Undead Of Fantasia―対不死兵魔法戦記― (スピオトフォズ)
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魔法について考えてみました!
話には深くかかわってこない?と思うので暇な人はどうぞ!


●魔法の歴史

 

 古来より人類には、不思議な力を持つ者と持たぬ者が存在した。

 手から火や冷気を出したり、風や光を与える者たちだ。

 彼らは古くから特別視され、古い言葉でマグナスと呼ばれた。

 

 古代学研究者はこれを『マグ=不可思議』『ナ=ちから』『ス=使役するもの』と翻訳し、これを『魔法使い』と呼称した。

 マグナスは揃って体が脆弱ではあったが、薪に火を付け、肉を冷凍し、光で傷を癒しそして、風で人を傷つけた。

 それらマグナスを、人々は崇め敬い、やがて彼らを中心に国が出来た。

 数多の国が出来、人々が戦を起こすようになると、国の民は脆弱な彼らを守るように戦い、マグナス自身を戦に駆り出す事は無かった。

 

 しかし人類の鉱物を掘る技術が発達すると、ある輝く石、ラリスティア(魔鉱石)が発見される。

 それを用いマグナスが力を使うと、普段よりも大きな力を使える事が分かった。

 同時に、知的好奇心旺盛な科学者は、その力を解き明かそうと躍起になった。

 国の王は軍事力を求め、マグナス自身も自らの優位性を示そうと、積極的に解明に勤しんだ。

 

 そんな歴史が数十、数百年と続いた果て、ある国がついに一つの完成形へと至る。

 ラリスティア――現代語でいう魔鉱石を木製の杖の先端に嵌め込み、言葉と共にマグナスの源を練り上げ、放つ。

 この方法はそれまでの守られていたマグナスの力を引き出し、非常に強力な武器として登場し、他の国も研究を重ねほぼ同時期に実用にこぎつけた。

 

 人類が、のちに『魔法』と呼び、世界に広く浸透したこの年を、現代の歴史家は『魔法暦元年』と名付けた。

 

●魔法の仕組み

 

 この世の全ての物質は、『魔素』と『元素』という微粒子出来ている。

 『魔素』とは、星の中核で練り上げられた微粒子であり、そこから地表に向けて常に放出されていて、大気は主に魔素で出来ている。

 それらが、宇宙由来の微粒子『元素』と融合し、惑星上の大地や海、火や光、そして人間を含む生命など様々なものを作り上げている。

 魔素には個別の特徴は無いが、元素には『火・水・地・風・氷・雷・光・闇』の八属性があり、この元素と魔素が融合する事によって実体を持ち、惑星上のあらゆる物質が構築されている。

 

 この魔素は大気や水、食料にも当然含まれており、それらを摂取し、体内器官で消化する事で『魔力』と呼ばれるエネルギーに変換され、人間のあらゆる行動の源となっている。

 

 この時、吸ったばかりの魔素と体内にある魔力を掛け合わせることで、特性を持ったエネルギーとして、人の手のひらを介して放出される。

 しかしそれらは形や指向性を持たず、大気に霧散するだけの弱い効果しか発生させられない上に、多くの体内魔力を持っていく。

 

 体内魔力は、人の生命活動に必要不可欠な要素である。

 しかし体内魔力の生成効率や限界保有数は、個体によって大きく個人差があり、特別優れた者だけが扱えるものと認識されている。

 

 また体内魔力には特定の属性との親和性、所謂『生体属性』があり、それによって扱える魔法の属性も限定される。

 一般的に一人一属性で、生まれた時からそれは決まって変えようがない。

 その規則性は不明であり、諸説ある。

 受精と同時に、体を構成する魔素が各属性の元素を選別する段階が素粒子レベルで行われ、選別された元素に体が適応し、魔力となる。という説が有力である。

 

 この『生体属性』は、各属性によって性格、外見上に顕著な違いが出る場合があり、例えば火属性の人が怒りっぽい、氷属性の人が冷静な性格、雷属性の人が金髪である、などの傾向が出る場合がある。

 しかし飽くまで統計的にというだけで、必ずしも分かりやすい影響が出るという訳ではないし、性格などは生い立ちによっても変化する為、一概には言えない。

 

 『体内魔力』の余剰があり、この『生体属性』と同じ『元素』と『魔素』を吸収したとき、理論的には全ての人間が魔法を放つことが可能である。

 しかし魔力の少ない人間がこれをやろうとすると、長時間息を止めるに等しい苦痛が起こり、魔法として放出する前に体が耐えられず、中断せざるを得ない。

 

 尤も、扱える者であっても素の状態では大きな効果は出せず、人々の認識は”ちょっと便利なもの”止まりだった。

 

 しかし『魔鉱石』と『術式魔法陣』の登場で、魔法は技術革新を迎え、大きく発展していく事になる。

 

 『魔鉱石』とは、鉱山など地中や山中で発見される魔素と元素の集合体だ。

 例えば魔素と火の元素の集合体で一般的なのは炎だが、特殊な圧力や比率で地中に存在すると、それが火の魔鉱石として長年かけて出来上がる。

 

 

 以下、理解しやすいように火属性の魔法を放つ場合を解説する。

 

 火の魔鉱石は、火の『生体属性』と親和性が高く、同じ火の属性であれば魔素の吸収時に赤く光り輝く。

 魔素の吸収を行うと火の魔鉱石を優先して通り、大気中の魔素を強制的に『火の元素』が融合した状態=『火の魔素』として、体内に取り込まれる。

 

 体内では、『火の魔素』と『魔力』が融合し、『火の魔力』が生まれる。

 魔鉱石によって効率よく吸収したおかげで、『火の魔力』自体の力は、このまま自分の意識だけで放っても威力は上がるが、指向性がないのですぐに霧散してしまうのは変わらない。

 

 それを解決するもう一つの技術が『術式魔法陣』だ。

 『魔法陣』とは、『火の魔力』で描かれる幾何学模様の円で、この複雑な円に更に魔力を通すことによって、指向性と一定の効果を持つ『火の魔法』が放たれる。

 

 その『魔法陣』を描くために必要な計算式が『術式』であり、計算式には『脳内演算』と言葉による『詠唱』を同時に行う事が求められる。

 

 『詠唱』とは、言葉による魔力操作で、詠唱文と『魔法名』の組み合わせによって、同じ『火の魔法』であっても千差万別の効果と威力を発生させる魔法を放つことが出来る。

 

 『脳内演算』は読んで字の如く、脳内で『魔力』の流れを計算し、『詠唱』に含まれない細かい効果を補っていくものだ。

 

 この『詠唱』と『脳内演算』を用いて空中や地面に術式魔法陣を構築し、最後に『魔法名』を言う事によってはじめて『火の魔法』が放たれる。

 

 『魔法名』とは、その『火の魔法』に名付けられた魔法の固有名で、この名を叫ぶことによって魔法が放たれる、いわば引き鉄やトリガーに相当するものだ。

 

 放たれた『火の魔法』は『火の魔力』で構成されており、対象に人為的な自然現象を引き起こす。

 しかし物質として存在するには『元素』の数が圧倒的に足りない他、自然界に存在する物質はたとえ燃え盛る炎であっても様々な『元素』の組み合わせからできており、『魔法』で出来た物質が長時間存在する事は出来ない。

 

 しかし『火の魔法』に限って言えば、『超高温』や『燃焼』という効果を周囲に与えるので、その影響で燃え移った物体は長時間自然界の火として燃え続ける。 

 

 以上が魔法の仕組みである。

 

●魔法用語解説

 簡単に用語を解説する。

 

・魔法

 人為的に超自然現象を発生させ、『魔力』により特定の効果を与える方法。

 『魔法』は、『(特定属性の)元素』+『魔素』+『体内魔力(魔素を体内で消化したもの)』を融合した、”属性状態が付与された『魔力』”で出来ている。

 例えば『火属性の魔法』なら『火属性の魔力』で構成されている。

 

・魔力

 『魔素』を体内で消化したときに生まれるもの。

 人間の活動エネルギーのひとつ。

 失うと生命維持が困難になる。

 ある程度意識的に操作することが出来る。

 『生体属性』と一致した『元素』と大気中の『魔素』を体内で融合させることで特定の『属性』を持つ。

 

・元素

 宇宙由来の物質。

 火・水・地・風・氷・雷・光・闇の『八属性』がある。

 『魔素』と『元素』の組み合わせで惑星上のあらゆる物質が構成される。

 

・魔素

 星の中核から湧き出る星の粒子。属性も色もなくまっさらな状態。

 『元素』と共に万物を構成し、また大気中に充満している。

 人が呼吸すると吸引され、体内で消化されて『体内魔力』になる。

 呼吸より手のひら、手のひらより魔鉱石を通すとより効率よく吸収できる。

 

・体内魔力

 体内にある『魔力』。

 『魔力』とほぼ同義だが、特に人の体内にある場合に限定するときに使う。

 『魔力』は基本的に生命体の体内に存在すると考えられている。

 また『魔法』の様に体外へ放出された『魔力』は、『体内魔力』とは言わない。

 体を鍛えることにより『体内魔力』は僅かに上昇するが、比例して体内で消費する分が増加する。

 その為、魔法を放つ余剰分を得ているのは、体が鍛えられていない女性や老人が多く、前線で騎士として戦う者に魔法を扱える者がいないのはこのためである。

 

・生体属性

 人の体が受け入れられる『属性』の事。

 『属性』が体や性格に現れる事もある。

 魔導士にとって重要だが、体内魔力余剰量が少なく、魔法が使えない一般人にも生体属性はあり、全ての人間が何かしらの属性別に分けられる。

 

・属性

 『元素』に付随する特性を八つに分けたもの。

 属性によって異なる特性・法則・作用がある。

 また人の性格にも影響する傾向がある。

 詳しくは別途、解説する。

 

・詠唱

 『魔力』を言葉によって細かく操作する手段。

 発音する音によって、発動する魔法が異なる。

 

・術式

 『魔力』を『脳内演算』して、更に細かく操作する手段。

 また『術式』自体を『魔法陣』に組み込むことによって『魔力』に細かい指示を出し、『術式魔法陣』として機能する。

 

・魔法陣

 『詠唱』によって構築された円陣。

 『魔法陣』は『魔力』によって構成され、本人の生体属性によってその色が変わる。

 中には円や図形を組み合わせた、所謂幾何学模様が描かれ、高度な魔法になるほど、魔法陣は複雑と化す。

 基本的に地に付けた魔導杖を中心に描かれる。

 

・術式魔法陣

 『魔法陣』に『術式』を刻んだ高度な魔法陣。

 相互作用によって魔法効果の多彩化と高精度化を生み出した。

 また名称が長いため、単に『術式』や『魔法陣』とだけ言うこともある。

 現在ではどちらも単体で用いる事は無いので、混乱が起こる事は無い。

 

・魔力投射用術式魔法陣

 通常、魔法の発動は『魔導杖』の『魔鉱石』から行うが、そこに改変を加え、空中に専用の魔法陣を構築して、そこから行うやり方がある。

 主な魔法の出力は『魔導杖』を中心に構築する通常の『術式魔法陣』が行う為、構造は比較的簡素。

 

魔導杖(まどうじょう)

 魔法の杖。杖部分に当たる木は魔力を通しやすい「ピムガル」という木で出来ている。

 先端には渦を巻くようにして中心に『魔鉱石』が嵌め込まれている。

 魔導杖は魔法を扱うのに必須なため、マリストルーク王国に於いては王国の軍事力の一つである『王国魔法教会』の『魔導士』にしか支給されない。

 

・魔鉱石

 魔導杖の先端に嵌め込まれている鉱石。

 『魔素』と『元素』の集合体で、地下で通常の鉱石と同じように長年かけて生成される。

 通常物体を通しての『魔素』の吸収は効率が悪いが(布越しに呼吸を行うようなもの)『魔鉱石』は魔素の伝導率が極めて高く、人が直接吸収するよりも効率がいい。

 また通常魔法を扱うには『生体属性』と同じ『元素』が大気中に必要で(水そのものなど、物体から吸収するのは非常に効率が悪い)、例えば火の魔法を使う時、火のそばに寄る必要があったが、

 『生体属性』と同じ元素で構成された『魔鉱石』を通すことで、場所を選ばず『魔素』だけを吸収して魔法を放つ事が出来る。

 

・魔導士

 魔法を扱う者。魔法使い。

 マリストルーク王国では、『王国魔法教会』の軍事力として扱われる。

 『ローブ』と『魔導杖』を基本装備として戦う。

 

・ローブ

 魔導士が身に着ける防御用の服。

 魔力を流しやすい特殊な素材で出来ており、騎士の鎧程ではないが剣の一撃に耐えるくらいの防御力はある。

 

・魔法名

 魔法に紐づけられた名前。

 最後に魔法を放つトリガーの役割もある。

 

 

●魔法発動に必要な条件

 

・属性別の豊富な余剰体内魔力

 体内魔力の余剰が不十分だと著しい生命の危険がある。

 また魔導士はひとつの属性しか扱えない。

 体内魔力は身長・体重・筋肉量などの増加に伴い消費量が劇的に増えるので、体を鍛えると余剰魔力が少なくなり、魔法を使えなくなる。

 その為魔導士は、小柄な女性や老人に多い。

 

・対応する属性別魔鉱石が嵌め込まれた魔導杖(まどうじょう)

 魔素の効率的な吸収と放出の為に必要不可欠。

 また術式展開の助けにもなる。

 生体属性と一致していないと使用不可能。

 

・術式魔法陣を構築する技量

 詠唱文の暗記や発音、術式演算は難度が高く、一朝一夕で習得し得るものではない。

 例えば難解な式を立て、それを一つづつ解いていく行為と、複雑な迷路を創り、それに魔力を通していく作業を同時にやるというもの。

 高い効果を発揮する魔法ほど複雑な術式魔法陣が必要になり、より集中力を使う。

 

●魔法発動プロセス

 分かりやすくするため、火の魔法発動のプロセスを解説する。

 

 

1.魔素を吸収する

 大気中の魔素を魔導杖の『火の魔鉱石』を通して体内に吸収する。

 『火の魔鉱石』を通った魔素は、『火の元素』と融合し『火の魔素』として体内に吸収される。

 

2.体内で魔力を練る

 体内に入った『火の魔素』と『魔力』を融合させ、『火の魔力』を練る。

 『生体属性』一致している必要がある。

 

3.魔導杖を地面に突き立てる

 術式魔法陣を空中で組み立てる魔法の場合には不要だが、高い技術がいる。

 

4.詠唱を始める

 言葉の音を用い、練り上げた『火の魔力』の一部で『魔法陣』を作る。

 『魔法陣』は、『魔導杖』を中心に構築される。

 この時、練り上げた『火の魔力』を使いすぎると魔法の威力が弱くなり、足りないと魔法の形を保てなくなるので、繊細な力加減が求められる。

 この作業だけでは魔法陣は成り立たず、模型組み立ての例を挙げると、パーツを作り並べただけの状態と言える。

 詠唱のみでは魔法陣を完成させられないが、魔法の効果の大部分は詠唱で決まる。

 そのほか、詠唱文の一部に変更や付け足しを行う事によって、効果を変えることも出来る。

 例えば火の対人魔法『ブレイズ』の炎球を複数個同時に放ったり、光の対物魔法『ルークスホリア』の投射位置を変えるなど。

 また詠唱はこの後の行程での『火の魔力』の操作を全て行う為、以後、魔法発動まで詠唱は続く。

 魔法投射用の『術式魔法陣』を構築する必要がある魔法の場合は、空中にも同様に魔法陣を構築する。

 

5.術式を構築する

 脳内で演算を行い、練り上げた『火の魔力』の一部で魔法陣に術式を書き足していく。

 この行程によって先のパーツを接着し、魔法陣を完成させることが出来る。

 同時に魔法陣に距離、速度、気象条件、任意の軌道などを入力し、微調整によって精度を上げる行程でもある。

 この術式という技術によって、例えば火の球を自由な機動で操ったり、霧散させずに遠距離まで飛ばしたり、目標を自動追尾したり、同じ魔法陣を大量に複製したりといった技術が可能になった。

 『詠唱』と『術式』は同時に行う必要があり、これを以って『術式魔法陣』が完成する。

 『術式魔法陣』の構築は、威力・効果範囲・射程・複雑な動作性が加わる事により難度が上がる。

 

6.『術式魔法陣』に『火の魔力』を流す

 体内にある『火の魔力』を操作し、『術式魔法陣』に力を注ぐ。

 すると魔法陣は反応して輝きだし、『火の魔力』の場合は赤く光る。

 『術式魔法陣』に注がれた『火の魔力』は、機能を形作られたのち、詠唱の進行で魔導杖先端の『魔鉱石』に移動し、魔鉱石も赤く輝く。

 

7.『術式魔法陣』から魔導杖を離す

 魔導杖を離す事によって、魔鉱石に吸収された『火の魔力』はフリーな状態になる。

 この時、もし『魔法投射用の術式魔法陣』がある時、『火の魔力』を『詠唱』の操作によってそちらに転送する。

 

8.魔法を発動する。

 魔鉱石、または『魔法投射用の術式魔法陣』から、魔法を放つ。

 魔法発動には、詠唱の最後の『魔法名』と、『体内魔力』の押し出しが必要になる。

 例えるなら、『魔鉱石』または『魔法投射用の術式魔法陣』に宿る魔法という弾丸を、『体内魔力』の起爆によって外部に撃ち出すものだ。

 この行程の時、殆どの魔導士は魔導杖を前に振りかざしたり、上に振り上げたりする動作を伴う。

 必須ではないが、魔力で押し出す動作をイメージしやすいからである。

 

9.魔法の操作

 一部の特殊な魔法は、魔法発動後に任意の操作を加えることも出来る。

 その場合は魔導杖を地に付けて操作、魔導杖を振って操作、手で操る、思念で操るなど、魔法の種類や本人の工夫によって千差万別の操作方法がある。

 

 

●属性

 

 元素に存在する性質の事。

 火・水・地・風・氷・雷・光・闇の八つが確認されている。

 『火の元素』と『魔素』が融合した際には『火の魔素』に、

 『火の魔素』と『魔力』が人の体内で融合した際には『火の魔力』になる。

 各元素には、『固有特性』があり、元来有する『自然特性』二つ、体内で『魔力』と融合した際に発生する『魔法特性』一つの三つの特性を持つ。

 特に『魔法特性』は、魔法の効果に直結する場合が多く、明確な破壊効果をもたらす。

 

 以下、それぞれの性質を解説する

 

▼火属性

 『高温』と『燃焼』の自然特性を持つ元素。

 魔素と融合すると自然界には炎や溶岩などの形で存在する。

 また太陽自体が火属性元素の塊だと言われていて、そこから降り注ぐ熱線にも火の元素がふんだんに含まれている。

 その他、熱を持つ全ての物体には『火の元素』が含まれている。

 大気に存在する中では『風属性』の次に多い元素だと言われていて、そのせいか火属性に適性を示す魔導士は極端に多い。

 固有の色素は赤。

 

・魔法として

 『爆発』の魔法特性を強く持つ。

 消費魔力が少なく、威力が高い。

 前述の通り魔導士数も多いので、魔法教会の主戦力的立場にある。

 また魔法を発動した後、魔法自体は消え去るが、火属性の場合は周囲を燃焼する効果がいつまでも残り続ける。

 その為魔導士が多く活躍する戦場では、必然的に大火災が発生し、戦闘が収束した後でも影響を与え続ける。

 その効果は『熱』と『燃焼』だが、魔法として放つと『爆発』の魔法特性が発生する。

 大部分の火の魔法は着弾点で爆発し、周囲を熱と炎と衝撃で巻き込む。

 生物にとって炎は致命的であり、物体にとっても爆発による衝撃は深刻なダメージを与える。

 

  

・人への影響

 火属性を持つ人間は、熱血的で上昇志向な反面、怒りやすく喧嘩を始めやすい傾向がある。

 人の歴史は戦いの歴史というが、それはひとえに火属性の人間が多いからだと研究されている。

 勇敢で炎や血を恐れない為、魔力が少なくても騎士として活躍しているものも多い。

 また正義感やリーダーシップを強く持ち、王や指揮官など組織を率いる立場に多く見られる。

 髪色は赤かオレンジ。

 

▼水属性

 『流動』と『浸漬』の特性を持つ元素。

 自然界には水そのものや海、雨として存在する。

 量で言えば海や川が多くを占めるのだが、大気中に溢れる量はそれほど多くはない。

 また水属性の元素は特に生命体には必要不可欠であり、生命維持という観点では最も重要な要素。

 固有の色素は青。

 

・魔法として

 『圧壊』の魔法特性を強く持つ。

 消費魔力が少ない反面、威力も少な目。

 魔導士数は多めで、火・地・風と並び4大属性と言われる。

 魔法によっては大量の水を生成するが、あくまで魔力により生み出した水であって、自然界の水とは元素と魔素の比率が違う為、飲料水には成らない。

 そもそも特性が『圧壊』に寄っているため、例えば手を洗おうとしても傷付けるだけに終わる。

 その上短時間しか維持出来ず、魔法により生み出された水は直ぐに大気に霧散する。

 前述の通り性質は『流動』と『浸漬』に加え、魔法として『圧壊』の特性があり、触れた物を圧力で破壊する。

 『流動』特性により広い範囲に被害を及ぼす魔法が多く、巻き込まれた物体は『圧壊』特性により次々と崩壊していく。

 

・人への影響

 水属性を持つ人間は、平静で落ち着いている反面、ネガティブで気弱な傾向がある。

 地頭がいい人が多いが、逆に振り切ってしまって明るく振る舞う人間もいる。

 火属性と比較すると、組織のナンバー2の役職に着く場合が多くある。

 また自身の属性に引きずられ船乗りに多くいる人種でもある。

 髪の色は青か水色など。

 

▼地属性

 『堅牢』と『基礎』の自然特性を持つ元素。

 自然界では地面や岩など、大地を構成するもの全てに存在している。

 星を象っている元素なので、惑星上に圧倒的に多く存在しているものの、大気中の含有量は極端に少ない。

 武器や建物に使われる金属も『地の元素』が豊富に含まれており、人工物の殆どは『地の元素』を中核に成り立っている。

 固有の色は茶色。

 

・魔法として

 『破裂』の魔法特性を持つ。

 魔法としての『地の魔力』は対象に当たると自身を『破裂』させ、広範囲に飛散する。

 この魔法特性の為、余波で地割れや陥没は起きても、地の魔法を使っての意図的な陣地構築や建築は不可能。

 個体として存在するのが主であり、魔鉱石を以てしても吸収効率が悪く消費魔力が大きい。

 半面、威力も総じて高く、切り札的な使われ方をする事もある。

 しかし射程と速度に優れず、特に空中の対象に使うのは難しい。 

 

・人への影響

 地属性を持つ人間は、大らかで気が優しく、反面変化を嫌い考えが固い傾向がある。

 また冒険好きで好奇心にあふれる人が多く、筋肉がつきやすい体質を持つ。

 その為探検家や研究者、その他建築作業者や農業従事者などに多く見られる。

 髪の色は濃淡の差はあるが茶髪が多い。

 

▼風属性

 『気流』と『圧力』の自然特性を持つ元素。

 自然界では大気の殆どを構成し、地の元素の次に存在数が多い。

 存在数自体は二番手ではあるが、最も人間の体に多く触れ合うもの。

 その為風属性の人間は多い。

 『気流』特性により場に留まることなく常に動き続ける元素で、人間が無風と感じる時でも人の感覚外で流れている。

 また存在するだけで『圧力』を生み出し、風によって体が押されるのもこの特性の為。

 固有の色素は緑だが、角度や密度によって様々な水色や無色に見えたりもする。

 空が青く見えるのはこの為だが、『光の元素』や『火の元素』と混ざり合い、複雑な色の変化を見せる。

 

・魔法として

 『切断』の魔法特性を持つ。

 体内の『魔力』と交わる事で自然特性に比べ大きく性質が変わり、『圧力』の特性が殆ど無くなり、『気流』により自在に形成された風の流れを固め、物体を『切断』するのが主な攻撃方法になっている。

 その為古くから風属性の魔法が使える者は、人を傷つける事に少しだけ長けていた。

 大気中に豊富に元素が漂っている為消費魔力は少なく、また放つ『魔力』の速度も速い。

 素早い標的にも難なく当てられる使いやすさが特徴。

 威力に関しても平均的と言える。

 

・人への影響

 風属性を持つ人間は、考え方が特徴的で捉えどころのない傾向がある。

 良くも悪くも変わり者が多く、自由かつ自分なりのルールを持って行動する人が多い。

 悪く言えば自分勝手で、他人よりも自分尊ぶ。

 その為単独行動の多い竜騎兵たちや、自分の世界を持つ歌手、創作者などに多く見られる。

 髪の色は灰色、銀髪、薄緑色などが幅広く見られる。

 

▼氷属性

 『冷気』と『凍結』の自然特性を持つ元素。

 惑星の両端に多く存在し、その地域を極低温に作っているが、特に北の方に多く存在している。

 その地域の気温は極端に低く、特性通りに物体の多くを凍り付かせる。

 特に『魔素』と交わると雪や氷に変化し、『火の元素』の減少と共にその数を増す不思議な元素。

 それらの周期は古代の人類に『一年』の概念を与えたが、自然界の元素存在数は少なめ。

 それ故か扱いが難しく、人工的に利用される事はほとんどない。

 固有の色素は白。

 

・魔法として

 『破砕』の魔法特性を持つ。

 体内魔力と結びつき、体外に投射されると物体を瞬時に『凍結』させ、その後に物体自体を『破砕』させる。

 生身で放つと出力が低いため『破砕』の特性は薄く、適度に冷凍させることが出来る。

 その為、古くから肉の保存などに重宝されている。

 適性を持つ魔導士は多くないが、元素の組み換えがしやすく、多くの魔法の種類がある。

 消費魔力は少ないが、威力は高くなく、魔法の等級にもよるが建造物などの破壊は苦手。 

 

・人への影響

 氷属性を持つ人間は、冷静沈着で計算高く、また冷酷で感情が乏しい傾向がある。

 物事に動じず、笑いを知らず、物事を数字で判断する人間が多い。

 数学者や科学者に多く、優秀ではあるが好奇心を持たない者は二流か三流に納まっている。

 水属性と似通った部分が多くあるが、あちらは柔軟な人間が多く、融通の利かないところは地属性と似ているともいえる。

 また集中力や空間把握能力に優れている為、騎士弓兵に多いタイプと言える。

 髪の色は銀色、灰色、白など色素が薄くなる傾向があり、肌の色も白が多い。

 

▼雷属性

 『帯電』と『連鎖』の自然特性を持つ元素。

 上空で『魔素』の塊と交わる事によって雷を発生させる。

 自然界に存在するときから『帯電』という攻撃的な特性を持っている。

 また生物に対しての場合は『感電』と言う。

 自然保有数は極めて少なく、地表には殆ど無いと考えられていたが、『帯電』の特性により物体の表面に極少数ではあるが満遍なく存在している事が分かった。

 それらをこすり合わせることで静電気として人間に感知できる状態になる。

 しかし人類はそれを利用する事叶わず、身近とは言えない元素ではある。

 また『連鎖』特性により物体から物体へ瞬時に伝わり、またその移動速度も極めて速く、目で追う事は出来ない。

 固有の色素は黄色。

 

・魔法として

 『貫通』の魔法特性を持つ。

 対物魔法カテゴリである『ライズデンヴァー』ですら、城壁に穴を穿てるほどの貫通性能を誇る。

 総じて魔法の威力が高く、また自然界の保有数が少ないため魔力の消費も大きい。

 自然特性である『連鎖』も強く出ており、魔法の投射速度は極めて速く、『帯電』特性を応用して標的に誘導するピンポイント攻撃も可能で、総合的な攻撃的能力が全属性の中でもトップクラスで高い。

 その為、雷魔法こそ最強の魔法だと信じる魔導士も多くいる。

 

・人への影響

 雷属性を持つ人間は、物事への理解、頭の回転、動きの素早さ、正確さに優れている。

 半面、面倒な手順や道筋を嫌うせっかちな性格になる傾向がある。

 装填や照準の素早さと正確さ、人数の多さによる作業の単純化が理由で、砲兵に多く見られる。

 また一般騎士や輸送・兵站を支える兵卒にも多く見られ、地味ながらもその俊敏さを生かしたところで活躍している。

 髪色は黄色や紫、青色などが一般的。

 

▼光属性

 『照射』と『活性』の自然特性を持つ元素。

 『照射』特性によって周囲を明るく照らしている。

 この世界の明かりの全ては『光の元素』によってもたらされており、その『光の元素』は太陽から常に送られているが、存在し続けられる時間は短く、太陽が沈めばすぐに暗くなってしまう。

 同じように自然界の火にも『光の元素』が多く含まれているので、太陽程とはいかないまでも周囲を照らすことが出来る。

 同様に太陽光にも多くの『火の元素』が含まれており、両者は共存している事が多い。

 その他、『光の元素』が地中で固まって出来た『光の魔鉱石』は強い光を発するので、照明として暗所や夜間に使われて居たりしている。

 その惑星上の元素量存在数は日中と夜間で激しく異なるが、身近である事に違いはない。

 また『活性』特性によって、日を浴びて作物が育ち、人間も健康的になっている事が証明されている。

 固有の色素は金色。

 

・魔法として

 体内魔素と融合すると『浄化』の魔法特性を持つ。

 この『浄化』特性と元来の『活性』特性の複合作用によって肉体を瞬時に回復させることが出来る。

 これを利用して光属性の魔導士は治癒魔法を使う、というのが一般的になっている。

 光の魔導士=治癒魔導士自体はそれほど珍しいものではないが、その特性上攻撃に転じて用いることが大変難しい属性でもある。

 ”治癒魔導士が攻撃も出来たら強い”と考え、研究をするものも多くいたが、現在の所通常の治癒魔導士が攻撃魔法を放つことは大変難しい。

 他の属性で通常魔法を放つときは、攻撃寄りの魔法特性が強く出るが、『浄化』の特性を強く出すと攻撃にならない。

 魔導士は、『活性』と『浄化』を押さえながら、『照射』特性のみを増強し、魔法を発動しなければならない。

 これをするための効率的な術式と、可能にする魔力量が現実的な範囲で見つからず、一般的には光属性の攻撃魔法は見つかっていない。

 また、そもそも通常の治癒魔法の時点で、高い効果と引き換えに多くの魔力を使うので、攻撃魔法が可能だったとして、敢えて実用するメリットは少ない。

 以上の理由から、一般的には『光の魔導士』=『治癒魔導士』と考えて問題ない。

 それを踏まえたうえで敢えて解説すると、光属性の魔法の強みは元来の自然特性である『照射』にある。

 すなわち、魔法を放った瞬間に相手に照射されているという事なので、極めて高い命中率を誇る。

 また『浄化』もその概念を”術者に敵対する勢力を不浄”だと解釈する術式を組み込めれば、『照射』との相乗効果が見込め、実用的な攻撃力と汎用性を得ることが出来る。

 

・人への影響

 光属性を持つ人間は、明るく活発で前向きな反面、考えなしで空気が読めず、デリカシーの無さや約束を破りがちという面を持っている傾向がある。

 基本的に人と接する事を望む人が多いので、飲食・接客業全般、或いは使用人など人と関わる仕事や、医者や看護師など魔導士としての才能が無くても人を癒す仕事を好む。

 また仲間意識が強く、家族や友人恋人を護る為に軍属を目指す者も多い。

 髪色は金髪や薄い茶髪やオレンジといった明るめの色が一般的。

 

 

▼闇属性

 『吸収』と『浸食』の自然特性を持つ元素。

 暗い場所全てを形作っていて、『光の元素』が少ない場所に多く存在する。

 両者の関係性は正確なところは最新の研究でもつかめていないが、『吸収』『浸食』この二つの特性で『光の元素』を食いつぶしているという説がある。

 太陽という『光の元素』を送る元が沈んですぐ暗くなるのはこれが原因と言われている。

 例えば、太陽は同時に『火の元素』も送り込んでいるが、『火の元素』は太陽が沈んだ後もしばらく持続して、夏は特に消滅する事は無い。

 一方冬は『氷の元素』の数が多いため相対的に日中であっても『火の元素』の絶対量は少ないが(『氷の元素』が少ない理由としては、『風の元素』や『地の元素』など他の元素との複雑な関わり合いがある)『光の元素』だけは太陽が沈んで少し後には消えてしまう。

 これは『闇の元素』の特性によって『光の元素』を吸収・浸食してしまっているからだと考えられている。

 また『闇の元素』は、夜間や室内の他、太陽の日陰にも存在していて、惑星上の元素総量はそこそこ多くはあるが、特に夜間、空一面は『闇の元素』に覆われており、この惑星の外、つまり宇宙には、更に多くの『闇の元素』で溢れていると予想されている。

 固有の色素は黒。

 

・魔法として

 体内魔素と融合させることによって『消滅』の魔法特性を持つ。

 言い換えれば『破壊』や『損傷』と言ってもいい。

 とにかく物体を壊し消し去る特性を持ち、特に威力の高い魔法である。

 しかし多くの魔力を使う為、闇属性魔法を十分に扱える魔導士は極めて少ない。

 戦術級、戦略級の魔法になってくると、空間そのものを消し飛ばす魔法になってくるため、敵を倒すどころか世界に及ぼす影響を考える必要がある。

 

・人への影響

 闇属性を持つ人間は、才能に溢れる完璧主義者であり、孤独を好み悲観的で無口な人間が多い傾向がある。

 上記が相まって真実を話さない、他人に頼らなくても何でもできる、努力を見せない、などの事から理解しがたい天才や、また悪に突き抜けた者などが該当する。

 他に大きな特徴としては、死を恐れない、または殺すことに躊躇がない、そこまでいかなくても並外れた決断力があるなどのもある。

 以上の事から、王族や部隊指揮官、政治権力者などリーダー的役割を務めることが多い。

 『火属性』の人間と被るが、彼らのような温かさや熱血さはなく、周囲も付いて行けず孤立しがちである。

 しかし逆に言うとリアリストでもあり、希望的観測や人情を排除した判断が必要な場面もある為良いリーダーとして慕われているものも多い。

 そのほか、殺人者や暗殺者などの犯罪者、国家機関の裏方、偵察員や諜報員、狙撃手など、単独行動や人の命に係わる仕事などに集まりやすい。

 髪色は黒か紫など、暗めの色が中心。

 

 

●魔法の等級について

 魔法は大まかに五つの等級に分かれている。

 用途や効果範囲、単純な破壊力など、等級が上がるにつれて規模が上がっていく。

 『対人魔法』『対物魔法』『対城魔法』『戦術魔法』『戦略魔法』の五つ。

 しかしこれらは飽くまで便宜上の名称で、例えば『対人魔法』で物体を破壊したり、『対城魔法』を城以外に使う事は一般的にある。

 

 

・対人魔法

 個人へ向けて放つ基礎的な魔法。

 アンデッド2~3体くらいなら巻き込んで倒せる。

 石の民家を完全に破壊するなら10発は必要。

 詠唱が短く、消費も少ないため連射が効く。

 

・対物魔法

 アンデッドの集団、民家、竜車、火砲、簡単な砦などに向けて放たれる。

 魔法にもよるがアンデッド10~20人を倒せる。

 石の民家を一撃で破壊する事が出来る。

 魔力消費の割に威力が高く、積極的に使われる。

 

・対城魔法

 普通魔導士の限界点。

 城や大規模な砦、城壁、軍艦などに向けて放たれる。

 城や軍艦を一撃で破壊するものではないが、一区画の大きな損傷を狙える。

 人間は巻き込むが、人間同士の戦争では人間を狙って使用する事は無い。

 効果範囲が広いものが多く、場所によっては使用者も危険になる。

 密集度合と属性や魔法の種類にもよるが、アンデッド50~500人を巻き込める。

 人類同士の戦争時は、放つのに指揮官の許可が必要だった。

 

・戦術魔法

 戦術級魔導士以上が使用できる。

 城、城塞、騎士駐屯地、小規模な街、軍艦などに向けて放たれる。

 規模にもよるが軍艦クラスであれば一撃で破壊することが出来、魔法によってはクレーターが出来上がる程。

 大きな消耗を伴い、戦略級魔導士で2発、戦術級魔導士で1発の連続使用が限界。

 対アンデッド戦争より十数年前に発明された新しい魔法カテゴリで、魔鉱石二つを並列処理する事でその魔法出力を大幅に向上させた。

 別名二重属性魔法。

 

・戦略魔法

 戦略級魔導士のみが扱える最高クラスの魔法。

 街ひとつ消滅させる程の威力で、一人いるだけで国家戦略を変え得る切り札の魔法。

 威力と効果範囲が絶大であり、破壊できない人工物は存在しない。

 属性により復興困難な程地形と環境を破壊し、魔法効果を越えて天候そのものにまで影響する。

 連続使用はどんな人間であっても不可能で、再度の使用には一か月ほどかかる。

 戦術魔法より更に新しく、属性の違う魔鉱石二つを合わせて使用する複合属性魔法。

 二つの違う属性が複合し、一つの超強力な魔法となる。

 三つ以上の複合属性魔法の開発も理論上は可能だが、技術と人間の魔力量が足りない上、現状より強力な魔法を使う意味がない為、研究は中止されている。



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魔法詠唱文まとめ

中学生が考えたような??魔法詠唱文を考えてみました。
全部登場するか分かりませんが、いい年しつつ妄想を形にするのは楽しいものです!
厨二感マシマシの世界をお楽しみあれ!


●火属性

・自然特性:『高温』『燃焼』

・魔法特性:『爆発』

・希少度合:多数を占める

・消費:少

・威力:やや高

・色素:赤

 

●水属性

・自然特性:『流動』『浸漬』

・魔法特性:『圧壊』

・希少度合:多数を占める

・消費:極めて少ない

・威力:小

・色素:青

 

●地属性

・自然特性:『堅牢』『基礎』

・魔法特性:『破裂』

・希少度合:一般的

・消費:非常に多い

・威力:高

・色素:茶

 

●風属性

・自然特性:『気流』『圧力』

・魔法特性:『切断』

・希少度合:一般的

・消費:中

・威力:中

・色素:緑

 

●氷属性

・自然特性:『冷気』『凍結』

・魔法特性:『破砕』

・希少度合:珍しい

・消費:少

・威力:小

・色素:白

 

●雷属性

・自然特性:『帯電』『連鎖』

・魔法特性:『貫通』

・希少度合:珍しい

・消費:多

・威力:極めて高い

・色素:黄

 

●光属性

・自然特性:『照射』『活性』

・魔法特性:『浄化』

・希少度合:珍しい

・消費:多

・威力:高(治癒能力)

・色素:金

 

●闇属性

・自然特性:『吸収』『浸食』

・魔法特性:『消滅』

・希少度合:極めて珍しい

・消費:多い

・威力:極めて高い

・色素:黒

 

●詠唱文まとめ

・治癒魔法

「光よ! 彼の者に聖なる活性を――エイド!」

 

・対人魔法

 

「紅蓮の炎よ――ブレイム」

 炎球を放ち、標的は燃え上がる

 

「蒼穹なる水よ――アクエス」

 水泡を放ち、標的は圧壊する

 

「疾風の刃よ――ブリューク」

 風の刃を放ち、標的は切断される

 

「母なる大地よ――グランデ」

 岩石を放ち、標的は傷つき、破片が周囲に飛ぶ

 

「凍てつく氷よ――ブリザーク」 

 氷柱を飛ばし、標的は貫かれる

 

「弾ける雷よ――ライズ」 

 雷撃を放ち、標的は感電する

 

「聖なる光よ――ルークス」 

 光槍を放ち、標的は浄化・この世を去る   

 

「暗黒の闇よ――レイズ」 

 闇剣を放ち、標的は消滅する。

 

・対物魔法

 

「灼熱なる炎槍よ! 我が手に宿り自在に飛翔せよ――ブレイムサイル」

 複数の炎の槍を周囲に展開し、誘導して発射する。

 刺さった後は爆炎で複数を巻き込む。

 中範囲かつ複数で汎用性に優れる。

 

「灼熱の炎よ! 敵を焼き尽くせ――ブレイムヘルズ」

 炎球を敵の中心に召喚し、広範囲を爆風で巻き込む。

 

「破滅の水泡よ! 弾けた先に敵を残すな――アクエスバレル」

 複数の水泡を敵中に召喚し、弾けて倒す中範囲攻撃。

 

「湧き立つ水柱よ! 我が意思のままに敵を破壊せよ――アクエスリュード」

 術者の周囲四本の水柱を立ち上らせ、そこから直角に曲がり任意の敵を水流で破壊する。

 

「旋風の刃よ! 我が意のままに対象を斬り刻め――ブリュークレイド」

 風の刃で敵複数体を同時に斬り刻む単体攻撃。

 

「叡智の石塊(いしくれ)よ! 鋼鉄の岩弾となりてあらゆるものを打ち砕け――グランデカノーネ」

 石の砲弾を撃ち出す。

 砲弾は対象に当たると弾け、散弾となって周囲を穿つ。

 

「凍てつく氷の槍よ! 敵を突き穿て――ブリザークスピッド」

 複数の氷の槍で対象を突き刺し、氷砕く。

 

「雷撃よ! 我が杖に宿り、電光石火の衝撃を放て――ライズデンヴァー」

 杖から貫通力、伝導性を持った電撃を放ち、複数体の標的を貫く。

 

「穢れ無き聖光よ! 正しき世界に仇なす罪人に、救いの十字架を与え賜え――ルークスホリア」

 光の十字架を敵頭上に召喚し、落下させて攻撃する中範囲攻撃。

 

「漆黒の闇剣よ! 我に仇なす者に闇の裁きを――レイズソーディア」

 敵頭上に複数の魔法陣を構築、そこから三日月状の刃を投射し、対象を切り裂く。

 

「我が内に眠る、闇の波動よ! 我が剣に宿りて、憎き者を薙ぎ払え――レイズガールド」

 剣に闇に波動を付与させ、自在に切り裂く。

 杖でも手でも可能。

 

・対城魔法

 

「爆熱の焔球よ! 焔の恐ろしさを知らぬ愚か者に、地獄の烈火を――ブレイムガード」

 炎球を周囲に一つ召喚し、高速で打ち出す。

 着弾点を中心に城壁をも溶かす爆炎で覆う。

 

「大いなる奔流よ! 我に仇成す敵を呑み込め――アクエスプラッド」

 魔法陣から大量の流水を投射し、津波で城壁を破壊する。

 

「突風の槍よ! 堅牢なるもの、悉くを撃ち貫かん――ブリュークピアズ」

 一本の突風の槍で城壁を城内部諸とも貫く。

 

「地に立つ全ての生命よ! その愚かさを今嘆くがいい――グランデロード」

 地面から鋭利な岩場を突き出し、触れたもの全てを破壊する地形破壊魔法。

 地に付いた建造物はその悉くを破壊される。

 

「氷塊の槌よ! 我を阻むその障害を踏み砕け! そして散るがいい――ブリザークハリア」

 巨大な氷塊を上空に召喚し、その質量で城壁を押しつぶす。

 当たった物体は強度を無視して凍り、砕け散る。

 そして冷気によって周囲を凍り付かせた後、氷柱を強制発生させ効果範囲はツララで埋め尽くされる。

 

「夜を裂く稲妻よ! 地を這う雷となり、雷帝の権威をここに示せ――ライズグリュードネル」

 杖を地面に付くと同時、任意の場所に雷を地面から発生させて敵を貫く。

 城壁の破壊はもちろん、城外部から内部を攻撃する事も可能。

 

「輝ける聖槍よ! 我が杖に宿り、あらゆるものを浄化せん――ルークスパイト」

 光の槍を杖に顕現させ、振り抜くと直線状のあらゆる物体を強度を無視して消滅させる。

 

「極黒の思念よ! 殺戮の魔弾となりて我が意のままに射出せよ――レイズバレイド」

 背後に無数の球体を召喚し、そこから黒いビームを放ち、前方一帯を制圧する広範囲誘導魔法。

 

「浸食せし暗黒の異空間よ! 今ここに姿を現し喰らい付け――レイズブラード」

 対象の足元に暗黒空間を召喚し、そこから伸びる闇の爪で対象を串刺し、異空間に連れ去る。

 建造物や地形であっても跡形もなく消し去る。

 

・戦術魔法

 

「原初を灯すは、焔! 烈火の如き古の炎を以って、目に映る全てを燎原の火と変えよ! 灰と化すがいい――ブレイムメテア」

 炎球を上空から落下させ、隕石の様に着弾し辺りを地を這う炎で焼け野原に変える。

 

「世界を潤すは、雨! 我らの恵みは、罪深き汝らを滅ぼすとここに宣言する! 生命よ、嘆くがいい――アクエスレイニ」

 絨毯爆撃のような雨を長時間降らせ、辺り一帯を更地に変える。

 

「烈風織り成すは、嵐! 全てを薙ぎ倒す災禍の前に、何人と阻める者、なし! 絶望せよ――ブリュークステイル」

 縦向きの竜巻を発生させ、薙ぎ払うようにして辺りを更地にする。

 

「星を象るは、大地! 太古より踏みしめられし鋼鉄の如き我らが領土、仇なす者全て、踏み穢す権利を剥奪する! 串刺しとなるがいい――グランデスキア」

 大地を操作し、槍の様に尖った岩を隆起させ、任意の人や建造物を地面から串刺しにする。

 

「万象止めしは、氷結! 永久凍土の世界にて、一切の生命を許しはしない! 凍土の果てで懺悔せよ――ブリザークマウト」

 広範囲に冷気を発生させ、あらゆる物体を凍り付かせる。

 その場所は、永久凍土と化し、天候に深刻な影響を与える。

 

「天空を裂くは、雷! 神々の空から降り注ぐは、これ絶対神罰の一撃なり! 逃げる道など、無いと知れ――ライズボルテッド」

 上空からシンプルに強烈な落雷を一発落とす。

 着弾点にはクレーターが出来る。

 

「穢れ払うは、聖光! 暗黒の波に掬われし哀れな汝らの元に、今こそ救いの光を差し出さん! 願わくば、苦痛なき慈悲の一撃とならん事を――ルークスマリアント」

 上空から無数の光柱を叩き落し、絨毯爆撃する。

 

「滅する力こそ、暗黒! 愚かなる人の子に、明快な力と殺戮を与えん! さあ、深淵を覗け――レイズフォーム」

 上空から闇球を投下し、着弾すると徐々に効果範囲が広がる円形のフィールドが現れ、呑み込まれた空間が消滅する。

 巨大なクレーターが出来る。

 

 

・戦略魔法

 

「地獄の業火をここに! その膨大なる熱と極光で以って、我らに害なる存在、その(ことごと)くを灰塵と帰さん! 灰も残さず、消え去るがいい――爆熱の炎焔(エキスブレイム)!!」

 小型の太陽を召喚し、それをレーザーのような速度で打ち出し、巨大な爆発を起こす火と光の複合魔法。

 山をも砕く威力を誇る。

 

「全てを満たす根源! その凄絶なる奔流を我が手に掌握せん! 全てを清め、全てを無に帰せ――絶無の崩海(アクエスウェイグ)

 効果指定範囲を囲うようにして無数の魔法陣を構築。

 その全てから水塊を放出し、中心で巨大な水柱を上げて範囲全てを破壊する水と風の複合魔法。

 更に水流は渦を作り、効果範囲外にも壊滅的な影響を及ぼし、削られた大地には湖が出来上がる。

 

「人類を弄する天候、その極みを今掌握せん! 我が意思と共鳴し、激甚の大嵐となりて全てを斬り刻め! 破滅はここに、顕現せり――鋭斬の大嵐(ブリュークロム)

 上空から大嵐が現れる。

 嵐は落雷と雨をも呼び寄せ、竜巻は複数巻き起こり地面をも削りつつ触れた全てを斬り刻み破壊してゆく。

 風と水と雷の三重複合魔法。

 魔法効果が終わった後も大気は深刻な変動を起こし、数週間~数か月間悪天候は続き、周辺地域にも影響を及ぼす禁忌魔法の一つ。

 

「母なる大地の聖霊よ! 大いなる慈悲を我らに、絶対なる断罪を彼らに! 決して許されぬその罪を、大地の裁きの前に懺悔するがいい! 究極の天変地異を今ここに――崩顎の裂地(グランデエイカー)」 

 地割れ、隆起、陥没、地震など、あらゆる災害を一瞬で引き起こす。

 そして地割れ地点からは灼熱の溶岩が火柱の様に吹き上がり辺りを火の海にする地と火の複合魔法。

 地形は徹底的に破壊され、再利用が困難になる。

 

「無慈悲なる純白の神よ! その冷気、遍く物体を凍てつかさん! 果ての吹雪によって、絶対零度の監獄を地に下ろせ! 砕け散るがいい――獄寒の氷界(アルテブリザーク)

 絶対零度の冷気が降り、凍てついた大気の結晶が刃となって、一体を徹底的に斬り刻みあらゆる物体を砕く氷と風の複合魔法。

 天候に深刻な影響を及ぼし、例え南国であっても天候の回復は見込めず、あらゆる生命の存在が出来なくなる。

 

「神の裁き、天空より来たれり! 罪深き者よ、罪なき者よ! 雷神の怒りをその目に焼き付けるがいい!ここに降り下るは無数にして全てを破壊せし神罰なり! 世界に敵対せし事、その身で贖うが良い――神罰の絶雷(レデヴァールライズ)

 無数の雷を地に降らせる雷と闇の複合魔法。

 魔法が展開すると、例え昼間であっても闇の帳が降り、対象者全ての動きを封じる。

 そこに無数の雷が降り注ぎ、辺りを徹底的に破壊し尽くす。

 後には草木が一本も生えない死の荒野が残る。

 

「天の赦しをここに! 穢れ払うは極光! 許されざる愚者に今終末の光を与え賜え! 遍く救いはここに在り――救済の極光(イノセレイルークス)

 上空に聖なる光の焔が現れ、範囲内全ての生命はその命を一瞬で燃やし、体を消滅させる光と闇の複合魔法。

 戦略級魔法の中で唯一二次災害が無く、また建造物を破壊せず生命体だけを浄化する究極の魔法。

 

「深淵の主よ、絶望の王よ! 世界の淵より顕現し、星を喰らえ! 目に映るもの、全てに滅びと終焉を――終焉の深闇(アビスドレイド)

 広範囲を暗黒の大地で覆う闇と地の複合魔法。

 覆われた部分は深淵という概念へと崩壊を起こし、大地を蝕んでいく。

 その上に立つ人も建物も、崩壊から逃れる術はない。

 一度できた深淵は二度と消える事は無い。

 



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厄災のはじまり
第1話「都会は怖い」


まだ世界は平和です!


 ――魔法。

 

 それは大地から溢れ、大気に満ちる”魔素”を取り込み、”術式”と呼ばれる魔法陣を媒介してある一定の効果・作用・法則を以って使用者から故意的に発せられる、人為的超自然現象の事である。

 

 術式の展開には”詠唱”と呼ばれる、言葉の音によって魔素を操り構築する方法が用いられ、その言葉の変化によって千差万別の魔法効果を発生させることが出来る。

 

 人は、魔法を使う者を魔導士と呼び、ある年を起点に魔法関連の技術は瞬く間に広まり、以後人類の歴史は魔法と共に歩むこととなる。

 過去の歴史家達は人類の歴史をそう評し、広まった起点となった年を魔法暦元年と定義した。

 

 そして時は流れ、現代・魔法暦1573年。

 ”竜と魔法の国”マリストルーク王国より、世に災厄(アンデッド)が解き放たれる。

 

――魔法暦1573年 早朝 マリストルーク王国 王都サンツマルク 貴族街 王都前大通り――

 

「おおぉ~~……、これが、噂に聞くサンツマルク王都城……! わたし、圧巻です……!」

 わたし――リゼリア・マルドレールは遠くそびえ立つ天にも届きそうな巨大な王都城に感動しました。

 いえ、”天にも”は言い過ぎですね、感動のあまり誇張表現になっています。

 ですが全七階層を誇る建物はとても故郷の村ではお目にかかれない憧れのものだったので、とてもわくわくしています!

 

 辺境の田舎村、メルメスを飛び出して早10日。

 ようやくたどり着きました。

 本当に長かったです……、がついにその苦労も報われる時が来ました。

 都会は怖い所とお父さんやお母さんは散々言っていましたが、道行く人も皆良い人そうです。

 

「ふふん、ふふ~ん、さぁ、これでいよいよ私も魔法使いかぁ~~!」

 思わず浮かれてしまい、わたしは無意識にここに至るまでの経緯を思い浮かべます。

 

 始まりは、おばあちゃんの残した一冊の魔導書を見つけた時からでした。

 凄い魔法使いだったおばあちゃんに憧れていたわたしは、それをどんな絵本よりも真剣に、隅々まで読みました。

 魔素や魔法陣の仕組みを勉強し、呪文だって唱えられるようになりました。

 ただ、魔法を使う為には血筋と杖が必要です。

 血筋は大丈夫です。亡くなったおばあちゃんが凄い魔法使いでしたし、お父さんも元魔法使いなので、娘であるわたしにも受け継がれているはずです。

 

 しかし杖は、王都城に行って正式に魔法使いとして認められなければ貰う事は出来ません。

 ところが、わたしのお父さんもお母さんもわたしが魔法使いになる事は反対でした。

 

 なぜなら、王都で魔法使いになるという事は、王国魔法教会の魔導士になる事、つまり兵士になって戦争で戦うという事になるからです。

 それでも、わたしは憧れだったおばあちゃんみたいに魔法を使いたくて、反対を押し切ってここまで辿り着きました。

 

 とはいえ、王国軍が魔導士を募集する日は決まっています。

 それまでここで暮らさなければならないので、まずは住むところと仕事探しから始めなければいけませんね。

 わたしはマルドレール家というあまり良い所の家ではありませんが、一応貴族の端くれなのでそれなりに扱ってくれるところはあるはずです。

 

「お嬢ちゃん? ちょっとお願いがあるんだけどいいかな?」

 お、さっそく声をかけられました。

 数人の学者風の方ですが、何故か杖を持っています。

 

「はい! なんでしょお?」

「ちょっとこの杖を握ってもらえないかい?」

「えっ、いいんですか!? 喜んで!!」

 ま、まさか王都について一日も経たず杖を握らせて貰えるなんて!!

 お母さん、お父さん、都会はとってもいい所です!

 

 わたしは杖を握ると、杖の先端にある宝石が光り輝きます!

 

「……光ったぞ。適性はある」

「色は白。光属性……! やったぞ! ようやく当たりだ!!」

「よし、なんとか期限までには間に合う可能性が出てきた……。あとは城勤務の魔導士の娘とかじゃなければいいんだがな……」

「なに、足がつかなきゃ構わないさ。一応聞いとくか?」

 学者風の人達がなにか話していますが、周囲の喧騒が強くて良く聞こえません。

 都会は賑やかですが、ちょっとうるさいかもしれませんね。

 

「君、名前を伺ってもいいかな?」

「ええ、わたし、リゼリア・マルドレールと申します!」

「そうか、ありがとう」

 名前を答えると、また聞き取れないひそひそ話を始めます。

 

「マルドレール家、知ってるか?」

「いや、城の魔導士にそんな奴はいなかったはずだ」

「魔法の素養があるなら貴族だろうが、多分田舎の村とかだろう。最後のチャンスだ、この子しかいない」

 目の前でひそひそ話とは、なんだかちょっと失礼ですね。

 都会の人たちは礼儀がなっていないのかも知れません。

 そのわたしの視線に気づいたのか、学者風の方はこちらに向き直って話します。

 

「いやぁ、目の前ですまない、仕事の話でね。少し急だが、君を魔導士として城で歓迎する事が決まった。今魔導士がどうしても必要でね。特に君の素質は素晴らしい! どうかね? 来てもらえるだろうか」

 学者風の方は目を輝かせて身振り手振りで語ります。

 その言葉で、わたしもとても嬉しくなって先の失礼な内緒話なんて吹っ飛んでしまいます。

 

「本当ですかっ!! よろこんで!! わたし、南のメルメスという村から来たんです! 魔法使い――魔導士になりたくって! それが、こんなに早く叶うなんて! 嬉しいですっ!」

 すごい、凄い、素晴らしい。

 わたしはなんて幸運なのだろう!

 王都について一日と経たずにこんな幸運が巡って来るなんて!

 ああ、やっぱり無理をして飛び出してきてよかった。

 お父さん、お母さん、わたしは本当に幸せ者です!

 

 ……この時は、本当にそう思っていたのです。

 だから、そんなうまい話も急な話もある訳ないとか、正規の募集じゃないから怪しいとか、正門じゃなく地下へ続く裏口に案内された事とか、少しも……少しも気にならなかったんです。

 だって、本当に嬉しかったんです……。

 

「へ?」

 おかしいと思ったのは、地下の研究室? に連れてこられて両手両足を縛られて棺に押し込まされそうになった時です。

 いやごめん、もっと前から思ってたよ!?

 でも、これ我慢したら魔法使いになれるのかな? って思って!

 

「あ、あの! さすがにコレおかしいと言うか……わたし、こんなので本当に魔法使いになれるんですか!? あの!」

「棺の用意は出来たな? よし、入れろ」

「杖と魔鉱石も忘れるなよ? 回復の術式を構築しやすくなる」

「時間は2時間。それ以上は取れないぞ」

「些か不安だが……もうやるしかない。閉めるぞ」

 わたしの言葉は無視されて、棺の蓋が締まっていく。

 

「ちょっと!! ……あれ、なんか眠く……」

「やっと薬が効いてきたか。心配するな。次に目覚める時、君は――もう人ではなくなっている」

 最後に怖い言葉を残して、棺は閉められました。

 

 ああ、お父さん、お母さん。

 やっぱり都会は……怖い所、でした……――。

 

――――

 

「ぅ、う~ん……はッ!!」

 暗闇の中から、突然意識が覚醒しました。

 どれぐらい眠っていたのでしょう、あんまりお腹が空いていないので、そう長くはないと思います。

 

 外にはまだ学者風の方たちがいるかも知れない。

 そう思ってわたしは、息を殺しながら手足の拘束を解こうとします。

 これでも体は柔らかい方、縄もそうきつく結ばれていなかったので、時間はかかったし手足も痛かったですが、なんとか縄を解きます。

 

 とにかく、されるがままは非常にまずい予感がするので、どうにかしてここを出たいと思います。

 そーっと、棺の蓋を開けます。

 別に鍵がかかっている訳ではないようです。

 

「……? だれも、いない……?」

 蓋を全部開けて、棺の外に出ます。

 びっくりです、本当に誰もいません。

 地下室で空気が淀んでいるのか、ちょっと息苦しくて変な臭いがしますが、誰もいません。

 みんな寝る時間だったのでしょうか?

 

「なら、とにかく今がチャンス……」

 わたしは少し迷いましたが、棺に入っていた杖を持ち、恐る恐る部屋の外に出ます。

 勝手に持っていったら怒られると思うのですが、わたしだって勝手にあんなことされて怒っています。

 ちょっとの勝手は許されると思うのです。

 

 廊下に出ますが、光の魔鉱石に照らされて見えた床は、

 

「ひゃあ! うわぁ……、血じゃん……」

 血で濡れていたのです。

 しかも、とっても濡れています。

 

「な、なにが……、あったの? これ……」

 なにかとんでもない事が起こっていて、でもそれが何か分からなくて不安と恐怖で頭がいっぱいになります。

 ああ、都会は本当に怖い……、というか、もはやこれは都会とか関係ない事態かと思いますが。

 こんな事が日常的に起こるようなら、もう村に帰ります。

 できれば杖だけは持って帰りたいですが。

 

「そうだよ……、もうコレあれば魔法使いになれるんだし……。うぅ、村に帰りたいよぅ……」

 王都についてから一日も経たずにホームシック。

 いや、これはもうしょうがないです、お父さん、お母さん、許してください……。

 

 そんな事ばかり考えながら少しずつ歩いていきます。

 靴裏を濡らす血だまりが大変心地悪いですが、お城から出るにはきっとこちらへ行くしかないのです。

 今になってわたしが連れてこられた裏口を思い出しますが、こんな状況なのにただでさえ薄気味悪い裏口を通りたくありません。却下です。

 

 ただ、こうして廊下を進んでいくと奇妙な事に気付きます。

 こんな出血量なのに、死体が一体も見当たらないのです。

 いや、別に見たい訳ではないのですけど、やはり不自然です。

 この血を流した人は、一体どこへ消えたのでしょう。

 

 奇妙な静けさを、ひどく不気味に感じます。

 まるで、わたしを残した全ての人が、血だまりに変わってしまったように思えて、とても心細いです。

 

 しかし立ち止まる訳にはいきません。

 とにかく何か変化を求めて、私は薄暗い廊下を歩きます。

 

 ……階段を上に上がります。

 裏口の地下道を通ってきたときは階段を二階分くらい下ったので、多分もう一階分上に上がれば地上に出られるはずです。

 少し希望が見えてきました、が。

 

「あっづい! えっ……火事!?」

 (恐らく)地下一階から地上部分へ出る階段の先は、炎に包まれていました!

 火事です! ここから先は完全に炎で覆われているので、出る事は出来ません、最悪です!

 

「ふおぉぉ、なんという……! せっかくここまで来たのに! ちょっと酷すぎます! 理不尽です! あ、そうだ!」

 余りの理不尽な現実への怒りで変な声が出ますが、名案を思い付きます。

 今のわたしは杖を持つ、既に魔法使い!

 なら、魔法で消せばいいのです!

 

「ふっふっふ。ついに魔法を使う時が来たようですね……! 蒼穹なる水よ――アクエス!!」

 わたしは呪文を唱えますが、魔法陣も構築されなければ杖から魔法も解き放たれません。

 

「ぬ、パッとしませんね。どうやら水属性の適性はないようです。あちち! もうここにはいられませんね、向こうの裏口へ行くしか――ん?」

 魔法は各属性の適性が無いと使えません。

 そういえば先ほど学者風の方たちに光属性とか言われていたような?

 わたしのおばあちゃんも光の魔導士でしたし、同じ属性というのは嬉しいものです!

 

 そう思っていたら、炎の先に人影のようなものを見つけました。

 誰かいるかも知れません、大声を上げます!

 

「おーい! おーーーい!! 誰かいますかぁ!? あの、ちょっと助けて欲しいんですけど!」

 できれば炎を消してもらえると助かります。

 そういうつもりで言ったのですが、人影は声に反応すると、シャーっと雄叫びを上げて一目散にこちらへ走ってきます。

 

「へっ? うそでしょ!?」

 訳の分からない危機感を感じ、階段を飛び降りて距離を取ります。

 瞬間、炎を通り抜けた人が燃えながらわたしを掴もうとしますが、失敗して階段を転がり落ちます。

 

「ふえぇぇぇ!! なんなの!? きゃぁーー!!」

 奇声に奇声を重ねます。

 更に炎を通り抜けた二人の人が走ってきたのです!

 わたしは堪らず走り出します。

 

 よくわかりませんが、とても正気の人達ではありません。

 更に驚くことに、炎を通り抜けた後でも、体の一部を燃やしながら、両手を前に突き出してわたしを走って追ってきます!

 

 もしかしたら、助けを求めてるのかもしれない。

 そう考えるべきだったのかも知れませんが、わたしは本能で敵意を感じ、追ってくる人達を倒す決意をします。

 

「えぇと……、確かおばあちゃんの魔導書に治癒魔法の応用があったはず……」

 記憶を探ります。

 確か手書きのメモで残されていたはずです。

 光属性の魔法は治癒魔法しか本に載っていなかったのですが、おばあちゃんがメモを書き残してくれいたのです。

 

「あれ? でも、走りながらだと地面固定型の魔法は使えないじゃん……」

 魔法は基本的に術式魔法陣を地面に構築して使うので、基本的に走りながらの発動は想定されていません。

 

「てゆー事は空中構築型のやつだから……うん、あれが行けるかも……でも高さが無いから横向きに……? うそ……それを最初にやるの……!?」

 走りながら、頭が緊張と恐怖で固まりながら、息を切らして記憶を頼りに必死に状況を打破する魔法を考えます。

 

 高い所から光の十字架を落とす魔法ですが、高さが足りないので魔法陣を横向きにして射出しなければいけません。

 最初から余りの難易度に愕然とします。

 

 でも、きっとあれに捕まってはいけないのです。

 ただの勘ですが、昔から勘だけは鋭いと言われてたので自分を信じます。

 

「……ふぅー、よし! け、穢れ無き聖光よ! 正しき世界に仇なす罪人(つみびと)に、救いの十字架を与え賜え! えー、我が意のままに、その力を目前へ射出せよ――」

 持ってきた魔法の杖を空中に翳し、走りながら詠唱と術式の変則構築を同時に行います。

 普通空中に術式を展開し、落下させる効果タイプの魔法に一フレーズ即興で編み出し、横向きに展開するように魔法陣を組んでいきます。

 

 言葉と発音、そして頭の中での計算がそのまま反映され魔法陣が空中に構築されていきます。

 今までの練習やイメージ通り丁寧に編んでいき、やがてそれは幾何学的な形を持つ魔法陣として空中に固定されます。

 構築完了です。

 あとは魔力を形作り、射出するのみです。

 

「――ルークスホリア!!」

 

 杖を振るうと、構築された魔法陣から、身の丈ほどもある光の十字架が縦向きに射出されました。

 光の十字架は、追ってくる人2、3人を巻き込み押しつぶした後魔素粒子として霧散しました。

 

「はぁ、はぁ……、たお、したの……?」

 多分、倒したと思います。

 十字架がぶつかった時、擬音にしたくないような嫌な音がしたので、追ってきた人は多分死んだ、いや――殺したと思います。

 

「うぅ……、吐きそう……。でもとにかく、ここから出なくっちゃ、ですね……」

 状況が分からない緊張、死ぬかもしれない恐怖、初めての魔法と全力疾走による疲労で、もうホントに辛いです。

 

 こんなつらい状況は間違いなく今まで無かったので、絶賛最辛記録を更新中です。何も嬉しくない……。

 できれば今後は更新しませんようにと祈りながら、杖を付いて運ばれてきた裏口の地下道を通ります。

 

 幸い、もうさっきの人達は追ってこないようです。

 それだけでもちょっとだけ安心が心に戻り、体力もほんのちょっとだけ回復したので気も少し楽になりました。

 

「そういえば、初めての魔法上手くいきましたね。えへ、えへへ……」

 こんな感じにニヤけるくらいは元気が戻ってきました。

 そして。

 

「やった……! 外、外だぁーー!! 生きてる! ひゃっほーい!! バンザーイ!! やったー!!」

 外の雑木林に出て、喜びを叫び地面を転がります。

 ちょっとチクチクしていたいですが、気になりません!

 

「ふぅ。とはいえ具合悪いです……。ひとまず街に戻りますか……」

 一通り騒いですぐに現実に戻ります。

 いつまでもはしゃぐほどお子様ではないのです。

 

 しかし、意味不明な何かが起こっている事には全く変わりません。

 ふと王城を見上げると、城の至る所で火事があって、時折爆発も起こっています。

 

 王城は建国以来の国の象徴と教わりましたが、今とんでもなく大変な事が起こっているようです。

 今まで考える余裕も無かったのですが、これは敵国の攻撃なのでしょうか?

 

 戦争の事は良くわかりませんが、王城への直接攻撃となるとこの国の戦況はもう絶望的です。

 考えたくありませんが、多分戦争に負けて略奪や暴行が相次ぐかも知れませんね。

 戦争に負けるという事は、きっとそういう事なのです、お父さんに教わったのでなんとなくわかります。

 

 ああ、そういえばお父さんやお母さん、村のみんなは無事だろうか。

 大して何にもない村ですが、王城がこの有様であればもう何も信じられません。絶望です。

 

 そうやって暗い考えに支配されて病んできたところで、再び大きな爆発音が聞こえて頭上を見上げます。

 

 壁面の一部が剥がれ落ち、人が落下してきました!

 

「ぐあぁッ!!」

 鈍い音で地面に墜落し、悲鳴を上げます。

 

「だっ、大丈夫ですか!?」

 どう見ても大丈夫ではありません!

 

 どうやら、先ほどの意味不明な人ではなく王国軍の騎士の格好をした男の人です。

 鎧は既にありませんし瀕死です。助ける事にしました!

 

「光よ! 彼の者に聖なる活性を――エイド!」

 瀕死の彼の下に術式魔法陣が展開して、少しずつ傷を癒していきます。

 おぉ、これが治癒魔法……我ながら感動です。

 ようやく人の役に立ったみたいですね。

 

「……凄いな。傷がもう癒えている。すまない、本当に助かった。感謝する」

 手を握ったり開いたりして傷の治りを確認してから、向き直ってお礼を言われました。

 うわぁ、普通に格好いい人ですね……。

 紫陽花みたいな紫の髪と綺麗な青い瞳を持った、村では見ないタイプの美丈夫でした。

 

 これが、わたしと彼、シルヴィス・フォン・レイナード様の出会いであり、

 この国の、そして世界の在り方が変わった日でした。

 




ふぅ、とまあ最初はこんな感じでいきなりヒロイン?の話から入っていきます。
次は世界観の説明とかがメインになるかも……。


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第2話「ザルツガリア戦争と厄災のはじまり」

今回は世界観と国家の説明がメインになります
小難しい話が続くので苦手な人は苦手かも


――早朝 ”竜と魔法の国”マリストルーク王国 王都サンツマルク 七階層”玉座の間”――

 

「して、バルトリー軍務卿。ザルツガリア帝国との戦はどうなっている?」

 玉座に腰掛ける国王が、この国の軍事トップである軍務卿に目線を向ける。

 

「はっ! 現在の最新の伝令ですと、北部戦線・ルフォーク山脈で敵防衛部隊との戦闘が勃発した模様!」

 ルフォーク山脈は、国境を隔てる巨大な山脈だ。

 ここを突破出来れば、帝国内最大の鉱山都市に攻め入ることが出来る重要な場所だが。

 

「更にルフォーク山中に敵の大規模な砦を発見したとの事です。敵の城塞砲に対し、我が国の戦術級魔導士や竜騎兵連隊が応戦しております。しかし、申し上げにくいのですが……」

 

 バルトリー軍務卿は言葉を切る。

 恰幅が良く、顔つきや豪奢な軍服から豪快な性格に思えるが、国王に対しては強くは出れない。

 マリストルーク王国は絶対王政。

 王の機嫌を損ねれば即座に首が飛ぶ。 

 

「よい。申してみよ」

 王が短く答える。

 しわだらけの奥の眼光は鋭く、半ばよからぬ報告である事には気づいているようだ。

 

 

「はっ! 発見された敵の城塞砲や野砲の抵抗著しく、また背後への山岳を利用した敵騎士小隊の奇襲を受け、多くの損害を出している模様です」

 

 ”鉄と火薬の国”ザルツガリア帝国は、大陸の殆どを占めるマリストルーク王国と国境を接する大国だ。

 魔法技術の発展が遅く、王国から見て魔法的後進国ではあるが、高純度の魔鉱石が取れるという情報を掴み、凡そ一年前に王国側から戦端を開いた。

 

「むぅぅ。フレスペール卿は何をしている。戦略魔法で砦ごと吹き飛ばす訳にはいかんのか?」

 マリストルーク王国国王、ルペノール・フォルネス・ラ・マリストルーク十四世は、典型的な英才教育のみで即位した国王であったため、魔法に関して知識も乏しく、意思決定以上の能力は無かった。

 

「はっ、戦略級魔導士モーリス・ド・フレスペール卿は、先のルギライ会戦での魔力消費が回復しておらず……一か月ほど魔法攻撃は難しいかと」

 バルトリー軍務卿は声を絞り出すように話す。

 

 王国は、国家に30人ほどしかいない”戦略級魔導士”を動員し、国境沿いの砦や都市など多くを戦略魔法攻撃によって壊滅せしめた。

 

 開戦後三か月は圧倒的な勝利を収め、二つの主要城塞と一つの鉱山を占領に成功。

 しかし抵抗の激しかった場所は、繰り返し放たれた戦略魔法攻撃によって地形ごと破壊してしまった為、占領して再利用が出来ない状態であり、その光景を見た者は敵味方問わず恐れをなしたという。

 

「他の戦術級魔導士はどうしている?」

「はっ! 戦術魔法攻撃は随時行っているものの、砦は長大で全てを破壊する事叶わず、また消耗激しく、現在は主に普通魔導士や騎士団など通常戦力での応戦が主になっております」

 

 人の身で自然災害の如き力を放つ魔法だが、大規模なものになればなる程魔導士本人の消耗が激しく、乱発は出来ない。

 しかしその絶大な威力に心奪われた国王も魔法教会も、魔法の力を絶対視していた。

 

 マリストルーク王国は古より魔法先進国であったが、元は周辺諸国の軍事的圧力に脅える小国であった。

 

 20年程前に術式魔法陣構築の技術的革命がおこり、地形を破壊する程の極大魔法”戦術級魔法”やその6年後、数十倍の威力を持つ”戦略級魔法”という究極の魔法概念を開発した。

 

 資源の乏しかったマリストルーク王国は、武力侵攻によって周辺諸国を瞬く間に併合し、当時軍事大国と言われる国にすら一方的勝利を収め、人的・物的資源を手に入れ魔法超大国へ急成長を遂げた。

 

 そのような経緯があり、国王や魔法協会はその絶大な力を欲しいままに運用し、作戦など碌にない魔法攻撃の連続で戦争に常勝し、ついに大国ザルツガリアとの戦争に躊躇いなく踏み切った。

 

 開戦初期は、部隊間連携など指揮・命令系統や補給・兵站が杜撰でありつつも、魔法の大火力で勝利を重ねており、国王も各軍部も慢心しきっていた。

 

 しかし大きく広げすぎた戦線によって、開戦から1年たった今では徐々に侵略は停滞しつつあり、国王は王都防衛を担う精鋭部隊を帝都侵攻の主力と合流させ、再び力業で侵攻する。

 

 一方でザルツガリア帝国は対マリストルーク戦略を長きに渡り練り続け、日に日に練度を増していた。

 部隊を統合的に運用し、城塞と火砲そして地の利を使い、高度な連携と緻密な作戦で侵攻を防ぎ始めていた。

 

「そうか。存外上手行かぬものだな。では騎士団と竜騎兵連隊を残し、魔法教会は撤退させよう」

「で、ですが! 魔導士抜きで砦の攻略はとても……」

 

 国王の命令に、バルトリー軍務卿は慌てて説明する。

 練度の高い騎士達だが、魔導士の援護なして火砲の砲撃に晒されれば不利は必至だ。

 

「分かっておる。聞けば、魔導士らも働きづめではないか。魔力回復も兼ねて、後方に下がらせよ。英気を養い満足な補給を受ければ、彼らも再び快進撃を始めよう。それとも、残った騎士で戦線を維持する事すら叶わぬか?」

 

 国王は鋭い目でバルトリー軍務卿を睨みつける。

 

 この国の軍事力は大きく騎士団、竜騎兵連隊、そして魔法教会の三つに指揮権が分かれていた。

 他に海軍もあるが、海軍に関してはザルツガリア帝国に敵わない為、戦争は陸戦に主眼を置かれていた。

 

「いえ……。ですが、魔導士の援護がなければ大きな損害が出るかと……」

 バルトリー軍務卿に声が割り込む。

 

「それの何が問題でしょう? 騎士など腐るほどいる。例え全滅したところで所詮は平民共の集まり。替えなど幾らでも効きます」

 

 横から口を挟んだのは魔法教会サンツマルク教区の長、ミットラン司教だ。

 

 魔法は血筋で受け継がれるものであり、この国では魔法の有無こそが貴族たる証とされてきた。

 マリストルーク王国は魔導士が多くいるが、それも約900万人もの国民と比較したらごくごく一握りだ。

 魔法が使える血筋はある程度決まっていて、その家系こそが貴族として認められている。

 

 魔法の使えぬ兵士は剣を握る騎士として戦場に立ち、魔導士と比べればぞんざいに扱われる。

 竜騎兵はその中間であり、中には魔法を使える貴族もいる。

 

「それに、竜騎兵連隊も精鋭揃いでしょう。魔法教会が戻るまでの間、彼らだけで戦線を維持する事も可能のはずです」

 ミットラン司教も追い打ちをかけた。

 

 竜騎兵は機動力が高く、いざとなればすぐに後方に下がるだろう。

 その上、手柄は竜騎兵に取られる事も多い。

 機動力もなく、そして撤退は最悪処刑に繋がる一般騎士とは違うのだ。 

 

「……陛下。一般騎士の消耗は、軍事力に響きます。彼らも訓練に訓練を重ねた優秀な騎士です。使い捨てるのは得策ではなく――」

 

「――もうよい。バルトリー軍務卿、貴様も魔導士の端くれだろう、醜い真似はよしてくれ。その腰の剣、それに捧げる思いがあるのは理解する。だが、強き騎士の時代は、とうの昔に終わったのだ」

 

 国王は、出来の悪い息子を憐れむが如き眼で、諭すように言った。

 バルトリー軍務卿は、片手に杖を持つ魔導士でありながら、武力の頂に立つ者として剣の腕や槍術も高い。

 その責任感から真に国益を重視し、隣国ザルツガリアとの戦争で戦術・戦略の重要性を痛感し、主力となる騎士の運用に注力していた。

 それを国王は、古き騎士道に固執した者としてしか見えず、騎士は軽んじられ、魔法教会がより権力を持つようになっていた。

 

「お分かりですか軍務卿。騎士など既に、時代遅れなのです。これからは我々魔法教会が、軍の主力を担ってゆくことになるでしょうな」

 

「……ふん、分かった。すぐに伝書鴉を飛ばします」

 

 魔法での遠隔通信や瞬間移動は研究されているが、目途すら立っておらず、遠隔地への伝達は(カラス)を使って行われていた。

 

「して、西部戦線の方はどうなっている?」

 国王が次の話を振る。

 

「はっ! 西部ドルトンテ線ではアルセンヌ大司教率いる王都中央教区の魔導士達が快進撃を遂げました! ドルテンテ要塞に反攻の為に集結した敵騎士1600人、敵火砲700門を一網打尽に撃滅したと報告を受けております! 西部ヴィレーゼン線に於かれましても、ブランショア卿指揮下の騎士近衛兵団の精鋭達が、竜騎兵連隊王都第一隊の援護により見事ヴィレーゼン城塞都市を陥落せしめました!」

 

 バルトリー軍務卿が報告を読み上げると、国王も満足げに頷いた。

 西部戦線は帝都攻略を目的としており、ここ王都から多くの精鋭部隊が遠征していた。

 

「うむ、うむ! さすがは我が国の精鋭達である! 難攻不落といわれた要塞も都市あっけないものだ!」

 

 マリストルーク王国は、王都を拠点とする竜騎兵連隊”王都第一隊”、王城に本部を置く魔法教会・”王都中央教区”、王の守護を任務とする”騎士近衛兵団”など、国の中枢を守る精鋭部隊の長を含めた大部分を西部戦線に派遣していた。

 

 防衛を一切考えない戦略は、しかし圧倒的な攻撃能力で今の所上手く機能していた。

 王都を脅かす存在もない為、最低限以下の戦力しか残されていない王都や王城には、やや不安があるもののその実誰も、軍務卿でさえも脅威は起こりえないと考えていた。

 

「この調子で帝都ヴィルゼンガリアへの侵攻を続けよ! 帝都さえ滅びれば、他の軍も抵抗を止めるであろうからな。彼の国にはまだ多くの魔鉱石が眠っているに違いない。我が国の繁栄はここからである」

 

 北部戦線やその他広範囲で侵攻は停滞しつつあるが、西部戦線で快進撃を続け、帝都まで食い込めば十分勝機はあった。

 単純な戦力一点集中、しかしその効果は恐ろしかった。

 

「さて、次の話だ」

 

 戦争関係の報告と命令を一通り終えた後、国王は議題を切り替える。

 

「魔素薬応用の研究、成果は出たのかね? 所長」

 国王は所長――王立魔法研究所の所長に、厳しい目つきで声をかける。

 

「はっ……はっ! いえ、あの、成果は目前の所まで来ております! あと数日……いえ、三日! 丸三日ほどあれば、有用な報告ができる、かと……」

 

 気弱な所長の声は、国王の鋭い目つきで更にか細くなっていく。

 

「くどいわ!! ふんっ、『人体増強薬による不死の兵(アンデッド)量産計画』とな……。着想は良い。魔素の原理を考えれば十分に可能な目はあった」

 

 ”魔素”とは、簡単に言ってしまえば大気に満ちるエネルギーと解釈することも出来る。

 魔法とは、魔素を体内に取り込み術式魔法陣を介して体内で生まれる魔力と結合し、一定の効果を持つエネルギーとして放出する手段である。

 

 それを応用し、特殊な術式を最初から体内に埋め込んで、魔素を永久的に吸収すれば、事実上無限に魔法を放ち続けることが出来る最強の兵器を作り出せる。

 

 攻撃に転用すれば強いのは言うまでもなく、治癒魔法の術式を埋め込めば死ぬ事無く再生を続ける不死の兵となる。

 

 当然魔素吸収の術式を埋め込まれている部分を破壊すれば耐えきれなくなった体は崩壊するが、埋め込む場所を複数にすることによって互いが互いを補うことが出来るのだ。

 

 もちろん術式の強度には限界があるが、それ自体に術式の永続増殖をもたらす魔素応用薬を調合し与えることによって、魔素の枯渇か維持不能な肉体の損壊がない限り永久に動き続ける最強の兵士が誕生する。

 

 そうする事によって生み出される不死の兵を”死無き亡霊の手”と古代語で訳される”アンデッド”と研究者たちは呼称した。

 

 とはいえ、未だクリアできない課題は多く、罪人を被検体にして何度も人体実験を行ったが、数秒で絶命したり肉体が朽ちたり理性を失い廃人になったり、国王を始め当事者以外には成功する気配が見えず、莫大な予算と多くの人員を消耗する殻潰しにしかなっていなかった。

 

「……今日中だ。今日中までに余が納得する成果を示してみよ。それが出来ねば、この計画は中止とする」

「そ、そんな……! 今日中など、とても……!」

 

 無理に決まっている事は、国王にも分かっていた。

 即刻中止としないだけありがたいと思え、そんな恩の押し付けから出た言葉だった。

 

 この時。

 国王が即刻中止していたら、果たして未来は変わっただろうか。

 

――夕刻 王城地下二階層 王立魔法研究所 第三室”魔素薬応用研究室”――

 

 あれから半日ほど時間がたった。

 

 今日中、などと言っていたが、国王は日が沈めばお休みになる。

 つまり猶予はもう残り僅かしかない。

 だが。

 

「被検体はちゃんと眠ってるか?」

 研究者の一人が確認する。

 被検体をさらってきて一時間あまり、まだ実験は始まっていない。

 

「ああ、棺の中でぐっすりだ。……城下町で最高の人材を手に入れたんだ。薬さえ完璧なら、間違いなく適合するはずだ」

 

 研究者たちは、実験に焦るあまり罪人ではなく城下町へ出向き、警備の衛兵の目を盗み光魔法に適合する人材を見つけてきた。

 

「半日探し回ったとは言え、まさかあんな大当たりが見つかるとはな……。神は間違いなく我々を祝福している……この実験、必ず成功させよう」

 

 実験に使った罪人たちは、多くが魔法の素養がないものであり、その者に無理やり光属性=治癒魔法の術式を刻む魔法薬を飲ませ、そして失敗してきたのだ。

 

 それを成功させるにはどうしたらいいか?

 はじめから光属性魔法の素養がある罪人を手に入れればいい。

 しかし光属性は稀有であり、そんな罪人はいなかった。

 

 そして今日、追い詰められた研究者はついに、城下町から人をさらうという禁じ手を実行した。

 だがさらう素養ある者は、城内の貴族に縁のない者でなければけない。

 万が一発覚すれば大罪人の烙印は免れないからだ。

 

 幾ら往来の多い城下街と言えど、、城内貴族の縁者以外の光魔法の素養がある者を人知れずさらうという、研究者の誰もが諦める方法ではあったが、結果的に奇跡は起こり、彼らは抜群の素養を持つ被検体を手に入れた。

 

「よし。棺の密閉はしたんだろうな?」

 

「ああ。問題ないさ。前回は途中で被検体が暴れて大変だったからなぁ。術式構築用の杖と、適性増幅用の魔鉱石も入れた。外部との魔素の流れは断ってるから、これで光魔法の素養は大きく上がるはずだ。罪なき少女をさらってきたんだ……犠牲を無駄にするような真似はしない」

 

 少女にとっては完全なエゴである責任感を翳し、確かめるように棺の蓋を押し込む。

 棺は二つとない特注品で、適性増幅用の魔鉱石と同じで莫大な国家予算をつぎ込んで作り出したものだ。

 この研究が失敗すれば、棺は魔導士の素質を上げるつまらない装置として国に使われる事だろう。

 研究員達は、自分の研究の粋を国に奪われる事には耐えられない。

 

「出来た!! 完成だ!! まだ試作薬だが、ひとまず形になったぞ!」

「よし! 後は被検体の適性増幅を待ってから、被検体に打ち込んで様子を見るだけだ!」

 

 研究者が動いた表紙に、ビンに入った試作薬を肘でぶつけてしまう。

 

「あっ」

 

 ビンは床に落下し、音を立てて割れた。

 中の奇抜な色をした液体は、瞬時に空気中に霧散する。

 

「ごほっごほっ! ばか、なにしてる!! くそっ!!」

「ドアを、開けろっ、がはっ……」

 

 一瞬で、地下の密室に霧は充満し、8人の研究員はみるみる肌が土気色になって呼吸困難に陥り、酸素と出口を求めて皆がドアや窓を開ける。

 

「やめろっ! あけるなっ、外に、出す……なっ……」

 

 室長が言うも、時すでに遅し、霧状の薬液は外へ出て行った。

 同時に、研究員たちも部屋の外へ出て、そこで息絶えていく。

 

「たす、けて……」

「ぐるじい、いきが、かはっ」

「きゃああぁぁぁぁ!!」

「おい! 大丈夫か!! しっかりしろ!」

「治癒術士を呼べ! 早く!」

 

 廊下は悲鳴と怒号が飛び交った。

 土気色の研究員は、傍目からは死んでいるようにしか見えない。

 それでも、近くにいた治癒術士は走ってきて詠唱を唱える。

 

「光よ! 彼の者に聖なる活性を――グレース!」

 その瞬間、活性の指向性を以って放たれた魔素が、研究員の術式を活性化させ、無限吸収の術式が起動した。

 

「えっ――ぎあぁぁぁ!! やめっ、がはっ!」

 治癒術士は、研究員だったモノに喉元を喰らいつかれていた。

 鮮血が噴出し床を汚す。

 治癒術士は声にならない断末魔を上げ、やがて両手をだらんと床に落とす。

 

「うわああぁぁ!? なんだ、コイツ、術士を喰って――!?」

 治癒術士の放った活性の魔素が、他の個体にも吸収され、研究員だった土気色のモノ達がふらふらと起き上がった。

 

「なんだ!? お前ら、生きて――ぎゃああぁぁぁ!!」

「おい! コイツら起き上がって……く、来るなぎゃああがはっ!!」

「やめて……やめてこないで嫌ああぁぁぁぁ!!」

 廊下は、瞬く間に阿鼻叫喚の地獄絵図となった。

 生きている者は次々に土気色の死人に噛み付かれ、逃げる者は爪で切り裂かれ喰われた。

 密閉された地下空間は悲鳴と夥しい量の血で覆われ、一、二階層にいる数十名の研究者や地下の使用人達が全滅するのは、そう時間はかからなかった。

 

 そして、噛み付かれた地下の人々の体内では、魔法薬によって変質した術式が侵入し、大気中の魔素に反応して起動する。

 

 つまりは、噛まれた死体は起き上がり、人の欲求の中で唯一残った原初の機能”食欲”に従い、新鮮な人肉を求め、地上への道を彷徨い始めた。

 

 厄災は、解き放たれたのだ。

 




厄災のはじまりは、たった一人のミスでした。

とかシャレにならな過ぎて好き。

人類ってそういう愚かな所あるよね……。


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第3話「エントランスの惨劇」

戦いになってきました!


――夕刻 王城 地上一階層 エントランス――

 

「おーい、王様ご就寝だそうだー」

「りょうかーい。おい、城門閉めるぞ~」

「はいはーい。そういやさっきから下の方騒がしくないか? お前、見て来いよ」

 城内勤務の衛兵達がやる気無さそうに言葉を交わす。

 

 戦争中とはいえ、王都付近は表面上は平和なものなので、気が緩むのも無理はない。

 城内には仕入れの業者や清掃中の使用人、手続きに来た民間人や王城の役人などが多くいて、間もなく日が暮れるという時間でありながら賑わっていた。

 それぞれの身なりが良いのは、城への立ち入りが許されているのが貴族階級の者だけという事も示していた。

 

「え~下に行くのかよ。アイツら陰気臭いから嫌なんだよなー。どうせまた変な研究でもして――」

 嫌と言いつつ、ちょっと覗いて終わりにしようと思った一人の衛兵が、地下への階段のあるドアに手を掛けようとした瞬間――

 

「――え」

 ドアを喰い破って伸びてきた手が喉元を掴み、そのまま衛兵は肩辺りを噛みつかれた。

 

「うぎゃあああ痛ぇっ!! コイツら、なんっ――……がはっ!」

 その衛兵はそのままドアから出た二体目、三体目に食いつかれ、強烈な顎の筋肉と強靭な歯が皮膚を裂き肉を抉る。

 

「ぎいぃぃぃぃぁぁぁぁっ、た、助け……がぁっ……」

 体の各所、脇腹や喉元を噛まれる。

 噴水の様に夥しい出血して、藻掻いていたその手足は、力なく垂れ下がった。

 

「なんだコイツら!? 地下の研究者か!?」

「人を喰ってる!? ひ、人を喰ってるぞ!! 正気じゃない!! 斬りかかれッ!」

 

 それを見た他の衛兵は慌てた様子で一斉に剣を抜き、槍を構える。

 土気色の皮膚をした、人肉喰らいの”狂人”は、死亡した衛兵を飽きたように血溜まり投げ捨て、武器を構える衛兵たちや、その奥の非武装の人間を狙って拡散する。

 

「離れて! 離れてください! 危険です!」

 城の衛兵が大声で呼びかけ、事態に気付いた民間人や城の役員は喰われた衛兵と、喰った”狂人”を見てパニックになり、場を悲鳴と怒号が埋め尽くす。

 衛兵は数体に剣で斬りかかるが、それ以上に抜けていった”狂人”が両手を前にして不格好に走る。

 しかし、その速度は全力疾走の健全な人間以上である。

 

「うわあぁぁぁぁ!! ひ、人が、喰われてるぞ!!」

「に、逃げろぉぉーー!」

「おい! す、すぐ国王様にお知らせするんだ!」

 エントランスにいた人々は、蜘蛛の子散らすように逃げていく。

 同時に、地下室への扉から”狂人”が次々と現れる。

 その数、地下研究者やその他の人員、延べ35人。

 地下の全てが”狂人”と化していた。

 

 対して、ここにいる衛兵はたった8人。

 

「ぎゃああぁぁぁぁッ!」

「くそッ! 地下にいる人間全員頭がおかしくなったのか!? なんて研究だ!」

「とにかく一体でも多く食い止めるんだッ! まだ避難が!!」

 王城の衛兵は人数に圧倒されつつ、長剣を斜めに振り下ろし、一体一体”狂人”を袈裟斬りにして斬り捨てていく。

 人間なら致死量の出血と肉体的損壊を与え、現場はどす黒い血溜まりと”狂人”の肉片や切り落とされた部位が散乱する地獄となった。

 だが、背後はもっと恐ろしい。

 

「く、来るな、ぎゃあああ!」

「助けてくれ! 助けてくれ!! 衛兵さん、ひぃぃぃぃ!!」

「ぐああ!! 離せっ、離せぇッ!! くそ、なんて力――ぎゃぁぁぁぁ!!」

「やめてぇぇぇ!! 助けて、喰われる、喰われるぅぅぅッぎゃああぁぁぁぁ!!」

 

 成すすべなく逃げ惑う非武装の人間に”狂人”が走って飛びつき、顎の力のみで肌を突き破る。

 強靭な膂力で両手を拘束し、噛み付く。

 尖った爪を振り回し、全身を斬り刻んだのち、露になった筋肉や内臓に喰らい付く。

 

 この世のどんな惨劇より酷い光景が、エントランスを支配していた。

 一方で、訓練された衛兵たちも、混乱度はで言うならそう変わらない。

 

「クソ、クソ! 一体何人いるんだコイツら!」

「落ち着け! こいつらは武器を持っていない! 数に惑わされるなッ!」

 衛兵に槍で心臓を突かれて倒れた”狂人”は、致命傷を負ったにもかかわらず、衛兵の足首に噛みついた。

 

「ぐああぁ!? なにっ!?」

 

 信じられなかった。

 彼らは致命傷を負いながら、這いつくばって兵士の足首を貪り始めたのだ。

 あっという間に足首は無くなって、両手だけで倒れた衛兵を這うようにして上ってくる。 

 

「ぐあああ!! 痛いっ! やめろ、やめてくれ……! くわっ、喰われるっ!? ぎゃあああぁぁぁ!!」

 剣を振り回し、何度も”狂人”を剣で突き刺すが、それは止まることなく、衛兵を貪り始めた。

 

「やめ――ぎゃあぁぁぁぁ……」

 内臓を喰らい、頭を激しく動かして噛み千切る度、辺りに鮮血が吹き飛ぶ。

 

「こいつらぁ!! 不死身かよクソっ! おい誰か! 城門を閉めろッ! 城から出すなッ、上にも昇らせるなッ――くそォッ!! 何がどうなってやがる!!」

「聞いた事がある! 確か地下の第三室が、不死の兵を生み出す薬を研究してたとか! 名前は確か――アンデッド!」

「不死の兵だって!? コイツら全員、事故かなんかでそのアンデッドとやらになっちまったのか!? 強すぎるぞ!!」

 

 もう一人の兵士は、掴もうとしてくるアンデッドを躱しつつ槍で突き刺していた。

 奴らは理性を失っているらしく、武器を持たず素手で襲い掛かってくる。

 が、斬れども突けども不死の兵(アンデッド)は動きを止めない。

 

 それどころか。

 

「ん!? おいお前、無事だった――ぎゃあぁぁぁ!? なに、して――がはッ!」

「おい見ろ! 倒れた民間人が起き上がってアンデッドに……」

「後ろだ! 後ろにいるぞォーー!」

「なに!? ぐはぁッ!」

 

 アンデッドに殺された仲間は、如何なる原理かアンデッドと化して仲間を襲い始めたのだ。

 衛兵が減り、アンデッドが増える状況に絶望感を覚える。

 

「衛兵ェー! とにかくコイツらを何とかしろ! 我々で城門を閉める!」

 城の役員が叫ぶ。

 

「このアンデッドを城外に出したら被害は計り知れない! とにかく無事な民間人を早く逃がすんだぁーー!」

 

 城の役員は命がけでアンデッド達の元に飛び入り、城門を下げる両端の滑車を回して城門を下げる。

 今アンデッドは城内を蹂躙するだけにとどまっているが、噛まれた死体がアンデッドと化すのが事実なら、一体でも城外に出せば地獄絵図となるのは間違いない。

 

 だが現場は既にアンデッドだらけで、一直線に城門へと逃げられない混乱状態だ。

 

「助かる! 早く城門を閉めないと! 皆急いで! ここから逃げるんだ!」

「バケモノめ、こっちに来るな!! いったいなんでこんな地獄が! クソ!!」

 衛兵二人がその役員を庇うように迎撃する。 

 

「来るぞ!! 斬り伏せろ!!」

 両手を前に突き出し、不格好な走りで迫るアンデッドを斬り捨てる。

 だがその背後から二体目が走って迫り、衛兵を押し倒す形で体当たりする。

 

「ぐッ! どけ、ろ……! ぐぁぁッ、痛ぇッ!」

 

 掴もうとしてくるアンデッドを躱しつつ斬り続ける。

 奴らは理性を失っているらしく、武器を持たず素手で襲い掛かってくる。

 が、斬れども突けども不死の兵(アンデッド)は動きを止めない。

 

「これならッ!!」

 長剣で渾身の一薙ぎ、見事頭を切り落とす。

 

「さすがにこれで――う、ウソだろッ!? ぐああ、痛ェッ!!」

 だがソレは、頭が無い状態でも向かって来て、爪を喰い込ませて衛兵を攻撃した。

 

「くっそぉ、一体どうなって――しまった! がぁぁッ!!」

 更に、先ほど最初に死んだはずの兵士が起き上がり、戦闘を仕切っていた彼に文字通り食いついた。

 腹部が破れて、猛烈に痛みを感じる。

 

「だすけて、くれ……――」

 その衛兵もついに倒れた。

 

「くそ、離せ離せぇぇーー!」

「城門が、まだ――ぐあああぁぁぁ!!」

 城門を下ろしていた役員二人は、ついにその任を果たすことなく息絶えた。

 

「くそくそくそ! 来るな来るなッ!」

 最後の一人が、10体以上のアンデッドに襲われる。

 剣で斬撃を与えれば、倒れさせることぐらいはできるが、決定打にはならない。

 

「クソ、もうだめだ! 終わりだぁーー!!」

 迎撃を諦め、上階に逃げようとするが、背を向けた瞬間に飛び掛かったアンデッドに組み付かれ、後ろから首筋を噛まれる。

 

「ぎゃあああッ、い、いでぇッ――!」

 抵抗するも、尋常ではない力に手も足も出ない。

 やがてそのほかのアンデッドも群がっていく。

 

「放てぇぇーーッ!!」

 号令が聞こえた。

 上階から駆け付けた援軍が、エントランスを見渡せる踊り場から弓矢の一斉射撃を行う。

 首を噛まれた兵士に群がっていたアンデッドが、突き刺さった弓によって一時的に怯む。

 

「ガリス隊突撃! 城門の閉鎖を最優先! エルザ、治癒魔法で彼を! ノックス、パドーラ、彼女の援護! バロード隊はそのまま射続けろ!」

 一人の騎士が迅速に指示を出す。

 早口でありながら、理知的な冷静さが伺える青年の声だ。

 

「「了解ッ!」」

 騒ぎを聞いて駆け付けた王城防衛に残された近衛兵団の騎士たちが辿り着く。

 

 全身を包む白銀の兜鎧と、大型の盾と長剣で武装した騎士達が踊り場から飛び降り、アンデッドの群れに突入する。

 

「これは……! なんという騒ぎだ! レイナード隊長! 負傷者の手当と弓による援護は任せました! こちらは一階層、大広間前を防衛します!」

「コサール卿、そちらは任せた!」

 近衛兵のもう一隊が一階大広間から到着し、正面の大扉を防衛する。

 

「こいつら、地下の研究者か!? 正気じゃない!」

「城の使用人や衛兵も狂ってる! とにかく全て叩き斬れ!」

「ガリス隊を援護しろ! 手を止めず放て! 頭を狙うんだ!」

 それぞれの騎士が、アンデッドの攻撃を盾で受け、長剣で斬り伏せていく。

 その合間に、弓の射手たちが正確に頭部を射抜いてゆく。

 

 鮮血が舞う中、一人の騎士が噛まれた警備の兵士を抱え、無事二階にいる隊長、レイナードの元へ戻る。

 

「隊長! 負傷した衛兵を連れてきました! まだ息があります!」

「エルザ、治癒魔法を!」

「了解! 光よ! 彼の者に聖なる活性を――エイド!」

 

 治癒術士が彼の傷を治す。

 首元の見るに堪えない程抉れた噛み傷が、徐々に治っていった。

 

「れ、レイナード卿……? だっ、だめです……オレを、今すぐ殺してください……!」

「なにを言う? しっかりするんだ。何が起こったか、可能な限り話してくれ」

 レイナードと呼ばれた近衛兵小隊の隊長は、飽くまで状況を聞き出そうと落ち着いた口調で語りかけた。

 

「や、やつらは、不死の兵(アンデッド)です。地下の研究所から急に押し寄せて……斬っても死なず、……奴に噛まれた者は、奴らの……――ウゥッ」

 瞬間、傷付いた衛兵の目つきが変わった。

 血を失って白くなった肌がみるみる土気色になる。

 

「どうした!?」

 ついに理性を失い、アンデッドと化した彼は暴れ出し、レイナードに噛みこうとするが、

 

「離れろッ!」

「きゃあ!」

 レイナードは勘に近い予感で咄嗟に身を引くと同時、治癒術士の女性も庇って後ろに下がる。

 

「くッ! これは、下の彼らと同じ――ッ!?」

 盾を構え、アンデッドと化した衛兵の突進を阻むが、アンデッドは怪力でレイナードの構えた盾を掴み、放り投げた。

 

「凄まじい力だ……!」

 盾を失ったレイナードは、右手に構えた長剣の他に、腰に差してあったレイピアを左手で抜き、

 

「すまない。君を助けることが出来なかった」

 正気を失った衛兵に一言呟くと、周囲の誰の目にも止まらぬ速さで、アンデッドの心臓を突き刺した。

 だがアンデッドは変わらず活動を続け、レイピアを強い力で掴んだ。

 

「何っ!? これはしぶとい。で、あれば――」

 アンデッドは、刺さったレイピアを捻り潰す程の力で掴んだが、レイナードは右手の長剣で腕を切り落とし、レイピアを引く抜くと、

 

「――息絶えるまで、貫かせて頂く」

 

 言うと、レイナードは一瞬の間に10や20も刺し傷を作る程、アンデッドに連続の突きを放った。

 頭部や心臓を含む体の至る所を瞬時に破壊された元衛兵のアンデッドは、全身の傷から血を吹き出し倒れると、ピクリとも動かなくなった。

 

 シルヴィス・フォン・レイナードは近衛騎士として剣術にも優れていたが、凄腕のレイピア使いでもある。

 双方レイナードを上回る達人は世界に幾らでもいるが、彼の特色は長剣とレイピアの二刀使いという所だろう。

 意図せず盾を捨て去ることになったが、二刀となった彼に一対一で敵う騎士はそう居ない。

 ただし、相手が人であればの話だ。

 

「ふう。どうやら彼らも、不死身という訳ではないらしい。が、」

 振り向くと、一階エントランスから這い上がってきたアンデッドが複数、姿を現した。

 同時に、弓が一斉に射られバランスを崩したアンデッドはエントランスへ落ちていくが、それ以上に這い上がってくる。

 

「れ、レイナード隊長……! 奴らは一体……?」

 隣の治癒術士エルザが言葉を震わせながら聞く。

 

「衛兵の彼の言葉を借りて、アンデッドと呼ばせていただこう。理由は不明だが、名前からして恐らく地下の研究室から出てきたのだろうね。先の状態を鑑みるに、彼らの攻撃を受けた者、或いは噛まれた者は、同じアンデッドとなって理性を失い、我々を襲う。これは、少々厄介だな……ッ!」

 

 言葉の最後で、接近してきたアンデッドの腕を長剣で叩き斬る。

 これで少なくとも掴まれる事は無くなるが、しかし下階から這い上がるアンデッドの数は増える一方だ。

 服装を見るに、先ほど降下した騎士の一部も含まれている。

 

「ピエール、アナンド……。せめて安らぎを」

 ピエールの装着している鎧の間を縫うように腕の付け根にレイピアを突き刺し、腱を切る。

 長剣で鎧の留め具を叩き割り、心臓にレイピアを突き刺す。

 腕を伸ばすアナンドの、肘辺りを長剣で一薙ぎし、無防備の喉をレイピアで刺した後、捻りを加えて首ごと両断する。

 

 心臓を刺されたはずのピエールが動き出すが、飛んできた矢に頭を射抜かれ、下階に落ちてゆく。

 

「ありがとう。助かったよ」

「隊長!! もう矢が……!」

「分かった! 仕方がない、総員抜剣! ここを通す訳にはいかない!」

「「了解!!」」

 射手達がそろって弓を捨て、剣を鞘から抜き放つ。

 

「エルザ、待機させた魔導士を呼び戻してくれ!」

 レイナードが治癒術士の方を向かず、声をかける。

 迫りくるアンデッドの頭を突き刺し、そのまま下階へ突き落す。

 両端からレイナードを掴もうとする腕を長剣で切り裂き後退する。

 

「了解! ですが城内での魔法使用の許可は!」

 攻撃魔法は強力だが、城内で使えば当然城をも破壊する。

 そう簡単にやっていい事ではない。

 

「非常事態だ、王も分かってくれるだろう。とにかく門を封鎖する事だけを考えるんだ! エルベール、そっちは後何人残ってる!?」

 レイナードは合図で治癒術士を下がらせて、城門の閉鎖を任せていた小隊の隊長に声を投げかける。

 

「こちらは、もう6人やられました! 倒れた仲間も襲ってきます!」

「やはりな……。城門の閉鎖はいい、とにかくアンデッドを城から出すな!」

「了解ッ! ですが……ッ!」

「レイナード隊長! 魔導士メンディー、カルウェス戻りました!」

 魔法使用の許可が出ていない為下がらせていた二人の魔導士が合流した。

 黒のローブを着込み、先端にクリスタルを組み込んだ木製の杖を持っている

 

「よし。対人魔法で城門の鎖を壊して扉を落とすんだ」

「それは……」

「了解! 迷ってる暇はないぞ! 魔法を放つ、詠唱を!」

「……わかった! タイミングを合わせて!」

 一人は迷ったが、もう一人は状況の緊急性を考え即座に詠唱の準備を行う。

 

「蒼穹の水よ――アクエス!」

「疾風の刃よ――ブリューク!」

 言葉を唱えると同時、地面に突き立てた魔法の杖を中心に魔法陣が構築され、発動名と同時に杖を振ると、先端のクリスタルから魔法が発動した。

 下級魔法で発動したのは、純粋な属性魔力の砲弾だ。

 水と風の属性を持った砲弾は、鎖を見事圧壊・切断し城門の鋼鉄の扉を下ろした。

 

「よし! 城門は閉鎖した! エルベール、急いでこちらに下がるんだ!」

 レイナードが下の騎士達に指示を出す。

 

「行くぞ! エルベール隊、二階踊り場まで下がれぇーーー!」

 下の騎士たちを纏める隊長エルベールが、盾でアンデッドを突き飛ばし、二階まで駆け上がろうとする。

 足首を掴む元部下のアンデッドを、一瞬の躊躇いの後に長剣で突き刺し、動きを止める。

 

「待ってくれ! 隊長、奴らが……うわああぁぁぁ!」

 部下の一人は2、3人に組み付かれ、怪力で鎧を剥がされたのちに体の各所を噛まれ、夥しい量の出血で息絶える。

 

「くそ! また一人……!」

「エルベール構うな! とにかく早くこちらまで下がるんだ! ここももう持たない!」

 一方レイナードの方も這い上がってきたアンデッドたちに手一杯だった。

 

 剣で心臓の辺りを突き刺し、そのまま横一線に切り裂く。

 右から迫るアンデッドに一歩引き、レイピアの突きを頭と心臓に二度、瞬時に繰り出す。

 今度は左から。

 突進するアンデッドに、剣を振り上げて迎撃するが、

 

「浅いか!?」

 焦りか、疲労か、剣の摩耗か、或いはアンデッドが屈強だったのか、

 思ったより切り口が浅く、アンデッドは接近し、レイナードを攻撃する。

 それは”殴る”と言う程人間的な動きではなく、腕をまるで鞭のようにしならせての打撃だった。

 骨格を無視し、体全体を使ったその一撃は鎧越しでも衝撃を通し、レイナードを仰け反らせる。

 

「ぐっ!? やれやれ、無茶苦茶だな……!」

 言いながら、追撃をかけるアンデッドを、今度は冷静に剣とレイピアで微塵に斬り刻む。

 

 しかし単体なら敵ではないものの、次々と不死身の如く押し寄せ続けるアンデッドに、徐々に体力や集中力、或いは武器の切れ味も落ちて劣勢になる。

 

「なにッ!? くッ!」

 レイナードは再び、突進したアンデッドに右手を押さえつけられ、もう片手で脇腹辺りを強く掴まれ、鎧の隙間から鋭い爪が食い込む。

 同時に鋭い歯でレイナードの首元に喰らい付こうとするが、その大口目掛けてレイピアを突き刺す。

 

「そう、簡単に!」

 

 だが、一人では形勢は覆せない。

 それを覆したのは、部下の剣撃だった。

 

「うおおおぉぉぉ!!」

 レイナードを拘束するアンデッドの脇腹を貫き、そのまま抉り取るように剣を振るった。

 致命的損傷を負ったアンデッドは一時的に力を緩め、レイナードは血をまともにかぶりながらもなんとか抜け出した。

 

「隊長! ご無事ですか!?」

「礼を言う、助かったよ」

 徐々にレイナードや他の騎士達も負傷し、疲弊していく。

 

「はぁッ!」 

 向かうアンデッドを長剣で首筋に斬り込み、それでも伸ばしてくる手をレイピアで瞬時に斬り刻み、下階に蹴り落とす。

 脇を素通りして魔導士や治癒術士を狙うアンデッドも逃さず、長剣で足を斬りつけて転倒させたのち、胴体を切断する勢いで長剣を薙ぐ。

 背後から襲うアンデッドにはレイピアの突きを急所に数撃お見舞いするが、別方向から突進する個体に対処できず頭部と右腕を掴まれる。

 強烈な握力で、右腕に爪を立てられ、兜が軋む音を立てる。

 

「ぐ、うぅ、やはり兜は、視界が悪いなっ!」

 レイナードは掴まれる力に任せて兜を脱ぎ棄て、自由だった左手のレイピアでアンデッドの左腕根元を貫き、捻りを加えた斬撃で左腕を切り裂く。

 鮮血が噴水の様に舞う。

 

「せっかくだ、兜は君に差し上げよう。遠慮なく持っていくと良い。聞こえてはいないだろうが、ね」

 露になった薄闇が如き紫の髪をなびかせ、水面を思わす碧眼でアンデッドを見据えると、レイナードは自由になった右手で長剣を掬い上げるように、斜め下から上へ切り裂いた。

 

 相手もいないのに気取った態度で声をかけてしまうのは性分らしい。

 

「ふぅ。それにしても数が多いな。被害者が増えすぎたか……! エルベール、合流はまだか!? そろそろ持ちこたえられそうにない!」

 迫りくるアンデッドに2、3歩後退し距離を取る。

 周囲の騎士たちもかなり疲弊していた。

 

 噛みつきはほぼ即死だが、レイナードを始め爪による攻撃や体を使った打撃で、騎士は全員が負傷していた。

 今のところ傷だけでアンデッド化する様子はないが、安心はできない。

 

「ぐああ! レイナード隊長、だめです! 下の部隊はもう……ぐああぁぁぁぁッ!!」

 隊を纏めていたエルベールも死亡した。

 下の階の部隊はもう全滅と見ていいだろう。

 

「エルベール……すまない」

 戦友を失い、悲痛な表情を一瞬浮かべるが、事態は悲嘆に沈むことを許さない。

 

「隊長! そんな、城門が!!」

「なに……!?」

 

 下階、見える所では最後の生存者だったエルベールが喰われた事によって、アンデッドが一斉に閉鎖した城門に集った。

 外にいる住民の気配を感じているのだろうか、怪力のアンデッドに一斉に集られた、鋼鉄の城門は軋みを見せ始め、城門を支える石材の壁面と鎖に負荷が掛かる。

 

「それはまずい! メンディー、カルウェス! アンデッドを吹き飛ばすんだ!」

 レイナードは焦りを覚え魔導士二人に魔法攻撃の命令をするが、既に遅かった。

 城門、鋼鉄の門はついに負荷に耐えきれず倒壊し、一階エントランスにいたアンデッドの大半が外へ走り出し拡散する。

 

「おのれ、アンデッドめ……! 追撃するぞ! 奴らを城外へ拡散させる訳には!!」

「待てぃレイナード卿!!」

 今にも駆け出すレイナード卿を、背後の怒声が止める。

 

「バルトリー軍務卿!? どうしてここに……いえ、今はそれよりこの通り、城門が破られたのです! アンデッドが城下町に拡散したら、もう取り返しが!!」

 レイナード卿を呼び止めたのは軍事部門のトップ、バルトリー軍務卿だった。

 

「なんだと!? 城下町が!? いや、それどころではない! 一階を防衛していた騎士小隊が全滅して城内の各所に例のアンデッドとやらが拡散しておるのだ! 魔法攻撃の許可も下りた! 一階、二階を放棄して上階への侵入を何としても防ぐのだ!! 国王様の身は絶対にお守りせねばならん!!」

 

 ここの激戦だけで見落としていたが、一階大広間を防衛していた小隊が突破されたようだ。

 アンデッドは城内で拡散し、数を増やしているという。

 話している間に寄り付くアンデッドを、バルトリー軍務卿が長剣で叩き斬る。

 豪奢な軍服を着ているが、剣の腕は確かだ。

 

「魔導士シャルディーよ、最後に魔法を叩き込め! 国王様から、対物魔法以下に限定した魔法使用の許可は出た! 発動後、すぐにここを離脱し、使用人室辺りの防衛に回れ!」

 

「了解! 対物魔法を放ちます! 灼熱の炎よ! 敵を焼き尽くせ――」

 バルトリー軍務卿が命ずると、彼と共についてきた魔導士が詠唱を唱え、魔法を放つ。

 詠唱によって構築された魔法陣は、魔導士シャルディーの足元と、一階エントランスの中心に現れる。

 

「――ブレイムヘルズ!!」

 

 魔法名が叫ばれると魔法陣が光りだし、エントランスの魔法陣の上に火球が出来た。

 火球は、一瞬のうちに周囲の魔素を吸収・膨張しやがて部屋全体を炎と轟音で覆う程の爆発を起こした。

 通常の爆薬と違い、燃焼は数秒場に残り続け、爆心地に近いアンデッドは骨まで焼き尽くされ、炭化してゆく。

 

 爆発はレイナード達がいる二階まで及び、爆発を僅かに逃れたアンデッドもレイナードを含む騎士たちに斬り伏せられていく。

 

「よし、移動するぞ! 二階層使用人室へ急げ! 私は各部隊に伝令した後玉座の間へ戻る!」

「「了解ッ!!」」

 

 バルトリー軍務卿の命令で、生き残った騎士達は別の場所の防衛に回った。

 

 ――しかし、炎に巻かれたアンデッドもまた、一部が活動を停止していなかった。

 




ようやく主人公が戦いました!


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