魔法科高校のしばたつや (司馬達也)
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初登校
司波達也という名前は、特別な名前であり「特別ではない名前」だ。
前者は四葉の分家として、四葉の隠し名として。
後者は司波達也のプロフィールにある「何の変哲もない普通の高校生」というカバーとして。
四葉が情報改竄した以上、正規のルートで司波達也の正体を知ることはたとえ同じ十師族だろうとできはしない。
司波達也を知る者は四葉や独立魔装大隊、FLTの関係者か、個人的な知人、在席していた学校の関係者くらいだろう。
それらを除けば『司波達也』という名前に何ら付随する記号は無く、余人にその名を知る者はない。
「しば、たつやさん……ですか?」
いないはずだ。
ならばなぜ、柴田美月は司波達也を知っている?
国立魔法科第一高校の入学式。
その新入生総代としてスピーチする妹の声を聞きながら、達也の意識は隣に座る女子たちに向いていた。
千葉エリカと柴田美月。
千葉家はともかく、柴田の家名は達也の記憶にない、おそらく一般家庭の出だろう。
空いていた達也の隣に座っただけの彼女たちとの出会いは互いに予定外で、完全に偶然だったはずだ。
にもかかわらず、柴田美月の反応は芳しくないものだった。
「俺の名前に、聞き覚えが?」
「! あっ、その……名字と名前の頭文字が」
「語呂合わせみたいね! 千葉、司波、柴田って!」
一時怪しい空気になったものの、カラカラと笑う千葉エリカがその場の不穏な雰囲気を払拭したことで話はお流れになり、入学式の開始によって打ち切られた。
それにしても、入学早々厄介なことになった。
視線を向けないように柴田美月を観察しつつ、達也は内心そう嘆息する。
名字が似ているにしては、意味深すぎる反応だった。
本人は誤魔化したつもりだろうし、同席するエリカの手前深くは突っ込めないが。
しかし、怪しいと言わざるを得ない。
深雪のスピーチに聞き入っている様子の美月は、しかしおかしな素振りもなく、やはり一般人にしか見えない。
柴田の家名もそうだ。いくら記憶を掘り起こしても、ヒットするものはない。
まさか、達也の知らない四葉の分家や四の数字落ちということもないだろう。
入学式の前に会った七草真由美のように、入試成績優秀を知っているのは何かしらの立場があるか、一部の伝手を持つ名家の出くらいのはず。
そのどちらでもないとすれば、いよいよ理由が不明だ。
そして不明とは、深雪を害する可能性がある、ということだ。
どうやら魔法科高校での生活は、妹と気楽な二人暮らしとはいかないらしい。
深雪も四葉の外での新たな門出を喜んでいた。平穏な学生生活が待っていると思った矢先にこれだ。
達也にはどんなことがあろうとも深雪を守るという使命がある。
そのためには、あらゆる可能性を考慮しなくてはならないし、高校生活における日々の防諜も考え直さなければならなくなった。
既に達也と深雪の日常に影が差している以上、どんなに念を入れてもし過ぎるということは無いだろう。
この時、一連の疑惑と思索の果に、達也には予測不能な事態が待っているとは『精霊の目』を以ってしても見抜くことはできなかった。
そして出会うのは柴田美月の妹を名乗る一人の少女。
原作には存在しない危険分子。
司波達也の名を聞き、俯き震え、ヤケクソ気味に名乗った君の名は。
「私の名前は、
柴田 艶夜
です!」
すんっ……と真顔になった達也は、身構えてもしょうがないことってあるんだなと、またひとつ世界の理不尽さを知り大人になった。
なお、入学初日から味わったきな臭い雰囲気と喜劇の落差に、千葉エリカは腹を抱えて転げ回った。
柴田 艶夜(しばた つや)
艶めいた夜、という名前とは真逆のつるぺたボディを持った転生者。
視力が悪く、とある理由からレーシック手術を受けずに美月とお揃いの眼鏡を掛けている。
前世はオタクだったが、ラノベは読んでもなろう系を読まない自称硬派なオタク(笑)だったので、劣等生原作を知らない。
アニメ化したことも劇場版ももちろん知らない。
こいつ何の為に転生オリ主やってんの?
それもこれも地方にアニメイトも映画館も無いのが悪いんや。
深「お兄様、早速クラスメイトと……(チラッ」
エ「www(うずくまって地面を叩く)」
深「……漫才でもしていたんですか?」
達「違う、そうじゃない」
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入学編①
初月無料なので解約すれば無料です。
とりあえず入学編を書いたので、適当な長さで分割して投下。
数日おきに投稿します。
元々深く考えていなかった出オチオリ主に設定を追加したので、おかしな部分もあるかもしれません。
一人称とか日常シーンを書こうとしたら上手くいかなかったので『他の原作キャラから見たオリ主』を多く書いてます。
タグ『勘違い』を追加。
服部刑部少丞範蔵(はっとりぎょうぶしょうじょうはんぞう)は、己の優秀さを知っている。
学年で実技の成績は1位を取り、入学以来模擬戦は負け知らず。
学業も優秀であり、この一年は生徒会での業務経験も積んできた。
自負する以上に期待を寄せられてもおり、ジェネラルの渾名はその戦闘力だけを由来とするものではない。
三大巨塔卒業後の第一高校を担うことを期待されているのだ。
十師族の直系二人の後を任されることを、期待されている。
この重責を理解しない者はいないだろう。
それが叶うと目される2年生は服部刑部少丞範蔵のみ。
故に二年生に進級したばかりにもかかわらず、服部刑部少丞範蔵にとって、これからの時間は半年後の引き継ぎを見据えた助走期間に過ぎない。
来年の第一高校運営のためにも、組織体制の下地となる人材確保は急務。
そのために、現生徒会長である七草真由美と共に新入生総代を勧誘に来た服部刑部少丞範蔵はいま、
(なんなのだこれは?
どうすればいいのだ!?)
絶賛混乱中だった。
だが、ただ状況に流される服部刑部少丞範蔵ではない。
魔法師は事象をあるがままに、冷静に、論理的に認識できなければならない。
まずは状況を整理しよう。
「wwwwww」
腹をかかえ、地面にうずくまって震える新入生らしき女子生徒。
急病だろうか。先ほどまでは苦しそうにジタバタ暴れていたが、わずかに息が整ってきているようだ。
保健室へ運ぶべきかもしれないが、ひとまず後回しとする。
続いて勧誘するターゲットの司波深雪。
「お兄様。深雪は、お兄様がお望みなら共にコメディアンの道を歩むのも良いと考えています!」
「落ち着け深雪。俺はそんなことを望んでいない」
「夫婦漫才、ならぬ兄妹漫才というのも選択肢としてあると思うのです。
……事実上の夫婦漫才になりますし(ボソッ」
「深呼吸するんだ、冷静になって考えろ。深雪の未来をそんなことに費やす必要はない」
「お兄様は深雪では役者不足だと仰るのですか!?」
「もうどうすればいいんだ俺は?」
どうやら今年の新入生総代は早くも将来の道を見定めているようだ。
国防に貢献するにしても、ソフトパワーとハードパワーの考え方がある。
彼女には彼女の、国への奉仕の仕方がある、ということだ。
魔法師としての道を選んでくれなかったことは残念だが、一人の先輩としては応援するべきだろう。
そして我らが生徒会長はというと、
「艶夜ちゃーん!」
「にぎゃー!」
何やらちんちくりんな新入生を捕獲して猫かわいがりしていた。
されるほうはジタバタ暴れているようだが、ただでさえ小柄な真由美と比べてなお体格差があるせいで抵抗になっていない。
というか誰なんだそのチビメガネは。
どうして総代を勧誘しに来たはずの会長が、ただの新入生にかかずらっているんだ。
けしからん。
そこを代われ。
「つ、艶夜ちゃんを放してください……!」
オロオロしている巨乳メガネがいるがもう知らん。
「……、ふむ」
結論として。
論理的に考えた結果、なにもわからないということがわかった。
「はんぞーくん、何やら込み入った事情のようだし、今日のところは出直しましょうか」
「はっ?
しかし会長、それでは予定が……」
「あれの収拾がつけられるの?」
「やむを得ませんね」
いかに兄にシュールギャグの適性があるかを熱弁する司波深雪に声をかけて、その日は退散となった。
「あ、この子は借りていきますね?」
「ぎゃー! おねーちゃーん!」
「艶夜ちゃーん!」
小柄な新入生を引きずる真由美の姿に、何か別の光景が服部の脳裏を過るも、それが明確な形を取ることはなかった。
☆
市原鈴音は激怒した。
必ず、かの自由と身勝手を履き違えた友人をしばかねばならぬと決意した。
「なので早く歯を食いしばってください」
「待ってリンちゃん、そのブック型データバンクは人を殴るためにあるものじゃないわ!」
新入生総代の代わりにあーちゃん2号を連れ帰った真由美の言い分を聞くところによると、柴田艶夜という新入生は、七草家お抱えの探知魔法師だそうだ。
探知魔法といえば、七草真由美の代名詞である「エルフィン・スナイパー」の所以となる探知魔法、マルチスコープがある。
BS魔法とも呼ばれるそれは、限られた者が生まれ持つ才能であると同時に、通常であれば魔法師としての才能を食いつぶす異物でもある。
真由美の能力が高く評価されているのは、そのBS魔法に加えて十師族直系としての高い魔法力を併せ持つが故。
そして柴田艶夜も、BS魔法師でありながら一科生としてギリギリ及第点程度の魔法力を持つとのことだった。
真由美はこの妹分とも言える後輩を生徒会に加えるらしい。
本物の妹を差し置いて? と疑問が首をもたげたが、噂の七草の双子はもう一つ学年が下がる。
直接の引き継ぎが叶わない以上、艶夜を自身が補佐として育て、卒業後に入学する双子の補佐に充てるのだろう。
それはいいとして。
「ただのお抱え魔法師というには、距離感が近すぎませんか?」
「そうかしら?」
「そうですか?」
並んで、同じ方向に首を傾げる真由美と艶夜。
並んでいるといっても横にではなく、真由美が艶夜を膝に乗せて抱えているので、頭が縦に並んでいる。
頭頂部に顎を乗せるほどの密着具合で、時折クッキーをつまんでは、どこか諦めが滲む下の顔に「あーん」などとしていた。
どう見ても近すぎる。日ごろ「あーちゃん」と呼び可愛がる中条あずさにさえ、これほどベタベタとしている姿は記憶にない。
お世辞にも人様に見せられたものではない痴態に、鈴音はこめかみを細い指でおさえた。
よくこの生徒会室で昼食を共にする渡辺摩利ならば笑って済ませるだろうが、一方の服部はあれでうるさいところもある。
マスコット1号ことあずさは自分のポジションが後輩に取られたと嫉妬……、しない。身代わりができたことに安堵するだろうか。
いや、むしろ後輩が犠牲になっていることに気を病んで自ら身を差し出すくらいはしそうだった。
「中条さんでもそこまではしないでしょう。よほど親しい証拠では?」
「そうね。もうかれこれ5年の仲だから、これだけ長く親しい付き合いが続いている子も他にいないわ」
「私としては、会長が一般家庭出身の柴田さんを、どこで捕まえたかが気になります」
「人聞きの悪いことを言わないでリンちゃん」
軽く頬を膨らませて不満を訴えているが、真由美の性格を熟知する鈴音からすればあざとすぎる。
やがて諦めたように息をつくと、艶夜の両脇に手を差し込んで脇の席に置いた。
置かれた方はというと、ぐでっ、と机に垂れて身を投げ出した。
真由美の腕に収まるまで、まるで座りの悪かったネコのように暴れていたから疲れたのかもしれない。
「リンちゃんには話しておこうかしら。これから艶夜ちゃんと付き合うなら、知っておくべきでしょうし」
冷めた紅茶で唇を濡らす。
その仕草ひとつで場の空気を書き換えるのは、流石名家の令嬢。さぞ高度な淑女教育を受けてきたのだろう。
隣の垂れネコのせいで台無しもいいところだが。
「私が艶夜ちゃんと初めて会ったのは、探知魔法師の交流会の会場だったわ」
真由美がまだ小学生だった頃。
魔法師の年少者向けに行われていた交流会の中で、探知魔法師の交流会を開こうという動きがあった。
市井の魔法師たちを広く支援している篤志家がはじめたことで、通常の魔法師とは異なる法規制がされている探知魔法について、正しい知識を学び、法令違反を防ごうという場が用意された。
真由美も七草家当主である父弘一に出席するよう言われ、交流会へ一度ならず顔を出している。
そこまではいい。
問題なのは、その交流会を企画した篤志家というのが弘一本人であり、有望な探知魔法師を囲い込むことを目的としていたことだ。
それも、真由美が探知魔法を持って産まれたのをいいことに、勝手に始めておいて、子供しか集まらなかったからと初めの挨拶だけして真由美と執事に丸投げしたのだそうだ。
当然の如く目的が見え透いた集まりに参加した探知魔法師は少なく、その中にマルチスコープより有用な探知魔法を持つ子供はいなかった。
ただひとり、艶夜を除いては。
「……そこまで事情を口にして良かったんですか?」
鈴音は長机で置物と化しているゆるキャラに目をやる。
上半身を机に乗り出すようにして情報端末をいじっているが、聞こえていないということはないだろう。
「いいのよ。艶夜ちゃんもウチの狸親父のことはよく知っているし、何なら私よりよく知っているんじゃないかしら?
あの交流会の意図もはじめからお見通しだったみたいですし」
「当時十歳の子供が?」
「この子、普段はあらゆる面で抜けているのに、何故か後ろ暗い部分とか憚られるような事情については妙に鋭いの」
「鋭いもなにも、隠す気が無いんだから分かるに決まってますよ。慈善活動なんて売名行為の同義語でしょ?」
「そこまで斜に構えて穿った見方をする子供なんて、艶夜ちゃん以外にいません」
「むぐっ、」
生意気な口にクッキーがねじ込まれると、それを咥えたまま小動物のように咀嚼しはじめる。
なるほど、可愛らしい外見に反して中身は随分と擦れたガキらしい。
ひとこと口を開いただけで、マスコットキャラが、飲酒喫煙がバレた未成年アイドルみたいになったのは鈴音としても驚きを隠せなかった。
服部と中条に講堂の撤収作業を任せたのは建前で、どうやらはじめから鈴音にこの腹黒マスコットの腹を見せる腹だったようだ。
流石は我らが生徒会長。
妹分に負けず劣らず腹黒いなと感心する。
「とにかく、そんなおざなりな集まりだったから、結局そう回数を重ねることもなく交流会は打ち切り。
艶夜ちゃんには本人の希望もあって、七草で魔法力を伸ばすための指導を受けてもらったわ」
「七草家で魔法実技の指導を? それはなかなか恵まれた環境ですね」
「そうね。実際、そうしていなければ一科生として入学はできなかったでしょうし。
指導を受け始めた艶夜ちゃんはメキメキと頭角を現し、すぐに七草家にとって――――
――――要注意人物になったわ」
「どうしてそうなるんです?」
激しい茶番の匂いを嗅ぎ取りつつも、鈴音は話の先を促した。
さて、追加設定ですが、
柴田家→魔眼→探知魔法
ということで、探知魔法師にしました。
2次オリ主に探知魔法はつきものだから、チートじゃないです。
……SB魔法と通常の魔法力の両立はチート?
まあそのへんの言い訳についてはこの続きで。
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入学編②
よく考えたら前の話と前後編みたいになってるので早めに続きを投下したほうがよかったかな?
さて。
大変遅ればせながら、柴田艶夜は転生者である。
前世の職業は何の変哲もないサラリーマン。
休日返上サービス出勤上等の残業代未払い常習犯企業に務めていたが、ある意味何の変哲もない仕事だと言って差し支えないだろう。
それが日本だ、諦めろ。
そんな彼女(元は彼だが)も、第2の生と知った時は驚き、そして喜んだものだ。
何せ前世での趣味だったゲームは、就職してからというもの消化することもままならず積み上がり、噂の新作を買う気力も沸かずスルーするような日々。
そんな人生の果て、やたらゴツいアメ車にプチッと潰されるという末路の先に、降って湧いた来世である。
歓喜した。自由が効く学生のうちにあらゆる未消化ゲームを買い漁り、そこそこ潰しが効く資格でも取って優雅に生活してやると決意した。
ただし。
「は?
2085年??
西暦で???」
産まれたのが遥か先の未来でなければ。
補足すると、柴田艶夜が産まれたのは2080年である。
柴田艶夜が親の端末をひとりで貸してもらい、正確な時間軸と情報源にアクセスできるようになるまで、前世の没年から軽く半世紀が経過していた。
これはいただけない。
何せ、ゲームソフトとその筐体は、発売してから半世紀もすれば完全に高価なビンテージ品になってしまい、子供のお小遣いでは手が届かなくなってしまう。
例えば初代ファミリーコンピュータが1983年発売、
ニンテンドー64が1996年発売、
そして未開封のスーパーマリオ64がオークションに掛けられ、約1億7千万円で落札されたのが2021年の出来事だ。
半世紀どころか、四半世紀前のゲームソフトがいかに貴重なものかわかるだろう。
これで最低限プレイ可能な実機となると、一体いくらすることか。
「……いや、ダウンロード販売の拡大とアーカイブが残っていれば!」
そう気を取り直して調べたところ、ゲームの制作、販売企業は大惨事世界大戦前後に軒並み消滅。
当然の如く市場が壊滅したため、権利保護も働かず、違法なコピーが収録されたエミュレータが主流ゲーム機になる始末。
またか○国。
お前ら一度日本人に滅ぼされたのによくやるな。
いや、アメリカでさえディズニー利権を守るための著作権保護期間延長を諦めたのだから、海賊版がのさばるのも仕方ないのか。
などと斜め上から目線で歴史を見て、ついでに四葉家というイカれた集団にちょっとした敬意を表しつつ。
ざっと通販サイトで調べた限りでは、エミュレータの購入そのものはさほど難しくはないらしい。
が、それは過去作を掘り返すだけの、既に積み上げられた知的財産を再消費するだけの生産性のない活動に過ぎない。
創作の世界には、いつだって新しいものが生まれるべきだ。
ジャンルを盛り上げるには消費者だけではなく、市場と、製作者と、三者を結びつけるプラットフォームが必要だ。
当然、そのためには組織と金と時間が要る。
前世の大学でかじった経済学とヲタ知識、そして会社でOJTという名の実践で学んだなんちゃってマーケティングを用い、脳みその出来でいえば飛び抜けて優秀な奴の1歩後をゆく頭脳で導き出した結論は、以下の通りだ。
「よし、身売りしよう」
悲しいかな。
柴田艶夜は頭の出来に比例するかのごとく、頭の軽い人間だった。
☆
「はぁ……、やっと終わったわ。疲れたー」
とある集会場のレストルーム。
裏口近くのそこで残業上がりのOLのようにベンチへ背中を投げ出したのは、まだ中学生にもならない少女だった。
小学生にもかかわらず、子供、と呼べないのは、その生まれのためか育ちのためか。
既に魅惑の鱗片を宿している七草真由美の表情は、しかし徒労感に彩られ精彩さを欠いていた。
探知魔法師の交流会。
父に丸投げされた結果、七草家の代表として振る舞わざるを得なくなった集まり。
七草の娘としては、同年代以下の子供たちの相手など大した苦労でもない。
だが、この会そのものが企画倒れなのでは徒労感を隠しようもなかった。
真由美も当初は父の勝手さが癪に触り、七草家のお抱えではなく個人的なコネにしてやろうと意気込んだはいいものの。
そもそも七草やその他ナンバーズとの関係を持たない家系の魔法師で、かつ特殊な探知魔法を持つ魔法師がどれほどいるかという話で。
そんな在野の天才が、居たとしてもフリーのまま転がっていることはあり得ない。ましてや広く浅く開催を広めただけの集まりに来るはずもない。
むしろ、火に集る虫のように真由美と七草家に近づきたいために参加するような手合いばかりという体たらくだった。
唯一の例外は、
「―――おじゃましまーす」
「!?」
と、真由美の不意を突くようにレストルームにやってきた少女、柴田艶夜のみ。
慌てて姿勢を正す真由美を尻目に、突如として現れた艶夜は鼻歌交じりに自販機のジュースを買うと、闖入者の登場に慌てて身なりを整える真由美に差し出した。
「どーぞ」
「えっ?」
「疲れてるみたいだから」
「……そう、ありがとう。頂くわ」
スポーツドリンクとアップルジュース。
ほんの2つとはいえ、年上のお姉さんとして振る舞わねばならない真由美はスポーツドリンクを取るべきだろう。
そう思い、アップルジュースを選んだ。
(まさか、買ったばかりのジュースで毒殺なんてできないでしょうけど)
しかし立場ゆえ、こうしたふたりきりの場では警戒せざるを得ないのだ。
そんな真由美の心中を見透かしたように、柴田艶夜はスポーツドリンクをボトル半分ほど一気にあおる。
(……いえ、この子の魔法なら本当に見透かせるのよね)
真由美はアップルジュースの甘みが交流会での立ち回りで疲れた脳に染み渡るのを感じながら、休む間もなく頭の回転を上げる。
本来なら固有魔法の類いなど極秘の個人情報だが、真由美は参加者の探知魔法について既に把握していた。
何せ、彼らが魔法について説明を受け、個別に時間を取って相談した先輩の探知魔法師と経験のあるベテラン弁護士は、いずれも七草の息のかかった者たちだ。
もちろん、その情報は七草に吸い上げられる。
真由美が知っていても、何の不思議もないことだ。
知っている、その事実さえバレなければ。
(いけない!
私がこの子を疑っているのが察知されれば、それだけで警戒されてしまう)
そう思い、真由美は慌てて視線を切った。
魔法師にとって「見る」という行為は、それだけで深い意味を持つ。
探知魔法を受けた魔法師が「見られている」と察知することもそうだが、それ以上に重要なのは、魔法行使にかかわる「心理的距離」だ。
魔法を行使する対象が視界外へ出ると、たとえ座標位置を把握していても魔法の発動ができなくなるのは、魔法師の心理的距離に問題があるとされている。
つまり、視認している状況では、対象へ魔法師の心理的な働きが向けられる――――感情が向けられる、ということになる。
柴田艶夜の探知魔法とは、この視線に乗った感情を探知する魔法だ。
(たしかに厄介な相手だけど、手の内を知ってしまえば対処の仕様はある。
顔を合わせている間は余計なことを考えず、こちらのペースで、こちらも素直に相手に向き合ってしまえばいい。
だったら話術でどうとでもなる範囲よ。七草の長女としてこれくらいできないと話にならないわ)
脳内で話の流れを組み立てる真由美だが、この時視界の外でほくそ笑む艶夜に気づくことはなかった。
☆
「あーもう、どうしてこうなるのよ」
七草真由美は疲れ切った全身をベッドへ投げ出した。
思い出されるのは父の部屋で交わした会話。
いや、叱責だった。
勧誘した相手が、思ったより話に乗り気だったのはいい。
何故か触りの話題として考えていた魔法の話や年頃の女の子同士の会話デッキを蹴り飛ばし、七草のお抱え魔法師のことや労働環境なんてコアな話題を選んできたが、労基法に則った答えを出せばいいだけだ。
例えば、
Q:御社では社員に有給取得を認めていますか?
A:はい。当社では有給休暇取得の理由を問わず、有給取得と消化を認めています。
Q:私の能力で入社後やっていけるかどうか不安です。入社後の社員研修などは実施されるのでしょうか?
A:新入社員の方にはまず社員研修と適性検査を受けてもらい、本人の配属希望を考慮したうえで配属が決定されます。
Q:入社後の勤務シフトはどうやって決めているのですか?
A:当社ではフレックスタイム制を採用しており――――
等々。
実際のところ「お姉ちゃんの誕生日にはお祝いをしたいので休んでもいいですか?」「わたしもっと魔法の勉強がしたいです」「学校の無い日や放課後だけでもいいんですか?」などといった質問だったが、なまじ知識のある真由美はスラスラと答えられた。
答えてしまった。
面識を作り、誘いをかけるための下準備程度のつもりだった接触が、この時点でほとんど労働内容の交渉と化していた。
そのことに気づいたのは、父への報告のために話の整理をしている最中のこと。
結果、子供のお手伝いレベルの仕事内容に、労働基準局もビックリの福利厚生フルコースを約束してしまったのである。
何せ相手は子供だ。
改めての話の場で約束を違えれば「今回のお話は無かったことに」と逃げられるし、後から約束を破れば「七草家が騙して囲い込んだ子供を〜」などという騒ぎになる。
実は前世で精神と人格をすり潰すが如きブラック労働に晒された艶夜が、今世では特技を活かしてまともな労働環境を勝ち取ろうと画策した結果だが、何も知らない真由美にとっては己の脇の甘さを痛感させられる出来事でしかなかった。
だが。
「こうなったら、私が籠絡して七草家に自分から仕えたいと思わせてやるわ!」
ふんす、と気合を入れ直す。
丸投げした上に説教たれてくれた狸親父からは、要求にあった魔法訓練について、真由美の魔法訓練の時間を割いて艶夜に教えるよう指示された。
時間はたっぷりある。その間にモノにすればいい。
あの狸親父に自分の失態を奇貨にされているようで癪だが、ここで挽回しなければ長女の名が廃る。
「見てなさい、七草家長女の人心掌握能力をみせてやるんだから!」
☆
(どうしてこうなったのかしら)
ダメだった。
真由美はいま教師役の名倉と共に、当主である弘一の厳しい視線に晒されていた。
その視線には失敗に対する叱責の念が込められていることは、艶夜のような探知魔法を持たずとも疑いようがない。
いや、魔法の指導は成功した。
親睦を深めることもできたので「やっぱりこの話は」とはならないだろう。
むしろ、予想外に柴田艶夜の理解力が高かったことで、幼少から魔法教育を受けている妹達を、高度な魔法理論や応用の分野で突き放しているほどだ。
指導そのものは成功といっていい。
『ははー、つまり魔法って世界の法則を書き換えるんじゃなくて、指定のオブジェクトのステータスを示す値を書き換えるんですねー』
『エイドスの反動? 辻褄合わせ?
つまり見かけ上正常に運動してるように見せかけて世界を欺けばいいってことかー。
エル・プサイ・コングルゥ』
『える?』
『ぷさい?』
『こんがりぃ?』
時々よくわからないスラングが飛び出して姉妹揃って首を傾げることを除けば、魔法指導は順調だった。
順調過ぎた、とも言える。
事件はある時、つかの間の休憩中、艶夜が興味本位から名倉へ高度な魔法理論の質問をしている際に起きた。
『分解魔法っていうのがあるんですか?』
『へー、じゃあ探知魔法で遠距離から物質をエネルギーに分解すれば、遠隔核地雷とかできるじゃないですか』
『『『『!?!?』』』』
柴田艶夜は転生者である。
21世紀序盤に生まれ育ち、脱原発を叫ぶ団体を見るたびに「まーた核アレルギーかー」とか「はやく原発再稼働しろよ」くらいの感想しか持たなかった。
対して、2090年現在。
第三次世界大戦を経たこの時代を生きる人間にとって、核兵器とは20世紀終盤並みに禁忌だった。
まして、魔法師の存在意義の根底にある価値は、核兵器に対する抑止であり核戦争の阻止。
その魔法師が核兵器と化すことは、あまりにもデンジャラス。
そうしたら私も戦略級魔法師ですねー、などとへらへら笑うチビメガネと、衝撃を受けた現代人たちの間に隔たるジェネレーションギャップは如何ともし難かった。
「……由々しき事態だ」
それは七草家当主、弘一も変わらない。
七草に仕える魔法師が、歩く核兵器になることは受け入れ難かった。
既に幾度となく七草の敷居を跨いだ以上、放逐はむしろ柴田艶夜が何かやらかした時のことを考えると逆効果でしかないだろう。
積極的に制御すべきだ。
しかし飼い殺しにするには固有魔法が惜しい。
ではとうすべきか……サングラスの奥で熟考した弘一は、
「真由美」
「はい、お父様」
「これからお前が接する時間を増やすようスケジュールを調整する。
よく手綱を握るように。
歳も近いのだから、仲良くしなさい」
「……………………、はい」
丸投げしやがったこの狸親父。
内心でそう盛大に舌打ちしつつ、押し付けられた問題児をどうしようかと途方に暮れる真由美であった。
七「将来使える人材確保したいな……、せや! 長女が探知魔法持ってるし、ダシにして人材囲い込んだろ!」
艶「七草で勉強して将来立派な核兵器になります!」
七「やっべこいつ監視すとこ」
つまりこういうことですね。
このあと艶夜ちゃんは何故かしつこいくらい道徳を解かれたり、七草姉妹とお出かけして動物園のふれあいスペースで猫まみれにされて生命の温もりを味わったりしますが、
「いや遺伝子組み換え人間で交配実験までして品種改良してる魔法師に道徳を説かれてもなぁ」
くらいにしか思ってません。
でもあまりにしつこいので最終的に艶夜ちゃんが折れました。
国民感情には配慮します、くらいですが。
にしても、どうして大人って歳が近い子供同士なら仲良くなれると思ってるんですかね?(すっとぼけ)
それと、艶夜の探知魔法は今回出てきた内容と異なります。
これから交渉する相手に手の内を明かすわけがないんだよなぁ。
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入学編③
赤評価がついたのが嬉しかったので初投稿です。
主人公と同じ学年で友人の妹で生徒会にも入ってるのに、ここまで会話シーンなし。
今回も会話シーンなし!
司波達也にとって、柴田艶夜は要注意人物だ。
最大の警戒対象と言ってもいい。
十師族筆頭である七草家お抱えの探知魔法師であり、生徒会の庶務、そして達也のクラスメイトの妹。
生徒会とプライベートな交友範囲の両方に出没するものの、なかなか接点を持てないでいるために、行動原理さえ掴めていない。
事実上、お互いに名乗るだけに終わった初対面を除けば、初めてまともに接触したのは二日目の放課後だった。
「あなたたちブルームが、今の時点で一体どれだけ優れているというんですかっ?」
意外にも強く反論した美月に一科生たちの敵意が集中した瞬間、自己加速式で密かに(おそらく達也と深雪しか気づくことはできなかっただろう)校舎を飛び越えこちらへ一直線にやってくる人物を感知した。
「お兄様!」
第三者の影を警戒しつつも、達也は深雪を守るため右手を突き出していた。
手を伸ばしても届かぬ距離に、手を伸ばす。それが何であったにせよ、この場では、何の結果も生まなかった。
何故ならば――――
ゴリッ、と音を立てて、特化型CADを握る一科生の手首に指先ほどの鉄球が直撃したからだ。
「ギッ、」
押し殺したような悲鳴を上げ、CADを手から取りこぼす。
その振り向く先には、まるで勝手に姉妹の制服を着た小学生のような少女、柴田艶夜がいた。
「はーい、生徒会庶務の柴田艶夜ちゃんでーす。
私は校則について詳しくないので素人意見になってしまって申し訳ないんですが、人間に向けての魔法攻撃とか、たとえ校則に反してなくても犯罪なんですけど、その自覚ありますか?」
片手を制服のポケットに突っ込んだまま、一歩踏み出すごとにゆらゆらと前後に揺れる無表情が、不気味にも近寄ってくる。
顔つきこそ愛嬌のある美少女であるものの、眼鏡の奥から覗く瞳からは一切の感情を読み取ることができない。
だがその感情を押し込めたポーカーフェイスが、かえって怒気を断熱圧縮したかのようで、妙な威圧感を醸していた。
その圧を振り切るように、CADを落とした一科生が噛み付いた。
「なんだお前、一科生のくせに二科生の味方をするのか!」
「法律と正義の味方なんですけど、人の話ちゃんと聞いてました?
それとも先に魔法攻撃を受けた反撃だったんでしょうか、自分の身を守るためだとしたら謝りますけど」
「どっちが正義かなんて聞くまでもないことだ!
一科生の誇りを守るために決まってる!」
「へーそうなんだーすごいなー。
警察がその言い訳を聞いてくれるかどうか楽しみですね?」
ギクリ、と体を震わせるものの、引くに引けなくなった一科生は、まだ痺れの残る手でCADを拾い上げる。
そして、その銃口をゆっくりと柴田艶夜に向けた。
「……そこまで言うのなら、やってみろ。自分の手で捕まえられるとでも思ってるのか?」
「ええ、もちろん」
大仰に頷く艶夜は、
びしっ、と相手を――――越えた先の、向こう側を指差す。
「捕まえてやりますよ。
向こうで高みの見物決め込んでる生徒会長と風紀委員長がね!」
一同が振り返ると、やれやれという顔の七草真由美と渡辺 摩利がそこに居た。
☆
その場は達也と深雪がとりなし、森崎家のクイックドロウを見学していたところに、艶夜がはやとちりして鉄球をブチ込んだ、ということになった。
「というわけで、艶夜ちゃんは一緒に風紀委員まで行きましょうか?」
「なんでさ!」
「さっきのスリングショット、勝手に持ち込んだでしょ?
それ、危険物よ」
「いや、これは、そう!
イタズラ用のパチンコだから!
武器じゃないから!」
「はい、連行ね」
「なんでさ!」
……などという一幕もあったが。
この時達也が感じた、七草真由美に引きずられる柴田艶夜への謎の既視感がしばらく首をもたげるのだが、その正体が判明するのは翌日だった。
服部刑部少丞範蔵との模擬戦の後。
生徒会書紀の中条あずさが、シルバーシルバーうんたらこうたらじゅけむじゅげむと興奮気味にまくし立てている時、柴田艶夜が真由美の袖を引いてこう言った。
「ねーねー真由美さーん、あれ買ってー」
「あんな高いもの買えるわけないでしょ!
いま持ってるので我慢しなさい」
「っ!」
その時、達也は見た。
市原鈴音が、クール系美人会計のキャラを守るために神速で口元を抑えたのを。
……司波達也には、深雪との日常を守るという使命がある。
たとえ警戒対象が玩具をねだる幼児と若奥さんにしか見えなくとも、深雪の身の安全のために、警戒を怠る訳にはいかないのだ。
はんぞーくんが感じた既視感もこれです。
あと分かりづらいかもしれませんが、森崎に鉄球をブチ込んだ艶夜ちゃん、美月に害意を向けられて割とキレてます。
司波兄妹が誤魔化してなければ本気で警察に突き出したかもしれません。
真由美さんが引きずって行ったのも、艶夜が何するかわからないからですね。
まあその結果、はやとちりで鉄球ブチ込んだヤベーやつになってますが。
念の為言っておくと、本格的なスリングショットで飛ばしたパチンコ玉は近距離なら拳銃弾並の威力です。
どう考えても玩具じゃ済みませんので良い子も悪い子も決して真似しないでください。
にしても、どうして達也くんを登場させると茶番が捗るんでしょうね。
こんなとこばっか筆が乗る。
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入学編④
それもこれも、皆様の応援のおかげです。本当にありがとうございました。
皆様の温かい声援にお応えして、次かその次で打ち切りです!(←おい)
それはそうと、原作の地の文を全く違う意味にしてお兄様を遠い目にするのが楽しくて仕方ない。
ようやく―――ほんとうにようやく事態が進展したのは、新入部員勧誘週間が終了してからのことだった。
昼休み、エリカとレオに懇願されて居残りをしている時のこと。
「エリカちゃん……一〇五二msよ」
「あああぁ!
言わないで!
せっかくバカで気分転換してたのに!」
「まあまあエリカちゃん、もう少し頑張って。
そうしたらいいことがありますよ」
「いいことぉ?
それって何よ?」
その時、実習室の扉が破られた。
「なんだかんだと聞かれたら!」
「わ、びっくりした。艶夜じゃない」
やっほー、と手を振りながらやってきた艶夜は、片手に提げていた手提げバッグの中身を広げた。
当然のように一科生である艶夜が一行に加わったが、姉である美月がいることもあって、クラスメイトたちと昼食を共にする機会は達也よりも多い。
艶夜も生徒会室での昼食の誘いはあったはずだが、そんなものは「プライベートだから」の一言でぶっちぎって好き勝手していた。
「美月とエリカたちに、お昼の差し入れだよー」
「いや、それは……」
取り出されたカップ麺に達也は眉をしかめる。
ただでさえ遅れている実習内容に、空腹で集中力が途切れてくる頃合いに食べ物を持ち込まれても困る。
しかし艶夜は「ちっちっ」とちょっとムカつく仕草で指を振り、ご安心をと芝居がかった台詞をのたまう。
さすがに集中力が削がれないように配慮して、匂いが抑えられた物にするくらいの分別はあったのか。
「こちらに取り出しますは、カップラーメンカレー味大盛り!」
「ダメじゃないか」
思いっきり匂いが食欲を刺激するやつだった。
何なら避難所で食べたりすれば、その匂いで腹を空かせた他の避難者から顰蹙を買うこと間違いなしのチョイスだった。
柴田艶夜はよりにもよって2つも取り出したそれのフタを開き、水のボトルを手首のスナップで振り回しながら魔法で加熱した。
お湯を注がれたカップ麺が湯気を立ててその芳醇なスパイスの香りを広げてゆく。
ごくごくり、とふたつ喉が鳴った。
「これがエリカとレオの今日のお昼ごはんです」
「空きっ腹にこれは……」
「いっそ暴力的な匂いね」
「ただし、待ってあげるのは3分だけ!」
「「!?」」
「3分が過ぎても課題が終わらなかった場合、一回失敗する毎に私がひとすすりするので、二人の食べる分はどんどん減っていきます!」
「よし! これで決めるわよ、レオ!」
「応よ! カレー麺が俺らを待ってるぜ!」
……達也にとって、妹が作る手料理以外の食べ物には、栄養補給と息抜き程度の意味しか持たなかった。
だからいつの間にか、他の誰もが自分と似たような食事事情をしていると思っていたのだろう。
自分は少し、思い違いをしていたのかもしれない。
――――そう、思った。
☆
結局はやる気だけで課題のハードルをクリアすることはできず(それでも効果はあったと認めざるをえないが)、達也が裏ワザを教えることになったが、エリカとレオは無事にカップ麺にありつくことができた。
なお、エリカは一口、レオは二口食べられた。
途中でやってきた深雪の差し入れも平らげ、二人は手を合わせた。
「ごちそうさん!
いやー、昼飯食いっぱぐれるかと思ったぜ」
「ホント。深雪と艶夜には感謝しないとね」
「エリカ、私に感謝する必要は無いわ。
私はお兄様に従ってそうしただけだから、その感謝はお兄様に捧げるべきよ」
「私にはもっと感謝してくれてもいいんだよ?」
「深雪は謙虚(?)過ぎるけど、艶夜は恩に着せ過ぎ、よっ!」
エリカが艶夜の額で指を弾く。
いったぁ! と大げさにのけぞる艶夜に、集まった友人たちは笑いに包まれた。
柴田艶夜は、達也と深雪を中心とする友人グループにとって、エリカとはまた違ったムードメーカーとしての立場を既に確立していた。
達也としては、未だ詳細不明な探知魔法師を深雪の側にうろつかせることは許容し難い。
だが、既に懐に深く入り込まれてしまった以上、排除にはそれなりの覚悟が必要になる。
ならば、相手の慣れ慣れしさを逆手に取ることで、その秘密を暴くべきだろう。
「そういえば、美月はどうやって艶夜が来ることを知ったんだ?
端末を操作する素振りはなかったと思うが」
「あっ、それは……」
「お答えしよう!」
美月が答えていいものかとためらうも、艶夜は勢いよく立ち上がると、教師に指名された模範的な生徒のように答えた。
「私と美月は、双子のシンパシーでテレパシー交信ができるのだー!」
「「な、なんだってー!」」
「……いや、シンパシーなのかテレパシーなのかどっちだ」
そのどちらでもないだろうが。
達也の身も蓋もない言葉に、やれやれと首を振ると、艶夜は腰を下ろした。
まるでエリカとレオのような、打てば響く反応を期待していたようだが、短い付き合いでもそれは無いと分かっていただろうに。
「というのは冗談で、探知魔法を使ったんだよ。
それで美月が居残りしてるのが分かったから、お昼買って行ったの」
「けれど艶夜?
それだと結局、艶夜が来ることを美月に知らせることができないわ」
「深雪の疑問はもっともだけど、それも問題ないよ。
そう、探知魔法ならね」
「……まさか、信号代わりにしているのか?」
「達也君、せいかーい」
艶夜が両腕をあげて大きく○をつくった。
探知魔法は、探知を受けた魔法師にとって「見られている」という認識を与える。
それを利用し、何度もオンオフを繰り返すことでトンツー符号を送ることができる。
理論上は確かに可能だ。
美月と艶夜は、艶夜が探知魔法の性質を知ってからというもの、二人だけの秘密の伝達手段としてモールス信号を覚えたらしい。
当時小学生だった子供の遊びとしては高度なものだが、美月の頭の回転の速さを考えると納得もできるというものだろう。
「でも艶夜にモールス信号が使えるなんて意外だね」
「うん、とても意外」
「ほのかも雫もどういう意味で言ってるのかな!?」
正直に言えば達也も二人と同じ気持ちだが、言わずとも全員が共有している認識だろう。
「だが、符号を短縮してもそんな使い方をすれば魔法力が保たないはずだが?」
「そうだねー、私の地力の魔法力って美月と変わんないし。
でも私の探知魔法って、対象を直接探知してないからそんなに負担無いから」
「は? 探知しない探知魔法って、それ結局何する魔法なのよ?」
「簡単に言うと、周りの見る目がわかる魔法かな?
つまり誰が美月のおっぱいをジロジロ見てるかがわかるってこと。しかも下心まる見えで」
「ちょっと、艶夜ちゃん!?」
「へぇ……。下心まる見えねえ?」
「そこでどうしてテメェはこっちを見てやがる!」
「…………」
どうも煙に巻かれたようだが、それでも達也の持つ知識を元にすれば、探知魔法についてはおおよそ見当つく。
森崎の件で美月の元に駆けつけたのは、あの時啖呵を切った美月に一科生たちのヘイトが集中したことを察知したのだろう。
居残りの場所も含めて、位置を探ることもできると考えていい。
それだけならば何の問題もない。
七草家が囲おうとする程度には便利で有意な人材だろうが、それだけだ。
―――感知不能な隠密性を除けば。
この一点が達也の新たな頭痛の種になった。
推測するに、柴田艶夜がその奇妙な探知魔法を得た原因は、美月と同じ霊視放射光過敏症だろう。
血筋故なのか生まれ持ったその体質に加え、おそらく遠視系の探知魔法を併せ持って産まれたのが美月との違いだ。
そして体質と合わさった探知魔法は、探知対象ではなく、対象へ向けられた微小なプシオン粒子に敏感に反応した。
対象へ向けられた感情を探知するように、変質した。
これにより、「対象を見る」必要がなくなったために、探知魔法としては異色な特徴として、「対象を探知しない」探知魔法と化したのだ。
この隠密性は、達也の持つ『精霊の目』をしても及ばないほどの特色と言っていい。
おそらく艶夜自身が強く「見よう」と意識することで相手に感知させることができるのだろうが、それを除けば、いつ何時覗き見られていても気づくことはできないだろう。
無論、何の理由もなく探知魔法など使うことはないだろうが、
(……不味いな。今までの様子からして、艶夜は常に美月だけは探知魔法のマークを外していない。
そして、誰よりも美月に対して警戒心を持っていたのはこの俺だ)
身内のすぐ近くに、やたらと身構えている人間が常につきまとう状況であればどうか?
当然、探知魔法を使ってでも相手の素性を探ろうとするだろう。
誰だってそうする。達也だってそうする。
それで情報が出なければ、最悪四葉の情報網や、軍への借りを作ってでも相手の素性を探ることもできる。
そうしたコネクションは、他者には無い達也のアドバンテージと言っていい。
タダで使わせてもらえるコネなどありはしないが、その選択肢自体が大きな特権だ。
……柴田艶夜も、七草家の情報網から司波達也を探っている可能性があるが。
(これは……、俺ひとり対処できる限度を超えているな)
もはや処置なし。
白旗同然の判断を下した達也は、師匠である九重八雲へ相談することに決めた。
☆
達也の懸念通り、艶夜は司波兄妹へその探知魔法を使い、監視していた。
していた、とはこの場合、過去形である。
そもそも監視者から監視対象へ、監視手段が存在することを明かす必要はない。
それをあえて教えたのは、もう監視を続ける気がないからだった。
では、監視をやめたのは何故か。
その訳は、第一高校に入学して初めての週末、夕方の柴田家に遡る。
「あーもうやってらんない、やめたやめた!」
「ど、どうしたの艶夜ちゃん。いきなり壁なんか殴りはじめて。
高校からドロップアウトするの?
それともまたRTAの世界記録に挑戦して乱数に負けたの?」
「そうじゃないよ美月、司波兄妹だよ司波兄妹っ。
なんか怪しいから今日一日探知し続けたんだけと、朝から晩までイチャイチャイチャイチャと!
クリスマスにこれからラブホに入るカップルでもあそこまでじゃないから!」
「達也さんと深雪さんを探知って、ラブホって、艶夜ちゃん何してるの!?
イチャイチャってどういうことなの??」
「どうもこうも、あの二人ときたらお互いの好意を受けたら倍にして相手に返すし、お互いにラブラブ光線飛ばし合って延々と増幅させ続けてるんだよ。余波食らって精神ゴリゴリ削られ続けるこっちの身にもなれっての!
あれはもうセ○クスだね!
究極のコミュニケーションという意味でのセ○クスだよ!!」
「た、達也さんと深雪さんが……あわわ///」
「もうお前ら付き合っちゃえよ!
結婚しろ!!
爆発しろーっ!!!」
……こうして司波兄妹は、その愛の力で不埒な覗き魔を撃退した。
彼らの日常は守られ、これまでと変わらずに続いてゆくことだろう。
ただ一点、美月から兄妹二人に向けられる視線を除けば。
今までも妖しい妄想をはらんで熱を帯びていた視線が、これまで以上に過熱されたことは言うまでもない。
というわけで、艶夜の探知魔法の詳細と、お兄様との情報戦(笑)でした。
まだいくらか応用が残ってますし、『入学編②』で使っていた「自分へ向けられる感情の探知」もできますが、ひとまずこれがしばたつやの探知魔法の詳細です。
遠視系ではあるものの、光学系の情報がプシオン波の観測で埋められているので、実際の光景は見えなかったりします。
それと「お互いにラブラブ光線飛ばし合って」について。
妹様のブラコンについては言わずもがな。
お兄様のについても自覚が無いだけで完全にシスコンですし、脳の強い情動を司る部分がどうとか妹だけは例外とか、それ以前に入学編を見た限り「妹に手出しされてブチギレたシスコン」以外の何者でもないんですよね。
なんとも思っていないってことは無いわけです。
つまり「深雪に特別な感情を持っている」ことは確定。
まあ恋愛親愛兄弟愛はあるでしょうが。
いずれにせよ艶夜があてられたのはこれなんですね。
あと爆発しろとか言ってますが決して、
付き合っちゃえよ → 婚約イベント
結婚しろ → 結婚
爆発しろ → 全自動地球破壊お兄様起動
という意味ではありませんのであしからず。
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入学編⑤
入学編を書き上げたと言いながら投稿中に書くつもりで一文字も書いてなかったのをなんとか書いたので初投稿です。
次で入学編最終回、あとおまけを書いて終わります。
もう少しだけお付き合いください。
有志同盟が決起した翌日、達也と深雪は、いつもより早めに家を出た。
早めに登校する為ではなく、駅で待つ相手がいるためだ。
「おーい、達也くーん、深雪ー!」
「?」
あいにく待ち人ではないが、どうやら艶夜に見つかったらしい。
……完全に姿が人混みに埋もれ、深雪はそのちんまりした姿を見つけることができていないが。
代わりに待ち人である真由美が先に現れ、その背中に張り付くようにして艶夜が現れた。
「達也くん、深雪さんも、おはよう。
どうしたの? こんなに早くから」
「会長、おはようございます」
「お疲れさまです」
朝からお疲れも何もないだろうが、深雪がそう口にしたということは、幼児の引率に見えたのは達也だけではなかったということだろう。
「いま、何かすごく失礼なことを考えなかった?」
「気のせいだ」
「気のせいよ」
「ほらやっぱり!」
声が揃ってしまったのが動かぬ証拠となった。
大きなブック型端末を胸に抱え、艶夜は憤慨する。
その膨らんだ頬を真由美がつつくせいで余計に親子連れにしか見えなくなったのだが、真由美の名誉のためにも指摘することは憚られた。
話題を逸らすために本題に入ると、明日の放課後には有志同盟との公開討論会を行うという。
昨日の騒動が予想以上の急展開を迎えていたことに達也と深雪は驚きを隠せなかった。
単身で討論会に挑む真由美の胆力もそうだが、
「もしあの子たちが私を言い負かすためのしっかりした根拠を持っているのなら、これからの学校運営にそれを取り入れていけば良いだけなのよ」
「まっ、そんなの無理だろうけどねー」
まるで自分が論破されることを期待しているかのような真由美と、唇の端を釣り上げた艶夜の対比に、とてもひどい企みを垣間見たからでもあった。
悪びれた口ぶりで手元の端末をぽんぽんと叩くその姿からは、確信に近い自信を感じられた。
「そういえば、艶夜はどうして朝から会長と一緒に居るんだ?
いつもは美月と登校してるのに」
「昨日は七草家に泊まり込んで、一高の部活動予算と実績の記録をまとめてたんだよ。事前の折衝で向こうが口にした唯一具体的な指標だったからね」
よく見れば、艶夜の目元には寝不足からくる隈が浮かんでいた。
化粧でよく誤魔化してあるようだが、昨夜から徹夜で準備していたのかもしれない。
「達也くんはさっき対策を練る時間も無いって言ったけど、面白いことに相手はまともに準備をする様子さえ無かったよ。
私が生徒会と図書館で調べた限り、ここ数ヶ月で部活動予算と実績のデータベースにアクセスした生徒はゼロだったからね」
「それは……おざなり過ぎるな」
「信じられない杜撰さね」
「情報は武器だって言うのにね。
まあ、相手が武器を取らなければ、こっちが一方的に武器で殴りかかれるってことなんだけど」
ふんす、と胸を張るだけの資料はできたのだろう。
本来ならまとめた資料を真由美の頭に詰め込むか、艶夜が共に登壇して補佐する必要があるところだが、それも解決する手段があることを既に知っている。
まさか、真由美が手元に便利な駒を抱えておいて、モールス信号のひとつもできないはずはないだろう。
「なるほど。相手が期待はずれなら、完膚なきまでに叩くと。
会長も人が悪いですね」
「まあ、失礼しちゃうわ。私はそんなこと考えてもないのよ?
むしろ乗り気なのは艶夜ちゃんよ」
「モチのロンですよ真由美さん!
ここで妥協したら付けあがりますし、今後舐めたこと言わせないためにも徹底的に叩き潰すべきです!」
「意外だな。艶夜はこの手の主義主張は祭ばやしくらいにしか捉えないと思ったが」
「それはまあね。
実力行使で革命騒ぎを起こしておいて、改善方法は倒した相手に丸投げする頭スッカラカンの運動家とか、便器に吐いた痰カスよりも価値無いし興味もないよ。
達也君だってそうでしょ?」
いや、誰もそこまでは言っていないのだが。
その場の全員がドン引きして口を開けないでいる間に、艶夜はちらと深雪に目をやった。
「それに、私だって学校で余計な騒動を起こされて、美月が巻き込まれでもしたらたまらないからね。
達也君だって、そうなんでしょ?」
……達也は誰のためにこんな朝早くから出向いたとも言っていないのだが。
それでも深雪のために動いているのは艶夜の探知魔法が無くとも自明であるし、同じく身内のためだけに行動する人間がいてもおかしくはない。
いや、きっと柴田艶夜が優先しているのは、それだけなのだろう。
はじめてこの奇妙な同級生を、すこしだけ理解できたような気がした。
しかし、
『ごめんね、
達也君』
「!」
『達也君が、
美月を通して私の魔法を警戒していたのはわかってる。
私と達也君が同じことを考えている限り、
たとえ真由美さんに頼まれても達也君と深雪の不利益になることはしないって約束する。
だからこれからも美月と仲良くしてね?
それと、
--・・ --・-- ・・-・- ・・-・ -・-・・ ・・・- -・ ・・ -・-・- ・-』
同時に新たな謎が達也にもたらされた。
☆
達也と深雪が、頼れるけど頼りたくない師匠、九重八雲の下を訪れたのは夕食後のことだった。
「柴田美月くんでは、君の霊気を見ることはできても、理解することはできない。
君のことを理解できるほど魔法に精通しているならば、自分の『目』に振り回されたりしないだろうからね。
妹くんは別だろうが」
司甲、そして柴田美月についても、予め頼んでおいた調査に比べれば前座にすぎない。
柴田艶夜の探知魔法についての情報と対策、そしてもう一つの謎について聞くために、達也は深雪を伴って足を運んだのだ。
「柴田艶夜くん。彼女の場合、体質が探知魔法と完全に一体化しているらしい。オンオフのコントロールという意味では最初からできていたようだ。
調べた限りだと、オーラカットコーティングされた眼鏡を購入した記録も無かったよ」
「本人が言うには、視力矯正用の眼鏡を掛けている理由はゲームのやり過ぎで視力が落ちたからだそうですね。
昔見た映画のせいで眼球にレーザーを当てるレーシック手術は受けたくないとか」
「僕としては、その理由は建前で……まあ、感情的なものを建前と呼ぶのもなんだけど。
実際の所は目の変質を嫌ってレーシック手術を避けているんだろうね。艶夜くんは自身の人材としての価値の殆どはそこだと自覚しているんだろう。
で、肝心の探知魔法についてだけど」
ようやく本題といったところで、達也は居住まいを正そうとして気づいた。
見慣れた坊主の胡散臭いニヤケ顔が、どこか誤魔化すような雰囲気を放っている。
剃り上げた頭を叩く手が、ぺしんとどこか申し訳なさげな音を立てた。
「いやー、参ったね。調べてみたんだけど、事前に達也くんから貰った以上の情報は出てこなかったんだ。
出生、学歴、その他諸々に七草家以外とのつながりは見つからなかったよ。
唯一見つかったのは、七草家主催の探知魔法師交流会の参加者で、柴田艶夜くんと思しき人物が自分へ向けられた感情を読み取れるらしい、とブログに書き残していたくらいだね」
「先生が探ってもほとんど情報が出てこなかったのですか?
それはもしや七草が……?」
「いや、それはないよ。もし七草家が柴田艶夜くんの情報を隠蔽するならネット上のブログなんて個人情報云々と理由をつけて消してしまうだろう。
それどころか、交流会は会場で起こったトラブルが原因で打ち切られたようなんだけど、そちらも隠そうともしていなかった。
七草家にとって不都合だろうに、公的な立場ってものは厄介だねえ?」
八雲の言葉に、びくり、と深雪の肩がわずかに震えた。
だが八雲には達也と深雪の立場を揶揄する意図は無いようで、ひらひらと片手を振ると冷めかけたお茶に口をつけた。
「七草以外に情報が残っていないのは仕方がない。
しかし奇妙なことにね? 七草でも艶夜くんと面識のある人間は限られているようなんだ」
「七草会長の傍に居て、ですか?」
「つまり艶夜には、俺達に話した探知魔法とは別に隠している秘密があることになる。
もしかすると……」
達也に思い当たる節はひとつ。
艶夜から別れ際に告げられた言葉がキーワードかもしれない。
残されたもう一つの謎。
それについて調べた八雲は、しかし肩をすくめ首を横に振った。
「そちらも、手がかりは無しだよ。
何一つ出てこなかった。特定のキーワードだけを宛もなく探すなんて真似したら、こちらの情報網の在り処を発信するようなものだからね。それで低調だったというのもあるが」
「では師匠は、これは艶夜の撒き餌だと?」
「それにしては食いつく釣り餌が見当たらない。
罠ですらないとなると、いよいよもって謎だね」
「お兄様。そのキーワードとは何でしょうか」
あの時、別れ際に艶夜から告げられたメッセージ。
「ファミチキください、だ……」
「ふぁみ……?」
「…………、ふむ」
新たな謎の存在が、3人の間に重い沈黙をもたらした。
更新は遅れましたが感想で書かれる前に投稿できたのでセーフです。
「ところで艶夜くんの探知魔法対策だが、案外難しくはなかったよ。僕ひとりで行動する限り、僕へ視線や感情を向けられることは無いからね。
だが、達也くんと深雪くん、君たち兄妹には無理だろう」
「それは何故でしょうか、先生」
「たとえばの話だよ?
深雪くんは達也くんと生活を共にしながら、視界に入れず、感情や意識を向けず、一切居ないものとして扱いながら生活を送れるかい?」
「……………………………………………。
お兄様、深雪は、深雪は……っ!」
「落ち着くんだ深雪、そんなことはしなくていいから泣き止んでくれ。
寺ごと俺が氷漬けになる」
お兄様の目を欺くには八雲曰く、
『気配を隠すのではなく、気配を偽る』
必要があるそうですが、艶夜の目は普通に姿を隠せば普通に振り切ることができます。
それが司波兄妹にとっては不可能事に近いのですが。
つまり艶夜ちゃんと司波兄妹は、お互いに身を削る覚悟で挑まないといけない天敵同士なんですね。
しかも敵ではないから排除もできないという……
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入学編⑥
今まで書いてきて気になった点をまとめたり考え直したり最終話くらいしっかりしたプロット立ててやろう!と意気込んでステラリスしていたらめっちゃ時間がかかりましたが初投稿です。
何故か真面目な文章を書こうとすると拒絶反応が出てしまって遅れましたが、決して艦これとドルフロのイベント掘り周回で忙しかった訳ではありません。
あと、FTLはいいぞ。
服部刑部は己の至らなさを知っている。
そう余人が耳にすれば十中八九は嫌味と受け取るだろう。
魔法科二年生としてはトップクラスに優秀な成績を収め、魔法至上主義かつ一科生主義な服部だが、だからこそ自身の劣る点には敏感だ。
現にそれを感じさせられる相手はこの第一高校に、上級生に限らず存在する。だからこそ、服部は彼らに劣るまいと精進してきた。
身近なところで言えば、二年生の中条あずさと五十里啓。
彼女らの専門分野ではとても及ばないが、魔法理論全体の成績では服部も負けるつもりはない。
去年の新入生総代を奪われた時から一年間、実に張り合いのある相手だった。
最近では司波達也。
親友である桐原相手に近接戦闘も多少はこなせるとの自負を完膚なきまでに粉砕した新入生。
なまじ魔法技能による蹂躙を得意とするために、一方的な制圧に必要な技量の差を熟知する服部にとって、あの模擬戦はプライドを強く刺激するものだった。
そしていま。
「―――魔法競技系のクラブに予算が手厚く配分されているように見えるのは、各部の対外試合実績を反映した部分が大きく、また非魔法系クラブであっても全国大会で優秀な成績を収めているレッグボール部などには魔法系競技クラブに見劣りしない予算が割り当てられているのは、お手元のグラフでお分かりいただけると思います」
公開討論会が行われている講堂、その壇上での討論は終始真由美の優位に傾いており、徐々に演説会の様相を呈してきた。
演説が独演に変わるのも時間の問題だろう。
つきそって登壇した服部も、その出番は無く真由美のために力を奮う機会はない、ということだ。
そもそも、服部が登壇したのは真由美の護衛が目的だが、力で劣る二科生が暴力に訴えるとははじめから考えていない。
ただでさえ服部の実力は、部分的にはともかく、総合的に考えて真由美に劣るというのに。守るというのもおこがましい話だろう。
……己の手で守りたい、という欲求には蓋をするとして。
分不相応な望みを除けば、あとには副会長としての立場からの義務感が残る。次代へと受け渡される学校運営を引き継ぎ、つつがなくこなすことが先輩方から受けた恩を返す一番の方法だろう。
それができる人材と期待されて任されるのだ。応えなければ男が廃るというもの。
「数年前の大会でレッグボール部は予選三回戦で敗退したことを理由に予算が引き下げられたそうですが、同じ年のボード部は予選二回戦で敗退したのに予算は減らされなかったと聞きました。
これは魔法系クラブを不公平に優遇している証拠です!」
そう意気込む一方で頭の冷めた部分が訴えるのは、服部の能力で可能なことは、真由美にとって容易く可能だという実力差だ。
魔法師としての能力だけでなく、十師族直系としての社会的立場、立場がら身につけた社交性とコネクション、対人経験からくる話術と交渉力。
真由美が持つそうしたソフトパワーがまさにいま発揮されており、そのいずれも服部には無いものだ。
無論有事となれば、真由美が十師族として非常時の権力を発揮すれば、服部自身その身を剣にも盾にもする覚悟はある。活躍するだけの実力もだ。
だが、乱世の英雄志望など平時は厄介極まる。
まして、目の前で煽られた火種が引火するかどうかという時に英雄願望を振りかざすことは、母校のために最善を尽くす真由美に対する背中の一突きに等しい。
よって、服部の出る幕はない。
如何に義務感を持ち、明確な意志の下で力を磨いたところで、いまこの瞬間に望まれる力でなければ意味が無い。
「数年前の大会成績についてのご指摘がありましたが、記録を参照する限り四年前の夏季大会の事ですね。該当年度に行われた予算会議では、対戦相手と試合内容を考慮した結果、そのような予算配分の変更があったと記録されています」
服部が警戒しつつも思案に耽っている間に、予想よりは鋭い(だが年度を把握していない時点で詰めが甘い)意見に苦しい言い訳を口にする展開になった。
だが、有志同盟が気色ばんで声を上げる前に真由美はその勢いを起こりの段階で叩き潰す。
「ボード部の対戦相手はその年の全国大会優勝校であったのに対し、レッグボール部の対戦相手は4回戦、準々決勝で敗退しています。加えて敗戦の原因は、試合前の練習中に部内で起きたレッグボール部所属生徒同士のトラブルの処分によるレギュラーの欠員、それも魔法を使用した傷害未遂事件でした。それらに起因して連携に支障をきたしたことが問題になりました。
これらの理由から、レッグボール部の予算減額は予算会議での懲罰的な意見が強く影響した結果です」
他にも類似した例を挙げてゆき、予算の不公平がないことをアピールするとともに、真由美は魔法系非魔法系を問わず部活動に所属する生徒の支持を集めてみせる。
その演説は次第に反論というには逸脱していったが、なおも続けられた。有志同盟はそれを指をくわえて見ていることしかできなかった。
彼らが味方につけたかった非魔法系クラブの支持を目の前で奪われたのだ。強引に遮ってでも声を上げたいところだが、支持者の側はというと自分たちが正当に評価されていたことに拍手を始め、それを真由美が手振りで抑えてもなお止まないほど。
講堂中から顰蹙を買うくらいなら、黙り込むほうがまだマシ。そう判断できる程度の理性はあるらしい。
(まさしく情報は武器、か……)
控えめに拍手に加わりながら眼下に目をやると、長身の鈴音と摩利の影で端末を叩く小柄な後輩の姿がある。
ここ連日の徹夜で目元の隈を隠しきれていない少女は、しかし欠片も眠気を感じさせないギラギラとした目つきで作業に勤しんでいた。
柴田艶夜。
一科の新入生であり、生徒会庶務。
そして七草家お抱えの探知魔法師だ。
この独壇場の立役者でもある。
いくら生徒会長とはいえ、在校中の期間ならともかく過去の部活動実績をその詳細まで網羅するのは無理がある。そこで艶夜は今回の公開討論会にあたり、あらかじめ指摘されるだろう過去の事例を精査し、手元の端末にまとめてきた。
そしていざ指摘されると真由美の反論が始まるまでに簡潔にまとめた情報を呼び出し、探知魔法の応用で真由美に伝え、並行して真由美がマルチスコープで艶夜に求めた関連情報とその詳細を元データから引っ張ってくる。
不公平な予算分配が行われた、と指摘されたのは事前に艶夜がマークしていた事例であり、そして類似例を次々と挙げていったのは真由美が攻め時と判断したのだろう。
その甲斐あって、講堂に集まった生徒たちは一科二科を問わず真由美を支持している。
ただ整然と反論し守りに徹するだけでも有志同盟は勢いを失い失脚したことだろう。
それを反撃に繋げ、死に体にするため完膚なきまでに叩くことができたのは、艶夜が用意した武器のおかげだ。
生徒会で資料整理といえば会計の市原鈴音か書紀の中条あずさが取り掛かる仕事だが、新入りの庶務に任されたのはひとえに本人が持つ嗅覚を買われてのこと。
艶夜は公開討論会を開くと決まるや、すぐさま戦況を有利にするため武器の確保に走った。
そしてすぐに有志同盟がデータベースにアクセスしていないことを突き止め、
『敵がマトモな武器も持たずに突っ込んでくるってことは、たくさん弾丸を用意すれば機銃掃射みたいに薙ぎ払えるってことですよ! 一網打尽にしましょう!』
と、意気揚々と実弾の用意やデータベースの封鎖を提案したのだ。
後者は公平性を損なうため却下されたが、前者に関しては許可が下りた。
「実を言えば、生徒会には一科生と二科生を差別する制度が―――
―――私はこの規定を、退任時の総会で撤廃することで、生徒会長としての最後の仕事にするつもりです」
そして、有志同盟が勢いを失ったところで艶夜の供給した弾丸を使い、真由美が制圧射撃を加えた結果が現在の独演だ。
真由美の目指す生徒会規定変更も、圧倒的支持を集めた今となっては容易いことだろう。
制度改変につきものの反対も、艶夜が目論んだ通りに事前に排することができる。反対派が支持派の数に押し流される結果が今から目に見えるようだ。
下火になっただけでは燻っていただろう差別撤廃運動も、徹底的に火種を踏み消せば蒸し返されることはない。
計画通り。
そう本人がほくそ笑む姿が、どこかいたずらが成功した子供のように服部の目には映った。
(はじめに提案を聞いた時は画餅もいいところだと思ったが、なかなかどうして、上手くいくものだな)
当初、柴田艶夜に対して服部が抱いた印象は決して良いものとは言えなかった。
艶夜はお世辞にも真面目と言えない生徒だった。
外回りの用事を率先して引き受けるのはいいが、それ以外にもなにかと用事を作っては外出するし、少し目を離すとながら作業でゲームのレベリングをし始める。
熟練の二流サラリーマンでも、あそこまで堂々としたサボり方はしないだろう。
そのサボり癖ときたら、こんな人物が本当に七草のお抱えなのかと疑念を抱くには十分で、あまりに真由美が猫可愛がりするから職権乱用して連れ込んだのではと疑ったほどだった。
だがそれも、こうして結果を示されては認めざるを得ないだろう。
聞いてみれば、準備のためにここ数日は徹夜して七草家に泊まり込んでいたという。
普段はアレだが、いざとなれば私情を排し、献身的に真由美を支える姿は服部をしてある種の敬意を覚えるほどだった。
立場にふさわしい振る舞いをすべきと考え、火事が起きれば消火すればいいと考える服部と、
仕事はノルマと言わんばかりの適当さあふれる振る舞いなものの、トラブルの火種が大火に繋がらないよう全力で踏み消している艶夜。
スタンスこそ正反対ながら、どちらがこの場で役に立っているかといえば艶夜なのだろう。
そもそも、有事に備えるといえば聞こえはいいが、抑止とは抑圧と紙一重。いや、表裏一体だ。不満を抑えるという意味では逆効果ですらある。
その不満の大元である大衆感情を鎮めるという点で、艶夜の貢献は非常に大きい。
……抗議のために立ち上がろうとしたら全力でローキックを喰らわされた格好になる有志同盟にはいっそ同情するほどだ。
(流石は会長が連れて来た人材だ。司波の件といい、てっきり色物好きなだけかと思ったが、こういう事態を見越しての事だったんだな。
……俺も今後の一高運営のために、もっと搦め手を覚えるべきか?)
真由美の先見の明に尊敬の念を深めつつ、有事への備えとは力を磨く事と思い込んでいた己を省み考えを改める服部。
そんな彼に活躍の機会を与えるべく、テロリストが突入するまであと10秒。
☆
真由美の独演会が終了するとともにテロが開始され、一高内は混乱の最中にあった。
そんな渦中を散発的に会敵するテロリストを蹴散らしつつ、司波兄妹は駆け抜ける。
「お兄様。一高の防衛に加わるのは良いのですが、防衛と撃退はどちらを優先すればよろしいですか?」
「どちらでもいい、そんなことより重要なことを確かめたい」
深雪は兄の言い草に目を丸くした。
深雪の知る限り、兄は常識人だ。
なんなら兄にとっての常識が深雪にとっての常識だ。
そんな兄が、一般に無法者のテロリストをさて置くなど、どんな理由があるというのか。
「艶夜の動向だ」
校内でテロ事件が起きるという非常事態に対し、艶夜は真っ先に講堂を飛び出した。
美月を置き去りにして。
身の安全を考えれば、講堂は警備にあたる風紀委員もいる安全地帯だ。おそらく避難場所として校内の生徒たちが集まってくることを考えても、これ以上の場所は無いだろう。
だが、実の姉の傍に居てやらないのはどういう訳か?
愛する妹をわざわざ危険な屋外に連れ出した達也がとやかく言えることではないのだが、それは達也の傍が絶対の安全地帯であるという自負と、そして妹から目を離したくないというエゴによるもの。
『精霊の目』で見守っていれば傍を離れてもいい、などと達也は思わないし、あれほど美月を気にかけている艶夜も同じだろう。
それでもなお飛び出して行ったのは、七草の探知魔法師としての役割があるからだ。
「この騒動を踏み絵にすれば、艶夜の中で七草家と美月のどちらが優先か、自分の立場と個人的な感情のどちらを優先するかがわかるはずだ」
昨日の朝、互いの姉と妹のために行動する限り不利益になることはしないと約束したことが、どこまで信用できるのか。
その答え如何によっては、達也は決断しなければならない。
☆
「どうして艶夜ちゃんまでテロリストのアジトに乗り込む必要があるの!」
「どうしてもなにも、敵の殲滅を確認するためですよ。しっかり息の根止めて根こそぎ排除しないと安心できないじゃないですか」
「だからって、わざわざ危険な場所に行くことはないでしょう。十文字君だって言ってたじゃない、下手をすれば命に関わるって」
「そんな危険な場所に達也くんたちをけしかけておいて、自分だけのうのうと報告を待つだなんてありえないですよ」
達也にとって想定外だったのは、踏み絵を強いるまでもなく艶夜と真由美が押し問答をはじめたことだ。
校内の敵を片づけ、ブランシュの拠点に乗り込もうという話になったところで、艶夜がその拠点の情報を達也に提供した。
本人曰く、校内で大手を振って活動しはじめた有志同盟から非常にきな臭い感情のうねりを感じた己の探知魔法を信じ、彼らを放課後もマーキングしたところ発見した拠点の一つらしい。
―――この場では明さなかったが、艶夜は中継拠点で接触した人物らにマーキングを移して元を辿り、辿り、辿りを繰り返してブランシュの拠点を丸裸にしていた。
その全てに七草の監視をつけ、さらに今日の騒動で乗り込んで来たテロリストを対象とした探知魔法の反応から、実行部隊に指示を飛ばすリーダーの方角を特定。該当する拠点は一つだったため、そこが本丸と断定したのだ。
おかげで有志同盟のために徹夜していたのが二徹確定となったが、大元を断つためなら必要経費だろう。
そこまでは良かった。
問題が起きたらのはその直後。突入メンバーに艶夜が志願し、真由美がこれに猛反対。
両者の間で押し問答になった。
「大体そんなに強くもないのに、火事場に首を突っ込んだって達也君たちの足を引っ張るだけでしょう!」
「私が動きに気づくのが遅れたせいで、七草家の戦力もロクに投入できない状態なんですよ。その尻拭いを友人たちにやらせる訳にはいきません」
「そんなの艶夜ちゃんの責任じゃないわ!」
こちらの意図を悟られないためには都合がいいことだが、一体何が艶夜をそこまで駆り立てるのか。
その理由次第で対応を変えねばならない達也は口を挟むこともなく、この状況を静観していた。
やがて、艶夜がわずかに声のトーンを落とす。
「十文字殿は、ブランシュの拠点に乗り込むと言っています。この学校に七草と十文字が居て、七草は主犯を捕らえるために動かなかった、などと言われては真由美さんの立場が悪くなるんです」
「じゃあ、私が」
「この状況で生徒会長が不在になるのは不味いですよ」
「七草、お前はダメだ」
「十文字君まで!」
「真由美さん、聞いてください。
私の役割は真由美さんの『目』になることです。一体誰が真由美さんを傷つけようとしたか、どうして真由美さんの居るこの学校を害そうとしたのか、それをこの目で確かめないといけません。
行かせてください。必ず無事に戻りますから」
「艶夜ちゃん……」
その目は決意に満ちていた。
今まで艶夜の参戦を懐疑的に見ていたエリカや摩利、深雪でさえ艶夜が示した姿勢に好意的な―――あるいは好戦的な笑みを浮かべるほど。
(柴田艶夜、やはりお前は深雪の敵なのか……)
そして司波達也にとって、七草への忠誠心を声高らかにする宣言は、宿敵宣言に等しかった。
細まる達也の視線を背中に受けながら、しかしそれを感知しているだろう艶夜は、真由美とまっすぐ目線を合わせたまま微動だにしない。
そうして、艶夜の覚悟を受け止めたのだろう。
真由美はわずかに膝を折るようにして目線の高さを合わせると、艶夜の両肩に手を置いた。
真由美が口をひらく。
目の前の小さな後輩の主人としての厳かさで。
あるいは、背伸びをした妹を見守る姉のような優しさで。
「で、本音は?」
「ずっと前から考えてた1度は言ってみたいセリフだったんですけど、いまの超格好よくなかったですか!?」
達也は艶夜を置いて行った。
使命感や義務感で火事場に飛び込む?
そんなことするほど給料貰ってないでしょ。な、柴田艶夜でした。
にもかかわらず艶夜がおかしなことを口走った理由は概ね以下の通りです。
① ここ数日の徹夜でテンションがアッパー状態だった
② 七草のお抱えとしての役割があるので、真由美に止められ、達也に見捨てられるというアリバイが欲しかった
③ 達也が想像以上に覚悟ガンギマリで殺意マシマシだったので、敵の撃ち漏らしが出る心配がない
このうち、①と②に関しては真由美さんも承知の上でした。
真面目なことを言うだけですぐに茶番だと理解してくれる上司、理想的な職場環境ですね。
テロリストに対する殺意の高さだけは素面ですが。
そんなわけで、艶夜は立場より私情を優先するシスコンでした。
気の合う友達ができてよかったね、達也くん!
その後の生徒会室にて
真「今年の一年生は優秀ね。はんぞーくんから見てどうかしら?」
服「司波達也はともかく、司波さんと柴田は今後生徒会に必要な人材でしょう」
真「え?」
摩「え?」
鈴「え?」
服「……えっ?」
はんぞーくんから見た柴田艶夜は、ちょうどふざけているタイミングで意識が朦朧としていたり、昼食は一緒でなかったり、現場にいなかったりするのでサボり癖を除けばマイナスの要素が少ない。
そのため、入学早々真由美の使いっ走りとしてあちこちを飛び回る有能な探知魔法師と思っています。
だから勘違いタグが、必要だったんですね。
実は服部をオチに持ってくることははじめから決めていて、だから入学編①は服部視点で始めたんですが、問題点がひとつ。
真面目な文章書くの疲れたあぁぁぁーんもおぉぉおぉ!!!
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