女神の従者の願うこと (よっしー希少種)
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オリキャラ紹介

今作のオリキャラについてまとめておきます。今作初登場のオリキャラについては、初登場から一話開けて追記します。


・クリスト

 今作の主人公。ひょんなことからブランの側近になった人間の少女。身長は148cmと小柄。胸辺りまでの白の長髪で、普段はポニーテールにしている。紺色の道着袴に、白い足袋と草履を身に付けている。更に、水色のケープを羽織り、白いポシェットを下げている。

 身に付けているケープはブランから貰った側近の証。白い糸で雪の結晶の刺繍が入っており、身につけると、右肩のところにルウィーのロゴがくるデザインになっている。また、服装の関係上、小物を入れるポケットなどが無いため、ポシェットに小物を入れて持ち歩いている。

 戦闘スタイルは刀の二刀流。氷の魔力を宿して攻撃を行う。素早さが抜きん出て高く、攻めを主体とした戦い方をする。反面、防御に関しては装備的にも苦手。スキルに関しても氷属性の攻撃技三つに光属性の攻撃技一つと攻撃に全振り。

 氷晶の陣羽織を羽織ることで強化形態の氷魔覚醒になれる。追加武装として白の兜、篭手、臑当。さらに氷の刀四本と、大袖の形をしたシールドを二枚、浮遊武装として扱う。この時、瞳孔の色が水色に変化。思考とリンクして動く浮遊武装や強化された身体能力、スキルを駆使して戦う。防具に関しては魔力を集中させることでプロセッサユニットを上回る強度になるが、硬化できるのは一箇所のみ、かつ魔力を防具に集中する関係上、シールドと氷の刀が消失する。強さとしては、氷魔覚醒で女神と同等かわずかに劣るくらい。ネクストフォームレベルの相手にはどう足掻いても勝てない。

 持っている刀の名前は白銀刀「六華・白神」。元々クリストが持っていた二本の白い刃の刀を打ち直したもの。魔力の伝導に優れ、かつ強度、切れ味ともに優秀な業物。

 ブラン達含めた教会関係者や他国の守護女神達との関係は良好。特にフィナンシェとは、立場も近く、側近としてのあれこれを教えてもらった事もあってか、特に仲が良い。側近として、仕事はキッチリこなしている。しかし、その役目に縛られすぎてか、偶に女神の為に自分を犠牲にするような行動をとってしまうこともある。

 苦手なものはブロッコリー(野菜の方)と水。ブロッコリーの方は我慢すればいけるが、問題は水の方。カナヅチなので頭まで水に浸かるとパニックに陥ってしまう。実際、側近就任後に一回深い河に落ちて危うく溺れかけた。その後フィナンシェと一緒にプールで特訓したり、入浴中に潜ってみたりしたが、結局克服できなかった。

 

 

 

 

 

 

一話以降

・トーシャ

 クリストを攫った人間の少女。紫の長髪で、研究所では白衣を身につけている。クリストの体を複製したらしいが、目的や動機はまだ謎。

 

 

 

 

 

二話以降

・エクスト

 トーシャが生み出したクリストの複製体。体内にアンチクリスタルが埋め込まれており、その影響で左目の瞳孔が紫色になっている。クリストとは性格や二人称が違ったりする。三話で服と使用する武器を変えた。これにより、脱がない限りは見分けがつくようになった。

 戦闘においては紅い刃のダガー、「ファンタズムエッジ」を使う。攻撃にはアンチクリスタルの力が宿るため、守護女神に対して有利に立てる。また、宵闇のマントを纏い、アンチクリスタルの力を増幅させる事で、強化形態の「反晶覚醒」になれる。ガントレットとグリーブが追加武装として身に付く他、初使用時は同時に「超容量メモリーカセット」を生成。ダガーのスロットに挿し込む事で守護女神の武器を模した形になる。なお、コピーするには何らかの形でデータを取る必要がある。また、カセットの使用は通常時でも可能。

 女神にとっての天敵であり、本人も女神に対しての殺意は高い。この殺意はトーシャに刷り込まれたのか、それともアンチクリスタルの力ゆえか……。




四百字程度の設定だったのに、千字以上無いとダメってなってめちゃくちゃ追記しました。これ、釣り合い取るために後のキャラも頑張らなきゃじゃん……


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本編
1.始まりは突然に


 ブランはある書類を見ながら小さくため息ついた。

 

(またなの……)

 

 そこには反女神組織についての情報が書かれていた。最近、やたらと反女神組織についての報告が相次いでいる。

 

「どうしました? 浮かない顔して」

「クリスト……また反女神組織についてよ」

「はぁ……またですか」

 

 お茶を用意しながら、クリストも溜息をつく。

 

「申し訳ないのだけど、またお願いできる?」

「勿論です。任せてください」

 

 クリストは一礼して部屋を後にした。

 

(最近ずっとこればかりね……そろそろ休ませてあげたいのだけど……)

 

 

「はぁ……大したこと無かったけど疲れたなぁ……」

 

 反女神組織を鎮圧し、徒歩で教会に向かっている。

 

「おーい、そこのお嬢さん!」

「ん、私?」

「そう。あなた」

 

 道中、クリストは紫髪の少女に声をかけられた。

 

「どうかしましたか?」

「えーっとね、実は路地裏に大事な書類を落としちゃって……路地裏って怖いじゃん? 取ってきてくれない?」

「まぁ……それだけなら全然大丈夫ですよ。任せてください」

 

 クリストは刀の柄に手をかけながら路地裏に入る。確かにそこには、書類が入ってそうな大きな封筒が落ちている。それを拾うために路地裏の奥へ進む。

 

「これか……」

「ありましたか〜?」

 

 後ろから少女の声が聞こえる。どうやら、クリストの後をつけてきたらしい。

 

「これでしょうか?」

「あ、それそれー。ありがとうございます〜」

「いえいえ、これくらい……」

「じゃ、おやすみなさい」

「え?」

 

 直後、少女はクリストの口にハンカチを当てた。

 

(何これ!? なんか湿ってるし、なんでこの人…………………………)

 

 クリストは程なくして意識を失った。力なく倒れるクリストを少女は抱き抱えた。

 

「よーし、上手くいきましたね。さて、持ち帰りますか〜」

 

 少女はクリストのポシェットを地面に置くと、迷彩を使って姿を消し、クリストを連れ去った。

 

 

「……電話にも出ないなんて」

「クリストさん、どうしたのでしょうか……」

 

 ブランはクリストがなかなか帰って来ないことを心配して電話をかけた。しかし、一向に出る気配がない。

 

「仕方ない、最終手段ね。クリストの携帯の位置情報を使えば……」

 

 ブランは自分の携帯電話にクリストの携帯電話の位置を表示させる。

 

「よし。フィナンシェ、少し出かけてくるから、ロムとラムの世話を頼むわ」

「わかりました。お任せ下さい」

 

 ブランは駆け足で携帯に表示された位置に向かう。しかし、そこにあったのはクリストのポシェットだけだった。

 

「クリスト……?」

 

 周りを見たが、クリストの……人の気配は無い。そろそろ日も沈む時間。路地裏は一足早く夜の闇に包まれる。

 

「クリスト……どこに……?」

 

 

 クリストは見知らぬ場所で目を覚ました。見知らぬ天井に、鉄格子が見える。ここが牢屋だというのを理解するのに時間はかからなかった。

 

「また牢屋……。てかなんで……?」

 

 自分の体を確かめてみる。外傷は無い。体調におかしなところもない。拘束具は一つも付いていない。

 

「ここは一体……」

「あ、起きましたかぁ?」

「わっ……!」

 

 突然声をかけられ、少し驚く。そして声の主を視界に捉えたクリストは更に驚く事になる。

 

(なんで……なんで私が立ってるの……?)

 

 鉄格子の向こうに立っていたのは、自分と同じ声で、自分と同じく白髪でポニーテールの、自分と同じ和服を着た、自分と同じ水色のケープを羽織った少女だった。唯一、左目の色が紫なこと以外は全く同じ。そんな存在が目の前に居ることに、強い恐怖を覚える。

 

「そんなに怖がらないでよ? 私はあなたなんだから」

「……誰なの、君は」

「私? だから、私はあなただってば」

「つまらない冗談はよして!」

 

 クリストはわけもわからず怒りの感情を目の前の存在にぶつける。

 

「冗談じゃないよ。事実だよ、じーじーつ」

「だったら……何が目的なの!?」

「えー言う必要無いよね?」

「お前……」

「まー大丈夫大丈夫。いずれわかるよ」

 

 そう言って目の前のクリストは背を向ける。

 

「じゃーね。あ、ここ魔法使えないから、無駄な足掻きはやめときなよ〜」

 

 そして牢屋の前から去っていった。クリストはどうしようもない不安と、何もすることが出来ない不甲斐なさを感じた。

 

「やぁ、どうだった? アレ」

 

 入れ替わるように、紫髪の少女が鉄格子の前に現れた。丈の長い白衣を着ている。

 

「君……」

「そ、街中で助けてもらったね。アレ嘘だけど。私はトーシャ。よろしくね」

 

 服装は変わっているが、間違いなく街であったあの少女だ。

 

「なんのつもりなの……」

「なんのつもりか……目的なら、私が反女神組織だって言えばわかるかな?」

「な……」

「まぁ、組織って言えるほどの規模じゃないけど。私と、あとはあなたのコピーだけだから」

「コピー……?」

「そうコピー。人体複製については初トライだったけど、かなりクオリティの高い複製体が出来上がったよ」

 

 信じられない事を淡々と話す。しかし、実際にクリストの前にクリストが現れた。嘘は言っていないようだ。

 

「あれは……なんなの?」

「知りたい?」

「知りたい……」

「じゃあ教えてあげる」

(え、いいんだ……)

「あの複製体にはアンチクリスタルを埋め込んである。だからアレはアンチクリスタルの力を使えるんだ。まぁ、片目が変色したのは誤算だったけど……」

「アンチクリスタル……ってことは!?」

「後はわかるね?」

 

 アンチクリスタル。シェアクリスタルの対となる存在らしく、シェアの力を打ち消す……らしい。クリストも詳しいことは分かってないが、アレが女神の天敵になりうる可能性があるという事はわかる。

 

「そんな……!」

「成果があったら教えてあげるよ」

 

 トーシャはクリストに背を向けて去っていった。

 

「どうしよう……このままじゃ……」

 

 今のクリストに外との連絡手段は無い。ただ、牢の中で黙っているしかなかった。

 

 

 一方、ルウィーの教会ではクリストの捜索が始まろうとしていた。

 

「携帯電話以外にクリストの位置を知らせる物はない。今は手当り次第に探すしかないわね……」

「お姉ちゃん、早く行こう! これから吹雪になるみたいだし、側近さん凍えちゃうよ!」

「側近さん、大丈夫かな……?(そわそわ)」

 

 ブラン、ロム、ラムの三人も捜索に向かうところだった。身支度を整え、教会を出ようとすると、入り口の扉が外から開いた。

 

「あ、あれ?」

「側近さん?」

 

 入ってきたのは見慣れた格好の少女だ。

 

「クリスト……無事だったのね」

「えぇ、無事ですよー」

(……?)

 

 クリストは体についた雪を叩いて落とすと、ブランを見た。左目が紫色に変色している。

 

「その目は……どうしたの?」

「これですか? ここに来るまでにモンスターにやられちゃって……でも大したことないです。いずれ治ります」

「側近さん大丈夫なの?」

「私が治してあげよっか?」

「大丈夫です、へーきへーき」

(……何かしら、この違和感は)

 

 目の前に居るのは確かにクリストだ。しかし、何故かブランは違和感を感じている。

 

「あなた……誰?」

 

 ブランは思い切った質問をしてみた。クリストと共に、ロムとラムもブランの方を見る。

 

「お姉ちゃん?」

「何言ってるんですか? あなた(・・・)の側近、クリストですよ?」

「…………違う」

 

 ブランの目付きが厳しくなる。

 

「クリストは私達の事を名前で呼ぶ。それに、クリストは他人を『あなた』って呼んだりしない。それに……」

 

 ブランはクリストの腰を指さしながら更に続ける。

 

「モンスターに遭遇した後なら、腰に刀を差しているはずよ」

「もうしまってます」

「なら出してみなさい」

「それはー……」

「出してみろっつってんだ」

「お、お姉ちゃん……?」

「怖い……(びくびく)」

 

 クリストは小さくため息をつくと、ブランを睨む。

 

「やっぱその場しのぎの演技じゃダメかぁ」

 

 そう呟くと、クリストは二本の刀を出現させ、握った。血を浴びたような紅の刃の刀。

 

「側近……さん!?」

「ロム、ラム、離れろ! こいつはクリストじゃない!」

 

 ブランは二人の前に立つと、振り下ろされた二本の刃をハンマーで受け止めた。

 

「ぐっ……」

「まさか女神の側近だったなんてね。おかげで楽に女神と接触できた!」

「てめぇ、クリストをどこにやった!?」

「それは言えないなぁ。言ったら怒られちゃう」

 

 ブランは刀を弾き、クリストと距離をとる。

 

「まーでも安心しな。まだ生きてるから。それに、今日はただの下見にきただけだよ。本気でやり合うつもりは無い」

「そっちにその気がなくたっていい。どの道潰すだけだ」

「怖い怖い」

 

 余裕がある様子のクリスト目掛けて攻撃を仕掛ける。しかし、ブランの攻撃は外れ、クリストの刃が体を掠める。その瞬間、ブランの体から力が抜けていくのを感じた。

 

(なんだ今の……力が抜けた……いや、削がれた……!?)

「わかった? 私はアンチクリスタル……だっけ? の力を使えるんだよ。守護女神なんてその気になれば容易く殺せるよ」

「こいつ……!」

「だからほら、出会ってすぐ死んだら面白くないじゃん? だから今日は見逃してあげるよ」

 

 クリストは指を弾くと、いつの間にか消えていた。

 

「お姉ちゃん!」

「大丈夫……?」

 

 ロムとラムがブランに駆け寄る。

 

「大丈夫よ。これくらい平気」

 

 ブランは二人の頭を優しく撫でた。

 

「それより……面倒なものが現れたわね……」

 

 誰にと言うわけでもなく呟く。アレの正体もまだ分からないが、アンチクリスタルの力を使えるなら守護女神にとって驚異となるのは確実。あれが反女神組織の仕業だとしたら、クリストはどこかの組織に囚われた事になる。

 

(早めに対策を練らないと……)

 

 外はかなり荒れている。静かな教会内に響く風の音は、不安な気持ちを増幅させた。




 前作でも牢屋入りしました。クリストは牢屋に縁があるのかもしれませんね


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2.名を得る複製体

 ここからはスローペースな更新になるかもです。連載モノもう一個抱えているので……


 翌日、ブランは他国の女神達に連絡を入れた。

 

「……という事よ」

『まぁ……クリストちゃんが……』

『そこじゃないでしょ。いや、それもだけど……アンチクリスタルの力を使うって本当?』

『そうだよ。ブランが疲れてたからそう感じたんじゃないの?』

「いや……間違いないわ。あなた達もやられてみればわかるわ」

『そんな野蛮な……』

 

 四人はそれから対策を話し合った。結果、やはり拠点を叩くことが一番という結論に至った。

 

『とにかく、元凶を叩く必要があるわね』

『私達も協力しますわ。そんな危険な存在、放っておけませんわ』

『じゃあみんな頑張ってね〜。わたしは来るべき決戦に備えて支度するから〜』

「おい、何様のつもりだ」

『果報は寝て待て、って言うでしょ?』

「サボる気満々じゃねーか!!」

 

 何はともあれ、ブランは女神達の協力を得ることができた。

 

「はぁ……私の方も頑張らなきゃ……」

 

 

「はい、ご飯だよー」

「……」

 

 トーシャは鉄格子の下から食事を入れた。

 

「大丈夫、毒も薬も入ってないよ〜」

「……あれはどうなったの?」

「複製体の事? あれならルウィーの教会で挨拶を済ませてきたとこらしいよ」

「ブラン様達に何もしてないな?」

「それはわからないなぁ」

「……」

 

 クリストはトーシャを睨んだ。

 

「ただいま〜」

「お、ウワサをすればなんとやら」

 

 牢の前にもう一人のクリストが現れた。

 

「お前……」

「やぁクリスト。元気?」

「元気に見える?」

「全然」

「クリストって?」

「こいつの名前。女神もそう呼んでた」

「ほう」

 

 もう一人の方はやたら楽しそうにニコニコしている。

 

「ところでさぁ、トーシャ」

「何?」

「私も名前欲しい」

「いきなりだね。でも確かに、区別できた方が良いか……うーん…………」

「せっかく瓜二つなんだからって似た名前がいいな」

「……じゃあ、最近読んだ本に出てきた名前から……エクストなんてどう?」

「エクスト……悪くない!」

「じゃ決定〜」

(えらくあっさり決まったな……)

 

 楽しそうに会話をする二人をクリストは黙って眺めていた。

 

「あれ、ご飯食べないの?」

「食べる空気じゃないでしょ」

「あー悪いね。ほら、行くよエクスト」

「はーい」

 

 二人は牢の前から立ち去った。クリストは静かになった空間で、少し冷めた食事を口に運んだ。

 

 

 牢の生活は快適だ。快適過ぎて怖いくらいには快適。今も牢に備え付けのシャワーを浴びている。

 

「はぁ……今頃ブラン様達何してるかな……」

 

 側近として、傍に居られないのは不甲斐なさを感じる。

 

(早く出る方法を探さないと……でも食器は使い捨てだから殺傷能力無いし、魔法使えないんじゃ壁も破れない。うーん……)

 

 ふと、鏡を見ると、背後に何かいるのに気付いた。白髪で片目が紫の女の子。

 

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!??」

「うるさい! 急に叫ばないで!」

「いやいやいや! 何で君がここに居るのさ!」

「背中流してあげようと思って。ほら、私はあなたであなたは私だし」

「ちょっと意味わかんない!」

 

 クリストはエクストの方を見る。どこを見ても自分と同じ存在というのはやはり慣れない。双子と思い込めば良いかと思ったが、情が移るのは嫌なのでやめている。

 

「なんの用?」

「話したいことがあってさ」

「何?」

「ちょっと手合わせしてみない?」

「は?」

 

 エクストはニヤッと笑うと、話を続けた。

 

「あなたは普通の人間だから、アンチクリスタルから受ける影響は女神より小さい。なら戦ったって問題ないでしょ?」

「……やるメリットはあるの?」

「勿論。あなたが勝ったらここから出してあげる

「……!」

「女神に対しての脅威を排除して、女神の元に帰れる。それって素晴らしい事だと思わない?」

「……負けたら?」

「負けたらまたしばらくここに居てもらう事になる」

 

 エクストはクリストの肩に腕を置いた。そして耳元で囁くようにして聞いた。

 

「どうかな……?」

 

 シャワーの音だけが響く。今のクリストに迷いはなかった。何を企んでいるかわからないが、勝てばいいのだから。

 

「わかった。その話乗った」

「うんうん。じゃあ明日やろうか〜」

 

 エクストの手がクリストの背中を撫でる。何かヌルヌルした液体が付くのを感じる。

 

「うわぁ! 何塗ってんの!」

「ボディーソープ」

「勝手に塗るな!」

「背中流してあげようと思ってって言ったじゃん……」

「だからっていきなりやるか!?」

「まあまあ」

 

 エクストはクリストにバックハグをした。

 

「自分に体流して貰うなんて滅多に無いことだよ? 貴重な経験だよ?」

「遠慮しとく! てか離れて!」

「なんでぇ」

「いくらなんでも……裸でくっつくのは……」

「………………ほぉーー」

 

 エクストは楽しそうな声でクリストの体を撫でる。

 

「ウブだねぇクリストちゃんは♪」

「やめろって!!」

「遠慮しないで。私とイイこと……しよ?」

「ダメダメダメダメ!! それは絶対ダメ!!」

「あっはっはっはー! 何マジな反応してんの!? チョーウケる!!」

「この……クソガキィ!!」

「自分の幼女体型認めたか」

「黙れェ!!!!」

 

 二人の喧嘩(?)はこの後しばらく続いたとか……。

 

 

「あー楽しかった」

「エクスト、何で裸で歩いてんの? しかも濡れてるし……お風呂はさっき入ってたよね?」

「約束してきた」

「はいぃ???」

「とにかく、明日訓練室使うけどいいよね?」

「構わないけど、何するの?」

「私の力を……引き出すの」




 なおエクストはクリストをからかっただけで、恋愛感情的なやつは抱いていません。


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3.同じだから

 ネプシスですか? 私はSwitchユーザーなので……。代わりに夜道を廻るゲームしてます。超楽しいです


 次の日、クリストとエクストは建物内の使われていない大部屋に来ていた。エクストは昨日までと違い、紺の軍服のような服に裏地が赤色のスカートを身につけていた。

 

「この部屋……いや、そもそもこの建物自体かなり頑丈らしいよ。実験で失敗しても簡単に吹き飛ばないようにだって」

「はぁ……」

 

 エクストはクリストに背を向けたまま話す。その姿を見ながら、クリストは密かに鍔を弾く。

 

「おっと、無駄話は不要って? 良いよ。始めようか」

 

 エクストは振り向くと、腰に差していたダガーを手に取った。黒い鞘の中から、紅い刃が現れる。グリップ部分に、何かを差し込めそうなスロットと、トリガーが付いている。

 

「刀じゃないんだ」

「差別化だよ。全部一緒は嫌でしょ?」

 

 お互い、武器を握って構える。

 

「さぁ来い」

「いざ……!」

 

 クリストは一気に距離を詰めると、エクストへ二本の刀で攻撃を仕掛けた。エクストは連撃をかわし、いなしてやり過ごす。

 

「いい太刀筋だ。悪くない」

 

 鍔迫り合いになりながら、エクストが呟く。

 

「ただ、なぁ……私には及ばない」

「なんだって……?」

「ふっ……油断しちゃダメだよ?」

 

 エクストは剣を回し、鍔迫り合いを解き、今度は攻めに転じた。

 

「くっ……」

「凌げるよね? 二本あるもんね」

(短剣だからかな……二刀に劣らない手数だ……)

 

 クリストは一度強く弾いて距離を取ると

 

「『飛燕氷牙』!」

 

 スキルによる攻撃をしかけた。対するエクストは

 

「よっ!」

 

 ダガーで軌道を逸らしつつ避けた。

 

「避けるとは思わなかった?」

「……いや、想定内だよ」

「なんだぁ……」

 

 クリストは刀を納刀し、左腰に差している刀の柄に手を添え、構えた。

 

「もう良いでしょ。これで決着をつける」

「居合いか。良いだろう」

 

 エクストはダガーを逆手に持ち、一度深呼吸をする。

 

「……『居合・」

 

 鍔を弾く。氷の魔力を込めた冷たい刃が辺りの空気を冷やす。

 

「氷華一文字』!!」

 

 全力で、高速の居合い斬り。刃の軌道は確かにエクストの胴を捉えていた。

 

「……そこっ!」

 

 金属同士がぶつかり合う音が響く。エクストはクリストが振るのと逆向きにダガーを振り、居合斬りを阻止すると同時に、反動も利用して大きく飛び引いた。

 

「は……?」

「すごいでしょ。……半分賭けだったけど」

 

 エクストはダガーを回しながら話す。

 

「さて、私はあなたのスキルを相殺しました。スキル使わずに。実力差は証明できたと思うけど……どうする? 負けを認めて降参する?」

「……いや」

 

 クリストはいつの間にか水色の陣羽織を羽織っていた。

 

「まだ、ここからだから……」

 

 そして篭手、臑当、兜を生成し身に付け、大袖の形をしたシールドを二つと、氷の刀を四本、背後に浮かせる。

 

「おぉ、本気か」

「あぁ、ここからは私のステージだ!」

 

 水色の瞳はエクストを睨みつけた。氷魔覚醒。クリストが氷晶の陣羽織を羽織り、魔力を大幅に増幅させた強化形態。

 

「はっ!」

 

 向上した身体能力を活かし、より速く、強い連撃を叩き込む。

 

「おぉっ!?」

 

 エクストも負けじと防ぐ。しかし、さっきよりも明らかに余裕が無い。ギリギリ刃がエクストの体には届いていないが、このまま押され続ければ負けるのは確実。エクストはダガーで攻撃を受けた瞬間、体を前に動かし、鍔迫り合いにもちこんだ。

 

「なるほど……強い……」

「話す余裕あるんだ」

 

 四本の氷の刀がエクストの頭上から降り注ぐ。

 

「っ!」

 

 エクストはクリストを思いっきり押し、前に避けた。氷の刀はエクストの背中を掠め、地面にぶつかり砕けた。

 

「くっ……そ!」

 

 クリストの右下からの切り上げ。

 

「ふうっ!!」

 

 エクストの右上からの切り下がり。刃同士が激しくぶつかる。エクストはクリストの方が力が強いことを利用し、衝撃も利用して後に飛び引いた。

 

「はぁ……はぁ……あーヒヤヒヤした……」

「にしてはまだ余裕ありそうだね」

「……」

 

 エクストは一つ、大きく深呼吸をした。

 

「……わかる?」

「やっぱりね。一体どこからその余裕が来るんだか……」

「……確信したから、かな」

「?」

 

 エクストが指を弾くと、彼女の手の上に布が現れた。黒色の畳まれた布だ。

 

「あなたがそういうの出来るなら、私も似たような事出来るはずだよね。だって、私はあなたで、あなたは私だもん」

「なっ!?」

「さぁ、宵闇のマントよ……アンチクリスタルの力を増幅させ、私に更なる力を授けよー!」

 

 エクストは黒い布、宵闇のマントを羽織った。

 

「っ! させない!」

 

 クリストは攻撃で阻止しようとしたが、目の前に現れた紅い結晶によって阻まれた。その結晶は四つに分かれると、紅いガントレットとグリーブを形作り、エクストの四肢を覆った。更に、右の瞳孔の色が赤に染まる。

 

「反晶覚醒……どう? かっこいい?」

「強化形態……!?」

「ふふーん。マルチウェポンスタイルだよ。イカスでしょ?」

「え……? マルチ……ウェポン?」

 

 クリストはエクストの体をよく見た。が、武器はダガー以外見つからない。

 

「マルチウェポンだよ?」

「どこが」

「これが」

 

 エクストが見せたのは、小さなゲームカセットのような物体。

 

「……巫山戯てる?」

「まさかぁ。今からこの物体……超容量メモリーカセットの真価をみせてあげるよ」

 

 エクストはカセットをスロットに差し込む。

 

「ん……安定して出せるのはまだこれだけか……ま、いいや。メモリーカセット第三出力!」

 

 トリガーを押すと、ダガーが光に包まれる。そして現れたのは、白い刃を持つ灰色の戦斧。そのシルエットはどことなく、ホワイトハートが使う戦斧に似ていた。

 

「こういうこと……さ」

「それ……!」

「うん。あなたの記憶の中に一番鮮明に残ってた女神の武器だよ」

「こいつ……!」

「ふふん。さ、紹介は終わったし……」

 

 エクストは戦斧をクリストに向けた。

 

「来な! 反晶覚醒の初陣といこうか!」

「……ここで黙らせる!」

 

 クリストは一気に距離を詰め、二刀での攻撃を仕掛けた。エクストは戦斧で合わせる

 

(同じだ……重いし硬い……!)

 

 一度と距離を取り、今度は氷の刀も同時に向かわせる。エクストは軽々と戦斧を振るうと、氷の刀を粉砕。続くクリストの攻撃もそのまま受けた。

 

「ダメだねぇ」

「はぁ?」

「そんな怖がってちゃあさぁ……」

「……!」

 

 図星だった。見た目の威圧感と、格上の敵に強化形態の存在を教えてしまった事で、クリストの心は恐怖と焦りに支配されていた。

 

「刀を見ればわかる。さっきよりも全然弱い。精神状態が現れてるよ」

「う……うるさい!」

「図星かなぁ?」

「っ……黙れぇ!!」

 

 感情に任せた斬撃を放つ。エクストはそれをバク宙で回避。エクストの下を二本の白い刃が通る。着地と同時に、戦斧を片手で振り、遠心力も利用してクリストに重たい一撃を与える。防御する隙を与えない迅速な反撃を、クリストはモロに受けてしまう。

 

「……っ!」

 

 そのまま横に大きく吹っ飛び、壁に激突する。全身が砕けそうなくらいの痛みが走る。

 

「さ、どうする? ここで負けを認めるのが良いと思うけど?」

(負けを……そしたら……いや、ダメだ。ここで倒さないと……ブラン様達が!)

「まだ……負けてない……!」

 

 体を無理矢理動かし、フラフラと立ち上がると、エクストに刃を向けた。

 

「……失望した。あなたはもっと賢いと思ってたのになぁ」

 

 呆れたように小さくため息をつく。

 

「いいよ。その無謀な勇気、一撃で砕いてやるから」

 

 エクストは戦斧のスロットのボタンを押した。戦斧が光に包まれ、元のダガーが現れる。

 

「……来い」

「……『居合・氷華一文字【徒花】』!!」

 

 クリストは臆することなくスキルを放った。神速の刃がエクストに迫る。

 

「……」

 

 エクストはダガーを左手に持ち、右手のガントレットで攻撃を受けた。完全には防ぎきれず、ガントレットはヒビが入り、凍りついてしまった。だが、問題は無い。そのまま左手に持ったダガーをクリストの左眼へ向かわせる。

 

「あ……っ」

 

 一瞬、何が起きたのかわからなかった。眼前にダガーが見えた瞬間、視界の左半分は闇に閉ざされた。

 

「ふっ!」

「っ!? あぁっ!!」

 

 左眼に走る、抉られたような激痛、頬を液体が伝う感覚、理解した頃には、恐怖心に支配されていた。エクストはクリストの左眼からダガーを抜くと、スカートで血を拭い、鞘に戻した。

 

「今回は片目で勘弁してあげるよ。ふふ……可愛い顔に傷が付いちゃったね〜」

 

 恐る恐る、左眼をおさえる。手が血で染っていく。

 

「ひっ……はっ……ぁ……」

 

 クリストは精神を落ち着かせようと、深呼吸した。痛みに耐えようと俯いたその時、指の間を何か固形物が通って落ちた。血溜まりの中に落ちたそれは、砕けた眼球の欠片だった。驚いて手を離すと、残りの欠片も血溜まりに落ちた。

 

「ちゃんと眼球は砕いてあげたからね」

「ひっ……え……?」

「最後に……」

 

 エクストは血溜まりの中の眼球を思いっきり踏み潰した。

 

「こうしておけば目は治せない。回復魔法は欠片からの再生は出来ても、無からは流石に無理だからね」

「あ……あぅ……」

「さて、もう戦える精神状態じゃなさそうだし、私の勝ちでいいよね?」

 

 クリストは答えなかった。ただ、エクストを見る怯えた目が戦意がない事を伝える。

 

「……うん、大丈夫。伝わったよ。じゃ、私はやる事が出来たから、後はトーシャを頼ってねー」

 

 エクストはクリストに向かってヒラヒラと手を振ると、部屋を出て行った。

 

 

「場所は?」

『バッチリですわ』

「ありがとう。ノワールとネプテューヌは?」

『ネプテューヌがやりたい事があるって、ノワールを巻き込んで何かしていて……』

「繋がらない……と」

『えぇ。全く何をしているのやら……』

「……早めに繋がることを祈るしか……ん?」

 

 ブランは部屋の外がやたら騒がしい事に気付いた。人の声に混ざって、氷が砕ける音もする。

 

『ブラン?』

「……まさか!」

 

 部屋の扉を突き破り、ホワイトシスターロム、ラムが変身解除しながら飛んでくる。

 

「い……た……」

「うぅ……力……が……」

「ロム! ラム!」

 

 ブランは二人に駆け寄った。致命的な外傷は無いが、かなり辛そうにしている。

 

「お、見つけたよぉー」

「やっぱお前か……」

 

 扉の向こうから歩いてきたのは、紺の軍服に身を包んだ少女。

 

「私だよ。あ、名前もらってからは初対面になるかな? エクストだよ〜」

「……何しにここに来た」

「言わなくたって分かるでしょ?」

 

 エクストは宵闇のマントを羽織りながら、ブランにダガーを向けた。

 

「ルウィーの守護女神ホワイトハート……まずはあなたから殺す」

 

 次々と防具を身につけ、強化形態である反晶覚醒へ移行した。ブランもホワイトハートに変身し、戦斧を構える。

 

「上等だ。テメェはここでぶっ潰す」

「良いね。さ、本気でいくよ!」

 

 二人は同時に前進、戦斧とダガーが激しくぶつかり合った。

 その様子を、モニター越しにベールは見ていた。

 

「大変な事になっていますわね……。私も向かいませんと」

 

 ベールは通信を切ると、グリーンハートに変身し、ルウィーへと翔んだ。




 やっぱオリ主は虐めるに限りますね。オリ主だから好き放題しても誰にも文句言われる筋合いはありませんから。


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4.封印の鎖

 部屋の壁を破ってホワイトハートが教会の外に落ちる。

 

「くっ……そ」

「なんだぁ。この程度なの?」

 

 次いでエクストも飛び降りる。上手く動けないホワイトハートにゆっくりと歩み寄る。

 

「やっぱ凄いね。アンチクリスタルの力があれば女神さえもコロっと捻れちゃう」

「こいつ……強化まで身につけやがって」

「あの娘のおかげだね〜」

 

 ケラケラと笑う。

 

「でも……まだだ」

「そういうとこも一緒だね。あの娘の無謀な勇気はあなたに似たのかな?」

「無謀……?」

「無謀じゃん。その不屈のせいであの娘は……」

「お前、クリストに何をした」

「はい?」

「何したって聞いてんだよ!!」

 

 地面に思いっきり戦斧を叩きつける。衝撃で粉雪が舞う。

 

「知りたい? なら教えたげるよ」

 

 エクストは左眼を瞑ると、瞼の上から、左眼を軽くつつく

 

「こう……グサッとね♪」

「なっ……」

「大丈夫大丈夫。それだけだよ。命に別状は無いよー」

 

 エクストは笑いながらホワイトハートを見下す。

 

「さ、どうする? 可愛い可愛い側近さんを痛ぶったやつを許すわけないよね〜」

「……その手には乗らねーぞ」

「おや、そこは冷静か。流石女神」

「ところでお前、随分ダラダラと喋っていたが、良かったのか?」

「あ」

 

 会話中に失った力を取り戻し、立ち上がって戦斧を構える。

 

「狡いなぁ……卑怯じゃん」

「お前から話始めたんじゃ……」

「知りませーん」

「……お前中々いい性格してるな」

「えへっ」

「褒めてねーから! クソっ! 何だこの茶番は!!」

 

 ホワイトハートは苛立ちをぶつけるように、再び戦斧を地面に叩きつける。

 

「まぁいっか。どうせまた力を削ぐし。そしたら今度こそ殺してあげるよ」

「やってみろよ。私はそう簡単にはくたばらねーぞ」

「ほぉー。なら試してみる?」

 

 エクストはダガーのスロットのボタンを押した。ピンク色のボタンだ。

 

「さっき完璧にしたんだ。メモリーカセット第七出力!」

 

 ピンク色のラインが入った杖を手に取ると、氷の剣を形成した。

 

「まさか、アイスカリバーか!?」

「知らないけど、あなたの妹の力だよ。さぁ、耐えれるかな?」

 

 防御の構えをとって受けようとする。が、氷の剣が戦斧に届く前に、横から飛んできた槍によって砕かれてしまった。

 

「なっ!?」

「あら、意外と脆いんですわね。所詮は紛い物ですものね」

「あなたか……。リーンボックスの守護女神、グリーンハート!」

 

 エクストの視線の先には、宙に浮くグリーンハートの姿があった。既に槍は生成されている。

 

「油断してると死にますわよ。いくらあなたが耐久力に自信があるとは言え、相手は私達の弱点そのものなんですから」

「わかってる。とにかく……助かった」

 

 グリーンハートはホワイトハートの隣に着地した。

 

「……ま、良いよ。増えてもやる事は同じだから」

「来ますわよ!」

「さぁ、この弾幕は凌げるかな?」

 

 杖から数発の氷柱を放つ。放たれた氷柱は空中で分裂を繰り返し、密度の濃い弾幕を形成した。

 

「お姉ちゃん達! 動かないで!」

「え?」

 

 直後、二人の周囲に分厚い氷の板が形成され、氷柱を防いだ。

 

「ロムとラムか……」

「ちっ……邪魔をして……」

 

 教会の窓から二人の女神が飛び降りる。ホワイトシスターロムとホワイトシスターラムだ。

 

「さっきはよくもやってくれたわね!」

「絶対に許さないから……!」

「ちぇ……もっと痛ぶっておくべきだったなぁ」

 

 エクストは小さくため息をついた。

 

「まぁ、四人になった事でやる事は……」

「まだそんな事言える!?」

「あん?」

 

 声のした方を向くと同時に、エクストの目前にビームと弾丸が落ちる。

 

「おぉ!?」

 

 氷の壁を作って攻撃を防ぐ。

 

「来ましたわ」

 

 グリーンハート達の傍に着地したのは……

 

「すみません、遅くなりました!」

「タイミング悪いわね……まだ途中だったのに」

 

 プラネテューヌの女神候補生、ネプギアことパープルシスターと、ラステイションの女神候補生、ユニことブラックシスター。彼女達の背には、ぐったりした様子のネプテューヌとノワールの姿もある。

 

「どうした……」

「い、色々あったんです……。置いてくるつもりだったんですけど、どうしても行くって……」

「そうそう……やっぱり主人公が居なきゃじゃん?」

「そんな事言ってる場合じゃないでしょ……早くアレ出しなさいよ……」

「あー……はいよぉ……」

 

 ネプテューヌがパーカーのポケットの中から取り出したのは、強い光を放つ青い結晶。

 

「これは……」

「圧縮ハイパーシェアクリスタル(仮)だよ。ハイパーシェアクリスタルに更にシェアを注ぎ込んだ物……これならアンチクリスタルの力に打ち消されずに戦えるよ……」

「まずは私とネプテューヌのシェアを注ぎ込んでみたわ……でもこれでも……充分かも……」

「なるほど。だからこんなにぐったりしてるのか……」

「ちょっと! 私を放置してお喋りかい!?」

 

 エクストが会話に割って入る。ホワイトハートは圧縮ハイパーシェアクリスタル(仮)を受け取り、エクストの方を向いた。

 

「今から構ってやるよ。こいつでな!」

 

 ホワイトハートは圧縮ハイパーシェアクリスタル(仮)を掲げる。

 

「ネクストプログラm……」

「ネクストプログラム、起動!」

 

 ホワイトハートの手から圧縮ハイパーシェアクリスタル(仮)が離れる。クリスタルを掲げて声高らかに宣言したのは、グリーンハートだった。クリスタルから眩い光が溢れると、中からネクストグリーンが現れる。

 

「ベールテメェ! ここは私がやるとこだろ!!」

「だって、せっかくルウィーまで来たのに何もせずに帰るなんて……あまりにもつまらないでしょう?」

「うぇ……あれがネクストフォームか」

 

 ネクストグリーンを前にエクストも身構える。流石に、彼女にとってもネクストフォームは脅威になるようだ。

 

「いつものネクストフォームとは桁が違いますわよ。さぁ、準備はよろしくて?」

「勝ち目の無い戦いはしたくないが……やる事まだあるからなぁ」

 

 先に仕掛けたのはエクストだった。武器を戦斧に変え、ネクストグリーンに攻めかかる。しかし、槍であっさりと防がせてしまう。

 

「ちっ……」

 

 距離を取ると、今度はネクストグリーンが攻めに転じた。

 

「はっ!」

 

 刺突攻撃を仕掛けてくるのを、戦斧を盾にして防ごうとする。

 

「甘いですわ!」

 

 バリン、と音を立てて、ネクストグリーンの槍がエクストの戦斧を貫く。目前まで迫った槍を

 

「危ねっ!!」

 

 ギリギリで避ける。どっと冷や汗が吹き出てくる。

 

「嘘じゃん……これそこそこ硬いんだが?」

「それだけこちらが有利という事ですわ」

「確かに……強い光は影を消す……か」

「さて、そろそろ終わりにしましょうか」

 

 戦斧をバラバラに砕くと、槍を振り回してエクストに攻撃を叩き込んだ。

 

「あぐっ!?」

「はぁっ!!」

 

 全力の刺突。エクストの体は大きく後ろに吹っ飛んだ。

 

「ぐぎ……き、効いた……」

 

 武装も全て砕けており、丸腰の状態になってしまった。

 

「スキルを使わずにここまでやれるなんて……すごい物を作りましたわね」

「はぁ……っ……どうやら……私は守護女神という存在を……甘く見すぎていたかもしれない……」

 

 ヨロヨロと立ち上がりながら、エクストが話す。

 

「まだ足掻くか、アイツ……。ベール、油断するなよ」

「勿論ですわ」

「いーや。もうあなた達を倒せる力は残ってない……だから今日はもう帰るよ」

「逃がしませんわよ!」

「捕まるもんか!」

「全員で行くぞ! 絶対に逃がすな!」

「はい!」

「わかった!」

 

 ホワイトハートの掛け声に合わせて、ネプテューヌとノワールを除く六人の女神がエクストに迫る。

 

「…………なんてね。バーカ」

 

 エクストはダガーを地面に刺すと、残った力を集中させる。すると、周りの空間に丸い何かが現れる。そこから真っ黒な鎖が現れ、女神達を包囲した。

 

「何これ……」

「鎖?」

「まぁ見てなって。『ボイドチェイン』!!」

 

 漆黒の鎖は女神八人の胸を貫いた。直後、変身していた六人の変身が解けた。

 

「うわっ!」

「な、何これ……」

「この感覚……シェアを無力化した……?」

「上手くいったね。これでしばらくあなた達はシェアの力を使えない筈だ」

「あなた……やられたフリをして私達の油断を誘うなんて……」

「いや、やられていたのは事実だよ。実際、あなたの攻撃はかなり効いてた。だから引き上げるんだよ」

「こいつ……」

 

 ブランは武器を形成しようとするが、それすらも出来ない。

 

「いやぁ、女神も無力化出来たし、あなた達の武器の情報も、鎖越しに手に入った。まず私の勝ちかな?」

 

 エクストはメモリーカセットを見せながら話した。

 

「次会う時までに守護女神について理解を深めておくよ。それじゃあみなさん、さようなら……」

 

 指を弾くと、エクストは瞬間移動でその場を後にした。女神達の間を、刺すような冷たさの風が通り抜けていく。

 

「あれ……私何もせずにただ力封じられただけ?」

「だから待ってる方がいいって言ったのよ……!」

 

 

 深夜のルウィーの教会。職員もほとんど休んでおり、不気味なくらい静かになっている。そんな教会にある図書室に、人影が一つ。

 

「うはー……深夜の教会怖すぎ……。絶対お化け出るじゃん」

 

 懐中電灯片手に、エクストが侵入していた。懐中電灯の明かりを頼りに、真っ暗な図書室を探索する。

 

「さて、女神に関する文献は……。お、あれかな?」

 

 近くにあった脚立を使い、本を手に取る。そして懐中電灯の明かりを使ってその場で読んだ。

 

「……ふむふむ」

 

 また別の本を手に取り、読む。

 

「…………なるほど」

 

 役に立ちそうな本は片っ端から読む。

 

「………………なんと」

 

 そうして本を読み漁っていると、急に図書室の明かりがついた。

 

「うわっ!?」

 

 いきなり明るくなった事に驚き、脚立から落ちてしまう。

 

「いったたたた……お尻打った……」

「あっちから音がしたぞ!」

「げ、なんでバレた?」

 

 立ち上がり、辺りを見回す。すると、天井の方にあるものを見つけた。

 

「監視カメラ……クソっ、何であるんだよ」

「居たぞ!」

 

 武装した職員がエクストの周りに集まる。

 

「勉強しに来ただけなんだけどなぁ」

「抵抗するなよ。大人しくお縄にかかるんだな!」

「……ヤダ!」

 

 指を弾き、瞬間移動で包囲から逃れる。

 

「なっ!? どこに行った!?」

「じゃーね職員のみなさん! おやすみー!」

「入り口の方だ! 追え!!」

 

 職員達が図書室から出る頃には、既にエクストの姿は無かった。

 

「クソっ、あいつどこに行きやがった!」

「捕まえてボッコボコにしないと気が済まん!」

「俺たちのブラン様にあんなことをして……タダで済むと思うなよ……!」

 

 騒ぐ職員達に、近付く小さな人影が一つ。

 

「うるせぇ!! テメェら今何時だと思ってんだ!!!!」

 

 静かな教会の中に、ブランの怒号が響いた。

 

 

「トーシャ、明日からちょっと旅してくる」

「旅って……いきなりだね。行先は?」

「別次元」

「……もう寝な?」

「本気だよ?」

「手段は? アンチクリスタルの力じゃ無理だからね」

「知ってる。だから次元を跨ぐためにまずプラネテューヌに行くよ」

「プラネテューヌに?」

「そう。……イストワールの力を使って、次元を渡る!」




ボイドチェイン……エクストが使うスキルの一つ。女神のシェアエネルギーを、鎖状にしたアンチクリスタルのエネルギーで中和することで、一時的に女神の全能力を封じる。封じることができる期間は長くて三日。


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5.次元跳躍、開始

今回イストワールの扱いが少し、はい、少し悪いかもしれません。


 トーシャとエクストは朝食を摂っていた。朝食を摂りながら一日の計画を話す、それが日課なのだが、今日はそうでは無いようだ。

 

「エクスト、最近好き勝手動きすぎじゃない?」

「ダメ?」

「あのね、あなたは私の計画の道具に過ぎないんだよ。あまり好き勝手動くようならこっちにも考えが……」

 

 ヒュン、と銀色の何かがトーシャの頬を掠める。じわりとした痛みが頬に広がる。

 

「私が、なんだって?」

「っ……」

「あまり調子に乗るなよ。確かに私はあなたに作り出されたけど、従う気なんてさらさらないから」

「……」

「道具だって言うなら、ちゃんと制御してみなよ。出来てる? 出来てないよね?」

 

 エクストは椅子から立ち上がり、部屋を出ようとする。

 

「せいぜい私の衣食住の為に尽くしてね。そしたら私もあなたに協力してあげる。あなたの目的……女神の殺害にね」

 

 エクストは部屋を出ていった。部屋に残ったトーシャは黙って扉を見つめていた。残った朝食を食べる気なんて、起きなかった。

 

 

「ご飯……だよ」

「……今日はえらく元気がないね」

 

 牢の中に居るクリストに朝食を渡すと、トーシャは格子にもたれて座り込んだ。

 

「私は……とんでもないものを生み出したんじゃないかな」

「今更?」

「あのままいくと、多分アレは女神を殺す。私は……私はそんなの望んでないのに」

「じゃあ……なんでアンチクリスタルなんか埋め込んだの」

「脅しのつもりだった……」

「何のために」

「私の……研究の成果を知って欲しかったから」

「どういう事?」

 

 トーシャは一度深呼吸をした。そして鉄格子の向こうに居るクリストに向かって話を始めた。

 

「私は『複製』に焦点を当てた研究を行ってきた。これが上手くいけば食料難や資源の枯渇にも対処出来ると考えてね。それで研究の末……私はあなたにやったみたいに、生命体を複製する術まで身につけた。でも……報告会では非難を浴びたよ。生命体の複製は倫理に反するって」

「それはそうだと思うけど……」

「でも、それと物体の複製技術は別に見るべきじゃないの? そのせいで物体の複製まで非難されるなんて……耐えられなかった。私の研究が、無駄だったみたいで……」

「……」

「だから私は無理やりにでも注目を集めるために、あなたの……いや、誰でもよかった。とにかく、人間の複製体にアンチクリスタルを埋め込み、女神に仕掛けた」

「そんな……そんなつまらない理由でお前は!」

 

 鉄格子越しにトーシャの胸ぐらを掴む。

 

「私だってこうなるなんて思わなかった! 普通なら、アンチクリスタルの力なんて人間は数日と耐えられない。なのにアレは……エクストはいつまでも平気な顔で動いている」

「作ったら消す方法だってあるでしょ! 危ないってわかったならすぐアイツを止めてよ!」

「勝手に死ぬって想定して作られたやつにわざわざ削除の為の手があると思ってるの……?」

「この……無能!」

「っ……!」

 

 トーシャの表情が引きつった。クリストは思わず手を離す。

 

「……言い過ぎた」

「………………いや、いい」

 

 トーシャは再びクリストに背を向けた。

 

「ねぇ、あなたは……女神がアイツに勝てると思う」

「そう願うしかないよ。でも実際……女神達は奇跡を起こしてきた。私達は、信じ、縋るしかない」

「……あなたが倒すって選択肢は消えたの?」

「うん……」

 

 クリストは左の瞼を撫でる。もう開くことは無い、閉ざされたままの瞼。

 

「私は……もうエクストとは戦いたくないから……」

「……」

 

 

 プラネテューヌ教会内の会議室。ネプテューヌとネプギア、そしてイストワールは三人で話し合いをしていた。

 

「とにかく、あんな無茶な物、二度と作らないでくださいね」

「えー。でもいーすん、アレがないとブランの側近のニセモノの……」

「エクストさん、ね」

 

 ネプギアが話に割り込む。

 

「そうそれ! エクストを倒せなかったよ?」

「ですが……いくらなんでもリスクが大きすぎます」

「わかったよ。皆と話し合って次までに良い案考えておくよ。心配してくれてありがとう、いーすん」

「いえ。教祖として当然の事です」

 

 ネプテューヌとネプギアが会議室を後にした。イストワールは会議室に残り、ネプテューヌ達が作った圧縮ハイパーシェアクリスタル(仮)を眺めた。今はシェアが抜けているからか、ガラスのように透き通っている。

 

(ああは言いましたが、相手は女神の天敵……。もし手段が無ければ……)

「ほーん、これが私を追い詰めたやつか。ガラス細工みたいになってる」

「…………えっ!?」

 

 イストワールの背後にはエクストが立っていた。イストワールは驚いてエクストから離れた。

 

「あ、あなたいつの間n……!?」

「はい、ちょっと失礼〜」

 

 エクストはイストワールの口にメモリーカセットを差し込んだ。

 

「ん……ぐぐぅ……」

 

 カセットを抜こうと抵抗するが、エクストはイストワールの後頭部を抑え、更に深く差し込んだ。

 

「ーーーー!!!!???」

「ちょっと、黙って黙って……」

 

 テーブルに押し付けて逃げ道を断った。イストワールももがくが、体格差のせいで全く敵わない。

 

「……出来た!」

 

 イストワールの口からカセットを抜き取り、ハンカチで唾液を拭き取る。

 

「は……はひ……はう……」

「お疲れ様〜。もう用無しだよ」

「な、何を……」

「あなたの力をコピーしたのさ。ただそれだけ。後は用はないからあなたに危害も加えないよ」

 

 カセットの端子部に軽く息を吹きかけ、ダガーのスロットに差し込む。

 

「さて、第……」

「そこまでだ!」

 

 バン、と会議室の扉を蹴破って誰かが入ってきた。白い服に大きなオレンジのネクタイ、赤い髪を左右で纏めた少女だ。

 

「あなたは……」

「ほう。俺を知っているのか?」

「……」

「…………」

「………………」

「……………………」

「……………………天王星うずめ?」

「おい! なんで疑問形なんだ!」

「仕方ないじゃないか! オリジナル(クリスト)が実際に会ってないみたいだし、そのせいか写真の記憶しかないんだよ!」

「クッソー……こんなんならルウィーに行っときゃ良かったぜ……」

「で……何の用なの」

「何の用……か。決まってるだろ」

 

 うずめはメガホンを手に取り、エクストに向けた。

 

「お前を止めに来たんだよ」

「なるほど。女神がみんな集まって私と戦った時に居なかったのは、こういう時の保険って訳か」

「ま、そういう事だ。ヒーローは遅れてやってくるってな!」

「……しかし何故バレた? イストワールは抑え込んでたはず」

「監視カメラだよ」

 

 視線を部屋の隅に巡らす。確かに、監視カメラが一つあった。

 

「またか……」

「残念だったな。こっちも女神としてこれ以上好き勝手されるのは困るんだ」

「なら好き勝手してやる」

「余裕だな」

「負ける気しないから」

 

 エクストはスロットのボタンに指を添える。緑色のボタンだ。

 

「メモリーカセット第四出力……緑槍(りょくそう)『ロンリネス』」

 

 トリガーを引くと、ダガーが光に包まれ、灰色の槍が現れる。シルエットはグリーンハートのものと同じ。所々に緑のラインが入っている。

 

「じゃ、やるか」

「いくぞ!」

 

 うずめの脚とエクストの槍が激しくぶつかる。果敢に攻めるうずめだが、アンチクリスタルの性質と、リーチの差で有利に立てない。

 

「くっそ……このままじゃ埒が明かねぇ」

「はぁ……とか言いつつそっちも無傷だし。埒が明かないのはこっちも同じか」

「つまんねーだろ」

「つまらない」

「なら今面白くしてやる! 変身!」

「結果負けるのは嫌だけどね! 覚醒!」

 

 うずめはオレンジハートに変身、エクストは反晶覚醒になった。

 

「よーし、うずめのとっておき、見せてあげるよー!」

 

 オレンジハートは左腕を掲げた。エクストにはわかった。そこしシェアエネルギーが集まっていくのが。

 

「いくよー! シェアリングフィールド、展開!」

「っ! させるか!」

 

 エクストは持っていた槍をオレンジハートの左腕の円盤目掛けて投げる。刺さりはしたが、浅かったのか、シェアリングフィールドの展開は止められてない。

 

「これなら!」

 

 エクストは走ってオレンジハートに接近。近付くにつれて、段々と体が重くなっていく。

 

「っ……うあぁぁぁぁっっ!!」

 

 無理矢理に体を動かし、刺さったままの槍を、思いっきり殴る。

 

「え……」

 

 バリン、と音を立てて槍が円盤と腕を貫通する。同時に、シェアリングフィールドの展開が中断された。

 

「はあっ!」

「あぁっ!!」

 

 無理やり槍を引き抜くと、今度は緑枠の黒いボタンを押した。

 

「第六出力、黒銃『エンヴィー』!」

 

 現れたのは大きな銃。ブラックシスターと同じシルエットのそれを片手で操り、オレンジハートに銃口を向ける。

 

「ファイア!」

「うあぁぁ!!」

 

 放たれた弾丸はオレンジハートに全弾命中。女神化は解け、うずめはその場に膝をついた。

 

「こいつ……」

「はっ、大したことないね。そもそも一人で立ち向かおうなんてのが無謀なんだよ」

「くっ……」

 

 血が流れる左手首を押さえながらエクストを睨む。対するエクストは不敵な笑みを浮かべると、うずめに背を向けた。そして左手の親指を立てて見せる。

 

「ちゃんと怪我の手当はしなよ? あなたも今から人間と同じになるんだから」

「どういう事だ!」

 

 うずめの真上に黒い鎖が現れる。

 

「こういう事だ……。『ボイドチェイン』!!」

 

 エクストが親指を下に向けると同時に、鎖がうずめを貫いた。うずめの中の、シェアの力が消え去る。

 

「……? まさか……ねぷっち達が受けたのは……」

「うん、ちゃんと武器のデータとれたね。これは……十二個目? なんでこんな中途半端……?」

 

 ブツブツと呟くエクストの背後で、うずめは武器を再び形成しようとした。が、全く出る気配がない。

 

「くそっ……くそっ!」

「さて、気を取り直して第z……」

「そこまでよ!」

 

 部屋に入ってきたのは教会の職員と、それを率いるアイエフとコンパだ。

 

「ここは完全に包囲したわ。大人しく降伏しなさい」

「絶対逃がさないですよ〜!」

「次から次に……。悪いけど降伏する気は無い!」

「なら実力行使よ!」

 

 アイエフはカタールを、コンパは注射器を手に取り構えた。

 

「仕方ない。じゃ、早速使うよ」

 

 エクストは銃のスロットについているオレンジのボタンを押した。形成されたのは、オレンジのラインが入ったメガホン。

 

「第十一出力。名前は……後で決める」

「全員警戒して! 仕掛けてくる!」

「はっ。警戒して何とかなるものかね」

 

 メガホンを構えると、思いっきり息を吸った。

 

「おい、早く逃げろ!」

「え」

「ぶっ飛べえぇぇぇぇっっっっ!!!!!!!!」

 

 エクストの声はメガホン越しに拡散。声は衝撃波となり、部屋の中に居た全員と、外に居た職員にまでダメージを与えた。

 

「おぉ♪ これが音響兵器ってやつ? 正直ナメてたけど、結構使えるじゃん」

「っ……やられた……」

「耳がじんじんしますぅ……」

「っし。じゃあ、三度目の正直だ! 第零出力! 魔導書『エタナワール』!!」

 

 メガホンから形を変え、今度は一冊の本になる。灰色のその本を開くと、エクストの目の前に灰色の幕のようなものが現れた。

 

「じゃ、私は女神の理解を深める旅に出てくるよ。知識を付けて、帰ってきたら必ず女神を皆殺しにするから!」

 

 そう言い残して幕をくぐる。エクストの姿は幕の中に消えてしまった。

 

「……コンパ。急いで怪我人の手当をしましょう。私はイストワール様に報告してくるから」

「私はここです……」

 

 テーブルの下から声が聞こえる。覗いてみると、イストワールが頭を抑えて隠れていた。

 

「イストワール様!?」

「散々な目にあいました……。口にカセット突っ込まれるわ、近くで戦いが始まるわ……」

(あぁ、イストワール様の胃にまたダメージが……)

「……この通り、私も見ていたので報告は結構です。なので、先にうずめさんの手当をお願いします」

「わかりました」

 

 アイエフはうずめの元に駆け寄った。かなり落ち込んでいる様子だ。

 

(想定以上ですね……。しかし一体どこへ? 私の力を使ってまで向かう場所…………)

 

 おおよその検討は付いた。しかし、探すとなるとあまりにも無謀だ。

 

(今この次元にあれが居ないのは事実。拠点を潰すなら今かもしれませんね……)



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6.奪還作戦決行

「これから、クリスト奪還作戦を決行するわ」

「お姉ちゃん……」

「私達しか居ないよ?」

 

 イストワールからエクストがこの次元を離れたという情報を聞き、ブラン、ロム、ラムの三人は前に特定していた反女神組織の拠点と思われる建物の前に来ていた。まだ女神化はできないため、それぞれ店売りの武器を持ってきている。

 

「仕方ないわ。エクストが別の次元に渡った今、警戒を緩めるわけにはいかないからね。拠点に一番近い私達がクリストを奪還。その間他のみんなでエクストの動向を調査、これしかないのよ」

「そっか……」

「側近さん、大丈夫かな……(そわそわ)」

「大丈夫じゃなかったら……攫ったやつに地獄の苦しみを与えてやるよ」

「お姉ちゃん……怖い」

 

 三人は入り口に近付く。見張りや罠の気配は全く無い。

 

「私が扉を破るわ。中に入ったら、私が先頭を行くから、ロムとラムは魔法で援護をお願い。魔力切れに注意して」

「わかった!」

「頑張る……!」

「よし、いくぞ!」

 

 ブランはハンマーを大きく振りかぶり、思いっきり振り切った。入り口の扉は派手に砕け散った。

 

「いくぞ!」

「続けー!」

「ごー!」

 

 

 今から少し前、またクリストとトーシャは話をしていた。

 

「まだ帰ってないんだ」

「うん……」

「はぁ……大変な事になったね……」

「どうしようどうしよう……このまま別の次元でも被害を出したりしたら……」

「なんかもう……同情するよ……」

 

 トーシャは大きな溜息をついた。相当精神的にきているようだ。

 

(このままこの話題で続けたら病みそうだな……話題少し逸らすか)

「て言うか、エクスト無しに自衛って出来るの?」

「無理。今女神に攻められたりしたら簡単に落ちる」

「そっか……。あ、そう言えばさ、前に複製が得意って言ってたじゃん?」

「うん」

「それで私の左眼、何とか出来ないかな?」

「……眼球の複製自体はできるよ」

「本当?」

「代わりに、サンプルとしてもう片方の目を抉ることになるよ」

「……ごめん、止めとく」

 

 二人の間に沈黙が流れる。そんな中、遠くで何かが壊れるような音がした。

 

「な、何だろう」

「はぁ……年貢の納め時かな」

 

 トーシャは白衣のポケットから鍵を取り出すと、鉄格子の鍵を開けた。

 

「え?」

「行きなよ。多分女神だ。早く帰りな?」

「……」

「行かないの?」

「いや……」

「まさか情が移っちゃった?」

「……」

「仮にも敵なんだよ。見捨てて早く行きな」

「お姉ちゃん、こっちに部屋ある!」

 

 聞きなれた、でも久しぶりに聞くような声。間違いなく、ラムの声だ。

 

「居た! あんたが主犯ね!」

「待ちなさいラム。何をしてくるかわからないわ」

「早く……側近さんを出して」

 

 牢屋の中からではわからないが、外には確かにブランとラムとロムが居る。女神を前に、トーシャは黙って両手を上げた。

 

「……?」

「降参だよ。あなた達の側近ならこの牢に居る。鍵はあいてるよ」

「罠か……」

「そう思うならそれでいい。だったら私を今すぐ殺せばいいじゃないか」

「……」

 

 ブランはトーシャの前に立つと、ポケットから手錠を取り出し、トーシャの両手首を繋いだ。そして、牢の中に視線を送る。

 

「ブラン様……」

「クリスト……」

 

 ブランは牢の中に入ると、クリストの左瞼を撫でた。そしてグッと唇を噛む。

 

「ごめんなさい……」

「え……」

「守れなくて……」

「いえ……私の無謀さ故に失ったんです。気負わないでください」

「……」

 

 ブランはクリストの手を握った。

 

「まずは、教会に帰りましょうか。話は後で聞くわ」

「はい……」

 

 ブランとクリストは牢から出た。

 

「「側近さん!」」

 

 すぐにロムとラムが駆け寄ってきた。クリストが左眼を瞑っていることに驚いたのか、少し表情が固くなる。

 

「本当に……片目……」

「大丈夫ですよ。少し、慣れましたから」

「な、治さなきゃ……」

「すいません、もう治らないんです……」

 

 トーシャは黙って会話の様子を見ていた。やがて、ブランが手錠を握った。

 

「お前もだ。今回の件について、洗いざらい話してもらうからな」

「わかってる……」

 

 そして五人は研究所を去った。

 

 

 その日の夜、ブランはフィナンシェを呼び出した。

 

「クリストの様子、どうだった?」

「目立った外傷などはありませんでした。ただ、やはり片目を失った事に関してはトラウマになっているようです……」

「やっぱり……これは少し休ませないとダメね」

「それが良いと思います。その間私がブラン様のお手伝いをしますので」

「いや、フィナンシェはクリストについてて。あの娘、時々無茶する時あるから……」

「……ブラン様の方は大丈夫なのですか?」

「元は側近なんて居なかった訳だし、一人でも仕事はこなせるわ。安心して」

「わかりました」

「後は話すことは無いから、今日はゆっくり休みなさい」

「ありがとうございます。では、おやすみなさい」

「えぇ。おやすみ」

 

 フィナンシェは部屋を後にした。

 

(エクストもいつ来るかわからないし、対策会議もしなきゃならないわね)

 

 ブランは時計を見た。22時15分。普段ならまだ寝る時間では無い。

 

(明日から忙しくなりそうだし……今日は私も休もうかしら)

 

 ブランは寝る前の読書もせずに、ベッドに入った。

 




 この小説、20話いかずに終わりそうな気がしてきた。ど……どうしよう……


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7.休暇をもらいました

「休暇をもらった……が……」

 

 クリストは部屋でボーッとしていた。朝食の時にブランに数日の休みを言い渡された。本人は休む気なんてなかったから、いざ休むとなるとやる事がわからない。ついでにと手渡された眼帯を触りながら、何をしようか考える。

 

「……とりあえず今日は積んでたゲームを崩そうかな」

 

 そう呟いてクリストが手に取ったのは、ルウィーで流行っている最新ゲーム機。携帯機としても据え置き機としても使えるゲーム機だ。それをテレビに接続し、電源を入れる。

 

「まずは……これからだな」

 

 カセットをゲーム機に差し込み、ソフトを起動する。最初に選んだのは、人気3Dアクションシリーズの最新作。OW(オープンワールド)になっており、どこまでも遊べるらしい。

 

「神ゲーとは聞いている。さて、如何程か……」

 

 コントローラーを握り、ゲームを始めた。

 それから二時間後……。

 

「ダメだ。この調子だとこれ一本で一日潰れるわ。一旦セーブして他のゲームも触るか……」

 

 ホーム画面に戻り、ソフトを終了してカセットを変える。次は狩りをするゲームだ。

 

「和な雰囲気らしいし、期待大だなぁ」

 

 それから、ゲームに没頭すること二時間。

 

「もう十回目だ。そろそろ逆鱗……あぁーー出た! でもなんで二つ出るんだ……一つでいいのに……」

 

 コントローラーを置いて大きく伸びをした。レア素材を求めて連戦するのは、なかなかに疲れる。

 

「でもこれでこの双剣の強化も完了。キリがいいしこれはここまでかなぁ」

 

 セーブしてゲームを終了する。

 

「さて次は……」

 

 クリストは少しでも積みゲーを崩そうと、色々なゲームに手を出した。

 

「……お、今年のやつは出来がいいな。よしよし、結構ステータス上がったぞ」

 

 少し前に話題になった、作物を育てながら冒険するゲーム。

 

『敵だ。かなり遠い』

「よく見えるな……。このハードだとボヤけてて全く見えない……」

 

 PCから家庭用ゲーム機にも移植された人気FPS。

 

『+ボタンでメニューを開きます』

「+でメニュー……」

『これは私のペットの。でもなんでここに……』

「……」

『バアァァァァァン!!!!』

「うわあぁぁぁぁっ!? ビックリした! メニュー画面のチュートリアルじゃん今!」

 

 夜をテーマにしたホラゲー等、とにかくゲームで遊び尽くした。結局、夕食に呼ばれるまでゲームは続いた。

 

「随分と熱中していたようね」

「まぁ……はい。久しぶりだったので」

「……クリストって浅く広くなタイプなのね」

「そんな事はありませんよ。崩そうと思ってやらなければ、一つをとことんやり込むタイプなので」

(これ、ネトゲやらせたらベールみたいになるタイプね……)

 

 そんな会話をしながら夕食を摂る。

 

「で、ブラン様。明日の予定は……」

「明日は……いや、明日もあなたは休みなさい」

「え?」

「まだ。もう少し休むべきよ」

「は、はぁ……」

 

 なんて言われたからとりあえず休むことになった。

 翌日……

 

「休めって言われたってな……」

 

 またゲーム漬けというのも考えたが、その生活から抜け出せなくなりそうな気がしたのでやめた。結局、修練場で素振りをする事にした。刀を両手に持ち、空を斬る。回数も数えず、ただ疲れるまでひたすらに刀を振った。

 

「はぁ……ふぅー……」

 

 気付けば、全身に汗をかくくらい素振りをしていたようだ。持ってきておいたタオルで額の汗を拭う。

 

「……」

 

 周りを見回す。クリスト以外は誰も居ない。それを確認すると、道着の胸元から手を突っ込み、体の汗を拭いた。

 

(シャワー浴びよっかな……)

「クリスト」

「ふぁいっっ!!!???」

 

 急に呼ばれ、上擦った声が出てしまった。急いで手を引き抜き、振り向く。

 

「な、何か御用ですか!?」

「え、えぇ……その、トーシャについて少しね」

「はぁ……何でしょうか?」

「あなたに話したい事があるみたい。後で地下牢の方に行ってもらってもいいかしら?」

「わかりました。では、少しシャワーを浴びたいのでこれで……」

「えぇ。特訓お疲れ様」

 

 クリストは先に修練場を後にした。

 

(よかった、見られてなかったみたい)

(おそらく見ちゃいけないとこ見ちゃったけど、知らないフリしたし大丈夫よね……)

 

 

 ブランに言われた通り、教会の地下牢にやってきた。鉄格子の向こうに居るトーシャはクリストを見ると立ち上がって近付いてきた。

 

「こんにちは」

「こんにちは……。気分は?」

「うん……思ったより過酷」

「……でしょうね」

「食事は質素だし、壁はコンクリート張りで温もりは無いし、ベッドは硬いし」

「言っておくけど、これが普通だからね? シャワー付いてたり、食事でハンバーグだのラーメンだのを出すそっちの方がおかしいんだからね?」

「そう……だったのか」

「……で、話しって?」

「うん、エクストについて」

 

 クリストの表情が若干曇る。

 

「何……」

「本当はこういうこと言いたくないけど……あなたも準備はしておいた方がいい」

「……」

「わかってる。前に話したからね。でも、万が一がある。その万が一が起きた時、一番やつに対抗できるのは……あなただと思うんだ」

「……そうかな」

「一度戦ってるじゃん」

「簡単に言うね……」

 

 クリストは小さくため息をついた。

 

「まぁ、覚悟はしておくよ」

「本当?」

 

 クリストは首を縦に振った。トーシャは小さく「ありがとう」と呟くと、クリストを返した。

 

「何の話だったの?」

 

 地下牢の出入り口で、ブランは待っていた。

 

「……大した話ではないですよ」

「そう。話したくないのなら別に構わないわ」

 

 あまり深く聞くことはせず、ブランは歩きだした。

 

「ところでブラン様」

「何?」

「私はいつまで休みなんですか?」

「うーん……一応、あと一週間」

「一週間!?」

「あなたのメンタルのケアとかがあるのよ。せっかくの休みなんだから、好きな事して過ごしなさい」

「ですが、一応側近ですし……」

「クリスト。これは提案じゃないの。命令よ」

「…………はい」

(休む命令ってなんだよ……)

 

 結局、クリストはその後一週間、全く職務を行わせてもらえなかった。

 

 

「あぁ……いけませんわ。一人で前線に突っ込んでしまっては、援護も間に合いませんわよ」

 

 ベールはいつも通り、ネトゲに勤しんでいた。今はギルドのメンバー達とボイチャをしながら防衛戦を行っている。防衛戦も後半に入り、ここからが本番、という時に、部屋のドアがすごい勢いでノックされた。

 

「失礼……少し外しますわ」

 

 ボイチャを切り、ヘッドセットを外す。

 

「何ですの?」

「ベール様! 教会の監視カメラが全てダウンしました!」

「!?」

「更に、シェアクリスタルを安置している部屋の付近に僅かな空間の歪みを観測しました。何者かが侵入してきたと思われます!」

「…………まさか!」

 

 ベールは部屋を飛び出し、シェアクリスタルのある部屋に向かった。

 

「……やはり、あなたでしたのね」

「来たか、女神」

 

 部屋の前に立っていたのは、紺色の軍服に身を包み、右手には灰色の表紙に金の魔法陣が描かれた本を持った白髪の少女、エクストだ。

 

「なんの目的ですの?」

「わざわざここを座標に指定して帰ってきたんだよ。だったらやる事は一つでしょ?」

 

 エクストは魔導書をダガーに戻した。

 

「シェアクリスタルを、破壊する」




ブラン様って、どこか過保護なイメージありません? 私だけでしょうか


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8.エクスト、帰還

「はぁ!? ベールのとこにエクストが湧いたぁ!?」

 

 リーンボックスの教会職員からの連絡に、ブランは少し冷静さを失っていた。

 

「おい、大丈夫なのか? まだベール一人なんだろ!?」

『なんとかシェアクリスタルがある部屋からは遠ざけましたが、いまだ劣勢で……』

「……わかった。すぐに向かう!」

 

 ブランは受話器を置くと、コートを羽織った。

 

「アイツ……よりによって女神が一人しかいないリーンボックスから狙うなんて……卑怯なヤツめ」

「お姉ちゃん、私達も行くよ!」

「一緒に戦う……!」

 

 ロムとラムが、杖を握りしめながらブランに言った。

 

「悪いけど、二人には留守番をしてもらいたいの。私に何かあった時、この国を守れるのはロムとラムだけなんだから」

「お姉ちゃん……」

「大丈夫。私もそんな簡単に負けたりはしないわ。安心して」

 

 ブランは二人の頭を優しく撫でた。

 

「……わかった」

「良い子ね。お留守番頼んだわよ」

「任せて!」

「あと、クリストに関しても。絶対にリーンボックスには向かわせないでね」

「わかった!」

 

 二人に伝える事を伝え、ブランはリーンボックスへ向かった。

 

 

「中々……やりますわね」

「まぁね。ただ観光してきた訳じゃないから」

 

 ベールとエクストは教会の中庭で睨み合っていた。エクストの手には、M.P.B.L.と同じ形状をした灰色のガンブレードが握られていた。

 

「あんたを傷付けるつもりは無いんだけどなぁ。私の目的はあくまでシェアクリスタルだよ」

「何を今更。目的が変わったとしても、どの道私達にとっての障害になる事は変わりませんわ」

「それは仕方ないさ。私とあんた達は光と影、水と油、決して相容れないからね」

 

 ふと、背後から女神の気配が近付いてきてるのに気が付いた。

 

「……一人来たみたいだね」

「ブラン……」

「厄介事が増えたな……!」

 

 エクストは振り向くと、空を飛ぶホワイトハート目掛けてビームを数発放つ。

 

「ちっ……!」

 

 奇襲のつもりで武器を構えていたホワイトハートだったが、ビームを防ぐために構えを解き、防御に徹した。

 

(これであっちは攻撃に転じるのは不可能。後は……)

 

 振り向く勢いも使いながら、ベールの槍を防ぐ。

 

「そう来ると思ったよ」

「流石にこの程度では捉えられませんわね」

 

 ベールは飛び引き、ホワイトハートも傍に着地する。

 

「よく耐えたじゃねえか」

「前よりも攻撃の手が甘かったおかげですわ」

「……?」

「はぁ。数的不利な状況になったね」

 

 エクストは武器を地面に刺しながら呟いた。

 

「よくわからねーが、手抜いてるって事だな。このまま一気に倒すぞ!」

「そう簡単にいくと良いのですけど」

「大丈夫。簡単には負けないから安心しな。覚醒!」

 

 宵闇のマントを羽織り、反晶覚醒に移行した。

 

「来ますわよ!」

「わかってる!」

「せっかくだ。この次元旅行で身に付けた新しい技術、見せてあげるよ」

 

 エクストは武器を手に取り、カセットのスロットに手をかける。

 

「ダブルチェンジ! 第一出力、紫刀『スロウス』、第二出力、黒剣『エスケープ』!」

 

 紫と、青枠の黒いボタンを押す。右手には、紫のラインが入った灰色の太刀が、左手には黒いラインが入った灰色の剣がそれぞれ現れた。

 

「こいつ、二つ一気に扱えるようになったか」

「この姿限定だけどね。さぁいくよ!」

 

 二刀流となり、ベールとホワイトハートに迫る。二人はエクストの攻撃を武器で弾き、隙を見て攻撃しようとするが、防具で防がれたり、防御が間に合ったり……武器がお互いを捉えることは無かった。

 

「二刀流の相手は慣れてるつもりなんだけどな……。てかベール、なんで変身しないんだよ!」

「できたらしてますわよ!」

「まさかまたアレくらったんじゃ……」

「違いますわ! 最近徹夜続きで変身できる程体力に余裕が無いだけで……」

「テメェ何してんだぁ!!」

「えぇい! 戦闘中にごちゃごちゃ喋るなぁ!!」

 

 エクストが両手の武器を使ってベールの槍を大きく弾く。

 

「っ!?」

「もらっておけ! 『バイオレットナイト』!!」

 

 大きく隙を晒したベールに対して、両手の武器を使っての連撃を叩き込む。

 

「ああぁぁっ!」

「ベール!」

「第四出力、緑槍『ロンリネス』。くらえっ!」

 

 剣を槍に変え、ホワイトハートに投げる。しかし槍は戦斧に防がれてしまった。

 

「甘いんだよ!」

「そっちもね! 第五出力、対女神兵器『A.H.B.L.(アンチハードビームランチャー)』!」

 

 太刀をガンブレードに変えると、大きく跳躍、そのまま武器を背後に向け、ビームを放った。

 

「合わせ技か!」

「そういう事! くらいな! 『ディストラクションコメット』!!」

 

 ビームの勢いを利用して加速。そのまま右足を突き出してキックの姿勢でホワイトハートに迫る。そして戦斧に刺さったままの槍を思いっきり蹴る。

 

(! やばい!)

 

 槍が戦斧を貫く。手に伝わる衝撃から、戦斧の破壊を察知したホワイトハートは戦斧を手放して後ろに避けた。

 

「ちっ……」

 

 地面に刺さった槍を手に取りながら、ホワイトハートを睨む。

 

「……まぁいいや。今日はただの下見だったし。私の目的の為にはまだ力が足りない」

 

 反晶覚醒を解除し、ホワイトハートに背を向けた。

 

「次会う時には、本当にあんた達を女神として終わらせるから」

「おい待て!」

 

 そう言い残し、瞬間移動でその場を去った。

 

「逃げたか……。ベール、体は大丈夫なのか?」

「えぇ。どういうわけか、かなり浅くて加減された斬撃でしたから」

「……なんで加減なんかするんだ? 意味がわからん」

「とりあえず……ネプテューヌとノワールにも知らせた方がいいですわよね」

「だな。私も一旦ルウィーに戻る。戻り次第、テレビ通話繋いで会議するぞ」

「それがいいですわ」

 

 ベールは教会に、ホワイトハートはルウィーにそれぞれ戻った。

 

(…………あいつ、私に対しても手を抜いてたな。攻撃が全体的に軽かった。何故だ……?)

 

 

 エクストはトーシャの研究所に戻ってきた。

 

「……この荒れよう、捕まったか」

 

 研究所の地下へと向かい、部屋の隅に置いてあるダンボールの一番奥に入っている箱を取り出した。

 

(よかった。これは手を付けられてないか……)

 

 安堵のため息が漏れる。

 

「これが無いと私の計画は完遂しないからなぁ」

 

 箱を持ち、立ち上がる。

 

「トーシャが居なくなった以上、これから先は一人でやるしかない……。とりあえず、やれるとこまでやるか」

 

 エクストは箱を開けた。中にあったのは、普通のアンチクリスタルよりも黒ずんでいる異質なアンチクリスタルだった。




 M.P.B.L.もそうなんですけど、アレって武器種で表すならなんて表せばいいんでしょうね。ガンブレード、ガンスラッシュ、銃剣……。結構あやふやな気がします。


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9.衝突と覚悟

狩りしてて書き貯めの更新すら忘れてました。


「エクストがこの次元に帰ってきた……」

「そうなのよ」

 

 四女神間での情報共有を終えたブランはクリストと話をしていた。

 

「アレの狙いは変わらず私達のはず。やる事は変わらないわ」

「……迎撃って事ですか」

「そうね。あっちから来てくれるなら好都合でしょ。それに、今の状態なら……勝機は十分にあるわ」

 

 クリストも、エクストが前よりも攻めの手を甘くしていた事は聞いていた。

 

「その油断が命取りになるのでは?」

「油断してるつもりは無いわ」

「そうですか……。ところでブラン様」

「何?」

「今の戦力に私は含まれていますか?」

「…………含んでないわ」

 

 クリストはブランを睨んだ。

 

「何故?」

「逆に聞くけど、あなたはまだエクストと戦えるの?」

「勿論です。覚悟は決めています」

「……。そうであっても、あなたを前に送り出せない」

「ですから、何故」

「……もうこれ以上傷付いてほしくないからよ」

 

 クリストは視線を逸らし、小さなため息をついた。

 

「要らない心配ですよ」

「は?」

「そもそも私はブラン様の従者。主の為に傷付く覚悟だって出来てます」

「クリスト……」

「だから良いんです。私の事は気にせず……」

「いや、ダメよ」

 

 クリストの話を遮るように、ブランが話した。

 

「……!?」

「あなたは人間。私達と比べれば弱く儚い存在なのよ。そんな存在をあの化け物と戦わせるなんてできない」

「……私はエクストとの戦闘経験はありますよ?」

「でもダメなの」

「ブラン様が知らないだけで、私だって必死に特訓してきました。エクストに対抗できる策だってあります!」

「クリスト、いい加減に……」

「そもそもアンチクリスタルの力の前じゃ、女神も人も変わらないでしょう? だったら私だって……」

「黙れ!」

 

 部屋の中に静寂が訪れた。

 

「あなたにはわからないでしょ……。私の気持ちなんて」

「……はい?」

「大切な側近がボロボロになって帰ってきて……その気持ちがお前に分かるかよ!」

「……だったら……従者でありながら何日も何週間もずっと休まされて、その上女神が狙われようと前に立たせてもらえなかった、その気持ちがブラン様に分かりますか!?」

「お前を思っての事だっつってんだろ!」

「うるさい! こっちの意見も聞かずに何がお前を思って、だ!」

「はい、そこまで!」

 

 二人の間に割って入ってきたのはシーシャだった。後ろにはフィナンシェの姿もある。

 

「こんな状況で喧嘩しないの。ブランちゃんもクリストちゃんも落ち着いて」

「む……」

「……」

 

 それでも、二人の間には険悪な空気が漂っている。一触即発、まさにそんな様子だ。

 

「……よし、ブランちゃんはアタシと話をしようか」

 

 そう言いながらブランの手首を掴んで引っ張る。

 

「えっ?」

「作戦会議をしようじゃないか。今回はアタシ達にも協力してもらいたいんでしょ?」

「そうだけど……ちょっと! 無理矢理引っ張るな!」

 

 シーシャに引っ張られる形で、ブランは部屋から出ていった。部屋にはクリストとフィナンシェ、二人だけになった。

 

「……私、そんなに役に立ちませんかね……?」

 

 小さくため息をついてから、クリストは話した。その目は、どこか悲しそうだった。

 

「そんな事は無いと思いますよ。ただ……」

「ただ?」

「女神様と私達(人間)では、色々と基準が違うので……。それに、国民を守護するのが守護女神の役目でもありますから」

「にしても……」

「いくら立場が近くても、クリストさんも人間である事に変わりはないんです。ブラン様だって、クリストさんの事を思ってこうしてるんです。近しい存在、だからこそ余計に気にかけてしまうんだと思います」

「……」

 

 クリストは少し複雑そうな表情をした。

 

「少し……一人にしてくれませんか?」

「え?」

「お願いします……」

「……わかりました」

 

 フィナンシェは部屋を出ていった。

 

「……わかってるよ。気にかけてもらってるのなんて」

(でももうじっとしてることなんて出来ない。私だって、ブラン様達に傷付いて欲しくないんだ。悪いけど、少し勝手に動かせてもらうよ……)

 

 

 一方、ルウィーの教会の地下牢。

 

(退屈……だな)

 

 トーシャはベッドに寝転がりながら暇を持て余していた。基本的にここではやることが無い。毎日が暇で仕方なかったが、それももう限界だ。

 

(タブレットとノートパソコン……あれさえあればなぁ……情報収集も暇つぶしも、エクストの動向も探れるのに)

 

 思い切って、牢の前に居る職員に聞いてみることにした。

 

「……ねー、ちょっと」

「ん? なんだ?」

「私の研究所から押収した物の中にさ、タブレットとノートパソコン……ついでに、携帯充電器無かった?」

「あったはず……だが」

「じゃあそれ頂戴」

「え?」

 

 職員は目を丸くした。まさかこんな事お願いされるとは思ってなかったのだろう。

 

「いや、ダメだろ」

「なんで」

「何をするかわからないからな」

「はぁ? じゃあ聞くけど、あなたは私がタブレットやノートパソコンだけで脱獄出来ると思ってるの?」

「それは……」

「出来ないよ。する気も無いし。だから良いでしょ? 研究者から情報を取り上げないでくれよ」

「うむ……わかった。少し待ってろ。上と話をしてくる」

 

 そう言って職員は牢の前を離れた。

 数分後……。

 

「これか?」

「おぉ、これこれ!」

 

 職員は格子の間から、タブレットとノートパソコン、そして携帯充電器を手渡した。

 

「妙な真似したらすぐに取り上げるからな」

「わかったわかった」

 

 トーシャは機材を抱えてベッドに腰掛けると、さっそくタブレットを立ち上げた。

 

「うん……アプリもそのまま、中身は弄られてないね。さて……」

 

 画面をタッチしてあるアプリを立ち上げた。アンチクリスタルの大まかな位置を探る、自作のアプリだ。元いた研究所の周辺の地図と、アンチクリスタルの位置を示すマーカーが表示される。

 

(こういうのも習っておいて正解だったな。……あれ?)

 

 マーカーの位置を見てあることに気付いた。

 

(数が……減ってる気がする)

 

 すぐに別のアプリを立ち上げる。念の為にと作っておいた、アンチクリスタルを埋め込んだ複製体に関するレポートだ。一日の記録とアプリのスクリーンショットが貼られている。最後に書いたレポートのスクリーンショットと、アプリの地図でのマーカーを見比べてみた。

 

(間違いない。北と西はノータッチだったはず。なのに西側の反応が消えてる……)

 

 トーシャが考えた可能性は三つ。野良のモンスターにより破壊されたか、女神を含むどこかの国の誰かが破壊、回収したか、あるいは……

 

(エクストが……何かを企んでいるか……)

 

 トーシャはすぐさまノートパソコンを立ち上げた。

 

(回収されていたりしたら……大問題になりかねない。ノートパソコンだけでどこまでアップデート出来るかわからないけど……とにかく、このアプリで探れるとこまで探らないと)

 

 パソコンが立ち上がると、すぐに作業を開始した。




トーシャさん、複製一筋な方ではないんです


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10.従者の選択

 クリストは地下牢に居るトーシャを訪ねた。

 

「いい? ここには誰も入れないこと。そして私達の会話も絶対に聞かないように」

「わかりました……」

 

 牢の前に居た職員に念を押し、牢の前から立ち退かせた。

 

「何の用?」

「エクストの動向を探りたい。出来る?」

「出来なくはないよ。というか、今それをする為に、アプリのアップデートをしているんだ」

「それ、完成までにいくらかかる?」

「さぁ……どこまでできるかもわからないし」

「そっか」

「しかし、私を頼るなんて……まさか、女神に無断で何か行動しようとしてる?」

「う……」

「図星、かな」

 

 トーシャはコップの水を一口飲んだ。

 

「安心して。告発したりしないから」

「ん……助かる」

「……とりあえず、エクストの動向についてはわかり次第教えるよ。メモ用紙とかある?」

「あるよ」

「ありがとう。それにこのタブレットの連絡先を書いておくから、後で追加しておいて。こっちから通話は不可能だから、チャットでのやり取りになるけどね」

 

 クリストはトーシャにメモ用紙とペンを手渡した。トーシャは手早く連絡先を記し、クリストに用紙を返す。

 

「ありがとう」

「はいよ。用が済んだら帰ってくれないかな? 作業に集中したい」

「あ、あぁ……ごめん」

 

 クリストは足早に地下牢を後にした。

 

 

 一方ブラン達も、エクストの対策を練るのに時間を費やしていた。

 

「フィナンシェ」

「はい、何でしょうか」

「最近のクリストの様子、わかる?」

「普段通りに見えますが」

「そう。ならいいのよ」

「あ、でもブラン様と顔を合わせる事は減りましたね」

「そういうのはいいから……」

 

 ブランは内心、あれだけきつく当たった事を後悔していた。あれ以降クリストとの会話は全く無い。

 

「はぁ……なんであんな事を……」

「思い詰めるくらいなら謝った方がいいのでは?」

「そうしたいけど、クリストの方が……話しかけるなオーラが……」

「あぁ……。確かになんかクリストさんも意地を張りすぎな気はしますね」

「フィナンシェ、何とか仲介できない?」

「話題に出そうとすると露骨に嫌な顔されるのでちょっと……」

「うぅ……それは流石に傷付くわ……」

 

 ブランの口から大きな溜め息が漏れる。そして勢いよく手を叩くと

 

「……切り替えましょう。今はエクストの対策案を練らないと。仲直りなら後でも出来るわ!」

 

 ブランはフィナンシェのサポートを得ながら、仕事を再開した。

 

 

 一週間後、トーシャから連絡を貰ったクリストは再び地下牢に来ていた。

 

「β版だけど、とりあえずは完成。起動させればアンチクリスタルの大まかな位置、更に濃度、大きさがわかるよ」

「ありがとう」

 

 トーシャがタブレットを持って近付いてくる。目の下にクマを作っているのが見え、相当徹夜したのがわかる。

 

「う……」

「ん? どうしたの?」

「その……言い難いんだけど……」

「何」

「臭う」

「はぁ?」

 

 クリストは後退りしながら、息苦しそうに話した。

 

「何日シャワー浴びてないの?」

「えーっと、三回寝たから……三日! 三日だけだよ!? そう! 三日で仕上げたんだよ!?」

「一週間経ってるんだけど……」

「え……」

 

 トーシャはタブレットのカレンダーを確認した。

 

「…………ここだと日時の感覚が鈍るんだ。許せ」

「うん……。で、早くアプリ……」

「あぁ、はいはい」

 

 アプリを立ち上げ、画面を見せた。

 

「アンチクリスタルが一箇所に集まってるでしょ? そこは元々私の研究所だった場所……だから、エクストが集めたのがそこにあるんだと思う」

「これ、大体どのくらいの量なの?」

「ゲイムギョウ界に存在するアンチクリスタルの二割が集まってる……二割でも女神にとっては十分な脅威になるよ」

「だったら……早めに手を打つのが吉?」

「それはそう。ただ、あっちも対策してないわけがないんだよ。どうせ返り討ちにあうよ」

「む……」

「だから、しばらくは鍛錬に励むといいよ。いつエクストと戦う事になってもいいように、ね」

「わかった」

 

 クリストは牢から離れようとした。

 

「……あ、そうだ」

「何」

「絶対シャワー浴びてね」

「えー。まだやりたい事が……」

「今すぐ浴びて。生ゴミみたいな匂いするから」

「なっ……ちょっと! 女の子に対して『生ゴミ』は酷くない!?」

「事実だからね!? 一回自分の匂い嗅いでみな?」

「……」

 

 トーシャは腕の匂いを嗅いだ。直後、口を抑えて顔を背けた。

 

「……洗います」

「うん。そうして」

 

 最後に、何かあったらすぐに連絡するとだけ伝えると、トーシャはシャワーを浴びる為に牢の奥に消えた。

 

 

 同じ頃、プラネテューヌ領内にある洞窟にネプギアが訪れていた。モンスターの討伐依頼をこなすためだ。

 

「ふぅ……これで全部かな」

 

 指定されたモンスターを全て倒した事を確認する。

 

「よし、帰ろ…………ん?」

 

 洞窟の出口に向かって歩こうとしたその時、奥の方から何かを叩く音が聞こえてきた。

 

(何か……居る?)

 

 ネプギアは剣を握りながら、ゆっくりと音のする方へ足を進める。段々と音は大きく聞こえてくる。

 

(この先だ……)

 

 半身だけ出して、向こうを覗く。そこに居たのは、アンチクリスタルを採掘しているエクストだった。

 

(……! あれって……)

 

 ダガーを使ってアンチクリスタルの周りの岩を砕き、慎重に採掘している。やがて、アンチクリスタルは岩壁から剥がれ、エクストの手に渡った。

 

「よし……」

 

 エクストはダガーを魔導書に変えると、その中にアンチクリスタルを入れた。そして再びダガーに戻すと、辺りを見渡し始めた。他にアンチクリスタルが無いか探しているようだ。

 

「もう無いか……」

 

 そう呟くと、視線を落とした。そして、ネプギアと目が合った。

 

「あ」

「え」

 

 そこからは早かった。エクストは瞬時にダガーをガンブレードに変え、ネプギア目掛けてビームを放った。ネプギアも岩から飛び出し、ビームを避けると、剣を構えた。

 

「パープルシスター……何故ここに!?」

「それはこっちの台詞です! なんであなたがここに居るんですか!?」

「見てたなら何となく察せるでしょ……」

「……アンチクリスタルを集めて何をする気ですか」

「言えない」

「だったら……痛い目にあってもらいますよ!」

「やれるものならやってみろ! 覚醒!」

「後悔しないでくださいね! 変身!」

 

 エクストは反晶覚醒に、ネプギアはパープルシスターにそれぞれ変身した。

 

「ダブルチェンジ……第六出力、黒銃『エンヴィー』、第八出力、魔杖『ティミド』!」

(あれはユニちゃんとロムちゃんの……)

「さぁいくよ!」

 

 エクストは弾丸で弾幕を張りつつ、自身の周囲に障壁を展開した。パープルシスターもM.P.B.L.の射撃で対抗する。

 

(ビームが障壁に防がれてる……。恐らく遠距離攻撃に特化した障壁だ。弾幕の薄いところを縫って近付かないと)

 

 撃ち合いの中で、パープルシスターは道を探した。

 

(ここだ……!)

 

 見つけた活路を進む。飛んでくる弾を弾きつつ、エクストに迫る。

 

「ちっ……やる!」

「はあぁぁっ!」

 

 振り下ろされた刃が障壁を砕く。さらに追撃を仕掛けたが、それは銃で防がれてしまう。

 

「侮りましたね」

「否、侮ったのはそっちだよ!」

 

 エクストが地面を強く踏むと、そこから黒い円が広がり、そこから鎖が現れる。

 

「っ!」

「『ボイドチェイン』!」

 

 漆黒の鎖がパープルシスターに迫る。が、既に受けた事がある技。鎖の起動が定まった瞬間に身を翻してかわした。

 

「っ……」

「……」

 

 鎖をかわした結果、おかしな体勢になってしまった。鎖が消えない限りは動けそうにない。

 

「……」

「……」

「…………ちょん」

「あぁっ!?」

 

 エクストがパープルシスターの肩を軽くつつく。それにより鎖に触れてしまい、変身が解けてしまった。

 

「くっ……卑怯ですよ」

「卑怯がなんだ。勝てればいいんだよ」

 

 エクストはネプギアに向かって銃口を向ける。

 

(変身は出来ないけど、動けない訳じゃない。隙を見て反撃を……)

「……言っておくけど、別に殺すつもりは無いから」

「え?」

「今の狙いは……こっち」

 

 銃口を下げて発砲。弾はネプギアのワンピースのポケットを撃ち抜いた。

 

「あ……Nギアが!?」

「これで連絡手段は絶った。そしたら……」

 

 ダガーに戻し、薄い紫のボタンを押してからトリガーを二回押した。

 

「ダブルチェンジ! 第五出力、対女神兵器『A.H.B.L.』、模造魔剣『ゲハバーン』!」

 

 エクストの手に、M.P.B.L.と同じシルエットの銃剣と、禍々しい濃い紫の刃を持つ剣が現れた。

 

「それは……」

「ある次元のとある女神が持っていた魔剣……のレプリカ。犯罪神を滅ぼし、その次元を衰退に導いた魔剣だ」

「……何をする気ですか」

「これには少し手を加えてあってね」

 

 模造魔剣の刃の根元を叩くと、刃が縦に二つに割れた。

 

「A.H.B.L.の出力を上げる事が出来るんだ」

 

 そして割れた刃の間にA.H.B.L.を挟む。

 

「つまり、こうなればこいつは更に強くなる」

「……! やっぱり私を始末する気ですね!」

「しないって! ただ、一日だけ黙っててもらうよ」

 

 銃口を洞窟の天井に向ける。

 

「A.H.B.L.チャージ率200%。ファイア!!」

 

 天井に向けて放たれた極太のレーザーは岩を崩し、出口への道を塞いだ。

 

「あっ……」

「これで逃げられな……くはないけど、その姿でここを登るのは無理でしょ」

 

 エクストとネプギアは崩落した天井を見上げる。遥か向こうから陽の光が差すのが見える。

 

「女神化を封じたのは一日未満……明日の朝には戻れるよ。それまで少しここでゆっくりしてるといい」

「……わかりません」

「何が」

「女神を殺す絶好の機会ですよ? なぜ手を下さないのですか?」

「……いずれわかるよ。近いうちにね」

 

 エクストは武器を魔導書に変えると、灰色の幕を出現させ、それをくぐった。幕が無くなると、エクストの姿も消えていた。

 

「お姉ちゃん達に知らせないと……でも……」

 

 ポケットからNギアを取り出す。銃弾が刺さっており、動きそうにない。天井を見上げてみても、かなり高くて上がるのは困難だ。

 

「うぅ、お姉ちゃん……」

 

 ネプギアは地面に座り込み、変身できるようになるまで待つことにした。その後、帰りが遅い上に全く連絡がつかない事を心配に思ったネプテューヌにより、その日のうちに無事発見されたとか。




 トーシャは作業に没頭すると生活リズムがガッタガタになるタイプです。


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11.動き出す影

 数日後、修練場で素振りをしていると、トーシャから連絡が入った。急ぎ来て欲しいという内容のメッセージだった。クリストは急いで地下牢に向かった。

 

「何、どうしたの?」

「これを見て欲しい……」

 

 トーシャはタブレットの画面を見せた。そこには、一つの反応と、「8」という数字が映されていた。

 

「これは?」

「アンチクリスタルの反応。で、その数値は濃度。わかりやすいように、ゲイムギョウ界全体での割合を表示するようにしてある」

「……って事は!?」

「そう。たった一個のアンチクリスタルに、このゲイムギョウ界中のほとんどのアンチクリスタルの力が詰まっている事になる。八割だ……ありえない濃度だよ」

「これ……使ってくるって事?」

「恐らくね……」

 

 クリストは頭を抱えた。そんな力を使われれば、いよいよ勝ち目は無い。自分にとっても、女神達にとっても……。

 

「何とか阻止しないとね。それについては後日話し合おう」

「わかった。ありがとう」

「いいんだよ」

 

 クリストは地下牢を後にした。

 

「クリスト……何をしていたの」

「……!」

 

 地下牢を出たところにブランが立っていた。

 

「別に……大した事じゃないですよ」

「…………何を企んでいるのかはわからないけど、あまり勝手な行動はしないように。でないと……あなたを拘束しなければならなくなる」

「そこまでして私を守るメリットは何なんですか」

 

 クリストの問いを聞き、ブランはため息をついた。

 

「何それ」

「はい?」

「あなたを守る事にメリットが無きゃダメなの? ただ守りたいから守るじゃダメなの?」

「ブラン様、私は……」

「側近だから命を捨てる覚悟はある……」

「……!」

「図星ね。それなら前に聞いたわ」

 

 ブランは少し廊下を歩く。クリストも何となく続いて歩いた。

 

「クリスト、私は自分が生きるためのシェアを得たいからこの国を守ってる訳じゃないのよ」

 

 ブランは窓の外を見ながら話し始めた。窓からは雪に染ったルウィーの街並みが見える。

 

「この国が好きだから守ってるのよ。そう、ただそれだけの事。守る事に大それた理由なんて必要無いわ。だからあなたの事も……ね?」

「……」

(あぁ、なんで納得出来ないかな。私って……こんな頑固だったんだ)

 

 ブランへの申し訳無さから、視線を下に下ろしてしまう。でも、謝るなら今かもしれない。あれから全く口を聞いていなかったブランとちゃんと会話するチャンスだ。

 

「あの、ブラン様……」

 

 直後、竜の咆哮が辺りに響いた。

 

「なんだ!?」

 

 ブランは窓の外を見た。そこに居たのは、黒い体色のワイバーンのような存在。

 

「なんだあれ……」

「ブラン様!」

 

 フィナンシェが息を切らしながら走ってきた。

 

「フィナンシェ、あれは……」

「わかりません……突然現れたので。ですが、住人の避難誘導は始めています。あれに関しても、シーシャさんが先頭に立って応戦しています」

「そう……。なら私も早く……」

「い、いえお待ちください。先程あるメールが教会宛に届きまして」

「何?」

「ゲイムギョウ界の果てで待つと……地図付きで」

 

 フィナンシェはタブレットで届いたメールを見せた。

 

「エクストか」

「おそらく」

「果たし状って訳ね。わかった。私達はそっちに向かうわ。フィナンシェは避難誘導を手伝って」

「わかりました!」

 

 フィナンシェは走ってその場を後にした。

 

「ブラン様……」

「……クリスト、話は後ね。今から奴を、エクストを潰してくる」

「……」

「……何もするな、とは言わないわ」

「え……」

 

 それだけ言い残すと、ブランは走ってその場を後にした。

 

「……良いんですね」

 

 クリストも行動を開始した。

 まず向かったのは、トーシャの居る地下牢だ。

 

「かなり騒がしいけど、何事?」

「エクストが動き出した」

「え? 本当に?」

「ゲイムギョウ界の果てで待つって果たし状まで送り付けたらしいけど……」

「ちょっと、本当? エクストの反応は研究所周囲から動いてないよ?」

「え?」

 

 トーシャはタブレットを見せた。確かに、エクストの反応はゲイムギョウ界の大陸内にある。

 

「果てって言うなら大陸内に反応があるのはおかしいでしょ。多分罠だよ」

「だとしたら!」

「いや絶対間に合わない。もしかしたらもう向かってるかもだし」

「ぐ……」

「……あなたがやるしかないんじゃないの?」

「……だよね。わかってる」

 

 クリストは一つ深呼吸をした。

 

「行くよ、私」

「わかった。地図はあなたの端末に送っておいた。位置情報を頼りに向かって」

「わかった。ありがとう!」

 

 クリストは走って地下牢から出ていった。

 

「あ、待って! これ開けてってー……って、あぁ……」

 

 トーシャは鉄格子の間から伸ばした手を引っ込めた。

 

「どーしよっかなぁ……力ずく? しかないか」

 

 トーシャはタブレット内のあるアプリを起動した。すると、目の前に銀色の膜が現れる。

 

「増幅フィルター……倍率は二でいいや」

 

 そして、右手に電の弾を作り出す。

 

「魔法は苦手だけど、これで増幅させれば何とかなる……はず!」

 

 そしてフィルター越しに放つ。フィルターを通過し、二つに増えた雷の弾は、鉄格子に確かにダメージを与えていた。

 

 

「救援は!?」

「ダメです! 他国も同じ状況のようです!」

「そっかぁ」

 

 ルウィーの街中、

 

「仕方ない。アタシ達でやるしかないね」

 

 そう言ってシーシャはゴールドモードに変身した。そして右腕のアームガンでワイバーンを撃った。ワイバーンの視線がシーシャに向く。

 

「キミの相手はアタシだよ」

 

 ワイバーンもシーシャを敵として認めたのか、威嚇するように咆哮をあげる。

 

「さーて、ひと狩りいこうか!」

 

 シーシャも拳を握って構えた。

 時を同じくして、クリストも教会から抜け出し、ルウィーの街中を走っていた。職員達に見つかって何か言われるのも時間の無駄になる為、なるべく人気の無い道を走っている。

 

(大丈夫かな……あれ、結構デカいけど)

 

 いつまでもつか分からない。だから早くエクスト本体を叩いて大人しくさせる必要がある。

 

(急ごう。きっと時間は無い)

 

 クリストは再び走り出した。

 

 

 一方、ゲイムギョウ界の果てにある孤島には各国の女神と女神候補生が集まっていた。彼女達の視線の先に、今回の事件の主犯、エクストが居た。

 

「来たね、女神」

「……あれはあなたの仕業なの?」

 

 パープルハートが訊ねた。

 

「そうだよ。私が作り出したんだ。だから私を倒せばあれも止まるよ」

「なら話は早いな」

 

 ホワイトハートが武器を構えながら言った。

 

「さっさとテメーを潰して、この事件にケリをつけてやる!」

「……出来るかな? 私は負けないよ?」

「九対一なんだよ? うずめ達の方が有利じゃん」

「数的には有利でも、あっちはアンチクリスタルそのもの。油断してたら死ぬわよ」

 

 ブラックハートの忠告に、オレンジハートは少し気まずそうな顔をした。

 

「さ、始めようか……覚醒!」

「来るわよ!」

 

 エクストは宵闇のマントを羽織り、反晶覚醒になった。そして武器を太刀と銃剣に変化させる。女神達も一斉に武器を構える。

 

「最終決戦だ。ここで皆まとめて潰してやる!」

 

 ゲイムギョウ界の果てで、最終決戦の火蓋が切って落とされた。

 

 

「……よし、これならしばらく時間は稼げるね。少なくとも、これが安定した出力を出せるようになるまではね……」

 

 魔導書に映し出された情景を見ながらエクストは静かに笑った。

 

「さて、最後の大仕事の前に何をしようか。ケーキでも食べる? お風呂入る? なんにせよ、このまま待つのは暇だなぁ」

 

 少し浮かれた様子で部屋の中を歩く。エクストにとってこの計画は既に成功したようなものだった。邪魔さえ入らなければ、の話だが。

 

「エクスト!!」

 

 突然、扉が勢いよく開いた。そこに立っていたのは、和服姿の少女だ。左眼に黒い眼帯を付けている。

 

「……なんだと」

 

 エクストは魔導書をダガーに戻し、クリストに向けた。

 

「なんでここに居るって分かった」

「……君の管理者のおかげだよ」

「ちっ、トーシャか……」

 

 クリストも刀を抜いてエクストに向けた。

 

「エクスト、君は私が止めるよ」

「へぇ。勝てると思ってるの?」

「じゃなきゃここに来ない」

「……覚悟は決めてきた、か」

 

 エクストはダガーを下ろし、構えをとった。クリストももう一本抜刀し、構える。

 

「その勇気は認める。でも、今回は手加減しないよ。本気で殺すからね」

「随分と上からだね。その油断が命取りになるよ」

「別に。油断なんてしない。本気には本気で応えなきゃ失礼でしょ?」

 

 二人の間に緊迫した空気が流れる。お互い、いつでも戦える状態だ。

 

「いくぞ」

 

 エクストが呟くと同時に、お互いが動いた。刃がぶつかる音が、部屋の中に響く。




女神達の話し方わかんないよー


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12.交わる紅白の刃

「どういう事……」

「なんでお前……立ってられるんだ」

「お姉ちゃんの次元一閃を受けたのに……しかも圧縮ハイパーシェアクリスタルも使ったんだよ!?」

 

 ネクストパープルの一番の大技、次元一閃。それを使ってもなお、エクストは倒れなかった。

 

「言ったでしょ? 私は負けないって」

「くぅ……ここは主人公らしく一番の大技で決着をつけるとこだったのに……」

 

 反動で変身解除したネプテューヌが呟く。

 

「さぁどうする? まだやるかい?」

「当然よ!」

「いくらだって足掻いてやるよ!」

「あなたを倒すまで諦めませんわ!」

 

 残る三人の女神がネクストフォームになる。

 

「私達もいくよ!」

 

 候補生四人も改めて構えた。

 

「ちょっとー! 誰かわたしのとこ来てよ! 私変身すらしてないから!」

「大丈夫だよ〜。ねぷっちはうずめが守るよ!」

 

 地上にいるネプテューヌの傍にはオレンジハートが降り立った。

 

「まだやるんだ。まぁいいよ。どこまでも付き合ってあげるよ!」

 

 女神達とエクストの戦いは終わる気配が無い。果ての孤島には、絶えず武器がぶつかる音が響いていた。

 

 

 一方、ルウィー郊外にある研究所では、二人の少女が刃を交えていた。激化する戦闘を予想したエクストは、戦場を外に移していた。

 

「はっ!」

「くっ!」

 

 二本の刀と太刀が競り合う。

 

「なるほど。前よりはやるようだね」

「こっちだって成長してるからね……!」

 

 競り合いを解消し、お互いの武器を弾きながら間合いを取る。

 

「仕方ない。なるべく体力は温存しておきたかったが、やるしかないか」

 

 エクストは宵闇のマントを羽織った。

 

「そっちがその気ならこっちも!」

 

 クリストも氷晶の陣羽織を羽織る。

 

「「覚醒!」」

 

 お互い同時に強化形態になると、クリストの方から攻撃を仕掛けた。

 

「あぶね……」

 

 クリストの攻撃に対し、エクストはギリギリでダガーを太刀と銃剣に変化させ、攻撃を防いだ。

 

「ちっ……」

「分かってるでしょ。私にはそう簡単には刃は届かないんだよっ!」

 

 クリストの刀を押し返すと、銃剣を向けて数発発砲。その勢いを利用しながら飛び引く。

 

(どうだ……あの距離からの発砲なら防ぎきれないだろ)

 

 着弾の勢いで舞った粉雪を見る。粉雪が晴れれば、クリストが倒れたかもわかる。

 だが、粉雪が晴れるより先に、エクスト目掛けて刀が一本飛んできた。

 

「!?」

 

 ギリギリで刀を弾き返す。粉雪で中から現れた人影は宙に舞った刀を手に取ると、大きく振りかぶり、エクストに斬りかかった。防御は間に合わないと判断し、最小限に抑えの動きでかわした。

 

(嘘だ……無傷だと!?)

 

 見ると、大袖型のシールドが少し焦げている。発砲の寸前に、咄嗟にシールドを銃口の前に割り込ませたのだろう。

 

「どんな反射神経だよ……」

「速さが取り柄だからね」

 

 そのままエクストの顔面目掛けて突きを放つ。今度もかわしたが、直後に脇腹に鋭い痛みを感じた。同時に、氷が触れたような冷たさも。

 

「っ!!」

 

 頭を狙った突きに意識を集中させ、その隙に氷の刀でエクストの脇腹を斬った。

 

「もらった!」

「あぁっ!?」

 

 怯んだ隙に、二刀で切り上げる。手応えは十分。エクストの腹部に大きな切り傷を残した。

 

「く……やる……」

 

 さすがに効いたのか、ヨロヨロと立ち上がる。

 

「立てるんだ。結構深くやったつもりなんだけどな」

「まぁ……人間なら致命傷だろうね。私はどちらかと言うと女神に近いからな……」

「……? あぁ、そっか」

 

 クリストは刀の血を払い、エクストに剣先を向けた。

 

「でも血が出るって事はこのまま斬れば死ぬんだよね」

「あんたがそれを出来れば……な」

 

 エクストも銃剣を構えると、クリストの周りに向けて四発発砲。

 

(当たらないな……)

 

 クリストはあえて動かなかった。読み通り、ビームはクリストに当たることは無かったが、周囲に浮いていた氷の刀は全て破壊されてしまった。

 

「そっちか……!」

「厄介なものは先に片付けるに限る……!」

 

 エクストはさらに銃剣を戦斧に変えると、片手で持ってクリストに斬りかかった。余裕を持ってシールドを合わせたが、先のビームのダメージがあったからか、シールドも割れてしまった。

 

「くぅ……」

「これで……!」

 

 クリストの浮遊武装は全て破壊した。これで本体にも攻撃が当てやすくなる。

 

「う……おあぁぁっ!!」

 

 傷が痛むのを耐えながら、エクストは全力で戦斧を振るう。遠心力も利用した一撃はかなり重いものだが、動きも読みやすい。クリストは戦斧をかわすとエクストの左手を斬った。ガントレットに守られていたため、ダメージにはならなかったが、衝撃によって戦斧が手から離れた。

 

「はっ!」

「おあっ!?」

 

 エクストを蹴り飛ばし、戦斧から離す。受け身をとって体勢を整えたエクストに対し、さらに追撃を加える。それに対し、右手の太刀で防いでみせた。

 

「こんのおぉぉぉ!!」

 

 刀を押し返すと、体を捻りながら回転の勢いを利用してクリストの刀を弾き飛ばす。左手に持っていた刀が宙を舞い、クリストの背後に落ちる。クリストはそれでも怯まず、刀を振り、鍔迫り合いに持ち込む。

 

「さっきまでの余裕はどうした?」

「悪かったよ……正直舐めてた」

「……でもまだ勝てると思ってるでしょ?」

「あぁ、勿論だ」

「でしょうね……」

 

 お互い、一歩も下がることは無い。カチカチと刃が競り合う音が小さく聞こえる。

 

「女神に勝てないあんたが、私に勝てるわけないから」

「それは……真剣勝負での話でしょ?」

「あ?」

「私だって現代っ子だよ? 戦いの場において、正々堂々とか素直に貫くと思う?」

「……どういう意味だ」

「こういう意味だよっ!」

 

 クリストは雪を強く踏みしめると、片足を振り上げ、エクストの股間を蹴った。

 

「……っっあ!?」

 

 激痛にひるむエクストに対し、更に回し蹴りを放つ。大きく吹っ飛んだエクストは、近くの木に激突した。

 

(あいつ……マジか……)

 

 痛みに悶えるエクストをよそに、クリストは刀を拾い、シールドと氷の刀を再生製した。

 

「っ……舐めるなよクソガキ!!」

 

 エクストは太刀を銃剣に変えると、後ろ向きに発砲。その勢いを使ってクリストの距離を詰めた。

 

「っ!」

「はぁっ!」

(間に合わない……!)

 

 そして銃剣を振り、クリストの左太ももを深く斬った。

 

「っ……!?」

 

 左脚の激痛でバランスを崩したクリストに対し、今度は鳩尾(みぞおち)に蹴りを放った。

 

「っは……!?」

 

 激痛と呼吸の乱れで体が言うことを聞かない。エクストはその隙に戦斧を拾うと、今度は杖に変化させた。

 

(万全を期したい……まずは回復だ)

 

 回復魔法を使おうと杖を掲げたが、横から飛んできた氷の刀により弾かれてしまった。

 

「こいつ……」

「……」

「あぁわかった。もういい。今すぐ死にたいんだね……」

 

 エクストは武器をダガーに戻した。ダガーの刃が、赤から黒に変わる。

 

「エグゼドライヴ……」

 

 そしてダガーを振ると、空間が裂け、そこに体が引き寄せられる。

 

「っ!?」

 

 引力はかなり強く、どう足掻いても逆らえない。クリストは裂け目に拘束され、更に闇の力でジワジワとダメージを受けていた。

 

「う……あ……」

「……『ブレード・オブ・ダークネス』!!」

 

 抵抗出来ないクリストに対し、ダガーで六回、全力の斬撃を見舞う。

 

「……!!」

「死ね」

 

 裂け目が閉じる時の衝撃でクリストは弾き出され、そのまま倒れて動かなくなった。周りの雪が徐々に血で赤く染っていく。

 

(あれなら仕留めきれてなくても、失血で死ぬな)

 

 エクストはクリストに背を向けると、ダガーに付いた血をスカートで拭い、鞘に戻した。そして雪を踏みしめながら研究所に向かった。




 書いてて楽しいお話でした。たまにはこういうのも書いた方が健康に良い。


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13.女神の従者は何を願う

「よし……」

 

 エクストとクリストが戦い始める少し前。ルウィーの教会の地下牢で、トーシャは何とか鉄格子を破壊し、牢屋から抜け出していた。

 

(まずは私の私物を回収しないと……。確かあの日は音楽プレーヤーを持ってたから……位置情報を使えば探せるかな)

 

 タブレットに表示された位置情報を頼りに、トーシャは教会の中を歩いた。中は驚く程人が居ない。一応脱獄した事になっているトーシャにとっては好都合だが、あまりにも異様だ。

 たどり着いたのは倉庫だった。幸いにも鍵はかかっていない。そこで私物を探した。

 

「……あった!」

 

 トーシャの私物は研究所から押収されたものも含めて箱にまとめられていた。その中から、護身用のアイテムを幾つか取り出し、白衣のポケットにしまった。

 

(急がなきゃならないから今はこれだけにしよう)

 

 トーシャは自分が作り出した存在がこんな事件を起こした事に責任を感じていた。何ができるかはわからないが、今すぐエクストのところに向かわなければならない。

 教会の構造はわからない。だからデタラメに走っていた。すると、大勢の人の声が聞こえてきた。

 

「……?」

 

 忍び足で向かうと、そこは教会のエントランスだった。避難してきた住人が大勢居るのが見えた。

 

(まずいな……そこからは出れないか……。じゃあ仕方ない)

 

 少し引き返すと、廊下の窓を開けた。飛び出ても怪我するような高さではない。

 

「よっ……」

 

 窓枠を飛び越えて外に出る。

 

「あれか、さっきから聞こえてた竜の声の主は」

 

 僅かに見えるだけだが、黒いワイバーンが居るのがわかる。

 

(あいつ……倒さないといけないかな。う……死なない程度に頑張ろ)

 

 トーシャは研究所の位置をタブレットに表示させると、そこをめざして走った。

 

 

 初めは路地裏を走っていた。この方が人に会う可能性は低いからだ。だが、路地裏はかなり入り組んでおり、ちゃんと進めているのかわからなくなってくる。

 

(仕方ない。大通りから行こう)

 

 路地裏から顔を出し、周りに人が居ないのを確認すると、トーシャは大通りに出て走った。

 

「はっ……はっ……」

(うへー……今まで運動してこなかったツケが……。もうしんどいよ……)

 

 息を切らしながら大通りを走っていると

 

「ちょっと、待って!」

 

 誰かに声をかけられた。

 

「すみません……急いでるんでぇ……」

「こんな時に何を急いでるんだ。教会は反対側だぞ。今すぐ来た道を戻るんだ」

「教会ぃ……?」

「ん? ちょっと待て。この女……教会で捕らえていたやつじゃないか?」

「……え?」

 

 トーシャは顔を上げた。そこに立っていたのは二人の教会職員だ。

 

「……やっべ」

 

 二人の間を縫って走り抜けた。

 

「あ! こら待ちなさい!」

「悪いようにはしないから教会に戻れ! 死ぬぞ!」

 

 二人の呼び掛けにも応じず、トーシャは走った。

 

「おい、どうする」

「一応前線のやつらには連絡しておくか」

 

 

「……」

 

 トーシャは路地裏に入って身を潜めていた。

 

(来るんじゃなかった……)

 

 ワイバーンが近くまで来たはいいが、あまりの大きさにビビって隠れてしまった。前線で戦闘している教会職員達も見えたが、全く歯がたっていないように見えた。

 

(どうしよう……このまま帰る? いやいや、じゃあここまで来た意味は!? でもあれは倒せないよね……うぅー……)

 

 葛藤していると、ある選択肢にたどり着いた。

 

(そうだ……何も倒さなくてもいいじゃん)

 

 トーシャはポケットの中に手を入れ、中の物を出す。右ポケットには丸い物体が一つ、左のポケットには色が違う四角い物体が二つ入っている。

 

(……いける)

 

 トーシャはタブレットを使って丸い物体と四角い物体を一つ複製して手に持つと、残りをポケットにしまった。そして路地裏を出た。

 

「シーシャさん! そろそろ撤退を!」

「バカ言うな! ここで退いたらルウィーが壊滅するんだぞ!」

「しかし……!」

「ん? おいアイツ」

 

 教会職員の一人が、トーシャの存在に気付いた。

 

「脱獄したって言う……」

「こんな時に……おい! 止まれ!」

 

 教会職員が立ち塞がるが、トーシャは構わず走った。

 

「増幅フィルター倍率五……展開!!」

 

 タブレットを操作し、銀色のフィルターを展開する。

 

「おいなんだあれ!」

「目ぇ閉じろぉ!!」

 

 トーシャは全力で叫んだ。その声はシーシャにも届いていた。

 

「目を?」

「シーシャさん!」

「いや、閉じよう」

「えぇ!?」

 

 トーシャは立ち止まると、丸い物体のスイッチを押し、投げた。丸い物体はフィルターを通過し、五つに複製された。

 

「ぶっ飛べお手製閃光玉!」

 

 それは空中で爆ぜ、ワイバーンの目前で強い光を発した。突然の閃光に驚いたワイバーンは地上に落下した。

 

「やった……ワイバーンは閃光に弱いって常識だからね!」

(常識……? 常識か)

 

 更にワイバーンの頭の前までいくと、今度は四角い物体を投げた。

 

「じゃあよろしくね。使い捨てタレット!」

 

 着地した五つの四角い物体は変形してタレットになり、ワイバーンの頭に自動で照準を合わせると、攻撃を開始した。

 

「へぇ……すごいの持ってんだね」

 

 タレットの攻撃が止むと、ワイバーンの頭は大きく削られていた。

 

「なるほど。殴ったのに生物っぽい感覚が無かったのはこれか」

「あの、シーシャさん」

「なんだい?」

「さっきのやつ、もうどこかへ行ってしまったのですが、追いますか?」

「……いや、いい」

「え?」

「あの子を捕まえるなら後からでもできるでしょ? 今はルウィーの防衛に徹して」

「ですが、ワイバーンはもう……」

「いや、生きてる」

 

 シーシャはワイバーンに目をやった。小さな四角いブロックが徐々にワイバーンの頭を形作っているのがわかる。

 

「備えて!」

「はっ!」

「ま、頭を潰せばしばらく大人しくなるってのはわかったし……多少は楽になるかなぁ」

(しかし……あの子どこに行ったんだろ)

 

 

 一戦を終えたエクストは研究所に入ろうとしていた。雪が降り始めたのに外に居たくないし、居る理由もない。

 

「痛た……今になって痛み出した……アドレナリン切れたかなかな……?」

 

 腹部を抑える。クリストからもらった斬撃の傷はまだ癒えていない。手が血で濡れるのがわかる。

 

(早く治さないとな……)

 

 そんな事を考えながら研究所の扉を開けようとして、エクストは足を止めた。自分以外の足音がする。雪原だからわかりやすかった。

 

(まさか……)

 

 エクストは音のする方を見た。そこに立っていたのは、血まみれのクリストだった。

 

「な……なんで動ける……」

 

 動揺と共に恐怖心も覚えた。血に濡れた姿で、防具も所々欠けている。それでもなお刀を持ち、(エクスト)を見据えるその姿は落ち武者のようだった。

 

「……エグゼドライヴ」

 

 クリストは体を無理矢理動かして、最後の大技を放った。

 

(来る……!)

 

 エクストもダガーを手に取り防ごうとしたが、それよりも先にクリストの切り上げが当たった。大きく打ち上げられ、体が宙を舞う。そして空中にいるエクストの周りに四本の氷の方が舞う。クリストも大きく跳躍すると、氷の刀を踏み台にして横に方向転換。エクストをすれ違いざまに斬った。

 

「っ……!」

(まずい……空中だと何も……)

 

 向かいにあった氷の刀で折り返し、更に切りつける。持ち前の素早さを活かした空中での連撃に、エクストは手も足も出なかった。

 

「ぐぅっ……!」

「終わりだ……『氷刃乱舞【白銀世界】』!!」

 

 最後は大きく上に跳躍し、自由落下の勢いも使って真下に叩き付けた。エクストとクリストは研究所の屋根を突き破り、そのまま室内に落ちた。

 

「……」

「……」

「……う」

 

 仰向けになっているエクストの横にクリストも倒れた。

 

「……まさか……あんな攻撃を出せる力があるなんて」

「かなり……無理したけどね」

「でしょうね……」

 

 エクストは自分の傷に触れた。かなり冷たく、凍っているのがわかる。

 

「エクスト……最期に……」

「何……」

「なんで女神を殺そうとしたかだけ……教えて」

 

 エクストは小さく息を吐いた。

 

「殺す気は無かったよ」

「……え?」

「……次元を回っているうちに、私も成長したんだ。衝動のままに動く存在じゃなくなったって訳さ……」

「じゃあ……何を……」

「……女神とシェアの概念を消したかった」

「…………?」

「女神は……人々からの信仰……シェアをもらっているから生きていけてる。シェアの供給が無くなる……つまりその女神に国民の興味が無くなれば、その女神はやがて死ぬ」

「……は?」

 

 クリストが教えてもらわなかった事だ。

 

「何、知らなかったの? 女神にとって、国民に飽きられるってのは死を意味するんだよ……」

「……そう……だったの」

「国民の興味が続けば百年も千年も生きるかもしれない……逆に十年もたずに死ぬ事もあるかもしれない。女神ってのは……強大に見えて、実は儚く、不安定な存在なんだ……」

「……」

「それを知ったから、私は女神とシェアの消失を企てた。これを……ロストアンチクリスタルを使ってシェアを消し去り、女神とシェアの繋がりを断てば、女神は人間に近い存在になり、そして人間が統治する世界になる…………そう、思った」

「……計画は失敗したけどね。少なくとも、今の状態じゃロストアンチクリスタルは使えない。……女神を引き付けてたアイツも今頃消えてるだろうし、見つかるのも時間の問題……」

「……」

「どうする? 死ぬまで……お喋りする?」

 

 エクストはクリストを見て笑った。対してクリストは、少し悲しそうな目をしていた。

 

「……さっきの、本当?」

「何が……」

「女神は飽きられたら死ぬって」

「あぁ。それで女神が死んだ次元を見たから……」

「そんなの………………嫌だよ」

「仕方ないよ……それがこの世界の仕組みなんだから」

「……」

 

 クリストは持てる力を全て使って立ち上がった。

 

「何を……する気?」

「あれ使えば……みんなを……」

「よせ、死期が早まるよ」

「関係無い……」

 

 ふらふらとロストアンチクリスタルに近付くと、刀の柄で突いて、ガラスを割った。

 

「その傷で使える訳ない……」

「やってみなきゃ分からない……」

「……なぜそこまでする」

 

 クリストはロストアンチクリスタルを手に取ると、その場に座り込んだ。

 

「……守りたいから。従者として」

「それが……あんたの選択?」

「うん……」

「……止めておきな。それを使って女神を人間にしても、あんたは彼女たちの隣には居ない。それに、上手くいくかも分からない」

「でも……可能性があるなら……」

 

 クリストはロストアンチクリスタルを胸に軽く当てた。

 

「やるしかない……」

 

 そしてロストアンチクリスタルを力強く胸に押し当てた。直後、全身に何かが流れ込むのを感じた。

 

「う……ぐぁ……」

「……! まさか、その力を宿す気……!?」

 

 エクストは体を起こし、クリストの体からロストアンチクリスタルを引き離そうとした。

 

「ううぅぅ……!!」

「よせ! それは武器に付与して使うのを想定してるんだ……。体に取り込んだら……何が起こるか!」

 

 必死に引き離そうとするが、傷が深くて力が入らない。

 

「う……ああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「うわっ!」

 

 クリストにロストアンチクリスタルが完全に入り込むと、血のような紅いオーラがクリストを包んだ。エクストはそれに弾かれ、壁まで吹っ飛ぶ。

 

「クリスト……」

 

 遠のく意識の中、見えたのは紅い人影。

 

「道を……間違えたな……」

 

 

 少し前、ルウィーにて。

 

「な……なんだ!?」

「あの竜、いきなり倒れたぞ!」

 

 ルウィーを襲っていたワイバーンが倒れ、体がバラバラに崩れ始めた。

 

「どうなってるんだ……?」

「シーシャさん、やりましたね」

「いや、アタシじゃないよ。多分、これを送り込んで操ってたやつが倒れたんだ」

「では……」

「ブランちゃん達、勝ったみたいだね」

 

 それを聞き、防衛に当たっていた職員達の間で歓声が上がった。

 

「でも、まだ何があるかわからないからね。ブランちゃん達が帰ってくるまで警戒は継続するよ!」

「はっ!」

 

 シーシャは崩れていくワイバーンに目をやった。もうほとんど残っていない。

 

(なんだろう……胸騒ぎがする。まだ終わってないの……?)

 

 

 同じ頃、果ての孤島。

 

「ま……まズい。姿が……イじできナい……」

「な、なんですの?」

「急におかしくなったわね」

 

 女神達の相手をしていたエクストの体にノイズが走り、苦しみだした。

 

「本体ニ……イ常発セイ……魔リョくきョウきゅうガ……」

「本体……って事はこいつ偽物か!」

「ねぷっ!? 私達もしかしてただのデコイをいたぶってたってこと!?」

「クソっ……本体はどこだ!?」

「あーうー……まメちシキ……エクストのユラいは……エクスティンクション……エクストラじゃ……ないヨー!」

 

 最後は意味不明な事を言い残し、偽物のエクストはノイズに飲まれて消えた。

 

「ちっ……」

「最後の一言、何?」

「さぁ? 私達には関係無さそうですわ」

「おい、話してる場合か。まだ本体残ってんだぞ」

「……そうね。でも、どこに……」

 

 突然、女神達に悪寒が走った。何か強大な力を持つ存在がゲイムギョウ界に現れた。そしてそれは女神の力と相反するもの。

 

「……急いだ方が良さそうですわね」

「だな」

「行きましょう。ユニ、行くわよ!」

「わかってる!」

 

 ブラックハートとブラックシスターが先陣を切って向かった。

 

「私達も行くぞ!」

「うん!」

「わかった!」

 

 ホワイトハートと、ホワイトシスターロム、ラムも続く。

 

「本当に不気味な予感がしますわ……私も急ぎませんと」

 

 グリーンハートも続けて飛んでいく。

 

「お、お姉ちゃ〜ん……いけそう?」

「あー、大丈夫だよ。もう変身出来るくらいには回復したから!」

 

 地上に居たネプテューヌは はパープルハートに変身すると、ネプギアの隣で飛んだ。

 

「さぁ、私達も行きましょう!」

「うん!」

「れっつごー!」

 

 パープルハート、パープルシスター、オレンジハートも孤島を離れた。

 

 

「はぁ……はぁ……。な、何これ……」

 

 研究所にたどり着いたトーシャは、目の前に広がる光景を見て絶句した。研究所は大破しており、瓦礫が散乱している。そして瓦礫が上に、何かが居る。

 

(エクストじゃない……反応が違う)

 

 声をかけようか迷っていると、何かが飛んでくる音が聞こえた。反射的に、近くの茂みに身を隠す。

 

「こいつね」

「恐らくそうですわ」

(女神達か……一、二、三……九人居る。全員来てるんだね)

 

 女神達も到着し、謎の存在に対し警戒をしている。

 

(とりあえず様子見……。私の出る幕じゃないし)

 

 トーシャは茂みの中で体を小さくしながら、様子を伺った。

 

「さて……そろそろケリをつけさせてもらうぞ!」

 

 ホワイトハートが先頭に立ち、戦斧を向けた。それに気付いたのか、謎の存在はゆっくりと振り向いた。黄色の長髪で、紅いプロセッサユニットに身を包み、ボロボロの黒いマントを羽織っている。細長い菱形の翼を左右に三対、上向きに浮かせており、右手には両刃の大鎌を持っている。女神のようにも見えるが、青い瞳孔には電源マークが確認できない。

 異様な雰囲気を放つそれは、背丈や顔がどことなくクリストに近い。左眼が潰れているのも同じだ。

 

「……」

 

 紅い女神はゆっくりと大鎌を構え、女神達を睨んだ。

 

「あっちもやる気みたいだな。よし……いくぞ!」

 

 女神達は武器を構え、紅い女神との戦闘を開始した。

 

(……あれ、誰なんだろ)

 

 トーシャは紅い女神の招待が気になり、解析アプリを立ち上げ、タブレットのカメラに写して解析した。

 

(……高濃度のアンチクリスタルの力に……氷の魔力。まさか……あの子か!?)



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14.救いの光

 九人の女神は、研究所に現れた紅い女神との戦いに苦戦を強いられていた。相手はアンチクリスタルの使い手。いくら数で勝っていても、有利に事が運ぶことはなかった。

 

「まずいな。このままじゃ負けるぞ……」

「一体どうすれば……」

「…………あ、シェアリングフィールド……」

 

 オレンジハートが呟いた。

 

「その手がありましたわ……」

「なんで忘れてたのかしら……」

「うずめ、いけるのよね?」

「もっちろん! いくよー!」

 

 オレンジハートは左腕をかかげ、円盤状の装備を展開した。

 

「シェアリングフィールド、てんかーい!!」

 

 オレンジハートの掛け声と共に、シェアリングフィールドが展開され、女神達と紅い女神との包んだ。

 

「うぅ……!」

 

 シェアリングフィールドの影響を受けたのか、紅い女神は左手で胸を押えて苦しむような仕草を見せた。

 

「いけそうね」

「よーし! 一気にいこー!」

「ぐ……うぅぅぅ……!」

 

 攻勢に出ようと意気込む女神達だったが、紅い女神は彼女達を睨むと、大鎌を横に大きく振った。直後、ガラスが砕けるような音と共にシェアリングフィールドが崩壊し始めた。

 

「えっ!?」

「嘘……シェアリングフィールドが一撃で!?」

 

 しかし紅い女神への影響も無かった訳では無い。シェアリングフィールド崩壊後も、しばらくは胸を押えて苦しんでいた。

 

「まだ動けない……のかな?」

「ならチャンスだ。今のうちに打開策を練るぞ……」

「待ってー!」

「ん?」

「伝えたい事あるの! 一人でいいから来て!」

 

 近くの茂みから声が聞こえてきた。見ると、トーシャが女神達に向かって手招きをしている。

 

「あの人は?」

「あいつ……なんで!?」

 

 ホワイトハートはトーシャの元に降り立った。

 

「そういうのは後で。とにかく、今は無理に戦わないで! あれは黙ってても死ぬから」

「……? どういう事だ」

「バイタルが低下してるのが分かったんだ。おそらく高濃度のアンチクリスタルの反動で体が蝕まれてるんだよ」

「そんな事あるか? だってアイツは……」

「ただの人間だよ?」

「…………じゃあまさか!」

「うん。あなたの側近さん、だね」

 

 ホワイトハートの表情に戸惑いの色が見える。

 

「なんでだ!?」

「知らないよ! 来た時にはこうなってたんだ」

「……。救う方法は?」

「話聞いてなかった? 黙ってても死ぬ状態だよ。助けれる訳ない」

「……お前っ!」

 

 困惑、怒り、悲しみ。感情がごちゃ混ぜになり、どうすればいいのかわからなくなっていた。

 

「何とかしろよ……」

「無理だってば……」

「…………!」

 

 不甲斐なさで意気消沈するホワイトハートにトーシャはしてやれる事は無かった。そんな二人の近くに何かが降ってきた。

 

「!」

「く……こいつ……」

 

 紅い女神の攻撃を受けたパープルハートが二人の近くに落ちてきていた。その衝撃で落ちたのか、パープルハートの足元には空っぽの圧縮ハイパーシェアクリスタルが落ちていた。

 

「ブラン、話はまとまったの?」

「……まだだ」

「っ。早くしてよね!」

「あ、待って!」

 

 飛び立とうとするパープルハートをトーシャは呼び止めた。

 

「何?」

「それは?」

「これ? シェアを貯めるやつよ」

「……ふむ」

「何よ」

「いや……打開策、あるなって思って」

「!」

「本当に!?」

「うん。シェアの力が強い者……他の女神達を呼んできて。候補生にはそのままあいつの相手を」

「……わかったわ」

 

 パープルハートは再び飛び立つと、トーシャの指示通り、候補生に先頭を任せ、他三人の女神を連れて降りてきた。

 

「で、打開策って何?」

「打開策ってより、クリストを救う策だけどね。まず、この器を私が複製する」

 

 トーシャはフィルターを展開し、空っぽの圧縮ハイパーシェアクリスタルを通した。

 

「四つになった……」

「今ここには五人の女神が居る。その内の四人はこれにできるだけシェアを注ぐんだ。そして残った一人はこのシェアを使って、あの女神を叩く。上手くいけば、アンチクリスタルの力を中和して、クリストを救い出せるはず」

「シェアが足りなかったら?」

「多少足りない方がいい。目的はあくまで中和。消滅できるレベルのシェアだと、多分助からない」

「……わかったわ」

「そしたら実行に移そう。あまり時間をかけると手遅れになるからね」

 

 トーシャは立ち上がると、ポケットから四角い物体を取りだし、フィルター越しに投げた。着地したそれは自動で変形し、壁を形成した。

 

「代表は……話し合うまでもないわね」

「えぇ。ブラン、頼んだわよ」

「……!」

「あなたの側近なんだから。あなたが救うべきじゃない?」

「…………そうだな」

 

 ホワイトハートは自分の頬を叩くと、一度深呼吸をした。

 

「任せろ。絶対救い出す」

「信じてるわ」

「じゃあうずめ達はシェアを注ぎ込むよー!」

 

 ホワイトハート以外の女神達はそれぞれの圧縮ハイパーシェアクリスタルにシェアを注ぎ始めた。

 

「順調かな」

 

 ドン、と壁に何かがぶつかる音がした。

 

「おっと、まさかこっち狙うとは……」

「高濃度のシェアに寄せられたか?」

「多分ね。まずいなぁ。この壁そんな強固じゃないんだけど……」

「私が止める」

「ダメ。あなたは最後の一撃の為に体力を温存してて」

「でも……」

「大丈夫。時間稼ぎはできる」

 

 トーシャは閃光玉を取り出すと、壁の向こうに転がした。直後、閃光が辺りをつつみ、紅い女神の視界を奪った。

 

「少しは動けないはず」

「本当に大丈夫か?」

「大丈夫。回り込んで攻めてこないって事は、あいつに理性は無いからね。本能のままに動いてるだけだ」

「……」

「だから早く解放してあげなよ」

「あぁ……!」

 

 一方、壁の向こう。

 

「ユニちゃん、よく気付いたね」

「FPSとかでも似たような形のスタングレネードを見た事あったから」

「あの女神、動いてない……」

「よーし! 今のうちね!」

 

 ホワイトシスターラムは紅い女神の足元に氷魔法を放ち、足を凍らせて拘束した。

 

「よし!」

「今のうちにお姉ちゃん達側に動いておいた方がいいわね。壁から引き離すのは無理そうだし」

 

 ブラックシスターの提案に全員賛成し、候補生達は女神達の頭上と壁の上に位置取った。

 

「候補生もこっち来たね。本当はもっと遠くで引き付けててほしかったけど、こうなった以上しょうがない」

「ねー……これあとどれくらい注げばいいの?」

 

 変身解除したネプテューヌが怠そうな声で聞いてきた。トーシャはタブレット越しにクリスタルを見た。

 

「……もう少し。もう少しだけ頑張って」

「う……わかった……」

 

 再び壁に向かって攻撃する音が聞こえてくる。

 

「アイツ、動き出したよ!」

「鎌を狙って! 攻撃が当たる前に弾くのよ!」

 

 ブラックシスターは銃を構え、大鎌に向かって発砲を繰り返した。

 

「そんな……難しいよぉ……」

「でも、やるしかない!」

 

 パープルシスターとホワイトシスターロムも、ビームと魔法で攻撃を開始する。

 

「……器は満ちた。もういいよ!」

「ふぅ……疲れたぁ……」

「体が重いわ……」

「これじゃ戦えそうにありませんわ……」

「あぁー……もう煙も出せない……」

 

 シェアが入った四つのクリスタルをホワイトハートに差し出す。

 

「後は任せたよ」

「あぁ」

 

 四つのクリスタルを、一つずつ取り込んでいく。二つ取り込んだ時点でネクストフォームになるくらいにはシェアの量は膨大だ。

 

「これでラスト……」

 

 トーシャがクリスタルを差し出したその時、背後から大きな音が聞こえた。

 

「! 危ない!!」

 

 ネクストホワイトはトーシャの白衣を掴み、引っ張った。直後、トーシャのいた位置を紅い刃が通過する。

 

「怪我は!?」

「大丈夫……。あ!」

 

 引っ張られた衝撃で最後のクリスタルを落としてしまった。紅い女神はそれに目をつけ、大鎌を振りかぶる。

 

「っ!」

(まずい……あれを壊されたら……!)

「『氷剣 アイスカリバー』!!」

 

 振り下ろされる大鎌に、氷の大剣が割って入る。

 

「ラム!」

「ユニちゃん早く!!」

 

 ホワイトシスターラムの声に応えるかのように、紅い女神の近くに銃弾が降り注ぐ。当たるか当たらないかのギリギリをせめた射撃で、紅い女神を回避に専念させ、ネクストホワイトと距離を取らせた。

 

「お姉ちゃん!」

「助かったわ、ラム!」

 

 ネクストホワイトは最後のクリスタルを手に取り、自らに取り込んだ。

 

「よし……いくぞ!」

 

 戦斧を担ぎ、ネクストホワイトは大きく跳躍した。紅い女神も合わせて飛翔。大鎌を振りかぶりながらネクストホワイトに迫る。

 

「クリスト……目ぇ覚ませ!!」

 

 ネクストホワイトの戦斧と紅い女神の大鎌が競り合う。

 

「うおおおおおおお!!!!」

 

 ミシミシと、大鎌が軋む。やがて、大きな音を立てて大鎌が砕けた。

 

「『ハードブレイク』!!」

 

 振り切った戦斧を再び振りかぶり、紅い女神に全力の一撃を放つ。紅い女神は抵抗すること無く、その一撃を受けた。ネクストホワイトはそのままの勢いで紅い女神を地面に叩きつける。

 

「……」

「……」

「……ふっ…………良かった……」

 

 

 シェアの力を使い果たし、変身解除したブランの腕の中には、ボロボロのクリストの姿があった。呼吸は深く、体も軽い。

 

「クリスト……大丈夫だ。絶対に助けるからな」

 

 ブランは今一度、クリストを優しく抱きしめた。




やっぱ主人公闇堕ちって良いですよね。興奮します


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15.事件の後

今回少し短めです


 次の日、ブランは国の被害についての報告書をまとめていた。かなりの被害を覚悟していたが、シーシャ達の健闘もあり、大きな被害は出ていなかったようだ。また、紅い女神に関しても、国民に存在が知れ渡ることはなく、大きな問題にはならなかった。エクストに関しては死亡したと判断し、遺体に関しては後日職員が回収する事になった。トーシャは一旦教会で身柄を確保している。教会の外に出ないという条件の元、居候のような生活をする事になった。そんな中、トーシャはブランに呼び出されていた。

 

「どうかしたの? 仕事手伝って欲しいの?」

「いや、違うわ」

 

 ブランはお茶を一口飲んでから話した。

 

「クリストの容態について知りたいわ」

「あぁ、そう言えば一回も面会してなかったね」

「で、どうなの?」

「良いか悪いかで言ったら悪い。意識は戻ってないし、出血量が多かったから血が足りてない。ま、血に関しては輸血で何とかなるけど。一番の問題は、まだクリストの中にアンチクリスタルがある事、だね」

「そうか……」

「厄介な状態だよ。体内に固体としてあるなら、手術の時に摘出出来たんだろうけど、女神に宿るシェアみたいに、なんか……概念? みたいな感じになっているんだよね」

「つまり、手を打たないとまたあの姿になるって事?」

「それもあるし、もしくは先に体が蝕まれて死ぬか、かな」

「……今クリストは?」

「救護室に居る。…………見る?」

「えぇ」

 

 二人は救護室に向かった。今のクリストをブランが見て、取り乱したりしないか、トーシャはそこだけが心配だった。

 

 

「……」

「……」

 

 ベッドに横たわるクリストを見て、ブランは表情を曇らせた。いくつもの機械に囲まれ、その中心で包帯に巻かれて眠っている。消えそうな命を、何とか繋いでいる。そういった状態だ。

 

(冷静……流石女神だね)

「治療は全て終えたの?」

「うん。でも、この国の魔法による治療をもってしても、ここまでしか治せなかったみたい」

「そんなに酷かったの……?」

「主にアンチクリスタルの影響がね……」

 

 ブランはクリストから目を逸らし、小さくため息をついた。

 

「……あなたの行動は無駄じゃないよ。少なくとも、延命は出来た。早いとここの子からアンチクリスタルの力を取り除く方法を探さないと」

「…………そうね」

「私も手伝うよ。その……私が生み出したやつがここまでしたんだ。償い……させて欲しい」

「ありがとう。じゃあ、お願いしていいかしら。私は女神の仕事もあるし、こっちに付きっきりってのは出来ないから」

「任せて」

 

 ブランはクリストを一瞥すると、部屋を後にした。トーシャが見送ったその背中は、どこか悲しげだった。

 

「……ごめんね。クリスト」

 

 クリストの手を握りながら呟いた。手に伝わる温もりが、まだ生きていると伝えてくれる。

 

(多分、治し方はエクストが知ってる。でも……タブレットは昨日の戦いの時に落として壊れちゃったし、だから生きてるのかも分からない……)

 

 不安しか無かった。本当に正解にたどり着けるのか、もしたどり着けなければブランの行動が無駄になる。

 

「行動……しなきゃ」

(女神達の行動を無駄にしないためにも……そしてこの命を救うために……)

 

 トーシャも部屋を出ていった。静かな部屋に、機械の音だけが寂しく鳴っていた。

 

 

「おぉ……」

 

 研究所の跡地に、和服姿の女性が立ち寄った。背には大きなリュックを背負っている。

 

「ここなら何か売れそうな物があるかもしれない……」

 

 そう呟いて、瓦礫を退かして物色を始める。しかし出てくる物は全てゴミと言われても文句言えないくらい壊れていた。

 

「ハズレかぁ……」

 

 小さくため息をついて立ち上がる。そしてその場を去ろうと歩き出した時、何か柔らかいものを踏んだ。驚いて下を見てみると、そこにあったのは人間の手だった。

 

「っひ!?」

 

 思わず尻もちをついてしまう。どうやら瓦礫の下から伸びているようだ。

 

(死体……いや、だとしたら見過ごすってどうなんだろ。埋葬くらいはしてあげた方がいいかな……)

 

 恐る恐る、瓦礫を退かしていくと、現れたのは軍服のようなデザインの服、白い髪、傷だらけの脚。

 

「女の子……うん? この顔……」

 

 顔をよく見てみる。どこかで見たような顔だった。だが、それよりも驚いたのは、肌に触れた時に僅かに温もりを感じた事だ。

 

(……生きてる。脈がある!)

 

 脈はまだある。まだ助かるかもしれない。その可能性にかけて、少女を抱えて走った。



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16.希望未だ見えず

 アンチクリスタルの事件を解決してから丁度一週間が経っていた。

 

「クリストが目を覚ましたよ」

「……本当に!?」

「うん。すぐ来て!」

 

 トーシャからの知らせを受け、ブランはクリストの居る部屋へ向かった。

 

「クリスト!」

「ちょっと、そこ横開きだから横に……」

「クリストォ!」

「お、落ち着いて……」

 

 部屋の中のクリストは虚ろな目でブランを見た。

 

「……」

「クリスト……良かった……」

「……ぅ」

 

 クリストは弱々しくブランに手を伸ばした。ブランはその手を優しく握った。

 

「……辛かったでしょ」

「……」

「……クリスト?」

「無理だよ。話せないから」

 

 ブランの後ろからトーシャが言った。

 

「話せない……?」

「あなたに面会をさせる前に、少し検査をしておいたんだ。そこでわかったことだけど、あらゆる機能が衰えている。今言った通り、話すことは出来ないし……後、聴覚と多分痛覚も」

「……冗談じゃない」

 

 ブランはクリストの手を握ったまま話しを続けた。

 

「やっぱり、原因はクリストの中のアンチクリスタル?」

「間違いないよ。今、この子のアンチクリスタルの濃度はかなり上がってる」

 

 トーシャはタブレット端末を操作しながら話した。

 

「この端末が来たのも最近だから、データは少ないけど、確実に昨日よりは濃くなってる。このままいくと、更に機能が障害されるかも……」

「……早く手を打たないと」

「だね。今までの案は全て上手くいかなかったし……早く正解にたどり着かないと」

 

 

 あの日から一週間。様々な手を施したが、クリストの容態は全く良くならなかった。それどころか悪化の一方で、ブラン達の間にも焦りの色が濃くなってきた。

 

「やはり最終手段を使うしかない。アンチクリスタルの力をシェアクリスタルの力で相殺する……これしかないよ!」

「でも……そうしたらクリストはどうなる!? 少なくとも人間では無くなるんだろ?」

「そうだね。あの子は……女神の素質がある。だからシェアクリスタルを入れれば、女神になり、シェアの力を受け取らないと生きていけない体になる。でも、アンチクリスタルの力もある。今度アレが目覚めれば、女神の力とアンチクリスタルの力が合わさって、前とは比べ物にならないくらい厄介な存在になる」

「……クリストを女神には出来ない」

「やらなきゃこのまま死んじゃうんだよ!?」

「だから他の手を考えてるんだろうが!」

「じゃああるの!? 他の手段が!!」

 

 ブランからの返事は無い。

 

「迷ってる時間は無いんだよ。延命でもいい。とにかく今はあの子を死なせないのが一番なの」

「でも……だからってクリストの人生を壊したくはない」

「……そうしないとクリストは助からない」

 

 沈黙が部屋に満ちる。ブランも、こうする他手は無いことは分かっていた。でも、それに踏み切る勇気が、クリストの人生を変えてまで助ける勇気は無かった。

 二人の間に重い空気が流れる。そんな中、遠くからガラスが割れたような音が僅かに聞こえてきた。

 

「なんだ……?」

「何か、割れた……?」

 

 深夜、職員も皆寝静まったような時間帯に何かが割れるのは不自然だ。そう思った直後、悲鳴が聞こえてきた。

 

「……何かあったな!」

「なんなの、こんな時に!」

 

 二人は部屋を出て悲鳴のする方へ向かった。その方向は、ある部屋と同じ方向だった。

 

「クリストの居る部屋……からか?」

「だとしたらヤバいんじゃない!?」

 

 二人は更に足を早めた。途中、悲鳴は途絶えたが、構わず二人はクリストの居る部屋に走る。

 

「クリスト!!」

 

 そして、扉を開けた先にいたのは

 

「……やっぱり、来てくれたね。ホワイトハート」

 

 軍服のような服を身にまとい、左手には血に塗れた黒い結晶、右手には杖を持った少女……。

 

「エクスト……?」

 

 トーシャが小さく呟いた。そこに立っていたのは、間違いなく、エクストその人だった。




実はこの作品の書きだめ結構あるんですよね。気分次第ではもう一回更新あるかもです。


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17.その闇は希望となるか

前回の少し前、エクスト側のお話
かつ、オリキャラのみの回です


「クリスト……道を……間違えたな……」

 

 そう言い残し、エクストは瓦礫に飲まれた。体が全く動かない。何かが体に刺さっているような痛みがある。

 

(死ぬんだな……私……当然…………か……)

 

 エクストはゆっくりと目を閉じた。そしてこの目は二度と開かない。そう思っていた。

 

 

「……!」

(……あれ?)

 

 最初に見えたのは木の天井。そこから視線を巡らせると、窓や机も見える。ここが木造の建物の中だと理解するのに時間はかからなかった。エクストは部屋の隅にあるベッドの上に寝かされているようだ。

 

「……??????」

 

 体を起こして周りをよく見る。近くには食器や、大きなリュックが見える。

 

「……夢?」

 

 確かめるために軽く頬をつねってみた。じわりとした痛みを感じる。

 

「夢じゃない……じゃあなんだ? 死後の世界?」

 

 そう思い、自分の身体を見てみる。ここで初めて気付いたが、どういう訳か下着姿だった。その上、戦闘で受けた傷が全く無い。どこを見ても傷跡一つ無い、綺麗な身体になっていた。

 

「…………やっぱ死後の世界か」

「違うよー」

「わぁ!?」

 

 部屋の中にエクストの声が響き渡る。

 

「あーごめん。驚かせちゃったね……」

 

 ドアの向こうから人が現れた。黒いコートを羽織り、フードを被っている。フードの下からは白髪が見え、右目を隠すくらいの長さがある。コートの下に着ているのは白い道着と黒い袴、更に胸当てをしている。

 

(また和服か。あいつが剣道ならこいつは弓道っぽいな……)

「身体、悪いとこない?」

「え? あー……強いて言えばお腹がすいてる……かな」

「だよね。二週間寝てたもんね。その時は栄養ドリンク無理矢理飲ませて繋いでたから……。今から作るから、少し待ってて」

(二週間……マジか)

 

 そう言うと、リュックの中から食材を取り出し、その場で調理を始めた。

 

「あんた、名前は?」

「レイラだよ」

「レイラ、か。……なんで私を助けたんだ?」

「たまたまあなたを見つけてね。まだ脈があったし、放っておけなくて」

「そうか……」

「あなたは?」

「ん?」

「名前」

「あぁ、エクストだ」

「エクスト…………ね」

 

 レイラはサンドイッチを作ると、エクストに差し出した。

 

「ごめんね。簡単なのしか作れなくて」

「いや、いいよ。いただきます」

「ありがとう。あ、あと、服ボロボロだったから、縫って直して洗っておいたから、食べたら着てね」

「……何から何まですまないね」

 

 そう言って、畳まれた服を受け取った。

 

「……」

「……あの、あまりまじまじと見られると恥ずかしいんだけど」

「あ、ごめんね。つい……」

「食べてる人を見るのが好きなの?」

「ううん。……あなたには失礼かもしれないけど、なんか……妹に似てるなって」

「妹?」

「うん」

 

 妹なんて、複製であるエクストにとっては無縁な存在だ。だからこそ、逆に興味が湧いた。本当の姉妹の話を聞きたくなった。

 

「その話、聞かせてもらえない?」

「聞きたいの?」

「あぁ」

「わかった」

 

 レイラはイスに座ると、妹について話し始めた。家族の話から始まり、両親が早くに死んだこと、だから自分が妹にとっての母親代わりになろうとした事、妹が可愛い事、妹の好きな物や嫌いな物の事、妹が独り立ちした事等……色々は話を聞かされた。エクストはそれをサンドイッチを食べながら、食べ終わったら服を着ながら聞いていた。

 

「……で、そろそろ妹に会いたくなってきてね。旅商人しながら妹を探してるんだ」

「へぇ。でも、宛はあるのか?」

「勿論。今はルウィーの女神様の側近してるんだって。だからルウィーを目指してる」

「……!!!!???」

 

 思わず、目を見開いて固まってしまった。

 

「ど、どうしたの?」

「い、いや……」

 

 エクストはレイラの身体をまじまじと見た。

 

(白い髪、黒い瞳孔、和服……確かに共通点は多い。でもまさか……あいつの姉だなんて……)

「な、何何……」

「もしかして……さ、その妹の名前……クリストだったりしない?」

「……そうだけど、知り合い?」

「知り合いっちゃ知り合い。しかし、それなら…………こっちも話す事があるな」

「……?」

「……落ち着いて聞いて欲しい」

 

 それからエクストは自分がどう生まれたか、クリストとどう繋がりがあるのか、そして何をしたかを洗いざらい話した。レイラは話に割り込むことなく、相槌を打って聞いていた。

 

「以上だ……」

「……」

「今、あいつがどういう状態かはわからない。生きてるのか死んでるのかも。ただ……衝動に任せたとは言え左眼を潰した事や、瀕死に追い込んだことは事実。恨んだって構わないよ」

 

 レイラは表情を変えずに話を聞いていた。

 

「クリストは……助からないの?」

「……状態次第だけど、私なら治せるかも」

「本当?」

「うん」

「なら、お願い」

 

 レイラはエクストの肩を掴みながら話した。

 

「即答……」

「当たり前でしょ! 早く! 行って!!」

 

 そのまま前後に揺さぶり始めた。

 

「お、おぉ……わかった。わかったから離してぇ……」

「行けぇ!!!!」

「わかっ……うえぇ…………」

 

 レイラから解放され、深呼吸して体調を落ち着かせた。

 

「そしたら行ってくる。少し待っててくれ」

 

 エクストは走って部屋から出ていった。レイラはその背中を黙って見守った。

 外は日が沈んでいて暗く、地面に積もった雪だけが明るく見えた。しんしんと雪が降る中、エクストは教会へ駆ける。

 

(二週間経ってるなら、何かしらの異変が起きててもおかしくない……間に合えよ……!)

 

 真っ暗な中、雪原を抜け、ルウィーの街を駆け、遂に教会にたどり着いた。

 

「はぁ……着いた……。居場所は……何となくわかるな」

 

 エクストは自分と同じ、アンチクリスタルの力を感じ取り、それを頼りにクリストのいる部屋を探した。

 

「上かぁ。仕方ない……第十出力、黄爪『イノセント』」

 

 ダガーをクローに変えると、それを使って壁を登った。

 

(居た……)

 

 窓の向こうに、ベッドで横になるクリストの姿が見えた。様々な機械に繋がれ、やっと命を繋いでいる状態なのがわかる。

 

(間に合ったか……。よし)

 

 エクストはクローを使って窓を割ると、クリストの部屋に侵入した。そして武器を杖に変えつつ、クリストに歩み寄る。

 

「クリスト」

 

 声をかけても返事無い。ただ、虚ろな目で天井を見ていた。

 

「……今楽にしてやるからな」

 

 そう呟くと、エクストは左手をクリストの胸に添えた。そして自分へアンチクリスタルの力を集める。

 

「……!?!?」

「耐えろよ……!」

 

 更に力を強める。徐々にだが、手の中に結晶が集まってくるのがわかる。

 

「が……あああぁぁぁぁぁ!!!!!!」

「頑張れ……もう少しだ……!」

 

 クリストも身体を暴れさせながら痛みに耐えている。エクストはそれを押さえつつ、クリストの中のアンチクリスタルを取り出す。

 

「あああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

「うぅ……オラッ!!」

 

 エクストは手の中の結晶を握りしめ、思いっきり引っ張る。クリストの中にあったアンチクリスタルの力は全て結晶に還り、身体から出てきた。しかし、その時胸を突き破ったせいで、血が大量に流れてきている。

 

「やっぱこうなるよね……でも大丈夫」

 

 エクストはクリストをおさえる時に捨てた杖を拾い、クリストの胸に回復魔法をかけた。みるみるうちに傷は塞がり、血も止まった。

 

「はっ、はっ……」

「お疲れ様、クリスト。ゆっくり呼吸するんだ」

 

 エクストはそう呟くと、手に残ったアンチクリスタルを眺めた。

 

(ほぼあのままか……さぞ大変だったろうな。さて、クリストの事は大丈夫だと女神に伝えなきゃいけないが……)

 

 廊下の方からドタドタと走る音が聞こえてくる。エクストは部屋の扉に視線を向けた。

 

「クリスト!!」

 

 勢いよく扉を開けて入ってきたのは、ルウィーの守護女神、ホワイトハートことブランと、背後にはトーシャの姿もあった。

 

「……やっぱり、来てくれたね。ホワイトハート」



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18.夜明け

「なんでお前がここに居る……!」

 

 ブランはハンマーを握りながらエクストを睨んだ。

 

「ちょっと待って。敵意は無いから。その鈍器しまってよ」

「じゃあその手のやつはなんだよ」

「回復魔法が使える方の杖」

「反対は?」

「クリストの中にあったアンチクリスタルだよ」

「本当かよ……」

「じゃあ確かめてみたら?」

 

 エクストは杖をダガーに戻し、腰の鞘に収めると、壁にもたれて立った。ブランは警戒しつつ、ベッドの上のクリストに近付いた。

 

「クリスト……」

「はぁ……う……ブラン、様?」

「……!」

 

 クリストはハッキリとブランの名前を呼んだ。その声を聞き、感極まったブランはクリストを抱きしめた。

 

「クリスト……よかった……」

「……ブラン様」

 

 エクストはその様子を見て口角を上げた。

 

「ね? 私はただアイツを助けただけだよ」

「……本当だなんて」

「なんか、信用されてない……」

「今までがアレだったから……」

「……。とりあえず、これは処分しておくよ」

 

 エクストは武器を魔導書に変え、開くと、その中にロストアンチクリスタルを置き、勢いよく閉じた。

 

「……エクストはこれからどうするの?」

「まだわからない」

「そっか……」

「ま、いつか運が良ければ会えるんじゃないかな? そしたらその時は……ご飯でも奢ってよ」

 

 そう言うと、窓の方に歩いていった。

 

「じゃ……さよなら、トーシャ」

「ちょ……待って!」

 

 そして窓から飛び降りる。トーシャは慌てて窓まで走り、下を見たが、そこにエクストの姿は無かった。

 

「……」

 

 トーシャはブランとクリストを見た。こちらの出来事には気付いて居ないようだ。

 

「……お礼、言えなかったな…………」

 

 そう呟いて、空を見る。東の空が微かに明るくなっていた。

 

 

「助けてきたよ」

「……ありがとう」

 

 エクストはレイラに報告に戻っていた。窓からは陽の光が射し込んでくる。

 

「私の役目は終わりだね。だから……」

 

 エクストはダガーを抜くと、柄をレイラに向けて差し出した。

 

「?」

「あんたの妹を苦しめたんだ。憎いだろ? これ使って私を殺してくれ」

「嫌だ」

「……はぁ?」

「だって、あなたはクリストを助けたんでしょ? じゃあもう恩人だよ。私は恩人を殺すことはできない。それに、せっかく助かった命だよ? 簡単に捨てようとしないで」

「……私がまた事件を起こすかもしれないぞ? 良いのか?」

「起こす訳ないじゃん」

「なんでそう言いきれる」

「悪人なら人助けはしないから」

「……」

 

 エクストは小さく笑った。

 

「なんというか……アイツも同じ事良いそうだな」

「姉妹だからね」

 

 レイラは誇らしげに胸を張った。

 

「わかったよ。あんたに助けられた命だ。無駄にしたりはしない。約束するよ」

「へへっ。ありがとう」

「……じゃあ、私はもう行くよ。介抱から何から、ありがとうね」

「こちらこそ。クリストのこと、ありがとう」

 

 二人は小屋を出ると、レイラはルウィーの方へ、エクストとはレイラとは逆の方へ歩き出した。

 

「……」

 

 エクストは雪原の真ん中で足を止めた。朝の寒冷地に吹く風を浴びながら、結んでいた髪を解く。風に揺られ、綺麗な白髪がふわりと広がる。それを手で束ねると、ダガーを持ち、一気に切った。切った髪が雪原に溶けていく。

 

「これで、少しはあいつと違う存在になれたよな」

 

 ダガーを収めると、再び歩き出した。まっさらな雪原に足跡を付けながら、宛もなく歩いていく。




雪国の産まれだからわかるんです。めっちゃ天気いい日の冬の外ってなんか気持ちいいんですよ。寒さすら心地いいみたいな


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19.姉の想い

 エクストがクリストからアンチクリスタルを摘出した日から数日経ったある日の昼下がり。

 

「……はっ」

 

 仕事部屋の椅子に座って居眠りをしていたブランが目を覚ます。昼食後、部屋は快適な温かさ、単調な作業と、眠たくなる要素が揃っていた結果、知らず知らずのうちに居眠りをしていたようだ。

 

「……良かった。そんなに長い時間は寝てないみたいね」

 

 時計を見たが、二十分くらいしか経っていなかった。しかし、寝起きだからか、頭がふわふわしている。

 

「水、飲もうかしら」

 

 ブランは椅子から立ち上がると、部屋を出てキッチンに向かった。

 

 

「はぁ……」

 

 コップ一杯の水を飲み干す。冷たい水だったから、一気に頭が冴えた気がした。これなら仕事に支障は出ない。ブランは仕事部屋に戻ろうと歩いた。

 途中、エントランスの方から話し声が聞こえてきた。キッチンに向かう時には聞こえなかったから、ブランがキッチンにいる間に何かあったのだろう。

 

「だから、ちょっと顔合わせるだけでいいんだって!」

「何度言えばわかる。素性のわからない人を通すことは出来ない」

「なんでさ! 一般人だってば!」

「にしては明らかに怪しすぎるだろ!」

(……何かしら)

 

 ブランは気になってエントランスの方へ向かった。入り口のところで、門番の教会職員二人が誰かと言い合いをしている。

 

「何かあったの?」

「ブラン様!? はっ、こちらの不審者がどうしても会いたい人が居ると言って聞かなくて……」

「だから、不審者じゃない!!」

「旅商人なのに丸腰ってのはおかしいだろ!」

「荷物はホテルに置いてきたって言ってるじゃん!」

 

 二人の向こうにいたのは、和服姿で、黒いフード付きコートを羽織った女性だ。背丈はブランより大きめ。

 

「……とりあえず、中に通して」

「ブラン様!?」

「代わりに、ボディーチェックは入念に頼むわね」

「はいっ……!」

「終わったら応接室に通して。後、誰か他の人にお茶とお菓子用意させてね」

 

 そう伝えると、ブランは先に応接室に向かった。しばらくして、応接室に先程の女性が入ってくる。

 

「いやぁ、ありがとうございます……女神様」

「知ってたの?」

「さっきブラン様って呼ばれてましたからね。ここの女神様の名前と同じですし、何となくそうかなって」

「察しがいいのね」

「まぁね。で、あなたが女神って事は……側近って居ますよね?」

「えぇ、確かに側近は居るわよ」

「じゃあその側近の子の様子を少し見たいです」

「……その前に、まず貴方の素性を知りたいわ」

「あ、申し遅れました。私はレイラ。ここで女神の側近をしているはずのクリストの、姉です」

「クリストの……お姉さん!?」

 

 ブランは明らかに驚いた様子で目を見開いた。

 

「まさかお姉さんが居たなんて……」

「あれ、話したりしませんでした?」

「あまり家族の話はしなかったし、私も聞かなかったから」

「あぁ、そうでしたか」

 

 ブランは少し気まずそうに目を逸らした。

 

(……一応、説明した方がいいわよね)

「……でも、会わせる前に話さないといけないことがあるわ」

「……なんですか?」

 

 レイラの表情が少し真面目になる。

 

「実は……」

 

 ブランは最近クリストの身に起きたことを全て話した。レイラは黙って相槌を打ちながら聞いていた。

 

「あぁ……じゃああの子が言ってたの嘘じゃないんだ」

「え……どういう事?」

「ここに来る前にもその話聞いてるんですよ。エクストって名前の子で……知り合いだったりします?」

「えっ!? な、何かされなかった?」

「何もされてませんが……逆に、瀕死だったから介抱してあげただけです……」

(なるほど……それであんなに元気だったのね)

 

 やがて、一人の職員がお茶とお菓子を持って入ってきた。

 

「クリストは今は元気なんですよね」

「えぇ。もうリハビリも終えて普通に生活出来てるわ」

「それが聞けてよかった……」

 

 レイラは安心した様子でお菓子を頬張った。

 

「お菓子食べたら、会いに行く? 多分今は修練所で素振りしてると思うから」

「是非。あと……会うつもりは無いんですよ。ただ、元気な様子を遠くから見れればそれで」

「? 会いに来たんじゃないの?」

「見に来ただけです。だって会って話したりしたら……また一緒に暮らしたくなるじゃないですか」

「……ダメなの?」

「今のクリストは貴方の側近ですから」

 

 そう言うと、レイラはブランに微笑んで見せた。

 

 

 二人は教会の修練所に来ていた。レイラの要望通り、廊下から中を見るだけに留めている。部屋の中ではクリストが二本の刀を使って素振りをしている。

 

「良かった……元気、そうで……」

 

 レイラは感極まった様子でクリストを見ていた。

 

「……さっきの事」

「……はい?」

「一緒に暮らしたいなら、私は別に構わないわよ」

「……いいんですか?」

「えぇ。私も姉として、妹と離れる辛さはわかるから」

「…………ですが、クリストがなんと言うか」

「そこは本人次第ね……。私が上手いこと聞き出してあげるわ」

「ありがとうございます」

「……もう少し見ていく?」

「…………いえ、今日はもう帰ります。色々とありがとうございました」

 

 レイラはブランに頭を下げると、フードをグッと引っ張り、深くかぶった。

 

「明日の昼、また来なさい。その時に、クリストの答えを教えるから」

「わかりました……」

 

 それからブランはレイラをエントランスまで送り、別れを告げると仕事部屋に戻った。明日の為にも、少しでも仕事を片付けなければいけない。夕飯までの時間、ブランは黙々と仕事に取り組んだ。

 

 

 その日の夜、クリストはブランにお風呂に誘われ、大浴場に来ていた。

 

「珍しいですね。私と一緒に入りたいだなんて」

「たまにはいいでしょ? 裸の付き合いも大事よ」

 

 二人は身体を洗うと、並んで湯船に浸かった。

 

「髪洗ってる時に思ったのだけど、クリストって髪下ろすとだいぶ雰囲気変わるわね」

「そうですか?」

「えぇ。なんか、大人しめな雰囲気になってる気がして」

 

 しばらくそんな他愛のない会話をしながら時間を過ごし、ついにブランはあの質問を投げかけた。

 

「そうだ、クリスト。もし、明日あなたの家族が迎えに来るってなったら、あなたはどうする?」

「おや、なんですか急に」

「ちょっと気になっただけよ。あまり家族の話ってされないから」

「んー……私は…………そうなったら、一緒に行く気がします」

「そう……良かったわ。ここで私を選ぶような仕事バカじゃなくて」

「普通家族を取ると思いますけどね。……それに、私もまた家族と過ごしたいなって想いはありますし」

「ふーん」

「あ、ここでの生活が不満って訳じゃないですよ? ただ……お姉ちゃん、寂しくないかなって」

「……お姉さんが居るの?」

 

 ブランはわざと姉の存在を知らないフリをして聞いた。

 

「はい。うちの両親、私が小さい頃に病気で死んじゃって……それ以来お姉ちゃんが育ててくれたんです」

 

 クリストは湯船から出て縁に座った。長風呂に耐えられなかったのだろう。

 

「いいお姉さんね」

「私の自慢のお姉ちゃんです」

 

 クリストは自慢気に答えた。その様子を見て、ブランはどこか安心したような笑みを見せた。

 それからまた少し雑談をして、風呂から上がる。

 

「では、おやすみなさい、ブラン様」

「えぇ、おやすみ、クリスト」

 

 廊下で別れると、ブランは足早に仕事部屋に向かった。そしてデスクの引き出しにしまっておいた紙を取り出す。その紙には「住民登録」の文字が書かれていた。

 

「……これも使う事になりそうね」

 

 ブランはその紙をまた引き出しにしまうと、仕事部屋を後にした。

 

(先にあの子達には伝えておいた方が良さそうね。当日に伝えるのはあまりにも酷だし)

 

 そう思い、ブランはロムとラムの部屋に向かった。




二次創作なのにオリキャラ四人も出てて大丈夫かな、って思い始めてます。刺されない事を願います


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終 側近としての最後の願い

最終回です


「クリストはあなたと過ごしたい……そう言ってたわ」

「そうですか……」

 

 ブランは教会に訪れたレイラに、昨晩クリストから聞いた事を話した。レイラはどこか嬉しそうな目をしている。

 

「クリストには私から話しておくわ。主従関係を切る事も含めてね」

「それは……大丈夫なのですか? 女神様の職務に関しても……」

「大丈夫よ。元は側近なんて居なかった訳だし」

「あ、そうなんですか」

「えぇ、そこの心配は不要よ 」

 

 突然、部屋の扉がノックされた。

 

「誰かしら……。どうぞ」

「失礼します。ブラン様、この書類……!?」

 

 扉を開けて現れたのはクリストだった。クリストはレイラを見ると、明らかに驚いたような様子を見せた。

 

「…………は、どこにしまっておけば……」

「あぁ、良いから。それは私がやるわ」

 

 ブランは席を立つと、クリストの手から書類を取り上げた。

 

「私が席を外す間、お客さんの接待よろしくね」

「えぁ、ブラン様!?」

 

 ブランは書類を持って部屋を出ていった。クリストはゆっくりと、視線をレイラに向けた。

 

「……お姉ちゃん?」

「あ、覚えててくれた?」

「……忘れないよぉ」

 

 クリストはレイラに駆け寄り、抱きついた。

 

「暖かい……」

「ふふ、よしよし……」

 

 レイラは優しくクリストの頭を撫でた。久しぶりに撫でた妹の髪は変わらず柔らかかった。

 

「えっと……そろそろ良いかしら」

 

 部屋の入り口からブランが声をかけた。

 

「はっ……だ、大丈夫です!!」

 

 クリストはサッとブランの方を向いて立った。

 

「あぁ、座ってていいわよ。二人に話しがあるから」

 

 ブランは向かいに座り、レイラに紙を渡した。

 

「これは……」

「良さげな物件を探しておいたわ。あなた達にプレゼント」

「……え!?」

「あら、定住しないの?」

「え、いや……しますします。クリストを見つけたらそこで物件探すつもりだったので……。いや、そこじゃないんです! プレゼントってなんですか!?」

「クリストの退職祝い的な……そういうやつよ」

「は、はぁ……」

「……退職祝い?」

 

 クリストの表情が固まる。

 

「それって……」

「あなたも、家族が来たらそっちと暮らすって昨日言ったじゃない」

「言いました……けど」

「そうするなら、側近としてはやっていけなくなるでしょ?」

「……」

「……あなたをずっと傍に置く、その約束を破ることになるのはわかってるわ。でも、あの約束のせいであなたと家族を引き離したくはないの」

「……ブラン様」

 

 クリストの事を思っての発言な事はわかっている。だが、ブラン達と離れたくない気持ちもある。

 

「……最終的に決めるのはあなたよ。どうしたい?」

「私は……」

 

 少しの沈黙の後、クリストは顔を上げてブランの目を見た。

 

「私は……お姉ちゃんと暮らしたい」

「わかったわ」

 

 ブランはどこか安心したような表情を見せた。

 

「そしたら……物件についてはここの職員に案内してもらうから、あなたはそれに従って」

「わかりました」

「クリストの私物もまとめてもらうから……」

「え!?」

「大丈夫よ、ちゃんと女性職員に任せるわ」

「あぁ……良かった」

「その間、最後の挨拶してきたら?」

「……わかりました。そうします」

 

 それからレイラは物件を見に教会を離れ、クリストはお別れの挨拶をしにロムとラムの元へ向かった。

 

「やっぱり行っちゃうんだ……」

「さよならなんだ……(うるうる)」

「ごめんなさい……」

「謝らなくていいよ! きっとまた遊びに来てくれるでしょ?」

(遊びに……)

「……えぇ、必ず」

「だったら寂しくないよ! ね、ロムちゃん!」

「うん……また遊べるなら寂しくないよ」

 

 二人はクリストに笑顔を見せた。言葉は返せなかったが、クリストはそれに笑顔で返した。

 次にフィナンシェの元へ向かった。

 

「そうですか……。それがクリストさんの選択なら、私は引き止めたりしませんよ」

「……ありがとうございます」

「また余裕出来たらお茶でもしましょうね」

「はい……!」

 

 クリストはフィナンシェに挨拶をすると、ブランを探して教会の中を歩いた。ブランはエントランスに立っていた。

 

「挨拶は済んだ?」

「えぇ」

「こっちも荷物がまとまったわ。ちょっと待っててね。ロム達を呼んでくるから」

「……待ってください」

「……ん?」

「その……最後に二人で少しお話ししませんか?」

「……良いわよ」

 

 二人は一緒にブランの部屋に向かった。

 

「……何を話したいの?」

「最後に……一つだけ我儘良いですか?」

「……内容次第ね。言ってみなさい?」

「主従関係は切れますが……その、これからは……友達として接してくれますか?」

「……」

 

 ブランは口を手で隠しながら小さく笑った。

 

「なんだ、そんな事ね。全然構わないわよ」

「……! ありがとうございます!!」

 

 クリストは深く頭を下げた。

 

「あ、あと……」

「何?」

「このケープ、持っていって良いですか?」

「あー……普段使いしないなら」

「そこは大丈夫です。思い出の物として保管しておきたくて……」

「それなら構わないわ」

「ふふっ、ありがとうございます」

 

 二人は再びエントランスに向かった。途中ロムとラム、フィナンシェにも声をかけ、エントランスに集まる。

 

「では……今までありがとうございました」

「またね、側近さん!」

「絶対遊びに来てね……!」

「いつでも歓迎しますからね」

「クリスト、次会うときは……」

「えぇ。次会うときは友達として……!」

 

 クリストは四人に手を振りながら教会を出た。こうして、クリストの側近としての生活は幕を下ろすことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、なんで君も居るの?」

「行く宛てが無くってね。居候させてよ」

 

 新居の中に居るのはクリストとレイラ、それとトーシャだ。

 

「お姉ちゃん……良いの?」

「良いよ。クリストの友達でしょ?」

「友達……?」

「誰が延命に尽力したと思ってるの!?」

「ん……ありがとうございますっ」

「はぁ……安心して。家事とかは手伝うからさ」

 

 ルウィーの街にある一件の家、そこで三人の新たな暮らしが始まろうとしていた。




本作を最終話まで読んで頂き、本当にありがとうございました。前作と違ってちゃんとしたストーリーがあるやつでしたが、こっちの方が書きたいように書けた気がします。
さて、こんな終わり方したものですから、クリスト達のお話は今作で最後になります。これ以上は二次創作である必要がありませんからね。残念です……めちゃくちゃ愛着湧いてるんですよ、この四人。何かしらの形でまだ書きたいんですよね……。公開しないでSS書いて満たそうかなってのも考えてます。一番の需要は俺にあるので。

で、最終回とは言いましたが、後日談のお話を二、三話くらい上げるつもりでいます。それ上がったら本当に完結ですね。くぅ疲できるわけです。
ですので、あと数話だけ御付き合いください。よろしくお願いします。


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後日談
EX1.延命処置の副産物


お久しぶりです
後日談第一話です


 ある日、クリストはブランに呼び出されて教会に来ていた。

 

「久しぶりね、クリスト」

「えぇ、お久しぶりで……あ、久しぶり、ブラン」

「……なんで言い直したの?」

「親友なのに敬語っておかしいでしょ? ネプテューヌさんのとこのアイエフさんだって、ネプテューヌさんにタメ口だし」

「そうね……でも無理に変える必要は無いのよ?」

「大丈夫。タメ口(こっち)の方が素だから」

 

 クリストは出されたお茶を一口飲んだ。

 

「……で、何か用事があったから私を呼んだんじゃないの?」

「えぇ。これをどうするか聞きたくて……」

 

 ブランがクリストに見せたのは、キーホルダーのような物体だ。大きさは手のひらくらい、中央には半透明な水色の物体が嵌め込まれていて、鳥の翼の形のフレームに囲まれている。

 

「これは……?」

「あなたの延命処置に用いる予定だったものよ」

「延命処置に?」

 

 クリストはその物体を手に取り、眺めてみた。明かりにかざしてみると、中央の物体は光を浴びて輝いている。

 

「このキーホルダーが?」

「ただのキーホルダーじゃないわ。その中央の宝石のようなものはシェアクリスタルを僅かに含んでいるの」

「……ふむ」

「で……それにより擬似的なシェアエネルギーを貯める事ができるの」

「……へぇ」

「……それを使えば、あなたは一時的に女神に限りなく近い存在になれるわけ」

「……ふーん。え……なんて?」

 

 クリストは視線をブランに向けた。

 

「擬似的ではあるけど、女神化できるの」

「……マジ?」

「マジよ」

「なれるの……? 私、女神に?」

「一応ね。あなたはアンチクリスタルの力で紅い女神になる事が出来た。普通の人間ならシェアエネルギーの影響を受けても女神化はしないのに、あなたはアンチクリスタルの力で女神が出来た。ならシェアエネルギーでもいけるはずよ」

「じゃあ、試してみてもいいの!?」

「勿論よ。でもここじゃなくて修練場でね」

「わかった! 行こう行こう!!」

 

 クリストは勢いよく部屋を飛び出して行った。

 

「あんなにはしゃぐなんて……」

 

 ブランも部屋を出て修練場に向かった。

 

 

「やり方は!?」

「落ち着いて……。まず、それについて説明しなきゃならないから……」

「手短にお願いね」

「はいはい……。それは『信仰の器』って言う名前になってるわ。さっきも話した通り、擬似的なシェアエネルギーを貯めておけるアイテムよ。身に付けておけば、あなたが得た信頼が擬似シェアとして蓄積されていって、蓄積量に応じて変身可能な時間が変わるの。最大で三十分。それには今五分間変身できる分の擬似シェアが貯まっているわ」

「なるほど」

「で、てっぺんの摘みを三回捻ってから二秒後に変身する仕組みになってるわ」

「音声認識じゃないんだ」

「そんな機能付くわけないでしょ」

「そっか……。まあいいや、試してみるよ」

 

 クリストは摘みを三回捻ると、信仰の器を掲げるポーズをとった。

 

「……変s」

 

 直後、水色の魔法陣が上に現れ、クリストの身体を通過した。通過した部位から、光に包まれていく。

 

「え!? セリフ言えてないって!」

 

 全身を通過すると、今度は勢いよく上に上がる。二度目の魔法陣の通過を得て光が消え、変身が完了した。

 

「へぇ……青いのね」

「お……おぉ……!?」

 

 クリストは両手を見た。水色のプロセッサユニットに包まれている。

 

「え……どんな感じ? 今」

「えっと……あ、そこに鏡があるから見てきなさい」

 

 クリストはブランが指さした方にある鏡を見た。そこに写るのは、黒色の髪に、オレンジ色の眼、水色のプロセッサユニットに身を包んだクリストの姿だった。背中にはマントが付いており、鞘に収まった太刀が左右に一本ずつ浮いている。

 

「これが……」

「擬似女神になったあなたよ」

「……はぁ」

 

 クリストは自分の身体をぺたぺたと触った。

 

「……胸が大きくなってない」

「そうね。身長も全く変わってないわ」

「ちょっと期待したんだけどなぁ……」

 

 クリストは小さくため息をついた。ブランは変身したクリストを見ながら、ある違和感を感じていた。

 

「…………あ。クリスト、あなた翼が無いのね」

「え? あ、本当だ……」

 

 背中を見てみるが、翼らしき物体は見当たらない。

 

「マントが代わりってことかしら?」

「普通マントじゃ飛べないんだけど」

「今のあなたは普通じゃないのだけど」

「……そっか」

 

 クリストは飛行を試みてみた。身体を浮かせるイメージで力を込める。

 

「浮いた……」

「本当!?」

「ちょっとだけね。地面スレスレって感じ」

「んなぁぁあ! じゃあ無理!!」

「まぁ、擬似女神だし、飛行能力は無くてもおかしくは無いわね」

「そうだね……。じゃあ武器試そうかな」

 

 クリストは浮いている太刀を一本手に取り、鞘から抜いた。(しのぎ)は白く、刃は水色の機械チックな刀だ。刃は少しだけ透き通って見える。

 

「うん、使いやすい重さだ」

「良いわね。女神の武器って感じで」

 

 鞘を手放して刀を構えようとしたその時、手放した鞘が三つに分かれ、変形して菱形の翼を形成した。

 

「…………何これ」

「私もしらないわよ……」

「ん……って事は」

 

 クリストはもう一本の刀も抜刀してみる。やはり、鞘を三つに分かれて翼になった。左右三対、計六つの翼が下向きに展開された。

 

「これなら飛べたりして」

「やってみて」

「うん……」

 

 クリストは上に向かうイメージを持ちながら小さくジャンプした。その時点でクリストの身体がふわりと宙に浮いた。

 

「おぉ……」

 

 更に地面を蹴ってみると、より高く飛行することが出来た。

 

「飛べた……」

「飛行能力にも問題無さそうね。しかし……鞘と翼を共通のパーツにしていたなんて。パーツが減るから装備にかかるエネルギー量を節約できる……上手いわね」

「なんだかこのまま何処までも飛べそうな気分だ……すごいすごい! これが女神が見た光景!」

 

 はしゃいでいると、身体が光に包まれ、変身が解除された。

 

「あ」

「まずい!」

「うわあぁぁぁ!?」

 

 ブランは落ちてくるクリストの真下に駆け寄り、受け止めた。

 

「ふぅ……。大した高度は無いとはいえ、怪我されたら困るわ」

「ありがとう……」

「で……どうだった? 使えそう?」

「そうだね……まだ練習は必要そうだけど、きっと使いこなせるよ」

「それは良かったわ」

 

 クリストはブランの腕から降りると信仰の器を優しく握った。

 

「……この力は大切に使うよ。それこそ、ブランがピンチの時とかの」

「ふふっ、頼もしいわ」

 

 二人は笑い合うと、修練所を後にした。

 

 

「それで、名前はどうするの?」

 

 二人はエントランスに続く廊下を歩いていた。

 

「名前?」

「女神化した時の名前よ」

「あー……うーんと……」

 

 クリストはふと、窓の外に目をやった。今日は天気が良く、青空が見えている。

 

「……決めた」

「ん、なんて名前にするの?」

「スカイハート……どうでしょうか」

「スカイハート。いい名前ね。あなたのプロセッサユニットの色とも合ってるわ」

「それに、あの時少し飛んでみてわかったんだ。多分、もっともっと高くまでいける。だからまぁ……うん、そういう事」

「……良いわね。あなたも超高度の景色、見てみるといいわ」

「いつか見るよ。必ずね」

 

 ブランに別れを告げて教会を後にした。憧れていた存在に近付けた喜びと、新しい力への期待感に満ちたまま、クリストは帰路に着いた。




スカイハートの設定について補完を……
鞘が翼になる関係上、武器を抜いていないと飛行能力は皆無。刀を一本抜く(翼三枚の状態)だけだと、高層ビルを越す程度の高さだが、翼が全てある状態だと高度の制限が無くなる。
全体的なスペックは本物の守護女神、及び候補生には劣る点が多い。しかし、飛行能力だけはずば抜けて高く、翼が六枚ある状態であれば、他をよせつけない高速飛行が可能になる。
武器は合体させると双刃刀(ナギナタ)になり、融合させると大太刀になる。
擬似シェアは本物とは性質が異なるため、アンチクリスタルの影響を受けないという長所がある。

と言った感じでしょうか。出したかったから出した、そんな姿です。


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EX2.帰る場所

後日談第二話です


「今日は外で食べてくるよ。だから私の分のお昼はいらない」

『はーい。わかった〜』

 

 トーシャはレイラとの電話を終えると、スマホを白衣のポケットにしまった。時間はちょうどお昼時。お腹が空く時間だ。

 

「……ここにしよう」

 

 近くにあったラーメン屋に入った。食券を買い、店員に渡すと、カウンター席についた。

 

(今日も収穫無かったな……)

 

 トーシャは最近、人探しに躍起になっていた。探しているのはエクスト。まだ生きている可能性は大いにある上に、また会って話をしたいという気持ちが大きい。

 

(……また会えたら何話そうかな。今の生活? 最近の出来事?)

 

 なんて考えていると、誰かが店に入ってきたようだ。その人物は食券を店員に渡すと、トーシャの隣に座った。

 

(なんで隣なのよ。まだ他に空いてる席あるでしょ……)

 

 どんなやつかと思い、隣をちらっと見てみた。

 

「やぁ、久しぶり」

「え……」

 

 そこに居たのはトーシャが探していた人物、エクストだった。

 

 

「奢ってもらうつもりだったけど、食券だったかぁ」

「そんな事どうでもいいの。今まで何してたの?」

「ネカフェに泊まりながらギルドの依頼こなして生活してた」

「ネカフェ難民じゃん」

「行くとこないからね」

「……で、その服は?」

 

 エクストの服装にも少し変化があり、軍服風の格好によく合う軍帽と、左肩に肩マントがついていた。

 

「似合う? 帽子の赤い星のピンバッジもいいでしょ〜」

「それもそうだけど……髪切ったんだね」

「あぁ。いつまでもアイツと同じ髪型も嫌がられそうだし」

「……ふぅん」

 

 二人はラーメンを食べながら会話を続けた。

 

「ていうか、行くとこ無いならうちに来ない? 今クリストとそのお姉さんと一緒に暮らしてるんだけど……エクストなら受け入れてくれると思うよ」

「それは……無いな」

「なんで」

「私は……クリストの左眼を潰した上に散々辛い思いをさせた。そんな奴と同じ屋根のした生活しろだなんて……アイツの精神がもたないよ」

「……」

「良いんだよ。私は今の生活で……」

「本当に?」

「本当だ」

 

 エクストは水を飲み干すと、席を立った。

 

「……じゃ、体に気をつけて過ごしてね」

「…………そっちもね」

 

 トーシャは店を出ていくエクストの背中をじっと見ていた。

 

「嘘つきだなぁ……」

 

 

「さて、ここだなぁ……」

 

 エクストはある場所にある洞窟の中に入っていった。臆すること無く奥へと進んでいく。そして、洞窟の最奥。そこには巨大な何かが動いていた。

 

「……八百禍津日神。会いたかったよ」

 

 八百禍津日神。あのエンシェントドラゴンよりも遥かに強大な力をもつモンスターで、女神ですら苦戦すると言われている程だ。エクストはそんな存在に対して一歩も引く素振りを見せず、刃を向けた。

 

「あんたなら私を殺してくれるよな……。ま、黙って殺されるつもりはいけどね!」

 

 接近し、爪による攻撃をかわして切りかかる。しかし、刃は鱗に阻まれ、全くダメージを与えられていない。

 

(硬い……)

 

 一度距離を取り、ダガーにカセットを差し込み、銃に変化させる。

 

「これで……!」

 

 八百禍津日神に向けて連射するが、怯む様子すら見せない。

 

「はっ……ちょっとヤバいかも……」

 

 今度は太刀に変え、攻撃を防ぐ。

 

「ぐっ……!?」

 

 予想よりも攻撃は重たく、両手で支えてやっと受け止めることが出来た。

 

(さて、どうする……このままじゃ傷一つ付けられない……)

 

 攻撃を捌きながら隙を見て反撃を入れるが、刃は弾かれ、ダメージを入れる事が出来ない。それどころか、逆に反動が腕に伝わり、段々と言うことを聞かなくなる。

 

「はぁ……くっ……」

「グルアァッ!!」

「……!? あ……」

 

 鋭い痛みの直後、足が地面を離れる。八百禍津日神の爪がエクストの腹部を貫き、そのまま持ち上げる。

 

「ぐ……ゴフッ……」

 

 口から零れた血が八百禍津日神の腕を濡らす。武器も落とし、もう打つ手はなかった。

 

(……終わりか……。でも、これでいい……)

 

 もう諦めよう、そう思って目を閉じようとしたその時、ふと、ある言葉が頭をよぎった。

 

『それに、せっかく助かった命だよ? 簡単に捨てようとしないで』

(……簡単に捨てるな…………そうだ。あの日、私は何をした?)

 

 クリストを救い、レイラに報告したあの朝。陽の光を浴びて輝く雪原で髪を切ったあの日の決意を思い出した。

 

(そうだ……私はただのコピーをやめた。これからはアイツと違うように生きると決めたんだ……)

「なんで……わすれていたかな……」

 

 エクストは八百禍津日神の腕を掴んだ。

 

「まだ……死ねない……いや、死にたくない……!」

 

 血に濡れた腕から抜け出そうと、必死で足掻く。

 

「死んでたまるか……私は……私だ……!」

(抜け出して、アレさえ使えば……!!)

 

 もう片方の腕が振り上げられているのが見える。どうやらトドメを刺す気のようだ。

 

「うぅぅ……!!」

 

 爪が振り下ろされようとしたその瞬間だった。どこからともなく飛んできた氷の刀が、八百禍津日神の目を貫いた。

 

「グアァァァァ!!」

 

 苦しみの咆哮を上げる八百禍津日神の口内に、更に二本の氷の刀が飛んでくる。痛みに耐えようと腕を振り回したせいで、エクストが爪から抜け出した。

 

「はぁ……ぐうぅ……」

「ちょっと、生きて……!?」

 

 エクストの前に現れたのは、白い防具に身を包んだ隻眼の少女だった。

 

「クリスト……」

「……喋らないで」

 

 クリストはエクストと、近くに落ちていた武器を持って岩陰に隠れた。

 

「それ……貸せ」

「その前に手当てを……」

「自分でできる……」

 

 エクストはクリストから武器を奪うと、杖に変化させ、回復魔法を自分に当てた。

 

「はっ……ギリギリだったぁ……」

「何無茶してんのさ」

「いや、あんたこそなんでここに居るんだよ」

「ブランに頼まれて、先発で調査を」

「なるほど。てことはこれから女神が来るのか」

「来るよ」

「……ダメだ」

「はぁ?」

「アイツは私が倒す。あんなに痛ぶられたんだ。黙って逃げるなんて出来ないね」

「まだ無茶する気?」

「無茶じゃないさ」

「…………勝算は?」

「ある。だが……あんたが一緒ならもっとやりやすいかもね」

 

 その言葉を聞いて、クリストはニヤッと笑った。

 

「じゃあブランが来る前に倒しちゃおっか」

「そっちも何かあるって顔だな」

「勿論」

 

 クリストは懐からキーホルダーのようなものを取り出した。

 

「それは?」

「擬似女神化するためのアイテム」

「……へぇ、面白い」

 

 大きな足音が、二人のいる方に近付いてくる。

 

「私も取っておきがあるからさ……」

 

 そう言って、紅色のカセットを取り出す。

 

「ま、あんたが『擬似』女神なら大丈夫なはずだ。……やるぞ」

「うん……いこう!」

 

 二人の居る岩を割くように振り下ろされた爪を左右にかわす。

 

「信仰の器、解放……」

 

 そう呟き、クリストは信仰の器の捻りを三回回した。

 

「ルインズメモリー、セット……」

 

 エクストはダガーのスロットに紅いカセットを挿した。

 

「「変身!!」」

 

 クリストは信仰の器を掲げ、エクストはダガーを地面に落とした。クリストの体を魔法陣が往復し、水色のプロセッサユニットに身を包んだ擬似女神、スカイハートに変身する。一方エクストの方は、落としたダガーを中心に黒い液体が広がり、それがエクストの身体を包み込む。やがて液体は弾け、中から紅いプロセッサユニットに身を包んだエクストの姿が現れる。髪は濃い紫に変色し、目は両方とも青色になっている。

 

「それ……!?」

「そう。あんたが女神化した時の記憶をロストアンチクリスタルから吸い上げて、私が使いやすいように調節したやつ。名は……ルインハート」

「へぇ……そんなのもできるんだ」

 

 八百禍津日神が咆哮を上げる。どうやら二人を本気で倒すつもりのようだ。

 

「ホワイトハートが来る前に殺るんだろ? だったら手早く済ませようよ」

「そうだね。速戦即決ってね!」

 

 スカイハートは鞘から刀を抜き、構える。鞘は六つに分離し、翼になった。

 

「私が先陣切って攻撃仕掛けるから、エクストは傷付いたところに攻撃当てて」

「いけるの?」

「大丈夫。翼六枚なら……どの女神よりも速く飛べるし!」

 

 そう言うと、八百禍津日神に向かって飛んだ。

 

「速……目で追えないんだけど……」

 

 スカイハートは八百禍津日神の周りを飛びながら攻撃をし続けた。

 

(あの速度なら防御は無理だな。いずれ鱗が削れて弱点ができる……)

 

 ルインハートは八百禍津日神の様子をじっと観察した。そして、右肩の辺りの鱗が削れているのが見えた。

 

「よし、クリスト。巻き込まれないように避けるか攻撃止めろよ!」

 

 それだけ言うと、ルインハートは姿を消した。

 

(お……仕掛けるかな?)

 

 スカイハートは巻き込まれないように攻撃を止めた。八百禍津日神の意識は完全にスカイハートに向いている。威嚇の咆哮をあげたその時、八百禍津日神の右肩付近の空間にヒビが入る。

 

「……『ディメンションダイブ』!!」

 

 そして空間を割って出てきたルインハートの大鎌が、鱗が薄くなった部位を捉えた。

 

「グギャアァァァ!!」

「オラァッ!」

 

 そのまま思いっきり引き切ると、八百禍津日神の右腕はダランと垂れた。

 

「通ったね」

「だな。次は致命傷を与えるぞ。腹辺りを削るか」

「オッケー!」

「今度は私も一緒にいくぞ!」

 

 スカイハートは二本の刀を合わせて双刃刀にすると、ルインハートと共に八百禍津日神の腹部に接近した。

 

「『白昼夢想』!!」

「『リッパーズダンス』!!」

 

 二人の連撃により、腹部の鱗は大きく剥がれた。

 

「これなら!」

「いける!」

 

 二人は一度八百禍津日神から離れる。

 

「全力、叩き込むぞ」

「わかってる。いこう!」

「「エグゼドライヴ!!」」

 

 スカイハートは二本の刀を融合させ、一本の大太刀にして構えた。ルインハートの方は大鎌に力を注ぎ、構える。

 

「天を照らす始まりの刃……」

「全てを蝕む終の刃……」

 

 二人は武器を構えて八百禍津日神に迫る。

 

「『天星乱舞』!!!!」

「『アブソリュートエンド』!!!!」

 

 禍々しい紅い刃は八百禍津日神の腹部を抉り、神々しい青い刃は堅固な鱗を裂き、大きな切り傷をいくつも残した。

 

「決まったね……!」

「……そっちの技、わざわざ鱗削らなくても良かったんじゃ?」

「それは……言わないお約束。なんならそっちだって全然鱗削ってない脇腹辺りも裂いてたし」

 

 二人は変身を解いた。

 

「……じゃ、私はこの辺で。あのモンスターについてはお前が倒したって伝えときな」

「あ? ちょっと待ってよ」

 

 クリストはエクストの手首を掴んだ。

 

「何?」

「どこに行く気?」

「どこって……そうだなぁ。生きてくって決めたし、そろそろちゃんとした賃貸でも探してから……」

「……じゃあ、うちじゃダメ?」

 

 エクストは目を丸くした。

 

「……冗談言うんだな」

「冗談じゃないよ」

「じゃあ気でも狂ったか?」

「なんでそういう事言うの……」

「当たり前だろ。誰があんたの左眼を潰した……? あんたがロストアンチクリスタルを取り込んで寝たきりになったのは、誰のせいだよ!」

「それは……」

「全部私のせいでしょ……私があんたを苦しめ、死の間際まで追いやったんだ」

「……」

「そんな奴と一緒に暮らそうだなんて……イカれたとしか思えない」

「……それは私が許すだけで済む問題じゃないの?」

「……私自身が、許せないんだよ」

 

 エクストはぐっと拳を握り締めた。

 

「だからもう、ほっといてくれ」

「エクスト……」

「私は私の生きたいように生きるんだ。私の選択を尊重したって良いじゃないか」

「君の帰りを待つ人が居るんだけど、その人のことはどうでもいいの?」

「……!」

「毎日、君の事探してたんだよ?」

「……トーシャ」

「それに、私だって、まだ助けてもらったお礼できてないし。お姉ちゃんだって、また会いたがってた」

「……本当に?」

「うん」

「……また、私が何かしでかすことだってあるかもしれないんだぞ」

「ありえないね。そんな人なら、私の命を救ったりしない」

 

 エクストは帽子を深く被り、上を向いた。

 

「はっ……姉がああなら妹も一緒か」

「……さ、ここに長居してもしょうがないよ」

 

 クリストは出口の方に数歩歩くと、エクストの方を振り向いた。

 

「帰ろうよ。私達の家に」

「……あぁ。案内、頼むよ」

 

 エクストは目元を拭うと、クリストの目を見て答えた。それから二人は、並んで洞窟を後にした。




エクストのルインハートと、クリストのルインハート(紅い女神)には見た目的な違いがあって、クリスト側は髪色が黄色、エクスト側は濃い紫になっています。
あと、エクストがあの致命傷を耐えたのは、体内にアンチクリスタルがある事で身体の構造が女神寄りになってるせいです。身体能力や耐久力が常人よりも少し高いんですね。


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EX3.感謝の言葉

本当の最終回です


 クリスト達四人は、変わらず平穏な日々をすごしていた。

 

「クリストー、一緒に風呂入ろうよ」

「え?」

「えってなんだよ。裸の付き合いしようよ」

「ん……まぁ良いけど」

「よし、てな訳で風呂入ってくるね!」

 

 エクストはクリストを連れて居間を後にした。

 

「仲良しだよね〜」

「本当、双子の姉妹みたい」

「微笑ましいね」

「ね〜。…………なんでこんな親みたいなやり取りしてるんだろ」

「……姉ポジションなんだけどね、私達」

「トーシャさんはどっちかっていうと親じゃない?」

「それは……生みの親だからってこと?」

「うん」

「単純……」

 

 

「なんか……全部脱ぐと雰囲気変わるね」

「……どう変わってる?」

「髪下ろすから女の子っぽさ増すし、身体付きもわかるから……」

「……なんかブランにも似たような事言われた気がする」

「やっぱみんなそう思うんだな」

 

 エクストは身体を軽く流すと、湯船に浸かった。クリストはそのまま髪を洗い始めた。

 

「あんまりジロジロ見ないでほしいな」

「黙って浸かってるのも暇だし。何? 恥ずかしいの?」

「うん、そこそこ……」

 

 エクストは黙ってニヤッと笑った。

 

「見るなって!」

「えー、背中流してやろうと思ってるのに」

「はぁー? またなんでそんな……」

「一緒にお風呂入るって言ったらこれ、だろ」

「ん……背中だけだよ」

 

 クリストは髪をまとめると、前によせて背中を見せた。エクストは泡立てたボディタオルを持ってクリストの背中を洗った。

 

「どう?」

「上手……」

「ふふっ、ありがとう」

 

 クリストはエクストからボディタオルを受け取ると、身体を洗った。

 

「そういや、なんでお風呂に誘ったの?」

「知りたい?」

「知りたい」

「ちょっと、二人きりで話がしたくてね」

「話?」

「うん。まぁ、それは私も身体洗ってからになるけど」

「わかった」

 

 今度はエクストが髪と身体を洗い、クリストが湯船の中で待った。エクストは手早く身体を洗うと、湯船の中に入ってきた。

 

「で……何、話って」

「ん? いや、何……感謝を伝えたくてね」

「私、感謝されるような事した?」

「したさ。私を……ここに誘ってくれた」

「はぁ……」

「帰る場所があるってだけでこんなに安心できるし、四人で暮らすのが、こんなに温かいなんて、思ってもなかった。この幸せを知れたのも、あんたのおかげだよ」

「……」

「だからさ、ありがとう、クリスト。私を迎え入れてくれて」

 

 エクストはクリストの目を見て柔らかな笑みを見せた。

 

「な、何を今更改まって……」

「本当の事をちゃんと伝えただけだよ」

「む……そう真っ向から言われると少し気恥しいと言うか……」

 

 クリストは少し目を逸らした。

 

「……上がるよ」

「はいはい」

(話逸らしたな……)

 

 二人は湯船から上がり、脱衣場に出ていった。

 

「あぁ、そうだ。そこに畳んであるやつ、買ってきた新しいパジャマなんだけど、着てみる?」

「新しいのか……うん、着てみるよ」

「よっしゃ! じゃあ、こっちがクリストの分だからね」

 

 

「……」

「似合ってる似合ってる」

「いや、え? なんで? なんで鳥の着ぐるみパジャマ……?」

 

 クリストは新しいパジャマに身を包んだまま困惑していた。クリストに渡されたパジャマは水色の鳥の着ぐるみパジャマだったからだ。

 

「これ、選んだのは?」

「レイラさんだけど……」

「似合ってるよ、クリスト」

「えぅ……でも、なんで鳥?」

「クリストはスカイハートになれるじゃん? で、空と言ったら鳥じゃん? そういう事」

「そういう事って……」

「まあまあ、着心地良いだろ?」

 

 そう言ったエクストも、黒い龍の着ぐるみパジャマに身を包んでいる。

 

「なんでエクストも……」

「せっかくだから買ってもらったんだ」

「そうなのね……」

「裏地がふわふわしてて着心地が良いな。ありがとうな、トーシャ」

「どういたしまして」

(あ、エクストの方はトーシャが選んだのか)

「あ、そうだ。今日チーズケーキ買ってきたんだけど、二人は食べる?」

「食べる!」

「私も食べる」

「よし、じゃあ準備するね。トーシャさん、食器出してきて」

「はーい」

 

 それから、四人で切り分けたチーズケーキを食べた。何気ないが、とても暖かくて幸せな時間。そんな四人の生活は、これからもずっと続いていく。




これで、女神の従者の願うことは本当にお終いです。くぅつかです。

もうこのオリキャラ達は出ないんだろうなって思うと少し寂しくて、でも書きたくて、愛着凄くて、まだこの子達のお話を綴りたくて……悩んでます。この四人、ここで終わらせたくないくらいには愛着湧いちゃってます。もしかしたらTwitterで、ネプテューヌ二次創作としてではなく、クリスト達四人を題材にした小話を書くかも……ってのは考えてます。ここからは自己満足の領域ですけどね。需要は自分自身にあるので……。

何はともあれ、最後までこの作品を読んでくださりありがとうございました。また私の作品に触れる機会があれば、その時はお願いします。


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