない、1994年に初めて市販用に生産された物の一番最初の機体、要はこれが日本で生まれたPS1のオリジナルだ」

 

青葉「ええええ!!」

ゆん「レア中のレアやん!!」

はじめ「何で名倉さんがそんなもの持ってるの?」

 

驚愕する面々に名倉はようやく本題と理由を切り出した。

 

名倉「それじゃあ話を始めよう、今から24年前、大手電機企業に一人の開発者とそのグループがいた。そのグループこそ当時としては異端な人間の集まりでその中心にいた男はあるゲーム機の開発に執着していた

 

 

その男の名を……『阿良々義健』と言う奴だった」

 

青葉「阿良々義……健……」

 

 

 

 

語られるのは、ある男の壮絶な復讐……



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CHAPTER11 思い出の中で、じっとしていてくれ。

 

24年前 大手電機企業

 

健「あなたの会社のゲーム機にディスクドライブを?」

 

渡された企画書に眼を通す阿良々義健(あららぎたける)とその開発チーム。

 

目の前に座るN社の人間は柔らかな口調で告げた。

 

N社役員「あなたたちの技術を借りて新世代の3Dゲーム機の開発を行いたい、その為のディスクドライブだ。その名もNPS計画。どうです?やってみませんか?」

 

健「それなら是非とも力を貸しましょう!!」

 

ゲーム事業を主とする花札メーカーと大手電機企業によるゲーム開発、当時としては異例中の異例とも言える事業だったが互いに後のゲーム事業を支える事になるのだが……

 

それは一人の男の復讐劇の始まりだった。

 

健「こっちのケーブルもっと持ってこい」

社員1「データシステム組めましたよ!!」

社員2「試作品のデータ見せてくれ」

社員3「フォーマットどうします?」

社員4「こっちにパーツ持って来いよ」

 

工場の技術者一丸となっての作業、健はこのプロジェクトに希望を見出し、寝る間も惜しんでの仕事だった。

 

 

 

 

 

そして、あの出来事が起きてしまうのだった。

 

 

健「NPS計画が白紙!!」

 

社長室に呼び出された健は事を聞いて狼狽える。

 

社長「突然の事で済まない、今さっき会議でN社が我々との計画に重大な契約違反があった事を突き付けられた」

健「一体、何が……」

 

社長は少し苦い顔で告げる。

 

社長「この計画はN社が他のゲームメーカーに対する牽制の意味があった、そうすることで必然的にほとんどのゲームはN社がライセンスを取得することになる。だがそれは同時にN社がゲーム事業の独占を意味し、わが社はその事を不服とする役員が現れたんだ。

 

これはわが社を利用した売名だとね」

 

健は全身から汗を拭きだしながら事の真相を知り、愕然とした。

 

それから何も考えられなくなった健は一人休暇を取った。

 

一人、ラーメン屋で醤油ラーメンを啜っていると横にいる一人の若者が自社の音楽プレーヤーで曲を聞いていた。

 

健「君、良い物使ってるね」

隣の客「ええ、音楽とかはやっぱりこの会社に限ります、この先時代が進むならもっと新しいモノ、見てみたいっスね」

 

健はその隣の客に聞いた。

 

健「その会社が、ゲームを作ったら……面白いと思うか?」

 

隣の客「ゲーム?あの会社がゲームってそれ絶対おもしっろいじゃないですか!!N社だって負けませんよ!!」

健「本当か?」

健「マジっすよ!!」

 

健はこの若者との会話を聞いて、心に力が宿る。

 

健(そうだ、ここで悔やんではいけない、N社に今後負けるようなら、その前に一矢報いてからじゃないと……

 

技術者として……今後一生後悔する!!)

 

健「君、餃子食べるか?話のお礼に奢るよ」

隣の客「良いんスか?じゃあ」

 

 

 

数日後、役員会議。

 

ガチャーン!!

 

役員1「なんだ!!」

役員2「君は健技術主任、何をしに来た!!」

 

鬼気迫る顔で現れた健は社長の前に立ち、一礼する。

 

健「社長、無礼を承知で申し上げます。NPS計画の一件、この私に是非とも新プロジェクトとして、資金援助と事業化をお願いした上で、一任させて頂きたい」

社長「ほう……」

 

役員1何を血迷ったか!!あのN社の持ち込み計画の再始動だと?冗談もいい加減にしろ!!」

役員2「第一花札屋に対抗してゲームを作ったところで何のメリットがある?」

役員3「我々とこの会社に恥をかかせる気か?」

役員4「君は頭を冷やした方が良い、恥を知れ!!このバカ技術者!!」

 

健「私の事は何と呼ばれても良い、だが、ここで手を引けばあなた達は負け犬になり下がる!!」

役員3「何を言うんだ!!」

 

健は役員に突きつけた。

 

健「本当にこのままで良いんですか?!ここで諦めたらこの会社は一生世界の笑いものですよ!!一企業がリスクを負わないでコソコソやるぐらいならそれは間違いだ、技術者と1万人の社員の事を考えろよ、バカ野郎!!」

 

役員4「言わせておけばぬけぬけと、お前は今日で……」

 

社長「待て」

 

社長は肘を立て、健に聞く。

 

社長「このプロジェクト、本当に君は成功すると踏んだ上での物申しだろうね」

 

健「私はこのプロジェクトを誰よりも信じています、ゲーム事業は今後大きなビジネスジャンルになり、この会社をより大きくするでしょう。

 

これで失敗するなら、その責任は自分でケジメをつけます。これがその証拠です」

 

健は辞表を見せる。

 

社長「do it(やってみろ)!!」

 

役員全員「!!!!」

 

社長「君がそこまで言うのなら、私は君の挑戦に賭けてみよう。私も地獄まで付き合ってやる」

 

健「ありがとうございます」

 

 

 

 

 

名倉「こうしてPS1が生まれ、後に俺達のゲーム業界がN社とM社を含めたゲームメーカー3巨頭として名を馳せる事になったのさ」

 

青葉「凄い生々しい話ですね……」

ゆん「ちょっとしたドラマみたいやわ……カッコエエなぁ……」

はじめ「それでその健さんはその後どうなったの?」

青葉「流石にもう結構な年齢ですよね?」

 

名倉は煙草を取り出し、火を付けると再び語り始めた。

 

名倉「阿良々義健は現在家庭を持ち、大手電機企業で重役になってる、そしてその際生まれた息子に渡した最初のゲーム機がそのPS1オリジナルさ」

 

青葉・ゆん「成程……」

 

するとはじめはある矛盾に気付く。

 

はじめ「え?ちょっと名倉さん、何で健さんの息子さんが持ってるはずのPS1オリジナルを持ってるの?明らかにおかしいよね?」

青葉・ゆん「あッ!!」

 

名倉「クククッ、本当に面白い奴らだな」

 

名倉は腹の底から湧き上がる笑いを堪えながら告げた。

 

 

 

それは恐るべき事実だった。

 

 

名倉「そう、名倉マークは俺のゲーマーネーム、

 

俺の名は阿良々義界時(あららぎかいじ)、正真正銘阿良々義健の息子だ」

 

青葉・ゆん・はじめ「え……?

 

えええええええええええええええええええええ!!!!!」

 

その事実に驚愕する3人、名倉はその反応を待っていたと言わんばかりのドヤ顔をした。

 

青葉「じゃあ、PSシリーズの開発者一族の人だったんですか?!」

ゆん「マジありえへんわ……」

はじめ「でも何で技術者じゃなくてEスポーツゲーマーになったんですか?」

 

名倉「残念だが俺は人生ソロプレイでやって来たからな、その過程で親父から自分の真似事はするな、自分の肯定した物だけをやれって言われたのさ、

 

だからEスポーツは性に合ってた、敵と味方しかいないシンプルイズベストな世界だったからさ」

 

言葉を聞いた青葉は返す。

 

青葉「肯定できる人間性を持て、それって健さんの言葉が語源だったんですね」

ゆん「なるほど、そう言うことだったん?」

 

名倉「少なくとも洞察力は青葉の方が磨きがかかってるな、だがこれでお前たちに教える事も無くなると名残惜しい」

青葉「名倉さん?」

 

名倉は煙草の火を消すと、重々しく告げた。

 

名倉「お前らに伝えなきゃいけない事がある」

青葉「一体何が……」

 

名倉「今日親父の話をしたのは他でもない、少しでもプログラマーとしてマシな人間になってもらう為だ、

 

 

来月10月のフェアリーズストーリー3の発売を以って、俺の新部署への異動が決定した」

 

ゆん・はじめ「え!!」

青葉「それってまさか……」

 

名倉「もう、イーグルジャンプには居られないと言う事だ」

 

青葉「そんな……」

 

愕然とするメンバー、月が怪しく笑う。



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CHAPTER12 ミスタードリラータイムチャレンジ。

PM10:00

 

カタカタカタカタカタカタカタカタ

 

無機質なキーボードの音が響くオフィス、だが今回はその音も長く速い。

 

そう、3日後にはフェアリーズストーリー3の発売を控え、マスターアップは既に明日に迫っていたのだ。

 

青葉「うう……眠い……」

 

眠気を堪える青葉のデスクに青い缶ドリンクが置かれる。

 

名倉「どうする?嫌ならやめても良いんだぜ?」

青葉「やめる訳ないじゃないですか?!この傍若無人!!」

 

殴るように掴んだ缶ドリンクのタブを開け、それを飲み干すと再び作業に取り掛かる青葉、名倉はやれやれと思いながらも自分の席へ戻った。

 

名倉「あいつらの仕事が回って来る間、時間潰しにはうってつけだな」

 

名倉はPS1のミスタードリラーのディスクを起動し、ゲームを始めた。

 

PM00:00

 

あれから2時間、ようやく大部分の作業が終わる。

 

はじめ「ようやく終わった……」

ゆん「地獄やわ……この作業」

青葉「ようやく一息つける……」

 

机に倒れる3人を見て、ひふみはスマホを見せる。

 

ひふみ「みんな、ちょっと汗を流さない?」

青葉・ゆん・はじめ「え?」

 

 

と言う訳で近くの銭湯へ

 

ザバァ!!

 

はじめ「ああ~仕事後の湯が身体に染みる~」

ゆん「天国やわ……この場所……」

 

湯に浸かる中、ひふみが青葉に話を振る。

 

ひふみ「ねえ、青葉ちゃん名倉君の異動の事、聞いたんだって?」

青葉「はい、仕事中は考えないようにしてたんですけど……ひふみ先輩は……」

 

ひふみは何やら申し訳なさそうに告げる。

 

ひふみ「実は私、名倉君の異動の事は今年の春から知っていたんだ」

青葉「ええ!!」

はじめ「そんな前から知ってたの?!」

ゆん「嘘やろ……」

 

ひふみ「別に黙ってた訳じゃないの、名倉君が皆に話すなって言ってたから……」

青葉「そんな……一体、どこに異動になるの?」

 

ひふみはバスタオルを握り締めて話した。

 

ひふみ「大手電機企業出資のゲームメーカーってだけで、肝心な事は何も……」

 

静まり返る中でメンバーは湯から上がるとまたイーグルジャンプに戻った。

 

 

 

オフィスに戻るとそこには……

 

青葉「き、木箱……」

ひふみ「ICレコーダー?」

 

青葉はICレコーダーを起動すると音声を再生する。

 

名倉『よう、モデリング班諸君、徹夜作業ご苦労だったな、俺はさっきミスタードリラーが世界記録タイムを更新したので帰る事にした。』

 

4人「ええええ!!」

 

名倉『まだお前らは作業が残ってるだろうから俺から差し入れをくれてやる。ただしそれを食ったらお前らは俺が帰った事を黙認する事になるから食べるかどうかはお前ら次第だ。要は口止め料の意味を含んでいる。

 

てなわけで後はよろしく頼むぜ、バイビー』

 

青葉「名倉さん……また悪趣味な……」

はじめ「うわあああ!!」

ゆん「ど、どうしたん!!」

はじめ「皆、この木箱開けて!!」

 

はじめに言われ、開けた木箱の中身は……

 

青葉「こ、これは……」

 

箱の中には照りの効いた上質な肉とご飯、贅沢な煮物に漬物、ほうれん草と温泉玉子。

 

燦然と輝く弁当に同封されたお品書きを見る。

 

青葉「創業25年、牛鍋割烹 丸楽(がんらく)自慢の上松坂牛鍋ロース弁当……4500円!!」

ゆん「なんちゅう贅沢品!!」

はじめ「名倉さんありがたいなぁ、早速頂き……」

ひふみ「ダメだよ!!これは名倉君の罠だよ!!」

はじめ「ハッ!!」

 

そう、この弁当を食べれば皆共犯、名倉の思惑通りになってしまう。

 

だが……

 

青葉「でも……勿体ないですよ……こんな高級な松坂牛を前にして食べちゃいけないなんて……」

ゆん「鬼や……悪魔や……神すら目を背ける拷問や……こんなの……」

ひふみ「これこそ、いとも容易く行われるえげつない行為……」

はじめ「椎茸……椎茸だけなら……」

青葉「はじめ先輩、耐えてください!!」

ゆん「悪魔に魂を売ったらあかん!!」

 

それでも香しい匂いを醸す弁当を見つめていた、欲望に耐えながら……

 

 

それから1時間……

 

ギュルルル……

 

4人(お腹すいた……)

 

腹は減れど目の前の弁当を食べるのを躊躇う、そして我慢は頂点に達し……

 

ゆん「あれぇ……なんかうち我慢してたら罪悪感が無くなって来たんやけど……」

はじめ「そういう私も我慢するのがバカらしくなってきた……」

青葉「私もどうでもよくなってきちゃいました……」

ひふみ「目の前にご馳走があるんだから……食べないと……名倉君は神様なんだから……」

ゆん「そうや、名倉さんは神様や……こんな素晴らしい恵みを与えてくれた聖人や……」

はじめ「名倉さん、是非ともこの恵みを食べさせてもらいます……」

青葉「ああ……我が神……名倉様……」

 

最早どっかの危ない宗教に入ったかのような言動をする4人はとうとう箸を割り、弁当に手を伸ばした。

 

青葉「ああ……タレで焼かれた上質のお肉に卵が絡んでいく……」

ゆん「眼福やわぁ……」

 

箸ですんなりと切れるロース肉を白米と合わせ、一度口にすれば……

 

青葉「ご飯に染み込んだタレ、そして上質な牛肉の甘さが広がり、濃厚な卵がそれを包み込んでいく……普段の昼食の牛丼と比べ物にならな~い♡」

ゆん「甘すぎず、しょっぱすぎない絶妙な出汁加減に煮物。椎茸、人参、レンコンもしっかり味が染みて、ゴマが良いアクセントをつけとる、正に職人技……」

はじめ「ほうれん草の白和えのシャキシャキ感とゴマとお豆腐の洗練された飾らない味、豆腐はまるでバターの様に口当たりが良く、ご飯と一緒に食べれば尚美味しい、これだけでも1000円の価値がある」

ひふみ「良く漬け込まれた沢庵とキュウリの味噌漬け、強くない塩味と味噌の香り、仄かに感じる塩麹がご飯をより進ませる。実に美味……」

 

そうして弁当を嗜む時間はすぐに終わってしまった。

 

青葉「結局食べちゃったね……」

ゆん「これでうちら皆共犯や……」

はじめ「でもどうする?なんて言い訳しようか?」

 

ひふみが青い缶ドリンクのタブを開けて告げる。

 

ひふみ「一番の最善策は見なかった事にするのが一番、私達は関係ない。そう口裏を合わせるのよ」

青葉「成程……」

ひふみ「結局名倉君の思惑通りになっちゃったけどね」

青葉「逆に今この場に居たら本人大笑いなんだろうなぁ……」

 

名倉のイヤな笑い声が頭に響くメンバー、完全に乗せられたと思っている。

 

ゆん「まあ、この事はいったん忘れて仕事戻ろ?」

青葉「そうだね」

はじめ「でも名倉さんの仕事どうする?」

ひふみ「そこは私がやっておくわ」

 

 

 

 

翌日

 

ピッ!!

 

名倉「さて、あいつらはどうなったかな?」

 

モデリング班の部屋を見ると、そこにはすっかり空になった上松坂牛鍋ロース弁当の箱が残っていた。

 

名倉「俺の勝ち……みたいだな……」

 

そして奥から……

 

コウ「名倉の逃亡については何も知らないんだな?」

4人「はい」

 

そしてその様子を見た名倉は……

 

名倉「よう、モデリング班、口止め料の牛鍋弁当をうまかったか?」

4人「ヒイイイイイィ!!」

コウ「あん、口止め料?」

名倉「こいつらに言ったんだ、丸楽の牛鍋弁当奢る代わりに俺の逃亡は黙ってくれってな」

4人「裏切者!!」

 

コウはその頭に怒りを滾らせた。

 

コウ「名倉もといその他4名、今日の仕事は昼食無しだ!!覚悟しろ!!」

青葉「そんな~」

ゆん「うち等被害者やのに……」

はじめ「理不尽だ……」

ひふみ「こればっかりは自業自得だから……」

 

名倉は青葉の肩を叩く。

 

名倉「世の中は良い事だけじゃない、気にすんな」

 

青葉「!!!!」

 

そして青葉は……

 

青葉「お、お前が言うなああああ!!」

 

バチーーーーーーン!!

 

名倉「何すんだああああ!!」



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CHAPTER13 物売るってレベルじゃねえぞ!!

 

カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ

 

名倉「……」

 

一人フェアリーズストーリー3をまるで貪るようにプレイする名倉。

 

名倉「アクションの挙動も初心者が気持ち良くなるぐらい良く出来てる、ハードも最新のPS4だからグラフィックも情報処理もスムーズだ、ショタコンのヤツ、いい仕事をしやがる」

 

一通りのプレイを行った後、名倉はクレーンゲームで手に入れたストックのミルクコーヒーを喉に流し込み、八神の元へ向かうのだった。

 

 

青葉「今日の昼にはマスターアップですね」

はじめ「長かったような短かったような、でも楽しい仕事だったねぇ」

ゆん「どちらにしても全部名倉さんのおかげやね」

青葉「本当にその通り、名倉さんからは色々学んだ気がするよ」

 

すると後ろから

 

名倉「よお、お前ら、現時刻を以ってフェアリーズストーリー3の制作全てが終了だ、良く働いたな!!」

 

3人「本当ですか!!」

ひふみ「皆お待たせ、マスターアップのデータ工場に送っておいたわ」

名倉「ひふみ、よくやったな」

ひふみ「でも、逃げた事はまだ許してないけどね」

 

悪戯な笑みで名倉に毒を吐くひふみに名倉はため息をつく。

 

名倉「確かに逃げたが、仕事まで逃げた訳じゃ無いぞ」 パチン!!

 

名倉は指を鳴らすとPS3ゲームソフトを手にする。

 

ひふみ「そ、それって!!」

青葉「フェアリーズストーリー2!!」

 

名倉は語り始める。

 

名倉「昨日の夜、俺のデスクからこいつとフェアリーズストーリー3のロムデータを手に自宅に帰ったんだ。俺の自宅の設備なら複数モニターで前作と今作のゲーム性の違いを徹底的に調べ上げられる、徹夜で3のマスターアップ前にギリギリまで試行錯誤してあれこれ弄ってたのさ」

 

4人「・・・・」

 

唖然とする4人、すると青葉が……

 

青葉「じゃあ、一応は仕事してたんですね……って言うかそれを何で会社でやらないんですか!!」

 

名倉「一人で考え込んでゲームのあれこれ弄ってたんだ、他人の近くでそんな重大な仕事やれるわけねーだろ、ただでさえこのオフィス壁薄いんだからな。それとここで仕事してたら必ずお節介な誰かがガミガミ言うだろうしな」

ひふみ「名前言わなくても分かるよ、名倉君ったら……」

ゆん「ホンマ人騒がせやわ!!」

はじめ「素直にそう言ってよ!!」

 

ギャー ギャー!!

 

八神「モデリング班、楽しそうだな~」

りん「ようやく肩の力が抜けたからね」

うみこ「あの人たちあのままにしておいて良いんですか?」

しずく「折角大きな仕事をやり遂げたんだ、どんちゃん騒ぎも今は目を瞑ろう」

 

仕事を終え、スト○ングゼロを片手に浸る八神たちであった。

 

 

PM7:00

 

ねね「じゃあ、遂に明日発売なんだね」

青葉「うん、ようやく私の仕事もひと段落付いたんだ」

ねね「良かった~、じゃあ名倉さんと明日買いに行かない?」

青葉「それいいね!!名倉さんに伝えておくよ!!」

ねね「それじゃあ、明日朝7時にヤ○ダ電機に集合!!」

青葉「おーーーー!!」

 

その頃名倉は……

 

品川 大手電機企業

 

役員「ご苦労だったね、名倉君」

名倉「これでお互い条件は満たしたぜ、アメリカに立ち上げた新会社の状況はどうだ」

役員「君の注文通りの会社にしたよ、まさかロサンゼルスに立ち上げるとは思って無くて交渉には苦労したが君の気に入る素晴らしい会社に仕上げた」

名倉「それなら文句はないぜ、いずれ世界に負けない強い企業になる、その為にイーグルジャンプはいい勉強になったよ」

役員「それなら良かった、十日後には新会社に異動になるから準備を怠らないように」

名倉「ああ、それもそうだが……

 

一つだけ、やっておかないといけないな」

 

 

フェアリーズストーリー3の発売を控え、前夜のSNSは休むことを忘れていた。

 

そしてその時は遂に訪れたのだった。

 

翌日

 

青葉「凄い!!本当に皆並んでる!!」

 

巨大な電気屋に殺到する人たちの中、順番を待つ3人。

 

名倉「何とか限定版は予約出来たから確定で買えるが本当は保存用と観賞用で2つ欲しい所だな」

ねね「それいくらするんですかね?」

 

すると後ろから

 

はじめ「あ、名倉さんも来てたんですね」

ゆん「一緒に来てるやん青葉ちゃん」

名倉「おー来てたのかって、ひふみが怒ってるみたいだが何があった?」

ひふみ「当たり前だよ!!彼女の私ほったらかしにして他の人と行くなんて。本当だったら私を誘うべきでしょ?」

名倉「あー、お前の言い分は分かったよ」

 

すると青葉はひふみに尋ねる。

 

青葉「じゃあ皆回に来てるんだから八神さんたちも誘えば」

ひふみ「残念だけど他の4人はア〇ゾンで購入したから家でゆっくり休むって」

名倉「ネットで購入か、あいつらさてはネット争奪戦で力尽きたタイプだな。全く」

はじめ「それ言えてる!!」

メンバー「あははははは!!」

 

こうして無事フェアリーズストーリー3を購入した名倉たちは自宅に戻り、それぞれ思い思いにゲームをプレイしていた。

 

ブーッ ブーッ

 

名倉「お、誰かと思えば」

 

名倉はスマホを取る。

 

???「やあ、久々だな」

 

名倉「かけてくると思ったよ、偉大なる兄弟(ブラザー)

 



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CHAPTER14 世の中はゲームだ、勝ち負けで人生も変わっちまうクソッタレのな

青葉「こ、これが……発売記念パーティー……」

ひふみ「緊張するのも無理はないよ、初めてだもん」

ゆん「ウチもこれが初めてやから」

はじめ「そうそう、気にしない気にしない」

 

フェアリーズストーリー3発売から2日、発売記念パーティーへとやって来た青葉たちはホテルの会場でグラスを片手に一歩も動けなかった。

 

周りには協賛企業や投資家にゲーム開発者、取引先の幹部が跋扈しており、声を掛ける事もままならなかった。

 

コウ「お前ら、緊張しすぎだぞ。もっと楽になったらどうだ?」

ゆん「それが出来へんからこうなってるや」

うみこ「まあ、気持ちは分かりますがせっかくのパーティーなので」

りん「そうそう、主役なんだから胸を張って、ね♪」

しずく「一度きりなんだから、後で後悔しないよう楽しむと良い」

青葉「楽しむか~、どうすればいいんだろう?」

 

すると後ろから3人の男が寄って来る。

 

???1「やあ、イーグルジャンプの皆さん、初めまして」

コウ「あんた、確か前に……」

青葉「あの~一体あなたは?」

???2「名倉君とは前に一緒に仕事をしていたんだ」

???3「丁度去年の夏のバトルフィールド1の実況の時にね」

 

そして彼らは名前を告げた。

 

???1「それじゃあ、改めて、皆さんおはこんばんにちは弟蛇(おとじゃ)

???2「兄蛇(あにじゃ)と」

???3「おつ一と申します」

弟蛇「3人揃ってゲーム実況チーム3BROです!!」

 

全員「「え、えええええええええええええええええええええ!!!!!」

 

余りの驚きに口が塞がらない青葉たち。

 

弟蛇「そんなに驚かなくても……」

ゆん「だってあの3BROやろ!!バイオハザードとかコールオブデューティーの超有名プレイヤーやん!!」

コウ「初めて見たよ……まさかパーティーに来てくれるなんて……」

兄蛇「僕たちは一応指名VIP待遇でこのパーティーに来てるんだ」

おつ一「名倉君から是非来てくれって言われたからね。一応Eスポーツ界隈では有名人だし、彼の誘いならってこうしてきたんだ」

 

するとうみこは突然バイオハザードRE2のパッケージを渡す。

 

うみこ「バイオハザードRE2の実況、最後まで追いかけるほど好きでした。是非ともこのパッケージ版のRE2にサインをお願いします!!」

弟蛇「勿論だよ、ファンサービスには喜んで応える。このチームのポリシーさ」

 

うみこは今までにない笑顔でサインの掛かれたバイオハザードRE2のパッケージを抱きしめていた。

 

兄蛇「それじゃあ、僕たちはここで」

青葉「ありがとうございました!!」

 

超有名人に会った青葉たちを見てコウは安堵する。

 

コウ「ようやく緊張がほぐれたみたいだな」

青葉「はい」

ゆん「興奮してすっかりいつも通りや」

はじめ「すっかり緊張感が抜けちゃったな~」

 

青葉「あ、あの……」

コウ「へ?」

 

青葉が指を指す方向に居たのは黒いスーツではなく白いスーツやヒョウ柄のジャケット、背後には刺繍で任侠の文字が書かれたジャケットを着た強面の男たちがこっちに、向かってやって来た。

 

コウ「あ、あれは……」

りん「どういった方たちなのかしら?」

 

目の前に立つと白いスーツの男はサングラスを外して……

 

バサッ!!

 

青葉「え……」

男「イーグルジャンプの皆さん、フェアリーズストーリー3の発売おめでとうございます」

 

突然花束を渡され、困惑する一同だが……。

 

しずく「えっと、君達は確か……」

 

男「これは失礼、私達はこういうナリをしていますが、あなた方と同じゲーム開発者です。

 

 

龍が如くシリーズの開発のね」

 

ひふみ「りゅ……龍が如く!!」

青葉「あの伝説の任侠ゲーの!!」

 

驚愕する面々。

 

男「私達も名倉の若頭に誘われたクチの人間です」

コウ「名倉の若頭って……」

うみこ「どういう関係なのでしょうか」

男「組のシマ(制作現場)に乗り込んで若ェ衆(開発者)8名パクリ(過労死)よったんや」

ゆん「本当にゲーム開発者なん?」

はじめ(名倉さんの人間関係地味に危ない匂いが……)

 

男は若干恐ろしい笑顔で言った。

 

男「名倉は家のシマを荒らした獄門行きの野郎だがアイツは若頭言われる程面白れぇ男だ。今度あいつに次世代機で開発中の龍が如くの開発に拉致るから首を洗って待ってろと伝えといてくれ」

しずく「言葉はアレだがそう伝えておくよ」

男「あばよ」

 

話を終えると青葉は呟く。

 

青葉「ゲーム開発者には大袈裟な人もいるんだなぁ……」

ゆん「名倉さん危ない橋渡り過ぎなんよ……」

 

バチッ!!

 

すると突然消灯し、大きなステージが現れる。

 

司会「皆さん、これより大手電機企業プレゼンツ、フェアリーズストーリー3ゲームアドバイザーの名倉マーク氏による演説が行われます」

 

青葉「な、名倉さん!!」

 

するとステージに登壇した名倉は普段の空気から一転、黒一色のスーツを身に纏い、目の前で頭を下げた。

 

名倉「参加者の諸君、イーグルジャンプ・ゲームアドバイザー、並びに大手電機企業所属Eスポーツプレイヤー名倉マークだ」

 

コウ「アイツが何で……」

 

名倉「この度イーグルジャンプでの3年間に渡るゲームアドバイザーとし様々なゲーム開発に尽力してきた。それは、大手電機企業との取引であり、俺自身の夢を叶える条件でもあった」

 

青葉「どういう事!!」

 

ざわつく参加者の目の前で名倉は告げた。

 

名倉「その夢がこれだ」

 

パチン!!

 

するとスクリーンに映し出されたのは……

 

名倉「大手電機企業の子会社となるゲーム開発企業、

 

名倉エンタープライズ ロサンゼルス本社だ!!」

 

参加者「おおおおおおおおお!!」

青葉「名倉エンタープライズ!!」

 

驚愕するイーグルジャンプの一同。

 

名倉「この名倉エンタープライズを起業し、俺自身が今年より社長に就任する事が決まる家庭には様々な物がった。栄誉あるクリエイターたちの刻んだ全てだ。少なくともそれを見てきた俺はこの会社に言える事は一つだけ。

 

世の中はゲームだ、勝ち負けで人生も変わっちまうクソッタレのな。

 

だがそれは同時につまらない自分の何かを彩るスパイスになっているはずだ。

 

大きく変わる世界には常にそんなゲームに挑み続けている勇者とも言うべき誰かが存在している、それが自分たちであり、この世界の新たな歴史を作るだろう。

 

そんな人たちと共に俺は前に進む、来年にはゲーム業界を揺るがす大きなゲームがこの名倉エンタープライズから生まれる。その時を楽しみに待っていてほしい。

 

 

 

俺は名倉マーク、名倉エンタープライズ代表取締役社長、同時に一人の勇者だ」

 

参加者「おおおおおおおおお!!」

 

パチパチパチパチパチパチパチパチパチ

 

 

演説を終えると名倉はステージを後にし、イーグルジャンプの一同の元へ戻る。

 

青葉「名倉さん……」

名倉「シケた顔してんな、そんなに分かれるのが嫌か?」

ゆん「そうに決まってるやろ、折角ここまでやって来たんやから……」

 

コウ「異動する新部署が自分の会社か、全部お前の計画通りって訳か」

名倉「100%じゃないけどな、意外なイレギュラーもあった」

 

そう言うと名倉は青葉の方を見つめる。

 

コウ「名倉?」

 

名残惜しそうに青葉を見つめると……

 

ガシッ!!

 

青葉「ちょ、ななななッ何をするんですか?」

名倉「お前の根性を叩き直してやる、ちょっと来い」

 

そう言って名倉は青葉の腕を掴んで会場から引き摺りだした。

 

青葉「……」

 

ホテルの上階にやって来た二人は空を眺めながら、話しを始める。

 

名倉「さて、ここで一つゲームでも始めるか」

青葉「ゲーム?」

 

 

 

 

 

名倉「そうだ、俺とお前の、ラストゲームだ」



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CHAPTER15 ラストゲーム。

ホテルの上階の部屋で張り詰めた空気の中でPS4を接続する名倉、青葉は名倉と始めるラストゲームに身体が震えていた。

 

名倉「準備が出来た、始めるぞ」

青葉「本当に、戦わなきゃいけないんですか?」

名倉「当たり前だ

 

自分の感情を殺せないなら、俺がお前の感情を殺してやる。こいつでな」

 

青葉「!!!!」

 

名倉がその手に持つゲームに青葉は戦慄した。

 

青葉「ストリートファイター(ファイブ)……」

名倉「俺達のラストゲームに相応しいだろ、

 

覚悟を決めろ、青葉」

 

名倉はディスクを読み込み、コントローラーを青葉に渡す。

 

青葉(ダメだ、勝てるはずない。私なんかより名倉さんの方が強いに決まってる。最強のEスポーツゲーマーに勝てるはずなんて……)

 

頭の中で絶望的な状況に追い込まれる青葉は遂に名倉と戦う事になる。

 

青葉の春麗(チュンリー)に相対する名倉のリュウ。そして……

 

 

FIGHT!!

 

名倉のリュウは青葉の春麗に自殺行為な間合いを詰め、組み伏せると同時にワンサイドゲームを展開し、1ラウンドを取る。

 

青葉「名倉さん、いくら何でも……」

名倉「黙れ」

青葉「!!」

 

名倉は青葉を相手に過剰なまでのコンボを叩きつける、

 

名倉「青葉、俺はやめねぇ、お前を嬲り殺しにして、二度と俺の前に姿を現さなくなるその時までなぁ!!!!」

 

名倉はその瞳に狂気を映し、青葉の前で何度も無抵抗なキャラを潰していく。

 

その瞬間……

 

ガバァ!!

 

名倉「!!」

 

突如として名倉を押し倒し、青葉は叫んだ。

 

青葉「これ以上嘘つきにならないで!!」

 

青葉は名倉の服の胸元を握り締める。

 

青葉「名倉さんは嘘つきだよ……何もこんな風に突き放さなくても……

 

 

 

寂しいなら寂しいって、素直に言ってよ!!うあああああ、ああああ!!!!」

 

自分のの胸元で泣く青葉を見た名倉はその手に握っていたコントローラーを手放した。

 

名倉「悪かったな、俺は嘘つきだ。自分が気に入っていた女を泣かす……

 

最低のお人好しだ」

 

青葉「そうだよ……名倉さんは嘘つきなお人好し。自分以外興味無いフリをして……私達イーグルジャンプを信じてたんだよね……」

 

名倉は青葉の頭を撫で、起き上がるとガラにもない本心を口にした。

 

名倉「信じてたからこそ、お前らとはもっと仕事がしたいと思ってた。だが、それはお前たちにとって良くない事だとどこかで気づいちまったからこそ、俺はいない方が良いみたいな考えだったのさ。何故だか分かるか?

 

俺が居たらお前らは自分たちで前に進めない、俺の様な何でも解決できる様な人間がそばに居ればそれだけで悩まなくなるからだ。俺はお前たちにこの先もずっと悩み続けて欲しいのさ。

 

それがお前たちを強くする原動力だから」

 

青葉は名倉の話を聞いて、安堵する。

 

青葉「ホンットに、バカなんだから……これだけ私を振り回しておいて挙句悩み続けろだって?そんな理不尽に……何で安心しちゃうかなぁ……私……」

名倉「でも、それでもういいんじゃないか?俺達の関係」

青葉「こんな悪趣味なゲームで遊ぶ関係の何処が良いのよ、おかげでこっちは負けっぱなしなんだから」

名倉「当たり前だろ、最後に笑うのはこの俺だ、悔しかったら一回でも俺を見返して見ろよ。ま、1000年経っても無理だろうがな」

 

すると

 

青葉「やってみる?」

名倉「は?」

 

青葉「見返せばいいんでしょ?それなら私は名倉エンタープライズも驚くような面白いゲームを開発する。そのゲームで遊んで名倉さんが気に入れば私の勝ち。

 

賭けてみない?このゲームに」

 

青葉から突き付けられた挑戦状、名倉は答えは……

 

名倉「上等だ、だがこっちも手段も選ばないし手加減もしない、確実に負かしてやるから覚悟しろよ」

青葉「私も、絶対負けませんから。だって私は……」

 

その言葉の瞬間、名倉は笑いだす。

 

名倉「アハハハハハ、お前がそれ言うか?

 

 

1000年早えよ、全く」

 

 

 

 

 

 

硬い約束を交わした名倉と青葉、最初で最後に本音のぶつかり合いと言うラストゲームを経てようやく前に進む覚悟が出来たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして数日後

 

『アクセル航空、Ⅹ000便ロサンゼルス航空行きの受付を開始します』

 

空港で搭乗手続きを済ませた名倉はケースを引いて近くのコーヒーショップに立ち寄った。

 

寒さが厳しさを増す乾燥した空気、外を見上げながら名倉はエスプレッソとアメリカンフランクのチリドッグを嗜んでいた。

 

ゲートが開くまで時間がある、その間に新しい自分の社員たちに土産を買っていく事を決め、店を巡ることにした。

 

だが……

 

青葉「名倉さん!!」

 

自分の名を呼ばれ、後ろを振り向けば……

 

 

 

かつての仲間たちが冬の装いで並んでいた。

 

名倉「お前ら、送り出さなくて良いってあれほど言っただろ。仕事はどうした?仕事は?」

 

すると呆れ気味にコウの説明が入る。

 

コウ「すまない、一応止めたんだがこいつらがストライキ起こす寸前だったのと怖い通い妻のせいで結局ついてきちまった」

しずく「こうなったのも全部名倉の自業自得だ、君のせいで融通の利かない我儘にい育ったのはね」

うみこ「ホント、手に余る男です、居なくなってしまうのも物悲しい」

りん「本当に素直じゃないんだから、最後ぐらい送らせてよ」

はじめ「一人で行こうとしないでよ、チームリーダーを一人になんて出来ない」

ゆん「名倉さんはどこ行っても居場所はイーグルジャンプや、たまには戻ってきて欲しいんよ……」

ひふみ「ロサンゼルスには来年私も行くわ、名倉君、逃げられると思わないでね、それと向こうでもし、シちゃいけない事したら……

 

覚悟してね♪」

 

青葉「重い、重いから!!」

 

名倉「わかってるさ、お前に後ろから刺されて死にたくないからな」

ひふみ「私がそんな女に見える?」

名倉「自分に聞いてくれ」

 

全員「あはははははは!!」

 

笑いだすメンバーに名倉の心は大きく満たされていく。

 

名倉「全く、仕事投げ出してまで俺についてくるとか散々な目に遭ったハズなのに懲りない奴らだ」

青葉「でも、だからこそ愛してたんじゃないですか?

 

イーグルジャンプの皆の事」

名倉「……」

 

名倉をメンバーを見ると真っ直ぐな眼差しで名倉を見ていた。

 

名倉「お前ら……そっか、そういう事なんだな。

 

俺が散々振り回したこの愛すべき社員たちを……

 

お前が導いていこうしてる。俺の代わりに」

 

青葉「勿論です、私は名倉さんから色んなことを学びました。そしてそれが今の私に繋がってる。名倉さんの教えてくれた技術で最高のゲームを作って名倉さんを見返す。

 

それが私にとって、最高にクソッタレな人生のゲームですから」

 

名倉は青葉の意思を確認して、憑き物が落ちたかのようにメンバーを伝えた。

 

名倉「お前ら……

 

 

ありがとうな」

 

コウ「なななッ!!」

青葉「初めて聞きました、名倉さんのお礼」

名倉「まあな」

 

『間もなく、ロサンゼルス行きのゲートが開きます。2番ゲートからご登場ください』

 

コウ「時間だな」

 

 

青葉「名倉さん、お元気で!!」

 

名倉「頼んだぞ、俺の後継者」

 

名倉は仲間に背中を向け、ゲートへ向かうのだった。

 

名倉「じゃあなッ!!」

 

 

ゴオオォォォォ!!

 

飛び立つ飛行機を見届け、青葉は太陽に手を伸ばす。

 

青葉「今は届かなくても、きっといつか届く日が来る。名倉さんが教えてくれた様に、地面を舐めても、倒れても何度でも諦めずに挑戦し続ける。ゲーマーのプライドが名倉さんを導いたように、いつか……」

 

青葉は背を向け、前へと進み始める。

 

 

 

 

青葉「私は涼風青葉、ゲームクリエイターにして、

 

 

 

 

天才ゲーマー、名倉マークの意思を継ぐ者」

 

 

 

 

 



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CHAPTER SPECIAL 英雄たちのクリスマス

 

カタカタカタカタカタカタカタ

 

青葉「よし、今日の仕事終わり!!」

 

仕事を終えた青葉は背を伸ばしながら力を抜く。

 

コウ「お疲れ様、クリスマス前に全部片付いて良かったよ」

ゆん「ひふみ先輩が3日間不在やからね、一体どこに姿眩ましたんやろか?」

はじめ「明日のクリスマスパーティーには戻ると良いんだけどね~」

りん「残念だけどそれは難しいわね、ほっとくと死んじゃいそうな人がいるらしいから」

青葉「え?それって……」

うみこ「皆さん、早く帰らないんですか?」

しずく「明日は忙しいんだから、しっかり休まないと毒だよ」

青葉「あ、はい、お疲れ様でした」

 

 

 

夜の帰り道

 

青葉「うわ~すっごいイルミネーション、もうクリスマスなんだ」

 

街には光が灯り、多くの店ではプレゼントやケーキの宣伝が舞い込んでいる。とある店ではゲームソフトに目を輝かせる子供がおり、ゲーム機を抱えて嬉しそうにする姿が良く見られた。

 

青葉「私達のゲーム、沢山遊んでほしいなぁ」

 

 

その頃

 

アメリカ ロサンゼルス

 

役員「社長、今月のゲーム開発の進捗です」

 

社長室でパッドを見るスーツの社長。

 

名倉エンタープライズ 取締役社長 名倉マーク。

 

名倉「流石だ、大手電機企業の権限でこちらに寄越した会がある」

役員「しかし、これはやり過ぎなのでは。まだここも含めて2社しかない新型エンジンを使用したゲーム開発というのは……」

 

すると名倉は弁当を開け、食べ始める。

 

名倉「こっちは大手電機企業の後ろ盾がある、それに現在開発中の次世代ゲーム機の為の実験という事を名目にしておけば上層部は何も言えないだろ?」

役員「社長は本当に何でもやられますね」

名倉「それが俺のやり方だ、ああ、それとイーグルジャンプに送った荷物、明日には届きそうか?」

役員「ええ、クリスマスに届くように手配しておきました」

 

名倉「その日の予定はすべてキャンセルしろ、後、企業向けの5番リモート回線を貸してくれ」

役員「ええ、わかりました」

 

 

翌日

 

イーグルジャンプ オフィス

 

全員「メリークリスマーーーーース!!」

 

オフィスに集まったメンバーの机にはフライドチキン、サーモンマリネ、フライドポテト、グラタンが並ぶ。

 

メンバーは思い思いに食事を楽しみ始めた。

 

だが、

 

リリリリリリリリリリリ!!

 

コウ「ん?何か荷物来たみたい」

 

コウはオフィスの外に出て、宅配のエレベーターを開いた、そこには……

 

コウ「な、なんじゃこりゃーーーーー!!」

 

青葉「どうしたんですか?うわッ、何この大量のダンボール!!」

 

ご丁寧にリボンのついたダンボールが3つ、恐らく誰かからのプレゼントだろう。

 

コウ「宛名は、名倉エンタープライズ!!」

青葉「じゃあ、名倉さんの荷物!!」

ゆん「それ、開けたらあかんとちゃうか?あの人の事やから爆弾とか……」

りん「こら、縁起でもない事言わない」

はじめ「じゃあ、開けるよー♪」

しずく・うみこ「ちょ、待っt」

 

ダンボールを開けたその中身は……

 

青葉「こ、これは!!」

 

ダンボールの中には大量の説明書とディスクドライブが入っており、印字されたマークは……

 

青葉「このマークは……

 

アンリアルエンジン……ファイブ……」

 

コウ「アンリアルエンジン5だって!!まだリリースされてない次世代型ゲームエンジンじゃないか!!」

うみこ「名倉の奴、一体どんな手を使ってこんなものを……」

 

驚愕する一同の後ろでパソコンから通信が入る。

 

ゆん「外部からリモートや」

青葉「まさか……」

 

そしてリモート回線を開けたその先には……

 

名倉「よぉ、イーグルジャンプの英雄たち、メリークリスマス」

ひふみ「メリークリスマス、みんな」

 

青葉「名倉さん!!それにひふみ先輩まで!!」

ゆん「アメリカにおったんかい!!」

 

ひふみと名倉がシャンパングラスを片手に話を始める。

 

名倉「俺からのささやかなプレゼントは受け取ってくれたかな?」

しずく「ささやか所かとんでもないプレゼントだよ、まだリリースされてない次世代ゲームエンジンをどうやって送り付けてきたんだ」

名倉「生憎開発中の名倉エンタープライズのゲームにどうしても必要だったから大手電機企業のコネで入手したのさ」

ひふみ「うわぁ……清々しいまでの職権乱用だね……」

青葉「でもどうしてこんなものを私達に……」

 

名倉はシャンパンを飲み干すと告げる。

 

名倉「青葉と対等な立場でゲームを作るためだ」

青葉「え?」

 

名倉は不敵な笑みを浮かべる。

 

名倉「そのエンジンでお前が思うゲームを作ってみろ、同じ物を使ってどれだけ面白いゲームを作れるかって言う勝負だよ。

 

俺の後を継ぐならこのぐらいやってみろ、な」

青葉「名倉さん……」

コウ「やっぱ手に負えないよ、あんたは……」

名倉「俺を手懐けようなんて1000年早えよ」

 

全員「アハハハハハハハハ!!」

 

クリスマスに送られた名倉からのプレゼント。

 

それは新生イーグルジャンプの新たな始まりを告げる、最高のプレゼントだった。

 

 

 

 

 

そんな中、イーグルジャンプの前に……

 

 

 

 

 

 

???「もう少しで会えるね、青葉ちゃん……」

 

男はそう言うと手に持ったコインを弾くのだった。



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