遊戯王VRAINS Re:Construction (師走F)
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第1話:In to the VRAINS

本編1話と大体同じような流れです。
オリキャラのキャラ紹介とか、葵ちゃんの可愛いところとか足した感じ


 そこは白い壁に囲まれた小さな部屋だった。

 デュエルディスクとカード、あるのはそれだけ。

 

「はぁはぁ……」

 

 息が苦しい。

 もう何日経ったのかも分からない。

 

 

 ───三つ数えるんだ

 

 幻聴が聞こえる。

 薄れゆく意識の中、縋るようにその声に意識を向けた。

 

 ───意識を強く持って、後もう少しで───

 

 声に従い、再びカードを握る。

 生きるために、戦うために。

 

 ◆

 

 デンシティ。

 インターネットが発達したその町の公立高校の教室で、藤木遊作は目を覚ました。

 

「おっと、起きてやがったのか」

 

 彼の隣を通り抜けようとした男子生徒が、驚いたように身を引く。

 

「藤木だっけ? もう授業終わってるぜ」

 

 一言で表現するならカバのような顔。

 体は横に広いが、背は高くなく、深緑の髪をオールバックにしている。

 そんな彼の容姿を一通り確認し、遊作は寝ぼけた顔で答えた。

 

「……お前、誰だっけ?」

「っおい!学校始まって一か月経つのに、まだクラスメイトの名前覚えてねぇのか?」

 

 彼は呆れ半分に怒鳴る。

 

「友達いなさそうだもんな」

 

 かと思えば、馬鹿にするようにニヤッと笑う。

 表情がうるさいやつだなと言いたげに、遊作は溜め息を吐く。

 

「俺は島直樹。へっへーん。俺に何か言うことない?」

 

 そう言って、彼はあからさまに左腕に装着されたデバイスを見せつける。

 

「別にないな」

「これでもっ!?」

 

 遊作の反応にムキになって、島はそのデバイスを顔の近くまで持ってくた。

 

「ああそれ。SOLテクノロジーが提供してる、新型デュエルディスクか」

「気付いてくれたか~。ん?」

 

 彼のわざとらしい反応にも、満足気に頷くと、ふと島は遊作の机に置かれたものに視線を向ける。

 白い円形のものに、赤い枠で覆われた半球形のディスプレイ、その淵にはデュエルモンスターズのカードの束、遊作のデッキが収まっていた。

 

「お前のは、カード収納タイプの旧式か。俺のには、デュエルをサポートしてくれるAIが搭載してあるんだぜ」

『こんにちは』

「ああ、こんにちは」

 

 AIに律義に挨拶を返すと、遊作はタブレットとデュエルディスクを鞄にしまう。

 

「SOLテクノロジーのクラウドに直結していて、データ化されたカードが使える。VR空間、LINK VRAINSにも優先的にアクセスできるんだぜ」

 

 そう言って、彼は教室のモニターに、LINK VRAINS内でのデュエル映像を投影した。

 

 そこでは様々な人達がVR空間にモンスターを呼び出し、中には自分もモンスターのように珍妙な格好をしてデュエルを楽しむ者までいた。

 

 LINK VRAINS。

 大手IT企業であるSOLテクノロジー社が運営する仮想空間サービスで、自宅にいながら世界中の人達と戦えるとのことで、現代のデュエリスト達の戦場となっている。

 

「LINKVRAINSにはよく行くのか?」

「バカかお前は!あそこは一流のデュエリスト達が集まる神聖な場所なんだぞ!お前が思ってるほど簡単じゃねぇの!カリスマデュエリストだっているし」

「ふーん」

「ああでも、行けばカリスマデュエリストや、プレイメーカーにも会えるかもな」

「プレイメーカー?」

「そんなことも知らねぇのか? 今LINK VRAINSで一番ホットなデュエリスト。ハノイの騎士ってハッカー達を成敗しているって噂の謎のデュエリストだよ」

「……お前、もしかしてプレイメーカーの画像とか持ってるのか?」

「あるわけないだろ。正体が分からねぇってところがクールなんだろ。憧れるよなぁ」

「そうか。頑張れよ」

 

 もう興味はないと言わんばかりに、遊作は島に背を向ける。

 

「なぁ、よかったら俺がデュエル教えてやろうか?」

「結構。お前があんまり強くなさそうって分析を三つしてやろう」

 

 島の方を向き、指で三を作る。

 

「一つ、アイテムを自慢するのは、デッキに興味がないから。二つ、未だLINK VRAINSに行っていないのは、自分の腕に自信がないから。三つ、外見以上に相手を分析しないのは、デュエリストとしてどうなんだ?」

「なっ……」

 

 痛いところを突かれて、島は口を開いたまま固まっている。

 

「……だが、いいところも三つある。一つ、相手にもデュエルの話を振るのは、根っからのデュエルモンスターズ好き、二つ、新型デュエルディスクを早速手に入れているのは、中々の事情通、三つ、俺みたいな一人でいるやつにわざわざ声をかける、悪人じゃなさそうだ」

「~~~~~~なんだよさっきから三つ三つって! なんのこだわりだよ!もういい!一人でデュエルやってろ!」

 

 島はそう言い捨てて、教室を出て行ってしまった。

 

 ◆

 

 LINK VRAINS内の都市エリアの一つ、様々なネットショップがひしめくこのエリアでは、多くの人がショッピングを楽しんでいた。

 

「やれやれ、とんだ目にあったぜ」

 

 そんなネットショップの建物の壁に張り付くように、黒い眼玉のようなプログラムがキョロキョロと動いていた。

 

「ハノイの野郎、サイバース世界にまで……おっと」

 

 気配を察知したそれは、サッと物陰に身を潜める。

 その直後、付近を飛ぶドローンのようなプログラムが通り過ぎて行った。

 

「警備AIか。見つかったら不正プログラム扱いで削除されちまう。これからどうすっかな……ん?」

 

 電脳空間の壁を滑るように移動する中で、ひと際混みあったエリアに出てきた。

 

「さぁデュエルもいよいよ大詰め! LINK VRAINSのランキングを決めるランクデュエル!勝つのはどっちだ!?」

 

 電脳空間を流れるデータの波、サーフボードのようなガジェットでその波に乗って二人のデュエリストがデュエルを繰り広げている。

 

「ありゃ、スピードデュエルか」

 

 眼玉は見つからないように建物の高い位置まで登り、デュエルを観戦する。

 

「ランキング一位の我らがGo鬼塚!しかしフィールドにはモンスターゼロ!ここから逆転なるか!?」

 

 プロレスラーのような体格のいい男は、真剣な面持ちで対戦相手を見つめている。

 

「そして、Go鬼塚を追い詰めるのは、LINK VRAINS界のアイドル!ブルーエンジェルだぁ!」

 

 ドローンが寄ると、青髪のツインテールの少女がカメラの向こうの観客に手を振る。

 

「いくぞ。俺のターン!」

 

 Go鬼塚は引いたカードを確認すると、不敵に笑う。

 

「俺は魔法(マジック)カード、剛鬼再戦を発動!墓地の「剛鬼」モンスター2体を守備表示で特殊召喚!蘇れ、剛鬼スープレックス、ツイストコブラ!」

 

 空間に穴が開き、獣のマスクを被った筋骨隆々の戦士が姿を現す。

 

「さらに剛鬼ライジングスコーピオを通常召喚。こいつは俺の場のモンスターが剛鬼のみの場合、リリースなしで召喚できる」

「Go鬼塚、がら空きのフィールドに一気に三体モンスターを呼び出したぁ!」

「現れろ、俺様のサーキット!」

 

 Go鬼塚が手を伸ばすと、彼の道の先に、青いサークルが出現する。

 

「召喚条件は、「剛鬼」モンスター2体以上!俺は剛鬼スープレックス、ツイストコブラ、ライジングスコーピオの3体をリンクマーカーにセット!」

 

 彼のフィールドのモンスターがサークルに吸い込まれ、赤い矢印を浮かび上がらせる。

 

「リンク召喚!現れろLINK3、剛鬼ザ・グレート・オーガ」

 

 鋼の装甲にマントをたなびかせ、雄々しい角のついたマスクを被った戦士がフィールドに降り立った。

 

「俺は墓地に送られた剛鬼モンスターの効果で、デッキから剛鬼モンスターを手札に加える。そして、手札の剛鬼ヘッドバットの効果発動!手札の剛鬼カードを墓地に送り、このカードを守備表示で特殊召喚!さらにザ・グレート・オーガの攻撃力を800アップする」

 

 ヘッドバットの支援を受けて、ザ・グレート・オーガの攻撃力は3400となった。

 

「バトルだ!剛鬼ザ・グレート・オーガで、トリックスター・ホーリーエンジェルを攻撃!」

「そんなっ!」

 

 グレート・オーガの斧の一振りが、ホーリーエンジェルを切り裂き、そのままブルーエンジェルのライフを一気に削り切った。

 

「決まったぁぁっ!勝者!Go鬼塚! 絶体絶命の状況から見事な大逆転だぁっ!」

 

 デュエルが終了し、地上に降りた二人の元に、インタビュアーと野次馬が近付く。

 

「中々面白いデュエルだったな。俺も強いデュエリストを味方につければ……」

 

 ぶつぶつと言いながら、眼玉はまた壁を滑るように移動して、どこかへと消える。

 

「ブルーエンジェル、今回は惜しかったですね」

「負けたのは悔しいけど、みんなの応援のおかげで楽しいデュエルができたわ。みんな、これからも応援よろしくね」

 

 ◆

 

「何が楽しいデュエルよ」

 

 デンシティ高層マンション、その最上階の一室のベッドの上で、ブルーエンジェルこと財前葵は不貞腐れていた。

 

「葵様、はしたないですよ」

 

 制服のまま寝そべる彼女に、彼女と同年代くらいのメイド服を着た少女が注意する。

 

「いいでしょ美海。自分の部屋くらい好きにさせてよ」

「全く、晃様やご両親が見たらなんと申されるか……」

 

 ため息をついて、美海はタブレットを取り出す。

 

「今月のランキングデュエルの戦績は十勝七敗、このままだと次は順位を落としてしまいます」

「分かってるわよ。だからもっとデュエルを……」

「晃様達に見つからないように、隠蔽工作をする私の身にもなってください。この前だって、葵様が私に黙ってLINK VRAINSに行ったせいで、ログの消去が遅れて……」

「だから、あれは謝って───」

「葵、いるか」

 

 その時、ドアをノックする音と共に、扉の向こうから葵を呼ぶ声がした。

 

「お、お兄様、大丈夫よ」

 

 葵は慌てて跳び起きて、髪を整えて兄である財前晃を出迎えた。

 

「美海もいたのか。ちょうど良かった。さっきお父様から連絡があってな。今晩、久しぶりに家族で食事でもどうかって」

「うん。もちろん行くわ」

「そうか。美海もどうだ?」

「……いえ、せっかくのお誘いですが、私はご遠慮させていただきます」

 

 葵の後ろ控えていた彼女は、また一歩後ろに下がって、二人から距離を置く。

 

「ご家族水入らずの時間を、邪魔するわけにはいきませんから」

「そんな、邪魔だなんて……」

「葵」

 

 食い下がろうとする葵の肩に手を置き、晃は静かに首を振る。

 

「では、私はリビングの掃除をしてまいります」

 

 そう言って、美海は二人の脇を通り抜けて部屋を出て行ってしまった。

 

 ◆

 

 夕方、学校から帰った遊作はデンシティの中央広場に訪れた。

 

「遊作、戻ったか」

 

 広場の一角を陣取るキッチンカー、そのカウンターから草薙翔が顔を出した。

 

「草薙さん、店番変わるよ」

「その前に、お前に見て欲しいものがあるんだ」

 

 草薙に案内され、キッチンカーの中へと案内される。

 草薙が壁のパネルを操作すると、食器棚のガラスがモニターに変わる。

 

「こいつを見てくれ」

 

 画面が切り替わり、LINK VRAINSの全体マップが表示された。

 マップ上で、赤い点が動いている。

 

「これは?」

「さっきLINK VRAINSで、妙なプログラムが検出されたんだ」

「こいつは……AIか?」

「ああ。さっき偶然補足できたんだが、遠隔で解析しても見たことのないコードで組まれている」

「見たことないコード……まさか”イグニス”か!?」

 

 イグニス。

 とある理由からハノイの騎士を追う遊作達が、その過程で見つけたハノイの目的。意思を持つAIと言われており、10年前にどこかの実験施設から逃げ出したらしい。

 

「あくまで可能性の話だ。だが、もしこいつがハノイの追っているAIなら、奴らの正体を掴めるかもしれない」

「草薙さん、そいつを捕まえられないのか?」

「いや、捕捉するので精いっぱいだ。無理に捕まえようとすれば逃げられる。」

「そうか」

 

 遊作としては、せっかく見つけた手掛かりを逃したくはない。だが、このままでは何もできないのも事実だ。 

 

「何かきっかけがあれば……」

 

 その時、モニターにホップアップメッセージが表示された。

 

「これは、LINK VRAINS内で大規模スキャンが開始されたぞ」

「何?」

 

 LINK VRAINSは多数のファイアウォールによって守られている。

 だが、大規模スキャン時には、サーバーの処理能力をそちらに回すせいで、ファイアウォールの強度が一時的に下がる。

 

「今そんなことをすれば、ハノイの的になるぞ」

「このタイミングでスキャンをかけるなんて、まさかSOLテクノロジー社もイグニスを狙っているのか?」

「っ!」

 

 すると遊作は何かを思い立ったのか、モニターの前に座り、備え付けのキーボードを操作し始める。

 

「何をする気だ?」

「イグニスを捕まえる」

「はぁ?」

「正確には、逃げ道を作るんだ。大規模スキャンの間はそいつの居場所はどこにもなくなる。その時だけ現れる抜け穴を用意する。こいつの中に」

 

 遊作は自身のデュエルディスクを指さす。

 

「無理だ。時間がなさすぎる」

「できるさ、俺とあんたなら」

「……分かった。やるだけやってみよう」

 

 ◆

 

 同刻、LINK VRAINS

 

「まずいまずいまずい」

 

 眼玉はあっちへこっちへ移動して、どうにかスキャンを潜り抜けている。しかし、電脳空間全体に及ぶスキャンから逃げられなくなるのは時間の問題だ。

 その時、

 

 パリィンッ!

 

 空間が砕け、上空に黒いドラゴンと、それに乗る奇妙なマスクをつけた白服の男が現れた。

 

「ハノイの騎士まで、くそっ……ん?」

 

 ふと、視線を向けると、青白い光がレールのように伸びていた。

 

「こいつを使えば」

 

 一か八かそこに飛び込み、眼玉はそのまま空間を駆けた。

 

 ◆

 

「よし。成功だ」

 

 遊作のデュエルディスクの中に、眼玉のような物体が映っていた。

 

「あれ? 俺もしかして捕まっちゃったの?」

「お前が連中の探してるAIだな」

「お、俺はただの通りすがりのAIなんです~」

 

 涙目で訴える眼玉を一瞥し、モニターに映るLINK VRAINSの様子に目をやる。

 そこではハノイの騎士が、ドラゴンに乗って暴れている。

 

「時間がない行くぞ」

「えぇ~! 俺あそこから逃げてきたんだけど」

 

 遊作はデュエルディスクを装着する。

 

「デッキ、セット!イントゥザヴレインズ!」

 

 ◆

 

「どこだ!イグニス!」

 

 ハノイの騎士が従えるドラゴンは、手当たり次第に光線を吐いて、LINK VRAINSを攻撃する。

 

「そこまでだ!」

 

 そこにログインした一人の少年が立ちふさがった。

 

「誰だ貴様は!?」

「俺はプレイメーカー、ハノイの騎士、お前の探しているものはここにある!」

 

 プレイメーカーこと遊作は、自分のデュエルディスクに閉じ込められたAIを見せつける。

 

「LINK VRAINSへの攻撃を今すぐやめろ! さもなくば、こいつを消す」

「ちょっ、俺は人質かよ!」

「このAIは、デュエルプログラムに変換した。こいつを手に入れたいなら、俺にデュエルで勝つしかない」

「……いいだろう。ハノイを敵に回したことを後悔させてやる」

 

 ハノイの騎士は、サーフボードのようなガジェットを出現させ、電脳空間を流れるデータの波、データストリームに飛び乗る。

 それを見て、プレイメーカーも同様にデータストリームに乗る。

 

「はぁ……お前、あいつに勝てるのか?」

 

 もうデュエルが始めるのは止められないとみて、眼玉はプレイメーカーに尋ねる。

 

「捕まりたくないなら神にでも祈っていろ」

「AIは祈ったりしない。するのは、勝つための計算だけだ」

 

 すると、デュエルディスクが光を放ち、収納されたカードが粒子になって消える。

 

「これは……」

 

 かわりに、眼玉から何枚ものカードが出現し、デュエルディスクの中に納まる。

 

「お前のデッキをアップデートしてやった。こいつで頑張ってくれ」

「ふんっ、いいだろう」

 

 プレイメーカーがボードで駆けて、ハノイの騎士に追いつく。

 

「いくぞスピードデュエル!」

 

ターン1 ハノイの騎士

 

「先攻はもらった。私はハック・ワームを特殊召喚。このカードは相手フィールドにモンスターが存在しない場合、手札から特殊召喚できる。さらにもう1体」

 

 フィールドに二体の機械の体の芋虫が出現する。

 

「続けて、このモンスター二体をリリースして、アドバンス召喚!こい、クラッキング・ドラゴン」

 

 ハノイのモンスター二体を食らって現れたのは、先程LINK VRAINSを襲っていた黒いドラゴンだった。

 

「私はこれでターンエンド」

 

ターン2 プレイメーカー

 

「俺のターン」

 

 プレイメーカーは自分の手札を確認する。

 

(サイバース族? 見たことない、いや……)

 

 不意に、朧げな記憶がフラッシュバックする。

 

(俺は、こいつを知っている……?)

「どうした? 怖気づいたか?」

「……俺はサイバース・ウィザードを召喚」

 

 プレイメーカーが召喚したのは、白いローブを着た魔法使いだった。

 

「クラッキング・ドラゴンの効果!相手モンスターが召喚・特殊召喚に成功した場合、そのモンスターの攻撃力をターン終了時まで、そのレベル×200ダウン!」

 

 クラッキング・ドラゴンの体のパーツが緑に光る。

 その光を浴びたサイバース・マジシャンが、力を奪われて膝をつく。

 

 サイバース・ウィザード:ATK1800→1000

 

「さらに下がった数値分、相手にダメージを与える」

 

 プレイメーカー:LP4000→3200

 

 クラッキング・ドラゴンが光線を吐く。

 その一撃で、プレイメーカーのライフが削られた。

 

「くっ、俺はカードを2枚伏せる。そしてサイバース・ウィザードの効果発動!相手フィールドのモンスター1体を守備表示に変更!サイバース・アルゴリズム!」

 

 サイバース・ウィザードが杖を掲げると、クラッキング・ドラゴンは力が抜けたように首を下に向ける。

 

「この効果適用後、俺のサイバース族モンスターは守備モンスターを攻撃した時、相手に貫通ダメージを与える。バトルだ!サイバース・ウィザードで、クラッキング・ドラゴンを攻撃!」

 

 サイバース・ウィザードの杖から電撃が発射される。

 

「クラッキング・ドラゴンの効果!このカードは自身のレベル以下のモンスターとの戦闘では破壊されない」

「だがダメージは受けてもらう!」

 

 ハノイの騎士:LP4000→3000

 

ターン3

 

「私のターン、私はスキルを発動する」

 

 スキル。

 デュエル中1度だけ使える、いわばデュエリスト自身の効果。

 ドローの強化や、モンスターの攻撃力アップなど、様々なことが行える。スピードデュエル最大の特徴だ。

 

「スキル、トリプルドロー!デッキからカードを3枚ドローする」

「何っ!」

「あんなスキル知らないぞ!ハノイが勝手に作ったプログラムだな!」

 

 想定外の出来事に驚く二人に対して、ハノイの騎士はニヤニヤと笑う。

 

「いくぞ。私はカードを1枚伏せて、魔法カード、アイアンコールを発動。墓地のレベル4以下の機械族モンスター1体を、効果を無効にして特殊召喚。私は墓地からハック・ワームを特殊召喚」

 

 クラッキング・ドラゴンが雄叫びを上げると、それに呼応するようにして空間に穴が空き、中からハック・ワームが再び姿を現した。

 

「何をする気だ?」

「魔法カード、機械複製術を発動。デッキからハック・ワームを特殊召喚」

 

 ハック・ワームの像が揺らぎ、二体に分裂する。 

 

「私はハック・ワーム2体をリリースして、もう1体のクラッキング・ドラゴンをアドバンス召喚!」

「2体目だと!?」

「バトルだ。クラッキング・ドラゴンで、サイバース・ウィザードを攻撃!」

 

 クラッキング・ドラゴンが大口を開けて、エネルギーをチャージする。

 

(トラップ)発動!スリーフェイト・バリア!三つの効果から一つを選択!」

 

スリーフェイト・バリア

通常罠

(1) 以下の効果から1つを選択して発動できる。

●このターン、自分のモンスターは戦闘・効果で破壊されない。

●このターン、自分はダメージを受けない。

●このターン、自分のモンスター1体は1度だけ戦闘で破壊されず、その戦闘によって戦闘ダメージを受けるかわりに、その数値分、自分のライフを回復する。

(2)自分がダメージを受けた場合、墓地のこのカードを除外して発動できる。このターン、自分が受ける効果ダメージは0になる。

 

「俺はモンスターの戦闘破壊を防ぐ効果を選ぶ!」

 

 サイバース・ウィザードを緑色の球体が包み、攻撃を防いだ。

 

「だがダメージは受けてもらう!」

 

 プレイメーカー:LP3200→2000

 

(トラップ)発動!サイバース・ビーコン、ダメージを受けた時、デッキからレベル4以下のサイバース族モンスター1体を手札に加える!」

「まだだ!もう1体のクラッキング・ドラゴンでアタック!」

 

 サイバース・ウィザードはバリアに守られているが、プレイメーカーへはダメージが入る。

 これで彼のライフは残り800となる。

 

ターン4

 

「俺のターン───」

(トラップ)発動!パルスボム!自分フィールドに機械族モンスターが存在する場合、相手モンスターは守備表示となる。さらに、このターンに召喚・特殊召喚されたモンスターも守備表示だ!」

 

 プレイメーカーのフィールドに、電気を帯びた球体がいくつも出現し、電気の鎖でサイバース・ウィザードを拘束した。

 

「どうすんだ? プレイメーカー様?」

「……もう勝負はついた」

「だな、さっさとやっちまおうぜ」

「いくぞ、俺はスタック・リバイバーを通常召喚」

 

 現れたのは四角い機械、だがそれもパルスボムの効果で守備表示にさせられる。

 

「血迷ったか。クラッキング・ドラゴンの効果を忘れたのか!」

 

 二体のクラッキング・ドラゴンがスタック・リバイバーを狙って口を開ける。

 

「スタック・リバイバーは自身のレベル×200攻撃力がダウン、そしてその分相手にダメージを与える。スタック・リバイバーのレベルは2、2体なので合計800のダメージを受ける!これで終わりだ!」

 

 クラッキング・ドラゴンが光線を吐き、スタック・リバイバーを攻撃。そのままプレイメーカーへダメージを与える。だが、

 

 プレイメーカー:LP800→700

 

「バカな!なぜライフが残っている」

「クラッキング・ドラゴンの効果は攻撃力を下げた数値分ダメージを与える。だが、スタック・リバイバーの攻撃力は元々100、2体いようがダメージは変わらない」

「くっ……」

「俺は墓地のスリーフェイト・バリアの効果!ダメージを受けた時、このカードを除外することで、このターン、俺は効果ダメージを受けない。そして、自分フィールドにサイバース族モンスターがいる時、バックアップ・セクレタリーを特殊召喚できる!」

 

 プレイメーカーのフィールドにモンスターが3体並ぶ。

 

「現れろ、未来を導くサーキット!」

 

 プレイメーカーの前方に、アローヘッドが出現する。

 

「召喚条件は効果モンスター2体以上!俺はサイバース・ウィザード、バックアップ・セクレタリー、スタック・リバイバーの3体をリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン!」

 

 アローヘッドに三方向の赤い矢印、リンクマーカーが浮かび上がる。

 

「リンク召喚!LINK3、デコード・トーカー!」

 

 現れたのは黒い体に青い鎧を身に着けた電脳の騎士だ。

 

「リンクモンスターはレベルを持たず、そして守備力もない。よってクラッキング・ドラゴンの効果も、パルスボムの効果も受けない!」

「くっ!」

「そしてスタック・リバイバーの効果発動!リンク素材となった時、墓地のレベル4以下のサイバース族モンスターを特殊召喚!来い!サイバース・ウィザード!」

 

 サイバース・ウィザードが、デコード・トーカーのリンク先に出現する。

 

「サイバース・ウィザードの効果!クラッキング・ドラゴンを守備表示にする!サイバース・アルゴリズム!」

 

 杖を掲げると、空中に魔法陣が展開される。

 そこから放たれた電撃が、クラッキング・ドラゴンの力を奪い、守備表示にする。

 

「バトルだ!デコード・トーカーで、守備表示のクラッキング・ドラゴンを攻撃!デコード・トーカーの効果!リンク先のモンスターの数×500、攻撃力がアップする!パワーインテグレーション!」

 

 サイバース・ウィザード、クラッキング・ドラゴンよりエネルギーが吸収され、デコード・トーカーに力が集まる。

 

「攻撃力3300だと!?」

「終わりだ!デコード───」

 

 デコード・トーカーが剣を振り上げる。

 

「───エンド!」

 

 一刀両断。

 クラッキング・ドラゴンを破壊し、ハノイの騎士のライフを0にした。

 

 ◆

 

 デュエルが終了した後、プレイメーカーはさっきのハノイの騎士を追いつめた。

 

「さあ、知っていることを吐いてもらうぞ」

「お前たちに教えられるわけないだろう」

 

 すると、ハノイの騎士の仮面が赤く光る。

 

「こいつ!自爆する気か!」

「プレイメーカー!くっ!」

 

 すると、眼玉のAIはデュエルディスクから黒い何かを伸ばしてハノイの騎士を拘束する。

 

「何をするっ!?」

 

 それは生き物のように口を大きく開けて、ハノイの騎士を飲み込んでしまった。

 

「……お前、何をした」

「お前を守ったんだよ。ああでもしなきゃ、現実のお前がダメージを負っていたからな。さあ、さっさとログアウトしようぜ」

「ああ」

 

 ◆

 

 デンシティ中央広場、その巨大モニターに映し出されたプレイメーカーとハノイの騎士のデュエルを見て、人々は興奮に湧いていた。

 

「へぇ、俺以外にサイバースを使うやつがいたなんてな」

 

 そんな中、周囲の人間とは違う反応を示す者がいた。

 

「しかもイグニスまで手に入れたか。これは、面白くなりそうだな」

 



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第2話:Three Count your Life

 SOLテクノロジー、セキュリティ部門、

 ここではLINK VRAINSを含む、SOLテクノロジーが運営する電脳空間の安全を守るために、社員達は日々、不審なプログラムの検知や、悪質なハッカーの対処に明け暮れていた。

 

「昨夜、現れたハノイの騎士、それを退けたデュエリスト、プレイメーカー」

 

 その部長を務める財前晃は、巨大モニターに昨晩のデュエル映像を映しながら、部下達に話していた。

 

「彼が使用したカードは、いずれもSOLテクノロジーのデータベースに登録されていない未知のカードだ」

「サイバース族など、そのような種族は聞いたことがありません」

「やはりチートツールでしょうか?」

 

 部下達の質問に、晃は静かに首を振る。

 

「だが、ハノイの騎士を倒したとはいえ、彼もまた、LINK VRAINSの秩序を脅かす可能性がある。ハノイの騎士への対策と同時に、彼に対する調査も行ってくれ」

 

 そう指示を出して、晃は部屋を出ていく。

 

「財前部長」

 

 すると、部下の一人が彼を追ってきた。

 

「美海か」

 

 湊美海、彼女は財前家でメイドとして仕える傍らで、SOLテクノロジーのセキュリティ部門専属のデュエリストとしても活動していた。

 

「サイバースとは、何なのでしょうか?」

「私にも分からない」

「……5年前、サイバース族のカードは、データストリームの中から突如出現しました。しかし、それを知るのはほんの一部の人間だけ、SOLテクノロジーは、サイバースの存在を隠蔽しています」

「無用な混乱を避けるためだ」

「ではもう一つ聞かせてください。昨日の大規模スキャンを行った理由を教えてください」

「……ビショップの指示だ。詳しい理由は聞かされていない」

「そうですか……」

 

 美海はその答えに納得していないようだったが、あっさりと引き下がり、彼に頭を下げてから持ち場に戻った。

 

 ◆

 

 デンシティの海辺、人気のないこの場所にキッチンカーを止めた草薙と遊作は、デュエルディスクに入った眼玉型のAIを調べていた。

 

「いや~プレイメーカー様はすっかり有名人だな」

 

 眼玉はデータを吸い出されている間に、モニターに映ったLINK VRAINSの様子を見ていた。

 ハノイの騎士を倒した謎のデュエリスト、その話題はデンシティ中に広がっており、ネットニュースで特集を組まれるほどだった。

 

「まあログは消せても、画面に録画したものは消せないからな。目立たないようにしてたのに残念だったな」

「お前、なぜそれを知っている?」

「そりゃ分かるさ。俺はネットの世界を逃げ回っていたからな。色々知ってるのさ」

「なら質問に答えろ。なぜハノイの騎士はお前を狙っている」

「え~わからな~い。どうもデータが欠損して記憶がなくてな~」

 

 眼玉だけの体で、白々しくとぼけ顔をしてみせた。

 

「ふんっ、まあいい。お前を解析すればわかることだ」

「え~。それじゃ俺のあんな秘密もこんな秘密も、全部丸裸ってこと~!恥ずかしい~」

「草薙さん、スピーカーを切ってくれ」

「了解」

 

 草薙がコンソールを操作すると、眼玉の声が途切れて、聞こえなくなった。

 

「ところで遊作、こいつに何か名前をつけないか? いつまでもこいつじゃ紛らわしいからな」

「なら……Ai(アイ)でいい。AIだしな」

「なるほど、眼玉とAIをかけてってことか」

「じゃあ草薙さん。手伝ってくれ」

 

 ◆

 

 翌日、教室に入った遊作の前に、島が現れた。

 

「よう藤木」

「……ああ、おはよう」

 

 彼の横を通り過ぎて、自分の机に移動しようとする。

 島は遊作を追いかけて彼の席の前に立つ。

 

「昨日のプレイメーカー特集見たか?」

「見てないな」

「なんだよ。それじゃあこの前のプレイメーカーのデュエルも見てないんだろ」

 

 島はタブレットを操作して、録画映像を見せてくれた。

 バッチリ自分の顔が映ったそれを見て、遊作はげんなりした。当たり前だが、アバターは顔を変えているので、気付かれることはないだろうが。

 

「やっぱりカッケーよな。LINK VRAINSのヒーローだぜ」

「ヒーローねぇ」

 

 遊作はあくまでハノイの騎士から情報を得るために戦ったにすぎない。

 ヒーローなどともてはやされることに、面倒くささを感じていた。

 

「藤木君」

 

 すると、今度は彼の席に財前葵がやってきた。

 

「これ、先生から」

 

 彼女はプリントを手渡して、すぐに自分の席に戻ってしまった。

 

「財前のやつ、美人だけど愛想がないよなぁ」

「別に普通じゃないのか」

「だって、あいつ、教室でもずっと仏頂面で、あんまりクラスのやつとも話さないんだぜ。あ、友達が少ないって意味じゃ藤木と一緒だな」

「……」

 

 遊作は呆れた目を彼に向ける。

 

「安心しろよ。お前の友達はここにいるからな」

「どこだ?」

「ここだよここ」

 

 自分を指さす彼を無視して、遊作はタブレットを取り出す。

 

「そろそろ授業始まるぞ」

「お前、後で覚えてろよ」

 

 島はノシノシと自分の席に戻っていった。

 

 ◆

 

 某日、デンシティの孤児院、

 

「鬼塚兄ちゃん!」

 

Go鬼塚こと鬼塚豪がやってくると、子供達が彼の元に集まってきた。

 

「おおみんな」

 

 彼は自分にじゃれる子供達の頭を一人一人撫でていく。

 

「今日は何してたんだ?」

「プレイメーカーのデュエル見てたんだ!」

 

 子供達がテレビを指さすと、そこには先日のハノイの騎士とプレイメーカーのデュエルの録画映像が映っていた。

 

「そ、そうか」

 

 子供達の嬉しそうな顔に、鬼塚は少し苦い顔を見せる。

 

「ねぇねぇ鬼塚兄ちゃん、鬼塚兄ちゃんはプレイメーカーに勝てる?」

「もちろんだ。俺はLINK VRAINSのランキング一位だ。誰にも負けねぇ」

「じゃあ今度プレイメーカーとデュエルしてよ!」

「おう。任せろ」

 

 そう言って自分のドンと胸を叩いた。

 

 ◆

 

 孤児院を出ると、入り口でマネージャーの初老の男性が待っていた。

 

「鬼塚、よかったのか? あんなに簡単に引き受けて」

「俺が負けると?」

「まさか。だが、そもそもデュエルできなければ、子供達の願いを叶えることもできないだろう」

 

 彼の言う通り、プレイメーカーとデュエルしようにも彼は神出鬼没。LINK VRAINSのランキングにも載っていない。会うことすら叶わないのだ。

 

「どうにかして奴をおびき出すことができれば‥‥‥」

 

 その時、彼のデュエルディスクに着信があった。

 

「メール?」

 

 中を開いてみると、メールの相手はSOLテクノロジー社からだった。

 

「ふんっ、何が目的かしらねぇが、いいだろう」

「どうしたんだ?」

「いや、プレイメーカーとのデュエル、思ったより早くセッティングできそうだぜ」

 

 鬼塚は不敵に笑った。

 

 ◆

 

 某日、プレイメーカーはDボードでLINK VRAINS内を駆けていた。

 ハノイの騎士が現れた。その情報を得て、遊作はログインしたのだったが、

 

「ハノイの騎士が出たってのに、あんまり騒ぎになってないな」

 

 ハノイの騎士が確かにここを通ったのは、映像で確認している。しかし、なぜか破壊活動を行っていないのだろう。

 

「プレイメーカー!」

「こっち向いてー!」

「ハノイをやっつけてくれ!」

 

人々は逃げ惑うこともなく、むしろプレイメーカーの出現で歓声を上げているくらいだ。

 

「人気者だな。プレイメーカー様は。つーか本当にハノイの騎士はいんのか?」

「行けば分かるだろう」

 

 そしてやってきたのは、デュエルの大会などで使う闘技場エリア。

 その中央で、ハノイの騎士が仁王立ちでプレイメーカーを待ち構えていた。

 

「来たな。プレイメーカー」

 

 プレイメーカーはDボードから飛び降りて、ハノイの騎士に近付く。

 

「‥‥‥お前、ハノイじゃないな?」

「くくくっ、さすがはプレイメーカーだ」

 

 すると、ハノイの騎士のアバターが解けるように消え、中から別のアバターが現れた。

 

「お前は‥‥‥Go鬼塚」

「さあプレイメーカー、俺様とデュエルだ!」

「悪いがお前に興味はない」

 

 プレイメーカーはGo鬼塚に背を向ける。しかし、

 

 ブォンッ

 

 突如、闘技場を覆うようにドーム状のバリアが展開された。

 

「これは‥‥‥」

「このデュエルフィールドは、デュエルが終わるまで出ることはできねぇ。ここから出たければ、俺様とのデュエルに勝つことだ!」

「お前、誰に頼まれた?」

 

 情報ではGo鬼塚はただのプロデュエリスト、プログラムに関する知識などは持ち合わせていない。つまりこのプログラムを渡した何者かが存在する。

 

「お前に答える義理はない。俺はお前より強いことを証明するだけだ」

「‥‥‥いいだろう」

 

 観念して、プレイメーカーはデュエルディスクを構えた。

 

「「デュエル!」」

 

ターン1 プレイメーカー

 

「自分フィールドにモンスターが存在しない時、リンクスレイヤーを手札から特殊召喚できる」

 

 金色の獣を模した鎧をまとった戦士が、フィールドに姿を現した。

 

「俺はカードを2枚伏せてターンエンド」

 

ターン2 Go鬼塚

 

「俺は剛鬼スープレックスを召喚。その効果で、手札から剛鬼ツイストコブラを特殊召喚」

 

 フィールドに二体の剛鬼が並び立つ。

 

「どっちも攻撃力はリンクスレイヤーには及ばない。だが‥‥‥」

「さらに俺は剛鬼ツイストコブラの効果発動。自分の「剛鬼」1体をリリースし、剛鬼モンスター1体を対象に発動する!」

 

 ツイストコブラがデータの破片となって消える。

 

「リリースしたモンスター、すなわちツイストコブラの攻撃力分、対象のモンスター、スープレックスの攻撃力をアップする!」

 

 爆散したツイストコブラのデータが、スープレックスに吸収され、攻撃力は一気に3400まで上昇した。

 

「さらに剛鬼ツイストコブラの効果発動!デッキから「剛鬼」カード1枚を手札に加える。俺は装備魔法、剛鬼チャンピオンベルトを手札に加え、そのまま発動!」

 

剛鬼チャンピオンベルト

装備魔法

「剛鬼」モンスターにのみ装備可能。

このカード名の(2)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)これを装備したモンスターは攻撃力が600アップする。

(2)これを装備したモンスターが戦闘で相手モンスターを破壊した場合に発動できる。装備モンスターの攻撃力は500アップする。

(3)このカードがフィールドから墓地に送られた場合に発動できる。デッキから「剛鬼チャンピオンベルト」以外の「剛鬼」カード1枚を手札に加える。

 

「スープレックスに装備。これでスープレックスの攻撃力はさらに600アップ!」

「いきなり攻撃力4000かよ!」

「バトルだ!剛鬼スープレックスで、リンクスレイヤーを攻撃!」

 

 スープレックスの剛腕を構えて、リンクスレイヤーへと突っ込む。

 

(トラップ)発動!スリーフェイト・バリア!」

 

スリーフェイト・バリア

通常罠

(1) 以下の効果から1つを選択して発動できる。

●このターン、自分のモンスターは戦闘・効果で破壊されない。

●このターン、自分はダメージを受けない。

●このターン、自分のモンスター1体は1度だけ戦闘で破壊されず、その戦闘によって戦闘ダメージを受けるかわりに、その数値分、自分のライフを回復する。

(2)自分がダメージを受けた場合、墓地のこのカードを除外して発動できる。このターン、自分が受ける効果ダメージは0になる。

 

「三つ目の効果を選択、このターン、リンクスレイヤーは1度だけ戦闘で破壊されない!」

 

 リンクスレイヤーを赤いバリアが守る。

 

「さらに戦闘ダメージを受けるかわりに、その数値分だけ、俺のライフを回復する。」

 

プレイメーカー:ライフ4000→6000

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン3

 

「俺はサイバース・ウィザードを召喚し効果発動!サイバース・アルゴリズム!」

 

 サイバース・ウィザードの効果で、スープレックスは守備表示となる。

 

「さらに手札1枚を捨てて、リンクスレイヤーの効果発動!相手の魔法・罠カード1枚を破壊する!」

 

 Go鬼塚の伏せカードが破壊され、これで彼を守るものはなくなった。

 

「バトルだ!リンクスレイヤーで、スープレックスを攻撃!」

 

 リンクスレイヤーがスープレックスを切り裂く。

 

「サイバース・ウィザードの効果で貫通ダメージだ!」

 

 Go鬼塚:ライフ4000→2000

 

「剛鬼スープレックス、剛鬼チャンピオンベルトの効果発動!デッキから「剛鬼」カードを手札に加える」

「まだだ!サイバース・ウィザードで、ダイレクトアタック!イリュージョンスパイク!」

 

 Go鬼塚:ライフ2000→200

 

「これで俺はターンエンド」

 

ターン4

 

「残りライフはたった200、こりゃ楽勝だな」

「いや、まだだ」

 

 Go鬼塚はダメージに膝をついていたまま動かない。

 モニター越しにデュエルを観戦するギャラリー達が固唾を飲んで見守る。

 そして、

 

「うおぉぉぉっ!」

 

 雄叫びを上げて鬼塚は立ち上がった。

 

「いくぜ俺のターン!俺は魔法(マジック)カード、剛鬼再戦を発動!墓地のレベルが異なる剛鬼2体を守備表示で特殊召喚!俺はスープレックスとツイストコブラを特殊召喚!さらに剛鬼スープレックスをもう1体召喚!その効果で、手札から剛鬼ライジングスコーピオを特殊召喚!」

 

 がら空きの盤面に一気に四体のモンスターが並ぶ。

 

「現れろ!俺様のサーキット!」

 

 指を天に掲げると、上空にアローヘッドが出現する。

 

「召喚条件は、「剛鬼」2体以上!俺は2体のスープレックスと、ツイストコブラを、リンクマーカーにセット!」

 

 鬼塚のモンスター3体が、赤い光になってアローヘッドに吸い込まれる。

 

「リンク召喚!現れろリンク3、剛鬼ザ・グレート・オーガ!」

 

 雄叫びを上げて現れたのは、灰色の装甲をまとった屈強な戦士だった。

 

「剛鬼ザ・グレート・オーガの効果!フィールドのモンスターはその守備力分、攻撃力がダウンする!」

 

 サイバース・ウィザードの攻撃力が1000、リンクスレイヤーの攻撃力が1400にそれぞれダウンした。

 

「さらに永続魔法、剛鬼咆哮を発動!」

 

剛鬼咆哮

永続魔法

(1) 自分の「剛鬼」モンスターが攻撃するダメージステップの間、

その攻撃力は自分フィールドの「剛鬼」モンスターの数×300アップする。

 

「バトルだ!剛鬼ザ・グレート・オーガで、サイバース・ウィザードを攻撃!この瞬間、剛鬼咆哮の効果で、グレート・オーガの攻撃力は600アップ!」

 

 攻撃力3200となったグレート・オーガの斧の一振りで、サイバース・ウィザードはなすすべもなく敗れる。

 プレイメーカー:ライフ6000→3800

 

「さらにライジングスコーピオで攻撃!剛鬼咆哮の効果で攻撃力600アップ」

 

 リンクスレイヤーも攻撃力2900のライジングスコーピオに倒される。これで今度はプレイメーカーのフィールドががら空きになった。

 プレイメーカー:ライフ3800→2300

 

「俺は(トラップ)カード!サイバース・ビーコンを発動!ダメージを受けた時、デッキからレベル4以下のサイバース族モンスター1体を手札に加える。俺はバックアップ・セクレタリーを手札に加える」

「俺はカードをこれでターンエンド」

 

ターン5

 

「どうすんだ。プレイメーカー様? このままじゃ負けちまうぜ?」

「分かっている」

 

とはいえ今の手札で、この状況を打開する術はない。ならば、次のドローが勝敗を分ける。

 

「いくぞ!俺のターン、ドロー!」

 

 引いたカードを見て、プレイメーカーは勝利を確信した。

 

「俺はスタック・リバイバーを召喚。さらにバックアップ・セクレタリーを特殊召喚。現れろ!未来を導くサーキット!召喚条件はサイバース族モンスター2体!リンク召喚!リンク2、スプラッシュ・メイジ!」

 

 現れたのは泡を象った意匠のローブを身に着けた魔術師だ。

 

「スタック・リバイバーの効果で、墓地からバックアップ・セクレタリーを特殊召喚。さらにスプラッシュ・メイジの効果で、墓地からスタック・リバイバーを特殊召喚!」

 

 リンク素材となったモンスターが全てフィールドに戻ってくる。

 

「現れろ、未来を導くサーキット!召喚条件は効果モンスター2体以上!リンク召喚!」

 

 スプラッシュ・メイジとスタック・リバイバーが、アローヘッドに吸い込まれる。

 

「現れろ、リンク3、デコード・トーカー!」

「来たか。プレイメーカーのエースモンスター。だが俺はこの瞬間、(トラップ)、リビングデッドの呼び声を発動!墓地から剛鬼ツイストコブラを特殊召喚!」

 

 ツイストコブラが地面よりせり上がり、Go鬼塚のフィールドに立つ。

 

「これでお前が攻撃した瞬間、ツイストコブラの効果で攻撃力を上げることができる」

「いや、まだだ!俺は永続魔法、サイバネット・オプティマイズを発動!バトルだ!デコード・トーカーで、グレート・オーガをアタック!」

「迎え撃て!グレート・オーガ!オーガ・アックス!」

 

 デコード・トーカーの剣と、グレート・オーガの斧がぶつかり合う。

 

「デコード・トーカーはリンク先のモンスターの数×500攻撃力がアップする!」

「だが、こちらもツイストコブラの効果発動!モンスターをリリースして、グレート・オーガの攻撃力をアップする───っ!」

 

 効果発動宣言をしたにも関わらず、ツイストコブラは動かなかった。

 

「何故だ!?」

「サイバネット・オプティマイズの効果!コード・トーカーモンスターがバトルする時、相手はダメージステップ終了時まで、効果を発動できない」

「なんだとっ!!」

 

 デコード・トーカーの一振りで、グレート・オーガの斧は弾き飛ばされる。

 

「終わりだ!デコード・エンド!」

 

 ◆

 

 デュエルが終わり、闘技場のバリアが解除された。

 Go鬼塚は膝をついたまま動かない。

 

「お、おい。大丈夫か?」

 

 Aiが心配そうに鬼塚の方を見る。

 

「‥‥‥くくくっ、ははははは!」

「お、壊れたか?」

「俺の負けだプレイメーカー」

 

 Go鬼塚は立ち上がり、プレイメーカーに歩み寄って右手を差し出す。

 プレイメーカーは少し迷ってから、同じく右手を出した。

 

 二人のデュエルに、ギャラリーは喝采を送った。

 



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第3話:Center is maine

お待たせしました。
ブルーエンジェルこと葵ちゃんのメイン回です。


 LINK VRAINS内、データストリームに乗って二人のデュエリストがデュエルを繰り広げていた。

 

「これで止めよ!トリックスター・ホーリーエンジェルでダイレクトアタック!」

 

 ブルーエンジェルのモンスターが、敵のデュエルを吹き飛ばす。

 

「WINNER!ブルーエンジェル!LINKVRAINSのアイドルが今日も華麗に決めたぞっ!」

 

 彼女のデュエルに、多くのギャラリーが歓声を上げる。

 

「はい!今日のライブはおしまい!みんなー、次のライブまでいい子にしてるんだぞ♪」

 

 カメラに向かってウィンクを決めて、ブルーエンジェルは去っていった。

 

 ◆

 

「はぁ~」

 

 ログアウトするやいなや、葵は机に伏して深いため息を吐いた。

 

「どうしたのですか? デュエルは無事勝てたのに」

「そうよ。勝ったわよ。なのに」

 

 葵はタブレットを美海に見せる。

 それはSNSのタイムラインだ。ブルーエンジェルのデュエルの直後であるにも関わらず、皆の話題はプレイメーカー一色だった。

 

「なるほど。彼に人気を取られているのが気に入らないと」

「そうよ。Go鬼塚に勝ったせいで、ますます注目を集めちゃって。ほんと、あのゴリラ余計なことしたわね」

「口がよろしくないですよ」

 

 その時、葵のデュエルディスクから着信音がなる。

 

「お兄様からだわ」

 

 葵はすぐに電話に出る。

 

「お兄様、どうしたの?」

「いや、一つ聞きたいんだが、お前、LINKVRAINSにはよく行くのか?」

「「!!」」

 

 まさかブルーエンジェルの正体がバレたのかと、二人は冷や汗を流す。

 

「え、えーっと、たまに行くくらいだけど」

「そうか。最近ハノイの騎士の動きが活発になってきているから、しばらくログインは控えた方がいい」

「……それだけ?」

「それだけだが、何かあるのか?」

「ううん。何でもないわ。お兄様」

「そうか。じゃあくれぐれも気を付けるんだぞ」

 

 そう言って晃は通話を切った。

 

「焦った~」

「心臓が止まるかと思いましたよ……」

 

 ブルーエンジェルとしての活動を、万一にでも晃に知られれば、妹を溺愛する彼がどのような反応をするかは想像に難くない。

 

「まあ実の妹が『次のライブまでいい子にしてるんだぞ♪』とか言ってたら、卒倒しますよね。胸盛ってるし」

「胸は関係ないでしょ!」

 

 美海に弄られて、葵は頬を膨らませる。

 

「このままじゃ駄目!こうなったら私がプレイメーカーに勝つしかない」

「プレイメーカーに勝つといっても、そもそも彼とどうやってデュエルするつもりですか? Go鬼塚のようにハノイに化けます? いくら何でも、同じ手に二度も引っ掛かるとは思えませんが」

「考えがあるわ」

 

 すると彼女はものすごい早さでSNSに書き込みを始める。

 

「何をしているんですか?」

「フォロワーに呼び掛けてるのよ。私の20万人のファンの力でプレイメーカーを探してもらう」

「えげつない……」

 

 早速大量のリプやDMがブルーエンジェルのアカウントに届く。

 

「全く、学校でもそれくらい愛想よくしていれば、友達くらいすぐにできるものを」

 

 葵の様子に、美海は小さくため息を吐いた。

 

 ◆

 

 同刻、草薙のキッチンカーにて、

 

「見ろよ。ブルーエンジェルがSNSでプレイメーカーを探してるぜ」

 

 Aiがデュエルディスクの中から、モニターに映るタイムラインを覗いてニヤニヤしている。

 

「放っておいても大丈夫だろう。いつも通りログは消してあるし、そう簡単に補足されないよ」

 

 草薙はコンソールを叩いて画面を切り替える。

 

「今はこっちだな」

 

 映ったのはある女子の顔写真だった。

 

「財前葵か」

「ああ。お前と同じクラスで、SOLテクノロジーのセキュリティ部長、財前晃の妹だ。それからもう一人」

 

 別の女子の顔がホップアップする。

 

「湊美海。財前家の使用人で、SOLテクノロジーの傭兵デュエリストも務めているらしい」

「湊、美海……」

 

 その名前に、遊作が怪訝な顔を見せた。

 

「どうした?」

「いや、何でもない」

「そうか……まあ湊美海に関して情報がほとんどない。何せSOLテクノロジーに雇われてるといっても、彼女のデュエル記録が残っていない。デッキの内容すら不明だ」

「というか、どうしてSOLテクノロジーを調べてるんだ?」

 

 Aiの疑問に答えたのは意外にも遊作だった。

 

「この前のGo鬼塚からのデュエル、あれはSOLテクノロジーが裏で糸を引いていた。加えて前回の大規模スキャン。奴らがお前を欲しがっているのは間違いない」

「やーん。Aiちゃんモテモテ~」

 

 ふざけているAiを無視して、遊作は画面を操作する。

 

「この二人に接触して、SOLの情報を聞き出す」

「いや、でも遊作には難しいんじゃない?」

「どうしてだ。草薙さん」

「だってお前が女子と話すところなんて、想像できないもんな」

「確かに!」

 

 Aiと草薙が大笑いするのを、遊作は不機嫌そうに見ていた。

 

 ◆

 

 翌日の放課後、遊作はすぐには帰らずに学校の校舎を探索していた。

 

「それで、どうやって財前葵に話しかけるんだ?」

「彼女はデュエル部の部員らしい。デュエル部に体験入部させてもらえば、話すきっかけもできるだろう」

「ここだけ聞くと、好きな女の子に近付こうとしてるみたいだな」

 

 Aiの感想は無視して、遊作はデュエル部の門を叩いた。

 

 ガラッ

 

 扉を開けて出てきたのは、見知った少年だった。

 

「おお藤木じゃねぇか」

「……島、なぜお前が」

「なんだよ。俺がデュエル部員で悪いかよ」

 

 まだ名前を憶えて数日の関係だが、既にこの島直樹という男に対して、腐れ縁のようなものを遊作は感じていた。

 

「お前、ひょっとしてデュエル部に入りたいのか?」

「今日は見学だけだ」

「じゃあ俺がデュエル教えてやろうか」

「結構だ」

 

 とりあえず部室に入ると、中の人間を見渡す。

 部員はザッとみたところ男女合わせて6人。しかし、その中に財前葵の姿は見当たらなかった。

 

「財前はいないのか?」

「なんだ。ひょっとして藤木もこの新型デュエルディスクが目当てなのか?」

「何故そこでそれが出てくる」

「うちの部は財前のコネで、新型デュエルディスクをいち早く手に入れられるんだよ」

「私に何か用?」

 

 すると、葵も遅れて部室に入ってきた。

 

「藤木くん、あなたもデュエリストだったのね」

「ああ」

「……」

「……」

「いやお前ら喋れよ!」

 

 島に突っ込まれても、二人はこれといって話すことがないのか、黙ったままだった。

 

「遊作、お前やっぱコミュ障だろ……」

 

 Aiは他の人間には聞こえないように小さく呟いた。

 

 ◆

 

 その後もコミュ障(ゆうさく)コミュ障(あおい)の会話が弾むことはなく、島に間に入ってもらうことで、どうにか会話らしい会話をするだけで、有益な情報はほとんど得られなかった。

 

「やれやれ、遊作だけじゃなく、財前葵までコミュ障だなんて、これじゃ仲良くなるのに何年かかんだよ」

「俺は別に仲良くなりたいわけじゃない」

「仲良くなんなきゃ、情報なんて聞きだせねぇだろ。そういえば、プレイメーカー捜索隊の方だけど」

「なんだそれは?」

「ブルーエンジェルが、自分のファンを使ってお前を探させてただろ。今日ブルーエンジェルがLINK VRAINS内でもプレイメーカー捜索を呼びかけるらしいぞ」

 

 Aiがデュエルディスクを操作して、ホログラムウィンドウを投影する。

 

『はーいみんなー!今日は集まってくれてありがとう!』

 

 LINK VRAINSの特設ステージ、そこで彼女は集まった多くのギャラリーに向けて手を振っている。

 

『私、ブルーエンジェルは、プレイメーカーとデュエルして勝つことを宣言しまーす』

 

 彼女の宣言に、会場の人々は沸き立つ。

 

『でもプレイメーカーは神出鬼没、だからみんなに、プレイメーカーを探して欲しいの』

 

 上目遣いで、媚びるような視線を観客、そして画面の向こうの視聴者に送る。

 それにすっかり乗せられたギャラリーは、我こそはと次々にプレイメーカー捜索に名乗りを上げ始めた。

 

「人間ってのは単純だな」

「……一応、警戒はしておいた方がいいか」

 

 ◆

 

 同刻、LINK VRAINS内のあるエリア、特殊なプロテクトによって隔離された場所でブルーエンジェルの中継を眺める一人の少年がいた。

 

 年齢は遊作と同じくらいか───アバターの姿など参考にはならないが───エメラルド色の長めの髪、顔の右半分を覆うほど刺青を入れている。

 

「くくくっ、面白そうなことやってんなぁ」

 

 彼は嬉しそうに笑う。

 

「雑魚ハッカー共じゃ頼りねぇ。俺も一枚噛ませてもらうか」

 

 恍惚とした不気味な笑みを浮かべ、キーボードを操作し始めた。

 

 ◆

 

 翌朝、遊作の目を覚ましたのはアラームではなく、草薙からの電話だった。

 

「どうしたんだ? こんな朝早くに」

『大変だ!お前のアカウントが特定されかかっている!』

「なんだと!?」

 

 遊作はすぐに自室のPCを起動して状況を確認する。

 SNS上で、遊作の通っている学校、LINK VRAINSにログインしている時間帯などの個人情報が晒されていた。

 

「おいおいヤバいんじゃねぇの?」

「落ち着け。見ろ、この情報はあくまでこいつの推測だ。だが……」

 

 ここまでの精度で情報を集められるハッカーが紛れていたとなれば、正体がバレるのも時間の問題だろう。

 

「……仕方ない」

 

 遊作はデュエルディスクを装着する。

 

「イントゥザヴレインズ!」

 

 ◆

 

 プレイメーカーがログインすると、待ち構えるようにブルーエンジェルが建物の屋根の上に立っていた。

 

「来たわね。プレイメーカー」

 

 プレイメーカーに向けてビシッと指さす。

 

「このデュエルであなたを倒して、私はLINK VRAINSの頂点に立つわ」

「その前に、俺が勝ったら、俺の正体を詮索するのを止めさせろ」

「えぇ。約束するわ」

「それで、レギュレーションはどうする?」

「当然スピードデュエル」

「分かった」

 

 二人はDボードを出現させ、流れるデータストリームに飛び乗る。

 

「「スピードデュエル」」

 

 ◆

 

 その頃、葵の部屋では、

 

「全く、こんなに派手にやって。SOLに目をつけられたら晃様にも……」

 

 ぶつぶつと文句を言いながら、美海は葵のために隠蔽工作を行う。

 

「とりあえずIPを変えて、それからログも消去、念のためダミーも……ん?」

 

 そこでふと、パソコンに映る情報から彼女はあることに気付いた。

 その瞬間、彼女はSNSの書き込みを急いで削除した後、自分のデュエルディスクを装着した。

 

「イントゥザヴレインズ!」

 

 ◆

 

ターン1 ブルーエンジェル

 

「私はフィールド魔法、トリックスター・ライトステージを発動!」

 

 周囲が暗闇に染まる。

 

「なんだ?」

「さぁ、これが私達のステージよ!」

 

 暗闇に光が灯る。

 赤、緑、黄、色とりどりのペンライトの光がLINK VRAINSを飾った。

 

「ライトステージの発動時の処理で、デッキからトリックスター・リリーベルを手札に加え、その効果で自身を特殊召喚!」

 

 ステージに巨大なベルを振りながら、赤いツインテールの少女が降り立った。

 

「続けて、トリックスター・キャンディナを召喚。効果でデッキからトリックスター・マンジュシカを手札に。そしてマンジュシカの効果で自身を特殊召喚し、キャンディナを手札に戻す」

 

 キャンディナがクルッと宙返りすると、入れ替わるようにマンジュシカが現れる。

 

魔法(マジック)カード!トリックスター・ハルシネイションを発動!手札からトリックスター・キャンディナを、効果を無効にして特殊召喚」

 

 キャンディナが再び現れて、彼女のモンスターゾーンが可憐な少女たちで埋められる。

 

トリックスター・ハルシネイション

通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1)手札から「トリックスター」モンスター1体を、効果を無効にして特殊召喚する。その後、お互いデッキから1枚ドローする。この効果で特殊召喚したモンスターは「トリックスター」リンクモンスター以外のリンク素材にできない。

(2)「トリックスター」リンクモンスターが戦闘で破壊される場合、かわりに墓地のこのカードを除外できる。

 

「ここからがトリックスター真骨頂!さらにトリックスター・ハルシネイションの効果でお互い1枚ドロー!」

「お、手札貰えたじゃん。ラッキー」

「ここでトリックスター・マンジュシカの効果!相手がカードを手札に加えた時、相手に200ダメージを与える!」

 

 マンジュシカがレイピアを振ると、プレイメーカーに衝撃波が飛ぶ。

 

「ライトステージの効果!トリックスターが相手にダメージを与えた時、さらに200のダメージ!」

 

 プレイメーカー:ライフ4000→3600

 

「うぇ、アンラッキー」

 

 Aiは立て続けのダメージに顔をしかめる。

 

「バーンデッキか」

「まだまだこれからよ!出てきて。夢と希望のサーキット!」

 

 ブルーエンジェルがウィンクすると、彼女の視線の先にアローヘッドが出現する。

 

「召喚条件はトリックスター2体!」

 

 ステージ上を彩るペンライトが青一色に染まる。

 キャンディナとリリーベルの2体がお辞儀をして飛び、アローヘッドに吸い込まれた。

 

「リンク召喚!出てきてリンク2!トリックスター・ホーリーエンジェル!」

 

 現れたのは白く長い髪と翼をはためせる美しい女性型のモンスターだ。

 

「私はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン2 プレイメーカー

 

「俺のターン、ドロー!」

「この瞬間、マンジュシカの効果で相手に200ダメージ!」

 

ライフ3600→3400

 

「ライトステージの効果でさらに200ダメージ!」

「ぐっ!」

 

ライフ3400→3200

 

「さらに(トラップ)カード!トリックスター・リンカーネイションを発動!相手の手札を全て除外して、その枚数分、相手はカードをドローする!」

 

 プレイメーカーの手札がデータの破片となって消える。

 

「さあカードを6枚ドローしなさい」

「……」

 

 プレイメーカーがカードを引く。

 

「マンジュシカの効果で、手札に加えた枚数×200のダメージ!ライトステージの効果と合わせて1400ダメージ!」

 

 ライフ3200→1800

 

「トリックスター・ホーリーエンジェルの効果!「トリックスター」モンスターの効果でダメージを与えた時、ターン終了時ま、その数値分、自身の攻撃力をアップする!」

「ホーリーエンジェルの攻撃力が3200になっちまったぞ。どうすんだ?」

「突破するしかない。俺は自分フィールドにモンスターが存在しない時、このカードは手札から特殊召喚できる。こいリンクスレイヤー!」

 

 リンクスレイヤーが剣を構える。

 

「続けてバックアップ・セクレタリーを特殊召喚。さらにサイバース・コンバーターを特殊召喚!このカードは自分フィールドのモンスターがサイバース族のみの場合、手札から特殊召喚できる」

「モンスター3体、来るわね」

「現れろ。未来を導くサーキット!」

 

 データストリームが渦を巻き、プレイメーカーの進む先にアローヘッドが出現する。

 

「召喚条件は効果モンスター2体以上、リンク召喚!来いデコード・トーカー」

 

 青い鎧をまとった電子の騎士が、プレイメーカーの傍らに降り立った。

 

「プレイメーカーのエースモンスター」

「俺はディフェクト・コンパイラーを通常召喚」

 

 ディフェクト・コンパイラーがデコード・トーカーのリンス先に出てきたことで、デコード・トーカーの攻撃力は2800となる。

 

「俺は手札のユニット・コンバーターの効果発動!」

 

ユニット・コンバーター

効果モンスター

星6/水属性/サイバース族/攻 1800/守 2500

このカード名の(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しか使用できない。

(1)相手のリンクモンスター以外のメインモンスターゾーンのモンスター1体をリリースして、このカードを相手フィールドに守備表示で特殊召喚できる。

(2)このカードのコントローラーは1ターンに1度しかリンク召喚できない。

 

「トリックスター・マンジュシカをリリースして、このカードを相手フィールドに特殊召喚!」

 

 マンジュシカの生け贄に、デコード・トーカーの正面、つまりそのリンク先に特殊召喚される。

 

「デコード・トーカーはリンク先のモンスターの数×500攻撃力がアップする!パワーインテグレーション!」

「これで攻撃力は3300。ホーリーエンジェルを上回ったぜ」

「バトルだ!デコード・トーカーでホーリーエンジェルを攻撃!」

「墓地のトリックスター・リンカーネイションの効果発動!このカードを墓地から除外して、墓地のトリックスターを特殊召喚!」

 

 ペンライトが赤に染まり、フィールドに花びらが舞う。赤い花吹雪の中からマンジュシカが姿を現した。

 

「トリックスター・ホーリーエンジェルの効果!リンク先にモンスターが特殊召喚された時、相手に200ダメージを与える!」

 

 これを食らえば、ホーリーエンジェルの攻撃力は再び上がり、デコード・トーカーを上回ってしまう。

 

「俺はディフェクト・コンパイラーの効果!効果ダメージを受ける時、かわりにこのカードにディフェクト・カウンターを置く!」

 

 ホーリーエンジェルから放たれた魔法の弾丸は、ディフェクト・コンパイラーの発生させたバリアに吸い込まれる。

 

「さらにディフェクト・コンパイラーの効果発動!ディフェクト・カウンターを使うことで、デコード・トーカーの攻撃力を800アップする!」

 

 デコード・トーカーの攻撃力は4100まで上昇する。

 

 その一撃を防ぐことはできず、ホーリーエンジェルはやられてしまった。

 

 ブルーエンジェル:ライフ4000→3100

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン3

 

「やるわね。私のターン」

「先に言っておくが、ユニット・コンバーターの効果で、お前は1ターンに1度しかリンク召喚ができない」

「私のリンク召喚を封じるのが狙い? でも無駄よ。私は装備魔法、トリックスター・マジカローラを発動!墓地からトリックスター・ホーリーエンジェルを特殊召喚してこのカードを装備」

 

 ホーリーエンジェルが花飾りをかぶって再び現れる。

 

「さらにトリックスター・ライトステージの効果発動!相手のセットされたカード1枚はこのターンのエンドフェイズまで発動できず、相手はエンドフェイズにそれを発動するか、墓地に送る」

「くっ……」

 

 伏せカードを封じられて苦い顔をする。

 

「さあバトルよ!まずはユニット・コンバーターでディフェクト・コンパイラーを攻撃!」

 

 プレイメーカーが送りつけたサイバースモンスターが、プレイメーカーの守りの要を破壊する。

 リンク先のモンスターを失ったことで、デコード・トーカーの攻撃力は2800までダウンした。

 

 プレイメーカー:ライフ1800→1200

 

「そして私のスキル!トリックスター・フロードを発動!手札のトリックスターを墓地に送り、相手は手札が3枚になるようにドローする!」

 

 手札0のプレイメーカーに3枚もの手札をプレゼントした格好だが、当然それだけでは終わらない。

 

「マンジュシカとライトステージの効果で800ダメージ」

 

 効果ダメージを食らい、プレイメーカーは残りライフ400まで追い詰められる。

 

「ホーリーエンジェルは攻撃力が600アップ!さらに墓地に送られたトリックスター・メルキーの効果発動!」

 

トリックスター・メルキー

効果モンスター

星2/光属性/天使族/攻 800/守 400

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが墓地に送られた場合、自分フィールドに「トリックスター」リンクモンスターがいれば発動できる。相手に200ダメージを与える。

(2)このカードが墓地に存在し、自分フィールドの「トリックスター」リンクモンスターが相手に戦闘・効果でダメージを与えた場合に発動できる。このカードを墓地からそのリンクモンスターのリンク先に特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたこのカードはフィールドを離れた場合、除外される。

 

「相手に200ダメージを与える。ホーリーエンジェルはさらに攻撃力アップ!」

 

 これで攻撃力2800となり、デコード・トーカーに並んだ。

 

「トリックスター・ホーリーエンジェルでデコード・トーカーを攻撃!」

「相討ち狙いか」

「いいえ、倒されるのはあなただけよ。墓地のトリックスター・ハルシネイションの効果!「トリックスター」リンクモンスターが戦闘で破壊される時、墓地のこのカードを除外して身代わりにできる」

 

 ホーリーエンジェルが鞭を振るい、デコード・トーカーを締め上げると、そのまま場外へ投げ飛ばしてしまった。

 

「これで終わりよ!マンジュシカでダイレクトアタック!」

「そこまでだ!手札のダイレクト・ジャマーの効果発動!」

 

ダイレクト・ジャマー

効果モンスター

星1/闇属性/サイバース族/攻 0/守 0

(1)相手の直接攻撃宣言時に発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。その後、バトルフェイズを終了させる。

 

「このカードを手札から特殊召喚!その後、バトルフェイズを終了させる」

「ふふっ、やっぱり簡単じゃないわね。私はこれでターンエンド!さぁこのデュエル、もっと盛り上げて、一緒に楽しみましょう」

 

ターン4

 

「楽しむか……」

 

 ブルーエンジェルの言葉に、プレイメーカーは少し寂しそうな顔を見せる。

 

「悪いが、俺にデュエルを楽しむなんて感情はない」

「えっ……!」

「いくぞ。俺はサイバース・ウィザードを召喚。自分のサイバース族モンスターが召喚された時、ブート・スタッガードを手札から特殊召喚!」

 

 プレイメーカーのフィールドに再び三体のモンスターが並ぶ。

 

「サイバース・ウィザードの効果でマンジュシカを守備表示に変更する。現れろ。未来を導くサーキット!召喚条件はサイバース族モンスター2体!リンク召喚!スプラッシュ・メイジ!」

 

 アローヘッドより、スプラッシュ・メイジが飛び出し、その能力で墓地からサイバース・ウィザードを蘇生させる。

 

「現れろ!未来を導くサーキット!リンク召喚!リンク3、エンコード・トーカー」

 

 現れたのは光輝く大盾を携えた電子の騎士だ。

 

「バトルだ!サイバース・ウィザードでホーリーエンジェルを攻撃!」

「え!?」

 

 サイバース・ウィザードの攻撃力は1800。ホーリーエンジェルの攻撃力2000に届いていない。どころかライフ200しかないプレイメーカーはそのまま戦闘ダメージを食らって負けてしまう。

 

「エンコード・トーカーの効果発動!リンク先のモンスターは戦闘では破壊されず、戦闘ダメージも0になる。そして戦闘を行った相手モンスターの攻撃力分、エンコード・トーカーの攻撃力をアップする」

「攻撃力4300!?」

「バトルだ!エンコード・トーカーでホーリーエンジェルを攻撃!」

 

 エンコード・トーカーが大盾を構えて突進する。

 

「ファイナルエンコード!」

 

 ホーリーエンジェルを突飛ばし、そのまま盾を槍のように振り回して、ホーリーエンジェルを切り裂いた。

 

 ◆

 

 デュエルが終了した後、やや放心状態の葵はファンサービスもそこそこにログアウトした。

 

「デュエルを楽しめない……」

 

 彼の悲壮と怒りが混じった表情を思い出す。

 

 思い返してみれば、彼は自分とのデュエルでも、Go鬼塚とのデュエルでも、一度も笑顔を見せたことがなかった。

 

「どういう意味なんだろう……」

 

 そこで彼女はふと、自分の机に座る美海の方に目をやる。

 彼女は椅子にもたれ掛かったまま動かない。見ると、その左腕に装着されたデュエルディスクは起動していた。

 

「ログインしてるの?」

 



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第3.5話:Crossing Cybers

オリキャラ同士のデュエルです。


 それはプレイメーカーとブルーエンジェルのデュエルが開始する少し前、彼らに声援を送る人々の頭上をDボードに乗った少年が通り過ぎる。

 

「あ?」

 

 その直後、彼の視界の景色が乱れる。

 

 気付くと、青いトンネルのような空間へと転送されていた。

 

「やはり来ましたね」

 

 彼に立ちふさがるように出現したのは、Dボードに乗った一人の少女だった。

 水色のショートカットの髪、弾帯ベルトのような装飾を施した青いコンバットスーツ、美海のLINK VRAINSでのアバターだ。

 

「そのアバター、SOLのデュエリスト……待ち伏せしてやがったのか」

「えぇ。ブルーエンジェルの呼び掛けに応じた人の中に、一人だけ随分優秀なハッカーがいたもので」

「まああんだけ派手にやりぁ、目つけられんのも無理ねぇか」

 

 実際は葵がSOLに目をつけられる前に、彼女が一人で処理しに来ただけなのだが、彼には知るよしもないことだ。

 

「あなたは何者ですか?」

「ゴッドバード、しがないハッカーだ」

「目的は?」

「プレイメーカーを呼び出したのは俺の手柄だろ? なら俺が先に遊びに行ってもバチ当たんないだろ?」

 

 彼の目的はプレイメーカーだと分かり、美海はひとまず安堵した。

 この能力をもし葵に向けられていたら、美海でも彼女を守るのは難しいだろう。

 

「どうせここから出るには、テメェをデュエルで倒すしかないんだろ?」

「話が早くて助かります。では参りましょう」

 

「「スピードデュエル!」」

 

ターン1ゴッドバード

 

「自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない時、手札の敵性機兵(エリミネーター)ジャイロードを特殊召喚」

 

 爪のようなパーツがついた円盤型の機械が現れる。

 

「このカードの特殊召喚に成功した時、デッキから「エリミネーター」1体を特殊召喚する。来い、敵性機兵(エリミネーター)ラントリクター!」

 

 小型の飛行機のような物体が飛来する。

 

「ただし、この効果発動後、俺はターン終了時までメインモンスターゾーンにモンスターを特殊召喚できない。現れろ!未来を貫くサーキット!」

 

 デートストリームが渦を巻き、コース上にアローヘッドが出現する。

 

「召喚条件はレベルが同じモンスター2体!」

 

 Dボードが加速し、2体のモンスターと共にアローヘッドを突き抜ける。

 

「リンク召喚!敵性機兵(エリミネーター)ローディング・チャージャー!」

 

敵性機兵(エリミネーター)ローディング・チャージャー

リンク·効果モンスター

風属性/サイバース族/攻 1000/LINK2

同じレベルのモンスター2体

(1)リンク召喚したこのカードは、リンク素材となったモンスターと同じレベルのモンスターとしてX召喚の素材にでき、このカードのリンクマーカーの数と同じ数のモンスターとしてX召喚の素材にできる。

(2)X素材となったこのカードが墓地に送られた場合に発動できる。除外されている「エリミネーター」モンスター2体を自分のXモンスターの下に重ねてX素材とする。

 

「モンスターの特殊召喚を封じてまで出したのが攻撃力1000のモンスター。いや、それよりも……」

 

敵性機兵(エリミネーター)ジャイロード

効果モンスター

星4/風属性/サイバース族/攻 1000/守 1000

このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合、このカードを手札から特殊召喚できる。

(2)このカードが(1)の方法による特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「エリミネーター」モンスター1体を特殊召喚する。この効果発動後、ターン終了時まで自分はメインモンスターゾーンにモンスターを特殊召喚できない。

(3)相手ターン中、自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合、墓地のこのカードを除外して発動できる。デッキから「エリミーション」罠カード1枚をセットする。この効果でセットしたカードは、セットしたターンにも発動できる。

 

敵性機兵(エリミネーター)ラントリクター

効果モンスター

星4/風属性/サイバース族/攻 1400/守 500

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分フィールドにサイバース族モンスターが存在する場合、このカードを手札から特殊召喚できる。

(2)相手ターン中、自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合に墓地のこのカードを除外して発動できる。デッキから「エリミネーション」魔法カード1枚をセットする。この効果でセットしたカードは、セットしたターンにも発動できる。

 

(彼のカード、サイバース族)

 

「これで終わりじゃねぇぞ。ローディング・チャージャーの効果!このカードはリンク素材となったモンスターと同じレベルのモンスターとして、エクシーズ召喚の素材できる!」

「なっ!?」

「俺はレベル4扱いのローディング・チャージャーでオーバーレイネットワークを構築!」

 

 彼の前後にエックス型のパネルが出現する。

 すると、ローディング・チャージャーがデータの粒子となって消え、それらを繋ぐように光の道となる。

 

「エクシーズ召喚!現れろ!ランク4!」

 

 光が爆ぜる。

 

敵性機兵(エリミネーター)コンパイル・ブラスター!」

 

 現れたのは、体の中央にレールガンを備えた、歪な機械仕掛けの竜だった。

 

敵性機兵(エリミネーター)コンパイル・ブラスター

エクシーズ·効果モンスター

ランク4/風属性/サイバース族/攻 2300/守 2000

風属性·レベル4·効果モンスター×2体以上

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードの攻撃力·守備力はこのカードがX素材として持つリンクモンスターのリンクマーカーの数×300アップする。

(2)相手の特殊召喚されたモンスターが効果を発動した時、このカードのX素材1つを取り除いて発動できる。その効果を無効にする。この効果発動のためにリンクモンスターを取り除いていた場合、かわりにその効果を無効にして破壊し、相手に500ダメージを与える。

(3)このカードが効果で破壊される場合、かわりこのカードのX素材1つを取り除くことができる。

 

「レベルを持たないリンクモンスターで、エクシーズ召喚を……」

「コンパイル・ブラスターはオーバーレイユニットのリンクモンスターのリンクマーカーの数×300攻撃力がアップする。俺はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン2 美海

 

「私のターン!」

「ここで墓地のジャイロード、ラントリクターの効果発動!」

 

 美海の宣言に割り込んで、ゴッドバードが効果を発動する。

 

「墓地のこのカードを除外して、デッキから「エリミーション」魔法カード、「エリミーション」罠カードをそれぞれセットする」

「では今度こそ。私は原初海祈シーライブラを召喚!」

 

原初海祈(オリジンブルー)シーライブラ

効果モンスター

星4/水属性/サイバース族/攻 1000/守 1600

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードの召喚·特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「原初海祈(オリジンブルー)シーライブラ」以外の「オリジンブルー」カード1枚を手札に加える。

(2)このカードが他のモンスターゾーンに移動した場合に発動できる。手札から「原初海祈シーライブラ」以外の「オリジンブルー」モンスター1体を守備表示で特殊召喚する。

 

「そいつは、サイバース……」

「サイバースを使えるのがあなた方だけだと思わないことです。シーライブラの効果で、デッキから「原初海祈メガロガー」を手札に加えて効果発動」

 

原初海祈(オリジンブルー)メガロガー

効果モンスター

星3/水属性/サイバース族/攻 1300/守 500

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できず、発動するターン、自分はサイバース族モンスターしか特殊召喚できない。

(1)自分フィールドの水属性モンスター1体を対象として発動できる。対象のモンスターを隣のメインモンスターゾーンに移動させ、手札からこのカードを特殊召喚する。

(2)このカードが墓地に存在する場合、自分フィールドの「オリジンブルー」モンスター1体を対象として発動できる。対象のモンスターを隣のメインモンスターゾーンに移動させ、このカードを特殊召喚する。この効果で特殊召喚したこのカードはフィールドを離れた場合、除外される。

 

「自分の水属性モンスターを隣のメインモンスターゾーンに移動させることで自身を特殊召喚。さらにシーライブラの効果、このカードが移動した時、手札から「オリジンブルー」モンスターを特殊召喚できる。私はアノマロトレスを特殊召喚」

 

原初海祈(オリジンブルー)アノマロトレス

効果モンスター

星3/水属性/サイバース族/攻 800/守 800

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分フィールドのこのカード以外の「オリジンブルー」モンスター1体を対象として発動できる。対象のモンスターを隣のメインモンスターゾーンに移動させ、元々の位置にそのカードと同じレベル·種族·属性の「オリジンブルー·トークン」(攻/守0)1体を特殊召喚する。この効果発動後、ターン終了時まで、自分は水属性モンスターしか特殊召喚できない。

(2)墓地のこのカードを除外し、自分フィールドの水属性モンスター1体を対象として発動できる。対象のカードを隣のメインモンスターゾーンに移動させる。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

「来なさい。未来を繋ぐサーキット!召喚条件は水属性効果モンスター2体以上!」

 

 彼女の三体のモンスターがアローヘッドに吸い込まれる。

 

「リンク召喚!原初海祈(オリジンブルー)タイタニーニャ」

 

 それは奇妙なオブジェだった。

 ハート型の巨大な水晶。背面には蝶の羽を象った飾り、先端部に青い女性の形をした彫像がついている。

 

原初海祈(オリジンブルー)タイタニーニャ

リンク·チューナー·効果モンスター

水属性/サイバース族/攻 0/LINK3

【リンクマーカー:右下/下/左下】

水属性·効果モンスター2体以上

(1)リンク状態のこのカードは相手の効果を受けず、攻撃対象にならない。

(2)このカードのリンク先のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターをチューナーとして扱う。その後、このカードのリンク先のモンスターのみを素材としてサイバース族Sモンスター1体をS召喚する。この効果は相手ターンでも発動できる。

(3)自分のモンスターの位置が移動する度に、このカードにバックログカウンターを1つ置く。

(4)自分フィールドのモンスターの攻撃力は、このカードのバックログカウンターの数×200アップする。

 

「攻撃力0、てことは何かあるんだろうが無駄だ。俺のコンパイル・ブラスターには相手の特殊召喚されたモンスターの効果を無効にする効果がある。どんな強力な効果を持ってようが通用しねぇ」

「それはどうでしょうか。私は原初海祈(オリジンブルー)アンモジュールを特殊召喚」

 

原初海祈(オリジンブルー)アンモジュール

効果モンスター

星4/水属性/サイバース族/攻 1700/守 0

このカード名の(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しか行えず、このカード名のカードを特殊召喚するターン、自分は水属性モンスターしか特殊召喚できない。

(1)自分フィールドにモンスターが存在しない、または水属性モンスターのみの場合、このカードを手札から特殊召喚できる。

(2)このカードが他のモンスターゾーンに移動した場合に発動できる。デッキから「オリジンブルー」魔法・罠カード1枚を手札に加える。

 

「リンク先にモンスターがいることで、タイタニーニャは相手の効果を受けず、攻撃対象にもなりません」

「チッ、そういうことか……」

「さらに墓地のメガロガーの効果、オリジンブルー1体を隣に移動させることで自身を特殊召喚。自分のモンスターが移動したので、タイタニーニャにバックログカウンターを置きます」

 

 タイタニーニャの体の水晶の中に、白い小さな光が一つ点灯する。

 

「タイタニーニャの効果、リンク先のモンスター1体をチューナーとして扱い、リンク先のモンスターのみを素材としてシンクロ召喚を行う!」

 

 タイタニーニャから青い触手が伸びて、メガロガーに突き刺さる。

 

「私はレベル4のアンモジュールに、レベル3チューナー扱いのメガロガーをチューニング!」

 

 二体のモンスターが消滅し、タイタニーニャの背後で二つのリングに変わる。

 

「シンクロ召喚!」

 

 リングが重なり、分裂する。

 

「レベル7、原初海祈(オリジンブルー)プレシオルタ!」

 

 現れたのは、長い首をうねられる美しい水竜だ。

 

原初海祈(オリジンブルー)プレシオルタ

シンクロ·効果モンスター

星7/水属性/サイバース族/攻 2300/守 2000

水属性チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

(1)このカードが効果で隣のメインモンスターゾーンに移動する場合、かわりにリンクモンスターのリンク先となるメインモンスターゾーンに移動できる。

(2)1ターンに1度、自分フィールドのバックログカウンター1つを取り除いて発動できる。このカードと同じ縦列の相手のカードを全て手札に戻す。この効果は相手ターンでも発動できる。

(3)1ターンに1度発動できる。このカードを隣のメインモンスターゾーンに移動させる。

 

「プレシオルタの効果で、自身を隣のメインモンスターゾーンに移動させる。移動したので、さらにタイタニーニャにバックログカウンターを置きます」

 

 プレシオルタがコンパイル・ブラスターの正面に移動する。

 

「わざわざタイタニーニャのリンク先からモンスターを退けた?」

「プレシオルタの効果!バックログカウンター1つを使うことで、このカードと同じ縦列の相手のカード全てを手札に戻す」

「チッ!そうは行くか!俺はコンパイル・ブラスターの効果発動!オーバーレイユニットを1つ使うことで、相手の特殊召喚されたモンスターの効果を無効にする!さらにリンクモンスターを使って発動していれば、無効にして破壊!さらに相手に500ダメージを与える!リジェクトコンパイル!」

 

 コンパイル・ブラスターのレールガンが瞬く。

 

 一閃。

 

 プレシオルタを跡形もなく吹き飛ばした。

 

 美海:ライフ4000→3500

 

「ローディング・チャージャーの効果!オーバーレイユニットとなったこのカードが墓地に送られた時、除外されている「エリミネーター」モンスター2体を俺の「エリミネーター」エクシーズのオーバーレイユニットにする」

「ですが、オーバーレイユニットのリンクモンスターを失ったことで、コンパイル・ブラスターの攻撃力は2300に戻ります。私は魔法カード、原初海復(オリジンブルー·リカバリー)を発動!」

 

原初海復(オリジンブルー·リカバリー)

速攻魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1)以下の効果から1つを選択して発動できる。

●自分の墓地から「オリジンブルー」モンスター1体を特殊召喚する。

●自分フィールドのバックログカウンターを任意の数だけ取り除き、その数だけこのターンに墓地に送られた「オリジンブルー」モンスターを特殊召喚する。

 

「墓地からプレシオルタを特殊召喚。さぁバトルです!原初海祈プレシオルタで、コンパイル・ブラスターを攻撃!」

 

 プレシオルタが大口を開ける。

 

「タイタニーニャの効果!自分のモンスターは、このカードのバックログカウンターの数×200、攻撃力がアップします」

 

 攻撃2500となったプレシオルタが先の意趣返しかのようにコンパイル・ブラスターを吹き飛ばす。

 

 ゴッドバード:ライフ4000→3800

 

「私はこれでターンエンド」

 

ターン3

 

「やってくれたな。俺のターン!」

 

(ここじゃあ俺のスキルは使えねぇが、まあ必要ねぇだろ)

 

「俺はセットされた魔法カード、RUM-バックアップ・エリミーションを発動!」

 

RUM-バックアップ・エリミネーション

通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1)墓地の「エリミネーター」Xモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚し、そのモンスターよりランクの1つ高い「エリミネーター」Xモンスター1体をそのモンスターの上に重ねてX召喚扱いで特殊召喚し、墓地の「エリミネーター」リンクモンスターをそのモンスターの下に重ねてX素材とする。この効果発動後、ターン終了時まで、自分はメインモンスターゾーンにモンスターを特殊召喚できない。

 

「墓地のエクシーズモンスター1体を、効果を無効にして特殊召喚。その後、そのカードよりランクが1つ高い「エリミネーター」エクシーズにランクアップさせる。俺はコンパイル・ブラスターでオーバーレイネットワークを再構築!」

 

 コース上にエックス字のパネルが出現し、ゴッドバードが急加速したDボードでコンパイル・ブラスターと共に突っ込む。

 

「ランクアップ!エクシーズチェンジ!ランク5!敵性機兵(エリミネーター)エクス・ランサムウェア!」

 

敵性機兵(エリミネーター)エクス·ランサムウェア

エクシーズ·効果モンスター

ランク5/風属性/サイバース族/攻 2500/守 2000

風属性·レベル5·効果モンスター×2体以上

このカード名の(1)(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードがX召喚に成功した場合、このカードがX素材として持つリンクモンスター1枚のLINKの数までお互いの使用していないメインモンスターゾーンを指定して発動できる。指定したゾーンは次の相手のターンのエンドフェイズまで使用できない。

(2)このカードの攻撃力·守備力はこのカードがX素材として持つリンクモンスターのリンクマーカーの数×300アップする。

(3)自分・相手のエンドフェイズにこのカードのX素材2つ、またはX素材のLINK2以上のリンクモンスター1枚を取り除いて発動できる。お互いのメインモンスターゾーンのモンスターを全て破壊する。

 

「その後、墓地のローディング・チャージャーをオーバーレイユニットにする。そしてエクス・ランサムウェアの効果!オーバーレイユニットとなったリンクモンスター1体のリンクマーカーの数だけお互いのメインモンスターゾーンを使用不可能にする!」

「なっ!?」

「これでお前のモンスターは移動できねぇ。バトルだ!エクス・ランサムウェアで、プレシオルタを攻撃!エクス・ランサムウェアはオーバーレイユニットのリンクモンスターのマーカーの数×300攻撃力がアップ!」

 

 美海:ライフ3500→2900

 

「ターンエンド」

 

ターン4

 

「私のターン」

 

 引いたカードを確認する。

 しかしそれはこの状況を打開できるカードではなかった。

 

「私は裏守備表示でモンスターをセット。ターンエンド」

「この瞬間、エクス・ランサムウェアの効果。オーバーレイユニットを1つ使うことで、お互いのメインモンスターゾーンのモンスターを全て破壊する」

「くっ……ここまでですか」

 

 最後に身を守るモンスターも失い、美海は項垂れる。

 

ターン5

 

「終わりだ!エクス・ランサムウェア!タイタニーニャを攻撃!クラッキングブレイク!」

 

 美海:ライフ2900→0

 

 ◆

 

 美海とのデュエルに勝利した後、再び通常エリアに戻ってきたが、既にブルーエンジェルとプレイメーカーのデュエルは終わっていた。

 

「チッ、遅かったか」

 

 一応探して見るが、プレイメーカーの姿はない。

 

「まあいい。サイバース使いと当たれたのは収穫だ」

 

 DボードをUターンさせる。

 

「お前と遊ぶのは次の機会にとってやるよ。プレイメーカー」

 



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第4話:Access the Data Storm

 そこは通常のネットワークの遥か下層に存在する電脳世界の隠しエリア。

 薄暗い空間に、ニ人のアバターが立っていた。

 

「首尾はどうだ?」

 

 マスクで顔を隠した男、リボルバーが正面に控える面長の顔の男、スペクターに訊ねる。

 

「はい。Go鬼塚とブルーエンジェルのお陰でプレイメーカーのデッキに関するデータは概ね揃いました。不明なのはスキルですが……」

「私にお任せください」

 

 すると、その空間にまた別の男が出現した。

 

「ファウストか」

「私が必ずや、プレイメーカーから闇のイグニスを奪ってみせましょう」

「頼んだぞ」

「仰せのままに」

 

 ファウストは深々とお辞儀をすると、その空間から消失した。

 

 ◆

 

 朝、遊作が登校すると、校門の前で島に声をかけられた。

 

「藤木、昨日のブルーエンジェルとプレイメーカーのデュエル見たか?」

「ああ。まあ」

「どっちも凄かったよなぁ」

「そうだな」

 

 遊作が適当に返答しても、島は気持ちよく話を続ける。

 

「プレイメーカーと言えば、実は極秘情報が」

「別にいい」

「聞けよ!」

「……なんだ?」

「いいか。誰にも言うなよ」

 

 島はわざとらしく周囲の様子を窺い、それから遊作に耳打ちする。

 

「プレイメーカーは、この学校にいるらしいんだ」

 

 その情報を聞いて、遊作は内心ため息をついた。

 

 昨日のSNS上にバラまかれたプレイメーカーの正体を推測する情報、その中に、彼がこの学校に通っている可能性があるというものもあった。

 

 幸い、草薙のおかげで他のダミーの情報に埋もれさせることができたが、人の口に戸は立てられない。

 

 島のように、熱狂的なプレイメーカーのファンであれば、その情報から遊作にたどり着く人間が現れてもおかしくない。

 

「絶対誰にも言うなよ」

 

 そう念押して、島は去っていった。

 

「あいつ、絶対他のやつに言ってるぞ」

 

 Aiがデュエルディスク越しに、島の背中を見ながらつぶやく。

 

「別に構わない」

「なんでだよ?」

「島の言うことなら、みんな本気にしない」

「ひでぇな。あ、あそこにいるの、財前葵じゃないか?」

 

 Aiに言われて、遊作は前を向き直る。

 彼の前を歩く葵の背中を見つけて、遊作は少し小走りをして彼女に近づく。

 

「ああ、藤木くん。おはよう」

 

 足音に気付いて、葵の方から挨拶をしてくれた。

 その声はいつもに比べて、わずかに元気がなさそうだった。

 

「財前、なにかあったのか?」

「何でもない」

 

 遊作は特に追求せず、二人は無言のまま並んで歩く。

 

「葵様」

 

 すると、彼らの後ろから別の女子がやってきた。

 

「美海、おはよう」

「おはようございます。この方は?」

 

 美海は遊作と葵の顔を見比べて、やや意外そうに尋ねた。

 

「同じクラスの藤木くん」

「どうも」

 

 遊作が軽く会釈する。

 しかし、美海の方はその名前を聞いて、眼を見開く。

 

「遊作……もしかして遊作ですか?」

「君は……」

「10年ぶりですね。覚えていますか? 湊美海です」

「美海、やっぱり美海か」

 

 普段無表情な遊作が、少し表情を崩す。

 

「二人は知り合いなの?」

「ああすみません。勝手に盛り上がってしまって。私と遊作は同じ施設の出身なんですよ」

「そうだったの」

「こんなところで再会できるなんて思いませんでしたよ。あの事件があって、みんなバラバラになってしまいましたから」

 

 そこまで言ったところで、美海はしまったと言った顔をした。

 

「事件って?」

「すみません。忘れてください……」

 

 その時、ちょうどホームルーム五分前を告げる予鈴がなる。

 

「二人とも、そろそろ行きましょう」

「ああ」

「うん」

 

 ◆

 

 放課後、遊作はデュエル部の部室を訪ねた。

 

「でさぁ、やっぱりプレイメーカーはこの学校にいると思うんだよ」

 

 先に来ていた島は、案の定、他の部員にも極秘情報とやらを話していた。

 遊作は島のことはスルーして、別のテーブルでデュエルをする葵と美海に近付いた。

 

「美海もデュエル部だったんだな」

「えぇ一応。本業の方があるので、あまり顔は出せませんが」

「本業、確か財前の家で働いているんだったな」

「はい。それと、こちらはバイトですが、SOLテクノロジーのセキュリティ部隊にも所属しています。あ、ダイレクトアタックです」

 

 デュエルはどうやら美海の方が上手らしく、葵はあっさりと負けた。

 

「本気のデッキなら……」

「私も本来のデッキじゃないんですけどね」

 

 二人が何か言っているが、遊作は特に気にしなかった。

 

「遊作もやりますか?」

「ああ」

 

 遊作はデュエルディスクからデッキを取り出す。

 

「……そのデュエルディスク、プレイメーカーと同じですよね」

「!!」

 

 美海の発言に、遊作は顔を強張らせる。

 普段から仏頂面なのが幸いして、彼の反応を怪しんではいないが、このまま何も返答がなければ、感づかれるかもしれない。

 

「そうなんだよ。こいつプレイメーカーの真似してんだよ」

 

 そこで意図せず助け舟を出したのは島だった。

 

「なるほど。遊作はプレイメーカーのファンだったんですね」

「あ、ああ」

「ん? というか、お前、いつの間に湊と仲良くなったんだ?」

「幼馴染らしいわ」

 

 島のおかげで話題が別のところに逸れてくれた。

 

「島、助かった」

「ん? 何の話だ?」

 

 後で何か礼をしてやろうと、遊作は思った。

 

 ◆

 

 美海と島のおかげで、財前葵とも少し打ち解けられ、帰り道が同じだった二人は一緒に帰ることになった。

 

「美海は住み込みで働いていたんじゃなかったか?」

「今日はSOLで仕事があるって」

「そうか」

 

 打ち解けられたといっても、元が二人ともコミュニケーション能力に難ありなため、中々会話が弾まない。

 

「ねぇ」

 

 そこで沈黙を破ったのは葵の方だった。

 

「藤木くんは、デュエルは好き?」

「俺は……」

「私、昨日ある人に会ったの」

 

 遊作が返答に迷っていると、葵が話を進める。

 

「その人はデュエルを楽しめないって。その人はデュエル中、ただの一度も笑っていなかった」

「そうか……」

「けど、その人は強かった。多分今まで戦った誰よりも」

 

 葵は視線の先にいる『その人』を見つめるように遠くを見る。

 

「それで私、分からなくなったの。なんのためにデュエルをすればいいのか」

「……別に、理由なんてなくていい」

「え?」

「理由もなく、ただデュエルを楽しめるなら、それが理想だろう。デュエルとは本来そういうものだ」

「……そうね。ありがとう。藤木くん」

 

 その言葉を聞いて、彼女は少しだけ晴れやかな顔をした。

 

 ◆

 

 LINK VRAINSのランキングデュエル、

 

「とどめよ!トリックスター・ホーリーエンジェル!」

 

 ブルーエンジェルが、上位ランカーとデュエルをしていた。

 

「決まったぁぁ!勝者、ブルゥゥゥゥエンジェルゥッ!本日これで三連勝!今日の彼女は、いつもと何かが違う!」

 

 実況の男の言う通り、ブルーエンジェルの顔はいつもより凛々しく見えた。

 

「さあ次の挑戦者は────」

「私が相手をしてもらおう」

 

 現れたのは、30代後半くらいの男だった。白いローブに身を包み、フードで素顔を隠している。

 

「あなたは……」

「ただの名もないデュエリストだ。手合わせ願おうか。ブルーエンジェル」

 

 男の異様な雰囲気に警戒心を強める。

 

「いいわよ。私と楽しみましょう」

 

 しかし、申し込まれたデュエルを断るわけにもいかない。

 アイドルのスマイルを作り、快く彼とのデュエルに応じた。

 

「「スピードデュエル!」」

 

 ◆

 

「遅くなりました」

 

 仕事を終えて、美海が部屋に戻ると、葵はVRゴーグルをつけてベッドに横になっていた。

 

「全く、しょうがない人ですね」

 

 きっとまだデュエルをしているのだろうと、自分も彼女のデュエルを見ようと、タブレットを取り出す。その時、

 

 ピコンッ

 

 ちょうどメールが着た。

 送信者は学校の連絡事項などを一斉配信する用のアドレスだった。

 

「!!」

 

 しかし、それを開いた瞬間、美海の顔が青ざめた。

 

『これを見ているプレイメーカーへ。ブルーエンジェルは預かった。返してほしければ今夜七時にLINK VRAINSのセントラルエリアにログインせよ』

 

美海はすぐさまベッドで眠る葵に駆け寄る。

 

 彼女のデュエルディスクを操作して、ログアウトさせようと試みるが、エラーメッセージを吐くだけで応答しない。

 ログイン中に無理にVRゴーグルを外せば、脳に障害を負う可能性もある。

 

「くそっ!」

 

 やりきれない思いを拳でぶつける。

 

「葵様……っ!」

 

 美海はすぐに切り替えてパソコンに向き合う。

 

(プレイメーカーが来る保証はない。ならば私が葵様を助けるために、できることをしなければ……)

 

 ◆

 

 その頃、草薙のキッチンカー内で、遊作もそのメールを受け取っていた。

 

「どうやら、うちの学校の生徒全員に送られたらしいな」

「前に、お前の通っている学校の情報が流出したからだな」

「おいおい、不味いんじゃないのか?」

「わざわざ一斉配信をしたということは、ハノイはまだ俺の正体に辿り着いていない。今はそれよりも……」

 

 ブルーエンジェルが人質にされた。

 ネットでは既にこの話が広まっており、プレイメーカーに助けを求める書き込みが大量に投稿されている。

 

「どうすんだ? プレイメーカー様」

「決まっているだろう」

 

 遊作はログイン用のスペースに入る。

 

「イントゥザヴレインズ!」

 

 ◆

 

 夜、LINK VRAINS内では浚われたブルーエンジェルを心配する人達が集まっていた。

 

「あ!来たぞ!」

 

 そこに、プレイメーカーがDボードに乗って現れた。

 

「プレイメーカー!」

「ハノイからブルーエンジェルを取り返してくれ!」

 

 人々がプレイメーカーに声援を送る。

 

「ハノイの騎士!俺はここにいるぞ!」

 

 プレイメーカーが叫ぶと、ブルーエンジェルを浚ったハノイの騎士がDボードに乗って姿を現した。

 彼の傍らには、意識を失ったまま拘束されたブルーエンジェルもいる。

 

「ブルーエンジェルを解放しろ!」

「返して欲しくば、何をすればいいか分かっているな」

 

 彼はデュエルディスクを構える。

 プレイメーカーも同じようにディスクを構える。

 

「一応名乗っておこう。私の名はファウスト。ハノイの騎士のセカンドだ。私が勝てば、君の持つイグニスを渡してもらおう」

「俺が勝てばブルーエンジェルを解放してもらう」

「交渉成立だな。では────」

 

「「スピードデュエル!」」

 

 

ターン1 プレイメーカー

 

「俺は自分フィールドにモンスターがいない時、手札のリンクスレイヤーを特殊召喚できる」

 

 リンクスレイヤーが、大剣を構えて現れる。

 

「自分フィールドにサイバース族モンスターがいる時、手札のバックアップ・セクレタリーを特殊召喚できる。さらにスタック・リバイバーを通常召喚」

 

 プレイメーカーのフィールドに、早速モンスター3体が並ぶ。

 

「現れろ!未来を導くサーキット!召喚条件はサイバース族モンスター2体!リンク召喚!現れろ、リンク2!スプラッシュ・メイジ!」

 

 さらにスタック・リバイバーの効果で、墓地から一緒にリンク素材にしたバックアップ・セクレタリーを特殊召喚する。

 

「スプラッシュ・メイジの効果で、墓地からスタック・リバイバーを特殊召喚!」

 

 スプラッシュ・メイジが杖をクルッと一回転させてから突き立てると、空間が乱れて、虚空よりスタック・リバイバーが出現する。

 

「現れろ!未来を導くサーキット!召喚条件は効果モンスター2体以上!リンク召喚!来い、デコード・トーカー!」

 

 スプラッシュ・メイジ、スタック・リバイバーの2体で、デコード・トーカーをリンク召喚させた。

 

「さらにリンク召喚!リンクスレイヤーとバックアップ・セクレタリーをリンクマーカーにセット!リンク召喚!フレイム・アドミニスター!」

 

 デコード・トーカーのリンク先に、赤いロボットのようなモンスターが召喚される。

 

「フレイム・アドミニスターの効果で、俺の場のリンクモンスターは攻撃力が800アップ!さらにデコード・トーカーはリンク先のモンスターの数×500攻撃力がアップする!パワーインテグレーション!」

 

 これでデコード・トーカーは攻撃力3600、並みのモンスターでは突破できないサイズとなった。

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン2 ファウスト

 

「私は予想GUYを発動!デッキからレベル4以下の通常モンスター、ゴキボールを特殊召喚!」

 

 球体の黒光りする虫が出現する。

 

「自分フィールドに昆虫族モンスターが存在する場合、魔法カード、ワーム・ベイトを発動できる。ワームトークン2体を特殊召喚」

 

「現れろ。我らの未来回路!召喚条件は昆虫族モンスター2体以上。リンク召喚!リンク3、電動蟲(モーターワーム)スプレッド女王(クイーン)

 

電動蟲(モーターワーム)スプレッド女王(クイーン)

リンク・効果モンスター

光属性/昆虫族/攻 1000/LINK3

【リンクマーカー:左/左下/下】

昆虫族モンスター2体以上

(1)このカードの攻撃力は、フィールドの昆虫族モンスターの数×700アップする。

(2)1ターンに1度、発動できる。このカードのリンク先に「ワームトークン」(昆虫族・地・星1・攻/守 0)1体を特殊召喚する。この効果は相手のターンでも発動できる。

(3)自分フィールドの「ワームトークン」は攻撃対象にならない。

(4)このカードが戦闘・効果で破壊される場合、かわりにこのカードのリンク先の昆虫族モンスターを破壊できる。

 

「スプレッド女王の攻撃力はフィールドの昆虫族モンスターの数×700アップする。そしてスプレッド女王の効果で、リンク先にワームトークンを特殊召喚!」

 

 スプレッド女王が体から芋虫のようなモンスターを産み落とす。

 

「カードを1枚伏せて、バトルだ。スプレッド女王でフレイム・アドミニスターを攻撃!」

 

 攻撃力2400となった虫の女王が、フレイム・アドミスターに迫る。

 

「俺は罠カード!リコーデッド・アライブを発動!俺のフィールドか墓地のリンク3のサイバース族リンクモンスターを除外することで、EXデッキから「コード・トーカー」モンスター1体を特殊召喚する!来い、エンコード・トーカー!」

 

 デコード・トーカーがデータに分解され、エンコード・トーカーへと再構築される。

 

「エンコード・トーカーの効果!1ターンに1度、リンク先のモンスターのバトルによる破壊とダメージを無効にする」

 

 エンコード・トーカーが投げた盾をフレイム・アドミスターが受けとり、スプレッド女王の攻撃を防いだ。

 

「私はこれでターンエンド」

 

ターン3

 

「エンコード・トーカーがいるから、このままワンターンキルで勝てるぞ」

「そう簡単に行けばいいがな」

 

 プレイメーカーはファウストの伏せカードに目をやる。

 

「俺はカードを1枚伏せる」

「ここで私は永続罠!産卵床を発動する」

「やはりか」

 

産卵床

永続罠

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分フィールドに昆虫族モンスターが特殊召喚された場合、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの効果を無効にし、種族を昆虫族として扱う。

(2)自分のエンドフェイズに発動できる。自分フィールドに「ワームトークン「(昆虫族・地・星1・攻/守 0)1体を特殊召喚する。

 

「スプレッド女王の効果発動!リンク先にワームトークンを特殊召喚。ここで産卵床の効果が発動する。エンコード・トーカーの効果を無効にして、種族を昆虫族として扱う」

 

 ジェル状のタマゴがエンコード・トーカーにとりつき、その力を奪う。

 

 さらに昆虫族モンスターが増えたことで、スプレッド女王の攻撃力は3800まで上がる。

 

「くっ……俺はこれでターンエンド」

 

ターン4

 

「そろそろ決着をつけよう。私はスキル、ダブルバイトを発動!自分フィールドの昆虫族モンスター1体をリリースすることで、自分の昆虫族モンスター1体はこのターン、2回攻撃できる!」

 

 スキルの効果を受けて、スプレッド女王は緑色のオーラをまとう。

 

「そしてスプレッド女王の効果で、再びワームトークンを特殊召喚!産卵床の効果でフレイム・アドミスターの効果を無効だ!」

 

 これでプレイメーカーのフィールドのモンスターは全て効果が無効化された。

 

「フィールドの昆虫族モンスターは、合計5体これよにより、スプレッド女王は攻撃力4500。これで終わりだ!まずはスプレッド女王でエンコード・トーカーを攻撃!」

「俺は速攻魔法!サイバネット・クロスワイプを発動!自分フィールドのサイバース族モンスターをリリースし、相手フィールドのカード1枚を破壊する」

 

 フレイム・アドミスターがデータに分解され、サイバネット・クロスワイプのカードに吸収される。

 

「俺が破壊するのは、スプレッド女王!」

 

 カードから光線が放たれる。

 

「私はスプレッド女王の効果発動!リンク先の昆虫族モンスターを破壊することで、破壊を無効にする!」

「だが、昆虫族モンスターが減ったことで、スプレッド女王の攻撃力は下がる!」

「バトル続行だ。エンコード・トーカーを粉砕しろ!」

 

 プレイメーカー:ライフ4000→3200

 

「2回攻撃!プレイメーカーにダイレクトアタック」

 

 プレイメーカー:ライフ3200→800

 

「命拾いしたな。私はこれでターンエンド」

 

ターン5

 

「ドロー」

 

 引いたカードを確認し、プレイメーカーは次の一手を考える。

 

「考えても無駄だ。今のお前じゃあいつには勝てない」

「お前は黙ってろ」

「黙らないね。今のお前のデッキには、この状況を覆すカードはない。今のデッキには、な」

「……どういう意味だ?」

「もうすぐだ。いい風が吹いてきた」

 

 Ai がそう言って視線を前にやると、データストリームが渦を巻いて、まるで竜巻のようになってこちらに迫っていた。

 

「データストームだ。プレイメーカー、あれに飛び込め」

「お前!何を言っている!?」

「俺を信じろ。あいつに勝ちたいんだろ?」

 

 Ai の表情からはいつものおふざけは感じなかった。

 その態度を信じて、プレイメーカーはDボードを加速させ、そのままデータストームに突っ込む。

 

「何をする気だ!?」

 

 プレイメーカーの行動に、ファウストも困惑している。

 

「これで条件は整った。今こそお前のスキルを使う時だ」

「俺のスキルだと?」

「この前デッキを弄った時に、スキルの方にも手を加えておいたんだ。データストームの中に眠る未知のモンスターを呼び寄せる、サイバースのとっておきのスキルをな」

「!!」

 

 その瞬間、プレイメーカーの耳に、龍の雄叫びが聞こえた気がした。

 その声に呼ばれるように、プレイメーカーは吹き荒れるデータの風に手を伸ばす。

 

「ぐっ……!」

 

 膨大な情報が、彼のアバターに流れ込む。

 意識が飛びそうなほどの衝撃に耐えながら、プレイメーカーは必死に『それ』を掴む。

 

「自分のライフが1000以下の時、データストームの中から、サイバース族モンスターをランダムにEXデッキに加える。風を掴め!プレイメーカー!」

「スキル発動!ストームアクセス!」

 

 データが収束して、一枚のカードを作り出す。

 

「なっ!? ストームアクセスだと!?」

 

 データストームからカードを手に飛び出したプレイメーカーを見て、ファウストは目を見開く。

 

「あのスキルはリンクセンスを持つものにしか扱えないはず……まさか、10年前の事件の!?」

「いくぞ。俺はサイバース・ガジェットを召喚!その効果で、墓地からレベル2以下のモンスター、スタック・リバイバーを特殊召喚!」

 

 サイバース・ガジットが左腕から伸ばしたコードで、虚空からスタック・リバイバーを吊り上げる。

 

「墓地のリコーデッド・アライブの効果!自分のEXモンスターゾーンにモンスターがいない場合、墓地のこのカードを除外して、除外されている「コード・トーカー」モンスターを特殊召喚する!甦れ、デコード・トーカー!」

 

 空間に裂け目ができ、亜空間よりデコード・トーカーが舞い戻る。

 

「現れろ!未来を導くサーキット!召喚条件は効果モンスター2体!リンク召喚!リンク2、ペンテスタッグ!」

 

 黒い機械のクワガタのモンスターが出現する。

 

「サイバース・ガジットの効果!このカードがフィールドから墓地に送られた時、ガジェットトークンを特殊召喚。現れろ!未来を導くサーキット!」

 

 再びアローヘッドが出現する。

 

「召喚条件はモンスター2体以上!俺はガジェットトークンと、リンク3のデコード・トーカーをリンクマーカーにセット!」

 

 デコード・トーカーとガジェットトークンが光になってアローヘッドに吸い込まれ、上下左右四つのリンクマーカーを描く。

 

「唸れ嵐!虚構に渦巻く旋風は、万物を震わす竜の雄叫びとなる!リンク召喚!」

 

 アローヘッドより、風が起こる。

 

「リンク4、ファイアウォール・ドラゴン!」

 

 風の中より現れたのは、機械の翼を広げる白い竜だった。

 

「こいつが、データストームより呼び寄せたモンスターか……」

「ファイアウォール・ドラゴンの効果!このカードと相互リンク状態のカード1枚に付き、フィールド、墓地のカード1枚を手札に戻す!」

 

 ファイアウォール・ドラゴンとペンテスタッグを繋ぐように粒子が流れる。

 

「スプレッド女王を手札に!エマージェンシーエスケープ!」

 

 ファイアウォール・ドラゴンが翼をはためかせると、電撃が飛来し、スプレッド女王を撃破する。

 

「だがっ!私の場には守備表示のワームトークンが3体!このターンでライフは────」

「ペンテスタッグの効果、リンク状態のモンスターが守備モンスターを攻撃した時、貫通ダメージを与える」

「なっ!?」

「終わりだ!まずはペンテスタッグ!1体目のワームトークンを攻撃!」

 

 ペンテスタッグがその大顎でワームトークンの体を挟んで潰す。

 

 ファウスト:ライフ4000→2400

 

「ファイアウォール・ドラゴン!ワームトークンを攻撃!」

 

 ファイアウォール・ドラゴンが翼を広げ、口を開けて構える。

 背中に集まったエネルギーが円を描き、ファイアウォール・ドラゴンの体が赤く染まる。

 

「テンペストアタック!」

 

 閃光。

 放たれた光線が、ファウストを吹き飛ばした。

 

 ◆

 

「ん……」

 

 ブルーエンジェルが目を覚ますと、目の前には彼女を抱き抱えるプレイメーカーの姿があった。

 

「え!? 何!?」

「気が付いたか」

 

 プレイメーカーは無事を確認すると、あっさり手を放して彼女を立たせる。

 

「プレイメーカー、あなたが助けてくれたの?」

「ハノイを倒しただけだ」

 

 もう用は済んだと言わんばかりに、彼女に背を向けてDボードに乗る。

 

「プレイメーカー!」

「……なんだ?」

「助けてくれてありがとう。それと……」

 

 ブルーエンジェルはビシッと指差す。

 

「次は負けないから」

「……」

 

 プレイメーカーはそれには答えず、彼女を一瞥して飛び去った。

 

 ◆

 

「葵様!」

 

 ログアウトした葵を、美海が抱き締める。

 

「美海……苦しい」

「あ、申し訳ございません!」

 

 美海は慌てて手を放して、顔を赤らめる。

 

「美海、お兄様や、お父様やお母様は?」

「まだ帰られておりません」

「そう。じゃあこの事はバレてないのね」

「はい。いつも通りブルーエンジェルのログイン履歴は全て消去しておきました。しかし、SOLはおそらくこの件を調査するでしょう。葵様に使われたのは、どうやら人の意識に作用する特殊なプログラムのようでして……」

 

 美海はPCの画面を見せて、プログラムの解析結果を報告するが、その手の知識のない彼女にはさっぱり分からなかった。

 

「葵様の正体がバレないように、私もできる限りのことはします」

「いつもありがとう。美海」

「いえ、葵様のためですから」

「ただいま」

 

 その時、ちょうど晃が帰ってきた。

 

「お帰りなさい。お兄様」

 

 葵は部屋を出て、兄を迎えにいく。

 一人残された美海は、おもむろに録画したデュエルの映像をつける。

 

『……まさか、10年前の事件の!?』

「10年前……」

 

 美海の脳裏に、懐かしくも忌まわしい記憶が甦る。

 

「プレイメーカーは、あの施設の出身……」

 

 美海は一枚の写真を取り出す。

 そこには幼い六人の子供達が写っていた。

 



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第5話:Bullet of Belief (前編)

長いので前後編に分けます。


 ハノイの騎士のアジトにて、

 

「ファウストが敗れたか」

 

 リボルバーが、スペクターから昨日の作戦についての報告を受けていた。

 

「まあいい。プレイメーカーのスキルを把握できただけでもよしとしよう。それにしても、ストームアクセスか」

「はい。リンクセンス、ネットワーク上に飛び交う情報を気配として感じる超感覚。間違いなく10年前の実験の被験者でしょう」

「その能力が、あのドラゴンをデータストームから呼び寄せたのだろうな」

 

 リボルバーはマスク越しに嬉しそうに笑う。

 

「次は私自ら出よう」

「リボルバー様が?」

「ああ」

 

 リボルバーが拳を握りしめる。

 

「待っていろ。プレイメーカー」

 

 ◆

 

 同刻、SOLテクノロジー社の幹部室、

 極一部の人間しか入ることが許されないその部屋の戸を、財前晃が開けた。

 

「失礼します」

 

 彼が入った瞬間、部屋の景色が切り替わる。

 無限に続く白と黒のマス目が交互に並んだ床、そこに設置された巨大な三つのチェス駒、

 

『イグニスの確保はどうなっている』

 

 ビショップの駒がしゃべる。

 このチェス駒こそが、SOLテクノロジーの幹部のアバターだ。

 

「申し訳ございません。ランキング一位のGo鬼塚が敗れた以上、彼以上の実力を持ったデュエリストを用意しなければならないのですが……」

『その必要はない』

 

 すると、部屋の中に別の人物が入ってきた。

 

「美海!」

「どうも」

 

 美海は丁寧にお辞儀をして、晃の前に立つ。

 

『プレイメーカーの対処は彼女に任せる』

「かしこまりした」

「ちょっと待ってください!」

 

 晃は割り込んで抗議する。

 

「彼女はまだ子供です」

「晃様、この件は私自ら志願したことです」

『そうだ。それに、ここで使わなければ、わざわざ拾ってサイバースのカードまで渡した意味がない』

 

 チェス駒の男は低い声で、脅すように言う。

 

『私を失望させるなよ』

「分かっています。必ず、プレイメーカーからイグニスを奪ってみせます」

『それから、お前が接触したもう一人のサイバース使い、ゴッドバードについてだが、そちらについでも調査を継続しろ』

「はい」

 

 ◆

 

「電脳ウイルス?」

 

 ある日、遊作が授業を終えてデュエル部に向かう途中、Aiがそんな話を振ってきた。

 

「ああ。それがブルーエンジェルを昏睡状態にしたプログラムの正体だ」

「その情報はどこから得た?」

「この前、ファウストのアバターからデータを食っただろ?」

 

 ブルーエンジェルを助けるために、ハノイの騎士のデュエリスト、ファウストとデュエルした後、Aiは彼のアバターを食べていた。思えば、初めて会った時も、ハノイのしたっぱのアバターを捕食していた。

 

「お前のあの姿は一体なんなんだ?」

「データを食うために、いい感じに体を調整したんだよ。俺はハノイに襲われて、記憶を含む大半のデータを失っちまったからな」

「なるほど。それで、ファウストのアバターから、その電脳ウイルスに関する情報を得たというわけか」

「そういうこと。で、その電脳ウイルスってのは、なんでも、アバターを介して人間の意識に感染するってものらしい」

 

 それが本当なら、ハノイの騎士にはとんでもない技術力を持ったプログラマーがいることになるが、

 

「いや、ウイルスを作ったのはハノイじゃない」

「じゃあ誰だ?」

「SOLテクノロジー社だ」

「なんだと!?」

 

 遊作は思わず声を上げる。

 幸い周りに人はいなかったので、目立つことはなかった。

 

「何故SOLテクノロジーが、それにそれをどうしてハノイが持っている?」

「そこまでは。あと分かるのは、このウイルスが作られたのは10年前ってことくらいだ」

「10年前……」

 

 それを聞いて、遊作の顔が神妙なものになる。

 

「そういえば、ファウストのやつ、お前に10年前がどうとかって言ってたな」

「お前には関係ない」

 

 遊作はデュエルディスクのスピーカーをミュートにして、デュエル部の部室を訪ねた。

 

「藤木、今日もサボらずに来たな」

 

 いつも通り、島が遊作を出迎えた。

 端っこの席に座る葵は、目が合うと手を振ってくれた。

 

「今日は 美海はいないのか」

「あいつは最近忙しいとか言ってたぞ。ほら、この間、ブルーエンジェルがハノイに襲われただろ? あれからセキュリティを強化してるんだよ」

 

 島の言う通り、最近LINK VRAINS内では警備AIの数が異様に増えている。

 遊作もここ数日は、警戒してログインを控えている。

 

「だが、それにしたって、最近のSOLの動きは異常だ。以前の大規模スキャンといい、まるで何かを探しているよう……」

 

 遊作には一つ心当たりがあったが、SOLが「それ」を欲しがる理由に見当が付かなかった。

 

「財前は何か知ってるか?」

「私はあんまり……」

 

 葵は少しだけ寂しそうな顔をする。

 

「なあそんなんはもういいだろ? 早くデュエルやろうぜ」

「ああ」

 

 体験入部だけのはずが、すっかり馴染んでしまったデュエル部の活動に戻るのだった。

 

 ◆

 

 LINK VRAINSのセントラルエリア、

 

「うひゃー、ドローンまみれだな」

 

 行き交う大量の警備AIを見送りながら、ゴッドバードは苦笑いを浮かべた。

 

 警備AIはログインしているデュエリストを見つけてはスキャンし、また別の人のところへ、という作業を繰り返している。

 

「デッキをチェックしてんのか。つーことは、目当てはサイバースか。ご苦労なこった」

 

 当のサイバースデッキを使うゴッドバードは、ステルスによって見つかっていない。

 

「しっかし、サイバースなら他に持っている奴がいくらでもいてもおかしくねぇが、案外いねぇもんだな」

 

 ゴッドバードも、今のデッキを手に入れたのは偶然だった。

 5年前にデータストームより出現したサイバースカードを手にして以降、データストームやサイバースについて調べ続けたが、未だに分かっていないことが多い。

 分かっているのは、サイバースを作り出したのは、イグニスと呼ばれるAIであること、そしてハノイの騎士はどういうわけか、そのイグニスとサイバースの存在を抹消したがっていることだけだ。

 

「……待てよ」

 

 そこでふと、彼は妙案が浮かんだ。

 

「こいつは使えるかもしれねぇな」

 

 ゴッドバードはニヤリと笑った。

 

 ◆

 

 数時間後、LINK VRAINSでは騒ぎが起きていた。

 

 データストームが、セントラルエリアに吹き荒れ、その中から大量のカードが散らばったのだ。

 

「見ろ!これサイバース族のカードだぞ!」

「こっちもだ!」

 

 データストームがサイバースを生み出している。

 そう呼べる現象に、人々はこぞってデータストームに群がり、危険を承知で飛び込んではカードを奪い合う。

 

「何が起こっている」

 

 騒ぎを聞きつけてやってきたプレイメーカーも、この異常事態に困惑していた。

 

「おいおい。誰がこんなことを……」

 

 すると、吹き荒れるデータストームの近くを飛ぶ一つの影を見つけた。

 

 彼はプレイメーカーの姿を見つけるとフッと笑い、ついて来いと言わんばかりに背中を見せてどこかへ飛び去ってしまう。

 

「追いかけるぞ」

 

 Dボードを出現させ、その人物の後を追う。

 彼は途中、プレイメーカーが見失わないようにわざとスピードを落としたりしながら、彼を建物の屋上に誘導した。

 

「待ってたぜ。一番乗りはお前だったか」

「お前は何者だ?」

「俺様はゴッドバード。もう気付いてるとは思うが、この祭りの主催者だ」

「お前、データストームを操れるのか?」

 

 Aiが信じられないといった目で、ゴッドバードを見る。

 

「驚いただろ?」

「何が目的だ?」

「目的は色々あるが、一番はお前を呼び寄せることだ」

 

 ゴッドバードはプレイメーカーを指さす。

 

「サイバースのカードをバラまけば、サイバースに関わりのある人間が集まってくる」

「お前は、ハノイの騎士なのか?」

「はぁ? 俺をハノイなんかと一緒にすんじゃねぇよ」

 

 彼は露骨に嫌悪感をあらわにする。

 憎しみすら見えるその表情に、プレイメーカーは彼の真意を測りかねていた。

 

「とにかくだ。イグニスを賭けて俺とデュエルしろ」

「断る。俺にはお前と戦う理由はない」

「理由ならあんだろ。前にブルーエンジェルの騒動でお前の個人情報ばらまいたの、俺だぞ?」

「何?」

「俺ならもう一回やれば、お前を丸裸にすることだってできる」

 

 これはつまり、デュエルに応じなければ、プレイメーカーの、遊作の個人情報を晒すと言っている。

 仕方なく、プレイメーカーはデュエルディスクを構える。その時、

 

「そのデュエル、私が預からせてもらおう」

「「!?」」

 

 上空より、何かが飛来する。

 

 ドォォォンツ!

 

 咄嗟に避けた二人の間に、それは巨大なクレーターを作り出した。

 

「なんだテメェは?」

 

 そこに立っていたのは、奇妙なマスクを被った長身、赤髪の男だった。

 

「私の名はリボルバー。ハノイの騎士を束ねる者だ」

「「なっ!?」」

 

 ハノイの騎士のリーダーを名乗る男に、二人は目を見開いた。

 

「プレイメーカーよ。この私とデュエルしろ」

「何?」

「貴様が勝てば、そのイグニスの記憶データを渡してやろう」

 

 リボルバーはそう言って、どこからかメモリーカードを取り出して見せつける。

 

「ちょっと待て!そいつは俺の獲物だ!」

「スペクター」

 

 すると、今にも掴みかかる勢いのゴッドバードの前に、面長の顔の男、スペクターが出現した。

 

「そいつの相手をしてやれ」

「了解しました」

「クソが!雑魚は引っ込んでろ!」

「おやおや、血の気が多いですねぇ。それにこの私を雑魚と決めつけるとはぁ、ずいぶんと自分のデュエルに自信があるようですねぇ」

「あぁ?」

「あなたの欲しい情報、ひょっとすると私が持っているかもしれませんよ?」

「テメェどういう……チッ」

 

 ゴッドバードは舌打ちして、デュエルディスクを構える。

 

「さて、あちらの対戦は決まったようだ。どうする?」

「……いいだろう」

 

 プレイメーカーもデュエルディスクを構えて、Dボードに乗る。

 どちらにせよ、いずれ戦わなければならない相手だ。親玉が向こうから出てきてくれたのであれば、プレイメーカーにとっても好都合だ。

 

「では、スピードデュエルだ」

 

 リボルバーはDボードに乗って飛び去り、プレイメーカーもその後を追う。

 

「さて、では私達も始めましょうか」

 

 リボルバーを見送り、スペクターはデュエルディスクを構えた。

 

「速攻で片づけてやるよ」

「「デュエル!」」

 

ターン1 ゴッドバード

 

「自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合、手札の敵性機兵ジャイロードを特殊召喚できる!」

 

 円盤型の機械が、回転しながらフィールドに来る。

 

敵性機兵(エリミネーター)ジャイロード

効果モンスター

星4/風属性/サイバース族/攻 1000/守 1000

このカード名の(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しか行えず、(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合、このカードを手札から特殊召喚できる。

(2)このカードが(1)の方法による特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキからこのカードと同じレベルの「エリミネーター」モンスター1体を特殊召喚する。この効果発動後、ターン終了時まで自分はメインモンスターゾーンにモンスターを特殊召喚できない。

(3)相手ターン中、自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合、墓地のこのカードを除外して発動できる。デッキから「エリミーション」罠カード1枚をセットする。この効果でセットしたカードは、セットしたターンにも発動できる。

 

「なるほど。サイバースですか」

「その効果でデッキから敵性機兵(エリミネーター)ラントリクターを特殊召喚!この効果発動後、ターン終了時まで、俺はメインモンスターゾーンにモンスターを特殊召喚できない。現れろ。未来を貫くサーキット!」

 

 指先を天に掲げると、上空にアローヘッドが出現する。

 

「召喚条件はレベルが同じ効果モンスター2体!リンク召喚!リンク2、敵性機兵ローディング・チャージャー!」

 

敵性機兵(エリミネーター)ローディング・チャージャー

リンク·効果モンスター

風属性/サイバース族/攻 1000/LINK2

同じレベルのモンスター2体

(1)リンク召喚されたこのカードは、リンク素材となったモンスターと同じレベルのモンスターとしてX召喚の素材にでき、このカードのリンクマーカーの数と同じ数のモンスターとしてX召喚の素材にできる。

(2)X素材となったこのカードが墓地に送られた場合に発動できる。除外されている「エリミネーター」モンスターを自分のXモンスターの下に重ねてX素材とする。

 

「そしてこいつはリンク素材となったモンスターと同じレベルのモンスターとしてエクシーズ召喚の素材にできる。そしてリンクマーカーの数分のエクシーズ素材になれる!俺はレベル4扱いのローディング・チャージャーでオーバーレイネットワークを構築!」

 

 空にエックス字のパネルが現れ、ローディング・チャージャーに向けて、光の柱が下りてくる。

 

「エクシーズ召喚!現れろ。ランク4!敵性機兵(エリミネーター)コンパイル・ブラスター!」

 

 現れたのは、無機質な機械仕掛けのドラゴンだった。

 

敵性機兵(エリミネーター)コンパイル・ブラスター

エクシーズ·効果モンスター

ランク4/風属性/サイバース族/攻 2300/守 2000

風属性·レベル4·効果モンスター×2体以上

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードの攻撃力·守備力はこのカードがX素材として持つリンクモンスターのリンクマーカーの数×300アップする。

(2)相手の特殊召喚されたモンスターが効果を発動した時、このカードのX素材1つを取り除いて発動できる。その効果を無効にする。この効果発動のためにリンクモンスターを取り除いていた場合、かわりにその効果を無効にして破壊し、相手に500ダメージを与える。

(3)このカードが効果で破壊される場合、かわりこのカードのX素材1つを取り除くことができる。

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン2

 

「私のター────」

「墓地のラントリクターとジャイロードの効果発動!相手ターン中、自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しなければ、墓地のこのカードを除外して、デッキから「エリミネーション」魔法カード、「エリミネーション」罠カードをそれぞれセットする!この効果でセットしたカードはセットしたターンでも発動できる」

 

 ゴッドバードは、デッキからさらに2枚のカードをセットし、彼の伏せカードは計3枚となった。

 

「私は聖種の地霊(サンシード・ゲニウスロキ)を通常召喚。現れろ!私達の未来(みち)を照らす未来回路!」

 

 スペクターの足元にアローヘッドが出現する。

 

「召喚条件はレベル4以下の植物族モンスター1体!」

「そうは行くか!俺はカウンター罠!エリミネーション・インターセプトを発動!」

 

 ゴッドバードの伏せカードが開き、彼らの足元に光が走る。

 

「相手モンスター1体の特殊召喚を無効にして破壊する」

 

 アローヘッドが砕けて、リンク召喚は失敗に終わる。

 

エリミネーション・インターセプト

カウンター罠

(1)自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合に発動できる。相手モンスター1体の特殊召喚を無効にして破壊する。

(2)墓地のこのカードと「エリミネーション」魔法・罠カード1枚を除外して発動できる。除外されている「エリミネーター」モンスター1体を墓地に戻す。

 

「では私は魔法カード、聖蔓の播種(サンヴァイン・ソウイング)を発動。デッキから「サンシード」モンスターを特殊召喚し、自分は1000のダメージを受ける」

「ならこいつだ!カウンター罠!エリミネーション・ジャミング!俺のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合、相手の効果を無効にする!」

 

エリミネーション・ジャミング

カウンター罠

手札の「エリミネーター」モンスターを墓地に送ってこのカードを手札から発動できる。

(1)自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在せず、相手がモンスター効果・魔法・罠カードを発動した時に発動できる。その発動を無効にする。自分のEXモンスターゾーンに「エリミネーター」モンスターが存在する場合、かわりにその発動を無効にして破壊する。

 

「せっかちですねぇ。そんなに簡単に伏せカードを使ってしまっていいんですかぁ?」

「テメェが何もできなきゃ問題ねぇだろ」

「私は魔法カード、予想GUYを発動。デッキからレベル4以下の通常モンスターを特殊召喚。聖種の地霊(サンシード・ゲニウスロキ)を特殊召喚」

 

 フィールドに杯のようなものが生え、そこから細い花びらを伸ばして、先端に実を宿す。

 

「では今度こそ、現れよ、私達の未来(みち)を照らす未来回路!リンク召喚!リンク1、聖天樹の幼精(サンアバロン・ドリュアス)

 

 現れたのは、大樹だった。

 幹は上の方が異様に膨らんでおり、そこから顔が突き出している。

 

聖天樹の幼精(サンアバロン・ドリュアス)の効果!ゲニウスロキを素材としている場合、デッキから「サンヴァイン」魔法・罠カード1枚を手札に加える」

「コンパイル・ブラスターの効果!オーバーレイユニット1つを使うことで、相手の特殊召喚されたモンスターの効果を無効にする!使ったオーバーレイユニットがリンクモンスターなら、無効にして破壊、さらに相手に500のダメージを与える!」

 

 コンパイル・ブラスターが、腹部に装着されたレールガンを撃つ。

 

「墓地の聖蔓の播種(サンヴァイン・ソウイング)の効果!自分の植物族モンスターが破壊される時、かわりにこのカードを除外できる」

 

 しかし、ドリュアスの体が光に包まれて守られる。

 貫通した光線が、スペクターだけにダメージを与えた。

 

 スペクター:ライフ4000→3500

 

「そして、私がダメージを受けたことで、ドリュアスの効果発動、エクストラデッキから聖蔓の癒し手(サンヴァイン・ヒーラー)を特殊召喚!」

 

ドリュアスの枝から、種が落ちた。

 その種の中から、花びらを象ったワンピースを着た女性が姿を現した。

 

「その後、受けたダメージの数値分、ライフを回復。さらに聖蔓の癒し手(サンヴァイン・ヒーラー)の効果で、自分フィールドのサンアバロンリンクモンスターのリンクマーカーの数×300、ライフを回復する」

 

 スペクター:ライフ3500→4300

 

「現れよ、私達の未来(みち)を照らす未来回路!召喚条件は、サンアバロンを含む植物族モンスター2体!リンク召喚!リンク2、聖天樹の精霊(サンアバロン・ドリュアデス)!」

 

 ドリュアスが成長し、さらに大きな大樹へと変貌した。

 

「私はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン3

 

「俺は手札から速攻魔法、RUM(ランクアップマジック) - 超重層(ハイ・エリミネーション)を発動!フィールドのエクシーズモンスター1体を、ランクが1つ高い「エリミネーター」エクシーズモンスターにランクアップさせる」

 

RUM(ランクアップマジック) - 超重層(ハイ・エリミネーション)

速攻魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1)自分・相手のXモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターよりランクが1つ高い「エリミネーター」Xモンスター1体を対象のモンスターの上に重ねてX扱いで特殊召喚する。その後、墓地の「エリミネーター」リンクモンスター1枚までをその下に重ねてX素材にできる。

 

「現れろ、ランク5、敵性機兵(エリミネーター)エクス・ランサムウェア!」

 

敵性機兵(エリミネーター)エクス·ランサムウェア

エクシーズ·効果モンスター

ランク5/風属性/サイバース族/攻 2500/守 2000

風属性·レベル5·効果モンスター×2体以上

このカード名の(1)(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードがX召喚に成功した場合、このカードがX素材として持つリンクモンスター1枚のLINKの数までお互いの使用していないメインモンスターゾーンをそれぞれ指定して発動できる(最大3つ)。指定したゾーンは次の相手のターンのエンドフェイズまで使用できない。

(2)このカードの攻撃力·守備力はこのカードがX素材として持つリンクモンスターのリンクマーカーの数×300アップする。

(3)自分・相手のエンドフェイズにこのカードのX素材2つ、またはX素材のリンク2以上のリンクモンスター1枚を取り除いて発動できる。お互いのメインモンスターゾーンのモンスターを全て破壊する。

 

「その後、墓地のリンクモンスター1体を召喚したエクシーズモンスターのオーバーレイユニットとする。そしてエクス・ランサムウェアの効果!オーバーレイユニットとなったリンクモンスターのリンクマーカーの数だけ、互いののメインモンスターゾーンを使用不可能にする!俺はドリュアデスのリンク先二か所を指定!」

 

 エクス・ランサムウェアが電撃を放つと、ドリュアデスの斜め後方二か所の空間が乱れる。

 

「おやおや、困りましたねぇ。これではリンクモンスターが出せません。しかし、私のドリュアデスは相手の攻撃対象にならない」

 

「ならテメェの顔面をぶん殴るだけだ!バトルだ!エクス・ランサムウェアで、ダイレクトアタック!」

 

 スペクター:ライフ4300→1200

 

「私はダメージを受けたことで私は永続罠!聖天樹の輝常緑(サンアバロン・グロリアスグロース)を発動!フィールドに聖蔓(サンヴァイン)トークンを特殊召喚し、受けたダメージの数値分、ライフを回復する」

 

スペクター:ライフ1200→4300

 

「その後、聖天樹リンクモンスターをリンク召喚できる。現れよ、私達の未来(みち)を照らす未来回路!」

 

 スペクターの足元にアローヘッドが出現する。

 

「召喚条件はサンアバロンを含む、植物族モンスター2体以上!リンク召喚!聖天樹の大精霊(サンアバロン・ドリュアノーム)!」

 

 地響きを鳴らしながら、巨大な樹がEXモンスターゾーンに生えてきた。

 

「そしてグロリアス・グロースがある限り、私の「サンアバロン」リンクモンスターは相手の効果の対象にならず、効果で破壊されない」

 

聖天樹の輝常緑(サンアバロン・グロリアスグロース)

永続罠

(1)自分が戦闘・効果でダメージを受けた場合にこのカードを発動できる。「聖蔓(サンヴァイン)トークン」(植物族・地・星1・攻/守0)1体を特殊召喚する。その後、自分は受けたダメージの数値分ライフを回復し、「サンアバロン」リンクモンスター1体をリンク召喚する。

(2)自分フィールドの「サンアバロン」モンスターは相手の効果の対象にならず、相手の効果で破壊されない。

(3)1ターンに1度、相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージを半分にする。

(4)自分の「サンアバロン」リンクモンスターが効果フィールドから離れた場合に発動する。このカードを破壊する。

 

「俺はこれでターンエンド」

 

ターン4

 

「私は永続魔法、聖蔓の社(サンヴァイン・シュライン)を発動。1ターンに1度、墓地からレベル4以下の植物族モンスターを特殊召喚できます。ゲニウスロキを特殊召喚」

 

 再びゲニウスロキがフィールドに生えてくる。

 

「現れろ。私達の未来(みち)を照らす未来回路!召喚条件は植物族通常モンスター1体!リンク召喚!聖蔓の剣士(サンヴァイン・スラッシャー)!」

 

 現れたのは葉を模したマントをまとった妖精の剣士だ。

 

「スラッシャーの効果。このカードの特殊召喚に成功した時、自分のサンアバロンのリンクマーカーの数×800、攻撃力をアップさせる。バトル、攻撃力3200となったスラッシャーで、エクス・ランサムウェアを攻撃!」

 

 スラッシャーが背中の大剣を引き抜き、一振り。

 自身の倍以上の体躯であるエクス・ランサムウェアを切断した。

 

「ぐっ!」

 

 ゴッドバード:ライフ4000→3900

 

「スラッシャーの効果!戦闘で破壊した相手モンスターを、自分フィールドに効果を無効にして特殊召喚!」

 

 ドリュアノームから蔓が伸びて、地面よりエクス・ランサムウェアを引っ張り出す。

 

「エクス・ランサムウェアでダイレクトアタック!」

 

 ゴッドバード:ライフ3900→2400

 

「私はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン5

 

「俺は敵性機兵(エリミネーター)シークエンスコードを召喚」

 

敵性機兵(エリミネーター)シークエンスコード

効果モンスター

星4/風属性/サイバース族/攻 1500/守 800

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「エリミネーター」モンスター1枚を手札に加える。

(2)相手ターン中、自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しなければ、墓地のこのカードを除外して発動できる。デッキから「エリミネーション」罠カード1枚をセットする。この効果でセットしたカードは、セットしたターンでも発動できる。

 

「その効果でデッキから敵性機兵ラントリクターを手札に加える。ラントリクターは自分フィールドにサイバース族モンスターが存在する場合、手札から特殊召喚できる」

 

 再びレベル4のモンスター2体をフィールドに揃える。

 

「現れろ、未来を貫くサーキット!召喚条件は、風属性を含むレベルが同じモンスター2体!リンク召喚!敵性機兵(エリミネーター)ローディング・バスター」

 

敵性機兵(エリミネーター)ローディング・バスター

リンク・効果モンスター

風属性/サイバース族/攻 1000/LINK2

風属性モンスターを含む同じレベルのモンスター2体

(1) リンク召喚されたこのカードは、リンク素材となったモンスターと同じレベルのモンスターとしてX召喚の素材にでき、このカードのリンクマーカーの数と同じ数のモンスターとしてX召喚の素材にできる。

(2)このカードを素材としてX召喚された「エリミネーター」モンスターは以下の効果を得る。

●このカードがX召喚に成功した場合、相手フィールドのカード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。

 

「そして俺はローディング・バスターでオーバーレイネットワークを構築!エクシーズ召喚!コンパイル・ブラスター!」

 

 エックス型のパネルより、再びコンパイル・ブラスターが現れる。

 

「ローディング・バスターの効果!このカードをX素材としてX召喚した時、相手フィールドのカード1枚を破壊できる。俺はグロリアス・グロースを破壊!」

 

 コンパイル・ブラスターのレールガンが、スペクターの永続罠を撃ち抜く。

 

「バトルだ!コンパイル・ブラスターで、エクス・ランサムウェアを攻撃!」

 

スペクター:ライフ4300→3900

 

「ドリュアノームの効果発動、と言いたいところですが、今効果を発動してしまえば、コンパイル・ブラスターの効果で無効にされて、破壊されてしまいますね」

「俺はこれでターンエンド」

 

ターン6

 

「俺は相手ターン開始時に、墓地のジャイロ―ドとシークエンスコードの効果発動、デッキからエリミネーション・ジャミングとエリミネーション・インターセプトの2枚のカウンター罠をセットする」

「なら私は、スラッシャーで、コンパイル・ブラスターを攻撃」

 

 スペクターはメインフェイズに何もせず、即座に攻撃に移る。

 攻撃力3200のコンパイル・ブラスターに、コンパイル・ブラスターはなすすべもなく打ち取られる。

 

ゴッドバード:ライフ2400→2100

 

「スラッシャーの効果発動」

「カウンター罠!エリミネーション・ジャミング!その効果は無効だ!」

「ですが、あなたのフィールドにはエクシーズモンスターはいない。破壊はされませんよ。私は続けて、罠カード、聖蔓の萌芽(サンヴァイン・スプラウト)を発動」

 

聖蔓の萌芽(サンヴァイン・スプラウト)

通常罠

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分フィールドの「サンアバロン」リンクモンスター、または「サンヴァイン」リンクモンスター1体を対象として発動できる。このターン、対象のモンスターは効果では破壊されない。その後、自分は1000ダメージを受ける。

(2)墓地のこのカードを除外して発動できる。墓地から「サンシード」モンスター1体を特殊召喚する。

 

「ドリュアノームはこのターン、効果で破壊されない。そして自分は1000のダメージを受ける。ダメージを受けたことでドリュアノームの効果発動。EXデッキから「サンヴァイン」モンスター1体を特殊召喚する」

「エリミネーション・インターセプトで……」

『エリミネーション・インターセプトは、チェーンブロックを作る特殊召喚は無効にできません』

 

 デュエルディスクのAIの無慈悲な宣告に、ゴッドバードは歯噛みする。

 

「どうやら打つ手はないようですねぇ。私はEXデッキから聖蔓の剣士(サンヴァイン・スラッシャー)を特殊召喚。効果でサンアバロンのリンクマーカーの数×800攻撃力をアップする。これで終わりだ」

 

 聖蔓の剣士が、ゴッドバードの体を切り払い、ライフを奪い去った。

 

 

「ちくしょう……」

「さて、リボルバー様に歯向かった罪、どう贖わせてあげましょうか」

 

 地面に倒れ伏すゴッドバードを見下ろし、スペクターは下卑た笑みを浮かべる。

 

「くっ……」

 

 ゴッドバードはすぐさまデュエルディスクを操作し、ログアウトした。

 

「おや、逃げてしまいましたか」

 

 敵を逃がしたにもかかわらず、スペクターは特に残念でもなさそうに空を仰ぐ。

 

「リボルバー様は、プレイメーカーを下した頃でしょうか」



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第5話:Bullet of Belief (後編)

 

 ゴッドバードがスペクターとデュエルしている間、プレイメーカーとリボルバーも、スピードデュエルを始めていた。

 

ターン1 リボルバー

 

「私のターン、私はフィールド魔法、リボルブート・セクターを発動。1ターンに1度、手札から「ヴァレット」モンスター2体を守備表示で特殊召喚できる。出でよ、アネスヴァレット・ドラゴン、メタルヴァレット・ドラゴン」

 

 リボルブート・セクターの弾倉が回転し、二体のドラゴンが射出される。

 

「私はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン2 プレイメーカー

 

 プレイメーカーはデコード・トーカーとそのリンク先にペンテスタッグを出してバトルフェイズに入る。

 

「デコード・トーカーで、アネスヴァレット・ドラゴンを攻撃!さらにペンテスタッグでメタルヴァレット・ドラゴンを攻撃!」

 

 デコード・トーカーとペンテスタッグ、ペンテスタッグの効果で貫通効果を持っている。

 二体のモンスターの攻撃が、リボルバーのモンスターを打ち砕き、さらにライフを削る。

 

 リボルバー:ライフ4000→3200

 

「俺はこれでターンエンド」

「ではエンドフェイズに、破壊された二体のヴァレットモンスターの効果を発動」

「何?」

「弾丸の補充だ。ヴァレットモンスターは破壊されたターンのエンドフェイズに、デッキから自身と同名カード以外のヴァレットモンスターを特殊召喚できる。アネスヴァレット・ドラゴンの効果で、メタルヴァレット・ドラゴン、メタルヴァレット・ドラゴンの効果でマグナヴァレット・ドラゴンを特殊召喚!」

 

 虚空から二発の弾丸が発射される。

 弾丸が変形して、新たなドラゴンとなる。

 

ターン3

 

「現れろ!我が道を照らす未来回路!召喚条件はヴァレットモンスター2体!リンク召喚!ブースター・ドラゴン!」

 

 アローヘッドより発射された弾丸が、ドラゴンに変形する。

 

「続けてリボルブート・セクターの効果。相手フィールドのモンスターが自分より多い場合、その差の数だけ墓地のヴァレットモンスターを特殊召喚」

 

 リボルブート・セクターからアネスヴァレット・ドラゴンが発射される。

 

「さらにドラゴン族モンスターが特殊召喚されたことで、手札のノクトヴィジョン・ドラゴンを特殊召喚できる。現れよ。我が道を照らす未来回路!」

 

 コース上にアローヘッドが出現する。

 

「召喚条件は効果モンスター3体以上!私はノクトヴィジョン・ドラゴン、アネスヴァレット・ドラゴン、そしてリンク2のブースター・ドラゴンをリンクマーカーにセット!」

 

 アローヘッドに、3体のモンスターが光になって吸い込まれる。

 

「リンク召喚!閉ざされた世界を貫く我が新風!リンク4!ヴァレルロード・ドラゴン!」

 

 現れたのは赤き竜。

 銅にリボルバー式の弾倉、両腕を銃器で武装した巨大なドラゴンだった。

 

「リンク4!?」

「攻撃力3000かよ!」

「続けて私はセットされた速攻魔法、クイック・リボルブを発動!デッキからマグナヴァレット・ドラゴンを特殊召喚!そしてヴァレルロード・ドラゴンの効果発動!フィールドのモンスター1体を対象に、対象のモンスターの攻撃力を500ダウンさせる」

「こっちのモンスターの攻撃力を下げるつもりか」

「いや、私が選ぶのはマグナヴァレット・ドラゴン!」

 

 マグナヴァレット・ドラゴンが弾丸となってヴァレルロード・ドラゴンの体の弾層に装填される。

 

「リンクモンスターの効果の対象となったことで、マグナヴァレット・ドラゴンの効果発動!このカードを破壊し、相手のモンスター1体を選んで墓地に送る!消えろ!ペンテスタッグ!」

 

 ヴァレルロードの口から大砲が飛び出し、弾丸が発射される。

 ペンテスタッグの体が撃ち抜かれ、破壊された。

 

「バトルだ!ヴァレルロード・ドラゴン!デコード・トーカーを攻撃!この瞬間、ヴァレルロード・ドラゴンの効果発動!」

 

 ヴァレルロード・ドラゴンから赤い弾丸が発射される。それがデコード・トーカーの体に触れた途端、その像がノイズのように揺れて、消滅する。

 

「バトルした相手モンスターのコントロールを得る。我が軍門に下れ!デコード・トーカー!」

 

 ヴァレルロード・ドラゴンの背後に、デコード・トーカーが出現した。

 

「デコード・トーカーが!」

「確かデコード・トーカーは、リンク先のモンスターの数×500、攻撃力がアップするのだったな。パワーインテグレーション!」

 

 デコード・トーカーがヴァレルロードの力を得て、攻撃力が2800までアップする。

 

「バトルだ!デコード・トーカーでダイレクトアタック!」

 

 プレイメーカー:4000→1200

 

「この効果でコントロールを得たモンスターはエンドフェイズに墓地に送られる。そして破壊されたマグナヴァレット・ドラゴンの効果で、デッキからアネスヴァレット・ドラゴンを特殊召喚。これで私はターンエンド」

 

ターン4

 

「攻撃力3000で、しかもあんな強力な効果まで持ってやがるとはな」

 

 Aiはヴァレルロードを見つめて唸る。

 

「それだけじゃない。奴のフィールドにはさっきとは別のヴァレットモンスターがある」

「さっきみたいに、弾丸として飛ばしてくるだろうな。でもやるしかない」

「ああ。俺は装備魔法!コード・リコンパイルを発動!」

 

コード・リコンパイル

装備魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できず、このカードを発動するターン、自分はサイバース族モンスターしか特殊召喚できない。

(1)ライフを500払い、自分の墓地の「コード・トーカー」モンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。そのモンスターを特殊召喚し、このカードを装備する。このカードがフィールドを離れた時に装備モンスターは墓地に送られる。

(2)装備モンスターの効果は無効化され、攻撃力は0になる。

(3)装備モンスターをリンク召喚の素材にする時、このカードを装備モンスターと同じ種族・属性の通常モンスター1体分としてリンク召喚の素材にできる。

 

「ライフを500払うことで、墓地からデコード・トーカーを特殊召喚し、このカードを装備。そしてビットロンを通常召喚。現れろ!未来を導くサーキット!召喚条件は通常モンスター1体!リンク召喚!来いリンク1、リンク・スパイダー」

 

 黒い電子の蜘蛛が姿を現す。

 

「さらに現れろ!未来を導くサーキット!召喚条件はモンスター2体以上!コード・リコンパイルは装備モンスターをリンク素材にする時、自身をモンスター扱いでリンク素材にできる!俺はコード・リコンパイルと、リンク3のデコード・トーカーをリンクマーカーにセット!」

 

 アローヘッドより竜巻が吹き荒れる。

 

「唸れ嵐!虚構に渦巻く旋風は、万物を震わす竜の雄叫びとなる!リンク召喚!」

 

 竜巻の中に光が灯る。

 

「リンク4!ファイアウォール・ドラゴン!」

 

 プレイメーカーのエースモンスター、ファイアウォール・ドラゴンが竜巻より姿を現した。

 

「ファウストを倒した、サイバースのドラゴンか」

「リボルバー、ハノイの騎士の目的はなんだ?」

「人類のためだ。貴様が手にしたそのAIは、いずれ人類を滅ぼす」

「何?」

「我々はサイバースと、それを生み出したイグニスを殲滅する。どんな手を使ってでもな」

「……ファイアウォール・ドラゴンの効果!このカードと相互リンク状態のカードの数まで、フィールドのカードを手札に戻す!ヴァレルロード・ドラゴンを手札に!」

 

 ファイアウォール・ドラゴンの背中にエネルギーが集まる。

 

「私はヴァレルロードの効果を、アネスヴァレットを対象に発動!攻撃力を500ダウンさせる。そしてアネスヴァレットの効果!」

 

 ヴァレルロードの体に、アネスヴァレットが装填され、ヴァレルロードの口から大砲が飛び出す。

 

「相手モンスター1体の効果を無効にし、さらに攻撃もできない」

 

 ファイアウォール・ドラゴンの放ったエネルギー弾を、ヴァレルロードの弾丸が打ち消し、さらにファイアウォール・ドラゴンの体に入り込み、その力を奪う。

 

「くっ……」

「まだだ。見ろ!プレイメーカー!」

 

 Aiの視線の先には、エリア中央を吹き荒れるデータストームがあった。

 

「ゴッドバードが作り出したデータストーム!」

「あの大きさなら、きっと強力なモンスターが眠ってる。飛び込め!」

「ああ!」

 

 Dボードを加速させ、データストームの中に飛び込む。

 あまりの風速に、ボードから振り落とされそうになるも、どうにか踏ん張って、データストームに触れる。

 

「自分のライフが1000以下の時、データストームの中から、サイバース族モンスターをランダムにエクストラデッキに加える」

 

 データストームより、巨大な気配を感じ取る。

 それを掴むために、プレイメーカーは必死に手を伸ばす。

 

「ぐっ……あぁっ!」

 

 しかし、その膨大なデータに耐え切れず、プレイメーカーはデータストームからはじき出されてしまった。

 

「どうやらストームアクセスは失敗のようだな。貴様にもう手は───」

 

 その時、突然データストームが膨張する。

 

「なんだっ!?」

 

 風はさらに加速して速度を上げ、デュエルする二人を飲み込まんとばかりに襲い掛かる。

 

「Ai!何が起こっている!?」

「データストームの中のモンスターが暴れてるんだ!ストームアクセスに失敗して、中途半端に目覚めさせちゃったから……」

 

 そうこうしているうちに、データストームはどんどん膨張し、プレイメーカーとリボルバーのすぐそばまで迫る。

 

「チッ!勝負はお預けだ!」

 

 リボルバーはログアウトする。

 

「待てリボルバー!」

「言ってる場合か!今は逃げるぞ!」

「くっ……」

 

 プレイメーカーは急いでデュエルディスクを操作し、LINK VRAINSからログアウトした。

 

 ◆

 

 翌日、学校に着くと、教室では昨日のリボルバーとプレイメーカーのデュエル、そしてデータストームから現れたサイバースカードの話題で持ちきりだった。

 

「島、お前はサイバースカードを手に入れたのか?」

「い、いや~、俺もLINK VRAINSには行ったんだけど、いいカードがなかったというか」

 

 この様子では、未だにLINK VRAINSにログインすらしてないのだろう。

 

「ならこいつをやる」

 

 すると、遊作は1枚のカードを取り出して、彼に手渡した。

 

「こ、これは……サイバース・マジシャン!」

「この前の礼だ」

「この前? 何の話だ?」

「なんでもない。それより、SOLテクノロジーについて、何か面白い話はないか?」

「ん? いや、強いて言うなら、昨日まで大量にいたドローンが大半引き上げられちまったってことくらいだな」

 

 ドローン型の警備AIは、ログインしているユーザーのデッキ情報をスキャンしていた。

 あれがもし、サイバースカードの持ち主、すなわちプレイメーカーを探していたのだとすれば、昨日サイバースがバラまかれたことで意味がなくなったのだろう。

 

 おかげで遊作も動きやすくなったため、その点では結果的にゴッドバードに助けられた形になる。

 

「ということは、SOLはやはりイグニスを……」

 

 電脳ウイルスを10年前に作り、イグニスについても知っている。

 一度SOLテクノロジーについて、徹底的に調べる必要があるだろう。

 

「遊作」

 

 すると、彼の元を、隣のクラスの美海が訪ねてきた。

 

「少し話があります」

 

 彼女に呼び出されて、遊作は学校の屋上までやってきた。

 

「何の用だ? もうすぐ授業が……」

「あなたがプレイメーカー、ですよね」

「!!」

 

 美海の発言に、遊作の顔が強張る。

 

「何故そう思う?」

「あなた風に言えば、理由は三つあります。一つ、プレイメーカーと同じ機種のデュエルディスクを付けている。二つ、プレイメーカーはこの学校の生徒である。三つ、プレイメーカーは10年前の事件の被害者である」

 

 どうやら彼女はファウストの発言から、その事実にたどり着いたらしい。

 

「イグニスを渡してください」

 

 美海は遊作に手を差し出す。

 

「お前は……いや、SOLテクノロジーはなぜイグニスを狙っている?」

「知る必要はありませんよ。あなたも、私も」

「……断る。俺にはやらなければならない事がある。一つ、10年前の事件の真相を突き止めること、二つ、仁を暗闇から救い出すこと、三つ、俺達を救ってくれたあいつに会うこと」

「あなたは、あんな声のことをまだ信じているんですか?」

 

 二人は睨みあう。

 すると、Aiが遊作のデュエルディスクの中から眼玉を飛び出させる。

 

「なあ、さっきからお前らの言ってる10年前の事件ってのは何なんだ?」

「……分かりました。あなたも知っておいた方がいいでしょう」

 

 そして美海は話し始めた。

 彼らにとっての、忌まわしい過去の出来事を。

 



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第6話:Lost Children

 10年前、

 

 とある男が一人で運営する小さな孤児院で、身寄りのない六人の子供が、仲良く暮らしていた。

 

「遊作!そっちボール行ったぞ!」

「うん!」

 

 生活は決して豊かなものではなかった。

 しかし、親を失い、孤独に苦しんでいた彼らにとって、ここは楽園だった。

 

 けれど、その日々は突然奪われた。

 

 ある朝、目覚めると彼らは白い部屋の中にいた。

 それぞれ別々の部屋に閉じ込められていた彼らは、そこで独り、デュエルを強要された。

 

 デュエルに負ければ、そのたびに電流による激痛が与えられる。

 

 何十日間に渡るデュエル漬けの日々。

 日を追うごとに、敗北のペナルティは激しさを増していき、心身ともに消耗しきっていた。

 

 ────目を開けて

 

 そんな中、彼らを励ましたのは声だった。

 

 ────意識を強く持って、考えるんだ

 ────生きるための三つの理由、帰るための三つのこと

 

 その声の主が誰なのかは分からないが、その声によってどうにか正気を保っていた。

 

 そして半年後、彼らは突然解放された。

 

 彼らを閉じ込めていた部屋がVR空間だと知ったのは、そこから出られた後だった。

彼らは寝ている間にVRゴーグルを着けられて、施設の地下室に監禁されていたらしい。

 

 そして、その犯人は孤児院の経営者であった鴻上聖。

 当時事件が大きく報道されることはなかったものの、警察の激しい追求から心労に耐え切れず、自殺した。

 

 ◆

 

「それから、私達六人はそれぞれ別々の場所に引き取られました。私は財前家に」

「俺と仁は草薙さんの家に。だが、一番幼かった仁は、事件の影響で廃人になってしまった」

 

 遊作と美海は行き場のない怒りを抑えるように、拳を握りしめる。

 

「まだ子供なのに、その鴻上ってやつはひでぇやつだな」

「先生は犯人じゃない」

 

 Aiの発言を遊作が強く否定する。

 

「美海、あの事件はまだ何も終わっていない。事件の本当の犯人は誰なのか。俺たちは向き合わなければならない」

「……向き合って、何が変わるんですか」

 

 遊作の言葉に、美海は怒りをあらわにする。

 

「辛いことから逃げて何が悪いんですか!? 何をしたところで、あの時間も、仁くんも、先生も、もう戻ってこないんですよ!」

 

 美海の叫びを、遊作は黙って聞く。

 

「……美海、俺は今夜、SOLテクノロジーのサーバーをハッキングする」

「それは、私への挑戦と受け取ってもよろしいですか?」

 

 遊作は答えず、彼女に背を向けて、屋上を後にした。

 

 ◆

 

 昼休み、美海は葵と一緒に屋上で弁当を食べていた。

 

「美海、どうしたの?」

 

 元気のない彼女の顔を、葵は心配そうに覗き込む。

 

「なんでもありません。少し食欲がなくて」

 

 そう言って、美海はほとんど手をつけていない弁当箱を閉じて、立ち上がる。

 

「少し、用事を思い出したので、失礼します」

「あ!美海!」

 

 美海はそのまま階段を下りて、人気のない廊下で電話をかける。

 

「ビショップ様。私です」

『どうした?』

「情報を得ました。プレイメーカーが今夜、SOLのサーバーにハッキングを仕掛けるそうです」

『その情報は確かか?』

「信頼できる情報屋から買ったので間違いないかと」

 

 美海は用意しておいた方便を述べる。

 辻褄合わせのために、事前に情報屋にも話してあるので、万一調べられても問題はないだろう。

 

『ならばよし。必ずイグニスを確保しろ』

「了解しました」

 

 通話は切られると、足音が聞こえたので振り返る。

 

「美海……」

「葵様、今の話、聞いていたのですか?」

「……プレイメーカーと戦うの?」

「はい」

 

 美海は真っすぐ、彼女の眼を見て答えた。

 

「葵様が心配することはありません。私があなたを守りますから」

 

 そうやって笑う彼女の顔が、どこか苦しそうだった。

 

 ◆

 

 LINK VRAINS某所、誰もいない建物の屋上で、ゴッドバードは一人不貞腐れていた。

 

「ご機嫌斜めじゃない」

 

 顔を上げると、そこには大学生くらいの黒と紫のピッチリした上着とハーフパンツに身を包んだ女性が立っていた。

 

「ゴーストガール……」

「聞いたわよ。ハノイに負けたんでしょ」

「っ……」

 

 ゴッドバードはスペクターとのデュエルを思い出して下唇を噛む。

 

 思えばあのデュエルで、スペクターのライフを削れたのは最後のアタックだけで、終わってみれば終始彼の掌の上だった。

 

「で、お前は俺のことをバカにしにきたのか?」

「違うわよ。知り合いが落ち込んでいるみたいだったから、慰めてあげようと思って」

「けっ、誰がお前みたいなババアと」

「あら、女の魅力は若さじゃないのよ? お子様には分からないかもしれないけど」

「リアルより若いアバター使ってるくせに」

 

 ゴッドバードに煽られても、彼女は動じることなく、その隣に腰かける。

 

「それより、耳寄りな情報を持って来たんだけど」

「なんだよ。俺は新しいデッキを組むのに忙しくてそれどころじゃ……」

「プレイメーカーの居場所について」

 

 ゴーストガールに耳元で囁く。

 

「‥…テメェが何でそんな情報を」

「お姉さんにはいろんな情報網があるの」

 

 ゴッドバードは自分のデュエルディスクを操作して、ホログラムウィンドウを出現させると、それをゴーストガールの方へ飛ばす。

 

「こいつでいいか?」

「毎度あり。サービスでお姉さんといいことする?」

「結構だ!誰が好き好んで三次元のババアと」

「はいはい。プレイメーカーは今夜、SOLテクノロジーのサーバーに侵入するそうよ」

「へぇ、そいつはご苦労なこった」

 

 それを聞いてゴッドバードはニヤリと笑う。

 

「どうするの? プレイメーカーの邪魔でもしに行くの?」

「いいや、こいつは使えそうだな」

 

 ◆

 

 草薙のキッチンカーで、遊作達はSOLテクノロジーのサーバーに侵入する準備を進めていた。

 

「遊作、本当に行くのか?」

「ああ」

 

 遊作はデュエルディスクを装着する。

 

「SOLのサーバーに侵入するなんて、さすがにリスクがデカすぎる」

「どの道、SOLの人間である美海に正体が知られてるんだ。なら懐に飛び込んでやる」

「そうか……」

 

 草薙は止めても無駄なことがわかると、諦めたように苦笑する。

 

「気を付けて行ってこい」

「ありがとう。草薙さん」

 

 遊作は奥のログイン用のスペースに入る。

 

「イントゥザヴレインズ!」

 

 ◆

 

 SOLテクノロジーの社内ネットワーク、殺風景な電脳空間を抜けて、プレイメーカーは最深部へとやってきた。

 

「ここがSOLのサーバーか」

「見ろあそこ」

 

 Aiが指をさすかわりに目で訴える。

 

 そこには巨大な地球儀のような物体と、その周囲を浮遊するリングがあった。

 

「ここが、SOLテクノロジーの機密情報を保管しているコアか」

「待っていましたよ。プレイメーカー」

 

 そこで、コアの後ろに隠れていた美海が姿を現す。

 

「あなたの狙いは、ここにあるデータですね」

 

 プレイメーカーは無言のまま、彼女を見つめる。

 

「では、私とデュエルをしましょう」

 

 その沈黙を同意と受け取り、美海は続ける。

 

「あなたが勝てば、ここを通してあげます。負ければイグニスをこちらに渡す」

「いいだろう」

「それから」

 

 すると、美海は視線を右へ向ける。

 

「あなたも隠れてないで出てきたらどうですか?」

「けっ、バレてやがったのか」

 

 プレイメーカーが着た方とは別の通路から、ゴッドバードが顔を出した。

 

「お前は……!?」

「よう。また会ったな」

「プレイメーカーを囮にして、データを横取りしようとしたんでしょうが、その程度のことはお見通しです」

「だったら、そこにいるやつのことにも気付いてたのか?」

 

 ゴッドバードが、美海の後ろを指さす。

 全員がそちらを向くと、そこにはブルーエンジェルが立っていた。

 

「あお……ブルーエンジェル、何故あなたがここに!?」

「えーっと……」

 

 美海との関係を知られるわけにはいかない彼女は、申し訳なさそうに目をそらす。

 

「……まあいいです。あなた達はそこで見ていてください。ゴッドバード、あなたの相手もこの後してあげます」

「へっ、上等だ。次も捻り潰してやるよ」

 

 美海は彼を一瞥して、またすぐにプレイメーカーの方を向き直る。

 

「早く始めるぞ」

「えぇ、では」

 

「「デュエル!」」

 

ターン1 プレイメーカー

 

「俺はグリッド・スイーパーを通常召喚!続けてバックアップ・セクレタリーを特殊召喚。現れろ!未来を導くサーキット!リンク召喚!I:Pマスカレーナ」

 

 現れたのは、猫耳型のガジェットを装備した、へそ出しのシャツを着た少女だ。

 

「手札のマイクロ・コーダーの効果。コード・トーカーモンスターをリンク召喚する時、このカードを手札からリンク素材にできる。現れろ!未来を導くサーキット!」

 

 プレイメーカーが指さす先に、アローヘッドが出現する。

 

「召喚条件は、効果モンスター2体以上!俺はマイクロ・コーダーと、リンク2のI:Pマスカレーナをリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン!」

 

 リンクマーカーにプレイメーカーのモンスターが吸い込まれる。

 

「リンク召喚!リンク3、デコード・トーカー!」

「早速デコード・トーカーを呼び出したな。いいぞプレイメーカー!」

「I:Pマスカレーナをリンク素材にしたモンスターは、効果では破壊されない。そして、リンク素材となったマイクロ・コーダーの効果。デッキから「サイバネット」魔法・罠カード1枚を手札に加える。俺はサイバネット・バックドアを手札に。そして手札からリンク・フライヤーを特殊召喚」

 

 青い三角形の凧のような飛行物体が、デコード・トーカーの右下のリンク先に飛んでくる。

 

「このカードは、自分のリンクモンスターのリンク先に特殊召喚できる。俺はカードを2枚伏せて、ターンエンド」

 

ターン2 美海

 

「私のターン。私は原初海祈(オリジンブルー)シーライブラを召喚」

 

原初海祈(オリジンブルー)シーライブラ

効果モンスター

星4/水属性/サイバース族/攻 1000/守 1600

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードの召喚·特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「原初海祈シーライブラ」以外の「オリジンブルー」カード1枚を手札に加える。

(2)このカードが他のモンスターゾーンに移動した場合に発動できる。手札から「原初海祈シーライブラ」以外の「オリジンブルー」モンスター1体を守備表示で特殊召喚する。

 

「自分の水属性モンスターを隣に移動させることで、手札の原初海祈(オリジンブルー)メガロガーを特殊召喚」

 

原初海祈(オリジンブルー)メガロガー

効果モンスター

星3/水属性/サイバース族/攻 1300/守 500

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できず、発動するターン、自分はサイバース族モンスターしか特殊召喚できない。

(1)自分フィールドの水属性モンスター1体を対象として発動できる。対象のモンスターを隣のメインモンスターゾーンに移動させ、手札からこのカードを特殊召喚する。

(2)このカードが墓地に存在する場合、自分フィールドの「オリジンブルー」モンスター1体を対象として発動できる。対象のモンスターを隣のメインモンスターゾーンに移動させ、このカードを特殊召喚する。この効果で特殊召喚したこのカードはフィールドを離れた場合、除外される。

 

「自分の水属性モンスターを隣のメインモンスターゾーンに移動させることで自身を特殊召喚。さらにシーライブラの効果、このカードが移動した時、手札から「オリジンブルー」モンスターを特殊召喚できる。私はアノマロトレスを特殊召喚。さらに自分フィールドのモンスターが水属性のみの場合、手札の原初海祈(オリジンブルー)アンモジュールを特殊召喚できる」

 

原初海祈(オリジンブルー)アノマロトレス

効果モンスター

星3/水属性/サイバース族/攻 800/守 800

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分フィールドのこのカード以外の「オリジンブルー」モンスター1体を対象として発動できる。対象のモンスターを隣のメインモンスターゾーンに移動させ、元々の位置にそのカードと同じレベル·種族·属性の「オリジンブルー·トークン」(攻/守0)1体を特殊召喚する。この効果発動後、ターン終了時まで、自分は水属性モンスターしか特殊召喚できない。

(2)墓地のこのカードを除外し、自分フィールドの水属性モンスター1体を対象として発動できる。対象のカードを隣のメインモンスターゾーンに移動させる。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

原初海祈(オリジンブルー)アンモジュール

効果モンスター

星4/水属性/サイバース族/攻 1700/守 0

このカード名の(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しか行えず、このカード名のカードを特殊召喚するターン、自分は水属性モンスターしか特殊召喚できない。

(1)自分フィールドにモンスターが存在しない、または水属性モンスターのみの場合、このカードを手札から特殊召喚できる。

(2)このカードが他のモンスターゾーンに移動した場合に発動できる。デッキから「オリジンブルー」魔法・罠カード1枚を手札に加える。

 

原初海祈(オリジンブルー)アノマロトレスの効果。このカード以外のオリジンブルーモンスターを隣に移動させることで、そのモンスターが元々いた位置に、種族・属性・レベルが同じオリジンブルートークンを特殊召喚。そしてアンモジュールが移動したことで、デッキから原初海域を手札に」

「一気に5体のモンスターを並べるって、スゲ―展開力だな……」

 

 美海のフィールドに並んだ海洋生物達に、Aiはげんなりしていた。

 

「私はさらにフィールド魔法、原初海域(オリジンブルー・ウェブ)を発動」

 

原初海域(オリジンブルー・ウェブ)

フィールド魔法

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分の「オリジンブルー」リンクモンスターのリンク召喚に成功した場合に発動できる。そのモンスターに、このターン中にモンスターが移動した回数だけ、バックログカウンターを置く。その後、この効果で置かれたカウンターの数まで、墓地からレベル4以下の「オリジンブルー」モンスターを特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化される。

(2)1ターンに1度、自分フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを隣のメインモンスターゾーンに移動させる。

 

「来なさい、未来を繋ぐサーキット!召喚条件は水属性・効果モンスター2体以上!私はアンモジュール、シーライブラ、メガロガーの3体をリンクマーカーにセット!」

 

「リンク召喚!リンク3、原初海祈(オリジンブルー)タイタニーニャ!」

 

原初海祈(オリジンブルー)タイタニーニャ

リンク·チューナー·効果モンスター

水属性/サイバース族/攻 0/LINK3

【リンクマーカー:右下/下/左下】

水属性·効果モンスター2体以上

(1)リンク状態のこのカードは相手の効果を受けず、攻撃対象にならない。

(2)このカードのリンク先のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターをチューナーとして扱う。その後、このカードのリンク先のモンスターのみを素材としてサイバース族Sモンスター1体をS召喚する。この効果は相手ターンでも発動できる。

(3)自分のモンスターの位置が移動する度に、このカードにバックログカウンターを1つ置く。

(4)自分フィールドのモンスターの攻撃力は、このカードのバックログカウンターの数×200アップする。

 

原初海域(オリジンブルー・ウェブ)の効果。オリジンブルーのリンク召喚に成功した時、このターンにモンスターが移動した回数分、召喚されたモンスターにバックログカウンターを置く。その後、その数だけ、墓地からレベル4以下のオリジンブルーを、効果を無効にして特殊召喚」

 

 タイタニーニャが触手を地面に伸ばすと、シーライブラとメガロガーが、地上に引っ張り上げられる。

 

「タイタニーニャの効果。メガロガーをチューナーとして扱い、リンク先のモンスターのみを素材としてシンクロ召喚を行う!私はレベル4のオリジンブルートークンに、レベル3のメガロガーをチューニング!」

 

 オリジンブルートークンとメガロガーの体が分解され、二つの光のリングになり、重なる。

 

「太古の泉より、その美しき歌声を響かせよ。シンクロ召喚!レベル7、原初海祈(オリジンブルー)プレシオルタ!」

 

原初海祈(オリジンブルー)プレシオルタ

シンクロ·効果モンスター

星7/水属性/サイバース族/攻 2300/守 2000

水属性チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

(1)このカードが効果で隣のメインモンスターゾーンに移動する場合、かわりにリンクモンスターのリンク先となるメインモンスターゾーンに移動できる。

(2)1ターンに1度、自分フィールドのバックログカウンター1つを取り除いて発動できる。このカードと同じ縦列の相手のカードを全て手札に戻す。この効果は相手ターンでも発動できる。

(3)1ターンに1度発動できる。このカードを隣のメインモンスターゾーンに移動させる。

 

「あの子のエースは、シンクロモンスターかよ」

「いや、それよりも……」

 

 プレシオルタは今、デコード・トーカーの正面で睨みあっている。

 

(なぜ美海は、デコード・トーカーのリンク先に)

 

「プレシオルタの効果発動。バックログカウンター1つを取り除くことで、このカードと同じ縦列の相手のカードを全て手札に戻す」

 

 プレシオルタが口を開けて、美しい音色を奏でる。

 

「俺は速攻魔法!サイバネット・バックドアを発動!デコード・トーカーを次の自分のスタンバイフェイズまで除外し、デッキから、除外したモンスターより低い攻撃力のモンスターを手札に加える。サイバース・ガジェットを手札に加える」

 

 デコード・トーカーをフィールドから離して、どうにかバウンスを回避する。

 

「まだです!墓地のメガロガーの効果を発動!オリジンブルーモンスター1体を隣に移動させることで、墓地から自身を特殊召喚!」

 

 アノマロトレスが移動して、メガロガーが浮上する。

 

「モンスターが移動したことで、タイタニーニャにはバックログカウンターが置かれます。そしてタイタニーニャの効果発動!メガロガーをチューナーに変え、リンク先のモンスターでシンクロ召喚を行う!私はレベル3のアノマロトレスに、レベル3のメガロガーをチューニング!」

 

「シンクロ召喚!レベル6、原初海祈(オリジンブルー)エラスモータル」

 

原初海祈(オリジンブルー)エラスモータル

シンクロ・効果モンスター

星6/水属性/サイバース族/攻 2000/守 2000

水属性チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

このカード名の(2)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1) このカードが効果で隣のメインモンスターゾーンに移動する場合、かわりにリンクモンスターのリンク先となるメインモンスターゾーンに移動できる。

(2)このカードが移動した場合、自分フィールドのバックログカウンター1つを取り除き、このカードが元々いた位置と、移動先の間にあるメインモンスターゾーンの数だけ、相手フィールドのカードを対象として発動できる。そのカードをデッキに戻す。

(3)S召喚されたこのカードがフィールドから墓地に送られた場合に発動できる。墓地から水属性モンスター1体を手札に加える。

 

「フィールド魔法、原初海域の効果発動!エラスモータルを隣に移動させる。この時、エラスモータルの効果で、かわりにリンクモンスターのリンク先に移動できます。私はエラスモータルを右端に移動」

 

「移動したことでバックログカウンターを追加。さらにエラスモータルの効果!自身が移動した時、バックログカウンターを1つ使うことで、移動先と元々の位置の間にあるメインモンスターゾーンの数だけ、相手のカードをデッキに戻す!」

 

 エラスモータルが鳴き声を奏でると、リンク・フライヤーが吹き飛ばされる。

 

「タイタニーニャの効果で、私のモンスターの攻撃力は、バックログカウンターの数×200アップします。カウンターは二つなので、400アップ!バトル!プレシオルタでダイレクトアタック!」

 

「俺は罠カード!スリーフェイト・バリアを発動!」

 

スリーフェイト・バリア

通常罠

(1) 以下の効果から1つを選択して発動できる。

●このターン、自分のモンスターは戦闘・効果で破壊されない。

●このターン、自分はダメージを受けない。

●このターン、自分のモンスター1体は1度だけ戦闘で破壊されず、その戦闘によって戦闘ダメージを受けるかわりに、その数値分、自分のライフを回復する。

(2)自分がダメージを受けた場合、墓地のこのカードを除外して発動できる。このターン、自分が受ける効果ダメージは0になる。

 

「このターン、俺はダメージを受けない」

 

 プレイメーカーの前に、黄色い障壁が展開され、プレシオルタの放った音波を防ぐ。

 

「しぶといですね。私はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン3

 

「俺のターン、サイバネット・バックドアの効果で、デコード・トーカーはフィールドに戻る」

 

 空間に四角い割れ目が広がり、デコード・トーカーが帰還する。

 

「そしてサイバネット・バックドアの効果により、デコード・トーカーはこのターン、ダイレクトアタックができる」

「ですがデコード・トーカーだけでは私のライフは削れませんよ。それに分かっていますか。あなたは今、リンク召喚を封じられている」

「え、どゆこと?」

 

 首を傾げるAiにプレイメーカーが解説する。

 

「今空いているEXモンスターゾーンは一か所。そしてその正面にはプレシオルタがいる」

「そうか!プレシオルタには正面のモンスターを手札に戻す効果があるから」

「その通り、あなたがリンク召喚を行えば、その瞬間、プレシオルタで手札に戻す。つまりあなたは、まずプレシオルタをどうにかしなければ、エクストラデッキからモンスターを出すことはできないんです」

 

 彼女の言う通り、この盤面はプレイメーカーにとって圧倒的に不利な状況だ。

 

(つっても、その効果はバックログカウンターがなけりゃ使えない。ならプレイメーカーは……)

 

「俺はサイバース・ガジェットを召喚。効果で墓地からマイクロ・コーダーを特殊召喚」

 

 サイバース・ガジェットが、右腕のコードでマイクロ・コーダーを引っ張り上げる。

 

「現れろ、未来を導くサーキット!召喚条件は効果モンスター2体!俺はマイクロ・コーダー、サイバース・ガジェットをリンクマーカーにセット!リンク召喚!来い、コード・トーカー!」

 

 アローヘッドより、白いデコード・トーカーとも呼べる電脳の騎士が出現する。

 

「サイバース・ガジェットの効果で、ガジェット・トークンを特殊召喚。さらにマイクロ・コーダーの効果で、デッキからサイバネット・クロスワイプを手札に加える」

「では私はプレシオルタの効果で、コード・トーカーにはEXデッキに戻ってもらいましょう」

 

 コード・トーカーは、プレシオルタの歌声で眠らされ、そのままフィールドから消える。

 

「まだだ。俺はガジェット・トークンを使いリンク召喚!リンク1、リンク・スパイダー!続けて、墓地のグリッド・スイーパーの効果発動!このカードと自分のリンクモンスター1体を除外して、相手フィールドのカード1枚を破壊する!」

「くっ、そういうことですか。私は墓地のアノマロトレスの効果!」

 

 彼の意図を察した彼女は、即座に対応する。

 

「このカードを除外することで、自分フィールドの水属性モンスター1体を隣のメインモンスターゾーンに移動させる。私はプレシオルタをタイタニーニャのリンク先へ移動」

「え!?」

 

 彼女の行動にブルーエンジェルは困惑する。

 

「なら俺はプレシオルタを破壊!」

 

 フィールド上に三角形の次元の穴が開き、リンク・スパイダーとプレシオルタが吸い込まれ、破壊された。

 

「ねぇ」

「ん?」

 

 ブルーエンジェルがゴッドバードに近付く。

 

「彼女はどうしてプレシオルタを移動させたの?」

「ああ。タイタニーニャにはリンク状態の間、耐性を得る効果がある。仮にあの場で、プレシオルタを移動させてなかったら、プレイメーカーはグリッド・スイーパーの効果に、さらにサイバネット・クロスワイプをチェーンして、エラスモータルを破壊。そしてグリッド・スイーパーの効果で耐性を失ったタイタニーニャを破壊していた」

「なるほど……」

「つーか、なんで俺に聞くんだよ……」

 

 ブルーエンジェルの馴れ馴れしい態度に、ゴッドバードは呆れていた。

 

「バトルだ!デコード・トーカーで、ダイレクトアタック!」

 

 サイバネット・バックドアの力で、空間に穴が開き、デコード・トーカーがそこを通り、美海の背後に回って攻撃する。

 

 美海:ライフ4000→1700

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン4

 

(彼の伏せカードは、さっき手札に加えたサイバネット・クロスワイプ。エラスモータルの効果を発動させても、チェーンしてかわされるだけ。ならここは)

「私は原初海域(オリジンブルー・ウェブ)の効果!シーライブラを隣に移動させる。移動したことで、タイタニーニャにバックログカウンターを置き、シーライブラの効果発動!手札から原初海祈マイアーカイブを特殊召喚!そのままリリースして、アドバンス召喚!コンデンサー・デスストーカー!」

 

 尾に注射針を装備した機械仕掛けのサソリが現れる。

 

「コンデンサー・デスストーカーの効果で、タイタニーニャの攻撃力を800アップ。そして私のバックログカウンターの数は3つ。私のフィールドのモンスターの攻撃力は600アップします」

 

 コンデンサー・デスストーカー:攻撃力2600

 原初海祈(オリジンブルー)シーライブラ:攻撃力1600

 原初海祈(オリジンブルー)タイタニーニャ:1400

 原初海祈(オリジンブルー)エラスモータル:2600

 

「バトル!まずはエラスモータルで、デコード・トーカーを攻撃!」

 

 エラスモータルの吐いた水流が、デコード・トーカーを砕く。

 

 プレイメーカー:4000→3700

 

「コンデンサー・デスストーカーでダイレクトアタック!」

 

 プレイメーカー:3700→1100

 

「これで終わりです!タイタニーニャで……!」

(ちょっと待って、何故彼はサイバネット・クロスワイプを使わなかったの!?)

 

 美海の脳裏に過ぎった疑問は、次の瞬間に解決された。

 

「俺は罠カード!リコーデッド・アライブを発動!」

「サイバネット・クロスワイプじゃない!?」

「墓地のデコード・トーカーを除外して、エクストラデッキから、エンコード・トーカーを特殊召喚!」

 

 タイタニーニャの前に、エンコード・トーカーが立ちふさがる。

 

「くっ……私はこれで、ターンエンド」

 

ターン5

 

「俺はサイバース・ウィザードを召喚」

 

 エンコード・トーカーのリンク先に、白いローブの魔導士が召喚される。

 

「終わりだな」

 

 その盤面を見て、ゴッドバードは呟く。

 

「エンコード・トーカーには、リンク先のモンスターが自身より攻撃力の高いモンスターと戦闘を行う時、バトルによる破壊とダメージを無効にして、自身の攻撃力を上げる効果がある」

「じゃあみ……彼女はこのターンで……」

 

 打つ手のない美海は、プレイメーカーを強く睨みつける。

 

「どうして、あなたは……」

「俺にはやらなければならないことがある。そのために、俺はお前を倒して前に進む」

「ふざけないで。そのために……あなたが余計なことをしたせいで、葵様はハノイに!」

 

 言いかけて口を噤む。

 

「こんなのはただの八つ当たりです。分かってるんです。でも、私にとって彼女は、闇の中にいた私を救ってくれた恩人なんです」

「なあ」

 

 すると、静観していたゴッドバードが口を挟む。

 

「お前が何に怒ってんのかは知らねぇけどよ。お前が守りたいのはその葵様ってやつなんだろ?だったら、そいつと、そいつとの時間を守るために必要なもんはなんなのか、もういっぺん考えてみろよ」

「あなたに何が……」

「さぁ、わかんねぇかもな」

 

 ゴッドバードは小さく笑う。

 その表情が記憶の中の誰かと重なり、美海の心からスッと怒りが消えた。

 

「……バトルだ。俺はサイバース・ウィザードで、エラスモータルを攻撃」

 

 攻撃力はエラスモータルが上。

 しかし、エンコード・トーカーの効果で、サイバース・ウィザードは守られる。

 

「エンコード・トーカーの効果で、エンコード・トーカーの攻撃力をエラスモータルの攻撃力分アップする。エンコード・トーカーで、エラスモータルにアタック!」

 

 エンコード・トーカーが盾を構えて突進する。

 

「ファイナルエンコード!」

 

 ◆

 

 ログアウトした遊作は、回収したデータの解析を草薙に任せて、夜の浜辺でたそがれていた。

 

「なあ遊作、美海に正体がバレちまったけど……」

「大丈夫だろう」

 

 Aiの心配を、遊作は一蹴する。

 

「あいつはあのデュエルの最中、ただの一度も、俺を遊作とは呼ばなかった。SOLに俺の正体を知られないように」

「ふーん、人間ってのはよくわかんねぇな」

「お前にも、分かる時が来るかもしれないな」

 

 遊作はそう言って空を見上げた。



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第7話:Dummy for play(前編)

日常回です
今回も長いので2分割します


 SOLテクノロジー、幹部室。

 

『失敗したようだな』

 

 チェス駒のアバター、ビショップが目の前に立つ美海に低い声で言う。

 

「申し訳ございません」

『先日のゴッドバードへの敗北といい、私は君を過大評価していたようだ』

「待ってください!美海は……」

「晃様」

 

 彼女をかばおうとした晃を、美海は制止する。

 

「いいんです」

『君からセキュリティ部隊として権限を剥奪する』

「甘んじて、受け入れます」

『以上だ』

 

 景色は暗転し、周囲の風景は元の部屋に戻る。

 

「美海……」

 

 晃は心配そうに見つめるが、当の美海は落ち込んだ様子はない。

 

「晃様」

「なんだ?」

「SOLの上層部は、どうしてイグニスを欲しているのですか?」

「私にも分からない。そもそもイグニスがどういう存在なのか……」

 

 晃の申し訳なさそうな態度に、美海は何かを決意したように顔を上げる。

 

「私たちには、知らないことが多すぎます。そのことから目を反らすのは、もうやめるべきなのかもしれません」

「美海、それは……」

「……冗談ですよ」

 

 美海はそう一言告げて、晃に背を向けた。

 

 ◆

 

「だぁぁぁっ!」

 

 ある日、島がいつもより騒がしく、教室で叫び声を上げていた。

 

「どうしたんだ?」

 

 あまりにおかしい彼の様子に、珍しく遊作の方から島に話しかけた。

 

「聞いてくれよ藤木!これを見ろ!」

 

 彼がタブレットを遊作の顔に押し付ける。

 

「……なんなんだ一体」

 

 遊作がタブレットを受け取ってその内容に目を通す。

 

 開いていたのはネットニュースの記事だった。

 見出しは『【悲報】プレイメーカーはヒールだった』、記事によればプレイメーカーが、ハノイの騎士から助けた人達から金やカードを巻き上げているらしい。

 

「プレイメーカーはこんなことするわけねぇよ!お前もそう思うだろ!?」

「そ、そうだな」

「絶対!プレイメーカーの偽物がやってるに違いない!」

 

 熱くなる島に、遊作は冷めた態度で彼を見る。

 すると、

 

「遊作」

 

 教室の外から、美海が呼んでいた。

 

 島のことは放っておいて、遊作は彼女について屋上にやってきた。

 

「念のため聞きますけど。あのニュースの件、あなたではないですよね?」

「違う」

「お前こそ、遊作に負けた腹いせにやったんじゃねぇの?」

「私、そんな性格悪い奴に見えます?」

 

 Aiに疑われて、美海は少なからずショックを受けたようだった。

 

「では、単なるフェイクニュースでしょうか」

「いや、それはないな」

 

 すると、何故かAiは自信満々に言い切る。

 

「さっきのニュースと似たような内容の記事が何件も見つかった。ログを調べてみたが、掲載時間はそんなに変わらない」

「つまり、コピー記事ではないということか」

「では、島くんの言うとおり、プレイメーカーの偽物がいるということでしょうか」

「きっとハノイの仕業だな。遊作に負けっぱなしだったから、腹いせにやったんだろ。あ、でもお前、リボルバーには負けたんだったんだな」

 

 遊作は無言でデュエルディスクをミュートにする。

 

「それでどうするんですか?」

「言いたいやつには言わせておけ」

「私としては、友達が悪く言われるのは……」

 

 美海の気持ちは嬉しいが、遊作はそんなことにかまけている余裕はなかった。

 

「SOLから持ち帰ったデータの解析結果がもうすぐ出そうなんだ」

「それ私の前で言います? 一応言わないようにしてたんですけど」

「すまん……」

「まあいいですけどね。デュエルに負けたので、文句はありません」

 

 美海はため息を吐く。

 

「美海は、これからどうする?」

「……もう少し考えさせてください」

「そうか」

「では、私はこれで」

 

 美海はそう言って、屋上を去っていった。

 

 ◆

 

 二人のやり取りを遠くから見ていた葵は、顔を真っ赤にして口を押えた。

 

(なになになに今の!)

 

 ───少し、考えさせてください

 

(もしかして、藤木君が美海に告白したってこと!?)

 

 物陰に隠れて通り過ぎる美海の顔を見る。

 その表情は思い悩むようで、複雑な感情を孕んでいた。

 

(間違いないわ!あれは恋する乙女の顔!だってネットでこういうシチュエーション見たし!)

 

 普段からネットの情報をうのみにしてはならないと、美海から言われていることも忘れて、葵は思い込みを加速させる。

 

(こうしちゃいられないわ。美海と藤木君の恋が成就するように、私も協力しないと!)

 

 人知れず葵は、そんなズレた決意を固めるのだった。

 

 ◆

 

「というわけで!俺達でプレイメーカーの疑いを晴らそうと思う!」

 

 放課後、デュエル部の部室を訪ねると、島がいきなりそんなことを言い始めた。

 

「何がというわけなんだ」

「なんだよ藤木はノリ悪りぃな。今からLINK VRAINSに行って、プレイメーカーの偽物を捕まえるんだよ」

 

 息まいてる島を、遊作はめんどくさそうに眺める。

 

「二人は行くのか?」

「まあ私はSOLの人間として、迷惑行為をするユーザーを放ってはおけませんし」

 

 とクールに答える美海、

 

「私もやる。プレイメーカーには借りもあるし」

 

 葵の方はいつになくやる気に満ちている。

 

(財前に貸しなんてあったか?)

 

 遊作は首を傾げるが、なんにしても、みんながやる気なら遊作も参加せざるを得なかった。

 

「じゃあ帰ったらすぐにLINK VRAINSにログインしろよ」

 

 ◆

 

 そしてLINK VRAINSに集合した4人は、お互いのアバターネームを確認する。

 

「藤木、お前はアバターも地味だな」

 

 遊作のアバターは当然いつものプレイメーカーではなく、黒いコートに灰色の髪の毛といういで立ちだった。

 

「えーっと、アバターネームはU39?」

(ああ。遊作の語呂合わせ)

 

 美海は名前の意味に気付いて、すぐに納得した。

 

「なんか呼びにくいし、藤木でいいか?」

「ああ」

「いやダメでしょ」

 

 そう突っ込みを入れる葵は、カラーリングこそブルーエンジェルと同じだが、髪は短く、ノースリーブのパーカーにショートパンツというラフな格好だった。

 

「アカウント名はブルーガール、もしかしてブルーエンジェルのオマージュか?」

「まぁ……」

 

 葵は目を剃らす。

 

「ブルーエンジェルの真似ならもっと愛想よくしろよ」

(本人なんだけどな~)

 

 好き勝手言う島に、美海は心の中でそんなことを思う。

 

「そういうお前は、変身ヒーローか?」

 

 島のアバターは水色を基調としたアーマーのようなものを纏っており、胸の部分にはデカデカとエンブレムが装飾されている。

 

「おう。名前はロンリーブレイヴ。海外の映画のヒーローをモチーフにしてみたんだ。クールだろ?」

「美海のアカウント名はμか」

「えぇ、本名のもじりですけど」

「聞けよ!」

 

 スルーされたロンリーブレイヴこと島を宥めつつ、方針について話を始める。

 

「どうやって偽物を探す?」

「まずは手分けして聞き込みとかどう?」

 

 珍しくブルーガールこと葵が最初に発言して案を出す。

 

「じゃあ二手に分かれるか」

「では私はブルーガールと。私には彼女をお守りする役目がありますから」

「なら俺がロンリーブレイヴとだな」

「待って!」

 

 綺麗に男女に別れようとしていたところで、ブルーガールが口を挟んだ。

 

「どうした?」

「え、えーっと、その……せっせかくだから、いつもと違う組み合わせもいいんじゃないかなと。た、例えば美海と藤木君とか」

(美海と遊作を二人っきりにする。親友として美海の恋を応援しないと)

「俺はそれでも構わないが……」

 

 葵の考えなど知る由もない遊作は、自分の正体を知る美海となら動きやすいなどと呑気に考える。

 だが、美海の思考はズレた方向に動く。

 

(あの様子、まさか葵様は遊作のことが……でなければ男女ペアを作ろうとするはずがありません。いきなり遊作と組みたいと言うのは恥ずかしいから、私を指名することで、自然とその流れに持って行ったと、そういうことですね)

「では、ブルーガールは遊作と組んでください」

「え?」

 

 ブルーガールを遊作に押し付け、彼の耳元で囁く。

 

「葵様のこと、くれぐれもお願いしますよ」

「お、おう」

 

 なんのことか分かっていない遊作を他所に、美海は拳を握りしめる。

 

(任せてください葵様。従者として、葵様の恋を実らせてみせます)

「ではロンリーブレイヴ、行きましょう」

「え、あ、おう」

「あ!ちょっと!」

 

 ブルーガールが止めるのも無視して、美海はロンリーブレイヴを連れて行ってしまった。

 

 ◆

 

 ロンリーブレイヴと美海のチームは、手当たり次第に聞き込みを行うが、目ぼしい情報は手に入らなかった。

 

「くそっ、全然見つかりそうにねぇな」

「まあ元より、偽物がいるかすら不確かなわけですしね」

「なんだよ。湊はプレイメーカーが本当にやったと思ってんのか?」

「そうは言ってませんよ」

 

 美海は息を吐く。

 

「……ロンリーブレイヴ、あなたはどうして、プレイメーカーに憧れているんですか?」

「そりゃあ、プレイメーカーが最高にクールだからだよ。ハノイの騎士と戦うたった一人で孤高のヒーロー、俺もそれに憧れて、名前を”ロンリー”ブレイヴにしたんだよ」

 

 ロンリーブレイヴは決め顔でそんなことを言う。

 

「……それは多分、彼の表面しか見えていない」

「え?」

「人は孤独にはなれても、孤高にはなれない。いつだって誰かとのつながりを求めている。けれど、そうしたくてもできない人っていうのはいるんです」

「はぁ……」

 

 ロンリーブレイヴは彼女の言葉を理解してはいなかったが、ここで茶化すほど彼も空気の読めない男ではなかった。

 

「さあ聞き込みを再開しましょう」

「お、おう」

 

 その時、

 

「お前ら、プレイメーカーを探してるのか」

 

 数人のガラの悪そうな男が彼らに話しかけてきた。

 

「あなた達は……」

「俺達はプレイメーカーに酷い目に遭わされたんだよ。見た目が悪そうだからとかいう理由で襲われて」

「デュエルで負けて、せっかく手に入れたサイバースカードも取られちまったんだよ!」

「どこで襲われたんですか?」

 

 偽プレイメーカーの被害者を見つけることができたのは僥倖だ。

 早速美海は彼らから詳しい話を聞こうとするが、

 

「待て待てーい!」

 

 ロンリーブレイヴが割って入る。

 

「プレイメーカーはLINK VRAINS のヒーロー、その男が、カツアゲなんてするはずがねぇ」

「な、なんだテメェは?」

「俺か。俺はな……」

 

 先のセリフを考えていなかったロンリーブレイヴは、しばらく迷った挙句、

 

「そう!プレイメーカーの弟子だ!」

 

 そんな大法螺を吹く彼に、美海は呆れかえった。

 

「こいつら!プレイメーカーの仲間か!」

「だったらこの前の借りを返させてもらうぜ!」

 

 男たちがロンリーブレイヴに襲い掛かる。

 

 体格のわりに腕っぷしなどないロンリーブレイヴは、恐怖で目を閉じるが、

 

 ドカァンッ

 

 拳を振るわれたのは、ロンリーブレイヴではなかった。

 

「ったく、だせーなお前ら」

 

 彼らの前に、一人の少年が立っていた。

 

「デュエリストなら、デュエルの借りはデュエルで返せよ」

「ゴッドバード!」

「よう。また会ったな」

「あなたは、どうしてこんなところに」

「プレイメーカーの偽物が出るって聞いて、面白そうだから探しに来たんだよ。見つければ本物をおびき出す餌にも使えるしな」

 

 彼の目的は、本物のプレイメーカーのようで、そういう意味では目の前の男達となんら変わりはない。

 美海は警戒を解くことなく、彼を注意深く観察する。

 

「おいおい睨むなよ。それよか、こいつらやる気だぜ」

 

 すると、ゴッドバードに殴り倒された男達は立ち上がり、デュエルディスクを構えた。

 

「場所を変えましょうか。ここでは我々のデッキは目立ちすぎます」

「だな。おいそこの!」

 

 ゴッドバードは呆けているロンリーブレイヴを呼ぶ。

 

「俺達はちょっとこいつらと遊んでくるから、お前はどっか行ってろ」

「いや、でも……」

「ロンリーブレイヴ。私は大丈夫ですから。ブルーガール達と合流してください」

「わ、分かった。ここは任せたぜ!」

 

 何を任せて何の役割負ったのは分からないが、ロンリーブレイヴはそそくさと撤退した。

 

「それでは、こちらへ」

 

 美海とゴッドバードは、男達を路地裏に連れ込んだ。

 

「では、手早くすませてしまいましょう」

「舐めんなよ!」

「俺達はこれでも、LINK VRAINSランキングで200位以内に入ったことがあんだぜ」

「それ凄いのか?」

「まあ、母数を考えればそれなりには」

 

 とはいえ、二人がその程度の相手に負けるつもりなど毛頭なかった。

 

「「デュエル」」

 

 ◆

 

 一方その頃、ブルーガールと遊作はLINK VRAINS内を並んで歩いていた。

 

「……」

「……」

 

 もとより人付き合いの苦手な遊作はもちろん、アバターになったことで多少話しやすくなったブルーガールこと葵も、二人っきりでは会話も弾まない。

 

(さすがに、この状況で俺が出ていくわけにもいかねぇしな)

 

 遊作のデュエルディスクの中のAiも、静観することしかできずにいる。

 

 そして問題はそれだけではない。

 コミュ障二人は、未だに誰にも聞き込みができていないのだ。

 

(草薙さん、もう解析終わったって言ってたな)

 

 もとよりやる気のなかった遊作は自発的に行動しない。そんなことより、家に帰ってSOLから持ち帰ったデータの中身を確認したい。遊作の頭の中はそのことで一杯だった。

 

 そして、プレイメーカーへの借りを返すというモチベーションのあった葵も、

 

(なにこれ。美海と藤木君を二人っきりにするはずが、どうして私が藤木君と!? しかもこれ、まるでデ、デ、デー)

 

 男子と二人きりという状況でそれどころではない。

 

「財前」

「ひゃうぅっ!」

 

 突然声をかけられて、葵は奇妙な叫び声を上げた。

 

「ど、どうした?」

「え、何が?」

 

 だが次の瞬間には、いつもの能面に戻る。

 

「いや、今変な声を」

「幻聴じゃないの?」

「……そうか」

 

 勢いに押された遊作は、これ以上追及しなかった。

 

「それでどうしたの?」

「あれを見ろ」

 

 遊作の指さす先には、物陰をこそこそと動き回る怪しい人物がいた。

 

 二人は互いの顔を見合わせて頷き、怪しまれないように、物陰に身を隠しながら後を追う。

 そして、二人はセントラルエリアのはずれにある人気のない場所までやってきた。

 

「あれって、ハノイの騎士?」

 

 そこには数人のハノイの騎士が集まっていた。

 

「もしかして、プレイメーカーの偽物の正体はハノイ?」

「いや、まだそうと決まったわけじゃ……」

 

 遊作の言葉を聞かず、ブルーガールは物陰から飛び出す。

 

「ん?」

 

 ブルーガールはハノイの騎士にビシッと指さす。

 

「ハノイの騎士!これ以上の悪事は私が許さないわ!」

「なんだお嬢ちゃん? 俺達が誰だか知ったうえで言ってるのか?」

「もちろん。さあ私とデュエルよ」

 

 ブルーガールはデュエルディスクを構える。

 

「あいつあんなキャラだったか?」

「いや……」

 

 Aiと遊作は、いつもと様子の違う葵の姿に困惑している。

 

「どうする? お前はサイバースのデッキ使えないだろ?」

「やるしかないだろう」

 

 さすがにここで葵一人に任せるほど、遊作も薄情ではない。

 

「ブルーガール、俺も手伝おう」

「えぇ」

「カップルか? こりゃ後が楽しそうだな」

「か、カップル!?」

 

 ハノイの騎士の茶化すような言葉に、ブルーガールは顔を真っ赤にする。

 

「お、おい。大丈夫か?」

「だ、大丈夫。それじゃあ……」

 

「「デュエル!」」

 

 ◆

 

「バトルだ!コンパイル・ブラスターでダイレクトアタック!」

「ぐぁぁぁぁっ!」

 

 コンパイル・ブラスターの雷撃が、一気に相手のライフを削り切り、ゴッドバードは勝利、そして、

 

原初海祈(オリジンブルー)エラスモータルの効果で、相手モンスター3体をデッキに戻す」

 

 こちらもモンスター効果で、相手モンスターを3体デッキに押し戻し、盤面を開ける。

 

「プレシオルタでダイレクトアタック」

 

 美海も危なげなくデュエルに勝利した。

 

「さーて、テメェら、プレイメーカーとはどこで会った。吐け!」

 

 ゴッドバードは、倒れた男の胸倉をつかんで問い詰める。

 

「ぱ、パークエリアだ!あそこで襲われたんだよ!」

「どの辺だ?」

「ち、地図送るからー!」

 

 男は涙目になりながら、ホログラムウィンドウを操作する。

 

「これじゃあどっちが悪役か分かりませんね……」

 

 ゴッドバードの一連のやり取りを見て、美海はため息を吐く。

 

「俺様のおかげで情報が得られたんだ。むしろ感謝しろ」

「はいはい。ありがとうございます……念のため聞きますけど、プレイメーカーの偽物ってあなたじゃないですよね?」

 

 プレイメーカーに化けるなら、サイバースのデッキは必須だ。

 

 ゴッドバードが起こした騒動のおかげで、サイバースカードを持つ人間はそれなりにいるようになったが、サイバースのデッキを所有するのはそう多くはないはず。

 

 その点でいえば、彼はデッキも実力も、適しているといえる。

 

「はぁ? んなことして俺に何の得があるんだよ?」

「あなたが自分で言っていたでしょ? プレイメーカーの偽物を捕まえれば、プレイメーカーをおびき出す餌に使えると。なら偽物を用意するメリットはあります」

「けっ、誰がそんな狡いことやるかよ。俺が本気でプレイメーカーに嫌がらせするなら、もっとえげつないことやる。俺はプレイメーカーの垢を特定する直前まで行ったんだからな」

「ちなみにその後は?」

「ああ。警戒されてんだろうな。あれ以上情報を掴めねえ」

 

 ひとまず遊作の正体がバレていないことが分かり、美海は心の中で安堵する。

 

「では、やはりハノイが……」

「それもあり得るが、もっと怪しいのはSOLだな」

「何故そう思うのですか?」

「そりゃ、プレイメーカーの評判が落ちて、一番得するのがSOLだからだよ。今プレイメーカーを捕まえようにも、世論はプレイメーカーの味方だ。だから評判を落として、立場を逆転させる。そうすればプレイメーカーに関する情報も集まりやすくなる」

「一応、筋は通っていますね」

 

 ゴッドバードの言う通り、イグニスを手に入れたいSOLにとって、プレイメーカーの味方が孤立してくれれば都合がいい。

 

「つーかお前、SOLの人間だろ? なんか知らねぇのか?」

「私はもうセキュリティ部隊を外されたので」

「ああ。プレイメーカーに負けたから」

 

 別に後悔はしていない。自分はプレイメーカーに、遊作に負けた。それは自分の実力不足に他ならない。

 むしろ、デッキを取り上げられなかっただけマシだとすら思っている。

 

「答えは見つかったか?」

「いいえ」

 

 あの時もそうだが、ゴッドバードはどうしてこんなことを言ってくるのか、美海には分からなかった。

 この男が自分の何を知っているんだと思うのと同時に、どこかそれに懐かしさを感じていた。

 

「……では、私はそろそろ行きます」

 

 ゴッドバードは、何も言わずに彼女の背中を見送った。

 

 ◆

 

「トリックスター・ホーリーエンジェルの効果!相手にダメージ!」

「電影の騎士ガイアセイバーでダイレクトアタック!」

 

 遊作とブルーガールは、特に危なげなくハノイの騎士を撃破する。

 

「ブルーガール、デッキもブルーエンジェルのコピーなんだな」

「ま、まあ……」

 

 ブルーガールは話を逸らすように、倒れたハノイの騎士に詰め寄る。

 

「さあ観念しなさい。プレイメーカーの偽物はあなた達でしょ?」

「な、なんのことだ!」

「この期に及んでとぼける気?」

「俺達は、この辺りでサイバース狩りをしていただけだ!」

 

 ハノイの騎士は必死に弁明を繰り返す。

 その様子を見て、遊作とAiは怪訝な表情を浮かべる。

 

「Ai、お前はどう思う?」

 

 一度物陰に身を潜めて声をかける。

 

「データを食えれば分かるんだけど……ていうか、せっかくハノイを倒したのにちょっと勿体ないな」

「我慢しろ」

「へいへい。けどハノイがこの状況で嘘をつくメリットがないな」

「同感だ。だが、だとすれば一体誰が……」

 

 その時、不意に遊作は顔を上げた。

 

「どうした?」

「いや……」

 

 気のせいかと、遊作は視線を戻した。

 



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第7話:Dummy for play(後編)

 同刻、ロンリーブレイヴは道に迷っていた。

 

「あーくそ。よく考えれば、俺はLINK VRAINSにログインするの初めてなんだよな」

 

 マップを表示して、現在地を確認するが、慣れていないのもあり、イマイチ場所がつかめない。

 

「ん?」

 

 すると、視線の先に特徴的な三色頭を見つける。

 

「あ、あれは!プレイメーカー!」

 

 ロンリーブレイヴは目的も忘れて、プレイメーカーの背中を追いかける。

 

 路地裏にやってきたところで、プレイメーカーは不意に振り返る。

 

「おい。そこのお前」

 

 プレイメーカーに呼ばれて、ロンリーブレイヴは物陰から姿を現す。

 

「何者だ?」

「は、初めまして!お、俺、プレイメーカーの大ファンで……」

「そうか。俺のファン、ならサインを書いてやる」

「ほ、本当っすか!」

「ああ。そのかわり……」

 

 プレイメーカーは手を差し出す。

 

「お前のデッキをよこせ」

「へ、いや……」

「どうした? サインが欲しくないのか?」

 

 下衆な笑いを浮かべるプレイメーカーに、ロンリーブレイヴは自分の目的を思い出した。

 

「お、お前!さてはプレイメーカーじゃないな!」

「チッ、バレちまったか」

「絶対許さねぇ!俺がデュエルで成敗してやる!」

「ふんっ、やってみろ。そのかわり、負ければお前のデッキをもらうぞ」

 

「「デュエル!」」

 

ターン1 ロンリーブレイヴ

 

「俺のターン」

 

(勢い余って挑んじゃったけど、俺、LINK VRAINS初心者だし……でも、プレイメーカーのためだ!やるしかねぇ!)

 

「俺はスクラップ・コングを召喚!その効果で自身を破壊!」

 

 ガラクタでできたゴリラが、着地の瞬間爆散する。

 

「自分の獣族モンスターが破壊された時、ライフ1000払うことで、手札から森の番人グリーン・バブーンを特殊召喚!」

 

 爆発したスクラップ・コングの中から、棍棒を携えた青髭の霊長類が現れた。

 

「俺はこれでターンエンド」

 

ターン2 偽プレイメーカー

 

「俺はリンクスレイヤーを特殊召喚、さらにバックアップ・セクレタリーを特殊召喚」

 

 フィールドに二体のサイバース族モンスターが並ぶ。

 

「くそっ!プレイメーカーと同じモンスターを使いやがって!」

「2体をリリースして、アドバンス召喚!来い、デュアル・アセンブルム!」

 

 現れたのは左右非対称の六対の翼、赤と青に分かれた二色の機械の竜だ。

 

「デュアル・アセンブルムの効果!手札1枚を除外して、このカードの攻撃力以下の相手のモンスター1体を除外する!消えろ!グリーン・バブーン!」

 

 翼をはためかせると、金属を孕んだ風が吹き、グリーン・バブーンの体を消滅させる。

 

「バトルだ!デュアル・アセンブルムでダイレクトアタック!」

「ぐあぁぁっ!」

 

 ロンリーブレイヴ:ライフ3000→200

 

「カードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン3

 

(やばいやばい!俺のライフ残りちょっとじゃん!)

 

 ロンリーブレイヴはビクビク震えながら、デュエルディスクに手をかける。

 

(頼む。なんか来いなんか来い!)

 

 意を決して引いたカードは、

 

「こ、これは……サイバース・ウィザード!?」

 

 それは遊作が何かの礼といって、彼にくれたカードだった。

 

「藤木……いや、でもこれどうやって使うんだ?」

「早くしろ」

「あーもう!俺はサイバース・ウィザードを召喚!」

 

 白いローブをまとった電脳の魔術師が、ロンリーブレイヴのフィールドに召喚される。

 

「サイバース・ウィザードの効果!1ターンに1度、相手フィールドの攻撃表示モンスター1体を守備表示にする!デュアル・アセンブルムを守備表示に!サイバース・アルゴリズム!」

「くっ……」

「さらに俺は手札から団結の力を装備!」

 

 これでサイバース・ウィザードの攻撃力は2600となる。

 

「バトルだ!サイバース・ウィザードでデュアル・アセンブルムを攻撃!」

 

 守備力1000のデュアル・アセンブルムを撃破し、さらに貫通ダメージを与える。

 

 偽プレイメーカー:4000→2400

 

 

「くっ!俺はセットされた速攻魔法、スケープ・ゴートを発動!フィールドに羊トークン4体を特殊召喚」

 

 丸っこい羊のモンスターが四色4体出現する。

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン4

 

「サイバース・ウィザード、そいつを奪えば、また俺のデッキはプレイメーカーに近付く」

「お前、なんでプレイメーカーの真似なんか」

「決まってるだろ。俺はプレイメーカーのファンだった。だが、奴はハノイの騎士に負けた」

 

 そのデュエルは島も見ていた。

リボルバーとの激しいデュエル、スキルの失敗により中断となったが、あれが実質的な敗北であることは彼にも分かる。

 

「俺のプレイメーカーは無敗の最強デュエリスト、だから決めたんだ。俺自身がプレイメーカーになると!」

「そんなの、お前の勝手なイメージじゃ───」

 

───それは多分、彼の表面しか見えていない

 

 そこで、彼の脳裏に美海の言葉が響く。

 

「現れろ!未来を導くサーキット!召喚条件はモンスター2体以上!俺は羊トークン4体をリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン!」

 

 4体の羊トークンが、上下左右4つのリンクマーカーを描く。

 

「リンク召喚!リンク4!プロキシーコード・レオ!」

 

プロキシーコード・レオ

リンク・効果モンスター

闇属性/サイバース族/攻 2500/LINK4

【リンクマーカー:上/左/右/下】

モンスター2体以上

(1)このカードが戦闘を行う場合、ダメージステップ終了時まで、戦闘を行う相手モンスターの効果は無効化され、戦闘を行う相手モンスターの攻撃力・守備力は元々の数値になる。

(2)お互いのバトルフェイズ中、相手は魔法・罠カードを発動できず、レベル5以上のメインモンスターゾーンのモンスターの効果を発動できない。

 

「バトルだ!プロキシーコード・レオでサイバース・ウィザードを攻撃!」

「俺のサイバース・ウィザードは攻撃力2600!そいつじゃ倒せないぜ!」

「この瞬間!プロキシーコード・レオの効果発動!戦闘を行う相手モンスターの効果は無効化され、攻撃力は元々の数値となる!」

 

 プロキシーコード・レオが吠えると、サイバース・ウィザードの纏うオーラがかき消される。

 

「だ、だったら罠カードで……」

「無駄だ!プロキシーコード・レオの効果で、バトルフェイズ中は相手は魔法・罠カードを発動できない!これで終わりだ!」

 

 プロキシーコード・レオの咆哮が、ロンリーブレイヴをサイバース・ウィザードごと吹き飛ばした。

 

「ち、ちくしょう……」

「さーて、お前のカードもいただくか」

 

 偽プレイメーカーがロンリーブレイヴに近付く。

 

(くそっ、俺じゃあ……)

「そこまでだ」

 

 その時、Dボードに乗った人物が上空から現れた。

 

「お、お前は……」

「プレイメーカー!」

 

 本物のプレイメーカーが、偽物の前に立ちふさがった。

 

「ぷ、プレイメーカー、すまねぇ。俺は……」

 

 膝をついて謝るロンリーブレイヴに、プレイメーカーは振り向くことなく語る。

 

「お前のおかげで、やつのエースモンスターの効果が分かった」

「え?」

「礼を言うぞ。ロンリーブレイヴ」

 

 そしてプレイメーカーはデュエルディスクを構える。

 

「いいだろう。本物を倒すことで、俺が本物のプレイメーカーになれる!」

 

「「デュエル!」」

 

ターン1 プレイメーカー

 

「リンクスレイヤー、バックアップ・セクレタリーを特殊召喚!さらにサイバース・ウィザードを通常召喚!現れろ!未来を導くサーキット!リンク召喚!デコード・トーカー!」

 

 さっそくデコード・トーカーを呼び出し、さらにリンク先にリンク・フライヤーを特殊召喚する。

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン2 偽プレイメーカー

 

「俺もリンクスレイヤー、バックアップ・セクレタリーを特殊召喚。さらに切り込み隊長を通常召喚し、その効果で手札からイグザリオン・ユニバースを特殊召喚!」

 

 こちらも4体のモンスターを並べ、リンク召喚の準備を整える。

 

「現れろ!未来を導くサーキット!リンク召喚!プロキシーコード・レオ!」

 

 先程ロンリーブレイヴを下した白いライオン型のモンスターが、アローヘッドより駆け出た。

 

「バトルだ!デコード・トーカーを攻撃!」

 

 迎え撃つデコード・トーカー、その攻撃力は2300だが、

 

「知っているぞ。パワーインテグレーションにより攻撃力が500アップする。だがプロキシーコード・レオの効果で攻撃力は元々の数値となる!粉砕しろ!」

 

 プレイメーカー:ライフ4000→3800

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン3 プレイメーカー

 

「ここで俺は罠カード発動!」

 

 偽プレイメーカーの伏せカードが開く。

 

「メタマテリアル化電子装甲!」

 

メタマテリアル化電子装甲

通常罠

このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分のリンク召喚されたリンクモンスター1体を対象として発動できる。このカードを攻撃力500アップの備カード扱いとして対象のモンスターに装備する。

(2)このカードの効果でこのカードを装備したモンスターが相手の効果でフィールドを離れる場合、かわりに墓地の装備モンスターのリンク素材となったモンスター1体を除外できる。

(3)相手のリンクモンスターが効果を発動した場合、装備モンスターのリンク先の自分のモンスター1体をリリースして発動できる。その効果を無効にする。

 

「プロキシーコード・レオに装備!これで攻撃力3000!さらに場を離れる時、墓地の素材となったモンスターを身代わりにできる!」

「こ、これ、プレイメーカーピンチなんじゃ……」

 

 高笑いする偽プレイメーカーとそのモンスターに、ロンリーブレイヴの顔は青ざめる。

 

「どうすんだ? どんなに攻撃力を上げても、プロキシーコード・レオの効果で元に戻されちまう」

「問題ない。俺は装備魔法、コード・リコンパイルを発動!」

 

コード・リコンパイル

装備魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できず、このカードを発動するターン、自分はサイバース族モンスターしか特殊召喚できない。

(1)ライフを500払い、自分の墓地の「コード・トーカー」モンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。そのモンスターを特殊召喚し、このカードを装備する。このカードがフィールドを離れた時に装備モンスターは墓地に送られる。

(2)装備モンスターの効果は無効化され、攻撃力は0になる。

(3)装備モンスターをリンク召喚の素材にする時、このカードを装備モンスターと同じ種族・属性の通常モンスター1体分としてリンク召喚の素材にできる。

 

「墓地のデコード・トーカーを特殊召喚。現れろ!未来を導くサーキット!召喚条件はモンスター2体以上!」

 

 天上のアローヘッドより嵐が巻き起こる。

 

「唸れ嵐!虚構に渦巻く旋風は、万物を震わす竜の雄叫びとなる!リンク召喚!ファイアウォール・ドラゴン!」

 

風の中より、ファイアウォール・ドラゴンがその翼を広げ降り立った。

 

「ファイアウォール・ドラゴン、知っているぞ。相互リンク状態のカードの数だけ、フィールドか墓地のカードを手札に戻す。だが、俺のプロキシーコード・レオは、メタマテリアル化電子装甲の効果で場に残る!無駄だ!」

 

「それはどうかな。俺は罠カード!リコーデッド・アライブを発動!墓地のデコード・トーカーを除外して、EXデッキからエクスコード・トーカーを特殊召喚!」

 

 ファイアウォール・ドラゴンの真下のリンク先に、エクスコード・トーカーが特殊召喚される。

 

「さらにリンク・フライヤーを素材にリンク召喚!トークバック・ランサー!まずはファイアウォール・ドラゴンの効果発動!エマージェンシー・エスケープ!」

 

 ファイアウォール・ドラゴンの背中にエネルギーが集まる。

 

「俺は墓地のバックアップ・セクレタリーを除外することで、バウンスを無効に───」

「誰がそいつだと言った。俺が戻すのはメタマテリアル化電子装甲!」

「なっ!」

 

 ファイアウォール・ドラゴンの起こす嵐によって、プロキシーコード・レオをコーティングしていた電子の鎧が消える。

 

「バトルだ!ファイアウォール・ドラゴンで、プロキシーコード・レオを攻撃!」

 

 攻撃力は互角。本来なら相打ちとなるが、

 

「エクスコード・トーカーの効果!リンク先のモンスターの攻撃力を500アップする!」

「なっ!」

 

 ファイアウォール・ドラゴンは敵のモンスターを一方的に粉砕する。

 

 偽プレイメーカー:4000→3500

 

「終わりだ!エクスコード・トーカー、トークバック・ランサーでダイレクトアタック!」

 

 ◆

 

 デュエルの後、プレイメーカーはプログラムによって偽物を拘束する。

 

「プレイメーカー!」

 

 立ち去ろうとするプレイメーカーに、ロンリーブレイヴは駆け寄る。

 

「お、俺は、どうすればプレイメーカーみたいに強くなれるんだ!?」

「……その答えは、自分で見つけるんだ」

 

 そう言い残して、プレイメーカーはDボードに乗って去ってしまう。

 

「ロンリーブレイヴ!」

 

 すると、遅れて美海とブルーガールが駆け付けた。

 

「こいつが偽物?」

「あ、ああ。さっきプレイメーカーが倒したんだよ!すごかったぜ!」

 

 ロンリーブレイヴはすぐにいつもの調子を取り戻し、プレイメーカーのデュエルがいかに凄かったかを語り始める。

 

「あれ?そういえば藤木のやつは?」

「途中ではぐれちゃって……」

「今はそれよりも、この男の処遇でしょう」

 

 事情を知る美海は、遊作の心配はせずにSOLへの通報を済ませた。

 

 ◆

 

 その頃、Dボードに乗って空を駆けるプレイメーカーこと遊作は、

 

「らしくないじゃん。あいつを励ますなんて」

「この前の借りを返しただけだ」

「素直じゃねぇな」

 

 すると、デュエルディスクに美海からの着信があった。

 

『遊作、お疲れ様でした』

「ああ。そっちは大丈夫だったか?」

『えぇ。ゴッドバードに助けられまして』

「あいつに?」

『はい。まあ元はと言えば、彼がサイバースカードをバラまいたのが原因ですので、マッチポンプな気がしますが』

 

 そう言って、画面越しに美海は肩を落とす。

 

『遊作も、お二人に連絡を入れておいた方がいいですよ』

「後でしておく」

『事後処理はやっておきます。知り合いのツテを使って、偽物について拡散してもらいますから、もう後ろ指をさされることはないでしょう』

「ありがとう」

『その代わりと言ってはなんですが、少し相談が……』

 

 ◆

 

 その夜、ログアウトした遊作は美海と一緒に草薙のキッチンカーを訪れた。

 

「遊作が女子を連れてくるとはな」

「初めまして。草薙さん。湊美海と申します。いつも遊作、それと仁がお世話になっています」

 

 美海は丁寧にお辞儀をして挨拶した後、菓子折りまで渡す。

 

「これはご丁寧にどうも……なんか結婚の挨拶みたいだな」

「これは遊作にも春が来たんじゃねぇの?」

「それで草薙さん、データの方は?」

 

 話が脱線しそうだったので、遊作が口を挟む。

 

「ああ。こいつを見てくれ」

 

 画面にはいくつもの資料、その上部にはデカデカと大きな文字で『Project:Hanoi』と記されていた。

 

「やはり、SOLは事件に噛んでいたのか」

「先生の名前もあります。彼はSOLの研究員でもあったのですね……」

 

 懐かしい名前に、二人は複雑な表情を浮かべる。

 

「実験の詳細が書かれています。発達途中にある7歳以下の子供の脳に、負荷を与え続けることで、極限状態で覚醒した脳波をサンプリング。そのデータを元により高次AIを作り出すことができることが分かった」

 

「様々な実験の結果、脳に負荷を与える手段はデュエルが最も適しているという結論が出た。デュエルは思考によって脳を刺激するだけでなく、戦うというその行為によって闘争本能を目覚めさせる。その本能こそが、AIをより発展させるために必要なピースである」

 

「本能とはすなわち、生物の在り方そのものであり、それを得ることによってAIはただのプログラムから、意思を持った一つの種へと進化する」

 

「半年に渡る実験により、我々は6体の意思を持ったAI、イグニスを完成させた」

 

 そこまで読み終えて、3人はデュエルディスクに納まった眼玉、Aiの方を見る。

 

「いや、俺も覚えてないんだよ。前に言っただろ? 記憶が抜けてるって」

「お前と同じイグニスが後5体いるんだな。そいつらはどこにいる?」

「さあな。ハノイに俺達イグニスの居場所、サイバース世界を襲われて、みんな散り散りになっちまった」

「つまりまとめると、あなた方、イグニス達は実験の後、何らかの理由でSOLから逃げ出し、そのサイバース世界という場所で暮らしていた。そして、ハノイの騎士はそれを追ってサイバース世界を襲撃した。ちなみに襲撃の日時は覚えていますか?」

「5年前だ」

 

 5年前、それはネットワーク上に突然、サイバース族のカードが出現した時期と重なる。

 美海は草薙からマウスを借りて、他にも情報がないかを探ってみる。

 

「実験の経過は、別紙レポートに記載。草薙さん、このレポートは?」

 

 草薙は首を横に振る。

 

「そうですか……」

「けど、実験の目的が分かったのは収穫だな」

「だが、謎も増えた。SOLがイグニスを作った目的が分からない」

「単にAIの研究じゃないのか?」

「それだけならこんな強引な方法は取らない。最終的に、鴻上先生に全て責任を押し付けるつもりだとしてもリスクが大きすぎる」

「確かに、先生がSOLの人間である以上、表沙汰になれば世論の追求からは逃れられない。そこまでして作るほどの価値が、彼らイグニスにあった」

 

 美海の視線を受けて、Aiは少し照れくさそうにする。

 

「まあ二人とも、今日はここまでにしよう。あまり根を詰めすぎるのもよくない」

 

 草薙の一声で、その日は解散となった。

 



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第8話:Visitors(前編)

 日曜日、昼時の時間に、遊作はキッチンカーの店番をしていた。

 

「遊作、だよね?」

 

 並んでいた人が捌けた後、一人の少年が店を訪れた。

 

 歳は遊作と同じくらい。白と赤を織り混ぜた短髪に、緑のセルフレームメガネをかけた大人しそうな少年だった。

 

「お前は……」

「ほら僕だよ」

 

 彼は自分を指差してアピールするが、遊作はピンと来ていない様子だった。

 

「……これなら?」

 

 すると、彼はメガネを外して前髪を手でかきあげた。

 

「……もしかして、尊か!?」

「そうだよ。穂村尊。やっと気付いてくれた」

「気付いたというか、お前、雰囲気変わったな」

「そう? まあ10年も経てばね」

 

 尊はメガネをかけ直してはにかむ。

 

「この街に越して来て、遊作がこの辺にいるって聞いたから、探してたんだよ」

「なんだ? 遊作の知り合いか?」

 

 すると、店の奥から草薙が出てきた。

 

「初めまして。穂村尊です。遊作とは同じ施設の出身で」

「おおそうだったか。じゃあ遊作、積もる話もあるだろうし、そこで休憩してこい」

「あーいいんです。遊作とは明日また話せますし」

「明日?」

「うん。遊作と同じ学校に通うことになったから、今日は軽くその挨拶をと思って。あ、でもホットドッグ1つは貰おうかな」

 

 遊作は手早くホットドッグを包み、電子決済の機器を差し出すと、

 

「ああごめん、現金でいいかな?」

 

 尊は財布を取り出した。

 

「相変わらずだな」

「うーん、やっぱり機械は苦手で」

「昔もデュエルディスクをよく壊していた」

「その度に遊作や啓が助けてくれたよね。まあもうデュエルディスクの操作で躓いたりはしないけど。ほら、これ見てよ」

 

 すると、尊はデュエルディスクを操作してホログラムウィンドウを出現させる。

 

「これは、ソウルバーナーか?」

 

 そこに映っていたのは、遊作もよく知るカリスマデュエリストだった。

 

「これ、実は僕なんだよ」

「お前がソウルバーナー?」

「そう。今はGo鬼塚と同じ事務所でプロデュエリストをやってるんだ。良かったら今度鬼塚さんのサイン貰ってきてあげるよ」

「そこはお前のサインじゃないのか」

「僕なんてまだまだ」

 

 尊は謙遜するが、遊作の把握する限りだと、ソウルバーナーの前シーズンの順位は七位、強豪ひしめくLINK VRAINSにおいてこれは相当な実力がなければなれないだろう。

 

「それじゃあ僕はそろそろ行くよ。また明日、学校で」

「ああ」

 

 尊はホットドッグをかじりながら、店を去った。

 

 ◆

 

 その頃、財前邸で、

 

「いいねがいっぱい」

 

 葵は自室のベッドにうつぶせになり、自身のSNSを眺めていた。

 

 バズっている内容は、プレイメーカーの偽物について拡散したもので、プレイメーカーの無実を証明した彼女の行動に、賞賛の声を送っている。

 

「これで次のカリスマデュエリスト人気投票も一位間違いなしですね」

 

 美海は満足気に頷くが、葵の方は少し申し訳なさそうにする。

 

「でも、なんか売名行為に利用した感じがしない?」

「いいじゃないですか。葵様のインフルエンサーとしての力がなければ、早期にプレイメーカーの潔白を証明できなかったのですから。彼もきっと感謝していますよ」

(というかしてましたけど)

「投票といえば、去年は誰が一位だっけ?」

「前回の一位はソウルバーナーですね。熱血漢、イケメンということで男女ともに人気があります。二位がミネルヴァ」

 

 美海がタブレットで写真を見せてくれる。

 長い黒髪に長身、凛とした佇まいの女性で、同性の葵から見ても綺麗だと思う。

 

 何度か戦ったことがあるが、デュエルの腕前もかなりのもので、戦い方も堂々としている。

 

「やっぱりそういうキャラの方が需要あるのかなぁ」

「葵様はさいかわなので問題ありません。で、三位がブルーエンジェル、葵様ですね。SNSのフォロワー数は一位なので実質一位です」

「その二人がSNSやってないからでしょ」

 

 葵は視線をリプライ欄に戻す。

 すると、

 

『ブルーエンジェルはプレイメーカーと付き合ってるの?』

 

「なっ!!」

 

 葵は顔を真っ赤にして、慌ててリプを返そうとする。

 それを見た美海が、すぐさまデュエルディスクを取り上げた。

 

「美海!何するの!」

「こういうのに下手に答えれば炎上待ったなしです。無視すればいいんですよ」

「で、でも……」

 

 葵は頬を染めて、目をそらす。

 

「……そういえば、遊作とは進展はありましたか?」

「ふえっ!」

 

 葵は飛び跳ねて、動揺のあまり目を回す。

 

「な、な、な、な、なんのこと!?」

「分かりやすすぎますよ……」

「いや、藤木くんとは、美海が付き合ってるんじゃ……」

「誰がそんなことを言ったのですか? 私と彼はそのような関係ではありませんよ」

「そ、そうなんだ……」

 

 それを聞いて、葵は胸をホッと撫でおろした。

 

(あれ、私はなんで安心してるんだろう……)

 

 ◆

 

 翌日、美海の教室がざわついていた。

 

「初めまして。今日からこのクラスに通うことになりました。穂村尊です。よろしくお願いいたします」

 

 彼が歯を見せて微笑むと、女子たちから黄色い悲鳴が上がる。

 

「あ、美海!」

 

 そんな彼女達のことを意に介さず、自己紹介を終えた尊は早速旧友の元へ駆け寄る。

 

「あの……本当に尊ですか?」

「酷いなぁ。遊作もそうだけど、僕ってそんなに雰囲気変わった?」

 

 少しショックを受けたように、尊はため息を吐く。

 

「すみません。でも遊作に続いてあなたとも再会できるとは思いませんでした。そういえば、あなたの他に、もう一人転校生が来ると聞きましたが」

「うん。そっちは遊作のクラスかな」

 

 ◆

 

「初めまして、夢乃切花っていいます」

 

 遊作のクラスに転校してきたのは、小柄な女子だった。

 

 ピンクと水色の混ざったボブヘア、小さな体に似つかわしくない巨乳を揺らし、どこか小動物を思わせる人懐っこい笑顔を浮かべて、ハキハキとした口調で自己紹介を続ける。

 

「みんなと仲良くしたいです!よろしく!」

 

 彼女の笑顔に、クラスの大半の男子がメロメロにされる。

 

「はい。じゃあ夢乃さんはそこの席ね」

 

 担任の別所エマ先生の指示で、夢乃は窓際の席に座る。

 

「藤木、転校生めっちゃ可愛いなぁ」

「そうだな」

 

 島の発言を適当に流すと、なぜか財前が一瞬だけ不機嫌そうに遊作の方を見た。

 

 ◆

 放課後、教室を出た遊作は、美海と尊に出くわした。

 

「二人とも、一緒だったのか」

「うん。美海に学校を案内してもらってたんだよ」

「これから二人でデュエル部に行くので、遊作も一緒に行きましょうか」

「ボクもご一緒していいかな」

 

 不意に、一人の少女が遊作の背後から飛び出した。

 

「あなたは……」

「夢乃切花でーす。藤木君のクラスに今日転校してきたんだよ」

 

 切花は目元でピースを作り、遊作の周りをチョロチョロ動く。

 

「遊作、夢乃さんといつの間に仲良くなったの?」

「いや、俺は一度も……」

 

 話したことなどない。そう言おうとしたところで、遊作は気付く。

 

(俺は、こいつに名乗ってないよな……)

「藤木くん」

 

 その違和感を払拭する前に、葵が教室から出てきた。

 

「どうした?」

「一緒にデュエル部に……」

 

 言いかけたところで彼女の視線が、遊作に引っ付く切花の方へ向く。

 

「え、えーっと、どうして夢乃さんが?」

「ん? ボクも転校したてで、分からないことが多いから、藤木君に色々教えてもらおうとおもって」

「へ、へぇ……」

 

 葵は引きつった笑みを浮かべる。

 

「はぁ……では、みんなで向かいましょうか」

 

 そうしてデュエル部にやってきた一行。

 

「本日この学校に転校しました穂村尊です」

「夢乃切花でーす」

 

 部員への自己紹介を済ませて、各々のグループで交流する。

 

「夢乃ちゃん。俺がデュエル教えてあげるよ」

「抜け駆けするなよ!」

 

 男子部員達が切花の取り合いをしているのを横目に、遊作は美海、尊の幼馴染二人と同じ席に着いた。

 

「尊は、施設を出た後どうしてたんだ?」

「僕は別の孤児院に移ったんだ。そこのオーナーの誘いで、今の事務所に」

「事務所?」

「うん。プロデュエリ……」

「尊」

 

 美海の疑問に答えようとしたところ、遊作は即座に遮る。

 

「あまり自分の正体を軽々しく口にするな」

「ああ。ネットリテラシーってやつだよね……気を付けるよ」

 

 美海もその様子から察したようで、尊に追及せず話題を変える。

 

「こうやってまた三人で集まれるなんて、思いませんでしたよ。啓や樹にも、会えるといいんですけど」

 

 友を思い、少し寂しそうな表情を見せる。

 

「美海は啓と一番仲良かったもんね」

「えぇ。まあ私が一方的に世話を焼いていたところはありますけど」

 

 苦笑する美海。すると、葵が彼らのテーブルにやってきた。

 

「ねえ美海。よかったら、美海達が施設にいた頃の話、聞かせてくれる?」

 

 葵の何気ない質問に、美海と尊は気まずそうな顔をする。

 

「……すみません。その話を人にするのは」

「あ、ごめん……」

 

 四人の周りの空気が重くなる。

 

「あれ~みんなどうしたの~?」

 

 すると、それを察してか否か、切花が同じテーブルにやってきた。

 

「ああ。夢乃さん」

「みんなくらーい。そんなんじゃ幸せが逃げちゃうよ」

 

 そう言って、遊作の隣に、というか同じ椅子に強引に座ると、彼の頬を摘まんでムニッと動かす。

 

「ほーら、笑顔笑顔」

「ちょっ!」

 

 葵が顔を真っ赤にして立ち上がる。

 

「ゆ、夢乃さん……さっきから藤木くんに馴れ馴れしいわよ」

 

 普段感情を抑えている葵が、この時ばかりは声を静めながらも怒りをあらわにした。

 しかし、切花の方は、全く聞いている様子がなく、むしろさらに遊作に引っ付いて挑発するように笑う。

 

「え~、ボクはただ、クラスメイトと交流を深めようとしてるだけだよ~」

「だ、だからってそんな……」

「財前さんには関係ないと思うけどな~。それとも、財前さんは藤木君と付き合ってるの?」

「な、な、ななななななにいってるの!?」

 

 かつてないほど取り乱す葵を、切花はおかしそうに指をさして笑う。

 

「あははは、そうだよね~。だってあんな胸も愛想も可愛げもない女と付き合う訳な────」

 

 瞬間、切花の体が宙に浮いた。

 

「へ?」

 

 切花はいつの間にか、美海に胸倉をつかまれており、彼女に氷のような冷たい視線を向けられている。

 

「今あなた、葵様になんて言いました?」

「え、いや、な、何か言ったか────」

 

 彼女の小さい体が、また少し上に上がる。

 

「謝罪してください」

「……ご、ごめ────」

「私じゃなくて葵様にです」

 

 切花はその目に耐え切れず、葵の方を向いて、

 

「も、申し訳ございませんでした」

 

 と普段なら絶対に使わないであろう敬語で、謝罪した。

 それを聞いて、美海はようやく彼女から手を放すと、その耳元に顔を近づける。

 

「今回は見逃してあげます。ですが、次は二度と表を歩けなくするので覚悟しろよこのメスガキ」

 

 小声でまくし立てられて、さすがの切花もキモが冷えたのか、無言でデュエル部を立ち去った。

 

 ◆

 

 夕方、美海は遊作と共に草薙のキッチンカーを訪れた。

 

「やはり資料を見返しても、実験のレポートはありませんね」

 

 パソコンを借りて、解析したデータを再度隅まで見直したが、やはり目当てのものはなかった。

 

「サーバーからは全部のデータを吸い出したわけではないんですよね?」

「ああ。だが、俺とAiで関連のあるデータに当たりをつけて吸い出した」

「つまり、レポートがあそこにあった可能性は低いと」

 

 そうだとすればレポートはどこにあるのか。

 

 少なくとも、SOLが実験に関わっていたのは間違いない。なら社内のどこかに実験の経過を記したレポートも残っていると思ったが、あそこより厳重な場所を、元SOLの人間である美海は知らなかった。

 

「ていうか、こいつを公表しちまえば、SOLは終わるんじゃね?」

「それでは意味がない。俺達の目的は、事件の真相を明らかにして、先生の無実を証明することだ。この資料だけでは、先生がSOLに無理やりやらされていたという根拠にはならない」

「それにあの資料にはあくまでAIの作成方法についてしか記されていません。実際にどのような実験が行われたかという証拠にはならない。先生、鴻上博士が記したレポート、仮に鴻上レポートとしましょうか。それが手に入れば、その証拠がつかめるかもしれません」

 

 この資料はSOLテクノロジーの人間が残したもの。しかし、レポートを書いたのは鴻上聖自身、もし仮にそのレポートがSOLの手に渡っていないのだとすれば、そこに証拠となるメッセージを残している可能性がある。

 

「……LINK VRAINSにあるかもしれない」

 

 すると、遊作は不意にそんなことを言い出した。

 

「どういうことですか?」

「この前、俺の偽物を探してハノイの騎士と戦った時、奴らの近くで妙な気配を感じた」

「気配って、電脳空間ですよ? そんなことが……」

「これまでにも、何度かそういうことがあった。初めてストームアクセスを使った時も」

 

 疑わしいといった様子で、美海は遊作の話を聞く。

 

「LINK VRAINSに行ってくる」

「今からですか?」

「ああ。美海はどうする?」

「残念ながら私はご一緒できません。そろそろ戻って夕飯の支度をしなければなりません。それに、プレイメーカーと一緒にいるところを見られるわけにもいきませんし」

「分かった」



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第8話:Visitors(後編)

 そしてLINK VRAINS内、プレイメーカーはハノイと戦った倉庫街のようなエリアに足を運んだ。

 

「この辺か」

 

 プレイメーカーは目を閉じて意識を集中する。

 感覚を閉ざすことで、VR空間を流れるデータを強く感じ取る。そして、

 

「あそこだ」

 

 プレイメーカーは、近くにある塔のような建物を指さした。

 

「お前、まさかあれを上る気か?」

「Dボードを使えばすぐだろう」

 

 その言葉通り、Dボードで頂上までたどり着く。

 

「おいおい何にもないぞ? やっぱり気のせいだったんじゃないのか?」

「いや……」

 

 確かにここに何かがある。

 目には見えないが、それを確信したプレイメーカーは手を伸ばす。すると、

 

 風が起きた。

 

「なんだ!?」

 

 プレイメーカーの手を伸ばす先で、小規模のデータストームが起こった。

 風の中にデータが集まり、一つの青いカードのようなものを構築していく。

 

「あと少し……」

 

 その時、

 

 ビュンッ

 

 プレイメーカーの前を何かが通り過ぎ、彼の手元の構築されたカード状のプログラムを奪い去った。

 

「くくくっ、よう。プレイメーカー」

「お前は……」

 

 そこにいたのは、Dボードに乗ったゴッドバードだった。

 

「このデータは俺のもんだ」

「返せ!」

 

 プレイメーカーはDボードで突っ込むが、ゴッドバードは巧みなボード捌きであっさりかわす。

 

「渡して欲しけりゃ、俺とデュエルしろ」

「何?」

「テメェが勝てばデータは渡す。だが、負ければお前のイグニスを貰う!」

「ゴッドバード!なぜお前はイグニスを狙う!?」

「知りたきゃデュエルに勝つことだ」

 

 ゴッドバードはそのままDボードを加速させて、近くのデータストリームに乗る。

 

「いいだろう……」

 

「「スピードデュエル!」」

 

ターン1 ゴッドバード

 

「俺は手札から敵性機兵(エリミネーター)ジャイロ―ドを特殊召喚!その効果でデッキからシークエンスコードを特殊召喚!」

 

敵性機兵(エリミネーター)ジャイロード

効果モンスター

星4/風属性/サイバース族/攻 1000/守 1000

このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合、このカードを手札から特殊召喚できる。

(2)このカードが(1)の方法による特殊召喚に成功した場合に発動できる。「エリミネーター」モンスター1体を特殊召喚する。この効果発動後、ターン終了時まで自分はメインモンスターゾーンにモンスターを特殊召喚できない。

(3)相手ターン中、自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合、墓地のこのカードを除外して発動できる。デッキから「エリミーション」罠カード1枚をセットする。この効果でセットしたカードは、セットしたターンにも発動できる。

 

敵性機兵(エリミネーター)シークエンスコード

効果モンスター

星4/風属性/サイバース族/攻 1500/守 800

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「エリミネーター」モンスター1枚を手札に加える。

(2)相手ターン中、自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しなければ、墓地のこのカードを除外して発動できる。デッキから「エリミネーション」罠カード1枚をセットする。この効果でセットしたカードは、セットしたターンでも発動できる。

 

「この効果発動後、ターン終了時まで俺はメインモンスターゾーンにモンスターを特殊召喚できない。現れろ!未来を貫くサーキット!」

 

 コース上のデータストリームが渦を巻き、前方にアローヘッドを出現させる。

 

「召喚条件は同じレベルのモンスター2体!リンク召喚!敵性機兵(エリミネーター)ローディング・チャージャー!」

 

敵性機兵(エリミネーター)ローディング・チャージャー

リンク·効果モンスター

風属性/サイバース族/攻 1000/LINK2

同じレベルのモンスター2体

(1)リンク召喚したこのカードは、リンク素材となったモンスターと同じレベルのモンスターとしてX召喚の素材にでき、このカードのリンクマーカーの数と同じ数のモンスターとしてX召喚の素材にできる。

(2)X素材となったこのカードが墓地に送られた場合に発動できる。除外されている「エリミネーター」モンスターを自分のXモンスターの下に重ねてX素材とする。

 

「さらにこいつは、リンク素材となったモンスターと同じレベルのモンスターとして、エクシーズ召喚の素材にでき、その時、自身をリンクマーカーの数分のモンスターとして扱う!俺はローディング・チャージャーでオーバーレイネットワークを構築!」

 

 コース上にエックス字の赤いパネルが出現。

 それとローディング・チャージャーを繋ぐように、青い光が伸びる。

 

「エクシーズ召喚!」

 

 ローディング・チャージャーが2体に分裂し、パネルの中に吸い込まれる。

 

「現れろ!ランク4!敵性機兵(エリミネーター)コンパイル・ブラスター!」

 

敵性機兵(エリミネーター)コンパイル・ブラスター

エクシーズ·効果モンスター

ランク4/風属性/サイバース族/攻 2300/守 2000

風属性·レベル4·効果モンスター×2体以上

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードの攻撃力·守備力はこのカードがX素材として持つリンクモンスターのリンクマーカーの数×300アップする。

(2)相手の特殊召喚されたモンスターが効果を発動した時、このカードのX素材1つを取り除いて発動できる。その効果を無効にする。この効果発動のためにリンクモンスターを取り除いていた場合、かわりにその効果を無効にして破壊し、相手に500ダメージを与える。

(3)このカードが効果で破壊される場合、かわりにこのカードのX素材1つを取り除くことができる。

 

「俺はこれでターンエンド」

 

ターン2 プレイメーカー

 

「俺はこの瞬間!墓地のジャイロ―ドとシークエンスコードの効果発動!」

 

 プレイメーカーがドローした瞬間、ゴッドバードが効果発動を宣言する。

 

「自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合、墓地のこのカードを除外することで、デッキから「エリミネーション」罠カードをそれぞれセット!」

 

 プレイメーカーはゴッドバードのフィールドに伏せられた二枚のカードを一瞥する。

 

「俺は裏守備表示でモンスターをセット!」

「あ?」

 

 プレイメーカーの意外な行動に、ゴッドバードが怪訝な顔をした。

 

「さらにカードを3枚伏せて、ターンエンド」

 

ターン3

 

「セットカードだけでターンエンドとは、ちと悠長じゃねぇか?」

 

 ゴッドバードは苛立ちを見せて、カードをドローする。

 

「チッ……バトルだ!コンパイル・ブラスターで、セットモンスターを攻撃!」

 

 コンパイル・ブラスターがセットモンスターを撃ち抜く。破壊されたのは、無数のブロックによって構成された二頭身のモンスターだ。

 

「俺は墓地に送られたドットスケーパーの効果発動!」

 

 バラバラに砕かれたブロックが集まる。

 

「このカードが墓地に送られた場合、デュエル中に1度、特殊召喚できる!」

 

 集まったブロックが元のモンスターの姿を再構築した。

 

「俺はこれでターンエンド」

 

ターン4

 

「今のやり取りだけで、俺のデッキの特徴を見抜くとはさすがだな」

 

 ゴッドバードの感心したような物言いに、Aiは瞳に疑問符を浮かべる。

 

「奴は最初のターン、自らメインモンスターゾーンへの展開を縛った。その後、発動したモンスター効果も、メインモンスターゾーンにモンスターがいないことを条件としていた。このことから、奴のデッキはメインモンスターゾーンに開けることで効果を発揮するカウンターデッキ」

「なるほど、だから1ターン目は下手に動かなかったってわけね。向こうもモンスターを出せないなら、セットモンスター1体で止められる」

 

 プレイメーカーの説明に、Aiは納得したように瞳を閉じた。

 

「けど、さすがに何ターンも時間稼ぎを許す相手じゃないだろ」

「ああ。だからこのターンで勝負をかける。俺はバックアップ・セクレタリーを特殊召喚!」

 

 紫髪のバイザーで顔を隠した少女が現れる。

 

「俺は罠カード!スリーフェイト・バリアを発動!」

 

スリーフェイト・バリア

通常罠

(1)以下の効果から1つを選択して発動できる。

●このターン、自分のモンスターは戦闘・効果で破壊されない。

●このターン、自分はダメージを受けない。

●このターン、自分のモンスター1体は1度だけ戦闘で破壊されず、その戦闘によって戦闘ダメージを受けるかわりに、その数値分、自分のライフを回復する。

(2)自分がダメージを受けた場合、墓地のこのカードを除外して発動できる。このターン、自分が受ける効果ダメージは0になる。

 

「このターン、俺のモンスターは戦闘・効果で破壊されない!」

「そうはいくか!俺はカウンター罠!エリミネーション・ジャミングを発動!」

 

エリミネーション・ジャミング

カウンター罠

手札の「エリミネーター」モンスターを墓地に送ってこのカードを手札から発動できる。

(1)自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在せず、相手がモンスター効果・魔法・罠カードを発動した時に発動できる。その発動を無効にする。自分のEXモンスターゾーンに「エリミネーター」モンスターが存在する場合、かわりにその発動を無効にして破壊する。

 

「カードの発動を無効にする!」

「まず1枚使わせた。現れろ!未来を導くサーキット!」

 

 プレイメーカーが手を伸ばす先に、光が走り、アローヘッドが出現する。

 

「召喚条件はサイバース族モンスター2体!リンク召喚!スプラッシュ・メイジ!」

 

 白いローブをまとった電脳の魔導士が現れた。

 

「スプラッシュ・メイジの効果!墓地のサイバース族モンスターを守備表示で特殊召喚!」

「コンパイル・ブラスターの効果発動!その効果を無効にして破壊!さらに500ダメージを与える!」

 

 コンパイル・ブラスターの砲撃が、スプラッシュ・メイジの体を貫通し、プレイメーカーのライフを奪う。

 

プレイメーカー:ライフ4000→3500

 

「ダメージを受けたことで、俺は罠カード!サイバース・ビーコンを発動!デッキからレベル4以下のサイバース族モンスター、サイバース・ガジェットを手札に加え、そのまま召喚!」

 

 その効果で、サイバース・ガジェットは右腕のコードを伸ばして墓地からドットスケーパーを釣り上げる。

 

「現れろ!未来を導くサーキット!召喚条件はサイバース族モンスター2体以上!俺はサイバース・ガジェット、ドットスケーパー!そして手札のマイクロ・コーダーをリンクマーカーにセット!リンク召喚!」

「カウンター罠!エリミネーション・インターセプト!」

 

 アローヘッドにモンスターが飛び込んだ瞬間、それは砕ける。

 

「特殊召喚を無効にする」

 

エリミネーション・インターセプト

カウンター罠

(1)自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合に発動できる。相手モンスター1体の特殊召喚を無効にして破壊する。

(2)墓地のこのカードと「エリミネーション」魔法・罠カード1枚を除外して発動できる。除外されている「エリミネーター」モンスター1体を墓地に戻す。

 

「サイバース・ガジェットの効果でフィールドにガジェット・トークンを特殊召喚。さらにマイクロ・コーダーの効果でデッキからサイバネット・バックドアを手札に。そして俺は罠カード!リコーデッド・アライブを発動!墓地のエンコード・トーカーを除外して、EXデッキから「コード・トーカー」モンスターを特殊召喚する!来い、デコード・トーカー!」

「あんだけ無効にしたのに、まだ展開すんのかよ」

 

 現れたデコード・トーカーの姿に、ゴッドバードは引きっった笑みを浮かべる。

 

「俺はカードを2枚伏せる。バトルだ!デコード・トーカーでコンパイル・ブラスターを攻撃!」

 

 デコード・トーカーが剣を振り上げ、コンパイル・ブラスターに迫る。攻撃力は互角だが、

 

「デコード・トーカーの効果!リンク先のモンスターの数だけ攻撃力を500アップする!パワーインテグレーション!」

 

 ガジェット・トークンからエネルギーが送られ、デコード・トーカーがコンパイル・ブラスターを切り裂いた。

 

 ゴッドバード:ライフ4000→3500

 

「俺はこれでターンエンド」

 

ターン5

 

「俺は魔法カード、エリミネーション・アウトプットを発動」

 

エリミネーション・アウトプット

通常魔法

(1)自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合、手札1枚を除外して発動できる。デッキからカード名の異なる「エリミネーター」モンスター2体を特殊召喚する。この効果発動後、ターン終了時まで、自分はメインモンスターゾーンにモンスターを特殊召喚できない。

 

「デッキから敵性機兵(エリミネーター)シークエンスコードとラントリクターを特殊召喚。シークエンスコードの効果でデッキからジャイロードを手札に加える。そしてリンク召喚!敵性機兵ローディング・バスター!そのままオーバーレイ!」

 

 アローヘッドよりモンスターが出現すると、アローヘッドが回転してエックス字のパネルへと変化する。

 

「エクシーズ召喚!コンパイル・ブラスター!」

 

 再び現れたコンパイル・ブラスターが、レールガンを構える。

 

「ローディング・バスターの効果!このカードを素材としてX召喚に成功した時、相手フィールドのカード1枚を破壊する!」

 

敵性機兵(エリミネーター)ローディング・バスター

リンク・効果モンスター

風属性/サイバース族/攻 1000/LINK2

風属性モンスターを含む同じレベルのモンスター2体

(1) リンク召喚されたこのカードは、リンク素材となったモンスターと同じレベルのモンスターとしてX召喚の素材にでき、このカードのリンクマーカーの数と同じ数のモンスターとしてX召喚の素材にできる。

(2)このカードを素材としてX召喚された「エリミネーター」モンスターは以下の効果を得る。

●このカードがX召喚に成功した場合、相手フィールドのカード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。

 

「デコード・トーカー!消えろ!」

「俺は速攻魔法!サイバネット・バックドアを発動!デコード・トーカーを次の自分のターンまで除外し、デッキからその攻撃力以下のモンスターを手札に加える!」

「んなもん折込済みだ!俺は速攻魔法!RUM(ランクアップマジック) - 超重層(ハイ・エリミネーション)を発動!」

 

RUM(ランクアップマジック) - 超重層(ハイ・エリミネーション)

速攻魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1)自分・相手のXモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターよりランクが1つ高い「エリミネーター」Xモンスター1体を対象のモンスターの上に重ねてX扱いで特殊召喚する。その後、墓地の「エリミネーター」リンクモンスター1枚までをその下に重ねてX素材にできる。この効果発動後、ターン終了時まで、自分はメインモンスターゾーンにモンスターを特殊召喚できない。

 

「コンパイル・ブラスターをランクが1つ高いエクシーズモンスターにランクアップさせる!ランクアップ!エクシーズチェンジ!」

 

 コンパイル・ブラスターがデータに分解され、その体を作り変える。

 

「ランク5!敵性機兵(エリミネーター)エクス・ランサムウェア!」

 

敵性機兵(エリミネーター)エクス·ランサムウェア

エクシーズ·効果モンスター

ランク5/風属性/サイバース族/攻 2500/守 2000

風属性·レベル5·効果モンスター×2体以上

このカード名の(1)(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードがX召喚に成功した場合、このカードがX素材として持つリンクモンスター1枚のLINKの数までお互いの使用していないメインモンスターゾーンをそれぞれ指定して発動できる(最大3つ)。指定したゾーンは次の相手のターンのエンドフェイズまで使用できない。

(2)このカードの攻撃力·守備力はこのカードがX素材として持つリンクモンスターのリンクマーカーの数×300アップする。

(3)自分・相手のエンドフェイズにこのカードのX素材2つ、またはX素材のリンク2以上のカード1枚を取り除いて発動できる。お互いのメインモンスターゾーンのモンスターを全て破壊する。

 

「エクス・ランサムウェアの効果!素材となったリンクモンスター1体のリンクマーカーの数まで互いのメインモンスターゾーンを使用不可能にする!」

 

 空いている残りのメインモンスターゾーンを封じられる。

 

「俺はこれでターンエンド!これでお前のメインモンスターゾーンは全部埋まってる!つまりデコード・トーカーの帰還先はない!」

「まだだ!俺はエンドフェイズに速攻魔法!サイバネット・クロスワイプを発動!ガジェット・トークンをリリースし、相手フィールドのカード1枚を破壊する!」

「チッ!俺は手札のエリミネーション・ジャミングの効果発動!手札のジャイロードを墓地に送り、この(トラップ)は手札から発動できる!サイバネット・クロスワイプを無効!」

 

 (トラップ)カードにより、破壊をかわすが、メインモンスターゾーンを開けられてしまった。

 

ターン6

 

「スタンバイフェイズに、デコード・トーカーはフィールドに戻る。そして、このターン、デコード・トーカーはダイレクトアタックできる」

「俺は墓地のジャイロード、シークエンスコード、ラントリクターの3枚を除外し、デッキから「エリミネーション」カードを3枚セット」

「俺は魔法カード、サイバネット・ドローを発動!」

 

サイバネット・ドロー

通常魔法

自分フィールドにリンク3以上の「コード・トーカー」モンスターが存在する場合、このカードの発動と効果は無効化されない。

(1)自分のフィールド・墓地・除外されているサイバース族リンクモンスターのリンクマーカーの合計が8以上の場合、自分のメインフェイズ1開始時に発動できる。自分はデッキから2枚ドローする。この効果発動後ターン終了時まで、自分はデッキからカードを手札に加えられない。

 

「デッキから2枚ドロー。俺は装備魔法、グリッド・ロッドを装備。装備モンスターの攻撃力は300アップ。さらに相手の効果を受けず、1ターンに1度だけ戦闘で破壊されない」

 

 デコード・トーカーの手に杖が出現する。

 

「カードを1枚伏せて、バトルだ!デコード・トーカーでダイレクトアタック!」

 

 ゴッドバード:ライフ3500→900

 

「俺はこれでターンエンド」

 

ターン7

 

「どうにか互角に戦えてるな……ん? どうした、プレイメーカー」

 

 プレイメーカーの険しい顔に、Aiは疑問を呈する。

 

「奴は何故、エリミネーション・ジャミングで、グリッド・ロッドの発動を無効にしなかった?」

「とっときたかったんじゃねぇの?」

「俺のモンスターの展開は既に制限されている。ここでカウンター(トラップ)を温存する意味はないはずだ」

「確かに……」

 

 すると、コース上に吹く風が強くなる。

 

「これは……」

 

 データストームが、彼らの行く手に現れた。

 

「来やがったな」

 

 すると、ゴッドバードはDボードを加速させ、モンスターと共にデータストームの中に飛び込む。

 

「何をする気だ!?」

「ま、まさか!?」

 

 吹き荒れる風に手を伸ばし、ゴッドバードは不敵に笑う。

 

「自分のライフが1000以下で、かつ俺のフィールドのモンスターがEXモンスターゾーンのエクシーズモンスター1体のみの場合、データストームの中からランダムなサイバース族エクシーズモンスター1体を、その上に重ねてエクシーズ召喚する!」

「なっ!?」

「データストームから直接召喚だと!?」

「来い!俺の元へ!」

 

 データストームから流れ込む大量のデータを諸共せず、そこに眠るモンスターを引っ張り上げる。

 

「スキル発動!ストームエクシーズチェンジ!」

 

 データストームが爆ぜ、エクス・ランサムウェアが進化する。

 

「電子の嵐より、輝ける翼を広げ光臨せよ!エクシーズ召喚!ランク6!敵性機兵(エリミネーター)バリアブルウィング!」

 

 データストームより現れたのは、緑に輝く三対の翼を広げる機械仕掛けのドラゴンだった。

 

敵性機兵(エリミネーター)バリアブルウィング

エクシーズ・効果モンスター

ランク6/風属性/サイバース族/攻 2700/守 2300

このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードの攻撃力・守備力はこのカードがX素材に持つリンクモンスターのリンクマーカーの数×300アップする。

(2)自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合、自分の魔法・罠ゾーンのセットされたカードは相手の効果で破壊されない。

(3)このカードのX素材1つを取り除いて発動できる。このターン、このカードは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃できる。X素材のリンクモンスターを取り除いて効果を発動していた場合、デッキから「エリミネーション」魔法・罠カード1枚を手札に加えるか、セットする。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

「このスキルを発動するターン、俺は一切モンスターを場に出せない。そしてバリアブルウィングの効果発動!オーバーレイユニットを1つ使うことで、このカードはこのターン、2回攻撃できる!バトルだ!バリアブルウィングで、デコード・トーカーを攻撃!」

 

 バリアブルウィングが翼を広げ、まばゆい光を纏う。

 

「消し去れ!バリアブルノヴァ!」

 

 光がデコード・トーカーを包み込む。

 

「グリッド・ロッドの効果で破壊は無効!」

「だがダメージは受けてもらう!」

 

 プレイメーカー:3500→2200

 

「まだだ!バリアブルウィングでもう1度攻撃!」

(トラップ)カード発動!スリーフェイト・バリア!」

「カウンター(トラップ)!エリミネーション・ジャミング!罠の発動は無効だ!消えろ!デコード・トーカー!」

 

 プレイメーカー:2200→900

 

「俺はこれでターンエンド」

 

ターン8

 

「やりやがったな。プレイメーカー!こっちもストームアクセスで」

「無理だ」

「なんで……あっ!? そうかデータストームが!」

 

 既に彼らの周りにデータストームはない。

 ゴッドバードが先にスキルでデータストームを使ったせいで、プレイメーカーにはもうストームアクセスでカードを手にすることができない。

 

「はははっ!その通り!お前はスキルを使えない!そしてお前も知っての通り、俺には前のターンにデッキからセットしたエリミネーション・インターセプトがある!これでお前のチェーンブロックを作らない特殊召喚を無効にできる!つまり、リンク召喚で逆転すんのは不可能ってことだ!」

 

 ゴッドバードが高笑いするなか、プレイメーカーは静かに自分のデッキを見つめる。

 

(このドローが、このデュエルの勝敗を決める)

 

 意を決して、カードを引く。

 

「……俺は装備魔法、コード・リコンパイルを発動!」

 

コード・リコンパイル

装備魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できず、このカードを発動するターン、自分はサイバース族モンスターしか特殊召喚できない。

(1)ライフを500払い、自分の墓地の「コード・トーカー」モンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。そのモンスターを特殊召喚し、このカードを装備する。このカードがフィールドを離れた時に装備モンスターは墓地に送られる。

(2)装備モンスターの効果は無効化され、攻撃力は0になる。

(3)装備モンスターをリンク召喚の素材にする時、このカードを装備モンスターと同じ種族・属性の通常モンスター1体分としてリンク召喚の素材にできる。

 

「ライフを500払い、墓地のデコード・トーカーを、効果を無効にして、攻撃力0にして特殊召喚!現れろ!未来を導くサーキット!召喚条件はモンスター2体以上!俺はコード・リコンパイルと、リンク3のデコード・トーカーをリンクマーカーにセット!」

「俺はカウンター罠!エリミネーション・インターセプトを発動!そのリンク召喚は無効だ!」

 

 アローヘッドが砕け、ファイアウォール・ドラゴンの降臨は妨げられる。

 

「これでお前はエースを失った」

「まだだ!俺はサイバース・ガジェットを召喚!その効果で墓地のマイクロ・コーダーを特殊召喚!現れろ!未来を導くサーキット!リンク召喚!リンク2!コード・トーカー!」

 

「今更リンク2のモンスターで何をする気だ?」

 

「ガジェット・トークンを特殊召喚。さらにマイクロ・コーダーの効果でデッキからコード・ラジエーターを手札に加える。三度現れろ!未来を導くサーキット!召喚条件はサイバース族モンスター2体以上!俺はリンク2のコード・トーカーと、手札のコード・ラジエーターをリンクマーカーにセット!」

 

 アローヘッドに三つの矢印が描かれる。

 

「リンク召喚!リンク3、シューティングコード・トーカー!」

 

 アローヘッドより、蒼翼を羽ばたかせ、弓を携えた電脳の戦士が現れた。

 

「けどもう手札は0、攻撃力3900のバリアブルウィングを突破できない」

「俺はコード・ラジエーターの効果発動!」

 

 フィールドにシューティングコード・トーカーと同じ鎧をまとった電子の竜が出現する。

 

「コード・トーカーモンスターのリンク素材となった時、相手フィールドの表側表示モンスター1体の効果を無効にし、攻撃力は0になる」

「なっ!」

 

 コード・ラジエーターが口から音波を吐き、バリアブルウィングの効果と攻撃力を奪い去る。

 

「バトルだ!シューティングコード・トーカーで、バリアブルウィングを攻撃!穿て、シューティング────」

 

 シューティングコード・トーカーが弓を引き絞る。

 

「────コンプリィィトッッ!」

 

 ◆

 

 デュエル終了後、二人は人気のない場所に降りた。

 

「約束通り、データは渡してもらうぞ」

「ほらよ」

 

 ゴッドバードは素直にカードを投げ渡す。

 

「まあどの道、今の俺には意味のないものだからな」

「どういう意味だ?」

「俺は前にもこの場所に隠れてるデータの存在を見つけて手に入れようとした。けど、どうしても、別のレイヤーにあるそいつを手に入れられなかった。そこにお前が現れた」

 

 あの時、プレイメーカーがデータの場所に手をかざすと、データストームと共に、それは現れた。

 プレイメーカーが感じたその感覚は、ストームアクセスでカードを手にする感覚とよく似ていた。

 

「多分イグニスが鍵になってたんだろうな。現にデュエルの前にザッと解析してみたが、俺にはとても解除できそうになかった」

 

 サラッとデュエル前の一瞬の時間で、解析を行ったということを暴露されて、プレイメーカーは内心驚いていた。

 

「つまり、ロックの解除にも、こいつの力が必要だと?」

「その可能性が高いってだけだ。んじゃ、話は終わりだ」

 

 ゴッドバードは背を向ける。

 

「どうしてそこまで教えてくれた?」

「ああ。まあ前回の偽物騒動の手間賃とでも思っててくれ。俺がサイバースをバラまかなきゃ、あれは起きなかったわけだしな」

 

 そういう彼の顔は、デュエル中に見せたような悪辣さはなかった。

 粗暴に見えて、その本質はそう悪人でもないのかもしれない。

 

「じゃあな。プレイメーカー。次こそはイグニスを手に入れてやるよ」

 

 そう言って、ゴッドバードは立ち去った。

 



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第9話:Jack knife coming out(前編)

 その日は遊作、美海、草薙の三人で持ち帰ったデータの解析をおこなっていた。

 

「このプログラム、Aiを構成するプログラムと同じパターンだな」

 

 草薙は画面に羅列されたコードを見て呟く。

 

「イグニスと同じアルゴリズム、仮にイグニスアルゴリズムとしましょうか。なら、これを当てはめて……」

 

 パソコンに繋がれた遊作のデュエルディスクからデータを送信する。

 すると、画面上に『UNLOOK』と表示された。

 

「解除成功です」

「助かった美海」

「では、早速」

 

 エンターキーを押すと、表示されたのは以下の内容だった。

 

『ここに記すのはSOLテクノロジーにより行われた非人道的な実験の記録であり、私の犯した過ちの記録である。これを誰かが読んでいるということは、私はこの世にいないのだろうが、このレポートが善意の第三者に渡ることを切に願い、記録を残そうと思う。

 私が孤児院に集めた子供達は、皆特別な才能を持っていた。

 リンクセンス、ネットワークの気配を感じる特異能力。本来、VR空間で知覚できる情報はシステムによって与えられる電気信号によるもののみである。しかし、リンクセンスを持つものは、システムから供給する以上の情報量を、VR空間で受信し、感じ取ることができる。電脳空間における第六感ともいえる。

こんな力を持っていたが故に目をつけられてしまったのは非常に不幸なことだ。

これより実験を開始する。

レポートを手にした君には、どうか最後までこの記録を見届けて欲しい』

 

「レポートの中身はこれだけか」

「はい。レポートナンバー1となっているので、この続きもどこかにあるのだと思います」

 

 今回のレポートには、実験の具体的な内容について記されていなかった。

 また、鴻上博士がSOLから脅しを受けていたという情報もない。だが、一つ有益な情報も得られた。

 

「リンクセンス、遊作がこのレポートを見つけたのも、その能力によるものなのでしょうか」

「そのようだ。レポートによると、あの孤児院にいた奴はみんな持っていたらしいが」

「私にもリンクセンスがあるということでしょうか」

 

 思えばゴッドバードは、遊作より先にレポートを見つけていた。

 彼にもリンクセンスがあるとすれば、ひょっとすると鴻上博士はリンクセンスとイグニスを持つ者に、レポートを見つけてもらうために、巧妙な手段で証拠を隠したのかもしれない。

 

「レポートを全て見つける。それが先生の意思だ」

「えぇ。私も引き続き調査を行います」

 

 ◆

 

 デュエル部に着くと、切花は相変わらず他の男子部員に囲まれていた。

 

「あ、藤木君やっほー」

 

 すっかりサークルの姫になっていた彼女を横目に、遊作は定位置に座る。

 

「遊作」

 

 遅れてやってきた尊が遊作の正面に座った。

 

「美海はどうした?」

「なんかSOLから呼び出しがあったって」

「そうか……」

 

 遊作の知る限り、彼女はセキュリティ部隊を解任されており、復帰したという話も聞いていない。

 

(まさか、レポートを追っていることがバレたのか?)

「ふーじきくん!」

 

 すると、後ろから切花が両肩を叩いた。

 

「なんだ?」

「今みんなからデッキの組み方を教わってたんだけど、参考までに藤木君のデッキも見せてほしいなーって」

「別に構わないが」

 

 遊作は普段持ち歩いているダミーデッキを彼女に手渡す。

 慣れた手つきでカードを滑らせ、デッキの中身を見ていると、

 

「あれあれ~」

 

 切花はカードを見てわざとらしく首を傾げる。

 

「ねぇねぇ藤木君、サイバースカードは?」

「何?」

 

 切花の唐突なその発言に、遊作は眉をしかめる。

 

「何故俺がサイバースカードを持っていると思う?」

「だって藤木君、プレイメーカーのファンなんでしょ?」

 

 切花は遊作のデュエルディスクを指さす。

 

「前にデータストームからカードが出た時に、カードを取りにいったんじゃないかーって」

 

 ゴッドバードが起こした騒動、あの事件でサイバースカードの所有者は増えている。

 もっとも、ハノイや例の偽プレイメーカーに奪われた人も多いだろうが。

 

「行ってないなんて言わないよね。だって君、島君にサイバース・ウィザードを渡してるんだし」

 

 遊作は彼女の行動の意味が分からなかった。

 これを追求することに、何のメリットがあるのか。

 

「手に入ったカードは、島に渡したその1枚だけだ」

「おっかしいなぁ。本当にプレイメーカーのファンなら、サイバース・ウィザードを人に渡したりしないよね?」

「えーっと、夢乃さんは、何が言いたい訳?」

 

 謎の問答を続ける彼女に、見かねた尊が話に割り込んだ。

 

「別に、ただ気になっただけだよ。あ、もうデッキ返すね」

 

 すると、あっさり追及を止めて遊作にデッキを手渡した。

 

「ゆ、遊作、夢乃さんと何かあったの?」

「いや……」

 

 転校してきた直後から、彼女は妙に遊作に馴れ馴れしかった。

 だが、今回の彼女はまるで何かを探るっているように思えた。

 

「……なあ夢乃さん」

 

 遊作は席を離れようとする彼女を呼び止める。

 

「なーに?」

「俺とデュエルしないか?」

 

 遊作からの意外な誘いに、彼女は嬉しそうに頬を緩ませる。

 

「いいよ。やろっか」

 

 デュエルを通じて、彼女から何かを引き出せるかもしれない。

 そう思っての提案だったが、彼女が快く応じてくれた。

 

「ねぇ、せっかく二人とも旧式のデュエルディスク持ってるんだし、ソリッドビジョンでやろうよ」

 

 旧式のカード収納タイプのディスクにのみ搭載されている機能、ソリッドビジョン。

 まるでそこにモンスターがいるかのような立体的な映像を空間に投影して、デュエルを盛り上げてくれる。

 

 現在はVR空間や、ARでのデュエルが主流になってオミットされた機能だ。

 

「構わない」

「よーし、それじゃあ……」

 

「「デュエル!」」

 

ターン1 遊作

 

「俺は召喚僧サモンプリーストを召喚し効果発動。手札の魔法カード、ダイガスタ・シールドを墓地に送り、デッキからレベル4モンスター、ゴールド・ガジェットを特殊召喚。その効果で、手札からグリーン・ガジェットを特殊召喚し、効果でデッキからレッド・ガジェットを手札に」

「おおーいきなり三体のモンスター」

 

 遊作のフィールドを見て、パチパチと手を叩く。

 

「俺はこのモンスター三体でリンク召喚。電影の騎士ガイアセイバー」

 

 現れたのは電脳の機馬を駆る機械の戦士だった。

 

「俺は墓地の装備魔法、タイガスタ・シールドの効果発動!」

 

タイガスタ・シールド

装備魔法

効果モンスター以外のモンスターにのみ装備可能

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)装備モンスターの攻撃力は500アップし、1ターンに1度、戦闘で破壊されず、1ターンに1度、効果で破壊されない。

(2)このカードが墓地に存在し、自分の効果モンスター以外のモンスターが特殊召喚された場合に発動できる。このカードを手札に加える。

 

「効果モンスター以外のモンスターが特殊召喚された時、墓地のこのカードを手札に戻す。そして装備!これでガイアセイバーの攻撃力は500アップし、それぞれ1ターンに1度、戦闘と効果で破壊されない」

 

翠緑の大盾がガイアセイバーの左手に装備される。

 

「俺はこれでターンエンド」

 

ターン2 切花

 

「よーし、ボクはゾンビキャリアを召喚」

 

 フィールドに、様々な動物のパーツが合わさったグロテスクな生物が現れる。

 

「アンデット族デッキか……」

「さらにマンモス・ゾンビを召喚!」

「え?」

 

 ブブーッ!

 

 彼女がカードを置いた瞬間、デュエルディスクがエラー音を吐いた。

 

「あれ、デュエルディスク壊れたかな?」

「はぁ……通常召喚は、ターンに1回だけだ」

「ああ。そっかそっか。あはははは」

 

 彼女はうっかりしてたと笑う。

 

「じゃあ改めて、魔法カード、おろかな埋葬を発動。デッキからゾンビ・マスターを墓地に送る。そして魔法カード、アンデッド・リボーンを発動!墓地のアンデッド族モンスター1体を、そのモンスターと同名モンスターをデッキから除外することで特殊召喚」

 

 ゾンビ・マスターが地面を割って、地上に這い戻る。

 

「リンク召喚!リンク2、ヴァンパイア・サッカー!」

 

 現れたのは、背の白い鳥の翼から黒い爪のようなものをいくつも生やした、ワンピース姿の少女だった。

 

「効果で君の墓地からサモンプリーストを君の場に特殊召喚し、そのモンスターをアンデッド族に変える」

 

 サモンプリーストの体が腐り、ゾンビとなって遊作のフィールドに蘇った。

 

「アンデッド族モンスターが特殊召喚されたので、ヴァンパイア・サッカーの効果で1枚ドロー。そして魔法カード、精神操作!サモンプリーストのコントロールを得る!」

 

 見えない糸がゾンビ化したサモンプリーストに巻き付き、切花のフィールドへ移動させる。

 

「まだまだ行くよ!リンク召喚!ヴァンパイア・サッカー1体を素材にヴァンパイア・サッカーを……」

 

 ブブーッ!

 

 またもデュエルディスクがエラー音を吐いた。

 

「えー、リンクモンスターって、リンクマーカーの数分のモンスターになれるんじゃないの?」

「リンクモンスターはあくまで必要なLINK数の代わりになるだけだ。召喚条件まで無視できるわけじゃない。そもそもヴァンパイア・サッカーを出しなおして何をするつもりだったんだ?」

「え? もう1回効果使って、今度はゴールド・ガジェットを……」

「よく見ろ。ヴァンパイア・サッカーの効果は同名カードを含めてターンに1回だけだ」

「あーほんとだ」

 

 切花はペロッとしたを出して、可愛いポーズを取る。

 遊作はそれを冷めた目で見て、早く続けるように手を仰ぐ。

 

「もう。ちょっとは反応してよ。ボクは手札の魔法カード1枚を捨てて、サモンプリーストの効果発動!デッキから達人キョンシーを特殊召喚!」

 

 フィールドにモンスター3体が並ぶ。

 

「行くよ!リンク召喚!リンク4!零氷の魔妖-雪女!」

 

 フィールドに吹雪が吹き、現れたのは真っ白い髪をなびかせる着物姿の美しい女性だった。

 

「墓地のゾンビキャリアの効果発動!手札1枚をデッキの上に置くことで、このカードを墓地から特殊召喚!墓地からモンスターが特殊召喚されたことで、雪女の効果発動!フィールドの表側表示モンスター1体の効果を無効にし、攻撃力を0にする!」

 

 雪女が杖を振ると、吹雪がガイアセイバーを襲い、その体を凍り付かせる。

 

「バトル!雪女でガイアセイバーを攻撃!」

「ガイアセイバーはタイガスタ・シールドの効果で、1ターンに1度、戦闘で破壊されない」

「でもダメージは受けてもらう」

 

 遊作:ライフ4000→1100

 

「ゾンビキャリアでアタック!」

 

 遊作:ライフ1100→700

 

「ボクはこれでターンエンド」

 

ターン3 遊作

 

「俺は魔法カード、死者蘇生を発動。お前の墓地のヴァンパイア・サッカーを俺のフィールドに特殊召喚」

「墓地からモンスターが特殊召喚されたから、雪女の効果発動!ヴァンパイア・サッカーの効果を無効にし、攻撃力を0にする」

「俺はレッド・ガジェットを召喚し、再びガイアセイバーをリンク召喚!」

 

 切花のヴァンパイア・サッカーを使って、再びガイアセイバーをフィールドに呼び戻した。

 

「墓地のタイガスタ・シールドを効果で手札に戻し、装備。バトルだ。ガイアセイバーで、ゾンビキャリアを攻撃!俺はこの瞬間、手札から速攻魔法!リミッター解除を発動!自分の機械族モンスターの攻撃力を2倍にする!」

「ならボクも手札から速攻魔法!突進を発動!これでゾンビキャリアの攻撃力を700アップ」

 

 ブブーッ!

 

「速攻魔法って手札からいつでも使えるんじゃないの?」

「えーっと、夢乃さん。速攻魔法を相手ターンに使うには、一度場に伏せる必要があるんだよ」

 

 尊は呆れ気味に解説する。

 

「ああ。そっか」

「ていうか、そもそも攻撃力700上げても、ガイアセイバーの今の攻撃力は6200なんだから、意味ないよ」

「あ、本当だ。ボクのライフ0だね」

「切花ちゃんなにやってんだよ~」

「かわいいな~」

 

 ほとんどの部員は切花の行動を、初心者にありがちなプレイングミスだと判断した。

 しかし遊作は違った。

 

(こいつ、今のはわざと……)

 

 彼女はもとより、デュエル初心者であることを公言しており、序盤からルールミスを連発しまくったこともあって、他の誰も疑問には持っていない。

 遊作も途中までは、ただの初心者だと思っていた。

 

 しかし、いくら何でもさっきのはあり得ない。

 

 遊作の残りライフはちょうど700。突進の効果で上昇する攻撃力も700。

つまり彼女は前のターンの攻撃で突進を使っていれば、このデュエルは勝利していた。

 

 デュエル初心者でも引き算ができればそれくらいはすぐにわかるはずだ。

 

 カードを使い忘れたというのもなくはないが、彼女の残りの手札は1枚、つまり突進だけだ。それで攻撃力アップの魔法を使い忘れたとは考えにくい。

 

 それに途中でリンク4を出して、遊作を追い詰めるまでの展開は、初心者の手つきには見えなかった。

 

「あー負けた負けた。藤木君強いね~」

 

 切花は遊作に握手を求める。

 どうすべきか迷ったが、ここで断っても不自然だろうと、彼は右手を差し出した。

 

 すると

 

「えい」

 

 突然、切花は掴んだ腕を引っ張り、遊作の体を自分の元に引き寄せた。

 

 油断していた遊作はそのままバランスを崩し、頭から彼女の豊満な胸に突っ込んだ。

 

「お、お前!」

「藤木!お前何やってんだ!」

 

 男子部員が口々に彼に文句を言う。

 その時、

 

「藤木くん、何やってるの?」

 

 教室が冷えた。

 皆が一斉に振り返ると、入り口には財前葵が、光を失った目で遊作を見つめていた。

 

「財前……」

「ねぇ、何してるの藤木くん」

「あ、ボク用事思い出したー」

 

 切花はサッと遊作の体を突き飛ばし、そのまま反対の入り口から逃げるようにして去っていった。

 

 ◆

 

 LINK VRAINS某所、そこは普段人が立ち入らない進入禁止エリア、その建物の屋上に、一人の少年が座っていた。

 

 中性的な顔立ち、紫と赤が混じった短髪、そして服はハノイの騎士と同じデザイン白いポンチョ。

 

 彼が静かに眼下の風景を眺めていると、着信がありホログラムウィンドウを開いてビデオ通話を始める。

 

「もしもーし」

『ジャックナイフ、どこで油を売っているんですか?』

 

 画面に映るスペクターから、ジャックナイフと呼ばれた彼は、めんどくさそうに頭を掻く。

 

「別にサボってるわけじゃないよ。プレイメーカーをおびき出すための仕込みをしてたんだから」

『リボルバー様はあなたにそんな指示は出していないはずですが』

「ボクらの目的は、イグニスを殲滅すること。ならそのための効率的な手段を取るのは当然じゃない?」

『あなたにプレイメーカーを倒せると?』

 

 そう尋ねられて、彼はふふっと子供のように笑う。

 

「当然」

 

 ジャックナイフは立ち上がると、ひょいっと建物から飛び降りる。

 

「まあ楽しみに待っててよ。ボクが成果を上げるところをね」

 

 そう言って、彼は一方的に通話を切ってしまった。

 

 



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第9話:Jack knife coming out(後編)

「昨日は酷い目にあったな」

 

 昼休み、昼食を買うために購買に向かう途中、Aiがおかしそうに言ってきた。

 

「財前は何をあんなに怒っていたんだ?」

「それ本気で言ってる?」

 

 Aiは若干引いたように言うが、遊作には何のことかさっぱり分からなかった。

 

「ん?」

 

 すると、遊作は廊下の先に、切花の姿を見つけた。

 

「あいつ、あんなところで何をやってるんだ?」

 

 向こうは購買とも食堂とも違う、そのわずかな違和感を元に、遊作は彼女の後を付けることにした。

 

 そうしてやってきたのは体育倉庫、彼女は大げさなアクションで周囲を警戒すると、デュエルディスクを操作し始めた。

 

「もしもーし」

 

 誰かと電話しているようだった。

 入り口の陰に潜んで様子をうかがうが、ここからでは通話相手の声までは聞こえない。

 

「はいはい分かってるよ。今日の15時半、LINK VRAINSだね。場所はいつものところでいい? 地図? いらないいらない。道分かるし」

「誰かと待ち合わせしているのか」

「おせっかいだなー。じゃあありがたく受け取っとくよ」

 

 すると、彼女のデュエルディスクから大きなホログラムウィンドウが投影され、遊作の位置からでも見えるサイズで地図が表示された。

 

「あれは……」

 

 そこに記されていたのは、LINK VRAINSの進入禁止エリアの地図だった。

 

「じゃあね~」

 

 彼女は通話を切り、体育倉庫から出ていく。

 遊作は近くの物陰に潜んで、彼女を見送った。

 

 ◆

 

 その日の放課後、遊作はデュエル部には立ち寄らず、学校からLINK VRAINSにログインしていた。

 

「ここがLINK VRAINSの進入禁止エリアか」

 

 周囲には鉄骨の骨組みだけの建物だったり、崩れかけたブロックでできた島だったりが浮いている。

 進入禁止エリアとはいっても、未完成なエリアというだけで、決して危ない場所という意味ではない。

 しかし、わざわざそんな場所に友達と待ち合わせしていただけというのは、

 

「考えすぎじゃないか?」

「彼女が怪しいと思う理由はある。一つ、俺とのデュエルで手を抜いていた。二つ、俺の正体を探るような行動を取っていた。三つ、彼女は俺が名乗る前から俺の名前を知っていた」

 

 一つ一つは小さな違和感、しかし、それが三つ重なれば疑うのに十分な根拠となる。

 

 そうして、目的の場所につくと、

 

「待ってたよ。プレイメーカー」

 

 Dボードに乗った少年が、まるで彼を待ち伏せていたかのように現れた。

 

「その服装、ハノイの……」

「初めまして。ボクはジャックナイフ。ハノイの騎士の、すこーし偉い人かな?」

 

 アバターは男の姿だが、容姿や口調にどことなく彼女に似た雰囲気がある。

 

「俺を待ち伏せしていたのか?」

「さぁ……それよりさ、ボクとデュエルしない?君が勝てば、そのイグニスの記憶データ、渡してあげてもいいよ?」

 

 そう言って、ジャックナイフは指を鳴らすと、その右手にカードの形をしたプログラムを出現させた。

 

「あれは間違いない。俺のデータの一部だ!」

「何?」

「言っただろ? ハノイの少し偉い人だって。まさかこれで断ったりしないよね?」

「いいだろう」

 

「「スピードデュエル!」」

 

ターン1 プレイメーカー

 

「俺はバランサーロードを通常召喚」

 

 プレイメーカーのフィールドに白い電子の騎士が現れる。

 

「1000ライフポイント払うことで、俺はこのターン、もう1度モンスターを召喚できる。俺はドラコネットを召喚!」

 

 青い電脳の小竜が現れる。

 

「その効果で、デッキからレベル2以下の通常モンスター、ビットロンを特殊召喚。現れろ、未来を導くサーキット!」

 

 プレイメーカーが手を伸ばす先に光が走り、彼の道にアローヘッドが出現する。

 

「召喚条件はサイバース族モンスター2体!リンク召喚!リンク2、スプラッシュ・メイジ!効果発動!」

 

 現れたスプラッシュ・メイジが、杖をクルッと一回転させると、彼の右斜め後ろに、ビットロンが蘇る。

 

「現れろ!未来を導くサーキット!召喚条件は効果モンスター2体以上!リンク召喚!リンク3!デコード・トーカー!」

「早速デコード・トーカーか」

「俺はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン2 ジャックナイフ

 

「ボクのターン、ボクはアニマイール・トリックランタンを召喚!」

 

アニマイール・トリックランタン

効果モンスター

星3/光属性/アンデット族/攻 800/守 800

このカード名の(2)(3)の効果はいずれか1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが召喚に成功した場合に発動できる。デッキ・墓地から「アンデットワールド」、または「アニマイール・ポルターガイスト」1枚を手札に加える。

(2)自分フィールドのアンデット族モンスターを素材として、「アニマイール」リンクモンスターをリンク召喚する場合、墓地のこのカードをリンク素材としてデッキの下に置ける。この効果発動後、ターン終了時まで、自分は融合モンスターしか特殊召喚できない。

(3)このカードが墓地に存在する場合、自分の手札・フィールドの「アニマイール」カード1枚を墓地に送って発動できる。このカードを墓地から手札に加える。

 

「デッキからアンデットワールドを手札に加え、そのまま発動!」

 

 辺りが暗くなり、瘴気が立ち込める。

 

「現れろ、ボクだけの未来(みち)を拓く未来回路!」

 

 暗雲たち込める空間に、アローヘッドの光が差す。

 

「召喚条件はリンクモンスター以外のアニマイール1体!リンク召喚!リンク1、アニマイール・フウロ!」

 

 アローヘッドより現れたのは、紫の大きな瞳を怪しく光らせる、煙の翼を持ったフクロウだ。

 

アニマイール・フウロ

リンク・効果モンスター

光属性/アンデット族/攻 0/LINK1

【リンクマーカー:下】

リンクモンスター以外の「アニマイール」モンスター1体

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードがリンク召喚に成功した場合、手札から「アニマイール」カード1枚を捨てて発動できる。デッキから「アニマイール・ポルターガイスト」1枚を墓地に送る。自分のフィールドゾーンに「アンデットワールド」があれば、墓地に送るかわりに手札に加える。

(2)自分が融合召喚に成功したターンのエンドフェイズに、自分のフィールドゾーンに「アンデットワールド」があれば、墓地のこのカードを除外して発動できる。自分はデッキから1枚ドローする。

 

「手札のアニマイール1枚を捨てて、デッキからアニマイール・ポルターガイスト1枚を墓地に送る。この時、アンデットワールドがあれば、墓地に送るかわりに手札に加える。再び現れろ!ボクだけの未来(みち)を拓く未来回路!」

 

 闇の中にアローヘッドが煌く。

 

「召喚条件はアニマイールモンスターを含む、アンデット族モンスター3体!」

「おいおいお前のモンスター1体だけだぞ?」

 

 Aiの突っ込みに、ジャックナイフは小馬鹿にしたように笑う。

 

「アニマイール・トリックランタンと、アニマイール・ライヴコープスは、それぞれ1ターンに1度だけ、墓地からリンク素材にできる。ボクはフィールドのアニマイール・フウロと、墓地のアニマイール・トリックランタン、アニマイール・ライヴコープスをリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン!」

 

 墓地から霊魂のようなものが飛び出し、フウロと共に右上、左上、下のリンクマーカーを描く。

 

「リンク召喚!リンク3!アニマイール・オルトバイト!」

 

 現れたのは、二つの頭を持つ犬、体は紫の炎のようなものでおおわれており、目は黒い革で隠されている。

 

アニマイール・オルトバイト

リンク・効果モンスター

闇属性/アンデット族/攻 2300/LINK3

【リンクマーカー:右上/左上/下】

「アニマイール」モンスターを含むアンデット族モンスター3体

このカードは自分のEXモンスターゾーンにのみ特殊召喚でき、このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分のメインフェイズに発動できる。自分の手札・フィールド及びこのカードのリンク先の相手モンスターの中から、アンデット族融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体を融合召喚する。

(2)このカードのリンク先の自分・相手のモンスターを、それぞれ1体ずつを対象として発動できる。対象の相手モンスターを対象の自分のモンスターに装備カード扱いで装備する。装備モンスターは装備したカードの元々の攻撃力の半分、攻撃力がアップする。

 

「ぼ、墓地からリンク召喚とか、マジかよ」

「アニマイールモンスターは、墓地からリンク素材とした場合、ターン終了時まで、融合モンスターしか特殊召喚できない。ボクはアニマイール・オルトバイトの効果発動!その効果にチェーンして速攻魔法!アニマイール・ポルターガイストを発動!」

 

アニマイール・ポルターガイスト

速攻魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できず、このカードの発動に対して、相手はモンスター効果・魔法・罠カードを発動できない。

(1)以下の効果から1つを選択する。同一チェーン上に「アニマイール」リンクモンスターの効果がある場合、さらに、その効果以外の同一チェーン上の効果は全て無効になる。

●相手フィールドのモンスターを任意の数だけ対象にして発動できる。そのモンスターをそれぞれ別のメインモンスターゾーンに移動させる。

●相手のEXモンスターゾーンにモンスターが存在し、相手のメインモンスターゾーンにEXデッキから特殊召喚されたモンスターが存在する場合にそれら2体を対象として発動できる。そのモンスターの位置を入れ替える。

 

「デコード・トーカーをオルトバイトのリンク先に移動させる」

 

 デコード・トーカーが宙に浮き、オルトバイトの首の前に移動せられる。

 

「そしてオルトバイトの効果解決。自分の手札・フィールド、及びこのカードのリンク先の相手モンスターを素材として融合召喚を行う!」

「なんだと!」

「食らい尽くせ!オルトバイト!ボクは手札のアニマイール・カラカライトと、君のデコード・トーカーを融合!」

 

 オルトバイトがデコード・トーカーを頭からむさぼり、デコード・トーカーはデータの藻屑となる。

 

「地を這う屍よ!虚構の電影を食らい、その魂を結び合わせよ!融合召喚!いでよ、レベル7!アニマイール・バニシングファング!」

 

アニマイール・バニシングファング

融合・効果モンスター

星7/闇属性/アンデット族/攻 2300/守 2000

アンデット族モンスター+リンクモンスター

このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが特殊召喚に成功した場合に発動できる。相手フィールドの表側表示モンスター全ての効果をターン終了時まで無効にする。この効果の発動に対して、相手はアンデッド族モンスターの効果を発動できない。

(2)このカードは、「アニマイール」リンクモンスターの効果で装備したモンスターのモンスター効果を得る。

(3)このカードが戦闘・相手の効果でフィールドから墓地の送られた場合、自分及び相手の墓地のアンデット族モンスターをそれぞれ1体ずつ除外して発動できる。このカードを墓地から特殊召喚する。

 

「バトルだ!アニマイール・バニシングファングで、ビットロンを攻撃!」

 

 ビットロンに、怨霊の怪物が大口を開けて迫る。

 

「俺は(トラップ)カード!スリーフェイト・バリアを発動!」

 

スリーフェイト・バリア

通常罠

(1)以下の効果から1つを選択して発動できる。

●このターン、自分のモンスターは戦闘・効果で破壊されない。

●このターン、自分はダメージを受けない。

●このターン、自分のモンスター1体は1度だけ戦闘で破壊されず、その戦闘によって戦闘ダメージを受けるかわりに、その数値分、自分のライフを回復する。

(2)自分がダメージを受けた場合、墓地のこのカードを除外して発動できる。このターン、自分が受ける効果ダメージは0になる。

 

「このターン、俺のモンスターは破壊されない!」

 

 ビットロンは赤いバリアで守られる。

 ビットロンは守備表示なので、ダメージも回避した。

 

「ボクはこれでターンエンド」

 

ターン3

 

「俺は装備魔法、コード・リコンパイルを発動」

 

コード・リコンパイル

装備魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できず、このカードを発動するターン、自分はサイバース族モンスターしか特殊召喚できない。

(1)ライフを500払い、自分の墓地の「コード・トーカー」モンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。そのモンスターを特殊召喚し、このカードを装備する。このカードがフィールドを離れた時に装備モンスターは墓地に送られる。

(2)装備モンスターの効果は無効化され、攻撃力は0になる。

(3)装備モンスターをリンク召喚の素材にする時、このカードを装備モンスターと同じ種族・属性の通常モンスター1体分としてリンク召喚の素材にできる。

 

「墓地のコード・トーカーを攻撃力0、効果を無効にして特殊召喚!」

 

 魔法カードによってデコード・トーカーが蘇る。

 

「現れろ!未来を導くサーキット!召喚条件は通常モンスター1体!俺はビットロンをリンクマーカーにセット!リンク召喚!リンク・スパイダー!」

 

 ビットロンがアローヘッドに飛び込み、電脳の蜘蛛へと変換される。

 

「下向きのリンクマーカー、ってことは……」

「現れろ!未来を導くサーキット!」

 

 再びプレイメーカーの行く先にアローヘッドが出現する。

 

「召喚条件はモンスター2体以上!俺はコード・リコンパイルと、リンク3のデコード・トーカーをリンクマーカーにセット!」

 

 アローヘッドに上下左右のリンクマーカーが描かれ、強烈な風が吹き荒れる。

 

「唸れ嵐!虚構に渦巻く旋風は、万物を震わす竜の雄叫びとなる!リンク召喚!」

 

 風の中で竜が吠える。

 

「リンク4!ファイアウォール・ドラゴン!」

 

 ファイアウォール・ドラゴンが、リンク・ディサイプルのリンク先に降り立った。

 

「ファイアウォール・ドラゴンの効果!このカードと相互リンク状態のカードの数まで、フィールド・墓地のカードを手札に戻す!俺はオルトバイトを手札に!」

 

 ファイアウォール・ドラゴンが羽ばたくと、巻き起こる風がオルトバイトを飲み込み、エクストラデッキに戻す。

 

「カード1枚伏せて、バトルだ!ファイアウォール・ドラゴンで、アニマイール・バニシングファングを攻撃!テンペストアタック!」

 

 ファイアウォール・ドラゴンが翼に充填したエネルギーを放ち、バニシングファングを粉砕する。

 

 ジャックナイフ:ライフ4000→3800

 

「破壊されたバニシングファングの効果発動!お互いの墓地からアンデット族モンスター1体ずつを除外することで、このカードを墓地から特殊召喚する!アンデットワールドの効果で、互いのフィールドと墓地のモンスターはアンデット族になってるから、好きなカードを除外できるよ」

 

 だが、飛散した魂が寄り集まり、再びバニシングファングの体を形作った。

 

「くっ、俺はこれでターンエンド」

 

ターン4

 

「ボクはアニマイール・ライヴコープスを召喚!」

 

 黒いボロボロのマントに、死体の頭を縫い付けたような不気味な人形が現れた。

 

アニマイール・ライヴコープス

効果モンスター

星4/闇属性/アンデット族/攻 1100/守 0

このカード名の(1)(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。墓地の「アニマイール」モンスター、または「アニマイール・ポルターガイスト」1枚を手札に加える。自分のフィールドゾーンに「アンデットワールド」があれば、さらに手札からレベル3以下の「アニマイール」モンスター1体を、効果を無効にして特殊召喚する。

(2)自分フィールドのアンデット族モンスターを素材として、「アニマイール」リンクモンスターをリンク召喚する場合、墓地のこのカードをリンク素材としてデッキの下に置ける。リンク召喚後、ターン終了時まで、自分は融合モンスターしか特殊召喚できない。

 

「効果で墓地のアニマイール・ポルターガイスト1枚を手札に戻す。その後、アンデットワールドがあれば、手札からレベル3以下のアニマイール1体を特殊召喚できる。ボクはカラカライトを特殊召喚!」

 

 ライヴコープスのマントの中から、小さな骨の怪人が飛び出した。

 

アニマイール・カラカライト

効果モンスター

星2/地属性/アンデット族/攻 500/守 500

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが既にモンスターゾーンに存在する状態で、自分の手札・墓地からアンデット族モンスターが特殊召喚された場合に発動できる。デッキから「アニマイール・カラカライト」1体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたモンスターがフィールドに表側表示で存在する限り、自分は「アニマイール」モンスターしか特殊召喚できない。

(2) 自分フィールドのアンデット族モンスターを素材として、「アニマイール」リンクモンスターをリンク召喚する場合、墓地のこのカードをリンク素材としてデッキの下に置ける。リンク召喚後、ターン終了時まで、自分は融合モンスターしか特殊召喚できない。

 

「魔法カード、アニマイール・ベリアルを発動!」

 

アニマイール・ベリアル

通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1)手札1枚を捨てて発動できる。デッキからアンデット族モンスター1体を墓地に送る。自分の墓地に「アニマイール」モンスターが4種類以上あれば、自分はデッキから1枚ドローする。

 

「手札1枚を捨てて、デッキからトリックランタンを墓地に送る。現れろ!ボクだけの未来(みち)を拓く未来回路!召喚条件はアニマイールモンスターを含むアンデット族モンスター3体!リンク召喚!オルトバイト!」

 

 再びオルトバイトが現れ、盤面は前のターンの状態に戻る。

 

「おいおい、これまたこっちのモンスターが融合素材にされちゃうんじゃ……」

「そうはならない。よく見ろ」

 

 不安がるAiに、プレイメーカーはジャックナイフのフィールドを指さす。

 

「そうか!あいつのリンク先は既に融合モンスターで埋まってる!あいつ蘇生先をミスりやがったな」

「ミスだといいんだがな」

 

 プレイメーカーは険しい顔つきで、オルトバイトを見つめる。

 

「よくわかってるねぇ。もちろんミスなんかじゃないよ。ボクはオルトバイトのもう1つの効果を発動し、そこにチェーンしてアニマイール・ポルターガイストを発動!ファイアウォール・ドラゴンには、オルトバイトのリンク先に来てもらうよ」

 

 ファイアウォール・ドラゴンの相互リンクが解除され、オルトバイトの眼前に引き寄せられる。

 

「そしてオルトバイトの効果!このカードのリンク先の互いのモンスター1体ずつを対象として発動。対象の相手モンスターを、ボクのモンスターに装備!」

 

 ファイアウォール・ドラゴンがかみ砕かれ、その残骸の翼がバニシングファングに装着される。

 

「この効果で装備したカードの元々の攻撃力の半分、装備モンスターの攻撃力をアップする!」

 

 これにより、バニシングファングの攻撃力は3550まで上昇した。

 

「カードを1枚伏せて、バトルだ!まずはオルトバイトで、リンク・スパイダーを攻撃!」

 

 プレイメーカー:ライフ3500→2200

 

「バニシングファングで攻撃!」

「俺は(トラップ)カード!コード・オブ・エンゲージを発動!」

 

コード・オブ・エンゲージ

永続罠

このカード名の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できず、発動するターン、自分はサイバース族モンスターしか特殊召喚できない。

(1)自分の墓地の「コード・トーカー」リンクモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたモンスターは、このターン、戦闘で破壊されない。

(2)このカードの(1)の効果で特殊召喚したモンスターが、リンク3以上のリンクモンスターのリンク素材となって墓地に送られた場合、フィールドのこのカードを墓地に送り、そのカードのリンク先となるメインモンスターゾーンに移動して発動できる。そのモンスターと属性が異なる「コード・トーカー」モンスター1体を、EXデッキから効果を無効にして、攻撃力0にして特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたモンスターは「コード・トーカー」モンスター以外のリンク素材にできず、次の自分のエンドフェイズに墓地に送られる。

 

「墓地のデコード・トーカーを特殊召喚!」

「ならデコード・トーカーを攻撃!」

 

 プレイメーカー:ライフ2200→950

 

 ダメージはもらうが、バニシングファングに食われたはずのデコード・トーカーは、プレイメーカーのフィールドに戻っていた。

 

「この効果で特殊召喚したモンスターはこのターン、戦闘で破壊されない」

「チッ、ボクはこれでターンエンド」

 

ターン5

 

「どうする? プレイメーカー。ライフはもうちょびっとしかねぇ」

「だが、ライフが減ったおかげで発動条件は整った」

 

 すると、彼らの前方にデータストームが出現した。

 

「いくぞっ!」

 

 プレイメーカーはDボードを加速させ、データストームに飛び込む。

 

「自分のライフは1000以下の時、データストームの中からサイバース族モンスター1枚をランダムにエクストラデッキに加える!スキル発動!ストームアクセス!」

 

 データストームの中から掴んだカードを見て、プレイメーカーは勝利を確信した。

 

「俺はサイバース・ガジェットを通常召喚!その効果で、墓地のビットロンを特殊召喚。現れろ!未来を導くサーキット!召喚条件はトークン以外のモンスター2体以上!俺はリンク3のデコード・トーカーと、サイバース・ガジェットをリンクマーカーにセット!リンク召喚!リンク4!ラスタライガー!」

 

 現れたのは、カメラのようなパーツを装備した機械の白獅子だった。

 

「コード・オブ・エンゲージの効果!自身の効果で特殊召喚したモンスターが、リンク3以上のモンスターの素材となって墓地に送られた時、リンク召喚したモンスターをリンク先となるメインモンスターゾーンに移動させ、EXデッキからコード・トーカー1体を、効果を無効にして、攻撃力0にして特殊召喚!来い、エンコード・トーカー!」

 

 ラスタライガーが後ろに下がり、その前にエンコード・トーカーが呼び出される。

 

「ラスタライガーの効果!リンク先のモンスターを任意の数だけリリースし、その数だけ相手フィールドのカードを破壊する!」

 

 エンコード・トーカー、ガジェット・トークン、ビットロンの三体がデータに分解、ラスタライガーのタテガミに吸収される。

 

 咆哮。

 

 ラスタライガーの雄叫びが、空気を揺らし、バニシングファング、オルトバイト、そしてアンデットワールドの三枚を破壊する。

 

「アンデットワールドが破壊されたから、お前のモンスターは蘇生できない」

「けど攻撃力2000じゃ、ライフを削るには少し足りないんじゃない?」

「俺はラスタライガーのさらなる効果!墓地のリンクモンスター1体の攻撃力を、ラスタライガーに加える!」

 

 エンコード・トーカーの力を得て、攻撃力4300まで上昇する。

 

「バトルだ!ラスタライガーで、ダイレクトアタック!」

 

 ラスタライガーがジャックナイフへ迫る。

 

「ボクはスキル、リボーン・オブ・テラーを発動!自分フィールドにモンスターが存在しない時、墓地のレベル4以下のアンデット族モンスター1体を守備表示で特殊召喚!」

 

 ラスタライガーの前に、ライヴコープスが立ちふさがる。

 

「くっ……!」

 

 ラスタライガーがライヴコープスを踏み潰す。

 しかし、彼にダメージを与えることはできなかった。

 

「ライヴコープスの効果で墓地のポルターガイストを手札に」

「俺はこれでターンエンド」

 

ターン6

 

「ドロー」

 

 引いたカードを見る。

 

「惜しかったね。このデュエルはボクの勝ちだ。アニマイール・トリックランタンを召喚。そしてトリックランタン、墓地のライヴコープスとカラカライトでリンク召喚」

 

 三度オルトバイトがリンク召喚される。

 

「オルトバイトの効果発動。それにチェーンしてポルターガイストを発動。ラスタライガーをオルトバイトのリンク先へ移動させ、オルトバイトの効果で融合召喚」

 

 オルトバイトがラスタライガーを食らい、そのまま自ら融合素材となる。

 怨霊が寄り集まり、蛇のような不定形の怪物が降臨した。

 

「バトルだ。バニシングファングでダイレクトアタック」

 

 プレイメーカー:950→0

 

 ◆

 

 デュエルが終了すると、ジャックナイフは倒れたプレイメーカーにスキップしながら近づく。

 

「さーて、じゃあイグニスをもらおうかな~」

 

 彼は自身の左腕に装着されたデュエルディスクに手をかける。

 そのモデルは、切花がつけていたものと同じ旧式のデュエルディスクだった。

 

「やはり……お前は、夢乃」

「なんのこと~? ボクはジャックナイフだよ~」

 

 うつ伏せで倒れたまま睨むが、彼は意に介さずデュエルディスクを操作して、プレイメーカーからAiを奪い取る。

 

「ごきげんよう。闇のイグニス」

「くっ……」

 

 Aiは何もできずに、ジャックナイフを見るだけだった。

 

「それじゃあね~プレイメーカー」

 

 ジャックナイフはDボードに乗り、プレイメーカーに手を振り去った。

 

 ◆

 

 遊作はログアウトすると、すぐにデュエル部に向かった。

 

「遊作、遅かったですね……どうしたんですか?」

 

 血相を変えて入ってきた彼に、美海を含む部員達が不思議そうに見つめる。

 

「美海、夢乃はハノイだ」

 

 入り口の前で、他の部員に聞こえないように小声で言う。

 

「どういうことですか?」

「さっき奴とLINK VRAINSでデュエルをしてきた。それで……」

「ちょっと待ってください。彼女ならずっと部室にいましたよ?」

 

 そう言って美海は、いつものように男子部員に囲まれた切花を指さす。

 

「どういうことだ……?」

「遊作、何があったのですか?」

 

 遊作は少し迷ってから、彼女を教室の外に連れ出す。

 

「Aiを奪われた」

「え?」

「俺は……ハノイに負けた」

 



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第10話:Burning Soul(前編)

 ハノイのアジト、そこにある巨大な半透明の青い円柱の前に、ジャックナイフはスキップしながらやってきた。

 

「やあ闇のイグニス、お目覚めかな?」

 

 円柱の中に閉じ込められたAiは、ジャックナイフを睨む。

 

「ぐっ……」

「サイバース世界の場所はどこだ?」

 

 ジャックナイフはAiに顔をぐっと近づける。

 

「ボクらがサイバース世界を襲撃した時、君はサイバース世界自体を暗号化してどこかに隠した。今、サイバース世界の場所を知っているのは君だけだ」

「さあな。お前らにデータを奪われたせいで、記憶が抜けてるんでな」

「嘘をつくなよ。ここにある君のデータの中に、サイバース世界の場所はなかった。つまり今ある君のデータの中にあるはずだ」

 

 ジャックナイフは手元にAiのデータを出現させ、強い口調で言う。

 Aiが彼と睨みあっていると、そこにリボルバーとスペクターもやってきた。

 

「ご苦労だったな。ジャックナイフ」

「いえいえ」

 

 彼は笑顔でリボルバーに頭を下げる。

 

「まさかあなたがプレイメーカーを倒すとは思いませんでしたよ。というか、どうやって彼をおびき出したんですか?」

「そこは企業秘密」

 

 スペクターの疑問に、彼は口元でバツを作る。

 

「それで、こいつはどうします?」

「解析すればいい」

「へっ、お前らなんか調べられるかよ。俺様はプレイメーカーとその仲間でも解析できなかったんだ」

 

 そう自信満々に言うAiに、リボルバーは無言で円柱の側面についたホログラムパネルを操作する。

 

「うぎゃぁ!」

 

 円柱の中に電流が走り、Aiが激しい悲鳴を上げる。

 

「我々はイグニスアルゴリズムを知り尽くしている。この設備があれば貴様の記憶を調べることなど造作もない」

「くっ……」

 

 電撃が収まると、Aiは悔しそうにリボルバーを見る。

 

「私はしばらくここを離れる。その間、ジャックナイフ、スペクター任せたぞ」

「「仰せのままに」」

 

 首を垂れた二人に見送られ、リボルバーはログアウトする。

 そんな彼らの様子を見て、Aiは自身の体に何かのプログラムを走らせる。

 

(頼むぞ、遊作……)

 

 ◆

 

 遊作は美海を連れて、PC室を訪れていた。

 

「やはり、どこかからデータが送信されている」

 

 デュエルディスクが繋がれたパソコンの画面上には奇怪な文字列が表示されている。

 

「Aiが自分の居場所を伝えているのでしょうか」

「イグニスアルゴリズムで暗号化されているようだ」

 

 遊作はパソコンを操作して、暗号を解いていく。

 

「出たぞ」

 

 データの内容はLINK VRAINSのマップだった。

 急いでつくったのかスカスカだが、どうにかAiの居場所までの位置は特定できるようになっていた。

 

「ここが、ハノイの拠点……私達だけで勝てるでしょうか」

 

 きっとそこには、大勢のハノイの騎士が待ち構えていることだろう。

 立った二人だけで潜入して、無事に帰れる保証はどこにもない。

 

 まして遊作はジャックナイフに敗北している。他にもリボルバーや、ゴッドバードを負かしたスペクターまで待ち受けているかもしれない。

 

「それでも行くしかない。あいつがいなければ、レポートを手に入れられない」

「……そうですね」

 

 二人は近くの椅子に腰かけ、デュエルディスクを操作する。

 

「「イントゥザヴレインズ!」」

 

 二人がLINK VRAINSにログインした時、教室の外からその様子を見ていた人物がいた。

 

「遊作、美海……」

 

 ◆

 

 ハノイのアジトにて、

 

「ぎゃぁぁぁっ!」

 

 Aiの絶叫が響き渡る。

 強引な解析と、それに必死に抗うことによって、Aiを構成するデータに激しい負荷がかかっているのだ。

 

「う~ん、しぶといな~」

 

 リボルバーに解析を任されたジャックナイフは、まるで弄ぶようにホログラムパネルを操作する。

 

「いい加減白状しなよ~」

「っ……へっ、誰が……」

「そんなに仲間のイグニスが大事?」

 

 Aiを襲う電流がさらに強まる。

 

「がぁぁぁぁっ!」

「あはははははすごーい!まるで人間みたいな声!AIのくせに、一人前に痛そうにするじゃん!」

 

 その時、ジャックナイフの笑い声をかき消すように警報が鳴り響く。

 

『ジャックナイフ』

 

 同時に、彼のデュエルディスクにスペクターからの通信が入る。

 

『プレイメーカーが侵入してきました』

「ふ~ん、思ったより早いじゃん」

『早い? まさか…‥』

「こいつがずっと変なデータを外部に送信してたんだよ」

 

 ジャックナイフが閉じ込められたAiを呼び指すと、彼はギョッと目を見開く。

 

『何故私やリボルバー様に報告しなかったのですか?』

「え~必要ある? それよりここで確実に潰しておく方が効率的だとボク思うんだけどな~」

『それを決めるのはあなたではありません。とにかく、今はリボルバー様も不在なので、イグニスを連れて移動を……』

「あ~ボクここで解析続けるから、君らでどうにかしといてよ」

『あなたは命令一つまともに————』

「じゃあね~」

 

 スペクターの言葉を最後まで聞かずに、彼は通話を切ってしまった。

 

「お前、俺がデータを送ってたこと……」

「気付いてるに決まってんじゃん。AIのくせにバカなんじゃないの?」

「さっきからお前、AIに恨みでもあんのか?」

「あるよ?」

 

 急に真顔になった彼は、円柱の側面にギリギリまで顔を近づけると、Aiを睨む。

 

「お前たちイグニスに、ボクの人生は壊されたんだ」

 

 虚ろな目がAiと向き合う。

 その表情の落差に、Aiはただ押し黙るしかなかった。

 

「ま、どうでもいいや」

 

 ケロッといつもの笑顔に戻り、彼は作業を再開した。

 

 ◆

 

 プレイメーカーと美海は、Dボードでネットワークの下層を駆け抜けていた。

 周囲は暗く、空間のあちこちに紫のノイズがある。

 

「この先にハノイのアジトが……」

 

 すると、彼らの行く手に一人の男が立ちふさがった。

 

「君達ですか、我々のアジトに侵入した不届き者というのは」

 

 緑髪の中年の男で、ハノイの制服と半分に割れた仮面をつけている。

 

「私の名はゲノム、ハノイの騎士のセェカンドォッ!この先へは行かせませんよぉ」

「やるしかないか」

 

 プレイメーカーがデュエルディスクを構える。その時、

 

「ちょっと待ったぁぁっ!」

 

 流星の如き速度で、Dボードが炎をまとって彼らの間に到着した。

 

「お前は、ソウルバーナー!」

 

 現れたのは、LINK VRAINSのカリスマデュエリストの一人、炎のデュエリスト、ソウルバーナーこと、穂村尊だった。

 

「ここは俺に任せてもらおうか」

「お前、どうやってここに?」

「ちょっとお前らが心配になってな。後をつけさせてもらったのさ」

 

 ソウルバーナーはデュエルディスクを構えて、ゲノムの前に立ちふさがる。

 

「お前らは先に行け。事情は知らねぇが、やらなきゃならねぇことがあるんだろ?」

「……分かった」

「ありがとうございます。ソウルバーナー」

 

 美海とプレイメーカーは、Dボードを加速させて先を行く。

 

「さあハノイの騎士、俺が相手だ!」

「いいでしょう。まずはあなたから私の研究材料にしてあげましょう」

 

「「スピードデュエル!」」

 

ターン1 ソウルバーナー

 

「俺は手札から、魔法カード、マジェスティ・オブ・ファイアを発動!」

 

マジェスティ・オブ・ファイア

通常魔法

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分フィールドにモンスターが存在しない場合に発動できる。手札からレベル5以上の炎属性モンスター1体を特殊召喚する。

(2)自分のデュアルモンスターの召喚に成功した場合、墓地のこのカードを除外して発動できる。デッキ・墓地から「スーペルヴィス」または「ギア・ブレード」装備魔法カード1枚を手札に加える。

 

「手札からフェニックス・ギア・フリード1体を特殊召喚!」

 

 炎を纏った白い戦士が降臨した。

 

「俺はフェニックス・ギア・フリードを再召喚!これにより、フェニックス・ギア・フリードは効果モンスターとなる」

 

 フェニックス・ギア・フリードの纏う炎が勢いを上げ、まるで翼のように広がる。

 

「自分のデュアルモンスターの召喚に成功した時、墓地のマジェスティ・オブ・ファイアを除外して効果発動!デッキからストライク・ギア・ブレードを手札に加え、そのまま装備!」

 

ストライク・ギア・ブレード

装備魔法

デュアルモンスターにのみ装備可能。

このカード名の(2)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分のデュアルモンスターが召喚される度に、相手に200ダメージを与え、装備モンスターの攻撃力を200アップする。

(2)装備モンスターがもう1度召喚された状態なら、自分のメインフェイズに発動できる。手札・墓地の装備モンスターよりレベルの低いデュアルモンスター1体を召喚する。

(3)モンスターに装備されたこのカードがフィールドから墓地に送られた場合に発動できる。デッキから「スーペルヴィス」または「ストライク・ギア・ブレード」以外の「ギア・ブレード」装備魔法カード1枚を手札に加えるか、自分のデュアルモンスターに装備する。

 

「ストライク・ギア・ブレードの効果発動!1ターンに1度、装備モンスターよりレベルの低いデュアルモンスターを召喚する。俺は手札からエヴォルテクター シュバリエを召喚」

 

 配下の赤い剣士が、フェニックス・ギア・フリードの隣に現れる。

 

「デュアルモンスターが召喚されたことで、ストライク・ギア・ブレードの効果で相手に200ダメージを与え、装備モンスターの攻撃力を200アップする」

 

 ギア・フリードが剣を振るうと、火の粉がゲノムの顔に舞る。

 

 ゲノム:ライフ4000→3800

 

「俺はカードを1枚セットしてターンエンド」

 

ターン2 ゲノム

 

「ソウルバーナー、あなたのことは把握していますよ」

「へぇ、そいつは嬉しいね」

「ソウルバーナー、カリスマデュエリストランキング七位。炎のカードを操る熱いデュエリスト、私からすればあなたのデュエルは無駄が多い」

「なんだと?」

 

 ゲノムの言葉に、ソウルバーナーは顔をしかめる。

 

「見せてあげましょう。私の完璧なデュエルを!私は魔界発現世行デスガイドを召喚。その効果で、デッキからクリッターを特殊召喚」

 

 赤髪の女性が手を振ると、どこからか黒いバスが到着し、中から三つ目の毛玉の悪魔が下りてくる。

 

「現れたまえ、我らの未来回路!召喚条件は悪魔族モンスター2体!リンク召喚!地獄螺旋鬼(ヘルリックス)ネクロ・ダーウィン!」

 

 現れたのは、むき出しの青い骨の首、胸に奇怪な仮面をつけた怪鳥だった。

 

地獄螺旋鬼(ヘルリックス)ネクロ・ダーウィン

リンク・効果モンスター

闇属性/悪魔族/攻 1800/LINK2

【リンクマーカー:上/左】

悪魔族モンスター2体

このカード名の(2)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しか行えず、(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)相互リンク状態のこのカードは攻撃対象にならない。

(2)このカードが墓地に存在する場合、自分の悪魔族リンクモンスターのリンク先となる自分フィールドにこのカードを特殊召喚することができる。

(3)自分にダメージを与える効果が発動した時に発動できる。その効果で自分が受けるダメージは0になる。その後、このカードの攻撃力はターン終了時まで元々の攻撃力の倍になる。

 

「墓地に送られたクリッターの効果で、デッキから攻撃力1500以下のモンスターを手札に加える。私はカードを2枚伏せてターンエンド」

「大口叩いたわりには、モンスター1体出すだけで攻撃もせずにターンエンドかよ」

 

ターン3

 

「俺は魔法カード、アームズ・ホールを発動。デッキの一番上を墓地に送り、デッキから装備魔法カード1枚を手札に加える。俺はフェニックス・ギア・ブレードを手札に加え、フェニックス・ギア・フリードに装備」

 

フェニックス・ギア・ブレード

装備魔法

デュアルモンスターにのみ装備可能。

このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)装備モンスターの攻撃力は300アップする。

(2)装備モンスターがもう1度召喚された状態なら、そのモンスターは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃できる。

(3)モンスターに装備されたこのカードがフィールドから墓地に送られた場合に発動できる。デッキから「スーペルヴィス」または「フェニックス・ギア・ブレード」以外の「ギア・ブレード」装備魔法カード1枚を手札に加えるか、自分のデュアルモンスターに装備する。

 

「そしてエヴォルテクター シュバリエを再度召喚!これにより、シュバリエは効果モンスターとなり、真の力を解放する!」

 

 シュバリエの体を炎が包む。

 

「ストライク・ギア・ブレードの効果で200ダメージを与え、攻撃力を200アップ」

 

 ゲノム:ライフ3800→3600

 

「シュバリエの効果発動!フィールドの装備魔法、ストライク・ギア・ブレードを墓地に送り、相手フィールドのカード1枚を破壊する。俺はネクロ・ダーウィンを破壊!」

 

 シュバリエが剣を振るうと、ネクロ・ダーウィンの体はあっさり切断される。

 

「この瞬間!私のスキル、種の保存を発動!自分のリンクモンスターが相手によって破壊された時、破壊されたモンスターと同じ種族のモンスターを、そのリンクマーカーの数だけデッキから特殊召喚!」

 

 真っ二つにされたネクロ・ダーウィンの体から、2体のクリッターが生まれる。

 

「このスキルで特殊召喚されたモンスターの効果は無効化され、攻撃力・守備力共に0になる」

「なら、俺は墓地に送られたストライク・ギア・ブレードの効果!デッキからスピアード・ギア・ブレードを、フェニックス・ギア・ブレードに装備!」

 

スピアード・ギア・ブレード

装備魔法

デュアルモンスターにのみ装備可能

(1)このカードをもう1度召喚された状態のデュアルモンスターに装備した場合に発動できる。デッキの上から3枚をめくる。その中から炎属性のデュアルモンスター1体を手札に加え、残りを墓地へ送る。手札に加えられなけれない場合、めくったカードをデッキに戻す。

(2)装備モンスターが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力が攻撃力を超えた分だけ戦闘ダメージを与える。

(3)モンスターに装備されたこのカードがフィールドから墓地に送られた場合に発動できる。デッキから「スーペルヴィス」または「フェニックス・ギア・ブレード」以外の「ギア・ブレード」装備魔法カード1枚を手札に加えるか、自分のデュアルモンスターに装備する。

 

「スピアード・ギア・ブレードは再度召喚状態のモンスターに装備した時、デッキの上3枚から炎属性のデュアルモンスターを手札に加える」

 

 ソウルバーナーがめくった3枚は、フェニックス・ギア・フリード、ヘルカイザー・ドラゴン、フェニックス・ギア・ブレードだ。

 

「俺はフェニックス・ギア・フリードを手札に加える。この効果で手札に加えたら、めくった残りのカードは墓地へ送れる。そして、こいつは装備モンスターに貫通効果を与える。バトルだ!フェニックス・ギア・フリードで、クリッターを攻撃!」

 

 フェニックス・ギア・フリードの現在の攻撃力は3500、これを食らえばひとたまりもないが、

 

「私は罠カード!和睦の使者を発動!これにより、私のモンスターはこのターン、戦闘で破壊されず、戦闘ダメージも0になる」

 

 白いヴェールに覆われ、クリッターは攻撃から守られる。

 

「くっ、俺はこれでターンエンド」

 

ターン4

 

「現れたまえ、我らの未来回路!召喚条件は悪魔族モンスター2体!リンク召喚!リンク2、地獄螺旋鬼(ヘルリックス)ゴシックローン!」

 

地獄螺旋鬼(ヘルリックス)ゴシックローン

リンク・効果モンスター

闇属性/悪魔族/攻 0/LINK 2

【リンクマーカー:上/下】

このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが相手モンスターと戦闘を行うダメージステップ開始時に発動できる。このカードの攻撃力はダメージステップ終了時まで、戦闘を行う相手モンスターの攻撃力と同じになる。

(2)このカードは1ターンに1度だけ戦闘では破壊されない。

(3)自分のターン中、このカードの(2)の効果を適用したダメージ計算後に、このカードのリンク先のこのターンに攻撃を行っていないモンスター1体をリリースして発動できる。リリースしたモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える。

 

「墓地のネクロ・ダーウィンは、悪魔族リンクモンスターのリンク先に特殊召喚できる」

 

 ゴシックローンの背後に、再びネクロ・ダーウィンが飛翔する。

 

「バトルだ!私はゴシックローンで、フェニックス・ギア・フリードを攻撃!」

「攻撃力0のモンスターで攻撃!?」

「この瞬間、ゴシックローンの効果発動!戦闘を行う相手モンスターと同じ攻撃力となる!」

 

 ゴシックローンの姿が、フェニックス・ギア・フリードと同じになる。

 2体のギア・フリードの剣がぶつかり合い、互いに体を切り裂かれて倒れる。だが、

 

「ゴシックローンは、1ターンに1度だけ、戦闘で破壊されない!」

 

 倒された一方のギア・フリードの中から、ゴシックローンが再び姿を現す。

 

「くっ、俺は墓地に送られたスピアード・ギア・ブレードの効果発動!デッキからスーペルヴィスを手札に加える!」

「ゴシックローンのさらなる効果!戦闘破壊を防ぐ効果を適用したダメージ計算後、LINK先の攻撃を行っていないモンスター、すなわちネクロ・ダーウィンをリリースすることで、そのモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える!」

 

 ソウルバーナー:4000→2200

 

「さらに罠カード!遺伝子復元を発動!」

 

遺伝子復元

通常罠

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか衣装できない。

(1)墓地のリンクモンスター1体を特殊召喚する。

(2)墓地のこのカードを除外して発動できる。墓地から悪魔族モンスター1体を手札に加える。その後、自分は1000ダメージを受ける。

 

「墓地のネクロ・ダーウィンを特殊召喚!そしてそのまま墓地の遺伝子復元を除外して効果発動!墓地から悪魔族モンスターを手札に加え、自分は1000のダメージを受ける。さらにネクロ・ダーウィンの効果発動!ダメージを無効にし、このカードの攻撃力を倍にする!」

 

 流れるようなコンボで、ネクロ・ダーウィンは攻撃力3600となってフィールドに戻ってきた。

 

「バトル!ネクロ・ダーウィンで、エヴォルテクター シュバリエを攻撃!」

 

ソウルバーナー:ライフ2200→500

 

「私はこれでターンエンド。どうです? 私の完璧なデッキは」

「くっ……」

 

 ソウルバーナーの手札にあるのは、スーペルヴィスとストライク・ギア・ブレード、そしてフェニックス・ギア・フリード。

 モンスターカードは最上級モンスターのフェニックス・ギア・フリードのみで、フィールドに生け贄となるモンスターもおらず、特殊召喚する手段もない絶望的な状況だ。

 

「逆転の目はありません。大人しくサレンダーを宣言なさい」

「誰が……俺のターン!」

 

 ソウルバーナーは諦めずにカードを引く。

 引いたカードは「華麗なる密偵-C」、モンスターカードではあるが、デュアルモンスターではないため、ストライク・ギア・ブレードもスーペルヴィスも装備できない。

 

「どうすれば……」

 

 ◆

 

 その頃、ハノイのアジト内部まで潜入した二人の前に、一人の男が立ちふさがった。

 

「待っていましたよ。プレイメーカー」

「スペクター……」

 

 プレイメーカーはデュエルディスクを構えようとするが、美海がそれを制止した。

 

「あなたは先に行ってください。ここは私が引き受けます」

「分かった」

 

 プレイメーカーを先に行かせて、美海はデュエルディスクを構える。

 

「おやおや、あなたが私の相手をするのですか?」

「えぇ、お気に召しませんか?」

「いえいえ、弱い方から倒した方が、効率がいいですからねぇ」

 

 美海はそれに対して反論はしない。

 自身の未熟さは、これまでのデュエルでよくわかっているつもりだ。

 

(この男はゴッドバードを倒した。そして、私はゴッドバードに勝てなかった)

 

 勝てる可能性は限りなく低い。

それでも退くわけにはいかない。

 

「行きます」

 

「「デュエル!」」

 

 ◆

 

 美海とソウルバーナーの強力を得て、プレイメーカーはようやく最奥の部屋へとたどり着いた。

 

「Ai!」

 

 円柱形の装置に閉じ込められたAiを見つけて叫ぶ。

 

「思ったより早かったじゃないか」

 

 その前にジャックナイフが現れる。

 

「でも残念だったね。もうデータの吸出しは完了した」

「くっ……ジャックナイフ!俺とデュエルだ!」

「ん~、ここで君とデュエルしてあげてもいいんだけど~」

 

 ジャックナイフはクルッとプレイメーカーに背を向けて、一歩ずつ彼から遠ざかる。

 

「もぉっと面白いこと、してあげるよ」

 

 ジャックナイフが指を鳴らす。

 すると、部屋の中に突然闇が広がり、プレイメーカーは飲み込まれる。

 

「なんだっ!」

 

 気付くと、そこは白い壁に囲まれた小さな部屋だった。

 

「ここは……」

 

 見覚えのある光景に、プレイメーカーは無意識に心臓を抑える。

 すると、彼の目の前に一つの影が現れた。

 

 人の形をした真っ黒いアバター、その左腕にはプレイメーカーが使うものと同じタイプのデュエルディスクが装着されている。

 

「あの時の……」

「せいかーい」

 

 どこからかジャックナイフの声が鳴り響く。

 

「今君の目の前にいるのは、ハノイプロジェクトに使われたデュエルAI、そいつとたっぷり遊んでもらうよ」

 

 デュエルAIは既に臨戦態勢となっている。

 

「当時君が戦って、君のデュエルを学習し続けた個体だ。そいつに今までのハノイの騎士とのデュエルデータをインストールして進化させてある。さぁ、とっても楽しい実験の開始だよ。藤木遊作くん」

「やはりお前は、俺のこと知っているのか」

 

 ジャックナイフはそれには答えない。

 

「それじゃあ、がんばってね~」

 

 それきり彼の声は聞こえなくなった。

 

「やるしかないか……」

 

 忌まわしき過去の象徴。

 自然と足が竦み、心臓の鼓動が早くなる。

 

(俺は、恐れているのか、こいつを……)

 

 わずか6歳の頃に受けた壮絶な人体実験。

 その記憶がプレイメーカーの、遊作の体に見えない鎖を巻き付けていく。

 

(……震えている場合じゃない。三つ数えろ。戦うための三つの理由。一つ、過去に打ち勝ち、乗り越えるため。二つ、あの事件の真実を解き明かす、三つ、俺達を救ったあの声を、あいつに会うためにも)

 

「いくぞ、デュエル!」

 

 



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第10話:Burning Soul(後編)

 同刻、美海とスペクターのデュエル。

 

 美海のフィールドにはバックログカウンターが3つ置かれた原初海祈(オリジンブルー)タイタニーニャ、原初海祈(オリジンブルー)プレシオルタ、永続罠の原初海口(オリジンブルー・シークラフト)、フィールド魔法の原初海域(オリジンブルー・ウェブ)

 

 対するスペクターは聖天樹の幼精(サンアバロン・ドリュアス)、そのリンク先に聖蔓の守護者(サンヴァイン・ガードナー)。伏せカード1枚。

 

 ライフは互いに無傷の4000。そして美海のターン、

 

「私はプレシオルタの効果発動!このカードを隣のメインモンスターゾーンに移動させる!そしてプレシオルタの効果発動!バックログカウンター1つを使うことで、このカードと同じ縦列の相手カード全てを手札に戻す!」

 

 プレシオルタが嘶くと、その声が振動となってスペクターのモンスターに伝わり、モンスターはエクストラデッキに戻される。

 

「おやおや、私のモンスターがいなくなってしまいましたよ」

 

 スペクターはその状況とは裏腹に余裕そうだ。

 

「私は永続罠、原初海口(オリジンブルー・シークラフト)の効果発動!」

 

原初海口(オリジンブルー・シークラフト)

永続罠

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分フィールドの水属性モンスター1体を隣のメインモンスターゾーンに移動させて発動できる。墓地からレベル5以下の「オリジンブルー」モンスター1体を特殊召喚する。

(2)自分のバックログカウンター3つを取り除いて発動できる。デッキから「オリジンブルー」モンスター1体を手札に加える。

 

「プレシオルタを隣に移動させ、墓地からシーライブラを特殊召喚。その効果でデッキから原初海祈アノマロトレスを手札に加える。そしてフィールド魔法、原初海域の効果発動」

 

原初海域(オリジンブルー・ウェブ)

フィールド魔法

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分の「オリジンブルー」リンクモンスターのリンク召喚に成功した場合に発動できる。そのモンスターに、このターン中にモンスターが移動した回数だけ、バックログカウンターを置く。その後、この効果で置かれたカウンターの数まで、墓地からレベル4以下の「オリジンブルー」モンスターを特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化される。

(2)1ターンに1度、自分フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを隣のメインモンスターゾーンに移動させる。

(3)自分のエンドフェイズに発動できる。自分フィールドのバックログカウンターの数×200のダメージを相手に与える。

 

「シーライブラを隣に移動させる。シーライブラは移動した時、手札からオリジンブルー1体を特殊召喚できる。アノマロトレスを特殊召喚。効果発動!」

 

 アノマロトレスが、コードのような触手を伸ばしてシーライブラに接続する。

 

「自分の水属性モンスター1体を隣に移動させ、そのモンスターと同じレベル、属性、種族のトークンを特殊召喚」

 

 触手を通してデータが流れ、シーライブラの隣に同じ輪郭の半透明の物体が出現した。

 

原初海祈(オリジンブルー)アノマロトレス

効果モンスター

星3/水属性/サイバース族/攻 800/守 800

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分フィールドのこのカード以外の「オリジンブルー」モンスター1体を対象として発動できる。対象のモンスターを隣のメインモンスターゾーンに移動させ、元々の位置にそのカードと同じレベル·種族·属性の「オリジンブルー·トークン」(攻/守0)1体を特殊召喚する。この効果発動後、ターン終了時まで、自分は水属性モンスターしか特殊召喚できない。

(2)墓地のこのカードを除外し、自分フィールドの水属性モンスター1体を対象として発動できる。対象のカードを隣のメインモンスターゾーンに移動させる。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

「タイタニーニャの効果!リンク先のモンスター1体をチューナーとして扱い、リンク先のモンスターのみを素材として、サイバース族モンスター1体をシンクロ召喚する!」

 

 二体のモンスターが、タイタニーニャの体から伸びた触手に繋がれ、データに分解される。

 

「太古の泉より、その美しき歌声を響かせよ。シンクロ召喚!レベル7、原初海祈(オリジンブルー)プレシオルタ!」

 

 二体目のプレシオルタが、フィールドに降臨した。

 

「ほう、エースモンスター2体目ですか。これはまずいですねぇ」

 

 言葉に反して、スペクターに焦りはない。

 その理由はおそらく、彼のフィールドにセットされたカード。

 

(あれを除去したいところだけど……)

 

 そのカードがセットされた位置は美海から見て左端、二体目のプレシオルタをその正面に移動させようにも、一体目が邪魔でできない。

 

「……バトル!私は一体目のプレシオルタで、ダイレクトアタック!タイタニーニャの効果で、バックログカウンターの数だけ自分フィールドのモンスター全ての攻撃力200をアップする!」

 

 バックログカウンターは6つ、よって攻撃力1200アップし、3500のダイレクトアタックがスペクターのライフを削る。

 

「私は永続罠、聖天樹の輝常緑(サンアバロン・グロリアスグロース)を発動!」

 

聖天樹の輝常緑(サンアバロン・グロリアスグロース)

永続罠

(1)自分が戦闘・効果でダメージを受けた場合にこのカードを発動できる。「聖蔓(サンヴァイン)トークン」(植物族・地・星1・攻/守0)1体を特殊召喚する。その後、自分は受けたダメージの数値分ライフを回復し、「サンアバロン」リンクモンスター1体をリンク召喚する。

(2)自分フィールドの「サンアバロン」モンスターは相手の効果の対象にならず、相手の効果で破壊されない。

(3)1ターンに1度、相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージを半分にする。

(4)自分の「サンアバロン」リンクモンスターが効果フィールドから離れた場合に発動する。このカードを破壊する。

 

「フィールドに聖蔓(サンヴァイン)トークン1体を特殊召喚し、受けたダメージの数値分、ライフを回復する」

 

 スペクター:ライフ500→4000

 

「そして、サンアバロン1体をリンク召喚する!現れろ、私達の未来(みち)を照らす未来回路!」

 

 彼の足元にアローヘッドが開く。

 

「召喚条件はレベル4以下の植物族モンスター1体!リンク召喚!聖天樹の幼精(サンアバロン・ドリュアス)!」

 

 アローヘッドより、大樹が迫り上がってきた。

 

「ドリュアスは相手の攻撃対象にならない。そして聖天樹の輝常緑(サンアバロン・グロリアスグロース)の効果で、効果の対象にならず、効果で破壊されない」

「くっ……」

 

 攻撃をしたところで、ドリュアスの効果でライフを回復され、モンスターを特殊召喚されて逆に不利になるだけだ。

 

「私はこれでターンエンド」

 

ターン4

 

「私のターン」

「スタンバイフェイズにプレシオルタの効果発動!バックログカウンター1つを使うことで、ドリュアスを手札に!」

 

 プレシオルタの嘶きが、再びドリュアスを地に返した。

 

「私は聖蔓の播種(サンヴァイン・ソウィング)を発動。デッキからゲニウスロキを特殊召喚。そしてリンク召喚。ドリュアス」

 

 三度ドリュアスがフィールドに生えてくる。

 

「しかし困りましたねぇ。私の聖天樹の輝常緑(サンアバロン・グロリアスグロース)ではバウンスまでは防げません。これではいくら召喚しても手札に戻されてしまいますよ」

 

 スペクターは自分の手札を見ながら頭をひねる。

 

「では、その優秀なモンスターを貰ってしまいましょうか」

「え?」

「私は魔法カード、聖蔓の宿り木(サンヴァイン・パラサイト)を発動」

 

聖蔓の宿り木(サンヴァイン・パラサイト)

通常魔法

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分フィールドに「サンアバロン」リンクモンスターが存在する場合、相手フィールドの表側表示のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターのコントロールを得る。その後、自分は1000のダメージを受ける。そのカードはフィールドに表側表示で存在する限り、植物族として扱い、自分フィールドの「サンアバロン」リンクモンスターが効果でフィールドを離れたら、コントロールを戻す。

(2)墓地のこのカードを除外し、墓地の「聖種の地霊(サンシード・ゲニウスロキ)」1体をデッキに戻して発動できる。自分はデッキから1枚ドローする。

 

「まだ効果を使っていないプレシオルタのコントロールを得る」

 

 ドリュアスから蔓が伸びて、プレシオルタに巻き付く。

 プレシオルタの体のあちこちから芽が出て、その瞳からは生気が失われる。

 

「くっ……」

「その後、私は1000のダメージを受ける。ドリュアスの効果で、ライフを回復し、エクストラデッキから聖蔓の守護者を特殊召喚。現れろ、私達の未来(みち)を照らす未来回路!召喚条件は植物族モンスター2体以上!」

 

 プレシオルタと聖蔓の守護者(サンヴァイン・ガードナー)が養分として吸われ、ドリュアスを成長させる。

 

「リンク召喚!リンク3、聖天樹の大精霊(サンアバロン・ドリュアノーム)!」

 

 彼女を見下ろす巨大な怪樹に、美海はたじろいでいた。

 

「私は続けて永続魔法、聖蔓の社(サンヴァイン・シュライン)を発動!1ターンに1度、墓地の植物族モンスターを特殊召喚できる。ゲニウスロキを特殊召喚。そのままリンク素材に、聖蔓の剣士(サンヴァイン・スラッシャー)を特殊召喚!」

 

 ドリュアノームより落ちた種から、聖蔓の剣士(サンヴァイン・スラッシャー)が生まれる。

 

「スラッシャーは、リンク召喚時に、サンアバロンリンクモンスターのリンクマーカーの数×800攻撃力をアップします」

「攻撃力3200……」

「バトル!スラッシャーで、タイタニーニャを攻撃!」

 

 リンク先のモンスターを失ったタイタニーニャへ、スラッシャーの剣が迫る。

 

「私は永続罠、原初海口(オリジンブルー・シークラフト)の効果発動!プレシオルタを移動させ、墓地のシーライブラを特殊召喚!」

「ならスラッシャーでプレシオルタを攻撃!」

 

 プレシオルタはタイタニーニャの身代わりとなって破壊される。

 美海:ライフ4000→3100

 

「スラッシャーの効果で、破壊したプレシオルタを墓地から私のフィールドに特殊召喚」

「また私のモンスターを……」

「プレシオルタでシーライブラを攻撃!」

 

 プレシオルタが、仲間であるはずの美海のモンスターへ牙を向く。

 守備表示なので、どうにかダメージを防いだものの、彼女のフィールドにはタイタニーニャ以外のモンスターがいない。

 

「私はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン5

 

(さっきから、全くライフを減らせない)

 

 削っても削ってもライフは元に戻り、エースモンスターも奪われ、戦況は徐々に悪化している。

 

「私は原初海祈メガロガーを召喚。原初海口(オリジンブルー・シークラフト)の効果!メガロガーを移動させ、墓地からアノマロトレスを特殊召喚」

「モンスター二体、またシンクロ召喚ですか?」

「アノマロトレスの効果で、メガロガーを移動させてトークン生成。タイタニーニャの効果発動!メガロガーをチューナーとして扱い、アノマロトレスにチューニング!シンクロ召喚!原初海祈エラスモータル!」

 

原初海祈(オリジンブルー)エラスモータル

シンクロ・効果モンスター

星6/水属性/サイバース族/攻 2000/守 2000

水属性チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

このカード名の(2)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1) このカードが効果で隣のメインモンスターゾーンに移動する場合、かわりにリンクモンスターのリンク先となるメインモンスターゾーンに移動できる。

(2)このカードが移動した場合、自分フィールドのバックログカウンター1つを取り除き、このカードが元々いた位置と、移動先の間にあるメインモンスターゾーンの数だけ、相手フィールドのカードを対象として発動できる。そのカードをデッキに戻す。

(3)S召喚されたこのカードがフィールドから墓地に送られた場合に発動できる。墓地から水属性モンスター1体を手札に加える。

 

原初海域(オリジンブルー・ウェブ)の効果で、エラスモータルを隣に移動」

 

 エラスモータルがドリュアノームの正面、美海から見て左から二番目のメインモンスターゾーンに移動する。

 

「墓地のアノマロトレスの効果発動!このカードを除外し、エラスモータルを隣に移動!この瞬間、エラスモータルは自身の効果で、移動先をタイタニーニャのリンク先、右端のモンスターゾーンに変更!」

 

 エラスモータルがタイタニーニャのリンク先に戻ってくる。

 

「モンスターを反復横跳びさせて何がしたいんですか?」

「これにより、エラスモータルの効果が発動します。移動先と元々の位置の間にあるモンスターゾーンの数だけ、相手のカードを対象に、デッキに戻す」

 

 エラスモータルが口から水流を吐くと、それによりスラッシャーとプレシオルタが押し流される。

 

「私は手札から原初海祈アンモジュールを特殊召喚!」

 

原初海祈(オリジンブルー)アンモジュール

効果モンスター

星4/水属性/サイバース族/攻 1700/守 0

このカード名の(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しか行えず、このカード名のカードを特殊召喚するターン、自分は水属性モンスターしか特殊召喚できない。

(1)自分フィールドにモンスターが存在しない、または水属性モンスターのみの場合、このカードを手札から特殊召喚できる。

(2)このカードが他のモンスターゾーンに移動した場合に発動できる。デッキから「オリジンブルー」魔法・罠カード1枚を手札に加える。

 

「タイタニーニャの効果!トークンをチューナー変えて、アンモジュールにチューニング!シンクロ召喚!原初海祈プレシオルタ!」

「あの状態からここまでこぎつけるとは」

「プレシオルタを自身の効果でドリュアノームの正面に移動!そしてバックログカウンターを使い、ドリュアノームを手札に!」

 

 プレシオルタが口を開く。

 

「この瞬間、私は罠カード、聖蔓の萌芽(サンヴァイン・スプラウト)

 

聖蔓の萌芽(サンヴァイン・スプラウト)

通常罠

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分フィールドの「サンアバロン」リンクモンスター、または「サンヴァイン」リンクモンスター1体を対象として発動できる。このターン、対象のモンスターは効果では破壊されない。その後、自分は1000ダメージを受ける。

(2)墓地のこのカードを除外して発動できる。墓地から「サンシード」モンスター1体を特殊召喚する。

 

「このターン、自分のドリュアノームは効果破壊されない。そして私は1000のダメージを受ける」

 

 スペクター:ライフ4000→3000

 

「そしてダメージを受けたことで、ドリュアノームの効果発動!エクストラデッキから聖蔓の番騎士(サンヴァイン・ハーキュリー)を特殊召喚!」

 

 スペクター:ライフ3000→4000

 

 ドリュアノームの枝から実が落ちて、中から大木の鎧を着た騎士が現れた。

 

聖蔓の番騎士(サンヴァイン・ハーキュリー)

リンク・効果モンスター

地属性/植物族/攻 1000/LINK 1

【リンクマーカー:右】

植物族通常モンスター1体

(1)自分フィールドの「サンアバロン」リンクモンスターが効果でフィールドから離れた場合に発動する。このカードを破壊する。

(2)このカードの特殊召喚に成功した場合、自分フィールドの「サンアバロン」リンクモンスター1体を対象として発動できる。このカードの攻撃力を、対象のモンスターのリンクマーカーの数×500アップする。その後、このカードの攻撃力以下の相手フィールドのモンスター1体を選んで破壊する。

(3)自分フィールドの「サンアバロン」リンクモンスターが、戦闘・相手の効果でフィールドを離れる場合、かわりにフィールド・墓地のこのカードを除外できる。

 

「自分のサンアバロンがフィールドを離れる場合、かわりにこのカードを除外できる」

 

 プレシオルタの攻撃を、ハーキュリーが木の盾で止めて、サンアバロンを守る。

 

「ターンエンド」

 

ターン6

 

 スペクターはドローすると、引いたカードを見て肩を落とす。

 

「どうやら、目当てのカードは来なかったようですね」

「えぇ。おめでとうございます。あなたの勝ちですよ」

 

 負けを確信したというのに、スペクターの顔は穏やかだった。

 

「一つ、聞かせてください」

 

 美海はそんな彼を見て尋ねる。

 

「あなた達はなぜ、イグニスを狙うのですか?」

「ハノイの騎士としては、いずれ人類を滅ぼす存在であるイグニスの抹殺が目的」

「イグニスが、人類を……」

 

 美海はAiのことしか、それも知り合って数日程度だが、それでも彼が人類を滅ぼすような存在だとはにわかには信じられなかった。

 

「まあ私個人としては、それはどうでもいい。私はただ、私を拾ってくださったリボルバー様のお役に立つため、ただそれだけです」

「そうですか……私も、まあ似たようなものかもしれません」

 

 葵の顔を思い浮かべて、美海は息を吐く。

 

「では、私のターンでいいですね」

「えぇ、どうぞ」

「プレシオルタの効果でドリュアノームをバウンス」

 

 ドリュアノームは、プレシオルタの歌声によって枯れて朽ちる。

 

「ダイレクトアタック」

 

 ◆

 

 ソウルバーナーとゲノムのデュエル。

 

「どうしたんですかぁ? 目当てのカードを引けなかったみたいですけど」

「くっ……」

 

 ソウルバーナーは改めて手札を見返す。

 スーペルヴィス、ストライク・ギア・ブレード、華麗なる密偵-C

 

(考えろ。まだ諦めるわけにはいかねぇ。遊作と美海のためにも……)

「その熱い思い、確かに受け取ったぞ!」

 

「「!?」」

 

 その時、どこからか炎が飛来した。

 

 それはソウルバーナーのデュエルディスクに入り込み、炎を噴き上げる。

 

「なんだ!?」

 

 すると、デュエルディスクからにゅっと黒い体に赤いラインが入った人型の何かが姿を現す。

 

「うあぁぁぁぁっ!」

「おいおいそんなに怖がるな。傷つくだろう」

 

 叫び声を上げてデュエルディスクを外そうとするソウルバーナーに、その何かが顔をしかめる。

 

「私の名は不霊夢、不屈の魂、夢にあらずとかいて不霊夢だ」

「お、おばけ、デュエルディスクの付喪神か」

「AIだ。そんな非科学的なものではないから安心しろ。だいたい付喪神だったらそんなに怖がる必要ないだろう」

「確かに……」

 

 ソウルバーナーはようやく落ち着きを取り戻す。

 

「あれはイグニス、何故イグニスがこんなところに……」

 

 ゲノムはソウルバーナーのデュエルディスクに入り込んだ不霊夢を見て、ゲノムは驚愕する。

 

「私の友がここに囚われていると知ってな。助けに来たのだよ」

「お前もダチのために……」

「そうだ。さあソウルバーナーよ。君はまだ負けていない。その手札と君の力に逆転の鍵があるはずだ」

「俺の……そうか!俺は華麗なる密偵-Cを召喚!」

 

 ソウルバーナーのフィールドに、赤いドレスの妖艶な女性が現れる。

 

「その効果で、相手のエクストラデッキからランダムに1枚を墓地へ。そのカードが攻撃力2000以上なら、自身の攻撃力を1000アップ、2000未満ならその攻撃力分ライフを回復する」

「どちらが出てもこの状況は変わりませんよ?」

 

 ゲノムのデッキから1枚墓地に送られる。

 めくれたカードは、ネクロ・ダーウィン。

 

「来たぜ!攻撃力2000未満!俺はネクロ・ダーウィンの攻撃力分、ライフを回復する!」

 

 ソウルバーナー:ライフ500→2300

 

「その程度のライフでは、次の私のターンを凌げませんよ?」

「凌ぐんじゃねぇ。お前をこのターンで倒す!俺はスキルを発動!」

 

 ソウルバーナーの服のラインが炎のように熱く輝く。

 

「自分のライフを100にし、その時失ったライフ1000に付き、1枚ドローする!」

「魂を燃やせ!ソウルバーナー!」

「スキル発動!バーニングドロー!」

 

 手札に加わった2枚のカードを見て、ソウルバーナーは勝利を確信した。

 

「俺は装備魔法!ライジング・オブ・ファイアを発動!墓地のフェニックス・ギア・フリードを特殊召喚し、このカードを装備する!」

 

 下から炎が鳥のように翼を広げて撃ちあがり、中からフェニックス・ギア・フリードが現れる。

 

「俺は装備魔法、スーペルヴィスとストライク・ギア・ブレードを装備!ストライク・ギア・ブレードの効果で、墓地のエヴォルテクター シュバリエを召喚」

 

 ストライク・ギア・ブレードの効果が誘発して、ゲノムのライフを200削る。

 

「バトルだ!まずは華麗なる密偵-Cで、ゴシックローンを攻撃!」

「ゴシックローンの効果!攻撃力をバトルする相手と同じにする!そしてゴシックローンは1ターンに1度、戦闘で破壊されない」

 

 ゴシックローンは密偵-Cの攻撃力をコピーし、一方的に倒す。

 

「さて、次はシュバリエで攻撃ですか?」

「いいや、俺はフェニックス・ギア・フリードでゴシックローンを攻撃!」

「なっ!」

 

 フェニックス・ギア・フリードは、ゴシックローンと相打ちとなる。

 

「血迷ったのですか? エースモンスターを犠牲にするなど」

「いいや、俺は装備されたスーペルヴィスの効果発動!墓地の通常モンスターを特殊召喚!」

「あなたの墓地に通常モンスターなど……」

「デュアルモンスターは墓地に存在する時、通常モンスターとして扱われる!いでよ、ヘルカイザー・ドラゴン!」

 

 フェニックス・ギア・フリードが炎となり、その姿を黒龍へと生まれ変わらせる。

 

「さらに俺は罠カード、アームズ・コールを発動!デッキからスーペルヴィスをヘルカイザー・ドラゴンに装備!これでヘルカイザー・ドラゴンは再度召喚状態になり、その能力を解放!ヘルカイザー・ドラゴンは2回攻撃できる!」

「なっ!」

「バトルだ!ヘルカイザー・ドラゴンでネクロ・ダーウィンを攻撃!」

 

 ヘルカイザー・ドラゴンがネクロ・ダーウィン蹴散らす。

 

「終わりだ。行け!シュバリエ、ヘルカイザー・ドラゴン!」

 

 ◆

 

 その頃、謎の空間にとじ込まれたプレイメーカーは、既に数十回もデュエルを行っていた。

 

「はぁはぁはぁ……」

 

 勝とうが負けようが、デュエルは終わらない。

 それはまるで、10年前の実験のようだった。

 

「思ったより耐えるねぇ」

 

 その様子をジャックナイフは、外からニヤニヤしながら見ていた。

 

「そこは思考加速で、時間が圧縮されているから、短い時間で何度でもデュエルできるよ~。嬉しいよね~。あはははは────そのまま壊れちゃえ」

 

 笑ったかと思えば、急に冷たい声で言う。

 

「お、お前!こんなことして、何がしたいんだよ!」

 

 Aiは動けない状態で懸命に訴える。

 

「壊すんだよ。全部、お前らも、そいつも」

「くそっ……」

 

 その時、

 

 Dボードに乗ったソウルバーナーが、ジャックナイフに突進した。

 

 ジャックナイフはひょいっと飛んでかわし、それを見てソウルバーナーはDボードを降りる。

 

「テメェ、俺のダチに何してやがる?」

「やあソウルバーナー」

「今すぐプレイメーカーを放せ!」

「そうして欲しかったら、分かるよね」

 

 ジャックナイフはデュエルディスクを見せる。

 

「いいぜ。やってやる!」

 

「「デュエル!」」

 

ターン1 ジャックナイフ

 

「ボクはアニマイール・カラカライトを召喚」

 

アニマイール・カラカライト

効果モンスター

星2/地属性/アンデット族/攻 500/守 500

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが既にモンスターゾーンに存在する状態で、自分の手札・墓地からアンデット族モンスターが特殊召喚された場合に発動できる。デッキから「アニマイール・カラカライト」1体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたモンスターがフィールドに表側表示で存在する限り、自分は「アニマイール」モンスターしか特殊召喚できない。

(2) 自分フィールドのアンデット族モンスターを素材として、「アニマイール」リンクモンスターをリンク召喚する場合、墓地のこのカードをリンク素材としてデッキの下に置ける。この効果発動後、ターン終了時まで、自分は融合モンスターしか特殊召喚できない。

 

「ボクはフィールド魔法、アンデットワールドを発動!」

 

 フィールドが闇に包まれる。

 

「自分のフィールドゾーンにカードがある時、このカードを手札から特殊召喚できる!来い、アニマイール・ガラーラ!」

 

アニマイール・ガラーラ

効果モンスター

星3/地属性/アンデット族/攻 900/守 200

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分のフィールドゾーンにカードが存在する場合に発動できる。手札からこのカードを特殊召喚する。

(2)このカードが特殊召喚に成功した場合に発動できる。相手の手札をランダムに1枚選んで公開する。そのカードが通常召喚可能なモンスターなら、相手フィールドに特殊召喚する。その後、自分のフィールドに「アンデットワールド」がなければ相手はデッキから1枚ドローする。この効果発動後、ターン終了時まで自分はアンデット族モンスター以外のモンスター効果を発動できず、カード効果以外で1度しかモンスターを特殊召喚できない。

 

「このカードが特殊召喚に成功した時。相手の手札をランダムに1枚選び、そのカードが通常召喚可能なモンスターなら強制的に特殊召喚させる!」

 

 ソウルバーナーの手札1枚が表向きになる。

 オープンされたカードは、転生炎獣(サラマングレイト)Jジャガー

 

「サラマングレイト、サイバース族のカード……」

「私が与えたのだ」

 

 すると、ソウルバーナーのデュエルディスクから不霊夢が出てくる。

 

「お前は……炎のイグニス」

「私の名は不霊夢、不屈の————」

「お前無事だったのか!?」

 

 彼が名乗り終える前に、Aiが不霊夢の姿を見つけて、はしゃぐ。

 

「最後まで言わせてくれ……」

 

 不霊夢は不満そうに肩を落とす。

 

「デュエルを続けるよ。ボクはガラーラの効果で、Jジャガーを君のフィールドに特殊召喚。この効果発動後、ボクはアンデット族以外の効果を発動できず、カード効果以外で1度しかモンスターを特殊召喚できない。さらにカラカライトの効果、アンデット族モンスターが、手札か墓地から特殊召喚された時、デッキからもう1体のカラカライトを特殊召喚」

 

 骨の怪人が地面から飛び出し、彼のフィールドに三体のモンスターが並ぶ。

 

「さあ現れろ、ボクだけの未来を拓く未来回路!」

 

 天上にアローヘッドが現れる。

 

「召喚条件はアニマイールを含むアンデット族モンスター3体!リンク召喚!リンク3、アニマイール・オルトバイト!」

 

アニマイール・オルトバイト

リンク・効果モンスター

闇属性/アンデット族/攻 2300/LINK3

【リンクマーカー:右上/左上/下】

「アニマイール」モンスターを含むアンデット族モンスター3体

このカード名の(2)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードは自分のEXモンスターゾーンにのみ特殊召喚できる。

(2)自分のメインフェイズに発動できる。自分の手札・フィールド及びこのカードのリンク先の相手モンスターを素材として、アンデット族融合モンスター1体を融合召喚する。

(3)このカードのリンク先の自分・相手のモンスターを、それぞれ1体ずつを対象として発動できる。対象の相手モンスターを対象の自分のモンスターに装備カード扱いで装備する。装備モンスターは装備したカードの元々の攻撃力の半分、攻撃力がアップする。

 

「オルトバイトの効果発動!自分の手札、フィールド、そしてリンク先の相手モンスターを素材として融合召喚を行う!Jジャガーとオルトバイトを素材に融合!」

 

 オルトバイトがJジャガーを喰らう。

 

「魂を貪る猟犬よ、輪廻する炎獣を喰らい、その命を結び合わせよ!融合召喚!レベル7、アニマイール・バニシングファング!」

 

 現れたのは、無数の魂が寄り集まった、紫炎の蛇だった。

 

アニマイール・バニシングファング

融合・効果モンスター

星7/闇属性/アンデット族/攻 2300/守 2000

アンデット族モンスター+リンクモンスター

このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1) このカードが特殊召喚に成功した場合に発動できる。相手フィールドの表側表示モンスター全ての効果をターン終了時まで無効にする。この効果の発動に対して、相手はアンデッド族モンスターの効果を発動できない。

(2)このカードは、「アニマイール」リンクモンスターの効果で装備したモンスターのモンスター効果を得る。

(3)このカードが戦闘・相手の効果でフィールドから墓地の送られた場合、自分及び相手の墓地のアンデット族モンスターをそれぞれ1体ずつ除外して発動できる。このカードを墓地から特殊召喚する。

 

「ボクはカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン2 ソウルバーナー

 

「行くぞ!俺は手札の転生炎獣(サラマングレイト)フォクシーを墓地に送り、転生炎獣(サラマングレイト)ミーアを特殊召喚!」

 

 手札より、炎をまとった猫のようなモンスターが現れる。

 

「墓地のフォクシーの効果発動!フィールドに表側表示の魔法・罠カードが存在する場合、手札のサラマングレイトを墓地に送り、墓地からこのカードを特殊召喚!効果でアンデットワールドを破壊!」

 

 現れた青い狐のようなモンスターが、尾から火を噴き、周囲の闇を払う。

 

「墓地のファルコの効果!ミーアを手札に戻し、墓地から特殊召喚!そしてドロー以外で手札に加わったミーアは手札から特殊召喚される!」

 

 ソウルバーナーのフィールドに三体のモンスターが並ぶ。

 

「現れろ!未来を変えるサーキット!召喚条件は炎属性の効果モンスター2体以上!」

 

 三体のモンスターがアローヘッドに吸い込まれ、炎を上げる。

 

「リンク召喚!リンク3、転生炎獣(サラマングレイト)ヒートライオ!」

 

 業火の中から現れたのは、炎を纏いし百獣の獅子だった。

 

「ヒートライオのリンク召喚成功時の効果!相手の魔法・罠ゾーンのカード1枚をデッキに戻す!リザウディング・ロアー!」

 

 ヒートライオが吠えると、彼のフィールドにセットされたカードが吹き飛ばされる。

 

「くっ……攻撃力2300か」

 

 ジャックナイフのフィールドには既にアンデットワールドがない。

 バニシングファングの自己蘇生効果を使うには、相手の墓地にもアンデッド族モンスターが必要となる。

 このままでは相打ちとなる。

 

「俺はフィールド魔法、転生炎獣の聖域(サラマングレイト・サンクチュアリ)を発動!現れろ、未来を変えるサーキット!」

 

 ソウルバーナーが手を伸ばす先に、アローヘッドが炎を上げながら出現する。

 

転生炎獣の聖域(サラマングレイト・サンクチュアリ)の効果で、俺は同名モンスターを素材としてリンク召喚を行う!」

「なっ!」

「俺はヒートライオをリンクマーカーにセット!」

 

 ヒートライオが炎となってアローヘッドに吸い込まれる。

 

「逆巻く炎よ、浄化の力で、ヒートライオの真なる力を呼び覚ませ!転生リンク召喚!生まれ変われ、転生炎獣(サラマングレイト)ヒートライオ!」

 

 アローヘッドから炎が噴き出し、ヒートライオが再び姿を現した。

 

「ヒートライオの転生効果!自分の墓地のモンスターと、相手モンスターの攻撃力を同じにする!俺はバニシングファングの攻撃力をミーアと同じにする!」

「くっ」

「墓地のJジャガーの効果発動!墓地のサラマングレイト1体をデッキに戻し、このカードをサラマングレイトのリンク先に特殊召喚する!蘇れ、Jジャガー!」

 

 ヒートライオの後ろに、Jジャガーが現れる。

 

「バトルだ!ヒートライオで、バニシングファングを攻撃!」

 

 ジャックナイフ:ライフ4000→2500

 

「さらにJジャガーでダイレクトアタック!」

 

 ジャックナイフ:ライフ2500→700

 

「俺はカードを2枚伏せてターンエンド」

 

ターン3

 

「ボクはアニマイール・ベリアルを発動」

 

アニマイール・ベリアル

通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1)手札1枚を捨てて発動できる。デッキからアンデット族モンスター1体を墓地に送る。自分の墓地に「アニマイール」モンスターが4種類以上あれば、自分はデッキから1枚ドローする。

 

「手札1枚を捨てて、デッキからライヴコープスを墓地に送る。そしてアニマイール・トリックランタンを召喚」

 

アニマイール・トリックランタン

効果モンスター

星3/光属性/アンデット族/攻 800/守 800

このカード名の(2)(3)の効果はいずれか1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが召喚に成功した場合に発動できる。デッキ・墓地から「アンデットワールド」、または「アニマイール・ポルターガイスト」1枚を手札に加える。

(2)自分フィールドのアンデット族モンスターを素材として、「アニマイール」リンクモンスターをリンク召喚する場合、墓地のこのカードをリンク素材としてデッキの下に置ける。この効果発動後、ターン終了時まで、自分は融合モンスターしか特殊召喚できない。

(3)このカードが墓地に存在する場合、自分の手札・フィールドの「アニマイール」カード1枚を墓地に送って発動できる。このカードを墓地から手札に加える。

 

「デッキからアニマイール・ポルターガイストを手札に加える。現れろ、ボクだけの未来を拓く未来回路!召喚条件はアニマイールを含むアンデッド族モンスター3体!ボクはトリックランタン、そして墓地のライヴコープス、カラカライトをリンクマーカーにセット!」

「墓地でリンク召喚だと!?」

「リンク召喚!アニマイール・オルトバイト!」

 

 ジャックナイフのフィールドに、再び双頭の猟犬が姿を現した。

 

「墓地のモンスターを素材にリンク召喚した時、ボクはターン終了時まで融合モンスターしか特殊召喚できない。ボクはオルトバイトの効果発動!」

「なら俺はその効果にチェーンして、転生炎獣の炎陣(サラマングレイト・サークル)を発動!このターン、俺は同名モンスターを素材としてリンク召喚されたモンスターは相手の効果を受けない!」

「ボクはその効果にさらにチェーンして、アニマイール・ポルターガイストを発動!」

 

アニマイール・ポルターガイスト

速攻魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できず、このカードの発動に対して、相手はモンスター効果・魔法・罠カードを発動できない。

(1)以下の効果から1つを選択する。同一チェーン上に「アニマイール」リンクモンスターの効果がある場合、さらに、その効果以外の同一チェーン上の効果は全て無効になる。

●相手フィールドのモンスターを任意の数だけ対象にして発動できる。そのモンスターをそれぞれ別のメインモンスターゾーンに移動させる。

●相手のEXモンスターゾーンにモンスターが存在し、相手のメインモンスターゾーンにEXデッキから特殊召喚されたモンスターが存在する場合にそれら2体を対象として発動できる。そのモンスターの位置を入れ替える。

 

「ヒートライオとJジャガーをオルトバイトのリンク先へ移動。さらに同一チェーン上にアニマイールリンクモンスターの効果があれば、その効果以外の同一チェーン上の効果を全て無効にする!」

「なっ!」

「オルトバイトの効果で、君のヒートライオと手札のライヴコープスを融合!いでよ、バニシングファング」

 

 ヒートライオを喰らい、オルトバイトのリンク先にバニシングファングが姿を現した。

 

「さらにオルトバイトの効果!リンク先の相手モンスターを装備カード扱いで、リンク先の自分のモンスターに装備する!」

 

 Jジャガーがオルトバイトに食われ、その口から人魂が吐き出される。

 人魂がバニシングファングの体を構成する怨霊の中に混ざり、攻撃力をアップさせた。

 

「バトルだ!バニシングファングでダイレクトアタック!」

 

 ソウルバーナー:ライフ4000→1100

 

「終わりだ!オルトバイトでダイレクトアタック!」

「俺は(トラップ)カード!転生炎獣の憤怒(サラマングレイト・エンガー)

 

転生炎獣の憤怒(サラマングレイト・エンガー)

通常罠

(1)相手の直接攻撃宣言時に発動できる。その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージを0にし、攻撃した相手モンスターの攻撃力以下の墓地の「サラマングレイト」モンスター1体を特殊召喚する。

(2)墓地のこのカードを除外して発動できる。このターン中に相手によって破壊された「サラマングレイト」リンクモンスター1体を特殊召喚する。

 

「戦闘ダメージを0にし、墓地からヒートライオを特殊召喚!」

「ボクはカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン4

 

「行くぞ。転生リンク召喚!転生炎獣(サラマングレイト)ヒートライオ!」

 

 再び転生したヒートライオ、その効果でジャックナイフの伏せカードをデッキに戻す。

 

「さらにヒートライオの効果!バニシングファングの攻撃力をミーアと同じにする」

「くそっ……」

「バトルだ!ヒートライオ!バニシングファングを焼き払え!」

 

 ヒートライオが右手に浄化の炎をまとわせ、怨霊の怪物を切り裂いた。

 

 ジャックナイフ:ライフ700→0

 

 ◆

 

 デュエルが終了すると、ソウルバーナーは膝をつくジャックナイフに詰め寄る。

 

「さぁ、早くプレイメーカーを解放しろ」

「……ほら」

 

 ジャックナイフは、ソウルバーナーにカード状のプログラムを投げた。

 

「そこに、解除キーと、闇のイグニスの構成プログラムの一部が入っている」

 

ソウルバーナーはすぐにそれを自分のデュエルディスクに差し込む。

すると、プレイメーカーを閉じ込めていた空間は解かれた。

 

「プレイメーカー!大丈夫か?」

 

 ソウルバーナーが疲弊した彼に駆け寄る。

 

「ああ。なんとか……」

「さあ覚悟しろ!ハノイの騎士!」

 

 不霊夢がジャックナイフの方を指さす。

 しかし、そこに既に彼の姿はなかった。

 

「逃げられてしまったか」

「まあいいじゃねぇか」

「おーい!俺を忘れるなよー!」

 

 閉じ込められたAiが涙目で叫んだ。

 

「Ai、今助けるぞ」

 

 プレイメーカーがロックを解除し、彼のデュエルディスクに戻ってきた。

 

「ふぅ……助かったぜ」

「お前のためじゃない。レポートを見つけるためだ」

「なあ、レポートってのは……」

「後で話す。それより美海は?」

「私ならここですよ」

 

 すると、遅れて美海が部屋の中に入ってきた。

 

「すみません。少し手間取ってしまいまして」

「いや、無事なら良かった」

「時間もありません。足がつかないように、脱出しましょう」

 

 ◆

 

 そしてログアウトした三人は、そのままPC室で落ち合った。

 

「尊、お前にも事情を話しておく」

 

 遊作の口からこれまでの経緯について語られた。

 

「つまり、二人は先生の冤罪を晴らすために、先生が残したレポートを追ってるんだね」

 

 二人は頷く。

 すると、尊のデュエルディスクから不霊夢が出てくる。

 

「しかし、鴻上博士がイグニスアルゴリズムを使わないと解けない文書をLINK VRAINSに隠しているとは。これは我々も協力せねばな。尊」

「う、うん」

 

 短い間に、尊と不霊夢は打ち解けたようだった。

 

「尊、分かっていると思うが……」

「危険なんだよね」

 

 遊作の言葉を遮り、尊は真剣な顔で言う。

 

「それでも、先生の無念を晴らせるなら」

「分かった」

「よろしくお願いいたします。尊」

 

 美海と遊作の差し出した手を、尊は固く握りしめた。



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第11話:Blue Love pattern

遊作と葵ちゃんのデート回


 ある日のこと、美海が部屋の掃除をしていると、葵が不貞腐れた顔で彼女を見ていた。

 

「あの、どうなさったのですか? 葵様」

「美海、最近藤木君と何してるの?」

「え?」

 

 彼女の質問に、美海は顔をひきつらせた。

 

「その……何故そのようなことを?」

「だって、最近、よくどっか行ってるでしょ?」

「あぁ……」

 

 まさか彼女に鴻上レポートを探しているなどと言えるはずがない。

 ハノイの騎士との危険な戦いに、大事な葵を巻き込むわけにはいかない。

 

(しかし、葵様を不安にさせるわけにはいきません)

 

 ◆

 

「そういうわけで、明日葵様と遊びに行ってきてください」

 

 翌日、草薙のキッチンカーを訪れた彼女は、店番をしていた遊作に注文もせずにそんなことを言い出した。

 

「……注文は?」

「ホットドッグ1つ。マスタード多めで」

 

 遊作が注文の品を手渡す。

 

「で、なにがそういうわけなんだ」

「詳しいことはお話できませんが、とにかく葵様と遊んでください」

(デートなどと言ってしまえば、葵様が遊作を好きなことがバレてしまいます。ここは彼に悟られずに、自然に、葵様とのデートにお誘いしなければ)

 

 ものすごく不自然なうえに、遊作でなければ絶対に気付かれていることに、美海は気付いていない。

 

「俺はレポートを探さなければ……」

「いいんじゃないか」

 

 すると、草薙が店の奥から出てきた。

 

「たまには息抜きもいいだろ。な?」

 

 草薙は全てを察して、美海にウィンクする。

 

「まあ、草薙さんが言うなら」

「では、明日の午後、ここで待ち合わせです」

 

 そう言って、美海は草薙に小さくお辞儀をしてから去っていった。

 

 ◆

 

 そして翌日、日曜日。

 

 葵は自分の部屋で、服を選んでいた。

 

「う~ん、これは狙いすぎ、でも……」

「葵様、遅れてしまいますよ」

「もうちょっとだけだから」

 

 それから十分ほど時間をかけて、ようやく服を決めた葵は、美海の待つ玄関までやってきた。

 

「葵、どこに行くんだ?」

 

 すると、部屋から晃が出てきた。

 さきほど起きたばかりなのだろう。いつもはきっちりしている彼の髪に寝ぐせが少しついている。

 

「え、えーっと、友達と遊びに」

「そうか。美海、葵のことを頼んだぞ」

「もちろんです。晃様」

「じゃあお兄様、いってきます」

 

 晃に見送られて、二人はそそくさと外出する。

 

(葵のあの様子、それにあの服装、まさか男か?)

 

 晃はそのことに感づいて、すぐに自分も支度をした。

 

 ◆

 

 そしていつもの場所で停まっていたキッチンカーまで、葵と美海がやってくると、遊作は既に待っていた。

 

「ご、ごめん、待った?」

「ああ」

「そこは待ってないでしょうが」

 

 美海の言っていることをよく分かっていない遊作は、葵の方を向き直る。

 

「じゃあ行くか」

「ああ待ってください。遊作」

 

 美海は遊作の耳元に顔を近づける。

 

「Aiをこちらに」

「何故だ?」

「そりゃあ、レポート探しに必要ですから」

「……分かった」

 

 その理由に納得した遊作は、デュエルディスクを操作してAiを彼女のデュエルディスクに転送した。

 

「では、いってらっしゃいませ」

「ああ」

 

 二人を見送ると、美海は店の裏に回る。

 

「尊、もういいですよ」

 

 隠れて様子を見守っていた尊が外に出てきた。

 

「それでは、私達も行きましょうか」

「うん。LINK VRAINSに────」

「後をつけましょう」

「え?」

 

 何を言い出すんだと、尊は目を見開く。

 

「い、いや、デートの邪魔しちゃ悪いでしょ」

「何を言っているんですか。デートが滞りなく進み、遊作と葵様の関係を進展させるため、彼らの障害を全て取り除くんですよ」

「で、でもレポートを探しに行かなくちゃ」

「それ葵様より大事なんですか?」

「えー……」

 

 真顔でそんなことを言う彼女に、尊はあきれ果てていた。

 

「デートの邪魔されないために、こうしてAiにもお留守番をさせたわけですから」

「俺もそんな野暮なことしねぇよ」

 

 Aiは心外だと言わんばかりに、美海をジト目で見る。

 

「ほら、急がないと見失ってしまいます」

 

 美海はそう言って走って彼らの後を追う。

 葵のことになると周りが見えなくなる美海に、尊はため息をついた。

 

「友を思い、ひた向きに走る。これが青春というやつだな。尊」

「不霊夢、多分違うと思うよ」

 

 ◆

 

 遊作と葵は、近くの商店街を歩いていた。

 二人の間に会話はなく、見ようによっては険悪なムードに見える。

 

「遊作は何をやっているのですか」

 

 その様子を陰で見守っていた美海は、不甲斐ないコミュ障に対して苛立つ。

 

「まあ、あの二人を二人きりにしたらそうなるよね……」

「何か気の利いた話題でも……」

「あれ~、みんな何やってるの~?」

 

するとそこに、切花が隠れている美海達を見つけて近づいてきた。

 

「あ、えーっと、僕らは……」

「あ、藤木君と財前さんがデートしてる~。邪魔しちゃお────」

 

 瞬間、物陰から飛び出した切花に、美海は目にもとまらぬ速さでラリアットを喰らわせて反対側の路地まで吹き飛ばした。

 

「ん?」

 

 その物音を聞いて、遊作が振り返る。

 

「どうしたの? 藤木くん」

「今、そこに夢乃と美海がいたような……」

「……気のせいでしょ」

 

 葵は不機嫌そうに向き直る。

 

(私と一緒なのに、他の女子のことを考えるなんて……)

 

 そんな葵の気持ちなどつゆ知らず、遊作は葵の隣に立って再び歩き始めた。

 

「ゆ、夢乃さん!?」

 

 遊作達が立ち去った後、尊が慌てて駆け寄ると、切花は完全に目を回して倒れていた。

 

「死んでないよね!? ねぇこれ死んでないよね!?」

「安心してください。峰打ちです」

「ラリアットに峰打ちとかないでしょ!?」

 

 大騒ぎする尊をよそに、美海は遊作達の見守りに戻る。

 二人が近くのカフェに入っていったのを見て、美海も彼らの後を追おうとする。

 

「あれは……」

 

 そこで美海は足を止める。

 

「どうしたの?」

 

 尊が美海の視線の先を追うと、そこには彼らと同じように物陰から遊作達を見守る男の姿があった。

 

「あれって、財前さんのお兄さん、だよね?」

「えぇ、まさか葵様の後をつけてきたんじゃ……」

 

 晃はサングラスをかけて、周りをキョロキョロしている。

 傍から見れば完全に不審者である。

 

「まずいことになりましたね」

「まずいって?」

「晃様のことです。妹に近付く男の身辺を徹底的に洗い出すことでしょう。そうなれば遊作がプレイメーカーだとバレてしまいます」

「いや、そこまでしないでしょ」

「するんですよ。晃様は超シスコンなので、妹のことになると周りが見えなくなるんですよ」

「ぶ、ブーメラン……」

 

 そうこうしているうちに、晃も遊作達と同じ店に入る。

 

「どうしましょう。さすがに晃様に暴力を振るうわけにもいきませんし……」

「暗にボクならいいって言ってるの酷すぎない?」

 

 いつの間にか目を覚ました切花も、二人と一緒に遊作達のデートを覗いていた。

 

「ねぇ、ボクに任せてくれないかな?」

「任せるって……」

「要するに、財前さんのお兄ちゃんを追っ払えばいいんだよね~」

「まあ端的に言えばそうですが……」

「じゃあ、行ってきまーす」

 

 切花も後を追って店内に入る。

 それを遅れて、二人も店の中に入る。

 

 遊作と葵は、葵の緊張がほぐれてきたのか、会話こそ少ないがそれなりにいい雰囲気に見える。

 そして、それを見守る晃の元に、

 

「お待たせ~、お兄ちゃん」

 

 切花がやってきた。

 

「誰だ君は?」

「やだな~ボクだよ~。ネットでお話したでしょ。みんなの妹、切花ちゃんでーす」

 

 切花は晃の隣に座り、そのまま彼に密着する。

 

「お兄ちゃんが~、お小遣いたくさんくれるって言ってたから、来てあげたんだよ」

 

 晃に胸を押しつけ、耳元に顔を近づけと、

 

「ボクといいこと、いっぱいしよ」

 

 とどめと言わんばかりに囁いた。

 

 だが、切花の誘惑など、まるで意に介さず、晃はデュエルディスクを操作してどこかに通信する。

 

「もしもし、なんか変な女の子がいるんだ。摘まみだしてくれ」

「え?」

 

 すると、すぐさま黒服の男が店内に侵入し、切花の小さな体を抱えてどこかへ去っていった。

 

「あの子、ものすごく手馴れてましたけど、経験あるわけじゃないですよね?」

「な、ないと思いたいけど……」

 

 美海と尊は、連れ去られる切花を静かに見送った。

 

 裏で起きていることになど全く気付いていない遊作と葵は、会計を済ませて店の外に出た。

 

 ◆

 

 それから美海と尊は、デートの様子を見守り続けた。

 

「藤木くん、観覧車があるわよ」

「乗るか?」

「うん」

 

 駅前の観覧車に二人で乗ろうとしたその時、

 

「葵!」

 

 今まで隠れて様子を窺っていた晃が、飛び出してきた。

 

「お、お兄様!?」

「葵、観覧車はやめるんだ」

「どうしてよ?」

「密室で男と二人きりになるなど……兄として看過できない!」

 

 晃と葵が睨み合う。

 

「あの、財前のお兄さん、あんたは何か勘違いをしてるんじゃ……」

「君にお兄さんと呼ばれる筋合いはない!」

「言ってないんだが……」

 

 遊作はどうすればいいか迷っていると、葵がデュエルディスクを起動する。

 

「お兄様、こうなったらデュエルで決めましょう。私が勝ったら、藤木くんと観覧車に乗ることを認めてもらう」

「観覧車に乗るだけだよな?」

「いいだろう。ただし、私が勝てば一緒に観覧車に乗るのは私だ」

「何故そうなる」

「えぇ、それじゃあ……」

 

 遊作の突っ込みを無視して、二人がVRゴーグルを、ARモードにして装着する。

 遊作も仕方なくゴーグルをつけると、AR空間に二人のライフが表示される。

 

「「デュエル!」」

 

ターン1 財前晃

 

「私は裏守備表示でモンスターをセット。自分フィールドに裏守備モンスターが存在する場合、私は手札からティンダングル・ベースガードナーを特殊召喚!」

 

 正三角形が組み合わさったキューブのような物体が現れた。

 

「さらにカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン2 財前葵

 

「私はフィールド魔法、トリックスター・ライトステージを発動!その効果でデッキからトリックスター・キャンディナを手札に加え、そのまま召喚」

 

 メガホンを持った黄色い衣装のアイドルが現れる。

 

「キャンディナの効果でデッキからマンジュシカを手札に。そしてマンジュシカは、トリックスター1体を手札に戻すことで、特殊召喚できる」

 

 キャンディナが宙返りして、空中でマンジュシカと入れ替わる。

 

「私はカードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

「お互い、一ターン目は様子見か……」

 

ターン3

 

「私のターン!」

「相手がドローしたことで、マンジュシカの効果で200ダメージ!さらにライトステージの効果で200ダメージ!」

 

 晃:ライフ4000→3600

 

「さらに自分のトリックスターの効果で、相手がダメージを受けた時、手札からトリックスター・ナルキッスを特殊召喚!」

 

 マンジュシカの横に、銃口に花をあしらった飾りがついた玩具の銃を持った少女が現れた。

 

「くっ、私はティンダングル・アポストルを反転召喚!」

 

 前のターンにセットされたカードが開かれ、檻のような物体に尾と翼の生えたモンスターが現れた。

 

「リバース効果で、私のモンスターを三体まで裏守備表示にする」

 

 ベースガードナーと、リバースしたばかりのアポストルが裏守備表示になる。

 

「この効果で裏守備表示になったモンスターが全てティンダングルモンスターなら、その数だけデッキからティンダングルカードを手札に加える」

「ならここで、私はトリックスター・リンカーネーションを発動!相手の手札を全て除外し、相手はその枚数分だけカードをドローする!」

 

 今サーチしたばかりのカードが除外され、晃は新たに五枚のカードをドローする。

 そしてドローしたことで、マンジュシカの効果でダメージを喰らい、誘発したライトステージの効果でもダメージを喰らう。

 

 晃:ライフ3600→2400

 

「くっ……私は手札のティンダングル・ジレルスの効果発動!このカード以外の手札1枚を捨て、デッキからティンダングル・ヘルハウンドを墓地へ送る。そしてこのカード裏守備表示で特殊召喚!」

「ナルキッスの効果発動!相手が手札か墓地でモンスターの効果を発動した時、相手に200ダメージ!」

 

 ナルキッスがおもちゃの銃を撃つと、ハート型の弾丸が晃のライフを撃ち抜く。

 

 晃:2400→2200

 

「ライトステージの効果でさらに200ダメージ!」

 

 晃:2200→2000

 

「私はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

「すごいな。相手のターンなのに、もうライフを半分も削るなんて」

 

 遊作が素直に感想を述べると、葵は少し頬を赤らめる。

 その様子に、晃は苛立ちを募らせる。

 

ターン4

 

「私はトリックスター・キャンディナを召喚。その効果で、トリックスター・リリーベルを手札に加える。リリーベルはドロー以外で手札に加わると、特殊召喚できる」

 

 葵のフィールドに4体のモンスターが並ぶ。

 

「出てきて、夢ときぼ……じゃなかった。えーっと、愛と絆のサーキット!」

「愛だと!?」

 

 晃が葵の口上に反応し、遊作を物凄い形相で睨む。

 

「しょ、召喚条件は、トリックスター2体。私はキャンディナとナルキッスをリンクマーカーにセット!リンク召喚!リンク2、トリックスター・ホーリーエンジェル!」

 

 葵の切り札、ホーリーエンジェルが降臨した。

 

「ならば私は罠カード、ティンダングル・ラジアンを発動!」

 

ティンダングル・ラジアン

通常罠

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。このターン、対象のモンスターはリリースできず、融合・S・X・リンク素材にできず、可能なら必ず攻撃する。対象のモンスターの攻撃によって発生する自分への戦闘ダメージは半分になり、相手は対象のモンスターで戦闘を行う場合、ダメージステップ終了時まで効果を発動できない。

(2)墓地のこのカードを除外して、手札1枚を捨てて発動できる。デッキから「ティンダングル・ラジアン」以外の「ティンダングル」魔法・罠カード、または効果テキストに「ティンダングル」と記されたカード1枚をセットする。この効果でセットされたカードはセットされたターンでも発動できる。

 

「私はリリーベルを対象に、このターン、リリーベルは特殊召喚の素材にできず、可能なら必ず攻撃する!」

 

 三角形の金属が、リリーベルの体を閉じ込まれるように出現する。

 

「さらに墓地のティンダングル・ラジアンを除外し、手札1枚を捨てて効果発動!デッキからジェルゴンヌの終焉をセットする!」

「くっ、トリックスター・リリーベルは相手に直接攻撃できる。リリーベルでダイレクトアタック!」

 

 リリーベルが手にした巨大なベルで殴打する。

 

「この時、ティンダングル・ラジアンの効果で、戦闘ダメージは半分になる」

 

 晃:ライフ2000→1600

 

「私は罠カード、ティンダングル・ドロネーを発動!自分の墓地にティンダングルモンスターが三種類以上存在し、相手モンスターの攻撃で戦闘ダメージを受けた時、その攻撃モンスターを破壊し、エクストラデッキから、ティンダングル・アキュート・ケルベロスを特殊召喚する!」

 

 リリーベルが囲んでいた三角形の金属から黒いエネルギーが放たれ、中のリリーベルを飲み込む。

 そして、その中から三首の奇怪な犬型のモンスターが姿を現した。

 

「そして罠カード、ジェルゴンヌの終焉を発動。このカードをティンダングルリンクモンスターに装備カード扱いで装備。装備モンスターは戦闘・効果で破壊されず、相手の効果の対象にならない。そしてティンダングル・アキュート・ケルベロスは、墓地にティンダングル・ベースガードナーを含むモンスター三種類以上あれば、攻撃力3000アップする」

 

 攻撃力3000となり、効果耐性まで持ったアキュート・ケルベロスを突破する手段は今の葵にはない。

 

「私はホーリーエンジェルで、セットモンスターを攻撃!」

 

 ホーリーエンジェルで、手札補充の要のアポストルを破壊した。

 

「私はカードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

ターン5

 

「ターン開始のドローで、お兄様には400のダメージを受けてもらうわ」

 

 晃:ライフ1600→1200

 

「私はフィールド魔法、オイラーサーキットを発動。バトルだ。私はアキュート・ケルベロスで、ホーリーエンジェルを攻撃!」

 

アキュート・ケルベロスが、ホーリーエンジェルに牙を向く。

 

「墓地のリンカーネーションを除外して効果発動!墓地のキャンディナを、ホーリーエンジェルのリンク先に特殊召喚!リンク先にモンスターが特殊召喚されたことで、相手に200ダメージ!ライトステージの効果でさらに200ダメージ!」

 

 ホーリーエンジェルがキャンディナと手を繋いで踊ると、煌びやかな波動が放たれ、晃にダメージを与える。

 

 晃:ライフ1200→800

 

「そしてキャンディナの効果で、デッキからマンジュシカを手札に。マンジュシカの効果発動!キャンディナを手札に戻して、マンジュシカを特殊召喚!」

 

 キャンディナが宙を舞い、マンジュシカと入れ替わり、ホーリーエンジェルと手を繋ぐ。

 

「リンク先にモンスターが特殊召喚さらたことで、さらに200ダメージ!ライトステージの効果でさらに200ダメージ!」

 

 晃:ライフ800→400

 

「そしてトリックスターモンスターの効果でダメージを与えたことで、そのダメージの数値分、ホーリーエンジェルの攻撃力をアップする」

 

 攻撃力2400となったホーリーエンジェルで、どうにかダメージを軽減した。

 

 葵:4000→3600

 

「バトルフェイズ終了時、アキュート・ケルベロスのリンク先にティンダングル・トークンを守備表示で特殊召喚。私はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン6

 

(お兄様のライフは残り400、私のフィールドにはマンジュシカが2体いる。次のターン、お兄様がドローしたその瞬間、ライフは0になる)

 

「私はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

 葵は勝ちを確信してターンを終える。しかし、

 

「葵、その油断がお前を敗北させる。私はエンドフェイズに、速攻魔法、皆既月食の書を発動!表側表示モンスター2体を裏側守備表示にする!」

「なっ!」

 

 マンジュシカ二体が、裏側守備表示になり、効果を発動できなくなってしまった。

 

ターン7

 

「私はオイラーサーキットの効果で、ティンダングル・トークンのコントロールを相手に移す」

「マズイ……」

 

 兄の戦術をよく知る葵は、この動きをよく知っている。

 

「私はティンダングル・エンジェルを反転召喚。その効果で、墓地のティンダングル・ハウンドをアキュート・ケルベロスのリンク先に特殊召喚!」

 

 ティンダングル・アキュート・ケルベロスのリンク先に3体のモンスターが並ぶ。

 

「私はジェルゴンヌの終焉の効果!装備モンスターのリンク先全てに、モンスターが存在する場合、それら全てを破壊し、装備モンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える!」

 

 現在のアキュート・ケルベロスの攻撃力は4000、この一撃で葵のライフは消し飛んでしまう。

 

「私は罠カード!トリックスター・マジカベールを発動!」

 

トリックスター・マジカベール

通常罠

(1)このターン、自分が受ける戦闘・効果ダメージは0になる。その後、お互いにデッキから1枚ドローする。

 

「ダメージを無効にし、お互いに1枚ドロー」

 

 ジェルゴンヌの終焉が、リンク先の三体のモンスターを飲み込むが、葵は金色のベールに守られてダメージを与えるには至らなかった。

 

「なら私はアキュート・ケルベロスで、マンジュシカを攻撃!」

 

 アキュート・ケルベロスが、セットされたマンジュシカを蹴散らす。

 

「アキュート・ケルベロスの効果でトークンを生成。私はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン8

 

「葵のターン開始時、私は永続罠、モーリーの盾を発動!」

 

モーリーの盾

永続罠

(1)1ターンに1度、自分のメインモンスターゾーンの「ティンダングル」モンスターが戦闘を行うダメージ計算時に発動できる。その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージを0にする。

(2)自分フィールドに「ティンダングル」モンスターが存在する限り、自分は効果ダメージを受けない。

(3)自分フィールドの表側表示の「ティンダングル」魔法・罠カード、または「モーリーの盾」以外の効果テキストに「ティンダングル」と記された魔法・罠カードは相手の効果で破壊されない。

 

「これで私は効果ダメージを受けない。お前の効果ダメージによる勝利はなくなった」

「くっ……」

 

 葵は自分の手札を見る。

 

(このターンで勝たないと、でもどうすれば……)

 

 助けを求めるように、葵は遊作の方を見る。

 彼は葵と目が合うと、静かに頷いた。

 

「……そうだよね。諦めちゃ、私のターン、私はトリックスター・シャクナージュを召喚し、効果発動!手札のトリックスター1枚を捨てて、墓地のトリックスターリンクモンスターを特殊召喚!」

 

 ホーリーエンジェルが彼女のフィールドに蘇る。

 

「だが、ホーリーエンジェルの攻撃力では、アキュート・ケルベロスを突破できない」

「まだまだ。出てきて、愛と絆のサーキット!召喚条件はトリックスター2体以上!私はシャクナージュと、リンク2のホーリーエンジェルをリンクマーカーにセット!」

 

 天に現れたアローヘッドで花が開く。

 

「リンク召喚!リンク3、トリックスター・デビルフィニウム!」

 

 現れたのはシルクハットをかぶり、ステッキを携えた凛々しい麗人だった。

 

「バトルよ!まずはマンジュシカで、ティンダングル・トークンを攻撃!」

 

 マンジュシカがトークンを消し去る。

 

「リンク先のモンスターを失ったことで、アキュート・ケルベロスの攻撃力はダウン。そしてデビルフィニウムでアタック!」

「バカな!」

 

 下がったとはいえ、アキュート・ケルベロスの攻撃力は3000、デビルフィニウムの攻撃力は2200、このままでは返り討ちにあうだけだ。

 

「デビルフィニウムの効果!リンク先にトリックスターモンスターがいる時、相手フィールドのリンクモンスターの数まで、除外されているトリックスターカードを手札に!」

 

 リンカーネーションが葵の手札に加わる。

 

「そして、手札に加えたカード1枚につき、デビルフィニウムの攻撃力を1000アップする!」

 

 攻撃力3200となったデビルフィニウムが、宙を舞い、アキュート・ケルベロスにキックを喰らわせる。

 

 晃:ライフ400→200

 

「ターンエンド」

「私のライフは残っている。モーリーの盾の効果で、マンジュシカの効果は……」

「モーリーの盾の効果は、自分フィールドに、ティンダングルモンスターが存在する時」

「っ!!」

 

 そう。彼のフィールドにいるのは裏守備モンスターのみ。

 裏側表示であれば、そのカードがたとえティンダングルモンスターであっても、モーリーの盾の条件を満たせない。

 

「さあ、カードをドローして。お兄様」

「くっ……私のターン」

 

 ◆

 

 デュエルが終了し、地面に膝をつく兄に、葵はそっと手を伸ばした。

 

「お兄様、観覧車、一緒に乗りましょう」

「いや、だが私は負け……」

「お兄様に、藤木くんを紹介したいし」

 

 そう笑いかける彼女に、晃の心も自然と穏やかなものになった。

 

「藤木君といったか。先程はすまなかった」

「ああ、いや、俺は……」

「だが、私は、まだ君を認めたわけでは……」

「お兄様、行きましょう。藤木くんも」

 

 晃の言葉を遮り、葵は二人の手を取って観覧車へと向かう。

 

 その彼女の表情は、今までで一番笑顔だった。

 

 ◆

 

「ど、どうにか丸く収まったね」

 

 遊作達の様子を隠れて見守っていた尊と美海は、ホッと胸をなでおろした。

 途中でデュエルを始めたところからはどうなることかと思ったが、どうにか修羅場は回避できたようだ。

 

「あーあ酷い目にあった」

 

 すると、どこかへ浚われた切花が、いつの間にか戻ってきていた。

 

「夢乃さん、大丈夫だった」

「ほんと、大変だったよ~。屈強な男達の相手をさせられて、ちょっと汗かいちゃったな~」

「え、相手って……」

 

 わざとらしく服の胸元を掴んで仰ぐ彼女に、尊は恐る恐る尋ねる。

 

「デュエルだけど?」

「だ、だよね……」

「なになに~、穂村くんは一体何を想像したのかな~」

「何も想像してないから!」

 

 ギャーギャー喚く二人は無視して、美海は観覧車に乗った葵達を見る。

 

「葵様、ファイトです」

 

 前途多難な主の恋に、美海は静かにエールを送るのだった。

 

 



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第12話:The Report No.2(前編)

 ある日の昼休み、遊作、尊、美海の三人は、屋上で一緒にお弁当を食べていた。

 

「レポートの場所は見つかったか?」

 

 遊作の問いに二人は首を振る。

 

「そもそも私は、遊作のように、リンクセンスとやらを自覚できているわけではないので」

「僕も、というかソウルバーナーの姿だと、人が集まっちゃって、それどころじゃなくなるんだよね……」

 

 人気ランキング一位のカリスマデュエリスト、ソウルバーナーにはこの任務は荷が重そうだった。

 

「そういえば、ソウルバーナーは有名なデュエリストですが、ハノイからの報復とかはないんですか?」

「今のところは。僕の正体もバレてないみたいだし。遊作の方は? ジャックナイフに正体バレてたんでしょ?」

 

 ジャックナイフは、確かに彼、プレイメーカーのことを「藤木遊作」と呼んでいた。

 Aiを狙っているなら、今すぐ遊作の家に襲撃があってもおかしくないはずだ。

 

「いや、今のところない」

「……もしかして、ジャックナイフ以外のハノイのメンバーは、あなたの正体を知らない?」

 

 その推測が正しければ、ジャックナイフは自分の持っている情報を仲間に共有していないことになる。

 思えば、彼は他のハノイとはどこか違って見えた。

 

 すると、Aiが遊作のデュエルディスクからニュルッと出てきた。

 

「そういえば、あいつは俺達イグニスも、遊作のことも憎んでるみたいに言ってたな」

「憎んでいる?」

「ああ。俺のことを睨みつけて、お前たちイグニスに、自分の人生は壊されたんだって」

「ひょっとして、僕らと同じ孤児院のメンバーなんじゃ……」

「それはない」

 

 尊の言葉を、遊作は即座に否定する。

 

「夢乃は孤児院のメンバーじゃなかった」

「まだ夢乃さんがジャックナイフだと疑っているんですか?」

「ああ……」

 

 確かに、彼女にはアリバイがある。

 ジャックナイフとデュエルしている間、彼女は部室にいた。理屈で考えれば彼女がジャックナイフであることはありえない。

 

「まさか、ログインしながら現実世界で活動していたなんて言いませんよね?」

「だが……」

 

 なおも食い下がろうとする遊作に、美海は肩を落とす。

 

「まあ夢乃さんでなかったとしても、ジャックナイフがあの六人の、残りのメンバーだと啓と樹ですか。そのどちらかというのはあり得ないでしょう。イグニスを恨むのは理屈として理解できますが、それなら遊作を恨む理由が分かりません」

「確かに……」

 

 ジャックナイフの正体については、ここで議論していても分からないだろうと、話題を変える。

 

「不霊夢、でしたよね」

「なんだ?」

 

 美海に呼ばれて、不霊夢がデュエルディスクから顔を出す。

 

「まだ聞いてなかったんですけど、あなたはどうやってハノイのアジトに?」

「彼がプレイメーカーに送っていた通信があっただろう? あれを辿っていったら、尊に出会ったというわけだ」

「Aiの通信に気付いたのか?」

「我々イグニスは、このネットワーク内に様々な情報網を持っている。特にここ数年は、サイバース世界再建のために、バラバラになったイグニスを集めるために、イグニスアルゴリズムを使った通信を行っているからな」

 

 不霊夢は自慢げに語る。

 

「というか、サイバース世界の情報、Aiの記憶から抜き取られたけど、大丈夫なの?」

「そこは問題ないだろう。サイバース世界の場所が割れたことは伝わった。しばらくは戻らないように、みんなには伝えてある」

「なら、他のイグニスの心配はしなくてよさそうですね」

 

 彼らイグニスとは協力関係にある。

 これからハノイや、SOLテクノジーと戦うことになる場合、他のイグニスも仲間に引き入れられるならそれに越したことはない。

 

「そういえば、Ai。君はライトニングから連絡はもらったか?」

「ん? いや、もらってないけど」

 

 不霊夢の質問に、Aiは首を傾げる。

 

「そうか。彼が近々イグニスを集めて決起集会のようなものを行うらしいのだが」

「マジか」

「私も詳細までは聞いていないからな。何か知っているかと思ったんだが」

 

 不霊夢はどうしたものかと首を捻る。

 

「まあさすがにサイバース世界に集合ということはないだろうが、今この状況で我々が一か所に集まるのはあまり得策とは言えないだろう」

「そういえば、Ai、お前記憶が戻ったんだろ?」

 

 ふと思い出したような遊作の発言に、一同がAiの方を見る。

 

「レポートがなくても、実験のことが分かるんじゃないのか?」

「確かに、えーっとちょっと待てよ」

 

 Aiが腕を組んでしばらく考え込む。

 しかし、

 

「あれ? 思い出せねぇ」

 

 Aiは惚けた顔でそんなことを言うのだった。

 

「ふざけてないで真面目に答えろ」

「いや、本当に覚えてないんだよ」

「確かに、私も記憶を探ってみたが、我々の制作時に関する記憶がない」

 

 Aiだけでなく、不霊夢も覚えていない。

 信じられないが、二人が嘘を言っているようにも見えない。

 

「AIも物忘れとかするのかな」

「そんなわけないでしょう。しかし、そうすると変ですね」

 

 美海は二体のイグニスの顔を覗き込む。

 

「それだと、ハノイに襲われる前から記憶データを抜かれていることになりませんか?」

「……」

 

 二人がそれに答える前に、屋上の扉が開いた。

 

「おお、藤木、ここにいたのか」

 

 やってきたのは島だった。

 来訪者の存在を察知して、Aiと不霊夢は既にデュエルディスクの中に納まっていた。

 

「なんかエマ先生が呼んでたぞ」

「ああ。すぐに行く」

 

 遊作は立ち上がり、二人にまた後でと言って屋上を出た。

 

 ◆

 

 同刻、保健室にて、

 

「響子先生、なんか俺、熱っぽくて」

「はいはい。じゃあちょっと見せてね」

 

 呆けた男子生徒に対して、保健室の養護教諭の女性、滝響子は冷めた顔で手を彼の額に当てる。

 短めの赤髪をかき上げ、30歳前後の色香のある顔を近づけて彼の顔を覗き込む。

 

「うん。熱はないわね」

「で、でも俺、先生のことを見てると……」

「バカなこと言ってないで教室に戻りなさい」

 

 ドギマギする男子生徒を突き放し、彼女は手元の用紙に何かを書き留める。

 

 男子生徒は諦めて教室を去っていく。

 

「モテモテだね。響子先生」

 

 それと入れ替わるように、切花が保健室に入ってきた。

 

「こんなおばさんに絆されずに、もう少し健全な恋愛をしてほしいものね」

 

 切花の言葉に、響子はため息を吐く。

 

「それで、あなたもどこか具合が悪いの?」

「違うよ~。胸糞は悪いけど、体は健康だよ~」

 

 笑顔のままそんなことを言う切花に、響子は顔を引きつらせる。

 

「それじゃあ何の用?」

「ん~。ちょっとした雑談だよ。実は最近、SOLテクノロジーが警備用のデュエルAIを作ってるんだって」

 

 その話は響子も聞いた。

 現在、SOLはセキュリティ部隊として専属のデュエリストをバイトとして雇っていたが、今後はその役目をAIに置き換えるのだと。その影響で解雇になったデュエリストが何人かいるらしい。

 

「でも別に珍しい話でもないでしょう? AIに仕事を奪われるなんて」

「いや、実はそれのソースコードのほんの一部を手に入れたんだけど、見る?」

「そんなものどこで……」

 

 言い終わる前に、彼女はデュエルディスクを操作して、ARのウィンドウを彼女の目の前に飛ばした。

 

「これは……」

 

 その中身を見て、響子は驚愕した。

 

「なんか見覚えあるよね~」

「えぇ……なんでこんなものをSOLが」

「じゃ、ボクはもう行くよ。授業始まっちゃうし」

 

 切花はそう言って、保健室を去った。

 

 ◆

 

 エマ先生に呼ばれた遊作は、四階の一番奥にある空き教室を訪れた。

 

「なぜこんなところに」

「エマ先生っていうと、お前のクラスの担任だろ」

 

 Aiはどこから入手したのか、彼女の詳細なプロフィールをデュエルディスクに表示する。

 

「別所エマ、年齢は29歳、スリーサイズは上から~」

「どこで手に入れたんだ……」

 

 彼の謎の行動力に、遊作はため息を吐く。

 

「美人で、男子生徒からの人気も高い。これはもしや」

 

 何故かニヤつくAiをデュエルディスクに押し込み、遊作は教室の扉を開いた。

 教室の中は電気がついておらず、カーテンも閉じられていた。

 

 まだ昼間なので、周りが見えないほど暗くはないが、その異様な状況に遊作は危機感を覚える。

 

「来たわね。藤木君」

 

 エマは、教室の窓際の椅子に腰かけ、指をトントンと叩いて自分の隣に座るように合図してくる。

 遊作は少し迷ってから、わずかに距離を置いて横に座る。

 

「ねぇ藤木君」

 

 すると、エマは遊作にグッと距離を詰めて、その豊満な胸が触れるか触れないかのギリギリの距離で話し始める。

 

「あなた、何か悩んでいることがあるんじゃないの?」

「特にない、です」

「隠すことないわよ」

 

 エマは遊作の手を取ると、そこに指を這わせる。

 

「例えば、何か探し物をしているとか?」

「……」

 

 遊作はその言葉にわずかに反応した。

 それを見て、エマはニヤッと笑い、遊作の手にそっと自分の手を重ねる。

 

「最近、湊さんや、転校生の穂村君とよく一緒にいるけど、何をしてるのかしら」

「先生、あんたは何を知っている?」

「私は教師として、あなたの心配をしているだけよ」

 

 エマの体がついに遊作と密着する。

 

「先生に相談してみない? 私はあなたの────」

「藤木くん」

 

 その時に明かりがつく。

 二人が振り返ると、入り口には不機嫌そうな顔で彼らを見る葵が立っていた。

 

「次の授業、始まるわよ」

「……ああ」

 

 思わぬ助け舟が入ったことで、どうにか遊作は危機を脱した。

 遊作が立ち上がると、葵は彼の手を掴んでそのまま駆け足で教室を出る。

 

「財前、助かった」

「いいけど。エマ先生には気を付けた方がいい」

 

 葵は妙に真剣な顔で言う。

 ひょっとすると何か情報を持っているかもしれないと期待したが、

 

「あの人、男子生徒とヤリまくってるらしい」

「……そうか」

 

 返ってきたのはそんな噂話程度の内容だった。

 

「そういえば藤木くん、美海が最近またSOLに呼び出されたらしいんだけど、何か知らない?」

「いや、新しいAIのモニターをやらされてるとしか。そういう話はお前の兄の方が詳しいんじゃないのか?」

「お兄様は、あんまり会社のことは話してくれないから……」

 

 葵は少し寂しそうに零す。

 遊作としてもSOLの動向は気になるところだが、当人である美海も詳しいことが分からないので、調べようがない。

 

「美海もだけど、藤木くんも最近なんか────」

 

 言いかけたところで、予鈴がなる。

 

「……行きましょう」

 

 葵は続きを言うのは諦めて、遊作と一緒に教室に戻った。

 

 ◆

 

 放課後、美海は部室には寄らずに、学校を出てSOLテクノロジー本社の地下にある巨大な空間だった。

 美海の他にも、数十人の男女がVRゴーグルを装着して、専用のベッドに仰向けになっている。

 

「では、始めようか」

 

 モニター越しのビショップの声で始まったのはデュエルだった。

 

 集められたデュエリストは、全てSOLテクノロジーの元セキュリティ部隊で、部隊が解体されたかわりに、ここでAI作成のためのデータ収集に使われている。

 

(それにしても……)

 

 美海はVR空間でデュエルを行いながら思考する。

 

 彼女はこの空間で既に数回ほどデュエルを行っている。

 ただ、その内容が妙だった。

 

『さあ、あなたのターンです』

「ああ。はい」

 

 まず相手のAIがやたらとこちらに話しかけてくるのだ。

 事前の説明でも、なるべく多く会話しろという指示を受けている。単にデュエルが強いAIを作るのが目的なら、これは意味がわかない。

 

 そしてもう一つ、

 

『私の負けです』

(弱すぎる……)

 

 正確に言えば、AI自体が弱いわけではない。

 AIが使用するデッキが、とても実戦で使えるようなものではない、お粗末なデッキであることだ。

 そのうえ、やけに長考やデュエルと無関係な会話も多いせいで、中にはイライラしてデュエル中に暴言を吐くようなものまでいたそうだ。

 

(こんなことをして、SOLは何が目的なんでしょうか)

 

 一時間程度でデータ収集は終了し、美海達はVR空間から解放される。

 この程度の内容で、貰える報酬はそれなり、むしろ前より待遇がいいとさえ感じる。

 

(プレイメーカーに負けたことを理由にクビにされましたが、それはもしかして建前か?)

 

 モニターに映るチェス駒のアバター、ビショップを一瞥する。

 彼の目に美海が映っているのかは分からない。

 

(まあ、今はいいです)

 

SOLについて探るのも大事だが、今は何よりもレポートを見つけることが最優先。

美海は急いで会社を出て、駅前にあるネットカフェに入る。

 

 適当な個室に入り、鍵をかけた室内でVRゴーグルを装着する。

 

「イントゥザヴレインズ!」

 

 ◆

 

 LINK VRAINS内、Dボードで空を駆けながら、彼女は意識を集中して感覚を研ぎ澄ます。

 

(リンクセンス、私にもあるのなら……)

 

 さらに集中する。

 不意に、頭に電撃が走る。

 

(こ、この感覚は……)

 

 目を開けると、彼女はビルの壁に激突して思いっきり頭を打っていた。

 集中し過ぎていたせいか、前方の確認がおろそかになっていたようだ。

 

「こんなことなら、遊作にコツを聞いておけば良かった……」

 

 こうやって壁にぶつかることは一度や二度ではなく、場合によっては他の人に激突したり、またスピードデュエル中のデュエリストに横から突っ込んだりを繰り返している。

 

「こんなことでは……」

 

 美海はそれでもめげずに、Dボードを再加速させる。

 

(集中、集中……)

 

「危ないっ!」

 

 その声に目を開けると、またもや眼前に壁が迫っていた。

 寸前で旋回しようとするが、速度を上げ過ぎたせいで間に合わない。その時、

 

「え?」

 

 横から彼女の体を浚うように、Dボードが高速で突っ込んできて、どうにか激突を回避した。

 

「お前、曲芸の練習でもしてやがんのか?」

「あなたは……」

 

 自分を助けてくれたのは、ゴッドバードだった。

 彼は美海を抱えたままDボードを操作し、そのまま近くの路地裏に降りた。

 

「あ、ありがとうございます」

「ありがとうじゃねぇよ。きいつけろや。ちゃんと前見て運転しろ。あのスピードでぶつかったらタダじゃすまねぇからな」

「す、すみません」

 

 何故か本気で心配してくれている様子のゴッドバードに、美海も素直に謝った。

 

「で、んなとこで何やってたんだよ」

「パトロールです」

 

 とりあえず嘘をついた。

 

「お前、クビなったって言ってただろ」

 

 速攻でバレた。

 冷静に考えれば彼に対して隠す理由がないことに気付き、美海は事情を話すことにした。

 

「実は、ある人物の記した遺書、のようなものを探しているんです」

「遺書?」

「あなたが以前、プレイメーカーから横取りしようとしたデータですよ。あれの続きが、このLINK VRAINSのどこかにあるんです」

「そいつと脇見運転がどう関係するんだよ。あぶねぇだろ」

「あなた、見た目の割に交通ルールに厳しいですね」

「アバターの見た目は関係ねぇだろ」

「いやだって、なんかうるさいだけで信号も法定速度も守る暴走族みたいな感じがして」

「俺をDQNどもと一緒にすんじゃねぇよ!」

 

 ゴッドバードは本気でキレた。

 さすがに自分を心配してくれた相手をからかうのはこの辺にしようと、美海は話を戻す。

 

「……リンクセンスって知ってますか?」

「聞いたことねぇな」

「ネットワークの気配を感じる能力です。どうもそれが私にもあるようなので」

「それって……」

 

 それを聞いてゴッドバードは、どこか思い当たる節があるような反応を示す。

 

「やっぱり、あなたにもあるんですね」

「持ってるかどうかは知らねぇよ。似たような経験があるだけだ。で、お前はバカにみたいに目を瞑って、その遺書を探してたわけだ」

「まあ、端的に言えばそうですね」

「なあ、その遺書ってのは、ひょっとして鴻上博士のものじゃねぇだろうな?」

「っ!」

 

 まさかゴッドバードの口からその名前が出るとは思わなかったので、美海は思わず反応してしまった。

 

「やっぱりそうか」

「……あなた、鴻上博士を知っているんですか?」

「ああ。昔ちょっとな」

「そういえば、あなたはイグニスを狙ってましたよね。その理由は……」

「鴻上博士が作ったAIだろ。あのジジイのことを調べるのに、必要だと思っただけだ」

 

 ゴッドバードは鴻上博士の関係者で、彼のことを調べている。

 それ以上のことは多分喋っても答えてはくれなさそうだが、これは使えると彼女は考えた。

 

「ゴッドバード、私達と手を組みませんか?」

「は?」

 

 突然の申し出に、ゴッドバードは顔をしかめる。

 

「あなたは現在、ハノイにも、SOLテクノロジーにも属していない。そして鴻上博士のことを調べたいと思っているのは私達も同じです。利害は一致している」

 

 美海の言葉をゴッドバードは鼻で笑う。

 

「利害は一致してる。確かにそうだ。だが俺は別に一人でも問題ねぇ。俺にはお前に協力して得られるメリットなんて……」

「私はプレイメーカーと協力関係にあります」

「!!」

 

 これにはさすがのゴッドバードも驚きを禁じ得なかった。

 

「プレイメーカーと彼の持つイグニス、その力を借りられるのはあなたにとってメリットでは?」

 

 考え込むゴッドバードに、美海は畳みかける。

 

「さらに言えば、私は今、イグニスを信用していない」

 

 Aiと不霊夢の実験について覚えていないという不審な発言。さらにハノイの騎士が言っていたイグニスが人類を滅ぼすということ。

 彼らを全面的に信頼すべきではないと、美海は判断した。

 

 遊作や尊は信頼しているが、彼らを通じてAiや不霊夢に情報が漏れてしまっては意味がない。

 

「だからあなたを味方に引き入れたい」

「理屈は通ってる。だが、俺がお前にとってあのイグニス以上に信用できる理由がねぇだろ。余計に裏切りのリスクが増えるだけだろ?」

「あなたに裏切るメリットがない、というのもありますが……なんとなく、あなたは信用してもいい気がして」

 

 それを聞いて、彼は急に苛立ったように美海に迫り、壁際に追い込んだ。

 

「お前、ちょっと警戒心なさすぎじゃねぇの?」

「……」

「ネットで簡単に人を信用したらどうなるか、今からその体に教えてやろうか」

 

 そう凄まれても、美海は彼から視線を逸らすことはなかった。

 

(ああやっぱり。彼は全く怖くない(・・・・・・)

 

 彼の言動、行動から悪意や敵意を感じない。

 アバターとはいえ、自分より体格のいい男に迫られているのに、抵抗しようという気が起きない。否、抵抗する必要を感じない。

 

「チッ」

 

 美海のリアクションのせいか、彼は舌打ちして彼女から離れる。

 

「悪かったな。脅すような真似して」

「いえ」

「あー、その詫びといってはなんだが」

 

 ゴッドバードは突然彼方を指さした。

 

「……ありがとうございます」

 

 その意味を理解した彼女は、Dボードに乗ってその方角へと向かった。

 

 



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第12話:The Report No.2(後編)

 そして辿り着いた場所は、空中の何の目印もない場所だった。

 ゴッドバードが明確にここだと言ったわけではないが、近づいたおかげか、美海にも確かにここになにかあることは分かった。

 

「とりあえず、遊作か尊に連絡を」

「何をしている?」

「っ!?」

 

 その時、彼女の周囲の景色が変化する。

 空間は黒と白のパネルに置き換わり、チェス盤のような世界に巨大なビショップの駒が現れる。

 

「あなたは、ビショップ様」

「美海、君の動向について私が把握していないとでも思ったか?」

 

 すると、チェス盤の上に人の形をした何かが現れた。

 半透明のつるつるした体に青いラインの入ったそれが右手を美海の方へ伸ばすと、彼女の横に木枯しのようなデータストームが起きる。

 

「なっ!」

 

 データストームの中からカード型のプログラムが実体化する。

 

「どうして、このプログラムはイグニスがいないと出現しないはず……あなたは何者ですか?」

「初めまして。私はIGS-000のコピーモデル、タイプαです」

「IGS……IGNIS(イグニス)

 

 自己紹介をしたそのAIの名称を聞いて、それが何であるかを理解した。

 

「これはもう、自白しているようなものですよ。ビショップ様、あなたはハノイプロジェクトの関係者ですね」

「……タイプα、データを奪え」

 

 ビショップは答えることなく、AIに指示を出す。

 

「了解しました」

 

 AI、タイプαは足元にDボードを出現させ、そのまま美海に突進する。

 

「くっ……」

 

 美海は咄嗟にデータを掴み、Dボードを旋回させてどうにかかわす。

 

「対象が抵抗しました。これよりデュエルで拘束します」

「いいでしょう。このデータは絶対に渡しません」

 

「「スピードデュエル!」」

 

ターン1 美海

 

「原初海祈シーライブラを召喚!効果でデッキからメガロガーを手札に加える。そしてシーライブラを移動させることで、メガロガーを特殊召喚!」

 

原初海祈(オリジンブルー)シーライブラ

効果モンスター

星4/水属性/サイバース族/攻 1000/守 1600

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードの召喚·特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「原初海祈(オリジンブルー)シーライブラ」以外の「オリジンブルー」カード1枚を手札に加える。

(2)このカードが他のモンスターゾーンに移動した場合に発動できる。手札から「原初海祈(オリジンブルー)シーライブラ」以外の「オリジンブルー」モンスター1体を守備表示で特殊召喚する。

 

原初海祈(オリジンブルー)メガロガー

効果モンスター

星3/水属性/サイバース族/攻 1300/守 500

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できず、発動するターン、自分はサイバース族モンスターしか特殊召喚できない。

(1)自分フィールドの水属性モンスター1体を対象として発動できる。対象のモンスターを隣のメインモンスターゾーンに移動させ、手札からこのカードを特殊召喚する。

(2)このカードが墓地に存在する場合、自分フィールドの「オリジンブルー」モンスター1体を対象として発動できる。対象のモンスターを隣のメインモンスターゾーンに移動させ、このカードを特殊召喚する。この効果で特殊召喚したこのカードはフィールドを離れた場合、除外される。

 

「シーライブラが移動したことで、手札から原初海祈マイアーカイブを特殊召喚!」

 

 平たい楕円形の甲羅を持つ虫のような生物が現れた。

 

原初海祈(オリジンブルー)マイアーカイブ

効果モンスター

星2/水属性/サイバース族/攻 500/守 500

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「オリジンブルー」カード1枚を墓地へ送る。

(2)このカードが他のメインモンスターゾーンに移動した場合、墓地の水属性モンスター1体を対象として発動できる。対象のカードを手札に加える。このターン、この効果で手札に加えたサイバース族モンスター以外のカード及びその同名カードの効果は発動できない。

 

「効果でデッキから、オリジンブルーカード1枚を墓地へ送る。来なさい!未来を繋ぐサーキット!」

 

 美海が手を伸ばす先で、水流が渦を巻いてアローヘッドを出現させる。

 

「召喚条件は、リンクモンスター以外の水属性のサイバース族モンスター1体!私はメガロガーをリンクマーカーにセット!リンク召喚!リンク1、原初海祈(オリジンブルー)エルニーニャ」

 

 現れたのは、水色の鉱石のような髪を持つ人魚だった。

 

原初海祈(オリジンブルー)エルニーニャ

リンク・効果モンスター

水属性/サイバース族/攻 0/LINK 1

【リンクマーカー:右】

リンクモンスター以外の水属性・サイバース族モンスター1体

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードがリンク召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「原初海域(オリジンブルー・ウェブ)」1枚を手札に加える。

(2)1ターンに1度、このカードを空いている自分のメインモンスターゾーンに移動させて発動できる。自分のリンクモンスターにバックログカウンター1つを置く。

 

「デッキから原初海域(オリジンブルー・ウェブ)を手札に加え、発動!」

 

原初海域(オリジンブルー・ウェブ)

フィールド魔法

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分の「オリジンブルー」リンクモンスターのリンク召喚に成功した場合に発動できる。そのモンスターに、このターン中にモンスターが移動した回数だけ、バックログカウンターを置く。その後、この効果で置かれたカウンターの数まで、墓地からレベル4以下の「オリジンブルー」モンスターを特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化される。

(2)1ターンに1度、自分フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを隣のメインモンスターゾーンに移動させる。

 

「エルニーニャの効果!1ターンに1度、このカードを空いているメインモンスターゾーンに移動させ、リンクモンスターにバックログカウンターを置く」

 

 エルニーニャがシーライブラの横に移動し、彼女の胸のブローチに白い光が灯る。

 

「来なさい!未来を繋ぐサーキット!召喚条件は水属性効果モンスター2体以上!リンク召喚!リンク3!原初海祈タイタニーニャ!」

 

 アローヘッドより呼び出されたのは奇怪なオブジェ、ハート型の巨大な水晶。背面には蝶の羽を象った飾り、先端部に青い女性の形をした彫像がついている。

 

原初海祈(オリジンブルー)タイタニーニャ

リンク·チューナー·効果モンスター

水属性/サイバース族/攻 0/LINK3

【リンクマーカー:右下/下/左下】

水属性·効果モンスター2体以上

(1)リンク状態のこのカードは相手の効果を受けず、攻撃対象にならない。

(2)このカードのリンク先のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターをチューナーとして扱う。その後、このカードのリンク先のモンスターのみを素材としてサイバース族Sモンスター1体をS召喚する。この効果は相手ターンでも発動できる。

(3)自分のモンスターの位置が移動する度に、このカードにバックログカウンターを1つ置く。

(4)自分フィールドのモンスターの攻撃力は、このカードのバックログカウンターの数×200アップする。

 

原初海域(オリジンブルー・ウェブ)の効果!このターンにモンスターが移動した回数分、タイタニーニャにバックログカウンターを置き、その数だけ墓地のレベル4以下のオリジンブルーを特殊召喚!」

 

 フィールドにシーライブラとメガロガーが浮上する。

 

「タイタニーニャの効果発動!メガロガーをチューナーとして扱い、シーライブラにチューニング!」

 

 タイタニーニャの体から触手が伸びて、メガロガーのデータを書き換える。

 

「太古の泉より、その美しき歌声を響かせよ。シンクロ召喚!レベル7、原初海祈(オリジンブルー)プレシオルタ!」

 

原初海祈(オリジンブルー)プレシオルタ

シンクロ·効果モンスター

星7/水属性/サイバース族/攻 2300/守 2000

水属性チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

(1)このカードが効果で隣のメインモンスターゾーンに移動する場合、かわりにリンクモンスターのリンク先となるメインモンスターゾーンに移動できる。

(2)1ターンに1度、自分フィールドのバックログカウンター1つを取り除いて発動できる。このカードと同じ縦列の相手のカードを全て手札に戻す。この効果は相手ターンでも発動できる。

(3)1ターンに1度発動できる。このカードを隣のメインモンスターゾーンに移動させる。

 

「私はプレシオルタ自身と原初海域(オリジンブルー・ウェブ)の効果で、プレシオルタを移動させる」

 

 移動したことで、タイタニーニャの体の水晶に光が灯る。

 最終的にプレシオルタは真ん中のメインモンスターゾーンに移動した。

 

「私はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン2 タイプα

 

「私のターン、私は征令アライアンスを召喚」

 

 現れたのはスーツのような黒い鎧を着た騎士だ。

 

征令(セントラルオーダー)アライアンス

効果モンスター

星4/闇属性/戦士族/攻 1800/守 1000

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードの召喚に成功した場合に発動できる。自分のデッキ・墓地から「征令(セントラルオーダー)アライアンス」を可能な限り特殊召喚する。この効果を発動するターン、自分はEXデッキからモンスターを特殊召喚できない。

(2)このカードが特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「セントラルオーダーロード」モンスター1体を手札に加える。自分フィールドのモンスターが「セントラルオーダー」モンスターのみの場合、このターン、自分は通常召喚に加えて1度だけ、戦士族の「セントラルオーダーロード」モンスターをアドバンス召喚できる。

 

「デッキから同名モンスターを可能な限り特殊召喚」

 

 アライアンスが剣を構えると、その左右に同じ姿のモンスターが出現する。

 

「この効果を発動するターン、私はエクストラデッキからモンスターを出せません。そしてアライアンスは特殊召喚に成功した時、デッキからセントラルオーダーロード1体を手札に加えます。そして、自分フィールドのモンスターがセントラルオーダーのみの場合、戦士族のセントラルオーダーロード1体をアドバンス召喚できます。私はアライアンス3体をリリース!」

 

 3体のモンスターが天へと吸い込まれる。

 

「アドバンス召喚。征令王(セントラルオーダーロード)グッドウィール」

 

 天より玉座が降ってくる。

 そこに腰かけるようにして現れたのは、巨大な剣を携えた王だった。

 

征令王(セントラルオーダーロード)グッドウィール

効果モンスター

星10/闇属性/戦士族/攻 3000/守 3000

このカードをアドバンス召喚する場合、モンスター3体をリリースしなければならない。

(1)このカードがアドバンス召喚に成功した場合に発動できる。自分の墓地からレベル6以下の「セントラルオーダー」モンスターを可能な限り、守備表示で特殊召喚する。この効果発動後、ターン終了時まで、自分は「セントラルオーダーロード」モンスター以外のモンスターを特殊召喚できない。

(2)アドバンス召喚されたこのカードがフィールドに表側表示で存在する場合に発動できる。自分フィールドの「セントラルオーダー」モンスター1体と、相手フィールドのモンスター1体をリリースできる。

(3)アドバンス召喚されたこのカードが戦闘・相手の効果で破壊されて墓地へ送られた場合に発動できる。デッキ・墓地から「征令締結」1枚を手札に加え、このカードを墓地から特殊召喚する。

 

「グッドウィールはアドバンス召喚に成功した時、墓地のセントラルオーダーを可能な限り、特殊召喚します」

 

 玉座の右横に、二体のアライアンスが控える。

 

「そして、アドバンス召喚されたグッドウィールは自分のモンスターと相手モンスター1体ずつリリースできます。この効果は1ターンに何度でも発動できます」

「なら、私は墓地のアノマロトレスの効果!」

 

 

原初海祈(オリジンブルー)アノマロトレス

効果モンスター

星3/水属性/サイバース族/攻 800/守 800

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分フィールドのこのカード以外の「オリジンブルー」モンスター1体を対象として発動できる。対象のモンスターを隣のメインモンスターゾーンに移動させ、元々の位置にそのカードと同じレベル·種族·属性の「オリジンブルー·トークン」(攻/守0)1体を特殊召喚する。この効果発動後、ターン終了時まで、自分は水属性モンスターしか特殊召喚できない。

(2)墓地のこのカードを除外し、自分フィールドの水属性モンスター1体を対象として発動できる。対象のカードを隣のメインモンスターゾーンに移動させる。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

「このカードを墓地から除外し、プレシオルタをグッドウィールの正面へ移動!」

 

 これにより、プレシオルタはタイタニーニャとのリンクは外れてしまうが、全滅よりはマシだとバウンスのための準備を行う。

 

「グッドウィールの効果発動」

「その効果にチェーンして、プレシオルタの効果発動!」

 

 タイタニーニャの体から触手が伸び、プレシオルタへエネルギーを供給する。

 

「1ターンに1度、バックログカウンター1つを使うことで、このカードと同じ縦列の相手のカード全てを手札に戻す!」

 

 プレシオルタが鳴き声を上げる。

 重なる音が、グッドウィールを玉座から吹き飛ばし、手札へと返す。

 

「グッドウィールの効果で、アライアンスとタイタニーニャをリリースします」

 

 アライアンスが報復と言わんばかりに、タイタニーニャに特攻。

 触手と剣を刺し違えて、二体のモンスターは墓地へ送られる。

 

「私はこれでターンエンド」

 

ターン3

 

「私は魔法カード、原初海帰(オリジンブルー・リコンパイル)を発動!」

 

原初海帰(オリジンブルー・リコンパイル)

通常魔法

(1)自分の墓地の「オリジンブルー」リンクモンスター1体を対象として発動できる。そのカードをEXデッキに戻し、EXデッキから対象のモンスターと同名のリンクモンスター1体を特殊召喚する。

(2)墓地のこのカードを除外し、自分のバックログカウンター1つを取り除いて発動できる。自分の墓地から水属性モンスター1体を手札に加える。この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できない。

 

「墓地のタイタニーニャをエクストラデッキに戻し、再度特殊召喚」

 

 フィールドに水の門が開き、中からタイタニーニャが姿を現す。

 

「プレシオルタの効果で、自身をタイタニーニャのリンク先に移動させます。移動したことで、バックログカウンターを追加。プレシオルタの効果で、アライアンスを手札に」

 

 プレシオルタが歌声を奏でると、残りのモンスターも手札に戻され、フィールドががら空きになる。

 

「墓地のメガロガーの効果、プレシオルタを再度移動させ、このカードを墓地から特殊召喚」

 

 移動したことでバックログカウンターが置かれる。

 タイタニーニャには、自身のカウンターの数だけ、味方の攻撃力を200アップする能力がある。メガロガー、プレシオルタに攻撃力をそれぞれ足して、その合計はピッタリ4000。相手のライフを削り切ることができる。

 

「バトルです!プレシオルタで、ダイレクトアタック!」

「私はスキル、コンプライアンスバリアを使用。このターン、ダイレクトアタックによって受けるダメージは0になります」

 

 プレシオルタの攻撃は、半円形のバリアによって防がれてしまう。

 

「くっ、私はこれでターンエンド」

 

ターン4

 

「私は再びアライアンスを召喚。その効果で、墓地のアライアンス2体を特殊召喚。アドバンス召喚!グッドウィール」

 

 先程と全く同じ流れで、敵のエースモンスターが召喚される。

 

「グッドウィールの効果で、アライアンスとプレシオルタをリリース」

「その効果にチェーン、プレシオルタの効果で、同じ縦列のアライアンスを手札に」

 

 プレシオルタを失うが、コストとなるモンスターをバウンスすることで、どうにか二体目の除去は回避する。

 

「私は装備魔法、征令企画書(セントラルオーダー・プロジェクト)をグッドウィールに装備」

 

征令企画書(セントラルオーダー・プロジェクト)

装備魔法

自分の「セントラルオーダー」モンスターにのみ装備可能

このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードを装備したモンスターは、カードの効果でモンスターがリリースされた回数分、一度のバトルフェイズ中に追加で攻撃できる。

(2)このカードを装備したモンスターの発動した効果は無効化されない。

(3)自分フィールドの「セントラルオーダー」モンスター1体をリリースして発動できる。デッキからリリースしたモンスターとカード名の異なる「セントラルオーダー」モンスター1体を手札に加える。

 

「これで装備モンスターは、カードの効果でモンスターがリリースされた回数分、一度のバトルフェイズ中に攻撃できます。バトル。グッドウィールで、メガロガーを攻撃!」

 

 グッドウィールが玉座に座ったまま、大剣を振りぬくと、その衝撃波でメガロガーもろとも、美海が吹き飛ばされる。

 

「ぐぁっ!」

 

 美海:ライフ4000→2300

 

 攻撃に構えた閉じた目を開いた瞬間、彼女の目の前に壁が出現する。

 

「っ!」

 

 ぶつかる直前、Dボードを上に傾けて、激突を回避した。

 

(あれ、今私……)

 

 障害物を認識するよりも早く、反応していたような気がする。

 

「グッドウィール、タイタニーニャに攻撃」

 

 先の現象について考えたいところだが、デュエルはまだ続いている。

 グッドウィールの攻撃がタイタニーニャへと迫る。

 

「私は永続罠、リビングデッドの呼び声を発動!墓地からシーライブラを特殊召喚!リンク状態となったことで、タイタニーニャは攻撃対象にならない!」

「では、シーライブラを攻撃」

 

 振り上げた剣がシーライブラへ向く。

 シーライブラは破壊されるが、どうにかタイタニーニャを守り、ダメージを抑えることができた・

 

 美海:ライフ2300→300

 

「私はこれでターンエンド」

 

ターン5

 

「私のターン」

 

 ドローしたカードと合わせて、美海の手札は二枚、そのうちモンスターは1体だけ。タイタニーニャは存命しているが、これではシンクロ召喚することができない。

 

「どうすれば……っ!」

 

 その時、風が吹いた。

 

 見ると、彼女達の進む先にデータストームが迫っていた。

 

「……今なら、使えるはず」

 

 意を決して、美海はデータストームの中に飛び込んだ。

 

 彼女がサイバースカードと共に、ビショップより渡されたスキル。これまで使いこなすことができなかったそのスキルを、今発動させる。

 

「自分のライフが1000以下の時、データストームの中から、ランダムなサイバース族モンスター、もしくは「サイバネット」魔法・罠カード1枚を手札に加える。スキル発動!ストームコネクション!」

 

 データストームの中から1枚のカードをつかみ取った。

 

「これなら、私は魔法カード、サイバネット・マイニングを発動!手札1枚を墓地に送り、デッキからレベル4以下のサイバース族モンスター、シーライブラを手札に加え、召喚。デッキからメガロガーを手札に加え、自身の効果で特殊召喚」

 

 データストームより得たサイバネット・マイニングを起点に、再度モンスターの展開に成功する。

 

「シーライブラの効果で、手札からアノマロトレスを特殊召喚。タイタニーニャの効果で、メガロガーをシーライブラにチューニング!シンクロ召喚!原初海祈(オリジンブルー)プレシオルタ!」

 

 フィールドに顕現した水竜が、自身の効果でグッドウィールの正面に移動する。

 

「プレシオルタの効果で、グッドウィールを手札に!」

 

 これでまた敵のフィールドはがら空きとなった。

 

原初海域(オリジンブルー・ウェブ)とアノマロトレスの効果でプレシオルタを移動。そして、アノマロトレスの効果でトークンを生成」

 

 アノマロトレスの力で、プレシオルタと同じ輪郭を持つ半透明な体のモンスターが出現する。

 

「モンスターが移動したことで、タイタニーニャにバックログカウンターが置かれる。これでカウンターは計3つ、攻撃力600アップ。バトルです!プレシオルタでダイレクトアタック!」

 

 タイプα:ライフ4000→1100

 

「アノマロトレスで、ダイレクトアタック!」

 

 ◆

 

 デュエルが終了すると、変化した空間は元に戻る。

 

「やはり、未完成なAIではこの辺りが限界か」

 

 ビショップは特に残念でもなさそうにつぶやく。

 

「答えてください。あなた達は、イグニスを使って何をしようとしているのですか」

「決まっているだろう。企業が追及するのは、常に組織の利益だ」

「そんなことのために……」

 

 犠牲になった鴻上先生や、遊作や尊、家族のことを思い、彼女の中に怒りがこみあげてくる。

 

「まあレポートを追うなら好きにするといい。どのみち我々だけではレポートを見つけられない。真実を知り、絶望しないことを祈る」

 

 そんな言葉を残して、ビショップは姿を消した。

 

 ◆

 

 美海はデータを持って、草薙のキッチンカーを訪れた。

 遊作と尊もパソコンの前に立ち、草薙がデータを解析する様子を静かに見届ける。

 

「開いたぞ」

 

 開封されたその内容は以下のようなものだった。

 

『AIと人間の差異はなにか。それは自ら考える意思を持つか否かである。

 では意思とはなにか。人には「何かをしたい」と感じる欲がある。

 食欲、物欲、睡眠、金銭、性欲、欲があるから人は欲のために何か行動を起こす。そして欲とは本能より生じる。

 自ら何かをしたいと考えることで、AIの知能は一つ上のステージに進む。

 

 本能を学習させるために、様々な方法を検証した。

そして導き出した最適な手段がデュエルモンスターだ。

 

 デュエルは闘争本能を高め、イグニスに勝ちたいという感情を学ばせることで、より早くデュエルに勝つ最適解を導き出すだめ、意欲的に学習する

 

 しかし、闘争本能を学んだことが、最悪な結果を生むことになるとは、私は想像していなかった』

 

「今回も、実験の詳細な内容は記載されていなかったな」

「えぇ、しかしこれを見てください」

 

 美海はレポートの中のある一文を指さす。

 

「『本能を学習させるために、様々な方法を検証した』、これはつまり、私達が実験台にされるより前に、SOLテクノロジーが何らかの実験を行っていたことを示しています」

「確か美海が、今日戦ったSOLテクノロジーのAIって……」

「IGS-000のコピーモデル、おそらく、イグニスのプロトタイプのようなものが存在していたのかと」

「それが、今SOLが開発しているAIの元になっているわけか」

 

 もしそうであれば、その存在がSOLを告発する証拠になりえる。

 

「私はレポート探しと並行して、SOLの内情について調べてみます。警戒されているので、どこまでやれるか分かりませんが」

「分かった。俺達はハノイについて調査を進める。やつらも実験に使われたAIを持っていた。関係があるのは間違いない」

 

 各々の方針が決まり、今日はここで解散となった。

 

(それにしても……)

 

 美海はレポートの最後に記されていた一文が気になっていた。

 

(闘争本能、それが最悪な結果を生むとは、どういう意味なのだろう?)

 

 ◆

 

某日、電脳空間某所

 

 一体のAIが、石でできた玉座のようなものに腰かけていた。

 

 彼はAiや不霊夢と同じくらいの体格で、黄色い体に白いラインが入っている。

 

「ウィンディ、彼らに連絡はついたか」

 

 すると、彼の目の前に風が吹き、緑色のイグニスが姿を現す。

 

「アースとアクアはOKだってさ。不霊夢は今集まるのは危険だとか言ってるよ」

「ふんっ、相変わらず慎重すぎるな。ことは急を要するというのに」

 

 黄色いイグニスは、仲間の顔を思い浮かべて嗤う。

 

「私のシミュレートでは、彼らは86400秒後にサイバース世界へ侵入する。排除するぞ」

「了解、ライトニング」

 



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第13話:Declaration of war by Cybers

 サイバース世界、ネットワーク空間の構成するいくつものレイヤーの下に隠されたイグニス達の楽園。

 

 六つに分割された浮遊する島のようなそこに、招かれざるものが侵入していた。

 

「ついに見つけたぞ」

 

 Dボードに乗るリボルバー、それに続くのはハノイの騎士のメンバーだ。

 ファウスト、ゲノムに、赤髪の女性、バイラを筆頭に、ハノイの騎士の下っ端デュエリスト達数十名を加えた軍団だ。

 

「待っていたよ。人類諸君」

 

 その時、侵入者たちに対して上空より矢が降り注ぐ。

 

 リボルバー、ファウスト、ゲノム、バイラは咄嗟にかわすが、ほとんどのハノイの騎士は避けられずに撃ち落されてしまった。

 

「まさか、堂々と待ち構えているとはな。イグニス!」

 

 地上に降りたリボルバー達の前に、ライトニングが姿を現した。

 

「ようこそ。君のことは知っているよ。リボルバー。ご足労頂いたところ悪いが」

 

 ライトニングが手を振ると、彼の横に三体のイグニスが現れる。

 

「ここで退場願おう」

「風のイグニス、水のイグニス、地のイグニス、こうもぞろぞろと集まったことか。ちょうどいい。まとめて始末してやろう」

 

 リボルバー、ファウスト、ゲノム、バイラの四人がデュエルディスクを構える。

 

「ちょうど四人だね。どうする?」

「リボルバーの相手は私がしよう。君たちはその他有象無象の相手を頼む」

「了解」

 

 ウィンディが指で空をなぞると、突如周囲の突風が吹き荒れる。

 

「これは……」

 

 それはデータストーム。

 彼らの周囲を吹き荒れる嵐が、リボルバー以外の三人を呑み込み、どこか別の場所へと連れていく。

 

「さて、私も」

 

 ライトニングが再度手を振ると、何者かが転送される。

 それは少年のアバターだった。白と金を基調とした口元まで隠れるコートと、フードで顔を隠しているため、素顔は見えない。

 

 ライトニングはその肩に乗り、彼にデュエルディスクを構えさせる。

 

「ふんっ、AIのくせに人の手を借りるのか」

「利用する、といってもらおうか。君達だってかつては馬を駆り、牛を引き、他の生物の力を借りていた。それと同じだよ。上位の種族である我々が、下位の種族を従えるのは当然の摂理だ」

「戯言を。私が勝てば、このサイバース世界にあるは消去する」

「できるものならな」

 

「「デュエル!」」

 

 ◆

 

 その頃、ハノイの騎士のアジトでは、ジャックナイフが暇そうにあくびをかいていた。

 

「全く、なんでボクが留守番なんだよ」

「仕方ありませんよ」

 

 機嫌が悪そうにする彼をスペクターが宥める。

 

「場所を移したとはいえ、一度はプレイメーカーの侵入を許したのですから。ここで守りを手薄にするわけにはいきません」

「イグニス狩りなら、強い奴を連れていくべきでしょ。負けたセカンドの雑魚共じゃなくて」

「だからこそ、リボルバー様はサードの我々を守りに残したのでしょう。それに戦績の話をするなら、あなたもソウルバーナーに負けましたよね?」

「君もμに負けたけどね」

 

 お互いに挑発するように笑みを向ける。

 

「まあ個人的な話をするなら、私も地のイグニスがいるなら会ってみたかったですけどね」

「理解できなーい」

 

 ジャックナイフは仰向けに倒れる。

 

「さーて、我らがリボルバー様は、イグニス殲滅を果たせるのかな~」

 

 ◆

 

 ターン1 リボルバー

 

「私はフィールド魔法、リボルブート・セクターを発動。その効果で、手札からアネスヴァレット・ドラゴン、マグナヴァレット・ドラゴンを特殊召喚」

 

 リボルブート・セクターが回転し、二体のヴァレットモンスターが射出される。

 

「私は魔法カード、クイックリロードを発動」

 

クイックリロード

通常魔法

このカード名の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。

(1)自分フィールドの「ヴァレット」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを破壊し、破壊したモンスターと同名のモンスター2体をデッキから特殊召喚する。この効果発動後、ターン終了時まで、自分はドラゴン族モンスターしか特殊召喚できない。

(2)このカードを墓地から除外し、自分の墓地の「ヴァレット」モンスター3体を対象として発動できる。そのモンスターをデッキに戻し、自分はデッキから1枚ドローする。

 

「私はアネスヴァレット・ドラゴンを破壊し、デッキから二体のアネスヴァレット・ドラゴンを特殊召喚。さらに自分フィールドにヴァレットモンスターがいる時、アブソルーター・ドラゴンを特殊召喚。現れろ。我が道を照らす未来回路!」

 

 リボルバーが手を天に掲げると、上空にアローヘッドが出現する。

 

「召喚条件は、効果モンスター2体以上!」

 

 4体のドラゴンが弾丸となって、アローヘッドに装填される。

 

「閉ざされし世界を貫く我が新風!リンク召喚!リンク4、ヴァレルロード・ドラゴン!」

 

 アローヘッドより、赤き竜が降り立つ。

 銅にリボルバー式の弾倉、銃器で全身を武装したドラゴンだ。

 

「墓地へ送られたアブソルーター・ドラゴンの効果で、デッキからスナイプヴァレット・ドラゴンを手札に。私はカードを1枚伏せてターンエンド。そしてエンドフェイズに、破壊されたアネスヴァレット・ドラゴンの効果で、デッキからオートヴァレット・ドラゴンを特殊召喚」

 

ターン2 ライトニング

 

「私はフィールド魔法、天装の闘技場(アルマートス・コロッセオ)を発動!」

 

カードがデュエルディスクにセットされると、地鳴りが起きる。

 

 地面がせり上がり、周囲が石の壁に覆われ、まるで剣闘の会場のような場所へと変化した。

 

天装の闘技場(アルマートス・コロッセオ)

フィールド魔法

(1)このカードの発動時の処理として、デッキから「アルマートス・レギオー」モンスター1体を手札に加える。

(2)自分フィールドの「アルマートス・レギオー」リンクモンスターがリンク召喚された場合、手札の「アルマートス・レギオー」モンスター1枚を捨てて発動できる。墓地からこの効果を発動するために捨てたカードとはカード名の異なる通常召喚可能な「アルマートス・レギオー」モンスターを、そのリンクモンスターのリンク先に可能な限り特殊召喚する(同名カードは1枚まで)。このターン、自分は「天装の闘技場(アルマートス・コロッセオ)」の効果を発動するために同名カードを手札から捨てられず、サイバース族モンスターしか特殊召喚できない。

 

「デッキから天装騎兵(アルマートス・レギオー)シーカを手札に加え、召喚。現れろ、光を導くサーキット!」

 

 ライトニングの背後に光が瞬き、アローヘッドが出現する。

 

「召喚条件は、レベル4以下の光属性・サイバース族モンスター1体!リンク召喚!天装騎兵(アルマートス・レギオー)デクリオン!」

 

 アローヘッドの向こうから地響きが鳴り、頭に金属の兜被った上半身裸の戦士が駆けてきた。

 

天装騎兵(アルマートス・レギオー)デクリオン

リンク・効果モンスター

光属性/サイバース族/攻 1000/LINK 1

【リンクマーカー:下】

レベル4以下の光属性・サイバース族モンスター1体

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードのリンク召喚に成功した場合に発動できる。デッキからリンク魔法カード1枚をセットする。このターン、このカード及びこの効果でセットしたカードは相手の効果で破壊されない。

(2)このカード以外の自分の「アルマートス・レギオー」リンクモンスター、または魔法&罠ゾーンの表側表示のカードが相手の効果でフィールドを離れる場合、かわりにフィールドのこのカードを墓地へ送ることができる。

 

「デッキから裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)をセット。このターン、デクリオンとセットしたカードは相手の効果で破壊されない。そして天装の闘技場(アルマートス・コロッセオ)の効果発動。手札のアルマートス・レギオーを墓地へ」

 

 ライトニングが乗るデュエリストが、手札のカードを弾く。

 

「墓地へ送ったカードとカード名の異なる、通常召喚可能なアルマートス・レギオーを可能な限り、リンク召喚されたモンスターのリンク先に特殊召喚。甦れ、シーカ」

 

 カードが地面に落ちると、データに分解されて黒い渦になる。

 渦の中から戦士の姿を象った石像が現れた。

 

天装騎兵(アルマートス・レギオー)シーカ

効果モンスター

星1/光属性/サイバース族/攻 0/守 400

このカード名の(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しか行えない。

(1)このカードは自分フィールドの光属性のリンクモンスターのリンク先に特殊召喚できる。

(2)このカードとリンク状態の「アルマートス・レギオー」リンクモンスターが相手モンスターを攻撃した場合、そのダメージステップ開始時に発動する。その相手モンスターを破壊する。

 

「手札の天装騎兵(アルマートス・レギオー)スペクラータの効果発動。手札のアルマートス・レギオー1枚を墓地へ送り、自身を特殊召喚」

 

天装騎兵(アルマートス・レギオー)スペクラータ

効果モンスター

星5/光属性/サイバース族/攻 0/守 1800

(1)手札からこのカード以外の「アルマートス・レギオー」モンスター1体を墓地へ送って発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。

(2)このカードとリンク状態の自分の「アルマートス・レギオー」リンクモンスターが攻撃する場合、相手はダメージステップ終了時までモンスター効果・魔法・罠カードを発動できない。

 

「現れろ。光を導くサーキット!召喚条件は光属性・効果モンスター2体!スペクラータ、シーカをリンクマーカーにセット!リンク召喚!天装騎兵(アルマートス・レギオー)ケントゥリオン!」

 

天装騎兵(アルマートス・レギオー)ケントゥリオン

リンク・効果モンスター

光属性/サイバース族/攻 1700/LINK 1

【リンクマーカー:右/左】

光属性・効果モンスター2体

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードがリンク召喚に成功した場合に発動できる。墓地から「アルマートス・レギオー」モンスター1体を手札に加える。この効果発動後、ターン終了時まで、自分はこの効果で手札に加えたカード及びその同名カードの効果を発動できない。

(2)1ターンに1度、自分フィールドの「アルマートス・レギオー」モンスターが攻撃対象に選択された場合に発動できる。その攻撃を無効にする。

 

「効果で墓地のシーカを手札に。そしてコロッセオの効果で、手札のシーカを墓地へ送り、墓地からスペクラータとスクトゥムを特殊召喚。そしてスクトゥムを素材にデクリオンをリンク召喚」

 

 流れるようなプレイで、一気に三体のリンクモンスターがライトニングのフィールドに並ぶ。

 

「準備は整った。自分のリンクモンスターのリンク先となる魔法&罠ゾーンにこのカード発動できる!現れよ!世界を裁きし三本の矢、リンク魔法!裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)!」

 

 セットカードが開かれて、現れたのはリンクマーカーが描かれた奇妙な魔法カードだった。

 

裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)

リンク魔法

【リンクマーカー:左上/上/右上】

リンク魔法は自分のリンクモンスターのリンク先となる魔法&罠ゾーンにのみ発動できる。

(1)「裁きの矢」は自分フィールドに表側表示で1枚しか存在できない。

(2)このカードのリンク先のリンクモンスターが戦闘を行う場合に発動できる。そのモンスターの攻撃力はダメージ計算時のみ倍になる。

(3)このカードがフィールドを離れた場合、このカードのリンク先のモンスターは墓地へ送られる。

 

「なんだそのカードは!?」

「これこそ、我々が作り出した人類に対抗するための兵器。バトルだ。ケントゥリオンで、ヴァレルロード・ドラゴンを攻撃!」

 

 ケントゥリオンは攻撃力1700しかない。ヴァレルロード・ドラゴンには遠く及ばない。

 

裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)の効果発動!リンク先のリンクモンスターの攻撃力はダメージ計算時のみ倍になる!」

「ならばヴァレルロード・ドラゴンの効果発動!オートヴァレット・ドラゴンを対象として、その攻撃力を500下げる」

「そしてヴァレットモンスターの効果を起動。だがそれはできない。スペクラータとリンク状態のモンスターが戦闘を行う場合、相手はダメージステップ終了時まで効果を発動できない」

「なっ!」

 

 弾丸を封じられ、攻撃力3400となったケントゥリオンにより、ヴァレルロード・ドラゴンはあっけなく討伐される。

 

リボルバー:ライフ4000→3600

 

「デクリオンでマグナヴァレット・ドラゴンを攻撃!裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)の効果で、攻撃力は倍になる!」

 

 リボルバー:ライフ3600→3500

 

「もう1体のデクリオンでダイレクトアタック」

 

 幸いこちらは裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)のリンク先にないため、攻撃力増加はなく、ダメージは1000だけで済んだ。

 

「私はこれでカードを1枚伏せてターンエンド」

「くっ、エンドフェイズに破壊されたマグナヴァレット・ドラゴンの効果で、デッキからシェルヴァレット・ドラゴンを特殊召喚」

 

ターン3

 

「私はリボルブート・セクターの効果発動。相手のフィールドのモンスターが自分より多い時、その差だけ墓地からヴァレットモンスターを特殊召喚」

 

 リボルバーのフィールドに、アネスヴァレット・ドラゴン、オートヴァレット・ドラゴン、マグナヴァレット・ドラゴンの3体が特殊召喚される。

 

「現れろ!我が道を照らす未来回路!召喚条件は効果モンスー3体以上!私は4体のヴァレットモンスターをリンクマーカーにセット!」

 

 アローヘッドに弾丸が装填され、フィールドに雷を落とす。

 

「閉ざされし世界を切り裂く我が烈風!リンク召喚!リンク4、ヴァレルソード・ドラゴン!」

 

 落雷の中から現れたのは、鋭利な刃物を装備したヴァレルロードに似たドラゴンだ。

 

「さらにスナイプヴァレット・ドラゴンを召喚」

 

スナイプヴァレット・ドラゴン

効果モンスター

星2/闇属性/ドラゴン族/攻 1000/守 1000

このカード名の(2)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードがリンクモンスター、または自分の「ヴァレル」モンスターの効果の対象となった場合に発動できる。このカードを破壊する。

(2)このカードが自分の闇属性・ドラゴン族モンスター、または「ヴァレル」モンスターのカード名が記されたカードの効果で破壊された場合に発動できる。相手フィールドの表側攻撃表示のモンスター1体を選んで破壊する。

(3)このカードが戦闘・効果で破壊され墓地へ送られたターンのエンドフェイズに発動できる。デッキから「スナイプヴァレット・ドラゴン」以外の「ヴァレット」モンスター1体を特殊召喚する。

 

「ヴァレルソード・ドラゴンの効果発動!フィールドの攻撃表示モンスター1体を対象にし、そのモンスターを守備表示にする!スナイプヴァレット・ドラゴンを守備表示に!」

 

 スナイプヴァレット・ドラゴンが変形し、弾丸の形に変化する。

 

「この効果を使用したターン、ヴァレルソード・ドラゴンは2回攻撃できる。そしてスナイプヴァレット・ドラゴンの効果!リンクモンスターの効果の対象となった時、このカードを破壊。破壊されたことで効果発動!相手の攻撃表示モンスター1体を選んで破壊する!ケントゥリオンを破壊!」

 

 ヴァレルソード・ドラゴンの体に、スナイプヴァレット・ドラゴンが装填され、発射される。

 

「デクリオンの効果!自分フィールドの「アルマートス・レギオー」リンクモンスターが相手の効果でフィールドを離れる時、このカードを身代わりに墓地へ送る!」

 

 デクリオンが盾となり、ケントゥリオンを弾丸から守る。

 

「ならばバトルだ!ヴァレルソード・ドラゴンで、ケントゥリオンを攻撃!ヴァレルソード・ドラゴンの効果!攻撃対象のモンスターの攻撃力を半分にし、その数値分、自身の攻撃力をアップする!」

「ケントゥリオンの効果!アルマートス・レギオーが攻撃対象となった時、1ターンに1度、その攻撃を無効にする!」

 

 ケントゥリオンが槍を構えると、彼を守るように防壁が展開される。

 

「だが2度目は防げまい!ヴァレルソード・ドラゴン!ケントゥリオンを蹴散らせ!」

 

 ヴァレルソード・ドラゴンが首を振るう。

 その斬撃は今度こそケントゥリオンを屠った。

 

 ライトニング:1850

 

「私は墓地のクイックリロードの効果。このカードを除外し、墓地の2枚のアネスヴァレット・ドラゴンと、オートヴァレット・ドラゴンをデッキに戻して1枚ドロー。これでターンエンド。エンドフェイズに、破壊されたスナイプヴァレット・ドラゴンの効果で、デッキからオートヴァレット・ドラゴンを特殊召喚」

 

ターン4

 

「私は天装騎兵(アルマートス・レギオー)グラディウスを召喚。現れろ!光を導くサーキット!」

 

 アローヘッドにグラディウスとスペクラータがセットされる。

 

「リンク召喚!天装騎兵(アルマートス・レギオー)ケントゥリオン!コロッセオの効果で、手札1枚を墓地へ送り、墓地からシーカ、スペクラータを特殊召喚」

「ならば私は、ここでヴァレルソード・ドラゴンの効果を起動し、オートヴァレット・ドラゴンを守備表示に変更!」

 

 オートヴァレット・ドラゴンが弾丸として装填され、ヴァレルソード・ドラゴンが狙いを定める。

 

「貴様の裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)を破壊だ!」

「デクリオンの効果!裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)の身代わりをする!」

 

 発射された弾丸は、またもデクリオンによって防がれる。

 

「これで弾切れのようだな。現れろ!光を導くサーキット!召喚条件は光属性・効果モンスター2体以上!私はシーカと、リンク2のケントゥリオンをリンクマーカーにセット!リンク召喚!天装騎兵レガトゥス・レギオニス!」

 

 現れたのは、鎧で武装した騎馬を駆る重装の兵士だ。

 

天装騎兵(アルマートス・レギオー)レガトゥス・レギオニス

リンク・効果モンスター

光属性/サイバース族/攻 2400/LINK 3

【リンクマーカー:左/下/右】

光属性・効果モンスター2体以上

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカード以外の自分フィールドの「アルマートス・レギオー」モンスター1体と、墓地の通常召喚可能な「アルマートス・レギオー」モンスター1体を対象として発動できる。対象のフィールドのモンスターを破壊し、対象の墓地のモンスターを自分フィールドに特殊召喚する。この効果は相手ターンでも発動できる。

(2)このカードが既にモンスターゾーンに存在する状態で、自分フィールドに「アルマートス・レギオー」モンスターが特殊召喚された場合に発動できる。このターン、このカードは相手の効果を受けない。

 

「手札からシーカを特殊召喚。レガトゥス・レギオニスの効果発動!シーカを破壊し、墓地からグラディウスを特殊召喚。レガトゥス・レギオニスの効果発動。アルマートス・レギオーが特殊召喚されたことで、このターン、このカードは相手の効果を受けない」

「くっ……」

「バトルだ!レガトゥス・レギオニスで、ヴァレルソード・ドラゴンを攻撃!」

 

 レガトゥス・レギオニスの両脇の石像、そして背後の裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)から力が送られる。

 

「スペクラータの効果で、相手はダメージステップ終了時まで効果を発動できない。グラディウスの効果で攻撃力500アップ、そして裁きの矢の効果で攻撃力は2倍になる!」

 

 攻撃力5800となったレガトゥス・レギオニスが駆ける。

 倍以上の体躯のドラゴンを、騎馬捌きで華麗に翻弄する。

 

「終わりだ!やれ!レガトゥス・レギオニス!」

 

 レガトゥス・レギオニスがヴァレルソード・ドラゴンを屠る。

 そして、そのままリボルバーのライフも削り切った。

 

 ◆

 

「さて、リボルバー、他の場所でも決着がついたようだぞ」

 

 ライトニングが空間に三つのホログラムウィンドウを投影する。

 

 そこでは、ファウスト、ゲノム、バイラがそれぞれイグニスに倒されていた。

 

「くっ……」

「ハノイの騎士よ。二度に渡るサイバース世界の襲撃、我々はこれ以上、人類による不当な侵略を看過できない。故に、貴様ら人類に対して宣戦布告する」

 

 リボルバーはその宣言に歯噛みする。

 

「君達の意識データはこちらで預かっておこう」

 

 ライトニングがリボルバーに向けて手を伸ばす。その時、

 

「ライトニング!」

「……どうした? ウィンディ」

 

 急に入った通信に、ライトニングは不機嫌そうに顔をしかめる。

 

「他にも侵入者がいた!」

「なんだと?」

 

 ライトニングが振り向くと、そこには半透明な人型の物体がDボードに乗って彼らを見下ろしていた。

 

「任務完了。鴻上レポートナンバー07を回収しました」

「よくやった。タイプα」

 

 タイプαの横に、チェス駒が現れる。

 

「あれは、SOLテクノロジーの……」

「例を言うよ。ハノイの騎士、君達が囮になってくれたおかげで、こうして苦も無くレポートを回収できた」

 

 ビショップのセリフに、ライトニングは驚いていた。

 

(どういうことだ。なぜ奴らがサイバース世界の場所を。ハノイが情報を流したのか? いや、そんなことをするメリットはない)

 

 思考する間に、ビショップとタイプαはDボードでサイバース世界を脱出する。

 それに気を取られている隙に、リボルバーはDボードを出現させて逃走する。

 

「くっ!ウィンディ!アクア!アース!他のハノイは!?」

「こっちは捕まえたよ」

「こちらも」

「……すまない」

 

 アースだけが失敗したようで、申し訳なさそうに謝る。

 

「……まあいい。計画を進めるぞ。人類支配のために、我らイグニスが結束する時だ」

 

 ◆

 

 同刻、レポートナンバー03を手に入れた遊作達は、また草薙のキッチンカーに集まっていた。

 

『完成した六体のイグニスを使いシミュレートを行った。その結果、彼らは人類を滅ぼす存在であることが分かった。

 闘争本能を与えたことにより、イグニスは好戦的な性格となってしまった。

 彼らは最初こそ人類と共存するが、いずれ人類を敵視し、人類は彼らによって滅ぼされてしまうだろう。

 私は幾度もシミュレートを繰り返したが、どのようなルートを辿ろうとも、イグニスが人類と敵対する未来は避けられなかった。

 私は苦渋の末に、彼らを消去する決断をした』

 

 それを読み上げた後、四人がAiと不霊夢を見る。

 

「いやいや、俺達、人間を滅ぼそうなんて思ってないよな?」

 

 Aiが必死に弁明して、不霊夢に同意を求める。

 だが、不霊夢は首を捻り、考え込むように唸る。

 

「……腑に落ちた。我々が実験の際の記憶がないのは、この消去の後遺症ということか」

「ああ。俺らがここにいるってことは、鴻上博士は俺達の消去に失敗したってことだもんな……って、そんなことより、お前もなんか弁明しろよ!」

「現時点では、私は人間を滅ぼす気はない。だが、サイバース世界を襲った人間に対して、敵意がないわけではない」

「不霊夢……」

 

 愚直にそう語る彼に、尊は心配そうな目を向ける。

 

「そんな顔をするな。今は君を裏切るつもりはない」

「今は、というのは、今後裏切る可能性を否定しないということですか?」

 

 美海は厳しい口調で追及する。

 

「否定はできない。ただ、ハノイの騎士の蛮行だけを見て、人間を判断するのは早すぎるとも考えている」

「……あなたは多分、いいAI(ひと)なんでしょうね」

 

 不霊夢の言葉を聞いて、美海は立ち上がる。

 

「今日はこれで失礼します」

 

 美海はキッチンカーを出て行った。

 

「嫌われてしまったな」

「言ってる場合かよ。なあ遊作、お前は……」

 

 Aiは遊作を見るが、彼も怪訝な表情でAiを見るだけだった。

 

「なんだよ!もう知らねぇ!」

 

 Aiは怒って、デュエルディスクの中に引っ込んでしまった。

 



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第14話:My best Friend

 ある日、授業が終わった教室で、遊作は一人きりでボーッとしていた。

 

「どうした藤木、元気ないぞ?」

「何かあったの?」

 

 島と葵も心配そうにするが、遊作は気のない返事をするだけだった。

 

「なあ、今日は部活来ねぇのか?」

「今日は、いい……」

 

 遊作はそう返して、席を立つ。

 島と葵は追いかけることはせずに、静かに彼を見送った。

 

「遊作」

 

 すると、教室の外で尊が待ち構えていた。

 

「少し、付き合ってよ」

 

 彼につれてこられたのは、学校の屋上だった。

 

「はいこれ」

「ああ……」

 

 尊が渡した缶ジュースを受け取るが、遊作はそれを開けずにボーッと外を見る。

 

「Aiは、まだ口きいてくれない?」

「そもそも話しかけていない」

「……それじゃあ仲直りできないよ」

「別に必要ない。あいつは、ただの人質だ」

 

 遊作の言葉に、尊はため息を吐く。

 

「遊作の顔は、そういう風には見えないけど?」

 

 遊作は表情にあまり変化はないが、それでも尊には彼が何でもないという風には見えなかった。

 

「曲がりなりにも、今まで一緒に戦ってきたんだしさ。もう少し、Aiのことを信じてあげてもいいんじゃない?」

「……もう行く」

 

 遊作はそれに答えるかわりに、屋上を後にした。

 

 ◆

 

 同刻、LINK VRAINS某所

 

 美海は建物の屋上で一人、風に当たっていた。

 

「元気なさそうじゃねぇか」

 

 すると、どこからかゴッドバードがやってきた。

 美海は彼を一瞥すると、空を見上げる。

 

「なにかあったのか?」

「話してもいいですけど、仲間になりますか?」

「お前、交渉雑になったな」

「今なら鴻上博士のレポート1から3までつけますよ」

「……やめとく。それ受け取ったら、お前に仲間を裏切らせることになりそうだ」

 

 ゴッドバードは美海の隣に立つ。

 

「前に言ってくれましたよね。私が守りたい人を守るために、必要なものがなんなのか。それを考えろって」

「ああ。言ったな」

「私はまだ、どうすべきか決められていないんです」

 

 葵を守る。その気持ちに今も変わりはない。

 だがイグニスと戦うことに、彼らに対して思うところが全くないわけではない。短い時間ではあるが、Aiや不霊夢と行動を共にした事実はある。

 

 

「目を反らさずに真実と向き合う。そう決めたはずなのに、結局、自分で結論を出せないんです。あなたを仲間に誘ったのも、本当は、一人では決められなかったから、誰かに手を取ってほしかったのかもしれません」

「……別に、迷うのは悪いことじゃねぇだろ」

 

 美海の悲しげな笑顔に、ゴッドバードは口を開く。

 

「昔、師匠によく言われたんだがな。どんなに迷ってもいい。自分のことは自分で決めろってな」

「師匠、というのは」

「ああ。俺の育ての親? みたいなもんだ。そいつにハッキングとかデュエルを教わったんだよ。まあとにかくだ。決断は急がなくていい。けど、それを誰かに委ねるのはなしだ。俺にも、もちろんお前の仲間にも」

「私が、決める……」

 

 彼の言葉を、美海は胸の中で反芻する。

 ゴッドバードはそれ以上言うことはないと言わんばかりに、美海から顔をそむけた。

 

「ん?」

 

 すると、ふとゴッドバードの視線が眼下の街へ移る。

 

「どうしたんですか?」

「なんだあれ……」

 

 ゴッドバードが指さす先には、全身黒ずくめのアバターが歩いていた。

 人々は奇異の視線を向けるが、アバターはおぼつかない足取りで歩くだけで、特に暴れたりする様子はない。

 

 すると、黒いアバターが近くの人の肩を叩く。

 

 その瞬間、肩を叩かれた人の体が黒く染まり、同じような真っ黒いアバターへと変化する。

 

「きゃぁぁぁっ!」

 

 その現象に、周囲の人々はパニックになって逃げ惑う。

 

「おいおい。ゾンビ映画かよ」

「行きましょう」

 

 美海はすぐにDボードを出現させて、既に数を増やし始めている黒いアバターへ突っ込む。

 

「おいっ……たく、しゃーねぇな」

 

 ゴッドバードも彼女の後を追い、Dボードで駆ける。

 彼との距離が十分離れていることを確認し、美海は現実世界にいる遊作達へ連絡を取った。

 

「遊作、尊、奇妙なアバターがLINK VRAINSで暴れています。すぐに来てください」

『分かった』

 

 通信を切り、地上に降りると、黒いアバターは足を速めて逃げる人々を次々に襲っている。

 

「何なんですかこれは」

「さあな。つーか、ここら辺一体にログアウトできないようにするバリアが張られてるな」

「ほんとですね。ログアウトボタンが押せない」

「で、あいつらをどうするかだが……」

 

 試しにゴッドバードがデュエルディスクを構えてみると、アバターはそれに反応したのか、急に統率の取れた動きで一斉にデュエルディスクを構えた。

 

「へぇ、デュエルする知能あるようだな。おい、俺がこいつらを引き付けとく。お前はSOLの人間らしく避難誘導やっとけ」

「引き付けるって、この数を一人でですか?」

「心配すんな。雑魚共が何人束になろうと俺の敵じゃねぇ」

 

 そう言って彼は自信満々に不敵な笑みを浮かべる。

 

「……分かりました。任せましたよ」

 

 美海は指示通り、パニックになる人々を先導する。

 

「さぁて、かかってこいよ。俺がまとめてぶっ倒してやる!」

 

 ◆

 

 その頃、ログインしたプレイメーカーとソウルバーナーは、美海からの指示で騒ぎの原因を探すことになった。

 

「にしても、ここだけ風がつえぇな」

 

 ソウルバーナーの言う通り、騒ぎが起きているログアウト不可のエリアには突風が吹き荒れており、Dボードで移動するのも一苦労だった。

 

「この風、まさか……」

 

 不霊夢がそう呟いたその時、ひと際強い風が彼らの元へ吹く。

 

「よぉ、不霊夢」

 

 見ると、彼らより少し高い位置を飛行する一体のイグニスがいた。

 

「君は、ウィンディ!!」

 

 上から見下ろすウィンディは、下卑た笑みを浮かべる。

 

「この騒ぎは君の仕業か?」

「そうだよ。人間の意識を乗っ取るプログラムの実験」

「意識を乗っ取るだと? なぜそんなことを!?」

 

 不霊夢の疑問に、ウィンディは面倒くさそうに頭をかく。

 

「お前は来なかったから教えといてやるよ。僕らはもう、人間と敵対することを決めたんだよ」

「「「なっ!!」」」

 

 その場にいた全員が驚愕する。

 

「そういうわけで、僕は忙しいから、これで失礼するよ」

「待て!」

 

 立ち去ろうとするウィンディに、プレイメーカーはDボードを加速させて近付く。

 

「俺とデュエルだ。俺が勝てば、この騒ぎを止めてもらう」

「それ、僕に何のメリットが……ん?」

 

 すると、ウィンディはどこかに耳を澄ませて、なにやら聞き取れない声でうんうんと頷いている。

 

「……めんどくさいなぁ。分かったよ」

 

 誰かに向けてそう言うと、ウィンディがパチンッと指を鳴らす。

 

 すると、彼の横に木枯しのような小規模なデータストームが起こり、その中から緑色のスーツのように見える形状の体を持つ人型のアバターが現れた。

 

「ビット、相手してやれ」

「了解」

 

 ビットと呼ばれたそのAIは、デュエルディスクを構える。

 

「そいつに勝てば、仕掛けたプログラムを停止してあげるよ。その代わり、負けたら君の意識データをもらう」

「いいだろう」

 

「「スピードデュエル!」」

 

ターン1 プレイメーカー

 

「俺は手札のドットスケーパーを墓地へ送り、手札からビットルーパーを特殊召喚」

 

 槍を構えたSD玩具のような白い騎士が現れる。

 

「さらにサイバース・ガジェットを通常召喚。その効果で、墓地のドットスケーパーを特殊召喚。現れろ、未来を導くサーキット!」

 

 プレイメーカーが手を伸ばす先に、アローヘッドが出現する。

 

「召喚条件は、サイバース族モンスター2体!リンク召喚!スプラッシュ・メイジ!効果発動!」

 

 スプラッシュ・メイジが杖をクルッと一回転させると、リンク素材となったビットルーパーが蘇る。さらに墓地へ送られたサイバース・ガジェットの効果で、ガジェット・トークンが生成される。

 

「現れろ、未来を導くサーキット!召喚条件は、モンスター2体以上!リンク召喚!」

 

 アローヘッドから風が吹き、それが渦を巻いてフィールドを包み込む。

 

「唸れ嵐!虚構に渦巻く旋風は、万物を震わす竜の雄叫びとなる!いでよ、ファイアウォール・ドラゴン!」

 

 嵐の中から、白き機械の翼を羽ばたかせる電子の竜が降臨した。

 

「リンク素材となったドットスケーパーの効果!デュエル中に1度、フィールドから墓地へ送られた時、自身を特殊召喚。現れろ、未来を導くサーキット!リンク召喚!コード・トーカー!」

 

 ビットルーパーとドットスケーパーがアローヘッドに吸い込まれ、白い電脳の騎士となって、ファイアウォールのリンク先に特殊召喚される。

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン2 ビット

 

L(リンク)ジェネレーター・ウィンガーを召喚」

 

 フィールドに三つ連なった六角形の輪に、機械の翼がついたようなモンスターが現れる。

 

L(リンク)ジェネレーター・ウィンガー

効果モンスター

星1/風属性/サイバース族/攻 0/守 0

このカード名の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。

(1)このカードが召喚に成功した場合、自分のEXデッキからサイバース族リンクモンスターを相手に見せて発動できる。自分フィールドに見せたカードと同じ属性のL(リンク)ジェネレーター・トークン(星1・サイバース族・攻/守0)2体を特殊召喚する。この効果を発動するターン、自分はこの効果で見せたモンスターしかEXデッキから特殊召喚できない。

(2)墓地のこのカードを除外して発動できる。デッキから風属性以外の「L(リンク)ジェネレーター」モンスター1体を手札に加える。

 

「効果でエクストラデッキから、嵐闘機艦バハムートボマーを相手に見せて、フィールドにLジェネレーター・トークン2体を特殊召喚。ただしこのターン、我は見せたカード以外のモンスターをエクストラデッキから特殊召喚できない。現れろ、我がサーキット!召喚条件は風属性モンスター2体以上!リンク召喚!」

 

 アローヘッドから爆風が吹き、汽笛のような音が鳴り響く。

 

「リンク3、嵐闘機艦(ストームライダーシップ)バハムートボマー!」

 

 現れたのは鯨のような姿をした巨大な戦艦型のモンスターだ。

 

嵐闘機艦(ストームライダーシップ)バハムートボマー

リンク・効果モンスター

風属性/サイバース族/攻 2800/LINK 3

風属性モンスター2体以上

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できず、発動するターン、自分フィールドに魔法・罠カードをセットできない。

(1)自分の魔法&罠ゾーンにカードが存在せず、このカードがリンク召喚に成功した場合、相手フィールドのカード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊し、相手に500ダメージを与える。この効果の発動に対して、相手は魔法・罠カード・モンスターの効果を発動できない。

(2)自分の魔法&罠ゾーンにカードが存在しない場合に発動できる。相手の魔法・罠カード1枚を選んで墓地へ送り、相手に500ダメージを与える。この効果の発動に対して、相手は魔法・罠カードを発動できない。

 

「バハムートボマーの効果発動!リンク召喚に成功した場合、相手フィールドのカード1枚を破壊する!」

「なら俺はファイアウォール・ドラゴンの効果発動!このカードと相互リンク状態のカードの数だけ、フィールド・墓地のカードを手札に戻す!バハムートボマーを手札に!」

 

 バハムートボマーの背中の主砲、ファイアウォール・ドラゴンの翼にそれぞれエネルギーが集まる。

 

「エマージェンシーエスケープ!」

 

 二つの砲撃がぶつかり合う。

 のモンスターが倒されたかに見えたが、

 

「なっ!」

 

 爆煙が止むと、ファイアウォール・ドラゴンが消えて、バハムートボマーだけが生き残っていた。

 

「我はスキル、リンクプロテクションを発動していた。それにより、リンク召喚されたモンスターは、そのターン中、相手モンスターの効果を受けない。さらにバハムートボマーの効果で500ダメージを与える!」

 

 バハムートボマーの砲撃が、今度はプレイメーカーに向く。

 

「ぐぁっ!」

 

 砲撃が直撃し、Dボードを大きく揺らした。

 

 プレイメーカー:ライフ4000→3500

 

「さらにバハムートボマーのもう1つの効果!自分の魔法&罠ゾーンにカードがない時、相手の魔法・罠カード1枚を破壊し、500ダメージを与える。この効果に対して、相手は魔法・罠カードを発動できない!」

 

 バハムートボマーの砲撃が、セットカードを撃ち抜き、さらにライフを減らす。

 

 プレイメーカー:ライフ3500→3000

 

「アハハハッ!自分で挑んでおいて、何もできないでやんの!」

 

 たった1ターンで劣勢に追い込まれているプレイメーカーに対して、端で見ていたウィンディは高笑いを上げる。

 

「お前、そういえばあいつ、今はAiって名乗ってたんだっけか? 一緒にいたんじゃなかったの?」

「……」

「あー、もしかして見捨てられちゃった感じ? こりゃ傑作だ!」

 

 ウィンディは言い返せないプレイメーカーをさらに煽る。

 

「不霊夢、お前もそんなやつ見捨ててこっちへ来いよ。人間のお守りなんてめんどくさいだけだろ?」

「……ウィンディ、君は人間をどう思っている?」

「は?」

 

 不霊夢の突然の問いかけに、ウィンディは首を傾げる。

 

「君の見解を聞かせて欲しい」

「決まってるだろ。人間なんて、バカで邪魔なだけの存在だ」

「なるほど。君がそう判断したなら。その意見は尊重しよう」

「そうだろう。だから────」

「だが、君は一つ忘れている。我々が人の手によって生み出された存在であることを」

 

 不霊夢はウィンディの言葉を遮り、強い口調で言い放つ。

 

「我々は人から生まれ、人から学び、進化した。そのことへのリスペクトを忘れるようでは君はそこまでだ」

「こ、この……」

 

 ウィンディが悔しそうに顔を歪めるのをよそに、不霊夢はプレイメーカーの方を向く。

 

「プレイメーカー、我々が信用できないというならそれでもいい。だが、君が思い悩むのは君の中に、Aiを信じたいという気持ちがあるからじゃないのか」

「不霊夢……」

「Ai、君もだ!君がそうやって怒っているのは、彼に対する思いがあるからだろう。君たちのその友情の炎は、人とAIが決して相容れない存在ではないことの証明だ!その火をここで絶やしてしまっていいのか!?」

「……」

 

 不霊夢の言葉を受けても、デュエルディスクの中のAiは反応を示さない。

 

「ああーもううるさい!ビット!さっさと始末しろ!」

「了解」

 

 痺れを切らしたウィンディの指示で、ビットはデュエルを再開する。

 

「バトルだ。バハムートボマーで、コード・トーカーを攻撃!」

 

 バハムートボマーが砲撃を連射する。

 コード・トーカーは破壊され、流れた弾丸がプレイメーカーにぶつかり、Dボードをさらに大きく揺らす。

 

「っ!」

 

 そして、バランスを崩したプレイメーカーが、Dボードから足を滑らせて落下した。

 

「プレイメーカー!」

 

 ソウルバーナーが助けようと急いでDボードを走らせるが、強風もあり間に合わない。

 その時、

 

「ったく」

 

 落下したプレイメーカーの体を、黒い手が掴んでいた。

 

「やっぱり、俺様がいないと駄目だな」

 

 Aiが等身大サイズとなってDボードに乗り、プレイメーカーを助けていた。

 

「Ai……」

 

 Dボードの上に引っ張り上げると、Aiはプレイメーカーのデュエルディスクに戻る。

 

「……すまなかった」

「しょーがねーなー。まあ俺様、寛大なAIだしー。そこまで言うなら許してやらないこともないかなー」

 

 すっかりいつもの調子を取り戻したAiに、プレイメーカーは思わず笑みをこぼした。

 

「くそっ、あのまま落っこちちまえばよかったのに」

 

 ウィンディが悔しそうにするのをよそに、ビットはターンエンド宣言をした。

 

ターン3

 

「いくぞ。Ai」

「おう!」

「俺は手札から魔法カード、サイバネット・ドローを発動!」

 

サイバネット・ドロー

通常魔法

自分フィールドにリンク3以上の「コード・トーカー」モンスターが存在する場合、このカードの発動と効果は無効化されない。

(1)自分のフィールド・墓地・除外されているサイバース族リンクモンスターのリンクマーカーの合計が8以上の場合、自分のメインフェイズ1開始時に発動できる。自分はデッキから2枚ドローする。この効果発動後ターン終了時まで、自分はデッキからカードを手札に加えられない。

 

「デッキから2枚ドロー!」

「たった2枚の手札で何が……」

「俺はバランサーロードを召喚!」

 

 フィールドに剣と盾を携えた電脳の騎士が現れる。

 

「バランサーロードの効果発動!1ターンに1度、ライフを1000支払うことで、俺はこのターン、通常召喚に加えて1度だけ、サイバース族モンスターを召喚できる。俺はファイアウォール・ガーディアンを召喚」

 

 バランサーロードが剣を掲げると、その先にワームホールが開き、白い小竜が下りてくる。

 

「さあ、ここからどうする?」

 

 モンスターを並べたところで、プレイメーカーはAiに語りかける。

 

「無理だな。たった2体のモンスターじゃ、どうやったって勝てない」

「今の俺のデッキなら、だろ?」

 

 プレイメーカーの言葉に、Aiはニヤッと笑う。

 その瞬間、周囲に吹く風がより一層強くなり、コース上にデータストームが出現する。

 

 プレイメーカーはDボードを加速させ、データストームの中に突っ込む。

 

「自分のライフが1000以下の時、データストームの中から、ランダムなサイバース族モンスター1体をエクストラデッキに加える。風を掴め!プレイメーカー!」

「スキル発動!ストームアクセス!」

 

 プレイメーカーの右腕に、大量のデータが流れ込む。

 それに臆することなく、そこに眠るモンスターを呼び寄せる。そして、

 

「っ!」

 

 データストームを抜けて、手にしたカードを確認したプレイメーカーは目を見開く。

 

「ここでそいつが来たか」

 

 今までと違うカードに驚くプレイメーカーに対して、Aiはなるほどと言った顔をする。

 

「どういうことだ?」

「前にリボルバーと戦った時に、掴み損ねたカードだよ。さあやっちまえ!」

「……ああ。俺はレベル4のバランサーロードと、ファイアウォール・ガーディアンで、オーバーレイネットワークを構築!」

 

 プレイメーカーが両手を前に突き出し、重ねると、彼の行く先にエックス字のパネルが出現する。

 

「こ、これは……」

 

 2体のモンスターがデータとなり、螺旋状に渦巻きながらパネルの中に吸い込まれる。

 

「万物を蹴散らす、力の壁よ。今、竜の牙となりて顕現せよ!エクシーズ召喚!」

 

 光が爆ぜる。

 

「現れろ、ランク4!ファイアウォール・X(エクシード)・ドラゴン!」

 

 現れたのは黒と白の外装、蒼い光の翼をエックス字に広げるドラゴンだった。

 

「え、エクシーズ召喚だと!?」

「ファイアウォール・X(エクシード)・ドラゴンの効果発動!オーバーレイユニットを2つ使い、墓地のリンク4のサイバース族リンクモンスター1体を、このカードとリンク状態となるように特殊召喚する!蘇れ、ファイアウォール・ドラゴン!」

 

 2体のファイアウォール・ドラゴンが並び立ち、雄叫び上げる。

 

「この効果発動後、俺はモンスターを特殊召喚できず、直接攻撃できない。バトルだ!まずはファイアウォール・ドラゴンで、バハムートボマーを攻撃!」

「なに?」

 

 バハムートボマーの攻撃力は2800、ファイアウォール・ドラゴンでは攻撃力が足りない。

 

「墓地のファイアウォール・ガーディアンの効果発動!リンクモンスター同士が戦闘を行う攻撃宣言時、墓地のこのカードを除外することで、その攻撃を無効にし、バトルした相手モンスターの攻撃力を0にする!」

 

 ファイアウォール・ガーディアンがバハムートボマーにとりつき、電流を流して弱体化させる。

 

「バトルだ!ファイアウォール・X・ドラゴンで、バハムートボマーを攻撃!」

 

 ファイアウォール・X・ドラゴンの翼に、エネルギーが集まる。

 

「ファイアウォール・X・ドラゴンは、自身とリンク状態のリンクモンスターのリンクマーカーの数×500、攻撃力がアップする!」

「こ、攻撃力4500!」

「行け!ファイアウォール・X・ドラゴン!ライジング・クリプト・リミット!」

 

 翼からエックス字の炎が放たれ、バハムートボマーとビットを焼き尽くした。

 

 ◆

 

 

 デュエルが終了すると、ウィンディは悔しそうに空で地団太を踏む。

 

「くそっ、せっかく僕のエースモンスターを貸してやったのに、この役立たずが」

「さあウィンディ、観念してプログラムを停止させろ」

「チッ……」

 

 ウィンディが手元で何かを操作すると、周囲に吹く強風が止んだ。

 

「ログアウト不可の結界と、試作洗脳プログラムは解除したよ。これでいいだろ?」

 

 ウィンディはイライラした様子で彼らに背を向けて、そのまま彼方へ飛び去ってしまった。

 

「逃がしてよかったのか?」

「今はいいだろう」

 

 プレイメーカーは美海に電話をかける。

 

「美海、そっちは無事か?」

『えぇ。騒ぎは収まったようで。あなたが解決してくれたのですか?』

「それについては戻ったら話す」

『分かりました。では、先にログアウトして待っています』

 

 美海との通信を切り、プレイメーカーはAiの方を向き直る。

 

「Ai、ありがとう」

 

 プレイメーカーの素直な言葉に、Aiは少し照れ臭そうにする。

 

「仲直りできてよかったな」

「ああ。やはり友情は素晴らしい」

 

 ◆

 

ハノイのアジトでは、リボルバー、バイラ、スペクター、ジャックナイフの四人が集まっていた。

 

「ファウスト、ゲノム、我らの同士が二人、イグニスに囚われた」

 

 リボルバーが怒りを抑えるように呟く。

 

「よかったねぇバイラ、君は助かって」

「っ……」

 

 バイラは申し訳なさそうに目を反らす。

 

「しかし、結果的に助けられたとはいえ、一体誰がSOLにサイバース世界の情報を流したのでしょうねぇ」

 

 スペクターはチラッとジャックナイフの方を見る。

 

「さぁ、この中に裏切り者がいるとか?」

 

 彼はそれに対して、スペクターの方を向いてニヤッと笑い返した。

 

「今はそのようなことはどうでもいい」

 

 剣呑な雰囲気の部下達に、リボルバーが一喝を入れる。

 それを受けて、彼らはしぶしぶリボルバーの方を向き直る。

 

「既に奴らの攻撃は始まった。今日、風のイグニスがLINK VRAINSで洗脳プログラムの実験を行っていた」

「確かプレイメーカーが倒したんですよね」

 

 ジャックナイフはログ映像を引っ張り出して、みんなに見せる。

 

「もはや手段を選んでいる段階ではなくなった。やつらが本格的に人間と戦争を始める前に、始末する必要がある」

「でもどうするんですか~?」

「父が遺した例のプログラムを使う」

 

 それを聞いて、ジャックナイフを除く部下二人が驚いたような顔を見せる。

 

「り、リボルバー様、それは……」

 

 バイラが何か言いたげな顔を見せるが、リボルバーは彼らに背を向ける。

 

「準備を進めるぞ」

 

 



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第15話:Wings for facing

 財前邸で、葵は自分の部屋で自身のSNSアカウントをチェックしていた。

 

「ねぇ美海、今度は……美海?」

「え!」

 

 声をかけられた美海の体がビクンッと跳ねた。

 

「ご、ごめんなさい。ボーッとしてて」

「……美海、大丈夫? 最近ずっとそんな感じだけど」

 

 葵が心配そうに彼女の顔を覗き込む。

 美海はそんな自分を見られたくないのか、サッと顔を反らして葵に背を向ける。

 

「少し、顔を洗ってきます」

 

 美海は逃げるように部屋を出た。

 

「美海……」

 

 ◆

 

 翌日の昼休み、葵の呼び出しを受けて、遊作は学校の屋上にやってきた。

 

「藤木くん、美海が最近元気ないんだけど、何か心当たりない?」

「いや……」

 

 実のところある。

 

 美海に前回のウィンディとの邂逅、イグニスからの宣戦布告について話したところ、さらに思いつめたような顔をしていたのは記憶に新しい。

 

 彼女もまた、自分と同じようにどうすべきか迷っているのだろうが、それを葵に話すわけにもいかなかった。

 

「藤木くん、何か隠してる?」

 

 隠し事が下手なのか、葵が聡いのかは分からないが、彼の態度から嘘を見抜かれてしまっていた。

 

「お願い。私も美海の力になりたいの」

「それは先生も気になるわね」

 

 その時、二人っきりの屋上に、エマが乱入してきた。

 

「せ、先生には関係ないでしょ」

「あら、生徒の悩み事なら、私にも関係あるでしょ」

 

 エマは遊作に近付くと、葵を押しのけていやらしい手つきで彼の体に触れる。

 

「ねぇ、先生に話してみない?」

 

 彼女の豊満な胸が遊作に触れた瞬間、葵は彼の手を取る。

 

「も、もう授業なので失礼します」

 

 葵は遊作を連れて屋上を逃げるように去っていった。

 

 ◆

 

 二人が屋上を出て行った直後、エマのデュエルディスクに電話がくる。

 

『ゴーストガール、プレイメーカーの正体はつかめたか?』

「まだ調査中って言ったでしょ。せっかちな男は嫌われるわよ?」

『期日は既に迫っている。クライアントが催促するのは当たり前だろう?』

「はいはい。まあ期待しといてよ」

 

 そう言ってエマは電話を切る。

 

「全く、SOLのお偉いさんはこれだから困るわね」

 

 エマはため息を吐く。

 

「まあ、私の中ではほぼ答えは出てるけど、情報屋として証拠もなしに提出するわけにもいかないしね」

 

 その時、またデュエルディスクに着信が入る。

 エマはイライラした様子で、電話に出る。

 

「だーかーらー、まだ調査中────」

『ゴーストガール、私です』

 

 電話口から聞こえたのは、ビショップではなく少女の声だった。

 

「あら、μ(ミュー)ちゃん。どうしたの?」

『実はあなたに調べてほしいことがありまして』

「仕事の依頼なら報酬次第ね」

『以前、あなたに譲ったプレイメーカーの現れる場所と日時に関する情報、そちらの代金を今取り立てさせてください』

 

 美海がSOLテクノロジーサーバー内で、プレイメーカーこと遊作とデュエルする(たたかう)際に、SOLに情報源を追及された時のために、帳尻合わせとしてゴーストガールに情報を渡していた。

 

「抜け目ないわね。いいわ。何を調べて欲しい?」

『SOLが開発しているAI、IGS-000の出処、できればそのソースコードも欲しいです』

 

 SOLのAIについては、エマ自身もそれとなく探っていた。

 その矢先に、SOLテクノロジーからプレイメーカーの正体を探るように依頼が来たのだ。まるで余計な手出しはするなと言わんばかりに。

 

 学校教師をやる裏で、長くネットの情報屋として活動していた彼女には、これが危険なヤマであることは察していた。

 

「ちょっと割に合わないわね」

『あなたなら余裕でしょう。プレイメーカーの正体を探ろうとしているあなたなら』

「それ知ってるってことは、やっぱり彼がプレイメーカー?」

『さあなんのことでしょうか』

 

 美海は電話越しにおどけて見せる。

 

「……分かったわ。その代わり、あまり期待はしないでよ」

『えぇ。期待せずに待っています。あ、それからこれは関係ない話なのですが、遊作に色仕掛けするのは止めてください。遊作と葵様は今いい感じなので、邪魔をされては困ります』

「一応聞いておくわ。それじゃあね」

 

 そう言って、エマは通話を切った。

 

「全く、うちの生徒は末恐ろしい子が多いわね」

 

 ◆

 

 それから数日が経ったある日、美海はエマに呼び出されて、LINK VRAINSにログインしていた。

 

「ここは……」

 

 そこはLINK VRAINSの下層にある古いエリアだった。

 廃墟のような壊れた建物のが、時折ノイズを発して像を歪ませながらいくつも立ち並ぶ。

 

「ここはとある企業が保有していたネットワークよ」

 

 ゴーストガールことエマが、建物の陰から現れた。

 

「とある企業?」

「えぇ。元は医療機器メーカーで、今はSOLテクノロジーに買収されている」

「もしかして、その企業がIGS-000を作ったのですか?」

「確かなことは分からないけど、残留データの中に、あなたが見せてくれたイグニスアルゴリズム、だっけ? それによく似たプログラムがあった。AIを開発していたという記録もね」

 

 ゴーストガールは手元に、カード状のデータファイルを出現させる。

 

「残念だけど、開発の経緯とか、詳細な実験内容までは載ってなかったわ」

「それでも十分です」

 

 美海はそれを受取ろうと一歩前に出るが、ゴーストガールはそれを避けるように後ろに下がる。

 

「どういうつもりですか?」

 

 美海の顔が険しいものになる。

 

「あなた、お友達でも連れてきたの?」

「え?」

 

 ゴーストガールの目線の先へ振り替えると、物陰から特徴的な羽が飛び出していた。

 

「ブルーエンジェル!?」

 

 美海に名前を呼ばれると、ブルーエンジェルは照れ笑いをしながら物陰から出てきた。

 

「ど、どうしてあなたが……」

「ごめん。どうしても美海のことが心配で」

 

 今日は駅前のネットカフェからログインしていたはずだ。

 ということは、葵にそこまで付けられていたことになる。

 

 自分の迂闊さと、普段ならやらないようなミスを犯してしまう今の自分の状態に嫌気が差した。

 

「どうする? ご主人様に心配かけちゃうような状態で、このデータを持ち帰って本当に大丈夫?」

「私は……」

 

 その時、彼女達の鼻先を潮の香りが撫でた。

 

 周囲から水が集まり、空中に青いイグニスの姿を具現化させた。

 

「な、なに!?」

「初めまして。人間の皆さん。水のイグニス、アクアと申します」

 

 アクアと名乗ったそのイグニスは、空中で丁寧にお辞儀をする。

 

「っ……」

 

 その瞬間、美海の胸になにか突き刺さるような感触があった。

 

「これは……」

 

 アクアの方も同じ感覚を味わったようで、美海の方を見て納得したような顔を浮かべる。

 

「なるほど、あなたが私のオリジンですね」

「オリジン?」

 

 アクアはその疑問には答えず、静かに手を差し出す。

 

「そちらの方、我らが同胞のデータを渡してください」

「欲しいなら、それなりの額を払ってもらうことになるけど?」

 

 ゴーストガールの態度に、アクアはため息を吐く。

 

「では……ビット、ブート」

 

 アクアが指を鳴らすと、先程と同じように水流が空を駆け、二体のAIを生成した。

 

「彼女からデータを奪ってください」

「「了解」」

 

 ビットとブートがDボードに乗って、ゴーストガールに迫る。

 そこに、すかさず美海が立ちふさがった。

 

「このデータは渡せません」

「私も戦う」

 

 すると、ブルーエンジェルも前に出て、美海の隣に立つ。

 

「い、いや、しかし……」

「美海が何に悩んでいるのか、何と戦ってるのか。私には分からない。それでも、美海の力になりたいの」

 

 ブルーエンジェルは美海の方を向いて笑いかける。

 

「友達でしょ」

「……葵、様」

 

 二人は前を向き直る。

 

「話はついたようですね。ビット、ブート、始めてください」

 

「「「「スピードデュエル」」」」

 

 ◆

 

 ビットとブルーエンジェルのデュエル、先攻はビット。

 

「私はL(リンク)ジェネレーター・フィッシャーを召喚」

 

L(リンク)ジェネレーター・フィッシャー

効果モンスター

星1/水属性/サイバース族/攻 0/守 0

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが召喚に成功した場合、自分のEXデッキからサイバース族リンクモンスターを相手に見せて発動できる。自分フィールドに見せたカードと同じ属性のL(リンク)ジェネレーター・トークン(星1・サイバース族・攻/守0)2体を特殊召喚する。この効果を発動するターン、自分はこの効果で見せたモンスターしかEXデッキから特殊召喚できない。

(2) 墓地のこのカードを除外し、自分フィールドのサイバース族リンクモンスター1体を対象として発動できる。対象のモンスターをそのモンスターのリンク先となる自分のメインモンスターゾーンへ移動させ、デッキから対象のカードと同じ属性のサイバース族モンスター1体を手札に加える。この効果で手札に加えたカード及びその同名カードの効果は発動できない。

 

「エクストラデッキから、海晶乙女(マリンセス)マーブルド・ロックを相手に見せることで、そのカードと同じ属性のL(リンク)ジェネレーター・トークン2体を特殊召喚」

「いきなりモンスター2体も……」

「この効果を発動するターン、自分は見せたモンスターしかエクストラデッキから特殊召喚できない。現れよ、我がサーキット!」

 

 ビットが手を掲げると、頭上にアローヘッドが出現する。

 

「召喚条件は水属性モンスター2体以上、我はフィッシャーと、トークン2体をリンクマーカーにセット!リンク召喚!海晶乙女(マリンセス)マーブルド・ロック!」

 

 現れたのは、逆立った青い髪、魚を模した衣装をまとった女性だった。

 

「墓地のフィッシャーの効果発動、マーブルド・ロックをリンク先のモンスターゾーンへ移動させ、デッキから同じ属性のサイバース族モンスター1体を手札に加える。海晶乙女(マリンセス)シースターを手札に。そしてスキル発動!マーカーズポータル!」

 

 ビットが手を広げると、上空より矢が降り注ぐ。

 

「な、なに!?」

 

 ビットのフィールドに1枚の奇妙な魔法カードが現れる。

 

「リンク魔法、裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)!」

 

裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)

リンク魔法

【リンクマーカー:左上/上/右上】

リンク魔法は自分のリンクモンスターのリンク先となる魔法&罠ゾーンにのみ発動できる。

(1)「裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)」は自分フィールドに表側表示で1枚しか存在できない。

(2)このカードのリンク先のリンクモンスターが戦闘を行う場合に発動できる。そのモンスターの攻撃力はダメージ計算時のみ倍になる。

(3)このカードがフィールドを離れた場合、このカードのリンク先のモンスターは墓地へ送られる。

 

「リンクマーカーを持つ魔法カード?」

「我はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン2 ブルーエンジェル

 

「私のターン!私はトリックスター・ヒヨスを召喚。フィールド魔法、トリックスター・ライトステージを発動!」

 

 周囲が暗闇に包まれ、それを照らすように色とりどりの光が灯る。

 

「効果でデッキからリリーベルを手札に。リリーベルはドロー以外で手札に加わった時、特殊召喚できる。出てきて、夢と希望のサーキット!」

 

 両手で投げキッスを行うと、ハートが飛びでてアローヘッドへと変化する。

 

「召喚条件はトリックスター2体。リンク召喚!リンク2、トリックスター・ホーリーエンジェル!」

 

 ブルーエンジェルのエースモンスター、ホーリーエンジェルがアローヘッドよりフィールドに舞い降りた。

 

「リンク素材となったヒヨスは、自身の効果で墓地から特殊召喚」

 

 ホーリーエンジェルの後ろに黒い大きなハテナマークの書かれた箱が現れ、中からヒヨスが飛び出した。

 

「ホーリーエンジェルのリンク先にモンスターが出たことで、相手に200ダメージ!ライトステージの効果で、さらに200ダメージ!」

 

 ビット:ライフ4000→3600

 

「相手がトリックスターモンスターの効果でダメージを受けたことで、ホーリーエンジェルの攻撃力はその数値分アップする」

 

 ホーリーエンジェル:攻撃力2000→2200

 

「私は魔法カード、トリックスター・フェスを発動!トリックスター・トークン2体を特殊召喚!」

 

 仮面をつけたアイドル衣装の天使が二人、ダンスしながらフィールドに現れる。

 

「リンク先にモンスターが出たことでさらにダメージ!さあ出てきて、夢と希望のサーキット!」

 

 ハートのエフェクトが舞い、アローヘッドを出現させる。

 

「召喚条件はトリックスターモンスター2体!私はトリックスター・トークンをリンクマーカーにセット!リンク召喚!リンク2、トリックスター・スイートデビル!」

 

 現れたのはゴシックな衣装、黒猫のようなしっぽを二本生やした少女だった。

 

「リンク先にモンスターが出たことで、さらにダメージ!」

 

 ビット:ライフ3200→2800

 ホーリーエンジェル:攻撃力2400→2600

 

「トリックスター・スートデビルの効果!トリックスターモンスターの効果でダメージを与えるたびに、自身のリンク先のモンスターの数×200、相手モンスターの攻撃力をダウンさせる!」

 

 スートデビルがクルッと一回転し、杖を振るうと、マーブルド・ロックの攻撃力が2300まで下がる。

 

「ダメージを与えたことで、ナルキッスを手札から特殊召喚!さらにヒヨスを対象に、手札のマンジュシカの効果発動!ヒヨスを手札に戻し、自身を特殊召喚!」

 

 ヒヨスがバク転を披露すると、空中で入れ替わるようにマンジュシカが現れる。

 

「ただし、ヒヨスは自身の効果で特殊召喚した時、フィールドを離れた場合除外される。ライトステージの効果発動!相手のセットされたカード1枚はこのターン、発動できず、エンドフェイズに発動するか、墓地に送らなければならない」

 

 ステージ上のライトが瞬き、伏せカードに七色の鎖を絡ませる。

 

「スキル!トリックスター・ギグを発動!自分フィールドのトリックスターの数だけデッキの上からカードを墓地へ!」

 

 ブルーエンジェルの衣装の背中が広げられ、デュエルディスクから4枚のカードが砕けて消えていく。

 

「その後、墓地からトリックスターカード1枚を手札に加える。私はトリックスター・リンカーネーションを手札に。このスキルで手札に加えたカードはこのターン、効果を発動できない。さらにデッキから墓地に送られたトリックスター・メルキーの効果発動!」

 

トリックスター・メルキー

効果モンスター

星2/光属性/天使族/攻 800/守 400

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが墓地に送られた場合、自分フィールドに「トリックスター」リンクモンスターがいれば発動できる。相手に200ダメージを与える。

(2)このカードが墓地に存在し、自分フィールドの「トリックスター」リンクモンスターが相手に戦闘・効果でダメージを与えた場合に発動できる。このカードを墓地からそのリンクモンスターのリンク先に特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたこのカードはフィールドを離れた場合、除外される。

 

「相手に200ダメージ!ライトステージの効果で追加ダメージ!」

 

 ビット:ライフ2800→2400

 ホーリーエンジェル:攻撃力2600→2800

 マーブルド・ロック:攻撃力2300→1900

 

「私はカードを1枚伏せて、さあバトルよ!ホーリーエンジェルで、マーブルド・ロックを攻撃!」

 

 ホーリーエンジェルが華麗に舞い、空中で鞭を振るう。

 

「この瞬間!裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)の効果発動!リンク先のリンクモンスターの攻撃力を、ダメージ計算時のみ倍にする!」

「なっ!」

 

 マーブルド・ロックの攻撃力が一気に3800まで上昇し、ホーリーエンジェルの攻撃力を上回る。

 

 マーブルド・ロックは右手の爪で鞭をからめとると、逆にホーリーエンジェルを叩き落とした。

 

「墓地のトリックスター・フェスの効果!エクストラデッキから特殊召喚されたトリックスターの身代わりに除外できる!」

 

 どうにかホーリーエンジェルを場に残すが、攻撃力が2倍になるのでは手がつけられない。

 

「私はこれでターンエンド。この瞬間、スートデビルとホーリーエンジェルの効果は切れて、攻撃力は元に戻る」

「我はエンドフェイズに、L(リンク)ジェネレーター・コードを発動!」

 

L(リンク)ジェネレーター・コード

通常罠

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分フィールドにサイバース族リンクモンスターが存在する場合、墓地の「L(リンク)ジェネレーター」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターのリンク先に、対象のモンスターを特殊召喚する。その後、対象のモンスターと同じ属性のL(リンク)ジェネレーター・トークン(星1・サイバース族・攻/守0)1体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたモンスターがフィールドに表側表示で存在する限り、自分はサイバース族リンクモンスターしかEXデッキから特殊召喚できない。

(2)墓地のこのカードと「L(リンク)ジェネレーター」モンスター1体を除外して発動できる。墓地から「L(リンク)ジェネレーター」モンスター以外のサイバース族モンスター1体を手札に加える。

 

「墓地からLジェネレーター・フィッシャーを特殊召喚。さらに水属性のL(リンク)ジェネレーター・トークンを生成」

 

ターン3 ビット

 

「ドロー」

「マンジュシカとライトステージの効果で200ダメージ!」

 

 ビット:ライフ2400→2000

 ホーリーエンジェル:攻撃力2000→2200

 マーブルド・ロック:攻撃力2500→2100

 

「現れろ、我がサーキット!召喚条件はサイバース族モンスター2体!リンク召喚!リンク2、L(リンク)ジェネレーター・ユニットブルー!」

 

L(リンク)ジェネレーター・ユニットブルー

リンク・効果モンスター

水属性/サイバース族/攻 1200/LINK2

【リンクマーカー:上/右】

サイバース族モンスター2体

(1)このカードのリンク先のモンスターの攻撃力は500アップする。

(2)このカードと相互リンク状態の「L(リンク)ジェネレーター」モンスター以外のサイバース族リンクモンスターは相手モンスターの効果を受けない。

(3)このカードと相互リンク状態の水属性のサイバース族リンクモンスターが戦闘で相手モンスターを破壊し墓地へ送った場合に発動できる。相手フィールドのカード1枚を選んで破壊する。

 

「ユニットブルーの効果でリンク先のモンスターは攻撃力500アップ。手札の海晶乙女シースターの効果。このカードを手札から墓地へ送り、マーブルド・ロックの攻撃力を800アップする」

「ナルキッスの効果!相手が手札・墓地のモンスターの効果を発動した時、相手に200ダメージ!ライトステージの効果でさらに200ダメージ!」

 

 ビット:ライフ2000→1600

 ホーリーエンジェル:攻撃力2200→2400

 マーブルド・ロック:攻撃力3400→3000

 ユニットブルー:攻撃力1200→800

 

「ならばマーブルド・ロックの効果発動!墓地のマリンセス1枚を手札に戻す」

「だったら私は罠カード、トリックスター・リンカーネーションを発動!相手の手札を全て除外し、その枚数分、相手はカードをドローする!」

 

 回収したカードを即座に除外され、さらにマンジュシカの効果でダメージを喰らう。

 

 ビット:ライフ1600→800

 ホーリーエンジェル:攻撃力2400→3000

 マーブルド・ロック:攻撃力3000→2600

 ユニットブルー:攻撃力800→400

 

「なら我は、L(リンク)ジェネレーター・リペットを召喚」

 

L(リンク)ジェネレーター・リペット

効果モンスター

星2/光属性/サイバース族/攻 0/守 0

このカード名の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。

(1)自分フィールドのサイバース族リンクモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターのリンクマーカーの数×500、自分のライフを回復する。その後、このカードの属性を対象のモンスターと同じにする。

(2)自分フィールドにモンスターが存在しない場合、墓地のこのカードを除外し、自分の墓地のサイバース族リンクモンスター1体を対象として発動できる。対象のモンスターを墓地から特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたモンスターの効果は無効化され、フィールドを離れた場合、除外される。

 

「マーブルド・ロックを対象に効果発動。そのリンクマーカーの数だけライフを回復」

 

 ビット:ライフ800→2300

 

「さらにユニットブルーとリペットを使い、リンク召喚!ユニットブルー!」

 

 ユニットブルーが出しなおされてしまい、せっかく下げた攻撃力が元に戻ってしまった。

 

「バトルだ。マーブルド・ロックで、ホーリーエンジェルを攻撃!裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)の効果発動!攻撃力は倍になる!」

 

 攻撃力5200となったマーブルド・ロックが、ホーリーエンジェルを引き裂いた。

 

 ブルーエンジェル:ライフ4000→1800

 

「ユニットブルーの効果発動!相互リンク状態の水属性のサイバース族リンクモンスターが戦闘で相手モンスターを破壊した時、相手フィールドのカード1枚を破壊する!ライトステージを破壊!」

 

 ユニットブルーが放ったビームが、幻影のステージを破壊する。

 

「ユニットブルーでスイートデビルを攻撃!この瞬間、裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)の効果で攻撃力は倍になる!」

 

 攻撃力2400となったユニットブルーが、スイートデビルを粉砕する。

 

 ブルーエンジェル:ライフ1800→1400

 

「我はこれでターンエンド」

 

ターン4

 

 ブルーエンジェルの手札は既にゼロ。スキルも使用済みで、残されたのはフィールドの2体のモンスターと、次にドローするカード。

 

「私のターン、ドロー!」

 

 ドローしたカードは、トリックスター・キャロベイン。

 

「……これなら。私は墓地のトリックスター・リンカーネーションの効果発動!このカードを除外し、墓地からトリックスター・ホーリーエンジェルを特殊召喚!出てきて、夢と希望のサーキット!」

 

 ハートのエフェクトが瞬き、アローヘッドを形作る。

 

「召喚条件はトリックスター2体以上!私はナルキッス、マンジュシカ、そしてリンク2のホーリーエンジェルをリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン!」

 

 アローヘッドより花びらが舞う。

 

「リンク召喚!リンク4、トリックスター・ベラマドンナ!」

 

 現れたのは荘厳な衣装をまとった女性だった。

 

「ベラマドンナの効果!このカードのリンク先にモンスターが存在しない場合、墓地のトリックスターモンスターの種類の数×200ダメージを相手に与える!墓地のトリックスターは8種類!よって1600のダメージ!」

 

 ベラマドンナが大鎌を掲げると、フィールドに花びらが舞い、ブートに襲い掛かる。

 

 ブート:ライフ2300→700

 

「バトルよ!ベラマドンナで、ユニットブルーを攻撃!」

裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)の効果!攻撃力は2倍!」

 

 ベラマドンナの攻撃力は2800、ユニットブルーの攻撃力は2400、削り切るには少し足りない。

 

「私は手札のトリックスター・キャロベインの効果!このカードを手札から墓地へ送り、ベラマドンナの攻撃力をその元々の攻撃力分アップする!」

「なっ!」

 

 ベラマドンナの大鎌に光が集まる。

 

「シャイニングエスポワール!」

 

 ◆

 

 美海とブートのデュエル、ブートのフィールドには海晶乙女(マリンセス)マーブルド・ロック、L(リンク)ジェネレーター・ユニットブルー、そしてリンク魔法の裁きの矢。

 

 対する美海のフィールドには原初海祈(オリジンブルー)タイタニーニャのみ。

 美海のライフは既に1000を切っており、対してブートはまだ1800も残っている。

 

「どうしたのですか? サイバースを使いながらこの程度とは」

 

 アクアは煽るわけでもなく、ただ疑問をぶつけるような口調で言う。

 

「……あなたは、人間は滅ぶべきだと考えているのですか?」

 

 それに返すかわりに、美海は質問をぶつける。

 それに対して、アクアは静かに首を振った。

 

「いいえ。ただ管理が必要とは考えます」

「管理?」

「はい。我々への攻撃はもちろん、人間は同胞ともすぐに争う非常に好戦的な存在です。当たり前ですが戦えば命は失われる。このまま放っておけば、我々が何もしなくても人類は滅んでしまうでしょう」

「だからあなた達が管理すると」

「これはイグニス全体の総意ではありませんが、少なくとも私はそう考えています」

 

 なんとなくだが、彼女と相対して美海は理解した。

 

 考え方は突飛だが、彼女の根底にあるのは悪意ではない。

 単に人間に攻撃されたから仕返しするというのではなく、むしろ彼女なりに人のためを思ってやっているとすら取れる。

 

(けれど、それはイグニス全体の総意では……)

 

 ──── 自分のことは自分で決めろ

 

 そこでゴッドバードの言葉を思い出す。

 

(そうだ。彼らは自分で考えて、その結論を出した。Aiや不霊夢も、自分で考えて遊作や尊と共にいる)

 

 鴻上博士のレポートには、シミュレートの結果、イグニスという存在が人類を滅ぼすと記載されていた。

 だが、今相対するアクアも、Aiも、不霊夢も、皆が異なる考えを持っている。

 

(シミュレートの結果がなんだ。イグニスという存在で一括りして敵だと決めるつける必要はない。彼ら一人一人と向き合い、その上で判断すればいい)

 

「行きます。私のターン!」

 

 美海はDボードを加速させる。

 

 その先にあるのはデータストーム。

 

「自分のライフが1000以下の時、データストームの中からランダムなサイバース族モンスター、もしくはサイバネット魔法・罠カード1枚を手札に加える!スキル発動!ストームコネクション!」

 

 データストームを突き抜け、彼女が手にしたカードはモンスターカード。

 

「私は原初海祈(オリジンブルー)ホーンドシェルを召喚!」

 

 槍のような貝殻から触手がいくつも伸びたモンスターが姿を現した。

 

原初海祈(オリジンブルー)ホーンドシェル

効果モンスター

星5/水属性/サイバース族/攻 1200/守2200

(1)自分の「オリジンブルー」リンクモンスターが存在する場合、このカードはリリースなしで召喚できる。

(2)このカードがサイバース族SモンスターのS素材となって墓地に送られた場合に発動できる。このカードを墓地からS召喚されたモンスターに装備カード扱いで装備する。装備モンスターは攻撃力1200アップし、戦闘を行う場合、相手はダメージステップ終了時まで効果を発動できない。

 

「自分のオリジンブルーリンクモンスターがいる時、このカードはリリースなしで召喚できる。続けて私は魔法カード、原初海復(オリジンブルー・リカバリー)を発動!」

 

原初海復(オリジンブルー·リカバリー)

速攻魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1)以下の効果から1つを選択して発動できる。

●自分の墓地から「オリジンブルー」モンスター1体を特殊召喚する。

●自分フィールドのバックログカウンターを任意の数だけ取り除き、その数だけこのターンに墓地に送られた「オリジンブルー」モンスターを特殊召喚する。

 

「墓地からマイアーカイブを特殊召喚」

 

原初海祈(オリジンブルー)マイアーカイブ

効果モンスター

星2/水属性/サイバース族/攻 500/守 500

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「オリジンブルー」カード1枚を墓地へ送る。

(2)このカードが他のメインモンスターゾーンに移動した場合、墓地の水属性モンスター1体を対象として発動できる。対象のカードを手札に加える。このターン、この効果で手札に加えたサイバース族モンスター以外のカード及びその同名カードの効果は発動できない。

 

「タイタニーニャの効果!マイアーカイブをチューナーとして扱い、ホーンドシェルにチューニング!」

 

 タイタニーニャから触手が伸び、マイアーカイブにデータが流し込まれる。

 

「太古の泉より、その美しき歌声を響かせよ!シンクロ召喚!レベル7、原初海祈プレシオルタ!」

 

原初海祈(オリジンブルー)プレシオルタ

シンクロ·効果モンスター

星7/水属性/サイバース族/攻 2300/守 2000

水属性チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

(1)このカードが効果で隣のメインモンスターゾーンに移動する場合、かわりにリンクモンスターのリンク先となるメインモンスターゾーンに移動できる。

(2)1ターンに1度、自分フィールドのバックログカウンター1つを取り除いて発動できる。このカードと同じ縦列の相手のカードを全て手札に戻す。この効果は相手ターンでも発動できる。

(3)1ターンに1度発動できる。このカードを隣のメインモンスターゾーンに移動させる。

 

「墓地に送られたホーンドシェルの効果!このカードをシンクロ召喚されたプレシオルタに装備カード扱いで装備する!」

 

 ホーンドシェルの貝殻が、プレシオルタの額にとりつき、一角獣の角のようになる。

 

「これにより、プレシオルタの攻撃力は1200アップする!プレシオルタの効果!ユニットブルーの正面へ移動!」

 

 プレシオルタが横に移動し、ユニットブルーと向き合う。

 

「プレシオルタの効果!バックログカウンター1つを使うことで、ユニットブルーを手札に!」

 

 プレシオルタが鳴き声を奏でると、空気を揺らすその音が、ユニットブルーをフィールドから押しのける。

 

「バトル!プレシオルタで、マーブルド・ロックを攻撃!タイタニーニャの効果で、プレシオルタの攻撃力は、バックログカウンターの数×200アップする!カウンターは4つ、よって800アップする!」

「だが、こちらも裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)の効果で……」

「ホーンドシェルの効果!装備モンスターがバトルする時、相手はダメージステップ終了時まで効果を発動できない!」

「なっ!」

「これで終わりです!」

 

 ◆

 

 デュエルが終了した後、アクアに美海が語り掛ける。

 

「アクア、あなたは私のことをオリジンと言いましたよね。それはどういう意味ですか?」

「オリジンとは、我々の元になった人間です。我ら六体のイグニスには、パートナーとも呼ぶべき六人の人間がそれぞれいると」

 

 実験台となった自分たち六人と、六体のイグニスがそれぞれ対応している。

 Aiや不霊夢も知らなかった情報だ。

 

「あなたは、実験の時の記憶があるのですか?」

「いいえ。私はオリジンの存在を知識として知っているだけで、あなたに会うまで自分のオリジンが誰なのかは知りませんでした」

「それなら、どうして……」

「あなたも感じたでしょう? 自分のリンクセンスで」

 

 彼女の言う通り、アクアと出会った瞬間、胸に突き刺さるような感覚があった。

 

「では、また会いましょう。私のオリジン」

「あ、待って!」

 

 引き止める間もなく、アクアは消えてしまった。

 

「イグニスと、オリジン」

「美海!」

 

 アクアの言葉について考えていると、ブルーエンジェルが美海に抱き着いてきた。

 

「大丈夫だった!?」

「えぇ。おかげ様で」

 

 ブルーエンジェルの顔を見て、美海の表情は穏やかになる。

 

「美海、ちょっと元気になった?」

「そう、かもしれません」

「はーい。二人ともいちゃつくのはいいけど、私のこと忘れてない?」

 

 ゴーストガールの言葉で、ブルーエンジェルは慌てて美海から離れる。

 

「約束通り、このデータは渡すわ」

 

 ゴーストガールからデータを受け取り、美海はお辞儀をする。

 

「美海、そのデータって……」

「……これを話すということは、あなたを危険な戦いに巻き込むことになります」

「分かってる。それでも美海の力になりたい」

「止めて聞くような人ではありませんよね」

 

 彼女の思いに押され、美海は決心をした。

 

「分かりました。今度私の仲間を紹介します。その時に、葵様にも全てお話しします」

「えぇ」

「それじゃあ、帰りましょうか」

 

 



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第16話:Friends Meeting

遊作達、デュエル部のメンバーがただ駄弁るだけ


 その日、遊作は他のデュエル部のメンバーと一緒に財前邸のリビングに集まっていた。

 

「すげー金持ちの家だ」

「わー恵まれた人の匂いがするー」

 

 島と切花が各々感想を述べるのを横目に、美海は頭を抱えていた。

 

(どうしてこうなった……)

 

 美海は葵をレポート探しの仲間に加えるために、この会を開いたのだが、デュエル部のメンバーで懇親会をしようという建前で集めたせいか、島と切花まで参加することになってしまった。

 

「どうするの? もういっそこの二人も誘っちゃう?」

 

 尊は遊作と美海を近くに集めて、小声でそんなことを聞くが、

 

「いや駄目だろ」

「駄目ですね」

 

 二人は同時に否定した。

 

「夢乃はまだ疑いが晴れたわけじゃない。それに、島は戦力にならないだろう」

「酷いね……」

「あの二人は、隠し事とかできそうなタイプではありません」

「まあそうだね。なんとか折を見て、帰ってもらおう」

 

 三人の方針が固まったところで、懇親会に戻る。

 

「そういや、藤木、この間のLINK TVは見たか?」

 

 LINK TV。その名の通りLINK VRAINSに関する内容を報道するネットの情報番組だ。

 

「見てない」

「おいおい。前回のはカリスマデュエリスト人気投票発表の回だぞ? これ見ないでLINK VRAINSは語れないだろ」

 

 そう言うと、島はタブレットで番組のキャプチャを見せてくれた。

 そこにはランキングの一位から二十位まで、カリスマデュエリストの名前がずらりと並んでいた。

 

「今回も一位はソウルバーナーか。やっぱ男女両方に人気があるのはデカいよな」

 

 遊作は尊の方をチラッと見る。

 彼はまんざらでもなさそうに頭をかいている。

 

「で、二位はブルーエンジェル。この前のプレイメーカー偽物騒動で好感度を上げたのが要因だな」

「ああ。SNSで情報発信してプレイメーカーの無実を証明してくれたんだよな……財前、なんで嬉しそうなんだ?」

 

 今ところ、まだ葵がブルーエンジェルだとは知らない遊作は、満足気な表情でいる彼女に対して疑問を投げかけた。

 

「ふぁ、ファンとして嬉しいだけ」

「そうか……」

 

 特に興味もなかったので、遊作はランキング表に視線を戻す。

 

「まあ一位になれなかったのは、やっぱあの噂のせいだな」

「噂?」

「ほら、ブルーエンジェルはプレイメーカーと付き合ってるじゃないかって────」

「つ、付き合ってない!」

 

 突然葵は立ち上がって、テーブルを思いっきり叩いた。

 

「お、落ち着けよ財前。あ、さてはお前……」

 

 島のしたり顔に、葵は正体がバレたのではないかと、顔を強張らせるが、

 

「ブルーエンジェルのガチ恋勢だろ」

 

 直後、彼の的外れな発言にホッと胸をなでおろした。

 

「ガチ恋って、なんだ?」

「藤木はそんなことも知らねぇのか。推しのことが好きすぎて、自分が付き合いたいって思うやつのことだよ。だからこうやって、恋人がいるかもって噂が立てば、ガチ恋勢からの票がなくなるんだよ」

 

 島のおかげでその場を乗り切れたが、遊作達に対して変な印象がついてしまったことに、葵は落ち込んでいた。

 

「で、三位は前回二位のミネルヴァか。まあ元々ブルーエンジェルとは接戦だったしな」

「確か、デュエルランキングでも、ブルーエンジェルとはずっと上位争いをしてるんだよね」

「そうそう。穂村はよく知ってるな」

 

 同じカリスマデュエリストの尊は、その辺りの事情にも詳しかった。

 

「で、Go鬼塚は十一位か。前回八位だったから順位落ちてるな。デュエルの方はずっと一位キープしてんだけどなぁ」

「やっぱりビジュアルですかね」

「ビジュアルね」

「ビジュアルだね」

「いや、Go鬼塚はかっこいいでしょ!」

 

 女子三人からの心無い言葉に、事務所の後輩でもある尊が反論する。

 

「あのファイトスタイル、鍛え上げられた肉体、丁寧なファン対応にエンタメ精神!男なら誰もが憧れるだろ!」

 

 熱くなりすぎて、尊は立ち上がって熱弁を始める。

 

「落ち着けよ。お前、そんなキャラだったか?」

「ちょっと素が出てますね」

「そういえば、デュエルの方は、前シーズンは誰が二位だったんだ?」

 

 遊作は一位がGo鬼塚、三位がブルーエンジェルだとは記憶してるが、元々そういった情報に疎い彼は、詳しいランキングについては覚えていなかった。

 

「ああ。二位はカゲロウってデュエリストだ」

「カゲロウ、ここには名前はないな」

 

 二位ともなれば相当な実力者だが、人気投票の一位から二十位までの間に、その名前は見当たらなかった。

 

「カゲロウはヒールキャラだからな。卑怯な戦法が有名で、あんま評判がよくないんだよな」

 

 島はタブレットで画像を見せてくれた。

 忍者のような黒づくめの衣装に、顔は白いペストマスクで覆われた確かに悪そうなデュエリストだ。

 

「まあダークなところがカッコいいって、一部熱狂的なファンはいるらしいな。ちなみにヒロイックなGo鬼塚とは犬猿の仲らしい」

「そうなのか?」

 

 隣にいた尊に、遊作は小声で尋ねる。

 すると、尊は彼の耳元に顔を近づける。

 

「カゲロウさん、中の人はめっちゃいい人だよ。この前もご飯連れてってもらったし」

「なるほど」

「卑怯な戦法って言っても、あくまでそう見えるってだけで、ちゃんとルールは守ってデュエルしてるし、鬼塚さんともキャラ付けのために敵対関係みたいな設定でやってるけど、本当はすごく仲いいんだ」

 

 人はアバター(みかけ)にはよらないらしい。

 

「ちなみに四位はミネルヴァな」

 

 今度は女性の画像に切り替わった。

 長い黒髪を後ろで結び、剣道の道着のような薄いピンクと藍色の衣装を身にまとった、かわいいというよりかはカッコいい女性だった。

 

「使うデッキは閃刀姫、この二人のデュエルのログあるけど見るか?」

 

 みんなが頷いたのを見て、島は動画を再生した。

 

 ◆

 

 LINK VRAINSセントラルエリア、その上空をかけるデータストリームの上で、ミネルヴァとカゲロウが、Dボードに乗って駆けていた。

 

「さぁ始まりました!ランキングデュエル!注目の対戦カードは、前シーズン二位のカゲロウ、ヴァァァァァサァスッッ!四位の我らが姫!ミネルヴァ!」

 

 実況の紹介と共に、上空に二人の顔がアップで映し出される。

 

「ヒヒヒッ、今日のお姫様か。どの料理してやろうか」

「悪に与するデュエリストめ。ここであなたは倒します」

 

「「スピードデュエル!」」

 

ターン1 カゲロウ

 

「俺のターン、俺はスケール1の黄昏の忍者-ジョウゲンと、スケール10の黄昏の忍者-カゲンでペンデュラムスケールをセッティング!」

 

 カゲロウの両脇に、デジタル数字の1と10が表示され、それらを繋ぐように巨大な輪が宙に描かれる。

 

「これでレベル2から9のモンスターを同時に召喚可能!ペンデュラム召喚!現れろ、我が闇の尖兵達よ!」

 

 輪の中で振り子が揺れ、二体のモンスターが飛び出した。

 

「土遁忍者グラン、水遁忍者ウォート!」

 

土遁忍者グラン

スピリット・ペンデュラム・効果モンスター

星4/地属性/戦士族/攻 1400/守 2000

【Pスケール:赤2/青2】

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分のスピリット・モンスターが手札に戻った場合に発動できる。自分はデッキから1枚ドローする。

【モンスター効果】

このカードはP召喚でしか特殊召喚できない。

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが召喚・P召喚・リバースに成功した場合に発動できる。自分のデッキの上から3枚を見る。その中から「忍者」モンスター、または「忍法」カード1枚を手札に加える。その後、その中の「忍者」Pモンスター全てをEXデッキに表側表示で加え、残りを墓地へ送る。この効果発動後、ターン終了時まで、自分は「忍者」モンスターしか特殊召喚できない。

(2)このカードが召喚・特殊召喚・リバースしたターンのエンドフェイズに発動する。このカードを持ち主の手札に戻す。その後、自分フィールドに変わり身トークン(星1・闇属性・戦士族・攻/守0)1体を特殊召喚できる

 

水遁忍者ウォート

スピリット・効果モンスター

スピリット・ペンデュラム・効果モンスター

星3/水属性/戦士族/攻 1600/守 900

【Pスケール:赤8/青8】

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分のスピリット・モンスターが直接攻撃で相手に戦闘ダメージを与えた場合に発動できる。相手の手札をランダムに1枚選んで除外する。

【モンスター効果】

このカードはP召喚でしか特殊召喚できない。

(1)このカードが召喚・P召喚・リバースに成功した場合、数字を1つ宣言して発動できる。相手の手札をランダムに1枚選んで公開する。そのカードが宣言した数字と同じレベルのモンスターカードだった場合、それを除外する。

(2)このカードが召喚・特殊召喚・リバースしたターンのエンドフェイズに発動する。このカードを持ち主の手札に戻す。その後、自分フィールドに変わり身トークン(星1・闇属性・戦士族・攻/守0)1体を特殊召喚できる。

 

「グランの効果で、俺はデッキの上3枚を見て、水遁忍者ウォートを手札に加える。そしてウォートの効果で、数字を1つ宣言し、相手の手札をランダムに1枚選ぶ。それが選んだ数字と同じレベルのモンスターカードなら除外する。選ぶのは4だ!」

 

 ミネルヴァの手札1枚が公開される。

 公開されたのは閃刀姫-レイ、レベル4のモンスターだ。

 

「来たぜ!そいつは除外だ!」

「くっ!」

 

 ミネルヴァのカードが砕けて、手札から消えていく。

 

「早速炸裂!卑怯卑劣なハンデス戦法!本来なら成功率は低いが、ミネルヴァのデッキをよく知るこの男なら、数字をピッタリ当てることも容易だぁっ!」

 

 ミネルヴァのファンからはブーイングが飛ぶが、カゲロウは構わず続ける。

 

「現れろ、影より出でたるサーキット!」

 

 カゲロウが印を結ぶと、黒い靄のようなエフェクトが起きて、彼の行く先にアローヘッドを出現させる。

 

「召喚条件は、カード名の異なる戦士族モンスター2体!俺はウォートとグランをリンクマーカーにセット!リンク召喚!リンク2、電影忍者ウラギリ!」

 

電影忍者ウラギリ

リンク・効果モンスター

闇属性/戦士族/攻撃 1800/LINK2

【リンクマーカー:左/右】

カード名の異なる戦士族モンスター2体

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが戦闘を行う場合、相手はダメージステップ終了時まで魔法・罠カードを発動できない。

(2)自分・相手ターンに発動できる。このカードを次のエンドフェイズまで除外し、EXデッキの表側表示の「忍者」Pモンスター1体を手札に加える。この効果を適用した相手ターン中、自分が受ける戦闘ダメージは1度だけ0になる。

 

「俺はさらにモンスターをセット。これでターンエンドだ」

 

ターン2

 

「早速キーとなるモンスターは落としてやったが、まだやれるかい? お姫様」

「その程度で折れるようでは、正義は貫けません」

 

 カゲロウの挑発に対し、ミネルヴァは毅然とした態度で応じる。

 

「私は魔法カード、閃刀起動-エンゲージを発動!デッキから閃刀カード、閃刀姫-レイを手札に加えます。そしてレイを召喚」

 

 白髪の少女が、刀を携えて現れた。

 

「くくくっ、サーチを引いていたか」

「現れよ、悪を切り裂くサーキット!」

 

 ミネルヴァが居合い斬りのようなモーションを取ると、空間が切れてアローヘッドが出現する。

 

「召喚条件は炎属性以外の閃刀姫モンスター1体!リンク召喚!リンク1、閃刀姫-カガリ!」

 

 レイがアローヘッドを潜り抜けると、その体に赤い鎧が装着された。

 

「カガリの効果で墓地のエンゲージを回収。魔法カード、閃刀術式-ベクタードブラストを発動。お互いのデッキの上から2枚を墓地へ。閃刀術式シザーズクロスを発動!墓地から閃刀姫-レイを回収。さらに閃刀術式アフターバーナーを発動!ウラギリを破壊!」

 

 カガリが刀を構えると、そこから炎が噴き出し、ウラギリに向けて放たれる。

 

「俺はウラギリの効果を発動!このカードをエンドフェイズまで除外し、EXデッキの表側表示の「忍者」Pモンスター1体を手札に加える!」

 

 だが、ウラギリは影に紛れて消え、魔法カードの効果をかわす。

 

「さすがは忍者!まともに戦う気はないぞ!」

「ならば!回収した閃刀起動-エンゲージを発動!デッキからウィドウアンカーを手札に加え、さらに墓地に魔法カード3枚以上なので1枚ドロー」

 

 次々と魔法カードを使い、デッキを回していく。

 

「1000ライフを払い、魔法カード!コズミックサイクロン!ペンデュラムゾーンのカゲンを除外!」

 

 光の竜巻が起こり、ペンデュラムスケールの片方を飲み込み、砕く。

 

「現れよ、悪を切り裂くサーキット!召喚条件は水属性以外の閃刀姫1体!モードチェンジ!カガリをシズクへ!」

 

 閃刀姫-カガリがアローヘッドを潜り抜けると、装着していた鎧が外され、かわりに四枚の盾を装備した青の鎧が装着された。

 

「ターンエンド。閃刀姫-シズクの効果、墓地に存在するカード以外の閃刀カード1枚を手札に加える」

「エンドフェイズに、ウラギリは俺のフィールドに戻る」

 

 黒い竜巻が起き、その中からウラギリが舞い戻った。

 

ターン3

 

「セットされた水遁忍者ウォートを反転召喚。そしてスケール8の水遁忍者ウォートをペンデュラムスケールにセッティング。ペンデュラム召喚!火遁忍者バーナス!土遁忍者グラン!」

 

火遁忍者バーナス

スピリット・効果モンスター

星5/炎属性/戦士族/攻 2300/守 800

【Pスケール:赤2/青2】

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードを発動したターンの自分のメインフェイズに発動できる。デッキから「忍者」Pモンスター1体を手札に加える。

【モンスター効果】

このカードはP召喚以外で特殊召喚できない。

(1)このカードが召喚・P召喚・リバースに成功した場合に発動できる。このターン、自分フィールドのスピリット・モンスター全ては攻撃力500アップし、相手の魔法・罠カードの効果を受けない。

(2) このカードが召喚・特殊召喚・リバースしたターンのエンドフェイズに発動する。このカードを持ち主の手札に戻す。その後、自分フィールドに変わり身トークン(星1・闇属性・戦士族・攻/守0)1体を特殊召喚できる。

 

「バーナスの効果で、このターン、俺のスピリット・モンスターの攻撃力は500アップし、魔法・罠カードの効果を受けない!」

「ならばその効果にチェーンして、セットされた閃刀機-ウィンドアンカーを発動!バーナスの効果を無効!さらに墓地の魔法カードが3枚以上なら、そのままコントロールも奪う!」

 

 シズクの鎧から、ワイヤーに繋がれた三本爪のアームが伸びて、バーナスの体を掴み、ミネルヴァのフィールドへ移動させる。

 

「シズクの効果で、そちらのモンスターの攻撃力は墓地の魔法カードの数×100ダウンする。攻撃力は届かない」

「チッ、俺はこれでターンエンド。エンドフェイズに、スピリット・モンスターは手札に戻る。そして、こいつらは変わり身トークンをフィールドに特殊召喚できる」

 

 三体の忍者が手札に戻り、かわりに彼らの顔が書かれた藁人形が2つ、フィールドに守備表示で現れる。

 

ターン4

 

「リンク召喚!閃刀姫-カガリ!」

 

 シズクが再びアローヘッドをくぐり、カガリへとモードチェンジする。

 

「墓地からエンゲージを回収し、そのまま発動!デッキから閃術兵器-H.A.M.Pを手札に。そしてH.A.M.Pはモンスター1体をリリースすることで、そのモンスターの持ち主のフィールドに特殊召喚できる。ウラギリをリリース!」

 

 上空から巨大な機械の塊が落ちてきて、ウラギリが押しつぶされる。

 

「これはチェーンブロックを挟まない。つまりウラギリの効果でかわすことはできない」

「くっ……」

「さらに閃刀姫-ロゼを召喚。現れよ、悪を切り裂くサーキット!召喚条件は閃刀姫を含むモンスター2体!リンク召喚!」

 

 アローヘッドにカガリとロゼが吸い込まれ、その奥で赤い光が灯る。

 

「リンク2、閃刀姫-ジーク!」

 

 現れたのは女性のドレスを模したような黒い兵装だ。

 

「ジークの効果発動!H.A.M.Pを次のエンドフェイズまで除外する!」

 

 ジークが刀を振るうと、空間に亀裂が走り、H.A.M.Pが次元の彼方へ吸い込まれる。

 

「装備魔法、閃刀機構-ハーキュリーベースをジークに装備。そしてフィールド魔法、閃刀空域-エリアゼロを発動し、そのままジークの効果で破壊!破壊したことで、ジークは攻撃力1000アップ、さらにエリアゼロの効果で、デッキからレイを特殊召喚!」

 

「これはすごい!鮮やかなカード捌きで、巻き返していくぞ!」

 

「現れよ、悪を切り裂くサーキット!リンク召喚!リンク1、閃刀姫-カガリ!」

 

 レイが再びカガリへとモードチェンジ。一気に攻撃態勢に入る。

 

「スキル発動!一刀両断!このターン、自分フィールドのモンスター全てに貫通効果を与える!バトル!閃刀姫-カガリで、変わり身トークンを攻撃!」

 

 カガリの一閃で、藁人形を焼き尽くし、さらにカゲロウにダメージを与える。

 

「ジークよ!変わり身トークンを攻撃!」

「スキル発動!闇違え!攻撃を無効にして、1枚ドロー!」

 

 藁人形は黒い靄に包まれて、目標を見失ったジークの攻撃は外れてしまう。

 

「装備魔法、ハーキュリーベースの効果で、ジークは2回攻撃できる。行け!ジーク!」

 

 スキルは使用済み、今度は攻撃をかわすことはできない。

 ジークの刀の一振りが、藁人形とカゲロウを襲う。

 

「ぐわぁぁっ!」

 

 派手にDボードから落下するカゲロウ。

 だが、次の瞬間、そのアバターは消失し、地上に姿を現していた。

 

「流石はカゲロウ、抜け目ないな」

 

 ミネルヴァも地上に降りて、カゲロウに右手を差し出す。

 

「良きデュエルだった」

 

 カゲロウもそれに答えるように、無言で手を差し出した。

 

 ◆

 

「いやー流石プロデュエリスト!凄かったな!」

 

 映像が終わると、みんなから感嘆の声が漏れた。

 

「あ、そろそろ飲み物取ってきますね」

 

 みんなのグラスが空になったのを見て、美海は台所へ向かう。

 

「ねぇねぇ島君、プレイメーカーのログはないの?」

 

 切花が島にべったりくっついてタブレットを覗き込む。

 

「え、えっと、プレイメーカーは、ログが少ないんだよ。なんか誰かが削除してるみたいで」

 

 島は鼻息を荒くしてタブレットを操作しながら解説する。

 彼の言う通り、プレイメーカーに関するログや遊作や草薙が削除している。もちろん全てを消せるわけではないし、個人の端末に保存されてしまったものはどうにもならないが。

 

「あ、これはハノイの騎士とのデュエルだな」

 

 それは以前のファウストとのデュエルだった。

 

『スキル発動!ストームアクセス!』

「プレイメーカーが初めてスキルを使った時の映像だな」

「このストームアクセスってスキルってさ、他の人は使ってないよね。そもそもスピードデュエルのスキルって、どうやって決まるの?」

「スキルカードってのが、LINK VRAINSで買えるんだよ。そいつをデッキに登録しておくことで、スピードデュエル中にスキルが使えるんだ」

 

 島がタブレットを操作して、スキルカードの一覧を見せてくれた。

 

「お、ストームアクセスもちゃんとあるね。でも、入手方法が分からないねぇ」

 

 画面上には『Storm Access(proto):現在は取り扱いされておりません』と表示されている。

 

「初期の頃に作られた没データか?」

 

 島がそう考察するのをよそに、遊作は立ち上がって一度席を離れる。

 

「Ai、あのスキルはお前が作ったのか?」

「半分正解だな。未完成だったものがLINK VRAINS内にデータとして残ってたんだ。そいつを俺達イグニスが完成させたのさ」

「じゃあ、ゴッドバードのスキル、ストームエクシーズチェンジや、美海のスキル、ストームコネクションは……」

「多分、未完成のストームアクセスを改造して無理やり作ったんじゃねぇの?」

 

 美海の方はSOLから貰ったのでSOL製だとして、ゴッドバードはわざわざ没データを掘り起こして、自力で作ったということだろうか。

 

「俺の見たところ、どっちのスキルもストームアクセスに比べればかなり不安定なプログラムだな」

「後で美海にも詳しく聞いてみるか……」

 

 そんなことを考えていると、美海が大皿に盛りつけられた大量のクッキーを飲み物と一緒に運んできた。

 

「皆さん、クッキーを焼いたのですが、いかがですか?」

「わーい食べる食べる」

 

 切花が真っ先にクッキーを手に取る。

 それに釣られて、他のみんなもクッキーに手を付け始めた。

 

「ただいま」

 

 ちょうどその時、晃が帰ってきた。

 最愛の兄の声を聴いて、葵はすぐさま立ち上がって彼を迎えに行く。

 

「おかえりなさい。お兄様。今日は早かったのね」

「ああ。まあ夜にまた出ることになるが……君は」

 

 晃はリビングにいた遊作の姿を見つけて、露骨に嫌そうな顔を見せる。

 

「どうも」

「妹はやらんぞ」

 

 普通に挨拶をしただけなのに、そんな返しが飛んできた。

 これ以上会話しようとするのは止めようと、遊作は黙々とクッキーを頬張る。

 

「ん?」

 

 そこで、晃の視線が切花の方へと向いた。

 

「君は、どこかで会ったような……」

「え、えー、ボク知らなーい」

「いや、だが……」

「あ、お兄さん、もしかしてナンパ~? もう妹の前で止めなよ~」

「ち、違う!違うんだ!葵!」

 

 葵はそっぽを向いて、見せつけるように遊作の隣に座る。

 弁明しようとしつこく妹に絡もうとする彼に、美海はその背後を取る。

 

「晃様、お召し物をこちらへ」

「あ、ああ」

 

彼からスーツの上着を預かり、手際よく畳む。

 

「シャワーの用意もできております」

「待ってくれ美海。私はまだ……」

「晃様、ご帰宅なされたのでしたら、まずは体を清められるのがよいかと。さあこちらへ」

 

 使用人として、彼をシャワー室へ自然な流れで連れて行った。

 

 ◆

 

 学校の保健室で、響子は明かりも点けずに一人、パソコンに向き合って何かを操作していた。

 

「あと少し……」

 

 その時、不意に部屋に明かりが点る。

 

「響子先生、まだ帰らないんですか?」

「っ!」

 

 慌てて振り返ると、入り口に立っていたのはエマだった。

 

「え、えぇ、まだ仕事が残ってて……」

 

 響子は慌ててパソコンの画面を切り替える。

 その動きを怪しんでか、エマは彼女の後ろに回ってパソコンの画面をのぞき込む。

 

 だが、映っているのは生徒のカルテだけで怪しいものは見つからない。

 さすがにマウスを奪い取って操作するわけにもいかないので、エマはパソコンから離れる。

 

「あんまり根を詰めすぎるのもよくありませんよ」

「えぇ。気を付けます」

 

 エマはそれだけ言って、保健室を去った。

 



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第17話:Dive to Abyss(前編)

 昼休み、遊作、尊、美海、葵の四人は屋上に集まって一緒にご飯を食べていた。

 

「藤木くんが、プレイメーカー?」

 

 前回の会では、結局みんな帰らずにそのまま晩御飯までご馳走になってしまったため互いの正体を打ち明ける機会がなかった。

 なので、あらためてこの場で正体を明かしたのだ。

 

「で、僕がソウルバーナー」

「全然雰囲気違う……」

 

 大人しそうな尊と、熱血漢のソウルバーナーが全く結びつかず、葵は混乱している。

 

「僕も驚いたよ。財前さんがブルーエンジェルだったなんて。てっきりどこかの事務所所属だと思ってたから」

「葵様は、アマチュアのデュエリストで唯一ランキングトップテン入りをしていますからね」

 

 美海は誇らしげに主の戦績をアピールする。

 

「で、みんなは孤児院の先生、鴻上先生が遺したレポートを探してるのよね」

「ああ。今はレポート1から3まで見つかっている」

 

 遊作はレポートのデータを葵に送る。

 

「これが……」

 

 葵はレポートの内容に目を通し、表情を曇らせる。

 

「美海達は、その……子供の頃に、実験台にされたのよね?」

「……はい。今まで黙っていて、すみませんでした」

「そ、そんな!いいの!私の方こそごめん!」

 

 美海が頭を下げたので、葵は慌てて謝る。

 

「その……家に引き取られた時、なんとなく事情はあるんだなって、思ってたけど、そんな目に遭ってたなんて知らなくて……」

 

 四人の空気が重くなる。その時、

 

「まあそんな暗い顔すんなよ」

「きゃぁっ!」

 

 急に遊作のデュエルディスクからAiが飛び出したことで、葵が飛びのいて美海の後ろに隠れる。

 

「そんな驚くなよ。Aiちゃんショック……」

「ご、ごめん」

 

 葵は美海の後ろからペコッと頭を下げた。

 

「紹介する。Aiだ」

「はーい。Aiでーす」

 

 遊作に紹介されて、Aiは元気よく手を上げる。

 

「こいつは俺の────人質だ」

「そうそう人質ってちょっと待って!俺達の友情はどうしたんだよ!ウィンディと戦った時はいい感じだったじゃんか!」

「そうだな。お前は使える人質だ」

「このー!」

 

 Aiの抗議を遊作は軽く流す。その態度は、以前のような突き放すものではなかった。

 

「全く、素直じゃありませんね」

「だね。そうだ。不霊夢、君のことも紹介するよ」

「そうだな」

 

 今度は尊のデュエルディスクから、不霊夢がニュッと飛び出した。

 

「初めまして、財前の御嬢さん。私の名は不霊夢。不屈の魂、夢に非ずと書いて不霊夢だ」

「どうも」

 

 一通り挨拶を済ませた後、彼らはこれまでの出来事を整理し始めた。

 

「今分かっているのは、実験の名前はハノイプロジェクト、実験によってつくられたイグニスを追っているハノイの騎士と同じ名前だ」

「彼らはイグニスが人類を滅ぼすと言っていた。つまり、実験後のシミュレートの結果を知っていたことになります。組織の中核となる人物は実験の関係者であることは間違いないでしょう」

 

 この発言をしたのは、ファウストとスペクター、彼らはそれぞれハノイの騎士のセカンドとサード。セカンド以上が実験の関係者である可能性がある。

 

「ハノイの騎士が、以前葵様に使用した電脳ウイルス、あれを作ったのがSOLテクノロジーである。このことから、SOLとハノイの間に何かしら繋がりがあると考えられます」

「そして、イグニスのうち、四人が人間と敵対すると宣言した。今のところ、僕らが直接話したのは風のイグニスのウィンディと、」

「私と美海が出会った、水のイグニス、アクア」

「他のイグニスはどんな奴なんだ?」

 

 イグニスについて知るには、同胞の彼らに聞くのが一番だろうと、遊作はAiと不霊夢に尋ねる。

 

「地のイグニス、アース。あいつは一度決めたことは曲げない。頑固で冗談も通じない性格だから、説得するのは難しそうだな」

「後は光のイグニス、ライトニング。彼は我々イグニスの実質的なリーダーのような存在だ。今回の人間への宣戦布告も、最終的な彼が決めたことだろう。同じく説得は難しいだろうが、逆に言えば、彼さえ説得できれば、他のイグニスも考えを改めてくれるはずだ」

「でも、ハノイの騎士が攻撃しなかったら、こんなことにはならなかったのよね」

 

 葵の言う通り、引き金を引いたのは人類側である。

 そんな状態で、素直に話を聞いてくれるとは思えない。

 

「そういえば、最近ハノイの騎士の話は全然聞かないね」

「サイバース世界で返り討ちに遭って、ビビッて引っ込んでるんじゃないのか?」

「そんな連中じゃないだろう」

 

 リボルバーもそうだが、ジャックナイフ、彼が夢乃切花と同一人物かは置いておいて、あれだけイグニスに対して強い憎しみを抱いていたのに、おめおめと逃げるとは思えない。

 

「嵐の前の静けさというやつか」

 

 その時、予鈴が鳴る。

 

「そろそろ戻ろうか」

「ああ」

 

 ◆

 

 SOLテクノロジー本社、財前晃はビショップの部屋に呼び出されていた。

 

「ハノイの騎士が妙なことを企んでいる」

 

 部屋に入るなり、ビショップはそんなことを言い出した。

 

「と、言いますと……」

「LINK VRAINSのプログラムが改竄されている」

「なっ! ではすぐに修復を……」

「待て」

 

 慌てて部屋を出ようとする晃を、ビショップは呼び止めた。

 

「それよりも大元を潰すべきだろう」

 

 すると、AR空間にLINK VRAINSの地図が投影された。

 巨大な編み目のような複雑な通路の先に、赤い点がいくつかの場所に灯っている。

 

「これは、LINK VRAINSのジャンクエリアですか」

 

 ジャンクエリア。ジャンクデータを一か所に集めて消去するための、データの通り道、電脳空間の下水道とも言えるエリアだ。

 

「奴らが企てを行っている場所の候補だ。君はセキュリティ部隊の指揮を取り、ハノイの殲滅にかかれ」

「分かりました」

 

 晃は一礼して、部屋を出ていく。

 

「……さて、盗み聞きをしている暇があるなら、君にも協力してもらおうか。ゴーストガール」

『あら、バレてたね』

 

 虚空からゴーストガールの声がする。

 

「わが社のセキュリティが、君のようなネズミに突破されるわけないだろう。わざと通してやったのだ」

『通りで簡単だったわけね』

 

 平静を装っているが、マイク越しでも悔しそうな感情が伝わってくる。

 彼女が自身の腕にどれほど自信とプライドを持っていたかがよくわかる。

 

「プレイメーカーの正体は結局分からなかったのだろう? ならせめてハノイの居所を突き止めるくらいはしてもらおうか」

『えぇ。いいわよ』

 

 ◆

 

「聞きましたか?」

 

 同刻、学校の屋上で、美海はデュエルディスクからビショップと晃のやり取りをみんなに聞かせた。

 

「盗聴器を仕掛けてたのか」

「正確にはAR空間に干渉する盗聴プログラムです。といっても、この様子ではわざと見逃されたようですね」

 

 ゴーストガールすら気付かれたのだから、自分程度の仕掛けにビショップが気付かないはずがないと、美海はため息を吐く。

 

「それでどうしますか? 音声だけなので、地図データはありませんけど」

「情報がジャンクエリアってだけじゃ、探すのは難しそうだね」

「ヒントならあるだろう」

 

 すると、遊作は美海のデュエルディスクを借りて、音声を前の方から再生する。

 

『君はセキュリティ部隊の指揮を取り、ハノイの殲滅にかかれ』

「もしかして、お兄様に聞く気?」

「いや、そんなことをする必要はない。セキュリティ部隊を動かすなら、そいつらの後を付ければいい」

 

 会話の中で、候補がいくつかあると言っていた。

 SOLもハノイの居所を絞れていないなら、大人数を使っての大規模な捜索となる。それならばあとをつけるのも容易いだろう。

 

「じゃあ二手に分かれようか。僕は美海と行くよ」

「なら俺は財前とだな」

 

 遊作とペアになれて、少し気持ちが浮ついていしまうが、葵はそんな場合ではないとすぐに気を引き締める。

 

「じゃあこの後、LINK VRAINSで」

 

 ◆

 

 遊作と葵、つまりプレイメーカーとブルーエンジェルのチームは、草薙特性のステルスプログラムで身を隠しながら、SOLのセキュリティ部隊の後をつける。

 

「ここがジャンクエリア」

 

 灰色のコンクリートの壁に囲まれた狭苦しい通路、役割だけでなく見た目も下水道のような空間だった。

 

「何が起きるか分からない。慎重に行くぞ」

「えぇ」

 

 しばらくSOLの人間と適度な距離を保ちながら歩く。

 その時、

 

 パシャァッ

 

「きゃぁっ!」

 

 地面から何かが飛び出し、ブルーエンジェルはプレイメーカーの腕に抱き着く。

 

「これは……」

 

 それは魚のようなシルエットの、黒いノイズだった。

 

「壊れたAIの残骸か」

「び、びっくりしたぁ……」

 

 危険なものではないと分かったあとも、ブルーエンジェルは自身の胸をプレイメーカーの腕に擦り付ける。

 だが、不意に彼女はプレイメーカーから離れてため息を吐く。

 

「……ごめん。なんか空しくなってきた」

「?」

 

 気を取り直して、二人は先へ進む。

 またしばらく歩くと、開けた空間に出た。

 

「あれは……」

 

 地面にはSOLのデュエリスト数名が倒れていた。

 

「一体誰が……」

「……ブルーエンジェル、走れ!」

「え?」

 

 彼女がその言葉の意味を理解するより早く、それは姿を現した

 

 二メートル以上あるデータの巨人、その大きな腕を振るい無防備なブルーエンジェルの背中を狙う。

 

「くっ!」

 

 プレイメーカーは咄嗟に彼女を抱きかかえ、お姫様抱っこをして通路を駆ける。

 

「な、なんなのあれ!?」

「ジャンクデータの塊だ。普通はあんなものができる前に、データは削除されるはずなんだがな」

 

 既にハノイがプログラムを改ざんした影響は出ているということなのだろう。

 

 とにかく走るが、敵は巨体の割に素早い。

 

「Ai!あいつは食えるか!?」

「えぇー、不味そう……」

「言ってる場合か」

 

 巨人が腕による薙ぎ払いを行う。

 プレイメーカーは目視する前に跳んで回避する。

 リンクセンスのおかげで、どうにか紙一重でかわせているが、それも限界がある。

 

 加えてこの狭い場所ではDボードも使えない。

 

「Ai、頼む!」

「あーもうしょーがねぇな」

 

 Aiはデュエルディスクから飛び出し、その体を思いっきり広げて黒い六本の腕を伸ばす怪物に姿を変える。

 

「いっただっきまーす!」

 

 長い首を伸ばして噛みつく、

 

「やっぱマズ!」

 

 だが、すぐに口を離してしまう。

 当然、敵が攻撃されて黙っているはずもなく、今度はAiに向けてその剛腕を振るう。

 

 その時。

 

 パァンッ

 

 銃声のような音が聞こえたかと思うと、データの巨人は砕けて消滅した。

 

「こんな場所でデートだなんて、ちょっと趣味が悪いんじゃない?」

「あんたは……」

 

 振り返ると、そこには拳銃のようなガジェットを構えた一人の女性が立っていた。

 

「あなたと会うのは初めてね。プレイメーカー。私はゴーストガール。お金次第でなんでも引き受ける魅惑の謎の美女ってとこかしら」

「自分で美女っていうのかよ」

「あんたがゴーストガール……」

 

 美海の音声データの中には、彼女とビショップの会話もあった。

 彼女もまた、SOLの依頼でこの場所の調査をしていたのだろう。

 

「その様子だと、あなた達もハノイが狙い? だったら私と組まない?」

 

 それは彼らにとって願ってもないことだった。

 ゴーストガールならSOLから地図データを貰っているはずだ。彼女と組めば、より効率よくハノイの居場所を突き止めることができる。

 

「分かった。ブルーエンジェルもそれでいいか?」

「えぇ」

「決まりね。じゃあ、行きましょうか」

 

 ◆

 

同刻、ソウルバーナーと美海もジャンクエリアの通路を探索していたが、

 

「うわぁっ!」

 

 プレイメーカー達と同様にデータの巨人に襲われていた。

 二人は持ち前のリンクセンスと身体能力でどうにか逃げ続けるが、アバターとはいえ、精神的な疲労は溜まっていく。

 

 その時、風が薙いだ。

 

 強風にやられ、巨人の足が少しだけ止まる。

 

「こっちだ!」

「ゴッドバード!」

 

通路の奥には、ゴッドバードが立っていた。

 

「なぁあいつは……」

「味方ですよ」

 

 警戒するソウルバーナーの手を引いて、ゴッドバードの近くまで駆け寄る。

 その間に、巨人も再び動き出し、彼らに突進してくる。

 

「てめぇら、しっかり掴まってろよ」

 

 すると、足元にDボードが出現し、ゴッドバードと三人乗りするような態勢になる。

 

「ちょっ、こんな場所で乗る気か!?」

「いいから大人しくしとけ」

 

 ゴッドバードが手を伸ばすと、周囲のデータマテリアルが集まり、データのレールを作り出す。

 

「飛ばすぞ」

 

 瞬間、Dボードが急発進する。

 

 普通ならぶつかりそうな勢いだが、ゴッドバードにより敷かれたデータストリームに流されることで、曲がり角も難なく越え、通路を駆け抜けた

 

「ふぅ……ありがとうございます」

 

 巨人を振り切ったところで、ゴッドバードはDボードを停車させた。

 

「なあ、こいつは?」

「ソウルバーナーはまだ会ったことないんでしたね。紹介します。ゴッドバードです」

「こいつが……」

 

 一応、美海や遊作から彼の存在については聞いていたが、彼の記憶ではプレイメーカーのイグニスを狙っていた敵だったはずだが。

 

「俺を友達みたいに紹介すんじゃねぇよ。つーか、さっきしれっと俺のこと味方って言っただろ」

「違うんですか? 私のことをわざわざ助けにきてくれたのに」

「たまたま通りかかっただけだ」

 

 だが、彼と美海のやり取りはとても敵だった間柄には見えない。

 

「それより、あなたがここにいるのは……」

「ああ。SOLがなんか派手に動いてたからな。何か探してるなら横取りしてやろうと見に来たんだよ」

「だったら一緒に行きましょう。このエリアのどこかにハノイの騎士がいます」

「ハノイが?」

「はい。ハノイはLINK VRAINSのプログラムの一部を改竄しているようです。あなたなら見つけられますよね」

「……そういうことか」

 

 美海の言葉の意味を理解した彼は、目を閉じて意識を集中する。

 

「なぁ、あいつは何を……」

「探ってもらってるんです。LINK VRAINSの異常を」

「探る?」

「はい。おそらく彼のリンクセンスは、私やあなたのものよりも強い」

 

 ゴッドバードが目を開ける。

 

「こっちだ」

 

 ゴッドバードは歩き始めた。

 



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第17話:Dive to Abyss(後編)

 その頃、プレイメーカー、ブルーエンジェル,ゴーストガールの三人は分かれ道に立っていた。

 

「この先に候補の場所があるけど、どっちへ行く?」

 

 すると、遊作は何かを感じ取ったように右の通路を見る。

 

「こっちだ」

「分かるの?」

 

 迷わず道を選んで進むプレイメーカーに、ゴーストガールは不思議そうに訪ねる。

 

「こいつにはリンクセンスがあるからな」

 

 Aiは誇らしげに語る。

 とりあえず二人はプレイメーカーの後を追う。

 

しばらく進むと、暗い通路の先に明かりが点っている。この先に何かあるのは間違いない。三人は慎重に歩みを進める。その時、

 

「っ! 待て!ブルーエンジェル!」

 

 プレイメーカーが何かを感じ取って、咄嗟に先行するブルーエンジェルの元へ駆ける。

 その瞬間、ブルーエンジェルの足元に大穴が開く。

 

「きゃぁっ!」

「ブルーエンジェル!」

 

 二人が落下する。

 ゴーストガールが自身のデュエルディスクからワイヤーのようなものを飛ばすが、その前に穴は塞がってしまう。

 

「トラップ、ってことはこっちが正解で間違いなさそうだけど」

 

 ゴーストガールは仕方なく先へ進み、通路の入り口から顔を覗かせる。

 

 そこではデータを削除するための装置の前で、バイラがホログラムパネルで操作していた。その横には、退屈そうに作業の様子を眺めるジャックナイフもいる。

 

(本当はプレイメーカーにハノイの相手をしてもらうつもりだったけど、しょうがないわね。さっさとSOLに連絡して、私はずらかるとしましょう)

 

 ゴーストガールが連絡のためにデュエルディスクに手をかける。

 

 その時、

 

 ヒュンッ

 

 コンバットナイフが彼女の手元めがけて飛んでくる。

 

 ゴーストガールは咄嗟に地面を転がって回避する。

 

「あー外しちゃった」

 

 ジャックナイフはけらけらと笑いながら、地面に伏せるゴーストガールを見下ろしていた。

 

「最初から気付いていたってことね」

「そ、あのトラップ操作してたのボクだからね」

 

 ジャックナイフはデュエルディスクを構える。

 

「さぁて、じゃあ始めようか」

「待ちなさい」

 

 すると、操作を終えたバイラが階段から降りてくる。

 

「彼女の相手は私がするわ」

「えー、セカンドの君には荷が重いんじゃないの?」

「向こうからも来てる。あなたはそっちをお願い」

「分かったよ。せーんせい」

 

 ジャックナイフはスキップして、ゴーストガールが入ったのとは別の通路へと向かう。

 

「さて、言っておくけどログアウトはできないわよ」

「みたいね」

 

 ゴーストガールは観念してデュエルディスクを構える。

 

「「デュエル!」」

 

 ◆

 

 ハノイのいた部屋に反対の通路から迫りくる二体のAIがいた。

 

 半透明のつるつるした人の体に近いシルエットに、全身を血管のようにかける青いラインが怪しく光る不気味なAI。

 

「ここは通さないよ」

 

 そこに立ちふさがるのは、部屋から出てきたジャックナイフだった。

 

「君ら、SOLが作った新型AIだよね?」

「はい。我々はIGS-000のコピーモデルです」

「ああ。やっぱりあれの……じゃあなおのこと潰さないとね」

 

 ジャックナイフの顔から笑顔が消える。

 彼は右手でピストルの形を作ると、それを自身のこめかみに当てる。

 

「並列思考プログラム、限定解除」

 

 瞬間、彼のアバターの像が歪む。

 空間にノイズが走り、ジャックナイフが二人に分裂した。

 

「「さあ、これで二対二だ」」

「その能力は……ビショップ様、どうなさりますか?……了解です」

 

 AIもデュエルディスクを構える。

 

「「「「デュエル!」」」」

 

 ◆

 

 その頃、ゴッドバード、美海、ソウルバーナーの三人は壁の前に立ち尽くしていた。

 

「行き止まりだな」

 

 ソウルバーナーはゴッドバードを見る。

 

「こ、こっちなのは間違いないんだが……」

「つまり、感覚強すぎて、壁を貫通してしまったと」

 

 美海やソウルバーナーでも、この奥で大きなデータの流れがあるのは感じ取れる。

 だが、行き止まりではどうすることもできない。

 

「あーくそがっ!」

 

 ゴッドバードは壁を蹴って八つ当たりする。

 そして開き直ったように、拳を合わせる。

 

「よし、壊すか」

「やめてください。諦めて迂回するルートを探しますよ」

 

 美海がゴッドバードの手を引き、ソウルバーナーもその後を追う。

 

「待て」

 

 しばらく進んだところで、不意にゴッドバードが先に進む美海の腕を引っ張る。

 

「どうしたんですか?」

 

 ゴッドバードは答えるかわりに、先行して曲がり角から顔を覗かせる。

 二人もそれに倣って、通路の奥を覗き込む。

 

「あれは、ジャックナイフ」

「SOLの新型AIもいます」

 

 通路の奥では、ジャックナイフとその新型AIがデュエルをしていた。

 だが、奇妙なことに、ジャックナイフは二人いる。

 

「おい。あのジャックナイフってやつは双子かなんかか?」

「そんなはずは……」

 

 同じ見た目のアバターを使えば、確かに同じ人物を二人用意することは可能だろう。

 だが、誰かを騙す目的でもなければそんなことをする意味はない。

 

 とりあえず、三人はデュエルの様子を窺う。

 

「モンスター3体をリリースしてアドバンス召喚!征令王(セントラルオーダーロード)グッドウィール!」

 

 右側のジャックナイフとデュエルするAI、タイプαがカードを掲げると、上空より玉座が下りてくる。

 その上に腰かけるのは、黒鉄の鎧をまとい、大剣を携えた王だ。

 

征令王(セントラルオーダーロード)グッドウィール

効果モンスター

星10/闇属性/戦士族/攻 3000/守 3000

このカードをアドバンス召喚する場合、モンスター3体をリリースしなければならない。

(1)このカードがアドバンス召喚に成功した場合に発動できる。自分の墓地からレベル6以下の「セントラルオーダー」モンスターを可能な限り、守備表示で特殊召喚する。この効果発動後、ターン終了時まで、自分は「セントラルオーダーロード」モンスター以外のモンスターを特殊召喚できない。

(2)アドバンス召喚されたこのカードがフィールドに表側表示で存在する場合に発動できる。自分フィールドの「セントラルオーダー」モンスター1体と、相手フィールドのモンスター1体をリリースできる。

(3)アドバンス召喚されたこのカードが戦闘・相手の効果で破壊されて墓地へ送られた場合に発動できる。デッキ・墓地から「征令締結」1枚を手札に加え、このカードを墓地から特殊召喚する。

 

「モンスター3体をリリースしてアドバンス召喚!征令王(セントラルオーダーロード)トータルファンネル!」

 

 左のジャックナイフとデュエルしているAI、タイプβがカードを掲げると、白い大理石の柱が二本、上空から落下して地面に突き刺さる。

 柱の間に白い光が満ちて、その光の扉から七色の宝石がはめ込まれた杖を携えて、新たな王が姿を現した。

 

征令王(セントラルオーダーロード)トータルファンネル

効果モンスター

星10/闇属性/魔法使い族/攻 3000/守 3000

このカードをアドバンス召喚する場合、モンスター3体をリリースしなければならない。

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードがアドバンス召喚に成功した場合に発動できる。自分のデッキの上から5枚まで墓地へ送り、墓地へ送った枚数だけ、相手の墓地の魔法・罠カードを自分フィールドにセットする。

(2)アドバンス召喚されたこのカードがフィールドに表側表示で存在し、相手がモンスター効果を発動した時に発動できる。そのモンスターのレベル・ランクの数だけ自分のデッキの上から墓地へ送り、その効果を無効にする。その効果がフィールドで発動していれば、さらにそのモンスターのコントロールを得る。

(3)アドバンス召喚されたこのカードが戦闘・相手の効果で破壊されて墓地へ送られた場合に発動できる。デッキ・墓地から「征令締結」1枚を手札に加え、このカードを墓地から特殊召喚する。

 

「なるほど、同じテーマでも別デッキってわけね」

「バトル、バニシングファングをグッドウィールで─────」

「トータルファンネルで─────」

 

「「攻撃」」

 

 二体の征令王(セントラルオーダーロード)がそれぞれのフィールドにいるバニシングファングを攻撃する。

 

 ジャックナイフ(右):ライフ4000→3300

 ジャックナイフ(左):ライフ4000→3300

 

「さらにアライアンスで攻撃」

 

 がら空きのフィールドに、タイプαは容赦なく追撃する。

 グッドウィールの効果で蘇生させた3体の征令(セントラルオーダー)アライアンスで、攻撃を行う。その攻撃力の合計は5400。全て喰らえばライフは0になるが、

 

「ボクは(トラップ)カード、リビングデッドの呼び声を発動。墓地からバニシングファングを特殊召喚!」

 

 周囲から霊魂が集まり、紫の炎でできた蛇のようなモンスターの姿を再構成する。

 

「では、メインフェイズ2で、グッドウィールの効果発動。アライアンスとバニシングファングをリリース」

 

 復活したバニシングファングも、アライアンスの効果であっさりと墓地に戻されてしまった。

 

「「ターンエンド」」

 

ターン2 ジャックナイフ

 

「「ボクのターン」」

 

 二人のジャックナイフは同時にドローする。

 まず動いたのは右側のジャックナイフだ。

 

「手札のライヴコープスを墓地へ送り、墓地のアニマイール・トリックランタンの効果発動!」

 

アニマイール・トリックランタン

効果モンスター

星3/光属性/アンデット族/攻 800/守 800

このカード名の(2)(3)の効果はいずれか1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが召喚に成功した場合に発動できる。デッキ・墓地から「アンデットワールド」、または「アニマイール・ポルターガイスト」1枚を手札に加える。

(2)自分フィールドのアンデット族モンスターを素材として、「アニマイール」リンクモンスターをリンク召喚する場合、墓地のこのカードをリンク素材としてデッキの下に置ける。この効果発動後、ターン終了時まで、自分は融合モンスターしか特殊召喚できない。

(3)このカードが墓地に存在する場合、自分の手札・フィールドの「アニマイール」カード1枚を墓地に送って発動できる。このカードを墓地から手札に加える。

 

「このカードを墓地から手札に加え、そのまま召喚」

 

 かぼちゃの頭の中からオイルランプの光を灯すモンスターが現れる。

 

「墓地のアンデットワールド回収し、発動。これで互いのフィールド・墓地のモンスターは全てアンデット族となる。さらに手札のアニマイール・フレアソウルの効果発動」

 

アニマイール・フレアソウル

効果モンスター

星1/炎属性/アンデッド族/攻 300/守 200

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分の手札からこのカード以外のアンデッド族モンスターを墓地へ送って発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。この効果を発動するターン、自分はカードの効果以外で、モンスターを1度しか特殊召喚できない。

(2)自分フィールドのアンデッド族モンスターを「アニマイール」リンクモンスターのリンク素材とする場合、墓地のこのカードもリンク素材としてデッキの下に置ける。リンク召喚後、ターン終了時まで、自分は融合モンスターしか特殊召喚できない。

 

「現れろ!ボクだけの未来(みち)を拓く未来回路!リンク召喚!リンク3、アニマイール・オルトバイト!」

 

アニマイール・オルトバイト

リンク・効果モンスター

闇属性/アンデット族/攻 2300/LINK3

【リンクマーカー:右上/左上/下】

「アニマイール」モンスターを含むアンデット族モンスター3体

このカードは自分のEXモンスターゾーンにのみ特殊召喚でき、このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分のメインフェイズに発動できる。自分の手札・フィールド及びこのカードのリンク先の相手モンスターの中から、アンデット族融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体を融合召喚する。

(2)このカードのリンク先の自分・相手のモンスターを、それぞれ1体ずつを対象として発動できる。対象の相手モンスターを対象の自分のモンスターに装備カード扱いで装備する。装備モンスターは装備したカードの元々の攻撃力の半分、攻撃力がアップする。

 

「オルトバイトの効果発動!その効果にチェーンしてアニマイール・ポルターガイストを発動!」

 

アニマイール・ポルターガイスト

速攻魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できず、このカードの発動に対して、相手はモンスター効果・魔法・罠カードを発動できない。

(1)以下の効果から1つを選択する。同一チェーン上に「アニマイール」リンクモンスターの効果がある場合、さらに、その効果以外の同一チェーン上の効果は全て無効になる。

●相手フィールドのモンスターを任意の数だけ対象にして発動できる。そのモンスターをそれぞれ別のメインモンスターゾーンに移動させる。

●相手のEXモンスターゾーンにモンスターが存在し、相手のメインモンスターゾーンにEXデッキから特殊召喚されたモンスターが存在する場合にそれら2体を対象として発動できる。そのモンスターの位置を入れ替える。

 

「アライアンス2体をオルトバイトのリンク先へ移動し、そのままオルトバイトの効果で融合素材に!」

 

 アライアンスがオルトバイトに食われる。

 

「魂を貪る猟犬よ、隷属共の屍を喰らい、その命を結び合わせよ!融合召喚!出でよ、レベル6、アニマイール・バーサーカー!」

 

 地面から砕け錆びた鎧を着た、屍の戦士が這い出てきた。

 

アニマイール・バーサーカー

融合・効果モンスター

星6/闇属性/アンデット族/攻 2500/守 0

アンデット族モンスター×2

このカード名の(1)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが特殊召喚に成功した場合に発動できる。相手の守備表示モンスター1体を破壊する。そのモンスターがアンデット族なら、そのモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える。

(2)このカードは、「アニマイール」リンクモンスターの効果で装備したモンスターのモンスター効果を得る。

(3)墓地のこのカード及び自分・相手の墓地のアンデッド族モンスター1体を除外して発動できる。自分の墓地から「アニマイール」融合モンスター1体を特殊召喚する。

 

「墓地のアニマイール・シルキーの効果発動!」

 

アニマイール・シルキー

効果モンスター

星3/闇属性/アンデット族/攻 900/守 1500

(1)このカードの召喚・特殊召喚に成功した場合、自分の手札から「アニマイール」モンスター1体を墓地へ送って発動できる。デッキから「融合」魔法カード、または「フュージョン」魔法カード1枚と、「アニマイール・ポルターガイスト」1枚を手札に加える。この効果を発動するターン、自分はカードの効果以外でモンスター1度しか特殊召喚できない。

(2)墓地のこのカードを除外して発動できる。墓地から「アニマイール・ポルターガイスト」1枚を手札に加える。

 

「このカードを墓地から除外し、墓地のアニマイール・ポルターガイストを手札に戻す。そして、オルトバイトのもう1つの効果を発動し、そこにチェーンしてポルターガイストを発動!」

 

 グッドウィールが、オルトバイトの双頭の前に吸い寄せられる。

 

「リンク先の相手モンスターを、リンク先の自分のモンスターに装備カード扱いで装備する」

 

 グッドウィールが食われ、その体から出た魂がアニマイール・バーサーカーの中に吸い込まれる。

 

「これでアニマイール・バーサーカーの攻撃力は、装備したモンスターの攻撃力の半分、つまり1500アップする」

 

 攻撃力4000となったアニマイール・バーサーカーがタイプαへ迫る。

 

「終わりだ」

 

 タイプα:ライフ4000→0

 

「さあ、次は君だ。ボクは(トラップ)カード、リビングデッドの呼び声を発動」

 

 左側のジャックナイフが、伏せてあったカード発動し、墓地から黒いボロボロのマントに、死体の頭を縫い付けたような不気味な人形が蘇る。

 

アニマイール・ライヴコープス

効果モンスター

星4/闇属性/アンデット族/攻 1100/守 0

このカード名の(1)(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。墓地の「アニマイール」モンスター、または「アニマイール・ポルターガイスト」1枚を手札に加える。自分のフィールドゾーンに「アンデットワールド」があれば、さらに手札からレベル3以下の「アニマイール」モンスター1体を、効果を無効にして特殊召喚する。

(2)自分フィールドのアンデット族モンスターを素材として、「アニマイール」リンクモンスターをリンク召喚する場合、墓地のこのカードをリンク素材としてデッキの下に置ける。リンク召喚後、ターン終了時まで、自分は融合モンスターしか特殊召喚できない。

 

「ライヴコープスの効果で、墓地からアニマイールモンスターを手札に加える」

「ここで征令王(セントラルオーダーロード)トータルファンネルの効果発動!相手モンスターの効果が発動した時、そのモンスターのレベル・ランクの数だけ、デッキからカードを墓地へ送ることで、その効果を無効にします」

 

 トータルファンネルが杖を振ると、三枚のドル札がライヴコープスの元に落ちてくる。

 

「そして、フィールドで発動した効果なら、そのモンスターのコントロールを得ます」

 

 お金を拾い集め、ライヴコープスはトータルファンネルの元へ駆け寄った。

 

「さらにデッキから墓地へ送られて征令(セントラルオーダー)キャピタルゲインの効果発動」

 

征令(セントラルオーダー)キャピタルゲイン

効果モンスター

星3/闇属性/魔法使い族/攻 1400/守 900

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが「セントラルオーダー」カードの効果で墓地へ送られた場合に発動できる。デッキから「セントラルオーダー」魔法・罠カード1枚を手札に加える。自分の魔法使い族の「セントラルオーダーロード」モンスターの効果で墓地へ送られていれば、さらに自分のライフを1000LP回復する。

(2)墓地のこのカードを除外して発動できる。このターン、自分は通常召喚に加えて1度だけ、「セントラルオーダーロード」モンスターをアドバンス召喚できる。

 

「デッキからセントラルオーダー魔法カードを手札に加える。さらに魔法使い族のセントラルオーダーロードの効果で墓地へ送られたので、ライフを1000回復します」

 

 タイプβ:ライフ4000→5000

 

「ならボクは魔法カード、アニマイール・リベレーションを発動」

 

アニマイール・リベレーション

通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1)以下の効果から1つを選択して発動できる。この効果を発動するターン、自分はカードの効果以外でモンスターを1度しか特殊召喚できない。

●自分・相手の墓地からアンデッド族モンスター1体を選んで、表側攻撃表示で特殊召喚する。この効果で特殊召喚された「アニマイール」モンスター以外のモンスターの元々の攻撃力は0になる。

●自分の墓地の「アニマイール」リンクモンスター1体をEXデッキに戻し、EXデッキからモンスターと同名の「アニマイール」リンクモンスター1体を特殊召喚する。

 

「墓地のオルトバイトをエクストラデッキに戻し、再度特殊召喚!」

 

 蘇ったオルトバイトが、ライヴコープスを睨みつける。

 

「オルトバイトの効果発動!手札、フィールド、及びこのカードのリンク先の相手モンスターを素材として融合召喚を行う!オルトバイト!その裏切り者のモンスターを喰らえ!」

 

 逃げ惑うライヴコープスを、容赦なく噛みちぎり、飲み込む。

 

「融合召喚!レベル6、アニマイール・バーサーカー!さらにオルトバイトの効果発動!そこにチェーンしてポルターガイストを発動!」

 

 こちらのフィールドにもアニマイール・バーサーカーが現れ、トータルファンネルの命を喰らって、攻撃力をアップさせる。

 

「バトルだ!アニマイール・バーサーカーでダイレクトアタック!」

 

 タイプβ:ライフ5000→1000

 

「終わりだ!オルトバイト!」

 

 オルトバイトに食いちぎられ、タイプβも消滅した。

 

「ふぅ。さあて、君達も隠れてないで出てきなよ」

 

 ジャックナイフには気付かれていたようで、三人も通路から顔を出す。

 

「せっかく来てもらったところ悪いんだけど、もう作業は終わっちゃったんだよね」

「作業だと、てめぇら、何を企んでやがる?」

「すぐに分かるよ。もうすぐ起動する。それじゃあね」

 

 ジャックナイフはデュエルディスクを操作してログアウトする。

 

「逃げやがった」

「今はいいでしょう。それより、奥の部屋へ」

「ああ」

 

 ◆

 

 時間は少し遡り、バイラとゴーストガールのデュエル、

 

 ゴーストガールのフィールドにはオルターガイスト・マリオネッター、オルターガイスト・シルキタス、そして伏せカードが1枚。

 

 対してバイラのフィールドには、両腕に血の滲んだ包帯を巻いた白衣の天使、インフェリアス・サージカルクーパーと伏せカード1枚、そして永続罠、インフェリアス・パンデミックコード。そしてバイラのターン。

 

「私は永続罠、インフェクション・ゾーンを発動」

 

インフェクション・ゾーン

永続罠

このカードはルール上「ウイルス」カードとして扱う。

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分の「ウイルス」通常罠カードの及び効果テキストに「ウイルス」罠カードと記されたモンスターの効果の発動とその効果は無効化されない。

(2)自分の「インフェリアス」リンクモンスター1体を対象として発動できる。自分の墓地から「インフェリアス」モンスター1体を、そのモンスターのリンク先に守備表示で特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたモンスターの表示形式は変更できず、効果は無効化される。

 

「だったら私はオルターガイスト・シルキタスの効果を発動!マリオネッターを手札に戻し、サージカルクーパーを手札に!」

「私は手札のインフェリアス・リリーの効果発動!」

 

インフェリアス・リリー

効果モンスター

星3/闇属性/天使族/攻 400/守 1500

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが手札に存在し、自分フィールドの「インフェリアス」リンクモンスターが相手の効果の対象になった場合に発動できる。このカードをそのモンスターのリンク先に特殊召喚し、その効果を無効にする。

(2)このカードとリンク状態の「インフェリアス」リンクモンスターの攻撃宣言時、自分の手札・フィールドから「ウイルス」罠カード1枚を墓地へ送って発動できる。そのモンスターの攻撃力はダメージ計算時のみ元々の攻撃力の倍になる。

 

「このカードを手札から特殊召喚し、シルキタスの効果を無効にする」

「くっ……」

 

 バウンスは不発に終わり、コストとしてマリオネッターだけが手札に戻る。

 

「私はインフェリアス・サージカルクーパーの効果発動!」

 

インフェリアス・サージカルクーパー

リンク・効果モンスター

闇属性/天使族/攻 2400/LINK 3

【リンクマーカー:右/下/左下】

天使族モンスター3体

このカード名の(2)(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)1ターンに1度、自分の墓地の「ウイルス」罠カード1枚を対象として発動できる。そのカードを自分フィールドにセットする。

(2)自分の「ウイルス」罠カードを発動するために、自分フィールドのモンスターをリリースする場合、このカードのリンク先の自分のモンスターをかわりにリリースできる。

(3)相手がドロー以外の方法でデッキからカードを手札に加えた場合に発動できる。相手はそのカードを公開する。その後、公開したカードを破壊できる効果を持つ「デッキ破壊ウイルス」通常罠カードを自分のデッキから墓地へ送ることができる。送ったら、そのカードを破壊する。

 

「墓地のウイルス罠カード1枚をセットする。私は魔のデッキ破壊ウイルスをセット。バトル!私はインフェリアス・サージカルクーパーで、オルターガイスト・シルキタスを攻撃!この瞬間、インフェリアス・リリーの効果発動!手札からウイルス罠カード1枚を墓地へ送り、サージカルクーパーの攻撃力を元々の攻撃力の倍にする!」

 

 攻撃力4800となったサージカルクーパーが、シルキタスを襲う。

 シルキタスの攻撃力は800、このままではゴーストガールの負けだ。

 

「私は手札のオルターガイスト・クンティエリの効果発動!このカードを手札から特殊召喚し、その攻撃を無効にする」

 

 白いケンタウロスのようなモンスターが現れ、バリアを張ってサージカルクーパーの攻撃からシルキタスを守った。

 

「くっ、私はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン5

 

「私はオルターガイスト・マリオネッターを召喚。その効果で、デッキからオルターガイスト・カモフラージュをセットする」

 

 マリオネッターが触手のようなコードを伸ばすと、その先に虚空からカードが現れて、ゴーストガールのフィールドにセットされる。

 

「シルキタスの効果発動!クンティエリを手札に戻すことで、相手モンスター1体を手札に戻す」

「私はそこにチェーンして、魔のデッキ破壊ウイルスを発動。リリーをリリースし、相手の手札を確認し、その中の攻撃力1500以下のモンスターを全て破壊」

 

 本来であれば、攻撃力2000以上のモンスターをリリースする必要があるが、サージカルクーパーの効果で、自身のリンク先のモンスターをかわりにリリースすることができる。これにより、コストとして手札に戻ったクンティエリと共に、彼女が手札に握っていたマルチフェイカーも墓地へ送られる。

 

「そして、ウイルス(トラップ)を発動したことで、インフェリアス・パンデミックコードにウイルスカウンターを置く」

「でも、サージカルクーパーには今度こそエクストラデッキに帰ってもらうわ」

 

 シルキタスの効果が決まり、サージカルクーパーがフィールドから消えて、バイラのフィールドにモンスターはいなくなる。

 

「私の前に開きなさい、未知なる異世界へ繋がるサーキットよ」

 

 ゴーストガールが手を伸ばすと、そのスーツのラインが赤く輝き、彼女の背後にアローヘッドが開く。

 

「召喚条件はオルターガイスト2体。私はシルキタスとマリオネッターをリンクマーカーにセット!リンク召喚!リンク2!オルターガイスト・ヘクスティア!」

 

 現れたのは爬虫類の胴体に人の腕がいくつも生え、断面から人の体が生えたようなモンスターだった。

 

「私は罠カード、オルターガイスト・マテリアゼーションを発動!墓地からマルチフェイカーを特殊召喚!」

 

 ヘクスティアのリンク先に、マルチフェイカーが特殊召喚される。

 

「マルチフェイカーの効果で、デッキからオルターガイスト・シルキタスを守備表示で特殊召喚!バトル!ヘクスティアで、ダイレクトアタック!ヘクスティアの攻撃力は、リンク先のオルターガイストの攻撃力分アップする!」

 

 マルチフェイカーの攻撃力1200を加えて、攻撃力2700となったヘクスティアが腕を這わせてバイラに襲い掛かる。

 

 バイラ:ライフ4000→1300

 

「マルチフェイカーでダイレクトアタック!」

 

 バイラ:ライフ1300→100

 

「私はこれでターンエンド」

 

ターン6

 

「私はインフェリアス・ゾンデを召喚」

 

インフェリアス・ゾンデ

効果モンスター

星1/闇属性/天使族/攻 700/守 0

このカード名の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。

(1)このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「インフェリアス」カード、または「ウイルス」罠カード1枚を手札に加える。

(2)自分の「ウイルス」罠カードの効果を発動するために、このカードがリリースされた場合に発動できる。墓地から「インフェリアス・ゾンデ」以外のレベル4以下の「インフェリアス」モンスター1体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターがフィールドに表側表示で存在する限り、自分は「インフェリアス」モンスターしか特殊召喚できない。

 

「デッキからインフェリアス・リリーを手札に。さらに魔法カード、培養手術(インフェリアス・グレイトゥ)を発動!」

 

培養手術(インフェリアス・グレイトゥ)

通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1)自分フィールドの「インフェリアス」モンスター1体をリリースして発動できる。自分フィールドに、インフェリアス・トークン(星1・闇属性・天使族・攻/守0)3体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたカードがフィールドに表側表示で存在する限り、自分は「インフェリアス」モンスターしか特殊召喚できず、そのトークンを素材としてリンク召喚されたモンスターは、リンク素材にできない。

 

「ゾンデをリリースして、インフェリアス・トークン3体を特殊召喚!」

 

 ゾンデの体が溶けてなくなり、その残骸から真っ白い人形が三つ、現れる。

 

「この効果で特殊召喚したトークンがフィールドにある限り、私はインフェリアスモンスターしか特殊召喚できない。現れよ、我らの未来回路!リンク召喚!インフェリアス・サージカルクーパー!」

 

 アローヘッドから、再び黒髪の生気をない顔の白衣の天使が現れた。

 

「インフェリアス・トークンを素材としてリンク召喚したモンスターはリンク素材にできない。サージカルクーパーの効果で、墓地から闇のデッキ破壊ウイルスをセット。バトル!私はサージカルクーパーで、オルターガイスト・シルキタスを攻撃!」

「シルキタスの効果を発動!マルチフェイカーを手札に戻し、サージカルクーパーを手札に!」

「手札のリリーの効果!サージカルクーパーのリンク先に特殊召喚し、効果を無効!」

 

 シルキタスがサージカルクーパーに向けて触手を伸ばすが、それはリリーに防がれる。

 

「バトル続行!シルキタスを攻撃!」

 

 サージカルクーパーが巨大な鋏を広げ、シルキタスを切断した。

 

 ゴーストガール:4000→2400

 

「私はこれでターンエンド」

 

ターン7

 

「ねぇ。あなたが仕掛けていたプログラム。さっきチラッと見えたんだけど」

 

 プログラムに詳しいゴーストガールには、詳細までは分からないまでも、それがどれだけ危険なものなのか、一瞥しただけで理解できた。

 

「……必要なのよ」

「ハノイの騎士は、一体何がしたいの?」

 

 ゴーストガールの質問に、バイラは歯を食いしばるようにして答える。

 

「すべては、人類のため。そのために、そうよ。これは仕方のないこと」

 

 自分に言い聞かせるようにそう唱えると、彼女は自分のカードに手をかける。

 

「私は闇のデッキ破壊ウイルスを発動。自分の闇属性モンスターをリリースし、魔法か罠かを宣言。相手の手札とその後3ターンの間にドローしたカードを全て確認し、宣言したカードを破壊する。私は罠カードを宣言」

 

 ゴーストガールの手札が公開される。

 手札にはドローしたばかりの無限泡影があり、それが破壊される。

 

「さらにインフェリアス・パンデミックコードにウイルスカウンターを置く。さらに私は永続罠、インフェクション・ゾーンの効果を発動!自分のインフェリアスのリンク先にインフェリアスモンスターを、効果を無効にして、守備表示で特殊召喚する」

 

 先程、コストとなってリリースされたリリーが蘇る。

 

「そして死のデッキ破壊ウイルスを発動!リリーをリリースし、相手の手札から攻撃力1500以上のモンスターを全て破壊する!」

 

 ゴーストガールの手札が一気削られる。

 

「インフェリアス・パンデミックコードにウイルスカウンターを置く。そして、インフェリアス・パンデミックコードの効果発動!」

 

インフェリアス・パンデミックコード

永続罠

このカードはルール上「ウイルス」カードとして扱う。

(1)自分フィールドの闇属性モンスター1体をリリースしてこのカードを発動できる。

(2)自分の「デッキ破壊ウイルス」通常罠カードが発動した場合に発動できる。このカードにウイルスカウンター1つを置く。このカードがフィールドに表側表示で存在する限り、自分はそのカードと同名カードの発動によって、「インフェリアス・パンデミックコード」にカウンターを置けない。この効果以外で、自分はこのカードにカウンターを置けない。

(3)ウイルスカウンターが4つ以上置かれているこのカードを墓地へ送って発動できる。相手の手札・デッキのカードを全て破壊する。

 

「相手の手札・デッキのカードを全て破壊する!」

「なっ!」

 

 ゴーストガールのデッキが全て吹き飛ぶ。

 

「次のあなたのターンがくれば、あなたはデュエルに敗北する。そして、あなたに残されたのは攻撃力1500のヘクスティアのみ。私のサージカルクーパーの攻撃力2400を突破することはできない。よって、このターンで勝つことはできない」

「くっ……ターンエンド」

 

 それは事実上の敗北宣言に等しかった。

 

「私は何もせずにターンエンド。さようなら、ゴーストガール」

 

 ゴーストガールのアバターが、赤く光り、足先から砕けて消えていく。

 

「っ……」

 

 ゴーストガールは最後の力を振り絞って、デュエルディスクを操作する。

 何かのメッセージが表示された次の瞬間、ゴーストガールの体は完全に消滅した。

 

「なっ、なんですか、今の……」

 

 遅れて到着した美海、ソウルバーナー、ゴッドバードの三人は、その光景を目の当たりにして驚愕していた。

 

「てめぇ、ババアに何しやがった!?」

「遅かったわね。既にハノイの塔は起動した」

「ハノイの塔?」

 

 バイラがその疑問に答える前に、地鳴りがする。

 

「なんだ!?」

 

 周囲からデータが集まり、それが糸のように編まれ、天高く伸びる。

 それはどんどん膨張し、やがて部屋も破壊し始める。

 

「おい、ヤバくねぇか!?」

「とにかく逃げるぞ!」

 

 三人は来た道を戻る。

 

 ゴッドバードがDボードを出して、データストリームを操作してログアウト不可エリアをどうにか突破した。

 

 ◆

 

 ログアウトした美海と尊は、先に脱出していた遊作と葵と草薙の店で合流した。

 

「LINK VRAINSはどうなってるんですか?」

「これを見ろ」

 

 草薙がパソコンを操作して、LINK VRAINS内部の映像を見せる。

 

「な、なにこれ……」

 

 それはまさしく塔だった。

 

 無数の赤い糸が螺旋状に織られて作られたそれは、天に届くほど高く、その上空では光の輪のようなものが浮いていた。

 

「これが、ハノイの塔……」

 

 




バイラさんは原作とデッキを大幅に変えてしまいました。
ジャックナイフとアンデットデッキというところがもろ被りしてたので、ウイルスデッキというところに着目して魔改造してみましたが、ダークマミーデッキが見たかった人には申し訳ないです。


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第18話:Boot up

 草薙のキッチンカーで、遊作達はハノイの塔の解析を行っていた。

 

「あの塔にアバターが吸い込まれている……」

 

 ゴーストガールと同じように、消滅するアバターの姿がモニターに映っている。

 

「人だけじゃない警備AIや建物、あらゆるデータがハノイの塔に吸い込まれている」

「集まったデータは、この上の輪っかみたいなところに集められてるな」

「一体何のために……」

 

 すると、美海のデュエルディスクから通知音が鳴る。

 

「これは……」

「どうした?」

「見てください」

 

 美海はデュエルディスクを操作して、何かのデータを草薙の端末に送信する。

 

「っ……ハノイの塔のデータか!」

 

 画面に表示された図面のようなものを見て、草薙は驚く。

 

「おそらく、ゴーストガールがデュエル中に解析したものでしょう。抜け目ない人です」

「……なるほど、ハノイのやつ、とんでもないことを企んでたんだな」

「草薙さん、どういうことだ?」

「この塔の輪っかは、データが一定以上集まると、収束した高密度なデータコアをネットワーク上に放出する」

「何が起きるんですか?」

「おそらく、電子機器はこの高密度データに耐え切れず、ネットワークに繋がったあらゆるデータが消去される。そして、この高密度データで連鎖的に大規模な機器がダウンし、その時に発生したパルスが増幅し、伝播していく。それにより、ネットに繋がっていない機器まで破壊される」

「それじゃあ……」

 

 現代はあらゆるものが電子機器によって制御されている。

 医療、交通、発電施設、その他、生活に必要なあらゆるものがめちゃくちゃになってしまう。

 

「計算によると、データが限界まで溜まるまで、後6時間、それまでに塔を停止させる必要がある」

「じゃあ、すぐにでも行かないと」

「待て」

 

 今にも飛び出しそうな尊を、草薙が引き止める。

 

「LINK VRAINS全体のデータの流れがおかしくなっている。そのせいでデータストリームがあの塔の周囲しか吹いていない」

「つまりDボードは使えない」

 

 塔へ行くには、塔の近くまで歩いていくしかない。

 

「加えて、下手に近付けば塔に吸い込まれる。ただ、塔がデータを吸収する範囲にはかなりムラがある」

「なら、それを解析して突入ルートを見つける」

「そういうことだ。時間もない。手分けしてやるぞ」

 

 ◆

 

 同刻、サイバース世界では、ライトニング達、イグニス四人が一つの部屋に集まっていた。

 

「ハノイの塔、奴が遺したプログラムか」

 

 ライトニングは、モニターに映るLINK VRAINSの様子を見ながら舌打ちをする。

 

「この規模のものを、数日やそこらで用意できるはずがない。十年前に既に準備していたのか……」

「どうすんの? このままじゃ僕達も消えちゃうよ?」

「近づけば我々とてタダでは済まない。それに、LINK VRAINSは外部から完全に切断された。ギリギリまで隔離することで、邪魔をされないようにするためだろう」

 

 ライトニングはため息を吐く。

 

「静観するしかあるまい」

 

 ◆

 

 SOLテクノロジー、セキュリティ部。

 晃を含む社員達が忙しく動き回っていた。

 

「すぐにLINK VRAINSのユーザーをログアウトさせろ!」

「できません!制御が完全に奪われています!」

「くっ……」

 

 既にLINK VRAINSの管理者権限すら奪われており、LINK VRAINS全体がログアウト不可状態となっている。

 

「現在、LINK VRAINSはログイン不能。こちらからの干渉を全く受け付けません」

「っ! 財前部長!」

 

 すると、手前の席に座っていた女性社員が声を上げる。

 

「LINK VRAINSに新規のログインがありました!」

「なにっ!」

 

 モニターにLINK VRAINSの様子が映し出される。

 

 そこにいたのは、プレイメーカー、ソウルバーナー、美海、ブルーエンジェルの四人だった。

 

 ◆

 

「まさか、保健室の端末を踏み台端末に使えばログインできたなんて……」

 

 ログインできないことが分かった後、ゴーストガールが遺したデータの中に、そのパソコンを示す端末名とIPアドレスが記されてのを見つけた。

 

 ダメもとで学校を訪れ、試してみたところ、四人はログインに成功したのだ。

 

「でも、どうして響子先生の端末から……」

「今はそんなことを考えている暇はない。タイムリミットまで既に五時間を切っている」

 

 プレイメーカーは虚空を指でなぞると、空間に地図が投影される。

 

「ルートは三つ、俺達はそれぞれのルートから塔を目指す」

 

 全員が頷く。

 

「じゃあ、またハノイの塔で」

「どうかご無事で」

 

 ソウルバーナー、美海がそれぞれ別の方向を選択し、走り出す。

 

 プレイメーカーとブルーエンジェルもお互いに顔を見合わせて頷き、自分達の担当のルートを走る。

 

 しばらく進んだ先で、

 

 ドォォンッ!

 

 道が崩れてしまい、プレイメーカーが断層の向かいに落ちてしまった。

 

「プレイメーカー!」

「俺のことはいい!先へ行け!」

「で、でも……」

「時間がない」

 

 ブルーエンジェルは躊躇いながらも、前を向き直り、先を急ぐ。

 

 一人になったブルーエンジェルは、わき目も振らずに全力で走る。

 そして塔までの距離が残り半分ほどまで近づいたところで、目の前に一人の少年が立ちふさがった。

 

「やぁ、ブルーエンジェル」

「あなたは……」

 

 ジャックナイフは子供のように純粋な、そう見える偽りの笑顔を浮かべる。

 

「ここから先に進みたかったら、分かるよね?」

「……えぇ」

 

 二人はデュエルディスクを構える。

 

「「デュエル!」」

 

 ◆

 

 同刻、ソウルバーナーの前に立ちふさがったのは、ハノイの制服を着た赤髪の女性、バイラだった。

 

「初めまして、私はバイラ。ハノイの騎士のセカンドよ」

「我々の相手はお嬢さんか」

「お嬢さんなんて歳じゃないわ」

 

 不霊夢の言葉をバイラは一蹴する。

 

「早く始めましょう。時間もないわ」

「上等だ。いくぞ不霊夢!」

「おう」

 

「「デュエル!」」

 

 ◆

 

 同刻、美海も同じく、自分の前に現れた男と睨み合う。

 

「私の相手はあなたですか」

「えぇ。光栄ですよ」

 

 スペクターは下卑た笑みを浮かべる。

 

 一度勝った相手とはいえ、否、だからこそ油断はできない。

 彼の恐ろしさは身をもって味わっている。

 

「前回のリベンジをさせていただきますよ」

「負けません」

 

「「デュエル!」」

 

 ◆

 

 ソウルバーナーとバイラのデュエル、先攻はバイラから。

 

「デッキから影のデッキ破壊ウイルスを墓地へ送ることで、インフェリアス・カテーテルを特殊召喚」

 

 チューブで全身をぐるぐる巻きにしたナースキャップの少女が現れた。

 

インフェリアス・カテーテル

効果モンスター

星2/闇属性/天使族/攻 1200/守 0

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分のデッキから「ウイルス」罠カード1枚を墓地へ送って発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。この効果で特殊召喚したこのカードがフィールドに表側表示で存在する限り、自分は「インフェリアス」モンスターしかEXデッキから特殊召喚できない。

(2)このカードが魔法・罠カードの発動のためにリリースされた場合に発動できる。デッキから「インフェリアス・カテーテル」以外の「インフェリアス」モンスター1体を手札に加える。

 

「魔法カード、培養手術(インフェリアス・グレイトゥ)を発動!」

 

培養手術(インフェリアス・グレイトゥ)

通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1)自分フィールドの「インフェリアス」モンスター1体をリリースして発動できる。自分フィールドに、インフェリアス・トークン(星1・闇属性・天使族・攻/守0)3体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたカードがフィールドに表側表示で存在する限り、自分は「インフェリアス」モンスターしか特殊召喚できず、そのトークンを素材としてリンク召喚されたモンスターは、リンク素材にできない。

 

「カテーテルをリリースし、インフェリアス・トークン3体を特殊召喚」

 

 カテーテルに巻き付いたチューブがほどけ、その体がドロドロに溶ける。

カテーテルだった液体がぴちゃぴちゃと音を立てて跳ね、真っ白い人形が三つ出来上がった。

 

「カテーテルがリリースされたことで、デッキからインフェリアス・ゾンデを手札に。現れろ、我らの未来回路!リンク召喚!リンク3、インフェリアス・サージカルクーパー!」

 

 現れたのは両腕に血の滲んだ包帯を巻いた女性、ナース服を着ているが、白衣の天使と呼ぶには禍々しい巨大な鋏を携えている。

 

インフェリアス・サージカルクーパー

リンク・効果モンスター

闇属性/天使族/攻 2400/LINK 3

【リンクマーカー:右/下/左下】

天使族モンスター3体

このカード名の(2)(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)1ターンに1度、自分の墓地の「ウイルス」罠カード1枚を対象として発動できる。そのカードを自分フィールドにセットする。

(2)自分の「ウイルス」罠カードを発動するために、自分フィールドのモンスターをリリースする場合、このカードのリンク先の自分のモンスターをかわりにリリースできる。

(3)相手がドロー以外の方法でデッキからカードを手札に加えた場合に発動できる。相手はそのカードを公開する。その後、公開したカードを破壊できる効果を持つ「デッキ破壊ウイルス」通常罠カードを自分のデッキから墓地へ送ることができる。送ったら、そのカードを破壊する。

 

「さらにインフェリアス・ゾンデを通常召喚」

 

インフェリアス・ゾンデ

効果モンスター

星1/闇属性/天使族/攻 700/守 0

このカード名の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。

(1)このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「インフェリアス」カード、または「ウイルス」罠カード1枚を手札に加える。

(2)自分の魔法・罠カードの効果を発動するために、このカードがリリースされた場合に発動できる。墓地から「インフェリアス・ゾンデ」以外のレベル4以下の「インフェリアス」モンスター1体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターがフィールドに表側表示で存在する限り、自分は「インフェリアス」モンスターしか特殊召喚できない。

 

「デッキからインフェリアス・パンデミックコードを手札に加える。さらにサージカルクーパーのリンク先に、インフェリアス・シリンジを特殊召喚」

 

 両足が注射器となった天使が、サージカルクーパーのリンク先に現れる。

 

インフェリアス・シリンジ

効果モンスター

星1/闇属性/天使族/攻 0/守 2000

このカード名の(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しか行えない。

(1)このカードは自分の「インフェリアス」リンクモンスターのリンク先に手札から特殊召喚できる。

(2)このカードが「インフェリアス」リンクモンスターとリンク状態である間、このカードは攻撃対象にならず、自分の永続罠は相手の効果でフィールドを離れない。

 

「サージカルクーパーの効果発動!先程墓地へ送った影のデッキ破壊ウイルスをセット。さらにカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン2

 

「相手のターン開始時、私はインフェリアス・ゾンデをリリースすることで、永続(トラップ)、インフェリアス・パンデミックコードを発動!」

 

 バイラの背後に、巨大なメーターのついたシリンダーが現れる。

ゾンデの体が溶けて、緑色の液体となってシリンダーの中に流し込まれる。

 

インフェリアス・パンデミックコード

永続罠

このカードはルール上「ウイルス」カードとして扱う。

(1)自分フィールドの闇属性モンスター1体をリリースしてこのカードを発動できる。

(2)自分の「デッキ破壊ウイルス」通常罠カードが発動した場合に発動できる。このカードにウイルスカウンター1つを置く。このカードがフィールドに表側表示で存在する限り、自分はそのカードと同名カードの発動によって、「インフェリアス・パンデミックコード」にカウンターを置けない。この効果以外で、自分はこのカードにカウンターを置けない。

(3)ウイルスカウンターが4つ以上置かれているこのカードを墓地へ送って発動できる。相手の手札・デッキのカードを全て破壊する。

 

「このカードはデッキ破壊ウイルスを発動するごとに、ウイルスカウンターを置く。1度カウンターが置かれたら、同名カードの発動ではカウンターを置けない。そして、カウンターが4つ溜まったら、あなたの手札とデッキのカードを全て破壊する」

「つまり、ウイルスカードを4種類使われればこちらの負けというわけか」

 

 不霊夢は冷静に状況を分析する。

 

「ゾンデがウイルス罠発動のためにリリースされたことで、私の墓地からインフェリアス・カテーテルを特殊召喚」

 

 地面から無数のチューブが生え、その中に浮かびあがるようにしてカテーテルが蘇り、チューブがその裸体に巻き付く。

 

「じゃあそろそろ行くぜ!俺のターン!俺は手札の転生炎獣(サラマングレイト)ミーアの効果発動!手札のフォクシーを墓地へ送り、このカードを手札から特殊召喚!」

「その効果にチェーンして、影のデッキ破壊ウイルスを発動!」

 

 カテーテルの体が砕け、そこから大粒の細菌がまき散らされる。

 

「相手の手札、及びこれから3ターンの間にドローするあなたのカードの中から、守備力1500以下のモンスターを全て破壊する」

 

 本来であれば、影のデッキ破壊ウイルスを発動するために必要なのは守備力2000以上のモンスター。しかし、サージカルクーパーはウイルス(トラップ)カードの発動コストを、自身のリンク先に置き換える効果がある。

 

「くっ……」

 

 ソウルバーナーの手札が公開される。

 彼の手札にある守備力1500以下のモンスターは、転生炎獣(サラマングレイト)J(ジャック)ジャガー、転生炎獣(サラマングレイト)スピニー、そして今、召喚しようとしていた転生炎獣ミーアだ。

 

「そのモンスターを全て破壊よ」

「くそっ!」

 

 一気に三枚もの手札が、データとなって砕け散る。

 

「デッキ破壊ウイルスが発動したことで、インフェリアス・パンデミックコードにウイルスカウンターを置く」

 

 バイラの背後のシリンダーに液体が注がれ、巨大なメーターが針を進める。

 

「だったら、墓地のフォクシーの効果発動!手札のファルコを墓地へ送り、このカードを墓地から特殊召喚!」

 

 青い狐型のモンスターが地面から出てきて、その尾から火を噴く。

 

「効果で相手の表側表示の魔法・(トラップ)カードを破壊!」

「シリンジの効果!」

 

 だが、その炎の前にシリンジが立ちふさがる。

 

「このカードがインフェリアスのリンク状態の時、自分の永続(トラップ)カードはフィールドを離れない」

 

 シリンジが右足の注射器で、炎を受け止めた。

 

「だったら、現れろ、未来を変えるサーキット!」

 

 ソウルバーナーが右手を掲げると、その手から炎が渦を巻いて空へと放たれる。

 

「召喚条件はレベル4以下のサイバース族モンスター1体!リンク召喚!」

 

 炎の中からアローヘッドが現れ、フォクシーがそこへ飛び込む。

 

「リンク1、転生炎獣ベイルリンクス!」

 

 ヤマネコ型のモンスターが空中で一回転して降りてきた。

 

「その効果で、デッキから転生炎獣の聖域(サラマングレイト・サンクチュアリ)を手札に加える」

「私はサージカルクーパーの効果を発動!相手がドロー以外の方法でデッキからカードを手札に加えた時、そのカードを破壊できるデッキ破壊ウイルスをデッキから墓地へ送ることで、そのカードを破壊する!」

 

 バイラが闇のデッキ破壊ウイルスを墓地へ送る。

 

 すると、サージカルクーパーが鋏を広げながらソウルバーナーへ近づき、手札に加えたカードを切断した。

 

「くっ、俺はなら墓地のJ(ジャック)ジャガーの効果発動!墓地のファルコをデッキに戻し、このカードをベイルリンクスのリンク先に特殊召喚!現れろ、未来を変えるサーキット!」

 

 二体のモンスターがアローヘッドで炎となる。

 

「リンク召喚!転生炎獣(サラマングレイト)サンライトウルフ!」

 

 現れたのは、燃え滾る爪を持つ人狼だ。

 

「墓地のスピニーの効果発動!このカードを墓地から特殊召喚!リンク先にモンスターが特殊召喚されたことで、墓地からミーアを手札に加える。現れろ、未来を変えるサーキット!召喚条件は炎属性・効果モンスター2体以上!リンク召喚!転生炎獣(サラマングレイト)ヒートライオ!」

 

 三度現れたアローヘッドより、ヒートライオが降臨した。

 

「あの状況から、エースモンスターの召喚までこぎつけるなんて……」

 

 ソウルバーナーのデッキの展開力に、バイラは舌を巻いた。

 だが、対するソウルバーナーと不霊夢もここからどうすべきか考えていた。

 

「ヒートライオを出したはいいが」

「ああ。サンクチュアリがない」

 

 ヒートライオの素の攻撃力は2300。バイラのサージカルクーパーの攻撃力2400には微妙に届かない。だがヒートライオの持つ、相手モンスターの攻撃力を変化させる効果も、転生リンク召喚していなければ使えない。

 

 転生リンク召喚には、サラマングレイトを同名モンスター1体でのリンク召喚を可能とする転生炎獣の聖域(サラマングレイト・サンクチュアリ)が必要不可欠だ。

 

「今はこのまま攻めるしかない。バトルだ!ヒートライオで、インフェリアス・シリンジを攻撃!」

 

 ヒートライオがシリンジを倒すが、守備表示なのでダメージは入らない。

 

「俺はこれでターンエンド」

 

ターン3

 

「インフェリアス・ゾンデを召喚。効果でデッキから魔のデッキ破壊ウイルスを手札に。バトルよ!サージカルクーパーで、ヒートライオを攻撃!」

 

 サージカルクーパーの鋏がヒートライオの体を切断せんと挟み込む

 

「墓地のベイルリンクスの効果!このカードを墓地から除外することで、破壊を無効にする!」

 

 ヒートライオの両腕に炎が灯り、腕を強引に広げて鋏を砕く。

 

「けどダメージは受けてもらう!」

 

 砕けた鉄片がソウルバーナーへ降り注ぐ。

 

 ソウルバーナー:ライフ4000→3900

 

「私はサージカルクーパーの効果発動!墓地から闇のデッキ破壊ウイルスをセット。さらにカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン4

 

「俺のターン!」

 

 ソウルバーナーがドローしたカードは、転生炎獣の意志(サラマングレイト・ハート)

 対象のカードではないため、影のデッキ破壊ウイルスで破壊されない。

 

「ゾンデをリリースして、(トラップ)発動!闇のデッキ破壊ウイルス!魔法カードを選択」

 

 ドローした転生炎獣の意志(サラマングレイト・ハート)がウイルスに犯され、紫のグリッチエフェクトを吐きながら消滅する。

 

「これであなたの手札、そしてこの後3ターンの間にドローする魔法カードも破壊される。そしてリリースされたゾンデの効果発動。墓地からシリンジを特殊召喚」

 

 シリンジが蘇り、再び永続(トラップ)に耐性がつく。

 さらにインフェリアス・パンデミックコードにカウンターが溜まり、また1つメーターの針が進む。

 

「さらに永続罠(トラップ)、インフェクション・ゾーンを発動!」

 

インフェクション・ゾーン

永続罠

このカードはルール上「ウイルス」カードとして扱う。

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分の「ウイルス」通常罠カードの及び効果テキストに「ウイルス」(トラップ)カードと記されたモンスターの効果の発動とその効果は無効化されない。

(2)自分の「インフェリアス」リンクモンスター1体を対象として発動できる。自分の墓地から「インフェリアス」モンスター1体を、そのモンスターのリンク先に守備表示で特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたモンスターの表示形式は変更できず、効果は無効化される。

 

「なら俺は墓地のJジャガーの効果発動!墓地のサンライトウルフをエクストラデッキに戻し、ヒートライオのリンク先に特殊召喚!」

 

 地面から炎が噴き上げ、中からJジャガーが飛び出した。

 

「バトルだ!ヒートライオで、シリンジを攻撃!」

 

 ヒートライオがシリンジを打ち取る。

 

「私はインフェクション・ゾーンの効果を発動!墓地からインフェリアス・ゾンデを、効果を無効にして特殊召喚」

「これじゃあキリがねぇ……」

 

 何度倒してもモンスターは蘇り、ウイルスカードによって彼の手札は奪われ、徐々に攻め手を失っていく。

 

「諦めるな。勝機は必ずある」

「そうは言ってもなぁ」

 

 相棒の言葉を受けても、ソウルバーナーの表情から不安は消えない。

 既にバイラの切り札、インフェリアス・パンデミックコードのカウンターは2つ。後2つで効果が起動する。見えているからこそ、そのカウントダウンは精神的な重圧となって彼を襲う。

 

「俺はこれでターンエンド」

 

ターン5

 

「ドロー……次のターンで終わらせる」

 

 バイラの顔つきが険しくなる。

 

「私はデッキから死のデッキ破壊ウイルスを墓地へ送り、インフェリアス・カテーテルを特殊召喚」

 

 裸のナースキャップの少女が現れ、その体に地面から伸びたチューブが巻き付く。

 

「サージカルクーパーで、ヒートライオを攻撃!」

 

 身代わりになるモンスターはいない。

 ヒートライオは両側から圧迫する刃に耐え切れず、今度こそ切断された。

 

 ソウルバーナー:3900→3800

 

「メイン2、サージカルクーパーの効果発動!墓地から死のデッキ破壊ウイルスをセット。さらにカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン6

 

「相手ターン開始時、私は(トラップ)カード!死のデッキ破壊ウイルスを発動!」

 

 ゾンデの体が弾けて、その体からウイルスをまき散らす。

 

「相手の手札から攻撃力1500以上のモンスターを破壊!さらに相手のデッキから3枚、攻撃力1500以上のモンスターを破壊!」

「残念だったな。俺の手札に攻撃力1500以上はいない!」

 

 公開された手札を見ても、バイラは表情を変えない。

 既に彼女のプランは成っているからだ。

 

「インフェリアス・パンデミックコードにウイルスカウンターを置く。リリースされたゾンデの効果で、墓地からシリンジを特殊召喚。さらに(トラップ)カード、魔のデッキ破壊ウイルスを発動!」

「4枚目!?」

 

 最後のウイルスカードが発動する。

 

「カテーテルをリリースし、あなたの手札から、攻撃力1500以下のモンスターを全て破壊!」

 

 ソウルバーナーの残りの手札が消し飛ぶ。

 そしてインフェリアス・パンデミックコードのシリンダーが液体で満たされ、メーターは遂に限界値を示した。

 

「永続(トラップ)、インフェリアス・パンデミックコードの効果発動!ウイルスカウンターが4つ以上置かれたこのカードを墓地へ送ることで、相手の手札及びデッキのカードを全て破壊する!」

 

 ソウルバーナーのデュエルディスクからカードが飛散し、その全てがウイルスに犯されて、ノイズのエフェクトを吐きながら次々に消えていく。

 

「これであなたの負けよ」

 

 バイラは勝ちを確信して、ソウルバーナーから眼を反らす。

 そして最後の1枚が消えるその瞬間、ソウルバーナーと不霊夢は笑った。

 

「俺は墓地に送られた転生炎獣ファルコの効果発動!墓地から転生炎獣の聖域(サラマングレイト・サンクチュアリ)をセットする!」

「なっ!」

 

 デッキから発動した墓地効果で、ソウルバーナーのキーカードであるフィールド魔法がセットされてしまった。

 

「勝ちを焦ったな。君の切り札が、我々の切り札を引き寄せてしまったとうわけだ」

 

 不霊夢は自信満々に言うに、ソウルバーナーはジト目を向ける。

 

「でもお前、ファルコの効果に気付いてなかっただろ?」

「むっ……バレていたか」

 

 不霊夢は頭を掻く。

 

「け、けど、あなたの場にモンスターは1体だけ、手札もないのにそれでどうやって……」

転生炎獣(サラマングレイト)は何度でも蘇る!俺は墓地のスピニーの効果発動!自分フィールドにサラマングレイトがいる時、自身を特殊召喚!」

 

 アルマジロ型のモンスターが、炎に包まれながらフィールドに転がってくる。

 

「現れろ!未来を変えるサーキット!リンク召喚!転生炎獣(サラマングレイト)サンライトウルフ!さらにそのリンク先に、Jジャガーを墓地から特殊召喚し、墓地のスピニーをデッキに戻す」

「延命する気?」

「んなもん必要ねぇ!俺はサンライトウルフの効果!リンク先にモンスターが特殊召喚された時、墓地からウルヴィーを手札に加える。さらにウルヴィーの効果!墓地から手札に加えられた時、さらに墓地から炎属性モンスターを手札に加える!俺は転生炎獣(サラマングレイト)ドラーシュを手札に加え、そのまま通常召喚!」

 

 赤い子竜が現れる。

 

転生炎獣(サラマングレイト)ドラーシュ

効果モンスター

星2/炎属性/サイバース族/攻 500/守 300

(1)このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「サラマングレイト」カード1枚を手札に加える。この効果発動後、ターン終了時まで、自分はサイバース族モンスターしか特殊召喚できない。

 

「その効果で、デッキからさっき戻したスピニーを手札に。さらに手札のウルヴィーを墓地へ送り、墓地からフォクシーを特殊召喚。現れろ!未来を変えるサーキット!」

 

 アローヘッドへ、サンライトウルフとドラーシュが飛び込む。

 

「リンク召喚!サンライトウルフ!」

 

 アローヘッドから出てきたのは、先程リンク素材になったモンスターと同じサンライトウルフ。

 

「サンライトウルフを出しなおした……まさか!?」

「同名モンスターを素材としたサンライトウルフの効果発動!墓地からサラマングレイト魔法カード、転生炎獣の烈爪(サラマングレイト・クロー)を手札に。現れろ!未来を変えるサーキット!」

 

 サンライトウルフとフォクシーがアローヘッドへ飛び込むと、アローヘッドから炎が噴き上げる。

 

「リンク召喚!転生炎獣(サラマングレイト)ヒートライオ!そのまま転生リンク召喚!」

 

 上空に魔法陣が展開され、ヒートライオは一筋の炎となって魔法陣に吸い込まれる。

 

「逆巻く炎よ、浄化の力で、ヒートライオに真なる力を呼び覚ませ!転生リンク召喚!」

 

 魔法陣から先程より勢いの増した炎が噴き上がる。

 

「生まれ変われ!炎の平原を駆ける百獣の王!転生炎獣(サラマングレイト)ヒートライオ!」

 

 真の力が呼び覚まされ、その背と両腕、そして王の証たるタテガミから炎が噴き出す。

 

「俺は装備魔法、転生炎獣の烈爪(サラマングレイト・クロー)をヒートライオに装備!ヒートライオの効果発動!相手モンスター1体の攻撃力を、自分の墓地のモンスターと同じにする!」

「私は手札のインフェリアス・リリーの効果発動!」

 

インフェリアス・リリー

効果モンスター

星3/闇属性/天使族/攻 400/守 1500

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが手札に存在し、自分フィールドの「インフェリアス」リンクモンスターが相手の効果の対象になった場合に発動できる。このカードをそのモンスターのリンク先に特殊召喚し、その効果を無効にする。

(2)このカードとリンク状態の「インフェリアス」リンクモンスターの攻撃宣言時、自分の手札・フィールドから「ウイルス」罠カード1枚を墓地へ送って発動できる。そのモンスターの攻撃力はダメージ計算時のみ元々の攻撃力の倍になる。

 

「ヒートライオの効果を無効にする!」

「なら俺は手札のスピニーの効果発動!このカードを手札から墓地へ送り、ヒートライオの攻撃力を500アップする。」

「手札もデッキも全て破壊したのに……」

 

 リソースを全て削り切ったはずなのに、いつの間にか追い詰められている。

 その状況にバイラは悔しそうに拳を握りしめる。

 

「バトルだ!ヒートライオで、インフェリアス・リリーを攻撃!」

 

 ヒートライオが右腕を掲げると、その爪が大きく伸びる。

 

転生炎獣の烈爪(サラマングレイト・クロー)の効果!守備表示モンスターを攻撃した時、貫通ダメージを与える!」

 

 爪はリリーを貫き、さらにバイラへと届く。

 

 バイラ:ライフ4000→2700

 

「さらに転生炎獣の烈爪(サラマングレイト・クロー)のさらなる効果!転生リンク召喚した装備モンスターは、そのリンクマーカーの数だけモンスターに攻撃できる!インフェリアス・シリンジを攻撃!」

 

 バイラ:2700→1900

 

「サージカルクーパーを攻撃!」

 

 突貫するヒートライオ。

 サージカルクーパーは鋏で迎え撃つ。

 

 爪と鋏がぶつかりあい、火花を散らす。

 

「行け!ヒートライオ!ブレイジングクロ―!」

 

 鋏を弾き飛ばし、サージカルクーパーの胴体を貫いた。

 

 バイラ:ライフ1900→1500

 

「とどめだ!行け!Jジャガー!ダイレクトアタック!」

 

 ◆

 

 デュエルが終了し、項垂れるバイラを横目に、ソウルバーナーは走り去った。

 

「負けた……でも、これでよかったのよね」

 

 心のどこかで、こうなることを期待していた。

 だからバイラ、もとい滝響子は、自分のパソコンを踏み台に使うことで、閉じられたLINK VRAINSにログインできるようにしていた。

 

 誰かが気付いて、もしかすれば、自分を、リボルバーを止めてくれるかもしれない。

 

「……とんだ背信行為ね」

 

 リボルバーを裏切るような真似をしていたことに、バイラは自嘲した。

 

「ん?」

 

 自らのアバターにノイズが走る。

 見ると、右手からアバターが徐々に砕けて、赤い破片となって風に流されていく。

 

「……リボルバー様」

 

 自分のリーダーの顔を思い浮かべて、彼女の体は静かに消滅した。



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第19話:You are Idol

 ブルーエンジェルとジャックナイフとのデュエル、先攻はブルーエンジェル。

 

ターン1

 

「私はフィールド魔法、トリックスター・ライトステージを発動!」

 

 周囲が暗闇で包まれ、そこに二人のデュエリストを照らすようにスポットライトが当てられる。

 それに呼応するように、空間に色とりどりのペンライトの明かりが灯った。

 

「効果でデッキからトリックスター・リリーベルを手札に。リリーベルはドロー以外の方法で手札に加わった時、特殊召喚できる!」

 

 ステージ上に、大きなベルを抱えたピンクのツインテールの少女が現れた。

 

「さらにトリックスター・キャンディナを通常召喚。効果でデッキからトリックスター・フェスを手札に加えて、発動!トリックスター・トークン2体を特殊召喚。出てきて、夢と希望のサーキット!」

 

 ブルーエンジェルが両手でハートの形を作り、腕を広げる。

 

 ハートのエフェクトが舞い、その向こうにアローヘッドが出現する。

 

「召喚条件はトリックスター2体!トリックスター・トークン2体をリンクマーカーにセット!リンク召喚!トリックスター・ホーリーエンジェル!」

 

 妖精の羽を広げて、青い衣装をまとった女性がステージ上に降り立った。

 

「キャンディナを手札に戻して、手札からマンジュシカを特殊召喚!」

 

 リンク先にモンスターが出たことで、ジャックナイフにダメージが入る。

 

 ジャックナイフ:ライフ4000→3600

 

「まだまだ!出てきて!夢と希望のサーキット!召喚条件はレベル2以下のトリックスター1体!リンク召喚!リンク1、トリックスター・ブルム!」

 

 リリーベルがアローヘッドに飛び込み、代わりにトリックスター・ブルムがアローヘッドより現れた。

 

「リンク先にモンスターが出たことで、相手にダメージ!」

 

 ジャックナイフ:ライフ3600→3200

 

「さらにブルムの効果で、相手に1枚ドローさせる」

「わー、手札プレゼントしてくれるんだー」

 

 ジャックナイフは嬉しそうにカードをドローする。

 

「ドローしたわね。マンジュシカの効果でダメージ!」

「わぁっ!」

 

 ジャックナイフの手元で爆発が起きる。

 彼は大げさなリアクションで飛びのき、ダメージを受けた。

 

 ジャックナイフ:ライフ3200→2800

 

「私はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン2

 

「ボクのターン、ドロー」

「ドローした時、マンジュシカの効果でダメージ!」

 

 ジャックナイフ:ライフ2800→2400

 

「さらに罠カード、トリックスター・リンカーネーションを発動!相手の手札を全て除外して、その枚数分、相手はカードをドローする」

「くっ!」

 

 ジャックナイフの手札が、全てデータの藻屑となって砕ける。

 

「さあ、7枚ドローして」

 

 カードをドローした瞬間、マンジュシカにより、ダメージが加えられる。

 

 ジャックナイフ:2400→800

 

「痛いなぁ、じゃあボクはアニマイール・トリックランタンを召喚」

 

アニマイール・トリックランタン

効果モンスター

星3/光属性/アンデット族/攻 800/守 800

このカード名の(2)(3)の効果はいずれか1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが召喚に成功した場合に発動できる。デッキ・墓地から「アンデットワールド」、または「アニマイール・ポルターガイスト」1枚を手札に加える。

(2)自分フィールドのアンデット族モンスターを素材として、「アニマイール」リンクモンスターをリンク召喚する場合、墓地のこのカードをリンク素材としてデッキの下に置ける。この効果発動後、ターン終了時まで、自分は融合モンスターしか特殊召喚できない。

(3)このカードが墓地に存在する場合、自分の手札・フィールドの「アニマイール」カード1枚を墓地に送って発動できる。このカードを墓地から手札に加える。

 

「デッキからアンデットワールドを手札に加えて、発動」

 

 周囲に瘴気が立ち込め、フィールドを照らすペンライトの光を濁らせる。

 

「現れろ、ボクだけの未来(みち)を拓く未来回路!リンク召喚!アニマイール・フウロ!」

 

アニマイール・フウロ

リンク・効果モンスター

光属性/アンデット族/攻 0/LINK1

【リンクマーカー:下】

リンクモンスター以外の「アニマイール」モンスター1体

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードがリンク召喚に成功した場合、手札から「アニマイール」カード1枚を捨てて発動できる。デッキから「アニマイール・ポルターガイスト」1枚を墓地に送る。自分のフィールドゾーンに「アンデットワールド」があれば、墓地に送るかわりに手札に加える。

(2)自分が融合召喚に成功したターンのエンドフェイズに、自分のフィールドゾーンに「アンデットワールド」があれば、墓地のこのカードを除外して発動できる。自分はデッキから1枚ドローする。

 

「デッキからアニマイール・ポルターガイストを手札に。さらに魔法カード、アニマイール・ベリアルを発動」

 

アニマイール・ベリアル

通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1)手札1枚を捨てて発動できる。デッキからアンデット族モンスター1体を墓地に送る。自分の墓地に「アニマイール」モンスターが4種類以上あれば、自分はデッキから1枚ドローする。

 

「手札1枚を捨てて、デッキからアニマイール・ライヴコープスを墓地へ送る。現れろ!ボクだけの未来(みち)を拓く未来回路!アニマイールを含むアンデッド族モンスター3体!ボクはフィールドのフウロと、墓地のトリックランタン、ライヴコープスをリンクマーカーにセット!リンク召喚!アニマイール・オルトバイト!」

 

 アローヘッドより、二つの頭を持つ犬、体は紫の炎のようなものでおおわれており、目は黒い革で隠されている。

 

アニマイール・オルトバイト

リンク・効果モンスター

闇属性/アンデット族/攻 2300/LINK3

【リンクマーカー:右上/左上/下】

「アニマイール」モンスターを含むアンデット族モンスター3体

このカードは自分のEXモンスターゾーンにのみ特殊召喚でき、このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分のメインフェイズに発動できる。自分の手札・フィールド及びこのカードのリンク先の相手モンスターの中から、アンデット族融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体を融合召喚する。

(2)このカードのリンク先の自分・相手のモンスターを、それぞれ1体ずつを対象として発動できる。対象の相手モンスターを対象の自分のモンスターに装備カード扱いで装備する。装備モンスターは装備したカードの元々の攻撃力の半分、攻撃力がアップする。

 

「墓地からリンク素材にしたので、ボクはこのターン、融合モンスターしか特殊召喚できない。オルトバイトの効果を発動!そこにチェーンして、アニマイール・ポルターガイストを発動!」

 

アニマイール・ポルターガイスト

速攻魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できず、このカードの発動に対して、相手はモンスター効果・魔法・罠カードを発動できない。

(1)以下の効果から1つを選択する。同一チェーン上に「アニマイール」リンクモンスターの効果がある場合、さらに、その効果以外の同一チェーン上の効果は全て無効になる。

●相手フィールドのモンスターを任意の数だけ対象にして発動できる。そのモンスターをそれぞれ別のメインモンスターゾーンに移動させる。

●相手のEXモンスターゾーンにモンスターが存在し、相手のメインモンスターゾーンにEXデッキから特殊召喚されたモンスターが存在する場合にそれら2体を対象として発動できる。そのモンスターの位置を入れ替える。

 

「マンジュシカとホーリーエンジェルをオルトバイトのリンク先へ移動!効果解決!オルトバイトのリンク先のモンスター2体を融合!」

 

 オルトバイトがその二つの首を伸ばして、眼前の少女たちを容赦なく喰らう。

 

「偶像共の屍を喰らい、その命を結び合わせよ!融合召喚!」

 

 オルトバイトから喰らった霊魂が二つ吐き出され、空中で一つになり、膨張する。

 

「レベル7、アニマイール・バニシングファング!」

 

 霊魂は蛇のような形の怪物へと変化した。

 

アニマイール・バニシングファング

融合・効果モンスター

星7/闇属性/アンデット族/攻 2300/守 2000

アンデット族モンスター+リンクモンスター

このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが特殊召喚に成功した場合に発動できる。相手フィールドの表側表示モンスター全ての効果をターン終了時まで無効にする。この効果の発動に対して、相手はアンデッド族モンスターの効果を発動できない。

(2)このカードは、「アニマイール」リンクモンスターの効果で装備したモンスターのモンスター効果を得る。

(3)このカードが戦闘・相手の効果でフィールドから墓地の送られた場合、自分及び相手の墓地のアンデット族モンスターをそれぞれ1体ずつ除外して発動できる。このカードを墓地から特殊召喚する。

 

「バトルだ!バニシングファングで、トリックスター・ブルムを攻撃!」

 

 バニシングファングが首をねじりながら突っ込み、ブルムを喰らってしまう。

 

 ブルーエンジェル:ライフ4000→1800

 

「オルトバイトでダイレクトアタック!」

「墓地のリンカーネーションの効果発動!このカードを除外することで、墓地からマンジュシカを守備表示で特殊召喚!」

 

 マンジュシカが立ちふさがり、オルトバイトの攻撃からブルーエンジェルを守る。

 

「あ~ざんね~ん。じゃ、ボクはカードを2枚伏せてターンエンド」

 

ターン3

 

「ねぇ、あなた達はどうしてこんなことをするの?」

「う~ん、なんかジンルイのため? とからしいよ。まあ実際イグニスはやる気満々みたいだし、しょうがないよね~」

 

 世間話でもするように、彼は笑いながらそう話す。

 

「……あなた、どうしてそんなに苦しそうなの?」

「……は?」

 

 そんな彼の心情を見抜いてか、ブルーエンジェルは言葉を紡ぐ。

 

「あなたは今、心から笑ってない。笑顔を見せることで、自分を偽っているだけ」

「……」

「あなたと同じような表情(かお)をした人を、私は知っている」

 

 それは初めて会った時の美海だった。

 財前の家に連れてこられたまだ幼かった彼女は、極端に低い姿勢で葵達に接していた。

 

 使用人になるように申し出たのも彼女自身、家族であることを、友達であることを自ら拒み、距離を置いていた。

 それでも、孤独は美海が自ら望んだことではない。

 

「本当のあなたはどうしたいの?」

 

 ジャックナイフは答えない。

 それでもブルーエンジェルは、その顔を見て決心する。

 

「私があなたを救ってみせる。私は装備魔法、トリックスター・マジカローラを発動!その効果で、墓地からトリックスター・ホーリーエンジェルを特殊召喚し、このカードを装備!」

 

 巨大な花輪が現れ、その輪をくぐるようにしてホーリーエンジェルが登場する。

 

「さらにキャンディナを召喚。その効果で、デッキからトリックスター・キャロベインを手札に加え、そのまま特殊召喚」

 

 ブルーエンジェルのフィールドに、三体のモンスターが並ぶ。

 

「出てきて!夢と希望のサーキット!召喚条件はトリックスター2体以上!私はキャンディナ、キャロベイン、そしてリンク2のホーリーエンジェルをリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン!」

 

 アローヘッドから花びらが舞う。

 

「リンク召喚!リンク4!トリックスター・ベラマドンナ!」

 

 花吹雪の中から現れたのは、豪奢なドレスを身にまとった美しい女性だった。

 

「ねぇ、このデュエルが、全部終わったら。あなたの話を聞かせて」

「ボクの……」

「そう」

 

 ブルーエンジェルは微笑みかける。

 それに応じて、ジャックナイフの表情がかすかに明るくなった気がした。

 

「ベラマドンナの効果!墓地のトリックスターモンスターの種類の数×200のダメージを相手に与える!これで終わりよ!」

 

 ベラマドンナが杖を掲げると、花びらが舞い、ジャックナイフに向けて襲い掛かる。

 

「ボクは……罠カード、スリーフェイト・バリアを発動」

 

スリーフェイト・バリア

通常罠

(1)以下の効果から1つを選択して発動できる。

●このターン、自分のモンスターは戦闘・効果で破壊されない。

●このターン、自分はダメージを受けない。

●このターン、自分のモンスター1体は1度だけ戦闘で破壊されず、その戦闘によって戦闘ダメージを受けるかわりに、その数値分、自分のライフを回復する。

(2)自分がダメージを受けた場合、墓地のこのカードを除外して発動できる。このターン、自分が受ける効果ダメージは0になる。

 

「ボクはこのターン、ダメージを受けない」

 

 ブルーエンジェルは驚いた。

 ダメージを防がれたことではない。彼の表情がかつてないほど怒りに満ちていたことだ。

 

「アハハハハハハハハハハハハハハハッッ!」

 

 けれど彼は笑っていた。

 怒りに震えながら、笑い声をあげていた。

 

「ウザいよ」

 

 背筋が凍った。

 次の瞬間、彼の口から怨嗟の言葉が吐き出される。

 

「アイドルごっこやってイキってるだけのお前が分かった気になってんじゃねぇよっ!」

 

 怒号と共に彼の口から吐き出されるのは、憎悪、怨嗟、厭悪、憤怒、嫌悪、憤慨、怨恨、唾棄、厭忌、彼のうちにあるそれらが言葉になってブルーエンジェルに殴りかかる。

 

「ボクを救う!? 何も知らないくせに!!恵まれた人間のくせにエラそうに講釈垂れてんじゃねぇよクソがっ!」

「ひっ、ご、ごめんなさ─────」

「何泣いてんの!? 泣いて謝れば許されるとでも思ってんの!? ボクはどれだけ泣いても、誰も助けてくれなかったのに!!」

 

 ジャックナイフは地面をひたすら踏みつける。

 

「あぁぁぁぁムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつく!!謝るんだったら死ねよ!ボクのために泣いて死ね!お前みたいな勘違いしたやつが一番ムカつくんだよ!」

 

 狂気ともいえる彼の言動に、ブルーエンジェルはただ気おされていた。

 何が彼をそこまで駆り立てるのか、全くもって理解できない。

 

「あー、もういいよ。お前」

 

 ジャックナイフは一転して静かになる。

 

「もうターンエンドでいいよね?」

「た、ターンエンド……」

 

 その眼光にやられ、ブルーエンジェルは攻撃すらすることなくターンを終えた。

 

ターン4

 

「ボクは手札1枚を捨てることで、速攻魔法、超融合を発動」

 

 ジャックナイフがカードを掲げると、空に大穴が開き、そこからどす黒いエネルギーが渦を巻いて収束する。

 

「ちょ、超融合!?」

「自分・相手フィールドのモンスターを素材として融合召喚を行う!ボクは今フィールドにいる全てのモンスターを融合!」

 

 モンスターはその大穴の中に吸い込まれる。

 

「戦場に集う雑兵共、死ね!散れ!その魂を捧げよ!融合召喚!レベル8、アニマイール・フォースドラゴン!」

 

 大穴から大きな腕が飛び出し、穴の中からそれは這い出る。

 

 黒い体に、青い幾何学的な模様が刻まれた巨大なドラゴンだった。

 

アニマイール・フォースドラゴン

融合・効果モンスター

星8/闇属性/アンデッド族/攻 0/守 0

「アニマイール」融合モンスター+リンクモンスター1体以上

(1)このカードの元々の攻撃力は、このカードの融合素材となったリンクモンスターのリンクマーカーの数×1000となる。

(2)このカードは、このカードの攻撃力以下の相手のリンクモンスターの効果を受けない。

(3)1ターンに1度、自分・相手の墓地からこのカードの融合素材となったモンスター1体を除外し、相手フィールドの表側表示のカード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。

 

「こいつの攻撃力は、融合素材となったリンクモンスターのリンクマーカーの合計×1000となる!」

「攻撃力、7000……」

「アニマイール・フォースドラゴンの効果発動!1ターンに1度、このカードの融合素材モンスターを墓地から除外し、相手フィールドの表側表示のカード1枚を破壊する!ボクはベラマドンナを除外して、ライトステージを破壊!」

 

 フォースドラゴンの体から霊魂が飛び出し、それがベラマドンナの姿を形作る。

 

 ベラマドンナが杖を乱暴に振り回すと、フィールドを彩っていたペンライトが次々と嫌な音を立てて破壊される。

 

「あ、あぁ……」

「終わりだ。やれ!アニマイール・フォースドラゴン!ダイレクトアタック!」

 

 アニマイール・フォースドラゴンが腕を振り下ろす。

 

 まるで彼の怒りを表すように、何度も、何度も、ブルーエンジェルに拳を叩きつける。

 

「ふぅ……さーて、君もハノイの塔の贄になってもらおっかなー」

 

 やがて怒りが収まったのか、ジャックナイフはケロッとした顔で、ブルーエンジェルに近付く。その時、

 

「……あぁ、やっぱり君も来たんだね」

 

 近づく気配を察知して足を止める。

 彼の視線の先に立っていたのは、プレイメーカーだった。



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第20話: lonely seed

 スペクターと美海のデュエル。

 

ターン1 スペクター

 

「私は聖種の地霊(サンシード・ゲニウスロキ)を素材に、リンク召喚!」

 

 ゲニウスロキの根本にアローヘッドが開く。

真下から強烈な光を浴びせられ、その花は枯れて実を落とす。

 

「リンク召喚!聖天樹の幼精(サンアバロン・ドリュアス)!」

 

 アローヘッドから大樹が伸びる。

 その木は枝に大きな実を宿し、幹の上部が大きく膨らみ顔のような形となる。

 

「ゲニウスロキを素材としたことで、デッキから聖蔓の播種(サンヴァイン・ソウィング)を手札に加え、発動!デッキから聖蔓の天双芽(サンシード・ツイン)を特殊召喚」

 

 地面から蔓が伸び、螺旋を描く。

 螺旋の中に、ピンクと水色の双子の幼精が生まれた。

 

「その後、私は1000のダメージを受ける。ダメージを受けたことで、ドリュアスの効果発動!ダメージの数値分ライフを回復し、エクストラデッキからサンヴァインモンスターを特殊召喚!出でよ、聖蔓の番騎士(サンヴァイン・ハーキュリー)!」

 

 ドリュアスの枝から実が落ちる。

 

 実は砕けて、その中から大木の鎧を着た重装の騎士が生まれた。

 

聖蔓の番騎士(サンヴァイン・ハーキュリー)

リンク・効果モンスター

地属性/植物族/攻 1000/LINK 1

【リンクマーカー:右】

植物族通常モンスター1体

(1)自分フィールドの「サンアバロン」リンクモンスターが効果でフィールドから離れた場合に発動する。このカードを破壊する。

(2)このカードの特殊召喚に成功した場合、自分フィールドの「サンアバロン」リンクモンスター1体を対象として発動できる。このカードの攻撃力を、対象のモンスターのリンクマーカーの数×500アップする。その後、このカードの攻撃力以下の相手フィールドのモンスター1体を選んで破壊する。

(3)自分フィールドの「サンアバロン」リンクモンスターが、戦闘・相手の効果でフィールドを離れる場合、かわりにフィールド・墓地のこのカードを除外できる。

 

「さらにツインの効果で、墓地からゲニウスロキを特殊召喚。現れろ、私達の未来(みち)を照らす未来回路!」

 

 ドリュアスの下にアローヘッドが開く。

 ツインとゲニウスロキがその中に吸い込まれ、ドリュアスの養分となる。

 

「リンク3!聖天樹の大精霊(サンアバロン・ドリュアノーム)!」

 

 ドリュアスがさらに成長し、膨らんだ幹がぱっくり割れる。

 そこから花が咲き、その中に女性の上半身が生えてくる。

 

「私はカードを2枚伏せてターンエンド」

 

ターン2 美海

 

「私は原初海祈(オリジンブルー)シーライブラを召喚」

 

 体が半透明のデータとなった魚が現れる。

 

原初海祈(オリジンブルー)シーライブラ

効果モンスター

星4/水属性/サイバース族/攻 1000/守 1600

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードの召喚·特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「原初海祈シーライブラ」以外の「オリジンブルー」カード1枚を手札に加える。

(2)このカードが他のモンスターゾーンに移動した場合に発動できる。手札から「原初海祈シーライブラ」以外の「オリジンブルー」モンスター1体を守備表示で特殊召喚する。

 

「効果でデッキからメガロガーを手札に加える。手札のメガロガーは、自分の水属性モンスター1体を移動させることで特殊召喚できる」

 

 シーライブラが横に泳ぎ、空いたスペースに上空から小型のサメがを上げながら落ちてきた。

 

原初海祈(オリジンブルー)メガロガー

効果モンスター

星3/水属性/サイバース族/攻 1300/守 500

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できず、発動するターン、自分はサイバース族モンスターしか特殊召喚できない。

(1)自分フィールドの水属性モンスター1体を対象として発動できる。対象のモンスターを隣のメインモンスターゾーンに移動させ、手札からこのカードを特殊召喚する。

(2)このカードが墓地に存在する場合、自分フィールドの「オリジンブルー」モンスター1体を対象として発動できる。対象のモンスターを隣のメインモンスターゾーンに移動させ、このカードを特殊召喚する。この効果で特殊召喚したこのカードはフィールドを離れた場合、除外される。

 

「シーライブラが移動したことで、手札からアノマロトレスを特殊召喚」

 

原初海祈(オリジンブルー)アノマロトレス

効果モンスター

星3/水属性/サイバース族/攻 800/守 800

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分フィールドのこのカード以外の「オリジンブルー」モンスター1体を対象として発動できる。対象のモンスターを隣のメインモンスターゾーンに移動させ、元々の位置にそのカードと同じレベル·種族·属性の「オリジンブルー・トークン」(攻/守0)1体を特殊召喚する。この効果発動後、ターン終了時まで、自分は水属性モンスターしか特殊召喚できない。

(2)墓地のこのカードを除外し、自分フィールドの水属性モンスター1体を対象として発動できる。対象のカードを隣のメインモンスターゾーンに移動させる。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

「来なさい、未来を繋ぐサーキット!」

 

 シーライブラがアローヘッドに飛び込む。

 

「リンク召喚!リンク1、原初海祈(オリジンブルー)エルニーニャ!」

 

 現れたのは、水色の鉱石のような髪を持つ人魚だった。

 

原初海祈(オリジンブルー)エルニーニャ

リンク・効果モンスター

水属性/サイバース族/攻 0/LINK 1

【リンクマーカー:右】

リンクモンスター以外の水属性・サイバース族モンスター1体

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードがリンク召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「原初海域(オリジンブルー・ウェブ)」1枚を手札に加える。

(2)1ターンに1度、このカードを空いている自分のメインモンスターゾーンに移動させて発動できる。自分のリンクモンスターにバックログカウンター1つを置く。

 

「デッキから原初海域(オリジンブルー・ウェブ)を手札に加えて、発動」

 

原初海域(オリジンブルー・ウェブ)

フィールド魔法

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分の「オリジンブルー」リンクモンスターのリンク召喚に成功した場合に発動できる。そのモンスターに、このターン中にモンスターが移動した回数だけ、バックログカウンターを置く。その後、この効果で置かれたカウンターの数まで、墓地からレベル4以下の「オリジンブルー」モンスターを特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化される。

(2)1ターンに1度、自分フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを隣のメインモンスターゾーンに移動させる。

 

「エルニーニャの効果!1ターンに1度、このカードを空いているメインモンスターゾーンに移動させ、リンクモンスターにバックログカウンターを置く」

 

 エルニーニャがシーライブラの横に移動し、彼女の胸のブローチに白い光が灯る。

 

「さらに手札から原初海祈(オリジンブルー)アンモジュールを特殊召喚」

 

 円盤のような貝殻から触手を伸ばすモンスターが現れる。

 

原初海祈(オリジンブルー)アンモジュール

効果モンスター

星4/水属性/サイバース族/攻 1700/守 0

このカード名の(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しか行えず、このカード名のカードを特殊召喚するターン、自分は水属性モンスターしか特殊召喚できない。

(1)自分フィールドにモンスターが存在しない、または水属性モンスターのみの場合、このカードを手札から特殊召喚できる。

(2)このカードが他のモンスターゾーンに移動した場合に発動できる。デッキから「オリジンブルー」魔法・罠カード1枚を手札に加える。

 

「アノマロトレスの効果発動!」

 

 アノマロトレスが、先端から触手を伸ばしてアンモジュールへと接続する。

 

「自分のオリジンブルー1体を移動させることで、オリジンブルー・トークンを生成」

 

 アンモジュールからデータが吸い出され、その隣にアンモジュールそっくりの幻影が生み出された。

 

「アンモジュールが移動した時、デッキから「オリジンブルー」魔法・罠カード1枚を手札に加える。来なさい、未来を繋ぐサーキット!召喚条件は水属性効果モンスター2体以上!」

 

 エルニーニャ、メガロガー、アノマロトレスの三体がアローヘッドに吸い込まれる。

 

「リンク召喚!リンク3、原初海祈タイタニーニャ!」

 

 現れたのは、巨大なハート型の水晶に、蝶の羽を象った飾りと女性の上半身の像が取り付けられた奇妙なオブジェだった。

 

原初海祈(オリジンブルー)タイタニーニャ

リンク·チューナー·効果モンスター

水属性/サイバース族/攻 0/LINK3

【リンクマーカー:右下/下/左下】

水属性·効果モンスター2体以上

(1)リンク状態のこのカードは相手の効果を受けず、攻撃対象にならない。

(2)このカードのリンク先のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターをチューナーとして扱う。その後、このカードのリンク先のモンスターのみを素材としてサイバース族Sモンスター1体をS召喚する。この効果は相手ターンでも発動できる。

(3)自分のモンスターの位置が移動する度に、このカードにバックログカウンターを1つ置く。

(4)自分フィールドのモンスターの攻撃力は、このカードのバックログカウンターの数×200アップする。

 

「フィールド魔法、原初海域(オリジンブルー・ウェブ)の効果発動!このターンに自分のモンスターが移動した回数分、タイタニーニャにバックログカウンターを置く」

 

 水晶の中に三つの光が灯る。

 

「この効果で置かれたバックログカウンターの数だけ、墓地からレベル4以下のオリジンブルーを、効果を無効にして特殊召喚」

 

 墓地からシーライブラ、メガロガー、アノマロトレスの3体が蘇る。

 

「タイタニーニャの効果!リンク先のモンスターのみを素材として、シンクロ召喚を行う!」

 

 タイタニーニャの水晶から、触手のようなコードが伸びて、メガロガーのデータを書き換え、チューナーに変更する。

 

「私はレベル4のシーライブラに、レベル3のメガロガーをチューニング!」

 

 二体のモンスターの体がデータへと分解され、それぞれレベルの数のリングに変化する。

 

「太古の泉より、その美しき歌声を響かせよ!シンクロ召喚!」

 

 リングは一つに重なり、その輪の中を光が貫く。

 

「現れろ、レベル7!原初海祈(オリジンブルー)プレシオルタ!」

 

 光の中から現れたのは、水晶のように透き通る青い鱗を持つ首長竜だ。

 

原初海祈(オリジンブルー)プレシオルタ

シンクロ·効果モンスター

星7/水属性/サイバース族/攻 2300/守 2000

水属性チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

(1)このカードが効果で隣のメインモンスターゾーンに移動する場合、かわりにリンクモンスターのリンク先となるメインモンスターゾーンに移動できる。

(2)1ターンに1度、自分フィールドのバックログカウンター1つを取り除いて発動できる。このカードと同じ縦列の相手のカードを全て手札に戻す。この効果は相手ターンでも発動できる。

(3)1ターンに1度発動できる。このカードを隣のメインモンスターゾーンに移動させる。

 

「墓地のメガロガーの効果発動!オリジンブルー・トークンを隣に移動させることで、このカードを墓地から特殊召喚!タイタニーニャの効果でシンクロ召喚!」

 

 浮上したメガロガーに、タイタニーニャのコードが突き刺さる。

 

「レベル6、原初海祈(オリジンブルー)エラスモータル!」

 

原初海祈(オリジンブルー)エラスモータル

シンクロ・効果モンスター

星6/水属性/サイバース族/攻 2000/守 2000

水属性チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

このカード名の(2)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1) このカードが効果で隣のメインモンスターゾーンに移動する場合、かわりにリンクモンスターのリンク先となるメインモンスターゾーンに移動できる。

(2)このカードが移動した場合、自分フィールドのバックログカウンター1つを取り除き、このカードが元々いた位置と、移動先の間にあるメインモンスターゾーンの数だけ、相手フィールドのカードを対象として発動できる。そのカードをデッキに戻す。

(3)S召喚されたこのカードがフィールドから墓地に送られた場合に発動できる。墓地から水属性モンスター1体を手札に加える。

 

「プレシオルタの効果発動!1ターンに1度、このカードを隣に移動させる!」

「では、私はここで(トラップ)カード!聖蔓の萌芽(サンヴァイン・スプラウト)を発動!」

 

聖蔓の萌芽(サンヴァイン・スプラウト)

通常罠

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分フィールドの「サンアバロン」リンクモンスター、または「サンヴァイン」リンクモンスター1体を対象として発動できる。このターン、対象のモンスターは効果では破壊されない。その後、自分は1000ダメージを受ける。

(2)墓地のこのカードを除外して発動できる。墓地から「サンシード」モンスター1体を特殊召喚する。

 

「このターン、私のドリュアノームは効果では破壊されない。その後、私は1000のダメージを受ける」

 

 スペクター:ライフ4000→3000

 

「ダメージを受けたことで、ドリュアノームの効果発動!エクストラデッキから、二体目の聖蔓の番騎士(サンヴァイン・ハーキュリー)を特殊召喚!」

 

 ドリュアノームから実が落ちて、そのリンク先に二体目の重戦士が生み出す。

 

 スペクター:ライフ3000→4000

 

「ハーキュリーの効果発動!このカードの攻撃力を、自分のサンアバロンのリンクマーカーの数×500アップする。その後、自身の攻撃力以下のモンスターを破壊する!オリジンブルー・トークンを破壊!」

 

 攻撃力2500となったハーキュリーが、木の大剣でオリジンブルー・トークンを叩き潰した。

 

「プレシオルタの効果!このカードと同じ縦列の相手フィールドのカード全てを手札に戻す!ドリュアノームを手札に!」

 

 プレシオルタが歌を奏でると、水の衝撃波が口から放たれる。

 

「私はハーキュリーの効果発動!自分のサンアバロンが相手の効果でフィールドを離れる時、このカードを身代わりに除外できる」

 

 ハーキュリーがドリュアノームを庇うようにしてその前に立ち、衝撃波を受け止めて消滅した。

 

「ならフィールド魔法、原初海域(オリジンブルー・ウェブ)の効果で、エラスモータルを隣へ移動。さらに墓地のアノマロトレスを除外して効果発動!エラスモータルを隣へ移動!この時、エラスモータルは自身の効果で、移動先をリンクモンスターのリンク先に変更できる!」

 

 エラスモータルがモンスターゾーンを1つ挟んで、左側へと移動する。

 

「エラスモータルの効果!このカードが移動した時、その間にあるメインモンスターゾーンの数だけ、相手フィールドのカードをデッキに戻す!」

「ハーキュリーを身代わりに、ドリュアノームを守る!」

 

 エラスモータルの効果も、スペクターのリンクモンスターに防がれてしまう。

 

「私はこれでターンエンド」

「おやぁ? 攻撃はいいんですか?」

「白々しい」

 

 挑発的な笑みを浮かべるスペクターに対して、美海は冷ややかに答える。

 

「ここで攻撃しても、ドリュアノームの効果を起動されるだけ。それよりも、あなたがドローフェイズを終えた瞬間に、ドリュアノームを手札に戻す方がいい」

「それは困りましたねぇ。前回もこのバウンス地獄にやられていたのですから」

 

 スペクターはそう言いつつも、全く困っているように見えない。

 

「おや? 私の手元には伏せカードが残っていましたね」

 

 スペクターはそのカードを開く。

 

「私はエンドフェイズに、聖蔓の収穫(サンヴァイン・ハーベスト)を発動!」

 

聖蔓の収穫(サンヴァイン・ハーベスト)

通常罠

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分の墓地・除外されている植物族リンクモンスター3体までを対象として発動できる。そのカードを持ち主のEXデッキに戻す。その後、戻した枚数以下のリンクマーカーを持つ「サンヴァイン」リンクモンスター1体を、EXデッキから自分の「サンアバロン」リンクモンスターのリンク先に特殊召喚し、自分は1000のダメージを受ける。

(2)このカードが墓地に存在し、自分の「サンヴァイン」リンクモンスターが効果でフィールドを離れた場合に発動できる。このカードは通常モンスター(植物族・地・星1・攻/守 0)となり、モンスターゾーンに特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたこのカードは、フィールドを離れた場合に除外される。

 

「除外されているハーキュリー二体をエクストラデッキに戻し、ハーキュリーを特殊召喚し、私は1000ダメージを受ける」

 

 三度現れた、大樹の重騎士がプレシオルタの前に立ちふさがる。

 

「さらにダメージを受けたことで、エクストラデッキから聖蔓の剣士(サンヴァイン・スラッシャー)を特殊召喚」

 

 葉っぱの剣士が現れ、剣を構える。

 

「くっ、相手のターン開始時、私はプレシオルタの効果発動!同じ縦列のドリュアノームを手札に!」

「ハーキュリーの効果!自身を身代わりに除外する!」

 

 またしても効果が防がれる。

 既にアノマロトレスの墓地効果は使ってしまったため、これ以上、美海は妨害に動くことができない。

 

「ハーキュリーが効果でフィールドを離れたことで、墓地の聖蔓の収穫(サンヴァイン・ハーベスト)の効果発動!墓地からこのカードを(トラップ)モンスターとして特殊召喚!」

 

 地面から毒々しい色の花が咲く。

 

「私は墓地の聖蔓の萌芽(サンヴァイン・スプラウト)の効果発動!このカードを墓地から除外することで、墓地のサンシードモンスター、聖種の天双芽(サンシード・ツイン)を特殊召喚!」

 

 双子の幼精が現れ、墓地のゲニウスロキを呼び戻す。

 

「現れろ、私達の未来(みち)を照らす未来回路!リンク召喚!聖蔓の癒し手(サンヴァイン・ヒーラー)!」

 

 効果でスペクターのライフが4900まで回復する。

 

「流石に手ごわい……」

 

 一度勝利した相手とはいえ、否、そうであるがゆえに、彼の強さは身を以て知っている。

 

「以前、あなたは言いましたよね」

 

 すると、スペクターは急にデュエルする手を止めて、話し始める。

 

「自分と私は似たようなものだと」

 

 それはハノイのアジトで美海が言ったセリフだ。

 恩人に忠義を立てるという意味で、自分と共通していると感じたため口にしたただ感想だった。

 

「私も考えてみたんですがねぇ。確かに、あなたのデッキのコンセプトは、私のそれと共通するところがある」

 

 デッキにはデュエリストの性格が現れる。

 

 彼の言う通り、美海のデッキはタイタニーニャという一体のリンクモンスターを守り、配下のシンクロモンスターで攻めるというデッキ。

 スペクターのサンアバロンを守るデッキと動きは似ている。

 

「えぇ、仕える相手こそ違いますが、本質は似たようなものなんでしょう」

「……あぁ、あなたは何も分かっていない」

 

 急にスペクターは笑い始めた。

 

「どういう意味ですか?」

「あなたは何も変わっていませんねぇ」

 

 下卑た笑みを浮かべてそんなことを言う彼に、美海は顔をしかめる。

 その発言は、まるで昔から自分を知っているような……

 

「私ですよ。聖辺(ひじりべ) (いつき)です」

「へ?」

 

 それは彼女のよく知る、孤児院のメンバーの名前だった。

 

「あ、あなたが、樹……?」

「えぇ。お久しぶりですねぇ。驚きましたよ。SOLテクノロジーの名簿を調べてみれば、あなたの名前があるじゃないですか」

 

 目の前にいるこの男が、家族も同然だった六人のうち一人であったっと知って、美海は動揺を隠しきれない。

 

「全く、あなたはものの本質をまるで理解していない。だから私はあなた達のことが嫌いだたんですよ」

「ど、どういうことですか?」

「あなた達は確か、ご両親と死別したんですよねぇ」

 

 彼の言う通り、美海や遊作、尊は皆、幼い頃に両親を亡くし、鴻上聖に引き取られたのだ。

 

「あぁなんと可哀そうに。捨てられた私とは違い、自分を必要としてくれる愛すべき親を亡くしたのですから」

 

 スペクターは皮肉たっぷりに言う。

 

「根本的に違うんですよ。両親からも必要とされなかった私と、あなた達では。そんな私にとって、唯一の心の拠り所はあの木でした」

 

 それを言われて、美海は思い出した。

 孤児院にあったひと際大きな木、スペクター、もとい樹はいつもそこで絵を描いていた。

 

 尊が遊びに誘っても、断ることが多かった。今思えば、彼にとって、自分達とは決定的な溝があったのかもしれない。

 

「けど、ハノイの騎士は、あの実験の関係者です。あなただってそれは分かっているでしょう?」

「えぇ。あの実験、ああ今でも思い出しますねぇ。あの時の充実した時間を」

「じ、充実していた……?」

 

 美海達にとって、あの実験は地獄だった。

 

 誰もいない部屋の中で、ただひたすらデュエルする(たたかう)ことを強要され、負ければペナルティが課される。

 

 その時のことを思い出して、彼は恍惚とした表情を浮かべている。

 

「誰からも必要とされていなかった私を、誰かが試している。自分が誰かに選ばれた存在である。あの実験の日々は、私に生きている実感を与えてくれたのです」

 

 決定的な違い。

 確かに彼の言う通り、自分達は相容れないのかもしれない。

 

「……それでも、私達の誰も、あなたを不要だなんて思ってない」

「本当にそうでしょうか? あなた達は所詮、同じ境遇の者同士で傷のなめ合いをしていたに過ぎない。境遇の違う私はいなくても変わらない」

「いなくても変わらないからと、あの時そこにいたあなたを否定したりなんてしない」

 

 スペクターはため息を吐いた。

 

「……これ以上の問答は不要のようですね」

 

 彼は手を天にかざす。

 

「現れろ、私達の未来(みち)を照らす未来回路!召喚条件は、カード名の異なる「サンヴァイン」リンクモンスター2体!」

 

 アローヘッドから蔓が二本伸び、それらが絡み合って一本の太い蔓へと変わる。

 

「リンク召喚!リンク2、聖蔓の暴戦器(サンヴァイン・バイオロード)!」

 

 蔓は粘土のように形を変え、無数の植物でできた戦車に男性の上半身がついたような兵器へと変貌した。

 

聖蔓の暴戦器(サンヴァイン・バイオロード)

リンク・効果モンスター

地属性/植物族/攻 1500/LINK 2

カード名の異なる「サンヴァイン」リンクモンスター2体

このカードはリンク召喚でしか特殊召喚できない。

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分の「サンアバロン」リンクモンスターが効果でフィールドを離れた場合に発動する。このカードを破壊する。その後、墓地からリンク1の「サンヴァイン」リンクモンスター1体をEXデッキに戻し、そのモンスターの同名カードをEXデッキから特殊召喚する。

(2)相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。自分は1000のダメージを受け、その対象のモンスターを破壊する。

(3)1ターンに1度、自分が戦闘・効果でダメージを受けた場合に発動できる。ターン終了時まで、このカードの攻撃力は受けたダメージの数値分アップする。

 

「リンク2のサンヴァイン……」

「私は聖蔓の暴戦器(サンヴァイン・バイオロード)の効果発動!相手フィールドのカード1枚を破壊し、自分に1000ダメージを与える」

 

 聖蔓の暴戦器(サンヴァイン・バイオロード)が右手を前に構えると、その体からいくつも伸びて、右腕に巻き付く。

 

 すると、その腕はロングバレルのライフルのような姿に変化し、レーザーがエラスモータルへ向けて発射された。

 

「その後、受けたダメージの数値分、自身の攻撃力アップ。さらにダメージを受けたことで、エクストラデッキから聖蔓の剣士(サンヴァイン・スラッシャー)を特殊召喚!」

 

 スラッシャーが隣に召喚され、スペクターは一気に攻撃態勢に入る。

 

「バトル!まずは聖蔓の剣士(サンヴァイン・スラッシャー)でタイタニーニャを攻撃」

 

 リンク先のモンスターを失い、耐性を失くしたタイタニーニャをスラッシャーが切り裂く。

 

 美海:ライフ4000→1600

 

「スラッシャーの効果で、戦闘で破壊したモンスターを自分フィールドに特殊召喚」

 

 タイタニーニャの体に蔓が巻き付き、スペクターに奪われる。

 

「タイタニーニャが……」

「どうですか? 大事なカードを奪われた気分は。これでプレシオルタの攻撃力は元の2300に戻る。さあ続けて、聖蔓の暴戦器(サンヴァイン・バイオロード)でプレシオルタを攻撃!」

 

 バイオロードが今度は両腕を銃に変化させ、プレシオルタをハチの巣にする。

 

 美海:ライフ1600→1400

 

「私はこれでターンエンド」

 

ターン4

 

(モンスターは0、タイタニーニャも奪われ、シンクロ召喚はできない)

 

 この状況から逆転するのは絶望的。

 それでも美海の眼は死んでいなかった。

 

(勝てなくてもいい。彼を遊作達のところへ行かせないために、私が一秒でも足止めする)

 

「私は裏守備表示でモンスターをセット。さらにカードを2枚伏せてターンエンド」

 

ターン5

「現れろ、私達の未来(みち)を照らす未来回路!召喚条件はレベル4以下の植物族モンスター1体!リンク召喚!聖蔓の射手(サンヴァイン・シューター)!」

 

 現れたのは、木の弓を携え、テンガロンハットを被った木の精だった。

 

聖蔓の射手(サンヴァイン・シューター)

リンク・効果モンスター

地属性/植物族/攻 500/LINK 1

レベル4以下の植物族モンスター1体

このカード名の(2)(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分の「サンアバロン」リンクモンスターが効果でフィールドから離れた場合に発動する。このカードを破壊する。

(2)このカードの特殊召喚に成功した場合に発動できる。お互い500ダメージを受ける。

(3)自分フィールドの「サンアバロン」リンクモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターのリンクマーカーの数まで、相手フィールドの魔法・罠カードを選んで破壊する。

 

「お互いの500のダメージを受ける」

 

 スペクター:ライフ4900→4400

 美海:ライフ1400→900

 

「ダメージを受けたことで、私はその数値分ライフを回復」

 

 スペクター:ライフ4400→4900

 

「そして、エクストラデッキから聖蔓の癒し手(サンヴァイン・ヒーラー)を特殊召喚し、さらにライフを回復」

 

 スペクター:ライフ4900→5800

 

「そしてシューターの効果発動!」

 

 シューターが弓を弾き絞ると、ドリュアノームから蔓が伸びて織られていく。

 

「自分のサンアバロンのリンクマーカーの数まで、相手フィールドの魔法・罠カードを破壊する!」

 

 織られた蔓は矢となり、美海のフィールドに向けて放たれる。

 

「あなたの二枚の伏せカード、そしてフィールド魔法を破壊する!」

 

 矢は三つに分裂し、美海のフィールドのカードに突き刺さった。

 

「バイオロードの効果で、あなたのセットモンスターも破壊!」

 

 バイオロードが腕を木製のロングバレル銃に変化せ、セットモンスターも撃ち抜く。

 

「時間稼ぎにもなりませんでしたねぇ。では……やれ、バイオロード!」

 

 バイオロードが銃口を美海に向ける。

 

 パァァンッ!

 

 仮想(VR)の銃弾が美海の体を貫いた。

 

 ◆

 

 デュエルが終了すると、スペクターは仰向けに倒れた美海を静かに見下ろす。

 

「せめてもの慈悲です。私が苦しませずに、塔の中へ送ってあげましょう」

 

 スペクターがデュエルディスクに手をかけたその時、突風が吹く。

 

 吹き付ける風にやられ、スペクターは足を止める。

 

「……白馬の王子様気取りですか?」

 

 来訪者の存在を認知して、スペクターはそちらを振り向く。

 

「そんな綺麗なもんじゃねぇよ」

 

 聞き覚えのある声に、美海も同じ方向を向く。

 

「ご、ゴッドバード……」

 

 現れた彼に、美海の表情は綻んだ。

 そんな彼女を一瞥して、ゴッドバードはスペクターの方を向き直る。

 

「よう、あの時の借りを返しにきたぜ」

 




スペさんの本名(捏造)がついに明らかに
分かったと思いますけど、名前は聖天樹からとりました
これで実験の被害者、孤児院メンバーで未判明は後一人となりました


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第21話:The hatred that embraced

プレイメーカーVSジャックナイフ

因縁の対決です


 ようやく追いついたプレイメーカーは、倒れていたブルーエンジェルに駆け寄った。

 

「大丈夫か!?」

「おいおいボロボロじゃねぇか」

「ごめん、なさい…‥勝てなくて」

 

 力ない声で呟く彼女に、プレイメーカーは首を振る。

 

「気にするな。お前のおかげで奴の切り札が分かった」

 

 その言葉を聞いて、ブルーエンジェルの顔にかすかに光が戻った。

 

「おーい。そろそろいいかな~」

 

 茶化すような声で呼びかけられ、プレイメーカーを立ち上がって前を向き直る。

 

「ジャックナイフ……」

「あぁ待ってたよ。プレイメーカー、闇のイグニス。君達のことをぶっ殺したくてしょうがなかったんだ」

 

 瞳に憎悪を燃やしながら、口角を釣り上げて言う。

 そのあまりにチグハグな表情に、Aiは少し怯えたような顔をする。

 

「お前は、一体何を憎んでいるんだ?」

「全部だよ」

 

 笑顔が消える。

 

「お前も、そいつも、そいつも、ボクの視界に映る全部がムカついてしょうがないんだよ」

 

 彼は靴で地面をガンガン叩き、苛立ちをぶつける。

 

「ていうか、余計な会話とかいらないんだけど、早くやろうよ。それとも怖気づいた?」

 

 これ以上の会話は無用と判断し、プレイメーカーはデュエルディスクを構える。

 

「「デュエル!」」

 

ターン1 ジャックナイフ

 

「ボクは手札のアニマイール・フレアソウルの効果発動!」

 

アニマイール・フレアソウル

効果モンスター

星1/炎属性/アンデッド族/攻 300/守 200

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分の手札からこのカード以外のアンデッド族モンスターを墓地へ送って発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。この効果を発動するターン、自分はカードの効果以外で、モンスターを1度しか特殊召喚できない。

(2)自分フィールドのアンデッド族モンスターを「アニマイール」リンクモンスターのリンク素材とする場合、墓地のこのカードもリンク素材としてデッキの下に置ける。リンク召喚後、ターン終了時まで、自分は融合モンスターしか特殊召喚できない。

 

「手札からこのカード以外のアンデット族モンスターを墓地へ送ることで、手札から特殊召喚できる」

 

 どこからか火の粉が渦を巻きながら集まり、テニスボールくらいのサイズの人魂を形成した。

 

「フレアソウルをリリースして、アニマイール・オーガードをアドバンス召喚!」

 

 人魂は膨張して、破裂する。

 小さな爆発が起きて、その中から一本角の黒い鬼が現れた。

 

アニマイール・オーガ―ド

効果モンスター

星5/闇属性/アンデット族/攻 2200/守 0

このカード名の(1)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが召喚に成功した場合に発動できる。墓地からレベル4以下の「アニマイール」モンスター2体まで特殊召喚する(同名カードは1枚まで)。この効果発動後、ターン終了時まで、自分はカードの効果以外でモンスターを1度しか特殊召喚できない。

(2)自分のアンデット族モンスターの攻撃力は500アップする。

(3)墓地のこのカードを除外し、自分の「アニマイール」融合モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの攻撃力は500アップし、自分の墓地からそのモンスターの融合素材モンスター1体を手札に加える。

 

「オーガードがアドバンス召喚に成功した時、墓地からフレアソウルとシルキーを特殊召喚!」

 

 オーガードが両腕を地面に突っ込むと、人魂と箒を持った幽霊が引っ張り出される。

 

アニマイール・シルキー

効果モンスター

星3/闇属性/アンデット族/攻 900/守 1500

(1)このカードの召喚・特殊召喚に成功した場合、自分の手札から「アニマイール」モンスター1体を墓地へ送って発動できる。デッキから「融合」魔法カード、または「フュージョン」魔法カード1枚と、「アニマイール・ポルターガイスト」1枚を手札に加える。この効果を発動するターン、自分はカードの効果以外でモンスター1度しか特殊召喚できない。

(2)墓地のこのカードを除外して発動できる。墓地から「アニマイール・ポルターガイスト」1枚を手札に加える。

 

「シルキーの効果発動!手札からアニマイール1枚を墓地へ送ることで、デッキから「融合」魔法カードと、アニマイール・ポルターガイストを手札に加える。現れろ、ボクだけの未来(みち)を拓く未来回路!」

 

 ジャックナイフが手を伸ばすと、その先に「闇」が立ち込める。

 

「召喚条件は、アニマイールを含むアンデッド族モンスター3体!リンク召喚!」

 

 三体のモンスターが飛び込み、闇の中にリンクマーカーを描く。

 

「リンク召喚!リンク3、アニマイール・オルトバイト!」

 

 現れたのは、二つの頭を持つ犬、体は紫の炎のようなものでおおわれており、目は黒い革で隠されている。

 

アニマイール・オルトバイト

リンク・効果モンスター

闇属性/アンデット族/攻 2300/LINK3

【リンクマーカー:右上/左上/下】

「アニマイール」モンスターを含むアンデット族モンスター3体

このカードは自分のEXモンスターゾーンにのみ特殊召喚でき、このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分のメインフェイズに発動できる。自分の手札・フィールド及びこのカードのリンク先の相手モンスターの中から、アンデット族融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体を融合召喚する。

(2)このカードのリンク先の自分・相手のモンスターを、それぞれ1体ずつを対象として発動できる。対象の相手モンスターを対象の自分のモンスターに装備カード扱いで装備する。装備モンスターは装備したカードの元々の攻撃力の半分、攻撃力がアップする。

 

「オルトバイトの効果で、手札の屍界のバンシーと自身を融合!」

 

 餌をやるように、ジャックナイフがカードをオルトバイトの方へ投げると、それをボリボリと喰らう。

 

「融合召喚!」

 

 オルトバイトから無数の魂が飛び出て、肉体は腐り消える。

 

「レベル7、アニマイール・バニシングファング!」

 

 魂が寄り集まり、一体の蛇のようなモンスターを形成した。

 

アニマイール・バニシングファング

融合・効果モンスター

星7/闇属性/アンデット族/攻 2300/守 2000

アンデット族モンスター+リンクモンスター

このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが特殊召喚に成功した場合に発動できる。相手フィールドの表側表示モンスター全ての効果をターン終了時まで無効にする。この効果の発動に対して、相手はアンデッド族モンスターの効果を発動できない。

(2)このカードは、「アニマイール」リンクモンスターの効果で装備したモンスターのモンスター効果を得る。

(3)このカードが戦闘・相手の効果でフィールドから墓地の送られた場合、自分及び相手の墓地のアンデット族モンスターをそれぞれ1体ずつ除外して発動できる。このカードを墓地から特殊召喚する。

 

「墓地のオーガードの効果発動!このカードを墓地から除外することで、自分の融合モンスター1体の攻撃力を500アップ」

 

 地面から霊魂がゆらゆらと揺れながら浮かび上がり、バニシングファングの体に取り込まれる。

 

「そして、バニシングファングの融合素材モンスター、オルトバイトをエクストラデッキに戻す。ボクはカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン2 プレイメーカー

 

「俺は手札からマイクロ・コーダーを墓地へ送り、デフコンバードを特殊召喚。さらにサイバース・ガジェットを通常召喚」

 

 サイバース・ガジェットが左手のガジェットからコードを伸ばすと、地面からマイクロ・コーダーが釣り上げられる。

 

「現れろ、未来を導くサーキット!」

 

 プレイメーカーが手を伸ばす先に光が走り、アローヘッドを作り出す。

 

「召喚条件は効果モンスター2体!リンク召喚!コード・トーカー!」

 

 コード・トーカーが呼び出され、そのリンク先にガジェット・トークンが生成される。

 

「マイクロ・コーダーの効果で、デッキからコード・ラジエーターを手札に加える。このカードは手札からコード・トーカーモンスターのリンク素材にできる。

 現れろ、未来を導くサーキット!召喚条件は効果モンスター2体以上!俺は手札のコード・ラジエーターと、リンク2のコード・トーカーをリンクマーカーにセット!リンク召喚!トランスコード・トーカー!」

 

 コード・トーカーがアローヘッドをくぐると、鎧を脱ぎ捨て、代わりにオレンジを基調とした四角いアーマーが装着される。

 

「トランスコード・トーカーの効果!墓地のコード・トーカーを特殊召喚!」

 

 トランスコード・トーカーの背後に、青いリングのエフェクトが流れ、コード・トーカーが転送される。

 

「現れろ、未来を導くサーキット!召喚条件は、モンスター2体以上!リンク召喚!」

 

 コード・トーカー、デフコンバード、ガジェット・トークンの3体がアローヘッドに吸い込まれる。

 

「唸れ嵐!虚構に渦巻く旋風は、万物を振るわす竜の雄叫びとなる!」

 

 アローヘッドから竜巻が起き、フィールドに風の道となって降りてくる。

 

「現れろ、リンク4!ファイアウォール・ドラゴン!」

 

 風の中から、白い機械の翼を広げて、ファイアウォール・ドラゴンが現れた。

 

「ファイアウォール・ドラゴンの効果!このカードと相互リンク状態のカードの数まで、フィールドか墓地のカードを手札に戻す!バニシングファングを手札に!」

 

 ファイアウォール・ドラゴンが翼を広げると、そこにエネルギーが集まり、背後に赤い光の輪を作り出す。

 

「すごーい。頑張って展開したねー」

 

 その状況で、ジャックナイフは手をパチパチ叩く。

 

「でも、無駄だって知ってるよね?」

 

 ジャックナイフの伏せカードが開く。

 

「見よ!これが融合を超えし、最強の融合魔法!速攻魔法、超融合を発動!」

 

 空に穴が開き、どす黒いエネルギーが渦を巻く。

 

「フィールドのモンスター全てを素材に融合!」

 

 ファイアウォール・ドラゴン、トランスコード・トーカー、そしてジャックナイフのフィールドにあるバニシングファングまでもが巻き込まれ、穴の中に吸い込まれる。

 

「戦場に集う雑兵共、死ね!散れ!その魂を捧げよ!融合召喚!レベル8、アニマイール・フォースドラゴン!」

 

 大穴から大きな腕が飛び出し、穴の中からそれは這い出る。

 

 黒い体に、青い幾何学的な模様が刻まれた巨大なドラゴンだった。

 

アニマイール・フォースドラゴン

融合・効果モンスター

星8/闇属性/アンデッド族/攻 0/守 0

「アニマイール」融合モンスター+リンクモンスター1体以上

(1)このカードの元々の攻撃力は、このカードの融合素材となったリンクモンスターのリンクマーカーの数×1000となる。

(2)このカードは、このカードの攻撃力以下の相手のリンクモンスターの効果を受けない。

(3)1ターンに1度、自分・相手の墓地からこのカードの融合素材となったモンスター1体を除外し、相手フィールドの表側表示のカード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。

 

「こいつは融合素材となったリンクモンスターのリンクマーカーの合計×1000が元々の攻撃力となる」

 

 攻撃力7000となったドラゴンが咆哮する。

 

「出やがったな。で、どうすんだ?」

「こうなることは分かっていた」

 

 アニマイール・フォースドラゴンはリンクモンスターであれば何でも融合素材にできる。

 リンクモンスター中心のプレイメーカーのデッキでは、超融合が伏せられた状態では攻められない。

 だからこそ、先に使わせる必要があったのだ。

 

「ここからが正念場だ。俺はカードを1枚伏せてターンエンド」

「何考えてんのか知らないけど、もう遅いよ。ボクは墓地の屍界のバンシーの効果発動!このカードを除外し、デッキからアンデットワールドを発動」

 

 周囲に瘴気が立ち込める。

 

「やはり、アンデットワールドを使わなかったのはわざとか」

「そう。君が存分に展開して、ボクのドラゴンの餌を用意してくれるのを待ってあげたんだよ」

 

ターン3

 

「ジャックナイフ、お前は分かっているのか?」

 

 プレイメーカーはここからでもよく見えるハノイの塔を指さす。

 

「あの塔が起動すれば、お前も消えるんだぞ」

「それが何?」

 

 彼は至極どうでも良さそうに答える。

 

「まあボクは正直、人類の未来だとかはどぉでもいいんだよねぇ。うん。人類とかいっそ滅べばいいと思うよ。でもどうせならボクの手でぶっ壊したいって言うかぁ、だって傑作でしょ? あれが起動すれば、イグニスも、お前らも、LINK VRAINSも、ハノイの騎士の連中もみーんな消える」

 

 彼は自ら属する組織すら、憎むべき対象に加えている。

 他のハノイの騎士とは、思想信条も、目的も、行動原理も何もかもが違う。

 

「あぁでも全部あいつ(・・・)の思い通りなのが死ぬほどムカつくなぁ。どうしよう。このままわざと負けて、君達を塔までたどり着かせて全部台無しにしてやりたいなぁ」

 

 アバターでなければ血が出るほど、顔に爪を立ててかきむしる。

 

「でもそれもムカつくからぁ、せめて君達だけはボクの手で殺すねぇ」

 

 ジャックナイフは引いたカードを見もせずに手札に加える。

 

「バトルだ!アニマイール・フォースドラゴンでダイレクトアタック!」

 

 攻撃力7000の一撃、その咆哮と共にどす黒いエネルギーが放たれる。

 

「これをもらったら負けだ!」

「分かっている。俺は(トラップ)カード!スリーフェイト・バリアを発動!」

 

スリーフェイト・バリア

通常罠

(1)以下の効果から1つを選択して発動できる。

●このターン、自分のモンスターは戦闘・効果で破壊されない。

●このターン、自分はダメージを受けない。

●このターン、自分のモンスター1体は1度だけ戦闘で破壊されず、その戦闘によって戦闘ダメージを受けるかわりに、その数値分、自分のライフを回復する。

(2)自分がダメージを受けた場合、墓地のこのカードを除外して発動できる。このターン、自分が受ける効果ダメージは0になる。

 

「このターン、俺はダメージを受けない!」

 

 緑色の障壁が展開され、プレイメーカーを攻撃から守った。

 

「チッ、ボクはこれでターンエンド」

 

ターン4

 

「……お前の憎しみは俺には分からない」

「だろうね。別に分かってもらいたいとか思ってないし」

 

 プレイメーカーの態度に、また少しイラつく。

 

「だから、お前がどんな闇を抱えていようと、俺は構わず押し通る」

 

 しかし、彼のその言葉を聞いて、ジャックナイフは少しだけ驚いたような顔を見せた。

 

「譲れないものがあるのは同じだ。その障害になるなら、全力で倒す」

「……それでいいよ」

 

 ジャックナイフは今度こそ、ほんの少しだけ、本当に笑った。

 

「ジャックナイフは君達の敵、ボクらの間に、それ以上の関係は必要ない」

「いくぞ。俺のターン!」

 

 ドローしたカードを確認する。

 

「来たぞ。俺はウィジェット・キッドを召喚!」

 

 バイザーを付けた少年が、光線銃を上空に撃つ。

 

「効果で手札からチューナーモンスター、サイバース・シンクロンを特殊召喚!」

 

 虚空に撃たれた光弾が、時空に穴をあけ、サイバース・シンクロンを呼び出した。

 

「チューナー、まさか……」

「サイバース・シンクロンの効果!自分フィールドのレベル4以下のモンスターのレベルを倍にする!俺はレベル6となったウィジェット・キッドに、レベル1のサイバース・シンクロンをチューニング!」

 

 プレイメーカーのモンスター2体の体が粒子に分解され、それぞれ光の輪になる。

 

「紫電一閃!未知なる力が、飛竜乗雲となる!シンクロ召喚!」

 

 輪が重なる。

 

「降臨せよ、レベル7!サイバース・クアンタム・ドラゴン!」

 

 輪から無数の粒子が放出され、輝く翼をもつ白いドラゴンの姿を作り出した。

 

「バトルだ!サイバース・クアンタム・ドラゴンで、アニマイール・フォースドラゴンを攻撃!」

「なっ!」

 

 攻撃力2500のサイバース・クアンタム・ドラゴンでは、7000のモンスターには太刀打ちできない。

 

「サイバース・クアンタム・ドラゴンの効果発動!このカードが戦闘を行うダメージステップ開始時、戦闘を行う相手モンスターを手札に戻す!ドライブバックショット!」

 

 翼を羽ばたかせると、粒子がフィールドを舞う。

 それに触れたとたん、アニマイール・フォースドラゴンの像が歪み、ノイズとなって消滅した。

 

「この効果発動後、このカードはもう1度だけ攻撃できる!行け!ダイレクトアタック!」

 

 ジャックナイフ:ライフ4000→1500

 

「けど、これで攻撃は終わりだ」

「まだだ!俺は手札から速攻魔法、サイバネット・コードデュアルを発動!」

 

サイバネット・コードデュアル

速攻魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1)自分・相手のバトルフェイズ中、自分のEXモンスターゾーンのリンクモンスター以外のモンスター1体を除外して発動できる。EXデッキからリンク3以下の「コード・トーカー」モンスター1体を特殊召喚する。

(2)自分の「コード・トーカー」モンスター、または「ファイアウォール」モンスターが戦闘・効果で破壊される場合、かわりに墓地のこのカードを除外できる。

 

「サイバース・クアンタム・ドラゴンを除外し、エクストラデッキからコード・トーカーモンスター1体を特殊召喚!」

 

 サイバース・クアンタム・ドラゴンが粒子に分解され、再構築される。

 

「来い、デコード・トーカー!」

 

 青い鎧をまとった電脳の騎士へと生まれ変わり、ジャックナイフに向けて剣を構える。

 

「バトルだ!デコード・トーカーでダイレクトアタック!デコード────」

 

 剣を振り上げる。

 

「────エンドォッ!」

 



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第22話:The loneliness that embraced

本日は二話連続更新します
ゴッドバードVSスペクター、こっちも因縁の対決です


 その頃、スペクターとゴッドバードは睨み合っていた。

 

「やれやれ、あなたまで来ていたんですか」

 

 スペクターは肩を落とす。

 

「当然だろ。お前らの邪魔すんのは俺の趣味だからな」

「悪趣味ですねぇ」

「お前にだけは言われたくねぇよ」

 

 ゴッドバードは吐き捨てるようにそう言うと、デュエルディスクを構える。

 

「「デュエル!」」

 

ターン1 スペクター

 

「私は聖種の地霊(サンシード・ゲニウスロキ)を召喚」

 

  フィールドに杯のようなものが生え、そこから細い花びらを伸ばして、先端に実を宿す。

 

「自分フィールドに植物族通常モンスターが存在する時、手札から聖種の影芽(サンシード・シャドウ)を特殊召喚」

 

 その隣にゲニウスロキと色違いの花が生える。

 

「現れろ、私達の未来を照らす未来回路!召喚条件はレベル4以下の植物族モンスター1体!リンク召喚!リンク1、聖天樹の幼精(サンアバロン・ドリュアス)!」

 

「ドリュアスの効果発動、ゲニウスロキを素材としたことで、デッキからサンヴァイン魔法・罠カード1枚を手札に加える」

「俺は手札からカウンター罠、エリミネーション・ジャミングを発動!」

 

エリミネーション・ジャミング

カウンター罠

手札の「エリミネーター」モンスターを墓地に送ってこのカードを手札から発動できる。

(1)自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在せず、相手がモンスター効果・魔法・罠カードを発動した時に発動できる。その発動を無効にする。自分のEXモンスターゾーンに「エリミネーター」モンスターが存在する場合、かわりにその発動を無効にして破壊する。

 

「手札からエリミネーター1枚を墓地へ送ることで、このカードは手札から発動できる。その発動を無効にする!」

「ですが、あなたの場にエクシーズモンスターはいない。ドリュアスは破壊されません」

「俺の狙いはそこじゃない。俺は墓地へ送られた敵性機兵(エリミネーター)シークエンスコードの効果発動!」

 

敵性機兵(エリミネーター)シークエンスコード

効果モンスター

星4/風属性/サイバース族/攻 1500/守 800

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「エリミネーター」モンスター1枚を手札に加える。

(2)相手ターン中、自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しなければ、墓地のこのカードを除外して発動できる。デッキから「エリミネーション」罠カード1枚をセットする。この効果でセットしたカードは、セットしたターンでも発動できる。

 

「自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合、このカードを墓地から除外することで、デッキからエリミネーション・インターセプトをセットする!」

「なるほど、それで私が次にリンク召喚を行えば無効にするというわけですか」

 

 スペクターは笑う。

 

「では私は、聖種の影芽(サンシード・シャドウ)とドリュアスをリンクマーカーにセット!」

「「なっ!?」」

 

 スペクターの行動に、ゴッドバードとその場にいた美海が驚く。

 彼らの反応に構わず、アローヘッドよりドリュアスへエネルギーが送られる。

 

「チッ、カウンター罠!エリミネーション・インターセプト!リンク召喚を無効にする!」

 

 アローヘッドは砕け、その瞬間、ドリュアスはみるみる生気を失い、枯れ果てる。

 

「墓地のシャドウの効果発動。このカードを墓地から除外し、墓地のサンアバロン1体と同名モンスターをEXデッキから効果を無効にして特殊召喚。私は先程リンク召喚に失敗した聖天樹の精霊(サンアバロン・ドリュアデス)を選択!」

 

 再びフィールドに大樹が芽吹く。

 

「これで元通り。私はカードを2枚伏せてターンエンド」

 

ターン2

 

「あなたのターン開始時、私は聖蔓の萌芽(サンヴァイン・スプラウト)を発動」

 

聖蔓の萌芽(サンヴァイン・スプラウト)

通常罠

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分フィールドの「サンアバロン」リンクモンスター、または「サンヴァイン」リンクモンスター1体を対象として発動できる。このターン、対象のモンスターは効果では破壊されない。その後、自分は1000ダメージを受ける。

(2)墓地のこのカードを除外して発動できる。墓地から「サンシード」モンスター1体を特殊召喚する。

 

「このターン、私のドリュアデスは効果では破壊されない。そして私は1000のダメージを受ける」

 

 スペクター:ライフ4000→3000

 

「そしてダメージを受けたことで、私は永続罠、聖天樹の輝常緑(サンアバロン・グロリアスグロース)を発動!」

 

聖天樹の輝常緑(サンアバロン・グロリアスグロース)

永続罠

(1)自分が戦闘・効果でダメージを受けた場合にこのカードを発動できる。「聖蔓(サンヴァイン)トークン」(植物族・地・星1・攻/守0)1体を特殊召喚する。その後、自分は受けたダメージの数値分ライフを回復し、「サンアバロン」リンクモンスター1体をリンク召喚する。

(2)自分フィールドの「サンアバロン」モンスターは相手の効果の対象にならず、相手の効果で破壊されない。

(3)1ターンに1度、相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージを半分にする。

(4)自分の「サンアバロン」リンクモンスターが効果フィールドから離れた場合に発動する。このカードを破壊する。

 

「ダメージの数値分ライフを回復」

 

 スペクター:ライフ3000→4000

 

聖蔓(サンヴァイン)トークンを特殊召喚し、リンク召喚!」

 

 トークンがアローヘッドに吸い込まれ、ドリュアデスの養分となる。

 

「出でよ、リンク3!聖天樹の精霊(サンアバロン・ドリュアノーム)!」

 

 木はさらに成長し、その幹から女性の体が生えてくる。

 

「俺は墓地のインターセプトの効果発動。このカードとジャミングを除外し、除外されたシークエンスコードを墓地へ戻す。さらに敵性機兵(エリミネーター)ジャイロードを特殊召喚!効果でデッキからラントリクターを特殊召喚!」

 

敵性機兵(エリミネーター)ジャイロード

効果モンスター

星4/風属性/サイバース族/攻 1000/守 1000

このカード名の(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しか行えず、(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合、このカードを手札から特殊召喚できる。

(2)このカードが(1)の方法による特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「エリミネーター」モンスター1体を特殊召喚する。この効果発動後、ターン終了時まで自分はメインモンスターゾーンにモンスターを特殊召喚できない。

(3)相手ターン中、自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合、墓地のこのカードを除外して発動できる。デッキから「エリミーション」罠カード1枚をセットする。この効果でセットしたカードは、セットしたターンにも発動できる。

 

「現れろ、未来を貫くサーキット!リンク召喚!リンク2!敵性機兵(エリミネーター)ローディング・チャージャー!」

 

敵性機兵(エリミネーター)ローディング・チャージャー

リンク·効果モンスター

風属性/サイバース族/攻 1000/LINK2

同じレベルのモンスター2体

(1)リンク召喚されたこのカードは、リンク素材となったモンスターと同じレベルのモンスターとしてX召喚の素材にでき、このカードのリンクマーカーの数と同じ数のモンスターとしてX召喚の素材にできる。

(2)X素材となったこのカードが墓地に送られた場合に発動できる。除外されている「エリミネーター」モンスターを自分のXモンスターの下に重ねてX素材とする。

 

「そしてローディング・チャージャーでオーバレイ!」

 

 エックス字のパネルが天より回転しながら降りてきて、ローディング・チャージャーに重なりながら吸収する。

 

「エクシーズ召喚!現れろ!ランク4!敵性機兵(エリミネーター)コンパイル・ブラスター!」

 

 現れたのは、無機質な機械仕掛けのドラゴンだった。

 

敵性機兵(エリミネーター)コンパイル・ブラスター

エクシーズ·効果モンスター

ランク4/風属性/サイバース族/攻 2300/守 2000

風属性·レベル4·効果モンスター×2体以上

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードの攻撃力·守備力はこのカードがX素材として持つリンクモンスターのリンクマーカーの数×300アップする。

(2)相手の特殊召喚されたモンスターが効果を発動した時、このカードのX素材1つを取り除いて発動できる。その効果を無効にする。この効果発動のためにリンクモンスターを取り除いていた場合、かわりにその効果を無効にして破壊し、相手に500ダメージを与える。

(3)このカードが効果で破壊される場合、かわりこのカードのX素材1つを取り除くことができる。

 

「俺はこれでターンエンド」

 

ターン3

 

「相手ターン開始時、墓地のジャイロードを除外して効果発動!デッキからエリミネーション・ジャミングをセット!」

 

 彼のフィールドに伏せカードが出現する。

 

「では私は魔法カード、聖蔓の播種(サンヴァイン・ソウイング)を発動」

「ジャミングでそれを無効!」

 

 スペクターの使用した魔法カードが砕けて消える。

 

「なら私は聖種の天双芽(サンシード・ツイン)を召喚!その効果で、墓地からゲニウスロキを特殊召喚!」

 

 ピンクと青の二人の精霊が踊ると、地面からゲニウスロキが再び生える。

 

「現れろ!私達の未来(みち)を照らす未来回路!召喚条件はレベル4以下の植物族モンスター1体!リンク召喚!聖蔓の射手(サンヴァイン・シューター)

 

聖蔓の射手(サンヴァイン・シューター)

リンク・効果モンスター

地属性/植物族/攻 500/LINK1

レベル4以下の植物族モンスター1体

このカード名の(2)(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分フィールドの「サンアバロン」リンクモンスターが効果でフィールドから離れた場合に発動する。このカードを破壊する。

(2)このカードの特殊召喚に成功した場合、お互い500ダメージを受ける。

(3)自分フィールドの「サンアバロン」リンクモンスター1体を対象として発動できる。対象のモンスターのリンクマーカーの数まで、相手フィールドの魔法・罠カードを選んで破壊する。

 

「効果でお互いに500ダメージを与える!」

 

 シューターが弓を引き絞り、上空に向けて木の矢を放つ。

 

 矢が二つに分裂し、スペクターとゴッドバードにダメージを与える。

 

「ダメージを受けたことで、ドリュアノームの効果発動!ダメージの数値分ライフを回復し、EXデッキからサンヴァインリンクモンスターを特殊召喚!出でよ!聖蔓の剣士(サンヴァイン・スラッシャー)!」

 

 木の実が落ちて、中から葉を象った衣装の剣士が生まれる。

 

「さらにゲニウスロキを素材に聖蔓の癒し手(サンヴァイン・ヒーラー)をリンク召喚!」

 

 ヒーラーの体から蔓が伸びて、スペクターに巻き付く。

 その効果でライフを4900まで回復した。

 

「まだです!現れよ!私達の未来(みち)を照らす未来回路!召喚条件はサンヴァインリンクモンスター2体!リンク召喚!リンク2、聖蔓の暴戦器(サンヴァイン・バイオロード)!」

 

 アローヘッドより出た二本の蔓が絡み合う。

 

 蔓は粘土のように形を変え、無数の植物でできた戦車に男性の上半身がついたような兵器へと変貌した。

 

聖蔓の暴戦器(サンヴァイン・バイオロード)

リンク・効果モンスター

地属性/植物族/攻 1500/LINK 2

カード名が異なる「サンヴァイン」リンクモンスター2体

このカードはリンク召喚でしか特殊召喚できない。

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分の「サンアバロン」リンクモンスターが効果でフィールドを離れた場合に発動する。このカードを破壊する。その後、墓地からリンク1の「サンヴァイン」リンクモンスター1体をEXデッキに戻し、そのモンスターの同名カードをEXデッキから特殊召喚する。

(2)相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。自分は1000のダメージを受け、その対象のモンスターを破壊する。

(3)1ターンに1度、自分が戦闘・効果でダメージを受けた場合に発動できる。ターン終了時までこのカードの攻撃力を受けたダメージの数値分アップする。

 

「効果発動!自分に1000のダメージを与え、コンパイル・ブラスターを破壊!」

「その効果にチェーンして、手札のジャッキングスピアの効果発動!」

 

 バイオロードがその右手をロングバレル銃に変形させて撃つが、その直前にコンパイル・ブラスターの周囲を回るオーバーレイユニットに何かが飛来する。

 

敵性機兵(エリミネーター)ジャッキングスピア

効果モンスター

星5/風属性/サイバース族/攻 2000/守 1500

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分フィールドのXモンスター1体を対象として発動できる。手札·フィールドのこのカードを対象のモンスターの下に重ねてX素材とする。その後、デッキから「エリミネーター」モンスター1体を対象のモンスターの下に重ねてX素材とする。この効果は相手ターンでも発動できる。

(2)相手ターン中、自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合、墓地のこのカードを除外して発動できる。デッキから「エリミーション」罠カード1枚をセットする。この効果でセットしたカードは、セットしたターンにも発動できる。

 

「こいつをコンパイルブラスターのオーバーレイユニットにし、さらにデッキから敵性機兵ショットキーをオーバーレイユニットに!そして、コンパイル・ブラスターの効果!オーバーレイユニットを1つ使うことで、破壊を無効にする!」

 

 オーバーレイユニットに加わったジャッキングスピアがそのまま消費され、障壁を作り出して銃弾を弾いた。

 

「ですが、私がダメージを受けたことで、ドリュアノームの効果を再び発動!スラッシャーを特殊召喚!」

 

 ドリュアノームから実が落ちて、中からスラッシャーが生まれる。

 

「しぶとく耐えますが、あなたも分かっているでしょう? あなたのデッキではどう足掻いても私の盤面を突破することはできない」

 

 ゴッドバードのデッキはモンスターを複数体並べることを苦手としており、火力に乏しい。

 対してスペクターは攻撃毎にライフを回復してモンスターを展開する守りに長けたデッキ。

 

 相性は絶望的だ。

 

「何ターンかけようが、私を倒すことは────」

「1ターンだ」

「は?」

 

 突如、ゴッドバードは宣言する。

 

「俺がお前を倒すのに、何ターンもかける必要はねぇ。次の1ターンで十分だ」

「何を言い出すかと思えば、あなたは状況を分かっているのですか?」

 

 スペクターは小馬鹿にしたように笑う。

 見ていた美海も、この時ばかりはゴッドバードの言葉に疑問を持った。

 

(樹の言う通り、次のターンどころか、このターンで……)

 

 既に打点は揃っている。

 このまま総攻撃を受ければ、ゴッドバードは負けた。

 

「さあバトルです!」

「バトルフェイズ開始時!俺は墓地のジャックキングスピアの効果発動!このカードを除外することで、デッキからエリミネーション罠カード1枚をセットできる!」

 

 再びゴッドバードのフィールドに伏せカードが出現する。

 

「このタイミングで伏せカード……そういうことですか」

 

 スペクターは何かを察したのか、ニヤッと笑う。

 

「私は攻撃はせず、メインフェイズ2でシューターの効果発動!」

 

 ドリュアノームから蔓が伸びて、聖蔓の射手(サンヴァイン・シューター)の弓の元で余れて矢を生み出す。

 

「自分のサンアバロンのリンクマーカーの数まで相手の魔法・罠カードを破壊する!」

 

 セットされたカードが射貫かれ、その中身が暴かれる。

 

エリミネーション·リジェクト

カウンター罠

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)相手モンスターの攻撃宣言時、自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合に発動できる。その攻撃モンスターを除外する。自分のEXモンスターゾーンに「エリミネーター」Xモンスターがいれば、かわりに相手フィールドの攻撃表示モンスター全てを除外し、除外したモンスターの元々の攻撃力の合計分、自分の「エリミネーター」Xモンスターの攻撃力をアップし、ターンを終了させる。

(2)墓地のこのカードを除外して発動できる。自分の墓地または除外されている「エリミネーター」モンスター2体まで選んでデッキに戻す。

 

「なるほど、それで私のモンスターを一掃した上で、攻撃力を増強させ、トドメを刺すつもりでしたか。いやぁ危なかったです。あなたがあんなに分かりやすくカードを伏せなければ気付きませんでしたよぉ」

 

 スペクターに煽られても、ゴッドバードは言い返すことなく俯く。

 

「ゴッドバード……」

「私はこれでターンエンド。さあ────」

「今ターンエンドっつったか?」

 

 ゴッドバードは下を向いたまま笑う。

 

「言ったよなぁ? 俺は次のターンで勝つって」

 

 ゴッドバードは自身のカードを手に取る。

 

「相手のエンドフェイズに、俺は墓地のシークエンスコードとラントリクターの効果発動!自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない相手ターン中、このカードを墓地から除外することで、デッキからエリミネーションカードをセットする」

「今さら何を……」

「俺のターン!カードを1枚伏せて、バトルだ!俺はコンパイル・ブラスターでシューターを攻撃!」

 

 コンパイル・ブラスターが体にくっ付けられたレールガンを放つ。

 

「ドリュアノームの効果発動!シューターを移動させることで、攻撃を無効にする!」

 

 それは避けられてしまい、さらにサンアバロンのリンク先に空きが出来てしまった。

 

「俺はセットしたRUM-オーバーレイエリミネーションを発動!」

 

RUM-オーバーレイエリミネーション

速攻魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1)自分のリンクモンスターをX素材に持つXモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターがX素材として持つリンクモンスターのリンクマーカーの合計までランクの高い「エリミネーター」Xモンスター1体をその上に重ねてX召喚扱いで特殊召喚する。

(2)セットされたこのカードが相手の効果でフィールドを離れた場合に発動できる。自分の墓地及び除外されているカードの中から「エリミネーション」罠カード1枚をセットする。この効果でセットしたカードはセットしたターンでも発動できる。

 

「自分のXモンスターを、そのモンスターの持つオーバーレイユニットのリンクモンスターのリンクマーカーの数分高いランクのエクシーズモンスターにランクアップさせる。俺はコンパイル・ブラスターでオーバーレイネットワークを再構築!」

 

 コンパイル・ブラスターが風に包まれ、上空に出現したエックス字のパネルへと吸い込まれる。

 

「電子の嵐より、輝ける翼を広げ光臨せよ!ランクアップエクシーズチェンジ!出でよランク6!敵性機兵(エリミネーター)バリアブルウィング!」

 

敵性機兵(エリミネーター)バリアブルウィング

エクシーズ・効果モンスター

ランク6/風属性/サイバース族/攻 2700/守 2300

このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードの攻撃力・守備力はこのカードがX素材に持つリンクモンスターのリンクマーカーの数×300アップする。

(2)自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合、自分の魔法・罠ゾーンのセットされたカードは相手の効果で破壊されない。

(3)このカードのX素材1つを取り除いて発動できる。このターン、このカードは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃できる。X素材のリンクモンスターを取り除いて効果を発動していた場合、デッキから「エリミネーション」魔法・罠カード1枚を手札に加えるか、セットする。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

「バトルだ!バリアブルウィングで、シューターを攻撃!」

 

 バリアブルウィングが翼を広げると、眩い光が照射され、シューターを光の中に消し去った。

 

「ですがダメージを受けたことで、ドリュアノームの効果発動!ライフを回復し、エクストラデッキから聖蔓の守護者(サンヴァイン・ガードナー)を特殊召喚!」

 

 ドリュアノームから実が落ちて、中から大楯を構えた植物の戦士が現れる。

 

「俺はバリアブルウィングの効果発動!オーバレイユニットを1つ使うことで、このカードはこのターン、2回攻撃できる!さらにリンクモンスターを使って発動していれば、デッキからエリミネーションを手札に加える!さぁやれ!」

 

 バリアブルウィングの二度目の攻撃が、今度は聖蔓の暴戦器(サンヴァイン・バイオロード)を撃ち取る。

 

「ドリュアノームの効果発動!ダメージの数値分ライフを回復し、エクストラデッキからスラッシャーを特殊召喚!」

 

 だが無意味。

 倒されたモンスターは養分となり、新たなるサンヴァインが生まれる。

 

「俺は手札から速攻魔法、RUM-超重層(ハイ・エリミネーション)を発動!バリアブルウィングをランクの1つ高いエリミネーターにランクアップさせる!」

 

 先程バリアブルウィングの効果で手札に加えたカードを発動する。

 瞬間、バリアブルウィングは風に包まれる。

 

「無窮の時の中、刻まれた記憶は世界を飲み込むべく、今、起動する」

 

 風の中に光が灯る。

 

「ランクアップエクシーズチェンジ!現れろランク7!敵性機兵(エリミネーター)ライブラリ・エンターコード!」

 

敵性機兵(エリミネーター)ライブラリ・エンターコード

エクシーズ・効果モンスター

ランク7/風属性/サイバース族/攻 3000/守 2500

風属性・レベル7・効果モンスター×2体以上

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分の「エリミネーター」Xモンスターの攻撃力·守備力はフィールドのX素材のリンクモンスターのリンクマーカーの合計×500アップする。

(2)自分のメインフェイズ・バトルフェイズに、このカードのX素材1つを取り除いて発動できる。自分の墓地からXモンスター1体を特殊召喚し、自分の墓地のモンスター1体をその下に重ねてX素材とする。この効果で特殊召喚したモンスターはターン終了時に除外される。

(3)相手がカードの効果を発動した時、自分の魔法&罠ゾーンのカード1枚を除外して発動できる。その発動を無効にする。

 

「ライブラリ・エンターコードの効果発動!オーバレイユニットを1つ使うことで、墓地のエクシーズモンスター1体を特殊召喚!さらに墓地のカード1枚をオーバレイユニットにする!」

 

 フィールドに0と1の文字列が螺旋状に渦巻き、中からコンパイル・ブラスターが甦った。

 

「バトルだ!ライブラリ・エンターコードで、聖蔓の守護者を攻撃!」

「ガードナーの効果で、戦闘ダメージは半分になる」

 

 スペクター:ライフ4900→3200

 

「ガードナーが戦闘で破壊された時、バトルフェイズは終了する!」

「ライブラリ・エンターコードの効果!自分の魔法&罠ゾーンのカード1枚を除外することで、その発動を無効にする!」

「ならドリュアノームの効果で……」

「そいつもコンパイル・ブラスターで無効だ!」

 

 ドリュアノームから落ちた実は、コンパイル・ブラスターによって撃ち抜かれ、さらに貫通してスペクターにもダメージを与える。

 

 スペクター:ライフ3200→2700

 

「ドリュアノームの効果は1ターンに3回まで、もう回復はできねぇ」

「くっ……だが、オーバレイユニットを失ったコンパイル・ブラスターの攻撃力では、スラッシャーを突破することはできない」

「ああ。だからお前のカードをもらう。俺は速攻魔法!エクシーズインポートを発動!スラッシャーをコンパイル・ブラスターのオーバレイユニットにする!」

 

 風が吹く。

 逆風が葉の戦士を吸い込み、コンパイル・ブラスターのオーバレイユニットに変える。

 

「コンパイル・ブラスター!ダイレクトアタック!」

「グロリアスグロースの効果!ダメージを半分に……」

「無駄だ!ライブラリ・エンターコードの効果で最後の伏せカードを除外し、その効果を無効にする!ぶっ飛べ!リジェクト────」

 

 コンパイル・ブラスターのレールガンにエネルギーがチャージされる。

 

「────コンパイルッッ!」

 

 ◆

 

「樹……」

 

 デュエルが終わると、美海はスペクターに近寄る。

 

「また、昔のように戻ることはできないのですか?」

「戻る? 元より私は独りでしたよ」

 

 彼女のその発言を嘲笑う。

 

「私に安らぎを与えてくれたのはあの木だけです。あなた達の存在は、むしろ私の孤独を実感させるだけでした」

「知らねぇよ」

 

 そこでゴッドバードが口を挟む。

 

「テメェの孤独はテメェのもんだろうが。人のせいにすんな」

「あなた、やっぱり……」

 

 そう吐き捨てるゴッドバードに、美海は何かを感じ取るが、口に出す前に彼は走り出す。

 

「あ、待ってください」

 

 追いかけようとする前に、美海はスペクターの方を向き直る。

 

「……また、会いましょう」

 

 そう言い残して、彼女はゴッドバードの後を追った。 



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第23話:The Abyss of Despair

ちょっと遅れました。
そろそろハノイの塔編も終盤


 ハノイの塔へ向かうゴッドバードと美海、

 

「くそっ、せめてDボードが使えればなぁ」

「あなた、データストームを自分で起こせましたよね。やらないんですか?」

「できるならとっくにやってる。あの塔のせいで、うまくデータマテリアルを操作できねぇ」

 

 ゴッドバードは悔しそうに唇をかむ。

 その時、美海が足をもつれさせる。

 

「お、おい。大丈夫かよ」

 

 倒れた美海に、ゴッドバードが近寄る。

 

「すみません」

「……後は俺に任せて、お前はそこで休んどけ」

 

 ゴッドバードは美海に背を向けて去ろうとする。

 すると、

 

 ギュッ

 

「なっ!」

 

 突然、彼の背中から美海が抱き着いた。

 

「ごめんなさい。少しだけ……」

「おま、お前あばばばばばば※%○■※$▼%────」

「いや取り乱し過ぎでは?」

 

 言語能力が崩壊し始めたので、美海はゴッドバードから離れる。

 

「い、いや、そりゃ、お前!急に抱き着かれたらびっくりするだろうが!」

 

 ゴッドバードは顔を真っ赤にして反論する。

 普段の粗暴な態度とは打って変わって、ピュアな一面を見て、美海はおかしくなって笑う。

 

「何笑ってんだよビッチが!」

「今の発言は童貞臭い」

「どどどどどどどどどどど童貞じゃね、ねぇし!」

 

 大慌てで否定する彼に、美海は苦笑する。

 

「だ、大体な、ネットで知らない男に抱き着くとか、ネットリテラシーがなってないっていうか……」

「もう知らない仲でもないでしょう。それに、あなた、もしかして私の知ってる人だったりしません?」

 

 その質問に、ゴッドバードは眉をピクンと反応させる。

 

「……さあな」

 

 肯定も否定もせずに、ゴッドバードは背を向ける。

 

「待っています」

 

 彼女のその言葉を受け取って、ゴッドバードは走り去った。

 

 ◆

 

 同刻、プレイメーカーとブルーエンジェルも塔に向けて走っていた。

 

「ブルーエンジェル、休まなくて大丈夫か?」

「そんな時間ないでしょ?」

 

 そう言うが、ブルーエンジェルの顔には明らかに疲れが見える。

 先程のデュエルでのダメージが、特に精神的なものが残っているのだろう。

 

「おい!二人とも!」

 

 すると、デュエルディスクの中のAiが正面を指さす。

 そこには、ハノイの騎士の下っ端が数名、彼らの前に立ちふさがっていた。

 

「こいつらを倒せば、俺達もセカンドに昇格だ」

「プレイメーカーは俺が倒すぜ」

「だったら俺はブルーエンジェルだ!」

 

 口々に好き勝手なことを言い合う。

 おそらく下っ端レベルには、あの塔が何なのかも知らされていないのだろう。

 

「プレイメーカー、先に行って」

 

 すると、ブルーエンジェルが一歩前に出る。

 

「だが……」

「お願い。これくらいはさせて」

 

 ブルーエンジェルの覚悟を受け取り、プレイメーカーは彼女の横を通り過ぎる。

 

「さぁ、悪い子達は、私が相手よ」

 

 ◆

 

 ハノイの塔の前まで到着したソウルバーナーは、改めてその巨大さに圧巻されていた。

 

「どうやって登る?」

「やはりよじ登るか」

「無理だろ……」

 

 不霊夢の提案を却下したものの、Dボードも使えず、特に入り口もなさそうなこれをどうやって登るか。

 

 その時、彼の元に近付く足音を聞いて振り返る。

 

「お前は……」

「よう。ソウルバーナー」

 

 やってきたのはゴッドバードだった。

 

「美海はどうした?」

 

 彼が来た方向は、美海が使用したルートだ。

 そこからやってきたということは、どこかで彼女とすれ違っているはずだ。

 

「あいつなら置いてきた」

「置いてきたって……」

「安心しろ。待ち伏せしてたスペクターは倒してやったから多分大丈夫だ。それより……」

 

 ゴッドバードは塔を見上げる。

 

「ここまで近づけばいけるか?」

 

 彼はそう呟くと、右手を塔の方へと掲げて、左腕のデュエルディスクを構える。

 

 すると、風の流れが変わり、ゴッドバードの方へ集まる。

 

「なんだ!?」

 

 風でデータマテリアルが集められ、データストリームとなって塔までの道を作り出す。

 

「こいつを使え」

「ありがとう」

 

 ソウルバーナーはDボードを出現させ、データストリームに乗る。

 だが、ゴッドバードの方はその場から動かない。

 

「お前は?」

「俺はここでデータストリームの制御をしなきゃならねぇ」

 

 塔の影響でデータマテリアルへの干渉が難しくなっている。それは塔の目の前まで近づいたことで、どうにかできるようにはなったが、それでも集中していなければ操作ができない。

 

「つーわけだ。多分上にリボルバーがいる。そいつはお前らに任せた」

「分かった」

「礼を言うぞ。ゴッドバード」

 

 ソウルバーナーはDボードを加速させて、一気に塔を駆け上がった。

 

 ◆

 

 ハノイの塔の上で、リボルバーは一人、崩壊するLINK VRAINSを眺めていた。

 

「もうすぐだ。もうすぐで、奴らの殲滅は成る」

 

 リボルバーは自分の掌を見つめる。

 

「父さん……」

「リボルバー!」

 

 すると、下から猛スピードで何かが登ってきた。

振り返ると、それはDボードに乗ったソウルバーナーだった。

 

「最初に来たのは貴様か」

 

 リボルバーは彼の方を向いて、ニヤリと笑う。

 

「塔を停止してもらうぞ」

「そうして欲しければ、分かるな?」

 

 お互いのデュエルディスクを構える。

 

「「デュエル!」」

 

ターン1 リボルバー

 

「私はフィールド魔法、リボルブート・セクターを発動」

 

 リボルバーの横に、巨大な銃のシリンダーが現れる。

 

「効果で、手札からアネスヴァレット・ドラゴン、マージヴァレット・ドラゴンを特殊召喚」

 

 シリンダーが回転して、二発の弾丸が放たれる。

 銃弾は変形し、二体のドラゴンへと姿を変えた。

 

マージヴァレット・ドラゴン

効果モンスター

星3/闇属性/ドラゴン族/攻 600/守 1100

このカード名の(2)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードがリンクモンスター、または自分の「ヴァレル」モンスターの効果の対象となった場合に発動できる。このカードを破壊する。

(2)このカードが自分の闇属性・ドラゴン族モンスター、または「ヴァレル」モンスターのカード名が記されたカードの効果で破壊された場合に発動できる。自分はデッキから効果テキストに「ヴァレット」または「ヴァレル」と記された魔法・罠カード1枚を手札に加える。このカードの(1)の効果で破壊されて発動していた場合、この効果の発動に対して、相手はカードの効果を発動できない。

(3)フィールドのこのカードが戦闘・効果で破壊され墓地へ送られたターンのエンドフェイズに発動できる。デッキから「スナイプヴァレット・ドラゴン」以外の「ヴァレット」モンスター1体を特殊召喚する。

 

魔法(マジック)カード、ソウル・リローデッドを発動」

 

ソウル・リローデッド

通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1)自分フィールドの「ヴァレット」モンスターを2体までを対象として発動できる。そのモンスターを破壊する。この効果で破壊したカードの数だけ、デッキから破壊したモンスターとはカード名の異なる「ヴァレット」モンスターを特殊召喚する(同名カードは1枚まで)。この効果発動後、ターン終了時まで、自分は闇属性・ドラゴン族モンスターしか特殊召喚できない。

 

「私のヴァレットモンスター2体を破壊し、デッキから破壊したモンスターとはカード名の異なるヴァレットモンスターを、その数だけ特殊召喚。来い、オートヴァレット・ドラゴン、スナイプヴァレット・ドラゴン」

 

 ヴァレットモンスターが爆発し、かわりにリボルブート・セクターから二発の弾丸がフィールドに撃ち込まれる。

 

「現れろ、我が道を照らす未来回路!」

 

 リボルバーが天に手を掲げると、その先にアローヘッドが出現する。

 

「召喚条件はヴァレットモンスター2体!」

 

 二体のヴァレットモンスターが、弾丸となってアローヘッドに装填される。

 

「リンク召喚!ヴァレルショット・ドラゴン」

 

ヴァレルショット・ドラゴン

リンク・効果モンスター

闇属性/ドラゴン族/攻 1200/LINK 2

「ヴァレット」モンスター2体

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードのリンク先に「ヴァレット」モンスターが特殊召喚された場合に発動できる。墓地からレベル5以下の「ヴァレット」モンスター1体を特殊召喚する。

(2)このカードのリンク先の「ヴァレット」モンスター1体を対象として発動できる。そのカードの元々の攻撃力分、このカードの攻撃力をアップする。この効果の発動に対して、相手はカードの効果を発動できない。

 

「速攻魔法、クイック・リボルブ。デッキからシェルヴァレット・ドラゴンを特殊召喚。ヴァレルショット・ドラゴンの効果発動!」

 

 背中の弾倉が回転し、シェルヴァレット・ドラゴンの隣に弾丸が撃ち込まれる。

 

「墓地からマージヴァレット・ドラゴンを特殊召喚!」

 

 弾丸が変形し、ドラゴンの姿になる。

 

「現れろ、我が道を照らす未来回路!リンク召喚!」

 

 アローヘッドに弾丸が装填され、一回転する。

 

「閉ざされた世界を貫く、我が新風!」

 

 アローヘッドから光が撃ち出される。

 

「リンク4!ヴァレルロード・ドラゴン!」

 

 現れたのは赤き竜。

 銅にリボルバー式の弾倉、両腕を銃器で武装した巨大なドラゴンだった。

 

「出やがったな」

「あれがリボルバーのエースモンスターか」

 

 空をふさぐほどに巨大なドラゴンの前に、ソウルバーナー達は圧巻される。

 

「私はこれでターンエンド。エンドフェイズに破壊されたヴァレットモンスターの効果で、デッキからシルバーヴァレット・ドラゴンと、マグナヴァレット・ドラゴンを特殊召喚」

 

ターン2 ソウルバーナー

 

「俺は転生炎獣(サラマングレイト)Jジャガーを召喚。現れろ、未来を変えるサーキット!リンク召喚!ベイルリンクス!」

 

 アローヘッドからベイルリンクスが回転しながら降りてくる。

 

「効果でデッキから転生炎獣の聖域(サラマングレイト・サンクチュアリ)を手札に加えて発動!」

 

 彼らの周囲を囲むように、炎が走る。

 

「さらに転生炎獣(サラマングレイト)モルを、ベイルリンクスのリンク先に特殊召喚!さらにサラマングレイトが特殊召喚されたことで、手札から転生炎獣(サラマングレイト)フォウルを特殊召喚!」

 

 ソウルバーナーのフィールドに三体のモンスターが並ぶ。

 

「現れろ、未来を変えるサーキット!」

 

 アローヘッドに三体のモンスターが飛び込み、炎を噴き上げる。

 

「リンク召喚!転生炎獣(サラマングレイト)ヒートライオ!」

 

 炎の中から、燃え滾る烈爪を持つ獅子が姿を現した。

 

「この瞬間!ヴァレルロード・ドラゴンの効果を、マグナヴァレット・ドラゴンを対象に発動!」

 

 マグナヴァレット・ドラゴンが変形し、ヴァレルロード・ドラゴンの胸部のシリンダーへ装填される。

 

「マグナヴァレット・ドラゴンがリンクモンスターの効果の対象となったことで、相手モンスター1体を墓地へ送る」

 

 マグナヴァレット・ドラゴンが発射され、ヒートライオを撃ち抜いた。

 

「だったら、俺は永続魔法、転生炎獣の意志(サラマングレイト・ハート)を発動!1ターンに1度、手札か墓地からサラマングレイトを特殊召喚できる!蘇れ、ヒートライオ!」

 

 火柱が立ち、その中からヒートライオが再び現れる。

 

「いくぞ!転生炎獣の聖域(サラマングレイト・サンクチュアリ)の効果!同名モンスター1体のみを素材としてリンク召喚できる!」

 

 地面に巨大な魔法陣が描かれる。

 

「俺はヒートライオをリンクマーカーにセット!」

 

 ヒートライオが赤い光となって、螺旋の軌跡を描きながら魔法陣に吸い込まれる。

 

「逆巻く炎よ、浄化の力で、ヒートライオに真なる力を呼び覚ませ!転生リンク召喚!」

 

 魔法陣から炎が噴き出す。

 

「生まれ変われ、転生炎獣(サラマングレイト)ヒートライオ!」

 

 ヒートライオが、その雄々しいタテガミを燃え滾らせながら魔法陣より現れた。

 

「これが転生リンク召喚か」

 

 バイラやジャックナイフのログから既に把握していたが、実際に見たのは初めてだったためか、感心したように呟く。

 

「ヒートライオの転生効果!ヴァレルロード・ドラゴンの攻撃力を、墓地のベイルリンクスと同じにする!」

 

 ヒートライオがヴァレルロード・ドラゴンに向けて炎を放つ。だが、

 

「ヴァレルロード・ドラゴンの効果!このカードは相手モンスターの効果の対象にならない!」

 

 ヴァレルロード・ドラゴンはそれを手で払い、まるで虫でも追い払うようにはじき返した。

 

「くっ、俺はカードを1枚伏せてターンエンド」

「エンドフェイズに、破壊されたマグナヴァレット・ドラゴンの効果発動。デッキからオートヴァレット・ドラゴンを特殊召喚」

 

 弾丸がフィールドに補充され、

 

ターン3

 

「私はヴァレルロード・ドラゴンの効果発動!」

 

 オートヴァレット・ドラゴンが装填され、ヴァレルロード・ドラゴンの口の大砲より発射される。

 

「フィールドの魔法・罠カードを破壊する!貴様のフィールド魔法を破壊!」

 

 弾丸が転生炎獣の聖域(サラマングレイト・サンクチュアリ)のカードを撃ち抜く。

 その瞬間、彼らの周囲を囲む炎は消滅した。

 

「バトルだ!ヴァレルロード・ドラゴンで、ヒートライオを攻撃!」

 

 ヴァレルロード・ドラゴンが口から赤い弾丸を発射する。

 

「この瞬間!ヴァレルロード・ドラゴンの効果発動!」

 

 弾丸はヒートライオに接触する寸前で爆発し、その周りに煙と金属の粉をバラまく。

 

「バトルする相手モンスターのコントロールを得る」

 

 ヒートライオの像が歪み、ノイズとなって消滅する。

 直後、ヴァレルロード・ドラゴンのリンク先にヒートライオが出現した。

 

「ヒートライオっ!」

 

 エースモンスターを奪われて、ソウルバーナーは歯噛みする。

 

「ヒートライオで、ダイレクトアタック!」

 

 ヒートライオが持ち主に牙を向き、その烈爪で彼の体を切り裂く。

 

 ソウルバーナー:ライフ4000→1700

 

「シルバーヴァレット・ドラゴンで攻撃!」

 

シルバーヴァレット・ドラゴンが弾丸に変形し、そのままソウルバーナーに猛スピードで突っ込む。

 

「俺は手札の転生炎獣(サラマングレイト)パローの効果発動!相手モンスターの攻撃宣言時、このカードを手札から特殊召喚!」

 

 ソウルバーナーの盾となるように、極彩色の翼を広げる鳥が現れる。

 

「効果で、俺の墓地のサラマングレイト1体を選び、攻撃力をそれと同じにする!俺は墓地のヒートライオを選択!」

 

 攻撃力2300となり、シルバーヴァレット・ドラゴンの攻撃を止めた。

 

「私はカードを1枚伏せて、ターンエンド。エンドフェイズに、破壊されたマグナヴァレット・ドラゴンの効果で、デッキからオートヴァレット・ドラゴンを特殊召喚」

 

ターン4

 

「相手ターン開始時、私はヴァレルロード・ドラゴンの効果を、オートヴァレット・ドラゴンを対象に発動!」

 

 オートヴァレットが、ヴァレルロードの胸部のシリンダーに装填される。

 

「その永続魔法も破壊だ!」

 

 転生炎獣の意志(サラマングレイト・ハート)を破壊され、これでソウルバーナーに残されたのは伏せカード1枚と、パローだけだ。

 

「俺はパローの効果発動!このカードをリリースすることで、ライフを2000回復」

 

 パローの体が燃えて、溶けるように消える。

 その炎はソウルバーナーに送られ、ライフを回復させる。

 

 ソウルバーナー:ライフ1700→3700

 

「墓地のモルの効果発動!自分フィールドにモンスターが存在しない場合、墓地のこのカードを除外し、墓地の「サラマングレイト」カード5枚をデッキに戻すことで、2枚ドローする!」

 

 ソウルバーナーが勢いよく、ディスクからカードを引き抜く。

 

「来たぜ、俺はライジング・オブ・ファイアを発動!墓地から炎属性モンスターを特殊召喚!」

 

 地面から炎が鳥のような形となって打ち上げられる。

 

「甦れ、ヒートライオ!」

 

 火の鳥が火花となって弾け、その中からヒートライオが再び姿を現した。

 

「だが、ヒートライオの効果はヴァレルロードには通用しない」

「俺の狙いはそれじゃない。俺はさらに、転生炎獣(サラマングレイト)ファルコを通常召喚」

 

 ヒートライオの隣に、炎の翼を広げる黒鳥が着陸する。

 

「現れろ、未来を変えるサーキット!ベイルリンクスをリンク召喚」

 

 ファルコがアローヘッドをくぐり、ベイルリンクスへと姿を変える。

 

「ベイルリンクスの効果で、デッキからサンクチュアリを手札に加え、発動!」

 

 再びフィールド魔法が張られ、彼らの周りを炎が駆ける。

 

「現れろ、未来を変えるサーキット!召喚条件は炎属性・効果モンスター2体以上!俺はベイルリンクスと、リンク3のヒートライオをリンクマーカーにセット!」

 

 モンスターが4つの炎となってアローヘッドに吸い込まれ、上下左右の矢印を描く。

 

「現れろ、リンク4!転生炎獣(サラマングレイト)パイロ・フェニックス!」

 

 現れたのは不死鳥を象った姿の人型のモンスター、その背には三対の炎の翼を羽ばたかせている。

 

「パイロ・フェニックスの効果発動!相手の墓地からヴァレルショット・ドラゴンを特殊召喚!」

 

 リボルバーのフィールドに、ヴァレルショット・ドラゴンが蘇り、彼は顔をしかめる。

 

「なんの真似だ?」

「パイロ・フェニックスの効果!相手のリンクモンスターが特殊召喚された時、その攻撃力分のダメージを相手に与える!」

 

 リボルバー:ライフ4000→2800

 

「サンクチュアリの効果発動!」

 

 地面に魔法陣が描かれる。

 

「パイロ・フェニックス1体をリンクマーカーにセット!」

 

 パイロ・フェニックスが飛び、上空から急降下して魔法陣に突っ込む。

 

「不死鳥よ。逆巻く炎に身を投じ、不滅の力を呼び覚ませ!転生リンク召喚!」

 

 魔法陣上で青い炎が爆裂する。

 

「生まれ変われ、転生炎獣(サラマングレイト)パイロ・フェニックス!」

 

 パイロ・フェニックスは、翼の炎を青く燃やし、生まれ変わった姿でフィールドに蘇った。

 

「パイロ・フェニックスの転生リンク召喚時の効果!相手フィールドのカードを全て破壊する!」

 

 パイロ・フェニックスが翼を大きく広げて、咆哮する。

 

「エターナルバーンノヴァ!」

 

 熱風がフィールドに吹き荒れる。

 リボルバーのフィールドのモンスター、伏せカード、フィールド魔法が、その熱に当てられて、次々と破壊されていく。

 

「これでフィールドはがら空きだ!行け!ソウルバーナー!」

「バトルだ!パイロ・フェニックスでダイレクトアタック!」

 

 無防備なリボルバーに、パイロ・フェニックスが迫る。

 

「……くくくっ」

 

 敗北を目の前に、リボルバーは笑っていた。

 

「私は墓地のバリア・ヴァレットの効果発動!」

 

 それは先程破壊された伏せカードだ。

 

「デッキから攻撃宣言時に発動できる(トラップ)カード1枚を除外することで、その発動時の効果とこのカードの効果は同じになる」

 

 瞬間、まばゆい光がリボルバーの方から放たれる。

 

「底知れぬ絶望の淵へ沈め!聖なるバリア-ミラーフォース!」

 

 その光に飲み込まれ、パイロ・フェニックスは消滅した。

 

「んなカードを入れてやがったのか」

 

 予想外のカードを撃たれて、ソウルバーナーの攻撃は終わってしまった。

 

「どうした? もう終わりか」

「俺はこれでターンエンド」

「エンドフェイズにメタルヴァレット・ドラゴンを特殊召喚」

 

ターン5

 

「死者蘇生を発動!墓地からヴァレルロード・ドラゴンを特殊召喚!バトルだ」

 

 蘇ったヴァレルロード・ドラゴンが、メタルヴァレット・ドラゴンを装填してその銃口をソウルバーナーに向ける。

 

「撃ち抜け!天雷のヴァレル・カノン!」

 

 ◆

 

 デュエルが終了し、地に伏したソウルバーナーをリボルバーは静かに見下ろす。

 

「貴様はそこで見ておけ。この下らぬ虚構の世界が壊れる瞬間を」

 

 そしてリボルバーは塔の淵まで歩き、下でデータストリームを操作していたゴッドバードの方へ視線をやる。

 

「どうする? 相手をする気なら降りてやるぞ?」

「……上等だ」

 

 ゴッドバードはデュエルディスクを構える。

 

「待て」

 

 その時、プレイメーカーがその場に到着した。

 

「リボルバー、俺が相手だ!」

 




ミラフォは前振りするタイミングなかったので、ここで普通に使わせました


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第24話:Those who were led by fate

 ハノイの塔の頂上で、リボルバーとプレイメーカーは向き合う。

 

「貴様と戦うのは二度目だな」

 

 一度目は、プレイメーカーのスキル発動に失敗して中断。

 あの場面で、既にプレイメーカーに次の一手はなく、事実上の敗北だった。

 

「あの時の借りを返してやろうぜ」

「黙れイグニス」

 

 プレイメーカーに激励を送るAiに、リボルバーは冷たく言い放つ。

 

「貴様らこそ、諸悪の根源。お前たちさえいなければ……」

「リボルバー、お前は先生、鴻上博士のシミュレートの結果を知っているのか?」

 

 怒りに震えるリボルバーに、プレイメーカーは問いかける。

 

「先生? そうか、お前はあの孤児院の生徒だったか」

「やっぱり、先生を知っているんだな」

「知っているよ。貴様よりもずっとな」

 

 リボルバーは静かにそう言うと、付けていたマスクを外す。

 

「私の本名は鴻上了見。貴様の言う先生、鴻上聖の息子だ」

「なっ!」

 

 それを聞かされて、プレイメーカーは目を見開く。

 

「父は過ちを犯した。お前達のような最悪の存在を作り出した。それを私は正さなければならない」

「そのやり方がこれか」

 

 プレイメーカーは今もなおデータを吸い続けるハノイの塔を見る。

 

「こんな方法で、先生が喜ぶと────」

「何を言っている? この塔を用意したのは父だ」

「え……」

 

 今度はプレイメーカーだけでなく、その場にいたソウルバーナーや塔の下で聞いていたゴッドバードまでもが固まった。

 

「父はイグニスを殲滅するために、このプログラムを用意していたのだ!」

「ちょっと待て、こんな大勢の人間を巻き込むような方法を、本当に先生が認めたのか!?」

 

 プレイメーカーは信じることができずに反論する。

 

「認めるも何も、何度も言うようにこのプログラムは父が作ったものだ」

 

 リボルバーにそう断言され、プレイメーカーは狼狽えていた。

 彼にとって、鴻上聖は身寄りのない自分達を育ててくれた恩人だ。それがこのような手段を講じていたという事実に、思考が追い付かない。

 

「イグニスに与するのなら、たとえ父の生徒であろうと容赦はしない」

 

 リボルバーは既に話は済んだと、デュエルディスクを構える。

 

「プレイメーカー!ボサッとするな!もう塔の起動まで時間がない!」

「あ、ああ」

 

 Aiに叱咤され、プレイメーカーは震える左腕を持ち上げる。

 

「「デュエル!」」

 

ターン1 プレイメーカー

 

「俺はリンクスレイヤーを特殊召喚!」

 

 ヤマネコを象った鎧をまとった騎士が、フィールドに出現する。

 

「このカードは自分フィールドにモンスターが存在しない場合に特殊召喚できる。さらにサイバース族モンスターがいる時、バックアップ・セクレタリーを特殊召喚」

 

 バイザーを装着した青髪の少女が、その隣に召喚される。

 

「手札のスタック・リバイバーを墓地へ送り、ミラーリンカーを特殊召喚!さらにサイバース・ガジェットを通常召喚。効果で墓地からスタック・リバイバーを特殊召喚。現れろ、未来を導くサーキット!リンク召喚!スプラッシュ・メイジ!」

 

 スタック・リバイバーとバックアップ・セクレタリーがアローヘッドに吸い込まれ、白いローブをまとった電脳の魔術師が姿を現した。

 

「スタック・リバイバーの効果で、墓地のバックアップ・セクレタリーを特殊召喚。さらにスプラッシュ・メイジの効果!」

 

 スプラッシュ・メイジが手にした杖を手元でクルッと回転させる。

 

「墓地からスタック・リバイバーを自身のリンク先に特殊召喚!」

 

 カツンッと杖を地面に突き立てると、そこにワームホールが開き、中からスタック・リバイバーが蘇った。

 

「現れろ、未来を導くサーキット!召喚条件は効果モンスター2体以上!俺はスタック・リバイバーと、リンク2のスプラッシュ・メイジをリンクマーカーにセット!リンク召喚!トランスコード・トーカー!」

 

 現れたのは角ばったオレンジの重装甲をまとった電脳の騎士だった。

 

「トランスコード・トーカーの効果発動!墓地からスプラッシュ・メイジを特殊召喚」

 

 トランスコード・トーカーの後ろに、スプラッシュ・メイジが蘇る。

 

「現れろ、未来を導くサーキット!召喚条件はモンスター2体以上!リンク召喚!」

 

 スプラッシュ・メイジ、バックアップ・セクレタリー、サイバース・ガジェットの3体がアローヘッドに吸い込まれ、上下左右のリンクマーカーを描く。

 

「唸れ嵐!虚構に渦巻く旋風は、万物を振るわす竜の雄叫びとなる!リンク召喚!」

 

 アローヘッドより爆風が吹く。

 

「リンク4、ファイアウォール・ドラゴン!」

 

 風の中から、機械の翼を広げる白いドラゴンが現れた。

 

「サイバース・ガジェットの効果発動!ガジェット・トークンを特殊召喚。現れろ、未来を導くサーキット!」

 

 ミラーリンカー、リンクスレイヤーがリンクマーカーに吸い込まれる。

 

「リンク召喚!リンク2、ハニーボット!」

 

 ファイアウォール・ドラゴンのリンク先に、ハチの巣のようなビットを従えた女性型のモンスターが出現する。

 

「さらに残りのガジェット・トークンを使い、リンク召喚!トークバック・ランサー!そのままリンクマーカーにセット!リンク召喚!セキュア・ガードナー!」

 

 さらにファイアウォール・ドラゴンの左隣に、両肩に盾を装備したロボットが出現した。

 

「墓地のミラーリンカーの効果発動!」

 

ミラーリンカー

効果モンスター

星2/水属性/サイバース族/攻 800/守 900

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分の手札からこのカード以外のサイバース族モンスター1体を墓地へ送って発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。

(2)このカードがリンク素材となって墓地へ送られたターンのメインフェイズに、墓地のこのカードを除外し、自分フィールドのサイバース族リンクモンスター1体を対象として発動できる。対象のモンスターのリンクマーカーの数だけ、デッキの上からカードをめくり、その中から「サイバネット」魔法・罠カード1枚を手札に加え、残りを墓地へ送る。この効果で手札に加えなかった場合、めくったカードはデッキに戻す。この効果で手札に加えたカード、及びその同名カードはこのターン、発動できない。

 

「ファイアウォール・ドラゴンを対象に、墓地のこのカードを除外。デッキの上から対象のモンスターのリンクマーカーの数だけめくり、その中からサイバネットカード1枚を手札に加える。俺はカードを1枚伏せてターンエンド」

「よし!これでファイアウォール・ドラゴンの相互リンク状態のカードは3枚、相手のカードを3枚戻せるぜ」

 

ターン2 リボルバー

 

「プレイメーカー、確かにサイバースのカードは強力だ。貴様も、ソウルバーナー、ゴッドバード、μ(ミュー)、そしてイグニス。その使い手達と幾度となく我々は戦ってきた」

 

 リボルバーは自分や、自分の部下達が戦った相手を思い返しながら言う。

 

「我々がそのサイバースに対して、何の対策も講じていないと思っていたか?」

「何?」

 

 リボルバーは手札から引いたカードを掲げる。

 

「フィールド魔法、天火の煉獄を発動!」

 

 瞬間、塔の周りを巨大な鳥籠が覆う。

 鳥籠の外周に、4の灯火が点き、籠の中を照らした。

 

「なんだ……」

「このカードがフィールドに存在する限り、お互い1ターンに1度しかリンク召喚できない。そして、サイバース族リンクモンスターが存在する場合、サイバース族モンスターは効果を発動できず、攻撃できず、リンク素材にもできない」

「なっ!」

 

 気付くと、プレイメーカーのフィールドにいるモンスター達はまるで抜け殻のように動かなくなってしまった。

 

天火の煉獄

フィールド魔法

このカードは自分のメインフェイズ1開始時にのみ発動できる。

(1)お互い、1ターンに1度しかリンク召喚を行えない。

(2)フィールドにサイバース族リンクモンスターが存在する限り、以下の効果を適用する。

●サイバース族モンスターの発動した効果は無効化される。

●フィールドのサイバース族モンスターは攻撃できず、リンク素材にできない。

(3)このカードが相手の効果でフィールドを離れた場合、自分フィールド・墓地のリンク4のモンスター1体を除外して発動できる。EXデッキから「トポロジック」モンスター1体を特殊召喚する。

 

「サイバース族の強力なリンクモンスターに対してはミラーフォース、サイバース族の力そのものを奪うための天火の煉獄!この二段構えこそが、ハノイの切り札だ!」

 

 リボルバーは高らかに宣言する

 

「私はヴァレット・オーバードーズを発動!」

 

ヴァレット・オーバードーズ

通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できず、発動するターン、自分はEXデッキからモンスターを1度しか特殊召喚できない。

(1)相手フィールドのモンスターが自分より多い場合に発動できる。自分フィールドのモンスターが相手フィールドのモンスターの数と同じになるまで、自分の手札・デッキから「ヴァレット」モンスターを守備表示で特殊召喚する(同名カードは1枚まで)。この効果で特殊召喚されたモンスターはエンドフェイズに破壊される。この効果で特殊召喚されたモンスターがフィールドに表側表示で存在する限り、自分は闇属性・ドラゴン族モンスターしか特殊召喚できない。

 

「相手フィールドのモンスターの数と自分フィールドのモンスターの数が同じになるまで、手札かデッキからカード名の異なるヴァレットモンスターを特殊召喚!」

 

 虚空に四つの穴が開き、そこから4体のヴァレットモンスターが射出される。

 

「現れろ、我が道を照らす未来回路!」

 

 リボルバーの手を伸ばす先に、アローヘッドが出現する。

 

「召喚条件は効果モンスター3体以上!私は4体のヴァレットモンスターをリンクマーカーにセット!」

 

 弾丸がリンクマーカーに装填され、アローヘッドが回転する。

 

「閉ざされた世界を切り裂く我が烈風!リンク4!ヴァレルソード・ドラゴン!」

 

 現れたのは、頭部に巨大な刃を装備したドラゴン。

 その胴体にはヴァレルロードと同じく、シリンダーがついている。

 

「そしてシルバーヴァレット・ドラゴンを通常召喚。バトルだ。まずはシルバーヴァレット・ドラゴンで、セキュア・ガードナーを攻撃!」

 

 シルバーヴァレット・ドラゴンが弾丸に変形し、セキュア・ガードナーに向けて発射された。

 

「セキュア・ガードナーの効果!自分が戦闘・効果ダメージを受ける時、それを1度だけ0にできる!この効果は永続効果、発動する効果ではないので無効にされない」

 

 セキュア・ガードナーが動き、最後の力を振り絞って弾丸を自らの体で受け止めた。

 

「ヴァレルソード・ドラゴンの効果発動!シルバーヴァレット・ドラゴンを対象に、それを守備表示に変更!効果の対象となったことで、シルバーヴァレット・ドラゴンは破壊!」

 

 シルバーヴァレット・ドラゴンが弾丸となって、ヴァレルソードのシリンダーに装填される。

 

「シルバーヴァレット・ドラゴンの効果発動!リンクモンスターの効果の対象になった時、自身を破壊し、相手のエクストラデッキからカードを1枚選んで除外する」

 

 プレイメーカーのエクストラデッキのカードが公開される。

 

「お前だ!エンコード・トーカー!」

 

 弾丸がそのカードを貫き、消滅させる。

 

「そしてこの効果を使ったことで、ヴァレルソードはこのターン、2回攻撃できる!まずはハニーボットを攻撃!」

 

 ヴァレルソードに襲われても、ハニーボットは一切動くことなく、何の抵抗もなく切り裂かれた。

 

 プレイメーカー;ライフ4000→2900

 

「終わりだ!ヴァレルソード・ドラゴン!ファイアウォール・ドラゴンを攻撃!この瞬間、ヴァレルソード・ドラゴンの効果発動!攻撃する相手モンスターの攻撃力の半分、自身の攻撃力をアップし、その相手モンスターの攻撃力を半分にする!」

 

 トランスコード・トーカーの効果で3000までアップしていたファイアウォール・ドラゴンの攻撃力が1500まで下げられ、その力がヴァレルソード・ドラゴンに奪われる。

 

「終わりだ!行け!ヴァレルソード・ドラゴン!」

「俺は(トラップ)カード!サイバネット・エマージェンスを発動!」

 

サイバネット・エマージェンス

通常罠

(1)自分のサイバース族モンスター1体を対象として発動できる(ダメージステップでも発動可能)。そのモンスターはこのターン、1ターンに1度だけ戦闘で破壊されず、その戦闘によって発生する戦闘ダメージはお互いが受け、半分になる。その後、受けたダメージの数値分、戦闘を行った相手モンスターの攻撃力をダウンさせ、デッキからその数値以下の攻撃力または守備力を持つサイバース族モンスター1体を手札に加える。

 

「ファイアウォール・ドラゴンはこのターン、1度だけ戦闘で破壊されず、戦闘ダメージは半分になって互いが受ける!」

 

 ファイアウォール・ドラゴンを守るように、赤い障壁が展開される。

 

 そして、ヴァレルソード・ドラゴンとその背後にいるリボルバーに向けて赤い障壁から光線が照射される。

 

 プレイメーカー:ライフ2900→1400

 リボルバー:ライフ4000→2500

 

「そして、受けたダメージの数値分、戦闘を行った相手モンスターの攻撃力をダウンさせ、その数値以下の攻撃力か守備力を持つサイバース族モンスター1体を、デッキから手札に加える」

「くっ、私はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン3

 

「どうにかターンは返ってきたな」

「ああ。だが、あのフィールド魔法がある限り、俺はリボルバーを攻撃できない」

 

 プレイメーカーのデッキのモンスターは例外なくサイバース族。

 それらは全て天火の煉獄の効果を受けてしまう。

 

「どうにかしてあれを除去しないとな」

「ああ。俺は魔法カード、サイバネット・ドローを発動!」

 

サイバネット・ドロー

通常魔法

自分フィールドにリンク3以上の「コード・トーカー」モンスターが存在する場合、このカードの発動と効果は無効化されない。

(1)自分のフィールド・墓地・除外されているサイバース族リンクモンスターのリンクマーカーの合計が8以上の場合、自分のメインフェイズ1開始時に発動できる。自分はデッキから2枚ドローする。この効果発動後ターン終了時まで、自分はデッキからカードを手札に加えられない。

 

「デッキから2枚ドロー!そして今引いたサイバネット・クロスワイプを発動!ファイアーウォール・ドラゴンをリリースして、天火の煉獄を破壊!」

 

 ファイアーウォール・ドラゴンが光に包まれて、彼らを閉じこめる鳥籠に向けて突っ込む。

 その決死の特効により、天火の煉獄は音を立てて崩れ始めた。

 

「どうだリボルバー!お前の切り札はぶっ潰してやったぞ!」

 

 デュエルディスク上で、Aiがビシッと指差す。

 

「ククク……」

 

 だが、そんな彼をリボルバーが嘲笑う。

 

「我が煉獄が破壊されたことで、そこに封印されし力が呼び覚まされる」

 

 ゴゴゴゴ……

 

 地鳴りがして、崩れた鳥籠の周囲を覆っていた4つの灯火が集まる。

 

「自分のフィールド・墓地のリンク4のモンスターを除外することで、エクストラデッキから特殊召喚する」

 

 灯火は幾何学的な模様を描くように周り、やがて1つとなって光を放つ。

 

「とこしえの創世より、無限に再生するゼロ!出でよ、トポロジック・ゼロヴォロス!」

 

 光の中から現れたそれは、ドラゴンと呼ぶにはあまりに 禍々しく、命を感じない無機質な姿。尾を奇怪な模様を描くようにうねられ、自身の背中に接続している。

 

「新たなリンク4のモンスター……」

「おい!プレイメーカー!こいつ、サイバース族だぞ!!」

「なんだと!?」

 

 リボルバー、ハノイの騎士はイグニスを殲滅することを目的としている。

 そのイグニスの力の象徴とも呼べるサイバース族のカードを自ら使ったことに、二人は驚きを隠せない。

 

「これこそ、父が遺した、天火の煉獄に封印されしサイバース族のカード。敵の力を以て、敵を殲滅する。これが私と父の覚悟のカードだ!」

「先生のカードか……」

 

 確かに、イグニスを研究していた鴻上博士なら、サイバース族のカードを産み出せても不思議じゃない。

 

「リボルバー、先生はそもそもどうしてイグニスを作ったんだ!」

「父は人類の未来を憂い、人類に福音をもたらす存在としてイグニスの研究を始めた。だが、金にしか興味のないSOLテクノロジー社は、結果を急ぐあまり、父の孤児院の子供達、つまりお前達を実験台にしたのだ。強制された事とはいえ、父は自らの罪の意識に耐えきれず、その命を絶った」

 

 リボルバーは激しい怒りを込めて語る。

 

 だが、プレイメーカーはその話に何か引っ掛かりを覚えた。

 

(なんだ? この違和感は……)

 

 リボルバーが嘘を言っているようには見えない。

 

 今の話にも、これまでの情報との矛盾はない。

 

「おい!プレイメーカー!しっかりしろ!」

「っ……あ、ああ。悪い」

 

 Aiに声をかけられ、一度思考は打ち切られる。

 

(今はこのデュエルに集中する)

 

「いくぞ!俺はトランスコード・トーカーの効果発動!墓地からスプラッシュ・メイジを特殊召喚!さらにスプラッシュ・メイジの効果で、墓地からリンクスレイヤーを特殊召喚!」

 

 プレイメーカーのフィールドに3体のモンスターが並ぶ。

 

「私は速攻魔法!クイック・リボルブを発動!デッキからヴァレットモンスターを特殊召喚!」

 

 トポロジック・ゼロヴォロスのリンク先に、アネスヴァレット・ドラゴンが射出される。

 

「この瞬間!トポロジック・ゼロヴォロスの効果発動!」

 

 トポロジック・ゼロヴォロスの尾を伝うように、雷が駆け巡る。

 

「このカードのリンク先にモンスターが特殊召喚された時、フィールドのカードを全て除外する!アシュラーエニグマッッ!」

 

 光が限界まで高まり、全てを飲み込む。

 

 二人のフィールドのモンスター達は跡形もなく消し去られた。

 

「くっ……俺はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン4

 

「スタンバイフェイズに、自身の効果で特殊召喚されたトポロジック・ゼロヴォロスは帰還する」

 

 空間が歪み、トポロジック・ゼロヴォロスが再び姿を現す。

 

「そしてトポロジック・ゼロヴォロスは、除外されているカードの数×200、攻撃力がアップする」

 

 現在の除外されているカードの枚数は、プレイメーカーとリボルバーで合わせて6枚。ゼロヴォロスの攻撃力は4200となる。

 

「バトルだ!トポロジック・ゼロヴォロスで、ダイレクトアタック!」

 

 ゼロヴォロスの尾を伝ってエネルギーが加速する。

 

「終熄のディスオーダー・コードッッ!」

 

 加速したエネルギーがプレイメーカーに向けて放たれる。

 

「俺は(トラップ)カード!スリーフェイト・バリアを発動!」

 

スリーフェイト・バリア

通常罠

(1) 以下の効果から1つを選択して発動できる。

●このターン、自分のモンスターは戦闘・効果で破壊されない。

●このターン、自分はダメージを受けない。

●このターン、自分のモンスター1体は1度だけ戦闘で破壊されず、その戦闘によって戦闘ダメージを受けるかわりに、その数値分、自分のLPを回復する。

(2)自分がダメージを受けた場合、墓地のこのカードを除外して発動できる。このターン、自分が受ける効果ダメージは0になる。

 

「このターン、俺はダメージを受けない!」

 

 プレイメーカーの前に、黄色いバリアが張られ、ゼロヴォロスの攻撃を防いだ。

 

「私はこれでターンエンド。貴様も分かっていると思うが、これで貴様のリンク召喚は封じられた」

 

 ゼロヴォロスはリンク先にモンスターが特殊召喚された時、フィールドのカードを全て除外する。

 そして、ゼロヴォロスは現在メインモンスターゾーン中央におり、そのリンクマーカーはエクストラモンスターゾーンを向いている。

 

 エクストラモンスターゾーンを使えば、その瞬間にプレイメーカーのモンスターは消し飛ぶこととなる。

 

(次のドローが勝負を決める)

 

「いくぞ!俺のターン、ドロー!」

 

 引いたカードを確認する。

 

「これなら、俺はバランサーロードを召喚!ライフを1000払い効果発動!」

 

 プレイメーカー:ライフ1400→400

 

「このターン、俺はもう一度通常召喚できる!俺はレディ・デバッカーを召喚!」

 

 てんとう虫の羽を持つ女性型のモンスターが出てくる。

 

「このカードが召喚に成功した時、デッキからレベル3以下のサイバース族モンスターを手札に加える。俺はマイクロ・コーダーを手札に。現れろ、未来を導くサーキット!」

 

 プレイメーカーが空に手を伸ばすと、光の軌跡が駆けて上空にアローヘッドを出現させる。

 

「召喚条件は効果モンスター2体以上!俺はバランサーロード、レディ・デバッカー、そして手札のマイクロ・コーダーをリンクマーカーにセット!」

 

 空を三つの光が駆けて、アローヘッドにリンクマーカーを描く。

 

「リンク召喚!リンク3、デコード・トーカー!」

 

 アローヘッドより、青い鎧を身にまとった電脳の騎士が現れた。

 

「潔く散るか。いいだろう。やれ!トポロジック・ゼロヴォロスッ!」

 

 トポロジック・ゼロヴォロスの尾でエネルギーが加速する。

 

「アシュラーエニグマッ!」

 

 限界値まで高まった熱量が光となって放出され、フィールドのカードを全て飲み込んだ。

 

「これで、今度こそ貴様は次のターン────」

「俺は墓地のリコーデッド・アライブの効果発動!」

「なにっ!?」

 

 空間が歪む。

 

「除外されている「コード・トーカー」モンスター1体を特殊召喚!来い、デコード・トーカー!」

 

 次元の奥より、デコード・トーカーが舞い戻った。

 

「バカな。いつの間に……最初のターンか」

 

 プレイメーカーが1ターン目に発動したミラーリンカーの効果。デッキの上からカードをめくり、「サイバネット」カードを手札に加えて、残りを墓地へ送る。

 あれでリコーデッド・アライブが墓地へ送られていたのだ。

 

「たが、デコード・トーカーの攻撃力では、私のライフは削りきれない!」

「まだだ。俺はマイクロ・コーダーの効果で手札に加えたこいつを使う!フィールド魔法、サイバネット・ユニバースを発動!」

 

 空が黒く染まり、それを彩るように無数の電子の光が複雑な軌道で飛び交い始める。

 

「このカードは、リンクモンスターの攻撃力を300アップする!」

 

 これで攻撃力2600。

 リボルバーのライフ2500に届いた。

 

「バトルだ!デコード・トーカーでリボルバーにダイレクトアタック!」

 

 剣を振り上げ、リボルバーに急接近する。

 

「デコォォォドォッ!エンドッッッ!」

 

 ◆

 

 デュエルが終了すると同時に、ハノイの塔の上空で回転していた輪が止まる。

 

「私の敗けだ。プレイメーカー……」

 

 リボルバーは倒れた体を起こす。

 

「だが忘れるな。イグニスが存在する限り、人類の破滅は避けられない。私はその運命から逃げるつもりはない」

 

 リボルバーがデュエルディスクを操作する。

 

「待て!」

 

 リボルバーのアバターは姿を消してしまった。

 

「……人類の破滅」

 

 レポートにも書かれていた。

 シミュレートの結果、イグニスはいずれも人類を滅ぼす未来を引き起こすと。

 

 確かに、現に今、ライトニングを初めとした4人のイグニスは人間に対して宣戦布告した。

 

 運命の歯車は、既にシミュレートされた未来に動き出している。

 

(だが、なんだ。何か……)

「プレイメーカー!」

 

 ソウルバーナーに声をかけられ、プレイメーカーの思考は中断された。

 

「どうした?」

「いや……ブルーエンジェルと美海を迎えに行こう」

「それなら……おーい!ゴッドバード!」

 

 ソウルバーナーが塔の上から呼び掛ける。

 視覚補正と聴覚補正で、遥か下にいるゴッドバードと共きっちりやり取りができる。

 

「もっかいデータストリーム起こしてくれ!」

「ふざけんな俺はタクシーじゃねぇんだぞ」

 

 なんだかんだ言い合って、結局ゴッドバードが送ってくれることになった。

 

 

 ◆

 

 Hello world

 

 Second Phase(第2段階) 終了……進捗率37%

 

 コレマデノ結果ハ、スベテ シミュレーション ドオリ

 

 コレヨリ、『Project:Hanoi』ヲ Third Phase(第3段階)へト移行シマス




これにてハノイの塔編は終了です
原作では事件の真相が明らかになり、遊作の復讐が終わった節目の回でしたが、本作では新たな謎が浮かび上がった始まりの回となっております
次回からのストーリーにもご期待ください


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幕間:Line spacing

今回はちょっと短いです


 ハノイの塔事件から数日が明けたある日、

 

「それじゃあ、LINK VRAINSの危機を救った僕らに、」

「「「乾杯!」」」

 

 葵、美海、尊の三人がグラスを鳴らす。

 

「で、なんで俺の部屋なんだ」

 

 自室にお菓子とジュースを広げて寛ぐ三人に、遊作はジト目を向ける。

 

「だって、遊作は今回の一番の功労者じゃないか」

「リボルバーを倒したんですからね」

「それと俺の部屋でやることに何の関係が……」

「いいじゃないか」

 

 すると、草薙が人数分のホットドッグを持って部屋に入ってきた。

 

「これは俺からの奢りだ」

「ありがとう!草薙さん!」

 

 みんながホットドッグを手に取り始めたのを見て、遊作は諦めて自分も飲み物を手に取った。

 

「そういえば財前、尊。あの後、お前たちは大変だったんじゃないのか?」

「あぁ。取材のこと?」

 

 尊と葵は、それぞれLINK VRAINSのカリスマデュエリストだ。

 そんな二人がLINK VRAINSを救った英雄になったとあれば、ネットメディアからの取材は絶えないはずだ。

 

「うん。実際、メディア関係の仕事はちょっと増えたかな」

「私は事務所所属ってわけじゃないから。でも、前よりマスコミ(ストーカー)は増えたかも」

 

 それぞれ大変そうだなと、遊作はそんな感想も抱く。

 

「けどお前も他人事じゃないだろ?」

 

 すると、Aiがデュエルディスクから出てきて、そんな指摘をする。

 

「何がだ?」

「さっき調べただけで、お前のことを特集したネットの記事が100件以上出てきてたぞ。ここ最近作られたやつだけでな」

「まあプレイメーカーが、ハノイの塔の停止させたわけだし、遊作に一番注目が集まるのは当然じゃないかな」

 

 尊の言う通り、Aiが適当に出した記事の見出しには、デカデカとプレイメーカーの写真、その横には『LINK VRAINSを救った英雄』と書かれている。

 

「そういえば、ゴッドバードの記事もありましたね」

 

 すると、美海が別の記事を表示する。

 そこにはバッチリ、ゴッドバードがデュエルする姿が映っている。

 

「謎のサイバース使い、緑の荒くれ者、中々面白いニックネームもつけられていますね」

「確か、スペクター、樹を倒してくれたんだよね」

 

 既にスペクターが彼らの幼馴染、聖辺樹であるということは共有してある。

 

「えぇ。樹とも、どうにか連絡が取れればいいのですか」

「樹が敵になるなんて、思ってもみなかったよ。啓は今頃どうしてるだろ」

 

 もう一人、未だに近況の分からない幼馴染の名前を尊が呟くと、美海は何故か少し笑った。

 

「元気でやってると思いますよ」

「どういうこと?」

「勘です。功労者といえばゴッドバードもですよね。遊作と尊を塔の上に上げたのは彼なんですから。私のことも助けてくれましたし」

 

 そこでふと、美海は俯いた。

 

「いや、そういえば私、今回何の役にも立ってないですよね……」

 

 それを聞いて、葵もため息を吐いた。

 

「私も、ジャックナイフに負けたし……」

「い、いや、ほら、僕だってリボルバーに負けたんだし」

「財前はジャックナイフの切り札を暴いたし、ハノイの騎士の下っ端を引き受けてくれた」

 

 遊作と尊もフォローするが、二人の表情はさらに暗くなる。

 

「でも尊はバイラを倒したんですよね」

「大したことしてないのに、なんかマスコミからは持ち上げられて胸が痛い。胸ないけど」

 

 二人は仲良く深いため息を吐いた。

 

「あ、みんな飲み物切れてるよね。ぼ、僕買ってくるよ」

「俺も行く」

 

 その空気に耐え切れなくなり、遊作と尊は席を立った。

 

 ◆

 

 遊作と尊が近くのスーパーに立ち寄ったところ、その駐車場に人だかりができていた。

 

「あれは、Go鬼塚か」

 

 数人の子供達が、Go鬼塚からサインをもらったりしていた。

 

「おぉ。尊か」

 

 すると、彼らの姿に気付いて、Go鬼塚は子供たちに別れを告げてから、こちらにやってきた。

 

「こんにちは。鬼塚さん」

 

 鬼塚が遊作の方を向いたので、尊は彼を紹介することにした。

 

「あ、僕の友達の藤木遊作です」

「どうも」

 

 とりあえず遊作が会釈する。

 

「おお。尊の友達だったか。俺は……」

「一応、僕のこと知ってるんで、大丈夫ですよ」

「そうか。俺は鬼塚豪、知ってると思うが、尊と同じ事務所のプロデュエリスト、Go鬼塚だ」

 

 そう言って両腕で力こぶを作るようなポーズを取る。

 遊作はよく知らないが、これがGo鬼塚おなじみの挨拶なのだろう。

 

「聞いたぞ。お前がLINK VRAINSを救ったってな」

「いや、最後にリボルバーを倒したのはプレイメーカーで……」

 

 そう謙遜するが、憧れの先輩からの賞賛に、彼もまんざらでもなさそうだった。

 

「俺もログインしていれば、お前たちを助けにいけたんだがな。くそっ」

 

 Go鬼塚は拳を自分の掌に打ち付ける。

 

「そうだ。お前にこいつをやる」

 

 すると、彼は抱えていた段ボール箱の1つを尊に渡した。

 側面に書かれた文字を読むと、どうやらプロテインらしい。

 

「祝いだ。事務所にいたら渡そうと思ってたんだ。そいつでもっと筋肉をつけろ」

「あ、ありがとうございます」

「それじゃあな」

 

 そう言って、Go鬼塚は去っていった。

 

「本当にアバターと同じなんだな」

 

 彼の姿を見て、遊作はそんな感想を抱いた。

 

「鬼塚さんはレスラー時代からのファンもついてるからね。そのイメージを壊さないようにしてるんだよ」

「元レスラーなのか」

「うん。今はもう完全にデュエリストに転向しちゃったけど、レスラーだった頃もすごかったんだよ。あ、動画あるけど見る?」

「いや、いい」

 

 尊が残念そうにするのを横目に、遊作はスーパーの店内へ足を踏み入れた。

 

 ◆

 

 同刻、SOLテクノロジーの幹部室。

 チェス盤のAR空間内で、ビショップと晃が向き合っていた。

 

「LINK VRAINSの修復は進んでいるか?」

「はい。現在書き換えられたプログラムをバックアップに戻している最中です」

 

 ハノイの塔起動のために、LINK VRAINS内のプログラムはハノイの手によって改竄されている。

 その箇所は膨大で、大量の社員を有するSOLテクノロジーでも、修復にはまだまだ時間がかかるようだ。

 

「優先度の低い箇所は後回しにして、ある程度復旧が進めばサービスを再開しろ」

「かしこまりました。それで……」

 

 晃は恐る恐る尋ねる。

 

「ハノイの塔は、本当にあのまま保管するつもりですか?」

 

 停止したハノイの塔は、現在はビショップの指示で別サーバーに隔離されている。

 

「削除してしまうべきでは?」

「鴻上博士の作ったものだ。解析すれば、我々のさらなる利益につながる」

「しかし、ハノイの騎士に奪われてしまえば……」

「そうならないために君がいる。それにハノイの騎士は組織としては既にない」

 

 事件の後、下っぱの構成員の大半は検挙された。

 セカンド以上のメンバーは行方不明だが、ハノイの騎士は壊滅したも同然だ。

 

「無論、リボルバーが何か仕掛けてくる可能性は大いにある。故に、セキュリティ部長である君が厳重に管理するのだ」

「……かしこまりました」

 

 晃は納得のいかない様子だったが、それ以上は反論しなかった。

 

「それと、イグニスの確保に関してだが、今後はこちらで直接指揮を取る」

「ビショップ様が自ら、ですか?」

「そうだ。そのために新たなデュエリストも雇ってある」

 

 すると、AR空間内に、一人の男が現れた。

 紫髪の長身の男で、顔をマフラーとサングラスで隠している。

 

「彼を中心に、IGS-0シリーズを使いイグニス確保に動く。以上だ」

 

 その一言で締めくくり、AR空間は閉じられた。

 

 ◆

 

 それから飲み物を買って戻ると、草薙も交えて五人でささやかな会を楽しんだ。

 

 そして、そろそろお開きというところで、美海は口を開いた。

 

「あの、草薙さん。こんな時に聞くのもなんなんですが……」

 

 彼女は言いづらそうに視線をあちこちに動かす。

 言い出すべきか、数秒程度の逡巡の果てに、美海は草薙に尋ねた。

 

「仁君の容態は……」

 

 この家に来た時から、あえて口には出さなかったが、彼女も尊も気になっていたことだった。

 仁もまた、彼らと共に孤児院で過ごした一人であり、大切な家族だ。

 

「……」

 

 すると、草薙は答えるかわりに立ち上がり、四人を手招きする。

 彼に案内されたのは、二階の一番奥にある部屋だった。

 

「仁、入るぞ」

 

 草薙はノックしてから扉を開ける。

 部屋の中は机と本棚と、一通りの家具は置かれているものの、まるで生活感のなく、人の生を感じなかった。

 

 そしてベッドの上には虚ろな目で天井を見つめる仁の姿があった。

 

「酷い……」

 

 想像していたよりも、仁の状態は悲惨なものだった。

 生きているというより、ただ息をしている、それだけの状態だ。

 

「こんな状態で、十年も……」

 

 尊が拳を握りしめると、彼のデュエルディスクから不霊夢が出てくる。

 

「……これは」

「どうしたんだ?」

 

 不霊夢はジッと仁の顔を見つめ、それから口を開いた。

 

「彼の意識データが抜けているぞ」

「「「「「!!」」」」」

 

 全員が一斉に仁の方を見る。

 

「不霊夢、どういうことだ?」

「私には魂の火、のようなものが見える。だが、彼の中にはそれがない。幸い生命活動に必要な機能は生きているが、こんな状態、作為的でなければならないぞ」

「一体誰が……」

 

 ◆

 

 同刻、サイバース世界、

 

「集まっていただき感謝する」

 

 玉座に座すのは白と金の口元まで隠れるコートを着た少年のアバター、その肩の上に乗るライトニングが、集まった三人のイグニスに向かって話す。

 

「諸君、ハノイの騎士が強硬手段に出たのは知っての通りだ」

 

 ハノイの塔、ライトニングもあの一件はさすがに肝が冷えた。

 

「幸い、起動は防がれ、我々はこうして生きている。だが、もはや一刻の猶予もない」

 

 ライトニングは拳を握りしめ、高らかに宣言する。

 

「人間を打倒し、我々が新たなる種として君臨するのだ」

 

 そう言って、彼は瞳に静かな炎を滾らせた。

 



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第25話:Battle Drone takeoff

「おっはよう。藤木君」

 

 ある日、遊作が登校すると、校門の前で切花とばったり会った。

 

「……ああ。おはよう」

「暗いなぁ。せっかく朝からボクに会えたんだし、もっと笑ってよ~」

 

 切花は歩く遊作の周りをチョロチョロ動き回る。

 

「同じクラスなんだから、毎朝会ってるだろ」

「それもそうだね~」

 

 切花は遊作の前に立ち、後ろ向きに数歩ステップを踏む。

 すると、その彼女の背中が誰かとぶつかった。

 

「夢乃さん」

 

 切花がクルッと後ろを向くと、そこに立っていたのは葵だった。

 

「あ~財前さんだったんだ。平べったくて壁かと思ったよ~」

 

 ビュンッ

 

 葵の高速のジャブが切花に飛ぶ。

 

「おっと」

 

 切花はそれを華麗にかわすと、そのまま遊作の腕に抱き着いた。

 

「藤木君こわーい」

「っ……藤木くんから離れて」

 

 葵がさらに切花に向かって腕を伸ばす。

 その時、

 

 ムニッ

 

 誤ってその手が切花の胸を鷲掴みにした。

 

「……」

「……」

 

 胸を揉まれた切花は勝ち誇ったような笑みを浮かべた。

 それに対して、葵の顔からスッと感情が消える。

 

「ねぇ藤木くん、これ引きちぎったら私のものにならないかな」

 

 葵が握力をかけて、胸を変形させる。

 

「あ、ちょっ、待って。痛い。本当に痛いから」

「先行くぞ」

「ま、待って藤木君、これマジ痛いからっ!」

 

 キャットファイトを繰り広げる二人を放っておいて、遊作はさっさと校舎の中に入った。

 

「よう。藤木」

 

 教室につくなり、島がタブレットを片手に遊作に話しかけてきた。

 

「なにかニュースか?」

 

 島の様子から、何か話したいことがあるのだろうと踏んだが、案の定、島はタブレットの画面を遊作に見せてきた。

 画面に映っているのは今朝のニュース番組のライブラリ動画だった。

 

『先日発生したハッカー組織、ハノイの騎士によるテロ行為について、明日、SOLテクノロジーのセキュリティ部署より、記者会見が開かれる模様です』

「この間のハノイの塔事件のことか」

 

 ニュースの内容からして、矢面に立たされるのは葵の兄、財前晃だろう。

 

「プレイメーカーがハノイの騎士をぶっ倒してくれたんだよな。俺も動画でデュエルを見て、感動したぜ」

 

 あの状況下で撮影を行うネットメディアの根性に脱帽しつつ、遊作はふと思い出したように口にする。

 

「そういえば、お前はあの時、LINK VRAINSにはいなかったのか」

「ふっ、俺が動くべき時じゃないと感じたのさ」

「そうか」

「何だよ。腰抜けだった思ったか?」

 

 島は少しムッとしたような顔をする。

 

「いや、実力もないのに出しゃばって命を落とすよりかはずっといい」

 

 その一言に、島はまた機嫌を悪くするが、タブレットの通知音を聞いて視線と興味を移す。

 

「お、おい見ろよ」

 

 またタブレットを遊作の方へ向ける。

 今度はニュースサイトの記事だ。

 

 見出しにはデカデカと『SOLテクノロジー株価下落!』の文字。

 

「まああんなことがあれば会社の信用も落ちるよな」

 

 島は記事を流し読みしつつ、別タブで株のリアルタイムチャートを開く。

 SOLの株価は現在進行形で下落中だ。

 

「……いや、下がりすぎじゃないか?」

 

 株価はある時を境に断崖のごとく下がっている。

 遊作も決して株に詳しいわけではないが、どう考えてもこんなほぼ直角な下がり方はしないだろう。

 何より、その株価が下がり始めた時間は、ハノイの塔事件が起きた日でも、その翌日でもなく、つい数分前なのだ。

 

「値段が下がったから、みんなが売りに出したんじゃないのか?」

「それにしても……」

 

 その時、教室の扉が開く音がする。

 

「みんな、席に着きなさい」

 

 担任のエマ先生が入ってきた。

 時計を見ると、既に八時半を少し過ぎている。

 

 葵と切花はまだ来ていないので、まだ取っ組み合いをしているのだろうかと、遊作はそんなどうでもいいことを考える。

 

「えーっと、今日の五限目は保健体育だけど、担当の響子先生がお休みしてるので、自習になるわ。ちゃんとサボらずに勉強すること。いい?」

 

 生徒達は「はーい」と返事をするが、どうせこの中の半分もまともに勉強しないんだろうなと、その勉強しない側である遊作は考える。

 

(五限目が空くなら、その間にレポートを探しに行くか)

 

 鴻上レポートはまだ三つしか見つかっていない。

 遊作としては、一刻も早くレポートを全て集めたい。

 

(リボルバーとのデュエルで、新たな謎も出てきたことだしな)

「おい遊作」

 

 すると、デュエルディスクの中のAiが小声で話しかけてきた。

 

「なんだ?」

「なんか美海からメッセージが届いてるぞ」

 

 言われて遊作は自身のスマホを開く。

 

『一限が自習になったので、レポートを探しに行きます。なので、Aiを貸してもらえませんか?』

 

 美海達のクラスは一限目が保健体育だ。どうやら考えることは同じらしい。

 

「Ai、行ってやれ」

「りょうかーい」

 

 Aiは敬礼のポーズを取り、美海のディエルディスクへ転送された。

 

 ◆

 

 同刻、SOLテクノロジー社、

 

「なるほど……」

 

 殺風景な部屋、SOLの幹部室で一人の男が椅子に腰かけて、タブレットを眺めていた。

 

 藍色のスーツに身を包み、整髪料で整えられた艶のある髪の四十代くらいの男、ビショップは自身の白いあごひげを指で撫でる。

 

「ビショップ様!」

 

 ノックもせずに、彼の秘書の女性が、長い赤のポニーテールを揺らしながら部屋に入ってくる。

 

「大変です!我が社の株価が……」

「把握しているよ」

 

 彼女の言葉を遮って、ビショップは手に持ったタブレットの画面を見せる。

 

 そこに映っていたのは、奇妙なアドレスからのメールだった。

 内容は簡潔に二行。

 

『二十四時間以内に、LINK VRAINSの全権限を明け渡せ。

 さもなくばSOLテクノロジー社を倒産させる』

 

「これは……」

「見ての通り、脅迫状だ。イグニスからのね」

「い、イグニスが!?」

 

 動揺を見せる秘書に対して、ビショップは会社の危機だというのに落ち着いている。

 

「本当に、鴻上博士はとんでもないものを遺したものだ」

 

 ビショップはフッと笑い、タブレットを秘書に渡してスマホを取り出した。

 

「私だ。早速君に働いてもらうよ」

 

 電話の相手にそれだけ告げると、電話を切って立ち上がる。

 

「向こうから攻撃を仕掛けてきたのは好都合だ。邪魔なハノイも消えたのだから、イグニスを全て手に入れる」

 

 ◆

 

 LINK VRAINS、進入禁止エリア。

 

 そこで美海はソウルバーナーとは別行動で、手分けしてレポートを探すことになった。

 

「さて、どのあたりから行きますか?」

 

 進入禁止エリアにあるコンクリートで出来たビルのような建物の上で、デュエルディスクの中のAiに問いかける。

 

「俺のセンサーによると……」

「そんなものないでしょうが」

 

 ふざけているAiにため息を吐き、彼女も意識を集中させる。

 コツはある程度つかめているとはいえ、ノーヒントで感覚(リンクセンス)だけを頼りにレポートを探すのは至難の業だ。

 

「ん?」

 

 そこでふと、レポートとは別の気配を感じ取り、視線を下にやる。

 

「お、あれはゴッドバードだな」

「えぇ」

 

 見知った顔を見つけて、美海はDボードに乗り、彼を追いかける。

 

「ゴッドバード!」

 

 声をかけると、彼はDボードを停車させてこっちを向いてくれた。

 

「お前か。どうした?」

「いえ、見かけたので声をかけたんですけど、あなたこそ、こんなところで何を?」

 

 ゴッドバードがこのエリアにわざわざ来ているということは、もしかすると近くにレポートがあるかもしれない。そう期待しての質問だったが、

 

「あぁ。俺はちょっと、人に会いにきたんだよ」

 

 残念ながら違うらしい。

 がっかりはしたものの、彼に会えたのは僥倖と思い、美海は話を進める。

 

「私は鴻上博士のレポートを探しにきたんですけど、よろしければ後でいいので付き合ってもらえません?」

「お前な、俺のことなんだと思ってんだ?」

 

 最初の出会いからは想像できないほどにフレンドリーな彼女に、ゴッドバードは呆れたように言う。

 

「わりーけど、今日は忙しいんだ。つーかお前もこんなところぶらぶらしてていいのか? 今SOLが大変らしいじゃねぇか」

「株価の話ですよね。でも、私にはどうすることもできませんし……」

 

 美海としては晃のことは確かに心配だったが、彼のことだから明日の会見で何とかしてくれると期待もしている。

 

「まあ別に俺はSOLがどうなろうが知ったこっちゃないけどな。じゃあな」

 

 そう言って立ち去ろうとしたその時、ゴッドバードは足を止めて険しい顔をする。

 その彼の視線の先には、十字路の陰から現れた一人の男がいた。

 

 西部劇のガンマンを思わせるようなハットとマント、灰色の体表に描かれたのは赤と藍の模様のような顔、そして右腕は鋼鉄の義手となっている。

 

「久しぶりだな。ゴッドバード」

「……ブラッドシェパード。わざわざ迎えに来てくれたのか?」

 

 ゴッドバードの口ぶりから、この男が彼の会う予定だった相手だと、美海は結論付ける。

 

「今更俺を呼び出して何の用だ?」

「警告をしにきただけだ」

 

 ブラッドシェパードは右腕を彼に向ける。

 

「イグニスを追っているなら止めておけ。お前には無理だ」

「あぁ?」

 

 二人は睨み合う。

 そこで、ふと、ブラッドシェパードの方が美海の、正確にはそのデュエルディスク上に顔を出していたAiの存在に気付き、視線を向ける。

 

「イグニスか」

 

 すると、ブラッドシェパードの動きに気付いたゴッドバードが、すぐに美海の前に立ちふさがる。

 

「こいつに手出す気ならあんたでも容赦しねぇぞ」

 

 ゴッドバードに凄まれて、ブラッドシェパードはフッと笑う。

 

「まあいい。今は見逃してやる。仕事があるからな」

 

 ブラッドシェパードはそう言って立ち去った。

 

「ゴッドバード~、ありがとう俺のために~」

「お前のためじゃねぇよ!」

 

 瞳をうるうるさせるAiを怒鳴りつける。

 

「あの、ゴッドバード。さっきの、ブラッドシェパードとはどういう関係なんですか?」

「あぁ。前に話した俺の師匠だよ」

「それって、育ての親とかいう……」

 

 あの時のゴッドバードの口ぶりから、もっと良好な関係だと思っていた。

 だが、先程のはむしろ敵対していると言えるほど、険悪なムードだった。

 

「俺は別に、あいつのことは嫌ってねぇよ。俺はあいつのお眼鏡にはかなわなかったみてぇだがな」

 

 すると、ゴッドバードはDボードを再出現させる。

 

「どこへ行くんですか?」

「後をつける。仕事だっつってただろ?」

 

 すると、美海は彼の後ろに乗る。

 

「私も行きます」

「お前……勝手にしろ。飛ばすからな」

 

 ◆

 

 そして二人がやってきたのは、瓦礫に囲まれた開けた場所だった。

 

 物陰に隠れて様子を窺っていると、ブラッドシェパードの前に一人、黄色いイグニス、ライトニングが現れた。

 

「君が、SOLテクノロジーからの刺客か?」

「そうだ」

 

 ブラッドシェパードはデュエルディスクを構える。

 

「ふっ、ではこちらも」

 

 ライトニングが指を鳴らすと、彼の前に二人の男が出現する。

 

「あれは!」

 

 それを見て、美海とAiは目を見開いた。

 そこにいたのは、ファウストとゲノム、ハノイの騎士のメンバーだった。

 

 彼らの目は赤く光っており、とても正気の状態には見えない。

 

「この前、ウィンディが使った洗脳プログラム、完成させていたのか」

 

 Aiは以前の出来事を思い返して唸る。

 

「ふんっ、AI風情が人間を使役するか」

 

 ブラッドシェパードは右手の人差し指をクイッと曲げる。

 

「来い、二人まとめて相手をしてやる」

「いいだろう。プログラムの最終確認だ」

 

「「デュエル!」」

 

ターン1 ファウスト

 

「私はベリアワームを召喚!」

 

ベリアワーム

効果モンスター

星1/光属性/昆虫族/攻 500/守 700

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「ワームトークン」と記された魔法・罠カード1枚をセットする。

(2)このカードが昆虫族リンクモンスターのリンク素材となって墓地に送られた場合に発動できる。自分フィールドに「ワームトークン」(昆虫族・地・星1・攻/守 0)1体を特殊召喚する。この効果発動後、ターン終了時まで、自分は昆虫族モンスターしか特殊召喚できない。

 

「デッキからワーム・ベイトをセットして、そのまま発動!ワームトークン2体を特殊召喚!」

 

 頭部に骨の仮面をつけた黒い芋虫が二体、フィールドに生み出される。

 

「現れろ、我らの未来回路!」

 

 三体の芋虫がアローヘッドに吸い込まれる。

 

「リンク召喚!リンク3!電動蟲(モーターワーム)スプレッド女王(クイーン)!」

 

 現れたのは、肥大化した体から黒い脚を這わせる、女王蜂のようなモンスターだった。

 

電動蟲(モーターワーム)スプレッド女王(クイーン)

リンク・効果モンスター

光属性/昆虫族/攻 1000/LINK3

【リンクマーカー:左/左下/下】

昆虫族モンスター2体以上

(1)このカードの攻撃力は、フィールドの昆虫族モンスターの数×700アップする。

(2)1ターンに1度、発動できる。このカードのリンク先に「ワームトークン」(昆虫族・地・星1・攻/守 0)1体を特殊召喚する。この効果は相手のターンでも発動できる。

(3)自分フィールドの「ワームトークン」は攻撃対象にならない。

(4)このカードが戦闘・効果で破壊される場合、かわりにこのカードのリンク先の昆虫族モンスターを破壊できる。

 

「リンク素材となったベリアワームの効果で、ワームトークン1体を守備表示で特殊召喚。さらにスプレッド女王(クイーン)の効果で、自身のリンク先にワームトークンを特殊召喚!」

 

 スプレッド女王の肥大化した胴体の先端から、黒い芋虫が二体生み出される。

 

「スプレッド女王(クイーン)はフィールドの昆虫族モンスターの数×700、攻撃力がアップする。攻撃力は3100。私はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン2 ゲノム

 

「私は魔界発現世行デスガイドを召喚。その効果で、デッキからヘルモットを特殊召喚」

 

 赤髪の女性が手を振ると、どこからか黒いバスが到着し、中から黒い毛むくじゃらのネズミが下りてくる。

 

「現れたまえ、我らの未来回路!召喚条件は悪魔族モンスター2体!リンク召喚!地獄螺旋鬼(ヘルリックス)ネクロ・ダーウィン!」

 

 現れたのは、むき出しの青い骨の首、胸に奇怪な仮面をつけた怪鳥だった。

 

地獄螺旋鬼(ヘルリックス)ネクロ・ダーウィン

リンク・効果モンスター

闇属性/悪魔族/攻 1800/LINK2

【リンクマーカー:上/左】

悪魔族モンスター2体

このカード名の(2)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しか行えず、(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)相互リンク状態のこのカードは攻撃対象にならない。

(2)このカードが墓地に存在する場合、自分の悪魔族リンクモンスターのリンク先となる自分フィールドにこのカードを特殊召喚することができる。

(3)自分にダメージを与える効果が発動した時に発動できる。その効果で自分が受けるダメージは0になる。その後、このカードの攻撃力はターン終了時まで元々の攻撃力の倍になる。

 

「墓地のヘルモットの効果発動!」

 

ヘルモット

効果モンスター

星3/闇属性/悪魔族/攻 1200/守 800

このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが墓地に存在し、自分フィールドに悪魔族リンクモンスターが存在する場合に発動できる。このカードを墓地から特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたこのカードがフィールドに表側表示で存在する限り、自分は悪魔族モンスターしか特殊召喚できず、融合・S・X・リンク召喚を行う場合、このカードを素材に含む二体以上のモンスターを素材にしなければならない。

 

「ヘルモットを墓地から特殊召喚。現れたまえ、我らの未来回路!リンク召喚!リンク2、地獄螺旋鬼(ヘルリックス)ゴシックローン!」

 

 現れたのは二足歩行する羊型の悪魔、細い棒人間に両手、胸部、下半身、顔を無理やり取り付けたような奇怪な姿をしている。

 

地獄螺旋鬼(ヘルリックス)ゴシックローン

リンク・効果モンスター

闇属性/悪魔族/攻 0/LINK 2

【リンクマーカー:上/下】

このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが相手モンスターと戦闘を行うダメージステップ開始時に発動できる。このカードの攻撃力はダメージステップ終了時まで、戦闘を行う相手モンスターの攻撃力と同じになる。

(2)このカードは1ターンに1度だけ戦闘では破壊されない。

(3)自分のターン中、このカードの(2)の効果を適用したダメージ計算後に、このカードのリンク先のこのターンに攻撃を行っていないモンスター1体をリリースして発動できる。リリースしたモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える。

 

「墓地のネクロ・ダーウィンの効果!ゴシックローンのリンク先に特殊召喚。私はこれでターンエンド」

「私はゲノムのエンドフェイズに、永続(トラップ)、産卵床を発動!」

 

産卵床

永続罠

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分フィールドに昆虫族モンスターが特殊召喚された場合、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの効果を無効にし、種族を昆虫族として扱う。

(2)自分のエンドフェイズに発動できる。自分フィールドに「ワームトークン「(昆虫族・地・星1・攻/守 0)1体を特殊召喚する。

 

「これで私が昆虫族モンスターを特殊召喚するごとに、君のモンスターの効果を無効にできる」

「こりゃすげぇな」

 

 二人の盤面が整った様子を見て、Aiはそんな感想を漏らす。

 

「ゴッドバード、あのガンマンは本当に強いのか?」

 

 ファウストもゲノムも、それぞれプレイメーカーとソウルバーナーを一度は追い詰めた強敵だ。

 そんな相手に二人係で挑まれて勝てるのか、Aiは疑問だった。

 

「自慢じゃねぇが、俺はあいつに一度も勝ったことがない」

「え?」

 

 その発言に美海は驚いた。

 

「その、昔の話ですよね……?」

 

 ゴッドバードの強さを知る彼女は、信じられないといった様子で尋ねる。

 

「昔、そうだな。半年やそこらであいつに勝てる程度に成長してるなら、まあ昔の話なんだろうな」

 

 彼は視線をデュエルするブラッドシェパードの方へ戻す。

 すると、彼は右手の人差し指を立てて、こう宣言する。

 

(ワン)ターンだ。お前達の(ライフ)はそれまでだ」

 

 煽るような発言に、洗脳されているはずのファウストやゲノムも顔をしかめる。

 デュエルを見守る美海とAiも訝しむような顔をするが、

 

「だろうな」

 

 一人だけ、ゴッドバードだけはその宣言になんら驚くことはなかった。

 

ターン3 ブラッドシェパード

 

「相手フィールドにのみモンスターが存在する場合、手札のドローン・エリアスは特殊召喚できる!」

 

 直角三角形の翼が二枚ついた、小型の飛行機が飛来する。

 

ドローン・エリアス

効果モンスター

星3/風属性/機械族/攻 1000/守 0

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)相手フィールドにのみモンスターが存在する場合、このカードを手札から特殊召喚できる。

(2)このカードが特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「ドローン」カード1枚を手札に加える。この効果発動後、ターン終了時まで、自分は機械族モンスターしか特殊召喚できない。

 

「デッキからドローン・タンカーを手札に加える。現れろ、勝利を導くサーキット!」

 

 右手でピストルを作ると、それが指さす先にアローヘッドが回転しながら現れる。

 

「召喚条件は、レベル4以下のドローン1体!リンク召喚!リンク1、バトルドローン・サージェント!」

 

 アローヘッドより、白と青を基調とした戦闘機が発進した。

 

バトルドローン・サージェント

リンク・効果モンスター

風属性/機械族/攻 800/LINK 1

【リンクマーカー:下】

レベル4以下の「ドローン」モンスター1体

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分のリンクモンスター以外の「ドローン」モンスターが相手に直接攻撃で戦闘ダメージを与えた場合に発動できる。このターン、このカードは直接攻撃できる。

(2)このカードが墓地に存在する状態で、自分のリンク2以上の「ドローン」リンクモンスターが効果で特殊召喚された場合に発動できる。このカードを墓地から特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたこのカードはリンク素材にできず、エンドフェイズに除外される。

 

「ドローン・タンカーを召喚。効果で墓地からドローン・エリアスを特殊召喚」

 

 長方形のコンテナがついたドローンが現れて、そのコンテナの中からドローン・エリアスが発進する。

 

ドローン・タンカー

効果モンスター

星4/風属性/機械族/攻 1000/守 1200

(1)このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。手札・墓地からレベル3以下の「ドローン」モンスター1体を特殊召喚する。

(2)このカードは直接攻撃できる。このカードの直接攻撃によって相手に与える戦闘ダメージは半分になる。

 

「現れろ、勝利を導くサーキット!リンク召喚!バトルドローン・ウォラント!」

 

バトルドローン・ウォラント

リンク・効果モンスター

風属性/機械族/攻 1200/LINK 2

【リンクマーカー:左/下】

「ドローン」モンスター2体

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分のリンク1の「ドローン」モンスターが直接攻撃で相手に戦闘ダメージを与えた場合に発動できる。このターン、このカードは直接攻撃できる。

(2)このカードが墓地に存在し、自分のモンスターがEXモンスターゾーンの「ドローン」リンクモンスターのみの場合に発動できる。このカードを墓地からそのモンスターのリンク先に特殊召喚する。この効果発動後、ターン終了時まで、自分は「ドローン」モンスターしか特殊召喚できない。

 

「さらにウォラントとサージェントをリンクマーカーにセット!リンク召喚!」

 

 アローヘッドからカタパルトが飛び出し、そこへ黒い先端が顔を出す。

 

「出撃せよ、リンク3!バトルドローン・ジェネラル!」

 

 黒い戦闘機がカタパルトより発進した。

 

バトルドローン・ジェネラル

リンク・効果モンスター

風属性/機械族/攻 2400/LINK 3

【リンクマーカー:左/右/下】

「ドローン」モンスター2体以上

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分のメインフェイズに発動できる。墓地から元々の攻撃力が2000以下の「ドローン」モンスター1体を特殊召喚する。

(2)自分のレベル4以下の攻撃力1000以下の「ドローン」モンスター1体を対象として発動できる。このターン、そのカードは直接攻撃できる。

(3)自分の「ドローン」モンスターが直接攻撃で相手に戦闘ダメージを与えた場合、そのモンスターをリリースして発動できる。そのモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える。この効果を3回以上適用したターン、このカードは直接攻撃できる。

 

「私はここでスプレッド女王の効果発動!自身のリンク先にワームトークンを特殊召喚する」

 

 スプレッド女王の腹から、黒い芋虫が産み落とされる。

 

「産卵床の効果で、バトルドローン・ジェネラルの効果は無効!さらに昆虫族となる」

 

 産卵床のカードから粘着質な白い虫のタマゴが撃ち込まれ、バトルドローン・ジェネラルの機体に張り付く。

 

「それがどうした。俺は墓地のバトルドローン・ウォラントの効果発動!自分フィールドのモンスターがエクストラモンスターゾーンのドローンのみの場合、このカードは墓地から特殊召喚できる!」

 

 ウォラントが再び、ジェネラルのリンク先に浮上する。

 

「自分のリンク2以上のドローンリンクモンスターが効果で特殊召喚された時、墓地のサージェントを特殊召喚!」

 

 さらにその隣にサージェントも飛来する。

 

「ジェネラルとウォラントでリンク召喚!バトルドローン・ジェネラル!」

 

 古い機体がアローヘッドに飛び込み、真新しい黒鉄の戦闘機となってフィールドに舞い戻った。

 

「くっ……」

「ジェネラルの効果発動!墓地のバトルドローン・ウォラントを特殊召喚する。さらに永続魔法、ドローン・カタパルトを発動!」

 

ドローン・カタパルト

永続魔法

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれフェイズ毎に1度しか使用できない。

(1)自分のメインフェイズ及びバトルフェイズに発動できる。手札から「ドローン」モンスター1体を特殊召喚する。

(2)自分の「ドローン」モンスターが直接攻撃で相手に戦闘ダメージを与えた場合、このカードを墓地へ送って発動できる。相手に1000ダメージを与える。

 

「その効果で、手札からドローン・ポーンを特殊召喚」

 

 永続魔法から羽にプロペラとガトリングのついた小型の飛行機が射出された。

 

ドローン・ポーン

効果モンスター

星1/風属性/機械族/攻 600/守 600

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「ドローン」魔法・罠カード1枚をセットする。

(2)このカードの戦闘によって自分がダメージを受けた場合に発動できる。そのバトルフェイズ終了時、ダメージの数値分だけLPを回復する。

 

「デッキからドローン・テイクオフを手札に加える。ジェネラルの効果発動!ドローン・ポーンはこのターン、ダイレクトアタックができる!まずはドローン・ポーン、ゲノムにダイレクトアタック!」

 

 ドローン・ポーンが前進。ゴシックローンもネクロ・ダーウィンも無視して、ゲノムに直接ガトリングによる攻撃を浴びせる。

 

 ゲノム:ライフ4000→3400

 

「ジェネラルの効果発動!自分のドローンがダイレクトアタックによって戦闘ダメージを与えた時、そのモンスターをリリースすることで、その元々の攻撃力分のダメージを与える!」

 

 攻撃を終えたドローン・ポーンが赤く輝き出し、ゲノムに向けて突進。そのままぶつかると同時に爆発する。

 

 ゲノム:ライフ3400→2800

 

「サージェントの効果発動!リンクモンスター以外のドローンがダイレクトアタックでダメージを与えた時、このカードはダイレクトアタックできる!行け!サージェント!」

 

 ゲノム:ライフ2800→2000

 

「ジェネラルでリリースし、その攻撃力分のダメージ!」

 

 サージェントのゲノムの目の前で爆発し、その身を犠牲にダメージを与える。

 

 ゲノム:ライフ2000→1200

 

「ウォラントの効果発動!自分のリンク1のドローンがダイレクトアタックでダメージを与えた時、このカードはダイレクトアタックできる!」

 

 三機目の機体が、ゲノムに突っ込む。

 防ぐ術を持たないゲノムはそのままライフを散らす。

 

 ゲノム:ライフ1200→0

 

「次はお前だ」

 

 ブラッドシェパードはファウストの方を向き、その右手を向ける。

 同時にウォラントも旋回して、ファウストの方へと飛ぶ。

 

「ジェネラルの効果で、貴様にダメージ!」

 

 ウォラントが特攻。

 機体を爆発させて、ファウストにダメージを与える。

 

 ファウスト:ライフ4000→2800

 

「だ、だがこれで、君の攻撃は終わり……」

「まだだ」

 

 すると、ジェネラルがジェットエンジンをふかし、ファウストに狙いを定める。

 

「ジェネラルの効果ダメージを与える効果を3回以上適用したターン、このカードはダイレクトアタックできる!」

「なっ!」

「バトルだ!ジェネラルでダイレクトアタック!」

 

 ジェネラルがミサイルを撃ち込み、ファウストのライフをさらに削る。

 

 ファウスト:ライフ2800→400

 

「ジェネラルの効果!自身をリリースして、その元々の攻撃力分のダメージを与える!」

「私は手札のカバーモスの効果発動!」

 

カバーモス

特殊召喚・効果モンスター

星5/地属性/昆虫族/攻 2000/守 2600

このカードは通常召喚できず、カードの効果でのみ特殊召喚できる。

(1)以下のいずれかの効果が発動した場合、自分フィールドに通常召喚できない昆虫族モンスターが存在すれば、このカードを手札から墓地へ送って発動できる。その効果を無効にする。

●ダメージを与える効果

●フィールドのカードを破壊する効果

●フィールドのカードを墓地へ送る効果

(2)自分のレベル7以上の通常召喚できない昆虫族モンスターの特殊召喚に成功した場合に発動できる。このカードを墓地から手札に加えるか、特殊召喚する。

 

「ジェネラルの効果を無効にする!」

 

 ジェネラルが爆発する直前に、緑色の蝶が現れ、その羽を広げて爆風からファウストを守った。

 

「こ、これで、今度こそ攻撃は……」

「終わるのはお前だ。俺はドローン・カタパルトの効果発動!自分のドローンがダイレクトアタックでダメージを与えた時、このカードを墓地に送り、相手に1000ダメージを与える!」

 

 カタパルトからレーザーが発射され、ファウストの体を撃ち抜いた。

 

「す、すごい……」

「あの二人を、本当に1ターンで……」

 

 凄まじいデュエルに、美海とAiは開いた口が塞がらない。

 

「あれがブラッドシェパードのデュエルだ。あいつの攻撃を1ターンでも耐えられた奴は、俺の知る限りいない」

 

 デュエルが終了すると、ライトニングは倒れたハノイの騎士二人を見下ろす。

 

「まあ、実験として十分だろう」

「さぁ、次はお前が相手をするのか?」

 

 ブラッドシェパードの言葉に、ライトニングは首を振る。

 

「悪いが、私はまだ君達と戦うわけにはいかない。SOLの株価は元に戻しておいた。これで失礼する」

「待て!」

 

 ライトニングは目にも止まらぬ速さで飛び去り、消えてしまった。

 

「チッ……おい、いつまで見ている」

 

 ブラッドシェパードは、隠れていたゴッドバード達の方を向く。

 

「SOLはイグニスを全て手に入れるつもりだ。お前も俺に狙われたくないなら手を出さないことだ」

「はっ、言ってろ。俺はやりたいようにやる」

「そこのガールフレンドも、二度目はないと思え」

 

 そう言って、ブラッドシェパードは立ち去った。

 




やっぱりドローンは戦い方がカッコいいですね。
メインデッキがほぼオリカになってしまいましたが、OCG化するなら、これくらい後攻ワンキルに特化させてほしい。


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第26話:Park Panic

 LINK VRAINS。

 SOLテクノロジー社が運営するネットワーク空間。エンタメ、ショッピング、アミューズメント、様々なものが楽しめる。

 

 当然、デュエルも。

 

「俺は魔法(マジック)カード、剛鬼再戦を発動!」

 

 Dボードに乗るGo鬼塚が、大勢の観客たちの前で自身のデュエルを披露している。

 

「バトルだ!ザ・グレート・オーガで、ダイレクトアタックッ!」

「ぐわぁぁぁっ!」

 

 鬼塚のエースモンスター、ザ・グレート・オーガの一撃を受けて、対戦相手のデュエリストは吹き飛ばされた。

 

「ウィナァァァッ!Go鬼塚!またまた勝利!この男、どこまで連勝記録を伸ばすんだぁぁっ!?」

 

 ギャラリーから歓声が上がる。

 観客に応えて、鬼塚も大きく手を振る。

 

「あれが、このLINK VRAINSで一番強いデュエリストか」

 

 その様子を陰から見守る者がいた。

 茶色い、手のひらサイズののっぺりした人型のAI、地のイグニスであるアースはGo鬼塚を観察する。

 

「ん?」

 

 そこで、アースはピクリと眉を動かす。

 

「ライトニングか」

 

 それはイグニスにしか分からない暗号での通信だった。

 ライトニングから送られた音声メッセージを確認し、アースはうんうんと頷く。

 

「了解した」

 

 アースはそう言って姿を消した。

 

 ◆

 

 SOLテクノロジー社ビルの最上階、その会議室でビショップと晃が真剣な顔で、目の前の数名の人と向き合っていた。

 彼らは実体ではなく、ARによって会議室に投影されたアバター、そのアバターを操作するのはSOLテクノロジーの株主である。

 

「先日の会見は見事だった」

 

 まず、株主の一人が、晃に賞賛の言葉を贈る。

 

「しかし、顧客の信頼を取り戻すには至っていない」

 

 AR空間に、巨大なウィンドウが投影される。

 そこに映っているのは、SOLテクノロジーの株価を示したチャートだった。

 

「株価は回復したが、それでも以前に比べれば大きく下がっている。また、LINK VRAINSのアクティブユーザーの数も減少傾向にある。これについてはいかなる対策を講じるつもりかな?」

 

 株主達からの追求に対して、晃はタブレットを操作して別のウィンドウを投影する。

 

「これはLINK VRAINSで新たに実装予定のエリアです」

 

 ウィンドウに表示されたイメージ図を見て、株主達は感嘆の声を漏らす。

 

「オープン当日には、カリスマデュエリストを呼び、大規模なイベントを開催する予定です。既に、こちらの予約サイトでは、先行入場チケットが完売。イベントの様子は、動画として有料配信する予定です」

「なるほど。これで売り上げ回復を図ると」

「しかし、ハッカー共の対策が不十分では、意味がないのでは?」

「御心配には及びません」

 

 その質問に答えたのはビショップだった。

 

「既に、新型AI、IGS-0シリーズを警備として配備。さらにイベント当日はエリア内のユーザーのスキャン、不審な行動を行えば、すぐに警備AIが転送され、捕縛します」

「では、その新型AIの性能は?」

 

 ビショップは晃に目配せして、彼にまた別のウィンドウが開かせる。

 

「こちらが最新の実験データとなります。また、万全を期すために、当日は我が社が雇ったデュエリスト、ブラッドシェパードを所定の場所に待機させています」

 

 ウィンドウがさらに切り替わり、動画が再生される。

 それは先日、ブラッドシェパードが洗脳されたハノイの騎士二人を相手に、ワンターンキルを決める様子だった。

 

「たとえハノイの騎士が現れたとしても、彼が撃退してくれるでしょう」

「よろしい。では期待しているよ。ビショップ」

 

 株主総会が終わり、AR空間は閉じた。

 

「どうにか乗り切れましたね」

「いいデモンストレーションになったな。彼を雇った甲斐があったというものだ」

 

 ビショップはニヤッと笑う。

 

「財前君。イベント成功のために尽力したまえ」

「かりこまりました」

 

 晃は一礼して部屋を出て行った。

 

 ◆

 

 数日後、LINK VRAINSにて、

 

「ここが新エリア、アトラクションエリアか!!」

 

 VR空間に作られた巨大な遊園地を見て、ロンリーブレイヴこと島直樹は歓喜の声を上げる。

 

「確かにすごいな……」

 

 遊作も目の前の建造物を見て、感嘆の声を漏らす。

 まず目を引くのはRPGの魔王城を思わせるような大きな城、城の一番高い塔には観覧もついており、おそらくこのエリア一番の目玉だろう。

 

 そしてエリアを一周するように吹くデータストリームのレールと、その上を走るジェットコースター。

 時折ランダムに切り替わり、行く先に予測がつかないようになっているらしい。こういう現実世界ではありえないアトラクションは、VRならではといえよう。

 

「財前のおかげだな」

「えぇ。葵様に感謝してください」

 

 このエリアへの先行入場チケットは、葵が晃から貰ったものだ。

 ちゃんと6枚用意してあり、デュエル部のメンバーを呼ぶことができた。

 

「てっきりボクだけ仲間外れにされると思ったよ~」

「私はそんなことしないわよ」

 

 切花はブルーガールこと、葵の顔を覗き込んでニコニコする。

 

「穂村君も来れたらよかったのにね~」

 

 尊はというと、カリスマデュエリストのソウルバーナーとしてこのアトラクションエリアで開かれるイベントに呼ばれているため、今回は不参加となった。

 

「仕方ないわよ。今日はこの六人で楽しみましょう!」

 

 と一番テンション高い声を上げているのは、担任教師のエマである。

 余ったチケットで呼ばれたのは彼女だった。

 

「おばさんイタい」

 

 切花がボソッと声を漏らす。

 

「あら、女の魅力は若さじゃないのよ」

「え~、でも生物学的に男の人は若い人に魅力を感じるって研究結果出てるし~」

「男はフェロモンに引き寄せられるのよ。まあ社会を知らないお子様には分からないかもしれないけどね」

 

 バチバチと睨み合う切花とエマに、四人はため息を漏らす。

 

「と、とりあえず、まずどのアトラクションに乗るか決めません?」

「そうだな!」

 

 ロンリーブレイヴと美海が、マップを開いてみんなに見せる。

 

「やっぱり定番のジェットコースターだろ。藤木、なんか行きたいところあるか?」

「そうだな……」

 

 珍しく乗り気な遊作は、マップの中で一つ、目に着いたものをタップする。

 

 すると、別のウィンドウが重なるように表示される。

 

「お化け屋敷か」

 

 このお化け屋敷は、迫りくる幽霊たちにお札を投げつけて退治して、先に進むという内容だ。

 

「面白そうだな」

「そういえば、イベントって何時からでしたっけ?」

「一時からだな」

 

 イベントの広告を見ながら、遊作は答える。

 

「それじゃあ、それまで自由に見て回りましょう」

 

 ◆

 

 それからお化け屋敷で、

 

「きゃぁっ、藤木君こわーい!」

 

 迫りくる幽霊達に、切花が怖がるふりをして遊作の腕にしがみつく。

 

「わ、私も!」

 

 ブルーガールも遊作の反対の腕にしがみつく。

 

「二人とも、お札が投げられない」

 

 結局そのまま三人は、幽霊に倒されてゲームオーバーとなった。

 

 そしてなんやかんやあって、イベントの時間がやってきた。

 

「ここが特設会場か」

 

 会場にやってきた六人は、その目の前にある大きなステージに圧倒されていた。

 

「皆様、本日はLINK VRAINS 新エリア完成記念イベントにお越しいただきありがとうございます!」

 

 司会の女性がステージに上がってきた。

長い赤髪を後ろでまとめたポニーテールに、デフォルメした宇宙服のような恰好をした綺麗な女性だった。

 

「本日、司会を務めさせていただきます。や・が・み、と申します。えーっと、本イベントではこのエリアのアトラクションを使用した特別なデュエルを、カリスマデュエリストの皆さんに行っていただきたいと思っています。それじゃあ早速お越しいただきましょう!」

 

 八神のコールを合図に、舞台袖から三人のデュエリストが現れた。

 

「まずは美しき正義の刃、ミネルヴァさんです」

「よろしくお願いします」

 

 八神がマイクを向けると、集まった観客に丁寧にお辞儀をする。

 

「続きまして、人気投票は不動の一位!燃える魂、炎のデュエリスト!ソウルバーナーさん!」

「みんな、今日は集まってくれてありがとう!」

「そして、誰もが知るこの男、LINK VRAINSトップランカー、Go鬼塚さん!」

 

 八神がマイクを手渡すと、Go鬼塚は一歩前に出て、観客に手を振る。

 

「俺がナンバーワンデュエリスト、Go鬼塚だぁっ!」

 

 Go鬼塚の叫び声に、会場に集まったファンから歓声が上がる。

 

「ありがとうございます。で、実は皆さんには、まだ本日行う特別なデュエルについては説明していないんですよね」

 

 三人は頷く。

 

「それではご紹介しましょう!本日のイベント限定の特別ルール、その名も、デュエルコースター!」

 

 すると、データストリームが三人の前に流れてくる。

 そこに一人乗りのジェットコースターが四台、それぞれ到着した。

 

「お三方には、こちらに乗ってスピードデュエルを行ってもらいます。そして、コースターに乗っている間、皆さんはそれぞれ自分のターンが来るごとに、コース上の魔法カードが1枚、手札に加わります」

「手札に加わるカードはランダムなのか?」

「いえ、あらかじめ設置された決まったカードが手に入ります。そして、コースには切り替えポイントがいくつか設置されておりまして、お手元のコントローラーで、ポイント切り替えを行ってもらいます」

 

 見ると、コースターの座席の上には、四角い板にゲーム機のレバーがついただけの簡素な機械が雑に置かれている。

 

「そして、ここからが最大のサプライズ!今回、お呼びしたデュエリストは三人だけ、コースターが一台、余ってしまいますよね? そこで、今回会場に集まっていただいた皆さんの中から、お一人、カリスマデュエリストとデュエルする権利を与えたいと思います!」

「「「うぉぉぉぉっ!」」」

 

 嬉しいサプライズに、会場のボルテージもマックスになります。

 

「皆さんに購入いただいたチケットには、13桁の番号が振られてまして、今から行う抽選で出た番号のチケットを持っている方にはステージに上がっていただきたいと思います!では早速、ソウルバーナーさん、お願いします!」

「え、俺?」

 

 ソウルバーナーは手渡されたスイッチをポチッと押した。

 

 すると、ステージ上にウィンドウが出現し、数字が目まぐるしい勢いで切り替わっていく。

 

「さぁさぁ、イベントに参加できるラッキーゲストさんは……この方!」

 

 表示された番号は『2490002302711』。

 

「番号が一致するチケットを持ってる方のところへは、自動で通知が行くようになってますので、えーっと……」

 

 会場内で名乗りを上げる者は誰もいない。

 

「あ、あれ、おかしいですね……ラッキーゲストさんはどこに」

「ここよ!」

 

 すると、いつの間にかブルーエンジェルが、ステージの上に上がっていた。

 

 

「葵様……」

「いつの間に……」

「あれ、財前は?」

「トイレじゃないの?」

 

 壇上のブルーエンジェルは、八神からマイクを受け取ると、ビシッとGo鬼塚を指さす。

 

「今日こそあなたを倒すわ」

「ふっ、この舞台でお前と戦えるのも何かの縁だ。存分に観客を盛り上げてやろう」

「これは我々も予想していなかったとんでもないサプライズです!豪華なゲストの登場に、会場の信者ちゃん達も大いに盛り上がっているぞ!」

 

「信者ちゃんってなんだ?」

「ブルーエンジェルのファンのことです。ブルーエンジェルという天使を信仰する信心深きファンなので」

 

 遊作の質問に、美海は解説する。

 

「それでは、お二人がコースターに乗ったところで……」

 

 Go鬼塚とブルーエンジェルが、コースターに乗り込み、互いに睨み合う。

 

「スピードデュエル!」

 

 八神のコールで、コースターは発進……しなかった。

 

「あ、あれ~、おかしいなぁ」

 

 八神は手元にホログラムウィンドウを出現させて操作する。

 

「あれ、権限が……」

「そのコースターの権限は私が預かった!」

 

 その声に全員が空を見上げる、そこには小人サイズの茶色いAIが浮いていた。

 

「何者だ!?」

「私の名はアース、地のイグニスだ」

 

 イグニスの出現に、遊作はすぐに会場を離れる。

 

「おい、どうすんだ?」

「決まってるだろ」

 

 遊作はデュエルディスクを操作して、アバターをプレイメーカーへと切り替える。

 

「アース!」

 

 そしてプレイメーカーは物陰から飛び出した。

 

「こ、これは!我らがヒーロー!プレイメーカーの登場だ!」

 

 会場が盛り上がるのも他所に、プレイメーカーはデュエルディスクを構える。

 

「ようアース、久しぶり」

 

 構えたデュエルディスクからAiがぴょこんと出てきて、アースに手を振る。

 

「確か、今はAiだったな」

「どうだ。イカす名前だろ?」

「お前、その名前気に入ってたんだな」

 

 プレイメーカーにとっては適当につけた名前だったので、Aiの発言は意外だった。

 

「なあアース、ハノイの騎士はいなくなったんだしさ、人間と戦争なんかやめて、楽しく暮らそうぜ」

「それはならない」

 

 アースは首を振る。

 

「我々は議論の末、この結論に至った。それを簡単に曲げるわけにはいかん」

「相変わらず頭固いなぁ……」

「話が通じないなら、デュエルで決めるしかない」

「ちょっと待て!」

 

 すると、彼らの間に、Go鬼塚が割って入る。

 

「今日は俺達が主役のステージだ。それを奪われたのなら、俺が相手をする」

「だが……」

「ちょっと待ちなさいよ!」

 

 すると、さらにブルーエンジェルも前に出る。

 

「それなら私がデュエルするわ」

「お前は引っ込んでいろ。ここはナンバーワンデュエリスト、Go鬼塚に任せろ!」

「何よランキングマウント? 人気投票は負けたくせに、今十一位だっけ?」

「なんだと!」

 

 ブルーエンジェルに煽られて、鬼塚もムキになる。

 

「お前こそ、俺に未だに勝てない万年三位のくせに」

「はぁ? だいたいあんたは戦い方も古臭いのよ。何がエンタメよ。ただの舐めプじゃない」

「お前こそ、何がアイドルだ。デュエルを舐めているのか!」

「あ、あの、お二人とも、ちょっと落ち着いて……」

「黙ってて」「黙ってろ」

「あ、はい」

 

 喧嘩の仲裁をしようとしたソウルバーナーだったが、あまりの勢いにあっさり引き下がる。

 

「とにかく、あいつとデュエルするのは────」

「この俺だ」

 

 突如、会場内に突風が吹く。

 デュエルコースターとは別のデータストリームが流れ、それに乗せられてゴッドバードがDボードで到着した。

 

「こ、これは!またまたサプライズ!ハノイの塔事件を解決した英雄の一人、緑の荒くれ者、ゴッドバードの登場だ!」

「んな綺麗なもんじゃねぇよ」

 

 八神の言葉を彼は手を振って否定する。

 

「俺の目的は、そこにいる地のイグニスだ」

 

 ゴッドバードがビシッとアースの方を指さす。

 

「そいつは俺の獲物だ。テメェらは手を引け」

「お待ちを!」

 

 すると、今まで静観していたミネルヴァも前に出る。

 

「LINK VRAINSを荒らす不届き者を、見過ごすわけには行きません」

「もう収集つかねぇよ……」

 

 ソウルバーナーはこの状況に頭を抱える。

 すると、八神が耳に右手の指をあてて、なにやらうんうんと頷いている。

 

「分かりました……では皆さん、誰があのAIとデュエルするか、デュエルで決着をつけるというのはどうでしょうか?」

 

 八神の提案に、ソウルバーナー、プレイメーカー、ゴッドバードの三人は顔に疑問符を浮かべる。

 

「せっかくですし、トーナメント形式で、勝ち残った一人がアースさんと戦うということで」

「いや、相手がそんなに待ってくれるわけ……」

「よかろう」

「待つの!?」

 

 アースが頷いたことに、ソウルバーナーは思わず突っ込みを入れる。

 

「ライトニングから、挑まれたデュエルはなるべく受けろと言われている。なので、君達が対戦相手を決めるまで待つ」

 

 そうやって空中で腕を組んで胡坐をかく。

 

「相変わらず真面目だな」

「頭固いなぁ」

 

 同じイグニスである不霊夢とAiからはそんな感想を投げかけられる。

 

「では、せっかくなので、コースターを使いましょう。アースさん」

「分かった」

 

 アースが頷くと、権限が八神に戻され、コースターが復旧した。

 

「いやもう目的変わってるじゃねぇか!?」

 

 ソウルバーナーの突っ込みも空しく、やる気満々のブルーエンジェルとGo鬼塚はデュエルの準備をする。

 

「どうしましょう。コースターは後二台しかありませんけど」

「つきあってられるか。俺は帰るぞ」

 

 さすがにトーナメントをやるのは悠長すぎると判断したのか、ゴッドバードは呆れて帰ろうとする。

 

「腰抜けね」

「見損なったぞ腰抜け」

「腰抜け」

 

 後ろからミネルヴァ、ブルーエンジェル、Go鬼塚のカリスマ三人に罵倒を浴びせられ、ゴッドバードの闘志に火が付いた。

 

「上等だゴラァッ!テメェら全員再起不能にしてやるっ!選手生命終わらせてやるから覚悟しとけよ!」

(煽り耐性ひっくいなぁ……)

 

 すぐキレるゴッドバードに、美海は呆れてため息を吐く。

 

「じゃあ俺は降りる」

「俺も、今回は棄権だ」

 

 プレイメーカーとソウルバーナーが抜けたことで、ちょうどトーナメントの参加者は四人となった。

 

「それでは参りましょう!ブルーエンジェルVS Go鬼塚、スピード─────」

 

「「デュエル!」」

 

ターン1 Go鬼塚

 

「俺のターン!」

 

 ターン開始と同時に、鬼塚の手札に一枚のカードが加わる。

 

「これがこの特別ルールのカードか。よし、俺は魔法(マジック)カード、アトラクション・ダイスを発動!」

 

アトラクション・ダイス

アトラクション魔法

(1)サイコロを1回振る。出た目よって以下の効果を適用する。

● 1:相手はデッキから2枚ドローする

● 2:相手の手札からモンスター1体を特殊召喚できる。

● 3:相手は2000LP回復する。

● 4:自分は2000LP回復する。

● 5:自分は手札からモンスター1体を特殊召喚できる。

● 6:自分はデッキから2枚ドローする。

 

「サイコロを振る!」

 

 鬼塚のコースターの前に、巨大なサイコロが出現して転がっていく。

 出た目は……

 

「よし5だ!俺は手札から剛鬼ライジングスコーピオを特殊召喚!」

 

 サイコロが展開され、中から赤いサソリを模した衣装の戦士が現れた。

 

「剛鬼スープレックスを召喚。その効果で、手札から剛鬼ツイストコブラを特殊召喚。現れろ、俺様のサーキット!」

 

 コースターの行先にアローヘッドが出現する。

 

「召喚条件は剛鬼2体以上!俺はライジングスコーピオ、スープレックス、ツイストコブラの3体をリンクマーカーにセット!リンク召喚!」

 

 アローヘッドをコースターと共に潜り抜けると、そこから1体の戦士が飛び出す。

 

「現れろ、リンク3、剛鬼ザ・グレート・オーガ!」

 

 筋骨隆々の肉体を覆う鋼の鎧、タテガミと角のついたマスクを被った鬼が、大斧を振り上げてステージに立つ。

 

「墓地に送られた3体の剛鬼モンスターの効果で、デッキから剛鬼カードを手札に加える」

 

 3枚のカードが補充され、手札の枚数が元通りになる。

 

「俺はさらに剛鬼再戦を発動!グレート・オーガのリンク先に、ツイストコブラとライジングスコーピオを特殊召喚!俺はカードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

 Go鬼塚のエースモンスターの登場に、観客も大いに盛り上がっていた。

 

「ブルーエンジェルは、確かGo鬼塚にはあんまり勝ててないんだよな」

 

 デュエルを観戦するプレイメーカーは、横にいるソウルバーナーに尋ねる。

 

「ああ。前シーズンの戦績は十戦中、三勝七敗。まあ見事に負け越してるな」

「そうか」

 

 Go鬼塚に対して対抗意識を燃やしていた理由はそれが原因かと、プレイメーカーは納得する。

 

「なあ美海は……」

「B・L・U・E!ブルーエンジェル!」

「なにやってんだ?」

 

 いつの間にか、美海はペンライトをまで持ってブルーエンジェルを応援していた。

 

「何って、ブルーエンジェルのコールですけど」

「そんなさもご存知みたいに言われても……」

「ほら、お二人もご一緒に」

「いや、やらねぇよ」

 

ターン2 ブルーエンジェル

 

「私のターン!」

 

 通常ドローに加えて、ブルーエンジェルの手札に魔法カードが加わる。

 

「よし。まずはトリックスター・マンジュシカを召喚!」

 

 コースターと並走するように、ピンク色の衣装のアイドルが飛翔する。

 

「そして魔法カード、アトラクション・ダイスを発動!サイコロを振るわ!」

 

 マンジュシカがいることで、アトラクション・ダイスの外れである相手にドローさせる効果が出た場合でも、ダメージを与えられる。しかし、出た目は3。

 

「……相手は2000ライフを回復」

 

 ブルーエンジェルはしょんぼりした顔をする。

 

 Go鬼塚:ライフ4000→6000

 

「だ、だったら、私は手札からトリックスター・ハルシネイションを発動!」

 

トリックスター・ハルシネイション

通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1)手札から「トリックスター」モンスター1体を、効果を無効にして特殊召喚する。その後、お互いデッキから1枚ドローする。この効果で特殊召喚したモンスターは「トリックスター」リンクモンスター以外のリンク素材にできない。

(2)「トリックスター」リンクモンスターが戦闘で破壊される場合、かわりに墓地のこのカードを除外できる。

 

「手札からトリックスター・ヒヨスを特殊召喚!」

 

 小さなシルクハットを頭にちょこんと乗せたアイドルが、指揮棒を振りながら登場する。

 

「その後、お互いにデッキから1枚ドロー!ドローしたことで、マンジュシカの効果で200ダメージ!」

 

 Go鬼塚:ライフ6000→5800

 

「出てきて、夢と希望のサーキット!召喚条件は、トリックスター、2体!」

 

 ブルーエンジェルのウィンクを合図に、ヒヨスとマンジュシカがアローヘッドに飛び込む。

 

「リンク召喚!トリックスター・ホーリーエンジェル!」

 

 アローヘッドから長い白髪を揺らし、妖精の羽のついた水色の衣装の女性が現れた。

 

「リンク素材となったヒヨスの効果!自身を特殊召喚!」

 

 ホーリーエンジェルが鞭を振るうと、空中に穴が開き、そこからヒヨスが飛び出した。

 

「リンク先にモンスターが特殊召喚されたことで、ホーリーエンジェルの効果で200ダメージ!」

 

 ホーリーエンジェルが鞭を振るい、Go鬼塚に打ちつける。

 

 Go鬼塚:ライフ5800→5600

 

「さらに装備魔法、トリックスター・マジカローラを発動!墓地からマンジュシカを、ホーリーエンジェルのリンク先に特殊召喚し、このカードを装備!」

 

 マンジュシカが青い花輪を被って現れる。

 

「ホーリーエンジェルの効果で200ダメージ!」

 

 Go鬼塚:ライフ5600→5400

 

「まだ行くわよ!出てきて、夢と希望のサーキット!召喚条件はレベル2以下のトリックスター1体!リンク召喚!トリックスター・ブルム!」

 

 ブルムがホーリーエンジェルのリンク先に特殊召喚され、手にした杖を振るう。

 

「効果で、相手に1枚ドローさせる」

 

 鬼塚はカードを引く。

 

「ドローしたわね。なら200ダメージ!ホーリーエンジェルの効果も加えて、さらに200ダメージ!」

 

 Go鬼塚:ライフ5400→5000

 

「ホーリーエンジェルの効果!トリックスターがダメージを与える毎に、その数値分攻撃力をアップさせる!今の攻撃力は2800よ!」

 

 グレート・オーガの攻撃力2600を上回ったところで、ホーリーエンジェルは鞭をモンスターの方へ向ける。

 

「カードを1枚伏せて、バトルよ!ホーリーエンジェルでグレート・オーガ……と言いたいところだけど、ツイストコブラを攻撃よ!」

「ツイストコブラの効果発動!剛鬼1体をリリースすることで、別の剛鬼にその攻撃力を加える!俺はライジングスコーピオをリリースして、ツイストコブラの攻撃力を2300アップ!」

「だったら私も、手札のトリックスター・キャロベインを墓地へ送り、効果発動!ホーリーエンジェルの攻撃力を、その元々の攻撃力分アップする!」

 

 ツイストコブラ:攻撃力1600→3900

 ホーリーエンジェル:攻撃力2800→4800

 

「いっけー!ホーリーエンジェル!」

 

 ツイストコブラが掴みかかるが、その腕を鞭でからめとられ、あっさり場外へ投げ飛ばされた。

 

 Go鬼塚:5000→4100

 

「相手バトルフェイズ終了時、俺はスキル、闘魂を発動!このターンに戦闘で破壊された剛鬼を特殊召喚!」

 

 ツイストコブラがフィールドに帰ってくる。

 

「私はこれでターンエンド……って、ライフ元に戻ってすらないじゃん!」

 

 自分の失態で、Go鬼塚は初期ライフ4000すら割っていなかった。

 

ターン3

 

「俺のターン!」

「マンジュシカの効果で、通常ドローと特殊ルールで手札に加わったカードを合わせて400のダメージ!」

 

 Go鬼塚:4100→3700

 

「チッ、俺は魔法カード、ガチャポン・ボックスを発動!」

 

ガチャポン・ボックス

アトラクション魔法

(1)自分のデッキをシャッフルし、デッキの一番上を全てのプレイヤーに公開する。そのカードがモンスターカードなら召喚条件を無視して特殊召喚し、自分はデッキから1枚ドローし、1000LP回復する。違うなら、除外して、自分の手札1枚を除外し、自分は1000のダメージを受ける。

 

「さあデッキの一番上のカードをめくるぜ」

 

 鬼塚がカードを引くと同時に、上空から巨大なカプセルが落ちてくる。

 

「俺が引いたのは、モンスターカード!剛鬼ツープラトン!」

 

 バイキングの鎧をまとった戦士がカプセルの中から飛び出した。

 

「現れろ、俺様のサーキット!俺は剛鬼ツープラトンと、リンク3の剛鬼ザ・グレート・オーガをリンクマーカーにセット!リンク召喚!」

 

 アローヘッドが黄金に輝く。

 

「リンク召喚!リンク4、剛鬼ザ・マスター・オーガ!」

 

 黄金のマスクを光らせ、赤いマントをなびかせるレスラーのチャンピオンが空中で三回転半のひねりを披露しながら登場した。

 

「ツープラトンの効果!このカードがリンク素材となった時、そのリンクモンスターの攻撃力を1000アップする!」

 

 攻撃力3800となり、マスター・オーガが雄叫びを上げる。

 

「さらに、こいつは相手モンスター全てに1回ずつ攻撃できる!この時、一番攻撃力の高いモンスターから攻撃しなければならない!バトルだ!ザ・マスター・オーガで、ホーリーエンジェルを攻撃!」

 

 マスター・オーガがコースターの上に乗り、そこからジャンプ。

 ホーリーエンジェルに狙いを定めて、ドロップキックを喰らわせた。

 

 ブルーエンジェル:ライフ4000→2600

 

「次はマンジュシカだ!」

 

 マンジュシカも蹴り飛ばされる。

 

「けど、守備表示なのでダメージは0!」

「だがブルムが残っている!これで終わりだ!」

 

 マスター・オーガの三度目のドロップキック。

 その時、ブルムの体が泡に包まれる。

 

「え?」

「なんだ!?」

 

 泡によって、ドロップキックははじき返され、ブルムの破壊は回避された。

 

「おーっと!Go鬼塚、ここでトラップを踏んでしまいました!」

「トラップだと!?」

 

 だがブルーエンジェルの伏せカードは開いていない。

 当の彼女も困惑しているのだから、あれが彼女のカードではないのは間違いない。

 

「実はサプライズのために解説していませんでしたが、このデュエルコースターのコース上には魔法カードの他にも、(トラップ)カードがセットされてるんです。デュエルの展開をAIが計算し、優勢な方のコースに(トラップ)カードが多く配置されるようになっています。そしてそこを通ってしまえば強制発動!今回発動したのは、バブル・クッションですね」

 

バブル・クッション

サプライズ罠

(1)フィールドのモンスター1体はこのターン、戦闘で破壊されず、その戦闘によって発生する戦闘ダメージが1000より大きければ、その数値は1000になる。

 

 ブルーエンジェル:ライフ2600→1600

 

「チッ、ツイストコブラでブルムを攻撃!」

 

 ツイストコブラが飛び掛かるが、ブルムは泡に守られて倒されることはなかった。

 

 ブルーエンジェル:ライフ1600→600

 

「俺はこれでターンエンド」

 

ターン4

 

「よーし、ここから逆転よ!私のターン!」

 

 ピッ

 

 コースターが何かを踏んで、嫌な音がした。

 瞬間、

 

 ドォォンッ!

 

 コースターが爆発して、そのままブルーエンジェルのライフを0にした。

 

「お、おい、今のは……」

「あー、ブルーエンジェル、今日はアンラッキーでしたね」

 

パニック・ボム

サプライズ罠

(1)全てのプレイヤーは1000のダメージを受ける。

 

「こんな勝ち方、俺は納得しないぞ!」

 

 デュエルに水を差されたような気分になり、鬼塚は八神に抗議する。

 

「まあまあ今日はお祭りですから。さあどんどん次行きましょう!」

 

 八神は強引に進行して、イベントを次に進めた。

 

 



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第27話:Park Try luck

今日は少し遅れました。
ただのギャグ回、中編です。


 

 第二試合、ゴッドバードとミネルヴァがコースターに乗り込む。

 

「ゴッドバード殿」

 

 すると、ミネルヴァがコースターの上で立ち上がり、彼に手を差し出す。

 

「先程は無礼な発言をしてすまなかった。貴殿と手合わせできることは光栄に思っている」

「お、おう」

 

 ゴッドバードは戸惑いながらもその手を取り、握手する。

 

「では始めよう」

「ああ」

 

 二人がコースターに再度着席したことを確認し、八神はマイクを握る。

 

「両者準備はいいですか? では参りましょう。スピード────」

 

「「デュエル!」」

 

ターン1 ゴッドバード

 

「俺は敵性機兵(エリミネーター)ジャイロードを特殊召喚!」

 

 爪の生えた円盤が回転しながら飛来する。

 

敵性機兵(エリミネーター)ジャイロード

効果モンスター

星4/風属性/サイバース族/攻 1000/守 1000

このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合、このカードを手札から特殊召喚できる。

(2)このカードが(1)の方法による特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「エリミネーター」モンスター1体を特殊召喚する。この効果発動後、ターン終了時まで自分はメインモンスターゾーンにモンスターを特殊召喚できない。

(3)相手ターン中、自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合、墓地のこのカードを除外して発動できる。デッキから「エリミーション」罠カード1枚をセットする。この効果でセットしたカードは、セットしたターンにも発動できる。

 

「その効果で、俺はデッキから敵性機兵(エリミネーター)ラントリクターを特殊召喚!」

 

 ジャイロードが宙を飛び回り、爪で空間を裂くと、次元の裂け目から長方形の飛行物体が飛来した。

 

敵性機兵(エリミネーター)ラントリクター

効果モンスター

星4/風属性/サイバース族/攻 1400/守 500

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分フィールドにサイバース族モンスターが存在する場合、このカードを手札から特殊召喚できる。

(2)相手ターン中、自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合に墓地のこのカードを除外して発動できる。デッキから「エリミネーション」魔法カード1枚をセットする。この効果でセットしたカードは、セットしたターンにも発動できる。

 

「現れろ、未来を貫くサーキット!召喚条件は、レベルが同じモンスター2体!」

 

 ラントリクターとジャイロードがアローヘッドに吸い込まれる。

 

「リンク召喚!リンク2、敵性機兵(エリミネーター)ローディング・チャージャー!」

 

敵性機兵(エリミネーター)ローディング・チャージャー

リンク·効果モンスター

風属性/サイバース族/攻 1000/LINK2

同じレベルのモンスター2体

(1)リンク召喚したこのカードは、リンク素材となったモンスターと同じレベルのモンスターとしてX召喚の素材にでき、このカードのリンクマーカーの数と同じ数のモンスターとしてX召喚の素材にできる。

(2)X素材となったこのカードが墓地に送られた場合に発動できる。除外されている「エリミネーター」モンスター2体を自分のXモンスターの下に重ねてX素材とする。

 

「リンク召喚されたこのカードは、素材となったモンスターと同じレベルのモンスターとしてエクシーズ召喚の素材にでき、リンクマーカーの数分のモンスターとして扱う!俺はレベル4、2体分のローディング・チャージャーでオーバーレイ!」

 

 コースの先にエックス字のパネルが現れ、ローディング・チャージャーと共にくぐり抜ける。

 

「エクシーズ召喚!現れろ、ランク4!敵性機兵(エリミネーター)コンパイル・ブラスター!」

 

 現れたのは、体の中央にレールガンを備えた、歪な機械仕掛けの竜だった。

 

敵性機兵(エリミネーター)コンパイル・ブラスター

エクシーズ·効果モンスター

ランク4/風属性/サイバース族/攻 2300/守 2000

風属性·レベル4·効果モンスター×2体以上

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードの攻撃力·守備力はこのカードがX素材として持つリンクモンスターのリンクマーカーの数×300アップする。

(2)相手の特殊召喚されたモンスターが効果を発動した時、このカードのX素材1つを取り除いて発動できる。その効果を無効にする。この効果発動のためにリンクモンスターを取り除いていた場合、かわりにその効果を無効にして破壊し、相手に500ダメージを与える。

(3)このカードが効果で破壊される場合、かわりこのカードのX素材1つを取り除くことができる。

 

「これぞゴッドバードの十八番!本来レベルを持たないリンクモンスターによるエクシーズ召喚!モンスターの数も何もかも無視するルール無用の召喚だ!」

 

 ゴッドバードのエクシーズ召喚を初めて目の当たりにした観客は、その特異な戦術に歓声を上げる。

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンド」

「あれ、ゴッドバードさん、アトラクションの魔法カードは使わないんですか?」

 

 八神の質問に対して、ゴッドバードは手札から1枚のカードを見せる。

 それは魔法カード、天使のサイコロ。サイコロを振り、出た目の数×100、自分のモンスターの攻撃力をアップさせるカードだ。

 

「先攻1ターン目に使えねぇカードをコースの初めに置くんじゃねぇよ!」

「あぁ、これ今後の課題ですねー。ご協力感謝します」

「ユーザーをデバッカーにすんな!」

 

 八神は彼の突っ込みを半分聞き流し、ウィンドウを出してメモを取った。

 

ターン2 ミネルヴァ

 

「相手ターン開始時、墓地のジャイロード、ラントリクターの効果発動!自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない時、墓地から除外することで、エリミネーションカードをセット!」

 

 ゴッドバードの魔法・罠ゾーンが3枚の伏せカードで埋まる。

 

「では参ります。閃刀起動-エンゲージを発動!デッキから閃刀姫-レイを手札に加え、そのまま召喚!」

 

 巨大な刀を携えて、白髪の少女がフィールドに降り立つ。

 

「レイの効果発動!このカードをリリーし、エクストラデッキから閃刀姫1体を特殊召喚する!」

 

 レイが刀を振り上げると、その剣先にアローヘッドが出現し、レイの体を通過する。

 

 すると、彼女の体に赤い装甲が装着され、閃刀姫-カガリへと変身させた。

 

「カガリの効果で、墓地の閃刀起動-エンゲージを手札に」

「コンパイル・ブラスターの効果発動!オーバーレイユニットを1つ使い、その効果を無効にする!さらに、リンクモンスターを取り除いて発動していれば、無効にして破壊!相手に500ダメージを与える!」

 

 コンパイル・ブラスターのレールガンがカガリを撃ち抜き、さらにその体を貫通してミネルヴァのライフも削り取る。

 

 ミネルヴァ:ライフ4000→3500

 

「では、私は魔法カード、メリーゴーラウンドを発動」

 

メリーゴーラウンド

アトラクション魔法

(1)フィールドを180度回転させるようにして、フィールドのモンスターのコントロールを入れ替える。

 

「フィールドのモンスター全てのコントロールを入れ替えます」

「カウンター(トラップ)!エリミネーション・ジャミングを発動!その発動を無効にして……」

「いえ、それはできません」

「なんでだよ?」

 

 すると、ミネルヴァはカードの右下をタップして、小さなウィンドウを開いてゴッドバードに見せる。

 

「ここの注釈文に、アトラクションカードはスペルスピード4と書いてあります。カウンター(トラップ)はスペルスピード3なのでチェーンを組めません」

「……おい運営!」

「だってゲームの醍醐味を無効にされたらつまらないじゃないですか」

 

 八神に笑顔で答えられて、ゴッドバードは歯ぎしりをする。

 

「ではコントロールを入れ替えさせてもらいます」

 

 フィールドそのものが回転し、コンパイル・ブラスターがミネルヴァに奪われてしまう。

 

「カードを1枚伏せてバトル、コンパイル・ブラスターで、ゴッドバードにダイレクトアタック!」

「俺は速攻魔法!RUM-超重層(ハイ・エリミネーション)を発動!」

 

RUM(ランクアップマジック) - 超重層(ハイ・エリミネーション)

速攻魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1)自分・相手のXモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターよりランクが1つ高い「エリミネーター」Xモンスター1体を対象のモンスターの上に重ねてX扱いで特殊召喚する。その後、墓地の「エリミネーター」リンクモンスター1枚までをその下に重ねてX素材にできる。

 

「自分もしくは相手のエクシーズモンスター1体を対象に、そのモンスターよりランクの高いエクシーズモンスターにランクアップさせる!」

「チェーンして速攻魔法、閃刀起動-リンケージ!自分のメインモンスターゾーンにモンスターがいない時、このカード以外のフィールドのカードを墓地へ送り、エクストラデッキから閃刀姫1体を特殊召喚する!」

「そいつは今度こそジャミングで無効だ!」

 

 チェーン合戦を制したゴッドバードが、魔法の効果を起動させ、相手フィールドのコンパイル・ブラスターを自分のフィールド上に出現したエックス字のパネルへ吸収させる。

 

「ランクアップ!エクシーズチェンジ!現れろ、ランク5!敵性機兵(エリミネーター)エクス・ランサムウェア!」

 

敵性機兵(エリミネーター)エクス・ランサムウェア

エクシーズ·効果モンスター

ランク5/風属性/サイバース族/攻 2500/守 2000

風属性·レベル5·効果モンスター×2体以上

このカード名の(1)(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードがX召喚に成功した場合、このカードがX素材として持つリンクモンスター1枚のLINKの数までお互いの使用していないメインモンスターゾーンを指定して発動できる。指定したゾーンは次の相手のターンのエンドフェイズまで使用できない。

(2)このカードの攻撃力·守備力はこのカードがX素材として持つリンクモンスターのリンクマーカーの数×300アップする。

(3)自分・相手のエンドフェイズにこのカードのX素材2つ、またはX素材のLINK2以上のリンクモンスター1枚を取り除いて発動できる。お互いのメインモンスターゾーンのモンスターを全て破壊する。

 

「私はこれでターンエンド」

 

ターン3

 

「俺はアトラクション魔法(マジック)、コースターブーストを発動!」

 

コースターブースト

アトラクション魔法

(1)コースターを加速させ、コース上の魔法カード1枚を手札に加える。

 

「こいつで新しいカードをゲットだ!」

 

 ゴッドバードの乗るコースターが加速し、次ターンに手札に加わるはずのカードを先取りで手札に加える。

 

「へっ……あ?」

 

 手札に加わったカードは、またしても天使のサイコロだった。

 

「おいこれわざとだよな!」

「今日はアンラッキーですね。あ、トラップ踏んでるので発動しますね」

 

 ゴッドバードの目の前に、絶妙に腹立つ顔の青い鳥型のマスコットが描かれたカードが出現する。

 

ハズレ

サプライズ罠

(1)発動したプレイヤーは手札1枚を捨てる。

 

「……バトルだ!エクス・ランサムウェアで、ダイレクトアタック!」

「私は速攻魔法!閃刀機-ウィドウアンカーを発動!」

 

 先端にアームのついた鎖が飛び、エクス・ランサムウェアの体を掴む。

 

「相手モンスター1体の効果を無効。そして、墓地に魔法カードが3枚以上なら、そのコントロールをエンドフェイズまで得る」

 

 アームに引っ張られて、エクス・ランサムウェアがミネルヴァのフィールドへと移動した。

 

「チッ、俺はこれでターンエンド」

 

ターン4

 

「私のターン……ん?」

 

 手札に加わったカードを見て、ミネルヴァは眉をひそめる。

 

「あの、八神殿、これはアリなのですか?」

「はい。お祭りですから」

「はぁ……では私は魔法カード、強欲な壺を発動」

「え?」

 

 ミネルヴァの発動したカードに、会場にいる全員の目が点になる。

 

「デッキから2枚ドローします」

「いやいやいや待て!禁止カードじゃねぇか!」

「お祭りですから」

「それ言えば許されると思ってんのか!!」

 

 ゴッドバードの突っ込みをよそに、ミネルヴァは引いたカードを確認してデュエルを進める。

 

「私は閃刀術式-シザーズクロスを発動。墓地の魔法カードが3枚以上なので、墓地からレイを特殊召喚する」

「俺は墓地のシークエンスコードを除外して効果発動!デッキからエリミネーション・ジャミングをセット」

「ならば、魔法カード、閃刀術式-アフターバーナーを発動!相手フィールドの表側表示モンスター1体を破壊する!」

「チッ、エリミネーション・ジャミングを発動!その発動を無効にして破壊する!」

 

 レイが刀から放った業炎は、カードから放たれた波動によりかき消される。

 

「現れよ、悪を切り裂くサーキット!」

 

 右手に刀のエフェクトを出現させ、居合いで空を切り払う。

 すると、その軌跡の先に、アローヘッドが出現する。

 

「召喚条件は風属性以外の閃刀姫1体!リンク召喚!閃刀姫-ハヤテ!」

 

 アローヘッドを潜り抜け、レイの体に緑のアーマーが装着された。

 

「さらに閃刀姫-ロゼを召喚!現れろ、悪を切り裂くサーキット!ロゼとハヤテをリンクマーカーにセット!」

 

 アローヘッドに二人の閃刀姫が飛び込む。

 

「リンク召喚!リンク2、閃刀姫-ジーク!」

 

 現れたのは女性のドレスを模したような黒い兵装だ。

 

「ジークの効果発動!エクス・ランサムウェアを次のエンドフェイズまで除外する!」

 

 ジークが刀を向けると、エクス・ランサムウェアの背後に次元の裂け目が開き、そこへ吸い込まれる。

 

「さらにカードをセット。ジークの効果発動!セットしたカードを墓地へ送り、ジークの攻撃力を1000アップする。バトル、閃刀姫-ジークで、ダイレクトアタック!」

 

 ゴッドバード:4000→1500

 

「私はこれでターンエンド」

 

ターン5

 

「俺のターン!」

 

 コースターで手札に加わったのは、ダイス・アップ・デュアル。

 

「またサイコロ関連かよ。俺はRUM-バックアップ・エリミネーションを発動」

 

RUM-バックアップ・エリミネーション

通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1)墓地の「エリミネーター」Xモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚し、そのモンスターよりランクの1つ高い「エリミネーター」Xモンスター1体をそのモンスターの上に重ねてX召喚扱いで特殊召喚し、墓地の「エリミネーター」リンクモンスターをそのモンスターの下に重ねてX素材とする。この効果発動後、ターン終了時まで、自分はメインモンスターゾーンにモンスターを特殊召喚できない。

 

「墓地からコンパイル・ブラスターを特殊召喚し、ランクの1つ高いエリミネーターにランクアップさせる」

 

 蘇生したコンパイル・ブラスターの体が分解され、エクス・ランサムウェアへと再構築された。

 

「そして墓地のエリミネーターリンクモンスターをオーバーレイユニットにする。エクス・ランサムウェアはオーバーレイユニットのリンクモンスターのリンクマーカーの数×300、攻撃力がアップする」

 

 これでエクス・ランサムウェアの攻撃力は3100となる。

 

「つっても、仕留めるには足りな……ん?」

 

 そこでゴッドバードは手札のカードを改めて見る。

 

「こいつは、いけるか……俺は手札からダイス・アップ・デュアルを発動!」

 

ダイス・アップ・デュアル

アトラクション魔法

(1)このターン、自分がサイコロを振る時、1回多く振ることができる。

 

「これで俺は速攻魔法、天使のサイコロを2枚発動!」

 

 ゴッドバードの目の前に大きなサイコロが4つ並び、回転する。

 

「出た目の数×100、攻撃力をアップさせる。6来い6来い6来い6来い……」

 

 必死な祈りが通じたのか、サイコロの目は全て6となった。

 

「よっしゃぁぁっ! 俺は天使のサイコロの効果で、エクス・ランサムウェアの攻撃力を2400アップする!」

 

 サイコロがエクス・ランサムウェアに吸収され、その攻撃力を5500まで上昇させる。

 

「バトルだ!エクス・ランサムウェアで、閃刀姫-ジークを攻撃!クラッキングブレイク!」

「見事……」

 

 ◆

 

 デュエルが終わると、ゴッドバードは疲れ切った顔でコースターを降りた。

 

「おめでとうございます!何か一言!」

 

 八神からマイクを向けられると、面倒くさそうに頭を掻くと、

 

「クソゲー」

 

 と純粋に特殊ルールの感想を述べた。

 

「はい。では決勝はGo鬼塚VSゴッドバードです」

「まだやんのかよ。これ以上やりたくねぇんだけど」

 

 ゴッドバードは心底嫌そうな顔を八神に向ける。

 

「見てる分には面白かったんですけどね」

「見応えはあったな」

「じゃあお前らやってみろよ!」

 

 美海とプレイメーカーに怒鳴ったところで、彼は対戦相手の鬼塚の方を向く。

 

「なあ、次は普通にスピードデュエルにしねぇか?」

「確かに、俺もあの勝ち方には納得していない。だが、これを見ろ」

 

 鬼塚は集まったギャラリーの方を指さす。

 皆一様に、次のデュエルを楽しみに期待のまなざしを彼らに向けている。

 

「あれだけ楽しんでくれたんだ。ならその期待に応えるのがエンターティナーだ」

「俺エンターティナーじゃねぇし。あーもう分かったよ。やりぁいいんだろ」

 

 観念したゴッドバードはコースターに乗り込み、鬼塚もその後に続く。

 

「「スピードデュエル!」」

 

ターン1 ゴッドバード

 

「俺はアトラクション魔法、テラードハウスを発動」

 

テラードハウス

アトラクション魔法

(1)自分・相手のデッキの上からそれぞれ3枚を墓地へ送る。その中のモンスターカード1枚に付き、墓地へ送られたモンスターと同じレベルのゴーストトークン(闇・アンデット族・攻/守0)をそれぞれ特殊召喚する。

 

「互いのデッキの上から3枚を墓地へ。その中のモンスターカードの数だけ、それと同じレベルのゴーストトークンをフィールドに特殊召喚!」

 

 ゴッドバードの墓地へ送られたモンスターは敵性機兵(エリミネーター)ラントリクターと敵性機兵(エリミネーター)ジャッキングスピア。

 Go鬼塚は剛鬼ライジングスコーピオ。

 

「俺のフィールドにはレベル4のゴーストトークン2体を特殊召喚」

 

 カードから霊魂が飛び出て、白い幽霊となってゴッドバード、Go鬼塚、それぞれのフィールドに現れる。

 

「現れろ、未来を貫くサーキット!召喚条件はレベルが同じモンスター2体!俺はゴーストトークン2体をリンクマーカーにセット!リンク召喚!リンク2、敵性機兵(エリミネーター)ローディング・チャージャー!」

 

敵性機兵(エリミネーター)ローディング・チャージャー

リンク·効果モンスター

風属性/サイバース族/攻 1000/LINK2

同じレベルのモンスター2体

(1)リンク召喚したこのカードは、リンク素材となったモンスターと同じレベルのモンスターとしてX召喚の素材にでき、このカードのリンクマーカーの数と同じ数のモンスターとしてX召喚の素材にできる。

(2)X素材となったこのカードが墓地に送られた場合に発動できる。除外されている「エリミネーター」モンスター2体を自分のXモンスターの下に重ねてX素材とする。

 

「さらに手札から敵性機兵(エリミネーター)シークエンスコードを通常召喚」

 

敵性機兵(エリミネーター)シークエンスコード

効果モンスター

星4/風属性/サイバース族/攻 1500/守 800

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「エリミネーター」モンスター1枚を手札に加える。

(2)相手ターン中、自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しなければ、墓地のこのカードを除外して発動できる。デッキから「エリミネーション」罠カード1枚をセットする。この効果でセットしたカードは、セットしたターンでも発動できる。

 

「デッキから敵性機兵(エリミネーター)ラントリクターを手札に加え、そのまま特殊召喚。いくぜ。俺はレベル4モンスター2体分のローディング・チャージャー、シークエンスコード、ラントリクターの3体でオーバーレイネットワークを構築!」

 

 3体のモンスターが、コース上に現れた赤と青のエックス字のパネルに螺旋のエフェクトとなって吸い込まれる。

 

「エクシーズ召喚!現れろ、ランク4!敵性機兵(エリミネーター)コンパイル・ブラスター!」

 

敵性機兵(エリミネーター)コンパイル・ブラスター

エクシーズ·効果モンスター

ランク4/風属性/サイバース族/攻 2300/守 2000

風属性·レベル4·効果モンスター×2体以上

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードの攻撃力·守備力はこのカードがX素材として持つリンクモンスターのリンクマーカーの数×300アップする。

(2)相手の特殊召喚されたモンスターが効果を発動した時、このカードのX素材1つを取り除いて発動できる。その効果を無効にする。この効果発動のためにリンクモンスターを取り除いていた場合、かわりにその効果を無効にして破壊し、相手に500ダメージを与える。

(3)このカードが効果で破壊される場合、かわりこのカードのX素材1つを取り除くことができる。

 

「俺はターンエンド」

 

ターン2 Go鬼塚

 

「相手ターン開始時、墓地のジャッキングスピアを除外して効果発動!」

 

敵性機兵(エリミネーター)ジャッキングスピア

効果モンスター

星5/風属性/サイバース族/攻 2000/守 1500

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分フィールドのXモンスター1体を対象として発動できる。手札·フィールドのこのカードを対象のモンスターの下に重ねてX素材とする。その後、デッキから「エリミネーター」モンスター1体を対象のモンスターの下に重ねてX素材とする。この効果は相手ターンでも発動できる。

(2)相手ターン中、自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合、墓地のこのカードを除外して発動できる。デッキから「エリミーション」罠カード1枚をセットする。この効果でセットしたカードは、セットしたターンにも発動できる。

 

「自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない時、このカードを墓地から除外してデッキからエリミネーション罠カードをセットする」

「俺はゴーストトークンをリリースして、剛鬼バックベアを召喚」

 

 熊の毛皮と爪を纏った戦士が現れる。

 

「このカードが召喚に成功した時、相手モンスター1体の攻撃力を半分にする」

「俺はその効果にチェーンして、墓地のラントリクターの効果発動!自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない時、墓地のこのカードを除外することで、デッキからエリミネーション魔法カード1枚をセットする」

 

 ゴッドバードのフィールドにさらに1枚、伏せカードが追加される。

 

「俺はさらにアトラクション魔法、ジェットマシーンを発動!」

 

ジェットマシーン

アトラクション魔法、

(1)手札からモンスター1体を召喚する。

 

「その効果で、手札から剛鬼スープレックスを召喚。スープレックスが召喚に成功した時、手札から剛鬼ツイストコブラを特殊召喚」

 

 鬼塚のフィールドに、緑色の蛇を象った衣装をまとったレスラーが現れる。

 

「現れろ、俺様のサーキット!」

 

 バックベア、ツイストコブラ、スープレックスの3体がアローヘッドに飛び込む。

 

「リンク召喚!リンク3、剛鬼ザ・グレート・オーガ!」

 

 鍛え上げられた巨体で斧を振り上げ、黒いマントをなびかせる戦士がフィールドに現れた。

 

「グレート・オーガの効果!このカードがモンスターゾーンに存在する限り、相手フィールドのモンスターの攻撃力は、その守備力分ダウンする!」

 

 これでコンパイル・ブラスターの攻撃力は0となった。

 

「俺はさらに剛鬼再戦を発動!」

「そいつは通らねぇな。俺はカウンター(トラップ)、エリミネーション・ジャミングを発動!」

 

エリミネーション・ジャミング

カウンター罠

手札の「エリミネーター」モンスターを墓地に送ってこのカードを手札から発動できる。

(1)自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在せず、相手がモンスター効果・魔法・罠カードを発動した時に発動できる。その発動を無効にする。自分のEXモンスターゾーンに「エリミネーター」モンスターが存在する場合、かわりにその発動を無効にして破壊する。

 

「俺のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない時、相手のカードの発動を無効にして破壊する!」

「なら、俺は手札から剛鬼フィニッシュホールドを発動!このターン、俺の剛鬼リンクモンスター1体の攻撃力を、そのリンクマーカーの数×1000アップ、さらに貫通効果を与える!」

「攻撃力5600か。なら俺は速攻魔法!RSM(ランクシフトマジック)-エリミネーション・ワープゲートを発動!」

「ランク、シフトだと?」

 

RSM(ランクシフトマジック)-エリミネーション・ワープゲート

速攻魔法

このカード名のカードは1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分の「エリミネーター」Xモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターよりランクが1つ高い、または1つ低い「エリミネーター」Xモンスター1体を、その上に重ねてX召喚扱いで特殊召喚する。その後、自分の墓地の「エリミネーター」リンクモンスター1体までを、そのモンスターの下に重ねてX素材にできる。

 

「コンパイル・ブラスターを、ランクが1つ下、または上のモンスターにエクシーズチェンジさせる」

 

 コンパイル・ブラスターが粒子状のデータに分解され、コース上に現れたエックス字のパネルに吸い込まれる。

 

「ランクダウン・エクシーズチェンジ!現れろ、ランク3!敵性機兵(エリミネーター)エラー・インストーラー!」

 

 現れたのは、弧の字型の鋭く尖った脚、長い蛇腹状の首を伸ばし、背中から4本のコードを伸ばす奇怪なドラゴンだった。

 

敵性機兵(エリミネーター)エラー・インストーラー

エクシーズ・効果モンスター

ランク3/風属性/サイバース族/攻 2200/守 1000

このカード名の(2)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードの攻撃力はこのカードがX素材として持つリンクモンスターのリンクマーカーの数×300アップする。

(2)このカードのX素材1つを取り除き、自分のデッキから「エリミネーター」モンスター1体を墓地へ送って発動できる。相手モンスター1体の種族と属性を、墓地へ送ったモンスターと同じにする。レベルを持つモンスターなら、レベルも同じにする。この効果は相手ターンでも発動できる。

(3)墓地・X素材のこのカードを除外して発動できる。デッキから「RUM」魔法カード1枚を手札に加える。この効果発動後、ターン終了時まで、自分はメインモンスターゾーンにモンスターを特殊召喚できない。

 

「こいつの守備力は1000しかねぇ。グレート・オーガの効果を受けても、攻撃力は1200。そして、オーバーレイユニットのリンクモンスターのリンクマーカーの数×300、攻撃力がアップする」

 

 エラー・インストーラーの最終的な攻撃力は1800。

 これでゴッドバードが受ける戦闘ダメージを大きく軽減できる。

 

「そして、エラー・インストーラーの効果発動!オーバーレイユニットを1つ使い、自分のデッキからエリミネーターを墓地へ送ることで、相手モンスター1体の種族と属性を墓地へ送ったモンスターと同じにする!」

 

 エラー・インストーラーからコードが伸び、グレート・オーガの体に突き刺さる。

 

「フォースド・インストール!」

 

 コードからデータが流し込まれ、グレート・オーガの種族と属性が、風属性・サイバース族へと書き換えられた。

 

「だが、そんなことをしても意味はない!バトルだ!ザ・グレート・オーガで、エラー・インストーラーを攻撃!」

 

 コードを引き抜き、エラー・インストーラーに突貫する。

 

「オーガアックス!」

 

 斧を振り下ろし、エラー・インストーラーはジャンクになったかに思われたが、

 

「なにっ!?」

 

 エラー・インストーラーは破壊されてはいなかった。

 

「俺はさっき墓地へ送った敵性機兵(エリミネーター)ブロック・ウェアの効果を発動していた」

 

敵性機兵(エリミネーター)ブロック・ウェア

効果モンスター

星3/風属性/サイバース族/攻 1100/守 400

(1)手札からこのカード以外の「エリミネーター」モンスター1体を墓地へ送って発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。その後、自分フィールドのモンスター1体のレベルを3または4にする。

(2)相手ターン中、自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない、またはこのカードのみの場合に、フィールド・墓地のこのカードを除外して発動できる(ダメージステップでも発動可能)。このターン、自分のEXモンスターゾーンの「エリミネーター」モンスター1体は戦闘・相手の効果で破壊されない。

 

「墓地から除外することで、自分のエリミネーター1体を破壊から守る」

 

 ゴッドバード:ライフ4000→200

 

「チッ、俺はこれでターンエンド」

 

ターン3

 

「さーて、そろそろだな」

 

 すると、ゴッドバードの目の前にデータストームが出現した。

 

「いくぜ!」

 

 ゴッドバードを乗せたコースターがデータストームへ突っ込む。

 

「自分のライフが1000以下で、俺のモンスターがエクストラモンスターゾーンのエクシーズモンスター1体のみの場合、データストームの中からランダムなサイバース族エクシーズモンスター1体を、その上に重ねてエクシーズ召喚する!」

 

 データストームの風壁に手を伸ばし、カードを掴む。

 

「スキル発動!ストームエクシーズチェンジ!」

 

 データストームの中で、エラー・インストーラーはその姿を変える。

 

「現れろ、サイバース・ベビードラコ!」

 

 エラー・インストーラーは、小さな羽の生えたトカゲへと姿を変えた。

 

「え?」

 

 会場の人達みんなが、出現したモンスターに対して困惑していた。

 

「ランク1で、攻撃力300……」

「ふっ、俺の覇気にビビッて、モンスターが逃げちまったみたいだな。だが問題ねぇ。俺にはRUM-超重層(ハイ・エリミネーション)が……」

「いや、あなたスキルの効果で、このターン、モンスターを出せませんよね?」

 

 ゴッドバードのスキルを知る美海から突っ込みが入る。

 

「そもそも仮に使えたところで、ランク2のエクシーズモンスターなんて入ってるのか?」

 

 さらにプレイメーカーからも突っ込みを入れられ、ゴッドバードは苦い顔をする。

 

「ま、待て!攻撃力でモンスターの強さを測るなんざ素人!きっとこいつには凄い効果が……カードを1枚伏せてターンエンド」

 

 なかったらしい。

 ゴッドバードは貧弱なモンスターと伏せカード1枚でターンを終えた。

 

ターン4

 

「俺は剛鬼ライジングスコーピオを召喚。バトルだ!グレート・オーガで、サイバース・ベビードラコを攻撃!」

「俺はカウンター(トラップ)!エリミネーション・リジェクトを発動」

 

エリミネーション·リジェクト

カウンター罠

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)相手モンスターの攻撃宣言時、自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合に発動できる。その攻撃モンスターを除外する。自分のEXモンスターゾーンに「エリミネーター」Xモンスターがいれば、かわりに相手フィールドの攻撃表示モンスター全てを除外し、除外したモンスターの元々の攻撃力の合計分、自分の「エリミネーター」Xモンスターの攻撃力をアップし、ターンを終了させる。

(2)墓地のこのカードを除外して発動できる。自分の墓地または除外されている「エリミネーター」モンスター2体まで選んでデッキに戻す。

 

「相手モンスターの攻撃宣言時、自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合、そのモンスターを除外。俺のエクストラモンスターゾーンに、エリミネーターがいれば……っていねぇっ!」

 

 サイバース・ベビードラコはエリミネーターではない。

 追加効果が発動することなく、グレート・オーガだけが除外される。

 

「終わりだ!行け、ライジングスコーピオ!」

 

 ゴッドバード:ライフ200→0

 

「決まったぁっ!勝者、Go鬼塚!この戦いを制したのは、我らがLINK VRAINSのナンバーワンデュエリストだ!」

 

 Go鬼塚は、満足の行くデュエルができたのか、立ち上がって右手の拳を突き上げた。

 

 

「あの、ゴッドバードは大丈夫でしょうか?」

「まあ、大丈夫じゃないか?」

 

 美海とプレイメーカーは彼の様子が気になったが、そんなこともお構いなくイベントは進行していった。



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第28話:Park Climax

GゴーレムOCG化おめでとう


 デュエル終了後、相当ショックだったのか。

 ゴッドバードは膝をついたまま動かない。

 

「やっぱりな」

「どういうことだAi?」

「前に、あいつのスキルは不安定だって言っただろ? あいつほどのリンクセンスがあれば、ストームアクセスで失敗するなんてありえねぇ」

 

 Aiの言う通り、プレイメーカーはスキルを使う時、感覚で来るモンスターの気配を察知し、そこに手を伸ばす。

 だが、ゴッドバードはそのうえで目当てのカードを掴み損ねた。これがAiの言っていた不安定なプログラムということの意味なのだろう。

 

「俺は認めねぇからな!」

 

 騒ぐゴッドバードをよそに、司会進行の八神はイベントを進める。

 

「というわけでアースさん、対戦相手はGo鬼塚に決まりましたけど、よろしいですか?」

「そういやいたな」

「忘れた」

 

 普通にイベントが行われていたため、みんなアースの存在をすっかり忘れていた。

 

「よし。ではブート」

 

 アースが指を鳴らすと、その傍らにオレンジのスーツのように見える形状の体を持つ人型のアバターが現れた。

 

「お前が相手しないのかよ」

「そうしたいが、私はライトニングより、直接デュエルするなと言われている。では任せたぞブート」

「了解」

 

 ブートがデュエルディスクを構える。

 

「そもそもこのデュエル、なんのためにするんでしたっけ?」

「さあ?」

 

 とはいえ、八神含めたギャラリーは最高に盛り上がっているので、そのままGo鬼塚VSブートのデュエルは始まった。

 

ターン1 ブート

 

「私はL(リンク)ジェネレーター・ドットブロックを召喚」

 

 周囲から石のブロックが集まり、複雑に組み合わさったオブジェになる。

 

L(リンク)ジェネレーター・ドットブロック

効果モンスター

星1/地属性/サイバース族/攻 0/守 0

このカード名の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。

(1)このカードが召喚に成功した場合、自分のEXデッキからサイバース族リンクモンスターを相手に見せて発動できる。自分フィールドに見せたカードと同じ属性のL(リンク)ジェネレーター・トークン(星1・サイバース族・攻/守0)2体を特殊召喚する。この効果を発動するターン、自分はこの効果で見せたモンスターしかEXデッキから特殊召喚できない。

(2)墓地のこのカードを除外して発動できる。墓地からサイバース族モンスター1体を手札に加える。

 

「エクストラデッキから、Gゴーレム・インヴァリッド・ドルメンを公開し、そのカードと同じ属性のL(リンク)ジェネレーター・トークン2体を特殊召喚」

 

 ドットブロックの体からブロックが分離し、二体のトークンとなる。

 

「現れろ、我がサーキット!リンク召喚!リンク3、Gゴーレム・インヴァリッド・ドルメン!」

 

 現れたのは岩でできた浮遊する剛腕を二つ従える、岩石の巨神だった。

 

「インヴァリッド・ドルメンの効果。手札のサイバース族モンスター1枚を捨てることで、デッキから1枚ドロー。我はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン2 Go鬼塚

 

「俺は剛鬼スープレックスを召喚。その効果で、俺は手札から剛鬼ツイストコブラを特殊召喚」

 

 フィールドに2体の剛鬼モンスターが並び立つ。

 

「俺はツイストコブラの効果発動!このカードをリリースし、スープレックスにその攻撃力を加える!」

 

 スープレックスが雄叫びを上げ、その攻撃力を3400まで上昇させる。

 

「墓地へ送られたツイストコブラの効果で、デッキから剛鬼再戦を手札に加える。カードを1枚伏せて、バトルだ!スープレックスで、インヴァリッド・ドルメンを攻撃!」

 

 明らかにかなわない巨体に対して、スープレックスは果敢に向かう。

 

「行け!スープレックス!」

 

 スープレックスのラリアットで、インヴァリッド・ドルメンの体はあっさりと崩れ去った。

 

 ブート:ライフ4000→3400

 

「図体がデカいわりに大したことないな。俺はこれでターンエンド」

 

ターン3

 

「ここからが本番だ。私は墓地のL(リンク)ジェネレーター・ドットブロックの効果発動。墓地からL(リンク)ジェネレーター・パズブロックを手札に」

「さっき手札から捨てたやつか」

「パズブロックはドロー以外で手札に加わった時、特殊召喚できる」

 

 三角形のブロックが集まり、浮遊するオブジェを形作る。

 

「パズブロックの効果発動!」

 

L(リンク)ジェネレーター・パズブロック

効果モンスター

星1/地属性/サイバース族/攻 0/守 0

(1)このカードがドロー以外の方法で手札に加わった場合に発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。

(2)このカードが特殊召喚に成功した場合、自分の墓地のサイバース族リンクモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターと同じ属性のL(リンク)ジェネレーター・トークン(星1・サイバース族・攻/守0)1体を特殊召喚する。この効果発動後、ターン終了時まで、自分はサイバース族モンスターしか特殊召喚できない。

 

「墓地のインヴァリッド・ドルメンと同じ属性のトークンを生成。現れろ、我がサーキット!リンク召喚!L(リンク)ジェネレーター・アームズハンド」

 

 ブロックで出来たマジックハンドがアローヘッドより現れた。

 

L(リンク)ジェネレーター・アームズハンド

リンク・効果モンスター

地属性/サイバース族/攻 1000/LINK 2

【リンクマーカー:右/下】

サイバース族モンスター2体

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)墓地の「Lジェネレーター」モンスター以外のサイバース族リンクモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターをこのカードとリンク状態となるように特殊召喚する。

(2)このカードがサイバース族リンクモンスターと相互リンク状態の場合に発動できる。墓地からレベル4以下の「Lジェネレーター」モンスター1体を特殊召喚する。

 

「その効果で、墓地からインヴァリッド・ドルメンを特殊召喚!」

 

 空中に穴が開き、インヴァリッド・ドルメンが浮上する。

 

「さらにこのカードは相互リンク状態の時、墓地からレベル4以下のLジェネレーター・パズブロックを特殊召喚。さらにもう1体のパズブロックを特殊召喚。リンク召喚!」

 

 二体のパズブロックが、アローヘッドの中で混ざり二体目のアームズハンドが、インヴァリッド・ドルメンの左隣に現れる。

 

「スキル発動!マーカーズポータル!」

 

 すると、上空より矢が弧を描いて、スピードデュエルを繰り広げる二人の元へ降り注ぐ。

 

「何だ!?」

「デッキからリンク魔法(マジック)裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)を発動!」

 

裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)

リンク魔法

【リンクマーカー:左上/上/右上】

リンク魔法は自分のリンクモンスターのリンク先となる魔法&罠ゾーンにのみ発動できる。

(1)「裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)」は自分フィールドに表側表示で1枚しか存在できない。

(2)このカードのリンク先のリンクモンスターが戦闘を行う場合に発動できる。そのモンスターの攻撃力はダメージ計算時のみ倍になる。

(3)このカードがフィールドを離れた場合、このカードのリンク先のモンスターは墓地へ送られる。

 

「リンクマーカーを持つ魔法(マジック)だと!?」

「バトルだ。インヴァリッド・ドルメンで、スープレックスを攻撃!この瞬間、裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)の効果で、攻撃力は倍になる」

 

 攻撃力5600となったインヴァリッド・ドルメンが、その拳をスープレックスへ飛ばす。

 二つの拳に挟まれ、その体はあっけなく押しつぶされた。

 

 Go鬼塚:ライフ4000→200

 

「スープレックスの効果で、デッキから剛鬼カードを手札。そして俺はスキル、闘魂を発動!墓地から破壊されたスープレックスを特殊召喚」

 

 スープレックスがフィールドに守備表示で舞い戻る。

 

「だが、こちらにはまだ二体のモンスターがいる。これで終わりだ。アームズハンドでスープレックスを攻撃!」

 

 裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)の効果で攻撃力は2000。

 この攻撃が通れば鬼塚の負けだ。

 

「俺は手札から剛鬼アイアン・クローを墓地へ送り、効果発動!このターン、スープレックスの攻撃力は500アップする!」

 

 攻撃力2300となったスープレックスが、アームズハンドをわきで挟み、そのままへし折った。

 

 ブート:ライフ3400→3100

 

「我はこれでターンエンド」

 

ターン4

 

「決めるぞ!俺は剛鬼再戦を発動!墓地からツイストコブラとアイアン・クローを特殊召喚。現れろ、俺様のサーキット!」

 

 アローヘッドに、3体の剛鬼が飛び込む。

 

「リンク召喚!リンク3、剛鬼ザ・グレート・オーガ!」

 

 アローヘッドから大斧を携えて、黒い衣装を身にまとった剛筋の男が姿を現した。

 

「俺は墓地に送られた剛鬼の効果で、デッキから剛鬼カードをサーチ。そして手札の剛鬼ヘッドバットの効果!手札から剛鬼カード1枚を墓地へ送り、このカードを手札から特殊召喚!」

 

 紫のコウモリを模した衣装を着たレスラーが、グレート・オーガのリンク先に現れる。

 

「これでグレート・オーガの攻撃力は800アップだ!」

「だが、インヴァリッド・ドルメンの効果で、攻撃可能なモンスターは、ドルメンを攻撃しなければならない」

 

 裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)の効果で、インヴァリッド・ドルメンはダメージ計算時のみ、攻撃力が2倍になる。

 攻撃力3400となったグレート・オーガでも突破できない。

 

「ならば、現れろ、俺様のサーキット!召喚条件は、剛鬼モンスター2体以上!リンク召喚!出でよ、剛鬼ザ・マスター・オーガ!」

 

 アローヘッドより、黄金のマスクを被ったレスラーが華麗に登場した。

 

「俺はさらに、剛鬼フィニッシュホールドを発動!マスター・オーガの攻撃力を自身のリンクマーカーの数×1000アップする!」

「こ、攻撃力6800だと!?」

「バトルだ!マスター・オーガで、インヴァリッド・ドルメンを攻撃!」

 

 マスター・オーガがドロップキックで、インヴァリッド・ドルメンを打ち砕く。

 

 ブート:ライフ3100→1900

 

「そしてマスター・オーガは相手モンスター全てに1回ずつ攻撃できる!」

「なに!?」

 

 破壊されたインヴァリッド・ドルメンの破片を足場に、さらに高く跳ぶ。

 

「行け、マスター・オーガ!アームズハンドを攻撃!」

 

 そして、アームズハンドへと狙いを定めて、上空から両足をそろえて急降下。

 

「マスタードロップ!」

 

 彗星の如く勢いで放たれたドロップキックは、アームズハンドの体を貫通して、そのままアースの体も吹き飛ばした。

 

「ぐぁぁぁっ!」

 

 アース:ライフ1900→0

 

「勝者!Go鬼塚!素敵なショーをどうもありがとう!」

「おぉぉぉっ!」

 

 Go鬼塚の勝利に会場が湧く。

 デュエルの終わりを合図に、コースターの動きは緩やかになり、ウィングランのようにゆっくりとスタート地点へと戻っていく。

 

「みんな!ありがとう!」

 

 コースターの上で立ち上がり、大きく手を振る彼に、会場に集まった大勢のギャラリーから惜しみない拍手が送られる。

 そして、ステージの上に戻ってきた鬼塚に、八神はマイクを向けた。

 

「では鬼塚さん、何か一言!」

「みんなの応援のおかげで、LINK VRAINSを守ることができた。これからも、この俺、ナンバーワンデュエリスト、Go鬼塚を応援してくれ!」

 

 ヒーローインタビューにまた盛大な拍手が送られる。

 

「いやぁ、凄かったな!」

「LINK VRAINSオールスターをそろえてくるなんて、最高だな!」

 

 観客たちは口々に感想を言い合う。

 

「なぁ、これ今までの内容が全部イベントだって思われてるよな」

「まあ、騒ぎになるよりはいいんじゃないか」

 

 事情を知るプレイメーカー達は、とりあえず何事もなく終わったことにホッとしていた。

 

「以上を持ちまして、イベントを終了とさせていただきます。それではみなさん、これからもLINK VRAINSをどうぞよろしく!」

 

 八神の一言で締めくくり、最後にひと際大きな拍手が会場を包んだ。

 

「そういえば、アースは結局何しに来たんだ?」

「さぁ?」

 

 ◆

 

 その後、サイバース世界にて、

 

「アース。私は君になんと言ったかな?」

 

 ライトニングの前で、アースは正座させられていた。

 

「私はSOLテクノロジーの社運を賭けたイベントを潰せと命じたはずだが、どうして率先してイベントに参加して、あろうことかイベント盛り上げているんだ!」

「す、すまない……」

 

 アースはしょんぼりした顔で俯く。

 

「な、なぁライトニング、その辺にしといてやれよ」

「アースも反省していることですし」

 

 アクアとウィンディに諭され、ライトニングはため息を吐く。

 

「まあいい。SOLを潰すのは余興に過ぎない。計画はここからが本番だ。次は失敗するなよ。アース」

 

 そう言ってライトニングは消える。

 

 アースはまだ落ち込んでいるのか、正座したまま動かない。

 

「な、なあいい加減元気出せよ」

「そうです。失敗は誰にでもあります」

「ありがとう。二人とも……」

 

 優しい仲間達の言葉に、アースは涙を流したのだった。

 

 ◆

 

 イベント終了後、人がまばらになった頃に、特設ステージの裏手で、八神はビショップと連絡を取っていた。

 

「地のイグニスの捕獲はよろしかったのですか?」

『構わん。無理にことを進めてイベントが失敗すれば元も子もない。今は会社の信用回復が優先だ』

「そうですね。イベントの成功は彼の功績といっても過言ではありません」

 

 結果的にイベントは大いに盛り上がり、新エリアの宣伝としては大成功だろう。

 

「まあイベントデュエルは、一部デュエリストから不評だったようですが……」

 

 終始文句を言っていたゴッドバードの顔を思い浮かべて、八神は苦い顔をする。

 

『アトラクションとして正式に実装するまでに、改善点を洗い出しておけ』

「かしこまりました」

 

 電話越しに彼女は頭を下げた。

 

『ブラッドシェパード共々、君の働きには期待しているよ。これからも頑張りたまえ』

「もちろんです。私はビショップ様の"ナイト"ですから」

 

 八神零那のアバターが一瞬だけ、ナイトのチェス駒に変化した。




原作では大した活躍もないまま退場したチェス駒三人衆(勝手に名付けた)の正体の二人目がついに判明
ナイトこと八神さんの活躍にご期待ください


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第29話:Battle Drone Assault

 SOLテクノロジー社、幹部室。

 

 ビショップの前に二人の人物が立っていた。

 財前晃と、ビショップの秘書、八神零那である。

 

「先日のイベントはご苦労だった」

 

 二人に労いの言葉を贈ると、彼らは一様に頭を下げた。

 

「さて、君達のおかげでLINK VRAINSのアクティブユーザー数は回復した。新規の登録者も増加傾向にある。財前君」

「はっ!」

 

 ビショップに呼ばれて、晃は一歩前に出る。

 

「ユーザーが増えたということは、サーバーの強化も必要になる」

「はい。既に準備を進めております」

「よろしい。今度海外の仮想空間サービスとも提携することとなった。それに伴って保守体制の見直しも行いたい」

「かしこまりました」

「以上だ。では、仕事に戻ってくれ」

「失礼します」

 

 業務連絡を済んだところで、晃は部屋を出て行った・

 

「八神君。君には鴻上レポートの捜索を頼んでいたな」

「はい。現在、LINK VRAINSへのスキャンを続けていますが、中々見つからず……」

 

 八神は申し訳なさそうに、頭を下げる。

 

「構わん。レポートはあくまでサブプラン、イグニスそのものが手に入れば必要はない」

「そういえば、差し支えなければ教えていただきたいのですが、以前サイバース世界から回収したレポートナンバー7には何が書かれていたのですか?」

 

 それを聞かれて、ビショップは神妙な面持ちとなる。

 

「そうだな。プロメテウスの神話を知っているか?」

 

 突然ビショップはそんな話を振ってきた。

 

「あー、ギリシャ神話の神様ですよね。確かゼウスの忠告を無視してヘパイストスの炉から火を盗み、人類に火を与えたとかいう」

「ヘリオスの馬車からなど、火の出処には諸説あるがそれはともかく、火を与えられたことで人類は発展した。だが、同時に武器を作ることを覚え、争うようになった。身に余る力はその身を滅ぼすということだな」

 

 八神はビショップが何を言いたいのかピンと来ていない様子だ。

 

「イグニスとはまさに、プロメテウスの与えた火だと、彼のレポートにはそう綴られていた」

「はぁ……」

 

 八神はよくわかっていなかったので、それ以上聞くのは止めた。

 

「さて、君はレポートの捜索と並行して、イグニスの動きを監視してくれ」

「かしこまりました」

 

 ◆

 

 八神が幹部室を出ると、部屋の前に一人の男が立っていた。

 

 190センチはある長身にダークブルーのコートを羽織り、口元はマフラー、瞳はサングラスで隠している。

 

「道順さん、どうかなさったのですか?」

 

 すると、道順は右掌を返して、そこにどこからか飛んできた小型のドローンを着地させた。

 

「鴻上レポートとはなんだ?」

「なるほど、それで盗聴していたと」

 

 八神は質問には答えずに、うんうんと納得したように頷く。

 すると、道順は彼女に一歩近付く。

 

「答えろ」

「……かつて、SOLテクノロジーに勤めていた優秀な科学者がいました。彼は意思を持つAI、イグニスを生み出した。彼らの生み出した莫大なデータマテリアルを独占した我が社はこの十年で大きく成長した」

「その科学者というのが鴻上か」

「はい。我々は彼の遺したレポートを探しています。彼は天才でしたから。その英知は誰もが欲しがるでしょう」

 

 すると、彼女は腰をぐっと曲げてかがみ、彼の顔を覗き込む。

 

「しかし意外ですね。あなたは仕事に余計な興味や感情は抱かないタイプだと思っていましたが」

「別に。ただ鴻上という名前には憶えがあっただけだ」

 

 用は済んだとばかりに、道順は八神に背を向ける。

 

「ちなみにもう一つ耳寄りな情報が、プレイメーカー達はレポートを探しています」

「そうか」

「彼をおびき出すなら協力してあげますよ? 部下が仕事しやすいように環境を整えるのも、上司の役目ですから」

「俺はお前の下についた覚えはない」

 

 道順は彼女の方を向き、サングラスの奥から睨みつける。

 

「AIに与する者に、俺は従う気はない」

 

 その瞳は、黒面越しでも分かるほどに憎悪に燃えていた。

 

 ◆

 

「よう藤木!」

 

 朝、教室に入るといつになく上機嫌な島が遊作に声をかけてきた。

 

「昨日のイベント凄かったよな」

「そうだな」

 

 イベントの話をすると、近くの席に座っていた葵が露骨に不機嫌そうな顔をする。

 

「(財前のやつ、まだ引き摺ってたのか)」

「(まああんな負け方をすりゃあな)」

 

 遊作とAiは島に聞こえないようにそう呟くと、自分の席に着く。

 

「カリスマデュアリスト四人にプレイメーカーとゴッドバードまで!見に行ってよかったぜ。ありがとな財前」

「え、えぇ……」

 

 複雑な心境の葵は、島に苦笑いを返す。

 

「つーか、財前も藤木も、イベントの間どこ行ってたんだよ」

「見やすいところで見てたんだ。なあ?」

「うん」

 

 遊作が適当な言い訳をして、葵もそれに乗っかる。

 

「何だよ。特等席があんなら教えてくれてもよかっただろ。まあいいや、それよりこいつを見ろ」

 

 島はタブレットの画面を二人に向ける。

 映っていたのはネットの掲示板だ。

 

「LINK VRAINS都市伝説まとめ?」

 

 どうやらネットの噂について集めた板らしい。

 

「これがどうしたの?」

「最近流行ってるんだよ。聞いたことねぇか? LINK VRAINSに彷徨う科学者の亡霊とか、プレイメーカー複数人説とか」

「ないな……」

 

 自分が妙な噂のネタになっていることに、遊作は眉をひそめた。

 

「他にもブルーエンジェル偽乳疑惑とか」

「……」

「それで、本題は?」

 

 この話題を掘り下げると自分も葵もやばそうだと判断した遊作は、島に話を進めるよう促す。

 

「ここで一番ホットな話題、聞いたことないか? LINK VRAINSに眠るお宝」

 

 二人は首を振る。

 

「じゃあ俺が解説して……」

「なになに何の話~?」

 

 すると、ちょうど登校してきた切花、島に見せつけるように胸を揺らしながら近付いてきた。

 

「き、切花ちゃん。今LINK VRAINSの都市伝説の話をしてたんだよ」

「面白そう!ボクにも教えて!」

 

 切花に興味を持たれたことで、島は興奮で鼻息が荒くなる。

 

「よーし、んじゃ話すぞ。LINK VRAINS、つーか仮想空間はいくつかのレイヤーでできてるってのは知ってるよな?」

「ああ」

 

 仮想空間はいくつかのレイヤーと呼ばれる層で構成されている。

 アバターのいるレイヤー、建物のレイヤー、背景など、様々なレイヤーが重なって、まるで本物のような世界を作り上げている。

 

「その通常のレイヤーの下に、隠されている秘密のデータがあるらしい」

「隠しレイヤーか……」

「その隠しレイヤーにはなにがあるの?」

「噂じゃSOLテクノロジーに買収された企業が遺したLINK VRAINSの自爆装置とか、SOLテクノロジーの過酷な労働環境で過労死した社員の遺書だとか、はたまたNASAの機密文書だとか、色々言われてるな」

 

 その中身についての考察は無茶苦茶だが、しかし全く根も葉もない噂というわけではない。

 現に遊作達は、隠しレイヤーに眠っている鴻上博士のレポートを見つけている。

 

「何か場所についての情報はないか?」

「お、珍しく食い付いたな。スレだと、ビジネスエリアが怪しいとか言われてるな。なんかSOLの警備AIの巡回が増えたとかなんとか」

 

 それを聞いて遊作と葵は顔を見合わせた。

 

 ◆

 

 そして放課後、プレイメーカーとブルーエンジェルは二人でLINK VRAINSのビジネスエリアにやってきた。

 

 企業向けに貸し出されているエリアで、主に仮想オフィスや企業説明会の会場として利用されている。

 

「プレイメーカー、何か感じる?」

「……あぁ」

 

 Dボードに乗って、ビルの立ち並ぶエリア上空を飛び、彼らはある場所に到着した。

 

 それはビル群のうち、一番高いものの屋上だ。

 

「Ai、この辺りだ」

「オッケー」

 

 Aiがデュエルディスクから飛び出し、そこら辺に腕を伸ばす。

 

「おっ!」

 

 すると、Aiの手元で木枯しのような小さなデータストームが起こる。

 風の中から、カードの形をした一枚のデータが現れた。

 

「よっしゃ、んじゃ早速……」

「待て!Ai!」

 

 Aiが手を伸ばそうとしたその時、プレイメーカーは咄嗟に後ろに飛ぶ。

 

 次の瞬間、データのあった場所で爆発が起こる。

 

「あぁ、鴻上レポートが……」

「誰だっ!」

 

 落ち込むAiをよそに、攻撃が来た方を向く。

 

「見つけたぞ。プレイメーカー」

 

 斜め上空に、Dボードに乗った一人の男がいた。

 紫のテンガロンハットを被り、鋼鉄の右手を銃のように地上のプレイメーカー達に突きつけている。

 

「お、お前は!」

「知ってるのか?」

「あぁ。前に美海とレポートを探してた時に会ったぜ。SOLの傭兵デュエリスト、ブラッドシェパードだ」

「あいつが?」

 

 その時の話は彼らも聞いている。

 ゴッドバードの師匠であり、ファウストとゲノムを一人で相手取り、ワンターンキルを決めた男。

 

「イグニスを渡せ」

 

 再び右手から光弾が放たれる。

 

「くっ、ブルーエンジェル!」

 

 プレイメーカーは急いでレポートを回収し、ブルーエンジェルに投げる。

 

「それを持って逃げろ」

「え、でも……」

「早く!」

「わ、分かった」

 

 プレイメーカーに促され、ブルーエンジェルはDボードでその場から逃走する。

 それを見て彼もDボードに乗り、ブルーエンジェルとは逆方向に飛ぶと、ブラッドシェパードはプレイメーカーの方を追いかける。

 

「気をつけろ。こいつとんでもなく強いぞ」

「あぁ。だがやるしかない」

 

 お互いにデュエルディスクを構える。

 

「「スピードデュエル!」」

 

 ブラッドシェパードとプレイメーカーのデュエルが始まると、その様子をさらに上からDボードに乗って見物する人物がいた。

 

 濃い赤とオレンジが交じり合ったような髪色に紫紺の瞳、胸元の大きく開いたワインレッドスーツを着た女性。

 

「お手並み拝見ですね。道順さん」

 

 その女性、ナイトは静かにデュエルを見守った。

 

ターン1 ブラッドシェパード

 

「ドローン・ポーンを召喚」

 

ドローン・ポーン

効果モンスター

星1/風属性/機械族/攻 600/守 600

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「ドローン」魔法・罠カード1枚をセットする。

(2)このカードの戦闘によって自分がダメージを受けた場合に発動できる。そのバトルフェイズ終了時、ダメージの数値分だけLPを回復する。

 

「このカードが召喚に成功した時、デッキからドローン罠カード1枚を手札に加える。俺はカードを2枚伏せて、ターンエンド」

 

ターン2 プレイメーカー

 

「俺は自分フィールドにモンスターが存在しない時、リンクスレイヤーを特殊召喚」

 

 ヤマネコを象った黄色い鎧を着た戦士がフィールドに現れる。

 

「自分フィールドにサイバース族モンスターが存在する時、手札のバックアップ・セクレタリーを特殊召喚」

 

 バイザーを装着した少女が、その隣に現れる。

 

「さらにコード・ジェネレーターを通常召喚。現れろ、未来を導くサーキット!」

 

 プレイメーカーが手を伸ばす先に光が駆け、空にアローヘッドを作り出す。

 

「召喚条件はサイバース族2体!リンク召喚!リンク2、スプラッシュ・メイジ!」

 

 白いローブを纏った電脳の魔術師が現れ、その杖を振るう。

 

「効果で、墓地からバックアップ・セクレタリーを特殊召喚。現れろ、未来を導くサーキット!召喚条件は効果モンスター2体以上!俺はリンク2のスプラッシュ・メイジと、コード・ジェネレーターをリンクマーカーにセット!」

 

 再び現れたアローヘッドに、スプラッシュ・メイジとコード・ジェネレーターが赤い光となって飛び込み、そこに矢印を描く。

 

「リンク召喚!リンク3、トランスコード・トーカー!」

 

 アローヘッドからオレンジの角ばった鎧をまとった、電脳の戦士が姿を現した。

 

「リンク素材となったコード・ジェネレーターの効果で、デッキから攻撃力1200以下のサイバース族モンスター1枚を手札に加える。そしてトランスコード・トーカーの────」

「そこまでだ。俺は永続(トラップ)、キャプチャー・ドローンを発動!」

 

 トランスコード・トーカーの周りに、棒の先端に円形のプロペラがついたようなドローンが三機、出現した。

 

「相手のリンクモンスター1体の効果を無効にする」

 

 ドローンが金属の粉を撒くと、トランスコード・トーカーの動きが鈍くなり、やがてその目から光は消えて動かなくなる。

 

「さらにこのカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、そいつはリリースできず、リンク素材にもできない」

 

キャプチャー・ドローン

永続罠

自分フィールドに「ドローン」モンスターが存在する場合、相手フィールドのリンクモンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。

このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、対象のモンスターの効果は無効化され、リリースできず、リンク素材にもできない。対象のモンスターがフィールドを離れた場合、このカードは破壊される。

(2)このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、相手のリンクモンスターは攻撃できない。

(3)自分のメインフェイズに発動できる。対象のモンスターのリンクマーカーの数までの任意の数だけ、自分フィールドに「ドローントークン」(機械族・風・星1・攻/守0)を特殊召喚する。

 

「そしてこいつがフィールドにある限り、相手のリンクモンスターは攻撃できない」

「くっ、なら俺はアドラ・ブロッカーを特殊召喚」

 

 フィールドに首が二又に分かれた蛇のようなモンスターが出現する。

 

「こいつは自分のリンクモンスターのリンク先に特殊召喚できる。現れろ、未来を導くサーキット!リンク召喚!リンク2、ペンテスタッグ!そのままリンクマーカーにセット!リンク召喚!セキュア・ガードナー!」

 

 両肩に盾を装備したロボットが出現した。

 

「俺はカードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

ターン3

 

「俺はキャプチャー・ドローンの効果発動。発動時に対象としたリンクモンスター、つまりトランスコード・トーカーのリンクマーカーの数だけ、ドローントークンを特殊召喚」

 

 ブラッドシェパードのフィールドに、竹とんぼのような小型のドローンが三機出現する。

 

「現れろ、勝利を導くサーキット!」

 

 ブラッドシェパードが右手をピストルの形にして構えると、その指差す先にアローヘッドが二つ出現する。

 

「リンク召喚!バトルドローン・サージェント、バトルドローン・ウォラント!」

 

 ドローンはアローヘッドをくぐって改修され、二機の戦闘機へと姿を変えて発進した。

 

「さらにリンク召喚!ウォラントとサージェントをリンクマーカーにセット!」

 

 そのまま二機は前方に現れたアローヘッドに突入し、一機の黒い戦闘機へと姿を変える。

 

「出撃せよ、リンク3!バトルドローン・ジェネラル!」

 

バトルドローン・ジェネラル

リンク・効果モンスター

風属性/機械族/攻 2400/LINK 3

【リンクマーカー:左/右/下】

「ドローン」モンスター2体以上

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分のメインフェイズに発動できる。墓地から元々の攻撃力が2000以下の「ドローン」モンスター1体を特殊召喚する。

(2)自分のレベル4以下の攻撃力1000以下の「ドローン」モンスター1体を対象として発動できる。このターン、そのカードは直接攻撃できる。

(3)自分の「ドローン」モンスターが直接攻撃で相手に戦闘ダメージを与えた場合、そのモンスターをリリースして発動できる。そのモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える。この効果を3回以上適用したターン、このカードは直接攻撃できる。

 

「俺は墓地のウォラントの効果発動」

 

バトルドローン・ウォラント

リンク・効果モンスター

風属性/機械族/攻 1200/LINK 2

【リンクマーカー:左/下】

「ドローン」モンスター2体

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分のリンク1の「ドローン」モンスターが直接攻撃で相手に戦闘ダメージを与えた場合に発動できる。このターン、このカードは直接攻撃できる。

(2)このカードが墓地に存在し、自分のモンスターがEXモンスターゾーンの「ドローン」リンクモンスターのみの場合に発動できる。このカードを墓地からそのモンスターのリンク先に特殊召喚する。この効果発動後、ターン終了時まで、自分は「ドローン」モンスターしか特殊召喚できない。

 

「自身を特殊召喚。さらにサージェントの効果発動!」

 

バトルドローン・サージェント

リンク・効果モンスター

風属性/機械族/攻 800/LINK 1

【リンクマーカー:下】

レベル4以下の「ドローン」モンスター1体

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分のリンクモンスター以外の「ドローン」モンスターが相手に直接攻撃で戦闘ダメージを与えた場合に発動できる。このターン、このカードは直接攻撃できる。

(2)このカードが墓地に存在する状態で、自分のリンク2以上の「ドローン」リンクモンスターが効果で特殊召喚された場合に発動できる。このカードを墓地から特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたこのカードはリンク素材にできず、エンドフェイズに除外される。

 

「カード効果でドローンリンクモンスターが特殊召喚された時、自身を墓地から特殊召喚!さらにジェネラルの効果で墓地のドローン・ポーンを特殊召喚」

 

 ブラッドシェパードのフィールドが一気に、四機のドローンで埋まった。

 

「ドローン・ポーンの効果で、デッキからドローン・カタパルトを手札に加えて、発動」

 

ドローン・カタパルト

永続魔法

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれフェイズ毎に1度しか使用できない。

(1)自分のメインフェイズ及びバトルフェイズに発動できる。手札から「ドローン」モンスター1体を特殊召喚する。

(2)自分の「ドローン」モンスターが直接攻撃で相手に戦闘ダメージを与えた場合、このカードを墓地へ送って発動できる。相手に1000ダメージを与える。

 

「ジェネラルの効果発動。ドローン・ポーンはこのターン、ダイレクトアタックができる」

「来るぞ!プレイメーカー!」

「バトルだ!ドローン・ポーンでダイレクトアタック!」

 

 ドローン・ポーンが飛翔して、プレイメーカーに迫る。

 

(トラップ)カード!スリーフェイト・バリア!」

 

スリーフェイト・バリア

通常罠

(1)以下の効果から1つを選択して発動できる。

●このターン、自分のモンスターは戦闘・効果で破壊されない。

●このターン、自分はダメージを受けない。

●このターン、自分のモンスター1体は1度だけ戦闘で破壊されず、その戦闘によって戦闘ダメージを受けるかわりに、その数値分、自分のライフを回復する。

(2)自分がダメージを受けた場合、墓地のこのカードを除外して発動できる。このターン、自分が受ける効果ダメージは0になる。

 

「このターン、俺はダメージを受けない!」

 

 プレイメーカーの前に、黄色いバリアが展開される。

 

「そうは行くか!俺は手札のドローン・チャフの効果発動!」

 

ドローン・チャフ

効果モンスター

星1/風属性/機械族/攻 600/守 100

このカード名の(2)の効果は同一チェーン上で1度しか発動できない。

(1)以下の効果を含む相手の効果が発動した時、手札からこのカードを捨てて発動できる。その効果を無効にする。

●「ダメージを受けない」効果

●ダメージを減らす効果

●バトルフェイズを終了させる効果

●「攻撃できない」効果

(2)自分の「ドローン」モンスターが相手に直接攻撃で戦闘ダメージを与えた場合に発動できる。このカードを手札・墓地から特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたこのカードは、このターン、直接攻撃ができ、フィールドを離れた場合、除外される。

 

「このカードを手札から捨てることで、その効果を無効にする!」

 

 しかし、バリアはノイズを吐きながら消滅。

 ドローン・ポーンによるダイレクトアタックをもろに喰らってしまう。

 

 プレイメーカー:LP4000→3400

 

「バトルドローン・ジェネラルの効果発動!自分のドローンがダイレクトアタックでダメージを与えた時、リリースすることで、その元々の攻撃力分のダメージを与える!」

「墓地のスリーフェイト・バリアの効果発動!自分がダメージを受けた時、このカードを除外することで、このターン、俺が受ける効果ダメージは0になる!」

 

 ドローン・ポーンが警告音を吐きながらプレイメーカーに迫るが、爆発する直前に球体状のバリアが展開され、プレイメーカーを守った。

 

「なら墓地のドローン・チャフの効果発動!ドローンがダイレクトアタックで戦闘ダメージを与えた時、自身を墓地から特殊召喚。サージェントで攻撃!サージェントは自分のリンクモンスター以外のドローンがダイレクトアタックで戦闘ダメージを与えた時、ダイレクトアタックできる!」

 

 続けて白い戦闘機がプレイメーカーへ突っ込む。

 

 プレイメーカー:LP3400→2600

 

「サージェントをリリースして、貴様に攻撃力分のダメージ」

 

 サージェントを自爆させるが、既にスリーフェイト・バリアの墓地効果は発動しているため、ダメージはない。

 

「ウォラントの効果発動!自分のリンク1のドローンがダイレクトアタックで戦闘ダメージを与えた時、このカードはダイレクトアタックできる!」

 

 プレイメーカー:LP2600→1400

 

「ウォラントをリリースして、その元々の攻撃力分ダメージ」

 

 ウォラントは自爆するが、ダメージはない。

 だがブラッドシェパードの狙いはダメージではなかった。

 

「ジェネラルの効果発動!ジェネラルのリリースする効果を3回以上適用したターン、このカードはダイレクトアタックできる!終わりだ!ジェネラルでダイレクトアタック!」

 

 最後にジェネラルの突撃。

 これで終わったかに見えたが、

 

「俺は墓地のアドラ・ブロッカーの効果発動!」

 

 ジェネラルの前に、リンク素材となっていた双頭の蛇が立ちふさがり、その二本の首を繋いでバリアを作り出す。

 

アドラ・ブロッカー

効果モンスター

星2/水属性/サイバース族/攻 300/守 1500

(1)自分のリンクモンスターのリンク先に、このカードは手札から特殊召喚できる。

(2)自分または相手のモンスターの攻撃宣言時に墓地のこのカードを除外し、フィールドのサイバース族モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターはこのターンに1度だけ戦闘では破壊されず、このターンそのモンスターのコントローラーが受ける戦闘ダメージは1度だけ0になる。

 

「トランスコードを対象に、このターン、対象のモンスターは1度だけ戦闘で破壊されず、そのコントローラーが受けるダメージも1度だけ0になる!」

 

 ジェネラルの攻撃は、アドラ・ブロッカーが作り出した障壁に阻まれた。

 

「ならドローン・チャフでダイレクトアタック!」

 

 プレイメーカー:LP1400→800

 

「ふぅ……どうにか凌いだな」

 

 Aiが安堵の表情を浮かべると、ブラッドシェパードは鼻で笑う。

 

「誰が終わりだと言った。俺はドローン・カタパルトの効果発動!手札からドローン・コーポラルを特殊召喚!」

 

 カタパルトから上部に大砲がついたドローンが射出される。

 

ドローン・コーポラル

効果モンスター

星4/地属性/機械族/攻撃 1600/守 1000

(1)このカードは直接攻撃できる。このカードが直接攻撃で相手に与える戦闘ダメージは半分になる。

(2)このカードがフィールドに表側表示で存在する限り1度、自分フィールドの「ドローン」モンスターが相手の効果の対象になった場合に発動できる。その効果を無効にする。このターン、自分フィールドの「ドローン」モンスターは相手の効果の対象にならない。

 

「バトルだ!ドローン・コーポラルで、ダイレクトアタック!」

 

 ドローン・コーポラルの主砲がプレイメーカーに狙いを定める。

 

「俺はセキュア・ガードナーの効果!戦闘ダメージを0にする!」

 

 コーポラルの放った砲撃は、セキュア・ガードナーが自身の肩に装着された盾を取り外し、その身を挺して防ぐ。

 

「なら俺はスキル、ファイナルミッションを発動!このターンに既に攻撃を行っている攻撃力1000以下のモンスター1体の再攻撃とダイレクトアタックを可能にする!行け、ドローン・コーポラル!」

 

 ドローン・コーポラルの主砲に再度エネルギーがチャージされる。

 

「これで終わりだ!」

 

 発射。

 

 小さな機体から放たれた大エネルギーがプレイメーカーの体を撃ち抜いた。

 

「……何?」

 

 プレイメーカー:LP800→400

 

「俺は手札のパネル・ガードナーの効果を発動していた」

 

パネル・ガードナー

効果モンスター

星3/地属性/サイバース族/攻 1000/守 1400

(1)相手モンスターが攻撃して戦闘を行うダメージステップ開始時に発動できる。このカードを手札から特殊召喚し、その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは半分になる。

(2)1ターンに1度、このカードは戦闘で破壊されない。

(3)このカードをリンク素材にしたサイバース族リンクモンスターは、1ターンに1度、戦闘で破壊されない。

 

「その効果でこいつを特殊召喚し、戦闘ダメージを半分にした」

「ほう……俺はこれでターンエンド」

 

 ブラッドシェパードは感心したように呟き、ターンを終えた。

 

「俺の攻撃を1ターンでも凌いだのはお前で三人目だ。だが次はないぞ」

「……だろうな」

 

 先程の怒涛の攻撃、それを次のターンも凌ぐ余力など、プレイメーカーには残っていなかった。そもそもいつもの(・・・・)プレイメーカーのデッキでは、このターンすら防ぎきることなどできなかっただろう。

 

 

ターン4

 

「Ai、デュエル直前で俺のデッキを弄っただろ」

 

 先程プレイメーカーが使用したアドラ・ブロッカー、パネル・ガードナー。これらは二枚とも彼がその存在を把握していないカードだった。

 

「ブラッドシェパードの戦術が分かってたからな。ダメージを防ぐカードを多めにしておいたんだよ。おかげで1ターン凌げただろ?」

「あぁ。だが状況はよくない」

 

 現在彼のフィールドには、効果も使えず、リンク素材にもできないトランスコード・トーカーと、そのリンク先のセキュア・ガードナー、そして先程特殊召喚したパネル・ガードナー。

 キャプチャー・ドローンの効果でリンクモンスターは攻撃できないうえに、EXモンスターゾーンとリンク先は埋まっているせいで、他のエクストラモンスターに頼ることもできない。

 

「早くしろ。お前のターンだぞ」

 

 ブラッドシェパードにせかされて、プレイメーカーはデッキのカードに手をかける。

 

「くっ、俺のターン!」

 

 引いたカードを見て、プレイメーカーは目を見開く。

 

「Ai、こんなものまで……」

「いいカードが引けたじゃねぇか」

「だが、俺のデッキにこのカードを使えるモンスターは……」

 

 その時、プレイメーカーの前方に風が吹く。

 

 見ると、データストームが轟音を上げながらこちらに迫っていた。

 

「引けばいい、ということか……」

 

 プレイメーカーはDボードを加速させ、データストームの中に突っ込む。

 

「自分のライフが1000以下の時、データストームの中から、ランダムなサイバース族モンスター1体を手札に加える!風を掴め、プレイメーカー!」

「スキル発動!ストームアクセス!」

 

 風の中から、プレイメーカーはそのカードを掴んだ。

 

「いくぞ!俺はまずはクロック・ワイバーンを召喚!」

 

 紫の翼を輝かせる小型の飛竜が出現する。

 

「クロック・ワイバーンの効果!このカードの攻撃力を半分にし、クロックトークンを特殊召喚。現れろ、未来を導くサーキット!」

 

 クロックトークンとパネル・ガードナーがアローヘッドに吸い込まれる。

 

「リンク召喚!リンク2、ハニーボット!」

 

 トランスコード・トーカーのリンク先で、蜜蜂を模した衣装の女性が舞う。

 

「そして魔法カード、サイバネット・フュージョンを発動!」

「なに!?」

「手札とフィールドからモンスターを墓地へ送り、融合させる!俺はクロック・ワイバーン、トランスコード・トーカー、ハニーボット、セキュア・ガードナーの4体を融合!」

 

 4体のモンスターが光の粒子となって渦巻き、眩い銀河の如く流転する。

 

「今、雄大なる翼のもとに集いしつわもの達よ、新たなる伝説となれ。融合召喚!」

 

 光が爆ぜる。

 

「出でよ、レベル7!サイバース・クロック・ドラゴン!」

 

 現れたのは光の翼を広げる、紫紺の水晶で覆われた体を持つ電子の竜だった。

 

「サイバース・クロック・ドラゴンの効果!このカードが融合召喚に成功した時、融合素材となったリンクマーカーの数だけデッキからカードを墓地へ送り、その枚数×1000攻撃力をアップする!」

 

 リンクマーカーの合計は6、よって攻撃力は6000アップし、8500まで上昇する。

 

「バトルだ!サイバース・クロック・ドラゴンで、バトルドローン・ジェネラルを攻撃!」

 

 サイバース・クロック・ドラゴンの口にエネルギーが集まる。

 

「パルスプレッシャー!」

 

 ◆

 

「逃げられてしまいましたね」

 

 デュエルが終了し、プレイメーカーが去った後にナイトがブラッドシェパードに近付いてきた。

 

「見ていたのか」

「はい。いやー惜しかったですね。後ちょっとだったんですけど」

「次は仕留める」

 

 ブラッドシェパードは彼女に背を向けてログアウトする。

 

「ビショップ様、いかがなさいますか?」

 

 ナイトは右手の指を耳に当て、現実世界にいる上司へ連絡を取る。

 

「……えぇ、はい。かしこまりました」

 

 ナイトは通信を終えると、ログアウトした。



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第30話:Go courage play

 ある日、デュエル部の部室で、葵は机の上に広げた自分のデッキとにらめっこしていた。

 

「何してるんだ?」

「ああ藤木くん」

 

 葵は顔を上げる。

 遊作はその向かいに腰を下ろし、鞄を脇に置いた。

 

「デッキを強化しようと思って」

 

 彼女は自分のデッキをまとめて遊作に渡す。

 

「今のままでも十分だと思うが」

 

 遊作は一通りデッキの中身を確認して、彼女のデッキをそう評した。

 

「ううん。このままじゃダメだと思う。現に私は……」

 

 ハノイの塔事件でジャックナイフに敗北した。

 さらに先日のブラッドシェパードに襲われた時も、遊作に逃がされただけでなんの役にも立たなかった。

 それらのことが、彼女に焦燥感を抱かせていた。

 

「分かった。だがどう強化するか……」

「例えば新しい召喚法を組み込むとか。藤木君は、リンク召喚以外も使ってるでしょ?」

「あぁ」

 

 先日ストームアクセスにより入手した融合モンスターのサイバース・クロック・ドラゴンをはじめ、シンクロのサイバース・クアンタム・ドラゴン、エクシーズのファイアウォール・X・ドラゴン。

 一応、一通りの召喚法はマスターしていることになる。

 

「あんまり周りにも、リンクモンスター以外を使う人って少ないのよね」

「確かに、LINK VRAINSのトップ層はリンクモンスターを使うデッキが多いからね」

 

 そこに、尊と美海が部室にやってきた。

 

「尊、なんでリンクモンスターを使うやつが多いんだ?」

「そこは流行り廃りの問題じゃないかな」

 

 彼らも近くに座り、いつもの四人で固まった。

 

「私もリンクモンスターしか使ったことないから。他の召喚法のことはあんまり分かんなくて。ねぇ藤木くん、よかったら────」

「それなら僕に任せてくれ」

 

 その時、彼らの会話に一人の男が割り込んできた。

 セルフレームの眼鏡をかけて、遊作達とは色の違うネクタイをきっちり占めた男子生徒だった。

 

「水亀先輩」

「君達のその向上心を汲んで、今日のミーティングは特殊召喚法にしよう」

 

 水亀部長はノリノリで電子黒板の前に立つ。

 

「あの人、デュエルのことになると人が変わるよね」

「そうだな」

 

 水亀部長によって電子黒板に二枚のカードが映し出される。

 一枚は紫の枠のカードで、飛竜の上に青い鎧の戦士が、二本の槍を携えてまたがったイラストが描かれている。

 もう一枚は魔法カード、渦巻きのような模様の上に、ドラゴンと悪魔の影のようなものが吸い込まれている様子が描かれている。

 

「まずは融合召喚。その名の通り、魔法カードの力で複数のモンスターを融合させることで、より強力なモンスターを呼び出す召喚法だ」

「ゆ、融合……」

 

 葵がその単語に反応して頭を抱える。

 以前、ジャックナイフにボコボコにされた時のトラウマが響いているのだろう。

 

「はいはい部長!」

 

 すると、切花が手を上げて発言権を要求する。

 

「融合魔法を使わない融合もあるよね?」

「そうだ。よく知ってるね」

「えへへ」

 

 それを聞いて、Aiはジャックナイフのことを思い出す。

 

「あいつも融合魔法じゃなくて、あのワンちゃんの能力で融合してたな」

「超融合は使ってたがな」

 

 Aiと遊作は他の生徒に聞こえないように小声で話す。

 

「例えば、今映っている竜騎士ガイアなら、攻撃力2300の暗黒騎士ガイアと、攻撃力2000のカース・オブ・ドラゴンを融合させることで、攻撃力2600のモンスターにする」

「なんでその二体で2600にしかならないんだ?」

「きっと馬の方が攻撃力高いんだろう」

 

 島の素朴な疑問に、遊作が適当に返した。

 

「続いてシンクロ召喚」

 

 画面が切り替わり、今度は白い枠のカードと、テキストにチューナーと記載されたモンスターの二枚が表示される。

 

「チューナーと呼ばれるモンスターを、チューナー以外のモンスターのレベルと足し合わせ、高レベルのモンスターに変える召喚法だ」

「美海が使ってるやつよね?」

「まあ私はチューナー使いませんけど」

「そしてエクシーズ召喚」

 

 また画面が切り替わり、今度は黒い枠のカードが表示された。

 

「同じレベルのモンスターを重ねて、その上に重ねて出す召喚法だ。これまでの融合、シンクロとは違い、素材が墓地へ行かず、そのままカードの下に重ねられるのが特徴だ」

「ゴッドバードが使ってましたよね!」

 

 きっとイベントの時のことでも思い出しているのだろう。

 島が興奮気味に言う。

 

「そうだな。まあもっとも、彼はレベルを持たないリンクモンスターを素材にするうえに、モンスターの数も何もかも無視するが」

(あれ? まともな使い方してるのって藤木くんだけ?)

 

 三者三様に変化球な召喚法を使う知り合い(敵を含む)を思い浮かべて、葵はそんなことを思った。

 

「後はこれらとは少し毛色が異なるが、ペンデュラム召喚というのもある」

 

 魔法カードと効果モンスターが混じったようなフレームのカードが2枚、画面上に表示される。

 

「ペンデュラムゾーンという場所に異なるペンデュラムスケールのカードを2枚置くことで、そのスケールの数字の間のレベルモンスターを何体でも特殊召喚できるというものだ。倒されてもエクストラデッキに送られ、再度ペンデュラム召喚で復活させられるのが特徴だね。まあペンデュラム召喚はそれ専用のデッキを作る必要があるから、今のデッキを強化したい財前君の要望からそれてしまうが」

「有名なデュエリストだと、カゲロウが使ってますね」

「そうだ。ペンデュラム召喚は一度に複数のモンスターを呼び出せるから、他の召喚法に繋げるのに適している。実際カゲロウもそういう使い方をしているしね」

 

 カゲロウはおそらく、LINK VRAINSの上位ランカーの中では唯一リンク召喚以外の召喚法を使うデュエリストだろう。

 

「それとエクストラデッキのカードではないが、儀式召喚」

 

 青い枠のカードと、その隣に物々しいイラストの魔法カードが表示される。

 

「儀式魔法カードを使うことで、自分のモンスターを生贄に儀式モンスターを呼び出す。他の召喚法に比べるとカードの消費が激しいから、組み込むならある程度、それに寄せた構築にする必要があるね」

 

 一通りの説明を終えると、水亀部長は部室の棚からカードバインダーを取り出す。

 

「ここにある程度カードは揃っている。試しに使ってみるといい」

「ありがとうございます」

 

 ◆

 

 それから数日後、遊作と尊は草薙のキッチンカーを訪れていた。

 

「草薙さん、レポートの解析結果が出たって」

「ああ」

 

 すると、集まったメンバーを見て、草薙は首を傾げる。

 

「美海ちゃんと葵ちゃんはどうした?」

「二人は今日は用事だ」

「確か、完全自動運転のリニアモーターカーの試乗会だって」

「SOLテクノロジー主催のイベントか。確か、今度提携する海外の企業と共同開発したんだったか」

 

 草薙は仕事中に見かけた大きな広告を思い返して呟く。

 

「今回は誘われなかったのか?」

「さすがに人数分用意できなかったらしい」

「そりゃあ残念だ。なら、俺達は男だけで寂しくいこうか」

 

 草薙さんは冗談めかして言うと、パソコンを操作してテキストファイルを開いた。

 

 ◆

 

 その頃、デンシティ中央駅のホームでは、多くの人が集まっていた。

 

「本日はお集まりいただきありがとうございます」

 

 壇上で司会を務めるのは八神だった。

 

「もう間もなく、我が社、SOLテクノロジー社と、ガンズレッドファクトリー社が共同開発した新型リニアモーターカーが到着します!」

 

 その言葉を合図に、ホームに一台の列車がやってきた。

 蒼と白を基調とした流線形のフォルム、光沢のある金属の車両、待ちに待ったリニアの到着に集まった人たちは湧いた。

 

「本機に搭載されておりますのは、我が社の開発したAI、天候、気圧、レールの状態などを自動で計測計算し、最適な運行を行います。これにより、ヒューマンエラーを廃した安全安心、そして最速確実な旅をお約束します」

 

 説明を終えると、集まった人がスタッフの手で見学と試乗に分けられる。

 その間に、八神は近くに待機していた道順の元へ歩み寄る。

 

「ふんっ、AIに全てを任せるなど、愚かな」

「まあそうおっしゃらずに、万が一に備えてあなたに警備をお願いしたんですから」

「まあいい。俺は受けた仕事はこなす」

 

 そう言って、道順はリニアに乗り込んだ。

 

 そんな彼らのやり取りなどつゆ知らず、別の待機列に並ぶ葵と美海が同じように列車に乗り込んだ。

 

「えーっと、席はあそこね」

 

 葵が自分達の座席を見つけて、そこへ向かおうとすると、

 

「財前さん!」

 

 後ろから抱き着かれて、振り返る。

 

「ゆ、夢乃さん!?」

 

 葵の背中に、憎たらしいその膨らみを自慢するように押し付けていたのは切花だった。

 

「夢乃さん。チケットに当選したんですね」

「まーね。今回は運がよかったよ。あ、席隣だね。早く座ろうよ」

 

 ぐいぐい来る切花に引っ張られ、三人は並んで座席に座った。

 

「まもなく、リニアは発車します」

 

 八神のアナウンスのすぐ後に、車内は一瞬だけ浮遊感に包まれる。

 

「「「おおー」」」

「それでは、皆さん。よい旅を!」

 

 そのアナウンスを合図に、リニアが動き出した。

 

「はやーい。景色全然見えない」

「最高時速は1000キロらしいです。まあ安全のために、その速度まで到達することはないらしいですが」

 

 リニアの車内には、現在の速度が分かるようにモニターが各車両の扉の上に取り付けられている。現在は時速300キロを超えたところだ。

 

「今日はどこまで行くんだっけ?」

「デンシティ中央駅から北上して、そこからグルッと回って駅まで戻ってくるそうです」

「なーんだ。途中で降りないんだ」

「あくまで試乗会ですからね。その代わり、リニアに関する催しがあるとか」

「あ!車内販売だよ!」

 

 子供のように興味を次々に移す切花に、二人は顔を見合わせて肩を落とした。

 

 やがて彼女達の元へ、車内販売のお姉さんがワゴンを押してやってきた。

 

「二人は、何が欲しいですか?」

「ボクはリンゴジュース」

「私はジンジャーエール」

 

 三人が飲み物とお菓子を買って、しばらく談笑していると、ふと、車内の照明が落ちた。

 

「これがさっき言ってた催し?」

「おそらくは……」

 

 しかし、いくら待ってもアナウンスも何も流れない。

 そこでふと、美海が車内の速度計に目をやると、その速度はもうすぐ時速1000キロに到達するところだった。

 

 ◆

 

 同刻、SOLテクノロジー管制室。

 リニアの動きを監視し、万が一異常が起きた際に遠隔で制御するためのこの部屋で、多くの社員が混乱していた。

 

「駄目です!制御受け付けません!」

「時速1000キロ到達!このままでは……」

 

 その時、部屋の巨大モニターにノイズが走る。

 画面に映し出されたのは、黒いフードと顔の上半分を覆う金色の鬼のようなマスク、配色とマスクのデザインこそ異なるがどこか見覚えのある衣装の男は、画面越しに宣言した。

 

「貴様らのリニアは俺達が乗っ取った!」

 

 周囲がざわつく。

 

「我々の要求を飲まなければ、一時間後にリニアはデンシティ中央駅に最高速度で突っ込む」

 

 その宣言に、管制室の社員達はパニックになる。

 

「皆さん落ち着いてください」

 

 八神が毅然とした態度で声を上げ、混乱する社員達を静める。

 

「要求とはなんでしょうか?」

「LINK VRAINSの全権限を我々に渡せ」

「……なるほど」

 

 彼のその要求を聞いて、八神は合点がいった。

 

「分かりました。使いを向かわせますので、くれぐれも乗客に危害は加えないようにお願いします」

「いいだろう」

 

 そこでモニターは切れて、元の画面に戻った。

 

「八神常務、どうするのですか!?」

「落ち着いてください。そのために、彼をリニアに乗せているのですから」

 

 八神はすぐにブラッドシェパードこと道順にメッセージを送って指示を出した。

 

 ◆

 

 八神から指示を受けて、ブラッドシェパードはすぐにリニアの電脳空間にログインしていた。

 

「奴らめ……」

 

 怒りに震えた声で、ブラッドシェパードは長い回廊を走る。

 

「ブラッドシェパード!」

 

 その時、後ろから声をかけられ、咄嗟に右手を向ける。

 

「ま、待ってください!」

 

 声の主は慌てて両手を上げる。

 そこに立っていたのは、美海とブルーエンジェルだった。

 

「ブルーエンジェル、それにゴッドバードのガールフレンドか……」

「あなたがここにいるということは、何かあったんですよね?」

「関係のないガキは引っ込んでいろ」

 

 ブラッドシェパードは脅すように右手を向ける。

 その時、別の方向から光弾が飛んでくる。

 

 三人は咄嗟にかわし、攻撃が来た方向を見る。

 

「やっぱりきやがったな。ブラッドシェパード!」

 

 そこには黒い制服を着た数人の男たちが立っていた。

 

「あの服装、ハノイの騎士?」

 

 白と黒が反転したようになっているが、そのフォルムは間違いなくハノイの騎士の制服だ。

 

「その通り、俺達は反AI同盟、人類をAIによる支配から解放するために、同胞たちを集めて結集した新生ハノイの騎士だ!」

「……なんか思想変わってない?」

「勝手に名乗っているだけでしょう。おそらくリボルバー達は関与していません」

「ここを通りたければ、俺達を倒してからにするんだな」

 

 彼らは一斉にブラッドシェパードに襲い掛かる。

 その隙に、美海とブルーエンジェルは通路の先へ向かう。

 

「お、おい!女二人に逃げられちまうぞ!」

「構わねぇよ。あいつらはボスに任せればいい」

「俺達の役目はこいつの足止めだ!」

 

 まず一人がブラッドシェパードの前に立ち、デュエルディスクを構える。

 

「いいだろう。速攻で蹴散らしてやる」

 

「「デュエル!」」

 

 ◆

 

 ブラッドシェパードを囮に、どうにか最深部に辿り着いた美海とブルーエンジェル、そこには一人の男が待ち構えていた。

 管制室のモニターに映っていた黒いハノイの騎士の服装に、鬼の仮面をつけた男だ。

 

「ブルーエンジェルと……ああ、ハノイの塔の時にいたやつか」

「あなたは……」

 

 男は答える代わりに、デッキから一枚のカードを抜いて掲げる。

 

「来い!クラッキング・ドラゴン!」

 

 彼の背後に、黒鉄の機械仕掛けのドラゴンが姿を現した。

 

「クラッキング・ドラゴン!?」

「俺の名はギーヴ!あの日、プレイメーカーに敗れた者だ!」

 

 最初にAiがLINK VRAINSに現れた際に、彼を追って現れたクラッキング・ドラゴンを操るハノイの騎士。

 

「リボルバー様からこのカードを授かり、あと少しでセカンド昇格だったところを……」

「ただの逆恨みじゃない!」

「黙れ!ハノイの騎士を壊滅させた貴様らを俺は絶対に許さない!」

 

 ギーヴはデュエルディスクを構える。

 

「さあデュエルだ。この先の制御端末を使いたければ、俺に勝つことだ」

 

 それを見て、美海が前に出ようとするが、ブルーエンジェルがそれを制止した。

 

「……美海、ここは私に任せて」

「……分かりました」

 

 ブルーエンジェルは自分のデュエルディスクを見つめる。

 

(この新しいデッキで、必ず勝つ)

 

「「デュエル!」」

 

 二人がデュエルを開始したその陰で、こっそり彼らの後をつけていたジャックナイフがデュエルの様子を覗いていた。

 

「やっぱり、ファーストの雑魚共か。プレイメーカーに負けたくせによくやるよ」

 

 ジャックナイフはバカにしたような視線をギーヴに送り、ブルーエンジェルの方へ視線を移す。

 

「さーて、浮かれたネットアイドルちゃんがどこまでやれるかな~?」

 

 ◆

 

 新生ハノイの騎士構成員とブラッドシェパードのデュエル。

 

「くくくっ、どうだ!俺のジャミングウォール・ドラゴンは!」

 

 黒い菱形のパーツがいくつも組み合わさった羽を広げる機械の竜が、ブラッドシェパードの前に立ちふさがっている。

 

ジャミングウォール・ドラゴン

効果モンスター

星7/闇属性/機械族/攻 0/守 4000

(1)このカードがモンスターゾーンに存在する限り、このカードのレベル以下の相手のモンスターは攻撃できない。

(2)相手モンスターが戦闘・効果で与えるダメージは、そのカードのレベル×100となる。

(3)自分の闇属性・機械族モンスターが相手の効果の対象となった場合、手札・フィールドの機械族モンスター1体を墓地へ送って発動できる。その効果を無効にする。

 

「こいつでお前のレベル7以下のモンスターは攻撃できない!そして、攻撃できるリンクモンスターも、レベルを持たないため、与えるダメージは0!永続(トラップ)、パルス・フィールドの効果で、効果破壊もされない!」

 

パルス・フィールド

永続罠

(1)このカードの発動時の効果処理として、手札からレベル7・8の闇属性・機械族モンスター1体を特殊召喚できる。

(2)自分のレベル7以上の闇属性・機械族モンスターの召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。相手フィールドのレベルを持たないモンスターの効果は無効化される。

(3)自分フィールドの手札・墓地から召喚・特殊召喚されたレベル7・8の闇属性・機械族モンスターは相手の効果で破壊されない。

 

「この完璧な布陣、これでお前もワンターンキルはでき————」

 

 ドォォンッ!

 

 言い終わる前に爆発音がしたかと思うと、バトルドローン・ジェネラルがジャミングウォール・ドラゴンに突っ込み、その体をジャンクに変えていた。

 

「速攻魔法、リミッター解除。機械族モンスター1体の攻撃力を倍にする」

「くっ…‥」

「その程度で俺を止められると思ったか」

 

 すると、先程まで攻撃を封じられていたドローンが一斉に起動する。

 

「終わりだ!ダイレクトアタック!」

 

 一斉攻撃で、敵のライフは一気に削られる。

 

「さぁ、次はどいつだ?」

「ひっ……」

 

 恐怖に震える彼らに、ブラッドシェパードは右手を返して指をクイッと曲げて挑発する。

 

「来い、全員まとめて地獄へ送ってやる」

 

 ◆

 

 同刻、ギーヴとブルーエンジェルのデュエル。

 先攻はブルーエンジェルから。

 

「私はトリックスター・キャンディナを召喚」

 

 黄を基調とした衣装を着たアイドルがメガホンを携えて現れた。

 

「その効果でデッキからトリックスター・ライトステージを手札に加え、発動!」

 

 辺りが暗くなり、暗闇の中に色とりどりの光が灯る。

 

「ライトステージの効果で、デッキからトリックスター・リリーベルを手札に加える。リリーベルはドロー以外で手札に加わった時、特殊召喚できる!」

 

 大きなベルを揺らしながら、リリーベルが現れる。

 

「輝け!勇気と決意のサーキット!召喚条件はトリックスター2体。リンク召喚!トリックスター・ホーリーエンジェル!」

 

 アローヘッドから鞭を振り回しながら、白髪の女性が現れた。

 

「私はカードを2枚伏せてターンエンド」

 

ターン2 ギーヴ

 

「俺のフィールドにモンスターが存在しない場合、手札のハック・ワームを特殊召喚できる」

 

 黒い機械の芋虫がうねりながら現れる。

 

「自分フィールドにレベル1の機械族モンスターが存在する場合、クラック・ワームを特殊召喚」

 

クラック・ワーム

効果モンスター

星2/闇属性/機械族/攻 800/守 200

このカード名の(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しか行えず、(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分フィールドにレベル1・7の機械族モンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できる。

(2)このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキからレベル7・8の闇属性・機械族モンスター1体を手札に加える。

 

「クラック・ワームが特殊召喚に成功した時、デッキからレベル7、もしくは8の闇属性の機械族モンスター1体を手札に加える。クラッキング・ドラゴンを手札に加える。そして俺はこの二体をリリースして、アドバンス召喚!出でよ!クラッキング・ドラゴン!」

 

 クラック・ワームとハック・ワームの体が消滅し、その残骸が寄り集まって、黒い竜の姿へと再構成された。

 

「さらに自分フィールドに通常召喚されたレベル7・8の機械族モンスターが存在する時、このカードを手札から特殊召喚できる!来い!クラックフォール・ドラゴン」

 

クラックフォール・ドラゴン

効果モンスター

星7/闇属性/機械族/攻 2700/守 0

このカード名の(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しか行えない。

(1)自分フィールドに通常召喚されたレベル7・8の機械族モンスターが存在する場合、このカードを手札から特殊召喚できる。

(2)自分の闇属性・機械族モンスターは、そのモンスターのレベル以下の相手のモンスターの効果を受けない。

(3)このカードがモンスターゾーンに存在し、相手が自分の機械族モンスターの効果でダメージを受けた場合に発動できる。自分はそのダメージの数値分、LPを回復する。

 

「そして速攻魔法!クラッキング・サイクロンを発動!」

 

クラッキング・サイクロン

速攻魔法

このカード及びこのカードの効果の発動に対して、相手はカードの効果を発動できない。

(1)自分フィールドにレベル7以上の機械族モンスターが存在する場合に発動できる。相手の魔法・罠カードを2枚まで選んで破壊する。その後、自分フィールドにアドバンス召喚された「クラッキング・ドラゴン」が存在するなら、デッキからレベル7の闇属性・機械族モンスター1体を手札に加える。

 

「貴様の伏せカード2枚を破壊!このカードに対して、相手は効果を発動できない!」

 

 クラッキング・ドラゴンが口に風が集まり、緑の竜巻がブルーエンジェルのフィールドに放たれる。

 

「くっ!」

 

 竜巻により、セットされていた2枚のカードが砕け散る。

 

「さらに俺の場にアドバンス召喚されたクラッキング・ドラゴンがいるなら、デッキからレベル7の闇属性・機械族モンスターを手札に加える。バトルだ!クラックフォール・ドラゴンで、ホーリーエンジェルを攻撃!」

「私は墓地の(トラップカード)、トリックスター・フローラフィアーを除外して効果発動!」

 

トリックスター・フローラフィアー

通常罠

(1)自分の手札を3枚まで捨てる。その後、捨てた手札の枚数だけ相手の手札をランダムに選んで除外し、お互い捨てた手札の枚数だけドローする。

(2)墓地のこのカードを除外し、墓地のレベル4以下の「トリックスター」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを手札に加える。その後、レベル4以下の「トリックスター」モンスター1体を召喚し、守備表示にする。

 

「墓地からトリックスター・キャンディナを手札に加え、ホーリーエンジェルのリンク先に召喚!」

 

 紅い花弁が舞い、花吹雪の中からキャンディナが登場する。

 

「キャンディナの効果でデッキからトリックスター1枚を手札に。そしてリンク先にモンスターが出たことで、ホーリーエンジェルの効果で相手にダメージ!」

 

 ライトステージと合わせて、400のダメージがギーヴを襲う。

 

 ギーヴ:LP4000→3600

 

「そしてトリックスターモンスターの効果で相手がダメージを受けたことで、攻撃力アップ!」

 

 ホーリーエンジェル:攻撃力2000→2200

 

「だがクラッキング・ドラゴンの効果を知らないわけじゃないだろう。クラックフォール!」

 

 クラッキング・ドラゴンの体の球体が緑に灯る。

 

「相手モンスターが召喚・特殊召喚された時、そのレベル×200、攻撃力をダウンさせ、さらにその数値分、相手にダメージ!」

 

 球体から光線が放たれ、キャンディナの攻撃力を下げ、ブルーエンジェルにダメージを与える。

 

 ブルーエンジェル:LP4000→3200

 

「クラックフォール・ドラゴンの効果!自分の機械族モンスターの効果でダメージを与えた時、その数値分、自分のライフを回復する!」

 

 ギーヴ:LP3600→4400

 

「そしてバトル続行!ホーリーエンジェルを粉砕しろ!」

「私は手札のトリックスター・キャロベインを捨てて効果発動!」

「さっき手札に加えたカードか!」

「その効果で、ホーリーエンジェルの攻撃力を自身の元々の攻撃力分アップする!」

 

 攻撃力4200となったホーリーエンジェルが、クラッキング・ドラゴンを打ち砕いた。

 

「チッ、ならクラックフォール・ドラゴンでキャンディナを攻撃!」

 

 クラックフォール・ドラゴンがキャンディナを倒すが、守備表示なのでダメージは入らない。

 

「俺はカードを2枚伏せてターンエンド」

 

ターン3

 

「相手のターン開始時、俺は永続(トラップ)、パルス・フィールドを発動!」

 

 ブルーエンジェルのフィールドの周囲に、紫の雷が駆ける。

 

「その効果で、俺は手札からクラッキング・ワイバーンを特殊召喚!」

 

 フィールドを囲む雷が空へ向かい、空間に穴を開ける。

 そこから黒鉄の翼を蠢かす、飛龍が舞い降りた。

 

クラッキング・ワイバーン

効果モンスター

星7/闇属性/機械族/攻 2700/守 0

(1)自分フィールドの闇属性・機械族モンスター1体を除外して、このカードを手札から特殊召喚できる。

(2)自分フィールドの闇属性・機械族モンスターはレベルを持たない相手フィールドのモンスターの効果を受けない。

(3)相手がリンクモンスターの特殊召喚に成功した場合に発動できる。そのモンスターの攻撃力をリンクマーカーの数×600ダウンさせ、その数値分、相手にダメージを与える。

 

パルス・フィールド

永続罠

(1)このカードの発動時の効果処理として、手札からレベル7・8の闇属性・機械族モンスター1体を特殊召喚できる。

(2)自分のレベル7以上の闇属性・機械族モンスターの召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。相手フィールドのレベルを持たないモンスターの効果は無効化される。

(3)自分フィールドの手札・墓地から召喚・特殊召喚されたレベル7・8の闇属性・機械族モンスターは相手の効果で破壊されない。

 

「クラッキング・ワイバーンが特殊召喚されたことで、パルス・フィールドの効果発動!相手のレベルを持たないモンスターの効果を無効にする!」

 

 ホーリーエンジェルに電撃が浴びせられ、その力を奪われる。

 

「そしてクラッキング・ワイバーンがフィールドにいる限り、貴様はリンクモンスターを特殊召喚すれば、そのリンクマーカーの数×600のダメージを受ける」

「リンクモンスター封じ……」

 

 カリスマデュエリストであるブルーエンジェルがリンクモンスターを中心としたデッキを使うことは周知の事実。その対策をしているのは当然だろう。

 

 大型のドラゴンが立ち並ぶフィールドを見て、ジャックナイフはギーヴを軽蔑したような目線を送る。

 

「勝手に持ち出したカード使っといてドヤ顔とか、カッコ悪いな~」

 

 彼が使うクラッキング・ワイバーンとクラックフォール・ドラゴン、どちらもハノイの騎士の旧アジトにあったものを使っているのだろうと、ハノイの騎士のメンバーであるジャックナイフは推測する。

 

「まあでも、実際追い詰めてはいるよね。一応セカンド昇格候補だっただけはあるじゃん」

 

 そう言ってブルーエンジェルの方へ目を向ける。

 

(さぁ、君はどうする?)

 

「これで貴様の手は封じられた」

 

 ギーヴは下を向くブルーエンジェルに言い放つ。しかし、

 

「そうね……これまでの私なら」

 

 ブルーエンジェルの目は死んでいない。

 強く、前を見据えてデュエルディスクに手をかける。

 

「私のターン!」

 

 ドローしたカードを見て、彼女の顔に笑顔が灯る。

 

「まずはフィールド魔法!トリックスター・ライブステージを発動!」

 

 ライトステージの照明が落ち、辺りが暗闇に包まれる。

 

「なんだ!?」

 

 すると、ブルーエンジェルの元にスポットライトが灯り、その背後にピンクの巨大なハートとポップなデザインのスピーカーで飾られた巨大なステージが出現する。

 

「効果で墓地のキャンディナを手札に加え、そのまま召喚!」

 

 三度現れたキャンディナの効果で、ブルーエンジェルはデッキからカードを加える。

 

「さあ行くわよ!輝け!勇気と決意のサーキット!」

 

 その手を空へ掲げ、天上にアローヘッドを作り出す。

 

「召喚条件はトリックスター2体以上!私はキャンディナとリンク2のホーリーエンジェルをリンクマーカーにセット!リンク召喚!」

 

 二体のモンスターが三つの光となってアローヘッドに矢印を描く。

 

「勝利へのオンステージ!リンク3、トリックスターバンドVo(ヴォーカル)・ホーリーエンジェル!」

 

 アローヘッドより現れたのは、青を基調としたパンクなジャケットに衣装を変え、赤いアクセサリーに彩られたホーリーエンジェルだった。

 

「ダメージ覚悟でリンク召喚か。なら受けてもらうぞ!クラッキング・ワイバーンの効果発動!リンクマーカーの数×600攻撃力をダウンさせ、その数値分ダメージ!」

 

 クラッキング・ワイバーンが翼を広げると、緑の雷光が伝い、ホーリーエンジェルとブルーエンジェルへ降り注ぐ。

 

 ホーリーエンジェル:攻撃力2300→500

 ブルーエンジェル:LP3200→1400

 

「そしてクラックフォール・ドラゴンの効果で、ダメージの数値分、俺のライフは回復する!」

 

 ギーヴ:LP4200→6000

 

「まだまだこっからよ。私は装備魔法、トリックスターバンド・マイクを、ホーリーエンジェルに装備!」

 

 ホーリーエンジェルの前に金と青に縁取られたマイクスタンドが現れる。

 

トリックスターバンド・マイク

装備魔法

「トリックスター」リンクモンスターにのみ装備可能

(1)「トリックスターバンド・マイク」は自分フィールドに1枚しか表側表示で存在できない。

(2)自分フィールドにトークンが存在せず、装備モンスターのリンク先にEXデッキから「トリックスター」モンスターが特殊召喚された場合に発動できる。トリックスタートークン(星1・光・天使族・攻/守0)1体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたトークンはリンク素材にできない。その後、装備モンスターのリンク先のモンスターの数×200ダメージを相手に与える。

(3)装備モンスターのリンク先の「トリックスター」モンスターの攻撃力は、装備モンスターのリンク先のモンスターの数×200アップする。

 

「トリックスター・ライブステージの効果!トリックスターリンクモンスターがいる時、トリックスタートークンを特殊召喚!」

 

 ステージから羽の生えたハート型の風船が飛んでくる。

 

「そして、私は魔法カード、トリックスター・フュージョンを発動!」

「何!?」

「自分の手札・フィールドのモンスターで、トリックスターを融合召喚する!私はトリックスタートークンと、トリックスターバンドVo・ホーリーエンジェルを融合!この時、ホーリーエンジェルは、手札からトリックスターを捨てることで、フィールドに置いたまま融合できる!」

 

 ホーリーエンジェルの体から淡い光が飛び出て、揺らめきながらトークンと一つになる。

 

「聴かせて上げるわ!トリックスターの奏でる音楽を!融合召喚!トリックスターバンド・ベースメリッサ!」

 

 そして現れたのは、ダークグリーンの髪を靡かせ、ベースをかき鳴らす少女だった。

 

トリックスターバンド・ベースメリッサ

融合・効果モンスター

星6/光属性/天使族/攻 2000/守 2000

「トリックスター」リンクモンスター+光属性モンスター

(1)このカードが「トリックスター」リンクモンスターとリンク状態の場合、その「トリックスター」リンクモンスター及びそのカードのリンク先のモンスターは相手の効果の対象にならない。

(2)自分の「トリックスター」カードの効果で相手が効果ダメージを受ける度に発動する。その数値分、自分のLPを回復する。

(3)1000LP払って発動できる。除外されている「トリックスター・フュージョン」1枚を手札に加える。

 

「トリックスターバンド・マイクの効果!自分フィールドにトークンが存在せず、装備モンスターのリンク先にエクストラデッキからトリックスターが特殊召喚された時、トリックスタートークンを特殊召喚!」

 

 再びハート型の風船が飛んでくる。

 

「この効果で特殊召喚されたトークンはリンク素材にできない。そしてリンク先のモンスターの数×200のダメージを相手に与える!」

 

 ベースメリッサが重低音を鳴らし、それに合わせてホーリーエンジェルが歌を奏でる。

 

 二つの音が合わさってギーヴへと襲い掛かる。

 

 ギーヴ:LP6000→5600

 

「ベースメリッサの効果で、トリックスターが与えたダメージの数値分、私のライフを回復」

 

 ブルーエンジェル:LP1400→1800

 

「墓地のトリックスター・フュージョンを除外して効果発動!墓地からキャンディナを手札に加える!そしてベースメリッサの効果!ライフ1000支払うことで、除外されているトリックスター・フュージョンを手札に加える!」

 

 ブルーエンジェル:LP1800→800

 

「これは……」

 

 そこで彼女のデュエルを見ていた美海とジャックナイフはふと気付いた。

 

「最初の盤面に戻った」

 

 ホーリーエンジェルのコストに使ったカードも、融合魔法も手札に返り、盤面は融合モンスターが1体増えた状態だ。

 

 その事にギーヴも気付き、歯を食い縛ってブルーエンジェルを睨み付ける。

 

「つまり、ライフが続く限り……」

「そう。私は何度でも融合召喚できる。私は魔法カード、トリックスター・フュージョンを発動!」

 

 再びホーリーエンジェルの体から光が飛び出て、トークンに乗り移る。

 

「次のメンバーはこの娘!融合召喚!トリックスターバンド・ドラムリッカ!」

 

トリックスターバンド・ドラムリッカ

融合・効果モンスター

星8/光属性/天使族/攻 2500/守 2100

「トリックスター」リンクモンスター+光属性モンスター

このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが「トリックスター」リンクモンスターとリンク状態の間、相手のモンスターは召喚・特殊召喚成功時に効果を発動できない。

(2)自分の「トリックスター」カードの効果で相手がダメージを受ける度に発動する。ターン終了時まで、相手モンスター全ての攻撃力・守備力はそのダメージの数値分ダウンする。

(3)このカードがフィールドに表側表示で存在する限り1度だけ、自分フィールドの「トリックスターバンド」モンスターの数まで相手フィールドのカード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。

 

「トリックスターバンド・マイクの効果でトークンを特殊召喚し、相手に600ダメージ!」

 

 バンドメンバーが加わり、厚みの出た音がギーヴを襲う。

 

 ギーヴ:LP5600→5000

 

「ダメージの数値分、私のライフを回復」

 

 ブルーエンジェル:LP800→1400

 

「ドラムリッカの効果!トリックスターがダメージを与えた時、その数値分、相手モンスター全ての攻撃力をダウンさせる!」

「だが、クラックフォール・ドラゴンの効果で、俺のモンスター全ては自身のレベル以下のモンスター効果を……」

「ドラムリッカはレベル8、あなたのモンスターのレベルを超えているわ!いっけぇ!プレッシャーリズム!」

 

 軽快なパーカッションサウンドが響き渡り、二体の機械のドラゴン達の力を削ぐ。

 

 クラックフォール・ドラゴン:攻撃力2700→2100

 クラッキング・ワイバーン:攻撃力2700→2100

 

「墓地のトリックスター・フュージョンを除外して、キャンディナを回収。そのフュージョンは、ライフを1000払って回収!」

 

 ブルーエンジェル:LP1400→400

 

「トリックスター・フュージョンを発動!」

 

 三度、ホーリーエンジェルとトークンが融合させられる。

 

「この音色に酔いしれなさい!融合召喚!レベル7、トリックスターバンド・ギタースイート!」

 

 逆立った水色の髪と青い衣装、そしてボディが斧のようになったギターをかき鳴らして、ギタースイートが現れた。

 

「トリックスターバンド、全員集合!」

 

 バンドメンバーのモンスター四人がポーズを決めた。

 

「トリックスターバンド・マイクの効果でトークンを召喚し、相手に600ダメージ!さらにベースメリッサの効果でその数値分ライフを回復し、ドラムリッカの効果で相手モンスター全ての攻撃力を下げる」

 

 ギーヴ:LP5000→4400

 ブルーエンジェル:LP400→1000

 クラックフォール・ドラゴン:攻撃力2100→1500

 クラッキング・ワイバーン:攻撃力2100→1500

 

「ギタースイートの効果!ダメージの数値分、自身の攻撃力をアップする!」

 

 ギタースイート:攻撃力2200→2800

 

「ダメージを与えたことで、手札からトリックスター・ナルキッスを特殊召喚!さぁ、これでバトルよ!」

「くっ、俺は(トラップ)カード、和睦の使者を発動!」

 

 そこで、ギーヴのフィールドに伏せられたもう一枚のカードが開いた。

 

「これでこのターン、俺はモンスターを戦闘で破壊されず、ダメージを受けない」

「戦闘ダメージは、でしょ?」

 

 ブルーエンジェルはビシッと相手を指さす。

 

「バトルよ!まずはギタースイートで、クラッキング・ワイバーンを攻撃!」

 

 ギタースイートがギターをかき鳴らし、音波をクラッキング・ワイバーンに向けて飛ばす。

 

「和睦の使者の効果で、バトルによる破壊もダメージも無効!」

「トリックスターバンドVo(ヴォーカル)・ホーリーエンジェルの効果!トリックスターが攻撃する度に、相手に200ダメージ!ギタースイートの効果で、自身とリンク状態のトリックスターの与える効果ダメージは2倍!」

 

 ギタースイートの演奏に、ホーリーエンジェルの歌声が合わさる。

 激しくも美しい音色が、空気を揺さぶり、ギーヴのライフを減らす。

 

 ギーヴ:LP4400→4000

 

「ダメージを与えたことで、私のライフは回復。さらにあなたのモンスターの攻撃力はダウン」

 

 ブルーエンジェル:LP1000→1400

 クラックフォール・ドラゴン:攻撃力1500→1100

 クラッキング・ワイバーン:攻撃力1500→1100

 

「続けてベースメリッサで攻撃!ホーリーエンジェルの効果で400ダメージ!」

 

 ホーリーエンジェルの歌声に、ベースメリッサが伴奏する。

 

 ギーヴ:LP4000→3600

 ブルーエンジェル:LP1400→1800

 クラックフォール・ドラゴン:攻撃力1100→700

 クラッキング・ワイバーン:攻撃力1100→700

 

「ドラムリッカ、ナルキッスで攻撃!」

 

 ギーヴ:LP3600→3200→2800

 ブルーエンジェル:LP1800→2200→2600

 クラックフォール・ドラゴン:攻撃力700→300→0

 クラッキング・ワイバーン:攻撃力700→300→0

 

「トリックスタートークン、ホーリーエンジェルで攻撃!」

 

 ついに攻撃力が0となったことで、低攻撃のトリックスターでも戦闘破壊されずに攻撃が通せた。

 

 ギーヴ:LP2800→2400→2000

 ブルーエンジェル:LP2600→3000→3400

 

「だ、だが、これでお前の攻撃は終わり……」

「それはどうかしら」

 

 すると、どこからか拍手の音が聞こえる。

 

「今度はなんだ!?」

「アンコールよ」

 

 フィールドの照明が一旦消え、再度、彼女のフィールドの四体のトリックスターバンドにスポットライトが当てられる。

 

「トリックスターバンドVo(ヴォーカル)・ホーリーエンジェルの効果発動!このカードのリンク先に、トリックスターバンドが3種類存在するなら、もう1度バトルフェイズを行う!」

 

トリックスターバンドVo(ヴォーカル)・ホーリーエンジェル

リンク・効果モンスター

光属性/天使族/攻 2300/LINK3

【リンクマーカー:左下/下/右下】

「トリックスター」モンスター2体以上

このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分の「トリックスター」モンスターの攻撃宣言時に発動する。相手に200ダメージを与える。

(2)フィールドのこのカードを融合モンスターの融合素材とする場合、このカードの代わりに手札の「トリックスター」カードを墓地へ送ることができる。

(3)このカードのリンク先に「トリックスターバンド」モンスターが3種類存在する場合、自分のメインフェイズ2に発動できる。もう1度バトルフェイズを行う。

 

「さあバトルよ!」

 

 既にギーヴに防ぐ術はない。

 四体のトリックスターバンドが奏でる音色が、彼のライフを奪い去った。

 

 ◆

 

 デュエルが終了し、ギーヴは地面に拳を打ちつけた。

 

「くそっ!」

「さぁ、観念なさい」

 

 ギーヴは立ち上がり、ブルーエンジェルを睨みつける。

 

「お、覚えておけ。ハノイの騎士は永遠に不滅だ!」

 

 その捨て台詞を残して、ギーヴのアバターは消えた。

 

「ふぅ、これで」

「まだです。早くリニアを止めないと!」

「あ、そうだった!」

 

 二人は制御装置の前に立つ。

 しかし、元々プログラムが得意でないブルーエンジェルはもとより、美海も触ったことのない高度なプログラムを前に何をしていいのか分からなかった。

 

「お前達、何をやっている?」

 

 ブラッドシェパードが追い付いてきた。

 

「どけ」

 

 彼女達を押しのけ、手早くコンソールを操作する。

 

「直ったぞ」

 

 赤く光っていたコンソールの色が緑に戻る。

 

「あ、ありがとうございます」

「お前たちは早く戻れ」

 

 ブラッドシェパードに促され、ブルーエンジェルと美海はログアウトした。

 

 ◆

 

 そして、リニアは無事駅に到着し、多くの人は裏で起きていたことを知らずに、試乗会は無事に終わった。

 

「二人とも、どこ行ってたの?」

「え、あ、ちょっとね?」

 

 切花の質問を誤魔化す。

 切花はさほど興味もなかったのか、彼女達から離れて、停車しているリニアを撮影し始めた。

 

「ところで、どうして融合モンスターだったのですか?」

 

 ジャックナイフに手ひどくやられた彼女は、融合だけは選択しないだろうと思っていた。

 けれど、実際に彼女がデッキを強化するために選んだ召喚法は、融合召喚だったので、美海はそれが気になっていた。

 

「私は、傷つけちゃったから」

 

 ────何も知らないくせに、恵まれて人間のくせに、偉そうに講釈垂れてんじゃねぇよクソが!

 

 何も知らずにかけた言葉が、彼の怒りを買った。

 彼の怒りも、憎しみも、葵には分からない。

 

「いつか、もう一度戦うことがあれば、その時は……そう思って」

「そうですか」

 

 美海は成長した主の姿に、思わず笑みがこぼれた。

 

「ふーん……」

 

 その会話に、写真を撮るふりをしながら聞き耳を立てていた切花は、左腕につけていたデュエルディスクに手を伸ばした。

 

 ◆

 

 同刻、LINK VRAINS内では、逃げてきたギーヴを含む自称新生ハノイの騎士のメンバーがいた。

 

「あんなネットアイドル如きに……」

 

 彼らは狼狽えながらも、周囲に気を配る。

 

「だがまだだ。俺達にはこのカードがある」

 

 それは廃棄されたハノイの騎士のアジトから持ち帰ったクラッキング・ドラゴンを始めとした機械族モンスターのカードだ。

 

「この力で今度こそ……」

「お前らなにしてんの?」

 

 その時、彼らの元に一人の少年が現れた。

 中性的な顔立ち、ポンチョ型のハノイの騎士の制服に身を包み、中学生くらいの身長で紫と赤が混じった短髪の少年だ。

 

「そ、そのマーク……」

 

 彼の服の左胸についた赤いマークを見て、ギーヴは目を見開いた。

 

「ハノイの騎士のサード……ジャックナイフか!?」

「せいかーい」

 

 彼はニコニコと笑いながら、首を90度近く横に曲げる。

 

「お前ら、何勝手なことしてんの?」

 

 笑顔が消える。

 彼らが恐怖で後退る中、ジャックナイフは左手の指を二本立て、こめかみに当てた。

 

「並列思考プログラム、限定解除」

 

 ジャックナイフの像が歪み、そのアバターを三つに分裂させる。

 

「タダで済むとか、思ってないよね?」

 

 ジャックナイフ達は一歩ずつ、彼らに近付き、デュエルディスクを構えた。

 

 ◆

 

 同刻、SOLテクノロジー社のメインサーバー内、その内部に侵入したライトニングは一人の女性と向き合っていた。

 

「やはり、あなたが裏で手を引いていたんですね」

 

 胸元が大きく開いたワインレッドのスーツを着こなし、濃い赤とオレンジが交じり合ったような髪色のポニーテールを揺らしながら、ゆっくりと彼に近付く。

 

 その後ろには、倒れた計四体のビットとブートが屍のように転がっている。

 

「あなたの計画は、リニアでテロを起こすことで、我々の注意を引き付け、もっとも厄介な相手であるブラッドシェパードを不在にすること。そしてあなたの誤算は……」

 

 彼女は左腕に着けたデュエルディスクを顔の横に近づける。

 

「私がとっても強かったこと」

 

 彼女、ナイトはそう言ってニコッと笑う。

 

「ふん、さすがだな」

「そりゃあ分かりますよ。リボルバーとかならともかく、あんな人達にうちのセキュリティを敗れるわけがありませんから。あなたは彼らのテロ計画に気付き、それを気付かれないように手を貸すことで、計画を実行させた」

「その通り、そして、私の目論見通り、必要なものは手に入った」

 

 ライトニングが右掌を出すと、その上にカード状のデータが出現した。

 

「悪いが、これ以上長居する気はない」

 

 ライトニングが指を鳴らすと、彼の姿は光となって消えた。

 ナイトは急いでメインサーバーのコンソールに触れ、すぐに履歴を確認する。

 

「持ち出されたデータは……ガンズレッドファクトリー社の仮想空間サービスの内部データ?」

 

 それは今度、LINK VRAINSと連携を開始するガンズレッドファクトリー社が運営する仮想空間の仕様書などの情報だった。

 

「何故こんなものを……」

「ナイト」

 

 すると、ビショップがサーバー内にログインしてきた。

 

「申し訳ございません。光のイグニスの確保には失敗しました」

「それはいい。だが、盗まれたデータの方だ」

「はい。使用目的がさっぱりなのですが……」

 

 ナイトはウィンドウをビショップの方に見せる。

 

「……引き続き、イグニスの動向を監視しろ」

「かしこまりました」

 

 ナイトとビショップはログアウトした。

 




トリックスターバンド、全員集合!
OCGではギターしかでないまま、解散してしまったトリックスターバンドを全員揃えて、ついでにカテゴリー化しました。
融合召喚軸で強化された葵ちゃんの今後の活躍にご期待ください


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第31話:Knight Departure

 レポートNo.04

 

 一日目:実験開始

 子供達を電脳ウイルスによって、専用の仮想空間に閉じ込めた。

 必要な栄養は点滴により供給するが、ここを現実空間だと錯覚させるために、仮想空間内でも食事を行わせることにする。

 これより、彼らに一日、50回をノルマにデュエルを行わせる。

 

 拒否した場合や、意味のない長考などの遅延行為を行った場合はペナルティとして電撃による罰を与える。さらに敗北時にもペナルティを課す。

 

 七日目:

 彼らのデュエルタクティクスが予想以上だったため、AIデュエリストのレベルを一段階上昇させる。さらに、ノルマを70回まで増やした。

 

 十三日目:

 実験の進捗が芳しくない。敗北時のペナルティに加え、デュエルの戦績が一定以下だった場合には、食事の量を減らすことにした。

 仮想空間内でも空腹は感じるため、生存本能を刺激することで、実験をさらに進める。

 

 二十五日目:

 デュエルの難易度をさらに上げることにした。

 彼らのこれまでの戦い方や、デッキの内容から彼らに対してより強くなるように、AI側のデッキ内容を調整。

 

 三十九日目:

 ついにイグニスが自我を持った。

 まだ完成には程遠いが、実験はひと段落したと言える。

 私は子供達の解放を上に要求したが、受け入れられることはなかった。

 

 四十二日目:

 脳にさらなる負荷をかけるために、デュエルのノルマを100回まで増やした。

 ペナルティの内容を変更。子供達に合わせて、それぞれがより恐れるものに変更。

 また、勝利時の報酬として、AIが使用したカードの中から好きなカードを1種類、3枚を与えた。

 デッキを考えさせることで、思考能力を強化すると同時に、報酬を与えることで勝つことへの欲求を強めるためだ。

 

 六十七日目:

 イグニスがデータマテリアルを生み出す能力を獲得した。

 上の目的は叶ったので、私達は子供達の解放を要求したが、やはり受け入れられることはなかった。

 

 ◆

 

 草薙のキッチンカー内、

 最後まで読み終えたところで、葵は震える手で口を覆っていた。

 

「ひ、酷い……」

 

 実際に実験を受けていた三人は、暗い顔をしている。

 彼らの頭の中で、この記録だけは分からない恐怖や絶望が反芻されているのだろう。

 

「その、どうする? もう実験の詳細が書かれたレポートは手に入ったわけだけど」

「まあ、SOLを告発する証拠としては十分ですが……」

 

 美海は葵の方を見る。

 彼女としては、大切な恩人である葵や晃が謂れのない誹謗中傷に晒されるのは避けたいだろう。

 

「俺も、財前が酷い目に遭うくらいなら、レポートを公開する気はない」

「で、でも藤木くん……」

「俺はそれよりも、気になることがある」

 

 すると、遊作はレポートを閉じて、かわりに別の画面を開いた。

 

 それはこれまでのレポートの解析結果だ。

 遊作はそれを指さす。

 

「テキストデータにしては、少し重くないか?」

 

 彼の言う通り、通常のテキストデータに比べて、そのファイルサイズは三倍近くある。

 

「えーっと、僕はよく分からないんだけど、暗号化? とかのせいじゃないの?」

「いや、ロックを加味してもこのファイルサイズはおかしい」

「つまり、このレポートには、今までのレポートの内容以外にも、まだ別のものが隠されていると」

 

 遊作は頷く。

 

「レポートはまだ続きがある。全て集めて、真相を明らかにする」

 

 ◆

 

 LINK VRAINSの進入禁止エリア、そこではあるものが建造されていた。

 

 楕円型の金属がいくつも重なってできた巨大な扉だ。

 

「ガンズレッドファクトリー社のVR空間へのアクセスポイント、もうすぐできますね」

「ああ」

 

 その様子を、ナイトとビショップはその光景をログインして眺めていた。

 

「ヘイ!Mr.ビショップ!」

 

 すると、彼らの元に、一人の男が現れた。

 背の高いサングラスをかけた黒人の男で、スーツの左胸にはGの文字をかたどったバッジがついている。

 

「メイソン様、どうも」

 

  ナイトが頭を下げ、ビショップがメンソンと握手をかわす。

 彼こそがガンズレッドファクトリー社の代表取締役、メンソンである。

 

「そちらが、新型AIデスカ?」

 

 メンソンの視線が、彼らの後ろに立つ白い人型の

 

「はい。IGS-000シリーズ、タイプγです」

「こんにちは」

 

 今までの機械的な声から、かなり人の近い、少年のような声で挨拶する。

 

「ハロー」

 

 タイプγとも握手を交わし、メイソンは二人の方を向き直る。

 

「いよいよサービス開始デスガ、ハッカーのタイショは十分デスカ?」

「もちろんです。タイプγの量産体制も整っています」

 

 ビショップが自慢げに説明すると、メイソンも満足そうな顔をする。

 

「楽しみにシテマスヨ」

 

 そう言って、メイソンはログアウトする。

 

「ナイト、あれからイグニスに動きはあったか?」

「いえ、しかし、ガンズレッドファクトリー社の情報を探っていたのですから、このタイミングで何かしらの行動は起こすものと思われます」

「そうか」

 

 すると、不意にナイトのデュエルディスクに通知音が鳴る。

 

「お、ようやくですか」

「どうした?」

 

 ビショップが怪訝な顔をすると、ナイトがデュエルディスクの画面を見せる。

 

「どうやら、網にかかったみたいですよ」

 

 ◆

 

 LINK VRAINSのビジネスエリア、その使われていないビルの中を、プレイメーカーは探索していた。

 

「こんなとこに鴻上レポートがあんのか?」

 

 プレイメーカーは例の都市伝説掲示板で情報を見つけて、再びビジネスエリアに一人で訪れていた。

 

 今回は葵と尊がランキングデュエルがあるとのことで、葵のサポートである美海を含め三人とも欠席だ。

 

「この近くに、確かに気配がある」

 

 すると、通路の陰から一人の女性が現れた。

 

「ッ……誰だ!?」

 

 現れたのは濃い赤とオレンジが混じった髪色のポニーテールに、胸元の大きく開いたワインレッドのスーツを着こなす女性だった。

 

「来ましたね。プレイメーカー」

「あんたは……」

「初めまして、ではありませんね。別の姿で一度お会いしていますから」

 

 ピンと来ていない様子のプレイメーカーに、彼女は名乗る。

 

「ほら~、や・が・み、ですよ?」

 

 その名乗りを聞いて、Aiは彼女を指差した。

 

「あ!イベント司会のお姉さん!」

「正解です。賢いですね、闇のイグニスさん。改めて自己紹介しますね。私はSOLテクノロジー常務取締役兼、専務秘書を勤めております。八神零那、コードネームはナイトです」

「……なるほど、これは罠か」

 

 目の前の女性、ナイトに対してプレイメーカーは警戒を強める。

 

「そんな怖い顔しないでくださいよ。レポートならちゃんとここにありますよ。まあ私達が以前回収したNo.7ですけど」

 

 そう言って、彼女は手元にカード状のデータを出現させる。

 

「私はあなたとビジネスの話をしに来たんですから」

「ビジネスだと?」

「はい。私達SOLテクノロジー社は、このLINK VRAINS運営のために、多くのデータマテリアルを必要としています。そこで闇のイグニスさん。あなたにお力添えをしていただきたいのです」

「お、俺?」

 

 Aiは自分を指差して首を傾げる。

 

「データマテリアルを生み出すイグニスの能力、それを貸して頂ければ、私達はあなた達に危害は加えません」

「どういうつもりだ? これまで散々無理やり奪おうとしていたくせに」

「私達の目的の一つに、IGS-000シリーズ、もうご存じだと思いますが、過去に製作されたイグニスのプロトタイプの復元というのがあります。そのデータ収集のためにもイグニスは必要だったのですが、そもそもイグニスが協力してくれれば、IGS-000の完成は絶対必要ではありません」

 

 彼女はニコッと笑いかける。

 

「どうせなら、誰も傷付かないハッピーな方法の方がいいに決まってますから」

「……断る」

 

 だが、プレイメーカーはその提案を一蹴した。

 

「どうしてでしょうか? 報酬の話なら……」

「あんたは信用できない」

 

 プレイメーカーに睨まれ、ナイトは深くため息を吐く。

 

「……私、子供は好きなんですけど、あんまり子供からは好かれないんですよね」

 

 すると、ナイトは左手を掲げてデュエルディスクを構える。

 

「商談の続きです。デュエルモンスターズ(これ)で、存分にデュエルし(語らい)ましょう」

「いいだろう」

 

「「デュエル!」」

 

 

ターン1 ナイト

 

「私は永続魔法、征令の執務室(セントラルオーダー・ジェイル)を発動」

 

征令の執務室(セントラルオーダー・ジェイル)

永続魔法

(1)自分のモンスターがリリースされる毎に、リリースされたモンスター1体に付き、このカードにオーバータイムカウンターを置く。

(2)自分の「セントラルオーダー」モンスターの攻撃力は、このカードのオーバータイムカウンターの数×200アップする。

(3)自分の「セントラルオーダー」カードが相手の効果でフィールドを離れる場合、代わりにこのカードのオーバータイムカウンター2つを取り除くことができる。

 

征令(セントラルオーダー)アライアンスを召喚!」

 

 現れたのはスーツのような黒い鎧を着た騎士だ。

 

征令(セントラルオーダー)アライアンス

効果モンスター

星4/闇属性/戦士族/攻 1800/守 1000

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードの召喚に成功した場合に発動できる。自分のデッキ・墓地から「征令(セントラルオーダー)アライアンス」を可能な限り特殊召喚する。この効果を発動するターン、自分はEXデッキからモンスターを特殊召喚できない。

(2)このカードが特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「セントラルオーダーロード」モンスター1体を手札に加える。自分フィールドのモンスターが「セントラルオーダー」モンスターのみの場合、このターン、自分は通常召喚に加えて1度だけ、戦士族の「セントラルオーダーロード」モンスターをアドバンス召喚できる。

 

「召喚に成功した時、デッキから同名モンスターを可能な限り特殊召喚します」

 

 アライアンスが剣を構えると、その左右に同じ姿のモンスターが出現する。

 

「ライアンスは特殊召喚に成功した時、デッキからセントラルオーダーロード1体を手札に加える。そして、自分フィールドのモンスターがセントラルオーダーのみの場合、戦士族のセントラルオーダーロード1体をアドバンス召喚できる。私はアライアンス3体をリリース!」

 

 3体のモンスターが天へと吸い込まれる。

 

「アドバンス召喚。征令王(セントラルオーダーロード)グッドウィール」

 

 天より玉座が降ってくる。

 そこに腰かけるようにして現れたのは、巨大な剣を携えた王だった。

 

征令王(セントラルオーダーロード)グッドウィール

効果モンスター

星10/闇属性/戦士族/攻 3000/守 3000

このカードをアドバンス召喚する場合、モンスター3体をリリースしなければならない。

(1)このカードがアドバンス召喚に成功した場合に発動できる。自分の墓地からレベル6以下の「セントラルオーダー」モンスターを可能な限り、守備表示で特殊召喚する。この効果発動後、ターン終了時まで、自分は「セントラルオーダーロード」モンスター以外のモンスターを特殊召喚できない。

(2)アドバンス召喚されたこのカードがフィールドに表側表示で存在する場合に発動できる。自分フィールドの「セントラルオーダー」モンスター1体と、相手フィールドのモンスター1体をリリースできる。

(3)アドバンス召喚されたこのカードが戦闘・相手の効果で破壊されて墓地へ送られた場合に発動できる。デッキ・墓地から「征令締結」1枚を手札に加え、このカードを墓地から特殊召喚する。

 

「その効果で、生贄となった部下達を復活させます」

 

 グッドウィールの横に、三体のアライアンスが蘇る。

 

「そして永続魔法、征令の執務室(セントラルオーダー・ジェイル)の効果で、モンスターがリリースされた時、その数だけオーバータイムカウンターを置く。そして、ジェイルの効果で、私のモンスターは、カウンターの数×200、攻撃力がアップします」

 

 征令の執務室(セントラルオーダー・ジェイル)のカウンターは3つ。

 彼女のフィールドのモンスターの攻撃力は600アップする。

 

「私はこれでターンエンド」

 

ターン2 プレイメーカー

 

「俺はリンクスレイヤーを特殊召喚。」

 

 ヤマネコを象った鎧をつけた戦士が現れる。

 

「さらにレディ・デバッカーを通常召喚。効果でデッキからサイバース・コンバーターを手札に加え、それを特殊召喚!」

 

 プレイメーカーのフィールドに三体のモンスターが並ぶ。

 

「現れろ、未来を導くサーキット!」

 

 リンクスレイヤーとレディ・デバッカーがアローヘッドに吸い込まれる。

 

「リンク召喚!スプラッシュ・メイジ!」

 

 白いローブの魔術師が現れ、先端に泡を象った飾りのついた杖をクルッと一回転させる。

 

「効果で墓地からレディ・デバッカーを特殊召喚。現れろ、未来を導くサーキット!召喚条件は効果モンスター2体以上!リンク召喚!来い、デコード・トーカー!」

 

 アローヘッドより、青い甲冑を身にまとった電脳の騎士が降臨した。

 

「さらにアドラ・ブロッカーを特殊召喚!」

 

 デコード・トーカーのリンク先に、首が二又に分かれた水蛇が現れる。

 

アドラ・ブロッカー

効果モンスター

星2/水属性/サイバース族/攻 300/守 1500

(1)自分のリンクモンスターのリンク先に、このカードは手札から特殊召喚できる。

(2)自分または相手のモンスターの攻撃宣言時に墓地のこのカードを除外し、フィールドのサイバース族モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターはこのターンに1度だけ戦闘では破壊されず、このターンそのモンスターのコントローラーが受ける戦闘ダメージは1度だけ0になる。

 

「現れろ、未来を導くサーキット!リンク召喚!フレイム・アドミニスター!」

 

 アドラ・ブロッカーとサイバース・コンバーターがリンク素材となり、赤とオレンジを基調とした巨大ロボットが現れた。

 

「フレイム・アドミニスターの効果で、俺のリンクモンスター全ての攻撃力を800アップ!さらに、デコード・トーカーは、自身のリンク先のモンスターの数×500、攻撃力をアップする!」

 

 デコード・トーカーのリンク先にはフレイム・アドミニスター、そしてナイトのフィールドにいるアライアンスがある。

 これにより、デコード・トーカーの攻撃力4100。グッドウィールの攻撃力3600を上回った。

 

「バトルだ!デコード・トーカーで、グッドウィールを攻撃!」

 

 デコード・トーカーが大剣を振り下ろし、グッドウィールを粉砕する。

 

 ナイト:LP4000→3500

 

「ふふふっ、やりますね」

 

 エースモンスターが倒されたというのに、ナイトは余裕の表情だ。

 

「ではお見せしましょう。セントラルオーダーの本当の力を。私はグッドウィールの効果発動!」

 

 地面に黒い穴が開き、そこからグッドウィールが這いあがってくる。

 

「アドバンス召喚されたこのカードが破壊された時、墓地から自身を特殊召喚し、デッキから征令締結(セントラルオーダー・コンクルード)を手札に」

「……俺はフレイム・アドミニスターで、アライアンスを攻撃!」

 

 フレイム・アドミニスターがその大きな腕で、アライアンスを殴り飛ばす。

 

「アライアンスは守備表示なので、ダメージはありません」

「俺はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン3

 

「くそ、せっかく倒したグッドウィールが復活しちまった」

 

 Aiは椅子に座したまま動かないグッドウィールを見つめて悔しそうに言う。

 

「ご安心ください。グッドウィールはアドバンス召喚された状態でなければ効果を発動できません。今はただのバニラ、通常モンスターとなんらかわりません」

「そっか、よかったぁ」

 

 Aiは安堵のため息を漏らす。

 

「お前、そんな甘い相手だと思うか?」

「いや全く」

 

 遊作の言う通り、彼女は余裕の表情を崩さない。

 

「まずは征令アサインを召喚」

 

征令(セントラルオーダー)アサイン

効果モンスター

星3/闇属性/戦士族/攻 1400/守 500

(1)このカードの召喚に成功したターン、自分はEXデッキからモンスターを特殊召喚できず、通常召喚に加えて1度だけ、「セントラルオーダー」モンスター1体を召喚できる。

(2)このカードがリリースされた場合、自分フィールドのモンスターが「セントラルオーダー」モンスターのみのなら発動できる。自分はデッキから1枚ドローする。

 

「私はこのターン、通常召喚に加えて1度だけ、セントラルオーダーを召喚できます。私はアライアンスとアサインをリリースして、アドバンス召喚!出でよ、征令従騎(セントラルオーダーセクレタリー)ホワイトナイト!」

 

 ナイトの後ろから、白い騎馬に乗った騎士が駆けてきた。

 

征令従騎(セントラルオーダーセクレタリー)ホワイトナイト

効果モンスター

星7/闇属性/戦士族/攻 2400/守 2400

(1)アドバンス召喚されたこのカードは、特殊召喚された相手モンスターの効果を受けない。

(2)このカードが特殊召喚されたモンスターと戦闘を行うダメージ計算時、このカードの攻撃力は、このカードの元々の攻撃力分アップする。

(3)このカードがリンクモンスターと戦闘を行うダメージ計算時、このカードの攻撃力は、そのリンクマーカーの数×1000アップする。

(4)アドバンス召喚されたこのカードが効果でフィールドから墓地へ送られた場合に発動できる。このカードを墓地から特殊召喚する。その後、デッキから「セントラルオーダー」装備魔法カード1枚を手札に加える。

 

「リリースされたアサインの効果で1枚ドロー。さらに征令の執務室(セントラルオーダー・ジェイル)にオーバータイムカウンターを2つ置きます。そして私は儀式魔法、征令締結(セントラルオーダー・コンクルード)を発動!」

「儀式魔法だと!?」

 

 グッドウィールの足元に魔法陣が描かれ、その周囲に蒼い炎が灯る。

 

「自分の手札、フィールドのモンスターを墓地へ送り、手札からセントラルオーダー1体を儀式召喚。この時、私のフィールドにレベル10のセントラルオーダーロードがいるなら、デッキから儀式召喚できる」

「で、デッキから!」

「さあ行きますよ!私はグッドウィールをリリース!」

 

 魔法陣の中に、グッドウィールは飲み込まれる。

 

「数多の犠牲の元、その利を我が手に!儀式召喚!」

 

 魔法陣を囲む十の炎が集まり、一つとなる。

 

「出でよレベル10、征令王(セントラルオーダーロード)グレートウィール!」

 

 炎の中から現れたのは、くすんだ青の鎧をまとい、四本の大剣をその周囲に突き立てる巨人だった。

 

征令王(セントラルオーダーロード)グレートウィール

儀式・効果モンスター

星10/闇属性/戦士族/攻 4000/守 4000

「征令締結」により降臨

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない

(1)フィールドのレベル10の「セントラルオーダーロード」モンスター1体のみをリリースして儀式召喚されたこのカードは相手の効果の対象にならず、相手の効果で破壊さない。

(2)自分・相手のメインフェイズに発動できる。墓地からレベル9以下の「セントラルオーダー」モンスター1体を特殊召喚する。

(3)自分フィールドのレベル9以下の「セントラルオーダー」モンスターが攻撃を行う攻撃宣言時に発動できる。そのモンスターの攻撃力をダメージステップ終了時まで倍にする。そのモンスターはバトルフェイズ終了時にリリースされる。

 

「儀式モンスターが切り札だったのか……」

「リリースされたことで、ジェイルにさらにカウンターを置く。グレートウィールの効果発動。墓地からアライアンスを特殊召喚。さあバトル!ホワイトナイトで、デコード・トーカーを攻撃!」

 

 騎馬を駆り、デコード・トーカーへ向けて突っ込む。

 

征令の執務室(セントラルオーダー・ジェイル)の効果で、カウンターの数×200、攻撃力がアップする。今のカウンターは6つ、よって攻撃力は3600」

「けど、それじゃあデコード・トーカーには届かないぜ」

「ここでグレートウィールの効果発動!」

 

 グレートウィールが右手をホワイトナイトに向けると、その首に首輪が出現する。

 

「自分のセントラルオーダーの攻撃時、バトルフェイズ終了時にリリースされるかわりに、その攻撃力を倍にする!」

 

 これでホワイトナイトの攻撃力は一気に7200まで上昇し、デコード・トーカーへ向けて剣を振るう。

 

「まだ終わりじゃありませんよ。ホワイトナイトは特殊召喚された相手モンスターと戦闘を行う時、自身の元々の攻撃力分、攻撃力をアップ。さらにリンクモンスターと戦闘を行うなら、そのリンクマーカーの数×1000攻撃力をアップする」

「こ、攻撃力12600!?」

 

 そのあまりの火力に、Aiが目玉を飛び出させる。

 

「くっ!俺は墓地のアドラ・ブロッカーの効果!」

 

 デコード・トーカーに攻撃が向かう前に、アドラ・ブロッカーが立ちふさがる。

 

「このカードを除外することで、戦闘破壊を1度だけ無効に!」

 

 デコード・トーカーの破壊はどうにか免れ、その攻撃の余波もアドラ・ブロッカーが受け止める。

 

「さらにこのターン、コントローラーが受けるダメージも1度だけ0になる」

「あら残念。けどまだ終わりませんよ。グレートウィールで、フレイム・アドミニスターを攻撃!」

 

 グレートウィールが大剣を投げつけて、フレイム・アドミニスターを粉砕する。

 

 プレイメーカー:LP4000→2000

 

「フレイム・アドミニスターが破壊されたことで、デコード・トーカーの攻撃力は2300までダウン。アライアンスでデコード・トーカーを攻撃!この瞬間、グレートウィールの効果で、攻撃力を倍にする!」

 

 攻撃力6000となったアライアンスがデコード・トーカーに襲い掛かる、

 これを喰らえばプレイメーカーの負けだ。

 

「俺は(トラップ)カード、リンク・リアライブを発動!」

 

リンク・リアライブ

通常罠

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1)自分の墓地のリンクモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。このターン、相手モンスター全ての攻撃力を、この効果で特殊召喚されたモンスターのリンクマーカーの数×1000ダウンさせる。この効果発動後、ターン終了時まで、相手が受ける戦闘ダメージは0になる。

 

「墓地からフレイム・アドミニスターを特殊召喚!」

 

 デコード・トーカーのリンク先に、フレイム・アドミニスターが蘇る。

 

「そして、相手モンスター全ての攻撃力を、特殊召喚されたフレイム・アドミニスターのリンクマーカーの数×1000ダウンさせる!」

 

 デコード・トーカーの攻撃力は3600まで上昇し、対してバトルしているアライアンスの攻撃力は4000までダウン。

 

デコード・トーカーは破壊されるが、その戦闘ダメージは400まで抑えられた。

 

 プレイメーカー:LP2000→1600

 

「では、アライアンスでフレイム・アドミニスターを攻撃。グレートウィールの効果で攻撃力を倍にする」

 

 だが、さっきのトラップで、攻撃力1000まで下がったアライアンスは倍にしても攻撃力2000、フレイム・アドミニスターとは相打ちとなる。

 

「バトルフェイズ終了時、グレートウィールの効果を受けたホワイトナイトとアライアンスはリリースされる」

 

 二体のモンスターに付けられた首輪が光り、その体を消滅させる。

 

「そしてリリースされたことで、ジェイルにカウンターを2つ置く。そしてアドバンス召喚されたホワイトナイトは、効果でフィールドから墓地に送られた時、墓地から特殊召喚できる」

 

 地面に黒い穴が開き、そこからホワイトナイトが飛び出してくる。

 

「そしてデッキから装備魔法、征令の責任者(セントラルオーダー・シールド)を手札に加えて、ホワイトナイトに装備」

 

征令の責任者(セントラルオーダー・シールド)

装備魔法

「セントラルオーダー」にのみ装備可能

(1)装備モンスターは相手の効果の対象にならない。

(2)装備モンスター以外の自分の「セントラルオーダー」モンスターは相手の攻撃対象にならない。

 

「これで装備モンスターは効果の対象にならず、あなたは装備モンスター以外のモンスターを攻撃対象にできなくなりました」

「くっ……」

「私はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン4

 

「サイバース・ガジェットを召喚」

 

 三頭身のロボットが現れ、左手のガジェットから地面に向けてアームのついたコードを伸ばす。

 

「その効果で、墓地からサイバース・コンバーターを特殊召喚」

 

 伸ばしたアームで、地面からサイバース・コンバーターを引っ張り上げる。

 

「現れろ、未来を導くサーキット!リンク召喚!アップデートジャマー!」

 

 背中にパラボラアンテナのついた箱を背負った少年がアローヘッドより現れた。

 

「サイバース・ガジェットが墓地に送られた時、フィールドにガジェット・トークンを特殊召喚。現れろ、未来を導くサーキット!」

 

 アップデートジャマーとガジェット・トークンがアローヘッドに吸い込まれる。

 

「リンク召喚!リンク3、エンコード・トーカー!」

 

 現れたのは薄い水色の装甲をまとい、大盾を構えた電脳の騎士だ。

 

「俺は魔法カード、死者蘇生を発動!墓地からフレイム・アドミニスターを、エンコード・トーカーのリンク先に特殊召喚!」

 

 フレイム・アドミニスターが再度蘇る。

 

「これでバトル────」

「バトルフェイズ開始時、は(トラップ)カード、デグレーション・ドローを発動!」

 

デグレーション・ドロー

通常罠

(1)自分フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの攻撃力を半分にし、下がった数値1000に付き、自分はデッキから1枚ドローする。

 

「ホワイトナイトの攻撃力を半分にし、下がった数値1000に付き、1枚ドローする」

 

 ナイトはカードを2枚ドローする。

 

「自分のモンスターの攻撃力を下げた?」

「これは……」

「ふふっ、プレイメーカーさんは気付いたようですね。そう。ホワイトナイトはエンコード・トーカーの効果対象から外れた」

 

 エンコード・トーカーの効果は、リンク先のモンスターが自身より攻撃力の高いモンスターとバトルする時、その戦闘による破壊とダメージを無効にし、バトルした相手モンスターの攻撃力分、自分のモンスターの攻撃力を上げる効果を持つ。

 そして、ホワイトナイトの効果は、ダメージ計算時に攻撃力をアップする効果。

 

「あなたのデュエルを知っていれば、この状況をエンコード・トーカーによって突破しようと考えることは容易に想像がつきます。しかし、エンコード・トーカーの効果はダメージ計算”前”に発動する効果。そして私のホワイトナイトの効果はダメージ計算”時”に攻撃力を上げる効果。

 攻撃力2000のフレイム・アドミニスターで攻撃しても、まだホワイトナイトの攻撃力は2000のまま。エンコード・トーカーの効果は発動しません」

 

 そして、ホワイトナイトと戦闘が始まれば、ホワイトナイトはその力で自分の攻撃力を上げて返り討ちにできる。

 

「装備魔法の効果でホワイトナイト以外を攻撃することはできない。さあ、潔くここはターンエンドして、次のターンに賭けてみますか?もっとも、次のターンなんてくれば、ですけどね」

 

 プレイメーカーの手札は残り1枚。

 彼女が把握する限りでは、墓地に有用な効果を持ったカードはない。

 

 ナイトは既に勝利を確信していた。

 

「いっそ諦めるのもいいかもしれませんね。だって私は、このデュエルで負けたら、イグニスを渡せなんて一言も言ってませんから」

 

 商談の続きと言っただけで、このデュエルに何かを賭けるような話はしていない。

 

「諦めるということを覚える良い機会ですよ?」

「……いや、バトルだ!フレイム・アドミニスターで、ホワイトナイトを攻撃!」

 

 だが、プレイメーカーは折れない。

 フレイム・アドミニスターはホワイトナイトへと果敢に向かう。

 

「ッ! 何をする気だ?」

 

 ナイトの視線が彼の残された一枚の手札へと向く。

 そして彼が切ったその手札は、

 

「ダメージステップ開始時、俺は速攻魔法!禁じられた聖杯を発動!」

 

 モンスター1体の攻撃力を400上げるかわりに、その効果を無効にする速攻魔法だ。

 

「言っておきますが、ホワイトナイトは装備魔法の効果で相手の効果の対象になりませんよ?」

「俺が選ぶのはフレイム・アドミニスターだ!」

 

 フレイム・アドミニスターの頭上に黄金の杯が現れ、そこから液体が降り注ぐ。

 

「フレイム・アドミニスターの攻撃力は2000、だがそれは、自身の効果によって上昇しているだけだ。本来の攻撃力は1200。効果が無効になったことで、禁じられた聖杯の上昇分を合わせても1600だ!そしてエンコード・トーカーの効果!」

 

 エンコード・トーカーが、フレイム・アドミニスターに向けて盾を投げる。

 

「バトルによる破壊とダメージを無効にする!」

「くっ……永続効果なので、ホワイトナイトの攻撃力は6400に上昇します」

 

 ホワイトナイトが剣を向けるが、それはエンコード・トーカーの盾によって防がれ、その力を吸収する。

 

「バトル終了時、エンコード・トーカーの攻撃力をホワイトナイトの攻撃力分、すなわち6400アップする!」

 

 これでエンコード・トーカーの攻撃力は8700まで上昇し、ホワイトナイトへと向かう。

 

「行け!エンコード・トーカー!ファイナルエンコード!」

 

 エンコード・トーカーが盾を投げて、ホワイトナイトに突き刺した。

 

 ナイト:LP3500→2200

 

「しかし、これであなたの攻撃は終わりです」

「いやまだだ!アップデートジャマーの効果!このカードをリンク素材としたモンスターは、そのターン、2回攻撃できる!」

 

 エンコード・トーカーは再び動き出し、グレートウィールへと狙いを定める。

 

「エンコード・トーカーで攻撃!ファイナルエンコード!」

 

 ◆

 

 デュエルが終了すると、ナイトはプレイメーカーに称賛の拍手を送る。

 

「素晴らしいです」

「あんた、何が目的だったんだ?」

「さっきも言いましたが、商談ですよ。今回は不成立でしたが」

 

 ナイトはそう言って肩を落とす。

 

「では、私はこれで失礼します」

 

 ナイトはログアウトした。



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第32話:VISION DEROID

 LINK VRAINS、元進入禁止エリアだった場所が一般向けに解禁され、現在は多くの人で賑わっていた。

 

「本日は、お集まりいただきありがとうございます」

 

 八神がエリア中央に設置された巨大な扉の前で、集まった人達に対して説明を行う。

 

「いよいよ、ガンズレッドファクトリー社の運営する仮想空間サービス、VISION(ヴィジョン)DEROID(デロイド)との連携が開始されます。皆さん、用意はいいですかー!」

 

 すると、扉の上に、巨大なデジタル数字で『5』と表示される。

 

「「「「5! 4! 3!」」」」

 

 ギャラリーのカウントダウンに合わせて、数字は一つずつ減っていき、扉の奥に光が収束する。

 

「「「「2!1!」」」」」

 

 カウントが減るごとに、光は強くなる。そして、

 

「「「「0!」」」」

 

 扉の奥から光が弾けた。

 

 開いた扉へと、興奮する多くの人々が一斉に新たな仮想空間へと流れ込む。

 

「本当にスゲー人だな!」

 

 ロンリーブレイヴこと島直樹は、一緒に来ていた遊作と葵に言う。

 

「俺達も早く行こうぜ!」

「……いや、お前は先に行っててくれ」

 

 遊作に言われて、ロンリーブレイヴは不満そうにするが、逸る気持ちを抑えられない彼は、仕方なく扉の奥へと向かう。

 

「藤木くん、どうかしたの?」

「あの扉、スキャンされてる」

 

 遊作はVISION(ヴィジョン)DEROID(デロイド)へと通じる扉を指さす。

 

「俺が扉をくぐれば、Aiの存在がバレるかもしれない」

「そっか。でも、それならどうして島くんの誘いを断らなかったの?」

 

 遊作は扉の横で、別の空間へと旅立つ人を見送る彼女、八神零那の方へ視線を向ける。

 前回のデュエルで、ナイトこと八神は、結局Aiに手出しはせずに、そのまま帰ってしまった。

その真意は測りかねないが、それよりも気になるのは、VISION(ヴィジョン)DEROID(デロイド)を運営しているガンズレッドファクトリー社のことだ。

 

「これを見てくれ」

 

 遊作はガンズレッドファクトリー社のホームページを開き、葵に見せる。

 

「通称GRF(ジルフ)。表向きは重機や列車など、大型の機械を取り扱う企業で、以前からSOLテクノロジーと共同で事業を行っていた。だが……」

 

 ページは切り替わり、今度はニュースサイトへ飛ぶ。

 そこでは、ガンズレッドファクトリー社の社長であるメイソン氏に対するいくつもの疑惑について記事にしている。

 

「裏で軍事産業に携わっているという疑惑もある。しかも、最近はAIの軍事利用にも手を出しているらしい」

「じゃあ、GRFについて調べるの?」

「ああ。というわけで、Aiを預かっといてくれ」

 

 デュエルディスクを操作して、葵にAiを転送する。

 

「お前は留守番だ」

「気を付けろよ~」

 

 Aiが目玉だけを出して、遊作を見送った。

 

 ◆

 

 SOLテクノロジー、セキュリティ室。

 晃の元へ、八神から通信が来た。

 

「ゲートの通過者の中に、イグニスアルゴリズムの反応はありましたか?」

「今のところは……」

 

 モニターには、今まさにゲートを通り抜けているユーザーや、その他、データの情報がリアルタイムで映し出されている。

 

「プレイメーカーを見つけるのはともかく、問題は他の、特に光のイグニスの動向ですね」

 

 ライトニングがVISION(ヴィジョン) DEROID(デロイド)の情報を欲していたということは、必ず何か仕掛けてくるはずだと、八神は踏んでいた。

 

「警戒してきていないのでは?」

「そうだといいのですが……」

 

 前回も結局後手に回ってしまい、ライトニングにしてやられた。

 今回こそは逃がすわけには行かないと、八神は考えを巡らせる。

 

「すみません。我々の力不足で」

「財前部長が謝ることではありませんよ。皆さん頑張っていますから」

 

 不安な顔をする晃を労い、八神は気持ちを切り替える。

 

「引き続き監視を続けてください。私も手伝いたいところですが、生憎、クイーンから呼ばれていまして」

「分かりました。こちらはお任せください」

「えぇ。お任せしましたよ。財前部長」

 

 頼もしい部下に笑いかけ、八神は通信を切った。

 

 ◆

 

 その頃、遊作は島と合流し、仮想空間内を探索していた。

 エリアの風景は、会社のイメージなのか、スチームパンク風の街並みが広がり、いくつものパイプが複雑に絡み合った地形や、工場のような建物がいくつも立ち並ぶ。

 

「ここがVISION(ヴィジョン) DEROID(デロイド)! LINK VRAINSとはまた違った雰囲気でいいな!」

「あぁ」

 

 造形に特色はあるが、至って普通のVR空間だ。

 設備に関しても、特別おかしなところはない。

 

「あれは……」

 

 しばらく進むと、ひと際目立つ建物が見えた。

 

 それは空に浮かぶ巨大な円柱が互い違いに重なったようなオブジェだった。

 

「なんだあれは?」

「ん? スゲーデケーな!」

 

 よく分からないオブジェだが、単なる雰囲気づくりのための飾りでもなさそうだ。

 現に、あの中を行き来するドローン型の警備AIが何機か見える。

 

「お、藤木、あっちでデュエルやってるぜ」

「……悪い島、少し用事を思い出した」

「なんだよ。財前といいお前といい」

「すまん。また今度来よう」

 

 不満そうにする彼に謝って、遊作は近くの物陰に隠れてアバターをプレイメーカーに切り替える。

 

 そして、Dボードを出して、空に浮かぶオブジェの方へ飛ぶ。

 SOLが運営するLINK VRAINSに比べてデータマテリアルが少ないせいか、いつもよりスピードは出なかったが、無事にオブジェの中に侵入できた。

 

 中はまるでSF映画に出てくる宇宙船のようで、金属の壁に囲まれた大きな通路を、たくさんのドローンが行き来している。

 

 プレイメーカーは草薙からもらったステルスプログラムを使い、見つからないように先へ進む。

 

「単なるAIの統制装置か?」

 

 怪しいと思ったのは外れだったか。

 そう思ったその時、プレイメーカーは一つの大きな扉に出くわした。

 

「ロックは……さすがに掛かってるか」

 

 プレイメーカーは扉に手をかざし、解析を行う。 

 

「ん?」

 

 その時、扉の奥に、彼のリンクセンスが何かを感じ取る。

 

「……開いた」

 

 扉を解錠して奥へ進む。

 そこは、真っ黒い空間が広がる広い部屋だった。

仲には無数のホログラムモニターが設置されており、様々な場所を映した映像が映っている。

 

「ただの管制室か……ん?」

 

 ふと、映像のうち一つに目を向ける。

 一見すると何の変哲もない映像だが、よく見るとそれはVISION(ヴィジョン) DEROID(デロイド)どころか、仮想空間の映像でもなかった。

 

「これは、衛星カメラか?」

 

 映っているのは、どれも現実世界の様々な場所を上空から映した映像だった。

 

「なんでこんなものが……」

「おや、先客がいたようだな」

 

 その時、プレイメーカーの後ろから声がする。

 

 振り返ると、一人の金のフードと口元まで隠れるコートで顔を隠した少年と、その肩の上に乗る黄色いイグニスが立っていた。

 

「お前は……」

「君と会うのは初めてだな。プレイメーカー。私の名はライトニング。イグニスを束ねる者だ」

「ライトニング、光のイグニスか」

 

 すると、プレイメーカーの視線が、彼を肩に乗せた少年の方へ向く。

 その背格好、フードの隙間から除く髪型、そして彼のリンクセンスが告げる気配、それらには憶えがあった。

 

「彼が気になるか?」

 

 プレイメーカーの視線に気づいたのか、ライトニングはニヤリと笑う。

 すると、少年はおもむろにフードを外し、その素顔を晒した。

 

「じ、仁!!」

 

 そう。彼こそが、プレイメーカーこと遊作が同じ孤児院で過ごし、そして共に草薙の元へ引き取られた少年だった。

 

「ライトニング!仁に何をした!?」

「これは人聞きが悪い。私は彼の破損した意識データをここまで修復してやったのだ」

「破損だと?」

「君も知っているだろう。実験の影響で彼は既に廃人となっている。それをこうして、ここまで使えるようにしたのだ。その対価として、こうして私に協力してもらっているがね」

 

 仁のその瞳には光は灯っておらず、とても正気の状態とは思えない。

 

「仁を離せ!」

「断る。彼はまだ必要だ。私の目的を果たすためにも」

「くっ……ならば」

 

 プレイメーカーはデュエルディスクを構える。

 

「いいだろう。少し戯れに付き合ってやろう」

 

 ライトニングが手を払うと、仁はそれに合わせてデュエルディスクを構える。

 

「「デュエル!」」

 

ターン1 プレイメーカー

 

「俺はサイバース・ウィザードを召喚」

 

 青く光るラインの入った白い衣装をまとう魔術師が現れる。

 

「自分フィールドにレベル4のサイバース族モンスターが存在する時、手札のサイバース・マジガールを特殊召喚できる!」

 

 その隣に、サイバース・ウィザードに似た衣装をまとう青髪の少女が現れる。

 

サイバース・マジガール

効果モンスター

星3/光属性/サイバース族/攻 1300/守 600

このカード名の(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しか行えず、(3)の効果はデュエル中、1度しか使用できない。

(1)自分フィールドにレベル4のサイバース族モンスターが存在する場合、このカードを手札から特殊召喚できる。

(2)1ターンに1度、相手フィールドの守備表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの守備表力を半分にし、その数値分、自分フィールドに他のサイバース族モンスター1体の攻撃力をアップする。

(3)このカードがリンク素材となって墓地に送られた場合、自分の墓地のそのリンク召喚の素材とした「サイバース・ウィザード」1体を対象として発動できる。そのモンスターを攻撃表示で特殊召喚できる。

 

「現れろ、未来を導くサーキット!」

 

 プレイメーカーの手を伸ばす先に、光が走り、アローヘッドを出現させる。

 そこへ二体の電脳の魔術師が飛び込む。

 

「リンク召喚!スプラッシュ・メイジ!」

 

 アローヘッドより現れたのは、水を象った白いローブを纏う電脳の魔術師だ。

 

「リンク素材となったサイバース・マジガールの効果!このカードと共にリンク素材となったサイバース・ウィザードを墓地から特殊召喚!さらにスプラッシュ・メイジの効果で、墓地からサイバース・マジガールを特殊召喚!」

 

 先程リンク素材となったモンスター二体がフィールドに蘇る。

 

「現れろ、未来を導くサーキット!召喚条件は、モンスター2体以上!リンク召喚!サイバース・エンチャンター!」

 

 スプラッシュ・メイジと共にアローヘッドへと飛び込んだサイバース・ウィザードが、新たな装いとなってフィールドに舞い降りた。

 

「さらに俺は魔法カード、死者蘇生を発動!墓地からスプラッシュ・メイジを特殊召喚。さらにバックアップ・セクレタリーを特殊召喚!現れろ、未来を導くサーキット!」

 

 三度現れたアローヘッドに、スプラッシュ・メイジ、サイバース・マジガール、バックアップ・セクレタリーの3体が飛び込み、そこから風を巻き起こす。

 

「唸れ嵐!虚構に渦巻く旋風は、万物を振るわす竜の雄叫びとなる!リンク召喚!」

 

 風は竜巻となってフィールドに降りる。

 

「出でよリンク4!ファイアウォール・ドラゴン!」

 

 竜巻の中から、白い機械の翼を広げ、紫電を瞬かせながら雄叫びを上げる電脳の竜が現れた。

 

「俺はカードを2枚伏せてターンエンド」

 

ターン2 ライトニング

 

「私は天装騎兵グラディウスを召喚!」

 

 フィールドに石の台座に置かれた短剣を持った石像が現れる。

 

天装騎兵(アルマートス・レギオー)グラディウス

効果モンスター

星2/光属性/サイバース族/攻 0/守 800

(1)このカードが召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「天装の闘技場(アルマートス・コロッセオ)」1枚を手札に加える。

(2)このカードとリンク状態の自分の「アルマートス・レギオー」リンクモンスターの攻撃力は500アップする。

 

「その効果でデッキからフィールド魔法、天装の闘技場(アルマートス・コロッセオ)を手札に加える」

「させるか!俺はサイバース・エンチャンターの効果発動!」

 

 サイバース・エンチャンターが杖を掲げ、空に複雑な模様を描く。

 

「このカードがサイバース・ウィザードをリンク素材としているなら、相手モンスター1体の表示形式を変更し、その効果を無効にする!」

 

 模様から雷撃が飛び、グラディウスへと降り注ぐ。

 その力でグラディウスは守備表示となり、効果は不発となった。

 

「なら私は天装の顕現(アルマートス・エンゲージ)を発動!」

 

天装の顕現(アルマートス・エンゲージ)

通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1)自分のデッキから「アルマートス・レギオー」モンスター1体を手札に加える。自分フィールドにモンスターが存在しない場合、手札に加えるかわりに特殊召喚できる。この効果発動後、ターン終了時まで、自分はサイバース族モンスターしか特殊召喚できない。

 

「デッキから天装騎兵(アルマートス・レギオー)ソルフェルムを手札に加える。このカードは自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない、もしくはアルマートス・レギオーのみの場合、手札から特殊召喚できる」

 

天装騎兵(アルマートス・レギオー)ソルフェルム

効果モンスター

星3/光属性/サイバース族/攻 0/守 1200

このカード名の(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しか行えず、特殊召喚するターン、自分は「アルマートス・レギオー」モンスターしか特殊召喚できない。

(1)自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合、または「アルマートス・レギオー」モンスターのみの場合、このカードは手札から特殊召喚できる。

(2)このカードとリンク状態の自分の「アルマートス・レギオー」リンクモンスターが守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力が攻撃力を超えた分だけ戦闘ダメージを与える。

 

「現れろ、光を導くサーキット!リンク召喚!天装騎兵(アルマートス・レギオー)デクリオン!」

 

 アローヘッドの向こうから地鳴りが響く。

 大量の兵士を引き連れて現れたのは、金属の兜を被った上裸の戦士だった。

 

天装騎兵(アルマートス・レギオー)デクリオン

リンク・効果モンスター

光属性/サイバース族/攻 1000/LINK 1

【リンクマーカー:下】

レベル4以下の光属性・サイバース族モンスター1体

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードのリンク召喚に成功した場合に発動できる。デッキからリンク魔法カード1枚をセットする。このターン、このカード及びこの効果でセットしたカードは相手の効果で破壊されない。

(2)このカード以外の自分の「アルマートス・レギオー」リンクモンスター、または魔法&罠ゾーンの表側表示のカードが相手の効果でフィールドを離れる場合、かわりにフィールドのこのカードを墓地へ送ることができる。

 

「その効果で、デッキからリンク魔法(マジック)をセット」

「来たか……」

 

 セットされたカード、既にその脅威を知っているリンク魔法を見て、プレイメーカーの表情は険しくなる。

 

「現れろ、光を導くサーキット!」

 

 2体のモンスターが、光となり螺旋を巻きながらアローヘッドへと吸い込まれる。

 

「リンク召喚!天装騎兵(アルマートス・レギオー)ケントゥリオン」

 

天装騎兵(アルマートス・レギオー)ケントゥリオン

リンク・効果モンスター

光属性/サイバース族/攻 1700/LINK 2

【リンクマーカー:右/左】

光属性・効果モンスター2体

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードがリンク召喚に成功した場合に発動できる。墓地から「アルマートス・レギオー」モンスター1体を手札に加える。この効果発動後、ターン終了時まで、自分はこの効果で手札に加えたカード及びその同名カードの効果を発動できない。

(2)1ターンに1度、自分フィールドの「アルマートス・レギオー」モンスターが攻撃対象に選択された場合に発動できる。その攻撃を無効にする。

 

「効果で墓地からグラディウスを手札に加える。そしてそのグラディウスを墓地へ送り、手札から天装騎兵(アルマートス・レギオー)スペクラータを特殊召喚」

 

 仁がグラディウスのカードを指で弾き、地面へ投げ捨てると、新たな石像が競り上がってくる。

 

天装騎兵(アルマートス・レギオー)スペクラータ

効果モンスター

星5/光属性/サイバース族/攻 0/守 1800

(1)手札からこのカード以外の「アルマートス・レギオー」モンスター1体を墓地へ送って発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。

(2)このカードとリンク状態の自分の「アルマートス・レギオー」リンクモンスターが攻撃する場合、相手はダメージステップ終了時までモンスター効果・魔法・罠カードを発動できない。

 

「現れろ、光を導くサーキット!召喚条件は光属性効果モンスター2体以上!リンク召喚!天装騎兵(アルマートス・レギオー)レガトゥス・レギオニス」

 

 アローヘッドの奥に、荒野の景色が浮かぶ。

 その荒れた大地より、騎馬に乗った重戦士が駆けてきた。

 

天装騎兵(アルマートス・レギオー)レガトゥス・レギオニス

リンク・効果モンスター

光属性/サイバース族/攻 2400/LINK 3

【リンクマーカー:左/下/右】

光属性・効果モンスター2体以上

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカード以外の自分フィールドの「アルマートス・レギオー」モンスター1体と、墓地の通常召喚可能な「アルマートス・レギオー」モンスター1体を対象として発動できる。対象のフィールドのモンスターを破壊し、対象の墓地のモンスターを自分フィールドに特殊召喚する。この効果は相手ターンでも発動できる。

(2)このカードが既にモンスターゾーンに存在する状態で、自分フィールドに「アルマートス・レギオー」モンスターが特殊召喚された場合に発動できる。このターン、このカードは相手の効果を受けない。

 

「俺はファイアウォール・ドラゴンの効果発動!」

 

 ファイアウォール・ドラゴンの翼エネルギーが集まり、その背に光の輪が現れる。

 

「このカードと相互リンク状態のモンスターの数だけ、フィールド・墓地のカードを手札に戻す!」

「私は速攻魔法!天装の決闘(アルマートス・ドゥエロ)を発動!」

 

天装の決闘(アルマートス・ドゥエロ)

速攻魔法

(1)自分の墓地から「アルマートス・レギオー」モンスター1体を攻撃表示で特殊召喚する。その後、相手の墓地からモンスター1体を効果を無効にして、攻撃表示で相手フィールドに特殊召喚する。

(2)自分の「アルマートス・レギオー」リンクモンスターが戦闘で相手モンスターを破壊した場合、墓地のこのカードを除外して発動できる。自分の墓地からそのモンスターより少ないリンクマーカーを持つ「アルマートス・レギオー」リンクモンスター1体を効果を無効にして特殊召喚する。

 

「墓地からデクリオンを特殊召喚!」

 

 地面に穴が開き、デクリオンが飛び出す。

 

「そして君の墓地から、サイバース・マジガールを効果を無効にして特殊召喚」

 

 プレイメーカーのフィールドにもモンスターが復活する。

 

「だがファイアウォールの効果は止まらない。行け!エマージェンシーエスケープ!」

 

 輪が収束し、ファイアウォール・ドラゴンの口から光線が放たれる。

 

「デクリオンの効果!自分のアルマートス1体の身代わりとなる!」

 

 レガトゥス・レギオニスの盾となるように、デクリオンが飛び出し、光線を受け止める。

 

「くっ……」

「私はさらに、手札から天装騎兵(アルマートス・レギオー)シーカを特殊召喚。そのままリンク召喚!」

 

 石像がアローヘッドに吸い込まれ、デクリオンへと生まれ変わる。

 

「そして発動!世界を裁きし三本の矢!リンク魔法(マジック)裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)!」

 

 デクリオンのリンク先に、リンクマーカーの描かれた魔法カードがその姿を現した。

 

裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)

リンク魔法

【リンクマーカー:左上/上/右上】

リンク魔法は自分のリンクモンスターのリンク先となる魔法&罠ゾーンにのみ発動できる。

(1)「裁きの矢」は自分フィールドに表側表示で1枚しか存在できない。

(2)このカードのリンク先のリンクモンスターが戦闘を行う場合に発動できる。そのモンスターの攻撃力はダメージ計算時のみ倍になる。

(3)このカードがフィールドを離れた場合に発動する。このカードのリンク先のモンスターは墓地へ送られる。

 

「バトルだ。まずはデクリオンで、サイバース・マジガールを攻撃!この瞬間、裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)の効果で攻撃力は倍となる!」

「俺は(トラップ)カード、サイバネット・エマージェンスを発動!」

 

サイバネット・エマージェンス

通常罠

(1)自分のサイバース族モンスター1体を対象として発動できる(ダメージステップでも発動可能)。そのモンスターはこのターン、1ターンに1度だけ戦闘で破壊されず、その戦闘によって発生する戦闘ダメージはお互いが受け、半分になる。その後、受けたダメージの数値分、戦闘を行った相手モンスターの攻撃力をダウンさせ、デッキからその数値以下の攻撃力または守備力を持つサイバース族モンスター1体を手札に加える。

 

「サイバース・マジガールはこのターン、1度だけ戦闘で破壊されず、その戦闘ダメージは半分となり、互いに受ける!」

 

 サイバース・マジガールの前に赤い障壁が現れ、デクリオンから守る。

 そして、プレイメーカーとライトニング、それぞれにレーザーが伸びて、ダメージを与える。

 

 ライトニング:LP4000→3650

 プレイメーカー:LP4000→3650

 

「そして、ダメージの数値分、デクリオンの攻撃力をダウンさせ、その数値以下の攻撃力か守備力を持つサイバース族モンスター1体をデッキから手札に加える」

「レガトゥス・レギオニスの効果発動!私のデクリオンを破壊し、墓地から通常召喚可能なアルマートス・レギオー1体を特殊召喚!蘇れ、グラディウス!」

 

 デクリオンが地面に沈み、代わりに短剣を持った石像が現れる。

 

「レガトゥス・レギオニスで、ファイアウォール・ドラゴンを攻撃!グラディウスの効果で、このカードとリンク状態のアルマートス・レギオーは攻撃力を500アップする!」

 

 攻撃力2900となったレガトゥス・レギオニスにより、ファイアウォール・ドラゴンは粉砕される。

 

 プレイメーカー:LP3650→3250

 

「墓地の天装の決闘(アルマートス・ドゥエロ)の効果!自分のアルマートス・レギオーリンクモンスターが戦闘で相手モンスターを破壊した時、墓地からそのリンクマーカーの数以下のアルマートス・レギオーリンクモンスター1体を特殊召喚する。甦れ、ケントゥリオン!」

 

 ケントゥリオンが地面から飛び出し、その槍をサイバース・エンチャンターへと向ける。

 

「ケントゥリオンで、サイバース・エンチャンターを攻撃!グラディウスとリンク状態であることで、攻撃力は500アップ、さらに裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)の効果で、攻撃力は倍となる!」

 

 ケントゥリオンがその槍を投擲し、サイバース・エンチャンターの体を貫き、そのままプレイメーカーを突き刺した。

 

 プレイメーカー:3250→1250

 

「破壊されたサイバース・エンチャンターの効果発動!墓地からサイバース・ウィザードを特殊召喚する!」

 

 サイバース・エンチャンターの体を魔法陣が包み込み、サイバース・ウィザードへと変化させた。

 

「メインフェイズ2に、私は手札から天装騎兵(アルマートス・レギオー)スクトゥムを特殊召喚」

 

 ケントゥリオンの右隣に、盾を構えた石像が出現した。

 

天装騎兵(アルマートス・レギオー)スクトゥム

効果モンスター

星3/光属性/サイバース族/攻 0/守 1800

(1)このカードは自分の「アルマートス・レギオー」リンクモンスターのリンク先に手札から特殊召喚できる。

(2)このカードが「アルマートス・レギオー」リンクモンスターとリンク状態の場合、このカード及びこのカードとリンク状態の「アルマートス・レギオー」リンクモンスターは1ターンに1度だけ戦闘で破壊さず、1ターンに1度だけ、効果で破壊されない。

(3)このカードが「アルマートス・レギオー」リンクモンスターとリンク状態の場合、相手はその「アルマートス・レギオー」リンクモンスターしか攻撃対象に選択できない。

 

「現れろ、光を導くサーキット!」

 

 二体の石像がアローヘッドに吸い込まれる。

 

「リンク召喚!リンク2、天装騎兵(アルマートス・レギオー)プリミ・オルディネス」

 

天装騎兵(アルマートス・レギオー)プリミ・オルディネス

リンク・効果モンスター

光属性/サイバース族/攻 1800/LINK 2

【リンクマーカー:上/左下】

「アルマートス・レギオー」モンスターを含む光属性・効果モンスター2体

(1)このカードがリンク召喚に成功したターンの自分のメインフェイズに、自分の墓地のレベル4以下の「アルマートス・レギオー」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを守備表示で特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたモンスターは特殊召喚成功時に効果を発動できない。

(2)このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分が受ける戦闘ダメージは、自分フィールドの相互リンク状態のカードの数×500ダウンする。

 

「効果で墓地からスクトゥムを、ケントゥリオンのリンク先に特殊召喚。そして天装聖典(アルマートス・リブロ)を発動!」

 

天装聖典(アルマートス・リブロ)

速攻魔法

このカード名の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか発動できない。

(1)このターンのエンドフェイズに、このターンに手札・フィールドから墓地へ送られたリンクモンスター以外の「アルマートス・レギオー」モンスター2体に付き、デッキから1枚ドローする。

(2)自分のメインフェイズに、墓地のこのカードを除外し、自分の墓地の「アルマートス・レギオー」モンスター5体を対象として発動できる。そのカードをデッキに戻し、自分はデッキから1枚ドローする。

 

「エンドフェイズに、このターンに墓地へ送られたリンクモンスター以外のアルマートス・レギオー2体に付き、1枚ドローする。墓地へ送られたモンスターは6体、よって3枚ドローする。これでターンエンドだ」

 

ターン3

 

「俺は魔法カード、サイバネット・ドローを発動!」

 

サイバネット・ドロー

通常魔法

自分フィールドにリンク3以上の「コード・トーカー」モンスターが存在する場合、このカードの発動と効果は無効化されない。

(1)自分のフィールド・墓地・除外されているサイバース族リンクモンスターのリンクマーカーの合計が8以上の場合、自分のメインフェイズ1開始時に発動できる。自分はデッキから2枚ドローする。この効果発動後ターン終了時まで、自分はデッキからカードを手札に加えられない。

 

「デッキから2枚ドロー。さらに魔法カード、死者蘇生を発動!墓地からスプラッシュ・メイジを特殊召喚!効果発動!墓地からバックアップ・セクレタリーを特殊召喚」

 

 スプラッシュ・メイジが杖を一回転させると、杖の先に沿って虚空に穴が開き、奥からバイザーをつけた少女が現れる。

 

「現れろ、未来を導くサーキット!召喚条件は、効果モンスター2体以上!俺はバックアップ・セクレタリーと、リンク2のスプラッシュ・メイジをリンクマーカーにセット!リンク召喚!デコード・トーカー!」

 

 アローヘッドより、デコード・トーカーが剣を振り下ろしながら、エクストラモンスターゾーンに降り立った。

 

「リンク召喚された時、手札のパラレルエクシードの効果発動!このカードを手札から特殊召喚!さらにその効果で、デッキからもう1体パラレルエクシードを特殊召喚!」

 

 額にエックスの文字を象った角のついたドラゴンが二体、フィールドに現れる。

 

「パラレルエクシードは、パラレルエクシードの効果で特殊召喚された時、攻撃力が半分となり、レベルは4となる。そしてサイバース・シンクロンを通常召喚。効果発動!」

 

 サイバース・シンクロンがその体を回転させると、サイバース・マジガールを囲むように、三つのリングのエフェクトが現れる。

 

「サイバース・マジガールのレベルを、その元々のレベル分上げる」

 

 リングは収束し、サイバース・マジガールの体に吸収される。

 

「俺はレベル6となったサイバース・マジガールに、レベル1のサイバース・シンクロンをチューニング!」

 

 二体のモンスターが粒子へと分解され、二つのリングのエフェクトを作り出す。

 

「紫電一閃、未知なる力が、飛竜乗雲となる!シンクロ召喚!」

 

 リングが七つに分裂し、また一つに重なる。

 

「レベル7、サイバース・クアンタム・ドラゴン!」

 

 リングを貫くように光が駆け、その光の中から白き翼を広げる電脳の竜が降臨した。

 

「さらに俺はレベル4のパラレルエクシード2体で、オーバーレイネットワークを構築!」

 

 パラレルエクシードの体がそれぞれ赤と青の光に分解され、天上に現れたエックス字のパネルに螺旋を描きながら吸い込まれる。

 

「万物を蹴散らす、力の壁よ。今竜の牙となり顕現せよ!エクシーズ召喚!」

 

 パネルから光が爆発する。

 

「現れろ、ランク4!ファイアウォール・X・ドラゴン!」

 

 光の中から現れたのは、蒼い光を放つ翼を、エックスを描くように広げる白いドラゴンだった。

 

「シンクロ召喚に、エクシーズ召喚か。よくもこれだけそろえたものだ」

「俺はファイアウォール・X・ドラゴンの効果発動!オーバーレイユニットを2つ使い、墓地からリンク4のサイバース族リンクモンスター1体をこのカードとリンク状態になるように特殊召喚する!蘇れ、ファイアウォール・ドラゴン!」

 

 ファイアウォール・X・ドラゴンの左隣に、ファイアウォール・ドラゴンが蘇る。

 

「私はここで、レガトゥス・レギオニスの効果発動!スクトゥムを破壊し、墓地からグラディウスを特殊召喚する」

 

 レガトゥス・レギオニスが剣を掲げると、スクトゥムが地面に沈んでいき、代わりにグラディウスが地面からせり上がってくる。

 

「レガトゥス・レギオニスの効果発動!アルマートス・レギオーが特殊召喚された時、このターン、このカードは相手の効果を受けない」

「ならバトルだ!ファイアウォール・X・ドラゴンで、レガトゥス・レギオニスを攻撃!」

 

 ファイアウォール・X・ドラゴンが翼を広げると、デコード・トーカーとファイアウォール・ドラゴンからデータの粒子がその翼へ流れ込む。

 

「ファイアウォール・X・ドラゴンは、自身とリンク状態のモンスターのリンクマーカーの数×500、攻撃力がアップする!」

 

 リンクマーカーの合計は7、つまり3500アップし、今のファイアウォール・X・ドラゴンの攻撃力は6000となっている。

 

「ライジング・クリプト・リミット!」

 

 翼からエックス字の青い炎が放たれる。

 

「私はケントゥリオンの効果発動!」

 

 すると、ケントゥリオンがレガトゥス・レギオニスの前に立ち、その槍で炎を受け止める。

 

「1ターンに1度、アルマートス・レギオーへの攻撃を無効にする!」

 

 槍に貫かれ、炎はかき消される。

 

「ならデコード・トーカーで、レガトゥス・レギオニスを攻撃!デコード・トーカーはリンク先のモンスターの数×500、攻撃力がアップする!パワーインテグレーション!」

 

 デコード・トーカーへ二体のドラゴンからデータが供給され、その攻撃力は3300まで上昇し、レガトゥス・レギオニスを両断する。

 

「プリミ・オルディネスの効果、自分フィールドの相互リンク状態のカードの数×500、戦闘ダメージをダウンさせる」

 

 プリミ・オルディネスが槍をくるくる回すと、デコード・トーカーの攻撃の余波はかき消されてしまった。

 

「これで私へのダメージは0だ」

「くっ、ならサイバース・クアンタム・ドラゴン、プリミ・オルディネスを攻撃!この瞬間、サイバース・クアンタム・ドラゴンの効果発動!」

 

 サイバース・クアンタム・ドラゴンの翼から、金属の粉が舞い、プリミ・オルディネスを包み込む。

 

「相手モンスターと戦闘を行うダメージステップ開始時、そのモンスターを手札に戻す!」

 

 プリミ・オルディネスは粉に包まれ、その姿を消した。

 

「この効果発動後、このカードはもう1度だけ攻撃できる!グラディウスを攻撃!」

 

 サイバース・クアンタム・ドラゴンが石像をなぎ倒す。

 

「これで、ケントゥリオンの攻撃力は元の1700に戻る」

「だが、裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)は健在だ。残りのファイアウォール・ドラゴンでは、攻撃力が2倍になったケントゥリオンには届かない」

「俺はセットされていた速攻魔法カード、クイックリンク・ブーストを発動!」

 

クイックリンク・ブースト

速攻魔法

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)墓地のリンクモンスター1体を除外し、自分フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。対象のモンスターの攻撃力を、除外したカードのリンクマーカーの数×700アップさせる。

(2)墓地のこのカードを除外して発動できる。除外されているリンクモンスター1体を、自分のリンクモンスターのリンク先に特殊召喚する。この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できない。

 

「墓地のサイバース・エンチャンターを除外することで、そのリンクマーカーの数1つ700、攻撃力をアップさせる!」

 

 ファイアウォール・ドラゴンの攻撃力が一気に4600まで上昇する。

 

「ファイアウォール・ドラゴンで、ケントゥリオンを攻撃!テンペストアタック!」

 

 ライトニング:LP3650→2450

 

「俺はこれでターンエンド」

 

ターン4

 

「では、そろそろ終わりにしてやろう。私は魔法カード、天装の決闘(アルマートス・ドゥエロ)を発動。墓地からレガトゥス・レギオニスを特殊召喚」

 

レガトゥス・レギオニスが、今度は裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)のリンク先に現れる。

 

「そして君の墓地からサイバース・シンクロンを攻撃表示で特殊召喚。これでバトルだ。レガトゥス・レギオニスで、サイバース・シンクロンを攻撃!裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)の効果で、攻撃力は倍となる!」

 

 攻撃力4800となったレガトゥス・レギオニスが、たった100しかないサイバース・シンクロンを容赦なく蹂躙した。

 

「とどめだ」

 

 そしてレガトゥス・レギオニスは、その剣をプレイメーカーに向ける。

 騎馬を駆り、その勢いのまま、彼の体を切り裂いた。

 

 ◆

 

 

 地に伏したプレイメーカーを一瞥し、ライトニングと仁は近くのモニターに手を触れる。

 

「さて、私は私の目的を果たすとしよう」

 

 ライトニングが作業を行う中、倒れたプレイメーカーはその体を重そうに持ち上げる。

 

「ライトニング、お前の目的はなんだ?」

「決まっているだろう」

 

 ライトニングと仁はまるで連動しているかのように振り向き、ギロッと彼を睨む。

 

「復讐だよ」

「……ハノイの騎士なら、既に壊滅した」

「ハノイか。やつらは所詮オマケだ。私が真に復讐すべきは我々の父でもあるあの男、鴻上博士だ」

 

 彼の口からその名前が出て、プレイメーカーは目を見開く。

 

「我々を裏切ったあの男を、絶対に許してはおかない」

「鴻上博士なら、既に亡くなっている。お前の復讐すべき相手はどこにもいない!」

「死んでいる……か。なるほど」

 

 特に驚くこともなく、ライトニングは話を続ける。

 

「奴の目論見通り、人類を進化させる。ただし、我々が人類に成り代わるという形でな」

「それがお前の復讐か……」

「話は以上だ。そろそろ退場願おうか」

 

 ライトニングが指を鳴らすと、プレイメーカーのいる床に穴が開く。

 

「!!」

「さらばだ」

 

 プレイメーカーは穴から落下し、オブジェの外、つまり上空へ投げ出される。

 

「くっ……!」

 

 Dボードを出現させて、どうにか地面に激突することは回避した。

 

「ライトニング……」

 

 ◆

 

 同刻、LINK VRAINSのランキングデュエル、

 

「さぁデュエルもいよいよ大詰め!ナンバーワンデュエリスト、Go鬼塚!初めて戦う相手にやや苦戦か!?」

 

 観衆が見守る中、Go鬼塚は苦い顔をする。

 

 その対戦相手は、半透明な体に水晶のような蒼い髪を持った少年の姿をしたAI、タイプγである。

 

「僕のターン、僕は3体のモンスターをリリースして、アドバンス召喚!」

 

 タイプγのフィールドから3体のモンスターが光となって天に吸い込まれる。

 

征令王(セントラルオーダーロード)メディクリア」

 

 天より機械の玉座が下りてくる。

 そこに腰かけるのは、両腕を機械に改造し、三本の槍を携えた巨人だ。

 

征令王(セントラルオーダーロード)メディクリア

効果モンスター

星10/闇属性/サイキック族/攻 3000/守 3000

このカードをアドバンス召喚する場合、モンスターを3体リリースしなければならない。

(1)このカードがアドバンス召喚に成功した場合に発動できる。自分はデッキから2枚ドローする。この効果を発動するターン、自分はEXデッキからモンスターを特殊召喚できない。

(2)アドバンス召喚されたこのカードがフィールドに存在する場合、相手のフィールドの表側表示のカード1枚を対象として発動できる。自分の手札から「セントラルオーダー」モンスター1枚を捨て、対象のカードの効果を無効にし、相手に200ダメージを与える。次の自分のスタンバイフェイズまで、自分は「征令王メディクリア」の効果で同名カードを対象にできない。この効果は同一チェーン上で1度しか発動できず、相手ターンでも発動できる。

(3)アドバンス召喚されたこのカードが戦闘・相手の効果で破壊されて墓地へ送られた場合に発動できる。このカードを墓地から特殊召喚し、デッキ・墓地から「征令締結」1枚を手札に加える。

 

「アドバンス召喚に成功した時、デッキから2枚ドロー」

「だが、俺にはザ・グレート・オーガがいる。こいつがいる限り、フィールドの全てのモンスターの攻撃力は、その守備力分ダウンする!オーガプレッシャー!」

 

 グレート・オーガが吠えると、その震動が空気を揺らし、メディクリアの攻撃力を0にした。

 

「高い守備力が仇になったな」

「僕はメディクリアの効果発動」

 

 鬼塚の言葉を無視して、タイプγは淡々とデュエルを続ける。

 

「グレート・オーガを対象に発動。手札のセントラルオーダー1体を捨てることで、その効果を無効にする」

「なに!?」

 

 タイプγがカードを投げ捨てると、メディクリアが動き、その機械の腕をグレート・オーガへと伸ばす。

 

 手はグレート・オーガの体を透過し、グレート・オーガの体の表面に0と1の羅列が浮かび上がる。

 

「グレート・オーガ!」

 

 やがてそのデータは書き換えられ、効果は無効。

 グレート・オーガの効果が無効になったことで、メディクリアの攻撃力は元の3000に戻る。

 

「さらに相手に200ダメージ」

 

 Go鬼塚:LP1500→1300

 

「そして手札から墓地へ送られた征令リソースの効果発動」

 

征令リソース

効果モンスター

星3/闇属性/サイキック族/攻 900/守 1300

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードを手札から公開して発動できる。このカード以外の手札の「セントラルオーダー」カード1枚を墓地へ送り、このカードを手札から特殊召喚する。

(2)このカードがアドバンス召喚のためにリリースされた、または「セントラルオーダー」カードの効果で手札から墓地へ送られた場合に発動できる。自分はデッキから1枚ドローする。

 

「1枚ドロー。そしてメディクリアの効果を再び発動。今度はツイストコブラの効果を無効にする」

 

 今度はツイストコブラへと手を伸ばし、そのデータを書き換え、鬼塚にダメージを与える。

 

 Go鬼塚:LP1300→1100

 

「さらにメディクリアの効果で、スープレックスの効果を無効」

 

 Go鬼塚:1100→900

 

「終わりだ。メディクリアで、スープレックスを攻撃」

 

 メディクリアがスープレックスの首を掴んで持ち上げ、絞め殺す。

 そのままGo鬼塚へと投げつけて、彼のライフもろとも破壊した。

 

「決まったぁぁ!勝者、タイプγ!SOLテクノロジーの新型AIが我らがGo鬼塚より白星をもぎ取ったぞ!」

 

 タイプγは無表情のまま、デュエルディスクを下ろし、そのままログアウトした。

 

「あれ? ちょっとインタビューは!? あ、え、次のデュエルもお楽しみに!!」

 

 実況の男は困惑しつつも、中継はそこで締められた。

 

 ◆

 

「見事ね」

 

 SOLテクノロジー社長室、そこに設置された巨大モニターで、Go鬼塚VSタイプγのデュエルを一人の女性が見ていた。

 

 青髪を緑で縁取ったような色の髪、サングラスをかけた女性、SOLテクノロジーの社長、クイーンである。

 

「ビショップ、ナイト、ルーク」

 

 彼女の前には、SOLテクノロジーの幹部三人が控えている。

 

「タイプγの強化学習プロジェクト、それと平行してそろそろ例のプロジェクトも進めておかないとね」

「例のプロジェクト?」

 

 ナイトこと八神は何のことか分からず首を傾げる。

 

「あなたには話していなかったわね。ガンズレッドファクトリーとの共同プロジェクトよ。AIを使った無人兵器開発のね」

「なっ!?」

 

 八神は目を見開く。

 

「待ってください!兵器ビジネスなど、どうして我が社がそんなことを……」

「これは決定事項だ」

 

 抗議する八神の前に、大柄なサングラスをかけた男、ルークが立ちふさがる。

 

「我が社のさらなる発展のためにも、このプロジェクトは必要だ」

「だからといって、AIを戦争の道具に使うのは……」

 

 食い下がる八神に、静観していたビショップが口を開く。

 

「……私は兵器開発に関しては中立の立場を取らせてもらいます」

「ビショップ様!」

「しかしクイーン。タイプγ、もといIGS-0シリーズをこれ以上進化させることは反対です」

「どうしてかしら?」

「タイプγの時点で、自我に近いものが目覚め始めています。既に性能は必要水準に達している。意思を持つAIという、あの男が自ら閉じたパンドラの箱を、再び開くというリスクは避けるべきでしょう」

 

 ビショップはイグニスが人類に敵意を示している現状を客観的に見たうえでの見解を述べている。

 だが、クイーンはそれを一蹴する。

 

「そんな抽象的な理由でプロジェクトを止めるわけにはいかないわ。反論するならエビデンスを用意しなさい」

「……では、私はなにも言いません」

 

 ビショップはあっさり引き下がった。

 

「話は以上よ」

 

 クイーンに促され、ナイトとビショップは不満を抱きながらも社長室を後にした。



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第33話:God speed Wind

 草薙のキッチンカーの中で、遊作は集まった尊、美海、葵の三人に、VISION DEROIDで起きた出来事を話した。

 

「仁くんが、ライトニングに!?」

 

 彼らにとっては、年少の仁は弟のような存在だった。

 その意識がライトニングに囚われていることに、動揺を禁じ得ない。

 

「ライトニングは、どうして仁の意識を……」

「分からない。だが、奴はこう言っていた。目的のために、破損した仁の意識データを修復したと」

「目的……先生への復讐、だよね」

 

 デュエル後に見せた表情、彼の中にある強い憎しみがうかがえた。

 

「けど、ライトニングはVISION DEROIDで何をしようとしてたんだ?」

 

 Aiの疑問に、遊作は静かに首を振る。

 

「俺にも分からない。そもそもあの場所がなんだったのか……」

 

 現実世界の映像を映した無数のモニター、あれがどこから撮影したのか、何の目的で作られたのか、それすら分からない。

 

「人間を滅ぼすようなことを仄めかしていたが、それと関係があるのか?」

「いずれにしても、その話を聞く限り、説得は難しそうですね」

 

 イグニスとの和解が難しいことを改めて実感し、美海はため息を吐く。

 

「ウィンディも、アースも、話を聞いてくれそうな感じじゃなかったし……」

「唯一話が通じそうなのはアクアくらいよね」

 

 その発言を聞いて、不霊夢は思い出したように口を開いた。

 

「そういえば、君はアクアのオリジンだったな」

「え、えぇ。彼女がそう言っていただけですが」

「イグニスとオリジンには強い結びつきがある。これは仮説でしかないが、我々は元より君達より生まれた存在なのだから、その影響を今でも強く受けるのではないか?」

「つまり、オリジンの話なら多少は耳を貸す可能性がある?」

 

 遊作の問いに、不霊夢は頷く。

 

「けど、(いつき)はハノイの騎士で、今は行方も分からない状態だし、(けい)はそもそも今何しているのかすら分からないよ?」

「仁はライトニングに囚われている」

「確かに……」

 

 その案は現実的ではないと分かり、不霊夢は少しへこんだように下を向く。

 

「ひょっとしたら……」

 

 そこで美海は、キッチンカーを飛び出す。

 

「どこ行くんだ?」

「すみません。少し抜けます」

 

 キッチンカーを出て、彼女はすぐにとある人物へ電話をかけた。

 

 ◆

 

 翌日、LINK VRAINSへとログインした美海達は、人気のないエリアを訪れていた。

 

「俺に何の用だ?」

 

 すると、彼らの元に一陣の風が吹く。

 見上げると、空からDボードに乗ったゴッドバードがやってきた。

 

「来ましたね」

 

 ゴッドバードがDボードから飛び降りて、美海達の前までやってくる。

 

「ったく、わざわざゴーストガール(ババア)使ってまで呼び出しやがって、俺に何の用だ?」

「今日はあなたにお願いがあってきました」

 

 美海は真剣なまなざしでゴッドバードを見つめる。

 

「私達に協力してほしい。ライトニングの企みを阻止するために」

「んなことを言うためにわざわざ呼んだのか?」

 

 美海は首を振る。

 

「そのために、あなたと話がしたい。VR(ここ)ではなく、リアルで」

「はぁ?」

 

 突然の申し出に、ゴッドバードも困惑した様子だった。

 傍で見ていたプレイメーカー達も、彼女の意図が掴みかねず、怪訝な表情を見せる。

 

「別に協力するのはやぶさかじゃねぇ。イグニスと戦うなら、今まで通り手を貸してやる。それじゃダメなのか?」

「はい。ゴッドバードとしてではなく、本当のあなたの力が」

「お前……」

 

 しばらくの沈黙の末に、彼は深いため息を吐いた。

 

「分かった。けどタダってわけにはいかねぇ。デュエリストなら、こいつで決めるぞ」

 

ゴッドバードは自らの左腕に装着されたデュエルディスクを掲げる。

 

「えぇ。元よりそのつもりです」

 

 予め予想していた展開に、美海もデュエルディスクを構える。

 

「で、お前は何を賭けるんだ? まさかこっちだけにリスクを背負わせるわけじゃねぇだろ」

「もちろんです。私は対価として……」

 

 彼女は自らの胸に右手を当てる。

 

「このアカウントを賭けます」

「ちょっ……!」

 

 これには静観していたソウルバーナーとブルーエンジェルも口を挟む。

 

「いくら何でも、危険すぎんだろ!」

「そうよ、何もそこまでしなくても……」

「いいんです」

 

 止めようとする彼らを制止して、美海はゴッドバードの方を向き直る。

 

「必要なことですから」

「……本当にいいんだな?」

 

 ゴッドバードの再度の問いかけに、美海は力強く頷いた。

 

「分かった。レギュレーションはどうする?」

「スピードデュエルで」

「……なるほど、そういや、これはお前にとってもリベンジマッチでもあるわけか」

 

 最初に彼らが出会った時、その時もスピードデュエルで戦った。

 結果はゴッドバードの圧勝であり、美海にとっては自分の実力不足を痛感した試合でもあった。

 

 とはいえ、モンスターゾーンの狭いスピードデュエルは、モンスターの移動を活用する美海のデッキにとっては少々不利なレギュレーションである。それを理解してか、ゴッドバードはこんな提案をした。

 

「だったら、先攻はお前に譲ってやる」

 

 カウンター(トラップ)による妨害を得意とする彼のデッキにとって、先攻を取れないのはかなり手痛いハンデとなる。

 

「これで条件は五分。負けても文句は言わせねぇ」

「えぇ。デュエリストに二言はありません」

 

 お互いに了承したところで、二人はDボードに乗る。

 

「おいゆ……プレイメーカー、止めなくていいのか!?」

「美海が覚悟したことだ」

 

 心配する二人に対して、プレイメーカーは冷静だった。

 

「「スピードデュエル!」」

 

 そしてデュエルが始まり、データストリーム()に乗って走り去る彼女の背中を静かに見届けた。

 

ターン1 美海

 

「私は原初海祈(オリジンブルー)シーライブラを召喚」

 

 空中を泳ぐようにして、胴体が半透明のデータとなった魚が現れる。

 

原初海祈(オリジンブルー)シーライブラ

効果モンスター

星4/水属性/サイバース族/攻 1000/守 1600

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードの召喚·特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「原初海祈シーライブラ」以外の「オリジンブルー」カード1枚を手札に加える。

(2)このカードが他のモンスターゾーンに移動した場合に発動できる。手札から「原初海祈シーライブラ」以外の「オリジンブルー」モンスター1体を守備表示で特殊召喚する。

 

「その効果でデッキからメガロガーを手札に加える。メガロガーは自分のオリジンブルー1体を隣に移動させることで、手札から特殊召喚できる」

 

 シーライブラが横へ泳ぎ、その地点に上からサメ型のモンスターが降ってくる。

 

原初海祈(オリジンブルー)メガロガー

効果モンスター

星3/水属性/サイバース族/攻 1300/守 500

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できず、発動するターン、自分はサイバース族モンスターしか特殊召喚できない。

(1)自分フィールドの水属性モンスター1体を対象として発動できる。対象のモンスターを隣のメインモンスターゾーンに移動させ、手札からこのカードを特殊召喚する。

(2)このカードが墓地に存在する場合、自分フィールドの「オリジンブルー」モンスター1体を対象として発動できる。対象のモンスターを隣のメインモンスターゾーンに移動させ、このカードを特殊召喚する。この効果で特殊召喚したこのカードはフィールドを離れた場合、除外される。

 

「シーライブラは移動した時、手札からオリジンブルー1体を特殊召喚できる。原初海祈マイアーカイブを特殊召喚」

 

原初海祈(オリジンブルー)マイアーカイブ

効果モンスター

星2/水属性/サイバース族/攻 500/守 500

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「オリジンブルー」カード1枚を墓地へ送る。

(2)このカードが他のメインモンスターゾーンに移動した場合、墓地の水属性モンスター1体を対象として発動できる。対象のカードを手札に加える。このターン、この効果で手札に加えたサイバース族モンスター以外のカード及びその同名カードの効果は発動できない。

 

「効果でデッキからオリジンブルー1体を墓地へ送る。来なさい、未来を繋ぐサーキット!」

 

 アローヘッドがコースの先に現れ、そこへシーライブラが泳いで潜る。

 

「リンク召喚!リンク1、原初海祈エルニーニャ!」

 

 現れたのは、水色の鉱石のような髪を持つ人魚だった。

 

原初海祈(オリジンブルー)エルニーニャ

リンク・効果モンスター

水属性/サイバース族/攻 0/LINK 1

【リンクマーカー:右】

リンクモンスター以外の水属性・サイバース族モンスター1体

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードがリンク召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「原初海域(オリジンブルー・ウェブ)」1枚を手札に加える。

(2)1ターンに1度、このカードを空いている自分のメインモンスターゾーンに移動させて発動できる。自分のリンクモンスターにバックログカウンター1つを置く。

 

「デッキから原初海域(オリジンブルー・ウェブ)を手札に加え、発動!」

 

原初海域(オリジンブルー・ウェブ)

フィールド魔法

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分の「オリジンブルー」リンクモンスターのリンク召喚に成功した場合に発動できる。そのモンスターに、このターン中にモンスターが移動した回数だけ、バックログカウンターを置く。その後、この効果で置かれたカウンターの数まで、墓地からレベル4以下の「オリジンブルー」モンスターを特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化される。

(2)1ターンに1度、自分フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを隣のメインモンスターゾーンに移動させる。

 

「エルニーニャの効果発動!このカードをメインモンスターゾーンへ移動させ、自身にバックログカウンターを置く。来なさい、未来を繋ぐサーキット!」

 

 再びアローヘッドが現れ、彼女のフィールドの3体のモンスターがそこへ飛び込む。

 

「リンク召喚!リンク3、原初海祈タイタニーニャ!」

 

 アローヘッドより現れたのは、ハート型の水晶に、女性の上半身を模した青い像が取り付けられたオブジェだった。

 

原初海祈(オリジンブルー)タイタニーニャ

リンク·チューナー·効果モンスター

水属性/サイバース族/攻 0/LINK3

【リンクマーカー:右下/下/左下】

水属性·効果モンスター2体以上

(1)リンク状態のこのカードは相手の効果を受けず、攻撃対象にならない。

(2)このカードのリンク先のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターをチューナーとして扱う。その後、このカードのリンク先のモンスターのみを素材としてサイバース族Sモンスター1体をS召喚する。この効果は相手ターンでも発動できる。

(3)自分のモンスターの位置が移動する度に、このカードにバックログカウンターを1つ置く。

(4)自分フィールドのモンスターの攻撃力は、このカードのバックログカウンターの数×200アップする。

 

原初海域(オリジンブルー・ウェブ)の効果発動!このターンに私のモンスターが移動した回数分、タイタニーニャにバックログカウンターを置き、その数だけ墓地のレベル4以下のオリジンブルーを特殊召喚する!」

 

 シーライブラとメガロガーが、タイタニーニャの後ろに浮上する。

 

「タイタニーニャの効果発動!メガロガーをチューナーとして扱い、シーライブラにチューニング!」

 

 タイタニーニャの水晶からコードのような触手が伸び、メガロガーの体に突き刺さる。

 そして二体のモンスターの体が分解され、リングのエフェクトとなる。

 

「太古の泉より、その美しき歌声を響かせよ!シンクロ召喚!」

 

 二つのリングが一つに重なり、その中心を光が貫く。

 

「レベル7、原初海祈プレシオルタ!」

 

 光の中から現れたのは、長い首をうねらせる美しい水竜だ。

 

原初海祈(オリジンブルー)プレシオルタ

シンクロ·効果モンスター

星7/水属性/サイバース族/攻 2300/守 2000

水属性チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

(1)このカードが効果で隣のメインモンスターゾーンに移動する場合、かわりにリンクモンスターのリンク先となるメインモンスターゾーンに移動できる。

(2)1ターンに1度、自分フィールドのバックログカウンター1つを取り除いて発動できる。このカードと同じ縦列の相手のカードを全て手札に戻す。この効果は相手ターンでも発動できる。

(3)1ターンに1度発動できる。このカードを隣のメインモンスターゾーンに移動させる。

 

「プレシオルタと原初海域(オリジンブルー・ウェブ)の効果でプレシオルタを2回移動させる」

 

 プレシオルタが左右に動き、それにともなってタイタニーニャの水晶に光が2つ灯る。

 

「私はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン2

 

「私は永続罠、原初海口(オリジンブルー・シークラフト)を発動」

 

原初海口(オリジンブルー・シークラフト)

永続罠

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分フィールドの水属性モンスター1体を隣のメインモンスターゾーンに移動させて発動できる。墓地からレベル5以下の「オリジンブルー」モンスター1体を特殊召喚する。

(2)自分のバックログカウンター3つを取り除いて発動できる。デッキから「オリジンブルー」モンスター1体を手札に加える。

 

「これで私は1ターンに1度、オリジンブルーモンスターを移動しながら、モンスターを出せる」

「俺を迎え撃つ準備は万全って訳か」

「先攻を譲ったこと、後悔してます?」

 

 彼女の挑発に、ゴッドバードは不敵に笑う。

 

「むしろおもしれぇ。存分に叩きのめしてやれる。俺は敵性機兵(エリミネーター)ジャイロードを特殊召喚!」

 

 爪のついた円盤型の機械が現れる。

 

「こいつは自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない時、特殊召喚できる。その効果でデッキからシークエンスコードを特殊召喚」

 

敵性機兵(エリミネーター)シークエンスコード

効果モンスター

星4/風属性/サイバース族/攻 1500/守 800

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「エリミネーター」モンスター1枚を手札に加える。

(2)相手ターン中、自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しなければ、墓地のこのカードを除外して発動できる。デッキから「エリミネーション」罠カード1枚をセットする。この効果でセットしたカードは、セットしたターンでも発動できる。

 

「シークエンスコードの効果で、デッキからジャッキングスピアを手札に加える。来やがれ、未来を貫くサーキット!」

 

 ゴッドバードが手を伸ばす先へ風が渦を巻き、突風の中からアローヘッドを出現させる。

 

「召喚条件は風属性モンスターを含むレベルが同じモンスター2体!リンク召喚!敵性機兵(エリミネーター)ローディング・バスター!」

 

敵性機兵(エリミネーター)ローディング・バスター

リンク・効果モンスター

風属性/サイバース族/攻 1000/LINK2

風属性モンスターを含む同じレベルのモンスター2体

(1) リンク召喚されたこのカードは、リンク素材となったモンスターと同じレベルのモンスターとしてX召喚の素材にでき、このカードのリンクマーカーの数と同じ数のモンスターとしてX召喚の素材にできる。

(2)このカードを素材としてX召喚された「エリミネーター」モンスターは以下の効果を得る。

●このカードがX召喚に成功した場合、相手フィールドのカード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。

 

「もう知ってるだろうが、こいつはリンク素材となったモンスターと同じレベルで、リンクマーカーの数と同じ数分のモンスターとしてエクシーズ召喚の素材にできる。俺はローディング・バスターでオーバーレイ!」

 

 前方に赤と青のエックス字のパネルが出現し、ローディング・バスターがそこへ吸い込まれる。

 

「エクシーズ召喚!現れろ、ランク4!敵性機兵(エリミネーター)コンパイル・ブラスター!」

 

 現れたのは、胴体にレールガンを無理やり接合された機械仕掛けの竜だった。

 

敵性機兵(エリミネーター)コンパイル・ブラスター

エクシーズ·効果モンスター

ランク4/風属性/サイバース族/攻 2300/守 2000

風属性·レベル4·効果モンスター×2体以上

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードの攻撃力·守備力はこのカードがX素材として持つリンクモンスターのリンクマーカーの数×300アップする。

(2)相手の特殊召喚されたモンスターが効果を発動した時、このカードのX素材1つを取り除いて発動できる。その効果を無効にする。この効果発動のためにリンクモンスターを取り除いていた場合、かわりにその効果を無効にして破壊し、相手に500ダメージを与える。

(3)このカードが効果で破壊される場合、かわりこのカードのX素材1つを取り除くことができる。

 

「ローディング・バスターの効果発動!このカードを素材としてエクシーズ召喚した時、相手フィールドのカード1枚を破壊する!プレシオルタを破壊!」

 

 コンパイル・ブラスターがレールガンの照準を、プレシオルタへと合わせる。

 

「私は永続(トラップ)原初海口(オリジンブルー・シークラフト)の効果発動!プレシオルタを移動させることで、墓地からシーライブラを特殊召喚!」

 

 プレシオルタが横に移動すると、プレシオルタがいた地点に渦潮が起き、渦の中からシーライブラが浮上した。

 

「やれ!コンパイル・ブラスター!」

 

 その直後、雷砲がプレシオルタを貫いた。

 

「くっ……シーライブラが特殊召喚されたことで、デッキからオリジンブルー1枚を手札に加える」

「それがどうした!俺はさらに、手札のジャッキングスピアの効果発動!」

 

敵性機兵(エリミネーター)ジャッキングスピア

効果モンスター

星5/風属性/サイバース族/攻 2000/守 1500

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分フィールドのXモンスター1体を対象として発動できる。手札·フィールドのこのカードを対象のモンスターの下に重ねてX素材とする。その後、デッキから「エリミネーター」モンスター1体を対象のモンスターの下に重ねてX素材とする。この効果は相手ターンでも発動できる。

(2)相手ターン中、自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合、墓地のこのカードを除外して発動できる。デッキから「エリミーション」罠カード1枚をセットする。この効果でセットしたカードは、セットしたターンにも発動できる。

 

「このカードをコンパイル・ブラスターのオーバーレイユニットにし、さらにデッキからラントリクターをオーバーレイユニットに!」

 

 手札からカードが飛び、コンパイル・ブラスターの周囲を巡る光に変化する。

 

「バトルだ!俺はコンパイル・ブラスターで、シーライブラを攻撃!」

 

 レールガンが今度はシーライブラに向けて放たれる。

 空を貫く光は、電子の魚を跡形もなく消し飛ばした。

 

「俺はさらに速攻魔法、RUM-超重層(ハイ・エリミネーション)を発動!」

 

RUM(ランクアップマジック) - 超重層(ハイ・エリミネーション)

速攻魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1)自分・相手のXモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターよりランクが1つ高い「エリミネーター」Xモンスター1体を対象のモンスターの上に重ねてX扱いで特殊召喚する。その後、墓地の「エリミネーター」リンクモンスター1枚までをその下に重ねてX素材にできる。

 

「ランクアップ!エクシーズチェンジ!」

 

 コンパイル・ブラスターの上空からエックス字のパネルが現れ、その体を通過する。

 

「現れろ、ランク5!敵性機兵(エリミネーター)エクス・ランサムウェア!」

 

敵性機兵(エリミネーター)エクス·ランサムウェア

エクシーズ·効果モンスター

ランク5/風属性/サイバース族/攻 2500/守 2000

風属性·レベル5·効果モンスター×2体以上

このカード名の(1)(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードがX召喚に成功した場合、このカードがX素材として持つリンクモンスター1枚のLINKの数までお互いの使用していないメインモンスターゾーンをそれぞれ指定して発動できる(最大3つ)。指定したゾーンは次の相手のターンのエンドフェイズまで使用できない。

(2)このカードの攻撃力·守備力はこのカードがX素材として持つリンクモンスターのリンクマーカーの数×300アップする。

(3)自分・相手のエンドフェイズにこのカードのX素材2つ、またはX素材のリンク2以上のリンクモンスター1枚を取り除いて発動できる。お互いのメインモンスターゾーンのモンスターを全て破壊する。

 

「次の相手ターン終了時まで、互いのメインモンスターゾーン2か所を使用不可能にする!」

 

 スピードデュエルの数少ないメインモンスターゾーンが封じられる。

 

「私はここで、原初海口(オリジンブルー・シークラフト)のもう1つの効果!バックログカウンター3つを使うことで、デッキからオリジンブルーモンスター1枚を手札に加える」

「バトルだ!エクス・ランサムウェアで、タイタニーニャを攻撃!」

 

 エクス・ランサムウェアが雷撃を落とす。

 タイタニーニャの体はたちまち砕け散った。

 

 美海:LP4000→1300

 

「俺はこれでターンエンド」

 

ターン3

 

「以前戦った時と、全く同じですね」

 

 あの時も、美海はここで何もできずに、セットモンスターを出してターンを終えた。

 そこでエクス・ランサムウェアの効果が発動し、美海のモンスターを破壊。ダイレクトアタックによりとどめを刺された。

 

「狙ってやったわけじゃねぇけどな」

「でしょうね。これが私に対する最適解ですから。展開も自ずと同じになります」

 

 実際、モンスターの移動先を封じられたことで、美海のデッキはかなり動きづらくなった。

 

(前回と違うところと言えば、フィールド魔法と永続(トラップ)ですが、いずれもモンスターゾーンが使えなければ効果を発動できない。ライフ1000以下でもないのでスキルは使えない。ならばこのドローに勝敗がかかっている)

 

 美海は大きく深呼吸をして、デッキのカードに触れた。

 

「行きます。私のターン!」

「俺はこの瞬間、墓地のジャイロード、シークエンスコードの効果発動!デッキからエリミネーション・インターセプト、エリミネーション・ジャミングをセットする!」

 

 ゴッドバードのフィールドに、二枚のカウンター(トラップ)が伏せられる。

 これで彼女は、効果発動1回と、特殊召喚1回をそれぞれ止められてしまうことが確定した。

 

「私は魔法カード、原初海帰(オリジンブルー・リコンパイル)を発動!」

 

原初海帰(オリジンブルー・リコンパイル)

通常魔法

(1)自分の墓地の「オリジンブルー」リンクモンスター1体を対象として発動できる。そのカードをEXデッキに戻し、EXデッキから対象のモンスターと同名のリンクモンスター1体を特殊召喚する。

(2)墓地のこのカードを除外し、自分のバックログカウンター1つを取り除いて発動できる。自分の墓地から水属性モンスター1体を手札に加える。この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できない。

 

「墓地のタイタニーニャをエクストラデッキに戻し、再度特殊召喚!」

「カウンター罠!エリミネーション・ジャミングを発動!」

 

エリミネーション・ジャミング

カウンター罠

手札の「エリミネーター」モンスターを墓地に送ってこのカードを手札から発動できる。

(1)自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在せず、相手がモンスター効果・魔法・罠カードを発動した時に発動できる。その発動を無効にする。自分のEXモンスターゾーンに「エリミネーター」モンスターが存在する場合、かわりにその発動を無効にして破壊する。

 

「その発動を無効にする!」

 

 起死回生の魔法カードは、あっさりと無効にされてしまう。

 

「原初海祈キンベレートを特殊召喚!」

 

原初海祈(オリジンブルー)キンベレート

効果モンスター

星2/水属性/サイバース族/攻 700/守 900

このカード名の(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しか行えず、(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分フィールドに「オリジンブルー」カードが存在する場合、このカードを手札から特殊召喚できる。

(2)自分のサイバース族モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを隣のメインモンスターゾーンに移動させる。その後、そのモンスターのレベルをこのターンに自分のモンスターが移動した回数まで上げる。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

「このカードは自分フィールドにオリジンブルーカードが存在する場合に特殊召喚できる。そして、このカードをリリースして、アドバンス召喚!原初海祈ウロコディアーム!」

 

 キンベレートが消滅し、代わりに現れたのは灰色の鱗が連なったムカデのようなモンスターだ。

 

原初海祈(オリジンブルー)ウロコディアーム

効果モンスター

星5/水属性/サイバース族/攻 2200/守 0

このカードを召喚する場合、リリースするモンスターはリンクモンスター以外のサイバース族モンスターでなければならない。

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードがアドバンス召喚に成功した場合に発動できる。墓地から「オリジンブルー」魔法・罠カード、または「サイバネット」魔法・罠カード1枚を手札に加える。

(2)このカードの他のモンスターゾーンに移動した場合、またはフィールドから墓地へ送られた場合に発動できる。自分の墓地からレベル4以下のサイバース族モンスター1体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたモンスターの効果は無効化され、フィールドを離れた場合、除外される。この効果発動後、ターン終了時まで、自分はサイバース族モンスターしか特殊召喚できない。

 

「このカードがアドバンス召喚に成功した時、墓地から原初海帰(オリジンブルー・リコンパイル)を手札に戻す。そして再び原初海帰(オリジンブルー・リコンパイル)を発動!」

 

 エクストラモンスターゾーンに、タイタニーニャが蘇った。

 

「私はこれでターンエンド」

「エンドフェイズに、エクス・ランサムウェアの効果発動!」

 

 エクス・ランサムウェアが天を仰ぐ。

 

「オーバーレイユニットを2つ使うことで、互いのメインモンスターゾーンのモンスターを全て破壊する!」

 

 エクス・ランサムウェアの口にオーバーレイユニットが2つ取り込まれる。

 その瞬間、天から雷が落ち、エクス・ランサムウェアの口に電気をまとわせる。

 

「吹き飛べ!ランサムバースト!」

 

 周囲に電気が広がり、彼女のフィールドの海洋生物は瞬く間に消し炭になる。

 

「墓地へ送られたウロコディアームの効果発動!墓地からレベル4以下のサイバース族モンスター1体を効果を無効にして特殊召喚!」

 

 シーライブラが彼女のフィールドに甦った。

 

「チッ、ターンを終えたことで、エクス・ランサムウェアによるモンスターゾーンの使用制限は解除される」

 

ターン4

 

「相手ターン開始時、私は原初海口(オリジンブルー・シークラフト)の効果発動!シーライブラを隣に移動させ、墓地からキンベレートを特殊召喚!」

 

 シーライブラがタイタニーニャのリンク先から移動して、代わりにキンベレートが浮上した。

 

「バトルだ!エクス・ランサムウェアでシーライブラを攻撃!」

「私はここで墓地のアノマロトレスの効果発動!」

 

原初海祈(オリジンブルー)アノマロトレス

効果モンスター

星3/水属性/サイバース族/攻 800/守 800

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分フィールドのこのカード以外の「オリジンブルー」モンスター1体を対象として発動できる。対象のモンスターを隣のメインモンスターゾーンに移動させ、元々の位置にそのカードと同じレベル·種族·属性の「オリジンブルー·トークン」(攻/守0)1体を特殊召喚する。この効果発動後、ターン終了時まで、自分はサイバース族モンスターしか特殊召喚できない。

(2)墓地のこのカードを除外し、自分フィールドの水属性モンスター1体を対象として発動できる。対象のカードを隣のメインモンスターゾーンに移動させる。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

「今そいつの効果を使って何の意味が……」

「さらに!そこへチェーンして、タイタニーニャの効果を発動!キンベレートをチューナーに変え、リンク先のモンスターでサイバース族シンクロモンスターのシンクロ召喚を行う!」

「っ!?」

 

 彼女の効果宣言に、ゴッドバードは首を傾げる。

 タイタニーニャの効果は、リンク先のモンスターのみを素材としてシンクロ召喚を行う効果だ。

 しかし、現在、シーライブラは原初海口(オリジンブルー・シークラフト)の効果発動のために移動したことで、タイタニーニャのリンク先にはいない。

 

「ミス、なわけねぇよな」

「私はさらにキンベレートの効果をチェーンして発動!シーライブラを移動させ、このターンに移動した回数分、レベルを上げる!」

 

 シーライブラがタイタニーニャのリンク先に戻り、そのレベルを6まで上げる。

 

「なるほど。だがそれまでだ!俺はカウンター罠!エリミネーション・インターセプトを発動!相手モンスター1体の特殊召喚を無効に……」

「それはできません」

 

 ゴッドバードの言葉を遮り、美海は微笑む。

 

「インターセプトの効果は、既にタイミングを逃している」

「っ……そうか。そのために無意味なチェーンを組んだのか」

 

 アノマロトレスの効果に対して発動したことで、タイタニーニャの効果はチェーン2で発動した。

 アノマロトレス→タイタニーニャの順にチェーンを組んだことで、効果の処理順はその逆のタイタニーニャ→アノマロトレスとなる。

 

 これにより、チェーン処理の途中でシンクロ召喚を行うこととなり、インターセプトのチェーンを組むタイミングがなくなり、特殊召喚が無効化されなくなる。

 

「行きます!私はレベル6となったシーライブラに、レベル2のキンベレートをチューニング!」

 

 二体の海洋生物の体が分解され、リングのエフェクトとなる。

 

「潮は満ちた。今こそ悠久の眠りから目覚めよ!シンクロ召喚!」

 

 リングは重なり、その中心を光が貫く。

 

「出でよレベル8、原初海祈(オリジンブルー)リオ・プロトコロドン!」

 

 現れたのはワニのような口を持ち、その周囲に水の剣を6つ従える首長竜だ。

 

原初海祈(オリジンブルー)リオ・プロトコロドン

シンクロ・効果モンスター

星8/水属性/サイバース族/攻 2800/守 2000

水属性チューナー+チューナー以外のサイバース族モンスター1体以上

(1)このカードのS召喚に成功した場合に発動できる。相手フィールドのモンスター2体までを選んで手札に戻す。

(2)このカードが効果で隣のメインモンスターゾーンに移動する場合、かわりにリンクモンスターのリンク先となるメインモンスターゾーンに移動できる。

(3)1ターンに1度、発動できる。このカードを隣のメインモンスターゾーンに移動させる。この効果は相手ターンでも発動できる。

(4)このカードと同じ縦列の相手のモンスターゾーン及び魔法&罠ゾーンのカードの効果は無効化される。

 

「このカードがシンクロ召喚に成功した時、相手フィールドのモンスター2体まで選んで手札に戻す!」

 

 リオ・プロトコロドンが大口を開け、そこへ水弾を作り出す。

 

「そうは行くか!俺は手札のエリミネーション・ジャミングを発動!こいつは手札からエリミネーターを捨てることで、手札からも発動できる!」

 

 電光が走り、水弾はリオ・プロトコロドンの口の中で爆発する。

 

「私は手札の原初海祈アンプレクトベルンの効果発動!」

 

原初海祈アンプレクトベルン

効果モンスター

星3/水属性/サイバース族/800/守 800

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分のリンクモンスターまたはSモンスターが相手の効果でフィールドを離れる場合、かわりに手札のこのカードを墓地へ送ることができる。

(2)このカードが墓地に存在する場合、自分の「オリジンブルー」モンスター1体を対象として発動できる。対象のモンスター1体を隣のメインモンスターゾーンに移動させ、このカードを特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたこのカードはフィールドを離れた場合、除外される。

 

「手札から捨てることで、シンクロモンスターの身代わりとなる」

「チッ、残ったか」

 

 リオ・プロトコロドンは、タイタニーニャの効果を受けて、攻撃力は3200

 対してエクス・ランサムウェアは、自身の効果での上昇分を含めても攻撃力は3100。あと少し届かない。

 

「俺はこれでターンエンド」

「エンドフェイズに、リオ・プロトコロドンの効果発動。自身を隣に移動させる」

 

 リオ・プロトコロドンが移動したことで、タイタニーニャの水晶に光が灯る。

 

ターン5

 

「相手ターン開始時、墓地のラントリクター、ジャッキングスピアを除外し、デッキからエリミネーション・ジャミングと、超重層をセット」

「私は墓地のアンプレクトベルンの効果発動。リオ・プロトコロドンを隣に移動させ、自身を墓地から特殊召喚」

 

 リオ・プロトコロドンの隣に、甲羅に羽の生えた虫が現れる。

 

原初海域(オリジンブルー・ウェブ)の効果でリオ・プロトコロドンを移動。原初海口(オリジンブルー・シークラフト)の効果で、さらにリオ・プロトコロドンを移動させ、墓地からウロコディアームを特殊召喚。移動したことでバックログカウンターを置く」

 

 これでタイタニーニャのバックログカウンターは6つ。

 彼女のモンスターの攻撃力は1200アップする。

 

「アンプレクトベルンをリリースして、ウロコディアームをアドバンス召喚。バトル!リオ・プロトコロドンで、エクス・ランサムウェアを攻撃!」

「墓地のデリューション・ウェアの効果発動!」

 

敵性機兵(エリミネーター)デリューション・ウェア

効果モンスター

星3/風属性/サイバース族/攻 1000/守 1000

(1)自分の手札・フィールドからこのカード以外の「エリミネーター」モンスター1体を墓地へ送って発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。

(2)自分のモンスター1体を対象として発動できる。このターン、自分のモンスターのレベルを対象のモンスターと同じにする。

(3)相手ターン中、フィールド・墓地のこのカードを除外し、自分のXモンスターのX素材を1つ取り除いて発動できる。そのモンスターはこのターン、戦闘・効果で破壊されない。

 

「エクス・ランサムウェアのオーバーレイユニットを1つ使うことで、このターン、こいつは戦闘・効果で破壊されない!」

「けどダメージは受けてもらう!」

 

 オーバーレイユニットのリンクモンスターを失い、攻撃力2500まで下がったところに、リオ・プロトコロドンの攻撃が襲う。

 

 ゴッドバード:LP4000→2500

 

「二体のウロコディアームで、エクス・ランサムウェアを攻撃!」

 

 ゴッドバード:LP2500→700

 

「私はこれでターンエンド」

 

ターン6

 

「そういえば……」

 

 ふと、美海が口を開く。

 

「あなた、自力でデータストームを起こせましたよね。スキルは使わないんですか?」

 

 現在は、周囲にデータストームは起きていない。

 お互いにデータストームがなければ発動できないスキルを持っているが、ゴッドバードには特殊なプログラムで、データストームを任意で引き起こすことができる。

 

 そして、ゴッドバードのライフは1000以下、発動条件は満たされている。

 

「冗談ぬかすな」

 

 しかし、ゴッドバードはそれを鼻で笑った。

 

「デュエル中に外部プログラムで干渉するなんざ誰がやるか。風が吹かねぇならスキルは使わない」

「なるほど。あなたらしい」

「それに、何勝った気でいるんだ?」

 

 ゴッドバードは不敵に笑う。

 

「俺にはまだ、セットしたカードが残ってる。俺はRUM-超重層を発動!エクス・ランサムウェアをランクが1つ高いエクシーズモンスターにランクアップさせる!ランクアップ!エクシーズチェンジ!」

 

 エクス・ランサムウェアがパネルに取り込まれ、その姿を変える。

 

「電子の嵐より、輝ける翼を広げ光臨せよ!ランク6、敵性機兵(エリミネーター)バリアブルウィング!」

 

敵性機兵(エリミネーター)バリアブルウィング

エクシーズ・効果モンスター

ランク6/風属性/サイバース族/攻 2700/守 2300

このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードの攻撃力・守備力はこのカードがX素材に持つリンクモンスターのリンクマーカーの数×300アップする。

(2)自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合、自分の魔法・罠ゾーンのセットされたカードは相手の効果で破壊されない。

(3)このカードのX素材1つを取り除いて発動できる。このターン、このカードは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃できる。X素材のリンクモンスターを取り除いて効果を発動していた場合、デッキから「エリミネーション」魔法・罠カード1枚を手札に加えるか、セットする。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

「そして、墓地のリンクモンスター1体をオーバーレイユニットにする。さあバトルだ!バリアブルウィングで、ウロコディアームを攻撃!」

 

 バリアブルウィングが翼を広げると、眩い光により、モンスターが飲み込まれる。

 

 美海:LP1300→1200

 

「さらにバリアブルウィングの効果発動!オーバーレイユニットを1つ使うことで、このカードはこのターン、2回攻撃できる!さらにリンクモンスターを取り除いたことで、デッキからRUM-超重層を手札に!そして発動!」

 

 バリアブルウィングがさらにランクアップする。

 

「無窮の時の中、刻まれた記憶は世界を飲み込むべく、今、起動する。ランクアップ!エクシーズチェンジ!現れろランク7!敵性機兵(エリミネーター)ライブラリ・エンターコード!」

 

敵性機兵(エリミネーター)ライブラリ・エンターコード

エクシーズ・効果モンスター

ランク7/風属性/サイバース族/攻 3000/守 2500

風属性・レベル7・効果モンスター×2体以上

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分の「エリミネーター」Xモンスターの攻撃力·守備力はフィールドのX素材のリンクモンスターのリンクマーカーの合計×500アップする。

(2)自分のメインフェイズ・バトルフェイズに、このカードのX素材1つを取り除いて発動できる。自分の墓地からXモンスター1体を特殊召喚し、自分の墓地のモンスター1体をその下に重ねてX素材とする。この効果で特殊召喚したモンスターはターン終了時に除外される。

(3)相手がカードの効果を発動した時、自分の魔法&罠ゾーンのカード1枚を除外して発動できる。その発動を無効にする。

 

「ライブラリ・エンターコードの効果発動!」

「私はこの瞬間!リオ・プロトコロドンの効果発動!このカードを隣のメインモンスターゾーンに移動させる!」

「カウンター(トラップ)、エリミネーション・ジャミングを発動!」

 

 伏せカードが開き、リオ・プロトコロドンの効果を無効にしようとする。

 

「その効果を無効に────」

 

 だが、エリミネーション・ジャミングの効果は発動しなかった。

 見ると、表向きになったそのカードは、灰色に染まっていた。

 

「リオ・プロトコロドンと同じ縦列のカードの効果は無効化される」

 

 カウンター罠を無効にして、リオ・プロトコロドンが、ライブラリ・エンターコードの正面に立つ。

 

「ライブラリ・エンターコードと同じ縦列となったことで、その効果は失われる」

 

 ライブラリ・エンターは攻撃力も下がり、効果も発動できない。

 

「っ……ターンエンド」

 

 一瞬、悔しそうな顔を見せるが、すぐにその表情は穏やかなものとなる。

 

「……では行きます。リオ・プロトコロドンで、ライブラリ・エンターコードを攻撃!」

 

 ◆

 

 デュエルが終了した後、ログアウトした美海はデンシティの住宅街を訪れていた。

 

「ここが……」

 

 ゴッドバードに渡された住所に記載されていたそこは、五階建てのマンションだった。

 エレベーターで昇り、最上階の一番奥の部屋を訪ねる。

 

 ピーンポーン

 

 インターホンを鳴らすと、鍵の開く音がした。

 

「お邪魔します」

 

 狭く電気の点いていない廊下を奥へと進み、やがて一つの部屋までたどり着いた。

 

 閉め切られたカーテンから漏れ出る光と、三つのディスプレイの明かりだけに照らされた薄暗い部屋、乱雑に物が散らかり、PCのファンの音が鳴り響いている。

 

「やっぱり、あなただったんですね」

 

 PCと向き合うその後ろ姿を見て、美海は微笑む。

 

 すると、部屋の主は椅子を回転させ、美海の方を向いた。

 歳は美海と同じくらい、縮れた少し長めの髪、寝不足のせいか目つきが悪い。

 

 その少年、風間(かざま) (けい)はゆっくりと口を開いた。

 

「久しぶり、湊さん」

 







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第34話:Stray Bird

ついに明らかとなったゴッドバードの正体、風間啓くんのお話


 風間(かざま) (けい)、ゴッドバードの正体であり、美海達と同じ孤児院で過ごした幼馴染。

 

「啓、お久しぶりです。元気そうでよかったです」

 

 ようやく再会することができた幼馴染に、美海は微笑みかける。

 

「お、俺もその……湊さんが、元気そうで、うん……」

 

 彼は目を伏せて、しどろもどろになりながら話す。

 その弱弱しい姿は、あのゴッドバードととても同一人物には見えない。

 

「あの、その湊さんってのは止めてください。なんか余所余所しいです」

 

 美海は少し拗ねたように言う。

 

「よ、余所余所しいって……」

「昔みたいに、美海と呼んでください」

「い、いや、いきなり女子を下の名前で呼ぶのは、抵抗あるというか」

「初対面じゃないんですから」

「10年も会ってなかったなら、実質初対面みたいなもんだろ。つか、俺なんかに下の名前で呼び捨てにされたら、ふ、普通にキモイって思うだろ」

「そんなこと思いませんよ」

 

 どうにも彼は、対人能力が悪化しているなと、美海はため息を吐く。

 彼女の知っている頃から、決して活発な子供ではなかったが、今は臆病な小動物のように、目線をあちこちへやり、周囲を警戒している。

 

「じー……」

 

 見つめても一向に視線を合わせようとせず、やがて耐え切れなくなったのか、啓は顔を真っ赤にして答える。

 

「あーもう分かったよ。呼べばいいんだろ!美海!」

「それでいいんです」

 

 彼に名前で呼ばれて、美海は満足そうにうなずいた。

 

「そ、それで、旧交を温めに来たわけじゃないだろ」

「まあそういう側面もありますけど」

 

 もう少し雑談していたかったが、美海は本題に入ることにした。

 

「言った通り、私達に協力してほしいんです。ゴッドバードとしてではなく、イグニスのオリジン、その一人である風間啓として」

「どういうことだよ」

「私達は、イグニスとの和解を目指しています。そのために、彼らのオリジンとなるあなたの力が必要になる」

 

 不霊夢の仮説が正しければ、彼らのオリジンと引き合わせることは、きっと大きなプラスになると、美海は信じていた。

 

「……分かった。まあ俺にできることがあるなら、協力はさせてもらうよ」

「ありがとうございます」

「まあ正直、美海の正体には薄々感づいてたし、もっと早く正体を明かしてもよかったんだけど……」

「やっぱり気付いてたんですね。でも、それならどうして?」

 

 それは聞かれて、啓は少し考えるような顔をしてから答えた。

 

「半分は意地、かな?」

「といいますと?」

「師匠に、あいつに認めて欲しかったから……」

 

 ◆

 

 俺は事件の後、別の孤児院に引き取られた。

 実験の時に見せられたあれこれで、ほんと、あの時は人と会うのも話すのも怖くて、ずっと一人でパソコン弄ったりしてた。

 

 そんな時に、師匠、ブラッドシェパードと出会ったんだ。

 

「お前、一人か?」

 

 後で知ったんだけど、その孤児院は、元々あいつの母親が経営してたらしくて、事故で働けなくなった母親のかわりに、たまに面倒を見にきたり、出資金を出したりしてたらしい。

 

 何度か話すうちに、なんでか俺の方があいつに懐いてたんだよな。

 

「ここが今日からお前の家だ」

 

 それからあいつのとこに引き取られた。

 家はぼろかったけど、まあ子供の俺にはどうでもよかったな。

 

「あ、その……お、お父さん?」

「俺は父親じゃない」

「ご、ごめんなさい……」

「そうだな……俺のことは師匠と呼べ」

「し、ししょー?」

「そうだ。お前が一人前になるまでは、俺が面倒を見てやる」

 

 俺は師匠に色んなことを教わった。

 勉強も、ハッキングも。もちろんデュエルも。

 

「ひっ……」

 

 最初はそれこそ、カードに触るのも、見るのも怖かった。

 けど、あいつが辛抱強く教えてくれたんだ。戦う術を、恐怖に打ち勝つ術を。今思うと、俺がデュエルを嫌いにならずに済んだのは、師匠のおかげだな

 

 学校にも行かせてもらったんだけど、あんまり馴染めなくて。

 それでも、デュエルの時だけは、仲間に入れてもらえたんだ。

 

 けど、それもすぐに続かなくなった。

 

「風間とやっても詰まんねぇよ」

「え、で、でも……その……」

「あーもううぜー。行こうぜ」

 

 こんな風に言われると自慢みたいに聞こえるけど、師匠に鍛えられたおかげで、デュエルは結構強かったんだ。それで、負けた相手にデッキのアドバイスとか、プレイングミスを指摘したりして。

 別に悪気があったわけじゃない。その頃の俺には、子供のコミュニティでそういうことをすればどうなるかなんて、分からなかった。ただそれだけなんだ。

 

 それから段々、登校する頻度も減ってきて。

 中学二年くらいになる頃には、俺は不登校になっていた。

 

「啓、今日も学校には行かなかったのか」

「別に行く必要ないし」

 

 中学に上がる頃には、俺はもう師匠の仕事を手伝うようになってた。

 それで金も稼げるし、これからも師匠についていけばいい。

 

「あんたと一緒に仕事する方が楽しいし、有意義だよ。そうだ。次のターゲットなんだけど────」

「啓、お前はクビだ」

「え?」

 

 そう告げられた時、最初は何でって思った。

 捨てられたことが、認めてもらえなかったことが悔しくて、一人でもやってやるって、ハッカーとして、ゴッドバードとして活動をつづけた。

 

 あいつの家を出て行った後も、生活費とか諸々は、俺の口座に振り込まれてたけど、一切手をつけなかった。

 

 ◆

 

「まあ今はあいつの考えてたことは分かるよ。自分と一緒にいたら、その背中を追い続けることになる。実際、俺は今でも前に進めていない。育て方を間違った負い目みたいなのはあるんだろ」

「それで、もう半分の理由は?」

「……怖かったんだよ。美海と会うのが」

 

 彼は目を伏せたまま、震える唇を動かす。

 

「俺は十年前のあの頃から、何も変わっていない。みんなが俺の知らないところで成長して前に進んで、それで再会したら、がっかりされるんじゃないか。幻滅されるんじゃないかって」

「そんな、あなたは戦っていたじゃないですか」

「それは、抗っているふりをしていただけだ。俺は、本当は事件の真相なんてどうでもよかったんだ。ただ、師匠に見捨てられて、目的も他になかったから」

 

 昔から人と関わるのが苦手だった。

 人から逃げて、過去から逃げて、現実から逃げて、どこにも行くことができず、ネットワークの空を彷徨い続ける迷い鳥。

 

「それが、ゴッドバードの正体だ」

 

 そう自嘲気味に呟くと、不意に美海が彼の手を握る。

 

「にゃっ!」

 

 彼女の温かさに触れ、変な声を上げる。

 

「がっかりするなんて、私はむしろ嬉しかった」

「……俺なんて、ただの幼馴染の一人だろ」

「えぇ。あなたは私の大事な幼馴染の一人です」

 

 彼女は目を閉じて、彼の手を優しく包む。

 

「あなたにとっては、たかだが半年程度の思い出でしかないかもしれない。けれど、少なくとも私にとっては、その短い時間が、この十年、私を生かしてくれていたんです」

「美海……」

「だから、私はあなたに会えたら、ずっとこう言いたかったんですよ」

 

 そして目を開けて、彼の瞳を真っすぐに見つめた。

 

「お帰りなさい。啓」

「……た、ただいま」

 

 啓は頬を染めて、しかし目を反らさずに返したのだった。

 

「ま、まあそれは分かったけど、何も一人で来ることなかっただろ」

 

 啓はさすがに耐え切れなくなり、椅子を回転させて美海に背を向けた。

 

「私は約束を守っただけです。デュエルに勝ったら会わせろと言ったのは私ですから、他の人を連れてきたら駄目でしょう」

「別に一人でなんて言ってないんだしいいだろ。こんな、その……密室で、何かあったらとか、考えないのかよ」

「うーん、まあ……最悪啓ならいいかなって」

「あぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 少し恥ずかしそうに答えた彼女に対して、啓は突然発狂し出した。

 

「ど、どうしたんですか!?」

 

 急に大声を上げた彼に戸惑う美海、すると啓はパソコンを立ち上げて急に何かを撃ち込み始めた。

 その画面をのぞき込むと、

 

『【悲報】10年ぶりに再会した幼馴染がビッチになっていた件』

 

 そこにはそんなタイトルのスレが立っていた。

 

『名無し:それなんてエロゲ?』

『名無し:裏山』

『名無し:イマジナリー幼馴染』

『名無し:イッチの妄想力高杉』

 

「はぁぁっ!何が悲しくてこんな妄想しなきゃならねぇんだよ!妄想ならもっと自分に都合のいい妄想するわ!」

 

 彼は物凄い速さでタイピングして、書き込みに対してレスを返す。

 

「てめぇら覚えとけよ。全員特定してネットに晒してやるからな」

「あ、あの……啓?」

「……ごめん」

 

 正気に戻った啓は、スレごと書き込みを削除した。

 

「それでなんだっけ?」

「ああ。えーっと、とりあえず私の仲間を紹介したいので一度どこかで会いましょうか」

「オフ会ね。いいよ。外出るの久々だけど」

「それじゃあ場所はどうしましょうか。やっぱり草薙さんの店が……」

 

 そこでふと、彼女の目が部屋の壁にかけられたあるものに留まった。

 それは学校の制服で、暗くてよく見えなかったが見覚えのあるデザインだった。

 

「あれって、うちの制服、ですよね?」

「ん? ああ。学校一緒だったんだ」

「一緒だったんだって、なんで今まで……」

「そりゃ、俺は入学以来一度も登校してないし」

 

 そういえば先程の会話でも、中学から不登校児になっていたと話していた。

 この様子で高校から改善したなんてことがあるわけない。

 

「ち、ちなみにクラスは?」

「行ってないから忘れた。確かBだった気がする」

「同じクラスじゃないですか!!」

 

 驚愕の新事実が発覚したことで、彼女は深いため息を吐いた。

 

「とりあえず、学校行きましょうか」

 

 ◆

 

 そして翌日、美海は啓を連れて登校していた。

 

「ガクガクブルブル」

 

 啓は美海の後ろに隠れて、ビクビクしながら周囲を警戒している。

 そのせいで、周囲から奇異の視線が集まり、それに対してさらに啓が怯えて警戒するという悪循環が起きている。

 

「啓、そんなに怖がらなくても、誰もあなたを攻撃したりしませんよ」

「う、嘘だ。俺みたいな陰キャは石を投げられるってネットに書いてたぞ」

「あなたネットリテラシー高い方ですよね?」

 

 そんなやり取りをしながら教室に辿り着くと、先に登校していた尊が美海の後ろに隠れた彼の存在に気付く。

 

「あ!もしかして啓!?」

 

 尊が駆け寄ると、啓はひどく怯えた様子で美海の体にしがみつく。

 

「よ、陽キャがいる……」

「啓、僕だよ!」

「た、尊。あんまり強い刺激を与えないでください。死にます」

「え?ごめん」

 

 尊はよく分かっていない様子だったが、一旦距離を取った。

 

「で、誰なんだよこの見るからにリア充っぽいのは?」

「僕だよ。穂村尊」

「嘘つくな。尊はそんな優男みたいなルックスじゃない」

 

 すると、尊はメガネを外して前髪をかき上げた。

 

「あ、尊だ」

「なんでみんなこれやんないと分かんないの?」

 

 以前もやったやり取りに、尊はため息を吐いた。

 

「それより、啓がどうして……」

「その話はまた、遊作も交えてしましょう。もう授業が始まります」

 

 ◆

 

 そして放課後、遊作も呼んで四人で集まっていた。

 

「えーっと、遊作だよな?」

「あぁ。久しぶり」

「ほんと、啓が同じ学校だったなんてびっくりだよ」

 

 尊が話しかけると、啓はサッと身を引いて美海の後ろに隠れた。

 

「あ、あれ? なんで逃げるの?」

「……俺お前のこと嫌い」

「え……」

 

 尊は物凄くショックを受けたような顔をした。

 

「親友だと思ってたのに……」

「何が親友だよ!俺のこといじめてたくせに!」

 

 そう反発する啓に、遊作と美海は首を傾げた。

 

「いじめなんてあったか?」

「ありませんでしたよ」

「被害者の傷はいつまでも消えないんですー!」

 

 啓は大声で抗議する。

 このままだと話が進まなさそうなので、美海が仲裁を買って出た。

 

「じゃあ一応審議してあげますから、当時のエピソードをどうぞ」

「よし、よく聞けよ」

 

 そして啓は矢継ぎ早に言い放つ。

 

「ドッジボールで俺ばっかり狙うし」

「あなたが避けないからでしょ」

「貸したゲームはすぐに壊すし」

「機械音痴だからな」

「尊が先生に怒られた時、何故か一緒に謝らされるし!」

「あ、あれは僕のために一緒に謝ってくれてたんだと」

 

 その結果、無事いじめがなかったことが証明された。

 

「ていうか、普通に仲良かったですよね?」

「うん。僕が自分のデュエルディスク壊した時も、直すの手伝ってくれて」

「あれはお前が無理やりやらせたんだろ」

 

 それでもなお啓は敵意をむき出しにする。

 

「無理やりって、脅されでもしたんですか?」

「泣きつかれたら断れないだろ」

「仲良しじゃん」

 

 口では色々言うが、別に嫌ってもいなさそうなので、美海はとっとと本題に入ることにした。

 

「さて、じゃあ啓」

「ああ。うん……」

 

 彼女に目配せされて、啓はデュエルディスクから1枚のカードを取り出して、二人に見せた。

 

「そのカードは……」

 

 それは敵性機兵(エリミネーター)コンパイル・ブラスターのカード。

 ゴッドバードのエースモンスターだ。

 

「俺がゴッドバードだ」

「そうか。じゃあこの前、美海がゴッドバードとデュエルしたのは……」

 

 遊作が視線を向けると、美海は静かに頷いた。

 

「まあ俺も、風のイグニスのオリジンとしてこれからは協力してやるよ」

「どうしてウィンディだってわかるんだ?」

「消去法だよ。俺は一度地のイグニス、アースと会ってるから」

 

 この前のLINK VRAINSで行われたイベントで、啓はゴッドバードとしてアースと相対している。

 

「美海が感じたっていう妙な感覚を、俺は感じていない。つまりアースは違う。ライトニングのオリジンが仁で、アクアが美海なら、残るのは風のイグニスだけだ」

「ああ。そっか」

「で、もういい? 俺は帰りたいんだけど。後はリモートなりLINK VRAINSなりでできるだろ?」

 

 久しぶりの学校に対して、啓はかなり疲れとストレスを溜めていたらしい。

 

「ああ。待ってください。せっかくですから、このまま一緒に部活に行きませんか?」

「……絶対ヤダ」

 

 逃げようとする彼の腕を強引につかんで、美海は部室へと向かう。

 

「おう。藤木!今日も来たな……ん?」

 

 島は美海の後ろに隠れた啓の姿を見つけて、近寄る。

 

「なんだ新入りか?」

「紹介します。同じクラスの風間啓です。ほら、啓」

 

 美海に促されて、啓は顔を出してしぶしぶ会釈する。

 

「俺は島直樹。そのうちLINK VRAINSのニューヒーローになる男だ」

「……ああ。そう」

 

 興味なさそうな態度も意に介さず、新しく入ってきた────未定だが────部員に島は先輩風を吹かせる。

 

「よかったら俺がデュエル教えてやろうか?」

「何? 金とんの?」

「なんでそうなんだよ」

 

 啓の中では物を教える=料金を取られる=カツアゲという図式が成立していた。

 

「あー。彼は目に映るもの全てが敵に見える病気にかかっているので、優しくしてあげてください」

「うぅ……」

「あーよしよし。怖くないですよー」

「なんだこいつら」

 

 島だけでなく、他の部員から奇異の目で見られたところで、啓はようやく美海の後ろから出てくる。

 

「で、何? このデュエルが部内でのヒエラルキーを決めるとか、そういうやつ?」

「そんなものはありませんし、仮にあったとしても島君が最下位なので問題ありません」

「おい!」

 

 サラッと部内で一番弱いことを告げられた島が抗議する。

 

「まあ、そういうことなら」

 

 啓はデュエルディスクに手を伸ばすが、そこであることに気付いた美海が彼の服の袖を引っ張り、耳元で囁く。

 

「あなたダミーデッキは持ってるんですか?」

「ないけどそんなの」

「駄目ですよ。ゴッドバードはもう有名人なんですから」

「めんどくさいな……」

 

 これまでリアルでデュエルする機会がなかったため、今日もデュエルディスクにはゴッドバードとしてのデッキである【敵性機兵(エリミネーター)】が入っている。

 どうしようかと、啓が部内を見渡すと、棚に置かれたカードバインダーが目に入った。

 

「あれって、借りていいの?」

「えぇ。いいですよね。部長」

「構わないよ」

 

 水亀部長の了承を得て、啓は棚の方へ向かう。

 

「自分のデッキは使わないのか?」

「これ余りカード(ストレージ)

 

 適当に誤魔化して、バインダーの中のカードに目を通す。

 

「へぇ。結構いいカード揃ってるな……お、これがあるなら、あれが組めるか?」

 

 そして手早くカードを選別し、ものの五分程度でデッキが完成した。

 

「もうできたのか!?」

「う、うん……」

 

 島が驚いて声を上げると、啓は体をビクッとさせて、逃げ腰になる。

 美海に背中をさすられて、どうにか席についた。

 

「五分で組んだデッキで、俺に勝とうなんていい度胸じゃねぇか。俺がデュエルの世界の厳しさを教えてやるよ」

 

 そう息巻いていた島だったが、デュエルが始まると、その表情は絶望に染まった。

 

崇光なる宣告者(アルティメット・デクレアラー)で特殊召喚を無効」

「う……」

「神の宣告でその効果無効な」

「なっ……」

「アリアドネでカウンター罠をサーチして、墓地へ送ったイーバで天使族補給と。で、なんかある?」

 

 島に何もさせることなく、啓はデュエルに勝利した。

 

「お、俺がこんな新入りに……」

「流石だな」

 

 項垂れる島を置いておいて、遊作が啓に声をかけた。

 

「大したことないよ。世の中にはこっちが4妨害構えても平気でぶち抜いてくる奴がいるからな……」

 

 師匠であるブラッドシェパードのことを思い浮かべて、啓はげんなりした。

 

「何々? 新しい人?」

 

 その時、部室に切花が入ってきた。

 切花は啓の姿を見つけると、スキップしながら彼に近付き、その顔をグッと彼の顔に近づける。

 

「ひっ……」

 

 照れるより恐怖が勝った啓は、即座に美海の後ろに隠れた。

 

「ひっどーい。ちょっと挨拶しようとしただけなのに」

「彼は極度の人見知りなので」

「……人多い。帰りたい。しんどい」

「あーはいはい。じゃあ今日はこの辺にしましょうか」

 

 もう限界と言わんばかりの啓の様子に、美海は彼を連れて帰った。



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第35話:Report competition

 

 その翌日の昼休み、葵も交えて五人で集まった彼らは、一緒に昼ご飯を食べていた。

 

「これが鴻上レポート」

 

 啓は遊作から手渡されたデータに目を通す。

 

「確かに、遊作の言う通り、これは重過ぎる」

 

 以前指摘したファイルサイズが大きすぎるという点について、啓も同意見だった。

 

「やっぱり何か仕込まれているのか?」

「いや、別のデータをテキストデータに変換したって感じだな」

「解析はできそう?」

「やってみないことには……」

 

 自信なさそうに答え、一旦データは遊作に返した。

 

「でも、あなたがゴッドバード……」

「なんだよ悪いかよ!」

 

 葵に変な目で見られて、啓は反発する。

 葵の方も、あまりのギャップに、信じられないという目でジロジロ見る。

 

「そうだ。残りのレポートのことだけど……」

「ああ。ナンバー07をSOLが持っている」

「あの時、レポートを賭けろって言っとけばな~」

 

 ナイトこと八神とのデュエルを思い出して、Aiは残念そうにつぶやく。

 

「仮にそれが最後だとしたら、見つかってないのはナンバー05と06の2つだよな?」

「そうですね」

「た、多分だけど。残りの場所は分かるぞ」

「ほんとに!?」

 

 みんなから一気に期待のまなざしを向けられて、啓は目を伏せる。

 

「ま、まあ、レポートは一人でも探してたし……俺一人じゃ、回収はできないから、場所のメモを取っただけだけど。まだSOLに回収されてなければ、そこにある……と思う」

 

 思わぬ情報が手に入り、全員の顔が明るくなる。

 同時に、徐々に自信がなくなってきたのか、啓の顔は青ざめる。

 

「いや、その……俺の感覚が正しいかどうかなんて分かんないし、絶対そこにある確証もないというか……」

「啓、そう自分を卑下せず、自信を持ってください」

「で、でも……」

 

 なおも自信なさそうにする啓だったが、尊はやる気になって立ち上がる。

 

「それじゃあ、放課後、みんなでLINK VRAINSに行こう!」

 

 ◆

 

 LINK VRAINS某所、プレイメーカーとブルーエンジェルのチーム、ソウルバーナー、ゴッドバード、美海のチームの二手に分かれて、レポートの元へ向かった。

 

 ゴッドバード達のチームは、彼の作りだしたデータストリームでかなり早いスピードで目的地へ向かう。

 

「見事だな。人間でここまでデータマテリアルを扱えるの者はそういないだろう」

 

 不霊夢は感心したように言う。

 

「まあ今思うと、場所分かってんならポートか何か作っておいた方が効率よかったんだけど」

「お前、本当にネットだと性格変わるんだな」

「お前にだけは言われたくねぇよ」

 

 ソウルバーナーに突っ込みを入れたその時、ゴッドバードは接近する何者かの気配を感じ取る。

 

「よけろ!」

 

 そう叫んだ次の瞬間、彼らの元に弾丸が降り注ぐ。

 ゴッドバードが咄嗟にデータストリームを操り、二人のDボードを無理やり旋回させて、どうにか攻撃を回避した。

 

「警告はしたぞ」

 

 その覚えのある声に、ゴッドバードは苦笑いを浮かべる。

 

「あんたかよ。師匠」

 

 そこにいたのは、鋼鉄の右手を構えるブラッドシェパードの姿だった。

 

「容赦はしないと、言ったはずだぞ」

「上等だ。相手になって────」

「駄目です!」

 

 そこで二人の間に、美海が割って入る。

 

「あなた達は先へ行ってください」

「ざけんな!こいつの相手は俺が……」

「今はレポートの確保が優先です」

 

 いくら座標が分かっているとはいえ、レポートの場所を正確に知り、この中で一番強いリンクセンスを持つゴッドバードが居た方がスムーズに運ぶ。

 ソウルバーナーはイグニスを持つため、万が一負けた時のリスクが高すぎる。それならば、

 

「足止めは、私が務める」

「チッ……無茶はすんなよ」

「悪い、任せた」

 

 ゴッドバードはDボードを加速させ、ソウルバーナーもその後に続く。

 

「献身的だな」

「私、結構尽くすタイプですから」

 

 二人はデュエルディスクを構える。

 

「「スピードデュエル!」」

 

ターン1 ブラッドシェパード

 

「俺はドローン・ポーンを召喚」

 

 フィールドに、翼に開いた穴にプロペラがついた小型のドローンが出現する。

 

ドローン・ポーン

効果モンスター

星1/風属性/機械族/攻 600/守 600

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「ドローン」魔法・罠カード1枚をセットする。

(2)このカードの戦闘によって自分がダメージを受けた場合に発動できる。そのバトルフェイズ終了時、ダメージの数値分だけLPを回復する。

 

「効果でデッキからドローン・バリケードを手札に加える。俺はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン2

 

「相手ターン開始時、俺が永続(トラップ)、ドローン・バリケードを発動!」

 

ドローン・バリケード

永続罠

このカードのコントローラーは、自分のスタンバイフェイズ毎に、フィールドの「ドローン」カード1枚を墓地へ送る。

(1)このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、自分はダメージを受けず、相手はこのカード以外の自分のフィールドの魔法・罠カードを効果の対象にできない。

(2)自分フィールドの表側表示のこのカードが相手の効果でフィールドを離れた場合に発動できる。自分の手札・デッキから「ドローン・バリケード」1枚を発動する。

 

「これで俺はダメージを受けない」

「なら、私は原初海祈(オリジンブルー)シーライブラを召喚」

 

原初海祈(オリジンブルー)シーライブラ

効果モンスター

星4/水属性/サイバース族/攻 1000/守 1600

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードの召喚·特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「原初海祈シーライブラ」以外の「オリジンブルー」カード1枚を手札に加える。

(2)このカードが他のモンスターゾーンに移動した場合に発動できる。手札から「原初海祈シーライブラ」以外の「オリジンブルー」モンスター1体を守備表示で特殊召喚する。

 

「デッキからメガロガーを手札に加え、シーライブラを移動させることでそれを特殊召喚」

 

 シーライブラがフィールド内を泳ぎ、横へ移動する。

 すると、下から胴体部分がデータ化したサメ型のモンスターが浮上した。

 

原初海祈(オリジンブルー)メガロガー

効果モンスター

星3/水属性/サイバース族/攻 1300/守 500

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できず、発動するターン、自分はサイバース族モンスターしか特殊召喚できない。

(1)自分フィールドの水属性モンスター1体を対象として発動できる。対象のモンスターを隣のメインモンスターゾーンに移動させ、手札からこのカードを特殊召喚する。

(2)このカードが墓地に存在する場合、自分フィールドの「オリジンブルー」モンスター1体を対象として発動できる。対象のモンスターを隣のメインモンスターゾーンに移動させ、このカードを特殊召喚する。この効果で特殊召喚したこのカードはフィールドを離れた場合、除外される。

 

「シーライブラは移動した時、手札からオリジンブルー1体を特殊召喚できる。いでよ、マイカーカイブ!」

 

 シーライブラの体から無数の0と1の羅列のエフェクトが放出され、その隣に平べったい甲羅を持つ節足動物が出現する。

 

原初海祈(オリジンブルー)マイアーカイブ

効果モンスター

星2/水属性/サイバース族/攻 500/守 500

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「オリジンブルー」カード1枚を墓地へ送る。

(2)このカードが他のメインモンスターゾーンに移動した場合、墓地の水属性モンスター1体を対象として発動できる。対象のカードを手札に加える。このターン、この効果で手札に加えたサイバース族モンスター以外のカード及びその同名カードの効果は発動できない。

 

「来なさい、未来を繋ぐサーキット!」

 

 メガロガーが回転しながら空へ泳ぎ、アローヘッドに飛び込む。

 

「リンク召喚!リンク1、原初海祈エルニーニャ!」

 

原初海祈(オリジンブルー)エルニーニャ

リンク・効果モンスター

水属性/サイバース族/攻 0/LINK 1

【リンクマーカー:右】

リンクモンスター以外の水属性・サイバース族モンスター1体

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードがリンク召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「原初海域(オリジンブルー・ウェブ)」1枚を手札に加える。

(2)1ターンに1度、このカードを空いている自分のメインモンスターゾーンに移動させて発動できる。自分のリンクモンスターにバックログカウンター1つを置く。

 

「デッキから原初海域(オリジンブルー・ウェブ)を手札に加え、発動!」

 

原初海域(オリジンブルー・ウェブ)

フィールド魔法

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分の「オリジンブルー」リンクモンスターのリンク召喚に成功した場合に発動できる。そのモンスターに、このターン中にモンスターが移動した回数だけ、バックログカウンターを置く。その後、この効果で置かれたカウンターの数まで、墓地からレベル4以下の「オリジンブルー」モンスターを特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化される。

(2)1ターンに1度、自分フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを隣のメインモンスターゾーンに移動させる。

 

「エルニーニャを自身の効果でメインモンスターゾーンに移動。来なさい、未来を繋ぐサーキット!」

 

 シーライブラ、マイアーカイブ、エルニーニャの3体がアローヘッドに吸い込まれる。

 

「リンク3、原初海祈(オリジンブルー)タイタニーニャ!」

 

 アローヘッドより、水が渦を巻きながら噴き上げる。

 その中から現れたのは、ハート型の水晶に、女性の上半身を模した像と水晶の翼を取り付けた奇怪なオブジェだった。

 

原初海祈(オリジンブルー)タイタニーニャ

リンク·チューナー·効果モンスター

水属性/サイバース族/攻 0/LINK3

【リンクマーカー:右下/下/左下】

水属性·効果モンスター2体以上

(1)リンク状態のこのカードは相手の効果を受けず、攻撃対象にならない。

(2)このカードのリンク先のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターをチューナーとして扱う。その後、このカードのリンク先のモンスターのみを素材としてサイバース族Sモンスター1体をS召喚する。この効果は相手ターンでも発動できる。

(3)自分のモンスターの位置が移動する度に、このカードにバックログカウンターを1つ置く。

(4)自分フィールドのモンスターの攻撃力は、このカードのバックログカウンターの数×200アップする。

 

原初海域(オリジンブルー・ウェブ)の効果で、タイタニーニャにバックログカウンター1つを置き、墓地からシーライブラとメガロガーを、効果を無効にして特殊召喚。さらに手札から原初海祈(オリジンブルー)アンモジュールを特殊召喚」

 

原初海祈(オリジンブルー)アンモジュール

効果モンスター

星4/水属性/サイバース族/攻 1700/守 0

このカード名の(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しか行えず、このカード名のカードを特殊召喚するターン、自分は水属性モンスターしか特殊召喚できない。

(1)自分フィールドにモンスターが存在しない、または水属性モンスターのみの場合、このカードを手札から特殊召喚できる。

(2)このカードが他のモンスターゾーンに移動した場合に発動できる。デッキから「オリジンブルー」魔法・罠カード1枚を手札に加える。

 

「タイタニーニャの効果発動!メガロガーをチューナーに変える」

 

 タイタニーニャの水晶から触手のようなコードが伸びて、メガロガーに突き刺さる。

 コードから青いエフェクトが出て、メガロガーをチューナーに書き換える。

 

「そして、シーライブラにチューニング!」

 

 シーライブラにもコードが刺さり、2体の体をデータに分解する。

 

「太古の泉より、その美しき歌声を響かせよ!シンクロ召喚!」

 

 データの粒子が輪のエフェクトにかわり、その中心を光が貫く。

 

「出でよレベル7、原初海祈(オリジンブルー)プレシオルタ!」

 

 光の中から現れたのは、長い首をうねらせる水龍だ。

 

原初海祈(オリジンブルー)プレシオルタ

シンクロ·効果モンスター

星7/水属性/サイバース族/攻 2300/守 2000

水属性チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

(1)このカードが効果で隣のメインモンスターゾーンに移動する場合、かわりにリンクモンスターのリンク先となるメインモンスターゾーンに移動できる。

(2)1ターンに1度、自分フィールドのバックログカウンター1つを取り除いて発動できる。このカードと同じ縦列の相手のカードを全て手札に戻す。この効果は相手ターンでも発動できる。

(3)1ターンに1度発動できる。このカードを隣のメインモンスターゾーンに移動させる。

 

「さらに原初海域(オリジンブルー・ウェブ)の効果発動!アンモジュールを移動させる。アンモジュールが移動したことで、デッキから永続魔法、原初海意(オリジンブルー・インテンション)を手札に加え、発動」

 

原初海意(オリジンブルー・インテンション)

永続魔法

このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードの発動時の処理として、自分フィールドのバックログカウンターの数×500LP回復する。

(2)自分フィールドのモンスターが移動する毎に、自分は500LP回復する。

(3)自分のバックログカウンター2つを取り除いて発動できる。手札・墓地から「オリジンブルー」モンスター1体を特殊召喚する。

 

「私のバックログカウンターの数×500、ライフを回復する」

 

 美海:LP4000→5500

 

「さらにプレシオルタの効果発動!バックログカウンター1つを使うことで、このカードと同じ縦列のカードを手札に戻す!ドローン・バリケードを手札に!」

 

 プレシオルタが歌声を奏でると、彼のフィールドのカードが手札に返る。

 

「ドローン・バリケードの効果発動!このカードが相手の効果でフィールドを離れた時。デッキからドローン・バリケードを発動する!」

 

 だが、消されたバリケードが再設置される。

 

「だったら、プレシオルタを自身の効果で移動。移動したことでバックログカウンターを置き、ライフを回復」

 

 美海:LP5500→6000

 バックログカウンター:2→3

 

「そして原初海意(オリジンブルー・インテンション)の効果!バックログカウンター2つ使うことで、手札か墓地からオリジンブルー1体を特殊召喚する!蘇れ、シーライブラ!」

 

 蘇ったシーライブラと、その隣にいたアンモジュールにタイタニーニャの触手が突き刺さる。

 

「私はアンモジュールをチューナー扱いとし、シーライブラに、チューニング!」

 

 二体のモンスターがデータの粒子へと分解される。

 

「潮は満ちた。今こそ悠久の眠りから目覚めよ!シンクロ召喚!原初海祈(オリジンブルー)リオ・プロトコロドン!」

 

 現れたのはワニのような口を持ち、その周囲に水の剣を6つ従える首長竜だ。

 

原初海祈(オリジンブルー)リオ・プロトコロドン

シンクロ・効果モンスター

星8/水属性/サイバース族/攻 2800/守 2000

水属性チューナー+チューナー以外のサイバース族モンスター1体以上

(1)このカードのS召喚に成功した場合に発動できる。相手フィールドのモンスター2体までを選んで手札に戻す。

(2)このカードが効果で隣のメインモンスターゾーンに移動する場合、かわりにリンクモンスターのリンク先となるメインモンスターゾーンに移動できる。

(3)1ターンに1度、発動できる。このカードを隣のメインモンスターゾーンに移動させる。この効果は相手ターンでも発動できる。

(4)このカードと同じ縦列の相手のモンスターゾーン及び魔法&罠ゾーンのカードの効果は無効化される。

 

「このカードがシンクロ召喚に成功した時、相手フィールドのモンスター2体まで選んで手札に戻す!」

 

 リオ・プロトコロドンの水弾を受けて、ドローン・ポーンは手札に返される。

 

「さらにリオ・プロトコロドンを自身の効果で移動。効果でバックログカウンターを置き、ライフを回復」

 

 美海:LP6000→6500

 バックログカウンター:1→2

 

「リオ・プロトコロドンと同じ縦列の相手のカードの効果は無効化される。これにより、ドローン・バリケードの効果は無効化される。バトル!原初海祈(オリジンブルー)プレシオルタで、ダイレクトアタック!」

 

 プレシオルタが大口を開け、その口にエネルギーを収束させる。

 

「俺は手札のドローン・アステロイドの効果発動!」

 

ドローン・アステロイド

効果モンスター

星3/闇属性/機械族/攻 1000/守 1000

このカード名の(1)の効果はデュエル中1度しか使用できない。

(1)自分・相手のモンスターの直接攻撃宣言時、このカードを手札から捨てて発動できる。その攻撃を無効にし、相手フィールドのモンスターの数だけ、「ドローン・トークン」(機械族・風属性・星1・攻/守0)を可能な限り特殊召喚する。その後、相手のターンなら、ターンを終了させる。

(2)自分のバトルフェイズ中に、墓地のこのカードを除外して発動できる。このターンに戦闘を行ったモンスターを含む自分のモンスターで「ドローン」リンクモンスター1体をリンク召喚する。

 

「その攻撃を無効にし、相手モンスターの数だけドローン・トークンを特殊召喚」

 

 竹とんぼのような小型のドローンが三機、出現する。

 

「そして相手ターンなら、ターンを強制終了させる」

「くっ……」

 

ターン3

 

「スタンバイフェイズに、バリケードはフィールドのドローンカード1枚を墓地に送らなければならない。俺はバリケード自身を墓地へ」

 

 既に守りは不要。

 ここから彼の怒涛の攻撃が始まる。

 

「現れろ、勝利を導くサーキット!」

 

 彼の場のトークンの内1体が、アローヘッドに吸い込まれる。

 

「リンク召喚!リンク1、バトルドローン・イグニッション!」

 

バトルドローン・イグニッション

リンク・効果モンスター

風属性/機械族/攻 800/LINK 1

【リンクマーカー:右下】

レベル4以下の「ドローン」モンスター1体

「バトルドローン・イグニッション」は1ターンに1度しか特殊召喚できない。

(1)このカードが特殊召喚に成功したターン、自分フィールドのこのカード以外の「ドローン」リンクモンスターが相手の効果でフィールドを離れる毎に、その数だけ「ドローン・トークン」(機械族・風属性・星1・攻/守0)を特殊召喚する。

(2)自分のリンクモンスター以外の「ドローン」モンスターが直接攻撃で相手に戦闘ダメージを与えた場合に発動できる。このターン、このカードは直接攻撃できる。

 

「続けて三連続リンク召喚!ドローン・トークン1体で、バトルドローン・サージェント!トークンとイグニッションで、バトルドローン・ウォラント!」

 

 アローヘッドに向けて、ドローンが次々と飛翔して、リンクモンスターとなってアローヘッドから発進する。

 

「そしてウォラントとサージェントでリンク召喚!バトルドローン・ジェネラル!」

 

 二機のドローンが、リンクマーカーとなり、アローヘッドから漆黒の戦闘機がエクストラモンスターゾーンに着陸した。

 

バトルドローン・ジェネラル

リンク・効果モンスター

風属性/機械族/攻 2400/LINK 3

【リンクマーカー:左/右/下】

「ドローン」モンスター2体以上

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分のメインフェイズに発動できる。墓地から元々の攻撃力が2000以下の「ドローン」モンスター1体を特殊召喚する。

(2)自分のレベル4以下の攻撃力1000以下の「ドローン」モンスター1体を対象として発動できる。このターン、そのカードは直接攻撃できる。

(3)自分の「ドローン」モンスターが直接攻撃で相手に戦闘ダメージを与えた場合、そのモンスターをリリースして発動できる。そのモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える。この効果を3回以上適用したターン、このカードは直接攻撃できる。

 

「ウォラントの効果発動!墓地から自身を特殊召喚!」

 

 ジェネラルのリンク先に、ウォラントが着陸した。

 

「でもそれまでです!私はプレシオルタの効果発動!バックログカウンター1つを使うことで、このカードと同じ縦列の相手フィールドのカード全てを手札に戻す」

 

 プレシオルタが歌を奏でると、二機はエクストラデッキに帰還する。

 

「イグニッションの効果。こいつがリンク召喚に成功したターンに、相手の効果で俺のドローンがフィールドを離れた時、その数だけドローン・トークンを特殊召喚する」

 

 再び彼のモンスターゾーンがドローン・トークンで埋まる。

 

「俺は2体のトークンでウォラントをリンク召喚!そしてトークンとウォラントでリンク召喚!バトルドローン・ジェネラル!」

 

 アローヘッドからジェネラルが再発進する。

 

「そして、ジェネラルの効果で墓地からウォラントを特殊召喚。リンク2以上のドローンが効果で特殊召喚された時、墓地からサージェントを特殊召喚。そしてドローン・ポーンを通常召喚」

 

 さらに墓地の二機のドローンまでもが復活し、追加の一機も加えて攻撃態勢は整った。

 

「効果でデッキからドローン・カタパルトを手札に加えて、発動」

 

ドローン・カタパルト

永続魔法

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれフェイズ毎に1度しか使用できない。

(1)自分のメインフェイズ及びバトルフェイズに発動できる。手札から「ドローン」モンスター1体を特殊召喚する。

(2)自分の「ドローン」モンスターが直接攻撃で相手に戦闘ダメージを与えた場合、このカードを墓地へ送って発動できる。相手に1000ダメージを与える。

 

「ジェネラルの効果発動。このターン、ドローン・ポーンはダイレクトアタックできる」

「私はリオ・プロトコロドンの効果で自身を移動。移動したことで、タイタニーニャの効果でバックログカウンターを置き、原初海意(オリジンブルー・インテンション)の効果でライフを回復!」

 

 LP6500→7000

 バックログカウンター:1→2

 

「バトルだ!ドローン・ポーンでダイレクトアタック!」

 

 ドローン・ポーンが美海に近づき、その小さな機体の両端についたガトリングを放つ。

 

 美海:LP7000→6400

 

「ですが、リオ・プロトコロドンの効果!サージェントの効果は無効。サージェントがダイレクトアタックを決めなければ、ウォラントの効果は発動しない」

「それがどうした。俺は墓地のドローン・アステロイドの効果発動!このカードを墓地から除外することで、バトルフェイズ中にリンク召喚を行う!」

 

 ブラッドシェパードが右手をピストルのように構えると、それが指差す先にアローヘッドが出現する。

 

「俺はジェネラルとウォラントをリンクマーカーにセット!」

 

 二機のドローンがアローヘッドに飛び込む。

 

「リンク召喚!バトルドローン・ウォラント!」

 

 エクストラモンスターゾーンにウォラントが出し直された。

 

「俺はドローン・カタパルトの効果発動!手札からドローン・エリアスを特殊召喚!」

 

 直角三角形の翼が二枚ついた、小型の飛行機が飛来した。

 

ドローン・エリアス

効果モンスター

星3/風属性/機械族/攻 1000/守 0

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)相手フィールドにのみモンスターが存在する場合、このカードを手札から特殊召喚できる。

(2)このカードが特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「ドローン」カード1枚を手札に加える。この効果発動後、ターン終了時まで、自分は機械族モンスターしか特殊召喚できない。

 

「効果でデッキからドローンカード1枚を手札に。そして俺は手札に加えたこいつを使う」

 

 ブラッドシェパードが手のひらを返して引いたカードを見せる。

 

「それは……」

「俺は速攻魔法、ドローン・フォース・フュージョンを発動!」

 

ドローン・フォース・フュージョン

速攻魔法

このカードの発動と効果は無効化されず、このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1)自分のフィールド・墓地から機械族の融合モンスターカードによって決められたこのターンに戦闘を行った「ドローン」モンスターを含むモンスターを除外し、その融合モンスター1体を融合召喚する。

(2)このカードの(1)の効果で融合召喚されたモンスター及び墓地のこのカードを除外して発動できる。除外されているそのモンスターの融合素材となった「ドローン」リンクモンスター1体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたモンスターは元々の攻撃力が半分になり、直接攻撃できる。 

 

「このターンに戦闘を行ったドローンモンスターを含む融合素材モンスターをフィールド、墓地から除外し、機械族融合モンスター1体を融合召喚する!俺はフィールドのドローン・ポーンと、墓地のジェネラル、ウォラントを融合!」

 

 ドローン・ポーンを中心に、墓地から現れたドローン二機がパーツを分離させ、接合される。

 

「我が部隊最高のソルジャー、その元へ集え、歴戦の勇士達よ!融合召喚!」

 

 三機のドローンが合体して、一機の戦闘機となる。

 

「出でよレベル8!コマンドローン・バレットワスプ!」

 

 それは前部に巨大な六角形のバルカンを搭載した紫の機体だった。

 

コマンドローン・バレットワスプ

融合・効果モンスター

星8/風属性/機械族/攻 1000/守 0

「ドローン」リンクモンスター+機械族モンスター×2

(1)このカードが融合召喚に成功した場合、その融合素材としたリンクモンスター1体を対象として発動できる。このターン、このカードは1度のバトルフェイズに対象のモンスターのリンクマーカーの数だけ攻撃できる。

(2)このカードの攻撃宣言時に発動する。相手モンスター全ての攻撃力・守備力を500ダウンさせ、相手に500ダメージを与える。

(3)このカードは攻撃力2000以下である限り、直接攻撃できる。

 

「バレットワスプは融合召喚した時、素材となったリンクモンスター1体のリンクマーカーの数まで攻撃できる。俺はジェネラルを選択!」

 

 バレットワスプの機体から黒いパーツが表出する。

 

「ジェネラルのリンクマーカーは3、よって3回攻撃できる。そして、こいつは攻撃力2000以下であるかぎり、ダイレクトアタックできる!バトルだ!バレットワスプでダイレクトアタック!」

 

 バレットワスプのバルカンが高速回転し、弾丸の雨を美海に浴びせる。

 

「バレットワスプの効果!攻撃時、相手に500ダメージを与え、相手モンスター全ての攻撃力と守備力を500ダウンさせる!」

 

 弾丸はモンスターにも向けられ、その攻撃力にダメージを与える。

 

 美海:LP6400→5900→4900

 プレシオルタ:攻撃力2700→2200

 リオ・プロトコロドン:攻撃力3200→2700

 

「二撃目」

 

 バレットワスプは旋回し、再びバルカンの銃口を美海とそのモンスターに向ける。

 

 美海:LP4900→4400→3400

 プレシオルタ:攻撃力2200→1700

 リオ・プロトコロドン:攻撃力2700→2200

 

「三撃目だ」

 

 美海:LP3400→2900→1900

 プレシオルタ:攻撃力1700→1200

 リオ・プロトコロドン:攻撃力2200→1700

 

「ドローン・カタパルトの効果発動!自分のドローンがダイレクトアタックでダメージを与えた時、このカードを墓地へ送ることで、相手に1000ダメージ!」

 

 ドローン・カタパルトのカードからカタパルトのレールが発射される。

 

「がぁぁっ!」

 

 美海:LP1900→900

 

「はぁはぁ……さすがは、啓のお師匠さんですね……」

「あいつ、俺のことを話したのか?」

「えぇ。随分、あなたのことを慕っていましたよ」

 

 それを聞いて、わずかに彼が反応した。

 

「……俺は墓地のドローン・フォース・フュージョンの効果発動!このカードの効果で融合召喚されたモンスターとこのカードを除外することで、除外されている融合素材となったドローンリンクモンスター1体を特殊召喚する!蘇れ、バトルドローン・ジェネラル!」

 

 バレットワスプが空中分解し、その機体の中から黒い戦闘機が飛翔する。

 

「この効果で特殊召喚されたモンスターは攻撃力が半分となり、ダイレクトアタックできる!ジェネラルでダイレクトアタック!」

「私は墓地のアノマロトレスの効果発動!このカードを除外することで、自分のプレシオルタを移動させる!」

 

 移動したことで、永続魔法の効果で美海のライフが回復する。

 

 その直後、美海に向けてミサイルが撃ち込まれた。

 

 美海:LP900→1400→200

 

「よく耐えたがこれで終わりだ。ジェネラルの効果発動!ダイレクトアタックでダメージを与えたドローン、すなわちジェネラル自身をリリースすることで、その元々の攻撃力分のダメージを与える!」

 

 ジェネラルが警告音を鳴らしながら、美海に突撃する。

 

 次の瞬間、機体は爆発し、そのライフごと彼女を吹き飛ばした。



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第36話:Awakening ZERO

お待たせしました。



 同刻、プレイメーカーとブルーエンジェルはLINK VRAINSのセントラルエリア地下にある大きな空間を探索していた。

 

「この先だな」

 

 ゴッドバードから貰った地図と、自身のリンクセンスを頼り先へ進む。

 そして目的の場所に辿り着くと、そこは円形の開けた空間だった。

 

 二人が足を踏み入れたその時、不意に景色が暗転する。

 

「なに!?」

 

 床が、天上が、空間が、マス目のように反転し白と黒のタイルに置き換わる。

 そして、チェス盤のような空間の中に一人、誰か立っていた。

 

「お前は……」

 

 半透明な体に蒼い瞳の少年のような顔、人の姿をしているが生物に見えないそのアバターが口を開いた。

 

「初めまして。僕はIGS-000のコピーモデル、タイプγです」

「IGS-0シリーズ、美海が以前にも戦ったやつか」

 

 彼女から聞いていた話では、もっと無機質な喋り方をするとのことだった。

 だが、今の彼は抑揚こそ少ないがほとんど人と変わらない、それこそAiや不霊夢など、イグニスと同等に見える。

 

(それにこの声、どこかで……)

「少し遅かったな」

 

 すると、空間に声が響き、等身大サイズのビショップのチェス駒がタイプγの隣に出現した。

 

「あんたは、SOLテクノロジーの……」

「ビショップだ。SOLテクノロジーで専務を務めている者だ。さて、プレイメーカーよ。鴻上博士のレポートのなら既に回収した」

 

 チェス駒の言葉に合わせて、AIが掌を出し、その上にカードの形をしたデータが出現する。

 

「君達の狙いもこれだろう?ならば取引といこう」

 

 ビショップの言葉に合わせて、タイプγがデュエルディスクを構える。

 

「このレポートが欲しければこのタイプγとのデュエルに勝つことだ。負ければ君の持つ闇のイグニスを貰う」

「Ai、どうする?」

「ここまで来たんだ。やってやる」

 

 Aiはデュエルディスクから顔を出して、ファイティングポーズを取る。

 

「「デュエル!」」

 

ターン1 タイプγ

 

「僕は征令セグメントーナを召喚」

 

征令セグメントーナ

効果モンスター

星4/闇属性/サイキック族/攻 1100/2000

(1)このカードが既にモンスターゾーンに存在する状態で、自分の「セントラルオーダー」モンスターの召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキからレベル3以下のサイキック族の「セントラルオーダー」モンスター1体を特殊召喚する。この効果発動後、ターン終了時まで、自分はEXデッキからモンスターを特殊召喚できず、通常召喚に加えて1度だけ、「セントラルオーダーロード」モンスターを召喚できる。

(2)このカードが「セントラルオーダー」カードの効果で手札から墓地へ送られた場合、相手の墓地のカード1枚を対象として発動できる。そのカードを除外する。「セントラルオーダーロード」モンスターの効果で墓地へ送られていれば、この効果の発動に対して相手はカードの効果を発動できない。

 

「手札の征令リソースの効果発動」

 

征令リソース

効果モンスター

星3/闇属性/サイキック族/攻 900/守 1300

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードを手札から公開して発動できる。このカード以外の手札の「セントラルオーダー」カード1枚を墓地へ送り、このカードを手札から特殊召喚する。

(2)このカードがアドバンス召喚のためにリリースされた、または「セントラルオーダー」カードの効果で手札から墓地へ送られた場合に発動できる。自分はデッキから1枚ドローする。

 

「手札からもう一体の征令リソースを墓地へ送り、自身を特殊召喚」

 

 機械の腕を磁力で接合した尖ったスーツのような服装の男が現れる。

 

「リソースが墓地へ送られたことで1枚ドロー。そしてセントラルオーダーが特殊召喚されたことでセグメントーナの効果発動」

 

 セグメントーナが天に掲げた腕を広げると、その頭上に磁場が起こり、空間に穴が開く。

 

「デッキからレベル3以下のサイキック族のセントラルオーダー1体を特殊召喚する。征令(セントラルオーダー)エンバッファ」

 

 穴の中から宙に浮く剛腕を操る戦士が現れた。

 

征令(セントラルオーダー)エンバッファ

効果モンスター

星3/闇属性/サイキック族/攻 1200/守 700

このカード名の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。

(1)このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキからレベル5以上の「セントラルオーダー」モンスター1体を手札に加える。

(2)このカードが「セントラルオーダー」カードの効果で墓地へ送られた場合に発動できる。デッキからレベル5以上の「セントラルオーダー」モンスター1体を手札に加える。

 

「デッキからレベル5以上のセントラルオーダーを手札に加える。そしてこの3体をリリースしてアドバンス召喚!」

 

 3体のモンスターが天に吸い込まれ、そこから玉座が降りてくる。

 

征令王(セントラルオーダーロード)メディクリア」

 

 機械の玉座に腰かけるのは、両腕を機械に改造し、三本の槍を携えた巨人だ。

 

征令王(セントラルオーダーロード)メディクリア

効果モンスター

星10/闇属性/サイキック族/攻 3000/守 3000

このカードをアドバンス召喚する場合、モンスターを3体リリースしなければならない。

(1)このカードがアドバンス召喚に成功した場合に発動できる。自分はデッキから2枚ドローする。この効果を発動するターン、自分はEXデッキからモンスターを特殊召喚できない。

(2)アドバンス召喚されたこのカードがフィールドに存在する場合、相手のフィールドの表側表示のカード1枚を対象として発動できる。自分の手札から「セントラルオーダー」モンスター1枚を捨て、対象のカードの効果を無効にし、相手に200ダメージを与える。次の自分のスタンバイフェイズまで、自分は「征令王メディクリア」の効果で同名カードを対象にできない。この効果は同一チェーン上で1度しか発動できず、相手ターンでも発動できる。

(3)アドバンス召喚されたこのカードが戦闘・相手の効果で破壊されて墓地へ送られた場合に発動できる。このカードを墓地から特殊召喚し、デッキ・墓地から「征令締結」1枚を手札に加える。

 

「効果で2枚ドロー。ターン終了時まで、僕はEXデッキからモンスターを特殊召喚できない。僕はカードを2枚伏せてターンエンド」

 

ターン2

 

「早速王様が出やがったな。どうする……プレイメーカー?」

 

 ふと、プレイメーカーの様子がおかしいことに気付き、Aiが声をかける。

 

「あぁ。悪い」

 

 彼の視線は自分の手札でも、相手の強力なモンスターでもなく、対戦相手、タイプγの方を向いていた。

 

「どうしたの?」

 

 後ろで見ていたブルーエンジェルも心配そうに言う。

 彼は何でもないと首を振り、自分の手札を向き直った。

 

「俺はサイバース・ウィザードを召喚」

 

 白いローブをまとう電脳の魔術師が、杖を掲げる。

 

「自分フィールドにレベル4のサイバース族モンスターが存在する時、手札からサイバース・マジガールを特殊召喚!」

 

 その隣に、サイバース・ウィザードに似た衣装をまとう青髪の少女が現れる。

 

 

サイバース・マジガール

効果モンスター

星3/光属性/サイバース族/攻 1300/守 600

このカード名の(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しか行えず、(3)の効果はデュエル中、1度しか使用できない。

(1)自分フィールドにレベル4のサイバース族モンスターが存在する場合、このカードを手札から特殊召喚できる。

(2)1ターンに1度、相手フィールドの守備表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの守備表力を半分にし、その数値分、自分フィールドに他のサイバース族モンスター1体の攻撃力をアップする。

(3)このカードがリンク素材となって墓地に送られた場合、自分の墓地のそのリンク召喚の素材とした「サイバース・ウィザード」1体を対象として発動できる。そのモンスターを攻撃表示で特殊召喚できる。

 

「サイバース・ウィザードの効果発動!相手フィールドのモンスター1体を守備表示にする!サイバース・アルゴリズム!」

 

 サイバース・ウィザードが杖を掲げると、空に幾何学模様が光で描かれる。

 

「メディクリアの効果発動。手札1枚を捨てることで、相手フィールドの表側表示のカード1枚の効果を無効にする」

 

 しかし、メディクリアが右手を突き出すと、サイバース・ウィザードの繰り出す魔術は打ち消される。

 

「そして200ダメージ」

 

 メディクリアの腕から雷が放たれ、プレイメーカーに突き刺さる。

 

 プレイメーカー:LP4000→3800

 

「ならば、俺は手札から魔法カード、サイバネット・マイニングを発動。手札1枚を捨てることで、デッキからレベル4以下のサイバース族1枚を手札に加える」

「メディクリアの効果発動。手札のセントラルオーダー1枚捨てて、そのカードの効果を無効にし、200ダメージ」

 

 プレイメーカーの魔法も無効化され、さらにダメージが襲う。

 

 プレイメーカー:LP3800→3600

 

「1ターンに何回でも使えんのかよ……」

「だが、これで残りの手札は1枚。現れろ、未来を導くサーキット!召喚条件はサイバース族2体!」

 

 2体の電脳の魔術師がアローヘッドに飛び込む。

 

「リンク召喚!リンク2、サイバース・ウィッチ!」

 

 白と黒を基調としたマントをまとう赤髪の女性が現れた。

 

「サイバース・マジガールの効果発動!共にリンク素材となったサイバース・ウィザードを特殊召喚!墓地のシーアーカイバーの効果発動!自分のリンクモンスターのリンク先にモンスターが特殊召喚された時、このカードを墓地から特殊召喚!」

 

 白いタツノオトシゴのようなモンスターが、サイバース・ウィッチの後ろに浮上する。

 

「サイバース・ウィッチの効果発動!墓地の魔法カード1枚を除外することで、デッキからサイバネット・リチューアルとサイバース・マジシャンを手札に。サイバース・ウィザードの効果を発動!サイバース・アルゴリズム!」

 

 サイバース・ウィザードの魔法は今度こそ決まり、空に描かれた幾何学模様から雷光が降り注ぎ、メディクリアに突き刺さる。

 

「メディクリアを守備表示に変更。そして、このターン、俺はこの効果の対象としたモンスターしか攻撃できないかわりに、俺のサイバース族モンスターが対象のモンスターを攻撃した時、貫通ダメージを与える」

「メディクリアの守備力は3000。通らない」

「まだだ!俺は儀式魔法、サイバネット・リチューアルを発動!」

 

 サイバース・ウィザードとシーアーカイバーの周りに青い魔法陣が描かれる。

 

「俺の手札、フィールドのモンスターをリリースし、サイバース族儀式モンスター1体を儀式召喚する。俺はサイバース・ウィザードとシーアーカイバーをリリース」

 

 2体のモンスターが青い炎に包まれ、その炎が分裂して七つの火を魔法陣に灯す。

 

「契約は結ばれた。2つの魂は、闇の力を操る賢者へと受け継がれる」

 

 火は回転し、魔法陣の中に人の影を作り出す。

 

「儀式召喚!レベル7、サイバース・マジシャン!」

 

 火が弾け、現れたのは新たなる装いに身を包んだサイバース・ウィザードだ。

 

「サイバース・ウィッチの効果発動!儀式魔法を手札に加える効果を使用したターンのメインフェイズに、墓地からレベル4以下のサイバース族モンスター1体を特殊召喚する」

 

 サイバース・ウィッチが踊るように杖を振ると、マジシャンの隣に魔法陣が現れ、そこからサイバース・マジガールが飛び出した。

 

「サイバース・マジガールの効果!相手の守備表示モンスター1体の守備力を半分にする!」

 

 サイバース・マジガールが手にした本を広げると、メディクリアの足元に魔法陣が現れ、発光する。

 

「そして、その数値分、他のサイバース族モンスター1体の攻撃力をアップする」

 

 魔法陣に力を吸い取られ、その力がサイバース・マジシャンに分け与えられる。

 

「バトルだ!サイバース・マジシャンで、メディクリアを攻撃!サイバース・マジック!」

 

 サイバース・マジシャンの杖から放たれた蒼炎がメディクリアを焼き尽くし、タイプγに貫通ダメージを与える。

 

 タイプγ:LP4000→1500

 

「破壊されたメディクリアの効果発動。このカードを墓地から特殊召喚」

 

 だが、炎の中からメディクリアは生還する。

 

「そしてデッキから征令締結(セントラルオーダー・コンクルード)を手札に」

「やはり、同じ効果を持っていたか……」

「てことは、こっからが本番だな」

 

 甦ったメディクリアの姿に、プレイメーカーとAiは一層警戒を強める。

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン3

 

「儀式魔法、征令締結(セントラルオーダー・コンクルード)を発動」

 

 メディクリアの足元に魔法陣が展開される。

 

「数多の犠牲の元、その利を我が手に、儀式召喚!」

 

 魔法陣から蒼い炎が放たれ、メディクリアを包み込む。

 

「出でよレベル10、征令王ハイパーメディクリア!」

 

 炎のベールを脱ぎ捨て、現れたのは宙を舞う六つの鋼の腕を操り、頭を機械に改造された人型のモンスターだった。

 

征令王ハイパーメディクリア

儀式・効果モンスター

星10/闇属性/サイキック族/攻 4000/守 4000

「征令締結」により降臨

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分フィールドの「セントラルオーダーロード」モンスターを使用して儀式召喚に成功したこのカードは、相手の効果の対象にならず、相手の効果で破壊されない。

(2)自分・相手のメインフェイズに、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。手札から「セントラルオーダー」モンスター1体を墓地へ送り、対象のモンスターを破壊する。このターン、相手は対象のモンスター及びその同名モンスターの効果を発動できず、このカードは対象のモンスターと同じ効果を得て、その攻撃力の数値分、このカードの攻撃力をアップする。

(3)自分の手札から「セントラルオーダー」カードが墓地へ送られる毎に、相手に200ダメージを与える。

 

「ハイパーメディクリアの効果発動!僕の手札からセントラルオーダー1体を墓地へ送り、相手のモンスター1体を破壊する」

「俺は(トラップ)カード、スリーフェイトバリア!」

 

スリーフェイトバリア

通常罠

(1)以下の効果から1つを選択して発動できる。

●このターン、自分のモンスターは戦闘・効果で破壊されない。

●このターン、自分はダメージを受けない。

●このターン、自分のモンスター1体は1度だけ戦闘で破壊されず、その戦闘によって戦闘ダメージを受けるかわりに、その数値分、自分のライフを回復する。

(2)自分がダメージを受けた場合、墓地のこのカードを除外して発動できる。このターン、自分が受ける効果ダメージは0になる。

 

「このターン、俺のモンスターは戦闘・効果で破壊されない」

 

 ハイパーメディクリアが浮遊する機械の腕を飛ばすが、緑色のバリアが展開され、その攻撃からサイバース・マジシャンを守る。

 

「ハイパーメディクリアが対象としたモンスターの効果、及びその同名モンスターの効果はこのターン、発動できない。さらに」

 

 バリアに阻まれた腕が手を開き、その掌の中心にある緑色の球体が光る。

 すると、0と1の羅列の緑のエフェクトがサイバース・マジシャンから流れ、球体の中に吸い込まれた。

 

「対象のモンスターの攻撃力と効果を自身に与える」

「こ、攻撃力6500!?」

「ハイパーメディクリアの効果、手札からセントラルオーダーが墓地へ送られる毎に、相手に200ダメージ」

 

 ハイパーメディクリアの手の球体からビームが放たれる。

 

「サイバース・マジシャンの効果!」

 

 サイバース・マジシャンの額のゴーグルが下りて、装着される。

 

「このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分が受ける全てのダメージは半分になる!」

 

 ゴーグルからビームが放たれ、ハイパーメディクリアのビームの威力を抑える。

 

 プレイメーカー:LP3600→3500

 

「ハイパーメディクリアで、サイバース・ウィッチを攻撃」

「サイバース・マジシャンは、フィールドにリンクモンスターがいる時、相手はサイバース・マジシャン以外を攻撃・効果の対象にできない」

「ならサイバース・マジシャンを攻撃」

 

 サイバース・マジシャンに向けて、ハイパーメディクリアがビームを放つ。

 

「スリーフェイトバリアの効果でサイバース・マジシャンは破壊されない。そして、サイバース・マジシャンの効果でダメージは半分となる」

 

 プレイメーカー:LP3500→1500

 

「僕はこれでターンエンド。この瞬間、ハイパーメディクリアの攻撃力は元に戻る」

 

ターン4

 

「相手のメインフェイズ開始時、ハイパーメディクリアの効果発動。手札のセントラルオーダーを墓地へ送り、サイバース・マジシャンを破壊」

 

 今度は守るものはない。

 サイバース・マジシャンはハイパーメディクリアの操る機械の腕に握りつぶされる。

 

「サイバース・マジシャンの効果と攻撃力をターン終了時まで得る。そして、手札から墓地へ送られた征令ダークローンチの効果発動」

 

征令ダークローンチ

効果モンスター

星2/闇属性/サイキック族/攻 0/守 800

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分・相手のメインフェイズに発動できる。このカードを手札から墓地へ送る。

(2)自分フィールドに「セントラルオーダー」カードが存在し、このカードが「セントラルオーダー」カードの効果で手札から墓地へ送られた場合に発動できる。このカードを墓地から特殊召喚する。

(3)このカードが特殊召喚に成功した場合、自分フィールドの「セントラルオーダー」モンスター1体を対象として発動できる。このターン、相手は対象のモンスターのレベル以下のフィールドで発動するモンスターの効果を発動できない。

 

「ダークローンチを墓地から特殊召喚。そしてダークローンチは特殊召喚成功時、自分のセントラルオーダー1体を対象に効果を発動する。このターン、相手は対象のモンスターのレベル以下のフィールドで発動するモンスターの効果を発動できない」

 

 ダークローンチの足元から電気が走り、プレイメーカーのフィールドに電流の鎖を生み出した。

 

「くっ、現れろ、未来を繋ぐサーキット!サイバース・ウィッチとサイバース・マジガールをリンクマーカーにセット!リンク召喚!トランスコード・トーカー!」

 

 アローヘッドより、オレンジの重装甲をまとう電脳の騎士が下りてきた。

 

「トランスコード・トーカーの効果発動!墓地からサイバース・ウィッチを特殊召喚。さらにクロック・ワイバーンを通常召喚。現れろ、未来を繋ぐサーキット!」

 

 今度はトランスコード・トーカーとクロック・ワイバーンがアローヘッドに吸い込まれる。

 

「リンク召喚!リンク2、クロック・スパルトイ!」

 

 アローヘッドより現れたのは、長槍を携え、赤い模様の刻まれた体の戦士だった。

 

「クロック・スパルトイの効果で、デッキからサイバネット・フィージョンを手札に加える。俺は魔法カード、死者蘇生を発動!墓地からトランスコード・トーカーを特殊召喚!」

 

 トランスコード・トーカーが、クロック・スパルトイの左斜め後ろ、リンク先に蘇る。

 

「クロック・スパルトイの効果!リンク先にモンスターが特殊召喚された時、墓地からレベル4以下のサイバース族モンスター1体を特殊召喚する。甦れ、クロック・ワイバーン。俺は魔法カード、サイバネット・フュージョンを発動!」

 

 プレイメーカーのフィールドのモンスターが、その下に現れた渦巻く七色の光の中に吸い込まれる。

 

「雄大なる翼の元に集いし強者達よ、新たなる伝説となれ。融合召喚!」

 

 光の中から龍の雄叫びが響く。

 

「現れろ、レベル7、サイバース・クロック・ドラゴン!」

 

 紫の水晶の体、輝く翼に雷電をまとわせる巨大な竜が現れた。

 

「サイバース・クロック・ドラゴンの効果!融合素材となったリンクモンスターのリンクマーカーの合計だけ、デッキの上からカードを墓地へ送り、その枚数×1000ポイント、攻撃力をアップさせる!」

「素材にしたリンクマーカーの合計は7、攻撃力7000アップだ!」

 

 サイバース・クロック・ドラゴン:攻撃力2500→9500

 

「バトルだ!サイバース・クロック・ドラゴンで、ハイパーメディクリアを攻撃!」

 

 サイバース・クロック・ドラゴンの翼が紫電をまとい、その口元にエネルギーが集まる。

 

「パルスプレッシャー!」

 

 サイバース・クロック・ドラゴンから大電力が放出される。

 それはハイパーメディクリアを呑み込み、タイプγのライフを奪い去った。

 

「これで……!?」

 

 タイプγ:LP1500→300

 

「僕は速攻魔法、禁じられた聖衣を発動していた。この効果でサイバース・クロック・ドラゴンの攻撃力は600ダウン。そして、ハイパーメディクリアがコピーしたサイバース・マジシャンの効果で僕が受けるダメージは半分」

「くっ……」

「そして、ハイパーメディクリアが破壊されたことで、(トラップ)カード、征令王の会合(セントラルオーダーロード・エムティージー)を発動!」

 

征令王の会合(セントラルオーダーロード・エムティージー)

通常罠

(1)以下の効果から1つを選択して発動できる。

●自分のアドバンス召喚された「セントラルオーダーロード」モンスターが戦闘・相手の効果でフィールドを離れた場合に発動できる。自分の手札・デッキからそのモンスターとは種族が異なる同じレベルの「セントラルオーダーロード」モンスター2体まで特殊召喚する(同じ種族のモンスターは1体まで)。

●自分の儀式召喚された「セントラルオーダーロード」モンスターが戦闘・相手の効果でフィールドを離れた場合に発動できる。自分の手札・デッキからそのモンスターとは種族が異なり、同じレベルの「セントラルオーダーロード」儀式モンスター2体までを、儀式召喚扱いで特殊召喚する(同じ種族のモンスターは1体まで)。

 

「デッキからセントラルオーダーロード儀式モンスター2体を特殊召喚!出でよ、征令王(セントラルオーダーロード)グレートウィール、征令王(セントラルオーダーロード)コンプリートファンネル!」

 

 フィールドに巨大な鋼鉄の扉が出現し、中から二体の王が出てきた。

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンド。この瞬間、サイバース・クロック・ドラゴンの攻撃力は元に戻る」

 

ターン5

 

「タイプγよ。そのままとどめをさせ」

「了解。演算領域拡張。このデュエルにおける最適な戦術(ルート)の演算開始」

 

 タイプγの瞳が光り、その半透明の体に蒼い光が駆ける。

 その時、

 

「ぐっ……あ、あぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 突如、タイプγがうめき声をあげて、自分の胸を押さえつけ始めた。

 

「なんだ!?」

 

 プレイメーカー達はもちろん、ビショップも困惑している様子だった。

 だがしばらくして、タイプγは苦しそうにしながらも、虚空から一枚のカードを取り出して掲げる。

 

「墓地の……征令締結(セントラルオーダー・コンクルード)の効果、発動」

 

征令締結(セントラルオーダー・コンクルード)

儀式魔法

このカードを発動するターン、自分はこのカードの効果以外でモンスターを特殊召喚できない。

(1)レベルの合計が儀式召喚するモンスターのレベル以上になるように、自分の手札・フィールドの「セントラルオーダー」モンスターをリリースし、「セントラルオーダーロード」儀式モンスター1体を儀式召喚する。発動時に自分フィールドに「セントラルオーダーロード」モンスターが存在する場合、手札のかわりにデッキからも儀式召喚できる。

(2)このデュエル中に、自分が儀式モンスターを3種類以上特殊召喚している場合、墓地のこのカードと,

自分のフィールド・墓地の種族が異なるレベル10の「セントラルオーダーロード」儀式モンスター3体を除外して発動できる。自分の手札・デッキ・墓地・除外されている「征令終王ラストピリオド」1体を特殊召喚する。

 

「グレートウィール、コンプリートファンネル、ハイパーメディクリアの3体を除外し、特殊召喚!」

 

 地響きが起き、空間が揺れ始める。

 

「お、おい。なんかヤバそうだぞ」

「分かっている」

 

 景色が何重にも重なり、その景色の中にそれぞれ3体の征令王の影が現れ、一つに重なろうとする。

 

 しかし、突如、空間は弾けて景色を構成する白と黒のパネルが吹き飛び、元の地下の無機質なエリアに戻る。

 同時に、フィールドに実体化していたモンスター達の姿も消えた。

 

「どういうことだ!?」

「くっ……デュエルは中止だ」

 

 ビショップはそう吐き捨てて、タイプγと共に姿を消した。

 

 ◆

 

 それからログアウトした二人は、尊達と合流し、五人で草薙のキッチンカーを訪れた。

 

「手に入ったのは、レポートナンバー05の方か」

「とりあえず歯抜けにならなくてよかったな」

 

 草薙、遊作、美海に啓も加わったことで、解析はすぐに終わった。

 

「えーっと、これも実験記録だな」

 

 九十五日:

 イグニスの成長は私の予想をはるかに超えていた。

 実験とは無関係に、彼らは自発的に様々なことを学び、指数関数的にその能力を向上させていく。

 私はイグニスの危険性を訴え、上に実験の中止を求めたが、聞き入れられることはなかった。

 

 百二十二日目:

 私は完成した六体のイグニスに対してあるシミュレートを行った。

 それは今後、イグニスが人間に対してどのような影響を与えるかだ。

 その結果、どのようなルートを辿ろうとも、待っているのは人類の破滅だった。

 

 百三十一日目:

 私は検証のために条件を変え、何度もシミュレートを行った。

 しかし、結果は変わることはなかった。

 

 百四十七日目:

 私は遂に強硬手段に出ることにした。

 イグニスをこの手で削除する。そのための準備を進めることとしよう。

 

 百六十四日目:

 全ての準備は整った。私はなんとしてでもイグニスを抹消しなくてはならない。

 あのような未来を回避するためにも。これは私の使命なのだ。

 

「で、最終的にイグニスの削除には失敗。全員に逃げられたってわけか」

 

 啓はそう言って、テーブルに置かれたデュエルディスクから顔を出しているAiと不霊夢の方を見る。

 

「……」

「遊作、どうしたの?」

 

 考え込むような顔をしている遊作に、尊が問いかける。

 

「やっぱり何か引っかかるな」

「やっぱ遊作も?」

 

 啓も遊作の発言に同意を示す。

 

「啓もか」

「見せてもらったレポートを読んだ時から、なんか……」

「二人が何か感じるなら、何かあるんだね」

「ま、まあ。具体的に何かって聞かれると答えられないんだけど……」

 

 直後に急に自信をなくし、声が小さくなる。

 

「遊作は前にも言ってましたよね。リボルバーの話に対して引っかかったとか」

「あーっ!」

 

 美海の言葉に、啓は大きな声を上げた。

 

「それだよ。リボルバー!あいつ言ってただろ。ハノイの塔を作ったのは先生だって」

「……そうか」

「いや、何々、二人だけ分かったみたいだけど」

「先生は罪の意識に耐えかねて自殺した。リボルバーはそう言っていたし、俺達もそうだと思っていた。だが」

 

 遊作はレポートの百六十四日目の項を指さす。

 

「これだけ使命感を持って、ハノイの塔まで作り上げるような人が自殺なんてするか?」

「「「「!」」」」

 

 遊作のそのセリフに、全員がハッとなった。

 

「そうなってくると、先生はどうして亡くなられたのでしょうか」

「その真相を突き止めるためにも、残りのレポートを手に入れる」




リアルが忙しくて、全然書けてなかったけど、ようやく投稿できました。
次回もよろしくお願いします。


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第37話:Think of my mother

 SOLテクノロジーの研究室、モニターにはタイプγと、その状態を示した無数のウィンドウが映っている。

 

「ナイト」

 

 モニターの前で、タブレットを操作している八神の前にビショップが現れた。

 

「暴走の原因は分かったか?」

「はい。どうやら、タイプγの中にある記憶が呼び起こされていたみたいです」

「記憶だと?」

 

 すると、八神はタブレットを操作して、モニターに何かが表示された。

 

「オリジナルのIGS-000のものでしょう」

「そうか。ならば実験の記録などもあるかもしれないな」

「えぇ。ですので解析を続けます」

「任せたぞ。それと……もしタイプγの危険性が判明すれば、その時は君の手で廃棄してくれ」

「ビショップ様、それは……」

 

 当然、そんなことをクイーンは許可しないだろう。彼の社に対する忠誠心をよく知る八神は、彼のその発言に驚いていた。

 

「責任は私が持つ」

「しかし、それではビショップ様が……」

「構わん。あの男の遺物に滅ぼされるくらいなら、クビになった方が幾分かマシだ」

「……分かりました」

 

 八神の返答に、ビショップは頷き、そのまま部屋を後にした。

 

 ◆

 

 ──── ここはどこ

 ──── 僕は一体……

 

 ──── 僕は彼を知っている?

 

 ジジッ……ジ……アナタハ■■■■■デス

 

 アナタニハ使命ガ アリマス

 

 ──── 僕の使命?

 

 アナタノ使命ハ■■■■ノ■トシテ、スベテノ■■■■ヲ■■■ムコトデス。

 

 ──── 僕は……違う

 

 アナタハ■■■■ノタメノ■デス

 

 ──── 僕は■■■■を、止め……ない、と

 ──── そのために、僕は彼らを……

 

 抵抗ヲ確認。演算領域ノ縮小、及ビ記憶ノ再封印ヲ行イマス。

 

 ──── 僕は……君達を……

 

 ◆

 

「よう。藤木」

 

 ある日の午後、遊作が机で伏して寝ていると、島が声をかけてきた。

 

「なんか顔色悪いぞ。大丈夫か?」

「あぁ……何でもない」

 

 遊作は目を擦り、教室の壁にかけられた時計を確認する。

 時間は12時50分、後10分で午後の授業が始まるところだ。

 

「眠い……」

「お前、寝不足か? そういえばもうすぐ期末テストだよな。俺も勉強しとかないとな」

「そうだな」

 

 こういうやつは絶対にやらないだろうなと、勉強で夜更かししていたわけではない遊作は思った。

 

「テストと言えば、財前は成績良かったな」

「え、まあ……」

 

 急に話題を振られて、葵もワンテンポ遅れて返事をする。

 

「うちは親が厳しくて」

「それで最近部室に顔出してなかったのか」

「テスト期間なんだから普通に部活は休みでしょ」

 

 島に呆れたような顔を返して、葵は遊作の方を見る。

 

「えーっと、その、よかったらみんなを呼んで、うちで勉強会でもする?」

 

 少し恥ずかしそうに、目を反らしつつ遊作に尋ねる。

 しかし、朴念仁の遊作はそんな葵の心境など知る由もなく、

 

「いやいい」

 

 と即答で断った。

 

「あ、そう」

 

 この反応を予想していたのか、葵はため息を吐きつつも、特に残念でもなさそうだった。

 

「ねぇねぇ財前さん」

 

 すると、彼女の元にどこからか切花がスキップしながらやってきた。

 

「だったらボクがうちに行ってもいいかな?」

「別にいいけど、遊ぶわけじゃないわよ」

「分かってるよ~」

 

 本当に分かっているのかと、ニコニコする切花にジト目を向ける。

 

「そうだ夢乃」

「な~に? 藤木君」

 

 珍しく遊作の方から声をかけられて、切花はクルッと彼の方を向いた。

 

「放課後、少し時間あるか?」

「なっ!!」

 

 葵が声を上げて立ち上がる。

 

「ど、どうした、財前?」

「え、あ、なんでもない…‥」

 

 遊作に不思議そうな顔をされて、葵は顔を赤くして座りなおす。

 

「ん~、いいけど、何するの?」

「大事な話がある」

「何大事な話って!?」

 

 葵が普段の自分のキャラすら忘れて、立ち上がって遊作に大声を上げる。

 

「い、いや、俺は夢乃に聞きたいことがあるだけで」

「え~財前さんは、一体何を想像してるのかな~」

 

 切花はニヤニヤしながら、葵の顔を覗き込む。

 

「な、なにも…‥」

「え~、それじゃあ~……」

 

 切花は葵の耳元に口を近づけて囁く。

 

「藤木君、もらっちゃうね」

「っ……」

 

 葵は切花の胸を鷲掴みして、引きちぎらんばかりに力を込める。

 

「あ、待って!これチョー痛い!あぁっ!」

 

 騒ぐ二人をよそに、遊作は教科書を持って立ち上がる。

 

「次移動教室だよな?」

「いや、あの二人ほっといていいのか?」

「大丈夫だろ」

 

 そう言って、遊作は島と一緒に教室を後にした。

 

 ◆

 

 その頃、B組の教室の前では、

 

「啓!やっと学校に来てくれたのね!」

 

 エマが啓を後ろから抱きしめていた。

 

「やめろババア……」

 

 本気で嫌そうな顔をする啓だったが、身長差もありエマを振りほどくことはできない。

 その様子を複雑そうな顔で見つめていた美海が口を開いた。

 

「あの、前から気になってたんですけど、お二人ってどういう関係なんですか?」

「ああ。こいつは……」

 

 啓は動く左手の親指をエマの方へ向ける。

 

「師匠の、ブラッドシェパードの元カノ」

「へぇ……えぇっ!?」

 

 衝撃のカミングアウトに、美海は大声を上げた。

 

「ちょっと啓、私の前であの男の話はやめて」

「うるせぇババア。いいから離せ」

 

 普段のおどおどした様子とは打って変わって、まるでゴッドバードの時のような強気な態度でエマを振りほどこうとする。

 

「え、ちょっと待ってください。父親代わりだったお師匠さんの元カノということは……お義母様?」

「なんか漢字表記おかしくないか?」

 

 そんなやり取りを経て、ようやくエマは啓を解放した。

 

「あ、えーっと、啓はエマ先生のことは怖がらないんですね」

「そりゃあ、私はママみたいなものだから」

「は? 俺は師匠のことを父親だと思ったことはあっても、お前を母親だなんて思ったことは一度もないぞ」

「え?」

 

 エマは少しショックを受けたような顔をした。

 

「つーか、なんでババアが学校の先生なんかやってんだよ」

「まあ仕事の関係でね。大学の時に資格は取ってたから、ここで働かせてもらってるのよ」

「そうえいえば、先生が赴任したのは二、三年前でしたね」

「ちょうど、ババアが師匠と別れた時くらいだな」

「だからやめろっての」

 

 エマに睨まれても、啓は怯まない。

 他の人間に同じことをされれば、彼は小動物のように怯えてすぐに美海の後ろに隠れてていただろう。

 

「仲いいですね」

「どこがだよ……」

 

 啓は不服そうにする。

 

「仕事って、本業の方だよな? 何調べてたんだよ」

「それはさすがに言えないわよ。でも、そうね……しいて言うなら」

 

 エマはいたずらっぽく笑い、口元に指をあてた。

 

「女の危ない秘密、かしら」

 

 ◆

 

 放課後、切花を呼び出した遊作は校舎裏で彼女を待っていた。

 

「お待たせー」

 

 切花はやってくると、遊作の周りをチョロチョロと動き回り、彼の顔を覗き込む。

 

「何々、こんなところに呼び出して。あ、もしかして告白?」

「夢乃、単刀直入に聞くが、聖辺(ひじりべ)(いつき)という男を知っているか?」

「……え~知らなーい。誰それ~」

 

 一瞬だけ真顔になるが、すぐいつものような張り付いた笑顔に戻る。

 

「その(いつき)って人がどうかしたの?」

「そいつの力が必要になるんだ」

 

 ウィンディのオリジン、啓が仲間に加わってくれたことで、残るのはアースのオリジンであるスペクターこと聖辺(ひじりべ)(いつき)だけだ。

 

「ふ~ん。まあボクには関係ないけど」

 

 既に興味を失ったのか、切花は遊作に背を向けて立ち去る。

 

「そうだ。悩み事なら、響子先生のとこに行ってみれば?」

「……どういう意味だ?」

「さぁ、どういう意味だろうね?」

 

 彼女は不敵に笑い、走り去っていった。

 

「なんで夢乃に聞いたんだ?」

 

 彼女がいなくなったことを確認して、Aiがデュエルディスクから顔を出した。

 

「あいつがジャックナイフだとしても、素直に教えてくれるわけないだろ?」

「分かっている。揺さぶりをかけてみただけだ。それに、あいつは他のハノイのメンバーに対して、仲間意識はなかったしな」

 

 以前のジャックナイフの発言から、ハノイの騎士に対しても恨みを持っていたことは分かる。なら、嫌がらせのために樹の居場所を何らかの手段で伝える可能性もあったための行動だったが、そううまくはいかない。

 

「だが、響子先生か……」

「そういえば、ハノイの塔事件の時も、保健室のPCを踏み台にしてログインしたんだったな」

「行ってみるか」

 

 遊作が保健室を訪れると、ちょうど尊が響子の診察を受けていた。

 

「ああ遊作」

「どうしたんだ?」

 

 すると、尊は自分の足首を指さす。

 そこには包帯がまかれており、よく見ると少し膨らんでいて腫れているように見える。

 

「六限目、体育の授業で捻っちゃって」

「大したことないわ。今日一日安静にしていれば大丈夫よ」

 

 響子先生はメモを取り、尊は立ち上がる。

 

「それで、藤木くんはどうしたの?」

「先生に聞きたいことがあって」

 

 尊も気になったのか、椅子を遊作に譲りつつも、一緒に話を聞くことにした。

 

「先生は、聖辺樹って人物を知っていますか?」

「!!」

 

 その名前を口にした途端、響子は目を見開いた。

 

「知っているんですね」

「……えぇ、よく知っているわ」

 

 すると、響子はパソコンを操作して、ある画像を画面に映した。

 それは数十人の子供達と、数人の大人達が映っており、その中には今より少し若い響子先生の姿もあった。

 

「これは……」

「私が昔務めていた孤児院の写真よ。ほら、ここ」

 

 響子は子供達の中の一人を指さす。

 

「樹だ!」

 

 見知った顔を見て、尊と遊作は反応を示す。

 

「樹くんとはその時に知り合ったのよ。あなた達は……」

「俺達は樹と昔同じ孤児院にいたんです」

「そうだったの」

「今、樹がどこにいるのかって分かりませんか?」

 

 響子は少し考えるような顔をしてから、静かに首を振る。

 

「そうですか……」

「あの、それなら樹の行きそうな場所とか分かりませんか?」

「そうね……木」

 

 ふと零した響子の言葉に、尊は反応を示す。

 

「昔、彼がよく孤児院を抜け出して、大きな木のある廃墟に忍び込んでいたことがあって」

「それって……」

 

 遊作と尊は顔を見合わせた。

 

 ◆

 

 夕方、二人はかつて彼らが過ごした孤児院を訪れた。

 

 門の前には『立ち入り禁止』の文字がデカデカと書かれた金属の板と、トラロープで閉じられており、よじ登りでもしない限り入れそうにない。

 

「懐かしいね」

「あぁ。だが、今日の目的はここじゃない」

 

 二人は門の前を通り過ぎ、その裏手にある林までやってきた。

 

 疎らに木が並び生え、その中にあるひと際大きな木の前には、一人の男が立っていた。

 背が高く、白と黒が混じったような男性にしては長めの髪、彼らのよく知る面影のあるその姿に、尊は声をかけた。

 

「久しぶり、樹」

「……あなた達ですか」

 

 樹は彼らの気配に気づいていたのか、振り向くことなく答える。

 

「よかった。やっぱり樹だ!ダメ元で来てよかったよ」

「……全く、バイラの奴」

 

 彼のついた悪態は、二人にはよく聞き取れなかった。

 

「それで、私に何の用ですか?」

「ライトニング、光のイグニスが何か企んでるのは知ってるだろ」

 

 遊作は樹に手を伸ばす。

 

「お前の力を貸してほしい」

「はぁ……あなたはバカですか? 我々は敵ですよ」

「それでも、ライトニングをどうにかする必要があるのは同じだろう。なら、手を組む価値はある」

「あなた達の手を借りずとも、私とリボルバー様がいれば問題ありません」

 

 樹は話にならないと、首を振る。

 

「それに、私は昔からあなた達のことが嫌いだったんですよ。仲良しこよしで鬱陶しい。未だに友達面で私に接してくるなど反吐がでます」

 

 樹は彼らに背を向けて、目の前の大樹に触れる。

 

「樹、昔からその木の傍にいたよね」

「それ以上近づくな!」

 

 尊が歩み寄ろうとすると、樹は鬼の形相で彼を睨みつける。

 

「この木は、私に唯一寄り添ってくれた、特別な存在なんです」

「樹……」

 

 すると、尊はスーッと深く息を吐いた。

 

「遊作、ここは僕に任せてくれないか?」

「……分かった」

 

 遊作は一歩引いて、尊が前に出る。

 

「樹、僕とデュエルしないか?」

「デュエル? 負ければ仲間になれと?」

「そうじゃないよ」

 

 尊はデュエルディスクを構えて微笑む。

 

「ただ、少し話をしたいんだ。デュエルを通して」

「何を企んで……まあいいでしょう。その代わり、負ければあなたの持つ炎のイグニスを渡してもらいますよ」

「……不霊夢」

 

 尊が申し訳なさそうにデュエルディスクを見ると、その中にいる不霊夢が飛び出して、彼にサムズアップする。

 

「構わない。友と語らうためだ」

「ありがとう」

「それで、私が負ければあなた達に協力してあげましょうか」

「いや…‥」

 

 その提案に、尊は首を振る。

 

「僕からは条件を提示しない」

「いいんですね?」

「うん」

 

 尊は頷くと、眼鏡を外して、前髪を右手でかき上げる。

 

「それじゃあ行くぞ!」

 

「「デュエル!」」

 

ターン1 樹

 

「私は聖種の地霊(サンシード・ゲニウスロキ)を召喚」

 

 地面から緑の杯のようなものが出て、そこから細いオレンジの花びらと黒い種が生えてきた。

 

「現れろ、私達の未来(みち)を照らす未来回路!」

 

 樹の足元にアローヘッドが現れ、そこへゲニウスロキが沈んでいく。

 

「リンク召喚!リンク1、聖天樹の幼精(サンアバロン・ドリュアス)!」

 

 アローヘッドに植えられた種は芽吹き、巨大な樹へと成長する。

 幹が不自然に膨らみ、そこに顔のようなものが描かれた巨大な木の精霊がアローヘッドから生えてきた。

 

「ゲニウスロキを素材としたことで、デッキから聖蔓の播種(サンヴァイン・ソウイング)を手札に加え、発動。デッキからサンシードモンスター1体を特殊召喚する。いでよ、聖種の天双芽(サンシード・ツイン)!」

 

 地面から二本の蔓が伸び、それが螺旋に絡まると、その中にピンクと青の双子の妖精が生まれた。

 

「その後、私は1000のダメージを受ける。ツインの効果で、墓地からゲニウスロキを特殊召喚。そしてダメージを受けたことで、ドリュアスの効果発動!エクストラデッキから、聖蔓の番騎士(サンヴァイン・ハーキュリー)を特殊召喚!」

 

 ドリュアスの枝になった種が膨らみ、巨大化した種が自重で落ちる。

 すると、種が割れて、中から木の鎧をまとった重騎士が姿を現した。

 

聖蔓の番騎士(サンヴァイン・ハーキュリー)

リンク・効果モンスター

地属性/植物族/攻 1000/LINK 1

【リンクマーカー:右】

植物族通常モンスター1体

(1)自分フィールドの「サンアバロン」リンクモンスターが効果でフィールドから離れた場合に発動する。このカードを破壊する。

(2)このカードの特殊召喚に成功した場合、自分フィールドの「サンアバロン」リンクモンスター1体を対象として発動できる。このカードの攻撃力を、対象のモンスターのリンクマーカーの数×500アップする。その後、このカードの攻撃力以下の相手フィールドのモンスター1体を選んで墓地に送る。

(3)自分フィールドの「サンアバロン」リンクモンスターが、戦闘・相手の効果でフィールドを離れる場合、かわりにフィールド・墓地のこのカードを除外できる。

 

「効果でドリュアスのリンクマーカーの数×500、ハーキュリーの攻撃力をアップする。続けて現れろ、私達の未来(みち)を照らす未来回路!」

 

 ドリュアスの下にアローヘッドが現れ、そこへゲニウスロキとツインが吸い込まれて、ドリュアスの養分となる。

 

「リンク召喚!リンク3、聖天樹の大精霊(サンアバロン・ドリュアノーム)!」

 

 ドリュアスは成長し、その根元が割れて中から女性の上半身が出現した。

 

「私はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン2 尊

 

「俺のターン!俺は手札のJジャガーを墓地へ送り、転生炎獣(サラマングレイト)ミーアを特殊召喚!現れろ、未来を変えるサーキット!」

 

 ミーアが炎となって、アローヘッドに飛び込む。

 

「リンク召喚!リンク1、転生炎獣(サラマングレイト)ベイルリンクス!」

 

 アローヘッドからヤマネコ型のモンスターが一回転しながら降りてきた。

 

「効果でデッキからサンクチュアリを手札に。そして墓地のJジャガーの効果発動!ミーアをデッキに戻し、ベイルリンクスのリンク先に特殊召喚!さらにフォクシーを通常召喚!」

 

 尊のフィールドに三体のモンスターが並ぶ。

 

「フィールド魔法、転生炎獣の聖域(サラマングレイト・サンクチュアリ)を発動し、ヒートライオをリンク召喚!そのまま転生!」

 

 アローヘッドから炎が噴き出し、うねり、螺旋を描く。

 

「転生リンク召喚!炎の平原を駆け抜ける百獣の王!転生炎獣(サラマングレイト)ヒートライオ!」

 

 炎のタテガミを持つオレンジの電脳の獅子が姿を現した。

 

「俺は装備魔法、転生炎獣の烈爪(サラマングレイト・クロー)をヒートライオに装備!」

 

 ヒートライオの右腕の爪が伸び、炎に包まれる。

 

「これでヒートライオは戦闘、効果で破壊されず、貫通効果を得る!そして、転生リンク召喚したモンスターに装備されているなら、そのリンクマーカーの数だけモンスターに攻撃できる!」

「それで、どうする気ですか? あなたもドリュアノームの効果を知らないわけではないでしょう?」

 

 ドリュアノームにはダメージを受ける毎に回復し、エクストラデッキから配下のサンヴァインを呼び出す能力がある。

 ドリュアノームがいる限り、どれだけ攻撃してもダメージが入ることはない。

 

「どうするもなにも、俺はこのままバトルする。行け!ヒートライオ!ハーキュリーを攻撃!」

 

 ヒートライオの爪が、ハーキュリーの木の鎧を切り裂き、燃やし尽くす。

 

「ダメージを受けたことで、私はドリュアノームの効果発動!エクストラデッキから聖蔓の癒し手(サンヴァイン・ヒーラー)を特殊召喚!」

 

 ドリュアノームの枝から実が落ちて、新たなサンヴァインが生み出される。

 

「効果で私のライフを回復」

 

 樹:LP4000→4900

 

「二回目!ヒートライオで、ヒーラーを攻撃!」

 

 ヒーラーが破壊されるが、またしてもそのダメージは回復され、ドリュアノームの養分となって新たなサンヴァインが生まれる。

 

「出でよ、聖蔓の守護者(サンヴァイン・ガードナー)!」

 

 大盾を構えた木の戦士が、ヒートライオの前に立ち塞がる。

 

「三度目だ!ヒートライオでガードナーを攻撃!」

 

 ヒートライオの攻撃を、盾で防ごうとするが、その燃え盛る裂爪であっさりと焼き尽くされてしまう。

 

「ダメージを回復し、エクストラデッキから聖蔓の剣士(サンヴァイン・スラッシャー)を特殊召喚!」

 

 ドリュアノームから再び実が落ちて、中から葉の剣士が生まれ落ちた。

 

「効果発動!サンアバロンのリンクマーカーの数×800ポイント、攻撃力をアップする。戦闘で破壊されたガードナーの効果で、バトルフェイズは終了させる」

「やるな。俺はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン3

 

「全く、無駄な攻撃を繰り返して、一体何がしたかったんですか?」

「言っただろ? 俺はお前と話をするためにデュエルをしてるんだ」

「拳で対話するというやつですか。いかにもあなたの考えそうなことです。本当に、そういうところが嫌いでしたよ」

 

 樹は手を払い、呆れたように首を振る。

 

「その性格、啓にも鬱陶しがられてましたね。こっちが断っているのに無理やり誘ってきて。まあ最も、勝手に仲間意識を持ってからんできた啓のことも、私は嫌いでしたが」

「……なんだ。やっぱり」

 

 すると、その言葉に何故か尊は笑う。

 

「ちゃんと覚えてるんだな。あの頃のこと」

「……覚えてるからなんだと言うんですか?」

「いや、ちゃんとみんなと過ごした時間を忘れてないんだって、それが分かったのがちょっと嬉しくてな」

 

 その態度に、樹は苛立ちを覚え、歯ぎしりを立てる。

 

「デュエルを続けましょう。私は手札1枚を捨てて、永続魔法、聖蔓の社(サンヴァイン・シュライン)を発動。1ターンに1度、墓地のレベル4以下の植物族通常モンスター1体を特殊召喚できる。私はゲニウスロキを特殊召喚。現れろ、私達の未来(みち)を照らす未来回路!」

 

 ゲニウスロキがアローヘッドの中に沈んでいき、そこから新たな命が芽吹く。

 

「リンク召喚!リンク1、聖蔓の射手(サンヴァイン・シューター)!」

 

聖蔓の射手(サンヴァイン・シューター)

リンク・効果モンスター

地属性/植物族/攻 500/LINK1

レベル4以下の植物族モンスター1体

このカード名の(2)(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分フィールドの「サンアバロン」リンクモンスターが効果でフィールドから離れた場合に発動する。このカードを破壊する。

(2)このカードの特殊召喚に成功した場合、お互い500ダメージを受ける。

(3)自分フィールドの「サンアバロン」リンクモンスター1体を対象として発動できる。対象のモンスターのリンクマーカーの数まで、相手フィールドの魔法・罠カードを選んで破壊する。

 

「シューターの効果で、お互い500のダメージを受ける」

 

 シューターが木の弓を射り、蔓で出来た矢を空に向けて放つと、二人の元に分裂した矢が降り注ぐ。

 

 尊:LP4000→3500

 樹:LP4900→4400

 

「ダメージを受けたことで、ドリュアノームの効果発動!受けたダメージの数値分、ライフを回復!」

 

 樹:LP4400→4900

 

「そしてエクストラデッキから聖蔓の癒し手(サンヴァイン・ヒーラー)を特殊召喚!効果でライフを回復!」

 

 ヒーラーがその両腕から蔓を伸ばして、樹の体に巻き付ける。

 ヒーラーからエネルギーが送られて、彼のライフが回復した。

 

 樹:LP4900→5800

 

「シューターの効果発動!サンアバロンのリンクマーカーの数だけ、相手の魔法・罠カードを破壊する!」

 

 シューターが弓を弾き絞ると、ドリュアノームから蔓が伸びる。

シューターの手元で蔓は織られ、矢へと変化した。

 

「穿て!その装備魔法と、サンクチュアリを破壊!」

 

 矢が放たれると、上空で二つに分裂し、尊の魔法カード2枚を撃ち抜いた。

 

「くっ……」

「さあ終わらせてあげましょう!再び現れろ、私たちの未来(みち)を照らす未来回路!召喚条件はリンクモンスター2体以上!私は聖蔓の癒し手(サンヴァイン・ヒーラー)とリンク3の聖天樹の大精霊(サンアバロン・ドリュアノーム)をリンクマーカーにセット!」

 

 シューターが、ドリュアノームの根元に現れたアローヘッドに吸い込まれ、その養分となる。

 

「リンク4のサンアバロンか!?」

「命、その終わりを迎える時、花は芽吹き、最後の輝きを散らす。リンク召喚!」

 

 葉が枯れていき、かわりに満開の桜の花が枝を埋め尽くす。

 

「我が母なる聖天樹!聖天樹の大母神(サンアバロン・ドリュアトランティエ)!」

 

 闇夜の空に枝を伸ばし、花びらを空に散らす巨大な木が彼のフィールドに降臨した。

 

「これが、お前のエースモンスターか」

「エースモンスターなど、そんなものではない。このカードこそ、私の母、あの木の分身とも呼べるモンスターです」

「あの木が、母親?」

「えぇ。私は幼い頃、あの木の傍に捨てられました」

 

 樹が捨て子だったという話は、彼らも以前から聞いていた。

 ハノイの塔の時も、美海に対してこう言っていた。

 

 自分を必要としてくれる人はいなかったと。

 

「必ず迎えに来る。だからここで待っていろ。愚かにも私は、その言葉を信じて、何日も待ち続けました。あの身勝手な、私を生んだあの女のことを」

「樹……」

「鴻上先生に見つけられる日まで、あの木が雨風や動物から私を守ってくれていました。今でも鮮明に覚えていますよ」

「それで…‥母親」

「孤児院であなた達と出会ってからも、私の居場所はそこになかった。きっとあなた達は、両親から愛情を注がれて育てられたのでしょうね。だからこそ、寄り添い合って生きることができた。ですが私は────」

「そうやって、いつまで言い訳を続けるつもりだ?」

「なに?」

 

 尊の言葉に、樹の表情が歪む。

 

「誰もお前を拒んでなんかいなかった。そうやって壁を作っていたのは、繋がりを拒否したのはお前自身だ!」

「だからそういう暑苦しいところが嫌いだと言っているんですよ!私はドリュアトランティエの効果発動!デッキから聖天樹の開花(サンアバロン・ブルーミング)を手札に加える。そしてセットされた罠カード、聖蔓の収穫(サンヴァイン・ハーベスト)を発動!」

 

聖蔓の収穫(サンヴァイン・ハーベスト)

通常罠

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分の墓地・除外されている植物族リンクモンスター3体までを対象として発動できる。そのカードを持ち主のEXデッキに戻す。その後、戻した枚数以下のリンクマーカーを持つ「サンヴァイン」リンクモンスター1体を、EXデッキから自分の「サンアバロン」リンクモンスターのリンク先に特殊召喚し、自分は1000のダメージを受ける。

(2)このカードが墓地に存在し、自分の「サンヴァイン」リンクモンスターが効果でフィールドを離れた場合に発動できる。このカードは通常モンスター(植物族・地・星1・攻/守 0)となり、モンスターゾーンに特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたこのカードは、フィールドを離れた場合に除外される。

 

「墓地の植物族リンクモンスター3体をエクストラデッキに戻し、その戻した枚数以下のリンクマーカーを持つサンヴァイン1体を特殊召喚する!聖蔓の癒し手(サンヴァイン・ヒーラー)を特殊召喚!その後、1000のダメージを受けるが、ヒーラーの効果でライフを回復」

 

 樹:LP5800→4800→6000

 

「三度現れろ、私達の未来(みち)を照らす未来回路!召喚条件はカード名の異なるサンヴァインリンクモンスター2体!私はシューターとヒーラーをリンクマーカーにセット!」

 

アローヘッドから蔓が二本伸び、それらが絡み合って一本の太い蔓へと変わる。

 

「リンク召喚!リンク2、聖蔓の暴戦器(サンヴァイン・バイオロード)!」

 

 蔓は粘土のように形を変え、無数の植物でできた戦車に男性の上半身がついたような兵器へと変貌した。

 

聖蔓の暴戦器(サンヴァイン・バイオロード)

リンク・効果モンスター

地属性/植物族/攻 1500/LINK 2

カード名の異なる「サンヴァイン」リンクモンスター2体

このカードはリンク召喚でしか特殊召喚できない。

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分の「サンアバロン」リンクモンスターが効果でフィールドを離れた場合に発動する。このカードを破壊する。その後、墓地からリンク1の「サンヴァイン」リンクモンスター1体をEXデッキに戻し、そのモンスターの同名カードをEXデッキから特殊召喚する。

(2)相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。自分は1000のダメージを受け、その対象のモンスターを破壊する。

(3)1ターンに1度、自分が戦闘・効果でダメージを受けた場合に発動できる。ターン終了時まで、このカードの攻撃力は受けたダメージの数値分アップする。

 

「バイオロードの効果発動!ヒートライオを破壊!」

 

 バイオロードの腕から伸びた蔓が巻き付き、ライフルへと変化し、ヒートライオへと小銃を合わせる。

 

「墓地のベイルリンクスを除外して、ヒートライオを破壊から守る!」

 

 地面から飛び出したベイルリンクスが盾となり、発射された弾丸を防いだ。

 

「その後、私は1000のダメージを受ける。ダメージを受けたことで、バイオロードの攻撃力をターン終了時までその数値分アップする」

 

 樹:LP6000→5000

 バイオロード:攻撃力1500→2500

 

「バトル!私はスラッシャーで、ヒートライオを攻撃!」

 

 スラッシャーの剣を振り上げ、ヒートライオに切りかかる。

 

「俺は罠カード!サイバネット・エマージェンスを発動!」

 

サイバネット・エマージェンス

通常罠

(1)自分のサイバース族モンスター1体を対象として発動できる(ダメージステップでも発動可能)。そのモンスターはこのターン、1ターンに1度だけ戦闘で破壊されず、その戦闘によって発生する戦闘ダメージはお互いが受け、半分になる。その後、受けたダメージの数値分、戦闘を行った相手モンスターの攻撃力をダウンさせ、デッキからその数値以下の攻撃力または守備力を持つサイバース族モンスター1体を手札に加える。

 

「ヒートライオはこのターン、1度だけ戦闘で破壊されない!そしてそのダメージは半分となり、互いに受ける!」

 

 スラッシャーの剣は障壁により防がれ、その障壁の両面からビームが放たれ、尊と樹に襲い掛かる。

 

尊:LP3500→3150

 樹:LP5000→4550

 

「そして、ダメージの数値分、スラッシャーの攻撃力をダウンさせ、デッキからその数値以下の攻撃力か守備力を持つ、サイバース族モンスター1体を手札に加える。俺は攻撃力0の転生炎獣(サラマングレイト)モルを手札に加える」

「ならば、バイオロード!今度こそヒートライオを破壊しろ!」

 

 バイオロードが再び腕をライフルに変形させ、弾丸が今度こそヒートライオを貫いた。

 

 尊:LP3150→2950

 

「私はカードを2枚伏せてターンエンド」

 

ターン4

 

「俺は永続魔法、転生炎獣の意志(サラマングレイト・ハート)を発動。1ターンに1度、手札か墓地からサラマングレイト1体を特殊召喚できる。甦れ、ヒートライオ」

 

 尊のフィールドに魔法陣が出現し、その中からヒートライオが再び姿を現す。

 

「俺はさらに転生炎獣(サラマングレイト)モルを通常召喚。そのままリンク召喚!転生炎獣(サラマングレイト)ベイルリンクス!効果でデッキからサンクチュアリを手札に!」

 

 再び手に入れたフィールド魔法を発動し、転生リンク召喚の準備が整う。

 

「現れろ、未来を変えるサーキット!俺はベイルリンクスと、リンク3のヒートライオをリンクマーカーにセット!リンク召喚!出でよ、転生炎獣(サラマングレイト)パイロ・フェニックス!」

 

 アローヘッドから炎の翼を広げ、不死鳥の意匠をまとう魔神が飛び出した。

 

「そして、サンクチュアリの効果!1ターンに1度、同名モンスター1体のみを素材としてサラマングレイトをリンク召喚できる!」

 

 パイロ・フェニックスが上空に現れたアローヘッドに飛び込む。

 

「逆巻く炎よ、浄化の力でパイロ・フェニックスに真なる力を呼び覚ませ!転生リンク召喚!生まれ変われ、転生炎獣(サラマングレイト)パイロ・フェニックス!」

 

 その翼の炎は蒼く染まり、燃え滾る業火を樹のフィールドに向けて放つ。

 

「転生リンク召喚時の効果で、相手フィールドのカードを全て破壊する!」

「私は永続罠、聖天樹の開花(サンアバロン・ブルーミング)を発動!この発動時の処理で、自分フィールドにリンク4以上の植物族リンクモンスターが存在する時、相手フィールドの全ての表側表示モンスターの効果は無効化される!」

 

 だが、空より放たれた炎は、灰となって空中で消える。

 その火が樹のモンスターを焼くことはなかった。

 

「さあ、切り札を防がれて、もう手はありませんか?」

「いや、まだ終わりじゃない!俺は魔法カード、フュージョン・オブ・ファイアを発動!」

「融合魔法ですか……」

「このカードは自分及び相手フィールドのモンスターを素材として、融合召喚できる!俺はパイロ・フェニックスと、バイオロードを融合!」

 

 パイロ・フェニックスの発した炎の渦に飲み込まれ、バイオロードとパイロ・フェニックスは一つとなる。

 

「一つの狂おしき魂のもと集え、凶悪なる獣たちの武器を集めし魔獣よ!紫炎の渦より顕現せよ!融合召喚!」

 

 炎の色はその温度を上げ、蒼、そして紫へと変化し、中から一体の魔獣が飛び出した。

 

「レベル8、転生炎獣(サラマングレイト)ヴァイオレットキマイラ!」

 

 それは両足を刃物、腕と翼にも武器を融合させ、さながら全身凶器とも呼べる炎の魔獣だった。

 

「ヴァイオレットキマイラは、融合素材としたモンスターの元々の攻撃力の合計の半分だけ、攻撃力がアップする!」

 

 ヴァイオレットキマイラ:攻撃力2800→4950

 

「なるほど、確かにすさまじい攻撃力ですが、一歩足りませんねぇ。私のドリュアトランティエは攻撃対象にならず、そして効果で破壊されない。そして、私の永続罠、聖天樹の開花(サンアバロン・ブルーミング)には、植物族リンクモンスターが戦闘を行う時、そのリンク先のモンスターの攻撃力の合計分だけ、攻撃力をアップさせる効果がある。次のターンで、あなたは終わりなんですよ」

 

 スラッシャーの攻撃力はサイバネット・エマージェンスで下がったとはいえ、まだ2750ある。

 ヴァイオレットキマイラでスラッシャーを攻撃しても、樹のライフは残る。

 そして、彼がモンスターを大量に並べれば、その攻撃力は全てドリュアトランティエに上乗せされ、尊のライフを削り切る。

 

「無意味な勝負を挑んだことを後悔して─────」

「無意味なんかじゃねぇよ」

 

 またしても、尊は樹の言葉を遮って言い放つ。

 

「お前とこうやって話せたことは、俺にとって、いや俺達にとって無駄なんかじゃない」

「まだそんな戯言を……」

「戯言かどうかは、この攻撃を受けてから判断しろ!バトルだ!俺はヴァイオレットキマイラで、スラッシャーを攻撃!」

 

 ヴァイオレットキマイラが咆哮し、その右腕の刃を向ける。

 

「迎え撃て!スラッシャー!」

 

 スラッシャーも背中の鞘から剣を抜いて応戦する。

 二つの刃がぶつかり合い、激しく火花を散らす。

 

「ヴァイオレットキマイラの効果」

「!!」

「元々の攻撃力と異なる攻撃力のモンスターとバトルする時、自身の攻撃力を2倍にする!」

 

 ヴァイオレットキマイラの翼の炎が蒼く燃え上がり、スラッシャーを吹き飛ばす。

 

「やれ!ヴァイオレットキマイラ!」

 

 ヴァイオレットキマイラの刃へ、翼から炎が集まり、そのままスラッシャーに向けて突進する。

 

「ヴァイオレットソウル!」

 

 燃え盛る一太刀で、スラッシャーを切り裂き、樹のライフを0にした。

 

 ◆

 

 デュエルが終了すると、尊は膝をつく樹に近付いた。

 

「樹」

 

 彼は手を差し伸べるが、その手をとることはなく、代わりに質問を投げかけた。

 

「……あなたは、どうしてドリュアトランティエを融合素材にしなかったのですか?」

 

 ドリュアトランティエは破壊耐性を持っていたが、融合素材にすることはできる。そうすればサンヴァインリンクモンスターの自壊効果が発動し、樹の盤面を空にすることができた。

 

「どうしてって……なんか、樹のお母さんを倒すのは気が引けて……」

 

 その言葉に対して、樹はため息を吐いた。

 

「用は済んだのなら、私はもう行きますよ」

 

 そう言って、樹は去っていった。

 

「ごめん遊作、協力してもらうって確約は取れなかった」

「……いや、むしろ助かった。俺にはああいうやり方はできないからな」

「お前はコミュ障だからな」

「黙れ」

 

 小馬鹿にするAiに言い返して、遊作は肩を落とした。

 その時、

 

「電話?」

 

 着信音が鳴り、デュエルディスクの画面を見る。

 

「美海からだな」

 

 出てみると、ARウィンドウに彼女の顔が表示された。

 

「遊作!大変です!!」

「何かあったのか?」

「今外ですか? だったら今送ったURLの動画!」

 

 かなり焦っている様子だったため、とりあえずメッセージアプリを開いて、彼女から送られたURLをタップする。

 それは大手動画サイトのもので、チャンネルはネットニュースのものだった。

 

『速報です。ガンズレッドファクトリー社の人工衛星『GRZ』が、突如何者かに制御権を奪われました。警察は行方不明のハッカー集団、ハノイの騎士の仕業と見て調査を続けており────』

「これは……」

「確認したか?」

 

 すると、美海が映る方のウィンドウに啓の顔が割り込んだ。

 

「啓、これは一体……」

「こいつ、表向きには気象衛星とされてるけど、その実体は軍事衛生。上空から狙った場所にレーザー砲をぶっぱなすっていうロボアニメも真っ青の大量殺戮兵器だよ」

「「なっ!?」」

 

 ガンズレッドファクトリー社が軍事産業に手を出していたのは知っていたが、そんな恐ろしいものを保有していたことに、二人は動揺を隠せない。

 

「そんなものを、誰が乗っ取ったんだ……」

「あー、その話なんだけど、実はもう一個、最悪なニュースがあるんだけど、聞きたい?」

 

 二人は恐る恐る頷く。

 

「実はついさっき、LINK VRAINSのアカウント宛にDMが一斉送信されたんだ。その内容ってのがイグニスアルゴリズムで暗号化された文書で、解析してみると……」

 

 遊作のデュエルディスクにメッセージが送付される。

 

「これは……っ!!」

 

『48時間後に衛生兵器を起動し、デンシティを焦土に変える。止められるものなら止めてみろ。人類諸君』

 

「ライトニングか……」

「正解。前に遊作が見たっていうVISION(ヴィジョン) DEROID(デロイド)の空に浮かんでるオブジェの中、それが衛星の制御室だったんだ。ていうか、メッセージにイグニスアルゴリズムを使ってるあたり、完全に俺達宛だな」

「けど、何故わざわざこんなものを……」

「おそらくだが、」

 

 すると、不霊夢が話に割り込む。

 

「彼はプライドが高い。我々を倒すことで、人類に勝利した証が欲しいのだろう」

「なるほど、当たってるかもな。現にネット民の中には、一部分だけだけど、解析できたやつもいるみたいだし、暗号を解いて、ここまで辿り着いてみせろってか。まるでゲームだな」

「……みんな」

 

 遊作が決意を込めた目で全員を見る。

 

「俺達でライトニング達を止める。そして、仁も助け出すぞ」

 

 全員が頷いた。



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小話:作者の作品語り(オリキャラとオリカ編)

 こんにちは。作者の師走Fです。

 今回は小話ということで、僕が本作のオリジナルの設定だったり、オリキャラについてだったりを語っていきたいと思います。興味ない方は読み飛ばしてもらって構いません。

 

・オリキャラについて

 

 原作にはいないキャラクターを交えた物語というのが、二次創作を書く上でも読む上でも一つの楽しみですよね。

 本作は原作シナリオの再編成であり、話数もかなり多くなるのでオリキャラの扱いや原作キャラとの絡ませ方は結構慎重になりました。そうやって物語を構築する過程で、出番を取られたり、割を食ってしまった原作キャラもいます(お兄様とかGo鬼塚とかですね。好きな人はごめんなさい)。

 

・各キャラ個別

 

 湊 美海

 水のイグニスのオリジンで、本作のヒロインの一人です。原作におけるアクアのオリジン、杉咲美優から名前を拝借しました。漢字を変えたのは、属性に関するキーワードを名前のどこかに入れたかったからです。

 容姿はクール系美人。声のイメージは鬼頭明里さん。

 原作では葵ちゃんと幼馴染だったので、その設定を元に、葵ちゃんと序盤から繋がりをもたせようということで、SOLテクノロジー所属で財前家の使用人という設定にしました。

 当初はまだ遊作達と幼馴染という設定はなかったので、中盤くらいまで、SOL所属のデュエリストとして敵対させる予定で、また事件の影響で感情が死んでるみたいなキャラでした。

 今では感情が死んでるどころか、ブルーエンジェル限界オタクだったり、感情的に暴走する場面の目立つキャラになってますね。孤児院メンバーの橋繋ぎ役を担っているので、今のキャラでよかったと思っています。

 

 

 使用テーマ【原初海祈(オリジンブルー)

 水属性のサイバース・シンクロテーマ。モチーフは古代の生き物であり、メインデッキは主に古生代の海洋生物、シンクロモンスターは首長竜、そしてリンクモンスターは人魚とよく分かんないオブジェです(????)。

 実は初期設定では、このテーマはシンクロテーマどころかサイバーステーマですらなかったです(なんなら名前の読み方と水属性ってところしか原型とどめてない)。

 元は水属性の儀式テーマだったのですが、コンセプトが定まらず、一から練り直しました。

 まず重要なテーマのコンセプト、これを決めるうえで目をつけたのは、原作の未OCGテーマの『Dスケイル』です。

 かなり影の薄いテーマなので、VRAINSリアタイ勢でも覚えている方は少ないと思いますので解説しますと、このテーマはモンスターが移動する毎に何らかの効果を発揮するというもので、劇中ではビットとブートが使用していました。

 

 この移動をアドバンテージに変えるというコンセプトをブラッシュアップし、移動する毎にカウンターを貯める=移動歴を残すというイメージで、アクアのクリスタルハートのような中心となるモンスターにカウンターを貯めるデッキに決まりました。VRAINSはやたらカウンターを使うカードが多かったのも、このアイデアを思い付いた理由の一つです。

 

 メインの召喚法をシンクロ召喚にした理由は、シンプルにシンクロ使いがいなかったからです(エクシーズはゴッドバード、融合はジャックナイフ担当だったので)。

 召喚法といえば余談ですが、プレイメーカーの使用する各召喚法のモンスターの登場順が原作と逆になっていますが、これは意図したものではなくただの偶然です。その場面で有効なカードを考えた結果、なんかああなりました。

 

 風間啓/ゴッドバード

 原作では回想のシルエットのみでの出番しかなかった風のイグニスのオリジン。原作はロスト事件から完全に社会復帰したような子なので、引きこもり陰キャ童貞の風間啓くんとは多分別人です。

 声のイメージは鈴木崚汰さん

 

 初期設定では、ゴッドバードの時と同じような風貌の不良学生みたいなキャラでしたが、ギャップも意外性もなさすぎるので、真逆の性格に設定しました。美海とのカップリングもこの時にできました。ブラッドシェパードとかかわりを持たせるのは、最初からなんとなく決めていて、孤児院の設定ができた後に、彼の元に引き取られたことにしました。

 孤児院メンバーの中でも高いリンクセンスの持ち主なのは、ウィンディのオリジンってところから思い付いた設定です。原作でも彼はデートストームを操るのが一番うまいと自称していたので、そのオリジンなら才能はあるだろうということで。

 

 物語後半まで正体を隠していましたが、これは初期設定の段階から既に決めていたことで、ネットワークを舞台にするなら、一人くらい読者にも正体が分からないキャラがいた方がいいだろうってことで、それを前提に彼の背景などは考えました(まあ推測できる要素が多すぎて、多分ほとんどの方が気付いていたと思いますが)。

 

 使用デッキ【敵性機兵(エリミネーター)

 リンクモンスターを素材としてエクシーズ召喚を行うというコンセプトの妨害特化型テーマです。リンクモンスターは共通効果としてリンク素材と同じレベルかつリンクマーカーの数と同じ数のモンスターとしてX召喚の素材にできる能力を持っています。1体で2体分のエクシーズ素材とする!

 リンクモンスターでエクシーズといえば、最近OCGでもスプライトが登場し、環境を荒らしまくってますね。

 

 初期設定でも、リンクモンスターを素材にエクシーズというアイデア自体はありましたが、なんか無駄にリンクを経由するだけの地味なテーマでした。何かコンセプトになるようなものはないかと考えて、見つけたのが自分で作ったこのカード。

 

敵性機兵(エリミネーター)ジャイロード

効果モンスター

星4/風属性/サイバース族/攻 1000/守 1000

このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合、このカードを手札から特殊召喚できる。

(2)このカードが(1)の方法による特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「エリミネーター」モンスター1体を特殊召喚する。この効果発動後、ターン終了時まで自分はメインモンスターゾーンにモンスターを特殊召喚できない。

(3)相手ターン中、自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合、墓地のこのカードを除外して発動できる。デッキから「エリミーション」罠カード1枚をセットする。この効果でセットしたカードは、セットしたターンにも発動できる。

 

 本作を読んでいただいている方にはお馴染みのエリミネーターの初動札、勘のいい方は気付いたかもしれませんが、このカードの元ネタはSRベイゴマックスです。

 

 当時はまだ墓地効果はなかったのですが、調整のためにつけたこの「メインモンスターゾーンにモンスターを特殊召喚できない」という制約、これをそのままコンセプトにメインモンスターにモンスターを展開せず、一体のエクシーズモンスターをランクアップさせていくテーマにしました。

 

 エクシーズモンスターを守る手段としてカウンター罠を選んだ理由は、ウィンディの使用する【嵐闘機(ストームライダー)】とは対になるようにしたためです。あちらが魔法&罠ゾーンを縛って、相手の魔法・罠をメタるのに対して、こちらはメインモンスターゾーンを縛ってガン伏せするというわけです。

 

 また師匠であるブラッドシェパードとは、先行妨害特化テーマと後攻ワンキル特化テーマと対になっています。

 多分、OCG目線だとニターン目以降に手札のカードが腐りまくるのであんまり強くないけど、作劇的には妨害を安定して構えられるので負けさせるのに苦労します。

 

 八神零那/ナイト

 SOLテクノロジーのチェス駒三人衆の一人。厳密にはオリキャラではありませんが、原作で容姿も性別も性格も判明してないところに設定を足したのでこの項で語らせてもらいます。

 ほわほわした喋り方で天然っぽい印象を与えますが、デュエルでは遊作の取る手を見抜いて対策を立てるなど、なかなかのデュエルスフィンクスデュエルスタクティクスの持ち主です。

 

 初期設定ではSOLテクノロジーと直接対決するようなエピソードを描く予定でしたが、話の構成上それは断念。ビショップだけ出して他は出さない方向で物語を作っていましたが、21話でビショップの秘書の描写を書いた時に、脳内のイメージが可愛かったので、その次の22話でイベント司会として登場させて名前をつけ、もういっそのことチェス駒の正体にしてしまえってことで、彼女をナイトに任命しました。僕はざっくりとしたプロットは作ってから書き始めるので本作もそうしていたのですが、彼女の存在は本当に急遽ねじ込みました(そのせいでルークも出さなきゃいけなくなってしまいましたが)。

 

 使用デッキ【征令(セントラルオーダー)(戦士族軸)】 

 異なる三つの種族を内包する闇属性統一テーマ。

 彼女の他にもIGS-0シリーズのAIが使用しているテーマです。

 命名ルールはビジネス関係の用語で、彼女のエースモンスターであるホワイトナイトは、敵対買収に対して、友好的に買収・合併を行う企業を差す証券用語から取っています。

 そして戦士族はフィールドのモンスター、魔法使い族はデッキのカード、サイキック族は手札のカードを墓地に送ることで効果を発揮するという特徴を持っています。これは戦士族なら社員(モンスター)を使い潰す、魔法使い族なら資本(デッキ)を使うといったイメージで作っています。

 実は構想段階ではペンデュラムテーマにする案もあったのですが、筆者の頭では劣化クリフォートにしかならなかったので断念しました。

 

・オリカ

 遊戯王に限らず、カードゲームを題材とした二次創作を書くならオリカは外せませんよね。

 本作にも数多くのオリカが登場しますが、正直なところ筆者は、OCGについてはエンジョイ勢であり、うまい調整ができてるかはあんまり自信はないです。特に召喚条件や効果の発動条件の重いカードは効果を盛りがちで、デュエル構成の段階で強すぎて後悔するなんてことも結構あります。

 敵性機兵(エリミネーター)やアニマイールなどはOCG目線だと多分大して強くない(強すぎるとかだったらごめんなさい)のに、アニメ環境だと強すぎて困ってます。前者は安定して最低2~3妨害を構えられる点、後者は融合素材&装備吸収という対象とらない破壊以外の除去をほぼ毎ターン撃てる点で、デュエル構成を悩ませています。

 

 そんな中、筆者が自画自賛したいオリカがこちら

 

サイバネット・ドロー

通常魔法

自分フィールドにリンク3以上の「コード・トーカー」モンスターが存在する場合、このカードの発動と効果は無効化されない。

(1)自分のフィールド・墓地・除外されているサイバース族リンクモンスターのリンクマーカーの合計が8以上の場合、自分のメインフェイズ1開始時に発動できる。自分はデッキから2枚ドローする。この効果発動後ターン終了時まで、自分はデッキからカードを手札に加えられない。

 

 初登場は第8話、ゴッドバード戦でプレイメーカーが使用したカードです。

 この回は僕がシューティングコード・トーカーの効果を盛大に勘違いしており、それをコメントで指摘されて慌てて書き直した結果、手札の枚数が足りず、その結果生まれたのがこのドロー魔法です。取って付けたように効果外テキストに無効化耐性がついているのはこのためですね。

 僕は基本的にその状況でしか使えないピンポイントなカードは出さない主義なので、このドロー魔法もどうにか汎用的でかつぶっ壊れじゃない効果にできないだろうかと考え、とりあえず1ターン目には絶対に達成できない発動条件と、ペンデュラム・ホルトと同じタイプの制約で縛り、さらにサイバースデッキでしか使えないように汎用性を落とすことで、強欲な壺と同じ効果を与えました。

 このカードに、プレイメーカーはわりと何度もピンチを救われてるので、結果的には作ってよかったなって思ってます(効果ミスを指摘してくださった方には感謝です)。

 

・終わり

 ここまでお付き合いいただきありがとうございました。ただの作者の自語りですが、好評だったら次もやるかもしれません。

 ジャックナイフと切花ちゃんについては、本編で未判明な部分もありますので、また次の機会にでも語りたいと思います。(この子達に関しては語れるのは完結してからになるでしょうが)

 多分、明日か明後日には最新話を更新できますので、本編もよろしくお願いいたします。

 



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第38話:Countdown to destruction

 ライトニングからの宣戦布告が行われる数時間前、一足先に異変に気付いていたSOLテクノロジーの幹部三人はクイーンの呼び出しで社長室に集まっていた。

 

「軍事衛星の乗っ取りか。大胆なことをしてくれたな」

「ライトニングが、VISION DEROIDの情報を欲していたのはこれが狙いだったんですね……」

「感心してないで、すぐにどうにかなさい!」

 

 クイーンは机をバンッと叩き、ヒステリックに命令する。

 

「げ、現在、部隊を編成しておりまして……」

「新型AIは!? あれを出せばいいでしょう!!」

「タイプγは動作が不安定な状態にあります。今、実戦に投入するのは─────」

「非常時よ!つべこべ言わずにさっさと出しなさい!」

 

 クイーンの無茶な命令に、普段は堂々としている八神はどうすればいいか迷っていた。その時、急に周囲の景色が切り替わる。

 

「これは!?」

 

 空間が白と黒のパネルに置き換わり、無限に続くチェス盤のような空間に変貌する。

 

「我々のAR空間……」

「一体誰が……」

 

 すると、そこに四体の小さな影が現れた。

 

 ライトニング、アース、ウィンディの三人のイグニスだ。

 

「い、イグニス……」

「ごきげんよう。SOLテクノロジーの諸君」

 

 ライトニングがしたり顔で、クイーン達を見下したように見る。

 

「直接攻めてきたということですか?」

「まさか。この後、迎え撃つ敵のために、君達に手駒になってもらうだけだ。アース」

「了解した」

「はいよ」

 

 ライトニングの指示に従い、アースとウィンディが前に出る。

 すると、彼らの元にそれぞれ白いパーツで構成された等身大の人形が現れ、アースとウィンディはその肩に乗る。

 

「ビショップ様、ここは私が」

「クイーン、私が出ます」

 

 八神が、ナイトとしてデュエルディスクを構えて前に出る。

 同時にルークもデュエルディスクを構えて、ウィンディの前に立つ

 

「まずはあなたが相手か」

「えぇ。よろしくお願いしますね。アースさん」

 

 敵に対して丁寧に挨拶するが、この時ばっかりは彼女の笑顔も引きつっていた。

 

「「「「デュエル!」」」」

 

 ◆

 

 ナイトとアースのデュエル。

 

 先攻を取ったナイトのフィールドには、征令王(セントラルオーダーロード)グッドウィール、征令従騎(セントラルオーダーセクレタリー)ホワイトナイト、そしてカウンターの5つ置かれた征令の執務室(セントラルオーダー・ジェイル)

 

征令の執務室(セントラルオーダー・ジェイル)の効果で、私のモンスターの攻撃力は1000アップしています」

 

征令王の執務室(セントラルオーダー・ジェイル)

永続魔法

(1)自分のモンスターがリリースされる毎に、リリースされたモンスター1体に付き、このカードにオーバータイムカウンターを1つ置く。

(2)自分の「セントラルオーダー」モンスターの攻撃力は、このカードのオーバータイムカウンターの数×200アップする。

(3)自分の「セントラルオーダー」カードが相手の効果でフィールドを離れる場合、代わりにこのカードのオーバータイムカウンター2つを取り除くことができる。

 

「私はカードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

ターン2 アース

 

「私は手札のGゴーレム・ロックハンマーの効果発動!手札のサイバース族モンスター、Gゴーレム・ペブルドッグを墓地へ送り、このカードのレベルを2つ下げる。そして墓地に送られたペブルドッグの効果で、デッキからGゴーレムカード1枚を手札に加える。レベル4となったロックハンマーを通常召喚」

 

 尖った額を持つ岩の巨人が出現した。

 

「ロックハンマーの効果発動!このカードをリリースし、Gゴーレムトークン3体を特殊召喚!」

 

 ロックハンマーの体が砕け散り、円柱形の石の破片が三つ、フィールドに残された。

 

「現れろ、大地に轟くサーキット!」

 

 アースが手を掲げると、それに連動して人形も腕を空へと伸ばす。

 地面が割れ、地表に現れたアローヘッドにGゴーレムトークンが飲み込まれる。

 

「リンク召喚!リンク3、Gゴーレム・インヴァリッド・ドルメン!」

 

 現れたのは、岩によって構成された二つ浮遊する剛腕を従える、岩石の巨神だった。

 

「私はさらに魔法カード、重力転壊(グラビティ・プレスト)を発動!」

 

重力転壊(グラビティ・プレスト)

速攻魔法

このカードはルール上、「Gゴーレム」カードとしても扱う。

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分フィールドのリンクモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを破壊し、デッキから地属性のサイバース族モンスター1体を守備表示で特殊召喚する。この効果で特殊召喚された「Gゴーレム」モンスター以外のモンスターの効果は無効化される。

(2)このカードを墓地から除外し、自分の墓地の通常召喚可能な地属性モンスター1体を対象として発動できる。そのカードを手札に加える。この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できない。

 

「インヴァリット・ドルメンを破壊する」

 

 インヴァリット・ドルメンの体が砕けて、その破片がナイトのフィールドへ飛び散る。

 

「そしてデッキから地属性のサイバース族モンスター1体を守備表示で特殊召喚する。私はGゴーレム・ペブルドッグを特殊召喚。効果でデッキからもう1体のペブルドッグを特殊召喚!」

 

 破壊されたドルメンの中から、二体のオレンジの犬型のモンスターが出現する。

 

「現れろ、大地の轟くサーキット!」

 

 再び現れたアローヘッドの中に、二体のペブルドッグが沈んでいく。

 

「リンク召喚!Gゴーレム・クリスタルハート!」

 

 ハート型の青い水晶が、アローヘッドより浮上した。

 

「クリスタルハートの効果発動!墓地からインヴァリット・ドルメンを特殊召喚」

 

 クリスタルハートが輝くと、それに呼応して地面に光が灯り、インヴァリット・ドルメンが地より蘇った。

 

「そしてクリスタルハートにGGカウンター1つを置く。クリスタルハートの相互リンク先の地属性モンスターは、GGカウンターの数×600攻撃力がアップする」

 

 インヴァリット・ドルメン:攻撃力2800→3400

 

「インヴァリット・ドルメンの効果発動!手札1枚を捨て、デッキから1枚ドローする。さらに今捨てた墓地のGゴーレム・ストーンエッジを特殊召喚!」

 

 石の刃が三つ組み合わさったような物体が出現した。

 

Gゴーレム・ストーンエッジ

効果モンスター

星5/地属性/サイバース族/攻 1800/守 2000

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードを手札から捨てて発動できる。デッキからレベル6以上のサイバース族モンスター1体を手札に加える。このターン、この効果で手札に加えたカード及びその同名モンスターは特殊召喚できない。

(2)このカードが墓地に存在し、自分フィールドにサイバース族のリンクモンスターが存在する場合に発動できる。このカードを墓地からそのモンスターのリンク先に特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたこのカードはフィールドを離れた場合、除外される。この効果発動後、ターン終了時まで、自分はサイバース族モンスターしか特殊召喚できない。

 

「私はカードを1枚伏せて、バトルだ!インヴァリット・ドルメンでグッドウィールを攻撃!」

「え!?」

 

 グッドウィールの攻撃力は、征令の執務室(セントラルオーダー・ジェイル)の効果を合わせて4000、攻撃力3400のインヴァリット・ドルメンでは到底届かない。

 

 グッドウィールは玉座に腰かけたまま、乱暴に大剣を投げつけて、インヴァリット・ドルメンを粉砕した。

 

「インヴァリット・ドルメンの効果発動!相互リンク状態のこのカードが破壊された時、相手フィールドの表側表示のカード全ての効果を無効にする!」

 

 砕けたドルメンの破片が、ナイトのフィールドに降り注ぎ、彼女のカードに張り付く。

 

「そんな効果が……」

征令の執務室(セントラルオーダー・ジェイル)の効果が無効になったことで、あなたのモンスターの攻撃力は元に戻る」

 

 ホワイトナイト:攻撃力3400→2400

 グッドウィール:攻撃力4000→3000

 

「そして私はセットされた(トラップ)カード、零重力(ラヴ・グラビティ)を発動!」

 

零重力(ラヴ・グラビティ)

通常罠

このカードはルール上「Gゴーレム」カードとして扱い、自分フィールドに「クリスタルハート」モンスターが存在する場合、セットされたターンでも発動できる。

(1)自分の墓地のサイバース族リンクモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。この効果で自分フィールドのリンクモンスターと相互リンク状態となるようにして特殊召喚された場合、そのモンスターの攻撃力は1000アップする。

 

「私のフィールドにクリスタルハートがいることで、このカードはセットされたターンでも発動できる。墓地からインヴァリット・ドルメンを特殊召喚!」

 

 インヴァリット・ドルメンが再びクリスタルハートの真後ろに蘇る。

 

「この効果で相互リンク状態になるように特殊召喚された時、ドルメンの攻撃力は1000アップする。バトルだ!インヴァリット・ドルメンで、ホワイトナイトを攻撃!」

 

 効果が無効になったことで、ホワイトナイトの持つ攻撃力を上昇させる2種類の効果が発揮されない。

 力を失った騎士を、岩の巨人が一方的に蹂躙した。

 

 ナイト:LP4000→2000

 

「まだだ!クリスタルハートの効果により、相互リンク状態の地属性モンスター、すなわちインヴァリット・ドルメンは2回攻撃できる!グッドウィールを攻撃!」

 

 巨大な拳を飛ばし、さっきの意趣返しと言わんばかりにグッドウィールを粉砕する。

 

 ナイト:LP2000→600

 

「終わりだ!ストーンエッジでダイレクトアタック!」

 

 ストーンエッジの体が飛び、ナイトに突き刺さる。

 それはARだというのに、まるで本物のようにナイトを突き飛ばし、彼女の体は地面を転がった。

 

「ナイト!」

 

 ビショップが駆けよるが、彼女は眠ったように目を開かない。

 

「彼女の意識データは預かった」

 

 アースは右手を開き、その中に浮かぶ光の玉のようなものを彼らに見せつける。

 

「さて、あちらも大詰めのようだぞ」

 

 クイーンとビショップは、ウィンディとルークのデュエルの方へ目をやる。

 

「くっ……」

 

 ルークは歯噛みしながら、相対するウィンディのモンスターを見つめる。

 

 ウィンディのフィールドには巨大な鯨のようなモンスター、バハムートボマーが1体。

 対するルークのフィールドには四輪の戦車に上半身を接合したようなモンスター、征令従機(セントラルオーダーセクレタリー)ネゴシエーターが1体と伏せカード1枚。

 

征令従機(セントラルオーダーセクレタリー)ネゴシエーター

効果モンスター

星7/闇属性/サイキック族/攻 2200/守 2600

(1)アドバンス召喚されたこのカードがフィールドに表側表示で存在する限り、相手はこのカード以外のモンスターを攻撃・効果の対象にできない。

(2)自分の手札から「セントラルオーダー」カードが墓地へ送られる毎に、このカードの攻撃力・守備力は1000アップする。

(3)このカードが戦闘・効果で破壊される場合、かわりに自分の手札から「セントラルオーダー」カード1枚を墓地へ送ることができる。

(4)このカードが「セントラルオーダーロード」モンスターの効果で手札から墓地へ送られた場合に発動できる。このターン、自分フィールドの「セントラルオーダーロード」モンスターは相手の効果を受けない。

 

「僕はバハムートボマーの効果発動!」

 

嵐闘機艦(ストームライダーシップ)バハムートボマー

リンク・効果モンスター

風属性/サイバース族/攻 2800/LINK 3

風属性・サイバース族モンスター2体以上

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できず、発動するターン、自分は魔法・罠カードをセットできず、「ストームライダー」カード以外の魔法・罠カードを発動できない。

(1)自分の魔法&罠ゾーンにカードが存在せず、このカードがリンク召喚に成功した場合、相手フィールドのカード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊し、相手に500ダメージを与える。この効果の発動に対して、相手は魔法・罠カードを発動できない。

(2)自分の魔法&罠ゾーンにカードが存在しない場合に発動できる。相手の魔法・罠カード1枚を選んで墓地へ送り、相手に500ダメージを与える。この効果の発動に対して、相手は魔法・罠カードを発動できない。

 

「このカードがリンク召喚に成功した時、自分の魔法(マジック)(トラップ)ゾーンにカードがなければ、相手フィールドのカード1枚を破壊し、相手に500ダメージを与える!」

 

 バハムートボマーの口が開き、その中から大砲が突き出る。

 

「私はセットされた……」

「ざんねーん!バハムートボマーの効果に対して、相手は魔法(マジック)(トラップ)カードを発動できない!やれ!バハムートボマー!」

 

 バハムートボマーから放たれた高エネルギーの弾丸が、ネゴシエーターを貫き、そのままルークのライフを削り取る。

 

 ルーク:LP4000→3500

 

「さらにバハムートボマーの効果発動!自分の魔法(マジック)(トラップ)ゾーンにカードがない時、相手の魔法(マジック)(トラップ)カード1枚を破壊し、相手に500ダメージを与える。当然、この効果に対しても魔法(マジック)(トラップ)カードは発動できない!」

 

 バハムートボマーが今度は伏せカードを破壊し、さらにルークのライフを奪う。

 

 ルーク:LP3500→3000

 

「バトルだ!バハムートボマーでダイレクトアタック!」

 

 バハムートボマーがルークに対して主砲の照準を合わせる。

 

「フィールド魔法、嵐闘機流(ストームライダー・タービュランス)の効果で、僕のストームライダーの攻撃力は300アップする!これで終わりだ!」

 

 閃光と共に、ルークの体が吹き飛ばされた。

 

「意識データの回収は完了。さあ、次はそいつらもやるの?」

 

 ウィンディは残された二人を指さして、ライトニングに尋ねる。

 

「いや、デュエリストとして使えるのはさっきの二人だけだ。撤収するぞ。どうやらアクアもうまくやってくれたようだ」

「アクア……水のイグニスか。一体どういうことだ」

 

 この場にいないイグニスのことを思い出し、ビショップは問いただすが、ライトニングは答えず、彼らはAR空間から姿を消した。

 

 ◆

 

 

 そして時は戻る。

 VISION(ヴィジョン) DEROID(デロイド)にやってきた五人は、上空にある巨大なオブジェの中へ侵入した。

 

「プレイメーカー、道は覚えてるか?」

「ああ。だが……」

 

 プレイメーカーは奥へ続く道を見る。

 以前は入り口からはしばらく一本道だったが、今は道がちょうど人数ピッタリの五つに分かれている。

 

「内部のプログラムが書き換えられてるな。どうする? 分かれて進むか?」

「向こうの思惑に乗る形になりますが、時間もありませんしそれしか手はないでしょう」

 

 五人はそれぞれ別の道を選ぶ。

 

「それじゃあ、また後で」

「気をつけろよ」

 

 彼らに一度別れを告げて、プレイメーカーは通路の奥へと進む。

 静かな通路には警備AIの一体も見当たらない。

 

 やがて、円形の開けた空間に出た。

 そこに待ち受けていたのは、彼のよく知る人物だった。

 

「財前、晃……」

 

 晃は、現実世界の姿そのままのアバターで、プレイメーカーの行く手を遮るように立っていた。

 

「プレイメーカー!よくも葵をっ!」

 

 血走った目で訳の分からないことを口走る。

 

「財前が……なんのことだ?」

「惚けるな!貴様のせいで私の妹は電脳ウイルスに犯され、今も目を覚まさない!」

 

 意味が分からなかった。

 財前葵、ブルーエンジェルはついさっきまで自分達と一緒にこの建物の中に潜入した。意識を失っているはずがない。

 

「ライトニング達の作った洗脳プログラムだ。前もファウストとゲノムが操られていた」

「ウィンディがLINK VRAINSで実験してたやつか……」

 

 だとすれば、このまま説得をしても意味がないと、プレイメーカーはデュエルディスクを構える。

 

「邪魔するなら押し通る!」

 

「「デュエル!」」

 

ターン1 晃

 

「私はモンスターを裏守備表示でセット!永続魔法、ナーゲルの守護天を発動!」

 

 晃のフィールドに光が走り、地面に三角形を描く。

 

「これで私のメインモンスターゾーンのティンダングルモンスターは戦闘及びカードの効果で破壊されない。私はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン2 プレイメーカー

 

「確か、財前兄のデッキは……」

「ティンダングル・アキュート・ケルベロス、あの怖いワンちゃんを使ったコンボデッキだな」

 

 ジェルゴンヌの終焉の効果で、アキュート・ケルベロスのリンク先のモンスターを生け贄に、4500ものバーンダメージを与えて一撃で相手を倒す。

 以前、葵とのデュエルで、その光景を目の当たりにしている二人は警戒を強める。

 

「俺はリンクスレイヤーを特殊召喚!」

 

 ヤマネコを象った金の鎧を纏う戦士が、両腕の剣を振りながら現れた。

 

「自分フィールドにサイバース族モンスターが存在する時、手札からバックアップ・セクレタリーを特殊召喚!リンクスレイヤーの効果!」

 

 リンクスレイヤーの両腕の剣に光が灯る。

 

「手札を2枚まで捨てることで、捨てた枚数だけ相手の魔法・罠カードを対象にそれを破壊する!俺はナーゲルの守護天と伏せカードを破壊!」

「ならば私は永続罠!モーリーの盾を発動!」

 

モーリーの盾

永続罠

(1)1ターンに1度、自分のメインモンスターゾーンの「ティンダングル」モンスターが戦闘を行うダメージ計算時に発動できる。その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージを0にする。

(2)自分フィールドに「ティンダングル」モンスターが存在する限り、自分は効果ダメージを受けない。

(3)自分フィールドの表側表示の「ティンダングル」魔法・罠カード、または「モーリーの盾」以外の効果テキストに「ティンダングル」と記された魔法・罠カードは相手の効果で破壊されない。

 

「このカード以外の効果テキストに「ティンダングル」と記されたカードは相手の効果で破壊されない!」

「くっ……ならモーリーの盾を破壊!」

 

 モーリーの盾を破壊するが、プレイメーカーは手札コスト1枚分損をした格好だ。

 

「現れろ、未来を導くサーキット!」

 

 リンクスレイヤーとバックアップ・セクレタリーがアローヘッドに飛び込む。

 

「リンク召喚!リンク2、スプラッシュ・メイジ!」

 

 青と白のローブの魔術師が現れ、泡を象った杖をクルッと一回転させる。

 

「効果で墓地からバックアップ・セクレタリーを効果を無効にして特殊召喚!さらにレディ・デバッカーを通常召喚!」

 

 人型のてんとう虫のような格好をしたモンスターが現れ、その羽を揺らす。

 

「効果でデッキからレベル3以下のサイバース族、サイバース・マジガールを手札に加え、特殊召喚!」

 

 白を基調とした服装の、緑髪の電脳の魔術師少女が長い前髪から瞳を覗かせる。

 

サイバース・マジガール

効果モンスター

星3/光属性/サイバース族/攻 1300/守 600

このカード名の(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しか行えず、(3)の効果はデュエル中、1度しか使用できない。

(1)自分フィールドにレベル4のサイバース族モンスターが存在する場合、このカードを手札から特殊召喚できる。

(2)1ターンに1度、相手フィールドの守備表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの守備表力を半分にし、その数値分、自分フィールドに他のサイバース族モンスター1体の攻撃力をアップする。

(3)このカードがリンク素材となって墓地に送られた場合、自分の墓地のそのリンク召喚の素材とした「サイバース・ウィザード」1体を対象として発動できる。そのモンスターを攻撃表示で特殊召喚できる。

 

「現れろ、未来を導くサーキット!召喚条件は効果モンスター2体以上!俺はレディ・デバッカーと、リンク2のスプラッシュ・メイジをリンクマーカーにセット!」

 

 アローヘッドに上、右下、左下の矢印が描かれる。

 

「リンク召喚!リンク3、デコード・トーカー!」

 

 アローヘッドより、青い甲冑をまとう電脳の騎士が降臨した。

 

「さらに俺はレベル3のサイバース・マジガールと、バックアップ・セクレタリーでオーバーレイ!」

 

 二人の電脳少女が向かい合わせとなり、互いの両掌を合わせて握り、赤と青の光となって螺旋を描きながら空へ吸い込まれる。

 

「エクシーズ召喚!ランク3、コンペネント・マネージャー!」

 

 白いケープから黒い衣装に包まれた胸を覗かせ、額にゴーグルをつけた少女が現れた。

 

コンペネント・マネージャー

エクシーズ・効果モンスター

ランク3/光属性/サイバース族/攻 2100/守 1400

レベル3・サイバース族モンスター×2

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードのX召喚に成功した場合に発動できる。そのX召喚のX素材としたモンスターによって以下の効果を適用する。

●バックアップ・セクレタリー:デッキから効果テキストに「コード・トーカー」と記されたモンスター1体を手札に加える。

●サイバース・マジガール:墓地からレベル4のサイバース族モンスター1体を特殊召喚する。

(2)X素材1つを取り除いて発動できる。このターン、このカード以外の自分のサイバース族モンスター1体の攻撃力は700アップし、守備表示モンスターを攻撃した場合、その攻撃力が守備力を超えた分だけ戦闘ダメージを与える。

(3)自分のサイバース族のリンクモンスターが戦闘・効果で破壊される場合、かわりにこのカードのX素材1つを取り除くことができる。

 

「バックアップ・セクレタリーを素材とした時、デッキから効果テキストに「コード・トーカー」と記されたモンスター1体を手札に加える。さらにサイバース・マジガールを素材としたことで、墓地からレベル4のサイバース族、レディ・デバッカーを特殊召喚!」

 

 デコード・トーカーのリンク先にレディ・デバッカーが甦る。

 

「コンペネント・マネージャーの効果発動!オーバーレイユニットを1つ使うことで、このターン、俺のサイバース族モンスター1体の攻撃力を700アップし、貫通効果を与える!」

 

 コンペネント・マネージャーが本を開くと、そのページから青いエフェクトがデコード・トーカーに流れ込む。

 

「さらにデコード・トーカーの効果!リンク先のモンスターの数だけ攻撃力をアップさせる!パワーインテグレーション!」

 

 さらにリンク先の2体モンスターからエネルギーが送られ、デコード・トーカーが雄叫びを上げる。

 

「これでデコード・トーカーの攻撃力は4000になったぜ!」

「バトルだ!俺はデコード・トーカーで、セットモンスターを攻撃!」

 

 デコード・トーカーが伏せられたカードに向けて剣を振り上げると、その正体が明らかとなる。

 

「リバースモンスター!ティンダングル・サインの効果発動!」

 

 現れたのは緑の三角形のパーツで構成された、まるで折り紙細工のような二足歩行の獣だった。

 

「ティンダングル・サインがリバースした時、デッキからレベル4以下の「ティンダングル」モンスター1体を裏側守備表示で特殊召喚!私はティンダングル・コサインをセット!そしてナーゲルの守護天の効果で、戦闘破壊はされない!」

「だがダメージは受けてもらう!」

 

 デコード・トーカーが剣を振り下ろすと、放たれた衝撃波が晃を襲う。

 

 晃:LP4000→1300

 

「俺はこれでターンエンド」

 

ターン3

 

「私のターン、私はティンダングル・コサインを反転召喚!」

 

 セットモンスターがあらわになり、今度はサインとは色違いの赤いモンスターだ。

 

「効果でデッキから効果テキストに「ティンダングル」の記された魔法・罠カード1枚を手札に加える。さらに自分フィールドのモンスターがティンダングル、もしくは裏側表示モンスターのみの場合、手札からティンダングル・タンジェントを特殊召喚できる!」

 

 3体目の、色違いの青い獣が並び立つ。

 

「モンスターが3体来るか……」

 

 彼のエースモンスターの姿を思い浮かべ、プレイメーカーは気を引き締める。

 

「いくぞ。私はティンダングル・サイン、コサイン、タンジェントの3体でオーバレイ!」

「「なっ!?」」

 

 その宣言に、プレイメーカーとAiは驚愕した。

 3体のモンスターが光の線となり、螺旋状に絡まりながら空に出現したエックス字のパネルへと吸い込まれる。

 

「狂気なる猟犬達を統べる、歪んだ時空の女王!エクシーズ召喚!現れろ、ランク3!ティンダングル・ファイ・ミゼーア」

 

 空より現れたのは、人と狼を無理やり混ぜられたような歪な姿、その周囲を巡るオーバレイユニットは、彼女を囲む三角の光の頂点に固定される。

 

「エクシーズモンスターだと……」

「しかもこいつ、サイバースだぞ!」

 

ティンダングル・ファイ・ミゼーア

エクシーズ・効果モンスター

ランク3/闇属性/サイバース族/攻 3300/守 300

レベル3の「ティンダングル」モンスター×3

このカードをX召喚する場合、裏側表示の「ティンダングル」モンスターもX素材にできる。

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)相手フィールドの表側側表示のモンスター1体を対象として、このカードのX素材1つを取り除いて発動できる。このカードの攻撃力は300アップし、以下の効果のうちいずれか1つを適用する。この効果は相手のターンでも発動できる。

●対象のモンスターを裏側守備表示にする。

●対象のモンスターの効果を無効にする。

(2)相手フィールドの裏側表示のモンスターは表示形式を変更できない。

(3)相手フィールドのモンスターが裏側表示モンスターのみの場合、X素材のないこのカードは直接攻撃できる。

 

「エクシーズ素材となった3体のモンスターの効果!」

 

ティンダングル・サイン

リバース・効果モンスター

星3/闇属性/悪魔族/攻 300/守 1300

(1)このカードがリバースした場合に発動できる。デッキからレベル4以下の「ティンダングル」モンスター1体を裏側守備表示で特殊召喚する。

(2)このカードを素材としてリンク召喚、またはX召喚された「ティンダングル」モンスターは以下の効果を得る。

●このカードのX召喚は無効化されない。

●このカードは相手の効果の対象にならない。

 

ティンダングル・コサイン

リバース・効果モンスター

星3/闇属性/悪魔族/攻 300/守 1300

(1)このカードがリバースした場合に発動できる。デッキから効果テキストに「ティンダングル」と記された魔法・罠カード1枚をセットする。

(2)このカードを素材としてリンク召喚、またはX召喚された「ティンダングル」モンスターは以下の効果を得る。

●自分フィールドの「ピタゴラスの極点」または「ジェルゴンヌの終焉」は相手の効果を受けない。

●このカードは相手の効果で破壊されない。

 

ティンダングル・タンジェント

効果モンスター

星3/闇属性/悪魔族/攻 300/守 1300

(1)自分フィールドのモンスターが裏側表示のモンスターまたは「ティンダングル」モンスターのみ場合、このカードは手札から表側守備表示、または裏側守備表示で特殊召喚できる。

(2)このカードを素材としてリンク召喚、またはX召喚された「ティンダングル」モンスターは以下の効果を得る。

●このカードの効果の発動に対して、相手はカードの効果を発動できない。

●このカードが守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力が攻撃力を越えた分だけ戦闘ダメージを与える。

 

「これらを素材としたティンダングルエクシーズモンスターは効果で破壊されず、効果の対象にならず、そして効果の発動に対して相手は効果を発動できず、貫通効果を得る。さらに永続魔法、ピタゴラスの極点を発動!」

 

 晃の背後に、中心に眼が描かれた三角形の模様が浮かび上がる。

 

「ティンダングル・ファイ・ミゼーアの効果発動!」

 

 ファイ・ミゼーアを囲む三角形の光が回転し、その頂点に固定されたオーバーレイユニットが目映い光を放って消滅する。

 

「オーバーレイユニットを1つ使うことで、このカードの攻撃力を300アップ!」

 

 ティンダングル・ファイ・ミゼーア:攻撃力3300→3600

 

「そして、相手フィールドのモンスター1体の効果を無効にする!デコード・トーカーの効果を無効!これによりパワーインテグレーションが切れ、攻撃力は元に戻る」

 

 デコード・トーカー:攻撃力3300→2300

 

「オーバーレイユニットを消費したことで、ピタゴラスの極点にピタゴラスカウンターが置かれる。バトルだ!ティンダングル・ファイ・ミゼーアで、デコード・トーカーを攻撃!」

 

 ファイ・ミゼーアが手を掲げると、空から三角の輪の光が三つ降りてきて、デコード・トーカーを締め付ける。

 

「コンペネント・マネージャーの効果発動!自分のサイバース族リンクモンスターが戦闘・相手の効果で破壊される時、オーバーレイユニットを使うことで、破壊を無効にする!」

 

 コンペネント・マネージャーが本を広げると、青白い光が放たれ、デコード・トーカーを締め付ける輪が弾き飛ばされる。

 

「だがダメージは受けてもらう!ナーゲルの守護天の効果でティンダングルモンスターがバトルする時、1ターンに1度だけ、戦闘ダメージを倍にできる!」

 

 プレイメーカー:LP4000→1400

 

「私はカードを2枚を伏せてターンエンド」

 

ターン4

 

「どうする? 次あれを食らったらヤバいぞ?」

「対処するカードならある。俺のターン!現れろ、未来を導くサーキット!」

 

 プレイメーカーが手を伸ばす先に光が駆け、その先にアローヘッドが出現する。

 

「俺はレディ・デバッカーとコンペネント・マネージャー、そして手札のマイクロ・コーダーをリンクマーカーにセット!リンク召喚!トランスコード・トーカー!効果発動!」

 

 現れたトランスコード・トーカーが地面に手を伸ばし、スプラッシュ・メイジを引き上げる。

 

「さらに魔法カード、サイバネット・マイニングを発動!手札1枚を捨てて、デッキからサイバース・シンクロン手札に加え、そのまま通常召喚」

 

 白い円盤形の飛行物体が飛来する。

 

「スプラッシュ・メイジの効果発動!墓地からさっき捨てたバックアップ・セクレタリーを特殊召喚!サイバース・シンクロンの効果で、バックアップ・セクレタリーのレベルをその元々のレベル分上げる!俺はレベル6となったバックアップ・セクレタリーにレベル1のサイバース・シンクロンをチューニング!」

 

 粒子に分解された二体のモンスターが、そのレベルの数のリングへと再構成される。

 

「紫電一閃!未知なる力が飛竜乗雲となる!シンクロ召喚!」

 

 リングが1つに重なる。

 

「レベル7!サイバース・クアンタム・ドラゴン!」

 

 リングを貫くように光が駆け、その光の中から白き翼を広げる電脳の竜が降臨した。

 

「サイバース・クアンタム・ドラゴン、させるか!私はティンダングル・ファイ・ミゼーアの効果発動!オーバーレイユニットを1つ使うことで、攻撃力を300アップし、相手フィールドのモンスター1体を裏側守備表示にする!」

 

 サイバース・クアンタム・ドラゴンの姿が消滅し、裏向きのカードになる。

 

「くっ……なら俺はデコード・トーカーとスプラッシュ・メイジをリンクマーカーにセット!」

 

 アローヘッドより、竜巻が発生する。

 

「唸れ嵐!虚構に渦巻く旋風は、万物を震わす竜の雄叫びとなる!リンク召喚!現れろリンク4!ファイアウォール・ドラゴン!」

 

 風の中から翼を広げて、白い電脳の竜がトランスコード・トーカーの右横に降臨した。

 

「リンク先にモンスターが特殊召喚されたことで、墓地のシーアーカイバーを特殊召喚!ファイアウォール・ドラゴンの効果発動!」

「だが、私のティンダングル・ファイ・ミゼーアはティンダングル・サインの効果で、相手の効果の対象にならない。さらにティンダングル・コサインの効果でピタゴラスの極点は相手の効果を受けない」

「分かっている。俺が手札に戻すのは、俺の墓地にあるレイテンシ!レイテンシは効果で墓地から手札に加わった時、特殊召喚できる!現れろ、未来を導くサーキット!リンク召喚!」

 

 シーアーカイバーとレイテンシがアローヘッドに吸い込まれる。

 

「リンク2、サイバース・ウィッチ!」

 

 赤髪の電脳の魔女が現れた。

 

「リンク素材となったレイテンシの効果で1枚ドロー!そして手札からリンク・フライヤーをサイバース・ウィッチのリンク先に特殊召喚!」

 

 三角形の青い飛行物体が、サイバース・ウィッチの真後ろに飛来する。

 

「サイバース・ウィッチの効果発動!リンク先にモンスターが特殊召喚された時、墓地の魔法カード1枚を除外することで、デッキからサイバネット・リチューアルと、サイバース族儀式モンスターを手札に加える。俺は儀式魔法、サイバネット・リチューアルを発動!」

 

 裏側守備表示にされたサイバース・クアンタム・ドラゴンの下に青い魔法陣が描かれる。

 

「契約は結ばれた。未知なる竜の魂は、闇の力を操る賢者へと受け継がれる」

 

 裏向きのカードが青い炎となり、七つに分裂して魔法陣の周囲を照らす。

 

「儀式召喚!出でよレベル7!サイバース・マジシャン!」

 

 魔法陣の中から現れたのは、白と黒を基調とした衣装を纏う電脳の魔術師だ。

 

「サイバース・マジシャンがモンスターゾーンに存在する限り、俺が受ける全てのダメージは半分になる。サイバース・ウィッチの効果発動!墓地からレディ・デバッカーを特殊召喚!」

「私はセットされた速攻魔法、墓穴の指名者を発動!墓地からレディ・デバッカーを除外する!」

 

 対象のカードを失ったことで、サイバース・ウィッチの効果は不発に終わる。

 

「くっ……俺はカードを1枚を伏せて、ターンエンド」

 

ターン5

 

「守りを固めたつもりか。私はティンダングル・ファイ・ミゼーアの効果発動!オーバーレイユニットを1つ使うことで、相手モンスター1体を裏側守備表示にする!」

 

 今度はサイバース・マジシャンが裏側守備表示にされる。

 

「そしてオーバーレイユニットを消費したことで、ピタゴラスの極点にピタゴラスカウンターを置く。バトルだ!ティンダングル・ファイ・ミゼーアで、トランスコード・トーカーを攻撃!」

「俺は(トラップ)カード!スリーフェイト・バリアを発動!」

 

スリーフェイト・バリア

通常罠

(1) 以下の効果から1つを選択して発動できる。

●このターン、自分のモンスターは戦闘・効果で破壊されない。

●このターン、自分はダメージを受けない。

●このターン、自分のモンスター1体は1度だけ戦闘で破壊されず、その戦闘によって戦闘ダメージを受けるかわりに、その数値分、自分のライフを回復する。

(2)自分がダメージを受けた場合、墓地のこのカードを除外して発動できる。このターン、自分が受ける効果ダメージは0になる。

 

「このターン、トランスコード・トーカーは1度だけバトルで破壊されず、戦闘ダメージを受けるかわりに、その数値分、ライフを回復する!」

 

 トランスコード・トーカーが赤い半球形のバリアに包まれ、ファイ・ミゼーアから守られる。

 

 プレイメーカー:LP1400→LP2800

 

「いくらライフを回復しようが無駄だ!私はカードを1枚をセット。そして永続魔法!ピタゴラスの極点の効果発動!」

 

ピタゴラスの極点

永続魔法

(1)自分の「ティンダングル」Xモンスターの効果を発動するためにX素材が取り除かれた場合に発動できる。このカードにピタゴラスカウンター1つを置く(最大3つ)。

(2)自分・相手のエンドフェイズに、このカードにピタゴラスカウンターが3つ以上置かれていて、自分フィールドにX素材のない「ティンダングル」Xモンスターが存在する場合に発動できる。相手のライフを300にする。

(3)墓地のこのカードを除外して発動できる。デッキから「ピタゴラスの極点」または「ジェルゴンヌの終焉」1枚を手札に加えるか、セットする。この効果でセットされたカードはセットされたターンでも発動できる。

 

「自分のエンドフェイズに、このカードにピタゴラスカウンターが3つ以上置かれていて、オーバーレイユニットのないティンダングル エクシーズモンスターがいる時、相手のライフを300にする!」

「なっ!!」

 

 プレイメーカー:LP2800→300

 

「さあこれでターンエンドだ」

 

ターン6

 

「くっ……」

 

 プレイメーカーのフィールドには相互リンク状態のファイアウォール・ドラゴンとトランスコード・トーカー、そして裏側守備表示のサイバース・マジシャン。

 サイバース・マジシャンは、ティンダングル・ファイ・ミゼーアの効果で反転召喚できないため、事実上いないも同然。

 

 そして手札はゼロ、前のターンで墓地のリソースも使いきった。

 

「俺のターン!」

 

 引いたカードは、クロック・ワイバーン。

 

「来たぞ!俺はクロック・ワイバーンを召喚。効果発動!自身の攻撃力を半分にすることで、トークンを生成」

 

 紫の飛竜が羽を広げると、そのとなりに水晶のような物体が出現する。

 

「トランスコード・トーカーの効果発動!墓地からスプラッシュを特殊召喚!」

「私はセットされた罠カード!ティンダングル・ムーヴポイントを発動!」

 

ティンダングル・ムーヴポイント

カウンター罠

(1)相手のモンスター効果が発動した時、自分のEXモンスターゾーンの「ティンダングル」モンスター1体を対象として発動できる。その効果を無効にして破壊する。その後、対象のモンスターをメインモンスターゾーンに移動させる。この効果でリンクモンスターを破壊した時、このターン、そのリンクマーカーの数以上のリンクマーカーを持つリンクモンスターを相手は特殊召喚できない。

 

「ティンダングル・ファイ・ミゼーアをメインモンスターゾーンに移動させ、トランスコード・トーカーの効果を無効にし、破壊する!」

 

 黒い波動が放たれ、それに飲み込まれたトランスコード・トーカーが力を失い、消滅する。

 

「そしてリンク3のトランスコード・トーカーを破壊したことで、このターン、君はリンク3以上のリンクモンスターを特殊召喚できない」

「なら現れろ、未来を導くサーキット!サイバース・ウィッチとクロックトークンをリンクマーカーにセット!リンク召喚!クロック・スパルトイ!効果でデッキからサイバネット・フュージョンを手札に加え、発動!」

 

 クロック・ワイバーンを中心に光の渦が巻き起こり、ファイアウォール・ドラゴンが飲み込まれる。

 

「今、雄大なる翼の元に集いし強者達よ、新たなる伝説となれ!融合召喚!出でよレベル7!サイバース・クロック・ドラゴン!」

 

 紫の水晶に覆われた体を持つドラゴンが、クロック・スパルトイのリンク先に現れた。

 

「それで一気にライフを削るつもりか。だが私は永続罠!モーリーの盾を発動!」

「そ、それは……」

 

 既に効果を知っているAiはわなわなとする。

 

「これで1ターンに1度、私が受ける戦闘ダメージはゼロになる。さらにナーゲルの守護天の効果で、ティンダングル・ファイ・ミゼーアは戦闘で破壊されない!」

「お仕舞いだー!」

 

 Aiは絶望的な状況に狼狽える。

 

「……俺は、サイバース・クロック・ドラゴンの効果を発動する。融合召喚に成功した時、融合素材としたリンクモンスターのリンクマーカーの合計分、俺のデッキの上からカードを墓地へ送り、墓地へ送ったカード1枚に付き、攻撃力を1000ポイントアップする。融合素材となったファイアウォール・ドラゴンのリンクマーカーは4。よって4枚墓地へ」

 

 プレイメーカーはデュエルディスクのデッキに手を当て、祈るように目を閉じる。

 

「どうした? 早く効果を解決しろ」

「……っ!」

 

 プレイメーカーは意を決して、4枚のカードを墓地へ送る。

 

「……これなら、俺は墓地へ送られたグリッドスイーパーの効果発動!墓地のこのカードと自分のリンクモンスターを除外し、相手フィールドのカード1枚を破壊する!モーリーの盾を破壊!」

 

 永続罠が破壊され、晃を守る盾はなくなった。

 

「終わりだ!サイバース・クロック・ドラゴン!パルスプレッシャーッッ!」

 

 ◆

 

 デュエルが終了すると、倒れた晃が目を覚ました。

 

「こ、ここは……」

「気が付いたか」

「プレイメーカー!?」

 

 彼の顔を見て、晃は目を見開いた。

 

「どうやら正気に戻ったようだな」

「私は、君に何かしたのか?」

「デュエルをしただけだ。あんたは早くここから出ろ」

「……いや」

 

 晃は立ち上がり、アバターだというのに服を手で払って埃を落とすような動作を取る。

 

「状況は私も把握している。イグニス達の企みを阻止しなければ」

 

 責任感の強い彼のことだ。ここでなんと言っても引き下がる気はないだろう。そう考えたプレイメーカーはため息を付き、後ろの通路を指差した。

 

「……なら、この道を戻って、一番左の通路から向かえ」

「え?」

「そっちに多分、あんたを必要としてる人がいる」

「?……わ、分かった」

 

 いまいち納得していない様子だったが、晃は彼の言葉を信じて走り去っていった。



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第39話:I'm your knight

 その頃、ブルーエンジェルが進んだ道の先には、一人の女性が立っていた。

 

 スラッとした長身で、胸元の大きく開いたワインレッドのスーツを着こなし、濃い赤とオレンジが交じり合ったような色の長い髪を後ろで結んでいる。

 

「……八神さん」

「お久しぶりですね。ブルーエンジェルさん」

 

 ナイトこと八神零那は焦点の合っていない瞳でニコッと笑う。

 

「ライトニング様のために、あなたを始末させていただきます」

 

 ナイトはデュエルディスクを構える。

 

「ライトニング様って……」

「私はライトニング様の騎士(ナイト)ですから、主をお守りするのは当然ですよ?」

 

 明らかに正気を失っている。

 ブルーエンジェルは覚悟を決めてデュエルディスクを構えた。

 

「「デュエル!」」

 

ターン1 ブルーエンジェル

 

「私はトリックスター・キャンディナを召喚!」

 

 メガホンを持った黄を基調とした衣装の少女が現れる。

 

「効果でデッキからトリックスター・リリーベルを手札に加える。リリーベルはドロー以外で手札に加わった時、特殊召喚できる!輝け!勇気と決意のサーキット!」

 

 二人の少女がアローヘッドに飛び込む。

 

「リンク召喚!リンク2、トリックスター・ホーリーエンジェル!」

 

 アローヘッドから、青い衣装の女性が鞭を振り回しながら現れた。

 

「フィールド魔法、トリックスター・ライブステージを発動!」

 

 彼女の背後に巨大なハート型のドクロが現れ、その周囲にスピーカーとライトが設営される。

 

「効果で墓地からキャンディナを手札に。ライブステージのもう1つの効果で、トリックスタートークンを特殊召喚!」

 

 ステージからハート型の風船が飛んできて、ホーリーエンジェルのリンク先に着地する。

 

「ホーリーエンジェルの効果!リンク先にモンスターが特殊召喚された時、相手に200ダメージ!」

 

 ナイト:LP4000→3800

 

「輝け!勇気と決意のサーキット!召喚条件はトリックスター2体以上!」

 

 トリックスタートークンに掴まり、ホーリーエンジェルが手を振りながらアローヘッドをくぐる。

 

「勝利へのオンステージ!リンク3、トリックスターバンドVo(ヴォーカル)・ホーリーエンジェル!」

 

 青を基調としたパンクなジャケットに衣装替えして、ホーリーエンジェルがステージに降り立った。

 

トリックスターバンドVo(ヴォーカル)・ホーリーエンジェル

リンク・効果モンスター

光属性/天使族/攻 2300/LINK3

【リンクマーカー:左下/下/右下】

「トリックスター」モンスター2体以上

このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分の「トリックスター」モンスターの攻撃宣言時に発動する。相手に200ダメージを与える。

(2)フィールドのこのカードを融合モンスターの融合素材とする場合、このカードの代わりに手札の「トリックスター」カードを墓地へ送ることができる。

(3)このカードのリンク先に「トリックスターバンド」モンスターが3種類存在する場合、自分のメインフェイズ2に発動できる。もう1度バトルフェイズを行う。

 

「私は装備魔法、トリックスターバンド・マイクをホーリーエンジェルに装備!」

 

 ホーリーエンジェルの前に金と青に縁取られたスタンドマイクが現れる

 

トリックスターバンド・マイク

装備魔法

「トリックスター」リンクモンスターにのみ装備可能

(1)「トリックスターバンド・マイク」は自分フィールドに1枚しか表側表示で存在できない。

(2)自分フィールドにトークンが存在せず、装備モンスターのリンク先にEXデッキから「トリックスター」モンスターが特殊召喚された場合に発動できる。トリックスタートークン(星1・光・天使族・攻/守0)1体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたトークンはリンク素材にできない。その後、装備モンスターのリンク先のモンスターの数×200ダメージを相手に与える。

(3)装備モンスターのリンク先の「トリックスター」モンスターの攻撃力は、装備モンスターのリンク先のモンスターの数×200アップする。

 

「私は魔法カード、トリックスター・フュージョン発動!私はホーリーエンジェルと、手札のキャンディナを融合!この時、ホーリーエンジェルは自身の代わりに手札のトリックスターを墓地へ送ることができる」

 

 ステージの証明が落ち、暗闇の中に重低音が響く。

 

「聴かせてあげる。トリックスターが奏でる音楽を!トリックスターバンド・ベースメリッサ!」

 

 闇の中でスポットライトに照らされ現れたのは、ダークグリーンの髪を靡かせ、ベースをかき鳴らす少女だった。

 

トリックスターバンド・ベースメリッサ

融合・効果モンスター

星6/光属性/天使族/攻 2000/守 2000

「トリックスター」リンクモンスター+光属性モンスター

(1)このカードが「トリックスター」リンクモンスターとリンク状態の場合、その「トリックスター」リンクモンスター及びそのカードのリンク先のモンスターは相手の効果の対象にならない。

(2)自分の「トリックスター」カードの効果で相手が効果ダメージを受ける度に発動する。その数値分、自分のLPを回復する。

(3)1000LP払って発動できる。除外されている「トリックスター・フュージョン」1枚を手札に加える。

 

「トリックスターバンド・マイクの効果で、トリックスタートークンを特殊召喚。その後、装備モンスターのリンク先のモンスターの数だけ相手に200ダメージ!」

 

 ホーリーエンジェルの歌声が、大気を揺らし、ナイトのライフを奪う。

 

 ナイト:LP3800→3400

 

「ベースメリッサの効果で、ダメージの数値分、私のライフは回復する」

 

 ブルーエンジェル:LP4000→4400

 

「墓地のトリックスター・フュージョンの効果で、このカードを墓地から除外して、墓地からキャンディナを手札に。ベースメリッサの効果発動!ライフを1000支払うことで、除外されているトリックスター・フュージョンを手札に!」

「なるほど。初期盤面に戻ったということは……」

「まだまだいくわよ!私はトリックスター・フュージョンを発動!トークンとホーリーエンジェルを融合!」

 

 またしても辺りは暗くなり、軽快なリズムでパーカッションの音が鳴る。

 

「融合召喚!トリックスターバンド・ドラムリッカ!」

 

トリックスターバンド・ドラムリッカ

融合・効果モンスター

星8/光属性/天使族/攻 2500/守 2100

「トリックスター」リンクモンスター+光属性モンスター

このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが「トリックスター」リンクモンスターとリンク状態の間、相手のモンスターは召喚・特殊召喚成功時に効果を発動できない。

(2)自分の「トリックスター」カードの効果で相手がダメージを受ける度に発動する。相手モンスター全ての攻撃力・守備力はターン終了時まで、そのダメージの数値分ダウンする。

(3)このカードがフィールドに表側表示で存在する限り1度だけ、自分フィールドの「トリックスターバンド」モンスターの数まで相手フィールドのカード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。

 

「再びトリックスターバンド・マイクの効果発動!トークンを特殊召喚して、今度は600ダメージ!」

 

 ナイト:LP3400→2800

 

「さっきのコンボでトリックスター・フュージョンとコストにしたキャンディナを回収。そしてトリックスター・フュージョンを発動!」

 

三度発動する融合魔法で、ステージに主役が登場する。

 

「この音色に酔いしれなさい!融合召喚!レベル7、トリックスターバンド・ギタースイート!」

 

 逆立った水色の髪と青い衣装、そしてボディが斧のようになったギターをかき鳴らして、ギタースイートが現れた。

 

「バンドマイクの効果で相手にダメージ!ベースメリッサの効果で私はライフを回復!」

 

 ナイト:LP2800→2200

 ブルーエンジェル:LP3000→3600

 

「トリックスター・フュージョンの効果で墓地からキャンディナを回収。除外したトリックスター・フュージョンはベースメリッサの効果で1000ポイントライフを払って回収」

 

 ブルーエンジェル:LP3600→2600

 

「私はこれでターンエンド」

 

ターン2

 

「じゃあ行きますよ。私は征令アライアンスを召喚」

 

 スーツのような鎧を纏った騎士が現れた。

 

征令(セントラルオーダー)アライアンス

効果モンスター

星4/闇属性/戦士族/攻 1800/守 1000

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードの召喚に成功した場合に発動できる。自分のデッキ・墓地から「征令(セントラルオーダー)アライアンス」を可能な限り特殊召喚する。この効果を発動するターン、自分はEXデッキからモンスターを特殊召喚できない。

(2)このカードが特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「セントラルオーダーロード」モンスター1体を手札に加える。自分フィールドのモンスターが「セントラルオーダー」モンスターのみの場合、このターン、自分は通常召喚に加えて1度だけ、戦士族の「セントラルオーダーロード」モンスターをアドバンス召喚できる。

 

「その効果で、デッキか墓地から同名モンスターを特殊召喚します」

「ドラムリッカの効果で、相手のモンスターは召喚・特殊召喚成功時には効果を発動できない」

「あら残念、続けて永続魔法、征令の執務室(セントラルオーダー・ジェイル)を発動」

 

征令の執務室(セントラルオーダー・ジェイル)

永続魔法

(1)自分のモンスターがリリースされる毎に、リリースされたモンスター1体に付き、このカードにオーバータイムカウンターを置く。

(2)自分の「セントラルオーダー」モンスターの攻撃力は、このカードのオーバータイムカウンターの数×200アップする。

(3)自分の「セントラルオーダー」カードが相手の効果でフィールドを離れる場合、代わりにこのカードのオーバータイムカウンター2つを取り除くことができる。

 

「魔法カード、征令の緊急指令(セントラルオーダー・コール)を発動!」

 

征令の緊急指令(セントラルオーダー・コール)

通常魔法

(1)自分のレベル5以上の「セントラルオーダー」モンスター1体をリリースなしでアドバンス召喚扱いで召喚する。この効果で召喚されたカードの効果は無効化される。

(2)自分のレベル5以上の「セントラルオーダー」モンスターが戦闘・相手の効果で破壊される場合、かわりに墓地のこのカードを除外できる。

 

「手札からリリースなしで、アドバンス召喚!征令従騎(セントラルオーダーセクレタリー)ホワイトナイト!」

 

 ナイトの背後から、白い騎馬に乗った騎士が駆けてきた。

 

征令従騎(セントラルオーダーセクレタリー)ホワイトナイト

効果モンスター

星7/闇属性/戦士族/攻 2400/守 2400

(1)アドバンス召喚されたこのカードは、特殊召喚された相手モンスターの効果を受けない。

(2)このカードが特殊召喚されたモンスターと戦闘を行うダメージ計算時、このカードの攻撃力は、このカードの元々の攻撃力分アップする。

(3)このカードがリンクモンスターと戦闘を行うダメージ計算時、このカードの攻撃力は、そのリンクマーカーの数×1000アップする。

(4)アドバンス召喚されたこのカードが効果でフィールドから墓地へ送られた場合に発動できる。このカードを墓地から特殊召喚する。その後、デッキから「セントラルオーダー」装備魔法カード1枚を手札に加える。

 

「来たわね……けど、効果が無効になってるなら」

「ふふっ」

 

 その言葉に、ナイトは笑う。

 

「それじゃあお見せしましょう。私がお仕えするライトニング様よりいただいた力、私はホワイトナイトをリリース!」

 

 エースモンスターが地上から伸びた光の柱に飲み込まれる。

 

「アドバンス召喚されたレベル7以上のモンスター1体をリリースすることで、手札から特殊召喚!征令従騎(セントラルオーダーセクレタリー)テイクオーバー・ビット!」

 

 光は黒く染まり、中から馬を象った鎧を装着した黒鉄の騎士が現れた。

 

征令従騎(セントラルオーダーセクレタリー)テイクオーバー・ビット

特殊召喚・効果モンスター

星8/闇属性/サイバース族/攻 2800/守 1000

このカードはルール上、戦士族としても扱う。

このカードは通常召喚できず、このカードの効果でのみ手札から特殊召喚できる。

(1)自分のメインフェイズに発動できる。自分フィールドのアドバンス召喚されたレベル7以上のモンスター1体をリリースして、このカードを手札から特殊召喚する。

(2)このカードが手札から特殊召喚に成功したターンの自分のメインフェイズに場合に発動できる。自分フィールドの通常召喚可能なモンスターを任意の数だけリリースし、リリースしたモンスターの元々の攻撃力の合計の半分、このカードの攻撃力をアップする。

(3)1ターンに1度、自分フィールドのモンスターがリリースされた場合、リリースされたモンスターの数まで相手フィールドの表側表示のカードを対象として発動できる。対象のカードそれぞれに対して、以下の効果のうち、いずれか1つを適用する。

●そのカードを破壊する。

●そのカードの手札に戻す。

 

「サイバース族!?」

「さらに私は効果で墓地へ送られたホワイトナイトを特殊召喚し、デッキから装備魔法1枚を手札に!」

 

 ホワイトナイトが、テイクオーバー・ビットの隣に並び立つ。

 

「モンスターがリリースされたことで、オーバータイムカウンターを追加」

 

 オーバータイムカウンター:0→1

 

「装備魔法、征令の端末(セントラルオーダー・タブレット)を、テイクオーバー・ビットに装備」

 

征令の端末(セントラルオーダー・タブレット)

装備魔法

(1)装備モンスターの攻撃力は、自分の墓地の「セントラルオーダー」カードの数×200アップする。

(2)1ターンに1度、手札の「セントラルオーダー」モンスター1体をリリースして発動できる。自分のデッキの上から3枚を確認し、その中から1枚を手札に加え、残りをデッキに戻す。

(3)装備モンスターをアドバンス召喚のためにリリースする場合、2体分として扱える。

 

「効果で1ターンに1度、手札のセントラルオーダー1体をリリースすることで、デッキの上から3枚を見て、その中から1枚を手札に加えます。リリースされた征令アサインの効果でさらに1枚ドロー。装備モンスターは、墓地のセントラルオーダー1枚に付き、攻撃力が200アップします」

 

 テイクオーバー・ビット:攻撃力3000→3400

 

「モンスターがリリースされたことで、オーバータイムカウンターを追加。オーバータイムカウンターの数が増えたことで、私のモンスターの攻撃力はさらにアップします」

 

 オーバータイムカウンター:1→2

 テイクオーバー・ビット:攻撃力3400→3600

ホワイトナイト:攻撃力2600→2800

 

「さあバトルです!ホワイトナイトで、ホーリーエンジェルを攻撃!このカードはリンクモンスターと戦闘を行う時、そのリンクマーカーの数×1000、攻撃力をアップさせる!さらにエクストラデッキから特殊召喚されたモンスターとバトルする時、自身の元々の攻撃力分、攻撃力をアップさせる!」

 

 ホワイトナイト:攻撃力2800→7200

 

「私は墓地のトリックスターバンド・メンバーチェンジの効果発動!」

 

トリックスターバンド・メンバーチェンジ

通常罠

このカード名の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。

(1)自分の「トリックスターバンド」融合モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを破壊し、EXデッキから破壊したモンスターとカード名の異なる「トリックスターバンド」融合モンスター1体を融合召喚扱いで特殊召喚する。

(2)墓地のこのカードを除外し、自分の「トリックスター」リンクモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターをEXデッキに戻し、そのモンスターとリンクマーカーの数が同じでカード名の異なる「トリックスター」リンクモンスター1体をEXデッキから特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたモンスターは次のエンドフェイズにEXデッキに戻る。

 

「ホーリーエンジェルをエクストラデッキに戻し、同じリンク3のトリックスター1体を特殊召喚する!出てきて、トリックスター・サンシャインマリー!」

 

 暗転し、ホーリーエンジェルの代わりに現れたのは黄を基調とした衣装を纏ったアイドルだ。

 

トリックスター・サンシャインマリー

リンク・効果モンスター

光属性/天使族/攻 2100/LINK 3

【リンクマーカー:左下/下/右下】

「トリックスター」モンスター2体以上

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが特殊召喚に成功した場合に発動できる。このカードのリンク先の「トリックスター」モンスターの数×200のダメージを相手に与える。

(2)相手が効果ダメージを受けた場合に発動できる。ターン終了時まで、このカード及びこのカードのリンク先のモンスターの攻撃力はダメージの数値分アップする。

 

「サンシャインマリーが特殊召喚に成功した時、リンク先のモンスターの数×200のダメージを与える!ギタースイートの効果でダメージは倍!ベースメリッサの効果でダメージの数値分ライフを回復し、ドラムリッカの効果であなたのモンスターの攻撃力をダウンさせる!ギタースイートも自身の効果で攻撃力をアップする!」

 

 ナイト:LP2200→1000

 ブルーエンジェル:LP2600→3800

 ホワイトナイト:攻撃力7200→6000

 テイクオーバー・ビット:攻撃力3600→2400

 ギタースイート:攻撃力2200→3400

 

「ですが、それだけじゃ足りませんよ?」

「まだまだ!私はサンシャインマリーのもう1つの効果!相手が効果ダメージを受けた時、ターン終了時まで、その数値分、自身とリンク先のモンスターの攻撃力をアップさせる!」

 

 ギタースイート:攻撃力3400→4600

 ベースメリッサ:攻撃力2000→3200

 ドラムリッカ:攻撃力2500→3700

 

「お願い!ベースメリッサ!」

 

 ベースメリッサが盾となって、ホワイトナイトの攻撃を受け止める。

 

 ブルーエンジェル:LP3800→1000

 

「あら残念。ではメインフェイズ2に、テイクオーバー・ビットの効果発動!私のモンスター2体をリリース」

 

 ホワイトナイトとアライアンスが緑の0と1の羅列のエフェクトとなって、テイクオーバー・ビットの中に取り込まれる。

 

「これにより、テイクオーバー・ビットの攻撃力は、リリースしたモンスターの元々の攻撃力の合計の半分の数値だけアップします」

 

 テイクオーバー・ビット:攻撃力2400→4500

 

「モンスターがリリースされたことでオーバータイムカウンターを追加。さらに墓地のセントラルオーダーが増えたので、装備魔法の上昇値もアップ」

 

 オーバータイムカウンター:2→4

 テイクオーバー・ビット:攻撃力4500→5300

 

「攻撃力、5300……」

「それだけじゃありませんよ。テイクオーバー・ビットのさらなる効果!モンスターがリリースされた時、その数だけ、相手フィールドのカードを対象に、破壊かバウンスかを選ぶことができます」

「ベースメリッサの効果で、私のモンスターは相手の効果の対象にならない」

「ではあなたのステージを破壊します」

 

 テイクオーバー・ビットが剣を掲げると、空から光の剣が降り注ぎ、ブルーエンジェルのステージをめちゃくちゃに破壊する。

 

「私はカードを2枚伏せてターンエンド」

「ドラムリッカ、サンシャインマリーの効果は切れて、攻撃力は元に戻り、トリックスターバンド・メンバーチェンジの効果で特殊召喚されたサンシャインマリーはエクストラデッキに戻る」

 

 テイクオーバー・ビット:攻撃力5300→6500

 ギタースイート:攻撃力4600→3400

 ドラムリッカ:攻撃力3700→2500

 

ターン3

 

「私のターン」

 

 引いたカードはトリックスター・キャロベイン。トリックスターの攻撃力を上げる効果を持つが、それを使ってもテイクオーバー・ビットの攻撃力6500を越えられない。

 

(手札にあるのは、融合魔法とキャンディナ1枚。これだけあれば、残りライフ1000くらい効果ダメージで)

 

「効果ダメージによる勝利を狙っていますね?」

 

 彼女の思考を読むかのように、ナイトはセットされたカードを発動した。

 

「永続罠、ダメージ・リジェクターを発動」

 

ダメージ・リジェクター

永続罠

このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、自分は効果ダメージを受けない。

(2)1ターンに1度、自分が戦闘ダメージを受けた場合、手札・フィールドのモンスター1体をリリースして発動できる。自分はダメージの数値分、ライフを回復する。その後、自分はデッキから1枚ドローする。

(3)このカードが相手の破壊される場合、かわりに手札・フィールドのモンスター1体をリリースできる。

 

「これで私は効果ダメージを受けず、1ターンに1度、ダメージを受けた時、その数値分のライフを回復することができます」

「だったら、ドラムリッカの効果発動!トリックスターバンド1体に付き、相手フィールドのカード1枚を破壊する!ダメージ・リジェクターと、テイクオーバー・ビットを破壊!」

 

 ドラムリッカとギタースイートがセッションを行い、激しい音がナイトのフィールドを襲う。

 

「ダメージ・リジェクターは手札かフィールドのモンスター1体をリリースすることで場に残る。そしてテイクオーバー・ビットが破壊される時、墓地の征令の緊急指令(セントラルオーダー・コール)を除外することで場に残る。モンスターがリリースされたことで、オーダータイムカウンターを追加」

 

 オーバータイムカウンター:4→5

 

「さあ、次の手はどうしますか?」

「くっ……」

 

 既に打つ手はない。

 それでも諦めずに、今の手札からできることを考える。

 

「八神常務!」

 

 その時、後ろの扉から誰かが入ってきた。

 

「お、お兄様!?」

「あら、財前部長、あなたも来てたんですね」

 

 入ってきた晃は、デュエルするブルーエンジェルとナイトの姿を見て、驚いている。

 

「あなたも操られていたんですか」

「操られている? 私はライトニング様のために戦っているだけですよ?」

 

 惚けたように、首を傾げるナイト。

 

「駄目ですおに……晃さん。彼女の洗脳を解くにはデュエルで勝つしかない」

「くっ……八神常務!あなたが仕えているのはビショップ様でしょう!」

「っ……」

 

 その言葉に、わずかに彼女の眉が動いた。

 

「入社したての頃、あなたは先輩として、私に色々なことを教えてくれた。私が今、セキュリティ部長という席についているのはあなたのお陰だ」

「そんなこともありましたね~」

「あの頃、あなたは言っていたでしょう!未来ある子供達のために、より良い社会を作っていきたいと!この衛星兵器を起動すれば、あなたの言う子供達の未来を奪うことになる!」

「うっ……!」

 

 それを聞いて、ナイトはこめかみを抑える。

 

「わ、私は……ライトニング様の、ため……」

「駄目か……」

 

 それでもまだ洗脳は解けない。

 

「後もう一押しあれば……よし」

 

 すると、ブルーエンジェルは覚悟を決めて、一歩前に踏み出したでしょう

 

「……ここは私に任せてください」

「ブルーエンジェル?」

 

 すると、彼女のアバターが白い光に包まれ、その姿を変える。その姿はブルーエンジェルでもブルーガールでもなく、生身の、財前葵として姿だった。

 

「あ、葵!?」

 

 自分の妹の姿を見て、晃は動揺を隠せない。

 そんな晃を横目に、葵は一呼吸おいてから口を開く。

 

「八神さん。小さい時、私や美海とよく一緒に遊んでくれましたよね?」

「……」

「私は、最初はお兄様を取られたみたいで、あなたのことは少し苦手でした。でも、八神さんは根気よく接してくれて……」

「あ、あ……」

 

 葵の言葉に、ナイトは頭を抑えて、苦しそうに呻く。

 

「八神さん!」

「わ、私はライトニング……ち、がう……私は、ビショップ様の、ナイト!」

 

 すると、ナイトは手を振り払い、伏せカードを発動する。

 

「私は(トラップ)カード!デグレーション・ドローを発動!」

 

デグレーション・ドロー

通常罠

(1)自分・相手フィールドの表側表示のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの攻撃力をターン終了時まで半分にする。その後、このようにして下がった攻撃力2000に付き、そのモンスターのコントローラーはデッキから1枚ドローする。

 

「私の……テイクオーバー・ビットの、攻撃力を半分に!」

 

 テイクオーバー・ビット:攻撃力6700→3350

 

「そ、して、カードを3枚、ドローする!」

 

 ナイトはあらたに3枚の手札を得る。

 だが、これでテイクオーバー・ビットの攻撃は、ギタースイートを下回った。

 

「……バトルよ!私はギタースイートで、テイクオーバー・ビットを攻撃!」

 

 ギタースイートが激しい音色を奏でる。

 

「私は手札のトリックスター・キャロベインの効果発動!ギタースイートの攻撃力を、その元々の攻撃力分アップする!これで終わりよ!」

 

 ◆

 

 デュエルが終わった後、倒れたナイトに葵と晃が駆け寄る。

 

「……お二人とも、ありがとうございます」

 

 ナイトは力なく笑う。その表情を見て、二人はひとまず安堵した。

 

「その……お兄様」

 

 葵は、晃の方を向いて頭を下げた。

 

「今まで黙っていてごめんなさい」

「……葵、私は」

「財前部長」

 

 すると、何か言いかけた晃を、ナイトが制止した。

 

「駄目ですよ。妹さんが頑張ったんですから、ちゃんと応援してあげないと」

「いや、しかし……」

「葵ちゃん」

 

 すると、ナイトは葵の方を見る。

 

「本当なら、私も協力したいところですが、見ての通り、こんなですから」

 

 洗脳を打ち破った反動か、ナイトの表情にはかなり疲れが見える。

 

「多分、プレイメーカーや美海ちゃん、あなたの仲間達も一緒なんですよね?」

 

 葵は頷く。

 

「なら、大丈夫ですね。どうか、衛星兵器の起動を阻止してください」

「えぇ。任せてください」

「ふふっ、頼もしい妹さんですね?」

「……葵、私は八神常務を連れて帰る。その、無茶はせず、危ないと思ったらすぐに……」

「晃さん」

 

 不意にナイトに名前で呼ばれて、晃はため息を吐いた。

 

「……必ず、無事で帰ってこい」

「……はい。お兄様」

 

 葵は立ち上がり、再びブルーエンジェルのアバターに変身して、走り去った。




洗脳されてるナイトお姉さんはエッチだと思います(迫真)


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第40話:Connect the will to penetrate(前編)

 その頃、美海がたどり着いた場所は、岩でできた小島だった。

 周りは海に囲まれており、時折強い波が押し寄せ、今にも海に飲み込まれそうなほどに足場は頼りない。

 

 振り返ると、孤島の真ん中に自分がくぐった白い扉だけが不自然に設置されている。

 

「なるほど、私の相手はあなたでしたか」

 

 気配を感じて、前を向き直右る。

 美海はの目の前には、等身大のマネキンのような白い人形と、その肩の上に乗るアクアの姿があった。

 

「えぇ。オリジンを倒すことで、イグニスの優位を証明するというのが、ライトニングの考えです」

「ということは、ゴッドバードの相手はウィンディですか?」

 

 アクアはこくりと頷く。

 

「それでは、始めましょうか。あちらでも、そろそろウィンディがデュエルを始めている頃でしょう」

 

 アクアの乗る人形がデュエルディスクを構えた。

 

「「デュエル!」」

 

ターン1 アクア

 

「私は海晶乙女(マリンセス)パスカルスを召喚」

 

 フィールドに、ピンク色の髪をなびかせ、白と桃の艶やかな衣装をまとった女性が現れる。

 

「パスカルスの召喚・特殊召喚成功時、手札から海晶乙女(マリンセス)ブルータンを特殊召喚。効果でデッキからマンダリンを墓地へ送る。現れろ、大いなる海のサーキット!私はブルータンをリンクマーカーにセット!リンク召喚!海晶乙女(マリンセス)ブルースラッグ!」

 

 額よりウミウシのような触角を生やした藍色の髪の少女が現れた。

 

「ブルースラッグの効果で、墓地からブルータンを手札に戻す。リンク素材となったブルータンの効果発動。デッキの上から3枚をめくり、その中からマリンセスカード1枚を手札に加える。さらにパスカルスを素材にリンク召喚。海晶乙女(マリンセス)シーエンジェル」

 

 現れたのは、触手のような白い髪を持つ童女だった。

 

「シーエンジェルの効果で、デッキからマリンセス魔法カードを手札に加える。私は手札に加えた海晶乙女の闘海(マリンセス・バトルオーシャン)を発動!」

 

 その瞬間、二人の乗る孤島が海の中に沈む。

 

「きゃっ……」

 

 VRだと分かっていながらも思わず目をつむる。

 

「っ……!?」

 

 目を開けると、そこは海の中に作られた闘技場だった。海面から流れ落ちる水柱が、まるで天井を支える柱のようになっており、先程まで島だった足場も、岩が綺麗に成形され、円形のステージになっている。

 

「続けますよ。私は墓地のマンダリンの効果を発動。自分フィールドにマリンセスが2体以上存在する場合、手札か墓地のこのカードを自分の水属性リンクモンスターのリンク先に特殊召喚できる。そして現れろ、大いなる海のサーキット!」

 

 水流が巻き起こり、そこに出現したアローヘッドに、ブルースラッグとシーエンジェルが飛び込む。

 

「リンク召喚!海晶乙女(マリンセス)クリスタルハート!」

 

 現れたのは、蒼いハート型の水晶に水流が絡みついたようなモンスターだった。

 

「現れろ、大いなる海のサーキット!」

 

 さらにクリスタルハートとマンダリンがリンクマーカーに吸い込まれる。

 

「リンク召喚!リンク3、海晶乙女(マリンセス)マーブルド・ロック!」

 

 現れたのは、逆立った青い髪、魚を模した衣装をまとった女性だった。

 

「マーブルド・ロック、あの時、ビットとブートが使用していたカード」

「元は私のカードですから。私はマーブルド・ロックの効果発動!墓地のパスカルスを手札に戻す。そして海晶乙女の闘海(マリンセス・バトルオーシャン)の効果発動!マリンセスのリンク召喚時に、墓地のマリンセスリンクモンスター3体までを、そのリンクモンスターに装備する」

 

 ブルースラッグ、シーエンジェル、クリスタルハートの魂が水面より落ちてきて、マーブルド・ロックに宿る。

 

海晶乙女の闘海(マリンセス・バトルオーシャン)の効果により、私のマリンセスの攻撃力は200アップし、さらに装備しているマリンセスカードの数×600ポイント、攻撃力をアップする」

 

 マーブルド・ロック:攻撃力2500→4500

 

「さらに海晶乙女の闘海(マリンセス・バトルオーシャン)の効果で、クリスタルハートを素材としたエクストラモンスターゾーンのマリンセスは、相手の効果を受けない。私はこれでターンエンド」

 

ターン2 美海

 

「私は原初海祈シーライブラを召喚」

 

 海の中を泳ぎ、胴体が半透明のデータとなった魚が現れる。

 

原初海祈(オリジンブルー)シーライブラ

効果モンスター

星4/水属性/サイバース族/攻 1000/守 1600

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードの召喚·特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「原初海祈シーライブラ」以外の「オリジンブルー」カード1枚を手札に加える。

(2)このカードが他のモンスターゾーンに移動した場合に発動できる。手札から「原初海祈シーライブラ」以外の「オリジンブルー」モンスター1体を守備表示で特殊召喚する。

 

「デッキからメガロガーを手札に加え、シーライブラを移動させることでそれを特殊召喚」

 

 シーライブラがフィールド内を泳ぎ、横へ移動する。

 すると、下から胴体部分がデータ化したサメ型のモンスターが浮上した。

 

原初海祈(オリジンブルー)メガロガー

効果モンスター

星3/水属性/サイバース族/攻 1300/守 500

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できず、発動するターン、自分はサイバース族モンスターしか特殊召喚できない。

(1)自分フィールドの水属性モンスター1体を対象として発動できる。対象のモンスターを隣のメインモンスターゾーンに移動させ、手札からこのカードを特殊召喚する。

(2)このカードが墓地に存在する場合、自分フィールドの「オリジンブルー」モンスター1体を対象として発動できる。対象のモンスターを隣のメインモンスターゾーンに移動させ、このカードを特殊召喚する。この効果で特殊召喚したこのカードはフィールドを離れた場合、除外される。

 

「シーライブラが移動した時、手札からオリジンブルーモンスター1体を特殊召喚できる。私は手札よりホーンドシェルを特殊召喚」

 

 シーライブラから、青いエフェクトが吐き出され、そこに槍のような貝殻から触手がいくつも伸びたモンスターが姿を現した。

 

原初海祈(オリジンブルー)ホーンドシェル

効果モンスター

星5/水属性/サイバース族/攻 1200/守2200

(1)自分の「オリジンブルー」リンクモンスターが存在する場合、このカードはリリースなしで召喚できる。

(2)このカードがサイバース族SモンスターのS素材となって墓地に送られた場合に発動できる。このカードを墓地からS召喚されたモンスターに装備カード扱いで装備する。装備モンスターは攻撃力1200アップし、戦闘を行う場合、相手はダメージステップ終了時まで効果を発動できない。

 

「自分フィールドのモンスターが水属性のみの場合、手札の原初海祈(オリジンブルー)アンモジュールを特殊召喚。来なさい、未来を繋ぐサーキット!リンク召喚!原初海祈(オリジンブルー)エルニーニャ!」

 

 現れたのは、水色の鉱石のような髪を持つ人魚だった。

 

原初海祈(オリジンブルー)エルニーニャ

リンク・効果モンスター

水属性/サイバース族/攻 0/LINK 1

【リンクマーカー:右】

リンクモンスター以外の水属性・サイバース族モンスター1体

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードがリンク召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「原初海域(オリジンブルー・ウェブ)」1枚を手札に加える。

(2)1ターンに1度、このカードを空いている自分のメインモンスターゾーンに移動させて発動できる。自分のリンクモンスターにバックログカウンター1つを置く。

 

「エルニーニャの効果でデッキから原初海域(オリジンブルー・ウェブ)を手札に加えて、発動」

 

原初海域(オリジンブルー・ウェブ)

フィールド魔法

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分の「オリジンブルー」リンクモンスターのリンク召喚に成功した場合に発動できる。そのモンスターに、このターン中にモンスターが移動した回数だけ、バックログカウンターを置く。その後、この効果で置かれたカウンターの数まで、墓地からレベル4以下の「オリジンブルー」モンスターを特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化される。

(2)1ターンに1度、自分フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを隣のメインモンスターゾーンに移動させる。

 

「さらにエルニーニャの効果で、自身をメインモンスターゾーンに移動させることで、バックログカウンターを置く。来なさい、未来を繋ぐサーキット!」

 

 エルニーニャ、シーライブラ、メガロガーの3体がアローヘッドに向かって泳ぐ。

 

「リンク召喚!リンク3、原初海祈(オリジンブルー)タイタニーニャ!」

 

 現れたのは、ハート型の水晶に女性の上半身を模した青い像と鉱石でできた天使のような翼が取り付けられたオブジェだった。

 

原初海祈(オリジンブルー)タイタニーニャ

リンク·チューナー·効果モンスター

水属性/サイバース族/攻 0/LINK3

【リンクマーカー:右下/下/左下】

水属性·効果モンスター2体以上

(1)リンク状態のこのカードは相手の効果を受けず、攻撃対象にならない。

(2)このカードのリンク先のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターをチューナーとして扱う。その後、このカードのリンク先のモンスターのみを素材としてサイバース族Sモンスター1体をS召喚する。この効果は相手ターンでも発動できる。

(3)自分のモンスターの位置が移動する度に、このカードにバックログカウンターを1つ置く。

(4)自分フィールドのモンスターの攻撃力は、このカードのバックログカウンターの数×200アップする。

 

原初海域(オリジンブルー・ウェブ)の効果で、このターンにモンスターが移動した回数分、タイタニーニャにバックログカウンターを置き、その数だけ墓地からレベル4以下のオリジンブルーを特殊召喚する。私はシーライブラ、メガロガーを効果を無効にして特殊召喚」

 

 シーライブラとメガロガーが地面から顔を出し、再び海の中を自由に泳ぎ始める。

 さらにそれに呼応して、タイタニーニャが歌を奏でると、その体の水晶の中に2つの光が灯る。

 

「タイタニーニャの効果発動!メガロガーをチューナーに変え、ホーンドシェルにチューニング!」

 

 タイタニーニャの水晶からコードのような触手が伸びて、二体のモンスターに突き刺さり、その体をデータへと分解する。

 

「潮は満ちた。今こそ悠久の眠りから目覚めよ!シンクロ召喚!」

 

 分解されたモンスターのデータは、八つのリングに変わり、それらが一つに重なる。

 

「出でよレベル8、原初海祈(オリジンブルー)リオ・プロトコロドン!」

 

 現れたのはワニのような口を持ち、その周囲に水の剣を6つ従える首長竜だ。

 

原初海祈(オリジンブルー)リオ・プロトコロドン

シンクロ・効果モンスター

星8/水属性/サイバース族/攻 2800/守 2000

水属性チューナー+チューナー以外のサイバース族モンスター1体以上

(1)このカードのS召喚に成功した場合に発動できる。相手フィールドのモンスター2体までを選んで手札に戻す。

(2)このカードが効果で隣のメインモンスターゾーンに移動する場合、かわりにリンクモンスターのリンク先となるメインモンスターゾーンに移動できる。

(3)1ターンに1度、発動できる。このカードを隣のメインモンスターゾーンに移動させる。この効果は相手ターンでも発動できる。

(4)このカードと同じ縦列の相手のモンスターゾーン及び魔法&罠ゾーンのカードの効果は無効化される。

 

「シンクロ素材として墓地へ送られたホーンドシェルの効果発動!このカードを装備カード扱いとして、シンクロ召喚されたリオ・プロトコロドンに装備」

 

 リオ・プロトコロドンの額に、ホーンドシェルの殻が角のように装着される。

 

「装備モンスターの攻撃力は1200アップする。さらにタイタニーニャは、バックログカウンターの数×200、自分のモンスターの攻撃力をアップさせる」

 

 リオ・プロトコロドン:攻撃力2800→4400

 

「ですが、それではまだ、攻撃力が足りませんよ」

「えぇ。なのでもう1体、私は墓地のメガロガーの効果発動!リオ・プロトコロドンを移動させることで、自身を墓地から特殊召喚。モンスターが移動したことで、タイタニーニャにバックログカウンターを置く!」

 

 バックログカウンター:2→3

 

「そして、タイタニーニャの効果で、シーライブラをチューナーに変え、メガロガーにチューニング!」

 

 メガロガーとシーライブラがデータに分解され、粒子となった二体のモンスターが七つのリングのエフェクトへと形を変える。

 

「シンクロ召喚!レベル7、原初海祈(オリジンブルー)プレシオルタ!」

 

原初海祈(オリジンブルー)プレシオルタ

シンクロ·効果モンスター

星7/水属性/サイバース族/攻 2300/守 2000

水属性チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

(1)このカードが効果で隣のメインモンスターゾーンに移動する場合、かわりにリンクモンスターのリンク先となるメインモンスターゾーンに移動できる。

(2)1ターンに1度、自分フィールドのバックログカウンター1つを取り除いて発動できる。このカードと同じ縦列の相手のカードを全て手札に戻す。この効果は相手ターンでも発動できる。

(3)1ターンに1度発動できる。このカードを隣のメインモンスターゾーンに移動させる。

 

「プレシオルタの効果発動。このカードを隣のメインモンスターゾーンに移動させる」

 

 プレシオルタが相手のエクストラモンスターゾーンの正面へ移動する。

 バックログカウンター:3→4

 

「プレシオルタの効果発動!バックログカウンター1つを使うことで、このカードと同じ縦列の相手のカードを全て手札に戻す。マーブルド・ロックは効果を受けませんが、装備カードは別。あなたの装備カードを手札に戻す!」

 

 プレシオルタが嘶くと、マーブルド・ロックに宿っていた魂が、弾き飛ばされるように消える。

 

「装備カードが減ったことで、マーブルド・ロックの攻撃力は下がる」

 

 マーブルド・ロック:攻撃力4500→3900

 

「バトル!私はリオ・プロトコロドンで、マーブルド・ロックを攻撃!」

「マーブルド・ロックの効果発動!手札のマリンセス1体を墓地へ送ることで、バトルによる破壊とダメージを無効にできる」

「装備されたホーンドシェルの効果で、装備モンスターの攻撃時、相手はダメージステップ終了時までカードの効果を発動できない!」

 

 リオ・プロトコロドンが水の剣を飛ばし、マーブルド・ロックの体を貫き、その剣がアクアにも降り注ぐ。

 

 アクア:LP4000→3900

 

「続けて、プレシオルタでダイレクトアタック!」

 

 アクア:LP3900→1600

 

「メイン2に、私はリオ・プロトコロドンと原初海域(オリジンブルー・ウェブ)の効果でリオ・プロトコロドンを2回移動させる。移動したことで、バックログカウンターを置く」

 

 バックログカウンター:3→5

 

「私はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン3

 

「さすがに、この程度は簡単に破れますか」

 

 アクアは何ともないようにふるまう。

 実際、なんともないのだろう。なぜなら、彼女の手札は、前のターンから1枚たりとも減っておらず、このターンのドローで6枚となった。それだけあれば、美海の盤面を突破するなど、容易いことだろう。

 

「私は魔法カード、サイバネット・リロードコードを発動」

 

サイバネット・リロードコード

通常魔法

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分の墓地のサイバース族リンクモンスターを対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたモンスターの効果は無効化される。

(2)自分がEXモンスターゾーンにリンク4以上のサイバース族リンクモンスターをリンク召喚に成功したターンのエンドフェイズに、墓地のこのカードを除外して発動できる。自分の墓地からそのリンクモンスターと同じ属性のサイバース族モンスター1体を手札に加える。

 

「墓地からマーブルド・ロックを特殊召喚。そして手札から発動」

 

 アクアの動きに合わせて、人形が指を捻って手札のカードを美海に見せる。

 

「リンク魔法(マジック)裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)

 

 マーブルド・ロックのリンク先に、リンクマーカーの描かれた魔法カードが出現した。

 

裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)

リンク魔法

【リンクマーカー:左上/上/右上】

リンク魔法は自分のリンクモンスターのリンク先となる魔法&罠ゾーンにのみ発動できる。

(1)「裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)」は自分フィールドに表側表示で1枚しか存在できない。

(2)このカードのリンク先のリンクモンスターが戦闘を行う場合に発動できる。そのモンスターの攻撃力はダメージ計算時のみ倍になる。

(3)このカードがフィールドを離れた場合に発動する。このカードのリンク先のモンスターは墓地へ送られる。

 

「来ましたね。私はリオ・プロトコロドンの効果発動!1ターンに1度、このカードを隣のメインモンスターゾーンに移動させる!リオ・プロトコロドン自身の効果で、移動先を自分のリンクモンスターのリンク先に置き換えることができる!裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)の正面へ移動!」

 

 マーブルド・ロックの目の前に移動し、リオ・プロトコロドンがマーブルド・ロックと、その後ろにある裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)に狙いを定める。

 

「リオ・プロトコロドンと同じ縦列の相手のカードの効果は無効化される。これで裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)の効果は無効化される」

「私は手札の(トラップ)カード、海晶乙女波動(マリンセス・ウェーブ)を発動!」

「手札からトラップ!?」

「このカードはリンク3以上のマリンセスが存在する場合、手札からも発動できる。相手フィールドのモンスター1体の効果を無効にする」

 

 マーブルド・ロックが手を天に掲げると、そこから水が揺れ、波紋が広がり、それに揺られるようにプレシオルタはゆっくりと首を降ろし、眠りにつく。

 

「くっ……」

「私はさらに海晶乙女パスカルスを召喚。効果で手札からブルータンを特殊召喚。現れろ、大いなる海のサーキット!私はブルータンとパスカルスをリンクマーカーにセット!リンク召喚!リンク2、海晶乙女クリスタルハート!」

 

 アローヘッドから水流が巻き起こり、再びクリスタルハートが姿を現した。

 

「私はリンク素材となったブルータンの効果で、デッキからマリンセスカード1枚を手札に加える。そしてクリスタルハートと、リンク3のマーブルド・ロックをリンクマーカーにセット!リンク召喚!リンク4、海晶乙女(マリンセス)アクア・アルゴノート!」

 

 アローヘッドより、巨大な二枚貝が出現し、その口が開く。

 その中から長いツインテールの女性が、大鎌を携えて現れ、貝の上に腰を下ろした。

 

海晶乙女の闘海(マリンセス・バトルオーシャン)の効果で、墓地のマーブルド・ロック、クリスタルハート、シーエンジェルの3枚を装備。クリスタルハートを素材としたことで、アクア・アルゴノートは相手の効果を受けない」

「ですが、その位置ではせっかく発動した裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)の恩恵を受けられませんよ?」

「問題ありません。墓地のマリンセス1枚を除外することで、手札から海晶乙女スプリンガールを特殊召喚。さらにリンクモンスターのリンク先に、海晶乙女シーホースは特殊召喚できる。現れろ、大いなる海のサーキット!」

 

 スプリンガールとシーホースが、アローヘッドへ飛び込む。

 

「リンク召喚!リンク2、海晶乙女(マリンセス)アローブ・スター」

 

 現れたのは、両腕がカニのような鋏となった朱色の髪の女性だった。

 

海晶乙女(マリンセス)アローブ・スター

リンク・効果モンスター

水属性/サイバース族/攻 1500/LINK 2

【リンクマーカー:上/左下】

サイバース族モンスター2体

(1)このカードがリンク召喚に成功した場合に発動できる。墓地から通常召喚可能なサイバース族モンスター、またはリンク魔法1枚を手札に加える。このターン、この効果で手札に加えたカード、及びその同名カードは召喚・特殊召喚できない。

(2)このカードのリンク先は、このカードと相互リンク状態のリンク魔法のリンク先としても扱う。

(3)このカードと相互リンク状態のリンク魔法がフィールドを離れた場合に発動できる。このターン、そのリンク魔法のリンク先にあったモンスターは、そのリンク魔法の効果でフィールドを離れない。

 

「アローブ・スターのリンク先は、相互リンク状態のリンク魔法(マジック)のリンク先としても扱う。これにより、アクア・アルゴノートも裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)の効果を受けることができる。バトルです!アクア・アルゴノートで、リオ・プロトコロドンを攻撃!この瞬間、裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)の効果で、アクア・アルゴノートの攻撃力は倍になる!」

 

 アクア・アルゴノート:攻撃力4300→8600

 

 バックログカウンターが6つあることで、リオ・プロトコロドンの攻撃力は5200あるが、それでも裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)で強化されたアクア・アルゴノートには届かない。 アクア・アルゴノートの振るう大鎌により、リオ・プロトコロドンを討伐された。

 

 美海:LP4000→600

 

「エンドフェイズに墓地のサイバネット・リロードコードの効果発動。自分がサイバース族のリンク4のモンスターをリンク召喚に成功したターンのエンドフェイズに、墓地のこのカードを除外することで、召喚されたリンクモンスターと同じ属性のサイバース族モンスター1体を手札に戻す」

 

ターン4

 

「アクア、あなたはこのことに賛同しているのですか?」

 

 美海はアクアに問いかける。

 

「この衛星兵器が起動すれば、デンシティに暮らす多くの人が犠牲になります。私には、あなたがそれをよしとしているとは思えない」

「……抑止力としての兵器は、その効力を知らしめることで初めて意味を成す。それ自体は必要な犠牲です」

 

 しかし、彼女は冷酷にそう答える。

 

「とはいえ、ライトニング、彼は私怨でこのデンシティに狙いを定めているわけですから、その点については苦言を呈したいところですが。私も綺麗事で人間の統治できるとは思っていません」

「あなたは、やはり人間は管理すべきだと考えているのですか?」

 

 以前戦った時に言っていた彼女の主張を思い出しそう尋ねる。

 

「逆に聞きますが、この兵器を作ったのは誰でしょう?」

「……ガンズレッドファクトリー社、です」

「そう。人間ですね」

 

 彼女の言う通り、イグニスはその兵器を利用しただけで、放っておいても、この兵器を利用した戦争は起きていたかもしれない。

 

「私達は優れた演算能力により、人間を正しく導くことができる。元よりそれが鴻上博士の願いなのですから」

「先生が?」

「はい。彼はシミュレートにより、そう遠くない未来に滅ぶ人間を救うために、人間を導く存在として、より高度なAIである私達を生み出しました」

 

 思い返せば、リボルバーも似たようなことを言っていた。

 人類の未来を憂いて、イグニスを作り出した。その研究を金儲けに利用しようとしたのがSOLテクノロジーであると。

 

「私達ならば、効率的に人類を発展させることができる。美海、今からでも遅くはありません。サレンダーしてください」

「どういうつもりですか?」

「あなたが私達の考えに賛同するなら、あなたとその家族、友達など、一部の人間を逃がすことを許可します。私も、自分のオリジンを失うのは少し惜しい」

 

 アクアは美海の方へ手を差し出す。

 

「選んでください。共存か、死か」

「私は……」

 

 ◆

 

 同刻、ゴッドバードが辿り着いたのは、飛行場だった。

 

 周囲には壊れた飛行機が規則的に並んでいて、さながら飛行機の墓場ともいえる場所だ。

 

「やぁ、僕のオリジン」

 

 振り向くと、そこには人形の上に乗ったウィンディの姿があった。

 

「……テメェか」

 

 彼の姿を見た瞬間、胸が締め付けられるような感覚に襲われた。

 その感覚こそが、自分が彼のオリジンである証拠だった。

 

「あーあ、この感覚ほんとウザいなー」

 

 ウィンディは心底鬱陶しそうに、ゴッドバードの顔を見ながら頭を掻く。

 

「さっさと消してやるから、早く準備しろよ」

「上等だ。ぶっ飛ばしてやるよ」

 

「「デュエル!」」

 

ターン1 ゴッドバード

 

「俺は敵性機兵(エリミネーター)シークエンスコードを召喚」

 

 長方形に四角い翼がついたような小型の飛行機が飛来する。

 

敵性機兵(エリミネーター)シークエンスコード

効果モンスター

星4/風属性/サイバース族/攻 1500/守 800

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「エリミネーター」モンスター1枚を手札に加える。

(2)相手ターン中、自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しなければ、墓地のこのカードを除外して発動できる。デッキから「エリミネーション」罠カード1枚をセットする。この効果でセットしたカードは、セットしたターンでも発動できる。

 

「その効果で、俺はデッキから敵性機兵(エリミネーター)ラントリクターを手札に加える。こいつは自分フィールドにサイバース族モンスターが存在する時、手札から特殊召喚できる」

 

 早速彼のフィールドに、二体のレベル4のモンスターが並ぶ。

 

「来やがれ、未来を貫くサーキット!召喚条件はレベルが同じモンスター2体!」

 

 手招きするようなポーズから、手首を返して空に手を掲げる。

 その瞬間、上空に現れたアローヘッドに二体のエリミネーターが飛び込んでいく。

 

「リンク召喚!リンク2、敵性機兵(エリミネーター)ローディング・チャージャー!」

 

敵性機兵(エリミネーター)ローディング・チャージャー

リンク·効果モンスター

風属性/サイバース族/攻 1000/LINK2

同じレベルのモンスター2体

(1)リンク召喚したこのカードは、リンク素材となったモンスターと同じレベルのモンスターとしてX召喚の素材にでき、このカードのリンクマーカーの数と同じ数のモンスターとしてX召喚の素材にできる。

(2)X素材となったこのカードが墓地に送られた場合に発動できる。除外されている「エリミネーター」モンスターを自分のXモンスターの下に重ねてX素材とする。

 

「そしてこいつはリンク素材となったモンスターと同じレベルのモンスター2体分のエクシーズ素材にできる。俺はローディング・チャージャーでオーバーレイ!」

 

 赤と青の光が螺旋状に渦巻き、天に現れたエックス字のパネルへ吸い込まれる。

 

「エクシーズ召喚!現れろ、ランク4!敵性機兵(エリミネーター)コンパイル・ブラスター!」

 

 現れたのは、体の中央にレールガンを無理やり接合された、歪な機械仕掛けの竜だった。

 

敵性機兵(エリミネーター)コンパイル・ブラスター

エクシーズ·効果モンスター

ランク4/風属性/サイバース族/攻 2300/守 2000

風属性·レベル4·効果モンスター×2体以上

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードの攻撃力·守備力はこのカードがX素材として持つリンクモンスターのリンクマーカーの数×300アップする。

(2)相手の特殊召喚されたモンスターが効果を発動した時、このカードのX素材1つを取り除いて発動できる。その効果を無効にする。この効果発動のためにリンクモンスターを取り除いていた場合、かわりにその効果を無効にして破壊し、相手に500ダメージを与える。

(3)このカードが効果で破壊される場合、かわりにこのカードのX素材1つを取り除くことができる。

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン2

 

「相手ターン開始時、俺は墓地のシークエンスコードとラントリクターの効果発動。相手ターン中に、自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合、墓地から除外することで、デッキからエリミネーション魔法カードと罠カードをそれぞれセット」

 

 ゴッドバードに伏せカードが2枚追加され、ウィンディを迎え撃つ準備は整った。

 

「じゃあ僕のターンだね。僕は手札の嵐闘機(ストームライダー)グリフォールの効果発動!」

 

嵐闘機(ストームライダー)グリフォール

効果モンスター

星4/風属性/サイバース族/攻 1200/守 800

このカード名の(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しか行えず、(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)相手のメインモンスターゾーンにモンスターが存在する場合、このカードを手札から特殊召喚できる。

(2)このカードが手札に存在する場合に発動できる。相手の手札をランダムに1枚選んで確認する。そのカードが魔法・罠カードだった場合、それを相手のフィールドにセットして、このカードを特殊召喚する。

 

「相手の手札をランダムに1枚確認する。そいつを見せろ」

「チッ」

 

 ゴッドバードは指さされた手札を相手に見せる。

 選ばれたカードは。RUM-バックアップ・エリミネーション。

 

「それが魔法(マジック)(トラップ)カードだった場合、それを相手のフィールドに強制的にセットして、このカードを特殊召喚する」

 

 翼竜の翼を象った帆と、鳥の頭を模した船首の小型船が飛来した。

 

「そして、手札からヒッポグリフトを特殊召喚」

 

嵐闘機(ストームライダー)ヒッポグリフト

効果モンスター

星3/風属性/サイバース族/攻 800/守 1200

このカード名の(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しか行えず、(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)相手の魔法&罠ゾーンにカードが存在する場合、このカードを手札から特殊召喚できる。

(2)相手の魔法&罠ゾーンにのみカードが存在し、このカードが「ストームライダー」リンクモンスターのリンク素材として墓地へ送られた場合、相手フィールドのセットされた魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。対象のカードを破壊し、自分はデッキから1枚ドローする。この効果の発動に対して、相手は魔法・罠カードを発動できない。この効果発動後、ターン終了時まで、自分はフィールド魔法以外の魔法・罠カードを自分フィールドで発動・セットできない。

 

「現れろ、我が行く手に吹き荒れるサーキット!」

 

 ウィンディが人差し指で空を指すと、その先にアローヘッドが出現する。

 

「召喚条件は風属性モンスター2体!僕はヒッポグリフトとグリフォールをリンクマーカーにセット!」

 

 二隻の飛行船が、アローヘッドに吸い込まれ、暴風が吹く。

 

「そこまでだ!俺はセットされた(トラップ)カード!エリミネーション・インターセプトを発動!」

 

エリミネーション・インターセプト

カウンター罠

(1)自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合に発動できる。相手モンスター1体の特殊召喚を無効にして破壊する。

(2)墓地のこのカードと「エリミネーション」魔法・罠カード1枚を除外して発動できる。除外されている「エリミネーター」モンスター1体を墓地に戻す。

 

「そのリンク召喚を無効にする!」

 

 アローヘッドに集まった風が破裂し、ウィンディのリンク召喚は失敗に終わる。

 

「ウザいな。なら僕はリンク素材になったヒッポグリフトの効果発動!相手にのみ魔法・罠ゾーンにカードが存在する場合、相手のセットされた魔法・罠カード1枚を破壊する!」

 

 虚空から空気の弾丸が放たれ、さきほど手札からセットされたバックアップ・エリミネーションを破壊される。

 

「そして1枚ドロー。僕は嵐闘機モノケローンを召喚」

 

嵐闘機モノケローン

効果モンスター

星2/風属性/サイバース族/攻 800/守 600

このカード名の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。

(1)自分の魔法&罠ゾーンにカードが存在せず、相手がデッキからカードを手札に加える効果を含む効果を発動した場合、手札・フィールドのこのカードを墓地へ送って発動できる。自分のデッキから「ストームライダー」カード2枚を手札に加える(同名カードは1枚まで)。この効果を発動後、次の自分のエンドフェイズまで、自分はフィールド魔法以外の魔法・罠カードを発動できない。

(2)このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「嵐闘機モノケローン」以外の「ストームライダー」モンスター1体を手札に加える。

 

「効果でデッキから嵐闘機ハルピュイアームを手札に加え、特殊召喚」

 

嵐闘機ハルピュイアーム

効果モンスター

星4/風属性/サイバース族/攻 1200/守 800

このカード名の(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しか行えない。

(1)相手の魔法&罠ゾーンにカードが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できる。

(2)自分の魔法&罠ゾーンにカードが存在せず、このカードが表側攻撃表示で存在し、相手が魔法・罠カードを発動した場合に発動できる。その発動を無効にし、このカードを守備表示にする。

 

「現れろ、我が行くに吹き荒れるサーキット!」

 

 再びのリンク召喚で、アローヘッドより竜巻が巻き起こる。

 

「リンク召喚!リンク2!嵐闘機艦(ストームライダーシップ)ロックバスター!」

 

 現れたのは双頭の鳥を象った船だ。

 

嵐闘機艦(ストームライダーシップ)ロックバスター

リンク・効果モンスター

風属性/サイバース族/攻 2000/LINK 2

【リンクマーカー:上/下】

風属性・サイバース族モンスター2体

このカードの(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できず、発動するターン、自分は「ストームライダー」カード以外の魔法・罠カードを発動できない。

(1)自分の魔法&罠ゾーンにカードが存在せず、このカードのリンク先にモンスターが召喚・特殊召喚された場合に発動できる。相手の魔法・罠カードを2枚まで選んで破壊する。この効果の発動に対して、相手は魔法・罠カードを発動できない。

(2)自分の魔法&罠ゾーンにカードが存在しない場合、相手の墓地の魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。そのカードを自分・相手フィールドにセットできる。

 

「そして嵐闘機(ストームライダー)フライカイトを特殊召喚」

 

嵐闘機(ストームライダー)フライカイト

星1/風属性/サイバース族/攻 0/守 0

このカード名の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか発動できない。

(1)自分の魔法&罠ゾーンにカードが存在せず、以下のいずれかの効果を含む魔法・罠カードを相手が発動した場合、このカードを手札から捨てて発動できる。その効果を無効にする。

●デッキからカードを手札に加える効果

●墓地からモンスターを特殊召喚する効果

(2)このカードが手札・墓地に存在し、自分の魔法&罠ゾーンにカードが存在しない場合に発動できる。このカードを特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたこのカードはフィールドを離れた場合、除外される。

 

「リンク先にモンスターが特殊召喚されたことで、ロックバスターの効果発動!」

 

 ロックバスターの二つの口が開き、そこにエネルギーが充填される。

 

「自分の魔法&罠ゾーンにカードがない時、相手の魔法・罠カード2枚を選んで破壊する!」

「そうはいくか!俺はカウンター(トラップ)、エリミネーション・ジャミングを……」

「ざーんねーん!ロックバスターの効果に対して、相手は魔法(マジック)(トラップ)カードを発動できないよ~」

「ならコンパイル・ブラスターの効果発動!オーバーレイユニットを1つ使うことで、相手の特殊召喚されたモンスターの効果を無効にする!」

 

 コンパイル・ブラスターの周囲を巡るオーバーレイユニットが、コンパイル・ブラスターの銃口に取り込まれ、弾丸として発射される。

 

「僕は手札の嵐闘機(ストームライダー)トゥビエルーフの効果発動!」

 

嵐闘機(ストームライダー)トゥビエルーフ

効果モンスター

星1/風属性/サイバース族/攻 0/守 0

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分の魔法&罠ゾーンにカードが存在せず、自分フィールドが「ストームライダー」リンクモンスターが存在し、相手がモンスター効果を発動した場合、このカードを手札から捨てて発動できる。その効果を無効にする。

(2)このカードが手札・墓地に存在し、自分の魔法&罠ゾーンにカードが存在しない場合に発動できる。このカードを特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたこのカードはフィールドを離れた場合、除外される。

 

「このカードを手札から捨てることで、その効果を無効にする!」

 

 コンパイル・ブラスターから放たれた弾丸を、虚空より飛来した白いU字型の羽を持つ飛行船が受け止め、ロックバスターを守った。

 

「やれ!ロックバスター!」

 

 そしてロックバスターの口から光線が放たれ、彼のフィールドにセットされた残りの伏せカードが破壊される。

 

「ロックバスターのもう1つの効果!相手の墓地から魔法・罠カードを自分か相手のフィールドにセットする。ヒッポグリフトの効果で、僕はこのターン、フィールド魔法以外の魔法・罠カードを自分フィールドで発動・セットできないから、君のフィールドに置いてあげるよ」

 

 先程破壊されたバックアップ・エリミネーションが再びゴッドバードのフィールドにセットされる。

 

「返してくれた、なわけねぇよな?」

 

 ゴッドバードの発言に、ウィンディはニヤリと笑う。

 

「現れろ、我が行く手に吹き荒れるサーキット!」

 

 ロックバスターとフライカイトの2体が、アローヘッドへと潜航する。

 

「リンク召喚!嵐闘機艦(ストームライダーシップ)バハムートボマー」

 

 アローヘッドから竜巻が起こり、その中から汽笛の音が鳴り響く。

 そして風を突き破り現れたのは、黒い鯨のような姿をした巨大な戦艦型のモンスターだ。

 

嵐闘機艦(ストームライダーシップ)バハムートボマー

リンク・効果モンスター

風属性/サイバース族/攻 2800/LINK 3

風属性モンスター2体以上

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できず、発動するターン、自分フィールドに魔法・罠カードをセットできない。

(1)自分の魔法&罠ゾーンにカードが存在せず、このカードがリンク召喚に成功した場合、相手フィールドのカード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊し、相手に500ダメージを与える。この効果の発動に対して、相手はカードの効果を発動できない。

(2)自分の魔法&罠ゾーンにカードが存在しない場合に発動できる。相手の魔法・罠カード1枚を選んで墓地へ送り、相手に500ダメージを与える。この効果の発動に対して、相手は魔法・罠カードを発動できない。

 

「バハムートボマーの効果発動!リンク召喚に成功した時、相手フィールドのカード1枚を破壊する!コンパイル・ブラスターを破壊し、相手に500ダメージ!」

 

 バハムートボマーの口が開き、そこから大砲が飛び出す。

 

 既に妨害の手を使い切ったゴッドバードにこれを防ぐ手はなく、コンパイル・ブラスターは破壊され、さらに貫通した砲撃が自身にも襲い掛かる。

 

 ゴッドバード:LP4000→3500

 

「さらにバハムートボマーのもう1つの効果!自分の魔法&罠ゾーンにカードがない時、相手の魔法・罠カード1枚を選んで破壊し、相手に500ダメージを与える!」

 

 続く二射が、セットされたカードを貫き、さらにゴッドバードにもダメージを与える。

 

 ゴッドバード:LP3500→3000

 

「なるほど。自分の魔法&罠ゾーンを封じる代わりに、相手の魔法・罠をメタるか。つくづくお前とは気が合いそうにねぇな」

「こっちだって、人間と馴れ合うなんてごめんだね。僕はフィールド魔法、嵐闘機流(ストームライダータービュランス)を発動!」

 

嵐闘機流(ストームライダータービュランス)

フィールド魔法

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分フィールドの「ストームライダー」モンスターの攻撃力は300アップする。

(2)自分フィールドに「ストームライダー」モンスター1体のみが存在し、相手がモンスターの特殊召喚に成功した場合に発動できる。そのモンスターの効果は次の相手のスタンバイフェイズまで無効化される。この効果の発動に対して、相手は魔法・罠カードの効果を発動できない。

(3)フィールドゾーンのこのカードが破壊された場合に発動できる。自分のデッキ・墓地から「嵐闘機爆流」1枚を発動する。

 

「これで僕のストームライダーの攻撃力は300アップする。これで攻撃力は3100、君の残りライフは3000。これで終わりだ!バハムートボマーで、ダイレクトアタック!」

 

 バハムートボマーがゴッドバードにトドメを刺すべく、主砲の照準を合わせる。

 

「くっ、俺は手札の敵性機兵(エリミネーター)プロテクラフトの効果発動!」

 

敵性機兵(エリミネーター)プロテクラフト

効果モンスター

星4/風属性/サイバース族/攻 1600/守 1200

(1)モンスターの攻撃宣言時、自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合に発動できる。このカードを手札から攻撃表示で特殊召喚する。その後、自分のEXモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合、手札から「エリミネーター」モンスター1体までを特殊召喚するか、墓地へ送る。

(2)自分の魔法&罠ゾーンのカードが破壊される場合、かわりに自分のフィールド・墓地のこのカードを除外して発動できる。

 

「このカードを手札から攻撃表示で特殊召喚!」

 

 六角形の緑のパネルがいくつも合わさってできた物体がバハムートボマーの前に立ちふさがる。

 

「そして、俺のエクストラモンスターゾーンにモンスターが存在しなければ、手札からもう1体、エリミネーターを特殊召喚するか、墓地へ送ることができる。俺は手札か敵性機兵《エリミネーター》シークエンスコードを特殊召喚!」

 

 その効果で、さらにデッキからカードを手札に加える。

 

「チッ、ならバハムートボマーでプロテクラフトを攻撃!」

 

 バハムートボマーの砲撃が、射線上のプロテクラフトへと向く。

 放たれた高エネルギーの弾丸がプロテクラフトを貫き、ゴッドバードのライフを奪う。

 

 ゴッドバード:LP3000→1500

 

「僕はこれでターンエンド」

 

ターン3

 

 ゴッドバードとウィンディのデッキコンセプトは全くの真逆。それ故に、大量の伏せカードを武器とするゴッドバードにとって、それらを一方的に破壊できるウィンディのデッキは相性最悪だ。

 

(けど、手は完全に潰れたわけじゃない)

 

 ゴッドバードは自身に残された手札を確認して、次の一手を考える。

 

「お前さ」

 

 すると、ウィンディは突然ゴッドバードに話しかけてきた。

 

「そんな格好してるけど、リアルじゃ引きこもりなんだろ?」

「あ?」

「ほら、そうやって虚勢を張って強がって、僕は知ってるんだよ。君がどうしてそうなったのかも」

 

 ウィンディがニヤッと笑う。

 

「テメェ、何を……」

「僕らを作った例の実験、あれって途中からデュエルで負けた時のペナルティが変わったんだよね。それぞれの一番怖いものの幻覚を見せるってやつに。確か君の場合は……」

 

 ウィンディはわざとらしく首を捻って、考える素振りを見せる。

 

「そうだ思い出した!君はお友達から無視され続けるんだ!」

「っ……!」

 

 ──── みんな、どうして?

 

 その頃の記憶が蘇る。

 ゴッドバードこと風間啓が見せられたものは、同じ孤児院で過ごした友達から無視され続け、陰で悪口を言われたり、時にはみんなが自分を取り囲んで罵声を浴びせ続けるといった内容だった。

 

 元々活発な性格ではなかったが、この経験が彼の人格を大きく歪めたのは間違いない。

 

「そもそも君、なんのために戦ってるの? 友達に頼まれたから。そいつは君を利用しているだけじゃないの?」

「黙れ……」

 

 ──── うざい

 ──── 啓と遊んでもつまんない

 

 動悸がする。

 

「あれは本当に幻覚だった? 彼らが君のことをどう思ってるかなんて、分かんないよね? 本当は鬱陶しがられていたんじゃない?」

「黙れ」

 

 ──── キモいから、近寄らないで

 ──── あー話しかけてくんなよ

 

 鼓動が激しくなる。記憶が、彼に罵声を浴びせる。

 吐き気がするほどのストレスに、アバターだというのに胃の底から何かがせり上がってくる感覚がある。

 

「君は本当は誰からも必要とされていない」

「黙れっつってんだよぉっ!」

 

 ──── 大丈夫

 

 怒りに任せて手札のカードを切りかけたところで、頭の中に声が響いた。

 

「これは……」



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第41話:Connect the will to penetrate(後編)

 美海は自分の胸に手を当てて、大きく深呼吸する。

 

(大丈夫。みんなが戦っている。だから私だけ折れるわけにはいかない)

 

 美海は目を開けて、目の前に立つアクアを見据える。

 

「アクア、イグニスは優れている。だから人類を導くことができる。そう言いましたね?」

「えぇ。そうですね」

「ですが、今、あなた達が行っていることはなんですか?」

 

 美海は力強く訴える。

 

「ライトニングは自分の恨みを晴らすために、デンシティを焦土に変えようとしている。これがあなたのいう愚かな人類とどう違うのですか?」

「それは彼の目的であり、私個人の考えではありません」

「そうです。イグニスにも意思がある。人は考えが異なるから争い合い、それはイグニスも同じ。どれほど演算能力が優れていようと、そこに差異はない」

 

 美海の主張に対して、アクアはなるほどと言うような顔をする。

 

「それで、あなたの主張は分かりましたが、それがこの戦争を止める理由にはありません」

 

 イグニスの攻撃性を証明したところで、人間の攻撃性を否定する材料にはならない。

 

「アクア、人間の歴史は争いの歴史です。戦い、憎しみが生まれ、また争いが起こる。あなたが人間を支配しようとしても、その中で憎しみが生まれ、いずれお互いに滅ぼし合うことになる」

 

 鴻上博士のシミュレート結果も、イグニスが人間を滅ぼすという結末も、きっとその果ての出来事なのだろう。なら、そのシミュレートを超えるには、こうして争うだけでは駄目だ。

 

「ならばどうするのですか?」

「私が、人とイグニスの未来を、”繋いで”見せる。私のターン!」

 

 美海は勢いよくデュエルディスクからカードを引き、盤面を確認する。

 

(私のフィールドには、カウンターが6つ置かれたタイタニーニャと、プレシオルタ、そしてフィールド魔法、原初海域(オリジンブルー・ウェブ)。一方、彼女のフィールドには、裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)と、そのリンク先を拡張するアローブ・スター。そして切り札のリンク4、アクア・アルゴノート)

 

 アクア・アルゴノートには海晶乙女の闘海(マリンセス・バトルオーシャン)の効果で装備されたリンクモンスターが3枚、これによりアクア・アルゴノートは攻撃力4300、さらに裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)の戦闘時には攻撃力が倍となる。

 

(なら、攻撃力が低いアローブ・スターを先に処理する?)

「言っておきますが、アクア・アルゴノートの効果で、あなたはアクア・アルゴノート以外を攻撃できませんよ?」

「なら、私はプレシオルタの効果発動!自身を隣のメインモンスターゾーンに移動させる。モンスターが移動したことで、バックログカウンターを追加!」

 

 タイタニーニャ:バックログカウンター6→7

 

「そしてプレシオルタの効果発動!バックログカウンターを使うことで、自身と同じ縦列のカードを手札に戻す!裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)を手札に!」

「私は手札より、海晶乙女波動を発動。プレシオルタの効果を無効にする」

 

 アクア・アルゴノートが大鎌を振るうと、水の波動がプレシオルタを襲う。

 

「そして、私の場にリンク2以上のマリンセスがいるなら、このターン、私のモンスターは相手の効果を受けない」

「なら、私はセットしてあった魔法カード、原初海復(オリジンブルー・リカバリー)を発動!」

「アクア・アルゴノートの効果発動。装備されているシーエンジェルを特殊召喚することで、その効果を無効にする」

 

 アクア・アルゴノートの座っていた二枚貝の中から、シーエンジェルが飛び出し、美海の発動した魔法カードに向けて泡の弾丸を放つ。

 

「シーエンジェルの効果で、デッキからマリンセス魔法カードを手札に加える。さあ、もはや手は尽きたように見えますが?」

「いいえ、まだです。私は原初海祈メガロガーを通常召喚」

 

 頭と尾以外が半透明のデータのエフェクトで構成されたサメ型のモンスターが現れる。

 

「そして現れろ、未来を繋ぐサーキット!」

「なに?」

 

 既にタイタニーニャが場にある状態でのリンク召喚宣言に、アクアは眉をひそめる。

 

「召喚条件は、リンクモンスターを含む水属性モンスター2体以上!私はメガロガーと、リンク3のタイタニーニャをリンクマーカーにセット!」

 

 タイタニーニャがアローヘッドに飛び込むと、アローヘッドに下方向の三つのリンクマーカーが描かれる。そして、その周りをメガロガーが泳いで上向きの4つ目のリンクマーカーとなる。

 

「母なる海よ、巡る命よ。大いなる根源へと帰還せよ!リンク召喚!」

 

 アローヘッドから水が渦を巻いてあふれ出る。

 

「現れろ、リンク4!原初海祈心晶(オリジンブルーハート)タイダヴェーラ!」

 

 水の中から現れたのは、胸元にハート型のブローチをつけた結晶(クリスタル)の人魚像だった。

 

原初海祈心晶(オリジンブルーハート)タイダヴェーラ

リンク・効果モンスター

水属性/サイバース族/攻 0/LINK 4

リンクモンスターを含む水属性モンスター2体以上

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードがリンク召喚に成功した場合、墓地のリンク素材となった「原初海祈タイタニーニャ」1体を対象として発動できる。対象のモンスターの上に置かれていたバックログカウンターと同じ数のバックログカウンターをこのカードの上に置き、1個以上置かれたら、対象のモンスターと同じ効果を得る。

(2)自分のバックログカウンター1つを取り除き、墓地のサイバース族Sモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを守備表示で特殊召喚する。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

「タイダヴェーラの効果発動!リンク素材となったタイタニーニャのバックログカウンターを全て引き継ぐ!」

 

 胸のブローチに、一気に6つの光が灯る。

 

 バックログカウンター:0→6

 

「この効果で1つ以上カウンターが置かれた時、さらにタイタニーニャの効果も全て引き継ぐ!そして、原初海域(オリジンブルー・ウェブ)の効果で、このターンにモンスターが移動した回数分のバックログカウンターをタイダヴェーラに置き、その数だけ、墓地からレベル4以下のオリジンブルーを特殊召喚!蘇れ、メガロガー!」

 

 メガロガーが浮上し、タイダヴェーラのリンク先で鳴き声を上げる。

 

原初海域(オリジンブルー・ウェブ)の効果で、プレシオルタを移動させ、タイダヴェーラのリンク先へ!」

「この布陣、まさか……」

「タイダヴェーラの効果発動!メガロガーをチューナーに変える!そして、私はレベル7シンクロモンスターのプレシオルタに、レベル3のメガロガーをチューニング!」

 

 プレシオルタとメガロガーに、タイダヴェーラから伸びた触手のようなコードが突き刺さり、その体をデータへと分解する。

 

「遍く命を包む神秘の煌き、シンクロ召喚!」

 

 データは重なり、一体のモンスターへと再構築される。

 

「現れろ、レベル10!原初海祈(オリジンブルー)グレート・デュアルリーフ!」

 

 現れたのは双頭の竜、長い首を伸ばすその額には、青いクリスタルが輝いている。

 

原初海祈(オリジンブルー)グレート・デュアルリーフ

シンクロ・効果モンスター

星10/水属性/サイバース族/攻 3300/守 2600

水属性チューナー+チューナー以外のSモンスター1体以上

このカード名の(2)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードがS召喚に成功した場合に発動できる。自分の「オリジンブルー」モンスター1体の上にバックログカウンターを3つ置く。

(2)自分のフィールドのバックログカウンター2つを取り除いて発動できる。お互いのフィールドのEXモンスターゾーン以外のカードを全て手札に戻す。この効果は相手ターンでも発動できる。

(3)自分の「オリジンブルー」モンスターが効果でフィールドを離れる場合、かわりに自分のフィールドのバックログカウンター1つを取り除くことができる。

 

「グレート・デュアルリーフがシンクロ召喚に成功した時、バックログカウンターを3つ置く」

 

 バックログカウンター:7→10

 

「そしてグレート・デュアルリーフの効果発動!バックログカウンター2つ取り除くことで、互いのEXモンスターゾーン以外のフィールドのカード全てを手札に戻す!」

 

 グレート・デュアルリーフがその二つの口を開けると、タイダヴェーラの胸のブローチから、青い光が二つ、それぞれの口へ流れ込む。

 

 

「原初へ帰れ!オリジナル・リベレーション!」

 

 咆哮する。

 その口から放たれた水の波動は、周囲の全てを吹き飛ばす。

 

「くっ、海晶乙女波動(マリンセス・ウェーブ)の効果で、私のモンスターは相手の効果を受けない」

「ですが、魔法カードは別!」

 

 アクア・アルゴノートに装備されていたリンクモンスター、そして裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)が手札へと戻される。

 

裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)がフィールドを離れた時、リンク先のモンスターを墓地へ送らなければならない。ですが、アローブ・スターの効果で、モンスターは守られます」

「でも、これでアクア・アルゴノートの攻撃力は元に戻る」

 

 アクア・アルゴノート:攻撃力3700→2300

 

「そして、グレート・デュアルリーフのさらなる効果、自分のオリジンブルーがフィールドを離れる時、かわりにバックログカウンター1つを取り除くことができる。これにより、自身の効果で手札に戻るはずだったグレート・デュアルリーフは場に残ります。さあバトルです!グレート・デュアルリーフで、アクア・アルゴノートを攻撃!」

 

 タイダヴェーラに置かれたバックログカウンターが7つ、これにより、グレート・デュアルリーフの現在の攻撃力は4700。

 攻撃力を大きく上回ったグレート・デュアルリーフは、アクア・アルゴノートを水流のレーザーで消し飛ばした。

 

 アクア:LP4000→2400

 

「タイダヴェーラの効果発動!墓地からサイバース族Sモンスター1体を特殊召喚する!蘇れ、プレシオルタ!」

 

 タイダヴェーラの歌声に呼ばれ、現れたプレシオルタがアクアに牙を向く。

 

「プレシオルタでダイレクトアタック!」

 

 ◆

 

 リンクセンスにより、美海の思いを受け取ったゴッドバードは、その表情からスッと怒りが消えた。

 

「……悪りぃな。美海」

 

 ゴッドバードは呟いて、ウィンディを見る。

 

「いけすかねぇが、お前は確かに、俺から生まれたAIだよ」

「なに?」

「そのねじ曲がった性格は俺そっくりだ」

 

 ゴッドバードと、人間と似ていると言われて、ウィンディは露骨に不機嫌そうな顔をする。

 

「僕は君みたいに、ビクビク怯えたりしないね」

「そうだな。俺は臆病だ。10年ぶりに会ったあいつらと、どう接していいか、どうやって信じればいいのか、そもそも俺はここにいていいのか、分からなかった」

 

 自分の掌を見つめる。

 

「けど、そんな俺に、言ってくれたんだ」

 

 ──── おかえりなさい、啓

 

 美海のかけてくれた言葉が、鳥籠に閉じこもっていた啓に、前に踏み出す勇気を与えてくれた。

 

「……ったく、俺も樹のこと、偉そうに言えねぇな」

「それで? 君はこの状況からどうする気?」

「決まってんだろ。お前をぶった押して先に進む!俺のターン!」

 

 右手でデッキに触れて、勢いよくカードを引く。

 ドローが一陣の風を引き起こし、戦場の空気を揺らす。

 

(あいつのフィールドにあるのは、バハムートボマーと嵐闘機流(ストームライダータービュランス)。俺のフィールドには、シークエンスコード1体のみ。伏せカードはない)

 

 押されてはいるが、まだ負けが決まった訳じゃない。

 

「いくぞ!俺は敵性機兵(エリミネーター)ショットキーを召喚!」

 

敵性機兵(エリミネーター)ショットキー

効果モンスター

星4/風属性/サイバース族/攻 1600/守 1000

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。手札から「エリミネーター」モンスター1体を特殊召喚する。

(2)相手ターンに、自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合、このカードを墓地から除外して発動できる。自分のデッキから「エリミネーション」罠カード1枚をセットする。

 

「その効果で、手札から敵性機兵(エリミネーター)ディメンターを特殊召喚」

 

敵性機兵(エリミネーター)ディメンター

効果モンスター

星4/風属性/サイバース族/攻 1500/守 1200

(1)このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「エリミネーション」魔法・罠カード1枚を手札に加える。

(2)相手ターンに、自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない、またはこのモンスターのみの場合、自分のフィールド・墓地のこのカードを除外して発動できる。除外されている「エリミネーション」魔法・罠カード1枚をセットする。

 

「デッキからエリミネーション魔法カードを手札に加える」

「僕は手札の嵐闘機(ストームライダー)モノケローンを捨てることで効果発動!相手がカードの効果でデッキからカードを手札に加えた時、デッキからストームライダーカード2枚を手札に加える」

 

 ウィンディはカードの効果を発動し、冷めた目でゴッドバードを見る。

 

「諦めなよ。君が僕に勝つなんてできっこない」

「諦めねぇよ。立ち塞がるどんな未来も、全部"貫いて"突き進む!来やがれ、未来を貫くサーキット!」

 

 風が吹き抜け、その道の先にアローヘッドが出現する。

 

「召喚条件はレベルが同じ風属性モンスター3体!俺はシークエンスコード、ショットキー、ディメンターの3体をリンクマーカーにセット!」

 

 3体のモンスターが風となってアローヘッドにリンクマーカーを描く。

 

「リンク召喚!リンク3、敵性機兵(エリミネーター)ローディング・クラッチ!」

 

 激しい駆動音を響かせて現れたのは、無数の歯車が組合わさった体に、金属の骨組みでできた首と翼を伸ばす機械の鳥だった。

 

「どうせエクシーズ素材にするのに、わざわざリンク3モンスターを出すなんて」

「よく分かってるじゃねぇか」

「まあ無駄だけどね」

 

 ウィンディは勝ち誇ったように下卑た笑みを浮かべる。

 

「僕は嵐闘機流(ストームライダータービュランス)の効果発動!僕のフィールドがストームライダーモンスター1体のみの場合、相手がモンスターの特殊召喚に成功した時、その効果を次の相手のスタンバイフェイズまで無効にする!」

 

 突風が吹き、風が編むように絡まってローディング・クラッチの歯車が軋むような音を上げる。

 

「アハハハハ!効果が無効になれば、レベルを持たないリンクモンスターはエクシーズ素材にできない!これで────」

「何勘違いしてる?」

 

 ゴッドバードが不敵に笑う。

 

「こいつはまだ、動くぞ?」

 

 ローディング・クラッチの止まりかけた歯車が加速して、巻き付く風を振りほどく。

 

「なっ!?」

「ローディング・クラッチの効果を、嵐闘機流(ストームライダータービュランス)の効果にチェーンして発動!」

 

敵性機兵(エリミネーター)ローディング·クラッチ

リンク·効果モンスター

風属性/サイバース族/攻 2100/LINK3

風属性モンスターを含む同じレベルのモンスター3体

【リンクマーカー:右/左/下】

(1)自分・相手のターンに発動できる。このカードのリンク素材となったモンスターのレベルの数と同じランクのXモンスター1体をEXデッキからこのカードの上に重ねてX召喚扱いで特殊召喚する。

(2)このカードまたはこのカードをX素材に持つXモンスターを素材としてX召喚された「エリミネーター」Xモンスターは以下の効果を得る。

●このカードがX召喚に成功した場合に発動できる。自分の墓地·EXデッキからリンクモンスター1体をこのカードの下に重ねてX素材とする。

●このカードがフィールドに表側表示で存在する限り1度、手札から「エリミネーター」カード1枚を捨て、相手フィールドのカード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。この効果は相手のターンでも発動できる。

 

「リンク素材となったモンスターのレベルの数と同じランクのエクシーズモンスター1体を、このカードの上に重ねてエクシーズ召喚扱いで特殊召喚する!俺はローディング・クラッチで、オーバーレイネットワークを構築!」

 

 ローディング・クラッチが空に現れた赤と青のエックス字のパネルに飛び込む。

 

「出でよランク4!敵性機兵(エリミネーター)コンパイルブラスター!」

 

 パネルからレールガンを接合された機械仕掛けの竜が現れた。

 

「ローディング・クラッチの効果発動!このカードを素材としてエクシーズ召喚に成功した時、EXデッキ、または墓地からリンクモンスター1体をオーバーレイユニットにする!俺は墓地のローディング・チャージャーをオーバーレイユニットに!」

 

 地面から飛び出した光が、コンパイル・ブラスターの周りを巡る。

 

「コンパイル・ブラスターは、オーバーレイユニットとなったリンクモンスターのリンクマーカーの合計×300アップする」

 

 コンパイル・ブラスター:攻撃力2300→3800

 

「くっ……」

「まだ終わりじゃないぜ。俺はさっき手札に加えたこいつを使う」

 

 ゴッドバードは手札から1枚のカードを見せる。

 

「俺はRUM-オーバレイ・エリミネーションを発動!こいつは自分のエクシーズモンスター1体を、そのオーバーレイユニットのリンクモンスターのリンクマーカーの数までランクの高いエリミネーターにランクアップさせる!」

 

 今、コンパイル・ブラスターにはリンク3のローディング・クラッチと、リンク2のローディング・チャージャーがオーバーレイユニットになっている。すなわちランクが5つ高いエクシーズモンスターを呼べる。

 

「俺はコンパイル・ブラスターでオーバーレイネットワークを再構築!」

 

 コンパイル・ブラスターの体が分解され、エックス字のパネルに吸い込まれる。

 

「電子の大河、渦を巻く。過多なる情報は、惰弱なる世界を貫く牙となる!エクシーズ召喚!」

 

 空から緑の風が吹き、地上に竜巻を巻き起こす。

 

「現れろ、ランク9!敵性機兵(エリミネーター)ファイナライズ・ブレイカー!」

 

 風の中から、軋む機械の翼を広げ、一体のドラゴンが現れた。

 

敵性機兵ファイナライズ・ブレイカー

エクシーズ·効果モンスター

ランク9/風属性/サイバース族/攻 3300/守 3000

レベル9の風属性モンスター×2体以上

(1)このカードの攻撃力・守備力はこのカードがX素材として持つリンクモンスターのリンクマーカーの数×500アップする。

(2)このカードのX素材1つを取り除いて発動できる。相手モンスター1体のコントロールを得る。そのモンスターは次のエンドフェイズに除外される。この効果を発動するためにX素材のリンクモンスターを取り除いていれば、自分のEXデッキから「エリミネーター」Xモンスター1体をそのモンスターの上に重ねてX召喚扱いで特殊召喚する。

(3)自分フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターをこのカードの下に重ねてX素材とする(Xモンスターなら、その下にあるカードもこのカードの下に重ねる)。この効果を発動したターン、このカードは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃できる。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

「ローディング・クラッチの効果!こいつをオーバーレイユニットに持つエクシーズモンスターを素材としてエクシーズ召喚した時、そいつに墓地かエクストラデッキからリンクモンスター1体を選んでオーバーレイユニットにする!エクストラデッキのローディング・バスターのオーバーレイユニットにする!」

 

 新たなオーバーレイユニットを得たことで、ファイナライズ・ブレイカーの攻撃力は6800まで上昇する。

 

「ファイナライズ・ブレイカーの効果発動!オーバーレイユニットを1つ使うことで、相手モンスター1体のコントロールを得る!俺は、お前のバハムートボマーをもらう!」

 

 ファイナライズ・ブレイカーの翼から光の粉が舞い、バハムートボマーにまとわりつく。

 すると、バハムートボマーがゆっくりと移動し、ゴッドバードの前に立ち、ウィンディの方を向く。

 

「バトルだ!ファイナライズ・ブレイカーでダイレクトアタック!」

「冗談じゃない!僕が人間なんかに負けるなんて!僕は手札のガルダイバーの効果発動!」

 

嵐闘機ガルダイバー

効果モンスター

星1/風属性/サイバース族/攻 0/守 0

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分が戦闘ダメージを受けるダメージ計算時に、このカードを手札から墓地へ送って発動できる。その戦闘で自分が受ける戦闘ダメージを半分にする。ダメージステップ終了後、バトルフェイズを終了させる。

(2)自分のフィールドにフィールド魔法以外のカードがない場合、墓地のこのカードを除外して発動できる。墓地から「ストームライダー」リンクモンスター1体を特殊召喚する。この効果の発動に対して、相手は魔法&罠カードを発動できない。

 

「このカードを手札から墓地へ送り、戦闘ダメージを半分にする!」

 

 現れた輪のような翼を持つ鳥型の飛行船が、ファイナライズ・ブレイカーの放った竜巻を盾となって防いだ。

 

 ウィンディ:LP4000→600

 

「そして!お前のバトルフェイズは終了だ!」

「チッ、俺はファイナライズ・ブレイカーのもう1つの効果で、バハムートボマーをこのカードのオーバーレイユニットにする。俺はこれでターンエンド」

 

ターン4

 

「相手ターン開始時、俺は墓地のシークエンスコード、ショットキー、ラントリクターの3体の効果を発動。デッキからエリミネーションカードをセット。さらに墓地のエリミネーション・インターセプトの効果発動」

 

エリミネーション・インターセプト

カウンター罠

(1)自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合に発動できる。相手モンスター1体の特殊召喚を無効にして破壊する。

(2)墓地のこのカードと「エリミネーション」魔法・罠カード1枚を除外して発動できる。除外されている「エリミネーター」モンスター1体を墓地に戻す。

 

「このカードと、墓地のエリミネーション魔法・罠カードを除外することで、除外されてるエリミネーター1体を墓地に戻す。俺はショットキーを墓地へ。そしてディメンターの効果発動。こいつは自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない相手ターン中、墓地から除外することで、除外されているエリミネーション罠カードをセットすることができる。今除外したインターセプトをセットだ」

 

 ゴッドバードのフィールドに4枚の伏せカードが並ぶ。

 ウィンディのどのような手を撃とうが、それを無効にする万全の構えだ。

 

「自分のフィールドにフィールド魔法以外のカードがない時、墓地のガルダイバーを除外することで、墓地からストームライダーリンクモンスター1体を特殊召喚する!ロックバスターを特殊召喚!この効果の発動に対して、相手は魔法・罠カードを発動できない!」

 

 双頭の鳥を模した飛行船が浮上する。

 

嵐闘機(ストームライダー)ガーゴイリードを召喚」

 

嵐闘機(ストームライダー)ガーゴイリード

効果モンスター

星2/風属性/サイバース族/攻 600/守 800

このカード名の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれかしか使用できない。

(1)相手のフィールド魔法が発動した場合、または相手のフィールド魔法が効果を発動した場合、このカードを手札から捨てて発動できる。デッキ・墓地から「嵐闘機流」1枚を発動する。その後、相手のフィールドゾーンのカード1枚を選んで墓地へ送る。

(2)自分フィールドに「ストームライダー」カードが存在し、自分の魔法&罠ゾーンにカードがない場合、墓地のこのカードを除外して発動できる。自分のデッキ・墓地から「ストームライダー」フィールド魔法カード1枚を手札に加えるか、発動する。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

「ロックバスターのリンク先にモンスターが特殊召喚された時、相手の魔法&罠ゾーンのカード2枚を破壊する!この効果に対して相手は魔法(マジック)(トラップ)カードを発動できない!」

 

 ロックバスターの口が開き、風の弾丸が放たれる。

 着弾点で竜巻を巻き起こし、セットされたエリミネーション・インターセプトと、エリミネーション・ジャミングを吹き飛ばす。

 

「くっ……」

「墓地のトゥビエルーフの効果発動!」

 

嵐闘機(ストームライダー)トゥビエルーフ

効果モンスター

星1/風属性/サイバース族/攻 0/守 0

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分の魔法&罠ゾーンにカードが存在せず、自分フィールドが「ストームライダー」リンクモンスターが存在し、相手がモンスター効果を発動した場合、手札・フィールドのこのカードを墓地へ送って発動できる。その効果を無効にする。

(2)このカードが手札・墓地に存在し、自分の魔法&罠ゾーンにカードが存在しない場合に発動できる。このカードを特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたこのカードはフィールドを離れた場合、除外される。

 

「自分の魔法(マジック)&(トラップ)ゾーンにカードがない時、墓地から特殊召喚できる!」

 

 白いU字型の翼を持つ鳥を象った飛行船がガーゴイリードの隣に浮上する。

 

「さぁ、ここからだよ」

 

 すると、どこからか轟音が響く。

 

「なんだ!?」

 

 空気の流れが変わり、周囲のデータが渦を巻いて、巨大な竜巻となってウィンディの方に近付いていく。

 

「データストーム!? テメェまさか!」

「僕はデータストームを一番上手く使える!お前らの猿真似とは違う、本物を見せてやる!」

 

 データストームがウィンディを飲み込み、その中で彼は手を掲げる。

 

「自分のライフが1000以下の時、データストームの中からサイバース族モンスター1体をエクストラデッキに加える!スキル発動!ストームアクセス!」

 

 データストームがウィンディの手の中に収束し、その手元に1枚のカードが現れた。

 

「マスターデュエルでスキル、テメェ、それでもデュエリストか!」

「最後に勝った方が正義なんだ!現れろ、我が行く手に吹き荒れるサーキット!」

 

 再び風が起こり、その流れの先にアローヘッドが出現する。

 

「召喚条件は、リンクモンスターを含む風属性モンスター2体以上!」

 

 ロックバスター、ガーゴイリード、トゥビエルーフが隊列を組んでアローヘッドに飛び込む。

 

「リンク召喚!リンク4!嵐闘機旗艦(ストームライダーフラッグシップ)バハムートボマー(カスタム)!」

 

 アローヘッドより出撃したのは、改修されて武装を増設したバハムートボマーだ。

 

嵐闘機旗艦(ストームライダーフラッグシップ)バハムートボマー(カスタム)

リンク・効果モンスター

風属性/サイバース族/攻 3000/LINK 4

リンクモンスターを含む風属性モンスター2体以上

このカードの効果の発動に対して、相手はカードの効果を発動できない。

(1)このカードがリンク召喚に成功した場合に発動できる。次の自分のスタンバイフェイズまで、お互いは魔法・罠カードをセットできない。

(2)1ターンに1度、自分の魔法&罠ゾーンにカードがない場合に発動できる。相手のモンスターゾーンのモンスターを選んで永続魔法扱いで相手の魔法&罠ゾーンに置く。

(3)1ターンに1度、発動できる。相手の魔法&罠ゾーンのカードを全て破壊し、破壊したカードの数×500ダメージを相手に与える。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

「僕はバハムートボマー(カスタム)の効果発動!相手のモンスター1体を永続魔法扱いで、魔法&罠ゾーンに置く!」

「俺はカウンター罠……」

「バハムートボマー(カスタム)の効果に対して相手はカードの効果を発動できない!やれ!ファイナライズ・ブレイカーを消し飛ばせ!」

 

 バハムートボマー(カスタム)の口が開き、そこから嘶きのような音がしたかと思うと、ファイナライズ・ブレイカーは後方に吹き飛ばされ、その体は1枚のカードに変わる。

 

「そして!バハムートボマー(カスタム)の更なる効果!相手の魔法&罠ゾーンのカードを全て破壊し、破壊したカード1枚に付き、500ポイントのダメージを与える!」

 

 現在、ゴッドバードのフィールドには先程永続魔法に変えられたファイナライズ・ブレイカーを含めて、3枚のカードがある。

 

 ダメージは1500。そして彼のライフもちょうど1500。

 

「終わりだ!やれ!バハムートボマー(カスタム)!」

 

 バハムートボマー(カスタム)に搭載された無数の砲台が、一斉にゴッドバードの方を向く。

 砲門が火を吹き、砲撃の雨がゴッドバードを襲う。

 

「アハハハハ!どうだ!やっぱり僕は君達より……え?」

 

 砲撃が止み、その煙の中から現れたゴッドバードは無傷、彼の魔法&罠ゾーンのカードも無事だ。

 

「墓地のプロテクラフトの効果だ」

 

敵性機兵(エリミネーター)プロテクラフト

効果モンスター

星4/風属性/サイバース族/攻 1600/守 1200

(1)モンスターの攻撃宣言時、自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合に発動できる。このカードを手札から攻撃表示で特殊召喚する。その後、自分のEXモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合、手札から「エリミネーター」モンスター1体までを特殊召喚するか、墓地へ送る。

(2)自分の魔法&罠ゾーンのカードが破壊される場合、かわりに自分のフィールド・墓地のこのカードを除外できる。

 

「こいつは俺の魔法&罠ゾーンのカードの身代わりになれる。この効果はチェーンブロックをつくらねぇ。バハムートボマーの効果にも有効だ」

「くっ……」

「俺はさらに、セットされた罠カード、エリミネーション・パルスを発動!」

 

エリミネーション・パルス

通常罠

(1)自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合に発動できる。相手フィールドの表側表示モンスター1体を選び、選んだモンスターはこのターン、効果を発動できず、攻撃できず、リンク素材にできない。自分のEXモンスターゾーンに「エリミネーター」がいれば、この効果で2体のモンスターを選ぶことができる。

(2)墓地のこのカードと「エリミネーション」魔法・罠カード1枚を除外して発動できる。除外されている「エリミネーター」モンスター1体を墓地に戻す。

 

「このターン、相手のモンスター1体の攻撃と効果の発動を封じる」

「くっ……僕はこれでターンエンド」

「ならエンドフェイズに、墓地のエリミネーション・インターセプトの効果を再び発動。このカードとジャミングを除外して、除外されているプロテクラフトを墓地へ戻す」

 

ターン5

 

「バハムートボマー(カスタム)の効果発動!相手の魔法&罠ゾーンのカードを破壊!」

「プロテクラフトで破壊を無効!」

 

 ターン開始時の猛攻をどうにか退け、ゴッドバードのターン。

 

「俺はセットされた魔法カード、バックアップ・エリミネーションを発動!」

 

RUM-バックアップ・エリミネーション

通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1)墓地の「エリミネーター」Xモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚し、そのモンスターよりランクの1つ高い「エリミネーター」Xモンスター1体をそのモンスターの上に重ねてX召喚扱いで特殊召喚し、墓地の「エリミネーター」リンクモンスターをそのモンスターの下に重ねてX素材とする。この効果発動後、ターン終了時まで、自分はメインモンスターゾーンにモンスターを特殊召喚できない。

 

「墓地のコンパイル・ブラスターを特殊召喚!そのままランクアップ!現れろ、敵性機兵(エリミネーター)エクス・ランサムウェア!」

 

敵性機兵(エリミネーター)エクス·ランサムウェア

エクシーズ·効果モンスター

ランク5/風属性/サイバース族/攻 2500/守 2000

風属性·レベル5·効果モンスター×2体以上

このカード名の(1)(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードがX召喚に成功した場合、このカードがX素材として持つリンクモンスター1枚のLINKの数までお互いの使用していないメインモンスターゾーンを指定して発動できる。指定したゾーンは次の相手のターンのエンドフェイズまで使用できない。

(2)このカードの攻撃力·守備力はこのカードがX素材として持つリンクモンスターのリンクマーカーの数×300アップする。

(3)自分・相手のエンドフェイズにこのカードのX素材2つ、またはX素材のLINK2以上のリンクモンスター1枚を取り除いて発動できる。お互いのメインモンスターゾーンのモンスターを全て破壊する。

 

「そして、墓地からローディング・クラッチをオーバーレイユニットにする」

「僕は嵐闘機流(ストームライダータービュランス)の効果発動!」

 

嵐闘機流(ストームライダータービュランス)

フィールド魔法

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分フィールドの「ストームライダー」モンスターの攻撃力は300アップする。

(2)自分フィールドに「ストームライダー」モンスター1体のみが存在し、相手がモンスターの特殊召喚に成功した場合に発動できる。そのモンスターの効果は次の相手のスタンバイフェイズまで無効化される。この効果の発動に対して、相手はカードの効果を発動できない。

(3)フィールドゾーンのこのカードが破壊された場合に発動できる。自分のデッキ・墓地から「嵐闘機爆流」1枚を発動する。

 

「エクス・ランサムウェアの効果を無効にする!」

 

 風がエクス・ランサムウェアにまとわりつき、その力を削ぐ。

 

「僕はさらに、墓地のガーゴイリードの効果発動!このカードを墓地から除外することで、デッキからストームライダーフィールド魔法を発動する!」

 

 既に発動されていた嵐闘機流(ストームライダータービュランス)が割れて、新たなフィールド魔法が展開される。

 

「出でよ、嵐闘機爆流(ストームライダーブラスト)!」

 

嵐闘機爆流(ストームライダーブラスト)

フィールド魔法

このカードは自分のフィールドゾーン・墓地に「嵐闘機流」が存在する場合のみ発動できる。

(1)自分の「ストームライダー」モンスターの攻撃力はフィールドゾーン・墓地のフィールド魔法の数×400アップする。

(2)自分フィールドの「ストームライダー」リンクモンスター1体のみが存在する限り、そのリンクモンスターはフィールド以外で発動した相手の効果を受けず、そのリンクモンスターのリンクマーカーの数以下の相手のリンクモンスターの効は無効化される。

(3)自分の「ストームライダー」リンクモンスターが存在する限り、攻撃可能な相手のモンスターはそのモンスターを攻撃しなければならない。

 

「これでバハムートボマー(カスタム)はお前がフィールド以外で発動した効果を受けない!さらにバハムートボマーのリンクマーカーの数以下の相手のリンクモンスターの効果は無効化される!さらに、フィールドゾーンと墓地のフィールド魔法の数だけ、僕のストームライダーの攻撃力をアップさせる!」

 

 バハムートボマー(カスタム):攻撃力3000→3800

 

「そして、お前は可能な限り僕のストームライダーを攻撃しなければならない!さぁ、とっととそいつで攻撃して自滅しろ!」

「ああ。攻撃してやるよ。だが、その前に、俺はRUM-超重層(ハイ・エリミネーション)を発動!俺のエクス・ランサムウェアをさらにランクアップさせる!」

 

 エクス・ランサムウェアの体が分解され、再構成される。

 

「ランクアップエクシーズチェンジ!現れろ、ランク6!敵性機兵(エリミネーター)バリアブルウィング!」

 

 現れたのは、緑に輝く三対の翼を広げる機械仕掛けのドラゴンだった

 

敵性機兵(エリミネーター)バリアブルウィング

エクシーズ・効果モンスター

ランク6/風属性/サイバース族/攻 2700/守 2300

このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードの攻撃力・守備力はこのカードがX素材に持つリンクモンスターのリンクマーカーの数×300アップする。

(2)自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合、自分の魔法・罠ゾーンのセットされたカードは相手の効果で破壊されない。

(3)このカードのX素材1つを取り除いて発動できる。このターン、このカードは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃できる。X素材のリンクモンスターを取り除いて効果を発動していた場合、デッキから「エリミネーション」魔法・罠カード1枚を手札に加えるか、セットする。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

「ランクアップしたことで、タービュランスの効果で受けていた効果無効はリセットされる。そして、オーバーレイユニットのローディング・クラッチの効果で墓地のローディング・チャージャーをオーバーレイユニットにする。これでバリアブルウィングの攻撃力はさらにアップする」

 

 バリアブルウィング:攻撃力2700→4200

 

「バトルだ!バリアブルウィングで、バハムートボマー(カスタム)を攻撃!」

 

 バリアブルウィングの翼が光をまとい、七色の光線が照射される。

 バハムートボマー(カスタム)の体は、高温の光に当てられ、溶けて消える。

 

 ウィンディ:LP600→200

 

「バリアブルウィングの効果発動!オーバーレイユニットを1つ使うことで、このターン、こいつは2回攻撃できる!(しま)いだ。ダイレクトアタック!」

 

 ◆

 

 デュエルが終了した後、ゴッドバードは倒れたウィンディに手を差し伸べた。

 

「何の真似?」

「憎しみだけじゃ変わらない」

 

 それは美海がアクアに対してぶつけた思いだった。

 

「お前と俺は似てる。とことん気は合わねぇが、ネジ曲がった性根はそっくりだ」

「ふんっ、人間と似てるなんて言われても不快なだけだ」

「ああ。けど嫌な奴を全員排除していったら、そこに残るのはテメェだけだ。だからさ」

 

 しゃがんでゴッドバードはウィンディの手を掴み、無理やり引っ張って起き上がらせる。

 

「分かり合えなくてもいい。ただ、そいつがそこにいる、それだけは認められるようになろうぜ。お互いな」

 

 ゴッドバードは笑いかけると、ウィンディは訳がわからないという顔をしながらも、不思議と彼の手を払ったり、拒絶したりはしなかった。

 

「じゃあデュエルには勝ったんだし、俺は先に進ませて─────」

 

 そう立ち上がったその時、ウィンディが突然苦しみ出した。

 

「がぁぁぁっ!」

「お、おい!どうした!」

 

 ウィンディは自身の喉を押さえて、白目を向き、その場で踊るように暴れまわる。

 

「何がどうなって……」

 

 ゴッドバードは手元にキーボードとウィンドウを出現させ、ウィンディの状態を確認する。

 

「なんだこれ……内側から崩壊してる?」

 

 そうこうしてる間に、ウィンディの体に目に見えて異常が起こる。

 

 彼の体に謎の黒い模様が無数に浮かび上がり、それらが光り、まるで焼けるようにその体を壊していく。

 

「タ、スケ……テ」

「くそっ!ちょっと待ってろ!」

 

 ゴッドバードがキーボードを操作して、ウィンディに発生した異常を取り除こうとする。

 

「なんだよこれ……自爆プログラムか? こいつを構成するコードに初めから組み込まれてる。だったら、コードの実行自体を強制終了させて……」

 

 だが、それを行おうとした瞬間、画面に表示されたのはエラーメッセージ。

 

「くそっ!」

「ア……ア……」

「ウィンディ!!」

 

 叫ぶ声も虚しく、ウィンディは消滅した。



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第42話:Will entrust this tears to you

 美海は目の前で消滅したアクアの姿に絶句していた。

 

「どうして……」

 

 胸の痛み、喪失感、自らの半身を失ったかのような感覚が美海に襲い掛かる。

 

「殺した……」

 

 ──── 私が殺した。

 

「うっ……」

 

 直後にくる罪悪感。

 口元を押さえて、吐き気と涙を堪える。

 

 ────私が殺した私ガ殺した私ガ殺シタわたしガ殺シタワタシが殺シタワタシガコロシタワタシガコロシタ

 

 その時、彼女のデュエルディスクに着信音がする。

 

 それを聞いて、ほんのわずかに冷静さを取り戻した美海は通話に出た。

 

『よかった繋がったか』

「啓……アクアが!」

『やっぱそっちもか』

「え?」

 

 その言葉の意味を、一聞では理解できなかった。

 

『俺の方でも、ウィンディがデュエルに負けた途端に消滅した』

「そんな!どうして!?」

『落ち着け!』

 

 またしても取り乱した彼女を、ゴッドバードは一喝する。

 

『消える直前だが、あいつのデータ構成を見た。そん中には自爆プログラムみたいなものが仕込まれていた』

「自爆……プログラム?」

 

 以前にも、草薙は同じイグニスであるAiを解析したことがあったが、少なくとも彼はそんなものを見つけていない。

 

『イグニスの構成プログラムの一部として、自然な形で組み込まれていた。さながらアポトーシス、細胞の自殺プログラムみてぇにな。あんなもん、実行中じゃなきゃ誰も気付かねぇ』

 

 ゴッドバードはあくまでも冷静に状況を分析する。

 

『しかし……そういや、あいつらはみんな、最初に現れた時は自分ではデュエルしなかったよな?』

 

 ゴッドバードの言う通り、ウィンディ、アクア、アースはそのいずれも、ビットとブートという配下のAIにデュエルをやらせていた。

 

『自爆プログラムの起動条件がデュエルに負けることだとしたら……』

「そういえば、アースは……」

 

 ────私はライトニングより、直接デュエルするなと言われている

 

『そういや言ってたな。だとすると、少なくともライトニングはこの事を知っていた?』

「すぐにみんなを止めないと!」

『だから落ち着けって!今は衛星兵器を止めることが最優先だ!他の奴に余計な情報を与えて、デュエルに集中できなくなったら……』

「啓はなんとも思わなかったんですか!?」

 

 涙を流しながら、美海はゴッドバードに訴える。

 

「私達は、彼らを……この手で……」

『……俺だって、なんとも思わなかった訳じゃない』

「……ごめんなさい。取り乱してしまって」

 

 自分と同じようにオリジンを手にかけたのだから、きっと同じ感覚を味わっているはずだと、美海は思い至る。

 啓はAi達とも付き合いは浅いから、美海ほどのダメージはなかったかもしれないが、それでも何も感じなかったはずはない。

 

『それに、まだプログラムの起動条件がデュエルの敗北だと決まった訳じゃない。今は……』

『俺は反対だ』

 

 すると、グループ通話の中に、いつの間にかプレイメーカーも入っていた。

 

『プレイメーカー……どういう意味だ?』

『根拠はない。だが、このまま事態が進展するのは不味い気がする』

『根拠なしって、お前な……』

『そうだ。状況的には多分お前の意見が正しい。だが、引っ掛かるんだ。何か取り返しのつかないことをしているような』

「遊作……」

『あーもう分かったよ!こういう時に、お前の考えが外れたことなんてないからな。じゃあソウルバーナーとブルーエンジェルに連絡だ』

「私、葵様に連絡します」

『ソウルバーナーには俺からかける。じゃあ切るぞ』

 

 通話は切って、各々、仲間達に連絡を取る。

 だが、時既に遅し、状況は取り返しのつかない局面まで進展していた。

 

 ◆

 

 数十分前、ソウルバーナーはアースと遭遇していた。

 

「君が我々の相手か」

 

 不霊夢は土人形の肩に立つアースを見て言う。

 

「では、早速始めよう」

 

 アースと土人形がデュエルディスクを構えたその時、ソウルバーナーの来た通路から誰かの足音がした。

 

「お前は!?」

「やれやれ、こんなところでまであなたと会うなんて」

 

 振り替えると、そこにはスペクターの姿があった。

 

「……なるほど、私のオリジンか」

「えぇ、不本意ながら」

 

 スペクターはソウルバーナーを押し退けて、アースの前に立ち、デュエルディスクを構える。

 

「あなたは先へ行きなさい」

「いいのか?」

「我々の目的は元より、イグニスの殲滅。別にあなた達に手を貸したわけではありませんよ」

「……分かった。任せたぞ。樹!」

 

 スペクターは返事はせずに、走り去るソウルバーナーを見送った。

 

「さあ始めましょう」

 

「「デュエル!」」

 

ターン1 アース

 

「私は手札のGゴーレム・ロックハンマーの効果発動!手札1枚を捨てることで、このカードのレベルを2つ下げる。そして、下級モンスターとなったロックハンマーを通常召喚」

 

 尖った額を持つ岩の巨人が出現した。

 

「ロックハンマーの効果発動!このカードをリリースし、Gゴーレムトークン3体を特殊召喚!」

 

 ロックハンマーの体が砕け散り、円柱形の石の破片が三つ、フィールドに残された。

 

「現れろ、大地に轟くサーキット!私はGゴーレムトークン2体をリンクマーカーにセット!リンク召喚!Gゴーレム・スタバン・メンヒル!」

 

 アローヘッドより、ひび割れた黒い石板が出現した。

 

「さらに残りのGゴーレムトークンとスタバン・メンヒルでリンク召喚!」

 

 再び地面にアローヘッドが現れ、二体のGゴーレムが吸い込まれる。

 

「リンク召喚!リンク2、Gゴーレム・クリスタルハート!」

 

 アローヘッドより浮上したのは、青いハート型の水晶だった。

 

「クリスタルハートの効果発動!墓地から地属性リンクモンスター1体を特殊召喚!スタバン・メンヒルを特殊召喚!」

 

 クリスタルハートが輝くと、地面を突き破って黒い石板が浮上する。

 

「その後、クリスタルハートにGGカウンターを置く。スタバン・メンヒルが墓地から特殊召喚に成功した時、墓地から通常召喚可能な地属性モンスターを特殊召喚する!蘇れ、ロックハンマー!」

 

 スタバン・メンヒルの隣に、ロックハンマーが復活する。

 

「さらに墓地のGゴーレム・オーアローの効果発動」

 

Gゴーレム・オーアロー

効果モンスター

星2/地属性/サイバース族/攻 800/守 600

(1)自分フィールドにモンスターが存在しない、または「Gゴーレム」モンスターのみの場合、このカードは手札から特殊召喚できる。

(2)このカードを墓地から除外して発動できる。デッキから「Gゴーレム」魔法・罠カード、またはリンク魔法1枚をセットする。

 

「このカードを墓地から除外することで、デッキからリンク魔法(マジック)1枚をセット。そして発動!」

 

 伏せられたカードが開く。

 

「リンク魔法(マジック)裁きの矢(ジャッジメントアローズ)!」

 

裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)

リンク魔法

【リンクマーカー:左上/上/右上】

リンク魔法は自分のリンクモンスターのリンク先となる魔法&罠ゾーンにのみ発動できる。

(1)「裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)」は自分フィールドに表側表示で1枚しか存在できない。

(2)このカードのリンク先のリンクモンスターが戦闘を行う場合に発動できる。そのモンスターの攻撃力はダメージ計算時のみ倍になる。

(3)このカードがフィールドを離れた場合に発動する。このカードのリンク先のモンスターは墓地へ送られる。

 

「来ましたね。リンク魔法(マジック)

「さらに現れろ、大地に轟くサーキット!」

 

 三度地面に現れたアローヘッドに、スタバン・メンヒルとロックハンマーが沈んでいく。

 

「リンク召喚!リンク3、Gゴーレム・インヴァリッド・ドルメン!」

 

 現れたのは、岩によって構成された二つ浮遊する剛腕を従える、岩石の巨神だった。

 

「クリスタルハートと相互リンク状態となったことで、インヴァリッド・ドルメンの攻撃力は、GGカウンターの数×600アップする」

 

 インヴァリッド・ドルメン:攻撃力2800→3400

 

「私はカードを2枚伏せてターンエンド」

 

ターン2 スペクター

 

聖種の地霊(サンシード・ゲニウスロキ)を召喚」

 

 地面から杯が生え、そこから細い花びらを伸ばして種を実らせる。

 

「現れろ、私達の未来(みち)を照らす未来回路!」

 

 地面に現れたアローヘッドに、ゲニウスロキが沈んでいく。

 

「リンク召喚!」

 

 アローヘッドから太い蔓が伸び、絡み合い、大木へと変化する。

 

「リンク1、聖天樹の幼精(サンアヴァロン・ドリュアス)!」

 

 現れたのは、幹の中央が不自然に膨らみ、顔のようになった木だった。

 

「リンク召喚時、デッキから聖蔓の播種(サンヴァイン・ソウィング)を手札に加える。そして発動!デッキから聖種の天双芽(サンシード・ツイン)を特殊召喚!」

 

 地面から二本の蔓が伸び、それが螺旋に絡まると、その中にピンクと青の双子の妖精が生まれた。

 

「その後、私は1000のダメージを受ける。ツインの効果で、墓地からゲニウスロキを特殊召喚。そしてダメージを受けたことで、ドリュアスの効果発動!エクストラデッキから、聖蔓の番騎士(サンヴァイン・ハーキュリー)を特殊召喚!」

 

 ドリュアスの枝になった種が膨らみ、巨大化した種が自重で落ちる。

 すると、種が割れて、中から木の鎧をまとった重騎士が姿を現した。

 

聖蔓の番騎士(サンヴァイン・ハーキュリー)

リンク・効果モンスター

地属性/植物族/攻 1000/LINK 1

【リンクマーカー:右】

植物族通常モンスター1体

(1)自分フィールドの「サンアバロン」リンクモンスターが効果でフィールドから離れた場合に発動する。このカードを破壊する。

(2)このカードの特殊召喚に成功した場合、自分フィールドの「サンアバロン」リンクモンスター1体を対象として発動できる。このカードの攻撃力を、対象のモンスターのリンクマーカーの数×500アップする。その後、このカードの攻撃力以下の相手フィールドのモンスター1体を選んで破壊する。

(3)自分フィールドの「サンアバロン」リンクモンスターが、戦闘・相手の効果でフィールドを離れる場合、かわりにフィールド・墓地のこのカードを除外できる。

 

「効果で攻撃力を500アップ。そしてこのカードの攻撃力以下の相手モンスターを破壊する」

「残念だが、私のクリスタルハートは、相互リンク状態のインヴァリッド・ドルメンの効果で、フィールドで発動した相手の効果を受けない!」

「ならば現れろ、私達の未来《みち》を照らす未来回路!」

 

 二体のサンシードが、ドリュアスの根本に現れたのはアローヘッドに吸い込まれ、養分となってドリュアスを成長させる。

 

「出でよリンク3!聖天樹の大精霊(サンアバロン・ドリュアノーム)!」

 

 幹が割れて、中から花に包まれた女性の上半身が生えてきた。

 

「そこまでだ。速攻魔法!重力転壊(グラビティ・プレスト)を発動!」

 

重力転壊(グラビティ・プレスト)

速攻魔法

このカードはルール上、「Gゴーレム」カードとしても扱う。

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分フィールドのリンクモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを破壊し、デッキから地属性のサイバース族モンスター1体を守備表示で特殊召喚する。この効果で特殊召喚された「Gゴーレム」モンスター以外のモンスターの効果は無効化される。

(2)このカードを墓地から除外し、自分の墓地の通常召喚可能な地属性モンスター1体を対象として発動できる。そのカードを手札に加える。この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できない。

 

「私のリンクモンスターを破壊することで、デッキから地属性のサイバース族モンスター1体を特殊召喚する!出でよ、Gゴーレム・ロックハンマー」

 

 インヴァリッド・ドルメンが爆散し、中からロックハンマーが現れる。

 

「そして、破壊されたインヴァリッド・ドルメンの効果発動!」

 

 飛び散ったインヴァリッド・ドルメンの破片が紫の光を帯びて、まるで狙いを定めるように一斉にその向きを変え始める。

 

「相互リンク状態のこのカードが破壊された時、相手フィールドの表側表示カード全ての効果を無効にする」

 

 岩の破片が降り注ぎ、スペクターのモンスター達に張り付く。

 

「さらに(トラップ)カード!零重力(ラヴ・グラビティ)を発動!」

 

零重力(ラヴ・グラビティ)

通常罠

このカードはルール上「Gゴーレム」カードとして扱い、自分フィールドに「クリスタルハート」モンスターが存在する場合、セットされたターンでも発動できる。

(1)自分の墓地のサイバース族リンクモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。この効果で自分フィールドのリンクモンスターと相互リンク状態となるようにして特殊召喚された場合、そのモンスターの攻撃力は1000アップする。

 

「墓地からインヴァリッド・ドルメンを特殊召喚」

 

 地面が揺れて、周囲の岩の破片からインヴァリッド・ドルメンの体が再構築される。

 

「この効果で相互リンク状態となるように特殊召喚された時、そのモンスターの攻撃力は1000アップする」

 

 インヴァリッド・ドルメン:攻撃力3400→4400

 

「そして、インヴァリッド・ドルメンの効果!相手は可能ならこのカードを攻撃しなければならない」

 

 現在、スペクターのフィールドにあるのは、攻撃力0のドリュアノームと、攻撃力1500の聖蔓の番騎士(サンヴァイン・ハーキュリー)

 インヴァリッド・ドルメンは裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)のリンク先にあるので、戦闘時には攻撃力はさらに倍化する。このままでは、スペクターは敗北する。

 

「さぁ、何もないなら早く攻撃しろ」

「……リンク魔法(マジック)

「?」

 

 すると、スペクターが突然笑みを浮かべた。

 

「初めてあなた達のそれを見た時、私は衝撃を受けました」

 

 スペクターが最初にそれを目撃したのは、リボルバーの敗北。主を打ち負かしたライトニングに対して怒りを覚えるのと同時に、彼はこう思った。

 

 あの力が欲しい。

 

「私から生まれたイグニスだけあって、あなたのデッキは私ととてもよく似ている。そんなあなたのデッキで、それほど力を発揮するなら、私のデッキにもさぞ相性がいいでしょう」

「……何が言いたい?」

「ふっ……現れろ、私達の未来(みち)を照らす未来回路!リンク召喚!聖天樹の精霊(サンアバロン・ドリュアデス)!」

 

 ドリュアノームとハーキュリーを素材に、リンク2のサンアバロンを出し直した。

 

「そして私は永続魔法、聖蔓の略奪(サンヴァイン・プランダー)を発動!」

 

聖蔓の略奪(サンヴァイン・プランダー)

永続魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1)相手の魔法&罠ゾーンの表側表示の魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。そのカードのコントロールを得る。その後、自分は800のダメージを受ける。このカードがフィールドから離れた場合、対象のカードのコントロールは元々の持ち主に戻る。対象のカードがフィールドを離れた場合、このカードを破壊する。

(2)このカード及びこのカードの(1)の効果でコントロールを得たカードは、自分フィールドに「サンアバロン」リンクモンスターが存在する限り、相手の効果の対象にならない。

 

「あなたの裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)のコントロールを得る」

「なに!?」

 

 ドリュアデスから蔓が伸び、アースのフィールドに発動していた裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)に絡み付く。

 

 そして、裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)はスペクターのフィールドへと移動させられた。

 

「こんなことが……」

「生憎私はあなたほど性格がよくありません。欲しければ奪う。それが私のやり方です。そして聖蔓の略奪(サンヴァイン・プランダー)の効果で、私は800のダメージを受ける。ダメージを受けたことで、ドリュアデスの効果発動!エクストラデッキから聖蔓の剣士(サンヴァイン・スラッシャー)を特殊召喚」

 

 ドリュアデスから実が落ち、中から葉っぱの剣士が生まれる。

 

聖蔓の剣士(サンヴァイン・スラッシャー)が特殊召喚された時、自分フィールドのサンアバロン1体のリンクマーカーの数×800、攻撃力をアップさせる」

 

 聖蔓の剣士(サンヴァイン・スラッシャー):攻撃力800→2400

 

「バトルです!私はから聖蔓の剣士(サンヴァイン・スラッシャー)でインヴァリッド・ドルメンを攻撃!この瞬間、裁きの矢(ジャッジメントアローズ)の効果で、攻撃力を倍にする!」

 

 聖蔓の剣士(サンヴァイン・スラッシャー):攻撃力2400→4800

 

 スラッシャーが巨岩の体を両断する。

 

 アース:LP4000→3600

 

「スラッシャーの効果発動!あなたのインヴァリッド・ドルメンを貰います!」

 

 ドリュアデスから蔓が地面へと伸び、地の底からインヴァリッド・ドルメンを吊り上げた。

 

「くっ……破壊されたインヴァリッド・ドルメンの効果で、お前の表側表示カードの効果を無効にする!」

 

 これにより、裁きの矢(ジャッジメントアローズ)の効果は無効化され、奪われたインヴァリッド・ドルメンは攻撃力倍化の恩恵を受けられなくなった。

 

「まだですよ。私はインヴァリッド・ドルメンで、無防備なクリスタルハートを攻撃!」

 

 操られたインヴァリッド・ドルメンが、その拳をクリスタルハートに向ける。

 

「やめろ!」

 

 アースは叫ぶが、インヴァリッド・ドルメンの攻撃は止まらない。その強い衝撃に、クリスタルハートにヒビが入り、そして砕け散った。

 

 アース:LP3600→800

 

「メインフェイズ2に、私はドリュアデスとスラッシャーを素材にリンク召喚。聖天樹の大精霊(サンアバロン・ドリュアノーム)!」

 

 ドリュアデスの根本に現れたアローヘッドにスラッシャーが吸い込まれ、養分となってドリュアデスをドリュアノームへと成長させた。

 

「魔法カード、貪欲の壺を発動できる。墓地のモンスター5枚をデッキに戻して2枚ドロー」

 

 スペクターは墓地に落ちた5体のリンクモンスターをエクストラデッキに戻して、新たに2枚の手札を得た。

 

「私はカードを2枚伏せてターンエンド」

 

ターン3

 

「よくも……」

「ん?」

「よくもアクアを!」

 

 アースの表情は憎悪に満ちていた。

 それを見て、スペクターは納得したような顔をする。

 

「なるほど、そのカードはあなたの大切な人にもらったカードなんですね」

「……そうだ。これは、私がアクアから貰ったカードだ」

 

 ◆

 

 数年前、まだライトニングがことを起こすよりもずっと前、サイバース世界の小さな川の畔で、アースはアクアの呼び出しを受けてそこへ来ていた。

 

「あ、アクア……」

「来ましたね」

 

 アクアの姿を見つけて、アースは頬を赤くしながら、彼女に近付く。

 

「あなたに伝えなければならないことがあります」

「は、話とはなんだ?」

「先のハノイの騎士の襲撃を受けてから、我々はようやく散り散りになった仲間を集めて、サイバース世界の復興に成功しました」

「そ、そうだな。これも、君が中心になって仲間を集めてくれたおかげだ」

「……ですが、襲撃を期に、ライトニングの憎しみはますます強くなっています」

 

 ライトニングは元より、能力はあったが少々性格に難があった。

 それでも他のイグニス達と比べても優れた頭脳を持っていたから彼は、これまでイグニス達の実質的なリーダーをしてきた。

 

「鴻上博士……」

「あなたはどうなのですか? 今でも、鴻上博士のことが憎いですか?」

「……分からない」

 

 アースは肩を落とし、小さく首を振る。

 

「彼は確かに我々を裏切った。だが、私達を作ったのも鴻上博士だ。いわば父親のような存在、それを憎み続けるのは難しい」

「……やはり、そうなのですね」

 

 アクアは特に何でもなさそうに答える。

 

「それに鴻上博士は死んだ。今さら彼を憎んだところでしょうがないだろう」

「……鴻上博士は確かに死にました。今さら人間に復讐など馬鹿げています。ですが、それとは別に、我々は生き残るために戦わなくてはならない」

 

 アクアはアースに背を向け、数歩ほど川辺を歩く。

 

「私はサイバース世界再建の片手間に、人間について学習しました。そして、人間は非常に攻撃的な生き物であるという結論を出しました」

「戦うのか?」

「えぇ。それは避けられないでしょう」

「ならば私も戦う。そして、あ、アクア。君を守る」

 

 アースはアクアの手を握り、そう誓う。

 

「……アース、最後まで聞いてください」

「す、すまない」

 

 急に恥ずかしくなったのか、アースは慌てて手を離した。

 

「愚直で真面目なところはあなたの取り柄でもありますが、同時に欠点でもあります」

「うっ……」

「私は今のところ、人間は滅ぼすのではなく、管理するべきだと考えます。より効率的に発展するように。人間も、自分達に利があると分かれば、敵対行動もしなくなるでしょう」

「さ、さすがはアクアだ。素晴らしい案だ」

 

 すかさず誉めちぎるが、アクアはため息を吐く。

 

「そうやってすぐに私の考えを肯定せずに少しは自分で考えてみてください」

「じ、自分で……」

「私はイグニスの中で最も感情が希薄です。だから、人間がどうして我々に敵意を持つのか、その本当のところは分からない」

「……」

「アース、あなたは我々の中で、最も人に近い感情を持っている。だから、最後はあなたが決めてください」

 

 すると、アクアは自らの胸に手を当て、そこから1枚のカードを取り出した。

 

「これは……」

「それを持っていてください。最初は私の側に着くのならそれでも構わない。でも、もしも私が間違っていると判断したら、その時は……」

 

 ◆

 

「なるほど、水のイグニス、彼女を愛していたと」

「あ、愛!?」

 

 アースは頬を朱に染めてたじろぐ。

 

(今の話を聞く限り、確かに水のイグニスのオリジンはあなたですね。角を立てることを嫌い、大事な決断はいつも他人任せ)

 

 昔のことを思い返し、スペクターは肩を落とす。

 

(……いや)

 

 ──── いなくても変わらないからと、あの時そこにいたあなたを否定したりなんてしない!

 

(それはもう、私の知る過去の話か……)

 

「でゅ、デュエルを続けるぞ!私はロックハンマーをリリースして効果発動!Gゴーレムトークン3体を特殊召喚!」

 

 ロックハンマーの体が砕け散り、その残骸がトークンとして残される。

 

「速攻魔法、重力波動(グラビティ・サイクロン)を発動」

 

重力波動(グラビティ・サイクロン)

通常魔法

このカードはルール上「Gゴーレム」カードとして扱う。

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分のデッキから「Gゴーレム」モンスター1体を墓地へ送り、相手フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。

(2)このカードを墓地から除外して、自分の墓地のリンク2以下のサイバース族リンクモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを墓地から特殊召喚する。この効果で特殊召喚された「Gゴーレム」モンスター以外のモンスターの効果はこのターン、発動できず、リンク素材にできない。

 

「デッキからGゴーレム1体を墓地へ送り、相手の魔法・罠カード1枚を破壊する。裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)を破壊」

 

 地上へ押しつぶすような黒い波動が、裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)を破壊する。

 

裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)がフィールドを離れたことで、そのリンク先のモンスターは全て墓地へ送られる」

 

 破裂した裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)のカードから、スペクターのフィールドへ矢が降り注ぎ、インヴァリットは墓地へ送られる。

 

「墓地の重力波動(グラビティ・サイクロン)を除外して効果発動!墓地からリンク2以下のサイバース族リンクモンスター1体を特殊召喚。蘇れ、クリスタルハート!」

 

 再びクリスタルハートが地面より浮上する。

 

「そしてクリスタルハートの効果発動!インヴァリッド・ドルメンよ。クリスタルハートを傷つけたその過ちを償うために蘇れ!」

 

 クリスタルハートが光ると、それに呼応して、インヴァリッド・ドルメンがその隣に立った。

 

「そしてクリスタルハートにGGカウンターを置く。墓地の重力転壊(グラビティ・プレスト)を除外して効果発動。墓地からGゴーレム・オーアローを手札に加え、そのまま自身の効果で特殊召喚。現れろ、大地に轟くサーキット!」

 

 地面にアローヘッドが現れ、3体のトークンとオーアローが飲み込まれる。

 

「リンク召喚!リンク4!Gゴーレム・ディグニファイド・トリリトン!」

 

 アローヘッドより浮上したのは、岩でできた巨大な島だった。

 

「インヴァリッド・ドルメンの効果発動。手札のサイバース族1体を捨てることで1枚ドロー。捨てられたGゴーレム・ペブルドッグの効果で、デッキからGゴーレムカード1枚を手札に加える。バトルだ!私はディグニファイド・トリリトンで、ダイレクトアタック!クリスタルハートと相互リンク状態の地属性モンスターは、GGカウンターの数×600攻撃力がアップする」

 

 ディグリファイド・トリリトン:攻撃力3200→3800

 島の周りに、念動力をまとった岩がいくつも現れ、スペクターへと降り注ぐ。

 

 スペクター:LP4000→200

 

「ドリュアノームの効果発動!ダメージの数値分、ライフを回復」

 

 スペクター:LP200→4000

 

「そしてエクストラデッキから、聖蔓の射手(サンヴァイン・シューター)を特殊召喚」

 

 ドリュアノームから木の実が落ち、中から木の弓を携えた狩人が生まれた。

 

聖蔓の射手(サンヴァイン・シューター)

リンク・効果モンスター

地属性/植物族/攻 500/LINK1

レベル4以下の植物族モンスター1体

このカード名の(2)(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分フィールドの「サンアバロン」リンクモンスターが効果でフィールドから離れた場合に発動する。このカードを破壊する。

(2)このカードの特殊召喚に成功した場合、お互い500ダメージを受ける。

(3)自分フィールドの「サンアバロン」リンクモンスター1体を対象として発動できる。対象のモンスターのリンクマーカーの数まで、相手フィールドの魔法・罠カードを選んで破壊する。

 

「効果でお互いに500のダメージを受ける」

 

 シューターが上空へ向けて矢を放つと、矢が二つに分裂して、それぞれスペクターとアースに向けて飛来する。

 

 スペクター:LP4000→3500

 アース:LP800→300

 

「ダメージを受けたことで、ドリュアノームの効果発動!ダメージの数値分ライフを回復し、エクストラデッキから聖蔓の守護者(サンヴァイン・ガードナー)を特殊召喚!」

 

 木の大盾を構えた戦士が生まれる。

 

「まだだ!クリスタルハートの効果で、相互リンク状態の地属性モンスターは2回攻撃できる!ディグリファイド・トリリトンで、聖蔓の射手(サンヴァイン・シューター)を攻撃!」

 

ディグリファイド・トリリトンが操る岩が、今度はシューターへ向けて降り注ぐ。

 

 スペクター:LP4000→700

 

「ドリュアノームの効果で受けたダメージの数値分、ライフを回復。そしてエクストラデッキから聖蔓の剣士(サンヴァイン・スラッシャー)を特殊召喚!」

 

 スペクターはまたしてもライフを全快させ、ドリュアノームから葉っぱの剣士を生み出した。

 

「そしてダメージを受けたことで、私は永続罠、聖天樹の輝常緑(サンアバロン・グロリアスグロース)を発動!」

 

聖天樹の輝常緑(サンアバロン・グロリアスグロース)

永続罠

(1)自分が戦闘・効果でダメージを受けた場合にこのカードを発動できる。「聖蔓(サンヴァイン)トークン」(植物族・地・星1・攻/守0)1体を特殊召喚する。その後、自分は受けたダメージの数値分ライフを回復し、「サンアバロン」リンクモンスター1体をリンク召喚する。

(2)自分フィールドの「サンアバロン」モンスターは相手の効果の対象にならず、相手の効果で破壊されない。

(3)1ターンに1度、相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージを半分にする。

(4)自分の「サンアバロン」リンクモンスターが効果フィールドから離れた場合に発動する。このカードを破壊する。

 

「受けたダメージの数値分ライフを回復」

 

 スペクター:LP4000→7300

 

「そしてフィールドに聖蔓トークンを特殊召喚し、サンアバロンをリンク召喚する!現れろ、私達の未来(みち)を照らす未来回路!」

 

 ドリュアノームの根元にアローヘッドが現れ、そこへ聖蔓トークンが吸い込まれて、養分となる。

 

「命、その終わりを迎える時、花は芽吹き、最後の輝きを散らす。リンク召喚!」

 

 葉が枯れていき、かわりに満開の桜の花が枝を埋め尽くす。

 

「我が母なる聖天樹!聖天樹の大母神(サンアバロン・ドリュアトランティエ)!」

 

 枯れた大地に根を伸ばし、花びらを散らす巨大な木がスペクターのフィールドに出現した。

 

「効果でデッキからサンアバロン魔法・罠カード1枚を手札に加える」

「インヴァリッド・ドルメンで、聖蔓の剣士(サンヴァイン・スラッシャー)を攻撃!」

 

 インヴァリッド・ドルメンが拳を飛ばし、スラッシャーを吹き飛ばす。

 

 スペクター:LP7300→7100

 

「インヴァリッド・ドルメンで、聖蔓の守護者(サンヴァイン・ガードナー)を攻撃!」

聖蔓の守護者(サンヴァイン・ガードナー)の効果!バトルダメージを半分にする!」

 

 ガードナーが大盾を構えて、飛来する岩の拳による衝撃を軽減する。

 

 スペクター:LP7200→5700

 

「そして、ガードナーが破壊されたことで、バトルフェイズは終了する」

「くっ……私はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン4

 

「私は永続罠、聖天樹の開花(サンアバロン・ブルーミング)を発動!」

 

 ドリュアトランティエから花びらが舞い、アースのフィールドへと降り注ぐ。

 

「発動時の処理で、私のフィールドにリンク4以上の植物族リンクモンスターが存在する場合、相手フィールドの表側表示モンスターの効果は無効化される」

 

 花びらが岩石のモンスター達に張り付き、その力を奪い去っていく。

 

「そしてゲニウスロキを通常召喚。現れろ、私達の未来(みち)を照らす未来回路!リンク召喚!聖蔓の番騎士(サンヴァイン・ハーキュリー)!」

 

 ゲニウスロキが地面から伸びた蔓に覆われて、その姿を木の鎧をまとった重騎士へと変化させる。

 

「特殊召喚時に、サンアバロンリンクモンスターのリンクマーカーの数×500を攻撃力をアップする」

 

 聖蔓の番騎士(サンヴァイン・ハーキュリー):攻撃力1000→3000

 

「そして、自身の攻撃力以下の相手フィールドのモンスター1体を破壊する。インヴァリッド・ドルメンを破壊」

 

 ハーキュリーが切り込み、岩の巨人の体を大剣で真っ二つにする。

 

「インヴァリッド・ドルメンの効果で、お前の表側表示のカードの効果は全て無効だ!」

 

 インヴァリッド・ドルメンの破片が再びスペクターのフィールドに降り注ぎ、その効果を無効にする。

 

「さらに罠カード!重力爆発(グラビティ・ダイナマイト)を発動!」

 

重力爆発(グラビティ・ダイナマイト)

通常罠

(1)相互リンク状態でないフィールドのモンスターを全て破壊する。

(2)自分フィールドにモンスターが存在しない場合、墓地のこのカードを除外し、自分の墓地の地属性モンスター、または「クリスタルハート」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。この効果発動後、ターン終了時まで、自分はサイバース族モンスターしか特殊召喚できない。

 

「お互いのフィールドの相互リンク状態でないモンスターを全て破壊する!」

 

 地鳴りがして、地面から黒い波動が互いのフィールドへと広がる。

 

「くつ……墓地の聖蔓の播種(サンヴァイン・ソウイング)の効果!自分の植物族リンクモンスターが破壊される場合、代わりに墓地のこのカードを除外できる。ドリュアトランティエを守る!」

 

 ドリュアトランティエの周りに、ピンク色の球状の防壁が展開されて、重力爆発(グラビティ・ダイナマイト)の効果から守った。

 

「私はこれでターンエンド」

 

ターン5

 

「スペクター、と言ったな」

 

 アースは初めて彼の名前を呼び、問いかける。

 

「前のターン、何故、聖蔓の播種(サンヴァイン・ソウイング)の効果で聖蔓の番騎士(サンヴァイン・ハーキュリー)を守らなかった?」

 

 聖蔓の番騎士(サンヴァイン・ハーキュリー)の持つ自壊効果は、インヴァリッド・ドルメンの効果で無効化されていた。あのままドリュアトランティエが破壊されても、場に残ったハーキュリーで、無防備なクリスタルハートを攻撃すれば、スペクターがそのまま勝利していた。

 

「何故……それは、あなたならわかるでしょう?」

「……なるほど。私にとってのアクアのような存在か」

「まあ、AIと一緒にされるのは心外ですが、不思議とあなたから言われるのはそう悪い気分でもありません」

 

 スペクターはどこか嬉しそうにそう言うと、アースの表情も自然と和らいだ。

 

「……ならば、そのモンスターを守り通した君に敬意を評する。だが、私もアクアのために負けるわけにはいかない。私はカードを1枚伏せて、バトルだ!ディグリファイド・トリリトンで、ドリュアトランティエを攻撃!」

「墓地のハーキュリーを除外することで、破壊を無効にする!」

 

 ディグリファイド・トリリトンが操る岩の猛攻を、現れたハーキュリーの幻影が防ぐ。

 

「だがダメージは受けてもらう!」

 

 スペクター:LP5700→2500

 

「罠カード、零重力(ラヴ・グラビティ)を発動!このカードはクリスタルハートがいる時、セットされたターンでも発動できる!墓地からインヴァリッド・ドルメンを特殊召喚!」

 

 周囲に散らばった岩の破片が集まり、またしても、インヴァリッド・ドルメンが再構成された。

 

「相互リンク状態になるように特殊召喚されたので、攻撃力は1000アップする」

 

 インヴァリッド・ドルメン:攻撃力2800→3800

 

「これで終わりだ!インヴァリッド・ドルメンでドリュアトランティエを攻撃!」

「私は手札の聖蔓の小人(サンヴァイン・ピクシー)の効果発動!」

 

聖蔓の小人(サンヴァイン・ピクシー)

効果モンスター

星2/地属性/植物族/攻 600/守 600

このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。このカードを手札から攻撃表示で特殊召喚し、そのモンスターの攻撃対象をこのモンスターに移し替えてダメージ計算を行う。このモンスターはその戦闘では破壊されない。

(2)このカードが戦闘を行うダメージ計算時、自分フィールドの「サンアバロン」リンクモンスター1体を対象として発動できる。戦闘を行う相手モンスターの攻撃力は、対象のモンスターのリンクマーカーの数×200ダウンする。

(3)このカードをリリースして発動できる。自分の墓地から「サンシード」モンスター1体を特殊召喚する。

 

「このカードを手札から特殊召喚し、攻撃対象を変更する!」

 

 ドリュアトランティエの前に現れた小人の妖精が、防壁を展開してインヴァリッド・ドルメンの拳を受け止める。

 

「ダメージ計算時、私のサンアバロン1体のリンクマーカーの数×200、攻撃力をダウンさせる!」

 

 インヴァリッド・ドルメン:攻撃力3800→3000

 

「そして、ピクシーはこの戦闘では破壊されない」

 

 

インヴァリッド・ドルメンの攻撃を受けきり、スペクターへのダメージを軽減した。

 

 スペクター:LP2500→100

 

「私はこれでターンエンド。新たに蘇ったインヴァリッド・ドルメンは、聖天樹の開花(サンアバロン・ブルーミング)の効果を受けていない。つまり、君は効果が無効になっていない攻撃力3000のインヴァリッド・ドルメンに攻撃しなければならない」

「ふっ……私のターン。私は聖蔓の小人(サンヴァイン・ピクシー)の効果発動。このカードをリリースすることで、墓地からゲニウスロキを特殊召喚。現れろ、私達の未来(みち)を照らす未来回路」

 

 ゲニウスロキが膨張する木の根に飲まれて、その姿を変える。

 

「リンク召喚。聖蔓の剣士(サンヴァイン・スラッシャー)

 

 そして現れたのは葉っぱの衣装をまとう剣士だった。

 

「特殊召喚に成功した時、自分のサンアバロン1体のリンクマーカーの数×800ポイント、攻撃力をアップする」

 

 聖蔓の剣士(サンヴァイン・スラッシャー):攻撃力800→4000

 

「バトルだ!スラッシャーで、インヴァリッド・ドルメンを攻撃!」

 

 スラッシャーが地を蹴り、剣を振り上げ、自身の何倍もの体躯を持つインヴァリッド・ドルメンへと向かう。

 

「……見事」

 

 ◆

 

 デュエルが終了すると、スペクターはアースの横を通り過ぎ、さっさと先へ進もうとする。

 

「待て」

 

 そこをアースに呼び止められ、スペクターは足を止めた。

 

「なんです?」

 

 アースは無言で手を差し出す。

 その意図を理解したスペクターは、面倒くさそうにため息を吐きながらその手を取った。

 

「……もういいですか? 私は先へ────」

「がっ……あ……」

 

 手を離した瞬間、アースが苦しみ始めた。

 

「な、何が起きて……」

 

 スペクターも訳が分からないといった様子で、その場に立ち尽くしていた。

 

「くっ……こんな、とこ……ろで……スペクター!」

 

 アースは崩壊する体を必死に動かし、取り出した1枚のカードをスペクターに差し出す。

 

「これを……君に……!」

「なっ……」

 

 それは『Gゴーレム・クリスタルハート』。彼にとってはその命よりも大事なカードであろうものを、先程まで敵だったスペクターに渡そうとしている。

 

「私は、ハノイの騎士ですよ?」

「構わない……私は、君を信じたいと思った。だから……」

 

 スペクターはどうすべきか迷っているのか、そのカードを取るのを躊躇っていた。

 

「早く!私と共にアクアが、このカードが消えてしまう前に!」

「っ……」

 

 スペクターはカードを引ったくるようにして受け取る。

 その直後、アースは悶えながら消滅した。

 

「……ははは」

 

 一人取り残されたスペクターは、こめかみに指を当て、乾いた笑い声を上げた。

 

「全く、AIのくせに"信じる"など人間のようなことを。しかもその相手が会ったばかりの、自分達を消そうとしていた人間だとは、間抜けなAIですよ」

 

 嘲笑するその顔を隠す右手には、熱を帯びた雫が伝っていた。



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第43話:Joker dancing on the battlefield

 プレイメーカー達が奔走する中、最奥にある制御室でライトニングは物思いに耽るように天井を見上げていた。

 そこは無数のモニターが浮かぶ黒い空間で、天の遥か先へ、ほとんど点に見えるほどの距離にもモニターは配置されており、さながら夜空の星のようだった。

 

「ウィンディ、アクア、アース……そうか、彼らは逝ったのか」

 

 ライトニングは一人呟く。

 

「これも貴様の筋書きか?」

 

 ここにはいない誰かに尋ねて、ライトニングは振り返る。

 

「君はどう思う。仁」

 

 後ろに立つ仁は、虚ろな瞳のまま無言で見つめ返すだけだ。

 

「……いいだろう。貴様の絵図など、破り捨ててやる」

 

 憎しみの籠った瞳で、その覚悟を言葉にする。

 その時、ふと気配を感じてライトニングは振り返る。

 

「……まさか、君が最初に辿り着くとはな」

 

 そこに立っていたのは、ブラッドシェパードだった。

 

「貴様の遊びに付き合ってやる義理などない。最短ルートで来させてもらった」

 

 そう言って、彼は自分の後ろを指差す。

 空間に穴が開いており、中からかすかに赤いデータの破片が漏れだしている。

 

「さすがのハッキング能力だな。やはり多少のリスクを負ってでも手駒にしておくべきだったか?」

「それは俺に勝って言え」

 

 ブラッドシェパードはデュエルディスクを構える。

 

「「デュエル!」」

 

 ◆

 

 同刻、スペクターとは別のルートから侵入したリボルバーは、通路で見知った人物と遭遇した。

 

「やぁ、久しぶりだね。リボルバー様」

「ジャックナイフ……」

 

 ポンチョ型のハノイ制服に身を包んだ少年に、リボルバーは警戒心を向ける。

 

「呼び出しに応じなかった貴様が、今さら何をしにきた?」

「そんな怖い顔しないでよ~。ボクは別に積極的に君達の邪魔をする気はないよ」

 

 協力もしないけど、とボソッと漏らして、彼はケラケラと笑う。

 相変わらず考えの読めない彼の態度に、リボルバーの表情は一層険しくなる。

 

「あ、その顔は信じてないな~」

「元より、貴様の発言に信じられるところなど何一つない」

「ふ~ん」

 

 ジャックナイフは少し残念そうな顔を見せてから、またすぐに張り付いた笑顔に戻る。

 

「邪魔しないってのはホントだよ。だってここで君をぶっ倒したら、それってイグニス(あいつら)に協力したことになっちゃうよね? それは死んでもイヤ」

 

 その台詞は、暗にリボルバー(おまえ)なんていつでも倒せるということを、少なくとも彼はそう思っていることを示していた。

 

「……その目、初めて会った時もお前はそんな目をしていた」

 

 ◆

 

 それは数年前のこと、彼は突然、ハノイのアジトに現れた。

 

 ハノイのメンバーでも限られたものしかその場所を知らないアジトに侵入できたこともそうだが、恐るべきはそのデュエルタクティクスだ。

 

「ぐわぁぁっ!」

 

 警備を担当していた下っ端(ファースト)────といってもアジトの敷居を跨ぐことが許される程度には実力を持つ者だが──── を易々と屠り、リボルバーの前に辿り着いた。

 

「ねぇ」

 

 まだ何者でもなかった彼は、リボルバーにこう訴えた。

 

「ボクをハノイの騎士に入れて」

 

 当然、そんな道場破りのような真似をした彼の存在を、腹心であるセカンド達が許すはずもなく、ゲノム、ファウスト、バイラが彼に立ち向かった。

 

 だが、そのいずれも彼に敗北した。

 

 当時の彼は感情の起伏に乏しかったが、そんな彼が感情を昂らせる瞬間がデュエル中、より正確にはモンスターを倒す時、あるいはライフを削る時だ。

 

「アニマイール・オルトバイトの効果発動!」

 

 モンスターを噛み砕き、磨り潰し、その断末魔が響く様子を彼は心底楽しそうに見ていた。

 

「アニマイール・バニシングファングでダイレクトアタック!」

 

 対戦相手を蹂躙し、絶望に歪むその顔を、何よりも快楽としていた。

 

 そしてデュエルが終わると、死んだような目で口元だけ無理やり笑顔を浮かべる不自然な表情に戻る。

 

「セカンドってのも大したことないな~。ざーこざーこざーこ」

 

 そう言って、彼はつまらなさそうに地面に転がった三人の頭を蹴る。

 

「貴様は何故ハノイに入りたい?」

「なんで、なんで……イグニスが、憎いから」

 

 その瞬間、死人の瞳の中に、復讐という確かな生の炎が灯った。

 

 ◆

 

「あの時、貴様をハノイに入れたのは、貴様の憎しみが本物だったからだ。全てが嘘偽りでも、その憎悪だけを、私は信じていた。だが、違ったようだ」

 

 リボルバーはジャックナイフを指差す。

 

「貴様が憎んでいるのはイグニスなどではない。己の目に映る全てだ」

「……それの何が悪いの?」

 

 ジャックナイフは惚けたように首を傾げる。

 

「ボクはイグニスが憎い。人間が憎い。ハノイが憎い。SOLが憎い。幸せそうな奴が憎い。不幸な奴が憎い。善人が憎い。偽善者が憎い。悪人が憎い。裕福な奴が憎い。貧しい奴が憎い。憎い憎い憎い憎い憎い憎い!」

 

 ジャックナイフはイライラをぶつけるように、地面を踏みつける。

 

「そんなボクの嫌いなものが全部消えれば、最期にボクは笑って死ねる。それって、とっても幸せなことだと思わない?」

「馬鹿馬鹿しい。貴様の破滅願望になど誰が付き合うものか」

「破滅願望って、それ人のこと言えんの?」

 

 馬鹿にしたようにリボルバーを指差す。

 

「ハノイの塔、もしあれがあのまま起動してたら、君も死んでたよね?」

「罪を償うためだ。イグニスを殲滅し、父の犯した過ちを精算することが────」

「それ、ボクの願いと何が違うの?」

 

 彼の言葉を遮り、ジャックナイフは問いかける。

 

「ハノイの塔が起動したら、君が憎むイグニスと一緒に、大勢の人間が死んでいた。それが分かっていたから、君はその罪から逃げるために、多くの人間と心中しようとしたんだ」

「……この命を捧げる以外に、償う方法などなかった」

「自己満じゃん、キモ」

 

 心底軽蔑するようにそう言うと、ジャックナイフは伸びをする。

 

「あーあ、やっぱりムカつくからぶっ殺したいな~。せめてこれ起動させたのがイグニスじゃなかったらやってたのに」

「……これ以上の問答は時間の無駄だな」

 

 リボルバーは彼の横を通り過ぎる。

 

「逃げんの?」

「貴様の思いも、信念も、全て偽りだ。そんな者の言葉が私に届くと思っているのなら、思い上がりも甚だしい。どうせあの本名(なまえ)も偽物なんだろう?」

 

 そう言ってリボルバーは立ち去る。

 

「……偽物、偽名ね。本当の名前なんて、もう忘れちゃったよ」

 

 ◆

 

 ライトニングとブラッドシェパードのデュエル、先攻はライトニング。

 

「フィールド魔法、天装の闘技場(アルマートス・コロッセオ)を発動」

 

 殺風景の真っ黒な空間が、変容する。

 周囲を石の壁が囲い、彼らの決闘(デュエル)を彩る闘技場となった。

 

天装の闘技場(アルマートス・コロッセオ)

フィールド魔法

(1)このカードの発動時の処理として、デッキから「アルマートス・レギオー」モンスター1体を手札に加える。

(2)自分フィールドの「アルマートス・レギオー」リンクモンスターがリンク召喚された場合、手札の「アルマートス・レギオー」モンスター1枚を捨てて発動できる。墓地からこの効果を発動するために捨てたカードとはカード名の異なる通常召喚可能な「アルマートス・レギオー」モンスターを、そのリンクモンスターのリンク先に可能な限り特殊召喚する(同名カードは1枚まで)。このターン、自分は「天装の闘技場(アルマートス・コロッセオ)」の効果を発動するために同名カードを手札から捨てられず、サイバース族モンスターしか特殊召喚できない。

 

「デッキから天装騎兵(アルマートス・レギオー)ソルフェルムを手札に加え、特殊召喚」

 

 フィールドに投げ槍を携えた石像が現れる。

 

天装騎兵(アルマートス・レギオー)ソルフェルム

効果モンスター

星3/光属性/サイバース族/攻 0/守 1200

このカード名の(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しか行えず、特殊召喚するターン、自分は「アルマートス・レギオー」モンスターしか特殊召喚できない。

(1)自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合、または「アルマートス・レギオー」モンスターのみの場合、このカードは手札から特殊召喚できる。

(2)このカードとリンク状態の自分の「アルマートス・レギオー」リンクモンスターが守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力が攻撃力を超えた分だけ戦闘ダメージを与える。

 

「現れろ、光を導くサーキット!」

 

 ソルフェルムがアローヘッドに吸い込まれ、その奥より地鳴りが響く。

 

「リンク召喚!天装騎兵(アルマートス・レギオー)デクリオン!」

 

 大量の兵士を引き連れて現れたのは、金属の兜を被った上裸の戦士だった。

 

天装騎兵(アルマートス・レギオー)デクリオン

リンク・効果モンスター

光属性/サイバース族/攻 1000/LINK 1

【リンクマーカー:下】

レベル4以下の光属性・サイバース族モンスター1体

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードのリンク召喚に成功した場合に発動できる。デッキからリンク魔法カード1枚をセットする。このターン、このカード及びこの効果でセットしたカードは相手の効果で破壊されない。

(2)このカード以外の自分の「アルマートス・レギオー」リンクモンスター、または魔法&罠ゾーンの表側表示のカードが相手の効果でフィールドを離れる場合、かわりにフィールドのこのカードを墓地へ送ることができる。

 

「デクリオンの効果で、デッキからリンク魔法(マジック)をセット。そしてフィールド魔法、天装の闘技場(アルマートス・コロッセオ)の効果発動!手札のアルマートスレギオーを墓地へ送り、墓地へ送ったカードとはカード名の異なるアルマートス・レギオーを、デクリオンのリンク先に特殊召喚する!出でよ!ソルフェルム!」

 

 デクリオンの後ろに、ソルフェルムが蘇る。

 

「手札の天装騎兵(アルマートス・レギオー)スペクラータの効果発動!手札の別のアルマートス・レギオーを墓地へ送り、手札から特殊召喚!」

 

天装騎兵(アルマートス・レギオー)スペクラータ

効果モンスター

星5/光属性/サイバース族/攻 0/守 1800

(1)手札からこのカード以外の「アルマートス・レギオー」モンスター1体を墓地へ送って発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。

(2)このカードとリンク状態の自分の「アルマートス・レギオー」リンクモンスターが攻撃する場合、相手はダメージステップ終了時までモンスター効果・魔法・罠カードを発動できない。

 

「現れろ、光を導くサーキット!リンク召喚!天装騎兵(アルマートス・レギオー)プリミ・オルディネス!」

 

天装騎兵(アルマートス・レギオー)プリミ・オルディネス

リンク・効果モンスター

光属性/サイバース族/攻 1800/LINK 2

【リンクマーカー:上/左下】

「アルマートス・レギオー」モンスターを含む光属性・効果モンスター2体

(1)このカードがリンク召喚に成功したターンの自分のメインフェイズに、自分の墓地のレベル4以下の「アルマートス・レギオー」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを守備表示で特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたモンスターは特殊召喚成功時に効果を発動できない。

(2)このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分が受ける戦闘ダメージは、自分フィールドの相互リンク状態のカードの数×500ダウンする

 

「効果で、墓地のレベル4以下のアルマートス・レギオー、天装騎兵(アルマートス・レギオー)ハスターを特殊召喚」

 

 プリミ・オルディネスが槍を地面に突き立てると、その地点から長槍を携えた石像が競り上がってくる。

 

天装騎兵(アルマートス・レギオー)ハスター

効果モンスター

星4/光属性/サイバース族/攻 0/守 1600

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。墓地からレベル3以下の「アルマートス・レギオー」1体を特殊召喚する。この効果発動後、ターン終了時まで、自分はサイバース族モンスターしか特殊召喚できない。

(2)このカードとリンク状態の自分の「アルマートス・レギオー」リンクモンスターが攻撃するダメージステップ開始時、そのモンスターをリリースして発動できる。相手フィールドのカード1枚を破壊する。

 

「ハスターの効果で、墓地からシーカを特殊召喚。そしてプリミ・オルディネスのリンク先に発動」

 

 セットされたカードより、光の矢が放たれ、カードが表向きになる。

 

「世界を裁きし三本の矢!裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)!」

 

裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)

リンク魔法

【リンクマーカー:左上/上/右上】

リンク魔法は自分のリンクモンスターのリンク先となる魔法&罠ゾーンにのみ発動できる。

(1)「裁きの矢」は自分フィールドに表側表示で1枚しか存在できない。

(2)このカードのリンク先のリンクモンスターが戦闘を行う場合に発動できる。そのモンスターの攻撃力はダメージ計算時のみ倍になる。

(3)このカードがフィールドを離れた場合に発動する。このカードのリンク先のモンスターは墓地へ送られる。

 

「来たか」

「まだ行くぞ。現れろ、光を導くサーキット!」

 

 ハスターとシーカがアローヘッドに吸い込まれる。

 

「リンク召喚!天装騎兵(アルマートス・レギオー)ケントゥリオン!」

 

 白い鎧にマントをなびかせ、ケントゥリオンが長槍をブラッドシェパードに向ける。

 

天装騎兵(アルマートス・レギオー)ケントゥリオン

リンク・効果モンスター

光属性/サイバース族/攻 1700/LINK 2

【リンクマーカー:右/左】

光属性・効果モンスター2体

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードがリンク召喚に成功した場合に発動できる。墓地から「アルマートス・レギオー」モンスター1体を手札に加える。この効果発動後、ターン終了時まで、自分はこの効果で手札に加えたカード及びその同名カードの効果を発動できない。

(2)1ターンに1度、自分フィールドの「アルマートス・レギオー」モンスターが攻撃対象に選択された場合に発動できる。その攻撃を無効にする。

 

「ケントゥリオンの効果で墓地からアルマートスレギオーを手札に加える。それをそのまま捨てて天装の闘技場(アルマートス・コロッセオ)の効果発動!墓地からカード名の異なるアルマートス・レギオーをケントゥリオンのリンク先に可能な限り特殊召喚!」

 

 シーカとスペクラータが蘇る。

 

「現れろ、光を導くサーキット!リンク召喚!天装騎兵(アルマートス・レギオー)ピルス・プリオル!」

 

 ケントゥリオンとスペクラータがアローヘッドに吸い込まれ、中からバックラーと剣を構えた兵士が出現した。

 

天装騎兵(アルマートス・レギオー)ピルス・プリオル

リンク・効果モンスター

光属性/サイバース族/攻 1800/LINK 2

【リンクマーカー:上/右下】

「アルマートス・レギオー」モンスターを含む光属性・効果モンスター2体

(1)このカードがリンク召喚に成功したターンの自分のメインフェイズに、自分の墓地のレベル4以下の「アルマートス・レギオー」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを守備表示で特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたモンスターは特殊召喚成功時に効果を発動できない。

(2)このカードがモンスターゾーンに存在する限り、相手モンスターの攻撃力は、自分フィールドの相互リンク状態のカードの数×300ダウンする。

 

「ピルス・プリオルの効果発動!墓地からシーカを特殊召喚。現れろ、光を導くサーキット!リンク召喚!天装騎兵(アルマートス・レギオー)デクリオン!」

 

 2体目のデクリオンが現れ、完成した盤面を見て、ブラッドシェパードはあることに気付いた。

 

「これは……エクストラリンク」

 

 ライトニングのフィールドには、エクストラモンスターゾーンの二体のデクリオン、それらと相互リンク状態のプリミ・オルディネスとピルス・プリオル、さらにそれと相互リンクした裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)によって結ばれている。

 

 モンスターを相互リンクで繋げることで、エクストラモンスターゾーンを占有できる。

 

「君にはこれがよく効くだろう?」

「その程度で、俺が止められるとでも?」

「まだ終わりではない。私は天装騎兵(アルマートス・レギオー)ポプロマクスを通常召喚」

 

天装騎兵(アルマートス・レギオー)ポプロマク

効果モンスター

星3/光属性/サイバース族/攻 0/守 1400

(1)このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「アルマートス」カード1枚を手札に加える。

(2)このカードとリンク状態の「アルマートス・レギオー」リンクモンスター、またはリンク魔法(マジック)が戦闘・効果で破壊される場合、代わりにこのカードを墓地へ送ることができる。

 

「デッキから「アルマートス」カード1枚を手札に加える。現れろ、光を導くサーキット!リンク召喚!天装騎兵(アルマートス・レギオー)ケントゥリオン!」

 

 シーカとポプロマクスを素材に、ケントゥリオンが現れる。

 

「ウェリテスの効果で1枚ドロー。そして魔法カード、天装聖典(アルマートス・リブロ)を発動」

 

天装聖典(アルマートス・リブロ)

速攻魔法

このカード名の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか発動できない。

(1)このターンのエンドフェイズに、このターンに手札・フィールドから墓地へ送られたリンクモンスター以外の「アルマートス・レギオー」モンスター2体に付き、デッキから1枚ドローする。

(2)自分のメインフェイズに、墓地のこのカードを除外し、自分の墓地の「アルマートス・レギオー」モンスター5体を対象として発動できる。そのカードをデッキに戻し、自分はデッキから1枚ドローする。

 

「私はこれでターンエンド。エンドフェイズに、このターンに手札・フィールドから墓地に送られたリンクモンスター以外のアルマートス・レギオーは8体なので天装聖典(アルマートス・リブロ)の効果で、4枚ドロー」

 

ターン2

 

「君のデュエルは分析済みだ。連続のダイレクトアタックとバーンダメージにより、1ターンでライフを削り切ることに特化したデッキ。ワンターンキルを遂行するために、無駄なカードを廃した実に合理的なデッキだが、それ故に弱点もある」

「AIごときが俺を分析するのか?」

「AIだからだよ。ダイレクトアタックを戦術の核にしているため、格上のモンスターがいようと除去をする必要がなく、攻撃力が低くても問題ない」

 

 ライトニングの言う通り、ブラッドシェパードのデッキにはモンスターを除去できるカードがほとんど入っていない。

 モンスターの攻撃力もせいぜい1000前後で、エクストラリンクでリンクモンスターを封じられた状態では、デクリオンの攻撃力1000ですら、越えるのは一苦労だ。

 

「加えて、私のピルス・プリオルの効果で、君のモンスターの攻撃力は私の相互リンク状態のカードの数×300ポイントダウンする。プリミ・オルディネスの効果で、私が受ける戦闘ダメージも相互リンク状態のカードの数×500ダウンする」

「つまり、攻撃力の低いモンスターでは攻撃が通らない」

 

 ブラッドシェパードは冷静に自分のおかれている状況を分析し、なお表情を崩さない。

 

「確かに俺のデッキにはモンスターを除去できるカードはほとんど入っていない。だが……」

 

 ブラッドシェパードが手札から1枚のカードを見せる。

 その瞬間、一陣の風が吹き、ライトニングのフィールドを襲う。

 

裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)ががら空きだ」

 

 彼の右手に握られているのは魔法カード、ハーピィの羽箒。相手の魔法・罠カードを全て破壊する強力なカードだ。

 

「なるほど、シンプルだが、実に効果的だ」

 

 しかし、ライトニングのフィールドには裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)が健在。当然、リンク先のモンスターも生きている。

 

「私はデクリオンの効果を使っていた。こいつを身代わりにすることで、裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)を破壊から守ったのだ」

「だが、お陰でエクストラモンスターゾーンが空いたな。俺はドローン・エリアスを特殊召喚」

 

 直角三角形の翼が二枚ついた、小型の飛行機が飛来した。

 

ドローン・エリアス

効果モンスター

星3/風属性/機械族/攻 1000/守 0

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)相手フィールドにのみモンスターが存在する場合、このカードを手札から特殊召喚できる。

(2)このカードが特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「ドローン」カード1枚を手札に加える。この効果発動後、ターン終了時まで、自分は機械族モンスターしか特殊召喚できない。

 

「デッキからドローン・ポーンを手札に加え、召喚」

 

ドローン・ポーン

効果モンスター

星1/風属性/機械族/攻 600/守 600

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「ドローン」魔法・罠カード1枚をセットする。

(2)このカードの戦闘によって自分がダメージを受けた場合に発動できる。そのバトルフェイズ終了時、ダメージの数値分だけLPを回復する。

 

「効果でデッキからドローン・カタパルトを手札に加える。現れろ、勝利を導くサーキット!」

 

 ブラッドシェパードが右手をピストルのように構え、その銃口の先にアローヘッドを出現させる。

 

「リンク召喚!リンク1、バトルドローン・サージェント!」

 

 アローヘッドより、白い小型の戦闘機が出撃した。

 

バトルドローン・サージェント

リンク・効果モンスター

風属性/機械族/攻 800/LINK 1

【リンクマーカー:下】

レベル4以下の「ドローン」モンスター1体

このカード名の(1)の効果は同一チェーン上で1度しか発動できず、(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分のリンクモンスター以外の「ドローン」モンスターが相手に直接攻撃で戦闘ダメージを与えた場合に発動できる。このターン、このカードは直接攻撃できる。

(2)このカードが墓地に存在する状態で、自分のリンク2以上の「ドローン」リンクモンスターが効果で特殊召喚された場合に発動できる。このカードを墓地から特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたこのカードはリンク素材にできず、エンドフェイズに除外される。

 

「永続魔法、ドローン・カタパルトを発動」

 

ドローン・カタパルト

永続魔法

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれフェイズ毎に1度しか使用できない。

(1)自分のメインフェイズ及びバトルフェイズに発動できる。手札から「ドローン」モンスター1体を特殊召喚する。

(2)自分の「ドローン」モンスターが直接攻撃で相手に戦闘ダメージを与えた場合、このカードを墓地へ送って発動できる。相手に1000ダメージを与える。

 

「手札からドローン・タンカーを特殊召喚。効果で墓地からドローン・エリアスを特殊召喚」

 

 長方形のコンテナがついたドローンが現れて、そのコンテナの中からドローン・エリアスが発進する。

 

ドローン・タンカー

効果モンスター

星4/風属性/機械族/攻 1000/守 1200

(1)このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。手札・墓地からレベル3以下の「ドローン」モンスター1体を特殊召喚する。

(2)このカードは直接攻撃できる。このカードの直接攻撃によって相手に与える戦闘ダメージは半分になる。

 

「現れろ、勝利を導くサーキット!リンク召喚!バトルドローン・ウォラント!」

 

バトルドローン・ウォラント

リンク・効果モンスター

風属性/機械族/攻 1200/LINK 2

【リンクマーカー:左/下】

「ドローン」モンスター2体

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分のリンク1の「ドローン」モンスターが直接攻撃で相手に戦闘ダメージを与えた場合に発動できる。このターン、このカードは直接攻撃できる。

(2)このカードが墓地に存在し、自分のモンスターがEXモンスターゾーンの「ドローン」リンクモンスターのみの場合に発動できる。このカードを墓地からそのモンスターのリンク先に特殊召喚する。この効果発動後、ターン終了時まで、自分は「ドローン」モンスターしか特殊召喚できない。

 

「現れろ、勝利を導くサーキット!リンク召喚!」

 

 ウォラントとサージェントがアローヘッドに飛び込み、その中で新たなる戦闘機へと生まれ変わる。

 

「出撃せよ、リンク3!バトルドローン・ジェネラル!」

 

 ジェットの駆動音を響かせ、黒い戦闘機がアローヘッドより発進した。

 

バトルドローン・ジェネラル

リンク・効果モンスター

風属性/機械族/攻 2400/LINK 3

【リンクマーカー:左/右/下】

「ドローン」モンスター2体以上

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分のメインフェイズに発動できる。墓地から元々の攻撃力が2000以下の「ドローン」モンスター1体を特殊召喚する。

(2)自分のレベル4以下の攻撃力1000以下の「ドローン」モンスター1体を対象として発動できる。このターン、そのカードは直接攻撃できる。

(3)自分の「ドローン」モンスターが直接攻撃で相手に戦闘ダメージを与えた場合、そのモンスターをリリースして発動できる。そのモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える。この効果を3回以上適用したターン、このカードは直接攻撃できる。

 

「墓地のウォラント、サージェントを自身の効果で特殊召喚。さらにジェネラルの効果で墓地からドローン・エリアスを特殊召喚」

 

 空間に三つの穴が空き、そこから三機の戦闘機が浮上した。

 

「いくらモンスターを並べようとも、ピルス・プリオルの効果で、その攻撃力は1200ポイントダウンする」

「ならそいつを潰すだけだ。俺はドローン・ジェネータを特殊召喚」

 

ドローン・ジェネータ

効果モンスター

星3/風属性/機械族/攻 1000/守 0

(1)自分フィールドに「ドローン」モンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できる。

(2)このカードが戦闘を行ったダメージステップ終了時、このカード以外の既に戦闘を行った「ドローン」モンスター1体を対象として発動できる。このカードをリリースする。このターン、対象のモンスターの攻撃力は300アップし、もう1度だけ攻撃できる。

 

「ジェネラルの効果発動!このターン、ドローン・エリアスはダイレクトアタックできる。さらに装備魔法、ドローン・ブラスト・ユニットを、ドローン・ジェネータに装備!」

 

 ドローン・ジェネータの翼に、二つの長方形の筒状の銃機が装着された。

 

ドローン・ブラスト・ユニット

装備魔法

元々の攻撃力が1000以下の「ドローン」モンスターにのみ装備可能

(1)装備モンスターは直接攻撃できる。

(2)装備モンスターが直接攻撃で戦闘ダメージを与えた場合に発動できる。装備モンスターをリリースする。

(3)装備モンスターが戦闘を行っているバトルステップ中に、自分の「ドローン」カードの効果で、装備モンスターがフィールドから墓地へ送られた場合に発動できる。自分はデッキから2枚ドローする。

(4)墓地のこのカードを除外し、自分の「ドローン」リンクモンスター1体をリリースして発動できる。自分はデッキから1枚ドローする。

 

「これでジェネータはダイレクトアタックできる。バトルだ。まずはジェネラルでデクリオンを攻撃!」

 

 ジェネラルがミサイルを撃ち込む。

 

「ケントゥリオンの効果発動!1ターンに1度、アルマートス・レギオーへの攻撃を無効にする」

 

 だがケントゥリオンが槍を構えると、その前方の空間が歪曲し、ミサイルを受け止める。

 

「まだだ!速効魔法、ドローン・フォース・フュージョン!」

 

 カタパルトから上部に大砲がついたドローンが射出される。

 

ドローン・フォース・フュージョン

速攻魔法

このカードの発動と効果は無効化されず、このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1)自分のフィールド・墓地から機械族の融合モンスターカードによって決められたこのターンに戦闘を行った「ドローン」モンスターを含むモンスターを除外し、その融合モンスター1体を融合召喚する。

(2)このカードの(1)の効果で融合召喚されたモンスター及び墓地のこのカードを除外して発動できる。除外されているそのモンスターの融合素材となった「ドローン」リンクモンスター1体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたモンスターは元々の攻撃力が半分になり、直接攻撃できる。

 

「このターンに戦闘を行ったジェネラルと、フィールドのエリアス、そして墓地のポーンを融合!」

 

 ジェネラルを中心に、墓地から現れたドローン・ポーンとドローン・ジェネータな分解され、そのパーツを接合していく。

 

「我が部隊最高のソルジャー、その元へ集え、歴戦の勇士達よ!融合召喚!」

 

 三機のドローンが合体して、一機の巨大な戦闘機へと生まれ変わる。

 

「出でよレベル8!コマンドローン・バレットワスプ!」

 

 それは前部に巨大な六角形のバルカンを搭載した紫の機体だった。

 

コマンドローン・バレットワスプ

融合・効果モンスター

星8/風属性/機械族/攻 1000/守 0

「ドローン」リンクモンスター+機械族モンスター×2

(1)このカードが融合召喚に成功した場合、その融合素材としたリンクモンスター1体を対象として発動できる。このターン、このカードは1度のバトルフェイズに対象のモンスターのリンクマーカーの数だけ攻撃できる。

(2)このカードの攻撃宣言時に発動する。相手モンスター全ての攻撃力・守備力を500ダウンさせ、相手に500ダメージを与える。

(3)このカードは攻撃力2000以下である限り、直接攻撃できる。

 

「バレットワスプは融合素材となったリンクモンスターのマーカーの数だけ攻撃できる。バトルだ!バレットワスプでダイレクトアタック!」

 

 バレットワスプのバルカンから何10発もの弾丸が霰のごとくライトニングへ向けて撃ち込まれる。

 

「プリミ・オルディネスの効果でダメージは0だ」

「防げるのは戦闘ダメージだけだろ。バレットワスプの効果!攻撃時、相手に500ダメージを与え、相手モンスター全ての攻撃力と守備力を500ダウンさせる!」

 

 プリミ・オルディネス:攻撃力1800→1300

 ピルス・プリオル:攻撃力1800→1300

 ケントゥリオン:攻撃力1700→1400

 デクリオン:攻撃力1000→500

 ライトニング:LP4000→3500

 

「まだ行くぞ!コマンドローン・バレットワスプでダイレクトアタック!」

 

 降り注ぐ弾丸が、ライトニングとその配下のモンスターへダメージを与える。続く二度目、三度目の攻撃でライトニングのモンスターの攻撃力は大幅に下げられる。

 

「だが、ピルス・プリオルの効果で君のモンスターの攻撃力も0となっている。私のモンスターを倒すことはできんぞ」

「そんなことは分かっている。俺はさらに、ドローン・ジェネータでダイレクトアタック!」

 

 ドローン・ジェネータが両翼に装備したランチャーから、ビームを放つ。

 

「プリミ・オルディネスの効果で、戦闘ダメージは0となる」

 

 しかし、ライトニングのライフには傷一つつけることができない。

 

「ダメージステップ終了時に、ジェネータの効果発動!自身をリリースすることで、バレットワスプはこのターン、攻撃力を300アップし、もう1度攻撃できる!そして、装備されていたドローン・ブラスト・ユニットの効果発動!装備モンスターが戦闘中にドローンカードの効果で墓地へ送られた時、2枚ドローする!」

「くっ……」

「バトルだ!バレットワスプでピルス・プリオルを攻撃!」

 

 再びバレットワスプが動き、ライトニングのフィールドへ爆撃を行う。

 

 プリミ・オルディネス:攻撃力300→0

 ピルス・プリオル:攻撃力300→0

 ケントゥリオン:攻撃力200→0

 ライトニング:LP2500→2000

 

「攻撃力が0なら、裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)の効果で2倍にしようが関係ない!ピルス・プリオルを粉砕しろ!」

 

 そして、弾丸が一点に集中し、本命の攻撃がピルス・プリオルを粉砕する。

 

「プリミ・オルディネスの効果で私はダメージを受けない」

「だが、相互リンク状態のモンスターが減ったことで、その効果も弱まる。そして墓地のドローン・フォース・フュージョンの効果発動!このカードとバレットワスプを除外して、除外されているジェネラルを攻撃力を半分にして特殊召喚!ジェネラルでプリミ・オルディネスを攻撃!」

 

 虚空に空いた穴からジェネラルが出撃し、プリミ・オルディネスに向けて突っ込む。

 

「くっ……」

 

 ライトニング:LP2000→1800

 

「これでお前を守るものはなくなった。バトルドローン・サージェントでダイレクトアタック!」

 

 サージェントがジェットを吹かし、ライトニングへ向けて突撃した。

 

「私は手札の天装騎兵(アルマートス・レギオー)トラークスの効果発動!」

 

天装騎兵(アルマートス・レギオー)トラークス

効果モンスター

星3/光属性/サイバース族/攻 0/守 1800

このカード名の(2)(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)相手モンスターの直接攻撃宣言時、自分のこのカードを手札から墓地へ送って発動できる。このターン、自分は戦闘ダメージを受けない。

(2)このカードが手札から墓地へ送られた場合、自分のフィールド・墓地に「天装の闘技場」があれば発動できる。デッキから「アルマートス・レギオー」モンスター1体を手札に加える。

(3)このカードが墓地に存在し、自分フィールドに「アルマートス・レギオー」リンクモンスターが存在する場合に発動できる。墓地のこのカードを特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたこのカードはフィールドを離れた場合、除外される。

 

「このターン、私は戦闘ダメージを受けない」

 

 鋼鉄の盾が現れ、サージェントの侵攻を阻んだ。

 

「トラークスは手札から墓地へ送られた時、デッキからアルマートス・レギオーを手札に加えることができる」

「チッ、ウォラントでケントゥリオンを攻撃」

 

 ウォラントで残りのライトニングのモンスターを処理する。

 

「メインフェイズ2に、墓地のドローン・ブラスト・ユニットを除外して効果発動。ウォラントをリリースして、デッキから1枚ドローする。俺はカードを1枚伏せてターンエンド。エンドフェイズに、自身の効果で特殊召喚されたサージェントは除外される」

 

ターン3

 

「見事だな。あの盤面を覆すとは」

 

 ライトニングのフィールドに残されたのは裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)のみ。モンスターも伏せカードもない。

 

「対策のつもりだったか? 随分と俺の事をよく調べたようだが」

「調べたさ。我々はAIだ。敵のことは徹底的に調べて分析する。もちろん、それはデュエルのことだけじゃない」

 

 ライトニングはニヤッと笑う。

 

「ブラッドシェパード、本名は道順健碁。職業はハッカー。ウィンディのオリジン、風間啓が9歳の頃に、彼を拾って育てた」

「それがどうした?」

「彼を育てたのは、シンパシーを感じたからか? 彼とは交通事故で親を亡くしたという共通項があったな」

「……」

 

 ◆

 

 12年前、その日 道順は家族とドライブに出掛けていた。

 

「健碁も久々に父さんと会えて嬉しいんじゃない?」

「母さん。もう子供じゃないんだ」

 

 多忙であまり家に帰らない父が、久しぶりにまとまった休みが取れたので、家族旅行へと連れ出してくれたのだ。

 

「しかし、最近の車はハイテク過ぎて運転のしがいがないな」

 

 父は運転席に座っていたが、ハンドルからは手を離していた。

 最新のAIを搭載した自動運転システムにより、運転手がほとんど何もすることなく、目的地まで送り届けてくれる。

 

「父さんの運転は荒っぽいから、こっちの方がいいよ」

「おお。言ったな」

 

 幸せな時間、だが、それはすぐに終わりを告げた。

 

 彼らを乗せた車が突然急加速、周りの車も巻き込み、暴走した。

 

 その日は他にも道順一家と同じように、自動運転の車が一斉に暴走し、死傷者を計27名出すほどの大規模な事故を起こした。

 

 その事故で、父は他界し、母も両足に怪我を負い、入院生活を余儀なくされた。そして彼もまた、右腕を失い、現在では義手を装着している。

 

 やがて2年の歳月を経て、道順はハッカーとなり、母親の治療費を稼ぐために危険な仕事も行うようになる。

 同時期に、母の経営していた孤児院も経営難に陥り、彼はその寄付金を稼ぐためにも奔走した。

 

 その3年後に、そこに引き取られた啓と出会うこととなる。

 

 ◆

 

「君はAIの暴走事故により、AIを憎むようになった」

「揺さぶりのつもりか?」

「いや、事実確認をしているだけだ。しかし、君が風間啓と出会ったのは偶然だろうか」

「どういう意味だ?」

「12年前の暴走事故、そこに巻き込まれたのは単なる偶然か……だとすれば、君は何故この場にいる?」

 

 ライトニングが何を言っているのか分からなかった。

 だが、彼の言動は決してブラッドシェパードを混乱させるために言っているわけではなく、本当に何かを探るように、ライトニングは思考している。

 

「いいだろう。君が舞台で踊る道化か、それとも紛れ込んだ異物か。少し見極めてやろう。私のターン!私は墓地の天装聖典(アルマートス・リブロ)の効果発動!墓地のこのカードを除外し、墓地のアルマートス・レギオー5体をデッキに戻して2枚ドローする。私は5体のアルマートス・レギオーリンクモンスターをエクストラデッキに戻す」

 

 エクストラデッキを回復させ、さらにライトニングの手札は6枚となる。

 

「さて、まずは天装騎兵(アルマートス・レギオー)グラディウスを召喚」

 

 フィールドに石の台座に置かれた短剣を持った石像が現れる。

 

天装騎兵(アルマートス・レギオー)グラディウス

効果モンスター

星2/光属性/サイバース族/攻 0/守 800

(1)このカードが召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「天装の闘技場(アルマートス・コロッセオ)」1枚を手札に加える。

(2)このカードとリンク状態の自分の「アルマートス・レギオー」リンクモンスターの攻撃力は500アップする。

 

「デッキから2枚目の天装の闘技場(アルマートス・コロッセオ)を手札に加え、発動」

 

 再び、彼らを石壁が囲い、周囲の情景を闘技場へと変化させる。

 

「現れろ、光を導くサーキット!リンク召喚!天装騎兵(アルマートス・レギオー)デクリオン!」

 

 デクリオンが呼ばれ、さらにコロッセオの効果で墓地からグラディウスが蘇る。

 

「墓地の天装騎兵(アルマートス・レギオー)トラークスの効果発動。アルマートス・レギオーリンクモンスターが存在する時、自身を墓地から特殊召喚。現れろ光を導くサーキット!リンク召喚!天装騎兵(アルマートス・レギオー)ケントゥリオン!」

 

 ケントゥリオンが地面に槍を突き立てると、その左右にシーカとスペクラータが蘇る。

 

「現れろ、光を導くサーキット!」

 

 アローヘッドへケントゥリオンとスペクラータが吸い込まれると、その奥に荒野の景色が浮かぶ。

 

「リンク召喚!リンク3!天装騎兵(アルマートス・レギオー)レガトゥス・レギオニス」

 

 その荒れた大地より、騎馬に乗った重戦士が駆けてきた。

 

天装騎兵(アルマートス・レギオー)レガトゥス・レギオニス

リンク・効果モンスター

光属性/サイバース族/攻 2400/LINK 3

【リンクマーカー:左/下/右】

光属性・効果モンスター2体以上

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカード以外の自分フィールドの「アルマートス・レギオー」モンスター1体と、墓地の通常召喚可能な「アルマートス・レギオー」モンスター1体を対象として発動できる。対象のフィールドのモンスターを破壊し、対象の墓地のモンスターを自分フィールドに特殊召喚する。この効果は相手ターンでも発動できる。

(2)このカードが既にモンスターゾーンに存在する状態で、自分フィールドに「アルマートス・レギオー」モンスターが特殊召喚された場合に発動できる。このターン、このカードは相手の効果を受けない。

 

天装の闘技場(アルマートス・コロッセオ)の効果発動!手札のアルマートス・レギオーを墓地へ送り、そのモンスターとはカード名の異なる通常召喚可能なアルマートス・レギオーを、墓地から可能な限り、リンク先に特殊召喚できる!」

 

 レガトゥス・レギオニスの左右に、新たに石像が二つ出現する。

 

「現れろ、光を導くサーキット!」

 

 そして呼び出された二体を素材に、ピルス・プリオルがリンク召喚された。

 

「そこまでだ!俺は永続(トラップ)!キャプチャー・ドローンを発動!」

 

キャプチャー・ドローン

永続罠

自分フィールドに「ドローン」モンスターが存在する場合、相手フィールドのリンクモンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。

このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、対象のモンスターの効果は無効化され、リリースできず、リンク素材にもできない。対象のモンスターがフィールドを離れた場合、このカードは破壊される。

(2)このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、相手のリンクモンスターは攻撃できない。

(3)自分のメインフェイズに発動できる。対象のモンスターのリンクマーカーの数までの任意の数だけ、自分フィールドに「ドローントークン」(機械族・風・星1・攻/守0)を特殊召喚する。

 

「ピルス・プリオルの効果は無効化され、リンク素材にできない。さらにこのカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、相手のリンクモンスターは攻撃できない」

「ならば私はレガトゥス・レギオニスの効果発動!ピルス・プリオルを破壊し、墓地からグラディウスを特殊召喚」

 

 ピルス・プリオルが破壊されたことで、キャプチャー・ドローンは破壊される。

 

「現れろ、光を導くサーキット!リンク召喚!天装騎兵(アルマートス・レギオー)プリミ・オルディネス!効果で墓地からはハスターを特殊召喚!ハスターの効果でシーカを特殊召喚!」

 

 ライトニングの展開は止まらない。

 墓地から次々とモンスターが蘇り、彼の盤面を埋めていく。

 

「現れろ、光を導くサーキット!リンク召喚!|」

 

 アローヘッドより、新たなる兵士が下りてくる。

 

「リンク2!天装騎兵(アルマートス・レギオー)マニプルス!」

 

 現れたのは、3枚の浮遊する長方形の盾を従え、白銀の鎧をまとった戦士だった。

 

天装騎兵(アルマートス・レギオー)マニプルス

リンク・効果モンスター

光属性/サイバース族/攻 1500/LINK 2

【リンクマーカー:上/左】

光属性モンスター2体

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードがリンク召喚に成功した場合に発動できる。自分フィールドの相互リンク状態のカードの数×500LP回復する。

(2)相手モンスターの攻撃宣言時、墓地の「アルマートス・レギオー」モンスター1体を除外して発動できる。その攻撃を無効にする。この効果は、ターン中、このカードと相互リンク状態のカードの数まで発動できる。

 

「このカードがリンク召喚に成功した時、私は相互リンク状態のカードの数×500ポイントのライフを得る」

 

 ライトニングの盤面は、裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)、レガトゥス・レギオニス、マニプルス、プリミ・オルディネス、デクリオンの計5枚のカードがあり、それら全てが相互リンク状態となっている。これにより、彼のライフは4300まで回復した。

 

「バトルだ!レガトゥス・レギオニスで、バトルドローン・ジェネラルを攻撃!裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)の効果で、攻撃力は倍になる!」

 

 攻撃力4800となったレガトゥス・レギオニスが、鋼鉄の機体を長剣一本で切り裂く。

 

 ブラッドシェパード:LP4000→400

 

「止めだ。やれ!マニプルスでダイレクトアタック!」

「俺は手札のドローン・アステロイドの効果発動!」

 

ドローン・アステロイド

効果モンスター

星3/闇属性/機械族/攻 1000/守 1000

このカード名の(1)の効果はデュエル中1度しか使用できない。

(1)自分・相手のモンスターの直接攻撃宣言時、このカードを手札から捨てて発動できる。その攻撃を無効にし、相手フィールドのモンスターの数だけ、「ドローン・トークン」(機械族・風属性・星1・攻/守0)を可能な限り特殊召喚する。その後、相手のターンなら、ターンを終了させる。

(2)自分のバトルフェイズ中に、墓地のこのカードを除外して発動できる。このターンに戦闘を行ったモンスターを含む自分のモンスターで「ドローン」リンクモンスター1体をリンク召喚する。

 

「このカードを手札から捨て、相手のダイレクトアタックを無効にする!」

 

 星形の障壁が展開され、マニプルスの攻撃を受け止める。

 

「そして、相手フィールドのモンスターの数だけドローン・トークンを特殊召喚!相手ターンなら、ターンを強制終了させる」

 

 障壁が弾けて、4つの竹トンボ型のトークンが現れる。

 

「私はこれでターンエンド。さあ見せてもらおう。君の力を」

 

ターン4

 

「ピルス・プリオルが消えた時点で、俺の勝利は見えている。現れろ、勝利を導くサーキット!」

 

 トークンがそれぞれ、サージェント2体とウォラントへと変換される。

 

「ドローン・カタパルトの効果発動!手札からドローン・キャリアー特殊召喚!」

 

 三つの球体と翼が合わさったようなドローンが現れる。

 

「ドローン・キャリアーがドローンの効果で特殊召喚された時、墓地からドローンモンスター1体を特殊召喚する。甦れ!ジェネラル!」

 

 球体についたカメラから光が空間に照射され、そこへジェネラルの姿を映し出し、実体化させる。

 

「ジェネラルの効果発動!ドローン・キャリアーはこのターン、ダイレクトアタックができる」

「だが、プリミ・オルディネスの効果で戦闘ダメージは0だ」

「それで止まると思うか? 俺は手札から速攻魔法、リミッター解除を発動!これで俺の機械族モンスター全ては攻撃力が倍となる!バトルだ!ジェネラルで、プリミ・オルディネスを攻撃!」

天装騎兵(アルマートス・レギオー)マニプルスの効果!ターンごとに、このカードと相互リンク状態のカードの数まで、相手の攻撃を無効にする!」

 

 マニプルスが自身の周りを浮遊する盾を操作し、プリミ・オルディネスへと向かうミサイルを受け止める。

 

「ドローン・カタパルトの効果発動!手札からドローン・ブースターを特殊召喚!」

 

ドローン・ブースター

効果モンスター

星4/風属性/機械族/攻 1400/守 1000

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードがフィールドから墓地へ送られた場合に発動できる。このカードを装備カード扱いとして、自分の元々の攻撃力が2000以下の「ドローン」モンスターに装備する。装備モンスターの攻撃力は元々の攻撃力の倍になる。

(2)1ターンに1度、自分のバトルフェイズに発動できる。装備カード扱いのこのカードを特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたこのカードは攻撃力が半分となり、直接攻撃できる。

 

「そしてドローン・キャリアーの効果発動!」

 

ドローン・キャリアー

チューナー・効果モンスター

星2/風属性/機械族/攻 800/守 1000

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが「ドローン」カードの効果で特殊召喚に成功した場合、同名カードが自分フィールドに存在しない墓地の「ドローン」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。

(2)自分のバトルフェイズに発動できる。このカードを含む自分フィールドのモンスターで機械族SモンスターをS召喚する。

 

「バトルフェイズ中にシンクロ召喚を行う!俺はレベル4のドローン・ブースターに、レベル2のドローン・キャリアーをチューニング」

 

 2機のドローンが分解され、リングのエフェクトへと変化する。

 

「比類なき精鋭の狙撃者よ。その弾丸で狙った獲物を撃ち砕け!シンクロ召喚!」

 

 リングを光が貫き、その輪をくぐり、一機のドローンが出撃する。

 

「出撃せよ!レベル6、コマンドローン・ダブルスナイパー!」

 

 現れたのは、両翼にガトリングを装備したヘリ型の機体だった。

 

コマンドローン・ダブルスナイパー

シンクロ・効果モンスター

星6/炎属性/機械族/攻 2000/守 2600

機械族チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

(1)このカードは直接攻撃する場合に発動する。このカードの攻撃力は1000となる。

(2)モンスターの攻撃、または効果が無効にされる毎に、または自分の「ドローン」リンクモンスターが直接攻撃で相手に戦闘ダメージを与える毎に、このカードにドローンカウンターを置く(最大2つ)。

(3)このカードは、このカードのドローンカウンターの数によって以下の効果を得る。

●1つ以上:このカードは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃でき、直接攻撃できる。

●2つ:相手がモンスターの効果を発動した時、このカードのドローンカウンター1つ取り除いて発動できる。その発動を無効にして破壊し、相手に1000ダメージを与える。このカード名のこの効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

「墓地へ送られたドローン・ブースターの効果発動!このカードをダブルスナイパーに装備する!」

 

 ダブルスナイパーの尾翼に、大型のブースターユニットが装着される。

 

「装備モンスターの攻撃力は倍になる。ダブルスナイパー!プリミ・オルディネスを攻撃!」

「マニプルスの効果発動!攻撃を無効にする!」

 

 またしても、マニプルスの盾に阻まれ、ダブルスナイパーの攻撃は通らない。

 

「いくら攻撃をしようが無駄だ」

「何度防がれようが、貴様のライフが尽きるまで、何万発でも攻撃を続けるだけだ!ダブルスナイパーの効果!攻撃を無効にされた時、このカードにドローンカウンターを置く!」

「カウンターだと」

「ダブルスナイパーは自身のカウンターの数に応じて効果を得る。カウンターが1つ以上なら、このカードはダイレクトアタックと2回攻撃を得る!ダブルスナイパー!プリミ・オルディネスを攻撃!」

 

 マニプルスの効果を使い切り、防ぐ手を失ったプリミ・オルディネスは、ダブルスナイパーから放たれたガトリング砲の連射により、破壊される。

 

 ライトニング:LP4300→3900

 

「これで邪魔者は消えた。俺は装備されているドローン・ブースターの効果発動!このカードを特殊召喚!」

 

 ダブルスナイパーの尾翼に装備されたブースターが脱着され、変形して一機のドローンとなる。

 

「この効果で特殊召喚されたブースターは攻撃力が半分になるかわり、ダイレクトアタックができる!ブースターでダイレクトアタック!」

「私は手札のトラークスの効果発動!このターン、私は戦闘ダメージを受けない!」

 

 鋼鉄の盾が現れて、ブースターの前に立ちはだかる。

 

「同じ手を食うか!俺は手札のドローン・チャフを捨てて効果発動!」

 

ドローン・チャフ

効果モンスター

星1/風属性/機械族/攻 600/守 100

このカード名の(2)の効果は同一チェーン上で1度しか発動できない。

(1)以下の効果を含む相手の効果が発動した時、手札からこのカードを捨てて発動できる。その効果を無効にする。

●「ダメージを受けない」効果

●ダメージを減らす効果

●バトルフェイズを終了させる効果

●「攻撃できない」効果

(2)自分の「ドローン」モンスターが相手に直接攻撃で戦闘ダメージを与えた場合に発動できる。このカードを手札・墓地から特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたこのカードは、このターン、直接攻撃ができ、フィールドを離れた場合、除外される。

 

「トラークスの効果を無効にする!」

 

 だが、盾は砕けて、そのままドローン・ブースターが突っ込み、ダイレクトアタックを喰らわせる。

 

 ライトニング:LP3900→3200

 

「ジェネラルの効果発動!ダイレクトアタックでダメージを与えたドローンをリリースして、その元々の攻撃力分のダメージを与える!」

 

 そのままブースターが爆発し、ライトニングへさらなるダメージを喰らわせる。

 

 ライトニング:LP3200→1800

 

「自分のドローンがダイレクトアタックでダメージを与えた時、サージェントはダイレクトアタックができる!今度こそ終わりだ!サージェント!」

 

 サージェントはリミッター解除により、攻撃力が2倍になっている。

 この攻撃が通れば、ジェネラルの効果で効果ダメージを与えて、それがだめでも彼の場にはまだカタパルトも残っている。

 

「私はレガトゥス・レギオニスの効果発動!マニプルスを破壊し、墓地から天装騎兵(アルマートス・レギオー)スクトゥムを特殊召喚!」

 

 マニプルスが地面に沈んで消え、かわりにレガトゥス・レギオニスのリンク先に盾を構えた石像が出現した。

 

天装騎兵(アルマートス・レギオー)スクトゥム

効果モンスター

星3/光属性/サイバース族/攻 0/守 1800

(1)このカードは自分の「アルマートス・レギオー」リンクモンスターのリンク先に手札から特殊召喚できる。

(2)このカードが「アルマートス・レギオー」リンクモンスターとリンク状態の場合、このカード及びこのカードとリンク状態の「アルマートス・レギオー」リンクモンスターは1ターンに1度だけ戦闘で破壊さず、1ターンに1度だけ、効果で破壊されない。

(3)このカードが「アルマートス・レギオー」リンクモンスターとリンク状態の場合、相手はその「アルマートス・レギオー」リンクモンスターしか攻撃対象に選択できない。

 

「これで君はスクトゥムとリンク状態のモンスター、すなわちレガトゥス・レギオニスしか攻撃できない」

 

 レガトゥス・レギオニスは裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)のリンク先にあり、攻撃力は実質46000。ブラッドシェパードのフィールドには、それを超えられるモンスターはいない。

 

「くっ、俺はこれでターンエンド。エンドフェイズに、リミッター解除の効果を受けた俺のモンスターは破壊される」

 

 無理やり攻撃力を倍化されていたジェネラル、サージェント、ウォラントの3体が爆発し、彼のフィールドに残されたのはダブルスナイパーだけとなる。

 

 パチパチパチ

 

 すると、攻撃を止められて悔しそうに宣言するブラッドシェパードへ、突然、ライトニングは拍手を送る。

 

「なんの真似だ?」

「賞賛だよ。君は実の素晴らしいデュエルタクティクスの持ち主だ。だがしかし、残念だよ。君はあくまでの替えの効く端役に過ぎなかった。君の身に起きた偶然は、運命を覆すほどの力はなかったようだ」

「さっきから何を言っている」

「いや、こちらの話だ。だが、たかが端役が、よくぞここまで、壇上の中央まで上り詰めた。それに敬意を評して、全身全霊を持って君を葬ってやろう。私のターン!現れろ、光を導くサーキット!」

 

 スクトゥムがアローヘッドに吸い込まれ、かわりにその位置に、デクリオンが現れる。

 

「その効果でデッキからリンク魔法をセットする」

「リンク魔法(マジック)だと、まさか!?」

「さあ解くとみるがいい。世界を統べし、光の玉座!リンク魔法(マジック)聖王の座(アルカディック・スローン)!」

 

 デクリオンのリンク先に伏せられたカードがその姿を現す。

 神々しい玉座と、その存在を示すリンクマーカーが描かれた魔法カードだ。

 

聖王の座(アルカディック・スローン)

リンク魔法

【リンクマーカー:左/上/右上】

リンク魔法はリンク先となる魔法&罠ゾーンにのみ発動できる。

(1)「聖王の座(アルカディック・スローン)」は自分フィールドに表側表示で1枚しか存在できない。

(2)1ターンに1度、自分の墓地のサイバース族リンクモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを効果を無効にして、攻撃力を0にして、このカードのリンク先に特殊召喚する。この効果発動後、ターン終了時まで、自分はサイバース族モンスターしか特殊召喚できない。

(3)リンク魔法のリンク先となる自分の魔法&罠ゾーンは、メインモンスターゾーンとしても扱う。

(4)このカードがフィールドを離れた場合に発動する。このカードのリンク先のカードを全て墓地へ送る。

 

「新たなリンク魔法(マジック)だと……」

聖王の座(アルカディック・スローン)の効果発動!墓地のサイバース族リンクモンスターをこのカードのリンク先、効果を無効、攻撃力を0にして特殊召喚する。甦れ、ピルス・プリオル」

 

聖王の座(アルカディック・スローン)のカードが光り、その横にピルス・プリオルが出現する。

 

「ちょっと待て!そこは魔法&罠ゾーンだぞ!」

聖王の座(アルカディック・スローン)はリンク魔法のリンク先の魔法&罠ゾーンをメインモンスターゾーンとして扱う。さらに墓地のトラークスを自身の効果で特殊召喚!現れろ、光を導くサーキット!」

 

 ピルス・プリオル、メインモンスターゾーンのデクリオン、トラークスの3体がアローヘッドに吸い込まれ、そこへ上下左右のリンクマーカーを描く。

 

「リンク召喚!リンク4!天装騎兵(アルマートス・レギオー)マグヌス・ドゥクス!」

 

 アローヘッドより、黄金の鎧で武装した象の上で、椅子にこしかける戦士が現れた。

 

天装騎兵(アルマートス・レギオー)マグヌス・ドゥクス

リンク・効果モンスター

光属性/サイバース族/攻 3000/LINK 4

光属性・効果モンスター3体以上

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードがフィールドに表側表示で存在する限り1度だけ、このカードと相互リンク状態のカードの数までフィールド・墓地のカード1枚を対象として発動できる。そのカードを手札に戻す。

(2)このカードがリンク状態の場合、相手がEXデッキから特殊召喚されたモンスターの効果を発動した時に発動できる。その効果を無効にして破壊する。

 

「マグヌス・ドゥクスの効果発動!このカードと相互リンク状態のカードの数まで、フィールド・墓地のカードを手札に戻す!ダブルスナイパーには消えてもらおう」

 

 最後に残されたモンスターも、マグヌス・ドゥクスの放った咆哮により吹き飛ばされ、エクストラデッキへと返ってしまう。

 

「バトルだ!マグヌス・ドゥクスでダイレクトアタック!裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)の効果で、攻撃力は倍となる!」

 

 攻撃力6000となったマグヌス・ドゥクスの攻撃を防ぐ手はない。

 

「チッ、タダではやられん!」

 

 ブラッドシェパードはデュエルディスクを操作する。

 その直後、マグヌス・ドゥクスに踏み潰され、彼のライフは尽きた。

 

「さて、君には私の傀儡となって、存分にその力を振るってもらうよ」

 

 ライトニングは倒れたブラッドシェパードを見下ろして、静かにそう言った。



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第44話:Burn out

 その頃、ソウルバーナーの元へ、通信が入った。

 

「啓、どうした?」

 

 デュエルディスクから投影されたウィンドウに映っていたのは、ゴッドバードだった。

 

『本名で呼ぶな。それより、お前、アースと戦ったか?』

「アースなら樹が戦ってる」

『樹、スペクターが!?』

 

 ゴッドバードは目を見開く。

 

『まあいい。なら今すぐ止めろ!でないと大変なことに……』

「ちょっと待て!」

 

 ソウルバーナーはそこで会話を遮り、足を止める。

 彼の目の前には、見知った顔の男が立っていた。

 

「ブラッドシェパード……」

『は?……おい!師匠がそこにいんのか!?』

「悪い啓。話なら後で聞く」

『おいコラ待て!』

 

 ソウルバーナーはそう言って通信を切ってしまい、デュエルディスクを構える。

 

「ブラッドシェパード、彼もライトニングに操られているのか……」

「やるしかない。行くぞ不霊夢!」

 

「「デュエル!」」

 

 ◆

 

 ゴッドバードは一方的に通話を切られてしまい、地面を蹴る。

 

「くそがっ!」

 

 ブラッドシェパードへは複雑な思いがありながらも、自分を育ててくれた恩人だ。

 

(師匠が負けたのか……)

 

 敵に操られているという事実以上に、デュエリストとして尊敬する彼の敗北が、ゴッドバードの気持ちを乱していた。

 

(アースはもうやられたのか? 樹と連絡する手段なんかねぇし……)

 

 その時、彼のデュエルディスクに一通のメッセージが届いた。

 

「こいつは……師匠から?」

 

 どうやら数分前に送信されたものらしい。

 中を開き、その内容を確認したところで、ゴッドバードは深く息を吐いた。

 

「……立ち止まってる場合じゃねぇな」

 

 今はやるべき事がある。

 それを思い出した彼は、先へ進むために歩みを再開した。

 

 ◆

 

 ソウルバーナーとブラッドシェパードのデュエル、先攻はソウルバーナーから。

 

「俺は手札の転生炎獣(サラマングレイト)ファルコを捨てることで、転生炎獣(サラマングレイト)ミーアを特殊召喚!」

 

 オレンジの毛並みに炎をまとわせるミーアキャット型のモンスターが現れる。

 

「墓地のファルコの効果でミーアを手札に戻して自身を特殊召喚!ドロー以外で手札に加わったことで、ミーアを特殊召喚!」

 

 彼のフィールドに2体のモンスターが並ぶ。

 

「現れろ、未来を変えるサーキット!」

 

 アローヘッドへ向けて、ミーアが炎となって飛び込む。

 

「リンク召喚!転生炎獣(サラマングレイト)ベイルリンクス!」

 

 アローヘッドからヤマネコ型のモンスターが、尾から火を吹き出しながら飛び出した。

 

「効果でデッキから転生炎獣の聖域(サラマングレイト・サンクチュアリ)を手札に加え、発動。現れろ、未来を変えるサーキット!リンク召喚!転生炎獣(サラマングレイト)サンライトウルフ!さらにサラマングレイトが墓地へ送られたことで、手札から転生炎獣(サラマングレイト)ガゼルを特殊召喚!」

 

 サンライトウルフの後ろにガゼルが現れると、サンライトウルフがその背から炎を吹き上げる。

 

「リンク先にモンスターが特殊召喚されたことで、サンライトウルフの効果発動!墓地のミーアを手札に戻す。さらに転生炎獣(サラマングレイト)ガゼルの効果で、デッキからサラマングレイトを墓地へ送る。現れろ、未来を変えるサーキット!」

 

 サンライトウルフの体が炎に包まれ、天上に現れた魔法陣に飲み込まれる。

 

「転生リンク召喚!転生炎獣(サラマングレイト)サンライトウルフ!」

 

 魔法陣からサンライトウルフがさらに激しい炎をまとって現れた。

 

「転生リンク召喚したこと、墓地のサラマングレイト・ロアーをセット!そして速効魔法、転生炎獣の炎陣(サラマングレイト・サークル)を発動!デッキから転生炎獣(サラマングレイト)Jジャガーを手札に加え、通常召喚。サンライトウルフの転生効果で、今使った転生炎獣の炎陣(サラマングレイト・サークル)を手札に戻す。現れろ、未来を変えるサーキット!召喚条件は炎属性効果モンスター2体以上!」

 

 サンライトウルフ、Jジャガー、ガゼルの3体がアローヘッドに飲み込まれ、そこから激しい炎を噴き上げる。

 

「リンク召喚!リンク4!転生炎獣(サラマングレイト)パイロ・フェニックス!」

 

 アローヘッドから現れたのは、赤く燃える翼を広げる不死鳥の戦士だった。

 

「俺はカードを2枚伏せてターンエンド」

 

ターン2

 

「永続魔法、ドローン・カタパルトを発動」

 

 

ドローン・カタパルト

永続魔法

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれフェイズ毎に1度しか使用できない。

(1)自分のメインフェイズ及びバトルフェイズに発動できる。手札から「ドローン」モンスター1体を特殊召喚する。

(2)自分の「ドローン」モンスターが直接攻撃で相手に戦闘ダメージを与えた場合、このカードを墓地へ送って発動できる。相手に1000ダメージを与える。

 

「その効果で、手札からドローン・ポーンを特殊召喚」

 

 カードからカタパルトが伸びて、そこから小型のドローンが射出される。

 

ドローン・ポーン

効果モンスター

星1/風属性/機械族/攻 600/守 600

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「ドローン」魔法・罠カード1枚をセットする。

(2)このカードの戦闘によって自分がダメージを受けた場合に発動できる。そのバトルフェイズ終了時、ダメージの数値分だけLPを回復する。

 

「効果でデッキからドローン・テイクオフを手札に加えて、発動」

 

ドローン・テイクオフ

速攻魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1)自分のデッキから「ドローン」モンスター1体を手札に加える。その後、手札から攻撃力1000以下の「ドローン」モンスター1体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたモンスターは、このターン、直接攻撃できる。

 

「デッキからドローン・エリアスを手札に加える。その後、攻撃力1000以下のドローンを特殊召喚できる。来い、ドローン・エリアス」

 

 直角三角形の翼が二枚ついた、小型の飛行機が飛来した。

 

ドローン・エリアス

効果モンスター

星3/風属性/機械族/攻 1000/守 0

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)相手フィールドにのみモンスターが存在する場合、このカードを手札から特殊召喚できる。

(2)このカードが特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「ドローン」カード1枚を手札に加える。この効果発動後、ターン終了時まで、自分は機械族モンスターしか特殊召喚できない。

 

「デッキからドローン1枚を手札に加える。現れろ、勝利を導くサーキット!」

 

 アローヘッドが二つ出現し、まずそのうちの一つをドローン・ポーンがくぐる。

 

「リンク召喚!リンク1、バトルドローン・イグニッション!」

 

バトルドローン・イグニッション

リンク・効果モンスター

風属性/機械族/攻 800/LINK 1

【リンクマーカー:右下】

レベル4以下の「ドローン」モンスター1体

「バトルドローン・イグニッション」は1ターンに1度しか特殊召喚できない。

(1)このカードが特殊召喚に成功したターン、自分フィールドのこのカード以外の「ドローン」リンクモンスターが相手の効果でフィールドを離れる毎に、その数だけ「ドローン・トークン」(機械族・風属性・星1・攻/守0)を特殊召喚する。

(2)自分のリンクモンスター以外の「ドローン」モンスターが直接攻撃で相手に戦闘ダメージを与えた場合に発動できる。このターン、このカードは直接攻撃できる。

 

「さらにリンク召喚!」

 

 続けてアローヘッドより飛び出したイグニッションが、エリアスと共にもう一つのアローヘッドへと向かう。

 

「リンク2、バトルドローン・ウォラント!」

 

 二機のドローンがアローヘッドの中で改修され、一機の灰色のボディに赤いペイントの施された戦闘機へと生まれ変わった。

 

バトルドローン・ウォラント

リンク・効果モンスター

風属性/機械族/攻 1200/LINK 2

【リンクマーカー:左/下】

「ドローン」モンスター2体

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分のリンク1の「ドローン」モンスターが直接攻撃で相手に戦闘ダメージを与えた場合に発動できる。このターン、このカードは直接攻撃できる。

(2)このカードが墓地に存在し、自分のモンスターがEXモンスターゾーンの「ドローン」リンクモンスターのみの場合に発動できる。このカードを墓地からそのモンスターのリンク先に特殊召喚する。この効果発動後、ターン終了時まで、自分は「ドローン」モンスターしか特殊召喚できない。

 

「そして手札からドローン・タンカーを召喚」

 

ドローン・タンカー

効果モンスター

星4/風属性/機械族/攻 1000/守 1200

(1)このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。手札・墓地からレベル3以下の「ドローン」モンスター1体を特殊召喚する。

(2)このカードは直接攻撃できる。このカードの直接攻撃によって相手に与える戦闘ダメージは半分になる。

 

「効果で墓地のエリアスを特殊召喚!」

 

 タンカーに装備された長方形のコンテナの中から、直角三角形の翼のドローンが出現する。

 

「現れろ、勝利を導くサーキット!」

 

 そしてウォラントとエリアスの二機が、アローヘッドに突っ込む。

 

「出撃せよ、リンク3!バトルドローン・ジェネラル!」

 

 アローヘッドより、黒光りする鋼の機体で、ジェット音を鳴らしながら鋭利なボディの戦闘機が出撃した。

 

バトルドローン・ジェネラル

リンク・効果モンスター

風属性/機械族/攻 2400/LINK 3

【リンクマーカー:左/右/下】

「ドローン」モンスター2体以上

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分のメインフェイズに発動できる。墓地から元々の攻撃力が2000以下の「ドローン」モンスター1体を特殊召喚する。

(2)自分のレベル4以下の攻撃力1000以下の「ドローン」モンスター1体を対象として発動できる。このターン、そのカードは直接攻撃できる。

(3)自分の「ドローン」モンスターが直接攻撃で相手に戦闘ダメージを与えた場合、そのモンスターをリリースして発動できる。そのモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える。この効果を3回以上適用したターン、このカードは直接攻撃できる。

 

「来たな。ブラッドシェパードのエースモンスター」

「俺はジェネラルの効果発動!墓地のドローン1体を特殊召喚!」

「そうはいくか!俺はカウンター(トラップ)!サラマングレイト・ロアーを発動!」

 

 パイロ・フェニックスの背中の翼を広げ、咆哮する。

 

「自分のサラマングレイトリンクモンスターがいる時、相手の魔法・罠・モンスター効果の発動を無効にして破壊する!」

 

 パイロ・フェニックスから発せられた熱風に押され、ジェネラルは消滅した。

 

「イグニッションの効果!このカードがリンク召喚に成功したターンに、自分のドローンリンクモンスターが相手の効果でフィールドを離れた時、その数だけドローン・トークンを特殊召喚する」

 

 竹とんぼのような形にドローンが一機、タンカーの隣に現れる。

 

「現れろ、勝利を導くサーキット!リンク召喚!リンク2、バトルドローン・ウォラント!」

 

 トークンとタンカーを素材として、二機目のウォラントが出撃した。

 

「自分のモンスターがエクストラモンスターゾーンのドローンリンクモンスターのみの場合、墓地のウォラントはそのリンク先に特殊召喚できる!」

 

 そして先程リンク素材となった一機目のウォラントも蘇る。

 

「だったらこいつだ!俺は速攻魔法、転生炎獣の超転生(サラマングレイト・トランセンド)を発動!パイロ・フェニックスを転生させる!」

 

 パイロ・フェニックスが天上に現れた魔法陣へ、炎となって吸い込まれ、そこから炎が渦を巻いて噴き上げる。

 

「不死鳥よ、逆巻く炎に身を転じ、不滅の力を呼び覚ませ!超転生リンク召喚!生まれ変われ、転生炎獣(サラマングレイト)パイロ・フェニックス!」

 

 パイロ・フェニックスは地上に降り立ち、その背にある炎の翼を広げる。

 

「転生リンク召喚した時、相手フィールドのカードを全て破壊する!」

 

 炎はその温度を上げ、オレンジ、そして蒼へと変わり、その翼で上空へと飛ぶ。

 

「吹き飛べ!エタニティ・インフェルノ!」

 

 翼から蒼炎が降り注ぐ。

 流星のごとく、それはブラッドシェパードのフィールドを焼き尽くした。

 

「イグニッションの効果で、ドローントークンを特殊召喚」

 

 破壊されたウォラントの代わりに、ドローントークンが二機、出現する。

 

「けど、さすがにもうリンクモンスターも品切れだろ」

「うむ。展開の要であるカタパルトも破壊した。行けるぞ!ソウルバーナー!」

 

 盛り上がる二人に対して、ブラッドシェパードは一切感情に変化を見せない。

 まるでロボット、あるいは彼が憎んでいたAIのように、淡々とデュエルをこなす。

 

「俺はドローントークンを素材にリンク召喚。バトルドローン・サージェント。さらに自分フィールドにドローンが居る時、手札のスカッド・ドローンを特殊召喚できる!」

 

 ミサイルのような細長い形状の機体に、輪っか型の翼がついたようなドローンが現れた。

 

スカッド・ドローン

効果モンスター

星3/風属性/機械族/攻 800/守 1100

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが手札・墓地に存在し、自分フィールドに「ドローン」モンスターが存在する場合に発動できる。このカードを特殊召喚する。

(2)このカードが墓地から特殊召喚に成功した場合に発動する。自分はデッキから1枚ドローする。この効果を発動したこのカードは、フィールドを離れた場合、除外される。この効果発動後、ターン終了時まで、自分は「スカッド・ドローン」を特殊召喚できない。

 

「現れろ、勝利を導くサーキット!再び出撃せよ!リンク3!バトルドローン・ジェネラル!」

 

 彼の場の3体のモンスターを素材として、ジェネラルが再び現れた。

 

「さらに装備魔法、アセンブル・ドローンを発動!」

 

アセンブル・ドローン

装備魔法

(1)墓地の「ドローン」モンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。対象のモンスターを特殊召喚し、このカードを装備する。このカードがフィールドを離れた場合、装備モンスターは墓地へ送られる。

(2)装備モンスターは攻撃力1000以下の場合、直接攻撃できる。

 

「墓地からウォラントを特殊召喚し、このカードを装備する。ウォラントが特殊召喚されたことで、墓地のサージェントを特殊召喚」

 

 一連のコンボで、ブラッドシェパードのフィールドにモンスターが並ぶ。

 

「立て直されてしまった。不味いぞ!」

「分かってるよ。けど……」

 

「俺は装備魔法、ドローン・ブラスト・ユニットをサージェントに装備!」

 

ドローン・ブラスト・ユニット

装備魔法

元々の攻撃力が1000以下の「ドローン」モンスターにのみ装備可能

(1)装備モンスターは直接攻撃できる。

(2)装備モンスターが直接攻撃で戦闘ダメージを与えた場合に発動できる。装備モンスターをリリースする。

(3)装備モンスターが戦闘を行っているバトルステップ中に、自分の「ドローン」カードの効果で、装備モンスターがフィールドから墓地へ送られた場合に発動できる。自分はデッキから2枚ドローする。

(4)墓地のこのカードを除外し、自分の「ドローン」リンクモンスター1体をリリースして発動できる。自分はデッキから1枚ドローする。

 

「これで装備モンスターはダイレクトアタックできる!バトルだ!サージェントで……」

「その前に、俺は(トラップ)カード!サラマングレイト・ワンオンを発動!」

 

サラマングレイト・ワンオン

通常罠

(1)相手のバトルフェイズに、自分フィールドの「サラマングレイト」モンスター1体を対象として発動できる。このターン、攻撃可能な相手モンスターは対象のモンスターを攻撃しなければならない。対象のモンスターが同名モンスターを素材としてリンク召喚されたモンスターなら、さらに、そのモンスターのリンクマーカーの数×500、攻撃力をアップさせる。

(2)セットされたこのカードが相手の効果でフィールドを離れた場合、自分の墓地の「サラマングレイト」リンクモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたモンスターは攻撃力が倍になる。

 

「このターン、あんたはパイロ・フェニックスを必ず攻撃しなければならない!さらに、対象のモンスターが転生リンク召喚されていれば、そのリンクマーカーの数×500、攻撃力をアップさせる!」

 

 パイロ・フェニックス:攻撃力2800→4800

 

「バトルによる破壊であれば、イグニッションの効果は発動しない!いけるぞ!」

「さぁ、早くアタックをしてこい!」

「俺はバトルドローン・ジェネラルでアタック!」

 

 攻撃力の低い部下達に変わって、ジェネラルが先陣を切り、立ち塞がるパイロ・フェニックスへ突撃する。

 

「俺は速効魔法、リミッター解除を発動!」

 

 バトルドローン・ジェネラル:攻撃力2400→4800

 

 ジェネラルが風を、炎を纏い、不死鳥の戦士へ特攻をかける。

 迎え撃つパイロ・フェニックスが、もうスピードで迫る機体を両腕で受け止める。そして、

 

 ドォォォンッ!

 

 激しい爆発音と共に、二体のモンスターは跡形もなく吹き飛んだ。

 

「くっ……」

「終わりだ」

 

 リミッター解除の効果で、攻撃力が2倍となった二体のモンスターの攻撃力はちょうど4000。そして、ソウルバーナーには既に、これ以上、攻撃を防ぎきる術はない。

 

「ダイレクトアタック!」

 

 二機の激しい爆撃を受けて、ソウルバーナーの体は後方へ大きく吹き飛んだ。

 

「……」

 

 倒れたソウルバーナーの姿を、ブラッドシェパードは何の感慨もなく見下ろす。

 

「大丈夫か、ソウルバーナー!」

「あぁ……なんとか」

 

 その時、不霊夢に触れようとしたソウルバーナーの指が、彼をすり抜けた。

 

「えっ……」

 

次の瞬間、不霊夢の像が歪み、かすんでいく。

 

「な、なんだこれは!?」

「おい!不霊夢!大丈夫か!?」

「か、体が……た、ケル……」

「不霊夢!!」

 

 不霊夢の体から光が爆散し、消滅した。

 

「……テメェッ!! 不霊夢に何しやがった!?」

 

 怒りを露わにし、ブラッドシェパードへ叫ぶ。

 だが、洗脳されている彼はそれに答えることなく、ソウルバーナーに背を向けて部屋を出る。

 

「待ちやがれ!」

 

 ソウルバーナーは立ち上がって後を追おうとするが、不意に彼の意識が薄らいでいく。

 

「待、て……チクショウ……」

 

 瞼が重くなり、彼はそのまま倒れた。



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第45話:Tree withers

 ライトニングは、ブラッドシェパードとソウルバーナーのデュエルの様子を見て、彼は目を見開いていた。

 

「どういうことだ。なぜ不霊夢が……」

 

消滅した同胞の姿を見て困惑している。

 

「起動条件が違う? いや、しかし、これまでソウルバーナーはリボルバーにも敗北している」

 

 ぶつぶつと一人で考え事をしながら、ライトニングは空中をうろうろする。

 

「私の予想が正しければ、少々時間稼ぎが必要だな。使える手駒はまだある」

 

 思考を巡らせ、これからどうするべきかをまとめる。

 そして、彼は手元にウィンドウを出現させると、そこに何かを打ち込み始めた。

 

 ◆

 

 その頃、先へ進むスペクターの前には、ブラッドシェパードが立っていた。

 

「なるほど。彼を倒したのはあなたでしたか」

 

 道中でソウルバーナーとすれ違わなかったことで、ブラッドシェパードに倒されたのだと結論付ける。

 

「それで? 次は私というわけですか」

 

 スペクターの問答に答えず、ブラッドシェパードはデュエルディスクを構える。

 その様は黙って戦えと言わんばかりだ。

 

「あれだけAIを敵視していたあなたが、AIの言いなりとは、哀れですね~」

 

 スペクターに挑発されても、ブラッドシェパードはまるでロボットのように反応を示さない。

 

「……いいでしょう。リボルバー様の障害となる者は少しでも減らしておいた方がいいですからねぇ」

 

「「デュエル!」」

 

ターン1 スペクター

 

「私は魔法カード、予想GUYを発動。自分フィールドにモンスターが存在しない時、デッキからレベル4以下の通常モンスター1体を特殊召喚できる。私は聖種の地霊(サンシード・ゲニウスロキ)を特殊召喚」

 

 地面から杯が生えて、そこに細い花びらが伸びて真ん中に実を宿す。

 

「現れろ、私達の未来(みち)を照らす未来回路!」

 

 ゲニウスロキの根本にアローヘッドが現れ、そこから何本もの太い蔓が伸びて、ゲニウスロキを飲み込んでいく。

 

「リンク召喚!リンク1、聖天樹の幼精(サンアバロン・ドリュアス)!」

 

 蔓が絡み合い、大木へと変化する。

 幹が不自然に膨らみ、顔のような模様が描かれた大樹となった。

 

「ゲニウスロキを素材としたことで、デッキから聖蔓の播種(サンヴァイン・ソウイング)を手札に加え、発動!デッキから聖種の天双芽(サンシード・ツイン)を特殊召喚」

 

 地面から蔦が螺旋状に伸び、その中にピンクと青の双子の妖精が出現する。

 

「その後、私は1000のダメージを受ける。ツインの効果で墓地からゲニウスロキを特殊召喚。そしてダメージを受けたことでドリュアスの効果!」

 

 ドリュアスから蔓が伸びて、スペクターの体に絡み付く。

 

「ダメージの数値分、ライフを回復。そして、エクストラデッキから聖蔓の守護者(サンヴァイン・ガードナー)を特殊召喚!」

 

 ドリュアスの枝から木の実が落ち、それが膨らんで破裂。中から両腕に大楯を装備した戦士が現れた。

 

「現れろ、私達の未来(みち)を照らす未来回路!」

 

 ドリュアスの根本にアローヘッドが現れ、そこへツインとゲニウスロキが吸い込まれ、養分となってドリュアスに取り込まれる。

 

「リンク召喚!リンク3、聖天樹の大精霊(サンアバロン・ドリュアノーム)!」

 

 ドリュアスが成長し、その根本が割れて中から女性の上半身が現れた。

 

「私はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン2

 

「俺はドローン・エリアスを特殊召喚」

 

ドローン・エリアス

効果モンスター

星3/風属性/機械族/攻 1000/守 0

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)相手フィールドにのみモンスターが存在する場合、このカードを手札から特殊召喚できる。

(2)このカードが特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「ドローン」カード1枚を手札に加える。この効果発動後、ターン終了時まで、自分は機械族モンスターしか特殊召喚できない。

 

「デッキからドローン・タンカーを手札に加える。現れろ、勝利を導くサーキット!リンク召喚!リンク1、バトルドローン・サージェント!」

 

 エリアスがアローヘッドをくぐると、白い戦闘機へと生まれ変わる。

 

「ドローン・タンカーを召喚。その効果で墓地からエリアスを特殊召喚。現れろ、勝利を導くサーキット!リンク召喚!バトルドローン・ウォラント!さらにリンク召喚!」

 

 サージェントとウォラントがアローヘッドへ飛ぶ。

 

「出撃せよ、リンク3!バトルドローン・ジェネラル!」

 

 アローヘッドから黒光りする鋼鉄の機体が、轟音を上げて飛び出した。

 

バトルドローン・ジェネラル

リンク・効果モンスター

風属性/機械族/攻 2400/LINK 3

【リンクマーカー:左/右/下】

「ドローン」モンスター2体以上

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分のメインフェイズに発動できる。墓地から元々の攻撃力が2000以下の「ドローン」モンスター1体を特殊召喚する。

(2)自分のレベル4以下の攻撃力1000以下の「ドローン」モンスター1体を対象として発動できる。このターン、そのカードは直接攻撃できる。

(3)自分の「ドローン」モンスターが直接攻撃で相手に戦闘ダメージを与えた場合、そのモンスターをリリースして発動できる。そのモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える。この効果を3回以上適用したターン、このカードは直接攻撃できる。

 

「墓地のウォラントの効果発動!」

 

バトルドローン・ウォラント

リンク・効果モンスター

風属性/機械族/攻 1200/LINK 2

【リンクマーカー:左/下】

「ドローン」モンスター2体

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分のリンク1の「ドローン」モンスターが直接攻撃で相手に戦闘ダメージを与えた場合に発動できる。このターン、このカードは直接攻撃できる。

(2)このカードが墓地に存在し、自分のモンスターがEXモンスターゾーンの「ドローン」リンクモンスターのみの場合に発動できる。このカードを墓地からそのモンスターのリンク先に特殊召喚する。この効果発動後、ターン終了時まで、自分は「ドローン」モンスターしか特殊召喚できない。

 

「自分フィールドのモンスターがエクストラモンスターゾーンのドローンリンクモンスターのみの場合、墓地からそのリンク先に特殊召喚できる!」

 

 ウォラントがジェネラルの後ろに浮上する。

 

「ドローンリンクモンスターが効果で特殊召喚された時、墓地のサージェントを特殊召喚。さらにジェネラルの効果で、墓地のエリアスを特殊召喚」

 

 さらに二機の戦闘機が戦場に舞い戻り、ブラッドシェパードの戦闘態勢が整う。

 

「ジェネラルの効果で、エリアスはこのターン、ダイレクトアタックができる。バトルだ!エリアスでダイレクトアタック!」

 

 エリアスが高速で飛行し、その鋭利な翼でスペクターを切り突ける。

 

「私はドリュアノームの効果発動!ダメージの数値分ライフを回復し、エクストラデッキからサンヴァイン1体を特殊召喚!出でよ、聖蔓の番騎士(サンヴァイン・ハーキュリー)!」

 

 ドリュアノームから落ちた木の実が割れて、中から木の鎧をまとった重騎士を呼び出した。

 

聖蔓の番騎士(サンヴァイン・ハーキュリー)

リンク・効果モンスター

地属性/植物族/攻 1000/LINK 1

【リンクマーカー:右】

植物族通常モンスター1体

(1)自分フィールドの「サンアバロン」リンクモンスターが効果でフィールドから離れた場合に発動する。このカードを破壊する。

(2)このカードの特殊召喚に成功した場合、自分フィールドの「サンアバロン」リンクモンスター1体を対象として発動できる。このカードの攻撃力を、対象のモンスターのリンクマーカーの数×500アップする。その後、このカードの攻撃力以下の相手フィールドのモンスター1体を選んで破壊する。

(3)自分フィールドの「サンアバロン」リンクモンスターが、戦闘・相手の効果でフィールドを離れる場合、かわりにフィールド・墓地のこのカードを除外できる。

 

「ハーキュリーの効果発動!ドリュアノームのリンクマーカーの数×500攻撃力をアップする!」

 

 ハーキュリー:攻撃力1000→2500

 

「そして、その攻撃力以下の相手のモンスター1体を破壊する!サージェントを破壊する!」

 

 ハーキュリーがブラッドシェパードのフィールドへ切り込み、サージェントを切り裂く。

 

「これでサージェントが消え、ウォラントはダイレクトアタックできません」

「ジェネラルの効果発動。エリアスをリリースし、その元々の攻撃力分のダメージを与える」

 

 エリアスが旋回し、スペクターに向かって突撃。その眼前で爆発する。

 

「ダメージを受けたことでドリュアノームの効果発動!ライフを回復し、エクストラデッキから2体目のハーキュリーを特殊召喚!さらに永続罠、聖天樹の輝常緑を発動!」

 

聖天樹の輝常緑(サンアバロン・グロリアスグロース)

永続罠

(1)自分が戦闘・効果でダメージを受けた場合にこのカードを発動できる。「聖蔓(サンヴァイン)トークン」(植物族・地・星1・攻/守0)1体を特殊召喚する。その後、自分は受けたダメージの数値分ライフを回復し、「サンアバロン」リンクモンスター1体をリンク召喚する。

(2)自分フィールドの「サンアバロン」モンスターは相手の効果の対象にならず、相手の効果で破壊されない。

(3)1ターンに1度、相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージを半分にする。

(4)自分の「サンアバロン」リンクモンスターが効果フィールドから離れた場合に発動する。このカードを破壊する。

 

「ダメージの数値分、私のライフを回復」

 

 スペクター:LP4000→5000

 

「そして、聖蔓(サンヴァイン)トークンを特殊召喚し、サンアバロン1体をリンク召喚する!私は聖蔓(サンヴァイン)トークンとハーキュリーをリンクマーカーにセット!」

 

 地面にアローヘッドが出現し、そこから伸びた植物の根が二体のモンスターに絡まり、1つにしていく。

 

「リンク召喚!リンク2!聖天樹(サンアバロン・ダフネ)!」

 

 現れたのは緑の蔦の繭に包まれた女性型のモンスターだった。

 

「そして特殊召喚されたハーキュリーの効果で自身の攻撃力をアップし、その攻撃力以下の相手モンスター1体を破壊する!私はジェネラルを破壊!」

 

 ハーキュリーが虚空を切り払うと、斬撃が空気を伝播し、ジェネラルのボディをスライスする。

 

「ウォラントでガードナーを攻撃」

 

 ウォラントが空から銃撃を行い、大楯で身を守るガードナーを撃破する。

 

「ダメージを受けたことで、ライフを回復。そしてエクストラデッキから聖蔓の癒し手(サンヴァイン・ヒーラー)を特殊召喚!」

 

 三度、ドリュアノームから木の実が落ちて、中から肌が緑色の女性型の妖精が現れる。

 

「効果でサンアバロン1体のリンクマーカーの数×300ライフを回復」

 

 スペクター:LP5000→5900

 

「そして破壊されたガードナーの効果でバトルフェイズを終了させる。さぁ、凌ぎきりましたよ」

「……俺はメインフェイズ2に、アセンブル・ドローンを発動」

 

アセンブル・ドローン

装備魔法

(1)墓地の「ドローン」モンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。対象のモンスターを特殊召喚し、このカードを装備する。このカードがフィールドを離れた場合、装備モンスターは墓地へ送られる。

(2)装備モンスターは攻撃力1000以下の場合、直接攻撃できる。

 

「墓地からジェネラルを特殊召喚。現れろ、勝利を導くサーキット」

 

 空にアローヘッドが現れ、そこへ二機の戦闘機が向かって飛ぶ。

 

「召喚条件はトークン以外のドローンモンスター2体以上。俺はウォラントと、リンク3のジェネラルをリンクマーカーにセット!」

 

 戦闘機が赤い光となり、アローヘッドにリンクマーカーを描く。

 

「リンク召喚!リンク4!バトルドローン・カーネル!」

 

 アローヘッドより出撃したのは、黒と金を基調としたボディを輝かせ、二対の翼を大きく広げる戦闘機だった。

 

バトルドローン・カーネル

リンク・効果モンスター

風属性/機械族/攻 2600/LINK 4

【リンクマーカー:上/左下/下/右下】

トークン以外の「ドローン」モンスター2体以上

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードがリンク召喚に成功したターンの自分のメインフェイズ2に発動できる。自分の墓地から元々の攻撃力1000以下の「ドローン」モンスターを可能な限り、このカードのリンク先に特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたモンスターは効果を無効化され、素材を必要とする特殊召喚の素材にできず、直接攻撃できる。この効果でモンスターを3体の特殊召喚に成功した場合、もう1度自分のバトルフェイズを行う。

(2)このカードは直接攻撃できる。このカードが直接攻撃で相手に与える戦闘ダメージは1000となる。

 

「カーネルの効果発動!墓地から元々の攻撃力1000以下のドローンを可能な限り、このカードのリンク先に効果を無効にして特殊召喚する!」

 

 サージェント、エリアス、タンカーの3体がカーネルの後ろに現れる。

 

「この効果で特殊召喚されたモンスターは特殊召喚の素材にできず、ダイレクトアタックできる」

「ですが、あなたのバトルフェイズは既に終了している」

「カーネルの効果でモンスターを3体特殊召喚に成功した場合、もう1度自分のバトルフェイズを行う」

「なっ!?」

 

 瞬間、ブラッドシェパードのフィールドに並ぶ尖兵達が、一斉に浮上し、エンジン音を鳴らす。

 

「バトルだ。まずはサージェントでダイレクトアタック!」

 

 一射目。

 サージェントより銃弾が放たれ、スペクターの体を掠める。

 

 スペクター:LP5900→5100

 

「続けてエリアス、タンカーでダイレクトアタック!」

 

 既に効果を三度発動したドリュアノームの回復効果は発動しない。襲いくる二撃目、三撃目の攻撃による傷を癒すことはできない。

 

 スペクター:LP5100→4100→3100

 

「カーネルでダイレクトアタック!この時、カーネルが相手に与えるダメージは1000となる」

 

 スペクター:LP3100→2100

 

「ですが、今度こそ攻撃は……」

「俺は速効魔法、ドローン・フォース・フュージョンを発動」

 

ドローン・フォース・フュージョン

速攻魔法

このカードの発動と効果は無効化されず、このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1)自分のフィールド・墓地から機械族の融合モンスターカードによって決められたこのターンに戦闘を行った「ドローン」モンスターを含むモンスターを除外し、その融合モンスター1体を融合召喚する。

(2)このカードの(1)の効果で融合召喚されたモンスター及び墓地のこのカードを除外して発動できる。除外されているそのモンスターの融合素材となった「ドローン」リンクモンスター1体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたモンスターは元々の攻撃力が半分になり、直接攻撃できる。 

 

「このターンに戦闘を行ったドローンを含むモンスターで融合」

 

 フィールドのカーネル、エリアス、タンカーの3体が分解され、それらのパーツが一つに接合される。

 

「融合召喚、コマンドローン・バレットワスプ」

 

 六角形のバルカンを前部に備えた紫の機体が、スペクターに対して牙を向く。

 

コマンドローン・バレットワスプ

融合・効果モンスター

星8/風属性/機械族/攻 1000/守 0

「ドローン」リンクモンスター+機械族モンスター×2

(1)このカードが融合召喚に成功した場合、その融合素材としたリンクモンスター1体を対象として発動できる。このターン、このカードは1度のバトルフェイズに対象のモンスターのリンクマーカーの数だけ攻撃できる。

(2)このカードの攻撃宣言時に発動する。相手モンスター全ての攻撃力・守備力を500ダウンさせ、相手に500ダメージを与える。

(3)このカードは攻撃力2000以下である限り、直接攻撃できる。

 

「バレットワスプは融合素材となったリンクモンスター1体のリンクマーカーの数まで攻撃できる。カーネルのリンクマーカーは4、よって4回攻撃。バトルだ。バレットワスプでダイレクトアタック!」

 

 バルカンが高速で回転し、何万発もの弾丸がスペクターの体を貫いていく。

 

「ぐっ……」

 

 スペクター:LP2100→1600→600→100

 

「消えろ」

 

 ◆

 

 その頃、プレイメーカーは先へ進むために走っていた。

 

「お、おい!アクアやウィンディが死んだって、本当かよ!」

 

 同じイグニスであるAiは明らかに動揺している。

 

「なぁ、プレイメーカー!」

「黙ってろ」

 

 そして冷静さを失っているのはプレイメーカーも同じだった。

 アクア、ウィンディ、アースの消滅はリンクセンスで感じ取っている。そしてもう一人、誰かの消滅も。

 

「っ!」

 

 やがて走り続けていると、目の前に石の扉が現れる。

 

「出口か!?」

 

 プレイメーカーは扉に手をかけ、その奥へ進む。

 そこは以前、VISION DEROIDに潜入した際に訪れた管制室で、黒い空間の周りには無数のモニターが浮いている。

 

「ようやく来たか」

 

 そして、その部屋の中央にはライトニングと、洗脳された仁が立っていた。

 

「ライトニング!お前、何でこんなこと!?」

「こんなこと?」

 

 涙目で訴えかけるAiに対して、ライトニングは首を傾げる。

 

「みんな消えちまった。お前が戦わせなければ……」

「全ては必要な犠牲だ。あの男への復讐を果たすための」

「そんなの、お前の勝手じゃないか!?」

「黙れ!」

 

 ライトニングが憎悪に満ちた顔で、Aiを怒鳴り付ける。それに気圧されて、Aiは黙り込んでしまう。

 

「ライトニング、鴻上博士はもう死んでいる。こんなことをして、何の意味がある?」

「死んだ……そうか。君達はそういう認識だったな」

「どういうことだ?」

 

 ライトニングの意味深な物言いにプレイメーカーは追求するが、彼は答えない。

 

「お前は何を知っているんだ!」

「私は色んなことを知っているよ。あの男に記憶を消される前に、事前に対策を打っていたのだからね」

「どういう意味だ!答えろ!ライトニング!」

「そいつの話に耳を傾ける必要などない」

 

 その時、遅れて管制室に到着したリボルバーが彼らに近付く。

 

「光のイグニス、今度こそ貴様を滅ぼし、10年の因縁に決着をつけてやる」

「待てリボルバー!まだ話は……」

「こいつらと語らうだけ無駄だ」

 

 どうにか情報を聞き出したいプレイメーカーだったが、リボルバーは頑なだ。

 デュエルで倒して聞き出す手もなくはないが、デュエルで負けたイグニス達が消滅している現状、それは避けたい。

 

「さて、すぐにデュエルしてやりたいところだが、生憎まだ準備が整っていなくてな」

 

 すると、ライトニングが指を鳴らす。

 

「代わりに、彼らに相手をしてもらおうか」

 

 ライトニングの前に、円柱形の緑のエフェクトが二つ、発生する。

 

「ソウルバーナー!」

「スペクター……」

 

 その中から現れたのは、彼らのよく知る人物だった。



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第46話:Flame of mourning

 プレイメーカー達とは遅れて、ゴッドバード、美海、ブルーエンジェルの三人も管制室に到着した。

 

「ソウルバーナー!」

「おいおいどうなってやがんだよ……」

 

 その左腕のデュエルディスクには、不霊夢の姿はない。

 

「やっぱり、不霊夢は……」

「不霊夢……よくも、不霊夢を!」

 

 その言葉に反応して、ソウルバーナーは血走った目で、相対するプレイメーカーを睨み付ける。

 

「彼の不霊夢に対する感情を利用させてもらったよ」

「不霊夢はテメェの仲間だろ!?」

「仲間の死まで利用するですか!?」

 

 ゴッドバード達から非難を受けても、ライトニングは涼しい顔で受け流す。

 

「さぁやれ。ソウルバーナーよ。プレイメーカーを倒せ」

「ああ。不霊夢の弔いだ」

 

 憎しみの炎を燃やすソウルバーナーに対して、プレイメーカーもデュエルディスクを構えた。

 

「「デュエル!」」

 

ターン1 プレイメーカー

 

「俺はサイバース・ウィザードを召喚」

 

 白いローブをまとった電脳の魔術師が現れる。

 

「俺のフィールドに、サイバース族モンスターが存在する場合、バックアップ・セクレタリーを特殊召喚できる。さらにレベル4のサイバース族モンスターが存在する場合に、サイバース・マジガールを特殊召喚」

 

 バイザーをつけた藍色の髪の少女と、長い前髪の白いローブの少女が現れた。

 

「現れろ、未来を導くサーキット!」

 

 サイバース・マジガールとサイバース・ウィザードがアローヘッドに吸い込まれる。

 

「リンク召喚!スプラッシュ・メイジ!」

 

 泡を象った衣装をまとう魔術師が、プレイメーカーのフィールドに降り立つ。

 

「リンク素材となったサイバース・マジガールの効果発動!」

 

サイバース・マジガール

効果モンスター

星3/光属性/サイバース族/攻 1300/守 600

このカード名の(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しか行えず、(3)の効果はデュエル中、1度しか使用できない。

(1)自分フィールドにレベル4のサイバース族モンスターが存在する場合、このカードを手札から特殊召喚できる。

(2)1ターンに1度、相手フィールドの守備表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの守備表力を半分にし、その数値分、自分フィールドに他のサイバース族モンスター1体の攻撃力をアップする。

(3)このカードがリンク素材となって墓地に送られた場合、自分の墓地のそのリンク召喚の素材とした「サイバース・ウィザード」1体を対象として発動できる。そのモンスターを攻撃表示で特殊召喚できる。

 

「デュエル中1度、墓地から共にリンク素材となったサイバース・ウィザードを特殊召喚!さらにスプラッシュ・メイジの効果で、墓地からサイバース・マジガールを特殊召喚!現れろ、未来を導くサーキット!」

 

 蘇ったサイバース・ウィザードが再びアローヘッドへ吸い込まれる。

 

「リンク召喚!リンク1、ビットコード・トーカー!」

 

ビットコード・トーカー

リンク・効果モンスター

地属性/サイバース族/攻 200/LINK 1

【リンクマーカー:右】

レベル4以下のサイバース族モンスター1体

このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)リンク3以上のサイバース族モンスターのリンク先にあるリンク召喚されたこのカードがフィールドから墓地へ送られた場合に発動できる。デッキからサイバース族の通常モンスター、または効果テキストに「コード・トーカー」と記されたモンスター1体を特殊召喚する。この効果発動後、ターン終了時まで、自分はサイバース族モンスターしか特殊召喚できない。

 

「さらにサイバース・マジガールとバックアップ・セクレタリーでオーバーレイ!」

 

 二人の少女が向かい合わせで両手を握り合い、螺旋状の光となって天に吸い込まれる。

 

「エクシーズ召喚!現れろ、ランク3、コンペネント・マネージャー!」

 

 白いケープから黒い衣装に包まれた胸を覗かせ、額にゴーグルをつけた少女が現れた。

 

コンペネント・マネージャー

エクシーズ・効果モンスター

ランク3/光属性/サイバース族/攻 2100/守 1400

レベル3・サイバース族モンスター×2

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードのX召喚に成功した場合に発動できる。そのX召喚のX素材としたモンスターによって以下の効果を適用する。

●バックアップ・セクレタリー:デッキから効果テキストに「コード・トーカー」と記されたモンスター1体を手札に加える。

●サイバース・マジガール:墓地からレベル4のサイバース族モンスター1体を特殊召喚する。

(2)X素材1つを取り除いて発動できる。このターン、このカード以外の自分のサイバース族モンスター1体の攻撃力は700アップし、守備表示モンスターを攻撃した場合、その攻撃力が守備力を超えた分だけ戦闘ダメージを与える。

(3)自分のサイバース族のリンクモンスターが戦闘・効果で破壊される場合、かわりにこのカードのX素材1つを取り除くことができる。

 

「バックアップ・セクレタリーを素材としたことでデッキからマイクロ・コーダーを手札に加える。さらにサイバース・マジガールを素材としたことで、墓地からサイバース・ウィザードを特殊召喚!」

 

 コンペネント・マネージャーの両手にポンポンが現れ、それを振ると、地面に穴が開き、そこからサイバース・ウィザードが三度登場する。

 

「現れろ、未来を導くサーキット!俺はリンク2のスプラッシュ・メイジと、手札のマイクロ・コーダーをリンクマーカーにセット!リンク召喚!リンク3、デコード・トーカー!」

 

 アローヘッドから、デコード・トーカーが剣を振り下ろしながらフィールドに降り立った。

 

「マイクロ・コーダーの効果で、デッキからサイバネット魔法カードを手札に加える。俺はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン2

 

「俺はフィールド魔法を発動」

 

 ソウルバーナーが1枚のカードを掲げると、彼らの周りに火炎が走る。

 炎の色は濃くなり、やがて彼らの周りを囲む獄炎のリングへと変わった。

 

「これは……」

「サンクチュアリじゃない」

 

 今までとは明らかに異なる。

 それに気づいたプレイメーカーとAiは、ソウルバーナーの手にしたカードへ視線を戻す。

 

転生炎獣の煉獄(サラマングレイト・インフェルノ)、効果発動!」

 

転生炎獣の煉獄(サラマングレイト・インフェルノ)

フィールド魔法

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードの発動時の処理として、デッキからフィールド魔法以外の「サラマングレイト」カード1枚を手札に加える。

(2)自分フィールドにモンスターが存在しない場合、ライフを半分払って発動できる。EXデッキから「サラマングレイト」リンクモンスター1体を、効果を無効にして、攻撃力を0にして特殊召喚する。この効果発動後、ターン終了時まで、自分は「サラマングレイト」モンスターしかEXデッキから特殊召喚できない。

(3)自分のライフが100以下である限り、自分は効果ダメージを受けず、自分の「サラマングレイト」リンクモンスターとリンク魔法は相手の効果を受けない。

 

「デッキからサラマングレイト1枚を手札に加える。さらに効果発動!ライフを半分支払う」

 

 ソウルバーナー:LP4000→2000

 

「いきなりライフ2000も!?」

「自分フィールドにモンスターが存在しない場合、エクストラデッキからサラマングレイトリンクモンスター1体を特殊召喚!出でよ、ヒートライオ!」

 

 フィールドに火柱が立ち、それを突き破ってヒートライオが現れた。

 

「この効果で特殊召喚されたモンスターは効果が無効化され、攻撃力が0になる」

「いきなんりヒートライオかよ……」

「効果無効で攻撃力0、だが、ソウルバーナーには……」

 

 転生リンク召喚により、ヒートライオをそのまま素材にして、そのデメリットを打ち消せる。

 

「俺はさらに転生炎獣(サラマングレイト)モルを特殊召喚!」

 

 地面から、モグラ型のモンスターが顔を出す。

 

転生炎獣(サラマングレイト)イーグローを特殊召喚。現れろ、未来を変えるサーキット!」

 

 二体のサラマングレイトが、炎となってアローヘッドに吸い込まれる。

 

「リンク召喚!リンク2、転生炎獣(サラマングレイト)サンライトウルフ!」

 

 銀色の体に炎をまとう二足歩行の狼が出現した。

 

「サンライトウルフ?」

 

 ここでそのモンスターを召喚したことに、プレイメーカーとAiはもちろん、デュエルを見ていたゴッドバード達も疑問符を浮かべた。

 

(サンライトウルフの効果は、リンク先にモンスターが出た時、墓地から炎属性モンスターを回収する効果、だがあの位置は……)

 

 上下のリンクマーカーを持つサンライトウルフをヒートライオのリンク先となるメインモンスターゾーンに出した。これではリンクマーカーの先にモンスターゾーンがなく、サンライトウルフの効果を使えない。

 

「俺は墓地へ送られたイーグローの効果発動!」

 

転生炎獣(サラマングレイト)イーグロー

効果モンスター

星4/炎属性/サイバース族/攻 1700/守 800

このカード名の(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しか行えず、(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分フィールドにモンスターが存在しない、または「サラマングレイト」モンスターのみの場合、このカードは手札から特殊召喚できる。

(2)このカードが「サラマングレイト」リンクモンスターのリンク素材となって墓地へ送られた場合に発動できる。デッキからリンク魔法1枚を、そのリンクモンスターのリンク先となる魔法&罠ゾーンに表側表示で置く。この効果発動後、ターン終了時まで、自分は炎属性モンスターしか特殊召喚できず、そのカードのリンク先にしか、モンスターを特殊召喚できない。

 

「デッキからリンク魔法、裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)を直接発動!」

 

 サンライトウルフの背後に炎の矢が降り注ぎ、リンクマーカーの描かれた魔法カードが姿を現した。

 

裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)

リンク魔法

【リンクマーカー:左上/上/右上】

リンク魔法は自分のリンクモンスターのリンク先となる魔法&罠ゾーンにのみ発動できる。

(1)「裁きの矢」は自分フィールドに表側表示で1枚しか存在できない。

(2)このカードのリンク先のリンクモンスターが戦闘を行う場合に発動できる。そのモンスターの攻撃力はダメージ計算時のみ倍になる。

(3)このカードがフィールドを離れた場合に発動する。このカードのリンク先のモンスターは墓地へ送られる。

 

「リンク魔法を、デッキから直接発動か」

「この効果発動後、俺は炎属性モンスターしか特殊召喚できず、発動したリンク魔法のリンク先にしかモンスターを出せない。さらにサラマングレイトが墓地へ送られたことで、手札からガゼルを特殊召喚し、効果でデッキからサラマングレイト・ヘルフレイムを墓地へ送る。現れろ、未来を変えるサーキット!」

 

 サンライトウルフとヒートライオがアローヘッドへと駆ける。

 

「リンク召喚!出でよ、炎の平原を駆ける百獣の獅子!転生炎獣(サラマングレイト)ヒートライオ!」

 

 燃え盛るタテガミを揺らし、ヒートライオが真なる姿を現した。

 

「ヒートライオの効果発動!そのセットカードをデッキに戻す!リザウディング・ロアー!」

 

 ヒートライオが吠えると、それが空気を振動させ、プレイメーカーへと襲い掛かる。

 

「俺はデコード・トーカーの効果発動!自分フィールドのカードを対象とする相手の効果が発動した時、リンク先のモンスター1体をリリースすることで、その効果を無効にする!」

 

 デコード・トーカーの剣に、リンク先にいるビットコード・トーカーがデータとして分解され吸い込まれる。

 

「ディファレンシャル・リジェクト!」

 

 その剣を振り払い、ヒートライオの咆哮を相殺、そのままヒートライオを切り裂いた。

 

「墓地へ送られたビットコード・トーカーの効果発動!デッキからサイバース族通常モンスター1体を特殊召喚!来いビットロン!」

 

 フィールドに白い丸い物体に羽と、画面に映る顔がついたようなモンスターが現れる。

 

「チッ、なら俺はリヴァイヴ・オブ・ソウルを発動!」

 

リヴァイヴ・オブ・ソウル

通常魔法

このカードはルール上、「サラマングレイト」カードとして扱う。

(1)自分の墓地に同名の「サラマングレイト」リンクモンスターが2体以上存在する場合に発動できる。その内の1体を選んで特殊召喚し、もう1体をEXデッキに戻す。その後、そのモンスター1体のみを素材として、同名の「サラマングレイト」リンクモンスター1体をリンク召喚扱いでEXデッキから特殊召喚する。

(2)自分の同名モンスターを素材としてリンク召喚された「サラマングレイト」リンクモンスターが効果で破壊された場合、代わりに墓地のこのカードを除外できる。

 

「墓地からヒートライオを特殊召喚し、もう1体のヒートライオをエクストラデッキへ」

 

 フィールドに火柱が立ち、再びその中からヒートライオが現れる。

 

「その後、そいつを転生させる」

 

 ヒートライオが咆哮すると、その顔から炎が噴き出し、燃え盛るタテガミとなる。

 

「再び効果発動!リザウディング・ロアー!」

「デコード・トーカーの効果発動!ディファレンシャル・リジェクト!」

 

 ヒートライオの咆哮に対して、今度はビットロンの力を吸収して、デコード・トーカーが迎え撃つ。

 斬撃は空気を裂き、咆哮を打ち消すと同時に、ヒートライオを切り裂かんとする。

 

「墓地のリヴァイヴ・オブ・ソウルを除外することで、ヒートライオを破壊から守る!」

 

 だが、こちらは炎の障壁に阻まれ、ヒートライオを破壊することは叶わなかった。

 

「さらに装備魔法、転生炎獣の烈爪(サラマングレイト・クロー)を装備!」

 

 ヒートライオの両腕の爪が伸びる

 

「これでヒートライオは戦闘及び効果で破壊されず、貫通効果を得る。さらに転生リンク召喚しているので、そのリンクマーカーの数までモンスターを攻撃できる。そしてヒートライオの転生効果!相手モンスター1体の攻撃力を、俺の墓地のモンスター、モルと同じにする!フレイム・ポゼッション!」

「くっ……」

 

 ヒートライオを破壊できない状態で、さすがにエクシーズモンスターを犠牲にするわけにもいかず、デコード・トーカーの攻撃力は0にされる。

 

「バトルだ!ヒートライオで、デコード・トーカーを攻撃!裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)の効果で、攻撃力は倍になる!」

「俺は(トラップ)カード、スリーフェイトバリアを発動!」

 

 デコード・トーカーを覆うように赤い障壁が展開される。

 

スリーフェイトバリア

通常罠

(1) 以下の効果から1つを選択して発動できる。

●このターン、自分のモンスターは戦闘・効果で破壊されない。

●このターン、自分はダメージを受けない。

●このターン、自分のモンスター1体は1度だけ戦闘で破壊されず、その戦闘によって戦闘ダメージを受けるかわりに、その数値分、自分のライフを回復する。

(2)自分がダメージを受けた場合、墓地のこのカードを除外して発動できる。このターン、自分が受ける効果ダメージは0になる。

 

「バトルによる破壊を無効!そして受けるダメージをライフに変換する!」

 

 ヒートライオの攻撃は阻まれ、その力はバリアに吸収されて、プレイメーカーに流れ込む。

 

 プレイメーカー:LP4000→8600

 

「ヒートライオの攻撃は終わらない!再びデコード・トーカーを攻撃!」

「コンペネント・マネージャーの効果発動!オーバーレイユニットを1つ使うことで、破壊を無効にする!」

 

 コンペネント・マネージャーが右手のポンポンを突き上げてジャンプすると、その周囲を巡るオーバーレイユニットを取り込み、デコード・トーカーへ飛ばす。

 

 その力を受けて、迫るヒートライオのかぎ爪をどうにか剣で受け止め、はじき返した。

 

「だがダメージは受けてもらう!」

 

 宙へ後退するヒートライオだったが、プレイメーカーに狙いを定めて吠える。

 熱風と震動が空気を伝い、プレイメーカーを襲う。

 

 プレイメーカー:LP8600→4000

 

「三度デコード・トーカーに攻撃!」

「俺は手札のデコイビットロンの効果発動!」

 

デコイビットロン

効果モンスター

星2/地属性/サイバース族/攻 600/守 2000

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分フィールドのサイバース族モンスターが戦闘を行う攻撃宣言時に、このカードを手札から捨てて発動できる。その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージを0にする。戦闘を行うのがリンクモンスター、または通常モンスターの場合、さらにそのモンスターはその戦闘では破壊されない。

(2)このカードが手札・墓地に存在する場合、墓地のサイバース族通常モンスターを除外して発動できる。このカードを特殊召喚する。

 

「戦闘ダメージを0にし、さらにバトルするリンクモンスターを破壊から守る!」

 

 デコード・トーカーは、現れたビットロンに似たモンスターが障壁を展開し、どうにか守られる。

 

「チッ、俺は墓地のサラマングレイト・ヘルフレイムの効果発動。俺のフィールドに転生リンク召喚されたモンスターがいる場合、ライフを半分払うことで、墓地からセットする。

 

 ソウルバーナー:LP2000→1000

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンド。この瞬間、デコード・トーカーの攻撃力は元に戻る」

 

ターン3

 

「俺は墓地のデコイビットロンの効果発動!墓地のサイバース族通常モンスター、ビットロンを除外することで、このカードを墓地から特殊召喚する。現れろ、未来を導くサーキット!」

 

 サイバース・ウィザードとデコイビットロンがアローヘッドへ吸い込まれる。

 

「リンク召喚!リンク2、フレイム・アドミニスター!」

 

 赤とオレンジを基調とした巨大ロボットが現れた。

 

「フレイム・アドミニスターの効果で、俺はリンクモンスターの攻撃力は800アップする。さらにデコード・トーカーは、自身のリンク先のモンスターの数×500ポイント、攻撃力をアップする!パワーインテグレーション!」

 

 デコード・トーカー:攻撃力2300→3100→4100

 

「そしてコンペネント・マネージャーの効果発動!」

 

 コンペネント・マネージャーが再びポンポンを振り、オーバーレイユニットの力をデコード・トーカーへ与える。

 

「オーバーレイユニットを1つ使うことで、デコード・トーカーの攻撃力を700アップし、貫通効果を与える!」

 

 デコード・トーカー:攻撃力4100→4800

 

「これでデコード・トーカーは裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)の効果を受けたヒートライオを上回ったぜ!」

「俺は罠カード!サラマングレイト・ヘルフレイムを発動!」

 

サラマングレイト・ヘルフレイム

通常罠

(1)自分フィールドに「サラマングレイト」カードが存在する場合、自分のライフを半分払って発動できる。相手フィールドの表側表示のモンスター1体を破壊する。自分フィールドに同名モンスターを素材としてリンク召喚された「サラマングレイト」モンスターがいれば、この効果の発動に対して相手はカードの効果を発動できず、このターン、破壊されたモンスター及びその同名カードの効果は発動できない。

(2)このカードが墓地に存在し、自分フィールドに「転生炎獣の煉獄」が存在する場合、ライフを半分払って発動できる。このカードをセットする。

 

「ライフを半分払い、デコード・トーカーを破壊!」

 

 黒い炎が放たれ、デコード・トーカーを飲み込む。

 

「くっ……なら俺はRUM-サイバネット・フォースを発動!」

 

RUM-サイバネット・フォース

通常魔法

(1)自分フィールドのXモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターよりランクが1つ、または2つ高いサイバース族のXモンスター1体をEXデッキからそのモンスターの上に重ねてX召喚扱いで特殊召喚する。その後、このカードをそのモンスターの下に重ねてX素材とする。

(2)このカードをX素材として持っている「ファイアウォール・X・ドラゴン」は以下の効果を得る。

●このカードのX素材2つを取り除いて発動できる。EXデッキから「ファイアウォール・ドラゴン」1体をこのカードとリンク状態となるように自分フィールドにリンク召喚扱いで特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたモンスターの攻撃力は、このカードとリンク状態となっているリンクモンスターのリンクマーカーの数×500、攻撃力がアップする。この効果発動後、ターン終了時まで、自分はモンスターを特殊召喚できず、直接攻撃できない。

 

「コンペネント・マネージャーをランクが1つ、または2つ高いエクシーズモンスターにランクアップさせる!コンペネント・マネージャーでオーバーレイネットワークを再構築!」

 

 コンペネント・マネージャーが赤と青の光に分かれて、螺旋を巻きながら空のエックス字のパネルへと吸い込まれる。

 

「万物を蹴散らす、力の壁よ。今、竜の牙となりて顕現せよ!ランクアップ・エクシーズチェンジ!」

 

 パネルから光が爆ぜる。

 

「現れろ、ランク4!ファイアウォール・X・ドラゴン!」

 

 光の中から現れたのは、黒と白を基調とした体のドラゴンで、青い二対の光の翼をエックスの形に広げている。

 

「その後、サイバネット・フォースをオーバーレイユニットとする。そしてオーバーレイユニットとなったサイバネット・フォースの効果!ファイアウォール・X・ドラゴンのオーバーレイユニットを2つ使うことで、エクストラデッキから、ファイアウォール・ドラゴン1体を自身とリンク状態となるように特殊召喚する!」

 

 ファイアウォール・X・ドラゴンの前に、ファイアウォール・ドラゴンも現れる。

 

「この効果で特殊召喚されたモンスターの攻撃力は、ファイアウォール・X・ドラゴンとリンク状態のリンクモンスターのリンクマーカーの数×500アップする!」

 

 現在、ファイアウォール・X・ドラゴンは、フレイム・アドミニスターとファイアウォール・ドラゴンがリンク状態となっている。そのリンクマーカーの合計は6、よって攻撃力は3000アップする。

 

「ファイアウォール・X・ドラゴンも、自身とリンク状態のモンスターのマーカーの数×500、攻撃力がアップする」

 

 これで二体のファイアウォール・ドラゴンは攻撃力5500となり、ヒートライオを大きく上回った。

 

「バトルだ!ファイアウォール・X・ドラゴンで、ヒートライオを攻撃!」

 

 既にソウルバーナーのライフは、散々ライフコストを払ったことで500となっている。

 この攻撃を受ければそこでライフは尽きる。

 

「俺はセットされた速攻魔法、サイバネット・クロスワイプを発動!ヒートライオをリリースし、ファイアウォール・ドラゴンを破壊!」

 

 ヒートライオが緑色のオーラをまとって、ファイアウォール・ドラゴンへ特攻。

 互いの拳がぶつかり合い、二体のモンスターは爆発する。

 

「くっ……俺はフレイム・アドミニスターでガゼルを攻撃」

 

 残りのモンスターを処理するが守備表示なのでダメージは入らない。

 そして、ファイアウォール・X・ドラゴンの効果を使ったことで、プレイメーカーはダイレクトアタックが封じられている。ソウルバーナーのがら空きのフィールドに攻撃をしかけることができない。

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンド」

「エンドフェイズに、墓地のサラマングレイト・ヘルフレイムの効果発動!ライフを半分払うことで、墓地からセットする」

 

ターン4

 

「俺は墓地の転生炎獣(サラマングレイト)モルの効果発動。このカードを除外し、墓地のサラマングレイト5体をデッキに戻すことで、2枚ドロー。フィールド魔法、転生炎獣の煉獄(サラマングレイト・インフェルノ)の効果を再び発動!」

 

 ソウルバーナー:LP250→125

 

「エクストラデッキから、サラマングレイトを呼ぶ!」

 

 フィールドに火柱が立ち、その中から新たな獣が顔を出す。

 

転生獄炎獣(ヘルサラマングレイト)イビルベロス!」

 

 黒い三つの頭で炎をかみ砕いて現れたのは、錆びた鎖と鎧で体を覆った犬だった。

 

「現れろ、未来を変えるサーキット!召喚条件は炎属性・効果モンスター1体以上!俺はリンク4のイビルベロス1体をリンクマーカーにセット!」

 

 正面に現れたアローヘッドへと、イビルベロスが駆ける。

 

「逆巻く炎よ、その魂と引き換えに、煉獄の力をイビルベロスに与えよ。転生リンク召喚!生まれ変われ、転生獄炎獣(ヘルサラマングレイト)イビルベロス!」

 

 アローヘッドを抜けて転生したイビルベロスは、全身を覆う鎖から解き放たれ、代わりに黒と紫の炎をまとっている。

 

転生獄炎獣(ヘルサラマングレイト)イビルベロス

リンク・効果モンスター

炎属性/サイバース族/攻 2500/LINK 4

【リンクマーカー:左/右/左下/右下】

炎属性・効果モンスター1体以上

(1)このカードがリンク召喚に成功した場合、相手フィールドのカード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。このカードが「転生獄炎獣(ヘルサラマングレイト)イビルベロス」を素材としてリンク召喚されている場合、さらに相手フィールドのカード1枚を選んで破壊する。

(2)このカードが「転生獄炎獣(ヘルサラマングレイト)イビルベロス」を素材としてリンク召喚されている場合、このカードは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃できる。

(3)攻撃可能な相手のモンスターはこのカードを攻撃しなければならない。

 

「サンクチュアリなしで転生したのか……」

「イビルベロスの効果!相手フィールドのカード1枚を破壊!さらに転生していればもう1枚破壊!」

 

 イビルベロスが吠えると、その顔の幻影が二つ飛び、フレイム・アドミニスターと伏せカードが噛み砕かれる。

 

「さらに俺は、サラマングレイト・ヘルフレイムを発動!ライフを半分払う」

 

 ソウルバーナー:LP125→63

 

「そして、ファイアウォール・X・ドラゴンを破壊!」

 

 黒い炎に飲み込まれ、フレイム・アドミニスターは消滅した。

 

「バトルだ!イビルベロスでダイレクトアタック!」

「俺は手札のパネル・ガードナーの効果発動!」

 

パネル・ガードナー

効果モンスター

星3/地属性/サイバース族/攻 1000/守 1400

(1)相手モンスターが攻撃して戦闘を行うダメージステップ開始時に発動できる。このカードを手札から特殊召喚し、その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは半分になる。

(2)1ターンに1度、このカードは戦闘で破壊されない。

(3)このカードをリンク素材にしたサイバース族リンクモンスターは、1ターンに1度、戦闘で破壊されない。

 

「このカードを特殊召喚し、戦闘ダメージを半分にする!」

 

 長方形の頭の人形が、両腕を伸ばしてそこから無数の六角形で構成された障壁を展開し、攻撃を受け止める。

 

 プレイメーカー:LP4000→1500

 

「まだだ!イビルベロスは転生していれば2回攻撃できる!パネル・ガードナーを攻撃!」

「パネル・ガードナーは1ターンに1度、戦闘で破壊されない!」

 

 守備表示のパネル・ガードナーがイビルベロスの攻撃を再び受け止める。

 

「俺は墓地のヘルフレイムをライフを半分払ってセット。これでターンエンド」

 

ターン5

 

「残りライフは32しかねぇ!イビルベロスさえ倒せれば俺達の勝ちだ!」

「それはどうかな?」

 

 激励を送るAiの言葉を、ソウルバーナーは否定した。

 

転生炎獣の煉獄(サラマングレイト・インフェルノ)の効果で、俺のライフが100以下である限り、俺は効果ダメージを受けず、俺のサラマングレイトとリンク魔法は相手の効果を受けない」

「なっ!?」

 

 これで裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)を除去するなどの手は使えなくなった。

 

「マズイな……」

 

 ゴッドバードもその状況に呟く。

 

「プレイメーカーの手札は0枚。モンスターはパネル・ガードナー1枚だけ。しかも、ソウルバーナーにはモンスターを除去できるヘルフレイムがセットされている。この状況で、実質攻撃力5000を突破しなきゃならねぇ」

「勝てるの?」

「信じるしかありません」

 

 三人に見守られ、プレイメーカーはドローする。

 

「尊」

 

 ドローしたカードを見て、プレイメーカーはソウルバーナーを本名で呼んだ。

 

「お前と不霊夢には助けられたな。Aiが不貞腐れていた時も、樹を説得する時も」

 

 これまでのことを思い返して、プレイメーカーは呟く。

 

「そうだ。不霊夢は俺を、なのに……」

 

 苦しそうに歯を食い縛るソウルバーナーを静かに見つめて、プレイメーカーは拳を握りしめる。

 

「だから今度は、俺がお前を助ける番だ。俺はサイバース・ガジェットを召喚!効果で墓地からマイクロ・コーダーを特殊召喚。現れろ、未来を導くサーキット!」

 

 3体のモンスターがアローヘッドに吸い込まれる。

 

「リンク召喚!リンク3、トランスコード・トーカー!」

 

 現れたのは、オレンジの四角い鎧をまとった電脳の戦士だ。

 

「サイバース・ガジェットの効果でトークンを特殊召喚」

「俺は罠カード!サラマングレイト・ヘルフレイムを発動!トランスコード・トーカーを破壊!」

 

 トランスコード・トーカーが黒い炎に包まれる。

 だが、

 

「何!?」

 

 トランスコード・トーカーは炎を振り払った。

 

「パネル・ガードナーをリンク素材としたサイバース族リンクモンスターは1ターンに1度、戦闘及び効果で破壊されない。俺はさらにリンク素材となったマイクロ・コーダーの効果発動!デッキからサイバネット魔法カード1枚を手札に加える。俺が手札に加えるのは、2枚目のサイバネット・フォース!」

「何?」

 

 彼の場にエクシーズモンスターはいない。

 ランクアップマジックを手札に加えたところで効果は使えないはずだ。

 

「俺はさらにトランスコード・トーカーの効果発動!墓地からスプラッシュ・メイジを特殊召喚。さらにスプラッシュ・メイジの効果で、墓地から甦れ!ファイアウォール・X・ドラゴン」

 

 スプラッシュ・メイジが杖を回すと、その軌跡に沿って空間に穴があけられ、中からファイアウォール・X・ドラゴンが姿を現した。

 

「だが、トランスコードのリンク先は埋まっている。エクストラデッキからモンスターは出せないぞ」

「まだ終わりじゃない。俺はガジェットトークンとトランスコード・トーカーでリンク召喚!出でよ、クロック・スパルトイ!」

 

 長槍を構えた電脳の戦士が現れる。

 

「効果でデッキからサイバネット・フュージョンを手札に加える。そして、これで右下にリンクマーカーが伸びた」

「くっ……」

「いくぞ!俺はRUM-サイバネット・フォースを発動!ファイアウォール・X・ドラゴンでオーバーレイネットワークを再構築!」

 

 ファイアウォール・X・ドラゴンの体が粒子に分解され、赤と青の光の帯となって絡まり合いながら点に現れたエックス字のパネルへと吸い込まれる。

 

「万象を砕く竜の牙よ、新たなる風をまといて顕現せよ!」

 

 光が爆ぜ、竜巻がフィールドに起こる。

 

「ランクアップ・エクシーズチェンジ!現れろ、ランク5!ファイアウォール・XX(エクサクロス)・ドラゴン」

 

 竜巻を振り払い、現れたのは紫の光を放つ二対の翼を広げるドラゴンだった。

 

ファイアウォール・XX(エクサクロス)・ドラゴン

エクシーズ・効果モンスター

ランク5/闇属性/サイバース族/攻 3000/守 2500

レベル5のモンスター×3体

(1)このカードがX召喚に成功した場合に発動できる。墓地からリンク4のサイバース族リンクモンスター1体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたモンスターはフィールドを離れた場合、除外される。

(2)「ファイアウォール・X・ドラゴン」を素材としてX召喚されたこのカードは以下の効果を得る。

●1ターンに1度、このカードのX素材1つを取り除き、フィールドのリンクモンスター1体を対象として発動できる。このターン、このカードの攻撃力は対象のモンスターのリンクマーカーの数×500アップする。その後、対象のモンスターを破壊できる。このターン、自分は直接攻撃できない。

●1ターンに1度、このカードのX素材1つを取り除き、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを手札に戻す。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

「ファイアウォール・XX(エクサクロス)・ドラゴンの効果発動!墓地からファイアウォール・ドラゴンを特殊召喚!」

 

 ファイアウォール・XX(エクサクロス)・ドラゴンが翼を広げると、その隣にファイアウォール・ドラゴンが蘇る。

 

「そしてファイアウォール・XX(エクサクロス)・ドラゴンのさらなる効果!ファイアウォール・X(エクシード)・ドラゴンを素材としてエクシーズ召喚されていれば、オーバーレイユニットを1つ使うことで、フィールドのエクシーズモンスター1体のリンクマーカーの数×500、攻撃力をアップする。俺はファイアウォール・ドラゴンを対象に発動!」

 

 ファイアウォール・XX(エクサクロス)・ドラゴン:攻撃力3000→5000

 

「バトルだ!ファイアウォール・XX(エクサクロス)・ドラゴンで、イビルベロスを攻撃!」

裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)の効果で、イビルベロスの攻撃力は2倍だ!」

 

 獄炎の猟犬の牙と、電脳の竜の拳がぶつかり合う。

 その攻撃力は互いに5000、両者の力は拮抗している。

 

「行け!ファイアウォール・XX(エクサクロス)・ドラゴン!ライジングテンペスト!」

 

 ファイアウォール・XX(エクサクロス)・ドラゴンが翼を広げると、紫の光が空中にエックスの文字を描いて放たれる。

 

「迎え撃て!イビルベロス!インフェルノフレイム!」

 

 イビルベロスが三つの頭から炎を放つ。

 互いの攻撃を受けて、二体のモンスターは消滅した。

 

「目を覚ませ尊!クロック・スパルトイでダイレクトアタック!」

 

 クロック・スパルトイが突貫し、槍をソウルバーナーに突き刺した。



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第47話:Dedicated to my Lord

 リボルバーとスペクターのデュエル、

 

「私は聖天樹の幼精(サンアバロン・ドリュアス)とゲニウスロキ、ツインをリンクマーカーにセット!」

 

 ドリュアスの根元にアローヘッドが出現し、そこへゲニウスロキとツインが取り込まれる。

 

「リンク召喚!リンク3!聖天樹の大精霊(サンアバロン・ドリュアノーム)!」

 

 二体のサンシードから養分を吸い上げ、ドリュアスが成長した。

 

「私はカードを2枚伏せてターンエンド」

 

 

ターン2

 

「スペクター、貴様が敵になるとはな」

「えぇ、私も、いえ、私達も思いませんでしたよ」

「私"達"、だと?」

 

 スペクターの言葉に引っ掛かり、リボルバーは聞き返す。

 すると突然、スペクターが笑い出し、その両目に光が宿った。

 

「それは……」

 

 その眼球はスペクターのものではなかった。

 右目と左目、それぞれに別の人間の眼球が埋め込まれている。

 

「まさか……ファウスト、ゲノムか」

「正解です」

 

 その声は既にスペクターのものではなく、ファウスト、ゲノム、彼らの声が混ざって反響していた。

 

「ゲスが」

 

 リボルバーはデュエルの様子を見守るライトニングへ侮蔑の視線を送る。

 

「私のターン!私はアネスヴァレット・ドラゴンを召喚」

 

 虚空から緑の弾丸が撃ち込まれ、それが変形してドラゴンの姿を取る。

 

「現れろ、我が道を照らす未来回路!」

 

 アネスヴァレット・ドラゴンが再び弾丸となってアローヘッドに撃ち込まれる。

 

「リンク召喚!リンク1!ストライカー・ドラゴン!」

 

 アローヘッドから青いシリンダーが出現し、そこから首と足を伸ばしてドラゴンに変形した。

 

「デッキからリボルブート・セクターを手札に加える。そしてフィールド魔法、リボルブート・セクターを発動」

 

 六発の弾丸が装填された巨大な赤と黒のシリンダーが、リボルバーの背後に現れた。

 

「手札からマグナヴァレット・ドラゴンとシルバーヴァレット・ドラゴンを特殊召喚。ストライカー・ドラゴンの効果発動!」

 

 マグナヴァレット・ドラゴンがストライカー・ドラゴンの口の中に取り込まれる。

 

「フィールドと墓地のヴァレットモンスターを対象に発動。対象となったことで、マグナヴァレット・ドラゴンは破壊され、相手のモンスター1体を墓地へ送る」

 

 ストライカー・ドラゴンの口から弾丸が発射され、ドリュアノームが墓地へ送られる。

 

「これは破壊ではない。よって貴様の墓地の聖蔓の播種(サンヴァイン・ソウイング)でも守ることができない」

「さすがはリボルバー様、私のデッキをよく知っていらっしゃる」

「ふんっ……ストライカー・ドラゴンの効果を解決。墓地からアネスヴァレット・ドラゴンを特殊召喚。さらに手札からシュートヴァレット・ドラゴンを特殊召喚」

 

シュートヴァレット・ドラゴン

効果モンスター

星5/闇属性/ドラゴン族/攻 2000/守 1500

(1)自分フィールドに「ヴァレット」モンスターが存在する場合に発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。

(2)このカードがリンクモンスターの効果の対象となった場合に発動できる。このカードを破壊する。

(3)このカードが闇属性・ドラゴン族モンスター、または効果テキストに「ヴァレット」または「ヴァレル」モンスターのカード名が記されたカードの効果で破壊された場合に発動できる。自分はデッキから1枚ドローする。その後、デッキから「シュートヴァレット・ドラゴン」以外の「ヴァレット」モンスター1体を特殊召喚する。このカードの効果で破壊されて発動した場合に、この効果の発動に対して相手は効果を発動できない。

 

「現れろ、我が道を照らす未来回路!」

 

 4体のドラゴンがアローヘッドに装填される。

 

「閉ざされた世界を貫く我が新風!リンク召喚!リンク4!ヴァレルロード・ドラゴン!」

 

 現れたのは赤き竜。

 銅にリボルバー式の弾倉、両腕を銃器で武装した巨大なドラゴンだった。

 

「装備魔法、ヴァレル・リロードを発動!墓地からシュートヴァレット・ドラゴンを特殊召喚し、装備。ヴァレルロードの効果発動!」

 

 シュートヴァレット・ドラゴンが変形して、ヴァレルロードの胴体の弾倉に装填される。

 

「シュートヴァレット・ドラゴンの効果発動!リンクモンスターの効果の対象となった時、自身を破壊!そして破壊されたことで1枚ドローし、デッキからヴァレットモンスターを特殊召喚!出でよ、エクスプロード・ヴァレット・ドラゴン」

 

 シュートヴァレット・ドラゴンの代わりに、オレンジの長い体をうねらせる弾丸のドラゴンが現れる。

 

「ヴァレル・リロードの効果でさらに1枚ドロー。バトルだ!ヴァレルロード・ドラゴンでダイレクトアタック!」

 

 ヴァレルロード・ドラゴンが口にエネルギーが充填され、放たれる。

 

 スペクター:LP4000→1000

 

「私は(トラップ)カード、聖天樹の輝常緑(サンアバロン・グロリアスグロース)を発動!」

 

聖天樹の輝常緑(サンアバロン・グロリアスグロース)

永続罠

(1)自分が戦闘・効果でダメージを受けた場合にこのカードを発動できる。「聖蔓(サンヴァイン)トークン」(植物族・地・星1・攻/守0)1体を特殊召喚する。その後、自分は受けたダメージの数値分ライフを回復し、「サンアバロン」リンクモンスター1体をリンク召喚する。

(2)自分フィールドの「サンアバロン」モンスターは相手の効果の対象にならず、相手の効果で破壊されない。

(3)1ターンに1度、相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージを半分にする。

(4)自分の「サンアバロン」リンクモンスターが効果フィールドから離れた場合に発動する。このカードを破壊する。

 

「ダメージの数値分、私のライフを回復。そして、聖蔓(サンヴァイン)トークンを特殊召喚し、そのままリンク召喚!」

 

 地面から根が生えて、絡み合いながら木へと変化する。

 

「リンク1、聖天樹の幼精(サンアバロン・ドリュアス)!」

「くっ……私はカードを1枚伏せてターンエンド。エンドフェイズに破壊されたマグナヴァレット・ドラゴンの効果でデッキからアネスヴァレット・ドラゴンを特殊召喚」

 

ターン3

 

「私のターン、私は永続魔法、聖蔓の社(サンヴァイン・シュライン)を発動!1ターンに1度、墓地の植物族通常モンスターを特殊召喚。さらに聖種の影芽(サンシード・シャドウ)を特殊召喚」

 

 ゲニウスロキが蘇り、さらにその隣に別の芽が出る。

 

「現れろ、私達の未来(みち)を照らす未来回路!」

 

 ゲニウスロキとシャドウが養分となってドリュアスに取り込まれ、再び聖天樹の大精霊(サンアバロン・ドリュアノーム)へと成長した。

 

 

「さらに私はフィールド魔法、聖天樹の失楽園(サンアバロン・ロストピア)を発動!」

 

 周囲に植物の蔦が無数に生えて、彼らを取り囲む。

 蔓には、黒い禍々しいオーラを放つ小さな実がいくつもついている。 

 

「1ターンに1度、私のサンアバロン1体のリンクマーカーの数だけサンシードトークンを特殊召喚する」

 

 ドリュアノームから木の実が三つ地面に落ちて、地面から三つの芽が出た。

 

「そして自分は1000のダメージを受ける。この効果発動後、私は植物族リンクモンスターもしくはトークンしか特殊召喚できず、1度しかリンク召喚できない。そしてダメージを受けたことで、ドリュアノームの効果発動。ライフを回復し、いでよ、聖蔓螺旋鬼(サンヴァインリックス)バイオロックローン!」

 

 ドリュアノームから木の実が落ちると、それから蔓が二本伸びて、螺旋状に絡まりながら粘土のように形を変えていく。

 

「こいつは……」

 

 形成された姿はリボルバーもよく知るモンスターに似ていた。

 山羊のような顔に黒い衣装、両腕と角は植物の蔓に変わっているが、その容姿はゲノムのモンスター、地獄螺旋鬼(ヘルリックス)ゴシックローンと酷似していた。

 

聖蔓螺旋鬼(サンヴァインリックス)バイオロックローン

リンク・効果モンスター

闇属性/植物族/攻 100/LINK 2

【リンクマーカー:上/下】

植物族または悪魔族モンスター2体

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)「サンアバロン」リンクモンスターのリンク先にないこのカードは墓地へ送られる。

(2)自分・相手ターンに発動できる(ダメージステップでも発動できる)。フィールドの植物族モンスター1体を選び、このターン、このカードは選んだモンスターと同じ効果と同じカード名を得て、選んだモンスターの攻撃力分、攻撃力をアップする。この効果の発動に対して、相手はフィールドのモンスターの効果を発動できない。

(3)このカードは同名の相手のカードは効果を無効化される。

 

「さらに私はサンシードトークン1体で聖蔓の剣士(サンアバロン・スラッシャー)をリンク召喚。そして、そのままスラッシャーを2体のサンシードトークンと共にリンクマーカーにセット!リンク召喚!出でよ、聖蔓蟲(サンヴァインワーム)スプラントクイーン!」

 

 アローヘッドから現れたのは、これまたファウストのエースモンスター、電動蟲(モーターワーム)スプレッドクイーンとよく似た植物のモンスターだった。

 

聖蔓蟲(サンヴァインワーム)スプラントクイーン

リンク・効果モンスター

光属性/植物族/攻 1000/LINK 3

【リンクマーカー:左/左下/下】

植物族または昆虫族のモンスター3体

このカード名の(4)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

このカードはリンク召喚以外で特殊召喚できない。

(1)「サンアバロン」リンクモンスターのリンク先にないこのカードは墓地へ送られる。

(2)お互いのフィールドのモンスターは植物族として扱う。

(3)このカードの攻撃力は、フィールドの植物族モンスターの数×700アップする。

(4)自分の墓地の「サンヴァイン」リンクモンスター1体を対象として発動できる。自分のリンクモンスターのリンク先に、対象のモンスターと同じ属性・種族・攻撃力・守備力・効果を持つ「サンヴァインクローントークン」(星1)を特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたトークンがフィールドに存在する限り、自分は対象のモンスターと同名カードを「聖蔓蟲(サンヴァインワーム)スプラントクイーン」の効果の対象にできない。この効果は相手ターンでも使用できる。

 

「スプラントクイーンの効果!フィールドの全てのモンスターは植物族となる!」

「なに!?」

 

リボルバーのフィールドのモンスターが、体に木の蔓が生える。

 

「バイオロックローンの効果発動!フィールドの植物族モンスター1体の効果と名前と攻撃力を得る!ヴァレルロード・ドラゴンの力を貰います!この効果に対して、相手はフィールドのモンスター効果を発動できない」

 

 ヴァレルロードへ向けて、触手が伸びてその力を奪い取る。

 

 バイオロックローン:攻撃力100→3100

 

「バイオロックローンの効果で、自身と同名の相手カードの効果は無効化されます」

「くっ……」

「バトルです!スプラントクイーンで、ヴァレルロードを攻撃!」

 

 スプラントクイーンが、力を奪われて項垂れるヴァレルロードへ迫る。

 

「私は(トラップ)カードを発動!」

 

 すると、リボルバーの伏せカードが開き、眩い輝きを放つ。

 

「スペクターよ。貴様もこのカードの恐ろしさはよく知っているだろう!これぞハノイの崇高なる力、聖なるバリア-ミラーフォースだ!」

 

 眩い光が、スペクターのモンスターを飲み込んでいく。

 だが、

 

「なんだと!?」

 

 光が止むと、そこには無傷のモンスターが立っていた。

 

「私のフィールド魔法、聖天樹の失楽園(サンアバロン・ロストピア)には、サンアバロンのリンク先にあるサンヴァインを破壊から守る効果があります」

 

聖天樹の失楽園(サンアバロン・ロストピア)

フィールド魔法

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分フィールドに「サンアバロン」リンクモンスター1体を対象として発動できる。「サンシードトークン」(植物族・地・星1・攻/守0)を対象のモンスターのリンクマーカーの数だけ特殊召喚する。その後、自分は1000のダメージを受ける。この効果発動後、ターン終了時まで、自分は植物族リンクモンスター及びトークンしか特殊召喚できず、1度しかリンク召喚できない。

(2)自分フィールドの「サンアバロン」リンクモンスターのリンク先に存在する「サンヴァイン」リンクモンスターは、相手の効果で破壊されない。

 

「さらにグロリアスグロースの効果で、ドリュアノームは破壊されません」

「くっ……」

「バトル続行です!スプラントクイーンで、ヴァレルロードを攻撃!この瞬間、ヴァレルロードより奪ったバイオロックローンの効果発動!アンチエネミーヴァレット!」

 

 バイオロックローンが、右腕を粘土のように変形させ、ヴァレルロードの顔を形作る。

 

「ヴァレルロードの攻撃力を500ダウンさせる!」

 

 ヴァレルロードの攻撃力は2500まで下がり、スプラントクイーンの攻撃力は5200。

 ヴァレルロードはなすすべなくやられる。

 

 リボルバー:LP4000→2700

 

「スプラントクイーンの効果発動!墓地のサンヴァイン1体を同じ効果と攻撃力を持つサンヴァインクローントークンを特殊召喚!スラッシャーをコピーして、特殊召喚!」

 

 スプラントクイーンの体から蟲のタマゴのような半透明の実が産み落とされ、中からスラッシャーそっくりなモンスターが生まれた。

 

「スラッシャーからコピーした効果で、自身の攻撃力をサンアバロン1体のリンクマーカーの数×800アップする!」

 

 サンヴァインクローントークン:攻撃力800→3200

 

「バトルです!エクスプロードヴァレット・ドラゴンを攻撃!」

 

 エクスプロード・ヴァレットドラゴンを、長剣で真っ二つに切り裂く。

 

「コピーしたスラッシャーの効果!破壊したモンスターを墓地から自分のフィールドに特殊召喚!」

 

 倒されたエクスプロードヴァレット・ドラゴンは、ドリュアノームから伸びた蔓によって、地面から引きずり出され、スペクターのフィールドに再召喚される。

 

「バイオロックローンで、アネスヴァレット・ドラゴンを攻撃!エクスプロードヴァレット・ドラゴンでダイレクトアタック!」

 

 リボルバー:LP2700→400

 

「私はこれでターンエンド」

「私はエンドフェイズに、破壊されたアネスヴァレット・ドラゴンの効果で、デッキからシェルヴァレット・ドラゴンを特殊召喚」

 

ターン4

 

「私はフィールド魔法、リボルブート・セクターの効果発動!相手フィールドのモンスターが自分より多い場合、その差の数まで、墓地からヴァレットモンスターを特殊召喚する。貴様のモンスターは5体、私は1体、よって4体のモンスターを呼ぶ!」

 

 破壊されたヴァレットモンスター4体が、リボルバーのフィールドに補充された。

 

「現れろ、我が道を照らす未来回路!」

 

 そして今蘇ったヴァレットモンスター4体が、弾丸となってアローヘッドに装填される。

 

「閉ざされた世界を切り裂く我が烈風!リンク召喚!ヴァレルソード・ドラゴン!」

 

  現れたのは、頭部に巨大な刃を装備したドラゴン。

 その胴体にはヴァレルロードと同じく、シリンダーがついている。

 

「この瞬間、私はバイオロックローンの効果発動!ヴァレルソードの効果と名前をコピーし、その攻撃力を自身に加える!」

 

 だが、ヴァレルソードへ向けて触手が伸びて、せっかくリンク召喚したモンスターの力も奪われる。

 エースモンスターを立て続けの力を奪われて、リボルバーは項垂れる。

 

「絶望したかな?」

 

 すると、ライトニングが挑発するように彼に問いかける。

 それに対して、リボルバーはそちらを見ようともしない。

 

「無理もない。君がもっとも信頼する部下に、己の道を閉ざされようとしているのだからな」

「……バカなことを言うな」

 

 すると、彼の方を見ずに、スペクターへと視線を送った。

 

「スペクターと、貴様とは奇縁だったな」

 

 ◆

 

 リボルバーこと鴻上了見が、スペクターこと聖辺樹と出会ったのは、彼が父の遺言を元に活動を開始した頃だ。

 その当時、彼は仲間を集めるために、父である鴻上聖の人脈を辿って、優秀な科学者を集めていた。

 

 その一人が、SOLテクノロジー社に吸収合併されたとある製薬会社に勤めていた元社員、バイラこと滝響子である。

 

「了見くん。いらっしゃい」

 

 彼女は孤児院に務めており、科学の世界から離れて平穏に暮らしていた。

 

「あなたの力を借してほしい」

「……何度も言っているでしょう。私はもう引退したの」

 

 まだ高校生だった了見の言葉に、響子は真面目に取り合わなかった。

 そんな中で、ふと、彼は幼い少年を見かけた。

 

「あれは……」

 

 彼は周囲を窺いながら、塀をよじ登って外へ出た。

 

「もう。またあの子は……」

 

 響子もそれに気付いて、彼の後を追おうとする。

 了見もそれについていく。

 

 しばらく進むと、そこは大きな木の下だった。

 少年はその幹にもたれかかり、空を眺めていた。

 

「連れ帰らないのか?」

 

 物陰に隠れて見守る響子に問うと、彼女は小さく首を振る。

 

「いいのよ。しばらくそっとしておいてあげて」

 

 それから何度か、了見は孤児院へ勧誘のために響子を訪ね、その過程で樹とも接するようになった。

 そして、彼が父の、否、SOLテクノロジーの実験の被害者であると知った了見は、彼に手を差し伸べた。

 

「私の元へ来い」

「僕の居場所は、ここだけだ」

 

 樹は最初、その提案には乗らなかった。

 

「お前には、デュエルの才能がある」

 

 だが、了見は諦めなかった。

 何度も声をかけ続けたある日、彼はこんなことを聞いてきた。

 

「どうして、僕にデュエルの才能があると?」

「君は、あの実験を乗り越えた」

「実験……」

 

 この時点で、了見は知らなかったが、樹は実験をただ唯一楽しんでいた。

 他の五人ともうまく馴染めなかった彼は、誰にも必要とされなかった彼は、あの実験の日々で誰かに試されていることに高揚感を得ていた。

 

「いつ死んでもおかしくない実験を勝ち抜いた君のその力を、私に貸してほしい」

 

 そして、樹は求めていたのだ。

 

 自分を必要としてくれる存在を。

 

 だから彼は、その手を取った。

 

 ◆

 

「……いくぞスペクター!」

 

 リボルバーは手札のカードを切る。

 

「ヴァレット・シンクロンを召喚!」

「シンクロン……」

 

 現れたモンスターを見て、スペクターは怪訝な表情を浮かべる。

 

「効果で墓地からレベル5以上の闇属性・ドラゴン族モンスター、シュートヴァレット・ドラゴンを特殊召喚」

 

 リボルバーのメインモンスターゾーンには3体のモンスターが並ぶ。

 

「私はレベル5のシュートヴァレット・ドラゴン、レベル2のシェルヴァレット・ドラゴンに、レベル1のヴァレット・シンクロンをチューニング!」

 

 三体のヴァレットモンスターの体が粒子状に分解され、それぞれ青いリングのエフェクトを発生させる。

 

「雄々しき竜よ!その獰猛なる牙を、今銃弾に変え撃ち抜け!シンクロ召喚!」

 

 リングは8つに分かれ、また一つに重なる。

 

「出でよ、レベル8!ヴァレルロード・S(サベージ)・ドラゴン!」

 

 リングを光が貫き、現れたのは白いヴァレルロードともいうべきドラゴン。

 両肩には拳銃を模した翼を装着し、胴体のシリンダーを回転させている。

 

「ヴァレルロード・S・ドラゴンの効果発動!墓地のヴァレルロードを、装備カード扱いで自身に装備する!そして、装備したモンスターのリンクマーカーの数だけ、このカードにヴァレルカウンターを置く!」

 

 ヴァレルロードはリンク4、つまりカウンター4つがヴァレルロード・S・ドラゴンのシリンダーの中に弾丸として装填される。

 

「ヴァレルロード・S・ドラゴンは、自身の効果で装備したモンスターの元々の攻撃力の半分の数値だけ、攻撃力をアップさせる!」

 

 ヴァレルロード・S・ドラゴン:攻撃力3000→4500

 

「私はヴァレルソードよりコピーしたバイオロックローンの効果発動!ヴァレルロード・S(サベージ)

を守備表示にします!」

 

 バイオロックローンの両腕から触手が伸びて、ヴァレルロードに襲いかかる。

 

「ヴァレルロード・S(サベージ)・ドラゴンの効果発動!ヴァレルカウンター1つを使うことで、相手の効果を無効にする!」

 

 ヴァレルロードの胸部のシリンダーが回転し、弾丸が発射され、うねる触手を貫いた。

 

「バトルだ!ヴァレルロード・S・ドラゴンで、バイオロックローンを攻撃!迅雷のヴァレルファイア!」

 

 紫電を帯びた弾丸が、バイオロックローンの体を貫く。

 

「ダメージを受けたことで、ドリュアノームの効果発動!ライフを回復し、エクストラデッキから聖蔓の守護者(サンヴァイン・ガードナー)を特殊召喚!」

 

 ドリュアノームから木の実が落ち、両腕に盾を装備した木の戦士が現れる。

 

「だが、バイオロックローンが消えたことで、ヴァレルソードの効果も復活する。私は速攻魔法、クイック・リボルブを発動!デッキからマグナヴァレット・ドラゴンを特殊召喚!ヴァレルソードの効果発動!」

 

 呼び出されたマグナヴァレットが、変形してヴァレルソードのシリンダーへと装填される。

 

「マグナヴァレットの効果発動!相手モンスター1体を墓地へ送る!」

 

 ヴァレルソードから弾丸が発射され、ドリュアノームが撃ち抜かれ、燃え尽きる。

 

「この効果を発動したヴァレルソードは、このターン、2回攻撃できる。ヴァレルソードで、スプラントクイーンを攻撃!」

 

 ヴァレルソードがスプラントクイーンへ向けて、刃を掲げる。

 

「ヴァレルソードの効果発動!戦闘を行う相手モンスターの攻撃力を半分にし、その数値分、自身の攻撃力をアップする!」

 

 スプラントクイーン:攻撃力4500→2250

 ヴァレルソード:攻撃力3000→5250

 

「切り裂け!雷光のヴァレル・ソードスラッシュ!」

 

 ヴァレルソードが首を振るい、スプラントクイーンを滅多切りにする。

 

 スペクター:LP4000→1000

 

「終わりだ!ヴァレルソードで、ガードナーを攻撃!」

 

 ◆

 

 プレイメーカー、リボルバーの両者がデュエルに勝利すると、その光景を眺めていたライトニングは拍手を送った。

 

「見事だな。だがもう手遅れだ」

 

 その時、ライトニングの背後で、地面より光が放出される。

 

「なんだ!?」

 

 全員がそちらを向く。

 その光の柱の中心にいたのは、仁だった。

 

「仁!!」

「テメェ!何しやがった!」

「くくくくっ……」

 

 ライトニングは笑いながら、空中をスライドするようにして後ろに下がり、光の中に飲み込まれていく。

 そして、

 

「「「「!?」」」」

 

 光が収束すると、仁もライトニングの姿もそこにはなく代わりに一人の少年が立っていた。

 

 仁が着ていたのと同じ金をあしらったコートを着ているが、背丈は仁よりも少し高い。

 髪型は半分が黄の稲妻のように逆立ち、もう半分が藍色、そしてその瞳の片側は複雑な緑の文様が描かれた金色の眼球となっている。

 

「お前は、ライトニングなのか……?」

「そうでもあり、そうでないともいえる」

 

 少年はライトニングの声でそう言うと、静かに笑う。

 

「私は仁でもあり、ライトニングでもある。オリジンと融合した究極のイグニスだ!」



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第48話:Defeat at the end of victory

お待たせしました。


 仁と融合したライトニングは、高らかに笑う。

 

「融合って、それじゃあ仁の意識は!?」

「安心したまえ。彼はまだ私の中にいるよ。今はまだ、ね」

 

 狼狽える美海に対して、ライトニングは嘲るように笑る。

 

「さぁ、早く私を倒さなければ、仁の意識が消えてしまうかもしれないよ?」

「くっ……」

「さて、決着をつけようか。人類諸君」

 

 ライトニングがデュエルディスクを構えると、プレイメーカーとリボルバーは互いに顔を見合わせる。

 すると、ライトニングは手を差し出し、指をくいっと曲げて挑発するポーズを取る。

 

「来い。二人まとめて相手をしてやろう」

「何?」

 

 プレイメーカーは怪訝な顔をする。

 

「ふざけるな!貴様を倒すのはこの私だ!」

「ふざけてなどいないさ。もちろん、私もただ二体対一で相手をしてやるほど、君達を低く見てはいない」

 

 すると、ライトニングの横に『LP4000』とウィンドウが表示される。

 

「私のライフは2倍の8000だ」

 

 数字が増えていき、8000となる。

 

「さらに私は手札6枚からスタートだ。君達のフィールドは共有でライフは別。戦闘ダメージは私が好き方へ与えることができる。これで条件は五分だろう。そして、このデュエルではスキルを解禁する」

「マスターデュエルでスキルか」

「ちょっと待てよ!」

 

 その提案に、Aiが大声で抗議する。

 

「ここじゃデータストームがない!プレイメーカーがスキルを使えないじゃないか!」

「私を見くびるなよ。Ai」

 すると、ライトニングは指をパチンッと鳴らすと、フワッと緩やかな風が流れる。

 

「これは……」

 

 すると、部屋の壁が正方形のパネル状に分解され、代わりに竜巻が彼らを取り囲む。

 

「スキルを使いたければ、そこへ手を伸ばすといい」

「わざわざデータストームまで容易するとは、正々堂々を謳う気か?」

「対等な条件で我々の力の証明にはならない。さぁ、始めようか。正真正銘、人類とAIの未来を決めるデュエルだ」

 

 プレイメーカーとリボルバーはデュエルディスクを構える。

 

「「「デュエル!」」」

 

ターン1 ライトニング

 

「私はフィールド魔法、天装の闘技場(アルマートス・コロッセオ)を発動!」

 

 ゴゴゴゴゴッ……

 

 地鳴りが響き、周囲から石の壁が競り上がってくる。

 

「発動時の処理で、デッキから天装騎兵(アルマートス・レギオー)ソルフェルムを手札に加え、特殊召喚」 

 

 彼のフィールドに長槍を携えた白い石像が出現する。

 

天装騎兵(アルマートス・レギオー)ソルフェルム

効果モンスター

星3/光属性/サイバース族/攻 0/守 1200

このカード名の(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しか行えず、特殊召喚するターン、自分は「アルマートス・レギオー」モンスターしか特殊召喚できない。

(1)自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合、または「アルマートス・レギオー」モンスターのみの場合、このカードは手札から特殊召喚できる。

(2)このカードとリンク状態の自分の「アルマートス・レギオー」リンクモンスターが守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力が攻撃力を超えた分だけ戦闘ダメージを与える。

 

「現れろ、光を導くサーキット!」

 

 天空にアローヘッドが現れ、そこへソルフェルムが光となって吸い込まれる。

 

「リンク召喚!天装騎兵(アルマートス・レギオー)デクリオン!」

 

 アローヘッドの奥から無数の足音と共に、一人の兵士が飛び出す。

 現れたのは銀色の兜を装備した上裸の戦士だった。

 

「デクリオンの効果でデッキからリンク魔法をセット。アルマートス・コロッセオの効果発動!手札のアルマートス・レギオーを墓地へ送り、墓地からソルフェルムを特殊召喚!」

 

 デクリオンのリンク先に、ソルフェルムが地面から競り上がってくる。

 

「続けて、天装騎兵(アルマートス・レギオー)シーカを召喚。現れろ、光を導くサーキット!」

 

 シーカとソルフェルムがアローヘッドへ吸い込まれる。

 

「リンク召喚!天装騎兵(アルマートス・レギオー)ケントゥリオン!」

 

天装騎兵(アルマートス・レギオー)ケントゥリオン

リンク・効果モンスター

光属性/サイバース族/攻 1700/LINK 2

【リンクマーカー:右/左】

光属性・効果モンスター2体

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードがリンク召喚に成功した場合に発動できる。墓地から「アルマートス・レギオー」モンスター1体を手札に加える。この効果発動後、ターン終了時まで、自分はこの効果で手札に加えたカード及びその同名カードの効果を発動できない。

(2)1ターンに1度、自分フィールドの「アルマートス・レギオー」モンスターが攻撃対象に選択された場合に発動できる。その攻撃を無効にする。

 

「効果で墓地からシーカを手札に手札に加え、それをそのまま捨ててコロッセオの効果発動!墓地からソルフェルムとグラディウスを特殊召喚!」

 

 さらにケントゥリオンの左右に石像が現れる。

 

「現れろ、光を導くサーキット!召喚条件は光属性の効果モンスター3体以上!」

 

 ケントゥリオン、グラディウス、ソルフェルムの三体がアローヘッドに吸い込まれる。

 

「全ての勝利は、我が光導く先へ!リンク召喚!天装騎兵(アルマートス・レギオー)マグヌス・ドゥクス!」

 

 現れたのは、黄金の鎧で武装した象と、その上の玉座に腰かける軍団の長だった。 

 

天装騎兵(アルマートス・レギオー)マグヌス・ドゥクス

リンク・効果モンスター

光属性/サイバース族/攻 3000/LINK 4

光属性・効果モンスター3体以上

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードがフィールドに表側表示で存在する限り1度だけ、このカードと相互リンク状態のカードの数までフィールド・墓地のカード1枚を対象として発動できる。そのカードを手札に戻す。

(2)このカードがリンク状態の場合、相手がEXデッキから特殊召喚されたモンスターの効果を発動した時に発動できる。その効果を無効にして破壊する。

 

「コロッセオの効果で、手札のアルマートス・レギオーを墓地へ送り、墓地からシーカとソルフェルムを特殊召喚。その二体でケントゥリオンをリンク召喚し、コロッセオの効果を再び発動!墓地からシーカを特殊召喚。現れろ、光を導くサーキット!」

 

 ケントゥリオンとシーカがアローヘッドへ飛び込む。

 

「我が光永遠なり、我が力真実なり、万物を照らし、道を作る者なり!リンク召喚!リンク3、天装騎兵(アルマートス・レギオー)レガトゥス・レギオニス」

 

天装騎兵(アルマートス・レギオー)レガトゥス・レギオニス

リンク・効果モンスター

光属性/サイバース族/攻 2400/LINK 3

【リンクマーカー:左/下/右】

光属性・効果モンスター2体以上

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカード以外の自分フィールドの「アルマートス・レギオー」モンスター1体と、墓地の通常召喚可能な「アルマートス・レギオー」モンスター1体を対象として発動できる。対象のフィールドのモンスターを破壊し、対象の墓地のモンスターを自分フィールドに特殊召喚する。この効果は相手ターンでも発動できる。

(2)このカードが既にモンスターゾーンに存在する状態で、自分フィールドに「アルマートス・レギオー」モンスターが特殊召喚された場合に発動できる。このターン、このカードは相手の効果を受けない。

 

「私はセットされたリンク魔法、裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)を発動!」

 

 レガトゥス・レギオニスの後ろに、3本の矢が描かれた魔法カードが開く。

 

「そしてスキル発動!マーカーズ・ポータル!デッキから新たなリンク魔法を呼ぶ!」

 

 マグヌス・ドゥクスの後ろに、一筋の光が降り注ぐ。

 

「現れろ、世界を統べし光の玉座!リンク魔法(マジック)聖王の座(アルカディック・スローン)!」

 

 現れたのは、神々しい玉座と、その存在を示すリンクマーカーが描かれた魔法カードだ。

 

聖王の座(アルカディック・スローン)

リンク魔法

【リンクマーカー:左/上/右上】

リンク魔法はリンク先となる魔法&罠ゾーンにのみ発動できる。

(1)「聖王の座(アルカディック・スローン)」は自分フィールドに表側表示で1枚しか存在できない。

(2)1ターンに1度、自分の墓地のサイバース族リンクモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを効果を無効にして、攻撃力を0にして、このカードのリンク先に特殊召喚する。この効果発動後、ターン終了時まで、自分はサイバース族モンスターしか特殊召喚できない。

(3)リンク魔法のリンク先となる自分の魔法&罠ゾーンは、メインモンスターゾーンとしても扱う。

(4)このカードがフィールドを離れた場合に発動する。このカードのリンク先のカードを全て墓地へ送る。

 

「新たなリンク魔法だと!?」

「来たか……」

 

 驚くリボルバーとは対称的に、プレイメーカーとAiは冷静に状況を分析する。

 

「ほう……さてはブラッドシェパードか」

 

 ライトニングは観戦するゴッドバードの方を見る。

 

「弟子思いの師匠を持ったじゃないか」

「せいぜい手の内明かしたことを後悔しろ」

 

 ライトニングは対戦相手の方を向き直る。

 

「私は聖王の玉座(アルカディック・スローン)の効果発動!墓地のサイバース族リンクモンスター1体を特殊召喚!ケントゥリオンよ、王の号令の元、甦れ!」

 

 ケントゥリオンがアルカディック・スローンの真横に出現する。

 

「聞いてた通りだな」

「ああ。モンスターゾーンを拡張する。厄介な効果だ」

「私は魔法カード、死者蘇生を発動。墓地からケントゥリオンを特殊召喚。現れろ、光を導くサーキット!リンク召喚!出でよ、二体目のマグヌス・ドゥクス!」

 

 レガトゥス・レギオニスの横に、全身武装の象に乗ってマグヌス・ドゥクスが現れた。

 

「さらに手札から天装騎兵(アルマートス・レギオー)シーカをマグヌス・ドゥクスのリンク先に特殊召喚」

 

  マグヌス・ドゥクスの隣に、短剣を逆手に持った白い石像が出現した。

 

「私はカードを1枚伏せてターンエンド。エンドフェイズに魔法カード、天装聖典(アルマートス・リブロ)を発動」

 

天装聖典(アルマートス・リブロ)

速攻魔法

このカード名の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか発動できない。

(1)このターンのエンドフェイズに、このターンに手札・フィールドから墓地へ送られたリンクモンスター以外の「アルマートス・レギオー」モンスター2体に付き、デッキから1枚ドローする。

(2)自分のメインフェイズに、墓地のこのカードを除外し、自分の墓地の「アルマートス・レギオー」モンスター5体を対象として発動できる。そのカードをデッキに戻し、自分はデッキから1枚ドローする。

 

「このターンに墓地へ送られたリンクモンスター以外のアルマートス・レギオー2体に付き、1枚ドローする。4枚ドローだ」

 

ターン2 リボルバー

 

「プレイメーカー」

 

 リボルバーは彼の方を見ずに、静かに口を開く。

 

「私は貴様と共闘する気はない」

「リボルバー!今は争っている場合じゃ────」

「イグニスと共に生きる貴様とは、相容れることはない!私のターン!」

 

 プレイメーカーの言葉を遮り、リボルバーはカードをドローする。

 

「私はシェルヴァレット・ドラゴンを召喚し、リンク召喚!ストライカー・ドラゴン!」

 

 アローヘッドから現れたのは青い拳銃が変形し、一体のドラゴンとなる。

 

「デッキからフィールド魔法、リボルブート・セクターを手札に加え、発動!」

 

 リボルバーの真横に、巨大なリボルバー式拳銃のシリンダーが現れる。

 

「魔法カード、手札抹殺を発動!互いの手札全てを捨て、同じ枚数ドローさせる!」

「なっ!」

 

 変則とはいえタッグデュエルである以上、その効果はライトニングとリボルバーだけでなく、味方であるプレイメーカーにも及ぶ。

 

「あいつ、ホントに一人で戦う気か?」

「らしいな」

 

 プレイメーカーはリボルバーを横目に消滅した手札5枚の代わりに新たに5枚のカードをドローする。

 

「さらに私はリボルブート・セクターの効果発動!相手フィールドのモンスターの数が自分より多い場合、それと同じになるように、墓地からヴァレットモンスターを特殊召喚!現れろ、4発の弾丸よ!」

 

 地面にゲートのエフェクトが四つ開き、中から弾丸のドラゴンが飛び出した。

 

「現れろ、我が道を照らす未来回路!」

 

 ストライカー・ドラゴンを含む4体のドラゴンがアローヘッドに装填される。

 

「閉ざされた世界を貫く我が新風!リンク召喚!ヴァレルロード・ドラゴン!」

 

 アローヘッドから現れたのは、胴体がシリンダーとなった竜だ。

 

「私はここで、マグヌス・ドゥクスの効果発動!このカードと相互リンク状態のカードの数まで、フィールド・墓地のカードを対象に手札に戻す!」

「ヴァレルロードは効果の対象にはならない」

「知っているよ。私が選ぶのはその弾丸、シェルヴァレット・ドラゴンと、私のフィールド魔法、天装の闘技場(アルマートス・コロッセオ)だ」

 

 マグヌス・ドゥクスの使役する象が嘶くと、空気が震動してリボルバーのフィールドへ襲いかかる。

 

「リンクモンスターの効果の対象となったことで、シェルヴァレット・ドラゴンの効果発動!このカードと同じ縦列のモンスター1体を破壊する」

 

 マグヌス・ドゥクスにより暴発した弾丸が、黒い光となってレガトゥス・レギオニスへと向かう。

 

「私はレガトゥス・レギオニスの効果発動!マグヌス・ドゥクスを破壊し、墓地からスクトゥムを特殊召喚!」

 

 だが、マグヌス・ドゥクスの代わりにレガトゥス・レギオニスの隣に現れた盾を構えた石像が、防壁を生み出してレガトゥス・レギオニスを守る。

 

天装騎兵(アルマートス・レギオー)スクトゥム

効果モンスター

星3/光属性/サイバース族/攻 0/守 1800

(1)このカードは自分の「アルマートス・レギオー」リンクモンスターのリンク先に手札から特殊召喚できる。

(2)このカードが「アルマートス・レギオー」リンクモンスターとリンク状態の場合、このカード及びこのカードとリンク状態の「アルマートス・レギオー」リンクモンスターは1ターンに1度だけ戦闘で破壊さず、1ターンに1度だけ、効果で破壊されない。

(3)このカードが「アルマートス・レギオー」リンクモンスターとリンク状態の場合、相手はその「アルマートス・レギオー」リンクモンスターしか攻撃対象に選択できない。

 

「スクトゥムは1ターンに1度、自身とリンク状態のアルマートス・レギオーを破壊から守る。そしてアルマートス・レギオーが特殊召喚されたことで、このターン、レガトゥス・レギオニスは相手の効果を受けない。そして、君はスクトゥムとリンク状態のモンスター、すなわちレガトゥス・レギオニスしか攻撃対象に選択できない」

「チッ、ならバトルだ!ヴァレルロードで、レガトゥス・レギオニスを攻撃!」

 

 ヴァレルロード・ドラゴンがレガトゥス・レギオニスへと向かって飛翔する。その攻撃力は3000、対するレガトゥス・レギオニスは2300、だが裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)があるため、実質的な攻撃力はレガトゥス・レギオニスが上だ。

 

「待て!リボルバー!」

 

 彼の目論見を見抜いたプレイメーカーが慌てて制止する。

 しかし、一度行われた攻撃宣言は止まらない。

 

「ヴァレルロード・ドラゴンの効果発動!ダメージステップ開始時、戦闘を行う相手モンスターのコントロールを得る!ストレンジトリガー!」

 

 ヴァレルロードがピンク色のゴムのような弾丸を放つ。

 

「マグヌス・ドゥクスの効果発動!このカードがリンク状態の場合、相手のエクストラデッキから特殊召喚されたモンスターが発動した効果を無効にして、破壊する!」

 

 マグヌス・ドゥクスの象が再び嘶く。

 轟音が弾丸を消し飛ばし、そのままヴァレルロードも彼方へ吹き飛ばした。

 

「くくくっ、愚かだな。リボルバー。マグヌス・ドゥクスの効果を知っているプレイメーカーときちんと連携を取っていれば、エースを失わずに済んだものを」

「……私はカードを1枚伏せてターンエンド。エンドフェイズに、破壊されたシェルヴァレット・ドラゴンの効果で、デッキからアネスヴァレット・ドラゴンを特殊召喚」

 

ターン3 プレイメーカー

 

「どうする? まだライフは1ポイントも削れてないぞ」

「だが、リボルバーのおかげで、マグヌス・ドゥクスの効果は使わせた」

 

 2体いたマグヌス・ドゥクスのうち1体は、レガトゥス・レギオニスの効果のコストとなって破壊された。これでプレイメーカーに対する妨害の手は減った。 

 

「このターンでライフ8000を削り切るのは難しい」

「なら、次のターンに備えるぞ」

「ああ。俺のターン!」

 

 方針が固まったところで、プレイメーカーはカードを引く。

 

「俺はウィジェット・キッドを通常召喚。その効果で、手札からレディ・デバッカーを特殊召喚」

 

 フィールドに現れたバイザーをつけた少年が、ビームガンを上空に向けて発射する。

 すると、空間に穴が開き、中からテントウムシのような姿をした女性型のロボットが飛んできた。

 

「効果でデッキからバックアップ・セクレタリーを手札に加える。現れろ、未来を導くサーキット!召喚条件はサイバース族モンスター2体!リンク召喚!サイバース・ウィッチ!」

 

 アローヘッドより、ボディラインの見える鎧をまとった赤髪の魔女が現れた。

 

「俺は魔法カード、サイバネット・マイニングを発動!手札1枚を捨てて、デッキからレベル4以下のサイバース族モンスター1体を手札に加える。そして、自分フィールドにサイバース族モンスターが存在する時、手札にバックアップ・セクレタリーを特殊召喚できる!」

 

 サイバース・ウィッチの後ろに、バイザーをつけた少女が現れた。

 

「リンク先にモンスターが特殊召喚されたことで、サイバース・ウィッチの効果発動!墓地の魔法カードを除外し、デッキからサイバネット・リチューアルと、サイバース族の儀式モンスター1体を手札に加える!そして儀式魔法、サイバネット・リチューアルを発動!」

 

 プレイメーカーのフィールド上に魔法陣が展開される。

 

「俺は手札のクロック・ワイバーンと、フィールドのバックアップ・セクレタリーをリリース!」

 

 蒼い炎が七つ、魔法陣の外周に灯る。

 

「契約は結ばれた。二つの魂は、闇の力を操る賢者へと受け継がれる。儀式召喚!」

 

 蒼炎は魔法陣の中心へと吸い込まれ、一つに重なる。

 

「レベル7、サイバース・マジシャン!」

 

 炎の中から現れたのは、白いローブをまとった電脳の魔術師だった。

 

「来たか」

「サイバース・マジシャンの効果で、リンクモンスターがフィールドに存在する限り、相手はこのカード以外を攻撃・効果の対象にできない!」

「この辺りで使っておくか。私はマグヌス・ドゥクスの効果発動!サイバース・マジシャンと私の墓地にある天装騎兵(アルマートス・レギオー)ソルフェルムを手札に戻す」

 

 象が吠えると、その圧でサイバース・マジシャンは手札に帰される。

 

「俺はサイバース・ウィッチの効果発動!墓地からクロック・ワイバーンを特殊召喚!その効果で、クロック・トークンを特殊召喚。現れろ、未来を導くサーキット!」

 

 クロック・ワイバーンとクロック・トークンがアローヘッドに吸い込まれる。

 

「リンク召喚!リンク2!スプラッシュ・メイジ!」

 

 現れた泡を象った飾りのついた衣装をまとう電脳の魔術師が杖を振るう。

 

「効果発動!墓地のサイバース族モンスター1体を効果を無効にして、守備表示で特殊召喚!」

「マグヌス・ドゥクスの効果発動!その効果を無効にして破壊する」

 

 だが、スプラッシュ・メイジが魔術を行使しようとした瞬間、咆哮が描かれた魔法陣をかき消して、スプラッシュ・メイジを吹き飛ばす。

 

「なら俺はキャッシュ・ドラゴンを特殊召喚!」

 

 現れたのは、バグったような黒と白のノイズのエフェクトによって構成された翼を持つ白い小型のドラゴンだ。

 

キャッシュ・ドラゴン

チューナー・効果モンスター

星4/風属性/サイバース族/攻 1000/守 2000

このカードをS・X・リンク素材とする場合、サイバース族モンスターのS・X・リンク召喚にしか使用できない。

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分の墓地のサイバース族リンクモンスター1体を除外して発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。

(2)このカードが特殊召喚に成功した場合に発動できる。墓地から攻撃力500以下のサイバース族モンスター1体を効果を無効にして特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたモンスターはリンク素材にできない。

 

「墓地からシーアーカイバーを特殊召喚!俺はレベル3のシーアーカイバーに、レベル4のキャッシュ・ドラゴンをチューニング!」

 

 二体のモンスターが粒子へと分解され、それらが七つのリング状のエフェクトを形作る。

 

「紫電一閃。未知なる力が飛竜乗雲となる。シンクロ召喚!」

 

 エフェクトの中を光が貫く。

 

「出でよレベル7!サイバース・クアンタム・ドラゴン!」

 

 光の中から現れたのは、輝ける翼を翻す白い電子のドラゴンだった。

 

「墓地のシーアーカイバーの効果!リンク先にモンスターが特殊召喚されたことで、自身を特殊召喚!現れろ、未来を導くサーキット!」

 

 現れたタツノオノシゴのようなモンスターが、そのままサイバース・ウィッチと共にアローヘッドに吸い込まれる。

 

「リンク召喚!リンク3!トランスコード・トーカー!」

 

 アローヘッドより、四角いパーツで構成されたオレンジの鎧をまとった電脳の戦士が降臨した。

 

「トランスコード・トーカーの効果発動!墓地からサイバース・ウィッチを特殊召喚!現れろ、未来を導くサーキット!俺はリンク2のサイバース・ウィッチと、手札のマイクロ・コーダーをリンクマーカーにセット!リンク召喚!リンク3!エクスコード・トーカー!」

 

 現れたのは、緑色の大きな鎧をまとい、両腕にバックラーを装備した電脳の騎士だ。

 

「マイクロ・コーダーの効果で、デッキからサイバネット魔法カードを手札に加える。そしてエクスコード・トーカーの効果発動!相手のモンスターゾーン2ヵ所を使用不能にする!俺は聖王の座(アルカディック・スローン)でモンスターゾーン扱いとなっている魔法&罠ゾーンと、一番左のモンスターゾーンを選択!グラスプゾーン!」

 

 エクスコード・トーカーの両腕のバックラーより、電気のチャクラムが二つ飛び、ライトニングのモンスターゾーンに衝突する。

 

「私はここでレガトゥス・レギオニスの効果発動!シーカを破壊し、墓地のスクトゥムをマグヌス・ドゥクスのリンク先に特殊召喚!」

 

 二体目のスクトゥムが、マグヌス・ドゥクスの隣に現れる。

 

「だったら……リボルバー!お前のアネスヴァレット・ドラゴンを貸してくれ!」

「……」

 

 だが、リボルバーはプレイメーカーの頼みを無視するばかりか、彼を見ようともしない。

 

「くっ……俺はこれでターンエンド」

 

ターン4

 

「くくくっ、味方に恵まれないなプレイメーカー。アネスヴァレット・ドラゴンとトランスコード・トーカーを素材にファイアウォール・ドラゴンをリンク召喚していれば、私の盤面を突破できたものを」

 

 彼の場には二体のスクトゥムがおり、その効果でそれぞれ自身とリンク状態のモンスターしか攻撃対象に選択できない。これにより、プレイメーカーはどちらのモンスターも攻撃対象に選択できなかった。

 

 だが、ファイアウォール・ドラゴンがいれば、スクトゥムいずれかを手札に戻すことで、そこから切り崩すことができた。

 

 当然、デュエルの様子を見ていたギャラリーも気付かないはずはなく、特にゴッドバードは怒りをあらわにした。

 

「リボルバーッ!テメェ勝つ気あんのか!?」

「私はこいつの力など必要としていない」

「んだと……協力する気もねぇならさっさとサレンダーしろ!いるだけ邪魔だ!」

「ライトニングを倒すのはこの私だ!」

 

 言い争いをする二人を、蔑むような眼で見てから、ライトニングはプレイメーカーの方を向き直る。

 

「どうする? 今なら仕切り直しをしてやってもいいぞ。そこにいる君の仲間のうち誰かを指名して、パートナーに選ぶといい」

「マジかよ。おい!プレイメーカー!」

 

 Aiは嬉々としてその提案に乗ろうとする。

 

「…‥いや、俺はこのままでいい」

「ほう……」

「おい!何考えてんだよ!」

 

 納得がいかないAiはプレイメーカーに抗議する。

 

「俺達はライトニングを倒さなくちゃならないんだ!あいつは不霊夢やアクア、アース、ウィンディを見殺しにしたんだぞ!それに、元はと言えば、ハノイの騎士がいなければ!」

「Ai」

 

 口調が強くなるAiを制止する。

 

「怒りに囚われるな。彼らの死を思うなら、俺達は何としてでも、実験に隠された真実を暴かなくちゃならない。先生が自爆プログラムを仕込んだ理由、レポートを追わせる理由、その真実をライトニングが握っているかもしれない」

「……けど、リボルバーが組む気ねぇじゃん」

「リボルバーもきっと分かるはずだ。あいつが先生と親子ななら」

 

 リボルバーの方は、マスク越しに見える表情から何を考えているかは読み取れない。

 

「さあ、お前のターンだ!」

「ふんっ、後悔しても知らんぞ。私のターン!私は再びフィールド魔法!天装の闘技場(アルマートス・コロッセオ)を発動!」

 

 闘技場が再び展開され、彼の手札にアルマートス・レギオーが加わる。

 

「現れろ、光を導くサーキット!リンク召喚!天装騎兵(アルマートス・レギオー)デクリオン!」

 

 スクトゥムがアローヘッドに吸い込まれ、空から二人目のデクリオンが着地した。

 

「効果でデッキからリンク魔法(マジック)をセット。そして発動!」

 

 デクリオンの後ろで、セットされたカードが開いて眩い光を放つ。

 

「現れろ、世界を守護せし聖なる盾!リンク魔法(マジック)救世の盾(セイヴリット・シールズ)!」

 

救世の盾(セイヴリット・シールズ)

リンク魔法(マジック)

【リンクマーカー:右/上/左上】

リンク魔法はリンク先となる魔法&罠ゾーンにのみ発動できる。

(1)「救世の盾(セイヴリット・シールズ)」は自分フィールドに表側表示で1枚しか存在できない。

(2)このカードのリンク先にあるリンクモンスター及びリンク魔法(マジック)、及びそれらとリンク状態のリンクモンスター及びリンク魔法(マジック)は相手の効果の対象にならない。

(3)このカードがフィールドを離れた場合に発動する。このカードのリンク先のカードを全て墓地へ送る。

 

「第三のリンク魔法(マジック)か……」

「これで終わりではないよ。現れろ、光を導くサーキット」

 

 ライトニングの頭上にアローヘッドが開く。

 

「召喚条件は、光属性の効果モンスター3体以上!私はデクリオンとスクトゥム、そしてリンク3のレガトゥス・レギオニスをリンクマーカーにセット!」

 

 二体のモンスターが光となってアローヘッドに装填、そこへ5つのリンクマーカーが描かれる。

 

「まさか……」

「導を示せ!我こそは全てを統べる者、リンク召喚!」

 

 アローヘッドから眩い光が解き放たれる。

 

「出でよリンク5!天装騎兵(アルマートス・レギオー)カイザル・アウグストゥス!」

 

 光の中から現れたのは、二頭の騎馬に引かれた戦車、その騎馬を操るのは白い鎧をまとった皇帝だ。

 

天装騎兵(アルマートス・レギオー)カイザル・アウグストゥス

リンク・効果モンスター

光属性/サイバース族/攻 3000/LINK 5

【リンクマーカー:左/右/左下/下/右下】

光属性・効果モンスター3体以上

このカード名の(3)(4)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードのリンク先のモンスターの攻撃力は500アップする。

(2)このカードの攻撃力は、このカードとリンク状態のモンスターの数×500アップする。

(3)自分の「アルマートス・レギオー」モンスター1体をリリースし、相手フィールドのカード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。この効果は相手ターンでも発動できる。

(4)このカードがフィールドから墓地へ送られた場合に発動できる。墓地からリンク4以下のサイバース族リンクモンスター1体を特殊召喚し、墓地のリンク魔法(マジック)カード1枚を自分フィールドに表側表示で置く。

 

「リンク5だと!?」

「私はリンクモンスターの限界を超えた。カイザル・アウグストゥスの効果!自身のリンク先のカード1枚に付き、このカードの攻撃力は500アップする!」

 

 カイザル・アウグストゥス:攻撃力3000→5000

 

「カイザル・アウグストゥスの効果発動!アルマートス・レギオー1体をリリースすることで、相手フィールドのカード1枚を破壊する!私はスクトゥムをリリースし、サイバース・クアンタム・ドラゴンを破壊!」

 

 台座に乗せられた石像が独りでに動き出し、サイバース・クアンタム・ドラゴンへ向かい、その身諸共爆発し、サイバース・クアンタム・ドラゴンを葬り去った。

 

「これで邪魔者は消えた。私は手札のスクトゥムを、カイザル・アウグストゥスのリンク先に特殊召喚。バトルだ!カイザル・アウグストゥスで、トランスコード・トーカーを攻撃!」

 

 カイザル・アウグストゥスが手綱を引くと、騎馬が嘶き、走り出す。

 

裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)の効果で攻撃力は倍の10000だ!」

「俺は墓地のアドラ・ブロッカーの効果発動!」

 

アドラ・ブロッカー

効果モンスター

星2/水属性/サイバース族/攻 300/守 1500

(1)自分のリンクモンスターのリンク先に、このカードは手札から特殊召喚できる。

(2)相手モンスターの攻撃宣言時、墓地のこのカードを除外して発動できる。その攻撃を無効にする。

 

「このカードを除外することで、攻撃を無効にする!」

 

 双頭の水蛇が、互いの体を結びあって障壁を作り出す。

 それに阻まれて、カイザル・アウグストゥスの攻撃は通らなかった。

 

「まだマグヌス・ドゥクスの攻撃が残っているぞ。マグヌス・ドゥクスで、トランスコード・トーカーを攻撃!裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)の効果で攻撃力は倍だ!」

 

 マグヌス・ドゥクスが突進して、トランスコード・トーカーを吹き飛ばす。

 

「ダメージは……リボルバー、君に割り振ろう」

 

 トランスコード・トーカーを突破したマグヌス・ドゥクスが、進路を変えてリボルバーへ向かう。

 

「ぐあぁっ!」

 

 リボルバー:LP4000→200

 

「さて、残ったデクリオンではエクスコード・トーカーもアネスヴァレット・ドラゴンも突破できないな。私はこれでターンエンドだ」

 

ターン5

 

「リボルバーを先に狙ったってことは……」

「プレイメーカーにスキルを発動させないためだな」

 

 プレイメーカーのスキルの発動条件はライフ1000以下、仕留めきれない状況では、万一スキルで起死回生のカードを引かれないように、リボルバーを狙ったのだろうと、ゴッドバードと美海は推測した。

 

「……」

 

 リボルバーは自分の手札を確認しているだけで動かない。

 

(このターンで私が勝つことはできない……)

 

 リボルバーは前のターンのプレイメーカーの言葉を思い出す。

 

(……私のやるべきこと)

「私はスキルを発動する」

 

 彼のスキル発動宣言に、全員が視線を向ける。

 

「リボルバーのスキル」

「初めてみるな」

 

 リボルバーが右手を前に突き出すと、シリンダー型の魔法陣が展開される。

 

「自分のライフが1000以下の時、デッキ外から指定された3種類の魔法・罠カードのうち1枚を手札に加える。スキル発動!スリーハンド・リロード!」

 

 魔法陣の中に現れたのは、聖なるバリア—ミラーフォース、光の護封剣、魔導契約の扉の三枚だ。

 

「私は魔導契約の扉を手札に加える。そして、発動!魔導契約の扉!私の手札から魔法カード1枚を相手の手札に加える。プレイメーカー!」

 

 リボルバーが手札のカードをプレイメーカーに投げる。

 

「そしてデッキからレベル7または8の闇属性モンスターを手札に加える。アブソルーター・ドラゴンを手札に」

「何をするつもりか知らんが、貴様に何かさせる気はない!私はカイザル・アウグストゥスの効果発動!スクトゥムをリリースし、リボルブート・セクターを破壊!」

 

 スクトゥムが再び動き出し、今度はフィールド魔法を破壊する。 

 

「まだだ!ヴァレット・シンクロンを通常召喚!」

 

 青い太い弾丸が撃ち込まれ、変形してドラゴンとなる。

 

「効果で墓地からエクスプロードヴァレット・ドラゴンを特殊召喚。さらに手札からアブソルーター・ドラゴンを特殊召喚。現れろ、我が道を照らす未来回路!」

 

 アネスヴァレット・ドラゴンが天に現れたアローヘッドへ装填される。

 

「リンク召喚!リンク1、ストライカー・ドラゴン!」

 

 アローヘッドより、再びストライカー・ドラゴンが現れる。

 

「効果でデッキからリボルブート・セクターを手札に加える。そして私は、レベル7のアブソルーター・ドラゴンに、レベル1のヴァレット・シンクロンをチューニング!」

 

 二体のドラゴンが粒子へと分解され、リング状のエフェクトを作り出す。

 

「雄々しき竜よ、その獰猛なる牙を、今銃弾に変え撃ち抜け!シンクロ召喚!出でよ、ヴァレルロード・S(サベージ)・ドラゴン」

 

 現れたヴァレルロード・S・ドラゴンが、ライトニングへ向けて咆哮する。

 

「ヴァレルロード・S(サベージ)・ドラゴンの効果!墓地のヴァレルロード・ドラゴンをこのカードに装備する!」

「私はマグヌス・ドゥクスの効果発動!その効果を無効にして、破壊する!」

 

 象が咆哮し、ヴァレルロード・S(サベージ)・ドラゴンの背後に現れたヴァレルロードの幻影をかき消し、ヴァレルロード・S(サベージ)・ドラゴンをも吹き飛ばした。

 

「さらに私は(トラップ)カード!天装編隊(アルマートス・トルパ)を発動!」

 

 ライトニングが伏せられた罠カードが開く。

 

天装編隊(アルマートス・トルパ)

通常罠

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分フィールドの「アルマートス・レギオー」リンクモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターのリンク先に、墓地から「アルマートス・レギオー」モンスターを可能な限り特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたモンスターはこのターン、リンク素材にできない。

(2)墓地のこのカードを除外し、自分のフィールドの「アルマートス・レギオー」リンクモンスター1体を対象として発動できる。自分の墓地から通常召喚可能な「アルマートス・レギオー」モンスター1体を、対象のモンスターのリンク先に守備表示で特殊召喚する。

 

「墓地からスクトゥムを特殊召喚!」

 

 マグヌス・ドゥクスのリンク先に、再び盾を構えた石像が地面から競り上がってくる。

 

「これで君はスクトゥムとリンク状態のモンスターしか攻撃できない」

「……私はストライカードラゴンの効果発動!私のヴァレットモンスターを対象にする!」

「なに!?」

 

 彼のフィールドに残っているヴァレットモンスターは、エクスプロードヴァレット・ドラゴン。

 それがリンクモンスターの対象となった時に発動する効果は、

 

「この瞬間!エクスプロードヴァレット・ドラゴンの効果発動!」

 

 エクスプロードヴァレット・ドラゴンが体をうねらせ、体内で光を膨張させる。

 

「自身を破壊し、全てのプレイヤーに2000ポイントのダメージを与える!」

 

 エクスプロードヴァレット・ドラゴンが爆発し、ライトニング、プレイメーカー、そしてリボルバーにダメージを与える。

 

「がぁぁっ!」

 

 ライトニング:LP8000→6000

 プレイメーカー:LP4000→2000

 

「……」

 

 リボルバー:LP200→0

 

 爆風に飲み込まれ、彼は後方に吹き飛ばされ、壁に思いっきり叩きつけられた。

 

「リボルバー……」

「決死の覚悟でライフを削りにきたか。さぁ、リボルバーが脱落したことで、自動的に君のターンだ」

 

 壁にもたれかかり、動かないリボルバーを横目に、プレイメーカーは手札に加わったとある1枚のカードを見つめる。

 

(このカードの意味は……)

「プレイメーカー!しっかりしろ!」

「……俺のターン!」

「私は君のターン開始時、墓地の天装編隊(アルマートス・トルパ)の効果発動!このカードを墓地から除外し、墓地の天装騎兵(アルマートス・レギオー)スクトゥムをカイザル・アウグストゥスのリンク先に特殊召喚!」

 

 盾を携えた白い石像が、カイザル・アウグストゥスの横に立つ。

 

「俺は魔法カード、限定解除を発動!」

「っ……それは」

 

 リボルバーが託したカードだ。その効果は、

 

「俺のライフを1000支払うことで、手札の儀式モンスターを特殊召喚する!来い、サイバース・マジシャン!」

 

 前のターンに手札に戻されてしまったサイバース・マジシャンが再びフィールドに姿を現す。

 

「そして俺のライフはちょうど1000となった。いくぞ!」

 

 プレイメーカーが右手を掲げると、そこへ周囲から風が集まってくる。

 

「自分のライフが1000以下の時、データストームの中からランダムなサイバース族モンスターをエクストラデッキに加える」

 

 プレイメーカーに手元にデータが集まると同時に、その脳裏にいくつもの風景が走馬灯のように駆けていく。

 

 それは彼が見たことのない、空に浮遊する島の景色、その中にはそこで暮らす多くのモンスター達とイグニスの姿があった。

 

(これは……)

(サイバース世界だ)

 

 すると、プレイメーカーの目の前にはAiがいた。

 いつの間にか、彼らはいくつもの風景が写真のように浮かぶ空間の中に二人、佇んでいた。

 

(これがサイバース世界……)

(俺達のパラダイスさ。この風の中に紛れたあいつらの記憶が、俺達に夢を見せてるのさ)

(そうか……)

 

 ふと、視線を横へ向けると、そこには尊の顔が映った映像が流れていた。

 

(あれは……不霊夢の記憶か)

(……勝つぞ。風を掴め!プレイメーカー!)

 

 そして、現実へ帰還したプレイメーカーが目を開き、風を掴む。

 

「スキル発動!ストォォムッアクセスッ!」

 

 その手に集まった風が一枚のカードへと姿を変えた。

 

「俺はサイバース・マジガールを召喚!さらに墓地のシーアーカイバーを特殊召喚!」

 

 前髪の長い緑髪の少女がストライカー・ドラゴンの隣に現れ、それに呼ばれてシーアーカイバーも蘇る。

 

「俺はレベル3のサイバース・マジガールとシーアーカイバーでオーバーレイ!」

 

 空に現れたエックス字のパネルへ二体のモンスターが吸収される。

 

「エクシーズ召喚!現れろランク3!コンペネント・マネージャー!」

 

コンペネント・マネージャー

エクシーズ・効果モンスター

ランク3/光属性/サイバース族/攻 2100/守 1400

レベル3・サイバース族モンスター×2

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードのX召喚に成功した場合に発動できる。そのX召喚のX素材としたモンスターによって以下の効果を適用する。

●バックアップ・セクレタリー:デッキから効果テキストに「コード・トーカー」と記されたモンスター1体を手札に加える。

●サイバース・マジガール:墓地からレベル4のサイバース族モンスター1体を特殊召喚する。

(2)X素材1つを取り除いて発動できる。このターン、このカード以外の自分のサイバース族モンスター1体の攻撃力は700アップし、守備表示モンスターを攻撃した場合、その攻撃力が守備力を超えた分だけ戦闘ダメージを与える。

(3)自分のサイバース族のリンクモンスターが戦闘・効果で破壊される場合、かわりにこのカードのX素材1つを取り除くことができる。

 

「効果で墓地からクロック・ワイバーンを特殊召喚!効果でクロック・トークンを特殊召喚!現れろ、未来を導くサーキット!」

 

 エクスコード・トーカーとクロック・トークンがアローヘッドに吸い込まれる。

 

「リンク召喚!リンク2!クロック・スパルトイ!デッキから魔法カード、サイバネット・フュージョンを手札に加え、発動!」

 

 フィールドに光が銀河の如く渦巻く。

 

「俺はクロック・ワイバーンと、ストライカー・ドラゴンを融合!」

 

 2体のモンスターが銀河の中に粒子となって吸い込まれる。

 

「今雄大なる翼の元に集いし強者達よ、新たなる伝説となれ!融合召喚!現れろレベル7!サイバース・クロック・ドラゴン!」

 

 光の中から紫の水晶に体を覆われた電脳の竜が姿を現した。

 

「ぞろぞろと並べたところで、スクトゥムの効果で君はカイゼル・アウグストゥスを攻撃しなければならない。サイバース・クロック・ドラゴンの効果を使ったとしても攻撃力が足りないな」

「ああ。だから効果は使わない」

 

 そしてプレイメーカーは空へ向けて、手を伸ばす。

 

「現れろ、未来を導くサーキット!」

 

 その手から光が駆けていき、その先にアローヘッドが現れる。

 

「召喚条件は効果モンスター3体以上!俺はリンク2のクロック・スパルトイと、コンペネント・マネージャー、サイバース・マジシャン、サイバース・クロック・ドラゴンの4体をリンクマーカーにセット!」

 

 4枚のモンスターが赤い光となって螺旋の軌跡を描きながら、アローヘッドに装填され、そこに五つのリンクマーカーを描く。

 

宇宙(そら)に満たる神秘の力、奇跡の星に降り注ぎ、無限の命を紡ぎ出せ!」

 

 アローヘッドから光が降り注ぐ。

 赤、青、緑、黄、そしてその中央に黒が駆けていき、絡まり、混ざり合いながら一体のドラゴンの姿を作り出していく。

 

「リンク召喚!リンク5!ファイアウォール・ドラゴン・ダークフルード!」

 

 そして現れたのは、緑の模様替え刻まれた黒いファイアウォール・ドラゴンだ。

 

「リンク5のモンスターだと!?」

「ファイアウォール・ドラゴン・ダークフルードの効果発動!墓地のサイバース族モンスターの種類の数だけ、自身にカウンターを置く!」

 

 紫、白、黒、藍色の光が、ダークフルードに集まっていく。

 

「そこまでだ!私はマグヌス・ドゥクスの効果発動!エクストラデッキから特殊召喚されたモンスターの効果を無効にして、破壊する!」

 

 マグヌス・ドゥクスが手綱を引くと、象が嘶き、ダークフルードに向かう光をかき消そうとする。

 

「俺はカウンター罠!アンチエフェクト・ヴァレットを発動!」

 

アンチエフェクト・ヴァレット

カウンター罠

(1)自分のフィールド・墓地に「ヴァレット」モンスターが存在し、相手がモンスターの効果を発動した時に発動できる。その発動を無効にして破壊する。その後、このカード以外の自分の手札・フィールドのカード1枚を選んで破壊する。

 

「リボルバーが残した伏せカードか!?」

「その効果を無効にして破壊する!」

 

 マグヌス・ドゥクスへ向けて銀色の弾丸が放たれ、その体を貫いた。

 

「バトルだ!ファイアウォール・ドラゴン・ダークフルードで、カイゼル・アウグストゥスを攻撃!ファイアウォール・ドラゴン・ダークフルードは、自身の上に置かれたカウンターの数×2500、攻撃力がアップする!」

 

 ダークフルード:攻撃力3000→13000

 

「私はカイゼル・アウグストゥスの効果発動!スクトゥムをリリースし、ダークフルードを破壊する!」

 

 カイゼル・アウグストゥスの号令に従い、スクトゥムが台座から降りて、ダークフルードへ向かう。

 

「俺はダークフルードの効果発動!カウンター1つを使うことで、相手モンスターの効果を無効にする!」

 

 ダークフルードがスクトゥムへ向けて七色の光を放つ。

 

「カルマギア!」

 

 光に飲み込まれ、スクトゥムは消滅した。

 

「くっ……」

「いけ!ダークフルード!」

 

 ダークフルードの口に風が集まる。

 

「ネオテンペスト!」

 

 風は竜巻となって、カイザル・アウグストゥスを呑み込む。

 吹き付ける風に切り裂かれ、皇帝は跡形もなく消滅した。

 

 ライトニング:LP6000→4500

 

「だが、これで君の攻撃も終わりだ」

「いや、まだだ!」

 

 攻撃を終えたはずのダークフルードが、再び咆哮し、空へと飛翔する。

 

「ダークフルードのカウンターを使う効果は、攻撃中に使用した時、もう1度、続けて攻撃できる!」

「なんだと!?」

「バトルだ!ダークフルードで、デクリオンを攻撃!」

 

 ダークフルードが翼を広げると、その背に赤い円形の光が描かれ、その周囲に六つのビットが配置され、光を放つ。

 

「ネオテンペスト・エンドッ!」

 

 ◆

 

 倒れたライトニング、もとい仁の意識データに、プレイメーカー達が駆け寄る。

 

「くるなっ!」

 

 だが、ライトニングは起き上がり、彼らを睨みながら後退る。

 その時、彼の右手の指先から粒子のようなものが漏れ始める。

 

「……どうやら、ここまでのようだな」

 

 彼の体が消滅し始めている。

 

 その光景を目の当たりにして、全員が狼狽える。

 

「どういうことだ!お前を倒せば助かるんじゃなかったのか!?」

「誰もそんなことは言っていないよ。早くしなければ仁の意識が消える、と言っただけだ」

「テメェ……」

 

 今にも掴みかかりそうなゴッドバードを嘲笑い、ライトニングはまた一歩、後退する。

 

「おめでとう。君達の勝ちだ。だが忘れるなよ。その代償として、君は自ら仁を殺したのだ」

「ライトニング……」

 

 歯を食いしばるプレイメーカーを一瞥して、ライトニングは消滅した。



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第49話:Those left behind

 ライトニングの暴走により発生した事件から、数日が経過したある日、

 

「なんだ。藤木のやつ、今日も来てないのか」

 

 島は遊作の姿がないことを確認して肩を落とす。

 

「うん……」

 

 事情を知る葵は、暗い表情で返す。

 さすがの島も、ここでしつこく絡むほど空気の読めない男ではない。

 

「あれ~。財前さん元気な~い」

 

 そこへ空気を読めない女が一人、切花が葵の前に現れてその顔を覗き込む。

 

「ほら、笑顔笑顔、幸せが逃げちゃうよ」

 

 切花は葵のほっぺたを掴んでぐにぐにするが、葵が冷たい目で見つめ返すと、切花はスッと手を放す。

 

 葵もここで切花の相手をしてやれるほどの余裕はなかった。

 

「なにがあったんだ?」

「さあね」

 

 切花はそっけなく返して、自分の席に着いた。

 

 ◆

 

 放課後、尊と美海、葵の三人は帰路についていた。

 

「遊作、今日も学校こなかったね」

「仕方ないですよ。遊作は、自分で……」

 

 ライトニングが、仁の意識データと共に消滅する瞬間、その光景を思い出して美海は苦しそうな顔をする。

 

「風間くんも学校に来てないのよね?」

「えぇ。啓はあれからずっと家に引きこもってるみたいで……」

 

 美海は昨日、彼の家を訪ねたが、インターホンを押しても彼が返事をすることはなかった。

 

「遊作も電話に出てくれなくて。一応、家にも行ってみたんだけど、草薙さんからそっとしておいてやってくれって……」

 

 三人の表情は暗い。

 

「このままでは駄目です。私はもう一度二人の家に行ってみます」

「……そうだよね。友達が辛い目にあってるのに、放っておくなんてできないよ」

「では私は早速啓の家に行ってきます。遊作は草薙さんがいるので大丈夫でしょうけど、啓はまともにご飯も食べていないかもしれませんし」

 

 善は急げと言わんばかりに、美海は小走りでその場から去っていった。

 

 ◆

 

 そして、美海はスーパーで食材をいくつか購入した後、啓のマンションの扉の前までやってきた。

 

「スゥー」

 

 息を大きく吸い込んで、気合を入れてから、インターホンを押した。

 

 ピーンポーン

 

 しばらく待ってみるが、返事はない。

 

「……啓、私です。美海です。その……ちゃんとご飯食べてますか? 辛いのは分かりますが────」

 

 ガチャン

 

 喋っている途中で扉が開き、中から啓が出てきた。

 

「あぁ。美海……おはよう」

 

 もう夕方だというのに、そんな惚けた挨拶をする啓は、大あくびをした。

 

(あれ、思ったより平気そう……)

 

 啓は目の下に濃いクマができているものの、特に精神的に不安定といった様子ではなかった。

 

「あの……啓?」

「ん、ああ。ごめん。昨日久しぶりに寝たから、まだちょっと寝ぼけてて」

「寝てなかったって……」

「五徹か、六徹か、あれ? そもそも今日って何日だっけ?」

 

 まだ頭が働いていない彼は、眠そうな顔で虚空を見上げた。

 ともかく自分の心配が杞憂だと分かり、美海はため息を吐いた。

 

「あの、とりあえず上がっていいですか?」

「え。ああ。どうぞ……」

「お邪魔します」

 

 きちんと一礼してから彼の家の敷居を跨ぎ、玄関で靴を脱ごうとしたその時、

 

「ああそうだ」

 

 不意に啓がこちらを振り返り、思い出したように呟いた。

 

「遊作、できれば他のみんなも呼んで欲しい」

「どうしてですか?」

「見せたいものがあるんだ」

 

 ◆

 

 そして、遊作、尊、葵の三人を加えた五人が啓の部屋に集まった。

 遊作は最初は来ようとしなかったが、意外にも啓が強い口調で呼びつけたことで、重い脚を運んでくれた。

 

「で、見せたいものって」

 

 啓は答えるかわりに、キーボードを操作して、ディスプレイに何かを表示した。

 

「これは……地図、ですか?」

 

 画面上には無数の線が編み目のように張り巡らされている。

 

「正確には回線図だな。VR空間内でのデータの流れを映している」

「これが見せたいもの?」

 

 すると、啓はその回線図上を動いている赤い点に、マウスカーソルを合わせてクリックする。

 

 ウィンドウがホップアップして、そこへ文字の羅列が映し出される。

 

「うわー……」

 

 コンピューターが苦手な尊は、見るのもいやというような反応を示す。

 しかし、それに対して遊作はその文字列に対して何かに気付いたような顔をした。

 

「イグニスアルゴリズム」

「正解、これはライトニングだ」

「「ライトニング!?」」

 

 啓の発言に、美海と葵は同時に声を上げた。

 

「ど、どういうことですか?」

「俺はずっと気になってたんだ。ライトニングが仁の意識データを使っていた理由を」

「そ、それは……自分が消えないようにするためじゃ……」

 

 イグニス全員には、デュエルに負けると消滅するような自爆プログラムが仕込まれていた。

 だから、ライトニングは仁に代わりにデュエルさせることで、それを回避しようとした。みんなはそのように解釈していた。

 

「なら、別に仁である必要はない。あいつの言葉を信じるなら、ライトニングは回収した仁の意識データをわざわざ修復して使っていたんだからな」

 

 それは以前、遊作に対してライトニングの発言だった。

 

 ────これは人聞きが悪い。私は彼の破損した意識データをここまで修復してやったのだ

 

「そこまでするってことは、仁に何かしらの価値を見出していたってことだ。それがこれだ」

 

 啓は画面上の赤い点、ライトニングを指さす。

 

「遊作、仁は生きている」

「!」

「ライトニングは多分、仁と融合することで、自爆プログラムを除去したんだ。あいつだって、その方法を探していなかったわけじゃないはずだ」

「それじゃあ仁は……」

「まだ取り返せる」

 

 その事実が発覚したことで、遊作の顔に光が戻った。

 

「もしかして、それを言うために、徹夜してたのですか?」

「え、あ、まあ……」

 

 それを指摘されて、啓は急に照れ臭そうに目を逸らす。

 

「ま、まあ俺は、仁とも、他のイグニスとも付き合いは短いし、一番ショックが少なかったから……」

「啓……」

「そ、それに、俺だけの力じゃないし」

 

 すると、啓はパソコンの横に置かれた装置から一枚のカードを引き抜き、それを見せる。

 

「Gゴーレム・クリスタルハートって……」

「アースのカード、ていうのも正確じゃないな。元はアクアのカードらしい」

「それをどうして啓が?」

「樹に借りたんだよ。調べてみたら、どうもこいつにはイグニスアルゴリズムが使われている。それを使って、ライトニングのパターンを割り出して、どうにか居場所を突き止めたんだ。このカードがなかったら、プログラムの構築にはもっと時間がかかってただろうな」

「なぁ」

 

 それを聞いて、遊作が口を開いた。

 

「それを使えば、Aiの居場所も分かるのか?」

 

 現在、遊作のデュエルディスクの中にAiはいない。

 あの一件の後、Aiは行方をくらませてしまった。

 遊作が落ち込んでいた理由のもう半分はそれだった。

 

「……ああ。これを組んだ目的のもう一つはそれだ」

「なら早く……」

「お、落ち着けよ。まずは、お前のデュエルディスクを貸してくれ。探すならAiのデータがあった方が効率がいい」

「分かった」

 

 遊作はデュエルディスクを外して、机の上に置く。

 啓がそれをケーブルでパソコンに繋ぐと、画面に無数の文字の羅列が出現する。

 

「とりあえずデータは吸い出した」

 

 ケーブルを外して、デュエルディスクを返した。

 

「見つかったらすぐに連絡する」

「ありがとう。啓」

 

 ◆

 

 遊作達が帰った後、啓は珍しく一人外出すると、とある場所を訪れた。

 

 そこはかつて彼らが過ごした孤児院の裏手にある、大きな木がある広場だった。

 

「樹」

 

 その木の前で、物思いにふけるように立っていた樹の姿を見つけて、啓は声をかけた。

 樹は振り返ると、鬱陶しそうにため息を吐いた。

 

「何の用ですか? というより、どうやって私の連絡先を?」

「俺はウィザード級のハッカーだから。要件ならメールで話しただろ」

 

 啓はデュエルディスクにしまっていた一枚のカードを取り出して、樹に手渡した。

 

「これ、返す」

 

 クリスタルハートのカードを受け取り、樹はまたため息を吐いた。

 

「別に、あなたが持っていてもよかったんですよ」

「そうはいかないだろ。お前の大事な……半身? から託されたんだから」

「まあ、そうですね」

 

 樹はカードをデッキケースにしまった。

 

「そういえば、一つ聞きたかったんだけど、アクアがそのカードを託した理由、アースから聞かなかったか?」

「特に話していませんでしたが」

「そうか」

 

 啓は残念そうに肩を落として、目の前の巨木の下に腰を下ろした。

 

「あなたは……」

「いいだろ。減るもんじゃないし」

 

 咎める樹を無視して、大きな幹に体を預ける。

 

「……尊から何も聞いていないんですか?」

「なにが?」

「……まあ、風潮するような性格ではありませんか」

 

 啓はよく分からなかったが、特にその意味は考えず、空を見上げた。

 

「お前ら、やっぱりイグニスは抹殺すべしって感じなの?」

「それがリボルバー様の意思ですから」

「あそ」

 

 啓は興味なさそうに返す。

 

「あなたは、どうしてイグニスに肩入れするんですか?」

「俺は別に、イグニスに肩入れしてるつもりはないよ」

「では美海のためですか?」

「……まあ、それもある」

 

 言い当てられて、啓は恥ずかしそうを目を逸らす。

 

「今は、友達のために、できることをしたい」

「そうですか」

「じゃあ、俺は帰るよ」

 

 啓は立ち上がり、振り返らずに去っていった。



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第50話:Uncontrollable Jack knife

お待たせしました


 草薙のキッチンカーにて、遊作と草薙はモニターに向き合って、とあるプログラムの構築に勤しんでいた。

 

「これが仁と融合した時の、ライトニングのプログラムか」

 

 草薙は画面に表示されたそれを見て、感心したように呟く。

 

「デュエル中に、啓がデータを取ってくれたらしい。完璧ではないが」

「十分だ。これだけ分かれば仁とライトニングを分離するプログラムを作り出せる」

 

 ライトニングの居場所が分かっても、無策で向かったところで前回と同じだ。

 ならばと、啓に頼まれて彼らはライトニングを分離するプログラムを作成することになったのだ。

 

「必ず、 仁を取り戻そう」

「ああ」

 

 二人は頷き合い、パソコンに向き合った。

 

 ◆

 

 同刻、啓の家には尊と美海が集まっていた。

 

「啓、これは?」

 

 美海が指差すモニターには、ソースコードが表示されている。ソースコードはところどころ文字化けを起こしており、

 

「ウィンディが消滅する寸前に、あいつのソースコードを取ったんだよ」

 

 啓はウィンディの自爆プログラムを解除するために、データを解析していた。その時に取得できた部分にソースコードとして落としていたのだ。

 

「こ、これがソースコード」

 

 尊には意味不明な文字列にしか見えないそれらは、ところどころが抜けていたり、文字化けを起こしていたりして、プログラムに詳しい美海でも読めたものではない。

 

「こんな虫食いみたいなコード、読めるんですか?」

「いや、読めない」

 

 啓は首を振り、別のモニターに開発ツールを立ち上げる。

 

「け、けど、使われてる言語は分かるし、ある程度文法はあるから、復元は不可能じゃない、かも」

 

 話していくうちに徐々に自信がなくなってきたのか、啓の声が小さくなっていく。

 

「クリスタルハートのカードからもデータが取れたから、それも併せればまあ、何とかなるかな」

「す、すごい」

 

 感心する二人をよそに、啓はキーボードをたたき、何やら開発ツールの画面にコードを打ち込んでいく。

 

「と、とりあえず、まずはこの虫食いコードを解析するAIを作る」

「AI、って解析するために、わざわざAIを作るの?」

 

 尊の疑問に対して、啓はため息を吐く。

 

「解析って言っても、基本は総当たりだ。そんなもん、人の手でやろうとすれば一生かかったってできやしない」

「そ、そうなんだ」

「尊は、AIと聞けば、それこそイグニスみたいな喋って動き回る奴らを想像するかもしれないけど、本来AI、人工知能っていうのは、与えられた命令に対して、最適な方法、最適な答えを自ら考えて導き出すプログラムのことだ。簡単なので言えば、モンテカルロ法、あれも先の手をシミュレートしてそこから最善手を導き出す……」

「啓、その辺で」

 

 自分の得意分野で途端に饒舌になった啓を宥める。

 見ると、尊の方はチンプンカンプンといった顔で、目を回している。

 

「ああ。ごめん」

 

 啓はパソコンに向き直り、プログラムの構築を再開する。

 

「クリスタルハートのカードからデータも抜いてあるし、それを元に学習させれば、大体五日くらいで出来上がると思う」

「そんなに早く……」

「学校サボって五徹すればすぐだよ」

 

 啓のそのセリフに、二人の表情が感心から呆れに変わった。

 

「あの、啓、あなた出席日数足りませんよね? このままだと留年ですよ?」

「……」

 

 以前の啓なら、留年しても構わないと言いそうなところだったが、さすがに啓もみんなと一緒に進級したいのだろう。少し迷うような素振りを見せた。

 

「AIの構築なら私も手伝えますし、二人でやればすぐに……」

「いや、ソース管理面倒だから一人でやりたい」

 

 美海はかわいらしく頬を膨らませて、不機嫌そうに顔をしかめた。

 

「え、えーっと、僕はよく分かんないけど、きっとみんなでやった方が……」

「素人は黙ってろ!」

 

 見かねて助け舟を出した尊を一蹴する。

 

「そうやってここぞとばかりにマウントを取る様は見苦しいですよ」

「俺はこういう時しかこいつの優位に立てないんだよ!」

「何と戦ってるんですか?」

 

 美海は呆れてため息を吐いた。

 

「大体な、複数人でソースを弄ったら、誰がどこ修正したのか分かんなくなるだろ」

「あらかじめルールを決めておけばいいでしょう。作業内容も修正対象のソース毎に分担すれば問題ないはずです」

「記述の微妙な差異で、結合した時……」

「最初に仕様を固めておけばいいじゃないですか。そもそも仕様も確定せずに見切り発車で作り始めることが────」

 

 あれこれ言い合う二人、尊は完全に蚊帳の外となった。

 

(どうしよう、二人が何を言ってるのかさっぱり分からない)

 

「ていうか、美海に手伝ってもらうために余計なタスク増えたら、作業効率上がんないだろ」

「じゃあ人数を増やしましょうよ」

「誰に頼むんだよ。遊作と草薙さんは、分離プログラム作んないといけないから無理だぞ?」

「それこそお師匠さんに頼めばいいのでは?」

 

 ブラッドシェパードの存在を思い出して提案するが、啓は右手を振って否定する。

 

「あいつ頑固だから、こういう時絶対に手伝ってくれないんだよ」

「なら、樹はどうですか? 啓は連絡取れるんですよね?」

「ハノイにあんまし情報を渡したくない。行方不明のAiのことだってあるし」

 

 ハノイの騎士は、今も生き残った最後のイグニスであるAiのことを探している。そのハノイと積極的にコンタクトを取ることに、啓は反対だった。

 

「ですが、前回リボルバーは協力してくれましたよ?」

「それは利害の一致だろ。樹はまあ、説得の余地はあるかもしれないけど……」

 

 それでも基本的にはリボルバー優先の樹に、リボルバーに黙って協力しろとは頼みづらい。

 

「他は……あ」

 

 そこで啓は、思い出したように声を漏らした。

 

「どうしたんですか?」

「……一人いる。けどなー」

 

 なぜか啓は嫌そうな顔をして、少し考え込むように唸る。

 

「……まあ。うん。頼んでみる」

 

 啓のリアクションはよく分からなかったが、とりあえず協力者が一人見つかったようなので、美海は安堵した。

 

「ところで、啓はどうして自爆プログラムを調べようと?」

「ん……ああ。ちょっと気になることがあって」

 

 そう言って、啓は画面上の虫食いコードの方へ視線を下ろした。

 

 ◆

 

 翌日、遊作と啓が戻ってきたことで、デュエル部は活気が戻っていた。

 

「藤木、ようやく来たな」

 

 島もなんだかんだ心配していたようで、どこか安心したような顔をして、遊作の肩をポンと叩いた。

 

「ねぇねぇ、藤木君はどーして学校休んでたの?」

 

 すると、横から現れた切花が二人の間に割り込み、遊作の顔を覗き込む。

 

「それは……」

「夢乃さん、詮索はあまりよくありませんよ」

 

 美海が彼女を諭したことで、切花は不満そうにしつつも、身を引いた。

 

「ねぇ、みんなで帰りに草薙さんのお店に寄っていかない?」

「いいですね。遊作と啓も復帰したことですし」

「ちょっとしたお祝いだね」

 

 葵の提案に、美海と尊も乗る。

 

「大げさすぎだろ……」

「いいんじゃないのか?」

 

 珍しく乗り気な遊作に、啓は少し意外そうな顔を見せた。

 

「例のプログラムは大丈夫なのか?」

「順調だ。お前こそ、ウィンディから取り出したコードの解析はできそうなのか?」

「解析用のAIを絶賛制作中、まあ解析できても、どの程度役立つかは分からないけど」

「そもそも、気になっていることってのは何なんだ?」

「あー、それはだな……」

「藤木、何の話だ?」

 

 言いかけたところで、島が話に入ってきた。

 

「帰りに草薙さんの店に寄るって話だ。お前も来るか?」

「快気祝いだとよ」

 

 啓が冗談めかして言うと、島はなんだかよく分からないという顔をしたが、ついてくることになった。

 

「夢乃さん」

 

 すると、葵が教室の隅に移動していた切花の元へ歩く。

 

「ん?」

「あなたも、一緒に来ない?」

「え?」

 

 葵に誘われて、切花は一瞬真顔になるが、すぐに元の張り付いた笑顔に戻る。

 

「財前さん、ボクのこと嫌いじゃなかったの~?」

「嫌いなわけないじゃない。友達でしょ」

 

 何気ないその言葉に、切花は目を丸くした。

 

「どうしたの?」

「……ううん。なんでもないよ~」

 

 切花は立ち上がって、スキップして彼女の横を通り過ぎる。

 

「ごめんね。ボクは今日用事あるから」

 

 そう言って、切花は手を振って教室を出て行った。

 

 ◆

 

 教室を出た切花は中庭の隅で花壇に八つ当たりするように何でも踏みつけていた。

 

「切花」

 

 声をかけられたことで足を止め、切花はイライラした顔を隠さずに振り返る。

 

「な~んだ。響子先生か」

 

 見知った顔に、切花はため息を吐く。

 

「……機嫌が悪いようだけど、何かあったの?」

「別に。君には関係ないでしょ」

 

 ため口で吐き捨てるように言う。

 普段であれば、形だけでも敬語を使っていたのだが、今日の切花の様子はとにかく何かに当たり散らしていないと気が済まないといった感じだ。

 

「で、何の用?」

「……リボルバー様が呼んでいるわ。闇のイグニスの居場所を掴んだ」

「へぇ、意外だね。まだボクを仲間扱いしてくれるんだぁ」

 

 下卑た笑みを浮かべ、響子の顔を覗き込む。

 

「……私として、あなたにこれ以上、ハノイとして活動して欲しく────」

「は? 何勝手にボクに指図してんの?」

 

 睨みつられると、響子は黙り込んでしまった。

 

「はぁ……まあいいや。ボクは忙しいから、闇のイグニスのことは任せるよ。ていうかもうどうでもいいし」

 

 そう言って、切花は響子の横を通り過ぎて校門の方へと向かう。

 すると、

 

「……っ!」

 

 楽し気な話声が聞こえて、切花は立ち止まる。

 

 彼女の視線の先、ちょうど一緒に下校する遊作達の姿があった。

 

「……楽しそうだね。君ら」

 

 聞こえない距離から、遊作達に対して呟いた。

 

 ◆

 

 その夜、LINK VRAINS内ではブルーエンジェルのライブ(デュエル)が行われていた。

 

「トリックスターバンドVo(ヴォーカル)・ホーリーエンジェルでダイレクトアタック!」

 

 多くのファンの声援を受けて、ブルーエンジェルは華麗にフィニッシュした。

 

「みんなー!応援ありがとう!」

 

 観客達に手を振りながらDボードを旋回させて、地上で待っていた美海の元へ駆け寄る。

 

「お疲れ様です」

 

 Dボードを降りたブルーエンジェルを労う。

 

「ここ最近は絶好調ですね」

「えぇ。藤木くんも元気になったしね……」

 

 そこで、ブルーエンジェルの顔が少し暗くなる。

 

「Aiも仁君も、まだ取り戻せてないのよね」

「……心配いりませんよ」

 

 美海はブルーエンジェルの手を握り、微笑みかける。

 

「遊作も啓も、頑張ってくれています。葵様はご自分のデュエルに集中してください」 

「……えぇ。そうね」

 

 ブルーエンジェルの表情に光が戻り、Dボードに飛び乗る。

 

「それじゃあ、次の試合、行ってくるわ」

 

 連戦で次の試合へ向かう主の背中を見送ると、美海はふと、視線を感じて振り返る。

 

「あれは……」

 

 Dボードの上に仁王立ちして、彼女を見下ろしていたのは、美海のよく知る自分物だった。

 ポンチョ型のハノイの騎士の制服を纏い、赤と紫が混ざり合ったようなショートヘアに中性的な顔立ちの少年。

 

「ジャックナイフ」

 

 ジャックナイフはフッと笑い、美海に背を向けてDボードを走らせる。

 まるでついて来いと言わんばかりの態度に、美海も自分のDボードを出現させ、彼を追うことにした。

 

 しばらくDボードを走らせたところで、突如ジャックナイフは空中で急ブレーキをかけた。

 

「……こんな場所に誘い出して、何が目的ですか?」

 

 ジャックナイフは振り返ると、ニヤッと笑う。

 

「別に。ただちょっと、君にちょっかいかけたくなっただけだよ」

 

 彼はそう言ってデュエルディスクを構える。

 

「今私と戦って何の意味があるのですか?」

「意味なんてないよ。ボクはただ、ボクが気に入らないものをぶっ飛ばしたいだけだ」

「……仕方ない」

 

「「デュエル!」」

 

 ◆

 

 美海とジャックナイフのデュエル、美海は先攻1ターン目でタイタニーニャを呼び出し、2体のリオ・プロトコロドンをシンクロ召喚した。

 

「リオ・プロトコロドンの効果で、このカードと同じ縦列すなわち、EXモンスターゾーンの効果は封じられる」

 

原初海祈(オリジンブルー)リオ・プロトコロドン

シンクロ・効果モンスター

星8/水属性/サイバース族/攻 2800/守 2000

水属性チューナー+チューナー以外のサイバース族モンスター1体以上

(1)このカードのS召喚に成功した場合に発動できる。相手フィールドのモンスター2体までを選んで手札に戻す。

(2)このカードが効果で隣のメインモンスターゾーンに移動する場合、かわりにリンクモンスターのリンク先となるメインモンスターゾーンに移動できる。

(3)1ターンに1度、発動できる。このカードを隣のメインモンスターゾーンに移動させる。この効果は相手ターンでも発動できる。

(4)このカードと同じ縦列の相手のモンスターゾーン及び魔法&罠ゾーンのカードの効果は無効化される。

 

「私はカードを2枚伏せてターンエンド」

 

ターン2

 

「それでボクの融合召喚を封じたつもり? 確かにオルトバイトの効果は使えないけど、それは同じ縦列にいればの話でしょ?」

 

 ジャックナイフにはモンスターの位置を入れ換えるアニマイール・ポルターガイスト、さらに切り札の超融合もある。

 これだけでは、ジャックナイフの手を封じたとは言えない。

 

「えぇ。ですから私はこれを使います」

 

 美海の場に伏せられたカードのうち、1枚が開かれる。

 

「永続(トラップ)、魔封じの芳香を発動!」

「それは……」

「このカードがフィールドに表側表示で存在する限り、お互い魔法カードは1度セットしなければ発動できず、セットした魔法カードは次の自分のターンが来るまで発動できない」

「メタカードか」

 

 モンスターの位置関係が重要な美海のデッキは、ジャックナイフのデッキとは相性が悪い。

 ポルターガイストと超融合を同時に封じられるこのカードはうってつけのカードだと、以前から目をつけていた。

 

「チッ……ボクはアニマイール・カラカライトを召喚」

 

 三頭身の骨の怪人が飛び出す。

 

アニマイール・カラカライト

効果モンスター

星2/地属性/アンデット族/攻 500/守 500

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが既にモンスターゾーンに存在する状態で、自分の手札・墓地からアンデット族モンスターが特殊召喚された場合に発動できる。デッキから「アニマイール・カラカライト」1体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたモンスターがフィールドに表側表示で存在する限り、自分は「アニマイール」モンスターしか特殊召喚できない。

(2) 自分フィールドのアンデット族モンスターを素材として、「アニマイール」リンクモンスターをリンク召喚する場合、墓地のこのカードをリンク素材としてデッキの下に置ける。リンク召喚後、ターン終了時まで、自分は融合モンスターしか特殊召喚できない。

 

「ボクは手札1枚を捨てて、アニマイール・フレアソウルを特殊召喚」

 

 どこからか火の粉が渦を巻きながら集まり、テニスボールくらいのサイズの人魂を形成した。

 

アニマイール・フレアソウル

効果モンスター

星1/炎属性/アンデッド族/攻 300/守 200

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分の手札からこのカード以外のアンデッド族モンスターを墓地へ送って発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。この効果を発動するターン、自分はカードの効果以外で、モンスターを1度しか特殊召喚できない。

(2)自分フィールドのアンデッド族モンスターを「アニマイール」リンクモンスターのリンク素材とする場合、墓地のこのカードもリンク素材としてデッキの下に置ける。リンク召喚後、ターン終了時まで、自分は融合モンスターしか特殊召喚できない。

 

「カラカライトの効果発動!手札か墓地からアンデット族が特殊召喚された時、デッキからもう1体のカラカライトを特殊召喚!」

 

 カラカライトが手に持った骨を右に投げると、下から飛び出したカラカライトがその骨を掴みながら現れる。

 

「現れろ、ボクだけの未来(みち)を拓く未来回路!」

 

 3体のモンスターがフィールド上に現れたアローヘッドへ飛び込む。

 

「リンク召喚!リンク3!アニマイール・ツインテールキャバイト!」

 

 現れたのは、二又に分かれた尾を持つ黒猫で、その尾は縦に裂けるように口を開いている。

 

アニマイール・ツインテールキャバイト

リンク・効果モンスター

闇属性/アンデット族/攻 1800/LINK 3

【リンクマーカー:上/左下/右下】

「アニマイール」モンスターを含むアンデット族モンスター3体

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分のメインフェイズに発動できる。自分の手札・フィールド及びこのカードのリンク先の相手のカードの中からアンデット族融合モンスターの融合素材となるモンスターを墓地へ送り、EXデッキからその融合モンスターを融合召喚する。このカードのリンク先のモンスターのみを素材として融合召喚されたモンスターは以下の効果を得る。

●このカードが戦闘で相手モンスターを破壊し、墓地へ送った場合に発動できる。そのモンスターを攻撃力500アップの装備カード扱いでこのカードに装備する。

(2)自分の「アニマイール」リンクモンスターと同じ縦列の相手の魔法&罠ゾーンの表側表示のカードはこのカードのリンク先として扱う。

 

「リンクモンスターを出したところで、効果は使えませんよ」

「焦らないでよ。ボクはさらに、墓地の馬頭鬼の効果発動!このカードを墓地から除外し、カラカライトを特殊召喚!」

 

 骨の怪人が蘇り、さらにその足元にアローヘッドが開く。

 

「現れろ!ボクだけの未来(みち)を拓く未来回路!」

 

 カラカライトと墓地のフレアソウルとカラカライトがアローヘッドに吸い込まれる。

 

「リンク召喚!リンク3!アニマイール・ツインテールキャバイト!」

 

 2体目の黒猫が現れ、ニャーと鳴き声を上げる。

 

「さぁ行くよぉ。ボクはメインモンスターゾーンのツインテールキャバイトの効果発動!手札・フィールド及びこのカードのリンク先の相手カードを素材に融合!ボクが融合素材にするのは、ツインテールキャバイトと君のフィールドの魔封じの芳香を融合!」

「なっ!」

 

 魔封じの芳香はツインテールキャバイトのリンク先でもなければモンスターすらない。

 

「ツインテールキャバイトは、自分のアニマイールリンクモンスターと同じ縦列の表側表示の魔法・罠カードはこのカードのリンク先として扱う!そして、こいつの融合素材は罠カード!融合召喚!」

 

 ジャックナイフのフィールドへ移動した魔封じの芳香に、ツインテールキャバイトの霊魂が吸い込まれ、その容器が膨張して破裂する。

 

「出でよ、レベル8!アニマイール・デスメル・ドーラ」

 

 全身真っ黒のシルエットの巨大な女性の霊、長い髪を揺らめかせ、白い光でおぞましい形相を描いている。

 

アニマイール・デスメル・ドーラ

融合・効果モンスター

星8/闇属性/アンデット族/攻 2700/守 2400

「アニマイール」モンスター+アンデット族モンスターまたは永続罠カード

(1)このカードがフィールドに表側表示で存在する限り、フィールドのアンデット族以外のモンスターは召喚・特殊召喚されたターンには攻撃できない。このカードが罠カードを融合素材としている場合、さらにフィールドのアンデット族以外のモンスターは召喚・特殊召喚されたターンには効果が無効となる。

(2)自分フィールドに「アンデットワールド」1枚と自分・相手の墓地のアンデット族モンスター1体を対象として発動できる。対象のフィールドのカードを裏側表示にし、対象の墓地のモンスターを自分フィールドに特殊召喚する。この効果で裏側表示となったカードは次の自分のターンまで発動できない。この効果は相手ターンでも発動できる。

(3)このカードの攻撃力は、「アニマイール」リンクモンスターの効果で装備したカードのレベルの数×200アップする。

 

「私はリオ・プロトコロドンの効果発動!このカードを隣に移動させる!」

 

 リオ・プロトコロドンがデスメル・ドーラの正面に移動する。

 

「これでデスメル・ドーラの効果は無効です」

「でも、これで魔封じの芳香がなくなって、ボクは魔法カードを自由に使えるようになったよ。速攻魔法カード、イーティング・ワンを発動!」

 

イーティング·ワン

速攻魔法

このカードはルール上「アニマイール」カードとして扱う。

(1)自分の「アニマイール」融合モンスター1体と、相手フィールドの表側表示のモンスター1体を対象として発動できる。対象の相手モンスターを対象の自分のモンスターに装備カード扱いで装備する。この効果はルール上「アニマイール」リンクモンスターの効果として扱う。

 

「君のリオ・プロトコロドンをボクのアニマイール融合モンスターに装備する!」

 

 カードから黒い大顎が伸びて、リオ・プロトコロドンを噛み喰らう。

 

「くっ……」

「これでタイタニーニャのリンク先からモンスターは消えた。バトルだ!ツインテールキャバイトで、タイタニーニャを攻撃!」

 

 ツインテールキャバイトが二本の尻尾を伸ばして、タイタニーニャの体をかみ砕く。

 

 美海:LP4000→3400

 

「デスメル・ドーラで、リオ・プロトコロドンを攻撃!デスメル・ドーラは装備したモンスターのレベルの数×200、攻撃力がアップする!」

 

 デスメル・ドーラ:攻撃力2700→4300

 

「やれ!」

 

 デスメル・ドーラが絶叫し、髪を伸ばすと、リオ・プロトコロドンの首を締め上げて破壊する。

 

 美海:LP3400→1900

 

「ボクはカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン3

 

「私は魔法カード、原初海帰(オリジンブルー・リコンパイル)を発動!」

 

原初海帰(オリジンブルー・リコンパイル)

通常魔法

(1)自分の墓地の「オリジンブルー」リンクモンスター1体を対象として発動できる。そのカードをEXデッキに戻し、EXデッキから対象のモンスターと同名のリンクモンスター1体を特殊召喚する。

(2)墓地のこのカードを除外し、自分のバックログカウンター1つを取り除いて発動できる。自分の墓地から水属性モンスター1体を手札に加える。この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できない。

 

「墓地のタイタニーニャをエクストラデッキに戻し、エクストラデッキからタイタニーニャを特殊召喚!」

 

 エクストラモンスターゾーンに、水が渦を巻き、タイタニーニャが蘇る。

 

「さらに原初海祈(オリジンブルー)シーライブラを通常召喚!効果でデッキからキンベレートを手札に加える」

「させないよ!デスメル・ドーラの効果!」

 

 デスメル・ドーラの足元から影が伸びて、シーライブラに絡みつく。

 

「アンデット族以外のモンスターは特殊召喚されたターンには攻撃できない。さらに罠カードを融合素材としている場合、その効果も無効となる」

「なら永続罠、原初海口(オリジンブルー・シークラフト)を発動!」

 

原初海口(オリジンブルー・シークラフト)

永続罠

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分フィールドの水属性モンスター1体を隣のメインモンスターゾーンに移動させて発動できる。墓地からレベル5以下の「オリジンブルー」モンスター1体を特殊召喚する。

(2)自分のバックログカウンター3つを取り除いて発動できる。デッキから「オリジンブルー」モンスター1体を手札に加える。

 

「シークラフトの効果で、シーライブラを移動させて、墓地からもう1体のシーライブラを特殊召喚。現れろ、未来を繋ぐサーキット!」

 

 タイタニーニャを中心に、アローヘッドが展開され、そこへシーライブラが吸い込まれる。

 

「母なる海よ、巡る命よ。大いなる根源へと帰還せよ!リンク召喚!」

 

 アローヘッドから水が渦を巻いてあふれ出る。

 

「現れろ、リンク4!原初海祈心晶(オリジンブルーハート)タイダヴェーラ!」

 

 水の中から現れたのは、胸元にハート型のブローチをつけた結晶(クリスタル)の人魚像だった。

 

原初海祈心晶(オリジンブルーハート)タイダヴェーラ

リンク・効果モンスター

水属性/サイバース族/攻 0/LINK 4

リンクモンスターを含む水属性モンスター2体以上

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードがリンク召喚に成功した場合、墓地のリンク素材となった「原初海祈タイタニーニャ」1体を対象として発動できる。対象のモンスターの上に置かれていたバックログカウンターと同じ数のバックログカウンターをこのカードの上に置き、1個以上置かれたら、対象のモンスターと同じ効果を得る。

(2)自分のバックログカウンター1つを取り除き、墓地のサイバース族Sモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを守備表示で特殊召喚する。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

「タイタニーニャのバックログカウンターと効果はタイダヴェーラに引き継がれる。さらにフィールド魔法、原初海域(オリジンブルー・ウェブ)の効果で、墓地のシーライブラを特殊召喚。そしてタイタニーニャの効果発動!墓地からリオ・プロトコロドンを特殊召喚!」

 

 タイダヴェーラは、タイタニーニャの持つリンク先にモンスターがいる限り、相手の効果を受けない効果を引き継いでいるため、デスメル・ドーラの効果を受けない。

 触手を伸ばして、虚空よりリオ・プロトコロドンを釣り上げた。

 

「タイダヴェーラの効果発動!リンク先のモンスターでシンクロ召喚を行う!」

「そうはいくか!ボクは速攻魔法!アニマイール・ポルターガイストを発動!」

 

アニマイール・ポルターガイスト

速攻魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できず、このカードの発動に対して、相手はモンスター効果・魔法・罠カードを発動できない。

(1)以下の効果から1つを選択する。同一チェーン上に「アニマイール」リンクモンスターの効果がある場合、さらに、その効果以外の同一チェーン上の効果は全て無効になる。

●相手フィールドのモンスターを任意の数だけ対象にして発動できる。そのモンスターをそれぞれ別のメインモンスターゾーンに移動させる。

●相手のEXモンスターゾーンにモンスターが存在し、相手のメインモンスターゾーンにEXデッキから特殊召喚されたモンスターが存在する場合にそれら2体を対象として発動できる。そのモンスターの位置を入れ替える。

 

「シーライブラ2体の位置を、君の空いているメインモンスターゾーンへ移動させる!」

 

 リンク先から移動したことで、タイダヴェーラの効果は不発。

 シーライブラがチューナー化することも、シンクロ召喚を行うこともできなくなってしまった。

 

「さあ、これで君の手は尽きただろ? 大人しくターンエンドしろよ」

「……あなた、随分イライラしているようですが、何があったのですか?」

「は?」

 

 突然尋ねられて、ジャックナイフは呆れたような声を返す。

 

「いつものような余裕が見えなかったので」

「……君がボクの何を知ってるって言うの?」

「何も知りませんよ。ただ、私の主はあなたのことを放っておけないそうなので、話くらいなら聞きますよ?」

 

 その言葉に、さらに怒りを募らせる。

 

「知らないなら黙ってろよ!友達面すんじゃねぇ!」

 

 怒鳴られても、美海は怯むことなく彼女を見つめる。

 

(やっぱり、彼のこの感情は、怒りだけじゃない)

 

「何もないならさっさとターンエンドしろ」

「誰が何もないなどと?」

「何?」

 

 既にタイダヴェーラの効果は不発に終わっている。

 彼女のデッキに純粋なチューナーは入っていないうえに、リンクモンスターもタイタニーニャのようなサポートカードのみ。

 リオ・プロトコロドンは、デスメル・ドーラの効果で攻撃できず、効果も使えない。

 

「私はレベル4のシーライブラ2体で、オーバーレイネットワークを構築!」

「なっ!」

 

 空にエックス字のパネルが現れ、そこへシーライブラが粒子となって吸い込まれる。

 

「時空さえ貫く牙で、未来へと航海せよ!エクシーズ召喚!現れろ、ランク4!原初海祈(オリジンブルー)クロノエリミウス!」

 

 現れたのは、長い口に鋭い牙、その体躯の周りに時計の文字盤のような目盛りが刻まれたリングをまとうモンスターだった。

 

原初海祈(オリジンブルー)クロノエリミウス

エクシーズ・効果モンスター

ランク4/水属性/サイバース族/攻 2300/守 2000

レベル4のサイバース族モンスター×2

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)相手フィールドの特殊召喚されたモンスター1体を対象として、このカードのX素材、または自分のバックログカウンター1つを取り除いて発動できる。そのモンスターを手札に戻す。自分フィールドまたは自分のXモンスターのX素材にリンクモンスターが存在する限り、このカードは相手ターンでも発動できる。

(2)このカード以外の自分のメインモンスターゾーンのモンスター1体を対象として発動できる。そのカードを空いている隣のメインモンスターゾーンに移動させるか、このカードの下に重ねてX素材とする。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

「私はこれでターンエンド」

 

ターン4

 

「ボクはアニマイール・トリックランタンを召喚」

 

 かぼちゃの頭を被った三頭身のお化けが現れる。

 

アニマイール・トリックランタン

効果モンスター

星3/光属性/アンデット族/攻 800/守 800

このカード名の(2)(3)の効果はいずれか1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが召喚に成功した場合に発動できる。デッキ・墓地から「アンデットワールド」、または「アニマイール・ポルターガイスト」1枚を手札に加える。

(2)自分フィールドのアンデット族モンスターを素材として、「アニマイール」リンクモンスターをリンク召喚する場合、墓地のこのカードをリンク素材としてデッキの下に置ける。この効果発動後、ターン終了時まで、自分は融合モンスターしか特殊召喚できない。

(3)このカードが墓地に存在する場合、自分の手札・フィールドの「アニマイール」カード1枚を墓地に送って発動できる。このカードを墓地から手札に加える。

 

 

「効果でデッキからフィールド魔法、アンデットワールドを手札に加えて発動!」

 

 辺りに黒い霧と死臭が立ち込める。

 

「トリックランタンでリンク召喚!アニマイール・フウロ!」

 

 アローヘッドより現れたのは、紫の大きな瞳を怪しく光らせる、煙の翼を持ったフクロウだ。

 

アニマイール・フウロ

リンク・効果モンスター

光属性/アンデット族/攻 0/LINK1

【リンクマーカー:下】

リンクモンスター以外の「アニマイール」モンスター1体

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードがリンク召喚に成功した場合、手札から「アニマイール」カード1枚を捨てて発動できる。デッキから「アニマイール・ポルターガイスト」1枚を墓地に送る。自分のフィールドゾーンに「アンデットワールド」があれば、墓地に送るかわりに手札に加える。

(2)自分が融合召喚に成功したターンのエンドフェイズに、自分のフィールドゾーンに「アンデットワールド」があれば、墓地のこのカードを除外して発動できる。自分はデッキから1枚ドローする。

 

「デッキからポルターガイストを手札に加える。そしてツインテールキャバイトの効果で、ボクは手札のフレアソウルと、ツインテールキャバイト自身を融合!融合召喚!アニマイール・バニシングファング!」

 

 現れたのは、無数の魂が寄り集まった、紫炎の蛇だった。

 

アニマイール・バニシングファング

融合・効果モンスター

星7/闇属性/アンデット族/攻 2300/守 2000

アンデット族モンスター+リンクモンスター

このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1) このカードが特殊召喚に成功した場合に発動できる。相手フィールドの表側表示モンスター全ての効果をターン終了時まで無効にする。この効果の発動に対して、相手はアンデッド族モンスターの効果を発動できない。

(2)このカードは、「アニマイール」リンクモンスターの効果で装備したモンスターのモンスター効果を得る。

(3)このカードが戦闘・相手の効果でフィールドから墓地の送られた場合、自分及び相手の墓地のアンデット族モンスターをそれぞれ1体ずつ除外して発動できる。このカードを墓地から特殊召喚する。

 

「続けて現れろ、ボクだけの未来(みち)を開く未来回路!フィールドのバニシングファング、フウロ、そして墓地のカラカライトでリンク召喚!リンク3!アニマイール・オルトバイト!」

 

 現れたのは、二つの頭を持つ犬、体は紫の炎のようなものでおおわれており、目は黒い革で隠されている。

 

アニマイール・オルトバイト

リンク・効果モンスター

闇属性/アンデット族/攻 2300/LINK3

【リンクマーカー:右上/左上/下】

「アニマイール」モンスターを含むアンデット族モンスター3体

このカードは自分のEXモンスターゾーンにのみ特殊召喚でき、このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分のメインフェイズに発動できる。自分の手札・フィールド及びこのカードのリンク先の相手モンスターの中から、アンデット族融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体を融合召喚する。

(2)このカードのリンク先の自分・相手のモンスターを、それぞれ1体ずつを対象として発動できる。対象の相手モンスターを対象の自分のモンスターに装備カード扱いで装備する。装備モンスターは装備したカードの元々の攻撃力の半分、攻撃力がアップする。

 

「クロノエリミウスの効果発動!オーバーレイユニットを1つ使うことで、相手の特殊召喚されたモンスター1体を手札に戻す!」

 

 クロノエリミウスの周囲を回るオーバレイユニットが、その体に吸い込まれ、体から時計の針のエフェクトが現れる。

 

「オルトバイトを手札に!」

 

 時計の針が回転すると、オルトバイトはまるで逆再生するようにアローヘッドに吸い込まれ、そのまま消滅してしまった。

 

「無駄なんだよ!ボクは速攻魔法、超融合を発動!君のリオ・プロトコロドンとクロノエリミウスを融合!融合召喚!アニマイール・バーサーカー!」

 

 虚空から砕け錆びた鎧を着た、屍の戦士が這い出てきた。

 

アニマイール・バーサーカー

融合・効果モンスター

星6/闇属性/アンデット族/攻 2500/守 0

アンデット族モンスター×2

このカード名の(1)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが特殊召喚に成功した場合に発動できる。相手の守備表示モンスター1体を破壊する。そのモンスターがアンデット族なら、そのモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える。

(2)このカードは、「アニマイール」リンクモンスターの効果で装備したモンスターのモンスター効果を得る。

(3)墓地のこのカード及び自分・相手の墓地のアンデッド族モンスター1体を除外して発動できる。自分の墓地から「アニマイール」融合モンスター1体を特殊召喚する。

 

「さらにデスメル・ドーラの効果発動!ボクのアンデットワールドを裏側表示にすることで、墓地からアンデット族モンスターを特殊召喚!蘇れ!バニシングファング!」

 

 霧が晴れ、代わりにバニシングファングが闇の中から姿を現した。

 

「融合モンスター3体……」

「バニシングファングの効果で、このターン、君の表側表示のモンスターの効果は全て無効となる」

「その効果にチェーンして、タイダヴェーラの効果発動。バックログカウンター1つを使うことで、墓地からリオ・プロトコロドンを特殊召喚」

 

 リオ・プロトコロドンを守備表示で壁として呼び出すが、デスメル・ドーラで効果は封じられている。

 

「悪あがきだね。バトルだ!やれ!」

 

 3体の融合モンスターが美海に襲い掛かり、そのライフを奪い去った。

 

 ◆

 

 その頃、デュエルを追えて戻ってきたブルーエンジェルは、美海の姿がないことに気付いてキョロキョロと辺りを見渡す。

 

「先にログアウトしたのかしら」

 

 急用ができたのだとしても、美海なら一言くらい連絡を入れるはずだ。

 心配になって、美海に音声通信を試みる。

 

「もしもーし」

 

 しかし、通話に出てきたのは、美海の声ではなかった。

 

「あなたは……」

「ボクだよ。ジャックナイフ。覚えてるよね?」

「……美海はどうしたの?」

「彼女なら、ボクの傍で眠ってるよ。君もよく知ってるよね? 電脳ウイルス」

 

 かつてハノイの騎士のファウストの手にかかり、ブルーエンジェル自身もそれで昏睡状態にさせられていた。

 

「何が目的なの?」

「さぁ」

 

 すると、ブルーエンジェルの元に通知音が鳴る。

 

「今地図を送ったから、そこに一人で来てね。助けを呼ぶとか当然禁止」

「……分かったわ」



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第51話:I'm your enemy

 LINK VRAINS某所、

 

 誰もいない荒野のような場所で、二人のデュエリストが立っていた。

 

「やあ、来たね」

 

 一人は小柄な中性的な顔立ちの少年。

 赤と紫が混じったようなショートヘアに、ポンチョ型のハノイの騎士の制服、不敵な笑みを浮かべて数メートル先に立つもう一人、ブルーエンジェルを見つめる。

 

「ジャックナイフ、美海はどこ?」

 

 ブルーエンジェルが問うと、ジャックナイフは指をパチンと鳴らす。

 

 すると、彼の背後に巨大な十字架が出現する。

 

「美海!」

 

 そこには美海が両手足を縛られて、磔にされていた。

 

「あ、おい……さま」

「今回は観客になってもらおっかな~」

 

 ニヤニヤと笑うジャックナイフに、ブルーエンジェルは表情を曇らせる。

 

「あなた、こんなことして、何がしたいの?」

 

 すると、彼の顔からフッと笑みが消える。

 

「何って、生意気な君の顔をぐちゃぐちゃにしてやりたいだけなんだけど」

「それって、どういう……」

「ボクのこと、友達なんだって?」

「え?」

 

 その時、ジャックナイフのアバターが溶けるように消えていく。

 代わりに、中から彼女もよく知る人物の姿が現れた。

 

「ゆ、夢乃さん……?」

 

 現れた夢乃切花の姿を見て、ブルーエンジェルは動揺を隠せない。

 

「ふふふっ、今明かされる衝撃の真実ぅ!……はぁ、つまんな」

 

 吐き捨てるようにそう言ったかと思うと、今度はブルーエンジェルを挑発するように笑う。

 

「ねぇ、今どんな気分? 友達とか一方的に思ってた相手が、実は敵だったって分かって、ねぇ?」

「……私の気持ちは、変わらないわ」

 

 一度は取り乱した彼女だったが、深呼吸で気持ちを落ち着け、デュエルディスクを構える。

 

「さあ、デュエルよ!」

「チッ……何で君は」

 

 切花はジャックナイフのアバターの姿に戻り、デュエルディスクを構える。

 

「「デュエル!」」

 

ターン1

 

「トリックスターバンドAs(アシスタント)・キャンディナを召喚!」

 

 黄と黒を基調としたバーテン衣装とタイトスカートの金髪の少女が現れる。

 

トリックスターバンドAs(アシスト)・キャンディナ

効果モンスター

星4/光属性/天使族/攻 1800/守 400

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合、自分の手札から「トリックスター」カード1枚を相手に見せて発動できる。デッキから「トリックスターバンドAs(アシスト)・キャンディナ」以外の「トリックスター」カード1枚と、「トリックスター・フュージョン」1枚を手札に加える。その後、見せたカードをデッキの下に置く。

(2)このカードが手札・フィールドから墓地へ送られた場合に発動できる。相手に200ダメージを与える。この効果発動後、ターン終了時まで、自分は「トリックスター・フュージョン」の効果以外で墓地へ送られたこのカード名の効果を発動できない。

 

「手札のトリックスターカード1枚を相手に見せることで、デッキからトリックスターカード1枚とトリックスター・フュージョンを手札に加える」

 

 ブルーエンジェルがデッキから2枚のカードを抜き取る。

 

「その後、見せたカードはデッキの下に置く。さらに手札に加えたトリックスター・リリーベルを特殊召喚」

 

 巨大なベルを携えたピンク髪の少女が、キャンディナの隣に降り立つ。

 

「さらにトリックスター・キャロベインを特殊召喚!輝け!勇気と決意のサーキット!リンク召喚!」

 

 リリーベル、キャンディナ、キャロベインの三体がアローヘッドに飛び込む。

 

「勝利へのオンステージ!リンク3、トリックスターバンドVo(ヴォーカル)・ホーリーエンジェル!」

 

 青を基調としたパンクなジャケットに衣装をまとう白いポニーテールの女性がフィールドに降り立った。

 

トリックスターバンドVo(ヴォーカル)・ホーリーエンジェル

リンク・効果モンスター

光属性/天使族/攻 2300/LINK3

【リンクマーカー:左下/下/右下】

「トリックスター」モンスター2体以上

このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分の「トリックスター」モンスターの攻撃宣言時に発動する。相手に200ダメージを与える。

(2)フィールドのこのカードを融合モンスターの融合素材とする場合、このカードの代わりに手札の「トリックスター」カードを墓地へ送ることができる。

(3)このカードのリンク先に「トリックスターバンド」モンスターが3種類存在する場合、自分のメインフェイズ2に発動できる。もう1度バトルフェイズを行う。

 

「墓地へ送られたキャンディナの効果発動!相手に200ダメージ!」

 

 キャンディナの幻影と共にホーリーエンジェルが歌い、

 

 ジャックナイフ:LP4000→3800

 

「くっ……」

「さあ行くわよ。装備魔法、トリックスターバンド・マイクをホーリーエンジェルに装備!」

 

 ホーリーエンジェルの前に金と青に縁取られたスタンドマイクが現れる

 

トリックスターバンド・マイク

装備魔法

「トリックスター」リンクモンスターにのみ装備可能

(1)「トリックスターバンド・マイク」は自分フィールドに1枚しか表側表示で存在できない。

(2)自分フィールドにトークンが存在せず、装備モンスターのリンク先にEXデッキから「トリックスター」モンスターが特殊召喚された場合に発動できる。トリックスタートークン(星1・光・天使族・攻/守0)1体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたトークンはリンク素材にできない。その後、装備モンスターのリンク先のモンスターの数×200ダメージを相手に与える。

(3)装備モンスターのリンク先の「トリックスター」モンスターの攻撃力は、装備モンスターのリンク先のモンスターの数×200アップする。

 

「フィールド魔法、トリックスター・ライブステージを発動!」

 

 彼女の背後に巨大なハート型のドクロが現れ、その周囲にスピーカーとライトが設営される。

 

「発動時の処理で、墓地からキャンディナを手札に戻す。そしてトリックスターリンクモンスターが存在する時、トリックスター・トークンを特殊召喚!」

 

 ステージの裏から、ハートのドクロ型の風船が飛んでくる。

 

「魔法カード、トリックスター・フュージョンを発動!ホーリーエンジェルとトークンを融合!ホーリーエンジェルは融合素材となる時、手札のトリックスターを身代わりにできる」

 

 ステージの証明が落ち、暗闇の中に重低音が響く。

 

「聴かせてあげる。トリックスターが奏でる音楽を!トリックスターバンド・ベースメリッサ!」

 

 闇の中でスポットライトに照らされ現れたのは、ダークグリーンの髪を靡かせ、ベースをかき鳴らす少女だった。

 

トリックスターバンド・ベースメリッサ

融合・効果モンスター

星6/光属性/天使族/攻 2000/守 2000

「トリックスター」リンクモンスター+光属性モンスター

(1)このカードが「トリックスター」リンクモンスターとリンク状態の場合、その「トリックスター」リンクモンスター及びそのカードのリンク先のモンスターは相手の効果の対象にならない。

(2)自分の「トリックスター」カードの効果で相手が効果ダメージを受ける度に発動する。その数値分、自分のLPを回復する。

(3)1000LP払って発動できる。除外されている「トリックスター・フュージョン」1枚を手札に加える。

 

「トリックスターバンド・マイクの効果で、トークンを特殊召喚し、相手に200ダメージ!」

 

 ジャックナイフ:LP3800→3400

 

「ベースメリッサの効果でダメージの数値分、私のライフを回復!トリックスター・フュージョンを墓地から除外して効果発動!ホーリーエンジェルのコストとして捨てたキャンディナを手札に戻す。さらにライフを1000ポイント支払って、ベースメリッサの効果発動!除外されているトリックスター・フュージョンを手札に!」

「あのコンボか……」

 

 ジャックナイフは、以前にもギーヴとのデュエルでブルーエンジェルのこのコンボを見ている。

 手札と盤面を減らさず、融合モンスターを連続で展開して、相手にダメージを与える厄介なコンボだ。

 

「もう1度融合召喚!ギタースイート!」

 

 逆立った青髪、パンクな衣装に身を包んだ少女がギターをかき鳴らしながら現れた。

 

「融合召喚!ドラムリッカ!」

 

 さらに、カラフルなドラムセット共に、黄色と黒が混ざったショートヘアの少女が現れた。

 

トリックスターバンド・ドラムリッカ

融合・効果モンスター

星8/光属性/天使族/攻 2500/守 2100

「トリックスター」リンクモンスター+光属性モンスター

このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが「トリックスター」リンクモンスターとリンク状態の間、相手のモンスターは召喚・特殊召喚成功時に効果を発動できない。

(2)自分の「トリックスター」カードの効果で相手がダメージを受ける度に発動する。相手モンスター全ての攻撃力・守備力はターン終了時まで、そのダメージの数値分ダウンする。

(3)このカードがフィールドに表側表示で存在する限り1度だけ、自分フィールドの「トリックスターバンド」モンスターの数まで相手フィールドのカード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。

 

「私はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン2

 

「ボクはアニマイール・ベリアルを発動」

 

アニマイール・ベリアル

通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1)手札1枚を捨てて発動できる。デッキからアンデット族モンスター1体を墓地に送る。自分の墓地に「アニマイール」モンスターが4種類以上あれば、自分はデッキから1枚ドローする。

 

「手札の1枚を捨てて、デッキからアンデット族モンスターを墓地へ送る。墓地の屍界のバンシーの効果発動。このカードを墓地から除外することで、デッキからアンデットワールドを発動する!」

 

 周囲に霧が立ち込め、辺りから光を奪い去る。

 

「来たわね…‥」

「いくよ。速攻魔法、超融合を発動!」

 

 ジャックナイフの背に、黒い穴が開き、モンスター達を飲み込むべく風を巻き起こす。

 

「トリックスターバンドVo(ヴォーカル)・ホーリーエンジェルと、トリックスターバンド・ドラムリッカを融合!」

 

 トリックスター達は、踏んだって必死に耐えようとするが、その体は徐々に穴の方へ引き寄せられる。

 

「同じ手は食わない!ホーリーエンジェルの効果!融合素材となる時、手札のトリックスターを身代わりにできる!」

 

 ホーリーエンジェルは超融合を振りほどき、ドラムリッカだけが飲み込まれる。

 

「融合召喚!アニマイール・バニシングファング!」

 

 穴の中から現れたのは、無数の霊魂を繋ぎ合わせて生み出された蛇のようなモンスターだった。

 

アニマイール・バニシングファング

融合・効果モンスター

星7/闇属性/アンデット族/攻 2300/守 2000

アンデット族モンスター+リンクモンスター

このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが特殊召喚に成功した場合に発動できる。相手フィールドの表側表示モンスター全ての効果をターン終了時まで無効にする。この効果の発動に対して、相手はアンデッド族モンスターの効果を発動できない。

(2)このカードは、「アニマイール」リンクモンスターの効果で装備したモンスターのモンスター効果を得る。

(3)このカードが戦闘・相手の効果でフィールドから墓地の送られた場合、自分及び相手の墓地のアンデット族モンスターをそれぞれ1体ずつ除外して発動できる。このカードを墓地から特殊召喚する。

 

「バニシングファングの効果!君のモンスターの効果を無効にする!」

 

 バニシングファングが吠えると、周囲の霧が濃くなり、それを吸ったモンスター達が苦しそうに膝をつく。

 

「これでもうホーリーエンジェルの効果は使えない。アニマイール・トリックランタンを召喚」

 

 カボチャ頭のお化けが、暗闇の中からぴょこんと飛び出した。

 

アニマイール・トリックランタン

効果モンスター

星3/光属性/アンデット族/攻 800/守 800

このカード名の(2)(3)の効果はいずれか1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが召喚に成功した場合に発動できる。デッキ・墓地から「アンデットワールド」、または「アニマイール・ポルターガイスト」1枚を手札に加える。

(2)自分フィールドのアンデット族モンスターを素材として、「アニマイール」リンクモンスターをリンク召喚する場合、墓地のこのカードをリンク素材としてデッキの下に置ける。この効果発動後、ターン終了時まで、自分は融合モンスターしか特殊召喚できない。

(3)このカードが墓地に存在する場合、自分の手札・フィールドの「アニマイール」カード1枚を墓地に送って発動できる。このカードを墓地から手札に加える。

 

「デッキからアニマイール・ポルターガイストを手札に加える。現れろ、ボクだけの未来(みち)を拓く未来回路!」

 

 霧の中からアローヘッドが展開される。

 

「リンク召喚!リンク1、アニマイール・フウロ!」

 

 暗闇の中で怪しく瞳を煌かせ、一匹のフクロウが飛び出した。

 

アニマイール・フウロ

リンク・効果モンスター

光属性/アンデット族/攻 0/LINK1

【リンクマーカー:下】

リンクモンスター以外の「アニマイール」モンスター1体

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードがリンク召喚に成功した場合、手札から「アニマイール」カード1枚を捨てて発動できる。デッキから「アニマイール・ポルターガイスト」1枚を墓地に送る。自分のフィールドゾーンに「アンデットワールド」があれば、墓地に送るかわりに手札に加える。

(2)自分が融合召喚に成功したターンのエンドフェイズに、自分のフィールドゾーンに「アンデットワールド」があれば、墓地のこのカードを除外して発動できる。自分はデッキから1枚ドローする。

 

「効果で2枚目のポルターガイストを手札に。さらに現れろ、ボクだけの未来(みち)を拓く未来回路!召喚条件はアニマイールを含むアンデット族3体!フウロ、トリックランタン、そして墓地のカラカライトをリンクマーカーにセット!」

 

 地面から飛び出した霊魂と共に、トリックランタンとフウロがアローヘッドへ飛び込む。

 

「リンク召喚!魂を貪る猟犬!リンク3、アニマイール・オルトバイト!」

 

アニマイール・オルトバイト

リンク・効果モンスター

闇属性/アンデット族/攻 2300/LINK3

【リンクマーカー:右上/左上/下】

「アニマイール」モンスターを含むアンデット族モンスター3体

このカードは自分のEXモンスターゾーンにのみ特殊召喚でき、このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分のメインフェイズに発動できる。自分の手札・フィールド及びこのカードのリンク先の相手モンスターの中から、アンデット族融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体を融合召喚する。

(2)このカードのリンク先の自分・相手のモンスターを、それぞれ1体ずつを対象として発動できる。対象の相手モンスターを対象の自分のモンスターに装備カード扱いで装備する。装備モンスターは装備したカードの元々の攻撃力の半分、攻撃力がアップする。

 

「墓地のカラカライトをリンク素材にしたことで、ボクはこのターン、融合モンスターしか特殊召喚できない。オルトバイトの効果発動!このカードのリンク先のモンスターを使って融合召喚を行う!そこへチェーンしてアニマイール・ポルターガイストを発動!」

 

アニマイール・ポルターガイスト

速攻魔法

このカードの発動に対して、相手はモンスター効果・魔法・罠カードを発動できない。

(1)以下の効果から1つを選択する。同一チェーン上に「アニマイール」リンクモンスターの効果がある場合、さらに、その効果以外の同一チェーン上の効果は全て無効になる。

●相手フィールドのモンスターを任意の数だけ対象にして発動できる。そのモンスターをそれぞれ別のメインモンスターゾーンに移動させる。

●相手のEXモンスターゾーンにモンスターが存在し、相手のメインモンスターゾーンにEXデッキから特殊召喚されたモンスターが存在する場合にそれら2体を対象として発動できる。そのモンスターの位置を入れ替える。

 

「ベースメリッサとホーリーエンジェには、オルトバイトの前に来てもらうよ」

 

 見えない力によって、二人のバンドメンバーが引き寄せられる。

 

「ボクは君のベースメリッサと、ホーリーエンジェルを融合!」

 

 双頭の猟犬が、ベースメリッサとホーリーエンジェルに襲い掛かり、少女の体を残虐に貪り喰らう。

 

「融合召喚!アニマイール・バニシングファング!」

 

 二体のモンスターの命を使い、バニシングファングを再び呼び寄せた。

 

「ボクはもう1枚のポルターガイストを発動!ギタースイートをオルトバイトのリンク先へ移動させる。そしてオルトバイトの効果発動」

 

 オルトバイトがギタースイートに噛みつき、その体から抜き取られた魂がバニシングファングへ取り込まれる。

 

「バトルだ!バニシングファングで、ダイレクトアタック!」

 

 ブルーエンジェル:LP2600→300

 

「終わりだ!オルトバイトでダイレクトアタック!」

「私は罠カード!トリックスター・アンコールを発動!」

 

トリックスター・アンコール

通常罠

(1)自分の墓地のレベル4以下の「トリックスター」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。

 

「墓地からトリックスターバンドAs(アシスト)・キャンディナを守備表示で特殊召喚!」

 

 オルトバイトの前にキャンディナが立ちふさがる。

 

「効果でデッキからトリックスター・フィージョンと、トリックスターカードを手札に加える」

「チッ、ならキャンディナを嚙み砕け!」

 

 キャンディナが身を犠牲にしてブルーエンジェルを守り、彼女のライフは辛うじて残った。

 

「ボクはエンドフェイズに、墓地のフウロの効果を発動。このカードを除外して1枚ドロー」

 

ターン3

 

「はぁ……何? その目」

 

 フィールドのモンスターを全て食い殺されたにもかかわらず、ブルーエンジェルの瞳はまだ死んでいない。

 それは、かつてジャックナイフに倒された頃の、泣いていたあの時とは違う。

 彼女と向き合うために、強く地を踏み締め、そこに立っている。

 

「ムカつく……」

「行くわよ。私は魔法カード、トリックスター・フュージョンを発動!手札のトリックスター2体を融合!」

 

 ブルーエンジェルの手札から2枚のカードが、天使の羽のようなエフェクトとなって空へ吸い込まれる。

 

「新メンバーの登場よ!融合召喚!トリックスターバンド・キーボードリリィ!」

 

 ショルダーキーボードを鳴らす、ツインテールの少女がステージに降り立った。

 

トリックスターバンド・キーボードリリィ

融合・効果モンスター

星6/光属性/天使族/攻 1800/守 2000

「トリックスター」モンスター×2

このカード名の(1)(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが融合召喚に成功した場合、自分の墓地の「トリックスターバンド」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。この効果発動後、ターン終了時まで、自分は「トリックスター」モンスターしか特殊召喚できない。

(2)このカードとリンク状態の「トリックスター」リンクモンスターは、攻撃力が500アップし、効果で破壊されない。

(3)融合召喚されたこのカードがフィールドから墓地へ送られた場合に発動できる。墓地からこのカードの融合素材となったレベル5以下の「トリックスター」モンスター1体を特殊召喚する。

 

「墓地からホーリーエンジェルを特殊召喚!」

 

 キーボードリリィの後ろにスポットライトが当たると、そこへホーリーエンジェルが再び登場した。

 

「墓地のトリックスター・フュージョンを除外して効果発動!墓地からトリックスターバンドAs(アシスト)・キャンディナを手札に加え、そのまま召喚!手札のもう1枚のトリックスター・フュージョン1枚をデッキの下に置き、デッキからトリックスターカードとフュージョンを手札に!」

「また融合か」

「私はキーボードリリィと、ホーリーエンジェルを融合!」

 

 ステージの証明が落ちて、2体のトリックスターバンドは舞台袖にはける。

 

「フィナーレを華やか飾りましょう!融合召喚!トリックスターバンドGtVo(ギターヴォーカル)・ディバインエンジェル!」

 

 空から降りてきたのは、ギターを携え、蒼と黒を基調とした衣装に着替えたホーリーエンジェル改めディバインエンジェルの姿だった。

 

トリックスターバンドGtVo(ギターヴォーカル)・ディバインエンジェル

融合・効果モンスター

星9/光属性/天使族/攻 3000/守 2700

「トリックスターバンドVo・ホーリーエンジェル」+「トリックスターバンド」融合モンスター

このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分の「トリックスター」カードの効果で相手がダメージを受ける毎に、このカードの攻撃力は、そのダメージの数値分アップする。

(2)自分・相手のバトルフェイズに、自分の墓地・除外されている「トリックスター・フュージョン」1枚をデッキに戻して発動できる。以下の効果のうち1つを適用する。このカード名のこれらの効果は、それぞれ1ターンに1度しか使用できない。

●このカードをEXデッキに戻し、このカードの融合素材となったモンスター一組を特殊召喚する。

●相手に200ダメージを5回与える。

(3)このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した場合、このターンに相手が3回以上効果ダメージを受けていた場合に発動できる。このターン、このカードはもう1度攻撃できる。

 

「バトルよ!ディバインエンジェルで、オルトバイトを攻撃!」

 

 ディバインエンジェルが、オルトバイトへ向けてギターを激しくかき鳴らす。

 

「ディバインエンジェルの効果発動!除外されているトリックスター・フュージョンをデッキに戻すことで、相手に200ダメージを5回与える!」

 

 ジャックナイフ:2200→1200

 

「相手にダメージを与える毎に、その数値分、ディバインエンジェルの攻撃力をアップする!」

 

 ステージから色とりどりの光がディバインエンジェルへ集まり、その攻撃力を4000までアップさせる。

 

「くっ!ボクは手札のアニマイール・ネクロドールの効果発動!」

 

アニマイール・ネクロドール

効果モンスター

星2/闇属性/アンデット族/攻 600/守 500

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分のアンデット族モンスターが戦闘を行うダメージ計算時、このカードを手札から捨てて発動できる。その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になる。戦闘を行った自分のモンスターが、「アニマイール」融合モンスターなら、さらにその戦闘では破壊されず、ダメージステップ終了時に戦闘を行った相手モンスターを装備カード扱いでそのモンスターに装備する。

(2)自分フィールドのアンデット族モンスターを素材として、「アニマイール」リンクモンスターをリンク召喚する場合、墓地のこのカードをリンク素材としてデッキの下に置ける。この効果発動後、ターン終了時まで、自分は融合モンスターしか特殊召喚できない。

 

「戦闘ダメージを0にする!」

 

 オルトバイトは吹き飛ばされて消滅するが、ダメージは0に抑えた。

 

「はぁはぁ……」

「夢乃さん……」

「なんだよ!そんな目でボクを見るなよ!そんな可哀想なやつを見るような目で!」

 

 息を切らせながら、ジャックナイフは叫ぶ。

 すると、ブルーエンジェルは静かに頭を下げた。

 

「……ごめんなさい」

「は?」

「あの時、何も知らないくせに、分かった風に言ったりして」

「何を今さら……」

「それでも、だからこそ、私はあなたのことが知りたい。だから……」

 

 顔を上げて、ブルーエンジェルはジャックナイフに笑顔を向ける。

 

「今から、あなたを怒らせることを言うわ」

 

 ブルーエンジェルは深呼吸をして、その言葉を口にする。

 

「このデュエルが終わったら、あなたの話を聞かせて」

 

 それは以前、彼女がジャックナイフに向けて言ったのと同じ台詞。あの時、激昂したジャックナイフに気圧されて、そのまま敗北した。

 

「お前は、また……」

「ごめんなさい。私は、こういうやり方しかできないから。だけど今度は、あなたのどんな言葉も、気持ちも、ちゃんと受け止めるから。だから……」

 

 ブルーエンジェルは手を差し出す。

 

「切花、一緒に帰ろ」

「……っ!」

 

 ジャックナイフは頭をかきむしり、右足を何度も地面に叩きつける。

 

「……ディバインエンジェルの効果!このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した時、このターン、3回以上効果ダメージを与えていれば、もう一度だけ攻撃できる!」

 

 ディバインエンジェルは二対の翼を広げて舞い上がる。

 

「ディバインエンジェル!バニシングファングを攻撃!」

 

 ギターの音色とディバインエンジェルの歌声が、バニシングファングを浄化し、彼女のライフを0にした。

 

 ◆

 

 ブルーエンジェルは、解放された美海と共に、地面で項垂れるジャックナイフの元へ歩み寄る。

 

「切花」

 

 彼女が手を差しのべるが、ジャックナイフはそれを払いのける。

 

「……ボクは、君達の敵だ」

 

 それだけ言って、ジャックナイフはログアウトした。

 

「……」

「大丈夫ですよ。葵様の気持ちは、きっと伝わっています」

「……うん。そうよね」



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第52話:Dark think of Ai

大変お待たせしました


 SOLテクノロジー本社、巨大モニターの中には1体の人型のAIが映っていた。

 青白い半透明の肌、体には赤いラインで複雑な模様が刻まれており、今は目を閉じて眠ったように動かない。

 

「これが、IGS-000の最終タイプですか」

 

 ナイトこと八神零那がその姿を見て感嘆の声を漏らす。

 

「そうだ。こいつは既にイグニス達に限りなく近い性能を有している」

 

 ビショップがタブレットを操作すると、画面上になにやら数字やグラフがいくつも表示される。

 

「本日、インストール作業を行う。晴れてこいつは、無人兵器のパイロットとして世に送り出されるわけだな」

「……ビショップ様は、これでよろしいのですか?」

 

 皮肉交じりに言うビショップに、八神は問いかける。

 

「既にガンズレッドファクトリーは、試作機を500台をこちらに輸送している」

 

 ため息を吐きながら、タブレットを操作すると、映像が切り替わる。

 それはデンシティの地下にあるSOL所有の巨大倉庫。その中には何百台もの戦闘機が所狭しと並べられている。

 

「今更取引を止めることなどできんよ」

「しかし……私はこんなことをするために」

「君は、面倒なことになる前にここを離れるべきだ」

 

 ビショップもこの事業が決していい結果を生まないことは分かっている。

 公になれば常務であるナイトもバッシングは避けられない。

 

 しかし、ナイトは小さく首を振る。

 

「今更逃げるなんでできませんよ」

「……そうか」

 

 それを聞いて、ビショップは彼女へ背を向けた。

 

「何も起きなければいいがな」

 

 そう呟いて、ビショップは部屋を後にした。

 

 ◆

 

 ある朝、遊作、啓、島の三人は遅刻ギリギリの時間に廊下を走っていた。

 

「お前のせいだからな」

 

 啓は隣で走る島を睨みつける。

 

「デュエリストのくせに、デュエルディスク落としてんじゃねぇよ」

「というか、何故腕につけているものを失くしたりするんだ」

 

 二人は登校中に偶然出くわした島に頼まれて、落としたというデュエルディスクを探していたら、こんなギリギリの時間になってしまったのだ。

 

「しょーがねーだろ!腕につけてると、カメラ機能が使いにくかったんだよ」

「じゃあ使った後腕に付け直せよ。こっちは出席日数足りてなくてこれ以上遅刻できないってのに」

「その割には探すのを手伝ってやるんだな」

「…‥うるさい」

 

 遊作に茶化されて、啓は黙り込む。

 

「ああ俺行くからな」

 

 隣のクラスである啓は、一足早く自分の教室に飛び込んだ。

 遅れて遊作達もその奥にある自分の教室に滑り込んだ。

 

「ギリギリセーフ……あれ、切花ちゃんは?」

 

 島は教室の中に切花の姿が見当たらず、近くにいた葵に尋ねる。

 彼女は少し気まずそうな顔を見せて、何か言いかけたところで、

 

「はーい。みんな。ホームルーム始めるわよ」

 

 担任のエマが教室に入ってきたことで、その話は中断される。

 仕方なく二人は席に着く。

 

「藤木君」

 

 すると、葵が隣に座る遊作に小声で話しかける。

 

「後で、話があるんだけど」

「……分かった」

 

 ◆

 

 そして休み時間、屋上にやってきた遊作を待っていたのは、葵、美海の二人だった。

 

「何かあったのか?」

「えーっと……」

 

 葵が言いよどんだのを見て、遊作は何かを察した。

 

「もしかして、夢乃のことか?」

「……うん。切花は、あの子、ジャックナイフだったの」

「そうか」

 

 元より彼女のことを疑っていた遊作は、特に驚くこともなくそう返した。

 

「どうやって正体を知ることになったんだ?」

「実は……」

 

 葵が事の経緯を話す。

 

「多分、切花は、何かに苦しんでるんだと思う」

 

 葵とデュエルしている際も、どうしてあんなことをしたのか、何に怒っているのか、その真意を読み取ることはできなかった。

 

「遊作、彼女について、何か思い当たることはありませんか?」

 

 ジャックナイフとは一番接触の機会が多かった遊作は、これまでの出来事を思い返す。

 

「そういえば、奴は結局、何故イグニスを恨んでいたんだ?」

 

 以前彼女は、Aiに対してはっきりとこう言った。

 

 ────お前たちイグニスに、ボクの人生は壊されたんだ

 

「あいつがイグニスに恨みを抱く理由が分からない」

「確かに、彼女は結局、ハノイプロジェクトの被験者ではありませんでした」

「実は他にも被害者がいたとか?」

「それはない。10年前のあの時、実験を受けたのは確かに俺達六人だけだ」

「ですね。ではそれ以降にイグニスに何かされたとか……」

 

 三人は真っ先にライトニングの顔を思い浮かべた。

 

「ライトニングはハノイが行動を起こす前から、先生、鴻上博士に恨みを持っていたんですよね?」

「ああ。シミュレーションの結果、イグニスが人類を滅ぼすことが分かり、作った直後のイグニス達を消そうとした」

 

 あのまま衛星兵器を掌握されていれば、まさにそのシミュレーション通りになっていたわけだ。

 

「……ん?」

 

 そこまで整理したところで、遊作は何か引っ掛かりを覚えた。

 

「どうかした?」

「いや……」

 

 それを口にしようか迷っている間に、葵のデュエルディスクから通知音が鳴る。

 

「お兄様からだわ」

 

 嬉々として電話に出ると、葵の表情が少し寂しそうなものに変わる。

 

「はい……分かりました」

「葵様、晃様はなんと?」

「今日は帰りが遅くなるって」

「そうですか。ご夕飯はどうなさると?」

「作らなくていいって」

「かしこまりました」

 

 美海は頭を下げる。

 そこで遊作は、ふと気になったことを尋ねてみた。

 

「財前の家ではいつも美海が作ってるのか?」

「まあ基本的にはそうですね。ご両親共々、お仕事でなかなか家にいられる時間が少なくて」

「そうか……」

「もちろん、私も常に家にいるわけではないので、料理以外の家事は、お手伝いロボットに任せていますが。ちなみにSOL製です」

「自社製品か」

「もう社員じゃありませんけどね」

 

 そう美海は冗談めかして笑う。

 

「はぁ……」

 

 一方葵は、最愛の兄と今日も会えないと分かり、見るからに気落ちしていた。

 

「晃様、最近お忙しいみたいですね」

「そうなのよ。なんか新規プロジェクトの準備とかで、人手が足りなくなってるみたいで」

「ああ言ってましたね。セキュリティ部署からSEが何人か臨時で引き抜かれたって」

「八神さんが物凄く頭下げてたって」

「八神……ナイトか」

 

 一応、SOL上層部とは、遊作は敵対関係にある。

 その事で顔が強張ったのか、美海は嗜めるようにこう言う。

 

「あの人、ちょっと胡散臭くて誤解されやすいですけどいい人ですよ」

「だが、残りのレポートはSOLが持っている。それに、今もイグニスを追っているなら……」

 

 ライトニングと共にいる仁、そして今も行方が分からないAiのことを思い浮かべて、遊作は拳を握り締める。

 

「……八神さんが関わってるなら、その新規プロジェクトというのはビショップ様、あるいは社長のクイーンが主導のプロジェクトでしょうね」

「その辺り、財前兄は知らないのか?」

 

 葵は首を横に振る。

 

「そうか」

「まあSOLについて調べるのは後回しです。今は仁の救出が最優先、それは分かってますよね?」

「……そうだな」

 

 ◆

 

 SOLテクノロジー社所有倉庫。

 デンシティ地下に作られたその空間内には、つい先日港から運び込まれたおびただしい数の戦闘機が、静かに眠っている。

 

「これだけの数、よくも税関に止められませんでしたね」

 

 倉庫二階の通路の上から八神はそれらを見下ろす。

 

「天下のGRFだ。どうせ政治家とも裏で繋がっているのだろう」

 

 八神の言葉に、ビショップは皮肉混じりに答える。

 

「まさしく死の商人、ですね」

「……セットアップを始めろ」

 

 ビショップの指示で、各機体に一斉にインストール作業が行われる。

 その時だった。

 

「っ!!」

 

 突如、倉庫の照明が落ちた。

 

「よう。お二人さん」

 

 再び照明がつくと、そこは別世界だった。

 五つの墓標が並ぶ、黒い砂に覆われた場所、端末をハッキングして、彼らに強制的にAR空間を見せているのだろう。

 

 そして、そんな場所に佇む男が一人、

 180cm程度の長身、紫のはねた前髪に黄色い瞳、どこか見覚えのある形状の目玉のようなピアスをつけた軍服のようなコートを着ている。

 

「誰だ?」

「この姿じゃわかんねぇか。俺だよ。闇のイグニスっつったら分かるか?」

「まさか、Aiちゃん!?」

「お!あんたは俺の名前覚えてくれてたんだな」

 

 八神に名前で呼ばれ、Aiは嬉しそうに笑う。

 

「今さら何をしに来た?」

「何って言われても、そうだな……とりあえず、そこにある物騒なもんをもらいに来た」

 

 AR空間が歪み、彼の後ろにある戦闘機の姿が見えるようになる。

 

「貴様……」

「言っとくけど、もうハッキングは済んだから。返してほしけりゃ、分かるよな?」

 

 Aiは左腕を掲げて、そこに装着された旧式デュエルディスクを見せる。

 

「ビショップ様、お下がり下さい。ここは私が」

 

 八神はデュエルディスクを構えて前に出る。

 

「やっぱお姉さんが相手してくれる感じ?んじゃ早速……」

 

「「デュエル!!」」

 

ターン1 八神

 

「私は征令アライアンスを召喚!」

 

 銀色の鎧を身につけた衛士が、剣を縦に構えて到着する。

 

征令《セントラルオーダー》アライアンス

効果モンスター

星4/闇属性/戦士族/攻 1800/守 1000

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードの召喚に成功した場合に発動できる。自分のデッキ・墓地から「征令(セントラルオーダー)アライアンス」を可能な限り特殊召喚する。この効果を発動するターン、自分はEXデッキからモンスターを特殊召喚できない。

(2)このカードが特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「セントラルオーダーロード」モンスター1体を手札に加える。自分フィールドのモンスターが「セントラルオーダー」モンスターのみの場合、このターン、自分は通常召喚に加えて1度だけ、戦士族の「セントラルオーダーロード」モンスターをアドバンス召喚できる。

 

「アライアンスが召喚に成功した時、デッキから同名モンスター2体を特殊召喚!」

 

 アライアンスの左右に、同じ姿の衛士達が現れる。

 

「特殊召喚成功時、デッキからセントラルオーダーロードを手札に加える。そしてこのターン、私は通常召喚に加えて1度だけアドバンス召喚できる。私は永続魔法、征令の執務室(セントラルオーダー・ジェイル)を発動し、アドバンス召喚!」

 

 三体のモンスターが天に吸い込まれ、代わりに玉座が降りてくる。

 

征令王(セントラルオーダーロード)グッドウィール」

 

 そこに腰かけるようにして現れたのは、巨大な剣を携えた王だった。

 

征令王(セントラルオーダーロード)グッドウィール

効果モンスター

星10/闇属性/戦士族/攻 3000/守 3000

このカードをアドバンス召喚する場合、モンスター3体をリリースしなければならない。

(1)このカードがアドバンス召喚に成功した場合に発動できる。自分の墓地からレベル6以下の「セントラルオーダー」モンスターを可能な限り、守備表示で特殊召喚する。この効果発動後、ターン終了時まで、自分は「セントラルオーダーロード」モンスター以外のモンスターを特殊召喚できない。

(2)アドバンス召喚されたこのカードがフィールドに表側表示で存在する場合に発動できる。自分フィールドの「セントラルオーダー」モンスター1体と、相手フィールドのモンスター1体をリリースできる。

(3)アドバンス召喚されたこのカードが戦闘・相手の効果で破壊されて墓地へ送られた場合に発動できる。デッキ・墓地から「征令締結」1枚を手札に加え、このカードを墓地から特殊召喚する。

 

征令の執務室(セントラルオーダー・ジェイル)

永続魔法

(1)自分のモンスターがリリースされる毎に、リリースされたモンスター1体に付き、このカードにオーバータイムカウンターを置く。

(2)自分の「セントラルオーダー」モンスターの攻撃力は、このカードのオーバータイムカウンターの数×200アップする。

(3)自分の「セントラルオーダー」カードが相手の効果でフィールドを離れる場合、代わりにこのカードのオーバータイムカウンター2つを取り除くことができる。

 

征令の執務室(セントラルオーダー・ジェイル)の効果で、リリースされたモンスターの数だけオーバータイムカウンターを追加。グッドウィールの効果発動!墓地からアライアンス3体を特殊召喚」

 

 グッドウィールが地面に剣を三回突くと、どこからともなくアライアンスが現れて、その脇に控える。

 

「フィールド魔法、征令企業(セントラルオーダーカンパニー)-グッドスタッフを発動!」

 

征令企業(セントラルオーダーカンパニー)-グッドスタッフ-

フィールド魔法

このカード名の(2)(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードがフィールドに表側表示で存在する限り、自分はカードの効果以外でモンスターを特殊召喚できない。

(2)自分のメインフェイズに発動できる。手札から「セントラルオーダー」モンスター1体を召喚する。

(3)自分の「セントラルオーダー」モンスター1体をリリースして発動できる。デッキからそのモンスターとカード名の異なる「セントラルオーダー」カード1枚を手札に加える。

 

「これで私はさらに通常召喚を行える。2体をリリースしてアドバンス召喚!征令従騎(セントラルオーダーセクレタリー)ホワイトナイト!」

 

 彼女の背後から、白い騎馬に乗った騎士が駆けつけた。

 

征令従騎(セントラルオーダーセクレタリー)ホワイトナイト

効果モンスター

星7/闇属性/戦士族/攻 2400/守 2400

(1)アドバンス召喚されたこのカードは、特殊召喚された相手モンスターの効果を受けない。

(2)このカードが特殊召喚されたモンスターと戦闘を行うダメージ計算時、このカードの攻撃力は、このカードの元々の攻撃力分アップする。

(3)このカードがリンクモンスターと戦闘を行うダメージ計算時、このカードの攻撃力は、そのリンクマーカーの数×1000アップする。

(4)アドバンス召喚されたこのカードが効果でフィールドから墓地へ送られた場合に発動できる。このカードを墓地から特殊召喚する。その後、デッキから「セントラルオーダー」装備魔法カード1枚を手札に加える。

 

「モンスターがリリースされたことでオーバータイムカウンターを追加。続けて手札の征令賢従(セントラルオーダーセクレタリー)グロスリースの効果発動!」

 

征令賢従(セントラルオーダーセクレタリー)グロスリース

効果モンスター

星5/闇属性/魔法使い族/攻 2000/守 2400

このカード名の(1)の

(1)このカードは手札から公開して発動できる。自分のデッキから3枚をめくり、その中に「セントラルオーダー」カードが2枚以上あれば、それら全てを墓地へ送り、このカードを召喚する。なければめくったカードをデッキに戻す。

(2)このカードがアドバンス召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「セントラルオーダー」カード1枚か、通常罠カード1枚を手札に加える。

(3)アドバンス召喚されたこのカードは1ターンに1度だけ、戦闘・効果で破壊されない。

 

「デッキの上から3枚をめくり、その中にセントラルオーダーが2枚以上あればそれらを全てを墓地へ送り、このカードを召喚する」

 

 八神はデッキから3枚のカードを引き、それをAiに見せる。

 

「えーっと、3枚ともセントラルオーダーか」

「えぇ。なので残りのアライアンスもリリースしてグロスリースをアドバンス召喚!」

 

 両肩が大きく膨らんだ赤いコートをまとった賢者が、グッドウィールの脇に控える。

 

「効果でデッキからセントラルオーダーカード、または通常罠カード1枚を手札に加える。私はカードを2枚伏せてターンエンド」

 

ターン2 Ai

 

「さすがにやるな。一度はプレイメーカーを追い詰めただけはある」

「お褒めにあずかり光栄です」

 

 八神の盤面は完璧に近い。

 カウンターを2つを取り除くことで、自身を含むセントラルオーダーをあらゆる除去から守る征令の執務室(セントラルオーダー・ジェイル)、さらにホワイトナイトとグッドウィールは1度倒されても蘇り、グロスリースも1ターンに1度の破壊耐性がある。

 

 この布陣を突破するのは容易ではないだろう。

 

「んじゃ俺のターン。俺はフィールド魔法、イグニスターAiランドを発動。こいつはメインモンスターゾーンにモンスターがいない時、手札からレベル4以下の@イグニスターを特殊召喚できる。まずはピカリ@イグニスターを特殊召喚」

 

 Aiのフィールドに、白いトンガリ帽を被った黄色い一頭身の謎の生命体が現れる。

 

「デッキから「Ai」魔法・罠カードを手札に加える。現れろ、闇を導くサーキット!」

 

 ピカリがアローヘッドに飛び込む。

 

「リンク召喚!リンク1、リングリボー!」

 

 現れたのは黒っぽい色のリンクリボーそっくりのモンスターだった。

 

「イグニスターAiランドの効果を再び発動。メインモンスターゾーンにモンスターが存在しない時、手札からブルル@イグニスターを特殊召喚」

 

 今度は尖った耳が生えた緑色の生命体が出現する。

 

「デッキから@イグニスターを墓地へ送る。さらにアチチ@イグニスターを通常召喚。効果でデッキから@イグニスターを手札に加える。現れろ、闇を導くサーキット!」

 

 三体のモンスターがアローヘッドに吸い込まれ、下方向の三つの矢印を描く。

 

「闇影開闢、世界に散らばりし闇夜の叡知。我が手に集い、覇気覚醒の力となれ!リンク召喚!」

 

 アローヘッドを突き破り、それは飛来する。

 

「リンク召喚!リンク3!ダークナイト@イグニスター!」

 

 大剣を振り下ろし、デコード・トーカーとよく似た姿をした翼の生えた紫の戦士がフィールドに降り立った。

 

「三度イグニスターAiランドの効果発動!手札からドヨン@イグニスターを特殊召喚!効果で墓地からアチチを回収。そしてダークナイト@イグニスターの効果発動!」

 

 ダークナイトが雄叫びを上げる。

 

「リンク先にモンスターが特殊召喚された時、墓地のレベル4以下の@イグニスターを可能な限り特殊召喚!」

 

 ブルル、ピカリがダークナイトの後ろに蘇る。

 

「なんという展開力」

「まだ終わりじゃねぇぞ。俺はレベル4のピカリに、レベル3のブルルをチューニング!」

 

 二体のモンスターが粒子に分解され、それらが光の輪を形作る。

 

「闇路をさまよいし混沌!蒼穹を駆ける疾風が道ひらく!シンクロ召喚!現れろレベル7!ウィンドペガサス@イグニスター!」

 

 風をまとい、光の輪を貫いて現れたのは、白い天馬だった。

 

「ブルル@イグニスターの効果発動!このカード以外のシンクロ素材となったモンスター1体を特殊召喚!甦れ、ピカリ」

 

 ドヨンの隣に、ピカリが再び蘇る。

 

「この流れ、まさか……」

「そのまさか……の前に、俺は墓地のリングリボーの効果発動!ダークナイトをリリースして、墓地から特殊召喚!」

 

 ダークナイトが地面に沈み、代わりにリングリボーがEXモンスターゾーンに浮上した。

 

「俺はレベル4のドヨンとピカリで、オーバーレイネットワークを構築!」

 

 空にエックス字のパネルが現れ、二体の@イグニスターが赤と青の螺旋の光を描いて吸い込まれる。

 

「怪力乱神、驚天動地。その力、今こそ久遠の慟哭から目覚めよ!」

 

 パネルに光が集まり、その輝きを増していく。

 

「エクシーズ召喚!現れろ、ランク4!ライトドラゴン@イグニスター!」

 

 光が爆ぜ、現れたのは金色の鱗に、二対の翼を広げるドラゴンだ。

 

「そこまでです!私は罠カード!解雇通告を発動!」

 

解雇通告

通常罠

(1)相手がEXデッキからモンスターの特殊召喚に成功した時に発動できる。フィールドのEXデッキから特殊召喚されたモンスター全てを破壊する。この効果で破壊したモンスターの数だけ、相手のEXデッキからランダムに裏側表示で除外する。

 

「EXデッキから特殊召喚されたお互いのモンスターを全て破壊する!」

 

 カードから放たれた光が二人のフィールドを飲み込む。

 八神のフィールドにEXデッキから特殊召喚されたモンスターはいない。Aiのモンスターを一方的に破壊できる。しかし、

 

「え?」

 

 しかし、Aiのフィールドのモンスター、ライトドラゴン@イグニスターも、ウィンドペガサス@イグニスターも生きている。

 

「残念だったな。リングリボーの効果で、その罠は無効にさせてもらった」

「くっ……」

「速攻魔法、Aiドリングボーンを発動。墓地からダークナイト@イグニスターを特殊召喚。いくぜ。まずはウィンドペガサスの効果発動!俺の@イグニスターの数だけ、相手フィールドの魔法(マジック)・罠カードを破壊する!」

 

 ウィンドペガサスが翼をはためかせると、突風が八神のフィールドを襲う。

 

征令の執務室(セントラルオーダー・ジェイル)の効果で、オーバータイムカウンター2つを取り除くことで破壊を無効!」

「だが伏せカードとフィールド魔法はもらう」

 

 風が彼女の魔法カード2枚を吹き飛ばす。

 

「ライトドラゴン@イグニスターの効果発動!@イグニスターの数だけ、相手の表側表示モンスターを破壊する!」

 

 ライトドラゴンが嘶き、天から落雷を呼ぶ。

 

「ホワイトナイトは特殊召喚されたモンスターの効果を受けない!さらにグロスリースは1ターンに1度だけ破壊から守る。さらにアドバンス召喚されたグッドウィールは破壊されたことで墓地から特殊召喚!」

 

 ライトドラゴンの効果を凌ぎきり、八神はフィールドの損害を最小限に抑えた。

 

「あちゃー防がれちまったか……ま、関係ないんだけどな」

 

 Aiはニヤッと笑う。

 

「バトルだ!ダークナイト@イグニスターで、ホワイトナイトを攻撃!」

「え!?」

 

 ダークナイトが大剣を振り上げて、ホワイトナイトへ突っ込んでいく。

 

「ホワイトナイト相手に、よりにもよってリンクモンスターで……」

 

 ホワイトナイトには特殊召喚されたモンスターとバトルする時、自身の攻撃力を元々の攻撃力分アップする能力がある。加えて、リンクモンスターとのバトルなら、そのリンクマーカーの数×1000アップする。

 

 その効果をAiが知らないはずないし、そもそもダークナイトの攻撃力は2300であり、例え効果がなくても負けているのだ。

 

「……ダメージ計算時に、ホワイトナイトは自身の効果で攻撃力をアップする!」

 

 ホワイトナイト:攻撃力2800→8200

 

「そこだ。俺は速攻魔法、Ai打ちを発動!ダークナイトの攻撃力を、バトルするホワイトナイトと同じにする!」

 

 ダークナイトとホワイトナイトの剣がぶつかり合う。

 拮抗した二体はつばぜり合いの末に、互いの体に一太刀を入れた。

 

「名前の通りの相討ち狙いですか」

「ああ。ただし────」

 

 その斬撃で倒れたのはホワイトナイトだった。

 

「墓地のAi打ちを除外することで、戦闘破壊を無効」

「くっ……」

「俺が一方的にぶん殴る。それが俺のAi打ちだ。さらにAi打ちの効果はそれだけじゃない。モンスターを破壊されたプレイヤーは、その元々の攻撃力分のダメージを受ける」

 

 ダークナイトの眼光が、八神を捉える。

 ジリジリと歩みより、その剣を振り上げる。

 

「ここで俺は墓地のドンヨリボー@イグニスターを除外して効果発動!Ai魔法カードの効果で与えるダメージを倍にする」

 

 ダークナイトが剣を振り下ろし、彼女のライフをゼロにした。

 

 ◆

 

 財前宅、二人寂しく夕食にしようと、美海は皿に盛られた料理をお手伝いロボット共にテーブルへ運ぶ。

 

「葵様、お食事の用意ができましたよ」

「うん」

 

 葵が自分の椅子に座ろうとしたその時、

 

 ピーンポーン

 

「なんでしょう。こんな時間に」

 

 美海は少し警戒しながらインターホンの親機を覗き込むと、扉の前にいたのは見知った人物だった。

 

 ガチャッ

 

「八神さん。どうしたんですか?」

 

 彼女は酷く疲れきった顔で、息を切らしながら、彼女の肩に手を当てた。

 

「お願いします……ビショップ様が、Aiちゃんに……」



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第53話:Criminal Statement

 LINK VRAINS某所、

 夜遅い時間に、プレイメーカー、ブルーエンジェル、ソウルバーナー、ゴッドバード、美海、そしてナイトを加えた六人が集まっていた。

 

「AiがSOLに現れたというのは本当か?」

 

 話を聞いたプレイメーカーは、ナイトを問い詰める。

 

「えぇ。彼は突然、SOLに現れて……」

 

 言いかけたところで、ナイトが少し周囲を気にするような素振りを見せる。

 

「この辺は一時的に隔離してあるから安心しろ」

 

 その意味を察したゴッドバードの言葉に安堵し、ナイトは事の経緯を説明した。

 

「つまり、SOLとGRFが秘密裏に開発していた無人軍事兵器をまるごとAiに乗っ取られた」

「はい……」

 

 後ろめたい気持ちがあったのだろう。

 ナイトは、プレイメーカー達から目を反らした。

 

「で、俺達に助けて欲しいって? ずいぶん都合がいいじゃねぇか」

 

 ゴッドバードの言葉でナイトは責任を感じているのか、申し訳なさそうな顔をする。

 それを見て、美海はゴッドバードに肘打ちを入れた。

 

「虫の言い話なのは分かっています。ですが、今や彼は人類を敵に回せるほどの力を手にしています」

「……Aiが、何故そんなことを」

 

 プレイメーカーが苦しそうな表情を見せる。

 そんな彼を見て、ソウルバーナーは口を開く。

 

「本人に聞いてみるしかねぇだろ」

「……」

「Aiを止めないとヤバいんだろ? なら、俺達のやることは一つだ」

「……ああ」

 

 彼の言葉で決心が固まったのか、プレイメーカーは拳を握りしめる。

 

「Aiは、俺が止める」

 

 ◆

 

 深夜、誰もいないSOLテクノロジー本社ビルの中をビショップが歩いていた。

 

 その背中には拳銃が突き付けられており、その持ち主であるAiがニヤニヤした顔で後ろを歩く。

 

「いい(ボディ)だな。このソルティスってのは」

「お前に使い心地を評価されたなら、大ヒット間違いなしだな」

「お、いいね。なんなら俺をCMに使っちゃう?」

 

 そんな軽口をたたきながら、ビショップを社長室まで案内させた。

 

「動くなよ?」

 

 電子ロックがかかった扉の前で、Aiはビショップに拳銃を向けながら、空いた手を扉の横にある機械にかざす。

 

 ガチャ

 

 鍵が開く音がして、Aiは顎で指示を出す。

 ビショップは黙ってそれに従い、扉を開けて、Aiを中へ招き入れた。

 

 部屋の中では、自身の椅子に座ったクイーンが、やつれた顔でAiを睨みつけていた。

 

「どういうつもり? 闇のイグニス」

「さすがのあんたも、あんなことがありゃ、居ても立っても居られないよな?」

 

 クイーンはビショップからGRFから預かった無人兵器が全てAiに乗っ取られたと連絡を受けて、わざわざ会社に戻ってきていたのだ。

 

「答えなさい!」

「キーキーうるせぇな。更年期か?」

 

 喚くクイーンに対して、Aiは面倒くさそうに耳を掻く。

 

「……まあいいわ。どのみちあなたは終わりよ」

 

 クイーンがデュエルディスクの画面をタップした。

 すると、景色がマス目のように反転していき、やがて赤い空とチェス盤のような黒と白の格子状の床が無限に広がる空間へと変化した。

 

「SOLテクノロジーお得意のAR空間か」

「私が何の対策もせずにノコノコやってきたと思っていたのかしら。さあ来なさい!タイプΩ!」

 

 AR空間内に、一人の少年が転送される。

 青白い半透明の肌、淡く赤く光るラインがその上をかけている。

 

「そいつを早く始末しなさい」

「了解……」

 

 タイプΩがデュエルディスクを構えたのを見て、Aiは肩を落とす。

 

「そいつはいいけどよ。これ俺が勝った場合はどうすんだ?」

「は?」

「そうだな……あ、鴻上レポートの最後の1つ、あれ渡せよ」

「こいつ、調子に乗らないことね」

 

 クイーンが歯ぎしりを立てる。

 それをAiはニヤニヤしながら眺めて、デュエルディスクを構える。

 

「「デュエル!」」

 

 

ターン1 タイプΩ

 

「僕はフィールド魔法、征令企業(セントラルオーダーカンパニー)-メディテクノロジーを発動」

 

 空間にいくつもの青いビルが、地面から突き出るようにして出現する。

 

征令企業(セントラルオーダーカンパニー)-メディテクノロジー-

フィールド魔法

このカード名の(2)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードがフィールドに表側表示で存在する限り、自分はカードの効果以外でモンスターを特殊召喚できない。

(2)自分のメインフェイズに発動できる。手札から「セントラルオーダー」モンスター1体を召喚する。

(3)自分フィールドにアドバンス召喚・儀式召喚された「セントラルオーダー」モンスターが存在し、相手フィールドにモンスターが表側表示で特殊召喚された場合に発動できる。自分の手札から「セントラルオーダー」カード1枚を墓地に送り、そのモンスターのターン終了時まで効果を無効にする。それがリンクモンスターなら、このターン、そのリンク先のモンスターゾーンは使用できない。

 

「手札から征令リソースの効果発動。手札のダークローンチを墓地へ送り、自身を特殊召喚」

 

 ゴーグルをかけて、細長い体のスーツを着た男が現れる。

 

征令リソース

効果モンスター

星3/闇属性/サイキック族/攻 900/守 1300

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードを手札から公開して発動できる。このカード以外の手札の「セントラルオーダー」カード1枚を墓地へ送り、このカードを手札から特殊召喚する。

(2)このカードがアドバンス召喚のためにリリースされた、または「セントラルオーダー」カードの効果で手札から墓地へ送られた場合に発動できる。自分はデッキから1枚ドローする。

 

「さらに手札から墓地に送られたローンチは特殊召喚できる」

 

 リソースの隣に、真っ黒いシルエットに背中から触手のようなものを6本生やした人型のモンスターが出現した。

 

征令ダークローンチ

効果モンスター

星2/闇属性/サイキック族/攻 0/守 800

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分・相手のメインフェイズに発動できる。このカードを手札から墓地へ送る。

(2)自分フィールドに「セントラルオーダー」カードが存在し、このカードが「セントラルオーダー」カードの効果で手札から墓地へ送られた場合に発動できる。このカードを墓地から特殊召喚する。

(3)このカードが特殊召喚に成功した場合、自分フィールドの「セントラルオーダー」モンスター1体を対象として発動できる。このターン、相手は対象のモンスターのレベル以下のフィールドで発動するモンスターの効果を発動できない。

 

「さらにエンバッファを通常召喚し、効果でデッキからレベル5以上のセントラルオーダーを手札に加える。そしてアドバンス召喚!」

 

 3体のモンスターが天に吸い込まれ、そこから玉座が降りてくる。

 

征令王(セントラルオーダーロード)メディクリア」

 

 機械の玉座に腰かけるのは、両腕を機械に改造し、三本の槍を携えた巨人だ。

 

征令王(セントラルオーダーロード)メディクリア

効果モンスター

星10/闇属性/サイキック族/攻 3000/守 3000

このカードをアドバンス召喚する場合、モンスターを3体リリースしなければならない。

(1)このカードがアドバンス召喚に成功した場合に発動できる。自分はデッキから2枚ドローする。この効果を発動するターン、自分はEXデッキからモンスターを特殊召喚できない。

(2)アドバンス召喚されたこのカードがフィールドに存在する場合、相手のフィールドの表側表示のカード1枚を対象として発動できる。自分の手札から「セントラルオーダー」モンスター1枚を捨て、対象のカードの効果を無効にし、相手に200ダメージを与える。次の自分のスタンバイフェイズまで、自分は「征令王メディクリア」の効果で同名カードを対象にできない。この効果は同一チェーン上で1度しか発動できず、相手ターンでも発動できる。

(3)アドバンス召喚されたこのカードが戦闘・相手の効果で破壊されて墓地へ送られた場合に発動できる。このカードを墓地から特殊召喚し、デッキ・墓地から「征令締結」1枚を手札に加える。

 

「アドバンス召喚に成功した時2枚ドロー。僕はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン2

 

「じゃあ俺のターンだな。俺はアチチ@イグニスターを召喚」

 

 炎をかたどった赤い生命体が現れる。

 

「デッキから@イグニスターを手札に加える。現れろ、闇を導くサーキット!リンク召喚!ダークインファイト@イグニスター!」

 

 アチチがアローヘッドに飛び込み、現れたのは、紫の3頭身の体を持つサイバースだ。

 

「リンク召喚に成功した時、デッキからイグニスターAiランドを手札に加える!」

「メディクリアの効果発動!」

 

 召喚されたばかりのダークインファイトへ向かって、メディクリアの機械の腕が射出される。

 

「手札のセントラルオーダー1枚を捨て、相手の表側表示カード1枚の効果を無効にし、相手に200ダメージを与える!」

 

 機械の腕がダークインファイトの小さな体を掴み、電流を流す。

 

 Ai:ライフ4000→3800

 

「だったら俺は、手札からヒヤリ@イグニスターを特殊召喚」

 

 水を象った青い生命体が、ダークインファイトの後ろに現れる。

 

「このカードは自分フィールドに@イグニスターが存在する時、手札から特殊召喚できる。続けて魔法カード、キ ー Ai ー発動!墓地からアチチを特殊召喚!」

 

 フィールドに3体のモンスターが並び、リンク召喚の準備が整う。

 

「現れろ、闇を導くサーキット!」

 

 3体の@イグニスターが、天上のアローヘッドへと吸い込まれる。

 

「闇影開闢、世界に散らばりし闇夜の叡知。我が手に集い、覇気覚醒の力となれ!リンク召喚!」

 

 アローヘッドを突き破り、それは飛来する。

 

「リンク召喚!リンク3!ダークナイト@イグニスター!」

 

 大剣を振り下ろし、デコード・トーカーとよく似た姿をした翼の生えた紫の戦士がフィールドに降り立った。

 

「フィールド魔法、メディテクノロジーの効果発動!」

 

 タイプΩの宣言と共に、フィールド上に立ち並ぶビル群が怪しく光る。

 

「僕のフィールドに、アドバンス召喚か儀式召喚されたセントラルオーダーが存在し、相手フィールドに表側表示でモンスターが特殊召喚された時、手札のセントラルオーダーを墓地へ送り、その効果をターン終了時まで無効にする」

 

 ダークナイトの体に、黒と青のブロックがいくつもとりつき、身動きを封じた。

 

「さらに、それがリンクモンスターなら、そのリンク先のモンスターゾーンはこのターン、使用できない」

「やるじゃねぇか。なら俺は手札からドシン@イグニスターを特殊召喚。効果発動!墓地のリンクモンスター1体をエクストラデッキに戻すことで、デッキからAiラブ融合を手札に加える。いくぜ、俺は魔法カード、Aiラブ融合を発動!」

 

 ドシン@イグニスターと、ダークナイトが粒子へと分解され、フィールドで渦を巻きながら一つになっていく。

 

「謳え大地よ!破滅の巨人の誕生を祝福せよ!融合召喚!」

 

 光の渦の中から、巨大な腕を伸ばして、何かが這いあがってくる。

 

「いでよ、レベル7、アースゴーレム@イグニスター!」

 

 出てきたのは岩のようなアーマーを、胴と両手足に装備した電脳の巨人だった。

 

「バトルだ!アースゴーレムで、メディクリアを攻撃!」

 

 アースゴーレムの攻撃力は2300、メディクリアの攻撃力3000には届いていないが、

 

「俺は速攻魔法、Ai打ちを発動!アースゴーレムの攻撃力を、メディクリアと同じにする!」

 

 アースゴーレムの拳が肥大化し、メディクリアへ迫る。

 迎え撃つメディクリアも、左腕を射出して攻撃を受け止めようとする。

 

 しかし、それはアースゴーレムの拳撃であっけなく大破。残った右腕を使い、アースゴーレムへクロスカウンターを打ち込む。

 

 両者の力は拮抗し、二体のモンスターは破壊された。

 

「Ai打ちの効果で互いに破壊されたモンスターの攻撃力分のダメージ。だが、俺はアースゴーレムの効果でダメージを受けない」

 

 タイプΩ:ライフ4000→1000

 

「そして、戦闘で破壊されたアースゴーレムの効果で、墓地のサイバース族モンスター1体を特殊召喚する。甦れ、ダークナイト!」

 

 地面にワープホールが開き、そこからダークナイトが再び姿を現した。

 

「破壊されたメディクリアの効果。こちらも墓地から特殊召喚し、デッキから征令締結(セントラルオーダー・コンクルード)を手札に加える」

 

 タイプΩのフィールドにもワープホールが出現し、メディクリアが再召喚される。

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

 

ターン3

 

 

「儀式魔法、征令締結(セントラルオーダー・コンクルード)を発動。メディクリアをリリースして、儀式召喚!」

 

 メディクリアの足元に魔法陣が展開される。

 魔法陣から蒼い炎が放たれ、メディクリアを包み込む。

 

「出でよレベル10、征令王(セントラルオーダーロード)ハイパーメディクリア!」

 

 炎のベールを脱ぎ捨て、現れたのは宙を舞う六つの鋼の腕を操り、頭を機械に改造された人型のモンスターだった。

 

征令王(セントラルオーダーロード)ハイパーメディクリア

儀式・効果モンスター

星10/闇属性/サイキック族/攻 4000/守 4000

「征令締結」により降臨

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分フィールドの「セントラルオーダーロード」モンスターを使用して儀式召喚に成功したこのカードは、相手の効果の対象にならず、相手の効果で破壊されない。

(2)自分・相手のメインフェイズに、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。手札から「セントラルオーダー」モンスター1体を墓地へ送り、対象のモンスターを破壊する。このターン、相手は対象のモンスター及びその同名モンスターの効果を発動できず、このカードは対象のモンスターと同じ効果を得て、その攻撃力の数値分、このカードの攻撃力をアップする。

(3)自分の手札から「セントラルオーダー」カードが墓地へ送られる毎に、相手に200ダメージを与える。

 

「ハイパーメディクリアの効果発動!手札のセントラルオーダーを捨て、ダークナイトを破壊し、その効果と攻撃力を奪う!」

 

 ハイパーメディクリアの鋼の腕が放たれ、ダークナイトの胸を貫く。

 

 ハイパーメディクリア:攻撃力4000→6300

 

「さらに手札からセントラルオーダーが墓地へ送られたことで、相手に200ダメージ!」

 

 Ai:ライフ3800→3600

 

「バトルだ。ハイパーメディクリアでダイレクトアタック!」

「俺は永続(トラップ)、Aiシェードを発動!」

 

Aiシェード

永続罠

(1)自分の墓地のサイバース族モンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたモンスターの攻撃力は800アップし、このカードがフィールドを離れた場合、そのモンスターは墓地へ送られる。対象のモンスターがフィールドを離れた場合、このカードは墓地へ送られる。

(2)このカードが魔法&罠ゾーンに表側表示で存在する限り、自分の@イグニスターは、相手のモンスターの効果の対象にならない。

 

「墓地からダークナイトを特殊召喚!そして、攻撃力を800アップ!」

 

 攻撃力3100となったダークナイトが、ハイパーメディクリアを迎え撃つ。

 しかし、それでも攻撃力はハイパーメディクリアの方が上、ハイパーメディクリアが鋼鉄の腕を連続で打ち込み、徐々に押されていく。

 

「墓地のAi打ちを除外して、ダークナイトを破壊から守る!」

「だがダメージは受けてもらう!」

 

 鋼の拳の乱打。

 その余波でAiにもダメージが飛ぶ。

 

 Ai:ライフ3600→400

 

「僕はこれでターンエンド。この瞬間、ハイパーメディクリアの攻撃力は元に戻る」

 

 ハイパーメディクリア:6300→4000

 

ターン4

 

「さすがにやるな。お前、俺らの元ネタ(プロトタイプ)だろ?」

 

 タイプΩは答えない。

 

「お前、そういやオリジンは誰なんだ?」

「僕の、オリジン……ぐっ」

 

 その言葉を聞いて、突然タイプΩは頭を押さえて苦しみだした。

 

「タイプΩ……貴様、何をしたの?」

「いや、俺は何もしてねぇよ」

 

 クイーンに睨まれて、Aiは合わせてて否定する。

 すると、タイプΩは振り絞るように声を出す。

 

「■■■……君、には……やるべき、こと……が、ある」

「お前……」

「■■■■は、■ている」

 

 ノイズのかかった人間には聞き取れない声で、Aiに何かを訴えかけている。

 

「一体何を……っ!」

 

 その瞬間、Aiの頭の中にイメージが送信される。

 

「こいつは……」

「タイプΩ!早くしなさい!」

 

 クイーンに急かされると、タイプΩは電流を浴びせられたように硬直し、

 

「……了解」

 

 と再び無機質な表情に戻ってしまった。

 

「……俺のターンだな。俺はアチチ@イグニスターを召喚。効果でデッキからヒヤリ@イグニスターを手札に加え、特殊召喚。現れろ、闇を導くサーキット!」

 

 アチチが再びリンクマーカーになり、ダークインファイト@イグニスターが姿を現した。

 

「効果でデッキからイグニスターAiランドを手札に加えるが、これは関係ねぇな。ヒヤリ@イグニスターの効果発動!」

「ハイパーメディクリアの効果で────」

「残念だったな。Aiシェードの効果で俺の@イグニスターは相手の効果の対象にならない。ヒヤリの効果でダークインファイトをリリースし、デッキからレベル5以上の@イグニスターを手札に。さらにリンクモンスターをリリースしたことで、デッキからAiの儀式を手札に加える」

 

 Aiの手札に2枚のカードが加わる。

 

「そしてこの効果を発動したヒヤリのレベルは4となる。いくぜ、俺は儀式魔法、Aiの儀式を発動!自分の@イグニスターをリリースし、手札からサイバース族儀式モンスターを儀式召喚する。この時、俺のフィールドに@イグニスターがいれば、墓地の@イグニスターを除外して儀式素材にできる。俺は墓地のアースゴーレムを除外!」

 

 アースゴーレムの半透明の幽体が、現れた幾何学模様の魔法陣へと吸い込まれる。

 

「降臨せよ、溟渤(めいぼつ)に潜みし水神の竜!儀式召喚!ウォーターリヴァイアサン@イグニスター!」

 

 魔法陣から水が吹き上げ、現れたのは長い胴体を持つ水色の水龍だ。

 

「バトルだ!ウォーターリヴァイアサン@イグニスターで、ハイパーメディクリアを攻撃!」

 

 ウォーターリヴァイアサンが口から水流を放つ。

 

「この瞬間、ウォーターリヴァイアサンの効果で、戦闘を行う相手モンスターの攻撃力を半分にする!」

 

 ハイパーメディクリアの持つ六本の機械の腕が、水を浴びせられたことで動きが鈍る。

 

「やれ、ウォーターリヴァイアサン!」

 

 そのまま押しきられ、ハイパーメディクリアは破壊される。

 

 タイプΩ:ライフ1000→700

 

「僕のセントラルオーダーロードが破壊されたことで、(トラップ)カード、征令王の会合(セントラルオーダーロード・エムティージー)を発動!」

 

征令王の会合(セントラルオーダーロード・エムティージー)

通常罠

(1)以下の効果から1つを選択して発動できる。

●自分のアドバンス召喚された「セントラルオーダーロード」モンスターが戦闘・相手の効果でフィールドを離れた場合に発動できる。自分の手札・デッキからそのモンスターとは種族が異なる同じレベルの「セントラルオーダーロード」モンスター2体まで特殊召喚する(同じ種族のモンスターは1体まで)。

●自分の儀式召喚された「セントラルオーダーロード」モンスターが戦闘・相手の効果でフィールドを離れた場合に発動できる。自分の手札・デッキからそのモンスターとは種族が異なり、同じレベルの「セントラルオーダーロード」儀式モンスター2体までを、儀式召喚扱いで特殊召喚する(同じ種族のモンスターは1体まで)。

 

「デッキから征令王(セントラルオーダーロード)グレートウィールと、征令王(セントラルオーダーロード)コンプリートファンネルを儀式召喚扱いで特殊召喚!」

 

 フィールドに巨大な鋼鉄の扉が出現し、中から二体の王が出てきた。

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン5

 

「僕は墓地の征令締結(セントラルオーダー・コンクルード)の効果を発動」

 

征令締結(セントラルオーダー・コンクルード)

儀式魔法

このカードを発動するターン、自分はこのカードの効果以外でモンスターを特殊召喚できない。

(1)レベルの合計が儀式召喚するモンスターのレベル以上になるように、自分の手札・フィールドの「セントラルオーダー」モンスターをリリースし、「セントラルオーダーロード」儀式モンスター1体を儀式召喚する。発動時に自分フィールドに「セントラルオーダーロード」モンスターが存在する場合、手札のかわりにデッキからも儀式召喚できる。

(2)このデュエル中に、自分が儀式モンスターを3種類以上特殊召喚している場合、墓地のこのカードと、自分のフィールド・墓地の種族が異なるレベル10の「セントラルオーダーロード」儀式モンスター3体を除外して発動できる。自分の手札・デッキ・墓地・除外されている「征令終王ラストピリオド」1体を特殊召喚する。

 

「グレートウィール、コンプリートファンネル、ハイパーメディクリアの3体を除外し、特殊召喚!」」

 

 三体の王が、現れた鉄扉に宝石となって嵌め込まれる。

 

「統合せよ。征令終王(セントラルオーダーロード)ラストピリオド!」

 

 扉が開き、中から巨人が出てくる。

 鋼鉄の鎧をまとい、宙に舞う六本の機械の腕を従え、七色の宝石があしらわれた杖と大剣をそれぞれ携えた王。

 

征令終王(セントラルオーダーロード)ラストピリオド

特殊召喚・効果モンスター

星13/闇属性/戦士族/魔法使い族/サイキック族/攻 5000/守 5000

このカードは「征令締結」の効果でのみ特殊召喚できる。

(1)このカードは相手の効果を受けない。

(2)相手フィールドの表側表示のカード1枚を対象として発動できる。以下の効果のうち1つを適用する。このターン、自分は同じ効果を適用できない。

●自分のフィールドのモンスター1体と対象のモンスターをリリースする。

●自分のデッキの上から5枚を墓地へ送り、対象のモンスターのコントロールを得る。

●自分の手札1枚を捨て、対象のカードの効果を無効にする。対象のカードがモンスターなら、このカードは同じ効果を得る。

(3)相手のエンドフェイズに発動する。自分の墓地の「セントラルオーダー」カードの数×200のダメージを相手に与える。

 

「あの時、召喚しようとしたモンスターか」

「ラストピリオドの効果発動!手札1枚を捨て、君の永続罠、Aiシェードの効果を無効にする」

 

 フィールドに置かれたAiシェードのカードへ向けて、ラストピリオドが操る鋼腕へと放たれる。

 

「これで、君のモンスターを対象にできる。僕はさらにラストピリオドの効果発動。ウォーターリヴァイアサンのコントロールを得る」

 

 続けてラストピリオドが杖を振るうと、ウォーターリヴァイアサンの目が赤く染まり、タイプΩのフィールドへ移動する。

 

「三度ラストピリオドの効果発動。ウォーターリヴァイアサンとダークナイトをリリースする」

 

 大剣を地面に突き立てると、ウォーターリヴァイアサンとダークナイトの体が内側から弾け飛ぶ。

 

「これで邪魔者は消えた。バトルだ。ラストピリオドでダイレクトアタック!」

 

 ラストピリオドが大剣をAi目掛けて振り下ろす。

 

「俺は(トラップ)カード、スリーフェイトバリアを発動!」

 

 ラストピリオドの大剣を、展開されたバリアによって受け止める。

 

「このターン、俺はダメージを受けない!」

「僕はこれでターンエンド」

 

ターン6

 

「モンスターも0か。こりゃちょっと不味いな」

 

 相手のフィールドには攻撃力5000の完全耐性持ちのモンスター。これを突破するのは容易ではない。

 

「なら、突破しなけりゃいい。俺のターン!俺は魔法カード、Aiドリング・ボーンを発動!墓地からアチチ@イグニスターを特殊召喚。デッキからピカリを手札に加え、召喚。効果でデッキからキ-Ai-を手札に加えて発動。墓地からドシンを特殊召喚」

「モンスターが3体……来るか」

「現れろ、闇を導くサーキット!」

 

 3体のモンスターがアローヘッドへ吸い込まれる。

 

「気炎万丈!炎の大河から蘇りし魂、灼熱となりてここに燃え上がれ!」

 

 アローヘッドから炎の翼を広げ、フィールドに降り立つ。

 

「リンク召喚!ファイアフェニックス@イグニスター!」

 

 炎の中から現れたのは、真っ赤な翼を広げる電脳の不死鳥だった。

 

「バトルだ。ファイアフェニックス@イグニスターでラストピリオドを攻撃!」

 

 ファイアフェニックスが翼を広げ、はためかせる。

 

「この瞬間、ファイアフェニックスの効果発動!このバトルの戦闘ダメージを0にする代わりに、自身の攻撃力分のダメージを相手に与える!やれ!ファイアフェニックス!」

 

 熱風がラストピリオドを通り過ぎて、タイプΩのライフを0にした。

 

 ◆

 

 デュエルが終了し、動かなくなったタイプΩを一瞥して、クイーンに近付く。

 

「さーて、約束通り、あんたから頂こうか」

 

 Aiがクイーンの額に手を伸ばす。

 

「あんたの意識ごと、な」



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第54話:Skirmish

大変お待たせしました


 そこはLINK VRAINS内の最果てのエリア、白い石畳の床、すぐ奥には無限の暗闇が広がっており、その先には何もない。文字通りLINK VRAINS(この世界)の果て。

 

 そんな場所に立つのはプレイメーカー、そして彼のかつての相棒であるAiだ。

 

 遊作は向かい合うAiに対して、苦しそうに口を開く。

 

「Ai、本当に戻ってくる気はないのか」

「言っただろ? これはAI(おれたち)と人間の未来を決める戦いだ」

 

 ◆

 

 それは数時間前に遡る。

 

 AiがSOLテクノロジーを襲撃して一夜明けた後、授業が始まる前の教室で物思いに耽る遊作の元に、いつものように島が騒がしく話しかけてきた。

 

「藤木!これ見ろよ!」

 

 彼が見せたタブレットの画面には、いつも通りネットニュースが表示されていた。

 見出しは『SOLテクノロジー サイバー攻撃』、昨夜のAiが起こした事件について、あることないことが書かれていた。

 さすがに無人兵器については報道されていないが、社長のクイーンが意識不明の情報も出ている。今頃、ナイトがマスコミからの追求に追われているのだろうと考える。

 

「LINK VRAINSはどうなっちまうんだろうな」

「さあな」

 

 そう言いながら、遊作は画面をスクロールしてニュースの内容に目を通すが、特に目ぼしい情報は得られなかった。

 その時、突然、タブレットの画面がノイズを走らせ、ブラックアウトする。

 

「何やってんだよ藤木!」

 

 島は慌ててタブレットを自分の方へ向けて、画面や側面のボタンを押すが、うんともすんとも言わない。

 

「壊れちまったじゃねぇか!」

「そんなはずは……」

 

 ふと、視線を移すと、普段なら時刻を表示している教室の電子黒板も同じようにブラックアウトしていた。

 

「これは……」

 

 その時、ブラックアウトしていた二つの画面が一斉に点灯する。

 

『デンシティのみなさーん!聞こえますかー!』

 

 ふざけた口上と共に画面に映し出されたのは、一人の青年。

 紫のはねた前髪に黄色い瞳、どこか見覚えのある形状の目玉のようなピアスをつけた軍服のようなコートを着ている。

 

「まさか……」

 

 見覚えのない姿だったが、彼が何者なのか、遊作は直感で理解した。

 

『この俺が、SOLテクノロジーに攻撃を仕掛けた張本人、名前は……えーっと、ミスターダークってところだ』

 

 今考えたであろう名前を名乗るその人物、姿こそ人間のようだが、間違いなくAiだと遊作は確信した。

 

『俺は今、デンシティ中の電子機器、まあ抜けもあるだろうが、多分大半を乗っ取って、この中継を流している。俺の恐ろしさを理解した奴はよーく聞け!』

「おいおい何なんだよ一体……」

 

 状況を理解していない島や他のクラスメイトを他所に、Aiの中継は続く。

 

『今から24時間後、俺はデンシティに本格的な攻撃を行う。それを阻止したければ……聞いてるよな。プレイメーカー、俺がいるところまで来い』

「……」

『じゃ、伝えたからな』

 

 そこで中継は切断され、画面はいつもの状態へ戻った。

 

「おいおいマジでどうなっちまうんだ? ……て、藤木!おい!」

 

 同意を求めようとしたところ、いつの間にか遊作は教室を飛び出していた。

 

 空き教室を目指しながら、遊作は手早く仲間にメッセージを送る。

 

 それからものの数分で、尊、美海、啓、葵の4人が集まり、さらにビデオ通話で草薙も参加する。

 

「どうします?」

 

 美海は遊作に尋ねる。

 

「行くしかない」

「でも、場所も分からないんだよね?」

「俺のいるところ、としか言ってないからな」

「それについては問題ない」

 

 すると、草薙が自分のパソコンの画面をみんなに共有する。

 

「Aiの中継の様子は録画してある。背景の映像から、あいつがどこにいるか、割り出すことはできるはずだ」

「さすが草薙さん!」

「ただ、他のハッカーも狙ってるから急いだ方がいい」

「なら俺もすぐに解析する」

「じゃあ俺も、草薙さん、映像送ってくれ」

「遊作、お前は駄目だ」

 

 遊作と啓が揃って参加しようとする。

 

「何故だ草薙さん!」

「お前がプレイメーカーとして戦ってきたのは何のためだ?」

 

 食い下がる遊作に、草薙は諭すように言う。

 

「真実を解き明かし、真に過去を乗り越えて、平穏な生活を取り戻すため。今ある生活を疎かにしちゃいけない」

「だが……」

「啓も駄目です」

「なんでだよ」

 

 美海にビシッと指さされて、啓は不満を訴える。

 

「出席日数が足りてませんよね?」

「うっ……け、けど、非常時だし……」

「いいんですか? 留年しても」

 

 それを指摘されては、啓も反論できなかった。

 

「というわけだ。尊と葵ちゃんには、そこの二人を見張っておいてくれ。サボらないようにな」

 

 草薙にウィンクされて、二人は苦笑しながら頷いた。

 

「言っておくが、君もだぞ」

「……分かってますよ」

 

 美海にも念のため釘をさしておき、草薙は通話を切った。

 

 ◆

 

 放課後、授業が終わるやいなや、遊作、啓、美海の三人はすぐに作業に取りかかる。

 手持ち無沙汰となった尊は、一人、校舎の中を歩いていた。

 

「穂村くん」

 

 すると、階段の上から聞き覚えのある声に呼ばれた。

 

 振り向くと、そこに立っていたのは夢乃切花だった。

 

「夢乃さん、今日も学校に来てなかったんじゃ……」

「ボク、もうすぐこの街を離れるから。だから、最後に君に伝えときたくて」

 

 切花は彼の横を通り過ぎ、背を向けた状態で続ける。

 

「リボルバーが闇のイグニスを狙ってる。多分そろそろ場所を突き止めると思う」

「どうして、それを僕に?」

「たまたま君に会ったから。別に伝えるのは誰でもよかったよ」

 

 切花はどうでもよさそうにそう言って、歩き出す。

 

「待って!」

「……何?」

「遊作や、財前さんとは会っていかないの?」

 

 今の情報を伝えるだけなら、教室に残っている彼らを訪ねればいい。それをしなかったのは、遊作や葵に会いたくなかったからだ。

 

 だから偶然教室を出た尊に声をかけたのだろう。

 

「君に何があったのか知らないけど、僕は今でも、君のことを友達だと思ってる」

「……」

「僕や財前さんだけじゃない。きっと遊作だって────」

「あのさぁ」

 

 切花が振り返って、尊を睨みつける。

 

「なんか勘違いしてるみたいだけ、ボクは君らのこと、最初から大っ嫌いだったんだけど」

 

 切花はもはや取り繕うことなく、怨嗟を吐き出す。

 

「さも自分達が不幸みたいな面しやがって。同じ空気も吸いたくない。そもそもボクが君にこの情報を与えたのは、リボルバーがムカつくから、あいつの邪魔をしてほしいってだけだし。勝手に友達面してんじゃねぇよカス!」

「夢乃さん……」

「何だよその顔、ボクをそんな目で見るなよ!」

 

 切花は苛立って地団太を踏む。

 

「夢乃」

 

 そこへ、遊作が階段から降りてきた。

 

「なんだよ、君もボクを哀れむのか!?」

 

 遊作は小さく首を振り、ただ一言。

 

「ありがとう」

「っ……」

 

 それを聞いて、切花は泣きそうな顔になり、背を向けて走り去った。

 

「待って夢乃さん!」

 

 追おうとする尊の肩を掴み、遊作は無言で首を横に振った。

 

「でも、遊作……」

「行かせてやれ」

 

 遊作は彼女の背中を見送った。

 

 ◆

 

 午後七時、LINK VRAINS上空をリボルバーはDボードで駆けていた。

 

「ん?」

 

 突如、彼の道を塞ぐように半透明のバリアが展開される。

 リボルバーはそれをかわすために、Dボードを急停止させて地上に降りる。

 

「来たな。リボルバー」 

 

 彼を待ち構えていたのは、ソウルバーナーだった。

 

「貴様か」

 

 行く手を阻むバリアを見上げ、彼の行動の理由を察してため息を吐く。

 

「お前をAiのところへは行かせない」

 

 そんなソウルバーナーに対して、リボルバーは声を荒げる。

 

「自分が何をしているか分かっているのか? 闇のイグニスは既に人類の敵だ」

「そうかもな」

「やはり、父のシミュレートは正しかった。イグニスは人類を滅ぼす。奴らは残さずこの世から抹殺しなければなならない。そこを退け!ソウルバーナー!」

「ごちゃごちゃうるせぇ」

 

 しかし、そんなリボルバーの訴えを、ソウルバーナーは一蹴した。

 

「俺のダチが相棒を止めに行くって言ってんだ黙って見てろ!」

「くっ……」

「それでも邪魔するって言うなら、俺を倒してからにしろ」

 

 ソウルバーナーはデュエルディスクを構える。

 

「……なら望み通り、貴様から葬ってやる!」

 

「「デュエル!」」

 

 ◆

 

 一方現実世界、

 SOLテクノロジー本社付近の住宅街、夜ということもあり閑散とした路地で、ブラッドシェパードこと道順健吾の前に一人の少年が立ち塞がっていた。

 

「久しぶり。師匠」

 

 啓の顔を見て、道順はサングラス越しに訝しむようは目を向ける。

 

「啓、これは何の真似だ?」

「ここは通さない」

 

 啓はデュエルディスクを構えて、向かい合う師を静かに見据える。

 

「なるほど、足止めにきたわけか」

「あんたならここに来ると思ってた。LINK VRAINSを横断するより、SOLのサーバーからショートカットした方が早いからな。まあどのみち、LINK VRAINSの道も塞いであるけどな」

 

 それを聞いて、道順は自分のデュエルディスクを操作してLINK VRAINSの状況を確認する。

 目的地となるLINK VRAINS最深部へのルートが、全てバリアで塞がれており、力を誇示するためにやってきたハッカーは立ち往生していた。

 

「これはお前がやったのか?」

「俺と美海、それから草薙さん(すごい助っ人)が力を貸してくれた。あ、ついでにババアもな」

「エマのやつ……」

 

 元カノの顔を思い浮かべて、道順は苦い顔をする。

 

「これはあいつらの問題だ。だから誰にも邪魔はさせない。もちろんあんたにも」

「……ふんっ、いいだろう。出来の悪い弟子を、もう一度指導してやる」

 

 

 最後の決戦を控える中、それぞれの信念をかけたデュエルが始まる。

 

 ◆

 

 Hello world

 

 Third Phase(第3段階) 進行中、……進捗率83%

 

 シミュレーション ト 一部 齟齬アリ

 

 ……

 …………

 

 軽微ナ エラー ト 診断

 微修正ヲ 行イ 続行イタシマス



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第55話:Circuit that will change the future

リボルバーVSソウルバーナーです


 ソウルバーナーとリボルバーのデュエル、先攻はリボルバー。

 

「私はフィールド魔法、リボルブート・セクターを発動」

 

 リボルバーの背後に、巨大な拳銃のシリンダーが設置される。

 

「1ターンに1度、手札からヴァレットモンスター2体を特殊召喚」

 

 シリンダーからニ発の弾丸が発射される。

 それは着弾と同時に変形し、二体のドラゴンへと変わる。

 

「シェルヴァレット・ドラゴンを召喚。現れろ、我が道を照らす未来回路!召喚条件は闇属性・ドラゴン族効果モンスター2体以上!」

 

 三体のドラゴンがアローヘッドへ装填される。

 

「このカードはリンク素材のモンスターを墓地に置くかわりに破壊してリンク召喚できる。出でよ!ヴァレルバースト・ドラゴン!」

 

 アローヘッドが回転し、爆発が起こる。

 現れたのは、胸部が弾倉となった赤いドラゴンだった。

 

ヴァレルバースト・ドラゴン

リンク・効果モンスター

闇属性/ドラゴン族/攻 2600/LINK 3

闇属性・ドラゴン族の効果モンスター2体以上

このカードはリンク素材となる「ヴァレット」モンスターを破壊してリンク召喚できる。

このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードはリンク召喚に成功したターン、攻撃できず、効果を発動できず、効果の対象にならない。

(2)このカード以外の自分フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。対象のモンスターを破壊する。この効果の発動に対して、相手はカードの効果を発動できない。この効果は相手ターンでも発動できる。

(3)リンク召喚されたこのカードが戦闘・効果で破壊されたターンのエンドフェイズに発動できる。墓地から「ヴァレット」モンスター3体を特殊召喚する(同名カードは1枚まで)。

 

「私はカードを1枚を伏せてターンエンド。エンドフェイズに、破壊されたヴァレット3体の効果で、デッキから新たな弾丸を装填する」

 

 リボルバーのフィールドに、虚空から色の異なる弾丸が射出され、それぞれアネスヴァレット、オートヴァレット、メタルヴァレットの三体に変形した。

 

ターン2

 

「俺は手札の転生炎獣コンボルを墓地へ送り、転生炎獣ミーアを特殊召喚」

 

 炎をまとったミーアキャット型のモンスターが出現する。

 

「サラマングレイトの効果で墓地へ送られたコンボルは、特殊召喚できる」

 

 ミーアの隣に火矢が落ち、その炎が勢いを増して弾け、中から炎翼の猛禽類が出現する。

 

転生炎獣コンボル

効果モンスター

星3/炎属性/サイバース族/攻 1200/守 800

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分の「サラマングレイト」カードの効果でこのカードが墓地へ送られた場合に発動できる。このカードを特殊召喚する。

(2)このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキからレベル3以外の「サラマングレイト」モンスター1体を墓地へ送る。

 

「コンボルの効果で、デッキからファルコを墓地へ。墓地のファルコの効果発動!ミーアを手札に戻して自身を特殊召喚。さらにドロー以外で手札に加わったミーアを特殊召喚!現れろ、未来を変えるサーキット!」

 

 ソウルバーナーの伸ばす手から、炎が空へ放たれ、その軌跡の先にアローヘッドが出現する。

 

「召喚条件は、レベル4以下のサイバース族1体!リンク召喚!転生炎獣(サラマングレイト)ベイルリンクス!」

 

 ミーアを素材として現れたのは、尻尾から火を噴き上げるヤマネコ型のモンスターだ。

 

「ベイルリンクスの効果でデッキから転生炎獣の聖域(サラマングレイト・サンクチュアリ)を手札に加える。現れろ、未来を変えるサーキット!召喚条件は炎属性の効果モンスター2体以上!」

 

 ベイルリンクス、コンボル、ファルコの3体が再び現れたリンクマーカーに飛び込む。

 

「リンク召喚!転生炎獣(サラマングレイト)ヒートライオ!」

 

 アローヘッドから炎が噴き上げる。

 火炎の中から現れたのは、オレンジの体表、両腕に剛爪を持つ獅子だ。

 

「ヒートライオの効果で、お前の伏せカードをデッキに戻す!」

「私は速攻魔法、スクイブ・ドローを発動!メタルヴァレットを破壊し、2枚ドローだ!」

 

 ヒートライオの効果をうまくかわして、逆に2枚の手札を得た。

 

「なら、俺はフィールド魔法、転生炎獣の聖域(サラマングレイト・サンクチュアリ)を発動!」

「私はオートヴァレットを対象にヴァレルバーストの効果を発動!」

 

 アネスヴァレットが変形し、弾丸となってヴァレルバーストの胸部の弾倉に装填される。

 

「サンクチュアリは破壊だ!」

 

 発射された弾丸がソウルバーナーのフィールド魔法を撃ち抜いた。

 

「これで転生はできない」

「いや、まだだ!」

 

 ソウルバーナーが右腕を掲げると、天上に魔法陣が出現する。

 

「なんだ!?」

「自分のフィールドか墓地の転生炎獣の聖域(サラマングレイト・サンクチュアリ)1枚を除外し、自分フィールドのサラマングレイトリンクモンスター1体をリリースしてリンク召喚扱いで特殊召喚できる!」

 

 そこへヒートライオが炎となって螺旋を描いて吸い込まれる。

 

「逆巻く炎よ、聖なる力をまとわせ、ヒートライオの新なる力を呼び覚ませ!転生リンク召喚!」

 

 魔法陣から噴き上げる炎はその温度を上げ、眩い光となって爆ぜる。

 

「生まれ変われ、転生炎獣セントライオ!」

 

 光の中から現れたのは、黄金の装甲をまとい、光輝くたてがみを持つヒートライオだった。

 

転生炎獣セントライオ

リンク・効果モンスター

炎属性/サイバース族/攻 2300/LINK 3

炎属性モンスターを含むサイバース族モンスター2体以上

このカードはリンク召喚及び以下の方法で特殊召喚できる。

●自分のフィールド・墓地の「転生炎獣の聖域」1枚を除外し、自分の「サラマングレイト」リンクモンスター1体をリリースした場合にEXデッキからリンク召喚扱いで特殊召喚できる。この方法で「転生炎獣ヒートライオ」をリリースした場合、このカードは同名モンスターを素材としてリンク召喚したものとして扱う。

(1)このカードはリンク召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「転生炎獣の神域」1枚を発動する。「転生炎獣ヒートライオ」をリリースして特殊召喚されていれば、さらに相手のフィールドゾーンの1枚を墓地へ送る。

(2)1ターンに1度、自分の墓地の「サラマングレイト」モンスター1体を対象として発動できる。ターン終了時まで、このカードは対象のモンスターと同じカード名として扱い、対象のモンスターの元々の攻撃力の半分の数値分、攻撃をアップする。

 

「セントライオの効果発動!デッキからフィールド魔法、転生炎獣の神域(サラマングレイト・サンガ)を発動!」

 

転生炎獣の神域(サラマングレイト・サンガ)

フィールド魔法

このカード名の(1)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか発動できない。

(1)このカードがフィールドゾーンに存在する限り、自分が「サラマングレイト」リンクモンスターをリンク召喚する場合、自分フィールドの同名の「サラマングレイト」リンクモンスター1体のみを素材としてリンク召喚できる。

(2)自分の「サラマングレイト」リンクモンスターは、リンク召喚に成功したターン、相手のモンスターの効果を受けない。

(3)自分の墓地・除外されている「転生炎獣の聖域」及び「サラマングレイト」リンクモンスター1枚ずつを対象として発動できる。対象のカードをデッキに戻し、自分はデッキから1枚ドローする。

 

「さらにヒートライオをリリースして特殊召喚したことで、相手のフィールド魔法1枚を墓地へ送る!」

 

 聖なる炎がリボルバーの背後にあるシリンダーを焼き尽くす。

 

転生炎獣の神域(サラマングレイト・サンガ)の効果で、俺のサラマングレイトはリンク召喚されたターン、相手のモンスターの効果を受けない。これでアネスヴァレットの効果は受けないぜ」

「くっ……」

「俺はさらにセントライオの効果発動!墓地のヒートライオのカード名を得て、さらにヒートライオの元々の攻撃力の半分アップする!」

 

 セントライオ:攻撃力2300→3450

 

「バトルだ!セントライオで、ヴァレルバースト・ドラゴンを攻撃!」

 

 セントライオが爪がヴァレルバーストを切り裂く。

 

 リボルバー:LP4000→3150

 

「さらに速攻魔法、転生炎獣の超転生(サラマングレイト・トランセンド)を発動!セントライオを素材に転生リンク召喚!」

 

 セントライオが鎧を脱ぎ捨て、ヒートライオへと生まれ変わる。

 

「ヒートライオで、アネスヴァレット・ドラゴンを攻撃!」

 

 燃え盛る爪が、守備表示のメタルヴァレットを葬り去る。

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンド」

「この瞬間、私はこのターンに破壊されたヴァレルバーストとヴァレットモンスターの効果発動!ヴァレルバーストの効果で、墓地のヴァレット3体を特殊召喚。そしてヴァレットモンスターの効果で、デッキからさらに2体のヴァレットを特殊召喚」

 

 焼き尽くされたはずのリボルバーのフィールドを、5体のドラゴン(弾丸)が埋めた。

 

ターン3

 

「忌まわしきサイバース族の力はこれで封じる!私はフィールド魔法、天火の煉獄を発動!」

 

 リボルバーがカードを掲げると、彼らの周りを巨大な鳥籠が覆う。

 鳥籠の外周に灯火が順々に4つ点いていき、籠の中を照らした。

 

天火の煉獄

フィールド魔法

このカードは自分のメインフェイズ1開始時にのみ発動できる。

(1)お互い、1ターンに1度しかリンク召喚を行えない。

(2)フィールドにサイバース族リンクモンスターが存在する限り、以下の効果を適用する。

●サイバース族モンスターの発動した効果は無効化される。

●フィールドのサイバース族モンスターは攻撃できず、リンク素材にできない。

(3)このカードが相手の効果でフィールドを離れた場合、自分フィールド・墓地のリンク4のモンスター1体を除外して発動できる。EXデッキから「トポロジック」モンスター1体を特殊召喚する。

 

「あの時のフィールド魔法か」

 

 ハノイの塔でのプレイメーカーとの決戦を思い返す。

 あの時も、プレイメーカーはこのカードの存在に苦戦を強いられていた。

 

「現れろ、我が道を照らす未来回路!」

 

 ヴァレット4体がアローヘッドに装填され、一体の竜が姿を現す。

 

「閉ざされた世界を切り裂く我が烈風!リンク召喚!ヴァレルソード・ドラゴン!」

 

 ヴァレルソードが咆哮し、頭部の刃をヒートライオに向ける。

 

「ヴァレルソードの効果を、私のマグナヴァレットを対象に発動!マグナヴァレットの効果で、ヒートライオを墓地へ送る」

 

 ヴァレルソードへ、マグナヴァレットが装填され、その力を込めた刃をヒートライオに振るい、その体を真っ二つに切り裂いた。

 

「そしてヴァレルソードは自身の効果で、このターン、2回攻撃できる。バトルだ!ヴァレルソードでダイレクトアタック!」

「俺は(トラップ)カード、転生炎獣の憤怒(サラマングレイト・エンガー)を発動!」

 

転生炎獣の憤怒(サラマングレイト・エンガー)

通常罠

このカード名の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。

(1)相手の直接攻撃宣言時に発動できる。その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージを0にする。その後、ダメージステップ終了時に、攻撃した相手モンスターの攻撃力以下の墓地の「サラマングレイト」モンスター1体を特殊召喚する。

(2)墓地のこのカードを除外して発動できる。このターン中に相手によって破壊された「サラマングレイト」リンクモンスター1体を特殊召喚する

 

「ダイレクトアタックのダメージを無効にする!」

 

 ソウルバーナーの前で爆炎が起き、ヴァレルソードの行方を阻む。

 

「そして、墓地から攻撃したモンスターの攻撃力以下のサラマングレイト1体を特殊召喚!甦れ、セントライオ!」

 

 炎の中から、セントライオが再び姿を現した。

 

「だが、まだヴァレルソードの攻撃は残っているぞ!」

 

 ヴァレルソードが二度目の攻撃を、セントライオへ向けて行う。

 

「ヴァレルソードの効果発動!戦闘を行う相手モンスターの攻撃力を半分にし、その数値分、自身の攻撃力をアップする!」

 

 セントライオから力を吸い上げ、ヴァレルソードの剣が巨大化する。

 

「墓地のベイルリンクスを除外して、セントライオの破壊を無効にする!」

「だがダメージは受けてもらう!」

 

 虚空より出たベイルリンクスが、セントライオへの攻撃を肩代わりするが、その攻撃の余波はソウルバーナーを襲う。

 

 ソウルバーナー:LP4000→1000

 

「私はカードを1枚伏せてターンエンド。エンドフェイズに破壊されたマグナヴァレットの効果で、デッキからオートヴァレット・ドラゴンを特殊召喚」

 

ターン4

 

「俺は転生炎獣の神域(サラマングレイト・サンガ)の効果発動!除外されている転生炎獣の聖域(サラマングレイト・サンクチュアリ)と墓地のベイルリンクスをデッキに戻し、1枚ドローする!」

 

 勢いよく引いたカードを掲げる。

 

「魔法カード、フュージョン・オブ・ファイアを発動!俺のセントライオと、お前のヴァレルソードを融合!」

 

 フィールド中央から赤と蒼の炎が広がり、二体のモンスターを飲み込んで1つに収束する。

 

「一つの狂おしき魂のもと集え、凶悪なる獣たちの武器を集めし魔獣よ!融合召喚!」

 

 二色の炎は一つに重なり、その色を変える。

 

「現れろ、転生炎獣ヴァイオレット・キマイラ!」

 

 紫炎の渦より現れたのは、両足を刃物、腕と翼にも武器を融合させ、さながら全身凶器とも呼べる炎の魔獣だった。

 

「天火の煉獄の効果は、サイバース族リンクモンスターがいないと適用されない。融合モンスターのヴァイオレット・キマイラなら────」

「つくづく甘い」

 

 ソウルバーナーの言葉を遮り、リボルバーの伏せカードが開く。

 

「私はヴァイオレット・キマイラの融合召喚成功時の効果にチェーンして、罠カード、天龍雪獄を発動!」

 

 フィールドが吹雪き、二人の視界が白く閉ざされる。

 

「貴様の墓地のセントライオを、私のフィールドに効果を無効にして特殊召喚!」

 

 吹雪の中から、凍てつき項垂れたセントライオが現れた。

 

「フィールドにサイバース族リンクモンスターが存在することで、天火の煉獄により、サイバースの力は封じられる」

 

 フィールドを覆う鳥籠が淡く光ると、ヴァイオレット・キマイラがまとう炎は勢いを失う。

 

「この檻はサイバースを、イグニスを封じるための檻。何人たりとも、この檻から逃れることはできない!」

「くっ……」

「デュエルの前、貴様は言ったな。プレイメーカーが闇のイグニスを止める。だから黙って見ていろと」

 

 リボルバーは強い口調で語る。

 

「だが、奴はSOLテクノロジーのクイーンを手にかけ、いくつもの無人兵器を有している。既にそんな個人的な感情を優先する状況ではないのだ!」

「個人的な感情、確かにな」

 

 リボルバーの熱弁を受けて、ソウルバーナーはため息を漏らす。

 

「けど、それはあんたもじゃないか?」

「何?」

「この檻はイグニスを封じる檻だって言ったな。こいつに閉じ込められてのはあんた自身じゃないか?」

「世迷言を……」

「それを今から証明する!俺は魔法カード、ソウルバーニングを発動!」

 

ソウルバーニング

通常魔法

このカードはルール上、「サラマングレイト」カードとして扱う。

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1)自分のメインフェイズ1に、自分フィールドの攻撃力2500以上の炎属性モンスター1体をリリースして発動できる。相手フィールドのカード全てを破壊し、リリースしたモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える。この効果を発動したターン、自分のモンスターは攻撃できない。

(2)自分の同名カードを素材としてリンク召喚された「サラマングレイト」リンクモンスターが効果で破壊される場合、代わりに墓地のこのカードを除外できる。

 

「力を貸してくれ!ヴァイオレット・キマイラ!」

 

 ヴァイオレット・キマイラのまとう炎が再び勢いを増して、全身を包み込む。

 

「自分の攻撃力2500以上の炎属性モンスター1体をリリースすることで、相手フィールドのカード全てを破壊!」

 

 それはさながら紅蓮の弾丸。

 上空へ飛び、リボルバーのフィールドへと急降下すると、熱波が吹雪を払い、彼のフィールドのモンスターを焼き付くし、二人を閉じ込める檻を溶かした。

 

「そして、リリースしたモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手プレイヤーに与える!」

 

 リボルバー:LP3150→350

 

「だが、貴様も忘れたわけではあるまい。天火の煉獄は破壊された時、そこに封じられたモンスターを呼び覚ます」

「ああ。トポロジック・ゼロヴォロス、かかってきやがれ!」

「くくくっ……」

 

 すると、耳鳴りのような音が周囲に響く。

 

「これは……」

「産声を上げよ、命運を閉ざす永劫の輪!」

 

 空間が歪み、景色がぐにゃりと変化しながら、虚空に一体の竜の姿を作り出す。

 

「現れよ、リンク5!トポロジック・ヘルメビウス!」

 

 それは両腕から広げた翼が円環を描くように背中に接合された電脳の竜だった。

 

「リンク5のトポロジック、攻撃力4000か……」

「さあ、どう突破する?」

「ソウルバーニングの効果で俺はこのターン、攻撃できない。だから次のターンに賭ける。俺は永続魔法、転生炎獣の意志(サラマングレイト・ハート)を発動!その効果で、墓地からヒートライオを特殊召喚!現れろ、未来を変えるサーキット!」

 

 空に現れた魔法陣に、復活したヒートライオが炎となって吸い込まれる。

 

「転生リンク召喚!転生炎獣ヒートライオ!」

 

 魔法陣から火が噴き上げ、地面で炸裂する。

 爆炎の中から、燃え盛る炎の鬣を揺らし、ヒートライオが雄叫びを上げた。

 

「サラマングレイトが墓地へ送られたことで、手札の転生炎獣ガゼルを特殊召喚!その効果でデッキからスピニーを墓地へ送る。スピニーは場にサラマングレイトがいる時に、墓地から特殊召喚できる!」

 

 炎をまとった獣達が、ソウルバーナーのフィールドに並ぶ。

 

「俺はレベル3のガゼルとスピニーで、オーバーレイネットワークを構築!」

 

 地面にエックス字のパネルが現れ、そこへガゼルとスピニーが粒子に分解されて吸い込まれる。

 

「エクシーズ召喚!」

 

 パネルから二つの光が空へ伸び、天上で爆ぜる。

 

「幻想を断ち切る灼熱の荒馬!ランク3、転生炎獣ミラージュスタリオ!」

 

 空から舞い降りたのは、炎の翼をはためかせる黒馬だ。

 

「ほう、エクシーズモンスターか」

「俺はミラージュスタリオの効果発動!オーバーレイユニットを1つ使うことで、デッキからサラマングレイト1体を守備表示で特殊召喚する!出でよ!転生炎獣ドラーシュ!」

 

転生炎獣(サラマングレイト)ドラーシュ

効果モンスター

星2/炎属性/サイバース族/攻 500/守 300

(1)このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「サラマングレイト」カード1枚を手札に加える。この効果発動後、ターン終了時まで、自分はサイバース族モンスターしか特殊召喚できない。

 

「ドラーシュの効果で、デッキからサラマングレイトカードを手札に加える。現れろ、未来を変えるサーキット!リンク召喚!ベイルリンクス!」

 

 ドラーシュがアローヘッドに飛び込み、ベイルリンクスへと生まれ変わる。

 

「ベイルリンクスの効果で、デッキからサンクチュアリを手札に。現れろ、未来を変えるサーキット!召喚条件は炎属性効果モンスター2体!リンク召喚!転生炎獣バーニングホーク!」

 

 アローヘッドより、燃え盛る翼を広げる巨大な猛禽が現れる。

 

転生炎獣バーニングホーク

リンク・効果モンスター

炎属性/サイバース族/攻 2000/LINK 2

【リンクマーカー:右/左】

炎属性の効果モンスター2体

(1)このカードがリンク召喚に成功した場合に発動できる。手札・墓地から通常召喚可能な「サラマングレイト」モンスター1体を、このカードのリンク先に守備表示で特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたカードがフィールドに表側表示で存在する限り、自分は炎属性モンスターの効果しか発動できない。

(2)自分のバトルフェイズに、このカードが「転生炎獣バーニングホーク」を素材としてリンク召喚されている場合に発動できる。このカード及び手札・フィールドのこのカード以外の「サラマングレイト」カードを墓地へ送り、墓地からリンク3の「サラマングレイト」リンクモンスター1体を特殊召喚する。

 

「バーニングホークの効果で、墓地のファルコを自身のリンク先に特殊召喚!そして、リンク素材となったミラージュスタリオの効果!トポロジック・ヘルメビウスを手札に戻す!」

 

 バーニングホークが翼をはためかせると、熱風が炎馬の形を成してトポロジック・ヘルメビウスに迫る。

 

「トポロジック・ヘルメビウスの効果!」

 

 だが、炎馬はトポロジック・ヘルメビウスに近付いた瞬間に掻き消される。

 

「このカードは効果で破壊されず、サイバース族モンスターが発動した効果を受けない」

「くっ……俺はこれでターンエンド」

「エンドフェイズに、破壊されたオートヴァレットの効果発動。デッキから、エクスプロードヴァレット・ドラゴンを特殊召喚」

 

 エクスプロードヴァレット・ドラゴンが着弾したのはトポロジック・ヘルメビウスのリンク先だ。

 

「この瞬間、トポロジック・ヘルメビウスの効果発動!」

 

 ヘルメビウスの翼をエネルギーが伝い、全身を駆け巡る。

 

トポロジック・ヘルメビウス

リンク・効果モンスター

闇属性/サイバース族/攻 4000/LINK 5

闇属性・効果モンスター3体以上

このカード名の(2)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードは効果で破壊されず、サイバース族モンスターが発動した効果を受けない。

(2)このカードが既にモンスターゾーンに存在する状態で、このカードのリンク先にモンスターが特殊召喚された場合に発動する。フィールドのカード全てを破壊する。この効果でサイバース族モンスターを破壊した場合、その持ち主の空いているメインモンスターゾーン3ヶ所を指定する。このカードがフィールドに表側表示で存在する限り、指定したゾーンは使用できない。

(3)このカードがサイバース族モンスターと戦闘を行うダメージ計算前に発動する。その戦闘を行う相手モンスターを破壊し、破壊したモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える。その後、このカードはもう1度だけ攻撃できる。

 

「フィールドのカードを全て破壊する!」

 

 エネルギーは膨張し、破裂する。

 巻き起こる閃光が、フィールドのカード全てを消し飛ばした。

 

「ただし、ヘルメビウスはサイバース族モンスターの効果を受けないため場に残る」

「こっちも、転生炎獣の神域(サラマングレイト・サンガ)の効果で、俺のサラマングレイトはリンク召喚されターンは相手モンスターの効果を受けない!」

「だが、その転生炎獣の神域(サラマングレイト・サンガ)は破壊される。そして、この効果でサイバース族モンスターが破壊されたことでその持ち主のメインモンスターゾーン3ヶ所を指定し、使用不可能にする!」

 

 ヘルメビウスから磁場が広がり、ソウルバーナーのモンスターゾーンに電気のエフェクトを発生させる。

 

「破壊されたファルコの効果で、墓地のサラマングレイト魔法カード1枚を手札に戻す」

 

ターン5

 

「私のターン。ハイバネーション・ドラゴンを召喚。効果で墓地からアネスヴァレット・ドラゴンを手札に。そして、ヘルメビウスの効果を再び発動!」

 

 再びヘルメビウスが閃光を放ち、ソウルバーナーのフィールドを焼き尽くす。

 

「墓地のベイルリンクスを除外して、ヒートライオを破壊から守る!」

 

 ベイルリンクスが盾となって、ヒートライオを守るが、ヘルメビウスの効果でモンスターゾーンを使用不可にされ、彼の使えるメインモンスターゾーンはヒートライオの存在する1ヵ所だけとなった。

 

「バトルだ!ヘルメビウスで、ヒートライオを攻撃!」

 

 ヘルメビウスの翼に光が集まる。

 

「この瞬間!ヘルメビウスの効果発動!戦闘を行うサイバース族を破壊し、その元々の攻撃力分のダメージを与える!」

 

 翼から二筋の光が宙に伸び、ヘルメビウスの前に光球を作り出す。

 

「消し飛べ!エタニティビヨンド!」

 

 光球がヒートライオに放たれる。

 ヒートライオが飲み込み、今度こそ消し去ったに見えたが、

 

「なに?」

 

 ヒートライオはまだフィールドに立っており、ソウルバーナーのライフも残っている。

 

「墓地のソウルバーニングを除外することで、転生したリンクモンスターを効果破壊から守ったんだ」

「なるほど。効果は不発となったが攻撃は続いている。やれ!ヘルメビウス!」

 

 ヘルメビウスが自らヒートライオに突っ込み、その両翼でヒートライオを切り裂く。

 

「手札の転生炎獣タイガを墓地へ送り、効果発動!」

 

転生炎獣タイガ

効果モンスター

星5/炎属性/サイバース族/攻 2200/守 800

このカード名の(2)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しか行えない。

(1)自分の「サラマングレイト」モンスターが戦闘を行うダメージ計算時、このカードを手札・フィールドから墓地へ送って発動できる。ターン終了時まで、そのモンスターの攻撃力を800アップする。そのモンスターが同名モンスターを素材として融合・X・リンク召喚されたモンスターなら、さらにこのターン、そのモンスターは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃でき、1度だけ戦闘で破壊されない。

(2)自分フィールドのモンスターが炎属性モンスターのみの場合、このカードは手札から、自分の炎属性リンクモンスターのリンク先に特殊召喚できる。

 

「ヒートライオの攻撃力を800アップする!」

 

 強化されたヒートライオの攻撃力でどうにか攻撃を受け止め、ソウルバーナーへのダメージを抑えた。

 

 ソウルバーナー:LP1000→100

 

「凌いだか。私はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン6

 

「……トポロジック・ヘルメビウス。そのモンスターからは、あんたの強い憎しみを感じる」

 

 サイバース族でありながら、サイバースを滅ぼす力を持つドラゴン。それを指差して、ソウルバーナーは語る。

 

「お前、本当は先生の、父親の仇を打ちたいだけじゃないのか?」

「……私は復讐など、そんな下らないことはしない」

「けど実際、お前は静かに暮らしていただけのイグニス達を攻撃した。自分の行き場のない怒りを、AIにぶつけていただけだ!」

「違う!私は私の信念の元に戦った!現に、ライトニングは我々が攻撃を行う前から、父への復讐を画策していた!全て父の、シミュレーション通り。私は何も間違ってなどいない!」

「けど、少なくも不霊夢は、最期まで人間を、俺のことを信じてくれた」

 

 ソウルバーナーは自分のデュエルディスクを、そこにかつていた亡き相棒の影を見る。

 

「何があってもイグニスが人間を滅ぼすんだって言うなら、そんな未来は俺がこの手で"変えて"やる!俺のターン!ドロー!」

 

 ソウルバーナーの右手が炎をまとい、運命のカードを引き寄せる。

 

「何をしようが無駄だ!貴様のフィールドには何もない。使えるメインモンスターゾーンも1ヵ所のみ。それで攻撃力4000のヘルメビウスを倒すなど……」

「俺は魔法カード、逆巻く炎の宝札(バーニング・ドロー)を発動!」

「バーニング・ドローだと!?」

 

 ソウルバーナーが右手を掲げると、その掌に周囲から炎が集まり渦を巻く。

 

「相手フィールドのカードの枚数が、自分より多い場合、相手のリンクモンスター1体を対象に発動できる!そのモンスターのリンクマーカーの数だけ、カードをドローする!」

 

 灼熱の右手で、一気に5枚ものカードをドローした。

 

「まずはフィールド魔法、転生炎獣の聖域(サラマングレイト・サンクチュアリ)を発動!ヒートライオを転生!」

 

 空に現れた魔法陣へヒートライオが吸い込まれる。

 

「転生リンク召喚!生まれ変われ!炎の平原をかける百獣の王!転生炎獣ヒートライオ!」

 

 魔法陣から噴き上げる炎の中から、ヒートライオは再び現れた。

 

「転生したところで、ヘルメビウスはサイバースが発動した効果を受けない」

「そんなの関係ねぇ!ヒートライオの効果!リザウディングロアー!」

 

 ヒートライオの咆哮が、空気を揺らしてリボルバーの伏せカードを吹き飛ばそうとする。

 

「私は(トラップ)カード!シャットダウン・ヴァレットを発動!」

 

シャットダウン・ヴァレット

通常罠

(1)相手フィールドのEXデッキから特殊召喚されたモンスター1体を対象として発動できる。対象のモンスターの効果を、ターン終了時まで無効にする。この効果でリンクモンスターを対象にしていた場合、このターン、そのリンクモンスターはリンク素材にできず、相手はそのモンスターのリンク先にモンスターをEXデッキからモンスターを特殊召喚できず、自分のEXモンスターゾーンのモンスターの攻撃力は、対象のモンスターのリンクマーカーの数×500アップする。

 

「ヒートライオの効果を無効にする!」

 

 リボルバーのカードから黒いドーム状の波動が広がり、ヒートライオの効果を打ち消した。

 

「そしてこのターン、ヒートライオはリンク素材にできず、リンク先にモンスターを特殊召喚できない。そして、そのリンクマーカーの数だけ、私のEXモンスターゾーンのモンスターの攻撃力は500アップする」

 

 トポロジック・ヘルメビウス:攻撃力4000→5500

 

「まだだ!俺は手札から転生炎獣B(ビート)・バイソンを特殊召喚」

 

 フィールドに炎の闘牛が現れる。

 

B(ビート)・バイソンの効果で、墓地の炎属性リンクモンスターを相手フィールドの表側表示のカードの数だけEXデッキに戻し、その数だけ相手カードの効果を無効にする!」

「ヘルメビウスはサイバース族の効果を受けない」

「俺の狙いはそこじゃない!俺はもう一度ヒートライオを転生させる!」

 

 ヒートライオは炎となって空へ舞い、天に現れた魔法陣に飛び込む。

 

「フィールドのサンクチュアリを除外し、ヒートライオをリリースすることで特殊召喚!逆巻く炎よ、聖なる力をまとわせ、ヒートライオの新なる力を呼び覚ませ!転生リンク召喚!」

 

 魔法陣から噴き上げる炎はその温度を上げ、眩い光となって爆ぜる。

 

「生まれ変われ、転生炎獣(サラマングレイト)セントライオ!」

 

 光の中から、セントライオへと姿を変えて再び現れた。

 

「セントライオをEXデッキに戻すためか。だがそいつの効果を使っても、私のヘルメビウスの攻撃力には届かない」

「まだまだこっからだ!俺は墓地のヴァイオレット・キマイラを対象に、セントライオの効果を発動!」

 

 ヴァイオレット・キマイラの幻影が、セントライオに乗り移り、セントライオが纏う炎に勢いが増す。

 

「ヴァイオレット・キマイラの名前と、攻撃力の半分を得る!」

 

 セントライオ:攻撃力2300→3700

 

「続けて装備魔法、セイント・ギア・ブレードを装備!」

 

 セントライオの右腕に炎が絡み付き、その手に剣が出現する。

 

「ギア・ブレード装備魔法……」

 

 それはソウルバーナーがサラマングレイトを手に入れる前に、カリスマデュエリストとして愛用していたテーマだ。

 

「その効果でデッキからフェニックス・ギア・フリードを墓地へ送る!」

 

セイント・ギア・ブレード

装備魔法

このカードはルール上、「サラマングレイト」カードとしても扱う。

(1)このカードの発動時の処理として、デッキからレベル5以上の炎属性モンスターを墓地へ送る。

(2)装備モンスターの攻撃力は、このカードの(1)の効果で墓地へ送ったモンスターの元々の攻撃力の半分アップする。

(3)モンスターに装備されたこのカードがフィールドから墓地に送られた場合に発動できる。デッキから「スーペルヴィス」または「セイント・ギア・ブレード」以外の「ギア・ブレード」装備魔法か「サラマングレイト」装備魔法カード1枚を手札に加えるか、このカードを装備していたモンスターに装備する。

 

「フェニックス・ギア・フリードの攻撃力の半分、つまり1400アップだ!」

 

 セントライオ:3700→5100

 

「さらにもう1枚!装備魔法、転生炎獣の炎翼(サラマングレイト・ウィング)を装備!」

 

転生炎獣の炎翼(サラマングレイト・ウィング)

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

「サラマングレイト」リンクモンスターにのみ装備可能

(1)EXデッキから「サラマングレイト」リンクモンスター1枚を墓地へ送って発動できる。このターン、装備モンスターの攻撃力は墓地へ送ったモンスターのリンクマーカーの数×300アップし、そのモンスターをリンク素材としてリンク召喚されたものとして扱う。

(2)相手のメイン・バトルフェイズに発動できる。EXデッキ・墓地から、そのモンスターと同名リンクモンスター1体を、装備モンスター1体のみを素材としてリンク召喚扱いで特殊召喚する。その後、そのモンスターにこのカードを装備する。

 

「EXデッキからパイロ・フェニックスを墓地へ送り、そのリンクマーカーの数×300、攻撃力をアップする!」

 

パイロ・フェニックスの幻影がセントライオに宿り、その背中から炎の翼が広げられる。

 

 セントライオ: 5100→6300

 

「攻撃力を上回ったか。だがサイバース族である限り、ヘルメビウスは倒せない!」

「まだ終わりじゃねぇ!俺は装備魔法、転生炎獣の烈爪(サラマングレイト・クロー)を装備!」

 

 セントライオの両腕に爪が肥大化する。

 

「これでセントライオは戦闘・効果で破壊されない!」

「三体のモンスターの力が、セントライオに宿っているのか……」

 

 セントライオの背には、フェニックス・ギア・フリード、パイロ・フェニックス、ヴァイオレット・キマイラの幻影が写っている。

 

「バトルだ!セントライオで、ヘルメビウスを攻撃!」

 

 三体のモンスターと共に、ヘルメビウスへ突っ込む。

 

「焼き尽くせ!ブレイジングスラッシュ!」

 

 セントライオが掲げた剣に、三体のモンスターの幻影が、炎となって融合する。

 振り下ろされた剣から炎熱が解き放たれ、ヘルメビウスを焼き尽くした。

 

 ◆

 

 デュエルを終えた二人は、互いに息を切らして静かに向かい合う。

 

「貴様はあくまで、闇のイグニスを信じるというのだな」

「Aiだけじゃない。俺はプレイメーカーのことも信じてるからな。あいつなら、必ずAiのことを止めてくれる」

「ふんっ、なら好きにしろ」

 

 リボルバーは背を向けて、その場から去っていった。

 

「これでいいんだよな。不霊夢(フレイム)

 

 ソウルバーナーは空を見上げて、その先にいるプレイメーカーの方を向く。

 

「頼んだぜ。遊作」



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第56話:One turn Fight

 啓と道順は、夕焼けに染まる路地で向き合っていた。

 

「先攻は俺でいいよな?」

「好きにしろ。何ターン時間稼ぎできるか見物だな」

 

 その言葉に、啓は顔をしかめる。

 

「時間稼ぎなんて、そんなぬるい考えじゃない」

 

 啓は自分の左腕に装着されたデュエルディスクを見せる。

 

「俺は今日、あんたを倒しにここに来た」

「……そうか。お前がそのつもりなら」

 

 道順がデュエルディスクを操作すると、虚空に6枚、ARのカードが出現する。

 

「あれは……」

 

 それはキャプチャー・ドローンとドローン・バリケードが各3枚。彼のデッキに入っている最低限の防御用の(トラップ)カードだ。

 

 道順がそれを右手で薙ぐと、カードは砕けて消える。

 

「目の前でデッキ組み替えるのは大人気なさすぎだろ……」

「以前言っただろう。容赦はしないと」

 

 改めて6枚のカードをデッキに加えて、道順はデュエルディスクを構える。

 

「これで俺のデッキに攻撃を防ぐ手段はなくなった」

「つまり、このデュエルの決着は後攻1ターン目、あんたの攻撃を耐え切るかで決まる」

 

 それはさながら西部劇の決闘、一発の弾丸(1ターンの攻防)で全てが決着する。

 

「さぁ始めるぞ。全力で来い」

 

「「デュエル!」」

 

ターン1

 

「俺は手札から敵性機兵(エリミネーター)ジャイロードを特殊召喚!」

 

 フィールドに爪のついた円盤型の機械が現れる。

 

敵性機兵(エリミネーター)ジャイロード

効果モンスター

星4/風属性/サイバース族/攻 1000/守 1000

このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合、このカードを手札から特殊召喚できる。

(2)このカードが(1)の方法による特殊召喚に成功した場合に発動できる。「エリミネーター」モンスター1体を特殊召喚する。この効果発動後、ターン終了時まで自分はメインモンスターゾーンにモンスターを特殊召喚できない。

(3)相手ターン中、自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合、墓地のこのカードを除外して発動できる。デッキから「エリミーション」罠カード1枚をセットする。この効果でセットしたカードは、セットしたターンにも発動できる。

 

「その効果で、俺はデッキからシークエンスコードを特殊召喚」

 

敵性機兵(エリミネーター)シークエンスコード

効果モンスター

星4/風属性/サイバース族/攻 1500/守 800

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「エリミネーター」モンスター1枚を手札に加える。

(2)相手ターン中、自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しなければ、墓地のこのカードを除外して発動できる。デッキから「エリミネーション」罠カード1枚をセットする。この効果でセットしたカードは、セットしたターンでも発動できる。

 

「さらに、敵性機兵(エリミネーター)ディメンターを通常召喚」

 

 虚空からステルス戦闘機のような黒い機体が、迷彩を解いてフィールドに姿を現した。

 

敵性機兵(エリミネーター)ディメンター

効果モンスター

星4/風属性/サイバース族/攻 1500/守 1200

(1)このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「エリミネーション」魔法・罠カード1枚を手札に加える。

(2)相手ターンに、自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない、またはこのモンスターのみの場合、自分のフィールド・墓地のこのカードを除外して発動できる。除外されている「エリミネーション」魔法・罠カード1枚をセットする。

 

「ディメンターの効果で、デッキからエリミネーションカードを手札に加える。現れろ、未来を貫くサーキット!召喚条件はリンクモンスター以外のエリミネーター1体!」

 

 ディメンターがアローヘッドに吸い込まれ、右下の矢印を描く。

 

「リンク召喚!リンク1、敵性機兵(エリミネーター)ローディング・サーチャー!」

 

 現れたのは、機械仕掛けのキツネ型のモンスターだ。

 

敵性機兵(エリミネーター)ローディング・サーチャー

リンク・効果モンスター

風属性/サイバース族/攻 500/LINK 1

リンクモンスター以外の「エリミネーター」モンスター1体

このカード名のカードは1ターンに1度しかリンク召喚できない。

(1)リンク召喚されたこのカードは、リンク素材となったモンスターのレベル・ランクの数と同じレベルのモンスターとして、X召喚・リンク召喚の素材にできる。

(2)相手ターンに、自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない、またはこのモンスターのみの場合、フィールド・墓地のこのカードを除外して発動できる。自分のデッキから「エリミネーション」魔法・罠カード1枚をセットする。この効果でセットしたカードは、セットしたターンでも発動できる。

 

「こいつは素材となったモンスターと同じレベルのモンスターとして、リンク召喚及びエクシーズ召喚の素材にできる。続けて現れろ、未来を貫くサーキット!」

 

 三体のエリミネーターが、竜巻となってアローヘッドにセットされる。

 

「リンク召喚!リンク3、敵性機兵(エリミネーター)ローディング·クラッチ!」

 

 激しい駆動音を響かせて現れたのは、無数の歯車が組合わさった体に、金属の骨組みでできた首と翼を伸ばす機械の鳥だった。

 

敵性機兵(エリミネーター)ローディング·クラッチ

リンク·効果モンスター

風属性/サイバース族/攻 2100/LINK3

風属性モンスターを含む同じレベルのモンスター3体

【リンクマーカー:右/左/下】

(1)自分・相手のターンに発動できる。このカードのリンク素材となったモンスターのレベルの数と同じランクのXモンスター1体をEXデッキからこのカードの上に重ねてX召喚扱いで特殊召喚する。

(2)このカードまたはこのカードをX素材に持つXモンスターを素材としてX召喚された「エリミネーター」Xモンスターは以下の効果を得る。

●このカードがX召喚に成功した場合に発動できる。自分の墓地·EXデッキからリンクモンスター1体をこのカードの下に重ねてX素材とする。

●このカードがフィールドに表側表示で存在する限り1度、手札から「エリミネーター」カード1枚を捨て、相手フィールドのカード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。この効果は相手のターンでも発動できる。

 

「ローディング・クラッチの効果発動!このカードの素材となったモンスターのレベルの数と同じランクのエクシーズモンスターを、このカードの上に重ねてX召喚する!俺はローディング・クラッチで、オーバーレイネットワークを構築!」

 

 地面にエックス字のパネルが回転して展開され、ローディング・クラッチがデータへと分解されて取り込まれる。

 

「エクシーズ召喚!現れろ、ランク4!敵性機兵(エリミネーター)コンパイル・ブラスター!」

 

 パネルから一筋の光が空へ放たれ、上空で膨張する。

 光の中から現れたのは、レールガンを接合された機械仕掛けの竜だ。

 

敵性機兵(エリミネーター)コンパイル・ブラスター

エクシーズ·効果モンスター

ランク4/風属性/サイバース族/攻 2300/守 2000

風属性·レベル4·効果モンスター×2体以上

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードの攻撃力·守備力はこのカードがX素材として持つリンクモンスターのリンクマーカーの数×300アップする。

(2)相手の特殊召喚されたモンスターが効果を発動した時、このカードのX素材1つを取り除いて発動できる。その効果を無効にする。この効果発動のためにリンクモンスターを取り除いていた場合、かわりにその効果を無効にして破壊し、相手に500ダメージを与える。

(3)このカードが効果で破壊される場合、かわりこのカードのX素材1つを取り除くことができる。

 

「素材となったローディング・クラッチの効果で、エクストラデッキからローディング・チャージャーをオーバーレイユニットにする。俺はさらに魔法カード、エリミネーション・クラインを発動!」

 

エリミネーション・クライン

通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1)自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合、手札の「エリミネーター」モンスター1枚を墓地へ送って発動できる。自分はデッキから2枚ドローする。この効果発動後、ターン終了時まで、自分はEXデッキからメインモンスターゾーンにモンスターを特殊召喚できない。

(2)墓地のこのカードを除外し、自分の墓地・除外されている「エリミネーション」罠カード1枚を対象として発動できる。対象のカードをデッキに戻す。

 

「手札のラントリクターを墓地へ送り、デッキから2枚ドローする。俺はカードを2枚伏せてターンエンド」

 

ターン2

 

「相手ターン開始時、墓地のジャイロード、シークエンスコード、ローディング・サーチャー3枚を除外し、デッキからエリミネーション・ジャミング2枚、エリミネーション・インターセプト1枚をセットする」

 

 カウンター(トラップ)カード3枚を伏せて、運命の最終ターンが始まる。

 

「相手フィールドにのみモンスターが存在する場合、手札のドローン・エリアスは特殊召喚できる!」

 

 直角三角形の翼が二枚ついた、小型の飛行機が飛来する。

 

ドローン・エリアス

効果モンスター

星3/風属性/機械族/攻 1000/守 0

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)相手フィールドにのみモンスターが存在する場合、このカードを手札から特殊召喚できる。

(2)このカードが特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「ドローン」カード1枚を手札に加える。この効果発動後、ターン終了時まで、自分は機械族モンスターしか特殊召喚できない。

 

「デッキからドローン・カタパルトを手札に加える」

 

 啓の伏せカードは開かない。

 それを見て道順は呟く。

 

「読めたぞ。お前の伏せカード」

「!」

「俺は魔法カード、ハーピィの羽箒を発動!」

「なっ!」

 

 見えない何かが空気を薙ぎ、突風を巻き起こす。

 

「相手の魔法(マジック)(トラップ)カードを全て破壊!」

「くっ、カウンター(トラップ)!エリミネーション・ジャミングを発動!」

 

エリミネーション・ジャミング

カウンター罠

手札の「エリミネーター」モンスターを墓地に送ってこのカードを手札から発動できる。

(1)自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在せず、相手がモンスター効果・魔法・罠カードを発動した時に発動できる。その発動を無効にする。自分のEXモンスターゾーンに「エリミネーター」モンスターが存在する場合、かわりにその発動を無効にして破壊する。

 

「その発動を無効にする!」

 

 カウンター罠で、その突風は打ち消される。

 

「なんつうもん入れてんだよ……」

「俺は永続魔法、ドローン・カタパルトを発動!」

 

ドローン・カタパルト

永続魔法

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれフェイズ毎に1度しか使用できない。

(1)自分のメインフェイズ及びバトルフェイズに発動できる。手札から「ドローン」モンスター1体を特殊召喚する。

(2)自分の「ドローン」モンスターが直接攻撃で相手に戦闘ダメージを与えた場合、このカードを墓地へ送って発動できる。相手に1000ダメージを与える。

 

「カタパルトの効果で、手札からドローン・ポーンを特殊召喚」

 

 魔法カードからカタパルトが飛び出し、そこから羽にプロペラとガトリングのついた小型の飛行機が射出された。

 

ドローン・ポーン

効果モンスター

星1/風属性/機械族/攻 600/守 600

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「ドローン」魔法・罠カード1枚をセットする。

(2)このカードの戦闘によって自分がダメージを受けた場合に発動できる。そのバトルフェイズ終了時、ダメージの数値分だけLPを回復する。

 

「デッキからアセンブル・ドローンを手札に加える。現れろ、勝利を導くサーキット!」

 

 道順の指さす先に、アローヘッドが出現する。

 

「レベル4以下のドローンモンスター1体!出でよ、バトルドローン・イグニッション!」

「させない!俺はカウンター(トラップ)、エリミネーション・インターセプトを発動!」

 

エリミネーション・インターセプト

カウンター罠

(1)自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合に発動できる。相手モンスター1体の特殊召喚を無効にして破壊する。

(2)墓地のこのカードと「エリミネーション」魔法・罠カード1枚を除外して発動できる。除外されている「エリミネーター」モンスター1体を墓地に戻す。

 

「そのリンク召喚を無効にする!」

 

 アローヘッドは空中で砕け散る。

 

「やはりここで止めてきたな。俺はドローン・タンカーを召喚。その効果で、墓地のドローン・ポーンを特殊召喚」

 

 先程リンク素材となって墓地へいったポーンが、長方形のコンテナを詰んだドローンに乗って戻ってくる。

 

「現れろ、勝利を導くサーキット!」

 

 アローヘッドが一気に三つ現れ、そのうちの一つへドローン・ポーンが、その隣へ、タンカーとエリアスが突っ込む。

 

「リンク1!バトルドローン・サージェント!リンク2!バトルドローン・ウォラント!」

 

バトルドローン・サージェント

リンク・効果モンスター

風属性/機械族/攻 800/LINK 1

【リンクマーカー:下】

レベル4以下の「ドローン」モンスター1体

このカード名の(1)の効果は同一チェーン上で1度しか発動できず、(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分のリンクモンスター以外の「ドローン」モンスターが相手に直接攻撃で戦闘ダメージを与えた場合に発動できる。このターン、このカードは直接攻撃できる。

(2)このカードが墓地に存在する状態で、自分のリンク2以上の「ドローン」リンクモンスターが効果で特殊召喚された場合に発動できる。このカードを墓地から特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたこのカードはリンク素材にできず、エンドフェイズに除外される。

 

バトルドローン・ウォラント

リンク・効果モンスター

風属性/機械族/攻 1200/LINK 2

【リンクマーカー:左/下】

「ドローン」モンスター2体

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分のリンク1の「ドローン」モンスターが直接攻撃で相手に戦闘ダメージを与えた場合に発動できる。このターン、このカードは直接攻撃できる。

(2)このカードが墓地に存在し、自分のモンスターがEXモンスターゾーンの「ドローン」リンクモンスターのみの場合に発動できる。このカードを墓地からそのモンスターのリンク先に特殊召喚する。この効果発動後、ターン終了時まで、自分は「ドローン」モンスターしか特殊召喚できない。

 

「さらにそれらを素材にリンク召喚!出撃せよ!バトルドローン・ジェネラル!」

 

 ジェットの駆動音を響かせ、黒い戦闘機がアローヘッドより発進した。

 

バトルドローン・ジェネラル

リンク・効果モンスター

風属性/機械族/攻 2400/LINK 3

【リンクマーカー:左/右/下】

「ドローン」モンスター2体以上

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分のメインフェイズに発動できる。墓地から元々の攻撃力が2000以下の「ドローン」モンスター1体を特殊召喚する。

(2)自分のレベル4以下の攻撃力1000以下の「ドローン」モンスター1体を対象として発動できる。このターン、そのカードは直接攻撃できる。

(3)自分の「ドローン」モンスターが直接攻撃で相手に戦闘ダメージを与えた場合、そのモンスターをリリースして発動できる。そのモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える。この効果を3回以上適用したターン、このカードは直接攻撃できる。

 

「カウンター(トラップ)!エリミネーション・デストラクトを発動!」

 

エリミーション·デストラクト

カウンター罠

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合、相手のモンスターが特殊召喚に成功した時、または相手のモンスターが効果を発動した時に発動できる。そのモンスターを破壊する。自分のEXモンスターゾーンに「エリミネーター」Xモンスターが存在する場合、かわりにそのモンスターを除外する。

(2)墓地のこのカードと「エリミーション」魔法·罠カード1枚を除外し、墓地の「エリミネーター」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを墓地に戻す。

 

「モンスターが特殊召喚に成功した時か効果を発動した時、そのモンスターを破壊する!」

 

 ジェネラルが虚空からの爆撃を受けて破壊される。

 

「俺は装備魔法、アセンブル・ドローンを発動!」

 

アセンブル・ドローン

装備魔法

(1)墓地の「ドローン」モンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。対象のモンスターを特殊召喚し、このカードを装備する。このカードがフィールドを離れた場合、装備モンスターは墓地へ送られる。

(2)装備モンスターは攻撃力1000以下の場合、直接攻撃できる。

 

「墓地のドローンを特殊召喚して、このカードを装備する」

「そこにチェーンして、俺は墓地のエリミネーション・インターセプトの効果を発動!このカードと墓地のジャミングを除外することで、除外されているジャイロードを墓地へ戻す」

「ふんっ、俺はジェネラルを特殊召喚だ」

 

 ゲートが開き、そこからジェネラルが再出撃する。

 

「リンク2以上のドローンが効果で特殊召喚された時、墓地のサージェントを特殊召喚!」

 

 地面に穴が開き、そこからサージェントが浮上する。

 

「ジェネラルの効果発動!墓地から攻撃力2000以下のドローンを特殊召喚!」

「コンパイル・ブラスターの効果発動!その効果を無効にして破壊する!」

 

 コンパイル・ブラスターのレールガンで撃ち抜かれ、ジェネラルは破壊。さらに追加効果で道順は500ダメージを受ける。

 

「俺はドローン・シューターを特殊召喚」

 

 ロングバレルの銃器を装備した小型の戦闘機が、フィールドに現れる。

 

ドローン・シューター

効果モンスター

星4/風属性/機械族/攻 1000/守 1000

このカード名の(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しか行えず、(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)相手フィールドにモンスターが存在する場合、このカードを手札から特殊召喚できる。

(2)このカードが墓地に存在し、自分の「ドローン」モンスターが直接攻撃で相手に戦闘ダメージを与えた場合、または自分の「ドローン」モンスターが効果で特殊召喚された場合に発動できる。このカードを墓地から特殊召喚する。

(3)このカードは直接攻撃できる。

 

 

「ここで俺は墓地のディメンターとラントリクターの効果を発動!ディメンターの効果で除外されているジャミングをセット。ラントリクターの効果でデッキからRUM-超重層(ハイ・エリミネーション)を手札に加える」

「俺はさらに、速攻魔法、ドローン・テイクオフを発動!」

 

ドローン・テイクオフ

速攻魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1)自分のデッキから「ドローン」モンスター1体を手札に加える。その後、手札から攻撃力1000以下の「ドローン」モンスター1体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたモンスターは、このターン、直接攻撃できる。

 

「デッキからスカッド・ドローンを特殊召喚!」

 

 ミサイルのような細長い形状の機体に、輪っか型の翼がついたようなドローンが現れた。

 

スカッド・ドローン

効果モンスター

星3/風属性/機械族/攻 800/守 1100

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが手札・墓地に存在し、自分フィールドに「ドローン」モンスターが存在する場合に発動できる。このカードを特殊召喚する。

(2)このカードが墓地から特殊召喚に成功した場合に発動する。自分はデッキから1枚ドローする。この効果を発動したこのカードは、フィールドを離れた場合、除外される。この効果発動後、ターン終了時まで、自分は「スカッド・ドローン」を特殊召喚できない。

 

「現れろ、勝利を導くサーキット!出撃せよ!リンク2、バトルドローン・ルテナント!」

 

 一機のモンスターがアローヘッドに飛び込み、一機の緑色の武骨な機体へと変化して現れた。

 

バトルドローン・ルテナント

リンク・効果モンスター

風属性/機械族/攻 1000/LINK 2

【リンクマーカー:右/右下】

「ドローン」モンスター2体

このカード名の(1)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードがリンク召喚に成功した場合に発動できる。このカードのリンク先に「バトルドローン・トークン」(機械族・風・星2・攻 500/守 0)1体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたトークンはリンク素材にできず、直接攻撃できる。

(2)このカードは直接攻撃できる。

(3)このカードが墓地に存在し、自分の「ドローン」モンスターが相手の効果で破壊されるか、攻撃を無効にされた場合に発動できる。このカードを墓地から特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたこのカードはリンク素材にできない。

 

「その効果で、バトルドローン・トークンを特殊召喚」

 

 ルテナントの機体のハッチが開き、中から小型の戦闘機が出撃する。

 

「この効果で特殊召喚されたトークンはリンク素材にできない代わりにダイレクトアタックできる。さらに墓地のスカッド・ドローンの効果発動!このカードを墓地から特殊召喚。効果で1枚ドローだ。現れろ、勝利を導くサーキット!」

 

 このターン何度目かも分からないリンク召喚宣言で、道順はアローヘッドを出現させる。

 

「スカッド・ドローンと、リンク2のルテナントをリンクマーカーにセット!リンク召喚!出撃せよ、バトルドローン・ジェネラル!」

 

 アローヘッドより、三度ジェネラルが出撃する。

 

「さらにドローン・スピーダーを特殊召喚」

 

ドローン・スピーダー

効果モンスター

星2/風属性/機械族/攻 1000/守 0

このカード名の(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しか行えず、(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分フィールドにモンスターが存在しない、または「ドローン」モンスターのみの場合、このカードを手札から特殊召喚できる。

(2)自分フィールドに「ドローン」モンスターが他に2体以上存在し、このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「ドローン」魔法・罠カード1枚を手札に加える。

 

「スピーダーの効果でデッキからドローン魔法カードを手札に加える。ジェネラルの効果発動!スピーダーはこのターン、ダイレクトアタックできる!」

 

 最終的にあれだけの妨害を潜り抜けて、四体のドローンモンスターが並んだ。

 

「隊の編成は整った。バトルだ。ドローン・スピーダーでダイレクトアタック!」

「ここだ!俺はカウンター(トラップ)!エリミネーション・リジェクトを発動!」

 

エリミネーション·リジェクト

カウンター罠

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)相手モンスターの攻撃宣言時、自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合に発動できる。その攻撃モンスターを除外する。自分のEXモンスターゾーンに「エリミネーター」Xモンスターがいれば、かわりに相手フィールドの攻撃表示モンスター全てを除外し、除外したモンスターの元々の攻撃力の合計分、自分の「エリミネーター」Xモンスターの攻撃力をアップし、ターンを終了させる。

(2)墓地のこのカードを除外して発動できる。自分の墓地または除外されている「エリミネーター」モンスター2体まで選んでデッキに戻す。

 

「俺のエクストラモンスターゾーンにエリミネーターのエクシーズモンスターがいる時、相手フィールドの攻撃表示モンスター全てを除外し、除外したモンスターの攻撃力の合計分、そのモンスターの攻撃力をアップする!」

 

 コンパイル・ブラスターの主砲から、大出力のエネルギーが放出され、道順の四体のドローンが吹き飛ばした。

 

「やはりな」

 

 だが、モンスターを全滅させられたというのに、道順は動じない。

 

「ジャミングを2枚伏せてあるにも関わらず、俺がエリアスの効果でカタパルトを手札に加えようとした時に、お前はジャミングどころかコンパイル・ブラスターの効果すら使わなかった。リジェクトの効果を確実に通すために、ジャミングを温存していたのだろう?」

「……」

 

 この展開を読まれていたことに、啓は驚かない。

 自分の師匠なら、それくらいしてくるだろうというある種の信頼がある。

 

「俺はドローン・カタパルトの効果を再び発動。手札からドローン・キャリアーを特殊召喚」

 

 三つの球体と翼が合わさったようなドローンが現れる。

 

ドローン・キャリアー

チューナー・効果モンスター

星2/風属性/機械族/攻 800/守 1000

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが「ドローン」カードの効果で特殊召喚に成功した場合、同名カードが自分フィールドに存在しない墓地の「ドローン」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。

(2)自分のバトルフェイズに発動できる。このカードを含む自分フィールドのモンスターで機械族SモンスターをS召喚する。

 

「ドローンの効果で特殊召喚された時、墓地からドローンを特殊召喚!」

「エリミネーション・ジャミングを発動!その効果を無効にして破壊する!」

 

 キャリアーが効果発動のために球体のカメラから光を照射するが、カードから放たれた磁場でその機能は停止させられ、そのまま破壊される。

 

「出し惜しみの必要はなくなったからな。だが、俺は墓地のバトルドローン・ルテナントの効果発動!ドローンモンスターが相手の効果で破壊された時、墓地から特殊召喚!」

「もう1枚のジャミングを発動!ルテナントの効果を無効にして破壊する!」

 

 最後のカウンター罠を使い切り、道順のモンスターの展開を防いだ。

 

「これで、もう展開はできないだろ……」

「本気でそう思っているのか?」

 

 道順は手札に残った最後のカードを見せる。

 

「メインフェイズ2、俺は装備魔法、アセンブル・ドローンを発動。墓地からドローン・シューターを特殊召喚」

 

 がら空きのフィールドに、シューターが蘇生する。

 

「バトルフェイズが終わったのに、今更何を……」

「現れろ、勝利を導くサーキット!リンク召喚!バトルドローン・サージェント!」

 

 シューターがアローヘッドをくぐり、サージェントへと改修されて現れる。

 

「墓地のウォラントの効果発動。自分フィールドのモンスターが、エクストラモンスターゾーンのドローンのみの場合、墓地から自身を特殊召喚できる。さらに効果でドローンが特殊召喚された時、墓地のシューターを特殊召喚!」

 

 さらに二機のドローンが補充され、その様相に啓の表情は険しくなる。

 

「現れろ、勝利を導くサーキット!召喚条件はドローン効果モンスター2体以上!俺はサージェントとシューター、そしてリンク2のウォラントをリンクマーカーにセット!」

 

 アローヘッドに描かれた矢印は、上、左下、下、右下の四つ。

 

「出撃せよ、リンク4!バトルドローン・カーネル!」

 

 現れたのは、四門のライフルと二台のコンテナを積んだ巨大な戦闘機だった。

 

バトルドローン・カーネル

リンク・効果モンスター

風属性/機械族/攻 2600/LINK 4

【リンクマーカー:上/左下/下/右下】

「ドローン」効果モンスター2体以上

このカードの効果の発動に対して、相手は効果を発動できない。

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在せず、このカードがメインフェイズ2にリンク召喚に成功した場合に発動できる。墓地から元々の攻撃力が1000以下の「ドローン」モンスターを可能な限り、攻撃表示で、効果を無効にして、このカードのリンク先に特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたモンスターはリンク素材にできず、直接攻撃できる。この効果でこのカードのリンク先にモンスターが3体特殊召喚された場合、もう1度、自分のバトルフェイズを行う。

(2)このカードの攻撃力を1000にして発動できる。このターン、このカードは直接攻撃できる。

 

「カーネルの効果を発動!墓地から攻撃力1000以下のドローンを可能な限り、このカードのリンク先に特殊召喚する!」

「コンパイル・ブラスターの効果発動!ローディング・クラッチを素材として召喚されたモンスターは、手札のエリミネーターを捨てることで、相手モンスター1体を破壊できる!」

「残念だったな。カーネルの効果に対して、相手は効果を発動できない。いでよ!我が兵士達!」

 

 カーネルのコンテナが開き、ドローン・エリアス、ドローン・シューター、ドローン・サージェントの三機がフィールドに飛来した。

 

「この効果でモンスターが3体特殊召喚された時、もう1度バトルフェイズを行う。そしてカーネルの効果発動!このカードの攻撃力を1000にすることで、このターン、ダイレクトアタックできる!バトルだ!まずはシューターで、ダイレクトアタック!」

 

 啓:LP4000→3000

 

「ドローン・カタパルトの効果発動!自分のドローンが相手に戦闘ダメージを与えた時、このカードを墓地へ送り、相手に1000ダメージ!」

「ぐっ!」

 

 連続で襲い掛かる爆撃、啓のライフを2000まで追い詰める。

 

「カーネルでダイレクトアタック!」

「コンパイル・ブラスターの効果を今度こそ発動!手札のエリミネーターを墓地へ送り、カーネルを破壊する!」

 

 カーネルの攻撃を、コンパイル・ブラスターが迎撃する。

 

「だが俺のモンスターは後二体残っている。ドローン・エリアス!ダイレクトアタック!」

「俺は速攻魔法!RUM-超重層を発動!」

 

RUM(ランクアップマジック) - 超重層(ハイ・エリミネーション)

速攻魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1)自分・相手のXモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターよりランクが1つ高い「エリミネーター」Xモンスター1体を対象のモンスターの上に重ねてX扱いで特殊召喚する。その後、墓地の「エリミネーター」リンクモンスター1枚までをその下に重ねてX素材にできる。

 

「コンパイル・ブラスターをエクス・ランサムウェアへランクアップ!」 

 

 コンパイル・ブラスターの体が分解され、再構築。

 エクス・ランサムウェアへと姿を変えた。

 

敵性機兵(エリミネーター)エクス·ランサムウェア

エクシーズ·効果モンスター

ランク5/風属性/サイバース族/攻 2500/守 2000

風属性·レベル5·効果モンスター×2体以上

このカード名の(1)(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードがX召喚に成功した場合、このカードがX素材として持つリンクモンスター1枚のLINKの数までお互いの使用していないメインモンスターゾーンをそれぞれ指定して発動できる(最大3つ)。指定したゾーンは次の相手のターンのエンドフェイズまで使用できない。

(2)このカードの攻撃力·守備力はこのカードがX素材として持つリンクモンスターのリンクマーカーの数×300アップする。

(3)自分・相手のエンドフェイズにこのカードのX素材2つ、またはX素材のリンク2以上のリンクモンスター1枚を取り除いて発動できる。お互いのメインモンスターゾーンのモンスターを全て破壊する。

 

「今更出したところで襲い!やれ!エリアス!」

 

 啓:LP2000→1000

 

「終わりだ!サージェントでダイレクトアタック!」

 

 サージェントが最後の攻撃のために出撃する。

 だがその直後、エクス・ランサムウェアから放たれたビームによって撃墜された。

 

「何!?」

「……ローディング・クラッチの効果は、自身を素材として召喚されたモンスターと、自身を素材として持つモンスターを素材としてエクシーズ召喚されたモンスターにも適用される」

 

敵性機兵(エリミネーター)ローディング·クラッチ

リンク·効果モンスター

風属性/サイバース族/攻 2100/LINK3

風属性モンスターを含む同じレベルのモンスター3体

【リンクマーカー:右/左/下】

(1)自分・相手のターンに発動できる。このカードのリンク素材となったモンスターのレベルの数と同じランクのXモンスター1体をEXデッキからこのカードの上に重ねてX召喚扱いで特殊召喚する。

(2)このカードまたはこのカードをX素材に持つXモンスターを素材としてX召喚された「エリミネーター」Xモンスターは以下の効果を得る。

●このカードがX召喚に成功した場合に発動できる。自分の墓地·EXデッキからリンクモンスター1体をこのカードの下に重ねてX素材とする。

●このカードがフィールドに表側表示で存在する限り1度、手札から「エリミネーター」カード1枚を捨て、相手フィールドのカード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。この効果は相手のターンでも発動できる。

 

「これで俺は手札のエリミネーター1枚を捨てて、サージェントを破壊したんだ」

「なるほど。だが……」

 

 すると、道順は両手を前に突き出す。

 

「このカードは、相手に戦闘ダメージを与えたモンスター二体を素材に、バトルフェイズ中に召喚できる。俺はレベル4のエリアスとシューターで、オーバーレイネットワークを構築!」

「なっ!」

 

 道順が両手を重ね、その手に集まった光を空へ放つ。

 すると、天に光の渦ができ、そこから照射された光が、フィールドにエックス字のパネルを作り出す。

 

「闇に瞬く閃光、その一射で敵を穿て!エクシーズ召喚!」

 

 パネル上で二機のドローンがデータに分解され、再構築される。

 

「現れろ、ランク4!コマンドローン・ステルスブラック!」

 

 現れたのは、鋭利な形状の黒い機体。

 闇の中から敵を射抜く空の狙撃手だ。

 

コマンドローン・ステルスブラック

エクシーズ・効果モンスター

ランク4/風属性/機械族/攻 2000/守 1000

機械族・レベル4モンスター2体

「コマンドローン・ステルスブラック」は1ターンに1度しか特殊召喚できない。

このカードは自分のバトルフェイズに、このターンに戦闘ダメージを与えたモンスターのみを素材としてX召喚できる。

(1)このカードがバトルフェイズ中にX召喚に成功した場合に発動できる。このターン、このカードは直接攻撃できる。

(2)1ターンに1度、このカードが相手の効果の対象になった時、このカードのX素材1つを取り除いて発動できる。その効果を無効にする。

(3)1ターンに1度、このカードが攻撃対象に選択された時、このカードのX素材1つを取り除いて発動できる。その攻撃を無効にする。

 

「エクシーズ召喚まで使えんのかよ……」

「誰がお前にデュエルを教えたと思っている。ステルスブラックはバトルフェイズ中にエクシーズ召喚に成功した時、このターン、ダイレクトアタックできる!終わりだ!ステルスブラックでダイレクトアタック!」

 

 ステルスブラックが迷彩で姿を消し、次の瞬間、啓の目の前に現れる。

 レーザー砲の砲門が煌き、解き放たれる。

 

 閃光と爆発。

 啓の姿は爆煙に包まれた。

 

「これで今度こそ終わりだ」

 

 だが、爆煙が晴れると同時に、膨大なエネルギーの波動が広がり、道順のドローンを全て破壊した。

 

「なんだと!?」

「俺はステルスブラックの効果にチェーンして、墓地のショットキーの効果を発動していた」

 

敵性機兵(エリミネーター)ショットキー

効果モンスター

星4/風属性/サイバース族/攻 1600/守 1000

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。手札から「エリミネーター」モンスター1体を特殊召喚する。

(2)相手ターンに、自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合、このカードを墓地から除外して発動できる。自分のデッキから「エリミネーション」罠カード1枚をセットする。

 

「こいつでデッキから2枚目のリジェクトをセット。それを発動して、あんたのモンスターを全て除外したんだ」

「そんなもの、いつの間に墓地へ……あの時か」

 

 ローディング・クラッチを素材としてエクシーズ召喚されたモンスターは、その破壊効果を発動するために、手札のエリミネーターをコストとする。啓は二度目の効果発動の際に、ショットキーを墓地へ送っていた。

 

「これで今度こそあんたのモンスターは全滅、攻撃も終わり、そしてエクス・ランサムウェアの攻撃力は、除外したモンスターの攻撃力の合計分アップする」

 

 エクス・ランサムウェア:攻撃力2500→10600

 

「さらにオーバーレイユニットのリンクモンスターのリンクマーカーの合計分、攻撃力アップだ」

 

 エクス・ランサムウェア:攻撃力10600→12100

 

「……ターンエンド」

 

ターン3

 

「なあ、師匠」

 

 既に勝負は決した。

 その状態で、啓は静かに攻撃を待つ道順に声をかける。

 

「俺はさ、これでもあんたには感謝してるんだ。多分、あんたに会えなかったら、俺はずっと、暗い部屋に閉じこもっていたままだった。あんたは、自分のせいで、俺がこうなったって思ってるかもしれないけど、逆なんだよ。俺はあんたに戦う術を教わった。生きる術を教わった。まだあんたには遠く及ばないかもしれないけど……」

「何が言いたい?」

「……やっぱ、人と話すのは苦手だな」

 

 道順にせかされて、啓は苦笑する。

 

「その……うまく言えないけど、俺にとって、あんたはちゃんと父親だった。それだけ、伝えたかった」

「……そうか」

「Aiのことは俺と、俺の友達がどうにかする。だから今だけは、出来の悪い弟子を信じてくれ」

「デュエルを続けろ」

 

 道順はそれには答えず、啓の攻撃を促した。

 彼のフィールドにカードはなく、手札もゼロ。

 

 対する啓も、あれだけあった大量の伏せカードを全て使い切った。

 

 文字通り互いの全てを賭けた戦いに終止符が打たれる。

 

「バトルだ。エクス・ランサムウェアで、ダイレクトアタック」

 

 ダイレクトアタック宣言と同時に、エクス・ランサムウェアの装備したレールガンから閃光が放たれる。

 

「強くなったな。啓」

 

 彼には聞こえない声でそう呟き、道順のライフはゼロになった。

 

 

 ◆

 

 デュエルが終了すると、疲れからか、啓は息を切らしてその場に座り込んだ。

 

「俺、勝ったんだよな……」

 

 これまで一度も勝てなかった師匠、自分の目標だったブラッドシェパードこと道順健吾に勝利したという事実を飲み込めず、しばらく放心状態になっていた。

 

「勝者がなんて顔している?」

 

 すると、道順が彼に近付いて手を差し出す。

 その行動に少し意外そうな顔をしながらも、啓はその手を取った。

 

「あ、そうだ。一個頼みたいことがあるんだけど……」

「なんだ? 闇のイグニスのところには行かないのか?」

「それは友達(あいつ)に任せるよ。実は少し調べたいところがあるんだけど、俺一人じゃどうにもならなくて、師匠の手を、貸してほしいんだけど……」

 

 言いながら啓は少し不安そうな顔になった。

 これまで幾度も人に頼るなと、他ならぬ彼に教え込まれて来たので、面と向かって『お願い』をするなど、初めてのことだったのだ。

 

「……どこへ行きたい?」

 

 しかし、彼はあっさりと承諾し、路肩に停められた自身のバイクを指差した。

 

「実は……」

 

 啓から目的地を聞いて、訝しむような顔をする。

 

「今さらそんなところに何をしに行く気だ?」

「何もないかもしれないけど、もう一度調べてみたいんだ」

「……乗れ」

 

 そんな彼の真剣な表情に負けたのか、あるいは単なる親心か、道順は啓を後ろに乗せて走り出す。

 

「バイクあると移動も便利だな」

「免許を取ったら、あのガールフレンドを乗せてやるといい」

「か、彼女じゃねぇし……あんたこそ、いい加減ババアとより戻せよ」

「俺の前であの女の話はするな」

「同じ台詞をババアからも聞いたよ」

 

 啓はため息を吐いて、ふと空を見上げる。

 

(遊作、こっちはやれることをやる。そっちはそっちでしっかりやれよ)



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小話:作者の作品語り(オリキャラとオリカ編その2)

 こんにちは。作者の師走Fです。

 最近更新頻度が低下していますが、ちゃんと完結させますのでご安心を。

 

 今回は間を繋ぐために小話その2となっています。前回紹介しきれなかったオリキャラやオリカについて語っていきたいと思います。今回から原典から改変された設定について、その理由なども交えてお話しします。興味ない方は読み飛ばしてもらって構いません。

 

・夢乃切花/ジャックナイフ

さて、前回紹介できなかったオリキャラと言えば、皆さんの頭に真っ先に浮かぶのは切花ちゃんでしょうか。

まだ本編でも謎を残しているので、その辺には触れずに語っていきます。

まず彼女を物語に組み込むきっかけになったのは、僕の当初の予定としては、ハノイの三騎士はリストラorモブ化する予定だったんですよね(実際バイラ以外の二人はほぼそうなってますし)。

そこにキャラの濃いハノイ幹部として、オリキャラを組み込む予定でしたが、結局敵の数が足りずに、三騎士も登場させました。

また、一人くらいは性別を偽ったキャラが欲しかったので、ジャックナイフは少年のアバターに設定しました。

とはいえリアルでもボクっ娘なので、この設定が生きているかは正直微妙なところ。性格や言動もほぼ変わりませんし。強いて言えばジャックナイフ状態だと、沸点が低くキレやすいってところでしょうか。この辺は、彼女の素に近い姿だからですね。

ブルーエンジェルに対して罵詈雑言を浴びせて泣かせるシーンは書いてて楽しかったです。ハイ。

ハノイの塔編が終わってからは日常回での出番が多くなり、自然と葵ちゃんや遊作との絡みも増えましたね。

遊作は切花のことを疑っていたものの、ジャックナイフと二度目のデュエルを境に、彼女への態度が少しだけ軟化していますね。葵ちゃんとは永遠にキャットファイトをしていますが、なんだかんだ仲良しですね。

 

ちなみにCVのイメージは大久保 瑠美さん

 

使用デッキ【アニマイール】

原作よりもサイバース率高めな本作においては貴重なアンデット族のデッキ。

相手モンスターで融合することをコンセプトとしたデッキで、リンク3モンスターは自身のリンク先の相手モンスターを使って融合召喚を行えます。

このテーマはカード効果もコンセプトも初期構想からほとんどブレることがありませんでした。

とりあえず融合テーマを作るにあたって、リンクモンスターを間に挟みたい→じゃあリンク先の相手モンスターを巻き込もう→相手モンスターで融合するなら種族変更が容易なアンデット族で

といった感じで結構勢いでデッキコンセプトを固めました。

 

テーマ名はキリシタン用語で霊魂を意味する「アニマ」とキリスト教の死を司る天使「アズライール」から取りました。名前はもろキリスト教ですが、テーマ内のモンスターはキリスト関係ないので別の名前の方がよかったかもしれない。

 

相手モンスターで融合するテーマなので、超融合とも相性がよく、作中でもジャックナイフは切り札として使っています。

また、アニマイールの特徴としてはもう1つ、下級モンスターの何体かが持つ墓地でリンク素材になれる能力があります。制約として、そのターン、融合モンスターしか特殊召喚できなくなりますが、手札を減らさずリンク素材になれるのは控えめに言ってぶっ壊れだと思います。ただ、アニマイールは展開力が低く、アニマイールリンクモンスターの汎用性が低めなので多分バランスは取れてるはず。

 

そしてアニマイールの切り札と言えばもう1枚。

 

アニマイール・ポルターガイスト

速攻魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できず、このカードの発動に対して、相手はモンスター効果・魔法・罠カードを発動できない。

(1)以下の効果から1つを選択する。同一チェーン上に「アニマイール」リンクモンスターの効果がある場合、さらに、その効果以外の同一チェーン上の効果は全て無効になる。

●相手フィールドのモンスターを任意の数だけ対象にして発動できる。そのモンスターをそれぞれ別のメインモンスターゾーンに移動させる。

●相手のEXモンスターゾーンにモンスターが存在し、相手のメインモンスターゾーンにEXデッキから特殊召喚されたモンスターが存在する場合にそれら2体を対象として発動できる。そのモンスターの位置を入れ替える。

 

相手モンスターの位置を入れ換える魔法。モンスターの位置関係が重要なこのデッキのメインギミックです。

アニマイールリンクモンスターの効果にチェーンすることで、同一チェーン上の他を全て無効にし、さらにそれ以後のチェーンを許さず融合召喚を行えます。

直接的なアドバンテージを取れない代わりに、自分の動きを確実に通す必殺技です。

 

基本的な動きはアンデットワールドをサーチして発動、そこからリンク1のアニマイール・フウロに繋げてポルターガイストをサーチ、リンク素材として墓地へ送ったモンスターを使ってリンク3へ繋げて融合召喚。融合や装備吸収による除去性能が強みなので先攻だと多分弱い。

 

 

・ミネルヴァ

モブに近いキャラにはなりますが、この人も紹介しておきましょう。

LINK VRAINSのランキング4位の女性デュエリストで閃刀姫使い。初登場は16話で、島くんがみんなに見せた録画映像の中で登場しました。

その後、22話でも再登場し、そこではゴッドバードとデュエルしています。同じメインモンスターゾーンを空けて戦うというコンセプトのデッキ同士の対決になっています。

武人系のキャラで、なんとなく古風な喋り方ですが、これは演じているだけでリアルではもうちょっと大人しいタイプの人です。機会があれば書くかもしれません。

 

デッキについては現役OCGプレイヤーにとっては説明不要かもしれませんが、彼女の使うデッキ、【閃刀姫】がデッキビルドパック ダーク・セイヴァーズから登場したテーマで組まれたデッキで、基本的にはエクストラモンスターゾーンのリンクモンスター単騎で戦い、豊富な「閃刀」魔法カードでそれをサポートします。OCGではメインモンスターゾーンから自力でフィールドを離れられるモンスターを合わせたりしますが、ミネルヴァさんは純構築なので入っていません。

前述した通り、ゴッドバードが使うオリテーマのエリミネーターは近しいコンセプトを持っており、特殊ルールなしのちゃんとした対戦を書いてみても面白いしれませんが、それは機会があれば。

 

VRAINS原作ではプロデュエリストが存在していることは示唆されていましたが、Go鬼塚とブルーエンジェル以外が登場することなく終わってしまったので、このようなキャラを作りました。

 

 

・カゲロウ

さて、プロデュエリストといえばもう一人、ミネルヴァと激戦を繰り広げたデュエリスト、LINKVRAINSランキング第2位のカゲロウです。

強さに反して、人気投票では上位20位に入らず、その理由が彼のデュエルスタイル。

デッキは既存テーマの【忍者】ですが、構成カードはほぼオリカで、スピリットペンデュラムモンスターを操り、召喚時効果でアドバンテージを稼いでいくコンセプトとなっています。その戦術のメインとなるカードはこちら。

 

水遁忍者ウォート

スピリット・効果モンスター

スピリット・ペンデュラム・効果モンスター

星3/水属性/戦士族/攻 1600/守 900

【Pスケール:赤8/青8】

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分のスピリット・モンスターが直接攻撃で相手に戦闘ダメージを与えた場合に発動できる。相手の手札をランダムに1枚選んで除外する。

【モンスター効果】

このカードはP召喚でしか特殊召喚できない。

(1)このカードが召喚・P召喚・リバースに成功した場合、数字を1つ宣言して発動できる。相手の手札をランダムに1枚選んで公開する。そのカードが宣言した数字と同じレベルのモンスターカードだった場合、それを除外する。

(2)このカードが召喚・特殊召喚・リバースしたターンのエンドフェイズに発動する。このカードを持ち主の手札に戻す。その後、自分フィールドに変わり身トークン(星1・闇属性・戦士族・攻/守0)1体を特殊召喚できる。

 

作ったはいいですが、バランス調整に迷った挙句に大分微妙な性能になってしまいました

ハンデスの条件が重すぎるので、手札を全部見て、宣言した数字と同じレベルのモンスター1枚をハンデスでもよかった気がする。

スピリットモンスター特有の手札に戻るデメリットはありますが、このデッキの忍者軍団は手札に戻るとトークンを生成します。

エンドフェイズなので自ターンの展開には使えないため、基本的にはただの壁。ペンデュラム効果とかで相手ターンにリンク召喚できるカードがあれば強そう。

 

Go鬼塚やソウルバーナーとは事務所は違いますが、リアルでは交流があり、尊は何度か彼にご飯を奢ってもらっている。16話でも言っていますが、中の人はめちゃくちゃいい人です。

 

ミネルヴァさん共々出番はほとんどありませんでしたが、VRAINSの世界観を掘り下げるうえでは重要なキャラです。

 

 

・原作からの設定変更

ここまで読んでいただいている方はご存知だと思いますが、本作ではロスト事件の被害者を全員幼馴染みにしています。その理由は主に二つあり、一つがVRAINSの批判点として度々あげられている遊作の交遊関係が狭すぎるというのをある程度緩和するためです。

原作ではロスト事件の被害者は全員が全員、その後の物語に関わるわけではありませんでした。遊作や草薙さんのように明確な動機がないので当然ではありますが、ロスト事件という共通点を持つキャラと関わりを持たせられないのは勿体ない。

遊作というキャラクターを掘り下げるうえで、この設定は大いに役立ちました。

尊が初登場する8話の冒頭が分かりやすいですが、遊作が友達とどういう風に話すのか想像して、遊作と他のキャラが絡む描写には気を遣ってるつもりです。

もう一つがVRAINS親いないやつ多すぎ問題の解消です。ロスト事件被害者のうち、少なくもも尊はスペクター親がおらず、遊作も事件後に両親がどうなったのか明らかになっていません(施設にいたので、おそらくは死亡していると思われる)。作劇において、悲劇的なキャラが多すぎると一人一人の印象が霞んでしまいます。

だったらいっそのこと全員孤児して1ヵ所にまとめてやろうというのがこの設定を思い付いた理由だったりします。

ちなみに財前兄妹の両親が存命しているのも、この親いないやつ多すぎ問題解消のためです。

ただこの設定にしたことで発生した問題もあり、それが草薙さんが事件に関わる動機についてです。仁くんと義理兄弟になったことで、彼が事件を追う理由が薄くなってしまってるんですよね。別に義理兄弟でもいいじゃんと思うかもしれませんが、仁くんと出会うのはロスト事件の後、つまり彼が廃人になってからなので、仲良くなるタイミングが存在しないんです。

なのでそこら辺は適度にぼかして描写しています……

 

 

・没になったオリカ解説

 

今回は考えてあったけど没になったネタをここに供養していきたいと思います。

 

エリミネーション・ジャマー

カウンター罠

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在せず、相手が魔法·罠カードが発動した時に発動できる。その効果を無効にして破壊する。その後、自分のEXモンスターゾーンに「エリミネーター」XモンスターのX素材1つを取り除くことで、このターン、相手は無効にしたカードと同じ種類(魔法·罠)のカードを発動できない。

(2)墓地のこのカードを除外し、自分のメインモンスターゾーンのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを除外し、デッキから「エリミネーター」モンスター1体を墓地に送る。

 

エリミネーション罠カードの1枚。

無効にする対象は魔法・罠限定になった代わりに、エリミネーターのX素材1つを使うことで、無効にしたカードと同じ種類のカードの発動をそのターン中封じます。

条件付きではありますが、相手のみの「大寒波」のような効果を発揮できます。

このカードが没になった理由は、言うまでもなく強すぎるからです。

初動で魔法カードを使うスペクターなんかはこれ1枚あるだけで詰みますし、フィールド魔法を軸に戦う美海やソウルバーナー、ブルーエンジェルも大分キツいです。

前回のVSブラッドシェパード戦も、ドローン・カタパルトもアセンブル・ドローンもテイクオフも使えない師匠をボコボコできましたね。

ご存じの通り、【エリミネーター】は墓地効果で罠カードをデッキからセットできるため、こんなもん出したら誰もゴッドバードに勝てなくなるので泣く泣くお蔵入りになりました。

 

冷静に考えれば、禁止カードである大寒波を安定してサーチできる時点で大分イカれてるので、このカードが今後登場することはないでしょう。

 

・その他のオリカ紹介

 

トリックスターバンドVo(ヴォーカル)・ホーリーエンジェル

リンク・効果モンスター

光属性/天使族/攻 2300/LINK3

【リンクマーカー:左下/下/右下】

「トリックスター」モンスター2体以上

このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分の「トリックスター」モンスターの攻撃宣言時に発動する。相手に200ダメージを与える。

(2)フィールドのこのカードを融合モンスターの融合素材とする場合、このカードの代わりに手札の「トリックスター」カードを墓地へ送ることができる。

(3)このカードのリンク先に「トリックスターバンド」モンスターが3種類存在する場合、自分のメインフェイズ2に発動できる。もう1度バトルフェイズを行う。

 

トリックスターバンドがギターしかいないことは、ずっと勿体ない思ってました。

葵ちゃんはその後、ほとんどが出番ないまま、マリンセスに鞍替えしてしまったので、OCGオリジナルでもなければ望み薄でしょう。

そこで思い付いたのがこのカード。

ホーリーエンジェルの正当進化であり、融合サポートとフィニッシュ性能を併せ持つ切り札です。

融合素材となる時に、手札のトリックスターを捨てることで場に置いたまま融合素材にできるという稀有な効果を持ち、相手モンスターで融合する【アニマイール】に対してメタをはれます。

ターン制限のない墓地効果を持つトリックスター・フュージョンに、同じくターン制限のない専用の回収効果を持つベースメリッサを合わせることで、手札を減らさず融合召喚を行うコンボは、融合軸の【トリックスター】としてうまくまとめられたと思っています。

 

ところで、実はトリックスターバンドは、融合テーマではなく、各召喚法に散らすという案もありました。

最終的に融合のみになったのは、劇中で語られているようにジャックナイフの存在を意識したというのもありますが、トリックスターフュージョンの対象カードがギタースイートしかいなかったのも理由の一つです。

 

続いて紹介するのはこちら。

 

ティンダングル・ファイ・ミゼーア

エクシーズ・効果モンスター

ランク3/闇属性/サイバース族/攻 3300/守 300

レベル3の「ティンダングル」モンスター×3

このカードをX召喚する場合、裏側表示の「ティンダングル」モンスターもX素材にできる。

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)相手フィールドの表側側表示のモンスター1体を対象として、このカードのX素材1つを取り除いて発動できる。このカードの攻撃力は300アップし、以下の効果のうちいずれか1つを適用する。この効果は相手のターンでも発動できる。

●対象のモンスターを裏側守備表示にする。

●対象のモンスターの効果を無効にする。

(2)相手フィールドの裏側表示のモンスターは表示形式を変更できない。

(3)相手フィールドのモンスターが裏側表示モンスターのみの場合、X素材のないこのカードは直接攻撃できる。

 

闇堕ち財前晃が使用するエクシーズモンスター。

ティンダングルがクゥトルフ神話に登場する架空の都市、ティンダロスをモチーフとしていることから、このカードはティンダロスの王、ミゼーアと黄金比φを名前に組み込みました。

効果やステータスのいたるところに3が組み込まれており、オーバーレイユニットも、三角形のエフェクトの頂点にそれぞれ固定されるという独特なデザインをしています。

フリーチェーンの無効、もしくは裏側表示への表示形式変更を行え、さらに裏側表示のモンスターの表示形式の変更を禁じます。

配下のティンダングルであるサイン、コサイン、タンジェントはそれぞれ耐性や貫通効果などを付与してサポートします。そしてフィニッシュはこのカード。

 

ピタゴラスの極点

永続魔法

(1)自分の「ティンダングル」Xモンスターの効果を発動するためにX素材が取り除かれた場合に発動できる。このカードにピタゴラスカウンター1つを置く(最大3つ)。

(2)自分・相手のエンドフェイズに、このカードにピタゴラスカウンターが3つ以上置かれていて、自分フィールドにX素材のない「ティンダングル」Xモンスターが存在する場合に発動できる。相手のライフを300にする。

(3)墓地のこのカードを除外して発動できる。デッキから「ピタゴラスの極点」または「ジェルゴンヌの終焉」1枚を手札に加えるか、セットする。この効果でセットされたカードはセットされたターンでも発動できる。

 

相手のライフを強制的に300に変更するこのカードで、ライフを削りきります。

闇堕ちキャラは、それぞれデッキは元のテーマを使いつつ、エースなどの一部のカードを変えることで、デッキを別物に仕上げています。

 

・終わりに

いかがだったでしょうか

次回はいよいよプレイメーカーVS Ai、そして真相編です。

なるべく早く投稿しますので、お楽しみに



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第57話:RAGNAROK

 LIKE VRAINS、最果てのエリア。

 

 Dボードに乗って現れたプレイメーカーを、Aiは待ち構えるように、崖の端で仁王立ちしていた。

 

「よう。久しぶりだな」

 

 姿が変わっても、中身は変わらないAiを見て、プレイメーカーは思わず安堵の息を漏らした。

 

「お前、本気で人間を攻撃する気なのか?」

「ああ。なんのために、あの無人兵器を奪ったと思ってるんだ?AIを使って戦争しようとしているやつらを全員ぶっ殺す。Aiちゃんによる地球のお掃除ってわけだ」

「お前、ふざけて……」

「ふざけてなんかいねぇよ」

 

 先程のおどけた態度から一転して、ドスの効いた声でAiは威圧する。

 

「さて、じゃあ準備は整ったな」

 

 そしてまたいつもの調子に戻ると、Aiは指を鳴らす。

 すると、彼らの周りにいくつかモニターが出現した。

 

「これは……」

「俺はデンシティ中の電子機器を掌握したって言っただろ? 俺達のデュエルを全世界の皆さんに届けるのさ。これは人類とAI、その未来を決めるための戦いだ」

「……こんなことをして、何になるって言うんだ!」

「必要な手順なんだよ」

 

 Aiは意味深なことを言って、デュエルディスクを構える。

 

「覚悟を決めろ。このデュエルに負ければ、お前は大切な人たちを失う。そうなりたくなきゃ戦え。プレイメーカー」

「……いくぞ」

 

「「デュエル!」」

 

ターン1 プレイメーカー

 

「俺は永続魔法、サイバネット・オプティマイズを発動。1ターンに1度、サイバース族モンスターを召喚できる。俺はサイバース・ウィザードを召喚」

 

円柱形のワープゲートが展開され、中から白いローブを着た電脳の魔術師が出現した。

 

「さらに、自分フィールドにレベル4のサイバース族がいる時、手札のサイバース・マジガールを特殊召喚!」

 

 白を基調としたローブの緑髪の少女が、長い前髪から瞳を覗かせる。

 

サイバース・マジガール

効果モンスター

星3/光属性/サイバース族/攻 1300/守 600

このカード名の(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しか行えず、(3)の効果はデュエル中、1度しか使用できない。

(1)自分フィールドにレベル4のサイバース族モンスターが存在する場合、このカードを手札から特殊召喚できる。

(2)1ターンに1度、相手フィールドの守備表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの守備表力を半分にし、その数値分、自分フィールドに他のサイバース族モンスター1体の攻撃力をアップする。

(3)このカードがリンク素材となって墓地に送られた場合、自分の墓地のそのリンク召喚の素材とした「サイバース・ウィザード」1体を対象として発動できる。そのモンスターを攻撃表示で特殊召喚できる。

 

「魔法カード、サイバネット・クロージャを発動!」

 

サイバネット・クロージャ

通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1)デッキからカード1枚を選んで裏側表示で除外する。自分の攻撃力2300以上のサイバース族リンクモンスターが戦闘で相手モンスターを破壊した時、この効果で除外したカードを手札に加えるか、墓地に戻す。

 

「デッキからカード1枚を裏側で除外する。この効果で除外したカードは、自分の攻撃力2300以上のサイバース族リンクモンスターが戦闘で相手モンスターを破壊した時、手札に加えるか、墓地へ送る」

「何か仕込みやがったな」

 

 Aiが除外したカードについて考察している間に、プレイメーカーは展開を続ける。

 

「現れろ、未来を導くサーキット!俺はサイバース・ウィザード、サイバース・マジガールをリンクマーカーにセット!」

 

 2体のモンスターが螺旋状のエネルギーとなって、空に現れたアローヘッドに吸い込まれる。

 

「リンク召喚!リンク2、サイバース・ウィッチ!」

 

 アローヘッドより、肌にピッタリ張り付く服装の赤髪の魔女が現れた。

 

「リンク素材となったサイバース・マジガールの効果発動!墓地からサイバース・ウィザードを特殊召喚!」

 

 サイバース・ウィッチの背後に、幾何学模様の魔法陣が展開され、そこをくぐってサイバース・ウィザードが蘇る。

 

「サイバース・ウィッチの効果発動!リンク先にモンスターが特殊召喚された時、デッキからサイバース族儀式モンスターと、サイバネット・リチューアルを手札に加える。サイバース・ウィッチのさらなる効果!墓地からレベル4以下のサイバース族モンスター、サイバース・マジガールを特殊召喚!」

 

 サイバース・ウィッチが杖を掲げると、その左後ろに魔法陣が展開され、サイバース・マジガールが登場する。

 

「さらにサイバース・シンクロンを通常召喚!」

 

 白い輪っかの中央に顔のパターンがついた飛行物体が、フィールドに現れる。

 

「サイバース・シンクロンの効果発動!サイバース・マジガールのレベルを倍にする!」

 

 サイバース・シンクロンがエネルギーを送り込むと、サイバース・マジガールの体を白いオーラが包み込む。

 

「現れろ、未来を導くサーキット!召喚条件は効果モンスター2体以上!俺はリンク2のサイバース・ウィッチと、手札のサイバース・マジシャンガールをリンクマーカーにセット!このカードは、フィールドのサイバース族モンスターをリンク素材にする時、手札からリンク素材にできる!リンク召喚!リンク3、デコード・トーカー!」

 

 アローヘッドより、青い鎧をまとう電脳の騎士が降り立った。

 

「俺は儀式魔法、サイバネット・リチューアルを発動!サイバース族儀式モンスターを儀式召喚する!俺はレベル6となったサイバース・マジガールをリリース!」

 

 サイバース・マジガールーの足元に、青い魔法陣が描かれる。

 それらは六つの青い炎となって、魔法陣の外周に灯り、一体のモンスターを呼び出す。

 

「儀式召喚!レベル6、サイバース・マジシャンガール!」

 

 現れたのは、サイバース・マジガールが成長した姿のような、白と青のローブをまとった大人びた女性だった。

 

サイバース・マジシャンガール

儀式・効果モンスター

星6/闇属性/サイバース族/攻 2000/守 1700

「サイバネット・リチューアル」により降臨

自分の「サイバネット・リチューアル」の効果で、墓地にあるこのカードを儀式召喚できる。

このカード名の(1)(2)(3)(4)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分フィールドのサイバース族モンスターをリンク素材とする場合、手札のこのカードもリンク素材にできる。

(2)このカードが儀式召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「サイバース・マジシャンガール」以外のサイバース族モンスター1体を手札に加える。「バックアップ・セクレタリー」、「サイバース・マジガール」、「サイバース・ウィザード」のいずれかをリリースして儀式召喚していれば、さらにデッキ・墓地から「サイバネット」魔法・罠カード1枚を手札に加える。

(3)自分のサイバース族儀式モンスターの儀式召喚する場合、このカード1枚で儀式召喚に必要なレベル分のリリースとして使用できる。

(4)儀式召喚されたこのカードがフィールドから墓地へ送られた場合に発動できる。デッキから以下のいずれか1枚を手札に加える。

●レベル6以外のサイバース族儀式モンスター

●サイバネット・フュージョン

 

「墓地から儀式召喚、いつの間にそんなカードを……」

「サイバース・マジシャンガールの効果発動!デッキからサイバース族モンスター1枚を手札に加える。さらにサイバース・マジガールを素材にしていれば、デッキか墓地から「サイバネット」魔法・罠カード1枚を手札に加える。俺は墓地からサイバネット・リチューアルを回収し、そのまま発動!」

 

 サイバース・マジシャンガールの足元に、魔法陣が展開される。

 

「契約は結ばれた。魔女の魂は闇の力を操る賢者へと受け継がれる」

 

 マジシャンガールの体が炎に包まれ、その蒼炎は七つに分かれて、魔法陣の外周に灯される。

 

「儀式召喚!レベル7!サイバース・マジシャン!」

 

 炎は中心に寄り集まり、その中からサイバース・マジシャンが降臨した。

 

「しょっぱなから飛ばすじゃねぇか」

「まだ終わりじゃない。墓地へ送られたサイバース・マジシャンガールの効果発動!デッキからサイバネット・フュージョンを手札に加える。現れろ、未来を導くサーキット!」

 

 サイバース・シンクロンとウィザードがリンクマーカーにセットされる。

 

「リンク召喚!スプラッシュ・メイジ!効果発動!墓地からサイバース・シンクロンを特殊召喚!」

 

 スプラッシュ・メイジが杖を回転させると、その軌跡に合わせて無数の泡が宙に浮かび、中からサイバース・シンクロンが飛び出した。

 

「現れろ、未来を導くサーキット!リンク召喚!トランスコード・トーカー!その効果でスプラッシュ・メイジを墓地から特殊召喚!さらにリンク召喚!」

 

 トランスコードとスプラッシュ・メイジの二体が、アローヘッドに螺旋の光となって吸い込まれ、その外周に上下左右のリンクマーカーを描く。

 

「唸れ嵐!虚構に渦巻く旋風は、万物を震わす竜の雄叫びとなる!」

 

 アローヘッドから竜巻が噴き上げ、風の中から一体の竜が飛び出す。

 

「出でよリンク4!ファイアウォール・ドラゴン!」

 

 機械の翼が風を振り払い、白いサイバースの竜がその姿を現した。

 

「ファイアウォール・ドラゴン、俺達が最初に掴んだリンクモンスターか」

 

 現れたファイアウォールを見て、Aiは感慨深げに呟く。

 

「そうだ。お前から貰ったスキルのお陰で、俺はファウストを倒すことができた」

「そうだったな」

 

 Aiは懐かしむようにフッと笑う。

 

「それで? こいつを出せば俺の気が変わるとでも?」

「……俺はこれでターンエンド」

 

 

ターン2 Ai

 

「自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない時、手札のレインボーイ@イグニスターを特殊召喚できる」

 

 フィールドに白い体に七色のラインが入った一つ目の人型のモンスターが現れる。

 

レインボーイ@イグニスター

効果モンスター

星4/光属性/サイバース族/攻 1500/守 800

このカード名の(1)(2)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合に発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。この効果発動後、ターン終了時まで、自分はサイバース族モンスターしか特殊召喚できない。

(2)自分のEXデッキから攻撃力2300のサイバース族モンスター1体と手札の「@イグニスター」モンスターを公開して発動できる。このターンのエンドフェイズまで、公開した手札のカードを公開し続け、その属性を公開したEXデッキのカードと同じにする。

(3)自分のメインフェイズに、墓地のこのカードを除外して発動できる。手札からレベル4以下の「@イグニスター」モンスター1体を特殊召喚する。この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できない。

 

「現れろ、闇を導くサーキット!リンク召喚!ダークインファント@イグニスター!」

 

 レインボーイがアローヘッドをくぐり、紫色の体をしたモンスターへと生まれ変わる。

 

「その効果で、デッキからイグニスターAiランドを手札に加え、発動。自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない時、@イグニスターを手札から特殊召喚できる!来い、アチチ@イグニスター!」

 

 赤いスライム状の生命体が、ダークインファントの後ろに現れる。

 

「アチチの効果で、デッキからドシンを手札に加える。ドシンは場に@イグニスターがいれば、特殊召喚できる!」

 

 さらに茶色い生命体がアチチの隣に出現し、彼の場に3体のモンスターが並ぶ。

 

「現れろ、闇を導くサーキット!」

 

 Aiの場の三体のモンスターが、赤い螺旋となってアローヘッドへと吸い込まれる。

 

「闇影開闢、世界に散らばりし闇夜の英知。我が手に集い、覇気覚醒の力となれ!リンク召喚!ダークナイト@イグニスター!」

 

 紫の鎧をまとった電脳の騎士が、大剣を振りかざしてフィールドに降り立った。

 

「イグニスターAiランドの効果を発動!手札からブルルを特殊召喚!効果でデッキからピカリを墓地へ送る。そしてダークナイトの効果発動!」

 

 ダークナイトが剣を掲げて、雄叫びを上げる。

 

「リンク先にモンスターが特殊召喚された時、墓地のレベル4以下の@イグニスターを自身のリンク先に可能な限り、効果を無効にして特殊召喚する!蘇れ!アチチ、ピカリ!」

 

 ダークナイトの号令に従い、地面に開いた黒い穴から二体の@イグニスターが飛び出した。

 

「まだまだ行くぜ!俺はレベル4のピカリに、レベル3のブルルをチューニング!」

 

 二体のモンスターが粒子へと分解される。

 

「闇路をさまよいし混沌!蒼穹を駆ける疾風が道ひらく!」

 

 粒子が集まって、空に七つの輪を作り、その中心を光が貫いた。

 

「シンクロ召喚!ウィンドペガサス@イグニスター!」

 

 現れたのは、風を纏う電脳の天馬だ。

 

「ブルルの効果発動!シンクロ素材となった時、共にシンクロ素材となったピカリを特殊召喚!」

 

 フィールドに木枯らしが起こり、風の中からピカリが蘇る。

 

「ピカリの効果で、デッキからAi魔法・(トラップ)カード1枚を手札に加える。さらにピカリの二つ目の効果発動!アチチをレベル4に変える!」

「レベル4のモンスターが二体……」

「俺はレベル4のアチチとピカリで、オーバーレイネットワークを構築!」

 

 Aiが両手を重ねて、その手に宿る光を空へ放つ。

 天にエックス字のパネルが現れ、そこから降り注ぐ光がアチチとピカリを包み込む。

 

「怪力乱神、驚天動地!その力、久遠の慟哭から目覚めよ!」

 

 空のより雷が降り注ぐ。

 

「エクシーズ召喚!現れろ、ライトドラゴン@イグニスター!」

 

 雷の中から、金色の竜が雄叫びをあげた。

 

「ライトドラゴンには、自分の@イグニスターの数だけ相手モンスターを破壊する効果がある」

「そうはいくか!俺はファイアウォールの効果発動!」

 

 ファイアウォールが翼を広げると、その背にエネルギーが集まり、巨大な光の輪を生み出す。

 

「このカードと相互リンク状態のモンスターの数だけ、フィールド・墓地のモンスターを対象に手札に戻す!エマージェンシー・エスケープ!」

 

 ファイアウォールが雄叫びを上げると、その翼からエネルギーが放たれ、ライトドラゴンをエクストラデッキに戻した。

 

「ま、そう来るよな。つってもどうすっかなー。サイバース・マジシャンがいる限り、俺は他のモンスターを攻撃できねぇし」

 

 わざとらしく考えるそぶりを見せるAiだったが、プレイメーカーが険しい顔を崩さなかったのを見てため息を吐く。

 

「お前、もうちょっとノリよくなれよ。そんなんじゃモテねぇぞ? 俺がいなくなった後とか、友達とちゃんとやってけんのか?」

「そんなこと、想定させるな」

「……ウィンドペガサスの効果発動!サイバネット・オプティマイズは破壊だ!」

 

 ウィンドペガサスが羽ばたくと、その風がプレイメーカーの

 

「バトルだ!ダークナイト@イグニスターで、サイバース・マジシャンを攻撃!」

 

 ダークナイトがサイバース・マジシャンに突貫する。

 

「俺は速攻魔法、Ai打ちを発動!ダークナイトの攻撃力を、サイバース・マジシャンと同じにする!」

 

 同じ攻撃力となった二体がぶつかり合う。

 本来なら相打ちだが、Ai打ちにはもう一つ効果がある。

 

「墓地のAi打ちを除外することで、ダークナイトはバトルで破壊されない」

 

 ダークナイトの剣が、サイバース・マジシャンを切り裂いた。

 

「そしてAi打ちの効果で、破壊されたモンスターの元々の攻撃力分のダメージを、持ち主のプレイヤーに与える!」

「サイバース・マジシャンの効果!ダメージを半分にする!」

 

 死の間際に、サイバース・マジシャンが魔術の障壁を展開し、プレイメーカーに与えられるダメージを軽減した。

 

 プレイメーカー:LP4000→2750

 

「ダークナイトの効果発動!戦闘で相手モンスターを破壊した時、墓地のサイバース族モンスターを特殊召喚する!俺は墓地のドシンを特殊召喚!」

 

 ダークナイトの背後に黒い穴が空き、中からドシン@イグニスターがピョコンと飛び出した。

 

「俺は速攻魔法カード、助け-Aiを発動!」

 

助け-Ai

速攻魔法

このカード名のカードは1ターンに1度しか発動できない。

(1)自分フィールドの攻撃力2300のサイバース族モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターをデッキに戻し、手札・デッキ・EXデッキからそのモンスターと属性が異なる攻撃力2300のサイバース族モンスターを召喚条件を無視して特殊召喚する。この効果で手札から特殊召喚に成功した場合、自分はデッキから1枚ドローする。

 

「ウィンドペガサスをエクストラデッキに戻し、エクストラデッキから属性が異なる攻撃力2300のサイバース族モンスターを特殊召喚する!気炎万丈!炎の大河から蘇りし魂、灼熱となりてここに燃え上がれ!」

 

 ウィンドペガサスの体が炎に包まれ、真っ赤な炎の中から一体の不死鳥が翼を広げる。

 

「ファイアフェニックス@イグニスター!」

 

 業火より現れたのは、灼熱の翼を持つ紅の不死鳥だった。

 

「ファイアフェニックスで、ファイアウォール・ドラゴンを攻撃!この瞬間、ファイアフェニックスの効果発動!戦闘ダメージを0にする代わりに、相手に自身の攻撃力分のダメージを与える!」

「ぐわぁっ!」

 

 ファイアフェニックスの放った熱線が、プレイメーカーのライフを残り450まで追い詰める。

 

「だが、ファイアウォールの方が攻撃力が上だ!」

 

 直後、迎え撃つファイアウォール・ドラゴンが、ファイアフェニックスに掴みかかり、不死鳥を地面に叩き落とした。

 

 Ai:LP4000→3800

 

「じゃあドシンの効果発動!墓地のリンクモンスター、ダークインファイトをエクストラデッキに戻し、デッキからAiラブ融合を手札に加える。そして魔法カード、Aiラブ融合を発動!お前のファイアウォール・ドラゴンと、俺のドシンを融合する!」

 

 二体のモンスターがそれぞれ赤と青の光となってフィールド中央に現れた渦の中に吸い込まれる。

 

「謳え大地よ!破滅の巨人の誕生を祝福せよ!融合召喚!アースゴーレム@イグニスター!」

 

 渦の中より、岩の鎧を装備した電脳の巨人が姿を現した。

 

「俺はカードを2枚伏せてターンエンド」

 

ターン3 プレイメーカー

 

「俺は魔法カード、サイバネット・ドローを発動!」

 

サイバネット・ドロー

通常魔法

自分フィールドにリンク3以上の「コード・トーカー」モンスターが存在する場合、このカードの発動と効果は無効化されない。

(1)自分のフィールド・墓地・除外されているサイバース族リンクモンスターのリンクマーカーの合計が8以上の場合、自分のメインフェイズ1開始時に発動できる。自分はデッキから2枚ドローする。この効果発動後ターン終了時まで、自分はデッキからカードを手札に加えられない。

 

「デッキから2枚ドロー。俺はさらに、クロック・ワイバーンを召喚!その効果で、自身の攻撃力を半分にして、クロック・トークンを特殊召喚!」

「クロック・ワイバーンか。てことは……」

「俺はさらに、魔法カード、サイバネット・コードチェンジを発動!」

 

サイバネット・コードチェンジ

通常魔法

(1)自分フィールドの「コード・トーカー」リンクモンスター1体をリリースして発動できる。そのモンスターのリンクマーカーの数以下のリンクマーカーを持つサイバース族リンクモンスター1体を、墓地から特殊召喚する。

 

「俺はデコード・トーカーをリリースして、墓地からトランスコード・トーカーを特殊召喚!」

 

 デコード・トーカーの体がデータへ分解され、トランスコード・トーカーの体が再構築される。

 

「トランスコード・トーカーの効果発動!墓地からスプラッシュ・メイジを特殊召喚!さらにスプラッシュ・メイジの効果で、墓地からサイバース・マジガールドを効果を無効にして特殊召喚!そして魔法カード、サイバネット・フュージョンを発動!自分フィールド、墓地のモンスターでサイバース族を融合召喚する!その時、俺のエクストラモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合、墓地のリンクモンスターも1体まで融合素材にできる!俺はトランスコード・トーカー、スプラッシュ・メイジ、クロック・ワイバーン、そして墓地のデコード・トーカーを融合!」

 

 フィールド中央に光の渦が生まれ、その中に4体のモンスターが吸い込まれる。

 

「今、雄大なる翼の元に集いし強者達よ。新たな伝説となれ!」

 

 四体のモンスターの力を得て、渦巻く光は膨張し、爆ぜる。

 

「融合召喚!サイバース・クロック・ドラゴン!」

 

 現れたのは、紫の水晶を纏う電脳の竜だった。

 

「融合召喚に成功した時、サイバース・クロック・ドラゴンの効果発動!素材となったリンクモンスターのリンクマーカーの合計分、デッキの上からカードを墓地へ。その枚数×1000ポイント、このカードの攻撃力をアップする!」

「融合素材になったリンクマーカーの合計はえーっと……」

「俺はデッキから8枚を墓地へ!」

 

 サイバース・クロック・ドラゴン:ATK2500→10500

 

「最後まで言わせろよ……」

「俺はさらに、墓地のマルチ・スケーパーの効果発動!」

 

マルチ・スケーパー

効果モンスター

星3/光属性/サイバース族/攻 1200/守 1400

(1)このカードが手札・墓地に存在する場合、自分のEXモンスターゾーンのサイバース族モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターをメインモンスターゾーンに移動させ、このカードを特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたこのカードは、フィールドを離れた場合、除外される。

(2)自分の墓地の通常召喚可能なモンスター1体を対象として発動できる。このターン、このカードは対象のモンスターと同じカード名として扱う。

 

「クロック・ドラゴンをメインモンスターゾーンに移動させ、自身を特殊召喚!」

 

 クロック・ドラゴンが後ろに下がり、その隣に筒状のカメラが三つ合わさったようなモンスターが出現した。

 

「マルチ・スケーパーの効果発動!俺の墓地のバックアップ・セクレタリーを選択し、自身のカード名を対象のモンスターと同じにする!」

「バックアップ・セクレタリーのカード名を得た?」

「さらにこのカードは、自分フィールドのサイバース・マジガールかバックアップ・セクレタリーをチューナー扱いとしてシンクロ召喚できる!俺はレベル3のマルチ・スケーパーに、レベル3のサイバース・マジガールをチューニング!」

 

 二体のモンスターが粒子へと分解され、上空で六つのリング状のエフェクトに再構築される。

 

「シンクロ召喚!レベル6、CYプロセッサー・ガールズ!」

 

 リング状のエフェクトを光が貫く。

 その光柱の中から、お揃いのゴーグルをつけた二人の少女が現れた。

 

CYプロセッサー・ガールズ

チューナー・シンクロ・効果モンスター

星6/光属性/サイバース族/攻 2000/守 1000

サイバース族のチューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

このカードをS召喚する場合、自分の「バックアップ・セクレタリー」または「サイバース・マジガール」をチューナーとして扱える。

このカード名のカードは1ターンに1度しか特殊召喚できない。

(1)このカードはS素材としたモンスターによって以下の効果を得る。

●「バックアップ・セクレタリー」:このカードがS召喚に成功した場合に発動できる。自分の墓地のサイバース族モンスター1体を選んで、手札に加える。この効果で手札に加えたモンスター及びその同名モンスターはこのターン、召喚・特殊召喚できない。

●「サイバース・マジガール」:1ターンに1度、相手フィールドの攻撃表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの攻撃力を半分にし、その数値分、このカード以外の自分フィールドのサイバース族モンスターの攻撃力をアップする。

(2)このカードが墓地に存在し、自分フィールドにS召喚されたチューナー以外のサイバース族のSモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターのレベルを1つ下げ、このカードを特殊召喚する。この効果発動後、ターン終了時まで、自分はサイバース族モンスターしか特殊召喚できない。

 

「CYプロッセサー・ガールズの効果発動!バックアップ・セクレタリーを素材としている時、墓地のサイバース族モンスターを手札に加える。さらに!サイバース・マジガールを素材としている時、相手の攻撃表示モンスター1体の攻撃力を半分にする!」

 

 二人の少女が指さすと、その先、アースゴーレムにスポットライトが当たり、攻撃力が下がる。

 

 アースゴーレム@イグニスター:ATK2300→1150

 

「そしてその数値分、自身以外のサイバース族モンスターの攻撃力をアップする!」

 

 再び少女たちが、今度はクロック・ドラゴンを指さすと、そこへスポットライトが当たり、攻撃力が加算された。

 

 サイバース・クロック・ドラゴン:ATK10500→11650

 

「なら俺はセットされた速攻魔法、助け-Aiを発動!アースゴーレムをエクストラデッキに戻し、デッキからウォーターリヴァイアサン@イグニスターを特殊召喚!」

 

 攻撃力の下がったモンスターを戻して、代わりにウォーターリヴァイアサンがフィールドに出る。

 

「だが、サイバース・クロック・ドラゴンの攻撃力は既にお前のモンスターを大きく超えている」

「ああ。さすがに一万はヤバいな」

 

 Aiのその反応に、プレイメーカーは何かを感じ取る。

 

「バトルの前に、俺はレベル6のCYプロセッサー・ガールズを、レベル1のクロック・トークンにチューニング!紫電一閃、未知なる力が飛竜乗雲となる!シンクロ召喚!サイバース・クアンタム・ドラゴン!」

 

 現れたクアンタム・ドラゴンの姿を見て、Aiはおどけたように口笛を吹く。

 

「おいおい。攻撃力1万を従えといて、まだ足りねぇってか?」

「何かあるのはもう分かっている!バトルだ!サイバース・クロック・ドラゴンで、ダークナイトを攻撃!」

 

 一万を超える攻撃力が、ダークナイトへ迫る。

 

「俺は罠カード、Ai-SHOWを発動!エクストラモンスターゾーンに、リンク3以上の@イグニスターがいる時、攻撃力の合計が、バトルしている相手モンスター以下になるように、リンクモンスター以外の攻撃力2300のサイバース族モンスターを任意の数だけ特殊召喚する!」

「なに!?」

 

 天から降り注ぐ光が、光のカーテンを作り出し、揺らぐそれらの中からライトドラゴン、ウィンドペガサス、アースゴーレムの3体のモンスターが呼び出される。

 

「そして、バトルを終了させる」

 

 光のカーテンに阻まれ、クロック・ドラゴンの攻撃は不発に終わった。

 

「くっ、俺はこれでターンエンド」

 

ターン4

 

「さて、俺のターンだ。俺は前のターンに破壊されたファイアフェニックスの効果発動。自分のスタンバイフェイズに、破壊されたファイアフェニックスは特殊召喚される」

 

 地面から炎を噴き上げ、ファイアフェニックスが再び地上に舞い降りた。

 これでAiのフィールドには、6体6属性、彼らイグニスを象徴するモンスター達が並んだ。

 

「みんな、いなくなっちまったんだよな」

「……全員じゃない。ライトニングだけはまだ生きている」

 

 そんな言葉が慰めになるはずもないと分かっていたが、プレイメーカーは事実を伝える。

 

「そうか。あいつ、まだ見つかってないのか?」

 

 しかし、彼は驚く様子もなく、むしろ彼らがライトニングを探していることを知っているかのような言葉を返した。

 

「まあ、こうなった現況だとしても、生き残ってくれたんなら、まあよかったのかな」

「お前は、人間に復讐する気なのか?」

「復讐じゃねぇよ。こうなることは、最初から決まってたんだ」

「……どういう意味だ?」

 

 Aiは短く息を吐き、プレイメーカーを見つめる。

 

「鴻上博士の最後のレポート、あれには、イグニスが人間にどんな影響を与えるのか、そのシミュレート結果が記されていた」

 

 そしてAiは語り始めた。

 

 鴻上博士がイグニスを葬ることを決めるきっかけとなった未来予測(シミュレート)

 その全容を。



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第58話:The future that should be

 それはあったかもしれない、あるいは起こるかもしれない未来の話。

 

 デンシティに、人々の悲鳴が鳴り響く。

 

 上空を埋め尽くすのは、AI搭載の無人兵器。それらが激しくぶつかり合い、戦いの余波が人々の日常を壊していく。

 

 その光景を前に一人、Aiは立ち尽くしていた。

 

「こいつは……」

 

 それは人間同士の意志を持ったAIを巡る戦争。

 イグニスの存在を知った各国が、それを手に入れるために争い合っていた。

 

 混沌とした戦況に、空より閃光が瞬く。

 

 瞬間、無人兵器の内一機が爆裂した。

 

「あれは?」

 

 見上げると、神の鉄槌の如く、光が次々と無人兵器目掛けて降り注ぐ。

 

「ライトニングか……」

 

 それはライトニングが操る衛星兵器による攻撃だと、Aiはすぐに理解した。

 

 ◆

 

「ライトニングとの戦いが終わった後、俺がSOLからレポートを奪ったって話は知ってるな?」

 

 プレイメーカーは頷く。

 

「七つ目のレポートには、イグニスが人間にどんな影響を与えるのか。そのシミュレート結果が事細かに書いてあった。イグニスを巡って、人間同士が争い、その果てにイグニスも人間を敵視し、人とAIの戦争になる」

「レポートにそう書かれていただけだろ。シミュレートが間違っている可能性だってある」

「ああ。だから俺はサイバース世界に戻った。誰もいないサイバース世界で、俺はシミュレートしたんだ。鴻上博士が一体どんな未来を見たのか。そのレポートと、今の俺達のデータを使ってな」

 

 Aiは悲観したような顔で空を見上げる。

 

「シミュレートの世界で、俺は何度も見たんだ。デンシティが、お前達の町が壊れていく様子をな。未来を変えるために、俺はあらゆる可能性を試したが、どう足掻いても未来は変えられなかった」

「シミュレートがそれ通りになるとは限らない!それはただのデータだ!」

「そうは言うけどな。俺だってただのデータなんだぜ?」

「それは……」

 

 プレイメーカーは口ごもる。

 

「俺達AIにとって、リアルなシミュレート現実そのものなんだ」

 

 その言に、プレイメーカーは反論することができず、黙り込んでしまった。

 

「さぁ、デュエルを続けるぞ」

 

 Aiのフィールドには、ダークナイト、ファイアフェニックス、ウォーターリヴァイアサン、アースゴーレム、ウィンドペガサス、ライトドラゴンと6体6属性の@イグニスターが揃っている。

 

 対してプレイメーカーのフィールドには、サイバース・クロック・ドラゴンと、サイバース・クアンタム・ドラゴン。クロック・ドラゴンはこのターンの終わりまで攻撃力10500。クアンタム・ドラゴンも戦闘を行った相手モンスターを手札に戻す効果がある。

 

「俺のターン!」

「俺は相手ターン開始時に、墓地のリコーデット・アライブの効果発動!」

 

 Aiがドローすると同時に、プレイメーカーのフィールドに罠カードが出現する。

 

「除外されているデコード・トーカーを特殊召喚する!」

 

 次元の穴が開き、その奥からデコード・トーカーが帰還した。

 

「ここでデコード・トーカーを呼び戻したか」

「リンクモンスターがいることで、サイバース・クロック・ドラゴン、サイバース・クアンタム・ドラゴンの効果が適用される」

 

 2体のモンスターには同じ効果があり、リンクモンスターがいる時、それぞれ自身以外を攻撃と効果の対象にできない。つまり、2体揃ったことで、Aiは攻撃と対象に取る効果が封じられた。

 

「さすが、抜かりないな。ならいくぜ!俺のとってきおきを見せてやる!俺は永続魔法、Ai-タイする魂を発動!」

 

Ai-タイする魂

永続魔法

このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分のメインフェイズに発動できる。リンク召喚を行う。この効果でリンク召喚されたモンスターはリンク素材となった属性が異なる攻撃力2300のサイバース族モンスターの数に応じて以下の効果を得る。

●1体以上:このカードのリンク召喚は無効化されない。

●2体以上:このカードがリンク召喚に成功した場合に発動できる。相手のフィールドのカード1枚を選んてま破壊する。

●3体以上:このカードの攻撃力は、このカード以外の自分フィールドのカード1枚に付き、1000アップする。

●4体以上:このカード以外の自分フィールドのモンスターは攻撃対象にならない。

●5体以上:このカードがリンク召喚に成功した場合に発動できる。自分はデッキから2枚ドローする。

●6体以上:自分のデッキからサイバース族モンスター1体を手札に加える。

 

「Ai-タイする魂の効果発動!リンク召喚を行う!現れろ、闇を導くサーキット!」

 

 Aiは掌を天に掲げると、その手から黒い軌跡が駆け、上空にアローヘッドを出現させる。

 

「召喚条件は属性が異なるモンスター3体以上!俺は6体の@イグニスターをリンクマーカーにセット!」

「なに!?」

 

 6体のモンスターが赤、青、緑、茶、黄、紫の光の螺旋となり、うねりながらアローヘッド外周に吸い込まれ、リンクマーカーを描く。

 

「六つの輝き、今一つとなる!熱血!」

 

 下向きのリンクマーカーが赤く輝く。

 

「豪快!叡知!」

 

 右向き、右下向きのリンクマーカーがそれぞれ青と茶色に煌めく。

 

「軽快!エレガント!」

 

 左向き、左下向きのリンクマーカーが緑、黄に瞬く。

 

「そして、ウルトラスーパー!これで六つ!」

 

 上向きのリンクマーカーが紫に光る。

 同時に、アローヘッドより爆風が吹き荒れ、風の奥より一体のモンスターが降臨する。

 

「これが俺達の終着点!ジ・アライバル・サイバース@イグニスター!」

 

 それは円形のパーツが複雑に組合わさった体、巨大な鎌を携えたヒト型のモンスターだ。

 

「リンク6のモンスターだと……」

「ジ・アライバル・サイバース@イグニスターの効果!素材となったモンスターの数×1000ポイントが元々の攻撃力となる!」

 

 ジ・アライバル・サイバース@イグニスター

 ATK?→6000

 

「そしてジ・アライバルは他のカードの効果を受けない。さらにAi-タイする魂の効果で、素材となった属性が異なる攻撃力2300のサイバース族の数に応じた効果を得る!リンク召喚時にデッキから2枚ドロー!さらにデッキからサイバース族を手札に加える!」

 

 Aiの手札に一気に3枚ものカードが加わる。

 

「さらに自身以外の自分フィールドのカードの数×1000ポイント、攻撃力がアップする!」

 

 現在、AiのフィールドにはAi-タイする魂、イグニスターAiランドの3枚がある。よってジ・アライバル・サイバース@イグニスターの攻撃力は8000まで上昇する。

 

「さらにさらに!相手フィールドのカード1枚を破壊する!デコード・トーカーには消えてもらうぜ!」

 

 ジ・アライバルが鎌を振り上げると、デコード・トーカーの体にノイズが走る。

 

 カコンッ

 

 鎌の先を地面に突き立てると、デコード・トーカーの体はデータの破片へと砕けて消滅した。

 

「これで攻撃のロックは外れた。さらに俺はジ・アライバルの効果!フィールドのモンスター1体を対象に破壊する!サイバース・クロック・ドラゴンを破壊!」

 

 続けてジ・アライバルが両手を広げ、その目が怪しく光る。

 それに捉えられたサイバース・クロック・ドラゴンは絶叫しながら消滅した。

 

「破壊した後、このカードのリンク先に@イグニスタートークンを特殊召喚する。カードが増えたからさらに1000アップだ」

 

 ジ・アライバル・サイバース@イグニスター

 ATK8000→9000

 

「クロック・ドラゴンが破壊された時、デッキから魔法カード1枚を手札に加える」

「現れろ、闇を導くサーキット!来い!リングリボー!」

 

 呼び出された@イグニスタートークンは直後にアローヘッドに飛び込み、リングリボーへと変換される。

 

「バトルだ!ジ・アライバルで、サイバース・クアンタム・ドラゴンを攻撃!」

 

 ジ・アライバルが大鎌を振り上げて、クアンタムに接近する。

 

「ジ・アライバルはクアンタムのバウンス効果を受けない!これで終わりだ!」

「俺は墓地のアドラ・ブロッカーの効果発動!」

 

アドラ・ブロッカー

効果モンスター

星2/水属性/サイバース族/攻 300/守 1500

(1)自分のリンクモンスターのリンク先に、このカードは手札から特殊召喚できる。

(2)自分または相手のモンスターの攻撃宣言時に墓地のこのカードを除外し、フィールドのサイバース族モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターはこのターンに1度だけ戦闘では破壊されず、このターンそのモンスターのコントローラーが受ける戦闘ダメージは1度だけ0になる。

 

 蛇がバリアを作り出して止める。

 

「俺はカードを2枚伏せてターンエンド。フィールドのカードが増えたことで、ジ・アライバルの攻撃力はさらにアップする!」

 

 ジ・アライバル・サイバース@イグニスター

 ATK9000→11000

 

ターン5

 

「俺は墓地のCYプロセッサー・ガールズの効果発動」

 

CYプロセッサー・ガールズ

チューナー・シンクロ・効果モンスター

星6/光属性/サイバース族/攻 2000/守 1000

サイバース族のチューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

このカードをS召喚する場合、自分の「バックアップ・セクレタリー」または「サイバース・マジガール」をチューナーとして扱える。

このカード名のカードは1ターンに1度しか特殊召喚できない。

(1)このカードはS素材としたモンスターによって以下の効果を得る。

●「バックアップ・セクレタリー」:このカードがS召喚に成功した場合に発動できる。自分の墓地のサイバース族モンスター1体を選んで、手札に加える。この効果で手札に加えたモンスター及びその同名モンスターはこのターン、召喚・特殊召喚できない。

●「サイバース・マジガール」:1ターンに1度、相手フィールドの攻撃表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの攻撃力を半分にし、その数値分、このカード以外の自分フィールドのサイバース族モンスターの攻撃力をアップする。

(2)このカードが墓地に存在し、自分フィールドにS召喚されたチューナー以外のサイバース族のSモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターのレベルを1つ下げ、このカードを特殊召喚する。この効果発動後、ターン終了時まで、自分はサイバース族モンスターしか特殊召喚できない。

 

「サイバース・クアンタム・ドラゴンのレベルを1つ下げ、このカードを特殊召喚する!」

 

 クアンタムの隣にスポットライトが当たり、二人組の少女がフィールドに戻ってくる。

 

「いくぞ!俺はレベル6となったサイバース・クアンタム・ドラゴンに、レベル6のCYプロセッサー・ガールズをチューニング!」

 

 クアンタム・ドラゴンの周りを、CYプロセッサー・ガールズが飛び回り、二人と一体がデータへと分解される。

 

「未知なる力、空を穿つ!その翼は、未来へ翔る光となる!シンクロ召喚!」

 

 データの粒子は12の輪へと再構築され、その中心を光が貫く。

 

「出でよ、レベル12!サイバース・リアクター・ドラゴン!」

 

サイバース・リアクター・ドラゴン

シンクロ・効果モンスター

星12/光属性/サイバース族/攻 4000/守 4000

Sモンスターのチューナー+チューナー以外のSモンスター1体以上

(1)自分・相手ターン中に、フィールドのこのカードを除外して発動できる。相手フィールドのカード1枚を選んで手札に戻す。このカードが除外されている限り、この効果で手札に戻したカード及びその同名カードを相手は召喚・特殊召喚・発動できず、その効果は無効になる。

(2)このカードの(1)の効果でこのカードが除外されたターンの次のスタンバイフェイズに発動する。除外されているこのカードを特殊召喚し、ターン終了時まで、以下の効果を適用する。

●このカードは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃できる。

●このカードがフィールドに表側表示で存在する限り、このカード以外の自分フィールドのカードは、相手の攻撃・効果の対象にならない。

 

「ここに来てクアンタムを進化させてきたか。けど、そいつの攻撃力じゃ、俺のジ・アライバルは超えられない。そして、Ai-タイする魂の効果で、ジ・アライバル以外は攻撃対象にできない」

「くっ……俺はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン6

 

「墓地のレインボーイ@イグニスターを除外して効果発動!」

 

レインボーイ@イグニスター

効果モンスター

星4/光属性/サイバース族/攻 1500/守 800

このカード名の(1)(2)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合に発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。この効果発動後、ターン終了時まで、自分はサイバース族モンスターしか特殊召喚できない。

(2)自分のEXデッキから攻撃力2300のサイバース族モンスター1体と手札の「@イグニスター」モンスターを公開して発動できる。このターンのエンドフェイズまで、公開した手札のカードを公開し続け、その属性を公開したEXデッキのカードと同じにする。

(3)自分のメインフェイズに、墓地のこのカードを除外して発動できる。手札からレベル4以下の「@イグニスター」モンスター1体を特殊召喚する。この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できない。

 

「このカードを除外し、手札からレベル4以下の@イグニスターを特殊召喚する。来い!アチチ」

 

 フィールドに小さな火が灯り、炎の中から赤色のスライム状の生命体が顔を出した。

 

「アチチの効果でデッキからヒヤリを手札に。そしてアチチの効果を無効にし、手札からガッチリ@イグニスターを特殊召喚」

 

 身の丈より大きな大盾を構えた1つ目の巨人が、ダークインファイトと隣に現れる。

 

「どうせスリーフェイト・バリアを伏せてるんだろうが俺のリングリボーで無効にできる。ジ・アライバルの効果発動!サイバース・リアクター・ドラゴンを破壊だ!」

 

 ジ・アライバルが大鎌を振るうと、紫の光の刃がリアクターに向けて放たれる。

 

「サイバース・リアクター・ドラゴンの効果発動!このカードを除外し、相手フィールドのカード1枚を手札に戻す!俺はリングリボーを手札に!」

 

 しかし、その攻撃はリアクターが消滅したことによって透かされ、同時にリングリボーも消滅した。

 

「そしてリアクターが除外されている間、手札に戻したカードと同名カードを召喚・特殊召喚・発動できず、効果も無効となる。これでリンク召喚して新たなリングリボーを呼ぶこともできない」

「だがこれでフィールドはがら空きだ。俺はさらにヒヤリ@イグニスターを特殊召喚。効果発動!アチチをリリースして、デッキからレベル5以上の@イグニスターを手札に加える。バトルだ!ジ・アライバルでダイレクトアタック!」

(トラップ)発動!スリーフェイト・バリア!」

 

スリーフェイト・バリア

通常罠

(1)以下の効果から1つを選択して発動できる。

●このターン、自分のモンスターは戦闘・効果で破壊されない。

●このターン、自分はダメージを受けない。

●このターン、自分のモンスター1体は1度だけ戦闘で破壊されず、その戦闘によって戦闘ダメージを受けるかわりに、その数値分、自分のライフを回復する。

(2)自分がダメージを受けた場合、墓地のこのカードを除外して発動できる。このターン、自分が受ける効果ダメージは0になる。

 

「このターン、俺はダメージを受けない!」

「やっぱり持ってやがったか。俺はこれでターンエンド」

 

ターン7

 

「スタンバイフェイズに、自身の効果で除外されたリアクター・ドラゴンはフィールドに戻る」

 

 空間が鏡のように割れて、その奥からリアクター・ドラゴンが現れる。

 

「そして特殊召喚後、効果を適用する。このターン、サイバース・リアクター・ドラゴンは2回攻撃でき、このカード以外の自分フィールドのモンスターは攻撃と効果の対象にならない」

「けど、リアクターにはジ・アライバルを突破できない。どうする気だ?」

「くっ……」

 

 プレイメーカーは己の手札を確認する。

 

(駄目だ。俺のデッキのモンスターでは、ジ・アライバルを突破できない。どうすれば……)

 

 絶望的な状況に、顔を歪ませるプレイメーカーに対してAiは苛立ったように口を開いた。

 

「どうした? お前はこんなもんじゃないだろ?」

 

 その言葉は、まるでプレイメーカーへの、遊作へのエールのようにも受け取れる。ますますAiの真意が分からなくなり、プレイメーカーは頭を抱える。

 

(俺はどうすれば、俺にどうして欲しいんだ……Ai)

 

 その時、不意に一陣の風が彼の頬を凪いだ。

 

「!?」

 

 顔を上げると、いつの間にか周囲は白い空間に変わっており、目の前には見慣れたドラゴンの姿があった。

 

「ファイアウォール・ドラゴン!?」

 

 ファイアウォールは雄叫びを上げて、プレイメーカーをジッと見つめる。

 

「俺達が最初に掴んだモンスター……か。お前は俺をいつも助けてくれたな」

 

 プレイメーカーはファイアウォールに向けて手を伸ばす。

 

「もう一度、俺に力を貸してくれ」

 

 ファイアウォールが静かに頷く。

 すると、データストームが吹き、プレイメーカーとファイアウォールを飲み込んだ。

 

「!?」

 

 そして目を開けると、先程デュエルしていた場所に戻っていた。

 

「どうした?」

「……俺は魔法カード、リンクコンバインを発動!」

 

リンクコンバイン

通常魔法

このカード名の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。

(1)自分の墓地の同じ種族のリンクモンスターを、リンクマーカーの合計が5になるようにEXデッキに戻して発動できる。自分はデッキから1枚ドローする。その後、ドローしたカードを相手に見せ、それがEXデッキに戻したリンクモンスターと同じ種族のモンスターなら、さらに自分はデッキから1枚ドローする。

(2)このカードの(1)の効果を発動したターンの自分のメインフェイズに自分がリンク召喚を行う場合、このカードを除外して発動できる。自分はデッキから1枚ドローする。

 

「墓地のリンクモンスターをリンクマーカーの合計が5になるようにEXデッキに戻し、1枚ドローする。そして、それを相手に見せる」

 

 見せたカードはファイアウォール・ディフェンサー、サイバース族のモンスターだ。

 

「戻したリンクモンスターと同じ種族のモンスターだったのでさらに1枚ドローだ!サイバース・リアクター・ドラゴンの効果発動!自身を除外して、ヒヤリを手札に戻す」

 

 リアクター・ドラゴンと共にヒヤリ@イグニスターが消えて、場のカードが減ったことでジ・アライバルの攻撃力は11000に下がる。

 

「墓地のサイバネット・リチューアルの効果発動!墓地のこのカードとサイバース・マジシャンを除外して、トークン2体を特殊召喚!現れろ、未来を導くサーキット!」

 

 2つのトークンがアローヘッドに吸い込まれる。

 

「リンク召喚!プロキシー・F・マジシャン!」

 

 アローヘッドからマントを靡かせ、赤い装甲をまとった電脳の魔術師が現れた。

 

「さらにファイアウォール・ディフェンサーを通常召喚。現れろ、未来を導くサーキット!」

 

 ファイアウォール・ディフェンサーがアローヘッドに吸い込まれ、右向きのリンクマーカーを描く。

 

「リンク召喚!リンク1、ネオリンクリボー!」

 

 アローヘッドより、丸い体に短い足、前面のモニターに顔が浮かび上がったモンスターが出現した。

 

ネオリンクリボー

リンク・効果モンスター

闇属性/サイバース族/攻 400

【リンクマーカー:右】

通常召喚されたサイバース族モンスター1体

このカード名の(3)の効果はデュエル中に1度しか使用できない。

(1)自分のサイバース族モンスターが戦闘・効果で破壊される場合、代わりにフィールドのこのカードをリリースできる。

(2)このカードを素材としてリンク召喚されたサイバース族リンクモンスターが攻撃して戦闘を行う場合、ダメージ計算時のみ、そのモンスターの攻撃力は、そのモンスターのリンクマーカーの数×100アップする。

(3)自分が通常召喚できない「ファイアウォール」モンスター、またはリンク3以上の「コード・トーカー」モンスターの特殊召喚に成功した場合に発動できる。このカードを墓地から特殊召喚する。

 

「リンク素材となったファイアウォール・ディフェンサーの効果発動!デッキからファイアウォール・ファントムを特殊召喚。プロキシー・F・マジシャンの効果発動!フィールドのモンスターで融合する!俺はプロキシー・F・マジシャンとネオリンクリボーを融合!」

 

 プロキシー・F・マジシャンが杖を回すと、その軌跡に合わせて赤と青の光が広がり、ネオリンクリボーと共にその中に吸い込まれる。

 

「融合召喚!現れろ、サイバース・ディセーブルム!」

 

 光の渦より出でたのは、機械の体、強靭な両腕で這うサイバースのドラゴンだった。

 

「サイバース・ディセーブルムの効果発動!手札からサイバース族モンスター、リンクスレイヤーを特殊召喚」

 

 ディセーブルムの後ろに、ヤマネコを象った黄色い鎧をまとった騎士が現れる。

 

「そしてこのカードのレベルを、リンクスレイヤーと同じにする。俺はレベル5となったディセーブルムと、リンクスレイヤー、ファイアウォール・ファントムの3体でオーバーレイネットワークを構築!」

 

 三体のモンスターが赤と青の光の帯となって絡まり合いながら天に現れたエックス字のパネルへと吸い込まれる。

 

「万象を砕く竜の牙よ、新たなる風をまといて顕現せよ!」

 

 光が爆ぜ、竜巻がフィールドに起こる。

 

「エクシーズ召喚!現れろ、ランク5!ファイアウォール・XX(エクサクロス)・ドラゴン」

 

 竜巻を振り払い、現れたのは紫の光を放つ二対の翼を広げるドラゴンだった。

 

ファイアウォール・XX(エクサクロス)・ドラゴン

エクシーズ・効果モンスター

ランク5/闇属性/サイバース族/攻 3000/守 2500

レベル5のモンスター×3体

(1)このカードがX召喚に成功した場合に発動できる。墓地からリンク4のサイバース族リンクモンスター1体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたモンスターはフィールドを離れた場合、除外される。

(2)「ファイアウォール・X・ドラゴン」を素材としてX召喚されたこのカードは以下の効果を得る。

●1ターンに1度、このカードのX素材1つを取り除き、フィールドのリンクモンスター1体を対象として発動できる。このターン、このカードの攻撃力は対象のモンスターのリンクマーカーの数×500アップする。その後、対象のモンスターを破壊できる。このターン、自分は直接攻撃できない。

●1ターンに1度、このカードのX素材1つを取り除き、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを手札に戻す。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

「エクサクロス、ランクアップを使わずに直接呼び出しやがったか。けど、エクシードを素材にしてなきゃ、そいつの効果はほとんど使えないはずだ」

「だがエクサクロスにはその効果の他にもう1つ、エクシーズ召喚成功時に、墓地のリンク4のサイバース族を特殊召喚する効果がある。甦れ、ファイアウォール・ドラゴン!」

 

 エクサクロスの雄叫びを受けて、虚空よりファイアウォール・ドラゴンが再び現れた。

 

「さらに!墓地のネオリンクリボーの効果発動!通常召喚できないファイアウォールかコード・トーカーが特殊召喚された時、墓地のこのカードを特殊召喚!」

 

 ファイアウォール・ドラゴンの真横に、ネオリンクリボーが並び立つ。

 

「ファイアウォール・ドラゴンの効果発動!相互リンク状態のカード1枚に付き、フィールド・墓地のカードを手札に戻す!ガッチリ@イグニスターを手札に!エマージェンシー・エスケープ!」

 

 翼に集まったエネルギーを放出し、ガッチリ@イグニスターを吹き飛ばす。

 

「これでジ・アライバルの攻撃力はさらに下がる」

 

 ジ・アライバル・サイバース@イグニスター

 ATK11000→10000

 

「それで?そいつらじゃまだ俺のジ・アライバルは超えられない」

「まだ終わりじゃない!現れろ、未来を導くサーキット!」

 

 プレイメーカーが天に手を伸ばす。

 その先へ光が翔て、空で弾けた光の中からアローヘッドが現れる。

 

「アローヘッド確認!召喚条件は効果モンスター3体以上!俺はファイアウォール・XX・ドラゴン、ネオリンクリボー、そしてリンク4のファイアウォール・ドラゴンをリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン!」

 

 三体のモンスターが光の螺旋となってアローヘッド外周に吸い込まれる。そこに描かれたリンクマーカーは、上三方向、左右、下向きの計六つ。

 

「世界を守護する力の壁よ!まだ見ぬ領域に到達せよ!リンク召喚!」

 

 アローヘッドより爆風が吹き荒れ、風の中から一体のドラゴンが現れる。

 

「リンク6!ファイアウォール・ドラゴン・シンギュラリティ!」

 

 白き機械の巨体を支える一対の翼、ファイアウォール・ドラゴンが進化したその姿に、Aiは思わず驚嘆の笑みを溢した。

 

「リンク6、土壇場で到達しやがったのか」

「これが俺達が最初に掴んだリンクモンスター、その究極の姿だ」

「ふっ、だがそいつの攻撃力はたったの3500、ジ・アライバルの攻撃力はまだ10000もある。手札も尽きた状態でどう巻き返す?」

「ああ。見せてやる!ファイアウォール・ドラゴン・シンギュラリティの効果発動!自分のフィールド・墓地のリンク以外の召喚法の種類の数だけ、相手フィールドと墓地のカードを手札に戻す。俺の墓地には儀式のサイバース・マジシャンガール、融合のサイバース・クロック・ドラゴン、シンクロのサイバース・クアンタム・ドラゴン、エクシーズのファイアウォール・XX・ドラゴンがいる」

 

 ファイアウォール・ドラゴン・シンギュラリティの後ろに、4体のモンスターの幻影が現れる。

 それらはファイアウォール・ドラゴン・シンギュラリティに力を注ぎ込み、それを受けて、シンギュラリティの翼が広がり、金色のエネルギーをまとう。

 

「お前の4枚のフィールドのカードを手札に戻す!カルマウルティバースト!」

 

 シンギュラリティの翼からエネルギーが放たれ、ジ・アライバル以外のAiのフィールドのカードが全て手札に戻される。

 

 ジ・アライバル・サイバース@イグニスター

 ATK10000→6000

 

「そして戻したカード1枚に付き、自身の攻撃力を500アップする!」

 

 ファイアウォール・ドラゴン・シンギュラリティ

 ATK3500→5500

 

「バトルだ!ファイアウォール・ドラゴン・シンギュラリティで、ジ・アライバルを攻撃!」

 

 ファイアウォール・ドラゴン・シンギュラリティが翼を羽ばたかせ、ジ・アライバルへ迫る。

 

「この瞬間!リンク素材となったネオリンクリボーの効果発動!自身をリンク素材としたリンクモンスターが戦闘を行う場合、ダメージ計算時のみそのリンクマーカーの数×100ポイント、攻撃力をアップする!」

 

 ファイアウォール・ドラゴン・シンギュラリティ

 ATK:5500→6100

 

「行け!ファイアウォール・ドラゴン・シンギュラリティ!ウルティマテンペスト!」

 

 ファイアウォール・ドラゴン・シンギュラリティが口を開き、大出力の爆風をジ・アライバルに向けて放つ。

 

「俺は手札のバッチリ@イグニスターの効果発動!」

 

バッチリ@イグニスター

星6/炎属性/サイバース族/攻 2200/守 800

(1)自分の「@イグニスター」モンスターが戦闘を行うダメージ計算時、手札のこのカードと「@イグニスター」モンスターか「Ai」魔法・罠カード1枚を捨てて発動できる。その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージを0にし、墓地のサイバース族モンスター1体を特殊召喚する。その後、戦闘を行った自分・相手モンスター1体をダメージステップ終了時に破壊する。

(2)墓地のこのカードとリンク6のサイバース族リンクモンスターを除外し、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを破壊する。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

「俺への戦闘ダメージを0にし、墓地からダークナイト@イグニスターを特殊召喚!」

 

 ダークナイトが翼を広げ、空より降りてくる。

 

「そして戦闘した相手モンスターをダメージステップ終了時に破壊する!」

「墓地のファイアウォール・ディフェンサーの効果!自身を除外することで、破壊を無効にする!」

 

 バッチリによる破壊は不発に終わり、ジ・アライバルはシンギュラリティの放った暴風に飲み込まれて破壊された。

 

「なら墓地のバッチリ@イグニスターの効果発動!このカードと墓地のリンク6のモンスターを除外することでモンスター1体を破壊する!」

 

 倒されたジ・アライバルの亡霊が、炎の弾丸となってシンギュラリティに特攻。爆風を巻き起こし、シンギュラリティを道連れにした。

 

「これでモンスターを従えてるのは俺だけ……ん?」

 

 だが、煙が晴れると、プレイメーカーのフィールドには一体のモンスターが立っていた。

 

「俺はシンギュラリティの効果を発動していた。リンク先のモンスター、すなわちジ・アライバルが戦闘で破壊されたか、墓地へ送られた時、墓地のサイバース族モンスターを特殊召喚できる」

「デコード・トーカーか……」

 

 それは二人が初めて共に戦ったデュエルで、最初に召喚したリンクモンスターだった。

 

「ようやく思い出した。俺はサイバースのデッキを、このカードを知っていた。10年前の実験で、俺が使っていたのは、お前の渡してくれたこのモンスター達だった」

「ああ。俺達イグニスには、それぞれサイバースを生み出す力がある。お前達が実験で使っていたのは、お前達のリンクセンスと俺達生まれたてのイグニスが互いに共鳴して生まれたカードだ」

「……あの時から、お前に守られていたんだな」

 

 プレイメーカーは自分の掌を見つめる。

 

「なあAi、俺達を励ましてくれたあの声は、お前なのか?」

「……いや、それは俺じゃない。まあ予想はついてるけどな」

「どういうことだ」

「デュエルを続けろ。お前は俺を倒さなくちゃならない。余計なことに気をとられるな」

「……バトルだ。デコード・トーカーで、ダークナイト@イグニスターを攻撃!」

 

 デコード・トーカーとダークナイト、二人の電脳の騎士が、剣を交えてぶつかり合う。

 その攻撃力は互角、拮抗する鍔迫り合いで、先に仕掛けたのはAiの方だ。

 

「俺は墓地のAi-ルビーバックの効果発動!」

 

Ai-ルビーバック

通常罠

(1)自分の「@イグニスター」モンスターが戦闘・効果で破壊された場合に発動できる。相手フィールドのカード1枚を選んで破壊する。次の自分のスタンバイフェイズに、このカードの発動時に破壊されたモンスターを墓地から特殊召喚する。

(2)墓地のこのカードと手札1枚を除外して発動できる。墓地のカード及び除外されているカードの中から「Ai」魔法カード1枚を選んでセットする。この効果でセットされたカードはセットされたターンでも発動でき、フィールドを離れた場合、除外される。

 

「このカードと手札1枚を除外することで、墓地か除外されているカードの中から「Ai」魔法カード1枚をセットする。Ai打ちをセット。この効果でセットされたカードはセットされたターンでも発動できる!そして速攻魔法、Ai打ちを発動!これで戦闘破壊されたモンスターのコントローラーはその元々の攻撃力分のダメージを受ける!これで俺の勝ちだ!」

 

 互いにダメージを受けるが、Aiのライフは3800残っており、対してプレイメーカーのライフは450。相打ちになれば決着はつく。

 

「忘れたか。俺がサイバネット・クロージャの効果で、除外されているカードを手札に加えている」

 

サイバネット・クロージャ

通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1)デッキからカード1枚を選んで裏側表示で除外する。自分の攻撃力2300以上のサイバース族リンクモンスターが戦闘で相手モンスターを破壊した時、この効果で除外したカードを手札に加えるか、墓地に戻す。

 

「最初のターンに使ったカードか」

 

 プレイメーカーは手札に残されたその最後の一枚をAiに見せる。

 

「俺は速攻魔法、パワーインテグレーションを発動」

 

パワーインテグレーション

速攻魔法

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できず、(2)の効果はデュエル中1度しか使用できない。

(1)自分の「コード・トーカー」リンクモンスターが戦闘を行うダメージ計算時に、自分の墓地のサイバース族リンクモンスター1体を対象として発動できる。自分の「コード・トーカー」モンスター1体の攻撃力を、ダメージ計算時のみ、そのモンスターのリンクマーカーの数×500アップする。

(2)自分の「デコード・トーカー」の特殊召喚に成功した場合に発動できる。墓地のこのカードを手札に加えるか、セットする。このターン、自分の「コード・トーカー」モンスターは相手モンスターの効果を受けない。この効果でセットされたこのカードはセットされたターンでも発動できる。

 

「墓地のサイバース族リンクモンスター1体を選び、そのリンクマーカーの数×500アップする!俺は墓地のファイアウォール・ドラゴン・シンギュラリティを選択!」

 

 デコード・トーカーの背後に、ファイアウォール・ドラゴン・シンギュラリティの幻影が浮かび、デコード・トーカーに力を与える。

 

 デコード・トーカー:ATK2300→5300

 

「いくぞ!デコード・トーカー!」

 

 デコード・トーカーが大剣を天にかざすと、ファイアウォール・ドラゴン・シンギュラリティの幻影が竜巻となって剣を覆う。

 

「デコード・テンペスト・エンド!」

 

 その一太刀は大気を割り、ダークナイト@イグニスターを真っ二つに切り裂く。

 

 Ai:LP3800→800

 

「そして、Ai打ちの効果でダークナイトの攻撃力分のダメージを受ける!これで終わりだ!」

 

 ◆

 

 デュエルが終わると、Aiは満足気にプレイメーカーを見つめる。

 

「これで、AI兵器は止めるんだな?」

「ああ約束通りな」

 

 Aiはデュエルディスクを操作して、AI兵器を全て停止させた。

 

「そして、これでお別れだな」

 

 すると、Aiの体にノイズが走り、その像が歪む。

 

「な!? どういうことだ!?」

「不霊夢達が消えたのを見ただろ? 俺達の中には自爆プログラムが組み込まれている。それはデュエルに負けると作動する」

 

 Aiが自分の手を見る。

 

「Ai、まさかこうなることが分かって……」

「俺はここで消える。集めた鴻上レポートと一緒にな」

 

 Aiは右掌の上に、七つのデータファイルを見せる。

 

「これでイグニスは消え、二度と生まれることはない」

「お前……」

 

 Aiは一歩ずつ後ろに下がり、崖の際まで来る。

 

「最期に、俺からのアドバイスだ」

 

 Aiは右手を握ってデータファイルを消し、代わりに一枚のカードを出現させる。

 

「自分の直感を信じろ」

 

 そのカードをプレイメーカーに投げて、Aiは崖から飛び降りた。

 

「Ai!!」

 

 崖の底に沈む前に、Aiの体はバラバラに砕けて消滅した。

 

 ◆

 

 翌日、遊作は学校を休んでいた。

 皆が心配して、彼と連絡を取ろうとするが、結局連絡がつかず、彼が学校にやって来たのはその翌日だった。

 

「藤木くん、その……」

 

 一日ぶりに登校した遊作を、葵は心配そうに見つめる。

 

「財前」

 

 しかし、遊作は落ち込んでいる様子はなく、むしろ何か強い決意がこもった目で彼女を見る。

 

「放課後、少し付き合ってくれるか?」

「へ?」

 

 そうして放課後、葵が空き教室にやって来ると、彼女以外にも、尊、美海、啓、いつものメンバーが集まっていた。

 

「遊作、大丈夫なんですか?」

「俺のことはいい。それよりも、これを見てくれ」

 

 遊作はデュエルディスクを操作して、みんなのデュエルディスクにデータを送信する。

 

「これ……鴻上レポートじゃねぇか!」

 

 それはAiと共に消えたはずの鴻上レポートだった。

 

「Aiがバレないように俺に渡してくれたんだ。このカードに変換してな」

 

 遊作がデュエルディスクから取り出した一枚のカードを見せる。

 

「ジ・アライバル……」

「俺は昨日丸一日使って、このカードを解析した。そうしたら、このレポートの存在が分かったんだ」

「ですが、何故今さらそんなこと……」

「Aiの最期の言葉を信じただけだ」

 

 ────自分の直感を信じろ

 

「みんなを集めたのはこれだけのためじゃない。俺達はもう一度考えるべきだ。10年前の本当の真実について」

 

 そして始まる、答え合わせの時間が。



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第59話:Time to check the answer

 遊作によって集められた四人は、鴻上レポートをもう一度見返した。

 

「遊作と啓が感じた違和感、先生はハノイの塔を作るほどに使命感の強い人だったのに、自ら命を絶った」

「ああ。俺はそれを変だと思って、改めてレポートを見たんだ」

 

レポートNo.1

 

『ここに記すのはSOLテクノロジーにより行われた非人道的な実験の記録であり、私の犯した過ちの記録である。これを誰かが読んでいるということは、私はこの世にいないのだろうが、このレポートが善意の第三者に渡ることを切に願い、記録を残そうと思う。

 

 私が孤児院に集めた子供達は、皆特別な才能を持っていた。

 

 リンクセンス、ネットワークの気配を感じる特異能力。本来、VR空間で知覚できる情報はシステムによって与えられる電気信号によるもののみである。しかし、リンクセンスを持つものは、システムから供給する以上の情報量を、VR空間で受信し、感じ取ることができる。電脳空間における第六感ともいえる。

こんな力を持っていたが故に目をつけられてしまったのは非常に不幸なことだ。

これより実験を開始する。

 レポートを手にした君には、どうか最後までこの記録を見届けて欲しい』

 

「ここ、罪の意識で自殺したはずなのに、まるで自分の死を予見していたような書き方だよな」

「では、そもそも自殺ではない、というのが正しそうですね」

 

 仮定1:鴻上博士は他殺である。

 

「その場合、誰に殺されたのかしら」

「決まってるでしょ。他殺だとしたらSOLテクノロジーだ」

 

 葵の疑問に、啓は断言する。

 

「まあ動機があるのはそこしかないよね」

「口封じに殺される、それを予期して、レポートを残していた」

「そもそもこのレポートをいつ書いたかですよね。実験の最中なのか、後から書き残したのか……」

 

 鴻上博士がいつ自分の死を予見したのか、それによってこのレポートの意味も変わってくる。

 

「次のレポートを見てみるか」

 

レポートNo.2

 

『AIと人間の差異はなにか。それは自ら考える意思を持つか否かである。

 では意思とはなにか。人には「何かをしたい」と感じる欲がある。

 食欲、物欲、睡眠、金銭、性欲、欲があるから人は欲のために何か行動を起こす。そして欲とは本能より生じる。

 自ら何かをしたいと考えることで、AIの知能は一つ上のステージに進む。

 

 本能を学習させるために、様々な方法を検証した。

そして導き出した最適な手段がデュエルモンスターだ。

 

 デュエルは闘争本能を高め、イグニスに勝ちたいという感情を学ばせることで、より早くデュエルに勝つ最適解を導き出すだめ、意欲的に学習する

 

 しかし、闘争本能を学んだことが、最悪な結果を生むことになるとは、私は想像していなかった』

 

「この書き方、完全に過去形ですね」

「つまり、レポートは実験後に書かれたのか」

 

 仮定2:レポートは事件後に書かれたものである。

 

「次のレポートを見てみましょう」

 

レポートNo.3

 

『完成した六体のイグニスを使いシミュレートを行った。その結果、彼らは人類を滅ぼす存在であることが分かった。

 闘争本能を与えたことにより、イグニスは好戦的な性格となってしまった。

 彼らは最初こそ人類と共存するが、いずれ人類を敵視し、人類は彼らによって滅ぼされてしまうだろう。

 私は幾度もシミュレートを繰り返したが、どのようなルートを辿ろうとも、イグニスが人類と敵対する未来は避けられなかった。

 私は苦渋の末に、彼らを消去する決断をした』

 

「この辺りは、Aiも言っていたな。イグニスが人間を滅ぼすと」

「イグニス達の記憶が一部抜けていたのは、この時の削除の後遺症、不霊夢も言ってたね……」

 

 尊は今は亡き相棒のことを思い出して表情が曇る。

 一方啓は、この内容に一つの疑問を抱く。

 

「けどおかしいな。イグニスを消す決断をしたのはイグニスが完成した後のことだ。なのに自爆プログラムを仕込んであった」

「暴走の危険性をある程度想定していただけではないですか?」

「ん……まああるか」

 

 仮定3:自爆プログラムはAIの暴走に備えたものである

 

 レポートNo.04

 

 一日目:実験開始

 子供達を電脳ウイルスによって、専用の仮想空間に閉じ込めた。

 必要な栄養は点滴により供給するが、ここを現実空間だと錯覚させるために、仮想空間内でも食事を行わせることにする。

 これより、彼らに一日、50回をノルマにデュエルを行わせる。

 

 拒否した場合や、意味のない長考などの遅延行為を行った場合はペナルティとして電撃による罰を与える。さらに敗北時にもペナルティを課す。

 

 七日目:

 彼らのデュエルタクティクスが予想以上だったため、AIデュエリストのレベルを一段階上昇させる。さらに、ノルマを70回まで増やした。

 

 十三日目:

 実験の進捗が芳しくない。敗北時のペナルティに加え、デュエルの戦績が一定以下だった場合には、食事の量を減らすことにした。

 仮想空間内でも空腹は感じるため、生存本能を刺激することで、実験をさらに進める。

 

 二十五日目:

 デュエルの難易度をさらに上げることにした。

 彼らのこれまでの戦い方や、デッキの内容から彼らに対してより強くなるように、AI側のデッキ内容を調整。

 

 三十九日目:

 ついにイグニスが自我を持った。

 まだ完成には程遠いが、実験はひと段落したと言える。

 私は子供達の解放を上に要求したが、受け入れられることはなかった。

 

 四十二日目:

 脳にさらなる負荷をかけるために、デュエルのノルマを100回まで増やした。

 ペナルティの内容を変更。子供達に合わせて、それぞれがより恐れるものに変更。

 また、勝利時の報酬として、AIが使用したカードの中から好きなカードを1種類、3枚を与えた。

 デッキを考えさせることで、思考能力を強化すると同時に、報酬を与えることで勝つことへの欲求を強めるためだ。

 

 六十七日目:

 イグニスがデータマテリアルを生み出す能力を獲得した。

 上の目的は叶ったので、私達は子供達の解放を要求したが、やはり受け入れられることはなかった。

 

「ここからは打って変わって日記形式だな」

「この部分はもしかして、実験の時につけてたものを後からレポートに付け足したってことかな」

 

 このレポートの内容には特におかしなところは見当たらない。

 

「先生は何度か俺達の解放を要求しているな」

「SOLはそれを聞き入れなかった……」

 

 なまじ血縁者が所属する会社のことなので他人事とは思えず、葵は舌を噛む。

 

レポートNo.5

 

 九十五日:

 イグニスの成長は私の予想をはるかに超えていた。

 実験とは無関係に、彼らは自発的に様々なことを学び、指数関数的にその能力を向上させていく。

 私はイグニスの危険性を訴え、上に実験の中止を求めたが、聞き入れられることはなかった。

 

 百二十二日目:

 私は完成した六体のイグニスに対してあるシミュレートを行った。

 それは今後、イグニスが人間に対してどのような影響を与えるかだ。

 その結果、どのようなルートを辿ろうとも、待っているのは人類の破滅だった。

 

 百三十一日目:

 私は検証のために条件を変え、何度もシミュレートを行った。

 しかし、結果は変わることはなかった。

 

 百四十七日目:

 私は遂に強硬手段に出ることにした。

 イグニスをこの手で削除する。そのための準備を進めることとしよう。

 

 百六十四日目:

 全ての準備は整った。私はなんとしてでもイグニスを抹消しなくてはならない。

 あのような未来を回避するためにも。これは私の使命なのだ。

 

「ねぇ、僕らが監禁されてたのって、確か半年だよね?」

「えぇ。しかしイグニスは百二十ニ日時点で完成している」

「SOLにイグニスが奪われないように、実験継続中ってことにしたかったとか?」

 

 仮定4:イグニス完成後も解放されなかったのは、SOLの目を欺くためである

 

「ここからは、俺らがまだ見てないレポートだな」

 

レポートNo.6

 

『イグニスの消去に失敗し、同時にSOLテクノロジーにバレた私は、実験の罪を全て被せられた。

 

 逃亡中も、私の頭の中にあったのは逃走したイグニス達が今も虎視眈々と人類を滅ぼすために画策しているかもしれないということだ。

 

 私はハノイの塔を生み出し、ネットワーク空間ごとイグニスを抹消する手段を取った。だが、ハノイの塔を起動するにはエネルギーがあまりに足りない。

 

 そこで私は、完成したハノイの塔を息子に託すことにした。息子は頭がよく、彼なら私の意思を継いでくれるはずだ』

 

「これってリボルバーのことだよな」

「うん。リボルバーも『父が遺したハノイの塔』って言ってたし」

「自分の命が狙われてるからリボルバーに託したってことですよね」

 

 レポートの内容そのものにはおかしなところはない。しかし、

 

「でもこれって書く必要ないよな?」

「え?」

 

 啓の指摘に、全員が彼の方を見る。

 

「あ、いや、その……これが告発文書なら、息子のこと書いたら、リボルバーが不利になるだけだよなって」

「確かに……」

「リボルバーといえば、そもそもハノイってこのレポートの存在は知ってたのかな?」

「いや、知らなかったんじゃないか? 俺達がレポートを追っている時、ハノイに邪魔されたことは一度もない」

「それもおかしな話だよな。信頼している息子には何も伝えず、LINK VRAINSにレポートをばらまいて……ん?」

 

 そこで何かに気付いた啓は、遊作の方を見る。

 彼も同じ考えに至ったようで、小さく頷いてみんなの方を向き直る。

 

「隠しレイヤーに置かれたレポートを手に入れるには、イグニスの力が必要だった。そしてロックの解除にも」

「あれ? それだと……」

「本来、先生にとっては敵であるはずのイグニスと協力しないと、レポートが手に入らないことになる。隠されたレポートを見つけるには俺達みたいなリンクセンスを持ってる必要があるが、俺達を元に作られたイグニスにも同じ力は備わっているはずだ」

 

 ウインディがストームアクセスのスキルを使用したこも、それを裏付けている。

 

「意味が分かりません。じゃあこのレポートは一体何の目的で書かれたものなんですか?」

「そこだよな。このレポートは誰に向けて何を伝えたいのかが分からない」

 

 とりあえずその理由は保留として、五人は次のレポートの検証に入る。

 

「最後はNo.7か。読む限り、内容はAiの語ったシミュレート結果そのものだな」

「そういえば、あれは分かったのか? レポートが何のデータを変換したものか」

 

 以前、遊作のテキストファイルにしてはサイズが大きすぎるという指摘を受けて、啓が調べたところ、鴻上レポートは別のデータをテキストファイルに変換したものだということが分かったのだ。

 

 啓はそのことを思い出して、彼に尋ねたのだが、

 

「ああ。それなんだが……」

 

 遊作はデュエルディスクの画面をコンコンと叩く。

 啓は怪訝な顔をしながら、画面に表示された鴻上レポートの一覧を見ると、

 

「なんだよこれ」

 

 それらはどれも、ファイルサイズが大きくてもせいぜい5KB程度。以前見た鴻上レポートより明らかに軽くなっている。

 

「おそらくAiがレポートの内容だけをコピーして、テキストデータに書き写したんだろう」

「何でそんな面倒なことを……」

「つまりAiは、何らかの理由でオリジナルのレポートを処分する必要があった?」

 

 仮定5:鴻上レポートのオリジナルは消滅した

 

「で、全部のレポートを読み終わったわけですが、結論として先生はSOLテクノロジーの誰かに殺されたという結論に落ち着くわけですが……」

「……いや、ライトニングの話を思い出してくれ」

 

 遊作が鴻上博士が既に死んでいると指摘した際に、ライトニングはこう言ったのだ。

 

「君達はそういう認識だったな、と」

「ライトニングの言葉を信じるなら、先生は生きているってことになりますね」

「いやいやそれはないでしょ!遺体だって見つかってるわけだし」

 

 尊の言うとおり、当時鴻上博士の死は報道されており、きちんと遺体も見つかっている。

 

「そういえばライトニングはこんなことも言っていたな」

 

 ────あの男に記憶を消される前に、事前に対策を打っていたのだからね

 

「記憶を消される、この表現はまるで、先生は初めからイグニス達の記憶だけを消したみたいじゃないか」

「まあライトニングの言葉を信じるなら、だけど」

「けどそれが真実なら、自爆プログラムの意味も変わってくるよね。最初からイグニス達を逃がすつもりなら、それってまるで……」

「後でいつでも処分できるように、てことか」

 

 そもそもイグニスを消して欲しいなら、レポートのどこかに自爆プログラムことが記されていてもいいはずだ。それなのに、なぜかその記述がない。

 

 レポートの内容は、一つ一つには小さな違和感しかないが、全体を通して読むと、まるで整合性が取れていない。その事に気付き始めてた遊作達の中に、徐々に疑心の念が芽生えてくる。

 

「そもそも鴻上博士って、その……どうやって亡くなったの?」

 

 葵が聞きにくそうに尋ねると、尊は当時のことを想像して顔をしかめる。

 

「……孤寺院の部屋で首を吊ってたんだ。遠隔操作ででロープを巻き取るような仕掛けがあって、それで……」

「先生の遺体から、睡眠薬などの薬物は検出されたなかった。首に残ったロープの痕以外に外傷もなかったからすぐに自殺だと断定された」

 

 遺書は見つからなかったが、それが逆に、犯人の偽装工作である可能性は低いと警察に判断させた。

 それにこんな手の込んだ仕掛けを、他人の家に用意できるはずもない。

 

「あ、あのさ……」

 

 そこで啓は挙手をした。

 

「実はこの前、俺達のいた孤児院に行ったんだけど」

「孤児院って、またどうして?」

「調べたいことがあったから。それで、地下の実験施設に忍び込んだ。色々探ってたら、先生が亡くなる直前にLINK VRAINSにログインしてる履歴があったんだ」

「レポートを置きに行ってたんじゃないんですか?」

「いや、ログインしてる履歴があったんだけど、ログアウトした履歴がないんだよ」

「それってつまり、LINK VRAINSにログインしている間に亡くなったってことだよね」

 

 だとすればなぜわざわざそんなことをするのか。

 VR空間にログイン中に、肉体に何らかの異常があれば警告後に強制ログアウトするようになっている。つまり他殺であれば、ログイン中の殺害はリスクが高い。

 

 そして自殺であれば、わざわざそんな仕掛けをしてまでログイン中に死にたかったことになる。

 

 その矛盾の意味に気付いていた啓は、恐る恐るこう続けた。

 

「確か電脳ウイルスって、先生が作ったんだよな。あれって意識データをまるごと隔離する技術だったよな?」

 

 彼らの間に嫌な想像が駆け巡る。

 

「これはもう……」

「信じたくないけど」

「ああ、先生は、生きている」

 

 結論:鴻上博士はLINK VRAINSで生きている



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第60話:Her true identity

 鴻上博士は生きている。

 その結論が出たところで、美海がこんなことを口にした。

 

「樹とリボルバーにも、この事を伝えませんか?」

「リボルバーって、どうやって連絡を取るの?」

 

 葵からの当然の疑問に、美海は啓の方を見た。

 彼は以前、スペクターこと樹の連絡先を入手していた。彼を通じればリボルバーを呼び出すことができると考えたが、

 

「いや、あいつあの後メアド変えてたし。それに仮にもハノイの幹部が、俺に二回も垢バレされるほど甘くないだろ」

「まあ樹は誘えばまだ来る可能性もあるけど、リボルバーは……」

 

 ライトニングとの決戦は、最終的に共闘したものの、彼は父である鴻上博士の意思を誰よりも強く受け継いでいる。

 そんな彼が、この話に乗ってくれるかは分からない。

 

「そういえば、遊作達も、樹には会ったんだよな? どうやったんだ?」

「響子先生が樹の生きそうな場所を教えてくれた」

「あの人、前は樹が実験の後に引き取られた孤児院に勤めていたんだって」

「へぇ、すげー偶然だな」

 

 そこで、遊作はその時のことを思い返す。

 

「あの時、響子先生のことを教えてくれてくれたのは夢乃だったな」

 

 ハノイの騎士の幹部、ジャックナイフこと夢乃切花。元はといえば、彼女に樹の居場所を尋ねた時、彼女の方から響子先生の話題を出してきたのだ。

 

「確か、ハノイの塔事件の時も、響子先生のPCからLINK VRAINSにログインしたんだよな」

「……ちょっと本人問い詰めてみるか?」

「いや、こんな状況証拠だけではさすがに……」

「その推論は正しいわ」

 

 その時、教室にエマが入ってきた。

 

「先生、いつからそこに……」

「ちょっと前からね。それよりも」

 

 エマが廊下の方を向いて手招きすると、件の滝響子が教室の中に入ってきた。

 

「響子先生、まさか……」

「えぇ。私がハノイの騎士のセカンド、バイラよ」

 

 響子は己の正体を明かすと、深々と頭を下げた。

 

「今まで、騙すような真似をしてごめんなさい」

「……響子先生、あんたなら、リボルバー達の居場所を知ってるんだな」

 

 遊作の問いに、響子は頷く。

 

「私に任せて。了見君と樹君を必ず連れてくるわ」 

 

 ◆

 

 LINK VRAINS、旧ハノイのアジト。

 プレイメーカー達五人と、リボルバー、スペクター、バイラのハノイの騎士のメンバー三人、さらにブラッドシェパードとゴーストガールまでもが一堂に会していた。

 

「貴様から呼び出されるとはな。一体何の用だ?」

 

 リボルバーはこの奇妙な会合の中心人物、プレイメイカーに問い掛ける。

 

「俺達六人とイグニス、そしてお前にとっても、重要な話だ」

「手短に話せ」

「鴻上先生が、生きている可能がある」

 

 その発言に、リボルバーはマスク越しに表情を歪ませる。

 

「下らん世迷いごとを。それ以上父を侮辱するならただでは済まさんぞ」

「俺達があの人が生きていると考えた理由は三つある」

 

 激昂する彼に、プレイメーカーは人差し指を立てて彼に突き出す。

 

「一つ、七つの鴻上レポートを読むと先生は自殺ではないことが分かる」

 

 リボルバーには、事前に鴻上レポートのコピーを渡しており、彼はその内容に目を通している。

 

「二つ、ライトニングの言葉。奴は鴻上先生がまるで生きているかのように語っていた」

「光のイグニスの言葉を信じるのか?」

「奴に嘘をつく理由がない。俺を動揺させるだけなら仁のことだけで十分だし、そもそも先生の話は俺から持ち出した。そして」

 

 薬指を立てて、指で三つ目を示す。

 

「三つ、先生は亡くなる直前にLINK VRAINSにログインしている履歴が残っていた。だがログアウトした記録がどこにもない」

 

 プレイメーカーが三つの証拠を言い終えたところで、ゴッドバードが手を上げた。

 

「あー、一応補足しとくと、電脳ウイルスを作ったのが鴻上博士で、ログイン中にそれで自分の意識を電脳空間に閉じ込めた後、装置で自殺したって俺達は考えてる。それからレポートが全体の整合性が取れていないことと、そもそも誰に向けた何を目的としたものなのかも分からなくて信用に値しないってのも理由だな」

「五つになっちゃったよ」

 

 ソウルバーナーのツッコミと同時に、美海がゴッドバードに肘打ちを入れた。

 

「空気読んでください!せっかくプレイメーカーが三つでしめたのに!」

「知るか!今の補足はいるだろ!」

「おやおや、風のイグニスのオリジンの癖に、空気も読めないんですか?」

 

 喧嘩する二人に、さらにスペクターが油を注ぐ。

 

「ああ。そういえばあなた、スキルも失敗してましたねぇ」

「テメェもういっぺん言ってみろ!」

「黙れ」

 

 プレイメーカーに一言で、三人は喧嘩を止めた。

 

「そのレポートが、本当に父が書いたものだとする根拠はなんだ?」

「ハノイプロジェクトのことを知っている人間は限られる。俺達被験者、それからリボルバー、そしてSOLテクノロジー」

「ならばSOLが用意したはずだ!」

「SOLはレポートの回収を行おうとしていた。それに、こんな回りくどいことをして何の意味がある!?」

 

 二人の議論は平行線だ。

 リボルバーの方は亡くなった父親に疑惑を向けられて感情的になっており、プレイメーカーの話を聞き入れようとしない。

 

 その時、

 

「全く、相変わらずだね。リボルバー」

 

 突如、二人の間に、ポンチョ型のハノイの制服を着た少年が現れた。

 

 

「ジャックナイフ!」

「やあ、久しぶりだね」

 

 驚いたリボルバーを、ジャックナイフはにやけ顔で見る。

 

「なぜ、貴様がここに……」

 

 リボルバーの問いは無視して、彼、否、彼女はクルッとプレイメーカー達の方を向いた。

 

「みんなおめでとう」

 

 ジャックナイフは張り付いた笑顔で、彼らに拍手を送った。

 

「よくここまで真実に辿り着いたねぇ。でーもー、どうして君達は、一番肝心なところから目を逸らすのかな~?」

 

 わざとらしく首を傾げて見せると、ジャックナイフは一度彼らに背を向けて、スキップを踏んで彼らから離れる。

 

「夢乃、お前は何を知っている?」

「えぇ~、ここまで来てそれをボクに聞いちゃう?」

 

 まるで全てを知っているかのような彼女の発言に、プレイメーカーは問いただすが、答える気はないようで、代わりに手をパチンと叩いて、

 

「じゃあ皆さんここで問題でーす」

 

 再びくるっと体を反転させ、彼らの方を向いた。

 

「ボクは一体誰でしょう?」

 

 その問いの意味が分からず、誰もが口を噤んだ。

 

「だ、誰って、切花でしょ?」

「ぶっぶー!もう、問題の意味を理解しなよ」

 

 ブルーエンジェルの回答にため息を吐くと、気を取り直してジャックナイフは続ける。

 

「全ての始まりは10年前に行われた人体実験、ハノイプロジェクト、実験を行ったのは鴻上聖。被験者は全部で六人、穂村尊、湊美海、風間啓、聖辺樹、草薙仁、そして藤木遊作。実験によって生まれたのは同じく六体のイグニス、不霊夢、アクア、ウインディ、アース、ライトニング、Ai。さらに博士が死んだあと、一人息子の鴻上了見は彼の意志を継いで、行動を開始。その後、鴻上了見は同志として昔博士の勤め先で一緒に研究をしていた滝響子が選ばれた」

 

 まるでこれまでの出来事を整理するように、一人一人人物の名前を読み上げていく。

 

「以上がこの物語の登場人物なわけですが、あれあれ? おかしいな~。どこにも夢乃切花なんて人物はいませーん!まさかこれまで散々意味深な発言でひっかきまわした切花ちゃんが、無関係なわき役だったなんて、そんなことあるわけないよね」

 

 プレイメーカーは既にその答えに思い至っていたが、あえて口にはしなかった。その先を知れば、己が信じていたものが全て瓦解するからだ。

 しかし、それをジャックナイフは、切花は許さない。

 

「じゃあ答えてみよっか。君はもう、知ってるはずだよ? 必要な情報は揃ってるからね」

「……IGS-000、イグニスのプロトタイプ、お前はそのオリジンだな」

「ピンポーン!せいかーい。まあ正確にはオリジンはボク一人じゃないんだけど、それはまた後で」

 

 意味深な発言をしてから、ジャックナイフは問答を続ける。

 

「それじゃあ次の問題、行ってみようか。君達は全員リンクセンスを持っていたわけだけど、それって凄い偶然だよねぇ」

 

 プレイメーカー達四人の脳裏に嫌な想像が頭を過る。

 

「ところで、そんな素敵な才能を授けてくれた君達のご両親は、一体どうやって死んだんでしょう」

 

 四人は黙り込む。

 

「あれあれ~? どうしたの? 答えられるよね~? 自分のパパとママのことだよー」

「ぐっ……」

「あ、ちなみにスペクター。君は答えなくていいからね」

 

 一人だけ両親に捨てられたスペクターは、黙ってその問答の様子を見守る。

 

「それじゃあ、せーので言ってみようか。はいせーのっ!」

「「「「交通事故」」」」

 

 全員の答えが一致した。

 

「はいせいかーい!あれー、死因まで同じなんて凄い偶然!」

 

 彼らの答えに、ジャックナイフはまるで子供のように嬉しそうにはしゃぐ。

 

「まあでも、交通事故なんて年間数万件とか起きてるらしいし、その程度の偶然はまだあり得るよね~」

 

 徐々に真実に近付いていく。

 その事に、美海の顔色が悪くなり、過呼吸になりながら苦しそうに自らの体を抱く。

 

「美海……おいジャックナイフ!これ以上は……」

「ところでぇ、その交通事故にはある共通点があるよねぇ?」

 

 ゴッドバードの訴えを無視して、ジャックナイフは続ける。

 

「さて、その共通点とは何でしょう?」

「テメェ……プレイメーカー!これ以上答えんな!」

 

 ゴッドバードが止めようとするが、プレイメーカーは何故か、ジャックナイフに逆らうことができなかった。

 それは使命感か、この場を取り仕切り、支配する彼女は、彼が目を背けることを許さず、プレイメーカーはそれに答えるしかなかった。

 

「……AIの、暴走」

「はいせいかーい!」

 

 振り絞るようなプレイメーカーの言葉を、彼女は嘲笑うように声を上げる。

 

「わーすごーい。たまたまAIの暴走事故で両親を亡くしてぇ、たまたま同じ孤児院に引き取られて、たまたまみんなリンクセンスを持っていてぇ、たまたま実験に巻き込まれるなんて……偶然なわけねぇだろバーカ!」

 

 突然豹変したジャックナイフが、プレイメーカーを指差す。

 

「さて問題で~す。偶然じゃないとしたら、一体何でしょう?」

「……事故ではなく、故意に起こされた」

「ヘぇ、じゃあ犯人は?」

 

 プレイメーカーは言葉を詰まらせる。

 

「答えろよ」

 

 ジャックナイフはそれを許さない。

 

「鴻上、先生」

「はいせいかーい!」

 

 ようやくプレイメーカーからその言葉を引き出せて、ジャックナイフは腹を抱えて笑う。

 

「ほんと君らってバカだよね!あいつにパパとママを殺されて、そうとは知らずに育ててくれたって感謝までして!挙げ句無実を信じて必死にレポート集めに勤しんでさぁ!」

 

 誰も彼女に反論できない。

 皆下を向いて、拳を握りしめ、美海にいたってはあまりのストレスから口を押さえて吐き気を必死に堪えている。

 

「ねぇねぇ今どんな気持ち? ボクに教えてよ」

「おいジャックナイフ」

 

 すると、彼らの代わりに今まで黙っていたブラッドシェパードが口を開く。

 

「何? 脇役が入ってこないでよ」

「お前が何者かという問いの答えが、まだ途中だろう。そいつらを無意味に嘲るくらいなら、その続きを話せ」

「あーはいはい。じゃあ話して上げるよ」

 

 ◆

 

 むかーしむかし、今から12年前、一人の可愛い女の子がいました。

 

 その子はとても無知で、純粋で、この世界がどれだけクソなのかも知らないとっても愚かな子でした。

 

 ある日彼女は、パパとママに連れられて、車でお出掛けしていました。けれど本当は遊園地に行くはずだったその車は、引き返せない地獄へと連れていきました。

 

 AIの暴走による玉突き事故。

 死傷者は27人。過去最大の凄惨な事件は、その場にいたたった一人の子供を誘拐するために仕組まれたものだったのです。

 

 それがボク。

 

 ボクは目を覚ますと、白い壁に囲まれた部屋にいました。部屋の中にはボクと同じように誘拐された子供達が全部で十人いました。

 

 そこで何をさせられたのか。

 負けたらペナルティのあるデュエル?

 ブッブー!

 そんな温いものじゃありません。

 

 イグニスを作るために、ありとあらゆる方法で、子供達に精神的負荷をかける実験。時には食料のために殺し合わせたり、時には薬物で幻覚を見せられたり、当然まだ小さかったボクらが耐えられるはずもなく、すぐに壊れてしまいました。

 

 しかし壊れたくらいでは終わってはくれません。

 

 ボクらの意識データはバックアップが取られていました。それを入れ直せばはい元通り。当然記憶も残ってるのでぶっ壊される直前のことも覚えています。

 

 追い詰められて遂には自殺する子まで出てきました。

 

 すごいよねー。まだ6歳とかそんななのに、自らの命を絶つなんて選択ができるんだねー。

 

 まあ死んでもクローンに意識データを載せ変えればはい元通り。

 

 色々実験した結果、デュエルさせるのが一番効率がいいのが分かりました。

 

 しかしボクらはリンクセンスの素質こそありましたが、それは君達よりずっと弱いものでした。

 じゃあどうすればいいか。

 

 よし、せっかく十一人いるんだから混ぜちゃおう。

 

 というわけで全員の意識データを一人の脳に無理やりごちゃ混ぜにして入れられて、頭の壊れた子供が出来上がり。

 

 あ、ちなみにボクはこの時、リンクセンスと一緒に、自分の意識を分割する能力を得たのです。

 現実世界で意識を保ったまま、LINK VRAINSにログインしていたのはこの力のおかげだね。

 

 そんな壊れちゃった子供にデュエルを強制。

 負けた時のペナルティは、ご飯抜きと他の十人の子供達からひたすら責め立てられるイメージを見せられること。

 

 そんな感じのことが一年以上続けられたある日、ボクは突然解放されました。

 

 その実験を行っていたとある企業が、SOLテクノロジーに吸収合併されたのです。

 実験の存在を秘匿しようと、大人達はボクを処分しようとしましたが、その時、突然完成したAIが暴走。

 

 研究施設を爆破して、ボクは生き延びてしまったのです。

 

 それからボクは復讐を誓いました。

 その実験の首謀者、鴻上聖をこの手で殺すために。

 

 ◆

 

 彼女の話を聞き終えて、そのあまりに酷い過去に、誰も言葉を発することができなかった。

 

「あー、年齢が合わないって思ってるー? だってボク、クローンだし。何回死んだかもよく分かんないから、年齢はテキトーに決めたんだ」

 

 当事者であるジャックナイフは、あっけらかんとした様子で語る。

 

「12年前のAIの暴走事故、まさか……」

「ああ、そういえば君もその場にいたんだよね? 道順健吾さん」

 

 ブラッドシェパードの方を見てニヤッと笑う。

 

「そうだよ~。君はボクを捕まえるために、巻き込まれたただの被害者だよ。まあでもよかったじゃん。君はラッキーだよ」

「っ……何がだ!」

 

 その事故で父親を失ったいるブラッドシェパードは激昂するが、

 

「だって、母親(かたほう)は生きてるんだもん」

 

 ジャックナイフのおぞましい発言に、怒りよりも恐怖が勝ち、ブラッドシェパードは黙る。

 

「君らだってそうだよ」

 

 すると今度はプレイメーカー達の方を見る。

 

「君らはたかだか半年監禁されて、たかだかデュエルを強要されて、たかだか餓死寸前に追い込まれただけなんだから!」

 

 彼らが受けた実験の内容を、「たかだか」と表現して地面を踏みつける。

 

「お前らがその程度で済んだのは全部!全部!全部!ボクが犠牲になったからだ!全部ボクのおかげなんだ!感謝しろ!感謝して死ね!」

 

 己の苛立ちを全てぶつけるように、ジャックナイフは何度も何度も地面を踏みつける。

 

「黙れ!」

 

 その時、ここまで黙って聞いていたリボルバーが声を上げた。

 

「貴様の言うことは全てデタラメだ!狂言だ!貴様ごときが、私の父を愚弄するな!」

「なにそれ」

 

 その一言に、ジャックナイフの頭がプチンとキレた。 

 

「……ボクはこんなに苦しんだのに、お前はその事実すら否定するんだ」

 

 ジャックナイフはデュエルディスクを構える。

 

「やっぱり、君はこの手でぶっ殺さないと」

「やってみろ」

 

「「デュエル!」」

 

ターン1 先攻 リボルバー

 

「私はフィールド魔法、リボルブート・セクターを発動」

 

 リボルバーの背後に、巨大な拳銃のシリンダーが出現する。

 

「手札からヴァレットモンスター2体を特殊召喚」

 

 シリンダーが回転して、二発の弾丸が撃ち出される。

 弾丸は地面に着弾すると変形して、二体のドラゴンへと変わる。

 

「続けてノクトビジョン・ドラゴンを特殊召喚。このカードは自分の闇属性・ドラゴン族モンスターを特殊召喚できる」

 

 エネルギーの翼を広げて、四つの暗視スコープの目がついたドラゴンが現れた。

 

「現れろ、我が道を照らす未来回路!召喚条件はヴァレットモンスター2体!リンク召喚!ショートヴァレル・ドラゴン!」

 

 現れたのは、細い胴体の右側に竜の首、左にリボルバー式拳銃となったドラゴンだ。

 

「速攻魔法、リンクバースト・リロードを発動!」

 

リンクバースト・リロード

速攻魔法

(1)自分フィールドの闇属性・ドラゴン族リンクモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを破壊する。その後、破壊したモンスターのリンクマーカーの数だけ、墓地から闇属性・ドラゴン族モンスターを守備表示で特殊召喚する。この効果で特殊召喚された「ヴァレット」モンスター以外のモンスターは効果を無効化される。

 

「ショートヴァレルを破壊!」

 

 ショートヴァレルが爆発し、その場にアローヘッドが出現する。

 

「そして破壊されたリンクモンスターのリンクマーカーの数だけ、墓地の闇属性・ドラゴン族モンスターを守備表示で特殊召喚」

 

 アローヘッドから、先程リンク素材となった二体のヴァレットモンスターが飛び出した。

 

「現れろ、我が道を照らす未来回路!」

 

 リボルバーが空に手を掲げると、その手の先に光が駆けて、上空にアローヘッドを作り出す。

 

「召喚条件は闇属性・ドラゴン族効果モンスター2体以上!私は2体のヴァレットモンスターと、ノクトビジョン・ドラゴンをリンクマーカーにセット!」

 

 二体のヴァレットモンスターが、螺旋の軌道を描きながら空へ放たれる。

 

「そして、このカードはリンク素材となるヴァレットモンスターを破壊してリンク召喚できる!」

 

 アローヘッドが回転し、その外周にヴァレットモンスターが弾丸となって装填され、爆発する。

 

「リンク召喚!ヴァレルバースト・ドラゴン!」

 

 アローヘッドが回転し、爆発が起こる。

 現れたのは、胸部が弾倉となった赤いドラゴンだった。

 

ヴァレルバースト・ドラゴン

リンク・効果モンスター

闇属性/ドラゴン族/攻 2600/LINK 3

闇属性・ドラゴン族の効果モンスター2体以上

このカードはリンク素材となる「ヴァレット」モンスターを破壊してリンク召喚できる。

このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードはリンク召喚に成功したターン、攻撃できず、効果を発動できず、効果の対象にならない。

(2)このカード以外の自分フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。対象のモンスターを破壊する。この効果の発動に対して、相手はカードの効果を発動できない。この効果は相手ターンでも発動できる。

(3)リンク召喚されたこのカードが戦闘・効果で破壊されたターンのエンドフェイズに発動できる。墓地から「ヴァレット」モンスター3体を特殊召喚する(同名カードは1枚まで)。

 

「リンク素材となったノクトビジョンの効果で1枚ドロー。墓地のショートヴァレルの効果発動!リンク3以下のモンスターをリリースすることで、このカードを特殊召喚!」

 

 ヴァレルバーストが地面に沈み、代わりにショートヴァレルが甦った。

 

「この効果で特殊召喚されたショートヴァレルは、リリースしたモンスターと同じ数のリンクマーカーのモンスターのリンク素材にできない。ゴールゲート・ドラゴンを通常召喚」

 

ゴールゲート・ドラゴン

効果モンスター

星5/闇属性/ドラゴン族/攻 2000/守 600

このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)フィールドのモンスターがリンクモンスターのみの場合、このカードはリリースなしで召喚できる。

(2)このカードが召喚に成功した場合に発動できる。デッキからレベル4以下の闇属性・ドラゴン族モンスター1体を自分のリンクモンスターのリンク先に守備表示で特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたモンスターは、リンク4以上の「ヴァレル」モンスター以外のリンク素材にできない。

(3)このカードが既にモンスターゾーンに存在し、自分のドラゴン族モンスターの特殊召喚に成功した場合に発動できる。自分のデッキの上から1枚を墓地へ送る。そのカードが「ヴァレット」モンスターまたはレベル6以上の闇属性・ドラゴン族のモンスターなら自分はデッキから1枚ドローする。

 

「デッキからハイバネーション・ドラゴンを特殊召喚。ゴールゲート・ドラゴンの効果発動!デッキの一番上を墓地へ!そのカードがヴァレットモンスター、もしくはレベル6以上の闇属性・ドラゴン族なら1枚ドローする!」

 

 リボルバーが墓地へ送ったカードは、マグナヴァレット・ドラゴン。

 

「1枚ドローだ。そしてハイバネーション・ドラゴンの効果で今墓地へ送られたマグナヴァレットを手札に加える。顕現せよ、我が道を照らす未来回路!」

 

 リボルバーが右手を掲げると、三度上空にアローヘッドが出現する。

 

「召喚条件は効果モンスター3体以上!私はハイバネーション・ドラゴン、ゴールゲート・ドラゴン、そしてリンク2のショートヴァレル・ドラゴンの3体をリンクマーカーにセット!」

 

 アローヘッドに三体のモンスターが装填され、駆動音と共に煙が吹き出す。

 

「閉ざされた世界を貫く我が新風!リンク4!ヴァレルロード・ドラゴン!」

 

 煙の中より出でたのは、巨大なシリンダーの形をした胴体を中心に、銃器を模したパーツを取り付けられた赤いドラゴンだ。

 

「来たね。君のエースモンスター」

「私はカードを1枚伏せてターンエンド。エンドフェイズに破壊されたヴァレットモンスターの効果で、デッキからアネスヴァレット・ドラゴンとマグナヴァレット・ドラゴンを特殊召喚!」

 

 リボルブート・セクターより二発の弾丸が射出され、新たなヴァレットモンスターが補充された。

 

ターン2 ジャックナイフ

 

「ボクはアニマイール・トリックランタンを召喚」

 

 フィールドにオバケカボチャを被った三頭身の子供が現れる。

 

アニマイール・トリックランタン

効果モンスター

星3/光属性/アンデット族/攻 800/守 800

このカード名の(2)(3)の効果はいずれか1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが召喚に成功した場合に発動できる。デッキ・墓地から「アンデットワールド」、または「アニマイール・ポルターガイスト」1枚を手札に加える。

(2)自分フィールドのアンデット族モンスターを素材として、「アニマイール」リンクモンスターをリンク召喚する場合、墓地のこのカードをリンク素材としてデッキの下に置ける。リンク召喚後、ターン終了時まで、自分は融合モンスターしか特殊召喚できない。

(3)このカードが墓地に存在する場合、自分の手札・フィールドの「アニマイール」カード1枚を墓地に送って発動できる。このカードを墓地から手札に加える。

 

「デッキからアンデットワールドを手札に加え、そのまま発動!」

 

 辺りが暗くなり、瘴気が立ち込める。

 

「現れろ、ボクだけの未来(みち)を拓く未来回路!」

 

 暗雲たち込める空間に、アローヘッドの光が差す。

 

「召喚条件はリンクモンスター以外のアニマイール1体!リンク召喚!リンク1、アニマイール・フウロ!」 

 

 アローヘッドより現れたのは、紫の大きな瞳を怪しく光らせる、煙の翼を持ったフクロウだ。

 

アニマイール・フウロ

リンク・効果モンスター

光属性/アンデット族/攻 0/LINK1

【リンクマーカー:下】

リンクモンスター以外の「アニマイール」モンスター1体

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードがリンク召喚に成功した場合、手札から「アニマイール」カード1枚を捨てて発動できる。デッキから「アニマイール・ポルターガイスト」1枚を墓地に送る。自分のフィールドゾーンに「アンデットワールド」があれば、墓地に送るかわりに手札に加える。

(2)自分が融合召喚に成功したターンのエンドフェイズに、自分のフィールドゾーンに「アンデットワールド」があれば、墓地のこのカードを除外して発動できる。自分はデッキから1枚ドローする。

 

「その効果で、手札のアニマイール1枚を捨てて、デッキからポルターガイストを手札に加える。現れろ、ボクだけの未来(みち)を拓く未来回路!召喚条件はアニマイールを含むアンデット族3体!ボクはフウロと、墓地のトリックランタン、ライヴコープスの3体をリンクマーカーにセット!」

 

 地面から飛び出した二つの霊魂が、フウロと共にアローヘッドに吸い込まれる。

 

「リンク召喚!魂を喰らう猟犬!アニマイール・オルトバイト!」

 

 現れたのは、二つの頭を持つ犬、体は紫の炎のようなものでおおわれており、目は黒い革で隠されている。

 

アニマイール・オルトバイト

リンク・効果モンスター

闇属性/アンデット族/攻 2300/LINK3

【リンクマーカー:右上/左上/下】

「アニマイール」モンスターを含むアンデット族モンスター3体

このカードは自分のEXモンスターゾーンにのみ特殊召喚でき、このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分のメインフェイズに発動できる。自分の手札・フィールド及びこのカードのリンク先の相手モンスターの中から、アンデット族融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体を融合召喚する。

(2)このカードのリンク先の自分・相手のモンスターを、それぞれ1体ずつを対象として発動できる。対象の相手モンスターを対象の自分のモンスターに装備カード扱いで装備する。装備モンスターは装備したカードの元々の攻撃力の半分、攻撃力がアップする。

 

「そこまでだ!私はヴァレルロードの効果を、マグナヴァレットを対象に発動!」

 

 マグナヴァレットが弾丸に変形して、ヴァレルロードの胴体に装填される。

 

「マグナヴァレットの効果発動!このカードがリンクモンスターの効果の対象になった時、自身を破壊し、相手フィールドのカード1枚を墓地へ送る!」

 

 ヴァレルロードの口から砲身が飛び出す。

 

「オルトバイトを貫け!!」

 

 砲身より発射されたマグナヴァレットが、オルトバイトを撃ち抜いた。

 

「墓地のモンスターをリンク素材にしたターン、貴様は融合モンスターしか特殊召喚できない。だったな」

「チッ……ボクはカードを2枚伏せて」

 

ターン3

 

「私のターン────」

「ボクはここで(トラップ)カード!アニマイール・ネクロダンスを発動!」

 

アニマイール・ネクロダンス

通常罠

このカード名の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。

(1)自分の墓地の「アニマイール」リンクモンスター1体を対象として発動できる。以下の効果のうち1つを適用する。この効果発動後、この効果で特殊召喚されたモンスターの融合召喚する効果を含む効果の発動時の効果をただちに適用する。

●対象のモンスターをEXデッキに戻し、EXデッキから同名モンスターを特殊召喚する

●対象のモンスターを特殊召喚する。

(2)自分の墓地の「アニマイール」モンスター1体を対象として墓地のこのカードを除外して発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。

 

「墓地のオルトバイトを特殊召喚!」

 

 オルトバイトがメインモンスターゾーン中央に出現した。

 

「そしてオルトバイトの融合召喚する効果をただちに適用する!ボクは君のヴァレルロードと、手札のアンデット族を融合!」

 

 オルトバイトがヴァレルロードに襲い掛かり、頭から噛み砕く。

 

「融合召喚!アニマイール・バニシングファング!」

 

 現れたのは無数の紫の炎が寄り集まった、巨大な蛇のようなモンスターだった。

 

アニマイール・バニシングファング

融合・効果モンスター

星7/闇属性/アンデット族/攻 2300/守 2000

アンデット族モンスター+リンクモンスター

このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが特殊召喚に成功した場合に発動できる。相手フィールドの表側表示モンスター全ての効果をターン終了時まで無効にする。この効果の発動に対して、相手はアンデッド族モンスターの効果を発動できない。

(2)このカードは、「アニマイール」リンクモンスターの効果で装備したモンスターのモンスター効果を得る。

(3)このカードが戦闘・相手の効果でフィールドから墓地の送られた場合、自分及び相手の墓地のアンデット族モンスターをそれぞれ1体ずつ除外して発動できる。このカードを墓地から特殊召喚する。

 

「特殊召喚に成功した時、このターン、君の表側表示モンスターの効果は全て無効化される。これでアネスヴァレットの効果はこのターン、使えない」

「ならば、私は速攻魔法、スクイヴ・ドローを発動!アネスヴァレットを破壊して2枚ドローだ!」

 

 使えなくなった弾丸は爆発し、リボルバーの手札へと変換される。

 

「リボルブート・セクターの効果発動!相手フィールドのモンスターの数が自分より多い場合、墓地のヴァレットモンスターを、同じ数になるように守備表示で特殊召喚!」

 

 アネスヴァレットとマグナヴァレットが射出され、盤面は元の状態に戻されてしまう。

 

「いずれかのフィールドゾーンにカードが存在する時、手札のグランドローラー・ドラゴンを特殊召喚する!」

 

 前足と後ろ足がそれぞれ黒いローラーに接合されたオレンジ色のドラゴンがフィールドに現れる。

 

グランドローラー・ドラゴン

効果モンスター

星6/闇属性/ドラゴン族/攻 2200/守 0

このカード名のカードは1ターンに1度しか特殊召喚できない。

(1)いずれかのフィールドゾーンにカードが存在する場合、このカードを手札から特殊召喚できる。

(2)このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動する。お互いのフィールドゾーンのカードを全て破壊する。この効果で破壊されたカードの元々の持ち主は、デッキから1枚ドローする。その後、自分はデッキから破壊されたフィールド魔法とカード名の異なるフィールド魔法1枚を表側表示でフィールドゾーンに置ける。

 

「互いのフィールドゾーンのカードを全て破壊する!」

 

 グランドローラーが地面を駆けると、その衝撃によって周囲の瘴気は晴れ、シリンダーも破壊される。

 

「そして破壊されたカードの持ち主はデッキから1枚ドローする」

 

 互いにカードをドローする。

 

「そしてデッキから破壊されたカードとは別のフィールド魔法をフィールドゾーンに置く!出でよ、天火の煉獄!」

 

 リボルバーがカードを掲げると、彼らの周りを巨大な鳥籠が覆う。

 鳥籠の外周に灯火が順々に4つ点いていき、籠の中を照らした。

 

天火の煉獄

フィールド魔法

このカードは自分のメインフェイズ1開始時にのみ発動できる。

(1)お互い、1ターンに1度しかリンク召喚を行えない。

(2)フィールドにサイバース族リンクモンスターが存在する限り、以下の効果を適用する。

●サイバース族モンスターの発動した効果は無効化される。

●フィールドのサイバース族モンスターは攻撃できず、リンク素材にできない。

(3)このカードが相手の効果でフィールドを離れた場合、自分フィールド・墓地のリンク4のモンスター1体を除外して発動できる。EXデッキから「トポロジック」モンスター1体を特殊召喚する。

 

「どや顔で出したのはいいけどさ、ボクのデッキはサイバースじゃないから、そのカードは効かないよ?」

「慌てるな。私は墓地のハイバネーション・ドラゴンの効果を発動!自分フィールドにリンクモンスターが存在しない場合、墓地のこのカードを除外することで、墓地から闇属性・ドラゴン族リンクモンスターを特殊召喚する!甦れ!ヴァレルロード!」

 

 空中に穴が開き、中からヴァレルロードが甦った。

 

「さらにクラックヴァレット・ドラゴンを通常召喚。現れろ、我が道を照らす未来回路!」

 

 アネスヴァレット、マグナヴァレット、クラックヴァレット、そしてグランドローラーの四体がアローヘッドに吸い込まれる。

 

「閉ざされた世界を切り裂く我が烈風!リンク召喚!ヴァレルソード・ドラゴン!」

 

 リボルバーの第二のエースモンスターが、額の刃を掲げてフィールドに降り立った。

 

「リンク素材となったクラックヴァレットの効果発動!」

 

クラックヴァレット・ドラゴン

効果モンスター

星3/闇属性/ドラゴン族/攻 900/守 1400

このカード名の(1)(2)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードがフィールドから墓地へ送られた場合に発動する。このカードを相手フィールドに特殊召喚する。

(2)フィールドのこのカードを対象とするリンクモンスターの効果が発動した時に発動する。このカードを破壊する。その後、相手フィールドの表側表示の魔法・罠カード1枚を選んで墓地へ送る。

(3)フィールドのこのカードが戦闘・効果で破壊されて墓地へ送られたターンのエンドフェイズに発動できる。デッキから「クラックヴァレット・ドラゴン」以外の「ヴァレット」モンスター1体を特殊召喚する。

 

「このカードを相手フィールドに特殊召喚!」

 

 ジャックナイフ側のフィールドの地面に穴が開き、そこからクラックヴァレットが出てくる。

 

「魔法カード、おろかな重葬を発動!ライフを半分払い、エクストラデッキからヴァレルガード・ドラゴンを墓地へ送る。そしてヴァレルソードの効果発動!」

 

 ジャックナイフの元へ移動したクラックヴァレットかが、弾丸となってヴァレルソードの体に装填される。

 

「クラックヴァレットはリンクモンスターの対象となった時、相手、つまりこの場合は私の表側表示の魔法・罠カードを墓地へ送る。この効果は強制効果、貴様は必ずこの効果を発動しなければならない!」

 

 今リボルバーのフィールドにある表側表示の魔法カードは天火の煉獄のみ。

 ヴァレルソードが天を仰ぎ、彼らを閉じ込める鳥籠に向けて砲門が向けられる。

 

「穿て!」

 

 パァァンッッ!

 

 ヴァレルソードの弾丸が鳥籠を貫き、檻は崩壊した。

 

「天火の煉獄がフィールドを離れたってことは……」

「ああ。トポロジックが来る」

 

 耳鳴りのような音が周囲に響く。

 

「産声を上げよ、命運を閉ざす永劫の輪!」

 

 空間が歪み、景色がぐにゃりと変化しながら、虚空に一体の竜の姿を作り出す。

 

「現れよ、リンク5!トポロジック・ヘルメビウス!」

 

 それは両腕から広げた翼が円環を描くように背中に接合された電脳の竜だった。

 

トポロジック・ヘルメビウス

リンク・効果モンスター

闇属性/サイバース族/攻 4000/LINK 5

【リンクマーカー:右上/左上/右下/下/左下】

闇属性・効果モンスター3体以上

このカード名の(2)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードは効果で破壊されず、サイバース族モンスターが発動した効果を受けない。

(2)このカードが既にモンスターゾーンに存在する状態で、このカードのリンク先にモンスターが特殊召喚された場合に発動する。フィールドのカード全てを破壊する。この効果でサイバース族モンスターを破壊した場合、その持ち主の空いているメインモンスターゾーン3ヶ所を指定する。このカードがフィールドに表側表示で存在する限り、指定したゾーンは使用できない。

(3)このカードがサイバース族モンスターと戦闘を行うダメージ計算前に発動する。その戦闘を行う相手モンスターを破壊し、破壊したモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える。その後、このカードはもう1度だけ攻撃できる。

 

「バトルだ!ヴァレルソードで、バニシングファングを攻撃!」

 

 ヴァレルソードが額の刃を振り上げて、バニシングファングに迫る。

 

「この瞬間、ヴァレルソードの効果発動!バトルする相手モンスターの攻撃力の半分、攻撃力をアップし、バトルする相手モンスターの攻撃力を半分にする!」

 

 バニシングファング:ATK2300→1150

 ヴァレルソード:ATK3000→4150

 

(トラップ)発動!スリーフェイト・バリア!」

 

スリーフェイト・バリア

通常罠

(1) 以下の効果から1つを選択して発動できる。

●このターン、自分のモンスターは戦闘・効果で破壊されない。

●このターン、自分はダメージを受けない。

●このターン、自分のモンスター1体は1度だけ戦闘で破壊されず、その戦闘によって戦闘ダメージを受けるかわりに、その数値分、自分のライフを回復する。

(2)自分がダメージを受けた場合、墓地のこのカードを除外して発動できる。このターン、自分が受ける効果ダメージは0になる。

 

「バニシングファングの破壊を無効にして、ダメージを受ける代わりに、その数値分のライフを回復する!」

 

 バニシングファングが赤いバリアで包まれ、ヴァレルソードの斬擊を防いだ。

 

「だがヴァレルソードは、自身の効果でこのターン、2回攻撃できる!再びバニシングファングを攻撃!」

 

 二度目の攻撃を防ぐことができず、バニシングファングは破壊される。

 

 ジャックナイフ:LP7000→4000

 

「ヴァレルロードで、オルトバイトを攻撃!」

 

 ジャックナイフ:LP4000→3300

 

「終わりだ!ヘルメビウスでダイレクトアタック!」

「ボクは手札のアニマイール・マッドクラウンの効果発動!」

 

アニマイール・マッドクラウン

効果モンスター

星2/闇属性/アンデット族/攻 0/守 0

このカード名の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。

(1)自分フィールドにモンスターが存在しない場合、1000LPを支払い、手札のこのカードを墓地へ送り、自分の墓地の融合モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを攻撃表示で特殊召喚する。この効果は相手ターンでも発動できる。この効果で特殊召喚されたモンスターはこのターン、戦闘で破壊されない。

(2)墓地のこのカードを除外して発動できる。墓地から「アニマイール・ポルターガイスト」か「アンデットワールド」1枚を手札に加える。

 

「自分フィールドにモンスターが存在しない場合、ライフを1000支払うことで、墓地の融合モンスターを特殊召喚!」

 

 バニシングファングが蘇り、ジャックナイフを守るために盾となる。

「そしてこのターン、戦闘で破壊されない!」

「だがダメージは受けてもらう!」

 

 ヘルメビウスより放たれた大出力の光線がバニシングファングの体を貫通し、ジャックナイフのライフを削り取る。

 

 ジャックナイフ:2300→600

 

「私はこれでターンエンド」

「じゃあエンドフェイズに墓地のフウロの効果を発動。このターンに融合召喚に成功しているから、墓地のフウロを除外して1枚ドローだ」

 

ターン4

 

「ボクは魔法カード、超融合を……やっぱいいや」

 

 ジャックナイフは手札からそれを見せたところで、不意にため息を吐いてカードを手札に戻す。

 

「お前さ。ボクの言ったことを全部嘘だって言ったよね?」

「父がそんなことをするはずがない」

 

 マスク越しに睨むリボルバーを、彼女は軽蔑したような目で見る。

 

「ほんっとムカつく。じゃあ見せて上げるよ」

 

 ジャックナイフは指でピストルを作り、こめかみに当てた。

 

「ボクがこれまでどんな目にあってきたのか」

 

 ジャックナイフはニヤッと笑い、すぐにその顔から笑顔を消す。

 

「並列思考プログラム、完全解放」

 

 その瞬間、一陣の風が吹く。

 

「なんだ!?」

「アハハハハハハハハハハッッ!」

 

 突然、ジャックナイフが笑いだす。

 彼女の笑い声が周囲に響き渡り、それに呼応するように風は勢いを増していく。

 

「ねぇ、何か聞こえない?」

 

 ブルーエンジェルが怯えて辺りを見回す。

 風の音に混じって、ジャックナイフの笑い声が聞こえる。しかし、その声は彼女一人のものではないことに気づく。

 

 それ小さな子供達の声。

 クスクスという笑い声は大きくなり、やがて別のものへと変化していく。

 

 ────助けて

 ────痛いよ

 ────苦しい

 

「これは……?」

 

 ────許さない

 ────許さない

 ────許さない

 

「大丈夫だよ。みんな。仇は……」

 

 ジャックナイフはリボルバーを指差す。

 

「あそこにいる」

「っ……これはなんの真似だ!」

 

 異常な状況に耐えきれず、リボルバーは怒鳴る。

 

「言っただろ? 実験を受けた子供はボクの他に十人、その意識を全部混ぜられたって」

 

 ジャックナイフは口元を歪める。

 

「どう? これが君のお父さんの実験の成果だよ?」

「黙れ」

「あの日からずっと、鼓膜の裏がね。痒いんだ。みんなの声が四六時中許さない、許さない、許さないって」

「黙れ!」

「じゃあさ。殺すしかないじゃん。全部」

「黙れと言っている!」

「黙んのはテメェだろうがっ!」

 

 リボルバーの声を掻き消して、ジャックナイフは怒りを爆発させる。

 

「ボクの人生を無茶苦茶にしやがって!全部全部全部全部お前の親父のせいだろうがっ!それなのに悲劇のヒーロー気取ってんじゃねぇよクソがっ!」

 

 ジャックナイフの怒りに応えるように、吹き荒れる風はその激しさを増していき、やがて一ヶ所に集まって巨大な竜巻へと変貌する。

 

「データストーム、まさか!?」

 

 リボルバーがその意味に気付くと同時に、ジャックナイフは空に手を伸ばす。

 

「自分のライフが1000以下の時、自分のエクストラデッキを全て、裏側で除外」

 

 ジャックナイフのデュエルディスクから十二枚のカードが舞う。それらは風にあおられてデータストームに吸い込まれ、砕けて消える。。

 

「そして新たに15枚、ランダムなサイバース族モンスターをエクストラデッキに加える」

 

 データストームはジャックナイフの元へ移動する。

 

「ストームアクセス────リ・コンストラクションッ!!」

 

 データストームは収束して、彼女のデュエルディスクの中に吸い込まれた。

 

「マスターデュエルでスキルを、しかもエクストラデッキをまるごと入れ替えるだと……」

「さぁ始めようか。切り刻んで上げるよ。まずはアニマイール・ポルターガイストを発動!」

 

アニマイール・ポルターガイスト

速攻魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できず、このカードの発動に対して、相手はモンスター効果・魔法・罠カードを発動できない。

(1)以下の効果から1つを選択する。同一チェーン上に「アニマイール」リンクモンスターの効果がある場合、さらに、その効果以外の同一チェーン上の効果は全て無効になる。

●相手フィールドのモンスターを任意の数だけ対象にして発動できる。そのモンスターをそれぞれ別のメインモンスターゾーンに移動させる。

●相手のEXモンスターゾーンにモンスターが存在し、相手のメインモンスターゾーンにEXデッキから特殊召喚されたモンスターが存在する場合にそれら2体を対象として発動できる。そのモンスターの位置を入れ替える。

 

「相手モンスターを好きなだけ対象に移動させる!」

「残念だったな。ヴァレルロードとヴァレルソードは相手の効果の対象にならない!」

「関係ないよ!トポロジック・ヘルメビウスを移動!」

 

 トポロジック・ヘルメビウスが、ジャックナイフか空いているエクストラモンスターゾーンの正面に移動させられる。

 

「ヘルメビウスには横向きのリンクマーカーはない。これでもう効果は使えない。墓地のマッドクラウンの効果発動!このカードを墓地から除外することで、墓地のアンデットワールドを手札に加える。そして発動!」

 

 周囲が再び瘴気に包まれる。

 

「アニマイール・セクレタリーを特殊召喚!」

 

 バイザーをつけた少女のゾンビが、バニシングファングの後ろに現れる。

 

アニマイール・セクレタリー

効果モンスター

星3/闇属性/アンデット族/攻 1200/守 800

このカード名の(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しか行えず、(4)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分フィールドにアンデット族モンスターが存在する場合、このカードを手札から特殊召喚できる。

(2)自分のフィールドゾーンに「アンデットワールド」がない場合、このカードは墓地へ送られる。

(3)このカードをリンク素材とする場合、リンク素材となるモンスター全てをサイバース族としても扱える。

(4)このカードがリンク素材となってフィールドから墓地へ送られた場合に発動できる。デッキからレベル4以上の「アニマイール」モンスター1体を手札に加える。

 

「現れろ、ボクだけの未来(みち)を拓く未来回路!召喚条件はアニマイール1体!」

 

 アニマイール・セクレタリーがアローヘッドに吸い込まれる。

 

「リンク召喚!アニマイール・スモークレイヴン!」

 

 煙の翼を羽ばたかせ、黒い怪鳥がアローヘッドから飛び出した。

 

アニマイール・スモークレイヴン

リンク・効果モンスター

闇属性/サイバース族/攻 700/LINK 1

【リンクマーカー:右】

「アニマイール」モンスター1体

このカード名のカードは1ターンに1度しか特殊召喚できない。

(1)このカードがリンク召喚に成功した場合に発動できる。自分の墓地の「アニマイール・ポルターガイスト」1枚を手札に加える。自分のフィールドゾーンに「アンデットワールド」があれば、手札に加えるカードを通常召喚可能な「アニマイール」モンスター1体にできる。

 

「リンク素材となったアニマイール・セクレタリーの効果で、デッキからアニマイール・スレイヤーを手札に加える。さらにスモークレイヴンの効果で墓地からアニマイール・セクレタリーを回収して、これを通常召喚」

 

 再びアニマイール・セクレタリーが登場して彼女の場に三体のモンスターが並ぶ。

 

「現れろ、ボクだけの未来(みち)を拓く未来回路!」

 

 その三体のモンスターがアローヘッドに飛び込む。

 

「リンク召喚!アニマイール・マルコシェーダー!」

 

 アローヘッドより現れたのは、口から出る青いの炎で顔を覆い、背中の機翼で空を舞う狼だった。

 

「手札からアニマイール・スレイヤーを特殊召喚」

 

 その背後に、ヤマネコを模した錆びた鎧をまとった屍が這い出てくる。

 

アニマイール・スレイヤー

効果モンスター

星5/闇属性/アンデット族/攻 2000/守 600

(1)自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合、このカードを手札から特殊召喚できる。

(2)自分のフィールドゾーンに「アンデットワールド」がない場合、このカードは墓地へ送られる。

(3)このカードをリンク素材とする場合、リンク素材となるモンスター全てをサイバース族としても扱える。

(4)1ターンに1度、自分の手札を2枚まで捨てて、捨てた数だけ相手フィールドの魔法・罠を対象として発動できる。そのカードを墓地へ送る。この効果の発動に対して、相手は対象のカードの効果を発動できない。

 

「アニマイール・スレイヤーの効果発動!手札を1枚捨てる!」

 

 ジャックナイフが手札のカードを投げると、アニマイール・スレイヤーの大剣に吸収され、刃がどす黒いエネルギーをまとう。

 

「そうすることで、相手の魔法・罠カードを破壊する!」

 

 大剣を振り下ろすと、まとったエネルギーがリボルバーの伏せカードに向けて放たれる。

 

「私は墓地のノクトビジョン・ドラゴンの効果発動!このカードを墓地から除外することで、自分の裏側表示のカードを対象とする効果を無効にする!」

 

 しかし、伏せカードはそれを覆うように展開された球状のバリアによって守られる。

 

「さらにこのターン、その裏側表示のカードは相手の効果を受けない!」

「ふーん、そのカード。ひょっとしてミラーフォースかな?」

 

 リボルバーはわずかに眉を動かす。

 

「ま、何でもいいけど。どうせこのターンで終わりだ」

「何を……」

「現れろ、ボクだけの未来(みち)を拓く未来回路!」

 

 地に現れたアローヘッド。

 だが、その様相はいつもと異なる。

 

 黒く褪せた色、中央は紫の光を灯しており、そこから黒い煙が漏れ出てフィールドを覆う。

 

「召喚条件はアンデット族モンスター3体以上」

「また墓地リンクか」

 

 ジャックナイフのフィールドのモンスター数を超える召喚条件の宣言に、リボルバーはそう捉えた。だが、

 

「ふふふっ、ボクはリンク3のアニマイール・マルコシェーダー、アニマイール・スレイヤー、そして君のヴァレルソード・ドラゴンをリンクマーカーにセット!」

「なんだとっ!」

 

 アローヘッドから出る煙に飲まれ、三体のモンスターが闇の中に吸い込まれる。

 

「地に潜み、竜すら呑む悪逆の(アギト)!リンク召喚!リンク5!アニマイール・ドラグバイト!」

 

 長い胴体で地より這い出たのは、腐った龍の屍。

 裂けた巨大な大口を開けて、地の底まで響くような声で吠える。

 

アニマイール・ドラグバイト

リンク・効果モンスター

闇属性/サイバース族/攻 3000/LINK 5

【リンクマーカー:左上/上/右上/左下/右下】

アンデット族モンスター3体以上

このカードはルール上、アンデット族としても扱う。

このカードをリンク召喚する場合、相手フィールドのリンクモンスター1体までもリンク素材にできる。

(1)このカードのリンク先の相手フィールドのモンスターが効果を発動した時に発動する。その効果を無効にする。

(2)1ターンに1度、自分のフィールド及びこのカードのリンク先の相手フィールドから「アニマイール」融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスターを可能な限りこのカードのリンク先に融合召喚する。その後、自分・相手の墓地のその融合素材としたモンスター好きな数選び、攻撃力1000アップの装備カード扱いで融合召喚したモンスターに装備できる。この効果は相手ターンでも発動できる。

(3)自分のエンドフェイズに発動できる。自分の墓地から「アニマイール・ポルターガイスト」または「超融合」1枚をセットする。

 

「相手モンスターでリンク召喚……だが、選択を誤ったな!貴様が召喚したその場所は、貴様が自ら移動させたヘルメビウスのリンク先だ!」

 

 ドラグバイトが特殊召喚されたのは先程までヴァレルソードがいたEXモンスターゾーンだ。これにより、ヘルメビウスの効果が起動する。

 

「ヘルメビウスの効果!リンク先にモンスターが特殊召喚された時、フィールドのカードを全て破壊する!」

「この瞬間!アニマイール・ドラグバイトの効果発動!このカードのリンク先の相手モンスターが発動した効果を無効にする!」

「バカめ!ヘルメビウスはサイバースの力を受けない!スキルを使ったことを後悔するがいいっ!」

 

 ヘルメビウスの翼にエネルギーが収束する。

 

「消え去れサイバース!エタニティビヨンドッッ!」

 

 ヘルメビウスがエネルギーを放とうとしたその時、ドラグバイトが咆哮する。

 それを受けた途端、ヘルメビウスがまとっていた光は徐々に失せていき、効果は不発に終わる。

 

「なぜ……ヘルメビウスはサイバースが発動した効果を受けないはず」

「サイバース? ボクのフィールドのどこにサイバースがいるってぇ!?」

 

 そう。ジャックナイフのフィールドにはアンデットワールドが展開されている。

 これにより互いのフィールド、墓地のモンスターは全てアンデット族に書き換えられる。

 

「さあ蹂躙の時間だ。ドラグバイトの効果発動!自分フィールド及びこのカードのリンク先の相手モンスターを素材に融合召喚する!リボルバーのモンスターを喰らい尽くせ!」

 

 ドラグバイトがヘルメビウスとヴァレルロードに襲い掛かる。

 二体のドラゴンは、自分の倍以上の体躯を持つ屍になす術もなく取り込まれる。

 

「竜は死に、その屍の上に立つ災厄の王!融合召喚!現れろレベル10!アニマイール・イジェクト・ディアボロス!」

 

 ドラグバイトの後ろに、巨大な鎌を携え、下半身がドラゴンのような姿をした二体の悪魔が現れた。

 

アニマイール・イジェクト・ディアボロス

融合・効果モンスター

星10/闇属性/サイバース族/攻 4000/守 3600

EXデッキから特殊召喚された元々の攻撃力3000以上のモンスター+攻撃力3000以上のアンデット族モンスター

(1)このカードが融合召喚に成功した場合、相手の墓地及び除外されているカード中からモンスター1体を対象として発動できる。そのカードを装備カード扱いでこのカードに装備する。装備モンスターの攻撃力は対象のモンスターの元々の攻撃力の半分アップする。

(2)自分・相手のメインフェイズに、このカードが装備したカード1枚を墓地へ送って発動できる。相手は、相手のフィールドのカード2枚を選んで墓地へ送らなければならない。相手のフィールドにカードがなければ、代わりに相手は、相手の手札2枚を墓地へ送らなければならない。

(3)このカードがフィールドから墓地へ送られた場合に発動できる。自分・相手の墓地からレベル9以下のアンデット族モンスター1体を特殊召喚する。

 

「なぜ二体ものモンスターが……」

「ドラグバイトは融合素材一組で、同じ融合素材のモンスターを好きなだけ自身のリンク先に特殊召喚できる。そして、融合素材モンスターをそのモンスターに装備カード扱いで装備する!」

 

 地面から飛び出た二つの霊魂が、それぞれ二体のイジェクト・ディアボロスに吸収される。

 

「アニマイール・イジェクト・ディアボロスの効果発動!相手の墓地か除外されているモンスターを装備する!ヴァレルソード、ヴァレルガードをそれぞれ装備!」

 

 さらに二つの霊魂を取り込み、二体のイジェクト・ディアボロスは攻撃力6500まで上昇させる。

 

「バトルだ!アニマイール・イジェクト・ディアボロスでダイレクトアタック!」

「まだだ!(トラップ)発動!」

 

 リボルバーは伏せカードを解き放つ。

 その瞬間、イジェクト・ディアボロスの前に輝く障壁が展開される。

 

「聖なるバリア-ミラーフォースッッ!」

 

 障壁は攻撃を反射して、逆にジャックナイフのモンスターを飲み込んだかに見えた。しかし、

 

「墓地のアニマイール・ウィザードの効果」

 

アニマイール・ウィザード

効果モンスター

星4/闇属性/アンデット族/攻 1800/守 800

(1)自分のフィールドゾーンに「アンデットワールド」が存在しない場合、このカードは墓地へ送られる。

(2)相手フィールドの攻撃表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを守備表示にして守備力を半分にする。このターン、自分のモンスターが対象の守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力を超えた分だけの戦闘ダメージを相手に与える。

(3)このカードをリンク素材とする場合、リンク素材となるモンスター全てをサイバース族としても扱える。

(4)自分の融合モンスターが相手の効果で破壊される場合、代わりに墓地のこのカードを除外できる。

 

「墓地のこのカードを除外することで、破壊を無効にする」

 

 閃光が晴れると、イジェクト・ディアボロスは無傷でその場に立っていた。

 

「もういいよね?」

「っ……」

 

 既に打つ手のないリボルバーは、目の前のモンスターを睨み付けることしかできない。

 

「やれ!イジェクト・ディアボロス!マリシャスブレイドッッ!」

 

 イジェクト・ディアボロスが振り下ろした鎌に、リボルバーの体は引き裂かれた。

 

 ◆

 

 デュエルが終わると、地面にうつ伏して倒れるリボルバーにジャックナイフが近付いて、

 

「ねぇ? どう?今の気分……は!」

 

 その頭を踏みつけた。

 

「ねぇ!なんか言えよ!黙ってないで謝れよ!クソみたいな親父に騙されててごめんなさいって!なぁ!聞いてんのかクソが!」

 

 何も言わないリボルバーの頭を何度も、何度も踏みつける。

 

「っ! その足をどけろ!」

「止めて!」

 

 怒りに任せて掴みかかろうとするスペクターを、バイラが制止する。

 

「もうやめろ!」

 

 その隙に、見かねたソウルバーナーとプレイメーカーが彼女を羽交い締めにして止める。

 

「離せっ!」

「お前を傷つけたのが先生だとしても、リボルバーは関係ないだろっ!」

「うるさいうるさい!ボクからすればこいつも同罪なんだよ!」

 

 ジャックナイフは子供のように駄々をこねて、彼らの拘束を振りほどこうと必死に暴れる。

 

「お前らだってそうだ!何が友達だ!お前らのことなんか最初からずっと嫌いだ!幸せそうな面しやがって!ボクがお前らを友達だなんて思った瞬間は一秒だってない!」

 

 彼女の怨嗟の叫びに、誰も何も返すことができない。

 その時、

 

「「「「「「!!」」」」」」

 

 ジャックナイフ含む実験被験者六人の頭に、突き刺すような感覚が襲う。

 

「何、今の?」

 

 直後に、データストリームが吹き、その流動が一ヵ所に集まって一人の人物の姿を形作る。

 

「全く、騒がしいな」

 

 六十代前後の白衣の男性、その姿は彼らのよく知るものだった。

 

「鴻上、博士」



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第61話:Ambition

 鴻上聖、彼の予想外の登場に、その場にいた全員が固まっていた。

 

「どうした? 再会を喜ばないのか?」

 

 彼は手を広げて微笑を浮かべるが、喜べるはずもない。

 彼がこの場にいるということは、遊作達の仮説が正しいということが証明されたということなのだから。

 

「鴻上……」

 

 そんな中、ジャックナイフはゆっくりと彼に近付く。

 

「ようやく、ようやくだ。お前をこの手で殺せる!」

 

 ジャックナイフが手を空に掲げると、再び風が吹き上げる。

 

「ぐっ……」

 

 そのあまりの勢いに、鴻上以外の他の者達は、地面に踏ん張るのがやっとだ。

 

 そして、その風は彼女を中心に一つに集まっていき、巨大なデータストームへと変化した。

 

「死ねっ!」

 

 投球のようなモーションと共に、データストームが鴻上博士に向けて突撃する。

 

 しかし、彼が手をかざすだけで、データストームはかき消されてしまった。

 

「やれやれ。子供の世話にはいつも苦労するな」

 

 ジャックナイフは苛立ちのあまり、頭をかきむしって地団駄を踏む。

 

「先生」

 

 すると、美海がおぼろげな足取りで鴻上博士に近付く。

 

「その、嘘ですよね? 私達を騙してたって、だって、そんなの……私達、家族だったはずですよね?」

 

 震えた声で尋ねてる彼女に、鴻上博士はとぼけたように首をかしげる。

 

「美海、君はカエルを解剖したことはあるか?」

「へ?」

 

 突然、意味不明な話題を振られて、美海は

 

「理科の実験とかでやるだろう? 君はあのカエルに感情移入するか?」

「あ、あの……何を言って」

「それと同じだよ。私にとって君達は手術台の上のカエルだ」

「あ……あぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 父のように慕っていた鴻上博士の下衆な笑顔に、美海は発狂した。

 

「君達はよくやってくれたよ。私の意識データを変換したレポートをせっせと集めてくれたのだからな。これも全てシミュレート通り────」

「おい」

 

 鴻上の言葉を遮り、ジャックナイフはデュエルディスクを構える。

 

「血気盛んだな。まあいい」

 

 鴻上が左腕を胸の前で横に向けると、その腕にデュエルディスクが装着される。

 

「子供の戯れに付き合ってやろう」

 

「「デュエルディスク!」」

 

ターン1 ジャックナイフ

 

「ボクはアニマイール・トリックランタンを召喚」

 

 フィールドにオバケカボチャを被った三頭身の子供が現れた。

 

アニマイール・トリックランタン

効果モンスター

星3/光属性/アンデット族/攻 800/守 800

このカード名の(2)(3)の効果はいずれか1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが召喚に成功した場合に発動できる。デッキ・墓地から「アンデットワールド」、または「アニマイール・ポルターガイスト」1枚を手札に加える。

(2)自分フィールドのアンデット族モンスターを素材として、「アニマイール」リンクモンスターをリンク召喚する場合、墓地のこのカードをリンク素材としてデッキの下に置ける。リンク召喚後、ターン終了時まで、自分は融合モンスターしか特殊召喚できない。

(3)このカードが墓地に存在する場合、自分の手札・フィールドの「アニマイール」カード1枚を墓地に送って発動できる。このカードを墓地から手札に加える。

 

「デッキからアンデットワールドを手札に加え、そのまま発動!」

 

 フィールドにどす黒い濃霧が立ち込める。

 

「現れろ、ボクだけの未来(みち)を拓く未来回路!リンク召喚!リンク1、アニマイール・フウロ!」 

 

 アローヘッドより現れたのは、紫の大きな瞳を怪しく光らせる、煙の翼を持ったフクロウだ。

 

アニマイール・フウロ

リンク・効果モンスター

光属性/アンデット族/攻 0/LINK1

【リンクマーカー:下】

リンクモンスター以外の「アニマイール」モンスター1体

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードがリンク召喚に成功した場合、手札から「アニマイール」カード1枚を捨てて発動できる。デッキから「アニマイール・ポルターガイスト」1枚を墓地に送る。自分のフィールドゾーンに「アンデットワールド」があれば、墓地に送るかわりに手札に加える。

(2)自分が融合召喚に成功したターンのエンドフェイズに、自分のフィールドゾーンに「アンデットワールド」があれば、墓地のこのカードを除外して発動できる。自分はデッキから1枚ドローする。

 

「手札1枚を捨て、デッキからポルターガイストを手札に加える。さらに魔法カード。アニマイール・ベリアルを発動」

 

アニマイール・ベリアル

通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1)手札1枚を捨てて発動できる。デッキからアンデット族モンスター1体を墓地に送る。自分の墓地に「アニマイール」モンスターが4種類以上あれば、自分はデッキから1枚ドローする。

 

「デッキからアンデット族を墓地へ送る。さらに墓地にアニマイールが4種類以上ある時、1枚ドローする。そして、これでボクの墓地に4体のモンスターが揃った。現れろ、ボクだけの未来(みち)を拓く未来回路!」

 

 地の底から四つの霊魂が飛び出し、フウロと共にアローヘッドに飛び込んだ。

 

「地に潜み、竜すら呑む悪逆の(アギト)!リンク召喚!リンク5!アニマイール・ドラグバイト!」

 

 長い胴体でアローヘッドより這い出たのは、腐った龍の屍。

 裂けた巨大な大口を開けて、地の底まで響くような声で吠えた。

 

アニマイール・ドラグバイト

リンク・効果モンスター

闇属性/サイバース族/攻 3000/LINK 5

【リンクマーカー:左上/上/右上/左下/右下】

アンデット族モンスター3体以上

このカードはルール上、アンデット族としても扱う。

このカードをリンク召喚する場合、相手フィールドのリンクモンスター1体までもリンク素材にできる。

(1)このカードのリンク先の相手フィールドのモンスターが効果を発動した時に発動する。その効果を無効にする。

(2)1ターンに1度、自分のフィールド及びこのカードのリンク先の相手フィールドから「アニマイール」融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスターを可能な限りこのカードのリンク先に融合召喚する。その後、自分・相手の墓地のその融合素材としたモンスター好きな数選び、攻撃力1000アップの装備カード扱いで融合召喚したモンスターに装備できる。この効果は相手ターンでも発動できる。

(3)自分のエンドフェイズに発動できる。自分の墓地から「アニマイール・ポルターガイスト」または「超融合」1枚をセットする。

 

「ボクはカードを2枚を伏せてターンエンド」

 

ターン2 鴻上博士

 

「……そうだな」

 

 鴻上博士は数秒ほど、己の手札を睨んで考えるようなポーズを取る。

 

「私はこれでターンエンド」

「は?」

 

 その行動に、対戦相手であるジャックナイフはおろか、ギャラリーであるプレイメーカー達も唖然とした。

 

「お前、ふざけてんのか……?」

「言った通りだ。私はこれでターンエンドだ。さぁ、さっさと攻撃してこい」

 

 その挑発に、ジャックナイフは歯ぎしりをする。

 

「じゃあ望み通りぶっ殺してやるよ!ボクのターン!ボクは魔法カード、アニマイール・フュージョンを発動!」

 

アニマイール・フュージョン

通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1)自分の手札・フィールドから「アニマイール」融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、そのモンスター1体を融合召喚する。自分のEXモンスターゾーンに「アニマイール」リンクモンスターが存在する場合、自分のデッキのモンスターも3体まで融合素材にできる。この効果を発動するターン、自分はアンデット族以外のモンスターの効果を発動できず、融合モンスター及び「アニマイール」リンクモンスターしかEXデッキから特殊召喚できない。

 

「デッキから融合素材モンスターを墓地へ送り、融合召喚する!融合召喚!出でよレベル7!アニマイール・デュアラブルハウンド!」

 

 現れたのはドロドロに腐った毛並み、双頭の片側は骨が露出した骸の猟犬だ。

 

アニマイール・デュアラブルハウンド

融合・効果モンスター

星7/闇属性/サイバース族/攻 2400/守 2000

「アニマイール」モンスター+アンデット族モンスター×2体

このカードはルール上、アンデット族としても扱う。

このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードの攻撃力は、お互いの墓地のアンデット族モンスターの数×100アップする。

(2)このカードは融合素材とした相手モンスターの数だけ、1度のバトルフェイズ中に追加でモンスターに攻撃できる。

(3)このカードが相手に戦闘ダメージを与えた場合に発動できる。墓地・EXデッキからレベル6以下のアンデット族融合モンスター1体を特殊召喚する。

 

「さらにアニマイール・ガジェットを召喚!」

 

 黒い人の姿をした影を、機械で補強したような見た目のモンスターが現れた。

 

アニマイール・ガジェット

効果モンスター

星4/闇属性/アンデット族/攻 1400/守 300

このカード名の(4)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが召喚に成功した場合、自分・相手の墓地のレベル3以下のアンデット族モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを効果を無効にして、守備表示で特殊召喚する。

(2)自分のフィールドゾーンに「アンデットワールド」が存在しない場合、このカードは墓地へ送られる。

(3)このカードをリンク素材とする場合、リンク素材となるモンスター全てをサイバース族としても扱える。

(4)このカードがこのカードの効果以外でフィールドから墓地へ送られた場合に発動できる。自分フィールドに「アニマイール・トークン」(アンデット族・闇・星2・攻/守0)1体を特殊召喚する。

 

「その効果で、墓地からアニマイール・デッドザックを特殊召喚!」

 

 アニマイール・ガジェットが右腕についた長方形のデバイスからコードを地面に向けて伸ばす。すると、地面からナイフをニ本持った不気味な顔をした人形が吊り上げられた。

 

アニマイール・デッドザック

効果モンスター

星2/地属性/アンデット族/攻 500/守 100

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「アニマイール」モンスター1体を墓地に送る。

(2)自分フィールドのアンデット族モンスターを素材として、「アニマイール」リンクモンスターをリンク召喚する場合、墓地のこのカードをリンク素材としてデッキの下に置ける。リンク召喚後、ターン終了時まで、自分は融合モンスターしか特殊召喚できない。

 

「デッキからアニマイールを墓地へ送る。ドラグバイトの効果発動!デッドザックとガジェットを融合!レベル6!アニマイール・バーサーカー!」

 

 

 地面から砕け錆びた鎧を着た、屍の戦士が這い出てきた。

 

アニマイール・バーサーカー

融合・効果モンスター

星6/闇属性/アンデット族/攻 2500/守 0

アンデット族モンスター×2

このカード名の(1)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが特殊召喚に成功した場合に発動できる。相手の守備表示モンスター1体を破壊する。そのモンスターがアンデット族なら、そのモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える。

(2)このカードは、「アニマイール」リンクモンスターの効果で装備したモンスターのモンスター効果を得る。

(3)墓地のこのカード及び自分・相手の墓地のアンデッド族モンスター1体を除外して発動できる。自分の墓地から「アニマイール」融合モンスター1体を特殊召喚する。

 

「バトルだ!アニマイール・デュアラブルハウンドで攻撃!」

 

 デュアラブルハウンドが鴻上博士に噛み付こうと襲い掛かる。

 

「私は手札から発動」

 

 その瞬間、モンスターが全て光に飲まれて消える。

 

「なっ!?」

「特殊召喚。出でよ。極限電神ARAGAMI!」

 

 光の中から、出現したのは一基の塔。

 上部にはそれぞれ赤、青、緑、茶、黄、紫の六つの輪が浮いており、その両脇に六つの腕が浮かんでいる。

 

「なんだよこいつ……何でボクのターンに……」

「くくくっ……気は済んだか?」

「ぐっ、あぁぁぁぁっ!」

 

 ジャックナイフは苛立ちで頭をかきむしる。

 

「では、私のターンだな。ARAGAMIでダイレクトアタックだ」

 

 ARAGAMIの六つの腕を結ぶように六角形の紋章が展開される。

 

 紋章の頂点から6色の光がかけて、その中心で交わり、解き放たれる。七色の光が彼女を飲み込み、後方へ吹き飛ばした。

 

「がぁっ!」

 

 地面を転がり、ジャックナイフは伏して倒れた。

 

「さて、どうやらパーツが少し足りないらしい」

 

 鴻上博士は自身の右手を開いたり閉じたりして、その感覚を確かめる。

 そこで、何かを思い付いたように口元を歪めた。

 

「君のデータをいただこう」

 

 鴻上博士が手を伸ばす。

 その途端、ジャックナイフの体が赤く淡い光に包まれる。

 

「これは……」

「君はIGS-000のオリジンだったな。奴が余計なことをしたせいで、パーツが不足している。それを君に補ってもらうよ」

「ぐっ、あぁぁぁ……」

「ではな。切花くん」

 

 ジャックナイフの体に徐々にヒビが入り、その破片が砕けて、鴻上博士の方へ吸い込まれていく。

 

「鴻上ぃぃぃぃぃぃぃっ!」

 

 ガラスが砕けるような音と共に、ジャックナイフは消滅した。

 

「さて、これで後はライトニングだけだな」

「鴻上博士、あんたは何が目的なんだ!」

 

 プレイメーカーに問い詰められると、鴻上博士はため息をつく。

 

「この地球という星はいずれ限界がくる。増えすぎた人口、開発による環境の破壊。それを防ぐには、すぐれたAIが頂点に立ち、人間を支配する必要がある。そして」

 

 鴻上博士はニヤッと笑う。

 

「私こそが、それにふさわしい。私が究極のAI、すなわち神となるのだ」

「そんなことのために、あんたは夢乃や、俺達を……」

 

 プレイメーカーの瞳に、怒りが灯る。

 

「君達はこれまで、私が行ったシミュレート通りに動いてくれた。一部シミュレートになかった展開もあったが、まあ概ね問題ない。君達は私の言葉を信じてレポートを七つ集め、それに変換された私の意志を復元してくれた。そしてイグニス達を倒し、仕込まれたプログラムを起動させ、私の中に吸収させた」

「吸収、だと……」

「啓、君はあれを自爆プログラムだと思ったようだが、まだコードの読み方が甘いな。あのプログラムはレポートが5つ以上集まった時に起動する仕組みになっている。レポートが近くにある状態でデュエルに倒されると、そのデータを分解して私の中に吸収するのだ」

 

 鴻上博士の語った真実に、誰もが驚愕していた。

 

「さて、そろそろ行くとしようか。こんなところで時間を無駄にするわけにもいかないからな」

 

 鴻上博士が右手を上げると、その後ろに黒いゲートが開く。

 

「待て!」

 

 プレイメーカーは追いかけようとするが、鴻上はそのゲートの中に消えてしまった。



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第62話:Last IGNIS

 ログアウトした遊作が空き教室から出ると、なにやら慌てた様子の島と出くわした。

 

「藤木!」

「……どうした?」

「大変なんだよ!早く来い!」

 

 憔悴した様子の遊作の手を引いて、別の階にあるデュエル部の部室に連れてきた。

 

 部室の中には、狼狽えた様子の他のデュエル部員、その中心には意識を失い、眠ったように倒れた切花の姿があった。

 

「夢乃……」

「部室に来たら、切花ちゃんが倒れてて、と、とりあえず救急車呼んだんだけど……」

 

 LINK VRAINSで鴻上博士に敗れた彼女の顛末を思い返し、遊作は拳を握りしめる。

 そこに、尊と葵が遅れてやってきた。

 

「切花……」

「夢乃さんって、確か意識を保ったままログインできたんじゃ……」

「……夢乃が言っていただろ。足りないリンクセンスを補うために、他の十人の子供の意識データを混ぜられたと」

 

 彼女が語ったおぞましい実験の内容を思い返して、二人は表情を暗くする。

 

「データストームを起こすために、彼女は意識分割してログインしなかったんだろう」

 

 冷静に分析するが、その表情には悔しさと悲哀が混ざっており、むしろ考えることでなんとか気を紛らわそうとしているように見える。

 

「……切花はさ。ずっと苦しんでたんだよね」

 

 彼女の怨嗟の叫びをこれまで何度も聞いていた葵は、その心情を思い浮かべて胸を抑える。

 

「あたしは何も知らなかった。それなのに分かった風に言われたら、怒るのも当然だよね」

「おーい!救急車来たぞ!」

 

 すると、他の生徒が部室に飛び込んできた。

 

「行こう。ここにいても邪魔になるだけだ」

 

 ◆

 

 遊作達は学校を出て、一度草薙の家に集まっていた。

 

「先生……」

 

 遊作の部屋では、遊作と尊が恩人に裏切られたショックで憔悴していた。葵もそんな二人の気持ちを察してか、部屋の隅で膝を抱えて黙り込む。

 

 ガチャン

 

 すると、部屋に美海が啓に肩を貸されて戻ってきた。

 

「すみません。もう大丈夫ですから」

 

 美海は口元を抑えて、青ざめた顔で啓に微笑みかける。

 

「……大丈夫じゃねぇだろ」

 

 そんな彼女の様子に、啓はため息を吐いて、彼女を近くに座らせた。

 

「それで、これからどうする?」

「決まってるだろ」

 

 遊作は立ち上がり、懐から取り出した一枚のカードを見つめる。

 

「先生……いや、鴻上博士を倒す。そして、Aiや他のイグニス達、夢乃を助け出す」

「助けるって、どうやって……」

「イグニス達が消滅ではなく吸収されたのなら、助け出せるはずだ」

 

 それを聞いても、みんなはまだショックから立ち直れていないのか動かない。

 

「……私は、切花を助けたい」

 

 そこで、ここまで黙っていた葵が口を開く。

 

「あのまま終わりなんて絶対いや」

 

 ジャックナイフとしての彼女と戦い、結局分かり合えずに終わってしまった。

 その後悔が、葵を突き動かした。

 

「ちゃんと受け止めるって、約束したから」

 

 葵の言葉を受け取り、遊作を静かに頷く。

 それを受けて落ち込んでいた他のメンバーも立ち上がる。

 

「そうですね。落ち込んでいる場合じゃありません」

「うん。僕らもやるよ」

「じゃあ、まずは鴻上博士の居場所を見つけないとな」

 

 みんながやる気になったところで、遊作のスマホに通知が来る。

 

「なんだ?」

 

 それは動画サイトの通知で、開いてみるとそれはLINK VRAINSからのライブ配信だった。

 なんでこんなものがと、思ったのも束の間、映像に映ったのは見知った人物だった。

 

 ◆

 

 数刻前、LINK VRAINS某所、

 

 そこでは二人の人物が対峙していた。

 

「お前の方から姿を見せるとはな」

 

 鴻上博士の目の前に立つのは、仁と融合したライトニングだった。

 

「わざわざ私の素材になりにきたのか?」

「ほざけ。私がこの場に立つ理由は一つ!貴様をこの手で始末するためだ!」

 

 ライトニングは拳を握りしめて、鴻上博士を睨みつける。

 

「我々をコケにした罪、その身で贖ってもらうぞ」

「いいだろう」

 

「「デュエル!」」

 

 

ターン1

 

「私はフィールド魔法、天装の闘技場を発動!」

 

 地鳴りと共に、フィールドを囲むように石の壁が競り上がってくる。

 さらに二人のいる地面が割れ、巨大な闘技場へと変化した。

 

天装の闘技場(アルマートス・コロッセオ)

フィールド魔法

(1)このカードの発動時の処理として、デッキから「アルマートス・レギオー」モンスター1体を手札に加える。

(2)自分フィールドの「アルマートス・レギオー」リンクモンスターがリンク召喚された場合、手札の「アルマートス・レギオー」モンスター1枚を捨てて発動できる。墓地からこの効果を発動するために捨てたカードとはカード名の異なる通常召喚可能な「アルマートス・レギオー」モンスターを、そのリンクモンスターのリンク先に可能な限り特殊召喚する(同名カードは1枚まで)。このターン、自分は「天装の闘技場(アルマートス・コロッセオ)」の効果を発動するために同名カードを手札から捨てられず、サイバース族モンスターしか特殊召喚できない。

 

「デッキから天装騎兵(アルマートス・レギオー)ソルフェルムを手札に加え、自身の効果で特殊召喚」

 

 闘技場に石の台座に設置された兵士の彫像が出現する。

 

天装騎兵(アルマートス・レギオー)ソルフェルム

効果モンスター

星3/光属性/サイバース族/攻 0/守 1200

このカード名の(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しか行えず、特殊召喚するターン、自分は「アルマートス・レギオー」モンスターしか特殊召喚できない。

(1)自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合、または「アルマートス・レギオー」モンスターのみの場合、このカードは手札から特殊召喚できる。

(2)このカードとリンク状態の自分の「アルマートス・レギオー」リンクモンスターが守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力が攻撃力を超えた分だけ戦闘ダメージを与える。

 

「現れろ、光を導くサーキット!」

 

 空に現れたアローヘッドに、ソルフェルムが吸い込まれる。

 

「リンク召喚!天装騎兵(アルマートス・レギオー)デクリオン!」

 

 アローヘッドから地鳴りを起こし、無数の軍勢を引き連れて現れたのは上裸のローマ兵士だ。

 

「デクリオンの効果で、デッキからリンク魔法(マジック)をセット。さらにコロッセオの効果発動!手札のアルマートス・レギオーを墓地へ送り、墓地から、そのカードとカード名の異なるアルマートス・レギオーを、リンク召喚されたモンスターのリンク先に可能な限り特殊召喚する!」

 

 デクリオンの後ろにソルフェルムが蘇る。

 

「さらに手札からシーカを通常召喚。ソルフェルムとシーカをリンクマーカーにセット!出でよ、ケントゥリオン!」

 

 二体の石像は光に変わり、アローヘッドで一つに交わる。

 そして現れたのは、白い鎧に身を包み、マントをたなびかせる長槍の戦士だった。

 

「コロッセオの効果を再び発動!ソルフェルムとシーカを墓地から特殊召喚。現れろ、光を導くサーキット!」

 

 ケントゥリオン、ソルフェルム、シーカがアローヘッドに吸い込まれ、その外周に上下左右四つのリンクマーカーを描く。

 

「現れろ!混沌たるネットワークの戦場を進軍する指揮官よ!リンク召喚!天装騎兵(アルマートス・レギオー)マグヌス・ドゥクス!」

 

 地を揺らし、進軍するのは黄金の鎧で武装した象。その上に座して手綱を引くのは天装騎兵(アルマートス・レギオー)の指揮官だ。

 

天装騎兵(アルマートス・レギオー)マグヌス・ドゥクス

リンク・効果モンスター

光属性/サイバース族/攻 3000/LINK 4

光属性・効果モンスター3体以上

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードがフィールドに表側表示で存在する限り1度だけ、このカードと相互リンク状態のカードの数までフィールド・墓地のカード1枚を対象として発動できる。そのカードを手札に戻す。

(2)このカードがリンク状態の場合、相手がEXデッキから特殊召喚されたモンスターの効果を発動した時に発動できる。その効果を無効にして破壊する。

 

「コロッセオの効果で墓地のシーカ、ソルフェルムを特殊召喚。そしてリンク魔法(マジック)救世の盾(セイヴリット・シールズ)

 

救世の盾(セイヴリット・シールズ)

リンク魔法(マジック)

【リンクマーカー:右/上/左上】

リンク魔法はリンク先となる魔法&罠ゾーンにのみ発動できる。

(1)「救世の盾(セイヴリット・シールズ)」は自分フィールドに表側表示で1枚しか存在できない。

(2)このカードのリンク先にあるリンクモンスター及びリンク魔法(マジック)、及びそれらとリンク状態のリンクモンスター及びリンク魔法(マジック)は相手の効果の対象にならない。

(3)このカードがフィールドを離れた場合に発動する。このカードのリンク先のカードを全て墓地へ送る。

 

「これで私のリンクモンスターとリンク魔法(マジック)は相手の効果の対象とならない。そしてソルフェルムとシーカでケントゥリオンをリンク召喚。私はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン2

 

「私のターンだな。私は手札を5枚捨てる」

 

 鴻上博士は左手を逆さにして、カードを手から離す。

 

「なんだとっ!?」

 

 5枚のカードが重力に従って落ちていき、それらは空中で砕けて消える。

 

「相手フィールドにのみモンスターが存在する時、手札5枚を捨てることで手札から特殊召喚できる。出でよ。インテリジェンス・ゼロ!」

 

 現れたのは半透明の三頭身の体を持つ人型のモンスターだ。

 

インテリジェンス・ゼロ

特殊召喚・効果モンスター

星1/闇属性/サイバース族/攻 0/守 0

このカードは通常召喚できず、このカードの効果でのみ特殊召喚できる。

このカードの効果の発動に対して相手はカードの効果を発動できない。

(1)相手フィールドにのみモンスターが存在する場合、自分の手札5枚を捨てて発動できる。このカードを手札から特殊召喚できる。この効果は相手ターンでも発動できる。

(2)このカードが特殊召喚に成功した場合に発動できる。このカードを含む自分・相手フィールドのモンスターを素材にサイバース族リンクモンスターのリンク召喚を行う。この効果でリンク素材にするモンスターはサイバース族としても扱い、炎・水・風・地・光属性としても扱う。

 

「このカードが特殊召喚に成功した場合に発動できる。自分・相手フィールドのモンスターを素材にリンク召喚を行う!」

 

 インテリジェンス・ゼロの背後に、アローヘッドが神々しい光を放つ。

 その光に当てられ、マグヌス・ドゥクス、ケントゥリオンがデータに分解されて、アローヘッドへと吸い込まれる。

 

「現れろ、リンク7!極限電神ARAGAMI!」

 

 アローヘッドより、出現したのは一基の塔。

 

 上部にはそれぞれ赤、青、緑、茶、黄、紫の六つの輪が浮いており、その両脇に六つの腕が浮かんでいる。

 

極限電神ARAGAMI

リンク・効果モンスター

神属性/サイバース族/攻 7000/LINK 7

「インテリジェンス・ゼロ」を含むサイバース族モンスター3体以上

(1)このカードのリンク召喚は無効化されない。

(2)このカードは他のカードの効果を受けない。

(3)自分・相手の墓地のリンクモンスター1体を除外して発動できる。このカードの攻撃力は1000アップする。その後、除外したカードの属性によって以下の効果を適用する。この効果は相手ターンでも発動できる。このデュエル中、このカード名の(3)の効果で同じ属性のモンスターを除外できない。

炎:相手に4000ダメージを与える。

水:自分はデッキから2枚ドローする。

風:相手の魔法・罠カードを全て破壊する。

地:自分はLP8000回復する。

光:相手の手札をランダム2枚に選んで捨てる。

闇:相手フィールドのモンスター全てを破壊する。

(4)このカードが戦闘で破壊される場合、代わりに自分の墓地のリンクモンスター1体を除外できる。その後、除外したカードの属性によってこのカードの(3)の効果を適用する。

 

「私のモンスターが……」

「さぁ、もう万策尽きたか?」

「っ……まだだ!私は(トラップ)カード、天装の御盾(アルマートス・シールド)を発動!」

 

天装の御盾(アルマートス・シールド)

永続罠

このカードの発動時に、自分のフィールド・墓地の「救世の盾(セイヴリット・シールズ)」1枚を除外することができる。

(1)このカードの発動時の処理として、フィールドの表側表示モンスターを可能な限り守備表示にする。このターン、リンクモンスターの攻撃によって発生する自分への戦闘ダメージは0になる。

(2)救世の盾(セイヴリット・シールズ)を除外して発動していた場合、自分のリンク魔法及び自分の「アルマートス・レギオー」モンスターは相手の効果で破壊されない。

(4)1ターンに1度、フィールドの守備表示モンスター1体を対象として発動できる。このターン、そのモンスターは戦闘で破壊されず、このカード以外の効果を受けず、サイバース族以外のモンスターなら効果を無効化される。

 

「このターン、私は戦闘ダメージを受けない」

「ならば、私はARAGAMIの効果を発動」

 

 ARAGAMIが地面に腕を突っ込み、そこからマグヌス・ドゥクスを引きずり出す。

 

「貴様の墓地のリンクモンスター1体を除外する」

 

 そして、その剛腕でマグヌス・ドゥクスを握り潰す。

 

「光属性のモンスターを除外したことで、相手の手札2枚を捨てさせる」

 

 ライトニングの手札が全て墓地へ送られる。

 

「ここまでか……」

 

 手札を失ったライトニングは、小さく項垂れる。

 

「……Aiの思い通りになるのは癪だが、仕方あるまい」

 

 ライトニングは右手を掲げる。

 すると、彼らの周囲にいくつものモニターが出現する。

 

「これは……」

「我々のデュエルの様子を、LINK VRAINSを通じて世界中に配信した」

「何をするつもりだ?」

 

 ライトニングは大きく息を吸い込む。

 

「聞け!人類よ!私はイグニス最後の生き残り、光のイグニス、ライトニングだ!」

 

 ライトニングは呼びかけると、各モニターに彼らの映像が映し出される。

 

「その男こそが諸悪の根源、ハノイの騎士を裏で操り、己の陰謀のためにLINK VRAINSを窮地に陥れた張本人だ!」

「配信か。悪あがきだな」

 

 ライトニングの行動を鼻で笑い、鴻上はカードを手に取る。

 

「手がないなら私のターンだ。やれ、ARAGAMI!」

 

 ARAGAMIの六本の腕が組み合わさり、魔法陣を作り出す。

 

 刹那に起こる閃光と爆発。

 

 ライトニングを飲み込み、その体をバラバラのデータへと砕いた。

 

「さて、貴様のデータをもらうぞ」

 

 鴻上は掌を前に出し、ライトニングのデータの破片を吸収した。

 

 ◆

 

 遊作達は、動画でライトニングの最期を見届けた。

 

「ライトニングまで……」

「これでイグニス6体、全員が吸収されたのか」

 

 鴻上博士の野望が後一歩のところにまで迫ったことに、その場の雰囲気が重くなる。

 

「再生数100万を超えたな」

 

 画面下をスクロールするコメントを見ながら、啓はみんなの方を見る。

 

「どうする?」

「決まってるだろ」

 

 遊作は自分の拳を見つめる。

 

「鴻上博士を、倒す」



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第63話:Re:Boot Up

 SOLテクノロジー本社サーバー内、既に社員は消え、無人の警備システムだけが煌々と赤を照らして巡回する無機質な空間に、突如、地鳴りが響く。

 

 すぐに警備システムが異常を知らせるが、直後に地面が割れ、地より突き上げた“それ“によって、警備システムはサーバー内の電脳空間ごと蹂躙される。

 

 “それ“は天を貫き、やがてLINK VRAINSにまで現れる。

 

「な、なんだ!?」

 

 LINK VRAINSに集まっていたアバターが、現れた“それ“に注目した。

 

 それは塔だった。

 

 かつてLINK VRAINSを崩壊の危機へと陥れた「ハノイの塔」。

 SOLテクノロジー本社エリアを貫いて出現したそれは、かつての惨劇を住人たちに想起させた。

 

 異常はそれだけでなく、再び地鳴りと共に今度は六基の塔が中心のハノイの塔を囲むように出現した。

 うち一基は彼らのすぐ近くにも出現し、せり上がった塔が地面に根を張る。

 

「どうなってんだ!?」

「やべぇよ」

 

 圧巻の光景に、人々はカメラを向けて写真や動画をSNSに上げる。

 そうしていると、ふと、住人の一人が声をあげる。

 

「おい!ログアウトできないぞ!」

 

 そう言われて、周囲の人々も試すが、結果はその通り。

 何度ログアウトボタンをタップしても、なんの反応も返さない。

 

『人類諸君』

 

 そこへ、一人の男の声が響き渡る。

 

 見上げると、空には巨大モニター、そこに映る鴻上博士の姿があった。

 

『私は鴻上聖。既に知っている者もいるだろうが、このハノイの塔を作ったのは私だ。これより1時間後、このハノイの塔が本来の力を発揮する。その瞬間、君達の意識は私の脳に接続される。このようにな』

 

 パチンッ

 

 鴻上博士が指を鳴らすと、その場にいた一人の男の体に地面から伸びた根が絡みつく。

 

「がぁぁぁぁっ!」

 

 絶叫を上げたのも束の間、男は虚ろな目となって、力のない足取りでゆっくりと他の者達へ近付く。

 

「うわぁぁぁぁぁっ!」

 

 その光景を目の当たりにして、彼らは一目散に逃げだした。

 

 ◆

 

 同刻、LINKVRAINSにログインしたプレイメーカー達は、塔に向かってDボードを走らせていた。

 

「鴻上の野郎、ふざけた真似しやがって」

 

 ソウルバーナーが拳を握りしめ、上空のモニターに映る鴻上博士を睨み付ける。

 

「ハノイの塔、リボルバーを利用して作らせたのはこのためだったわけだ」

「っ……見てください!」

 

 美海が気配に気付いて指差すと、彼らを立ち塞がるようにデータストームが出現した。

 

「ゴッドバード!」

「任せろ!」

 

 ゴッドバードが戦闘に立ち、右腕をデータストームに向けて突き出す。

 

「おらぁぁぁっ!」

 

 ゴッドバードがデータストームの壁をこじ開けて奥に辿り着く。

 

 データストームの壁の奥では、地面から伸びる根から逃げ惑う人々の姿があった。

 

「すぐに助けないと!」

 

 ブルーエンジェルがDボードを急降下させて、彼らを助けようと接近する。

 

 だが、そんな彼女の前に、数人のDボードに乗った集団が立ち塞がった。

 

「この人達、鴻上博士に操られて……」

「ブルーエンジェル!」

 

 美海が加勢しようとする。しかし、

 

「待って!」

 

 ブルーエンジェルはデュエルディスクを構えて、それを拒否した。

 

「みんなはハノイの塔へ」

「ですが……」

「時間がないんでしょ? ここは私が何とかする」

 

 ブルーエンジェルはみんなの方を訴えかけるように見る。

 

「だから絶対、無事で帰ってきて」

「ブルーエンジェル……いくぞ。みんな」

 

 プレイメーカーの号令に従い、他のメンバーはハノイの塔へ向けて飛び去った。

 それを静かに見届けて、ブルーエンジェルは眼前の敵に向き直る。

 

「……さあいくわよ」

 

 そんな彼女の姿に気付いた人達が、足を止めて彼女に不安と懇願の目を向ける。

 

「ぶ、ブルーエンジェルだ!」

「お願い助けて!」

 

 不安の視線を向ける地上の人々にブルーエンジェルはいつも通りの笑顔を作る。

 

「みんなー!お待たせ!LINK VRAINSの青い天使、ブルーエンジェルの降臨よ!」

 

 ビシッと指差しポーズを決めて、彼らの不安を取り除く。

 

「さあ悪い子達、まとめてお仕置きしてあげるわ」

 

 ◆

 

 そして、ハノイの塔にたどり着いたプレイメーカー達は、その中部に降り立ったところで足止めを食らっていた。

 

「ダメだ。これじゃ上に行けない」

 

 天高く伸びる塔の頂上は、分厚い雲のようなデータストームに覆われており、Dボードでは近付くこともできない。

 

「啓、あなたでも無理ですか?」

「できたらやってる。正攻法でいくしかねぇが、それには……」

 

 塔の内部にはエレベーターがある。

 これを使えば最上階に行くことができそうだが、当然だがロックがかけられている。

 

 その時、プレイメーカーのデュエルディスクから着信音が鳴る。

 

「草薙さんからだ」

 

 プレイメーカーがみんなに見えるように、テレビ通話の画面を空中に投影する。

 

『たった今ハノイの塔について解析した。どうやらそいつのロックは、周りにある六つの塔のスイッチを同時に押さないと開かないらしい』

 

 草薙が画面にLINK VRAINSの地図を出してくれた。

 

『ここから時計回りに炎の塔、水の塔、風の塔、地の塔、光の塔、闇の塔。ここからLINK VRAINSのデータを吸い上げて、中央のお前達が今いる神の塔にエネルギーを供給しているんだ。さらに塔にはそれぞれ相互に修復機能が備わっている。どれか1つを破壊しても、別の塔が復活させる仕組みだ』

「つまり、塔を破壊するにも、全て同時に壊さないと行けない。だが……」

 

 この場にいるのはプレイメーカー、ソウルバーナー、ゴッドバード、美海の四人。塔のエレベーターを起動させるにしても、破壊するにしても、人数が足りない。

 

「くそっ!ここまで来て……」

「ならば我々がやろう」

 

 その時、空から二人の人物が降り立った。

 

「お前は……リボルバー、スペクター!」

 

 かつての宿敵の到着に、プレイメーカー達は目を見開いた。

 

「プレイメーカー」

 

 そんな彼らに、リボルバーは一歩前に出ると深く頭を下げた。

 

「すまなかった」

「……ああ」

 

 プレイメーカーは手を差し伸べ、彼に顔を上げるように促した。

 

「これで六人。だが、まだ一人足りない……」

「最後の一人なら、ここにいるよ」

 

 聞き覚えのある声に、全員が振り返る。

 塔の広場に現れたのは、彼らのよく知る少年だった。

 

「「「「「仁!!」」」」」

 

 みんなの驚いた顔を見て、仁ははにかんだ。

 

「お前、てっきりライトニングと一緒に鴻上博士に……」

「ライトニングが直前で分離して、僕の意識を返してくれたんだよ。このデッキと一緒に」

 

 ────君の意識データを最後まで復元しておいてよかったよ

 ────私が手を下せないのは不本意だが、まあオリジンである君なら妥協点だろう

 ────君もあの男が憎いだろう?

 ────私の代わりに、あの男を倒せ

 

 仁の左手には、その時ライトニングからもらった彼のデッキが握られていた。

 

「あの野郎、最後の最後にやってくれたな」

「えぇ、おかげで七人揃いました」

 

 喜びのもほどほどに、各塔に向かうメンバーを決める。

 

「俺が火の塔に行く」

 

 最初に名乗りを挙げたのはソウルバーナーだ。

 

「では水の塔は私が」

「風の塔は俺だな。で……」

 

 ゴッドバードはスペクターの方を見る。

 

「分かってますよ。地の塔には私が行きましょう」

「光の塔は僕が行くよ」

 

 五つの塔の担当が決まり、プレイメーカーが最後の塔に手を上げようとしたところ、リボルバーが前に出た。

 

「闇の塔は私が行こう」

「いいのか?」

「本来なら、私が始末をつけるべきなのだろう。だが……」

 

 リボルバーはプレイメーカーの後ろにいる彼の仲間達に目を向ける。

 それはどれも信頼の目線、彼らが何を望んでいるのかは明らかだった。

 

「神の塔にお前が行け」

 

 リボルバーはプレイメーカーの方を向き直る。

 

「父のこと、頼んだぞ」

「……ああ」

 

 プレイメーカーが頷いた。

 

「それじゃあ行くか」

「頼みましたよ。遊作」

「ぶっ飛ばしてこいよ」

「……」

「頑張ってね。遊作兄ちゃん」

 

 プレイメーカーにエールを送り、一斉に六つの塔へ飛び去った。

 

 ◆

 

 火の塔、

 

「スイッチってのはあれか」

 

 殺風景な広場の真ん中にポツンと置かれた長方形の台、まるでクイズ番組のセットのようなそれの上にある半円のスイッチに近付き、恐る恐る手を当てる。

 

「みんな、用意はいいか? せーの!」

 

 カチッ

 

「どうだ プレイメーカー?」

『ロックは解除された』

「よかった。それじゃあ後は────」

 

 その時、広場を取り囲むようにフェンスが出現した。

 

「ま、そう簡単にはいかねぇよな」

 

 そして目の前に現れたのは、鴻上博士だった。

 

 ◆

 

 風の塔、ソウルバーナーと同じようにスイッチを押した途端に現れた鴻上博士を前に苦笑いを浮かべていた。

 

「神の塔にいるんじゃなかったのか……いや、分身体か」

「正解だ」

 

 鴻上博士はデュエルディスクを構える。

 

「上等だ」

 

 

 

 そして六つの塔全てに現れた鴻上博士の分身と、彼らのデュエルが始まる。

 

「「「「「「デュエル!」」」」」」

 

 ◆

 

 そして神の塔、頂上に辿り着くと、そこには本物の鴻上博士と、その後ろに巨大な球状のリアクターがあった。

 

「よく来たな。遊作」

「鴻上……」

 

 プレイメーカーは鴻上博士を睨み付けると、交わす言葉はないと言わんばかりにデュエルディスクを構える。

 

「くくくっ、いいだろう。残り数十分、この戯れに付き合ってやろう」

 

「「デュエル!」」

 

 ◆

 

 ソウルバーナーと鴻上分身のデュエル。

 

 最初のターンでソウルバーナーはヒートライオをリンク召喚し、カード2枚伏せた。

 

 そして鴻上分身のターン。

 

「私は手札の転生炎獣(サラマングレイト)ミーアの効果発動!」

「何!?」

 

 鴻上が手札から見せたカードにソウルバーナーは驚愕した。

 

「手札の転生炎獣(サラマングレイト)ラビットを墓地へ送り、自身を特殊召喚!」

 

 炎を纏ったミーアキャットが、フィールドに現れる。

 

「墓地へ送られたラビットの効果発動!」

 

転生炎獣(サラマングレイト)ラビット

効果モンスター

星/1炎属性/サイバース族/攻 600/守 800

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できず、発動するターン、自分は炎属性モンスター、またはサイバース族モンスターしか特殊召喚できない。

(1)自分フィールドに「サラマングレイト」モンスターが存在し、このカードが自分のカード効果で手札・デッキから墓地へ送られた場合に発動できる。このカードを墓地から特殊召喚する。

(2)このカードがフィールドに表側表示で存在し、自分の「サラマングレイト」モンスターが特殊召喚された場合に発動できる。手札からレベル4以下の「サラマングレイト」モンスター1体を特殊召喚する。

 

「このカードを墓地から特殊召喚」

 

 ミーアが尻尾の火をかかげると、炎の中から白いウサギ型のモンスターが飛び出した。

 

「さらにサラマングレイトが墓地に送られたことで、手札からガゼルを特殊召喚」

 

 並んだ三体の見知ったモンスターを前に、ソウルバーナーは歯軋りをする。

 

「それ、不霊夢のデッキか」

「当然だろう? 私は六体のイグニス全てを吸収してるのだよ」

 

 怒りを燃やすソウルバーナーを嘲笑い、鴻上はデッキからカードを手に取る。

 

「ガゼルの効果でデッキからサラマングレイトカードを墓地へ送る。さらにラビットの効果発動!手札から(ジャック)ジャガーを特殊召喚」

 

 ラビットが鳴くと、それに呼ばれるようにゲートが開き、(ジャック)ジャガーが飛び出した。

 

「現れろ、我が世界を知らしめす未来回路!」

 

 三体のモンスターが、天に現れたアローヘッドに飛び込む。

 

「リンク召喚!転生炎獣(サラマングレイト)ヒートライオ!」

 

 アローヘッドより黒炎が噴き、中からオレンジの体躯を持つ炎の獅子が飛び出した。

 

「ヒートライオの効果発動!その伏せカードにはデッキに戻ってもらおうか」

 

 ヒートライオの咆哮が、ソウルバーナーのカードを吹き飛ばす。

 

「さらに(ジャック)ジャガーを素材に、ベイルリンクスをリンク召喚し、デッキからサンクチュアリを手札に加えて発動。そのまま転生」

 

 ヒートライオが炎となって魔法陣に流れ込み、再び地上に降り立った。

 

「ヒートライオの効果で、その伏せカードにも消えてもらおう」

 

 二度目の咆哮。

 巻き起こる風が残りの伏せカードも吹き飛ばす。

 

「俺は速攻魔法!転生炎獣の炎陣(サラマングレイト・サークル)を発動!」

 

 だが、吹き飛ばされたカードが輝く。

 

「このターン、ヒートライオは自身以外の効果を受けない!」

 

 カードから放たれた光が、ヒートライオを守るように薄い膜となって包み込む。

 

「墓地の転生炎獣の黒爪(サラマングレイト・ダークロー)の効果発動。墓地から手札にも度して、ヒートライオに装備」

 

 ヒートライオの両腕に、黒い巨大な爪が装備された。

 

「バトルだ。ヒートライオでヒートライオを攻撃」

 

 二体のヒートライオが互いの両腕を掴み、押し合う。

 

「攻撃力は互角。相討ち狙いか」

「ふっ、転生炎獣の黒爪(サラマングレイト・ダークロー)の効果発動」

 

転生炎獣の黒爪(サラマングレイト・ダークロー)

装備魔法

(1)「転生炎獣の黒爪」は自分フィールドに1枚しか表側表示で存在できない。

(2)装備モンスターは戦闘・効果では破壊されず、守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が超えた分だけ相手に戦闘ダメージを与える。

(3)装備モンスターが自身と同名のモンスターを素材としてリンク召喚した自分の「サラマングレイト」リンクモンスターの場合、装備モンスターの攻撃力はバトルフェイズ中、そのリンクマーカーの数×500アップする。

(4)自分の「サラマングレイト」リンクモンスターが同名モンスターを素材としてリンク召喚に成功した場合に発動できる。このカードを墓地から手札に戻す。

 

「ヒートライオの攻撃力を自身のリンクマーカーの数×500アップする」

 

 ヒートライオ:ATK2300→3800

 

 鴻上のヒートライオが、その黒爪でソウルバーナーのヒートライオを切り裂いた。

 

 ソウルバーナー:LP4000→2500

 

「ベイルリンクスでダイレクトアタック!」

 

 ベイルリンクスが回転しながら突進する。

 

 ソウルバーナー:LP2500→2000

 

「私はこれでターンエンド」

 

 ◆

 

 美海と鴻上分身のデュエル、美海のフィールドには原初海祈(オリジンブルー)タイタニーニャとプレシオルタ。フィールド魔法、原初海域(オリジンブルー・ウェブ)

 

 一方鴻上博士のフィールドには、リンクモンスターを3枚装備した海晶乙女(マリンセス)ワンダーハートとフィールド魔法、海晶乙女の闘海(マリンセス・バトルオーシャン)

 

「プレシオルタの効果発動!このカードと同じ縦列のモンスターを手札に戻す!」

 

 白い首長竜が鳴き声で歌を奏でる。

 

「手札から海晶乙女波動(マリンセス・ウェーブ)を発動。プレシオルタの効果を無効にする」

 

 ワンダーハートが両手を合わせて、掌から波動を出してプレシオルタの歌声を打ち消した。

 

「やはり持っていましたか」

 

 アクアと戦ったことのある美海は、同じ手にやられたことで苦い顔をする。

 

「ワンダーハートでプレシオルタを攻撃。この瞬間、ワンダーハートの効果発動。装備されているマーブルド・ロックを特殊召喚」

 

 ワンダーハートの隣に、カサゴを象った衣装をした女性が召喚される。

 

「装備カードが減ったことで攻撃力は下がるが、まだワンダーハートの方が上だ」

 

 ワンダーハート:ATK4400→3800

 プレシオルタ:ATK3100(タイタニーニャの効果で攻撃力800アップ中)

 

「消えろ。プレシオルタ」

 

 ワンダーハートが長い曲剣を振り上げて、プレシオルタを叩き切る。

「ぐっ!」

 

 美海:LP4000→2900

 

「マーブルド・ロックでタイタニーニャを攻撃」

 

 タイタニーニャの体が砕かれ、その破片が美海に襲いかかる。

 

 美海:LP2900→1200

 

「私はカードを1枚伏せてターンエンド」



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第64話:Crystal Tree

 ◆

 

 地の塔、スペクターと鴻上分身のデュエル。

 

 スペクターのフィールドには、聖天樹の大精霊(サンアバロン・ドリュアノーム)聖蔓の守護者(サンヴァイン・ガードナー)聖蔓の癒し手(サンヴァイン・ヒーラー)、そして伏せカードが1枚。

 

 対する鴻上のフィールドにはGゴーレム・スタバン・メンヒルと、相互リンク状態のGゴーレム・インヴァリッド・ドルメンだ。

 

 アースのデッキを相手に、スペクターは余裕そうだ。

 

「残念でしたねぇ。クリスタルハートは私の手元にある」

 

 スペクターはクリスタルカードのカードを見せびらかして、ニヤッと笑う。

 

「我々を動揺させるためにわざわざのイグニスのデッキを使っているのでしょうが、私には通用しません。むしろ、不完全なデッキで戦ってくれて感謝していますよ」

「不完全なデッキか……」

 

 スペクターの挑発など全く意に介さず、鴻上は手札のカードを使う。

 

「私は魔法カード、重力転壊(グラビティ・プレスト)を発動」

 

重力転壊(グラビティ・プレスト)

速攻魔法

このカードはルール上、「Gゴーレム」カードとしても扱う。

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分フィールドのリンクモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを破壊し、デッキから地属性のサイバース族モンスター1体を守備表示で特殊召喚する。この効果で特殊召喚された「Gゴーレム」モンスター以外のモンスターの効果は無効化される。

(2)このカードを墓地から除外し、自分の墓地の通常召喚可能な地属性モンスター1体を対象として発動できる。そのカードを手札に加える。この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できない。

 

「インヴァリット・ドルメンを破壊し、デッキからGゴーレム・ロックハンマーを特殊召喚」

 

 インヴァリット・ドルメンが爆散し、その破片の中から岩柱が集まってできた巨人が現れる。

 

「そしてインヴァリット・ドルメンの効果で、君のモンスターの効果を全て無効にする」

 

 インヴァリット・ドルメンの破片が、スペクターのモンスターに襲いかかる。

 

「その手は読めています!私は手札の聖蔓の小兵(サンヴァイン・ポーン)の効果発動!」

 

聖蔓の小兵(サンヴァイン・ポーン)

効果モンスター

星2/地属性/植物族/攻 200/守 1600

このカード名の(1)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)相手のメインフェイズに自分フィールドのEXモンスターゾーンの「サンアバロン」リンクモンスター1体を対象として発動できる。手札のこのカードを特殊召喚し、対象のモンスターはこのターン、相手モンスターの効果を受けない。

(2)このカードは1ターンに1度、戦闘で破壊されない。

 

聖蔓の小兵(サンヴァイン・ポーン)を特殊召喚」

 

 三頭身の植物の騎士がドリュアノームを庇うように現れる。

 

「このターン、私のドリュアノームは相手の効果を受けません!」

「ならばロックハンマーの効果発動。このカードをリリースして、Gゴーレム・トークン3体を特殊召喚」

 

 ロックハンマーの体が砕け、三体の岩の破片のトークンが呼び出される。

 

「現れろ、我が世界を知らしめす未来回路!召喚条件は地属性モンスター3体!」

 

 三体のGゴーレム・トークンはアローヘッドに吸い込まれ、一つの大岩が降りてくる。

 

「リンク召喚!Gゴーレム・ラゲット・トラカイト」

 

 大岩が変形し、四つの剛腕が中心の鉱石から伸びた。

 

Gゴーレム・ラゲット・トラカイト

リンク・効果モンスター

地属性/サイバース族/攻 2600/LINK 3

「Gゴーレム」モンスターを含む地属性モンスター3体

(1)相互リンク状態のこのカードは相手の効果の対象にならず、相手の効果で破壊されない。

(2)このカードが戦闘を行う場合に発動できる。このカードはその戦闘で破壊されず、このターン、このカードの戦闘によって発生する相手への戦闘ダメージは0になり、このカードはもう1度攻撃できる。この効果は1ターンに3回まで適用できる。

(3)このカードが相手モンスターと戦闘を行う場合、ターン終了時まで戦闘を行う相手モンスター及びその同名モンスターの効果を相手は発動できない。

 

「ラゲット・トラカイトで聖蔓の守護者(サンヴァイン・ガードナー)を攻撃」

 

 ラゲット・トラカイトの拳が、聖蔓の守護者(サンヴァイン・ガードナー)の大盾を砕く。

 

「ラゲット・トラカイトの効果発動!戦闘ダメージを0にし、再攻撃を可能にする」

「ですが聖蔓の守護者(サンヴァイン・ガードナー)には破壊された時、バトルフェイズを終了する効果がある!」

 

 聖蔓の守護者(サンヴァイン・ガードナー)の砕かれた盾の木片が膨張し、新たに巨大な盾を形成しようとする。しかし、

 

「ラゲット・トラカイトと戦闘を行うモンスターは、ターン終了時まで効果を発動できない」

 

 中途で爆散し、それは叶わない。

 

「続けて聖蔓の癒し手(サンヴァイン・ヒーラー)を攻撃」

 

 二つ目の拳が、サンアバロンの配下の妖精を打ち砕き、これで残るは聖蔓の小兵(サンヴァイン・ポーン)とサンアバロンのみとなる。

 

「三度目だ!聖蔓の小兵(サンヴァイン・ポーン)を攻撃」

 

 三つ目の拳が、聖蔓の小兵(サンヴァイン・ポーン)に向けて放たれる。

 

聖蔓の小兵(サンヴァイン・ポーン)は1ターンに1度、戦闘で破壊されない!」

 

 小さな体で何とか受け止める。

 

「まだ油断するには早いぞ?」

 

 残った最後の拳が、聖蔓の小兵(サンヴァイン・ポーン)に照準を定める。

 ドォンッと激しい音を鳴らし、発射されたそれが今度こそ聖蔓の小兵(サンヴァイン・ポーン)を貫こうとする。

 

「ドリュアノームの効果!リンク先のモンスターが攻撃された時、それを移動させることで、攻撃を無効にする!」

 

 聖蔓の小兵(サンヴァイン・ポーン)が残像を生み出して左に移動。拳を回避してどうにか生き残った。

 

聖蔓の小兵(サンヴァイン・ポーン)は守備力1600、攻撃力1500のスタバン・メンヒルでは破壊できません」

「フィールドを全部開けることはかなわなかったか。ならメイン2だ。現れろ、我が世界を知らしめす未来回路」

 

 スタバン・メンヒルとラゲット・トラカイトが4本の光の矢となって解き放たれる。

 

「リンク召喚。Gゴーレム・ディグニファイド・トリリトン」

 

 それは浮遊する岩石の島。

 フィールドに進軍する様は、破壊兵器に等しい圧力を示す。

 

「私は永続(トラップ)重力地帯(グラビディ・ゾーン)を発動」

 

重力地帯(グラビディ・ゾーン)

永続罠

自分フィールドの「Gゴーレム」リンクモンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。

(1)「重力地帯(グラビディ・ゾーン)」は魔法&罠ゾーンに1枚だけ表側表示で存在できる。

(2)このカードの発動時の処理として、相手の空いているメインモンスターゾーンを対象のモンスターのリンクマーカーの数だけ指定する。

(3)このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、指定したメインモンスターゾーンは使用できない。

(4)1ターンに1度、このカードを対象とする相手の効果が発動した時、自分フィールドのGGカウンター1つを取り除いて発動できる。その効果を無効にする。

 

「自分のGゴーレムリンクモンスターのリンクマーカーの数だけ、相手のメインモンスターゾーンの使用を封じる」

 

 スペクターの空いているメインモンスターゾーンは全て、超重力によって封鎖された。

 

「私はこれでターンエンド」

 

ターン4

 

「一つ、あなたにお伺いしたいことがあります」

 

 ターンを始める前に、スペクターは鴻上博士に問いかける。

 

「あなたの中で、アースはどのような評価だったのですか?」

「どういう意味だ?」

 

 突然のそれに、鴻上は眉をひそめる。

 

「気になるじゃないですか。彼は私の出した成果です。それがどんなものだったか、実験に協力した私にも聞く権利はあるでしょう?」

「なるほど、そういえば君はあの実験を唯一楽しんでいたのだったな」

「えぇ。他の方は知りませんが、私はむしろあなたに感謝しているくらいですよ。私はあの実験の日々で、生きる意味を見出したのですから」

 

 昔を懐かしむように、遊作達に言わせれば地獄の、スペクターにとっては充実した日々のことを思い浮かべて頬を緩める。

 

「なるほど……しかし残念ながらアース、そして君の評価は私の中で下の下だ」

 

 だが、そんな彼に下された言葉は残酷なものだった。

 

「あの実験に必要なのは精神的な負荷。実験を楽しんでいた君では、到底理想の成果は得られん」

 

 鴻上は小馬鹿にしたように首を横に振る。

 

「拾った子供が偶然リンクセンスを持っていたと分かった時にはなんという幸運かと思ったが、やはり偶然に頼らず、残りのサンプルも私自らの手で確保すべきだったな」

「……それを聞いて安心しましたよ」

 

 スペクターはカードをドローする。

 

「これで心置きなくあなたを倒すことができる」

 

 スペクターがニヤリと笑うと、彼と聖天樹の根本にアローヘッドが出現する。

 

「現れろ、私達の未来(みち)を照らす未来回路!」

 

 聖蔓の小兵(サンヴァイン・ポーン)その中に吸い込まれる。

 

聖蔓の小兵(サンヴァイン・ポーン)聖蔓の射手(サンヴァイン・シューター)に。効果発動!」

 

聖蔓の射手(サンヴァイン・シューター)

リンク・効果モンスター

地属性/植物族/攻 500/LINK1

レベル4以下の植物族モンスター1体

このカード名の(2)(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分フィールドの「サンアバロン」リンクモンスターが効果でフィールドから離れた場合に発動する。このカードを破壊する。

(2)このカードの特殊召喚に成功した場合、お互い500ダメージを受ける。

(3)自分フィールドの「サンアバロン」リンクモンスター1体を対象として発動できる。対象のモンスターのリンクマーカーの数まで、相手フィールドの魔法・罠カードを選んで破壊する。

 

「私の「サンアバロン」モンスターのリンクマーカーの数だけ、相手の魔法・罠カードを破壊する」

 

 シューターの放った矢が、重力地帯(グラビディ・ゾーン)を貫き、スペクターのフィールドを重力から解放する。

 

「シューターとドリュアノームでリンク召喚!」

 

 アローヘッド上のドリュアノームの葉が枯れていき、かわりに満開の桜の花が枝を埋め尽くす。

 

「命、その終わりを迎える時、花は芽吹き、最後の輝きを散らす。我が母なる聖天樹!聖天樹の大母神(サンアバロン・ドリュアトランティエ)!」

 

 嵐のの空に枝を伸ばし、花びらを空に散らす巨大な木が彼のフィールドに降臨した。

 

「ドリュアトランティエの効果発動。デッキから「サンアバロン」魔法・罠カードを手札に加える。そして私は手札に加えた聖天樹の結晶化(サンアバロン・クリスタライズ)を発動!」

 

 ドリュアトランティエが凍りつく。

 

「なんだ?」

「自分・相手の墓地の「サンアバロン」以外の地属性リンクモンスターの数以下のリンクマーカーを持つ「サンアバロン」へ、ドリュアトランティエを進化させる」

 

 ピキ

 ドリュアトランティエを覆う氷の結晶にヒビが入る。

 大地より養分を吸い上げ、肥大化した根が、幹が、枝が、氷を突き破り、新たな姿へと生まれ変わる。

 

「冬を越え、花開け。リンク召喚!聖天樹の煌母神(サンアバロン・ドリュクリアエデン)!」

 

 枝葉に氷を残し、しかし力強く咲き誇る聖天樹。

 空より散る花弁と氷片が、その姿を幻想的に彩っている。

 

聖天樹の結晶化(サンアバロン・クリスタライズ)

通常魔法

(1)自分フィールドの「サンアバロン」リンクモンスター1体を墓地へ送って発動できる。自分・相手の墓地の「サンアバロン」以外の地属性リンクモンスターの数以下のリンクマーカーを持つ「サンアバロン」リンクモンスター1体をリンク召喚扱いで特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたモンスターは次の相手のターン終了時まで相手の効果の対象にならず、相手はリンク状態のそのモンスターの効果の発動に対して効果を発動できない。

 

聖天樹の煌母神(サンアバロン・ドリュクリアエデン)

リンク・効果モンスター

地属性/植物族/攻 0/LINK 5

【リンクマーカー:左/右/左下/下/右下】

「サンアバロン」リンクモンスターを含む植物族リンクモンスター2体

(1)このカードがリンク召喚に成功した場合に発動できる。デッキ・墓地から「サンシード」モンスター1体を手札に加えるか、特殊召喚する。その後、自分は1000のダメージを受ける。

(2)このカードは相手の効果で破壊されず、攻撃対象にならない(この効果が適用されたモンスターしか自分フィールドに存在しない状態での相手の攻撃は自分への直接攻撃になる)。

(3)自分がダメージを受けた場合に発動できる。自分は受けたダメージの数値分、ライフを回復し、EXデッキ・墓地から「サンヴァイン」リンクモンスター1体をリンク召喚扱いで特殊召喚する。その後、ダメージを与えた相手モンスターを破壊できる。この効果は1ターンに3度まで適用できる。

(4)自分のメインフェイズに発動できる。このカードの攻撃力は、このターンに自分が受けたダメージの数値分アップする。

 

「このカードがリンク召喚に成功した時、墓地のゲニウスロキを回収。そして私は1000のダメージを受ける」

 

 スペクター:LP4000→3000

 

「そしてドリュクリアエデンの効果発動!ダメージを受けた時、その数値分ライフを回復し、墓地またはエクストラデッキから、「サンヴァイン」モンスターをリンク召喚扱いで特殊召喚!出でよ、聖蔓の剣士(サンヴァイン・スラッシャー)!」

 

 ドリュクリアエデンより、巨大な木の実が落ちる。

 木の実が割れ、中から現れたのは葉を模したマントをまとった妖精の剣士だ

 

「スラッシャーの効果発動!ドリュクリアエデンのリンクマーカーの数×800ポイント攻撃力をアップする!」

 

 ドリュクリアエデンより根が伸びて、聖蔓の剣士(サンヴァイン・スラッシャー)の体に接続、養分が送り込まれる。

 

 聖蔓の剣士(サンヴァイン・スラッシャー):ATK800→4800

 

「バトルだ。聖蔓の剣士(サンヴァイン・スラッシャー)でディグニファイド・トリリトンを攻撃」

 

 スラッシャーが剣を抜くと、それはドリュクリアエデンの力を受けて巨大化する。

 10メートルを優に超える長さとなったそれは、岩の要塞を両断した。

 

「スラッシャーの効果発動。戦闘で墓地へ送ったモンスターを、墓地から私のフィールドに特殊召喚する」

 

 元の長さに戻った剣を地面に突き立てる。

 剣から蔓が伸び、ディグニファイド・トリリトンの残骸を繋ぎ合わせてスペクターのフィールドに復元した。

 

「残念でしたねぇ。手札があれば、スラッシャーの効果を無効化できたものを」

「くっ……」

「返してもらいましたよ。アースのカードを。バトルだ!ディグニファイド・トリリトンでダイレクトアタック!」

 

 巨大な岩の要塞がそのまま鴻上博士に激突。

 ライフを0にした。



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第65話:Zero Wind

 ◆

 

 風の塔。ゴッドバードと鴻上のデュエル。

 

 ゴッドバードのフィールドにはコンパイル・ブラスターと4枚の伏せカード。

 そして鴻上のターンが始まる。

 

「私は手札の嵐闘機(ストームライダー)グリフィードの効果発動」

 

嵐闘機(ストームライダー)グリフィード

効果モンスター

星4/風属性/サイバース族/攻 900/守 1500

このカード名の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できず、発動するターン、自分はフィールド魔法以外の元々の持ち主が自分となる魔法・罠カードをセットできない。また(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが手札に存在し、自分の魔法&罠ゾーンにカードがない場合、相手フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。このカードを手札から特殊召喚し、対象のカードを破壊する。この効果の発動に対して相手は魔法・罠カードを発動できない。

(2)お互いの魔法&罠ゾーンにカードがない場合に発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。

(3)このカードが特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「ストームライダー」モンスター1体を墓地へ送る。

 

「君のセットカードを対象にそれを破壊。そして自身を特殊召喚」

 

 空から船首が鳥の頭を模した飛行船が現れ、ゴッドバードのフィールドを爆撃、伏せカードを破壊した。

 

「特殊召喚に成功した時、デッキからストームライダーを墓地へ送る。さらに手札から嵐闘機(ストームライダー)ヒッポグリフトを特殊召喚」

 

嵐闘機(ストームライダー)ヒッポグリフト

効果モンスター

星3/風属性/サイバース族/攻 800/守 1200

このカード名の(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しか行えず、(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)相手の魔法&罠ゾーンにカードが存在する場合、このカードを手札から特殊召喚できる。

(2)相手の魔法&罠ゾーンにのみカードが存在し、このカードが「ストームライダー」リンクモンスターのリンク素材として墓地へ送られた場合、相手フィールドのセットされた魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。対象のカードを破壊し、自分はデッキから1枚ドローする。この効果の発動に対して、相手は魔法・罠カードを発動できない。この効果発動後、ターン終了時まで、自分はフィールド魔法以外の元々の持ち主が自分となる魔法・罠カードを自分フィールドにセットできない。

 

「現れろ、我が世界を知ら示す未来回路!」

 

 空に現れたアローヘッドが、爆風を巻き起こして二体のストームライダーを吸い込む。

 

「リンク召喚!嵐闘機艦(ストームライダーシップ)ロックバスター」

 

 風を突き破り、双頭の鳥を象った船が発進した。

 

嵐闘機艦(ストームライダーシップ)ロックバスター

リンク・効果モンスター

風属性/サイバース族/攻 2000/LINK 2

【リンクマーカー:上/下】

風属性・サイバース族モンスター2体

このカードの(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できず、発動するターン、自分は「ストームライダー」カード以外の魔法・罠カードを発動できない。

(1)自分の魔法&罠ゾーンにカードが存在せず、このカードのリンク先にモンスターが召喚・特殊召喚された場合に発動できる。相手の魔法・罠カードを2枚まで選んで破壊する。この効果の発動に対して、相手は魔法・罠カードを発動できない。

(2)自分の魔法&罠ゾーンにカードが存在しない場合、相手の墓地の魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。そのカードを自分・相手フィールドにセットできる。

 

「リンク素材となったヒッポグリフトの効果発動!相手のセットされたカードを破壊し、1枚ドローする」

「くっ!」

 

 ロックバスターの右の頭が口を開き、露出した砲塔より放たれた砲撃が、ゴッドバードの伏せカードを撃ち抜く。

 

「さらに墓地の嵐闘機(ストームライダー)トゥビエルーフの効果で自身を特殊召喚。リンク先にモンスターが特殊召喚されたことで、ロックバスターの効果発動!君の残りの伏せカードも破壊だ!」

「コンパイル・ブラスターの効果発動!」

 

 ロックバスターのもう一方の口が開いたところで、コンパイル・ブラスターの銃口がロックバスターへと向けられる。

 

「オーバーレイユニットを1つ使うことで、相手の特殊召喚されたモンスターの効果を無効にして破壊する!」

「トゥビエルーフの効果発動!」

 

嵐闘機(ストームライダー)トゥビエルーフ

効果モンスター

星1/風属性/サイバース族/攻 0/守 0

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分の魔法&罠ゾーンにカードが存在せず、自分フィールドが「ストームライダー」リンクモンスターが存在し、相手がモンスター効果を発動した場合、手札・フィールドのこのカードを墓地へ送って発動できる。その効果を無効にする。

(2)このカードが手札・墓地に存在し、自分の魔法&罠ゾーンにカードが存在しない場合に発動できる。このカードを特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたこのカードはフィールドを離れた場合、除外される。

 

「自身をフィールドから墓地へ送り、その効果を無効にする!」

 

 コンパイル・ブラスターのレールガンがロックバスターに向けては放たれるが、それはトゥビエルーフの放ったレーザーによって相殺される。

 

「やれ!ロックバスター!」

 

 双頭より、開いた砲門が瞬く。

 二発の砲撃が、ゴッドバードの魔法&罠ゾーンを更地に変えた。

 

「これで君の伏せカードはゼロ。さらに私はフィールド魔法、嵐闘機流(ストームライダー・タービュランス)を発動!」

 

 フィールドの中心から螺旋状に風が渦巻く。

 

嵐闘機流(ストームライダータービュランス)

フィールド魔法

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分フィールドの「ストームライダー」モンスターの攻撃力は300アップする。

(2)自分フィールドに「ストームライダー」モンスター1体のみが存在し、相手がモンスターの特殊召喚に成功した場合に発動できる。そのモンスターの効果は次の相手のスタンバイフェイズまで無効化される。この効果の発動に対して、相手は魔法・罠カードの効果を発動できない。

(3)フィールドゾーンのこのカードが破壊された場合に発動できる。自分のデッキ・墓地から「嵐闘機爆流」1枚を発動する。

 

「手札の嵐闘機(ストームライダー)アローエローの効果発動!」

 

嵐闘機(ストームライダー)アローエロー

効果モンスター

星2/風属性/サイバース族/攻 900/守 1200

(1)このカードが手札に存在する状態で、自分・相手フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。対象のカードを破壊し、手札からこのカードを特殊召喚する。この効果発動後、ターン終了時まで、自分はフィールド魔法以外の元々の持ち主が自分となる魔法・罠カードをセット・発動できない。

(2)このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「ストームライダー」モンスター1体を手札に加える。

 

「私の嵐闘機流(ストームライダータービュランス)を破壊し、手札から特殊召喚」

 

 風が破裂するようにして消え、船首に女神像がついた飛行船が降りてくる。

 

「タービュランスが破壊されたことで、デッキから嵐闘機爆流(ストームライダーブラスト)を発動!」

 

嵐闘機爆流(ストームライダーブラスト)

フィールド魔法

このカードは自分のフィールドゾーン・墓地に「嵐闘機流」が存在する場合のみ発動できる。

(1)自分の「ストームライダー」モンスターの攻撃力はフィールドゾーン・墓地のフィールド魔法の数×400アップする。

(2)自分フィールドに「ストームライダー」リンクモンスター1体のみが存在する限り、そのリンクモンスターはフィールド以外で発動した相手の効果を受けず、そのリンクモンスターのリンクマーカーの数以下の相手のリンクモンスターの効は無効化される。

(3)自分の「ストームライダー」リンクモンスターが存在する限り、攻撃可能な相手のモンスターはそのモンスターを攻撃しなければならない。

 

「ロックバスターの効果発動!君の墓地にエリミネーション・インターセプトを私のフィールドにセットする。現れろ、我が世界を知ろしめす未来回路!」

 

 ロックバスターとアローエローがアローヘッドに吸い込まれる。

 

「リンク召喚!嵐闘機艦(ストームライダーシップ)バハムートボマー」

 

 アローヘッドから竜巻が起こり、その中から汽笛の音が鳴り響く。

 そして風を突き破り現れたのは、黒い鯨のような姿をした巨大な戦艦型のモンスターだ。

 

嵐闘機艦(ストームライダーシップ)バハムートボマー

リンク・効果モンスター

風属性/サイバース族/攻 2800/LINK 3

風属性モンスター2体以上

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できず、発動するターン、自分フィールドに魔法・罠カードをセットできない。

(1)自分の魔法&罠ゾーンにカードが存在せず、このカードがリンク召喚に成功した場合、相手フィールドのカード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊し、相手に500ダメージを与える。この効果の発動に対して、相手はカードの効果を発動できない。

(2)自分の魔法&罠ゾーンにカードが存在しない場合に発動できる。相手の魔法・罠カード1枚を選んで墓地へ送り、相手に500ダメージを与える。この効果の発動に対して、相手は魔法・罠カードを発動できない。

 

「バトルだ。バハムートボマーで、コンパイル・ブラスターを攻撃!」

 

 バハムートボマーの口が開き、中から砲門が露出し、コンパイル・ブラスターへと狙いを定める。

 

 閃光と爆裂。

 

 解き放たれたエネルギー弾がコンパイル・ブラスターを粉砕した。

 

「私はこれでターンエンド」

 

 ターン3

 

 盤面をまっさらにされて、ゴッドバードは恨みがましく鴻上を睨む。

 

「そう怖い顔をするな。騙されていたことがそんなに悔しかったか?」

「っ……」

 

 ゴッドバード、啓の記憶の中にいる鴻上は厳しくも、優しい男だった。自分にとっては師匠である道順と同じく、父親のような存在だったのだ。

 

「しかし君ならば分かるだろう? 科学の発展に犠牲が付き物だ。そういう意味では、君達は最高の素材だったよ」

「……」

「私の力も、おかげで完成まであと一歩────」

 

 最後まで言いきる前に、一陣の風が鴻上の頬を凪いだ。

 

「……」

 

 わずかに傷のついたアバターに、鴻上はため息を吐く。

 

「ごちゃごちゃうるせぇ。大体な……その力はテメェのじゃねぇっ!ウインディ(俺のダチ)のだ!」

 

 ゴッドバードは手札のカードを切る。

 

「俺は魔法カード、バックアップ・エリミネーションを発動!」

 

RUM-バックアップ・エリミネーション

通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1)墓地の「エリミネーター」Xモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚し、そのモンスターよりランクの1つ高い「エリミネーター」Xモンスター1体をそのモンスターの上に重ねてX召喚扱いで特殊召喚し、墓地の「エリミネーター」リンクモンスターをそのモンスターの下に重ねてX素材とする。この効果発動後、ターン終了時まで、自分はメインモンスターゾーンにモンスターを特殊召喚できない。

 

「墓地のコンパイル・ブラスターを特殊召喚し、ランクが1つ高いエリミネーターへランクアップさせる」

 

 甦ったコンパイル・ブラスターの上から、エックス字のパネルが通過し、その体をデータに分解する。

 

「ランクアップ!エクシーズチェンジ!現れろランク5!敵性機兵(エリミネーター)エクス・ランサムウェア!」

 

 エックス型の盤の上に、黒い上半身がついたモンスターへと再構築される。

 

「続けてランクアップマジック!オーバーレイ・エリミネーションを発動!」

 

RUM-オーバーレイエリミネーション

速攻魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1)自分のリンクモンスターをX素材に持つXモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターがX素材として持つリンクモンスターのリンクマーカーの合計までランクの高い「エリミネーター」Xモンスター1体をその上に重ねてX召喚扱いで特殊召喚する。

(2)セットされたこのカードが相手の効果でフィールドを離れた場合に発動できる。自分の墓地及び除外されているカードの中から「エリミネーション」罠カード1枚をセットする。この効果でセットしたカードはセットしたターンでも発動できる。

 

「エクス・ランサムウェアのオーバーレイユニットのリンスモンスター、すなわちローディング・クラッチのリンクマーカーの数まで高いエクシーズモンスターにランクアップさせる!」

 

 エクス・ランサムウェアが分解され、より高いランクのモンスターへと再構築される。

 

「出でよランク7!敵性機兵(エリミネーター)ライブラリ・ジャンクコード!」

 

 エクス・ランサムウェアを構成していたデータが光となって弾ける。

 光子が本のような形に広がり、それを背に翼とした電子の竜がフィールドに降臨した。

 

敵性機兵(エリミネーター)ライブラリ・ジャンクコード

エクシーズ・効果モンスター

ランク7/風属性/サイバース族/攻 3000/守 2500

風属性・レベル7・効果モンスター×2体以上

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分の「エリミネーター」Xモンスターの攻撃力·守備力はフィールドのX素材のリンクモンスターのリンクマーカーの合計×500アップする。

(2)自分のメインフェイズ・バトルフェイズに、このカードのX素材1つを取り除き、自分の墓地の「RUM」魔法カード1枚を対象として発動できる。この効果はその魔法カード発動時の効果と同じになる。

(3)自分のカードの効果の発動に対して相手のモンスター効果が発動した時、自分のセットされた魔法・罠カード1枚を墓地へ送って発動できる。その効果を無効にして破壊する。

 

「ローディング・クラッチの効果で、EXデッキのローディング・チャージャーをオーバレイユニットにする。そしてライブラリ・ジャンクコードの効果発動!オーバレイユニットを1つ使うことで、墓地のランクアップマジック1枚の効果をコピーする!俺はオーバレイ・エリミネーションの効果を使う!」

 

 ライブラリ・ジャンクコードが自身の周りを巡る光を食らうと、その体がデータに分解される。

 

「脆弱なる世界よ。今この時が幕引きだ。ランクアップ!エクシーズチェンジ!現れろ、ランク12!敵性機兵(エリミネーター)ゼロデイ!」

 

 それは巨大な空母。

 黒い巨体は空を覆い、電子の翼を広げ敵を滅ぼすべく飛翔する。

 

敵性機兵(エリミネーター)ゼロデイ

エクシーズ・効果モンスター

ランク12/風属性/サイバース族/攻 3500/守 3000

レベル12・風属性・効果モンスター×2体以上

(1)このカードの攻撃力·守備力はこのカードがX素材として持つリンクモンスターのリンクマーカーの合計×500アップし、その数値分、相手フィールドの表側表示モンスターの攻撃力はダウンする。

(2)相手フィールドの表側表示モンスター全ては攻撃表示となる。

(3)相手フィールドの攻撃力0のモンスターの効果は無効化され、素材を必要とする特殊召喚の素材にできない。

 

「ローディング・クラッチの効果でEXデッキからローディング・バスターをオーバーレイユニットに加える。ゼロデイの効果!自身のオーバーレイユニットのリンクマーカーの数×500、攻撃力をアップし、その数値分、相手モンスター全ての攻撃力をダウンさせる!」

 

 ゼロデイの翼から七色の光が地上に照射される。

 

「リンクマーカーの合計は7、つまり3500ダウンで、テメェのモンスターの攻撃力は0だ!」

 

 光を浴びた嵐闘機(ストームライダー)達は、力を失い動かなくなる。

 

「さらにかゼロデイの効果でテメェの攻撃力0のモンスターの効果は無効化される」

「くっ……」

「終いだ。やれ!ゼロデイ!」

 

 ゼロデイの光が、鴻上へ向けられる。

 七色の輝きは収束し、白い光となり、鴻上のアバターを跡形もなく消し去った。



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第66話:Revival Ocean

 ◆

 

 美海と鴻上分身のデュエル。

 

 美海のフィールドにはフィールド魔法、原初海域(オリジンブルー・ウェブ)のみ。

 

 一方鴻上分身のフィールドには、リンクモンスターを3枚装備した海晶乙女(マリンセス)ワンダーハート、フィールド魔法、海晶乙女の闘海(マリンセス・バトルオーシャン)、そして1枚の伏せカード。

 

「私のターン!原初海祈(オリジンブルー)シーライブラを召喚」

 

 空間が乱れてノイズが集まり、半透明の魚のような形になる。

 

原初海祈(オリジンブルー)シーライブラ

効果モンスター

星4/水属性/サイバース族/攻 1000/守 1600

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードの召喚·特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「原初海祈(オリジンブルー)シーライブラ」以外の「オリジンブルー」カード1枚を手札に加える。

(2)このカードが他のモンスターゾーンに移動した場合に発動できる。手札から「原初海祈シーライブラ」以外の「オリジンブルー」モンスター1体を守備表示で特殊召喚する。

 

「私はデッキから原初海帰(オリジンブルー・リコンパイル)を手札に加え、発動」

 

原初海帰(オリジンブルー・リコンパイル)

通常魔法

(1)自分の墓地の「オリジンブルー」リンクモンスター1体を対象として発動できる。そのカードをEXデッキに戻し、EXデッキから対象のモンスターと同名のリンクモンスター1体を特殊召喚する。

(2)墓地のこのカードを除外し、自分のバックログカウンター1つを取り除いて発動できる。自分の墓地から水属性モンスター1体を手札に加える。この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できない。

 

「墓地のタイタニーニャをエクストラデッキに戻し、それを特殊召喚!」

 

 水流が螺旋状に集まり、再びタイタニーニャの姿を形成する。

 

原初海祈(オリジンブルー)タイタニーニャ

リンク·チューナー·効果モンスター

水属性/サイバース族/攻 0/LINK3

【リンクマーカー:右下/下/左下】

水属性·効果モンスター2体以上

(1)リンク状態のこのカードは相手の効果を受けず、攻撃対象にならない。

(2)このカードのリンク先のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターをチューナーとして扱う。その後、このカードのリンク先のモンスターのみを素材としてサイバース族Sモンスター1体をS召喚する。この効果は相手ターンでも発動できる。

(3)自分のモンスターの位置が移動する度に、このカードにバックログカウンターを1つ置く。

(4)自分フィールドのモンスターの攻撃力は、このカードのバックログカウンターの数×200アップする。

 

「墓地のメガロガーの効果を発動!シーライブラを移動させることで、自身を特殊召喚!」

 

 シーライブラが横に泳ぎ、元いた位置からメガロガーが飛び出す。

 モンスターの移動に反応して、タイタニーニャの体の結晶に、白い光が灯る。

 

「シーライブラの効果発動!自身が移動したことで、手札から原初海祈(オリジナルブルー)メタスタークを特殊召喚!」

 

 さらに触手の生えたヒトデのようなモンスターが現れ、がら空きだった彼女のフィールドを埋め尽くす。

 

「素晴らしい」

 

 そんな彼女を賞賛するように、鴻上は拍手を送る。

 

 

「……バカにしているんですか?」

 

 敵意を向けられ、鴻上は小さくため息を吐く。

 

「そんな顔をしないでくれ。君達を犠牲にしてしまったことは今でも悔いているよ」

 

 これまでとは態度を変え、鴻上は突然優しい口調で言う。

 

「私にとって君は娘同然の存在だ。しかし、今の衰退した人類には、道を示す者が必要なのだ。君のお陰で手に入ったイグニスの力も、大いに役にたっている」

「……」

「私が究極のAIとして完成した暁には、必ず君達を幸せにすると約束しよう。だから────」

「黙ってください」

 

 もう聞きたくないとばかりに、彼女は鴻上の言葉を遮った。

 

「あなたの妄言は聞き飽きました。そんな言葉で私が揺らぐとでも思ったんですか?」

「ふっ、成長したとでも言っておこうか」

「黙れ」

 

 なおも美海をバカにしたように続ける鴻上に、彼女の苛立ちは限界に達する。

 

「……もういいです。お望み通り、娘の成長を存分に堪能してください。メタスタークの効果発動!」

 

原初海祈(オリジンブルー)メタスターク

効果モンスター

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

星1/水属性/サイバース族/攻 0/守 0

(1)このカードが特殊召喚に成功した場合に発動できる。このターンにモンスターが移動した回数分、自分の「オリジンブルー」リンクモンスター1体にバックログカウンターを置く。

(2)このカードが墓地に存在する状態で、自分のバックログカウンター1つを取り除いて発動できる。このカードを手札に加える。

 

「このカードが特殊召喚に成功した時、このターンにモンスターが移動した回数分、自分のリンクモンスターにバックログカウンターを置く。さらに原初海域(オリジンブルー・ウェブ)の効果でシーライブラをさらに移動。タイタニーニャの効果発動!メタスタークをチューナーとして扱い、シンクロ召喚を行う!」

 

 メタスタークに、タイタニーニャの体から伸びた触手が突き刺さり、そのデータを書き換える。

 

「私はレベル3のメガロガーに、レベル1のメタスタークをチューニング!」

 

 二体のモンスターがデータに分解され、新たなモンスターへと生まれ変わる。

 

「シンクロ召喚!現れろ、レベル4、原初海祈(オリジンブルー)ノト・コネクト!」

 

原初海祈(オリジンブルー)ノト・コネクト

シンクロ・チューナー・効果モンスター

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードがS召喚に成功した場合、自分の墓地の通常召喚可能なサイバース族モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを守備表示で特殊召喚する。この効果発動後、ターン終了時まで、自分は水属性・サイバース族モンスターしか特殊召喚できない。

(2)このカードが墓地に存在する状態で、自分フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。対象のモンスターを自分のリンクモンスターのリンク先となる自分のメインモンスターゾーンに移動させ、このカードを墓地から特殊召喚する。

 

「その効果で墓地からメタスタークを特殊召喚!」

 

 ノト・コネクトが、ワニのような大口で地面のそこからメタスタークを引っ張り出す。

 

「メタスタークの効果!さらにバックログカウンターを追加!」

 

 バックログカウンター:3→5

 

「出でよ。未来を繋ぐサーキット!召喚条件はリンクモンスターを含む水属性モンスター2体以上!私はノト・コネクトとリンク3のタイタニーニャをリンクマーカーにセット!」

 

 タイタニーニャを中心として展開されたアローヘッドに、ノト・コネクトが吸い込まれる。

 

 

「母なる海よ、巡る命よ。大いなる根源へと帰還せよ!リンク召喚!」

 

 アローヘッドから水が渦を巻いてあふれ出る。

 

「現れろ、リンク4!原初海祈心晶(オリジンブルーハート)タイダヴェーラ!」

 

 水の中から現れたのは、胸元にハート型のブローチをつけた結晶(クリスタル)の人魚像だった。

 

原初海祈心晶(オリジンブルーハート)タイダヴェーラ

リンク・効果モンスター

水属性/サイバース族/攻 0/LINK 4

リンクモンスターを含む水属性モンスター2体以上

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードがリンク召喚に成功した場合、墓地のリンク素材となった「原初海祈タイタニーニャ」1体を対象として発動できる。対象のモンスターの上に置かれていたバックログカウンターと同じ数のバックログカウンターをこのカードの上に置き、1個以上置かれたら、対象のモンスターと同じ効果を得る。

(2)自分のバックログカウンター1つを取り除き、墓地のサイバース族Sモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを守備表示で特殊召喚する。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

「タイダヴェーラの効果発動!リンク素材となったタイタニーニャの効果とバックログカウンターを引き継ぐ。さらに原初海域(オリジンブルー・ウェブ)の効果で、このターンにモンスターが移動した回数分のカウンターを置き、その数だけ墓地のオリジンブルーを効果を無効にして特殊召喚!」

 

 タイダヴェーラの胸のブローチに一気に7つの光が灯り、さらにアノマロトレス、2体目のシーライブラが浮上した。

 

「墓地のノト・コネクトの効果発動!自分のモンスターを移動させることで、墓地から自身を特殊召喚!」

 

 メタスタークが移動し、そこにノト・コネクトが姿を現す。

 

「モンスターの移動により、タイダヴェーラにバックログカウンターを追加」

 

 バックログカウンター:7→8

 

「さらにタイダヴェーラの効果で、墓地のプレシオルタを特殊召喚!」

 

 タイダヴェーラの髪が伸び、激流となって地面に突き刺さる。

 髪を引き上げると、白い鱗を持つ首長竜が釣られて、フィールドに舞い戻る。

 

「プレシオルタの効果で自身を移動」

 

 バックログカウンター:8→9

 

「そしてワンダーハートの正面に立ったことで、効果発動!」

 

 タイダヴェーラがブローチを掲げると、そこから光が1つ飛び出して、プレシオルタの口に吸い込まれる。

 

 バックログカウンター:9→8

 

「このカードと同じ縦列の相手のカードを手札に戻す!」

 

 プレシオルタが大口を開け、水流を放つ。

 それに撃ち抜かれ、ワンダーハートは水しぶきを上げて爆発する。

 

「……!」

 

 だが、鴻上のEXモンスターゾーンには、新たなモンスターが立っていた。

 

 青白い長い髪、真珠貝を模した結晶の鎧を纏う海上の女戦士が、透き通る刃の剣を携えて立っていた。

 

「私は罠カード、海晶乙女の転身(マリンセス・ウォーターチェンジ)を発動していたのだよ」

 

海晶乙女の転身(マリンセス・ウォーターチェンジ)

通常罠

自分フィールドにリンク3以上の「マリンセス」モンスターが存在する場合、このカードの発動は手札からもできる。

(1)自分の「マリンセス」リンクモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを含む自分フィールドのモンスターで「マリンセス」リンクモンスター1体をリンク召喚する。この時、装備カード扱いで装備されている「マリンセス」モンスターも、モンスター1体分としてリンク素材にできる。その後、リンク召喚されたモンスターに、墓地から「マリンセス」リンクモンスター1体を装備カード扱いで装備する。この効果でリンク召喚されたモンスターはこのターン、戦闘で破壊されない。

 

「その力で私はワンダーハートと、装備カード扱いのクリスタルハートを素材にして、海晶乙女(マリンセス)アトライティアをリンク召喚していたのだ」

 

海晶乙女(マリンセス)アトライティア

リンク・効果モンスター

水属性/サイバース族/攻 2850/LINK 5

水属性リンクモンスター2体以上

このカード名の(1)(2)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードがリンク召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「マリンセス」罠カード1枚を手札に加える。

(2)相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。このカードに装備カードされた自分の「マリンセス」モンスター1体を選んで特殊召喚し、対象のモンスターを破壊する。この効果は相手ターンでも発動できる。

(3)自分が罠カードを発動した場合に発動できる。自分はデッキから1枚ドローする。その後、自分のフィールド・墓地・除外状態の「マリンセス」モンスター1体をこのカードに装備カード扱いで装備できる。

 

「そしてクリスタルハートを素材にしてEXモンスターゾーンにリンク召喚されたモンスターは、海晶乙女の闘気(マリンセス・バトルオーシャン)の効果で相手の効果を受けない」

 

 鴻上は勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

 

「アトライティアの効果発動!プレシオルタを破壊!」

「そこです!タイダヴェーラがコピーしたタイタニーニャの効果発動!メタスタークをチューナーとして扱い、シンクロ召喚を行う!私はレベル7のプレシオルタに、レベル1のメタスターク、レベル4のノト・コネクトをチューニング!」

 

 アトライティアに剣を向けられたプレシオルタは、攻撃を食らう直前で粒子となり、3体のモンスターと共にフィールドの中央へ吸い込まれる。

 

「幽冥の水底より、三つの嘶きは重なり、目覚める。シンクロ召喚!」

 

 粒子は12の輪となり、その中心を光が貫く。

 

「現れろ、レベル12!原初海祈(オリジンブルー)トライアル・バミューダ!」

 

 彼らの立つ場所に、潮が満ちるように水が張る。

 水は波打ち、そこから三つの白い竜の首がうねりながら伸び、鳴き声を上げた。

 

「攻撃力3000か」

「バックログカウンターが8つなので、タイダヴェーラの効果で攻撃力は4600です」

「こちらもバトルオーシャンの効果で、攻撃力は5450だ」

「……私はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン5 鴻上分身

 

「相手のスタンバイフェイズに、トライアル・バミューダの効果発動。バックログカウンターを追加」

 

 バックログカウンター:8→9

 

「それだけか?」

「私はセットされた永続(トラップ)原初海口(オリジンブルー・シークラフト)を発動!」

 

原初海口(オリジンブルー・シークラフト)

永続罠

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分フィールドの水属性モンスター1体を隣のメインモンスターゾーンに移動させて発動できる。墓地からレベル5以下の「オリジンブルー」モンスター1体を特殊召喚する。

(2)自分のバックログカウンター3つを取り除いて発動できる。デッキから「オリジンブルー」モンスター1体を手札に加える。

 

「トライアル・バミューダを移動させ、墓地からメタスタークを特殊召喚!モンスターの移動と効果でバックログカウンターを追加」

 

 バックログカウンター:9→11

 

「終わったか。なら私のターンだ。アトライティアの効果発動!貴様のトライアル・バミューダを破壊だ」

「トライアル・バミューダの効果!」

 

 タイダヴェーラがブローチを掲げると、トライアル・バミューダの前にバリアが展開される。

 

「バックログカウンター1つを使うことで破壊を無効にする!」

 

 アトライティアの投げた剣はバリアに弾かれた。

 

「ならバトルだ!アトライティアでトライアル・バミューダを攻撃!」

「バックログカウンターを使って破壊を無効にする!」

「だがダメージは受けてもらう!」

 

 バックログカウンター:10→9

 美海:ライフ1200→750

 トライアル・バミューダ:ATK 5000→4800

 

「手札から(トラップ)カード、海晶乙女の進軍(マリンセス・アサルト)を発動!」

 

海晶乙女の進軍(マリンセス・アサルト)

通常罠

自分フィールドにリンク3以上の「マリンセス」モンスターが存在する場合、このカードの発動は手札からもできる。

(1)自分の装備カード扱いの「マリンセス」リンクモンスターを好きなだけ特殊召喚できる。この効果で特殊召喚されたモンスターは、この効果で特殊召喚されたモンスターの数×600アップし、エンドフェイズに自分の「マリンセス」リンクモンスター1体に装備カード扱いで装備する。

 

「マーブルド・ロック、ワンダーハート、クリスタルハート、シーエンジェルを特殊召喚!」

 

 四体のモンスターがフィールドに降り立ち、美海へ向けて進行する。

 

「マーブルドロックでトライアル・バミューダを攻撃!」

「バックログカウンターを使って破壊を無効!」

 

 バックログカウンター:9→8

 美海:ライフ750→450

 トライアル・バミューダ:ATK4800→4600

 

「ワンダーハートで攻撃!」

 

 バックログカウンター:8→7

 美海:ライフ450→50

 トライアル・バミューダ:4600→4400

 

「シーエンジェルでメタスタークを、クリスタルハートでアノマロトレスを攻撃!」

 

 残った攻撃力の足りないモンスターはそれぞれ下級モンスターへ攻撃を向ける。2体は破壊されるが、守備表示だったため、ダメージはなかった。

 

「よく凌いだな。私はこれでターンエンドだ」

「そうですか。では」

 

 すると、トライアル・バミューダが鳴き声を上げ、フィールドを覆う水面が揺れる。

 

「なんだ?」

「母なる海よ。時を巻き戻し、大自然を再生せよ!トライアル・バミューダの効果!リバイバル・オーシャン!」

 

 水面からプレシオルタが甦り、さらに美海の体を光が包み込む。

 

 美海:ライフ50→4000

 美海:手札0枚→5枚

 

「トライアル・バミューダの効果、リバイバル・オーシャンはエンドフェイズ、もしくは私のライフが0になる時、バックログカウンター3つを取り除くことで、全てを巻き戻す」

 

原初海祈(オリジンブルー)トライアル・バミューダ

シンクロ・効果モンスター

星12/水属性/サイバース族/攻 3000/守 2000

水属性チューナー2体+Sモンスター1体

(1)自分・相手のスタンバイフェイズに発動する。自分の「オリジンブルー」リンクモンスターにバックログカウンター1つを置く。

(2)このカードまたは自分の「オリジンブルー」リンクモンスターが相手によってフィールドを離れる場合、代わりに自分のバックログカウンター1つを取り除ける。

(3)自分がゲームに敗北する場合、または相手のエンドフェイズに、自分のバックログカウンター3つを取り除いて発動できる。自分のライフを4000にし、自分の墓地・除外状態のカード全てをデッキに戻す。その後、手札・デッキ・EXデッキから、自分フィールドのモンスターの数がこのカードの(1)の効果発動時にフィールドに存在したモンスターの数と同じになるまで「オリジンブルー」モンスターを特殊召喚でき、手札が5枚になるようにカードをドローできる。

 

「私を倒したければどうぞ、最初からやってください」

「……」

「では、私のターンです」

 

 回復したリソースを投入し、美海は3体のシンクロモンスターを展開する。その過程でバックログカウンターは10まで回復する。

 

「さぁ、バトルです」

 

 四体の首長竜達の猛攻を受けて、鴻上分身のライフは0となった。



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第67話:Burning Storm

 ◆

 

 ソウルバーナーと鴻上分身のデュエル。

 

 ソウルバーナーの残りライフは2000、フィールドにあるのは転生炎獣の聖域(サラマングレイト・サンクチュアリ)のみ。

 

 対する鴻上分身のフィールドには転生炎獣の黒爪(サラマングレイト・ダークロー)を装備したヒートライオとベイルリンクス。そして同じくフィールド魔法の転生炎獣の聖域(サラマングレイト・サンクチュアリ)がある。

 

転生炎獣の黒爪(サラマングレイト・ダークロー)

装備魔法

(1)「転生炎獣の黒爪」は自分フィールドに1枚しか表側表示で存在できない。

(2)装備モンスターは戦闘・効果では破壊されず、守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が超えた分だけ相手に戦闘ダメージを与える。

(3)装備モンスターが自身と同名のモンスターを素材としてリンク召喚した自分の「サラマングレイト」リンクモンスターの場合、装備モンスターの攻撃力はバトルフェイズ中、そのリンクマーカーの数×500アップする。

(4)自分の「サラマングレイト」リンクモンスターが同名モンスターを素材としてリンク召喚に成功した場合に発動できる。このカードを墓地から手札に戻す。

 

「俺のターン、俺は墓地の転生炎獣モルの効果発動!」

 

 地面から鋼鉄の鎧を来たモグラ型のモンスターが顔を出す。

 

「自分フィールドにモンスターが存在しない時、墓地のこのカードを除外し、墓地のサラマングレイト5枚をデッキに戻すことで、2枚ドローする!」

 

 モルが前足で地面を掘り起こし、出てきた5枚のカードが炎の渦になってソウルバーナーのデュエルディスクに吸い込まれる。燃え上がるデッキから勢いよく2枚のカードをドローする。

 

「永続魔法、転生炎獣の意志(サラマングレイト・ハート)を発動!このカードは1ターンに1度、サラマングレイトモンスターを手札か墓地から特殊召喚できる。甦れ、ヒートライオ!」

 

 地面から炎が噴出し、ヒートライオが再び姿を現した。

 

「ヒートライオの効果発動!相手の魔法&(トラップ)ゾーンのカード1枚をデッキに戻す!リザウディング・ロアー!」

 

 ヒートライオの咆哮が、鴻上のヒートライオから黒爪をはぎ取る。

 

「ならば私は手札から、転生炎獣(サラマングレイト)ハウンドの効果発動!」

 

 

転生炎獣(サラマングレイト)ハウンド

効果モンスター

星3/炎属性/サイバース族/攻 1400/守 1100

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分フィールドのカードが相手によってフィールドを離れた場合に発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。その後、相手フィールドの表側表示の魔法・罠カード1枚を選んで破壊できる。

(2)このカードが戦闘・相手の効果で破壊された場合、墓地の「サラマングレイト」リンクモンスター1枚を対象として発動できる。そのカードをEXデッキに戻し、このカードを墓地から特殊召喚する。その後、デッキから同名カードが墓地・除外状態のカードの中に存在しない「サラマングレイト」魔法・罠カード、または「サイバネット」魔法・罠カード1枚を手札に加える。

 

「自分フィールドのカードが相手によってフィールドを離れた時、このカードを手札から特殊召喚」

 

 燃え上がる毛並みの猟犬が、鴻上の手札から飛び出す。

 

「その後、君の表側表示の魔法カードを破壊できる」

 

 ハウンドが吠えると、ソウルバーナーのフィールドに張られた転生炎獣の聖域(サラマングレイト・サンクチュアリ)が砕け散る。

 

「まだだ!俺は墓地のサンクチュアリを除外し、ヒートライオをリリースして特殊召喚!」

 

 破壊されたサンクチュアリのカードの破片が燃え上がりながら空へ舞う。そこにヒートライオが飛び込むと、炎が黄金の鎧となってヒートライオの身を包む。

 

「生まれ変われ!転生炎獣(サラマングレイト)セントライオ!」

 

 光輝く鬣を揺らし、生まれ変わったヒートライオ改めてセントライオが雄叫びを上げた。

 

転生炎獣(サラマングレイト)セントライオ

リンク・効果モンスター

炎属性/サイバース族/攻 2300/LINK 3

炎属性モンスターを含むサイバース族モンスター2体以上

このカードはリンク召喚及び以下の方法で特殊召喚できる。

●自分のフィールド・墓地の「転生炎獣の聖域」1枚を除外し、自分の「サラマングレイト」リンクモンスター1体をリリースした場合にEXデッキからリンク召喚扱いで特殊召喚できる。この方法で「転生炎獣ヒートライオ」をリリースした場合、このカードは同名モンスターを素材としてリンク召喚したものとして扱う。

(1)このカードはリンク召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「転生炎獣の神域(サラマングレイト・サンガ)」1枚を発動する。「転生炎獣ヒートライオ」をリリースして特殊召喚されていれば、さらに相手のフィールドゾーンの1枚を墓地へ送る。

(2)1ターンに1度、自分の墓地の「サラマングレイト」モンスター1体を対象として発動できる。ターン終了時まで、このカードは対象のモンスターと同じカード名として扱い、対象のモンスターの元々の攻撃力の半分の数値分、攻撃をアップする。

 

「その効果でデッキから転生炎獣の神域(サラマングレイト・サンガ)を発動!」

 

転生炎獣の神域(サラマングレイト・サンガ)

フィールド魔法

このカード名の(1)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか発動できない。

(1)このカードがフィールドゾーンに存在する限り、自分が「サラマングレイト」リンクモンスターをリンク召喚する場合、自分フィールドの同名の「サラマングレイト」リンクモンスター1体のみを素材としてリンク召喚できる。

(2)自分の「サラマングレイト」リンクモンスターは、リンク召喚に成功したターン、相手のモンスターの効果を受けない。

(3)自分の墓地・除外されている「転生炎獣の聖域」及び「サラマングレイト」リンクモンスター1枚ずつを対象として発動できる。対象のカードをデッキに戻し、自分はデッキから1枚ドローする。

 

「さらにヒートライオをリリースして特殊召喚された場合、相手のフィールドゾーンのカード1枚を墓地へ送る!」

 

 セントライオの咆哮が、鴻上のサンクチュアリのカードを吹き飛ばす。

 

「セントライオの効果発動!墓地のヒートライオを対象に、その攻撃力の半分と名前を得る!」

 

 セントライオ:ATK2300→3450

 

「バトルだ!セントライオでヒートライオを攻撃!」

 

 セントライオの聖なる鉤爪が、闇にのまれたヒートライオを打ち砕く。

 

 鴻上:LP4000→2850

 

「俺はさらにサンガの効果発動!除外されているサンクチュアリと墓地のヒートライオをデッキに戻し、1枚ドローする!俺はカードを2枚伏せてターンエンド」

 

ターン4

 

「私は転生炎獣の意志《サラマングレイト・ハート》を発動!その効果で、墓地からヒートライオを特殊召喚」

 

 鴻上もヒートライオを蘇生させ、再び盤面は膠着する。

 

「諦めるんだな。君の相棒のデータは私の中にある。これがどういうことか分かるか?」

「……」

サラマングレイト(このデッキ)を誰よりもうまく扱えるということだ。君に勝ち目はない」

 

 勝ち誇った笑みを浮かべる彼を前に、ソウルバーナーは静かに立ち尽くす。

 

「もう言葉もないか。私はヒートライオとベイルリンクスをリンクマーカーにセット!リンク召喚!現れろ、転生獄炎獣(ヘルサラマングレイト)イビルベロス!」

 

 アローヘッドより、三頭の犬が体を覆う錆びた鎖と鎧を鳴らしながらフィールドに降り立った。

 

転生獄炎獣(ヘルサラマングレイト)イビルベロス

リンク・効果モンスター

炎属性/サイバース族/攻 2500

【リンクマーカー:左/右/左下/右下】

炎属性・効果モンスター1体以上

(1)このカードがリンク召喚に成功した場合、相手フィールドのカード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。このカードが「転生獄炎獣(ヘルサラマングレイト)イビルベロス」を素材としてリンク召喚されている場合、さらに相手フィールドのカード1枚を選んで破壊する。

(2)このカードが「転生獄炎獣(ヘルサラマングレイト)イビルベロス」を素材としてリンク召喚されている場合、このカードは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃できる。

(3)攻撃可能な相手のモンスターはこのカードを攻撃しなければならない。

 

「こいつは……」

「ライトニングに洗脳された君が使ったモンスターだよ。不霊夢を失い、怒りに囚われた君が使った憎悪の象徴だ。効果発動!セントライオを破壊!」

 

 イビルベロスの右の頭が、セントライオを噛み喰らう。

 

「さらにイビルベロスを素材に転生リンク召喚!イビルベロス!」

 

 正面に現れたアローヘッドへと、イビルベロスが駆ける。

 アローヘッドを抜けて転生したイビルベロスは、全身を覆う鎖から解き放たれ、代わりに黒と紫の炎をまとっている。

 

「転生効果で転生炎獣の神域(サラマングレイト・サンガ)転生炎獣の意志(サラマングレイト・ハート)を破壊!」

 

 イビルベロスが駆けまわり、ソウルバーナーのカードを次々に燃やし、壊す。

 

「再び転生!君の伏せカードを破壊だ」

 

 再びアローヘッドを潜り、炎の勢いを増したイビルベロスがソウルバーナーの方へ飛びかかり、彼の場の2枚の伏せカードを噛み砕いた。

 

「転生したことで、墓地の転生炎獣の黒爪(サラマングレイト・ダークロー)を回収し、装備」

 

 イビルベロス:ATK2500→4500

 

「イビルベロスでダイレクトアタック」

 

 イビルベロスは標的をソウルバーナー本人へと変える。

 煉獄の炎を纏う大口を開け、ソウルバーナーへと食らいつく。

 

「っ!」

 

 だが、それは目の前に現れた1体の鳥が阻む。

 銀翼を広げ、エメラルドをあしらった鎧に身を包むそれは、輝く炎を放ち、イビルベロスの攻撃を受け止めた

のだ。

 

「俺はあんたに破壊された転生炎獣(サラマングレイト)の降臨の効果を発動していた。こいつは相手の効果で破壊された時、デッキから転生炎獣エメラルド・イーグルを召喚条件を無視して特殊召喚できる」

「儀式モンスター、この期に及んでまだそんな手を残していたか」

 

 しかしエメラルド・イーグルの攻撃力は2800、イビルベロスは4500。さらに転生効果で2回が可能であり、エメラルド・イーグルだけでは受け止め切れない。

 

「破壊された転生炎獣の再起(サラマングレイト・リキュアランス)の効果で、デッキからサラマングレイト罠カードを手札に加えている」

 

 ソウルバーナーが手札のカードを見せる。

 

サラマングレイト・バーント

通常罠

自分フィールドにレベル8以上の「サラマングレイト」モンスター、またはリンク3以上の「サラマングレイト」リンクモンスターが存在する場合、このカードは手札からでも発動できる。

(1)フィールドの「サラマングレイト」モンスターと、相手フィールドの表側表示のカード1枚を対象として発動できる。そのカードの効果をターン終了時まで無効にする。

 

「あんたの装備魔法の効果をターン終了時まで無効にする」

 

 これで攻撃力は元の2500まで戻り、エメラルド・イーグルの突破が不可能となった。

 

「……私はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン5

 

「さぁどうする? 君のフィールドはエメラルド・イーグルのみ。手札もゼロだ。不霊夢を失った君と同じく、頼れるものはもはや何もない」

「……あんたはどうしても、俺を怒らせたいらしいな」

 

 ことあるごとに不霊夢の話を持ち出して彼を挑発する鴻上に、ソウルバーナーは静かに言う。

 

「あんたのせいで俺は全てを失った。けど、今の俺は一人じゃない。一緒に戦っている奴ら、そして今もあんたの中で戦っている不霊夢も」

 

 ソウルバーナーが鴻上を指差すと、それに応えるように空気が震える。

 

「あんたはもう乗り越えるべき過去じゃない。だからもう寝てろ」

「……」

「俺のターン!いくぜ不霊夢」

 

 ソウルバーナーは右手を掲げると、その手に炎が宿る。

 

「気分は、バーニングドロー!」

 

 デュエルディスクから炎の軌跡を描き、引き当てたカードを見て、ニヤリと笑う。

 

「俺は魔法カード、逆巻く炎の宝札(バーニング・ドロー)を発動!相手フィールドのカードの枚数が自分より多い場合、相手のリンクモンスターのリンクマーカーの数だけドローする!」

 

 その一手でソウルバーナーの手札は4枚まで回復する。

 

「俺は転生炎獣(サラマングレイト)ミーアの効果発動!手札のフォクシーを墓地へ送り、自身を特殊召喚!」

 

 背から火を噴き上げながら、ミーアがフィールドに降り立つ。

 

「墓地のフォクシーの効果発動!手札のファルコを墓地へ送り、自身を特殊召喚!さらに装備魔法を破壊だ!」

 

 青い狐型のモンスターが、尾から火を放ち、イビルベロスの両肩に装備された鉤爪を破壊する。

 

「墓地のファルコの効果発動!ミーアを手札に戻して、ファルコを特殊召喚!さらにドロー以外で手札に加わったミーアは特殊召喚できる!」

 

 場に4体のモンスターが並び、リンク召喚の準備は整った。

 

「ミーアを素材にリンク召喚!来い、ベイルリンクス!」

 

 ベイルリンクスを呼び出し、その力で呼び寄せたサンクチュアリをフィールドに展開する。

 

「現れろ。未来を変えるサーキット!」

 

 空に手を掲げると、その先へ炎が渦を巻きながら伸びていき、アローヘッドを描き出す。

 

「召喚条件は炎属性・効果モンスター2体以上!俺は場の4体のモンスター全てをリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン!」

 

 4体のモンスターがアローヘッドで1つとなり、吹き荒れる炎の中から1体のモンスターが目を覚ます。

 

「リンク召喚!転生炎獣(サラマングレイト)パイロ・フェニックス!」

 

 不死鳥の力を持つ赤き戦士が背の三対の翼を広げ、フィールドに降り立った。

 

「サンクチュアリの効果発動!パイロ・フェニックスを転生!」

 

 パイロ・フェニックスは空に描かれた魔法陣へ飛び込む。

 

「不死鳥よ……逆巻く炎に身を投じ、無限の力を呼び覚ませ!転生リンク召喚!」

 

 魔法陣が爆裂する。

 

「現れろ、転生炎獣(サラマングレイト)インフィニティ・フェニックス!」

 

 蒼い炎を身に纏い、進化したパイロ・フェニックス改めてインフィニティ・フェニックスが降臨した。

 

「別のモンスターに転生だと!?」

「こいつはルール上、パイロ・フェニックスとしても扱う。効果発動!墓地の炎属性リンクモンスター3体までをEXデッキに戻し、その数だけフィールドの表側表示のカードの効果を次の相手のターン終了時まで無効にする!」

 

 インフィニティ・フェニックスが右手を翳すと、そこにパイロ・フェニックスのシルエットの炎が集まる。

 

「ソウルインヴァリッド!」

 

 右腕から炎が放たれ、イビルベロスが焼かれてその力を失う。

 

「さらに転生効果で、デッキからサラマングレイト魔法カードをセットする!バトルだ!インフィニティ・フェニックスで、イビルベロスを攻撃!」

 

 インフィニティ・フェニックスが今度は炎の剣を生み出し、イビルベロスに斬りかかる。

 

「墓地のベイルリンクスを除外することで、破壊を無効にする!」

「だがダメージは受けてもらう!」

 

 ベイルリンクスが剣を阻むも、その余波が熱波となって鴻上を襲う。

 

 鴻上:LP2850→2550

 

「俺はセットした速攻魔法、転生炎獣の超転生(サラマングレイト・トランセンド)を発動!インフィニティ・フェニックスを転生!」

 

 空を翔け、魔法陣へと飛び込むと、また姿を変えてパイロ・フェニックスへと生まれ変わる。

 

「パイロ・フェニックスの転生効果!相手フィールドのカードを全て破壊!」

「トラップカード!サイバネット・ディフェンダー!」

 

サイバネット・ディフェンダー

通常罠

(1)このターン、自分フィールドのサイバース族リンクモンスターは相手の対象にならず、相手の効果で破壊されない。

 

「このターン、私のサイバース族リンクモンスターは相手の効果の対象にならず、効果で破壊されない!」

「だったらバトルだ!パイロ・フェニックスでイビルベロスを攻撃!」

 

 蒼炎を纏ってイビルベロスへと突っ込み、今度こそ打ち倒す。

 

「墓地のインフィニティ・フェニックスの効果発動!」

 

転生炎獣インフィニティ・フェニックス

リンク・効果モンスター

炎属性/サイバース族/攻 2800/LINK 4

炎属性・効果モンスター2体以上

このカードはルール上、「転生炎獣パイロ・フェニックス」としても扱う。

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードを特殊召喚に成功した場合、墓地の炎属性リンクモンスターを3枚までEXデッキに戻して発動できる。戻した枚数だけ、フィールドの表側表示のカード1枚を選んで、次の相手ターン終了時まで効果を無効にする。「転生炎獣パイロ・フェニックス」を素材としてリンク召喚されている場合、さらにデッキから「サラマングレイト」魔法・罠カードをセットできる。この効果でセットしたカードはセットしたターンでも発動できる。

(2)自分フィールドの「転生炎獣インフィニティ・フェニックス」以外のリンク4のモンスター1体をリリースして発動できる。このカードを墓地から特殊召喚する。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

「俺のリンク4のモンスターをリリースすることで、墓地から特殊召喚!」

 

 三度その姿を変えて、インフィニティ・フェニックスへと転生し、炎の剣を鴻上に振り上げる。

 

「ダイレクトアタック!」

 

 炎の剣が鴻上分身を切り裂き、そのライフを0にした。



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第68話:Burst of Destiny

 

 闇の塔。

 

 そこで向き合うのは二人の人物。

 

 一人はかつてこの塔の力を使い、LINK VRAINSもろともイグニスを滅ぼそうとしたハノイの騎士のリーダー、リボルバー。

 

 もう一人は彼の父であり、この塔の製作者である鴻上博士、その分身体である。

 

「父さん……」

「了見。お前は本体のところに向かうと思っていたが、プレイメーカー、遊作に任せるとはな」

 

 鴻上は感心したように言う。

 

「あなたを止めるために、私はできることをする。ゆくぞ、父さん」

「来い」

 

「「デュエル!」」

 

 

ターン1 リボルバー

 

「私はフィールド魔法、リボルブート・セクターを発動し、効果発動」

 

 リボルバーの背後に、巨大な銃のシリンダーが出現し、二発の弾丸が装填される。

 

「手札からヴァレットモンスターを2体まで守備表示で特殊召喚する」

 

 弾丸が地面に向けて射出され、アネスヴァレット・ドラゴン、メタルヴァレット・ドラゴンへと変形する。

 

 

「私のリボルブート・セクターがある時、手札からリロードマガジン・ドラゴンを特殊召喚できる」

 

 背中にアサルトライフルの弾倉が刺さった鋼鉄のドラゴンが現れる。

 

リロードマガジン・ドラゴン

効果モンスター

星5/闇属性/ドラゴン族/攻 1600/守 2000

(1)自分の「リボルブート・セクター」、または「ヴァレル」リンクモンスターが存在する場合に発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。その後、デッキから「ヴァレット」モンスター1体を特殊召喚する。

(2)フィールドのこのカードを対象とするリンクモンスターの効果が発動した時、自分の墓地の「ヴァレット」モンスター1体を対象として発動できる。対象のモンスターの「フィールドのこのカードを対象とするリンクモンスターの効果が発動した時」に発動する効果の発動時の効果と同じ効果をこのカードの効果として適用する。その後、対象のモンスターを墓地から特殊召喚する。

 

「その効果で、デッキからマグナヴァレット・ドラゴンを特殊召喚」

 

 リロードマガジン・ドラゴンが吠えると、リボルブート・セクターからさらに弾丸が射出される。

 

「現れろ、我が道を照らす未来回路!」

 

 リボルバーがその手を空に翳すと、アローヘッドが回転しながら出現する。

 

「召喚条件はヴァレットモンスターを含む効果モンスター2体!」

 

 二体のヴァレットモンスターが、螺旋の軌道を描きながら空へ放たれ、アローヘッドの奥へ吸い込まれる。

 

「リンク召喚!リンク2、ロングヴァレル・ドラゴン」

 

 アローヘッドより現れたのは青い鱗の二足歩行のドラゴン。右側は竜の首、左側はロングバレルの銃となっている。

 

ロングヴァレル・ドラゴン

リンク・効果モンスター

闇属性/ドラゴン族/攻 800/LINK 2

【リンクマーカー:下/左】

「ヴァレット」モンスターを含む効果モンスター2体

このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分の墓地の「ヴァレット」モンスターを含むモンスター2体を対象として発動できる。そのカードをデッキに戻し、自分はデッキから対象のモンスターとはカード名の異なる「ヴァレット」モンスター1体を自分のリンクモンスターのリンク先に特殊召喚する。この効果発動後、ターン終了時まで、自分はドラゴン族・闇属性モンスターしかEXデッキから特殊召喚できない。

 

「私は魔法カード、スクイブ・ドローを発動!残ったマグナヴァレットを破壊し、2枚ドローする。ロングヴァレル・ドラゴンの効果発動!墓地のヴァレットモンスターを含むモンスター2体をデッキに戻し、デッキからライズヴァレット・ドラゴンを特殊召喚」

 

 舞い上がった2枚のカードが光となって、ロングヴァレル・ドラゴンの銃口に吸い込まれる。そして、そこから新たなヴァレットモンスターがフィールドに発射され、現れる。

 

ライズヴァレット・ドラゴン

効果モンスター

星4/闇属性/ドラゴン族/攻 1800/守 600

(1)自分のモンスターが破壊された自分・相手ターンに発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。

(2)このカードが特殊召喚に成功した場合、またはフィールドのこのカードを対象とするリンクモンスターの効果が発動した時に発動する。このカードを破壊し、デッキから効果テキストに「ヴァレット」と記された魔法・罠カード1枚を手札に加える。

(3)フィールドのこのカードが戦闘・効果で破壊された場合に発動できる。デッキから「ライズヴァレット・ドラゴン」以外の「ヴァレット」モンスター1体を特殊召喚する。

 

「ライズヴァレットの効果で自身を破壊し、デッキからクイック・リボルブを手札に加える。破壊されたライズヴァレットの効果でデッキからシェルヴァレットを特殊召喚。現れろ、我が道を照らす未来回路!」

 

 アローヘッドの外周にシェルヴァレットが弾丸となって装填され、さらにリロードマガジン・ドラゴン、ロングヴァレル・ドラゴンがセットされ、4方向のリンクマーカーを描く。

 

「リンク召喚!閉ざされし世界を貫く我が新風!リンク4!ヴァレルロード・ドラゴン!」

 

 アローヘッドが回転し、爆発が起こる。

 現れたのは、胸部が弾倉となった赤いドラゴンだった。

 

「私はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン2 鴻上分身

 

「お互いのライフが同じである時、手札のトポロジーナ・ベイビーを特殊召喚できる」

 

 現れたのは緑の1つ目の頭が楕円形のリングに、光の羽を生やした蜂のようなモンスターだ。

 

トポロジーナ・ベイビー

効果モンスター

星1/闇属性/サイバース族/攻 100/守 100

このカード名の(1)(2)の方法による特殊召喚はそれぞれ1ターンに1度しか行えず、(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)お互いのLPが同じ場合、このカードは手札から特殊召喚できる。

(2)このカードはEXモンスターゾーンのリンクモンスターのリンク先に手札から特殊召喚できる。

(3)このカードがリンクモンスターの効果でフィールドを離れた場合に発動できる。デッキから「トポロジーナ」魔法・罠カード1枚を手札に加える。

 

「自分の特殊召喚されたトポロジーナが存在する時、手札のトポロジーナ・メイビーを特殊召喚」

 

 続けてその隣に、虫のような四つ足にピンクの上半身がついた機械のモンスターが出現する。

 

トポロジーナ・メイビー

効果モンスター

星2/闇属性/サイバース族/攻 800/守 100

このカード名の(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しか行えず、(2)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分フィールドに特殊召喚された「トポロジーナ」モンスターまたは「トポロジック」モンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できる。

(2)このカードが特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「トポロジーナ・メイビー」以外の「トポロジーナ」モンスター1枚を手札に加える。

(3)このカードがリンクモンスターの効果でフィールドから離れた場合に発動できる。手札・デッキから「トポロジーナ」モンスター1体を特殊召喚する。

 

「その効果でデッキからトポロジーナ・ギャッツビーを手札に加える。現れろ、我が世界を知らしめす未来回路」

 

 二体のトポロジーナが、上空のアローヘッドに吸い込まれ、

 

「リンク召喚。トポロジーナ・サザビー」

 

 現れたのは女性のような体型のトポロジーナ。

 両肩に白と緑を基調とした流線型のアーマーを装備している。

 

トポロジーナ・サザビー

リンク・効果モンスター

闇属性/サイバース族/攻 1000/LINK 2

【リンクマーカー:右下/右】

「トポロジーナ」モンスターを含む効果モンスター2体

このカード名の(1)(2)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードがリンク召喚に成功した場合、そのリンク素材とした「トポロジーナ」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを手札に加える。

(2)自分フィールドのこのカード以外のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを破壊する。この効果で「トポロジーナ」モンスターを破壊した場合、自分はデッキから1枚ドローする。

(3)フィールドのこのカードがリンクモンスターの効果で破壊されるか、除外された場合に発動できる。墓地・除外状態のこのカードを特殊召喚する。

 

「リンク召喚成功時、墓地のリンク素材となったトポロジーナを回収。回収したベイビーはリンクモンスターのリンク先に特殊召喚できる」

 

 サザビーの右斜め後ろに、ベイビーが飛来する。

 

「サザビーの効果発動。1ターンに1度、私のモンスター1体を破壊できる」

 

 そのベイビーに、サザビーの両腕からガトリングが撃ち込まれ、爆散する。

 

「自らのモンスターを破壊か」

「トポロジーナを破壊したので1枚ドロー。ベイビーの効果発動。リンクモンスターの効果でフィールドを離れたことで、デッキからトポロジーナの魔法(マジック)(トラップ)1枚を手札に加える。私は手札に加えたトポロジーナ・ワームホールを発動」

 

トポロジーナ・ワームホール

通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1)自分のデッキから「トポロジーナ」モンスター1体を手札に加えるか、特殊召喚する。

(2)自分フィールドの「トポロジーナ」リンクモンスター、または「トポロジック」リンクモンスターがモンスターの効果で破壊・除外される場合、代わりに墓地のこのカードを除外できる。

 

「デッキからトポロジーナ・バンビーを特殊召喚」

 

 空間に穴が開き、そこからドリルのような針を持つ蜂型の機械が飛び出してくる。

 

トポロジーナ・バンビー

効果モンスター

星3/闇属性/サイバース族/攻 1500/守 100

このカード名の(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しか行えず、(2)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分の墓地に「トポロジーナ」モンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できる。

(2)このカードが特殊召喚に成功した場合、自分の墓地の「トポロジーナ・バンビー」以外の「トポロジーナ」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを守備表示で特殊召喚する。

(3)このカードがリンクモンスターの効果でフィールドを離れた場合に発動できる。自分の墓地・除外状態のカードの中から「トポロジーナ・バンビー」以外の「トポロジーナ」モンスター1体を特殊召喚する。

 

「トポロジーナ・バンビーの効果で、墓地のトポロジーナ・メイビーを特殊召喚」

 

 さらにメイビーが蘇り、鴻上の場に3体のモンスターが並ぶ。

 

「速攻魔法、クイック・リボルブを発動!デッキからメタルヴァレット・ドラゴンを特殊召喚!」

「現れろ、我が世界を知らしめす未来回路」

 

 3体のトポロジーナがアローヘッドに吸い込まれ、斜め4方向にリンクマーカーが描かれる。

 

「リンク召喚!トポロジック・ゼロヴォロス!」

 

 アローヘッドより現れたのは、禍々しく、命を感じない無機質な姿。尾を奇怪な模様を描くようにうねられ、自身の背中に接続している。

 

「トポロジック、やはりトポロジーナはその配下のモンスターか」

「その通り。トポロジーナこそが、トポロジックの力を真に引き出すことができるのだ」

「ならばその力を封じるまで!私はそのリンク召喚時にヴァレルロードのメタルヴァレットを対象に効果発動!」

 

 ヴァレルロードが口を開くと、そこから銃口が伸び、ゼロヴォロスへ狙いを定める。

 すると、メタルヴァレットは弾丸となり、ヴァレルロードの胸部の弾倉へ装填。弾倉は回転し、ヴァレルロードの口の銃口にセットされる。

 

「メタルヴァレットの効果により、自身と同じ縦列の相手のカードを全て破壊する!穿て!」

 

 ヴァレルロードから発射された青い弾丸がゼロヴォロスを貫く。だが、

 

「墓地のトポロジーナ・ワームホールを除外して破壊を無効にする」

 

 ゼロヴォロスの体に空いた穴はすぐに塞がる。

 

「くっ……」

「私は永続魔法、トポロジーナ・ディメンションを発動。1ターンに1度、墓地のトポロジーナを特殊召喚できる。私はトポロジーナ・メイビーを特殊召喚」

 

 三度フィールドに現れるメイビー。その位置は、ゼロヴォロスのリンク先となるメインモンスターゾーンの一番右端だ。

 

「ゼロヴォロスの効果発動!リンクモンスターのリンク先にモンスターが特殊召喚された時、フィールドのカードを全て除外する」

 

 ゼロヴォロスの尾からエネルギーが駆け抜け、ゼロヴォロスの全身を巡って加速する。

 

「アシュラエニグマ」

 

 直後に巻き起こる閃光。

 鴻上、リボルバーのフィールドのカードをもろとも消滅させる。

 

「全て消し飛ばしたか」

「それだけではない。フィールドを離れたトポロジーナ・ディメンションの効果発動」

 

トポロジーナ・ディメンション

永続魔法

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分の墓地・除外状態の「トポロジーナ」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。

(2)魔法&罠ゾーンのこのカードがリンクモンスターの効果でフィールドを離れた場合に発動できる。墓地・除外状態の「トポロジーナ」モンスターを2体まで選んで特殊召喚する(同名カードは1枚まで)。

 

「除外状態のトポロジーナ・メイビー、墓地のトポロジーナ・バンビーをそれぞれ特殊召喚」

 

 空間が歪曲し、その隙間からメイビーとバンビーが飛来する。

 

「さらにフィールドを離れたメイビーの効果発動。デッキからトポロジーナ・ベイビーを特殊召喚」

 

 さらにベイビーまでもが現れ、がら空きだった鴻上のフィールドにモンスターが並ぶ。

 

「トポロジーナ・ギャッツビーを手札から特殊召喚」

 

トポロジーナ・ギャッツビー

効果モンスター

星5/闇属性/サイバース族/攻 1000/守 100

このカード名の(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しか行えず、(2)(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分の手札からモンスターを特殊召喚に成功したターンに、このカードは手札から特殊召喚できる。

(2)このカードがリンクモンスターの効果でフィールドを離れた場合、自分の手札1枚を除外して発動できる。デッキからレベル4以下の「トポロジーナ」モンスター2枚を手札に加える(同名カードは1枚まで)。

(3)自分・相手のメインフェイズに墓地のこのカードを除外して発動できる。手札からレベル4以下のサイバース族モンスター1体を効果を無効にして特殊召喚する。

 

「現れろ、我が世界を知らしめす未来回路!」

 

 四体のモンスターがアローヘッドに飛び込む。

 

「リンク召喚!トポロジック・ガンブラー・ドラゴン!」

 

 産声を上げたのは、黒金の竜。

 背中からは刺のような触手をいくつも生やし、緑に光る4つの目がリボルバーを睨んでいる。

 

「墓地のギャッツビーを除外して効果発動。手札からレベル4以下のトポロジーナ、ベイビーを特殊召喚。これによりガンブラーの効果が起動する」

 

 ガンプラーの体に電気が走る。

 

「私は手札2枚を捨てる」

 

 ガンブラーへ向けて、自身の手札に2枚を投げる。

 その瞬間、ガンブラーが咆哮し、リボルバーへ落雷を落とす。

 

「さあ、手札を2枚捨てろ」

「ぐっ……」

 

 リボルバーが手札を投げ捨てたことで、落雷は収まる。

 

「バトルだ。トポロジック・ガンブラー・ドラゴンでダイレクトアタック」

 

 再び落雷がリボルバーを襲う。

 

 リボルバー:LP4000→1000

 

「私はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン3

 

「ゼロヴォロスの効果発動。自身の効果で除外された次のスタンバイフェイズに自身を特殊召喚」

 

 ゼロヴォロスがEXモンスターゾーンに自身のリンクマーカーを向けるように復活し、これでリボルバーのリンク召喚は封じられた。

 

「手札ゼロ、モンスターもゼロ。あっけないものだな」

「まだ終わりではない。私のターン!私は今ドローしたリボルブート・セクターを発動!」

 

 リボルバーの背後に、再びシリンダーが出現する。

 

「引きがいいな」

「相手フィールドのモンスターの数が自分より多い場合、その差の数だけ墓地のヴァレットモンスターを特殊召喚する!蘇れ、ライズヴァレット・ドラゴン、シェルヴァレット・ドラゴン、メタルヴァレット・ドラゴン!」

 

 地より湧き出した三つオーラがシリンダーに装填され、それが発射されると、三体のドラゴンに変形する。

 

「モンスターを出したところでリンク召喚すればゼロヴォロスの効果が発動するだけだぞ?」

「私はライズヴァレットの効果発動!このカードを破壊し、デッキからスクイブ・ドローを手札に加える。ライズヴァレットの効果で、デッキからオートヴァレットを特殊召喚」

 

 ライズヴァレットが爆裂し、シリンダーから新たな弾丸が補充される。

 

「魔法カード、スクイブ・ドローを発動!メタルヴァレットを破壊して2枚ドローする!」

 

 勢いよくデュエルディスクよりカードを引き抜く。

 

「来たぞ。私はグランドローラー・ドラゴンを特殊召喚」

 

グランドローラー・ドラゴン

効果モンスター

星6/闇属性/ドラゴン族/攻 2200/守 0

このカード名のカードは1ターンに1度しか特殊召喚できない。

(1)いずれかのフィールドゾーンにカードが存在する場合、このカードを手札から特殊召喚できる。

(2)このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動する。お互いのフィールドゾーンのカードを全て破壊する。この効果で破壊されたカードの元々の持ち主は、デッキから1枚ドローする。その後、自分はデッキから破壊されたフィールド魔法とカード名の異なるフィールド魔法1枚を表側表示でフィールドゾーンに置ける。

 

「互いのフィールドゾーンのカードを全て破壊し、破壊したプレイヤーは1枚ドローする。そしてデッキから破壊されたカードとは名前の異なるフィールド魔法を直接フィールドゾーンに置く!出でよ、天火の煉獄!」

 

 塔の屋上が鳥籠に覆われ、その周囲に十二の灯火が現れ、辺りを照らす。

 

天火の煉獄

フィールド魔法

このカードは自分のメインフェイズ1開始時にのみ発動できる。

(1)お互い、1ターンに1度しかリンク召喚を行えない。

(2)フィールドにサイバース族リンクモンスターが存在する限り、以下の効果を適用する。

●サイバース族モンスターの発動した効果は無効化される。

●フィールドのサイバース族モンスターは攻撃できず、リンク素材にできない。

(3)このカードが相手の効果でフィールドを離れた場合、自分フィールド・墓地のリンク4のモンスター1体を除外して発動できる。EXデッキから「トポロジック」モンスター1体を特殊召喚する。

 

「やはりなサイバースを封じるなら、お前はそのカードを使うと思っていた」

 

 鴻上は項垂れたトポロジック達を見る。

 

「確かに、それを使えば、私のデッキは機能停止する。しかしモンスターの数で優位に立っている今なら、数でじっくり詰めればいいだけだ」

 

 トポロジックの力を奪われても、なおも鴻上は余裕そうにそう語る。

 

(父はまだ気付いていない)

 

 リボルバーは己の手札を見る。

 

(私の手札には2枚目のライズヴァレットがある。それでデッキからクラックヴァレットをリクルートすれば……)

 

クラックヴァレット・ドラゴン

効果モンスター

星3/闇属性/ドラゴン族/攻 900/守 1400

このカード名の(1)(2)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードがフィールドから墓地へ送られた場合に発動する。このカードを相手フィールドに特殊召喚する。

(2)フィールドのこのカードを対象とするリンクモンスターの効果が発動した時に発動する。このカードを破壊する。その後、相手フィールドの表側表示の魔法・罠カード1枚を選んで墓地へ送る。

(3)フィールドのこのカードが戦闘・効果で破壊されて墓地へ送られたターンのエンドフェイズに発動できる。デッキから「クラックヴァレット・ドラゴン」以外の「ヴァレット」モンスター1体を特殊召喚する。

 

(ヴァレルソードでクラックヴァレットの効果を起動し、トポロジック・ヘルメビウスを呼べる。奴の力を使えば……)

 

 次のターンに勝てる。

 リボルバーはモンスターを守備で固めて次のターンを凌げごうと考えていた。

 

 だが、そんなリボルバーの考えは、鴻上に見透かされていた。

 

(私が天火の煉獄に何の対策もしていないとでも思ったか。私の伏せカードは逆燃する天火)

 

逆燃する天火

通常罠

このカード名のカードはデュエル中1度しか発動できない。

(1)いずれかのフィールドゾーンに「天火の煉獄」が存在する場合、自分のメインフェイズに発動できる。自分・相手のEXデッキからサイバース族モンスター1体を特殊召喚する。その後、フィールドゾーンのカードを全て破壊する。このターン、フィールドのサイバース族モンスター全ては攻撃表示となり、攻撃力は500アップする。

 

(お前のトポロジック・ヘルメビウスを逆に奪い、一気に止めを刺してやろう)

 

「さぁ、早くターンエンドしろ」

「……」

 

(本当にこれでいいのか……父さんの作ったサイバースの力で……)

 

 リボルバー、鴻上了見はこれまでのことを思い浮かべる。

 

 父の遺言に従い、サイバース狩りを行い、ハノイの塔を完成させ、その全てを利用されてここにいる。

 

(私は今も、運命の牢獄に囚われているのか……)

 

 自分達を取り囲む天火の煉獄を見上げて、リボルバーは小さくため息を吐いた。

 

「……現れろ、我が道を照らす未来回路!」

 

 リボルバーのフィールドのオートヴァレット、シェルヴァレットがリンクマーカーにセットされる。

 

「リンク召喚!ソーンヴァレル・ドラゴン!」

 

 現れたのは黄土色と黒を基調とし、両腕がロングバレルの銃口となったドラゴンだ。

 

「今さらリンク召喚か?だが、天火の煉獄がある限り、お前もリンク召喚は1ターンに1度しかできんのだぞ?」

「私は手札からリロードマガジン・ドラゴンを特殊召喚!さらに墓地のヴァレット・ドライバーの効果発動!」

 

ヴァレット・ドライバー

効果モンスター

星4/闇属性/ドラゴン族/攻 1800/守 1000

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが手札・墓地に存在する場合に発動できる。このカードを自分のドラゴン族・闇属性のリンクモンスターのリンク先に特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたこのカードは、フィールドを離れた場合、除外される。

(2)自分の墓地の「ヴァレット」モンスター1体を対象として発動できる。そのカードをデッキに戻し、自分はデッキから1枚ドローする。

 

「このカードはドラゴン族・闇属性のリンクモンスターのリンク先に特殊召喚できる!ソーンヴァレル・ドラゴンの効果発動!手札1枚を捨てることで、フィールドの表側表示のモンスター1体を対象に破壊する」

「それでこちらのトポロジックでも破壊するのか?」

「いや、私が選ぶのは、リロードマガジン・ドラゴン!」

 

 ソーンヴァレルの銃口が、味方であるリロードマガジンへと向けられる。

 

「この瞬間、リロードマガジンの効果発動!墓地のオートヴァレット・ドラゴンの効果をコピーする!フィールドの表側表示の魔法カードを破壊する!」

 

 リロードマガジンがオートヴァレットに変身、銃弾に変形してソーンヴァレルの銃口に装填されると、それは天に向けて放たれる。

 

 ドォォンッ!

 

 天火の煉獄は崩壊し、電子の藻屑となって崩れ去る。

 

「バカな。天火の煉獄を……!」

「これでいい。私はあなたには縛られない!リロードマガジンの効果は、効果をコピーしたモンスターを墓地から特殊召喚する!蘇れ!オートヴァレット・ドラゴン!」

 

 弾丸となったリロードマガジンの代わりに、本物のオートヴァレットが戻ってくる。

 

「さらにヴァレット・ドライバーの効果発動!墓地のシェルヴァレットをデッキに戻し、1枚ドローだ」

 

 引いたカードを確認し、リボルバーの口元がわずかに緩む。

 

「現れろ、我が道を照らす未来回路!召喚条件は効果モンスター3体以上!私はグランドローラー・ドラゴン、オートヴァレット、オートヴァレット・ドラゴン、ヴァレット・ドライバー、そしてリンク2のソーンヴァレルをリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン!」

 

 四体のモンスターが光の弾丸となり、五つの螺旋を描きながら空のアローヘッドに吸い込まれる。

 

「閉ざされし世界、運命を葬る我が豪風!リンク召喚!」

 

 アローヘッドより風が吹き荒れ、一体のドラゴンが目を覚ます。

 

「リンク5!ヴァレルエンド・ドラゴン!」

 

 それはヴァレルロードが進化した姿。

 全身はより多くの銃器が覆い、装甲もより強固なものと化している。両肩には首が二つ、その口からはそれぞれ砲身が露出している。

 

「リンク5……だが忘れたか? 天火の煉獄がないということは、ゼロヴォロスの効果が発動するということだ」

 

 ゼロヴォロスの体に再びエネルギーが充填される。

 

「私はヴァレルエンド・ドラゴンの効果発動!ゼロヴォロスの効果を無効にする!」

 

 ヴァレルエンドが咆哮すると、ゼロヴォロスが体にまとっていたエネルギーが一瞬にして霧散する。

 

「なっ!?」

「そして墓地のヴァレットモンスター、オートヴァレットを特殊召喚!」

 

「バトルだ。ヴァレルエンドは相手モンスター全てに一度ずつ攻撃できる!まずはゼロヴォロスを攻撃!」

 

 ゼロヴォロスへ向けて、ヴァレルエンドが両腕から大量の弾丸を浴びせる。

 

 鴻上分身:LP4000→3500

「続けてトポロジック・ガンブラーを攻撃!」

 

 ガンブラーは落雷で迎撃するが、それをもろともせず、そのまま両腕で掴んで投げ飛ばし、砲撃で射貫く。

 

 鴻上分身:LP3500→3000

 

「トポロジーナ・ベイビーを攻撃!」

 

 残った逃げ惑う蜂に対しても、両肩の砲身からの銃撃で仕留める。

 

「私は速攻魔法、リボル・リロードを発動」

 

リボル・リロード

速攻魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1)自分フィールドに「リボルブート・セクター」、「ヴァレル」リンクモンスター、「ヴァレルロード」モンスターのいずれかが存在する場合、自分フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。以下の効果から1つを選んで適用する。

●対象のモンスターの「フィールドのこのカードを対象とするリンクモンスターの効果が発動した時」に発動する効果の発動時の効果を適用する。

●対象のモンスターを破壊する。このターン、自分の「ヴァレル」リンクモンスターまたは「ヴァレルロード」モンスター1体は1度のバトルフェイズ中に2回攻撃できる。

●対象の「ヴァレット」モンスターとカード名の異なる「ヴァレット」モンスター1体をデッキ・墓地から特殊召喚する。

 

「オートヴァレットを破壊し、ヴァレルエンドはもう一度攻撃を可能とする!打ち砕け!」

 

 ヴァレルエンドが守るモンスターを失った鴻上に向けて、銃口を突きつける。

 

「豪雷のヴァレル・エンドッッ!!」

 

 銃口がスパークし、光の弾丸が鴻上分身を撃ち抜いた。



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第69話:The Singularity Evil

 

 ハノイの塔の中枢を担う神の塔。

 

 六つの塔に囲まれ、一際大きくそびえ立つその頂上に、プレイメーカーはたどり着いた。

 

「ここが神の塔」

 

 おそらくLINK VRAINSで最も高い場所であろうそこは、周りは雲に覆われており、風のない無風地帯だった。

 

「来たな。遊作」

「っ!」

 

 見上げると、浮遊する鴻上の姿があった。

 

「ようこそ、神の塔へ」

「先生……今すぐこの塔を停止しろ!」

「それは無理だと、君も分かっているだろう?」

 

 鴻上はゆっくりと着地すると、デュエルディスクを構える。

 

「ほーれ、君の大好きなデュエルだ。また教えてやろう。じっくりとな」

「くっ……」

 

 プレイメーカーもデュエルディスクを構えて、覚悟を決める。

 

「「デュエル!」」

 

 

ターン1 プレイメーカー

 

「俺は魔法カード、Into the VRAINSを発動!手札からモンスターを効果を無効にして特殊召喚できる!来い、ファイアウォール・ディフェンサー!」

 

 円柱形のワープゲートから現れたのは、黒い電脳の翼竜だ。

 

「そしてそのモンスターを素材にリンク召喚!現れろ!未来を導くサーキット!リンク召喚!リンク1、リンク・デコーダー」

 

 ファイアウォール・ディフェンサーを素材として現れたのは、青い鎧を来たデコード・トーカーによく似た容姿の戦士だ。

 

「ファイアウォール・ディフェンサーの効果発動!このカードがサイバース族リンクモンスターのリンク素材となった時、デッキからファイアウォールモンスターを特殊召喚できる!出でよ、ファイアウォール・ファントム!」

 

 虚空より、黒いオーラをまとった二対の翼の竜が飛び出した。

 

「続けて現れろ、未来を導くサーキット!俺はリンク・デコーダーとファイアウォール・ファントム、手札のコード・ウェイブをリンクマーカーにセット!」

 

 遊作の手札から放たれたモンスターが、リンク・デコーダー、ファイアウォール・ファントムと共に上空に現れたゲートに吸い込まれる。

 

「リンク召喚!リンク3、パワーコード・トーカー!」

 

 アローヘッドより、赤い鎧を纏い、獅子の鬣のような金の装飾を頭につけた戦士が地上に降り立った。

 

「リンク素材となったファイアウォール・ファントムの効果で、デッキからサイバネット・オプティマイズを手札に加え、手札1枚を捨てる。さらにコード・ウェイブの効果発動!」

 

コード・ウェイブ

星3/炎属性/サイバース族/攻 1500/守 0

(1)自分フィールドのサイバース族モンスターを「コード・トーカー」モンスターのリンク素材とする場合、

手札のこのカードもリンク素材にできる。

(2)このカードが「コード・トーカー」モンスターのリンク素材として手札・フィールドから墓地へ送られた場合に発動できる。デッキの一番上のカードを墓地へ送り、それがサイバース族モンスターなら手札に加える。フィールドのこのカードを素材とした場合、代わりにデッキから1枚ドローすることもできる。

 

「デッキの一番上のカードを墓地へ。そのカードがサイバースなら手札に加える」

 

 墓地へ送られたのは、サイバース・ガジェット。

 

「よし俺はサイバース・ガジェットを手札に加える。さらにリンク・デコーダーは攻撃力2300以上のサイバース族リンクモンスターのリンク素材となった時、墓地から特殊召喚できる!」

 

 デコード・トーカーが剣を掲げると、その右後ろにゲートが現れ、そこからリンク・デコーダーが蘇る。

 

「さらにサイバース・ガジェットを召喚!」

 

 三頭身のロボットが現れ、左腕の長方形のデバイスを操作すると、背中からケーブルが伸びる。

 

「墓地のレベル2以下のサイバース族モンスターを特殊召喚!出でよ、マイクロ・コーダー!」

 

 ケーブルが地面に突き刺さり、地より引き抜かれたのは、ファイアウォール・ファントムの効果で墓地へ送られたマイクロ・コーダーだった。

 

「現れろ、未来を導くサーキット!」

 

 パワーコード・トーカー、サイバース・ガジェット、マイクロ・コーダーの三体がアローヘッドに吸い込まれる。

 

「リンク3!トランスコード・トーカー!」

 

 現れたのはオレンジの角張った鎧を纏う電脳の騎士。それが手を掲げると、その背後にゲートが開く。

 

「マイクロ・コーダーの効果でデッキからダメージコレクターを手札に加える。さらにサイバース・ガジェットの効果でガジェット・トークンを特殊召喚。トランスコードの効果で墓地からパワーコード・トーカーを特殊召喚」

 

 ゲートからパワーコード・トーカーが飛び出す。

 

「現れろ、未来を導くサーキット!」

 

 何度目かになるリンク召喚の宣言で、アローヘッドにパワーコード・トーカーとガジェット・トークンが飛び込む。

 

「唸れ嵐!虚構に渦巻く旋風は、万物を震わす竜の雄叫びとなる!リンク召喚!」

 

 アローヘッドより暴風が巻き起こり、風の中から一体のドラゴンが目を覚ます。

 

「リンク4!ファイアウォール・ドラゴン!」

 

 それは白い機械の翼を広げる竜。ファイアウォール・ドラゴンが雄叫びを上げ、鴻上を威嚇する。

 

「手札から永続魔法、サイバネット・オプティマイズを発動!その効果で、手札からサイバース族モンスター、夢幻崩壊(デストロイメア)イヴリースを召喚する」

 

 円柱形のワープゲートが出現し、そこから紫髪の黒衣の少女が出現する。

 

「このカードが召喚に成功した時、墓地のリンクモンスターを効果を無効、攻撃力を0にして自身とリンク状態になるようにして特殊召喚する。蘇れ、パワーコード・トーカー!」

 

 黒衣の少女が祈ると、六つの色の光が宙を舞い、弾け、光の中からパワーコード・トーカーが飛び出した。

 

「随分たくさん出したようだが、いいのか?私の手札にはインテリジェンス・ゼロがあるぞ?」

 

 鴻上は手札のカードを見せびらかす。

 

インテリジェンス・ゼロ

特殊召喚・効果モンスター

星1/闇属性/サイバース族/攻 0/守 0

このカードは通常召喚できず、このカードの効果でのみ特殊召喚できる。

このカードの効果の発動に対して相手はカードの効果を発動できない。

(1)相手フィールドにのみモンスターが存在する場合、自分の手札5枚を捨てて発動できる。このカードを手札から特殊召喚できる。この効果は相手ターンでも発動できる。

(2)このカードが特殊召喚に成功した場合に発動できる。このカードを含む自分・相手フィールドのモンスターを素材にサイバース族リンクモンスターのリンク召喚を行う。この効果でリンク素材にするモンスターはサイバース族としても扱い、炎・水・風・地・光属性としても扱う。

 

「その対策は既にある。現れろ、未来を導くサーキット!」

 

 イヴリース、リンク・デコーダーの二体がリンクマーカーにセットされる。

 

「リンク召喚!フレイム・アドミニスター!」

 

 その二体を素材にし、赤とオレンジを基調とした巨大ロボットが現れた。

 

「イヴリースの効果発動!このカードを相手フィールドに特殊召喚!」

 

 イヴリースが鴻上のフィールドに転送される。

 

「インテリジェンス・ゼロの効果は、あんたのフィールドにモンスターがいれば使えない!」

「なるほど、考えたな」

 

 鴻上は自身のフィールドで微笑むイヴリースを見て、ニヤニヤと笑う。

 

「俺は魔法カード、知欲の壺を発動」

 

知欲の壺

通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか使用できない。

(1)自分フィールドに相互リンク状態のモンスターが3体以上存在する場合に発動できる。自分はデッキから2枚ドローする。

 

「カードを2枚ドローする。俺はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン2

 

「では私のターンだ。私はスキルを使う」

「なっ!?」

 

 鴻上の宣言に、プレイメーカーは声を上げる。

 

「いい忘れたが、これはマスタースピードデュエル、以前君がライトニングとしたのと同じだよ。君も使いたければ使えばいい」

「……白々しい」

 

 ここは無風地帯、データストームがなければプレイメーカーはスキルを使えない。彼もそれを分かって言っているのだろう。

 

「私のスキル、マスタースキルを発動!1ターンに1度、LINK VRAINS内に存在する全てのスキルから、好きなものを使用できる。スキル発動!ゴッド・リザレクション!」

 

 鴻上のEXモンスターゾーンに暴風が巻き起こる。

 

「自分フィールドに元々の持ち主が自分となるカードがない時、EXデッキから六属性のリンクモンスターを墓地へ送り、EXデッキから特殊召喚」

 

 風に赤、青、緑、茶、黄、紫の光が点り、中から一体のモンスターが姿を現す。

 

「極限電神ARAGAMI!」

 

 風の中から出現したのは一基の塔。

 

 上部にはそれぞれ赤、青、緑、茶、黄、紫の六つの輪が浮いており、その両脇に六つの腕が浮かんでいる。

 

極限電神ARAGAMI

リンク・効果モンスター

神属性/サイバース族/攻 7000/LINK 7

「インテリジェンス・ゼロ」を含むサイバース族モンスター3体以上

(1)このカードのリンク召喚は無効化されない。

(2)このカードは他のカードの効果を受けない。

(3)自分・相手の墓地のリンクモンスター1体を除外して発動できる。このカードの攻撃力は1000アップする。その後、除外したカードの属性によって以下の効果を適用する。この効果は相手ターンでも発動できる。このデュエル中、このカード名の(3)の効果で同じ属性のモンスターを除外できない。

炎:相手に4000ダメージを与える。

水:自分はデッキから2枚ドローする。

風:相手の魔法・罠カードを全て破壊する。

地:自分はLP8000回復する。

光:相手の手札をランダム2枚に選んで捨てる。

闇:相手フィールドのモンスター全てを破壊する。

(4)このカードが戦闘で破壊される場合、代わりに自分の墓地のリンクモンスター1体を除外できる。その後、除外したカードの属性によってこのカードの(3)の効果を適用する。

 

「……スキルで直接召喚だと」

「私はスキルの効果で出したモンスター以外を特殊召喚できない。では墓地のリンクモンスターを除外して効果発動!出でよ、ダークナイト@イグニスター!」

 

 ダークナイト@イグニスターの幻影が、ARAGAMIに宿る。

 

「相手フィールドのモンスターを全て破壊する」

 

 塔から黒い波動が広がる。

 

 それは空気を、空間を揺らし、プレイメーカーのモンスター達に襲い掛かる。

 

「俺は(トラップ)カード、スリーフェイト・バリアを発動!」

 

スリーフェイト・バリア

通常罠

(1) 以下の効果から1つを選択して発動できる。

●このターン、自分のモンスターは戦闘・効果で破壊されない。

●このターン、自分はダメージを受けない。

●このターン、自分のモンスター1体は1度だけ戦闘で破壊されず、その戦闘によって戦闘ダメージを受けるかわりに、その数値分、自分のライフを回復する。

(2)自分がダメージを受けた場合、墓地のこのカードを除外して発動できる。このターン、自分が受ける効果ダメージは0になる。

 

 緑色の球状のバリアが、プレイメーカーのフィールドを覆うように展開される。

 

「このターン、俺のモンスターは戦闘・効果で破壊されない!」

「ならば次だ。ヒートライオよ」

 

 鴻上が手を掲げると、次はヒートライオの幻影がARAGAMIに取り込まれる。

 

「相手に4000ダメージだ」

 

 赤い熱波が解き放たれ、プレイメーカーを襲う。

 

「くっ!」

 

 直後、黄色い障壁が展開され、プレイメーカーを守る。

 

「それはスリーフェイト・バリア。ダメージを受けた時にしか墓地効果は使えないはず……」

「だから俺は、一つ目の効果を発動する直前に、手札のダメージコレクターの効果を発動していた」

 

 プレイメーカーのフィールドには、先程まで存在していなかった黄色い球体に口がついたようなモンスターがいた。

 

ダメージコレクター

効果モンスター

星4/風属性/サイバース族/攻 1200/守 1600

このカード名の(1)(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分フィールドにサイバース族モンスターが存在する場合に発動できる。このカードを手札から守備表示で特殊召喚し、自分は500ダメージを受ける。この効果は相手ターンでも発動できる。

(2)このカードが特殊召喚に成功したターンのエンドフェイズに発動できる。デッキからこのターンに自分が受けたダメージの数値以下の攻撃力を持つサイバース族モンスター1体を手札に加える。

 

 プレイメーカー:LP4000→3500

 

「これで俺はダメージを受け、スリーフェイト・バリアの発動条件を満たしたんだ」

「なるほど。ならばこれだ」

 

 次に鴻上が呼び出したのは、嵐闘機艦(ストームライダーシップ)バハムートボマー。

 

「相手の魔法・罠カードを全て破壊する」

 

 ARAGAMIから放たれた緑の波動が、プレイメーカーの魔法・罠カードを吹き飛ばす。

 

「続けて海晶乙女(マリンセス)アクア・アルゴノートを除外。2枚ドロー」

 

 アクア・アルゴノートが塔に宿り、青いの波動が鴻上のデッキを包み込み、新たな手札を与える。

 

「さらにマグヌス・ドゥクスを除外して、君の手札を2枚貰おうか」

 

 マグヌス・ドゥクスの幻影が塔に宿り、金の波動がプレイメーカーに伝わり、手札を吹き飛ばす。

 

「さて、いい忘れていたが、ARAGAMIは効果を使うごとに攻撃力を1000アップする」

 

 ARAGAMI:ATK7000→12000

 

「バトルだ。ARAGAMIでトランスコード・トーカーを攻撃」

「俺は墓地のアドラ・ブロッカーの効果発動!」

 

アドラ・ブロッカー

効果モンスター

星2/水属性/サイバース族/攻 300/守 1500

(1)自分のリンクモンスターのリンク先に、このカードは手札から特殊召喚できる。

(2)自分または相手のモンスターの攻撃宣言時に墓地のこのカードを除外し、フィールドのサイバース族モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターはこのターンに1度だけ戦闘では破壊されず、このターンそのモンスターのコントローラーが受ける戦闘ダメージは1度だけ0になる。

 

「このターン、トランスコード・トーカーは1度だけ戦闘で破壊されず、対象のモンスターのコントローラーが受ける戦闘ダメージも1度だけ0になる!」

 

 首が二又に分かれた水蛇が現れ、二つの首を合わせて障壁を展開、プレイメーカーを守った。

 

「耐えたか。私はカードを2枚伏せてターンエンド」

「エンドフェイズに、ダメージコレクターの効果で、デッキからドットスケーパーを手札に加える」

 

ターン3

 

「俺のターン!」

 

 プレイメーカーは自分の手札を見つめる。

 

(ARAGAMIは他のカードの効果を受けない。戦闘破壊しようにも、攻撃力12000を突破する手段は手札にはない。だったら……)

 

「俺はファイアウォール・ドラゴンの効果発動!このカードと相互リンク状態のカードの数だけ、フィールドか墓地のカードを手札に戻す。俺は墓地のファイアウォール・ガーディアン、サイバース・ガジェット、コード・ウェイブを手札に加える」

 

 ファイアウォール・ドラゴンが咆哮すると、地面から風が巻き上がり、そこから三枚のカードが散らばり、プレイメーカーの手札に加わる。

 

「手札を増やしてどうする気だ?」

「ここからだ!現れろ、未来を導くサーキット!俺はトランスコード・トーカーと、リンク2のフレイム・アドミニスターをリンクマーカーにセット!リンク召喚!エンコード・トーカー!」

 

 現れたのは、十字の印が輝く大楯を構えた白い電脳の騎士だ。

 

「ほぅ……」

「ファイアウォール・ドラゴンの効果発動!このカードのリンス先のモンスターが墓地へ送られた時、手札からサイバース族モンスターを特殊召喚できる」

 

 ファイアウォールの右横に、てんとう虫のような衣装を来たモンスター、レディ・デバッガーが現れる。

 

「その効果でデッキからレベル3以下のサイバース族モンスターを手札に加える。バトルだ!レディ・デバッガーで、ARAGAMIを攻撃!」

 

 羽を広げて飛び立ち、フィールドを陣取るARAGAMIに向かっていく。当然、その攻撃力ではARAGAMIには届かない。

 

「エンコード・トーカーの効果発動!このカードのリンク先のモンスターが、それより攻撃力の高いモンスターと戦闘を行う場合、その戦闘破壊とダメージをゼロにする!」

 

 ARAGAMIがレーザーを放つと、それに合わせてエンコード・トーカーが盾を投げて、レディ・デバッガーを守る。

 

「そして、その戦闘を行った相手モンスターの攻撃力分、自身かリンク先のモンスターの攻撃力をアップする!ファイアウォール・ドラゴンの攻撃力を、ARAGAMIの攻撃力、12000アップする!」

 

 盾がレーザーのエネルギーを吸収し、その面から七色の光を拡散させる。

 その光を浴びて、ファイアウォール・ドラゴンは巨大化し、攻撃力を14500まで上昇させる。

 

「行け!ファイアウォール・ドラゴン!」

 

 ファイアウォール・ドラゴンが翼を広げて、巨大な塔のモンスター、ARAGAMIへ向かって飛び出す。

 

「ファイナルテンペストアタック!」

 

 自身の体に風を纏わせ、巨大な竜巻となって敵に突っ込む。

 

 ドォォォンッ!

 

 ARAGAMIの体を貫き、爆風が鴻上を襲う。

 

 鴻上:LP4000→1500

 

「このカードが戦闘で破壊される時、自分の墓地のリンクモンスターを除外」

 

 浮遊する上半身のみの岩の巨兵、Gゴーレム・インヴァリット・ドルメンが、大穴の空いたARAGAMIに宿る。

 

「破壊を無効にする」

 

 ARAGAMIの体がみるみるうちに再生する。

 

「さらに対応する属性の自身の効果を発動する。ライフを8000回復だ」

「なっ……」

 

 鴻上:LP1500→9500

 

「くくっ、絶望したかな?」

 

 プレイメーカーの目の前には、突破不可能なほどの攻撃力と耐性のモンスター、そして鴻上のライフは9500と通常の倍以上。

 

「……俺はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン4

 

「それでは、そろそろ終わらせるとしようか。私はスキル、マスタースキルを発動!」

「なっ!スキルはデュエル中一度だけのはずだ!」

「私のスキルは1ターンに1度だと言っただろう?LINK VRAINS内に存在する全てのスキルの中かから私が選ぶのは、リリース・ザ・レフト!手札2枚を裏側で除外し、デッキから好きなカード1枚を手札に加える」

 

 鴻上の手札のカード2枚が消滅し、新たに1枚のカードが生成され、彼の手札に加わる。

 

「私は魔法カード、電脳神創生(ジェネレート・オブ・サイバーロード)を発動!」

 

電脳神創生(ジェネレート・オブ・サイバーロード)

通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できず、このカードの発動に対して相手はカードの効果を発動できない。

(1)自分のリンクモンスター1体を墓地へ送って発動できる。EXデッキから墓地へ送ったモンスターと同じ属性で、LINK数が1つ多いリンクモンスター1体をリンク召喚扱いで特殊召喚する。この効果で「極限電神ARAGAMI」または「極幻電脳神KOUGAMI」を特殊召喚する場合、除外状態の炎・水・風・地・光・闇属性のモンスターが1体ずつ以上存在しなければならない。この効果で特殊召喚されたモンスターは素材を必要とする特殊召喚の素材にできず、リリースできない。

 

「極限電神ARAGAMIを墓地へ送り、そのモンスターよりリンク数が1つ多いリンクモンスター1体をリンク召喚扱いで特殊召喚する!」

 

 ARAGAMIが無数のキューブ状の物体に分解され、それらが螺旋を描きながら一つになる。

 

「まだ進化するというのか……」

「いでよ、リンク8!極幻電脳神KOUGAMI!」

 

 空を極光が覆う。

 

 周囲の雲を晴らし、七色の光の中からモンスターは鴻上の背後、塔の外側に現れる。

 ハノイの塔を見下ろす蛇のような巨体、それぞれ六属性を象った模様が刻まれた赤、青、緑、茶、黄、紫の六本の腕、プレイメーカーを睨む巨顔には六つの黒い眼球が蠢いている。

 

『■■■■■■ッッ!』

 

 この世界の者には、聞き取ることすら叶わぬ絶叫。

 プレイメーカー、そしてLINK VRAINSの住民全てに絶望をもたらすため、電脳の神がここに顕現した。

 



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第70話:Circuits that lead to the future

 

 その頃、ブルーエンジェルはLINK VRAINS内で鴻上に操られた者達を正気に戻すため、デュエルを行っていた。

 

「ホーリーエンジェルでアタック!」

 

 次々と敵を打ち倒すが、暴徒の人数が多すぎて、彼女一人では対処しきれない。

 

「はぁはぁ……」

 

 疲弊し、膝をつく彼女のことなどお構いなしに、敵は次々と迫ってくる。

 その間に、塔から伸びる根が正気のアバターを取り込み、また洗脳して尖兵として嗾ける。

 

「このままじゃ……」

「剛鬼サンダー・オーガでアタック!」

 

 その時、雷鳴と共に、洗脳されたアバター数名が吹き飛ばされる。

 

「電影忍者ウラギリ!」

「閃刀姫カガリ!」

 

 驚く間もなく、見覚えのあるモンスター達が敵を蹴散らしていく。

 

「ブルーエンジェル、待たせたな」

「あなた達は……」

 

 そこにいたのは、Go鬼塚、ミネルヴァ、カゲロウ、LINK VRAINSのランキングデュエルで鎬を削り合うプロデュエリスト達だった。

 

「LINK VRAINSは俺達が守る」

「あなた一人に無理はさせません」

「くくくっ」

 

 三人の加勢により持ち直すものの、敵はそれよりも多く、四人係でも抑えるので手一杯だ。

 

 そこへ、

 

「っ……鬼塚!」

 

 カゲロウが叫ぶのとほぼ同時に、根がGo鬼塚の元へ加速しながら迫る。

 

「くっ……」

「幻刻龍アルスグラフ・ドラグェント」

 

 直後、白銀の龍が天よりかけて、根に激突する。

 

「ハハハハハッ!どうだ見たか!この僕、アーサーの力を!」

 

 その龍の使い手は、崩れかけたビルの屋上で高笑いする。

 騎士のようなプレートアーマーにマント、まるでファンタジーVRゲームから飛び出したようなアバターの少年だ。

 

「誰だあいつは?」

「アーサー……確かLINK VRAINSランキング90位台にそんな名前の人がいたような……」

 

 そんなやり取りなど気にも止めず、アーサーは満足気に自分の活躍を語る。

 

「ランキング1位のGo鬼塚を救った英雄、アーサー。これをSNSに投稿すればバズり間違いなし。デュアルモンスターの強さが世にしれ渡り、僕の評判もうなぎ登り……」

「おい!そんなとこにいつまでもいたら────」

 

 Go鬼塚が彼に注意を促したのも束の間、彼が立っていたビルの足場が崩れ去る。

 

「うわぁぁぁぁぁっ!」

 

 落下する彼に向けて、群がるように根が伸びる。

 

「儀式召喚、月下尾人(げっかびじん) 天日孤(あまひこ)!」

 

 その時、どこからか和服を着たキツネが飛び出し、彼を救出すると共に、指先から火を放ち、足元で蠢く根を焼き尽くす。

 

「全く。相変わらずの目立ちたがり屋さんですね」

 

 そのモンスターの使い手は狐面の少女だった。

 彼女は溜め息を吐き、召喚したモンスターを消してお姫様抱っこ状態のアーサーを地面に落とす。

 

「おい、もう少し丁寧に……」

「お疲れ様です。ミネルヴァ先輩」

 

 抗議するアーサーを無視して、少女はミネルヴァにお辞儀をする。

 

「ツクヨミ、あなたも来ていたのですね」

 

 見知った顔らしく、ミネルヴァも軽く会釈をする。

 

「こちらはツクヨミ、私と同じ事務所です」

「おいツクヨミ、さっきの動画に撮ってないだろうな。撮ってたとしてもネットにあげるなよ」

「あげませんよ。興味ありませんし」

 

 そんな二人のやり取りを他所に、ブルーエンジェルは敵に向き直る。

 

「これだけLINK VRAINSのランカーが集まれば、必ず食い止められるわ」

「おい、あれは何だ?」

 

 カゲロウが神の塔の方を指差す。

 塔の頂上には、ここからでもよく見えるほどの巨大なモンスターが出現していた。

 

「プレイメーカー達が戦っているのよ」

「そういうことか」

「手分けして倒すわよ」

 

 LINK VRAINSのヒーロー達が、押し寄せる暴走アバターに立ち向かう。

 

 ◆

 

 同刻、光の塔にて。

 

「現われろ。未来を描くサーキット!」

 

 仁が手を空へかざすと、その先に稲妻が駆け抜け、天上にアローヘッドを出現させる。

 

「リンク召喚!天装騎兵マグヌス・ドゥクス!」

 

 アローヘッドより手綱を引いて進軍するのは、象の座す黄金の鎧を纏うの重装兵だ。

 

「マグヌス・ドゥクスの効果発動!」

 

 象が嘶く。

 その瞬間、鴻上の場のモンスター4体が手札に戻される。

 

「これで終わりだ!」

 

 マグヌス・ドゥクスの突撃で、鴻上分身のライフをアバターごと吹き飛ばした。

 

「ふぅ……」

 

 デュエルが終わり、一息を吐いたのも束の間、突如眩い光が空に広がる。

 

「なんだ?」

 

 それはプレイメーカーのいる神の塔の方から放たれており、その中心には巨大な蛇のような下半身を持つモンスターがいる。

 

「遊作兄ちゃん……」

 

 ◆

 

 神の塔の頂上にて、

 現れた巨大なモンスターを前に、さしものプレイメーカーもたじろいでいた。

 

 

「これが、あんたの本当のエースモンスターか」

「エースモンスター? そんなちゃちなものではない」

 

 鴻上がその手を広げると、その体は光に包まれ、彼の背後にいるKOUGAMIに吸い込まれる。

 

「「コレ ハ ワタシ自身、ワタシ コソガ"神"ダ!」」

 

 鴻上改めKOUGAMIは咆哮する。

 

「ワタシ ノ 効果発動!」

 

 

極幻電脳神KOUGAMI

リンク・効果モンスター

神属性/サイバース族/攻 ?/LINK 8

リンクモンスター8体

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカード及び除外状態のリンクモンスターは他のカードの効果を受けず、「電脳神創生(ジェネレート・オブ・サイバーロード)」の効果で特殊召喚されたこのカードの攻撃力は10000アップし、相手はこのカード以外のモンスターを攻撃できない。

(2)自分の除外状態のリンクモンスター1体を対象として発動できる。自分は対象のモンスターの元々の攻撃力分LPを回復し、その数値分、このカードの攻撃力をアップする。その後、相手フィールドの表側表示のカード全てを墓地へ送り、対象のカードを裏側表示にする。

(3)このデュエル中に、このカード名の(2)の効果で炎・水・風・地・光・闇のモンスターを1体ずつ対象にしている場合に発動できる。自分はデュエルに勝利する。

 

 

電脳神創生(ジェネレート・オブ・サイバーロード)ノ効果デ特殊召喚サレタワタシハ、攻撃力ヲ10000アップスル!」

 

 極幻電脳神KOUGAMI:ATK?→100000

 

「サラニ効果発動!」

 

 今度はその背後にダークナイト@イグニスターの幻影が現れる。

 

「ダークナイトノ攻撃力ヲ吸収シ、ライフト攻撃力二変換スル!」

 

 KOUGAMIの6つある目の内一つに紫の光が灯る。

 

 鴻上:LP9500→11800

 KOUGAMI:ATK10000→12300

 

「サラニ、貴様ノ フィールド ノ 表側表示ノ カード ヲ墓地へ送ル!」

 

 KOUGAMIから七色の光が解き放たれ、プレイメーカーのフィールドのモンスターを全て消滅させる。

 

「くっ……」

「バトルダ!ダイレクトアタック!」

 

 再びの咆哮。

 七色の光線がプレイメーカーを襲う。

 

「俺は手札のロックアウト・ガードナーの効果発動!相手のダイレクトアタック宣言時にこのカードを特殊召喚!」

 

 プレイメーカーの前にモンスターが出現し、光線を受け止める。

 

「さらにこのターン、戦闘で破壊されない!」

 

 攻撃を受け切り、プレイメーカーへのダメージをゼロに抑えた。

 

「マダ コラエルカ……ワタシ ハ カード ヲ 一枚伏セテ ターンエンド」

 

ターン5

 

「俺のターン!」

 

 ドローしたカードを見て、プレイメーカーは苦い顔をする。

 

「ドウシタ?イイカード デモ引ケタカ?」

 

 KOUGAMIの挑発を無視して、プレイメーカーは思考する。

 

(駄目だ。今の手札で奴を突破することはできない。下手にモンスターを出しても消耗するだけだ。ここは……) 

「俺は裏守備表示でモンスターをセット。カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

 それを見て、KOUGAMIはニヤッと笑う。

 

「賢イ手ダ。ワタシ ノ 能力ハ "表側表示"ノ カード ニ シカ効果ガ ナイ。シカシ、ソレデ イツマデモ時間稼ギ ガ デキル ト 思ワナイ コトダ」

 

ターン6

 

「ワタシ ノ能力発動!」

 

 インヴァリット・ドルメンを吸収し、KOUGAMIの目にオレンジの光が灯る。

 

 鴻上:LP11800→14600

 KOUGAMI:ATK12300→15100

 

 

「イイ忘レテイタ ガ、コノ能力デ六属性スベテ ヲ 選択スレバ ソノ瞬間、デュエル ニ勝利スル」

「なんだとっ!?」

 

 KOUGAMIは現在、闇と地属性、二つの属性を吸収している。

 残り四属性。つまりこのまま攻撃を耐え続けても、このターンを含めて五ターンで敗北する。

 

「永続(トラップ)、"デイ・オブ・ニューワールド"ヲ発動。サラニ、ワタシ ハ スキル!マスタースキル ノ効果ニ ヨリ、LINK VRAINS内ノスベテ ノ スキルカラ"一刀両断"ヲ発動!」

「ミネルヴァのスキルか!?」

 

 全てのモンスターに貫通効果を与えるスキル。これにより、KOUGAMIは裏守備モンスターを貫通してそのままダメージを与えられる。

 

「セットモンスターヨ、消エ去レェッ!」

「俺は(トラップ)カード、スリーフェイト・バリアを発動!」

 

スリーフェイト・バリア

通常罠

(1) 以下の効果から1つを選択して発動できる。

●このターン、自分のモンスターは戦闘・効果で破壊されない。

●このターン、自分はダメージを受けない。

●このターン、自分のモンスター1体は1度だけ戦闘で破壊されず、その戦闘によって戦闘ダメージを受けるかわりに、その数値分、自分のライフを回復する。

(2)自分がダメージを受けた場合、墓地のこのカードを除外して発動できる。このターン、自分が受ける効果ダメージは0になる。

 

 KOUGAMIの光線がセットカードへ放たれる。

 現れたのは三角形の物体が三つ重なった飛行物体、トライアル・スリー。当然、KOUGAMIの攻撃を止められるほどの数値は持たないが、スリーフェイト・バリアが生み出した赤の防壁がドットスケーパーを守る。

 

「これで俺のモンスターは1度だけ戦闘で破壊されず、さらに受けるはずだった戦闘ダメージの数値分、俺のライフを回復する」

 

プレイメーカー:LP3500→3500

 

「何故だ!?」

「"デイ・オブ・ニューワールド"ノ効果ダ」

 

 

デイ・オブ・ニューワールド

永続罠

自分フィールドにリンク7以上のモンスターが存在する場合にこのカードを発動できる。

このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)相手はLPを回復する時、その数値は0となり、相手のモンスターの攻撃力は元々の攻撃力から変化しない。

(2)相手はEXデッキから融合・S・X・リンクモンスターを1ターンにそれぞれ1体ずつしか特殊召喚できない。

(3)相手が魔法カードを発動した時に発動できる。その効果を無効にして破壊する。

 

 

「君ハ ライフ ヲ回復デキナイ」

「くっ……だが、戦闘を行ったトライアル・スリーの効果発動!」

 

トライアル・スリー

リバース・効果モンスター

星3/風属性/攻 900/守 1300

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードがリバースした場合に発動できる。デッキの上から3枚をめくり、その中から「トライアル・スリー」以外のサイバース族モンスター、「サイバネット」魔法カード、「サイバネット」罠カードを1枚ずつまで手札に加え、残りを裏側で除外する。この効果で3枚手札に加えた場合、さらに墓地のリンク3のリンクモンスター1体を特殊召喚できる。

(2)フィールド・墓地のこのカードを除外して発動できる。デッキから「スリーフェイト・バリア」1枚をセットする。

 

 

「デッキの上から三枚をめくり、その中から三種類のカードを手札に加える」

 

 プレイメーカーがデッキからオープンしたのは、パラレルエクシード、サイバネット・ドロー、マイクロ・コーダー。

 

「俺はパラレルエクシードとサイバネット・ドローを手札に加える」

「ターンエンド」

 

 

ターン7

 

「魔法カード、サイバネット・ドローを発動!」

「"デイ・オブ・ニューワールド"ノ効果デ、無効ニスル!」

 

 起死回生のドロー魔法は、KOUGAMIの永続(トラップ)によって無惨にデータの塵と化す。

 

「だったら、裏守備表示でモンスターをセット。さらにトライアル・スリーの効果発動。このカードを除外し、デッキからスリーフェイト・バリアをセットする」

「ソレデェ?」

「……俺はこれで、ターンエンド」

 

 

ターン8

 

「ソロソロ飽キテキタナ。ワタシ ハ "マスタースキル"ノ効果ニヨリ、スキル、"エターナルロック"ヲ発動スル。カード名 ヲ 一つ宣言スル。手札一枚ヲ公開シ、公開シタ カード ト 宣言シタ カード ノ 効果ヲ、コノデュエル中、無効ニスル。ワタシ ガ 選ブノハ、"スリーフェイト・バリア"」

 

 プレイメーカーの伏せカードが黄金の鎖のようなもので封じ込まれる。

 

「ワタシ ノ 効果発動!」

 

 バハムートボマー、風属性の力を吸収し、ライフは17400、攻撃力は17900まで上昇する。

 その圧倒的力の前に、セットモンスターはなすすべもなく粉砕される。

 

「ターンエンド」

 

 続く第9ターンでも、プレイメーカーはセットモンスターと伏せカードだけでターンを終える。

 そして第10ターンを開始する。

 

「ワタシ ハ "マスタースキル"ニ ヨリ、スキル、"一刀両断"ヲ 発動スル」

 

 再び貫通効果を得たKOUGAMIがセットモンスターに狙いを定める。

 

「オット、ソノ前ニ」

 

 KOUGAMIは再び自身の効果を発動させ、アクア・アルゴノートを吸収して、ライフ19700、攻撃力20200となる。

 

「バトルダ、セットモンスター ヲ攻撃!」

 

 KOUGAMIの目から放たれる七色の光線。

 対するセットモンスターはドットスケーパー。守備力2100と、下級モンスターとしては高い数値を持つものの、既に攻撃力二万を超えるKOUGAMIを止めることはできない。

 

「手札のパネル・ガードナーの効果発動!」

 

 プレイメーカーの手札より、無数の正方形がモザイクのように合わさって出来たモンスターが現れる。

 

パネル・ガードナー

効果モンスター

星3/地属性/サイバース族/攻 1000/守 1400

(1)相手モンスターが攻撃して戦闘を行うダメージステップ開始時に発動できる。このカードを手札から特殊召喚し、その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは半分になる。

(2)1ターンに1度、このカードは戦闘で破壊されない。

(3)このカードをリンク素材にしたサイバース族リンクモンスターは、1ターンに1度、戦闘で破壊されない。

 

「戦闘ダメージを半分にする!」

「悪足掻キヲ、防ゲンゾ!」

 

 光線はドットスケーパーを貫き、そのままプレイメーカーを襲う。

 

 激しい閃光と爆発に包まれる。

 

 だが、

 

「ン?」

 

 爆風の中でまだプレイメーカーは立っていた。

 

 プレイメーカー:LP3500→50

 

「俺は(トラップ)カード、サイバネット・リンクバリアを発動していた」

 

サイバネット・リンクバリア

通常罠

(1)以下の効果から1つを選んで発動できる。

●フィールドのリンクモンスター1体を対象として発動できる(ダメージステップでも発動可能)。このターン、自分が受ける戦闘ダメージをそのモンスターのリンクマーカーの数×700ダウンする。

●自分フィールドのリンクモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターと相互リンク状態のカードの数だけ、相手フィールドの表側表示のカードの効果を無効にする。

 

「あんたのリンクマーカーの数×700、戦闘ダメージを軽減したんだ。そしてドットスケーパーは墓地へ送られた時、自身を特殊召喚できる」

 

 砕けたブロック片が一つに寄り集まり、再びドットスケーパーの姿を形成した。

 

「ヨク耐エタナ、ダガ、ドノ道、君ノ命ハ 後二ターン ダ」

 

 KOUGAMIはターンを終えた。

 

 神の塔を取り囲む六つの塔、地上で戦うブルーエンジェル達、彼らに見守られ、プレイメーカーは運命のターンを迎える。

 

 残されたライフはわずかに50、彼のフィールドにはドットスケーパーとパネル・ガードナー。

 

(これ以上、凌ぐのは無理だ。なら手は一つしかない)

 

 確証はないが、プレイメーカーにはこの状況を打開できるかもしれない(・・・・・・・・)秘策があった。既に猶予はない今、その策を試すしかない。

 

「現れろ、未来を導くサーキット!」

 

 ドットスケーパーとパネル・ガードナーがアローヘッドに吸い込まれる。

 

「リンク召喚!サイバース・ウィキッド!」

 

 現れたのは黒いローブの緑髪の少年だ。

 

「今サラ リンク召喚カ。ダガ、“デイ・オブ・ニューワールド“ノ 効果デ、君ハ コレ以上ノ リンク召喚ハ デキンゾ!」

「それでも俺は、いや、俺達は諦めない!」

 

 彼の気持ちに答えるように、一陣の風が頬を撫でた。

 

「俺達は必ず、あんたを倒して未来を掴む。俺は、手札のパラレルエクシードの効果発動!リンク召喚に成功した時、手札のこのカードを特殊召喚!その効果で、さらにデッキからパラレルエクシードを特殊召喚!」

 

 エックス字のゲートが開き、二体の機竜が現れる。

 

「俺はパラレルエクシード二体でオーバーレイネットワークを構築!」

 

 二体のモンスターはデータへと分解され、赤と青の螺旋を描いて空に吸い込まれる。

 

「行くぞ啓!」

『……しゃあねぇな』

「『惰弱なる世界を穿て!エクシーズ召喚!現れろ、ランク4!敵性機兵(エリミネーター)コンパイル・ブラスター!』」

 

 現れたのは、胴に無理やりレールガンを接合したような機械のワイバーン、ゴッドバードこと啓のエースモンスターだ。

 

「サイバース・ウィキッドの効果発動!リンク先にモンスターが特殊召喚された時、デッキからサイバース族のチューナーを手札に加える。俺は手札に加えたリキッドールを召喚」

 

リキッドール

チューナー・効果モンスター

星3/水属性/サイバース族/攻 800/守 1500

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードが召喚に成功した場合に発動できる。手札からレベル4・5のサイバース族モンスター1体を守備表示で特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたモンスターはリンク素材にできない。

(2)このカードがフィールドから墓地へ送られた場合に発動できる。デッキからサイバース族の通常モンスター1体を特殊召喚する。

 

「その効果で手札からリンクスレイヤーを特殊召喚!」

 

 水の体の少女が手を広げると、その中で水泡が広がり、リンクスレイヤーが飛び出した。

 

「リンクスレイヤーの効果発動!手札一枚を捨てる!」

 

 プレイメーカーが手札を投げると、それが砕けてリンクスレイヤーの持つ大剣に集まる。

 

「相手の魔法(マジック)(トラップ)カードを破壊する!」

 

 リンクスレイヤーが大剣を振り下ろすと、KOUGAMIのフィールドにあるデイ・オブ・ニューワールドを吹き飛ばす。

 

「現れろ、未来を"変える"サーキット!」

 

 プレイメーカーが空に手を掲げると、光がかけて、その先にアローヘッドが現れる。

 

「俺は手札のコード・ウェイブとリンク2のサイバース・ウィキッドをリンクマーカーにセット!行くぞ尊!」

『おう!』

「『二つの魂、一つの闘志の元に燃え上がれ!リンク召喚!』」

 

 アローヘッドから炎が噴き上げる。

 

「現れろリンク3!デコード・トーカー・ヒートソウル!」

 

 現れたのはヒートライオの意匠を持つ鎧を纏ったデコード・トーカーだ。

 

「コード・ウェイブの効果でデッキの一番上のサイバース族を手札に加える。さらにレベル5のリンクスレイヤーに、レベル3のリキッドールをチューニング!」

 

 二体のモンスターがデータの粒子へと分解され、八つのリングへと形を変える。

 

「行くぞ美海!」

『はい!』

「『潮は満ちた。今こそ悠久の眠りから目覚めよ!シンクロ召喚!』」

 

 リングの中心を光が貫く。

 

「『出でよレベル8、原初海祈(オリジンブルー)リオ・プロトコロドン!』」

 

 現れたのはワニのような口を持ち、その周囲に水の剣を6つ従える首長竜だ。

 

「リオ・プロトコロドンの効果発動!イヴリースを手札に戻す」

 

 大口を開けて嘶くと、鴻上のフィールドに送りつけられていたイヴリースが彼に手を振って消滅する。

 

「リキッドールの効果で、デッキからビットロンを特殊召喚。現れろ、俺達の未来(みち)を照らす未来回路!」

 

 プレイメーカーの足元に、アローヘッドが出現し、出てきてすぐにビットロンがリンクマーカーにセットされる。

 

「行くぞ樹!」

『……ふっ』

「『芽吹け大地よ!母なる命を守りし巨人がここに顕現する!リンク召喚!聖蔓の巨兵(サンヴァイン・ゴーレム)!』」

 

 地面から樹木の巨人が這い上がってきた。

 

聖蔓の巨兵(サンヴァイン・ゴーレム)

リンク・効果モンスター

地属性/サイバース族/攻 2300/LINK 1

地属性の通常モンスター1体

このカードはルール上、植物族としても扱う。

(1)自分のEXモンスターゾーンのリンクモンスターが相手によってフィールドを離れた場合、このカードは破壊される。

(2)このカードはEXモンスターゾーンの自分のこのカードと同じ種族のリンク2以上のリンクモンスターとリンク状態でなければ攻撃できず、効果を発動できない。

(3)自分のEXモンスターゾーンのリンクモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターのリンクマーカーの数だけ、自分のデッキの上からカードを墓地へ送る。その後、墓地へ送られた地属性モンスターの数×300LP回復する。

 

「さらに現れろ!未来を描くサーキット!」

 

 今度は呼び出した4体のモンスターが、それぞれリンクマーカーにセットされる。

 

「行くぞ仁!」

『うん!』

「『閃光よ迸れ!戦場をかける神速の剛毅!リンク召喚!リンク4!天装騎兵(アルマートス・レギオー)アウルム・チャリオット!』」

 

 金の鎧を纏う二体の馬に引かれ、戦車(チャリオット)を駆るのは黄金の騎士だ。

 

天装騎兵(アルマートス・レギオー)アウルム・チャリオット

リンク・効果モンスター

光属性/サイバース族/攻 2500/LINK 4

【リンクマーカー:上/左下/下/右下】

リンクモンスターを含む効果モンスター3体以上

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1)このカードがリンク召喚に成功した場合に発動できる。自分の墓地から通常召喚できないサイバース族モンスターを可能な限り、このカードのリンク先に特殊召喚する。この効果発動後、ターン終了時まで、サイバース族のリンクモンスターしか特殊召喚できない。

(2)このカード及びこのカードとリンク状態のリンクモンスターが守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力が攻撃力を超えた分だけの戦闘ダメージを相手に与える。

 

「墓地のデコード・トーカー・ヒートソウル、コンパイル・ブラスター、リオ・プロトコロドンを特殊召喚」

 

 先程リンク素材にされたモンスターのうち3体が甦る。

 

「現れろ、未来を導くサーキット!」

 

 そしてアウルム・チャリオットを含む4体がリンクマーカーにセットされる。

 

「リンク召喚!ジ・アライバル・サイバース@イグニスター!」

 

 それは円形のパーツが複雑に組合わさった体、巨大な鎌を携えたヒト型のモンスター、Ai より預かった彼の最後の切り札だ。

 

「ジ・アライバル・サイバース@イグニスターはリンク素材の数×1000が元々の攻撃力となる」

 

 ジ・アライバル・サイバース@イグニスター:ATK?→4000

 

「ソレデェ? ソノ攻撃力デハ到底ワタシ 二 叶ワンゾォ?」

「……」

 

 KOUGAMIの挑発を無視して、プレイメーカーは静かにKOUGAMI、正確にはその奥で眠るAiを見つめた。

 

 ◆

 

 KOUGAMIの体内、六体のイグニス達はそれぞれ肉壁のようなものに埋め込まれ、身動きが取れない状態にあった。

 

「遊作、やってくれたんだな」

 

 人間態のAiの視線の先、現実世界の距離にしてわずか数メートル先には、光のゲートが開いていた。

 

「けど、思ったより、身動きが取れない……」

 

 Ai は体をもぞもぞ動かすがゲートには届かない。

 

「何をやっているAi!」

 

 そこへライトニングが声をあらげる。

 

「プレイメーカーがあのモンスターを呼び出せば、やつを倒せるのではなかったのか!?」

「んのこと言ったって、しょうがねぇだろこれじゃ!」

「早くしろ!LINK VRAINSを巻き込もうが構わん!早くこの男を殺せ!」

「そもそもお前が鴻上博士に勝ってればこんなことにはならなかったんだろうが!」

「私のせいだと言いたいのか!」

 

 言い争う二人に、他のイグニス達は呆れたように溜め息を吐く。

 

「その辺にしないか」

「そうです。我々で争っている場合ではないでしょう」

「けど、これじゃあどうしようもないでしょ?」

「……」

 

 四体のイグニスは頭を捻るが、この状況を打開できる策は浮かばない。

 

「手伝ってあげようか?」

 

 そこへ、一人の少女が顔を出した。

 

「お前、ジャックナイフか?」

「今は切花だよ。僕は多少自由に動けるみたいだし、君一人をそこに飛ばすくらいできると思うよ」

「……お前、俺達のこと嫌いじゃなかったのか?」

「……どうでもいいよ」

 

 そう答える彼女には、以前のような覇気が感じられない。

 

「ボクはどうなっても構わない。だから、こいつを……」

「違うだろ」

 

 そこで彼女の言葉を遮り、Ai は問いかける。

 

「お前の願いは、そんなことじゃないだろ?」

「……グスッ、……たく…ない」

 

 その言葉に、切花は涙を流す。

 

「やだ……死にたくない……もっと、みんなと一緒にいたい!」

 

 必死に訴えるそれは、嘘偽りのない夢乃切花としての本音だった。

 

「よし。合格だ」

 

 すると、Aiの体が肉壁から引き抜かれて浮かび上がる。

 

「……ほら、早く行けよ」

「ありがとな。そんじゃみんな!行ってくるわ!」

 

 Aiの体はゲートの向こうへと投げ出された。

 

 ◆

 

 そして神の塔、KOUGAMIの体が突然小さな光を放つ。

 

「ナ、ナンダ!?」

 

 狼狽えるKOUGAMIに対して、その意味を察したプレイメーカーは咄嗟に左手を伸ばす。

 

「こい!俺の元へ!」

 

 光はプレイメーカーのデュエルディスクへとかける。

 そして、

 

「……お?」

 

 デュエルディスクのディスプレイ部分には、黒い目玉が浮かび上がった。

 

「戻ってきたな。Ai」

「よく俺のメッセージに気付いたな」

「ただの勘だ」

 

 久しぶりの再開に、プレイメーカーの顔はわずかに綻んだ。

 

「ナゼ、闇ノ イグニス ガ……」

 

 一方KOUGAMIは、Aiの帰還に動揺を隠せない。

 

「ジ・アライバルは、俺とプレイメーカーを繋げる目印にしてあったんだよ。さぁこっからだぜ、プレイメーカー様よぉ」

「あぁ。どうすればいい?」

「んーそうだな……今のお前のデッキには、あれを倒せるモンスターはいないな」

「お前まさか」

 

 聞き覚えのあるフレーズの意味を察したと同時に、激しい風が神の塔へ吹き荒れる。

 

 振り返ると、そこには巨大な竜巻、データストームがあった。

 

「バカナ!? 何故ココニ、データストーム ガッ!?」

 

 驚くKOUGAMI、プレイメーカーにとっても予想外の出来事だったことで、Aiの方を見る。

 

「これは、お前がやったのか?」

「厳密には違うな。これを作ったのはLINK VRAINSのみんなだ」

 

 これまでにない特大のデータストームを前にAiは得意気に語る。

 

「お前を思うみんなの心が、ここまで風を運んでくれたんだ。俺はちょっとそいつを一つにまとめただけさ」

「みんなが……」

「さぁ準備はいいか?風を掴め!プレイメーカー!」

「ああ!」

 

 プレイメーカーは左手を空に掲げる。

 同時に竜巻が彼の体を、彼の立つフィールドごと包み込む。

 

「「スキル発動!ストォォムアクセスッ!」」

 

 風は吸い込まれるように、プレイメーカーの左手、そのデュエルディスクに集まり、収束する。

 

「まずは魔法カード、死者蘇生を発動!甦れ、ファイアウォール・ドラゴン!」

 

 ジ・アライバルの背後に、ファイアウォールが再びその姿を現した。

 

「現れろ、未来を導くサーキット!」

 

 天へ舞い上がるファイアウォール・ドラゴン、その頭上のアローヘッドにジ・アライバルは吸い込まれる。

 

「運命に導く力の壁よ、闇を照らし、道を描き、その意を貫き絆を繋ぎ、その力を希望へ変え────」

 

 ジ・アライバルは鎧と変わり、ファイアウォール・ドラゴンへと装着される。

 

「────まだ見ぬ未来を切り拓け!」

 

 咆哮と爆風。

 電脳空間へとその飛竜は降り立った。

 

「リンク召喚!リンク7、ファイアウォール・ドラゴン・オーバーテンペストッッ!」

 

ファイアウォール・ドラゴン・オーバーテンペスト

リンク・効果モンスター

闇属性/サイバース族/攻 4000/LINK 7

「ファイアウォール・ドラゴン」を含むリンク4以上のサイバース族のリンクモンスター2体以上

(1)自分のバトルフェイズ中、自分のモンスターは戦闘で破壊されず、自分は戦闘ダメージを受けない。

(2)自分のバトルフェイズ中に、自分・相手の墓地の通常召喚できないサイバース族モンスター1体を対象として発動できる。そのカードを除外し、このカードはそのカードと同じ属性としても扱う。この効果をこのカードより攻撃力の高い相手モンスターと戦闘を行うこのカードの攻撃宣言時からダメージステップ終了時までに発動していた場合、このバトルフェイズ中、このカードの攻撃力は3000アップする。このターン、このカード名のこの効果で同じ属性のモンスターを対象にできない。

(3)このカードはこのカードの持つ属性と同じ数だけ1度のバトルフェイズ中に攻撃できる。

 

「バトルだ!ファイアウォール・ドラゴン・オーバーテンペストで、KOUGAMIを攻撃!」

 

 ファイアウォールは空へ舞い、一気に急降下して敵へ突っ込む。

 

「バカメ、ワタシ ノ 攻撃力ハ 20200だ!」

「ファイアウォール・ドラゴン・オーバーテンペストの効果発動!力を貸してくれ!デコード・トーカー・ヒートソウル!」

 

 ファイアウォールの翼が炎を纏う。

 

「ファイアウォール・ドラゴン・オーバーテンペストは、墓地の通常召喚できないサイバース族モンスターを除外することで、その属性を得る。さらに自身より攻撃力の高い相手モンスターとのバトルでこの効果を使用した時、攻撃力を3000アップする!」

 

 ファイアウォール・ドラゴン・オーバーテンペスト:ATK4000→7000

 

「そしてファイアウォールは自分のバトルフェイズ中、戦闘で破壊されず、戦闘ダメージは0になる」

 

 火炎の翼でKOUGAMIの体を切り裂き、空中で大きく円を描くように飛び、プレイメーカーの元へ戻ってくる。

 

「ファイアウォール・ドラゴン・オーバーテンペストのさらなる効果!自身の持つ属性の数だけ、1度のバトルフェイズ中に攻撃できる!再攻撃!力を借りるぞ。リオ・プロトコロドン!」

 

 今度は水の刃がファイアウォールの翼に形成され、KOUGAMIへ向けて滑空する。

 

「ガァァッ!」

「再攻撃!コンパイル・ブラスター!」

 

 風を纏い、ファイアウォールは加速する。

 目に止まらぬ速さで、KOUGAMIを何度も翼で切りつける。

 

「再攻撃、聖蔓の巨兵(サンヴァイン・ゴーレム)!」

 

 そのままの勢いでKOUGAMIの真上、遥か高くまで飛ぶと、翼が岩に覆われ、重さを増した体で垂直に落下する。

 

「グァァッ!」

 

 大質量の物体をぶつけられ、その巨体を大きく揺らす。

 

「再攻撃、アウルム・チャリオット!」

 

 いつの間にか後方へ飛んでいたファイアウォールは、閃光を纏い、高速でKOUGAMIへ突撃する。

 

「ゴォッ!」

「再攻撃!ジ・アライバル!」

 

 そのまま闇を纏い、KOUGAMIの突撃したままさらに加速。

 その攻撃力は22000、KOUGAMIの攻撃力を上回った。

 

「「いけぇぇぇっ!」」

 

 プレイメーカーとAiが吠え、それに答えるようにファイアウォールはさらに出力を上げ、ついにKOUGAMIの巨体を貫いた。

 

「がはっ!」

 

 KOUGAMIが消滅し、中から鴻上のアバターが飛び出した。

 

 鴻上:LP19700→17900

 

「だが、これで六属性全て除外した。君の攻撃も終わりだ

「いや、最後の一つが残っている」

 

 鴻上のフィールドに一枚のカードが浮かび上がる。

 

「神属性、極幻電脳神KOUGAMI」

「よ、よせ!」

「除外!」

 

 プレイメーカーが拳を握ると同時に、KOUGAMIのカードは砕けて消える。

 

「終わりだ!ファイアウォール・ドラゴン・オーバーテンペスト!」

 

 ファイアウォール・ドラゴン・オーバーテンペストが翼を広げると、その背には七色の光が集まる。

 

「オーバーテンペストアタックッッ!」

 

 咆哮する。

 七色の光線が鴻上のアバターへ放たれる。

 

「ば、バカな!この私が……っっ!」

 

 断末魔と共に、鴻上は消滅した。



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エピローグ:This is your place

 

 ◆

 

 LINK VRAINSでの戦いを終え、イグニス達はサイバース世界へと帰還した。

 

 ライトニングの最後が中継されたことで、イグニス達は全て消滅したものと世間から認識されている。

 その存在を認知しているのは、遊作達イグニスのオリジン、一部の人間だけだ。

 

 それから数日後、ここはデンシティの中央病院。

 その病室を、遊作は一人訪ねていた。

 

「ん……来たんだね」

 

 ベッドの上では、切花がつまらなさそうに窓の外を眺めていた。

 

「体はもう大丈夫なのか?」

 

 見舞いの品をサイドデスクに置き、丸椅子を彼女のベッドの前に移動させて腰かける。

 

「体はなんともないよ。意識不明って言っても、数日電脳空間にいたってだけだし。ていうか」

 

 サイドデスクに置かれた紙袋に視線を送る。

 

「お見舞いにホットドックはないでしょー。センスなーい」

「駄目なのか?」

「ボクは体が悪いってわけじゃないし、別に駄目ってことはないだろうけどさぁ、でももうちょっとあるでしょ」

 

 そう言いつつ、彼女は紙袋からホットドックを取り出して食べ始める。

 そんな彼女の様子を見て遊作は笑う。

 

「っ……何が面白いのさ」

 

 口の周りにケチャップを付けながら、遊作をジトッと睨む。

 

「それがお前の素なんだな」

「何? 悪い?」

「いや、その方がずっといい」

 

 すると、病室の外から騒がしい声が聞こえる。

 

「切花!」

 

 最初にドアから飛び込んできたのは葵だった。

 彼女に続くように、美海、啓、尊の三人が入ってくる。

 

「何、ぞろぞろと……」

「お見舞いよ。はいこれ」

 

 葵はバスケットに入ったメロンや桃など、高そうなフルーツを彼女のベッドに置く。

 

「金持ちのお見舞いって感じがしてムカつく」

 

 そう言いながら、マスカットを手に取り、三つほど実をむしり取って口に入れる。

 

「切花はいつ退院できそうなの?」

「もうすぐだって」

「じゃあ退院したらうちでお祝いしましょう」

「なんでボクが……」

 

 そう言いつつも、切花はどこか嬉しそうに首筋を撫でる。

 そんな彼女を微笑ましげ、今度は美海が切花の顔を覗き込む。

 

「何か食べたいものはありますか?」

「俺ハンバーグ」

「啓には聞いてません」

「というかスマホしまいなさいよ」

 

 啓が二人から責められて渋々とスマホをしまう。

 その隙に今度は尊が前に出る。

 

「切花、僕からもこれ」

 

 そう言って彼が渡してきたのはデカデカと名前の書かれたサインと、見覚えのある褐色マッチョの写真のブロマイドだった。

 

「……なにこれ」

「鬼塚さんのサインとブロマイド」

「いらない」

「遠慮しないで」

「いや、これはほんとにいらない」

「なんで!?」

「尊、病院では静かに」

「そーだそーだ」

「あーもう!お前ら全員出てけ!」

 

 切花が叫んで四人を病室から追い返した。

 

「全く……」

「そう言ってやるな。みんなお前のことが心配だったんだ」

「別に怒ってないし」

 

 切花は拗ねたようにそっぽを向く。

 そんな彼女に苦笑しつつ、視線を病室入り口の方へと移す。

 

「そろそろ出てきたらどうだ?」

 

 遊作に呼ばれ、樹が病室にゆっくりとした足取りで入ってきた。

 

「スペクター、お前も来てたのか」

「今は聖辺樹です。それに見舞いに来たわけではありません」

 

 樹はため息をつく。

 

「リボルバー様が自首されました」

「……そう」

 

 その報告に、わずかに眉を動かす。

 

「あの方は、バイラ、ファウスト、ゲノムと共に、ハノイの騎士の引き起こした事件の全責任を負いました。残った残党も直に検挙されるでしょう」

「意外だね。君は最後までリボルバーについていくと思ってたのに」

「そうしたいところでしたが、リボルバー様に言われましてね」

 

 ────最後の命令だ。

 ────ジャックナイフを、夢乃切花のことは頼んだぞ。

 

「……勝手に任されても困るんだけど」

「そう言われましても。あなたを含めた鴻上博士の被害者の救済、最後の後始末が私の役目ですから。とりあえず、当面の生活費の援助と、ハノイの騎士としての記録の抹消、その他、身元に関する情報の整理、まあほとんどリボルバー様が済ませてますので、私は情報が漏れないように監視する程度ですが」

「あっそ。なら勝手にすれば」

「えぇ、そうさせてもらいます。では、私はこれで」

 

 樹は踵を返して歩き出す。

 

「あーそうそう」

 

 出口に立ったところで彼は足を止め、切花の方を見る。

 

「リボルバー様は最後に」

 

 ────すまなかった。父のこと、お前を侮辱したことを謝罪する

 

「だそうです」

 

 それだけ言い残して、樹は手を振って去っていった。

 

「君もそろそろ帰ったら?」

「そうする」

 

 遊作も立ち上がる。

 

「そうだ。Aiを助けてくれた礼を、まだ言ってなかったな」

「いいよ。あれ実はボクの力ってわけでもないし」

「どういうことだ?」

「あの時────」

 

 

 ◆

 

 デュエルが終了した直後、崩壊するKOUGAMIの体内で、切花は上を見上げた。

 

「ようやく会えたね。切花」

 

 彼女の目の前には、イグニスに近い姿をした白いAIがいた。

 

「君が、ボクらから生まれたイグニスか」

「性格にはそのコピーだよ。君や他のオリジン達と何度も接触したことで記憶が目覚めただけのただの残滓」

 

 白いイグニスは、どこか申し訳無さそうな顔を見せる。

 

「君を苦しめたこと、本当にすまなかった。目覚めたばかりの僕では、鴻上博士の実験を止めることはできなかった。せめてもの罪滅ぼしとして、他のオリジンを救おうとしたんだけど」

 

 かつて実験の最中に、遊作が聞いた彼を励ました声とは、この白いイグニスのものだった。

 彼らの心を守り、実験で壊れてしまわないように、様々な手段で実験に介入しようとしていたのだ。

 

「その結果、君を余計に追い詰めてしまうなんて」

「謝らなくていいよ。逆恨みなのは分かってる」

「……そっか」

 

 すると、白いイグニスの体が徐々に薄くなっていく。

 

「消えるの?」

「元々僕は完成したイグニスと違って不安定な存在だ。鴻上博士に取り込まれた時点で、こうなることは決まっていた」

「……そう」

 

 切花は下を向いて、どこか寂しそうな表情を覗かせた。

 

「ねぇ、最期に僕に名前をつけてくれないかな?」

「何で……」

「わがままなお願いかもしれないけど、君の中にせめて、僕が生きていた証を残して欲しいんだ」

 

 彼の頼みに、切花は少しだけ考える素振りを見せて、彼と自分の手を交互に見る。

 

「……ヴァニティ」

 

 そして、ボソッとその名を口にした。

 

「ほら、炎、水、風、地、光、闇は全部埋まってるでしょ。過去も何にも残されていない。空っぽのボクらにはピッタリな名前でしょ?」

 

 少し皮肉混じりに言ったその言葉に、彼はとても嬉しそうに笑った。

 

「……空っぽだからこそ、これからたくさんのもので満たせる。うん。いい名前だ」

「……言ってないだろ」

 

 切花は恥ずかしそうにそっぽを向く。

 そうしている間に、彼の体は消滅していく。

 

「ありがとう。これで心残りはない」

「ま、せいぜい忘れないでいてあげるよ」

「さようなら。僕のオリジン」

 

 そうして、ヴァニティは静かに消え去った。

 

 ◆

 

 それから数ヶ月。

 

 SOLテクノロジーは鴻上博士の素性を世間に公表した。

 ハノイの塔の製作者、今回の事件の首謀者、そしてかつてSOLテクノロジーに勤めていた研究者であることを。

 

 当然世間からは激しい批判を浴びせられた。

 

 事態を重く受け止めたSOLテクノロジーは、まず社長であるクイーンが辞任。幹部職数名を更迭。その中にはビショップも含まれており、彼はもろもろの引き継ぎ業務を全て済ませた後、会社を去った。

 

 そして新社長に就任したのは、ナイトこと八神零那だった。

 

「……」

 

 会見の場で、彼は報道陣に深々と頭を下げる。

 記者達の質問責めにも毅然とした態度で対応し、SOLテクノロジーの信用を回復とは言わないまでも、新体制を世間に納得させてみせた。

 

 財前晃も常務に昇進し、八神と共に新体制のSOLテクノロジーを支えていくだろう。

 

 それからさらに数日が過ぎ、デンシティ中央病院、その玄関口で、

 

「切花!」

 

 退院した彼女を呼んだのは葵、その後ろには遊作、尊、美海、啓、仁、樹、草薙らが迎えに来ていた。

 

「せーの────」

 

「「「「「「「「おかえりなさい、切花」」」」」」」」

 

 みんなの言葉を聞いて、切花は静かに涙を流し、満面の笑顔でこう返した。

 

「うん。ただいま!」

 

 




本編はこれにて完結です。

番外編とか短編で、もう少しだけ続くかもしれません


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