ロクでなし魔術講師とスタンド使いの暗殺者 (nightマンサー)
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暗殺者、転生

リゾットが大好きで勢いで書きました。
短編とはいえ他にも作品書いてるので続くか不明です。


 

 

 

ーーーこれは、組織のボスへ反旗を翻した…とある暗殺者の話。

 

 

「勝った!頭を切り飛ばすっ!トドメだ喰らえ、『メタリカ』ぁ!」

 

 

ーーー暗殺者は敵を無力化、勝ちを確信しトドメをさす寸前だった。

 

 

「勝っていた…俺は、勝っていたのに…奴らに、メスを投げたのか……ボス」

 

 

ーーーしかし、惜しくも敵の方が1枚上手であり暗殺者は血塗れとなり、地面に倒れ伏した。

 

 

「1人では、死なねぇって、言ってんだ…今度は俺が利用する番だ、『エアロスミス』をっ!」

 

 

ーーーそれでも暗殺者は最後まで諦めず戦った。

 

 

「…っ!?」

 

 

ーーーしかし、その最後の抵抗も敵には効かず…暗殺者はその命を散らした。

 

 

 

 

こうして暗殺者、リゾット・ネエロの生涯は幕を閉じた

 

 

 

 

ーーー筈だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーアルザーノ帝国魔術学院。

魔導大国として名高いアルザーノ帝国に存在する国営魔術師育成専門学校である。

その魔術の名門である学院の制服を着たとある男が、通りにある街灯の傍に立っていた。

それだけなら特に珍しくない光景なのだが…その男は何処か奇妙(・・)であった。

頭には黒いフードの様なものを被っており、

そのフードの先には金色の球体が付いていて球体にそれぞれアルファベットで書かれている。

更にその瞳は通常の黒目と白目が逆転したかなり特徴的な色をしていた。

だがその男が最も奇妙だと思われるのはその出で立ちである。

学院の生徒という事は年齢は12歳辺りの筈なのだが、男からは歳不相応なスゴ味(・・・)が感じられるのだ。

 

「ごめんなさい、待たせたわ」

 

「おはよう、リゾット君」

 

そんな男に近づく男と同じ学院の制服を着た女生徒が2人。

1人は長い銀髪の少女、システィーナ=フィーベル。

魔術学院があるこのフィジテ地方の大地主である大貴族・フィーベル家の令嬢であり、学年トップの秀才。

真面目過ぎる故に頭の硬い所はあるが、それも彼女の魅力の一つだろう。

もう1人は金髪と翠色のリボンが特徴的な少女、ルミア=ティンジェル。

3年前からとある事情(・・・・・)でフィーベル家に下宿している少女で、

その優しい性格とスタイルの良さで学院の男子からの人気がとても高い。

 

「…あぁ」

 

そんな有名である2人と共に学院に向かうこの男。

 

 

 

ーーー異なる世界、イタリア最大のギャング組織『パッショーネ』の暗殺者チームのリーダーだった男。

彼はアルザーノ帝国魔術学院で奇妙なことに(・・・・・・)以前とほぼ同じ名前…リゾット=ネエロ(・・・・・・・・)として第2の人生を歩んでいた。

 



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ロクでなし魔術講師、到来

ーーー1年前

 

 

「…護衛だと?」

 

以前の世界での記憶を持ったまま、この魔法の世界に生まれ落ちた暗殺者チームのリーダーであるリゾット。

彼はとある理由から幼少期に家族から捨てられた。

普通の子供であればそのまま死んでしまうのだろうが、そこは元裏の世界に身を置いていた者。

ただ以前とは違い犯罪者のみをターゲットとし暗殺して過ごしていた所をスカウトされ、

現在はアルザーノ帝国宮廷魔導士団特務分室に席を置いている。

そんな彼に仕事が舞い込んできたのだが、今回は何時もの仕事と違う様だ。

 

「あぁ、どうやら彼女が学院に入ってから例の組織が前よりも動きが活発化している」

 

同じ特務分室に席を置くアルベルト=フレイザーがそう告げる。

 

「事情は理解した、引き受けよう。ただ1つ聞きたい…何故俺が選ばれた?」

 

「観察眼に優れており、影で守るのなら暗殺者が適任というのもある。それに1度助けた実績があるからだろう」

 

そう言われてリゾットは2年前の出来事を思い出す。

あれは仕事を終えた帰り、偶然誘拐グループと接触し殲滅した時に誘拐グループが攫ったと思われる金髪の少女を助けた。

まぁ姿は見られていないから少女は誰が救ってくれたかは知らないだろう。

 

「あれは偶然だが…まぁいい。何時から始める?」

 

「3日後からだ。彼女が通っているアルザーノ帝国魔術学院に生徒として入ることになる」

 

 

護衛任務はリゾット・ネエロ、人生2度目の学校生活の始まりでもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リゾット君、どうかした?」

 

この護衛任務を受けてから1年、現在まで特に何事もなく経過していた。

あるとすれば、この女に好意を持った男が過剰に接触しようとする程度だ。まぁ何故か此方が見ると逃げていくが。

 

「…いや、何でもない。今日はいつもより遅かったが、何があった?」

 

「それは、私が忘れ物しちゃって…」

 

そう言うシスティーナはいつもより覇気がない。

どうやら先日自分達を担当していたヒューイ教師が辞めたことが原因らしい。

 

(あの教師、ただの教師と言うには僅かだが違和感があったが…)

 

辞めたのなら問題ないと結論づける。

そうして2人と学院に向かって噴水広場を通りかかった時ーーー

 

「ど、どいてくれぇぇ!!」

 

突如男が全速力で自分に突っ込んできた。

突然の出来事に2人は驚愕で動けないでいた為、咄嗟に男の前に躍り出て男を左側に受け流す。

 

「えっ、ちょおおおぉっ!?」

 

受け流された男はその勢いのまま、激しい音を立てながら噴水に着水した。

 

「行くぞ」

 

「え、え!?い、いいの…かな?」

 

ルミアが心配そうに噴水の方を見て俺に問いかけてくる。

同意見なのかシスティーナも俺を見てくる。

 

「問題ない。それに、こんな人通りの多い場所で全速力で走ってきた奴に非がある」

 

そうして俺は歩き出す。

2人も暫し視線を噴水に向け立ち尽くしていたが、此方に着いてくる。

ルミアにいたっては「ごめんなさい」と一言、いまだに噴水で倒れたまの男に向かって告げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……遅い」

 

システィの不機嫌そうな声が静かな教室に響く。

噴水広場で男の人が突っ込んできたこと以外は何事もなく学院に到着し、現在は授業時間。

辞職したヒューイ先生の代わりに今日から暫くの間、非常勤講師が来る予定なのだが、

授業時間が半分以上経過してもいまだにその非常勤講師は姿を表さないでいた。

 

「生徒は勿論のこと、この学院の講師が遅刻だなんて前代未聞ですわ」

 

「ある意味大物だな」

 

「ただのロクでなしだろ」

 

クラスメイトがそれぞれ意見を口にする。

そんな中でいつもと変わらず教科書ではない本を読むリゾット君。

初めの頃は、というより今でもシスティが辞めるよう注意しているけど、

我関せずといった感じでやめる様子はない。

 

「今日はなんの本を読んでるの?」

 

私がそう聞くとリゾット君はちらりと私を見た後、「…医学書だ」と一言だけ告げた。

 

「この前は格闘技術の本だったよね。もしかして今朝のってその技?」

 

「…知っていると知らないとでは圧倒的な差となる。今朝は受け流しの方法を知っていたから対処出来た。

情報とは何よりも大事だ。知っていることを実践できなければその力は半減するがな」

 

そこまで言ってリゾット君は再び本を読み始めた。

純粋に知識を深めるその姿に、私はリゾット君の底知れない覚悟を垣間見た気がした。

 

「わりぃわりぃ、遅れたわ〜」

 

そんな気怠げな声と共に教室のドアが開かれた。

 

「やっと来たわね。あなた、この学院の教師としての自覚、を…」

 

システィが入ってきた人に向けて叱責するが、その言葉は最後まで紡がれなかった。

何故なら入ってきた人が、今朝ぶつかりそうになり結果噴水に突っ込んでしまった男の人だったからだ。

 

「んぁ?って、お前ら今朝の…!

おいおい、俺はお前らのせいで朝からびしょ濡れなんだが、何か俺に言うことないのか?ん?」

 

入ってきた講師の人は、私達が今朝ぶつかりそうになった人と分かると途端に強気になった。

確かにあの人が濡れているのは此方に非があると思い謝ろうと口を開きかけーーー

 

「っ、リゾット君?」

 

突然私の目の前にリゾット君の手が出てきて私の言葉を遮られてしまった。

手が口に当たりそうで少しドキドキしてしまう。

 

「言いがかりは止せ。原因は人の多い通りを走っていた貴様にある」

 

毅然とした態度でリゾット君が答える。

 

「それでも謝罪の一言あっても…ん?お前……」

 

リゾット君の言葉に反論しかけた先生だったが、何故かリゾット君の顔を見ると何か考えるように顎に手を当てた。

 

「あ、あの!もう授業時間を大幅に過ぎてます。早く授業を始めて下さい!」

 

「……はぁ、そりゃそうだな。仕事だしな」

 

何か異様な雰囲気になりかけていた場を、システィが声をかけたことで霧散した。

リゾット君に何か言いたそうな先生だったが、一旦置いておくみたい。

 

「非常勤講師としてこれから1ヶ月、皆さんの授業を担当するグレン=レーダスです」

 

そうして非常勤の先生ーーーグレン=レーダス先生の初授業が始まった、のだけどーーー

 

「今日の授業は自習にしまーす……眠いから」

 

黒板にデカデカと『自習』と書いたかと思うと、グレン先生はそのまま顔を伏せて寝息をたてて寝始めた。

これには流石に私も含めたクラスのみんなーーー正確にはリゾット君以外は唖然としてしまっていた。

ふと視線を右側に向けると、システィが凄い顔を真っ赤にしてプルプル震えており、そしてーーー

 

 

「ちょっと待てぇぇ!!」

 

 

システィの絶叫と共に、グレン先生の頭に教科書がクリーンヒットした。

 

 



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魔術の在り方、少しのやる気

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

非常勤講師、グレン=レーダス先生の授業はお世辞にも良いとは言い難いものだった。

何せ黒板に毎回『自習』と書いて寝ているだけなのだから推して知るべしだ。

そんな授業でシスティが黙っているはずもなく、

幾度となく注意、果てには魔術師の決闘までしたのだけれど結果はご覧の通り変化なしである。

今日は『自習』と書くことすら煩わしく思ったのか、トンカチを使い釘で教科書を黒板に打ち付けていた。

 

「え〜、今日の授業もこんな感じで」

 

そう言って頬杖をついて、いつも通り何もしないでいるグレン先生。

 

「あ、あの、先生…」

 

そんな彼に近付き質問しようとするリンと呼ばれるリン=ティティスさん。

彼女はグレン先生の最初の授業…システィに鉄拳制裁され渋々教科書を板書したものの際にも質問したのだが、

その質問にグレン先生はあっけらかんに分からんから自分で調べてくれと言い放っていた。

それでもまだ質問しようとするその姿勢は敬意を評するものだと思う。

ただし、目の前のグレン先生はその敬意を受け取ってくれそうにないのが悲しい。

 

「無駄よリン。その男に聞くことなんか何もないわ。

そいつは魔術の偉大さも崇高さも、何一つ理解してないんだから。私が教えてあげるから一緒に勉強しましょう?」

 

システィがそう告げてリンを連れて席に戻ろうとするーーー

 

「魔術ってのは、そんなに偉大で崇高なものかねぇ…」

 

と、今まで殆ど何も反応しなかったグレン先生が口を開いた。

 

「何を言うかと思えば…そんな事も分からないの?魔術はね、この世界の真理を追求する学問よ」

 

グレン先生の言葉を切っ掛けにシスティは水を得た魚の如く、魔術の偉大さと崇高さを熱弁する。

そしてシスティの熱弁が終わった所でーーー

 

「なんの役に立つんだ?」

 

そう、一言告げた。

 

「…え?」

 

「世界の真理を追求したところで、なんの役に立つんだ?

より高次元の存在に近付く?神にでもなるのか?」

 

「そ、それは…」

 

思わぬ質問にシスティは言葉に詰まっていた。

 

「そもそも魔術は俺達人にどんな恩恵を与えてるんだ?

医術は人を病から救うのに役立ってる。農耕技術や建築術もそうだ。だが魔術は?恩恵が感じられないのは俺だけか?」

 

その言葉にシスティや私を含め、クラスメイト全員が口を閉ざす。

確かにグレン先生の言う通り、魔術が人へ与える恩恵と言われるとすぐさま答えるのは難しい。

例えばグレン先生とシスティが決闘に用いた魔術『ショック・ボルト』を例に考える。

『ショック・ボルト』は電流を放出し相手を痺れさせる護身用の魔術とされている魔術学院で最初に学ぶ魔術である。

相手を痺れさせ行動を制限すると聞けば、確かに護身用として有能だ。

しかし、そもそも魔術は発動させるために呪文を詠唱しなければならない。

無論それなりの魔術の使い手であれば詠唱をある程度省略したり出来るが、詠唱自体が無くなる訳では無いのだ。

『ショック・ボルト』を発動させようと詠唱している間に何かされれば終わりである。

それに魔術に頼らないのなら、それこそ銃等の道具の方が圧倒的に使い勝手が良いことは明白だった。

 

「ま、魔術は…人の役に立つとか、そんな次元の低い話じゃないわ…!人と世界の、本当の意味を探し求めるーーー」

 

「わるかったよ、冗談だ。魔術はすげー役に立ってるさ」

 

再びシスティが魔術について話そうとした所で、グレン先生の謝罪が割り込む。

だがそれはーーー

 

「人殺しにな」

 

「…っ!?」

 

システィを絶望へ落とす言葉だった。

 

「いいか?剣術が1人殺す間に、魔術は何十人と殺せる。これ程人殺しに優れた術はないぜ」

 

「ふ、ふざけないで」

 

「今も昔も、魔術と人殺しは切っても切れない腐れ縁だ」

 

「ち、違う…」

 

「魔術は人を殺すことで発展してきたロクでもない技術だからなぁ」

 

「魔術は、そんなんじゃ…」

 

「全くお前らの気が知れねぇよ!こんな人殺し以外何の役にも立たん術を勉強するなんてな!」

 

「…っ」

 

「お前もこんなくだらんことに人生費やすならもっとマシなーーー」

 

瞬間、グレン先生の頬をシスティが平手打ちをし、教室内に乾いた音が響いた。

グレン先生はシスティに何か言おうとしたが、その顔が涙で溢れているのを見て押し黙った。

 

「大っ嫌いっ!!」

 

「システィ!」

 

涙声でグレン先生に言い放ち、私も声をかけたけれど、システィは教室から出ていってしまった。

そうして静寂が教室内を包んだ所で

 

「…哀れだな」

 

リゾット君が一言、そう告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だと?」

 

今までの一連の流れを静観していて思った事を告げた所、グレン講師が此方を睨みつけてきた。

 

「なぁ、それは何に対してだ?何に対して哀れだと思ったんだ?おい!」

 

「それはお前自身がよくわかってるんじゃあないのか?」

 

俺に言われてグレン講師は苦虫を噛み潰したような顔をする。

 

「そもそも、だ。魔術は手段の1つであり、それ自身に意思は無い。

人殺しも、世界の真理の追求も魔術を使う個々人の捉え方の1つでしかない。

…だというのに、別の捉え方を言われただけで騒ぎ立て過ぎだ。お前も、システィーナもな」

 

俺がそう言ってやると教室内が更に黙り込んだ。

 

(…まだ学生の此奴らには理解し難い内容か)

 

「……くそっ。今日はマジで自習だ」

 

グレン講師は居ずらくなった為か、教室から出ていった。

それを見てルミアが席を立つ。

 

「…何処へ行く」

 

「システィを探しに。リゾット君にも付いてきて欲しいけど、いいかな?」

 

ルミアがそう提案してくるが、元より俺の任務はルミアの護衛だから離れるつもりは無い。

 

「…あぁ」

 

そうして俺とルミアもシスティーナを探しに教室から出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー放課後。

グレン講師とシスティーナの衝突後は講師不在の自習で全ての授業が過ぎた。

放課後はフィーベル家まで護衛するだけだが、ルミアが授業の復習するとの事で2人で実験室にきている。

 

「う〜ん、発動しない…」

 

魔法陣を作成し終え詠唱をしているが、魔力円環陣が発動する気配がない。

理由は既に分かっているが、ルミアがアドバイス無しと言われたので、黙って見ている。

 

(足音…教師の見回りにしては早い。ということは…)

 

結論づけた所で扉が開かれるとそこにはグレン講師が立っていた。

 

「実験室の個人使用は禁止だぞ」

 

「あ、先生…すみません、すぐ片付けます」

 

そうして片付けようとするルミアを、グレン講師は手で制した。

 

「良いよ、ここまでしてんだ。最後までやっちまえ」

 

「でも上手くいかなくて…」

 

「ばぁか、水銀が足りてねぇだけだ。つか、そこに立ってるって事はお前は気付いてただろ」

 

そう言ってグレン講師は俺が立っている近くの棚から水銀を取り出す。

 

「助言しないよう言われたからな」

 

「…まぁいい。っと、良し。もう一度詠唱してみな。教科書通り5節でな?省略すんなよ?」

 

グレン講師に言われ、ルミアが再び詠唱する。

すると魔力円環陣が淡く光だし、虹色の光が実験室を満たしていく。

 

「綺麗…」

 

そこから帰り道でグレン講師とルミアが色々と話をしていたが、

特に興味が湧かなかったため聞き流していたのだが、ルミアの過去の話になった所だ。

 

「私、3年前にシスティと間違われて悪い魔術師に誘拐されたんです。でもそこで助けてくれた魔術師が居たんです。

私はその人に恩返しがしたくて魔術の勉強をしてるんです。ただ、その人の顔も分からないんですけどね」

 

そう言うルミアは何故か俺に視線を向けている。

 

(まさか…いや、今ルミア自身が顔も知らないと言っていた。……気のせいか)

 

ただ1年一緒にいて分かったことだが、ルミアは目の付け所が鋭い部分がある。

 

(念には念を入れろ、だ。気をつけるとしよう)

 

「グレン先生、明日システィに謝ってあげてください。

リゾット君の言う通り捉え方は人それぞれで、グレン先生にも思うことがあったのは分かります。

ただ、システィにとって魔術は亡くなられたお爺様との絆を感じていられる…大切な物なんです」

 

その言葉を最後にグレン講師と別れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー次の日の朝。

教室ではグレン先生がシスティに向けて頭を下げていた。

昨日の今日だから、流石のシスティも驚いてるみたい。

 

「あ〜、その、昨日はすまんかった。俺は魔術が大っ嫌いだが、流石に言い過ぎたっつうか…まぁ、すまんかった」

 

そう言ってグレン先生は教壇に戻りながら、それじゃあ授業を始めると告げる。

 

「あ〜、ただ本格的に授業を始める前にお前らに言っておきたい事がある」

 

そうして始まったグレン先生の授業はーーー

 

「お前らって本当バカだよな」

 

私達への罵倒から始まりました。

 

 

 

「「「「「「はぁ!?!?」」」」」」

 

 

 

これにはリゾット君を除いたクラスメイト全員が抗議の声を上げる。

 

「授業態度見ててよくわかったよ。お前ら魔術のこと何にも分かってねぇんだなって」

 

「お前が言うな!」

 

「『ショック・ボルト』程度の1節詠唱も出来ない奴に言われたくないね」

 

グレン先生の言葉にクラスメイトから次々と非難の声があがる。

 

「正直それを言われると耳が痛い。俺には魔力操作の感覚と略式詠唱のセンスが皆無でね。

…だがな、今『ショック・ボルト』程度って言ったか?ならやっぱりお前らバカだわ。

丁度いいし、今日は『ショック・ボルト』について授業してやる」

 

そう言ってグレン先生は黒板に『ショック・ボルト』の詠唱を書き出した。

 

「これが『ショック・ボルト』の基本詠唱《雷精よ・紫電の衝撃以って・打ち倒せ》だ。

魔力を操るセンスに長けた奴なら、《雷精の紫電よ》の1節で発動可能だ」

 

「ふん、『ショック・ボルト』なんてとっくに極めましたわ」

 

得意気に言ったウェンディに続いて他のクラスメイトも同意する。

 

「ほほう、なら問題だ」

 

そう言ってグレン先生は『ショック・ボルト』の3節詠唱の真ん中に線を書き足した。

 

「《雷精よ・紫電の・衝撃以って・打ち倒せ》。こうして4節にすると何が起こる?」

 

グレン先生が聞くけど、私を含め皆黙ってしまった。

 

「そんなものまともに発動しませんよ。何らかの形で失敗します」

 

「んな事はわかってんだよ。完成された詠唱をわざと崩してるんだから当たり前だろ?

俺はその失敗がどういう形で現れるかを聞いてるんだよ」

 

「そんなもの、ランダムに決まってますわ!」

 

「ランダムぅ?お前極めたんじゃなかったのか?」

 

グレン先生の言葉に打ち負かされ、誰も答えることが出来ない。

 

「なんだ?全滅か?……仕方ないな、答えはーーー」

 

 

 

「右に曲がる」

 

 

 

グレン先生が答えを言う直前、リゾット君が一言、そう答えた。

その事に皆が唖然としているとグレン先生はニヤリと、したり顔を浮かべた。

 

「なんだ、やっぱりお前はわかってたんじゃあねぇか」

 

そうして再び黒板に書いてある詠唱に手を加える。

 

「じゃあ、こうやって更に区切って5節にするとどうなる?」

 

「射程距離の減少」

 

「詠唱の一部を消すと?」

 

「大幅なパワーダウン」

 

「全問正解だ」

 

リゾット君とグレン先生のやり取りの意味が分からず置いていかれる私達。

まるで2人には何か目には見えないヴィジョン(・・・・・)が見えている様だ。

 

「ま、極めたって言うならコイツ位には出来ないとな」

 

そう言ってグレン先生は改めて私達と向かい合う。

 

「魔術ってのはつまりは超高度な自己暗示だ。言葉にそんな力があるのかって顔してるが、例えば…」

 

そう言ってグレン先生はシスティの前まで来ると大胆な告白を言葉にした。

それを聞いてシスティは顔を真っ赤にする。

 

「はい皆さん注目っ!白猫の顔が真っ赤になりましたね?見事言葉如きが意識に影響を与えた証拠です」

 

グレン先生はそう言うと何事も無かったかのように教壇に戻る。

これにはシスティも怒ったようで教科書を投擲、見事グレン先生の後頭部にヒットした。

 

「あいたた…ま、まぁつまりはこういう事だ。言葉で世界に影響を与える。要は連想ゲームだな。

これを理解すればある程度の呪文改変も出来るようになる。例えば…《まぁ・とにかく・痺れろ》」

 

グレン先生の言葉で『ショック・ボルト』が発動したのを見て、皆更に驚愕する。

 

「とまぁ、今からこのド基礎を教えてやる。興味無い奴は寝てな」

 

 

その言葉を皮切りに始まったグレン先生の授業は、

リゾット君が本を読まずに授業を聞いている事からも、如何に実りあるものかを物語っていた。



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学院襲撃、視えぬ強襲

これだけ書いて主人公視点無しという…


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それまで学院で教えられていた魔術とは文字通り別次元のグレン先生の授業は、

連日立ち見の生徒が出る程に人気を博していた。

 

「それにしても、今日も多いわね」

 

システィが教室内を見渡してため息をつく。

今日は土曜日で本当なら学院は休みなのだけれど、

私達のクラスはヒューイ先生が急に辞めた事とグレン先生が自習にしていた分があって授業が遅れているので、

その分を取り戻すために今後何日かの土曜日も授業を行うことになっている。

 

「システィはグレン先生が人気者になって寂しいんだね」

 

「なっ!?そ、そんな訳ないでしょ!?」

 

システィは顔を赤らめて必死に否定してくるが、寧ろ信憑性が上がっただけなのは口にしない方がいいだろう。

そんなやり取りをしていると、不意に本を読んでいたリゾット君が扉の方へ鋭い視線を向けた。

 

「…?リゾット君、どうかしーーー」

 

リゾット君へ聞こうと言葉を発したのだが、それは扉が勢いよく開けられた事で中断させられてしまう。

見ると見知らぬ男2人がずかずかと教室に入ってくるところだった。

 

「ちーっす、邪魔するぜ」

 

男2人のうちバンダナを巻いた男が声を上げる。

 

「だ、誰ですか貴方達っ!ここは関係者以外立ち入り禁止ですよ!」

 

システィが男達に声を上げーーー

 

「うるせぇな。【ズドン】」

 

瞬間、システィの真横を稲妻の弾丸が掠め壁に大きな傷を残した。

 

「ぐ、軍用魔術…!?」

 

「黙ってくれね?次逆らったら…ぶっ殺すよ?」

 

男の言葉に教室にいた生徒全員が状況を理解する。

そうして皆が黙るのを見ると、男はニヤついた顔で言葉を投げた。

 

「この中にルミアちゃんって子いる?居たら手ェ上げてくんね?」

 

自分の名前を呼ばれて驚くことを他所に、

男は近くにいたリンに知らないかと声をかけ、システィがそれを咎めると男の指がシスティに向く。

 

「私がルミアです…!」

 

「ルミア…」

 

「へぇ、君がルミアちゃんね…実は知ってた。君が名乗り出るまで1人ずつ殺すゲームしてたの」

 

システィに魔法が使われる前に、自分から名乗り出る。

システィの心配そうな声に続いて、バンダナ男が楽しげにそう発言した。

 

「…遊びはその辺にしておけ」

 

「へいへい」

 

もう1人の顔に傷のある男がバンダナ男を窘め、私に近付き同行するよう命令してくる。

 

「ダメよ、ルミア…!」

 

「大丈夫だよ、システィ。私には…とっても頼りになる人がいるから」

 

「ルミア…」

 

私の言葉を心配かけないようにする虚勢だと思ったのか、システィは泣きそうな顔をする。

 

(本当に大丈夫よ、システィ。今言った言葉は本当だから)

 

そうして私は男に連れられ、教室を後にする一瞬ーーー

リゾット君と目が合った気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ティンジェルが連れ去られた後、フィーベルももう1人の男に連れ去られて、

教室に残っていた俺らは男達が張った結界の中に閉じ込められていた。

そんな中、俺ーーーカッシュ=ウィンガーとクラスメイトのギイブル=ウィズダンは途方にくれていた。

 

「なぁ、これから俺達どうなるんだ?」

 

「どうって…僕が分かるわけないだろ?」

 

皆が不安になる中、ふと足音が聞こえた。

音のするほうを見れば、そこにはリゾットが扉に向かって歩き出している所だった。

 

「お、おいリゾット、何を…」

 

そんなギイブルの声が聞こえて居ないかのように、リゾットは小声で何か呟くと結界に触れた。

 

 

 

ーーー瞬間、硝子が割れたような音が鳴り結界が無くなった。

 

 

 

その様子にその場にいた皆固まってしまう。

 

「お前らは撤退して何処かに身を隠せ」

 

そしてそれをやった張本人であるリゾットは一言そう言って扉を開け教室から出ていく。

 

「お、おいっ!」

 

それを見て一番最初に我に返り、リゾットを扉へとかけていく。

もし他にテロリストがいれば危険過ぎるためリゾットを連れ戻そうと思ったのだ。

そうして廊下へと目を向けたのだがーーー

 

 

ーーーそこには誰も居なかった。

 

 

 

「……え?」

 

思わず口から間抜けな声が漏れる。

だってそうであろう、リゾットが教室から出てまだ5秒程しか経っていない。

窓も全て閉まっているのにあの短い時間でこの廊下から居なくなるなんて不可能だ。

だというのに長い廊下には誰もいない。

なにか……なにか奇妙だ(・・・)…!

 

「おい、カッシュ!」

 

ギイブルに呼ばれ、俺はハッとしてギイブルの方を見る。

 

「リゾットはどうした?」

 

「わ、わからねぇ。ありのまま起こったことを話すなら、リゾットを追って廊下に出たら誰もいなかった。

何を言ってるか分からないと思うけど、俺自身もそう思ってる…」

 

俺のただならぬ様子を見てギイブルは何も言えなくなっていた。

今は考えても仕方ないと割り切り、俺達は移動するために行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おおよそ順調に計画が進んでいることに、レイク=フォーエンハイムは一先ず安心していた。

ジンがいつものお遊びしているが計画に支障はないため放置した。

俺の前を歩くルミア=ティンジェルーーー本当の名をエルミアナ。表向きでは流行病で死んだこととなっているアルザーノ帝国の第2王女である。

何故第2王女が表向き死んだことにされ、名を変えて生きているのか。その理由が我々が彼女を狙う理由である。

 

「私を狙ったということは、私の生まれを知っている…ということですか」

 

凛とした声で前を歩くエルミアナ王女が問いかけてくる。

 

「なるほど。今の態度といい、貴方は思った以上に聡明で覚悟している人のようだ」

 

「ある人に認められたくて、努力してきましたから」

 

この状況に悲観せず、かといって諦めている訳でもない。

今もし俺が隙を見せようものなら、確実に痛い目を見ると確信出来るほどの凄みが彼女にはある。

だからこそ、俺は今自身の魔術で剣を2つ自身の周りに展開している。

 

そうして彼女を指定の場所へ連行するため、1度屋外に出て数秒後。

 

 

 

ーーー喉に、違和感が生まれた。

 

 

 

「…っ!ごぼぉ!?」

 

次の瞬間、俺は口から何かを大量に吐き出す。

吐き出した体勢で地面を見れば、そこに俺の口から出た何かの正体があった。

 

(か、カミソリ(・・・・)!?何故こんな大量のカミソリが俺の口から!?)

 

「…っ!」

 

そうして意識が離れた隙を、あの王女が見逃す筈がなかった。

王女は走り一気に俺との距離をあけようとする。

 

「まっ…!」

 

待てと言葉に出したつもりが、先程のカミソリで喉が傷付いた直後の為か上手く発音出来ない。

すかさず展開しておいた剣を王女めがけ飛ばす。

殺してはいけないため、仕方ないが足を切りつけ動けなくするため王女の足を狙う。

 

 

 

ーーー瞬間、今度は口内に鋭い痛みが走った。

 

 

 

「…っ、がっ!?」

 

痛みにより剣の制御を手放してしまった。しかも何故か剣は 勢いが殺されたかのように(・・・・・・・・・・・・)王女に届かず地面に落下した。

その結果、王女に逃げられるという失態を犯してしまった。

 

(なんだ、何が起こっている…!?)

 

突然起こった不可解な現象。

喉からカミソリの出現、先程の痛みも口の物を吐き出して針である事が分かった。

 

(攻撃であることは間違いない。だが、敵は何処だ…!?)

 

今いるこの場所は屋外で見渡す限り隠れられる場所は皆無だ。

先程通ってきた建物の方にも姿は見えない。

 

「ならばっ!」

 

俺は再度剣の制御を行い、その剣を自分の周り出鱈目に切りつける。

その間に俺は辺りの様子を注意深く観察する。

 

そして、見つけた。

 

 

 

ーーー自分達が通ってきた部分以外の芝に、新しい踏まれた痕。

 

 

 

 

(やはり、いる(・・)!理由は分からないが、今この場に!王女を逃がし、俺を攻撃している敵が!)

 

 

「見えないが、いるのは分かった。ならば、殺すまでだ」

 

未だ見えぬ敵に、そう宣言した。

 

 



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