Re:ゼロから時飛ばす異世界生活 (きなこ餅君)
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第一話 エピタフその1

これは、もしとある少年が危機を乗り越えるための力があったもしもの物語。

 

▽▽▽▽▽▽

 

―――これは本気で不味いことになった。

 

 

一文無しで途方に暮れながら、彼の心中はそんな一言で埋め尽くされていた。

いや一文無しというのは正確ではない。 彼の財布の中には日本で見慣れた沢山の小銭が入っているし、少ないが野口さん(千円)が数枚と津田さん(五千円)が2枚入っているし彼の全財産である。

地元から一番近いショッピングモールの本屋で買い物をして昼飯を食えるくらいどおってことないぐらいのモノ。

にも関わらず、今回は一文無しと表現するしかない。

 

 なにせ、

 

「やっぱ、貨幣通貨とかって全然違うんだよな‥‥」

 

手の中の十円玉―――希少な『ギザ十』を指で弾いて、少年は長いため息をこぼした。

 これといった特徴のない少年だ。 長い間散髪もしていない長髪の黒髪に高くも低くもない平均的な身長。 体格は鍛えてあるのか筋肉質で、安物のグレーのジャージと相まってスポーツマン風である。

三白眼の鋭い目だけが印象的だが、今はその目尻も力なく落ちていて覇気がない。

 

群衆に紛れれば一瞬で見失いそうなほど凡庸な見た目だ。

 が、そんな彼を見る人々の視線には『珍奇』なものでも見るような不可解な色が濃い如く

 

それもそのはず、

なにせ少年を眺める彼らの中には一人として『黒髪』なものや『ジャージ姿』の者もいない。

 彼らの頭髪は金髪や白髪、茶髪を始めとして緑髪から青髪まで様々で格好は鎧やら踊り子風の衣装やら黒一色のローブやら『それ』らしすぎる。

 

無遠慮な視線の波にさらされて、少年は腕を組みながら納得するしかない。

 

「つまり、これはあれだな」

 

指を鳴らし、自分を見る人々に鳴らした指を向けながら、

 

「―――異世界召喚もの、ということらしい」

 

目の前を、巨大なトカゲ風の生き物に引かれた馬車的な乗り物が勢いよく横切った。

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

少年こと菜月(なつき)(スバル)は平成日本生まれのゆとり教育世代出身である。

 

彼の人生は17年、その全てを語り尽くすにはそれこそ17年の時間を要する。

 それらを割合し、彼の立場を簡単に説明すると『大学受験を控えた高校3年生の男子高校生』である。

受験のプレッシャーというストレスの元凶と戦いながら日々を引き抜いてきた受験戦士だ。

 因みに彼が長髪の理由は単に髪切るたまに散髪に行くのが面倒臭くいっそのことファッションにした結果である。

通っていた高校には頭髪自由なので文句は言われなかった。 追伸 学校から言われなかっただけで母親にはキツく言われた。 父親はそれを見て爆笑していた。

 

 

「なんで異世界召喚? マジで意味分かんないだけど‥‥」

 

 

改めて状況を再確認して、スバルはもう何度目か分からないため息をついた。

 

先程までの好奇の視線を浴びていた通りから場所を移し、今は少し薄暗い路地裏に腰を下ろしている。

 地面は舗装されていて、現代日本と比較すれば雑な仕事だが悪くはない。

 

「現状が異世界ファンタジーと仮定して、文明はお約束の中世風ってわけ? 見渡した限り機械類はないし、建築物も木材や石材でほぼほぼ統一されているし‥‥」

 

路地裏で腰を下ろすまでに見た光景を思い返し、脳内の情報を整理していく。

 受験のストレスを乗り切るために日頃からなろう小説を読破してきたお陰か現状の判断能力は上出来だ。

 

「よし、いい感じだぞ俺。 伊達に5年半異世界系小説を読んできただけあるぜ。 ここの文明レベルはまぁよし、そして頼みの綱のマイマニーは通用しない。 あんときの店主には話で問題なく意思疎通出来たから言語についてもモーマンタイ」

 

召喚されたと気づいて、スバルが最初に行ったのが『八百屋?』との交渉だ。 店先で並んでいた『りんご?』を買おうとして日本円を拒否されたのだ。 違う国から来たと言ったら店主がこの国の金銭を親切に教えてくれた。

 この世界の通貨は金貨、銀貨、銅貨などのようだ。 貨幣自体が価値を持つ世界観の分かりやすさはまさしく異世界ファンタジーと言ったところだろう。

 

再び通り馬車を引くトカゲが通過。 砂埃が盛大に待っているが、行き交う人々は見慣れているのか無頓着だ。

 

「それでも自動車に比べれば数は少ないか。 ‥‥そういえば、今の所犬や猫も見ないな‥‥」

 

馬車を引かせていた巨大トカゲは、スバルの知る馬より一回り大きかった。 その分細見だが爬虫類があれだけ大きいと違和感が凄い。

 

「一般的‥‥なんだろうな。 あのデカいトカゲも、人間の見た目も」

 

そして確認を最後に回した部分、この世界における人間の特殊な、見た目だ。

 髪がカラフルなのはいい。 染めれば何色にでもなる。 日本だってアキバに行けば色んな意味でカラフルなのはいっぱいいる。

 問題はそこじゃあない。 例えるなら『獣耳』だ。

 

ざっと見渡した限り、『イヌミミ』とか『ネコミミ』は発見した。 『バニー』もいれば、変わり種と『リザードマン』っぽいのもいる。

 かと思えばスバルと何ら変わらない普通の人間もいる。

これらから叩き出せるこの世界観は

 

「ジャンルは異世界ファンタジー。 文明は中世ヨーロッパ。 亜人ありありで、恐らく戦争やら冒険もありあり。 動物に至っては地球のモノと全く違うが役割的に変化なしってところか‥‥ 何にせよ言語がオーケーな時点で充分、ありがたい。」

 

それだけ整理して、スバルは長いため息を吐く。

 

「いきなり召喚とかふざけんなよなぁ‥‥!? こちとら親孝行とか豊かな生活とかのために必死こいて勉強してただけなのによォォオ? こんな変則的な仕打ちはあんまりじゃあないのォォォ?」

 

気づけば彼は現状の文句を垂れ流していた。 まぁ当然といえば当然だろう。 コンビニで今日の夜食ついでにジャンプを買って帰宅しようとしたらこうなっていたのだから‥‥

 

「あ、そうだ。 確かこういう異世界ファンタジーは初期装備がケッコー重要だってどっかのゲーム実況者が言ってたな」

 

スバルは早速自分の手持ちを確認した。

 まずスマホ、携帯充電器、財布、コンビニで買ったカップラーメン(豚骨醤油味)、おにぎり(ツナマヨ2つ)、スナック菓子(コンポタ)、今着ているジャージ、スニーカー以上だ。

 

「ふざけんなァァァ!? なんでこんな絶望的に役に立たねぇものばかりじゃあねえか!? スマホなんて回線が飛んでない異世界でどう活用するんだよォォォ!?」

 

唯一役に立ちそうなものは小腹を満たすおにぎりと弁当くらいだ。

 

「と、とりあえず当面はなんとか生きることを目的として頑張っていこう‥‥ コミュニケーションに関しては学校で友達10人いる俺だ! きっとやっていけるさ!」

 

染み込んで来る不安を押しのけようと声を張る。 と、その時彼の表情が変わる。 理由は足音だ。

不意に路地裏に響いた足音―――見れば路地の入り口、3人ほどの男が道を塞ぐように立っていた。

 

 

 

―――これは本気で不味いことになった。 パート2

 

 

男たちの侮蔑と嘲弄混じりの視線、それを受けながらスバルもまた彼らを値踏みしていた。

見た目はおそらく二十代半ばくらい。 薄汚い身なり、内面の嫌らしさが顔に現れている雰囲気。

亜人ではなさそうだが、善人でもなさそうだ。

 

 

「やっべえ‥‥ ありゃあ明らかに物盗りじゃあねえか」

 

 

 彼は背中に悪寒が駆け抜けるのを本能で感じた。

しかし、いっそのこと開き直ることで精神を落ち着かせる。

 緊急事態のとき、何よりも優先することは冷静でいることだと、刑事ドラマなどで学んだ。

 

 

「よぉーあんちゃんよぉ なにガン見してんだよォ? アアンッ?」

 

「アアンッ!?」

 

「やんのかァコラ!?」

 

案の定、言いがかりで難癖をつけてくる三人組。

しかし、ここで慌ててはいけない。

こういうときに大切なのは相手をよ〜く観察すること。

一人は小柄 一人はナイフを携帯しているヒョロヒョロ 一人だけムキムキの大柄

 

(警戒するべきはヒョロヒョロが持っているナイフと大柄の男だな‥‥ ちびは無視していいだろう‥‥)

 

「何ガン無視くれてんだ? ぶち殺すぞ?」

 

「そりゃこっちセリフだっての!」

 

先手必勝!

スバルは男たちが動くより早く行動した。

まず、大柄の男を鎮めるために素早く懐に近づき土手っ腹の正拳突きをお見舞いする。

 

「うぼっあ!」

 

意外とあっさり撃沈に腹に手を抑えうずくまった。

仲間がいきなりやられたことに気づいたちびが驚いている隙きにもう一度腹に正拳突き。

 

 

「うべっ!」

 

ちびの奴が軽いせいがそのまま後方にに吹っ飛んだ。

 

「て、てめえ!」

 

ヒョロヒョロの男が激昂じゃあナイフを取り出した。

 

「ぶっ殺してやる!」

 

ブンッブンッとナイフを振り回してくるヒョロヒョロの男。

スバルはバックステップで後ろに後ろに下がりながらナイフを躱していく

なんとか、かすりもぜず順調に躱していけたが、背中に何が当たる。 

当たったのは壁だ。 建物の壁だ。 これ以上後ろに躱すことは出来なくなった。

 

 

「し、しまった!」

 

「へへへ、『今一歩のギルディラウ』てのはこのことだなぁwww」

 

だんだんと距離を詰められるスバル。

 

「死ねぇ!」

 

絶体絶命のピンチ。

しかし、このときスバルの身に不思議なことが起きた。

 

(何だ! コレは!?)

 

突然脳内に映像が映し出されたのだ。

映像には、ヒョロヒョロの男がナイフを振り上げ、勢いよくスバルを切り裂こうとしてスバルがぎりぎりで躱す映像だ。

しかし、スバルのあたまの中には疑問しか出てこなかった。

何故なら、現実ではまだ()()()()()()()()()()()()()最中だからだ。

スバルはとりあえず攻撃を躱そうと画面の通りに動いた。

 

「何ィィ!?」

 

ヒョロヒョロの男が驚愕した。

まるで攻撃が偶然当たらなかったのではなく

どこから来るのか分かっているかのようにかわされたからだ。

スバルも同じだった。

彼もまた、この奇妙な出来事に驚いていた。

両者とも静寂に包まれた。

―――そのときだ。

 

「ちょっとどけどけどけどけ! そこの奴ら、ほんとに邪魔!」

 

 切羽詰まった声を上げて、誰かが路地裏に駆け込んできた。 ギョッと顔を上げるヒョロ男とスバル。

その二人の視線を少女が横切っていく。

 

セミロングの金髪を揺らす、小柄の少女だ。 意思の強そうな瞳に、イタズラっぽく覗く八重歯。 小生意気そうな顔立ちだが年相応として見れば可愛げもあるかもしれない。

 着古した汚い格好の少女は、この現場に出くわした。

 

スバルと3人は呆然としたまま、少女が駆け抜けていく様を見届けた。

まさに台風のように一過していった少女。 啞然としたのはこの場にいた全員に共通した。

―――1人を除いて

 

ヒョイ!

 

「あッ!」

 

「フフフ‥‥‥ 駄目だぜ? そんなに女の子に夢中になったら‥‥ しつこい男は嫌われるって知らねえの?」

 

スバルである。 ナイフを持ったヒョロ男が意識を金髪の少女に向いた瞬間、生じた隙を狙ってナイフを掠め盗ったのだ。 作戦が成功したスバルは実にいい笑顔でナイフを3人に向けて言った。

 

「形勢逆転だな。 このトンチンカン野郎共」

 

 

「「「すみませんでしたァァァァァァ!!!」」」

 

ゲームセット! WINNERスバル!

 

 

 

無事、勝利を収めたスバルは3人組をしばき倒し

ナイフと所持金の半分を喧嘩を売った詫びに頂いた。

 

頂いた所持金は、銀貨が3つくらいと銅貨が5枚くらいだった。

なんとか今日は生きていけそうだな~ と思いながら路地裏を出ようとすると

 

「―――そこまでよ、悪党」

 

可憐な少女の声がこの路地裏に響いた。

 

 

 

 

To Be continued

 

 

 



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第二話 エピタフその2

▽▽▽▽▽▽

 

時が止まる、というのはこういうことだろうか。 路地の入口、さっきまでの男たちと同じように一人の少女が立っている。

 

「それ以上の狼藉は見過ごせないわ。 ―――そこまでよ」

 

銀鈴のような声色は鼓膜を心地よく叩き、紡がれる言葉には他者を震わせる力がある。

スバルはこの銀髪の少女がその存在感から只者ではないと肌で感じていた。

そして問題なのは彼女の敵意はスバルに向けられているということだ。

 

「ま、待てよォー 嬢ちゃん。 そんな目で睨まれたら落ち着いて話が出来ないだろ? な? ここは一つ見逃してくれねぇか?」

 

スバルはこの場から逃げ出したいと思っていた。

ようやく、最初の問題を解決したらさらに難問が彼を襲ったのだ。 無理も無い。

とりあえず謝って隙を見て逃げ出す作戦を実行に移すことにした。

 

「潔くて助かるわ。 今ならまだ取り返しがつくから、私から盗った物を返して」

 

「だから悪かったって‥‥ヘ? 盗った物?」

 

「お願い。 あれは大切なものなの。 あれ以外のものならあきらめもつくけど、あれだけは絶対にダメ。 ――今返してくれるなら、あなた達の命までを取ろうとは思わないわ」

 

(おいおい。 盗ったものなんて身に覚えがねえぞ! 俺が盗ったのはトンチンカン三人組の財布とナイフとライフだけなんだからよォー‥‥! つーか、今()()()()って言った? え? え? え!? もしかして‥‥)

 

 

(俺‥‥ コイツラの仲間だと思われているゥゥゥ!!?)

 

ピンチ。 今のスバルの状況はその一言で表せられてしまう。 最悪の場合、この少女に生殺与奪の権利を握られてしまうだろう。。

一刻も早くこのピンチから脱したいという思いから口任せに言い訳をくっちゃべた。

 

 

「ちょちょちょちょっと待て! 盗んだって何!? 俺そんなん知らないんだけど! な! お前ら!」

 

スバルは、少女の注目をトンチンカン三人組に向かわせる。

 

「あ、ああ、そうだ。 さっきの! 壁蹴って屋根伝いに逃げていった女がお前の物を盗んだ奴なんじゃないか!?」

 

「そうそうそう! この奥に逃げていった!」

 

「あの勢いなら通りをもう3つは抜けているだろうぜ!」

 

男たちの続けざまの言い訳に、少女の視線が再びスバルに向ける。

男たちの言葉が真実がどうかを問う視線にスバルは頷いた。

それを見届けて、少女は「うう」不承不承、納得の頷きを作り、

 

「嘘じゃ、ないみたい。 それじゃ、盗った人は路地の向こう‥‥‥? 急がないと」

 

こちらに背を向けて、少女は路地の外に向かう。

 

「バイバイ〜」

 

スバルは、少女が路地の外に出たのを見送り三人組を視線を送る。

 

「じゃあ、俺もそろそろお暇するわ~ お前らー まぁ強く生きろよ~」

 

 

「「「余計なお世話だッ!!!」」」

 

三人組にそう適当な言葉を残し、路地裏を出た。

 

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

「しーかっしな〜 今の俺の財布と僅かな食料じゃあ一週間も持たないよな~」

 

スバルは自分の持ち物を見つめ現状をどうするかをベンチに座って考えていた。

だが、全く打開策を思いつけない。 このままは不味いと思ったのかスバルは賭けに出た。

 

「あ〜の〜 すみません~」

 

「ん? どうした少年?」

 

通行人にいい仕事を募集している所を教えてもらう策だ。

無論、何も教えて貰えない可能性もあるがスバルは賭けに勝った。

 

 

 

「それなら、そこの詰所に聞いてみるのはどうだ?」

 

「詰所?」  

 

「ああ、そこに騎士の方々がいるだろう?」 

 

通行人が指さした方向には鎧を身に纏った人たちがいる施設だ。

スバルの世界で言う交番のようなものなのだろう。

 

「噂じゃ傭兵を募集しているそうだ。 ここルグニカ王国は、とある理由による警備の人手不足で日給で傭兵を雇っているんだ」

 

「とある理由?」

 

「今、この国は王が不在なんだ」

 

「え? ここ王国なんだろ? そういうのは王の子供とかが引き継ぐんじゃあないの?」

 

「あ~ それにも理由があってだな」

 

通行人から聞いたここルグニカ王国の現状。 なんでもとある病気が流行し、王家の人間が全員死んだそうだ。

それ故に今は賢人会という昔からの王国の重鎮たちが国を次の王が決まるまで延命している状態だそうだ。

そして、次の王は王選といういわゆる選挙と言われるモノで、王選候補者という『竜歴石』に刻まれた『竜珠に選ばれた5人の巫女』と指定されており、竜珠がはめられた徽章の輝きで資格を持つものを示すという。 現在は5人の内4人まで見つかっているという。 

 

しかし、国を纏める王が居ないということは国の混乱を招くモノ。 賢人会の采配で収まってはいるが、犯罪率は上がっているため騎士の対応が間に合わず、騎士の手が届かない所で傭兵を雇い働かせるということらしい。

 

まぁ、スバルにとっては日給で稼げる仕事を受けられるならありがたい話だが

 

「そうか‥‥ おっちゃん。 色々教えてくれてありがとよ!」

 

「おう。 兄ちゃんも頑張んな!」

 

「おう!」

 

 

 

通行人の案内通りにスバルは詰所を訪ねた。

 

「ごめんくださ〜い」

 

「何か用か?」

 

詰所の前にいた衛兵が返答した。

 

「ここで傭兵の募集があると聞いたんですが〜?」

 

「あ、ああ〜傭兵の申し込みね。 え〜と‥‥名前は?」

 

スバルはてっきり衛兵というのは堅苦しい性格かと思っていたが

この男はかなりフットワークが軽い。

顎髭を蓄え、短髪茶髪でモロおっさんの印象を与える男だ。

 

「スバルだ。」

 

「はいはい。 ス・バ・ルと‥‥」

 

衛兵は雇用書のようなものにスバルの名前を書いた。

この世界の文字であるためかスバルにはなんて書いてあるかよく分からない。

 

「あと、ほれこれ付けて。」

 

衛兵がスバルに腕章のようなものを手渡した。

 

「傭兵の証ってやつだ。 それ失くすなよ? 失くしたら報酬とか貰えねぇからな? じゃあ今からこの稼業について説明するぞ」

 

「オッス! よろしくお願いしやす!」

 

「ここでの傭兵は時給銀貨一枚だ。 そして犯罪者を一人捕まえると報酬としてさらに銀貨一枚が加算されていくようになっている。」

 

「銀貨一枚ってことは‥‥確かヤ○ーによると日本円で凡そ1500円だから‥‥時給1500円の日給日払い形式‥‥ めちゃめちゃ高待遇じゃあねえか!!!」

 

「おう。 何言ってるか分からねぇが、概ねそのとおりだ。 まぁ裏もあるがな。」

 

「裏ぁ!?」

 

「だってよぉー 誰とも知れねぇ奴にこんな待遇の良い仕事が与えられる筈がねぇだろ普通?」

 

「ぐっ」

 

「この仕事には危険が付き纏う。 犯罪者をサシで捕まえたりしなきゃあならねえ時が圧倒的に多いし、勿論中には返り討ちにあって殺されたやつもいる。 命をかけることが多いから報酬も美味いってこった‥‥ 兄ちゃんよぉー もし辞めんなら今だぜ?」

 

この言葉を聞いてスバルは衛兵が心配しているのだと感じた。

口調こそ軽いが良い人なのだろう。

しかし、スバルにはスバルの事情がある。 

実は彼には苦い経験がある。 高校1年のとき、アルバイトにとあるレストランを選び面接の時に目が怖いという理由で断られたことが5回くらい続いたのだ。 末に彼が出来たアルバイトは土木工事のバイトだけ。

この世界でも同様の理由で断られるかもしれないためにこの稼業を選んだのだ。 目が怖いって逆にアドバンテージになるかもしれないし。

 

「いや、忠告痛みいるが、俺はやるぜ。 文字通り命をかける覚悟だぜ」

 

「‥‥そうかい。 まぁ死なねぇ程度で頑張んなー」

 

「おう、任しときな「きゃあァァァァァァ!!」へ?」

 

突如、広場で悲鳴が上がった。

 

「泥棒よォォォ!! 誰か! 捕まえてッ!!」

 

女性が野菜やら果実やらを抱えている30代くらいの男性を指差しながら叫んでいる。

状況から察するにあの男が女性の隙を見て盗んたのだろう。

 

「運が良いのか悪いのか‥‥‥(あん)ちゃん早速出番だぜ。」

 

「おうッ 分かったぜ!」

 

スバルは泥棒が走っている通りの先に走って待ち構える。

そしてよく見ると泥棒がナイフを掴んでいるのが見えた。

 

しかし、スバルは不思議と、恐怖はあまり感じなかった。

()()()()()からだ。

 

先程の路地裏で見たように泥棒がするであろう動きが見えていたのだ。

 

「何でかは分からねえが‥‥ これが俺の貰った特典ってやつか? 『少し先の未来を見る能力』‥‥ 一見地味だが結構ありがたい能力だぜ!」

 

「どけェェェ!! 餓鬼ィィィ!!」

 

泥棒がスバルの目の前に迫る。

スバルがどかないのならナイフで刺してまでどかそうという試みなのだろう。

 

しかし、スバルの見た未来では問題なく対処し泥棒を引っ捕らえる光景が見えていた。

 

「そらっ!」

 

まず、犯人のナイフを持っている手の関節を掴み、同時に胸部を殴る。

 

「うッ!?」

 

当然、殴られた犯人は怯むのでその隙に殴った方の手でナイフを掴む。

そして、犯人の脚を横に蹴ってバランスを崩し、掴んでいた手首の関節を回転させてそのまま地面に転ばせた。

 

「いでッ!」ドサッ!

 

このとき、犯人はナイフを落としたのでスバルはナイフを誰もいないところに向けて蹴り飛ばした。

これらの手法はクラヴマガという体術の一種である。 スバルはたまたま見た動画の動きを参考にしてクラヴマガの体術を成功させたのだ。

 

「マジかよ」

 

衛兵は度肝を抜いた。 スバルがここまで出来るような男だとは思わなかったからだ。

自分よりもずっと若いものがあそこまでの技量を持っているということに

 

「衛兵さんよぉ‥‥‥」

 

「ん?」

 

「これで銀貨一枚‥‥‥だよな?」

 

「‥‥‥ おう!」

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

夕方頃‥‥

 

 

「へへへ‥‥ たんまり貰ったぜ‥‥」

 

傭兵のバイト?が完了し、スバルは一先ず、しばらく生けていけるだけの財産を手に入れた。

 

「これで何処かホテルみたいに泊まれるところを見つけて‥‥‥?」

 

スバルは自身の目の前の光景に信じられないことが起こった。

 

「雪ッ!?」

 

そう。 雪が降っていたのだ。 いつの間にか空には黒い雲が覆っており寒気もしてきた。

いや、ただの寒気ではない。 体の芯から凍てついていくかのような感触だ。

 

そして、スバルが空を見上げたその時、この街全体に響き渡るかのような声が聞こえた。

 

『僕は契約に従い‥‥ この世界を終わらせる‥‥』

 

このルグニカ王国の王都の一角で突如として出現した巨大な獣の影。

 

「何だあれはッ!? 化け猫‥‥‥!!?」

 

スバルは、その獣の影のシルエットが何となく猫のように見えた。

しかし、スバルがそう認識した瞬間

既に獣はこの王都をものすごく勢いで凍てつかせた。

 

「あ"‥‥‥あ"‥‥」

 

スバルもそれに巻き込まれた。

体中を氷が包み込んでゆく

彼はこの突然の出来事にただ震えていることしか出来なかった

 

「アアァァァァァァアアアア‥‥‥」

 

スバルは声にもならない叫び声を上げながら、氷に飲み込まれ氷像となってしまった。

 

 

 

 

菜月昴 死亡

 

 

 

To Be Continued

 

 

 

 

 



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第三話 デス&リターンズ その1

▽▽▽▽▽▽▽▽

 

「―――どうしたよ、兄ちゃん。 急に呆けた面して」

 

「は―――?」

 

厳つい顔立ちの中年にそう声をかけられ、思わず間抜け反応をしてしまう。

 

「だーかーら、また今度リンガ、買いに来るんだろ? 自分から言っておいて急に目がイっちまうからビビっちまったぜ。」

 

「あ‥‥ああ! そうそう。 そうだぜ! すまねえなおっちゃん! ちょっと立ち眩みしちまってよ~」

 

「なんだ〜 そんなことか! こんな所で立ち眩みなんかしたら危ねぇぞ? 気をつけな!」

 

「ああ! もちろんだぜ! また今度あったらそのうまそーなリンガ買わせてくれよ?」

 

「おう! とびっきりのを用意してやるぜ!」

 

___________

 

「‥‥一体全体どういうことだ?」

 

スバルは、今現在起きた異常な現象に問と疑問を開けだすのが精一杯だった。

路地裏に入って多少落ち着いてもこの疑問をぶち撒けることしか出来なかった。

 

「コレは何だッ!? お‥‥俺はッ!! 何を見せられているんだッ!?」

 

 

「俺は(ゆめ)を見ているのか!? 幻覚(げんかく)を見せられているのか!?」

 

「いや‥‥ いや違う!! あのとき‥‥ 死ぬ寸前に見たあの未来は‥‥」

 

 

 

 

『僕は契約に従い‥‥ この世界を終わらせる‥‥』

 

「アアァァァァァァアアア‥‥」

 

スバルが白い獣に氷漬けにされる直前に見た未来とは‥‥ 真っ黒だったのだ。

未来として映し出された映像は何も映さなかった。 テレビの電源を元からつけていなかったかのように真っ黒だったのだ。

 

 

 

 

「俺の能力は何も映し出さなかった‥‥ つまり俺の未来は無くなり命を落としたということの筈だ‥‥ だが‥‥ 生きている‥‥ しかも()()()()()()()()‥‥‥!」

 

スバルは、路地の入口で横切ったあのときの大型の爬虫類が通ったときにそのことを確信した。

 

「いわゆる、ゲームでのコンテニューってやつか‥‥ 残機と本人の意志関係無しで自動で復活‥‥ セーブポイント等は一切不明ってか‥‥ なにこれ? マリオのクソゲーバージョン? いや現実は元からクソゲーだったか‥‥」

 

自身に起きたことの正体は分かったがいまいちまだ飲み込めていない。

そのことからちょっと自虐的になってしまう。

すると、あることを思い出した。

 

「そうだ‥‥ あの獣をどうかしねぇと、また氷漬けにされてしまうぞ‥‥ というか‥‥あの獣は何処から出てきたんだ? 俺の記憶通りならあそこはただの路地裏だぞ‥‥」

 

スバルはしばらくの間、考えにふけていたが結局何も思いつかなかった。

とりあえず、あそこで何があったのかを調べるために記憶を頼りに獣がいた場所を目指すことにした。

しかし、その決意は一歩遅かった。

 

「また、てめえ等かよ‥‥ トン・チン・カン」

 

前の時にあった例の三人組だ。

 

「正直言って‥‥ めっちゃめんどくせー‥‥」

 

 

 

 

「おいおい、何ブツブツ言ってんだアイツ」

 

「状況が分かってないんだろ。 教えてやればいいんじゃないか?」

 

トンとチンの会話も前回のとほぼほぼ一緒だ。 スバルの気が滅入って来る。 が、げんなりする反面、舐めてかかってはいけないと思う気持ちがあるのも事実だ。 大柄の男もケッコー危ないし細見のやつはナイフを持っている。 

 

「かと言って、手傷を負うのも荷物を手渡して逃げるのもお断りだ‥‥」

 

前回通りにボコボコにして切り抜けるのがベストだろう。 するとスバルの脳にある考えがひらめいた。

この異世界にも警察的なものがあることを思い出したのだ。

  

「衛兵さーーーーーーん!!!」

 

予備動作なしの救命信号に、虚を突かれたトンチンカンが思わず飛び上がる。

 路地裏の静寂を打ち破り、大通りの喧騒にまで間違いなく割り込んだてあろう声量。 このような大声を出すからには多少の羞恥心が芽生えるものだがそのようなことは彼のプライドに傷すらつけない。

 

「誰かーーーー! 騎士の人呼んでーーーー!!!」

 

 

「てめ‥‥‥ッ。 ふざけんなよ!? ここで普通、いきなり大声を出すか!?」

 

「状況的にこっちの命令聞かなきゃ痛い目見る流れだろうが! 要求も聞かずにこれとかやんねーぞ、普通は!」

 

「黙らっしゃい! 何が普通だ! お前らのようなトンブツ チンピラ カンパン野郎どもにに常識ハズレも糞もあるか! さぁ選べ! 今からやって来る衛兵に捕まるか、それとも尻尾巻いてここから逃げるか二つに一つだッ!」

 

「クソタレがッ! そんな挑発にのるか!」  

「てめえからその手荷物を奪ってからおさらばすれば問題ねぇだろがァァァ」

「やっちまえェェェイ!!」

 

三人が一気に距離を詰めてくる。

数の暴力でスバルを倒す算段なのだろう。

 

「甘く見んなよなァ」(前回のやつで学んだことはあのデカブツは案外弱いことだ。 やはり注意すべきなのはナイフを所持しているチンのやつだ。)

 

スバルの身立てでは殺傷力があるのはチンの持つナイフだけ。 それ以外は問題なく対処できる程度の奴等だったことは前回の時に判明している。 瞬時にトンとカンの腹を蹴り、未来予知の能力を駆使してナイフを躱しチンを倒すという策を固めたスバルは身構える。

 

「―――そこまでだ」

 

その声は唐突に、しかし明確に、路地裏のひりつくような緊張感を切り裂いた。 凛とした声色には欠片も躊躇もなく、一切の容赦も含まれていない。 聞くものにはただ圧倒的な存在感だけを叩きつけ、その意志を伝わせるソレは天性のものだ。

 

スバルは顔を上げ、トンチンカンは振り返る。 その先には一人の青年が立っている。

 まず目を惹くのは、燃え上がる炎のような赤い頭髪。 その下には真っ直ぐで、勇猛以外の譬えようがないほどの輝く青い双眸がある。 異常なまでの整った顔立ちもその凛々しさを後押しし、それらを一目見ただけで彼が一角の人物であると存在が知らしめていた。 すらりと細い長身を、仕立てのいい黒い服に包み、その腰にシンプルな装飾―――ただし、尋常ではない威圧感のある騎士剣を下げている。

 

「例えどんな事情があろうと、それ以上、彼への狼藉は認めない。 そこまでだ」

 

言いながら、青年は悠々とトンチンカンの隣を抜けて、彼らとスバルの間に割って入る。 そのあまりに堂々とした行為に、スバルも男たちも声をあげられない。 だが、トンチンカンとスバルでは沈黙した理由が違うらしい。

スバルは突然の展開と青年の雰囲気に呆けていたのが理由だが、その顔から血の気を失い始めるトンチンカンは違う。

 

「ま、まさか‥‥」

 

紫色になりつつある唇を震わせて、チンが青年を指さした。

 

「燃える赤髪に空色の瞳‥‥それと、鞘に竜爪の刻まれた騎士剣」

 

確認するように各所を指差し、最後に息を呑んで、

 

「ラインハルト‥‥ 『剣聖』ラインハルトか!?」

 

「自己紹介の必要はなさそうだ。 ‥‥もっとも、その二つ名はまだ僕にはまだ重すぎる」

 

ラインハルトと呼ばれた青年は自嘲げに呟き、しかし眼光は決して緩めない。

 

「逃げるならこの場は見逃す。 そのまま通りに向かうといい。 もしも強硬手段に出るというのなら、相手になる」

「その場合は3対2だ。 数の上ではそちらが有利。 僕の微力がどれほど彼の救いになるかわからないが騎士として抗わせてもらう」

 

「じょ、冗談ッ! わりに合わねーよ!」

 

うそぶくラインハルトにトンチンカンは慌てふためき、獲物を隠す配慮すら忘れて蜘蛛の子を散らすように大通りに逃げ去っていく。 捨て台詞すら残せない彼らの慌てぶりはそれだけでこの青年の規格外さが知れるものだった。

 

「互い無事で良かった。 ケガはないかい?」

 

トンチンカンが完全に消えたのを見計らって、青年が微笑を浮かべて振り返った。 途端に路地裏を圧巻していた威圧感が消失。 それすらも青年が意図的にしていたことをスバルは理解した。

 

「ああ、お蔭で傷一つついてねぇよ」

 

「そうか。 それは良かったよ」

 

このとき、スバルの脳裏に未だかつてない一発逆転のアイデアが浮かんだ。 

彼はあのチンピラが見ただけでその存在を知らしめるほどの男。 恐らくそれを証明するほどの実力があるということだ知っている。 この男ならば、あの白い獣すらも倒せるかもしれないという期待が芽生えた。 

 

「えーっと、ラインハルト‥‥でいいのか、たしか?」

 

「ああ、それと別に呼び捨てで構わないよ」

 

「さらっと距離を縮めて来るなこの人‥‥ えっととりあえずありがとう、ラインハルト。 俺の叫び声を聞きつけてくれて感謝する。 お蔭で助かったよ。 俺はナツキ・スバルってんだ。 よろしく」 

 

「こちらこそよろしく、スバル。 君の行動は多くの人にとって、連中のような輩と反面するのはリスクが大きい。 だから、衛兵を呼んだ判断は正しかったよ」

 

「その言い方だと、ラインハルトって衛兵なのか? そうはとても見えないが?」

 

「よく言われるよ。 まぁ、今日は非番だから制服を着ていないのもだろうけど」

 

苦笑いしながら両手を広げるラインハルトに、スバルは内心で反論。

彼が衛兵に見えない最大の要因は、そんな泥臭い感じのイメージとはかけ離れた雰囲気が為せる技だ。 それにプラスアルファすることがあるとすれば、

 

「『剣聖』とか呼ばれていた気がするが‥‥」

 

「家が少しだけ特殊でね。 かけられた期待の重さに潰れそうな日々だよ」

 

肩をすくめてみせる気軽さに、ユーモアも持ち合わせているらしい。

 

「珍しい髪に服装、それに名前だと思っていたけど‥‥ スバルはどこから? 王都ルグニカにはどんな理由で来たんだい?」

 

「ああ、日本という東の国から来たんだ。」

 

「ニホン? 聞いたことのない国だな? それにルグニカより東‥‥まさか、大瀑布の向こうって冗談かい?」

 

「大瀑布?」

 

聞き慣れない単語に首をひねるスバル。

瀑布、というと滝か何かだったとスバルは記憶している。 そもそもこの世界の地理にはかなり疎いので聞き慣れないもクソもないのだ。

 

「別に誤魔化しているって訳でも無さそうだけど、そこはいいか。 とにかく、王都の人間じゃないのは確かみたいだけど、何か理由があって来たんだろう? 今のルグニカは平時よりややこしい状況にある。 良ければ手伝うけど」 

 

「!!」

 

キタ! とスバルは思った。 これからラインハルトをどう説得するのかを考えていたのにまさか本人が手伝うというのは驚きだったがこれを利用しないと手はない。

 

「助かるよラインハルト!」

 

少し興奮気味に返答してしまうスバル。

 

「どうかしたのかい?」

 

「ラインハルト‥‥ 落ち着いて聞いてほしい‥‥」

 

スバルは真剣味でラインハルトに事情を話した。

 

「ここ、ルグニカは夕方頃に滅亡する」

 

「!? ソレは一体どういうことだい!?」

 

当然、ラインハルトは驚愕する。

 

「信じられないかもしれない‥‥ でもこの未来はどうにかしなければ必ず起きることなんだ」

 

「その根拠は?」

 

ラインハルトは、スバルの言うことに理解が追いついていなかった。

そのことを証明する根拠が欲しかった。

 

「俺の能力」

 

「!?」

 

「俺の能力とは『未来を見る能力』だ」

 

「未来を‥‥? そんなことが‥‥」

 

「ラインハルト。 とにかく時間がない! 夕方になる前に現れるあのどデカい獣の化け物をどうにかしなければならないんだ‥‥」

 

「分かった。 君を信じよう。 その化け物が現れる方向は何処に現れるんだい?」

 

「ここからの方角だと‥‥ あっちだ!」

 

「その方向は‥‥ 貧民街だな」

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

貧民街

 

スバルは死ぬ寸前に見た獣の位置を記憶を頼りに進んでいた。

 

「俺の予知と記憶が正しければ大体この辺だが‥‥」

 

「かなり奥まで来たね‥‥」

 

ザッ ザッ ザッ

 

すると、スバルとラインハルト以外の気配と足跡が聞こえた。

二人は一先ず身を隠すことにした。

しばらくして気配の正体が姿を表した。

 

「アイツは‥‥!」

 

前回の時にトンチンカンと対峙している時に横切った金髪の少女だった。

よく見ると、手に何かを持っている。

恐らく、あれがあのときに会った銀髪の少女から盗んだ物だろう。

 

 

その金髪の少女は、目の前にある建物に近づいた。

その建物こそが少女の隠れ家なのだろう。

 

コンッ コンッ コンッ

 

少女は少し強めに3回ノックする。 すると扉の向こうから、くぐもった声が聞こえた。

 

「大ネズミに」 「毒」

 

「白鯨に」  「釣り針」

 

「我らが貴き―――」 「ドラゴン様にクソったれ」

 

この返答を聞くと建物の扉が開き、少女がその中に入っていく。

 

(しっかし、最初の2つはともかく、最後の合言葉は皮肉気味に決めてんな~ それだけ、この国に恨みがあるということか?)

 

ルグニカ王国では、あるドラゴンが祭り上げられている。 いわば象徴と言ってもいい。

そのドラゴンを蔑むということはこのルグニカ王国を蔑むと同じなのだ。

 

「あの少女は獣の出現とは無関係そうだな」

 

スバルが呟く。

 

「たが、君の予知通りならもうしばらくしない内にナニカの要因があるはずだ」

 

スバルの呟きにラインハルトは返答した。

 

「確かにな。 たがあと一刻ぐらいで夕方‥‥ そろそろ進展があるはずだ‥‥」

 

ザッ ザッ ザッ

 

「「!」」

 

再び、ナニカの足音が聞こえた。

足跡の音からして走ってきている。

 

「ここが、盗品蔵‥‥?」

 

(!!)

 

来たのは、金髪の少女同様、前回の時に会った不思議な存在感を秘める銀髪の少女だった。

 

 

To Be continued

 

 




次回でエルザ戦行きます。 もうすぐキングクリムゾンの出番もありますのでお待ち下さい。


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第四話 デス&リターンズ その2

遅れてすまん!
ここらへんとんでもない難産で手間取りました。
スバルの性格改変の都合上、原作とは違う路線で進ませたかったんです。
また、更新が遅れるかもしれませんがご理解いただけますようお願いします。


▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

「あの()はッ!」

 

スバルは、この不思議な再開に運命を感じた。

 

「どうしてこんな所に‥‥?」

 

一瞬疑問に思ったが、すぐにそれは氷解した。

 

「アレを盗った犯人はここにいるのね‥‥」

 

(盗んだ犯人があの蔵を住処にしているのを聞きつけて来たのか!)

 

銀髪の少女は、扉を開けようとするが鍵がかかっているのかびくともしない。

蔵の中の男は、客かと思ったのか合言葉を求めた。

 

「ここにアレがあるのは知ってるのよ! 早く返して!!」

 

(アチャー…… あれじゃ、警戒させて余計に拗れるだけじゃん……)

 

スバルの予想通り、

蔵の中の男は盗んだナニカの持ち主だと気づき無視に決め込んだ。

 

勿論、彼女の非力では扉を開けることは出来ない。

スバルは彼女の非力さに合掌した。

 

が、

 

「『パック』、力を貸して」

 

少女がナニカの名を呼ぶと、何処からか小さい灰色の猫が出てきた。

 

「まっかせて! とりゃー」

 

灰色の猫は可愛らしい声を上げるが、虚空からデカい氷を生み出し扉をぶち抜く姿は全く可愛らしくない

スバルにとっては初の異世界の魔法のふれあいなのだがその惨状に口を引き攣られせ啞然とするしかない

銀髪の少女は、灰色の猫がぶち抜いた盗品蔵の中に入っていった。

 

 

 

「……」

 

アニメなんかで見てきた紛い物と違い、本物の魔法というのは虚空に突然現れ敵を穿つシンプルな物。

そのくせ、威力は高く通常兵器くらいにも及ぶだろう。

 

しかし、そんな魔法以上に無視出来ないことが、ある

 

「あの灰色の猫…… 何処となく似ている……  あの獣に……!」

(もしかして、俺が思っているより自体は進んでいるのか? 勿論あの猫があんな怪物だという保証はない。 が、何故か無視出来ない。 アレを放って置くと、ヤバいことが起きる……そんな予感がする!)

 

スバルは、あの少女が連れている灰色の猫に対して何処か危機感を持った。

あの猫が国を凍らせる化け物という保証がないことも確かだ。

なら、

 

「ラインハルト」

 

「? どうしたスバル?」

 

「ここからは二手に別れよう。 夕方までの時間も無いし、こんな広大な貧民街からあの獣の出現場所を割り出すことは困難だ。 二手に別れて探った方が効率がいい」

 

「ああ、分かった。 スバルも無理しない程度で…… なにかあったらすぐ呼んでくれ!」

 

「分かった!」

 

ラインハルトは、スバルとは別の方向に走りっていき

スバルはあの盗品蔵を見つめている。

 

「行くか」

 

覚悟も決めた、違ったときの保険もとった。

いざというときは『未来予知』の能力がある

という自身がスバルをあの扉の先に足を運ばせた。

 

コンコン

 

こんな時でもちゃんとノックしてしまうのは日本人の性だろうか?

 

「失礼しま……す?」

 

盗品蔵の室内でスバルが目にしたのは、

部屋中が氷に包まれるという光景。

部屋の奥には、なんかデカい爺さんとさっきの金髪の少女が銀髪の少女に追い詰められていた。

 

「もう懲りたでしょう? 早くアレを返して!」

 

銀髪少女の圧倒的な力の前に流石に観念したのか二人は手に持っていたナニかを銀髪少女に渡した。 

壊された入り口の前にいたスバルは、

 

(―――なんだよ。 結局なにもないってオチか…… やっぱ俺の思い過ごし……ブッジュゥ)

 

突然、スバルの腹あたりから血が吹き出した。

よく見ると、いつの間にか大きなナイフがぶっ刺さっている。

 

「ぐっゔァ…… な……んだ?」

 

血の出血が口からも出てきた。

体も炎に焼かれているのではと思うくらい熱くなった。

まるで、消えゆくロウソクの炎が消える直前で火力を高める時のように

 

(なんだ? 体が、熱い。 まるで全身が焼かれるかのようだ‥‥ 熱い‥‥熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い‥‥)

 

スバルは、あまりの熱さに耐えかね地に倒れる。

このとき、スバルはようやく気づいた。

後ろから大きなナイフを突き刺した犯人を

 

 

ソレは、黒い服を着た女だった。

スバルと、同じこの世界では珍しい黒髪の女。

際どい服装をした美しい女性だった。

 

その女性は、手に2つの大きなナイフを持ち盗品蔵の先に進む。

狙いは、盗品蔵の先にいる金髪の少女か、大柄の老人か、それとも銀髪の少女か

意識が薄れていゆくスバルには分からなかった。

 

 

やがてしばらく経つと、

スバルの目にはうっすらとしか見えないが、その光景は真っ赤に染まっていた。

黒髪の女が3人をその特徴的なククリナイフで斬殺してゆく光景を見せつけられた。

 

かなり悲惨な光景だった。 ある意味当たりどこが悪かったのかスバルはすぐには死なずにこの地獄のような光景を見てしまった。

そして、これらよ惨劇を引き起こした張本人は未だ生きているスバルを見つめていた。

 

「―――ああ、当たりどころが悪かったのね。 でもこれはこれで運命なのかもしれないわ。 ―――天使に会わせてあげる」

 

女は、やけに楽しそうにスバルに話しかける。

最ももうスバルに会話を行う力はなこっていないが

 

「良い。 とても良い。 貴方の腸はとても綺麗な色をしているわぁ」

「痛い? 苦しい? 辛い? 悲しい? 死んじゃいたい?」

 

女はスバルをじっと見つめる。 その瞳は爛々としていて、今まさに一人の人間の命を刈り取るのになんの躊躇もない。 むしろ、これ以上無い幸福だと思っているだろう。

 

スバルの視界が消えていく。

その目の最後に写ったのは女が、その凶刃を振るう姿だ。

その結果は

 

「――――!!!???!」

 

両の瞼を切り裂かれ、比喩ではなく本当に永遠に光を失うというものだった。

もう悲鳴を上げることもできない程弱っているスバルが出来るのはこのまま死を待つことだけだった。

 

 

 生きているのが不思議な状態。

 生きているのが地獄の状態。

そんな己の姿を、見ることすらできない、いつ死ぬのかわからない瀕死の状態。

 

「ゆっくり、ゆっくり、ゆっくり、ゆっくり、ゆっくり、悶えて」

 

なぶるように、

 ねぶるように、

 悼むように、

 愛しむように、

 慈しむように、

 エルザの声が終わっていくスバルの鼓膜をゆるやかに叩いている。 

 痛みが、苦しみが、怒りが、悲しみが、ただただ漆黒の恐怖に塗り潰される。

 視界の利かない世界で、いつ命の灯火が消えるのかわからない世界で、スバルの空虚となった心を支配するのは、ひたすらに襲いくる死への恐怖のみだった。

 いつ死ぬ?

 いつ死ぬ?

 まだ生きているのか?

 死んでいるんじゃないのか?

 なにが生を定義する?

 こんな虫以下の状態を生きていると呼べるのか?

 生死を掌でもてあそばれている今を生きていると呼べるのか?

 生死ってなんだ?

 死ぬってどうして恐いんだ?

 生きるのは必要か?

 否か?

 恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い。

 

 とめどなく押し寄せてくる、絶対的な死への本能からの拒絶。 それがもはや終わりに手をかけたスバルの脳を埋め尽くし、鎖された視界が真っ白に染まり、

 

――あ、死んだ。

 

 そんな感慨を最期に、ナツキ・スバルの命はあっけなく潰えた。

このとき、スバルは気づかなかったが世界は白銀に包まれていた。

 

 

 

 

 

そして、再び時間は巻き戻る。

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

「―――――ハッ!」

 

 

スバルは、再びこの世界で目を覚ました。

一回目と違い、場所は変わっていた。

リンゴ売りのおっさんのところから、ラインハルトと出会う前の路地裏に

何らかの要因で場所が変わったのかは分からない。

 

二度目の死に戻り。 たが、前回と決定的に違うのは‥‥

 

「―――はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ…… オ"エ"ぇ"」

 

一回目と違い、

純粋に歪みきった殺意に飲み込まれながら殺されたという最悪の結末。

その恐怖は、スバルに吐き気を催した。

 

 

「……はぁ……はぁ……」

 

数十分間

ようやく、落ち着き始めたスバル。

今、彼の脳裏には恐怖でいっぱいだ。

しかし、

 

「こんなことで諦めれられるわけねぇだろ…… 俺は帰ってみせる…… 俺は家族の元に絶対帰ってみせる!」

 

スバルは、こんな惨劇にあってもなお諦めれなかった。

普通はこの時点で心が折れるところだ。

 

「マジ、ふざけんなよ…… いきなりこんなおっかない世界に召喚されて二度も殺されて……挙句の果てに帰れないなんて、認められるワケねぇだろ? ああ、認められるわけがねえ! ならどうする? 例え逃げても、白い獣に氷漬けにされて終わりだ。 逆に逃げなくとも高確率であのイカれた殺人鬼に殺される。 『ならばどうする?』 いや、こうなったら破れかぶれだ…… 何度死のうが必ず帰ってやる!」

 

スバルは、自問自答を繰り返し決心した。

例え、いかなる残酷な試練に叩きつけられようとも殺されようとも

何度もやり直してまで故郷に帰ってみせると心に決めた。

 

 

このとき、彼は… スバルは気づかなかった。

先程の自問自答に、

まるで自分とは異なる声が自身の口から聞こえたことに……

 

だが、彼はそのうちそれに気づくだろう。

これは、この残酷な世界に立ち向かうナツキスバルの『re:ゼロから■■■■異世界生活』である

 

 

 

 

 

スバルは、このあとどうするかを考えていた。

この最悪過ぎる結末を変えるにはあの貧民街に行くことは必須条件である。

あと、多分ではあるが……

また、あのイカれた殺人女に会敵するだろう。

あの殺人女は、スバルの目から見ても強いと思われる。

元に盗品蔵の巨体のおっさん(というか爺さん)がなすすべもなく殺されたのだ。

自分では、100%勝てない。

 

「―――あ"ァ!! マジでどうしよ!? 何も思いつかねぇ……」

 

スバルは路地裏に座り込み、なんでいると

とても信じられないことが起きた。

 

 

 

ピコンッ!

 

「あぁ? スマホのメール? たくッ…… こんなやべえ状況でよくメールを送ってくるのかわけ分か……メール!!?

 

 

ソレは、スバルが元の世界で聞き慣れていた

スマホのメールの着信音だった。

 

 

 

 

To Be continued

 




あと、もう少しでキングクリムゾンだせそう。


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第五話 悪魔の顔

▽▽▽▽▽

 

「―――あ"ァ!! マジでどうしよ!? 何も思いつかねぇ……」

 

スバルは路地裏に座り込み、なんでいると

とても信じられないことが起きた。

 

 

 

ピコンッ!

 

「あぁ? スマホのメール? たくッ…… こんなやべえ状況でよくメールを送ってくるのかわけ分か……メール!!?

 

 

ソレは、スバルが元の世界で聞き慣れていた

スマホのメールの着信音だった。

 

「なんで有線どころか電波の電の字も無い異世界でメールが届くんだよ!?」

 

無論、そんな疑問に答えてくれるものはこの世界には存在しない。

スバルは、疑心暗鬼な考えを抱えながらスマホのメールを確認した。

 

 

『助かりたい?』

 

書かれていたのはこの一文。

何に対してのモノだったのかはスバルには理解できた。

 

「助かりたい? ああ、こんなクソッタレな状況を助けてくれるなら助けてほしいものだね!」

 

スバルは、送られたメールに対して返事が帰ってくるわけもないのにと分かっていながら

いちゃもんをつける。 そりゃあ、こんな状況に送られているなら文句の一つでも出てくるだろうが……

 

ピコンッ

 

「!?」

 

『なら、私が助けてあげる』

 

何という恐るべき事態。

あろうことが、メールを返信していないのに相手から返事が来たのだ。

ちょっとどころか、かなりのホラーである。

これは、流石のスバルもビビる。

 

「おいおいおい! これは電話じゃあねえんだぜ!? なんで返信もしてねえのに返事が来るんだよ!? おかしいだろ!? つーか誰だよお前! 俺、こんな異世界にメル友なんていねえぞ!?」

 

ピコンッ

 

『私は《サラ》。 貴方の望みをお手伝いする相棒(バディ)……』

 

「いきなり相棒とか大きく出てきたなこいつ…… で、お前は俺をどんな風に助けてくれるんだ?」

 

ピコンッ

 

『私があらゆるルートの中から貴方が望む最適な未来に導くのが私の役目。 この世界で言うならば《福音書》と同じもの』

 

「福音書?」

 

ピコンッ

 

『福音書は、その持ち主の未来を記述する本。 私はそれと同じ役目を担っている』

 

「つまり、アンタの言うとおりにすればこの状況を打破出来るってことか?」

 

ピコンッ

 

『そう。 早速だけど、貴方にもう一つプレゼントがあるわ。 貴方のバッグに』

 

「ほわぁつ!? いつの間にバックに入れたんだ!? 一体何が…… ってなんじゃこりゃァァァ!!?」

 

スバルは、《サラ》という人物?の言うとおりに自分のバッグを開けると、とんでもねえ物が入っていた。

 

「何だ()()()()は!?」

 

ピコンッ

 

『それは、■■■■の矢と言って「ただのガラクタじゃあねえか!!」え?』

 

「こんな矢があんなにヤバ過ぎる対殺人鬼に役に立つわけねえだろ!! 馬鹿にしてんのか!!? たくッ! 一瞬でも期待した俺が馬鹿だったぜ! あ、そうだ…… 確か盗品蔵は物を売るってこの世界の金銭を得る事が出来るんだよな……」

 

ピコンッ

 

『あの…… ちょっと…… それは流石に……』

 

このとき、自称天才スバルの脳裏に駆け巡った生粋の悪魔的アイデア!

 

「この矢、売っちまおう! なんか金ピカだし、多少高く売れるだろう! そしてその金でこの国を颯爽とおさらばすればイージャン!!」

 

ピコンッ

 

『駄目ェェェ!! それは駄目ェェェ!! この世界、いやこの作品終わるゥゥゥ!!!』

 

そんなサラの悲痛な叫びもスバルの耳には届いていない。

彼は、自分の勝利は確信したからだ。

 

「勝った!! 第一章完!!」

 

このあとも、スバルはきっと数々の困難が待っているだろう。

でも彼ならば色々あっても乗り越えるだろう。

 

  re:ゼロから■■■■異世界生活 ー完ー

 

 

 

 

 

 

 

 

ピコンッ

 

『終わってたまるかァァァ!!!』

 

当然、こんなめちゃくちゃな事にサラはブチ切れてた。

 

「え〜 もう終わりで良くね? このまま俺のハッピーエンドで良くね?」

 

ピコンッ

 

『それ以前に終わってはいけない色々なものが終わってるんだよォォォ 売るの駄目だからね! 売っちゃあいけないヤツだからねソレ!!』

 

「えー…… じゃあこれからどうすればいいの?」

 

ピコンッ

 

『それは』

 

 

「おうおう! 兄ちゃん! なんか高そうな矢ぁ待ってんなぁ!」

 

当然、路地裏の出口から聞き慣れた声が聞こえた。

このとき、スバルは思い出した。 そういえば、セーブポイントはリンゴ売りおっさんの所から場所的にも時間的にも余り変わってないことに。

 

「ハァー…… またお前らか…… トンチンカン」

 

つまり、3回目のトンチンカン戦に移行することになる。

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

「兄ちゃんよぉ 大人しくその高め矢を寄こせば命だけは助けてやるぜ?」

 

勿論スバルは、こんなクソみたいな要求に従うわけはない

 

「無理だね。 この矢は俺のものだし、お前らのようなムカつく奴に渡すわけねぇだろ」

 

スバルの反抗にトンチンカン三人組は……

 

「上等だ!」

 

「ぶっ潰してやる!」

 

「生まれたての雛鳥のみてーにピーピー鳴かしてやるぜ!」

 

見事にトンチンカンへの挑発に成功したスバルは、最早慣れたものだ。

最近、作者も忘れかけていた『未来予知』を発動させる

 

「!?」

 

しかし、その未来はスバルが予想していたものではなかった。

真ん中のチンの奴にジャージの胸ぐらを掴まれている未来だった。

 

スバルは少し動揺したがトンチンカンたちには関係のないことだ。

あっという間に距離を詰められ『未来予知』の結果通りにチンにジャージの胸ぐらを掴まれた。

 

「グフフ…… 捕まえたぜ。 さぁ、これからどう虐めてあげようか……」

 

「グヌゥゥ……!!」

 

チンは、つかむ力を強める。

トンとカンもジリジリと近づいてくる。

3人でスバルをタコ殴りにするつもりなのだろう。

 

しかし、三人は気づかなかった。

いつの間にかスバルの目がまるで()()()()()()()()()になっていたことに

 

「おい! クソ喧しいぞォ!!」

 

「!?」

 

スバル?は、突如豹変しチンの口に手を突っ込んで掴んだ。

 

「その、薄汚ねぇ手で触ってんじゃあねぇェェェ!!」

 

その時、スバル?の声や身体がまるで別人のように変わっていく。

声は、大人直前の青年の声からドスの利いた声になり平均的な体は身長が伸び筋肉がゴツくなる。

 

『「俺に近づいてどぉするんだよォォォ!!?」』

「これから、潰されるてめぇ等がよぉォォ!!?」《CV小西克幸》

 

スバル?は、胸ぐらをつかんでいたチンを

そのまま持ち上げ壁に貼り付けた。

当然、トンチンカンの三人組は豹変したスバルに驚きを隠せない。

 

「な、なんだこいつ!!? か、顔が…… それも体格も声も別人に……!?」

 

「お前ら…… 俺に手を出したということは…… 逆に潰される覚悟もあるということだよな?」

 

「ヒィッ!?」

 

「何なんだよ…!! これは!?」

 

「お、お前は一体何なんだ!!?」

 

トンチンカンは、この状況を受け止めきれていないようだ。

彼らは、虎の尾を踏んだのだ。 踏んでしまったのだ。

決して踏み入れてはいけない捕食者の巣に足を踏み入れてしまったのだ。

 

「お前たちが知る必要は無い。 今、お前たちが知るのは恐怖と絶望だけだ」

 

この後、とある路地裏に3名ほどの悲鳴が街に響き渡ったという。

 

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

もう、読者の皆様はお気づきだろうが説明しよう。

何故、スバルが引きこもりにならず、

ましてや喧嘩が強いのか。 他にも諸々の疑問は多々あるが

それらの要因はとあるきっかけとスバルの第二の人格であるこいつが原因である。

 

かなりざっくりと話そう。

ソレは、凡そ四年前に遡る。

スバルがまだ中学2年の頃だ。

 

このとき、スバルはまだ第二の人格が目覚めていない頃だ。

性格はこのときまで原作と同じだ。 スバルは、自身が憧れた父親の真似をして生きてきた。

地頭も良く成績が良かったため、小学生の頃までは皆に慕われた。

しかし、誰かの真似をして生きるのでは無論限界がある。

中学生の頃にはスバルは父親の表面的なものしか真似をせず、空回りをすることが多くなった。

やたらめったらにズカズカと人に割り込んでくるため皆からはウザがられる嫌われるようになってしまった。

 

このままで行くと、原作通りに引きこもりになるのが確定する

だが、スバルにある意味の転機が起きた。

 

「なぁなぁ、スバル君よぉ これから面白えところにいかない?」

 

ソレは、年一つ上のとある先輩の誘いだった。

スバルは剣道部に所属しておりそこで知り合った先輩の誘いだったのでそれに乗りついていった。

 

そこからがスバルにとっての人生のターニングポイントだったのかもしれない。

先輩の誘いとは、まァ分かりやすくいえば()()()の誘いだったのだ。

 

スバルは、勿論それに懐疑的だったが先輩の誘いに乗ったのが運の尽き、そのまま暴力団に加入されてしまったのだ。 そのおかげで上納金を収めるためにバイトを掛け持ちする羽目になったり他の組員への挨拶もかわさなければいけない事も多くなった。

 

 

ここで、皆さんは知っているだろうが

このナツキスバルという男。

この男は、主人公適性よりもラスボス適性が高い主人公として有名である。

 

 

持ち前の反骨心が爆発したのか暴力団の業務を失敗こそあったが、数々の業務をこなしていき、組員としての地位や信頼が破竹の勢いで上昇し、高校2年…… つまり暴力団に入ってたった3年で幹部の信頼まで勝ち取るほどの人物となったのだ。 しかし、一般的には学生であるスバルは表向きには普通の学生を装うわなければならない。

昼は学生、夜は暴力団という何処かで聞いたようなフレーズのような生活を続けていれば勿論精神に異常をきたすだろう。

 

最終的に精神に異常をきたしまくった結果、生まれたのが第二の人格である。

二重人格…… 表と裏、光と闇、2つの顔。

二重人格は十六世紀のドイツで発見された一種の精神障害。

ソレは精神だけでなく肉体も別人となり、言葉すら別の言語になるケースもあったという。

 

この人格が生まれてからは、学生としてのスバルと暴力団としてのスバルの区別がはっきりしたためか、

あらゆることが上手くいくようになった。

 

表人格ののスバルは、精神的に成長したのか。 父親の真似をすることを辞めたのだ。

TPOもわきまえるようになり、友人も出来るようになった。

 

逆に裏人格のスバルは、先程のように体格もゴツくなり肉体的に強くなったため、幼少期に学んだ空手や拳法を活かして、戦闘が得意となった。 時には組の敵を力で潰し、時には策で潰す。 この人格で思いつく策はかなりドス黒いものであり。 組の中では彼を恐れるものも現れ、最終的には()()と形容されるようになった。

 

 

さらに、高校を卒業すれば幹部昇進という切符をも手にしたのである。

 

 

▽▽▽▽▽▽▽

そして今現在に至る。

勿論、異世界召喚という意味不明な形で、

幹部昇進が取り消しになってしまったので彼の機嫌は滅茶苦茶悪い。

表人格の方のスバルは純粋に家族や友人、将来のことを考え元の世界に帰りたいと思っているが

裏人格の方は、これである。

 

「……」

 

トンチンカン三人組を叩き潰してから、

スバル(裏人格の方)は路地裏を少し離れた広場の椅子に腰を掛けた。

そして、いつの間にか見た目は元の状態に戻っていた。

 

「あれ? なんで俺、こんな所にいるんだ?」

 

中身も元の人格に戻っていた。

そして『二重人格あるあるの別の人格が行っていた行動が分からない』

という典型的な台詞を言い放っている。

 

「さっきまで、トンチンカンと対峙してて…… それからの記憶が曖昧だな……」

 

曖昧になっている記憶を掘り起こそうとするスバル。

しかし、ソレは第二の人格の仕業のため思い出すも糞もない。

 

「一体何が起きて…… とぉるるるるるるるるるるるる……」

 

「!? 何だ!? 急に携帯が鳴りだしたぞ!? とぉるるるるるるるるるるるる……」

 

突然の奇景!

スバルは、携帯が何故か鳴っていると思っているがソレは違う。

スバルの口からまるで携帯がなっているかのように口走っているのだ。

それも、まるで魂が抜けたような不気味な表情で。

傍から見ると、そのイカれた様子は最早ただの狂人にしか見えないだろう。

 

とぉるるるるるるるるるるるる…… け、携帯は何処だ? とぉるるるるるるるるるるるる……」

 

 

スバルは、自分のバッグの中身を漁り、スマホ

 

「あ、あったぜ! 最近の携帯はコンパクトだからな~ バッグの端にあると探すのに苦労するぜぇ!」

 

 

……ではなく、何とコンビニで買った乾電池を取り出した

 

「ピッ はい、もしもし」

 

『私だ。 スバル』

 

「! リーダー……」

 

スバルは、携帯(乾電池)を通じて何者と連絡を取った。

そして、その電話相手の声は先程暴れたスバルの第二の人格の声と同じだった。

今の様子は傍から見ると、自問自答。 それに、今のスバルはまるで顔が2つ有るようにも見えた。

 

 

「リーダー! 貴方もこの世界に来ていたのですね!」

 

『ああ…… 後、この世界で《リーダー》と呼ぶ必要はもうないぞ』  

 

「へ? どうしてですか?」

 

『私はこの世界で

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

組織を創ることにした』

 

「!!?」

 

 

 

 

To Be continued

 




まずはボスの登場です。
スタンドの矢も出したので感のいい読者ならもうこの先の展開はバレバレだと思いますが応援宜しくお願いします。

あとしれっと登場した《サラ》さんですがオリキャラではありません。
てか、名前から一文字抜いただけだし……
まぁ、彼女には色々と苦労かけようと思います。

因みにスバルが第二の人格の方を《リーダー》と呼ぶのは、面倒臭いから簡単に言うと
ドッピオがディアボロを《ボス》と呼ぶのと同じ感じでーす


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