魔法?よく分からんわ!殴ろ! (集風輝星)
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入学編
入学編 その一


集いし風が新たに輝く星となる!どうも、作者の集風輝星です。あらすじの通り、本作品は作者の思いつきとなります。

駄文ですがそれでもいいよ!というお心の広い方々に読んでいただきたいです。

それでは!リローデット・メモリまだ?(訳:スタート!)


「……」

 

 

ーーねぇ、あの二人ウィードよ

 

ーー補欠の分際で身の程をわきまえろよ

 

 

「……」

 

 

ここは国立魔法大学付属第一高校、ここでは試験の成績に応じ「一科生」と「二科生」優等生と劣等生に分けられていた。

更に一科生は二科生を差別する傾向が強く、制服の肩に紋章がある一科生を花冠(ブルーム)それがない二科生を雑草(ウィード)と呼び見下しているのである。

 

 

その第一高校の入学式当日、開始時間より早いこの時間にベンチに腰掛け端末を操作している男…「司波達也」は少々困惑していた。

彼の妹である「司波深雪」が今年度の学年主席であり、リハーサルのために早く登校しており彼はその付き添いで登校し、開始まで時間を潰そうと端末で読書をしていたのだが、何分彼は二科生であり、道行く一科生の先輩に「補欠のくせに調子に乗って早めに来た身の程知らず」という認識をされているらしい。

 

だが、彼が困惑してるのはそんなことではない。そもそもこの学校に入学するという時点でそのような扱いを受けることは彼は百も承知だった。

 

 

「…zzz」

 

 

ここで一番肝心なのは彼と同じベンチでぐっすり快眠しているこの男である。

制服に紋章がないため男は達也と同じく二科生であることがうかがえる。

 

体格はぱっと見は達也と同じくらいであろうか。鍛えられてはいるが、あくまで適度なものであると推察される。

 

そして先ほども述べたように達也がここにいるのはあくまで妹の付き添いである。そう言った理由がない限り二科生に、というか生徒にメリットはそこまで無い。校舎を見て回る等をするならまだしも、このようなところで爆睡している意味が分からないのである。

 

そうしていると端末に時計が表示され、入学式開始の時刻であることを達也が理解すると同時、声をかけられる。

 

 

「新入生の方ですよね?まもなく開場の時間ですよ」

 

 

その声に顔を上げた達也はその人物に興味を引かれた。

確かにその人物は非常に可愛らしい女子生徒が立っていた。もしここにいるのが並大抵の男子ならば即告白からの一瞬で振られるのが目に浮かぶようだ。

しかし、達也は生憎そう言った感情は無いし、あったとて妹が同じくらい、若しくは妹のほうが魅力的であるため、彼女になびくことは無いだろう。

 

そんな事よりも達也が注目したのはその女子生徒が腕に巻きつけているブレスレット型CADである。

CADとは、現代魔法師の必需品であり、サイオン信号と電気信号を相互変換可能な合成物質である「感応石」を内蔵した、魔法の発動を補助する機械である。

CAD自体が無くとも魔法は発動可能だが、精度が落ちたり発動が遅くなったりとデメリットが大きいので、実質魔法師に必要だと言える。

 

そして達也の記憶が確かならば、学内でのCADの携行が許可されているのは、生徒会をはじめとした一部の委員会のメンバーなどに限られていたはずだ。ということは目の前の女子生徒はそう言った枠組みの中にいる実力者であるという予測が立てられる。

 

 

「あなたはスクリーン型の端末を使っているんですね。感心です」

 

「仮想型は読書にはむいていませんから」

 

「そうですか。今時スクリーン型を使用している方は珍しいので。当校では仮想型の持ち込みは禁止されているのですが、それでも仮想型を好む生徒というのは多いんですよ」

 

「はあ」

 

 

初対面の女子生徒が話を続ける。とある事情によりあまり目立ちたくは無い達也は適当な返事を返す。決して彼がコミュ障であるわけでは無い。

すると、話に夢中で隣のもう一人の爆睡中の男に気が付かなかったようで、彼にも声をかける。

 

 

「起きてください、もうすぐ開場ですよ」

 

 

先程まで達也と会話していたからだろうか、達也に話しかけた時よりも少し砕けた口調で起こす女子生徒。そして眠っていた男が目を覚ます。

 

 

「んにゃぴ…もうそんな時間か…教えてくれてありがとう」

 

 

寝起きである彼は自身起こしてくれた女子生徒が先輩であると気が付いていないようだ。まあ、彼女の身長は控えめだ。同年代と勘違いしても仕方が無いが。

そこで女子生徒は男にどころか達也にさえも自己紹介していない事に気が付く。

 

 

「まだ自己紹介をしていなかったわね。私は-」

 

 

ところで。皆さんは瞬きをしたことがあるだろうか?当然あるだろう。むしろしないと人間ではないのでは?という質問はごもっとも。ここで言いたいのは、達也と女子生徒の瞬きが偶然にも全く同時だったということである。

二人が瞬きをした瞬間にゴウッ!と風が吹く。あまりの風圧に女子生徒が口を閉じる。

 

 

「ビックリしたわ…改めて…あれ?さっきの男の子は?」

 

「…今のは…」

 

 

気づくと先程まで寝ていた男の姿は何処にも無かった。女子生徒は何が起こったか理解が出来ていないようだったが、特殊な()を持つ達也には見えていた。男は先程まで確かにここにいたが、入学式の会場の方に()()()()()()()()()()()()のだ。今の風は、男が移動したときに発生した、所謂ソニックブームのようなものであると。そしてもう一つ、男は今の移動に()()()使()()()()()()()()()()事を。つまり単純な身体能力であの速度を叩き出したということだ。

 

 

「と、とりあえず…私は七草真由美といいます。当校の生徒会長を務めています。ななのくさ、と書いて七草よ。よろしくね」

 

 

達也は女子生徒の正体も先程の男への衝撃には勝ることは無かった…

 

 

 


 

 

七草真由美との邂逅の後、講堂へと向かった達也は新入生が綺麗に一科生と二科生に前と後ろに別れている光景だった。

この学校において、一科生と二科生は制度からそもそも差別されている。二科生が卒業したところで、普通科の卒業資格しか手に入れられないのははっきり言ってどうかしている。

 

ともかく、この場では一科生が前に二科生が後ろに座る…特に学校側からの指定は無いが、生徒達が自主的にそれを行うのは、選民思想と奴隷根性の表れか。

こんな状況で前の方に座る二科生なんているはずが…

 

 

 

 

 

 

「…zzz」

 

 

い  た

 

 

先程達也の横で爆睡をかましていたバカが前の方に、しかも新入生が座るエリアの丁度ど真ん中辺りに座り、再び爆睡している。

 

 

「アイツ…何やってるんだ?」

 

 

達也は男を警戒するとともに、呆れていた。一科生と二科生が別れている事など見て分かるものだが…と考えたところで、先程の速度で移動したからまだ他の生徒が来る前にあの場所に座っていたのかもしれないと一人納得する。

すると、明らかに二科生をバカにしているような…具体的に言うと森崎某が男に怒鳴りつける。

 

 

「おい!ここは一科生が座る所だ!スペアのウィードごときが座っていい場所じゃ無い!」

 

 

森崎の発言に一科生は機嫌をよくし、「そうだそうだー!」などと同調する声も聞こえる。ちなみに二科生はドンドン不機嫌になっているよ!

すると男が起き、一言。

 

 

「ああ…?まだ始まってねーじゃんかよ…」

 

 

といって、再び寝ようとしている。

これに苛ついたのか森崎、先程よりも語気を強めて男に言い放つ。

 

 

「なんだお前は!ここはお前のような劣等が座るような場所ではないと、「ああ!?」ッ!?」

 

 

ゾクッと、それが達也を含めた新入生達が感じた。男から瞬間的に放たれた()、間近でくらえば並の人間では気絶しかねないほどの圧に一科生は冷や汗をかく者、涙目になる者がおり、二科生は距離があったこともありあまり影響が無いが、理解出来る者にはそれが熟練の戦士が放つ殺気より数倍も強いモノだと感じたことだろう。達也もその一人だ。

男への警戒度を数段引き上げた達也…だが、直後拍子抜けすることになる。

男は何かハッ!とした顔になると、圧を最も近くで受けたため顔色が非常に悪い森崎に笑顔で謝罪する。

 

 

「いやー、ゴメンゴメン!俺、寝起きの瞬間の機嫌がすこぶる悪くてさ、ビックリしたよな?ホントスマン!」

 

「い、いや、き、気にしてないぞ…」

 

「悪かったなホント。席を移動しろだったよな?迷惑かけた」

 

 

そう言うと男は席を立ち、上の方の席に向かってくる。そこで達也の顔を見て、近づいてきた。男は隣の席に座ると達也に話しかける。

 

 

「お前さっき会ったよな?あの時は焦っててよ、自己紹介できてなかったな。俺は橘総司。よろしくな!」

 

「俺は司波達也だ。今後ともよろしく頼む」

 

 

司波は握手すると同時、この高校生活が一筋縄ではいかないことを予感した。




橘君の豆知識

・50メートルを0.05秒で走る。


・好物はラーメン


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入学編 その二

橘総司と名乗った男は達也の横に座る。

すると、逆方向から達也と総司に声をかける人物がいた。

 

 

「あの、お隣空いていますか?」

 

 

声の方向を向くと眼鏡を掛けた女子生徒が立っていた。

どうやら空いている席が無く、達也の横に空きを見つけ問題ないかを問うてきたのだろう。達也としては別段断る理由は無いので快く承諾する。

 

 

「ああ、問題ないよ」

 

「あの、私柴田美月と言います。よろしくお願いします」

 

 

隣に座ると同時、彼女が名乗る。すると彼女の連れだろうか、空いていたもう一つの席に座った赤髪の女子生徒も名乗った。

 

 

「あたし、千葉エリカ。よろしくね」

 

「俺は司波達也だ」

 

 

達也も自己紹介をしながらも、赤髪の少女の名字に驚愕していた。「千葉」となれば剣の魔法師と名高い数字付き(ナンバーズ)の一つである家だ。確かに先程の真由美のようにビッグネームが出てきたなとは思ったが、それ以上にこの少女は千葉家の娘と言うことだが…

 

 

(千葉…あの家に娘がいたなんて初めて聞いたな)

 

 

達也は自身の記憶に無い存在だとエリカを僅かに警戒する。すると一つ気づいたことがある。

たった今二人との自己紹介を済ませた達也だが、この場にはもう一人いることを。

 

 

「おい、橘。お前も自己紹介を…」

 

「…」

 

 

返事が無い。もしかすると橘は千葉家が苦手なのかもしれないと当たりをつけ後ろへ振り向く。するとそこには達也の予想通り、エリカに対して渋面を作っている橘が…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……zzz」

 

 

 

い な か っ た 

 

 

この橘という男、今のさっきで即爆睡をかましているのだ。

 

 

「…お前なぁ」

 

 

達也は橘がどういう人間なのかが大体分かった気がした。

 

 

 


 

そうしているうちに入学式が開始する。その瞬間まるで起きていたかのように橘が体を起こす。

 

 

「お、やっと始まるのかー…待ちくたびれたぜ。…なんか横に増えてね?」

 

「今気づいたのか…」

 

 

やはり先程の女子二人との邂逅の記憶は橘には一切無いようだ。まあ、寝てたからね。

 

自己紹介はまた終わった後にということで入学式に専念する全員。

しばらくして「続きまして新入生答辞」と放送が入る。

達也は妹の晴れ舞台を目に焼き付けようとしている。

 

女子二人は壇上に現れた達也の妹…深雪に見とれているのか顔が呆けてしまっている。

片や橘だが、彼は「ほーほー、これはなかなか…」という言葉を漏らしている。

 

 

深雪のスピーチはつつがなく終了した。万雷の拍手と共に。

一科生と二科生で差別意識が深く根付いている本校において口にするだけで荒れそうな単語…「魔法だけで無く」やら「平等に」やら。これは二科生への擁護だとかで一科生の大半はガチギレするだろう。ほぼ全員が深雪の美しさに気をとられてスピーチの内容などは入っていないのだが。ちなみに気をとられなかったのは深雪の危うい発言に肝を冷やしている達也と「それ当たり前の事じゃね?」と疑問を呈している橘くらいのモノだった。

 

 

入学式が終わり、IDカードを受け取るために窓口に向かいながら橘とエリカ、美月の二人が自己紹介をする。

 

 

「改めまして、あたしは千葉エリカよ。こっちは柴田美月」

 

「よろしくお願いします」

 

「俺は橘総司!こっちの仏頂面の地味系イケメンが司波達也だ!」

 

「おい、なんだその評価は。そもそも俺はもうとっくに自己紹介しているんだが?」

 

「おっと、これは失敬」

 

 

まるで昔からの友人のようなやりとりに美月は呆けて、エリカは笑いをこらえているようだ。

そうこうしている内に達也達はIDカードを受け取ることが出来た。

 

 

「あたしはE組だけど三人は?」

 

「私もE組です」

 

「俺と橘もだ」

 

「…」

 

 

同じクラスであることを知ったエリカと美月は喜ぶが、総司はあまり面白くない顔をしていた。

総司は何かに不満があるかのように渋面を作っている。

 

 

「…もしかしてあたし達と同じクラスなの嫌だった?」

 

「…いやそうではなくて」

 

 

総司は実に深刻そうな顔をして話を切り出す。何か嫌な思い出でも…?Eでトラウマとかなんだよ、とかくだらない思考をしている達也達に総司は、真剣な表情で話した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「達也が俺のことを名字呼びなのが気に食わないんだ」

 

 

「「「…は?」」」」

 

 

達也達は図りかねていたのだ。目の前の男のお気楽さと論点のズレを。

 

 

「せっかく友達になったんだ、名字じゃなくて名前で呼んでくれよ」

 

 

どうやら友人である達也に名前呼びをされなかった事が不服のようだ。というか少し話しただけで友人認定とかどんな陽キャだよ。

ちなみに美月は額面通りの印象しか受けなかったが、達也とエリカはまるで一般的な高校生でも見たかのような気持ちだった。それこそ()()()()()()()()と。

 

 

「なあ、いいだろ?」

 

「分かったよ、総司。俺のことは達也でいい」

 

「ならあたしもエリカでいいわよ」

 

「私も美月と呼んでください」

 

「おう!改めてよろしくな!達也、エリカ、美月!」

 

 

達也達からの肯定に満面の笑みで答える総司。そうして同級の仲間で交流を深めていると、声を掛けてくる人物…具体的には先程入学式で聞いた声で達也に話しかける女性が…

 

 

「お兄様、お待たせしました!」

 

 

最強ブラコンお嬢様の降臨だ!

 

 

そんなブラコンはその愛情を全面的に向ける相手…最強シスコンお兄ちゃんの達也と会えた事により非常にご満悦の様子である。

達也はそんな妹に振り向きねぎらいの言葉を掛けようとしたが、深雪の後ろに人がゾロゾロいるのを見て言葉を飲み込む。新入生総代で10人いれば100人が振り向くような絶世の美少女である深雪とお近づきになりたい人間は腐るほどいるだろう。

 

そして達也、総司はその人混みの先頭に見覚えのある顔があるのが分かる。

 

 

「また会いましたね、司波達也君」

 

「…どうも」

 

「え、この人先輩なの?」

 

 

生徒会長である七草真由美である。新入生総代は例年生徒会に所属している故、深雪との接触を済ませていた可能性は非常に高いだろう。そして先程の邂逅からこの瞬間まで真由美を同級生だと勘違いしていたバカ(総司)もいるが。入学式において在校生代表で生徒会長…真由美が挨拶していたときは総司は少し寝かけていたから今朝の少女と生徒会長が結びつかなかったのだろう。

ちなみに真由美の後ろに控えていたはんぞーくん(服部刑部少丞範蔵)は敬愛する真由美への態度から、元々一科生と二科生で仲良くしているのが気に食わずに下がり気味だった機嫌が総司のせいで地の底へ落ちる。

 

 

「お兄様、そちらの方達は?」

 

 

このブラコン、マイペースである。達也が真由美と話していることも、真由美を同級生と勘違いしていたバカがいたことも完璧にスルーし、達也と一緒にいたエリカと美月の存在の立ち位置の把握を優先したようだ。

 

 

「ああ、この二人は俺と達也でナンパして仲良くなった女子だよ」

 

「は?」

 

「…へえ、お兄様はそんなことをしていらしたのですね?」

 

「ちょっとまて深雪!コイツは頭がおかしいんだ!」

 

「ちょいちょーい!?」

 

 

ホントこのバカは…明らかにエリカと美月に殺意に似た感情を発していた深雪に冗談で火に油を注ぐ危険人物だ。少なくとも達也の認識は「頭のおかしい奴」らしい。流石の総司もコレには不服か口出し。

 

 

「彼女は柴田美月、そして彼女は千葉エリカ、二人ともクラスメイトだ。それと別にこの二人にナンパを仕掛けたわけでは無いんだ。入学式で隣になっただけだよ」

 

「ええー?ホントにござるかー?」

 

「総司うるさい黙っててくれ」

 

「しゃい☆」

 

 

総司のせいで会話が平行線をたどる。少し黙っててくれ(懇願)

 

 

「クラスメイト…ですか。それではお兄様?入学早々にクラスメイトとデートをしていた理由をお聞かせ願えますか?」

 

「まさか総司の世迷い言を信じているのか…?」

 

 

どうやら総司の冗談を深雪は信じてしまったようだ。お兄さん教育が足らないのでは?そして辺りが深雪の干渉力による魔法の暴走でだんだんと気温が下がってきていた。

 

 

「デートとかナンパとかの事実は一切無い。というか、その言い方は二人にも失礼だぞ」

 

「そうですね…申し訳ありませんでした」

 

 

深雪はエリカと美月に失礼な物言いをしたこと、達也を女たらしと決めつけてしまった事に謝罪する。

 

 

「別にいいですよ」

 

「勘違いぐらい誰にでもあるって、気にしないで!」

 

 

その謝罪を寛大な心で受け入れるエリカと美月。

 

 

「はっはっは、君が謝ることじゃないよ」

 

「そうだな。本来ならお前が謝るべきだ」

 

「ひょ?」

 

 

約一名勘違いして謝罪を受けた(と思った)ヤツがいたが。なんでお前が謝られる側だと思ったんだよ…

 

 

「柴田美月です、はじめまして」

 

「あたしは千葉エリカ。ねえ、貴女のこと深雪って呼んでもいいかしら?」

 

「もちろんよ。私もエリカと呼ばせてもらうわ」

 

「深雪って意外に気さくだね」

 

「エリカはイメージ通りね」

 

「私も深雪さんとお呼びしてもいいですか?」

 

「もちろんよ、美月」

 

 

深雪達女性陣が自己紹介を終えて、とうとうバカの番になる。

 

 

「知ってるか?お嬢さん?怪盗は鮮やかに獲物を盗み出す創造的な芸術家だが、探偵はその後を見て難癖をつける、ただの批評家に過ぎないんだぜ?」

 

「そうかもしれんが何故今その発言なんだ。一体なんの関係があるんだ…」

 

「言いたかっただけだが?」

 

「だろうな」

 

「気を取り直して、俺は橘総司だ!よろしくな?可憐なお嬢さん?」

 

「は、はい…」

 

「おい、深雪に手を出したらどうなるか分かってるのか?」

 

「モチロン。この世で一番怒らせちゃダメなのはシスコンだからな」

 

 

あながちこの世界では間違っていないのが面白いところではあるが、とりあえず自己紹介が終了したようだ。

その時に達也がふと深雪の背後の集団に目を向けると、苛立ちと悔しさを隠しきれない表情をしていた。一科生とよりも二科生と仲が良さそうなのが気に食わないのだろう。それを見かねた達也は深雪に問いかける。

 

 

「深雪、生徒会の方達との話はもういいのか?まだならどこかで時間を潰しておくが…」

 

「その心配はありませんよ」

 

 

達也からの質問に答えたのは深雪では無く真由美だ。

 

 

「今日はご挨拶だけで十分ですし、何か用事があるのならそちらを優先してもらって構いませんから」

 

「か、会長!?ですが此方も重要な案件だったのでは!」

 

「予め予定をしていた訳ではありませんし、深雪さんの予定を優先するのは当然だとおもいますよ?」

 

「それは…」

 

 

真由美の言っていることは正しい。というか服部は二科生に負けたことが悔しくて食い下がっていたのだ。

悔しそうに服部は達也達の方を見る。それが彼の運の尽きだったのかもしれない。

 

 

「今俺と目が合ったな?」

 

「は?」

 

「これであんたとも縁が出来た!」

 

「な、何言ってるんだお前!?」

 

「縁が出来たって言ってんだよ」

 

「二科生のお前と結ぶ縁なんてない!」

 

「まあま落ち着いて。そんなに熱くなりやすいと会長に嫌われますよ?」

 

「会長は関係ないだろ!?」

 

「分かってますって!応援してるんで頑張ってくださいね?」

 

「な、な…!」

 

 

目を合わせたが最後、総司に目をつけられた哀れ服部。卒業までずっとおもちゃだね!

 

 

「ふふふ、それでは深雪さん、また後日改めて。司波君と橘君も今度ゆっくりと話しましょうね?」

 

「はあ…」

 

「ほら、僕もご一緒してもよろしいでしょうかって言うんだよ!あくしろよ!」

 

「余計なお世話だ!というか先輩には敬語を使え!」

 

「だが断る」

 

「何…だと?」

 

 

また後日と約束し別れを告げる真由美。何故達也と総司もなのだろうか。総司はやめておいたほうが身のためなのだが…

それと意外にも服部と総司は相性がいいのかもね




橘君の豆知識

・実は入試成績200位。つまりあと一人上にいたら不合格だった。


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入学編 その三

評価バーが赤くなっていて「ひょえええええ!」となっている作者です。

胃に穴が空きそうですが、どうにか書き上げたので、ご覧ください。


とある部屋の一室…

 

誰かのパーソナルデータを表示しているモニタを、妙齢の美女と一人の老紳士が見つめていた。

 

 

「失礼ながら、この少年に何かご関心を向ける何かがあるのでしょうか。この老骨の目には、さっぱり分かりませぬ」

 

 

老紳士が美女に非常にかしこまった言葉遣いで質問する。言葉遣いからして彼彼女の関係はさしずめ執事とそのご主人であろう。

 

 

「ええ、あるのですよ()()()()。彼には、達也さんを凌ぐほどの…ね」

 

「なんと…達也殿をこの少年が凌駕するとおっしゃるのですか?()()()

 

 

ここは()()()本邸の一室。現当主である四葉真夜が、自身の側近である葉山に少年の力を説明する。

 

 

「彼は非常に特異な存在です。彼の力を向けられてしまえば、どのような国家でも沈めてしまえるでしょう…この四葉でさえも」

 

「ですが、その点で言えば達也殿も同じではありませんか。それほどまでに警戒する必要が?」

 

「簡単な事です。()()()()()()()()()()()()のですから。警戒は必要です」

 

「なんと…!?」

 

 

この作品をご覧の紳士淑女の皆さんはご存じだろうが、司波達也は後に個人で国家を凌駕するとされるほどの力を持っていると言われるようになる。

しかし、このモニタに映っている少年はその達也も超えるという。にわかには信じられない葉山は冗談か何かだと狼狽する。

 

 

「しかし、この少年は名家の者ですらなく、さらには孤児ではありませんか。そのような者が達也殿を超えるとは信じがたい事です」

 

「私も最初は信じられませんでした…ですが、あのように必死になって警告する我らがスポンサーの様子を見せられては信じるしかありません」

 

「あの方が…!?」

 

 

真夜の言うスポンサーとは、葉山の本来の主人であり、日本政界の黒幕である東道青波のことである。黒幕と呼ばれるだけはあり、日本を裏から牛耳っていると言っても過言ではないだろう。そんな東道がわざわざ一人の子供に警戒心をあらわにするなど、葉山の経験にはなかった出来事だ。

 

 

「達也さんには既に、彼を警戒するようにと言い含めました…接触済みだったのか幾度も首をひねられましたが」

 

「ともかく、達也さんには期待をするところです」

 

 

そう締めくくる真夜の表情には微かな不安が見て取れる…

そしてその肝心な少年の名はー

 

 

「橘…総司…」

 

 

あのバカ(総司)だったのである。

 

ではそのバカは今何をしているのかというと…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

「カロリーメイトフルーツ味を、食えー!」

 

「何だよその食べ物!?おっおいやめろ、フガフガ…!うめぇ!何だコレ!?」

 

「ヨシ!」

 

 

新たに出来た学友に謎の食べ物を食させ、指さし確認のポーズ…っていうか現場猫のポーズをとっていたのだった。

 

 


 

司波達也は困惑していた。

昨日、学校から帰宅すると叔母である真夜から「橘総司に気をつけろ」という旨の電話が来たのだ。達也にはわざわざ真夜が連絡を寄越すほどなのか?そもそもあんなヤツが?と疑問符で頭がいっぱいだったのだ。

今目の前で繰り広げられているのは総司が新たな学友、西城レオンハルト通称レオに対し奇妙な行動をとっているだけだ。それはレオからしてみれば、「おもしれーヤツ」扱いなので特段問題は無いが、やはり警戒する必要性には疑問を呈さなければならない。

 

だがやはり昨日…入学式前に見せた魔法なしの高速移動は常軌を逸していた。確かにそこは警戒する必要があるだろう。

 

 

「おい、達也!コレ結構うまいぞ!食ってみろよ!」

 

「い、いや俺は遠慮しよう」

 

「フタエノキワミアー!」

 

「フガッ!?」

 

 

レオが先程食べさせられていた食品を達也に勧める。達也は一応警戒して、ついでに言えば今から食堂に行こうと思っているので食べ物を今入れる必要は無いと考えたからだ。総司によってその考えは潰されてしまったが。

謎の奇声を発しながら達也の口に無理矢理食品をねじ込む総司。食べた瞬間、達也はコレがフルーツ風味であることと、なぜだか知らないがコレの元々はバランス栄養食だと言うこと、一時期自分がそのバランス栄養食に()()()()()ことを感じ取る。前者はまだしも後者は達也にとっては一切身に覚えのないことである。まあ中身(声優)には覚えはあるだろうが。

 

 

「…確かにうまいな」

 

「だろ?」

 

「あたりまえ体操」

 

「そんな体操は存在しない」

 

 

達也は普通にうまいことに若干イラッときたので総司に無言の腹パンをお見舞いする。崩れ落ちる総司はその瞬間、「お前もLDSか…?」と言っていたが達也は完璧に無視した。

 


 

 

その後秒で立ち上がった総司と共に、達也ご一行様は食堂に来ていた。料理を一口口にするたびに「うまい、うまい」とまるで煉獄さんのように連呼する総司が非常にうるさい。

 

 

「お兄様、ご一緒してもよろしいでしょうか?」

 

「深雪…」

 

「うまい、うまい」

 

 

そこに合流ように深雪がやってきた。やはりブラコン、愛するお兄様と昼ご飯を共にしたいらしい。それを待っていたかのように迎える達也は仲睦まじい兄妹として実に絵になる。総司がいなけらば百点満点であった。

だがやはり、新入生総代の美少女にはいつも追っかけのファンがいるようで、彼女の後ろには相変わらず一科生が多く群がっていた。

 

 

「では皆さん、私はお兄様とご一緒に…」

 

「君たちこの席を譲ってくれ」

 

「っ!」

 

「うまい」

 

 

出たよ森崎、やっぱクズやな!と作者は思うがやはりいい踏み台だとも思う。いいだけで高くはないが。

 

 

「はあ!?あたし達まだ使ってんのよ!というかいきなりそんなこと行ってくるやつの言うことなんて聞けないわよ!」

 

 

森崎の物言いにエリカが抗議すると、森崎が更に語気を強めて言い放つ。

 

 

「出来損ないの二科生の分際で何を言う。ここは魔法科高校だ、実力が全ての世界で、補欠ごときが粋がるな!」

 

「ちょっと!」

 

「言い過ぎ…」

 

「うまい」

 

 

一科生の中からも批判が飛んでくる程の発言にエリカとレオはキレてしまった。総司は状況に気がつかず、一心不乱に食事している。

 

 

「そもそもだ!「うまい」お前達のような補欠は「うまい」この高校に入学できただけでも「うまい」幸運なんだ!「うまい」自分達の「うまい」身分をわきまえ「うまい」ろ二科生ど「うまい」もが!「うまい」…」

 

 

森崎は更に罵倒を続けたが、総司の食事がラストスパートに入り、ペースが速まったため台詞を思いっきり邪魔されている。

 

 

「…さっきからお前、うるさいんだよ!」

 

「うま…え?」

 

 

森崎に指摘され初めて状況を理解した総司。彼の目線は、森崎達一科生、それらをにらみつけるエリカ達、一科生の、特に森崎に強い不快感を示している深雪が目に入る(深雪はごまかしているが)。

一瞬で状況を理解した総司は森崎に問う。

 

 

「あー、ゴメンゴメン。で?何の用?」

 

「ふざけるなよ!俺達に席を譲れと言っているんだ!俺達に対して、劣っている貴様らウィードが文句を言うな!」

 

「ふーん、劣ってる、ねえ…」

 

 

総司の表情は今までで一番険悪になる。これ以上はまずいと達也が退席を進言しようとした時、総司が口を開いた。手遅れだった。

 

 

「劣ってるってんなら、総代である深雪ちゃんより君たちは劣ってるよね」

 

「…な、何の話だ」

 

「今君が言ったんだよ?劣っている奴が文句言うなってさ…君たち気づいてないかもだけど、深雪ちゃん嫌がってるよ?」

 

「何だと!?」

 

 

深雪が隠していた感情をあっさりと見抜いた総司。コレには気づかなかった森崎達はモチロン、本人の深雪や妹の外の顔の完成度を理解している達也も驚いた。

 

 

「君の理論だと、劣ってる人間は優れている人間に文句を言ってはいけないんだよね?ならこの状況、君たちより優れている深雪ちゃんに対して、君が文句を言っていることになる」

 

「な…な…!」

 

「優秀な人間に劣等は逆らっちゃダメなんだろ?深雪ちゃんは俺達…正確には兄貴と一緒に居たがってる。正義はこっちにあるぞ?」

 

「ふざけるな!」

 

「ふざけてんのは君だ。それに君たちは深雪ちゃんと近づきたいのかもだけどさ、ここで深雪ちゃんの要望どうりにならなかったら、その原因の君たちの評価は相対的に下がってしまう。お近づきどころの話ではないなあ?」

 

「司波さんは俺達一科生と共にあるべきなんだ!お前達劣等の二科生と関われば悪影響がでる!」

 

「それを決めるのは深雪ちゃんであって君じゃない。尊敬してるって割には深雪ちゃんを自分の所有物みたいに言ってるな?」

 

「なッ!?そ、そんなことは…」

 

「どうやら君たちは魔法師としての技術は上かもしれないが、人間としての社交性については俺達の圧勝だな?こんな奴らと一年間も同じクラスだなんて深雪ちゃんが可哀想だ」

 

 

総司の発言がツボに来たレオとエリカは爆笑し、美月はアワアワしている。

 

 

「じゃあこう言えばいいかな?深雪様がご迷惑を被っていらっしゃる。退出願えますか?」

 

「お、お前…!」

 

「出口はあちらですよ?…もしかして目が不自由でいらっしゃる?案内いたしましょうか?」

 

「ふ…ふざけ…!」

 

 

総司に煽られて言葉も出せない森崎。そしてこれ幸いと深雪がとどめを刺す。

 

 

「彼の物言いに賛同するわけではありませんが、今日はお兄様達とご一緒させていだだきます」

 

「あ…」

 

 

かくゆう深雪も兄を罵倒されて気が立っていたのだ。これで彼への仕返しとした。

 

 

「で?返事は?」

 

「…くそっ!」

 

 

悔しがりながら出口に足早に向かう森崎を含めた一科生達。

 

 

「ご利用ありがとうございましたー二度と来んじゃねーぞ」

 

 

最後まで煽る総司。深雪の方を向いて言う。

 

 

「ほら、お兄さんが待ってるよ。早くしないと昼休憩終わっちゃうよ」

 

「ありがとうございます。総司君」

 

「いやいや、当然の事サ!あと敬語はやめてケロ、君もいらんよ」

 

「分かったわ、総司」

 

「よろしい、じゃ俺先に教室戻っとくわ!」

 

 

そう言って総司は去ってゆく。達也はこういった争いがもう起こらないように願ったのだった…

 

 

 

 


 

 

「いい加減にしてください!深雪さんはお兄さんと一緒に帰ると言ってるじゃないですか!」

 

 

しかし人生とは無情である。午後の演習見学に引き続き下校前の校門でのイザコザである。

 

 

「大体、貴方たちに深雪さんとお兄さんを引き裂く権利があるんですか!」

 

「ちょっと美月…そんな、引き裂くだなんて…」

 

「?」

 

「イー↓シャン↑リンチー↓チン↑シャオ↓ラー!」(威嚇)

 

 

一科生達は意見を撤回するつもりはないようだ。総司の威嚇にはかなりビビってるようだが。

 

 

「うるさい!一科生には一科生の話があるんだ!二科生が口を挟むな!」

 

「同じ新入生じゃないですか!今の段階でどれだけの差があるって言うんですか!」

 

「あっおい待てい(江戸っ子)!その発言は奴らのぶち切れポイントやで」

 

 

総司の警告通り、森崎はキレた。今の言葉やはり彼を刺激するには十分だったのだ。

 

 

「そんなに見たいなら見せてやる!才能の差ってヤツをな!」

 

 

キレた森崎が腰のホルスターからCADを取り出す。どうやら随分キレているようだ。

すると総司がおもむろに足を上げた。

森崎が照準を達也に合わせた瞬間、総司は…

 

 

「バトルドーム!」

 

 

と叫びながら地面を踏みしめる。そのあまりの威力に地面が飛び散っていく。

更に総司はその破片で一際大きい物に狙いをつけて、

 

 

「ボールを!相手のゴールに向かって、シュート!」

 

 

思い切り蹴り抜いた。飛んでいった破片は森崎のCADに直撃、()()()()()()CADを弾き飛ばす!

 

 

「…は?」

 

 

誰が漏らした言葉か、総司がしでかした行動に全員度肝を抜かれている。今度は真由美と違ってしっかり見ていたから理解出来ただろう、総司は一切魔法を使わずに今の芸当を行ったと。

そんな総司は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チョンパァ!」(勝利)

 

 

と雄叫びを上げたのだった。




橘君の豆知識

・彼の出生について知っているのは東道青波だけ


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入学編 その四

日刊ランキング三十六位…!?
ランキング入り自体予想だにしませんでしたねぇ!


前回のあらすじ!

 

キレた森崎!

お前達の差別って、醜くないか?

はい、チョンパァ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

いともたやすく行われたエゲツナイ行為によって、森崎のCADを破壊した総司。

そんな総司を見た達也は驚愕を隠しきれなかった。

 

CADは魔法師の命綱とも呼べるため、基本的にはかなり頑丈に作られているはずだ。それをあのような方法で破壊するなど明らかに異常だ。魔法を使っていたなら話は別だが、この男は単なる運動能力による攻撃で…真夜が恐れるのも無理はないだろう。

 

二科生含めた全員から驚かれている総司。それをしばらく見ていると総司の方を見て呆然としている女子生徒が目に入った。先程食堂で森崎の発言に批判をしていた女子生徒の一人で、クールな印象を受ける。

だがそこで、いがみ合いをしていたことを一瞬忘れていたが、フリーズから解放されて思い出した一科生達が森崎の敵討ちに攻撃を開始する。そこで一人の一科生の女子生徒が他を冷静にさせようと閃光魔法を発動しようとする。

使用魔法の判別が分からない他の生徒達にはその女子生徒も含めて一科生が一律で攻撃魔法を発動すると思っているだろう。

 

達也はその女子生徒以外の魔法を止めようとする。一科生達が発動しようとしているのはどれも殺傷ランクがBはある魔法だ。さすがに危険すぎる…そう考えた時、またしても総司が動いた。

 

 

「昇竜拳!」

 

 

と言って腕を突き上げる。最も、()()()()()()()()()()()()()()のだが。

ゴウッ!!っと風が吹き荒れる。しかも本来の自然現象ではあり得ない、下から上への風だ。その風に一科生を含めた女性陣は急いでスカートを抑え、男性陣は単純に顔を覆っていたが、覆っていない者も何人かいた。

 

だが彼らの魔法が発動することはなかった。困惑する一科生達。だが達也は何が起こったのかを正確に把握していた。

総司が起こした風に()()()()()()()()()()()のである。その様は達也も使用する魔法解体(グラム・デモリッション)の性質に似ていたが、問題はやはり、魔法を使っていないことだ。

魔法もなしに世界最高の対抗魔法と同質の効果を発揮できるなどもはや人外の域である。

 

 

 

ところで。

先程述べたクールな印象を受ける女子生徒についてである。彼女は呆然と総司を見ていたのだ。そう、達也が目をつけるほど()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

そんな彼女がだ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

唐突な突風に反応できると思うか?

 

 

「…?…!!!」バッ!

 

 

結論から言おう。彼女は総司に気をとられていたあまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「…見た?」

 

 

達也もレオも、困惑していた一科生達もスカートを抑えながらの問いかけに何があったのか察してしまう。

 

だが幸運なことに、達也とレオは顔を腕で覆っていたので見ておらず、一科生達はそもそも達也達の方を見ていたので女子生徒の方は見ていなかったのだ。どうやら誰も見ていないようだ。

 

よかった、コレで解け…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やったーパンツ見えたー!」

 

 

バカ!ホントバカ!

 

 

「っ!」

 

 

男の人っていつもそうですよね!…とは流石には言わなかったが、その女子生徒は恥ずかしさのあまり、総司に近づいて彼の胸をポカポカ殴りだしたのだ。

 

 

「はっはっはっは、効かんな」

 

「…バカ」

 

 

しかし尚も余裕をかます総司に女子生徒は上目遣いで抗議する。は?そこ変われや。

そんな一瞬でカップルみたいな事をし出した二人に全員がポカンとしていた。そこへ…

 

 

「こらー何やってるの!?」

 

 

生徒会長の七草真由美ともう一人女子生徒が近づいてきた。

 

 

「風紀委員長の渡辺摩利だ。君たちは1-Aと1-Eの生徒だな。事情を聞くのでついてきなさい」

 

 

この学校でも権力が高い二人に気圧され一科生、二科生共に何も言うことが出来なかった…一人を除いて。

 

 

「いやあ、すいません。ちょっと僕ら魔法が苦手なもんで、一科生の皆さんに教えてもらってたんですよ」

 

「それは本当か?」

 

「…」

 

 

この学校で一科生の二科生差別を知らないはずはない摩利は総司に問うが、総司は笑顔を見せるだけだ。おそらくコレでは何も聞き出せないだろう。

 

 

「とりあえず今回の騒ぎは見逃していただけませんかね?」

 

「…フン、いいだろう、今回だけだぞ」

 

「ちょっと摩利!」

 

「真由美さんも、ね?」

 

「っ!…いいでしょう」

 

 

ここまで一度も描写していなかったが、総司の顔面はクトゥルフTRPG基準でAPP16はある超イケメンである。

摩利はともかく真由美は絶世のイケメンのウィンクを至近距離で喰らったため願いを承諾してしまう。こんなバカがイケメンとか世も末だな!

 

 

「一応、名前は覚えておこう。君、名前は?」

 

 

しかし業務上、何もせず見逃すと言うことは出来ないらしく、摩利は総司に名前を確認する。

それに対し、総司は答えた。

 

 

「自分は1ーEの…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()です」

 

 

「「「「「「「「…は?」」」」」」」」

 

 

この男はあろうことか、自身の名前ではなく達也の名を名乗ったのだ!

 

 

「司波達也か…覚えたぞ」

 

 

違います。その男は橘総司です。

二科生の面々、特に名前を使われた達也と妹の深雪は唖然としている。

 

 

「ま、摩利!違うわよ、この子は司波君じゃなくて…」

 

「やっべ、逃げろ!」

 

 

きちんと総司の名前を訂正にかかる真由美の姿に焦った総司は相変わらずの、しかしある程度セーブした速度で達也達に合流する。そこには先程パンツを見られてしまった可哀想な女子生徒に、その友人も近くにいた。どうやら深雪にとって一科生の中で現状友と呼べるのはこの二人だけのようだ。

全員がポカンと口を開けている所に総司が駆け寄り急かす。

 

 

「話は聞いていたな?さっさとここから逃げるぞ!」

 

 

何が話は聞いていたな?だよ全部お前が悪いんだよ。

 

 

「今のは明らかにお前が悪いだろ…」

 

 

奇しくも達也も作者と同じ意見のようだ。

 

 

「いや、シャミ子が悪いんだよ」

 

「誰だよシャミ子」

 

「誰でもいいだろ?ともかく全部シャミ子が悪いんだよ」

 

「え?ホントにそのシャミ子とか言う奴に全部言わされてるとかなのか?」

 

「は?何言ってんだよレオ。シャミ子は別に悪くないよ。後誰だよシャミ子って」

 

「お前が言い出したんだろ…」

 

 

相変わらずの総司の奇行ににレオは全くついて行けなかった。そんな会話をしていると後ろから摩利の怒号が聞こえる。

 

 

「こらぁ!戻ってこい!橘ァ!」

 

 

総司を名字で呼んでいることから摩利は真由美から正しい知識をインプットされたようだ。

明らかに捕まれば殺されてしまいかねない程の気迫で此方に向かってくる。

 

 

「やばい!鬼の風紀委員長が来るぞ!捕まったら物理的に食されちまう!」

 

「その認識も矯正する必要があるようだな橘ァ!」

 

「聞こえてんのかーい!」

 

 

等と呑気なことを言いながら総司は校門に向かって走り出す。速度が明らかに遅い事から考えると、達也達にも付いてこいと言外に伝えているのだろう。なまじ総司の身体能力を見てきた達也は、2日の付き合いでもそれを読み取ることが出来た。

 

 

「…俺達も行くぞ」

 

 

ため息をつきながら仲間達に呼びかける達也。エリカとレオはノリノリで、クールな女子生徒は総司を見つめてどこか顔を上気させながら、彼女の友人の女子生徒と美月はオロオロしながら、深雪は意外にも青春らしいイベントに若干楽しさを覚えながら、総司に追従した。

 

また、明日総司となぜか達也だけが生徒会室で摩利に叱られるのは別の話だ。

 

 

 

 

 

 


 

 

「はぁ…はぁ…は、速い…」

 

「本当ね。魔法なしでどうやってその速度を出しているのかしら?」

 

 

ある程度離れて場所で止まった一行。美月は息を切らしながら苦言をもらし、エリカが総司の速度に疑問を呈する。

 

 

「はは!それはまた今度な!とにかく今はそのお二人さんだよ!」

 

 

総司ははぐらかしながら付いてきた一科生の女子生徒二人に話題を転換する。エリカは明らかに不満げだ。

 

 

「…自己紹介しなきゃだね。私は北山雫。よろしくね、変態さん」

 

「ちょっと雫!失礼だよ!?…あっ、私は光井ほのかです!先程は助けていただきありがとうございます!」

 

 

その二人…北山雫と光井ほのかの言葉のみの印象では雫は総司を嫌い、ほのかは感謝しているように見えるだろう。ほのかはその通りだが、雫の目は変態を見る目ではなく、若干熱っぽいものだ。二人からの総司への好感度は悪いものではなさそうだ。

 

 

「オッス!オラ橘総司!またの名を西城レオンハルト!よろしくな、二人とも!」

 

「おい総司!」

 

 

再び友人の名を騙る総司。てか何だよまたの名ってさ。ふざけんな?

それはそれとして(デビルマン)。

雫は先程の事について総司に問いかけた。

 

 

「それで、さっき…見たって言ってたけど、本当?」

 

 

雫は先程の総司の発言が一科生達を困惑させるための虚偽だという可能性を考慮して…というより願っていた。

 

 

「モチロン!嘘に決まってるだろ?」

 

 

総司は実にいい笑顔でそう答える。達也達は「絶対嘘だ」と思っていたが雫はとりあえず信じることにしたようだ。

 

 

「ならいいの。見てないなら何の問題もないし」

 

「ああ!イメージ的に青いのを履いてそうだけど実は可愛らしい白のレース物を履いてた事実なんて俺は見てないぜ!」

 

 

雫は怒りを露わにし総司へと襲いかかる。それから走って逃げる総司。雫がギリギリ追いつけない速度を維持しているあたり確信犯である。

 

達也はこれからの学校生活を憂いながら…しかし退屈はしないだろうな。と考えながら、子供のように走り回る(理由も子供っぽいが)二人を…正確には総司を見て、そう感じたのであった。

それはそれとして警戒はするのだが。

 

 

天気予報にもなかった雨を感じながら達也達は帰路についたのだった。




橘君の豆知識

・最後の雨の描写は、総司の昇竜拳で上昇気流が発生したために雨が降り始めようとしているのである


まあ、雫の反応から皆さんもう彼女がどのような立ち位置かご理解いただけたでしょう。大変そうだな…(他人事)


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入学編 その五

皆さん意外と総司君が筋肉ダルマだと思ってるんじゃないですか?
実は彼そこまで筋肉が付いてるようには見えない体型をしています。
この辺りは作者の描写ミスですね。一話目にその辺りの描写を付け加えます。
総司君が筋肉お化けだと思っていた皆様申し訳ございません。

見返すつもりはないぜ!と言う方にはここでご説明を。総司君は達也と同じかそれ以下の体型に見えます。見えるだけです、実際はどうなのかは達也君が同性の筋肉フェチに目覚めてしまった時にでも精霊の目で確認してもらいましょう。

後今回はそこまで面白くないです。次回のはんぞー君戦までのつなぎとして見てください。


「た・つ・や・くーん!」

 

「呼ばれてるぜ?達也。モテる男は違うな?」

 

「そ・う・じ・くーん!」

 

「お前も呼ばれているようだが?」

 

「はて?」

 

 

校門前でバカ騒ぎを起こした翌日。駅でエリカと美月、レオと合流した達也と深雪。総司はまだのようだが先に行っておくかと移動しようとした矢先に、総司は風とともに現れた。

合流を果たせたと言うことで全員で学校に向かう一行。校門にさしかかろうとしたところで背後から達也と総司に声を掛ける人物がいた。

 

その姿を確認しようと振り向いた総司が一言。

 

 

「あの孤独なSilhouetteは…?」

 

「どう見ても七草会長だな」

 

 

この二人に声を掛けるのはこの学校の生徒会長、七草真由美である。なぜか妙に砕けた口調である。なして…?

 

 

「なんか先輩前よりコインランドリーじゃね?」

 

「それを言うならフレンドリーだろう…というかコインランドリーなんてよく知っていたな?」

 

「流行の最先端だからな」

 

「そんな流行が来たら、いよいよ日本国はお終いだな」

 

 

総司はふざけて、達也は面倒事の気配から目を逸らそうと総司のボケに付き合う。エリカとレオは爆笑し、コインランドリーを知らないのか美月と深雪はキョトンとしている。

 

 

「ねえ二人とも?今日は生徒会室で昼食を取らないかしら?話したいことがあるの。勿論、深雪さんもご一緒にね?」

 

「おかのした」

 

「…分かりました」

 

「お受けします会長」

 

 

真由美が今日の昼食を生徒会室で取らないか?という提案に対し、嫌な顔一つせずに承諾する深雪、不穏な気配を感じて少しためらう達也、何も考えていない総司の即答。これらを聞いた真由美は実に楽しそうな顔を浮かべて去って行った。

 

 

「なんだか面倒なことになったな…」

 

「…先輩は実はコブラだった?」

 

 

今日の昼が不安になってきた達也はため息を一つ。それと総司、お前はまだコブラを引っ張るのか?

 

 

 

 

 


 

 

なんやかんやあって昼!

 

達也と深雪は生徒会室に向かって行った。最初は総司とも行こうとしていたのだが、姿が見当たらなかったのだ。先に生徒会室に行ったものだと考えて、二人は生徒会室に向かう。

 

 

「生徒会室で昼食なんて、楽しみですねお兄様」

 

「そ、そうだな…」

 

 

嫌がる達也とは裏腹に深雪の表情はどこか楽しげだ。昨日は総司が追い払ったとはいえ、一科生達が完全に大人しくなった訳ではない。食堂に行けば、ほぼ間違いなく一科生達に妨害され、達也と共にできないのは明らかだった。

追い払おうにも総司がいないのであれば名家の出であり、お淑やかに育てられた深雪は一科生達を強く拒絶することは出来ないだろう。そう言った面でも、生徒会室での食事は邪魔をされずに兄と食事できる良い機会だったのだ。

 

と話している内に生徒会室にたどり着く。

 

 

「1-A司波深雪と1-E司波達也です」

 

「どうぞ」

 

 

合図とともに扉のロックが解除される。そこに身を乗り出すように達也が扉を開けた。

 

開いた扉から視界に入ってきたのは、以前総司に手玉に取られていた副会長とおぼしき生徒を除く生徒会メンバーに、なぜか風紀委員長だった。そして…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「水のように~激しく~♪花のように~優しく~♪」

 

 

奇妙な踊りを披露している一人のバカだ。お前は何をやっとるんだ。

 

総司が口ずさんでいる曲、動きからしてコレはかの「バジリスクタイム」だろう。何故踊っているかは見当も付かない。

一瞬あっけにとられた達也と深雪だが、二人はツッコミを抑えて部屋に入室する。

そして深雪が上流階級のモンか我ぇ?!…失礼。これを言う生徒などここにはいない。強いて言うならば総司がいいそうではあるが。

ともかく深雪が非常に上品な挨拶とお辞儀をする。その動作に達也と総司以外の四人が動きを止めた。ちなみに達也は総司に驚きすぎてフリーズしている。

何故固まられたのか分からない深雪、後輩の礼にフリーズする生徒会と風紀委員長、総司に驚きフリーズする達也、踊り続けている総司、の四つの国に分かれ、混沌を極めていた。

 

 

「…はっ!ご、ごめんなさいね!どうぞ座って!」

 

 

そんな混沌を突き破ったのは総司の歌う曲の歌詞が二週目に入ったことで意識を取り戻した真由美だった。彼女は慌てて達也達に着席を促す。元々座っていた生徒会及び風紀委員長に続いて達也達が座った事により、この場で座っていないのは踊り続ける総司だけとなった。座れや…小柄な女子生徒が総司を見てドン引きしている。当然の反応ですね。

 

このバカに構うものかと真由美が紹介を始める。深雪の前に座っているのは会計の市原鈴音、達也の前に座るのが風紀委員長の渡辺摩利、その隣に座るのが中条あずさだと。

また鈴音のことは「リンちゃん」と、あずさのことは「あーちゃん」だとも。

 

 

「よろしくお願いします、鈴原先輩、中条先輩」

 

「よろしくね、リンちゃん先輩、あーちゃん先輩」

 

 

やっと踊るのを止めたらしい総司が先輩方を真由美の紹介した呼び方で、しかも敬語抜きで挨拶したことに礼儀正しく挨拶した達也は呆れてしまった。

 

 

「あ、あーちゃんは止めてください!」

 

「ふむ…なかなかに愉快な方ですね」

 

 

あずさは抗議し、鈴音は一周回って感心したように見える。そう言った礼儀に厳しい深雪が冷えた視線を総司に投げるが、何処吹く風だ。

それよりも!と割って入った真由美が言う。

 

 

「あーちゃん、ダイニングサーバーの操作をお願いできる?摩利は弁当があるから六人ぶ…ん?」

 

 

言いかけて真由美はある一点をみてフリーズした。この場にいた全員がそちらを向くと…

 

 

「うまい…え、何?」

 

 

そこには食事をしている総司がいた。弁当ではなくここのダイニングサーバーから出てくるメニューをだ。誰もが彼がダイニングサーバーを使った所を見ていないので、代表してあずさが声を上げる。

 

 

「い、いつの間に…!?」

 

「いつって…さっき踊り終わった後ですね」

 

 

どうやらこの男、真由美が紹介をしている最中に操作していたらしい。礼儀とは?

ともかく総司に狂わせまくられているが、真由美達は食事を終わらせてから、会話の軌道修正を行った。

 

 

「会長、自分達が呼ばれた用件をお聞きしても?」

 

「…我々生徒会は、司波深雪さんに生徒会に入って頂きたいと考えています。如何でしょうか?」

 

 

どうやら本題は深雪の生徒会への勧誘のようだ。主席入学者の生徒会所属はもはや恒例化していると説明を行った真由美に対し、深雪は躊躇いながらも答える。

 

 

「会長は、兄の入試の成績をご存じですよね?優秀な者を生徒会に入れるなら、兄を入れることは出来ないのでしょうか?」

 

「残念ですがそれは不可能です。規則によって二科生の生徒は生徒会に所属できません」

 

「そんな…!」

 

 

鈴音は本気で残念そうにしながら深雪に規則による不可を示した。すると摩利が口を開く。

 

 

「ちょっといいか?」

 

「どうしたの?摩利」

 

「風紀委員の生徒会選任枠がまだ決まって無いんだが」

 

「それはまだ選定中よ!」

 

「風紀委員には一科生の縛りはないな?」

 

「摩利…貴女…!」

 

 

摩利の言葉を噛み締めるかのようにして震えている真由美を見た達也は無礼と知りながらもこの部屋を一刻も早く退室しようと扉へ向かう。しかし扉の前に総司が立ち塞がり両手を広げて非常にいい笑顔で言う。

 

 

「すしざんまい」

 

 

達也には言葉の意味は理解出来なかったが、両手を広げている事から、ここは通さないと言うことだろう。

 

 

「摩利!ナイスよ!そんな抜け道があったなんて!我々生徒会は、司波達也君を風紀委員に任命します!」

 

「お兄様!」

 

「いや、そんな決まりだみたいな顔されましても…」

 

「達也」

 

「…何だ、総司」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「YOU、やっちゃいなよ」

 

 

お前はどこのジャニ○さんだ。コレには流石の達也も文句の一つ二つ三つはあったが、深雪のキラキラした目と総司の謎の根拠を元にした理論で後押しされたのだ。なんでも「大丈夫、シスコンは最強だから」とのこと。その後、トントン拍子で話が進み、また放課後に生徒会室に訪れることになった。達也は思わず総司を蹴った。それを総司はとがめることなく、むしろ機嫌をよくしたかのように快活に笑うのだった。




橘君の豆知識

・実は、達也と深雪が四葉家の人間だと知っている。どうやら総司は、ここで二人に楽しい学校生活を送って欲しいと考えているようだ。


・本人は知識しかないが、過去に総司関係で何か悲しい出来事があったらしい。


本編がつまらないから後書きで補填していくスタイル。

達也君ドンドン総司君に引っ張られますね。この調子で不憫キャラの地位を区立して欲しいですね。

今日も日刊ランキングが最高9位ぐらいになっててとても驚きました。皆様には感謝感激雨あられです。


投稿がうまくいっていなかったのでこんな時間になるました。申し訳ないです。


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入学編 その六

投稿遅れました。

あと伝えたいことが二つ。

後書きの「橘君の豆知識」を「魔法科世界の秘匿通信」という名前に変えます。総司だけじゃネタ』がつきるんじゃ…


それと原作キャラが強化されてます。今回は範蔵君ですね。

それではどうぞ


昼食後に再び呼び出された達也と深雪は放課後となった今も生徒会室に向かっている。達也はげんなりしていて、深雪は兄が風紀委員になるかもしれないとワクワクしていた。といっても表情の変化は些細な物だが。ちなみに今総司はいない。総司は別に呼び出されてはいないからだ。

生徒会室に到着した達也は扉をノックする。

 

 

「失礼します」

 

「は~い、どうぞ~!」

 

 

所属も名前も聞かれずに開く扉に達也は更に気分を落とす。もはや退路を断たれているような感覚に襲われる。

しかしだ、入室を許可した真由美の声が若干楽しげだ。…まさか中で何か行われているのだろうか。別種の嫌な予感を覚えつつ、達也は深雪を連れて生徒会室に入室した。

 

 

「へえー!先輩の本名かっこいいっすねー!呼ぶときは一回一回フルネームでお呼びしても!?」

 

「茶化すな!あとそれは止めろ!」

 

「ありがとうございます!服部刑部少丞範蔵先輩!」

 

「おい!許可はしてないぞ!」

 

「え?今「ああ!いくらでも呼んでくれ!何ならそれを推奨するぞ!」って…」

 

「言ってない!記憶を捏造するな!」

 

「またまたー、照れ隠ししすぎですよー?」

 

「照れ隠しじゃない!」

 

 

そこでは副会長とおぼしき男子生徒と、呼ばれていないはずの総司がコント(ボケ:総司 ツッコミ:副会長)を披露していた。それを眺めながら、あずさはアタフタしており、摩利と真由美は楽しそうだ。

どうやら先程真由美の声が楽しそうと感じたのは間違いではないようだ。何故ここに総司がいるのかはよく分からんが。

 

 

「お!達也じゃん!紹介するぜ!こちらのあまりぱっとしない顔してる先輩が副会長の服部刑部少丞範蔵先輩だ!敬意を込めてはんぞー先輩と呼ぼう!」

 

「おい!敬意など微塵も感じない呼び方を定着させようとするな!」

 

「…」

 

 

妙に仲がいい二人を呆然と達也は眺める。呆然と言うか、ボーッとしてただけだが。

ふと我に返った達也は用件を伝える。

 

 

「妹の生徒会入りと、自分の風紀委員会入りの件で伺いました」

 

「風紀委員?」

 

 

範蔵は達也の発言に…具体的には後半の「達也の風紀委員会入り」という部分に反応する。

ここで達也にこの先輩は入学初日にこちらへと悔しそうな目線を向けていた。二科生を差別している故の嫉妬だったが、その点からこの人ならば自分の風紀委員会入りを阻止してくれるのではと期待する。

総司に目をつけられているという事を思い出した瞬間にそんな淡い期待は塵と消えたのだが。

 

 

「それじゃ、達也君はこっちだ」

 

「待ってください、渡辺委員長」

 

「何だ?服部刑部少丞範蔵副会長?」

 

「フルネームは止めてください!学校には服部刑部で届け出されています」

 

「まあまあいいじゃんはんぞー先輩」

 

「お前は礼儀を覚えろ!」

 

 

摩利が移動を促した時に彼女を制止する範蔵だが、摩利と総司の名前いじりに話が脱線する。

 

 

「それで服部副会長、いったい何の用だ?」

 

「自分はそこの二科生(ウィード)の風紀委員会入りに反対します」

 

「禁止用語を風紀委員長の前で使うなんていい度胸だな?服部」

 

 

先程まで緩んでいた空気が一気に張り付く…まさに一色触発と言ったところか。更には達也は自分が侮辱されたことに深雪がブチギレていることを感じ取る。このままでは不味いと思った達也は言葉を放とうとして…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ライダー!キック!」

 

「ぐわあ!?」

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

総司が範蔵に綺麗な跳び蹴りを直撃させる。勿論威力は制限されていたが結構なダメージだろう。

 

 

「た、橘…!?一体何を…!?」

 

「行って!摩利先輩!ここは私が引き受けます!私がこの悪のハンゾーマンを食い止めている間に!達也君を風紀委員に!」

 

 

コレには流石に驚愕した摩利が総司に問うと、総司は裏声で摩利を急かした。ここで痛みでまともに聞いていなかった範蔵以外は意図を察する。

つまるところさっさと風紀委員に登録して、既成事実を作ってしまえとのことだ。コレには真由美と摩利、ついでに深雪は笑顔を深め、達也とあずさは焦り出す。しかし、

 

 

「…橘、コレは私闘には当たらないか?」

 

「…あー」

 

 

摩利に僅かに残っていた良心が総司を制止する。コレには真由美と深雪は不満げだ。達也とあずさはほっとしているが。

 

 

「…じゃあこうしましょう。摩利先輩、何か困りごとはありませんか?」

 

「今はないが毎年の悩みの種がもう直ぐあるな」

 

「ではその悩みの解消をお手伝いしましょう。それと引き換えに見逃してくれませんか?」

 

 

ここら辺で話を聞けるようになった範蔵は流石に無理があるだろうと判断する。

 

 

「いいだろう」

 

「渡辺委員長!?」

 

 

そんな甘えは一瞬で砕け散るのだが。まさかの風紀委員、それも委員長の汚職である。これには範蔵とあずさ、達也も絶望顔をする。

 

 

「決まりね、総司君はここではんぞー君を抑えていてちょうだい。あーちゃん、ここは危ないから一緒に降りましょ?」

 

「え…私はご遠慮します…」

 

 

一高の生徒会室と風紀委員会本部は直通の階段で繋がっている。まあ、あずさは恐怖から降りたことは一度も無いのだが。今回も恐怖を理由に遠慮しているのだろう。

 

 

「今から戦場と化すこの部屋に残るのか?」

 

「降ります」

 

 

即断だった。怖い人がいっぱいいるところに行くのと、戦場になる予定の場所に居続けること。あずさは戦場の危険を回避することにしたようだ。

 

 

「それじゃ行きましょうか!」

 

「…はい」

 

 

とても沈んだ顔で風紀委員会室に降りる達也。それはまるで死刑囚が連行でもされているかのようだった。

一縷の望みを掛けて後ろを見た達也が最後に見た生徒会室では、三人に分裂している()()()()()()総司と、切り替えた顔でCADを構えている範蔵の姿だった。

 

 

 

 


 

 

初動を取ったのは意外にも範蔵だった。始まると同時にスピード重視で単純な基礎単一系移動魔法を発動…しようとして、嫌な予感を感じた範蔵は急遽自己加速術式に切り替える。

すると範蔵がいた場所に総司が既に拳を突き出していた。あと少し遅かったなら直撃していただろう。自分よりも劣っている劣等生という評価からすぐさま強敵だと認識を切り替えた範蔵はまずはサイオン弾で牽制しようと軽く十発は放つ。

しかし、サイオン弾は総司の体に触れた瞬間に()()()()()()()()()。それは直撃はしているだろう。だが客観的に見ると、魔法が無効化された気がした。

 

こいつなら大丈夫だろうという確信と、自身の認識の正否を確かめるため、範蔵は自己加速術式で今度は総司へと接近していく。

途中で自己加速術式を解除し、その慣性に身を任せながら、自身の腕を基点に新たな術式を発動する。

 

術式の名は「高周波ブレード」、刀身を高速振動させ、接触物の分子結合力を超えた振動を伝播させることで固体を局所的に液状化させて切断する魔法である。基本的には刀身を自壊させないための魔法と同時発動して使用される。今回は刀身では無く腕だが。範蔵程の使い手ならば腕に使用しても特に問題は無いだろう。

 

高速振動する範蔵の腕が総司に直撃する…その瞬間、やはりか今度は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。先程のサイオン弾は総司が耐えたのではなく、キャンセルされてしまったものだと確信した。

 

どのような手法かは分からないが、総司には魔法が効かない、もしくは効きにくいと判断する範蔵。となれば出来ることは物理でのアプローチである。体勢を立て直すため、以前友人に協力してもらい習得した魔法、「セルフ・マリオネット」で異常な体勢のまま移動する。

 

だが、体勢を立て直した瞬間には、目の前に総司の拳が迫っていた。避けられないと判断した範蔵は、障壁魔法を展開する。この学校の部下連会頭には遠く及ばないが、並の魔法師以上ものだと自負するソレを前に、総司の拳はまるで()()()()()()()()()()()()()()()範蔵の胸に直撃したのだった。

 

 


 

 

抵抗むなしく風紀委員にされてしまった達也と共に戻ってきた一行は驚きの光景を目の当たりにする。

そこには倒れる範蔵と満足げな総司が立っていたのだから。

 

 

「な…!?服部がやられた…!?」

 

「嘘、止めに来ないから納得してくれたのかと思ってたのに…まさか負けちゃうなんて!」

 

「いやー、はんぞー先輩結構強かったっすね」

 

 

真由美達はついぞ範蔵がやられるなんて想像もしてはいなかったのだが、達也は逆に総司に「強かった」と言わしめた服部の強さに感心した。いくら総司が身体能力をセーブしていても、超人である総司が褒めるほどの戦いをしたらしい彼への評価を達也は上げる。

これは確かに二科生を見下しても仕方が無いかもと。

 

 

「…司波達也、だったか?」

 

「はい」

 

 

立ち上がった範蔵が不意に達也へ声を掛ける。どうしたのだろうと達也が訝しむと、範蔵はいきなり頭を下げた。

 

 

「すまなかった。先程の無礼を許して欲しい」

 

「…先輩は二科生を見下しているのでは?」

 

「今までは、な。今このバカと戦って分かったよ。このバカは今魔法を使わずに俺に勝利した。戦闘に置いては、こと一科生は優れていると考えていたのだが、それは間違いだったようだ。魔法が劣っていても、俺達よりも『強い』奴は居るもんだな」

 

「…はあ」

 

 

実際は総司は魔法を使わなかったのではなく、実践レベルで使えないだけなのだ。この三日間の授業だけでも分かるほどそれは顕著である。

 

 

「そのバカが、危険な仕事である風紀委員になることに反対していない…ならばお前も、魔法では無い強みがあるのだろう。それだけじゃない、今に考えてみれば戦闘用の魔法は実技が悪くても使えるものはたくさんある。…一概に、一科と二科では区別ができんものだな…」

 

「…そうですね」

 

 

実際達也も九重八雲から教わった体術があるし、「術式解体」を使用することも可能だ。更に達也は魔法の多変数化が得意だ。試験の結果が、一科と二科だけが強さの証明ではないのだ。

達也は実感がこもった声音で肯定した。

 

 

「俺勝ったんでなんか奢ってくださいよ、はんぞー先輩」

 

「何でだ!?そんなこと聞いてないぞ!?」

 

 

まあ、総司が入ってきたせいでカオスになり出したのだが。




魔法科世界の秘匿通信

・服部刑部はこの後なんだかんだ奢ったらしい

・生徒会室は別に荒れてはいない。二人の技量が見て取れる



範蔵君強くね?と思われた方も多いでしょう。

この作品の範蔵君はスターズのカノープスレベルはあります。

てかこいつら生徒会室でなにやってんだよ。範蔵君との戦いの戦場を実習室じゃなくて生徒会室にしたの自分が初めてじゃないでしょうか。


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入学編 その七

自分の筆の遅さに絶望している作者です。
今回から部活動勧誘期間のお話です。


生徒会室で範蔵と総司が戦っていたとき、達也は風紀委員室の掃除をしていた。そこでは、三年の辰巳鋼太郎と二年の沢木碧と出会った。彼らは当初達也に実力があるのか半信半疑だったが、沢木の圧を掛ける握手をひらりと解いて見せた事で二人は達也を「使える奴」だと認識した。まあ、総司にはあずかり知らぬところであるため詳しくは知らないのだが。

 

ここで時間は少し飛び、別日の放課後となる。

 

 


 

 

エリカが見回りついでに一緒に見学しようと達也に約束を取り付けたのと同じ時間帯、深雪とほのか、雫の三人は共に廊下に居た。窓から見える勧誘の凄まじさには目を見張るものがあり、三人は一様に驚愕している。

 

 

「噂には聞いてたけど…うちの学校の勧誘合戦ってホントにすごいよね…!」

 

「あれじゃ、普通に帰りたい人も簡単には帰れそうにないけどね…」

 

「そうだよねぇ…そういえば司波さんはクラブには入らないの?生徒会だけ?」

 

「ええ、ちょっと他に手を回す余裕がなさそうだから」

 

「そっか…」

 

「大変なんだね」

 

 

深雪と二人の距離はまだ近しいと呼ベはしない。なんなら、ほのかは達也、雫は総司との方が親しいまであるだろう。しかし他の一科生とは違い、二人は深雪にとって間違いなく、「友人」なのである。

 

 

「それで…えっと、達也さんは何かクラブ活動をするのかな?」

 

「お兄様?」

 

 

頬を染めながら達也の事を聞いてくるほのかに深雪は一瞬殺意を覚えたが抑えることに成功した。危うく少ない友人が更に少なくなるところだった。

 

 

「達也さんなら非魔法系クラブで優秀な成績を修められると思うし、魔法系クラブでも十分な活躍が出来るんじゃないかな?」

 

「ほのか…!コホン、お兄様は、今日から風紀委員会で忙しいのよ。多分クラブにも所属しないでしょうね」

 

「そう…なんだ…」

 

「ほのか、そんなに気を落とさないで」

 

 

深雪はほのかが達也に高評価をしてくれたことに感動をしたが、咳払いと共に達也がクラブには所属しない事を告げる。するとほのかが深雪がクラブ活動をしないと聞いたときよりも残念がり、雫がそれを慰める。

 

 

「総司さんはどうなの?」

 

「総司君はクロス・フィールド部だって」

 

「えっ」

 

 

説明しよう!クロス・フィールドとは!魔法を用いたサバイバルゲームのことである。この学校では部活連会頭であり、十師族でもある十文字克人が所属するクラブでもある!

ちなみに驚愕をもらしたのは深雪だ。以前は「変態」なんて呼んでいたのにいつの間に名前で…?という驚きだ。どうやらガチガチの箱入りである深雪にはツンデレと言う属性はまだ理解しえないらしい。

 

 

「うん…ホントは一緒のクラブに入りたかったんだけどね…」

 

「雫…」

 

 

今度は雫が落ち込み始め、それをほのかが慰め出す。先程とは正反対の構図である。

 

 

「それと、この勧誘期間は用事があるらしくて一緒には見て回れないみたい…」

 

「用事…ですか?」

 

「うん…なんだか、「借りを返す必要があってな」…だって」

 

「プフッ」

 

 

雫が言う総司が返さなければならない借り…それは十中八九あの時の生徒会での私闘のもみ消しの件だろう。おそらくあの時摩利が言っていた困り事とはクラブ勧誘のことなのだろう。となると総司は…

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

「何故ここにいる!!司波達也!」

 

「入ってくるなり大声を出すとはな。随分と非常識じゃないか、森崎」

 

「なんだと!?」

 

「興奮してないで座ったらどうだ?」

 

 

風紀委員会本部において、達也はやってきた森崎に絡まれていた。

 

 

「非常識なのはお前だ!いいかよく聞け!僕は今日から教職員推薦で風紀委員に…!」

 

「やかましいぞ新入り!」

 

 

森崎が随分と驕り高ぶった発言をしていると摩利から頭を叩かれる。その光景に思わず鋼太郎は頭を抑える。

 

 

「此処にいるのは風紀委員だけだ…今のところはな。それくらい分かりそうなものだが…まあいい。さて諸君、今年もあのバカ騒ぎの季節がやってきた」

 

 

摩利が今日集めた理由の説明と、騒がしくなる原因を話していると、森崎から敵意の念を感じるが、生憎達也にとっては彼など眼中にないのだが。

 

 

「幸いにして今年は補充が間に合った。教職員推薦枠の1-A森崎駿と生徒会推薦枠の1ーE司波達也だ」

 

 

摩利に紹介され、達也と森崎は同時に立ち上がる。達也が涼しい顔をしている分、ガチガチに緊張している森崎がおかしく見える。

達也に向けられる視線は、確かに肩に向かうものが多かったが、半数以上が好意的なものであることに驚愕する。

 

 

「役に立つんですか?」

 

 

この台詞は二人に向けられてのものではあるが、発言者の視線は達也の肩に向かっている。どうやら二科生が役に立つのかと言っているのだろう。

 

 

「司波の腕前は特に問題ないだろう。沢木の握手からたやすく抜け出せる程だからな。森崎のも確認したが、それなりの活躍をしてくるだろう」

 

「は、はあ…」

 

 

摩利の発言に…特に前半部分に宿っていた威圧感に負けたその風紀委員は大人しくなる。すると摩利は続けて発言する。

 

 

「…実は今回の勧誘期間限定で、助っ人が来てくれることになっている」

 

 

助っ人?と森崎をはじめとした風紀委員達は首を傾げるが、達也には心当たりがあった。というかほぼ確実に()()()だ。などと考えていると、扉の前に気配がした。

 

 

 

 

 

ダアン!

 

 

「ちわーっす!三河屋でーっす!おっくれやしたー!」

 

 

風紀委員会本部の扉を()()()()()入室する影が一つ。

我らが愛すべきクソバカ野郎、橘総司である。

 

風紀委員達は全員がポカンと口を開け、森崎は予期せぬ総司との遭遇に青い顔をする。達也と摩利は呆れ気味だ。

 

 

「…こんな奴だからな、今回は問題行動の罰として奉仕活動の一環で、我々の業務に一週間付き合ってもらうことにした」

 

「皆さん!自分は橘総司って言います!よろしくお願いしますね!」

 

 

自己紹介でフリーズが解けたのか風紀委員達は各自で挨拶をする。森崎は未だに青いままだが。

ここで沢木が総司に話しかける。

 

 

「俺は二年の沢木碧だ。よろしく。それと、俺の事は名字で呼んでくれ。くれぐれも、名前で呼ばないように」

 

 

沢木は以前達也にもしたように自身への呼び方を念押しするかのように握手した手の力を強くする。

それに対し総司は…

 

 

「…グッ!?」

 

「分かりました!よろしくお願いします、()()()!」

 

「「「プッ!」」」

 

 

より強い力で沢木の手を握り返し、いい笑顔で名前で呼んだ。この男、大分余裕である。そんな光景に他の風紀委員(達也と森崎を除く)は吹き出してしまう…と同時に、沢木よりも体術面では優れている事を察する。

 

 

「ククッ、し、質問がないのならば今から出動だ。司波、森崎、橘は残るように」

 

「「「了解!」」」

 

 

笑いながらも摩利が合図したことにより、メンバーがゾロゾロと本部から見回りに出かける。途中、辰巳が達也に話しかけ、沢木が総司に名前呼びの訂正を求め、拒否されているのを森崎はつまらなさそうに見ていた…

 

 

 


 

 

巡回の前に、摩利から腕章と薄型のビデオレコーダーを渡された達也と森崎、あと総司。何か問題があったときにコレで録画をするらしいが、風紀委員の証言は単独で証拠扱いになるので無理に録画する必要はないようだ。

 

 

「それでは次は委員会のコードを端末に送る。指示を送るときも、確認の時もこのコードを使うから覚えておけ。それからCADだが、風紀委員はCADの学内携行が許可されている。使用に関しても誰かに許可を取る必要は無い。ただし不正使用が発覚した場合には一般学生よりも重い罰が科せられるから覚悟しておけ。一昨年はそれで退学になったものもいる」

 

 

摩利が説明を終えると、達也が挙手をして質問する。

 

 

「CADは委員会の備品を使用してもよろしいでしょうか」

 

「別に構わないが何故だ?ただのガラクタだぞ?」

 

「とんでもない。あのCADはエキスパート仕様の最高級品ですよ」

 

「何だって!?」

 

「へえ~、そうなのか~」

 

 

達也の発言に目を見開く摩利。総司はまるで秘密の県民Sh○wのナレーションのようなイントネーションで驚く。

 

 

「なんてことだ…君が掃除にこだわったのはこれが理由なんだな」

 

「俺っすか?」

 

「橘うるさい黙ってろ」

 

「うぃっす」

 

 

掃除と総司。同じ発音だもんね。

 

 

「どうせ埃をかぶっていたんだ、好きに使ってくれて構わないよ」

 

「それでは、この二機をお借りします」

 

「二機?君は本当に面白いな」

 

 

通常CADを二機同時に起動するとサイオン同士が干渉してしまって上手く魔法が発動できないのだ。そのような事を達也が知らないはずはない。

だが達也をよく知らない森崎は見栄を張って墓穴を掘ったのだと嘲笑する。

 

 

「お前のような二科生が二機同時に使える訳がないだろう、見栄を張って余計なことをしたな!絡まれないようにコソコソしていることだ!」

 

「そもそも風紀委員やりたがらなかった達也が見栄なんてはるわけないんだよなぁ!」

 

 

続く総司の発言に目を見開く森崎。

 

 

「な、何だと!?司波達也、お前!風紀委員になる名誉を何だと思っているんだ!」

 

「別になりたかった訳じゃないからどうだっていいな。そもそも、七草会長と渡辺委員長に流される形で所属することになったんだからな」

 

「確かにそうだが、真由美も私も、君が優秀な人材だと言うことは理解しているつもりだ。規則がなければ生徒会に入っていただろうな」

 

 

この学校でもTOPの実力者である真由美と摩利からの高評価が、二科生である達也に向けられているとは、森崎は到底信じることが出来なかった。しかし嘘は感じない。悔しくなった森崎は、恨み言を吐いて巡回へと向かった。

 

 

 


 

 

森崎がウザかった為にエリカとの待ち合わせに十分遅れた達也は、集合場所にエリカがいないことにため息をこぼす。エリカがしびれを切らして一人で行ってしまったのか…と考えたところで、近くで声がする。

そちらを達也が確認すると、エリカが大量の勧誘に囲まれていたのだ。さらには、その奪い合いが加速し、エリカを引っ張ったりする者まで現れた。コレは急がねば…!と走り出す達也。すると先程別れたばかりの総司もこちらに向かってきていた。

達也に気づいた総司は一言叫ぶ。

 

 

「今から()()()からエリカちゃんを頼む!」

 

 

揺らす?達也が疑問に思ったその時、急停止した総司がおもむろに足を持ち上げる。その行動にまさか!?と思いついた達也は急いで跳躍する。

 

次の瞬間、総司が蹴り下ろした足が地面に衝突し、激しい揺れが起こる。その揺れは第一高校全体を大きく揺らした。エリカを含めた生徒達は揺れの影響で膝をつく。その隙にエリカを回収した達也はお姫様抱っこでエリカを抱えながら、走り去って行った…

 

 

またこの日、第一高校にて、震源不明、原因不明、何もかも不明づくしな地震が発生したことが観測されている。その最大震度は5相当であったらしい。総司の蹴りと果たして関係があるのだろうか…?(すっとぼけ)

 

 

 


 

 

走り抜けた達也と、あの場所から跳躍してきたらしい総司は物陰に全くの同時に到着した。

 

 

「はあ、はあ…今の揺れ…何…?」

 

「何って、地面を蹴っただけだが?」

 

「普通の人間はあんなことできないし、魔法師でもこの規模は難しいぞ…」

 

 

まだ揺れの影響が抜けきってないエリカの問いに、総司が何の気なしに平然と事実を告げ、その異常さに達也が苦言を呈する。

するとここで何かに気づいた総司がエリカに言った。

 

 

「エリカちゃん、随分と大た…エロい格好だね!」

 

「え…っ!?」

 

 

そこには制服がはだけてネクタイが抜き取られており、胸元がはっきりと見えるエリカがいた。というか総司、なんで悪い感じに言い直したんだ…

 

 

「み、見るな!」

 

 

エリカの叫びと同時に男衆は後ろを向く。不慮の事故だが、総司のせいで嫌な予感がする。

 

 

「…見た?」

 

「……」

 

「モチロンです、プロですから」

 

「何のプロよ!」

 

 

エリカが制服を整えたと同時に二人に質問する。達也は無言、総司はいい笑顔で返す。しかして総司はエリカに服が乱れていることを教えてくれたので、一概に文句は言えない。

 

 

「そういえばずっと言いたかったんだけどさ…」

 

「…何よ?」

 

 

ふとした、という感じで話し出す総司に警戒心を露わにするエリカ。しかして総司は口を止めることなく言い切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エリカって結構おっぱいおっきいよな!」

 

「ぶっ殺す!」

 

 

警棒を取り出して怒り心頭のエリカ。だがエリカが警棒を抜くよりも早く、総司は走り出し、すでに遠い場所にいたのだった…




魔法科世界の秘匿通信

・生徒会室も揺れたし部活連本部も揺れた。というか学校全域が揺れた。



次の話はワンチャン今日上がります。上がらなかったら申し訳ありません。


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入学編 その八

全然間に合わなかった…

今回も強化されたキャラがいます。

後総司が後半絡まないからシリアスになってる…やめてくれよ…


「い、痛いです…」

 

「こんなのもう勧誘じゃない…!」

 

 

光井ほのかと北山雫は今年度の入試試験において実技成績2位と3位である。毎年この勧誘期間には、何故か入試成績が漏出しており、成績優秀者は必然的に狙われる。ならば1位である深雪を狙えば?と思われるかもしれないが、首席は毎年生徒会に所属することが通例になっており、逆に手を出されづらいし、生徒会室にいる可能性が高いため、そもそも遭遇できなかったりで勧誘そのものは首席に影響は少ない。

 

となると狙い目は2位や3位であろう。ほのかと雫が狙われるのは必然的といっても過言ではないだろう。さらに首席である深雪のいい意味での近寄りがたさがあるが、ほのかと雫にはそれがないため、余計に狙われているのだろう。

そして彼女達を求める手はドンドン増えていき、もはや彼女達を無視した喧嘩に発展している。雫の言うとおり、これは勧誘ではなく一種の限定品の奪い合いのようなものだ。

 

 

「きゃっ!?」

 

「何?」

 

 

その奪い合いを制したのはその二人を持ち上げ連れ去った二人組の女子である。

 

 

「こいつらだよね?」

 

「ああ、間違いない。今年の実技の2位と3位だ」

 

 

これは余談だが、首席以外には成績は本人にも告げられることはない…あれ?真由美が達也に教えていたような?

ともかく、そんな当事者もあずかり知らぬ成績を二人が知っていることに雫は疑問符を浮かべる。ほのか?ああ、いいやつだったよ(適当)

 

 

「止まれ!そこの不良生徒!」

 

「おっ、摩利じゃん!」

 

「卒業したお前らが、どうして此処にいる!?」

 

 

追ってきた風紀委員長の摩利の発言からして、どうやらこの二人は学校のOGだったようだ。摩利とは浅からぬ縁がありそうで、摩利は怖い顔をしている。

そんな中二人は呑気にどうやって逃げおおせようか話し合っている。次の瞬間には彼女達に不運が訪れるのだが。

具体的に不運だったのは、自身の失言が原因で友人から逃げ出したとあるバカに現場を見られていたことである。

 

 

「これからどうする?流石に摩利と根比べはきちいぞ?」

 

「部室に連れ去った後に、さっさとトンズラするのがよさそうだね」

 

「うんうん、それでそれでー?」

 

「「それでー…っ!?」」

 

 

OG達の会話に割り込む第三者の声。一瞬は連れている一年のどちらかか?と思考するが、明らかに男の声であった事からソレはないと判断する。そして二人が横を向くと、お互いの間にあるスペースにて、自分達のボードと完全に併走している男子生徒が視認できた。

まさか併走して追いかける奴が現れるとは思いもよらなかった二人は、このとてつもない自己加速術式の使い手に驚愕する…二人は自己加速術式だと思っているが、実際には魔法は一切使用されていないのだが。

 

 

「そ、総司さん!?」

 

「雫ちゃん、慣性緩和頼める?」

 

「…!うん、任せて、総司君」

 

 

もう一人驚愕していたほのかをよそに、雫に慣性による影響を防ぐよう頼んだ男子生徒…橘総司は、OG二人が操るボードそれぞれに手を置き…

 

 

「フン!」

 

 

軽く力を入れる…ように見えた。訝しむOG達の目に飛び込んできたのは、総司の手が置かれた部分から亀裂が入っていくボードの姿だった。

みるみるうちにボードは壊れていき、ついにOG達と、ほのか達も投げ出されてしまう。涙目になるほのかだが、雫は妙な安心感とともに魔法を使用する。それは簡単な慣性制御魔法であり、慣性緩和が行われる…しかし、猛スピードで地面に落下していく四人。

しかし一陣の風が吹き、次の瞬間には四人は五体満足で地面に座っていた。

 

 

「今のは…!?」

 

 

その一部始終を見ていた摩利は、総司が落下前に目にもとまらぬスピードで四人を抱きかかえて着地、完全に停止してから四人を地面に下ろすのを知覚した。

 

 

「ナイス雫ちゃん。前よりその魔法、上手くなったんじゃない?」

 

「…練習してたからね」

 

「ん?練習?その魔法の使用用途って…」

 

「うるさい黙って総司君」

 

「イエス、マム!」

 

 

四人を下ろした後、先程の慣性制御魔法の熟練度を褒めた総司。どうやらこの二人の間で先程の魔法を使った何かがあったらしい。おそらく雫からの許可は下りないので詳しくは言えないが、どうやら雫と総司は二人で()()に出かけたらしい。歩いた?のは総司だけで雫はずっと背負われていたらしいが…どうやらこれ以上話すと作者の頭がフォノンメーザーに焼かれそうなので一旦此処までにしておく。

 

 

「あ!摩利先輩!現行犯で二人確保です!」

 

「あ、ああ…確かにお手柄だが…お前には残念な話をしなければな…」

 

「残念な話?」

 

 

いきなり残念な話とやらを切り出す摩利。総司は臨時ではあるが風紀委員として問題行動を取り締まっただけだが…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「このボード…多分うちの備品だぞ…」

 

「…あっ」

 

 

あっ(察し)

 

後日無事にボード二台分を耳をそろえて弁償した総司なのであった。

ちなみに、ほのかと雫は意外と楽しかったと感じたのか、SSボードバイアスロン部に所属することとなった。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

ここは第一高校の第二体育館、通称「闘技場」。総司に逃げられ、超不機嫌だったエリカに流される形で此処に訪れた達也だったが、意外にも楽しめていた。

 

 

「ふーん、魔法科高校なのに剣道部があるんだ」

 

「何処の学校にも剣道部ぐらいあるだろう」

 

 

達也は何気なく言い放つが、聞いていたエリカは非常に驚いた顔をしていた。何か間違っていたのだろうか?と達也が考えていると、エリカが説明する。

 

 

「魔法科高校では剣道じゃなくて剣術をやる生徒の方が多いから、剣道部は珍しいの」

 

「剣術?剣道と同じじゃないのか?」

 

「全然違う…とは言い切れないけど、別物ね。一番の違いは、剣術は魔法ありきのものなの」

 

「なる程、そして剣道は魔法を使わない…と」

 

「そのとおりね。でも意外、達也君ならこれぐらい知ってそうだけど」

 

「俺にも知らないことぐらいはあるよ」

 

 

意外そうな目を向けられてむず痒くなった達也は謙遜する。事実達也は完璧な人間ではないので謙遜でもなんでもないのだが。

 

 

「…でもつまんないわね」

 

「何がだ?」

 

 

レギュラークラスの女子が華麗な一本を決めたのを見てエリカがつぶやく。どうやらご不満のようだ。

 

 

「だってこれ台本通りでしょ?もはや演習じゃなくて殺陣よ殺陣。つまらなくもなるわ」

 

「まあ、あくまでも勝つことが目的ではなく、興味を持ってもらうのが目的だからな。」

 

「そりゃそうだけどさ-」

 

 

エリカがブーブー言っていると、先程まで演習をしていた女子生徒が面を外した。その瞬間、男子が色めきだった声を上げる。そしてエリカはその人物のことを知っていたようだ。

 

 

「あれって、二年前の全国女子剣道大会()()者の壬生紗耶香じゃない!通称剣道小町とかでマスコミに取り上げられてた」

 

「なるほどな。実力もあってルックスもいいとなればマスコミが騒ぐのも当然だな」

 

 

などと言い合っていると、剣道部の演習に一人の男子生徒が乱入する。

 

 

「なんか面白くなってきたわね!近くで見るわよ!」

 

「おいエリカ!」

 

 

自分の腕を引っ張られながら、達也が耳にしたのは男子からのからかいのような声だ。「今日こそ勝てよー!」だとか、「いいとこ見てみたいー!」だとかだ。どうやら乱入した男子生徒に向けられているもののようで、その生徒は若干照れくさそうにしていて、剣道部の他の生徒は実に渋い顔をしていた。

 

 

「あの男子生徒って」

 

「知ってるのか?」

 

「面識はないけどね。女子の方はさっき話したけど、男子の方は剣術の関東大会チャンピオンの桐原武明ね」

 

「全国大会には出ていないのか?」

 

「剣術の全国大会があるのは高校からなの。だから関東チャンピオンって称号は結構凄いのよ」

 

 

エリカはどうやら剣道や剣術について非常に詳しいようだ。彼女の家柄を考えれば当然なのかもしれないが。

 

 

「桐原君!()()なの?いい加減に諦めてちょうだい!」

 

「わりいな壬生、俺はお前が剣術に来ないことがどうしても我慢ならねえんだよ!」

 

 

そう言うと桐原は壬生に竹刀をかまえて突貫する。手に持つ面を投げ捨てて、同じく竹刀で応戦する壬生。

 

 

「だから、前から言ってるでしょ!私は剣道を辞めるつもりはないの!」

 

「だが、高い剣の腕と、()()()()()()()()()()()()を持つお前には、俺以上に剣術の才能があるんだ!ソレを見逃すほど俺は大人しくないんだよ!」

 

「なら、いつもみたいに返り討ちにしてあげる!」

 

「やってみせろ!」

 

 

そう言って二人は本格的に戦い始めた。達也は一瞬止めようかとも考えたが、魔法を使用せずに打ち合っているだけのこの状況では、「剣道部の演習を手伝っていただけ」と弁明されるだろう。対処するのは魔法が使用されてからでも遅くない…それ以上に、この二人の打ち合いを見てみたいと思った達也は、いつでも出られるよう、CADを起動した上で待機することにした。

 

 

「はあっ!」

 

「やあ!」

 

 

桐原と壬生のお互い手加減のない苛烈な攻撃。これは熱くなりすぎているのか、はたまたお互いの腕前を信用しての事か。

お互いの攻撃をいなしあいながら決め打ちを狙う二人。コレを眺めているものは、さながら二人が苛烈で、だが美しい舞をしているかのような錯覚に陥る。この舞とも呼ぶべき戦い、どうやら有利なのは壬生らしい。

「相手を殺さずに無力化」という点なら、相手を切り伏せる技術である剣術を使う桐原よりも、あくまで「技」としての側面が強い剣道をしている壬生のは方が有利といえる。

 

そして遂に桐原の腕に壬生の竹刀が直撃する。

 

 

「…これは真剣なら、致命傷よ。今日も私の勝ちね桐原君」

 

「真剣…?真剣と言ったな?今」

 

 

勝ちを宣言し、桐原を下がらせようとする壬生。しかし桐原は不敵な笑みを浮かべていた。

途端桐原はバックステップを踏み、後退した後、CADを操作する!

 

 

「真剣勝負がお望みなら、お前も抜けぇ、壬生ウ!」

 

「嘘でしょ!?くっ!」

 

 

桐原が使用したのは「高周波ブレード」詳しい解説は以前行った為省かせてもらうが、ようは武器が高速振動することで、物体を脆くして切り裂くと言った魔法である。

驚きのあまり壬生はしばらく放心していたが、桐原が迫ってくると同時に彼女も「高周波ブレード」を展開する。

高速振動する竹刀同士がぶつかった事により、単体でも非常にうるさい特有の嫌な音が、さらに不快感を増して体育館内に響き渡る。

 

 

「落ち着いて!桐原君!」

 

「うおおおおおお!」

 

 

壬生は必死に制止するが、桐原は完全に頭に血が上っているのか止まる気配はない。仕方なく迎撃しようと壬生が構えたその時、体育館内全ての生徒に激しい頭痛の症状が現れた。

 

 

「これ…は!?」

 

「きゃあっ!?」

 

「っ!壬生!」

 

 

打ち合っていた二人の高周波ブレードが解除される。桐原は頭痛と共に魔法がきれた事に驚愕するが、驚いた壬生が体勢を崩したのを見て、慌てて助けに入る。幸いにも間に合い、壬生の体は桐原に抱き留められた。

 

 

「魔法の不正使用の容疑でお二人には同行して頂きます」

 

 

そこにはいつの間にかエリカの横から移動していた達也がいた。彼の肩に紋章がないにも関わらず、彼がつけている腕章は「二科生で風紀委員」であることを示していた。

 

 

「おい!一年、それも二科生のクセして嘗めた態度取ってんじゃ…「やめろ!」っ、桐原…」

 

 

剣術部の生徒が達也に文句を言いながら接近するのを桐原が止める。

 

 

「…今回の事は俺が魔法を使い、自衛として壬生が魔法を使ったんだ。不正使用に当たるのは俺だけだ、壬生は見逃してくれ」

 

「桐原君…」

 

 

桐原は壬生が魔法を使わざるを得ない状況に追い込んだ自分のみを連れて行けと進言する。

 

 

「わかりました…此方第二小体育館。逮捕者一名、今から連行します」

 

「…感謝する」

 

 

桐原は達也が自分の要望を聞き入れてくれた事に感謝する。

 

そのまま桐原を連行する達也。どこからか、自分を見定めるかのような視線を感じながらも、自分の職務を優先したのだった。




魔法科世界の秘匿通信

・北山雫と橘総司が二人で所謂デートのようなものをしていたとの目撃情報(提供者:M.H)

・総司はかなり鈍感。雫とのデート中も、「将来こんな感じのデートしてみたいなー」とか思っていた。今してるよ(小声)

今回強化が入ったのは桐原と壬生です。

壬生は二科生ではなく一科生、桐原はわかりにくいですが、剣道ではなく剣術…つまり殺し合いの技術は壬生より上になっています。

また二人とも、千葉の秘剣を用いないエリカと同等の強さがあります。



前回までにおいて、誤字報告を数多く頂きました。

アクルカ様、紅月 雪様、Komash様、みやっち♪様、チルッティドラグーン様、水澤七海様、誤字報告感謝いたします。

これからも大量の誤字があると思いますが、暖かい目でご覧になって頂けると幸いです。


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入学編 その九

昨日投稿できず…休みだからと惰眠をむさぼり…このような時間になってしまいました…

今回は達也のキャスト・ジャミング説明会と思わせてからの総司君の能力の説明だったり


バイアスロン部への入部が決まったほのかと雫は、先輩達とともに、デモの為の移動をしていた。

 

 

「あれ?狩猟部のみんな、どうしたの?顔色が悪いみたいだけど…」

 

 

その際に、裏庭で狩猟部のメンバー達が気分が悪そうにしていた。これは保険医の先生を呼びに行かなければ…と考えたほのかだったが、既に呼んできていたらしい女子生徒が先生を連れて戻ってきていた。

 

 

「安宿先生!早く!」

 

「落ち着いて明智さん。サイオン中毒なんて滅多に起こることじゃないわよ」

 

「今がその時だったらどうするんですか!?」

 

 

見るからに慌てている女子生徒とは対称的に、保険医の先生は非常におっとりとした表情を崩すことなく現れた。ほのかと雫が漠然と眺めているなか、サイオン中毒ではなくサイオン波酔いだということが判明する。

 

 

「実技棟二階の第八演習室を取ったから、そこで安静にさせておいて。これ、鍵ね」

 

「あ、はい!分かりました!」

 

 

どうやら倒れている生徒達を運ぶようだ。狩猟部でも元気なメンバーがいることにはいるのだが、それでも人手が足りない。ならばと近くにいたバイアスロン部の先輩が手伝いを申し込むが、先輩達にはデモがあるからと、ほのかと雫がここを手伝うことにしたのだった。

 

 

「ありがと~!助かったよ~!」

 

「全然いいよ!困ったときはお互い様だし!」

 

「それに、気分の悪そうな人を無視することも出来なかったしね」

 

 

狩猟部の彼女はかなりテンションが高く、明るい生徒のようだ。

 

 

「私の名前は明智英美。日英のクウォーターで、正式にはアメリア=英美=明智=ゴールディ。エイミィって呼んでね」

 

 

長い名前よホント。しかも英美って変換一発で出てこないしさぁ…しかしまあ、ほのか達はどう呼ぼうか思案しているところにエイミィ自ら愛称を教えてくれた。これにはほのかも雫も作者もホッとする。

 

 

「私は光井ほのか。よろしくね、その…エイミィ?」

 

 

愛称でいいのか迷ったほのかはしばし迷ったが、愛称で呼んでみた。それにエイミィは嬉しそうな顔で返す。

 

 

「よろしく~ほのか!」

 

「私は北山雫。よろしく、エイミィ」

 

「うん!雫もよろしく!」

 

「俺は橘総司。よろしくな!」

 

「うんうん君もよろしー…って、誰ー!?」

 

「そ、総司さん!?」

 

「総司君…」

 

「どもども二人とも。さっきぶりだね」

 

 

二人がエイミィと自己紹介をしているところに混ざってきたバカが一人。我らが主人公、橘総司である。

 

 

「い、いつからそこに…!?」

 

「いや、狩猟部の生徒が倒れたって通報が来たから飛んできたんだ。さっきから倒れた人を運んでたぞ俺?」

 

「ぜ、全然気づかなかった…」

 

 

エイミィとほのかが気づかないのも無理はない。総司はここに、通報を受け取った場所から校舎の屋上をマ○オのようにジャンプしながら移動してきていた。華麗な着地により、足音がかなり減少していた事から、とっさに気づいていた雫以外は誰も総司の存在に気が付かなかったのである。

 

 

「ま、まあ、驚きはしたけど、仲良くしないって選択肢はないよね!よろしく総司君!」

 

「ああ、是非ともそうしてくれ」

 

 

 

 

 


 

ほのか達がエイミィと盛り上がっていたとき、達也は闘技場での一件の報告のため、部活連本部に来ていた。ばつが悪そうな顔をしている桐原も一緒だ。聞かれたのは最初から仲裁しなかった事と、壬生も魔法を使っていたという証言から、何故桐原だけを拘束したのかだった。

 

 

「仲裁に入らなかったのは、両者と周囲の反応から見るに、日常茶飯事だったようなので。怪我程度で済むのならば自己責任でしょう」

 

「確かにな、壬生と桐原はかなりの頻度でイザコザを起こす…正確には桐原がつっかかってるだけだがな。だが、今回は壬生も魔法を使用したのだろう?何故拘束しなかった?」

 

「…壬生が魔法を使ったのは自分が魔法を使ったことに対する、防衛行動です。魔法の不適切使用ではないので、連行されるのは自分だけでいいと判断し、コイツに壬生を拘束しないことを願ったんです」

 

 

摩利からの質問に答えたのは、前半こそ達也だったが、後半は桐原が自らの罪を自白する犯人のような顔でうつむきがちに答えていた。

 

 

「…魔法で他者に手を上げた以上、どのような罰も覚悟の上です!本当に、申し訳ありませんでした!」

 

「…顔を上げろ桐原。確かにお前は魔法を使ったが、怪我はさせていない。その点をふまえて、風紀委員としてはこれ以上の追訴をするつもりはない。十文字、お前はどうだ?」

 

 

自身の退学も覚悟の上で頭を下げた桐原に掛けられた言葉は、予想と反して温情的だった。

 

 

「風紀委員の処置に賛同する。せっかくの温情を無駄にはできんからな」

 

 

部活連会頭、十文字克人を前に、寛大な処置を受けた桐原は深く反省している顔で頭を下げ、達也はその存在感に驚愕していた。

その存在感は、別の意味で存在感浮立つバカ(橘総司)を例外に、今まででも一際大きい物だったのだ。

 

「(まるで巌のような人だな…)」

 

「達也君にも怪我はないみたいだし、一件落着ね!」

 

「そうだな、ではここで解散とする。また、桐原は明日もここに来い。処置の内容を言い渡す」

 

「承知しました!」

 

 

真由美の一言をきっかけに摩利が締めた。呼び出された桐原はと言うと、処罰されるとはいえ、退学は避けられそうで安堵したかのような表情をしていた。

 

 


 

部活連での報告が終わった達也は、その足で生徒会室に向かう。モチロン深雪の為だ。深雪を一人で帰らせるなど達也には到底許可できない事柄であった。

早く行かねば…と思案していた達也の目の前に飛び込んで来たのは、

 

 

「お兄様!」

 

「あっ、お疲れ~」

 

「お疲れ様です」

 

「よう!達也!」

 

「お疲れサマンサー!」

 

 

昇降口にて、妹と友人が自分を待ってくれていた光景だった。

 

 

「お疲れ様です!本日はご活躍でしたね!」

 

「そうでもないさ。深雪もご苦労様」

 

 

真っ先に達也に駆け寄り、賛辞を送る深雪。その頭を優しくなでる達也。その動作には友人二人がため息をつく。

 

 

「兄妹だって分かってるんだけどなぁ…」

 

「何かねぇ…」

 

「でも、絵になりますよ?」

 

「抱け!抱けぇー!」

 

 

兄妹の距離感ではないと遠回しに指摘するエリカとレオ、本気の感想を述べる美月、思いっきり最低なことを言い放つ総司に、深雪は赤面するのであった。

 

 

「みんなも、こんな時間まですまないな」

 

「いえ、私はクラブのオリエンテーションがついさっき終わったところですし」

 

「そうそう、コイツもさっきまで部活だったし、別に気にすることないわよ」

 

「そうなんだが、オメェが言うな!」

 

「いっぱい検挙してきたズラ」

 

「お兄様、此処は謝る場面ではありませんよ?」

 

 

深雪がイタズラっぽい笑みを浮かべていて思わず苦笑する達也。ちなみに本日の事件検挙率第一は総司である。

 

 

「みんなありがとう。それで、こんな時間だし何か食べて帰らないか?一人千円までなら奢るぞ?」

 

「おっ!マジか!」

 

「そこは1550でモリンフェン最強って叫ぶとこだろ…」

 

「モリンフェンってなんだよ…」

 

 

達也の申し出にレオが食いつき、総司が苦言を呈する。まあ、意味はよく分からんのだが。

 

 

「それじゃあ行こうか」

 

「よ~し!食べるわよ~!」

 

「がめついなお前」

 

「アンタもでしょ!」

 

「では…達也さんのご好意にあずからせて頂きますね」

 

「千円ギリギリを狙って達也に負担かけてやろ」

 

 

などと話しながら店に着く一行。食べ物を前にしたレオがふと達也に問う。

 

 

「そういえば達也、相手は二人とも殺傷ランクBの魔法を使っていたんだろ?よく無事だったな」

 

「『高周波ブレード』は有効範囲の狭い魔法だからな。触らなければどうとでもなる。真剣相手と同じだよ」

 

「…それって、真剣相手なんて簡単だって言ってるようなもんじゃない?」

 

「危なくないんですか?」

 

「うまい」

 

 

間近で見ていたエリカも、噂だけは聞いた美月も心配そうに達也を見ている。心配していないのは兄を信じ切っていた深雪と、ひたすらに「うまい」を連呼していた総司のみだ。

 

 

「お兄様相手に真剣では敵わないわよ」

 

「随分と余裕じゃない?」

 

「たいじゅ…お兄様が得意としている訳ではない剣技でも、お兄様に敵う相手は存在しないもの」

 

 

本当は「体術はモチロン」と言いたかった深雪だが、いささか同席に達也よりも明らかに体術がヤバそうなバケもん(橘総司)がいるため、言葉を修正した。

 

 

「確かに他の剣術部や剣道部じゃ達也君に勝てそうな人は確かにいなかったけど、壬生先輩と桐原先輩は明らかに別格だったよ?」

 

 

深雪の自信満々な物言いに、友人達は肯定しつつも疑問をなげかけていた。ちなみにこのあたりから総司が食事を終えて会話に混ざっていた。

剣技で云々はともかく、一科生相手に魔法技能で劣っている二科生である達也の事が心配にならなかったのかと不思議がっている。総司は「ブラコンは兄のことなら何でも知ってるんやで…」と訳知り顔だ。

 

 

「そうじゃないのよ。単にお兄様が優れているだけじゃないの」

 

「魔法式の無効化はお兄様の十八番なのよ」

 

「「「魔法式の無効化?」」」

 

「…へえー」

 

 

深雪の発言をオウム返しするエリカ、レオ、美月。三人は魔法式を無効化するような技術を、聞いたことがないからだ。ただ一人、総司だけが、意外そうな顔で驚いている。

 

 

「それって結構レアなスキルよね?」

 

「そうね。少なくとも高校では習わないし、教わったからと言って誰でも使えるようなものではないわ。エリカ、お兄様が先輩方の前に飛び出したとき、乗り物酔いみたいな感覚に襲われなかった?」

 

「確かに…私はそこまで酷くなかったけど、周りには気持ち悪くて立ってられない人もいたわね」

 

「そういや狩猟部の生徒がサイオン波酔いになったのも闘技場近くだったな」

 

「それ、お兄様の仕業よ。お兄様、キャスト・ジャミングをお使いになったでしょ?」

 

 

深雪に視線を向けられた達也は、誤魔化すことをせずに素直に認める。

 

 

「深雪には隠し事は出来そうにないな」

 

「深雪はお兄様の事なら何でも分かりますもの」

 

「どっかのカップルか?」

 

「まあ!カップルだなんて…その…恥ずかしいと言いますか…」

 

「あーはいはい、末永く爆発しててくれ」

 

 

二人の兄妹らしからぬ雰囲気に総司がツッコミを入れるも、満更でもなさそうな深雪に呆れて適当に流した。

 

 

「そ、そういえば深雪!今キャスト・ジャミングって言った?それって確か魔法の妨害電波のことよね?」

 

「電波じゃねえけどな」

 

「ものの例えよ!でもそれって特殊な石が必要なのよね?えっと…アンティなんとか」

 

「アンティナイトよ、エリカちゃん。でもアンティナイトはかなり高価なものだと思うんですが…達也さん、持っていらっしゃるんですか?」

 

「アンティナイト…?」

 

 

キャスト・ジャミングに必要であるアンティナイトを達也が所持しているのかと驚く美月。総司はそもそもアンティナイト自体を知らなかったようだが。

 

 

「いや、持ってないよ。あれは価格以前に軍事物資だからね。一般人が持てるものじゃないよ」

 

「でも、キャスト・ジャミングを使ったんでしょ?アンティナイトなしでどうやって…」

 

 

エリカの発言に達也は身を乗り出し、少し小さな声で答えた。

 

 

「これはオフレコで頼みたいんだが、俺が使ったのはキャスト・ジャミングの理論を応用した、特定魔法のジャミングなんだ」

 

 

この説明には深雪以外の四人がそろって首をかしげる。深雪は心底嬉しそうな顔で達也を見つめている。

 

 

「えっと…そんな魔法あったか?」

 

「無かった…と思いますけど」

 

「それってつまり、新しい魔法を理論的に編み出したって事じゃない?」

 

「そんなことよりおうどんたべたい」

 

 

驚愕したような反応を見せる四人…いや違うわ、総司だけ頭がパンクしてるわ。

と、言うことで、キャスト・ジャミングもどきの説明を達也が始めるのだが…此処では割愛させていただく。

 

 

「…そう言えば、総司も魔法を無効化していたよな?」

 

 

不意にコレは以前校門前で総司が行った魔法無効化の方法を聞き出すチャンスだと考えた達也は、「俺は説明したからお前もやれよ」と言う状況で、総司に問いただす。

 

 

「えっ!?総司君もキャスト・ジャミング使えるの!?」

 

「いや使えませんけど…」

 

 

間の抜けたような返事に思わずずっこけるエリカとレオ。

 

 

「だが、以前校門で一科と争った時に使っていたじゃないか」

 

「あー、あれかー」

 

 

だが、達也の説明に合点がいったのか総司が説明を始める。

 

 

「あれは魔法を無効化してるんじゃなくて、()()()()()()()()()()()()んだよ」

 

「…なんだと?」

 

 

総司から帰ってきた答えに、達也のみならず、この場の全員が凍り付く。

 

 

「魔法ってエイドスを改変して発動するけどさ、俺のは魔法じゃなくてエイドスに干渉することで魔法を、そもそも無かったことにするんだ」

 

「それって、発動してしまった持続時間の長い魔法も無効化できるってこと?」

 

「そうだな、例えば『一時間燃え続ける炎を出す』魔法があったとしよう。キャスト・ジャミングだと、既に発動してしまった魔法を止めることはできなさそうじゃん?でも俺のは魔法の発動を無かったことに出来るんだ」

 

「…それは、どういった条件で使用できるんだ?」

 

「うーんと、俺自身に干渉するものは当然として、俺が起こした物理現象にも同じ効果を付随できるぞ」

 

 

この総司に全員が言葉を失った。辛うじてレオだけが、総司のその力の意味をつぶやいた。

 

 

「それって、総司お前には…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法が効かねえって事じゃねえか!」




魔法科世界の秘匿通信

・雫は 明智を ライバル視 した!


・総司はとある事情により情報のムラが多い



はい、ということでね。
今回はあまりネタに走れませんでしたね。これからもっとふざけるから嵐の前の静けさって事で許し亭許して…

総司君の能力ですが、具体的に説明しますと、某禁書目録のツンツン頭の右手のように、世界を正しい状態に戻す事で魔法の発動を無かったことにします。

また、正常のにする対象は、ツンツン頭と同じ作品から一方さんの反射の設定のごとく、好きなように設定できます。自分の魔法が無効化されないのはコレが理由です。まあ、使わないんですけどね!

ちなみにこれは『異能』、つまりお兄様の『精霊の眼』と同じで先天的な技能です。『精霊の眼』がイデアに干渉するのに対し、総司はエイドスに干渉する能力となっています。


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入学編 その十

今回からとてつもない改変が起こります。

てーへんだてーへんだ!

それでもいいよ?って方だけご覧ください…


「アンティナイト、アンティナイトっと…」

 

 

先程仲間達に自身の能力を解説し酷く驚かれてしまった総司。あの後すぐに解散して帰宅した総司は、話題に上がっていたアンティナイトが気になって自宅にて調べていた。

 

 

「何々…?アンティナイトは一種のオーパーツであるレリックに分類され、高山型古代文明が栄えた地域にのみ産出される…か。達也の言うとおり、数が少ないんだな」

 

 

彼が今目を通しているのは民間人でも調べれば出てくるであろう基本的な情報だ。これだけでは普通に検索した結果を見ているだけだろう。しかしだ…

 

 

「なら、なんでこんなに日本に輸入された形跡があるんだ…?えっと、()()()()()?」

 

 

ブランシュとは、魔法師が政治的に優遇されている行政システムに反対し、魔法能力による社会差別を根絶することを目的に活動する反魔法国際政治団体である。ここだけを見れば、ニュースにでも出てきそうな組織だ。

しかしこのブランシュという組織、警察省公安庁から厳重にマークされている組織であり、日本においては報道規制が行われているため、少なくとも日本人は名前も知らないような組織である。

 

その実態は大亜細亜連合に関連するテロリスト集団であるのだが、ここでは割愛させていただく。

さて、このブランシュとアンティナイト、片やテロリスト、片やレリック、関係性がなさそうに見えて関係大ありである。

 

それはアンティナイトが魔法を妨害するサイオンノイズによりキャスト・ジャミングを行えることと、その発動には魔法的才能…所謂魔法演算領域が存在しない非魔法師でも、サイオンさえ保有していれば使えてしまう、という点が問題なのである。

 

総司が今閲覧している情報は、アンティナイトが不法なルートによりこの第一高校近くにかなりの数が輸入されている事を示すデータである。何故このような明らかに出回らないような情報を総司が得ているのかはさておいて、その輸入されたアンティナイトはとある廃墟に運び込まれており、そこは現在のブランシュ日本支部であることも表示されていた。

 

 

「ブランシュ日本支部のリーダー、司一には義理の弟がいて、ソイツの名前は司甲…第一高校の剣道部主将!?その弟が下部組織エガリテ、その構成員を一校の生徒達から集めて、近くその手引きで第一高校を襲撃、国立魔法大学の機密文献の強奪を行う…!?なんてこった、学校がテロリストに侵食されてんじゃねえか!」

 

 

総司は今までに無いほど真面目な顔で戦慄していた。彼はとある事情により、こうした表沙汰にはされない裏の情報を知る事が出来るが、自分から探そうとしなければ見つけることが出来ないのだ。今回達也達の会話にアンティナイトという単語が出ず、自分が興味を引かれていなかったならば高校は手はず通りに襲撃されていただろう。

 

第一高校のみならず、魔法科高校は往々にして小国の一軍隊程度ならば退けられる程の力がある。しかし負傷者が出ないと言うわけでも無い。自分がこうして知ってしまった以上、行動を起こさねばならぬ。そう考えた総司はブランシュが拠点にしている場所の詳細を検索した。

 

 

「よし、あらかたプランは出来たぞ、後は実行だけだな…」

 

 

何のプランかはさておいて、どうやら総司はブランシュに対して何か策を講じるつもりらしい。学校側を説得しての防衛強化であろうか、この時点でそれを知るのは、総司のみ。そして翌日、ある意味可哀想で、ある意味よかったとも言える二人が、このプランの詳細を知る事になるのだった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまなかった、壬生!」

 

「いいっていいって、ついカッとなっちゃったんでしょ?」

 

 

翌日、桐原は壬生に昨日の自身の行いを謝罪していた。対する壬生も、全く気にしていない様子であり雰囲気は険悪では無い。むしろこの二人はこの高校における「なんで付き合ってないのこの二人?」選手権ぶっちぎりの第一位であるほど親しい間柄だ。だが二人にはその自覚が無いため、カフェテリアで会話している現在、男女問わず此方を見てニヤニヤしている理由が分かっていない。

 

 

「だがお前を傷つけてからでは遅かったんだぞ!?この程度の謝罪では俺の気が済まない!」

 

「そっか…じゃあ、ちょっと悩みを聞いてくれないかな?」

 

「ああ、モチロンだとも!俺で良ければいくらでも力を貸そう!」

 

 

尚も引き下がらない桐原に対し、壬生は悩みを聞いてもらうことで手打ちにしてもらおうとしたのだ。これには贖罪ができると桐原は飛びつく。

そして壬生が話し出した。

 

 

「なんかね、うちの主将の様子が最近…いえ、私が入学してからおかしいのよ」

 

「なんだと?あの男は危険な奴と言うことか!?それはいかん!すぐさま剣術部への転部を…」

 

「待って、落ち着いて桐原君」

 

「す、すまない…それで、どのようにおかしいのだ?」

 

「なんかね?二科生の生徒とかを『エガリテ』って言うちょっとした組織っぽいものに勧誘してるのよ。多分私以外の剣道部の生徒はみんな所属していると思う」

 

「二科生を…?一科生には勧誘しないのか?」

 

「うん。聞いた話だと「魔法ばかりが我々の地位を決めるファクターではない」…って理念らしくて、そんなの一科生には認める人少ないだろうし、だから一科生は勧誘してないんじゃないかな?」

 

 

壬生の相談事はどうやら不穏なものだ。桐原は口にこそ出さなかったが、その『エガリテ』なる組織の理念は、強めに言うと反魔法主義の主張に一致すると考えていた。その『エガリテ』という組織が反魔法的であったとして、魔法科高校から構成員を集める理由は何なのか…そう思案していた桐原。

そんな桐原と壬生に声を掛ける人間が一人。

 

 

「話は聞かせてもらった!」

 

「うおっ、何だお前!?」

 

「いつの間に…!」

 

 

そこにはいつからいたのか、総司が立っていた。一科生内部でもかなり実力が高く、純粋な剣技ならばこの学校の三巨頭の一人、風紀委員長渡辺摩利をも凌ぐ二人に悟られること無く接近してきていた。

二人は総司の肩を見て紋章が無いことに驚愕し、腕につける腕章で合点を示す。

 

 

「なんだ…?最近は二科生を風紀委員にするのが流行ってんのか…?」

 

「昨日の子も二科生だったよね」

 

「いや、自分は臨時なんで」

 

「それでも風紀委員に選ばれてんだ。お前相当な実力だろ?」

 

「いやー、それ以上ですねー」

 

「なんだコイツ」

 

「フフっ、面白い子ね」

 

 

先程まで不穏な会話をしていた二人は、総司の登場でどこか雰囲気が緩んでいた。

 

 

「てか、お前誰だよ。近づいてきたって事は俺達の事は知ってんだよな?」

 

「そうね。でも一応自己紹介しましょうか。私は壬生紗耶香。彼は桐原武明君。あなたは?」

 

「よろしくお願いしますお二方。俺の名前は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

徳川家第十四代目将軍・徳川茂茂である」

 

「いや将軍かよォォォォォォォォォ!?」

 

 

突如として叫んだ桐原にカフェテリアにいた全員がギョッとした様子で振り向く。状況に気づいた桐原は居心地悪そうに座り直す。

 

 

「いやビックリしちまったじゃねーか…で?ホントの名前は?」

 

「橘総司です」

 

「総司君ね、よろしく。それで、私達に一体何の用?」

 

「お二人が先程まで話されていたことが気になりまして」

 

「ふーん。だとよ、壬生」

 

「じゃあ、話すね。でも長くなりそうだし…かくかくしかじか、なんちゃって!」

 

「まるまるうまうま、なるほど大体分かりました」

 

「は!?嘘だろ今のでか!?」

 

「えっと、単にふざけてみただけなんだけど…じゃあ、なんて言ったか分かる?」

 

「剣道部の主将が奇妙な団体に二科生を勧誘してたって事ですよね?」

 

「なんであってんだよ…」

 

 

実際は総司は常人より三倍ほどの聴覚を有しており、バレないように聞き耳を立てることが得意であるため、二人の会話を普通に聞いていたのだ。

 

 

「それでですね?そのエガリテという団体、実は…」

 

 

そう話を切り出した総司は昨日調べたことについて話した。

 

 

「つまり、このまま放っておけば、ここが危ないって事か…」

 

「そんな…!どうすればいいの!?」

 

「対処法となるプランは考えました。それを実行すれば襲撃は未然に防げるかと」

 

「そんな方法があるのか!?」

 

「是非とも教えてちょうだい!?」

 

 

危険を回避できる…などと言われては聞きたくなるのは常だ。自分から聞いた、という大義名分を得た総司は顔に怪しい笑みを浮かべながらその案を二人に話す。

 

すると総司にも予想外の事態が発生する。確かに二人とも驚愕こそしたが、意外にもその案に乗り気らしい。これには総司の方が驚いた。

 

 

「なるほど、確かにそれが一番手っ取り早くていいな」

 

「襲撃はもう近いんでしょう?なら早めに行動に移した方がいいわね」

 

「そうですか、では明後日を使って決行します。お二人にも協力していただきますので、学校は休んでください」

 

「仕方ないか…これも学校を守るためだ」

 

「ここまで聞いておいて無関係では居られないわ」

 

「では明後日、オペレーション:SSを実行します!」

 

 

思えばもうこのバカに賛同してしまっている時点で、壬生も桐原も手遅れだったのかもしれない…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

作戦当日…ブランシュ日本支部が拠点としている場所にの前に、三人の人影が見える。

 

 

「ここがそのブランシュって組織の隠れ家なのか」

 

「ここからじゃとてもそうには見えないけど…」

 

「そりゃそうでしょ。外から見てバレてたら、とっくに検挙されてますって」

 

「それもそうか…」

 

 

その人影は、橘総司、壬生紗耶香、桐原武明であった。三人はブランシュの拠点を鋭く見つめている。

 

 

「長話もなんですし、さっさと始めましょう!オペレーション:SS!作戦開始!」

 

「「了解!」」

 

 

 

オペレーション:SS…「()面突破で()ばき倒す」の略称である。

 

 

今此処に、人知を超えた超人と、超一流の魔法剣士二名による、テロリストの殲滅作戦の火蓋が切られたのだった!




魔法科世界の秘匿通信


・原作では七名に与えられた権限が、この世界では総司にも与えられている。


・壬生と桐原は総司と出会って頭がハジケてしまった。



ああ~、原作が崩れる音~!


と言うことで、次回入学編最終回です。討論会?そんなもの犬にでも食わせておけ!


先に謝罪をしておきます。壬生、及び桐原ファンの皆さん。誠に申し訳ありませんでした。


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入学編 最終話

遅くなったぜ!

遅くなったにも関わらず関係の無い話ですが、先日スマホを変えた私はマシンスペックによる問題でプレイできなかったプロセカを始めました。

その中でも草薙寧々ちゃんというキャラが本当に好みで、「トレーナー?」!?


「ソノオンナノヒト、ダレ?」

ち、違うんだテイオー!コレには訳が…!


「ボクイガイノオンナニナビクナンテ…お仕置きが必要みたいだね?」

ヤメロー!シニタクナーイ!シニタクナーイ!


という、担当ウマ娘とプロセカでの推しの声優が同じってだけで思いついたネタです。

すいませんでした、本編どうぞ。


「すいませーん、ピザの配達に来たんですけどー」

 

 

ここはブランシュ日本支部のメンバーが拠点にしている廃墟である。そんな場所に間の抜けた男の声が響く。

 

 

「…ピザだと?そんなもの誰も…」

 

「あっ!やっぱりアナタが注文されたんですね!もう~こんな山の中に呼ばないでくださいよ~」

 

「…頼んでは無いんだが…?」

 

「えー?でも確かにここに届けるように言われてるんですよね-」

 

 

その男は自身をピザの配達員だと名乗り、廃墟の門番をしている二人のうちの片方にウザがらみしている。

やがて絡まれている門番はめんどくさくなったのか、財布を取り出し男に問う。

 

 

「まあいい、中の奴が頼んだんだろ。いくらだ?俺が代わりに払う」

 

「そうですか!代金は頂きません!頂くのは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

君たちの命SA☆」

 

 

途端配達員と名乗る男は門番に強烈なパンチを繰り出す。そのあまりの威力に門番は背後にある壁まで一直線に飛んでいった。

もう一人の門番がギョッとして振り返ると壁からずり落ちてグッタリとする同僚の姿が映る。どうやら気を失っているだけのようだ。

 

そのことに安心したのも束の間、そもそも下手人が己の近くに居ることを思い出し、急いで向き直る…が

すでに男の拳は目の前に迫っており、門番を捉えながら高く振り上げられていた。哀れ門番、彼はギャグ漫画のワンシーンのように天井に突き刺さってしまったのだった。

 

 

 


 

 

「ヨシ!(現場猫)完璧なステルスキルだったな!コレには某段ボールに住まう蛇もビックリだぜ!」

 

 

先程の愚行を犯して門番を排除したにも関わらず、あたかもステルスでした!という雰囲気を出しているのは我らがオリ主橘総司だ。

 

 

「お前!何やってんだよ!正面突破とは言ったが、ここからなのか!?」

 

「そりゃそうでしょ、何言ってるの桐原君?正面突破なんだから正々堂々と玄関口から殴り込むのが当然でしょ?」

 

「…それもそうだな、俺が間違ってた。だが総司!これ以降今みたいな独断専行はするな!」

 

「俺あいつらが持ってた銃ごとき効かないんで問題ないっすよ」

 

「そうか、なら安心だ」

 

 

慌てて追いついた桐原と壬生を合わせて三人でコントを始める総司。しかし、ギャーギャー騒いでいたのと、壁や天井に何かがぶつかった音がしたので他の兵士が降りてきていた。

その兵士の目には壁に寄りかかり寝ている同僚、天井に首から突き刺さっている同僚を尻目にバカ騒ぎする高校生という字面では非常に理解に苦しむ光景が映った。

 

 

「…それで…あっ」

 

「「?…あっ」」

 

 

会話をしていた三人はどうやら新手に気づいたらしい。しばらく見つめ合う兵士と高校生達。

 

 

「…し、侵入者だー!?」

 

「畜生!叫ばれた!」

 

「他の敵も来るはずよ!」

 

「やってくれましたわね!?」

 

 

上から兵士、桐原、壬生、総司の順だ。総司の口調がお嬢様風味になっているのは置いといて、総司が相手を超速で殴り飛ばすよりも早く、兵士の叫びは廃墟中に響き渡った。

慌てたような足音が複数、恐らく敵の援軍だろうか。

 

 

「おい!敵が来るぞ!どうするつもりだ!?」

 

「落ち着いてください桐原先輩、まだ慌てるような時間じゃありません。俺達が慌てるのは今日の夕飯を考える時だけで十分です」

 

「まだお昼時なんだけど…」

 

「ツッコミどころはそこじゃ無いぞ、壬生」

 

 

大量の敵が来るというのに、三人は余裕の表情をしていた。桐原と壬生はまだ僅かに不安感が残っているが、この後輩ならば大丈夫だろうという謎の安心感も持ち合わせているためだ。ちなみに総司は本当に余裕としか思っていない。

 

 

「いたぞ!奴らだ!」

 

「撃て撃てー!」

 

「!先輩方は俺の後ろに!」

 

「分かった!」

 

「でもどうするの!?」

 

「まあまあ、見てロッテブルガリアヨーグルト!」

 

「ブルガリアヨーグルトって何だ!?」

 

「何かは分からないけれど、なんとなくそれって明治?な気がするのよね」

 

 

その言葉の後にブランシュ側の兵士達が銃を乱射する。先輩二人は背後の障害物に隠れた故、棒立ちの総司を狙って放たれたそれは、総司の体に命中しても儚く弾かれている。

それを魔法師ではない兵士達は魔法防御によるものだと考え、息切れにさせようとさらに弾幕を厚くする。総司にはこの程度の銃弾効かないので、全くの無意味な行動ではあったのだが。

 

弾丸の雨の中、総司は弾かれて地面に落ちた弾を一つおもむろに拾い上げる。そして大きく腕を振りかぶりー

 

 

「ピッチャー第一投目、投げます!スリー!ツー!ワン!GOシュート!」

 

 

と言うかけ声と共に思いっきり投げ放った!

弾丸は銃から放たれた時よりも遙かに速いスピードで、兵士達を吹き飛ばしていく!吹き飛ばされなかった者達もこの光景には思わず唖然。そんな隙を総司は見逃さない。

 

 

「桐原先輩!壬生先輩!ジェットストリームアタックをかけましょう!」

 

「了解!」

 

「分かったわ!」

 

 

総司の呼びかけと共に隠れていた二人が飛び出してくる。

 

 

「「「ジェットストリームアタック!」」」

 

 

三人は掛け声と共に同時攻撃を仕掛けた!

壬生の攻撃は剣道部らしく竹刀を用いたものだ。美しく、洗練されている技は、喰らった兵士達をたちまち昏倒させていく。

 

桐原のは荒々しく、しかし研ぎ澄まされた剣技による真剣と高周波ブレードの斬撃で兵士の腕などを切り飛ばし、気絶させていく。

 

総司は状況がつかめないままの兵士達を拳で!(21歳)殴り飛ばしていく。そこには技も美しさも微塵も無い、ただの暴力である。一番酷い。

 

そんな三人の猛攻に非魔法師の兵士達が耐えられるはずも無く、あっという間に鎮圧された。

 

 

「すげえな総司!あの投げた弾丸で一気に吹っ飛ばしやがって!」

 

「弾丸じゃ無いです、ボールです」

 

「そ、そうか。じゃあボールで…」

 

「ボールじゃ無いです。ベイブ○ードです」

 

「オィィィィィィィィ!さっきからボールだとかベイブレ○ドだとか変えてんじゃねえよ!つか何だよベイ○レードって!」

 

「もう、桐原君?そんなに怖いと嫌われちゃうよ?それでさっきのって結局なんなの?」

 

「バニシングドライブです」

 

「オィィィィィ!?今度は黒子が始まってんじゃねえか!幻の六人目(シックスメン)になっちゃってるよ!」

 

「でも、魔法じゃ無いのよね?純粋な身体能力だとしてもどうやって手に入れたのか…」

 

「企業秘密です」

 

「なんだ?お前の家の秘術かなんかなら聞かないが…」

 

「分かったわ!」

 

「何がだよ!?ヒントとか何も…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ズバリ!妖怪のせいね!」

 

「オイオイオイオイオィ!中身!(戸松遥)中身出ちゃってる!(天野ケータ)早く引っ込めなさいそれ!さっさとしないとオレっち、友達、福は内しちゃうから!」

 

 

中身が出てるのはお前もだと(坂田銀時)声高に言ってやりたいが此処はこらえて。

だがまだまだブランシュ攻略は始まったばかりだ。というわけで…

 

 

 

皆様の為にぃ~、

 

 

 

司一戦までダイジェストでお送りします。

 

ブランシュ攻略RTA、もう始まってる!

 

 

 

 


 

 

その後配置されていた兵士達をボコボコにしながら進んでいく総司達。

 

するとここでキャスト・ジャミングを浴びせる不届き者が現れます。

桐原と壬生はダウンしてしまいますが、総司は平気な顔で立っています。

 

 

「な、何故キャスト・ジャミングが効かない!?」

 

「俺の体全体にストレッチパワーが貯まっているからだよ!」

 

 

訳の分からん発言をしながら歩み寄る総司。総司は懐から何かを取り出した。

それは何かの箱だ。見たところ食品らしきものだ。総司はその箱から包装された物を取り出し、さらに包装を解いてから振り上げた!

 

 

「カロリーメイトチョコ味のなんかこう角張っている部分をクラエー!」

 

「があっ!?」

 

 

総司が手に取ったのはカロリーメイトだったようだ。総司はそれを思いっきり敵の頭に叩きつける。

あまりの威力に敵は卒倒するが、そんな威力でぶつけられたカロリーメイトも耐えられるはずも無く、ボロボロに砕け散った。

 

 

「ちょ、チョコ味ー!?」

 

 

唐突に始まる茶番。

 

 

「おいどうしたんだよチョコ味!お前帰ったらプレーンの奴と結婚するって言ってたじゃないか!」

 

 

兵士達はいきなりの展開に頭が追いついていない。

キャスト・ジャミングのダメージから回復した桐原と壬生はその光景に涙を流していた。何やってんだこいつら。

 

 

「チョコ味をこんな目に遭わせやがって…!ブランシュ絶対許さねえ!ミツザネェ!」

 

「いやお前がやったんだ…」

 

「うるせえ!」

 

「グボっ!」

 

 

殴り飛ばされる兵士。周囲は戦闘体勢に入るが、もう遅い。

 

 

「コレはバラバラになっちまったチョコ味の痛みの分!」

 

「ぐはっ!」

 

「コレは大事な人を亡くしたプレーンの悲しみの分!」

 

「ごばっ!?」

 

「そしてこれは…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カロリーメイトを食えなかった俺の憎しみの分だぁー!」

 

「「「お前がやったんだろ!?ぐわあー!」」」

 

「そして最後に!」

 

「何があるってんだ…!」

 

 

 

 

 

 

「カロリーメイトが結婚って何だー!?」

 

「「「いや知らねーよ!?うわぁー!」」」

 

 

これはひどい。

近年まれに見る責任の押しつけである。

 

 

「…敵は取ったぜ、チョコ味…」

 

 

それはお前なんだよなぁ…

 

 

 

 


 

 

「よくもやってくれたな、貴様らぁ!」

 

 

三人が広場のような部屋に入った時、激昂しながら現れたのはこのブランシュ日本支部のリーダー司一だ。

 

 

 

「いやー、それほどでもー」

 

「褒めてなどいない!よくも我が同胞達を…!」

 

 

仲間が大勢やられてしまった事に激しい怒りを見せる司。ここだけ見れば彼が主人公である。

 

 

「…だが、お前達の実力はよく分かった。ここでお前達を手に入れれば、並の高校生ごとき、相手になどならん!」

 

 

司は連れていた兵士達を下がらせ、一歩前に出て、髪をすくい上げる。

 

 

「見よ!これが我が魔法!『邪眼(イビルアイ)』だ!」

 

 

そう言った司の目が光りだす。

 

 

「何だ…これっ!?」

 

「自由が…効かない!?」

 

 

桐原と壬生が驚く。どうやら彼らにも対処不能の魔法のようだ。

 

 

「我が邪眼を防ぐことなどできん!さあ、我が僕となれー!」

 

 

邪眼(イビルアイ)』。

マインドコントロールの効果があるとされる魔法である。光波振動系の系統魔法と、精神干渉の系統外魔法の二種類がある。

並大抵の魔法師では扱えず、使えても光波振動系…所謂偽物とされるものしか展開できないのだが、どうやらこの司という男、()()()邪眼を使っているらしい。

事実先程の言葉を最後に、桐原と壬生は何も言わなくなった。

 

 

「ふははは!やはり、我が邪眼からは逃れられ…」

 

「お二人とも、寝てないで起きてください」

 

「…は?」

 

 

ただ一人、総司だけが動き二人の肩に手を置く。その瞬間、司は自身の発動した邪眼が効果を失う…つまり、二人にかけた洗脳が解けたことを理解してしまった。

 

 

「…はっ!?今の一瞬、俺は何を…」

 

「どうやら精神干渉系の魔法でしょう。お二人には効いてしまうので下がってください」

 

「総司君は…?」

 

「俺には効かないんで」

 

 

それを聞いた二人はこの部屋の入り口の辺りまで魔法を使って退却した。

 

 

「な、何故邪眼が!?この化け物め!」

 

 

司が狼狽していることに焦りを覚える兵士達。しかし腐っても訓練された者達だ。リーダーの策が失敗したと悟り、目の前の敵に銃を向けた。

今だ兵士達は総司の防御のトリックを魔法シールドによるものだと考えているようで、今までの中で一番兵士の数が多いこの状況ならば倒せるだろうと銃を乱射した!

 

その時!総司はふと、()()()()()()()()()を装着した!

 

 

「やってみせてよ、総司君!」

 

「何とでもなるはずだ!」

 

「ガ○ダムだと!?」

 

 

 

 

 

 

₍₍(ง )ว⁾⁾

 

そう言うと総司は奇妙な踊りを踊り始めた!

 

₍₍ᕦ( )ᕤ⁾⁾ ₍₍ʅ( )ว⁾⁾

 

₍₍ ⁾⁾

 

₍₍ ⁾⁾

 

それはこちらでは一般的に『マフティーダンス』と呼ばれている。

 

₍₍₍(ง )ว⁾⁾⁾

 

この踊りは謎の力により、弾丸を全て回避することが出来るのだ!

 

₍₍ᕦ( )ᕤ⁾⁾ ₍₍ʅ( )ว⁾⁾

 

事実、総司には一発も弾丸は命中しない。

 

₍₍ ʅ( ) ʃ ⁾⁾

 

 

唐突に奇妙なダンスを踊り始めた総司に対して、それに構わず兵士は銃を撃ち続けるが、先程まで命中はしていた総司に全く当たらない!

こんな奇妙なダンスをしている奴一人に当てられないことに、兵士達は悔しさよりも恐怖が勝る。

この男は何なのかと。

 

兵士達を代表してか司が声を上げる。

 

 

「何なんだお前はぁ!?」

 

「騒ぐな…神経が苛立つ…」

 

 

その声音は普段の総司からは考えも付かないほど低いものだった。

 

 

「お前達が知るのは、このマフティーが友を傷つけようとしたお前達に断罪を下したことだけだ…!」

 

 

その言葉を最後に、姿がかき消えるほどの速度で動いた総司がその場にいた敵を全て沈黙させたのだった…

 

 

 


 

 

「はいもしもし…どうしたのですか?お父様?」

 

 

第一高校生徒会室、ここで真由美は衝撃の話を聞かされる。

 

 

「ブランシュ日本支部のメンバーが…渋谷のスクランブル交差点に縛り付けられている!?」

 

 

その後無事警察に保護という名のお縄についたブランシュ達、当初は口を誰一人割らなかったが、リーダーの司一の服に入れられていたメモの通り、警察官がカボチャをかぶったところ、おびえた様子で全てを自白したのだった。




魔法科世界の秘匿通信


・あの後アイネブリーゼでご飯食べた。


・実は総司めっちゃキレてた



はい。


はい。


ハジケましたね。今までで一番書くのが楽しかったです。


次回は以前の描写にある総司と雫のデーゲフンゲフン、散歩の話を書きます。その後に九校戦編です。


あと、カボチャ映ってないけど脳内で補填してください。
ダイジェスト云々は言いたかっただけです。

書き忘れていましたが、今回ブランシュのリーダーが強化されてます。光波振動系の偽物では無く本物の邪眼です。

でもコレ逆に総司に対して不利なんですよね。精神干渉系はまだまだ謎が多いとされていて作者の主観および考察の範囲ですが、対象のエイドスに干渉するものではないかと考えました。

すると総司の無効化の範囲に入ります。エイドスを正常にすれば洗脳が解けるから。
実は光波振動系のままだと逆に総司達負けてました。あくまで目が光ってるだけですからね偽物の方。洗脳はサブリミナル効果によるものなので総司じゃ無効化出来ません。目が光ったのを見て洗脳されてしまうから、総司の『異能』の範囲に入んないんですよね…


追記:運営様からマフティーダンスに使った歌詞にダメ出しされました故、表現で想像して頂きたく存じます。


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番外編 二人の散歩 前編

前回思いっきり運営様に叱られましたので、歌ネタは控えます。

しかし聞かせてくれ。何故バジリスクタイムはオッケーだったんだ…
本当にご心配をおかけしました。

今回はデー…散歩回なので総司君のボケは控えめです(当社比)


これは部活勧誘期間が始まる少し前…

 

 

北山雫は高校入学早々に巻き込まれたトラブルに際して出会った男子生徒、橘総司のことが気になっていた。

別に好きだとかそんなんじゃ無い。ただ一科生をあの一瞬で黙らせたあの身体能力が気になっているだけであり、学校で見かけたときはついついそちらを見てしまうが別に好意は抱いてない…というのは本人の談だ。

 

だが今彼女にとって重要なのは下着を見たことに謝らないどころか色をバラしやがったあの男の事などではなかった。

彼女が眺めている端末には『今話題の大人気スイーツ!』という見出しがついたネット記事が映っている。どうやら彼女はその記事で興味をひかれるようなスイーツを探しているようだ。

 

やはり女子というものはスイーツを好むのだろう(偏見)、彼女もそれは変わらないようだ。そして彼女が一際興味を持ったのは最近オープンしたクレープ屋だ。

だがその店の場所は自身が住むこの場所から少し遠い位置にあった。確かに気にはなるが、クレープ一つのためにわざわざ足を運ぶというのも…と彼女は下にスクロールしようとしたが、

 

 

ピコン♪

 

 

「!?…何、これ」

 

 

唐突に端末がメッセージウィンドウを表示した。雫は驚くも、ほのかが送ってきたのだろうと送り主を見る。するとそこにはほのかの名前は無く、非通知のアドレスからのメールだった。

こんな怪しいメール、本来ならばハッキングを警戒して開かないのが一般的だ。それは雫も分かっているため、メールを削除しようとする。だが…

 

 

「えっ!?何で?開いていないのに…!」

 

 

雫が削除の操作をした瞬間、そのメールが開かれてしまったのだ。消そうとしたのに開いていることに何が何だかという表情をする雫。ちなみに、これは彼女には知り得ないことだが、このメールには細工がしてあり、通常の操作は勿論のこと、削除の操作でもメールが開くように設定されたものだった。

 

 

「…何このメール」

 

 

ハッキングされてしまうと慌てた雫だったが、その形跡は一向に現れない。本当にただのメールだったようだ、仕掛けはハッカーのそれだが。

そしてそのメールにはこう記されていた。

 

 

『明日、この公園に行くといい。君にとって大事なものが見つかるはずだ。ついでにクレープも楽しんでくれ  byRC』

 

「ここって…」

 

 

そのメールには位置情報が添付されており、それが示すのは何の変哲も無いただの公園だった。ただ一点、今雫が食べたいと思ったクレープ屋の近くにある公園であるという点は疑わしい。メールには『クレープも楽しんでくれ』とあった。となると送り主は雫がこのクレープに興味がひかれたことを知っていたかのようだ。

 

普通ならば、誘拐などを警戒して行かないだろう。特に大企業、『ホクザングループ』の社長の娘である彼女は。だが、彼女はこの時、何故かここに行ってみようと思ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

時間は進み翌日。

雫はメールの通りにクレープ屋近くの公園にやって来ていた。

 

距離がある、という考えで彼女はしっかり朝食を取ったのだが、予想以上に早く着くことが出来た。まだクレープを食べる気にはなれなかった。

なので、昨日のメールの意味を知るため彼女は公園の敷地に入る。

 

だが、特段目を引くものなどない。強いて目につくと言えば子供達が、所謂戦いごっこ、のようなもので遊んでいる事ぐらい…

 

 

「…?…!?な、何やってるのあの人?」

 

 

雫が目にしたのは遊んでいる子供達を木の陰から見つめている男…体格は高校生くらい、顔からして年齢は雫と同じくらい…などと考察するまでも無い。雫は彼に見覚えがあった。

木の陰にいたのは先日自分に恥をかかせたくせに何故か本気で怒れなかった相手、橘総司だったのだから。

 

雫はそんな彼に疑いの目を向けていた。「彼はもしかしてショタコンという奴なのでは無いか?」と。確かにこの光景は異常だ、その疑いも無理は無い。だが、雫には謎の安心感…いや、信頼と言ったほうがいいだろうか?彼を異常性癖の持ち主だとは本気で考えることはなかったのだ。

これもやはり、出会ったばかりの学友に向けるものではない、普通初対面に近い相手にそんな感情を抱けるはずはなかった。しかし、雫はそんな彼を見ても警察に通報する用意をしなかった。

 

すると、子供達に変化が表れる。拮抗した戦いを演じていた二人の男の子の内一人が押され出したように見える。見えるだけだ、なにせごっこ遊びなのだから。

そしてその不利になっている(ように見える)男の子が木の陰に総司を見つける。

 

普通不審者を見つけてしまってその不審者が隠蔽の為に男の子を襲う…そんな状況を想定すべきだろう、そんなことは滅多に無いのだが。だがやはり、雫は子供では無く、変質者の疑いを受けるだろう総司を心配する。声をかけてフォローをしようとするよりも早く、子供が声を上げてしまった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダディヤナザン!ナズェミィティルンディス!?」

 

「!?」

 

「……」

 

 

その男の子はいきなり訳の分からないことを言い出した。あまりの予想の出来なさに驚愕する雫、叫ばれたにも関わらず変わらずに男の子を見つめる総司。

 

 

「アンタトデューレハ!ナカマジャナカッタンデ、ウェ!」

 

「……」

 

 

男の子がもう一人の男の子に追撃されているにも関わらず総司を説得(?)している。しかし総司は尚も答えない。

 

 

「ナジェダ!ナジェダ!ダディヤナザン!オンドゥルルラギッタンディスカー!?」

 

「……」

 

 

男の子の再三の問いかけにも答えず総司はその場を離れていく。慌てて雫は総司を追いかけた。

 

 

 


 

 

「ねえ、橘君」

 

「うん?あれ?雫ちゃん?」

 

 

総司に追いついた雫は彼に話しかける。すると彼は雫が此処にいることに驚いている様子だ。

 

 

「さっきのあれ…何?」

 

「さっきのって…ああ、あれか。見てたのか?」

 

 

総司は理解出来ないと言う顔をしながら答える。

 

 

「今あの子達の間で『先輩に裏切られて絶望しながらもギリギリのところで敵に勝つヒーロー』ごっこが流行っているみたいでさ、その先輩役だったんだよ」

 

「何それ、マニアック過ぎない?」

 

「同感だね」

 

 

今時の子供って不思議だ…などとぼやく総司をジーッと見つめる雫。その瞳には隠しきれない熱があった。本人と総司は気づかないだろうが。

 

 

「ところで、雫ちゃんはどうしてここに?俺はこの辺りに住んでるんだけど…」

 

「っ!…そうなんだ、私は届いたメールがここに行けって書いてあったからかな」

 

「メール?なんだそりゃ?」

 

 

雫が昨日、知らないアドレスからのメールを受け取った話をした。

 

 

「で、そのメールには送り主のイニシャル…なのかな、RCって書いてあった」

 

「RC…レイモンドの奴、何考えてやがる…?

 

「もしかして…知り合い?」

 

「俺の予想してる限りじゃな。次からはそんな変なことしないように言い含めとくよ」

 

 

そうして話している内に二人はクレープ屋に着いた。二人がそれぞれ欲しいものを注文した後、ふと雫が問いかける。

 

 

「今日はどこかに出かけるの?」

 

「え?なんで分かったんだ?」

 

「…?ごめん、私にも分からない」

 

「なんとなくってヤツか」

 

 

総司の格好は全身が黒一色ではあるが、不思議と不審者感はない服装をしていた。さすがにこれで子供を眺めていたら不審者であるが、町中を歩く分には特に問題ないような格好だ。

そのことを問われた総司は驚くが、実のところ問いかけた雫本人もよく分かっていなかった。これは後に雫本人が「アレは乙女の勘」と証言するのだが。

 

ともかく総司はよそ行きの格好だった。少なくともあの公園で遊ぶだけが目的ではなさそうだ。

 

 

「ちょっと知り合いと飯食うことになっててよ、時間は夜だからその間までこの辺りふらついていようかなって」

 

「…その格好で?」

 

 

先程総司の姿は不審者には見えないと言ったが訂正する。さすがにこの服で徘徊は不審者だ。そのことを雫は総司に伝えた。

 

 

「デジマ!?そっかーもっとラフな格好がよかったかなー?」

 

「住宅街を歩くのだけが目的ならね」

 

「でもなー、雫ちゃんみたいなかわいこちゃんに見せるんならこれぐらいの格好の方がよさそうだなって、今思った」

 

 

途端、雫の顔が紅潮する。可愛いと言われたことに対してだろうとは雫本人も分かっていたが、何故ここまでの反応を自分がしているのか分からなかったのだ。

 

 

「…そういう事は女性の前ではあんまり言わない方がいいよ、特に面と向かっては」

 

「え?なんで?褒めてるだけなのに?」

 

 

照れ隠し…と無意識のうちの独占意識が雫を動かし、総司に警告する。しかし、総司にはいまいち届いていないようだ。

 

 

「…あ!デザインあ!」

 

「…どうしたの?いきなり」

 

 

唐突に総司が「思いついた!」と言う顔をする。問いかけた雫に総司はこう答える。

 

 

「俺が今一人だと不審者に見えるんだろ?ならさ…

 

 

 

 

 

 

デートしようぜ!雫ちゃん!」

 

 

「…え?」




魔法科世界の秘匿通信


・今回総司がデートという単語を使っているが、冗談のつもりであるため彼はこの出来事をデートとは認識していない。


・総司が子供達にダディヤナザンと呼ばれているのは、初めて総司が公園に顔を出したときに子供達の保護者…つまりご近所さんに挨拶したとき、その人物が風邪気味で声が枯れていて、こう聞こえてしまったのをずっと総司の本当の名前だと勘違いしているため。


なんか長くなったんで前後編、もしくは前中後編にします。


はよリローデット・メモリさせてくれ


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番外編 二人の散歩 後編

今回散歩とかいいながら重めの話です。

どれくらいかと言いますと、総司君一切ふざけません。やばくね?

ほぼ総司君の過去のちょこっと説明みたいな内容なので、次回からの九校戦編までの繋ぎぐらいで見てください


眠い


ここはある住宅街の路地裏…

 

 

「…はい、こちら『黒』。対象Aを視認しました…いかがいたしましょうか」

 

『…周囲に人が少なくなってから仕掛けろ。奴は拳銃ごときでは殺せない。その上直接の魔法攻撃も通用しない。その点を忘れるな」

 

 

そこにいた人影は少女と仲睦まじく話している男、橘総司を見つめながら電話越しの相手に問う。すると相手は彼を始末しろと命令するではないか。

 

 

「しかし、どうやら対象は女性と共に歩いています。人が少なくなろうと、女性に気づかれるでしょう」

 

『…ならば、その女とやらを()()()()()()()()。流石のあの男でも動きを止めざるを得ないだろう』

 

「承知いたしました」

 

『期待しているぞ』

 

 

そう言って人影と相手の電話は切れた。

ここには人影がいる…しかも十人はくだらないだろう。そんな彼らはたった一人の人間を殺す為に一旦散り散りになり機会を伺うことにしたのだった。

 

 


 

 

「(やっぱ居やがるな…鬱陶しい虫がわらわらと…)」

 

 

そんな彼らの失敗は標的である総司にそもそも視認されていた事だろう。明らかな殺意を持った視線を受けたことに気づいた総司は、エイドスを読むことでこちらの様子を伺っている十数名の気配を認識していたのだ。

 

 

「(ここで一番不味いのは雫ちゃんが狙われる事だ)」

 

 

コソコソこちらの様子を観察するだけですぐに仕掛ける事が出来ない…と言う時点で彼らは十氏族レベルの強者ではないことは明白、総司はそんな雑魚に負けるとは微塵も思っていないし、事実負けることは無いだろう。

だがここでの問題は隣で残り少しとなったクレープを相変わらず美味しそうに食べながら歩を進めている同級生、北山雫だ。

 

彼の勘はこの少女は確かに優秀な魔法学生なのだろうとは思っている。だがレベルが違いすぎるのだ、恐らく敵の殆どが魔法高校に入学したてでそこまでの技量を持ち合わせていない雫なぞ息をする間に殺せてしまうだろう。むしろ彼らを大した手間もかけずに殲滅できるだろう総司がおかしいのだ。

 

 

「(だがここで別れても狙われるだけか…)なあな雫ちゃん!」

 

「どうしたの、橘君」

 

「クレープを食べ終わったらさ!ちょっと川沿い行ってみない?閑静で爽やかな日常って感じがして気持ちいいんだ」

 

「ふーん、そうなんだ。確かにここからすぐに行けるね、分かった」

 

 

ということで総司は雫とのデート(総司は冗談だと思っている)を続行することにした。

彼女を家にまで送り届ける事も考えたが、こんな昼間から家に連れて行ってなど怪しまれること請け合いだ。だが彼女をみすみす一人にしようものなら一瞬で攫われて人質にされてしまうだろう。

 

それならば自分が守った方が…と判断した総司は雫とのデートと同時に敵対者の排除を同時に行うことにしたのだった。

 

 

 


 

 

「対象A、河川敷に移動。対象は女性に石を投げる遊びを教えているようです」

 

 

敵の一人は彼を監視しながらそう報告する。この時点でジェネレーションギャップを感じる、発展した近代の人間らしく昔の遊びを…『水切り』を知らないようだ。

そんな彼の視線の先には雫に手本を見せ、やってみてよ!と催促している総司がいる。ところで、彼はまだ若手だ。彼らの()()()から離れているここに敵の上層部は精鋭を送ることを嫌がったようで、まだまだ未熟な…言い換えれば、()()()としても扱われているのだろう。

今回総司を狙っているグループにはそのほとんど全てがその程度の実力の魔法師達だった。

 

彼はこの任務に対して不満を持っていた。何故たかだか一人の学生の命のためにここまでの人員を割くのか、割くとして何故精鋭を送り込んですぐに済ませてしまわないのか。

その実情は先程電話をしていたリーダー格の人物しかこのチームに知る人間はいないのだが、人員を割くのは総司を無視する事ができないから、精鋭を送らないのは総司に殺されてはたまったものではないからだ。

 

ともかく彼はこの任務に不満を覚えている。故に真面目にはなれなかった。

総司達が移動しようとしている。彼も渋々追跡をしようとして…

 

 

「っ!?…え…?

 

 

ガンッ!と言う音と共に彼は後頭部に衝撃を感じる、だがその原因を知ることは彼には出来なかった。

なぜなら、彼はここで出血多量により死去してしまったのだから…

 

 


 

 

「へへーん、どうよ!なんか風流って感じしない?」

 

「うん、東京にもまだこんな場所があったんだね…」

 

 

クレープを食べきった雫と共に総司が来たのは近所にある川沿いだ。そこには21世紀初頭のような所謂河川敷と呼ばれるものが広がっていた。当時と違う点と言えば、サッカーのコートのように芝が綺麗に整えられている点だろうか。

当時の情景を保存するために残されているのだろうか…などと雫が考えていると、総司がいきなり河川敷の下の方に降りていくでは無いか。急いで追うと総司は川に流れてきたのだろうか、大きめで平べったい石を手に取っていた。

 

 

「なあ雫ちゃん、『水切り』って知ってる?」

 

「…何それ?」

 

「こうゆう遊びだよ…!ふっ!」

 

 

そう言うや否や総司は手に取る石を川に投げた。すると石はそのまま沈むのではなく、数回バウンドしてから落ちた。

 

 

「…なるほど、このバウンドの数を競う遊びなんだね」

 

「あー…まあいいやそれで。でさ、雫ちゃんもやってみようよ!」

 

「私が?橘君には絶対負けるけど」

 

 

雫の頭には記憶に新しい総司の驚異的な身体能力を思いだし、自分では勝てないと主張する。

 

 

「そういうのじゃないんだよ、せっかく休みに遊んでるんだ。一回ぐらいやってみねえ?」

 

「はあ…別にいいけど…」

 

 

そう言った雫は総司に手渡された石を投げる…が、やはりか石はバウンドする事すら無くすぐに沈んでしまった。

 

 

「ね?無理でしょ?…橘君は本気でやらないの?」

 

「え」

 

「…あっ」

 

 

この光景を薄々分かっていた雫はそもそも先程総司が全力でやらなかったことに疑問を呈し、彼からの呆けたような声で我に返る。

この男は女性のプライバシーを暴露するような男だが、流石に危険をわきまえてセーブしていたことに考えついた。「なんでもない」と雫は言おうとして…

 

 

「全力でいいの?」

 

 

自身の失言と、既に手遅れであることを悟った。

雫が言葉を紡ぐ前に既に総司は投球姿勢に入っていた。そして…!

 

 

「イクヨー」

 

 

と間の抜けた声で、投げてしまった!

途端に巻き起こる暴風。それがこの投球の威力を物語っていた。果たしてその石は沈むどころか対岸で爆発でもしないかと不安になる雫。しかし

 

 

「…あ」

 

「…川に全然投げられてないね」

 

「いや、今のはニコニコ本社を攻撃するのが目的だったから。わざと外したから」

 

「ふふっ、何それ」

 

 

雫の言うとおり、総司が投げた石は川にバウンドどころか空高く飛んで行ってしまったのだ。

まるで外したことを恥ずかしがるように言い訳をする総司に雫は思わず微笑してしまったのだ。

 

 

因みに、総司の発言は9割本当の事である。彼は本当に攻撃目的で投げたのだ。対象はニコニコ本社では無く、背後で自分達を監視していた刺客の頭部にぶつけるため回転をかけてブーメランかのように石を操ったのだ。

 

 


 

 

その後も総司は雫と付近を散策しながら刺客を的確に排除していた。そして時刻は6時だ。

 

 

「…?あっ」

 

「どうしたの雫ちゃん」

 

「お父さんが、『無事なのか!?誘拐されてなんか居ないだろうな!?』って」

 

「ハハハ!雫ちゃんはお父さんに愛されてるね!少し羨ましくなっちまったよ」

 

「橘君は愛されてないって思ってるの?」

 

 

雫が父である北山潮からのメッセージを見せると総司が悲しそうな表情を浮かべた。自分の知る限りではこの男はこんな顔をする人物では無いと思っていた雫は聞き返した瞬間口を塞ぐ。何か言いたくない事情があるかもしれないのにそれを無責任にも聞こうとしてしまった自らの失礼を悟ったからだ。

 

 

「別に思ってないよ。でも、一目会うぐらいは…」

 

「…え?」

 

 

そして総司は自分の過去を振り返るように話し出した。何故こんな話を出会って間もない人物に話そうと思ったのか、総司自身にも分からない。ただひとつ、今日一日で彼と彼女の距離は確実に埋まっていた事は確かだ。

 

 

「…俺さ、孤児院出身なんだよね。まあ、それだけで会いたいなんて思わないのかもだけどさ」

 

「夢で見てきたんだ。小さいときからずっと、赤ん坊を抱えて泣きながら孤児院の前にその赤ん坊を置いていく二人の姿を…多分俺の両親なんだろうな」

 

「両親の夢を見たってことは顔は分かってるの?分かってるなら会いに行くことぐらいは…」

 

「勿論調べたよ…二人とも俺が生まれた年に、なんなら俺が孤児院に引き取られた翌日には死んでいたんだ」

 

「そんな…」

 

「だから一目会いたいなんて間違ってるんだ。それでも会いたかったなぁ…って気持ちになるんだよ、何故だかな…」

 

「…」

 

 

雫は立ち上がり、総司の方を向いて問いかけた。

 

 

「ねえ、君のこと、名前で呼んでもいい?」

 

「え…あ、ああモチロンだとも!むしろ推奨だ!」

 

 

唐突な質問に総司はいつもの自分を努めて維持する。そもそも今日会ったときから若干テンションが低いのは気づかれているだろうが。

 

 

「総司君」

 

「お、おう?」

 

「私達、『友達』になろう」

 

「え?それはこの間なっただろ?てか今までも友達じゃ無かったのか!?」

 

 

驚愕した様子で驚く総司。その様子に雫は笑みを浮かべながら「違う違う」といいながら言葉を続けた。

 

 

「…今日の総司君見てたらね、学校での君は無理をしているように見えたんだ」

 

「別にそんなことは…」

 

「君自身はそう思っているのかもしれない。けど、私にはそうは思えないの」

 

「だからさ、本当の意味での『友達』になりたい。私の前でぐらい、無理をしないで欲しい」

 

「…なんで雫ちゃんがそんなこと言うんだよ。君にとってのメリットなんてないじゃないか」

 

「そうだね、私にも何でかは分からない。…なんとなく?かな」

 

 

小首を傾げながらそう言った雫に総司は笑い出してしまった。

 

 

「なんだよそれwおせっかいにも程があるぜ!」

 

「…でもありがとう。そうだな、本当の友達か…今の俺には必要なのかもな」

 

 

そう言って総司は手を差し出した。

 

 

「よろしくな、雫ちゃん。俺の最初の『友達』!」

 

「…!うん、よろしく」

 

 

二人はそう言うと固い握手を交わしたのだった。

そんな時である、総司はやや後方からの魔法発動の兆候を察知した。どうやら雫との話に意識を割きすぎて敵の接近に気づくことができなかったようだ。

その兆候は魔法師である雫にも察知できた。驚愕で動きが止まってしまった雫を動かすには声では間に合わないだろう。

 

そして魔法が発動し…!

 

 

「っと!危ねー!」

 

「…え?え?え?」

 

 

総司はその場を雫を抱えながら飛び離れ、回避することに成功した。

しかし雫は魔法を打たれたことにもだがそれ以上に今の状況に困惑していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

総司の抱え方は、所謂『お姫様抱っこ』というものだ。状況について行けていないが、雫の顔には赤みが差す。

 

 

「雫ちゃん!家どっちらへん!?後簡単なやつでいいから慣性制御魔法使える!?」

 

「えっと、家は……にあって、本当に簡単なものなら…」

 

「よし!ならさっそく使ってくれ!」

 

 

言われるがまま雫は魔法を発動させ…その瞬間、雫の視界が目まぐるしく変化し始めた。

訳が分からないと言った表情の雫だが、しばらくして総司が自分をお姫様抱っこしながら走り出しているのだと理解した。

 

以前にも語ったが、雫の家から総司の家がある地区は近くは無いが遠くも無い微妙な距離だった。故に総司のスピードは圧倒的なものを維持しながら走り抜け、無事雫の家がある地区に着いた。

 

 

「よし!雫ちゃん、今襲われたことはダレにも言うなよ?無論家族にもだ、いいね?」

 

 

思わず即座に首肯してしまう雫。その反応に満足したのか総司は端末を取り出すと、どこかに電話をかけようとしている。

 

 

「魔法の不正使用については心配するな。俺の知り合いに頼んでなんとかしてもらう。だから早く家の中に!」

 

「う、うん。また学校でね、総司君」

 

「ああ、またな!…もしもし、()()()()?ちょっと折り入って頼みたいことが…」

 

 

そう言って総司の姿は見えなくなった。先程の加速は明らかに手加減していたものだったらしい。

そんなあまりの急展開についていけなくなった雫だが、彼が見えなくなったときにふとつぶやいた。

 

 

「『友達』じゃ足りなかったかも…」

 

 

自分の言ったことに驚愕する雫。この後彼女が自分の気持ちに気づいたのは数時間後ベッドでくるまりながらだった。

 

 

 

 

 

 


 

 

「クソッ!速すぎる!」

 

 

先程雫を狙っていたこの男。この男は今回総司を狙っていた一団のリーダー的人物であり、総司の正体を唯一知っている者でもあった。

 

 

「ゴッメン~!速すぎた~?だから~、お前を迎えに来てやったよ」

 

「っ!貴様!」

 

 

上から振ってきた声に男が顔を上げるとそこには今し方逃げられたばかりの総司が立っていた。あの一瞬で戻ってきた総司の身体能力はやはりすさまじい。

そしてどうやら総司はかなり腹が立っているようだ。それはそうだろう、彼は最近になって知った両親の敵の組織、目の前の敵はその組織の一員であったからである。

 

 

「マジでお前らウザいんだよ。俺の両親だけでなく、友達まで手にかけようとしやがって…」

 

「フン!ならば貴様自身の生まれに文句を言うんだな!この化け物が!」

 

「化け物とかさ、言われ慣れてるけども、お前達()()()()()()()()()()()()よね。俺と重ねてる相手がそんなに憎いか?それとも怖いのか?」

 

 

どうやら総司は敵が化け物と呼称するのは自分ではないと感づいているようだ。

 

 

「そりゃ、俺の血筋が繁栄しちゃお前達の不利益になるのかもしれないが、そんなこと知った事じゃねえ。そんなに利益が心配なら、将来の不安にならねえように、今すぐここで消してやるよ!」

 

「ぐっ!来るな!やめろ…!う、うわああああああああ!」

 

 

そうして総司は相手の頭を掴むと力を込めて…グチャッと言う音と共に、リーダー格だった敵は死んでしまったのだった。




魔法科世界の秘匿通信


・対象Aというのは総司君の本来の名字をイニシャルとするとAになるため。


・学校内では自分の悩みを棚上げしてふざけているので、オフだと割とテンションが低い




シリアスになってしまった…?


ギャグしか書けない、彼女いない歴=年齢である作者には、シリアスなデートなんて無理だったよ…


因みにこれ朝の五時に起きっぱなしで書いてるので後半文章がおかしくなってます。

なら少し休めよ!って話なんですが、私思いついたら一気に書かないとすぐに忘れるので…


次回から九校戦編だし、総司君は確実にふざけるので期待してください。


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九校戦編
九校戦編 その一


バジリスクタイムのこと指摘したらまた非公開にされたでござる。
まあすぐに気づいて楽曲コードを付け足しました。コレで大丈夫でしょう。

楽曲コードの使い方を覚えたことにより歌ネタ増えると思います。


今回若干十文字先輩に風評被害があるかもしれません。ファンの方々には先に謝罪を。


あと、十話目ぐらいの徳川将軍の名前について誤解している方がいくらか居るみたいなので説明しますと、銀魂という作品においての徳川将軍の名前です。主人公の銀時と桐原が同じ中身だという事についてのネタですね。


ブランシュの第一高校襲撃が未然に防がれ、日本支部が人知れず壊滅した事などつゆ知らない第一高校生はこの六月末日、まもなくやってくる学内試験の対策に励む者、その現実から目を逸らし部活動に励む者、そもそも忘れている者に分かれ、混沌を極めていた。

 

 

その後、残酷にも行われてしまったテストは解放感と共に一部の生徒には絶望を与えた事は、火を見るより明らかだ。当然と言えばいいか、カフェテリアなど賑わいすぎて足の踏み場も無いほどだ…失礼、それはSAKIMORIの自室の事だった。

ともかく普段以上に騒がしいカフェテリアにいつもの達也ご一行が座れるスペースなど余っているはずも無かった。

 

そこで定期試験終了の打ち上げをしようとしていたレオとエリカはその様子を見てげんなりしていた。

 

 

「うっわー、やっぱ混むわねー。此処じゃ無理そうね」

 

「いつもの場所でいいだろ」

 

「そうね、あんたの意見ってのは気に入らないけど、あそこなら静かに過ごせそうだしね」

 

「何でオメェはいつも一言多いんだよ…」

 

「ちくわ大明神」

 

「「誰だ今の!?」」

 

 

上からエリカ、レオ、エリカ、レオ、いつの間にか来ていた総司、エリカとレオである。

総司を見たカフェテリア内の生徒が騒然とし出した。

 

 

「ねえあれって…」

 

「ああ、この間十文字会頭をぶっ飛ばしたとかで噂になってる二科生だ…」

 

「二科生、それも一年が会頭を?無理無理、絶対嘘だって!」

 

「いやでも、その噂が出だした頃からアイツと十文字会頭が親しげに話してたのを見た奴がいるらしくてな…」

 

「マ、マジで…?」

 

 

などという話し声が聞こえてきた。それを聞いてしまったエリカとレオは壊れたブリキのように首をギギギと総司へ振り向く。

 

 

「え…お前十文字先輩を倒したのか…?」

 

「あはは…さ、流石にあり得ないよね…無いよね?」

 

「え、ホントだけど」

 

 

あっけらかんと告げる総司にエリカとレオは二人でため息をついた。

 

 

 


 

場所は変わって第一高校近くの喫茶店、『アイネブリーゼ』で打ち上げを開くことに成功したエリカは非常に満足げだ。強いて不満だったのは音頭を取る前に総司が食事に手を付けていた…どころか食べきってしまっていた点だろう。

 

 

「それにしても、テストは結構ギリギリだったな…お前らはどうだった?」

 

「あんたと一緒ってのは気に食わないけどあたしもそんな感じね」

 

「気に食わないってなんだよ」

 

 

相変わらずすぐに喧嘩する二人だ。その事に慣れてしまった一同は呆れ顔を見せているが、一部はそうでも無かった。相変わらず美月はアワアワしているし、総司は顔に『へのへのもへじ』と書かれていそうな表情でフリーズしていた。

 

 

「そ、そう言えば!もう少しで九校戦ですね!」

 

「…!うん、そうだね…!」

 

「雫?いつもと様子が違うけど…」

 

「気にしないで深雪、雫は九校戦の大ファンだから、その話になると人が変わっちゃうんだよ」

 

「なるほど、つまり所謂オタクというものか」

 

「その言葉死語だぞ」

 

「マジで?」

 

 

美月がエリカとレオの雰囲気が悪くなったことを解消しようとして、まもなく行われる『九校戦』について言及する。すると食いついたのは雫だった。いつものクールな雫とは違う様子に深雪は戸惑うが、親友であるほのかが訳を説明する。

その訳を聞いた総司が例えを出すがそれを達也に死語だと言及されジェネレーションギャップに愕然としてしまった。

 

 

「そうだな、確か深雪達はもう選手に決まってるんだよね?」

 

「ええ、決まり切ってはいないけれど、私達は確実に出場するでしょうね」

 

 

どうやら九校戦のメンバーの大体は決まっているらしい。入試試験や授業での成績を加味したデータを用いて選出された選手達は誰もが認める選手ばかりだ…一人を除いては。

 

 

「ただ一人…他の選手達から反対されている人がいて…」

 

 

そう申し訳なくこぼした深雪の視線の先には総司がいた。

 

 

「…えっ?もしかして、総司も出るの!?」

 

「おいおいマジかよ!」

 

「ははは、それ以上だ、もっと崇め奉れ」

 

 

驚愕するエリカとレオに余裕の表情の総司。他にも驚愕しているのはほのかと美月だ。事前に知っていた達也に表情の変化は見受けられないが、唐突に腕組みをし出した雫は訳知り顔で「当然の選出だよね」とウンウン頷いている。

 

 

「な、なんでそんなことに?今まで二科生で出場した人なんて居ないって聞いてますけど…」

 

「十文字会頭からの直々の推薦なの。『この男は魔法は使えんも同然だが、こと戦闘に置いては俺を遙かに凌駕している』とおっしゃられていたわ」

 

「じゅ、十文字先輩が!?」

 

「ど、どうしてそんなことになってんのよ?」

 

 

理解出来ない三人が総司本人に問う。

 

 

「あー、俺克人先輩と同じ「「克人先輩!?」」…そんな驚く事か?続けるぞ?同じ部活…クロス・フィールド部に入ってんだが…」

 

 

モワンモワンモワン…

 

 


 

 

「おっ、一年坊発見伝!くらえ、ファランクス!…これで全員か?」

 

「いやまだだぜ!」

 

「ダニィ!?」

 

「ハァィジョージ?」

 

「お前は…ダディヤナザン!」

 

「違う!俺は753だー!」

 

「そうだったのか…」

 

「と言うわけでボタン置いてけ?」

 

「だが断る…!」

 

「だから気に入った!オラァ!!」

 

「むうん!ファランクス!」

 

「ほう…素晴らしき魔法障壁だ…感動的だな、だが無意味だ(^U^)」

 

「ニーサン!?」

 

「無駄無駄無駄無駄ァ!」

 

「グハッ!?何…だと?」ガクッ

 

「ガッチャ!俺だけが楽しい決闘(デュエル)だったぜ!」

 

※コレは総司の主観です

 


 

 

「…って感じで勝ったんだよ」

 

「「いや全然分からんわ!」」

 

「流石総司君、十文字先輩の障壁を物ともせずに腹パンを決めて一撃ノックダウンなんて…」

 

「雫は今ので分かったの!?」

 

「…俺が渡辺委員長から聞いた限りでは雫の言ってる内容で間違ってはいないな…」

 

 

総司が回想を含めた説明を行うが圧倒的に主観が混じっているため、雫以外内容を上手く理解出来なかったようだ。達也は元々知っていた分今ので理解出来た雫に驚愕していた。

 

 

「と、ともかく!十文字会頭を含めたクロス・フィールド部の皆さんは総司君の代表入りを強く推していらっしゃるのだけど、半信半疑な他の方々は猛反対されているのよ…」

 

「別に俺自身出たいわけじゃないんだよな。克人先輩に『お前は九校戦に出場するべきだ』って推されてなけりゃオファー来ても突っぱねる気だったんだがな」

 

「それはだめだよ総司君!」

 

 

いきなり叫んだ雫にその場の全員が注目した。

 

 

「折角九校戦に出られるんだよ!?このチャンスを逃すなんて事しちゃダメ!」

 

「お、おう…雫ちゃんってそんなに九校戦好きなんだな」

 

「うん、毎年会場まで見に行ってる」

 

「すっげーファンじゃん…」

 

 

事情を知った一同は今度は総司が出場予定の競技を知りたくなったようだ。

 

 

「じゃあ総司は一体何の競技に出るんだよ?」

 

「えっと、『クラウド・ボール』と『モノリス・コード』かな?」

 

「マジで!?」

 

 

この情報には先程と同じくらいの驚きが達也と深雪(シスコンとブラコン)以外の面々に走る。特に雫は鼻息を荒くして目を輝かせている。

 

 

「総司君、『モノリス・コード』に出るの!?」

 

「いや、ぶっちゃけ魔法をまともに使えない俺が出られるのこの二つだけなんだわ…」

 

「え?どっちも魔法は重要でしょ?『クラウド・ボール』には高いレベルの障壁魔法が必要だし、『モノリス・コード』では殴る蹴るはルール違反だったような気がするんだけど…」

 

「ハハハ!お楽しみは、これからだ!ってやつだ。心配されるようなことは無い」

 

 

ほのかの指摘に不敵に笑う総司。その瞬間今にでも問い詰めそうな勢いだった雫が顔を赤くしてうつむいてしまった事に気づけたのは、幸いにも似たような悩みを持つほのかだけだった。

 

 

果たして九校戦での総司の作戦とは一体…?




魔法科世界の秘匿通信

・実際に十文字は一年とのエキシビションマッチで一対多を行い、総司以外を軒並み倒すが、総司に一発もらってダウンした。


・因みにそのエキシビションで最後に総司と戦ったのは、総司が隅っこ辺りでカレーを作って食べていたから。


作戦のヒント:ゴリ押し


と言ってもまだまだ本番じゃないんですがね。この後幹比古君とのお話がありますからね。九校戦に入るのはその後です。


十文字先輩を総司がどうやって倒したのかというと、まあ異能でファランクス無効化して腹パン決めただけです。

SAKIMORIがシンフォギアネタだと分かる人がどのくらいいるのか…


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九校戦編 その二


リローデッド・メモリマジでいつ来るんだよ…(絶望)


マスターデュエルにおいてランクが増えたのでちょっと投稿ペース落ちると思います。


定期試験終了の打ち上げから数日後…達也は指導室に呼ばれていた。その噂を聞いたエリカ、レオ、美月、ほのかの四人は達也を迎えに指導室まで向かい、総司と雫は真相を探るため、ジャングルの奥地へと向かった…

 

 

「失礼します」

 

 

指導室から出てきた達也はちょうど迎えに来た四人と遭遇する。

 

 

「どうしたんだみんな、そんなに慌てて」

 

「どうしたはこっちの台詞だぜ達也。なんだって呼び出しなんて…」

 

「実技試験のことで尋問を受けていたんだ」

 

「尋問?穏やかな表現じゃ無いわね」

 

「なんで達也さんが尋問なんて受けることに…」

 

「理論の成績と差がありすぎて、手抜きを疑われてしまったんだ」

 

 

一高では試験成績優秀者を学内ネットで発表するのだが、総合成績では深雪、ほのか、雫が上位を占め、実技の成績も同様の結果だったのだが、理論だけは毛色が違っていた。

理論の上位メンバーは達也、深雪、達也達とクラスメイトの二科生、吉田幹比古がランクインするという大波乱が起きていた。特に、達也は2位の深雪に()()()で10点以上の差を付けたぶっちぎりの1位だったのだ!

 

因みに余談だが、我らが総司は予想を裏切らず実技、理論、総合でぶっちぎりの最下位をマークして無事トリプルスコアを達成していた。

 

 

「それで、転校を勧められたんだ」

 

「転校?何処にだよ?」

 

「四高だな。四高はウチよりも技術に重きを置いているから、俺に向いているんじゃ無いかって」

 

 

達也が転校するかもしれないことに慌て出す四人…特にほのか。

 

 

「達也さん、転校しちゃうんですか!?」

 

「いや、断ったよ。善意からの言葉だったのかもしれないが余計なお世話だからな」

 

 

達也の言葉に冷静さを取り戻す四人。

 

 

「だが先生は最初は中々折れてくれなかったな。いつの間にか入ってきていた総司が先生の耳元で、『止めとけ止めとけ…ブラコン女王様に凍りづけにされるぞ…』と言い残していってくれなかったらもう少し長引いたかもな」

 

「総司の奴何やってんだ!?」

 

 

達也からの言葉に驚く面々だが、『でも深雪なら…』と全員が納得してしまった。

 

 

「そういや総司は?」

 

「雫も居ないわよね?」

 

「ほのかさんは何か知りませんか?」

 

「総司さんは分からないけど…雫が『総司君に会いに行ってくるね』と言って私と別れたのは覚えてる」

 

 

レオは雫がわざわざ総司に会いに行った事に疑問符を浮かべ、エリカはニヤニヤと、美月は顔を赤面させる。ついでに達也だが、雫には失礼だが「趣味が悪いな…」と考えていた。総司に失礼だとは一切思っていない。

 

 

 


 

 

「…!?これは!?」

 

 

場面は変わりとある空き教室での出来事である。

この教室にて古式魔法の一種である喚起魔法の練習をしていた元『神童』、吉田幹比古は喚起魔法にて呼び出した精霊達の様子がおかしい事に気づく。

精霊達がまるで何かに引っ張られるかのように術者である幹比古の命令さえ無視して教室の外に出て行くでは無いか。

 

この異常な光景を目にした幹比古は精霊達を追って教室を飛び出す。すると精霊達は近くにある他の空き教室に向かって行くのが見えた。あそこに何かがあるのか?と幹比古がその教室に入ると…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「叩いて!」

 

「被って!」

 

「「ジャンケンぽん!」」

 

 

二科生の男子生徒と一科生の女子生徒が実に懐かしい遊びをしていた光景だった。

 

 

「…うう、負けちゃった…」

 

「甘いな雫ちゃん、俺に勝とうなんざ二万年早えよ!」

 

「…何やってるんだ君たち」

 

 

思わずツッコミを入れてしまった幹比古の方を二人が一斉に見る。

 

 

「あなたは…誰?」

 

「雫ちゃん、彼は僕のクラスメイトのコックカワサキ君だ」

 

「違うよ!?僕の名前は吉田幹比古だ!そこの女子はともかく橘君は知ってるよね!?」

 

「もう総司君、クラスメイトの名前を間違えるなんてダメだよ?」

 

「ああ、すまない。今までコックカワサキで覚えてたんだ。スマンな、インセクター羽蛾」

 

「よろしくね、羽蛾君」

 

「いや間違ってる!間違ったままだよ!?というかそこの女子は名前を間違えた事を咎めたのに自分も間違えたままじゃん!?」

 

 

幹比古の指摘に「何言ってるの?」と言いたげに首を傾げる二人。

 

 

「何言ってんだよ、俺達は名前間違えてないぞ幹比古」

 

「そうだよ吉田君。訂正してもらえる?」

 

「いやいやいや!さっきカワサキとか羽蛾とか言ってたじゃん!」

 

「え?どうしちまったんだよ幹比古。俺達はそんなこと言ってないぞ?なあ雫ちゃん?」

 

「ホントにね。体調でも悪いんじゃ無い?吉田君保健室でも行ってきたら?」

 

「なんなんだこの二人…!」

 

 

思わず両手を地面について叫ぶ幹比古。それを見た総司が何故か勝ち誇った顔で腕組みをし、それを見た雫が真似をしてドヤ顔で腕組みをしたところで、幹比古はこの教室に足を運んだ理由を思い出す。

 

 

「そうだ二人とも!さっきこの教室に精霊達が引き寄せられていたんだ!何か知って…」

 

 

言いかけた幹比古は目の前の光景に絶句してしまった。

 

 

「総司君それ何やってるの?」

 

「んー?いや精霊達が遊んで欲しそうだったから構ってやってんだよ」

 

 

そう言いながら球状の精霊約10体あまりを使って総司がお手玉をしていたのだ。しかもお手玉されている精霊達はどこか嬉しそうにしていた。

 

 

「た、橘君!それは一体どうやって…!」

 

「どうやってって、なんとなくだが」

 

「もしかして、精霊達をしっかりと認識できているのか!?」

 

「認識どころか色も分かるが…」

 

 

何気ない事のように言い放つ総司。しかし幹比古は彼が古式魔法に…少なくとも精霊の扱いに長けていることが分かったのだ。その瞬間には「この男が僕よりも上…?」などとかつてのような傲慢な思考をしてしまったが、今の彼はなりふり構っていられるような状況では無かった。

 

幹比古は総司に足早に近づいて懇願する。

 

 

「頼む橘君!僕に魔法を教えてくれ!」

 

「え…?んにゃぴ…(魔法)よく分かんないです…」

 

「嘘だろ!?じゃあなんで精霊の色まで認識できるんだ!」

 

「いや、俺の家系的にできることなんじゃないかな…」

 

「家系!?古式の家に橘なってあったか…?」

 

「いや、家柄は俺知ってるけど育ったのは孤児院だし、両親にも会ったことないからよくわからんぞ」

 

「そ、そうか…」

 

 

自身のスランプの解消に一歩近づいたのでは?と考えていた幹比古は目に見えて肩を落とす。

その様子を見た総司はふと思いついたかのように幹比古に言った。

 

 

「じゃあさ、達也の奴に相談してみたらどうだ?」

 

「司波君に?」

 

「ああ、達也は術式を自作した事もあるらしいからな。お前のアドバイスもできるんじゃないか?」

 

「…君はウチの術式に問題があると言っているのか?」

 

「いや、お前の事なんてそんな詳しく知らんが…とりあえず聞いてみたらどうだ?お前の理想が高すぎて術式が追いついてないだけって可能性もあるからな」

 

「…分かった、ありがとう。明日彼に相談してみるよ…」

 

 

そう言って退席しようとした幹比古。しかし彼が扉を開ける前にガラッと音を立てて扉が開いたので幹比古は驚く。

 

 

「わりーな総司、遅れちまった…って、誰だお前?」

 

「総司君のお友達?」

 

 

そこにいたのは一科生の二年生、桐原武明と壬生紗耶香だった。彼らはどうやら総司に用があるみたいだ。

 

 

「えっと、吉田です。…それで先輩方は何で此処に?」

 

「俺達はアレをやりに来たんだ」

 

 

そう言って桐原はヘルメットとピコピコハンマーを指さす。

 

 

「…え?」

 

「そうだ!吉田君もやらない?もう一人参加する人がいるんだけど、奇数だったからシードになっちゃってたのよね!」

 

「いや、結局それ勝った方がシードじゃねえか…」

 

 

先輩の言っていることが理解出来ない幹比古をよそに、先輩二人はおかしい方向に話を飛躍させていく。

 

 

「別にいいんじゃないですか?人数が多い方が楽しいでしょ」

 

「それもそうだな、よし!総司と北山はもうやったんだよな?じゃあ次は俺と紗耶香だ!」

 

「望むところよ武明君!雫ちゃんは審判お願い」

 

「はい、忖度とかしませんから」

 

 

ブランシュ壊滅の後、無事に交際がスタートした先輩二人は困惑する幹比古を放ったまま準備を始めた。

 

 

「いや僕は…」

 

「いいじゃんいいじゃん。気晴らしにやってけよ、いい経験…とは言えないかもだが、少しは気分も晴れるんじゃ無いか?」

 

 

珍しくまともなことをまともじゃない場面で言い放つ総司に言われるがまま、幹比古も参加の意思を決めた。

するとしばらくして、桐原と壬生が今だ激しい競り合いを見せる中…ガラッ音がした。どうやら自分の相手が来たようだ…と幹比古がそちらを見ると…

 

 

「…え?」

 

「スマン、遅れた…む?お前は確か…吉田家の…」

 

 

そこにいたのは顔つきも体格もおおよそ高校生とは言い難い、まるで巌のような男…!

 

 

十文字家次期当主 十文字克人 参戦!!

 

 

「ま、まさか、僕の相手って…!?」

 

「おっ、克人先輩来ましたね!幹比古が加わったんで、この後幹比古とやってください!」

 

「ふむ、了解した。お手柔らかに頼む」

 

「え、え…え?」

 

 

『神童』吉田幹比古 VS 『鉄壁』十文字克人 ファイ!

 

 

 

 

 

 


 

 

その後無事に敗北した幹比古だったが、総司と克人の壮絶な戦い、壬生と雫の女としての格を決める(決まらない)ドロッとした戦い、総司と桐原のリア充への憎しみたっぷりな蹂躙を見せつけられた。

確かに気分転換にはなったがそれ以外は全く得るものが無かったと言っていいだろう。克人は他者の戦いを見て自身のトレーニングに組み込めるような閃きをしていたが。

 

 

「…はあ、疲れた」

 

 

克人に一方的に敗北し、桐原にギリギリで負け、壬生と雫には勝ったものの、総司に一撃でぶっ飛ばされた幹比古の顔には明らかに疲労が浮かんでいた。

 

 

「こんなことなら…この教室に入るなんてことし無ければ良かった…」

 

 

既に遅い後悔をしている幹比古の肩を優しくたたく手が一つ。

 

 

「疲れたみたいだな」

 

 

幹比古が振り向くと総司が実にいい顔で何かの袋を突き出していた。

 

 

「あげせん…食う?」

 

「もらうけど…疲れたのは君のせいだよ、たち…いや、総司」

 

 

差し出された袋から一つあげせんを取り出しながら、幹比古は苦笑いで総司に言い返した。




魔法科世界の秘匿通信

・実は雫は総司の周りの人間に自身の気持ちを教えて外堀を埋めている。


・今回の発案者は総司ではなく克人



お前達は何をやっとるんだ…(呆れ)21世紀末に叩いて被ってジャンケンぽんとか信じられんのだが。


この作品には中身が同じなのが複数います。
例:司波達也、五条悟(総司のイメージビジュアル)、迅悠一(ネタ)


吉良の同僚のスタンド『ヤメトケヤメトケ』の正体は深雪だった…!?(謎)


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九校戦編 その三

達也をエンジニアにするとことか女子との練習シーンなんぞカットだカット!

総司君が魔法使えたら一緒に練習するシーンとか書いたんですけどね、使えないし使わなくてもクソゲーなんでね…

バス出発あたりからです。


元『神童』吉田幹比古と第一高校最低の頭脳を持つ男、橘総司との邂逅から3!週間ほどが経過した。その間、達也は彼をよく知る先輩方からの推薦でエンジニアになり、森崎達から必要ないとされたため女子とハーレムを築いていたりしたが、そのあたりは総司にはあずかり知らぬ事だった。

 

その総司はこの期間、クラウド・ボールの練習で桐原をおもちゃにし、モノリス・コードの練習ではクラウド・ボールと同じくクソゲー戦術を用いていたのだが、森崎が『自分だけがいい思いをするつもりか!』と言われたので彼らのために本戦メンバーとの模擬戦(総司不参加)などを計画し、一科生の一年に絶望を送った。森崎の家も燃えているかもしれない。

 

 

「…納得できません!」

 

「深雪…」

 

「何故お兄様が一人外で待つ必要があるのですか…!」

 

 

場面は現在に戻り一高のメンバーが出発する直前のことである。まるで入学式の時みたいな抗議をする深雪。理由としては会長であり十師族でもある七草真由美が急な予定が入り、バスの出発に間に合わない。ということで待つことになっているのだが、メンバーに欠員が無いかのチェック業務をしていた達也は一人、真由美を待ってこの夏の炎天下の元で待機していたのだ。

 

コレは他のメンバーが『面倒なことは二科生に押しつけよう』という思考の元に行われてしまっていた。因みに別に達也一人というわけでは無く、総司も一緒に待っているのだがさすがはブラコン女王と言ったところか。深雪は達也の心配しかしていなかった。

 

 

「折角お兄様と二人で過ごせると思っていたのに…!」

 

「あはは…それは私が勘弁してほしいなぁ…」

 

 

達也は選手ではなくエンジニアとして今回の九校戦に参加している。元々移動だけならばバスが別々で元から一緒に過ごせはしなかったのだが、真由美を待っている間なら…と考えていた深雪の純情ハートをブレイクする一科生の嫌がらせ、何故奴らは達也への攻撃が深雪に対する地雷だと気づかないのか…

ともかく少しの間の二人の時間すら取れなかった深雪はたいそうご立腹であり、ほのかも同情するが近場で二人のイチャラブを見せつけられなくてよかったとも内心考えていた。

 

そして総司は今回の選手であるにも関わらずこれまた嫌がらせによってエンジニア達と同じ車で移動することになっていた。この事にも深雪は多少は怒っていたが、一番怒りそうな雫が何も言わずに訳知り顔で余裕であったことからその件には矛を収めた。

 

 

「ごめーん!遅くなっちゃった!」

 

 

その言葉と共にバスへ向かってくるのは遅れていた真由美だ。バスに遅れていると言う意味で決して婚期に遅れているわけでは無い。その姿を見た達也は目を潜めた。真由美の格好が少々露出が多めの服装だったからだ。

その顔にはあからさまに『どーよどーよ!』と反応待ちの表情が浮かんでいた。

これには達也と、達也の周りをラッパを吹きながら回っていた総司も苦笑い…

 

 

「…総司君、今『無理すんな年増会長』とか考えてない?」

 

「考えてませんよ?」(大嘘)

 

「後で覚えておきなさい?」

 

「覚えていたらで」

 

 

達也は子供っぽい行動だから苦笑いをこぼしていたのだが、総司は真由美が無理をしていると考えたようだ。無論そんな失礼な事を考えては、相手の女性に見抜かれることは必定である。このあと長い説教を総司は喰らうことになるだろう。

 

 

「コホン、気を取り直して…二人とも、私の姿をみてどう思う?」

 

 

そう言った真由美の顔には小悪魔的な笑みが浮かんでいる。並の男子であれば即ノックアウトだろう。気になって様子を伺っていた範蔵もその一人だ。

だがこの二人は並ではない。

 

 

「そうですね。よくお似合いだと思いますよ」

 

「似合ってるんじゃないすか?無理してる感ありますけど」

 

「つまんない返答だし、総司君は一言多いわよ…!」

 

 

そう、この二人は超絶シスコンお兄様とバカのコンビである。達也がこの服装に揺れるとしたらばそれは深雪が着用した場合のことであろうし、総司は先程隠したにも関わらず正直な回答をしてしまっている。

相変わらず可愛げの無い後輩達だと思うと同時に総司への殺意が真由美の中で沸き上がっていた。

 

 

「総司君…私コレでも先輩なのよ?敬う気持ちとか無いのかしら?」

 

「いやいや!何言ってるんですか会長!身長小さくてそんなに尊敬できる雰囲気無いとか思ってないですよ!」

 

「思ってるじゃない!それは間違いなく思ってるわよね!?」

 

 

ギャーギャー騒ぎ始めた二人。端から見ると身長差の関係で兄と妹の喧嘩に見えるかもしれない。その喧嘩に終止符を打ったのは…

 

 

「会長、ただでさえ遅れているんですから早く乗ってください。橘君もです。司波君、暑い中ご苦労様でした」

 

「あれ?俺と達也の扱い違いすぎでは?」

 

「橘君は自分の胸に手を当てて考えてみてください」

 

 

生徒会会計である市原であった。市原は正直なところもう少しいじられている真由美を見ていたかったのだが、ただでさえ遅れているのが更に遅れることになるため自重して二人を制止する事を決めたのだった。

 

そんなこんなでバスが出発した。やはり達也はエンジニア達の車に乗り込むので、深雪のテンションがだだ下がりなのは勿論なのだが…何故か雫はそこまで不機嫌ではなかった。総司と一緒に乗れなかったというのにである。何故雫が不機嫌ではないのか…それは単純明快なことであった。

 

 

「…それでね-」

 

「なるほど…そういうこともあるんだな」

 

 

移動中のバス、雫と総司の話し声が聞こえる。というか他の生徒は驚き過ぎてその会話しか耳に入らない。何故バスに乗っていない総司が移動中に雫と会話できているのか。別に彼らは通話をしているというわけではない。ではどうやって?

 

 

「…ところでもう一度聞くけど、本当に大丈夫?疲れたりしない?」

 

「大丈夫だ!この程度の速度、へのへのかっぱだぜ!」

 

 

雫は()()()()()()()()()()。すると驚く事に、窓の外からは総司の声がするではないか。そう、

 

総司はバスと併走しているのである!

 

これが雫が不機嫌ではなかった理由。バスに乗れなくともバスごとき本来必要としない総司には時速60キロと併走など朝飯前であった。

しかし、コレに不平を漏らす者がいる。

 

 

「お、おい!ふざけるなよ橘総司!そんな曲芸が出来たところでお前が優れているわけではない!調子に乗るな!」

 

 

ご存じ森崎駿である。彼は二科生である総司のあり得ない速度に、彼はこういった魔法だけが取り柄なのだろうと考えつき嘲っているのである。因みに総司と親しいメンバーは彼が魔法を使っていないことすら見抜けないほど森崎が驚いているのが分かっていたのでかなり呆れていた。

 

 

「調子に乗ってる?馬鹿げたことを調子に乗ってたらこのバス持ち上げて移動するぞ」

 

「それは止めてね総司君!?」

 

 

『何言ってるんだコイツ?』といわんばかりの表情で恐ろしいことを言い出した総司に焦る真由美。

 

 

「大丈夫ですよ会長。そんなことするわけ無いじゃないですか」

 

「そ、そうよね…ビックリしたわ…」

 

「皆さんがお望みならやぶさかではないですけどね」

 

「止めなさい!」

 

 

森崎の茶々もあったが、総司は雫や他のメンツとバスの外から会話を続けていた…

 

 


 

 

しばらくして、総司がエイドスの異常をを感知して前方を向くと対向車線にいた車が何の前触れもなく燃えだした後、中央分離帯を飛び越えて一高のバスに向かってくる光景が広がっていた。

 

 

「な、なんだ!?」

 

「くっ!止まって!」

 

 

バスの中の生徒達も状況に気づき魔法を発動…しようとするが、サイオンが混ざり上手く魔法を発動できない。

『精霊の眼』で状況を把握した達也は『術式解体(グラム・デモリッション)』を用いてそのサイオンを丸ごと吹き飛ばそうとして…総司がしでかした事への驚愕で発動することはなかった。最も、発動の必要はなかったのだが。

 

 

「ヨイショー!」

 

 

などと叫びながら総司はバスを追い越し、燃え上がりながら向かってくる車の下に手を潜り込ませ…

 

 

「とったどー!」

 

 

と、燃え続ける車を平然と持ち上げていたのだ!

 

 

「…もうなんでもありだな…」

 

 

その状況を把握していた達也はそうつぶやいたのだった。




魔法科世界の秘匿通信

・バスを総司が持ち上げて走った方が会場に早く着いていた。



今回駄文過ぎて…ホントすいません、このあたりうろ覚えなんです…参考にしようと原作見ようとしたらなくなってたんです…マジで申し訳ない…


次回は大会前の交流会?的なところからです。


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九校戦編 その四

では、隣のホテルで朝まで語り明かそうか…(ヒゲ並)

デスフェニ皆使ってて草。まあ、作者も使ってるんですがね。HERO最高!


総司が外を走っていたからこその偶然により、衝突事故を回避することが出来た一高のバス。しかし魔法の形跡を見た達也と総司は車の運転手自らの突撃だった事に気づき、達也はまだ見ぬ敵を警戒し、総司は適当にゴリゴリタイムをしていた。

 

そんなこんなでホテルに到着した達也一行及び付属品のバカの前に、本来ならばここにいるはずのない友人が立っていた。

 

 

「エリカ?どうしてここにいるの?」

 

「ハイ深雪、一週間ぶりね」

 

 

そこにいたのは一行の共通の友人…どころか普段は一行のメンバーでもある千葉エリカだった。このお堅い21世紀末にしては少々過激な服装をしている。事実一高一年の何人かが鼻を押さえながらお手洗いに向かっていた。並の男子高校生ならば直視すら不可能なほどだろう。しかし前回も言ったが、ここにいる二人の男は残念ながら並ではなかった。

 

 

「深雪、エンジニアの先輩方が待ってるから俺は先に行くよ。エリカもまたな」

 

「え、ええ…達也君忙しそうだねぇ」

 

 

妹以外に興味を持つことすらない達也にはエリカの服装は「こんな公共の場でよくそんな格好ができるな…」ぐらいの感想しかない。対して総司はと言うと…

 

 

「My醤油ペイペイ二元論…」

 

 

虚ろな目をしながら何もないところをみてうわごとを呟いていた。因みにここに来るまで彼は変わらず元気だったのでいきなりの落差には他のメンバーも驚いている。驚いていないのは「分かる、分かるよ」と言いたげにうなずく雫ぐらいだった。君は何を理解しているんだ…?

 

 

「それで、どうしてここにエリカがいるの?一般生徒はまだ此処には来ないはずよ?」

 

「勿論応援に決まってるじゃない!それに今日は懇親会でしょ?」

 

「そうだけど、関係者以外は入れないわよ?」

 

「大丈夫よ!」

 

 

何やら企んでいそうなエリカのことをメンバーが眺めていると、その背後からこれまた友人が駆け寄ってきていた。

 

 

「エリカちゃん、コレ部屋のキー…って深雪さん」

 

「美月…随分と派手な服装ね」

 

「えっと…そうでしょうか?」

 

 

美月の服装はエリカと比べれば抑えめだが、持ち前のナイスバディと肉感的な感じがベストマッチ!しすぎていて正直エリカよりエロい。

 

 

「悪いことは言わないから、TPOにあった服に着替えたら如何かしら?」

 

「エリカちゃんに堅苦しいのは良くないって言われたんですが、やっぱり深雪さんの言う通りかもしれませんね」

 

「えー、いいじゃ~ん」

 

「そういえば、部屋のキーって言っていたけど、此処に止まるんですか?よく部屋が取れましたね?」

 

「ふふーん、嘗めないでよほのか!家のコネって奴は使いまくってナンボよ!」

 

「エリカってそういうの苦手そうだけど…」

 

「嫌いなのは『千葉家の娘』って色眼鏡よ」

 

「My醤油ペイペイ二元論…(コネは使いすぎるとよくないよ)」

 

「なんて?」

 

 

快活に笑ったエリカ達を見て、深雪は先の事故に対する不安が取り除かれていた。

 

 

「じゃあ私達ももう行くわね」

 

「はい、深雪さん、ほのかさん、雫さん、総司さん、また」

 

「じゃーねー!」

 

また会おう(キリッ)(My醤油ペイペイ二元論…)

 

「だからさっきからなんなのその言葉!?」

 

 


 

 

九校戦の懇親会は選手だけでも360人を超え、裏方も会わせると400の大所帯となる。何かと理由を付けて欠席する隠キャもいるので全員参加というわけにはいかないが、それでも300は超えるだろう。

 

そんな中、達也は多大なるストレスを感じていた。一高が嘗められないようにと一科生のブレザーを着せられたところまではよかったのだがそのサイズが若干合っていなかったのだ。だがそんなことは当然だ。あくまで予備の物を着ているだけで彼の物ではないのだから。

しかしストレスの原因はもう一つあった。総司が見当たらないのだ。あのバカの事だからまた何かやらかすだろうと監視する腹づもりだった達也は、そもそも標的が見当たらないことにイライラしていたのだ。

 

 

「大丈夫ですか?お兄様…」

 

「全然大丈夫じゃないな、正直ストレスで胃に穴が空きそうだ」

 

 

感情を失っている達也とは思えない発言。それに深雪は驚くが同時に、兄へは申し訳ないが少し嬉しかった。自分の事以外に強い感情を抱けなくなってしまっている達也が総司に対して感情を持てている事が、深雪に喜びと少しの寂しさを与えた。

 

 

「深雪さん、ちょっといいかしら?」

 

「はい、会長」

 

 

そこに真由美が現れ、深雪を呼びだした。深雪が離れていくと今度は別の来客の姿があった。

 

 

「お客様、飲み物でも如何でしょうか?」

 

「エリカ…?関係者とはこういうことだったのか」

 

「深雪に聞いたの?」

 

 

どうやらエリカの言う関係者とはウエイトレスとして働くという事だったらしい。

 

 

「エリカ、可愛い格好してるじゃない」

 

「でもさー深雪、達也君感想とか何も言わないんだよ?」

 

「急に求められてもな…」

 

 

戻ってきた深雪に愚痴るエリカ。今見たばかりであるため感想も何もないだろうと達也は考えていた。

 

 

「エリカちゃん似合ってるね、可愛いじゃん」

 

「「「!?」」」

 

 

直後三人の背後から声がしたので急いで振り向く達也達。しかしそこには誰もいなかった…が、エリカ程の美少女に気兼ねなく話しかけて服を褒め、なおかつ背後から一瞬で消えたとなれば、先程の声の主は十中八九総司だろう。

その事に気づいた達也は急いで周囲を見渡すと出入り口付近の女子生徒が屋内なのに風が吹いたかのようにスカートを押さえていた。恐らく総司の移動に伴う風の影響だろう。出入り口付近での出来事であれば総司は既に会場を後にした可能性が高い。

 

 

「今のって…多分総司君だよね?」

 

「ええ…あの人ならやりかねませんし…」

 

 

などと少々邪魔が入ったが、達也にコスプレは効かない、と言った話から深雪に幹比古を紹介しようとエリカはどこかに呼びに行ってしまった。

そしてまたまた彼らに声をかけるグループが。

 

 

「深雪、探したよ~」

 

「ほのか…」

 

「総司君見てない?」

 

「雫…」

 

 

ほのかと雫の仲良しコンビだ。因みに二人の名前を呼んだのは深雪であるが、前者は『何か用事?』と言ったニュアンスで、雫には相変わらず総司に対しての気持ちをプッシュしている事に対して呆れていた。深雪がこんな事を考えていたと雫が知れば『言えた義理じゃないでしょ』と呆れるだろう。

ようは恋する乙女かブラコンかの違いしかない。

 

 

「他の皆は?」

 

「あそこ」

 

 

雫が指さすところには一高のメンバー(達也と親しい面々を除く)が固まっていた。その集団はこちらをチラチラと見ており、達也がこちらに気づいたと知ると急いで目を逸らした。

 

 

「彼らは何をやっているんだ…?」

 

「多分、深雪と話したいけど達也さんがいるから近づけないんだと思う」

 

「俺は番犬か何かだと思われているのか?」

 

「そんなことないですよ!皆達也さんとどう接すればいいか分からないだけです」

 

 

事実向けられている目線に殆ど敵意のそれは無かった。あったとしても森崎を始めとした一部だけだ。一科としてのプライドもあるだろうが、彼らには単純に達也との接点がない。

 

 

「…深雪、皆のところに行っておいで」

 

「お兄様?」

 

「後で部屋に来ればいい。俺のルームメイトは総司だから心配することはないだろう。ほのかと雫も来て構わないよ」

 

 

イマイチ納得いかなそうな表情の深雪だが、彼女が兄の言いつけに背くはずもなくチームメイトのそばへ移動していった。深雪について行きながら、「ホントだよね?絶対だよ?」と興奮気味に達也に聞いてくる雫にほのかが苦笑いしながらついて行った。

 

 

「連れてきたよーってあれ?深雪は?」

 

「チームメイトのところに行かせた。後で俺の部屋に来るからそこで紹介する」

 

 

タイミング悪くエリカが幹比古を連れてきた。そして後半の台詞を聞いた幹比古はどこか気まずそうだ。

 

 

「別に無理にとは言わないぞ、幹比古」

 

「ち、違うんだ!初対面でこの格好は少し恥ずかしかっただけだよ」

 

「そうか?従業員としては妥当なものだと思うが」

 

「それでも、あの司波さんだよ…?」

 

 

幹比古は現在まで深雪との接触はない。だがこの数ヶ月で大人気となった深雪の噂は腐るほど聞いていた。曰く、完璧な人で優秀じゃない人材を必要としないとか(一年一科生談)曰く、超が付くほどのブラコンで、仲良くなりたいならまず兄と仲良くなれとか(総司談)、様々なものがある。幹比古の友人である総司の言を信じるとすればここ最近だが達也と親しくなった幹比古とのコミュ二ケーションは問題ないと思っている。思ってはいるがやはり初対面はキチンとしておきたいのが幹比古の心情であった。

 

その後幹比古は仕事に戻り、エリカは達也と少し話をした後、逃げるように去って行った。

 

 

 


 

 

一条将輝が深雪に見惚れていたところはバッサリカットして、会場にアナウンスが入る。どうやら今から来賓の挨拶が始まるようだ。

 

達也が舞台に目を向け「老師」と呼ばれる十師族の長老、九島烈の登場を待った…その時!

 

 

「っ!?」

 

 

達也に悪寒が走る。今から何かが起こると彼の直感は叫んでいたのだ。これは一体…?と驚く達也だが、直後その理由を知ることになる…

 

 

「…総司!?」

 

そこにいたのは九島烈ではなく、そう…

 

 

軽快に宝島ステップを踏みながら横移動してきた総司であった!

 

 

総司は思いっきり一高の制服を着ているので「一高ふざけてんのか!?」と言った声が上がる。

しかし、達也には見えていた。総司の奥に九島烈がいることを

 

 

「そこまでにしようか、()()

 

「オッケー」

 

 

なんと総司を名前呼びした烈は、会場にかけていた精神干渉魔法を解き、姿を現す。多くの人は烈がいきなり出てきたことに驚き、烈が奥にいたことに気づいていた面々は総司と親しげにしていた事に驚愕していた。

 

 

「まずは悪ふざけをした事を謝罪しよう。孫のように可愛がっているこの子を見たときに童心が沸いてしまってね。少々遊んでしまったのだよ」

 

 

この言葉に会場は騒然とする。あの一高の生徒が老師が可愛がっている男だと誰が想像できるだろうか。そもそも九島は関西に拠点を置くが、一高は関東に所在している。何故一高生を?二高生ではなく?と言った疑問はつきることはないが、少なくともその意味を理解した森崎他は顔を青くして呆然とするのであった…




魔法科世界の秘匿通信


・総司と老師はかなり昔からの仲


・雫との散歩前編で総司が夜に待ち合わせしていた人物は老師である。



ドライトロンが規正掛かったのが一番嬉しい。白いイボイボがよお…!


次回はまだ競技には入らないぜ!


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九校戦編 その五

九校戦編とか言いながらただの解説回。しかも今回で終わらないっていうね。

次回まで解説ですが、終われば競技開始です。


懇親会において九島烈が残した事実は会場の全員を…特に一高生を騒然とさせた。

 

 

「そ、総司君が閣下とお知り合い…!?」

 

「アイツ、閣下とどう言った関係だ…?魔法を十全に使えない奴では魔法の腕を見込まれて…というわけでもなかろう」

 

「ふむ…しかし、橘の事だ。近所のご老人に声をかけたら閣下だったなんてこともあり得るだろう」

 

「「普通は絶対あり得ない!」」

 

 

一高のビッグ3も例外では無く、真由美と摩利は明らかに狼狽していた。克人は謎に高い総司への信頼によりそういうこともあるかと納得した。するな。

 

 

「…おい、森崎、大丈夫か…?」

 

「…あんな奴が、閣下とお知り合いだと…?あり得ない…」

 

 

またここに来るまで散々総司を下に見てきた森崎もこれには青い顔をして立ちすくむことしかできなかった。

 

 

「達也君、申し訳ないけど総司君から詳細を聞いてきてもらえないかしら?」

 

「…構いませんが、コレはアイツのプライバシーに関わります。そう詮索しない方が宜しいのでは?」

 

「…それもそうね。ごめんなさい、今のは忘れて」

 

「一応は聞いてみます。その上でアイツからの許可が下りればお教えします」

 

「ありがとう…」

 

 

焦りのあまり真由美は同室である達也に総司に質問してくることを依頼してしまう。しかし達也が難色を示すと、自分が早計だったと反省するのだった。

 

 

 


 

 

騒然としたまま終了した懇親会。達也はメールで総司に『部屋に戻って来てくれ、聞きたいことがある』と送ったのち、足早に自室に引き返していた。

 

 

「…でさ!結局総司君と老師の関係ってなんなんだろうね?」

 

「それを今から聞きに行くんだろ…あまり騒ぐと聞き耳とか立てられるかもしれねぇだろ」

 

「なにそれ?あたしがうるさいって言いたいわけ?」

 

「ちょっ、エリカ!そんな喧嘩腰にならなくても…」

 

「レオさんも落ち着いてください!」

 

「…もし総司さんが偉い人とかだったどうしよう…失礼なことしてないかな私…」

 

「大丈夫だよほのか。向こうの方がもっと失礼だから」

 

 

喧嘩を始めそうになったエリカとレオを諫める幹比古と美月。その横で不安げにしているほのかに珍しく総司を軽くけなした雫も同行しているのだが。深雪?言うまでも無く居るに決まっているだろう。あのブラコンは元々兄の部屋に行くつもりだったのだから。

 

 

「…お兄様」

 

「心配するな深雪。総司はきっといい奴だよ、なんの問題も無いと思っておこう…だが、もし俺と深雪の平穏を脅かそうとすれば…」

 

 

実は十師族の一員である司波兄妹は総司が敵である可能性を危惧していた。しかし深雪は、そして達也も友人だと思っている総司の裏切りなんて信じたくはない。願わくば味方である事を願う。

 

しかし達也は直感していた。もしここで総司と戦うことになれば、自分に勝ちの目は薄いことに。深雪に自身の力の封印を外してもらったとしても、魔法が効かず、圧倒的なまでの身体能力を有する総司に達也は有効打を持っていなかった。戦えば最後、地に伏せているのは自分自身であることを達也は正確に理解していた。

 

そうしてなんだかんだで達也と総司の部屋に到着した一行。代表として達也がその扉を開ける…全員が緊張した面持ちだ。

そしてドアを開けた達也が見た物は…!

 

 

「……」

 

「……」

 

 

静寂。

ドアを開けた達也に待ち受けていたのは緊張感ゼロの表情で某YouTuberのゴリゴリタイムのポーズを取っている総司の姿だった。

コレには達也もどう反応していいのかが分からない。ここに来るまで戦闘かと覚悟すらしていたと言うのに、目の前の男はそんな心配を全て踏みにじって行く勢いでバカをやっていた。

 

まだ総司の姿を認めていなかった他の面々はフリーズした達也に疑問符を浮かべる。その後静かにドアを閉めた達也に驚愕する。

 

 

「お兄…様?」

 

「……」

 

 

深雪の心配する声もよそに達也は意を決してもう一度ドアを開く。その先の光景は…

 

 

「……」(パクパク)

 

「……」

 

 

どこからか持ってきたパスタが入った皿の前でポーズをとり、手に持ったチーズを一気にパスタにかけていた総司の姿だった。口が動いており、その動きからして『パワー!』と言っているようだ。

 

再び静かにドアを閉める達也。達也の後ろにいた者達は再三驚愕する。

そんな中、達也はゆっくりとため息をつき、後ろに振り向いて言った。

 

 

「皆、俺が奢るから下のカフェでゆっくりしないか?」

 

「ちょいちょいちょーい!?」

 

 

聞こえたのか、総司が勢いよくドアを開けて出てきた。

 

 


 

 

やっと部屋に入れた一行は総司に目を向ける。達也の言からして全然真面目にするつもりはない総司に殆どが呆れ、雫は「さすが総司君…器が大きい」と感動していた。盲目過ぎである。

 

 

「…それで、聞きたいことがあるんだが」

 

「おう!何でも聞いてくれ!あっ、女性経験とかはナシで!」

 

「そんなことを聞きたいわけじゃ無くでだな…」

 

「そんなこと…?」

 

 

相変わらずのふざけっぷりに半ば作業のように返した達也だったが、それを知りたい人(雫)からは想像も出来ない低い声が聞こえたため、今後は慎重に言葉を選ぼうと冷や汗をかきながら達也は思った。

 

 

「単刀直入に聞くぞ、総司。お前と閣下の関係はなんだ?」

 

「ん~?烈爺のことか?なら俺の保護者っていう関係性かな?」

 

 

烈爺、保護者。反応すべき点を二つも同時に出してきた総司に一行は驚愕の色が強くなる。

 

 

「その…保護者というのは?」

 

「総司君って孤児院の出じゃなかったっけ?」

 

 

達也は動揺を努めて隠し、「総司君だし…」と思った雫は純粋な疑問で問う。

 

 

「あー…達也、今情報端末持ってるか?」

 

「ああ…それがどうした?」

 

「それで『立花の家』って検索してみてくれ」

 

 

言われた達也が調べると、京都に同じ名前の孤児院が検索結果に浮上した。

 

 

「ここが、おまえの孤児院なのか?」

 

「そうそう。それで、創立日を見てくれ」

 

「創立日…?2079年の10月25日…コレが何か?」

 

「その日付、俺の生まれた日なんだよ」

 

 

再度驚愕する一同。コレには流石の雫も驚いていた。

 

 

「じゃあなんだ?総司が生まれた日に偶然創立したってことか?」

 

「いや、必然的に創立した」

 

 

レオの質問に答えた総司の発言にエリカが問う

 

 

「どう言うことなの?」

 

「その孤児院は俺の両親が烈爺に依頼して作ってもらった…らしい。俺も詳しくは知らん」

 

「依頼?なんのためにだ?」

 

「烈爺曰く、俺の保護だ。当時から狙われてた俺…というより俺の家系に俺を置いたままでは殺されるってことで両親が必死に頼み込んで、俺が生まれるのに合わせて設立したんだってよ」

 

 

烈に頼んで設立してもらう…文面では簡単そうに見えるが、実際はそもそも老師と呼ばれるほどの男とのパイプが無ければ接触も難しいだろう。ということは、総司の両親はそれなりの地位にいたと言うことだ。

 

 

「後、その年の11月1日の事件について調べてくれ」

 

「分かった…これは…!」

 

 

総司に言われるがまま再び検索を行った達也は驚愕する。

 

 

「京都で一組の夫婦が車の爆発事故に巻き込まれて亡くなった…まさか」

 

「そう、それは俺の両親だ。多分殺されたんだろうな」

 

 

衝撃の事実に総司以外の全員の表情が暗くなる。あの軽い総司にこんな重い過去があったなど…

 

 

「…総司のご両親の家系を聞いてもいいかな」

 

 

静寂を破ったのは幹比古の質問だった。

 

 

「僕と初めて会ったとき、君には精霊…スピリチュアルビーイングを色までハッキリと視認していた。ひょっとして、古式の家柄なんじゃないかって…」

 

「ちょっとミキ!」

 

「ごめん!でも気になって仕方ないんだ!」

 

「そうだな。総司を狙う輩とやらも知っておきたい」

 

 

幹比古に続いて達也も問う。死んだ両親の事を話させようなど酷い事をする。だがそんな二人に総司は機嫌を悪くした様子は無い。

 

 

「そうだな。俺と関わっていく以上知っておいた方がいいだろうな」

 

 

総司は一瞬溜めて、自身の正体を明かした。

 

 

 

 

 

 

「俺の家系はかの平安の偉人、()()()()…その直系なんて仰々しい家だったんだよ」

 

 

このカミングアウトには一同に一番の驚愕が襲って来たのだった…




魔法科世界の秘匿通信


・総司が関西の第二高校ではなく関東の第一高校に入学したのは京都を拠点とする追手から離れて暮らすために九島烈が配慮した結果である。


・総司は生まれたばかりで両親の顔も覚えていないが、事実は正確に把握している。



総司が…安部清明の一族…?嘘だ、僕をだまそうとしてる…


次回はもうちょっと詳しく解説。


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九校戦編 その六

リローデッド・メモリがリリース予定を更新しよった!祭りじゃ祭りじゃー!

七月が今から待ち遠しいぜ!


ところでこの話は説明回だ!ぶっちゃけギャグは入ってないから駄文だし読みにくい!そういうのが嫌いなら前までの話を読んで次回からの九校戦開幕まで待つ事をおすすめするぜ!


総司の衝撃のカミングアウトにより、場が凍り付いていた。誰もが驚きのあまり声を上げられないと言ったところだ。

しかし、やっとの思いで口を開いたレオにより、雰囲気は一気に弛緩する。

 

 

「安倍晴明の…一族…!?お前が!?」

 

「オイ、お前がってなんだ」

 

「いやだってお前魔法使えねーじゃん」

 

「使えますー、ちょっとなら使えますー」

 

「でもそんだけだろ?とてもあの安倍晴明の家系とは思えないんだよ」

 

「コレにはマリアナ海溝よりも深い事情がね…」

 

「実はマクラン海溝(世界一浅い海溝)より浅かったりしないか?」

 

「なんかレオ当たり強くない?」

 

 

驚愕で動けなかった者達は二人のいつもと変わらないやりとりを見て顔を破顔させる。その中にはなんと達也も含まれていた。

 

 

「いやいや、ホントに事情があってな…」

 

「事情ねぇ…それは一体何なんだよ?」

 

 

しかし至極真面目に話す総司(いつの間にかペニーワイズの化粧をしている)にレオが聞く姿勢を見せた。

 

 

「俺が魔法があまり使えないのはな、魔法演算領域が閉じてるからなんだよ」

 

「…なんだって?」

 

 

だがギャグ全振りの顔面のまま、総司はかなり重大なことを話し始めた。

 

 

「そのままの意味だよ。俺の魔法演算領域は閉じられてるんだ」

 

「具体的に言ってくれないか?総司」

 

「そうだな~…領域への入り口が鍵の掛かった扉で閉じられてる感じかな」

 

「魔法演算領域が閉じられている…とすれば、お前は一切魔法が使えなくなるのではないのか?」

 

「閉じられてない部分もあるんだよちょっとだけ…医者が言うには本来の0.0001%以下しか使えてないらしいが」

 

「なんだと…!?」

 

 

質問をしていた達也を含めた全員は驚愕をし、中には哀れみを抱く者もいた。しかし、達也は別の可能性を思いついていた。

 

 

「(…もし、こいつが俺にかけられたような手術を受ければ、魔法力が回復するんじゃないのか…?)」

 

 

達也は元々BS魔法師…一部の異能に長けた超能力者であった。『分解』と『再生』、この二つの異能しか使えなかった達也は母親の深夜と叔母の真夜により魔法演算領域を作り出す実験の被験者として手術を受け、感情と引き換えに仮の魔法演算領域を手に入れていた。デメリットの割に大した物ではなかったが。

 

しかし、総司の言からは彼には魔法演算領域が元からあり、使えなくなっているだけだ。もしかすれば、あの手術と似たようなことをすれば彼の魔法力は覚醒するのではないか、と。

だがそれは四葉に刃向かう達也からしては面白くない。そんな奴ではないとは思っているが…もし総司が感謝で四葉に仕えることになったら達也の勝ち目が一気にゼロになってしまう。

 

総司には悪いが、この事は秘密のままで…そう考えた達也であった。

 

 

「…話は変わるが、お前は橘氏の血も引いているのか?」

 

 

橘氏とは、日本における貴族として有名な源氏、平氏、藤原氏に次ぐ四大貴族の一つだ。もしかしたらその家の血も引いているのかもしれないと考えたが…

 

 

「いや?違うぞ。俺の両親は母親はともかく、父親は一般人だからな」

 

「そうなのか?安部といえば魔法師界では注目されそうだが…」

 

「それは、安倍晴明以降、安部家は衰退しているからだね」

 

 

達也の疑問に答えたのは総司では無く幹比古だった。

 

 

「安倍晴明の没後、徐々に衰退した安部家はもはや、古式の家でも話題にならない家系だ。むしろ生き残りがいたことにすら驚愕してるよ」

 

「そうみたいだな。事実烈爺とのコネクション自体は安部ではなく俺の母個人の物だったらしいし」

 

 

どうやらこの世界では安部という家はもはや過去の偉人の家だねー凄いねーぐらいしか思われないほど力を持っていなかったようだ。

 

 

「この名前は烈爺が付けたんだ。俺の両親は名前を付けると俺の運命を決めてしまいそうだったから付けないことにした…って前に烈爺が言ってたな」

 

 

予想以上に重い名前の由来だった。

 

 

「じゃあ何故橘の名を?」

 

「橘家は四大貴族の中でも、知名度が比較的低いし橘なんて名字探せばそこら辺にいる。カモフラージュしやすい点から俺の名前を橘にしたらしい」

 

「でも、総司君は結局刺客に追われてるよね?」

 

 

雫が四月に遭遇した刺客のことを思い出し、思わず口に出してしまった。事実雫は「しまった」といった顔で口を抑えているし、他の面々は驚愕している。

 

 

「刺客だって?…総司どう言うことだ?」

 

「スーッ…」

 

 

明らかに目の色を変えて総司を見やる達也。この視線が心配は心配でも、総司では無く深雪に危害が及ぶ可能性を危惧してのものだと気づいた総司は下手打てば殺されるな…と思いながら説明する。

 

 

「…雫ちゃんの言う通り、俺は結局敵に正体がバレたんだよな…アレは単に俺の情報を漏らした奴がいるとしか思えんがな…」

 

「お前を狙う敵とはどう言った組織なんだ?」

 

「俺を狙っているのは所謂『伝統派』って言われてる奴らだ」

 

「なんだって!?」

 

 

総司の発言に思わず叫んでしまった幹比古。

 

 

「幹比古、『伝統派』とは確か…」

 

「伝統派は主に九の家に敵対する古式魔法師が手を組んで結成された組織だ…古式魔法師と言っても、僕の家は伝統派と敵対しているからそこは安心してくれ。でもなんで伝統派が…?」

 

 

伝統派が総司を狙う理由、それが幹比古には理解出来なかった。確かに今の総司は九島の家の人間といっても差し支えないが、元々は関係ない家の出身だ。預けられる前から狙われていたとすると、総司が狙われる理由が無かった。

 

 

「ああそれはだな、何でも『占い』に出たんだってよ」

 

「…『占い』?」

 

「ああ、所謂占星術と言う奴だな。どうやら俺が生まれる時に、『安部の家に古式の、魔法そのものの概念を歪めかねない赤子がうまれるであろう』って占いがあったらしくてな。それを九へのジョーカーだと考えた伝統派は生まれたばかりの俺を捕らえて洗脳して、対九用の兵器に仕立て上げようとしたらしいんだ」

 

「そ、そんな占いが!?聞いたことも無いぞ!」

 

「だろうな、伝統派と敵対しているからこそ知らなかったんだろう」

 

「だが、その洗脳は失敗している訳よね?なんでまだ狙われてんの?」

 

 

エリカからの質問に総司は少し考え込んで答えた。

 

 

「コレは俺の推測も入るんだが…奴らは俺を九の家に対して兵器運用しようとしてた訳で、でもその兵器は敵であるはずの九に奪われている…」

 

「つまり、お前が敵に回ったから始末しようと?」

 

「だろうな。そもそも赤ん坊の時に引っ捕らえようとしてたぐらいだ。奴らからしてみれば今の状況は、逆転の一手となる強化アイテムを敵に奪われたみたいなもんだからな、奪い返せないなら破壊しかないだろ」

 

「なんて幼稚な…」

 

 

深雪は思わずそんな程度の理由で人を殺そうとする伝統派に怒りを露わにした…その怒り方はまるで叔母の真夜のようだ…

 

 

「それで?総司君はどうするの?私…心配だよ」

 

「…大丈夫だよ、雫ちゃん。俺があんな程度の奴らに負ける訳無いだろ?」

 

「…信じてるから」

 

「ああ、是非そうしてくれ」

 

 

いきなり展開された恋人同士(に見える)やりとりに、達也と深雪はほほえましく見つめ、他は全員『またか…』と呆れていた。

 


 

もう遅い時間だからと全員が部屋に引き返した後、二人となった総司と達也。ここで達也は今まで聞けなかった事を聞いてみた。

 

 

「総司、お前のその身体能力はどうやって手に入れたんだ?」

 

「知らん」

 

 

あまりの即答とその意外性に達也は目を剥く。

 

 

「その能力は家系ではないのか?」

 

「違うだろ、多分。安倍晴明がパワー馬鹿だったとか聞いたことねえし」

 

「…それもそうだな」

 

「んじゃ、お休み」

 

「ああ…」

 

 

そうして総司の衝撃の正体が判明したことに達也は、『この事は先輩方には黙っていた方がいいな…』と考えながら眠りにつくのであった。




魔法科世界の秘匿通信


・総司が第二高校ではなく第一高校に通っているのは敵の本丸である関西から離そうという烈の配慮である。


・総司も医者も、総司の魔法が使えない理由を『魔法領域が閉じられている』という認識でいるが、全くの間違いである。


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九校戦編 その七

前書きに書くことねぇ…!今回はまだ例の事故は起こりません。初日ですからね…しょうがないね。


九校戦初日!天気は天晴れ快晴そのもの!そんな中達也達は朝早くから競技場を訪れていた!

 

 

「へー、ここが会場かぁ。テーマパークにでも来たみたいだな」

 

「お前は観光スポットに来た外国人かよ…」

 

 

まるで観光にでも来たかのような言い草の総司にレオが若干呆れる。まあ、この世界は出国が非常に難しいので本当に外国人がそんな反応するかは謎だが。

それはともかく、彼ら一行がこんなに早く来た理由、それは女子本戦のスピード・シューティングとバトルドー…!失礼、バトル・ボードの予選が行われるからだ。この二つには早速優勝候補と言って差し支えない真由美と摩利が出場する。達也が見に行かなければ絶対にめんどくさい絡み方を二人からされるのを達也は予見していた。それぐらいならば見ておいた方がいいし、そもそも技術の高い二人の競技を達也は元より見るつもりだったので特に問題はない。

 

 

「スピード・シューティングは予選と本選で戦法を変える人が多いが」

 

「七草会長はずっと同じ戦法だよね~」

 

 

達也が言いかけた事をエリカが引き継ぐ。

 

 

「もっと前の方で見た方が良かったんじゃないか?」

 

「この競技は後ろで見た方がいいでしょ。それに、前の方は人でいっぱいだし」

 

 

エリカが指さす先には観客席の最前列、そこに大勢の人だかりが出来ていた。

 

 

「馬鹿な男共がうじゃうじゃいるわね」

 

「青少年だけではないようだが?」

 

「お姉様ーってやつ?全く馬鹿ら…しい…?」

 

「どうしたの?エリカ」

 

「…アレ」

 

「アレ?…あっ」

 

 

エリカが何かを見つけて固まっている心配したエリカが指さしたのは…

 

 

 

 

「フレー!フレー!かーいちょーう!オーエス!フレフレ会長!フレフレ会長!おー!」

 

 

いつの間にか応援団長の格好で真由美にエールを送っている総司だった。

 

このエールを受けた真由美本人は分かりにくいが若干青筋がたっている。総司とはまだ浅い付き合いだが、この自身を尊敬するそぶりを一切見せた事のない後輩からの応援は紛れもなく自分をからかっているのだと分かったからだ。

それを理解している達也一行のメンバーも真由美を哀れむ。

 

 

「…会長、羨ましい…」

 

「雫!?しっかりして!?」

 

 

一部本気で羨ましがる者もいたが。

そんなこんなで始まった試合だが、解説する事などない。得点有効エリアに入った途端に真由美によりターゲットが破壊される。駆け引きなどありもしない圧勝だ。

 

 

『九校戦本戦、予選 第一高校三年七草真由美 結果:パーフェクト』

 

 

「流石エルフィンスナイパーですね」

 

「本人はその称号を嫌っているようだがな」

 

「お兄様、今の魔法はドライアイスの亜音速弾ですよね?」

 

「よく分かったな、深雪」

 

「キャー!会長かっこいいー!こっち向いてー!(ダミ声)」

 

 

相変わらずうるさい総司を放っておいて達也はメンバーに真由美が何をしたのかの解説を行いながら摩利の試合を見るためバトル・ボードの会場に向かう。

 

全員が座れる場所を確保し腰を下ろすとほのかがふと不満そうに声を上げた。

 

 

「そう言えば深雪や雫は二種目とも達也さんに担当してもらえるんですよね…なのに私は一つだけ…ズルいです」

 

 

ちょっとアプローチが激しい人(北山雫)が一人いるせいで忘れがちだがほのかは達也の事を好ましく思っている。正直に言ってほのかは二人が羨ましかったのだ。

 

 

「バトル・ボードは他の二種目と時間が重なっているからね。ほのかにはすまないと思っているよ」

 

「いえ、達也さんに謝って欲しい訳じゃないんです…」

 

「すまない…」

 

「総司さんはなんで謝ったんですか?」

 

 

達也の謝罪にほのかは自身の八つ当たりであることを自覚して謝罪する必要はないと返答する。いつの間にか追いついていた総司が謝った理由は分かってない。

 

 

「…どうやら、ウチの先輩方には妙なファンが多いようだな」

 

「あんなのの何処がいいのかしら…」

 

「顔」

 

「ストレート過ぎないかい?」

 

 

達也が摩利に目を向けると先程の真由美のように最前列にたむろするファンで賑わっていた。エリカはどうやら摩利の事が苦手なようで悪態をつく。それにシンプルな返答をした総司に思わず幹比古が突っ込んだ。なお、摩利のファンとおぼしき集団は真由美よりも女子の比率が多い。あながち総司の意見は間違っていないし、なんなら正解まであった。

 

 

「…総司君は委員長みたいな人がタイプなの?」

 

「ないな、あんな横暴女。学校じゃ雫ちゃんが一番タイプだよ」

 

「総司君…!」

 

 

まるでバカップルのようなやりとりを始めた総司と雫に一同がまたか…と呆れる。

 

 

「さて、俺は行かなきゃな」

 

 

そう言って立ち上がる総司。よく見ると先程と格好が違う。頭にハチマキをしていることは同じだが、応援団長のような学ランではなく、一昔前の夏祭りで着られたような法被を纏っていた…所謂オタクモードである。

しかもサイリウムも完備してあり隙がない。

 

 

「ちょっと、さっきあんな女ないとか言ってたじゃない!」

 

「ああ、ない。だが好み(それ)イジり(これ)とは話が別だ」

 

 

そう言った総司は最前席の当たりまで向かい、美しいオタ芸を披露し始めた。

 

しばらくしてレースが開始し、達也は視界にチラチラ映る総司を邪魔に思いつつも、摩利の技量に感嘆していた。

 

 

「移動魔法と硬化魔法のマルチキャスト…それに振動魔法か。加速魔法を含め、常時三から四種類の魔法を同時展開とはな…」

 

 

手放しの達也の賞賛に摩利が苦手なエリカは面白くない顔をする。

その後の摩利の妨害を兼ねた加速でのぶっちぎりのゴールインにも達也は賞賛を送る。

 

 

「渡辺委員長は戦術家な一面もあるのか…」

 

「あんなの性格が悪いだけよ」

 

「…!」

 

 

エリカは相変わらず摩利に憎まれ口を叩く。咎めようとした者もいたが、視界に映る高速オタ芸をする総司に気が散ってうまく言葉が出なかった。

 

 


 

 

次の真由美と摩利の出番までには時間がある。此処で達也と総司は一行から離れて行動すると言い出す。他の面々は若干不満そうで、特に深雪と雫が不機嫌であった。だがそんな理由だけでキャンセルできる用でもなかったため、二人は謝罪と共にその場を後にした。

 

その後達也はホテルの一室にいた。そこには達也の他に大人の男性が四人、若い女性が同席していた。

そのメンバーは軍の『独立魔装大隊』に所属する手練れ達だ。

 

そのメンバーとしばし談笑していた達也はふと尋ねる。

 

 

「少佐、そう言えば、昨夜この施設に賊が入ったと聞きましたが…」

 

「耳が早いな、その通りだ。以前にも話した『無頭竜(ノー・ヘッド・ドラゴン)』の工作員だ」

 

「闇夜に紛れての襲撃とのことですが、一瞬で捕らえられたと聞きます。何故なのでしょうか?」

 

 

達也は昨夜、総司からのカミングアウトを受けて珍しく疲弊していたため早めに睡眠を取っていたのだ。故に賊がどうたらの経緯を知らない。

するとその質問には若干顔を赤らめた女性…藤林響子が恥ずかしそうに答える。

 

 

「実は閣下がね?総司君が狙われる危険性を考慮して多数の護衛を施設に配置していたの。本来無頭竜を警戒してた訳ではないんだけどね」

 

 

まるで身内が恥をさらしているかのような羞恥に追い込まれている響子。それはそうだろう。殺しても死なないような総司に護衛を付けるなど愚の骨頂、人員の無駄遣いである。この護衛は過保護気味な烈が用意した者達だ。因みに達也だけではなく、独立魔装大隊の面々も総司の実力は伝え聞いている。事実この報告を受けたときは響子程ではなくとも呆れていた、つまり総司の実力を正しく認識しているのだ。

 

 

「…そう言えばさっき、いつもの集まりから総司が席を外したんですが何か知りませんか?」

 

「…多分閣下がVIPルームに招待したんだと思う。閣下は毎年連れてきていたから」

 

「本当に自分の子供みたいに扱っているんですね…」

 

「あの子は閣下が育てたようなものだからね…」

 

 

そんな会話がホテルでされていた頃、スピード・シューティングにあるVIPルームにおいて、二人の人間が会場を見下ろしていた。

 

 

「ふむ…磨けば光る才能を持つ者も少なくはないが…やはりこの競技は七草の長女が完勝するだろうな」

 

「そりゃあんな力技、妨害もクソもねえよ。知覚魔法があるだけでここまで違うってのもなあ…」

 

 

その二人とは魔法界の重鎮、九島烈と我らが主人公橘総司だった。

 

 

「ところで、この間の賊は大丈夫だったのか?」

 

「問題なし、ボッコボコにしてやったぜ」

 

「ふむ…そうか」

 

 

烈は何か思案顔になるとしばらくしてから口を開く。

 

 

「…昨夜、賊が君の泊まっているホテルの敷地内に侵入してきた」

 

「…また伝統派か?わざわざご苦労なこった」

 

「いや、無頭竜という組織の者だったそうだ」

 

「なんじゃそりゃ」

 

 

全く聞き覚えのない名前に驚愕する総司。

 

 

「無頭竜とは香港系国際犯罪シンジケートだ。魔法を悪用する、以前のブランシュ如きとは比べものにならん相手だ」

 

「ふーん…」

 

「…」

 

「…」

 

「…言いたいことは分かるぞ、総司」

 

「…魔法使ってこようが来まいが結局ほぼ俺には関係なくないか?」

 

「念のために教えた。君なら出会い頭に潰してしまえるだろうがな」

 

 

はっはっは!と快活な笑い声が二つ。この二人には余裕の表情が見られていた。

 

 

「ああ、そうだ。会場中で精霊達が騒いでる。もしかすると精霊魔法の類いが仕掛けられているかもだ」

 

「なるほど…他にも敵がいると言うことか?」

 

「それは分かんない。けど、香港系の犯罪組織がこっちに手出ししてきたんだろ?なら大陸系の魔法を使ってくる可能性もあるぜ」

 

「全く…古式の魔法にばかり知識を割きおって…君の落第を私の権力で牽制していることに気づいていない訳ではなかろう」

 

「感謝感激雨あられ」

 

「困った小僧だな…」

 

 

そう烈は言うが顔には笑みが浮かんでいる。それは端から見れば、おじいちゃんと孫の中の睦まじい会話に見えていた。




魔法科世界の秘匿通信

・総司は古式魔法の知識は幹比古より多かったりする


・総司が最下位トリプルスコアを取っても退学にならないのは九島が一高に圧力をかけているから



烈爺の口調よう分からんな…次回から面白くなっていくんじゃないかと思います(未来の自分に思いをはせながら)


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九校戦編 その八

もうリロメモの広告を見るたびに待ちきれないんだ!前作よりは楽しめるゲームであってくれよ…


二日目終了までしか書けなかった…例の摩利さんの事故まで書くつもりだったのに…


後、作者の諸事情により少しの間投稿できません。ご了承ください。今週末には出します。


達也は独立魔装大隊の面々の元を離れ、真由美の出場するスピード・シューティングの決勝トーナメント会場にやって来た。やはり決勝ともなれば予選とは人の出入りは比べものにならない程に多くなっていた。

 

 

「達也君ー!こっちこっち!」

 

 

達也を見つけたエリカが達也を自分達の方へ誘導する。今回は変な格好をしていない総司も既にいた。彼はVIPルームからわざわざ降りてきているのですぐに一行と合流できていたようだ。

 

 

「随分と人が多いな…」

 

「真由美会長が出るからだな。さっきまでこんなにいなかったぞ」

 

「あれ?総司って誰かに呼ばれてたんじゃ無かったか?」

 

「ああ。ここのVIP席で烈爺と観戦してた」

 

 

一瞬で沈黙する一行。何の用かは気になっていたが、まさか老師と観戦していたなど事前に聞いていた達也以外には想像もできなかっただろう。だがその沈黙も一瞬のことだった。

エリカが用意した席に着席する達也。その後ろにはほのかが座っており、達也の身長的に頭で見えにくくなっているかもしれない。その事に気づいた達也はほのかに声をかける。

 

 

「ほのか、見づらくはないか?」

 

「だ、大丈夫です!それに達也さんの後ろだと…」

 

「?大丈夫なら良いんだが…」

 

 

ほのかに顔を朱に染めたほのか(激うまギャグ)に気づかなかった達也に総司が『コイツマジか…!?』と言いたげな顔を向けていた。まるで鈍感系主人公のようだと思ったようだ。その視線に気づいた他の面々は『お前が言えた事か?』という視線を向ける。達也は総司からの視線に気づかないし、総司も他から…とりわけ雫から向けられた視線に気づくことはなかったが。

 

 

「いやしかし…本当に凄い人気だな…」

 

「達也君も、他の高校だったら会長の虜になってたんじゃ無い?」

 

「いやそりゃないだろ。あの人すっげー腹黒いし」

 

「そうかな~?意外にあるかもしれないじゃん…!じゃ、じゃあ総司君はどうなの?」

 

 

エリカが達也をからかったときに深雪からとてつもない冷気を向けられた気がして、達也のフォローに入った総司に標的を変える。因みに今度は雫のエリカを見る視線が痛くなった。

 

 

「どうだろうな。顔も良いし、スタイルも良い…あり得るかもしれん」

 

「おっマジ?」

 

「そ、総司君…!?」

 

 

意外な返答に面食らうエリカ達。特に雫は悲鳴を上げそうな顔をしている。

 

 

「だけどそれは他の高校だったらの話だ。今はあの人の腹黒さ知ってるし、なにより範蔵君に申し訳ないぜ」

 

「お前…服部副会長の事君付けなのか…」

 

「マイソウルフレンドだからな。因みにそれ以外は武明先輩に紗耶香先輩、克人先輩だな」

 

「大物過ぎません…?」

 

「なんでそんな人達と繋がりがあるの…」

 

「…見たことあるなそのメンツ」

 

 

美月とほのかは最早呆れの境地だ。幹比古には見覚えがある名前ばかりだったが。

 

 

「ねえ、総司君」

 

「ん?」

 

「…私は?」

 

 

先程名前を呼ばれたソウルフレンドとやらに自身の名前が入っていないことにどうやら雫は不安感を覚えたようだ。総司はそれを知ってか知らずか、恐らく知らないが笑顔でこう返した。

 

 

「雫ちゃんは特別だよ。マイベストフレンドだからな!マイベストソウルフレンドの方がいいか?」

 

「…!ありがとう」

 

「?どういたしまして?」

 

 

顔が不安げな者から一瞬で光り出した雫。まるで閃光魔法でも使っているかのようだ。

ともかくこれでエリカは達也と総司にこう言った異性に関する話題はしない…それか地雷となる者達(深雪と雫)がいない時を見計らわないといけないと学習した。因みにレオのそれに関してはハナから興味は無い。

 

 

「あっ、始まりますね」

 

 

我関せずと目をコートに向けていた美月が声を上げる。全員の興味が試合に向く…が、結局真由美の『マルチスコープ』を用いた『魔弾の射手』の射撃でクレーが続々と破壊されていく。まるで予選のリプレイ映像でも見ているかのような気分だ。

 

 

「えっ?」

 

「おっ」

 

 

そして会場に沈黙が訪れた。真由美のクレーが相手選手のクレーの後ろにあったにも関わらずに撃ち抜かれたのだ。相手のクレーは壊さずに。

 

 

「『マルチスコープ』に死角はありませんものね」

 

「ああ、そして七草会長なら全方位から撃てる」

 

「弾丸じゃなくて銃座の生成による射撃かぁ…応用効きそうだな」

 

 

総司の呟きを補足するように達也が『魔弾の射手』について解説する。そして、

 

 

「これが競技だからいいが、想像してみろ。もしコレを戦場で、威力最大に設定されたモノを使用された時のことを」

 

 

と付け足した。その「もし」の例え話を聞いた面々は驚愕の表情を浮かべる。総司だけヌベスコ顔だ。彼の脳内では確実に全弾回避しているだろう。

 

 

「たった一人で戦争を勝利に導く事が出来る。それが十師族だ」

 

 

結果が最早見えた試合に完全に興味を無くした達也は恐れるそぶりも無く淡々とそう告げる。他の面々がその達也に驚きの顔を向ける。ただ一人、総司だけがまるで達也を哀れむかのような表情をしていた。

試合そのものは勿論と言うべきか、真由美のパーフェクトで完全なる圧勝だった。

 

 

 


 

 

日付は飛んで九校戦二日目、達也は一高の天幕にいた。おかしい、彼はしばらくオフのはずだ。何故このようなところにいるのだろうか…

 

 

「ありがとう、達也君」

 

「いえ、深雪に頼まれては受けるしかないので」

 

「そこは『先輩の為ならなんなりと!』でしょう?」

 

「独裁政治か?」

 

「総司君うるさい」

 

「うぃっす」

 

 

達也は昨夜、深雪を通して真由美のクラウド・ボールのサブのエンジニアとして急遽抜擢されていたのだ。総司が此処にいる意味は無い。ただただ仕事が増えた友人をからかいに来ただけだ。

 

 

「そろそろ試合なのではないですか?会長」

 

「それもそうね。総司君、今に見てなさい!今日こそアナタに尊敬される先輩として君臨してあげるんだから!」

 

「あ、すいません。俺今日クラウド見ないんですよ」

 

「ええ!?なんで!?」

 

「お前も出るだろう?他人の試合から学ぶこともあるだろ?」

 

「…ああ、達也は俺の戦術知らないのか。その問いにはNoだ。俺はどんな奴が相手でも勝てる自信があるからな」

 

「確かにそうね…あの戦法は酷いから…」

 

「アナタが言うんですか?」

 

「会長、総司の戦法とは?」

 

「おっと会長。秘密にしているのでオフレコで」

 

「わ、分かったわ」

 

 

そう会話した後総司と達也達は天幕で別れた…

 

 

 


 

 

正直に言おう。真由美はまたしても全試合パーフェクトで女子クラウド・ボールを制した。その後新人戦の参考にと本戦女子アイスピラーズ・ブレイクの試合を観戦したが花音の魔法はほぼ自爆特攻のようなものであまり参考にはできなかった。

 

 

天幕に引き上げた達也と、ピラーズ・ブレイクを観戦していてそのまま兄に付いてきた深雪は天幕で更にグッドなニュースを受け取る。

 

 

「何があったんです?」

 

「あっ達也君!男子クラウド・ボールで桐原君が優勝したの!」

 

「ええ、二回戦で三高の選手と当たった時はどうなることかと思いましたが、彼は予想以上の結果を出してくれました」

 

 

真由美の発言に鈴音が補足を入れる。しかし、その表情はどこか浮かない顔だ。

 

 

「…どうされたんですか」

 

「あ、いえ…特には」

 

 

鈴音の表情の変化を悟った達也が問うと、予想外の答えが返って来た。

 

 

「ただ…桐原君がまるで橘君のような奇天烈な行動をしていたのが気になってですね…」

 

 

影響されてるー!と達也と深雪は心で叫んだ。確かに昨日総司は桐原の事をマイソウルフレンドと称していた。彼の影響を受ける可能性は大いにあるだろう。

 

 

「映像を見せていただけますか?」

 

「はい…コレです」

 

 

差し出された映像に二人が目を向けると…

 

 

 

『行くぜ、総司!お前が教えてくれたこの踊り!有効活用させてもらうぜ!』

 

 

 

₍(ง )ว⁾⁾

 

鳴らない言葉をもう一度描いて

 

 

₍₍ᕦ( )ᕤ⁾⁾ ₍₍ʅ( )ว⁾⁾

₍₍ ⁾⁾

₍₍ ⁾⁾

 

 

 

₍₍₍(ง )ว⁾⁾⁾

 

哀しい世界はもう二度となくて

 

 

₍₍ᕦ( )ᕤ⁾⁾ ₍₍ʅ( )ว⁾⁾

 

 

 

荒れた陸地が こぼれ落ちていく

 

 

₍₍ ʅ( ) ʃ ⁾⁾

 

一筋の光へ

 

 

「「……」」

 

 

その映像には奇怪なダンスを踊りながら相手の妨害やパワーショットを全て乗り越え、三高の選手を圧倒している桐原の姿だった…

 

 

「「…失礼します」」

 

 

そのダンスに何故か頭痛が痛くなってしまった司波兄妹はホテルへと向かった…

 

 


 

 

バトル・ボード会場にて…

 

 

「…やっぱ精霊達が騒いでいるな」

 

 

先程達也と別れた総司は今日は試合が無いはずのバトル・ボード会場の前にいた。彼は端から見れば競技場を睨んでいるように見えているだろう。しかし、総司が見つめていたのは別のモノ。明らかに異常な動きをする精霊達を見ていたのだった。

 

 

「絶対明日なんかあるな…はてさて、敵は伝統派か、それとも無頭竜とやらか…」

 

 

そう呟いた総司は競技場に背を向けその場を後にした。




魔法科世界の秘匿通信


・ここで桐原が優勝することでポイントに変動が起こるが見事に森崎達一年の一科生が原作よりも得点を下げる事でプラマイゼロになる。


・総司が真由美を「アリ」だとしたのは、作者が雫ちゃんの次に真由美さんが好きだからです。差は大きく雫ちゃんが圧勝ですが。



次回こそは、書けるよね?摩利さんの事故!(パブロン感)


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九校戦編 その九

皆さんお待たせしました。今日から投稿を再開していきます。ですが少し離れていたこともあり感覚を忘れてしまっているかもしれないのでご了承ください。


九校戦三日目!男女アイスピラーズ・ブレイクと男女バトル・ボードの本戦決勝が行われるこの日は、九校戦前半の山場でもある。

 

 

「服部副会長が男子第一レース、渡辺委員長が女子第二レース、千代田先輩が女子第一試合で十文字会頭が男子第三試合か…」

 

 

組み合わせ表の前で達也は頭を悩ませていた。この四人の中で親しい間柄と言えるのは自身の所属する風紀委員のトップである摩利、そして総司に手を焼かされていると言う共通点がある範蔵だ。ここだけを見ればバトル・ボードを見ることが確定しているようなものだが、今後の参考にするためピラーズ・ブレイクを深雪と見ると言う選択肢がある。正直に言ってどちらに行こうとも達也としては構わない。

深雪に聞いてみようか…そう思った達也だったが

 

 

「やあ、達也君」

 

「…委員長」

 

 

そこには先程から名前の挙がっている人物の一人、渡辺摩利が立っていた。

 

 

「勿論君は、私のレースを見てくれるんだよな?」

 

「…はい」

 

 

哀れ達也。先輩の圧力により今日の予定は決定してしまった。しかし、声音とは正反対に摩利の顔色は優れない。

 

 

「委員長、体調が悪いのでは無いですか?顔色が宜しくないようですが…」

 

「ああ…いやなに、総司にちょっとな」

 

「総司が何か?」

 

 

摩利から出てきた名前に驚愕する達也。まさか摩利の表情の原因が総司にあるとは、あの男はふざけているが摩利と二人の仲はからかう後輩とからかわれる先輩と言ったものであり、決して悪いものではなかったはずだ。

 

 

「総司がな、『摩利さん、今回のレースは気をつけてください。俺も見に行きますんで』と言ってきたんだ」

 

「…それの何処が悪いのですか?単に委員長のお体を心配しての発言では…」

 

「そこだよ」

 

「と、言いますと?」

 

「アイツだって私の実力は知ってるはずだ。自惚れではないが、今回のレースは七高の選手以外相手にならん」

 

「でしょうね。この会場の大半はそう思っているはずです」

 

「そんな私に『気を付けろ』だぞ?あの総司が」

 

「…確かにそれは奇妙ですね」

 

 

総司はその高い戦闘力の影響か、他人の実力をある程度察する事が出来る。彼には摩利が負ける可能性は低いことも、ましてや()()()()()などあり得ないことも見抜けているはずだ。

 

 

「恐らく私よりも仲が良い十文字の試合すら見ないつもりだぞ奴は」

 

「そこまでですか…」

 

 

最早この数ヶ月で克人と総司が仲が良い事など知る人ぞ知る事実だ。流石に摩利でも克人ほど仲が良い訳では無い。

 

 

「自分も委員長の試合を見させていただきます。少々不安になってきたので」

 

「不安にならなくても見に来てくれよ?」

 

「勿論そのつもりでしたから」

 

 

そう言って二人は別れた。

 

 


 

 

 

時間は飛んで女子バトル・ボード第二レース前。

範蔵の試合から引き続き観戦している達也は総司がやけにソワソワしている事にやはり何かが起こるのだと当たりを付けた。

確かに先程範蔵の試合からソワソワはしていたが、摩利の番だと特段不安になっているようで、レース開始前だというのにゴール前の競り合いでも見ているかのように緊張している様子だった。

 

 

「そんな顔してどうしたんだ、総司?」

 

「達也…それは、」

 

 

総司が言いかけた時、スタートのブザーが鳴ってしまう。一斉にスタートする選手達。準決勝であるこのレースからは参加人数が五人から三人になるため、摩利の姿がよく見える。

 

 

「渡辺先輩についていってる!?」

 

「さすがは『海の七高』」

 

「去年の決勝カードですよねこれ?」

 

 

摩利と七高の選手の競り合いに達也一行を含めた会場中から興奮と驚愕の声があがっている。そんな中、総司は七高の選手のCADを見て顔を青くし、勢いよく立ち上がった。

 

 

「マズい!」

 

「ど、どうしたの?総司君」

 

 

明らかに様子がおかしい総司を心配する雫。しかし、総司は焦りのあまり、返事をすることはなく叫ぶ。

 

 

「七高の選手のCAD…精霊による妨害術式が入れられてる!このままだと多分事故を起こすぞ!」

 

「なんだって!?」

 

 

総司の言葉にならい、達也も『精霊の眼』で七高のCADを確認する。すると確かに精霊による術式が入っているのが分かった。

そしてコーナーに掛かったところで…

 

 

「あっ!?」

 

「オーバースピード!?」

 

「畜生やっぱりか!」

 

 

七高の選手は明らかにバランスを失い、自分の動きを制御できていない様子だ。このままではコーナーを曲がりきれずにフェンスに突っ込んでしまうだろう…前方に摩利がいることを考慮しなければ。

このままでは摩利と激突してしまう…

 

 

「危ない!」

 

「…!」

 

 

だがそこは一高三巨頭の一角、渡辺摩利と言ったところか。後方の異常に気づいた摩利は即座に受け止める体制に入った…が、その足下が不自然に沈みこみ、摩利までもが体制を崩した…()()()()()()。その瞬間…

 

会場にはゴウッ!と爆風と水飛沫が広がった。爆風は達也達がいた席から、水飛沫は今にも激突しそうだった摩利と七高の選手がいたところからだ。

気づいたときにはコース内にもフェンスのそばにも二人の姿は見えない。

 

コレにはさすがの達也も戸惑いを隠せない。そんな達也に影が掛かった。それに釣られ上を向く達也。そこで彼が見たのは…

 

二人の選手を抱えて空中に浮かんでいる総司の姿だった。

 

正確にはこの表現は正しくない。総司はただただ跳躍しただけであり、浮いているより跳び上がっているといった表現が適切だ。

総司はそのままコース外に着地して二人を下ろす。ここで総司が二人を助けた事に気づいた者が大半だった。会場は一瞬静まりかえり、直後総司に拍手が贈られた。

 

 

「私は…無事なのか?」

 

「大丈夫っすか?摩利さん」

 

「総司…お前は一体…?」

 

「すいません、話は後で」

 

 

総司はやって来たスタッフ達に二人を念の為医務室へと連れて行くように言った後、どこかに行ってしまった…

 

 


 

 

数十分後…ホテルのVIPルームの一つにて。先程バトル・ボード会場から姿を消していた総司とその保護者にして『世界最巧の魔法師』九島烈がいた。

 

 

「総司、聞いたぞ。事故が起こる前に選手達を救出したようじゃないか。警備長が感謝状を渡したいとまで言っていたよ」

 

「感謝状て…警察じゃないんだから」

 

 

相変わらずこの二人は家族のように接している。総司から見れば事実育ての親も同義なのでその認識は間違ってはいないのだろうが。

 

 

「して…その事件において、精霊による妨害を受けた選手がいたそうだな?」

 

「ああ。恐らくターゲットは七高の選手…に見せかけた摩利先輩だろうな。七高の選手だけが狙われていたとすれば摩利さんを妨害する必要は無かったはずだ」

 

「ふむ…事故に見せかけるのに都合がよかったからその渡辺選手にも妨害を仕掛けた、というのもあるのではないか?」

 

「確かに…でも、前回優勝したのは摩利先輩だ。去年の雪辱、みたいな理由なら尚更摩利先輩を狙うだろ?」

 

「では渡辺選手のCADに直接妨害術式を仕込めばよいのではないか?」

 

「そこなんだよな。なんで相手は摩利先輩に直接ではなくー、そ、そうか…!?」

 

「何か分かったのか?」

 

「ああ、完全に理解したぜ!」

 

 

向かいあうソファから立ち上がり、対面の烈にいかにも『謎は解けた!』という顔で総司はこう言った。

 

 

「相手は摩利先輩に直接の妨害を仕込むことが出来ない理由があったんだ!」

 

「ほう?その理由とは?」

 

「それは…俺だ」

 

「ほう…」

 

 

目線で続きを催促する烈。

 

 

「相手は恐らく、俺の異能を知っているんじゃないか?だとすると摩利先輩に対して間接的になるのもうなずける!」

 

「なるほど…もし総司と渡辺選手がレース前に接触していれば、事前に気づいたお前に妨害術式を無効化されてしまう…その事から、お前と遭遇しないであろう敵選手を狙ったと」

 

「ああ、そして俺の異能を知っているのは俺の友人達、九島家、そして…」

 

 

総司はまるで事件解決の時の探偵のような気持ちで叫ぶ。

 

 

「敵は…()()()だ!」

 

 

総司の顔には『これで決まりだ!』という文字が浮かんで見えるようだった。




魔法科世界の秘匿通信


・ぶっちゃけジード・ヘイグも総司を危険視しているため、無頭竜特に日本支部には全首領のヘイグからの忠告が行き届いている。


・摩利はこの後目立った外傷やダメージは無く競技続行可能だとして再走が行われた。またこの時七高の選手がオーバースピードで失格となっていたのでライバルがいなくなった摩利が優勝した。
ついでに範蔵も優勝した。


総司、お前は何を言っているんだ…?今回の事故未遂、ご存じの通り無頭竜のせいです。ですが
・古式(精霊)魔法を使う
・総司の異能を知っている可能性が高い
以上二つの理由から総司は相手が伝統派であると当たりを付けました。事実一度敷地内に潜り込まれていますからね…

因みに今回の選手達は、摩利さんについては怪我が無ければそもそも優勝していたでしょうし、範蔵君も原作通り調子が悪いですが、本作において彼は原作のカノープスレベルに強いのでそこらの学生ではぶっちゃけ相手にもなりません。
摩利さんが剣を使わなければ普通にウチの範蔵君勝ちますし…


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九校戦編 その十

こんな中途半端な回で言うのもアレですが、本作はよくある来訪者編完結ではなく、しっかり卒業編までやりますし、なんならメイジアン・カンパニーやらキグナスの乙女も書くと思います。

後者二つは未定ですが、卒業までは確定です。このような拙い作品ですが是非最後まで見てくださるとありがたいです。

…ホントなんでこんな回で言ってるんだろ。


九校戦三日目の午後。あの後摩利が優勝し、ピラーズ・ブレイクでも男女ともに優勝した一高の天幕にて。

本来このような快挙を成し遂げたのだから選手達の喜びはひとしおのはずである。しかしそれに反し、天幕内は重い雰囲気だ。理由は勿論今日、摩利に妨害工作が行われた疑いがあるからだ。

 

もしあの事故で、総司が介入していなければ摩利と七高の選手は大怪我を、魔法が使えなくなるほどの怪我を負ってしまう可能性もあった。もしあれが悪意ある行動によるものだとすれば現在一高は狙われていると言っても過言では無い状況だ。そんな中では四競技同時優勝も素直に喜べるものでは無い。三巨頭を始めとして、選手達は天幕に集合していた。勿論エンジニア達もだ。今回の大事故未遂に直前に気づけた男、橘総司の話を聞くためである。

この緊急会議は克人や真由美、何より直接の関係者である摩利の強い要望により開かれる事になっていた。達也の話から察するに総司は事故の前に魔法の発動を認識していたとのことだ。ならば彼から対処法を教えてもらう、無理ならば彼には会場全体における警備のような役割について貰おう…という考えの基開かれている。

 

だがこの場にはその肝心な総司がいなかった。確かに現在時刻は集合時間より30分早い。総司が来ていないのも分かるが、この事態を重く見ている達也や深雪達を含める他の選手は焦りを含む表情でソワソワして総司を待っている者が多数だった。

 

 

「邪魔するで~」

 

「「「「!」」」」

 

 

そんな天幕になんとも間の抜けた声が響く。この状況でそんな余裕でいられる人物など一人しかいない、そう橘総司だ。

 

 

「総司!この非常事態になんとも緊張感の…な…い?」

 

 

摩利が入ってきた総司に声を掛けようとして…彼の持っている物に目を奪われ最後まで言えなかった。

 

 

「…総司君、その右手に持っている物は何かしら?」

 

 

天幕が凍り付く中、必死に言葉をひねり出した真由美の問いに総司はあっけらかんと答える。

 

 

「何って…

 

 

 

 

 

 

 

ケーキですけど…」

 

「「「「「何で!?」」」」」

 

「うるさ」

 

 

そう、総司の右手にはケーキが存在していた…しかもサイズはよくあるウエディングケーキほどに大きい。彼はそのケーキを片手で簡単に持っているが、このケーキの重量はどんなに鍛えた人間でも片手では持つことが不可能なサイズだ。克人が魔法でバフってやっとだろう。それはさておき

 

 

「ツッコミたい事が二つある。一つ、何で今ケーキを持ってきた?二つ、そのケーキどこから持ってきた?」

 

 

この異様な光景をみてSANチェックを行い無事成功した達也が問う。因みに深雪は失敗して2ぐらい減った。

 

 

「んあ?じゃあ、一つ目。甘い物食えば皆元気出るかなって思って。二つ目、持ってきたも何も俺が今し方作ってきた」

 

「「「「作ったぁ!?」」」」」

 

 

一つ目はともかく二つ目の返答に全員が…特に女性陣が驚いている。雫は『総司君だから』で納得し、美味しそうなケーキに目を輝かせていた。

 

 

「え、え?ちょっと待って!?このケーキホントに総司君が作ったの?」

 

「料理とかお菓子作りとか得意なんで」

 

「得意とか言うレベルじゃ無いぞ!?」

 

「モグモグ、総司君は何でも出来ますから。モグモグ、それよりこのケーキ凄く美味しいですよ」

 

「ああ、北山の言う通りだ。俺はあまりケーキのような甘い物を食べたことは無いが分かる、これは一流の味だ」

 

「「十文字!?」君!?」

 

「雫…!?」

 

「もう食べちゃってるじゃない…」

 

「いやホントコレウマいぞ、なあ紗耶香?」

 

「本当、とっても美味しいわ!凄いわね総司君!」

 

「桐原君、壬生さん、君たちもか…」

 

 

摩利や真由美を始めとした戸惑う者達を余所に総司に順応している面々は早速ケーキを頬張っている。コレには千代田と五十里の許嫁コンビも苦笑い。

しかし、この天幕内の視線が全て総司に向いた訳ではない…というか大半の視線が机に置かれたケーキを見ている。ようは皆食べたいのだ。

 

 

「モグ…!ね、ねえ総司君?このケーキお姉さんもっと食べたいな~って思うんだけど?」

 

「おかわりならいくらでもあります。女性陣を気遣って太りにくい素材を使ってるんでヤバいぐらい食わなきゃ問題ないと思います」

 

「しゃっ!」

 

「真由美…」

 

 

かくいう真由美も味見をしてみたところ一瞬でケーキの虜になってしまいおかわりを所望してしまった。摩利もそんな真由美を哀れみの目線で見つめるがすぐに彼女もケーキの魅力に落ちてしまうだろう…

 

 


 

「…」

 

「……」

 

「ここは無言の多い天幕ですね?」

 

「ここはスレッドではないぞ総司」

 

「俺も大概だけどネタが通じるお前も何なんだよ」

 

 

再び重い沈黙が広がっていた天幕内。しかしそれは先程の不安感からの物ではなく、ケーキが美味し過ぎて夢中になってしまった事に今更になって『やっちまった…』と思っている者が大半だった。因みに雫を始めとした総司の同類達は全くと言って良いほど罪悪感ややらかしの念を持っていない。皆が静かにしているからそれに習って黙っているだけだ。

 

 

「ところで総司、渡辺委員長の事故に魔法が使用された事に気づいたんだろう?対処法などがあれば教えて欲しいのだが…」

 

 

この沈黙を破って話を切り出したのは範蔵だった。彼は以前総司の家に遊びに行った時にもケーキを食べているので、『前とは違うケーキだな』ぐらいにしか今回のケーキ騒動を捉えていなかった。

 

 

「対処法?無いよそんなの。精霊魔法だからなあの妨害。隠密性が高すぎて俺ぐらいにしか分からんぞ」

 

「精霊魔法?具体的な術式は分かるか?」

 

「いや、分からん。二人を助けたときに七高の選手のCADを見たが精霊はいなくなった後だった。あの術式は発動したら痕跡を残すことは無いんじゃ無いか?」

 

「…ふむ、では総司。今大会において、選手達を警備する仕事を請け負ってくれないか?」

 

「範蔵君と可愛い女の子達の警備ならやります」

 

「分かった。希望通りの範囲でいい、頼めるな?」

 

「モチロンです、プロですから」

 

「…え?待って待って!?」

 

 

範蔵からの質問に友人のような態度で返答する総司。その仲良しな光景には一部を除いた選手達が驚愕し、森崎達一年一科生は悔しさを露わにしている。

そして範蔵がしゃべったことにより口を開いて良いのだと思った克人が手短にまとめる。速攻で終わった話し合いに真由美がケチを付ける。

 

 

「いいの総司君!?この九校戦の期間中、あなたの自由を縛ってしまうのよ!?」

 

「俺にとって移動時間は無いも同然ですから俺は普通の人より使える時間多いっすよ」

 

「七草、本人が良いと言っているのだ。それでいいだろう」

 

「それは…そうだけど…」

 

 

実を言うと今回総司から役立つ情報を得られなかった場合に彼を警備するという案に真由美は反対していた。自分に嘗めた態度を取るいけ好かない後輩だが、真由美の中でそこら辺の一般モブ後輩よりも総司の位置は数段上だ。心配もする。

だが総司自身の身体能力を引き合いに出され、克人の言い分はもっともなので真由美は言葉に詰まる。

 

 

「…」

 

 

しかし、その心配の表情の裏を見たような気がした総司は真由美に聞いた。

 

 

「真由美さんはただ俺を玩具にして遊びたいだけでしょ」

 

「あ、バレちゃった?」

 

 

などと小悪魔的な笑みを浮かべる真由美。その表情を見た総司と範蔵は即座にアイコンタクトを取る。

 

 

「(マズいぞ総司!このままでは俺の心臓がギャップ萌えで破裂してしまう!)」

 

「(知るか、勝手にくたばってろ)」

 

 

真由美により一名の死者が出たが、総司が会場で警備を行う事が確定したのだった…




魔法科世界の秘匿通信


・実は総司の料理及びお菓子作りの腕は十師族が雇うような一流のシェフやパティシエと同レベル以上の絶品である。


・実は範蔵は何回も総司の家に遊びに行っており、そこで彼の絶品を毎度味わっている。



本来は達也達が妨害に使われた魔法の解析をして、深雪が本戦メンバーに選ばれるとこですが、そもそも総司が術式を認識していた、摩利が大怪我してない、この二つによって吹っ飛んだので、コレで九校戦編上巻(原作)終了ですね。


そろそろ総司が試合で無双するぞ~


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九校戦編 その十一

競技に入るとは言ったが総司がするとは言ってないぜ!


九校戦も四日目。ここで一旦本戦は終わり、新人戦が始まる。今日行われるのは男女バトル・ボードの予選と、男女スピード・シューティングである。新人戦は本戦と比べポイントが半分になる。ぶっちゃけ一高は本戦で現在無敗でポイントには余裕があり無理をする必要は無いのだが、予想よりも第三高校がポイントを伸ばしてきている。ここで成績が悪いと三高に抜かれてしまう可能性が出てきているほどだ。故にこの新人戦も勝たなくてはならないのだが…

 

 

「…森崎は初戦から『あの』吉祥寺真紅郎とか…」

 

 

達也は珍しく総司以外のことでため息をついていた。吉祥寺真紅郎、弱冠十三歳で魔法における『基本コード』の一つである『加重系統プラスコード』を発見した天才である。また魔法技能も高く、『不可視の弾丸』という魔法を用いる彼はこの競技での一番人気のウマ…失礼、魔法師だ。対する森崎は確かにドロウレスという技術を使えるが、スピード・シューティングとは微妙にかみ合わない魔法適正であった。いわば某黄金の浮沈艦が追込ではなく先行をやらされる、『出来るけど得意な訳ではない』程度止まりだ。つまり何が言いたいかって?森崎は初戦で負けるんだよ(辛辣)。

 

 

「オイオイ、美少女の試合前に野郎の試合のこと考えるのか?お前ソッチ側だったのか?」

 

「もう…美少女なんて…総司君ったら」

 

「…はあー」

 

 

ついでに目の前のバカップル(付き合ってない)にも達也は呆れていた。ここは競技に出場する選手の控え室…現在は一高の選手、北山雫が使用している部屋だ。ここには本来選手とそのCADを調整するエンジニアぐらいが居るものだが、雫の強い要望により総司もここを訪れていた。

呆れ気味の達也を余所に雫はCADを手に持って頷く。

 

 

「うん、完璧。自分のよりも快適かも」

 

「敵か!?」

 

「その会敵ではないだろ」

 

「分かってるぞ?」

 

「だろうな」

 

 

総司が茶々を入れてきていたが達也は軽くあしらう。

 

 

「ねえ、達也さん。やっぱりウチに雇われない?」

 

「大事な試合前に冗談を言えるなら余裕みたいだな」

 

「冗談じゃないよ」

 

 

達也が雫のCADを初めて調整したときから雫は達也を北山家お抱えにしようと何度も勧誘していた。

 

 

「専属じゃなくても良いから」

 

「…俺じゃ無くて先に勧誘するべき奴がいるんじゃ無いか?」

 

「んあ?」

 

 

雫の勧誘をやり過ごそうと彼女の好意を一身に受けながら全く気づかない鈍感クソ野郎に狙いを逸らそうと画策する達也。

 

 

「そんなことする必要ないよ。総司君はウチに雇われるのは確定、なんならもう雇われてるまである」

 

「職業選択の自由…」

 

「何か言った?」

 

「いえなにも…」

 

「言質は取ってるからね?」

 

「ヒエッ」

 

 

そうこの馬鹿は以前北山家に訪れた際に家族の前で言質を取られるガバをやらかしているのだ。そんな奴より不確定な達也を優先して勧誘するのは当然だ。達也は予想以上に総司が使い物にならなかった事に内心舌打ちしながら言い訳をまくし立てる。

 

 

「何度も言うが、その話は俺が将来ライセンスを取ってからにしてくれ」

 

「達也さんなら確実でしょ?」

 

「てかその言い方って逃げでは?」

 

「総司は黙っていろ」

 

「オクチミッフィーチャーン…」

 

 

総司の言うように達也は勧誘を先延ばしにする言い方で避けようとしていた。『話はライセンスを取ってから』なんて取った後に勧誘してもなんだかんだで断る気満々である。そもそもCADの調整にライセンスは必要ない。生計を立てるにはあった方がいい。位である。

 

 

「というか、そろそろだぞ雫」

 

「ホントだ…じゃあ行ってくるね、達也さん、総司君」

 

「頑張ってこい」

 

「雫ちゃん主人公の無双ゲーが始まるってマ?」

 

 


 

 

観客席には親友の雄姿を見届ける為にほのかが、その周囲には雫を応援に来たいつものメンツがおり、更に離れたところには真由美、摩利、鈴音の姿もあった。

 

そしてコートに雫が出てきた。彼女は後ろを振り向き、ほのか達に手を振る。それに気づいたほのか達も振り返す。

 

 

「頑張って!雫ー!」

 

「雫さん、頑張ってください!」

 

「雫なら絶対に勝てるわ!」

 

「北山さん!応援してるぞー!」

 

「やっぱアンタの名字呼びって慣れないわね。頑張って!雫!」

 

「北山さん!落ち着いて臨めば必ず勝てるよ!」

 

「雫ちゃん…君がナンバーワンだ…」

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

 

上からほのか、美月、深雪、レオ、エリカ、幹比古、今観客席まで来た総司だ。相変わらずの総司の神出鬼没には一行もまだ慣れないようで驚愕していた。

その応援を聞いた雫は笑みを浮かべ、開始位置に付く。

 

そして開始のランプが灯ってクレーが射出された。得点有効エリアにクレーが入ると、即座に砕け散ってしまう。

 

 

「うわ豪快」

 

「これってもしかして、有効エリア全域に魔法を作用させているのでは?」

 

 

美月の質問に答えたのはほのかだ。

 

 

「そうですよ。雫は領域内に存在する固形物に振動波を与える魔法で標的を砕いているんです。内部に疎密波を発生させることで、固形物は部分的な膨張と収縮を繰り返して風化します。急加熱と急冷却を繰り返すと硬い岩でも脆く崩れ去ってしまうのと同じ原理ですね」

 

 

「だがそれだけじゃ負担が大きくて雫ちゃんの体が保たなくなる。だから予め有効エリア内にいくつかの震源を設定しているんだ。この震源からは振動波を与える仮想的な波動が発生している。魔法で直接対象を振動させるのでは無く、標的に仮想振動波を与え、標的内部で現実にすることで対象を崩壊させる仕組みのようだ」

 

 

ほのかの説明に付け加える形で説明する総司。まあ、彼の場合視界に映っているエイドスの変化から何を行っているかを推察しているだけだが。

 

 

「なるほど、そういった仕組みなんですね」

 

 

二人からの説明に質問者の美月は満足げになった。

ついでに少し離れたところでも同様の説明が鈴音によって行われていた。違うのは彼女は正確に魔法の内容を把握していたことだろう。

 

 

「…という仕組みです」

 

「なるほどな…」

 

「ご存じの通り、スピード・シューティングの得点有効エリアは、空中に設定された一辺十五メートルの立方体です。司波君の起動式は、この内部に一辺十メートルの立方体を設定して、その各頂点と中心の九つのポイントが震源になるように設定されています。各ポイントは番号で管理されており、展開された起動式に変数としてその番号を入力する事で、対応する震源ポイントから球状に仮想波動が広がります。波動の到達距離は六メートル、つまり一度の魔法発動で震源を中心とする半径六メートルの球状破砕空間が形成されることになります」

 

「…余計な力を使っているように思えるんだが、北山は座標設定が苦手なのか?」

 

「確かに精度より威力が北山さんの持ち味ですが、この魔法の狙いは精度を補うことでは無く、精度を犠牲に速度を上げることにあります」

 

 

鈴音の表情は動かない。なぜなら既に一度驚いているからだ。

 

 

「つまり、北山さんはその気になればもっとピンポイントな照準も可能と言う事よね?ならなぜこんな方法で…」

 

「この魔法の特徴は、座標が番号で管理されていることにあります」

 

 

雫は未だに取りこぼしはない。説明通りの魔法が正しくクレーを破壊している。

 

 

「制御面で神経を使う必要がありませんから、魔法を発動することだけに演算領域のポテンシャルをフルに活用出来ます。連続発動もマルチキャストも思いのままです」

 

 

その言葉と共に競技が終了した。結果はパーフェクト。その結果をだした本人の顔には笑みが浮かんでいた。




魔法科世界の秘匿通信


・実はこのアクティブ・エアー・マインはこの世界では以前総司が地震を発生させたことから着想を得て作られた。


・総司が認識しているのは何をしているかだけであり、起動式を読むことは出来ないし、読めても分からない。



本作で鈴音ちゃんが一番しゃべった回でしたね。次回は続きの説明とほのかのバトル・ボードですね。終われば総司のクラウド・ボールが始まる!

原作で一切描写が無かった(はず)新人戦男子クラウド、書けるか分からねえぜ!


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九校戦編 その十二

前書きって書くこと無くなりがち


前回描写された『北山家に訪れた…』という話は九校戦編終了後、夏休み編との間に番外編として投稿します。


大きな拍手を受けながら退場していく雫を見ながら鈴音は説明を続ける。

 

 

「『能動的空中機雷(アクティブ・エアー・マイン)』…あの魔法の固有名称です。司波君のオリジナルだそうですよ。大きな起動式ですから北山さんの処理能力ありきの魔法ですが」

 

「よくもまあこんな魔法を…」

 

「いやしかし、実に面白いじゃないか」

 

 

目の前で新魔法のデモンストレーションでも見た気分の真由美は達也の技術力と発想に驚愕を通り越して呆れている。一方摩利の顔には笑みが浮かんでいる。

 

 

「空中に仮想立方体を設置するのでは無く、自分を中心とする円を設定して、その円周上に震源を設置すれば全方位に有効なアクティブ・シールドとして使えるかもしれん」

 

「持続時間が問題ね。短すぎるとタイミングが難しいし、長すぎると自分が巻き込まれる可能性が出てくるわよ?」

 

「そこは術者の腕の見せ所だろう。…よし、今晩にでも総司に頼んで達也君をとっ捕まえてきてもらって私のCADにインストールさせよう」

 

「…試合の邪魔にならないようにね」

 

 

興奮する親友を呆れた目で見ながら真由美はこうこぼした。

 

 


 

 

予選を済ませた雫はつまらなそうにぼやいていた。

 

 

「なんだか拍子抜け。もう少し楽しめるかと思ってたのに」

 

「そう言うな。死角を突いてくることはないとは思ってはいたが、そんな意地の悪い設定はされていなかったな」

 

「そんな設定があっても雫ちゃんなら問題ないだろ?」

 

「モチロンだよ総司君。なんなら全部死角でも問題ない」

 

「それは死角と呼べるのか…?」

 

 

総司が戻ってきて会話に参戦したあたりで達也が席を立つ。

 

 

「雫、本戦用のCADは調整済みだ。問題ないとは思うが、違和感があれば可能な限り調整するからな」

 

 

彼はこの女子新人戦『早撃ち』において出場選手三人全員のエンジニアを担当している為大忙しなのだ。達也が控え室から退室した瞬間雫に耳でも生えたかのようなテンションで総司に詰め寄る。

 

 

「総司君はさっきのを見てどう思った?」

 

「とてもかっこよかったぜ!下手すりゃ真由美さんより人気出てしまうんじゃ無いか?」

 

「そんな…私が一番なんて…」

 

「あれ?そんなこと言ったっけ…まあいいや似たようなもんだろ」

 

 

恋は盲目とはよく言うが、どうやら幻聴も併発してしまうようで、雫には総司から世界で一番だと褒められたかのように感じた。総司は一番とはスピード・シューティングの中でだと認識したので特に訂正しなかった。

ふと総司は褒められて大喜びしている雫をみて、思わず手を伸ばす。

 

 

「っ!?そ、総司…君?」

 

「頑張ったな雫。偉いぞ。このまま優勝まで駆け上がっていけ!」

 

「う、うん…」

 

 

現状を端的に説明すれば、総司が雫の頭を撫でながら更にエールを贈っているのだ。流石に想い人に撫でられるなど初めての雫には孤児院で子供達相手に磨かれた総司のそれは荷が重かったようで

 

 

「わ、私着替えるから…!」

 

「お、そうか。じゃあまた後でな!」

 

 

即座に総司を部屋から出した後、全体が真っ赤に染まった顔を戻そうとしながら、次の試合の為の確認をたどたどしく始めたのだった。

 

 


 

 

一高本部がある天幕に戻った真由美達の元には雫以外の新人戦スピード・シューティングの結果が知らされた。

 

 

「三人とも予選突破か…」

 

「今年の一年女子は特にレベルが高いのか?」

 

 

決勝トーナメントに進出出来るのは予選二十四名の内の八名である。その八名の中に同じ学校の選手が三名がともに入っているというのは、過去本戦、新人戦通してあまり例が無い。ここだけを見れば明らかに一高選手達の才能が突出していると思えるだろう。

 

 

「摩利、それだけじゃ無いのは分かっているでしょう?」

 

 

だがこの天幕に集う一高幹部には、この結果には個人技能だけではなく、例の技術チートの存在が大きい事を全員が理解している。それはモチロン摩利だって承知だ。真由美からのツッコミに肩を竦め、別の話題を振る。

 

 

「バトル・ボードの方はどうだ?」

 

「男子は二レース終了していずれも予選落ち。女子は一レースに出場して予選突破です」

 

「男子はあと一レースか…。女子の方は光井さんが予選突破確実でしょうから、あーちゃんには頑張って貰わないと」

 

「…当校も、もう少し技術者の育成に力を注ぐべきか…」

 

 

バトル・ボードの結果を説明する鈴音。真由美がこぼした独り言に、克人はここにも男女で技術者の力量の差が出ていることに苦い顔で続いたのだった。

 

 


 

 

スピード・シューティングの準々決勝は四つのシューティングレンジを使用して行われる。決勝トーナメントの八名が全て別々の学校であれば四試合同時に行われるのだが、今回のように同じ学校の選手が含まれている場合、試合が重ならないように時間が調整されている。

とは言っても、同じレンジで一試合ずつ行う準決勝に比べてどうしても各試合のインターバルは短くなってくる。今回の第一高校のように三名全員が準々決勝に進出するとそのエンジニアの労力は察するところである。

 

 

「達也さん、大丈夫?」

 

「大丈夫だよ」

 

「珍しく疲れてんな、達也」

 

 

控え室に駆け込んできた達也が、疲れているように雫には見え、総司には本当に疲れを見透かされていた。だが、ここで雫を不安にさせて試合に悪影響がでないようにと即座にCADの最終チェックを始めた。

 

 

「予選で使った時の物とは全くの別物だ。なにか違和感があったりしたか?時間は無いが調整する」

 

「そんなの無いよ。むしろしっくりしすぎて怖いぐらい」

 

「いいなー、俺の調整してくれよ」

 

「お前はそもそもCADを持ってないし使わないだろ」

 

「そーだったわ…」

 

 

相変わらずの二人の会話にクスッとなる雫。どうやら緊張はあまりしていないようだ。

しかしすぐに気合の入った顔になり達也に問う。

 

 

「二人とも勝ったんだよね」

 

「ああ」

 

 

この言葉から分かるようにチームメイト二人も準決勝に勝ち上がりを決めていた。

 

 

「大丈夫、何時も通りにやれば雫も勝てるさ」

 

「他の奴らなんて雫ちゃんと比べたら天と地ほどの差がある。君が負けるはずは無い」

 

 

達也と総司が雫に激励を述べる。

 

 

「ありがとう、二人とも。…行ってくる!」

 

「頑張ってこい!」

 

「客席で応援するけど応援団風とオタ芸風どっちがいい?」

 

「両方で」

 

「ムズくね?」

 

 

二人は試合に臨む雫を強く送り出した。

 

 

 


 

 

試合は明らかなワンサイドゲーム、雫の圧勝である。

他の観客は一年生がここまでの実力を持っていることに驚愕している。そんな中、要望通り学ランを着て中に『雫Love』と書かれた痛いオタク風シャツを着込み、応援団風とオタ芸を融合させた新たな応援を行いながら総司は目の前で使われている魔法を読み取っていた。

 

 

「(これは移動系…いや収束系か。さっき使ってた振動系魔法と同時に、クレーをマクロ的に認識し、中央部で紅色のクレーの密度を高める収束系の魔法の影響で相手クレーをはじき出しているのか…)」

 

 

総司は普段からやれよと言われそうな観察眼で雫の魔法を分析する。

 

 

「(だが、特化型CADは同一系統の魔法しか格納できないのでは…?いや、あれは特化型ではなく、汎用型なのか。確か汎用型には照準補助機能を付けられないはずだが、違ったのか?)」

 

 

だが流石に総司もCADの専門家では無い。特化型の機能を汎用型に繋いでいることに驚愕していたが、『達也だもんな…』で納得してしまった。

ここで表示された得点をみて総司が思った。

 

 

「(…あれ?もしかして、これ俺の応援要らなくないか?)」

 

 

実際は雫は応援のおかげでいつもよりも魔法の精度が上がっていたのだが、無くても普通に勝てるのでこの気づきは間違いでは無かったのだ…

 

 

「(これ、エイミィももう一人も勝てないだろ…やっぱ雫ちゃんがナンバーワンだったんやなって)」

 

 

内心雫の優勝を確信した総司は、応援に集中して取り組みだしたのだった。

 

 


 

 

 

その後かくかくしかじか四角いムーブがあり、新人戦女子『早撃ち』は一高の三人が上位独占とかいう頭のおかしい結果を叩き出した。もちろん本部天幕は大騒ぎだ。

 

 

「凄いじゃない達也君!これは快挙よ!」

 

 

達也の背中を叩いて喜びを示そうとして、可哀想だからと代わりに総司の背中をバシバシ叩いて喜ぶ真由美。『何で?』と表情で訴えてくる総司をフルシカトして、叩く。

 

 

「会長、ほどほどに。司波君が困っています」

 

 

あまりにも大きな声で喜ぶため真由美を諫めに入った鈴音。『一番迷惑被ったの俺じゃね?』という総司の視線をガンスルーして真由美を止めるが、二人して総司を雑に使っている辺り同じ穴の狢だ。

 

 

「あっ、ごめんなさい達也君…でも、これは本当に快挙なのよ!」

 

「えっ?本当に俺に謝罪なし?」

 

「優勝したのも準優勝したのも三位になったのも、選手であって俺ではありませんよ」

 

「確かに北山さんも明智さんも滝川さんもよく頑張ってくれたわ」

 

「パワハラで訴えようかな…」

 

 

生徒会長に褒められた三人の内、雫以外は緊張が表情に出ており、なんとか「ありがとうございます」と返した。

 

 

「ですけど、やっぱり達也さんのおかげです」

 

「俺はサポートしただけなんだがな…」

 

「何を言うんだ達也君。今回出場選手上位独占という快挙には、君のエンジニアとしての手腕が大いに貢献していることを、ここの全員が認識しているんだぞ」

 

 

雫が達也を褒め、達也が謙遜した事に反応した摩利が、『そんなことはない』と言葉を紡ぐ。その言葉に選手達は頷いた。

 

 

「自分でも信じられません」

 

「急に魔法が上手くなった気がします」

 

 

エイミィと滝川の言葉にも、確かな気持ちがこもっていた。

 

 

「特に北山さんが使用した魔法は、大学の方から『インデックス』に正式採用するかもしれないと打診が来ています」

 

 

鈴音のこの発言には天幕内の人間の殆ど…達也と総司以外の人間が絶句して固まった。インデックス。正式名称『国立魔法大学編纂・魔法大全・固有名称インデックス』。これに採用されると言うことは、既存魔法の亜種では無く、完全に新種の魔法であると認められることと同義だ。これは魔法開発に従事する国内の研究者にとって一つの目標とされる名誉なことだ。

しかし達也と、そして総司は予想していたかのように答えた。

 

 

「そうですか。では開発者名の問い合わせには、総司の名前で回答してください」

 

「何を言ってるんだ達也君!?あれは君のオリジナルなんだろう?それに使用した訳でもない総司が開発者である事になるんだ?」

 

 

驚きにまみれた表情で問う摩利に二人は冷静に答える。

 

 

「理由としては、この魔法は軍事転換が容易である点です」

 

「「「「…っ!」」」」

 

「仮に軍事使用された場合にはその開発者がバッシングを受けることになるでしょう」

 

「だから、一般家庭の達也には厳しいし、かといって使用者の雫ちゃんにいわれのない批判を浴びせる訳にはいかない」

 

「そもそもこの魔法は以前の総司の行動から連想して開発した魔法です。言わば、本元は総司なので彼が開発者というのもあながち間違いではない」

 

「なら、九島の後ろ盾がある俺が開発者として名前を登録すれば、九島に喧嘩を売らないようにと下手に騒ぐ奴も減るし、何より俺はバッシングとかどうでもいいんで」

 

 

予め打ち合わせていたかのような二人の説明に、その可能性を否定しきれなかった一同は顔を伏せる。ただ一人、雫だけが異議を唱える。

 

 

「ダメ!それじゃ総司君が悪い人みたいになっちゃう…!」

 

「他人にどう思われてようと、俺は仲間に信頼されてるならそれでいいんだ」

 

 

この提案は、そもそも普段から伝統派の刺客と戦う総司が、今更敵の百人千人増えても構わないという考えからのものだ。二人の、特に総司の雫や達也を守ろうという思いは強い。

少し暗い話になり場の雰囲気が沈むも、

 

 

「そこまで!とても幸先の良いスタートを切れたんだからここで暗くなったらだめでしょ?達也君、それに総司君も期待してるからね」

 

「期待より謝罪をくれ」

 

 

真由美からの言葉に達也は控えめに頭を下げ、総司は先程叩かれていた事を根に持っていたような口調で文句を言った。

 

 


 

 

「もう直ぐですね」

 

「ほのかは絶対に勝つよ」

 

「ああ。CADでのサポートは出来ないが、作戦はしっかり練ってきた。ほのかなら間違いなく予選は突破出来るだろう」

 

「言うね~」

 

 

女子新人戦バトル・ボード午後の部開始前、達也と総司、深雪と雫の四人は客席にてレース開始を待っていた。

 

 

「作戦というと…どういったものなのでしょう?」

 

「見れば分かるさ」

 

 

そう言って達也はスタートの準備をしている選手達に目を向ける。そこに三人も目を向けるとほのかが何故か色の濃いゴーグルを掛けていたのが見えた。

 

 

「ほのか、なんでゴーグルなんて…」

 

「水滴で見えなくなっちゃったりするんじゃ…」

 

「…あっ」

 

 

深雪、雫の二人はイマイチ達也の言う作戦とやらがよく分かっていないようだ。ただ一人察した総司は達也を見て、『お前鬼か?』と言いたげな視線を向ける。その視線に気づいたからという訳ではないだろうが、達也は三人にほのかと同じゴーグルを手渡す。小首を傾げる深雪と雫だが、達也と総司に言われ装着する。

 

そしてほのかの出番である第六レースのスタートが切られた瞬間、観客達は反射的に水路から揃って視線を逸らす。水路がまるで目の前でフラッシュを焚かれたかのように眩しく発光したのだ。この光に驚いた選手が一人落水した。

他の選手もバランスを崩し、加速を中断する中、ほのかだけが悠々とスタートダッシュを決めて先頭に飛び出した。

 

 

「よし」

 

「うわぁ、達也らしい考え方だな」

 

「随分と失礼な言い方をする。アレはほのかの得意を生かした立派な戦術だ」

 

「物は言い様だな」

 

 

達也がしてやったりと声を上げ、事前に察していた総司が文句を言う。

 

 

「…これがお兄様の作戦ですか?」

 

「これルール違反にならないの?」

 

「あくまで水面に干渉して発動しているからな。ルールの範囲内だよ」

 

 

雫の若干批判のこもった疑問に悪びれること無く答える達也。

 

 

「水面に干渉と言われると波を起こしたり渦を作ったりと水面の挙動にばかり意識が向きがちだ。だがルールで認められているのはあくまでも『水面に魔法で干渉して他の選手を妨害すること』だ。水面を沸騰だとか、全面凍結だとかは危険すぎるが、目くらまし程度の事は逆に今まで使われていなかった事の方が驚きだ」

 

「…小手先の策よりも正々堂々のレースを優先するのは血の気の多い奴ばかりな魔法師らしいっちゃらしいがな」

 

 

何の用意も無く目潰しを喰らった選手達の視力は中々回復しなかった。緩やかにであっても蛇行しているコースは視力を取り戻さないままでは全力疾走出来る物ではない。他の選手とほのかの間には決定的と言えるほどの差がついていた。

 

 

そしてその様子を天幕でモニター越しに見ていた真由美達は、客観的に状況を整理し、その策に驚きを覚えていた。

 

 

「…決まりだな」

 

「誰が考えたのこの作戦?あーちゃんじゃないだろうし…」

 

 

真由美がこぼした問いに鈴音が答える。

 

 

「司波君ですが」

 

「えっ、でも彼はこの競技を担当していないはずよ?」

 

「作戦の具申自体は光井さん本人からです。しかし起動式のラインナップを含めて作戦プランを練ったのは司波君だとその際に言っていました」

 

「…次から次へとやってくれるな達也君は」

 

 

その話を聞いた摩利の口調はどこか不機嫌だ。

 

 

「…工夫って大事よねぇ。老師の仰るとおりだわ」

 

 

摩利は多彩なテクニックを売りにしている。そんな自分ですら思いつかなかった作戦を見せられ、それを発案した達也の才能に嫉妬しているのだ。親友の真由美にはそれが理解出来た。

 

 

「貴女にとって面白くないのかもしれませんが、過去九年誰も思いつかなかった作戦です。ここは素直に感心すべきかと」

 

「…感心しているさ。だからこそ余計に癪に障るんじゃないか」

 

 

摩利はもう不機嫌さを隠そうともしない。

 

 

「でもこれって一回限りの作戦じゃないかしら?決勝トーナメントで対策されるわよね?」

 

 

真由美が口にした疑問は当然の物だが、それを摩利がきっぱり否定する。

 

 

「そんなこと心配する必要は無いだろ。あの男がそこを考慮していないはずがない」

 

「そうですね。これは次のための布石でもあります」

 

 

達也から作戦を聞いている鈴音がこう言うのだ。本当に問題はないのだろう。真由美は元からなかったに等しい僅かな不安を消し、次のパフォーマンスを楽しみにする観客のような気持ちでモニターを眺めていた。

 

 

その後しばらくして本日の結果が集まった時、一高天幕内は意外にも重苦しい空気が流れていた。

 

 

「女子はかなり良い結果だったけど…」

 

「男子がここまでとはな…」

 

「ほぼ壊滅状態ですね…」

 

 

そう。今日の競技に出場した一年男子はほぼ全員が予選落ち、森崎は『早撃ち』においていいところまでは行けたはずだが、初戦の相手があの吉祥寺真紅郎では無理もないだろう。

 

 

「女子の方の貯金でも、足りなくなる可能性があります。せめて男子には一競技ぐらいは優勝して貰わないと…」

 

「その点に関しては明日のクラウド・ボールに総司君がいるから大丈夫でしょ」

 

「本当か?アイツが魔法競技で優勝できるとは思えんな…あの身体能力があったとしてもだ」

 

 

男子の救世主は総司だ。と言いたげな真由美に摩利は当然の疑問を投げかける。総司が魔法を使えないことは周知の事実だ。摩利が疑いたくなるのもうなずける。だがその不安は続く鈴音の一言で吹き飛んだ。

 

 

「いえ、彼は間違いなく優勝できるでしょう。彼は練習の際に無敗を誇っていました。それは、()()()()()()()()()()()()です」

 

「な!?真由美、お前総司に負けたのか!?」

 

「そうよ~酷いのよ総司君!私に何もさせてくれなかったんだから!」

 

「先日の会長もそうだったではありませんか。そう言うのを因果応報と言うんですよ」

 

「でも『ダブル・バウンド』すら軽々しく乗り越えてくるのにはムカついたわね」

 

「アイツにはそこまでの実力があるのか…」

 

 

摩利は真由美と鈴音が嘘を言っていないことを見抜き、本当に大丈夫である事を確認した。となれば目下の問題はそこではない。

 

 

「だが男子の不振は『早撃ち』だけではなく『波乗り』もだ。このままズルズルと不振が続くようでは今年は良くとも来年以降に差し支えてくる」

 

「つまり負け癖が付くと言いたいのか?十文字」

 

 

会話に参戦した克人が挙げたのは今年度だけでなく来年度以降を見越した問題点だった。

 

 

「男子の方には梃子入れが必要か…」

 

「でも十文字君、今更どうやってやるつもり?せめて終わってからでないと…」

 

「…今年は、総司に託すしか無いか」

 

 

克人は、若干諦めたかのような台詞を吐き、ため息をついた。




魔法科世界の秘匿通信

・応援の為とはいえ、曲がりなりにも『雫Love』Tシャツを自作している時点で総司は雫に対して他の者よりも特別な感情を抱いているのは明白だが本人がそれに気づいていない。


・ほのかのスタート時に思いっきり乳揺れが起き、それに対して反応したかどうか深雪と雫がそれぞれの相手を見て確認したが、達也はモチロン反応しないし、総司は意外と貧乳派なので全くの無反応だったので二人は安堵した。


前回の後書きで『次で四日目終わらせる!』なんて意地張ったせいで今回の文字数が二話分の文字数になってるの草生える。書くのに二日かかってるしこれ分けた方がよかったな…


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九校戦編 その十三

今回はちょっと詰め込み過ぎたし、表現が薄いな…まあ、完全にピラーズ・ブレイクを失念していた自分が悪いんですが。


九校戦も五日目、新人戦二日目の今日は深雪、雫、エイミィ達が出場する新人戦男女アイス・ピラーズ・ブレイクの三回戦までと、総司が出場する新人戦男女クラウド・ボールの決勝までが行われる。この内、達也はアイス・ピラーズ・ブレイクのエンジニアであるため、朝一で会場入りをした。

 

初戦に出場したのはエイミィ。昨日の興奮冷めやらぬ様子で、安眠できていなかったとのことで一回戦をほぼ無傷で突破した後に試合前に申請したカプセルベッドの中で寝た。

 

そしてすっ飛ばして第五戦目。

 

 

「雫、その格好で出るのか?」

 

「そうだけど?どう、総司君。似合うかな?」

 

「えあ、京都の人のそれも遠く及ばない程似合っているぞ」

 

 

『氷倒し』はルール上、好きな服装での出場が許可されている。ほぼファッションショーのようなものだ。事実先程のエイミィも乗馬師のような服装でガンアクションのパフォーマンスをしていた。故に、雫もそれに相違なく気合の入った服を着たのだが…

 

 

「振袖は袖が邪魔にならないか?」

 

「襷を使うから大丈夫だよ」

 

「すまない雫ちゃん。今の君の姿を独り占めしたい気分なんだ。悪いが他の格好で出てくれないか?」

 

「達也さんがいる時点で独り占めできてないよ」

 

「殺すか…」

 

「そんな理由で殺されてたまるか」

 

 

そんなこんなでじゃれ合っていると、雫の出番がやって来た。この間、達也はCADの調整を念入りにしていたので機能不全などを起こすことはないだろう。

 

 

「そろそろ時間だな」

 

「雫ちゃん、頑張っておいで」

 

「うん、行ってきます」

 

 

二人に送り出され、雫は力強く櫓へと登っていった。

 

 

一方その頃、客席では…

 

 

「深雪、達也さんのところにいなくて良いの?」

 

「ピラーズ・ブレイクは個人戦ですもの。雫と私はいつか戦うときが来るのだから、手の内を見るのはフェアじゃ無いわ」

 

 

深雪の横顔を見ながら、ほのかは深雪と達也を初めて見た日のことを思い出していた。元々雫と二人で競い合っていたほのか。二人の才能も相まって、当時は周囲に彼女達以上の才能の魔法師はそうおらず、いたとしてもいつかは超えられると思える程度の差だったのだ。

しかし、深雪に対しては初めて敵わないだろうと思わされた相手だ。入試のあの時、深雪の圧倒的な魔法力に、嫉妬することすら馬鹿らしいほどの異次元の才能に見惚れたときのことを。

 

そして、彼女が好意を寄せるあの男(司波達也)を見たのもその時だ。達也の無駄のない美しいと呼べるほどの起動式にほのかは感動すら覚えていた。彼が二科生だと知った時は怒りが湧き出た程だ。因みに総司のことは完全に覚えていなかった。そもそもあの時に見たかも怪しい。

 

 

「ほのか、私の顔に何か付いてるのかしら?」

 

「いや、なんでもないよ」

 

 

見つめられていることに気づいた深雪がほのかに問うがほのかは適当にはぐらかす。ほのかはこの気持ちが明確に、親友(北山雫)のもの程に恋と呼べるものなのか、彼女にはまだ計り切れていなかった。

 

 

 

ついでにもう一方、一高天幕内にて。

 

 

「いよいよ北山の出番か」

 

「今回は汎用型のCADみたいね。一見普通だわ。今度はどんな奇策を用意しているのかしら」

 

「いや、ここであえての正攻法かもしれん」

 

 

真由美と摩利が話しているのを、端で聞いていた鈴音は一人、「あえても何もありませんよ…」と後輩の悪巧みを楽しみにする先輩としての二人に若干呆れていた。

 

 

「む、北山は振り袖か」

 

「そう言えば今年は少なかったわね」

 

 

櫓が上がってきて、雫の服装が目に入ると二人はそんな感想をこぼした。達也は驚いていたが、例年この競技で振袖を着てくる選手はそう少なくない。むしろ今年が少ないと三年である故に前回、前々回と経験している二人にはさしもの驚きも無かった。

そして開始のブザーが鳴った瞬間、雫の相手陣地の一本が砕け散り、雫の陣地には守りが付与された。

 

 

「おっ、これはまた随分と正直な戦い方だ」

 

「摩利の予想通りの正攻法みたいね」

 

 

雫の攻め方に反応を示す二人。するとモニターの向こう側で敵陣の氷柱が三本まとめて砕け散った。

 

 

「真由美、今のが何か分かるか?」

 

「正確には分からないけれど、多分共振破壊を応用したものね。周波数を無段階に変更する振動魔法を敵陣の地面に仕掛けて、柱と共鳴が生じたところで振動数を固定、一気に出力を上げて共振状態を作り出したんじゃないかしら」

 

「なるほど…対抗魔法を避けるために柱に直接魔法を仕掛けるのではなく、地面を媒介として使ったか。同じ地面を媒体とする魔法でも花音の地雷原と比べると高度に技術的だな…」

 

 

二人が考察を深めている間に、雫の勝利が確定していた。

 

 

 

「勝った」

 

「そうだな」

 

「余裕だったな雫ちゃん」

 

 

櫓から降りてきた雫が端的な結果を言ったため、達也と総司も端的に返す。

 

 

「達也さんのおかげで楽が出来てる」

 

「雫の実力なら俺が担当しなくても勝てるだろ」

 

「『苦労して』勝つのと『楽に』勝つのとでは体力的にも精神的にも違いがある。勝てたとして、楽が出来たのはお前のおかげらしい。素直に賞賛として受け取っておけこの捻くれシスコンが」

 

「誰が捻くれだ。…だが、そうだな。その言葉、ありがたく受け取るよ、雫」

 

 

 


 

 

ピラーズ・ブレイク一回戦最終試合。つまり深雪が試合をする時間帯だが、その客席にはいつものメンツは達也しかいなかった。理由は一つ。まもなく総司の試合が始まるからだ。ピラーズ・ブレイクは決勝トーナメントは明日行うのに対し、クラウド・ボールは一日で競技を終わらせてしまう。つまり深雪を観戦すると、総司の試合を見ることが出来ないのだ。総司本人は「見に来なくて良いよ」と言ってそのまま会場に向かったのだが、その後に深雪が「総司君の方へ行ってあげて」と言った為に、エンジニアである達也以外はクラウド・ボールの会場に来ていた。

 

 

「次の試合の選手って二科生なんでしょ?」

 

「一高一年男子は今年はあまりパッとしないし人手不足なんでしょ」

 

「…」

 

 

今から出場する総司に対する周囲の評価を聞いてしまった雫の機嫌は現在直角降だ。凄く機嫌が悪い。達也を馬鹿にされたときの深雪をも凌ぐ迫力があった。

 

 

「みんなして総司君を馬鹿にして…!」

 

「雫抑えて!」

 

「雫さんは総司さんのこととなると完全に別人になりますよね…」

 

「そうだね。僕もファーストコンタクトの時は驚いたよ…」

 

 

今にも悪口を言った観客に魔法を撃ちかねない雫を必死になだめるほのかを見ながら美月と幹比古が所感を述べる。

 

そんな中、ここ三高本部天幕ではクラウド・ボールを映すモニター前に腕組みをしてたたずむ男が一人…十師族が一つ、一条家の長男にして次期当主。一条将輝である。彼は以前の懇親会で深雪に一目惚れしていたはずだ。何故彼女の試合を映すだろうピラーズ・ブレイクではなくクラウド・ボールを見ているのか。その事が気になって仕方なかった彼の親友、吉祥寺真紅郎は彼に尋ねた。

 

 

「将輝、もう直ぐ司波さんの試合が始まるけど見なくて良いの?」

 

「ああ、何というか、このクラウドには嫌な予感がしていてな」

 

「嫌な予感?」

 

「ああ…この競技に出てくる化け物…それは俺のせいで驚異的になったのではないかとな…」

 

「化け物?驚異的?誰のことだい?そんな選手はマークされていないけど…」

 

「直感だよ、あくまでな」

 

 

そう苦い顔で将輝はモニターへと顔を戻した。

 

 

場所は戻ってクラウド・ボール会場。次の試合が総司の初陣であるとなってから雫がやたらとソワソワし始めた。別に彼女は総司が心配な訳ではない。試合が長引いてしまうと、雫が二回戦目に間に合わないからだ。因みに総司の試合の観戦を中断して試合に出る、という考えは雫の頭にはない。

 

 

「!来た!」

 

「総司さんの試合が始まります!」

 

 

そして運命の時。コート内に総司が入場してきた。相手は四高の選手だ。あちら側の選手やエンジニア、そして周囲の観客はこの試合を『すぐに終わる試合』だと認識している。事実対戦相手は『楽な相手だ』とニヤニヤする始末。この状況に雫は再び頭に血が上るが、総司に迷惑だと思い自重して、席に座る。

 

だが四高の選手は余裕のあまり総司を煽りだした。

 

 

「おいおい、二科生さんよ。恥かく前に降参したらどうだ?降参したら十文字さんにボコボコだろうがな!ははは!」

 

 

この手の輩は大体アホだ。そもそも懇親会の時にあの九島烈との関係を匂わせていたと言うことをすっかり忘れているようだ。そして総司はこれに反論する。

 

 

「俺はカツ食べに来た…(俺は勝つために来た…)」

 

「は?」

 

 

おや?総司の様子が?

 

 

「俺の超攻撃的防衛省(フォーメーション)でお前を本ロース売る(翻弄する)。お前農薬チェリーパイ(の行く手には)、果てしない着せ替えgirl(世界がある)事を教えてやるぜ」

 

「何言ってんだお前?」

 

 

どこかのテニス作品のように滑舌と空耳がエグいことになっている総司。四高の選手もこれには困惑するが、ただのこけおどしだと高をくくり、コートに入る。

そして開始のブザーが鳴り、一球目のボールがコートに入った瞬間…!

 

 

 

ズバババン!

 

 

と音が響く。会場にいた者も、モニターで見ていた者も。そして対戦相手でさえも理解に数秒を要した。そして気づく。

モニターに映る総司の得点が()()()()()()()()()()()()()

 

 

「…は?」

 

「猫駆除(下剋上)だぜ~♪通☆風☆性(潰せ)♪」

 

 

謎の歌を歌いながら眼にもとまらぬ動きをしている総司。なんならばその歌声しか聞こえず、()()()姿()()()()()()()()()()()()()()()()()

目の前で魔法が発動している痕跡はない。強いて言うならば簡単な硬化魔法が発動している位だ。それ以外の魔法を四高選手は認識できない。

 

 

「…ふざけやがって!」

 

 

怒り心頭となったか四高選手は二人のコートの中間に位置するネットの上に魔法障壁を貼る。『ダブル・バウンド』。先日の女子本戦において七草真由美がこれを使った完封戦術で優勝を収めている魔法だ。実際にはそこまでの結果をだすためには類い希なる干渉力と、集中力、魔法を維持し続けられるだけの想子(サイオン)が必要となる。だが、それはずっと展開し続けることによる戦法をとった場合だ。一時的な局面で「ダブル・バウンド』を用いるのはそう珍しくない。それに目に見えないほどの速度で打ち続けられているだけあって、運動量を二倍にして返す『ダブル・バウンド』は最も有効な手段であるはずだ。

 

 

 

ババババン!

 

 

「…えっ?」

 

 

相手が総司でなければだが。

四高選手が貼った『ダブル・バウンド』の魔法が一瞬で消えたかと思うと、総司は先程と全く変わらぬペースでボールを打ち続けている。四高選手は魔法干渉力によって一時的に無効化されただけと判断し、もう一度貼り直す…瞬間に再び消える魔法。四高選手には最早何が何だか分からなくなっていた。

 

ここで皆さんは総司の異能について覚えているだろうか。『エイドスの正常化』という性質を持つ総司の異能は、総司に偶発的に宿った力であり、総司本人もその全てを把握している訳ではない。この異能、実は本人との接触だけでは無く、()()()()()()()()()()()()()()()()にも作用する。

 

聡明な方はもうお気づきだろう。

ボールを打つにはボールに()()()()()()()を加える必要がある。つまりボールに総司が力を加え続ける限り、ボールはエイドスを正常に戻す作用を起こし続ける。『ダブル・バウンド』が作用するエリアに接触した途端、その地点のエイドスを正しいものに戻し、魔法そのものの発動を無かったことにする。先程から連続で四高選手の『ダブル・バウンド』が無効化されているのはそれが理由だ。ボールは総司から与えられたエネルギーが切れる…つまり完全に静止するまで接触した魔法を無かったことに出来る。

四高選手の魔法は既に封じられたも同然だ。事実手を変えてボールをギリギリ捉えた上で移動魔法や加速魔法を発動している四高選手だが、ボールには総司の異能が乗っかっているとも言える状態だ。接触した魔法を無効化出来るのに、直接干渉してきた魔法を無効化できない道理はない。四高選手は最早身体能力で総司と勝負しなければならない。

 

そして総司の身体能力は異常だ。仮に魔法でバフを掛けたところで威力が高すぎて打ち合いにもならない。四高選手は、ボールが追加されても変わらぬペースで打ち続ける総司を前にして、膝から崩れ落ちる。

 

そして第一セット終了。スコア…

 

 

 

 

13829対0、頭のネジが吹っ飛んでいるとも言える点差に、最早四高選手に勝ち目は無かった…

だがスポーツマンとしての四高選手のプライドはまだくじけていなかった。あれほどの動きをすれば疲れてもう動けないだろうと考えたのだ。点差をひっくり返すのは困難だが、可能性が無い訳では…そう思った四高選手の耳に衝撃の言葉が飛んでくる。

 

 

「あと100玄米(ゲーム)はいけるね」

 

「…っあ」

 

 

100ゲームは。などといいつつ全く汗をかいた様子も無く余裕の総司に、四高選手にはもう、戦う戦意など残ってはいなかった…

 

最終的に、この試合は休憩時間終了を待たずに四高側の降参により総司が勝利を収めた。




魔法科世界の秘匿通信


・原作においてピラーズ・ブレイクの裏で行われていたはずのクラウド・ボールの日程がよく分からなかったので、ピラーズと時間が若干被っていることにした。



・一条将輝と総司に面識はないが、将輝が言った『俺が生んでしまった…』という言葉はあながち間違いではない。


上であながち間違いではないとかかっこよさげに言ってますが、あの台詞は単なるメタ発言です。

そもそも本来総司君に『エイドス正常化』の異能を付ける予定はありませんでした。総司君は外皮は硬いが魔法抵抗力が低い。でも速く動くからそもそも当たらない。というキャラにするつもりでした。
そのうえで一撃で殺しうる達也の『分解』や深雪の『コキュートス』などには負けるような強さ設定のはずでした。司波兄妹にしか負けない感じで。
でもそれだと内部に干渉してくる『爆裂』を防げない事に気づいた結果、対策として異能がつけられ、そこから達也や深雪すら上回る戦闘力を保有しているという設定になったという経緯からの発言です。

何げ将輝君本作初台詞


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九校戦編 その十四

この作品を軽く読み直して作者には気づいた事があります…


総司君、魔法割と理解してないか?と。


これはタイトル詐欺にあたるのではないでしょうか?私は不安です。
ので今回、アンケートでタイトル変更をするかしないかを決めたいと思いました丸


13829対0

先程行われた橘総司の試合のスコアである。

 

このスコアには敵味方問わず、多くの人が驚愕を隠すことが出来なかった。

クラウド・ボール会場客席では…

 

 

「総司君、凄い!」

 

「「「「「………」」」」」

 

 

まるで我が事かのように喜びを露わにする雫とは対称的に、レオやエリカ、幹比古に美月、そしてほのかは完全に言葉を失っていた。そもそも総司がここまでの実力だとは想像もしていなかったのだ。その点で言えば雫も予測してなかったが、彼女は総司が自分の想像を超える事がデフォルトであり、正確に予測できて初めて対等に立てると考えている。別にそんなことしなくても立てるのだが。

ともかく雫以外のメンバーは全員が驚愕…いや、ある種の()()すら抱いたのだ。モチロン彼が悪人でない事は理解しているし、彼は自分達の味方である事も理解している。だがこの出来事により、総司が自分達とは違うまさしく()()()()()()であるかのようだと考えるようになってしまっただろう…

 

 

場面は切り替わり一高天幕内。

練習の様子を見ていたため彼の実力を事前に把握していた真由美や鈴音、『あいつならこれぐらい』とどこかずれた思考をする範蔵と克人以外の選手達は揃って沈黙を貫いていた。

 

 

「…一応聞いておこう。総司はどんな魔法を使ったんだ?」

 

 

その沈黙を破ったのは摩利であり、その質問に答えたのは鈴音だった。

 

 

「彼の使用した魔法は刻印魔法によって少ないサイオンでも十分な出力を生み出せるようになった硬化魔法ですね。彼のスイングに耐えられるようにと五十里君が必死に考案していました」

 

 

と鈴音は淡々と言う。まずそもそも魔法競技において魔法を補助にしか使わず、完全に身体能力だけでここまでの点数を取ったと言う異常には、きっと目を逸らしているのだろう。

 

 

「ホント、容赦ないんだから。私もあれで何回負けたか…」

 

 

と苦々しげに言うのは真由美だ。総司と練習試合をした彼女のベストは3824対0。途中で何故か『ダブル・バウンド』やその他の魔法が作用しなくなっていることに気づき、ボールに直接的な干渉を行わない魔法で砲撃のように打ち返すという戦法に切り替えた為失点をここまで抑えられたのだ。だが一番の問題である総司本人に対し、殆ど魔法を封じられたとも言える、ただの女子高生が超人に敵う道理など無かった。

 

総司の異能はあの時アイネブリーゼに居た者と、ほのかと雫の親友ペア、新入り幹比古を擁する頭のおかしい奴ら(桐原、壬生、範蔵、克人)以外の人間は知らない。二科生如きが七草会長を…!?と驚愕するものも多数だが、そう言った人間はかなり馬鹿なのだろう。あの映像を見て、真由美が魔法ありでならば必ず真由美が勝つなどど言える者はいない。そもそもそれでイーブンに持って行けるかどうか…と言ったところだろう。

 

これまで散々総司を馬鹿にしてきたが、圧倒的な実力を見せつけられ、新人戦モノリス・コードで行う予定の作戦立案があながち馬鹿の思考によるものばかりではないと直感した森崎は歯噛みするしか無かった。

 

 


 

 

場所は変わって三高天幕内。

ここではあのダークホースの登場に焦りが募っていた。というのも、あの化け物がモノリス・コードに出場するからだ。あの余裕と明らかなオーバーキルっぷりに恐らくクラウドの優勝は確実に総司だろうと仮定した場合、彼らのエース、一条将輝や吉祥寺真紅郎ですら勝ち目の低い戦いになると予想されたモノリス・コードにおける対策を話し合っていたのだ。

 

なお、試合終了から少し経過したが、現在は将輝の姿は天幕内にない。どこか外出?と思われるかもだがそもそも将輝は裏で行われている新人戦男女ピラーズ・ブレイクに出場している。彼はまもなく始まる自分のこの日最後の試合に向かった。その時の動揺ぶりからは少し成績が不安視されたが、そもそも『氷倒し』と一条家の『爆裂』は相性が良すぎる。勝ちは必定だろう。

 

 

「吉祥寺君!ホントにあんな化け物に勝てるの!?」

 

「モノリスは基本的に物理攻撃禁止だ。あのパワーで殴られる事は無いだろうが、少しでも彼ら相手にダウンをするとあっさりとヘルメットを取られる可能性はあるね」

 

「おいおい、それはお前や一条にも言えるのか!?」

 

「そこは一高の他のメンバー次第だね。彼らの実力はどれほどのものなのかな?」

 

「どっちとももう一つの競技は予選にも上がれてないぜ」

 

「まあ、森崎って子は一回戦目で吉祥寺君と当たったことが運の尽きだったねー」

 

「(…ふむ、戦ってみた感じ、あの森崎という選手はそこまで魔法技能が高い訳では無い…だが森崎と言えば『クイック・ドロウ』だ。早撃ちが得意ならばモノリスで化ける可能性は十分にある。)」

 

 

三高の二代看板であり、ブレーンでもある真紅郎は頭を悩ませる。他の選手ならばまだしも、総司が出場している事が厄介すぎる。しかし、真紅郎は勝機も見いだしていた。

 

 

「(彼はあそこまでの実力がありながら、二科生とのこと…実力を隠していた?いや違う…、魔法そのものの練度は本当に二科生並と言うことなのか?)」

 

 

あの異常な試合を見ても総司を過大評価せず、どこかに弱点があるかを見いだそうとするその姿勢はまさしくブレーン。流石は『カーディナル・ジョージ』と言ったところか。

とそこで一人急いで会議に割り込んできた生徒がいた。彼には会議中の試合の進展について報告するようにしてもらっていた。

 

 

「どうしたんだい?なにか問題が?」

 

「…良いニュースと悪いニュース、どっちが聞きたい?」

 

「…良いニュースからにしてもらおうかな」

 

「将輝が決勝トーナメントに出場することが確定した」

 

「将輝なら当然だろう。で?悪いニュースの方は?」

 

 

親友の勝利は当然だといいながらも笑みが隠しきれない真紅郎。しかし次の報告を聞いた瞬間に先程と同じ顰め面に戻る。

 

 

「それは…一高の橘って奴が、三高の代表を倒してクラウドで優勝しちまったんだよ」

 

「…やはりか」

 

 

顰め面になりこそしたものの、真紅郎にはこの結果が予想出来ていたのだ。また総司の試合がさっさと終わっているのには理由がある。彼は雫の試合を見終わった後すぐに会場に移動しているのだ。つまり言うと総司は決勝トーナメント出場者が集まる際に、非常に強い空腹を感じていたのだ。そんな空腹を感じれば総司の機嫌が悪くなるのも当然だ。故に総司の表情はまるで何人か殺しているようなー事実何人か殺しているのだがーものに見え、恐慌状態に陥った選手が多数おり、そう言った選手達が全員棄権を申し出たのだ。

そして三高の代表を始めとする一部の者も一セット目に五桁越えの圧倒的な点差をつけられ、為す術無く敗北したのだ。

 

 

「…やはり、彼の対策は必須か…」

 

 

真紅郎はそう重い口調で呟くのだった…

 

 


 

 

横浜中華街某所にて…

 

 

「何なのだあの化け物は!」

 

 

ここは今回の九校戦において一高を妨害している無頭竜の日本支部基地だ。そこで幹部達は揃って頭を抱えていた。当初彼らはボスからの警告を『たかだか学生に何を』とまともに取り合わずに今回の九校戦に臨んでいる。しかし蓋を開ければどうだ。会場中にちりばめた魔法の全てが総司によって無効化され、唯一妨害魔法が発動した本戦女子バトル・ボードでも後少しのところで驚異的な身体能力で選手達を救助されてしまった。

挙げ句の果てには今回のクラウド・ボールでの圧勝だ。まるでギャグ漫画の住人と見まごう程の馬鹿らしさを出しながら相手を蹂躙する姿はまるで将来の自分の姿を現しているかのように感じてしまった幹部達の恐怖心は察するところだ。

 

 

「このままではいずれ『電子金蚕』もバレてしまうぞ…」

 

「もしその時は…ジェネレーターに観客達を殺させるのだ」

 

 

この時の判断が彼らの首を絞めてしまった事を、今だ彼らは知らない。

 

 


 

 

場所は戻ってクラウド・ボール選手控え室にて

 

 

「勝ったぜよ」

 

「圧勝でな」

 

「やはり俺は最強なのかな…」

 

「「「……」」」

 

「三人とも黙らないでくれません?」

 

「いやいや、流石にやり過ぎだぜ総司。五桁超えるとか人間じゃねえって」

 

「桐原先輩も頑張ればこれぐらいできるでしょ」

 

「できるわけねーだろ!?」

 

「ダメだよ武明君弱気になっちゃ!絶対出来ないことなんてこの世にはないんだから!」

 

「あるよ?普通にあるよ?そんな軽率にやれとか酷くないか紗耶香?」

 

「しかしホントに凄いよ君は。おかげで魔法戦術じゃなくてラケットの耐久性を優先して考えなきゃいけなくなったのは想定外だったけどね」

 

「その節はありがとごぜます、五十里先輩」

 

「総司が他人に感謝を伝えるだと…!?」

 

「北山さん以外にしてるの初めて見た…」

 

「そんなに感謝しないような顔してる俺?」

 

「「うん」」

 

「うわーん!二人がいじめる~!」

 

「橘君、そこで僕に泣きつくのは止めてくれないかな?」

 

「なんで!?」

 

「千代田の奴に勘違いされたくないんだろ、ほら…同性愛者だとかさ」

 

「ああ、ホモって勘違いされちゃうかもってことね!」

 

「オイィィィィィィ!俺がオブラートに包んだ意味ねーだろうがぁ!それに魔法師でそれは基本御法度だからってのもあるからな!」

 

「なるほど!つまり魔法師はさっさと一発ヤって子作りしろって事ですね!」

 

「言い方が生々しいよ橘君…」

 

 

非常に騒がしい三人と巻き込まれた可哀想な一人。

橘総司、桐原武明、壬生紗耶香の三人と、総司の担当エンジニアだったが故に巻き込まれた五十里啓の四人は控え室で騒いでいた。今回の九校戦におけるクラウド・ボールは本戦、新人戦ともに終了したためもうこの会場は使われない為、このように部屋のように占領しているのだ。本来ならば追い出されるはずなのだが総司のバックにはあの九島烈がいることを考えるとスタッフも軽率には動けない。故に見逃されている。

 

 

「そう言えば新人戦ピラーズ・ブレイクどうなりました?」

 

「一高男子はボロボロだったけど、女子の方は三人とも決勝トーナメントに出場が決定したよ」

 

 

それを聞いた総司は非常に悔しそうな顔をした。

 

 

「くっ、雫ちゃんの試合を一回しか見られなかった…」

 

「…ねえ総司君」

 

「?はいなんでしょう」

 

 

総司が漏らした呟きに反応した壬生が総司に問う。

 

 

「総司君って北山さんのこと好きでしょ?」

 

「「ブー!?」」

 

 

壬生のその直線的すぎる質問に驚いた桐原と五十里。二人してコーヒーを飲んでおり、それを思いっきりお互いの顔面に吹き出してしまった。謝罪を混ぜながらいそいそと魔法で汚れを落とす二人を横目に壬生が続ける。

 

 

「そこのところどうなの?」

 

「え?雫ちゃんの事は大好きですけど?」

 

「「ブー!?」」

 

 

壬生の質問にあまりにも予想外な返答をした総司驚いた桐原と五十里。汚れを落とした後、改めてコーヒーに口を付けた二人はまたしてもお互いの顔面にに吹き出してしまう。そんなマヌケ二人はさておいて、壬生は続けた。

 

 

「そうなのね。でもそれって友達としてでしょ?異性としてはどう?」

 

「い…せい…?」

 

「そう。北山さんのことを女性として好ましく思っているわよねって聞いてるの」

 

「女性と…して…」

 

 

わなわなと震え始める総司。

 

 

「分からない…俺は一体あの子の事をどう思っているんだ…?」

 

「総司君、それは答えにしないといけないわ。答えにしないままだと、北山さんに、なにより君自身に失礼よ」

 

「…すいません、俺もう帰ります」

 

 

総司はそう言って部屋のドアを開けた途端超高速で走り出した。




魔法科世界の秘匿通信


・因みにモニターで観戦していた司波兄妹も総司との生物的な格の違いを感じた



・完全に余談だが、総司の異能は『エイドスの正常化』であり、無効化はあくまで結果である。


次回はピラーズ・ブレイク終了までですかね


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九校戦編 その十五

皆さんに忠告がございます。この話には深刻な原作乖離が含まれます。
(原作乖離は)大っ嫌いだ!と言う方はどうぞブラウザバックを推奨いたします。それでも構わない、(表現の)道が広いでは無いか…行け。と言ってくださる方のみご覧ください。


九校戦六日目、この日は新人戦男女ピラーズ・ブレイクでの決勝までが行われる。現在、達也は雫の試合があるため控え室まで移動をしていた。だがその途中の廊下で達也の前に二人の三高生が立ち塞がるように立っていた。

 

 

「三高一年、一条将輝だ」

 

「同じく、吉祥寺真紅郎です」

 

「一高一年、司波達也だ。それで、『クリムゾン・プリンス』と『カーディナル・ジョージ』が、一体何の用だ」

 

 

達也は目の前の二人に切れ長の目を尖らせて睨み付ける。それに真紅郎は怯んだように後ずさる。しかし将輝は十師族の貫禄だろうか、全くの動揺を見せていない。

 

 

「俺だけじゃなく、ジョージの事も知っているのか」

 

「『しば たつや』…聞いた事ない名前ですね。ですが二度と忘れる事は無いでしょう。九校戦始まって以来の天才エンジニアがどんな人間なのか、試合前に失礼かと思いましたが、その顔を見に来ました」

 

「弱冠十三歳で基本コードの一つを発見した天才少年に『天才』と称されるのは恐縮だが、確かに非常識だな」

 

 

真紅郎は失礼か、と言っただけだが達也は非常識だと言い換え、言外に二人を非難した。

 

 

「…プリンス、そろそろ試合じゃないのか」

 

 

達也がそう指摘する。どうやらもう話す気が無いようだ。

 

 

「僕達は明日のモノリス・コードに出場します。君は如何なんですか?」

 

「そっちは担当しない」

 

「そうですか。いずれ君とは戦ってみたいですね。もちろん勝つのは僕達ですが」

 

 

真紅郎の安い挑発に達也は一切の興味を示さない。そもそも今回のモノリスでも勝てると思っている時点で総司に完敗するだけだと思ったからだ。

そこでふと真紅郎は達也に質問をする。

 

 

「そう言えばあのクラウド優勝者の橘君はどこにいるのですか?今から試合の北山さんの応援に控え室によく来ていると目撃証言があったのですが…」

 

「何故総司まで気に掛ける?」

 

「あそこまでの驚異的な身体能力を持つだけでも興味深いですし、そもそも今回のモノリスで彼と当たるのでね。欲を言えば彼も偵察したかったのですが…」

 

「総司がどんな奴なのかはすぐに分かると思うぞ」

 

「ほう?何故だ?」

 

「…すぐに分かると言った」

 

 

そう言って歩き始める達也。将輝と真紅郎は達也の言葉の意味が分からず彼を目で追いかけ…そしてその意味を即座に理解した。

 

 

「……」ジーっ

 

「「…!?」」

 

 

目で達也を追いかけたその先には…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

達也の背中にしがみついている総司がこちらをジッと見つめているのが見えたのだ!

 

あまりの光景に言葉も出ない二人。そのまま達也の背中に張り付いたまま達也の動きに合わせて遠ざかる総司。この間総司は一言も話していない。そして達也が角で曲がり、総司の姿も見えなくなるまで総司は二人を見つめ続けたのだった…

 

 

「…確かにすぐに分かったな…」

 

「ああいう性格の人間は総じて厄介だからね…」

 

 

衝撃影像を見せられた二人はどこか疲れた表情で呟いた。

 

 


 

 

雫が対戦相手に無双し、深雪が圧倒的な力の差を見せつけ、エイミィが辛くも相手を下した時、別会場ではバトル・ボードにおいてほのかの決勝レースが行われていたのだが…この辺りは原作と相違ないため省略せていただく。

 

ミーティングルームに呼ばれた達也と無断で付いてきた総司が到着した時、室内に深雪、雫、エイミィが居るのを確認し、二人は自身を呼んだ(呼んでない)人物に向き直る。

 

 

「時間が余裕がある訳ではないので手短に言います」

 

 

ここに居る人達を一人除いて呼んだのは真由美。真由美の口からは衝撃の提案が飛んできた。

 

 

「決勝リーグを同一高で独占するのは今回が初めてです。その初の快挙に対して大会委員会から提案がありました。決勝リーグの順位に関わらず当校に与えられるポイントの合計は同じになりますから、決勝リーグを行わず、三人を同率優勝にしてはどうか。との事です」

 

 

三人は顔を見合わせる。

 

 

「時間はあまりありませんので出来ればこの場で決めてください」

 

 

そんな真由美の言葉にエイミィが露骨に視線を泳がせる。彼女自身、自分の実力では深雪にも雫にも勝てない事は分かっているし、そもそも直前の試合で彼女の疲労は軽視できるものでは無かった。

先程まで三位で十分だと思っていたところに、同率でも優勝の可能性が出てきたとなれば、欲が出るのも無理は無い。

 

 

「達也君、貴方の意見を聞いてもいいかしら?ついでに総司君も。三人同時ともなると達也君の負担も大きくなるしやりづらいでしょう」

 

「正直に言いますと、明智さんはこれ以上の試合を避けた方が良いコンディションですね。三回戦は激闘でしたし、あと一、二時間で回復するとは思えません」

 

「俺はやってもいいと思うけどね。俺がただの観客だったら決勝やらないなんて気落ちどころの話じゃ無いし」

 

 

真由美の言葉にすぐに反応する二人。

 

 

「あの、私は今のお話を伺う前から棄権でもいいと思ってました。体調が良くないのは事実ですし、達也さんに相談して決めようと…彼は私よりも私のコンディションが分かってますから」

 

 

エイミィが辞退を表明するが、雫は違うようだ。彼女の目はずっと深雪に向いている。

 

 

「私は…戦いたいです。深雪と本気で競えるチャンスなんてこの先何回あるか…私はこれを逃したくは無いです」

 

「そうですか…深雪さんは如何したいですか?」

 

「北山さんが私との試合を望むのなら私にお断りする理由はありません」

 

「…では、大会委員には明智さんは棄権、深雪さんと北山さんで決勝戦を行うようにすると伝えておきます」

 

 

その言葉を聞いて真っ先に部屋を出たのは達也。その背中に続くように、深雪と雫が真由美にお辞儀をし、慌ててエイミィが「失礼します」と言って頭を下げ、総司が「バイバーイ」と言って手を振った。総司は真由美に蹴られた。

 

 

 


 

 

観客席は超満員。二人のCADを調整し終えた達也は深雪にも雫にもつく事なく、関係者席の最後列に席を取っていた。彼の両隣には真由美と摩利の姿もある。

 

 

「本当は深雪さんの方につきたかったんじゃないの?」

 

 

人の悪い笑みを浮かべ真由美が意地悪く尋ねる

 

 

「別にそのような事はありませんが、出来れば一人で観戦したかったですね」

 

「何だ?私達が邪魔だって言いたいのか?」

 

「そうではありませんが、落ち着いて観戦したかったんですよ」

 

 

そうこうしている内に決勝戦開始のブザーが鳴り響く。

 

 

「始まりますね」

 

「そうだな…」

 

 

三人が真剣な表情となって試合を見る。

その試合は表面上は互角だ。深雪の操る『氷炎地獄(インフェルノ)』が雫の陣地を襲うが、氷柱はなんとか持ちこたえていた。氷柱の温度改変を阻止する『情報強化』がなんとか『氷炎地獄』の熱波を退けていた。

 

 

「(届かない!流石は深雪!)」

 

 

雫も『共振破壊』を用いて攻撃を加えるが、やっとかっとで防御していた雫とは違い、深雪は余裕を持って防御が出来ていた。

 

 

「(だったら!)」

 

 

雫はCADをはめた左腕を右の袖口に突っ込んだ。引き抜いた手には拳銃型の特化型CADが握られていた。それこそ達也が雫に持たせた切り札。

 

 

「(二つのCADの同時操作!?雫貴女、それを会得していたの!?)」

 

 

雫の行動に深雪の心は驚愕に襲われた。二つのCADを同時操作するのは、彼女の兄がしれっとやっている故簡単そうに見えるが、実際はとても難度の高いテクニックだ。それを成功させているのだろう雫に、深雪は驚愕のあまり一瞬魔法を止めてしまった。

そこに雫の拳銃型CADから魔法が放たれる。

 

雫の新たな魔法に一番驚いたのは、深雪ではなく真由美だったのかもだ。関係者用の観客席で彼女は大声を上げる。

 

 

「『フォノンメーザー』っ!?」

 

「良くお分かりですね」

 

 

振動系魔法『フォノンメーザー』。超音波の振動数を上げ、量子化して熱線とする高等魔法だ。達也が深雪を倒すために雫に授けた作戦だが、彼の表情は冴えなかった。

深雪が負けそうだからでは無い。結局この程度ではあの妹を凌駕する事は出来ないと分かってしまったからだ。

 

熱線化した超音波射撃を受けていた深雪が魔法を切り替えた。雫の攻撃が止まった訳ではないのに、氷の昇華が止まり、それを上回る冷却が作用し始める。

雫の陣地に向けて冷気の霧が押し寄せてくる…

 

 

「…『ニブルヘイム』だと…?何処の魔界だここは…」

 

 

摩利のうめき声が、達也と真由美の耳に届く。

広域冷却魔法『ニブルヘイム』。この術式は本来領域内の物質を比熱、フェーズに関わらず均質に冷却する魔法である。だが深雪が発動したのはその応用的な使い方だ。

真由美や摩利、観客の全て、そして達也までもが深雪の勝利を確信する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「絶対に…負けない!」

 

 

雫はそう言ったかと思えば、特化型CADを落とす。そもそも雫はこのフォノンメーザーについて達也をあまり信頼していなかった。達也が深雪を倒せる、と言ったところで、彼が深雪に忖度する可能性を否定しきれなかったし、そうでなくとも、CAD同時操作()()では深雪に勝てない事など理解していた。

そこで彼女は、ある人物を頼ったのだ。今の自分が一番信頼している人物に…

 

 

「…あれは?」

 

 

驚愕する達也。CADを落とした後に即座に懐に手を伸ばした雫。その雫が持っていた物はー

 

 

()()()()()()()()

 

 

「…雫ちゃん、使うのか」

 

 

雫側で呟く総司。彼が心配するのも無理は無い。雫が手に持つ札による魔法は使用者の消耗が非常に激しい事を、()()()()()()()()()()()()()からだ。

 

 

「いくよ…総司君!」

 

 

雫が札にサイオンを送る。札は送られたサイオンに寸分の狂い無く魔法を発動する。

 

途端、雫側、深雪側の両陣地に風が吹き荒れる。その風に晒された二人の氷柱に変化は無い…変化したのは魔法だ。深雪が発動した『ニブルヘイム』の魔法が中断され、冷気もどこへ吹き飛んだ。

 

 

「アレはまさか…サイオン流か!?」

 

 

この風はただの風では無かった。サイオンを乗せた指向性のある風。それはまさに『神風』と言って差し支えないものだった。この風はかの『術式解体』と同じ効力を持つ。違いは『術式解体』が魔法式の全てを吹き飛ばすのに対し、この風は術式を『流して』グチャグチャにすることで魔法式を『意味のないもの』に変えるのだ。

 

 

「…!深雪!」

 

 

思わず叫ぶ達也。それはこの『神風』に動揺したというのもあるだろう。だがそこではない。会場全てが風に気を取られ、気づかなかった。上空に五芒星型の魔方陣が形成されている事に。『精霊の眼』を持っているが故に気づけた達也。しかし…全てが遅かったのだ。

 

深雪も達也に遅れて上空の魔方陣に気づく。しかし魔方陣は既に魔法を発動し終えていた。

魔方陣に仕込まれた魔法は空気中の水分を振動により摩擦帯電を起こし、超高熱の電気を生成する魔法と、物質の分裂により魔方陣周辺の空気中にプラスとマイナスの電荷を発生させる魔法の二つだ。つまるところ…この魔法は超高熱の雷を生み出す魔法であった。発生した『紫電』はまるで神の鉄槌かのような威容だ。

 

対抗して深雪が魔法を発動しようにも風で魔法式が崩されて情報強化もままならない。

やがて紫電が下に向かって、深雪の氷柱に向かって放たれる。

 

 

「…凄いわ、雫」

 

 

深雪の瞳には目の前の友人に対する賞賛が浮かんでいる。

 

 

「こんな魔法、一体何処で…?いや、今はどうでもいい。雫、頑張ったんだな」

 

 

そう呟く達也の視線の先には深雪の陣地。深雪の陣地にあった氷柱は放たれた紫電の高熱により、全てが融解していた…

 

 

 

 

 

2095年度、新人戦女子アイス・ピラーズ・ブレイク優勝ー

 

 

 

北山雫




魔法科世界の秘匿通信


・総司が達也にしがみついていたのはたまたまそんな気分だったから。(そんな気分ってなんだ…?)


・オリジナル魔法が登場したが、これは九校戦前に北山家を訪れた際に作成を依頼されて総司が作ったものである。因みに書いてる途中で決めた。



雫ちゃん勝っちゃったよ…

元々は原作通り深雪に負けて、そこを総司が慰めるという展開にするつもりだったのですが、作者が雫ちゃんの泣き描写をしたくなかった為、後々に発現する予定だった才能をここでぶっ込みました。

はい、お分かりかもですがこの作品、台本も書き溜めも存在しません。全てがその場のノリと勢いで構成されています。そもそも番外編の予定である北山家訪問の理由付けができなかったのもあるんですよね。いくら雫ちゃんがバリバリに好意を見せていると言えども直球に家に誘う雫ちゃんは何か違う気がしたので。
と言うことで番外編はこの魔法の開発という名目で雫ちゃんが総司を自宅に連れ込む話です。

次回はオリジナル魔法の説明とモノリス1日目ですかね。


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九校戦編 その十六

うっっっっす!?(内容が)

やばいってこれ、表現が拙すぎてやばいよこれ(寝不足)


さっさと寝るか…


アンケートはもうちょっと続けます。


試合終了後、達也と深雪は急いで雫の控え室に向かっていた。理由は簡単、彼女が使ったあの謎の魔法の正体を突き止めるため、そして()()()()()()()雫の様子を見るためだ。

 

 

「雫」

 

「達也さん?それに深雪も…」

 

 

深雪は終了後急いで着替えを済ませていた為現在は制服を着用している。対称的に雫は今目覚めたのだろうか、まだ振袖を着たままで座っていた。

 

 

「おう、お前ら来たか」

 

 

奥から飲み物を運んできた総司。達也達が来ることを予測してか自分の分含めてキチンと四人分のカップを用意していた。挨拶をして出されたお茶に口を付ける二人。その二人の目の前では「大丈夫雫ちゃん?お茶飲める?」「うん、ありがとう総司君」と笑顔で会話する総司と雫が目に入る。率直に言ってカップルのそれだ。達也と深雪は相変わらずの二人にため息をこぼす。

 

 

「体は大丈夫なの雫?」

 

「うん…かなり回復したかも」

 

「何故倒れたんだ?」

 

「達也なら分かるだろ?所謂サイオン切れだよ」

 

 

問う達也に対し総司が横から口を挟む。

 

 

「確かに強力な魔法だったなアレは…サイオンがもたないのも頷ける。だがあんな魔法見たことも…」

 

「だろうな、俺が雫ちゃんの為に作った魔法をお前が知っていたら、たちまちお前は俺のストーカーだ」

 

 

達也的にも、深雪的にも聞き捨てならない言葉が後半に付随していたが、それ以上の衝撃に二人は総司を見つめる。

 

 

「あれはお前が開発した魔法なのか?」

 

「そう。ピラーズ・ブレイクにおける対深雪ちゃん用の魔法だ」

 

 

総司が魔法を開発した。と言う事実に今だついて行けない二人は硬直する。そんな二人を見た雫は…特に達也に対して申し訳なさそうに話す。

 

 

「達也さんごめんなさい。私は、達也さんを信じ切れなかったの…」

 

 

疑問符を浮かべる達也と深雪。雫が言うには、達也が自身よりも深雪を優先してしまう可能性を捨てきれなかったとのことだ。その不安感から総司に相談した結果、今回の魔法を作成する事になったらしい。

 

 

「それは…済まなかった、不安にさせてしまって」

 

「ううん、いいの。それに達也さんは深雪を信じているから卑怯なことはしないってどこかで分かってたはずだったんだけどね…」

 

「…雫」

 

「どうしたの深雪?」

 

 

深雪は雫に向かって真剣な表情で話す。

 

 

「貴女は勝ったのよ。そんな貴女が、私よりも暗い顔していたらダメでしょう?」

 

「…そうだね、深雪」

 

「優勝おめでとう、雫」

 

「俺からも言わせて貰おう…おめでとう、雫」

 

「んじゃ俺から改めて…雫ちゃん、本当に頑張ったね。優勝おめでとう!」

 

「…ありがとう、みんな」

 

 

そう言った雫の目には嬉し涙のようなものが光る。慌てる男性陣を余所に、深雪が雫を優しく抱きしめる。まさに友を賞賛するようなその抱擁は雫と深雪を二人だけの友情の世界に誘う。そこから彼女達はこの日までの苦悩を分かち合い始めた。

完全に蚊帳の外となった男子二人は、顔を見合わせる。そして一旦控え室からでてから達也が総司に問う。

 

 

「ところで総司。あの魔法は一体どんなものなんだ?」

 

 

この世界では相手に魔法の詳細を尋ねる事は基本的にタブーとされている。長年の研究の成果たる魔法を軽々しく話す訳がないからだ。

 

 

「ん?いや単なるSB魔法だが」

 

 

だがそのタブーも総司には例外。そもそもこの魔法は総司が考えたオリジナルだ。言わば達也の『能動的空中機雷(アクティブ・エアー・マイン)』のようなもの。総司には話すことを躊躇う理由はない。

 

 

「あの魔法は二つの魔法を使ってる。そしてあの二つの魔法はそれぞれ細かい照準などを精霊達に代替してもらっているんだよ」

 

「それは…」

 

 

細かい魔法操作。それは使用者たる北山雫が不得意とする分野である。確かに思い返してみれば、風の魔法はしっかりと指向性を持ち続けていたし、紫電の魔法も寸分違わず深雪の氷柱に直撃していた。あそこまで大規模な魔法を使いながらの精密操作は今の雫には無理だ。そこを精霊で補うという発想は現代魔法の方が得意な達也には思い浮かばなかったものだ。

 

 

「…失礼だが、後で魔法式を見せてもらえるか?参考にしたい」

 

 

あそこまでの大規模な魔法で、威力も速度も落とさず、精密な操作もできるとなればとても作り込まれたな魔法式なのだろう。と達也は思っていた。どこか嫌な予感を持ちながら。

 

 

「……」

 

「どうした総司?やはり見せたくないのk「…ないんだ」…は?」

 

「俺、あの魔法の魔法式、分からないんだ…」

 

「……?………????????」

 

 

達也は一生で一番多く疑問符を立てたかもしれない。

 

 

「魔法式が分からない?何を言っているんだ?あれはお前が開発したんだろ?」

 

「俺、魔法開発してもどうゆうプロセスで処理してるのか分からないんだよ」

 

 

詳しく言うとこうだ。総司は魔法演算領域が極端に狭い。それは発動した魔法式を理解する事が出来ないほどにだ。彼は魔法の発動を認識するのではなく、その魔法発動に不可欠なエイドスの書き換えに反応して魔法を知覚する。

簡単に言えば…誰かが難問の数式を途中式無しで答えを書いた時、詳しい解き方を理解しないまま答えだけをみて『こんな答えになるんだ-』と記憶するような…総司は魔法師が書き終えた答案の回答部分だけを見て中身を理解せずに結果だけを理解するのだ。

故に論理的に魔法式を考案する達也と違い、『こうすればこうなるんじゃね?』というイメージだけで魔法を作成するのが総司だ。つまりあの魔法はいくら目的が決まっていたとはいえ、ほぼ感覚だけで作成された魔法だったのだ。

 

 

「…お前、それでどうやって安全性を確認するんだ」

 

 

達也の声音には怒気が含まれていた。技術者として安全も確認せずに他人に使わせることなど信じられないのだろう。

 

 

「それはな、精霊達が『これじゃだめだよ』みたいに教えてくれるんだ。そして精霊達が納得するような魔法が作れた時は、確実に安全なんだ」

 

「何だと?」

 

 

にわかには信じがたい話だ。しかし総司の生まれを考慮すれば、精霊達が手を貸すのも分かるし、そもそもかの陰陽師は天才と呼ばれた男だ。その血を引いた総司が天才肌になったのも頷ける…かもしれない。

しかし、それではやはり気が済まない達也。

 

 

「…次からは俺に持ってこい」

 

「了解でーす」

 

 

達也は諦めたように総司に言いつけた。

 

 


 

 

九校戦七日目。この日は九校戦のメイン競技、モノリス・コードの新人戦の予選リーグ及び花形競技のミラージ・バット新人戦が行われる。

 

観客達は華やかなミラージの方が関心が高いようであり、モノリス側の観客席には人が少ない。だが無理もないだろう。

バトル・ボード優勝者のほのか、ピラーズ・ブレイクの準優勝者深雪、クラウド・ボールの準優勝者里見スバルの三人に誰もが注目していたからだ。

しかもCAD担当のエンジニアは司波達也ときた。ここまでの一高の快進撃を支えているのはこの男である事は既に全ての観客が理解していた。そんなミラージ・バットを見たいのは必然だろう。そんな事実に舌打ちをする男が一人。

 

 

「チッ…!」

 

 

そう、森崎駿だ。彼は達也がとてつもない成果をドンドン打ち出しているのに対して焦りを覚えていた。彼の精神状態は現在追い詰められている。それは前述の通りに活躍する達也を超える成果を出さなければ…という固定脅迫観念と、

 

 

「落ち着けって。ほら、カロリーメイトをお食べなさい」

 

「断る!」

 

 

そう、チームメイトの橘総司だ。そもそも森崎は達也よりも総司をライバル視している面がある。原作と違い、校門でのイザコザを止めたのが総司だからだろう。彼がチームに入るとなった時、森崎は猛反対した。

対する総司だが、この男は当初『やべー奴』と森崎を認識していたのだが、練習を重ねて行く内に森崎が意外と努力家であることに気づき、割と好感を抱いた。それからはまるで父親…のような母親の気持ちで接しており、森崎がかみついてくることには『これが反抗期って奴か…』と呑気に見当違いの認識でいる。

 

 

「くっ!…悔しいが、お前の作戦が一番成功率が高いんだ、失敗するなよ!」

 

「どうした急に」

 

「うるさい!」

 

「ええ…」

 

 

森崎は最早焦りで幼稚な罵倒しか出てこなかった。そんなこんなで試合が開始する。

 

 

予選第一試合の相手は第六高校。場所は岩場ステージに決定された。試合開始を目前に、モノリスに並ぶ森崎、五十嵐、そして総司。

 

 

「…作戦の確認だ。予定通り、俺が序盤は前衛でモノリスへ攻撃。五十嵐が中衛で相手の動きを牽制。橘は後衛でモノリス防衛」

 

「おい、森崎。ホントにその作戦で行くのか?」

 

「もうワガママを言える状況じゃない!なんとしてでも優勝しなければならないんだ!」

 

「おいおい、そんなカリカリすんなって。カロリーメイト食べる?」

 

「食べるわけないだろう!そもそも持ち込んできたのか!?」

 

 

森崎の怒りもノリがいつものメンバーとのやりとりに似てきている時点で若干総司汚染されているのだろうか。五十嵐も驚いた顔で森崎を見ていた。

気を取り直し前方に向き直る三人。視線の先約800メートル先には六高の陣地。試合開始の合図と共に、総司以外の二人が一斉に駆け出す…

 

 

これが後に『九校戦モノリス史上最もクソゲー』と呼ばれる試合の幕開けであった。




魔法科世界の秘匿通信


・達也と総司の魔法開発の違い:魔法式を山登りに置き換えた場合、達也はいくつもの枝分かれした道の内、どれが最短かを測りながら魔法式をゴール、つまり頂点まで持って行くのに対し、総司は精霊の力を借りて、道無き道を突き進んでゴールまで直進するイメージ。
故に達也の魔法には無駄が無く効率が良いが、総司の魔法は燃費が凄く悪い。今回雫が用いた魔法なんて深雪でも七回程使用すればサイオン切れするという驚きの産廃魔法である。因みに固有名称は『風神雷神』


・急に森崎に優しくなったのは、森崎のメンタルが壊れすぎると孫美鈴がワンチャン死ぬかも…?と思ったから。



二話連続で書いたから死にかけで文章が終わってる…


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九校戦編 その十七

あと1ヶ月でリロメモリリースか…楽しみだ


「行くぞ五十嵐!お前は少し後方を維持しろ!」

 

「分かってる!」

 

 

試合開始と共に総司以外の二人がスタートダッシュを決める。

 

 

「…あのクラウド優勝の奴は動かないのか?」

 

「もしかするとこの競技が苦手なのかもしれないぞ!」

 

「だとすれば向かってくる二人をやればいい訳だな!」

 

 

対する六高は動かない総司を見て早とちりしたのか、総司の周囲の人間が聞けば『え?それはないでしょ』と言われること間違い無しの台詞をしゃべりながら森崎と五十嵐に相対する。

 

 

「さあ、ぶっ飛ばすとするk、「飛ばせ!五十嵐!」「おうよ!」何っ!?」

 

 

自信たっぷりの表情で戦闘準備をしていた六高のオフェンスは仲間の魔法を受けて森崎が加速、自分を無視してモノリスまで向かったことに驚く。

この相手の虚を突いたプレーには、少ないが応援に来ている生徒からは歓声が上がる。因みに雫も応援に来ているが、今のところ総司が動かないので不機嫌そうにしている。

 

そんな中、森崎はモノリスに一直線に向かう。それが一高の作戦だからだ。森崎はこの策をあまり良く思っていない。それは何故か。自分達が必要とはいえ、勝利をもたらす直接の要因はあの馬鹿(総司)だからだ。

 

 

「くっ!コイツちょこまかと!」

 

「俺らの事は眼中に無いって感じだな!」

 

 

六高の残りの二人もモノリス前で森崎を迎撃するが、森崎は多少のダメージも覚悟でモノリスに狙いを付ける。モノリスを開く『鍵』となる無系統魔法を撃ち込む為だ。その行動に観客達は疑問を覚える。

モノリスを開いたとしてもその中に隠されている512のコードを入力しなければならない。セオリー通りならば相手選手を消耗させてから始めるのが普通だ。特に岩場ステージという見晴らしのいいステージでは。

 

だがそんなセオリーを無視して森崎は迷い無くモノリスに魔法を撃ち込みモノリスを割る。六高からの攻撃は収まってはいないし、モノリスを割られたからか更に強くなっている。そんな中で森崎は苦虫を噛みつぶしたような表情で無線を飛ばす。

 

 

「…モノリスを割ったぞ、橘」

 

「分かってる」

 

 

瞬間、六高モノリス周辺に突風が吹く。気づくと六高モノリスの傍には総司がいた。

 

 

「なんだと…!?」

 

「速すぎるだろ!?」

 

 

六高選手達は突如として移動してきた総司に驚愕している。

そんな選手達を余所に総司はコードの入力を始める。更には森崎と五十嵐は自陣モノリスへと後退していくではないか。つまりこれはもう総司一人で十分と言っているも同然だ。嘗められている。そう思った六高選手達はコード入力を行っている総司を妨害する。

 

 

「クソ!嘗めやがって!これでも喰らえ!」

 

 

六高の一人が放ったのは振動系魔法。魔法構築に時間がかかる代わりに相応の威力を持った魔法だ。これを喰らえばプロの魔法師とて無防備な状態では脳震盪確定である。だが…

 

 

「…なんでだよ!?何で倒れないんだ!?」

 

 

総司には魔法は効かない。総司の異能、『エイドスの正常化』は自身に掛けられた魔法にも作用する。振動系で()()攻撃しても、その魔法発動に際するエイドスの書き換えを無かった事にしてしまうので、結果的に魔法が中断されて総司には届かないのだ。

事実総司を脳震盪させるには総司の防御力を上回る程の攻撃力で()()()()攻撃を与える必要がある。そして、モノリスは物理攻撃不可のルールだ。つまり、異能で魔法を無効化され、物理をルールで不可能にされている現状では、総司は決して()()()()()()()()()

 

 

「魔法が効かない…だが、それは一応予測済みだ!」

 

 

だが六高も馬鹿ばかりではなかった。総司が魔法を無効化できる可能性を考慮したブレーンがいたのだろう、彼らのCADには間接的に魔法行使をして攻撃する魔法…空気圧縮弾などが多めに入っていた。

ここで六高が選んだのは移動系魔法。岩場ステージである事を活かし、大きめの岩を飛ばして攻撃した。流石にこれを防ぐには魔法を使うしか無いだろう、そうすればコード入力を中断せざるを得ないと…六高は楽観視していたのだ。

 

 

「…邪魔」

 

 

総司がコード入力の途中で軽く手を振るう。すると爆風が吹き、岩に掛かっていた移動系魔法が中断されたのだ!更に岩はその風に押し戻され、遠くに飛んでいった。

 

 

「…そんな、嘘だろ…?」

 

 

六高の選手は絶望した。総司が何をしたのか分からなかったからだ。魔法を発動した兆候はない。もし仮にあったとしよう。魔法を無効化した理由が分からない。彼はどうやら『術式解体』を知らないようだ。だが、知っていたとて意味は無い。何故なら総司は『術式解体』なんて高度な魔法を使えないし、使う必要が無い。彼の異能は彼が起こす運動エネルギーにも作用する。彼が起こした風は魔法師にとって『悪魔の風』と言っても差し支えないだろう。

 

やがてコードの入力が終わり、一高の勝利が確定した。

観客も、モニターで見ていた一高及び六高の天幕内は、歓声や悔しさの叫びすら無い、一律の沈黙だった…

 

 


 

 

「総司君、一回戦勝利おめでとう」

 

「まだ、優勝した訳じゃないし、そもそも予選は後三試合あるよ?」

 

「それでも、お祝いしたかったの」

 

「雫ちゃんがしたいなら良いんだけどね」

 

「「……」」

 

 

一高控え室。本来ならメンバーもしくはエンジニアしか出入りしないはずのこの部屋で、部外者と会話する総司。最も、迷惑ならその部外者を追い出せば良いのだが、森崎達よりも成績が高く優秀で、今回の九校戦でも二種目優勝という素晴らしい結果を出した北山雫が相手では彼らは強くでることなどできない。そして雫と総司の雰囲気は噂通りカップルかな?と思ってもしかたないようなものだ。ここで邪魔をすればやぶ蛇というものだ。

 

 

「次は四高戦だけど、自信の程は?」

 

「フッ、さっきの試合を見て雫ちゃんはどう思った?」

 

「とてもすごいなあと思った」

 

「小学生かな?」

 

「誰の体型が幼児体型だって?」

 

「言ってないよ?」(汗)

 

 

雫はそう会話しながら、総司がどこか様子がおかしいことに気づく。何というか、よそよそしいのだ。この間、北山家に宿泊した時にも感じなかったし、九校戦が始まってからしばらくは変わりなかった。このように様子がおかしくなったのはクラウド・ボールがあった日からだ。その日に何かあったのだろうか…?

 

 

「ねえ、総司君。クラウドの日に何かあった?」

 

「えぇ!?ソ、ソンナコトある訳無いジャマイカ!」

 

「あったんだね?」

 

「はい…」

 

 

総司の返事は明らかに動揺していた。絶対何かあったと確信した雫は凄んでみればすぐに総司は認めた。

 

 

「何があったか、教えてくれる?」

 

「それは…言えない」

 

「私にも?」

 

「君だからこそだ」

 

 

その時、雫は総司が今まででもみたことないような真剣な顔をしていることに気づく。

 

 

「話せないのは申し訳ない…だが、いつか必ず、君に話すから」

 

「…うん分かった。どうしても助けが必要なときは相談してね?」

 

「それは無理だな」

 

「なんで!?」

 

 

雫の反応が面白かったのか総司は肩を震わせる。それに気づいた雫がべしべしと総司を叩く。総司には全く痛みはない。むしろ笑っているまである。

そんなやりとりを見ていた森崎は、舌打ちも嫌みを言うこともしなかった。ただ、自分の手に目を落としていたのだった。

 

 


 

 

「…圧倒的だな」

 

「最早ステージギミックでしょアレ。しかも即死系の」

 

 

一高天幕ではモニターを見ていた真由美と摩利が文句を言っていた。今までに無い勝ち方をした総司に驚かされたことにムカついたのだ。

 

 

「私も作戦を伝えられた時は驚きましたが…まさかこうも上手く成功するとは」

 

 

事前に伝えられていた鈴音でさえこの感想を抱くのだ。初めて見た二人が文句を言うのは仕方ないだろう。ウンウン頷いて『流石総司だ』みたいに言いそうなのが天幕内に三名(桐原、範蔵、克人)程いるが、基本は真由美達と同じような意見を持っていた。

 

 

「これじゃ、この後の試合も余裕勝ちね!」

 

 

真由美よ、それを人はフラグというのだ。

 

 


 

 

そして二回戦目。対戦相手は四高、ステージは市街地ステージだ。

 

スタート地点は廃墟となった五階建てのビルの最上階だ。

開始間近で三人は話し合っていた。

 

 

「意外に見通しが悪いな…森崎、一人でオフェンス出来るのか?」

 

「前衛を叩いて後ろを引き出してモノリスを探すか…」

 

「ハラマスコ~イ」

 

「「お前は真面目にやれ!」」

 

 

こんな時もふざけている総司に二人が怒鳴りつける。

そのような会話をしていると、まもなく開始時刻だ。

 

 

「お前が要なんだ、頼むぞ橘」

 

「へいへい」

 

 

そしてスタートのサイレンが鳴り…

 

 

「…あ?」

 

 

直後に頭上へと投射された巨大な魔法式を三人は認識した。

 

加重系魔法、『破城槌』。対象物全体のエイドスを、対象物の一点に強い加重が掛かった状態に書き換える魔法。屋内で人が居るときに発動した場合、殺傷ランクが、レギュレーション違反のAランクに…人をたやすく殺せてしまうとされる威力を出す魔法だ。

モノリス・コードにおいてAランクの魔法行使は認められていない。明らかなオーバーアタック、危険行為だ。

 

 

「クソッ!」

 

「止まれ!」

 

 

『破城槌』により崩壊する天井を押し返そうとする二人。しかしその崩壊の規模は大きく、すぐに二人が持たなくなるだろう…万事休すかと思われた。

 

 

「…ふざけるなよ」

 

 

この男(橘総司)がいなければ。

ゴウッ!と巻き起こる爆風。風は崩壊していた天井を瓦礫ごと吹き飛ばし、彼らがいたビルとその周辺のビルが大きく揺れる。崩落していた天井が全て吹き飛ばされ、危険は無くなった。これで三人…いや二人(森崎と五十嵐)は助かっただろう。

しかし怒りが抑えきれない総司はビルを飛び降り、正面にあるビルの前に立ち…

 

 

「俺は良い…だが、二人が死んでたらどうするつもりだったんだよ!?」

 

 

と怒鳴り…拳を勢いよくビルに叩きつけた!

そのビルは大きな音を出して崩れ落ちる。その威力は先程の『破城槌』よりも遙かに大きかった。目の前のビルが倒壊していくのを見た森崎は、総司に対して感情を抱いた。それはとてつもない力を持っていることへの恐怖では無い。森崎は自分達のために怒った総司に…僅かながら『信頼』の感情を抱いたのだった。

 

その後すぐにスタッフが駆けつけ、四高はオーバーアタックの危険行為及び事前に一高の位置を把握していたフライングの疑いで失格となり、一高の勝利が確定した。




魔法科世界の秘匿通信


・総司は雫への気持ちがまだ分かっていない。彼はこの九校戦で彼女への自分の気持ちに気が付くだろう。


・総司は練習を重ねて行く内に二人に(主に森崎)友情(一方通行)を感じていた。今回の事件は彼にとって友人を害された気持ちだったのだろう。


薄い…内容が薄いよ…誰か作者に文才を…


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九校戦編 その十八

「総司君!」

 

「うおっ!?」

 

 

四高の違反行為により一高が二回戦目に勝利した後、一旦天幕に戻ってきた総司に雫が抱きつく。総司は先程の怒りは何処に行ったか、「雫ちゃんの抱きつき気持ちよすぎだろ…」と雫の柔らかさを堪能していた。そんなことはいざ知らず、雫の表情は悲壮なものだ。

 

 

「あんなに大きな崩落に巻き込まれて、大丈夫なの!?」

 

「大丈夫だ、問題ない。俺はここで死ぬ定めでは無いからな」

 

「いつも総司のやる事なす事に動じずに後方彼女面で頷いているのに今回は心配するのか?」

 

 

後から達也が続く。雫は後方彼女面と称された事に、「達也さん、そんな…私と総司君がお似合いだなんて…」と顔を赤らめながらクネクネしだした。雫には先程のような悲壮な表情はもう無い。総司に抱きついた事で彼の無事を確信したのだろう。

 

 

「試合はどうなるんだ?」

 

 

そんな雫をおいといて達也に問いかける総司。

 

 

「…さっきのは体外的に事故として処理されるようだ。すぐに三回戦が始まるだろう」

 

 

達也は若干の違和感を覚えながら総司の質問に答える。

達也は総司の雫に対する対応に違和感を覚えた。いつもなら聞き返したり、雫の言葉を違う意味で理解するような鈍感系主人公である彼であるが、今し方の雫の発言に総司は何の反応も示さない。というより、そう言った発言を()()()()()()()かのようだ。

 

そして極めつけは総司の耳。達也に問いかけた時、つまり雫の呟きを聞いたときから彼の耳は薄く朱に染まっていた。

「これは…」と半ば確信めいたものを得る達也。

 

 

「(総司、とうとう雫の気持ちに気づいたのか…)」

 

 

その時の達也の総司を見る視線は親が子を見るかのようなものだった。ちなみにだが仮にこの場面を深雪が見ていたら『総司君は、お兄様と私の子供だった…?』と常人では到底考えられないような発想に至ったことだろう。それぐらい達也は親の顔をしていた。

 

 

「おいおい、運営の都合じゃ無いか。烈爺に言って叱って貰おう」

 

「それは可哀想だから止めておけ」

 

 

そんな視線に気づくこと無く先程の一件を事故で済ませた運営に文句を言う総司。その報復の手段がエゲツナイ事に達也はとりあえずツッコミを入れるが、その前に気になった事があった。

 

 

「…お前、もういいのか?」

 

「ん?何が?」

 

「さっき、お前凄く怒っていただろう?」

 

「あ~」

 

 

そう。先程総司は友人(と思っているのは現状総司だけ)である森崎達に危険を与えた事に激怒しビルを一つ崩壊させている。この余計な破壊のせいで先程の件が事故であるという隠蔽工作をやりやすくしてしまったのだがそれはおいといて。

総司の怒りは相当なものだった。今にも下手人を殺してしまいかねない程に。達也は、怒りで総司が四高の選手を殺してしまうのではないかと危惧していたのだ。

 

 

「その件なんだが、犯人は多分外部の奴だ」

 

「…ほう?あれは四高の違反行為ではないと?」

 

「ああ。ステージから出るときに精霊魔法の残影があってな。もしかすると女子バトル・ボードの時の七高みたいな一高への妨害工作だったのかもしれないんだ」

 

 

すると総司の携帯端末から通知が鳴る。確認した総司は顔を引き締める。

 

 

「噂をすればって奴だな。烈爺から連絡が来た」

 

「九島老師から?」

 

「あの人は昔から前線で戦ってた人だ。四高から借り受けたCADを見て貰うように頼んでたんだ」

 

「そもそも四高から借りられたのか?」

 

「精霊魔法を感知した時から四高に殺意は無かったんだが、向こうは知らない訳で。俺が選手達を殺しに来たと思ったみたいでな。殺さないから使用したCADを貸してくれ。って言ったらすんなり貸してくれたんだ」

 

「…なるほどな」

 

 

ビル一つ壊す男が自分達の目の前にやってくれば魔法師でもビビる。当時の光景を想像して達也は呆れ気味に納得した。

 

 

「それで?どんな魔法が使われてたんだ?」

 

「ちょっと待ってくれ…『電子金蚕』、電気信号に干渉してこれを改ざん、ありとあらゆる電子機器を狂わせ、ないし無力化させるSB魔法…。つながったな」

 

「『電子金蚕』か…聞いたことも無いな」

 

「達也でも無いのか?…どうやら大陸系の魔法みたいだな。あれ?それじゃ伝統派関係ないのか?」

 

 

総司は今この瞬間まで敵が伝統派だと勘違いしていたようだ。こういった場面でも鈍感を発動するのが、真の鈍感系主人公なのかもしれない。

 

 

「…大陸系なら、敵は『無頭竜』なんじゃないのか?」

 

 

達也は以前から無頭竜が何かしら動いている事を知っており、この九校戦を狙っていることを独立魔装大隊の面々から聞いていた為、この妨害が無頭竜によるものだと考えた。

 

 

「『無頭竜』?そういやそんな名前烈爺から聞いてたな…達也は響子さん辺りから聞かされたのか?」

 

 

総司が何気なく言い放った言葉。それを達也は無視することが出来なかった。

 

 

「…()()()()とは誰だ?」

 

「…ヒュッ」

 

 

達也の問いかけに顔を青くして息を呑む総司。それもそのはずだ。達也と響子…藤林少尉は独立魔装大隊での同僚ではあるが、独立魔装大隊のことは世間には広く知られている訳も無いし、そもそも達也が大黒竜也特尉として軍で活動していることは機密事項だ。

 

だが総司は達也と響子の間に交流がある事を確信しているかのような発言だった。響子が総司を知っていたように総司が響子を知っていること自体には疑問は無い。彼女は九島家の人間の一人だ。総司とも関係あるだろう。だが、ここで達也と響子を結びつけることは総司には不可能なはずだ。『電子の魔女(エレクトロン・ソーサリス)』、超凄腕の電子ハッカーである響子が情報を外部に漏らすとも考えられない。

 

つまり、総司は何かしらの情報網で達也と響子の繋がり…達也が軍属である事を知っていると言うことだ。そしてそれを知っていると言うことは最悪、達也が『トーラス・シルバー』である事(厳密には彼だけでは無いが)、四葉家の人間である事も知っているかもしれないということだ。

 

 

「ま、まあまあまあ。それは今はおいておこう。敵の話だ」

 

「…そうだな」

 

 

達也は言いながら総司を睨み付けるのを止めない。

総司は冷や汗をかきながら話し出す。

 

 

「俺はその『無頭竜』ってのが魔法を使う犯罪シンジケートって事ぐらいしか分からないんだが、お前はどうなんだ?」

 

「…『無頭竜』が九校戦を使って賭博を主催していることは知っている」

 

「マジで?」

 

「ああ。恐らく一高に妨害工作をかけてくるのは、勝つ可能性の高い一高にオッズを集め、負けさせることで自分達の利益をあげようとしているのだろう」

 

「ちっ、ホント大人は汚いな…」

 

「あと数年で俺達もその大人だぞ?」

 

「ヤメロそういうの」

 

 

軽口を挟んだことで雰囲気自体は軽くなったが、二人の表情は重い。達也は総司への警戒から、総司はふつふつと沸き上がる『無頭竜』への怒りからだ。

 

 

「潜伏場所は分かるか?」

 

「そこまでは分からないが、調べてもらえるようなアテはある」

 

「流石達也」

 

 

達也が言うアテとは総司も知っているカウンセラーの小野遥の事であるのだが、それを総司が知ることはない。

 

 

「…場所を知って如何するつもりなんだ?」

 

 

今日この日までの付き合いで、総司が友人思いである事は知っているし、彼には時に非情な面もある事を達也は理解している。故に何をするつもりなのかはほぼ確信していたが、念の為に確認をとる。

その問いに総司は…

 

 

「…っ!?」

 

 

おぞましい()()()()()()達也。彼は魔法演算領域と引き換えに強い感情を失っているはずなのにも関わらずに感じたソレを発したのはモチロン総司だ。

 

 

「…決まってんだろ」

 

 

総司の表情は()だ。その無の中にどのような感情が渦巻いているのか達也には図りかねた。

そして総司は天幕を出ながらこう言い残す…

 

 

「…生まれてきた事を後悔させてやるんだよ」

 

 

総司はそう言って天幕を後にした。

 

 

その日、ミラージ・バットでは一位が飛行魔法を使用した深雪、二位がほのか、三位がスバルと、再び表彰台を独占する形となり、さらにモノリス・コードも事故があったものの一高が総司の圧倒的な単体性能でゴリ押しして勝利、決勝トーナメントに駒を進めたのだった…




魔法科世界の秘匿通信


・総司が独立魔装大隊のことを知っているのは、以前から出ているとある情報網を用いて過去に司波達也を調べた結果である。


・因みに「その件なんだが~」の辺りから安心感で眠くなった雫が総司におんぶされながら寝ていた。つまりシリアスなシーンで片方の人間の背中で寝ていたということである。付け加えると雫は何も聞いていない。



飛行魔法君軽く流されてて司波生える(激うまギャグ)。

ここで飛行魔法が使われたって事は本戦でも使う人出てくるでしょうが…摩利さんなら大丈夫でしょ。

次回はモノリス決勝です。無頭竜の幹部諸君は首を洗って待っててね!なんてことだ、もう助からないゾ♡


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九校戦編 その十九

皆さん申し訳ありません。様々な指摘をいただき、自身で読み返した結果、この話を書き直す事に致しました。

以前の内容に自分自身でも異常な点を見つけ、修正よりも新しく書き直した方が早いと判断しました。

本当に申し訳ありません。


九校戦八日目。この日は新人戦モノリス・コードの決勝トーナメントが行われる。

 

そんな中、昨日はミラージ・バットに出場していたことにより観戦に来れなかった深雪、ほのか、スバルの三人や、ミラージの方を観戦していた生徒達も、今日はモノリスの観客席に集まっていた。

 

 

「雫、総司さんの所に行かなくて良いの?」

 

「大丈夫、朝のうちに総司君パワーは貰ってきたから」

 

「なんだそのパワー…」

 

 

ほのかからの質問を受けた雫はどこかツヤツヤした顔で答え、横にいた達也は思わず突っ込まずにはいられなかった。

 

 

「総司君と達也君って同室よね?雫が来たの知らないの?」

 

「総司は毎朝五時に起きて部屋を出て行くからな。むしろほのかが見ていそうなものだが」

 

 

そう向けられたほのかは途端に顔を赤くして俯く。見ていないようだが、どうやら理由が言いたくないらしい。

 

 

「ほのかは見てないよ。だって『達也さん…ふへへ』って言いながらヨダレ垂らして熟睡してたんだもん」

 

「雫…!?」

 

 

唐突な親友からの裏切り。ほのかは慌てふためき、達也に「違うんですこれはあのそのえっと…!」と必死に弁解している。

他の面々は雫の今の暴露が総司と雫が出会った日に下着の色を暴露していたのに似ていると感じ、「本当に好きなんだなぁ…」と雫を生暖かい目で見ていた。

 

 

「そう言えば、深雪さんは総司さんの試合を見るのは初めてではないですか?」

 

「ええ、今まで競技が被っていて、ログでしか彼の試合を見ることは無かったわね」

 

「総司君の圧倒劇は必見だよ…!」

 

「圧倒すぎて理不尽だろアレ。魔法効かないんだし」

 

 

美月が深雪に問い、そこに雫が茶々を入れる。その雫にレオがツッコミを入れた。

そうやって各々が会話を続けていると…

 

 

「…そろそろ始まる!ほのか、達也さんも勘違いしてないからもう弁解はいいと思うよ」

 

「えっ!?そ、それなら…で、でもあながち勘違いって訳でも…」

 

「いいから」

 

「う、うん」

 

 

総司の試合に集中したい雫は先程からずっと達也に弁解していたほのかにやめるように言いつけた。

そして試合開始のサイレンが鳴り響き、一高対九高の試合が始まった。

 

 

ステージは渓谷ステージ。くの字型に湾曲した人口の池を中心に両岸には高い崖と低い草地が広がり、他のステージと比べて複雑な地形を活かした戦術を取る必要があるステージだ。

そうなってくると、一高有利の雰囲気が若干傾く。九州の第九高校は大亜連合に近いという地政学上の理由から三高と同様に戦闘に関連する魔法や技能の養成に力を入れている。

 

これまでの戦法を見ると一高は森崎達がモノリスを開けてから総司が移動を開始するという戦法だ。そこから考察されるに、総司はモノリスの『鍵』となる魔法すら使えないのではないか?と推測されていた。仮にそうだとすれば、森崎達がモノリスを開けなければ総司はコード入力が出来ず、相手を全滅させるという手段を執るしか無くなる。しかし、それだと物理で攻撃できない総司では渓谷ステージの性質を利用してくるだろう九高に手こずる結果になってしまうだろう。

 

 

「…さて、どうやって攻略するのかしら」

 

 

天幕内でモニターを見つめながら真由美が呟く。

 

すると…

 

 

「…えっ!?」

 

「…なるほど、その手があったか」

 

 

真由美が驚愕し、克人が納得したように頷く。

モニターの向こうでは、総司が森崎と五十嵐の二人を()()()()()()()崖を駆け上っていく姿が映っていた。

 

高低差が明確で、人工物が少ない渓谷ステージでは高いところに上れば下を見渡すことで索敵が可能だ。

 

一気に登り切った総司は周囲を見渡し、九高の陣地を発見する。そしてそこめがけて飛び降りた。見事モノリスの目の前に躍り出た総司達。九高側の選手はポカンと口を開けている。

それに構わず森崎がモノリスを開けた時、やっと九高選手達は我を取り戻し、総司達に攻撃を仕掛けた。

 

脇から飛び出た森崎達は、引きながら、しかしモノリスには向かわせないように牽制を行う。

そして総司は妨害を完全に無視して一心不乱にコードを打ち込む。総司が何も出来ないよう先に他二人を落としてからの作戦を主にしていた九高は出鼻をくじかれ、そのまま総司がコードを入力し終わって試合が終了した。

 

 


 

 

「…あんな事をするなら先に言え。恐怖で足がすくむところだったぞ」

 

「いや~ゴメンゴメン!アレが一番確実で手っ取り早いと思ったからさ!」

 

 

次の試合まで時間があるため天幕まで引き返してきた森崎と総司。どうやら先程の総司の行動は作戦に無かったらしく、森崎が不満を述べていた。しかし、その後なんだかんだで対応できていたのはひとえに森崎達も総司に染まってきたということなのだろうか。

 

 

「総司君!」

 

「…僕は早めの昼食を取ってくるよ」

 

「?おう、またな」

 

 

戻ってきた総司を見つけた雫が名前を呼びながら近づいてきた。カップルの間に挟まるのは勘弁願いたい森崎は時間的に昼なのを利用して離脱する。急な森崎の発言に疑問符を浮かべながら別れを告げて雫に近づく。

 

 

「…?どうしたの雫ちゃん、何かいやなことあった?」

 

「総司君…それは、その…」

 

 

近づいてきた雫の表情がイマイチ優れない事に気づいた総司。何かあったのかと問いかけると雫はどこか目を伏せながら言った。

 

 

「総司君の試合を見た深雪が…倒れたの」

 

「…何?熱中症か?」

 

「分からない。でも、達也さんが一瞬、『魔法演算領域のキャパシティオーバーだと…!?』って言ってたから、熱中症ではないと思う」

 

「キャパシティオーバー?なんでだ、深雪ちゃん体感温度を涼しくする魔法でも使ってたのか?」

 

「いや、魔法なんて使ってなかった。でも達也さんはそう言って…」

 

「深雪ちゃんは今どこに?」

 

「部屋に達也さんが連れて行った」

 

「…なら安心か」

 

「???」

 

 

総司はとある理由により達也が『再生』を持つことを知っている。深雪を完全に治療する為に部屋に連れて行って、目撃者がいない場所で行うつもりなのだろう。

そう合点して総司は雫と昼食を取りに行った。

 

 


 

 

総司達が昼食を取りに行った時、森崎と行き先が同じで、尚且つ総司達の到着が早すぎた為にブッキングし、三人で食べることとなって結局ラブコメ時空から退避できなかった可哀想な森崎は放っておいて、とうとうモノリスの決勝が始まった。

 

 

どうやら相手の一条将輝は強敵であると、克人から聞かされた総司は、先程言われた将輝の戦術の特徴を思い返していた。

 

 

『一条は十師族の中でも最強の魔法師たり得る男』、『爆裂と身体強化を得意とし、トップスピードは総司にも匹敵する』。

正直言ってこの二つだ。一つ目に関しては特徴ですら無い。しかしそう評価されていると言うことはなかなかの強者だ。そして二つ目のスピードが総司と同レベル、と他でもない克人が言ったのだ。機動力勝負では五分五分。もし一対一になれば、物理禁止、魔法の有無で将輝が有利だろう。

ここまでの試合、三高はずっと相手をノックダウンさせて全滅させる戦術をとっていた。その脅威的な機動力は見せていないが、いざとなれば開帳してくるだろう。

 

 

情報共有を終え、いざ試合直前。ステージは平原ステージ。見通しが良く、遮蔽物の存在しないこのステージでは、普通なら三高有利だ…しかし、今回は総司がいる。最初からお互いのモノリスの位置が分かっているので、一高は先程の準決勝のときのように、総司が二人を抱えて突貫、そのままコードを入力するという作戦に決定した。

 

 

そして試合開始のサイレンが鳴ったと同時、総司が二人を抱えようとして…

 

 

一高のモノリスが開いた。

 

 

「なっ!?」

 

 

思わず驚愕の声を漏らす森崎。そして、その付近に降り立つ一人の男…

 

 

「…他の試合では、彼らは実に素晴らしい戦術を練って挑んできた。それを真正面から叩くのが、勝負というものだ…だが、君たちの試合は、相手をただ一方的に叩きのめすものだった。相手とぶつかり合う気のない、対話をする気のない君たち相手には、同じ戦法で相手をしようと思ってね…」

 

 

その男は一条将輝。三高の絶対的エースにして十師族最強の魔法師とされる者。

 

 

「さあ、一高諸君、勝負と行こうか!」

 

「…因果応報ってこういうことなのかな」

 

 

ため息をつく総司。後ろからは明らかに普通の魔法師よりも速い速度で迫ってきている他二人の気配もする。自分達の戦術をそっくりそのまま返されたことを理解した総司は、しかし対抗策が無い訳でも無かった。

 

 

「俺が一条を相手する!お前達二人で残りを頼んだ!」

 

「おう!任せろ!」

 

「…ああ、分かった」

 

 

試合を通してかなり打ち解けた五十嵐は景気よく返事をするが、森崎の声は重い。この間の『早撃ち』で真紅郎に完膚なきまでに負けているからだろう。だが今はモノリス・コード。森崎が若干苦手としていた『早撃ち』と違ってここならば真紅郎に勝てるかもしれない。そう思った森崎はなんとか了承の意を出した。

 

 


 

 

一高対三高の試合は白熱していた。

またも一高のクソ戦術によりつまらない試合が展開されると思っていた観客達はヒートアップしている。

 

対して一高側は雰囲気が少し悪くなっていた。

 

 

「総司君達が押されるなんて…」

 

「流石は一条家の御曹司と言ったところか」

 

「この展開は総司達に取ってかなり厳しいだろうな…」

 

 

エリカ、達也、レオはそれぞれ所感を述べる。事実、戦闘面では両者拮抗していた。

 

超人的身体能力を持つ総司が、将輝に対して土を固めた剛速球やら、地面を蹴り抉って面で攻撃したり、拳の風圧で押さえ込めてはいるが、将輝も負けていない。

 

 

「あっ!?総司さんが吹き飛ばされた!?」

 

「そんな!アレって怪我してる威力じゃ…」

 

「大丈夫、総司君はあれぐらいじゃ傷つかない」

 

 

将輝が発動した『偏倚解放』により吹き飛ばされる総司。総司が吹き飛ばされるなど想像もしなかった事だ。美月やほのかが焦るのも無理は無い。だが、雫は総司があの程度の攻撃ではダメージが無い事を理解していた。その雫に続くように達也が告げる。

 

 

「そうだな、一条は総司が移動や攻撃のために体勢を変え、踏ん張りがきかなくなった時に魔法を打ち込んでいる。いくら総司が堅くとも、踏ん張れなければ魔法が使えない総司は吹き飛ばされるしか無い」

 

 

達也の言う通り、将輝は総司の僅かな隙に攻撃を加えて上手く妨害を行っている。こう言った技術にやはり十師族最強の名は伊達では無いと感じる。

 

他の二人も、森崎はクイック・ドロウやドロウレスなどの技術で食らいついているが、真紅郎の『不可視の弾丸』に苦戦を強いられている。五十嵐はもう一人の三高選手といい勝負だが、その分膠着状態に陥っている。

 

こうして見れば、一高と三高が互角の勝負を繰り広げている。だが、

 

 

「あっ!また三高がコードを入力した!」

 

「これでもう100は入力されたんじゃない?」

 

 

エリカが叫び、幹比古が不安げに言う。

そう、一高モノリスは将輝によって既に開けられている上、現在の戦闘は一高陣地側で行われている。故に戦闘中、三高のメンバーは隙を見てコードを少しずつ入力しながら、ヒットアンドアウェイでジワジワと一高を追い詰めていた。

 

 

「…この状況どう返すつもりだ、総司…」

 

 

達也が呟くと同時、反応したかのように、モニターに映る総司がニヤッと笑ったかのようだった。




魔法科世界の秘匿通信


・深雪が倒れたのは、彼女の理解できる範疇を超えた巨大な魔法式を認識してしまった為、脳の防衛本能によって気絶したのだ。


・この将輝は『爆裂』ありなら深雪より強い


いや、ほんっとすいませんでした。
自分つい数時間前まで高熱が出ててですね、昨日も高熱が出たまま小説を書いたものですから、自分が何書いたか忘れててですね。皆さんから批判殺到したので読み返したら、全然書きたいことと違う方向に話が進んでてビックリしました。

特に今回の深雪ちゃんに起こった事はいつかテストに出るところなのに書いてないしで本当に…

という訳で書き直しました。次回でモノリス終了ですね。


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九校戦編 その二十

「おい!どうすんだよ橘!このままじゃいずれコード全部入力されちまうぞ!」

 

「くっ!…それに、俺達もこれ以上は限界だ!このままだと向こうより先にダウンする!」

 

 

五十嵐と森崎が近くに着地した総司に問いかける。その二人の額には汗が滲んでおり、明らかに疲れた表情をしていた。森崎の言う通り、森崎も五十嵐も、体力的にもサイオン的にも限界間近だ。森崎は本人のサイオン保有量の少なさ、真紅郎の『不可視の弾丸』を始めとした魔法の技術に単純に負けていることもあり、いくら実戦を経験した事のある彼といえどもこれ以上の耐久戦は不可能だ。

 

五十嵐は相手していた三高の選手とはいい勝負をしていたが、ここで一高と三高の教育方針の違いが出てくる。一高は置いておいて、三高は「尚武」の校風だ。地理的に大亜連合や新ソ連と戦闘になる可能性が高い三高では他校よりも実戦的な魔法教育を行っている。その差だろうか、三高選手は魔法使用におけるサイオンの消費を抑える事で五十嵐と持久力の差でアドバンテージを稼いでいた。

そんな相手に耐久戦で勝てというのは五十嵐には少々荷が重かったようだ。

 

 

「…一つ、提案がある」

 

 

総司が神妙な面持ちでそう告げる。だが彼の表情から読み取れるのは実現できるかどうかではなく、二人が了承してくれるかどうかについての不安だった。

 

 

「俺が今から話す作戦を実行に移せば…お前達の見せ場が無くなる。お前達は一科のプライドがある「「そんなことはどうでもいい!」」はず、って…え?」

 

 

総司は二人からの意外な返事に驚愕し、思わず振り返る。その二人の表情は覚悟を決めている顔だ。

 

 

「どのみち今のままじゃ負けるんだ。プライドだとかちゃちなものに拘ってはいられない!」

 

「それに、司波の活躍を見て…お前の横で戦ってきて、もう一科だとか二科だとかに頓着は無い」

 

「五十嵐…!森崎…!」

 

 

総司は感動して目頭を押さえるような仕草をした後、実に穏やかないい笑顔を浮かべて五十嵐に頼む。

 

 

「じゃあ、五十嵐は()()()()()()()()()()()()()()

 

「は?」

 

「…分かった」

 

「五十嵐!?」

 

 

嫌な予感がした森崎。だが、同じく嫌な予感がしたであろう五十嵐は平然と森崎を裏切った。恐らく総司の言う通りにすれば損な役回りは回ってこない…言うことを聞かなければ自分がろくでもない目に遭うことを察知しての行動だ。五十嵐は抵抗する森崎を強めに押さえつける。

 

またこの間、観客、両校の天幕内の人間、何より対戦している三高の三人は謎のコントが始まった事に理解が追いつかずフリーズしてしまっていた。

 

 

「おい離せ五十嵐!橘お前何するつもりだ!?」

 

「…何って、これも作戦の内だよ?」

 

「なら何故仲間を押さえつける必要がある!?」

 

「そりゃ…逃げられないようにする為じゃん?」

 

「本当に何するつもりだ!?」

 

 

騒ぎ立てる森崎に構わず総司は彼の後ろに回り、遠方の…三高モノリスを見据える。

 

 

「作戦名ェ!MMMSゥ!」

 

「略すな分からん!ちゃんと言え!…おい待て何だその体勢はそれは明らかに別のスポーツでやるべき体せi」

 

「正式名称ォ!森崎(M)をモノリスの(M)前まで(M)シュート!(S)」

 

 

そう言うや否や総司はサッカー選手が狙いを付けてシュートするかのように美しいフォームから森崎を思いっきり蹴った。モノリスでは物理攻撃は禁止とルールで明言されている。だがそれには仲間に物理攻撃を行ってはならないとは書かれていない。

 

 

「何だと!?」

 

「そんなのアリなのか!?」

 

 

将輝と真紅郎が叫び、もう一人の三高選手は驚愕で声も出ていなかった。

そして彼らが驚愕したのは、蹴った総司が僅かに魔法を発動した事だった。

 

実は総司の靴にはエンジニアの五十里氏謹製の硬化魔法の刻印が刻まれていた。総司は魔法が使えないが、自作で魔法を制作したり等天才肌だ。それは自分が使える数少ない魔法でも同じであり、森崎に直撃する瞬間に硬化魔法で森崎の体を硬化、痛みを消すと同時に骨が折れる等の怪我をする可能性を無くしていた。

 

そしてなんだかんだで嫌がっていた森崎は、雫も使っていた慣性緩和の魔法を使用した。これは事前に五十里が『念の為に』と入れたもの、先程の準決勝でも使用していた。

これによって爆発的な加速に耐えた森崎はモノリスと目と鼻の先の距離まで吹っ飛んだのだ。

 

 

「…どうせこんな事だろうと思った」

 

「が、あっ!…橘、覚えておけよ…!」

 

「覚えてたらな」

 

 

五十嵐は案の定ろくな事をしない総司に呆れ、森崎は通信で総司に恨み節をぶつける。総司は何処吹く風だが。

 

 

「将輝!先にあの一高の選手を止めないと、負けてしまう!」

 

「分かってる!だが、俺が行ったら誰が橘の相手をするんだ!?」

 

「一高のモノリスはもう開いてる!それに彼を止めればいいだけだ!すぐに戻ってくればいい!」

 

「…っ」

 

 

真紅郎に諭された将輝は自陣側にいる森崎を倒すべく移動しようとするが…

ダァン!と弾丸のごとく射出された土によって行く手を遮られてしまう。

 

 

「何処に行く気だ?一条さんよ。俺から逃げられるとでも?」

 

 

将輝が総司を振り切れないのは自明だ。だが、総司は将輝だけを相手するつもりではない。

 

 

「五十嵐!お前はモノリスの前に陣取ってコードを見られないようにしろ!考えることはそれだけでいい、どうしようもないならモノリスに土でもぶっかけてろ!」

 

「おい橘!まさかお前…!」

 

「そのまさかよ!」

 

 

総司は三高選手陣が視界に入るように移動した後、不敵な笑みでこう言った。

 

 

「悪いが三高諸君、俺達の勝ちが決まるまで俺と踊ってもらおうか。勿論、三人まとめて!」

 

 

二本指で「かかってこいよ」と挑発のジェスチャーをとった総司は、ドヤ顔で三高選手陣に宣戦布告した!

 

 


 

 

総司が森崎を蹴り飛ばした辺りで、観客のボルテージはマックスだった。三高がこのまま耐久戦で削り勝つと思っていたのに、いきなり一高有利に傾いたのだ。三高はモノリスに先制攻撃をかけて一気に崩すつもりだったが、そのガン攻めの策が裏目に出た形となった。

 

 

「…奴ならなにか対抗策はあると思ったが…」

 

「まさか仲間を蹴り飛ばすなんて…」

 

「流石総司君!誰も思いつかない画期的な打開策だよ!」

 

 

達也とほのかが総司の行動に驚愕を隠すことが出来なかった。だが相変わらず雫は全面的に総司を肯定しているため仲間を足蹴にする行為を『画期的な打開策』と言い放つ。森崎に対する雫からの印象は最悪なようだ。

 

 

「今の、地味に『兜割り』の要領だったわよね」

 

「エリカちゃんみたいに一瞬だけサイオンを流す技術ってこと?」

 

「そうだな、インパクトの瞬間だけ自身の足と森崎の体を硬化魔法で固定し、一瞬で解除することで痛みを与えずに勢いそのままで蹴り飛ばせたと言ったところか…」

 

 

達也が考察モードに入る。こうなっては止められるのは深雪しかいない。しかもその肝心な深雪は部屋で休んだままでこの場にいない。結果数分の間達也はこのモードのままだった。

 


 

場所は移って一高天幕

 

 

「勝ったな、風呂食ってくる」

 

「武明君バスタブ食べられるの?」

 

「俺は雑食だからな」

 

「雑食にも程があるのでは?」

 

 

驚愕のあまり声が出ない真由美と摩利。それは総司が森崎を蹴り飛ばしたのもそうだが、いきなり桐原達がふざけだしたのがだ。

確かに噂には聞いていた。総司と交流した事で一部の生徒がおかしくなってしまったと。この生徒の代表例はもちろん雫なのだが、実は当てはまるのは上級生の方が多かったりするのだ。

 

 

「というかそれは負けフラグというやつだろ?何で今立てるんだ」

 

「総司の今のドヤ顔がウザかったからだが?」

 

「そんな理由で?」

 

「あんな顔しておいて負けるとか揶揄いのネタじゃん」

 

「それはそう」

 

 

桐原の負けフラグを咎めた範蔵がいつの間にか桐原に同意していた。

 

 

「だが、本当に負けて欲しい訳じゃ無いだろ?」

 

「当たり前だろ、必ず勝つって思ってるから言ってるんだ」

 

「総司だからな」

 

 

かと思えば二人して「フッ…」と笑みをこぼし合う。この二人は総司を完全に信頼しているのだ。特にブランシュを共に壊滅させた桐原は。

 

 

「…と、とにかく!これで形勢逆転ね!」

 

「あ、ああ!これなら勝ちの目がある!」

 

「いや、もう勝っただろう」

 

 

やっと再起動した真由美達が会話の主導権を握ろうとし、いきなり口を挟んだ克人に出鼻を挫かれる。

 

 

「も、もう勝ったって、決めるの早くない十文字君?」

 

「いや、確定だ。今まで()()()()()()()()()()()総司がやっと本気を出せるのだからな」

 

「…何!?まだ本気で動いていた訳では無いと!?」

 

「当たり前だ、本気でやればまず行動不能になるのは三高ではなく森崎と五十嵐だ。レギュレーション違反故物理攻撃こそしないだろうが…明らかに攻撃の苛烈さが上がるぞ」

 

 

そう言った克人の目には今まさに竜巻を起こす総司の姿が見えていた…

 

 


 

 

「オオオラァ!」

 

 

勢いよく総司が腕を振り上げる。すると竜巻のような風が巻き起こり三高を襲う。

 

 

「フッ!」

 

「クッ!?」

 

「う、うわあああ!?」

 

 

将輝は身体強化で余裕を持って、真紅郎はギリギリ回避することが出来たが、もう一人は躱せずに竜巻に巻き込まれ体が浮き上がる。

 

 

「隙あり!」

 

 

そう言って総司は石を指で押し出して射出する。総司の狙いはヘルメットだ。ヘルメットに対して上方向に力を加えて外してしまおうという魂胆だろう。

 

 

「させない!」

 

「チッ!」

 

 

だが真紅郎が放った『不可視の弾丸』によって別方向に加重をかけられた石はヘルメットを掠めるだけにとどまった。

 

 

「っち!結構やり手じゃないか!」

 

「そりゃどうもっ!」

 

 

真紅郎は反撃として『不可視の弾丸』ではなく圧縮空気弾を放つ。しかし得意分野では無い魔法では威力が足らず、総司は微動だにしない。

そして総司は予備動作ゼロで跳躍、どさくさに紛れて森崎のもとに向かおうとしていた将輝の前に躍り出る。

 

 

「うらぁ!」

 

 

総司が地面を殴りつけると、大量の土埃が巻き上がる。そして回し蹴りの要領で蹴る。これによりかなりの範囲に面攻撃を行う事が出来た。将輝ではこの攻撃を完全に回避するのは不可能だ。

 

 

「ちっ、強引には無理か!」

 

 

しかし将輝もただただ受けるだけではない。なるべく土を避ける為に後方へ大きく跳ぶ。だが

 

 

「読めてる!」

 

「何っ!?…ガ、アッ!?」

 

 

将輝が跳んだ瞬間に彼に向かって拳を突き出す総司。将輝と総司の距離は少しあるので直撃するはずもなく、拳は空を切る…本来はであるが。

総司が繰り出した拳のあまりの威力に空気が押し出され、空気弾のようになって将輝の体を直撃、更に射線上にあった土も将輝の体を打ち付けていた。

 

ここに来て初めて将輝がダメージを負う。しかし魔法を使っていないため指向性が無く、総司の周囲に甚大な破壊をもたらしたこの攻撃でダウンしなかっただけで幸運である。

 

 

「…ガハッ、さ、流石は、九島老師のお気に入り、という、訳…か、くっ」

 

 

崩れ落ちた将輝が息も絶え絶えに総司に言葉をかける。これは将輝の心からの言葉であると同時に、時間稼ぎの意味合いも含んでいた。

 

 

「はぁ、はぁ…だが、その身体能力に見合わない、魔法の出力の小ささ…お前、何処かアンバランスだよな」

 

「そんなの自分で分かってるよ。でもそう言うのもあくまで個人差だろ?一部の魔法に適性を示すBS魔法師とかいるじゃないか」

 

「…ああ、そうだな。だからこそ、老師に気に入られた理由が知りたくなってな」

 

「気に入られたも何も、烈爺は俺の保護者だ」

 

「…どういう関係かは聞かないでおくが、納得はしておこう」

 

「それと」

 

 

まだ話をしようとした将輝を遮るように、総司が後方へ腕を振る。

ソニックムーブのような音がした後、地面をガリガリ削りながら風が総司の後ろに流れる。

そして、その先で冷や汗をかいているのは真紅郎。どうやら将輝が気を引いている内に真紅郎に森崎を止めさせるつもりだったらしい。もう一人は五十嵐を攻撃し、真紅郎の移動を悟られないようにしていたようだが、総司は背後で動く気配を察知していたようだ。

 

 

「…時間稼ぎでお喋りをするならもっと楽しげな話題にしてもらいたかったな」

 

「…気が利かなくて悪かったな」

 

 

将輝は若干諦めたようにかぶりを振る。どうやら先程のダメージで体力をゴッソリ持って行かれたようで、立つこともままならないようだ。

 

そして、会場をサイレンが包む。どうやら森崎がコードを入力し終えたらしい。

 

 

「負けたか、優勝するつもりだったんだがな」

 

「ふっ、どうせ一高の総合優勝は確定してたんだ。どうせなら新人戦優勝も取りたくなるからな」

 

「表彰台を三つの競技で独占して新人戦優勝を取れないとでも思っていたのか…」

 

「俺以外の男子が不振だったもので」

 

 

この発言に通信で森崎と五十嵐が声を揃えて「負けて悪かったな!」と悪態をつく。

 

 

「…いや、本当に完敗だよ」

 

「乾杯?今ここでか?それは最終日にとっておいてくれ」

 

「何でここで間違えるんだ…?」

 

 

最後に締まらない会話をして別れる二人。合流した森崎達と共にステージから退場する。その瞬間、あまりにも夢中で、試合が終わったことに気づけなかった観客達が万雷の拍手で選手達を迎えた。

 

そこで総司は観客席の一角でこの世で自分が最も大切にしている(北山雫)が嬉しそうな笑みを浮かべて、総司を慈愛の表情で見つめていることに気づいたのだった。




魔法科世界の秘匿通信

・総司の拳により生み出されて空気弾は、本気で放たれると人間の体に風穴が空く。


・雫は感動の涙等は流さない。絶対に総司が勝つと信じているから


モノリス終わり!

次回は前半のモノリス終了後パートと後半の無頭竜パートのギャグとシリアスの温度差で読者の皆様に風邪を引いてもらえるよう頑張ります


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九校戦編 その二一

前半は平和ですが、後半は描写に若干のグロを含みます。苦手な方は水平線以降の文を読まない事を推奨します。R-15と残酷な描写タグはこのための物だった…?


「勝った…わね」

 

「そうだな…全く予想だにしない戦い方だよ」

 

「やはり総司を九校戦に出して正解だった」

 

 

三巨頭が天幕で会話をする。今はモノリス参加メンバーが戻ってくるのを待っているところだ。

三人は上に立つ者として成功を収めた部下には賛辞を贈るという仕事が残っているのだ。しかし天幕から会場までは少々距離がある。まだ彼らが来ることは無いだろうと真由美が椅子に座って伸びをした。

 

事実今しがた送迎の車がメンバーを乗せ会場を出たところだろ「ヤヤヤヤヤヤ…」…おや?

 

 

「…何か聞こえないか?」

 

「…聞こえるわね」

 

「なるほど、流石だな」

 

 

今しがた聞こえた声の正体に気づいた三人。真由美と摩利は相変わらずだとため息をつき、克人も相変わらずだと頷いていた。

 

 

「ヤヤヤヤヤヤ、ヤッフー!」

 

 

 

と奇声を上げながら人が高速で背面から天幕に入ってきた。

その動きはかつて『ケツワープ』と呼ばれたバグ技と似た挙動であった。そんな奇妙な方法で戻ってきたその男こそ、橘総司である。

 

 

「へい!入店早々で悪いが俺は真由美嬢と摩利嬢を指名するぜ!」

 

「キャバクラか!?」

 

 

帰ってきた総司は何処か焦った表情をしている。どうやら至急の用事が入ったらしく、賛辞を述べるならさっさとプリーズ?ということなのだろう。

 

 

「総司君、どうしたのよそんなに慌てて。何か重大な…「うるせェ!さっさと済ませやがれこのすっとこどっこい!」な!?貴方、先輩に言っていいことと悪いことの区別が相変わらずついていないようね!みっちり教育してあげましょうか!?」

 

「七草会長」

 

「って、壬生さん?私に何か用?私は今からこのクソガキに説教をしてやらなくちゃいけないんだけど」

 

「それはまた今度にしてあげてください」

 

「今度に?別にいいけど…」

 

「説教確定してんの笑うわw」

 

「「総司君うるさい!」」

 

「すいません」

 

 

今にも説教タイムが始まるかと思われたその時、真由美を制止する声が聞こえた。壬生紗耶香だ。どうやら彼女は総司が焦っている理由を知っているようだ。

 

「総司君は早く行かないといけないところが…会ってあげないといけない子がいるんです」

 

「…そう言う事ね、大体分かったわ」

 

「真由美さんはモヤシの破壊者だった…?」

 

「…早く行ってあげなさい。説教は後日五時間で許してあげる」

 

「ハハッ!未来の俺死んだな!…ですけどありがとうございます!それじゃ!」

 

 

総司はそう言うと来た道をそのまま戻っていく。

 

 

「…ちゃんと向き合ってあげてね、総司君」

 

「まったく…やっとってとこかしら?」

 

 

総司を見送った壬生と真由美は慈愛に満ちた表情で総司が消えた方向を見ていた。

 

 

「…七草達は、今何を話しているんだ?」

 

「…お前は、もうしばらく伴侶には巡り会えんだろうな…」

 

「?」

 

 

その傍で先程の会話の意味が分かっていない様子の克人に、摩利が呆れた声でぼやいたのだった。

 

 

 

場所は変わって平原ステージ観客席近くの、人通りのないエリアにて。

 

 

「…改めて、優勝おめでとう、総司君」

 

「ありがとう、雫ちゃん」

 

 

設置してあるベンチに雫と天幕から戻ってきた総司が腰をかけていた。

 

 

「まあ、私は総司君の優勝を一切疑ってなかったからね」

 

「最終戦の時も?俺はヒヤッと来たが…」

 

「当然。だって私の総司君だもの」

 

「そっか…」

 

 

雫の爆弾発言に一切の反応を示さない総司。いやこれは反応を示していないのではなく、総司にとっても、雫にとっても、今の発言は一切の違和感のないものだったのだ。

 

 

「…ねえ、総司君」

 

「ん?どうしたんだ?」

 

「…今、楽しい?」

 

「…!」

 

 

雫の急な問い。それには総司の今までの友人事情が関係する。

総司はその異常な身体能力から全日制の学校では無く通信制の学校に通っていた。それにしては彼のコミュ力が高いのは、ひとえに少なくない人数の九島家の人々との交流故だ。

彼にとって『友人』とは高校に入ってから出来たものであり、中でも『親友』と呼べるのは雫をはじめとした、一部の人間だ。

 

総司はこの生活を実に満喫していた。九島家の人々は総司の奇行について来られない者が多数だった。ついてこれたのは九島烈、藤林響子、ノリだけなら九島光宣ぐらいのものである。烈が忙しいのは言わずもがな、響子も軍人であるため会う機会は少ない。光宣には会おうと思えばすぐにでも会えるが、体が弱い彼の事を考えれば無理はさせられない。

 

あのお気に入りの後輩に会えばいいのだろうが、彼は今受験生だ。邪魔をしてはいけない。

 

そんな中、高校に入った途端、彼について来れる者達が周囲に集まり、いつしか彼を取り囲む輪はとても大きなモノになっていた。

総司はとても喜んでいた。彼にとって、人生の絶頂期は今であると言えるまであるだろう…まだ十六年も生きていない若輩者だが。

 

 

「…そんなの、楽しいに決まってるよ。この学校に来て初めて…『友達』が出来た。しかもまだまだ増やせるとも思ってる。それに…」

 

 

総司は言葉を切った後、雫をジッと見つめる。

総司が今を絶頂期だと言えるとまでこの生活を楽しめているのか。それは確かに友人達との日々もあるだろう、だがやはり、総司が最も大切だと思う人が、雫が傍に居るからだろう。総司はつい先日、やっと自らの想いを自覚していた。

 

「何より、君が居るから」

 

「…総司君」

 

 

総司からの視線に雫も見つめ返す。こうして見つめ合う形となった二人。彼らの顔は耳まで赤くなっている。

 

 

「…俺、少し前に、やっと気づいたんだ」

 

「…うん」

 

「俺は、俺は…!」

 

「…うん!」

 

 

そして総司は、意を決したかのように口を開いた!

 

 

「俺は、君のことが!s「おーい!総司ー!どこだー!?」…」

 

 

ガチッと硬直する総司と雫。総司がギギギと首を後ろに向けると、どうやら桐原が自分のことを探しているのだと分かった。彼女の壬生と違い何ともタイミングの悪い男である。

総司は折角の大一番に水を差された事に青筋を立てている。ソレはもう凄く。すれ違った10人中100人が『今コイツはキレている』と分かるほどだ。

 

 

「…た~け~あ~き~せんぱぁ~い!」

 

「うおっ!?どっから来たお前!?てかなんでキレてんの!?」

 

「よくも邪魔をしてくれたなぁ!?」

 

「ええ!?何か俺やったか!?」

 

 

跳び上がった総司は桐原を攻撃する。桐原もマフティーダンスでの回避を行う。幸いにも桐原のマフティーに翻弄された総司の攻撃は桐原に一撃も当たることは無かった。

 

 

「…ふふっ」

 

 

桐原と子供のようにはしゃいでいる(雫視点)総司を見て、雫は穏やかな笑みを浮かべる。

 

 

「その話は、また今度聞くことにする」

 

 

彼女は、夏休みの後半に予定している旅行に仲間を招待するつもりだ。無論総司もである。その時ならば、いくらでも時間はある。そう思った雫は、桐原に助け船を出すべく二人の元に向かった…

 

 

 

「畜生…畜生…」

 

「総司君…」

 

「これは…流石にフォローできんな」

 

「ホンット…武明君が迷惑かけちゃったわね」

 

「スマン総司…まさかそんな事になっているとはつゆ知らず…」

 

 

場所は再び戻って一高天幕。その奥のスペースで総司は机に顔を突っ伏していた。雫はほのか達と合流しそのまま行ってしまった。

見送ったはずの総司が大爆死して帰ってきた事に流石に真由美と摩利は哀れみの視線を向けている。タイミングのいい女の壬生は彼氏でタイミングの悪い男、桐原とともに謝罪する。

 

まあ、ここにいる全員が雫の総司への気持ちに気づいているので大した問題ではないと思っているのだが、可哀想なものは可哀想であった。

 

 

「畜生…ちく、うん?」

 

 

先程から畜生としか発声していなかった総司の携帯端末に通信が入る。どうやらメッセージが飛んできたようだ。それを見た総司は、見るために顔を下げた体勢のまま硬直した。

 

 

「…総司君?」

 

「……はい」

 

「「「「…っ!?」」」」

 

 

真由美の呼びかけに答えて顔を上げた総司の表情を見た一同は、底知れない恐怖に襲われた。顔を上げた総司の表情が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。さっきまでの感情が全て抜け落ちたかのような無表情の総司に、真由美と摩利は何も言えなくなる。

だが、以前共にブランシュを壊滅させた(知っているのは本人達だけ)壬生と桐原は辛うじて総司に声を掛けることができた。

 

 

「総司君、何かあったの?」

 

「…何かあるなら、俺達に相談しろよ?」

 

 

二人の表情は先程の恐怖で強ばっていたが、出てきた言葉は後輩を思う良き先輩としての言葉であった。だが総司は…

 

 

「…急用が入りました。すいませんが失礼します」

 

「オイ、総司!」

 

 

一切の感情の起伏を見せないまま、天幕を出る。桐原の制止の声も聞かずに総司はトップスピードでどこかへ消えてしまっていた…

 

 

 


 

 

横浜の中華街の一角…その建物の一室にて、無頭竜東日本支部の幹部達は頭を抱えていた。

 

 

「…一条でも、あの化け物を止める事はできんのか!」

 

「もう終わりだ…一高の総合優勝も、新人戦優勝も確定してしまった…我々はボスに粛正されてしまうだろう…」

 

 

無頭竜東日本支部の幹部達の表情は暗い。だが、その中の一人が、声を上げた。

 

 

「…いっその事、ジェネレーターに民間人を大量に殺させてみてはどうだろうか。そのような大事になれば、九校戦自体が無かった事になるかもしれん」

 

「…今は利益より、自らの命を優先させるべきか…」

 

 

幹部達は早速実行に移すべくジェネレーターに指示を出そうとする。

 

 

「会場にいる十七号に民間人を抹殺させるように伝えグシュッ!…は?」

 

 

指示を出そうとして、そのジェネレーターの腹部から、何かが飛び出してきたことに幹部陣は驚愕で言葉を発することすら出来ない。

そして、ジェネレーターから飛び出していたのは、()()()()()()()

 

その腕はジェネレーターから引き抜かれ、大量の血飛沫をまき散らす。

 

 

「…ご機嫌よう、無頭竜のクソ共」

 

 

幹部陣は一斉に震え上がった。そこにいたのは、自分達の首領が最も警戒していた人物。橘総司だったからだ。

 

 

「ば、馬鹿な!?九校戦会場からここまで来たというのか!?モノリスの試合はつい一時間前に終わったばかりだろう!?」

 

「はっ。この程度の距離なんて、俺にとってはジョギングみたいなもんさ」

 

 

そう言いながら総司は倒れ伏したジェネレーターには目もくれずに前進してくる。

その姿に幹部達はその姿に恐怖を隠しきれなかったが、しかし彼らには狙いがある。

ジェネレーターは魔法師が改造され、最早機械のようになってしまった存在だ。例え死にかけだろうと、主人を守るため戦闘を行うだろうと。事実倒れているジェネレーターは総司を背後から攻撃しようとしているし、他に配備されていた二体のジェネレーターも主人達を守るように移動する。

 

いくら目の前の男が化け物であろうとただでは済むまいと幹部陣は予想していた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「なっ!?」

 

「…コイツ、気持ち悪いと思ってな。腹貫いたのに、苦悶の声一つ上げやしない。まるで機械みたいだって思ってな、おっかない機械は壊すに限るぜ」

 

「…こ、コイツを殺せェ!十四号!十六号!」

 

 

総司はいつもの調子でふざけていた。顔が全くの無表情である点を除けば。声音は笑っているが、表情は『無』そのものだ。そんな総司に殺されると悟った幹部の一人は、少しでも逃げる時間を稼ぐためにジェネレーターに攻撃を命じる。

命じられた二体のジェネレーターは魔法を発動。サイオン弾を総司に向けて乱射する。しかし総司には『異能』があり、魔法は効かない。効いたとしてもこの程度の出力では全くダメージにならないだろう。

 

 

「おっと、これが噂に聞く反抗期って奴か?話によると反抗期ってのは大体二回ぐらい来るらしいが…その年になってやっととは、随分と遅いんだな?」

 

 

総司は相変わらずの無表情で軽口を叩く。

そんな軽口を無視して攻撃を続行するジェネレーター達。だが総司は、

 

 

「それと…」

 

 

と言いながら、一体のジェネレーターの首を掴んで持ち上げる。

 

 

「俺に反抗するなら、もっと力を付けてからにしようか。…あっ、これは失礼。もう大人なのにこの程度の実力しか無いってことだよな?それは残念だ、魔法を上手く扱えない者として同情すらするね」

 

 

そう言いながら総司は徐々に首を掴んだ手に力を込める。

 

 

「バイバイ。次の人生は幸せだといいな?」

 

 

そう言って総司は掴んでいる片手だけでジェネレーターの首をたやすくへし折ってしまった。

この光景に顔がみるみる青くなる幹部陣だが、もう一体のジェネレーターには感情など無い。魔法攻撃が有効ではないと判断して、念の為に用意していた対物ライフルを構えて総司に発砲する。

 

しかし50口径を優に超えるその弾丸はキンッ!と甲高い音を鳴らしながら総司の肉体に弾かれた。総司の肉体にはこの程度の攻撃では傷一つつくことは無い。

 

 

「おいおい、大人のくせに反抗期な上、学習能力も皆無なのか?」

 

 

そう言って総司は一瞬の内にジェネレーターの右肩と、左側の腰の辺りを掴む。

 

 

「なら一つ良い事を教えてやる。お前らみたいな雑魚共じゃ俺には傷一つつけられないよ」

 

 

そう言いながら総司は掴んだまま手を引き、ジェネレーターの体を文字通り引き裂いた。ボトボトと臓物が落ちてくる音が聞こえる。

 

 

「よかったな、死ぬ前に一つお勉強になってさ」

 

 

総司はジェネレーターに言いながら、クルリと幹部陣を見る。それに幹部陣はビクッ!と肩を浮かした。

 

 

「じゃ、後は君たちだけだな」

 

 

指を鳴らしながら総司が近づいてくる。明らかに殴り殺す気だ。だがそんな総司に、幹部の一人が勇気を出して交渉を持ちかけようとする。

 

 

「ま、待ってくれ!分かった。これ以上九校戦に手出ししない!」

 

「…」

 

 

総司は続きを促すように首で指し示す。この反応に手応えを感じたその幹部は更に言う。

 

 

「そして九校戦だけではない。我々は日本からも手を引く。西日本支部の連中も同様にだ!」

 

「ふーん、そう」

 

 

そう言って総司がその幹部の前に屈む。そして手刀を作り斜め上に振り上げた。

その後、一秒ほどたってから今まで交渉をしようとしていた幹部の首が斜めに落ちる。。切り口から鮮血が舞う。

 

もしかしたら助かるかもしれないという淡い希望を打ち砕かれた他の幹部は命の危機を前に、逆に饒舌になった。

 

 

「ま、待ってくれ!ボ、ボスの情報を教える!側近である私が知り得る全ての情報を…!」

 

「興味ないね」

 

 

一人がボスの情報を渡すと持ちかけるが一蹴される。

そして恐怖のあまり一人が言葉をもらす。

 

 

「何故だ…」

 

「は?」

 

「何故ここまでの仕打ちを受けなければならない!?何故だ!我々は誰も殺さなかったではないか!」

 

「何言ってんの?」

 

 

その叫びに総司は変わらず無表情ながら笑ったような声で言い放った。

 

 

「俺の大切な人達に手を出そうとした時点でお前らの死は決まってたんだぜ?」

 

 

残酷なその物言いに幹部達は何も言えない。

 

 

「さて、俺は今から君たちを殺すが、右で殴られて死ぬのと左で殴られて死ぬの、どっちが嫌いだ?嫌いな方で殺してやるよ。おいおい、そんな心配すんなって!選ばなかった方でもちゃんとぶん殴ってやるから安心して永眠(ねむ)ってくれよ」

 

 

そう言って総司は無造作に拳を振り上げた。

 

この瞬間、無頭竜東日本支部は、壊滅した。




魔法科世界の秘匿通信


・すぐにでも告白し直せば良いものの、総司は完全にやらかしたと思っているので九校戦中は告白しないだろう。


・総司は怒りが頂点に達すると、完全に無表情になる


次回は先輩方スゲー!って感じで軽く本戦ミラージとモノリスを流します。


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九校戦編 二十二

遅くなり申し訳ございません。私情ですがここ数日忙しい日々が続き、しばらく継続するので、投稿間隔がかなり空いてしまいます。どうかご容赦を


九校戦九日目、この日は本戦ミラージ・バットが行われるのだが…

 

 

「…なんだか、パッとしない結果でしたね」

 

「仕方ないだろう。飛行魔法を維持しすぎてサイオン切れを起こす選手が多すぎたんだ。これの影響で後に残すサイオンが残っている選手達はウチの先輩方だけになった。その時点で一高の勝利は確定していたようなものだ」

 

 

そう、達也の言う通りミラージ本戦では、前の新人戦ミラージ決勝で深雪がデモンストレーション気味に使用した飛行魔法を使う選手が後を絶たなかったのだが、達也の助言によって使用を避けた一高選手陣以外がサイオン切れで脱落者多発、残ったとしても余力を残して立ち回っていた一高に惨敗し、これまた一高がワンツーフニッシュを決めて堂々の優勝を飾ったのだ。因みに一位は摩利、二位は小早川である。

 

 

「…そう言えば総司が居ないようだけど?」

 

「それ!あたしもミキと同じ事考えてた!ねえねえ、達也君何かしらない?雫は?」

 

「僕の名前は幹比古だ!」

 

「あーはいはい分かったから。で、どうなの二人とも?」

 

 

エリカは抗議する幹比古を軽くあしらって二人に問う。

 

 

「…実は私も知らない」

 

「…俺もだ」

 

「ええ…。じゃあ、アイツ結局何所いるのよ…」

 

 

雫と達也は揃って同じ返答を返す。二人の返答に間があったのは雫は把握できていない不安から、達也は実際は知っているが敢えて言わないようにした為だ。達也の考えは最もだろう。まさか九校戦で妨害工作をしてきた組織を見つけて、あまつさえ始末してしまった翌日なのだと言えるはずも無い。

無頭竜を始末するのにかかった時間こそ短かったが、まさか遺体の処理を一切せずに立ち去り、後は全部独立魔装大隊に任せるとは思っていなかったし、その日の午後に偶然見かけた疲れた様子の響子にお疲れ様ですを言ったら、達也経由で無頭竜を始末したのが総司だとバレており、総司が独立魔装大隊と鬼ごっこを繰り広げていただなんて口が裂けても言えない。

 

だがこれは昨日の出来事であり、総司が今日いない理由では無い。彼は変わらず自身に事情聴取を行おうとする独立魔装大隊のメンバーを避けながら、無頭竜のメンバーが言っていた九校戦会場に配備されたジェネレーターを見つけ出して東京湾に流していた。

 

因みにこの一部始終が達也に動画で送られてきており、その返事をどう返すべきか決勝戦前に胃を痛める余計な手間を取らされた。しかもただ流すのでは無く、人体で曲がる場所も曲がらないはずの場所も曲げて折りたたんで樽の中に入れて流していたのだ。どう反応しろと?達也は思った。

 

 

「そうですか…総司君には試合の応援に行けなかったので謝罪とお祝いの言葉を贈りたかったのですが…」

 

 

そう深雪がこぼす。深雪は総司の試合を観客席で見た瞬間に頭痛を訴えてそのまま一日部屋で寝込んでいたのだ。その表情はどこか気落ちしている。

 

 

「そう気にすることは無いよ。俺だって試合が被っていたとはいえ深雪ちゃんの応援行けなかったんだからさ」

 

「そう言ってくれるとありがたいです、総司君…総司君?」

 

「「「「「いつの間に!?」」」」」

 

「深雪がそうですか…って言うときの『う』と『で』の中間ぐらいで来てたよ」

 

「細かいな…」

 

 

深雪の鮮やかな二度見を皮切りに全員がすぐ横に来ていた総司に驚く。雫はどうやら総司が来たタイミングを正確に把握していたようだが。

 

 

「って、もう試合は終わっちゃったわよ。アンタ何しに来たの…?」

 

「勿論、応援だが?」

 

「もう終わったって言ってんのよ!」

 

「そんな馬鹿な…」

 

「本当に馬鹿だよなお前は…!」

 

「許してくれないかな渡辺大菩薩様?」

 

 

総司以上に気配を消して背後まで近づいてきていた摩利に頭をグリグリされだす総司。痛い痛いと言いながら本人は余裕そうだが。

 

 

「まったく…アンタ何処に行ってたのよ?」

 

「ああ、ちょっとOHANASIをしていたんだよ」

 

「お話…?」

 

 

この面子の中でこの二人のニュアンスの違いに気づいていたのは意味を正確に理解していた達也と総司の様子から判断した雫だけだった。その雫は完全に総司がやらかした事に気づいた様子なので、今夜は説教タイムだろう。

 

 

「はあ…本当に理解が及ばない奴だよお前は…」

 

 

摩利の呆れ気味の呟きに総司と雫以外が全員で肯定の意を示した。

 

 


 

 

「ああ…疲れたんゴ…」

 

 

夜、総司は珍しく気疲れした様子でホテルの廊下を歩いていた。つい先程まで雫からの追求とお説教を受けていた総司。だが総司にとって雫と居られるならば説教だとしても構わないのだ。本来ならばここまでの疲労を溜めることは無い。しかし総司が頑なに昨日の動向を話そうとしない事にしびれを切らした雫は泣き落としにかかった。流石の総司もそれには一瞬引っかかりそうになったが、屁理屈をこねくり回してなんとか切り抜けてきたのだ。因みに逃げるように去って行く総司を見つめながら、先程まで泣きそうだった顔を引っ込めて「…っち」と小声で言った雫を、近くに居たほのかは信じられないものを見た顔で硬直していたらしい。

 

 

「早くベッド行って寝よ…」

 

「流石にそうはいかんよ」

 

「…烈爺」

 

 

雫から逃げだし、自室(達也と共有)で早めの睡眠を取ろうとした総司に、背後から九島烈が声をかけた。まるでそこに最初からいたように現れた烈。視線誘導の魔法で他の人間に自分を認識されないようにしたままで総司を待ち構えていたらしかった。かくいう総司も驚いた様子では無い。烈がこちらにコンタクトを取ろうとすることなど無断で無頭竜を全滅させたときから想定していたし、何より烈がこのような忍者の真似事をするのは今回が初めてでは無かったからだ。

 

 

「少し話を聞かせてくれないか?」

 

「いいぜ別に。面白い話なんてできないけどな」

 

「私にとっては、君という存在が既に面白いのだがな」

 

 

そう言い合いながら二人は烈の宿泊する部屋までやってきた。

 

 

「…して、昨晩、君が無頭竜の東日本支部を壊滅させたのは事実だな?」

 

「そりゃね?許せないですしお寿司」

 

「では、無頭竜の情報は何か聞き出せたかな?」

 

「いや何も?仲間を攻撃してきた奴らに興味なんて無いよ。あるのは怒りだけだ」

 

「…では、何も情報を掴めていないと?」

 

「確かにそうだが、言われれば調べるぜ?」

 

 

そう言った総司の表情は自身に満ちあふれている。本来ならば「どうやって」と一蹴するところなのだろうが、総司は烈の孫である響子が手に入れられなかった情報ですら持ってきたことがある。何かしらの独自の情報網を持っていると考えて間違いは無いだろう。そもそも烈に総司を責めるつもりはなかった。彼の逆鱗に触れた者達がどうなったのか、かつての『伝統派』との一件でよく知っている烈は、半ば情報を得ることは不可能であること前提で総司に一連の件の確認を行おうとしただけだった。だが乗り気で調べるといってきた総司に烈は意外感を隠しきれなかった。

 

 

「良いのか?興味は無いんだろう?」

 

「無いが、怒りはあるって言っただろ?」

 

「…今回の件を指示した者も許さないと言っているのだな」

 

「その通りだ。でも他人任せで済ませられるならそれでいいんだ。本当は俺が殺したいけど…個人で出来ることには限度があるからな」

 

「驚いた。今まで個人で出来る領域を遙かに超えてきた君が限度なんて口にするとはな」

 

「もしかして俺の事人外だって言ってる?」

 

「無論だとも」

 

「酷くない?」

 

 

二人は揃って笑う。その後しばらくして、総司が腰を上げる。

 

 

「さて…ホントに眠くなってきたし、そろそろ部屋に戻らせて貰うぜ」

 

「待ちなさい」

 

 

そう告げて部屋を出て行こうとする総司に烈が声を掛ける。

 

 

「…君と北山嬢の関係性に、九島は関与しない事を明言しよう」

 

「…そうかい」

 

 

率直に、自分達は彼らの恋路を利用することはないと宣言する烈。総司はまるで『当然だろ』といった表情で部屋を出て行った。

総司が出て行った部屋の中、烈は一人思案する。

 

 

「…伝えるべきだっただろうか」

 

 

烈の手に握られた端末には、以前彼の孫である九島光宣の治療に役立つかもしれないと保存していた総司の遺伝子情報が何者かに盗まれたとの報告が上がっていた。

 

 


 

 

九校戦最終日。この日は昨日から行われていたモノリス・コード本戦の決勝トーナメントが行われる…のだが。

 

 

「…昨日はあんなに力を誇示するような戦い方じゃなかったぞ?」

 

「そうね…昨日までは十文字先輩だけじゃなくて他の二人も活躍してた。でも今日はまるで十文字先輩のステージみたいに一人だけ目立ってる気がする」

 

 

そう、昨日までは戦略的な戦い方をしていた一高選手陣…正確に言えば克人が、先の新人戦モノリスで、将輝達のように圧倒的に、総司達のように理不尽に相手を叩きのめす動きをしていた。一つ前に行われた準決勝でも全ての相手をファランクスを用いたタックルで倒し、今行われている決勝ですら、あと一人で全滅というところまで克人が全て一人で相手をしており、鋼太郎や範蔵はモノリス前で待機しているだけだ。

 

 

「なんでいきなり戦い方を変えたんでしょう…」

 

「…総司の影響か」

 

「俺かよ」

 

 

そう呟いたほのかの疑問に答えるように達也が話し出す。

 

 

「恐らくだが十文字先輩は十師族としての実力を示せ…みたいな事を言われたんだろう。だからあのように自分の力を見せつけるような戦いをしているのだろう」

 

「十師族としての実力?なんで今そんなもんを見せる必要があるんだよ」

 

「この間の新人戦モノリスで総司達が一条に勝利したからだろう。十師族に一般の魔法師が勝利する…これが影響して十師族の実力を疑問視する声が生まれるのを避ける為だろうな」

 

 

達也の考えは正しい。事実克人は真由美経由で似たような要請を十師族として受け取っていた。

 

 

「でも総司君だって広義的に見れば十師族でしょ?九島家なんだし」

 

「それで済むなら良いがな。やはり直系と義理の子では直系の方が有力視されるのは当然だ。何より総司の魔法成績はカス同然だ」

 

「言い過ぎやぞお前」

 

「ならせめて筆記面を上げてから言ってくれ。「くっ…!」コイツみたいに最低順位を取るような十師族なんていないだろうし、あの戦闘で魔法を一切使っていなかった総司が十師族だと思う人間は少ないだろう。それなのに総司が勝ってしまい、十師族全体がその実力を疑われるのを避ける為に十文字先輩にあのような戦い方を強要したのだろうな」

 

「…?でも総司君が最強だよ?」

 

「…雫、総司じゃ無くて十師族が弱いと勘違いされるといけないという話で…」

 

「でも総司君が最強だよ?」

 

「…だか「でも総司君が最強だよ?」…」

 

 

雫の「異論は絶対に認めない」とでも言いたげなその態度に達也は口を閉じるしかなくなった。

そんな話をしていた最中、サイレンが一高の優勝をけたたましく知らせた。




魔法科世界の秘匿通信


・具体的には総司は九島家にスターズのメンバーの一覧やその適正魔法や得意戦術などを教えていた。


・九島家は総司の異常な身体能力に目を付け、総司の遺伝子を一部光宣に移植すれば体調が回復するのではないかと研究していたが、総司の遺伝子には異常性をを裏付けるような部分は見つからず、一般的な魔法師と同じ形質であると判明し、この計画は頓挫した


雫の最後の「総司君が最強だよ?」は某ウマの「でも私の方が速いですよ?」を元にしたネタです。


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九校戦編 最終回

他校の抵抗むなしく一高の圧倒的なまでの総合優勝が確定した最終日。一高は他校から怨嗟の視線に苛まれ…てはいなかった。

 

 

「荒野菜ってどんな感じの野菜なんだろうな?」

 

「野菜じゃ無いし、そもそも荒野菜なんて物は無いぞ総司。後夜祭だ」

 

「もちろん知ってるけど?いきなり荒野菜とかどうしちまったんだよ達也!?」

 

「うぜぇ…」

 

「今達也から初めて出てきたような語彙の罵倒が聞こえてきた気がするが?」

 

「もちろん気のせいだ」

 

「だよな」

 

 

そう、魔法科高校の生徒達は現在、九校戦の後夜祭でのダンスパーティーを楽しんでいるのだ。この後夜祭は他校との交流を図る場でもあるし、何ならここでカップルが成立すると言うのも少なくはない。

 

 

「む?…随分と緊張しているようだが、どうしたんだ?一条」

 

「え?プリンス様?」

 

「お前達は…司波達也に橘総司…!」

 

 

三高のプリンス殿もこの空気には流石に浮かれない訳も無いようで、深雪めがけて一直線に誘いをかけようとしていた。その夢中っぷりは、深雪の傍に当然のように隣にいる達也と、その達也と会話していた総司に一切気づかなかったほどだ。将輝は思わず身構える格好…総司に対しての警戒心多めでそのようなポーズを取った。その光景に達也は内心呆れ、総司は頭に疑問符を浮かべる。どうやら何故警戒されているのか分からないらしい。

 

 

「…この間は世話になったな、橘」

 

「どうも、お世話しました」

 

「…くそっ!調子崩れるなぁ!?」

 

「諦めろ、コイツにまともに取り合えるようになったら手遅れだぞ」

 

「じゃあ達也も手遅れか?」

 

「残念ながらな」

 

「ガチで残念そうじゃん…?」

 

 

将輝が軽めのジャブを総司に放つとそのまま倍ぐらいになって返ってきたので将輝はペースを乱されたようだ。

 

 

「おいおい、そんなんじゃこちらの妹様と一緒にダンスっちまうなんて夢のまた夢だぜ?」

 

 

いくら鈍感な総司でも、こちらに向かってきた将輝の目的は二人の傍に居た深雪を誘うことだと理解したのだろう。からかうような調子で将輝を煽る。

 

 

「妹様…?っ!?ま、まさか司波お前!彼女と兄妹なのか!?」

 

「…気が付かなかったのか?」

 

「恋は盲目だ、誰かに言われなきゃ気づけない事も多々あるよ」

 

 

実際自身が先輩からの助言で雫への想いを自覚したことを思い出しながら訳知り顔で頷く総司。

 

 

「一条さんには私とお兄様が兄妹に見えなかったのですね?」

 

 

と深雪は笑いを堪えた表情で問いかける。その顔はまさに可愛らしいという印象を将輝に与える。そんな深雪に将輝は年相応の初々しい反応を見せる。だが一つ言っておくが、深雪が笑いを堪えているのは将輝の勘違いを面白がっているのでは無く、敬愛する達也と兄妹に見えない…つまり恋人同士に見えることもあるという風に将輝の言葉を曲解し、その喜びにニヤけてしまわぬように堪えていたのだ。

 

 

「…深雪、こんな所に突っ立っていても邪魔だから、一条と踊ってきたらどうだ?」

 

「そうですね…折角ですし、ご一緒しましょう」

 

 

そう深雪が問いかけると将輝は壊れた玩具かのごとくしきりに首を縦に振っていた。それが面白かったらしく、今度は正真正銘将輝によって笑顔を浮かべた深雪。

ではいざ鎌倉。といったところで将輝はふと疑問を口にする。

 

 

「そう言えば、橘は司波さんを誘おうとしていたのでは…っていない!?」

 

「総司ならあそこだ」

 

 

達也が指を指した方向をみた将輝は、その瞬間に総司が深雪を誘おうとしていたのでは無い事に気づく。

 

その先には、両者ともに満面の笑みを浮かべている総司と雫だった。

 

 

「何も、世の中の男が全て深雪に惚れる訳じゃ無いということだな」

 

「…ああ、どうやらそのようだな」

 

 

やけにかっこつけた感じで締めくくった将輝だが、深雪に「行きましょうか」と言われた瞬間に顔が綻んでしまった。かっこわる…

 

 


 

 

「それではお姫様、Shall we dance ?」

 

「強がってられるのも今のうち、私のダンステクで生まれたての子鹿のように足をガタガタにしてあげる」

 

「ダンスは拳法か何か?」

 

 

総司と雫は二人、お互いの手を取り合ってホールの中心に出てきた。周囲には桐原・壬生ペア、五十里・千代田ペア、罠にでも嵌められたか、キョドった表情で真由美をエスコートする範蔵。先程見た一条・深雪ペアに、達也がほのかと出てきた。深雪がほのかに極寒の視線を向ける。ほのかは気づかない。達也と雫、総司は気づいた。雫と総司は気づかないフリをした。

 

 

「というか、総司君ダンスなんて踊れるの?」

 

「学校行かなかった分暇だったからな。烈爺にも一応の社交辞令として学んでおけって言われてたし」

 

「ふーん…で、女の人と踊った経験は?」

 

「え?こういったダンスって男女で踊るものだろ?逆に男と踊った事が無いんだが…」

 

「その踊った人の名前って覚えてる?」

 

「はっ?…い、いや、覚えてないです…」

 

「そう…なら仕方ないか」

 

「…もし覚えてて、その人の名前聞いてたら雫ちゃんはその人をどうするつもりだったの?」

 

「もちろん総司君が作ってくれた『風神雷神』で焼き尽くしてたよ?」

 

「やだこの子、物騒すぎ…!?」

 

 

かつて練習相手になってくれた女性(藤林響子)の名前を出さなくて心底良かったと総司は思う。

 

それからしばらく、総司と雫は最初から最後まで、休憩を挟みながら二人で踊り続けた。彼らを見た者達は、一様に『ラブラブな高校生カップル』だと思ったことだろう。ほぼその通りなので問題は無い。

 

 

「はあ…はあ…さ、流石に疲れた…」

 

「俺の勝ち。なんで負けたか、明日までに考えといてください。そしたら何かが、見えてくるはずです」

 

「単純に総司君の体力が化け物だっただけだと思うんだけど…」

 

「それを言っちゃあお終いよ」

 

 

そして二人は会場の端の方で並んで向かい合う。

 

 

「ねえ、総司君」

 

「ん?どうした?」

 

 

総司が雫の方を向くと、彼女の顔は真っ赤に染まっていた。

 

 

「…今度、ウチの保有してる別荘に行かない?」

 

「え、行く行く!どんなとこなの?」

 

「夏と言ったらやっぱり海でしょ?」

 

「ほう…面白い、この俺と水泳勝負か」

 

「絶対に勝てないから」

 

「自分でも提案して悲しくなってきたよ」

 

「強者故の孤独って奴だね」

 

「お褒めいただき光栄の極み」

 

 

二人はいつもの調子で会話を続けているが、雫の顔は相変わらず真っ赤だし、それに釣られて総司の顔も真っ赤だ。

 

 

「でも急だよな?なんでいきなり別荘なんかに?」

 

「…ウチのお父さんが『婚約者だけじゃなくて友達にも会わせてくれ!』って五月蠅いから」

 

「…あの人はさぁ…」

 

 

総司は以前雫の家に訪れたときに出会った雫の父親…北山潮がその台詞を言っている姿を思い浮かべて思わず呆れてしまう。

しかしここで総司の気持ちは若干落胆する。彼は今まで二人きりで…!?なんて期待していたのだ。内容を詳しく聞かずに勘違いして勝手に落胆するのは童貞の反応のソレだが、総司は実際そうなので仕方ないだろう。

 

 

「それで…ね?」

 

「?」

 

「…モノリスが終わった時に言おうとしてた言葉は…その時に、もう一度聞きたいなって」

 

「っ!?」

 

 

総司は雫からのお願いに激しく動揺する。つまり雫は一度しくじった告白をもう一度やれと言っているのだ。結局いつかは伝えなければいけないので総司は覚悟自体はしていたが、まさか相手からおねだりされるとは予想Guyすぎて言葉が出てこなかった。

 

 

「…分かった、必ず伝えるよ」

 

「…待ってる」

 

 

顔から湯気が出てきそうな程恥ずかしい。二人の内心はこの時共通していた。

 

 

「…いやー、それにしても暑いな…」

 

「…夏だしね」

 

 

恥ずかしさで先程までペラペラ出てきていた軽口すら言えなくなってしまった。

すると雫が何かを見つけたように総司に話しかける。

 

 

「総司君、頭にゴミがついてるよ」

 

「俺の(学力)がゴミだって?」

 

「言ってない」

 

 

そう言うや否や、雫は「右の辺りだよ」、「もうちょっとずらして」などの言葉で総司の手を誘導する。しかし一向にゴミが取れる気配が無い。

 

 

「…もう、仕方ないな。私が取ってあげる」

 

「お、おう。ありがと…」

 

 

チュッ

 

軽い音が響く。それは近くに居ても聞き取れるかどうかは怪しいほど小さい音だった。だが総司には、当事者である総司にはハッキリと聞こえた。

 

 

「…今はここまで。ゴミ、取れたよ」

 

「………」

 

「…なんだか急に眠気がしてきた。…またね」

 

「………」

 

 

雫は可愛らしい照れ顔で総司に別れを告げて部屋に戻っていく。

 

 

「………??????????????????????」

 

 

対する総司は、丸で某ウマ型アンドロイドがエラーでも吐いたかのような表情でフリーズしていたのだった。




魔法科世界の秘匿通信


・響子は一瞬殺気を感じた。


・北山潮は総司の事を雫の婚約者だと思っている。



次回は夏休み編…ではなく、先に番外編で九校戦前に総司が北山家を訪れたときの話です。


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番外編 北山家へのご挨拶

ぶっちゃけ番外編が一番頭使いますね。原作があると無いとじゃ大違いですよ。オリジナル展開で物語進められる人達にはホント尊敬の念しかありません。


「いらっしゃい、総司君。ゆっくりしていってね」

 

「…饅頭?」

 

「太ってるって言いたいの?」

 

「滅相もございません」

 

 

ここは都内某所。北山雫が住んでいる家の玄関。そこに総司は足を踏み入れていた。つまりこの状況は非モテ男子が一度は夢に見る(偏見)女子の家にお邪魔するシチュエーションだ。別に今日雫のご両親が帰ってこない訳では無い。そもそも親に会わせる意味合いも含めて雫は総司を家に招いている。

 

此度雫が総司を家に招くことになった理由。それは大きく分けて二つ。

一つ目は、彼女の父親、北方潮…本名北山潮が、最近総司の事を楽しそうに話す、または恋する乙女かのごとく話すため、大切な愛娘に近づく総司を、有象無象のどこのとも知れぬ馬の骨か、それとも雫の将来の伴侶たる人物なのかを見極める為に娘に総司を家に連れてくるようにしつこく要求したからだ。

 

二つ目は、来たる九校戦で深雪と対戦することになった時に、打倒深雪を掲げるには雫はまだ自分の実力が不足していると感じていた。達也からは『フォノンメーザー』を貰ったが、達也が深雪に贔屓しないとも限らない。実際は達也は本気で深雪を倒す為に『フォノンメーザー』を与えた…()()()だ。だが彼が内心「深雪に勝つことは不可能」と断じていた時点で、力の入れようは同じでも気持ち的にはやはり身内贔屓していたと言える。

 

雫はその点を考慮して総司に相談した。他の者が見聞きすれば一様にこう言うだろう、相手を間違えていると。総司は期末試験で見事最下位を記録する絶望的なまでの頭脳を持ち、あまつさえ一行程の魔法すら満足に扱えない男だ。そんな奴に魔法技能の相談をしても…と皆考えるだろう。総司と親しい面々でもそうだ。いつもの同級生達も、範蔵も桐原も壬生も、流石にこの手の相談を総司には持ち込まない。だが雫には総司への狂信的なまでの好意がある。「総司君ならきっとなんとかしてくれる。だって総司君だもの」と考え総司に聞いた次第だ。

 

するとビックリ、総司がなんと古式魔法限定で新たな魔法を作ろうと言うのだ。これには流石の雫も新魔法の開発なんてできるのか?と問うたが、本人が大丈夫だ、問題ない。と言ったせいで納得してしまう。

しかし総司が本当に魔法を作り出せることが判明、総司は雫用に対深雪用魔法、神風と神の怒りと表現される雷の魔法である『風神雷神』を開発した。しかしここで問題が発生。現代魔法と古式魔法のプロセスの違いと、生来的に高出力の代わりに高負担、高難度のデメリットがある魔法しか作れない総司が開発した『風神雷神』という、深雪でも数回使えるか否かの魔法が初っ端から成功するはずも無く、雫のその時点の技量では精霊達に指示する事はおろか、交信することさえ叶わなかった。

 

これでは使い物にならないため、可及的速やかに使用できるように特訓をする必要があった。当初は高校内の実習室で行うつもりだったのだが、兼ねてからの父からの総司を家に連れてこいという要望と、この機会に両親への挨拶を済ませる事で将来的にスムーズに事が運ぶように外堀を埋めるという打算付きで、雫は実習室ではなく父が用意した場所で練習を行おうと提案し、その前に家族に会ってくれと総司を家に連れ込んだのだ。

また、将来的にスムーズに運ばせたい()というのは、彼女の尊厳のために黙秘させて貰う。

 

といった感じで、明日が休みとなる今日、放課後の時間帯に総司を家に連れてきた雫。明らかに泊める気満々である。因みに総司はこの時点で自分の足で一旦家に帰ってまた明日合流する流れだと思い込んでいる。

 

 

「しっかし、雫ちゃんがまさかあの『ホクザングループ』の総帥の娘だったなんてな」

 

「でも総司君はそんなこと興味ないでしょ?」

 

「まあな、普通にすげぇって感じ」

 

 

総司は仮にも九島の人間だ。十師族の末端である彼がお金に困ることは無いし、そもそも総司はあまり物欲が無いためお金の消費が少ない。雫の家の事を知ると金目的で近づいてくる男など掃いて捨てるほど居たが、総司は雫本人を見ながら凄い凄いと言っているだけだ。それは何かしらの肩書きに凄いと言っているようなものだ。

 

 

「あら、貴方が総司さんね?いらっしゃい、私は雫の母の紅音です」

 

「橘総司です。娘さんにはいつもお世話になっております。というか俺の事知ってるんですね」

 

「そりゃ、雫がここ最近、幸せそうな表情で貴方の話をするからよ。貴方の名前はもう耳に穴が空くほど聞いたかも知れないわ」

 

「穴が…空くほど…」

 

 

リビングにつくとそこに居た紅音と遭遇する。その紅音から雫がいつも家で自分の話をしていると聞いて総司は雫の方を向く。雫は恥ずかしがること無くにっこにこしていた。どうやらあること無いこと吹き込んだ訳では無さそうだ。

 

 

「…いらっしゃい、総司君」

 

「…っ!?」

 

 

直後に感じる、圧。声のした方に向き直った総司の前のソファには、雫の父である北山潮が座っていた。その潮が何故自分にここまでの圧を放っているのか、総司は一瞬で悟る。この圧は財界や政界でのものでなく、自身の娘に近づく男に対する父親としての圧だ。その圧は戦場慣れしている総司ですら、性質を悟っていなければ反射的に拳を出しかけるほどだった。

 

 

「…橘総司です。娘さんにはお世話に…」

 

「わざわざ言わなくてもそんなこと分かっているとも」

 

「そうですか…」

 

「して、娘とはどういった関係なんだい?」

 

 

潮からは返答次第では相手を殺しかねない気配を感じる。父親というのはここまで強い感情を持つものなのか、と総司は戦慄する。総司はまだ幼かった時に『伝統派』に狙われた時と同じくらい、生命の危機を感じた。特に潮が総司を殺せるという訳では無い。そもそも潮は非魔法師であるし、紅音がいると勘定してもどうやっても総司の薄皮一枚切る事すら叶わないだろう。

だからこそ、父親としての威圧だけで総司に死を覚悟させた潮は、それほどに雫を愛しているのだろうと思った。

 

 

「俺にとって娘さんは、雫は『親友』です。俺に出来た、初めての」

 

「…そうかい」

 

 

実に真剣な表情で潮を見返す総司。その返答を聞き、総司の顔をまっすぐ見た潮は、おもむろに立ち上がる。

 

 

「…その言葉を聞いて、君の顔をみて、安心したよ。君は雫にまとわりつく虫ではないようだ」

 

「…当たり前です」

 

 

潮は歩き出し、総司の横にまで来てから、顔を耳に近づける。

 

 

「ところで…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウチの娘を娶る覚悟はあるかい?

 

「…は????」

 

「お父さん!?」

 

「あらあら」

 

 

潮のいきなりの発言に総司は困惑した。雫も流石に恥じらいの表情をしている。紅音は頬に手を当てて見守るような暖かい視線を向けていた。

 

 

「いや~、雫がいつも楽しそうに君の事を話してくれるのでね。話を聞く限り君は雫にとって理想的な相手のようだから、娘を娶る気はあるかと思ってね?」

 

「段階すっ飛ばしすぎでは?」

 

 

潮は結構ギリギリオブラートに包んでいるが、ようは雫が君の事を好きそうだから、雫と結婚する覚悟はあるか?と問うているのだ。総司はまだ雫が自分に向けている好意を認識していなかったし、自分が雫に向けている気持ちも自覚していなかった。しかし、潮からの問いに総司は「雫は親友です」と返さずに今回のように「段階を飛ばしすぎ」と返した。と言うことは、総司は無意識下で雫の気持ちも、自分の気持ちも理解しているのかも知れない。まだ付き合ってもいないのだから…と心のどこかで思っていたのかも知れない、真偽は定かでは無いが。基本的に総司は脊髄で会話する。総司にとって会話はほぼ反射行動だ。

 

 

「では質問を変えよう。雫と一生添い遂げる覚悟はあるかな?」

 

「それ意味変わって無くないですか?」

 

 

潮は先程の圧は一体何だったのかと言いたくなるほどフランクだ。実のところ、潮は雫からの話で娘が総司に好意を抱いているのは知っていたし、総司が悪い虫で無ければ雫の伴侶として迎え入れようとしていたのだ。これには元々潮自身が紅音とは恋愛結婚だったという理由があり、自分達が愛に生きたのに、娘が愛に生きるのを否定するはずもなかったのだ。

だが総司はまだ雫が自身に恋を超えた愛情すら抱いていることに気づいていない。

 

 

「そもそも!雫には俺より絶対良い奴が見つかるでしょう!?そんな俺なんかより…」

 

「は????」

 

「ヒッ!!!???」

 

 

殺気。今総司が感じているのはそれだ。だが殺気を出しているのは潮では無いし、紅音でもない。雫が、深雪を上回る冷気を出しそうな勢いで殺気を出していた。総司は先程潮から感じた殺意の百倍くらい強い感情にビビる。

雫は総司が、自分より良い奴が見つかると言った彼の発言を、態度だけで否定していた。んな訳ねぇだろと。

 

 

「…総司君には、教育が必要みたいだね?」

 

「待て、何をするつもりだ?」

 

「何って…ナニ?」

 

「ちょっとぉ!?雫さん!?」

 

 

雫の発言は、察しが良ければ自分への好意が現れていると気づけるのだろう。だが前の殺気に気圧されている総司にはそこまで思考を巡らせる余裕は無い。総司視点、今の雫は精神干渉系魔法でも受けたか?と見まごう程の変わりように困惑を隠せていない。そんな魔法が掛かっている訳では無いのは彼の異能から来る『感覚』が証明しているのだが。

 

 

「今の若者って手が早いのだな…」

 

「あら、私達だってこのぐらいの年頃でしたでしょう?」

 

「そうだったかな?はっはっは!」

 

「笑ってないで止めろや!?」

 

 

結局この雫を諫めるのは困難を極め、今日は総司と添い寝するという妥協案で納得してもらえたのだった。因みに総司はこの時に自分が今日は北山家に宿泊することを知った。




魔法科世界の秘匿通信


・因みに総司が悪辣な輩だった場合、潮さんが完全に敵に回っていた。



・雫ちゃんのご両親は総司とさっさと結婚してしまえと考えるようになった。




ぶっちゃけあんまりキャラ崩壊を酷くしたくはないのですが、私は原作者様ではないので躊躇う必要がないと思って踏み切りました。


潮さんは『かぐ告』の白銀パパ、紅音さんは同じく『かぐ告』のハーサカママをモチーフにしています。後航君は出ません。

次回は特訓ですね。終われば夏休み編です。


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番外編 魔法って難しい

リロメモが配信日決定してテンションぶち上がってる作者ですどうも。

今までソシャゲに課金はしてこなかったが、雫ちゃんが相手とならばこちらも(財布から金を)抜かねば無作法というもの…


「むり、つかれた」

 

「ええ…」(困惑)

 

 

北山雫は現在、猛烈なまでの疲労に苛まれていた。別に寝不足なのでは無い。むしろ昨日は総司の胸を枕代わりに寝たので人生で最も快眠であった。眠れていないのは総司の方。では何故雫は動けない程に疲れているのか?それは今日の本題、対深雪用魔法である『風神雷神』の会得の為の特訓に原因がある。

 

そもそも何故特訓が必要になったのか。苦手な古式魔法だから?それは無い、確かに雫は現代魔法と勝手が違う古式魔法に若干苦戦したものの使用自体には問題が無くなっている。では何故か。それは雫のサイオン量では『風神雷神』の術式をコンマ一秒も維持できないからだ。

発動そのものはしていることは総司の異能に付随する知覚能力で分かっている。単純に、十全に効果を発揮できるまでの時間発動し続ける事が出来ないのだ。そもそもこの『風神雷神』自体、強力であるが代わりに負担がバカでかい、達也が術式内容を見ればこれで完成形とした総司に疑問を覚えるほどで(事実達也は術式を見て呆れていた)あり、速急な改善が必要な魔法…なのだが。

 

 

「いや、俺よく分からんのよ」

 

 

と総司は言う。何を隠そうこの男、魔法は作れても結果を出力するのに必要なプロセスを一切理解していない。精霊達の協力の下に作成しても、『一般の魔法師がギリ使えるレベル』の消費サイオン量が無ければ起動できないものしか作れず、酷いものではかの九島老師ですら起動式の展開もできなかった程の魔法も存在する。しかしどの魔法も実用化出来ればかなりの有用性を見い出せるものばかりであった為に、総司が細部の調整を行えないという事実は、九島家の人間を落胆させるのには充分だった。

けれども文句など言える訳も無い。自分達では総司が開発した魔法の再現すら不可能であったし、総司は九島にとって切り札とも言える人間だ。存在するだけで事実を知る者を震えさせる事が出来るほどに総司の戦力は大きい。

 

だが今回ばかりはそうもいかない。なんとしても雫はこの『風神雷神』を実用レベルにまで習得する必要があるのだ…と雫は思っているが、正直総司はそうは思わない。確かに深雪の魔法力は強大だが、こと振動系ならば雫の方が上手に出ることもある。大体九校戦は命をやりとりする場では無い。ましてや相手はチームメイトである、無理をしてでもこの魔法を使おうとする理由が、総司には分からなかった。

 

 

「…でも、疲れたからって止める訳にはいかないよね」

 

「雫ちゃん…」

 

 

まただ。

雫は疲労を蓄積させながら、尚も習得にこぎつけようとする。そんな姿に総司は申し訳なさが浮かんだ。雫には古式魔法の発動自体に苦労は無い。問題があるのは総司が開発した魔法そのものだ。達也のように最短ルートで消耗を抑えながら十全に使える魔法は作れない、それに比べまるでRTAかのようにひたすらに出力だけを上げ、それ以外を度外視するかのような総司の魔法。そもそも魔法を作れる時点で凄いと雫は心からフォローしてくれるだろうが、結局の所、自身の腕が達也並であれば雫の苦労も必要ない物だ。事実雫は達也がチューニングした『フォノンメーザー』を速攻でマスターした。対して自分の魔法は使えたかどうかの確信を本人に与えることも無く霧散していく。そのクセサイオンだけはきっちり持って行く詐欺紛いの魔法だ。これ以上の練習は雫の体に悪影響を及ぼす。それこそ魔法演算領域がオーバーヒートを起こして使い物にならなくなる可能性だって。

 

 

「…雫ちゃん、もう止めよう。これ以上無理をするのは…」

 

「止めないで総司君」

 

「いや、止めるね。これ以上雫ちゃんが苦しむのは見たくない」

 

「苦しんでなんか無い、疲れてるだけ」

 

「だから!」

 

 

総司の制止を聞かずに続行しようとした雫だが、総司が初めて自分に対して声を荒げた事に驚いて固まっている。

 

 

「雫ちゃんが辛い顔してるだけで、俺はもう…」

 

「総司君、私は大丈夫だから」

 

「酔っ払いの『酔っ払ってない』ぐらい信頼性の無い発言だな」

 

 

そう言って総司は雫に近づく。彼女の手から魔法式が込められた札を奪う為だ。総司は雫の目の前に立ち、真剣な表情で雫を見下ろす。対する雫も真剣に総司を見つめ返す。

そして意を決した総司は雫の手から札を奪おうとして…()()()()()()()()()()()()

 

 

「「…あれ?」」

 

「え、止めないでって言ってたのに抵抗しないのか?」

 

「え、辛そうにしている私を見て、愛おしさで抱きしめる場面でしょ今の」

 

「ええ…?」(二回目の困惑)

 

 

総司は雫からあっさりと札を奪えたことに、雫は自分の辛さを和らげる為に抱擁をしてくれるものだとばかり思っていたことによる認識の違いで、二人は硬直する。しばらくして再起動した二人。雫は札を奪い返そうと必死に手を伸ばすが、20㎝以上の身長差に加え、ひょいと総司が手を上に伸ばせば、絶対に雫は届かない。やがて涙目になりながら、ピョンピョン跳ねながら取ろうとする雫。やだ…何この可愛い小動物…!と思いながらも決して手を下げない総司。

 

そしてとうとう諦めたのかジャンプを止める雫。総司はここで、「分かってくれたか雫…」なんて声を掛けようとした。その瞬間

 

 

「とびこめ~」

 

「は?」

 

 

バタン!と大きな音がたつ。これはいきなり雫が総司の方に寄りかかってきた来た為に、総司が踏ん張りがきかずにせめて雫が痛くないように思いっきり背中側から転倒した音だ。因みに総司はこの程度痛くもかゆくも無い。

だが問題なのはその後。橘山に到達した北山探検隊はそのまま頂上(札を持っている手)を目指して這い上がってくる。しかもご丁寧に体を押し付けながらだ。決していかがわしい意味は無い。だが隙間を少しでも作れば総司は脱出できるかも知れないし、この状態なら自分を傷つけない為に総司は動かなくなる事を知っていたからだ。

 

 

「雫ちゃフガフガ!?」

 

「んっ」

 

 

前言撤回、体勢からして凄くいかがわしい。現在は雫がある程度登り切ってきたところで、状況整理が出来た総司が雫を止めようとした時、丁度彼女の胸が被さったのだ。それ故総司は発声出来なかったし、雫はちょっとエロい声を出してしまった。だがその程度で止まる雫では無い。とうとう総司の腕までたどり着き、彼の手から札を奪い返した。

 

 

「とったど~」

 

「ええ…」(三回目の困惑)

 

 

予想外の奪われ方に困惑を隠せない総司。しかし結局の所奪わなければ再び雫が無理をしてしまうのは自明だ。総司は再び雫から札を奪おうとして…

 

 

「ちょっと待って総司君、私に考えがあるの」

 

「…ほう?」

 

 

雫からの提案に足を止めた総司。だがそんなことをたやすく信じる総司では無い。無理をしてでも習得をする口実でも作ろうとしている、総司はこう考えた。だが

 

 

「…私と、手を繋いでくれる?」

 

「…Why?」

 

 

雫の言葉に首を傾げた。

 

 

「なんとなくだけど、総司君と手を繋いで発動したら、使える気がするの」

 

「いや何でだよ」

 

「なんとなくって言ってるでしょ?愛のパワーよ愛のパワー」

 

「適当だなぁ…」

 

「とにかく一回だけでいいから」

 

「…本当に最後だからな」

 

 

そう言って総司は雫と手を繋ぐ。雫がいつ倒れそうになっても支えられるように気を張り巡らせる。当の雫は「…総司君の手、おっきい…」なんて呟いていて、大分余裕そうではある。

そして機器が操作され、的となる氷柱が出現する。

 

 

「じゃあ、いくよ?」

 

「ああ…くれぐれも無理だけは…ッ!?」

 

 

早速氷柱に向かって魔法を放とうとする雫は、半ば諦めたかのように目を閉じた総司を驚愕させる。

バガァン!と大きな音を立てて崩れる氷柱。総司の知覚能力は、確かに『風神雷神』が発動して…尚且つ、現在十秒以上の発動に成功したのだ!

 

 

「そんな馬鹿な…!?」

 

「ほら、言った通りでしょ?」

 

 

雫が魔法を撃てた、では無く自身が作った魔法が正しく作用した場面を久しぶりに見た総司は目を見開く。そんな総司にドヤ顔をキメる雫。驚愕した表情のまま雫を撫でる総司の顔は、氷柱が立っていた場所を眺めて硬直したままだったが。

 

 

「なんだかコツが掴めたかも。ありがとう、総司君」

 

 

と総司に微笑む雫。

 

 

「あ、ああ…どういたしまして?」

 

 

対する総司は、理解していないまま雫に返事を返すのだった。




魔法科世界の秘匿通信


・雫はこの時にコツを掴んだから、雫一人でも『風神雷神』が使えた。


・この日以降、総司の魔法強度が僅かに上昇した。



やっぱオリジナルストーリー無理ッすわ。もっとギャグよりにしていいかな…?


次回からは夏休み編です。一応九校戦も夏休み期間中ではあったはずですが。


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夏休み編
夏休み編 その一


そういや思いっきり雫ちゃんの誕生日を過ぎてしまっていることに今更ながら気づいた作者です。リロメモのせいで失念してたんです…(言い訳)

それに関することなんですが、仮にキャラの誕生日ガチャとかあったら、周年記念と一緒にガチャが実装されるということ…?もし周年キャラが雫ちゃんだったら…?


固有結界、『無限の課金』を展開する必要性があると…!?


「…本当に私達も来て良かったのかしら、雫?」

 

「大丈夫だよ。皆がいても総司君は私にちゃんと伝えてくれるだろうし、深雪達は桐原先輩みたいに空気読めない訳じゃ無いから」

 

「やっぱり桐原先輩の事気にしてたんだな…」

 

「当然でしょ、むしろ何で簡単に水に流せると思ったのよ」

 

「水に流したとまでは言ってないだろ?」

 

「ふ、二人とも落ち着いてください!」

 

 

ここはとある船着き場。そこには一隻のクルーザーが泊っていた。

ここにいるのは何時もの一高二科生を中心としたグループだ。校内では通称、『司波派』とか、『橘のグループのマシな方』とか言われている。勿論マシじゃない方は桐原をはじめとした例の先輩軍団+総司と雫の事だ。

 

そして、彼らの目的は一つ。思いっきり遊ぶことだ!

ことの経緯は毎年夏に雫とほのかが訪れている別荘(北山家保有)へ、今年は新しい友達を連れてきなさいと雫の父の潮が提案したことで、雫がイツメン全員を誘った形だ。因みにこの潮の提案は、『いくら義理の息子が確定するかもしれないとはいえ、二人だけで行っては折角の別荘も楽しさが減ってしまう。どうせならば大勢で遊んできなさい』との考えからだ。

しかし深雪達は雫がこの旅行で総司と、九校戦の時は邪魔が入ったあの件の続きを行うつもりなのは知っていた。故に誘われたときも驚いたし、今も改めて聞き直した。要約すれば総司と二人きりじゃ無くて良いのか?と言った意味合いで。だが雫はこれを快く了承。彼女の頭の中では総司が上手いこと全員がいない、二人きりの時間に呼び出されることが半ば確定している。

 

だからこそ、折角だからという父の提案に賛成したのだ。今だって、レオとエリカが楽しそうに(?)喧嘩しているし、それを仲裁しようとしている美月も心なしか浮かれているように見える。

 

 

「フレミング推進機関か……エアダクトが見当たらないから電源はガスタービンじゃないな。光触媒水素プラントと燃料電池を合わせているのか?」

 

「念のために水素吸蔵タンクも積んであるよ」

 

「見てくれ幹比古!釣れたぞ~、活きの良いマグロだ!」

 

「今数秒前にルアー投げたばかりだよね!?っていうかマグロってこんな近海で釣れるの!?しかもクッソデカいし!」

 

 

そんな気遣いをする妹たちを尻目にクルーザーの動力部が気になった達也がじっくりと分析をしていると、唐突に船長…っていうか潮から声を掛けられ、そのまま自己紹介をする。総司が釣ったマグロは200㎏位だった。

そして達也は潮に目礼をすると、妹を呼びつける。

 

 

「深雪!」

 

「はい、なんでしょうお兄様?」

 

「この方が雫のお父上の北山潮さんだ」

 

「そうでしたか、この度はお招きいただきありがとうございます」

 

「いやいや、私も見目麗しいお嬢様に会えて嬉しいよ」

 

 

流石は妻子持ち+社交界での荒波を生き抜いた経験者、深雪に見とれる等という愚行は犯さなかった。若干鼻の下が伸びているように見えていたが。

 

 

「小父様、私の時はそんなこと言ってくれなかったじゃ無いですか」

 

「いい年して鼻の下なんか伸ばして…」

 

「お義父さん、流石にそれは…」

 

「あ、いや…おお! 君たちも娘の新しいお友達だね! 私は一緒には行けないが楽しんできてくれたまえ!」

 

「逃げたな」

 

 

ほのか、雫、総司からの冷えた目線から逃れようとレオ達に声を掛けた後、そのまま車に乗ってしまった。伊達に『ホクザングループ』の会長やってないのである。後皆総司がナチュラルに潮をお義父さん呼びした事はスルーした。

 

 

「それじゃそろそろ出発しようか。黒沢さん、お願い」

 

 

そう言うと操舵者であり、別荘では一行の世話もしてくれる黒沢女史が深々と頭を下げた。というか彼女の格好はキッチリとしたスーツだ。『暑そう…』という感想が浮かんだのは総司だけでは無かったはずだ。

 

 

「これが船旅の醍醐味よね~」

 

「船遅くね?」

 

「どうどう総司君。抑えて抑えて」

 

「その醍醐味踏み潰している奴いますけど…」

 

 

出発したクルーザーにエリカがオッサンくさい感想を漏らす。それにかみつこうとしたレオだが、直後の総司の発言に呆気にとられて何も口から発せなかった。代わりに幹比古が総司に向かって呆れた声音でため息交じりに呟いていた。しかし仕方のないことだろう。総司の速度は軽くマッハを超える。そんな人間がクルーザーの速度如きで満足出来る訳もなかったのだ。だが今回ばかりは目的地が分からないのでジッとしているほかない総司はどこか暇そうだ。

 

 

「う~ん、暇だし今から幹比古の体をシェイクしようか」

 

「止めて!?船酔いはしてないけど普通に戻しそう!」

 

「ええんやで?」(暗黒微笑)

 

「良くない!」

 

 

何をどうしたら幹比古が戻してもいいなんて思考にたどり着いたのかは全くの謎だが、総司は幹比古に近づきシェイクする体勢に入る。幹比古は逃げた。総司と面白そうだからと雫は幹比古を追いかけた。

 

 

「あの二人って結構ノリが合うわよね」

 

「昔はあんな感じじゃなかったんだけどな…」

 

 

そんな感じで誰々と誰々は似てる的な話をしていると、ふといきなり総司と雫がお似合い的な恋バナに発展する。

 

 

「でもおホントに似合いだよねあの二人」

 

「私と総司君のこと?」

 

「雫戻ってくるの早くない?」

 

「鍛えてますから、シュッ」

 

「やることなすこと総司になってきてるわよ、シンクロしてきてるじゃない」

 

「シンクロ…?おい、デュエルしろよ」

 

「シンクロは所詮時代の敗北者だよ」

 

「ハァ…、ハァ…、敗北者…?取り消せよ今の言葉、取り消せよ…!」

 

「だが断る」

 

「ふざけるなあ!こうなったら!」

 

「いいよ、かかってきて!」

 

「「ライディングデュエル、アクセラレーション!」」

 

「なんかいきなり始まったわね…?」

 

「雫、昔と大分変わっちゃった…」

 

「でも、今の雫はとても楽しそうよ?」

 

「そのノリで一部の人間が被害を被ることを知ってくれ妹よ…!」

 

 

恋バナを一気にギャグで塗り替えた総司達を見て、深雪が楽しそうな笑みを浮かべる。達也はこれ以上胃にダメージを受けたくないので、総司のような頭キチガイが増えることは望ましくないのだろう。深雪に深刻そうな顔で申し立てた。因みに深雪はよく理解していない。

というか雫はともかく総司がナチュラルに会話に参戦してきているのは、無事に幹比古をリバースさせることに成功していたからである。

そうして、クルーザーによる船旅が終わり、無事に別荘へと来ることが出来た。

 

 


 

 

なんやかんやで別荘に着いた一行は、早朝からの船旅の疲れをとるという目的で、初日の午前中は部屋で過ごすことにした。

そしてその部屋割りだが…

 

 

「…孔明の罠か!?」

 

 

男性陣、女性陣と分けられているのに、何故か雫と総司だけ同室なのだ。別に総司に文句がある訳じゃない、どちらかと言えばウェルカムだ。しかしこの明らかに意図的な割り振りに孔明の罠を感じずにはいられなかったのだ。

 

 

「…どうしたの?総司君」

 

「俺のハートが火を見るよりファイアーレベルに熱くなってるんだよ」

 

「ふふ、それはよかった」

 

「まさか…雫ちゃんは孔明…?」

 

「フフフ…」(暗黒微笑)

 

「かてない…」(白目)

 

 

知らないのか、雫からは、逃れられない。

 

 

「だが勿論ベッドは別々…」

 

「ベッドはダブルが一つだし、お風呂も一緒に入るよ」

 

「……」

 

 

総司の脳内は、「俺、まだ告ってないんだけど…ないよな?」と言った、困惑で満ちていたのだった。




魔法科世界の秘匿通信


・総司と雫が付き合ってないくせにラブラブなことは学校では秀知院学園の生徒会メンバーより周知の事実である。


・部屋が同じなのは雫と黒沢さんの共謀。潮さんもナイス!と言っています


夜の描写が楽しみですねぇ!?(そこまでエロくするつもりはない。)


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夏休み編 その二

負けないで総司!貴方が誘惑に負けたら、告白前に雫ちゃんの旦那になることが確定してしまう!
大丈夫、まだチャンスはある。初日の内に告白すれば、何の問題もないんだから!


「たしけて…」

 

「終わったな総司。人生の墓場に今日から埋められる気分はどうだ?」

 

「人生の墓場って言うけど人生終わったら基本墓場行きじゃね?」

 

「言うな」

 

 

昼食を取り終わり、皆でビーチに行こう!となって数分。男性陣は着替えが早いので先にビーチまで来て、女性陣を待つという形と相成った。

そんな時、情けない声音で救いを求めるのは総司だ。彼はつい先程孔明の罠にはまり、夜にあからさまなピンチが訪れる事が確定してしまっていた。救いを求められた達也はもう他人事の気分で話を聞いている。どうやら助けるつもりはないようだ。

 

 

「そもそも総司お前、雫の事が好きなのだろう?」

 

「勿論、この世で最も雫ちゃんを愛しているぞ」

 

「なら何の問題もないな、解散!」

 

「ちょっ」

 

 

聞き耳を立てていたレオと幹比古も明らかに自分達の管轄外の話題には首を突っ込めず、達也の解散の一言にその場から逃げだそうとした。解散してるからね、しょうがないね。

だがこの高速移動マシーン総司からは逃れられなかった。達也を右腕で、幹比古を左腕で、レオの首から下全部を砂に埋めて三人を捕獲した総司は話を続ける気満々だ。

 

 

「オレの扱いひどくね?」

 

「一番堅いやん」

 

「なるほどな」(?)

 

 

三人を捕まえた総司は、逃げ出そうとする二人(レオは完全に身動きが取れなくなっている)の抵抗を受けてもびくともせずに話を続けた。

 

 

「確かに雫ちゃんの事は愛しているけどさ!別に婚前交渉をやぶさかではないしむしろしたいけどさァ!?まだ告ってねぇーんだよ!付き合ってもねぇーんだよ!」

 

「婚前交渉?普通にセ○クスと言えばいいんじゃない?」

 

「オイこら幹比古ぉ!子供の情操教育に悪いでしょうがぁ!」

 

「子供いないじゃん…」

 

「そうだったわ…スマン、孤児院でのクセが…」

 

「ああ…」

 

 

総司が暮らしていた孤児院は、その設立理由から総司が一番古参だ。故に上の年齢の子にも劣らないリーダー的立ち位置であった為、小さい子達の健全な情操教育の為隠語を多用するクセがついてたりするのだ。後、ストレートな表現を咎めるクセも。

達也は「割と苦労してきたんだなぁ、高校でもその苦労を思い出して自重してくれないかなぁ…」と思った。

 

 

「ともかく!俺はまだ雫ちゃんと付き合ってないんだ!そもそもこの旅行で告るつもりなのに何であんな罠を…!?」

 

「雫としてもさっさと答えが聞きたいから初日に告らないと襲っちゃうぞベイベーってことなんじゃないか?」

 

「達也がベイベーって言った…!?」

 

「クソッ!今日は夜をハラマスコイ踊りで乗り切るしか…!」

 

「なんでその思考に行き着くんだよ!?つーかハラマスコイ踊りってなんだ!?」

 

「ハラマスコイ踊りはハラマスコイ踊りだろ」

 

「知らねーよ!?」

 

「レオは無知なんだなぁまったく」

 

「俺だけじゃなくて全員知らねーだろ!」

 

「そんなはずはない。なあ幹比古、達也」

 

「そうだね、ハラマスコイ踊りは伝統的な儀式で…」

 

「ハラマスコイ踊りの起源は数百年前の…」

 

「ホントにあるのかよ!?」

 

「実践してみてくれ、総司」

 

「ハラマスコ~イ」

 

「うん、完璧なハラマスコイ踊りだね」

 

「かなりハラマスコイを感じたな」

 

「こんなヘンテコな踊りが実在するって嘘だろ…?」

 

「「「嘘に決まってるだろ」」」

 

「結局嘘じゃねーか!ていうか幹比古はともかく達也までボケられると真偽が分からなくなるんだよ!」

 

 

総司のボケのに反応してしまったレオは哀れ、三人からボケ倒されてツッコミを総受けしてしまった。どうやら達也達はボケた方が労力を使わないことに気づいたらしい。

 

 

「お兄様~!」

 

「ゲッ、もう来たのか女性陣!まだあの寝室に仕掛けられた罠の対処法が出てないっていうのに…!」

 

「お前がボケまくって話が一向に進まないのが悪いんじゃないか?」

 

「スマン」

 

 

結局総司を救い出す案は出ず、やってきた女性陣と合流する男性陣。

 

 

「遅れてすいません達也さん…ってレオさんなんで埋まってるんですか!?」

 

「これはかくかくしかじかで四角いムーブなんだよ…っておいエリカ!ちょっ、おい、蹴るな蹴るな!ヤメロ!」

 

「まるまるうまうまチョコボール、なるほど、総司には玩具を作ってくれたことに感謝しないとね」

 

「どうかしました吉田君…?私何かしてしまったでしょうか?」

 

「いや違うんだ柴田さん僕は別に君を避けている訳じゃないというか避けてもチラチラ目に入るというかやめてやめて近づかないで!」

 

 

レオがエリカの玩具にされ、幹比古が美月の無自覚によってピンチに陥るこの状況、「大変だな向こうは…」と諦めたかのような視線でそれを眺めていた達也はふと疑問を持った。

 

 

「深雪、雫と総司はどこだ?」

 

「え?雫と総司君ですか?雫は一緒に来ましたし、総司君は先程までお兄様達と一緒にいらして…」

 

 

と深雪が周囲を見渡し、達也も釣られて見渡してみた。すると…

 

 

「…え?きゃっ!」

 

「こ、これは…」

 

 

達也と深雪の視線に映った物とは…!

 

 

 

 

 

「「……」」

 

「「し…死んでる!」」

 

 

顔面を赤い血で染めながらぶっ倒れてる雫と総司だった。

 

 

「ま、まさか賊!?あの総司君ですら何も出来ないまま…!?」

 

「…いや深雪、二人の血の出所をよく見てくれ」

 

「出所ですか?…あ」

 

 

倒れている二人はそろって同じ場所から出血していた。

 

 

「これって…」

 

「ああ…鼻血だな」

 

 

そう、鼻だ。お互いの水着姿を視認した瞬間に盛大に鼻血を噴射した二人は仲良く砂の上で横たわっていたのだ。

その二人に司波兄妹以外のメンバーも気づいたのか、揃ってこちらに向かってくる。レオはどうやらほのかとなんだかんだでエリカに救助されたようだ。

 

 

「何これ、殺人現場!?」

 

「そんな訳ないだろう。総司を殺せるとは思えないし、雫を殺そうとすることは総司が許すはずがない。これは単なる自爆現場だ」

 

「ホントだ、二人とも鼻から出血してんじゃん」

 

「鼻血で倒れるとか結構ヤバイ状況なのでは…?」

 

「柴田さん、この二人を常識で語ろうとしてはいけない」

 

 

全員が気づいて二人を見下ろしたとき、二人は揃って手を上げてこう言った。

 

 

「「我が人生に…一片の悔い無し…ガクッ」」

 

「し、雫ー!?」

 

「ガクッって口で言ってる人あたし初めて見たんだけど…」

 

「…本当に似てきたな」

 

「ですね、雫が楽しそうで何よりです」

 

 

慌てふためくほのか、呆れるエリカの先で二人して気絶している馬鹿共を見て、達也は「学校が再開したら更に酷い事になりそうだな…」と思っていたのだった。

 

因みに五分後ぐらいに二人同時に覚醒した。

 

 

 


 

 

二人が目が覚めてしばらく。達也が泳ごうとしてパーカーを脱いだ時に体に無数の傷跡がある事が発覚した後。レオ、幹比古、達也が遠泳競争をしようとしたとき、それは現れた。

 

 

遠泳(サッカー)やろうぜ!」

 

「お前は論外だ」

 

「第一回にして殿堂入り」

 

「刷られた瞬間から禁止カード」

 

「何だよつれねーな」

 

「お前は遠泳より先に雫の夜這い対策でも考えておけ」

 

「ははは、達也君は現実を見せるのがお得意のようで」

 

「正直すまないと思った」

 

「いいよ」

 

 

等と仲良く会話していたが、結局参加は認められなかった。他のメンバーがゴールする直前にスタートしても一位になりそうなチート野郎に参加権は無い。

 

 

「ホントひで」

 

「しょうが無いんじゃない…?」

 

 

波打ち際から少し離れた場所に立てられた傘の中、総司の愚痴に雫が当然の反応をする。因みに今の総司はナチュラルに雫の膝枕を堪能している。お前そういうとこやぞ。

 

 

「っていうか雫ちゃんは泳がないの?」

 

「ううん、ちょっとし忘れたことがあって」

 

「ほう?」

 

「サンオイル塗ってなかったなって」

 

「…ウッ!急に持病の仮病が悪化した!」

 

「総司君、塗ってもらえる?」

 

「ボケをスルーされると俺は無力だ…」

 

 

などと平静を保って会話する総司だが、内心「これよく見る奴やん!(宮川大輔)」とドッキドキであった。

そんなのはお構いなしに雫はスルスルと水着の紐を緩めながらうつぶせになった。ドキドキの内心のままオイルを雫の体に塗っていく総司。

 

 

「…これぐらいでいいか?」

 

「…何言ってるの?お尻の方とか塗ってないでしょ」

 

「ダヨネ~…」(砂夫)

 

 

明らかに誘われてる感に総司は白目を剥く。「あかんこれ、あかん。ほんとにあかん」などと語彙が蒸発した脳内はひたすら煩悩を打ち消しながらオイルを塗って…

 

 

「あっ♡…!」

 

「っっっっっっっっ!」

 

 

総司は自身の心臓が一瞬止まったと確信した。手の当たり所が悪かったのか嬌声を上げてしまった雫を見て、襲ってしまいたいという欲が出てきそうになったために本能的に一瞬だけ仮死状態になってそれを誤魔化したのだ。

そんなハプニングもありつつ何とか塗り終わった総司。

 

 

「はあ、はあ…終わったぞ…」

 

「ありがとう総司君。じゃあ次は前だね」

 

「ファッ!?」

 

「ふふっ、うーそ♪」

 

 

と小悪魔的台詞の後、そのまま雫は女性陣が集っている場所へと向かっていく。

 

 

「…ホントに、敵わないなぁ」

 

 

総司はそう呟くと、静かに瞳を閉じたのだった。




魔法科世界の秘匿通信


・応答が無い、ただの屍のようだ




お兄様がボケの世界に片足突っ込んでしまった…!
というかぶっちゃけ桐原先輩とかよりも達也が遙かに動かしやすいんですよね。なんでだろ…

さあ、総司君の告白が先が、二人のまぐわいが先か見物ですね!


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夏休み編 その三

リロメモのガチャで早速水着とか運営やってんねぇ!


あ、Twitter始めました。本小説関連とかリロメモ関連とかつぶやきますのでよろしく。
オラとフレンドになってくんろ。忙しいから返信なかなか出来ないですけど


ワイのアカウントやで

https://twitter.com/ILoveSizukutyan


遠泳競争を終え、岸に上がって来た達也達に総司が話しかけた。

 

 

「俺今日童○卒業するわ」

 

「どうした急に」

 

「そもそも今日は自分から行くか向こうから襲われるかの二択で結局卒業できるじゃん。総司はどっちで卒業するって言いたいのさ」

 

「決まってるだろう幹比古。総司は後者の方で卒業するんだ」

 

「決めつけんな達也」

 

 

総司曰く、彼はとうとうリア充になると言いたいらしい。

 

 

「いやさ?俺も結局雫ちゃんの事が好きだからさ?向こうがここまでしてくれたらいくら鈍感な俺でも気づくと言いますか…」

 

「むしろ気づかなかったらお前、帰ったら精神科行きだぞ」

 

「精神科なんて大分昔に行ったわ」

 

「経験済みでしたか…」

 

「ともかくさ、俺は今日雫ちゃんに告白しようと思うんだ」

 

「そうか、今行け」

 

「なして?もっと雰囲気が良いときとかさ…?」

 

「多分今告っても雫の奴、『うん、知ってる。私もだよ』とか普通に言いそうだな」

 

「何時告っても結果は変わらん。さっさと行け」

 

「結果が変わらなくてもタイミングがさぁ!?」

 

 

いつも総司に迷惑をかけられている三人はここぞとばかりに揶揄う。今のうちに揶揄っとかないともう反撃できる機会とかそうそう訪れないであろう事は明白なので致し方なし。

 

 

「じゃあ夜に告白だろ。折角ビーチに来てんだ、夜の月明かりの下の砂浜で二人は愛を確かめ合った…みたいな」

 

「「「レオってロマンチスト?」」」

 

「別にそういうつもりじゃねえぞ?」

 

「夜の砂浜か…確かに良いな!ありがとうレオ!このお礼はいつか精神的に!」

 

「物理的にしろ!」

 

「じゃあ次は告白の言葉か?」

 

「それぐらい自分で考えとくよ」

 

「愛してるだけで成功するよ」

 

「そんな軽くで済ましてたまるか」

 

 

そんな話をしながら男性陣は女性陣と合流するべく歩き出した。

 

 


 

 

夕食はバーベキューとのことで、レオと幹比古はひたすらに食べていた。昼の遠泳に続いて勝負しているらしい。今回は達也は参加していない。総司も雫と二人で食べさせ合いをしていたので混ざる気は無い様子。だが時既に幹比古の限界を知らせていた。

 

 

「ミキ、男なら根性見せなさいよね」

 

「その思想大分古いよ…!あと僕の名前は幹比古だ!」

 

「レオさん、苦しくないんですか?」

 

「余裕だぜ。この倍くらいは食えるな」

 

 

勝負を横目に達也と深雪とほのか、雫と総司のグループに分かれたメンバーはゆったりとしたペースで食べていた。

 

 

「どう総司君、美味しい?」

 

「ああ、素材が良いというのもあるが、友達と海辺でこうワイワイやってる感も相まって最高に美味いな」

 

「それはよかった。じゃあ、あ~ん」

 

「あ~ん…おお!この肉も美味いな!」

 

「ふふっ、でもお肉ばかりじゃ無くて、野菜も食べなきゃね?」

 

「雫ママ…?」

 

 

そんな二人をほのかが羨ましそうに眺めていた。

 

 

「ほのか、どうしたの?あの二人を見ていても口から砂糖が出てくるだけよ?」

 

「あっ、いや何でもないの!何でも無いから…」

 

「?」

 

 

明らかに様子のおかしいほのかに違和感を抱く深雪。ほのかの視線はどこか一点をチラチラ見ているようだった。深雪も釣られてそちらに目をやると…

 

 

「(…ああ、そういうことね)}

 

 

ほのかがチラチラ見ていたのは達也だった。大方総司と雫のやりとりをみて自分もやってみたくなったのだろう。だがあの二人の距離感が異常なのはほのかも理解している。絶賛雫を肩車しながらエイサイハラマスコイを踊る総司を見ながらほのかはため息をつく。自分も達也さんとあの二人みたいになれたらなぁ…と。しかしそれは敵わない。ほのかは達也の事が好きだが、最早既に愛と化している総司達のお互いを思う気持ちには到底及ばない。ほのかが奥手なのも相まってチラチラと達也と総司達を交互に見るしかなかった。

 

 

「ほのか、お兄様を誘ってみたら?」

 

「えっ…?」

 

「別に私に気を遣わなくて良いわ。お兄様とご一緒したいのでしょう?」

 

「…分かった、達也さんに言ってみる」

 

 

敵に塩を送る形となった深雪。ほのかが達也を誘うことに成功し、一緒に仲睦まじく食事をとっているのを見ても、深雪の心は凪いでいた。お兄様は最後には私を選んでくださる…そんな正妻の余裕と言うべきものが深雪にはあったのだ。

 

様子を見るに総司と雫は今日どちらかが仕掛ける。お互いがお互いを想っていることなど明白だ。告白の成功率は100超えて一億%はあるだろう。自分達のグループの中にカップルが出来れば、その雰囲気がグループ全体に広がるだろう。ここ最近仲が良さそうな美月と幹比古が交際を始めるかもしれないし、レオとエリカが…なんてこともあるかもしれない。

だがもしそうなったらほのかはどうなる?総司と雫、達也と深雪、幹比古と美月、レオとエリカ…仮にこの四つの関係が成立したとして、ほのかは誰と付き合うのか?誰をパートナーとして見初める事が出来るのか?ここで達也がほのかに奪われる可能性を万に一つも考えない辺り流石深雪と言ったところだが、それでも深雪にはほのかの相手が想像も出来なかった。このグループの中で同じ内容で相手を想像できる者は一人を除いていない。達也だって想像できないし、親友の雫にも分からないだろう。それか達也が横にいるかしか思いつかない。

深雪はあずかり知らぬ所だが、実は総司のみ早期に相手になりそうな人物を予想していた。達也は勿論だが、総司にとって唯一の後輩とも呼べる人物の好みとほのかの人となりがかなり一致していることに気づいていたので、『来年が楽しみだな~』とか思ってる。

 

すると総司達の騒がしさがやんだので、深雪がそちらに目をやると、総司がいつになく真剣な表情で雫の方を見ていた。

 

 

「雫ちゃん、話があるんだ。…ちょっと歩かないか?」

 

 

そう言って総司は雫を連れて離れていった。

 

 

 

 


 

 

バーベキューをしていた場所から少し離れた砂浜。日はもう沈み、満月と言って差し支えない月が夜空に浮かんでいる。

 

 

「それで、総司君。話って何?」

 

「…分かってるくせに」

 

「ふ~ん?私、分からないかもしれないな」

 

「それはないでしょ」ポコッ

 

「あ、いた」

 

 

二人の仲の良さそうな会話が続く。だがそれも次第に止み、最早耳に入るのは風のせせらぎと海の音だけだった。

二人は砂浜に三角座りをして並んだ。そんな中総司が雫に問いかける。

 

 

「なあ、言う前に聞くことじゃないってのは分かってるけどさ、雫ちゃんはいつからなの?」

 

 

ズルい質問だ。これはすなわち、『いつから俺のこと好きになったの?』と聞いているのだ。告白前にこんな質問とは卑怯な男である。

 

 

「…出会ってすぐかな。気になったのは…校門前でのイザコザの時にそれを止めた君のアッパーからだと思う。最初はちょっとした興味本位だったけど、貴方を見ている内にその興味は恋に変わっていって、二人で散歩したあの日、親友だって言ってくれたあの日から、私はその親友以上を望むようになったの」

 

 

雫が思い出を振り返るかのように眼を閉じてその場面を思い返しながら話す。まだ出会って五ヶ月程度だが、その分二人で過ごしてきた時間はいつも濃密だった。ほのかと一緒の時、いやそれ以上に楽しい日々の記憶は今も昨日のように思い出せる。

 

 

「じゃあ、総司君はいつからなの?」

 

 

この質問が来るのは当然だろう。自分だけ聞いといて、こちらが得をしないのは不公平だ。雫も総司と同様に、彼がいつから自分を想ってくれるようになったのか、如何しても聞きたかったのだ。

 

 

「本当に申し訳ないけど…自覚したのは九校戦の時、クラウド・ボール終わりに紗耶香先輩からのアドバイスでやっと気づけたんだ」

 

 

総司の顔には申し訳なさが窺えた。どうやら雫の気持ちにその時までずっと気づけなかったことに対する罪悪感らしい。

 

 

「俺、親友が雫ちゃんしかいないんだよ。後輩ならいるけどさ、アイツはもう弟子みたいな感じで親友じゃ無かった。雫ちゃんが俺に向けてくる感情は、親友という関係性がもたらすものだとずっと考えてきた。馬鹿だよなほんと…」

 

 

グシャグシャと頭を掻きむしる総司。

 

 

「紗耶香先輩に気づかされて、モノリスの日まで考え抜いて、自分の気持ちが恋…いや愛なのだと理解出来た。あの時武明先輩の妨害があった後、すぐに告白し直そうとした。でもその時の俺の心臓はバックバク言ってた。君の気持ちに気づいていながら、自分の気持ちを伝えられない、ヘタレな男だよ俺は…」

 

「そんな事無い。私は、貴方が卒業まで気づかなかったら、この想いをずっと持ち続けることにしてた。貴方に伝えようともせずに。私も勇気が無かったんだよ」

 

 

しばらく見つめ合う二人。

おもむろに総司が立ち上がりこう切り出した。

 

 

「…今夜の月は綺麗だな」

 

「!」

 

 

このフレーズはかの夏目漱石でも有名な、月が綺麗ですねをIloveyouに訳した伝説のフレーズだ。だが総司が口にした言葉はそれだけでは無かった。

 

 

「俺にとって雫ちゃんは月よりも、太陽よりも、どんなものよりも輝いて見える!だからさ…」

 

 

その言葉に込められるは愛。誰よりも、目の前の相手を強く想う気持ち。総司は、その気持ちを自分の望みと共に放つ!

 

 

「俺の命が尽きるまで、君のその輝きを傍で見守らせてくれないか!?」




魔法科世界の秘匿通信


・ちょくちょく出てくる『後輩』は原作キャラ。雫ちゃんと並んでキャラが変わってる奴ですね。ヒントは原作でほのかに好意を寄せてるキャラ


・作者は彼女いない歴=年齢



返事は次回ということでね、ハイ。返事しても夏休み編は続きます。


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夏休み編 その四

仮に総司君がリロメモのOPに出てたら、壬生先輩が出てきて、将輝君が出てきた後の呂剛虎の代わりに出てきて、達也が真由美さんの魔法を消したところで深雪ちゃんの氷柱を拳でぶっ壊してると思います。


今回は正直作者の文才不足が目立つので、次回から加速するギャグとの繋ぎと思ってもらって。


雫は、総司からの言葉に目をパチクリしていた。

総司は今日、告白をしてくるのでは無いのか。これでは丸で、プロポーズ…?だが脳味噌カッスカスの総司の事だ、どうせ自分の台詞が告白よりもプロポーズに近いなんて思っていない。そう考えて雫は総司に問いかけた。

 

 

「…何それ、プロポーズみたい」

 

「みたいじゃなくてその通りだ」

 

「ふぇ?」

 

 

だが総司からの予想外の言葉に変な声が出る。同時に自分の顔が紅潮していくのを感じる。

まさか勘違いや間違いでは無く、本当のプロポーズだったとは。雫はその事実に硬直してしまう。そんな雫の様子を見て、疑われていると勘違いした総司が雫に声を掛ける。

 

 

「俺は、今君にプロポーズをしたんだ。分からないのなら何度でも言って…」

 

「ま、待って!い、いつからプロポーズするつもりだったの?」

 

 

そう。総司は今まで「告白する」と言ってはばからなかったではないか。総司がこう言うものだから、雫も今日ついに告白されるのか…と楽しみにしていた。そんな雫の耳に飛び込んで来たのは、告白以上の、今だけでなく一生を誓おうとする愛の言葉だった。嬉しくないとは言っていない。むしろ告白よりも遙かに喜びを雫にもたらす言葉だ。まだ法的に結婚できないとはいえ、ここで雫が了承をすれば、二人は夫婦となる。

 

雫としてもそれは望むところだ。だがその前に、いつからそのプロポーズをすると決めていたのかを知りたくなった。

 

 

「九校戦のモノリスが終わった後に会場の裏で二人で話していたときからだ」

 

「えっ!?」

 

 

なんと、総司は九校戦の時からプロポーズをするつもりだったようだ。つまりあそこで桐原が妨害しなければ、一高にはラブラブカップルでは無くラブラブ夫婦が爆誕していたことになる。

 

 

「で、でも、さっきまで達也さん達には告白をするって…」

 

「プロポーズは相手と一生を添い遂げたいという想いを『告白』する行為だ。俺は嘘は言ってないぞ」

 

「そ、それは…!」

 

 

告白の意味の一つは、『秘密にしていたことや心の中で思っていたことをありのまま打ち明けること』である。確かに広義的に言えば、プロポーズも告白の一種だ。総司は誰にも嘘はついていない。

狼狽する雫を見て、総司はニヤリと笑って問いかけた。

 

 

「ところで、返事はまだかな?こちらとしては受けてもらえるか緊張でドッキドキなんだが…」

 

「っ!…今の総司君は意地悪」

 

「ごめんごめん」

 

 

お互いの気持ちなど先程確かめた。ここで雫が返す返事など一つだけだ。

 

 

「よろしく…お願いします…」

 

「うん、これからもよろしくな雫ちゃん」

 

「これからどころか、一生一緒だから…」

 

「そりゃそうだ」

 

 

二人は微笑み合いながら月明かりに照らされたお互いの顔を近づける。

直後に聞こえた唇が重なる音は、海の波に流されたが、それでも確かに二人の記憶の中に残ることだろう…

 

 

 


 

 

ー翌日

 

 

「…くちゅん!」

 

 

朝食の席に響いた可愛らしいくしゃみ。それは雫のものだった。

 

 

「どうしたの雫?風邪でも引いた?」

 

「大丈夫、昨日ちょっと()()()()()()()()からさ」

 

「そうなの?しっかり着ないとダメじゃない」

 

「うん、気をつける」

 

 

端から聞けば親友同士の何気ない会話だ。だが…

 

 

「「「「「(…絶対二人ともヤることヤってるー!)」」」」」

 

 

とほぼ全員に昨日の晩の出来事を予想されていた。恋愛にまだ疎いほのかと、全体的に鈍感な美月は気づかなかったが、他のメンバーには昨日部屋で何があったかなどバレバレの様子だ。そもそも二人がバーベキューをしている場所に戻ってきたときに手を繋ぎながら戻ってきた時点で告白を成功させてきた(総司達以外は二人が恋人になったと思っている)のだと察していた。

午前中は同じ部屋で寝ることをビビりまくっていた総司だが、それは付き合っても無いのに雫と交わる事に抵抗感があったからで、付き合ったとなればその抵抗感が無くなり、むしろウェルカム状態だ。となれば総司も遠慮をする必要が無い訳で…

 

 

「…おい総司さんよ、恋人と一晩を明かした感想はどうだい?」

 

「すっごいやわらかかった」

 

「語彙が蒸発してるな…」

 

「やっぱりヤってるよねこれ…」

 

 

男性陣が総司を囲んで昨日の感想を聞き出そうとする。レオは興味本位でからかい続け、幹比古はどちらかと言えば告白の際の話を聞きたがる。達也はと言うとやけに女性側の反応を聞き出そうとしていた。恐らく将来深雪と…いや、何でもない。

総司は昨晩から思考が死んでいるので、全く話にならないが。

 

 

「総司君は告白してくれたの?」

 

「うん、すっごいかっこ良かった」

 

「夜の砂浜で告白…ロマンチックですね~」

 

「いいな~雫、私だって達也さんに…」

 

「…雫の話を聞いていると、総司君がしたのって告白と言うよりプロポーズじゃ…?」

 

「「「…え?」」」

 

 

対する女性陣は昨晩の話を全く質問せず(ほのかと美月がいるからかもしれないが)、告白の話を雫から聞き出していた。そして当初深雪、ほのか、美月の三人は乙女心全開で「いいな~」とか思っていたのだが、エリカの発言にハッとさせられて全員で雫を見つめる。

まさか昨日、恋人になったのでは無く、夫婦になったのか?と言外に伝えていた。それに雫は…

 

 

「…ふふっ♪」

 

 

とだけ返した。

 

 

「…マジ?」

 

「私達の年で、結婚は出来ないはずじゃ…」

 

「別に今すぐ正式な夫婦になるわけじゃないよ。とはいえ、二年の千代田先輩と五十里先輩達みたいに許嫁同士でも無い…事実上の夫婦ってところかな、今は」

 

「でも、雫さん達とってもお似合いですよ!」

 

「ありがとう、美月」

 

「…私もお兄様とそんな関係に…」

 

 

一方でやっと会話出来るようになった総司から告白は告白でもプロポーズだったと言うことを聞いた男性陣は…

 

 

「段階すっ飛ばしすぎじゃね?」

 

「付き合ってないのにその段階を全部終了してたんだよ」

 

「…事実上とはいえ、学生結婚とは。本当に驚いたよ…」

 

「別に珍しいことじゃないだろう?魔法力を高める為に名家の人間が嫁いだりするのは一般的だからな。雫はあのホクザングループ会長の娘だし、総司だって養子のようなものとはいえ九島として十師族に属しているんだからな」

 

「だからって昨日までカップルですら無かった二人がいきなり結婚しましたなんてスピード結婚どころじゃ無いぞ!」

 

「ほぼカップルだっただろ」

 

「そうだったわ…」

 

 

とレオは回想した総司達がいつもお互いが恋人のような接し方だったのを思い出す。達也は二人の事実結婚を特段不思議に思わず、幹比古も吉田家の出であるため、ある程度の理解を示した。

 

 

「じゃあ帰ったら家族に報告するのか?」

 

「ああ。潮さん達は俺の事を認めてくれてるみたいだし、九島も相手がホクザンの娘だと知ればデメリットよりもメリットを優先するだろうから、すぐに終わりそうだがな」

 

「それが終わったら?」

 

「引っ越しします」

 

「ふーんなるほど引っ越し…え!?引っ越し!?」

 

「昨日二人で話しててな。両家に報告が終わったら二人で同居しようって…」

 

「もう付き合ってないとかのストッパーは無いし、それ以上になってしまった二人だ。好きにすれば良いんじゃ無いか?」

 

「達也もう面倒くさくなってるでしょ」

 

「バレたか…」

 

 

やがて総司は席を立ち、「手洗い行ってくるわ」といって歩み出す。その時、すれ違いざまに達也の耳元で総司は呟いた。

 

 

「…ほのかちゃんからの気持ちには早めにケリを付けた方が良いと思うぞ」

 

「…!」

 

 

そして総司は欠伸をしながら部屋を出たのだった。




魔法科世界の秘匿通信


・後日、雫を訪ねたほのかが玄関で上裸の総司と遭遇してしまい気絶する事件があったとか何とか



次回ぐらいまで夏休み編です。ギャグを加速するぞ!


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夏休み編 最終話

夏休み編は原作ではまだ続いてた気もしますが今回で終わりにします。

今回ちょっとメタが多い希ガス


「明日でこの旅行も終わりか~何かあっという間だったな。色々あって時が一瞬に感じられたよ」

 

「「「ご結婚おめでとうございました」」」

 

「おい男衆、揶揄ってるならその頭に拳骨叩き込んでたんこぶで鏡餅を作ってやろうか?」

 

「「「「ご結婚おめでとうございました」」」」

 

「ほらお前らが馬鹿なこと言うから女性陣も乗ってきちゃったじゃん…え?美月ちゃんってそういうこと言う人だっけ?」

 

「いえ、別にどこかの世界の私が理不尽に気絶させられたからって、その憂さ晴らし代わりに揶揄いに乗った訳じゃ無いんですよ?」

 

「別の世界…?」

 

「しかも水着を着ていた時にで気絶させられて何されたとかも特に気にしてませんし」

 

「柴田さんそこを詳しく」

 

「それって気にしてる人の言い方よね…」

 

「…あれ?そう言えばあの世界には総司さんがいなかったような…?」

 

「それ以上はいけない」

 

「いやまだ絶対いけるよ」

 

「雫ちゃんは吸血鬼だった…?」

 

 

旅行も終盤のこの日。一同はすっかり総司を結婚ネタで揶揄うのにハマっていた。以前も言ったように、学校が始まれば慣れてしまい弱点が無い生物兵器が誕生してしまうので、今のうちに楽しんでおくのが美月を除いた一行の考えだ。

そんな面子の中でも良心である美月。しかし謎の爆弾を抱えてきてしまったせいで総司が生存の危機に陥ってしまった。総司が存在しない世界など無い、いいね?

雫が日光も流水もニンニクも大丈夫なキューティーな吸血鬼である事が判明した(してない)後、総司達は今日は何をするかを相談していた。

 

 

「ビーチバレーとかどう?」

 

「今度は魔法ありで遠泳競争とか!」

 

「それ泳ぐより走った方が速い説あるよ?」

 

「遊☆戯☆王」

 

「却下」

 

「考慮ぐらいしろよ達也…」

 

「ボートに乗ってみたりする?」

 

「いいわねそれ!私はボートに一票を入れますお兄様!」

 

「ブリッツボール」

 

「却下」

 

「考慮ぐらいしろって達也…」

 

「変な物ばかり提案するからだろう?というか遊戯王はまだしも、ブリッツボールってなんだ?」

 

「これもエボンの賜物だな…」

 

「ワッカの話はもういいから総司君。「しょぼん…」で?結局どうするのよ達也君?」

 

「俺はお前が総司のネタを知ってた事に驚愕を覚えているんだが…?」

 

「うっさいわねぇ、体はデカいクセして細かいこと気にしすぎなのよアンタ。」

 

「なにおう!?」

 

「やめなされやめなされ…喧嘩は宜しくないでござるよ…」

 

「チャキ丸でも持ってるの総司君?」

 

「いえ、チュンチュン丸です」

 

「メイン盾なのにビビりっぽい名前だね…」

 

「早く決めないと日が暮れてしまいますよ達也さん!」

 

 

総司の妨害により一向に話が進まなかったが、達也達はボートに乗って遊ぶ事で何とかまとまった。

 

 

「ボートに乗りながら遊戯王をすれば…それは実質ライディングデュエルなのでは?」

 

「アクセラレーション…!」

 

「俺のブリッツボールデッキ(?)にひれ伏せ…!」

 

「「アクセルシンクロォォォォ!」」

 

「は~い、あの馬鹿夫婦は放っておいて、さっさとボートに乗るわよ」

 

「ボート乗るならその馬鹿夫婦の嫁の方に頼まないといけないぞ」

 

「わ、私が雫に声を掛けてきます!雫~!ボートの場所教えてー!」

 

「うん…でも、今ちょっと忙しいの。代わりにアルフレッドに場所を聞いておいて」

 

「黒沢です」

 

「うん、分かった!アルフレッドさん!ボートに乗らせてください!」

 

「黒沢です」

 

「よろしくお願いします、アルフレッドさん」

 

「黒沢です」

 

「頼みましたよ黒沢さーん!」

 

「アルフレッドで…ッ!?」

 

「勝ったな」

 

「スキドレ勅命虚無で」

 

「負けた…」

 

「禁止二枚入れてるじゃん…」

 

 

と言うことで黒沢…改めアルフレッドがこの扱いに不服を感じながら、一行をボートまで案内してくれたのだった。

 

 


 

 

「ボートに乗りながらゆっくり海を眺めるのも悪くないわね…」

 

「ゴリラみたいなお前が言うと不自然だな」

 

「ゴリラそのものに言われたくないわよ!」

 

「んだとォ!?」

 

「相変わらずレオ君とエリカは仲が良いわね」

 

「確かに喧嘩するほど仲が良いとは言うな」

 

「流石にボートの上でも喧嘩するのはどうかと思いますけど…」

 

 

何を思ったか、同じボートに乗ったレオとエリカ。その二人が喧嘩しているのを三人乗りのボートに乗る深雪、達也、ほのかが眺めている。

 

 

「俺のターン!隣の芝刈りを発動!よし通った!俺のインフェルノイドの底力見せてやる!」

 

「手札からアーティファクト・ロンギヌスを捨てて、このターンお互いにカードを除外出来なくするよ」

 

「……」

 

「ああっ!総司の顔が、某インクレディブルの人が絶望したときの顔の三段階目ぐらいに!」

 

「サレで…」

 

「どうして総司さんは降参したんですか?私はあのゲームのルールを知らないからよく分からないんですけど…」

 

「具体的には北山さんが捨てたカードで総司の動きが完全に封じられたからかな」

 

 

三回連続で敗北したデュエリストに人権は無い(偏見)。総司はこの後雫にペットのように膝の上で撫で回される事だろう。

 

 

「そう言えば深雪、お前七草先輩と一緒に水着を買いに行ったのか?」

 

「?何故そのような事をお聞きになるのですか?」

 

「いや、七草先輩とお前の水着のデザインが同じように見えたからな…」

 

「へえ~?お兄様は深雪を放っておいて、お胸の大きな可愛らしい先輩とお二人で遊ばれていたのですね?」

 

「達也さん…?」

 

「待て深雪、ほのか。誤解だ、話を聞いてくれ」

 

「ここは一階だぞ達也」

 

「そういう五階ではないし、外だから一階でもないだろ!」

 

「お兄様…詳しくお聞かせ願えますか…?」

 

「私も…興味があります…」

 

「お、おい?深雪?ほのか?おーい?」

 

「あのボートでの争いはどっちが勝つと思う?私はほのかと深雪が勝つに一万賭ける」

 

「俺達也が勝つに一億ジンバブエドルで」

 

「絶対に達也が勝てると思ってないでしょ…」

 

 

皆さんのご想像通り達也が海の藻屑となった辺りで、夕食の時間になり、皆が岸へと向かって行く。ここでどのボートが一番に岸へ戻れるか、スピード勝負と相成った。雫を抱えて海の上を走った総司は勿論失格として、幹比古達のボートは途中で操舵手の幹比古が美月の豊満な胸部装甲に当たってしまい、鼻血を出してノックダウンし減速。レオとエリカは何時も通り喧嘩して中々進まないわ、深雪とほのかもお互いに冷たい火花を散らしあってるわで決着が付かず、最終的に藻屑となっていた達也が一番最初に戻ってきた判定になった。

 

 


 

 

「酷い目にあった…」

 

「そんな落ち込みなさるな!よっ!一等賞!」

 

「ここまで嬉しくない賞賛が他にあるか…?」

 

 

夕食を終え、しばし部屋で遊ぶ各人。雫と総司はお互いに友人達の部屋に遊びに来ていた。

そんな中、まだ怒りが収まっていなかった深雪とほのかに「あーん」を百回以上された達也のフォローを総司が担当する。世界で最も信用しがたいフォローだ。

そんな中、唐突にレオが切り出す。

 

 

「そう言えばさ、幹比古って、美月の事好きなのか?」

 

「どうした急に」

 

「えっ!?そそそそそそそそんなことある訳無いジャマイカ!」

 

「あるなこれは…」

 

 

いつの時代も、同性が同じ部屋に夜に集まってする事とは決まって恋バナだ。レオはそう言った気配は無いし、達也は深雪だし、総司はマヌケだしで対象にならない。よってここでは幹比古に集中砲火が浴びせられていた。

 

 

「いや、さっきずっと美月の事チラチラ見てたからさ」

 

「ただあの胸に付いてる凶器から目が離せなかっただけだろ」

 

「そんなことは無い!大体それじゃ僕が柴田さんの体目当てのクズ男になるだろ!?」

 

「そうか?好きな人が水着になってると普段見れない場所を注視してしまうのは当然だろ?俺だって雫ちゃんから目を離せなかったし。どこをとは言わないが」

 

「………」

 

「馬鹿は見つかったな」

 

「分かるぞ総司。その点で言えば深雪の水着は今年も最高だった」

 

「「「達也?」」」

 

「どうやら俺も馬鹿だったようだ…」

 

「何自爆してんだコイツ…?」

 

「頭の良い馬鹿って一定数いるよね」

 

「頭の悪い馬鹿には言われたくないな」

 

「ひょ?」

 

 

男性陣が少々下品なムードに入ってきた頃…

 

 

「そう言えば美月ってばミキの事好きなの?」

 

「そそそそそそそんな訳ないじゃ無いですかあばばばば」

 

「あるんだ…」

 

 

やはり恋バナは万国老若男女共通の話題。女性陣達も恋バナに花を咲かせていた。

 

 

「ミキのどこが好きになったの?」

 

「えっと、それはあの…」

 

「あれ?そんな訳無いって言ったのに、どこが好きかって質問に悩んじゃうんだ?」

 

「あ!これはえっとその…!」

 

「それはつまり…愛だよ」

 

「なるほど、つまりここで愛…!」

 

「あれ?深雪がなんだか日系の金髪ハーフに見えてきた…」

 

「気のせいよ」

 

「そ、それを言えばエリカちゃんだってレオさんと…!」

 

「あたしとアイツゥ?ナイナイ、微塵もあり得ないわ」

 

「SPD…!」

 

「アリエナイザーじゃないわよあたし」

 

「ジャッジメント…!」

 

「アリエナイザーに対しては、スペシャルポリスの要請によって、遙か銀河の彼方にある宇宙最高裁判所から判決が下されるのだ…!」

 

「深雪!?」

 

「だからアリエナイザーじゃないってば!」

 

「…」そろ~り

 

「おっと!逃げだそうとしても無駄よ美月!さあ、キリキリ吐いて貰うわよ!」

 

「勘弁してよエリカちゃん~!」

 

 

そうして、男性陣と女性陣、それぞれの恋バナは夜が耽るまで続き、雫が部屋に総司をドナドナして行くまで続いたのだった…




魔法科世界の秘匿通信


・この後無事、総司と雫は甘い夜を過ごした。


・帰った後の話し合いで、総司の家に雫が引っ越す事になった。



次回から横浜騒乱編です…が、大本の話にはあまり触れません。風紀委員でも無いから護衛とかしないし。
と言う訳で、次回からは達也が大変な思いをしている横で先輩方とワイワイふざける総司の日常編をお送りしていきます。


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横浜騒乱編
横浜騒乱編 その一


横浜騒乱編と銘打っておきながら、論文コンペ関係の話が始まるの作中の十月からだから九月の間は平和です。その分総司達はふざけます。


「はい、しゅーごー」

 

 

九月の中旬、橘総司を中心にとある共通点を持つメンバーが空き教室に集合し、何かを話し合おうとしている。

その数は総司を合わせて三人。他の面子は桐原と五十里である。

 

 

「…何の用だ総司」

 

「まあまあ、そんな警戒しないでくださいよ服部刑部少丞範蔵先輩!」

 

「久々にその呼び方したなお前!というか出番自体久しぶりな気がするぞ!」

 

「そりゃ久しぶりだからね」

 

「久しぶりだからだろ」

 

「そして何でお前達がいるんだ五十里!桐原!」

 

 

教室に入ってきた範蔵を見るやいなや、やっと来たか、と言いたげな表情で範蔵を迎えた総司、桐原、五十里の三人。そして再び教室のドアが開かれる。

 

 

「どうしただい総司?こんなところに呼び出してって、先輩方?何故いるんですか?」

 

「それは俺も聞こうとしていたところだ吉田」

 

 

新たに教室へと入ってきたのは吉田幹比古。二人して同じ教室に呼び出されたとなれば、この二人に共通した話題でもあるのだろうか?と一瞬で思考する二人。流石は二年生最強と一科生に全く劣らない実力を持つ古式魔法師である。

 

 

「今日二人を呼び立てしたのは他でもありません…この俺だ」

 

「だろうな」「だろうね」

 

「と言う訳で今日の議題はー?」

 

「何がと言う訳なんだ…?」

 

 

状況を掴めていない二人を余所に総司は桐原と五十里に指示を出して、用意してあったホワイトボードをひっくり返させた。

 

 

「「…?…っ!?」」

 

 

そのホワイトボードを見てしばらく思案した後、同時に驚愕の表情を見せた幹比古と範蔵。

 

 

「本日の議題は!第百七十回!範蔵君と幹比古君を意中の人とくっつかせよう!だ!」

 

「「待て待て待て待て」」

 

「待てま天馬?」

 

「トンデモワンダーズじゃない!」

 

「そもそもなんだこの議題は!ツッコミどころがありすぎるぞ!」

 

 

抗議する幹比古と範蔵だが、総司達三人はうんうんと首を縦に振っている。

 

 

「まあまあ、そんな焦りなさるな恋する男子よ」

 

「「してないって!」」

 

「おいおい、ごまかしはダセーぜ、服部、吉田」

 

「大丈夫、僕達は君たちの味方だから」

 

「「だーかーらー!」」

 

 

抗議しながら、範蔵と幹比古はどうやってこの場をやり過ごそうか悩んでいた。実際彼らに想い人がいるのは事実。だが明確にその事を言ってしまえば、五十里はともかく総司と桐原に笑いの種にされてしまう。というか何故五十里まで乗ってきているのか、総司の馬鹿が移ったのか?と思案する馬鹿二人(範蔵と幹比古)

必死に逃走経路を探そうと目を泳がせるが、よくよく考えれば補足された状態で総司から逃げ切れるはずも無く、彼らを説得してこの場をやり過ごそうとする。既に周囲には自分達の恋心がバレバレであり、それを自覚せず、あまつさえ隠し通せているとまで考えている二人は、総司達を説得する方向に入った。

 

 

「ではまず、好きな女の子とお近づきになるには…」

 

「「ちょっと待て!」」

 

「…自分と相手の今の関係性を考慮するところから始まり…」

 

「「待てって…」」

 

「相手から自身に好意が寄せられているかある程度の考察をする必要があり…」

 

「「……」」

 

 

この集会を止めようと声を上げた二人だが、構わずに話し続ける総司の話に、悔しいが食いついてしまう。彼らは誤魔化そうとしただけで、立派な恋する男子なのだ。

その事を自覚し、歯噛みしながらも相手と少しでもお近づきになりたいという欲が出てしまった二人は話しに食いついてしまう。

 

 

「…であるからして、相手に強烈なインパクトを与え、自分を意識して貰いましょう」

 

「「…ふむふむ」」

 

「例としてまず相手のパンツを見ます」

 

「「ふむふむ…ん?」」

 

「すると相手がこちらを変態と罵ってくれるので揶揄い返しましょう」

 

「「ちょっと待て!」」

 

 

明らかに風向きがおかしい総司の話を中断させる二人。

 

 

「なんだそれ!おかしいだろ、相手のパンツ見るって!」

 

「そもそも相手がこちらを本気で軽蔑してきたら元も子もないだろうが!」

 

「あれ~?」

 

 

ここで、気づいただろう。この教室に遅れてきた範蔵、幹比古は生徒役であり、総司、桐原、五十里は先生役なのだが…ここでまともな恋愛をしているのは桐原だけだという事を。

生徒役の二人は今恋の駆け引きの真っ最中(範蔵は知らんが)であるのに対し、総司は相手が一目惚れで総司もほぼ一目惚れであり、風の噂では将来卒業式の数時間後には結婚式を開くのだと言われるほどに進んだ関係になっているし、五十里なんて恋愛以前に許嫁だし、しかもパートナーと相思相愛とか言う許嫁として最高の相性を持っている。

しかも、まともに恋愛した枠の桐原も、恋のキューピッドが総司という全くもって不安しか無いきっかけで交際をスタートさせている。まともな助言など彼らにはひねり出せない。美しさを口からひねり出そうとして吐くのが間違っているぐらい、彼らに恋愛関係の助言を求めるのは間違っている。

 

 

「つーかさ、駆け引きとか面倒なモン全部吹っ飛ばして告っちまえばいいんじゃねえの?」

 

「俺が引き合わせるまでお互いに好意を伝えられなかったカップルの彼氏がほざいていい言葉じゃ無いっすよ」

 

「ごめん」

 

「それに吉田君はともかく服部君は今のままだと厳しいんじゃ無いかな?」

 

「五十里…!?」

 

「範蔵先輩が死んだような顔に…」

 

「事実、七草会長は服部君の事を頼れる副会長ぐらいにしか思ってないよ」

 

「その点吉田は楽だな。俺の見立てじゃ柴田と吉田は両想いだろ」

 

「腕にもっとシルバーまくとかSA☆」

 

「「な、なんでその名前が出てくるんだ…!?」」

 

「「「バレバレだから」」」

 

「「なぁっ…!?」」

 

「男性経験豊富そうな真由美先輩はやっぱ高難度だよなぁ…」

 

「その点柴田さんは異性との接し方の理解度は会長レベルには遠く及ばないし、なんなら並の女子よりも異性経験が少ないかもしれないね」

 

「「あの胸で?」」

 

「異性経験が少ないは訂正させて貰いたいな」

 

「訂正しなくて良いです五十里先輩!」

 

「お前ら全員のパートナーに三人が柴田の事を性的に見ていたと報告しておくな」

 

「「「お許しください!」」」

 

「あまりにも速すぎる土下座…僕じゃなかったら見逃していたね…」

 

「特に総司が速すぎて窓が割れたんだが…」

 

 

手のひらドリルで二人に平伏する三人。「分かった分かった」といいながら、それぞれのパートナーに携帯端末でキチンと報告した範蔵。既読は一瞬で付き、三者三様に「教育が足りなかったか…」というニュアンスの返事が来て内心ビビった。

 

 

「そうだ、範蔵先輩」

 

「どうした?」

 

「範蔵先輩振られたら俺の知り合い紹介しますよ」

 

「余計なお世話だ!」

 

 

そう言って範蔵は教室から退室していった。

 

 

「吉田…こうなんて言うかさ、ガッと!こうガッと押し込めば柴田は落ちると思うぜ?」

 

「桐原君の言い方はちょっとアレだけど、柴田さんは君に脈ありだと思うから。信じ切れないなら確信を得られるまでアピールしてみるといい」

 

「五十里先輩…ありがとうございます!」

 

「俺は?」

 

「最低な物言いだったアンタに感謝する訳無いんだよなぁ…」

 

「君もさっき最低な物言いだったけどね総司君」

 

「ひょ?」

 

 

範蔵に続けて出て行った幹比古。その背中を見届けた後、桐原はふと疑問を持つ。

 

 

「総司、お前紹介できる女子とかいるのか?」

 

「深雪ちゃんとかですかn「「待て待て待て待て!!」」え?」

 

「おま、お前!司波妹を紹介とかしたら司波兄にお前殺されるぞ!?」

 

「命知らずすぎないかい?」

 

「大丈夫ですよバレなきゃ犯罪じゃ無いですからw」

 

 

そう言いながら教室を出る総司。

後ろを向いて話しながら出て行ったので、教室の外を見れていない。だが総司を見ていたからこそ教室の外が確認できた二人は顔面蒼白になっている。

 

 

「深雪ちゃんと範蔵先輩は確かに釣り合わないですけど意外とお似合いかもで「「後ろ後ろ!」」後ろ?一体何が…」

 

「楽しそうな話をしているな?総司」

 

「 」

 

 

二人に言われて振り返った総司。その目の前に…

 

 

「ウチの妹が何だって?」

 

「あっ…あっ」

 

「お前…死にたいらしいな?」

 

「逃げるんだよ~!」

 

「どこへ行くんだぁ?」

 

「ダニィ!?」

 

 

達也に拳を入れられ、何故か一瞬で体力を持って行かれた総司は崩れ落ちてしまう。

 

 

「さあ…教育の時間だ…」

 

「お、お助け…」

 

「だが断る」

 

「うわああ▂▅▇█▓▒░(0M0)░▒▓█▇▅▂ ああああ!」

 

 

総司がどうなったかはご想像にお任せします…




魔法科世界の秘匿通信


・この後男性陣はそれぞれのパートナーにベッドの上で襲われたとか何とか…




次回までは横浜関係無い話です。


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横浜騒乱編 その二

皆さんはリロメモの水着キャラは当てられましたか?作者は星四が一人も当たらなかったので、仮に雫ちゃんが星三じゃなくて星四だった場合、作者はきっと課金をしすぎて死んでいたでしょう。ホント、重要なところでカス運だからなぁ…


九月某日。東京の八王子市にある国立魔法大学付属第一高校の生徒会室において。突如として不審者が現れ、風紀委員長と一般風紀委員が拘束されるという事件が発生した。

この事件は表立って取り沙汰されることは無かったのだが、後年の第一高校の生徒の中では実際にあった事件だと専らの噂だ。このような大事件が何故公表されていなかったのか。生徒の間では魔法師のイメージを落とさないように学校側で隠蔽されたというのが最もの説だが…?

 

 

その日、夏期休暇でしばらく問題児と離れていた生徒会メンバーは思い知った…第一高校には奴がいたことを…

 

秋の初め頃の生徒会室。ここには何時も通りに範蔵以外の生徒会メンバーに加え、風紀委員長の渡辺摩利、両委員会の会長のお気に入りにして生徒会書記の司波深雪の兄、司波達也の姿があった。彼らは他愛の無い賑やかな会話で盛り上がっていた。

そんな時である。

 

 

「…!?」

 

「お兄様、どうかなされたのですか?」

 

 

『精霊の眼』を持つ達也だけが気づけた気配。それは窓側から発生していた。咄嗟に鍵を確認すると閉まっては居なかった。急いで施錠しようと接近する達也だが、時既にお寿司。突如として窓が開けられ、二人組の影が入ってきた。

 

 

「何事!?」

 

「敵か…!?」

 

 

そうして一同の前に現れたのは…いかにも悪役然とした格好をしたどこか、いや明らかに見覚えのある顔をしたカップルがいた。

 

 

「(…あっ、ツッコんだら面倒くさくなる奴だこれ)」

 

 

その二人の顔を拝んだ瞬間に達也はやる気を失った。ヤメタランスでもいるのだろうか?

抵抗する気も失せた達也と、二人組の顔を見た瞬間に、面白そうだと思った摩利は、飛びかかってきた二人組からの拘束に一切の抵抗もなくあっけなく捕まってしまう。

 

 

「お兄様!?」

 

「わー、助けてくれ深雪-」

 

「ふははははははは!残念だったな司波深雪ィ!貴様の兄、司波達也はこのダークネス総司がいただいた!」

 

「待っていてくださいお兄様!必ずや悪しきそこのダークネスなる者を打倒し、お兄様をお救い致します!」

 

「摩利!?」

 

「うわー、助けてくれ真由美-」

 

「フフフ、渡辺先輩はこの私、ダークネス雫が連れて行きます…」

 

「待ってて摩利!今すぐあなたの大親友の私が助けるわ!」

 

「…なぁにこれぇ」

 

 

所用があって普段昼に訪れない範蔵が最悪のタイミングで入室する。すると室内のカオスを認識した範蔵は白目を剥く。

範蔵の目の前で行われているのは、悪そうな格好をした総司と雫に拘束された達也と摩利を救おうとする深雪と真由美の寸劇だった。訳が分からない。と言うことで範蔵は巻き込まれた他の生徒会メンバーに質問を投げる。

 

 

「中条、これは一体…」

 

「…(チーン)」

 

「だめだこりゃ…」

 

 

まず範蔵が頼ったのは同学年であり、生徒会一番の良心、中条あずさだったのだが…気の弱いあずさが、いきなりの侵入者が生徒を拘束した状況についてこられるはずも無い。あまりの焦りに侵入してきたのが総司達だとも気づけていないあずさは、唐突な事件に慌てふためいていたし、それ以上に人を殺しかねない目をしている深雪を見てしまっていた。そりゃ白目も剥く。

 

完全に使い物にならなくなっているあずさを見た範蔵は彼女からの情報入手を諦める。だが生徒会にはもう一人、範蔵にとって頼れる先輩がいる。

 

 

「市原先輩、この状況は…?」

 

「よくやりましたダークネス総司、ダークネス雫。報酬は後日与えるとしましょう」

 

「市原先輩?」

 

 

その肝心な先輩、市原鈴音は真面目に見えて割とノリがいい人物である為、唐突な展開に対処するばかりか、ダークネスコンビのボスを演じだしていた。この生徒会大丈夫か?範蔵は思った。

 

 

「へへ~!ありがたき幸せ!ボス!次は何をいたしやしょう?」

 

「なんなりと、マイロード」

 

「お前達は一体何キャラなんだ…?」

 

 

総司が軽薄キャラなのは別に良い。いつもそんな感じだからだ。だが、雫のキャラがよく分からない。なんだかどこかの魔法犯罪組織にこんな感じのキャラが…と考えたところで、範蔵は得体の知れない恐怖と激しい頭痛に見舞われた。これ以上考えるとサイアクな目に遭う気がしたのだ。

だが鈴音に二人の意識が向いた瞬間、達也を救出しようとする深雪。

 

 

「今ですお兄様!こちらへ…!」

 

「よくやったわ深雪さん!後は摩利を…」

 

「ふっ…」

 

「!何がおかしいの!?」

 

「本当にそれは達也なのかな…?」

 

「何を言って…!?」

 

「あ、あーちゃん!?」

 

「すり替えておいたのさ!」

 

「「いつの間に!?」」

 

「愛と真実の悪を貫く、ラブリーチャーミーな敵役!スパ○ダーマッ!参上!」

 

「混ざってる!某蜘蛛男とR団が混ざってる!」

 

 

しかし深雪の作戦は、事前に予期していた総司が達也とフリーズしたままのあずさを入れ替えたので失敗してしまった。

そして総司達は改めて鈴音に指示を仰いだ。

 

 

「ふむ…そうですね。お二人の、具体的には七草会長の悔しがる顔が欲しいので人質を連れてそれぞれの相手を煽ってきてください」

 

「「イエッサー!」」

 

「女性相手にサーは良くありません。マムと言い換えてください」

 

「「イエスマム!」」

 

「宜しい。では行きなさい」

 

「ひゃっは~!首おいてけ!」

 

「ミッションスタート…!」

 

「マジで何のキャラなんだ…?」

 

 

範蔵のツッコミが聞こえていないかのように盛大にはしゃぐ総司と静かに燃える雫。そもそも煽るだけなのだから首を取る必要は無いし、もしかすると総司の方が首を取られるかもしれないのだが。

 

 

「く、私達は屈しないぞー」

 

「決して諦めるものかー」

 

 

人質役の二人は先程からひたすらに棒読みだ。だが深雪と真由美は完全に我を忘れており、本当に連れて行かれてしまうかも…と焦っていた。バカばっかである。

 

 

「ふふふ、これを見ても同じ事が言えるかな…?」

 

「「そ、それはー」」

 

「てってれ~!『都合良く洗脳できるビームを撃てるとてつもない何か』~!」

 

「雑!?ネーミング雑!?」

 

「喰らえ!洗脳光線!」

 

「「う、うわー、洗脳されてしまった-」」

 

「洗脳されて『洗脳された』とか言わないでしょ…」

 

「お兄様!」「摩利!」

 

「「おのれゴルゴム!ゆ゛る゛さ゛ん゛!」」

 

「ゴルゴム!?この二人ゴルゴムなの!?てつを流『何でもかんでもゴルゴムのせい』をしてるだけじゃないか!?」

 

「うるさいです服部先輩」

 

「はんぞー君静かにしててくれる?」

 

「理不尽だろこれ!?」

 

 

安心しろ範蔵よ。お前は頑張っている、ただ他がふざけているからお前が相対的に異端なだけだ。

 

こうしてダークネスコンビはそれぞれが羨むような行為をしていく。雫は摩利に膝枕をされて頭を優しく撫でられている。真由美は羨ましそうにぐぬぬ顔だ。そして総司は達也をまるで自分の騎士かのように自身に跪かせている。

その光景に深雪は…

 

 

「……………」

 

「…あれ?なんか嫌な予感がするでヤンス…」

 

 

明らかに総司に向かって殺意と冷気を放っていた。どうやら自分よりがして欲しかった事をよもや総司に先を越されてしまった事が非常に気に食わないらしい。

深雪にとって総司は今、許す訳にはいかない存在となったのだ。

その瞬間、達也を含めた全員が生徒会室の壁側に張り付く。誰もが命は惜しいものだ。

 

 

「総司君…?」

 

「はい!」

 

「…覚悟は出来てるんでしょうね…?」

 

「ジーッとしててもドーにもならねえって事ですかね?」

 

「いいえ、殺します」

 

「逃げるんだよ~!」

 

「待ちなさい!」

 

 

生徒会室を走り回りだした総司と深雪。特に深雪はお前ホントに令嬢なのか?と言わんばかりだ。それに対し総司は部屋の中に他の人達が居る(特に雫)ためあまりスピードを出せない。そしてとうとう深雪が総司に追いついてしまう。

 

 

「お覚悟!」

 

「くっ!かくなる上は…!」

 

 

深雪がお嬢様にあるまじき豪速のパンチを繰り出す!その拳は寸分違わず総司の腹に向かう…!

だが総司はこの状況を回避する方法を思いついたのだ!それは…!

 

 

「範蔵先輩!」グイっ

 

「は?」

 

 

総司達は生徒会室で走り回っていた。故に、そして不運にも、近くには範蔵がいたのだ!

 

 

 

 

「ガードベント!」

 

「はあ?…ごっふぅ!?」

 

「…あっ」

 

「近くに居た…範蔵先輩が悪い…」

 

 

総司はそう言い残して雫を回収しながら窓に向かって走り出す。深雪は事故とは言え先輩をノックダウンさせてしまったことで反応が遅れてしまった。

 

 

「あばよ~とっつぁ~ん!」

 

「ハヒフヘホ~」

 

 

と呑気な捨て台詞を吐いた総司と雫は、そのまま生徒会室の窓から飛び降り、姿を消したのだった。

 

 

 

後年、第一高校で語り継がれる事になる事件は、一瞬で発生し、一瞬で解決した。公表されていないのは、むしろする方がばかばかしいからである…




魔法科世界の秘匿通信


・この後、総司お手製のお菓子を贈呈された深雪は、渋々許したとか何とか。



・総司達が今回の事件を起こしたのは、前日にルパン三世の映画を見たから。



次回から騒乱編の話に入ります。やっと戦闘だ…!


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横浜騒乱編 その三

リロメモのイベントのポイント報酬もっと数多くしてくれても良いんですけどね?百万ポイントぐらい集めますよ運営さん?


ここは魔法大学付属第一高校。一科生と二科生、合計して200名が在籍する魔法師を育成する為の学び舎である。

そんな学校には、魔法科高校の生徒にあるまじきレベルで魔法が使えない男が在籍している。この学校の食堂にて、その男は簡単に見つけることができる。何故ならばその男が座る席の周辺に座りたくない者が多く、逆ドーナツのようになっているからである。しかしてその男は別に嫌われている訳では無い。入学した当初は毛嫌いしたり噂だけで忌避する者もいたが、今では他生徒からの好感度は高くなっている。

では何故その男を避けるようにしているのか。それはひとえに、その男が何かしらをしでかして周囲を巻き込む台風のような存在だからである。絡むこと自体を拒否する者は居ないが、長時間関わっていられるかと言われると大抵が、「自分の身が持たないから無理」と言われてしまう。

 

その男の名は橘総司。「うまい」を連呼しながら机と同じ幅のトランプタワーを前に、食事をしつつ残像を使いながら一人チューチュートレインをしている馬鹿だ。

普段であれば、華奢だが「可愛い、美しい、最強」可愛らしい…何かが地の文に乱入してきたがヨシとしよう。ともかくどこに出しても恥ずかしくないどころかむしろ見せた上で「あげませ~ん!」して全人類がぐぬぬ顔になる程の最強の彼女がいるのだが、今この場には居ない。周囲は「別れたのか?」「お前の目は節穴を通り越して大穴だよ」「そこだ!行け!差せ!差せ!」と、何か不自然な言葉が紛れていたような気もするが、彼ら二人の破局を疑う声も僅かに上がる。実際はその彼女と言われた少女、北山雫は親友である光井ほのかと昼食を取っていた。どうも最近はずっと総司にベッタリでほのかとご無沙汰だったからとの事であるが、そんなことを知っているのは当人達だけであり、他の生徒は知るよしも無い。

となれば、そこを気にした者が質問に行く可能性は低くなかった。と言うか行った。

 

 

「おい、総司」

 

「うま…うん?どうしたガンダム?」

 

「ガンダムじゃない!森崎だ!お前絶対俺のイニシャルがMSだからそう呼びやがったな!」

 

「すまなかった…」

 

「分かればいいんだよ」

 

「ああ、次からは気をつけるぜ、オルガ!」

 

「ってまた間違えてるじゃ無いか!俺の名前は森崎駿だ!決して希望の花をBGMにして死にはしない!と言うかそれさっきのガンダム繋がりだろ!?それならせめて操縦できるミカって呼べよ!」

 

「そう怒るなってミカ」

 

「森崎駿だ!」

 

「でもお前が呼べって言ったじゃん」

 

「俺はお前の意図的な呼び間違いに文句を言っただけだ!そもそもからして普通に名前を呼べ!」

 

「悪い悪い、それで何の用なんだ?」

 

「いや、いつも北山と一緒に居るのに今日はどうしたのか気になってな」

 

「あ?何だお前、俺の雫ちゃんを取ろうってのか殺すぞ!?」

 

「な、何でそうなる!?俺は一度も北山をそう言った目で見たことは無い!」

 

「はぁ!?お前雫ちゃんをそう言った目で見たこと無いとかアッチの気があるかEDかどっちかだぞ!?大丈夫か!?」

 

「何故!?と言うか俺があるって言ったらお前どうするんだよ!」

 

「殺すよ?」

 

「だろうな!」

 

 

彼の名前は森崎駿。ついこの間まで高くなっていたプライドの鼻を総司にたたき折られてからはそれまでと一変し、一科生二科生関係なく接するようになった1ーA男子最強の男。その成長はとんでもなく、最近では魔法の速度ならばこの高校の中でもトップクラスに躍り出るほどだ。そして今では数少ない総司と長時間接していられる人物である。

 

 

「まったく…少し気になっただけだというのに…」

 

「いやいや、他の男が自分の彼女の名前出したら警戒するに決まってんだろ?」

 

「そういうものなのか…?」

 

「まあ童貞の駿には分からないか」

 

「おい、決闘しろよ」

 

「決闘☆!」

 

 

総司の発言にぶち切れた森崎がジャンドを握ってウキウキしている総司をパンダエグゾで絶望の淵に叩き込んだところで、森崎が問いかける。

 

 

「そういえば総司、司波が今度の論文コンペの代表に選ばれたのは知っているか?」

 

「エグゾはズルいて…達也が?初耳だな」

 

「まさか論文コンペ自体が初耳とは言わないだろうな?」

 

「流石に無いな。論文コンペ自体は知ってる、確か全国の魔法科高校の代表がテーマを決めて研究した結果を発表する、いわば文化祭みたいなもんだろ?」

 

「文化祭のようとは言えないな。九校戦は確かに一般の高校における体育祭のような立ち位置だが、論文コンペには実際の魔法研究でも有用な論文が多数輩出される重要なものだ。正直言って九校戦と比べてお前が楽しめるようなものではないぞ」

 

「お前暗に俺の事馬鹿って言ってる?」

 

「はて?暗に隠した覚えなどなく直球に伝えたつもりだが?」

 

「よ~しお前表出ろ、俺は裏に出る」

 

「よし分かった…ってお前は裏に行くのかよ!?」

 

 

総司が論文コンペを知らない故に一から説明するという最悪の事は起こらなかったので、森崎は若干安心しながら話を戻す。

 

 

「それで、司波が代表に選ばれたという話なんだが」

 

「凄いね!…で済む話題じゃ無いのかそれ?」

 

「ああ。どうやら元々は三年の平河先輩が選ばれる予定だったんだが、急遽入院したらしいんだ」

 

「…へぇ、なるほど?」

 

「意識が戻った平河先輩は最低でも二ヶ月は入院しなくてはならなくなってな。それで本人の了承も得て代表から外されたんだと」

 

「それで、代役が達也になったと」

 

「そうだ。…そして、ここからが問題なんだ」

 

「ほう?」

 

「…例年では、論文コンペの代表者達には、その情報の機密性から護衛が付くことになっているんだ」

 

「…は?」

 

「メインの発表者である市原先輩には渡辺委員ちょ…元委員長が、五十里先輩には千代田委員長が付くことになったんだが…司波に護衛を付ける必要があるか?と話題になったらしく「俺はやらんぞ」てお前に…っち、だと思ったよ」

 

「達也に護衛とか要らないだろ、花音ちゃんは何考えてんだ?」

 

「先輩にちゃん付けかよ…まあその点は俺も進言したが、千代田委員長曰く、「司波君は厄介事を持ってくる天才だから絶対に護衛が必要」と返されてな…」

 

「確かに達也はよく面倒くさい奴…特に深雪ちゃんとかに絡まれているからな、気持ちは分かるぜ。何だったらお前が護衛やったらどうだ?」

 

「じゃあお前は入学してからすぐに見下した態度を取った奴を護衛として付けるのか?」

 

「気持ち的には付けたくないが、お前だったら話は別だ。達也だってお前が変わったことぐらい気づいてるだろ。問題ないんじゃね?」

 

「お前や司波に認められても、周囲の奴らが認めるとは思えないんだよ」

 

「ああ…確かにレオとかエリカとかまだお前の事嫌ってそうだな」

 

「そうなんだよ、だからお前に頼もうとしたんだが…」

 

「何度も言うが俺はやらん」

 

「どうしてもか?」

 

「ああ。俺はここ最近忙しいからな」

 

「忙しい?さっき奇妙な動きで飯を食っていたお前に似つかわしくない言葉だが…」

 

「ちょっと小バエの駆除をせねばならんのよ」

 

「小バエ?」

 

 

そう言って疑問符を浮かべた森崎を余所に、総司はつい先日の出来事を振り返る…

 

 


 

 

2095年、10月10日。司波達也が論文コンペの代表に選ばれた日であり、同時に戸籍上の母である司波小百合に勾玉系統のレリックの解析を求められた日。この日総司はなんとなく散歩がしたい気分になって、雫を連れずに一人でちょっと離れた町中まで来ていた。

 

 

「う~ん、やっぱり秋の気候は素晴らしいな。散歩がしたくなるのも納得だぜ…でも、嫌な予感までするのは何故だ?」

 

 

総司は外出前に嫌な予感を感じていた。それ故に雫を連れてこなかったのだ。

何なんだ…?と首をひねりながら歩く総司。その横の道路をコミューターが横切っていく。それだけならば総司も注目はしなかっただろうが、そのコミューターを追いかけるように走り抜ける黒い車には少しの違和感を抱いたのだ。

 

 

「あの車…何か変な感じが…っ!」

 

 

瞬間、更にその車を追いかけるようにバイクが横切っていった。魔法を正常化させる異能の影響でエイドスを直接読み取れる総司は、一瞬だがそのバイクの運転手が達也である事に気づく。

 

 

「達也…?」

 

 

ギュンッ!とその場から姿を消した…かのように見える速度で達也を追いかける総司。達也の横に付いた総司は達也に話しかける。

 

 

「はーい達也。元気してる~?」

 

「っ!?総司、お前何故ここに?」

 

「その前に達也、何か焦ってるみたいだけど大丈夫か?」

 

「…説明は後だ、あのコミューターの横に付いた車に、賊が乗っている」

 

「へ~?じゃあ鎮圧するのか?」

 

「頼めるか?」

 

「任せろ」

 

 

そう言って総司はスピードのギアを上げて、今にもコミューターに車体をぶつけようとしていた車を蹴り抜く。

 

 

「!?な、何!?」

 

 

突如横の車が吹き飛んだ光景を見た司波小百合は、驚愕の表情を浮かべる。

蹴り抜かれた車は近くの街灯に衝突して大爆発を起こした。更に驚愕を覚える小百合だが、乗っているコミューターは自動運転なので平然と横を通り過ぎていく。そのコミューターを護衛するかのように、達也が乗るバイクもそのまま行ってしまった。

 

 

「何だったんだ…?」

 

 

車を吹き飛ばした後に、そもそも何故先程の車に乗る人物が賊かを知らないことに気づいた総司は、頭の上に疑問符を浮かべた。その時である。

ガキンッ!と甲高い音がする。総司はこの音が、自分の背中から発せられた事を理解する。そして近くにはカラカラ…と転がる弾丸のような物。有り体に言えば、総司は今狙撃されたのである。貫通力が足りなさすぎて薄皮一枚も貫通していないが。

 

 

「スナイパー…?」

 

 

衝撃を受けた方向へビル伝いに高速移動で向かう総司。彼が目にしたのは、今にも逃げようとする大型の銃を持った男だった。彼の逃走経路上に移動して、彼の顔をアイアンクローで掴んで持ち上げる。

 

 

「誰だお前、どこの差し金だ?また伝統派か?」

 

 

うんざりしたような表情で質問する総司。すると…

 

 

「は?何て?」

 

 

捕まえた相手からは、聞いたことも無い言語が発せられた。かつてアメリカの友人と会った事がある総司は、彼の顔が英国圏では無く、アジア圏の顔立ちだと推測した。アジア圏と言えば…

 

 

「…大亜連合か?」

 

 

今や中国だけでなく、モンゴルや朝鮮さえ併合した大国、大亜細亜連合。特徴として、現代魔法のノウハウがほぼ欠落し、戦略級魔法師も国家存亡の危機でもなければ用いられない、「魔法後進国」であることだ。だが最近は、エレクトロニクスを利用した魔法工学技術の軍事転用が見られる国だ。

 

何故そんな国が刺客を放っているのか、そもそも国は関係しているのか、総司は全く分からなかった。帰って調べるか…と男を放り投げて帰宅した。なおこの際、投げられた男は勢いで首が折れて死亡している。

 

 

「お帰り総司君。遅かったね?」

 

「ただいま雫ちゃん。ちょっと面倒事がね…」

 

「無理はしないでね?」

 

「ああ勿論。俺に無理があるかは疑問だがな」

 

「ふふ、それもそうだね」

 

 

帰って来た総司を出迎えた雫を見て、総司は「調べるのは明日で良いか…」とこの日はそのまま二人で就寝したのだった。




魔法科世界の秘匿通信


・この後大亜連合は総司にバレたかもしれないとガチでビビる。実際総司にバレている。



・自分で調べて理解した総司は達也に質問をしていない。「まさかアイツ、独自の情報網か何かであの日の事を調べたのか?」と達也に怪しまれている。



申し訳程度の雫ちゃん。

今回から横浜騒乱編が本格的に始まります。また総司君が襲撃の前に相手の本拠を潰してしまわないように大亜連合の方は祈りましょう。


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横浜騒乱編 その四

今回繋ぎの回だからネタ少ないしギャグ少ないし総司が意外と冷めた思考してるしで飛ばしても問題ないかも


「ただいま~…」

 

 

森崎から達也の護衛を引き受けてくれないかという依頼を受けて二つ返事で拒絶した総司は、珍しく直帰することも、雫と帰ることも無く、どこかに寄り道してきたようだ。

 

 

「おかえり総司君」

 

「おかえりなさい総司君!お邪魔してます!」

 

「ほのかちゃん?今日も泊まりか?」

 

 

総司を迎えたのは雫は勿論、その親友である光井ほのかもであった。彼女は親友の家であり、彼女の家よりも学校へのアクセスがよい総司達の家にたびたび泊まりに来ていた。男がいる家に泊まるというのは勇気が必要だと思うのだが、ほのかは総司が雫にしか興味が無いことを知っていたし、事実総司はほのかの風呂上がりを見ても何も思わないが、雫の風呂上がりには熱いものを覚えるような男だ。何の心配も無かった。

 

 

「そう言えば総司君、森境君と何か話してたみたいだけど?」

 

「森境…?駿のことか!名前ぐらい覚えてやれよ同じクラスだろ…」

 

「じゃあ総司君と同じクラスの凄腕の古式魔法の使い手の名前は?」

 

「マリクに決まってんだろ」

 

「違うよ総司君!?吉田君でしょ!?」

 

「ほら、総司君も覚えられてないからおあいこね?」

 

「それならば仕方あるまい」

 

「仕方ないんだ…」

 

 

この家にほのかが泊まった時は、決まってほのかがツッコミを一任されている。最近ほのかは体に疲れが溜まっているような気がしているそうだが、ならば試しに総司達の家に行かないことをおすすめしたい。その疲れは紛れもなくツッコミ疲れだからだ。

 

 

「それで何の話だったの?」

 

「達也の護衛をしてくれないかって」

 

「護衛!?達也さん何か危険な状況なの!?」

 

「まあ、そう言えばそうだな。論文コンペの代表チームだし」

 

「あっ…それもそうだね!ビックリしちゃったよ…」

 

「でも達也さんに護衛なんて必要なの?」

 

「それは俺も言ったが、どうやら達也を監視する目的があるらしい。なんでも達也は最悪のトラブルメーカーだからだってよ」

 

「…?それほど達也さんって問題持ってきてたっけ?総司君の方が問題だと思うけど」

 

「細々した問題を大量に持ち込んでるらしいな。俺が持ち込むのは大きめのものだ」

 

「今総司君さりげなくディスられてた…」

 

「マジじゃん…」

 

「え?そんなことないよ?」

 

「「無自覚…!」」

 

「ちょっとちょっと雫さん?貴女の親友さん毒舌過ぎない?」

 

「大丈夫、多分他意は無いから。天然故だから」

 

「?」

 

 

ほのかは少し抜けている故に飛び出てくる毒舌が鋭そうで恐ろしい。

 

 

「でも、護衛くらい風紀委員で付ければ良いんじゃ無いの?」

 

「達也より弱い奴を付けても護衛にならないだろ」

 

「でも総司君なら達也さんの護衛にもなれるぐらい強いよね!」

 

「やっぱり達也を優先した物言いだな…」

 

「ほのかは達也さんのこと本当に大好きだよね」

 

「えっ!?ししししし雫!?なななな何を言ってるの!?」

 

「もうみんなにバレバレだぞ」

 

「嘘でしょ…!?」

 

「その台詞を言うには君はスタイルが良すぎるぞ」

 

「先頭は渡さない…!」

 

「そうそうこんな感じ」

 

 

バチコーン!と雫に頭をぶっ叩かれてその場に崩れ落ちる総司。人の体型を使ったボケは時と用法を正しく守って使う必要があるのだ。

 

 

「それで?結局その護衛の件はどうなったの?」

 

「言い出しっぺだから自分でやれと花音ちゃんに相談してみたら?って提案した」

 

「え?でも千代田先輩は五十里先輩を護衛するんじゃ無いの?」

 

「達也は強いんだから護衛するんじゃ無くて一緒に啓君を護衛したらどうかと思ったから。森崎曰くすっごい嫌な顔しながら承諾したってよ」

 

「それなら解決だね」

 

「そうだね!それに別に危ないことがそうそう起こる訳無いし!」

 

「……」

 

「…総司君?どうしたの?」

 

「いや、何でも無いよ雫ちゃん。二人とも明日も早いから夜更かしは程々にな」

 

「はーい!分かりましたお父さん!」

 

「…分かってるよ、お父さん」

 

「俺は君たちを育てた覚えは無いんだが?」

 

 

と言った平和な会話を続けた三人はそれぞれの寝室(普段は総司と雫が同じ部屋で寝ているが、ほのかが泊まりに来たときは客間でほのかと雫が寝る)に向かう。二人が部屋に入ったのを見届けた総司は、自室で情報端末を開く。

 

 

「平河…大亜連合…」

 

 

総司は情報端末に検索ワードを入力して行く。すると…

 

 

「…ビンゴ。平河先輩の事故は大亜連合による作為的なものだな」

 

 

総司の情報端末には通常では得られないような極秘情報ですら表示される。何故なら彼は世界で八人しか居ない存在の一人だからだ。

先日の大亜連合の襲撃の際にも、その襲撃が司波小百合の持つ勾玉系統のレリック目的だった事を突き止めていた。不用意に首を突っ込むと面倒になるからとそれ以上の事を調べては居なかったが、達也が論文コンペに選ばれた原因となった事故も関係しているかもしれないと思った総司は踏み込むことを決意したのだ。

 

 

「目的は…レリックが魔法式保存の効力を持っている可能性が高いからそれを利用した魔法兵器の量産か…実現したら魔法師を超える脅威になるかもしれないな…」

 

 

総司は魔法を使えないのはその魔法式を上手く認識できないからだが、彼の頭脳はこと戦闘となるととても冴え渡る。彼は保護者にしてベテランの元軍人である九島烈に兵法を習っている。彼は戦争があったとしても前線で指揮が出来るのだ。総司が前線にいるなら策をろうじ無くても勝てるだろうが。

そんな中で、彼は衝撃の情報を得た。

 

 

「…論文コンペの襲撃…やっぱり仕掛けてくるのか…は?」

 

 

その情報とは論文コンペが襲撃されるという、それだけでも頭を抱えたくなるものだったが、総司が一番に目を引かれた情報はそれでは無かった…

 

 

「…日本の九島から奪った橘総司の遺伝子によるクローンの投入…!?」

 

 

それは自身のクローンを戦争に用いるという情報だった。それだけで総司には衝撃だった。確かに自分のクローンがあずかり知らぬ場所で敵に利用されるとは思いもよらなかったが、総司は一番強く、こう思ったのだ…

 

 

そんな物使い物にならんだろうと…

 

 

総司がこう思ったのは、一重に自身の魔法技能を鑑みてだ。総司と同等の身体能力を得た兵力を欲しがったのだろうが、総司は自分が異常な存在だと自覚していた。理由は以前九島で行われた、総司の遺伝子を用いることで人の生命力を飛躍的に上昇させられるのでは無いか、という研究が失敗だったからだ。

この研究は烈の孫である九島光宣の治療に役立つかもしれないと行われたのだが、結果は失敗だった。計器はどうやっても総司の遺伝子が通常の魔法師と変わらないと出力していたのだ。実験動物で試しても大した異常性を見せることは無かったのだ。これにより総司の異常性は総司だからこそのものであると結論づけられたのだ。

 

実際得た情報では、作られたクローンは全員が大小はあれど身体強化の魔法に高い適性を示した事から、白兵戦用の兵士の開発は出来ているのだが、本来の用途である総司を抑える役目は到底敵わないとされていた。故に当日は総司以外の人間を狙い、総司と遭遇した場合は即刻の撤退をする事を学習させたようだ。

 

 

「俺以外を狙う…か。俺への風評被害酷くなりそうだな…防衛戦をしてても敵と間違われるかもしれないしな…そうだ!」

 

 

とここで何かを思いついたのか、総司はある人物へ電話をかけた。

 

 

「…あ、もしもし烈爺?ちょっと教えて貰いたい事が…」

 

 

大亜連合は、総司が完全に計画を悟っているとは知らないで、みすみす自分達から突撃をする羽目になってしまったのだ。横浜において勝利するのはどちらか、既にこの時点で決められたようなものだった。




魔法科世界の秘匿通信


・ほのかがよく泊まりに来るのは、一度泊まった時に総司の夕食が美味しかったからとか


・総司のクローン共…総司と戦うことはない。総司とはね?



大亜連合って横浜で騒乱起こして結局何がしたかったんでしたっけ…


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横浜騒乱編 その五

雫ちゃんまた星三かよ…ぶっちゃけ雫ちゃん目当てでガチャ回しましたわ(10連)

当たりました(隙自語)


はよ新しくキャラをプレイアブルにしないとガチャの面子が代わり映え無くて面白くないのよ、範蔵君だせ範蔵君。


「…達也が不審者に付けられてたって?」

 

「ああ。しかも相手は当校の制服を着用していたと千代田委員長が言っていた」

 

「敵は身内ってか」

 

「あまり考えたくないのだがな…」

 

「達也は本当に事件性の高い案件しか持ってこないよな」

 

「逆にお前は全く事件性のない案件しか持ってこないがな」

 

「一般生徒の俺がそれなのは問題ないでしょ」

 

「そうだなお前一般だったなってなる訳ないだろ!お前は最早みなし公務員ならぬみなし風紀委員だ!」

 

「めんど…」

 

「おい」

 

 

先日達也が後を付けられていた。という話題で食堂にいる総司と森崎は盛り上がっていた。今日は話す予定は無かったのだが、雫が退席したところにたまたま森崎が来た為、森崎は雫が戻るまでの話し相手となっていた。

 

 

「ああそうだ。今回の件、あんまり首突っ込まない方がいいぞ。お前の身の安全を保証できない」

 

「随分と物騒なんだな?」

 

「実際物騒なんだよ」

 

「具体的には?」

 

「戦争が起こる」

 

「……は?」

 

「雫ちゃんが戻ってきた。お前は早く仕事に戻れ」

 

「おいおい、その話詳しく…」

 

「早く戻れ」

 

「…ああ」

 

 

これ以上話す気は無いと森崎に言外に伝えて帰らせた総司。そこに席を外していた雫が戻ってきた。

 

 

「県境君と何話してたの?」

 

「前の間違い引っ張ってるぞ」

 

「それはいいとしてさ。何話してたの?」

 

「訂正してやってくれ…」

 

 

雫は意外と入学当初のあの事件を引きずっているのかもと考えた総司であった。

 

 

「何でも達也が昨日不審者に付けられてたらしくてな。しかもこの学校の制服を着用してたんだと」

 

「ウチの学校にスパイが居るって事?」

 

「なんのスパイだよ…」

 

「別の高校のだよ」

 

「仮にそうだとしたら大問題だろ」

 

「それもそっか」

 

「…スパイってのはあながち間違いでも無さそうだがな…

 

「何か言った?」

 

「いや何も?」

 

 

総司は雫を誤魔化そうとしたが、総司の事を全て理解していると言っても過言では無い雫が相手だ。明らかに隠し事をしていると気づかれているのかジトッ…とした目線を向けてくる。

 

 

「…大体そういうときの総司君は何か隠し事してるんだよね…」

 

「…やっぱ敵わないなぁ」

 

「何隠してたの?浮気?」

 

「まさか。それこそあり得ないのは雫ちゃんが一番分かってるだろ?」

 

「でも一応確認しとかないと。深雪とかに取られるかもしれないし」

 

「深雪ちゃんはお兄様にゾッコンすぎてこっちに見向きもしないだろ…」

 

「は?深雪絶許」

 

「どうどうどうどう。落ち着きあそばせ?」

 

 

もしこの会話を森崎が聞いていたら、「やっぱ似たもの同士だよなぁ…」とため息混じりにぼやくことだろう。それぐらい今の雫は以前森崎に詰め寄った総司に似た言動をしていた。

 

 

「ふー!ふー!」

 

「止まってくれたか…」

 

「…それで何を隠してるの?」

 

「無かったことにしたな…まあ、近々俺達に危機が訪れるのは確実なんだ」

 

「音ズレでも起きるの?」

 

「音ズレの訪れじゃないんだよ…とにかく危険な状況に陥ることは確定しているんだ」

 

「それはいつ頃?」

 

「論文コンペ当日だ」

 

「テロリストでもやってくるの?」

 

「…それぐらいの規模なら良かったんだがな…」

 

「そこまでの大事が…?」

 

 

いくら最強の総司と共にいるという感覚がある雫でも、その総司本人が危機感を示していると流石に戦慄した様子だ。

 

 

「結構大規模な戦闘が起きるのは目に見えてる。そして問題なのが…」

 

「なのが?」

 

「敵さんが俺のクローンを使ってくることだ」

 

「持って帰って良いの?」

 

「本人がいるのに更に欲するのか…」

 

 

総司のクローン、というワードを聞いた瞬間に雫の様子が恐れを抱くいたいけな女子学生から獲物を見つけたときのような表情を浮かべたハンターに変貌したのを感じ取った総司は本気でツッコむ気も起きなかったようだ。

 

 

「それで雫ちゃんに頼みたいのは、本物とクローンの区別が付かない奴らに「遠慮無くぶっ飛ばしていい」って発破をかけることなんだ」

 

「みんな喜んで魔法を打ち込みそうだね」

 

「もしかして俺嫌われてる?」

 

 

総司を嬉々として攻撃しそうな人が多いのはひとえに総司が生徒達に与える胃痛のせいだと言うことに総司は気づくことは無い。

 

 

「…でも総司君をクローンだと思って攻撃する人もいるかも」

 

「大丈夫、俺には異能があるからな。クローン共に俺の異能を持つ奴はいないのは確定している。それに攻撃されることも無いような秘策があるんだ」

 

「総司君のことだからまた変なことしだすんでしょ」

 

「さあどうだろう?」

 

 

二人は笑い合いながら食堂を後にした…

 

 

 

 


 

 

 

「それでですね達也さん!…聞いてますか達也さん?」

 

「…ああ、聞いているよほのか」

 

「…やっぱり昨日の不審者の件で悩み事か?」

 

「お兄様をつけ回すなんて…!絶対に許せません!とっ捕まえてその時のお兄様の様子を全て聞き出してやります!」

 

「あたしは深雪を警察に突き出した方が良いかな?」

 

「さ、流石に深雪さんもそこまでは…し、しませんよね?」

 

「どうだろう…北山さんがしそうだから、多分司波さんもやるんじゃないかな…?」

 

 

放課後、久しぶりに全員集合の帰り道。全員に急ぎの用がない為、行きつけの喫茶店「アイネブリーゼ」でお茶をする事にした一行。そんな中、一部のメンバーの空気が一瞬引き締まる。

 

 

「…?吉田君どうかしました?」

 

「…いや、何でも無いよ柴田さん」

 

 

一部のメンバーの一人である幹比古は違和感を覚えた美月に何事かと問われるがはぐらかす。

 

 

「…総司君、何かあったの…?」

 

「…誰かに付けられてる」

 

「なっ…!?」

 

 

そして総司の様子が変わった理由を問うた雫は、総司からの返答を聞いて体を硬直させる。

 

 

「もしかして達也さんを…!?」

 

「…分からない。が、結局こちらを監視する目的ではあるのだろうがな」

 

 

警戒しながら喫茶店の中に入った一行。だが追手がまだ近くに居る気配を感じていた武闘派勢はそれぞれが各々の理由で席を外す。総司は直ぐには席を立つことをしなかった。

 

 

「吉田君、何をしているんですか?」

 

「…ああ、これはね。ちょっと事前に札の作成をしておこうと…」

 

 

等と幹比古は言うが、彼が書いているのは結界の魔法式であり、彼はその魔法を発動して先に行ったレオとエリカを援護しているのだ。

 

 

「総司君は行かないでいいの?」

 

「ああ。向こうはこっちを監視していた。なら俺の事をある程度知っていてもおかしくない。もし俺が出張ったら逃げの一手を打たれるだけだ」

 

 

総司はそう言いながらも、近くの窓を開けていた。何かあった時にそこから飛び出して行くつもりだ。

そしてその時は来た。幹比古の表情が強ばる。どうやら結界を破壊されたか、解除せねばならぬ状況に陥ったようだ。幹比古のその表情を見た瞬間、総司の姿は一陣の風となった。

 


 

 

「…では私はこれでお暇させていただくよ」

 

 

一行を尾行していた犯人。ジロー・マーシャルはUSNA情報部の非合法工作員であり、化学的な措置により強化された人間である。故にレオやエリカと互角に戦うことが出来た。そんな彼はレオを人質に幹比古の結界を解除させ、そのまま閃光弾を用いて逃走を図ったのだ。しかし…

 

 

「ふっ!」

 

「…!?き、貴様は…!」

 

 

爆発までコンマ数秒といったところで何者かが高速で現れ、そのまま閃光弾をそれ高く蹴り上げた。閃光弾はそのまま空中で起動してしまい十分な効果を発揮することが無かった。そしてジローには介入してきた男を知っていた。

橘総司。異常とも言える脅威的な身体能力を由来にする圧倒的な戦闘力、何かしらの理由で魔法を無効化出来る力も保有する総司はまさしく化け物。今回の達也を監視するという仕事で、最も障害たり得る存在だった。

 

しかしジローも熟練の工作員だ。動揺は最小限に、即座に逃げの姿勢を取ったが…その瞬間に、蹴り上げた姿勢のままだった総司の高く上がった足がブレて見えた。

 

 

「…!?がああああ!」

 

 

途端に激痛ともに崩れ落ちるジロー。彼の足は両膝が完璧に折れていた。どうやら総司が足を戻して高速で蹴り壊したようだ。尚も逃げようとするジローに総司は声を掛ける。

 

 

「ここで大人しく捕まってた方が、アンタにとってお得だぜ?」

 

「…何をほざくか!」

 

「どうせここで逃げてもアンタは今日中に死ぬからだよ」

 

「なっ!?」

 

「俺のサイドエフェクトがそう言ってる」

 

 

どこからかぼんち揚を取り出して食べ出した総司に呆気にとられたジローはそのままレオに拘束されたのだった。




魔法科世界の秘匿通信



・実はサイドエフェクト云々は占術の一種を総司が自分でも気づかぬ内に使ってたりするためあながち間違いは無い。実際ジローはこのまま逃げていると呂剛虎に殺されていた。


・勿論のことだが、雫は無条件で総司とクローンを見分けることが出来る。


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横浜騒乱編 その六

魔法科がとあるとコラボするのはいいが、せめて上やんの右手に苦戦ぐらいはしてくれ。幻想殺しとほぼ同じ原理の総司の異能が実際はどれくらい達也に通じるのかが気になる。


謎の工作員、ジローの襲撃から一夜明け…達也は、いつもとは違う教室の雰囲気に気づく。別に生徒達の表情が暗い訳ではない。だが、いつもより静かだと達也は思ったのだ。そしてその理由は直ぐに思い立った。

 

レオ、エリカ、総司の三人が登校してきていないのだ。遅刻が無い訳では無いレオと、したことは無いが可能性はありそうなエリカはまだ遅刻かもと納得できる。しかし総司が居ないのは不自然だ。

 

 

「あっ、達也さん」

 

「美月、あの三人はどうした?」

 

「それがよく分からなくて…」

 

「まあまあ二人とも。いつも騒がしい三人が居ないのは寂しいけど、学業に支障が出ることは無いよ。むしろ総司に至ってはいると授業が進まなくなってしまうかもしれないからね」

 

「それもそうだな」

 

「ええ…」

 

 

三人を真面目に心配していた様子の美月が、あんまりにも淡泊な二人の問答に困惑を抱く。だが達也と幹比古にはレオとエリカが休んだ理由が思い立っていた。

昨日、工作員からの尾行に気づいていたレオとエリカ、幹比古は工作員ジロー・マーシャルに挑むも、惜しいところで負けと言わざるを得ない状況に追い込まれてしまった。監視だけが目的の、今のところ敵意が無かった相手をわざわざ叩く必要は無いと思い意図的に無視をしていた達也はともかく、総司は助けに行くぐらいなら最初からやれよと幹比古は思ったが、ともかく総司が悪かったのだ。レオとエリカは今回の論文コンペで達也の護衛をしようと息巻いていた。達也本人は千代田が五十里と並行して、ある程度は目を向けてくれているだけで護衛になると言ったのだが二人は聞かなかった。

そして満を持しての護衛の仕事を失敗で終わらせてしまった(本人達目線)二人は、遅れてきておきながら余裕綽々で相手を制圧してしまった総司に対して悔しさを覚えていたのだ。聞くところによれば、風紀委員会は当初、「司波達也を護衛できるのは橘総司だけ」と結論づけていたそうではないか。つまり自分達では達也の護衛たり得ないと言われたも同然であり、それは負けず嫌いな二人の向上心を刺激するのは簡単だったのだ。

 

その理由から察するに、二人は恐らくエリカの家の道場で特訓をしているのではないだろうかと推測が立つのだ。しかし、それはそれとして総司が休んだ理由が分からない。護衛対象である自分にすら何も言わなかったことから、総司を呼んで指南を受けているとは考えづらいし、そもそも脅威的な身体能力を基本とした戦術をとる総司の指南を受けて強くなれるかどうかは怪しいものだ。恐らく総司は二人とは別の場所にいる。所在だけでも知っておこうと達也は総司のナンバーを探索して電話のコールをかける…ところで止まった。総司まで二人と共にいるとは考えづらいが、総司一人が特訓をしているとしたらどうだろうか。今ここで電話をかけても出てこない可能性が高い。そう思った達也は別の人物に電話をかけた。

 

 

「…もしもし、雫」

 

『どうしたの達也さん?もう直ぐ授業が始まるよ?』

 

「総司が登校して居ないんだが何か知らないか?」

 

『総司君なら今朝方に「ソロモンよ、私が帰ってきた-!」って叫びながらどこかに行っちゃったよ』

 

「どこか聞いていないか?」

 

『聞いていないけど…「私が帰ってきたー!」って言ってたから多分京都じゃないかな?』

 

 

可能性は大いにありうる。総司にとって八王子から京都までの距離など、達也と深雪が登校に必要とする時間よりも短いタイムで走り抜けられる化け物だ。目的としては、身体能力で恐らく世界最強に君臨する総司が伸ばすべき場所と言える魔法技能の修練だろう。京都は彼と関係が深い九島の本家がある場所だ。彼らの手を借りて魔法の訓練に行ったと考えるのが自然だろう。しかし、今のままでも充分以上に強い総司が何故魔法技能を欲するのか、そこには何らかの意図があって然るべきだ。

 

 

「総司は一体何を目的にして…?」

 

『分からないけど…多分、そんなに重要な事じゃ無いよ。だって総司君の考える事って大体面白さを追求してるから』

 

「厄介な…」

 

 

丁度そのころ…

 

 

「…と、このように魔法を行使するのだ。分かったか?総司」

 

「スマン烈爺、全く分からん。実践で教えてくれ」

 

 

九島が所有するまさしく日本建築と呼ぶべき家屋にて、九島烈は自分の息子のように気にかける目の前の男、橘総司に魔法を教えていた。

 

 

「…お前は、この魔法をお前に教えていること自体が異常だと言うことに気づいているのか?」

 

「分かってるけどさぁ、USNAにも使い手がいるならもう情報漏れとか言っても遅いでしょ」

 

「…あの者は一応、れっきとした九島の血を引く者なのだがな…」

 

 

どうやら烈はいくら総司相手とは言え、今から教えようとする魔法を、本当に教えてしまっていいのか思案していた。

 

 

「そもそも、お前がこの魔法を使うことができるのか?」

 

「根性でなんとかするよ」

 

「はっはっは!相変わらず愉快なことを言うな、総司よ」

 

「と言うことで頼みます!」

 

「よかろう、よく見ておけ総司」

 

 

 

「これが…仮装行列(パレード)じゃ」

 

 

 


 

 

第一高校の昼休み。論文コンペで発表する実験に使用する機械が置かれている場所で、達也は未だに思案顔だった。

 

 

「(総司は結局どんな魔法を習得するつもりなのか…いやそもそも魔法習得に行ったというのもあくまで推測だ。雫の言うことだから京都は確実だが、身内が倒れたとか…それは老師が倒れたと同義か…)」

 

 

達也はそんなことを考えながらも機械に何かしらの問題点が無いかどうかを見回っていた。すると耳に聞き覚えのある声が聞こえる。

 

 

「この辺にぃ、なんかぁ、美味いラーメン屋できたらしいっすよ?」

 

「ほーん。なら、今夜行きましょうねぇ」

 

「何やってんですかお二人とも」

 

「あっ司波君!」

 

「げっ!司波君!」

 

 

そこに居たのは五十里啓と千代田花音の許嫁コンビであった。五十里は発表メンバーであるため此処にいるのは当然であるのだが、千代田は目を離すといつも五十里と共にいるので居ても不自然では無い。そんな二人は会話をしながら何かを見ていたようだ。

 

 

「何見ていたんですか?」

 

「ほら、あれよあれ!」

 

「…あれは」

 

 

言われるがままに目を向けた先には、自分達のリーダーである市原鈴音が、風紀委員の関本と言い争っている光景だった。

 

 

「…お二人は仲が悪いのですか?」

 

「はぁ!?私と啓の仲が悪いかですってぇ!?」

 

「違います、総司みたいなこと言わないでください。お二人では無く、市原先輩と関本先輩の事です」

 

「あのねぇ、私と啓は昔から…」

 

「聞いてますか?」

 

「あはは…代わりに僕が答えるよ」

 

 

そうして聞いた話によると、どうやらあの二人は入学当初から意見の対立から仲が悪く、悪くてもあそこまで表立って争うことは無かったそうだが、今回の論文コンペ出場者を決定する学内順位で、僅差で市原先輩が勝って選ばれたことに不満を抱いているらしい。故に最近は露骨に対立の姿勢を見せているらしい。

昔の森崎みたいだなぁと思いながらそちらをぼんやりと眺めていると、キョロキョロと周囲を伺う行動をするあからさまに怪しい生徒がいた。

 

 

「…司波君」

 

「分かっています」

 

 

千代田も気づいたようだ。そしてそれは向こうも同じだったらしい。こちらと目が合ったその生徒は一目散に逃げていく。

 

 

「追うわよ!」

 

「了解!」

 

 

二人して加速術式を使いながらその生徒を追いかける。その生徒は魔法を使わずに逃走しているようで、たやすく追いつくことができそうだ。しかし、ここで魔法の出力の点で千代田が上回っていることから、先に彼女が追いついた。

 

 

「逃がさないわよ!」

 

「!委員長、それは!」

 

 

千代田家の秘伝、『地雷原』。地面という役割を担う物体さえあれば、そこに地震かのような振動を起こすことが出来る魔法だ。だが明らかに過剰火力だ。逃げる生徒の制服から察するに相手は二科生だ。自分や総司のような異常な強さを持つ二科生なんてそう居ない。地雷原はかなりの威力を持つ為、相手が持たない…そう達也が考えたとき、その生徒は異質な()を構えた。

 

 

「…!あの札の魔法は!?」

 

 

達也には札に記憶されている術式に覚えがあった。それは今年の九校戦にて、北山雫が自身の妹を破った要因となった魔法、『風神雷神』の風による魔法式構築の妨害術式であったのだ。事実、札が発光したかと思うと、千代田が使用した地雷原が…それどころか、加速術式も解除されてしまった。

 

 

「!?きゃあ!」

 

「千代田委員長!」

 

 

自分の術式も流された達也だが、持ち前の運動能力でなんとか千代田を支える。しかしこのままでは問題の生徒を逃がしてしまう…そう思い、すぐにでも追いかける為に急いで生徒の方に向き直す達也。すると…

 

 

「きゃあ!?」

 

「…!あれは?」

 

 

その生徒の目の前から、何も無かった場所から、いきなり人の手が伸びて、その生徒の顔をわしづかみにした。気づくとそこには第一高校の制服を着た人物が立っていた。

 

 

「総司…?」

 

 

それは今日、欠席していたはずの総司だった。




魔法科世界の秘匿通信


・外国の仮想行列使い:多分金髪、多分軍人、多分一等星、多分戦略級。



・虚空から現れた総司:どうやったんでしょうねぇ…(白目)


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横浜騒乱編 その七

前回のラストで結構勘違いされている人が居ますが別に総司は空間移動した訳ではありません…

それはそうとして、とあるコラボのストーリーでキチンと上条さんが参加できそうな話なのが好感持てた。異世界移動とか幻想殺しで無効化されるから来れない上条さんがコラボ先に来てると大問題だからね…


あっ、今回急展開注意です。


「んぐぅ!んぐぅ-!」

 

「抵抗するなよ不審者!お前を今すぐにでも警察に…」

 

「総司!」

 

「ん?おお、達也じゃん。しかも花音ちゃんまで。どうした?」

 

「いや、その生徒に事情聴取をしたいから解放してやってくれないか?」

 

「生徒?ウチの制服を着てる不審者じゃなくて?」

 

「…?」

 

「?」

 

 

突如として現れ、逃げていた生徒を捕らえた総司と達也が会話をしているが、お互い微妙に何かが食い違っているかのような違和感を抱きながら話を進める。

 

 

「その生徒は今度の論文コンペで使う機材の付近で不審な行動をしていたんだ」

 

「結局不審者じゃ無いか」

 

「いいから貸しなさい!」

 

「うおっ!花音ちゃん、人を物扱いは酷いだろ!」

 

「問題行動を起こしたんだから多少は荒っぽくなるわよ!」

 

「と言いながら、実は二科生の一年に出し抜かれたのが悔しいのでは?」

 

「そ、そそそそそそんな訳ないじゃない!」

 

「いっつも出し抜かれてるのにな」

 

「うるさい!」

 

 

赤面しながら、千代田は問題の生徒の持ち物を確認していく。その間に五十里が追いついてきた。

 

 

「…!これって、パスワードブレイカー!?」

 

「何だって!?」

 

「…これ俺の術式じゃね?」

 

「お前もそう思うか、総司」

 

 

その生徒の持ち物の中で特徴的な物は二つ。一つはパスワードブレイカー。恐らく機材管理のコンピュータに使用して論文コンペにて発表する予定の実験の内容を奪おうとしたのだろう。そして二つ目は、達也と千代田の術式を妨害した風を発生させた術式が記憶されているとおぼしき札であった。総司が手にしてまじまじと見て、自身の術式では無いか?と疑問を持つ。確信的な疑問では無いのは、総司の魔法制作技術からして、作成した魔法式を1から10まで記憶しているわけではないからだろう。

しかし、この風の妨害術式が搭載された魔法、『風神雷神』は愛する雫の為に作成した魔法である為、今まで作成した魔法の中でもかなり気をつけて作成したので大部分が記憶に残っていた。

 

 

「…平河さん、これは一体どう言うことかな?」

 

「平河?それって事故に遭った先輩の?」

 

 

危うく今年の論文コンペを台無しにされかけた五十里の怒気に満ちた声と、総司の気の抜けた声音の問いが絶妙にミスマッチしたこの状況。先程の話の微妙な食い違いから考えても、総司は何かしら勘違いしているか、それとも()()()()()()()()()()可能性は高かった。

 

 

「…そこに居る男が…!司波達也が悪いんですよ!」

 

「…何だと?」

 

「お姉ちゃんがなるはずだった論文コンペの代表に選ばれる為に、お姉ちゃんを交通事故に遭わせて、その上市原先輩を洗脳したんだ!」

 

「…発想が飛躍しすぎじゃ無い?」

 

 

千代田の疑問は最もだった。そもそも達也が推薦されたのは本人の望むところでは無かったし、市原だけの意見で代役が決まった訳ではない。そして一番おかしいのはわざわざ本来の代表である平河姉を事故に遭わせるなど、小説の読み過ぎかのような理屈だった。

事実そんなことはあり得ないと五十里と千代田に言い負かされている。ここで達也は一つの結論に至った。それは、実は彼女が洗脳されているのでは無いか?というものだ。そもそも理屈が不確定な物ばかりであるのに、結果大問題になりかねない事件を起こしたのだ、どこか頭をおかしくされたのかもしれないと考えた。となれば精神干渉系魔法か、と達也は総司に彼女に触れてくれと頼む。

 

 

「…あれ?あたし、一体何を…?」

 

「…当たりか」

 

 

総司が触れた途端に平河の様子が変化し、今自分が置かれている状況を理解出来ていない様子だった。総司が触れたことにより、彼の異能で精神干渉系魔法が解除されたと考えていいだろう。

 

 

「洗脳とか…やっぱり司波君は厄介事を持ち込む天才ね」

 

「冤罪です」

 

「案ずるな達也。お前は天才だよ」

 

「嬉しくない」

 

 

一旦詳しく話を聞こうとして千代田が平河を立たせた辺りで、達也は自分の疑問を解消しようと総司に問いかけた。

 

 

「そう言えばお前、今日は京都にいたんじゃ無いのか?」

 

「よく知ってるなお前」

 

「雫に聞いたんだ」

 

「ああ…明言してはいなかったけど、多分雫ちゃんなら知っててもおかしくないだろうな」

 

「普通はおかしいぞ」

 

「雫ちゃんのどこがおかしいって…?」

 

「話を戻すぞ。京都にいたはずのお前が何故もう学校に来ているんだ?」

 

「それが分からないのだよ」

 

「…何?」

 

「いやね?ほのかちゃんから『学校内に不審者が現れたから助けて欲しい』って連絡をもらったからすっ飛んで来たんだよ。で、さっきあの女子生徒が逃げてるのが見えたからあれが不審者なのかなって思ってさ」

 

「…それ、おかしくないか?」

 

「え?」

 

「…何故お前に連絡したんだ?」

 

「どう言うことだよ」

 

「お前はいつも雫と登校しているよな?」

 

「そうだな」

 

「ほのかも一緒に登校しているよな?」

 

「そうだな」

 

「ということは、今日お前が不在である理由を雫から聞いていてもおかしくないだろう?」

 

「そうだな」

 

「不審者如きで京都にいるお前に助けを求めるか?」

 

「…確かに!」

 

 

総司は「よくよく考えればおかしいじゃん!」と言いたげな表情で手を叩く。何も考えなしに京都から八王子まで一直線に戻ってきたらしい。

 

 

「…でも雫ちゃんならワンチャン呼んでくるよ?」

 

「そこだよ」

 

「?」

 

「お前は、多分だが、文面だけでも雫かどうか判断できるよな?」

 

「うん」

 

「総司君ってやっぱり変態だよね…」

 

「啓も大概だよ?それに文面で特定の相手かどうかを判別するのは私でも出来るし」

 

「…え?」

 

 

後ろで許嫁コンビが端から聞けば恐怖を感じる会話をしているが、総司達には届いていない。

 

 

「つまり、相手は総司に雫名義で連絡をすればどうやってもバレることを把握しているんだ。だからほのかの名前で連絡してきたんだ」

 

「なるほど…うん?相手って誰だよ」

 

「決まってるだろう?お前を呼び出そうとした奴だよ」

 

「ホントに誰だよ」

 

「それは分からんが…」

 

 

その瞬間である。

 

 

「「!!!」」

 

 

二人はそれぞれの持つ異能でエイドスの異常に反応した。得られた情報を信じるならば、平河の方に何か刃物数十本ほどが飛んできているようだ。

 

 

「(…口封じのつもりか!)総司!」

 

「分かってる!」

 

 

総司は即座に平河の前に立ち、腕を振ることで風圧を発生させる。その風圧に負けた刃物はあらぬ方向に飛んでいった。

 

 

「な、何事よ!?」

 

 

いきなり刃物が飛んできて、あまつさえ総司がそれを弾いたといういきなりの展開に千代田達は反応し切れていないようだ。

 

 

「誰だ!」

 

 

特化型を構えて刃物が飛んできた方向に向かって問いかける達也。すると…

 

 

パチパチパチパチ…

 

 

「「「「「!!」」」」」

 

 

そこからは貴公子のような雰囲気を纏った青年が現れたのだ。

 

 

「お見事です。私の奇襲が気づかれるなど、久方ぶりの事です」

 

「何だこのおじさん!?」

 

 

総司達を面白そうに眺めながら、青年はこう続けた。

 

 

「ははは、申し遅れました。私、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

周 公瑾と申します

 

 

 

「…スプレーか何かか?」

 

「…シュッ、抗菌ではなく、周 公瑾です」

 

「あっ(察し)スゥー…ごめんなさい」

 

「構いませんよ」

 

「何やってんのよ総司君!見るからに怪しい奴と仲良く会話してんじゃないわよ!」

 

「あっそうだった!やっべー、危うく相手の口車に乗せられるところだったぜ!」

 

「相手何もしてないだろ」

 

 

謎の貴公子然とした男、周公瑾は、総司と達也を見て、満足したかのように頷いて言った。

 

 

「今日は単なる顔見せです。本来は先に橘総司様の方からお会いしようとしたのですが、まさか京都にいらっしゃるとは露程も思わず…」

 

「そりゃ思わないだろうな」

 

「しかし、こうしてお目にかかれて光栄ですよ、『悪魔の右手(デモンズライト)』様」

 

「…!?」

 

 

その単語を聞いた途端、達也は「何故知っている!?」といった表情を浮かべ、公瑾に向ける殺意をよりいっそう強めた。

 

 

「そして、()()()()()()()()()よ」

 

「…それもしかして俺の事か?何だよその進化し続ける者ってよ」

 

「それはいずれ分かります故…」

 

「…お前には聞きたいことが多い。いずれと言わず今すぐ吐いてもらおう」

 

「それは御免被りたいですねぇ」

 

「…!?グッ!?」

 

「!?総司!?」

 

 

達也からの遠回しな捕獲宣言を拒否した後、公瑾の姿が消えた…かと思えば、総司に蹴りを放っていた。総司は難なくガードしていたが、その威力がおかしい。この世で最強の身体能力を持つ総司が、ガードの上から数メートル衝撃で後退することになったのだから。

今まで魔法を絡めた戦闘で将輝に苦戦したのは見ていたが、単純な物理で押されたその姿に達也は驚愕を覚える。

 

 

「惑わされるな!この野郎、認識を阻害する術式をかぶせながら身体強化で蹴って来やがった!阻害の術式のほうしか無効化出来なかったからまともに喰らっちまった!」

 

「ほう、やはり見抜きますか…」

 

「フッ!」

 

 

総司の言葉を聞いてすぐさま混乱から立ち直った達也は得意の武術で公瑾を攻撃するが、公瑾はいとも簡単に回避してしまった。

 

 

「私の今回の目的は、お目見えとそこのしくじったスパイを始末することですので…」

 

「…私!?」

 

 

どうやら公瑾は平河を殺そうとしているようだ。平河は明らかに取り乱し始めた。

 

 

「させるかよ!」

 

「甘いですよ?」

 

「うおっ!?…フンッ!」

 

「ほう、なるほど?砂塵による目くらましですか…」

 

 

総司は公瑾を阻止すべく彼の顔面を狙い…と見せかけたボディーブローをお見舞いしようとするもたやすく見抜かれ受け流されてしまった。体勢が崩れる総司だが、直後に地面を蹴り上げ砂を巻き上げた。

 

 

「…ハァ!」

 

「貴方方の相手をする気はありませんので」

 

「くっ!簡単にあしらってくれるな!」

 

 

砂塵の中だろうと、『眼』の恩恵で公瑾の位置を把握できていた達也は再び攻撃を行うが、先程と同じく達也の攻撃は軽くいなされてしまう。やがて砂塵が晴れ、公瑾の視界には平河が映った。

 

 

「一刻も早く終わらせて帰らせていただきましょうか。流石に長期戦は不利でしょうし」

 

「ひっ!」

 

 

尻餅をついた格好の平河に突貫して、ナイフを突き刺そうとする公瑾。このままでは平河は殺されてしまうだろう。達也はサイオン波で攻撃するが、まるで効いていなかった。

そして公瑾のナイフが平河を…!

 

 

「…な~んてな」

 

「!?」

 

 

なんと平河は異常な体捌きでナイフを回避すると、そのまま回転をかけた蹴りを公瑾に命中させる。公瑾はこの蹴りでかなりのダメージをもらったようだ。

 

 

「ぐっ…これはどういう…」

 

「こういう事サ!」

 

 

立ち上がった平河がそう言うと、その姿がブレ、総司が現れたのだ!

 

 

「…なるほど、これが『仮装行列(パレード)』ですか…」

 

「(パレード…!なるほど、総司はパレードを九島で習得してきたのか…!だが、総司でも使用できる難度の魔法なのか…?)」

 

 

公瑾と達也は両者ともに驚愕を見せる。まさか魔法が下手な総司が九島の秘伝を使ってくるとは思わなかったからだ。当然の疑問であり、正解を言うならば、これはまがい物同然なのだが、この場においては正しく効果を発揮していた。

 

 

「平河って奴はもう花音ちゃん達が連れて行った。もう追いつけないぞ?」

 

「…どうやらそのようですね。では私はこれで」

 

「おいおい、逃げられるとでも…!?」

 

「なっ!総司、奴は!?」

 

「分からん!見失った!」

 

 

平河を殺せないと判断した公瑾は魔法か何かを使用して姿を消した。まさかの達也や総司の異能すらも欺いて逃走を成功させてしまうのだった…




魔法科世界の秘匿通信


・周 公瑾:総司と一対一で会おうとしたら京都に行っていて、達也と二対一の邂逅になってしまった、結構抜けてる奴


・総司の仮装行列:実は正しい仮装行列のように座標を誤魔化すことが出来ず、服装も誤魔化せない。戦闘中に平河の制服が男物に替わっていた事に気づいていれば公瑾は蹴りを貰わずに済んだかも。
他人の顔面や体型のテクスチャを自身に合うように貼るぐらいしかできない。透明化は出来る。実は通常の仮装行列の10倍のサイオン消費。


まさかふと思いついた「シュッ、抗菌ではなく周公瑾です」ってネタからこんな急展開に結びつくとは…()


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横浜騒乱編 その八

前回が五十話目だった事に気づかない馬鹿な投稿者ですどうも。

あと今回ストーリー進まない蛇足回です。


「…と言うことがあってだな。結構ヒヤヒヤしたもんだぜ」

 

「それヒヤヒヤ如きで済ませて良いものなのかい?」

 

 

周公瑾が襲撃してきた日の放課後、いつもの面子からレオ、エリカを除いたメンバーがアイネブリーゼにてお茶をしていた。

 

 

「そもそも始めからおかしくないかい?君なんで透明だったんだ?」

 

「それは…俺がパレードを使ったからだ」

 

「パレード!?それって…」

 

「ああ。九島の秘伝の術だ」

 

 

総司がパレードを使用した事を白状した途端、雫以外のメンバーから追求の眼を向けられる。

 

 

「身内とは言え、一応部外者の君に秘伝を教えた理由とか、君にパレードが使えた理由とかはこの際置いておこう。問題は何の為に習得したんだい?」

 

「幹比古の言う通りだ。お前はパレードなど使わずとも充分以上に強いはずだ。何故パレードを求めた?」

 

 

幹比古と達也に問い詰められた総司は少し俯き、言いにくそうにしながらも、おそるおそる口を開いた。

 

 

「…からだ」

 

「何だって?」

 

「…たかったからだ」

 

「もう少し大きな声で頼めるか?」

 

 

総司が非常に言いにくそうにしている様子を見た一同に不安の色が広がる。そして総司は意を決したような表情をして、大きく声を上げた。

 

 

 

 

「雫ちゃんのお風呂シーンを覗きたかったからだ!」

 

「「「「「……は?」」」」」

 

「…え?」

 

 

総司の口から出た理由は、達也達が想定していたようなものではなく、寧ろ達也達を引かせるに値するものだった。ただ一人、標的として指名された雫だけは、「何言ってるの?」と言いたげだ。

 

 

「…総司君は随分と変態さんなんですね?」

 

「私しばらく雫をウチに連れ帰った方がいいですかね?」

 

「えっと、総司君?そう言うのは良くないと思うのですが…」

 

 

女性陣からの罵倒。それ自体は総司に何の問題も与えなかったが、ほのかの雫を連れ帰る発言に死にかけの状態になる。

 

 

「やめろほのか…!その術は俺に効く…!」

 

「当然の反応だと思うけれど…?」

 

 

幹比古からの援護射撃に総司は既に虫の息だ。しかし…

 

 

「大丈夫だよほのか。私は気にしないし」

 

「雫ちゃん…!」

 

 

雫本人がその保護を拒否したので息を吹き返すのだが。

 

 

「ダメよ雫。甘やかしてはいけないわ。一度痛い目を見て反省を促さないと」

 

「もうこの話題が総司君に反省を促していると思うよ?」

 

「雫ちゃんの言う通りです…本当にすいませんでした…」

 

 

よほど雫と離れたくないのだろう、総司は床に頭をこすりつける勢いの土下座をした。

 

 

「…雫がいいなら私も許します。でも、私が泊まりに行くときは総司さんは外で寝泊まりしてください」

 

「ああ、分かったよ…」

 

「じゃあ雫!私これからしばらく毎日泊まりに行くね!」

 

「え?…あっ!」(絶命)

 

「総司が死んだ!」

 

「この人でなし!」

 

 

ほのかの狡猾な策にまんまと嵌まった総司は白目を剥いて蹲る。そこに達也達がお約束のネタをかぶせた。

 

 

「ほらっ雫!あんな変態な人なんて放っておいて帰ろ!」

 

「えっ…う、うん。じゃあ、また明日ね?総司君」

 

 

ほのかに連れられて一足先にアイネブリーゼを出た雫の表情は優れない。ここ最近はまた明日などと総司に言う必要は無かったからだろうか。

二人に続いてゾロゾロと総司を放置して帰宅していく。

 

 

「…俺としたことが…判断を誤ったか…」

 

 

蹲った状態で独りごちる総司。その総司の肩をトントンと叩く人物がいた。

 

 

「…?マスター?」

 

「他のお客さんに迷惑だから、早く帰ってもらえるかな?」

 

「…冷たい」

 

「そりゃ、君の行いが悪かったからだよ。これからは反省しなさい」

 

「…はい」

 

 

マスターからも見捨てられた総司は、トボトボとどこかへ行ってしまった…

 

 


 

 

帰宅後、ソファに座っていた達也は、総司の言ったパレード習得理由が嘘であるという可能性を考慮していた。何故なら…

 

 

「(総司達は将来結婚すら誓った仲だ。日常的に一緒に風呂に入っていてもおかしくはない。だと言うのに覗く必要などあるのか?)」

 

 

そう、そもそも総司が覗くまでもなく、総司は雫のお風呂シーンを堪能できる可能性が高いからである。もし仮に連れ立って風呂に入っていなかったとしても、総司が頼めば雫は二つ返事で快諾するはずだ。なのにそれをせずに魔法を習得するという遠回りを行う理由が分からない。

 

そもそもだ、風呂を覗くのにパレードなどという秘匿すべき魔法であり、おそらくはかなりの難度を誇るパレードを使う必要も無い。それこそ隠しカメラでも仕掛ければいいだけだ。そもそもと言えば二人が同居しているのは元々総司の家だ、仕掛けるのは簡単なはずである。

となればパレードを習得したのには別の理由が、それこそ本来の用途通りの『他人の姿を取る』という使用方法をあてにしてのものではないか?達也にはそう思えて仕方が無かった。

 

 

そして達也の考えは正解であった。そもそも総司と雫は日常的に一緒に風呂に入っている。そうで無いときはほのかが泊まりに来たときだ。故にほのかはその事を知らない。そして雫も総司の言った習得理由が嘘である事を見抜いていた。これは曖昧で科学的な根拠ではないのだが、総司と雫はお互いが気配レベルで居場所を把握できる。流石に雫の方は家の中までの範囲しか分からないが、それだけでも透明になったところで見つかってしまうことには変わりない。よって覗く為に透明化出来るように習得したというのは嘘だと言うこと。

 

そして総司が嘘を付くと言うことは、何か大きな事件が起ころうとしていて、それに一人で対処している時だ。

 

 

「総司君…」

 

 

不安になった雫は思わず名前を呟いてしまう。万が一にもあり得ないだろうが、総司を失うなどもう雫には想像もしたくない事態だ。その事を憂うなと言って雫が守れるはずは無かった。

 

 

余談だがこの時の雫の反応を見て、流石に意地悪が過ぎたかと思ってほのかは総司を許してあげることを決断した。

 

 

 


 

 

 

「あああああああああ…」

 

 

所変わってとある地区の路地裏。そこで総司は三角座りで俯いていた。彼はどうせ帰れないのなら大亜連合の今の拠点でも調べて強襲しようかとも考えたのだが、よくよく考えればいつもの情報源は自室のパソコンからでないとアクセス出来ないことを思い出して、結局的に手持ち部沙汰になったのだ。

そうなってくると考えることが雫の事ばかりになってしまい、何故自分はあの時にあのような誤魔化し方をしたのかと後悔してくる。まさか自分のクローン達が自分に反応して逃げていくことを突き止めたからって、それを防ぐ為に別人になりすまします等という理由を正直に話す訳にはいかないのだ。

 

 

「あああああああ…」

 

「…ぱい?」

 

 

そんなこんなで総司は深いため息をついて雫の顔を思い浮かべる。笑った顔、怒った顔、悲しんでいる顔、喜んでいる顔…悲しんでいる顔は可哀想だが、その他はとても可愛らしい自慢の将来の嫁としばらく離れることを強制された現在、総司にはやる気が微塵も湧かなかった。

 

 

「あああああ…」

 

「…先輩?」

 

 

総司の頭の中には深い深い後悔が根付いている。誰かが話しかけているような気もするが、そんなことは今の総司にはどうでも良かったのだ。

 

 

「…せーんーぱーい!」

 

 

故に気づくのが遅れた。自身に話しかけていた、眼前の人物。学生服を纏った青年が鍛えられては居るものの、ボディビルダーには程遠い太さの腕からの拳で自分の頬を殴っって来たことに。その瞬間…

 

 

「…ボグフォオ!?」

 

 

バギャ!という轟音と共に総司が吹っ飛ぶ。青年の見た目からは想像も出来ないような威力の拳は総司を大きく吹き飛ばし、数百メートル先にある大きな公園の中央あたりまででやっと総司は止まった。

 

 

「痛ってぇ…!一体誰だ!?」

 

「誰って俺ですよ先輩」

 

「あ!?…って()()ァ!?」

 

「お久しぶりです先輩。そんな気の抜けた顔してどうしたんですか?」

 

 

先程の場所から総司が吹っ飛んできた場所まで一瞬で移動してきたであろうその青年…七宝琢磨は、総司を心配そうに見ていた。




魔法科世界の秘匿通信


・七宝琢磨:本作で最も強化された人物。過去に総司と出会った後、身体強化の魔法で異常な才能を発揮し、総司と同等のパワーとスピードを手に入れた。因みにモノリスで将輝が総司を相手取れていたのは、以前に総司に師事して強くなった琢磨にボコボコにされて対策としてある程度の身体強化を会得していたから。最大火力は総司と同レベルのルーキー。別に魔法が使えない訳じゃ無いし何なら得意なので、異能が無かったら総司の上位互換である。


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横浜騒乱編 その九

アベマで魔法科一期全部見返していたら、最初の方のエンディングで涙が出るんですよね…これはリアルタイムで視聴していた時も同じ事してました。なんだかあのエンディング聴くと現実に一気に引き戻されて懐古厨のおじさんには辛い思いでした。


「…総司、お前どうしたんだ?」

 

 

総司の覗き宣言の翌日、久しぶりに生徒会室に現れた総司を見た一同は驚愕する。なぜなら総司の体があちこち黒く変色しているからだ。恐らく打撲によるものだろうと推察されるその痕を見たときに出る反応が心配よりも驚愕なのは総司が信頼されているのかそれとも単純にバカは風邪を引かない理論で大丈夫だと思っているのか。

どちらにせよ自分たちの記憶の中で初めて総司が傷やダメージを負っているところを見た驚愕は計り知れなかった。

 

 

「ああ、これ?昨日行く当てもなくブラブラ歩いていたらいきなり顔見知りの後輩にぶん殴られたから喧嘩になった」

 

「ええ…」(困惑)

 

 

達也が困惑するのも無理はない。そもそもいきなりぶん殴られたは語弊だし、うずくまっていて琢磨の声に反応しなかった総司に対して琢磨が彼なりのショック療法を行ったつもりであったのだ。確かにいきなり殴ったのは悪いが、そもそも顔見知りの前で殴られるような隙を作る方が悪い。達也だってあの場面に遭遇していたら総司を殴っていたに違いない。どうせダメージはないだろうが。

 

 

「総司君を殴って、その後喧嘩に発展しても生きていられるとはなかなかの腕前だな。そいつは学生なのか?」

 

「ええまあ。多分来年ウチに入学してきますよ」

 

「そうなのか?名前は何というんだ?」

 

「七宝琢磨ですね」

 

 

総司の口から飛び出してきた名前のネームバリューに、一同は再び驚愕する。

 

 

「七宝って、あの七宝君!?」

 

「ええ、二十八家の一つの七宝の跡取りですね。お知合いですか?」

 

「い、いえ。特に親しいというわけではないわ。でも以前に一条君を強化魔法だけで完封していたから…」

 

「ああそれ俺の影響で使うようになった戦術ですよ」

 

「そうなの!?」

 

 

達也は総司を見ながら呆れたかのようにため息をつく。魔法が下手なはずなのに何故こうも魔法の大家との繋がりが強いのかと。達也に関しては自分も十師族であることを棚に上げていることはこの際置いておこう。

 

 

「っていうか、どこで知り合ったのよ二人は!?」

 

「えーっと、確か七宝が通り魔に襲われているところをたまたま目撃した俺がその通り魔をぶん殴って止めたからですね。その時に弟子にしてくれって頼まれて…」

 

「通り魔?今時そんなのいるのか?」

 

「まあ二年前ですし居たんじゃないですか?」

 

 

実は総司が倒したのは通り魔ではなく一種の忍者であったのだが…これは全くの余談である為気にする必要はない。

 

 

「そうか…達也君は大変だな」

 

「…?なぜ俺に振るんですか?」

 

 

達也はいきなり何を言っているのか?と頭を傾げる。

 

 

「だって、来年には私たちなしで総司とその後輩の制御を行わなければならないのだからな!」

 

「!!!!!!」

 

 

その時、達也を途轍もない衝撃が襲う。それもそうではないか、総司とタメを張れる怪物が入学してきたならば労力も二倍だ。正直言って摩利という先輩がいたからこそまだ大人しい側面がある総司だ。二年生に続々仲間を増やしている現状、真に総司を止められる上級生は摩利だけなのだ。克人は総司と仲が良くて止めないし、真由美では怖さが足りない。そこに一年が加わる…一人は琢磨で確定しているとして、総司に下手に憧れた一年が他にも厄介者に手を貸す事態にまで発展しかねない。

そこまで考えて達也がはじき出した結論は…

 

 

「渡辺先輩、ちょっと数年ほど留年していただけませんか?」

 

「わけの分からんことを言うんじゃない」

 

 

名案だ!と思って提案してみた案を一刀両断された達也は意外にもしょげた。というかどこをどう考えて名案だと思ったのだろうか?

 

 

「そういえば、雫はどうしたんだ?お前のその顔を見て反応を示さないとは思えないんだが」

 

「ああ、結構泣かれたよ。涙をぽろぽろ落としながらごめんなさいって謝ってきた。説明する前だから多分変な奴に絡まれたんだと思ったんじゃないか?」

 

「そうか?てっきり喧嘩してきたんだねとでも言ってきたのかとばかり」

 

「達也君さすがにそれは察するのは無理が…」

 

「いや、落ち着かせたら「それ、喧嘩の痕?」って聞いてきたぞ。多分寂しさで冷静さを失っていたんじゃないか?」

 

「気づくのか…」

 

 

総司と雫のお互いへの理解度の高さに軽く真由美たちが引いていると、総司の携帯端末に連絡が入る。

 

 

「すまんメッセージ…雫ちゃんから中庭に来れるか聞かれたんで行ってきますわ」

 

「こんどはちゃんと本物のメッセージなんだろうな?」

 

「昨日はほのかちゃんだったから見分けられなかった、雫ちゃんの文面なら何の問題もない」

 

「怖い…」

 

 

委員長ズが怖さに身を縮めているうちに、総司は高速で中庭まで走っていった。ご丁寧にパレードによる透明化も用いてだ。

途中で桐原が吹き飛ばされたが何の問題もなく総司は中庭まで到達したのだった…

 

 

 


 

 

「ということで明日関本先輩の面会に行くことになった。総司も付いてきてくれないか?」

 

「いやどういうことやねん」

 

 

次の月曜、アイネブリーゼにてこう依頼された総司はわけわかめといった表情で達也に聞き返した。

 

 

「昨日、俺がロボ研の部室で論文コンペに使用する機械の調整を行っていたところ、部屋に催眠ガスが入れられていることに気づいてな、直前で気づいてピクシーに換気システムを作動させた後ガスを吸ったふりをしながら待ち伏せてな、そのまま千代田委員長と協力して、侵入してきた関本先輩を逮捕したんだ」

 

「えっとつまり?学校内にいたスパイは一人だけじゃなかったってことか?」

 

「そうだ。そして…」

 

「そしてぇ!?まだあんのか!?」

 

「ああ。丁度関本先輩を捕らえたときにだ、この間の女子生徒…平河の見舞いに渡辺先輩が向かったらしいんだが、その時に呂剛虎という大亜連合の兵士が襲ってきたらしいんだ」

 

「…ひょっとしてこの間のスカした抗菌スプレー野郎の差し金か?」

 

「…まあ、そうだろうな。そしてその呂剛虎は大亜連合でも屈指の魔法師でな。渡辺先輩も彼氏の千葉修次さんが居なければ危なかったらしい」

 

「ぶっちゃけ俺は今摩利さんに彼氏がいたことの方がびっくりしてるよ。つか千葉ってもしかしてエリカちゃんの縁者?」

 

「ああ、お兄さんらしい」

 

「通りでエリカちゃんは摩利さんを敵視しているわけか…」

 

「というわけだ、協力してくれるか?」

 

「おう任せろ!近接相手なら俺が勝てない道理は無いしな!」

 

「……」

 

 

総司が快く引き受けたのを達也は意味ありげに見つめていた。

 

 

「…なんだよそんなに見つめてさ。穴が開いちまうぜ」

 

「総司…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()はずだが?」

 

「…!」

 

 

その言葉を聞いた総司はひどく驚いた顔で達也を見返した。

 

 

「なんで分かったんだ?相手が近接魔法師だって…いや、そもそも知っていたんじゃないか?」

 

「それはどういう意味だ?」

 

「お前がこの間習得してきたパレードのことが気になっていてな。このタイミングで習得する意味が分からない」

 

「…だからそれは雫ちゃんの風呂を覗くためだって!」

 

「お前と雫の仲に覗くという行為は必要なのか?」

 

「…というと?」

 

「俺はお前たちが日常的に二人で風呂に入っていると考えている。それに違ったとしても雫ならお前の頼みなら断らないんじゃないかと思ってな」

 

「…いやいや、いくらなんでもそれは…」

 

「メールの文面で相手が本物かどうか判別できるぐらいなのにか?」

 

「……」

 

「そうなるとお前がパレードを習得した理由が謎に戻る。そして今回の度重なる論文コンペの情報スパイ事件…そして大亜連合の呂剛虎…明らかに関連性があるだろう。総司…お前は何を知っている?」

 

「……」

 

 

問い詰められた総司は、一体どう達也に答えるのだろうか…?




魔法科世界の秘匿通信


・琢磨の実力はこの世界でもトップクラスだが、総司には致命的に相性が悪い。なぜなら総司は強化魔法を正常に戻すことで無効化できるからだ。それでも琢磨が総司とまともに戦えるのは、総司が琢磨との訓練の時に練習のために異能を使うことをしなかった為、喧嘩の際も異能を使っておらず、強化を解除できていなかったから。


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横浜騒乱編 その十

来訪者編は苦手です(雫ちゃんの出番があまりないから)



今回から新しくアンケートを取ります。質問はカレーかハヤシかどっちを食べたい?っていうつまらん質問ですが、これで来訪者編の展開を決めたいと思います。面白半分で選ぶと展開が明後日の方向にレッツゴーなのでご注意ください。


「総司、お前は一体、何を知っているんだ?」

 

 

アイネブリーゼで達也に問い詰められている総司。こちらをジッと見つめてくる達也に総司が返した答えは。

 

 

「…論文コンペ当日に、大亜連合が兵士や戦車を用いて横浜に攻めてくる…」

 

「何…だと!?」

 

 

正直に打ち明けるという選択肢を選ぶ総司。当然と言えば当然だが、聞かされた達也の目には複雑な意味の驚愕が入り交じっていた。

 

 

「その情報は確かなのか?それが確かだとしてどこで手に入れたんだ?」

 

「情報は確かだが、どこから手に入れたかは言いたくない」

 

「…そうか」

 

 

思わず早口になった達也に総司は冷静に返答する。その総司の冷静さを見た達也は、怒りが沸き上がり一周回って冷静になった。そして達也は総司の襟首を掴んで引き、確かな感情が込められた声で問う。

 

 

「お前!そんな大事を何故黙っていた!?知っていれば俺は深雪を論文コンペの会場には連れて行かないし、お前も雫を戦地に赴かせるような事はしないだろう!?」

 

「…そうだな。事実俺は当日に雫ちゃんには留守番を頼もうとしていた」

 

「自分の愛する者を守って、それ以外は無視か!?一体どういう了見だ…!?」

 

「俺の発言をノータイムで信じてくれるのはお前達だけだ」

 

「…?」

 

 

剣幕を鋭くする達也に負けじと総司も睨み返す。総司の言葉を聞いた達也はしばし口を閉じる。

 

 

「俺が仮に『大亜連合が攻めてきますよ~』と学校中、いや国中に言ったとしてもだ。俺には発言力が無いから誰も信じてはくれないだろう。それこそ親しいお前達以外には」

 

「確かに…俺もお前からでなければ学生がふざけてばらまいたガセである可能性を考慮していただろう」

 

「そうだ。例え十師族が公表したのでも無ければそんな情報を簡単に信じることができないだろう?」

 

「だが、お前は一応九島の関係者ではないか」

 

「だがそれを知っているのもお前達だけだ。他には強いて琢磨が知っているくらいだ。知られていないのならば肩書きに意味は無い」

 

「…だがせめて、俺達には教えてもらいたかった」

 

「はっ、どうせ達也の事だ。当日にも何か起こる事ぐらい予想が付いていただろう?」

 

 

総司からの問いに達也は首肯を示す。事実自身の持つレリックを関本を使ってまで達也から奪い取ろうとしていた何者かがそう簡単には諦めることは無いだろうと思っていた。恐らく関本の背後にいたのは総司の言うように大亜連合なのだろう。

 

 

「…大亜連合は何を目的としているんだ?」

 

「レリックや魔法協会に所蔵されている魔法技術関連の機密情報の奪取だな。魔法後進国である大亜連合にとって先進国の日本の技術は是非ともモノにしたいのだろう」

 

「論文コンペ自体を目的とした侵攻では無いのか?」

 

「確かにそうだが、論文コンペにも最新の技術が集う。会場が魔法協会に近いことも相まって、襲撃される可能性は高いだろう。協会と比べれば警備も薄いし非戦闘員が大量にいるからな」

 

「そうか…」

 

 

達也は俯いてしばし考え込む。その中で一つの疑問にたどり着く。

 

 

「…総司、確かに大亜連合が攻めてくると言う話には理解を示そう。だが、お前は何の為に『仮装行列(パレード)』を習得したんだ?単純な兵力勝負なら姿を偽る魔法は必須という訳でもない気がするのだが…?」

 

「確かにお前の指摘はごもっともだ。…理由は簡単だ、俺は今回『橘総司』として戦えない理由がある。別に禁止されている訳でも無いんだがな、この事は今のところお前と敵さんしか知らないのだから」

 

 

そう言った後、言うかどうか迷ったのか一瞬視線を彷徨わせて、覚悟したかのように告げる。

 

 

「…以前、旧第九研から俺のDNA情報が盗まれたんだ。犯人は大亜連合で奴ら、どうやら急増のクローンで俺を大量生産したらしい」

 

「…世界の終わりか?」

 

「心配するな、俺と同レベルの性能を持つクローンを製造することは出来なかったらしい。…本当か疑わしいがな」

 

「ちょっと待て。お前の情報源は確かなのだろう?何故疑わしいんだ?」

 

「…勘だよ、ただのな。だが、もし俺の『異能』に相当する力を持つ存在が現れたのなら、研究員共を欺く事も出来るのでは無いかとな」

 

「…クローンが意思を持って自身の性能を隠していると言いたいのか?」

 

「ただの勘だって、確実性はない。だけど念頭に置いておいても問題は無いはずだ」

 

「本当に悪夢のようだな…」

 

 

頭を抱える達也を見ながら、総司はやはり情報源からは得られなかった自分と同格の出力を持つクローンの存在をほぼ確信した。勘だと達也には言ったが真っ赤な嘘だ。総司は自分が無意識下に占術の行使を行っていると予想していた。だが自由に使える訳では無く、『嫌な予感がする』程度の予知しか出来ないが、総司にとってはそれだけで充分だった。

 

 

「…それで、そのクローンと『仮装行列(パレード)』に何の関連性が?」

 

「どうやら奴さん方は俺と同レベルのクローンを作れなかった事が結構キツかったらしくてな。俺を見かけたら逃げるように指示を出してあるらしいんだ」

 

「なるほど、だから姿を変えるというのか。だが、わざわざお前が戦う必要があるのか?」

 

「あるだろ、俺のDNAから生まれたんだぞ?ってことは科学的には同一人物になる。自分の失態は自分で何とかするさ」

 

「そうか…では、お前は当日どんな姿になるつもりだ?」

 

 

その達也の問いには総司はハッキリとした答えを返さなかった。

 

 

「そんな事教えたら面白くないだろ?まあ安心しろ、明らかに不審者っぽくて外国絶対許さないって雰囲気ビシバシだして行くから分かると思う」

 

「おいおい…そんな時までふざけるつもりか?」

 

「だってそれがこの作品のさくふ「それ以上言ったら口を縫い合わせるぞ」オニイサンユルシテ…」

 

 

危うく世界の崩壊を招きかねない総司の発言を阻止した達也は、最後にこう聞いた。

 

 

「…お前は、俺と深雪の事をどこまで知っているんだ?」

 

「…というと?仲の良さの事か?戦闘力の事か?」

 

「どちらかと言えば戦闘力という分類だな。…それで、どこまでだ?」

 

 

総司は席を立って、自分の分のお代を置いてからこう返した。

 

 

「お前が深雪ちゃんの為に居るんじゃなくて、深雪ちゃんがお前の為に居ることぐらいまでは」

 

「…!」

 

「じゃあな。また明日」

 

「…ああ。また明日」

 

 

別れを告げて店を出て行く総司を見送りながら、達也は独りごちる。

 

 

「…『トライデント』の開発を急ぐか…」

 

 

 


 

 

翌日、総司、達也、真由美、摩利は関本の面会の為八王子特殊鑑別所を訪れていた。

 

 

「悪いな総司君。君にまで付き合わせてもらって」

 

「いえいえ、帰ったら一緒に昼食を取れなかった雫ちゃんの機嫌を取るぐらいしか問題ありませんし」

 

「それはいえいえって言っていいのか?」

 

 

四人はそれぞれ看守にCADを預けている…総司はあくまで持ってきただけで何も記録されていない物だが。このようにCADが無い状況では、もし尋問中に襲撃を受けると達也はともかく真由美と摩利が危ない。そう言った場面の護衛という意味で総司は今回呼ばれたのだった。

 

 

「というか一日の昼を一緒に居られなかったからって雫はそこまで拗ねるような事は無かったはずだが?」

 

「いや今日は俺の誕生日だから、一日中一緒に居るって言って聞かなかったんだよ」

 

 

その言葉を聞いた時、三人が硬直した。

 

 

「…?どうした三人とも」

 

「お前…今日誕生日だったのか?」

 

「言ってくれればお祝いぐらいしたのに!」

 

「…確かに九校戦の時にそんなことを言っていた覚えも」

 

「誰も知らなかったんだね、お兄さん分かっちゃった」

 

 

どうやら総司は先程同級生や先輩達にも同じ反応をされたらしい。言われずに彼の誕生日を祝ったのは元から把握していた雫、電話で祝った琢磨、メールを送ってきた烈と光宣だけだ。総司は一抹の悲しさを覚えながらも歩みを止めない。

 

 

「というかなんで関本先輩はこんな事を起こしやがったんですかね?おかげでいい迷惑ですよ…ハッ!?ま、まさか殆どの人が俺の誕生日を知らなかったのは関本先輩のせい…!?」

 

「「普通に知らなかった」」

 

「覚えてなかった」

 

「ですよね畜生!」

 

 

そうこうしている内に総司達は目的の部屋までたどり着いた。

 

 

「私達はこっちよ二人とも」

 

 

真由美に言われた通りに関本が居る部屋の隣、警察の取り調べの時に出てくるマジックミラーで見えないようになっているあの部屋だ。そして向こうの部屋には摩利が入ってきた。突如の来客に関本は明らかに狼狽している。摩利と関本がしばらく会話をすると、いきなり関本が口を押さえる。どうやら摩利が匂いを用いた自白剤を使用したようだ。

それを見た総司がいきなり言葉を発する。

 

 

「匂いで自分の思いのままとかAVに出てきてもおかしくないな」

 

「まあ確かにそうだな」

 

「ちょ、ちょっと二人とも!?な、なんて破廉恥なことを!?それに摩利に失礼よ!?」

 

「しかし摩利先輩には調教の才能があるのかもしれないな」

 

「匂いで操るというだけでそう判断するのは早計では?」

 

「ちょ、調教!?ふ、二人とも、なんの話を!?」

 

 

顔を真っ赤にした真由美が問いかけると、二人は顔を見合わせ、一気に悪い顔をするとこう答えた。

 

 

「「勿論アニマル()ビデオ()の事ですが?」」

 

「…?…!ふ、二人とも~!!」

 

 

やっと揶揄われたことに気づいた真由美はお冠だ。今にも二人に飛び掛からんとしている。しかしどうやら摩利の尋問が終了したらしくこちらの部屋に摩利が入ってきた。様子がおかしい真由美を見た摩利は総司達に訳を聞くが二人は口を揃えて「さぁ?」ととぼけて見せた。

 

そうして部屋を四人が出た瞬間…

 

 

「なっ、何!?」

 

「…どうやら侵入者のようですね」

 

 

施設内のアラームがけたたましく鳴り響き、侵入者が現れたことを伝える。そしてその侵入者はすぐに見つかった。狙いが関本だからだろうか、一直線にこちらに向かってくる男、その名は呂剛虎。

 

 

「呂剛虎…!」

 

 

恋人に怪我をさせた敵である呂を睨み付ける摩利。どうやら呂も摩利を見て、病院で一戦交えた相手だと気づいたらしい。そうして他のメンバーに目を向けた呂は、総司を見て明らかに硬直した。顔も気のせいか恐怖の表情に変わっている。

 

 

「二人とも、真由美のガードをドゴォン!っ!?」

 

 

恋人を傷つけた相手を自分で倒そうとしたのか、総司と達也に真由美のガードを指示しようとした摩利だが…

 

 

「…あ、すいません。もうやっちゃいました」

 

 

轟音のした方から総司の声が聞こえる。総司は一瞬で呂の顔面を鷲掴みにすると、そのまま思いっきり床に叩きつけたようだ。証拠として総司は今ヒビが入った床に呂の頭を押し付けている。

 

 

「…それ、死んでるんじゃ無いか?」

 

「まあ、向こうもこっちを殺す気だったみたいですし正当防衛ですよ。それに生きてるみたいですし」

 

「「「……」」」

 

 

そう言って全く気にしていない総司を見て、三人は「(相変わらず脳筋だなぁ)」と思ったのだった。




魔法科世界の秘匿通信


・明らかに不審者っぽくて外国許さないって雰囲気:一体どこの国防仮面なんだ…?



・呂剛虎:ワンパン。相手にならない。



次回から遂に論文コンペ本番ですね。展開が盛り上がって行きますね、頑張らねば…


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横浜騒乱編 その十一

魔法科二期が二年前だと言うことに目を逸らしたい今日この頃…



そしてなんでリロメモの温泉イベに雫ちゃんの気配がしないんですか?露骨に胸で金取ろうとしてんじゃねぞ運営…!雫ちゃんのタオル姿見せろオラ…!(激怒)


論文コンペ当日、横浜の会場に司波兄妹と総司、雫ペアの姿があった。

 

 

「…総司お前、雫は連れてこないんじゃなかったのか?」

 

「バカ野郎お前俺と雫ちゃんが喧嘩になったら俺が勝てる訳ないだろいい加減にしろ!」

 

「早口で言い過ぎだ。聞き取りづらい」

 

「スマン」

 

 

どうやら総司は雫と論文コンペに連れて行くか行かないかでもめたらしい。そうなったら総司はもう負けが確定している。情けない…と思いながら自分も同じ状況になったら勝ち目が無い事を棚に置いて総司を非難する達也。

 

 

「でもそういうお前だって深雪ちゃん連れてきてるじゃないか」

 

「バカ野郎お前俺と深雪が喧嘩したら俺が勝てる理由なんてないだろいい加減にしろ!」

 

「お前も早口で聞き取りづらいぞ」

 

「すまない」

 

 

達也も深雪に押し切られたらしい。情けない…と思いながら自分も雫に完全敗北を喫している事を棚に上げて達也を非難する総司。同じ穴の狢である。情けない…

 

 

「お兄様!私は大丈夫ですから安心してください!自分の身は自分で守れますし、先輩方も付いています!」

 

「そうだよ総司君。深雪の言う通り、私達はそう簡単には負けないし、二人が守ってくれるなら絶対に大丈夫だから」

 

「「……」」

 

 

そう深雪と雫に言われて何も言い返せない達也と総司。二人の表情からはありありと『不安です』という感情が伝わってくる。

 

 

「ほらお兄様?そろそろ控え室に向かわなくてはならないのでは?」

 

「…ああ、それもそうだな。じゃあ総司、雫。また後で」

 

「おうよ」「うん」

 

 

時計を確認した深雪の言葉に従って控え室へと向かって行く達也達。その後ろ姿をしばらく眺めていると雫が総司に声をかける。

 

 

「…今日一番気をつけないといけないのは総司君だよ」

 

「…雫ちゃんが俺を心配するなんて珍しいな?いつもは最強だから大丈夫って送り出してくれるのにさ?」

 

「今回は…嫌な予感がするの。それこそ総司君が危険な目に遭うかもしれない…!」

 

「おいおいエスパーじゃないんだし、そんな予感で俺が負けると…」

 

「思ってる。だから気をつけて」

 

「……」

 

 

総司も実のところ今回は非常に嫌な予感がしていた。自分とほぼシンクロしていると言っても過言では無い雫までもが感じたとなれば、いよいよ予感では済まされない気がしてきた総司であった…

 

 


 

数時間後…既に二校の発表が終わった頃…

 

「くっっっっそ暇なんですけど?」

 

「総司君って案外せっかちだよね」

 

「いやこれは単純に内容を一切理解してないからつまらなく感じてるんだと思う」

 

「おお…流石の理解度、北山さんはよく総司の事を見てるよね」

 

「もう見なくても分かるまであるよ」

 

「それはもうエスパーの域だよ雫…」

 

「今誰か遠回しに俺のこと馬鹿って言わなかったか?」

 

「反応遅くない?」

 

「遠回しじゃなくてハッキリ馬鹿って言ったから心配しなくてもいいぞ総司」

 

「ようし達也君表に出なさい殺します」

 

「お兄様を傷つけるおつもりで…?」

 

「あ~もうメチャクチャだよ…」

 

 

レオがこのカオスにツッコミキレなくなった時、総司が端末を取り出す。どうやら誰かから連絡が来たようだ。

 

 

「…俺ちょっと席外すわ」

 

「うん…頑張ってね、総司君」

 

「もちろんだとも」

 

「「「「「?」」」」」

 

「「…」」

 

 

ただ電話をするからと席を外すと言うだけなのに、何故か激励の言葉を総司に贈った雫。その事に事情を知らないメンバーは首を傾げ、司波兄妹は意味ありげな視線で見送る。

会場を出てしばらく歩き、端末に耳を当てる。

 

 

「…で?いつ頃の襲撃か分かったのか烈爺」

 

『ああ。そちらの港に貨物船に偽装された揚陸艦の存在を確認した。動きから見て恐らく攻撃開始時刻は一五〇〇だ』

 

「了解した」

 

 

連絡先は九島烈であった。総司はパレード習得の際に烈に情報を提供しており、その対価として当日の協力を依頼していたのだ。

 

 

『そして厄介な事も判明した』

 

「厄介な事?」

 

『うむ。どうやらこの騒ぎに乗じて『伝統派』がお前を暗殺しようと目論んでいるようだ』

 

「伝統派とか久々に聞いたわ…」

 

『ここ最近はおとなしかったからの。…それよりも総司、事態の重大さに気づいておるか?』

 

「…九島でも俺の情報提供が無ければ察知出来なかった今回の大亜連合の侵攻を、伝統派が知っていることだな?」

 

『そうだ。慢心している訳では無いが、伝統派が九島の情報収集力を上回っておるとは思えん…』

 

「つまり、伝統派が九島より情報通か、そもそも()()()()()()()()()()()だな」

 

『私は後者だと考察する。いくら騒ぎが大きくなることが確定しているとは言えど、お前を伝統派のみで斃せるはずがない。となれば大亜連合と協力した結果、お前への対抗策を見いだしたのかもしれん』

 

 

総司は僅かに歯噛みする。こちらの掴んだ情報にそのような話は無かった。となれば思い過ごしか、総司の情報源…『フリズスキャルヴ』対策に対面でも条約を交わした上でその痕跡をを何処にも残さなかったということになる。

そして通話を切る前に烈が口を開く。

 

 

『…お前のクローンが生まれたのは元はと言えば九島の責任だ。いくらお前のだとしても、全てを自分で葬り去ろうとして無理を冒すことだけは止しておけ』

 

「どう取り繕っても俺のクローンは実質俺だし、俺も九島の端くれだ。責任を九島が取るなら俺も取ることになる。ご忠告通り無理はしないでおくが、無茶と無謀はさせてもらうぜ」

 

『…帰ってくるのだぞ』

 

 

烈はそう言い残して通話を切った。通話が切れた端末をしばらく見つめた後、総司は再びどこかへと通話をかけた。

 

 

「もしもし、琢磨か?総司だ、お前今どこに居る?」

 

『先輩の言う通りに横浜に来ています。こちらはいつでも戦闘可能です』

 

「オーケー。奴さんは一五〇〇に襲撃をかけてくる。お前は市民に反抗されることなんて微塵も考えてないマヌケ面に横からデカいのお見舞いしてやれ!」

 

『デカいのというと町ごといっても?』

 

「市民が避難してるなら構わないだろ。全部大亜連合に責任押し付けてしまえばいいさ」

 

『それもそうですね』

 

 

その通話相手は七宝琢磨。総司は自身と同レベルの白兵戦を行える琢磨を東京から呼びつけていたらしい。

 

 

「それじゃ、襲撃開始後に駅で合流。その後二人で掃討戦だ」

 

『……』

 

「…琢磨?」

 

 

総司が琢磨に予定の確認をしようとすると、琢磨からの返答がなかった。まさか何かあったのか?総司は訝しんだが…

 

 

『…正直に言って、あの格好の総司先輩と一緒に居たくないです』

 

「…あー」

 

 

そう、今回総司は自身のクローン達を欺く為、パレードで変装しながらの戦闘を行う予定だ。そして明確に達也達に分かるように明らかな不審者スタイルで行くつもりなのだ。となれば琢磨が同行を拒否してもおかしくは無い。

 

 

「そういうことならいいや。お前が義勇兵として戦ってる風を装え。一高のみんなには隠す必要は特段ないがな」

 

『了解です』

 

 

そういって切れた通話。自分も動こうと総司が歩き出した時、ふとした思いつきで総司は再び端末を操作する。相手は九島烈。

 

 

 

ー『お土産何がいい?』ー

 

 

ー『捕らえられればお前のクローンを五体程』ー

 

 

ー『了解。期待しないで待っててくれ』ー

 

 

 

こういうときこそ何時も通りを心がける。総司は笑みを浮かべて横浜の街に向けて跳躍した。

 

 

 


 

 

 

そしてその時は訪れる…

 

 

一高の発表が終わった直後、会場全体が大きく揺れ、爆発音が鳴り響く。

 

 

2095年 10月 30日…この日、魔法師界の歴史の大きな転換点となる、『灼熱のハロウィン』のきっかけとなる、大亜連合の横浜侵攻が始まった…




魔法科世界の秘匿通信


・パートナーに言い負かされる達也と総司:お互いが言い訳を言い合っている場面はどちらもCV中村氏故に声だけ聞くとほぼ一人芝居となる。


・最近ギャグが少ない総司:大丈夫、フリズスキャルヴでも出所を突き止めきれないパラサイト相手なら対策とか立てようがないからその分ギャグに走る。


次回から遂に横浜騒乱が始まります。

後、リロメモで展開されている飛騨遺跡編ですが、おおよそ総司が関わる事柄じゃないんで書きません。


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横浜騒乱編 その十二

前回の前書きに対して「じゃあ自分で書けよ」的なことを言われたので、「やってやろうじゃねえかよコノヤロー!」の精神で番外編の内容を決定しました。

横浜騒乱編の後に九月頃に二人で混浴ありの温泉に行った話でも書きますわ。


会場の近くで突如として発生した爆音と振動。論文コンペに訪れていた聴衆の殆どは状況を理解出来ずにざわついていた。

 

 

「深雪!」

 

「お兄様!これは…!」

 

「ああ。総司の言っていた通り、大亜連合の襲撃だろう」

 

 

発表が終わった直後でステージ上にいた達也はすぐに深雪の元へと駆け寄る。

 

 

「でしたら今の爆音は…!」

 

「おそらくは正面出入口で擲弾が爆発したのだろう」

 

「それってグレネードってことか?」

 

 

深雪に続いていつものメンバーも達也の元に集う。その中で雫だけが事情を知っており、司波兄妹とアイコンタクトを取る。

 

 

「それって大丈夫なの?先輩達もマズいんじゃ…」

 

「それに総司さんも戻ってきていないですし…」

 

「正面には協会が手配した正規の警備員が担当しているし、そこには実戦経験のある魔法師もいる。ただの犯罪組織レベルの相手なら問題ないはずだ。それと、総司なんて殺しても死なないような奴の心配は無用だろう」

 

 

そう言ってエリカと美月の質問に答えた達也。実際は相手が相手なだけに総司の事は心配ではあるが、今は深雪や雫達の保護が優先される。

とその直後、複数の銃声が聞こえた。

 

 

「(フルオートではない…!対魔法師用のハイパワーライフルか!)」

 

 

実戦魔法師の魔法には銃器を無効化する物が多々存在する。最もな例としては十文字家の『ファランクス』だろう。総司に破られた印象が強いが、総司に異能が無ければ彼でも突破困難な硬度を誇る『ファランクス』は銃器の無効化手段としては最高峰だ。

しかしそれに対抗しないほど銃器を使用する国々は柔では無い。往々にして防御力以上の攻撃力を持つ兵器を生み出すものだ。ハイパワーライフルはその一例であり、魔法師の防御魔法を超えるほどの高い慣性力を生み出す高速銃弾を放つ事が可能だ。

 

だが高性能な武器である分、通常の銃器製造技術よりも三段階程高い高度な技術が必要だ。小国では製造どころかコスト面で配備すらできないだろう。

 

 

「銃声、大分近いね…これもう直ぐこちらに来るのでは?」

 

「…どうやらそのようだな。…総司め、本当に此処の守護を押し付けていきやがったな…

 

 

幹比古の予想通り、銃器を構えた集団が客席に雪崩れ込んできたのだ。恐怖に呑まれる聴衆が多数であり、客席を護衛していた生徒達も動揺して上手く動けていない中、流石は実戦的な教育を施している三高といったところか、ステージ上で次のプレゼンをするはずだった三高生が魔法を発動しようとした。しかしそれより早く銃弾がステージ後ろの壁に穴を開ける。その弾の威力から見て達也の推測通りハイパワーライフルだ。入ってきた者達全員が同種の物を装備している点を見ると、やはり魔法後進国とは言え大亜連合は大国なのだと思い知らされる。

 

 

「大人しくしろ!」

 

 

たどたどしい怒声を聞いた達也は、「侵攻する予定の国の言語を学ぶなんて変に律儀だな」と変なことを考えていた。しかし状況は悪い。

現代魔法がCADにより高速化した事で銃器と対等な速度を手に入れたとは言われているが、あくまで対等なだけであり、魔法師の力量次第ではその限りではない故、銃を相手が既に構えて居た場合はむやみに抵抗しないのがセオリーだ。

 

 

「デバイスを外して床に置け」

 

 

どうやら侵入者達は魔法師相手の戦闘になれた様子だ。ステージ上の三高生が悔しそうにCADを床に置く姿が見える。どうやら三高生にはこう言った場合の対応の仕方もキッチリと教えられているらしい。そして侵入者は達也に目を付けた。

 

 

「おい、オマエもだ。早くしろ!」

 

 

侵入者の一人が銃口を向けたまま慎重な足取りで達也に近づく。

侵入者は客席に居るだけでも六名。『精霊の眼』を用いてCADなしで照準をつけた達也は苦虫をかむ。

 

 

「(ここまで人目がある場所で力を使いたくはないが…)」

 

 

そう、達也にとってこの程度の敵相手にもならない。しかし総司と違って手札を隠したい、隠さなければならない今の達也では少々厳しい物がある。

すると近づいてきた敵兵の様子がおかしい。どうやら素直に従わない達也に苛立ちが募っているようだ。そしてそれが限度になった時、

 

 

「っち!」

 

「おい待て!」

 

 

敵は仲間の制止も聞かずに引き金を引いた。後々達也は「よくあそこまでせっかちでここまで生きて来れたものだ」と回想する程には我慢強くなかった敵兵。三メートルしか離れていない距離で放たれた銃弾は達也を貫く…

 

 

「…はあっ!」

 

「!」

 

「何っ!?」

 

 

く事は無かった。一瞬の内に達也と敵兵の間に割り込んできた人影…壬生紗耶香によってハイパワーライフルの弾丸が切られる。よって達也に弾丸があたる事は無かった。更にもう一発撃とうとしている敵に向かって壬生は一瞬で距離を詰めてハイパワーライフル本体を切り裂く。

 

 

「(発動の兆候が僅かだった…これはまさか、五十里先輩の刻印魔法?)」

 

 

達也が『精霊の眼』で確認した情報によれば、壬生が一瞬で距離を詰める事に成功した原因の強化魔法は、靴に仕込まれた刻印魔法である事に気づいた達也。となれば開発者は一高に在籍している刻印魔法の重鎮、五十里家の次期当主、五十里啓以外にはいないだろう。

 

 

「野郎っ…!」

 

「させないよ」

 

 

達也に近い扉から入ってきたもうひとりの兵士がこちらに銃口を向け直そうとするが、雫の『フォノンメーザー』によってライフルを破壊されてしまう。他の入り口から入ってきた兵士達も達也に攻撃をしようとするが、爆音が聞こえた辺りから術式を構築していた幹比古の『雷童子』で二人、クイック・ドロウを用いた森崎の早撃ちで二人と即座に制圧されてしまった。

 

 

「クソがっ…!」

 

 

達也に銃撃を放った兵士は諦めずにナイフで突っ込むが、ナイフを壬生に弾かれ、ガードが空いた所に達也が動いて拳を叩き込んで気絶させた。

 

今起こった光景にステージ上の三高生達を始めとして、殆どの聴衆がポカンと口を開けている。兵士を撃退した面々は何処吹く風といった表情だが。

総司は達也以外には雫や老師にしか今回の襲撃の情報を与えていなかったはずだ。いくら彼らが優秀だと言えども、なぜここまで早く対応出来たのか、達也は気になった。

 

 

「壬生先輩、何故反応できたんですか?それにその刻印魔法は…」

 

「えっ…と、司波君だっけ?何故って言われたら…ここ最近総司君が不安げな表情をしていたからかな?」

 

「…というと?」

 

「総司君、笑ってはいるんだけど何か気にしてる風だったのよね。それでここ最近の論文コンペ絡みの問題。絶対論文コンペで何かがある!って思った私と武明君で五十里君達に協力を要請して色々準備してたの。だから、この襲撃は予測できていたの」

 

 

達也はあずかり知らぬところだが、壬生と桐原は四月に総司と三人でブランシュ日本支部にカチコミをかけている。十師族が通う一高が付近にありながらもブランシュのアジトを突き止められていなかったのに対し、総司という一個人がその場所を知っていた点から、何かしらの情報源がある、というのが壬生と桐原の共通認識だった。

だがそれ以上に、総司の起こすハプニングによって、突如として起こる事態への耐性が出来ていたことも大きい。幹比古と森崎も同じ理由で耐性を付けていた故に即座に動けたのだ。総司のせいでテロにすら驚かなくなってしまったという事は、かなりの回数総司によって胃を痛めつけられているという恐怖の方程式ができあがったが見なかったことにしよう。

 

 

「では、正面付近を警備している先輩方も?」

 

「ええ。今回の事は予測していたはずよ。証拠にもう銃声が聞こえないし」

 

「確かに…」

 

 

壬生からの言葉を聞いた達也が再び正面の方へ『精霊の眼』を向けると、襲撃者達は既に縛り付けられており、見覚えのある気配が四つ固まっていた。恐らく桐原、範蔵、花音、克人の四人だろう。ここまで総司の関係者達が活躍していると、総司の存在が周囲の人を変えていくのかもしれないと、そんなファンタジーな思考をする達也。

 

 

「…一高はどんな教育をしているんだ!?」

 

 

何やらステージ上で真紅郎が恐々としているが、達也は気にしないことにした。




魔法科世界の秘匿通信


・壬生や幹比古はともかく、森崎も客席内にいたのは、自分が雫を守っていれば少しは総司が安心して戦えるという森崎なりの配慮。よく四月からここまで持ち直したな…


・この時間には既に投入されたクローンの二割が総司と琢磨に蹂躙されている。


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横浜騒乱編 その十三

エリカちゃんに温泉衣装着せて、「エロいなぁ…」とか呟くという、雫ちゃんを裏切るような行為をした俺を誰か罰してくれ…!くそっ、これも全部乾巧って奴の仕業なんだ!


「それで?こっからどうするつもりなんだ達也?」

 

 

一高生の活躍により、論文コンペ会場に侵入して来た兵士達を制圧する事に成功した達也達。しかしそれでこの場所が安全になったという訳では無い。移動するのか、防衛戦線を張るのか。その辺りの判断をレオは達也に求めた。

 

 

「情報が欲しいな。敵の装備から察するに相手はかなりの規模である可能性が高い。行き当たりばったりでは取り返しの付かない沼に落ちてしまうかもしれない。だがどうやって…」

 

 

どうやって…とは達也は言うが、魔法協会にさえたどり着くことが出来れば必要な情報は手に入る。十師族専用の秘密回線、達也はその回線の四葉家用の物にアクセスすることが出来る。ここで問題になってくるのが、達也だけならまだしも、戦禍の中で此処にいる全員でベイヒルズタワーへたどり着くことが出来るか否かであった。そして答えはノー。いくら実力者揃いとは言えど、魔法師だってまともに銃弾を当てられれば死ぬ。自分含めて死なないのが一高生に二名程居ることを考えても、やはりその二名は例外なのだ。

 

 

「VIP会議室を使ったら?」

 

「VIP会議室?」

 

 

問い返す達也に首肯する雫。

 

 

「あの部屋は閣僚級の政治家や経済団体トップレベルの会合に使われる部屋だから、大抵の情報にはアクセス出来るはず」

 

「そんな部屋が存在するのか?」

 

「一般には公開されていない部屋だからね」

 

「…よく知ってるわね雫」

 

 

エリカの感心した様子に鼻を高くした雫は心なしかドヤ顔で答えた。

 

 

「昔父に連れて行ってもらった事があるの。暗証キーも、まだ見ぬ世界へ繋がる風を掴…アクセスコードも知ってるよ」

 

「途中で挟まった詠唱的なの何?」

 

「知らない。最強のリンク4なんて私知らない」

 

 

ここに総司が居れば、人は彼女を、プレイメーカーと呼ぶ…ぐらいはノっただろうが、生憎と今は出陣してこの場には居ない。

そんな二人の会話を余所に、確かにあの北方潮が使う部屋ならばと雫に案内を頼んだのだった。

 

 


 

 

雫のアクセスフラッ…アクセスコードを使ってVIP会議室のモニターに受信させた警察のマップデータは、海に面する一帯が危険地域を示す真っ赤に染まっていた。そして赤い領域は彼らが見ている間にも内陸部へと拡大していく。二箇所ほど押し返して色が消えている場所があるが、恐らく総司がやったのは確定だろう。だがその二箇所は割と距離があるため、ではもう一つの地域を守っているのは?という疑問が沸いたが、その疑問の答えを考える暇は無かった。

 

 

「みんな、改めて言わなくても分かっているだろうが、状況は一刻を争う。この辺りでグズグズしていたら国防軍の到着より先に敵に補足されてしまうだろう。総司が居れば力押しで脱出出来るかもしれんが、このマップを見た限りでは既に総司は戦闘行動に移っている可能性が高い。アイツがこっちの援軍に来るのは望み薄だろう。俺達は早くここから脱出しなければならない」

 

「だからと言って、この状況じゃ陸路も海も塞がれているぜ?シェルターへ逃げ込むのが一番だろ」

 

「そうですね」

 

「じゃあ地下通路?」

 

「いや、地上から向かうぞ」

 

「…なるほどね?」

 

 

達也が提示した問いに現実的な答えを返す桐原。一瞬地下通路を使わない理由が気になった壬生だが、自分で気づいたのかひとりでに納得している

 

 

「どうしてですか達也さん?」

 

「地下通路は直通ではない、と言うことは他のグループとの鉢合わせも考えられるし、場合によっては」

 

「遭遇戦の可能性があると言うことか!?」

 

 

達也が言い終わる前に驚愕を示した範蔵。達也は「その通りです」と続けて

 

 

「地下通路では行動の自由が狭まります。逃げることも隠れることも出来ず、正面衝突を強いられるでしょう」

 

「確か先程中条達が地下通路からの脱出を考えていたはずだ。服部、沢木を連れてすぐに中条の後を追え」

 

「了解しました!」

 

 

達也の意見を聞いた克人は即座に範蔵に命令を出し、彼と沢木を護衛として地下通路組の元へと向かわせた。流石は十師族と言ったところか。すると入れ替わりで鈴音、啓、花音、摩利、真由美がVIP会議室へと入ってきた。

 

 

「デモ機や他校の機器はデータを消去した上で破壊してきたわ」

 

「流石、仕事が早いですね」

 

「トラブルに強くなったのは何も達也君達だけじゃないのよ?」

 

「…総司め」

 

 

旧生徒会メンバーすらアクシデントに強くなっているのだから、どれほど総司の存在がアクシデントだったのかが窺い知れる。

 

 

「それで、七草である先輩は何か情報を掴んでいらっしゃいますか?」

 

「ええ。港内に侵入して来た敵艦は一隻。東京湾に他の敵艦は見当たらないそうよ。上陸した兵力は具体的な規模は不明だけど、海岸近くは殆ど制圧されていて、でも妙に抵抗力が強い二つの地域では逆に押し返しているようよ」

 

 

妙に抵抗力が強いといった辺りで室内の全員がああ、総司か…と気持ちを一つにした。どんなときでもみんなの胃に住み着いて痛みを与えてくる寄生虫なのかもしれない。

 

 

「そして…一つ異常事態が起こっているの」

 

 

真由美が深刻そうに切り出した言葉に首を傾げる一同。傾げなかった三名は、「あ、絶対あれだ」と思った。

 

 

「…どうやら、敵はクローン兵を使ってきているの」

 

「なんだって!?」

 

「「「…あ~」」」

 

 

驚愕した一同を代表するかのように声を上げた摩利を尻目に頭を抱える三人。まさしく予想通りであった。

 

 

「クローンの元になった人物は分かっているのか?」

 

「…それは、橘総司君よ」

 

「「「知ってた」」」

 

 

克人の問いに予想通りの答えを返した真由美に三名は白目を剥いた。

 

 

「何!?総司君は敵だったってこと!?」

 

「落ち着いて花音!彼がスパイ活動が出来るほど頭がいいわけじゃないのは君も知っているだろう!」

 

「「「「「ブッ!」」」」」

 

 

総司を疑う花音を諫める為に啓から発せられた言葉、それにはこの場のほぼ全ての人間が吹き出す面白さがあった。

 

なお、総司は色々と隠し事をしてはいるが、別にそれは調べた結果を誰にも話さない、友達から「これ二人だけの秘密な!」と言われたことを律儀に守っているようなものだ。故に総司はスパイ活動に向いていないとは一概には言えないが、ボロを出して達也に問い詰められてしまった所を見ると、恐らくどこかの某ポンコツ総隊長様と同レベルの適性だろう。

 

 

「ええ…それもそうね。ごめんなさい取り乱して。北山さんもごめんなさい、貴女の大切な人を疑ったりして」

 

「大丈夫です。総司君は最強なので」

 

「脈絡がなさすぎるよ雫…!?」

 

 

何故か身内からの罵倒を受けている総司は何処吹く風と戦闘を継続しているだろう。

 

 

「総司君のクローンがどれほどの強さを持つのかは現状不明だけれど、もし仮にオリジナルと同レベルだった場合…」

 

「それはマズいな。奴の異能まで模倣出来るとは思えんが、そうなれば世界の軍事バランスが一気に崩れる。対抗できるのは奴本人以外では三高の一条ぐらいだろう」

 

 

実際はクローン兵はオリジナルほど強く無いし、異能を模倣出来なかった故に腕のいい魔法師なら簡単に倒せる位の強さしか無い。現に二割はオリジナルと、同レベルの中学生にボッコボコにされて道路のシミと化している。

その事を知っている達也は他のメンバーとは若干気楽な表情を浮かべている。それは余裕があると言い換えてもいい。故にこそ気づけた。

 

 

「…!十文字先輩!正面玄関に障壁を!敵の装甲車が突っ込んできます!」

 

「何!?…承知した!フゥン!」

 

 

敵兵の操る車の衝突は、寸前で克人が展開したファランクスによって阻止された。勢いを殺せぬまま衝突したため車は勢いよく爆散した。

 

 

「…達也君、今どうして気づけたの?」

 

「……」

 

 

真由美の問いに達也は答えない。克人がいた為『分解』までは見せずに済んだが、『精霊の眼』も充分隠すべき事項だ。どう言い訳をしようか悩んでいると、会議室に足を踏み入れてきた女性のおかげで、達也は問題を先送りに出来た。

 

 

「お待たせ」

 

「えっ?えっ?もしかして、響子さん?」

 

「お久しぶりね、真由美さん」

 

 

入ってきた女性…藤林響子は、旧知の真由美に挨拶をした後、達也の方へ視線を向けたのだった。




魔法科世界の秘匿通信


・原作一高生は大体強化されてる。されてないのはあーちゃんぐらい。


・しばらく総司君の視点はない。彼は琢磨とともに頑張って戦線を維持している。


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横浜騒乱編 その十四

横浜騒乱のメインイベントが始まって、あと何話で横浜騒乱編終わるか考えてみたらまだまだかかりそうで「こりゃ大変だ」って気持ちになった今日この頃


「特尉、情報統制は一時的に解除されています」

 

 

突如として達也達の前に現れた藤林響子。その後ろから軍服の少佐の階級章を身につけた男性が入室してくる。この場にいた全員が困惑の表情で二人を迎える中、響子が達也に放った一言で司波兄妹は冷静さを取り戻し、逆に他の者は困惑の視線を達也にも向けるようになる。

そして達也の敬礼に敬礼で答えた少佐らしき軍人は、他の者…主に克人に向けて名乗る。

 

 

「国防陸軍少佐、風間玄信です。訳あって所属についてはご勘弁願いたい」

 

 

らしきではなく本当に少佐であった軍人…風間の名前に聞き覚えがあった十文字は「なるほどこの御仁が…」と考えながらも返答をする。

 

 

「貴官があの風間少佐でいらっしゃいましたか。師族会議十文字家代表代理、十文字克人です」

 

 

と魔法師界での形式的な肩書きを添えて敬語を使用して名乗った克人。彼はまだ十八歳の高校生、いくら身内でも目上の人には敬語を使う。十師族関係者で上の者にも敬語を使わないのは総司ぐらいのものだ。

それを聞いた風間は全員が、特に克人と達也を視界にいれるようにして移動する。

 

 

「藤林、現在の状況をご説明して差し上げろ」

 

「はい。我が軍は現在、保土ケ谷駐留部隊が侵攻軍と交戦中。また、鶴見と藤沢より各一個大隊当地に急行中。魔法協会関東支部も独自に義勇軍を編成し、自衛行動に移っています。加えて、所属は不明ですが、こちら側の魔法師と思われる者が二名程、別々の地域で戦闘行動を起こしているようです」

 

「ご苦労。さて特尉」

 

 

短く響子を労った後、風間は「特尉」という呼称とともに顔を達也に向けた。

 

 

「現下の特殊な状況を鑑み、別任務で保土ケ谷に出動中だった我が隊も防衛に加わるよう、先程命令が下った。国防軍特務規則に基づき、貴官にも出動を命じる」

 

 

風間の言葉にこの場の何人かが口を開きかけたが、風間の視線に封じられる。

 

 

「国防軍は皆さんに対し、特尉の地位について守秘義務を要求する。本件は国家機密保護法に基づく措置である事を理解されたい」

 

 

厳しい単語、重々しい口調、その二つを超える視線の圧にこの場の誰もが閉口した…一人を除いては。

 

 

「あの…すいません」

 

「む?なんですかな、レディ?」

 

 

その一人とは、明らかに別の事に興味が行っていることが見て取れる北山雫だった。その様子から、達也関連の情報への追求ではなく、別の事を聞きたいのだろうと考えた風間は続きを促す。

 

 

「その…所属不明の魔法師の映像とか、ありますか?」

 

 

その質問には一高生達全員が「ナイス!」と叫びそうになるものだった。雫は今回の戦闘、嫌な予感がしている。総司は大丈夫だと信じたいが、一度位は映像かなにかで無事を確認したいものだ。他のメンバーも同意見だった。

 

 

「…いいでしょう、藤林」

 

「……」

 

「…藤林?」

 

「あっ、はい!ただいま!」

 

 

その要求を承諾した風間が藤林に監視カメラの映像を映させようと指示を出す…が、彼女は何故か一瞬言いよどむ。心なしか「(見るの嫌だなぁ…)」といった表情だった。

 

 

「…こちらです」

 

「…あっ!この子、見たことがあるわ!」

 

「ああ、俺もある。二十八家、七宝家の長男の七宝琢磨だな」

 

「なるほど彼が…話には聞いていたが、確かに総司と同レベルと言っても違和感が無いな」

 

「本当に橘君のクローンですね…」

 

「だけど、本物ほどの脅威は感じませんね」

 

「あくまでクローン。劣化版と言ったところかな…」

 

 

最初に映し出された映像は琢磨が総司のクローン相手に戦闘をしている場面を映し出していた。何かしらの魔法を使っているのか、それともオリジナル同様持ち前の身体能力なのかは分からないが、クローン達も中々の速度で戦闘を行っている。並大抵の軍人では一人倒すのに相当な時間がかかり、尚且つ一人では対処しきれない速度の為、クローンの対応に人を割く羽目になっていて、その隙を兵器で突かれたりと各所の戦況は悪いようだ。しかし琢磨は尋常ではない速度でばったばったとクローンを殴り、蹴り、投げ、ちぎり、叩きつけなどとオリジナルと比べても遜色ないほどの戦闘力を見せつけている。

因みにだがクローンの速度はやっと目で追える位の速度であり、普通に高スペックなのだが、一高生達は上位互換に慣れすぎていて劣化版として脅威に見ていない。実際彼ら彼女らには脅威では無いのかもしれない(白目)

 

 

「…そして…これが…もう一つの地域の映像です…!」

 

 

そう本当に言いたくないけど命令だから…!と、丸で()()()()でも映されるかのように嫌そうに映像を出す。そこには…

 

 

「…誰だ?あの()()()()は?」

 

「この地域には総司君がいるんじゃ無いの?」

 

「しかも軍服姿…?」

 

 

三巨頭が言うとおり、総司では無く謎の覆面の女の子がビルの屋上に立っている映像だった。同じく総司が居ると思っていた二年生組も首を傾げる。明らかに動揺していたのは一年生組だ。確かに映像の少女は総司では無い。だが総司が()()()()()()()()()()()()()を使える事を知っている一年生は「まさか…!?」といった顔だ。そしてその予想は…

 

 

「あ、総司君だ。無事で良かった…」

 

「「「「ゑ?」」」」

 

 

あの完璧総司感知機として名高い?雫がその少女を見て総司君と呼んだのだ。雫のセンサーに間違いは無い、となればあの少女は総司であるということなのだが、俄には信じられず…

 

 

『国を護れと人が呼ぶ!』

 

「「「!?!?」」」」

 

 

それは唐突に映像の覆面少女が声高らかに叫んだ声の録画音声だ。あまりにもいきなりなためみんなビックリした。

 

 

『愛を護れと叫んでる!』

 

「おい、これって…」

 

「ええ。確かにこの変人っぷりは…」

 

 

もし仮に別人だったとして、少女に対して明確に失礼な会話を行う剣道カップル。まあこの尖り具合と雫の太鼓判が決め手となり、最早正体は明らかだった。

 

 

『憂国の戦士!国防仮面、参上!』

 

 

「「「「「なにやってんだアイツー!?」」」」」

 

 

そう、国防仮面改め、東郷みもゲフンゲフン。国防仮面の正体は、対抗魔法、『仮装行列(パレード)』を使用して国防仮面になりすました総司であったのだ。いやいや待てよと、いくら変だからって総司と決めつけていい訳がない。そう思われる方もいるだろうが、国防仮面は名乗りを終えた直後、クローン達を琢磨と同じかそれ以上の身体能力で圧倒していくのだ。これはどう考えても総司しかいない。吹き飛ばされていくクローン達も、表情が(^p^)みたいになって飛んでいく。この映像だけギャグアニメのようだった。

 

 

『中華の皮を被ったエセクライシス帝国め…!我が日本国に攻め入ろうとは愚かな真似を!この国防仮面が断罪してくれよう!イットゥミトゥルギスターイル!天皇陛下バンザーイ!』

 

「もうやめて総司君…これ以上恥をかかせないでぇ…」

 

「う、あーその、なんだ。藤林少尉。もう十分だから映像を止めても構わん」

 

「はい…ご配慮感謝します…」

 

 

身内の恥を見せつけられて意気消沈している響子。正直言ってまだ見たい気持ちはあったが、ああふざけている奴もいるとはいえ今は危険な状況であり、これ以上の長居は無用であると理解していた面々は、先程の映像にはこれ以上触れず、シリアスな顔をする。尚、摩利や桐原、花音といった一部のメンバーは笑いを堪えきれずに肩が上下していた。

 

 

「…あのー特尉?君の考案したムーバル・スーツの準備がしてあります。急ぎましょう?」

 

 

気まずい空気の中、扉から恐る恐る達也に話しかけた真田。その声に頷いた達也は友人達に振り向いてこう告げた。

 

 

「すまない、聞いての通りだ。みんなは先輩達と一緒に避難してくれ。雫、間違っても総司を迎えに行こう等と考えるなよ」

 

「分かってるよ」

 

「特尉、皆さんは私と私の隊がお供します」

 

「ありがとうございます、少尉」

 

 

響子に一礼し、達也は風間の後に続こうとする。この場の誰もが呼び止める気配を出さなかった。だが、

 

 

「お兄様、お待ちください」

 

 

深雪が思い詰めた表情で達也を呼び止めた。振り返り、目を合わせることで、自分の妹の意図を感じ取った達也は、風間に目を向けて深雪の傍に歩み寄る。風間はその目線を察して先行した。深雪の目の前に立った達也は、彼女の前に片膝をつく。そして深雪は兄の顔を自分の方へと向け、腰を屈めて、敬愛するお兄様の額にキスをした。

 

瞬間、目を灼くほどに激しい光の粒子が達也の体から沸き立った。

 

 

「ご存分に」

 

「征ってくる」

 

 

万感を込めた妹の視線を受けて、達也は戦場となった横浜の街へ出陣したのだった…




魔法科世界の秘匿通信


・国防仮面:分からない人は『ゆゆゆ 国防仮面』で検索しよう!分かる人には分かるが、総司の見た目は国防仮面本人と相違無い為、メガロポリス級の虚乳がついている。



・響子さんは総司君がパレードを使えることを烈経由で知ってた。


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横浜騒乱編 その十五

情報戦の時はシリアスになるのに、いざ実戦になるとふざけまくるのはそ~うじ?


優等生見てると「作画安定しないな…達也なんか違うな…」って去年のリアタイ時と全く同じ感想が出てきます。まあ雫ちゃんの出番が非常に多い(メインキャラの一人なんだから当たり前)ので、オッケーです。


駅のシェルターへと移動を開始する一同。途中で克人が師族会議の一員としての義務を果たすとか果たさないとかで車を一台借りて一人で魔法協会支部に向かった故、欠けたメンバーこそいるが全員無事にシェルターが設置してある駅前広場に到着した一行。だが…

 

 

「そんな…!」

 

「広場が…!」

 

「直立戦車…いったい何処から…?それにこの大量の総司君のクローン…隠れ潜んでいたとしても何処に?」

 

 

駅前広場は凄惨な状況だった。広場は大きく陥没し、その上直立戦車とクローン兵が気持ち悪いぐらいの数存在していた。見ろ!まるでゴミの(ry

 

 

「…ターゲット確認」

 

「「「「!?」」」」

 

「…情報一致、オリジナルの学友及び上級生と判断。排除します」

 

 

呆けていた一高生を発見したクローンから、総司の顔に似つかない機械音声と共に、驚愕の事実を知る。それはつまり、今此処にいる一高生の情報が知られていると言うこと。この中でも特段有名な真由美だけならまだしも、全員が関係者であるとバレている。まあバレていなかったからと言って向こうが襲ってこないという訳では無いのだが。

 

 

「優先順位設定…第一目標、北山雫」

 

「私っ…!?」

 

「なるほど?こいつら作らせた奴はよっぽど総司が嫌いなんだな。的確に弱点狙おうとしやがってよォ!」

 

 

クローン達の行動目標には、総司の仲間達の排除も含まれていたのだろうか。そう考えたくなるほど、大量のクローン達が囲みこんでくる。

総司のクローンに殺害予告を出された事に、クローンといえどもショックを受けた雫。そんな雫とは対称的に、過去総司とともにブランシュを壊滅させた経験がある桐原と壬生は即座に雫をかばうようにして立ってから得物を抜く。

 

いきなりな戦闘に困惑を隠せない面々を余所に、桐原達の即時行動に感心しつつも響子が指示を飛ばす。

 

 

「皆さん聞きましたね!?どうやら奴らの目的は今北山さんのようです!真由美さん達は魔法で迎撃!近接が得意な方々は護衛を!即席の防衛戦です!」

 

 

その指示を聞いて、呆けていた全員が即座に陣形を取る。レオ、エリカ、摩利、壬生、桐原、響子達軍人三人が前衛、残りのメンバーが後衛を担当する。ショックから立ち直った雫もやる気十分だ。

 

 

「よし!やるぞお前ら!千代田!広場が陥没してるんだから『地雷原』は使うなよ!」

 

「相手は人のようであるとは言えクローンです!気が進まないかもしれませんが、彼らを殺害する覚悟はしてください!特に北山さん!」

 

「大丈夫です!偽物なんて要らない!総司君は私一人のものだから!」

 

「なんか理由おかしくない?」

 

「直立戦車のことも忘れないで!」

 

 

駅前広場にて、一高生+α対クローン軍団with大亜連合軍兵器の戦いが始まった!

 

 

 


 

 

クローン軍団対一高の戦いは、一高側の防衛戦であると言う点とクローン達の魔法適性がオリジナル以下とはいえ脅威的な身体能力を持っている故の先制のしやすさから、先手はクローン軍団に譲る形となる。

 

 

「対象…抹殺!」

 

「出来るとでも!?」

 

 

一体のクローンが雫へと手を伸ばす。一見すればただ掴もうとしているだけに見えるが、強化された彼らの握力によって掴まれれば、その部位は間違いなく破損してしまうであろう事は明白。そして何の妨害もなければ、寸分違わず雫の頭を掴み取り、そのままトマトのように潰せるであろうその掌は、代わりに割り込んできた男の腕を掴む。だがクローン達には何の問題も無い、そのまま握りつぶせばいいのだから。

 

そうして力を込めて男の腕を潰し…とここでクローンは気づく。この男の腕にいくら力を込めても形を変えることすらない。それどころか、男の身に纏う服すら不動なのだ。

そう割り込んできた男とは、レオであった。彼の操る『硬化魔法』は耐久力を上げるのではなく、部品と部品の相対位置を固定することで、結果的に硬度を上げるような芸当が可能なのだ。レオは掴まれていない方の腕でクローンを殴り飛ばす。そのあまりの威力に、クローンの一体は沈黙した。

そしてこの応酬で、彼らの中に共通認識が発生する。

 

 

「いくら似ててもやっぱクローンってとこか!こいつら魔法の無効化までは出来ないみたいだぜ!」

 

「こっちは一撃で切れた!耐久力も本物には遠く及ばないわね!」

 

 

こちらでは総司の異能であるエイドスの正常化がもたらす魔法無効化をコピーしている訳では無いことが判明した。そもそも彼らは知らぬ事だが、総司の異能は世界でただ一つのオンリーワンなのだ。そしてもう一つの声…エリカの報告では、クローンの耐久力は人並みである事が判明した。本物はエリカの剣を食らっても鼻をほじっていられるぐらいには堅い。千葉家の娘をして、『どうやっても切れない』と思わせるほどの耐久性…それをクローン達は持ち合わせていなかったのである。

 

 

「これならまだ…!」

 

 

そう言って天空に無数の術式を展開し、そこから『雷童子』を放ったのは幹比古だ。彼の操る古式魔法は、一高入学時こそスランプだったものの、総司と達也のアドバイスによって改善された事によって以前よりも強い力を得ることが出来た。

そんな幹比古の術式でみるみる数を減らすクローン達。しかし次から次へと、援軍かのように他の地区から流れ込んでくるクローンに痺れをきらす者が一人。

 

 

「あーもう!どこ向いてもあのアホ面が映るとかどんな地獄よここ!さっさと一掃したい~!」

 

「花音抑えて!ここで『地雷原』みたいな振動系魔法を放つのは悪手だ!地盤が崩れて陣形が乱れるし、なにより地下シェルターの人達が危ない!」

 

 

それは一高の風紀委員長、千代田花音その人であった。彼女の得意とする魔法は振動系。この地形状況と全くかみ合わない、この戦闘には不向きな人物であった。そんな彼女は今、戦闘を苦手とする許嫁の啓を守るようにして立ち回っている。総司の為に雫を狙うクローン達だが、それは彼女の死が最も総司にダメージを与えられる方法であるからであって、この場にいる全員(響子の部隊の軍人は除く)の死は少なからずダメージを与えられるとしてちょくちょく狙ってくるのだ。特に戦闘能力に乏しいと見られたのか、啓はやたらと狙われる。こうなってはカバーをする必要性が出てくる為、花音が自主的に請け負っているのだ…

 

 

「やっかましーぞ千代田ァ!」

 

「そういう武明君も!叫んでないで手を動かす!」

 

「やってるよ!数が全然減りやがらねえんだこのヤロー!」

 

 

そう言い合いながらクローンを切りつけるのは桐原と壬生のペアだ。彼らは幼少の頃から、エリカ程では無いが剣を修めており、その技量は魔法剣士として見れば超一流のものであった。しかし剣で切れるのはいいとこ同時に三人。次から次へと雑草のように現れるクローン達の相手は、さすがの二人といえどもすぐに音を上げる程だ。

 

 

「お二人とも、下がってください!」

 

「「!」」

 

 

背後からの聞こえた声に反応し、二人の剣士が勢いよくバックステップを踏む。途端、二人が居た場所を巻き込んで広範囲の領域が凍り付く。無論、回避が間に合わなかったクローン達は等しく氷像と化した。

 

 

「すっご…」

 

「司波妹め、俺達が間に合わなかったらどうするつもりだったんだよ…」

 

「ふふっ、お二人なら回避できると思っておりましたので」

 

「ふ~ん?随分信頼してるじゃ無い深雪?壬生先輩、彼氏さん取られちゃうかもよ?」

 

「馬っ鹿千葉!変なこと言ってんじゃねーよ!」

 

 

『ニブルヘイム』。振動・減速系の超高難度魔法である。領域内の物質を均質に冷却するこの魔法は、使用者である深雪の技量と、彼女の兄のCAD及び魔法式の完璧な調整の合わせ技により、より一層の破壊力をもたらす。更に…

 

 

「っ!?…おっと、向こうも派手にぶっ放してやがるな?」

 

 

そう呟く桐原の視線の先には、直立戦車と連携して攻撃を仕掛けようとして来たクローン達にドライアイスの弾丸を放つ真由美の姿があった。威力は凄まじく、直立戦車ごとクローンを吹き飛ばしていく。

 

 

「ボサッとするなお前達!」

 

「こんな偽物、総司君の足下にも及ばない…!」

 

 

この戦闘の中で呑気な会話を交わしていたメンバーを叱咤しながら、独特の剣筋でクローンを完封する摩利。背後から摩利を援護するように『フォノンメーザー』をぶっ放す雫。彼女の気迫には鬼気迫るモノがあり、現在響子達の部隊を含めても、最も撃破数が多い。しかしそれは何度も魔法を発動していることの裏返しでもあり、若干息が上がっている。このペースでは、真っ先にダウンするのは雫だろう。

 

だが現状は一高側の優勢であり、クローン達は確実に数を減らしていく。故に、自分達の不利を悟ったのであろう、一体のクローンが発声する。

 

 

「戦況…不利。提案…前衛と後衛の分断、及び各個撃破」

 

「「「「賛同」」」」

 

 

直後、クローン達の動きが変わる。主に戦闘力の低い者と優先目標である雫を一律で狙っていたクローン達の視線が、この場にいる全員に均等に向く。どうやら陣形を崩さなければ突破できないと考えたクローン達。強引に後ろに下がっていた者達を愚直に狙うのでは無く、数体で近接の足止めをし、残りで目標を排除。更には足止めに留まらず、そのまま殺害さえも視野に入れる。そして…

 

 

「おいおい…まだ来るって言うのか…!?」

 

「これ何体居るの!?」

 

 

今回の侵攻に用いられたクローンの総数、その数はなんと約一万を超える。現在は追加で二割、合計して四割を倒した脳筋コンビと先程までの戦闘で少々減った事を鑑みても、横浜全体にはまだまだクローンがウジャウジャ居る。そして今この場には、残存するクローン兵力の約三割が集結していた。数に直すと三千人、数人の魔法師達にとってオーバーキルもいいところだ。

 

 

「そんな…!こんな数、とても…!」

 

「か、勝てる訳がない…」

 

 

絶望の表情を浮かべる美月とほのか。彼女達の目には涙が浮かび、言い表せない死の恐怖が彼女達を襲っていることは明白だ。だが、

 

 

「ダメよ美月!そんな弱音を吐いては!」

 

「そうだよほのか!私は必ず総司君と一緒に一高に帰る!ほのかやみんなと一緒にね!」

 

「深雪さん…そうですね、申し訳ありません」

 

「…ありがとう雫!でも無理はしないで、私も一緒に戦うよ!」

 

「無理をしてるのはそっちじゃない?」

 

 

今だ戦意を衰えさせない二人の激励に、ほのか達はまだ顔は青いながらも奮い立つ。ただほのかは意地を張りすぎて雫に心配されてしまったが。

 

 

「攻撃、再開。再度、対象の抹殺を試みます」

 

「来るぞ!総員構えろ!」

 

 

果たして、一高生達は生き残れるのだろうか!?

 

 


 

 

 

~一方その頃~

 

 

「…クローン達の動きが変わった…?」

 

「歯ァ食いしばれお前らァ!国防仮面()(最強)は、ちっとばっか響くぞォ!(ドゴォン!!)…フー、うん?」

 

 

別の地区で戦闘をしていたとある二人が、クローン達の異変に気づいたのだった…




魔法科世界の秘匿通信


・何故クローン達がオリジナルの親しい者達を殺そうとするのか…それは開発を指示した者のみ知る…


()()()()()()流れ込んでくるクローン:あっ(察し)ふーん(同情)



総司を散々警戒してたのに自分と同じシステムで情報を得られて、日本への工作拠点を潰されてしまい、警戒の意味なくてブチ切れてる…一体何ード・ヘイグなんだ…?


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横浜騒乱編 その十六

総司君の戦闘書きたすぎて序盤雑になってます…


「レオ!あんまり前に行きすぎると狩られるわよ!」

 

「うるせえエリカ!オマエだって似たようなもんだろ!」

 

 

クローンの動きが変わり、前衛と後衛の分断を主な目的とした立ち回りをし始めたこの状況、数で圧倒的に不利な一高側は耐える事しか出来なかった。それでも血気盛んなレオとエリカはなんとか活路を開こうと動くが、お互いが数の暴力に晒されそうになり、警戒を促した後に揃って後退。その場にいた者達からは、「こいつらやっぱり仲いいよな…」と少々状況と噛み合わない呑気な思考が広がったが、クローン達の攻撃に遭いそれどころではなくなる。

 

現状最も苦戦を強いられているのは雫と深雪、真由美の三人だ。雫は高威力の『フォノンメーザー』で数だけならばものともしない威力最強の固定砲台だが、疲労が目に見えて来ていること、最優先対象である点から最も狙われている。時点で深雪と真由美。彼女達は広範囲かつ高威力という、機動力の無い相手であれば一瞬で完封できる脅威度を誇る。しかしクローン達は強化魔法への適性が著しく、魔法無しで数百倍の出力を持つ総司と、魔法ありきとはいえ追随する琢磨、この両名に及ばないといえども、白兵戦の主力にするには十分すぎる戦力であり総司の速度にある程度慣れていた為対処できる一高生達と、生まれたばかりのクローンにはない経験で渡り合う軍人達が、逆におかしいのだ。

そんな身体能力化け物の集団が千を超える数いるとなると、流石の二人でも分が悪い。深雪は達也の為に割いていたリソースが戻っているとはいえど、魔法の連射の影響で十師族レベルの二人も冷や汗が滲む。

 

そしてこの三人が最もと言うだけであり、他のメンバーの状況も芳しくない。当初は二人で広範囲をカバーしていた桐原と壬生がいつの間にか背中合わせになるまで追い込まれているし、非戦闘員を庇いながら戦う摩利達も苦しい表情だ。

そんな中…

 

 

「わ、私も…!頑張らなくちゃ、役に立たなくちゃ…!」

 

「ほのかさん…?」

 

「皆さん!合図をしたら目を塞いでください!」

 

 

今まで守られている側だったほのかが遂に動きを見せる。一同はほのかの言っている意味が分からなかったが、意味のあることなのだろうと信じてほのかの指示に従うことにした。

 

 

「3、2、1…今です!」

 

 

ほのかはクローン達の動きをよく見て、ベストと思ったタイミングで合図を出した。その場の全員が目を閉じると、強い光が発生する。これにより、ほのかが何をしたのかが分かった一同は光が収まると共に蹲るクローン達に攻撃を仕掛けていく。

ほのかが行ったのは光による目潰し、フラッシュグレネードのようなものだ。光の『エレメンツ』たるほのかの閃光魔法は強力で、クローン達の多くを無力化する。この魔法は総司にも通用する数少ない魔法だ。オリジナルがダメージを負う程の魔法を、クローン達は防ぐことも出来なかった。その隙を見逃す訳も無く、一高生達は一斉攻撃を仕掛ける。この攻撃でおおよそ百名ほどのクローンが吹き飛ぶ。ほのかの閃光は実に戦術的な攻撃であったと言えるだろう。

 

 

「…優先レベル変更、光井ほのかを第二目標に設定」

 

「えっ?」

 

 

故に、狙われる。

目から得られる情報は全体の八十%を占める事は有名であるが、戦闘中に置いてその八十%を失う事は致命的な隙になり得る。加えて、クローンの目的である総司の親しい者の殺害に関しても、雫の親友であるという点から達也と同等の位置に置かれていた。こう言った理由から雫の次点に置かれてしまい、そして偶然にもほのかの周りにはレオとエリカの二人しかいなかった。

 

 

「ほのか!ちょ、アンタら邪魔よ!」

 

「クソッどけよ!」

 

 

そして二人のもとにクローン達が群がり、ほのかのカバーをさせまいとする。そしてそれは成功してしまいクローン達にほのかへの接近を許してしまう。

 

 

「いやっ…!」

 

「対象…抹殺!」

 

 

そして人を容易く握りつぶせてしまう掌がほのかの頭を掴む…!

 

 

 

 

 

 

「ハアァァッ!」

 

 

「キャア!…え?」

 

 

…事は無かった。どこからともなく現れた…いや、()()()()()()()()()()()()人物によってクローンが殴り飛ばされたのだ!

 

 

「…七宝君!?」

 

「七草さん…」

 

 

現れた人物…七宝琢磨は顔見知りの登場に驚いた真由美の叫びに振り向く。

 

 

「七宝…総司君と同等の…!」

 

「…もしかして、貴女が北山雫さん?先輩から話は聞いてます。先輩の後輩やらせてもらっています、七宝琢磨です」

 

「…本当に総司みたいな動きだね」

 

「ホントな。クローン共と違って全く見えやしなかった。敵だったら不意打ちされて負けてるな」

 

 

琢磨の登場により場の雰囲気が和らぐ。総司とよく似た戦い方故に琢磨に総司を重ねて安心感が生まれたのだろう。

 

 

「七宝さん…でしたよね?総司君はこちらには来ないのですか?」

 

「多分くると思いますよ?…自分と同じ理由でこの場にクローンが集まっているのに気づくはずだから…」

 

 

直後、轟音と共にクローンが宙を舞う。

 

 

「総司君来てくれたの…ね…?」

 

「全く遅い登場…だ…な…?」

 

 

真由美と摩利が音の方に振り向くとそこには…

 

 

「いくぞ!この国防仮面と同じく護国を志す者達よ!国を脅かさんとする外敵を討ち滅ぼすのだ!」

 

「「「「うおー!!!国防バンザーイ!!!」」」」

 

「…え?あの仮面の少女が総司だって事は分かるんだけど…後ろのはクローンだよねあれ?」

 

 

そう、国防仮面に扮した総司の背後から、数百のクローン達が目をグルグルさせて追随して来たのだ。明らかに洗脳でもされましたと言わんばかりのその様子には流石の幹比古も驚愕を隠しきれない。そしてそのクローン達は他のクローンに攻撃を加え始め、クローン対クローンという一気にカオスな状況となる。

 

 

「何したんですか先輩?」

 

「いやちょっとね!ちょっとだけ国防の素晴らしさを説いただけであって…」

 

「本当にちょっとですか?」

 

「モチロンソノトオリダヨ、コクボウカメン、ウソツカナイ」

 

 

国防仮面は正義の味方。嘘など付かないのだ、付かないったら付かないのだ。

 

 

「まあ戦力が増えるのは悪いことじゃないので別に構わないんですけどね…」

 

「流石琢磨話が分かるじゃん」

 

「となるとさっさとこの増殖したゴミを片付けましょうか」

 

「仮にも話し相手のクローンなんだから気遣いぐらいして?俺は黒光りしないしラピュタの下に行ったこともないから」

 

 

などとクローン達そっちのけで会話を続ける二人。そんな二人の様子を隙と見たのか、二人に大勢からの攻撃が向かう。思わずほのか達が「危ない!」と叫びそうになったが、雫の大丈夫と言わんばかりの視線に制された。

 

 

「…甘いなっ!」

 

「それはそうだろ、だって生まれたてホヤホヤなんだからさっ!」

 

 

そして雫の思った通り、二人は迫り来る複数の相手をノールックで蹴り飛ばす。命中したクローンはおよそ二百メートルは吹っ飛び、建物にぶつかって崩れ落ちる。伊達に化け物やっていないのだ、この二人は。

 

 

「それにしても本当に甘い…この程度相手になりませんよ」

 

「それは残念だったな。一高には一科にも二科にも、今の速度の相手に一瞬で対応出来るような魔法師は少ない。なんなら来年度はお前一強でつまらない学生生活になるかもな?」

 

 

攻撃されても尚、軽口をたたき合う二人。そんな中、琢磨は一つ違和感について言及する。

 

 

「というか先輩…こいつらって正直弱すぎませんか?先輩を元にしてるとは考えられないんですけど」

 

「確かにな。あいつらの使う強化魔法は俺の使える魔法よりも高難度なものだ。俺の劣化コピーって言うのなら、こいつらの魔法技能は俺のどっから来たんだって話だよ」

 

「そう反応しますか?…先輩って今使ってる『それ(仮装行列)』が限界ですよね?明らかに魔法の規模だけはあちらの方が先輩より格上です。ホントになんで先輩からこんな強化魔法が使えるクローンが生まれるのか…生命の神秘ってやつですかね?」

 

「だよなぁ…後オマエ流石に馬鹿にしすぎ。後で拳骨な」

 

 

そう、二人の発言通りこのクローン達、総司を元にしているにしては弱すぎるが、魔法力が高すぎでもある。顔だけ同じの別人が本物の戦術を真似しているかのようだ。

そしてここで二人がやっと正面を向き、明確に警戒心を示すクローン達と相対する。

 

 

「考えてても仕方ない、さっさと始末するんだろ?」

 

「ええ、人力バルサンです!」

 

「だから俺黒光りしねぇって!」

 

 

その言葉の直後…二人の姿が掻き消えて、クローン達が宙を舞っていた…




魔法科世界の秘匿通信


・事実琢磨は七草の双子にも、黒羽の姉弟にも余裕勝ちなのでこの年代は琢磨一強か、琢磨VS光宣のツートップになる。



・このクローン達、実はオリジナルの総司の強さの1/100スケールだったりする。…()()()総司のという注釈が付くが。



クローン戦まだまだ続きます


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横浜騒乱編 その十七

リロメモはさっさと新キャラ実装するか男性陣(達也以外)に新衣装を配れ。確かにエッチな女の子達(特に雫ちゃん)には興奮のあまりガチャを抑えられないが、だからといって男性陣が軽んじられていい訳では無いのだ。

後雫ちゃんもっと増やして魔法科トップレベルの人気キャラぞ?


「かくかくしかじかで私達は狙われているの」

 

「雫!その説明じゃ総司さんは分かっても七宝君は…!」

 

「「まるまるうまうま」」

 

「あれー!?」

 

「それとほのかちゃんよ、私は憂国の戦士国防仮面だ」

 

「アッハイ」

 

 

一高生達に群がっていたクローンを退け、一旦一塊にして陣形を立て直させたそう…国防仮面と琢磨は、雫の説明を放棄した説明(?)を理解し、総司のメンタル攻撃の為に友達が狙われていることを知る。琢磨はなんだかんだで真面目風に振る舞ってはいるが、総司に影響された時点でオワオワリなのだ。

 

 

「クソッ、大亜連合めなんて下劣な…!」

 

「やはり異国人は危険…!即座に掃討しなければ、その総司という少年も危ない…!」

 

「いやそれあな「私は国防仮面だ」…頑なね」

 

 

この場に橘総司などいない、ここにいるのは正義の味方国防仮面なのだと譲らない国防仮面。そんな中、一高生達をどう脱出させようか考えていた琢磨が(余計な事を)閃いた。

 

 

「先輩、我々の目的はこのクローン共の掃討です。ターゲットがこちらの方々を狙ってきているのなら、敢えて囮にするのはどうでしょうか」

 

「お前って時たま酷いよな」

 

「お互い様です」

 

「…倫理観的には間違っているが、確かに効率はいいな。わざわざ残党を探しに行かなくてもいい」

 

「ではその方向で「だが断る!」!?」

 

 

いきなりの大声に、その場にいた全員が驚く。特に琢磨と雫以外はいかにも親友といった雰囲気で話す二人をぽけーっと眺めていただけだったので、現実にたたき起こされてとてもビックリしていた。

 

 

「この俺がッ!愛する人や仲間達を駒として扱うなどと思ったのか、このマヌケがぁ~!」

 

「…先輩って結構変わりましたよね」

 

「…その言い方はよせ、成長したんだよ俺も」

 

「それもこれも、全部あの北山さんのおかげですか?」

 

「…ああ」

 

「なら、尚更守り切らないとですね」

 

 

そう言って二人は敵陣に飛び込む。両者ともにマッハを超えかけている速度にクローン達は対応出来ない。クローン達は身体強化に優れているが、強化の次元が違う琢磨と強化の必要がない総司に勝てるはずが無い。抵抗むなしくどころか、抵抗する暇無くクローン達の命が秒で散っていく。

 

 

「そらそら!遅いぞお前らァ!」

 

「本当に数が多いやつらだ!」

 

「「「「国防バンザーイ!」」」」

 

 

二人の速度は常識を越えている。本来魔法師の強化は自身の脳が追いつける範囲までだ。琢磨はこの点をクリアしているが、それだけでも信じられないほどの才能なのだ。それだけにクローン達では到底追いすがる事など出来ない。更には国防に洗脳された一部のクローン達も敵側に攻撃を加えて相打ちが多発している為、(敵も味方も)ゴリゴリ数が減っていく。

 

だがやられっぱなしのクローン達ではない、彼らは自分達が使い捨ての道具である事をしっかり理解している。故に、眼前の脅威を無視してでも目標を殺害することを優先することにした。そして今現在、二人の暴れっぷりに目を奪われている一高生達。彼ら彼女らはまだ学生、いくら強い援軍でも自分達が油断していい訳で無い事を頭の中で理解していても、つい気を抜いてしまっていた。

 

 

「…!まずい、来るぞ!」

 

 

咄嗟に気づいた摩利の声で全員が体勢を整えて反撃の用意をするが、それは少し遅すぎた。速度から考えて全員のCAD操作よりも先にクローン達の攻撃が命中するだろう、だが…

 

 

「『ミリオン・エッジ』!」

 

 

その攻撃は放たれる前に琢磨の魔法により防がれた。

 

 

「今のが七宝の…」

 

「…流石はウチより魔法技能が『七』に近い家ね」

 

 

旧第七研究所、そこで研究されていた『群体制御』の魔法。同じ七でも元が『三枝』と三の家系であった七草よりも群体制御に優れる七宝家の嫡男、琢磨。更にこの『ミリオン・エッジ』にはCAD操作をせずとも発動できる為、今のような咄嗟の事態にも使用できるという利点がある。コスト面を考慮しなければ総じて優秀な魔法である。しかしこの魔法には弱点があった。いや、魔法では無く使用者の琢磨にであろう。

 

 

「っ!しまった!」

 

「任せろ!」

 

 

琢磨はこの魔法の使用時には魔法演算領域の大半を使わなければならない。つまり身体強化を維持できないと言うことだ。幸いにも今は総…国防仮面がいた為無事だったが、一人の時にこの状態に陥っていた場合琢磨は死んでいた可能性が高い。

 

 

「此処戦場!しっかり気張らんかい!」

 

「「「すいません…」」」

 

 

国防仮面からの忠告に気落ちする一高生。しかし流石は一流、即座に切り替えてクローン達を沈黙させていく。

 

 

「総司君!結局これどうやったら勝ちになるのよ!?」

 

「居なくなるまで消すしかないよなぁ!」

 

「やっぱりー!?」

 

 

面倒くさくなったのか、エリカやレオなどが文句を言ってくることもあったが、その動きによどみはない。一高生達だけでも耐えていた中に超戦力が加入した事で数倍のスピードで数が減っていく為、一高生達にも遙かに余裕が出来ていた。

そうして居る内に、もうクローンの残存が半分をきった。

 

 

「ヨシ!コレもう勝っただろ!」

 

「先輩露骨なフラグ建築はやめてくださいよ…」

 

 

勝ち確と見なした国防仮面が明らかにフラグを建てる。事実目に見えて減ったクローンを見ればそう考えるのもおかしくはない。先程まで行われていた兵力の追加も止まった、と言うことは上陸したクローン共を粗方片付けたと言っても過言では無いのかもしれない。

 

 

「…でも結局、強力なクローンも『伝統派』の連中も一切見かけませんでしたね」

 

「それはそう。『伝統派』云々は九島からだから偽の情報掴まされただけかもしれないけど、あの資料の書き方じゃ強力なクローンの一体ぐらい隠れてると思ったんだけどなぁ…まあいいか、居ない分には越したこと無いんだし」

 

 

そう言って国防仮面は琢磨を見やって、その後に後ろのメンバーを見てから琢磨に告げた。

 

 

「このぐらいの数なら俺一人で十分だ。お前はみんな連れてシェルターまで行け」

 

「…もしかして死のうとしてます?それ『俺に任せて先に行け!』状態じゃないですか」

 

「洒落にならんこと言うな。さっさと行け」

 

「…はいはい」

 

 

琢磨は不安を感じながらも渋々言うことを聞いて後ろに下がって一高生達を避難させる。これで雫やみんなの安全は保証されたものだろう。そう考えた国防仮面は本格的にクローンの退治に本腰を上げる。

 

殴り、蹴り、折り、裂き、埋め、吹き飛ばし…様々な方法で処されていくクローン達。彼らからの血で駅前広場は赤黒く染まっていた。そんな中、国防仮面は言い表せない違和感について考察する。

 

 

「(…今の所は順調だ、正直このまま行けば負けは無い程に。なのに、何で今朝から今までずっと嫌な予感がするんだ?)」

 

 

総司は今までの戦いにおいて、違和感の正体を未だ掴めていなかった。そんな中、国防に洗脳されたクローン達が戦闘の余波で近づいて来た。

 

 

「なあお前、お前らの中で一番強い奴知らない?」

 

「国防バンザーイ!」

 

「だめだこりゃ…おい、そっちのお前はどうだ?」

 

「国防バンザーイ!」

 

「だめみたいですね…」(呆れ)

 

 

自分で洗脳しておきながら無能扱い、自分のクローンに対する扱いがとても酷い。一周回ってクローン達が可哀想だ。

 

 

「はあ…やっぱそう簡単に尻尾ださねーか。強いって事は知能あるんだし…あの抗菌スプレー野郎も一枚噛んでそうだな。探してぶっ飛ばすか?」

 

「勘弁してくれ、アイツのとこの料理は美味いんだ。思わず美味しいヤミー感謝感謝って言ってしまうぐらいにはな」

 

「へー…因みに何の料理?」

 

「中華」

 

「ああ…アイツの名前何か三國志に出てきそうだったからな、キラキラネームって奴?」

 

「もしかして本人かも?」

 

「んなアホな」

 

「「はっはっはっはっは!」」

 

 

 

 

 

 

「…は?」

 

 

今この場には自身の味方はいない。居たとしても話せないクローン達だけだ。では今こうして自分と話していたのは…?

勢いよく振り向く総司。瞬間、琢磨の拳に勝るとも劣らない拳が自身の顔にめり込む。今まで自身がクローン達にそうしてきたように、背後の建造物まで吹き飛ばされた総司は、眼前に自身と全く同じ顔の男が、悪い顔をしながら拳を振り抜いている姿が見えたのだった。




魔法科世界の秘匿通信


・正直近接特化に加えて実力差がありすぎて戦闘描写が不可能。この程度のザコだと相手にもならないし…


・琢磨は『ミリオン・エッジ』レベルを超える魔法で無ければ強化と並行使用できる。



次回は敵が強くなるから戦闘がマシになると思うから許し亭許して…


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横浜騒乱編 その十八

今年の秋アニメが強すぎて一生見てられそう。楽しみ


「痛った…」

 

「はは、驚いたか?」

 

「驚かない奴いる?」

 

 

突如として現れた知能が高いクローン。その攻撃は他のクローン達よりも遙かに強力で、自分と同等の威力があると総司は直感で理解する。目の前に立たれている今の時点で敵から感じる違和感を無視しながら同一人物ならばと総司はクローンとの対話を試みる。

 

 

「で?お前も俺のクローンなんだろうが…明らかに他の奴とレベルが違う出来だよな?どういう訳なのか教えてくれないか?」

 

「いいぜ、別にそんな深くないしな」

 

 

総司からの問いに了承の意を示したクローンは当時を思い返す老人かのように目を閉じて語り出す。とそこでクローンから訂正が入る。

 

 

「ところで、お前は俺が他の奴と違うって理解出来てるんだよな?なら俺の事はクローンとかじゃなくて、『安部零次』って呼んでくれ」

 

「…アベレージ?」

 

「平均じゃねえよ アベ レイジ な!」

 

「はいはい」

 

「たっく…そうだ、俺の事だったな」

 

 

そう言って零次は指を立てて総司に自分の経歴の説明をする。

 

 

「奴ら…大亜連合の奴らは、当初お前同レベルのクローンを作り出す事が目的だった。だってそうだろ?お前レベルが一体でも強力なのに、それが兵隊並みに数を揃えるとなると大亜連合の天下は確実ってもんだ。だから奴らは俺の制作にかなりのコストを掛けた。他の奴と比べると万倍は高いコストをな」

 

「ええ…そんなの量産の目処が立ったところで実現しないだろ、大亜連合って馬鹿?」

 

「魔法技能が劣っている、つまり研究が遅れている、つまり馬鹿だってことだ今更言わせんなよ恥ずかしい」

 

「おっそうだな」(適当)

 

 

自国への自虐ギャグを挟みながらも零次は話を続ける。

 

 

「んでもって俺は作られたんだが…俺は奴らの想定を超えた性能だったんだよ、あいつらの手に負えないレベルのな」

 

「と言うと?」

 

「俺は生まれた時から今とほぼ変わらない知能を有していた。そして俺は自分が体のいい道具として作られたこともすぐに察した。察したならそのまま従うってのは癪だろ?だから俺は無能のふりをしていたんだ」

 

「なるほどな…本人しか知らない事はどう調べても意味は無かった訳だ」

 

「そうだな、お前の情報力は高いとの事だが、流石に口頭でのやり取りを調べることも出来ないはずだ。俺は『伝統派』の奴らと接触した」

 

「…うん?」

 

 

零次の話に疑問を持った総司が声を上げる。

 

 

「ちょっと待て。お前多分研究所か何かで生まれたんだよな?じゃあどうやって『伝統派』と?」

 

「それを話す訳には行かないな。まあ俺が研究所を脱走したでも『伝統派』が研究所内の俺と接触する方法があったとでも思っておけ」

 

「おかのした…それで?」

 

「は?」

 

「もう終わりか?」

 

「ああ…俺の出自の話ならもう終わりだ。付け加えるとしたら、『伝統派』の手引きで本隊とは別ルートでこの国に上陸したとでも言っておこう」

 

「そう…なら」

 

 

 

 

「お国にお帰りになってくれ!」

 

 

数メートルほど空いていた距離を一瞬で詰めた総司。そのまま零次に向かって思いっきり拳で殴りかかる。不意をうたれた零次は先程の総司のように吹き飛び、その先にあった建造物に穴を開けた。だがやはり特別なのか、零次は穴が空いた建造物からけろっとした表情で出てくる。

 

 

「痛って…やったな?」

 

「おあいこだろ?」

 

「それはそうだが…なっ!」

 

「…!シッ!」

 

 

ガァン!とおおよそ人間の拳から出ていい音では無い甲高い音を響かせ接近した二人の拳がぶつかり合う。その衝撃波は周囲で戦闘していたクローン達を一掃するほどのモノだった。

 

 

「クッソ、パチモンのくせにやりやがるな!」

 

「そっちこそ!流石はオリジナル様だっ!」

 

 

クローンとしての完成度が高く、総司に最も近い存在であるからのか、二人同時に牽制のキックを放ち、激突することでお互いが距離をとる形となる。

 

 

「…長くなりそうだな?」

 

「…果たしてそうだろうか」

 

「何だと?」

 

 

完全に互角だと判断した総司は面倒くささを感じながら問い掛ける。すると予想外の返答が零次から返ってきた。その零次の口はニヤリと三日月を描いている。

 

 

「確かに俺はお前のコピーだ。だからこそ、お前が持ちながら使えない…()()()()()()()()()()()もコピーしてあるんだよ」

 

「…俺の魔法演算領域だと?」

 

 

そんな矮小なモノで何をそんなにドヤるのか…困惑した総司だが、零次が起動した魔法式によってその意味を知る。その魔法式により、どこからとも無く無数の紙が飛んでくる。しばらくするとその紙の量は駅前広場の上空を完全に覆ってしまうほどにまで増えた。

 

 

「何だコレ!?…まさかこれ、お前がやってるのか…!?」

 

「ご明察。本当ならお前もこれぐらいできるはずなんだがな…」

 

 

言いながら指を弾いて鳴らす零次。それを合図としたかのごとく、無数の紙が一塊になり、()()を形成する。そして形成された()()の影に覆われた総司は、呆然と呟く。

 

 

「…巨人?」

 

 

()()はあまりに巨大な人型であった。その高さはかの光の巨人達と同等の50メートルはくだらないだろう。規模が明らかにおかしい、この魔法を偉い人が見れば衝撃のあまり卒倒しそうなほどだ。

 

 

「ここで問題です」

 

「…?」

 

「この下には何があるでしょうか?」

 

「…っ!?クソが!」

 

 

零次からのいきなりの出題に一度は首を傾げた総司だが、すぐさまその意味を察して今にも足を振り下ろさんと持ち上げている巨人の方に向かう。

この下…駅前広場の下にはシェルターがある。そしてその中にはコンペの会場から避難してきた生徒達や一般市民、そして何より友人達や雫が居る。こんな巨体の蹴撃を食らえばひとたまりもないどころではない。シェルターの崩壊と中の人々の即死は想像に難くない。総司は跳躍して予備動作中の巨人の足を殴りつける。すると巨人がよろめき、総司の『異能』の影響か足が崩れる。

 

 

「ヨシ!これで無効…化?」

 

「ふっ、残念だがまだだな」

 

 

崩れた足が再生する。元より紙の集合体なのだから再生までは総司も想像できていた。なら何故彼が驚いているのか。それは今し方自分の『異能』で無効化したと思ったからだ。そしてどうして止まらないのかを再生する足部の紙のエイドスを見て推測する総司。

 

 

「まさか、この紙一枚一枚に術式が掛かってんのか!?」

 

「その通りだ!」

 

「なっ!?グボッ!?」

 

 

跳躍して攻撃した為空中で停滞していた総司に零次からの鋭い拳が入る。あまりの威力に総司の体は三キロメートル程吹き飛ばされる。そして巨人は再生を終えてしまった。

 

 

「マズい…!」

 

 

こうなっては総司もなりふり構っていられない。即座に体勢を立て直した総司。被害なんて考えない、建造物もなぎ倒しながら最短距離を突き進む総司。流石の速度かまたしても間に合い巨人の足を破壊する事に成功する。しかし今回は地面に当たってしまうギリギリで割り込む形だった。

 

 

「おー、頑張るねー」

 

「テメエ…!」

 

 

零次が感心したような声を出す。それが有利な立場からの見下しの言葉である事に総司は気づいていた。

 

 

「じゃあ今度はこうだ!」

 

「っ!もしかしてオラオラですかァ!?ってな!」

 

 

零次の言葉に応じるかのように足では無く両の腕を構える巨人。総司は軽口を叩きながらも即座に腕を破壊し、更に頭部の破壊にも成功する。だが…

 

 

「やっぱ再生するか!ヘッドショットなんだから回復も出来ずに一撃死とかないのかよ!」

 

「現実の殺し合いはFPSゲームのように単純にはいかないって事だな」

 

 

零次の言葉通り、再び紙がパーツを再形成する。『異能』が効いていない訳では無い。事実効いたとおぼしき紙は地面に落ちたまま何も反応を示さない。群体制御ではなく一枚一枚を紐付けた式神に近いのだろう、これで零次の気分次第で落ちた紙も回収できて、無限に回復できる状態にされるとほぼ確実に守りきれなくなっていたので嬉しい誤算ではある。だからといって明確な対処も不可能なのだが。

 

 

「さあ!このピンチをどう乗り切る!?オリジナル様よお!」

 

「パクリごときがほざいたな!今に見てろよ見てろよ~!?」

 

 

内心絶望しながら総司は巨人と再び相対する…




魔法科世界の秘匿通信


安部零次:自分を『安部』と名乗る豪胆なクローン。しかしその実力は確かであり、身体強化により総司と同等の身体能力を有しながら、魔法力が桁違いとなっていて、総合力では魔法科世界の現最強である。
サイオン量、事象干渉力、構築速度、キャパシティ全てが原作魔法科キャラを上回っており、誓約(オース)を完全解除した司波兄妹が、達也が構築速度(分解、再生限定)、深雪が干渉力でギリギリやり合えるぐらい。
特に目立つのはキャパシティ、つまり魔法の規模であり、維持や実戦運用などを一切考慮しなければ現一高生全員の演算領域を一つにまとめて魔法式構築を行っても及ばないレベルの規模で魔法の行使が可能。
キリトみたいな黒コートで参上。


・因みに総司は仮装行列を三キロ程飛ばされるまでずっと維持してた。つまり序盤の台詞はCV三森すずこ


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横浜騒乱編 その十九

某森崎主人公の作品を見て思ったんですが、この作品の文字数とか一話ごとの内容の濃さとか皆さんどうお考えですか?

今やっているアンケートは今回で終了として、新しくアンケートを取ります。内容は


文字数を増やす or 今のままで良い となります。作者は明日から一週間近く多忙となるのでその間ですが集計させて貰いたいです。

仮に文字数を増やすが多かった場合、第一話から文字数を増やす試みをしていきます。なので投稿ペースが非常に悪くなります。

今のままで良いが多いなら変わりませんが


「見てろよ見てろよ~!?」

 

「(等と啖呵を切ってみたのはいいんだが…)」

 

 

総司は目の前の巨人に手も足も…思いっきり出ていたが、相手を沈めることが出来ずにいた。削っても削っても、再生してくる巨人。既に百回は破壊しているのに、底が見えない。

 

 

「なあなあ零次くーん!コイツの残機とか教えてもらえるかな~!?っ、オラァ!」

 

「残機?それなら億はあるぜ?」

 

「しんど~!」

 

 

流石の総司も億を超える再生回数を捌くのはキツいようだ。更に巨人の狙いが自分では無く地下シェルターである事も総司の疲労を加速させる一因であった。加えて、巨人と戦闘中でも零次が妨害と言わんばかりに殴り掛かってくる。総司も慣れてきて吹っ飛ばされる事も無く軽くいなせる様になったが、それでも鬱陶しい事この上なく、総司はストレスがマッハで半ギレ状態だ。

 

 

「流石に、策を考えないとだよな…!相手は巨体がウリ、魔法で動いているから攻撃を当てれば止められる事は止められるが、再生が厄介だな…だるいぜ!」

 

 

口ではだるいぜ!等と言いながらも、自分の手札で何が出来るかを考察していく。

 

 

「(俺の出来ること…ダメだ、物理攻撃じゃやってること今と変わらないぞ…となれば魔法か?とはいえ俺の魔法なんて…!(メタルギアソリッド風の効果音))これなら…!」

 

「!何か思いつきやがったか!やらせるわけには行かない!」

 

「でゅわあ!センナナヒャクウ!」(驚愕)

 

 

解決策を思いつき、巨人に飛びかかろうとする総司に零次が突撃する。総司の顔色から何か策がある事を理解した彼は、妨害程度に済ませていた攻撃の手を苛烈にする。ドラゴンボール並みの空中戦を繰り広げる総司達、その間にも巨人は地下への攻撃を行おうとする。

 

 

「…!マズい…!」

 

「チェックメイトだ、オリジナル!」

 

「グアッ!?」

 

 

巨人に気が散った事で零次からの鋭い拳を受けてしまった事で巨人から大きく距離を離されてしまう。その隙に巨人は拳を振り下ろす…が、

 

 

「させません!」

 

「やああああっ!」

 

「む、あの二人は…」

 

 

巨人の両腕に異変が起こる。右腕が大ぶりな刀で弾かれ、左腕に至っては凍結している。よく見ると潰れていた地下シェルターの入り口付近に二つの人影があった。司波深雪と千葉エリカである。その後に続くように一高生達が続々と地下シェルターから出てくる。その中には雫の姿もあった。

しかし巨人は即座に再生し、再び攻撃を行おうと腕を振り上げる。

 

 

「させるとでも!?」

 

「七宝琢磨…!」

 

 

琢磨がシェルターから飛び出し、巨人の腕を大きく蹴り上げた。この紙の巨人は、巨人としての存在を定義する為にある程度関節の上限が設定されていた。琢磨の蹴りによってその上限を超過してしまった巨人は大きく体勢を崩し、更に高い威力に腕は破壊される。だが総司の異能でも対処出来なかった再生は琢磨も止める事は出来ずソレを許してしまう。

 

しかし有効打にならなくても時間稼ぎは出来た。起き上がった総司が戦場に復帰する為に超スピードで走ってくる。

 

 

「おおっと、お前はダメだオリジナル…ってアブね!」

 

「チッ…!」

 

「落ち着いてはんぞー君、総司君の真似をされて怒っているのかもだけど…」

 

 

総司の復帰に気づいた零次が総司へ攻撃を行おうとする。しかしソレを許さないと言わんばかりに氷の弾と雷撃が零次を襲う。真由美の使用した『ドライ・ブリザード』に合わせる形で範蔵が『這い寄る雷蛇(スリザリン・サンダース)』を発動したのだ。

流石は十師族とそれにも引けを取らない名家の者と言ったところだろうか。その威力と速度は放たれてから対応するのは不可能と零次に判断させるほどだ。防御術式が間に合わないと思った零次は回避行動を取る。

 

故に、総司の妨害に失敗してしまう。

 

 

「うおおおおおお!」

 

「だから無駄だって…っ!?」

 

 

すっ飛んで来た総司は零次に目もくれず、巨人に攻撃する。その様子は先程までと変わっておらず、警戒して損した気持ちになりながら総司を見やると…

 

 

「あれは…魔法式か?」

 

「イグザクトリー!」

 

 

総司が触れている箇所から魔法式が巨人を覆っていく。

 

 

「だがオリジナルの使える魔法で強力な物は精々が仮装行列くらいだ。他に扱える魔法なんて他には()()()()ぐらい…ハッ!」

 

「そうか、硬化魔法かっ…!」

 

 

硬化魔法とは、物質の硬さを増幅させる魔法では無い。硬化魔法(こうかまほう)は、収束系の系統魔法である。対象物を魔法行使の「エリア」、そのパーツを「特定情報を持つ物体」として、対象物内部におけるパーツの分布、つまりパーツの相対座標を固定する魔法である。つまり…

 

 

「この巨人をまるまる一つにまとめて、そっから異能()使えば…!」

 

 

一枚一枚に術式が掛かっており、それ故に総司の異能では完全に魔法を解除する事が出来ていなかった。直接触れた数枚分しか解除できていなかった為、攻略が難航していたが、硬化魔法で巨人を一つの物質として扱えば、総司の異能の対象に全てのパーツを指定することが可能となった。

 

結果…バサバサと地へ落ちていく無数の紙。巨人の術式が全て正常化され、形を保てなくなったのだ。

 

 

「…お見事。ん、おっと!」

 

「…当たらない」

 

「北山さん、無理して当てる必要は無いよ。総司の援護程度で十分だから」

 

 

まんまと巨人を突破されてしまった零次。しかしその表情はどこか余裕を見せていた。その表情のまま、()()()()()()()()()総司を見つめていると、雫と幹比古からそれぞれ『フォノンメーザー』と『雷童子』の射撃を受けるが、正直に当たる零次では無く、軽くステップされて回避される。

 

 

「…それで、これからどうするつもりなんだ?総司の偽物さんよ」

 

「総司君と互角の上に、アタシ達まで参戦したら、流石にキツいんじゃ無いの?」

 

「ええ…確かにかなりの規模の魔法でしたが…対処出来ないレベルではありません」

 

 

レオ、エリカ、深雪が零次に声を掛ける。規模の大きな魔法を行使するにはそれ相応の時間が必要だ。敵が大勢いる中で大規模魔法の行使は命取りと言える。

 

 

「…いやー、流石はオリジナルのご友人方だ。実に恐ろしい」

 

 

恐ろしい、等とのたまうが、零次の態度は白々しいモノだ。降伏の意など微塵も無い事が窺える。

 

 

「武明先輩、紗耶香先輩…シェルターはどうでしたか…?」

 

「シェルター?避難して来た人達は全員無事だったわ」

 

「つーか総司お前…どうした?なんでそんなに疲れてんだ?」

 

 

総司が近くにいた桐原達にシェルターの状況を質問する。無事である事を伝えられるが、返しに心配されてしまう。そんな二人に総司はこう頼みこむ。

 

 

「二人とも、俺が隙を作るから、みんなを連れてさっさとシェルターの中に戻ってくれ…」

 

 

その言葉を聞いた二人は驚愕の表情を浮かべて抗議する。

 

 

「はあ!?なんでだよ、俺達もアイツを倒すのに協力するぞ!?」

 

「そうよ!一人で全部抱え込まなくたって「違う!」…え?」

 

「アイツはヤバイ…!俺はともかく、みんな全滅してしまう!」

 

「…そこまでヤバイ奴なのか、アイツは!?」

 

「はい、だから…!」

 

「…分かった」

 

 

そう言って桐原達は他のメンバーの元へ向かう。その間に総司は零次の正面に立って…後ろの仲間達を守れるように気を配りながら、相対する。

 

 

「おめでとうオリジナル。あの巨人がお前を倒せない事ぐらい分かってたよ。でもこちらが負けるとは考えていなかった。実に見事だな?」

 

「ほざけ。まだ何か隠してやがんだろ?」

 

「さあ?」

 

 

その言い合いの最中、総司はチラリと後ろを確認する。そこでは桐原達に説得されているエリカやレオ達の姿もあった。その説得には雫も参加している。総司が判断した事だから意味があるのだろうと、自分も一緒に戦いたい気持ちを抑え、総司の意思を尊重することにしたのだ。

 

 

「…ところでさ、オリジナルよ」

 

「…なんだ?」

 

「戦艦って要らなく無いか?」

 

「は?」

 

 

いきなり戦艦の話をしだす零次。彼は聞き返されたのを気にとめず、そのまま話し続ける。

 

 

「だってさ?確かに威力が高い砲門やら、多くの人員を乗せられるとかメリットはあるのかもだが、図体がデカくて困るよな?あの無駄に長い船体に一発当てて浸水させればいつかは必ず沈む訳だ」

 

「…何が言いたい?」

 

「いやね?船体に穴が空いたらいけない。つまり攻撃に当たると危険。それなのに図体がデカいって不利だよなって。だからさ…」

 

 

そう言いながら零次はコートのポケットに手を入れ…

 

 

「仲間が多いって逆に不便だなぁってさあ!」

 

「しまっ…!」

 

 

札を二枚取り出し、後ろの仲間達に…具体的な照準は総司の最大の弱点である雫と、雫から最も離れた位置にいる深雪だった。どうやら一撃で二発ともに対処されないように散らしたようだ。

 

 

「チッ…!」

 

 

総司の動きは素早かった。音速の速さで雫の元へ向かう札を相殺する。異能でエイドスが正常化された札はただの紙切れになりそのまま地に落ちる。そして即座に深雪の方へ向かう。だが零次も織り込み済み、札に込められた魔法は速度重視だったのか、総司でもギリギリ追いつけるかどうかといったスピードで深雪に向かう。

 

ギリギリで間に合う総司だが、対処する為に拳を振るうと逆に深雪を傷つけてしまいかねない距離まで近づいてしまった。故に自身の肉体を盾にするかのように腕を広げて防御の構えに入る。だが拳を振るっても、総司の体に当たっても異能は作用する。魔法は正常になるはずだ。

 

やっとここで攻撃を受けた事に気づく一高生達。彼らには零次の魔法の発動の兆候どころか、しばらく発動そのものを知覚できなかった。それほどまでに零次の放った魔法は速度が尋常では無かったのだ。だがその魔法に総司が対応しているのを見た事で安堵する。総司には魔法が効かないと知っているからだ。

 

 

「…やっぱりそっちを後回しにすると思ったぜ」

 

「…おファックですわ」

 

 

そして総司の左腕に命中した魔法は…

 

 

 

 

 

「…え?」

 

「うそ…だろ?」

 

 

一高生達の予想を裏切り…零次と()()の予想通り、()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ!

 

 

「がああああああああああ!?」

 

 

予想はしていたが、自分の腕が切り落とされるという激痛に総司は叫び声を上げる。

 

 

「総司君「来るな!」っ」

 

「早く逃げろ…!」

 

 

総司を心配して駆け寄ろうとした雫を、総司は言葉で制す。とめどなく血を流し続ける左腕を庇いながら、零次を睨み付けた。

 

 

「や…っぱ、何か隠してたな?」

 

「隠してはいないぞ、さっきからずっと使ってた」

 

 

そう、零次は今までの戦闘の中でこの力をずっと使用していたのだ。

 

 

「お前…実は本当の身体能力は高くないだろ?」

 

「失礼な。一般的な成人男性よりは遙かにあるんだが?」

 

「俺と同じレベルの動きが出来てその例え方…やっぱ強化魔法でドーピングしてたのか」

 

「それはそうだな。普通ならお前レベルの強化は難しいが、俺は『橘総司』だからな。世界が補正かけてくれるんだよ、『橘総司が橘総司に劣るはずはない』ってね。遺伝子が同じクローンだからこそなせる技だ」

 

「違うだろ…」

 

 

肩で息をしながら総司は問う。

 

 

「魔法で強化してあるなら、俺の異能()で元に戻せる。だがお前とは殴り合いになった。琢磨と殴り合えるのは俺が敢えてアイツの魔法を元に戻さないからだが、お前は違う…どういうことだ?俺の異能()が通用しないのか?」

 

「いや?お前の異能は俺の魔法に効くぞ?お前はエイドスを正常に戻せなかったんじゃない。()()()()()()()()()()()

 

「そういう事かよ…!」

 

 

零次の力の正体が分かった総司は毒づく。

 

 

「お前…そんなモノどこで拾って来やがった!?」

 

「無論、『伝統派』の皆様が持て余していたモノをプレゼントして貰ったのさ」

 

「『伝統派』…!?奴らこんなものを隠し持ってやがったのか!」

 

 

総司は隻腕となっても全く戦意を衰えさせなかった。

 

 

「みんな!ここにいると全滅する!早く逃げるんだ!」

 

「心配するなよオリジナル。まずはお前からだからな!」

 

 

零次の拳と総司の拳がぶつかる…第二ラウンドの開始だ…!




魔法科世界の秘匿通信


・一高生達がシェルターから出てきたのはヘリコプターを呼んだから地上の安全確保の為に総司に協力する為でした。



・人造人間なんだから人造の異能ぐらい付けてもいいと思った。



零次の異能は次回にでも解説します


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横浜騒乱編 その二十

何の気なしにリロメモのキャラ画面を眺めていたら、レオや幹比古の不遇さがよく分かる



それとまた雫ちゃん星三アシストかよ…


「シャンクス…!腕が…!」

 

「切り落としといてその台詞はないだろ!」

 

 

イヤミとばかりに有名な台詞を引用して総司を馬鹿にする零次。その表情は最早勝利を確信したかのような笑みで満ちていた。

 

 

「無理だよオリジナル!お互いが万全でも互角なのに、隻腕となったお前じゃもう勝ち目は無い!そして俺を倒せるのはお前だけ!この戦争ウチの勝ちだ!」

 

「いいぜ?そのまま油断しててくれ、そのキモい顔を更にキモくしてやる!」

 

「お前の顔だよ?」

 

 

そうして再び激突する両者。総司は隻腕でありながらも、右だけで鋭い攻撃を放つが、攻撃の方向が減った事で読まれやすくなり、零次にカウンターを腹に叩き込まれる。衝撃で一瞬動きが止まった総司だが、再び右の拳で零次の顔面を狙ったパンチを放つ。しかしそれも対応され、右腕を掴まれてしまい届かない。

 

 

「…お前のその身体能力は魔法のはずだ。でも俺の異能で消えない…一体どういう理屈だ?」

 

「おや?理解していたんじゃないのか?」

 

「何かしらあるとは分かっていたが、詳しいことはわかんねえな」

 

 

話しながら、尚も右腕を動かそうとする総司。そしてその問いは、零次に投げ飛ばされた後に聞くことができた。

 

 

「がっはぁ…!」

 

「分からないなら教えてやっても良いぜ?俺の異能は…ズバリ、『エイドスの正常化』だ」

 

「ハァ…ハァ…はあ?それじゃ俺と一緒じゃねーか」

 

「ざっと言えばお前と同じ能力に聞こえるが、詳細は違うモノだ。お前のはエイドスを正しい在り方に戻す力だが…俺のは、『書き換えたエイドスを正常な状態であると誤認させる』力だ」

 

「…つまり?」

 

「世界は俺が異能を絡めて魔法を発動しても、それが正常な状態であると勘違いするんだ。お前は気づいていないだろうが、お前の異能は世界が魔法という異常を元に戻そうとする力に便乗して効果を増し、魔法の実質的な無効化に繋がっているんだ。だが俺の異能で発動した魔法は世界にとって正常な状態だ。俺が異能を解除するまでこれは続く。お前の異能で正常に戻そうとしても、世界にとって俺の魔法は正常なものだ、正しいのにそこからどうやって戻すというんだ?」

 

「何言ってんだおめえ」

 

「分かんない」

 

「何で分かんねえんだよ」

 

「だって『伝統派』の奴らの受け売りだし…」

 

 

やはり総司のクローン、零次も例に漏れず頭が弱かった。伝統派が造り出した異能の詳細をよく理解していなかったのだ。

 

 

「まあ、兎にも角にもお前に勝ち目は無いんだよオリジナル」

 

「今ので勝ち目ありそうに見えたけど」

 

「気のせいだよ」

 

「気のせいか~」

 

「「ハッハッハッハッハ!オッラァ!」」

 

 

二人して笑い合った後に再び拳を重ねる。総司の右拳と零次の左拳が正面から激突する。その結果として両者ともに吹き飛ばされて距離が離れた。次、先に動いたのは総司であった。零次を掴んで強引に空中に放り出し、そのまま跳躍、そのまま蹴りを放ち零次を大きく駅前広場から引き離す。

 

 

「…がはっ!やる気急に出すじゃねーか!…駅前から離して仲間達を脱出させるつもりか」

 

 

いいダメージをもらった零次だが、魔法によって本物と同等に強化された肉体はこの程度では崩れない。おもむろに立ち上がった零次は総司が距離を置こうとした理由を考察する。そんな零次の目の前に総司が着地してさらに蹴りで追撃を掛けようとするが

 

 

「そんな見え見えの攻撃、黙って受けるとでも!?」

 

「ッチ!…うおっ!?」

 

 

高速の足蹴りを難なく受け止め、そのままマリオの投げのように回転して遠心力をつけて総司を投げ飛ばす。だがその方角は駅前広場に戻る方向では無かった。

 

 

「どういうつもりだお前?…っく、アイツら狙ってただろお前達はさ」

 

「我がオリジナルながら記憶力に難があるようで可哀想だな?言っただろう?俺はお前だけが目的なんだ。弟達がお前のお仲間を狙ってたのは、アイツらじゃお前に勝てない故の代替案だ。俺はお前を直接倒せるからな、わざわざそんな小細工を労す必要が無い」

 

「だからってわざわざ離す必要もないのでは?」

 

「細かい事を気にするなや」

 

「そう…」

 

 

言いながら総司は立ち上がり、追いついてきた零次と相対する。その様子に、零次は首を傾げた。

 

 

「(…おかしい。奴は腕を落とされて、それに巨人の術式をまとめて正常化させた影響で疲労が溜まっているはず…もうバテていても…!)」

 

 

ここまで考えた零次は総司の左腕を見て気づいた。切り落とした直後は切り口から凄惨なほどに流れていた血が止まっている。これは…

 

 

「また硬化魔法かよ…!」

 

「ハッ!馬鹿の一つ覚えで悪かったな!」

 

 

そう、総司が零次の予想に反してあまり疲労していない理由、それはそもそも硬化魔法によりダメージを負っていないからである。零次は総司の異能に対して自分の魔法を無効化される事は無いが、だからといって相手の魔法を無効化できる訳では無い。そのため、気づかない内にダメージレースで零次は敗北していた。

では零次が同じ事をすればと言われればこうはいかない。零次は不利になる為総司には教えていなかったが、実は零次の異能で『正常化』できる魔法は一つの物体にかけられた魔法一種類だけである。通常であれば問題はないが、総司相手では硬化魔法は無効化されてしまう。故に零次はこれ以上防御力を上げられないのだ。

 

 

「(…余裕とばかり思っていたが、こりゃちょっと怪しいか?)」

 

 

勝ち確だと思っていた零次の脳裏に敗北の可能性が浮かぶ。先程総司の魔法に干渉して消し飛ばしてみようとしたが、その干渉そのものを無効化されてしまった。こうなると零次は総司の防御を抜く事が出来なくなってしまった。

勝ち目があるとすれば、総司が硬化魔法をかけ直すタイミングだが…総司は持ち前の莫大な想子で無理矢理重ね掛けしている為、それも難しい。

 

 

「ゴリ押し反対!」

 

「でっかいブーメラン刺さってますよ!」

 

 

再びぶつかり合う両者、しかしそれは先程の衝突とは違った。零次の拳は寸分違わず総司の顔面に叩き込まれているが、総司は不敵な笑みを浮かべてノーダメージであると主張する。対して零次は寸でのところで総司の拳を躱している。ダメージをこれ以上負うと、消耗戦で敗北してしまいかねない。

 

 

「…見逃してはくれませんか?」

 

「腕取っといて生きて帰れると思うなよ?」

 

「ですよね~!」

 

 

総司は自身の顔に伸びている零次の腕を掴んで再び投げる。しかしただでダメージを受ける零次では無い。総司の真似をして、本人が正常化出来ない距離では硬化魔法を発動させてダメージを抑える。

 

 

「…っく!(さっきから投げてくるの何なんだ?駅前からは大分離れてんのに、更に離す必要が…?)」

 

 

そう思案しながら着地をする零次。その直後、零次の脳天めがけて踵落としが放たれる。零次はその踵を拳で相殺するが、総司は体を捻って反対の足で蹴りを決める。零次は満足なガードも出来ずに横合いに弾き飛ばされる。

 

そして二人が距離を置いて向かい合う。そして間髪入れずに総司が突撃を仕掛ける。零次はこの際消耗戦の中に勝機を見いだそうとやる気を出して、総司を待ち構える。

 

 

「…?」

 

 

その時、零次は微かな違和感を抱くが、総司が向かって来ている手前、気にすることをしなかった。

 

ここで零次は気づかなかった。

今、この場所が()()()()であるのか、近くにいる()()が誰であるのか。そして、遙か上空に見える()()()()に。

 

 

「(一撃だけいなして、切断魔法に異能を掛けてからオリジナルの防御を突破する!)…っ!?」

 

 

反撃の糸口を見いだした零次であったが、直後に零次の足下が突如爆発…いや、()()する。その爆煙により視界が塞がれてしまった。

 

 

「(一体何が爆発して!?…水道管か!?)」

 

 

爆発で体勢を崩した零次。更に爆煙で周囲がよく見えない。だが、総司が直線的に向かって来ていたのは分かっていたので、振動系の切断魔法を札に纏わせて正面に投擲する。もし総司が回避しても、その間に体勢を立て直そうと考えたのだ。だが…

 

 

「…残念!」

 

「…!?それは…!?」

 

 

だが煙の中から現れた総司の顔の前には、()()()()()()が存在したのだ。

 

 

「ファランクス…!?」

 

 

多重障壁魔法、『ファランクス』。十師族が一つ、十文字家に伝わる秘術だ。『ファランクス』は4系統8種全て含む系統魔法である。4系統8種、全ての系統種類を不規則な順番で切り替えながら絶え間なく紡ぎ出し、防壁を幾重にも作り出す多重移動防壁魔法。到底総司には扱えない魔法であるし、そもそも魔法式を知らないだろう。となれば…

 

 

「この場所は…!」

 

 

そう、此処は魔法協会関東支部の前であった。総司が先程零次を投げたのは、駅前から離すのが目的では無く、協会の前で戦闘しているであろう克人に援護をもらおうとしての行動であった。つまりこの魔法を発動しているのは、克人であると考えられる。

となれば、先程の水道管の爆発は一条将輝の『爆裂』であろうと零次は推測した。

 

 

「(でも俺がやるべき事は変わらん…!)」

 

 

しかし零次は焦らない。向こうがこちらの攻撃を防いできたからと言って、こちらもいなしてしまえば問題ない。克人は零次に追いつけないし、将輝は零次の速度には及ばない。ならば結局総司の攻撃を回避できれば、零次は逃げ切ることが出来る。

 

総司は隻腕だ、残った右だけ警戒していれば総司の攻撃を防ぐことは容易…

 

 

「…がっ!?」

 

 

…そんな零次の腹部に、全く無警戒の衝撃が走る。総司が今にも振りかぶっている右拳から目を離してはいけないとは分かっているが、零次は自身の腹部に目を向ける。

そこには、腕が突き刺さっていた。煙で体が一部見えていなかった総司だが、この距離まで接近した事によって零次は気づいた。

 

 

「(左腕が…()()している…!?)」

 

 

何故総司の左腕が復活しているのか、その理由を考える間もなく、零次は総司の強烈な右ストレートを顔面にもらって大きく吹き飛んだのだった。




魔法科世界の秘匿通信


・総司と零次の異能の違い:総司は言わば『初期値への初期化』、零次は『初期値の変更』である。変更が加えられたエイドスを初期化することで総司は魔法を無効化出来るが、零次のはその初期化先を変更するため、総司の異能に引っかからないのだ。


・零次の異能は副次的効果として対象物の情報強度を飛躍的に高める事が出来る。だが解除すると元通りになる為、もし解除が早かったならば、零次は『爆裂』していたか『分解』されていただろう。



次回で戦闘終わりかな?


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横浜騒乱編 その二十一

何分投稿ペースがゴミですがご勘弁を


後、勘違いされている方がいらっしゃるかもですので補足をしますが、総司君の異能は、エイドスの正常化ですが、その対象は本人が選ぶ事が出来ます。例えば味方にバフを掛ける魔法があったとすれば、総司君がそれを拒否しなければ問題なく恩恵を受ける事が出来ます。
一言で言えば融通の利く『幻想殺し』です。


「…っは!ハァ、ハァ…」

 

「…何で俺の腕が戻ってるか分からないって顔してるな?」

 

「そうだよ…なんだよその魔法、チートじゃねえか勝ち目無いんだが?」

 

「そうだよな、俺も強力な魔法だと思ってる。本当、助かったぜ」

 

 

腕でのガードが間に合わず、顔面に強力な拳を受けた零次。本来の身体能力は常人並である零次だが、咄嗟により防御力が高まるようにと硬化魔法を使用し、異能で保護されたその防御力は破られることは無く、零次は未だに五体満足だ。しかしダメージがないとは言わない、強烈な衝撃を受け流しきることが出来ず、内臓にダメージを負ってしまった零次は最早立ち上がる事すら出来ない様子だ。

 

そしてそんな零次を見下ろしている総司の元に二人寄ってくる。

 

 

「橘総司…今の魔法は一体…?」

 

「よう、一条。これは俺から話す訳にはいかない魔法だな」

 

「だが、総司よ。先程までお前の腕が欠損していたのを俺はこの目で確かに見た。一体どんな治癒魔法なのだ」

 

「だから克人先輩!俺から話すことじゃないって言ってんでしょ!」

 

 

そこにいたのは日本の魔法師の頂点に立つ十の家、十師族。その内の二つの家の次期当主(克人は現当主の体調を鑑みて既に当主の様な扱いであるが)の二人だった。この二人は零次と圧倒的に相性が悪い。零次の手数は脅威的だが、それでも克人の『ファランクス』を完全に打ち破るまでには至らないような魔法が多く、防御を抜こうとしても時間が掛かる為妨害を受けて失敗してしまうだろう。零次の異能は総司の異能に対するメタであり、直接干渉してくるような魔法にも耐性を持つが、相手の魔法を無効化できると言う訳でもない。零次では克人の防御を容易には突破出来ないのだ。

 

そして将輝の『爆裂』は、直接干渉してくる魔法である為、一見零次が有利に見えるが、周囲の物を爆発させたりなど応用が利く強力な魔法である。しかも使い手が自分や総司、琢磨よりは劣るとは言え、圧倒的な機動力を持つことに変わりは無い。純粋な魔法師では唯一と言って良いほど零次を倒すことが出来る可能性が高い魔法師である。

 

此処、魔法協会支部前で克人が戦闘行為をしていたのを知っていた(将輝の事は知らなかったが)総司は共に協力して零次を打ち倒そうとしていたのだ。

 

 

「…こりゃ、流石に負けかな…?」

 

「そうだな、立場は完全に逆転した。お前の負けだ零次」

 

 

先程とどちらが優勢かが逆転したこの状況、更に総司側には強力な助っ人が二人。零次には勝ち目がなかった。

 

 

「…しかし、どうしてお前のクローンがこんなに大量にいたんだ、橘総司」

 

「あ~、このお坊ちゃん知らねえのか…」

 

「誰がお坊ちゃんだ!…というか、まさかお前、侵略者に協力している訳ではあるまいな!?」

 

「待て一条、総司が無実である事は俺から保証させてもらう。これは本人ではなく、管理側の問題だ。総司を批難するのは今一度考え直して欲しい」

 

 

将輝は事情を知らない。彼からしてみれば、いきなり本当の殺し合いが始まったと思えば、今年の夏に自身に苦汁を飲ませた男と同じ顔がウジャウジャ街で暴れ回っていたとなれば、総司が相手に加担したと考えるのも無理はない。だが事情を知っているであろう克人が、身内贔屓であったとしても問題が無いことを保証したとなれば、将輝はこれ以上食い下がる訳にもいかない。

 

 

「さて…質問だが、そこの橘総司の偽物!お前達の目的は何だ?」

 

「…俺の目的は、そこにいるオリジナルを殺すことだ」

 

「俺はお前達と言ったぞ?お前の国が今回侵略行為を行った理由を話せと…!」

 

「おいおい、落ち着けよプリンスさんよ。ステイクールってお前がユージオに教えてたんじゃないか」

 

「俺は某黒の剣士じゃない!いくら声が似てるからっておちょくってるとぶっ飛ばすぞ!」

 

「ダディヤナザン!?」

 

「橘はお前だろう!?」

 

「喧嘩するなお前達…まあ、協会支部があるこの横浜を襲撃してきた理由は明白だ。協会に管理されている機密文書などの閲覧、これだろうな。今回横浜を狙った理由としては、京都よりも海上戦力を使いやすいのと、今年はここで論文コンペが行われていたからだろう。あわよくばコンペでの新技術も奪取しようとしたのだろうな」

 

 

生真面目な性格がたたり、相変わらず総司に弄ばれている将輝。そしてその横で克人が限りなく正解に近い推論を立てた。流石は当主代理といったところだろう。そんな並の魔法師であれば実に恐れ多い十師族の二人の間に挟まっている総司は、()()()()()()()()()()()()()()()()快活に笑っていたのだった。

 

 

 

 


 

 

 

「…ハァ、ハァ」

 

 

場面は変わって横浜のとある高層ビルの屋上。そこには国防軍の誇る最新型のクソダサスーツ…もといムーバルスーツを着用した者が、疲労を隠せないといった様子で膝をついていた。そしてその者はヘルメットを外す。その小隊は我らがお兄様、司波達也であった。

彼は今、かつて無いほどに疲労を感じていた。その理由は…

 

 

「(さっき総司に魔法を行使したとき…通常よりも遙かに大きい負荷が掛かった…)」

 

 

そう、総司の腕が再生していたのは、そして今全回復したかのように振る舞っているのは、先程達也が自身の魔法…『再生』を総司に行使した故、肉体の時間が一日前に戻った事に由来していた。そして達也はその魔法行使での負荷の大きさに膝をついているのだ。

達也は、総司を再生する際に一度総司全体をスキャンしてロードしたのだが…

 

 

「(…総司に掛かっていた()()()()()()()()…アレは一体?)」

 

 

その時、総司の中でとてつもない規模の魔法式が、コンマ以下で永遠にロードされ続けていたのだ。その規模はあまりに強大、達也が咄嗟にその魔法式を無視する方向で『再生』の魔法式を組み直していなかったならば、誓約(オース)が解除されている達也でも廃人一歩手前までになったであろう。その魔法を理解するには、脳の容量が足りないと本能が訴えかけてくる、そのレベルの魔法であったのだ。

そして達也は総司に対して一つの推論にたどり着く。

 

 

「まさか…総司は俺と同じ『BS魔法師』なのか…?」

 

 

とここまで思案した時、さりげなく駅前から生還して、他の部隊と合流していた響子から通信が飛ぶ。

 

 

『特尉、聞こえますか?』

 

「はい、藤林少尉。聞こえます、一体どうしましたか?」

 

 

要らぬ不安を抱かせない為、疲労を感じさせないように努めて声を出した達也。対面であったならば気づかれたかもしれないが、通話越しでは気づかれなかったようだ。

 

 

『特尉の現在地から、港の方は視認できますか?』

 

「ええ、可能ですが…なるほど、あの貨物船になにかあるのですね?」

 

『アレは貨物船に偽装された敵方の揚陸艦です』

 

「ならば即刻撃沈しなければならないのでは?」

 

『敵艦はヒドラジン燃料電池を使用しています。東京湾内で船体を破損させては水産物に対する影響が大ききすぎます』

 

「…それで?」

 

『…『マテリアル・バースト』を用いて燃料ごと一瞬で燃やし尽くすことで影響なく撃沈が可能であると結論付けられました』

 

「…了解しました」

 

 

達也は遂に自分の禁じられた魔法を放つときが来たかと内心苦々しい思いで、もう一度総司達がいた場所を見やる。すると…

 

 

「藤林少尉」

 

『何かありましたか特尉?』

 

「件の揚陸艦の制圧に橘総司並びに十文字克人が動いたようです」

 

『…はあー(クソデカため息)』

 

 

そう、達也が振り向いた丁度その時、何かしらの情報を受け取ったと見れる克人をおもむろに背負い、そのまま港まで駆け出したのだ。

 

 

「藤林少尉、彼らがどのように敵艦を鎮圧するつもりなのか分かりますか?もし船体を破損させるようなやり方では止めなければ…」

 

『いえ、もう間に合いません』

 

 

響子の言葉を受けて、急いで港の方を見ると既に総司達は到着していた。

そして…

 

 

 


 

 

 

「しっかり捕まっててくださいよ克人先輩!」

 

「頼むぞ、総司!」

 

 

時間は僅かに戻り、零次を倒した場所から二人が移動する時。二人は揚陸艦が湾内から逃げだそうとしている事を十文字家の人間からの情報で知った為、急ぎその制圧に向かうことにした。ボロボロの零次の見張りは将輝だけでいいと判断したのだ。

 

克人は周囲を覆うように『ファランクス』を展開する。これによって空気抵抗からも身を守れるようになった為、総司は克人に気を遣うことなく全速力で駆けていく。

 

 

「追加の情報が入った。どうやら目的の船の動力には水産物に悪影響をもたらすものが使われているらしい」

 

「なら、海の上で撃沈しなければ良いんですよ!」

 

「フッ、まさしくその通りだな」

 

 

脅威的な速度で港まで到着した二人。『ファランクス』の耐久力に物を言わせて強引に総司から降りる克人。そして総司は減速することなく駆け、海からギリギリの位置で離れていく揚陸艦に向かって跳躍する。そして跳躍した総司がやがて曲線を描くかのように落下していき、海に落ちる…と言うタイミングで、克人が水平に『ファランクス』を展開した。

『ファランクス』は足下に展開することも可能で、そうすれば最硬の足場たりえるのだ。そして足場があると言うことは、総司が踏ん張れると言うこと。

 

 

「ふ~んぬう!」

 

 

ボギャッ!と音を立てて船体を軽くめり込ませ掴み上げる総司。それは端から見れば、一人の人間が海の上で大型船を持ち上げるという異様な光景だった。そして総司は、ウルトラマンが怪獣に度々するように、自分ごと回転することで遠心力を付ける。

 

 

「お~らよっと!」

 

 

そしてリリースすることで、内陸側に揚陸艦を投げ飛ばす総司。そしてそのまま、『ファランクス』の足場をジャンプ台に再び跳躍。

 

 

「う~らぁ!」

 

 

ものすごい速度で空中を移動する揚陸艦、それを遙かに凌駕する速度で跳躍した総司は、拳を突き出して突進する。そしてその拳は船体を貫通し、揚陸艦は空中で大爆発を起こしたのであった。

 

 


 

 

「…海上で破壊してはならないなら、陸上で破壊すれば良い…確かにその通りだが、何たる暴論だ…」

 

 

その光景を眺めていた将輝は、総司の行動に呆れながらも、目の前にいる零次から一切警戒心をなくさない。

 

 

「すげぇだろ、アレが俺のオリジナルだ」

 

「…気になった事がある」

 

「あ?」

 

 

自分のコピー元を賞賛する零次に、将輝は問いかけた。

 

 

「何故、お前達は橘総司を元に作られたんだ?」

 

「何故って、見て分かるだろ?強いからだよ」

 

「いや、それだけではないだろう」

 

「…」

 

「…沈黙は肯定と受け取ろう。それでお前達の親玉は…()()()()()()()()()()()()んだ?」

 

 

その問いに答えを返さず、ニヤリとした笑みを浮かべる零次。その様子に、思わず将輝は声を荒げてしまう。

 

 

「答えろ!お前達の製造目的は一体…」

 

「申し訳ありませんが」

 

 

将輝が言いかけた時、真後ろから声が聞こえた。

 

 

「その件については彼も、私も、あの方より堅く口を閉ざすように仰せつかっているのです。誠に申し訳ございません、一条の御曹司様」

 

 

そこまで聞いて、将輝の視界は暗転した。




魔法科世界の秘匿通信


・達也の処理能力でも処理しきれなかった謎の魔法:実は九校戦で総司の試合を観戦した深雪が体調を崩したのは、なまじ処理能力が高い為、何が起こったのかを理解しようとして、脳が本能的に拒絶したからである。



・最後の声:零次が倒されたのは魔法協会支部前。横浜の支部の近くには中華街があり、そこにはあの男が店を構えている。


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横浜騒乱編 最終話

番外編で温泉話書こうとしたら運営が(星三アシスト)とはいえ温泉雫ちゃんを実装してしまったこの現状、作者はこのまま番外編を温泉の話で進めようか違う話にしようか迷っている。


「ふぁ~…」

 

「おはよう、総司君。流石に疲れてるみたいだね」

 

 

西暦2095年10月31日。横浜の論文コンペ及び大亜連合からの襲撃を受けた時から一夜明け、総司と雫は同じタイミングで起床した。総司と過ごし始めて二ヶ月程になる雫は、起床の時間すら近くなった。故にこうして二人して同時に起きる事も少なくない。同じベッドで寝ているから尚更である。

 

 

「ん~、いや疲れてる訳じゃないんだ、寧ろ健康体まである。だけどな、何か体の中の時間が一日ズレてるような気がしてさ」

 

「それは精神的疲労なんじゃないの…?」

 

「そうとも言う」

 

 

何気ない会話をしていた二人だが、総司は雫の目線が左腕に向いているのに気づく。

 

 

「そんなに心配か?大丈夫だって完全に元通りだよ」

 

「うん…それでも、総司君の腕が切られた時…凄く怖かった」

 

「そりゃ怖かっただろうな…目の前で人が欠損するとこなんて学生の女の子がそうそう見るようなもんじゃないし…」

 

「それもだけど」

 

「?」

 

 

雫は途中で言葉を区切り、総司に寄りかかる。何が言いたいのか珍しく読み取れない総司は、雫を両の腕でしっかりと抱きしめる。

 

 

「今、こうしていられるのが、本当ならもう出来ないはずだったんだよ?」

 

「…ああ、そういうことか」

 

 

言われて初めて、雫が恐れたのは『愛する人と満足に触れあえなくなる事の苦しみ』であると総司は気づく。確かにそれは恐ろしいなぁ…ともし隻腕で抱きしめてしまい、感じられる温もりが減った事に悲しむ雫の顔を想像して、涙がこぼれそうになり、朝っぱらからこんなしょぼくれた事考えるものじゃない。と思い至って思考を切り替え、話題も切り替える。

 

 

「というか、雫ちゃんの方はあれから大丈夫だったの?昨日はお互い話をする余裕すらなくなってて聞いてないけど」

 

「大丈夫だったよ。エリカやほのか、美月やレオ君、幹比古君も頑張ってくれてたから。でもなにより凄かったのはいつもの先輩達だったよ」

 

「さっすが先輩達だな」

 

 

総司が零次を魔法協会支部前に吹き飛ばした後、一般人を避難させた後に乗り込んだヘリの中から、魔法協会に攻め入る呂剛虎達を視認した彼らは全員が一度降下し、呂剛虎率いる軍勢と戦闘を行ったのだ。鎧を身に纏い、強化を施された呂剛虎は琢磨ですら苦戦する相手であったが、最終的にイツメン(桐原、壬生、五十里、千代田、範蔵)に琢磨を加えた六人による同時マフティーダンスが決め手となり一瞬でケリが付いたとのこと。

因みに六人もの人間が同時にマフティーになるという異常事態には雫以外の面々はかなり引き気味であった。

 

 

「あの踊りってやっぱり総司君が教えたの?桐原先輩は九校戦の時も踊ってたし」

 

「教えたって言うか、目の前で使ったら覚えられたっていうか…」

 

 

起き抜けに話しながら、何の気なしにリビングに向かう二人。二人の行動時間が早いとは言え長話をしていると朝食で腹を満たしたくなってくる。「今日は私が作るね」と、自動配膳機(ダイニングサーバー)があるにも関わらず、自分で朝食を用意しようとする雫。どれだけ総司が無事で(無事ではなかったが)帰ってきたのが嬉しいらしい。

「ありがとう」と礼を言いつつ、ニュースでも見ようかとテレビを付けた総司。そこには…

 

 

「…達也?」

 

 

思わず口からこぼれた名前。画面の中の映像には、島一つが壊滅する程の大爆発の爪痕が映し出されていた。

 

 

灼熱のハロウィン。

 

 

後世の歴史家はこの日のことをそう呼ぶ。軍事史と世界史の転換期であるとされるこの日。

それは機械兵器とABC兵器に対する魔法の優越を決定づけた、魔法こそが勝敗を決する力だと誇示された事件。

 

魔法師という種族の、栄光と苦難の歴史。その真の始まりの日でもあった…

 

 

 


 

 

場所は変わって横浜の中華街…

 

 

「美味しいヤミー感謝感謝またいっぱい食べた「それは以前お聞きしました」…ネタを妨害するのはヤメロ抗菌スプレー」

 

「貴方も私をそう呼ぶのですね…」

 

 

とある店の営業を行うこの男…周 公瑾は以前出会った目の前の男、零次のオリジナルである総司にも同じ呼ばれ方をしたのを思い出し、呆れと共に零次のクローンとしての完成度の高さを実感する。

 

 

「今朝のニュースはご覧になられましたか?」

 

「ああ見た見た。大分派手にやられたなー、まだ判明してないしバレてもお前達は認めないんだろうけど、十三使徒の劉雲徳の奴、アレで戦死したんだろ?」

 

「いえ、そのような…」

 

「誤魔化さなくて良い。…あれだけの破壊をもたらす攻撃を受けたのは、それ相応の戦力をあのニュースの島に集めてたからだろう?どうやらお前の上はともかく大亜連合は戦争でもしようとしたんだろう。戦争をするなら自由に使える戦略級は投入される可能性が高い。俺はこの条件を元にそう考えただけだ。確信を持ってはいるが確かめたいとも思わん。どうせ電撃しか能の無い魔法師など俺の相手ではないからな」

 

「…まあ、あの魔法の真髄は電子機器を破壊する電磁波を広範囲にばら撒く事ですしね…」

 

 

世間話をする二人。だがその態度には明らかに違いがあり、零次はどうでも良い奴と思っているかのように公瑾に接しているが、公瑾はまるで上の人間を敬うように接している。何故なら、彼と彼の上司の計画には、まさしく零次が必須だからだ。

そして公瑾はそろそろと本題を切り出す。

 

 

「零次様。我が主からの口伝です。『近いうちに、()()()()は間違いなく蘇る』とのこと」

 

「当たり前だろ、そんなもんオリジナルがあんな風に生まれてきた時点で決まっていた事だ。今更何を俺に伝えたいんだ?」

 

「主は、貴方による()()()()を操り従えるという使命をとても重要視しています」

 

「そんな使命俺にはない。その使命があるのはオリジナルだし、従えるのではなく撃滅だ。アイツが従えるという選択をとるとは思えん」

 

「だからこその貴方だ。貴方が従え、その力を振るえば主は悲願の成就に留まらず、この世界を手中に収めることすら可能です」

 

 

饒舌に話す公瑾を見て、零次は嫌気が差したのか手にしていたスプーンを皿に放り投げる。そして腕を組んで目を閉じ、心底呆れた様子で公瑾に命じた。

 

 

「なら、さっさとオリジナルを殺してこい。俺が従える以前に奴が撃滅してしまえば元も子もないだろう」

 

「ええ、重々承知していますとも。故に零次様の回復を待ってから「それじゃ間に合わない」…と言いますと?」

 

「オリジナルは、既に()()()()()()()に至ったかもしれん」

 

「…それはどういう」

 

「一昨年の奴の最高速度を知っているか?」

 

「…申し訳ありませんが存じ上げていません」

 

「別に知ってると期待した訳じゃない。それでだ、奴の一昨年の最高速度はせいぜいがリニアモーターカー程度。だがその一年後には既に音速を超えていた。常軌を逸した成長速度だ、恐ろしい。だがな、奴の運動能力の成長はこれ以降目につく幅では見られなかった」

 

「それとフェーズとやらに何の関係が?」

 

「その頃の奴は魔法が使えない…それこそ、単一系統すら使えなかった。だがそんな人間が二年で魔法科高校に入学できる最低ラインまで魔法力を伸ばした」

 

「…まさか」

 

「ああ、この推論が正しければ、奴は近いうちにかつての運動能力の伸び幅と同じレベルで魔法力を高めてくるかもしれん。そうなれば魔法という優位性が俺から消える。そうなる前に一刻も早く奴を倒さねばならないんだ」

 

 

驚愕のあまり絶句してしまう公瑾を尻目に零次は席を立つ。そのままスタスタと去って行く零次は、独りごちる。

 

 

「たっく…ただの人間ごときががかの存在…()に…ましてや()()を手懐けようなんて無謀なんだよ…」

 

 

そのつぶやきは誰にも聞かれることはなく、中華街の闇に吸い込まれていった。




魔法科世界の秘匿通信


・ニュースで灼熱のハロウィンを知る総司達:彼らは二人の時間を大切にする為に夜の10時から朝の7時まで連絡を遮断している。本来であれば判明した時点でほのかやらからものすごい連絡が来るであろうが、本話の時刻は午前五時なので二人は気づかなかった。


・総司の昔の事を知る零次:上の人に『フリズスキャルブ』で調べるように要求してた。

安部清明が実在したと言うことは、妖怪も実在していたということ



次回番外編挟んで来訪者編です。以前のアンケートでうどんが多かったので話が凄くオリジナル要素満点太郎になります。


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来訪者編
来訪者編 その一


期待されていた方は申し訳ないが…温泉の話は書けなかったです…

某グンマー王国にある草津何某温泉街の話を書こうとしたんですが、ここで作者が草津エアプである事を思い出しまして(クソ馬鹿)


エアプなりに精一杯書こうとしたんですが、やはりエアプの難度はキツく書けませんでした。というか異性の相手と温泉とか行った事無いのでダメでしたね…

エアプのクセして魔法科世界という未来の話を書こうとした作者は心が完全に折れました。と言うことで来訪者編です。


「今回が温泉話だと思ったそこのお前!残念だったな!雫ちゃんとの温泉旅行の記憶を君たちに届けることはしばらく無理そうだ!どこかの誰かさんが相手を作って草津に行くまで待っていてくれ!」

 

「永遠に訪れない話をしたら可哀想だよ総司君」

 

「そもそもお前達は何の話をしているんだ…」

 

 

2095年12月24日。一般的にはクリスマスの前日…クリスマス・イブと言われる日。今日は別の目的でのパーティーなのだが、本来の目的とは違う「MERRYXMAS」の文字が入ったケーキ上のチョコ板などのクリスマスお祝い品達。それらには目もくれず、何処か虚空に話しかける総司とその話し相手が分かっているかのようにしながら、その話は止そうと制止を掛ける雫。そしてそれを見て呆れる達也及び複数名の三つに分かれ、貸し切られたアイネ・ブリーゼの店内は混沌を極めていた…

 

 

「まったく二人は相変わらずよね。今日の()()()()だって言うのに」

 

「何を言っているんだエリカ、俺はいつも主役だぞ」

 

「いやそれ人はみんな自分を中心にして回る物語の主人公って話だよね?…本当にそうだよね?」

 

「総司君、これ以上は止した方が良いと思う」

 

「おけ丸水産」

 

「そんな企業は存在しない」

 

 

今日は機嫌が良いのか、色々と危ない発言が目立つ総司。唯一のストッパーたる雫ですらも、彼女の話のスピードとも相まって総司を御し切れていなかった。

 

 

「はあ…お前という奴は。まあいい、みんな飲み物は行き渡ったか?…大丈夫みたいだな、じゃあ()()()の趣旨とは異なるけど、ケーキも用意してもらった事だし、「このケーキ作ったの俺なんですけど」…材料は用意してもらっただろう、つべこべ言うな。…コホン、乾杯はこのフレーズでいこう。…メリークリスマス!」

 

「「「「メリークリスマス!」」」クルシミマス!」

 

「おい今なんか一人おかしいこと言ったぞ」

 

「相手がいないから、クリスマスを独り身で過ごさなきゃならないレオでしょ」

 

「んなわきゃねーだろ!絶対お前だ!」

 

「そうだったのか。ごめんなレオ…気づいてやれなくて」

 

「大丈夫だよレオ。明日は気晴らしにどこかに遊びに行こう」

 

「「お前は相手いるだろ」」

 

「いないよ!?」

 

「くっそお前ら俺をおちょくりやがって!ぶっ飛ばしてやる!」

 

「「「ダディヤナザン!?」」」

 

「違うわ!つーか総司はお前が橘だろうが!」

 

「総司君、そのネタはこの間一条君にやってたでしょ?天丼ネタは飽きられるよ」

 

「なんで雫はそんなこと知ってるのよ…」

 

 

総司のふざけから始まる男性陣の盛大なレオイジり、そしてその最中に使われたネタが天丼だと指摘した雫、なんで知っているのか困惑するほのかを始めとした女性陣の三つに分かれ混沌を(ry

 

 

「き、気になっていたんですけど、期間はどのくらい何ですか?」

 

「三ヶ月くらいかな。年が明けてすぐに出発する」

 

「な、なんだ三ヶ月なんだ!もう会えなくなると思ってビックリしたよ…」

 

「大丈夫、そうなったとしても定期的に総司君に抱えられながらこっちに遊びに来るから」

 

「犯罪~」

 

「違法入国の極みだな…」

 

 

ボケ倒しの空気のままではいけないと美月が本題に関連する質問を雫に投げかける。それを聞いたほのかが明確に安堵した表情になる。その本題とは…

 

 

「しかしまあ、魔法師なのに海外留学なんてよく認められたわね。何処に行くのかしら」

 

「バークレー」

 

「ボストンじゃないのね」

 

 

雫に新たに質問を投げかけた深雪の台詞通り、雫は海外留学をする事になった。このパーティーはその送別会なのだ。

 

 

「東海岸は雰囲気が悪いらしくて」

 

「ああ、『人間主義者』が騒いでいるんだっけ?最近そういうニュースをよく目にするよね」

 

「たっく、魔女狩りの次は『魔法師狩り』かよ。歴史は繰り返すとは言うが、馬鹿げた話だよな」

 

 

雫がバークレーに留学する理由が分かった幹比古の納得の声と、その理由である人間主義者に呆れたような声をこぼすレオ。

 

 

「う~ん…正直俺はどっちでも良かったんだがな。お義父さんのアドバイスだからな-」

 

「総司お前…今回の留学に関して九島の強権で無理矢理同行出来るようになったからって、向こうでも同じ事が出来ると思っているんじゃないだろうな?いくら悪意を感じても殴ればお前もただでは済まないぞ」

 

「大丈夫だよ、覇王色使って気絶させればバレないから」

 

「フィクションはその身体能力だけにしておけ」

 

 

そして何気についていくつもりで会話を続ける総司。つもりどころか彼は実際に雫にボディーガードとしてついていくことになっている。これは相手がたまたま九島の縁者であった事が起因していた。その時総司は「あっ」と何かを思いだしたかのような声を上げて達也に耳を貸すように求める。

 

 

「どうした総司?」

 

「いやな、雫ちゃんと交換で留学してくる子…アンジェリーナ・クドウ・シールズって言うんだが、くれぐれも警戒を怠るなよ」

 

「警戒?その生徒はUSNAの間者なのか?」

 

「間者で済むかな…世界最強の魔法師部隊『スターズ』の総隊長、アンジー・シリウスを間者で済ませるならそうなんだろうが」

 

「何だと!?」

 

 

雫の交換留学が決まった時に相手に対して、総司は『フリズスキャルブ』で調べを入れていた。その際にUSNAの目的があの『灼熱のハロウィン』を起こした魔法師の正体を探ることだと言うことも突き止めたのだ。

 

 

「なるほど…お前がボディーガードとしてついていくのはそれを知ったからか…」

 

「いや別に?元から行くつもりだったけど。俺が雫ちゃんから離れる訳無いじゃんアゼルバイジャン」

 

「だと思ったよ」

 

 

確かに相手が間者であると仮定するなら、USNAが日本に対する警戒心を高めているということ。流石に世界情勢上立場が悪くなるであろう行為、雫を人質に取る、という可能性は限りなくゼロに近いが、あり得なくはないのだ。

とここでレオ達が先程の人間主義者の話を二人に振る。総司は「知ら~ん」と一言、達也は新白人主義と根が同じとかメンバーに同じ名前が多く見られるなど結構ブラックな話題をぶっ込んだのだった。

 

 

 


 

 

「それじゃあこのあたりでお開きにしようか」

 

 

達也の一言で全員が家路についた。雫、ほのかと達也、深雪以外が一人ずつキャビネットに乗って去ってゆく。どうやらほのかは雫と総司の家に泊まるようだ。そして次に雫達が乗って、キャビネットは動き出した。

 

 

「…お兄様」

 

「どうした深雪?何か不安なことがあったか?」

 

 

雫とほのかが乗ったキャビネット、及びそれに完璧に併走する総司という最早見慣れた光景を眺めながら別の車両に乗り込んだ、そんな時に深雪が達也に不安げな声音で問いかける。

 

 

「先程総司君と話されていたのは…?」

 

「聞いていたのか?」

 

「いえ。ですが何か内緒話をしていたのは見ていました」

 

「…キャビネットは完全なプライバシー空間などと言われるが、万が一もあるから家に着いてからその話の続きをしよう」

 

「は、はい…」

 

 

不安げな様子を隠すことも出来ない深雪を見つめながら、友人からのありがたい情報から、留学生…アンジェリーナへの警戒心を高める達也であった。

 

 

一方その頃…

 

 

「…と言うことがあってね」

 

「へ~、珍しい事もあるもんだな」

 

「…あの、総司さん」

 

 

雫達の乗っているキャビネットにて、こちらは達也達のキャビネットと違い、12月も終盤であるにも関わらずに右側の窓を開けて併走する総司と会話が出来るようにしていた。そんな中、ほのかが総司に疑問をぶつける。

 

 

「どしたん?」

 

「総司さんがキャビネットと併走しても、警察とかに捕まらないのは、九島家の権力だったり、七草家や十文字家が見逃してくれていたり、警察もエリカちゃんが家を通して黙らせてくれたりしてくれてるから、問題ないのは分かってます」

 

「ホントは問題しか無いけどな」

 

「いちいちツッコまないでください!…それで、今総司さんは魔法を使ってるじゃないですか」

 

「そうだね、最近作れた超簡単な気温調節魔法を使ってるね」

 

「…それ流石に軍とかから怒られませんか?」

 

 

ほのかが懸念しているのは総司が魔法を今現在進行形で使用していることだった。キャビネットと併走して許される事に関してはもう慣れた。そして総司が今回開発した魔法だが、総司でも使えるという超簡単な魔法式で組まれた領域干渉型の振動系魔法で、一定範囲内の空気を適度に振動させることでその領域内の気温を自由自在に操れるという素晴らしい魔法だ。弱点として三分維持するだけでかつての『風神雷神』と同レベルの消耗をしてしまう事が挙げられるが。

 

 

「大丈夫だよ。今頃響子さんが頑張って残業してくれているはずさ」

 

「総司さんって結構人使い荒いですよね」

 

「雫ちゃんはとても丁重に扱っているが?」

 

「雫以外にです」

 

 

聞いた総司がそうだっけ?ととぼけるものだから、ほのかはもうこの件を追求するのは止めた。

 

 

「それよかもう直ぐ三ヶ月の別れだけど、ほのかちゃん大丈夫?いつでも通話は掛けてきて良いけど、時差の関係で俺達が通信を切ってる可能性があるからね。声を聞きたいってなった時だけじゃなくて、こまめに雫ちゃんに連絡を入れて良いからな」

 

「それ私の台詞じゃない?」

 

「雫ちゃんは端的にしか言わないから俺が言ったの」

 

「ありがと」

 

「いえいえ」

 

 

正直言ってこのラブラブカップルの住む家に泊まりに行くなど正気の沙汰を疑うが、ほのかはもう慣れた。慣れは恐ろしいものである。

 

 

「…総司さん」

 

「ん?」

 

「…何かあっても、絶対に雫を守り抜いてください」

 

「モチロンさぁ!」

 

「つい殺っちゃうんだ☆とかしないでくださいよ」

 

「(確約できる可能性は)ハンバーガーが、4個分くらいかな?」

 

「少なすぎでは?」

 

 

不安になるほのかを余所に雫と総司は大丈夫大丈夫といった表情で頷くだけだった。




魔法科世界の秘匿通信


・七草家や十文字家の当主達は総司が併走を認めてもらった時に、総司の事を「おもしれーやつ」で済ませてしまった。


・藤林少尉は泣いていい



番外編の案あったらください…


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来訪者編 その二

プレイアブルを追加するのはいいが、雫ちゃんの星四を増やせ、男性陣の星四を増やせ、深雪ちゃんはお腹いっぱいだよ


「…グスッ、雫ぅ~!」

 

「はいはい、ほのか。ほんの三ヶ月なんだから泣かないで」

 

 

2096年1月上旬。北山雫、光井ほのかを始めとした面々は空港に来ていた。それはもちろん三ヶ月の留学へと向かう雫とそのボディーガードとして同行する総司の見送りだ。だが、ここで問題が発生していた。

 

 

「…総司の奴、遅くないか?」

 

「もう後数十分で出発なのに!」

 

 

レオとエリカが指摘したように、総司がまだ空港に到着していないのだ。先程から美月や幹比古が総司の端末に連絡を入れているが、一向に反応を返さない。

 

 

「もう!総司さんったら、雫をしっかり守らないといけないって事忘れてるんじゃないの!?」

 

「落ち着いてほのか。多分総司君は急用で来れないんだよ」

 

「ボディーガードとして大丈夫なのかいそれ…」

 

「しかも空港に迷惑掛かるだろ…」

 

 

いつもは必要以上に早く着いているのに、こういうときに間に合わないとは総司は何を考えているのか、親友としばらくの別れを前にしてほのかは珍しく憤慨していた。そんなほのかを見た雫は、これ以上総司に話題が向かないようにと露骨に話題を転換する。

 

 

「そういえば、元旦はゴメンねみんな。折角初詣誘ってくれたのに…」

 

「問題ないよ。家の用事があったんだろう?」

 

 

雫は達也達の初詣に同行していなかった。実家の集まりがあり、そちらに顔を出していたのだ。ついでに総司もその場にいた。

 

 

「そう言えば、やけに目立つ女の子がいたんだって?」

 

「ああ。まるでアニメの中から直接飛び出してきたように可愛らしい女子だったな」

 

「あら、お兄様?随分とあの女の子の容姿が気に入っているようですね?」

 

「許してくれないか深雪」

 

 

達也の発言で一気に怒りを爆発させ、冷気を放つ深雪を相手に達也は即座に両手を挙げて降伏の意を示す。その光景に周囲の仲間は笑っていた。元々こんな子じゃなかったんだけどなぁ…と遠い目をしながら、いつから深雪がこんなに嫉妬深く、より行動に移しやすくなったかを思い返す達也。すると自然に高校に入学してからであると気づき、となれば原因は総司であるとまで思考した達也。彼は総司を消すことを心に誓った。

 

 

「達也君がそこまで言う子がいたんだ~。アタシもそっち行けば良かったかな」

 

「お前の数百倍は整った顔だったぞ」

 

「はいぶち殺し確定~」

 

 

光の速さでエリカの逆鱗に触れたレオ。眼にもとまらぬ速さで動き、レオに華麗なる筋肉バスターをキメる。周囲の人間はギョッとした。そりゃ公衆の面前で使えばそうなるわ。

 

 

「でもホントに現実離れした子でしたよね…」

 

「ええ…もしかするとあの子が雫さんの交換留学の相手なのかもしれませんね」

 

 

同じくその場にいたほのかと美月がその日の光景を思い返すように呟く。達也も同様の予想を立てていたが、となると彼女がアンジー・シリウスなのか…あれで変装したつもりだったのか?だとしたら潜入とか止めたほうが良いと思うなぁ…と、総司から入手した情報と照らし合わせて感想を思い浮かべる。

 

 

「…ってもう出発時刻よ!?」

 

「ホントだ…じゃあ行ってきます」

 

「ちょっと雫!?総司君を待たなくてもいいの!?」

 

「大丈夫だよ、あの人はすぐに追いつくし、なんなら追い抜かれちゃうかも」

 

 

何気ない会話を続けてとうとう出発時刻になったが、総司が到着する気配がしない。そんな時、荷物をもった人物が雫に話しかける。

 

 

「お嬢様、総司様は所用で飛行機に同乗できないとの事です。ですので私が彼の荷物を運ばせていただきます」

 

「うん、ありがとう黒沢さん」

 

 

話しかけてきたのは雫の家の使用人の一人黒沢であった。黒沢曰く、総司は遅れるから先に行っておこうとの事。かくして二人は飛行機に乗って、飛び去ってしまった。

 

 

「…雫ぅ」

 

「もう…ほのかったら。そんなにウジウジしないの。時差はあるけどこまめに連絡を取り合えるのでしょう?」

 

「だけどぉ…」

 

 

飛び去った飛行機を見上げながら、ほのかが僅かに涙をこぼす。やはり短い期間で、通話も可能とは言え、親友と会いたくても会えないというのは、中々に堪えるのだろう。そんな時だ。

 

 

「よっっっと!はい遅刻でーす!」

 

「…総司」

 

 

クイックシルバーもかくやという正確さと速度で空港内の達也達がいるエリアまで走り抜けてきた総司。他の人には一瞬謎の突風が吹いたかのように思えただろう。

 

 

「総司君!ちょっと遅くない!?」

 

「そうですよ!雫のボディーガードとして恥ずかしくないんですか!?」

 

「ホントすいません…」

 

 

総司はほのかに対して土下座を敢行する。深雪や美月は「そこまでしなくても…」と思ったが、ほのかはまだ満足しないようで総司の頭を足で踏みつけた。ええ…という反応をする男性陣。特に達也がほのかの旦那になる男は将来大変だろうな…と他人事のように考えていた。その子貴方を狙ってるんですよ。

 

 

「…それで、なんで遅れたんですか?」

 

「寝坊しました」

 

「この豚っ!」

 

「落ち着けほのかちゃん!何か悪い電波を受信してない?大丈夫?もし帰ってきたらほのかちゃんが女王様とかになってたら雫ちゃんが悲しむぞ!?」

 

「…それもそうですね」

 

 

そう言って総司の頭から足をどけるほのか。因みに言っておくが、総司は一ミリもダメージを受けていない。そんな時、達也から総司に追求の言葉が飛んでくる。

 

 

「…それはおかしくないか?お前と雫は一緒の家に住んでいるんだから、雫が寝坊していないのに、お前を起こしていない理由が分からないんだが?」

 

「…」

 

「それもそうじゃないですか!?総司さん!ホントはどこで何をしてたんですか!?」

 

「そもそもなら、雫と一緒に来てもおかしくはないのでは?」

 

 

全員からの追求の目線が飛び、それに総司は耐える事が出来なかった。総司は慌てて釈明をする。

 

 

「いや、ちょっと行き違いが…」

 

「「「「本当は?」」」」

 

 

だが誤魔化そうとしたのがバレたので再度追求の目線に晒される総司。そして彼は白状した。

 

 

「…いざ空港に向かうかとなってな。雫ちゃんの乗る車に併走しようと考えたんだが…どうも見られている気配がしてな。だから黒沢さんに荷物を預けて先に行ってもらったんだ」

 

「…それで?」

 

「その後、しばらく歩いて公園ぐらいまで行ったらさ、何か()()()()()()()()不審者数名にさ?「お前は我々の天敵だ」って言われて訳も分からず戦闘開始。でも大した事なかったからすぐ終わるかと思ったら、零次の奴が乱入してきやがってな」

 

「…は?」

 

 

達也の呟きに追従するかのようにこの場の全員が驚愕の表情を浮かべてフリーズする。この男、かつて苦しめられた零次と先程まで戦闘していたというではないか。一体何が起こっているのだろうか。

 

 

「そ、それで総司さんに怪我は無いんですか?」

 

「ああ、大丈夫。俺は一対一か一対多が得意だからな。あの時怪我したのは君たちを庇ったからだし」

 

 

地味なイヤミが、回避することもできなかったであろう深雪の心にダイレクトアタックをかました。

 

 

「それで結局、零次を吹き飛ばして、残りの奴は仮装行列(パレード)を利用した擬似的な空蝉の術で撒いた」

 

「相変わらず厄介事を持ってくるな」

 

「お互い様だぜ達也」

 

「嘘だろ…!?」

 

「しっかりするんだ達也!」

 

「まだ傷は浅いぞ!」

 

 

直視したくなかった事実に達也の心に再生でも治せない心の傷が生まれる。達也を介抱する男性陣。いつものおふざけだと無視した女性陣。

 

 

「…それで、総司君はどうやって雫の所に行くの?」

 

「そんなの決まってるじゃないか」

 

 

エリカの言葉に何を言っているんだ?と言わんばかりの表情を浮かべる総司。その表情で察する事が出来たのは達也と幹比古だけだった。

 

 

「決まってるって…」

 

「どういう…」

 

深い夜の闇に~♪飲まれないよう必死になって♪

 

「…なんか曲が聞こえないか?」

 

 

レオの空耳は置いといて、準備体操を始める総司。まるでこれからとてつもない運動をするかのようだ。

 

 

「…まあ、程々にな」

 

「というかその方法捕まらないの?」

 

「大丈夫だって!」

 

輝いた六等星~♪まるで僕らのようだ~♪

 

 

そして総司は少し離れてクラウチングスタートの姿勢を取ると、後ろを振り向いて一時の別れの言葉を告げた。

 

 

繰り返す日常に~♪折れないように~♪

 

「それじゃ、行ってきます!」

 

 

総司は空港を飛び出して…海へと走り出す!

 

 

勝ち取りたい!物もない!無力な馬鹿にはなれない♪それで君は良いんだよ♪

 

 

総司はそのまま海へと突っ込むと、足を水面から下に沈ませることなく、海の上を走り出す!

 

その速度はマッハを超え!悠々と飛ぶ雫の飛行機をあっという間に追い越した!

 

 

キリキリと!生き様を!そのために死ねる何かを♪この時代に叩きつけてやれー!♪

 

 

圧倒的な速度で走り抜いた総司は、出発時刻およそ十分で、バークレーまで到着してしまったのだった…




魔法科世界の秘匿通信


・この後、「いらっしゃい、雫ちゃん」とまるで現地人かのような態度で雫を迎え入れる総司がいたとか何とか


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来訪者編 その三

前回説明し忘れていましたが、総司は日本領海内では仮装行列であのオルガの走るBBを自分の体に投影しながら走っていました。その間の監視システムは事前に連絡していた響子さんに何とかしてもらい、USNA領海辺りで透明化して走り抜けました。


気づいたら一週間ぐらい投稿して無くてヤバイ…申し訳ない。


「流石総司君、思ってた通り私より早い到着だったね」

 

「だけど、君を一人で行かせてしまったのは事実だ。すまない」

 

 

とてつもない速度で先にバークレーに到着していた総司からの謝罪を受けた雫。一人でという文言の辺りで黒沢が「私もいたからお嬢様は一人ではなかったですよ?」というツッコミをしたそうにしていたが、ぐっと押さえ込んでいた。彼女はプロの使用人、主人達の機嫌を損ねるような言動は慎むのが当たり前だ。

 

 

「さ、早く行こう。今日一日はゆっくりした方がいいだろう」

 

「…総司君、さっきからワクワクしてない?」

 

 

総司は雫に指摘されたように何かを楽しみにしているようだ。それはまるで、今か今かと友人を待つかのように。

 

 

「ああ、このバークレーにはな、俺の友達がいるんだ。直接会ったことはなかったが、今回会えるときたものだから、向こうが『いつでも歓迎さ!』と言ってきたんだ。俺だって会いたいからな、雫ちゃんを送り届けたら、すぐに向かおうと思ってるんだ」

 

「なら私も…!」

 

「いや、君は長旅でお疲れだろう?今日はもう休んでおいてくれ」

 

 

その言葉が不服だったのか顔を可愛らしく膨らませる雫。その表情に一瞬友人に自慢してやりたい気持ちに襲われたが、その衝動を抑えて二人は今後三ヶ月間の間使用することになる部屋に到着する。そして後のことを黒沢に任せて総司は端末に指定された座標へと向かった。

 

 


 

 

一方その頃…横浜中華街の一角にて

 

 

「…どうやらあの者はUSNAへと渡ったようです」

 

「だろうな、先程の俺達の攻撃はアイツを確実に北山雫の護衛に専念させて、日本から目を逸らせる為の布石。実力は俺と拮抗しているが、守る者を持つオリジナルでは俺と比べて行動範囲が圧倒的に制限される」

 

 

その一角の建造物の中に見える二つの人影。内一つの影がもう一つの影…安部零次に報告を上げていた。

そしてその零次に近づいてくる者が一人。

 

 

「…何故あの男をあの時始末しなかった?」

 

「できないからだ。奴は個人で大軍を相手取る戦闘法を得意とする。アイツの個人戦闘は基本的にそのスペック任せだ。だがそのスペックが驚異的、更に複数人で挑んだところで勝ち目などない」

 

「だがあの男は我々を滅することすら可能な危険な存在だ、早々に始末しておきたい」

 

「早まるな、デーモン。いや、()()()()()よ。奴の存在は確かに気に食わん。だが俺の上の人間は奴の力を欲している。今や俺さえいれば十分とは考えているが、準備を怠らない性格の上は奴を戦力として数えたいんだ。確かに奴ならその特性上、お前達をこの世から完全に消滅させるだろう。だからこそこお前達には日本に来てもらったんだ」

 

「…というと?」

 

 

パラサイトと呼ばれた…白仮面を付けた人物。その人物は、過剰に総司を恐れていた。だが零次はその恐怖を当然だろうと結論づける。パラサイトの本質がどうであれ、妖魔の類いである時点で総司相手には勝てないからだ。

 

 

「お前達には仲間を増やす方法を探しながら、この国で活動する為の新しい組織を作り出して欲しい」

 

「何故だ?組織はお前の所属している物で充分なのではないのか?」

 

「上は日本内の工作拠点をオリジナルに粗方破壊されたことに腹を立てていてな。オリジナルが国外に出る今、新たに拠点を増やすチャンスだと息巻いているんだよ」

 

 

どうせ帰ってきたら潰し直されるんだろうが。と心の中で結論づけた零次。そして彼は、指示を受けてそれを実行に移そうと移動し始めた白仮面を見て、ため息をつく。

 

 

「はぁ…アンジー・シリウス…どれほどの強者かと思えば、仲間に裏切り者がいることすら気づかないとは…情けないな」

 

 


 

 

「クシュン!」

 

「風邪ですかリーナ?」

 

「いえ、違うとは思いますが…」

 

 

更に場所は変わって、とあるマンションの一室。ここは、二学期より北山雫の交換留学の相手として第一高校に通うこととなるアンジー・シリウス…こと、アンジェリーナ・クドウ・シールズ少佐とその補佐官、シルヴィア・マーキュリー・ファースト准尉が、『灼熱のハロウィン』事件の首謀者及び、使用された戦略級魔法の使い手の潜入捜査を行う為の生活拠点として用いられる事となった部屋だ。

 

そこで作戦内容の確認を行っていたリーナがいきなりくしゃみをする。心配するシルヴィ、何でも無いと言い放つリーナ。ここで二人がすぐに、くしゃみは誰かが自分のことを噂しているときに出るという日本の迷信を思い出せていれば、この事件の顛末は変わっていたかもしれない。

 

 

「では、今回の作戦を改めて確認しておきましょう」

 

「…ぶっちゃけ要らないと思いますが」

 

「ダメですよリーナ。もし不備等があったとなれば始末に負えませんからね」

 

 

内容なんて耳にたこができるほど聞いたと言わんばかりの表情でシルヴィを見るリーナ。それをたしなめつつ、シルヴィは作戦内容をつらつらと述べていく。

 

 

「まず今回の最重要項目は、『灼熱のハロウィン』を引き起こした戦略級魔法の使い手を探り出すこと…のはずでしたが、現在は国外へ逃亡した『スターズ』の脱走兵の処断になります」

 

「……」

 

「…リーナには辛いでしょうが、これも任務です。脱走したとはいえ仲間を手には掛けたくないのは同じ気持ちですが、割り切らねばなりません」

 

「…分かってます」

 

 

リーナにはスターズの総隊長として、脱走した者達を処刑しなければならない。まだ高校生である彼女には非常に酷な任務であった。

 

 

「…続けます。現在『灼熱のハロウィン』で戦略級魔法を使用した疑いが最も高いのは、この人物です」

 

 

シルヴィの言葉と共に仮想ディスプレイに映し出されたのは一高の制服を着た人物であった。

 

 

「それがこの、『()()()』という人物です」

 

「…ソウジ・タチバナね」

 

 

そのディスプレイには達也を始めとした一高生徒や、一条将輝なども映し出されているが、最もピックアップされているのは総司であったのだ。

 

 

「確かこのソウジ・タチバナという男は魔法が使えないと言う話ではなかったのですか?」

 

「ええ、本人や周囲の人間はそう言ってはばかりませんが、それ自体がブラフである可能性があります。この映像を見てください、これは今年の夏に行われていた『九校戦』と呼ばれる魔法競技会のものです」

 

「どれどれ…って、はあ!?何よこの動き!?これで魔法使ってないは無理があるでしょう!?」

 

「上層部も同様の考えです。確かに大会での記録には彼の所持するラケット以外に魔法が使用された形跡はありませんが、この大会の運営には彼のバックに付いている九島が大きく関与しています」

 

「なるほど…つまり、この規模の魔法を疲れすら見せずに使用する手練れであれば、『灼熱のハロウィン』を起こすことも可能だと…」

 

 

全く以て見当違いの作戦を立てるUSNAの軍部。この事を盗み見たレイモンドという少年は画面の前で腹を抱えて大笑いしていた事は余談だ。

 

 

「ですが、彼は今日本にいません。リーナの交換留学の相手の北山雫という少女の護衛としてUSNAに同行しています」

 

「なっ…!?仮にその男が下手人だとして、そんな人材をUSNAに送り込むなんて…!?」

 

「この事を軍部は重く見ており、彼が入国後すぐさま監視を付けるとの事です」

 

「…そう言えばシルヴィ。この男の話を私にした理由は?この国にいないなら私の仕事の範囲外ですよ?」

 

 

リーナの抱いた疑問。それはリーナが監視する事が出来ない危険な存在の話をしても、それでリーナがどうこう出来るという訳では無い。なのに何故上層部はリーナにこの話を聞かせるよう命じたのか。

 

 

「…上層部は、最悪本土での戦闘を想定しています」

 

「彼一人とですか?だとしても過剰戦力では?」

 

「戦略級魔法師の疑いがある者に対して、同じく戦略級であるリーナをいつでも帰国出来るように備えさせておきたいようです」

 

「面倒ですね…」

 

 

リーナのため息が、マンションの一室に響いた…




魔法科世界の秘匿通信


・入国後に付くはずだった監視は、飛行機から総司が降りて来ないことに困惑してゲートを通り過ぎた雫の傍へ入り口の方から駆け寄ってきた総司に気づかなかった。




・横浜騒乱編の時は中盤まで国防仮面として活動していたので潜り込んできたスパイは国防仮面と総司を結びつけられていない。変装を止めた零次戦では、零次を総司と勘違いしてスパイ共がこぞって零次を攻撃。もれなく返り討ちになった為、総司と零次の違いが分かっていない。故に大部分が総司は魔法が使えることを隠していたと思われている。



入国した後、雫ちゃんと合流した総司の行動と、襲撃してきた零次達のその後、入国していざ学校へという前に作戦を確認しているリーナ達という話。

謎にUSNAの軍部が無能の回


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来訪者編 その四

ハロウィン雫ちゃん可愛すぎか?…でも、アシストにまたしても深雪ちゃんが来たのは謎。男性陣追加しろって…


冬期休暇が明けて、新学期が始まった。教室に入ったときにいつもの騒がしさが若干、本当に若干恋しくなった達也。そんな彼は今…

 

 

「「「「うおおおおお!司波達也死ぬべし慈悲はないィ!」」」」

 

 

「い、一体何なのよこれは!?これが日本の歓迎のやり方なのかしらミユキ!?」

 

「そんな馬鹿なことあるわけないでしょう真面目に考えなさいこのお馬鹿!…お兄様!」

 

「…総司、帰ったら覚えていろよ…!」

 

 

目が血走った男子生徒達(一部女子生徒)に、深雪とリーナごと追いかけられていた。

 

 

「こ、怖いんだけど!?今までも滅多なことでは恐怖すら抱かなかったこの私が!?」

 

「なら良い機会だな!これが人間の執念と呼ばれるものだ覚えておけ!」

 

「ピンク色のお兄様…?」

 

「マゼンタだ!」

 

 

事の始まりは数時間前…

 

 

新学期が始まり、友人が二人外国に旅立って不在とは言え、彼らの習慣が大きく変わる事などそうそうない。と言う訳で、いつもと変わらず学食にて深雪とほのかを待つ、達也を始めとしたE組の面々。そして約束していた時刻より僅かに遅れてきた二人。その二人の隣には、金髪碧眼の絶世の美少女が歩いていた。それは以前初詣にて目撃した、総司曰くUSNA最強の魔法師、アンジー・シリウスであるという少女だ。

端から見ればまだ若いのにUSNA最強…?とも思うかもしれないが、総司の情報の妙な正確さ、USNAはシリウスが未成年である事を公表している事からおかしいことではなく、寧ろほぼ確実と言っても過言ではない。

 

 

「こんにちは達也さん!久しぶりに一緒にお昼を食べられますね!…あっそうだ!こちらの方が、もう知っていらっしゃるかもですが、交換留学でいらっしゃったアンジェリーナ・クドウ・シールズさんです!」

 

「…こちらの男の子だけじゃなくて、他の皆さんにも紹介していただきたいのだけれど…」

 

「…あっ」

 

「あれれ~?どうしてほのかちゃんは達也君にだけ紹介したのかな?それとも紹介はついでで達也君と話したいだけじゃないの?」

 

「シーッ!シーッ!声大きい!達也さんに聞こえちゃうよ!」

 

「(…もう既に聞こえていることは黙っていたほうがいいだろうな…)」

 

 

ほのかは達也と話が出来る喜びについついはしゃぎすぎて留学生をないがしろにしてしまった結果、エリカ達に当面のイジられポイントを提供することになってしまったのだった。

 

 

「こちらは交換留学でUSNAからいらっしゃったアンジェリーナ・クドウ・シールズさんです」

 

「よろしく。日本は不慣れだけど、仲良くしてくれると嬉しいわ。それと私の事はリーナと呼んでくれるかしら」

 

「分かったよリーナ。俺は司波達也、君のクラスメートになった司波深雪の兄だ。俺の事は達也で構わない」

 

「オーケー、タツヤ」

 

 

留学生…リーナを見て、達也はその一挙手一投足に全くの隙が無いことに感嘆する。それと同時に、やはり総司が言っていた様にUSNAからの刺客である事は間違いないと確信した。先程、自分をリーナと呼んで欲しいという発言、昔からUSNAでは普通、アンジェリーナという名前はアンジーという略し方が一般的だ。だが彼女はリーナと呼ぶように要求してきた。別にこの考えは一般論であるに過ぎず、本当にリーナと呼ばれて過ごしてきたのかもしれないが、仕事の自分と区別する為にリーナと呼ばれたがったのだと推測した。

 

 

「ふ~ん、それにしてもタツヤってあまりミユキとは似ていないわよね?」

 

「まあリーナったら!私とお兄様がお似合いだなんて…!」

 

「リーナそこまで言ってないよ…?」

 

「よく言われるが、俺と深雪は正真正銘の兄妹だよ」

 

 

別に深い疑問でも無く、あまり似ていないから気になっただけのようなリーナはその返答で納得し、他の面々との挨拶を行っていく。その間に達也の隣に深雪が近寄り、小声で問いかける。

 

 

「…お兄様、総司君の情報を正しいと仮定すると彼女が…」

 

「ああ、USNA最強の魔法師、アンジー・シリウスという事になるな」

 

「私には…到底その様には見えないのですが…」

 

「端から見れば戦いと無縁そうに見えるかもしれないが、体運びが素人のそれじゃない。明らかに訓練された動き方だ。それにアンジー・シリウスは未成年であると公表されているはずだ。完璧に訓練された動きをする女子高生がそう何人もいて良いものじゃない、恐らく本当に彼女がシリウスなのだろうな」

 

 

そう深雪に教える達也。いくら兄の言うことでも、少し接しただけで彼女が軍人とは思えない性格であると知っている深雪は、納得いかないと言った表情で黙り込む。そんな深雪を見ていた達也は、急に自分に向けられた()()を感じ取る。

 

 

「(…なんだこの視線は…?)」

 

 

自身に向けられた殺意。それは研ぎ澄まされたものとは到底言えないが、そこそこ明確なものだった。この中で一番殺意を向けてくる可能性のあるリーナに目をやるが、彼女は幹比古と美月が良い感じなのを即座に感じ取って、他の面々とイジり倒している。大分陽キャだな…と考えつつ、達也が周囲に目を向けると、その殺気の正体に気づいた。

 

 

「アイツが…!」

 

「許せねえ…!」

 

「(これは…嫉妬や羨望から来る殺気か?)」

 

 

いつの間にか自分達の周囲で学食をとっていた学生達がこちらを見ているではないか。それに溢れ出る殺気を抑えられず、控えめに話しているつもりでも度々こちらに声が聞こえてくる。何故このような状況になったのか、達也が読唇術で読み取ってみると…

 

 

「(アイツの言う通り、女を大量に侍らせてる…?深雪やエリカ、美月…それに七草先輩や渡辺先輩まで…?更に実は、壬生先輩や千代田委員長の本命は俺で、桐原先輩と五十里先輩は俺に虐げられている…?それに飽き足らず留学生まで早々に手籠めに…?何だこれは、全くの事実無根じゃないか)」

 

 

どうやら達也に対する悪評が出回っているらしく、周囲の生徒はそれで達也に殺気を向けてきたようだ。確かに改めてみると視線を向けてきているのは明らかに男子生徒が多い。一部女生徒もいるが、確か彼女達は深雪の熱烈なファンだったと記憶している。それに彼らは先程「アイツ」と言っていた。恐らくその人物がこの噂の元凶だろう。それは一体…?

 

 

「(カップル同士の熱烈なイチャつきを見せつけられるのはウンザリだが、こんな情報を教えてくれた橘には感謝しないとな)…は?」

 

「お兄様?」

 

「?」

 

「やめろ近づくな、余計に話がこじれる!」

 

「「え?」」

 

 

この噂の元凶が総司だと判明した直後、深雪とリーナがそれぞれ達也の両サイドに移動する。そのあまりにも自然な挙動(深雪は自然だが、リーナは深雪と被らない様に方向変換したが、完璧な足さばきで自然に見えてしまった)に、更に殺気を高めた生徒が立ち上がる。その光景になくしたはずの感情の一つ、「恐怖」が蘇ってきたかのごとく、達也は身震いした。

 

 

「ここは危険だ…!スマン、俺は先に行く!」

 

「ちょっと達也!?」

 

「どこいくんだよ!?」

 

 

この場に留まっていてはマズい。そう判断した達也は幹比古やレオの制止も聞かず、一目散に駆けていく。そしてそれを追うかのごとく生徒達が飛び出して行く。

 

 

「速く逃げなければ…!」

 

「どうしてお兄様が追われるのですか!?」

 

「というかどうしてミユキはアタシを連れてきたのよ!?」

 

「深雪!?リーナ!?何故ついてきた!?」

 

 

全力疾走を試みた達也だが、何故か深雪とリーナがいた為それははばかられた。何故いるのかと言えば、生徒達が追いかけだしたタイミングで異変を感じ取った深雪が思わずリーナを連れて追いかけてしまったのだ。近くにいて他の生徒達よりも近かった為すぐに追いつけたのだ。

そして冒頭に戻る。

 

 

「何でタツヤがピンクになるのよ!?タツヤはタツヤで何でマゼンタに拘るの!?」

 

「マゼンタじゃない、ピンクだ!にどとまちがえるなくそが」

 

「急に口悪っ!?」

 

 

そう言い合いながらも、必死に追手から逃げる達也達。そんな中、達也達の向かう先に見覚えのある姿が映る。

 

 

「あれは…!おーい、森崎!こいつらを風紀委員として連行してくれないか!?今にも殺されそうなんだが!?」

 

 

そこにいたのは森崎駿。最近グングンと腕を伸ばし、実技成績も深雪や雫、ほのかに幹比古に次ぐ五位と高順位をマークした男だ。達也は風紀委員としての森崎に助けを求める。達也も風紀委員ではあるのだが、その本人が追われている以上、自分で連行など出来ないし、そもそも後ろの集団に追いつかれたら達也の命はほぼないだろう(再生で蘇りはするが)。

そして達也の声に反応した駿は達也達の方を見て驚愕の表情を見せ、その後に「ああ…これが」と納得したような顔で呟いて、気まずそうに目を逸らした。

 

 

「「「何でー!?」」」

 

 

この逃走劇は、次の予鈴が鳴るまで続いたのであった…




魔法科世界の秘匿通信


・実はこの噂を総司が流したのは善意から。こうやってトラブルを起こしてリーナに捜査どころの話ではなくするのが狙い。因みに噂のダシにした人達について、真由美や摩利には許可を得ていないが、桐原、壬生、千代田、五十里のイツメンには許可及び犯行理由を伝えており、噂の真偽を確かめに来た友人達に対し、女性陣は達也の事を楽しそうに話し、男性陣はどこか影が入った様な表情で小さく肯定を示すという演技派となっている。


・因みにこの騒動で最も対抗勢力としてあげられているのが範蔵(真由美云々で動いた)である。何やってんだよ会頭!?(オルフェンズ並)


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来訪者編 その五

マジで投稿間隔大きくてすいません…


「…くくっw」

 

「また笑ってるの?」

 

「そりゃぁ、レイモンドのあの顔と来たらもう爆笑ものだったからなwそうそう収まりそうにないよw」

 

 

バークレーのとあるマンション。スクールから帰宅してきた雫は数日前の出来事を思い出しては笑っている総司をたしなめる。

総司が初日に既に合流していたという少年、レイモンド・クラークという人物と対面したときに、雫は率直な第一印象としてレイモンドを「胡散臭い」と評した。その言葉を聞いたときのレイモンドの、面食らった表情を横で見ていた総司は、未だに笑いが収まらないとのことだ。

 

 

「それに私の実習の度にお祈りするのやめよ?」

 

「何を言うか、折角なんだからスクールで一番の成績を叩き出すんだよ、あくしろよ!」

 

「三ヶ月でそこまで出せると思う?」

 

「雫ちゃんなら行ける行ける」

 

 

留学生としてUSNAに訪れたのは雫個人であり、総司はあくまでボディガードというので、学内までは入ってこれなかった。が、警備員や職員を嘲笑うかのように総司は『仮装行列(パレード)』で透明化して、毎日が参観日と言わんばかりに雫の受ける授業の先々に回り込んでいた。(現状気づいているのは気配で察した雫と、その謎技術に若干引きながら「総司ならあり得る」と考えるレイモンドだけ)

その所為でUSNA軍部が派遣した監視が毎度のごとく振り切られていててんやわんやと言った状態となっているが、雫には関係ない(総司は気づいている)。

そして帰宅してしばらく二人が談笑していると、総司の端末に連絡が入る。

 

 

「…達也?」

 

「達也さんから?もう向こうは学校だと思うんだけど…」

 

 

表示された名前は司波達也。時差の関係で、今は学校にいるはずの学友だ。そんな彼がこの時間に連絡を寄越してきたとなれば、何か火急の用件があるのかもしれない。そう警戒しながら総司は通話を開く。雫は画面を見られるように総司の左肩に顔を置いて覗き込むような姿勢を取る。

 

 

『もしもし。総司か?雫もいるようだが』

 

「おう。いきなり連絡を寄越すからビックリだぞ」

 

 

総司の言葉に追従するかのように雫が「うんうん」と首を縦に振る。

 

 

『悪いな、夜分遅くに』

 

「問題ないぜ、こっちはまだ八時だ」

 

「それに、最近は夜更かしすることも多くなったし、多少遅くても慣れてるよ」

 

『雫!?そ、それって…!?』

 

「あ、ヘタレ奥手な照れ屋ほのかだ」

 

『んなっ…!?』

 

『こら、雫?ほのかをそんなにいじめたらダメじゃないの』

 

「ごめんなさ~い」

 

 

そう言って雫は舌を出してペロちゃんマーク(無表情)を作る。反省の色ゼロの行動には思わず苦笑してしまう達也。それを横で見ている総司が「可愛い…撫でたい…」と呟いているのを見て、手早く用件を済ませた方がいいと話を進める。

 

 

『校内で蔓延っている俺の悪評についてなんだが』

 

「「何が何だか…」」

 

『雫も一枚噛んでたのか…!?』

 

 

心なしか青筋を立てているかの様な達也からの問いに、心当たりがありまくりな二人は全力で目を逸らす。何を隠そう、噂を広めたのは総司だが、やはり男性と言うこともあり女生徒達に対しての情報発信力が乏しかった…ため、雫にそれとなく噂を流すように頼んだのだ。つまりはこの二人は共犯者、それも主犯と準主犯だった。

 

 

『よし、俺も今からそちらに向かう。どうやって噂を根絶するか悩みながら、明日の命に思いを馳せることだ』

 

「殺されるのか俺達?」

 

「ぷるぷる、わたしたちわるいうさぎじゃないよ」

 

『お兄様!今はそれが用件ではないはずです!』

 

『…!ああ、済まない深雪…ッチ、覚えてろよお前達』

 

「「ヒエ」」

 

 

普段冷静沈着な達也がここまで取り乱すなど大戦果だなガハハ!と脳内で考えながらおびえたフリをする二人。今回のようなギャグでは時空がゆがんで死ぬことがないのを理解しているのだ。

 

 

『それで本題なんだが…雫、ほのかから聞いたんだが、そちらでも吸血鬼が暴れていると聞いたんだが、本当のことなのか?』

 

「吸血鬼?なんぞそれ」

 

『お前には聞いていない』

 

「ひでえや」

 

「…ああ、あのこと。日本じゃホントに出たんだ」

 

「ホントにいるのかよ…!?」

 

『日本では?と言うことは』

 

「うん。まだアメリカでは都市伝説扱い。少なくともメディアは報道してない」

 

『そうなのか。だが単なる噂でも構わない。何か知っていることはないか?』

 

「何かあったのか?」

 

 

達也は一瞬、彼らを心配させるような事をわざわざ伝えるか迷ったが、確実な連携を取る為には教えておいたほうが良いと判断した。

 

 

『レオが吸血鬼らしき存在の被害にあった。幸い、命に別状はないがな』

 

「…!」

 

「そんなっ…!」

 

 

思わず口元を押さえて驚愕を示す雫。総司はというと、先程まで腑抜けた顔だったのをすぐさま引き締めて話を聞いていた。

 

 

『いや、そこまで心配する必要は無い。レオは自力で吸血鬼を撃退したんだが、その際に相手の異能でダメージを受けてしまったんだ。今は大事をとって病院にいる』

 

「そう…よかった」

 

「流石レオだな、だがアイツの硬さをすり抜けてダメージを与えるなんて…」

 

 

若干の安堵を覚えて表情を和らげる雫。対称的に総司は表情が暗くなる。もしかすると自分の家…「安部」が得意としていた妖怪案件なのかもしれないと考えたからだ。総司は大して安部の人間という自覚はないが、妖怪は打倒しなければならないという考えを持っていた。

 

 

『俺はその吸血鬼事件の犯人はアメリカから来たと考えているんだ。だからアメリカでの情報が欲しい。だが雫、くれぐれも危険な橋を渡るなよ、決してそちらの情報が必須という訳では無いからな。そして総司、お前は無理をしてでも情報を集めてこい』

 

「対応の差よ」

 

『『『妥当』』』

 

「妥当だね」

 

「ええ…(困惑)」

 

 

電話口の三人からどころか自分の恋人にすら味方がいない状況に困惑する総司。しかし、彼は今の現状を思い出して達也に断りを入れた。

 

 

「悪いがそれは出来ない。俺は今監視されていてな、下手に動けば俺でなく雫ちゃんに危害が及ぶやもしれん」

 

『何だと…?それは何者からの監視なんだ?』

 

「多分軍部からのだな。恐らく俺を警戒してんだろ。そっちにスターズ最強戦力を投入したのも、奴らにとっては俺に対しての監視という名目もあったのかもしれない。まあ、俺がこっちに来たせいで意味がなくなってしまったからな」

 

『…そのスターズの事だが…もしかすると、お前が主目的ではない可能性が高いんだ』

 

「…!ま、まさか…!俺の自意識過剰だとでも…!?」

 

『そうじゃない。もしかすると…アンジー・シリウスはこの吸血鬼事件の犯人を追ってきたのかもしれない』

 

 

達也の考察を聞いた総司は、その可能性が高いと同調する。そもそも留学生の名前や容姿は学生には判明していなかった。総司がUSNAに行くと決まった瞬間に留学に当てる人員を他の人物に変えることも可能だったはずだ。だがそのままシリウスを送ってきたとなれば、日本には戦略級魔法師よりも優先すべき任務があるのかもしれないからだ。

 

「分かった、すぐに調べよう」

 

『…良いのか?』

 

「友達がやられたんだ、黙ってられねえよ」

 

 

だがそんな事情はどうでもいい。彼にとって問題となったのは、友人が襲われた事に対する怒りと、元凶がアメリカにいる…つまり雫にも危害が及ぶ可能性を不安視する。最早彼の脳内にはアンジー・シリウスなどという単語は消え失せていた。

 

 

『感謝する、総司』

 

「だが、すぐすぐには情報を持って来られなさそうだ。俺の友人にも協力を要請しておく」

 

 

友人、という部分にまだ見ぬ強敵の姿を垣間見た達也。しかし今彼は自分達の仲間、彼を裏切らない限り、彼の友人とやらが敵対することもないと結論づけて、達也は総司に『頼んだぞ』と伝えて、通話を切った。

 

 

「…総司君、友人ってもしかして」

 

「ああ、レイモンドの奴だ」

 

「彼、危険な目に遭わないかな?」

 

「アイツは多分大丈夫だ。それよりも君の安全を確実なものにしておきたいが…」

 

 

そう言って考え込みだした総司に、雫は不満げな表情を浮かべていたが、それに総司は気づくことはなかった。




魔法科世界の秘匿通信


・総司はレイモンドが驚いたときの顔を写真として持っている。


・原作よりもレオの容体は軽い。要するにレオは強くなってる。


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来訪者編 その六

今回の無双で追加された雫ちゃん…スカートのめくれかたがエッチすぎますねぇ!



原作とは大分離れた展開だから投稿頻度遅いのは許し亭許して…


「…ということで、お前にも協力してもらうぞ、レイモンド」

 

「拒否権は?」

 

「あるとでも?」

 

「僕は人間だから存在するはずでは?」

 

「ならお前は今から人権を剥奪される」

 

「自由の国、アメリカで許される行為ではないね」

 

「ぶん殴るぞ」

 

「ごめんなさい」

 

 

ここはバークレーに存在するスクールの屋上。昼休みにも魔法競技のクラブ活動を行う生徒達が下に見えるこの場所で、このスクールの一人の生徒と、一人の部外者がいた。

部外者である総司はレイモンドに情報を寄越せと要求するが、流石のレイモンドも調べなければならないと返答。その返答にじゃあ今すぐ調べろと要求する総司、それに「ご自分でどうぞ」と返答するレイモンド。昨晩の達也からの連絡を皮切りとしたちょっとした口論は、総司が暴力をちらつかせる事によって終結した。

 

 

「それにしても、日本でデーモンが活動している理由が、このアメリカにあるか…流石はタツヤ・シバだね、予測はあっていると思う」

 

「お前も達也の事知ってるのか?」

 

「君が以前調べたときのログを拝見してね」

 

「プライバシーの侵害で訴えるわ」

 

「同罪で訴え返してやるよ」

 

 

総司とレイモンドはついこの間初対面を迎えたが、以前から同じ情報源…『フリズスキャルブ』のオペレーターとしてちょっとした協力をしていた事もあり、関係は既に親しげだ。あまりの親しさに危険性を垣間見た雫がマウントを取ることで総司は自分のだとアピールする必要があるぐらいには。

ところで、今この場に雫の姿はない。それは二人から頼みこまれたからだ。彼らは世界の裏事情をほぼ全て洗い出せる情報源を持つ。だが、それ相応のリスクも背負っている事になる。

興味本位で世界の根幹に関わりかねない情報にアクセスをかける破滅願望持ちと見られても仕方が無いレイモンド。

自分の身の回りの人達の為に集めた情報が毎度のごとく機密に触れてしまうジレンマを抱える総司。

そんな二人の会話は秘匿されて然るべきものであり、それは総司の恋人であり、今やレイモンドの友人でもある雫には到底聞かせられない。総司がついている以上、そうそう危険な目になど遭わないが、そのリスクは少ない事に越したことはないのだ。

 

 

「…そうだ、一つ関係がありそうな情報がある」

 

「ふーん?それは一体?」

 

「スターズの軍人が数名脱走した」

 

「…マジで?」

 

「マジさ」

 

「…結構な不祥事だな」

 

「だから公にはならないのさ。ああそう言えば、君の学校にはシリウスが行ったんだったね。スターズ軍人が日本に亡命したとの情報さえなければ、軍部の上は今すぐにでも君の監視にシリウスを付けただろうに」

 

「おい、亡命は聞いてないぞ」

 

「言ってないからさ」

 

 

レイモンドからもたらされた新たな情報に「早く言えよ」と文句をこぼす総司。レイモンドの言ったことが正しければ、吸血鬼の正体はスターズ軍人の可能性が高くなってきた。

 

 

「となれば『分子ディバイダー』を使ってくる可能性が?」

 

「そこまでの実力者が脱走した訳では無い。特に強力な脱走者だったフォーマルハウト中尉は既にアンジー・シリウスに処断されている」

 

「なら、ウチの仲間が負けるはずはないな」

 

「油断は禁物だよ…君に言っても意味がない気がするけどね」

 

「それはそうだ」

 

 

スターズの脱走兵が日本に亡命したのであれば、今アメリカにいる総司が戦う事はないし、戦ったとてスターズ如きにやられる総司ではない。だが、彼の仲間はそう言う訳にも行かない。総司という最強のトラブルメイカーが日本からいなくなったとはいえ、日本にはまだまだ司波達也(トラブルメイカー)がいる。どうせまた厄介事を持ち込んで吸血鬼達と戦う事になるだろう。

 

 

「それと前々から言われていた君のクローン…安部零次が一体誰からの指示で動いているのかが分かったよ」

 

「マジ?アイツが従うとかどれくらい強いんだって話なんだが」

 

「いや、黒幕自体に大した戦闘力は無い。だが零次は話によれば君のクローンらしく君に近い思考回路のようだからね、君だって京都と九島閣下の命を天秤に掛ければすぐに京都を見捨てるだろう?つまり親の情があるという訳だ」

 

「あ~…零次のヤツも情で協力してるって訳か」

 

「だろうね…そしてその親玉の名はジード・ヘイグ、またの名を顧傑という」

 

「聞いたことないな」

 

「だろうね、このジード・ヘイグという男は大漢時代からいる人物だ、大漢は日本に恨みがあるから早々表には出てこないかな知らないで当たり前だ」

 

「大漢っていえば…四葉に滅ぼされた国か」

 

「そうだ。そしてこの男は日本で何かを成す事を狙っていると考えられる。君を模して零次を造ったとすれば、君の力かそれに類似したものが不可欠なのかもしれない」

 

 

自分を付け狙って来るものが伝統派以外にいたこと薄々は気づいていたが、こう実在を聞かされるといやな気持ちになる総司。そんな時だ。

 

 

「うん?通知だね」

 

「俺の端末だ、何々…?『寂しいです、待ってます』…雫ちゃんが悲しんでいる、助けに行かなくては…!」

 

「やっぱり君にとっての最優先事項はティアなんだね…」

 

「ったりめえだろうがぶっ飛ばすぞ!」

 

「怖いよ…それじゃ、可憐なお姫様の為にも、謀略は程々にしないとね」

 

 

そう言いながら、二人は屋上から出て行った…

 

 


 

 

そしてスクールも終わり、家路についていた総司と雫。

 

 

「…それでね、その時レベッカがこう言ったの、『貴女のボーイフレンド、レイモンド位クレイジーね!』って」

 

「それは何とも複雑な気持ちにさせられますな…」

 

 

あくまで姿を消して侵入しているだけの総司ではスクール内での雫の行動を全て把握できないし、する必要も無い。悪い虫が近づいたならば無残な挽肉になるだけだし、変に全てを把握してしまうと家での会話に花が咲かない。故に総司はそこまで詳細を把握しようとはしないのだ。

 

 

「…それで~」

 

「なるほど?まったく分から…雫ちゃん、下がって」

 

 

そんな時、違和感を感じた総司が雫を制止する。

 

 

「…?どうしたの?」

 

「…人払いだ、それも高度な」

 

「なっ…!?」

 

 

総司達の周りに人影がない。いつもならこの時間帯は多くはなくともそれなりの人影があったはずだ。それが全くなくなっていた事に気づいた総司は、人払いが解除できるか軽く詳細を『異能』で探査してみる…が、この人払いの魔法、偶然にも空間内に作用するものでは無く、人に干渉して『近づかない』という無意識を持たせるタイプの魔法であった為、『異能』による強引な解除は出来なかった。

 

 

「っ!誰だ!?」

 

 

周囲を囲むようにCADを構えたSPらしき者達が現れる。総司は雫を庇うように位置取っているが、彼の見立てでは無傷突破は難しくない状況だ。だが相手の正体を知る為に総司は周囲のSP達に問いかける。

 

 

「警戒を解いていただきたい、ミスター・タチバナ。私は貴方と話がしたいだけなのですよ」

 

「アンタが親玉か?」

 

「いえ?私は親玉ではありませんね、私はただの補佐なので」

 

 

総司達の正面から現れたスーツ姿の男性は、総司と会話したいと言う。その言葉を示すかのように、その男性が腕を上げるとSP達がCADを下ろした。

 

 

「アンタ…何者なんだ?いつもの監視の奴らじゃないと思うが」

 

「ああ、私は…」

 

 

男性はそこで区切り…改めて名を名乗った。

 

 

「私はジェフリー・ジェームズ。国防長官付きの秘書官です。どうぞお見知りおきを」

 

「「……マ?」」

 

 

男性の自称した職業に、思わず二人は宇宙猫状態でフリーズしてしまったのだった。

 

 

 


 

 

そして日本では…

 

 

「おにーさんかっこいいね!ボ…私とお茶しない?」

 

「ちょっと香澄ちゃん何言ってるんですか!?…本当、お気になさらず!」

 

「ちょっと泉美!邪魔しないでよ!」

 

「(…何故七草真由美の妹達が此処に…というかなんで逆ナンされているんだ俺…?)」

 

 

目をキラキラさせて近くの喫茶店に誘ってくる香澄、そんな香澄を止めようとする泉美を眺めながら、逆ナンを受けた人物…安部零次は今日の出来事を振り返ることにした…




魔法科世界の秘匿通信


・原作と違い、本作のレイモンドは若干の破滅願望がある。


・魔法師は優れた魔法師ほど左右対称になる傾向がある。零次はほぼ完璧に左右対称である。



暴走する七草の双子…予想外の動きに書いた当人も戸惑っております。


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来訪者編 その七

来訪者編の七話目だから七草がメインだとかそういう訳ではないです、ただの偶然の一致。


「あっ、お兄さんは何飲みます?」

 

「あの、本当に奢っていただいてよろしいんですか?」

 

「構わないよ。それと俺は…」

 

 

三人連れだって入店したカフェの中、何故こうなったのかと頭の中で反芻している内に、逆ナンに引っかかってしまった零次。双子の内ナンパしてきた方…香澄からの質問に答えている最中、零次は自分が何故此処にいるのかを思い返した。

 

別にこの二人と浅からぬ因縁がある訳でもない。というか、零次は実年齢的にまだ生後数ヶ月だ。喧嘩を掛けに行った一高相手ならともかく、無関係の人間との交流など持っていなかった。

零次は今日、数日前に西城レオンハルトとパラサイト達が交戦したという知らせを受け、警察だけでなく魔法師も動き出した事を察知した。彼の任務はパラサイトの援護…という名の護衛である。彼を動かす上の人間はパラサイトを利用して日本にパイプを繋ぎ直そうとしている。ともなればパラサイト達が早々に消えてしまうと困ってしまう。パラサイトは人智を超えている存在だ。いくら宿主を殺しても、本体の独立情報体が破壊されない限りはいくらでも再生が利く。

だがそんなパラサイトを倒してしまいかねない存在がいる。それが情報体を直接狙い撃てる達也と、広範囲を精神干渉系魔法で覆うことでパラサイトを無力化してしまい兼ねない深雪。それに時間がたちすぎると幹比古を始めとした一流の古式魔法師が封印の術式を完成させてしまうだろう。まあ、総司が太平洋をすっ飛んでくる可能性も無きにしも非ずであるが。

 

パラサイト達は東京方面で活動している。と言うことは援護に向かうならば零次も東京に来た方がいいだろう。そんな考えの基、零次は上京してきた。モチロン彼も、東京が七草と十文字…主に七草だが、二つの十師族による堅い守りを築き上げていることは分かっていたつもりだ。だがその範囲内でまさかの七草本家の双子に出会うなどと零次は想定していなかった。寧ろ想定していた方が怖い。

 

 

『君たち可愛いね~、双子?w』

 

『今から僕達とお茶しない~?w』

 

『『……』』

 

『…何て前時代的な』

 

 

当初から相手が七草の双子だと、零次は知っていた訳では無い。道すがらの路上で、明らかに脳味噌から軽そうな男二人が、双子の女性達にナンパを掛けていた。普通なら他人事と見過ごすだろう、しかし沈黙という選択肢を女性側が取っているにもかかわらず、折れずに誘い続ける男。こう言うタイプは溜めに溜めた苛つきを解放して、突如として女性側を掴んで連れて行って無理矢理というパターンがありがちな気がするのだが(ナンパエアプ勢)、今回はそのパターンに当て嵌まりまくっていたので、男達はそれぞれ双子の腕を強引に掴む。いきなり掴まれた双子は面倒くさそうな表情から、一瞬で恐怖に染まった顔になる。

 

そんな時に割り込んできたのが零次だ。彼は確かに悪逆の徒に力を貸してはいるが、彼自身が悪人という訳でも無い。というか総司のクローンである以上、二人の思考には一定の類似が見られる。その一例として、彼らは若干控えめな体型の方が好みだったりするし、そもそも好みに限らず女性が絡まれていたらすぐに助けるラブコメ主人公みたいな生態でもある。と言う訳でその男達を一睨みで黙らせた零次はその場を去ろうとするのだが、双子の内一人…七草香澄に呼び止められたのだ。

正直に言って零次はかなり焦った。七草家を警戒しておこう等と考えていた矢先に関係者どころかその家の出身の者に出くわすなどと予想もつかない。恐らく彼女達が成熟していればあの程度のナンパにおびえる事も無かったであろう。だが彼女達はまだ中学生であり、魔法師としての絶対的アドバンテージを由来とする精神的安定を求めるのは間違いである。

 

 

「へえー!零次さんって最近こっちに来たんだー!」

 

「そうなんですね、今まではどちらに?…横浜ですか」

 

「横浜って…この間敵に攻撃されたところじゃん!大丈夫だったんですか!?」

 

「ま、まあね…一応魔法師ではあるから、あの戦場で戦ってもいたよ」

 

「すっごーい!やっぱり零次さんかっこいい!」

 

 

香澄の幼児退行でもしたかと疑うレベルの純粋な賞賛に、零次は内心冷や汗をかいていた。確かにあの戦場には立っていた、敵国側ではあったが。彼が焦っているのは、無論彼女達の姉である七草真由美だ。もしこの二人が真由美に零次の話をしてしまったとすれば、勘づいた真由美が所在を下の者に調べさせるかもしれない。零次自身は雑兵がいくら群れをなそうが関係ないが、彼の本来の目的であるパラサイトの援護は難しくなるだろう。

 

 

「…へえ、香澄ちゃん達は来年には魔法科高校に進学するのか」

 

「はい!零次さんが恥ずかしくないよう、首席をとって七草家に自慢するんですから!」

 

「それ逆じゃない?家に恥ずかしくないようにしてから俺に自慢するんじゃないの?」

 

「泉美ちゃん!」

 

「はいはい、今の録音しておきましたよ」

 

「おっけー!これで言質取りましたからね零次さん!」

 

「言質?一体何の…」

 

「首席を取ったら零次さんに自慢してもいいんですよね?じゃあ少なくとも入学したらまたお話ししても良いんですよね?」

 

「あっ」

 

「と言うことで連絡先ください!」

 

「何…だと?」

 

「カレーにつけて食べるパンは?」

 

「ナン…だよ?」

 

「乗るんですね…」

 

 

零次は更に焦る。七草の双子がここまで恋愛脳で策士(泉美はとばっちり)だとは零次は想定していなかった。できる訳ないが。

 

 

「それじゃ、まだまだ時間ありますしどこか遊びに行きますか!」

 

「えっ」

 

「遅くなったら危ないですよ香澄ちゃん」

 

「そ、そうだよ。泉美ちゃんの言う通り…」

 

「じゃあ送ってもらえばいいじゃん!」

 

「いやそれは…」

 

「それもそうですね」

 

「えっ」

 

 

零次に女子の会話に割り込める話術はない。それに零次は、総司からの引き継ぎで女性の尻に敷かれやすいタイプでもあるのだ。総司が雫以外の女性にはそのような傾向は見られないが、それは単に彼の普段の奇行が由来だ。

そのまま零次は二人の誘いを断り切れず、この時間からでも入れる遊園地などに行って遊んでいたのだった…

 

 


 

 

そして帰りが遅くなるとなれば、心配になった家族が玄関で出迎えをしてもおかしくはない。とは言っても多忙な彼女の兄達は家にいないし、当主で父親でもあり、家に滞在している七草弘一そのような事をする性格ではない。となれば彼女達を迎えるのはただ一人…

 

 

「…………」

 

「…………」

 

「心配をおかけしてしまい申し訳ありません…」

 

「あっ、お姉ちゃん!紹介するね!この人は安部零次さん!今日私達を助けてくれたとってもかっこいい…」

 

 

夜遅くまで出歩いて心配を掛けた事に謝罪している泉美、そんなことはどうでもいいと零次のかっこよさを語る香澄。そんな二人を尻目に驚愕の表情で無言を貫く真由美、絶望の表情で言葉も出ない零次。

かつての敵が、しかも後輩によく似た男を、まさか妹達が連れ帰ってくるなどとは思いも寄らなかった真由美。しかし悲しいかな、彼女は若干総司に汚染されていたのだ。事実彼女の脳内には、この状況を危ぶむ本来の真由美の理性と、「実に面白い…(某ガリレオ風)」と呟いてこの状況を楽しんでしまっている感性との板挟みで苦しむ裁判官風のミニ真由美が存在した。

そして厳正な話し合いの結果、零次と対話してみるという結論に達する(脳内で)真由美。しかしいきなり知り合いかのごとく話しかければ二人に疑われる。混乱している今、初対面のフリも出来そうにない。と言うことで。

 

 

「(あ、貴方!なんでこんな所にいるのよ!?)」

 

「(俺が聞きたいよ!)」

 

 

真由美はアイコンタクトを試みたのだ。そしてその意思は零次も汲み取ってくれたようで、未だ饒舌に零次の良さを語る香澄を泉美が抑えきるまでに会話を終わらせようとアイコンタクトによる会話を継続する。

 

 

「(そもそも貴方東京にいたの!?)」

 

「(最近越してきた!)」

 

「(絶対違うわよね!?)」

 

 

アイコンタクトで真由美と会話出来るようになった零次だが、事情を説明しようにもパラサイトの援護の為です~等と言えば即座に拘束されてしまうのは目に見えている。どうにかしてはぐらかす必要がある。

 

 

「(それにはかくかくしかじかでマリアナ海溝より深い事情がだな…!)」

 

「(まるまるうまうま、全然分からないわ)」

 

「(分かんねーのかよ!?)」

 

 

そんなやり取りの後、しばらく会話は続き、零次はこれから魔法科高校入学試験日まで、学校終わりに二人の魔法の先生となる約束をなんだかんだで取り付けられた為、パラサイトへの援護が難しくなるのは変わる事は無かった…

 

 

 


 

 

「俺の描写は?」

 

「…?失礼、ミス・北山。彼は何故虚空に向かって話しかけているんですか?」

 

「それは彼にしか分かりませんが、必ず意味があります」

 

「ふむ…何かの情報体との交信か?」

 

 

場所は変わってアメリカ。一見普通のカフェ…に見えて実際は武装したSP達が周囲を護衛しているこの場所で、唐突に無に向かって話し始めた総司を見たジェームズは何事かと雫に尋ね、結局あまり理解出来なかった為、自分なりの答えを考察していた…




魔法科世界の秘匿通信


・香澄ちゃんは一目惚れ、ここら辺は雫の総司に対する第一印象に近い。零次が狂ってないから普通の憧れだが。(憧れは理解から最もとお(ry)


・真由美が即刻零次を攻撃しなかったのは、単純に勝ち目がないから。彼女の目的はしばらく彼を引き留めておいて、総司が帰ってきてから倒してもらうこと。


某ガリレオの所は、花澤香菜(cv.七草真由美)で読んでもらいたい。


次回は総司視点。


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来訪者編 その八

早く続きを書かなきゃ…書かなきゃ…

続きを書かなきゃというあまり、今回はギャグがない、済まない…


「それで?一国の国防長官補佐殿が俺達に何のようなんだ?」

 

「厳密には貴方個人にです、ソウジ・タチバナ」

 

 

ここはバークレーの何処にでもありそうなカフェ。しかしその周囲は屈強なSP達に警護されており、そこから放たれる異様な空気は道行く人々が奇異の目で眺める程だ。そのカフェで対面する人物達…日本の魔法師、橘総司と、USNA国防長官補佐、ジェフリー・ジェームズ。ジェームズは総司にのみ用件があるらしく、雫は総司の頼みとして別室にて護衛されている。

 

 

「俺個人に?アンタのお上は何したいんだよ」

 

「率直に申し上げますと、我々と手を組みませんか?」

 

「手を組む?日本とUSNAは同盟関係のはずだ。もう手を組んでるじゃないか」

 

 

総司の放った尤もな疑問に、ジェームズは首を振る。

 

 

「…USNAはかの『灼熱のハロウィン』において使用された戦略級魔法を危険視しています。あの魔法はどれ程軍事力の差があろうとも、それを一撃で解消しうるでしょう」

 

「だろうな、俺もそう思う。あの規模を何の前兆もなくぶっ放せる時点でヤバイ。日本はそんな特級の魔法師をよく隠し持っていたものだと」

 

「…やはり、心当たりがおありなのですね?表情がそれを物語っています」

 

「さあ?何のことだか。俺はただ単に、特級の魔法師っていう自分の言い回しで知り合いを思い出しただけだよ。…んで、その戦略級魔法がヤバいって話とこの会合には何か関係があるのか?」

 

「当然です。単刀直入に言いましょう、我々USNA国防軍は貴方の持つ技能があの魔法に対抗しうるものであると結論づけました」

 

「ほーん?その技能ってのにはいつ気づいたんだ?こっちが襲撃受けて大変だって時に呑気に俺を監視してた奴らからの情報か?」

 

 

どうやら総司は横浜騒乱の際に自分へと放たれていた斥候の存在と、その斥候達が戦闘に協力ではなかったことに気づいていたようだ。

 

 

「その件に関しては深くお詫び申し上げます。…そして質問にはYESと答えておきましょう」

 

「…あんた達の言いたいことは大体分かった。要するにあんた達にあの魔法が向けられたときに何とかしろって事だろ?ぶっちゃけ距離があると対応しきれないがな」

 

「その通りです。我々は貴方に完璧な依頼の遂行を求めません、有事の際はこちらに協力し、あの魔法の脅威を少しでも排除していただきたいのです」

 

「有事の際?戦争とかになったらUSNAに鞍替えしろと?」

 

「そこまでは。仮に我々が日本と戦争になったとしても、貴方のお力は借りません。我々はあの魔法で何の罪もない一般人が大勢死ぬという事態を回避したいだけなのです」

 

 

その言葉に総司は当時の報道で映し出された惨状を思い出す。総司は正直あの規模の破壊はやり過ぎであると確信していた。あの島には少なくない数の一般人が住んでいたと聞く。よくよく考えてみれば、総司の想像通りの人物が下手人だとすると、軍の指示で無差別に民を殺さねばならなかったあの男への同情もわいてくる。

 

 

「…あんた達の要求は分かった。だが何故それを俺に頼む?俺の技能を知っているとは言ったが、それだけの理由でただの学生を徴用する意味が分からん」

 

「その理由は、今貴方が知りたがっている事と関係があるかもしれない」

 

「俺が知りたがっている事…?吸血鬼の事か?」

 

「ええ、まさしく」

 

 

レイモンドと合わせて二人分の異次元ハッカーの情報力があるとはいえ、調べている内に被害が拡大しては事だ。知れるのならば手っ取り早い方を取りたい総司は、身を乗り出して続きを促すかのように振る舞う。そしてその意図を理解したジェームズは、総司を徴用しようとした理由を話す。

 

 

「…脱走兵を追跡していた者の証言に寄れば、その脱走兵は虚空に向かって「あのように得たいの知れぬ化け物がいる国に向かうのか!?」とおびえた様子で叫んでいたようです」

 

「虚空に向かって…もしかするとだな」

 

「こちらも恐らく同意見、吸血鬼達はテレパスのようなもので交信が可能なのではないかと結論づけています」

 

「通話の傍受どころかそもそも通話の必要がないと…それは置いといて、得たいの知れぬ化け物?…まさか俺の事か?」

 

「どうやらそのようです。失礼ながら貴方の技能を解析した結果、エイドスに直接干渉して魔法式が出力される前に巻き戻す異能であるとされます。…その辺りはどうでしょうか?」

 

「当たりだ。正確には違うが、まあそんなものだろう」

 

「それは幸いです。…そして、どうやら吸血鬼…こちらではデーモンと呼称しているのですが、貴方の異能を過剰に恐れているようです」

 

「…と言うことは、奴らは俺に元に戻されるとマズいのか?…つーかそもそも吸血鬼ってどこからポンと出てきたんだよ」

 

「それは、大規模なエネルギーを生み出す実験の一つであるマイクロブラックホール生成・消滅実験が原因と考えられています」

 

「ブラックホール?それがどう吸血鬼と関係が?」

 

「ブラックホールとは非常に強い重力の塊です。その重力を意図的に操作してしまったが故に生み出されたか、別次元への扉が発生しそこから飛来したもの考えられます」

 

 

ジェームズの言葉に軽く頭をかく総司。つまり吸血鬼とは…

 

 

「Spiritual Being …独立情報体か」

 

「おそらくは」

 

 

総司は脳裏で達也達に良い報告が出来るなと思いつつ、となると達也では撃退出来ないのでは…?と危惧する総司。伊達に安部の人間でも、九島の人間でもない。こういった対妖魔には平安時代の最強陰陽師(魔法師)、安部清明の血縁としての勘が冴える。予定を繰り上げて自分だけでも一旦日本に戻るべきか…と思考する。

 

 

「…情報提供感謝する。お前達の要求を受けよう、もしあの魔法がこの米国に向けられたとき、俺はこの国に味方すると」

 

「ありがとうございます。これで上官にもいい報告が出来そうです」

 

「勘違いするなよ、俺は罪なき人々が死ぬのを防ぐだけだ」

 

 

総司の脳内では本人は明らかにしたり顔。あのシスコンが意味も無くUSNAと敵対するとは思えないのでこの約定が果たされることは一生ないからだ。本人的にはただで情報をもらえただけだ。

 

そうして会談も終わり、総司は雫を連れて帰路に付く。

 

 

「悪いな雫ちゃん、待ってもらっちゃって」

 

「ううん、全然大丈夫だよ。それに総司君無しで帰ったら黒沢さんを怒らせそうだし」

 

「確かに…「何て危険な…!」って言ってる姿が目に浮かぶぜ。それだと俺も怒られそうだし」

 

「でしょ?」

 

 

総司は雫と同居してから彼女の使用人達と交流を持つようになった。既に数ヶ月が経過している今は友人と呼んでも問題ないほどには親しくなっている。そんな使用人のひとりである黒沢の話で盛り上がっていたところ…

 

 

「(……なんだこの気味悪い視線は?それにこの視線…俺に向けられるものより、雫ちゃんに向けられるものが多い?)」

 

「どうしたの総司君?また何かあった?」

 

「…絶対に俺から離れるなよ雫ちゃん」

 

「えっ…う、うん」

 

 

総司の表情に不穏なものを感じた雫。事実その通りで、総司は感じた視線の意味を正確に予測した。

 

 

「(俺ではなく雫ちゃんを注視している…と言うことは米国の人間ではない。ルール無用とばかりに乗り込んできた俺はともかく、正式な交換留学生である雫ちゃんに危害を加えれば国際問題に発展する…となれば、それも副次的に狙えて、尚且つ別の目的がある…俺の足止めか)」

 

 

総司は一度周囲を眺めるが、追跡者の影も形もない。

 

 

「(さっきのジェームズが引き連れてたSP共より上手…となれば、護衛ではなく暗殺や情報奪取を目的とした斥候か。俺が日本に戻れないよう、雫ちゃんを狙っているとちらつかせているのか)」

 

 

そう、総司の予想は正しい。二人を取り囲んでいる集団は、雫を実質的な足枷にして総司をバークレーに釘付けにする作戦なのだ。

 

 

「(まいったな…これじゃすぐには日本に戻れない…)」

 

 

しかし思考とは裏腹に総司は極めて冷静だった。それは雫が狙われているからだろうか。最大限の警戒をしながら、総司達は家路を再び歩き出した。




魔法科世界の秘匿通信


・総司的には便利なコネが出来た位の認識。


・雫はすっげー暇してた



マジで薄い内容で申し訳ない…次回辺り戦闘入ると思われます…


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来訪者編 その九

魔法科は戦闘がすぐに終わってしまう…
なお本作品では総司もそれに当たる模様


「…ねえミキ?本当にこっちの方向であってるの?」

 

「問題はないはずだよ。多分ね…」

 

「信頼ならないわねー」

 

 

夜の街を、時折木の棒を倒しながら進む男女の陰。吉田幹比古と千葉エリカである。二人は今世間を騒がせている吸血鬼を捜索しているのだ。では現在組織されている調査隊か何かに加入したのか?とも思うだろう。それは肯定も否定もしない。十文字家並びに七草家の合同捜索隊が先日結成されたばかりであるが、二人はそれに参加せず、千葉家で独自に設立した報復部隊として、捜索を行っていた。

その理由は一つ。エリカのワガママである。彼女は一時的とはいえ、自身が剣を教えた…弟子として鍛えた人物であるレオが吸血鬼にやられた事にかなり腹を立てていた。レオに対して、私が鍛えたのに負けたのかという気持ちもなくはないが、一番は弟子の敵討ちといったところだろうか。レオが襲われて床に伏せる事態になってしまった事に自責の念すら抱いているエリカは、なんとしてでも自身の手で吸血鬼達を打倒したがったのだ。だが白兵戦能力特化なエリカが無策に街を探し回ったところで吸血鬼に遭遇できる可能性は限りなく低い。そこで白羽の矢が立ったのが幹比古であった。総司と接したことで精神的な問題点が、達也の解析で術式面の問題点が解消され、既に古式魔法師としてトップクラスの実力を得た幹比古に取って、この程度の探査術式など容易く扱える。そして彼は昔なじみであるエリカに若干頭が上がらない傾向にある。それにレオの件で吸血鬼を良く思っていないのは幹比古も同じであった。

 

 

「…しかし、今朝伝えられた情報は非常に有意義なものだった。おかげですぐに探知術式が組めた。総司に感謝しないとね」

 

「ほんっと、総司君といい達也君といい、ウチのクラスには何でこうもトラブルメイカーが多いのかしら?」

 

 

幹比古が言及した情報とは、今朝方に達也を介してUSNAの総司からもたらされた情報だった。事件の捜査を依頼した矢先に情報を掴んでくるのだからほとほと彼の情報収集力には疑問が残るが、ともかく情報は伝えられた。幹比古はともかく、エリカもよく分かっていない上に、説明を行っていた総司本人にすらよく理解されていない情報、マイクロブラックホール生成・消滅実験による次元の壁の崩壊が原因での飛来と考察されるという情報には、一同のなかで尤も優秀な頭脳を持つ達也によって、その性質が精霊に近いものであるという考察が行われていた。その点は総司も知っていたようでなるべく戦闘は避けてくれと頼まれたばかりでもあった。

 

 

「総司はビックリするほど情報が入ってくるよね。でもそのトラブルメイカーコンビからの警告があったんだ。やはり捜索するにしても七草先輩達に協力を求めるべきだと思う」

 

「馬鹿言ってんじゃ無いわよ。アイツは、レオは少しだけとはいえウチの門をくぐった門下生よ?いくらあの二人からの警告があったからって、この手で一発やり返さないと気が済まないわ!」

 

 

総司と達也はよく皆からトラブルメイカーだとか言われているが、エリカもまあまあな同類だ。普通に生活していれば、滅多に遭遇しないであろう吸血鬼を敵討ちのために探し回ろうとする性格から伺い知れる。

そんな会話をしていたら、やがて二人はとある公園へと導かれる。

 

 

「っ!近いよ、エリカ!」

 

「よーし!一発ガツンと灸を据えてやるんだから!」

 

 

そうして息巻いた二人は周囲の探索を始める。すると公園のベンチに腰掛ける人物を発見する。念の為幹比古が探査術式を埋め込んだ棒を倒してみるが、その人物の方を指し示さなかった。と言うことは単なる人間、普通に公園を利用している人と言うことだ。

 

 

「あの~、すいません」

 

「んお?なんじゃ?こんな夜中に、おんしらのような若いもんが出歩くでないわ」

 

「「(うわ~、面倒くさそう)」」

 

 

その人物は、フードを目深に被っていて人相こそ分からないが、言葉遣いとその態度から老人であると思われた。しかし声には何処か若々しさがあり、初老のおじ様か、毎日公園で散歩する健康的なおじいちゃんのどちらかだろう。

 

 

「大体じゃ、今時の若いもんはやれハロウィンだの、クリスマスだのでしょっちゅう羽目を外しおる。親の教育がなっとらんのではないのか」

 

「あ、あのね?おじいちゃん?今からここは戦場になるかもだから離れてて欲しいんだけど…」

 

「戦場じゃと?馬鹿なことを言うで無いわ、魔法師でもあるまいし。…まさかわしを追い出した後、この寒空の下で男女の交わりでも始めるというのか?まったく、これだから最近のモンは…」

 

「ま、交わり!?違うに決まってんじゃないのこのセクハラジジイ!」

 

「お、落ち着いてエリカ!」

 

 

そして、いざ話しかけてみると予想通りというか何というか、THE老害と言った価値観をお持ちのご老人のようで、変な疑いを掛けられたエリカは心外だと言わんばかりに声を張り上げる。老人の物言いには幹比古も若干苛ついていたが、彼はとても理性的である為堪えることができた。

 

 

「大体のお、自分達が魔法師だとか、もうちっとマシな嘘はつけんのか」

 

「あのねえおじちゃん?アタシ達が魔法師なのは純然たる事実なんだけど?」

 

「まさか!カッとなればすぐに手が出てきそうな前時代の不良少女に、棒やら札やら胡散臭い物で固めておるあんちゃん。そんなおんしらが魔法師な訳がない」

 

 

その言葉に二人はお互いを馬鹿にした点ではクスッとなり、自分が馬鹿にされた点ではカチンとくる。どうやらこの老人は、非魔法師に良くある勘違いを起こしているようで、魔法師を所謂インテリ的なものだと思い込んでいる為エリカ達を魔法師と判断出来ないようだ。

 

 

「もうあったま来た!ミキ、もうこんなおじいちゃんほっといて捜索を再開しましょう!」

 

「捜索?なんじゃ、見つからずに乳繰り合える場所でも探すのか」

 

「違うってば!」

 

 

二人への詮索をやめようとしない老人に、頭心頭と言った様子のエリカは幹比古の腕を掴んでその場から離れてしまった。

 

その二人が離れていくのを見届けた老人は、スクッと立ち上がり、目深に被っていたフードを下げた。

 

 

「…スゥー、焦った~!」

 

 

その人物は、老人ではなかった。下げられたフードに隠されていた顔は、今し方離れていった二人のクラスメートに酷似していた。それはつまり…

 

 

「やっとあの双子を振り切れた矢先にこれか…流石に今日はサポートできそうにないな…」

 

 

そこにいた人物は、安部零次その人であったと言うことだ。

彼は厄介な女こと七草真由美の策略により、半ば強制的に双子の指導者として活動することになってしまった。それは本来の目的である吸血鬼達の援護が十全にできなくなってしまうと言う事でもあり、流石にそれはマズいと時間を見つけてはこうして吸血鬼達のサポートに回っているのだ。基本的な目的であるスターズの妨害を何とかこなしてきていたが、今回は二人が割り込んできたせいで、既にスターズと吸血鬼達の戦闘は始まってしまっただろうと予想する零次。彼は諦めたかのようにため息をついて、公園から出て行くのであった。

 

 

 


 

 

「…!」

 

 

老人のフリをしてその場を切り抜けた零次から離れた後、二人は逃走中と思われる影と、追跡中と思われる影の二つを見る。一人は白い覆面にロングコートを着ている。そしてもう一人は赤い髪に仮面を被った、鬼のような見た目の人物、両者とも女性に見える。二人は顔を見合わせると、言葉もなく追跡を開始する。それと同時に二人は自分の得物を展開する。エリカの警棒型デバイスは、総司繋がりで割と親交を持った五十里啓から送られた武装デバイスだ。彼女の切り札、『大蛇丸』ほどではないが、慣性制御魔法を高いレベルで扱うための補助刻印が刻まれている。対する幹比古は、鉄扇かのような見た目の短冊を袖口から取り出す。この短冊は袖の下に隠れた想子信号発信ユニットにコードが繋がっており、古式魔法の特徴である呪符と詠唱をCADにより再現する為、達也が総司の協力を得て作成した物だ。

 

 

「エリカ、レオの話じゃ多分白覆面が吸血鬼なんだろうけど…あの仮面の女をどう思う?」

 

「吸血鬼を追いかけてるんだから人間なんでしょうけど、こっちの味方という確証もないわ。アイツからは一流の戦士ってオーラを感じる、あの仮面はアタシがもらうわ」

 

「吸血鬼にやり返すんじゃないの?」

 

「ミキはもう実質千葉家だから問題ないわ」

 

「問題しか無くない?」

 

 

そして二人はそのまま格闘している二人の不審者達に接近、幹比古がエリカと戦場が被らないように『雷童子』で覆面と赤髪仮面の距離を離す。そして二人が飛び退いた瞬間に赤髪仮面に向かって斬り込む。自己加速術式こそ使ってはいないが、刻印魔法によって耐久性が高まった刀を赤髪仮面に力強く振り下ろす。だが…

 

 

「…!やっぱり一流の魔法師…!そりゃ避けるわよね…!」

 

 

エリカの斬撃は容易く…とは言わないが、赤髪仮面に回避されてしまう。どうやら自己加速術式を用いた回避だ。

 

 

「仮面なんてねぇ!どこかの知識老人だけで良いのよ!」

 

 


 

 

「ックシュン!」

 

「おや?どうされましたか、もしや体調を崩されて?」

 

「馬鹿言うな、生まれてこの方風邪なんて引いた事ねえよ」

 

「日本で誰かが噂してたんじゃない?」

 

「多分そう」

 

 

エリカに知識老人と揶揄された人物…総司は、新たな追跡者、雫を狙う不届き者の存在を認めた翌日、自分達が移動する先にジェームズを呼び出し、『国防長官補佐を襲撃した賊を撃退した』という大嘘もいいところの大義名分でもって待ち伏せして一網打尽にしてしまった。

 

 

「しかし…襲撃者は全員がアジア系ですね。これほど大勢の入国が確認されたという情報は、少なくともこちらには入っていません。おそらくは密入国でしょう、賊の正体に心当たりは?」

 

「う~ん、ありすぎて困るんだが」

 

 

本人にその意図はなくとも、何故か多数の組織から恨みを買う総司は、自分を狙う敵という情報だけではどこの所属かまでは推察出来ない。だが雫を狙ったという情報も加われば、実は限られてくるのだ。

 

 

「でもまあ多分…『伝統派』かなんかだろう。アイツらは俺をストーキングしてこの方十六年だからな」

 

「それはまあ…随分と心労が絶えなさそうですね…」

 

 

いつもの思考で、「どーせ伝統派」と脳死で答えた総司。ジェームズにも心配されてしまったが、なんとビックリ、敵の正体は『伝統派』ではなかったりする。というか罪を擦り付けられすぎだ。

 

 

「しっかし…日本で噂されてもなぁ…日本今夜中だろ?エリカ達が吸血鬼を追いかけてる訳じゃあるまいし…」

 

 


 

 

「っく!…さっきから相手の位置が視覚よりちょっとズレてるかも?」

 

「…!」

 

「おっ、その反応は当たりっぽいわね!」

 

 

総司の忠告をガン無視して、赤髪仮面と戦闘を繰り広げるエリカ。彼女は赤髪仮面の用いる戦闘法…と言うより、思ってもみない方向からの攻撃に既視感を覚えていた。それもそのはず、使い方こそ違うが赤髪仮面の用いる魔法は『仮装行列(パレード)』。最早総司の十八番であり、先日のダイナミック不法入国や、雫の一人だけ参観日状態を引き起こすのに使われている、万能魔法だ。

 

しかしこの魔法の本来用途は相手の魔法の照準を狂わせる対抗魔法としての物だ。つまりこの赤髪仮面は正しい使用法をしている事になる。

 

 

「(でも、ネタが割れたところでって感じね…)」

 

 

そう、エリカの懸念は正しい。エリカは魔法こそ使えはするが、他の詐欺師共(達也と幹比古)と違い、彼女の魔法技能は二科生相応だ。彼女は刻印魔法や自己加速術式といった白兵戦特化、それも正々堂々な勝負に強いタイプだ。だが赤髪仮面の魔法はエリカの魔法技能を遙かに超えている。いくら白兵戦で上を行っても、魔法師として決定的に敗北しているエリカは打開策を見出せないでいた。

 

対して幹比古は…

 

 

「オラッ!ここ最近お前達のせいで寝不足なんだ!コレでも喰らえ!」

 

「っぐ…!?貴様…!」

 

「シャベッタァァァァァァァァァ!?」

 

 

エリカと違い大分余裕そうである。それもそうだろう、彼が普段接している人物には剣術と剣道の達人がいる。更には個人戦闘最強とも称される十文字克人がいる。そして言わずもがな総司もだ。そんな環境の中で、幹比古の白兵戦能力が高くならないはずはない。同時にネジの外れ具合も。これまでの彼の性格とはあまり変わっていないように見えるが、総司の影響を大きく受けて戦闘では真面目さよりギャグに走るようになってしまった。実際彼は今探査棒と鉄扇を使って大いなる暴力を振るっている最中だ。

魔法使えよ。

 

 

「…!発動が速い、魔法じゃなくてサイキックの類いか?」

 

 

少し距離が離れた瞬間、苦し紛れに放たれた雷撃を悠々と回避する幹比古。そして同時に、魔法の構築速度が異常に速いことを一瞬で見抜き、一般的に魔法師よりも能力の行使が速いとされるサイキッカーであると推察する。距離が離れた為、牽制とばかりに『雷童子』を放つ幹比古。しかしそれは間違いであった。

 

 

「…!?まさか、僕の雷撃を利用したのか!?」

 

 

『雷童子』が掻き消えたばかりか、白覆面の発する魔法の出力が飛躍的に上昇した。これを見た幹比古は自分の魔法が逆利用された事を悟った。出力が跳ね上がった白覆面の魔法は、既に放たれてしまい幹比古といえども回避は不可能だろう。だが少しでもダメージを軽減しようと足掻く幹比古だが。

 

 

「…!?」

 

「っ、今のは…!?」

 

 

放たれた電撃が霧散した。白覆面が信じられないと言った仕草で驚愕するなか、この技術に心当たりがあった幹比古は、咄嗟に周囲を見渡す。すると…

 

 

「あれは…達也?」

 

 

それはバイクにまたがったまま、銀色の特化型CADを向ける人物だ。その人物の正体に、この場で戦闘をしていた四人の内、三人が気づく。

 

赤髪仮面がエリカから目を離し、即座に魔法を放とうとするが…その魔法は世界を騙し、書き換える前に霧散する。まるで最初から何もなかったかのように。驚愕の表情を見せる赤髪仮面だが、再三同じ魔法を放とうとする、が全て事前に打ち消されてしまう。

 

エリカが苦戦していた魔法師を容易く捌くその技量にエリカ達が息を呑んでいると…

 

 

「っ!しまった!?」

 

 

白覆面…つまり吸血鬼が逃げ出したのだ。この状況を好機と判断したのだろう。事実それは間違いではなく、幹比古の咄嗟の一撃に掠ってしまうが、驚異的な速度で逃げていった。そしてそれに一瞬達也が気を取られたのを、これまた好機としたものがいた。

 

 

「(今だ!)」

 

 

好機を見いだした人物…赤髪仮面が拳銃を足下に五発ほど打ち込むと、そこから眩い光が溢れ出し赤髪仮面を包み込む。逃がすまいと照準を向ける達也だが、赤髪仮面の情報体が、色彩と輪郭だけが記録された虚構的なものであった為、撃ち抜く事が出来なかった。

 

無論、『精霊の眼』を持つ達也には、友人が使う魔法『仮装行列』を用いていると気づくのにわけなかった。すっかり姿が見えなくなり、この場には説教を受ける運命にある二人と、説教をする側の達也しか残っていなかった。ヘルメットを外し、既に正座で臨戦態勢を築く二人の元に近づく途中、彼はふと気づいた事があった。

 

 

「(…彼女の『仮装行列』、総司より強度が低かったな…?)」

 

 

疑問こそ思い浮かべるが、まあ総司だからで済ませて頭からこの疑問を消した達也は、後々後悔することになるのであった。




魔法科世界の秘匿通信


・本作では幹比古の鉄扇もどきが総司と達也の合作となっているが、総司がこうすれば上手くいくんじゃね?という発想から、達也が総司の案から全体の九割にあたる無駄な部分を切り落とした上で、幹比古に最適化したものである。


・総司とリーナの『仮装行列』の強度の違いは、作者のオリ設定?かもしれないが、魔法技能と想子保有量の差である。
リーナが魔法技能500、想子保有量500だとすると、総司の魔法技能は-1000、想子保有量が10000である。


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来訪者編 その十

マジでネタが浮かばない…来訪者編の後はめちゃくちゃ浮かび上がってくるのに、来訪者編だけ浮かばない…


『…で?そこの二人はなんで正座してんの?』

 

「かくかくしかじかだ」

 

『まるまるうまうま』

 

 

クロスフィールド部の第二部室において、達也はUSNAにいる総司と画面を開いて通話している。総司のほうはもう夜分遅くであると言うことで、既に雫は寝静まっていた。

 

そんな総司が疑問を呈した達也の背後。そこには先日、千葉家名目とはいえ師族会議に相談もせずに吸血鬼と戦闘を行ったエリカと幹比古が、『反省しています』というプラカードを身につけ正座しており、その周囲を桐原と壬生が囲んでバジリスクタイムの最中だ。そのバジリスクタイムに参加したげな克人を見て、真由美は若干引いている。

 

 

『それで?何で俺に連絡してきたんだ?正直言ってこっちはこの間から進展ないんだけど』

 

「さっき話に出た吸血鬼との交戦で、赤髪の仮面を付けた女と接敵した。吸血鬼と考えられる存在と敵対していたから吸血鬼ではない勢力の人間ではないかと仮定している。その正体を何か知らないか?」

 

 

それを聞いた総司は、『何言ってんだコイツ』という表情を達也に向けるが、達也の表情で総司は察した。達也とて襲撃者がスターズである事を知っている。だがその情報の経路が不明である以上、十師族を超える情報収集能力を持つとして監視が入るかもしれない。達也の身の上を理解している総司は、既に高い情報収集能力を持つと警戒されている、要するに手遅れの総司に嫌疑をなすりつけようとしているのだ。そして総司にとってそれは大して苦になる事ではない為、視線だけで了承の意を示した。

 

 

『恐らくソイツはスターズだな。エリカちゃんと戦りあって生きている以上は、ソイツは一流の戦士。スターズはスターズでもその最強、総隊長アンジー・シリウスだろう』

 

「そんな大物が…USNAは今回の事件、戦略級魔法師を投入するほど重く見ているのか…」

 

「………」

 

 

驚愕の表情を浮かべる克人。それと対称的に、先程から総司を見つめて表情を少しも変えない真由美に総司は戸惑っていた。「総隊長…山本元柳齋重國?」「卍解…残火の太刀」などとキャッキャとはしゃぐカップルは横に置いといて、総司は話を続ける。

 

 

『こちらでは、スターズの兵士達が何名か脱走していることが判明してる。多分、吸血鬼というのは亡命したスターズの元兵士達なんだろうな。だからこそ、自分達の不始末を後片付けでもしようとしてるんじゃないか?』

 

 

あたかもこっちで知りました感を出しているが、そもそもアンジー・シリウスが留学生として日本を訪れると知っていた彼からしてみれば、何故早く言わなかったと文句を言われるかどうかが心配になってくる。一方の達也は、シリウスの来日は事前に総司から聞かされていたので、驚く演技こそすれ、そこに本当の感情は介在しない。

 

 

「…困ったな、情報を共有することで司波や千葉家の協力を得ようとしたのだが、お前のもたらした情報は我々の情報を遙かに凌駕する価値があるな。これでは交渉は始まる前から失敗だな…」

 

「そんな嬉しそうな顔して言っても説得力ないわよ十文字君」

 

「む…俺はそんな顔をしているのか?」

 

「自覚ないのね…」

 

 

総司を見ながら「期待通りだ」とも言いたげな表情を浮かばせる克人に真由美は呆れ気味にため息をつく。ついでに、ちらと後ろを振り返ってみたのだが、正座していた二人がとうとう桐原達とふざけ始めたため、真由美は総司に個人的に相談したい話題を切り出す。

 

 

「総司君、私が個人で手に入れた情報では、吸血鬼達に対して貴方の存在がジョーカーとなっていることが判明したわ」

 

『俺が切り札?そうなのかもしれんが、一体どこからそんな情報を?』

 

「…貴方のクローン、安部零次からよ」

 

「「『!?!?』」」

 

 

真由美の口から出た名前に三人が驚愕する。後ろの奴らは遊びに夢中で話を聞いていない。

 

 

『ど、どこでソイツと会ったんだよ先輩!?まさか襲撃でも…』

 

「いえ…寧ろ彼の方が残念な状況というか…」

 

『は?』

 

「…ウチの双子の妹の片方に惚れられたらしくて、すっかりまとわりつかれているっていうか…」

 

『…あ~』

 

「血は争えないと言うことだな、総司?」

 

『うっせ』

 

 

総司は零次がクローンらしく、自分に似た部分がある(特定の女性に逆らえない)性質がある事を察し、それが真由美の妹であると言うことを理解してしまった。

 

 

『それで?零次は何て言ってたんすか』

 

「何でも、総司君の本来の仕事がそうだって。標的が違うけど今回みたいな類いの存在を押さえ込むのが、橘総司という人間の()()()()だって」

 

『…製造目的?アイツ、自分がクローンとして製造されたからって俺も同じように生まれたと勘違いしてるんじゃないすか?』

 

「その点は私も気になって問い詰めてみたのだけれど、人間は偶然生まれ出ずるものだけれど、総司君はそうとは限らない。もし総司が自然的な生まれならば俺が、俺達が生まれるはずはないって」

 

 

その話を聞いた者達の反応は、まるで信じられない様子の総司、何かに合点がいった様子の達也、連日行われた吸血鬼の夜間捜索で疲れているのか、立ちながら寝かけている克人の三人に分かれ、混沌を極めていた。

 

 

『あ、あり得ない!俺は確かに特殊な家庭事情ではあるが!普通に生まれた人間である事は間違いない!』

 

「確かに零次の戯言という可能性もあるが、あながち間違いじゃないかもしれないぞ」

 

『…は?』

 

「以前の横浜侵攻で、大量のお前のクローンが確認された。正直に言ってあの数は異常だ。そもそもお前のDNA情報が奪われたのは九校戦の前後だ。いくら金を持っていても、技術力が決定的に足りない大亜連合では、すぐにクローンを作成して、並の兵士以上の戦闘力を生み出す事は出来ないはずだ」

 

『…何が言いたいんだよ達也』

 

「お前という人間は、元より創造物であるからコピーが簡単だった可能性だ」

 

 

達也がいう創造物というのは、科学的なものではない。実のところ達也も、四葉の怨念によって魔法的に創り出された存在とも言えるのだ。そも、単純な人間があそこまでの異常な身体能力を獲得できるはずがない。加えて最近になって目につくようになったのは、総司の想子の量だ。

明らかに異常、達也の予測では、規格外の保有量と称される自身の父と、自分自身、そして深雪を合わせた想子量すら、雀の涙ほどと出来るのではないかと考えているのだ。その理由はまた追々であるが、達也は総司が魔法的な原因で誕生した存在なのではないかと考えていたのだ。

 

そしてそれを聞いた総司と言えば、『そうか…』と呟き、肩をガックリと落とす。流石の総司も、自分が仕組まれた存在である可能性にショックを受けたのだろう。総司はどこからかおもむろに黒いバンダナを取り出すと、眼を覆い隠すように巻いて、こう呟いた。

 

 

『もう何も見たくねぇ…』

 

「お前大分余裕あるだろ?」

 

『領域展か…』

 

「止まれ、お前の声でその単語を言ってしまうと別の作品が始まってしまう!」

 

「達也君、別の作品って…?」

 

「いえ、こちらの話です」

 

 

どうやら微塵もメンタルダメージを負っていない様子の総司。達也と克人は流石の総司だと呆れ気味のものと信頼のもの、二つの視線を画面に向ける。しかし、今し方の総司の様子に真由美が若干の違和感を覚えるが、それを振り払いこの話題を始めた理由を語る。

 

 

「分からない事だらけだけど、吸血鬼に対して貴方の力が決定打であることは確かよ。達也君達に聞いたけど、貴方太平洋を走ってUSNAに向かったそうじゃない。一時的にこちらに戻れないかしら?」

 

 

真由美は、普通に聞くと絶対に不可能なお願いをする。だがそれを実現できるのが総司という事をこの場の誰もが知っていた。

 

 

『お断りします』

 

「やっぱり?北山さんとの海外を楽しみたいですものね?」

 

『それもですが、別件の監視が俺と雫ちゃんについてます。多分ですが、俺が離れた瞬間に雫ちゃんを殺すか誘拐する、実質的な人質ですね。雫ちゃんをそんな状況に置いて一人で戻る事などできない』

 

 

総司の口から出た情報に再び驚愕させられる一同。

 

 

「ならばその監視を蹴散らせば良いだろう。USNA政府には十文字と七草、九島で許可を取ってみよう。流石に向こうも無視できない『監視を見つけられないんです』…何だと?」

 

『監視されている感覚はあるんですが、肝心の姿が見えない。この感覚は以前一高に現れた消毒スプレーが、逃げる時に使った魔法に対するものと似ていた』

 

「周 公瑾だな」

 

『んなこまけーこたどーでもいいんすよ。ともかくこっちはお手上げ、出来ることと言えば雫ちゃんから目を離さない事です』

 

「お前でも術者を看破するのは無理なのか?」

 

『無理。バークレー全体に魔法が掛けられてあって、反応が追えない。俺の探知能力の穴を知ってるっぽい』

 

「そんな大規模な魔法、USNAが見逃す訳が…」

 

『普通に内通者でしょ、この間ちょっとしたお偉いさんと会って話したんですけど、やっぱ何処の国も一枚岩とはいかないっすね』

 

 

部室内に気まずい空気が流れる。どれくらい気まずいかと言うと、途中からまったく話を聞いていなかった後ろの四人が黙りこくる位には気まずい。これに困った総司は、どこか能天気に思えるような表情で場を和ませようとする。

 

 

『まあまあ、いくら俺が見つけられないって言っても、俺の目の前に現れたら結局俺が倒せるんですから問題ないですよ。ともかく、そっちに戻るのは無理ですね。雫ちゃんの留学期間の終了を待つしかないです』

 

「そうか…気をつけろよ、総司」

 

「北山さんの事をキチンと守ってあげるのよ」

 

『それは分かってますけど、さっきまでふざけまくってたあんたらに言われるのかよ、このバカップルが』

 

 

総司に激励を飛ばした桐原と壬生の「てへっ☆」とでも言いたげな表情を最後に、総司との通話が終了した。

 

 

「…さて、話は聞いていたな?」

 

「「「「いいえ」」」」

 

「四人ともそこに直れ、『ファランクス』で脳天をかち割ってやる」

 

 

その日、一高内に男女四人の絶叫が聞こえ、それを前回の達也殺し隊の一件と同種と考えたリーナが「もうこのスクール怖いんだけど…」と呟いたそうな。




魔法科世界の秘匿通信


・総司が造られた発言は、真実か、はたまた零次の苦し紛れの虚言か…


・総司の異能の弱点:どんなに高度な隠蔽の施された魔法でも、エイドスが改変されているのならば看破出来るが、『精霊の眼』のように術者と魔法を紐付けている訳では無い為、規模が大きすぎると総司の技量では逆探知が不可能になる。


・リーナはこの後深雪に相談したが、そんなもの日常茶飯事と知って更に戦慄する。


真由美さんの家に零次が上がり込んだなら、真由美さんは情報聞くぐらいはするだろうなァ…って感じ

ネタが無いから爆弾で乗り切るスタイル。


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来訪者編 その十一

本小説では、時々ストーリーが飛び飛びになりますが、それは流れが概ね原作通りという意味合いがあります。基本的には総司や零次のオリキャラが絡むシーン、原作にはなかったギャグシーン、超例外的に雫ちゃんや頭のおかしい先輩方のシーンくらいしか描写してないです。


「ハァ、ハァ…クソ…!」

 

 

総司との通話を行い、七草と協力体制を築いた日の夜中。達也はかつて無い窮地に陥っていた。彼の体には傷こそ見えないが、顔には明らかに疲弊の色が見えていた。そんな達也が視線で追いかけるのは…

 

 

「…!?ガッ!?」

 

「おいおいどうした?この程度かよ総隊長様ァ!?アメリカ最強部隊のトップってのも大したことないなァ!」

 

「アガッ…!アクティベイト!『ダンシング・ブレイズ』!」

 

「急急如律令!」

 

 

達也の眼前では、仮面を付けた赤髪の女…おそらくリーナが、全身黒コーデの男と戦っており、眼にもとまらぬ速度で描かれた五芒星から発生したビームのような攻撃に襲われ、膝をつく光景が広がっていた。

 

 

「…安部零次!」

 

「そう騒ぐな司波達也。…お前もすぐに楽にしてやるよォ!」

 

 

その黒ずくめの男…安部零次と戦闘になったのはほんの少し前のことだった。

 

 

七草と協力体制を構築した今日この日。監視衛星を使用できるようになった達也は、吸血鬼の位置を確認した後、そのまま追跡を開始したのだが、到着した時には既にリーナが吸血鬼とおぼしき存在と戦闘していた所だったのだ。なるべく気づかれないように立ち回りながら、どうやって吸血鬼を始末しようかと考えていたのだが、終始吸血鬼相手に優勢に立っていたリーナが横合いから飛来してきた物体に大きく吹き飛ばされてしまったのだ。

 

 

「(あれは…安部零次だと!?)」

 

 

その飛来してきた…正確には走り込んできた人物は、横浜侵攻の際に総司と互角の戦闘を繰り広げた安部零次だったのだ。リーナは確かに一流の戦士で、超一流の魔法師、アメリカ最強部隊『スターズ』の中でも最強の総隊長。だが零次という魔法戦闘の領域を物理で解決しかねない存在の相手はほぼ不可能だ。身体能力は、その馬鹿げた魔法力の卓越した技量と、達也を遙かに凌ぐであろう想子保有量のゴリ押し。この二つを重ね合わせた身体強化魔法の使い手だ。本当にクローンという造り出された存在なのか?むしろ追いつける総司ってなんなんだとか疑問は尽きないが、ともかくリーナでは…更に達也でも勝てない存在だ。

 

 

「(何か取り出した…アレは札か?)」

 

 

零次は取り出した札に想子を流し込んだかと思えば、それを吸血鬼に投げつける。すると達也の眼がなくても、魔法師ならばハッキリと理解出来るほどの違いが現れる。

 

 

「(ヤツ自身に掛かっているものよりは程度が低いが、それでも高度且つ高出力な身体強化!あれほどの魔法を他人にあっさりと…!?)」

 

 

達也がその技量に驚愕している内に、零次は吸血鬼に顎で逃げろとでも言いたげなジェスチャーを取る。それに頷いた吸血鬼は以前とは比べものにならない速度で立ち去ってしまった。それを見届けた零次だが…

 

 

「ハァ!…何ですって!?」

 

「ハン、お前の『分子ディバイダー』如きで俺を切れるとは思わない事だな?」

 

 

『分子ディバイダー』は強力な威力を誇る魔法だが、分類として直接干渉系となるため、使用時には相手のエイドス・スキンを突破出来るほどの高い干渉力が必要になる。だが、零次は腕で軽く防いで見せた。防御したと言うことは効くことには効くのだろうが、そもそも魔法が上手く作用しないと言うことを理解していたのだろう。返す足でリーナをくの字に曲げて二十メートルほど先にある木々に激突させる。

 

 

「(リーナ!クッ!)」

 

 

達也はリーナが敵だとは思っているが、協力できるならそうしたいと考えているし、この短い間でもリーナは総司の置き土産から共に生還してきた仲だ。恋愛などというものでは無いが、少なくとも友情は生まれていた。

 

達也は一か八かで『分解』最大出力、『精霊の眼』もフルで活用して照準を付ける。そしてCADのトリガーを引いた。しかし…

 

 

「(これは…!ヤツの異能は突破出来たのだろうが、ヤツの情報強化の強度が並大抵のものでは無い!)」

 

「ん?…司波達也か。ハァ~、撤退して七草真由美経由であのお花畑のお嬢さんに連絡入れるかもしれん…消すか」

 

 

達也の願いむなしく零次が分解される事は無かった。やはりと思った達也は苦虫を噛みつぶしたように顔を歪め、更にはその姿を零次に補足されてしまう。

その瞬間に達也の四肢を捕えんと札状の想子が達也にまとわりつこうとする。それを察知して飛び退いた達也だが、空中に浮いてしまった隙を零次が見逃す訳も無く的確に首筋を狙った蹴りが叩き込まれる。モチロン首の骨は折れてしまい、達也はそのまま絶命…

 

 

【自己修復術式:オートスタート】

 

【脊髄損傷、脳機能停止まで残り0.03秒】

 

【魔法式:ロード】

 

【コア・エイドス・データ:バックアップよりリード】

 

【修復:開始……完了】

 

 

…する事は無かった。達也の固有魔法、『再生』の派生である『自己修復術式』が、達也の脳機能の停止よりも早く達也の体を元通りに戻してしまう。

 

 

「…ッ!」

 

「あ?即死しないなァ?…!そうだそうだ、コイツほぼ死なないっての忘れてたぜ。コイツはオリジナルじゃないと殺せないって上が言ってやがった。あれ?じゃあ俺香澄ちゃんににドヤされるの確定じゃん…」

 

 

達也が死ななかった事実に一瞬の驚愕を見せた零次だが、次の瞬間には何故だか頭を抱えだした。そう言えば先程真由美が、彼女の妹の片方が彼にお熱であるという情報をもらっていた達也は、達也自身の報告から真由美→双子へとつながり、双子にだる絡みされるのが目に見えているのだろう、と結論づけた。

ここでもし達也が『今回の事を愛しの双子に知られたくなければ…分かってるな?』とNTRものの常套句みたいな台詞を吐ければよかったのだが、彼は総司の汚染が浸透しきっている訳ではない。即座にそんなふざけた思考を持ってこれるはずもなく、達也は至極真面目に質問をした。

 

 

「安部零次!何故邪魔をする!?」

 

「あ~?そりゃあ、ウチの戦力のパラサイトを減らされる訳にはいかないからだよ」

 

「パラサイト?吸血鬼の事か?宿主の体を操る寄生体(パラサイト)…言い得て妙だな」

 

「何だ?名称が気に入ったのか?ならお前達の所でも使って良いぜ?生きて帰れたらだがなァ!」

 

 

そう言うや否や、達也ですらギリギリ眼で追える程の超スピードで動いた零次に、再び達也は吹き飛ばされる。

達也と零次の相性は、ハッキリ言って最悪だ。達也の仮想演算領域の出力では、零次に干渉する前にエイドス・スキンの壁に阻まれ攻撃できない。エイドス・スキンを破るには本来の魔法である『分解』を用いる必要があるが、いくらセーブされているとは言え、達也の本来の魔法では零次のエイドス・スキンを破れても、その後に待ち受ける情報強化の強度に競り負けてしまう。簡単に言えば打つ手なしと言うことだ。

 

 

「クッ…!」

 

「ハハハ!お前の想子が枯れて、再生できなくなるまでボコボコにしてや「タツヤ!」あ!?グォッ!」

 

 

一気にたたみかけようと零次が追撃に出た。そして達也に向けて跳躍からの拳を放とうとしたのだが…その隙を狙って復帰したのであろうリーナが攻撃を加える。不意を突かれた零次は吹き飛ばされるが、ダメージは毛ほどもなさそうだ。

 

 

「君は…」

 

「白々しいわよタツヤ。どうせ知ってたんでしょ?」

 

「…ああ」

 

「詳しい話は後よ、今はこの化け物から生きて帰りましょう」

 

 

明確な異常事態に、正体を隠しながら協力などできないとリーナは惜しげも無く自分の正体を明かした。そうして共闘戦線が組まれるのだが…と言ったところで冒頭に戻る。

 

 

「ハァ…ハァ…逃げなさい、タツヤ!」

 

「逃がさないぜ?」

 

 

そして達也の眼前に拳が迫る。強力なソニックブームが発生し、付近の木々をなぎ倒す。そして達也は再び死を…

 

 

「…あ?」

 

「…これは!」

 

 

迎えることはなかった。今度は再生すらしていない。何が起こったのか?

 

 

「お兄様に手を出すな…!」

 

「流石の魔法力だな、司波深雪…!」

 

 

零次の腕は、達也に直撃する前に凍り付いていたのだ。他でもない達也の妹、司波深雪によって。

 

 

「達也君!」

 

「師匠まで…!?」

 

「九重八雲だと!?」

 

 

更に援軍として現れたのは、世界最強の忍者、九重八雲だった。八雲が目を見張るほどの早業で隠形を掛けると、達也と深雪、ついでにリーナを抱えて逃走したのだ。

 

 

「…え?すっげえ虚無じゃん…」

 

 

一人取り残された零次は、そんな事を呟きながら、一人公園に立っていたのだった。




魔法科世界の秘匿通信


・零次は昨日、つまりエリカ達に妨害された分頑張ろうと干渉してきた。


・後日香澄ちゃんにお仕置きとして二日間ぐらい執事兼抱き枕の仕事をしていた。モチロンその間のパラサイトへの支援は不可能。


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来訪者編 その十二

ちょっと赤と白のボールを投げまくってました。本当にすいませんでした。


「やっぱそのドレス似合ってんじゃん!」

 

「ふふ、ありがとう。総司君はタキシードぐらい着てきたらいいのに」

 

「あんな堅っ苦しいの着れないよ…」

 

 

一月の二十八日の夜、総司と雫はホームパーティーの会場を訪れていた。

 

今日の雫は可憐なドレスに身を包んでいる。これは少し前に総司が小一時間ほど悩み抜いて選んだドレスだ。対する総司は黒いTシャツに『ココアソーダクエン酸』とだけプリントされたものを着用している。恐らく総司はパーティーを嘗めているのだろう、格式高い九島の庇護を受けておきながらコレはきっと九島老師も頭を抱えたことと容易に想像できる。

 

 

「やあ総司、ティア」

 

「レイモンドか」

 

 

そんな二人に話しかけるのはレイモンド・S・クラーク。総司のかつてからの友人であり、雫とも友人となった白人男性だ。

 

 

「ティア、とても素敵なドレスだね」

 

「うん、総司君が選んでくれたの」

 

「そうなのかい?流石総司、ティアの事をよく分かっているね。こんなに素敵なドレスを見繕えるなら、自分の格好も正しくしてほしいものだけど」

 

「遠回しにこのシャツを馬鹿にされている…」

 

「遠回しにしたつもりはないよ?」

 

「馬鹿にはしてるじゃないか!」

 

 

初対面自体は少し前だったのに、長年の友であるかのように談笑する二人。やがて二人で大笑いし、それを雫が微笑ましそうに眺める。しかししばらくして表情が険しくするレイモンド。それを見て顔を引き締める雫、涙が出るくらい笑っているのでレイモンドの表情が見えていない総司の三人に分かれ、混沌をきわ(ry

 

 

「…総司」

 

「www…んあ?…どうした、何か分かったのか」

 

「今更シリアス感だそうとしても遅いよ」

 

「あーっ!言わなければバレなかったのに!」

 

「誰にだよ」

 

 

相変わらずの総司に呆れながら、二人を人が少ない場所に連れ出して、レイモンドは話し始める。

 

 

「『吸血鬼』の実在は確かだった。十一月にダラスで行われた、余剰次元理論に基づくマイクロブラックホール生成・消滅実験が…」

 

「「ゴメンそれもう知ってる」」

 

「…マジ?」

 

「「マジ」」

 

「言ってよお!」

 

 

哀れレイモンド、その情報はレイモンドに情報を探らせる依頼を出した日の放課後に既に入手していたのだ。それ以外の情報が過多で報告を忘れていただけで。

 

 

「はあ…それじゃあその実験に参加していた研究者にも異変が見られていることも知っているのか…」

 

「いや、それは知らないな」

 

「そうなのかい?なら詳しく話そうか」

 

 

自分が持ってきた情報が全て用済みでは無い事に安堵しながら、レイモンドは情報を伝える。

 

 

「どうやらその実験に参加した研究者達の数名が妙な行動を取った上で、数日中に行方不明になっているらしい」

 

「その妙な行動ってのは?」

 

「意味もなく研究所内を徘徊したり、外の風景や虚空を眺めるといったり、人によって様々だったらしいね」

 

「…行方不明ってもしかして」

 

「そこまでは分からなかった…ゴメン」

 

「いや、そこまで分かっただけでもよしとしよう」

 

 

総司はレイモンドを責めることなく、少しでも情報が手に入れられた事を喜ぶ。少しでも情報を達也達に教えて安全を保ってもらいたいと急いてきてしまった。

 

 

「よし、早速達也達に教えるとしようか」

 

「そうだね、じゃあレイ。私達はこれで」

 

 

そうして既に帰宅ムードが漂う二人。それをレイモンドが呼び止めた。

 

 

「二人とも、もう帰るのかい?パーティーは始まったばっかりだよ?」

 

「情報を必要としている人に一刻も早く届けなくちゃだからなぁ…」

 

「でもこのパーティーの主賓のティアが早々に帰るのはどうかと思うけど」

 

「…それもそうだね。総司君は先に帰って達也さん達に」

 

「そんなことするわけ無いだろ。君にもしもの事があれば大変だ。俺も残ろう」

 

「そうか、じゃあこのパーティーを楽しむとしようか」

 

 

その後、雫はお酒を飲まないようにしていたが、主催者に見つかってしまい、勧められるがまま断れずに色々なものを飲み食いしてしまったのだった。因みに総司も相伴していたが、肉体の耐久性が高く一切酔うことはなかった。

 

 


 

 

「と、言うことなんだ」

 

『雫が酔ってる理由の方は聞いてないんだが?』

 

 

結局完璧に酔ってしまった雫を膝枕しながら、総司はヴィジホンで達也と会話している。今回は達也の自宅のリビングから繋いでいるらしく、深雪も会話に参加している。その深雪だが、チラチラと雫と達也を交互に見ている。恐らく思い人に膝枕されている雫を羨ましがっているのだろう。本人的には無自覚で視線を使い、達也におねだりしている。

それには露とも気づかない達也は、総司と会話を続ける。

 

 

「しかし、昨日の今日で零次とかち合ったのか…」

 

『ああ、正直に言って深雪と師匠がいなければ俺は殺されていた』

 

「師匠…あの九重八雲か」

 

 

この会話でもたらされた情報は、達也が昨日零次と戦闘を行った事だった。聞くところによれば、リーナですら相手にならなかったとの事だが、話を聞く限り正直総司も負ける気がしないので、やはり総司は異常だ。

 

 

「それで?零次と戦った感想は?」

 

『今の俺では確実に勝てないとだけ』

 

「となれば、成長すれば零次を倒せると?」

 

『不可能ではないはずだ』

 

「その心は?」

 

『奴の異能はお前のものとは似て非なるものだと考えている』

 

「なるほど?」

 

 

どうやら達也は零次の異能の本質に勘づいたようだ。

 

 

『奴の異能は自身で変更したエイドスを初期値とする…つまり、お前の異能であるエイドスの初期化を回避する為だけの異能だ。魔法が発動した状態が初期値であるのならば、初期化を掛けても変化がない…だからこそ、お前に対抗できる身体強化を維持出来るわけだ』

 

「ふむふむ」

 

『だが零次には、お前の様に魔法の発動を無かったことにすることはできない。これは俺の魔法を情報強化で防いでいた事から分かる』

 

「つまり?」

 

『俺の魔法力が奴のエイドス・スキンと情報強化の両方を一撃で打ち破れる程に高まればいいんだ』

 

「…それってさ」

 

『何だ?』

 

「結局の所ただの脳筋では?」

 

『お前の様な活きの良い牡蠣はフライだよ。あ間違えた、お前の様な勘の良いガキは嫌いだよ』

 

「おい深雪ちゃんがすんごい表情でお前を見てるぞ」

 

『若干後悔している』

 

「でしょうね」

 

『だが俺は反省しない』

 

「過去から学ばない人の典型じゃん」

 

 

結局零次には総司をぶつけるで話が終わり、次の話題にいきそうになったところで

 

 

「ううん…総司君」

 

「あらら…すまんな二人とも。俺のお姫様が睡魔に負けちまったみたいだ。今日の所はここまでで」

 

『分かった、あまりハッスルしすぎるなよ』

 

「今から寝るっつってんだろぶっ飛ばすぞ」

 

『ではお兄様!今夜は私とハッスルを…!』

 

『?何を言っているんだ深雪、俺達は兄妹じゃないか』

 

「深雪ちゃん…」

 

 

まるで地獄を見てきたかのような表情で沈む深雪を見ながら、総司はそっと通話を切った。

 

 

「総司君…すきい」

 

「…雫ちゃん」

 

 

総司が雫を抱えてベッドに連れて行く時、雫が漏らした言葉に総司は、彼女の顔を思わず眺めてしまう。その可愛らしい寝顔に、愛する人とともに居られる事の幸せを感じながら、それを奪いかねない存在の多さに辟易してしまう。

 

 

「…雫ちゃんを傷つける事があってはならない…俺が絶対に守ってみせる…」

 

 

そう決意を漲らせる総司。だがその顔は…

 

 

どこか、非人間的な迫力があったのだった。




魔法科世界の秘匿通信


・レイモンドからの伝えられた情報は、一応本作オリジナルの話である。


・達也が鈍感バカになってきている感も否めないが、大体のライトノベルの主人公はそんなもんだから大丈夫(偏見)


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来訪者編 その十三

今回はちょっとメタが多い希ガス。


総司が雫を守り切る事を改めて誓った翌日の事。

 

 

「…?…??…???」

 

「どうしたの総司君、そんな首を傾げて」

 

 

端末に送られたメッセージだろうか、総司が頭に無数の疑問符を浮かべているように見えた雫。心配になって声を掛けてみる。すると

 

 

「…見てよ、コレどう思う?」

 

「凄く…大きいです…」

 

「見る前にその反応するのやめよ?不意打ち過ぎて鼻血出たんだが」

 

 

唐突にもたらされた過剰なH成分を含む雫からの攻撃に耐えられなかった総司が、鼻を抑えながら端末の画面を見せてくる。

 

 

「何々…?…??…???」

 

「そうなるだろ?」

 

 

雫が覗いた端末の画面…そこには一枚の写真と、添付メッセージが添えられていた。

 

 

『吸血鬼討伐レイドパーティーナウ』と添えられた、いつものとち狂ったメンバーが一人の女性を袋だたきにしているのを、死んだ目で見つめる真面目組、もう何が何だか分からないといった表情をしている金髪女性が映った写真だった…

 

 


 

 

時は少し遡り、一高は昼休みの時間であった。その一高の風紀委員室では、数人が集まって会議のような物を開いていたのだ。

 

 

「今日、みんなに集まってもらったのは他でもないわ…」

 

「どうせしょうも無い事だろ」

 

「話は最後まで聞きなさいよ!」

 

 

この部屋の主と言っても過言ではない人物、千代田花音が茶々を入れてきた人物、桐原武明に批難の声を掛ける。

 

 

「そうよ、武明君!花音ちゃんの事だからそう思っちゃうのは分かるけど、内緒にしておかなきゃ!」

 

「そうだぞ桐原。風紀委員長にあるまじき程のバカだから仕方ないが、千代田も千代田なりに頑張ってるんだ」

 

「二人の言う通りだよ。いくら花音が天然ボケの素質が高いからってそうそうおバカな議題を出すはずないよ」

 

「そもそも議題として出すほどの急務だ。千代田からの発議である点に無数の不安を覚えないでもないが、我々総出で対処すべきことなのだろうな」

 

「あたしディスられすぎじゃない?」

 

 

上から壬生、範蔵、五十里、克人の順に、桐原をたしなめていく。尚、たしなめる際の言葉には千代田に対する文句が隠れることすら出来ぬほどににじみ出ているのはご愛敬だ。

 

 

「ウオッホン!改めて、今日の議題を発表するわよ!」

 

「別にいいんだけどよ、十文字かいと…元会頭を上に立たせないのヤバくね?」

 

「どうせいつもの事よ、それにそこの日大タックル先輩に、後輩が成長した所を見せないと大人しく出所…安心して卒業出来ないでしょ?」

 

「学校を刑務所扱いはよくないよ花音」

 

「千代田お前!老け顔先輩に向かって何てこと言うんだ!…どうします先輩?処します?処します?」

 

「とりあえず千代田と服部。お前ら後で腹に一発『ファランクス』な」

 

「というか十文字先輩のあれって戦術として有効だから、あの悪質タックルとは比べられないんじゃないかしら」

 

「悪いけど紗耶香、今そこ論点じゃねーんだわ」

 

 

完全に総司に毒された面々は、総司無しでもギャグを回す。総司が天然物ならば、天然素材を使って育てられた、限りなく天然に近い人工のギャグ要員達だ。

とりあえず議題を発表するため、どこからともなく取り出した眼鏡を光らせる千代田。

 

 

「今回の議題は~ズバリコレ!『最近のあたし達の出番少なすぎもんだ「おいやめろ、そこから先は地獄だぞ」…ちぇ」

 

「あまりにもメタい」

 

「総司と北山がアメリカにいるから。Q.E.D.証明終了」

 

「でもね!?司波君達はちゃんと活躍してるじゃん、描写もされるじゃん!?」

 

「本編だと脇役ぐらいの俺達がこうして出てるだけでも奇跡だよ」

 

「というか吉田君と森崎君はどこなの!?」

 

「吉田ならば柴田という女子生徒と昼食を取っている」

 

「森崎君は今日の自分の区域と花音の担当の区域を兼任して巡回してるよ」

 

「吉田はともかく森崎がいないの千代田のせいじゃないか!」

 

「てへぺろ☆」

 

「花音、もう一度頼めるかな?」

 

「鼻血出しながら端末を構えるな変態が」

 

「でも武明君、私が花音ちゃんと同じ事したら?」

 

「んなもん画像に納めるしかないだろ」

 

「近寄るな変態」

 

「でも七草先輩が同じ事したら?」

 

「モチロン画像に納めさせていただくが?」

 

「我が校の未来は暗いな…」

 

 

会議と銘打っておきながら議題が触れてはいけない部分にルパンダイブを噛ますレベルのものであったため、千代田以外の全員が話題を逸らせようと画策し、見事に成功した。だが数人が自爆してしまう、克人が一高の未来を憂うのはしょうがないことだろう。

 

 


 

 

高学年組がそんなしょうもない会話をしている時、空き教室で美月とランデブーを…する事が出来なかった幹比古は、その原因の人物であるエリカも合わせて三人で昼食を取っていた。その時だ。

 

 

「痛ッ!?」

 

「柴田さん!?どうしたんだい!?」

 

「…こんなオーラ…見た事無い…」

 

「オーラ?とりあえず結界を…これは!?『魔』の気配!?」

 

 

いきなり目を抑えて痛みを訴えた美月。その様子を心配した幹比古が、ナニカの存在を察知した。結界を張り、眼鏡をかけ直した事で体調を持ち直した美月。その様子に安堵しながらも、幹比古とエリカは顔を見合わせた。

 

 

「まさか、吸血鬼が学校に来たって言うのか…!?」

 

「たっく、そうだとしたらナメた真似を…!」

 

「落ち着くんだエリカ。吸血鬼が入ってきたと仮定して、その数もまだ分からないし、以前僕は万全の用意をしていて尚勝ちきれなかった。一旦得物を取りに行こう、十文字先輩に掛け合えば事務室から返却を求める事も難しくない」

 

「ホント、ミキの新しい友達は頼もしい人達ばかりで」

 

「頼りになること以外が手に余るよ…分かってて言ってるんだろ?」

 

「当たり前じゃない」

 

「…ともかく、僕は十文字先輩に連絡を入れる。エリカは一足先に事務室へ!」

 

「待って二人とも!」

 

 

各々がやるべき事を確認した二人は、すぐさま行動に移ろうとしたが、そこを美月に呼び止められる。

 

 

「私も行く」

 

「…本気かい柴田さん。もしかすると今から、とても危険な状況になるかもしれないんだ。君は少しでも安全なところに…」

 

「それでも行く!…なんだか私も、行った方がいい様な気がするの」

 

「…しょうがないわね」

 

「エリカ!?」

 

「美月がこんなに勇気出して言ってんだから認めない訳にはいかないでしょーが。でもアタシ白兵戦以外出来ないから、護衛頼んだわよ?」

 

「…はいはい、分かったよ」

 

 

諦めたように頭をふりながらため息をつく幹比古。そんな彼の手が、美月に伸ばされた。

 

 

「行こう、柴田さん」

 

「!…うん!」

 

 

二人は手を取りあい、戦地へと向かう…

 

 

 


 

 

『と言うことがあって…』

 

「リア充爆散しろ」

 

『ええ…(困惑)』

 

 

…という危機的状況の中で繰り広げられるラブコメの一部始終を聞かされた非リア男服部半蔵。詳細な話を聞くや否や通話をブツ切りにしてしまった。

 

 

「…えー、かくかくしかじかです」

 

「「「「まるまるうまうま」」」」

 

「了解した」

 

 

後輩からのSOSをとりあえず周囲の人間に伝えた範蔵。その絶望したような表情からは、まるで命の危険があるほどの状況であると推察できる…が、頭のおかしくなってしまった奴らはそれに気づかないし、そもそも範蔵の絶望顔は自分だけが独り身(克人は十師族の為、いつか必ず伴侶を作るし、克人自体があまり恋愛に執着してないので除外)であることに絶望しているだけなので、さしあたって気づかなくてもさほどの問題は無い。

 

 

「じゅ、十文字君!」

 

「分かっている、吸血鬼が学校内に侵入したのだろう?」

 

「え?なんで知ってるの?」

 

「それを話すのに時間は使ってはおられんだろう?」

 

「…それもそうね。早く行きましょう、十文字君」

 

「待ってください七草会ちょ…先輩。僕達も戦います」

 

「ダメよ、吸血鬼はとても危険な存在で…」

 

「先輩方が卒業された後、この学校を守るのは我々二年生です。危険だからといって、学校の危機に立ち向かわないと言うわけには行きません!」

 

「はんぞー君…」

 

「…かっこつけてるわね(ボソッ)」

 

「…向こうは眼中に無いってのにな(ボソッ)」

 

「そこの剣士カップル、うるさいぞ」

 

 

突如として学校に訪れた吸血鬼に対して、風紀委員室を不当に利用していた者達が動き出す。道中で司波兄妹と遭遇し、事務室にてエリカ達と合流したのであった…

 

 


 

 

「ミア…?どうしたんですか?」

 

「何でもありません、総隊長」

 

 

全員で固まって移動してきた一行は、リーナが作業服の女性と話しているのを確認した。

 

 

「…あの作業服の人から、オーラが発生しています…!」

 

「まさかリーナの奴、グルだったって訳!?」

 

「あまり信じたくない話ね…」

 

 

美月が吸血鬼と断定した女性と会話をするリーナは、確かに端から見ればグルの様に見える。実際グルではあったのだが、それも昔の話だ。

 

 

「よし幹比古、周囲に認識阻害の結界を…」

 

「「「「ヒャッハー!祭りだ祭りだ!」」」」

 

「手遅れだよ達也」

 

「どうやらそうらしいな…」

 

 

仕掛けるにあたり、他の生徒に気づかれないように結界を張ってから動きたかった達也だが、馬鹿共の脳が溶けてそのまま突撃してしまったので、呆れた目で遠くを見た。だがまだ間に合うため急ぎ幹比古に結界を張らせる。そんな中、呑気に現場を眺めていた五十里が、何を思ったのか端末を取り出す

 

 

「行くぞお前ら、帝京魂を見せつけるんだ!」

 

「帝京魂って何!?」

 

「帝京○成大学の事に決まってるじゃないですか」

 

「なら一高魂じゃないの!?帝○平成大学ってどこよ!?」

 

「侮るな七草。帝京平成大○は健康、医療、スポーツ、経営学など幅広い学問を学べるんだぞ。医学部はないが」

 

「医療学べるのに医学部無いの!?」

 

「魔法学べよ…」

 

 

範蔵や克人のボケにツッコミまくる真由美と達也。その喧騒をバックに、五十里は一枚の写真を撮り、それにメッセージを添えて総司に送った。

 

 

『吸血鬼討伐レイドパーティーナウ』と…




魔法科世界の秘匿通信

・ダブルセブン編からは現三年がおらず、ツッコミが達也達以外に存在しなくなる。可哀想に…


・受かった奴が泣くな!


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来訪者編 その十四

今回はいきなり時間が飛びます


『…それでやっとの思いで達也さんにチョコを渡せて…!』

 

「良かったね、ほのか」

 

「ああまったくだな。それより二人とも、今すごく時間が飛ばなかったか?」

 

『?』

 

「何言ってるの総司君、そんなわけないじゃん」

 

「…そうかなぁ?」

 

 

めざとくも作中時間が飛んだことに気づきかけ、小首を傾げる総司。昨日はバレンタイン、前日に上級者たる雫にほのかが助言を求めてきたが、チョコレート以上のものを交換し合っている二人はお手本にするにはあまりにも進みすぎた関係性だったため、ほのかは実質単身で達也に挑みかかった事になる。話しぶりだと登校直後に渡したようだ。確かに午後は達也を求めてやまない妹様がずっと私のターンしてくるので、合理的な判断だっただろう。

 

因みに達也だが、真由美からカカオ95%、糖類0%という驚異の苦みを実現した最早チョコレートと呼んで良いものか疑わしい物品を受け取った時、総司に『対処法を教えてくれないか?』と連絡をして、『しらね』で総司がつっ返したので、激マズチョコで珍しくダウンしてそこまで深雪を構うことが出来なかったらしい。深雪はかの邪知暴虐の前生徒会長への殺意を覚えた。

 

 

『それで、本題なんだけど…』

 

「…本題?」

 

『最初に言ったじゃん!』

 

「達也に渡すまでのくだりで小一時間は話してたから忘れるのも無理はないだろ」

 

『えっ…あっ、もうこんな時間!?』

 

「今気づいたんだ…」

 

 

呆れ気味に放たれた雫の言葉に顔を赤くしながらも、今日の顛末を話し始めるほのか。その顔色は平常に戻ることはなく、寧ろ徐々に赤みが増していた。

 

 

「…パラサイトがロボットに取り憑いた?」

 

「しかもほのかの達也さんへの想いで覚醒した?」

 

『うう…』

 

 

訳が分からないよと言いたげな表情で聞き返す二人。対するほのかは恥ずかしさのあまり下を向いてしまう。

 

 

『その子、私の達也さんに対しての気持ち…あの人に仕えたいとか、あの人のものなりたいだとかの気持ちに反応したって言ってた…これじゃ晒し者だよ私~』

 

「ほのかって随分情熱的なんだね?」

 

「…俺は席を外すよ。雫ちゃん、もう四時半なんだから早めに寝ること、ほのかちゃんももうちょっと自重することだ」

 

 

ここから先は女子特有の長話が改めて始まると感じ取った総司は、聞かないと思いつつも注意喚起を行い席を立ち、部屋から退出する。その後自室に戻ると、端末でどこかに連絡を入れる。

 

 

「…よ、達也」

 

『総司か。何のようだ?』

 

「パラサイトがロボットに取り憑いたんだってほのかちゃんから聞いてさ」

 

『その件か…だが聞いたのなら、わざわざ俺に聞く必要もないだろう?何が知りたい、俺は今取り込み中なんだが』

 

「…何してんの?」

 

『襲撃に遭った』

 

「マジで?」

 

『マジだ。一人でも制圧は出来たが、エリカの兄上殿が助太刀してくれてな、比較的穏便に済ませられた」

 

「なんだ、もう終わってんじゃん…」

 

『その後町中で戦略級魔法をぶっ放された』

 

「マジで?」

 

『マジだ。今その相手…アンジー・シリウスと戦ってくるから、長くは説明できないぞ』

 

「あ~…、じゃあ後でな。こっちはもう夜中だから」

 

『…お前でも眠いと思ったりすることがあるのか?』

 

「ったりめーだろ?…あれ?そういや今は眠くないな…」

 

『正体見たりって感じだな』

 

「人を化け物扱いすんじゃねーよ」

 

 

達也は本当に戦闘前なのかと言いたくなるほど軽い口調だ。総司も別に達也が死ぬようなことがないのが分かっているのでこちらも緊迫感がない。通話を終えた総司は、リビングでまだ雫達が会話しているのを耳で聞き取りながら、ベッドに潜り込んで寝てしまったのだった

 

 


 

 

「戦う前にお喋りなんて、随分と余裕なのねタツヤ」

 

「御生憎様、お喋りな友人が居てな。ふざけているくせに強い、質の悪い男だよ」

 

 

端末をしまい、向かい側にいるリーナと会話する達也。その口から発せられるのは総司に対する罵倒であったが、達也の脳内では彼が先程視た魔法…おそらくは『ヘビィ・メタル・バースト』であろう魔法の正体の解析で忙しかった。本来『へビイ・メタル・バースト』という魔法は高エネルギープラズマを爆心地点から全方位に放射する魔法のはずだ。それなのに千葉修次に放たれた際は指向性を持つビームとなっていた。おそらくはあの杖がその制御をしているのだろうと解析を立てる。

 

 

「友人と仲が良くて結構…でもねタツヤ。貴方は今から自分のその慢心の所為で、その友人との一生の別れとなってしまうのよ、このブリオネイクによってね」

 

「(ブリオネイク…Brionake? 『ブリューナク』か?)へえ…それは実に物騒だな?因みにソイツは先日のパラサイト戦でお前が見た先輩達がああなってしまった元凶だったりするんだが…」

 

「タツヤ、今すぐソイツと友達辞めた方がいいわよ」

 

 

先日のパラサイト戦…一高に侵入してきたミカエラ・ホンゴウ…に取り憑いたパラサイトと戦った際、リーナが困惑で動けないうちに範蔵達があっという間にミカエラを捕らえてしまったのだ。その後自爆で逃げられるが、その際に雷撃を全員がマフティーダンスで回避していたのを見て、リーナは得体の知れない恐怖に苛まれていた。あんな化け物共を生み出した元凶ともなれば、リーナのこの反応は正しい。

 

 

「ふっ…辞められるならもう辞めてー」

 

 

直後、光が瞬く。その光は先程千葉修次に撃ち込まれたものと同じものだった。つまり…

 

 

「(不意打ちかよ…)」

 

 

達也は魔法発動を知覚して、『術式解散(グラム・ディスパージョン)』を発動しようとしたが、間に合わないと悟り中断する。結果として、放たれた光の束が命中した達也の右腕は、掠った程度でその部分から先を炭化させていた…

 


 

 

「…んあ?」

 

 

眠りから覚めた総司は、アホそうな声を出しながら伸びをして、周囲を見渡してこう言った。

 

 

「ここ…どこ?」

 

 

総司が目覚めたのはバークレーでの住まいではなく、どこからどう見ても和風なお屋敷であった。無意識の内に九島の家にでも来たか?と思って顔をはたいてみる。すると…

 

 

「…痛くない」

 

 

総司は結構な威力ではたいた…不意打ちなら並の軍人は即死する威力だ。それでもまったく痛みがしない。つまりここは夢の中である可能性、もしくは精神干渉系魔法を受けている可能性だが、後者は総司の異能が睡眠中はオートで発動することを考えるとあり得ない。よってこれは夢の中であると考えられる。

 

 

「しっかし…なんでこんな夢を…?」

 

 

不思議に思っていると、総司の耳に言い争っているかのような二人の男性の声が聞こえた。気になった総司はそちらへ歩を進めてみた。そして向かいの離れで、二人の人影を見る。しかしその瞬間、総司はその場から動けなくなってしまった。困惑より先に、ここから二人の会話を聞き取れないかと耳を澄ませる総司。彼は聴力もトンデモないはずなのだが、何故か断片的にしか聞こえてこない。

 

 

「だから………だと言っているだろう!この国を!日の本を守るには…………が必要なのだ!何故それが分からんのだ!お前はそうだから…………などと揶揄されるのだぞ……満!」

 

「ええ分かりませんとも!貴方が守りたいのは、国は国でも…………でしょう!?貴方はそんなものの為に…………を利用するのですか……………明殿!私には到底………!」

 

「…喧嘩してんな、何をそんなに言い争ってんだよ」

 

 

二人の会話に耳を澄ませるのに飽きた総司は、その場で横になって目を閉じる。なんとなくではあるが、『自分に関係してんのかな…』考えながらふと目を開けると、そこはここ最近で見慣れてきた天井だった。

 

 

「なんか変な夢見たな…ふわぁ~」

 

 

立ち上がり伸びをしながら、リビングに入る。すると画面を付けっぱなしにして寝落ちしている雫がいた。画面の向こうでは同じく寝落ちしているほのかがいる。まったく…と考えながら、総司は電気を付けながら雫にブランケットをかけ、コーヒーを入れた。

 

 

「ふう…ん?」

 

 

そこで気づく違和感。今総司は三つの行動を起こしたが、それは全て同時に行われていた。総司は脇目も振らずに雫の元に行ってブランケットを掛けた。なのに電気を付けてコーヒーを入れているのだ、手も触れずに。それはつまり…

 

 

「…魔法?」

 

 

総司はこの一瞬で電気のスイッチを押す単一系移動魔法、コーヒーを温める為の振動系魔法、そして実はブランケットを手元に持ってくるための移動魔法をマルチ・キャストしていたのだ。そう、何故か総司は魔法が使えるようになっていたのだ…




魔法科世界の秘匿通信


・実は会話の中で雫は、ほのかの達也への気持ちが『恋』ではなく『忠誠心』なのではないかと疑問を持った。


・総司君が魔法を使えるようになったのは、夢の所為でもあり、成長の証でもある。



時間が飛んだ中で起こった事

・吸血鬼をパラサイトと呼ぶようになった。


・レオ復帰


・範蔵が真由美チョコで死亡


・ピクシーが達也に抱きついた時に五十里と千代田が『エンダアアアア!』と叫びながら抱擁を交わしていた。


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来訪者編 その十五

八十話たってまだ来訪者編とかマジ?


前回少し時間が飛んだのは、あんまり総司が出張れないからですね。後、早くダブルセブンが書きたいって言うのもある。


「…ブリオネイク…ブリューナクか…ケルト神話の光明神『ルー』が持つ武器の一つ。そんな大層な名称をつけるほどには、その杖に自身があると見た」

 

「…そんなことが気になるのタツヤ?今からアナタは死ぬって言うのに」

 

「魔法工学を嗜む者としては実に気になるね、人は名前に意味を持たせたがるものだ。ブリューナクは相手を貫く光の穂先を発生させる槍とも、自在に飛び回る槍あるいは光弾とも伝えられている。この場合『自在に』と言うところが肝なんだろうな。神話の武器を模した、模造神器ブリオネイク。()()()()()を実用化していたとは、USNAの技術力に拍手を送りたいね」

 

「…FAEセオリーを、何故貴方が知っているの?」

 

 

しばらく達也の発言に耳を傾けていたリーナだったが、FAE理論という単語に反応して目を見開いて、問いかける。

 

 

「…別に知っていてもおかしくはないだろう?FAE理論は元々、日米共同研究の中で唱えられた仮説なんだからな」

 

「あの実験は極秘の研究で、しかも破棄されたものよ!?」

 

「本当に破棄されたのか?今こうして成功例が存在しているというのに?」

 

 

達也の反撃にリーナは口を塞ぐ。

 

 

「FAE理論の説明は…要らないな。なんなら俺よりも君の方がよく知っていそうだ」

 

「タツヤ!」

 

 

ゆっくりと立ち上がろうとする達也に、リーナが声を張り上げる。

 

 

「これは最後の忠告よ!投降しなさいタツヤ!片腕ではお得意の武術は使えないわ!アナタに勝ち目は無いの!」

 

「…へえ」

 

「っっ!?」

 

 

リーナの発言を聞いた達也は、非人間的で酷薄な笑みを浮かべる。その迫力には一流の軍人であるはずのリーナすら怖じ気づく。

 

 

「俺を捕らえて何がしたいんだ?アイツらのように人体実験でも施すか?ならお断りしたいところだ」

 

「…だったら、動けなくして連れて行くまでよ!」

 

 

そして二人は睨み合い、今にも一手目の攻撃を…

 

 

 

prrrrr…prrrrr…prrrrr…prrrrr…

 

 

「「………」」

 

 

突如鳴り響く通知音。こう言った仕事の際にはプライベートの端末は持ち込まないか通知を完全に切っているリーナと、至近距離から音が聞こえている達也にとって、どちらの端末に入った連絡なのかが分かる。リーナが凄く微妙な顔で、「早く出なさいよ」と顎で指し示す。「なんかゴメンね?」と言いたげな表情の達也は、右腕が吹き飛ばされた(実は再生で治っている)ので左腕で端末を操作して通話を取った。

 

 

「…もしもし」

 

『あ!達也?あのさぁ!』

 

「あのさぁはこっちの台詞だ今忙しいんだ後にしてくれ!」

 

『いやね?俺なんか普通の魔法使えたんだよ!』

 

「そうかそうかそれは大変だったn…何だと?」

 

 

総司の口から出た言葉に反応してしまう達也。

 

 

『こう難しい魔法は使えないんだけどさ、基礎単一系魔法なら出来るようになったんだよ!』

 

「馬鹿な…一体何が原因で…?」

 

『何かさっき変な夢みた』

 

「(夢…?何者かによる精神干渉系魔法か?いやだがそれは総司の異能に阻まれるはず…)」

 

『おーい、達也?』

 

 

思考の海に入りかけた達也を、電話口の総司が起こす。達也はそれにハッと気づき、今が戦闘中である事を思い出した。

 

 

「総司、その話はまた後日聞く。今はこっちも一刻を争っていてな、そんな世迷い言に付き合っては居られないんだ」

 

『世迷い言じゃねーよ!起きた雫ちゃんや朝飯の用意しに来た黒沢さんも見たんだぞ!』

 

「ならそれは質の悪い集団幻覚だったと言うことでじゃ!」

 

『おいバズ!?』

 

「バズって誰だよ!?」

 

 

通話を切った達也は、目に見えるほどに疲弊しており、肩で息をしている程だ。心配そうに見つめるリーナを見返した達也は…

 

 

「俺を捕らえて何がしたいんだ?アイツらのように人体実験でも施すか?ならお断りしたいところだ」

 

 

仕切り直しを図った。先程も聞いたその言葉に、リーナも「やり直すのね」と何とも締まらない表情だ。

 

 

「…だったら、動けなくして連れて行くまでよ!」

 

 

同じ台詞の反芻、この時二人の内心は「劇の練習かな?」で一致していたそうだ。

 

 

「死になさい!タツヤ!」

 

 

叫びと共に高速で魔法を組み立て、ブリオネイクを達也へと向けるリーナ。しかし、そのブリオネイクの筒先に、再生していた右腕に持っていた銃型CAD、トライデントを突っ込んだ。

 

 

「なっ!?アナタその腕!?」

 

「甘いな」

 

 

いくら魔法力が高くても、予想外の出来事にいちいち反応してしまうリーナの甘さを指摘しながら、達也はブリオネイク内部に照準を定めて『術式解散(グラム・ディスパージョン)』を撃ち込んだ。

結果的に、ブリオネイクの筒先から常温のガスと化した金属粒子が勢いよく噴き出す。圧に負けて達也の右手からトライデントが飛んだが、受けた影響はリーナの方が大きかった。しっかりと握っていたのが裏目に出たのだろう。

大きく吹き飛んでいくリーナに、即座に『再生』でトライデントと自身の手の相対位置を元に戻した達也は、寸分違わず正確に、六連射の『分解』を放つ。その分解はリーナの魔法防御を容易く無効化し、その意識を刈り取ってしまったのだった。

 

 

 


 

 

「…お兄様、もしかして怪我をなされたのではありませんか?」

 

「落ち着け深雪、ステイだ、ステイクールだ」

 

「落ち着いてなどいられません!この臭い…お兄様、あの泥棒ねk…リーナと戦われたのでしょう!?」

 

「深雪今なんて言いかけた?」

 

「そんなことはどうでもいいです!しかも一対一ではありませんね!?少なくとも十人以上とは刃を交えた臭いです!」

 

 

達也は「情報」を視覚的に捉えるが、深雪は「情報」を触覚的に捉える。また深雪は直感的な感覚を嗅覚に例える場合もある。今回は後者であった。

 

 

「頼むから落ち着いてくれ。俺がそうさせない限り、俺に傷を残す事など誰にも出来ないと知っているだろう?」

 

「でもお兄様、総司君に組み付かれながら首の骨を折られたら、流石に助かりませんよね?」

 

「そんな例外が世界に二人もいてたまるか」

 

 

事実、達也は『再生』によって不死身に近い耐久力を有している。以前零次は攻撃し続ければいずれは倒せるとは言っていたが、それは間違いであり時間を掛けても達也は倒せない。強いて言うならば、達也の膨大なサイオン量を空にするまで殴る必要がある。その点総司は触れていれば恐らく『再生』を無効化してくるので、目下最大の死因は総司だ。

 

 

「…ともかく早く帰ろう。総司と話がしたい」

 

「総司君とですか?一体何があったのです?」

 

「…魔法が使えるようになったとさ」

 

 

その事に、深雪が驚愕したのは言うまでも無いことだ。

 

 

 

 


 

 

「それで総司、何があったんだ?」

 

『世愚倭雁峰』

 

「よぐわがんねを謎に漢字化するなバカ」

 

『申し訳凪』

 

「冨岡さん!?」

 

『俺は嫌われて凪』

 

『早く進めよ?』

 

 

総司からのボケの供給にとうとうツッコミを放棄しだした達也に代わり、流れを戻したのは雫であった。

 

 

『何って言っても、夢から覚めたら魔法が使えてた!終わり!閉廷!』

 

「じゃあ今からお前を訴えて新たに開廷するぞ」

 

『やめやめろ』

 

「…それは本当にただの夢だったのですか?」

 

『夢にただもなにもないでしょ、元から商品としてはまだ扱えないよ?』

 

「ただって金額の話じゃねえよカス」

 

「お兄様?」

 

『達也さんがキャラ崩壊…』

 

『達也(ツッコミ)の霊圧が…消えた!?』

 

 

あ~あ、もうめちゃくちゃだよ(諦め)。ツッコミエースが達也から深雪にバトンタッチをしそうになっているところで、総司が口を開く。

 

 

『あ~でも、やけにリアルな夢だな~とは思ったぞ』

 

「リアル?」

 

『エア?』

 

「リアル」

 

『ユニコォォォォォォン!!!』

 

『朝から大きい声出さないで…』

 

『確かに、まったく話が進まないことを含めて全て俺の責任だ。だが私は謝らない』

 

「そもそもユニコーンガンダムとエアリアルは作品違うだろ」

 

「何故知っているのですかお兄様?」

 

『何か人が言い争ってんだよ、なんか平安貴族っぽい格好の人達が』

 

「…ふむ」

 

 

総司の言葉に、達也は首を傾げて止まってしまった。

 

 

『…何か思いついたか、達也?』

 

『…達也さん?』

 

 

しばらく時間をおいて、何か閃いたかを達也に聞く二人…

 

 

「あら…?お兄様、椅子でお休みになられていますね」

 

『『ええ…(困惑)』』

 

 

達也がそんな事をするとは予想しなかった二人は、当然のごとく驚愕の表情を浮かべた。

 

 

「…生憎お兄様はお疲れですので…一旦通話を停止してもよろしいですか?」

 

『『抱け!抱け!抱けぇ~!』』

 

「気ぶりお兄さん&お姉さん!?」

 

 

尚この後、総司達の応援むなしく、深雪は達也に手を出すことが出来ませんでしたとさ。




魔法科世界の秘匿通信


・FAE理論:詳しくはご自分で調べていただきたいが、これは総司を殺しうる材料の一つである。



・ネタに走った達也:コレ書いてるときのポプテピピックで、中村優一氏に中村悠一氏が声を当てた記念としてとうとうツッコミエースから解放される。総司とは、究極的なバカ(総司)と理知的なバカ(達也)というくくりになる可能性がビレ存


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来訪者編 その十六

ちょっとクルシミマスしてたので投稿が遅れました…


今回また時間が飛びます


「総司、お前に聞きたい事がある」

 

『んあ?何だよ藪からスティックに』

 

「お前は…()()()だな?」

 

『……』

 

 

達也は、総司にこの質問を投げかけるまでに、どのような出来事があったのかを思い返していた。

 

 

達也はあの夜の戦闘の後、兄から事情を聞いたと見られるエリカにそれとなく自分の正体を明かして牽制し、その夜に葉山から七草家が研究対象としてパラサイトを狙っているという情報を入手していた。国防軍情報部防諜第三課、という七草派の部隊との戦闘を懸念しながらも、達也はピクシーを連れて青山霊園に向かう。そして目論見通りにパラサイト達と戦闘、捕獲することに成功する。後から来たエリカ達にパラサイトの身柄を預けたのだが、その彼女達をして、第三課が横からパラサイトの身柄をかすめ取って行ってしまう。結果的にそのパラサイト達は、抹殺しに来たリーナによって燃やし尽くされてしまったが。

 

重要なのはその後、そのリーナの映像を見ている最中にハッキングを受けた事だ。

 

 

『ハロー、聞こえているかな?聞こえていることを前提に話させてもらうけど、始めに自己紹介から。僕の名前はレイモンド・セイジ・クラーク。『八賢人』の一人だ。君の事は僕の友人達…総司と雫から聞いているよ』

 

 

八賢人というなじみのない単語に深雪は首を傾げる。対する達也はリーナから名前と概要を聞いていたので、その名の意味を察する事が出来た。加えてこの男が総司の情報源なのかもしれない…この時まではそう考えていた。

 

 

『アンジー・シリウスにパラサイト達の居場所を知らせたのは僕だ…あ、この事は総司にはオフレコで。最悪殺されかねない。まあ何故か教える前に知っていたみたいだけど』

 

「この男がリーナに教える前に、彼女はパラサイト達の居場所を知っていた…?リーナが自分で突き止められるはずがありません、あのリーナですよ!?」

 

「深雪、お前今滅茶苦茶リーナに失礼な事を言っていることは自覚しているか?」

 

 

だがそういう達也も、深雪の意見には概ね同意している。達也は以前、USNA軍の対処に四葉の力を頼ったのだが、恐らくその際にUSNA軍の解放と引き換えにリーナを使いたかった四葉が情報を受け渡したのだろう。パラサイトを七草に取られたくなかったのだと窺える。

 

 

『そして君にも特ダネを提供しようと思っている。君にとって、とても有意義なネタだと思うよ。お代は見てのお帰り、と言いたいところだけど、今回はお近づきの印に無料で提供させてもらう。現在ステイツで猛威を振い、日本にも飛び火しつつある魔法師排斥運動は、八賢人の一人、ジード・セイジ・ヘイグが仕掛けたものだ』

 

 

そのいきなりな情報に深雪は思わず口元を歪める。それも当然、自分達の生活を脅かしかねない活動を扇動する者など深雪が、ましてや達也が許せるはずがない。

因みにまるで前から知っていましたと言いたげな口ぶりのレイモンドだが、そもそも彼がジード・ヘイグの事を知ったのは総司からの依頼で詳しく調べている内に、フリズスキャルブに使われているエージェントの一つ、ムニンに記録された情報からジード・ヘイグと魔法師排斥運動の関連を知ることが出来た。

 

そしてジード・ヘイグについて簡単な説明を終えた後、レイモンドはこう付け加えた。

 

 

『念の為に言っておくけど、八賢人だからといって僕達と共謀関係にはないからね。八賢人というのは一つの組織の名前じゃなくて、フリズスキャルヴのアクセス権を手に入れた八人のオペレーターの事なんだから』

 

 

と。

深雪はそもそもフリズスキャルブがどういう物か知らずに、達也に質問をしていた。達也は当然のごとく知っており深雪は答えを得られて満足した…そこで満足したが故に気づかなかった。レイモンドが今し方使った二人称が『僕達』と複数形であったことに。この事から、達也は総司がフリズスキャルブのオペレーターだと確信したのだ。

 

 


 

 

想起…という名の回想を終え、達也は目の前の画面へと意識を向ける。仮に総司が八賢人だとするならば、自分や深雪の身の上を知っていてもおかしくはなかった。

そして総司の返答は…?

 

 

なにそれ知らん

 

「ええ…(困惑)」

 

 

最近直で会っていない為見なかったが、今の総司は相当なアホ面だ。コレには流石のお兄様もビックリ。だがこれには深い訳が…無い。結論から言えば、『八賢人』という名称そのものがレイモンドが一人で名乗っている名前である事、総司はムニンの記録機能の事を知らなかったので、フリズスキャルブのオペレーターの人数を把握していない。総司の脳内には八が付く名称など、十師族の一つ『八代』ぐらいのポピュラーな物しか知らなかった。要するに八という数字を自身の所属する何かしらの組織に繋げることが出来なかったのだ。

 

 

『それで?結局その八なんとかって奴が俺なのかを聞きたかったのか?』

 

「いや、用件はそれだけじゃない」

 

 

困惑から抜け出せていないが、そんなことおくびにも出さずに達也は、レイモンドからパラサイトを第一高校裏手の演習場に誘い込むとの連絡を受けた事を伝えた。

 

 

『レイモンド?アイツそんな事してやがったのか』

 

「知り合いではあるんだな?」

 

『知り合いというか友達というか』

 

 

総司の返答により、レイモンドの言葉がある程度は信じられる物だと分かった達也は、アンジー・シリウスにもその情報が渡っている事も伝える。

 

 

『ハァ!?アイツ訳の分からんことをしやがって…』

 

「いや、アンジー・シリウスの方はさほど問題では無い。一番の問題は安部零次だ」

 

『真由美先輩が尻に敷いてるんじゃ無いのか?」

 

「確かにそうだが、パラサイトを一網打尽にされそうになって、打って出てこないとは思えないんだ」

 

 

その言葉を聞くと、総司はウンウン悩み始める。

 

 

『俺がそっちに行けたら零次なんて敵じゃ無いんだが…こっちもこっちで雫ちゃんを狙う視線が増えてきた。どうやらそっちでの戦況を見て、俺が援軍に行かないように念押ししてるようだ』

 

「お前の魔法で何とかならないのか?」

 

『バッカお前、俺はまだ基礎単一系しか使えないんだよ、そんな魔法でどうしろと「そうじゃない」は?』

 

「俺が言っているのは、お前が新しく魔法を作って、それを雫に使わせて自衛させれば良いんじゃ無いのかって話だ」

 

 

そう言われたことで、総司の目に納得の色が浮かぶ。総司は精霊のお陰で、自分では使えないはずの超高度な魔法を作成する事が出来る。そして以前その魔法を使った雫が深雪を破り、九校戦で勝利した事もある。

 

 

『確かに言われてみれば…分かった、できるだけやってみる』

 

「頼んだぞ、俺やシリウスでは零次に勝てなかった。接近戦と魔法、両方の技量が高くないと奴には勝てない…だが、お前はその身一つで奴を圧倒できるはずだ」

 

 

その言葉を聞いて、『よしきた!』と意気揚々と通話を切った総司。

達也は間に合うかどうかを憂い、明日の戦いに仲間を呼ぶべきかを、脳内で思案するのだった。




魔法科世界の秘匿通信


・また時間が飛んだが、この間に青山霊園近くでの戦闘は終わっている。次回から来訪者編のラストバトルが始まる。


・レイモンド的には総司も『八賢人』の一人だが、総司の馬鹿さ加減から「賢人って称号は総司には全く似合わない」等と考えている。


さて、総司君は都合良く魔法を完成させられるのか、出来たとして間に合うのか。


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来訪者編 その十七

今年最後の投稿だ…!来年は三期の情報が欲しいぜ!


「…なにやってるの、総司君」

 

「ちょっと待ってくれ雫ちゃん。今手が離せないんだ」

 

 

そう言いながら深刻そうな表情で虚空を見上げている総司。

 

 

「別に邪魔したりしない、何やってるのか知りたいだけ」

 

「ああ、それはね…」

 

 

総司が昨日達也との会話を説明すると、雫は目を見開いた。

 

 

「もしかして、その新しい魔法を今作ってるって事?」

 

「ちょっと違うけど、そういうことだね」

 

 

言いながら、虚空に頷き札に何かを書き記している総司。雫はそれが魔法を発動するための札になることに気づく。

 

 

「どんな魔法を作ってるの?」

 

「…さっき俺はちょっと違うって言ったよな。今やってるのは正確には模倣だよ」

 

「?」

 

 

首を傾げる雫に、やっと虚空から目を逸らして雫の方に向き直った総司は続けてこう言った。

 

 

「これは、俺が使う劣化版『仮装行列』の複製さ」

 

「『仮装行列』…!?」

 

 

雫が驚くのも無理は無い。『仮装行列』は九島家の秘術に値する物だ、本来血縁ではない総司が教えてもらえただけでも異常なのに、部外者である雫に劣化版とはいえ使わせていいものなのかと雫は目線で問いかける。

 

 

「大丈夫、所詮透明になるだけの魔法だ…真の目的であるエイドスの偽装は本物と同レベルだけどね」

 

「それダメなやつじゃない?」

 

「雫ちゃんは俺の愛しの奥さんになってくれるんだろ?なら君も実質九島家だから許してくれるって」

 

「…調子良いんだから」

 

 

流石の雫もこう返されては言い返せない。赤くなった頬を小さく膨らませ、不服を総司に伝える。それを見た総司は苦笑いだ。

 

 

「決戦が始まったと同時に俺はUSNAを出る。全力で走るから片道十分ぐらいは掛かるかな。今調整してる魔法は、雫ちゃんのサイオン量を考えて多分一時間前後の使用が限界だろうね。でも大丈夫、そんなに時間は掛けない、すぐに戻ってくるさ」

 

「…うん」

 

 

ここ数日、雫は数多の刺客から狙われ続けた、その人数は三桁に届く勢いだ。その度に総司が刺客を撃退していたが、今日の夜はその守りが無い。それどころか、これ幸いとした刺客が一気に襲いかかってくるだろう。いくら総司が手がける魔法があると言えど、自分は本当に大丈夫なのかが心配になった。

 

 

「…雫ちゃんを一人にさせるわけないよ。レイモンドに君を匿ってもらうからな」

 

 

雫の不安は表情に出ていたようで、総司はその不安を和らげようと言葉を発する。因みに、レイモンドが助けてくれるのは友人だからでもあるが、単に『お前何してくれとんねん』という連絡を入れたら、画面の向こうで土下座をして雫の安全を確約させたからである。そもそも事の発端はレイモンドだ、レイモンドが発破をかけなければパラサイトの討伐は遅れていたかもしれない。だがそれとコレとは話が別だとお叱りを与えたのだ。間違いなくレイモンドは、今日一日雫を死ぬ気で守るだろう。刺客に襲われても死ぬし、守れなかったら総司に殺されるからだ。

 

 

「…なるべく早く帰ってきてね?」

 

「モチロン、超特急で終わらせるよ」

 

 

その言葉に安心したのか、柔らかい笑みを見せて雫はその場を離れた。それを見届けて作業の続きを始めようとする総司。だがその矢先、総司の端末に連絡が入る。てっきり達也からだと思った総司は、その着信先を見て疑問を持ちながら応じる。

 

 

「もしもし、どうしたんだ響子さん」

 

『総司君、確か君は今日こっちに戻ってくるのよね?』

 

 

連絡を寄越してきたのは藤林響子。USNAに渡る際に総司の魔法発動の記録を消すなどして援護してくれた人物だ。

 

 

『今日のパラサイト討伐に、『伝統派』の影がチラついているの』

 

「…パラサイト事件には、伝統派も一枚噛んでたって事かよ」

 

 

内心「また伝統派か壊れるなぁ…」とぼやきながら総司は呆れの混じった呟きを漏らす。もし伝統派が関わってくるとなれば、零次と同時に伝統派の魔の手から仲間達を守らねばならないと言うことだ。仲間の中でも比較的戦闘力が低いほのかや、全くないと言っても過言では無い美月などを人質に取られてはたまったものではない。戦力的には零次が最も脅威なのだが、戦略的に見れば伝統派の方が厄介だ。

 

 

「面倒なことになりそうだな」

 

『その通りよ、どうやら伝統派はパラサイトの回収を目的にして居るみたいね』

 

「てことはなんだ、奴らはモルモットを欲しているのか?」

 

『でしょうね。古式魔法の大家がいくつも集まって出来た組織よ、そんな奴らにパラサイトの力を利用されれば、日本の魔法師の立場が危ういわ』

 

「戦力的にも、民間からの魔法師のイメージ的もな…」

 

 

いかにも困ったと言いたげな表情をしながら、総司は手に持つ札を見る。もっと完璧な魔法を作れないものかと、その魔法で雫が何者にも負けない最強の魔法師になれればと総司は己の無力さを呪った。雫が最強になれば、自分がつきっきりでいる必要がないからだ。そんなことを考えながら、総司は席を立つ。

 

 

「…そろそろ準備をするよ」

 

『くれぐれも気を付けてちょうだいね』

 

 

響子の、ほぼ意味をなさない総司への心配。気を付けてとは総司本人ではなく仲間達の事についてだろう。付き合いが長い響子の言葉を正しく受け取った総司は、動きやすい服に着替えるため、通話を閉じてクローゼットへ向かった。

 

その時、机の上の札が怪しく光っていたのには、誰も気づくことは無かった…

 

 

 


 

 

同時刻、都内某所にて。

 

 

「…では、此度は手筈通りに行きましょう」

 

「そうね、あの四葉の戦略兵器が総司様をこちらに呼び戻してくれたから、手間が省けたわ」

 

「まさかアンタみたいなのがボスだなんてな」

 

 

高級料亭にて机を囲む三人の影…男が二人、女が一人と言った所だ。

 

 

「んで?俺は本気でオリジナルを殺して良いのか?少なくともアンタのお気に入りなんだろう?」

 

「??何言っているのアナタ」

 

 

一人の男…安部零次が女に問うた所、女は心底不思議そうに返した。

 

 

「私の物にならない総司様なんて要らないわ、殺してバラして標本にして未来永劫語り継がれるように、絢爛豪華に飾っておくのよ♪」

 

「っ…!アンタから見て俺がストライクゾーンの範囲外で安心したよ」

 

「アナタみたいな科学で生み出された紛い物に興味は無いのよ」

 

「フフフ…では失礼ながら、この私から一つご質問が」

 

 

顔に恐怖を浮かべる零次に変わり女に話しかける人物…周公瑾が女と目を合わせ、言葉を紡ぐ。

 

 

「生み出されたと言う点では、()()()()()()()()()()()()と思うのですが…如何ですかな、不二原(ふじわら)様?」

 

 

公瑾に不二原様と呼ばれた女…いや少女は、見た目にそぐわぬ妖艶な笑みを浮かべるだけで、その言葉には何も返すことは無かった…




魔法科世界の秘匿通信


・怪しく光る札:一体何が起こっているんでしょうね…(適当)



・謎の少女:不二原という名前だが、見た目は蓬莱山輝夜にそっくり



次回から戦闘入りま~す


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来訪者編 その十八

皆様、明けましておめでとうございます。本作は四月から投稿し始め、後四ヶ月で一周年となります。

本作を読んでくださっている皆様には感謝の言葉しか見つかりません。これからもご愛読よろしくお願いします


「それじゃ、行ってくるよ」

 

「頼んだよソウジ。君が居なければ介入してくる勢力をいなしてパラサイトを追い詰める事は彼らには難しいはずだ。こっちはティアを命に代えても守り通す、心配することはないよ」

 

「オッケー、その返事で充分だ」

 

 

USNA、レイモンド・クラーク宅の前。そこで総司は、今まさに出発しようとしている所だ。こっちらでは朝方だが、向こうではちょうどレイモンドが指定した時間帯となっているはずだ。そして肝心の雫は、既に総司謹製の劣化版『仮装行列』…隠れる事だけが目的の魔法、『天岩戸(あまのいわと)』を発動してレイモンド宅の中に隠れている。

 

 

「それじゃ、出発するわ」

 

「…一応聞くけど、どうやって行くつもりなのかな?」

 

 

実のところレイモンドはこの点を心配していた。彼が来たときと同じように海上を走れば、それこそ本当に海軍に喧嘩を売ることになりかねない。だから別の方法があるなら…と一縷の望みを掛けてレイモンドは尋ねたのだ。すると、総司から斜め上だがレイモンドの心配を杞憂にさせる返事が来た。

 

 

「どうってそりゃあ、ケツワープっしょ」

 

「…?」

 

「それじゃ行くぜ…!ヤヤヤヤヤヤヤッフー!!!

 

「!?」

 

 

総司が日本側に背を向け、奇声を発したかと思うと、総司の姿がものすごい勢いで消えていったのだ。これにはレイモンドも苦笑い。

 

 

「相変わらずだな…彼は」

 

 

そうしみじみとしながら、レイモンドは家の中に戻って行くのであった。

 

 

 


 

 

 

一方日本では…

 

 

「よう…お嬢さん達…遊ぼうぜ…?」

 

「誰がアンタとなんか…!」

 

「七草先輩に、『安部零次にナンパされました』と伝えておきますね」

 

「すいませんホントマジ勘弁してください」

 

「…」

 

「リーナ…複雑な表情してるわね…」

 

 

安部零次がかっこよくリーナ、深雪、エリカの目の前に現れ…

 

 

「そちらの方にはお初にお目にかかります。私、周公瑾という者です」

 

「なるほど!コイツがあの殺菌スプレーって奴だな!」

 

「何言ってるんだレオ、滅菌スプレーの間違いだ」

 

[訂正、抗菌スプレーです]

 

「……」

 

 

怪しげな雰囲気を纏わせ現れた周公瑾に、レオ、達也、ピクシーの三人は警戒心を募らせる。そして…

 

 

「貴方たちが私達の計画を邪魔しようとする不届き者ね?私は不二原束。よろしく…」

 

「王手飛車角取り」

 

「なるほどそう来たか…」

 

「…なんで将棋やってるの!?」

 

「まあまあ落ち着いて、お茶でも飲みましょうよ」

 

「あら、コレはご親切にどうも…ズズズっ!ゴホッゴホッ!にっが!なんなのコレすっごい苦い!?」

 

「やだなあ、お茶と言ったらセンブリ茶でしょう?」

 

「そんな常識無いわよ!?」

 

「つーかなんで僕達はこんなところで将棋やってんだー!?」

 

「アイタっ!?」

 

「もうっ、吉田君!いくら負けそうになったからって将棋盤投げるのはやめてください!」

 

「そうだよ、達也さんならこんな時、「分かった、何とかしよう」って言って逆転しちゃうんだから!」

 

「その台詞劇場版のでしょ!?…あれ、劇場版ってなんだ?…まあともかくだ!」

 

 

総司がこちらへ接近してきている弊害か、何故かおバカになってしまった美月、結構前にその片鱗を見せていたほのか、本人も大分アレだが、二人の前ではツッコミに回らざるを得なくなった幹比古。この三人の前に意気揚々と出てきた束は、三人の勢いにペースを握られっぱなしだったが、将棋盤が当たった痛みで冷静さを取り戻し、怒りに満ちた表情で叫ぶ。

 

 

「もう許さないわ!『死ね』っ!」

 

「っ、これは言霊を利用した攻撃か!」

 

 

束の叫びと共に放たれた禍々しい黒のエネルギー状の弾丸。流石は神童とも呼ばれた幹比古は、その魔法が言霊を利用した物であると一瞬で分析する。だがその弾速はあまりに速い。端的に言えば回避不能だ。幹比古の推論を信じるなら、あのエネルギーには相手を死に至らしめる効果があるはずだ。そして更に、そのエネルギーは一発だけではなく、広範囲に広がるように無数に放たれていた。まさに絶対絶命…!

 

 

「合わせて、美月!」

 

「うん!」

 

「え?」

 

 

だがそんな状況にも関わらず、美月とほのかは笑みを浮かべている。焦っているのは幹比古だけだ。そして二人は幹比古の肩を掴んでグイッと引っ張り…

 

 

「「ガードベント!」」

 

「「えええええ!?」」

 

 

幹比古を盾とする二人の行動には思わず盾にされた幹比古と攻撃した側の束の声が合わさってしまう。そして幹比古に攻撃が直撃した。

 

 

「っ、仲間を見殺しにするなんて大した度胸ね!」

 

「痛ぁ!」

 

「えっ、なんで生きてるの」

 

「知らないんですか、ギャグ時空じゃ人は死なないんですよ」

 

 

自信満々に返事をするほのか、ドン引きする束。

 

 

「どうしたんですか吉田君!誰にやられたんですか!?」

 

「君たち…」

 

「誰にやられたんですか!?」

 

「…あの人です」

 

「なんですって…!?」

 

「おかしくない?確かに攻撃したけどおかしくない?」

 

 

無事を確認してきた美月の圧に負け、ガードベントを追及することすらできなかった幹比古、やはりこの作品の不憫枠である。そして上手くヘイトを束に向けることが出来た美月。この惨状を見て、束は焦って仲間に通信を送る。

 

 

「ねえ、こいつら話に聞いていたよりヤバイ奴らなんだけど…ねえ聞いてる?」

 

 

だがその通信に答えるはずの二つの声は、一向に聞こえてこないのであった。

何故ならその二人ともピンチに陥っているからである。ここで一度その二人にも視点を向けてみよう。

 

 

『あのね零次さん!何回言ったら分かるの、貴方はボクの終身栄誉抱き枕だって言ってるでしょ!?』

 

「はい…すいません…意味分かんないけどすいません…」

 

「本当にあの男は敵なの…?」

 

「ええ、中学生の尻に敷かれてるだけの敵よ」

 

「あんなのに負けた私って…」

 

「安心して、リーナ。アタシ達も勝てないから…」

 

 

結局深雪のリーサルウエポン、『七草召喚』で一旦静まっている零次。先程、自分の通信機(束からの通信)がギャーギャーうるさいから何とかしろと言われて握りつぶしてしまうほどに動揺している彼を見て、リーナは自分にふがいなさを覚えたという。つられてエリカも悔しそうな表情を浮かべる。でも残念、現実でしたってね。

 

 

「でもさ、抗菌って確か菌に対する対処法じゃ一番程度が低いんだよな?」

 

「そうだな、強い順から滅菌、殺菌、除菌、抗菌だな」

 

「じゃあアイツ四番目に強い奴って事か?」

 

「そんな鰤みたいな展開あるわけないだろ、そんなこと言ってたら余裕なのに総司の奴が、「終わりだ…」みたいな事言って収集が付かなくなるだろうが」

 

「あの…そもそも私は敵なのですが…」

 

[警告、あの作品の十刃は零番が存在します。つまりはそのシーンの対象のキャラは五番目の強さです。加えて、あのうさんくさい男は四番目にふさわしくありません。訂正を求めます]

 

「その心は?」

 

[四番目の実力者というのは褐色巨乳のエロいネーチャンが最適解だからです]

 

「おみそれいたしました」

 

「そんな知識どこから引っ張ってきたんだ」

 

[一高のデータベース内の、一部変更を加えられた部分からです]

 

「絶対アイツの所為だろ、何やってんだ…」

 

 

脳内が真っピンク状態のピクシーにひれ伏すレオ、総司に呆れる達也。この状況に混乱する公瑾。全部お前の名前が悪いんやで、公瑾。

 

ところで…、皆さんはパラサイトが今どうなっているか気になりますよね?もう全員逃げ出しているのでは?と思うでしょうですがご安心ください…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あらゆる困難が科学によって解決するこの時代…人々の閉ざされた心の闇に蔓延る魑魅魍魎が存在していた…

 

科学ではどうしようもないその奇怪な存在に立ち向かう…神妙不可侵にして、胡散臭い男が一人…

 

その名は、服部刑部少丞範蔵…

 

人は彼を、魔法師と呼ぶ…

 

 

 

「くっそ、何だこいつらは!?」

 

「知らねえのか、俺達は結束バンドだ!」

 

「何だその百均に売ってそうな名前は!」

 

「あっおい待てい(江戸っ子)。その理論だと俺が人間じゃ無い事になるんだが?」

 

「「「「お前は人間じゃねえ!!」」」」

 

「なんで?」

 

「こいつら頭がおかしいのか…?」

 

「まさか俺こそが真の魑魅魍魎だったとはたまげたなぁ…(感心)」

 

 

あまりのカオスっぷりにまったく付いて来れないパラサイト達は、総司の愉快な仲間達に翻弄されているのだった…早く来るんだ総司!君が間に合わないと大変なことになるぞ!(何が)




魔法科世界の秘匿通信


・天岩戸:『仮装行列』の幻影を見せる効果を幻影を出す効果ではなく透明化オンリーの効果にして余ったリソースを基礎性能の強化に当てただけの魔法…のはずが、命名の所為で別の意味を持ってしまい、それが魔法の効力にも作用していたり。


・現在の状況の整理:

  総司は移動中。安部零次VS深雪&リーナ&エリカ&香澄(電話参加)。周公瑾VS達也&レオ&ピクシー、現在抗菌スプレーの話題から猥談に路線変更。不二原束VSほのか&美月&幹比古、不二原は名前判明。パラサイト集団VSバカ集団、胡散臭い男こと範蔵の尽力により現在優勢



新年早々に俺は何を書いているんだ…


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来訪者編 その十九

おにまい面白いっすね(サボり)


「ハァ…ハァ…クソッ!」

 

「まさか俺達と奴に此処までの実力の開きがあったとはな…」

 

「あの…私まだ何もしてないんですけど…」

 

「ウッ!?」

 

「どうした、レオ!?」

 

「総司の霊圧が…消えた?」

 

「何…だと?」

 

「彼らは何の話してるんですか?」

 

[フッ、戦闘力たったの5か、ゴミめ]

 

「唐突にロボットに罵倒されるの意味分からないんですが…」

 

 

レオが涙を流しながら総司の喪失を嘆く。達也も心なしか悔しそうだ。状況がまったく理解出来ない公瑾は、思わずピクシーに質問してしまうが、一人だけドラゴンボ○ルの世界観に浸っていたので結局答えを得ることはできなかった。ところで話題にでた総司が今どうなっているかというと…

 


 

 

 

 

ドゴォォォォォン!!!

 

 

「…フガ(あの)フガフガフガ(抜けないんですけど)…」

 

 

ケツワープによる移動に失敗し、頭を向けたまま山の中腹に突き刺さってしまっていた。どうやら力が上手く入らない体勢で埋まったため、そう簡単に抜け出すことが難しくなっているようだ。この状況では到着はもう少し遅れるだろう…そもそも抜け出せなかったのならば窒息で死ぬので、レオの直感はある意味では間違っていないと言えるだろう…

 

 


 

 

「アアもう数が多すぎてストレス!なんだか無性にパクパクしてきたくなったわ!」

 

「ダメだ花音、抑えるんだ!内なるウマソウルを抑えなくては君はメジロってしまう!」

 

「一心同体で草」

 

 

パラサイト集団と戦闘を行うバカ集団だが、その中で花音の内なる大西○沙織がだんだん抑えられなくなってきていた。ぶっちゃけどうでもいい。

 

 

「こいつら、切っても切っても次から次へと沸いてくるんだが!?」

 

「達也君達の情報からして肉体を破壊しても彼らは存在し続けるらしい!それに加えてこの演習場に潜伏している人数は未知数だ!」

 

 

ぱっと見の戦況はバカ共が押しているとしか言えないのだが、実はブラックホールが生み出された時にこちらの世界に流れ込んだ数は尋常じゃ無い数であったらしく、まるで()()()()()()()()()かのようだという。

 

 

「くっそ、総司はまだ着かないのか!」

 

「馬鹿だな服部!此処で奴を頼りすぎれば来年の部活連は奴の思い通りだぞ!」

 

「いかん!そんなことを許すわけにはいかない!あんな頭がおかしい奴が仮にも学校を運営する組織の一つのトップに立つなど一高の終わりだ!」

 

「もう手遅れでは?」

 

「頭がおかしい奴がトップはヤバイ+服部君は頭がおかしい=来年の一高は終わり」

 

 

桐原と壬生は『高周波ブレード』で、範蔵は『ドライ・ブリザード』、千代田は五十里を護衛しながら『地雷原』で戦闘を行っている。千代田が相手に攻撃し、その護衛を桐原と壬生が、しかしそれでも生まれる隙を範蔵が攻撃に変えるという連携プレーだ。因みに防ぎきれなかった攻撃は、最近習得した『ワアワア』と言いながら高速で踊る技術を用いることで回避、時にはマフティーダンスを織り交ぜて相手にパターンを読ませないように立ち回っていた。

 

しかし向こうは腐ってもパラサイト。その魔法発動スピードは常軌を逸しており、そのループも次第に難しくなって来たのであった…

 

 


 

 

場所は変わってUSNAはレイモンド宅…

 

 

「おいゴルァ!!」

 

「お邪魔するわよ~」

 

「不幸にも黒塗りの高級車にぶつかったお姉さんか…高級車の奴はホモだから一周回って大丈夫だな」

 

「ダリナンダアンタライッタイ…」

 

 

レイモンド宅の玄関を蹴破って現れた三人組の存在に、レイモンドは冷や汗を流した。この三人から総司と同類(クソバカ)の匂いがしたのだ。ついでに、不意打ちを警戒していた分逆に呆気にとられてしまっているのだ。

 

 

「ここにさあ…北山雫って女居るってマジ?」

 

「ティア?彼女は今の君たちみたいに、僕の家に遊びに来るほど暇では無いんだ」

 

「いいますね~、じゃあ~」

 

 

三人組の中の唯一の女性らしき人物が、こう言葉を続ける。

 

 

 

「この家を吹き飛ばしてしまっても~、何の問題も無いって事ですよね~?」

 

「……は?」

 

 

瞬間、レイモンドは背後から迫り来る轟音と爆風に巻き込まれ、吹き飛ばされてしまったのだった…

 

 


 

 

場所は戻って、一高裏の演習場…

 

 

「…ああ、分かった」

 

 

どこからか通話による報告を受けた零次が、通話を切ると同時に、足に力を込める。すると「ウグッ…!」という呻き声が聞こえてきた。

 

 

「…戦闘中に呑気に敵から目を離していて、随分と余裕ね?」

 

「フッ、ほざけ。そう言うのだったら俺が報告を受けている隙を狙った方がよかったんじゃないか?…それとも、あまりの実力差に隙なんて関係ないって理解してしまったのかな?」

 

「ッ!」

 

「落ち着いてリーナ。挑発に乗っては相手の思うつぼよ。ただでさえエリカを人質に取られているのだから…」

 

 

他の戦場とは打って変わって、終始カオスだった空気から抜け出して戦闘を開始した零次達。白兵戦最強格のエリカとリーナ、魔法力は世界レベルの深雪の三人は確かに強力ではあるが、目の前の存在は暴力(総司)知性(魔法)を与えてしまった様な存在だ。三人が気づかない内に自然な流れで香澄との通話を終わらせた零次は、ハンデとして借りていた通話用端末を握りつぶして音を上げた。

その音で反応できた三人は、当初こそ猛攻に耐え凌ぐことが出来たものの、もう一つギアを上げた零次の速度について行けなくなり、とうとうエリカが捕らえられてしまったという訳だ。

 

 

「どうやらウチのお仲間が、北山雫が隠れて居るであろう家を爆破したってよ。今から死体探しだ」

 

「そんな…!?」

 

「平和の国ステイツでよくもそんなことを…!?」

 

「ステイツが平和は言い過ぎだろ」

 

 

そう言って零次は、足下のエリカを蹴り上げて、その首根っこを掴む。

 

 

「コイツを解放して欲しかったら、さっさと尻尾巻いてお家に帰れ。そうしたらこの赤髪も見逃してやるよ」

 

「その要求をワタシが要求を呑む必要は無いって分かって言ってる?」

 

「へえ、俺の情報ではスターズ総隊長殿は随分と甘ちゃんだったはずだが?良いのか?日本でのお友達が死ぬんだぞ?」

 

「……ッ!」

 

 

その言葉を聞くと、リーナは拳を強く握りしめ、肩をワナワナと震わせて、何も言わなくなってしまった。零次はそれを、言い返すことが出来ないのだと捉えた。

 

 

「…本当に甘ちゃんだな。前もそうだったが、もう少し手応えがあると思っていー」

 

 

言葉の途中で零次が反射的に腕を出してガードを行う。すると即座にガキィン!!と甲高い金属音が鳴り響いた。しばらくすると、何も無かったはずの場所から突然リーナの姿が浮かび上がる。それと同時に震えていたリーナが消えた。

『仮装行列』。本作品において最早おなじみの対抗魔法。今回は偽物の情報体と、その上に造り出した仮のテクスチャを貼り付ける事で、本体が移動しているにも関わらず、丸で硬直して動けないかのような認識をさせることが出来たのだ。

 

一瞬呆気にとられた零次は、お返しとばかりに身体強化で総司レベルにまで膨れ上がった身体能力を用いたキックを放つ。それをガードして受け流そうとするリーナだが、あまりの威力に大きく吹き飛んで後ろの木に激突してしまう。だがその瞬間を狙った深雪の氷の弾丸。零次はコレを硬化魔法で耐えきって反撃をしようとして…危険を感じて後ろに飛び下がった。

 

弾丸を全て回避した零次は再びエリカを捕らえて状況を元に戻そうとするが、そこで

 

 

「アクティベイト!ダンシング・ブレイズ!」

 

 

の声に反応して周囲を見渡す。見ると飛んで来ているのは無数のナイフ。どうやら先程吹き飛ばされたときにナイフも吹き飛ぶように小細工を掛け、結果的に包囲状態からの攻撃を加えようとしたのだろう。だがたかがナイフだ…と考えそのまま突っ切ろうとする零次。しかし目の前から飛んで来ているナイフをよく見た所、別の魔法が掛かって居たために、護符を取り出して結界を張って防御する羽目になった。

 

エリカの方を見やると、深雪に起こされて立ち直っている。しかもまだ戦意は途切れていない。明らかに勝ち筋があるとふんでいる目だ。

面倒だなァ…と思いながらも、零次は再び三人に突撃していく…




魔法科世界の秘匿通信


・謎の三人組:オリジナルのネームドキャラ。今後情報がドンドン出てくるはずだ。



・リーナのちょっとした強化:実は本作のリーナは小規模の魔法であればブリオネイクが無くてもFAE理論を応用した技術を扱える。今回は『ダンシング・ブレイズ』を発動させた瞬間に、『分子ディバイダー』を追加発動させている。だから零次は結界防御を優先した。

アンケート取ります。タイトルは『今来訪者編だけどその次は?』です


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来訪者編 その二十

アンケートを星を見る少女編は書かなくて良い感じですかな?

あ、今回ギャグないです。


「ふふふ、そんな攻撃止まって見えますよ?」

 

「クソ、嘗めやがって!」

 

「落ち着けレオ、ここで冷静さを欠けば相手に更に有利を取られるだけだ」

 

 

零次の反撃を皮切りに、各地でギャグ時空が崩壊してしまっていた。先程まで公瑾で遊んでいたレオと達也は、一転して劣勢に追い込まれている。公瑾の幻術を破ることが出来ていないのだ。レオの『薄羽蜻蛉』はモチロンのこと、達也の『術式解散』すら命中しない。これは公瑾が視覚的にも情報的にも作用する幻術を用いているため、視覚で捉えきれないレオと『精霊の眼』で捉えられない達也。彼らは公瑾に対して打つ手が無くなってしまっていた。

 

一方公瑾の方は、時たま二人とピクシーに向かって攻撃を行う。この点が厄介であった。二人にだけ攻撃が向かうのならまだしも、ピクシーに攻撃をされると必ずどちらかがカバーに入らねばならない。達也は『再生』、レオには『硬化』があるとは言え、このまま続けていてはいずれ削りきられてしまう。

 

 

「うおおおお!『パンツァ-』!」

 

「…っ!よせ、レオ!」

 

 

痺れを切らしたレオが音声認識によって硬化魔法を起動する。だがそれに待ったを掛けたのは達也、何かに気づいた様だ。しかしそれは時既に遅く…

 

 

「…!?ぐああああああ!」

 

「レオ!」

 

 

突如としてレオのCADから電撃が奔り、レオを襲う。急いでレオの元に駆け寄る達也。見るとレオは気絶こそしていないものの、生身に直接ダメージを受けた影響もあり、立ち上がれないでいるようだ。

 

 

「な、何が…?」

 

「嫌ですねえ、そんな分かりやすすぎる起動式展開など我々にとっては餌でしかありません」

 

「…一瞬の内にレオのCADに『電子金蚕』を紛れ込ませたな」

 

「御明察」

 

 

達也の推測通り、レオのCAD内には『電子金蚕』が仕込まれていた。しかし公瑾はレオのCADには一切触れてはいない。では何故『電子金蚕』を仕込めたのか。それは公瑾の言葉の通り、レオの『パンツァ-』の起動式発動の詠唱に、それに紐付けさせられた呪いという形で一瞬で仕掛けたのだ。これはレオが音声認識で魔法を使うことを知っていたからこそ出来た攻撃であろう。

 

 

「…ピクシー、レオを頼んだ」

 

[承知いたしました]

 

 

ピクシーにレオを預けた達也はおもむろに立ち上がり、公瑾と相まみえる。どうやら一人で戦闘を行うつもりのようだ。

 

 

「おやおや、あまり無理をなさらないほうがよろしいのでは?全力を抑えられた状態での戦いというものは実にストレスの溜まるものでしょうに」

 

「……」

 

 

公瑾の発言に、達也は自分の正体がばれていることを察した。今まで見せてきた攻撃は全て達也なりには本気の攻撃だが、確かに正体を隠すためにセーブをしてきた意識はある。特に『フラッシュ・キャスト』や『マテリアル・バースト』などだ。だが達也の本気を知っているのは四葉に関わる人間と、何処からか情報を入手してきている総司ぐらいのものである。だからこそ、そのことを知っていると言いたげな意味深な発言をしてきた公瑾は、恐らく総司に類する情報収集力を持ち合わせていると考えた。ならば彼をこのまま帰らせるのは、本来の目的を差し置いても達也にはあり得ない行為だ。

 

 

「お一人で挑みに来る度胸を評価して、私も体術で応戦してあげましょうか?」

 

 

そう言って構えを取る公瑾。その構えには隙は見られず、体術の面でも公瑾が一流である事を雄弁に語る。達也は覚悟を決めて構えを取り返す…

 

 


 

 

「『雷童子』!」

 

「『燃えろ』!」

 

 

そして距離の離れた幹比古達と束の戦いも、ようやく本格化してきた。ギャグ補正がなくなり、正直に言って美月とほのかが戦力的に使い物にならなくなったので、幹比古が単身で束の相手をしている状態だ。しかし結果は意外にも拮抗している。その理由として、束の魔法の制約と、単純に幹比古が強すぎるというのが挙げられる。

 

束の魔法は言霊を利用しているため声に『意味』を乗せるだけで発動できるという利点があり、更には声を使って発動している点から現代魔法にも劣らない発動速度を誇る…が、相手に直接的に干渉できるような術は、相手の魔法力と自身の魔法力を比較して、大きく上回っているという条件下で発動できる。魔法師でない相手なら小声で死を呼ぶ言葉を発せば簡単に殺してしまえる。だが幹比古は神童と称えられる程の実力であり、更に精霊に高レベルで干渉できる総司の傍に居た影響で、その魔法力は世界レベルに到達していた。こうなると束は弱い、こちらから相手に物理的な攻撃を行う魔法しか使えなくなる。それに対して幹比古は発動速度こそ劣るものの、威力ではむしろ勝っている為、自分より遙かに実戦を重ねてきたであろう束と高レベルな勝負を演じれていたのだ。

 

 

「っち、『消し飛べ』!」

 

「甘い!」

 

「結界堅すぎ…!?」

 

「そして、そこに行くのは命取りだ!」

 

「っ!きゃっ!?」

 

 

苦し紛れに放った攻撃も、幹比古が展開した結界に呆気なく弾き飛ばされてしまう。そんな中で高い草が多い場所に足を踏み入れてしまった束。その隙を逃すまいと『乱れ髪』の魔法で束の足を拘束して転倒させる。転倒した束は即座に立ち上がろうとするも、両腕も草で絡め取られてしまい、身動きが取れなくなる。そして追撃を加えるために幹比古がこちらに走り込んでくる。

 

 

「…あーあ、まさか総司様以外にこの魔法を使うことになるなんて…」

 

 

その時の束の表情は、好きな人に最初に食べて欲しかった手作りのお菓子を、空気の読めない男子につまみ食いされた時の女の子の様な表情だった。

 

 

「終わりだ!」

 

「そっちがね」

 

「…何だって?」

 

 

勢いよく鉄扇を振り下ろした幹比古だったが、その鉄扇は何故か地面に突き刺さる。先程まで束が居たであろう場所の地面にだ。

 

 

「一体どこに…っが!?」

 

 

瞬間、大きく吹き飛ばされる幹比古。そのあまりの威力は木々を軽く数十本なぎ倒して、更に幹比古の体を痛めつける。

 

 

「今…何が?」

 

「あの人、ものすごい速さで吉田君の後ろに…!」

 

 

いきなりの光景に隠れているにも関わらず、声を上げてしまうほのかと美月。そしてその声を聞き取ったのか、束が二人の方を向く。その表情は獲物を見つけた肉食動物のようだ。その獰猛さに二人は顔を蒼白にさせる。束はその手を二人に向けて…

 

 

 

 

ドォン!!

 

 

という轟音と共に束へ飛翔物が飛んできた。その飛翔物を軽く避ける束。その際に目についたのは紫の長髪。束は飛んで来たのが公瑾であると察する。そして公瑾が飛んで来た方向に目を向けると…()()()()

 

 

「…俺の友達に手を出すな!」

 

「…総司様♡」

 

 

目に明確な殺意を持った総司が、既に腕を振りかぶり拳を放つ用意をしていた。その総司を恍惚とした表情で見る束。総司は何か胸騒ぎを感じながらも、音を置き去りにする速度で拳を放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バシィ!!!

 

 

「…待ってた♡」

 

「…マジ?」

 

 

そしてその拳を、束は容易く受け止めてしまう。そして返す形で総司の腹に蹴りを入れる。尋常ではない威力によって吹き飛ぶ総司。その際に、総司は聞き慣れては居るが自分の体からのは初めて聞く音を聞いた。それすなわち骨が折れた音であった。

 

総司が蹴りをもらったのは左側の体であり、その部分はかつて無いほどに痛むが、その程度で動きが鈍る総司ではない。吹き飛ばされる中、空中で体勢を整え地面に着地、右腕を地面に突き刺し速度の減衰を図る。そして完全に停止したその時、背後から二つ程物体が飛んで来ているのを感じる。

 

振り返ってそれらを弾き飛ばそうとする総司だが、()()()()()()()()()が目に入り、即座に受け止める方向にシフトする。総司の視覚情報は実に正しく、飛んで来たのはエリカと深雪であった。その二人の息がまだある事だけを即座に確認した総司は、死なない程度に二人を横に投げる。そして正面で腕をクロスさせる。間一髪で飛んで来た零次の拳をガードすることに成功する。攻撃を防御されてしまった零次だが、その表情は余裕そのものだ。その証拠にいつの間にか横に来ていた束の蹴りを右腕でガードする。が、腕一本分空いたガードを貫いて零次が強力なアッパーをかます。モロに喰らった総司は、脳震盪で動きが止まる。その隙を逃す二人では無かった、束と零次は二人同時に攻撃を仕掛け、総司を吹き飛ばす。

 

先程よりも不安定な体勢で吹き飛ばされた総司は受け身を取ることも出来ずに遙か遠くまで飛んでいく。木々にぶつかりようやく止まる。よろよろと立ち上がった総司、そんな総司を眩い程の閃光が襲う。思わず顔を伏せる総司。再び顔を上げたとき、追撃を加えに来た零次を目視する。速度こそ圧倒的だが、零次の強化は総司の身体能力と同等レベルである。本来なら反撃を考慮すべき条件であるはずなのに、零次は実に無防備に突貫してくる。何かの罠かと警戒しながらも全力の拳を放ち、零次の土手っ腹に風穴を開けようとして…零次の硬化魔法に止められた。

 

総司は困惑した。あの速度で突撃しているにも関わらず硬化魔法に固定の異能を使うのかと。そしてそれを即座に否とする。考えられる可能性は一つ、()()()()()()()()()()()()()ということである。何故発動していないのか、その問いに答えは返ってこず、零次からのとびきりの左ストレートを顔面に喰らう。そして追いついた束が小悪魔的な表情を浮かべて告げる。

 

 

「…『吹き飛べ』」

 

 

直後、吹き飛んでいる総司の腹に大きく穴が空いた。そして背後の木々を十本ほど貫いて停止する。

 

 

「…カヒュー、カヒュー」

 

「…いい顔になってるね、総司様♡」

 

 

総司の目は、最早戦意を宿すという領域を超えていた。その目からは光が消えかけている、有り体に言えば死に体だ。零次に恐ろしいものを見るような目で見られている事も気にせず、束はうっとりとした表情で死にかけている総司を眺めて満面の笑みを浮かべていた…




急展開注意(遅刻)

主人公が即オチ二コマで死にかけるのは此処ぐらいでは?


魔法科世界の秘匿通信


・総司:思いっきり罠に引っかかった。腹に空いた穴は、鰤のアヨンにやられた乱菊さんのイメージ。HPが素で10000あったなら、今は5。一応この状態でも原作スターズの正規軍人より強い。


・束:意味の無い強化という訳でも無い。言うなれば、『言霊』は他者では無く、自分に発動することでより高い効力を発揮する。


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来訪者編 その二十一

総司がピンチだ、みんな彼に元気を分けてくれー!!


世界が止まったかのように、一高生全員の動きが止まる。あまりにも一瞬で状況が大きく動いたため、その処理に時間が掛かっているというのもあるが…

 

 

「総司が…やられた?」

 

 

達也が信じられないものを見たような顔で呟く。回復した幹比古が式神による視界共有を行い、戦場の全員に満身創痍の総司の姿が映る。

ほのかと美月は恐怖のあまり声が出ていない。無理もないだろう、総司が止めなければあの力の化身とも言うべき恐怖に襲われていたのだから。そして幹比古は自分が生きているという事実に驚愕している。手加減されたのかは知らないが、まさか総司を身体能力で圧倒する存在が居るなどとは思わなかったのだ。

 

 

「…これマズいんじゃない?」

 

 

青い顔でそう言ったのは、先程総司に命を救われたばかりのエリカだ。まさか自分達の切り札がこうもあっさり撃沈するなどとは予想だにしなかった。

 

 

「総司君…嘘だよね?」

 

「クソッ!待ってろ総司、今助けるぞ!」

 

「無茶だ桐原!」

 

 

泣きそうな顔で総司の名を呼ぶ壬生。あまりの怒りに冷静な判断が出来なくなっている桐原。しかし、この戦場で最も冷静な人間の一人であった範蔵がそれを制止する。

 

 

「…まずは状況の整理から始めようか」

 

「啓…」

 

 

声音や発言こそ冷静だが、その顔に隠しようのない怒りを滲ませた五十里、そんな五十里を見て千代田は怒りを収めることが出来た。

 

 

「…そうですね、事実確認を早急にした方がよさそうです」

 

 

インカムによる通信を行いながらも、達也は今か今かと『再生』を放つために構えて隙をうかがっていた。その間にエリカ達と合流し、レオも回復している。

 

 

「あの少女…確か不二原と名乗った少女が、総司を身体能力で倒してしまった…大本はこれですね」

 

「到底彼女から想像できるような力じゃないわね…」

 

「それは総司にも当て嵌まるから参考にできないぜ」

 

 

達也の事実確認に合いの手を入れるエリカとレオ。こんな時でも息の合うコンビであるが、ここで幹比古からの情報が入る。

 

 

「…彼女は『言霊』の魔法を使っていた。すると一つ考えられるのが…」

 

「『言霊』の音に魔法を乗せるという性質を利用して、自分自身に魔法を掛ける自己催眠の類いか」

 

「催眠?それとあの動きがどう関係してくるのよ」

 

 

幹比古から引き継いで魔法の正体の考察を述べた達也に、千代田から質問が飛ぶ。だがその質問は達也達二人以外が最も説明を求めていた事であった。

 

 

「…自己催眠を行うと、読んで字のごとく自分が催眠状態になるんだ」

 

「それは分かるけど…」

 

「肝心なのが、コレを使えば自分が体に負担を掛けないように普段しているストッパーを外す事が容易いという事だ」

 

「ストッパー?」

 

 

尋ねるような桐原に対し、インカム越しに頷きながら達也は言葉を紡ぐ。

 

 

「俺達は無意識に生命活動を脅かしかねない活動を避けるように本能が動く。それを催眠で自由自在に操ることで自分の真の限界を引き出せると言うことだ」

 

「でもそれなら普通の催眠魔法で良くない?何で『言霊』だから何かあるって思ったの?」

 

「他の催眠魔法では仮に無抵抗だったとしても相手のエイドス・スキンを破らなければならない関係上、自己催眠以上の魔法演算領域を使わなければリミッターを外す事は出来ない。だから普通の催眠ではなく、自分自身で掛けられる催眠である必要性がある。そして催眠中は細かな指令を受け取れない程、思考力が低下する。自己催眠をした上で追加の魔法を掛けるのはほぼ不可能だ。だが『言霊』なら言葉に意味を持たせればその意味を正しく、そして同時に実行できる。自己催眠と自己強化を両立出来るんだ」

 

「…そんなの、勝てるわけないじゃない」

 

 

絶望したかのように言葉を発したリーナには今頃、古式魔法師が恐ろしく見えているだろう。だがその古式魔法師である幹比古から一つの考察が飛んでくる。

 

 

「…かなりの確率だけど、彼女の自己催眠は恐らく時間と回数に制限が掛かって居るんじゃないかな」

 

「どうしてそう思うんだ?」

 

「こんなに凄いことが出来るなら、最初から使っていれば良かったのに、彼女は総司が来るのを確認するまで出し惜しみをしていたかったみたいだからだよ」

 

「なるほど…」

 

 

幹比古の考察では、彼女のあの力は時限制であるという考えだ。確かにそれならば勝てる可能性があるだろう、だが彼らにはまだ確認しなければならないことがあった。

 

 

「そう言えばさっき、不二原の魔法を総司がくらってたよな」

 

「確かに不自然だ。アイツは基本的にエイドスへの干渉を行わなければならない魔法技能に対する絶対的な対抗手段を持つ。それなのに破られるなんて、そもそも自分から解除した以外に考えられない…」

 

「あの…一ついいですか?」

 

 

総司の異能を貫通する不二原の『言霊』。威力もそうだが、その圧倒的な汎用性や異質さに驚愕しっぱなしの一同。早く総司を助けなければならない焦りも混じっていた故に、彼の異能の無効化も『言霊』によるものだと結論づけてしまいそうだった。ほのかが声を上げるまでは。

 

 

「どうしたほのか?」

 

「さっき総司君が魔法でダメージを受ける前…とっても嫌な感じの光を見たんです」

 

「光…?」

 

 

その光が一体どうしたのかと一同は疑問符を浮かべる。ただ一人、ほのかの家が光のエレメンツであり、光に対する感受性が高いことを念頭に置いて考察をした達也には、一つの回答が浮かんだ。

 

 

「…『邪眼(イビル・アイ)』か」

 

「『邪眼』?それって確か洗脳を可能にする系統外の精神干渉魔法ですよね?それで総司さんを洗脳できるんですか?」

 

 

達也の出した結論に、美月が異を唱える。あまり聞きなじみのない『言霊』と違い、『邪眼』は精神干渉魔法としては比較的に名前が知られている…それ故に、彼女は『邪眼』を完全に理解したつもりでいたのだ。だが、この場で達也以外に二人、正解に達した者達が居た。

 

 

「…光波振動系の方のパチモンか」

 

「本物の方の『邪眼』は総司君には効かなかったしね」

 

 

それはかつて本物の『邪眼』に襲われ、直後に総司の異能によって助けられた桐原と壬生だ。二人の発言に頷きながら、達也は考察を述べる。

 

 

「光波振動系の『邪眼』はあくまで洗脳を行う光を放つ魔法だ。総司の異能では防ぐことの出来ないタイプの魔法になる」

 

「でも、それじゃあ洗脳をするのにかかる技量が本物とダンチよ?それに総司に対して普通の催眠って効くのかしら…」

 

「別に完全に催眠する必要はありません。一瞬でも、総司が自分の異能を使っていると誤認させれたら、その隙に魔法を撃ち込んでゲームセットです」

 

 

そう、今回の戦闘において、実は追い込まれたのはパラサイトでも一高生達でも無く、総司個人だったのだ。

 

総司を超える身体スペックを一時的に発揮できる束、エイドス干渉ではない普通の催眠で総司の魔法を封じたのは、光の発生源からして恐らく周公瑾だろう。そして、時限制の束や直接戦闘では勝ち目が薄い公瑾を護衛する役目もある零次。この三名の実力者に加えて、パラサイトという倒さなければならない存在を用意して総司を誘い込む。

 

この計画は実は直近に、レイモンドがパラサイトをおびき寄せる餌を撒いた時に考えられていた。パラサイト達は罠ではあると思えど、大して考えもせずに今日の日を迎えようとしていたし、零次に至ってはまた総司と正面からやり合うつもりだったらしい。そこに公瑾と束が入れ知恵をした形となる。

 

こうして状況確認や、相手の暫定的な戦術を考察できた。ならば次は…

 

 

「それらをふまえた上で、どうやって総司君を助けるかですね…」

 

 

神妙な顔をして呟く深雪…彼女は若干安心していた。みんなが真面目に動くのだ、いつものようなカオスさはない。自分がツッコミに割り振られている残酷を嘆く普段よりも、今この戦場が気持ち楽かもしれない…そう思っていたのだ、この時までは…

 

 

「俺に考えがある、アイツを生かした上で、奴らを倒す方法が」

 

 

頼もしい兄の言葉に、喜色を浮かべながら見上げた深雪。直後、その表情に似つかわしくない台詞を聞いて、彼女は絶望のどん底に落ちる…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「奴らを…ギャグ時空内に閉じ込めるんだ」

 

「「??????????」」

 

 

お前は何を言っているんだ(困惑)

 

頭に大量の疑問符を浮かべ、フリーズしたサイボーグウマ娘のようなアホ面を晒す深雪とリーナ。そんな二人を余所に、「確かにその方法ならいける」とか、「希望が見えて来たな」などと言い出す面々。二人から、特に深雪からすれば、今後もこの異常者共と交流していかねばならないという絶望の方が大きい。希望など見出せない。だが残酷にも時は進んでいく。

 

 

「ならそれで」

 

「「「「「異議無し」」」」」

 

 

もうダメだよコイツら。来年の一高は終わったかも分からんね。




俺疲れてんのかな…(自分が書いた文章を見直して)


魔法科世界の秘匿通信


・ギャグ時空なんて無いし、そんな魔法も無い。彼らの思い込み。



・『言霊』は本作における(多分)オリ魔法の一つ。言霊を用いるにあたって文字数制限も特にない。今回は『橘総司より強い』という自己催眠を束が掛けて、肉体的、魔法的にリミッターを外し、更についでで世界を騙す魔法本来の使い方も用いる事で、超強力な強化魔法を掛けられる


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来訪者編 その二十二

俺は…何を書いているんだ?


達也が大まかな作戦概要を話し始める。その手には何故か通信端末がある。全員合流しているというのにも関わらずだ。

 

 

「まずはだな、気さくな態度で奴らに話しかけるんだ」

 

「ナンパか何か?」

 

「なるほど…そうやって相手を油断させて、知らず知らずのうちに領域を広げてしまおうって事よね?」

 

「その通りだ」

 

「エリカ!しっかりして!?貴女疲れてるのよ!」

 

 

おおよそ敵に対してやって良い事の範疇を超えている達也の提案。それに同調するエリカに、すでに深雪とリーナは疲労困憊だ。疲れてるのは君達だよ、深雪にリーナ。

 

 

「次に、なんやかんやで効果切れまで時間を稼ぐ」

 

「なんやかんやって何ですかお兄様!?」

 

「そしてなんやかんやで総司を復活させる」

 

「そのなんやかんやを説明しなさいよタツヤ!」

 

 

なんと、簡単に察する事は出来たが、やはり達也の作戦とは、作戦とも呼べないクソほど頭の悪いものだった。そもそもギャグ時空で戦うってなんだよ、まともな作戦が最後の隙を突いて『再生』させるしかないではないか。因みに最後をなんやかんやにしたのは『再生』を隠す為だと気づいた為、最後の達也の発言には深雪は何も言わない。

 

 

「…こんな感じで大丈夫だよな?()

 

「「…っえ?」」

 

『問題なし。総司君が近くに居るならその位適当でも何とかなるよ』

 

「雫!?貴女、生きていたの!?」

 

 

どうやら達也は端末のスピーカーモードをオンにして、どこかと通信しながら作戦を話していたようで、そしてその相手は先程零次が死んだと言っていた雫であった。零次からその知らせを聞いていた深雪とエリカは驚愕する。

 

 

「どうした深雪?雫が生きていることの何が問題なんだ?」

 

『それはね達也さん、さっき私が襲撃されたことを知ってたからじゃないかな?』

 

「何だって…?」

 

 

雫を狙うなど命が惜しくない奴らなのだな、と思いながら達也は雫に確認を取る。

 

 

「それで?その襲撃犯はどうなったんだ?」

 

『ああそれはね…』

 

 

 


 

 

 

場面は変わってUSNA。

 

大規模な爆発が起こった住宅街、その爆心地とも言えるであろう跡形も無くなったレイモンドの家。その中心で、伸びている三人の大人と一人の可憐な女子高生。ただし、その女子高生は片手に銃らしきものを構えて居るとする。かつて家だったものが木っ端微塵になった事に対してか、それとも目の前で行われた蹂躙劇の衝撃に何も言えないのか、口をパクパクとさせる少年、レイモンド。そんな光景に目を向けながら…

 

 

「襲撃犯なら、倒したよ」

 

 

何気ないことかのように言い放つ雫は、圧倒的な強者の風格を漂わせていた。

 

 

どうして爆発を受けたはずの雫が生きて、それも無傷なのか。それは総司が行きがけに手渡した魔法、『天岩戸』の効果が関係していた。

元々『天岩戸』は、総司の考えでは姿を隠すだけの魔法であった。だが総司の雫を守りたいと言う想いを受けた精霊達が、彼が付けた魔法名にちなんで、魔法に変化をもたらしたのだ。

 

『天岩戸』は伝承の通りでは天照大神を岩戸から力尽くで出そうとしても、岩戸は少しも動かなかったとある。これを反映して、魔法『天岩戸』は発動者を半径三メートルほどの別次元へと格納し、発動者のサイオン切れか、解除の意思がなければ、恒久的に発動する防御魔法となった。弱点として、他の魔法を発動しようとすれば、自動的に解除されるというものがあるが、完全に相手が背を向けたときに解除すれば大した問題は無い。

 

今回は『天岩戸』解除後に即座に『風神雷神』を放って無力化。しかし相手もプロである為、接近戦で制圧してこようとしたが、三人ともあえなく『フォノン・メーザー』で撃沈した。単にそれだけの事だが、それだけで雫の戦闘技能が飛躍的に上昇しているのが分かる。これは総司の負担を減らそうと雫が努力した証なのだ。

 

閑話休題(それは置いといて)

 

 

「こっちは今から尋問始める所だから忙しくなる。そっちはそっちでよろしく」

 

『総司が心配じゃ無いのか?』

 

「へーきへーき、どうせ生きてるんでしょ総司君?ならすぐに復活するよ。あ、でも、可哀想だからなるべく早く助けてあげて」

 

 

そう言い残して雫は通話を切って、足下を見下す。

 

 

「それじゃあ…どこの所属か教えてもらっても良いかな?」

 

「「「……!(コクコク)」」」

 

 

襲撃者達に向けたその目は、後にレイモンドが「まるで怒った時の総司の殺気の様な迫力が宿っていたようだった」と評する事になる…

 

 

 


 

 

 

「…と言うことだ、さっさと作戦を実行するぞ」

 

「シズク…とても恐ろしい女ね…」

 

「リーナ、一応言っておくけれど、最初は普通の子だったのよ」

 

「俄には信じられないわね…」

 

 

雫の恐ろしさにおののくリーナ。そんな時、壬生が達也に報告を挙げた。

 

 

「達也せんせ~、レオ君が勝手に突っ込みました~」

 

「「…え?」」

 

「何だって、それは大変だ」

 

 

一ミリも大変そうだと思っていなさそうな達也と、ガチ焦りしている深雪とリーナの表情の差で、まともな人間とそうでない人間を判断することが出来る。言わずもがな、どちらがおかしい奴かは言うまでも無い。そして突撃したレオは…

 

 

「ウホウホ、ウホッホホ…(すいません、私こういう者でして…)」

 

「あら、ご丁寧にどうも」

 

「おいお嬢、流れがあまりに自然すぎて異常事態に気づけてねえな?」

 

「言うほど自然ですか?」

 

「モチロン気づいていますとも!えーい!」

 

「ウホー!?(バレたー!?)」

 

「「レオー!!」」

 

「ウルトラマンレオが二人…!?」

 

「どっちが本物なんだ…」

 

「(そもそも変身して)ないです」

 

「まったく、レオの奴…気さくな挨拶から入ろうって言ったじゃないか、そんなかしこまって行ったらバレるに決まっているだろう…」

 

「え!?あれ態度の問題なの!?」

 

 

達也の呆れた風な態度の物言いにツッコむリーナ。その背中にはツッコミエースとしての風格が漂っているが、非常に残念なことに彼女は三月で本国に帰ってしまう。その事に深雪は心が更に深く沈み込む。神様は死んだってルカ言ってたからね、しょうが無いね。

 

因みにレオは無事でした。それによって確認できた事がある。それは…

 

 

「レオが攻撃をくらっても死ななかった、と言うことはギャグ時空の展開は完了していると言うことだ」

 

「次はどう言う手を使いやしょうかお頭ァ!」

 

「…早く話せ」

 

「とりあえず桐原先輩はそのテンションで突撃、シガリータ・シンゴリファ間違えた服部先輩はテンションぶち上げて突撃してください」

 

「突撃しか策がないのですかお兄様!?」

 

「いいかい深雪、今回の作戦において知性は無駄だ。極限まで脳を空にしろ、そうすれば…」

 

「そうすれば…?」

 

「つまりドラゲナイって事だ」

 

「意味が分かりません!?」

 

「それって根拠とかあるのタツヤ?というかそもそもドラゲナイって何よ、こっちはギャグ時空というものを理解していないって言うのに」

 

「根拠なんかねえよ、うるせえよ、黙れよ、根拠なんかねえよ、勢いこそが正義、根拠なんかねえよ、正しいのは俺」

 

「達ゆきで草」

 

「達ゆきってなに!?」

 

「粉雪の亜種だよ」

 

「達也君=達ゆき=粉雪の亜種。つまりは達ゆきは粉雪…というよりか雪と同じで水分で出来ている。達也君は人間、僕達と身体構造は同じ…ならば、水分=粉雪=達ゆき=達也君=僕達という式が成り立つ。これによって僕達人間は水分である事が証明できるQ.E.D」

 

「魔法科高校生らしい方程式…誇らしくないの?」

 

「(誇らしくは)ありますねぇ!」

 

「もーう!いい加減にしてちょうだい!突撃するならするでさっさと動くわよ!」

 

「「「「アイアイサー」」」」

 

 

わいわい…がやがや…

 

 

「早く…助けて…」

 

「…苦労してんだな、お前も」

 

「いや…別にしてないが…」

 

「してないのかよ」

 

「ウッホーウッホーウホッホホー…(なんなら元凶そいつだしな…)」

 

 

死んだ目をしながらバカ共を眺める総司と、その横で腕組みで立ったままの零次、たまたま飛んで来たレオの三人の会話は、おおよそ戦場、しかも敵を含めてのものとは思えない程の緊迫感の無さが漂っていた…




魔法科世界の秘匿通信


・『天岩戸』:本編で説明があった通りの魔法。因みに異空間を形成するとは言えども、エイドスの変更履歴が残るため、達也の『術式解散』で解除されてしまうが、言ってしまえばそれしか破る方法が無い。



・原作キャラのキャラ崩壊:重度のキャラ崩壊注意です(今更)


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来訪者編 その二十三

雫ちゃんも『覚悟』決めてくれないかな…(意味深)


「さて…とりあえず、腰を据えて話し合おうか」パチッ

 

「ええ、私はいつか貴方と、議題はともかく議論を交わしたいと思っていました」パチッ

 

「そうか、俺はまったく興味が無かったよ。それはともかくとして、単刀直入に聞くが、奴ら…パラサイト達を援助する理由はなんだ」パチッ

 

「そんなつれないこと言わないでくださいよ…貴方は世界でも上位に位置するほど理知的だ…そんな方との対話を、要件だけを済まして終わりにするのは、少々抵抗が…」パチッ

 

「あ、王手飛車取りだ」

 

「おや、話に熱中しすぎましたかな?」

 

「なんでテメエらは戦場で将棋してんだァ!」

 

「「ギャース!!??」」

 

 

凄い勢いで吹き飛ぶ達也と周公瑾。猛烈な風が巻き起こるが、不思議な力で地面に置いたままの将棋盤とその上の駒は一切動いていない。

 

 

「クッ…!なんて事をするんですか零次殿!折角の対局中に…!」

 

「だ か ら !戦場でやってるのがおかしいって言ってんだよ!」

 

「馬鹿なことを言うな、零次。将棋は日本に伝わる古き良き戦争シュミレーションだ。つまりこの対局の勝敗でこの戦いの決着が付くんだ」

 

「んな訳ねーだろ!?もうオリジナルを引っ捕らえて持っていけば俺らの勝ちなの!そんな盤上のお遊戯で勝敗がひっくり返されてたまるか!」

 

「万丈?(難聴)」

 

「万丈じゃねーし難聴で韻踏んでんじゃねーよ!」

 

「ところで零次。お前がギャグに乗らなかった場合、誰が悲惨な目に遭うのか知っているか?」

 

「…な、何を言い出すんだお前…(悲惨な目?まさかあの双子じゃないだろうな)」

 

「万丈だ」

 

「いや知らねーよ!?さっきから誰なんだよ万丈、つーか難聴をそのままにするな訂正しろ!今時急な難聴とかラノベ主人公か貴様ァ!」

 

「いやラノベ主人公だが?」

 

「クソッ、立ちはだかる原典の壁ッ!」

 

 

頭を掻きむしって状況を悲観する零次。このままではギャグで時間を無駄に浪費してしまう…と。

一方で束の方はというと…

 

 

「なんでコイツらに攻撃当たんないのよ!?」

 

「THE answer is …」

 

「俺達がガンダムだからだ…!」

 

「GO!アクエリオーン!!」

 

「「ほど~けて散るのなら~、す~べてが終わった後~にして~」」

 

「何か微妙に違ってない!?」

 

 

華麗なるマフティーダンスに翻弄されながら、束は攻撃の手を緩めない。何故ならば、もうタイムリミットが迫っていたからだ。一般的な魔法師相手に使うのならば大して制限は掛からないのだが、総司を超えるレベルの身体能力を出そうとすると、なんと効果時間が3分しか持たないという、お前はどこのウルトラマンだ案件となっているのだ。いやこの場合そこまでしなければ追いつけない総司がおかしいのだが。

 

そんなわけで、これ以上ギャグに染まれば明日の目覚めは家のふかふかのベッドの上ではなく、冷たい独房のベッドとなりかねない。別にそんなことがあり得るはずが無いというのは彼女がこの場で最も理解している事ではあるのだが、それでもこのままグダグダすると時間切れで負けとなる。故に拳を振るい続けるのだが…

 

 

「ッ!?また避けられ…アイタッ!」

 

 

だがまたしても回避され、更には近くの木に頭をぶつけてしまう。

 

 

「おかしくないコレ!?流石の私もこの身体能力は持て余すけれど、近くのものにぶつかるほど使いこなせていないわけじゃ…」〈拳〉80 → 100

 

 

頭を振って後ろを振り返った束の目に、何かテロップのようなものが映る。

 

 

「……」

 

〈拳〉80 → 100「…あっバレた?」

 

「シャベッタアアアアアアアア!?」

 

 

しばし見つめ合った(?)後、言葉を発してそのままどこかへ立ち去ってしまったテロップに束は驚愕を隠しきれない。

 

 

「え、何今の、何今の!?」

 

「知らんのか、彼はTRPGのダイスロールの判定を行ってくれる君だ」

 

「え!?今の人間だったの!?それにしては明確に浮遊してたし着ぐるみって感じでも無かったし!そもそもテロップの着ぐるみって何よ!?」

 

「おいおい、アンタ疲れてんじゃねえのか?ただのテロップが人間な訳ねえだろ」

 

「その発言がまずおかしいことを自覚してくれない!?」

 

 

束の言う通りおかしいのだが、誠に残念ながら今のはただのテロップ以外の何物でも無い。今のご時世、テロップの一つや二つ、自我を持って喋る時代だ。これが多様性ってやつなんですね…(白目)

そして此処で、束が一つの事実に気づく。それは…

 

 

〈マフティーダンス〉10000 → 自動成功

 

 

一高生側の判定を行っていたテロップに表示されている数値がバグっていたのだ。

 

 

「は、はあ!?その数値何よ、卑怯よ!?」

 

「うるさい!卑怯もらっきょうも金平糖も無いわ!」

 

「え?今アタシらっきょう持ってますよ?」

 

「私は金平糖持ってる」

 

「あったわ!」

 

「あったわ!じゃないのよ!」

 

 

怒り心頭の束は、超速度でテロップに接近して、そもままの勢いで破壊してしまった。

 

 

「て、テロップダイーン!」

 

「良くもやりやがったな!許せねえ!」

 

「僕達の仲間をよくも!」

 

「テンションどうなってんの…?そもそもなんで今の今まで戦闘がTRPG風だったのよ…?」

 

「やりたかっただけだが」

 

「でしょうね!」

 

 

散々かき乱されてしまった束だが、デバフを解除できれば目の前の集団如き即殺できる。残された時間は一分半。それで全てが決まる…

 

 

 


 

 

一方そのころ…

 

 

「ハハ、アンタ怖いもの知らずなんだな」

 

「…いきなり何を言い出すの?そもそも口を開くのは私の許可が必要だってさっき言ったでしょ?」

 

「まあまあそう気を立てずに。ちょっとだけだからしっかり聞いていってくれや」

 

 

USNAの平和な住宅街で起こった爆発事件。彼女達が移動してきたこの高台からは、それを受けて警察や軍が取り調べを行っているのが見える。重要参考人として、爆発した家の所有者であるレイモンドが質疑応答を受けている。

そんな状況を眼下に収め、犯人が被害者にボコボコにされているこの現場。そこで三人の内一人、男が話し始めた。雫は余計な事をされないようにと、口を開くことを禁じていたのだが、それにも構わず話し出す。

 

 

「俺達はな、さっきも言った通り雇われてアンタを襲ったんだ」

 

「…それで?」

 

「いや、俺達の雇い主が超が付くほどの大物ってだけだ」

 

「私の父を知らないはずは無いでしょ?」

 

「モチロン、ホクザングループの総帥様だろ?確かにアンタの親も大物だ…だが、ウチの雇い主はアンタの親を遙かに超える権力者様なんだぜ?」

 

「…そんな人、居るわけ…」

 

「コレが!残念ながら居るんだよなあ!」

 

 

唐突な大声に雫は若干驚く。男の表情は、自身の命の終わりを察し、全てを投げだそうとしているかのようだった。

 

 

「俺達の雇い主は…()()()()()の中でも有力者…影の『四大老』、席さえ空けばその仮初めの称号は本物に変わるとされる人物…」

 

「元老院?四大老?それは一体…」

 

「知らないのか?なら帰ったときに親にでも聞いてみるんだな…」

 

「…で、結局誰なの?」

 

「…オイオイ、アンタホントに怖いもの知らずだな?北方潮よりも大物だって言ってんじゃ…」

 

「だとしても、総司君が居る」

 

「…」

 

「あの人がいる限り、権力だけじゃ私を怯えさせる事なんて出来ない」

 

「随分と信頼してるって事か…じゃあ教えてやるよ」

 

 

雫の瞳宿る、ある種狂気染みた信仰のような気配に、雫と総司の闇を知った気がした男は、敵の名を口にした…

 

 

「…名前は歴史の授業で聞いたことぐらいあるんじゃねえか?」

 

「?」

 

「俺達の上は…かの高名な『藤原道長』様だよ」

 

 


 

 

京都府内某所…

 

 

「旦那様、束様がまだお戻りになられていません。増援を送るべきでしょうか?」

 

「ふふ…、気にすることはないよ。そもそも『アレ』をこちら側に引き込むことは難しい。捕らえて命の手綱を握ったとしてもだ。娘の初恋を応援した気持ちで一杯だけれど、無理なものは無理なんだよ」

 

 

メイドにそう返事する、五十代前半の男性。しかしその顔立ちや姿勢は、まるで十代にも勝るとも言える若々しさを持っていた。

そんな男性が、ワインをあおる。このワインは男性の愛飲する品種なのだが、製造の難しさ、製造量の少なさ、そして製造地からの輸送の難しさを加味して、一本が優に五百万を超える超高級品だ。そんなワインを、まるで水で喉を潤すかのように扱う男性。

 

 

「それで?送った傭兵君達は役に立ってくれたのかな?」

 

「それが…対象に反撃を許し、捕縛された模様です」

 

「ふむ…実力は確かなはずだったんだけどね?潮君の娘さんが予想以上の強さだったと言うことか…」

 

「それをふまえて、協力する手筈だった大漢の者共が怖じ気づいてしまったようです」

 

「そっか…束の恋路の手助けをしたかったけれど、上手くいかないものだね…」

 

「…では、捕らえられた傭兵共はどういたしましょうか」

 

「別に?放置で良いんじゃないかな」

 

「…良いのですか?」

 

「彼らが情報を流したとしても、彼らを僕が動かした証拠は存在しない。したところでもみ消すけれどね」

 

 

主の言葉を受けたメイドが下がる。男性は窓の外に浮かぶ月を見上げて、嬉しそうに微笑んだ。

 

 

「橘総司…()()()()()()()()()()()()()()…そんな極上の芸術作品と同じ時代を生きていられるとは…僕は先祖以来の幸福者だな…」

 

 

 

 


 

 

それは一瞬の出来事だった。

 

 

「ガァッ!」

 

「っあ!」

 

 

緩い空気が流れていた戦場に突如として起こった悲鳴。それはパラサイト達と戦闘をしていたリーナと深雪のものだった。総司救出に人員を割かなければならない上、本来の目的のパラサイトを抑える役目も必要だったこの状況。ギャグに付いてこられない二人がその役目を買って出ていたのだが、流石の二人でも多勢に無勢。魔法発動の速度で負けている以上、均衡が崩れることは必定であった。

 

 

「深雪!」

 

「…!」

 

 

達也が自身に残された最後の感情から来る衝動に駆られ、思わず叫んでしまう。そして零次は気づいた、その叫びによって、二人の悲鳴で崩れかけていたギャグ時空が完全に崩壊してしまった事に。そしてそれは数瞬後に全員が気づくこととなる。

 

 

「今だ!お嬢!」

 

「言われなくとも!」

 

「しまっ…」

 

 

ギャグ時空が無くなればパラサイト陣営が圧倒的に有利。ここに至るまでの時間稼ぎで、束の限界は近い。ここで最大出力で攻撃すれば全員の息の根を止められる。残された時間を惜しんで、束は拳を振るった。

 

超高速の移動から放たれる、大岩を容易く破砕出来る拳。それが一高生達を襲った…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バリバリバリバリィン!!

 

 

直後、戦場に響く、何かを割った様な音。その正体に、束はすぐに気づくことはできなかった。

 

 

「お嬢!」

 

 

少し離れた場所に居て、束の攻撃を止めた人物を視認できた零次は、束を回収しようと駆け出す…が、

 

 

「アガッ!?」

 

 

異常な出力の()()()()()移動魔法によって高速化した岩を顔面に当てられて怯んでしまう。

 

そして束は此処でようやく、自分の攻撃を防いだ者を見た…

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()の偉丈夫が、一高生達の盾となる様に立っていた。そしてその男と束を分かつ光の壁…

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

ここで束は、自身の敗北を察した。

 

零次は怯みから回復し、諦めずに束の元へ走り込む…が、視界の端に居るはずの、()()()()()が居ない。気づいた時には遅かった。

 

束が突進してくる光の壁に激突するのと、零次が腹に強烈な拳を受けたのは全くの同時であった…




魔法科世界の秘匿通信


・大漢の兵隊:雫の戦力にガチビビり。日和って攻撃の姿勢を見せなくなった。



・藤原道長:この名は、ある家の当主が代々受け継ぐ、世襲制の名前である。


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来訪者編 その二十四

後二話ぐらいで来訪者編終わりそうだ…投稿ペース遅すぎて、こんな作品忘れられてると思うけどね!


後、星を見る少女編みたい派が逆転してるの今気づいた


「「…ゴホッゴホッ!」」

 

「「「「…十文字先輩!?」」」」

 

 

束と零次が咳き込みながらよろよろと立ち上がる。そんな中で、突如現れた克人に全員が驚きを隠せていない。ただし例外が二人居た。

 

 

「やはり来てくれましたね、十文字先輩」

 

「あの威力の拳受けれるとか克人先輩最強過ぎて草」

 

 

それは達也と総司であった。達也は丸で克人が来ると知っていたかのように振る舞い、総司は今まで自分の異能で消していたが故に、あまり感じ取れなかった『ファランクス』の性能を目の当たりにして感心していた。

 

 

「どうして十文字先輩が此処に…?」

 

「司波が以前提供してくれた電波情報で、此処にパラサイトが集結しているのを確認したのだ」

 

 

質問してきた範蔵から目を離し、正面の二人に向かって堂々とした態度で口を開く克人。

 

 

「お前達は十文字と七草の魔法師部隊に包囲されている!大人しく投降しろ!」

 

「…総司、お前はパラサイトを片付けてこい」

 

「アイアイサー!」

 

 

そう言って超スピードで駆け出していく総司。その後ろ姿を見送り、克人は達也に目を向けた。

 

 

「…それにしても、あれほどの傷を一瞬で癒やすとは、どう言うカラクリだ?」

 

「…ノーコメントで」

 

「ふむ…確かに他者の魔法への詮索はルール違反だ。聞かなかったことにしておいてくれ」

 

「じゃあ見なかった事にもして欲しいんですが?」

 

「それは無理な相談だ」

 

「そうです「オラァ!!」っ!」

 

「フン!」

 

 

ガギィン!!と鈍い音が戦場に響く。ある程度のダメージから回復した零次が攻撃を仕掛けてきたのだ。だが流石は克人と『ファランクス』、その攻撃を完璧に防ぐ。だが、このままではマズい。

『ファランクス』のシールドが、零次の攻撃で無傷なのかと言えばそうでもない。今の一撃でざっと六十枚のシールドが割れた。普通の防御魔法ではこれでゲームセットだが、『ファランクス』は次々と障壁を展開して割られても再構築する事で攻撃を完全に防ぐのだ。だがその再構築にも限度がある。使用者によってその限度は変わってくるが、克人の場合は最大で999枚の連続展開が限度。それ以上は防御が破られてしまう。

 

 

「司波、撃て!」

 

「なっ、ですが!」

 

「奴の防御の仕組みは理解している、だからこそだ、撃て!」

 

「…分かりました!」

 

 

言われた達也は、半信半疑ながらも最大限の魔法力を持って『分解』を放つ。

 

達也が攻撃が通るのかどうかに疑いを持つのは、零次の異能による使用魔法へのブーストが原因だ。零次の異能は、自身の使用する魔法一種類を、世界の本来の情報、つまりエイドスが正常な状態であると世界に()()()()()異能である。魔法は世界を騙すが、この異能は世界からのお墨付きを持つ事が出来るという能力。それに付け加えて自身の身体能力を上乗せするもヨシという、言うなれば最大で効果を二倍に出来るという異能。

 

使い手が一般のトーシロなら大した脅威ではないが、零次は生憎と魔法のエキスパートでもある。この異能がフルに活かせるのであれば、零次は総司を上回る身体能力を発揮できる。だがその追加で魔法を掛けている部分は世界うを騙した結果であるため、総司の異能に無効化される。

 

それはともかくとして、こうした経緯から、自身に掛けている身体強化を世界にとっての正常であると認められている零次には、彼の魔法力を超える程の干渉力で塗り替えるしかない。だが達也にはそれほどの干渉力は、自身のBS魔法を使用しているという条件でも零次には届かなかった。

 

だから攻撃は防がれる…そう思いながら放った『分解』の光線。零次も効かないことを理解しているのだろう、防ぐ様子すら見せずに次の攻撃を放とうとしていた。

 

 

 

 

「っっっ!?」

 

「効いた!?」

 

 

だが、零次の肉体に命中した光線は、寸分違わず零次の体に小さな風穴を開ける。

 

 

「…命中した時に聞こえた()()()…」

 

 

達也は少し離れた高台を見上げる。

 

 

「…まさか」

 

 

 


 

 

 

達也が見上げた高台にて

 

 

そこには逃げ惑っていた周公瑾の姿があった。そうして偶然この場所に出たのだが、下での戦闘に魔法で干渉した人物の気配を感じて顔を出し、そして眼前の男が放った魔法に感心を示していた。

 

 

「流石は、日の本の英雄とまで称されるほどの傑物ということですかな?老師殿」

 

「その話はやめろ。賊にまで英雄扱いされたとて、喜ぶ事も無し」

 

 

公瑾の眼前に居たのは、日本が誇る『老師』、九島烈であった。

 

 

「それに驚くようなことでもあるまい。これは先程君達が総司に向けて使ったあの『邪眼』のようなものだよ」

 

「ええ、ですから。これほど離れた距離から成功させると言う御業に驚きと敬意を示しているのです」

 

「敬意などとよく言うわ、今も逃げ道を探しておるくせに、それが敬っている相手に対する態度かね?」

 

 

だが、烈は公瑾の逃走を予期しても、それを阻止しようとはしなかった。代わりに一つ質問を投げかける。

 

 

「君達の目的は寄生体共の保護だろう?何故放棄して逃げようとする?」

 

「ああ、その事ですか。()()()()()()()()()()()()()()()()。そもそも我々の計画では束さんが橘総司を抑えるという計画だったのでね、それが破綻してしまった今、あのパラサイト共には命など残っていませんよ」

 

「…また別の人間に寄生するのではないのか?総司の事だ、殺さずに無力化ぐらいはやってのけるが…」

 

「またまた、とぼけないでくださいよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。貴方も理解しているはずだ」

 

「…ほう」

 

「っ!」

 

 

公瑾の発言を聞き、今まで公瑾の方を一瞥もしなかった烈が公瑾を見る。その目は僅かに開いており、そこからは歴戦の重みを感じる老兵の眼光が宿っていた。その迫力に思わず公瑾は気圧されてしまう。

 

 

「藤原の若造の娘も、その力を狙っているのか?」

 

「いえ?彼女は単に恋心故ですよ。所謂略奪愛というやつです」

 

「…君達は総司を使って、一体何を企む」

 

 

そう問うた烈を見ながら、徐々に体が薄く消えていく公瑾は答えた。

 

 

「無論、日本への復讐と、世界の掌握ですよ」

 

 

その言葉を残して、公瑾の姿は完全に掻き消えた。

 

 

「……すまんな、清春。愛弟子の最後の願い、叶える前にこの老い先短い命が枯れそうだ」

 

 

そう言い残して、烈はその場を後にした…

 

 

 

 


 

場面は戻って戦闘中の零次と束。

 

 

「…クッソ、公瑾の野郎、とっとと撤退しやがったな!」

 

「しょうがないわよ、この状況は流石に私達の負け。そう判断するのもおかしくないわ…でも」

 

「でも?」

 

「…総司様が手に入ると思ったのに」

 

「…それは、お気の毒に?」

 

「ここまで来て諦めるのも…!」

 

「オイオイまさかもう一回バフ掛けるつもりか?やめとけ、死ぬぞ」

 

「…でも!」

 

「こういうとこはホントにお嬢様って感じだな、駄々っ子め。公瑾が逃げたなら俺達に勝ち目は更に無い。ついでにどうやらこっちにデバフ撒いてくる奴も来たみたいだしな、潮時だ」

 

「…ッチ」

 

「口悪」

 

 

そう会話をした後、零次は束を抱えて高く跳躍して、そのまま見えなくなってしまった。

 

 

「…逃げた?」

 

「逃げたな」

 

 

やっと終わったのか、という気持ちが込められた美月の独り言に、達也が反応を返す。

 

 

「後はパラサイトだな」

 

「そっちは総司に任せときましょう」

 

 

克人が総司への援軍に行こうとするが、総司だけで大丈夫だろうと桐原が制止する。

 

 

「…それもそうか。では全員撤収しておけ。俺は総司が倒したパラサイトの亡骸を回収していく」

 

 

そう言って総司が向かった方角へと歩を進める克人。その最中で、達也の肩に手を置き伝える。

 

 

「司波、お前は十師族になるべき人材だ…詳しい話はまた今度にしておこう」

 

「…分かりました」

 

 

お前は十師族になるべきだって、俺生まれた時から十師族なんですけどクソウケるwwwwwwwと内心思いながらも、達也は了承の返事を返したのだった…

 

 

 


 

 

 

「…ハァ、ハァ」

 

 

やはりだ。やはりこうなった。

 

 

「…ハァ!…ハァ!」

 

 

あの()()だ。あの男の存在は、我々に対して、絶望なまでに死神だった。

 

 

「…ハッ、ハッ、ハッ!」

 

 

今こちらの世界に来て、分裂している同胞は十三体。その内敵のロボットの中に憑依してしまった一体を除いた十二体全体は、この場所に集結している…だが、もう既に三人死んだ。

 

 

「ハアハア、ハアハア!」

 

 

奴は、奴は触れただけで我々の生死を決してしまえる。触れられてはならない、逃げなければならない、生きなければならない、死ぬ訳にはいかない、死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない

 

 

「ほいっと一人」

 

「ァ」

 

 

達也から敵の素性は分かっているという事を伝えられていた総司、死体を残しておく必要ないのかという安直な考えから繰り出された音速の拳は、パラサイトの体を針に刺された水風船かのようにはじけ飛ばす。そして、はじけ飛んだ体と共に、パラサイトが消え去った。

パラサイトと呼称するに値する独立情報体がだ。独立情報体が消えたことすら確認せず、総司は次の対象へと走り出す。その顔には、既にパラサイトに乗っ取られているとはいえ、人を殺したばかりの表情とは思えない程、間の抜けた顔だった…




魔法科世界の秘匿通信


・烈が戦場にいたのは、藤原の娘が何やら企んでいるという情報を掴んで、密かに七草弘一と連携して情報を集めて居たため、今回の戦闘を予期することが出来た。




・総司の快復に克人以外が疑問を持たなかったのは、総司のギャグ時空に脳が汚染されたので、まあそういうこともあるかで片付けてしまったのが多数居ると言うのと、気絶していた(深雪とリーナ)という理由がある。


終わったら星を見る少女編やりますか


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来訪者編 最終話

長かった来訪者編もこれで終わりですね…


後書きに次章予告おいておきます


「…そうか、そいつらは戦力になりそうなのか?」

 

『一応どっかのお偉方に使われてただけあって、腕はたしかっぽいな。なんか雫ちゃんにボコボコにされてたらしいけど』

 

「お前は庇護精神から雫の実力を下に見がちだ。彼女は俺より強い事を、いい加減理解したらどうだ?」

 

『そりゃ普通の魔法の範疇ででしょ?俺は雫ちゃんが戦場に出るなんて、それこそ本気の達也を完封できなきゃ許さないね』

 

「過保護過ぎるな…」

 

『お前だってそうだろうがよ。俺と違うのは、妹の尻に敷かれてる所為でワガママ聞く羽目になって結局連れ出しちまうとこだ。俺と雫ちゃんは対等な関係なんだ、ワガママはそうそう通じないぜ』

 

「雫は深雪と同じでワガママだし、お前だって雫の尻に敷かれてるぞ」

 

『何…だと?』

 

「気づいてなかったのか?」

 

『モチロンさー』

 

 

パラサイトとの全面戦闘からしばらくたった。あの日、パラサイトは総司の手によって跡形もなく粉砕された。だが、九島烈によれば、周公瑾がパラサイトはまだまだ存在している事をほのめかすような発言をして居たとのことで、しばらくは警戒が必要になってくるだろうと結論がでたあの戦い。

だがあの戦いはあの場にいた者達以外の生徒達には、そんなの知ったことではない。

 

今はもう3月。学生の3月と言えばそう、

 

 

「卒業式には来ないのか?」

 

『克人先輩が、俺に直接見送られないってことだけで残念がる訳ないだろ』

 

「確かにそうだが、七草先輩や渡辺先輩は残念がっていたぞ」

 

『うっせやろあんなにいじり倒したったのに?』

 

 

三年生の卒業式の季節である。

いつも誰彼に対しても敬意のけの字すら見せずに嘗め腐った態度をとる総司が、生きてきて尊敬した数少ない人物、それが十文字克人という男だ。彼は真由美と違い、総司の悪ノリにもキチンと合せることが出来た逸材だ。流石は十文字家次期当主と言えよう。

 

総司はパラサイト戦が終結した後、雫が襲撃されていたという報を受け、秒でUSNAにとんぼ返りしてしまっていたため、克人とあまり話せていなかった。だからこそ達也は、総司がちゃんと見送れた方がよいのではないかと考えたのだが、総司はそうは思わなかったらしい。それどころか真由美達が総司が居ないことを寂しがっていた件に逆にビックリしてしまっている。

 

 

「どうせなら卒業式の当日にメッセージでも送ったらどうだ?」

 

『俺、克人先輩のしか連絡先知らないぞ』

 

「ふむ…じゃあ俺が伝言を伝えておくから、何か言いたいことがあるなら言ってくれ」

 

『分かった…じゃあ、真由美先輩には「顔が良くて胸がデカいからって小悪魔ぶってるとオバさんになった時に取り返しの付かないことになるぞオバさん」って言っといてくれ』

 

「総司がいつかの未来に先輩に殺されるのと、俺は一切悪くないのにビンタをかまされる予感がしたから無しだ」

 

『え~…難しいな…』

 

「言う程か?」

 

 

そんな会話の最中、達也のヴィジホンの画面に総司以外の人物が写る。当然ながら雫だ。

 

 

『達也さん、総司君は不器用だから仕方ないんだよ』

 

『なにおう。俺はとてつもなく器用だぞ?』

 

『ないね』

 

「俺のデータも、それは無いだろうと言っている」

 

『お前データとか集めるタイプだっけ』

 

『そう言うタイプでしょ』

 

『そうだったわ』

 

 

しばらく通話だけで会話していたからだろうか、総司はどうやら達也の本質を忘れてしまっていたようだ。尚、達也は総司が居ない間に本質そのものが変質してしまったことを追記しておく。

 

 

『…そういや、アンの奴はどうしてる?』

 

「お前、本人に嫌がらせとしてそう呼ぶのは分かるが、普通にそう呼んでいくつもりなのか?」

 

『リーナって長いじゃん』

 

「お前の頭の容量は1ビットもないのか?」

 

『そう言うのいいから、それでどうなのよ』

 

「…特に問題ない風を装ってはいる。リーナは臨時の生徒会メンバーだから卒業式の準備を行っている」

 

『そうかい。ま、必要になったら向こうから言ってくるだろ』

 

「そうだな…」

 

 

達也は総司がリーナを気に掛ける理由を思い返す。

 

 


 

 

「お前が…アンジュ・カトリーナか」

 

「違うわよ!誰の名前よそれ!微妙に被ってるとこあって腹立つんですけど!?」

 

「落ち着け、お前にちょっと提案があってだな」

 

「提案?何をよ、私は貴方を狙ってこの国来た、敵なのよ?」

 

「問題ない、お前じゃ俺には勝てんよ。いいから黙って聞きなさい静岡に送り返すぞ」

 

「なん…って、送り返すって何!?私別に静岡の出身じゃ無いわよ!USNA!」

 

「安心しろ、静岡は四捨五入すればUSNAだ。大して変わらんよ」

 

「変わるわよ!?四捨五入で一つの県が国になるわけ無いでしょ、貴方は何を言ってるの!?」

 

 

零次達が撤退した後、持ち前の超スピードでパラサイト共を次々と屠っていった総司は、その全部を始末し終わって、リーナの元に寄ってその顔をビンタして叩き起こした。普通に首が飛ぶレベルの威力がしたであろう轟音を出たリーナの頬だが、痛みに驚いて起き上がった時には、漫画によくある紅葉型に赤くなっているだけの被害で済んでいた。総司が居る時点でギャグ時空に入っているという事なのだろう。

 

 

「…お前、俺の部下にならないか?」

 

「…ハァ!?」

 

 

そして総司からの突拍子も無いその提案にリーナはこの日何度目かも分からない驚愕の声を上げる。

 

 

「どうやら俺が今生活している地域に、明らかにUSNAの警備を抜けてきている奴がちらほら居てな」

 

「…どうやらそのようね。さっき貴方の恋人が襲撃されたというし…」

 

「何だと?雫ちゃんが?早く…」

 

「総司、雫なら無事だ。心配なのは分かるが、先にお前の要件を済ませろ」

 

 

雫が襲撃されたという情報を聞いて目の色を変えてUSNAに飛んで帰ろうとする総司だが、リーナに話している内容の続きを聞きたかった達也に冷静になるように言われる。その言葉を聞いたリーナの表情が「余計な事を…」と言いたげな様子であったので、どうやらリーナは総司をこの情報で帰宅させようとしていたらしい。

 

 

「じゃあ話の続きだ。もしかすると奴ら、意図的にパラサイトを呼び出したのかもしれないんだ。なら対処出来るのは俺くらいだからさ、情報を集めて俺に連絡を入れて欲しいんだ」

 

「…私にそこまでする義理は無いわよ」

 

「一応な、この間防衛大臣の側近とやらにUSNAの国防に協力してくれと言われたもんでな」

 

「…なんですって?」

 

 

総司のこの発言には、思わず周囲がザワつく。総司の発言が仮に本当ならば、総司がUSNAに渡ってしまうかもしれないからだ。

 

 

「…分かったわ、協力する。母国の為なら仕方ないわ」

 

「助かるぜ、アン」

 

「…リーナって呼んで」

 

「オーケーだ、アン」

 

「オーケーして無いじゃない!?」

 

「あーうるさいうるさい」

 

 

心底やかましいという表情で両耳を塞いでリーナから距離を取る総司。達也に優しく起こされた深雪がまあまあとなだめている内に、達也が総司に質問を投げかける。内容はモチロン先程の、USNAの国防に協力するという話についてだ。

 

 

「総司お前…USNAに属するのか?」

 

「…さあ、どうだろうな。それは雫ちゃん次第だよ」

 

「雫次第?」

 

「おう。俺は国の下につくつもりは無い。俺がつくのは雫ちゃんだけだ。彼女が日本を優先するなら俺は日本を優先するし、彼女がUSNAに鞍替えするってんなら俺も同行する。ただそれだけだよ」

 

 

と、とりあえずは別にUSNAに属する事は無いと分かって安堵する一同。その最中に総司は、「それじゃ!」と言って跳び去って行ってしまったのだった…

 

 

 


 

 

 

達也との通話を終わらせた総司は、背後にいた雫に声を掛ける。

 

 

「そういや雫ちゃんがぶっ倒した三人、もう日本に着いて聴取受けてるんだっけ?」

 

「うん。持ってる情報が情報だから、警察に預けるとそのまま殺されてしまうって嘆いてた。だからちゃんと情報を吐くならウチで雇うつもり」

 

「なるほどね?」

 

 

雫が総司の隣にやって来て、そのままソファに腰掛ける。

 

 

「…敵は、強大みたいだね」

 

「『元老院』だっけ?そんな気にすることじゃねえよ、どんな奴が来ても俺がぶっ飛ばしてやる」

 

「…うん」

 

「…雫ちゃん」

 

 

コテンと体を預けてきた雫の瞳には、紛れもない恐怖の色が浮かんでいた…

 

 

 

 


 

 

 

卒業式も終わり、3月の下旬のある日…

 

 

 

達也達一行は空港で人を待っていた。それはもちろん、あの二人の事だ。

 

 

「よっ、この間ぶり」

 

「ああ、おかえり総司」

 

「ただいま」

 

「雫ぅ~!」

 

「きゃっ…もう、どうしたの?ほのか」

 

「だって寂しかったんだもん~!」

 

「毎日通話してたじゃん…」

 

「「おかえり二人と…は?被らせんな!」」

 

「エリカ、レオ…こんな時も喧嘩?」

 

「でも…逆に何時も通りで安心しますね」

 

「美月…貴女は私と一緒にツッコミをしてくれるわよね…?」

 

 

三ヶ月間感じていなかった居心地の良さに、総司と雫が破顔する。

 

 

「みんな」

 

「「「「「「?」」」」」」

 

「…これからもよろしく」

 

 

一年が…終わった。




次章予告…


「ええ~!?私今帰ってきたばかりですよ!?それで今からまた任務って…やめてくださいシルヴィ!お家に返して~!」

「レオ、アンタスイカね」

「オイバカ、やめろ!」

「お兄ちゃん達…誰?」

「やはり出力が足りん…あの男を利用するか」

「柴田さん下がって!よくも柴田さんを狙ったな!?」

「あの…吉田君、何も虫相手にそこまで…」

「それでどうやって倒すつもりなの?雫」

「それは…このロールケーキでこう…ガッと」

「へっ、お前達の思い通りにはあばばばばばばば」

「総司君、今助けるわ!」

「こういうときぐらい、先輩面させてくれ!」

「西城、千葉!お前達何をやっている!…本当に何をやっている!?」

「お兄様!お願いします!」



「…分かった、なんとかしよう」



次回、星を呼ぶ少女編開幕…


なんか達也が主人公っぽい感じで草


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星を呼ぶ少女編
星を呼ぶ少女編 その一


早速始めて行きましょう。


3月某日…

 

北山家が所有する何処かの島…

 

 

「レオ、アンタスイカね」

 

「オイバカ、やめろ!」

 

「ゴメンねレオ」

 

「お願いします、西城君」

 

「ちょっとまてよなんで俺がスイカになるの確定してんだよ!?止めろよ幹比古に美月!」

 

「実に切りがいのありそうなスイカだこと」

 

「怖えよ!…でも俺をスイカにしたいなら俺を地面に埋める必要があるぜ、そんなことできやしな…」

 

「そう言うと思ったわ、いきなさい総司君、キミに決めた!」

 

「此処掘れワンワン!サトシお疲れワン!」

 

「ゲェ、総司!?」

 

 

そこにあるプライベートビーチ(島ごと私有地なのでこう呼ぶのかは分からないが)で、総司達がはしゃいでいる。そして逃走むなしく地面に埋められたレオを、北山家の別荘のベランダから眺める達也達。

下の大騒ぎっぷりを見ながら、思わず深雪が言葉を漏らす。

 

 

「…相変わらず元気ですね」

 

「良い事だよ、深雪」

 

「そうだな。しかしレオ割りか…どんな味がするんだろうな」

 

「お兄様?本当に割るわけないですよね?というか食べませんよね!?」

 

「割ったら食べるのが普通だろう?」

 

「それはスイカだった場合の話です!」

 

「まあまあ、深雪。別にどっちでもいいじゃない」

 

「どっちでもいい!?ほのか貴女、今この瞬間に友達の命が失われようとしてるのよ!?」

 

「大丈夫、年代的に後の作品にゲスト出演したおかげで、漫画で死にかけても一切読者に心配してもらえなかった福井…照井さんみたいに、新・魔法科高校の劣等生キグナスの乙女たちの第五巻で生存が確認されてるから。今は何をやっても死ぬことは無いよ」

 

「メタ過ぎるわよ雫!?というかなんなの貴女、KADOKAWAの回し者なの!?」

 

「何を今更なことを言っているんだ深雪。俺達はKADOKAWAのキャラなんだからステマは当然の行為だ」

 

「違いますよ!?いえ、KADOKAWAのキャラである事は否定しませんが、だからってステマを当然とは言いません!」

 

 

ツッコミを一気に行った深雪は肩で息をしている。可哀想に。

 

 

「どうしてそんなに疲れてるの深雪?話聞こか?」

 

「どうして雫は話を適当に聞いて、ストレス発散という名目で性交渉始めるような男の人みたいな台詞を言っているの?」

 

「私が深雪をエッチな子にして、達也さんに積極的にアタックするように仕向けて、それを見て慌てるほのかを楽しむ為だよ?」

 

「「「悪女か?」」」

 

「失礼な、私は公認された水も滴るいい女だよ。うっふーん」

 

「公認って誰に認められたんだよ」

 

「総司君と家族」

 

「知ってた」

 

 

そんなバカな会話をしている中でも状況は動く。下での攻防戦が苛烈になり、いつの間にか総司が埋められており、エリカが何処から取り出したのか『大蛇丸』を振りかぶっている。総司の死は近い。

 

 

「…というか雫、貴女の水着ちょっと過激すぎない?男の人の目線が怖くないの?」

 

 

 

確かに深雪の指摘通り、雫が現在着用している水着は、所謂ビキニというものだ。魔法師は血が大事であるという点から、無責任な性交渉は控えるべきという風潮の昨今、現実に存在するビキニのお姉さんも、魔法科世界に来れば立派な露出狂扱いされるような世界だ。

何が言いたいのかというと、雫の水着は魔法科世界基準で出し過ぎでエロいって事。

 

 

「ここはプライベートな空間だしね。それに幹比古君は美月のおっぱいに釘付け、レオ君はエリカのお尻追っかけてる、達也さんはダイナマイトボディを両手に花。私のこの格好をまじまじと見るのは総司君だけなんだよ」

 

「確かにそうだな」

 

「お兄様、流石に今の発言を認めてしまうと、幹比古君やレオ君に風評被害が及ぶのですが…ほのか、貴女からも何か言ってちょうだい」

 

「達也さんが…私をダイナマイトボディだって認めた…これはワンチャンあり…!?」

 

「あっダメだこりゃ」

 

 

とうとう深雪の言葉使いが崩れてきた。深窓の令嬢なんておらんかったんや…

 

 

 


 

 

 

とある実験室にて…

 

 

 

「博士、実験体22号が何らかの方法で脱走しました」

 

「何だと?それは困るな、今日も実験の予定が入っていたというのに」

 

 

薄暗いその部屋は、最早明かりは機械の駆動の際に発する光ぐらいとなっていた。そんな部屋の中心にいる男性は、手を顎に添えて今後のプランを練り直そうとしている。

 

 

「ふむ…新たに実験体を作るにも時間が掛かる。実験体22号を連れ戻してこい、その間実験は中断する」

 

「(お願い…逃げ切って、九亜…)」

 

 

その命令を部屋で聞いていた職員の一人は、自分の娘の様に想っている彼女の無事を案じた。

 

 

 


 

 

 

場所は変わってとある飛行機の機内。

 

 

その客席の数に反して、乗っている乗客は二人。所謂プライベートジェットのようなものか、それに乗っている二人の女性が、トランプでババ抜きをしていた。

 

 

「……」ススッ

 

「……!」パァァ

 

「……」ススス

 

「……」ショボーン

 

 

そのババ抜きも最終局面、二枚対一枚の熱い戦い。どっちかがババ、どっちかが当たり。そんな緊迫した状況の中で、良く言えば王道な手、悪く言えば使い古された手である、相手の表情からどちらがババかを予想する事にした一方の女性は、相手の表情のわかりやすさに内心勝ちを確信してほくそ笑んでいた。

 

 

「(真由美め…顔に全部出ているぞ…!これはもらったな!)」

 

「(…って、摩利は考えてるんでしょうね)」

 

 

だが今にもカードを取りそうな女性…摩利は失念していた。対戦相手の小悪魔っぷりを…

 

 

「私の勝ちだ、真由美!………え?」

 

「じゃあ私の番ね。一枚もらいま~す」

 

「あ、ちょっ、まだシャッフルしてな」

 

「やった~!勝った~!」

 

「…釣られたということか…トホホ」

 

 

古典的な手法には古典的な反撃を。摩利の動きから彼女が一体何を行っているか一瞬で悟った真由美は、浮かべる表情を逆にすることで摩利を騙す事に成功したのだった。

 

 

「甘いわね、摩利」

 

「お前の性格の悪さは、この三年間でしっかり身にしみていたはずなんだがな…」

 

「ちょっとそれどういう意[真由美お嬢様、少々コックピットまで来ていただけませんか]…あら?」

 

「…何かあったみたいだな」

 

 

勝者と敗者が決定づけられた機内に、真由美へコックピットからの呼び出しの放送が流れた。何らかのトラブルが発生したようだ。

 

 

「はいは~い。どうしたの?」

 

「…今到着されました。そちらに代わります」

 

「?」

 

「…軍の航空機です。こちらへ着陸要求をしてきています」

 

「分かったわ…代わりました、私がこのジェットの責任者です。詳細は聞いています」

 

『…話が早いな。我々は貴女がたのジェットの着陸を要請する』

 

「お断りします」

 

 

通信越しに伝わる、相手の動揺。恐らく最初に通信をしたパイロットよりも、責任者を名乗る人物の声が若かった事に対してだろう。だがそれをチャンスと見た相手は、強気に要求を通そうとしてきたが、真由美バッサリと切られてしまった。

 

その後もしばらく通信でのやり取りが続いたが、そこでとうとう相手は強硬手段を用いてきた。

 

バババババ、という大きな音。察するに威嚇射撃と言ったところか。

 

 

『…今のは威嚇だ。即刻着陸させなければ命中させる』

 

「そうですか…では」

 

 

だがその威嚇への反撃として、真由美が魔法を用いて敵の機体にドライアイスの弾丸を下から撃ち込む。

 

 

「これは警告です。次は貫通させます」

 

『…』

 

 

機内に魔法師が居る事が分かり、自分達では分が悪いと撤退していく軍の航空機。通信が切れ、レーダーからも見えなくなったところで、真由美が客室の方へ戻る。

 

 

「…真由美、今のは」

 

「やっぱり聞こえてたわよね…」

 

 

威嚇射撃の音を聞いた摩利が、心配そうに真由美を見るが、真由美は首を振って大丈夫だとアピールする。その意味を正しく読み取った摩利は胸をなで下ろした。

 

 

「…何か、良くない気配がするな」

 

「そうね…何もなければいいんだけど…」

 

 

これから何か問題が発生する気配を、二人は明確に感じ取ったのだった。




魔法科世界の秘匿通信


・雫がちょっとエッチな事を言っていても、総司の前でないならその表情は大抵真顔。


・役者は出揃った感がして投稿するが、前回の後書きで描写した気になってリーナのシーンを忘れている。次回にでも付け加えます


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星を呼ぶ少女編 その二

コメントでご指摘いただいたのですが、今の今まで星を見る少女って言ってたのですが、正しくは星を呼ぶ少女でした。

大変申し訳ありませんでした。反省はしていますが学習するとは言っていて居ません、またやらかすかもなのでよろしくお願いします


後、これまたコメントなのですが、章機能を使ってはどうかとのアドバイスを受けたので、今回から実施していきたいと思います。


とあるUSNAの空港にて…

 

 

「総隊長、参謀本部からの命令です、ホノルルへ向かってください」

 

「…ええ~!?私今帰ってきたばかりですよ!?それで今からまた任務って…やめてくださいシルヴィ!お家に返して~!」

 

「どうしたんですか総隊長殿!かつてよりおバカっぷりが加速してますよ!」

 

「ちょっと待ってシルヴィ、それって私の事前々からバカって思ってたって事!?」

 

「はいはい、任務行ってくださいね~」

 

「いやよ、いや!私行きとう無いわ!」

 

「なんのアニメの影響ですか総隊長殿!」

 

 

周囲の目も気にせずに騒ぎ立てる二人の女性。内一人であるシルヴィは、確かに今帰ってきたばかりのリーナをすぐさま任務へ向かわせることにはモチロン抵抗があった。だが上からの命令には逆らえないのが組織のつらいところである。

 

 

「ぜっったいに行かないんだから~!」

 

 

リーナはどうやら、アニメの知識を取り込めていても、そフラグ建築というものを詳しく知らなかったらしい。モチロン連れて行かれた。残念

 

 

 


 

 

「ん?どこかでフラグが立った音が…?」

 

「そんなのいちいち聞いてたら耳おかしくなるよ」

 

「やっぱ気のせいか…」

 

 

あながち気のせいでもないのだが。総司は変なとこで勘が良い。

 

 

「ところで雫?」

 

「どうしたの深雪?顔が怖いよ」

 

 

そんな時、雫に深雪が鬼の形相で問いかける。雫は表情こそ冷静だが、冷や汗だらだら、体の半分が総司に隠れて居るぐらいだ。一体雫は何をやらかしたのだろうか…?

 

 

「「「「「「……」」」」」」

 

「…この部屋割りは、悪意が無いかしら?」

 

 

今日はビーチでたらふく遊んだので、今日は部屋で休もうとなり全員引き上げてきた(総司もレオも割れなかった、エリカは悔しがっていた)のだが、いざ部屋に入ろうと部屋割りを黒沢さんが発表したのだが…

 

 

「レオ君とエリカ、美月と幹比古君が、そして私とお兄様、ほのかが同室…これはどう言うことかしら?」

 

「…で、出来心です」

 

 

そう、去年の夏に雫は、総司を落とす為に部屋割りで自分と同室にした、つまりホスト特権を濫用したのだ。当時は被害(今となってはWin-Winだが)を受けたのが総司だけであった事、雫の恋路を応援していたからこそ誰からも文句は上がらなかったのだが(当時の総司の情けない意見はあったが)、流石に自分達がその立場になると不平不満どころではないらしい。

 

 

「だいたい、なんでアタシとコイツが同じ部屋なのよ!?他の部屋はまだいいけど!」

 

「「えっ」」

 

 

そのエリカの言葉に一番反応したのは幹比古と達也だ。二人の顔にはありありと「まだいい?全然よくないが?」という感情が浮かび上がっている。しかし二人の間でも、その感情の中に喜びが混じっている幹比古と、本気でヤバいと思っている達也と違いがあって面白い。

 

 

「…それは、流れで」

 

「流れ!?」

 

「この部屋割りは俺が決めた」

 

 

雫を庇うように総司がエリカに対して発言する。事実最終決定こそ雫だが、この部屋割りを提案したのは総司だったりする。そんな総司の言葉に全員が目を見開いた。

 

 

「なんだ、もっと文句を言われると思ってたんだけど」

 

「いや…そんな難しいことよく考えられたねって思って…」

 

「ほのかちゃん?お前俺達の部屋にぶち込んでも良いんだぞ」

 

「総司君ってやっぱり天才だよね!」

 

「よし」

 

「よしじゃないが?」

 

 

恋人同士の空間にお邪魔するという罪悪感、達也と一緒の部屋に泊まれるというチャンスを棒に振るというリスクを突きつけられ、ほのかがあっさり陥落する。達也は流石に口を挟まざるを得ない。

 

 

「何でだよ、いいじゃんモテ男。もう一人は妹なんだし、実質ほのかちゃんと二人っきりじゃん」

 

「「全然違う!」」

 

「うお、なんで深雪ちゃんまで文句言うんだよ」

 

「もしかして、総司君って深雪の好きな人のこと知らないの?」

 

「え?そんな人居るの?」

 

「……もういいや」

 

 

総司は司波兄妹がブラコンシスコンである事は認識していても、深雪が達也の事を異性として好んでいるとは思っていなかったらしい。まあ壬生に諭されるまで雫への気持ちに気づかないぐらいだからね、仕方ないね。

 

 

「とにかく、ダメなものはダメだ!」

 

「ちぇっ…仕方ねーな」

 

 

そう呟いた総司は、電子端末を操作して部屋割りを変えた。

 

 

「よかった…これでまともに寝られそ「これでいいだろ」…は?」

 

 

安心しかけた達也が絶句する。何故ならそこには…

 

 

「総司と北山さんは固定として…僕とレオが同室で…」

 

「達也と女子が全員同室、ねえ…」

 

 

幹比古とレオが総司の残酷さに言葉を失う。そして達也が総司に食いかかった。

 

 

「どう言うことだ総司!さっきより悪化してるじゃ無いか!」

 

「別に俺改善するなんて一言も言ってなかったが?」

 

「クソッ、なんでこんな時ばかり知能が高いんだよ!」

 

「書いてる奴がこう言う方面にしか頭が働かないからじゃ無いか?」

 

「メタい!」

 

「何とでも言え」

 

「総司君?」

 

「ん?どうした深雪ちゃんってちょっと待って顔怖い待って待ってあだだだだだ」

 

 

怒り心頭と言った様子の深雪からひたすら足蹴にされてしまう総司。その様子を笑いながら見守る面々、因みに一番笑っているのは雫だったりする。

 

 

「まったく…私達は好きな部屋に泊まらせてもらいます!」

 

 

ひとしきり総司を足蹴にして満足したのか、深雪がそう言い放って後ろを振り向く。そして違和感に気づいた。達也と雫以外が、若干顔を赤らめて目を泳がせているのだ。

 

 

「…みんな?一体どうしたの…?」

 

「まだ、分かんねえのか深雪ちゃん…」

 

「っ!?ど、どう言うことなの総司君!?」

 

「簡単さ…最初の部屋割り…嫌がっていたのは達也と深雪ちゃんだけだったんだよ!」

 

「何…ですって…!?」

 

 

深雪はすぐさま脳内でその理論は間違っていると否定して、助けを求めるかのようにみんなの方を見るが、総司の言葉に反論出来ずにほぼ全員が俯いてしまっている。その光景に深雪と達也は絶望した。

そんな深雪に、総司は悪魔の言葉を投げかけた。

 

 

「深雪ちゃん…」

 

「な、何ですか?」

 

「英雄色を好むって言うし、達也みたいな偉大な人間こそ多くの女性を娶ってこそなんじゃないかな」

 

「なるほど!」

 

「深雪!?」

 

 

深雪は極度のブラコンである…そもそも自分にも利があるこの状況で、欲望に打ち勝ちながら気丈に反論をし続けたのは賞賛に値するが、彼女は兄を褒められることがたまらなく好きだった。つまり、嬉しくて辛うじて支えられていた理性のストッパーが完全に外れてしまったのだ。

 

 

「そう言うことなら、行こっか深雪!」

 

「そうねほのか…そうよ、お兄様は日本の、いえ世界の歴史に大きく名を刻みつけるお方…多少の女性が傍にいようとも何の不自然も無い…」

 

「おい、二人とも止まれ、おい、ちょっ、力強っ!?レオ、幹比古!」

 

「…手出さないでよね」

 

「あ、当たり前だろ!?」

 

「…意気地無し」

 

「どっちなんだよ!?」

 

「吉田君…今日はよろしくお願いします…」

 

「し、柴田さん…本当に良いの?」

 

「う、うん…」

 

「あ、もう手遅れか」

 

 

「希望などない…」と言いながら、深雪とほのかに片腕ずつ掴まれて引きずられていく達也。それをゲラゲラ笑いながら見送った総司は、ちょっと外の風に当たってくると言ってその場を後にした…

 

 


 

 

しばらくして、総司の姿はビーチにあった。だが、もう一人の姿も確認できる。

 

 

「それで?お前はどう言う領分で俺に土下座をかましているわけ?」

 

「ホント…頼む…一緒に真由美の奴を監視してくれ…」

 

「あの人もこっち来てんの?」

 

「渡辺とかいう女と一緒だ」

 

「なら大丈夫でしょ、なんでお前来てんの」

 

「俺は香澄と泉美には逆らえないんだ…」

 

「血は争えないってコトォ…!?」

 

 

そう…そのもう一人とは、ビーチにて華麗なるDO☆GE☆ZA☆を披露する零次だった…




魔法科世界の秘匿通信



・別に原作でもレオとエリカは気の置けない間柄となっていますが、本作では中の人の関係を利用してこのような関係性となっています、ご了承ください。


・零次の七草家の家庭内カーストは最下位。因みに同率が七草弘一。


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星を呼ぶ少女編 その三

もう(寝落ちは)やめましょうよ!(小説を書けるのに時間が)勿体ない!


…ということで、ここ最近寝落ち率が高くて続きが書けていませんでした。申し訳ない…


「昨夜はお楽しみでしたね」

 

「お前は許さない、お前が死んでもだ」

 

「こわ」

 

 

翌朝、部屋から居間に起きてきた一同。そこには先に起きていたと思われる総司と雫がいた。開口一番、達也は総司に恨み節をぶつけた。

 

 

「…正直、幹比古達と達也達は予想出来たが、レオ達もわりかしラブラブしてた感じ?昨日何してたの?」

 

「聞いてくれよ総司!コイツのマルス先端しか当ててこねえんだよ!ズルだよズル!」

 

「スマブラしてたのかよ!?つーかゲームでも剣豪なんか」

 

「千葉流剣術を嘗めないでちょうだい」

 

「だからってゲームで剣キャラ使いこなせるのも違和感だよ」

 

 

などと会話していたが、そこで総司が何故かみんな緊張した面持ちでソファに座らないことに気づく。全員分のコーヒーを入れてきた雫がテーブルに並べ終わってもだ。

 

 

「これ、どうぞ」

 

「おお、ありがとう」

 

 

雫は最後に、ソファに座っているもう一人に直接カップを渡してから座った。その人物はお礼を言って、コーヒーを一口飲んだ後、一向に座らないみんなを一瞥してこう言った。

 

 

「お前達、突っ立ってないで座れよ」

 

「な、なんでお前がいるんだよ!?安部零次!」

 

「別にいても良いだろうが」

 

「良くないですよ!?」

 

 

幹比古と美月のツッコミにも冷静に返す零次。

 

 

「大丈夫だよみんな。零次君が暴れ出しても、すぐに総司君が止めてくれるから」

 

「大丈夫かどうかの話じゃ無いわよこれ!アタシ達コイツに先日ボコられてるんですけど!?」

 

「まあまあ、そんな細かい事は水に流そうぜ?」

 

「寧ろ貴方は流してはいけない人ですよね総司さん!?お腹に大穴が開けられたのを忘れたんですか!?」

 

 

完全に受け入れている雫と総司にエリカとほのかが文句を言う。

 

 

「お兄様のご苦労も知らないで…お兄様、私はこのような暴挙を許すわけには…」

 

「もうなんでもいいや」

 

「お兄様!?」

 

 

腹に大穴開けられた痛みを読み取りながら総司を治療した達也を想い、怒りがこみ上げてくる深雪であったが、とうの達也がどうでもいい宣言をしてしまう。多分彼の脳は今終わっているのだ。

 

 

「な、なんでコイツが居るんだ…?」

 

「それはね…」

 

 

そうして雫は、昨日の総司と零次のやり取りを話し出した…

 

 

 

少女説明中…

 

 

 

「…と言うことで、ドンアバタロウは普通の人に戻ったのでした。めでたしめでたし」

 

「いや何の説明してたの!?この人が此処にいる理由を説明してよ!?」

 

「「いい話だなぁ…!」」

 

「そこでシンクロするのかよ!?」

 

「やっぱクローンね…」

 

 

最終的に零次の目的が真由美の護衛であると分かった一行は、それならばと気になった質問を投げかける。

 

 

「じゃあなんで先輩が泊まっているとこに行かないのよ」

 

「場所知らないからに決まってるだろ」

 

「そんな誇って言うことじゃないでしょ!?」

 

「俺達はコイツとは敵としてしか接してこなかったが、実際は総司みたいな人間なんだな…」

 

「とても厄介ですね…」

 

「そこの兄妹聞こえてるぞゴラ」

 

 

とここで、美月が一つ質問を行う。

 

 

「七草先輩に直接護衛の許可を取った上で、何処に泊まられているのか聞き出せば良かったのではないですか?」

 

「いや…出発したのが昨日でな、ちょくちょく連絡は入れてるんだけど、一向に出やがらなくてさあ…」

 

 

 

 


 

 

一方そのころ…

 

 

「「(やっ…やっちまったー!?)」」

 

 

同室のベッド…どころか、同じベッドで目が覚めた真由美と摩利。今二人は、一糸纏わぬ姿で共にベッドにいるのだ。周囲を見渡しても、別に酒類のゴミがあるわけでも無い。昨日の航空機内での出来事で気を張りながら過ごしていた。それ故に昨夜は精神的に疲労を感じていた二人。風呂に入ろうとして何故か二人同時に服を脱いだ後、あまりの眠気に二人でベッドに入ったのだった。

 

だがそんなもの二人の記憶にはないので、二人はガチ焦りしていたのだ。

 

 

「(ど、どうしよう…私十師族なのに女性と結婚とか許されるのかしら!?いえでも摩利ならワンチャン…?)」

 

「(わ、私には修次が…!い、いやでも真由美となら…!?)」

 

 

あまりの焦りで馬鹿なことを考え出す二人。そんな中、真由美の連絡端末に通知が来る。

 

 

「ま、真由美!なんだか連絡が来たようだぞ!?」

 

「え、ええ!そ、そうみたいね!」

 

 

これ幸いとこの状況を直視しないために端末を覗く真由美。その表情は、「まずい」というニュアンスこそ同じだが、その意味合いがシリアスなものへと変わる。

 

 

「…どうしたんだ真由美」

 

「今、十師族の暗号メールが届いたの。その内容は…」

 

 

送られてきたメッセージを解読し、その内容を摩利に伝える。それを聞いた摩利は飛び起きて、急いで支度を済ませた。

 

 

「摩利!?」

 

「お前もボサッとするな真由美!善は急げと言うだろう?」

 

「…それもそうね」

 

 

摩利の意見に賛同した真由美も支度を終え、急いで部屋を出る。その二人の表情には焦りが前面に出ていたが、その中には確かに「さっきの状況を忘れられる…」という安堵が混じっていた。

 

 

因みに、その前に大量に送られてきていた零次からのメッセージには反応を示さなかった。

 


 

 

 

「…零次の奴何処行った?」

 

「知らない」

 

「それでいいのかお前…」

 

 

少し時間がたち、別荘がある島から商業施設がある島にやってきた一行。しばしのショッピングの後、カフェに入ったところでレオが零次の不在に疑問を抱くが、総司は知らないと一蹴した。

 

 

「ああ、零次君ならあそこだよ」

 

「「「「…なにしてるのアレ」」」」

 

 

雫が指をさした先を見た女性陣が、声を揃えて言葉を発する。そこには

 

 

「(コソコソ…)」

 

「…もしかして植物のフリしてる?」

 

 

そう、零次はよくあるギャグ表現である、頭に木をくくりつけて手にも木を持って茂みに隠れるという行為をしていた。

 

 

「なんてベタな…」

 

「そうか?お前達雫ちゃんが指摘するまで気づかなかっただろ?」

 

「「「「「!!!」」」」」

 

 

その言葉に殆ど全員が驚く。確かに、総司と雫、達也と深雪以外はその事実に気づいていなかった。因みに気づいていた組の中でも、総司と雫は大して興味が無いから、達也と深雪は関わりたくないから無視を決め込んでいたりと違いがある。

 

 

「というかなんであんなことしてるのよ。さっさと合流すればいいのに」

 

「いやそれが何だが、先輩と連絡がまだ付いてないとか何とか」

 

 

真由美が零次からのメッセージに気づいていれば、こんなことにはならなかったのだが…悔いても仕方の無い事だ。

 

 

「…ん?」

 

 

そんな会話の中、レオが違和感に気づく。

 

 

「…おい、何か殺気だってねえか?」

 

「…言われてみればそうね」

 

「大丈夫でしょ」

 

「うまい」

 

「なんでお前もう飯を食ってんだよ!?いつ注文した?」

 

 

零次を探すために外に目を向けたからこそ気づけたが、商業施設内に複数人の警備員らしき人物らが何かを探しているのが見て取れる。

 

 

「不審者でも出たのでしょうか…?」

 

「それにしちゃ、木のフリしてる不審者を見つけられてないようだが」

 

「あっ、今真横通り過ぎましたよ!?」

 

「やっぱり気づかないんだね…」

 

 

警戒して何かを探しているのであろう警備員達が横を通り過ぎても、警備員も零次も無反応。お互いが目的のものに夢中になっていて気づいていないようだ。

 

そんな中…

 

 

「…!お兄様、あそこに身を潜めている者が…!」

 

「…!」

 

 

深雪が指をさした場所には、確かに柱に隠れて周囲を見渡している一人の男がいた。どうやら無線機で誰かと通信しているようだ。発声はしているようで、達也は読唇術でその内容を読み取ろうと試みた。

 

 

『おい、ファルコン1!?警備員が動き回っているんだけど!?…ああ!?「ヘマしたのはイッチーじゃないんですか~?」だって!?んなわきゃねえだろ!?…何だよファルコン1?え?「コードネームで呼び合うのやめないか」って?オイオイバカ言ってんじゃねえよ、もし傍受とかされてたら…「コードネーム呼びのメリットはともかく、全員のコードネームがファルコン1は無い」?…うるせえ!思いつかなかったんだよ!』

 

「大丈夫だよ深雪。どうやら頭のおかしい奴なだけみたいだ」

 

「ん?そんな奴居る?…なんだ、市ノ瀬じゃん」

 

「…え?知り合いなんですか?」

 

「まあ一応。雫ちゃんを爆破した三人の内の一人だよアイツ」

 

「「「「…はあ!?」」」」

 

 

驚愕で声を上げる一同。その声に反応したカフェ内の客が一斉にこちらを向いた。慌てて「すいません…」と謝罪して、総司と雫に詰めよる一同。

 

 

「どう言うこと!?」

 

「あの三人が俺の部下になった事は前に伝えたよな。今回は、一応雫ちゃんの護衛として付き従わせていたんだが、先輩が見つからないから探すのを手伝わせてたんだよ」

 

「…いつから一緒に居たんだ?」

 

「最初からだぞ」

 

「それにしては気配が無かったんだが」

 

「そりゃ久豆葉の所為だな。アイツは気配を消すのが得意なんだ。多分市ノ瀬に気づけたのも、今近くに久豆葉が居ないからだな」

 

 

その言葉に黙りこくる一同。

確かに雫を襲撃した三人は、一瞬の内に雫に制圧されてしまったとはいえ、アレは『天岩戸』の防御性能と奇襲性能の高さからなる不意打ちから始まっていた戦闘なので、それ無しで爆撃を受けていれば雫も無事では無かっただろう。気配を『精霊の眼』で確認できる達也が居ながら気づかなかったというのは、かなりの凄腕である事が窺える。

その事実を確認しながら、達也は席を立ちながら提案する。

 

 

「…そろそろ、ここを出た方が良い」

 

「面倒事に巻き込まれないためか?」

 

「そうだな。七草先輩達を探すのは零次だけの目的だ。俺達がここに長居する必要は無い」

 

「ちょっと、待って、今まだ食ってる途中…」

 

「…お前、航空機の発着場の場所はわかるか?」

 

「まあ、それぐらいは」

 

「なら後から走って追いついてこい」

 

「りょ」

 

「それから、あの護衛とやらは七草先輩達の捜索にあたらせろ」

 

「おけ」

 

「じゃあみんな、ここから早く脱出しよう」

 

 

総司以外が席を立つ。そして全員が店外へと出る中、一人残って飯を食べ続けている総司。周囲の人は、「もしかして置いてかれたのかな…」と要らぬ心配をされていた…




魔法科世界の秘匿通信


・零次の本来の性格:総司を元にしているだけあって頭がおかしいが、それは軽度な物であり普段はなりを潜めているが、総司の展開するギャグ時空に乗り込むと途端に総司と同レベルになってしまう。



・雫を襲った三人:市ノ瀬、双葉、久豆葉の三人。読み方的に分かるように漢字が漢数字に置き換えらる。つまり彼ら三人は所謂『数字落ち』であり、市ノ瀬が第一研、双葉が第二研、久豆葉が第九研の『数字落ち』である。
性格は左から、無自覚ボケ、天然女子、主にツッコミ担当、という内訳である。


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星を呼ぶ少女編 その四

スクエニってやっぱダメだわ


正直リロメモのサ終は一大事件なので、クオリティ低くてもすぐに投稿したかった。気に食わないなら読み飛ばしても構わないよ。


急ぎながら、しかし怪しまれぬように航空機へと戻る一行。

その時、達也が何かを感じ取ったかのように空を見上げる。

 

 

「…お兄様?」

 

「…リロメモの霊圧が…消えた?」

 

「リロメモはゲーム性には割と文句ない(好きな作品故の色眼鏡かもしれない)けど、ガチャで深雪しか出さないから残当」

 

「いや、僕やレオの方がガチャキャラ無いからね…?」

 

「ボックスガチャしか出番無かったもんな」

 

「みんな作者に言わされすぎじゃ無い?」

 

「そんなこと言ったらこれまでずっと「「「「シャラップ美月」」」」オクチミッフィチャーン」

 

「みんなで何の話をしているの…?」

 

 

あまりにも関連性のある時事ネタ過ぎて書いていて辛いものがあるが、今日も私は元気です。スクエニってやっぱダメよ(二回目)

 

 

「っと、やっと着いたな」

 

「意外と早く着いたわね」

 

「昨日の体感時間の長さと比べると雲泥の差だな」

 

「おっと、投稿ペースの悪口はそこまでだ」

 

「なんか今日メタくない?」

 

 

そうして航空機内へと入る一行。

 

 

「じゃあ出発準備をしながら、総司君を待ちましょうか」

 

「総司待つ必要ある?」

 

「達也さん脳壊れた?」

 

「最近のお兄様はどこかおかしい…」

 

「おつむ弱々な達也さんも良い…」

 

「ほのかって結構ストライクゾーン広いのね」

 

「広すぎてマリアナ海溝みたいだ」

 

「「「「「は?」」」」」

 

「ノっただけでこの反応!?」

 

 

愕然とした表情で驚く幹比古。それをみんなで笑い合っていると…

 

 

「…うふふふw」

 

「「「「「!?」」」」」

 

「…お兄様?」

 

「…ああ、すまない。今ヘルシェイク矢野の事考えてた」

 

「誰よそれ」

 

「うふふw」

 

「「「「やっぱ誰か知らない人乗ってるよね!?」」」」

 

 

全員が座っている座席よりも後ろの座席を探すと、白いワンピースのような服を着た少女がいた。

 

 

「あっ…バレちゃった」

 

「「「「えっ…可愛い」」」」

 

「なんで女子ってこうも可愛いものが好きなんだろうな?」

 

「何言ってるんだ達也。ひとり野郎が居たじゃねえか」

 

「そうだね。レオの言う通り、ちょっと細いけど赤髪でワイルドな男子がね」

 

「それもそうだな、可愛いものが好きというのは男女の区別にはならないか」

 

「あんた達ぶっ飛ばすわよ!?」

 

 

華麗な身のこなしで男性陣に拳骨をかまし、機内にも関わらず綺麗に正座させるエリカ。いくらボーイッシュだったりワイルドだったりしても、女子に「男みたい」は禁句だぞ!(1敗)

 

 

「くっ、くふふふw」

 

「あ~…私達の漫才で笑っちゃったんだね」

 

「そもそもこの子は誰だろう?」

 

「迷い込むにしても、ここはそれなりに警備されているはず…」

 

「…え?」

 

 

女性陣の態度に、「知らないの?」と言いたげな少女。その少女の脳裏に、本来乗る航空機と間違えた可能性が浮かんできて、一気に冷や汗が出てくる。

 

更にその時だ。

 

 

「そこの機体!今すぐ搭乗口を下ろせ!」

 

「…あっ」

 

 

発着場の警備員らしき人物達が、こちらに呼びかけてきた。もしかすると自分を探しているのかもしれない、そうすればこの人達に差し出されるかも…?そんな思考が少女の頭を埋め尽くす。

 

 

「…なんですか?」

 

「…悪いが、軍の基地から脱走者が出てな。機体をご用改めさせてもらう」

 

 

この機体の持ち主である雫が応対したのだが、開口一番、いきなり相手はこちらを威圧してきた。どうやら自分達の権力に恐れをなしてすぐに通されると思ったからだ。だが…

 

 

「へえ、聞き覚えのある声がしたと思ったら…あんた達、随分偉くなったのね?」

 

「…!?」

 

 

その男達は警官隊であった。となれば、現在の魔法師警官に必須の技能となっている剣術の大家、千葉家のお嬢様たるエリカの顔を知らないはずがない。顔から余裕が無くなり、焦り出す男達。

 

 

「で?アタシ達今から帰るところなんだけ「どいたどいたー!」…は?」

 

 

人を軽く殺してそうな人相で詰め寄ろうとするエリカ。だがすぐにその行動は妨害されることとなる。

何者かが大声を上げて、こちらに走ってくるのだ。ただしその速度は尋常じゃないものとする。

 

 

「どいたー!っていうかどけやー!」

 

「「うわあああああ!!??」」

 

 

その存在に気づきはしたものの、並の警官である彼らに対応できるはずもなし。突撃してくる総司によって、哀れギャグ漫画のように吹き飛ばされてしまった。

 

 

「…どうしてそんなに慌ててるの、総司君」

 

「大変なんだ!双葉が真由美パイセンの十師族オーラにあてられてブチ切れた!まもなくあのバカ三人衆と馬鹿な先輩共とそれに付き従う俺のそっくりさんの六人で爆音混じりのタップダンスパーティーが始まっちまう!」

 

「なんで!?」

 

 

エリカの人相に軽く引きながら様子を見ていた雫が、総司に急ぐ理由を尋ねると、あまりにも馬鹿らしい理由が飛んで来た。事情を詳しく聞くために機内に入ってもらったが、何も分からない。

 

曰く、無事に真由美達と合流できた零次だったが、それを草葉の陰から見ていた双葉が、『数字落ち(エクストラ)』特有の恨みつらみを爆発(物理)させてしまい、今絶賛商業施設は大混乱中らしい。暗殺者やめちまえ。

 

 

「と言うわけでさっさと帰るぞ」

 

「止めなくて良いんですか?」

 

「大丈夫大丈夫。証拠になるようなものもないし、あのバカ共と俺達の関与が疑われることは無いよ」

 

「見捨てる気なのかよ!?」

 

 

総司はあっさりと見捨てる宣言をする。因みに見捨てるつもりのバカ共とは三人衆の事だ。真由美と摩利は七草家のご令嬢とその友人として、そして思いっきり被害者側であるから問題ないし、零次は零次で、捕まえられるような化け物が居れば、そこは警官隊や警備隊ではなく、一流の軍隊を名乗っても良いほどなので、確実に逃げ切れる。

三人衆は実力こそ高いが、基本的にバカの集まりだ。それに彼らは過去に雫を襲撃した、総司の中ではその事実が、まだ尾を引いているようだ。

 

 

「よし、それじゃあさっさと帰りますか」

 

「雫はそれでいいの!?」

 

「まあまあ、ほのか。この機体の持ち主が帰ろうと言っているんだから、乗せてもらっている私達はあまり文句を言ってはダメよ」

 

「そう言って、深雪は面倒事から逃げたいだけでしょ…」

 

 

ツッコミを入れるほのかを、すこぶる良い笑顔で諫める深雪。その光景に、エリカは謎の少女を抱えて、その頭をなでなでしながら呆れている。因みに少女は先程からずっと「??」と頭に疑問符を浮かばせ続けている。

 

そんな光景を、まるで父親かのような眼で眺める達也。ふと、自身の連絡端末に視線を落とす。「ところでその子誰?」「知らない」という会話が繰り広げられているのを背後に、不在着信が入っていた事に気づく。一体誰が…?と相手を確認して…

 

 

「(風間大佐…だと!?)」

 

 

自身の上司からの連絡を完全にすっぽかしていた事をしった。

 

 

 


 

 

一方その頃…

 

 

 

「ちくしょ~!私だって本当なら今頃あの女みたいに~!」

 

「ちょっ、まっ、落ち着けって双葉!どうせお前が『数字付き(ナンバーズ)』であったとしても、最下層レベルの家でせいぜいだろうが!」

 

「オイバカ市ノ瀬!双葉さんを無自覚に煽るのやめろよ!」

 

「彼女の制圧を手伝うわ!」

 

「私の剣で黙らせてやる!」

 

「ご、ご協力感謝します!」

 

「頑張れー、二人ともー」

 

「そういう貴方はなんでポップコーン食べてるのよ!?この状況は別に体験型映画じゃ無いんだからね!?」

 

 

辺りを爆発させ続ける双葉を止めようと、謎の同盟が組まれていたのだった…




魔法科世界の秘匿通信


・謎の少女:一体誰なんやろなぁ…(鼻ほじ)。今回は敵かもしれない一高生達を警戒して黙っていたが、突如として始まった漫才に吹き出してしまう。いい人達でよかったね(白目)


・風間大佐からの連絡:原作では本来、達也はショッピングに同行せずに、風間からの呼び出しで一時的に軍の基地に訪れている。今回は昨晩の深雪とほのかからの猛攻を耐え凌いだ代償として寝不足だった為、気づかなかったと思われる。


・バカ三人衆:双葉家は一条に対抗して、無機物を爆破できる魔法を開発する事で一条家の『爆裂』を超えようとしたが、水分さえあればどこでもぶっ放せる『爆裂』の汎用性が高すぎて、不要品扱いされてしまった。

久豆葉家は神道を利用して所謂、『神隠し』を用いて隠密行動を行っていた家系だったが、第九研に良いように利用されて、そのまま衰退した。

市ノ瀬家は人体の水分を操って、その肉体を操作する魔法を開発していたが、政府がパペット・テロを警戒した為、数字落ちした。


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星を呼ぶ少女編 その五

実は作者は星を呼ぶ少女の原作小説を持っていない

ついでに映画の内容も曖昧

故にフィーリングで書くことをご了承願います(今更)


「…」

 

「お、お兄様…風間大佐の呼び出しに応えなくて宜しいのですか…?」

 

「…もうしらねえ~!やってられっかってんだ!」

 

「お兄様!?しっかりしてください!?」

 

「達也がああなった理由に心当たりがあるって言ったら、総司お前はどうする?」

 

「俺だったら自分の善性に基づいてその原因を排除するかな」

 

「原因お前」

 

「深雪ちゃんには悪いが達也はもう手遅れだ…」

 

 

雫の別荘に戻ってきた一行。頭が溶けてしまった達也を放っておいて、女性陣(深雪以外)が謎の少女を可愛がっている。

 

 

「そう言えば結局は君の姉妹を助けて欲しいって事だよね?九亜ちゃん?」

 

「…はい、みんなを…!」

 

「その前に体洗っちゃおっか!」

 

「えっ、ちょっと!?」

 

「怖がらなくて良い、隅々まで綺麗にしてあげる」

 

「ヒエッ」

 

 

頭を撫でていた美月から問われた少女…九亜は、「これからシリアスな話し合いか…」と気を引き締めたのだが、エリカと雫に促されるままに風呂へと連れて行かれる。それに追従する美月と深雪。この場は男子だけとなった。

 

 

「…結構深刻そうだったね」

 

「ありゃ単なる訳ありって感じじゃ無いな」

 

「恐らく、今日何かを探していたあの警備員達は、あの九亜という少女を探していた可能性が高いな」

 

「つまり…ロリコン軍団?」

 

「言うと思った」

 

 

深刻な顔で話し合う男性陣。一人だけ変なことを真剣な顔で口走っていたが、概ね真面目な雰囲気だ。

 

 

「そう言えば、お前のとこの三人組はどうなったんだ?」

 

「拘束されたっぽい。まあプロの殺し屋やってた奴らだし、口は割らないだろう。すぐに抜け出してくるさ」

 

「プロの殺し屋が十師族を見ただけで暴れ出すのか?」

 

「最近のトレンドなんでしょ」

 

「十師族の皆さんは大変だな」

 

 

そんな会話をしていたところで、幹比古がふと疑問を覚える。

 

 

「そう言えば都合良く七草先輩達と零次は合流できたんだね」

 

「ああ~それな、なんか先輩達も捜し物をしていたとか…」

 

「「「「…あっ」」」」

 

 

この瞬間に四人は気づいた。九亜が自分達の航空機に乗ったとき、自分のことを知らない事に疑問を覚えていた理由。それは、本来は七草家の航空機で脱出する手筈だったのではと。

 

 

「……まあ別にいっか」

 

「「「良くないと思う」」」

 

 

頭を振って考えないようにしようとする総司にツッコむ三人。その会話の最中、風呂場の方からガヤガヤと声がする。どうやら気づかぬ内に女性陣が風呂から上がっていたようだ。

 

 

「馬鹿な…女子は風呂が長いことで有名なはず…」

 

「それは人それぞれでしょ、俺一週間ぐらい風呂入らない女知ってるぞ」

 

「それ人間じゃ無くてシャチだよ」

 

「あっそっかぁ…」

 

 

そして女性陣がリビングへとやって来た。全員が風呂上がり特有の色気を発している。もし純粋な青少年が見たら鼻血確実だろう。だがそこは精神年齢が高い魔法科世界の学生達。鼻血を出しているのなんて総司と幹比古とレオぐらいだ…アレ?

 

 

「お前達?」

 

「「「すいません…」」」

 

「達也さん!達也さんも鼻血出してくれても良いんですよ!五リットルぐらい!」

 

「俺死ぬが」

 

 

精神年齢が高いといえども、所詮は学生。しかも男子となれば、意中の相手を含む女子達の風呂上がりなんて見たら鼻血を出すこと必然である…となると、総司は毎度鼻血を出していることになるが、それは気にしないでおこう。

 

 

「…あのう」

 

「…騒がしくてごめんなさいね?ゆっくり話してくれて大丈夫だから」

 

 

再びシリアスな話し合いをする雰囲気で無くなり、おどおどしてしまう九亜。深雪はこの場唯一の常識人としてただ一人彼女を気遣うのだった…

 

そしてしばらくした後…

 

 

「それで?君はどうして欲しいの?」

 

「なんでお前が仕切ってんの?」

 

「なんで俺が仕切っちゃダメなの?」

 

「お兄様、総司君!ちょっと黙っててください!」

 

「「オクチミッフィチャーン」」

 

 

言い争いだすと、同一人物が喧嘩しているようにしか聞こえない二人を諫め、続きを促す深雪。そして九亜は話し出す…ようやくするとこうだ。

 

彼女はとある実験施設で魔法発動の「パーツ」として生み出された調整体であると言うこと。自分達の事を研究者達は『わたつみシリーズ』と呼んでおり、自分はNo.22と呼ばれていたと言うこと。最後に、研究者達が開発する魔法の正体は自分でもよく分からないとのことだった。

 

その話を聞いて、流石の一同も曇る。特に自身のクローンを戦争の兵器に用いられ、数多くの『自分殺し』を行わなければならなかった総司が、一番深刻な顔をしている…様に見えるが、真剣そうな顔で眼をつむっている総司は、他からはともかく、雫から見て寝落ちしている事がほぼ百パーであった。

 

 

「その研究者共、絶対に許さない!」

 

「こんな可愛い子達を実験の道具として使うなんて…!」

 

 

エリカとほのかの怒りの言葉に、全員(ギリギリ総司は起きた)が首肯する。そして、今にも泣きそうな顔をしている九亜を見た深雪が、達也にこう言ったのだ。

 

 

「お兄様、お願いします…!深雪は彼女を、彼女達を救ってあげたいです…!」

 

 

それは非常にリスクのある願いであった。もし相手が敵国の研究者達であれば、仮にそれを潰したとすれば、自分達はその国から狙われ続ける事となってしまうだろう…

だが、これは他ならぬ深雪からの願いだ。その願いを前に、達也が返す言葉は一つだけだった…

 

 

「分かった、何とかしよう」

 

 


 

 

とある研究所にて…

 

 

「やはり、こちらに来ていたか。世界最強にして最大の創造物…!」

 

「このクローンの演算能力であれば、わたつみシリーズを用いずとも魔法発動が可能になるかと…!」

 

 

研究所内の、わたつみシリーズを使い潰す事に賛同していた者達は、諸手を挙げて喜んでいた。何せ最高の素材が向こうからやって来たのだから。

 

 

「安部零次…!光栄に思うがいい、我々が君を、日本国の英雄にしてあげよう…!フハハハハハハハ…!」

 

 

批判的な眼を向けてくる者達の事など露知らぬと言いたげに、この研究所の所長らしき人物は、あくどい笑い声をあげていたのだった…




魔法科世界の秘匿通信


・実は九亜の願いを聞いた後に、男性陣が風呂に入るのだが、そこで女性陣が九亜を抜いて全員で風呂を覗きに来ていたらしい。



今回短め

次回から戦闘入るかもね


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星を呼ぶ少女編 その六

前回戦闘あるとか書いてたけどそんなこと無かったわ。

今回も薄味なんで読み飛ばしてもいいよ


とある研究所にて…

 

 

「「あばばばばばば!!!」」

 

「総司君!零次君!」

 

「あんのバカ共が!」

 

「フフフ、ハッハッハ!まんまと引っかかったな安部零次よ!…正直、橘総司の方はどうでもよいのだが」

 

 

何かの物々しい機械に接続された二人は、大出力の電撃を喰らっていた。ボロボロになりながら二人を救出しようとする真由美と摩利。

 

はてさて、一体何があったのかと言うと…

 

 

 


 

 

「善は急げって言うよね」

 

「どうしたいきなり…ってまさかお前」

 

「そそ、もうさっさと突撃しないか?って事サ」

 

 

通信端末を見ながら発せられた、総司の急な提案により、メンバーの顔色が変わる。確かに、九亜が脱走した以上、彼女の仲間達がどうなってしまうか予想が付かない。仲間達を助けたい九亜の望みからかけ離れてしまうだろう。

その意見に誰もが口を開けずにいた所、達也が声を出した。

 

 

「…確かにその通りだな」

 

「では、お兄様…」

 

「ああ。今すぐにでも彼女の仲間達を救出しにいこう。だが…」

 

「だが?」

 

「行くのは俺と総司だけだ」

 

「「「「「!?」」」」」

 

「何…だと?」

 

「なんでお前も驚いているんだ、総司」

 

「みんな驚いてるから乗っただけ」

 

 

達也はなんと、自分と総司だけで救出に向かうと宣言する。友人が自ら危険な目に遭うということを、彼ら彼女らが許容できるはずも無かった。

 

 

「嫌ですお兄様!深雪も…深雪も連れて行ってください!」

 

「総司君…私だって戦えるんだよ?」

 

 

真っ先に声を上げたのは深雪と雫であった。二人はいつも、達也と総司から守られてばかりだ、彼らの帰りを不安と共に待つしか無いのだ(雫は総司を信頼しすぎていて、最早心配しているかは微妙なところだが)。それに深雪は自分の願いで、兄と友人だけが危険にさらされる事を許せなかった。

他の面々も同じような気持ちだろう。だが…

 

 

「ダメだ」

 

「何故ですお兄様!?」

 

「ダメだよ雫ちゃん、ここでジッとしてなきゃ」

 

「…総司君、どうして」

 

 

二人からの返答は、実質的なNoであった。それに悲しみの表情で何故を問う深雪と雫。だが、二人の意見は変わらなさそうだ。

 

 

「…どうして、そこまで拒否するんだい?」

 

「ミキ…?」

 

「そこまで拒否するのは、恐らく別の理由があるんじゃないのかい?」

 

「…その通りだ、幹比古」

 

 

幹比古からの問いを肯定する達也。そして彼は、敵の正体についての考察を話し始める。

 

 

「今回の敵は、恐らく国防海軍だ」

 

「なっ…!?」

 

「なんで海軍が…!?」

 

「さっきの九亜の話から察するに、恐らく奴らは戦略級魔法を手に入れようとしているらしい」

 

「戦略級魔法だと…!?どうしてそんなものを!?」

 

「推測だが、海軍は陸軍が戦略級魔法を手に入れた事に焦っているのだろう」

 

「…『質量爆散(マテリアル・バースト)

 

 

悲しいかな、達也の考察は当たっていた。今回の事件は国防海軍が陸軍に対抗するための戦略級魔法を求めた故の出来事なのだ。だが彼らはまだそれが事実かどうかは知らない。しかしその推論を展開したのは達也だ。この場の誰も異議を唱えられない。

さらに追撃かのように、端末に視線を落としていた総司が顔を上げこう言った。

 

 

「俺もさっき、ちょっとした情報筋から入手したんだが、どうやらスターズも介入してきているらしい」

 

「何だと…?それは本当なのか総司」

 

「本当だとも、何せ指揮をしている総隊長殿からの直接のリークだからな」

 

「リーナ…」

 

 

それはリーナが率いるスターズの部隊がこちらに向かってきていると言うことだ。それはつまり、この一件は最早一般人の出る幕では無い、国際問題スレスレの出来事ということでもある。

 

 

「…それと、達也さん達だけで戦いに行くのに、なんの関係があるんですか」

 

「…簡単な事だよ美月。俺達陸軍の所為で、海軍の暴走を招いてしまった。それならば、その尻拭いをしなければならない」

 

「じゃあ、総司さんも戦いに行くのは何故…!」

 

「美月ちゃん忘れてるかもだけど、一応俺って十師族の端くれだからね?国を護る義務ってのがあんのよ」

 

 

そう言いながら総司はさっきまで見ていた端末の画面をみんなに見せる。

 

 

「大丈夫だよ、あの三バカが脱走できたらしい。戦力は充分足りてる、こっちで何とかしておくから」

 

 

そう言って、達也と総司は立ち上がる。二人を制止しようとするみんなを、不意に雫が遮った。

 

 

「…気を付けてね」

 

「…ああ」

 

「雫ちゃんが俺の強さを一番理解してるだろ?大丈夫だって」

 

 

達也と総司は雫からの激励を受けて、ヘリポートへと歩み出す。特に総司の発言は、後々ピンチが確定している中で聞くとフラグでしか無いのが分かる。

 

そして二人はヘリに乗り込んで、海軍基地まで向かうのであった…

 

 

「…おい、ホントに二人だけで行かせてよかったと思ってんのか?」

 

「ふふ、思ってる訳ないじゃん」

 

 

二人で行かせた雫に、レオが若干の不満さを見せながら問いかけると、雫が不敵に笑って否を唱える。直後、猛烈な風と駆動音を感じた。

 

 

「…ヘリがもう一台!」

 

「さっきのは二人を油断させるための嘘。一緒に行ってはダメなら、後から行けばいい」

 

 

二人が出て行った後に出て行けば、と言うものの、ほぼ同時出発となんら変わりない事には誰もツッコまない。そうしてヘリは出発する。

 

 

「ほのか、美月…九亜ちゃんをお願いね」

 

「そういう皆さんも、気を付けてください!」

 

「雫!怪我しないようにね!」

 

「もう…ほのかは過保護だよ」

 

 

そう言い合って、ヘリは出発する…

 

 

 


 

 

「…ソウジ、貴方も来るのね…」

 

 

今回の一件にて、世界を滅ぼしかねない魔法の発動を感知したUSNA政府は、アンジー・シリウスを指揮官とする制圧部隊を派遣した。まもなく現場に着くであろう。そうなれば総司や達也と戦闘を繰り広げねばならないかもしれない状況に、頭を抱えてしまう。

 

 

「…だけど、私だってやらなきゃならないのよ」

 

 

そう言ってリーナが目を向けたのは、今回の任務に同行する、数十人のスターズのメンバー達であった…

 

 

 


 

 

「…深雪がヘリに乗って俺達に付いてきている」

 

「…雫ちゃんは?」

 

「恐らく一緒だ」

 

「もう…ワガママなんだから」

 

「お互い苦労するな」

 

 

そう言い合って、二人は海軍基地を見下ろした。

 

 

「…行くぞ」

 

「おうよ!」

 

 

そして二人は、何も付けずに身一つで降下するのであった…




マジで薄いな…次回こそはもっと味が濃い話を書きたいものだ…


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星を呼ぶ少女編 その七

原作との齟齬


・達也が風間大佐の呼び出しに答えてないので、ムーバルスーツが無い=飛行しながらの戦闘は難しい


だから総司を連れていく必要があったんですね


「総司、これからの方針を伝える」

 

「おけおけ、どうするつもりなんだ?」

 

「恐らく向こうにとっても、俺達の襲撃は不意打ちに近しいはずだ。俺が地上で施設を破壊して注意を引く、その隙にお前は九亜の仲間達を救いに行け」

 

「…それはお前があまりにも危険じゃね?」

 

「フッ、いらん心配はやめろ、お前が俺の実力を把握してるのは知ってる」

 

「そうだったな…じゃあ頼んだ!」

 

「ああ」

 

 

そう言い残して達也はヘリから飛び降りる。モチロン飛行魔法を使っての降下であるが。そして達也は目的地である海軍基地のほぼど真ん中に着陸する。因みに現在の達也は黒ずくめの服装にサングラスを掛けている。これは正体がバレて陸軍と海軍の本格的な抗争を避ける為だ。

 

着陸早々に、達也は『大深度霧散霧消(ディープ・ミスト・ディスパージョン)』を使用して施設の一つを文字通り消失させる。それを皮切りにけたたましいほどのサイレンが鳴り響く。それを聞いた総司は、自分も降下しようと『仮装行列(パレード)』を用いて透明化する。その時だった…

 

 

「ん…?あれは、小悪魔ババア(真由美先輩)鬼の風紀委員長(摩利先輩)…それに、平均野郎(安部零次)

 

 

総司の眼下には、隠密行動を行う零次達の姿があった…

 

 

 


 

 

少し前…

 

 

「よかった…九亜ちゃん、達也君達で保護してるみたい」

 

「それは安心だな。下手しなくとも私達に預けるより安全だ」

 

「そうね…それと零次君?」

 

「ハイ」

 

「いくら香澄ちゃんのお願いでも、簡単に日本本島を離れられるとこっちが困るんだけど?」

 

「スイマセン…」

 

 

真由美に叱られて零次はすっかり意気消沈していた。そもそも零次は日本史に残る大犯罪者である、その自覚を持って行動してもらいたいという真由美の言葉は正しい。

 

と、そこで真由美の端末に連絡が入る。

 

 

「…?何かしら一体…っ!?」

 

「どうした真由美、何かあったのか?」

 

 

その連絡には、とんでもない文言が書かれていた…

 

 

「…海軍が、戦略級魔法を発動しようとしている兆候が確認されたみたい」

 

「何だって!?」

 

「戦略級魔法…」

 

 

真由美からの衝撃の情報に驚愕する二人。しかしその驚愕にも種類があった。

 

摩利の驚愕は、驚異となる外敵すらいないのに戦略級魔法を発動しようとしている事に対しての『何故』という疑問からの驚愕、零次はその魔法が『霹靂塔(へきれきとう)』のように周囲のインフラに打撃を与える魔法であろうと、零次は名を知らないが『質量爆散(マテリアル・バースト)』のような破滅的な被害を出す魔法であろうと、実験なのかそうなのかも定かでは無いが、無闇矢鱈に戦略級魔法を撃って自国に甚大な被害をもたらす馬鹿な行動をとる海軍に対しての呆れからの驚愕であった。

 

 

「…それで、真由美はどうしたい」

 

「零次君…」

 

 

正直に言って零次にはこの日本という国はどうでもいい。今の彼は、自身を生み出してくれた上の人間への恩返し、オリジナルの総司との決着、そして自身へ好意を寄せてくれている香澄の家族を守るという気持ちだけが重要だ。故に、彼にとって守るべき対象である真由美に選択を迫る。

 

そして真由美は、妹達から十師族としての責任を重んじる人物であると称される程責任感が強い…となれば答えは一つ。

 

 

「戦略級魔法の発動を…止めるわよ」

 

 

そうして一同は行動を開始した。

 

 


 

 

「何やってんだアンタら」

 

「うおわあ!?…なんだ総司か、驚かせるなよ」

 

「オリジナルか…お前も戦略級魔法を止めに来たのか?」

 

「は?戦略級魔法?俺は九亜ちゃん達の仲間達を助けに来ただけなんだが」

 

「…もしかすると、九亜ちゃん達は今回の戦略級魔法を発動するために生み出されたのかもしれないわね」

 

「「なっ!?」」

 

「…もしそうだとするとマズいな、仮に調整体魔法師を複数人使っての魔法発動を行おうとすれば、最悪その調整体達の自己意識が消えて無くなりかねない…」

 

 

場を沈黙が支配する。聞こえてくるのはサイレンと兵士達の怒声から来る戦闘音だけだ。しかし総司はその音で、今達也が頑張って足止めをしてくれていることを思い出す。

 

 

「…だったらさっさとみんな助ければいいんだよ、そうすれば魔法も発動しないはずだ」

 

「…そうだな、それが最善策か」

 

 

総司と零次は目を合せて頷き合うと、真由美と摩利に背を向ける。

 

 

「俺達が先行して突撃する。二人は逃げ出した調整体達を救出してくれ」

 

「そんな、零次君!」

 

「大丈夫だ真由美、香澄に返事をするまで、俺は死ねない」

 

「返事ぐらいさっさとすれば如何ですか」

 

「うるさい殺すぞオリジナル」

 

 

横から総司が茶々を入れてくるも、零次は努めて平静に真由美に告げた。

 

「頼んだぞ」と

 

 

「…ええ、任せて!」

 

 

真由美は、零次からの期待に、見事応えて見せようと覚悟を決めた…

 

 

 

 


 

 

 

「「あばばばばばば!!!」」

 

 

しかしこの光景を見た瞬間、さっきの自分がバカみたいだと真由美は思った。

 

零次の言った通り、二人の後から施設内に侵入して(わたつみシリーズが居るところは零次が式神による索敵で見つけた)、逃げてくるはずのみんなを待っていたのだが、一向に来る気配がない。心配になって来てみればこのざまである。

 

何があったのかというと、単純に今回の襲撃の目的を敵にあっさりと見抜かれ、爆弾付きの首輪をわたつみシリーズに嵌められてしまい、人質をとられてしまったバカ二人。本物のバカ(総司)はともかくとして、零次には対抗策が無い事も無かったのだが、古式魔法を操る彼は、いくら魔法発動が常人よりも早いと言えども、古式である以上少々前動作を要求されてしまう。そんな隙を見せれば簡単に爆破させられてしまう。

 

ならば持ち前の身体能力で打破すれば…とも考えたが、そもそもここは相手の腹の中。この部屋には時速計がありとあらゆる場所に設置されているらしく、時速二十キロをオーバーした瞬間に起爆装置が起動するらしい。本当かどうかは定かでは無いが、はったりかどうかを確かめるための賭けの代償が人質の命ともなれば、下手に動くことが出来ない。

 

故に二人は大人しく捕まり、中心の装置に繋がれてしまった。その拘束は緩く、二人の膂力であれば容易く突破出来る拘束だった。しかし、その装置からの電流を受けてしまった瞬間、力も入らず、魔法を発動しようとすら出来なくなった。

この研究所の所長らしき人物曰く、現在二人に流れている電流は、流された人間の脳からの信号を体が受け付けなくする効果があるらしく、脳からの命令が届かなくなった肉体はまったく動かなくなってしまったのだ。しかもこの電流は特殊な物でこそあれど、魔法では無い。魔法であれば問答無用で無かった事に出来る総司でも抜け出せないのだ。

 

だがその状況のピンチさと、二人の情けない悲鳴は見事にミスマッチしており、真由美はかっこ良く決めた二人に続こうと覚悟を決めた過去の自分をバカにしたのだった。

 

 


 

 

一方その頃…

 

 

「…っち、お早い到着だな、スターズ」

 

「ム…こちらの動きが読まれていた…?貴様何者だ」

 

「答える義理は無い」

 

「ならば実力で吐かせるまでだ!」

 

 

海軍の施設を粗方分解し、兵士達も軒並み伸した達也であったが、ここでスターズのメンバー達が到着してしまう。一人一人の実力は、先程相手にした兵士達よりも圧倒的に高く、更には範蔵と同レベルの実力を持つベンジャミン・カノープスが目の前に居るとなれば、流石の達也も『誓約(オース)』を付けた状態では勝ち目は低い。

変なプライドを持たずに深雪に『誓約(オース)』を解除してもらっておけば…と後悔する間もなく、スターズの戦士達は達也に襲い来るのであった…




魔法科世界の秘匿通信


・二人があばばばってるのはギャグ表現。本来なら悲鳴も出せないようにされている。



・達也は現在の武装に限界があるので、このままだと負ける


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星を呼ぶ少女編 その八

もう直ぐ百話到達ですね…長かったような短かったような…


あ、今回の後書きはちょっとネタバレが多めなので嫌な方は読まない方が良いです。


「…」

 

「呆れている場合では無いぞ真由美!二人を今すぐ助けなくては!」

 

「…ッハ!待ってて二人とも!今すぐ助け…」

 

「おっと、待ってもらおうか?」

 

 

情けない悲鳴を上げている馬鹿二人を助けようとする二人だが、研究所の所長に、わたつみシリーズに付けられている爆弾の起爆装置をちらつかせられ、動きを止めざるを得なくなる。

 

 

「…ック、貴様は戦略級魔法を手にして、一体何を企んで居るんだ!」

 

「フン、知れた事よ。陸軍があのように強大な力を得てしまえば、それを武器にこの国の実権を握ることなど容易かろう。そんなもの、我々海軍が許せるはずがない」

 

「なんて…くだらない!」

 

「…でも、あの戦略級魔法を凌駕するような魔法なんてそうそう無いわ、一体何をするつもりなの…?」

 

「おや、七草のお嬢さんは好奇心旺盛のようだ。今から実演して差し上げよう」

 

 

所長がコントロールパネルを操作すると、総司と零次が繋がれている装置が起動する。そして現れる魔法式。

 

 

「「ぐああああああああ!?」」

 

「なっ、二人とも!?」

 

「くっくっく、やはり計算通りだ。安部零次一人でわたつみシリーズ百体を凌駕する演算を行える…!生態電気の操作によって橘総司の異能も無力化出来た!これで遂に魔法が発動できるぞ!」

 

「…真由美、何が起こっているのか分かるか?」

 

「いえ…周囲には今の所以上は無いわ」

 

「そうだとも、何故ならこの魔法はもっと遠くから作用するのだ」

 

 

そう言って所長は上を指さす。

 

 

「…空?」

 

「空だと?その程度の魔法だと?侮るなよ!」

 

「…まさか!?」

 

 

摩利の推測を否定した所長の発言により、何かを察した真由美は『マルチ・スコープ』を用いて、遙か彼方…『宇宙』に目を向けた。そこには…

 

 

「アレはUSNAの軌道衛星…!そこにその機械と同じ魔法式が発生しているわ!」

 

「ま、まさか…!?」

 

「そう!この魔法、『隕石爆弾(ミーティアライト・フォール)』は、宇宙に存在する天体を地球へと落下させる力を持っているのだ!」

 

「そ、そんなことが…!?」

 

「この魔法の力を見せつけるため、まずは邪魔なUSNAの衛星を落とし、我々海軍が日本の主体となるのだ!」

 

 

何も出来ないことに歯噛みをする摩利。しかし…

 

 

「(…零次君、何故笑っているの?)」

 

 

機械に繋がれている零次が、いつの間にか笑みを浮かべていた事に気づいた真由美。それと同時に彼女は気づいた、機械…と言うより大型CADに発生している魔法式に違和感を持った…まるで同時に別の魔法式を読み込んでいるかのような…

 

直後、総司から言葉が発せられた。

 

 

 

 

「荳肴噴縺ァ縺ゅk」

 

 

 


 

 

一方その頃…

 

 

 

「クソッ、数が多すぎる!」

 

「大人しく降伏した方が身のためだが?」

 

 

地上では達也が、カノープスを主軸としたスターズの精鋭達に追い詰められていた…と言っても、ほぼほぼカノープスの功績であり、他のメンバーは少し援護していた程度だ。

 

 

「(リーナは…アイツは手を貸してはくれないのか?)」

 

 

達也はこの状況で頼りになるであろう実質的スパイの存在を思い浮かべるが、そんな思考すらままならなくなるほどの猛攻を受け、遂に膝をついてしまう。

 

 

「捕まえたぞ、さあ情報を吐いてもら…」

 

「…ここまでか」

 

 

まさかここで『分解』や『再生』を全開で使わざるを得ないとは達也も予測していなかった。恐らく今本気を出してしまえば、USNAに自分があの『質量爆散(マテリアル・バースト)』を扱う戦略級魔法師であると暴露するようなものだ。だが捕虜になるよりはマシだと、達也は覚悟を決めて…

 

 

「…これは!?」

 

「冷気だと!?」

 

 

しかし達也の行動よりも先に、スターズの足下に冷気が充満する。ハッとなった達也が上を向くと、その先にヘリが飛行しており、そこから降りてくる人影が…

 

飛行魔法で華麗に着地する者、自身の身体能力や慣性制御などで威力を殺して着地する者など、様々であったが、彼らがまごうことなき味方であることは確かだった。

 

 

「…貴方たち、よくもお兄様を「一つ!」…え?」

 

「非道な邪悪を憎み!」

 

「エ、エリカ?」

 

「何やってのよ相棒!いつもの決め台詞行くわよ!?」

 

「いつもの!?私そんなの知らないのだけれど!?」

 

「ほらほら!…ごにょごにょ」

 

「え、えぇ…ゴホン、二つ!不思議な事件を追って!…これでいいのかしら?」

 

「おっけおっけ、ほらほら、ミキ」

 

「うん…三つ!未来の科学で捜査!」

 

「あっ、深雪。深雪まだ台詞あるからね」

 

「えっ」

 

「えっとね…あっ、レオと雫済ませといて」

 

「お、おう…四つ!良からぬ宇宙の悪を!」

 

「五つ、一気にスピード退治」

 

「行くよ深雪?」

 

「分かったわ…」

 

「「「「「S.P.D!魔法戦隊マジレンジャー!」」」」」

 

「いやデカレンジャーでしょそこー!?」

 

「あっリーナ」

 

 

怒りに表情を歪ませていた深雪すらも、このエリカからのいきなりの無茶ぶりにはポカンとした表情に戻らざるを得なかった。そして戦闘の情報を聞いてカノープス達に合流しようとしていたリーナがツッコむ。彼女は日本のアニメをよく見ている。アニメでは無いがデカレンジャーを見ていてもおかしくはない。因みにリーナは相手が達也達であると知った瞬間にどうにかしてこの場を離れたがっている。リーナにとってはスターズも達也達もどちらも味方なので戦いたくないのだ。

 

 

「な、なんだコイツら…」

 

「まさか、彼らが総隊長の報告にあった魔法科高校の生徒か?」

 

 

その戦場でするべきではない奇行を見せつけられたスターズの一般隊員は恐れおののき、カノープスは目の前の集団が総隊長を苦しめた?者達かと警戒度を上げる。

 

更にだ。

 

 

「っ!?爆発音!?」

 

「総隊長殿!奇襲です!背後を突かれました!」

 

「ほらほら、総隊長さん?早く助けに行ってあげたら?」

 

「…今援護に行くわ!」

 

「総隊長!?」

 

 

現在地から正反対の方向からの轟音、部下からの報告、そしてエリカからの挑発ともとれる発言を受けて、爆発が発生した方向へと向かうリーナ。彼女はエリカが煽るように言ってきたことによって、この爆発は彼らが仕組んだ物であると判断したのだ。

 

するとエリカが達也に話しかける。

 

 

「行って、達也君!ミキが式神を放って気づいたんだけど、総司君と零次が無力化されてるみたい!」

 

「だが…」

 

「アタシ達は大丈夫だから!早く!」

 

「…分かった、死ぬなよみんな」

 

 

意を決した達也は魔法を使用しながら走り出す。無論スターズはそれを妨害しようとするが、深雪達に攻撃されて失敗してしまう。こうして達也は総司達の元へと向かう…

 

 

 


 

 

京都、某所にて…

 

 

一人の男が、モニターを眺めていた。そこにはUSNAの軌道衛星が地球に向けて僅かにだが移動を開始したと言うことを示すデータが表示されていた。そしてもう一つのモニターには今総司達が居る海軍の研究所の様子が映し出されていた。

 

男がその映像を眺めながらうっすらと笑みを浮かべていたところ、部屋のドアが開いて一人の女性が入室してくる。

 

 

「…お父様、これは?」

 

「束、よく見なさい。あれが彼の本領さ」

 

 

男…藤原道長が指さしたモニターには、ガックリとうなだれている総司が、神々しいまでの光を発しながら浮遊している光景があった…

 

 

「流石は希代の陰陽師、安倍晴明だ…防衛機構も完備と言ったところかな?」

 

 

 


 

 

「…総司君?」

 

「真由美…あれは、本当に総司なのか?」

 

「ば、馬鹿な!?なんだこれは!データに無いぞ!?」

 

 

場面は戻って、海軍の研究所。先程大型CADに違和感を覚えた真由美。そして直後に変化が訪れた。総司が何か言葉を発したかと思えば、総司が付けられていた拘束を解除し、CADから離れて、そして浮遊し始めたのだ。そしてその総司からは、殺意とも違う、まったく別の圧を感じる。そう、丸で文字通り()()()()()かのように…

 

 

「お、お前は何なのだ、橘総司ィ!貴様はただ安部清明の子孫であるだけの出来損ないではなかったのか!?」

 

「隲門、悶€∵�縺薙◎貂��縺ョ謔イ鬘倥〒縺ゅj縲√%縺ョ荳悶r謨代≧逾槭〒縺ゅk」

 

 

所長に返答を返した総司は、どこか動きがバグったゲームキャラのように挙動不審な様子だ。汗をぴっしりとかいた所長は、総司に見えるように起爆装置を掲げる。

 

 

「う、動くな!それ以上動けばこれを起動す…る…」

 

 

その発言の最中、総司の目が怪しく輝いた。その瞬間所長はまるで人形かのように動きを止めてしまったのだ。

 

今、総司が所長に何をしたのか。それを真由美は理解し、そして恐怖する。いや、何をしたかは問題では無い、肝心なのはその()()だ。

 

 

「今のは…『邪眼(イビル・アイ)』…?で、でも魔法式が見えなかった…!?」

 

「蠖鍋┯縲ょ�譚・鬲疲ウ輔↓縲主シ上€上↑縺ゥ荳崎ヲ√€∝ァ狗せ縺ィ邨らせ縺輔∴螳壹∪縺」縺ヲ縺�l縺ー縲√◎繧後〒鬲疲ウ輔�菴懃畑縺吶k」

 

「っひ…!?」

 

「や、やめろ総司!」

 

 

半ば独り言のように呟いた真由美に目を向ける総司。その瞳には非人間的…どころか、まるで上位存在に見つめられてしまったかのような言いようのない迫力があった。それに恐怖し動けなくなる真由美。それを庇うかのように摩利が立ち塞がるが、彼女も今にでも気絶してしまいそうな青い顔色だ。

 

しかし摩利の制止を聞かなかった総司は、二人に狙いを付け…

 

 

「そこまでだ、総司」

 

 

総司が声に反応し、研究所の入り口へと目を向ける。そこには、駆けつけてきた達也がいた。達也を見た総司は目を見開き、口を開いて何かを言おうとするが…

 

 

「後で詳しく話しを聞かせてもらうぞ、総司」

 

 

それよりも早く、達也の『()()』の魔法が総司を包み込んだ。

 

 

「窶ヲ縺昴≧縺九€ゅ♀蜑阪′謌代′貊�☆繧九∋縺阪€∵が鬲斐°」




橘総司について



・邱丞昇縺ォ縺ッ螳蛾Κ貂��縺ョ蜻ェ縺�′謗帙°縺」縺ヲ縺翫j縲√>縺壹l邱丞昇縺ッ荳也阜縺ォ髯崎�縺励◆謔ェ鬲斐r貊�☆繧九◆繧√€∬ュキ蝗ス繧呈�縺咏樟莠コ逾槭→縺ェ繧�



・莉雁屓縺ョ蝣エ蜷医€∵が鬲斐→縺ッ蜿ク豕「驕比ケ溘r謖�☆


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星を呼ぶ少女編 その九

次回で百話目ですね…

百話目の内容は今の所、総司と作者の対談みたいな話にしようと思ってます。


「…Now Loading…」

 

「…起きたなら起きたと言え、総司」

 

 

研究所内部で、総司が目を覚ます。どうやら先程までの異常性は発揮していないようだ。そして本人には自分が何をしたのかの記憶が無いらしい。

 

 

「…何があったんだ?ねえ真由美先「ッひ!」…どうやらよっぽどひどかったみたいだ」

 

「あっ…違うのよ総司君これは…」

 

「大丈夫、分かってますって」

 

 

自分がいきなり声を掛けたことに非常に怯えた様子を見せた真由美。それで自分が何かをしてしまった事を自覚する。その口は大丈夫だと言ってはいるが、内心傷ついているかのように見える。

 

 

「…自分が何をしたか分かったか?総司」

 

「…具体的には分からないけどな」

 

「なら、知ってそうな奴に聞くのが良いか」

 

 

そう言って達也は近くのデスクに寄りかかっている零次に声を掛ける。

 

 

「零次、総司から生まれたお前なら、今総司に起こった出来事も説明できるんじゃ無いのか?」

 

 

その問いに、零次はため息をつき、伏せていた目を達也に向けて…

 

 

「…知ってるけど説明する義理は無いよな?」

 

 

と返した。

 

 

「…お願い零次君、知ってる事を話して」

 

「悪いな真由美、お前の頼みでも無理だ」

 

「…え」

 

 

真由美は驚愕した。零次は基本的に、香澄の頼みを断らない。それに引っ張られてか、泉美や真由美の頼みも断ることは無い。これは七草の三姉妹の中で一番元気でおてんばな香澄の無茶ぶりに比べれば、二人の頼み事など些細なことであることが多いからだ。

そんな考えを持っていると、以前自分に話してくれた零次が、自分の頼みを断った。それはつまり、よほど知られたくない事なのかもしれないと、真由美は事の重大さを更に大きくした。

 

 

「ただまあ…ヒントを出すなら…」

 

「出すなら?」

 

「…そのままにしておけば、オリジナルはいずれ、()()()()()()()()()()()()って事ぐらいかな」

 

「……」

 

「何だと…!?」

 

 

…総司は、零次からの発言を聞いて、違和感を覚えた。本来ならば、自分の死を告げられたも同然だ、そんな事があるはずが無いと、今までであれば反論しただろう。だが何故か、()()()()()()()()()()()。妙に納得してしまったのだ。むしろ、感情が無いはずの達也の方が激昂している。総司にとって、零次の発言が他人事の様に聞こえたのだ。

 

だが様子のおかしい総司に、零次以外は気づかない。激昂している達也は零次の服を掴み上げる。普段の冷静沈着な達也には似ても似つかない。本気で怒っているようだ。

 

 

「…ならば尚更詳細を聞かねばならないぞ零次、答えなければお前の命は無いと思え」

 

「この距離でお前が俺に勝てるとでも思ってんのか達也。魔法による偽物とはいえ、俺はオリジナルと同程度の身体能力を持ってる。今、お前を殴り殺すことも出来る…それともなんだ、俺のスタミナが切れるまで自分を『再生』し続けるつもりか?」

 

「…っく!」

 

 

零次の言葉は正しい。達也が零次を正面から打ち倒すには、少なくとも『誓約(オース)』の解除は必定条件だ。それが成されていないのならば、不意打ちぐらいしか手は無いが…この距離では不可能である。

大人しく零次を解放する達也。その表情は怒りに塗れている。だが零次はそんなこと気にすること無く、真由美に声を掛ける。

 

 

「真由美、お前はそこの調整体達を連れて脱出しろ」

 

「…零次君は、何をするつもりなの?」

 

「決まってるだろ?」

 

 

わたつみシリーズを連れて逃げろと言い放った零次。その口ぶりから、本人はまだ残るつもりらしい。その理由を真由美が問うと、零次は天井を指さした。

 

 

「…!ま、まさか…!?」

 

「ああ、どうやらオリジナルの大暴れの前に、『隕石爆弾(ミーティアライト・フォール)』とやらは完遂されちまったらしい」

 

 

急ぎ『マルチスコープ』を使用して宇宙を観測する真由美。それに追従するように、『精霊の眼』を用いて真由美と同じ世界を観測する達也。二人は、衝撃の光景を目にする。

 

 

「USNAの軌道衛星が、落下してきている…!」

 

「何だと!?落下予測地点は何処だ真由美!?」

 

「…恐らく、この島の近郊かと」

 

「そんな…!」

 

 

真由美と達也によって告げられた事実に驚愕する摩利。その通りだと言いたげな表情で、零次は真由美達に声を掛ける。

 

 

「速度は恐らく本来より遅いとはいえ、あれほどの質量が落下してきた時点で俺達はお陀仏だ。だから俺が止めてくるんだよ」

 

「ど、どうやって!?まさか、自分の身で殴り込もうとか言わないわよね!?」

 

「もちろん。俺をオリジナルと一緒にするな?俺はこれでも古式魔法のエキスパートなんだぜ?たかが衛星一つ、結界で弾き返してやる」

 

「どこぞのニュータイプみたいな事言いやがって…」

 

 

そのツッコミにその場の全員がその声の主を見る。

総司が、よろよろと立ち上がろうとしているのだ。

 

 

「無理をするなよオリジナル。あの力を一部でも使ったんだ、体力的に問題なくても精神的にダメージがでかいはずだぜ」

 

「総司、俺は万能では無い。お前の体を治せても、お前の精神を癒やす事が出来るのは、彼女だけだ」

 

「…雫ちゃん」

 

「ああ、そう言うことだ、ここで無理をして彼女を悲しませたくはないだろう?。…渡辺先輩、七草先輩。彼女達と総司を連れて避難してください」

 

「まさか達也君、君まで残ろうって言うのかい!?」

 

「ええ、日本を侵略してきた相手が、日本を守ると言っているこの状況を、陸軍の人間としては容認しかねます」

 

「ほーん…確かに一理ある。…しゃーねぇな、達也。お前は俺が止めた衛星をぶっ壊せ。手段は問わない」

 

「…分かった」

 

 

そう言って達也は、わたつみシリーズの首輪を『分解』してから走り出す。それに並ぶように、零次が走り去って行く。

そして、残された者達も動き出す。

 

 

「真由美…私達も、自分に出来ることをやろう」

 

「…そうね、そうしましょうか摩利。みんな!私達に付いてきて!出口はこっちよ!」

 

「…総司、立てるか?」

 

「…すんません」

 

「らしくないぞ総司。いつもみたいに馬鹿やって私達を安心させてくれよ…」

 

 

こうして一行は、研究所の外へと脱出を開始した…

 

 


 

 

その頃、地上では。

 

 

 

「っく!こいつら頭狂ってんじゃ無いの!?」

 

「ヒャッハアアアアア!!」

 

「頭だけじゃなくて技術(うで)も狂ってやがるぜ!『パンツァー』!」

 

「音声認識とは、奇遇だな!『ダンシング・ブレイズ』!」

 

「流石に…!数が多いですね…!」

 

「それに実力も伴ってるから、厄介極まりないよ…!『雷童子』!」

 

「その程度では、私達は倒せんぞ…!」

 

 

流石の一高生達ともいえど、世界最強の魔法師部隊と名高い『スターズ』の精鋭数十人を相手にするのはキツいものがあった。多くの隊員は達也が伸しているとはいえ、まだまだ数は残っているし、エリカとレオは今回派遣されてきた隊員達の中でも特に強力な、二等星級の隊員との一騎打ちを強いられており、カノープスは主に幹比古と対峙している。深雪が他の隊員の対処に回っているが、やはり押され気味だ。

 

 

「やああああ!…っ!」

 

 

赤髪の剣士に強力な一撃を打ち込もうとしたエリカだが、何かを感じて移動魔法で後退する。

 

 

「ァァ?…勘が良い女は嫌いだぜ」

 

「その刀と刃を合せるのは…ちょっとマズいって感じたのよね…!」

 

 

エリカは、眼前の剣士が使っている魔法が、『分子ディバイダー』は説明は省くが、要するにあらゆる物を切断できる魔法であり、それはエリカの剣も同じであったのだ。そこに…

 

 

「隙だらけだぞ!女剣士!」

 

「なっ!?いつからそこに!?」

 

 

カノープスが斬り込んできたのだ。急いで剣で受け太刀をしようとするが、その剣にも『分子ディバイダー』が掛けられている事に気が付き、自身の死を予感する…だが、

 

 

「『ジークフリート』ォ!」

 

「…レオ!?」

 

 

そのカノープスの絶死の剣は、レオの体に止められていた。

 

術者の肉体を構成する分子の相対位置について、外部からの変更を受け付けなくする事で、術者の肉体を不壊化させる硬化魔法。これにより、分子に干渉する『分子ディバイダー』による切断を防げた…のだが。

 

 

「…どうやら、その魔法は長くは持たんらしいな!」

 

 

苦悶の表情を浮かべるレオを見て、カノープスは自身の攻撃をやめなかった。『ジークフリート』は術者の体力を著しく奪う術式であるし、そもそも硬化魔法に対する一家言あるレオだからこそここまで持つが、事象干渉力でレオはカノープスに競り負けている。このままではレオはいずれ切られてしまうだろう…

 

死を背に感じ、嫌な汗を流すレオとエリカは…

 

 

直後現れたドーム状の障壁に、助けられることとなったのだ…

 

 

「西城、千葉!ここで何をしている!?」

 

「「…十文字先輩!?」

 

 


 

 

そしてもう一方の戦場では…

 

 

 

「うう…グスッ。そうですよ~だ、私は敗北者です~、ほら笑ってくださ~い…」

 

「おいおい双葉、そんな地獄兄弟みたいな事言ってないで、さっさと立ち直ってくれよ」

 

「つーか双葉さんが悪い訳じゃ無いし、そこまで落ち込むこと無いって昔から…」

 

「それでも十師族が羨ましい~!」

 

「…何コレ」

 

 

現場に到着したリーナが目撃したのは、死屍累々という言葉がとても似合う、黒焦げになった仲間達の姿であった。一応死なないように加減はされていたようだが、双葉の高火力爆撃によってほぼほぼ全滅してしまっているようで、誰一人として立ち上がる気配が無い。

 

 

「だからいい加減その落ち込み方やめろって…アンタ、スターズの総隊長か?」

 

「…っ、ああ、私がアンジー・シリウスだ」

 

「事情は俺達の上…総司さんから聞いてます。別に敵対するつもりはないんですけど、その魔法不愉快なんで解除してもらえません?敵が来ないとも限らないので」

 

「…ああ」

 

 

久豆葉が文句を言ってきた魔法とは、恐らく『仮装行列』のことだろうと推測するリーナ。総司からの情報によれば、この久豆葉という男は隠蔽と索敵に特化した性能をしているそうで、それ故にこちらの魔法を見抜いたのだろう。そう考えたリーナは、魔法だけを解除し、仮面はそのままにしておいた。

すると、時間が惜しいとでも言いたげな市ノ瀬が、リーナに話しかけた。

 

 

「ウチのボスからの連絡です。一緒に来てください」

 

「…何があったのだ?」

 

「戦略級魔法が起動したそうで、今司波達也と安部零次が迎撃に向かっているそうですが、その援護を頼むと」

 

「そうか…了承した」

 

 

そう言って、リーナは久豆葉の先導に追従して、達也達の元へと向かう。市ノ瀬も向かおうとしたが、双葉がまったく動く気配が無いため、しょうがなく双葉の体を操りながら、二人を追いかけるのであった…




魔法科世界の秘匿通信


・実は総司を『再生』した後、達也はオーバーフローで少し気絶していた。総司に声をかけれたのは、単純に総司が起きるより先に起きたから。


・カノープスがエリカ達より強く描写されているが、本作において範蔵はコイツと同じくらい強い為、普通に達也達と渡り合える。


・市ノ瀬が数字落ちしたのは、第一研において禁じられていた人体操作の魔法を研究しており、あろうことか実用まで持っていってしまったから。




クソッ!こんな良いとこで終わっといて次は百話目だって!?

そんな…早く続きをお届けしたい自分と、百話記念を投稿したい自分で揺れ動いてしまう…一体どうすれば…!


次回、「同時投稿すりゃいいじゃん」 デュエルスタンバイ!


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星を呼ぶ少女編 最終話

四月が始まって少し忙しくなってしまい、投稿が遅れてしまいました。


今回で100話目です。記念として、百話目記念も同時に投稿して居ますので、そちらも読んでいただけると幸いです。




「俺は…消えたくない…はずだ…」

 

「総司君いきなりどうしたの?」

 

 

総司が突然放った独り言に反応する真由美。何でも無いと軽く流した総司は、天空を仰ぎ見る。そこには、幾何学的な模様が浮かび上がり、空を覆う光景があった。

 

 

「…俺も行かなきゃ」

 

「っ!?ちょっと、総司君!?」

 

「オイ、何処へ行くんだ!?」

 

 

肩を貸してくれていた摩利から離れ、走り出す総司。ついに盤面は最終局面を迎える。

 

 

 


 

 

少し前、スターズ対一高の戦場にて…

 

 

「カツト・ジュウモンジ!?」

 

「千葉、西城…お前達…」

 

「なんで十文字先輩が此処にいるか知りませんが…!」

 

「先輩がいれば百人力ッスよ!」

 

「…本当に何をしているんだ?」

 

 

突如として現われた克人に驚愕を漏らすカノープスを尻目に、エリカとレオが喜びの声を上げる…そんな明確に戦おうとしている二人何をしているかを再三に質問を行う克人。それは何故なのか。そう言えばここまでエリカとレオの服装に付いて何も言及していなかったので、此処で描写しておこう。

 

二人はなんと、コスプレ感全開の警官服のような物を身に纏っていたのだ…しかも、エリカは赤、レオは緑である。つまり…

 

 

「俺達戦隊なんで」

 

 

そう、深雪も幹比古も雫も、それぞれが似たような警官服を身に纏っている。色は順に青、黄色、ピンクだ。どう見ても特捜戦隊デカレンジャ○である。この見た目でマジレン名乗るのはちょっとどうかしてると思う。と言うか戦場にコスプレで来るな。

これには克人も目を見開いて、注意の言葉を…

 

 

「俺も混ぜてくれないか?」

 

 

オイオイオイ、やったわコイツ。もう(十文字家は)終わりかも分からんね。

 

 

「マジッすか!?じゃあ十文字先輩はウルザードっすかね!」

 

「ちょうどアーマー来てるし良い感じじゃない?」

 

「…混ぜてくれといった手前悪いのだが、ウルザードというのはどのようなヒーローなのだ?」

 

「ああ、知らないなら教えますよ…まずは口上からですね。ゴニョゴニョ」

 

「…なるほど、理解した」

 

 

本当か?頭が溶けている奴が書いているからキャラ全員の頭が溶けている気がしなくもないが、とにもかくにも、克人は口上を言ってくれるらしい。ウルザードがどんなヒーローか理解出来ていても、ここが戦場だと理解出来ているのだろうか?

 

 

「…百鬼夜行をぶった切る!地獄の番犬!ウルザード!」

 

 

だからそれはデカレンなのだが…

 

だがそんな事を構っている彼らでは無い。少し離れたところで戦っていた深雪達も合流し、遂に地球署のデカレンが「「違う」」…とうとう君たちまで地の文にツッコミを入れるのか。…マジレンの家族が勢揃いだ(ヤケクソ)(しかも揃ってない)。

 

克人という最強の盾を得た一高生達は、反撃の狼煙を上げる…

 

 

 


 

 

「レイジ・アベ…!」

 

「…スターズの総隊長様か」

 

 

一方、軌道衛星迎撃部隊のメンバーが揃ったのだが、今此処には、つい最近殺し合った相手が同席している。もう割り切っている達也はともかく、嫌な思い出しか無いリーナにとって、零次の存在は、敵にしか映らないだろう。

 

 

「アンタ、どの面下げて…!」

 

「この面だよ、何体も同じものがある複製品さ…そんなことより、今はアレを止めるのが先だ」

 

 

その言葉とともに、三人が上を見上げる。そこには、とうとう肉眼でも衛星が視認できるようになってしまっていた。あんな物が地球に落下すれば、氷河期の再来を招くことは容易に考えられる。一刻も早く衛星を破壊しなければならないのだが…

 

 

「…作戦は?」

 

「んなもんねーよ、俺が止めてお前らが壊す。それだけだ」

 

「…そうも行かないんだ、これが」

 

「あ?」

 

 

あまりに適当に対処しようとしている零次にリーナが苛つき出していた時、達也が横から口を挾む。

 

 

「あの衛星には、緊急時用に装備された対デブリ用の劣化ウラン弾がある…」

 

「…まさか?」

 

「ああ、間違いなく災害を招くだろうな」

 

「そうね、あの高度じゃもう、爆破した瞬間に世界にばら撒かれてしまう…」

 

 

衛星に仕込まれた劣化ウラン弾の影響で、ただ破壊するだけでは、地球の生態系に甚大な被害をもたらすこととなってしまう。そうなれば、直下にある日本も無事では済まない。流石にこれには零次も無理を通せなかった。

とここで、達也から提案があった。

 

 

「…零次は、できるだけ範囲の広い障壁を貼ってくれ。リーナは『ヘヴィ・メタル・バースト』で衛星を破壊してくれ」

 

「ちょっと!?破壊したら放射性物質が「それは俺が何とかする!」…っ」

 

「二人とも、それでいいな?」

 

「おう、しくじったらただじゃおかないからな」

 

「…頼んだわよ、タツヤ」

 

 

異議を唱えようとしたリーナを、達也は一喝で黙らせる。

達也は分かっていたのだ、リーナは出来る出来ないではなく、達也の肉体を心配していた事を。彼が何をするのか皆目見当も付かないリーナだが、仮に達也が放射性物質全てに干渉して消滅させようとするのは、達也の処理能力的に、オーバーフローしてしまうのでは無いかと。

 

 

「…時間が無い、さっさと作戦を開始するぞ!」

 

「…分かったわ」

 

「了解了解っと」

 

 

三人は散開し、それぞれの持ち場へ着いた。それにより、作戦が決行された。

 

 

「零次、障壁を頼む!」

 

「任せろって!『四重結界』!」

 

 

零次の叫びと共に、幾何学模様の障壁が四枚重ねて展開される。これは一枚一枚がファランクス999枚分…つまり、克人の連続展開の限界値と匹敵する防御力を誇る。欠点として、即席の障壁として使うには展開に二秒も掛かってしまい微妙である点だろうか。戦場においては致命的だが、飛来する落下物を防ごうとして使う分には申し分ない構築速度である。だが…

 

 

「やるならさっさとやれ総隊長様よォ!」

 

「言われなくとも!」

 

 

自然の力…特に質量×速度の計算式がもたらす破壊力は凄まじい。そんなこと零次には、敵を粉砕するのに自分も宿敵も同じ原理を用いているからこそ、これっぽっちの障壁では耐えられないと分かっていたのだ。

それは零次に苦汁を呑まされ、総司の規格外の速度を目の当たりにしている達也やリーナも理解している。相手が戦略級魔法と言うことで、軍から携行を許可されたCAD、神器『ブリオネイク』を構えるリーナ。槍の様な形状の先にある砲身を衛星へと向ける。

 

 

「…行くわよ!」

 

 

そしてリーナの掛け声と共に、音速の百倍の速度で、砲身から収束ビームが発射される。この魔法、『ヘヴィ・メタル・バースト』は、十三使徒の中でも最強の威力を誇る戦略級魔法である。その最大火力は、『質量爆散(マテリアル・バースト)』を除いて世界最強だ。そんなビームが衛星に向けて突き進んでいく。

その発射までの様子を、ある程度高い場所から見ていた達也は、覚悟を決める。リーナが先程した懸念の通り、現在の達也ではミサイルに搭載されているであろう放射性物質全てを消しきるには、自身が廃人になる覚悟が必要だ。だが達也は感情を失っている。自分が死ぬことに、常人よりも躊躇が無い。自分の犠牲で友が、そして深雪が守れるなら。それで達也は充分なのだ…

 

 

「…お兄様!」

 

「…深雪!?」

 

 

だが、なんと言うことだろう。達也が最も大切にしている少女が、今この場に現われたではないか。何故此処にいるのか。その答えは、深雪の後ろから現われた人物によって教えられた。

 

 

「…俺が、連れてきた」

 

「総司…!?お前、大丈夫なのか?」

 

「問題ないから…さっさと『誓約(オース)』とやらを解除しやがれ」

 

「…!」

 

 

深雪がこの場にいる理由は、達也を援護するために、『誓約(オース)』を解除するための鍵となる深雪を、総司が連れてきたからだ。ここで達也は、総司が「フリズスキャルブ」のオペレーターであった事を思い出す。彼はある程度司波兄妹について知っているとは言っていたが、どうやら『誓約(オース)』の事まで知っていたらしい。一体何処まで知っているのか今度問い詰めようと思いながら、達也は深雪へと歩み寄る。

 

 

「深雪…頼めるか?」

 

「はい…勿論です、お兄様」

 

 

跪いた達也の額に、深雪が優しくキスをする。これによって『誓約(オース)』が解除され、達也は本来の力を出せる様になった。サイオンの奔流が光となって二人を包む。その様を見ながら、息も絶え絶えながらに「ヒュウ」と口笛を吹く総司。その神々しい光景に対してか、解除の仕方に対してのものかは分からないが、まだふざけるだけの余力はあるらしい。それも少しの安堵となった達也は、衛星を見上げる。ちょうど、リーナの放った『ヘヴィ・メタル・バースト』が衛星に直撃するかと言ったところだった。

 

 

「じゃあ、行ってくる」

 

「…お兄様、深雪はいつまでもお待ちしております」

 

「…ああ、必ず帰ってくるよ」

 

 

達也は飛行デバイスを操作して、空中へと飛び上がった。

その姿を、深雪は心配そうに眺めていた。

 

 

「…お兄様」

 

 

 


 

 

轟音が鳴り響く。衛星が木っ端微塵に爆発した影響だ。しかしその爆風や衛星の破片は、零次の結界によって遮られ、地上に降り注ぐ事は無い。

だが、放射性物質は別だ。このまま障壁が維持されるならば問題ないが、一瞬でも緩めばそこから地上に害を及ぼすだろう。

そして今なら、まだ大して拡散していない。完全に消し去るには、ここしか無かった。

 

 

「…『ベータ・トライデント』、発動」

 

 

達也は、万が一にと用意していた専用のカートリッジをCADに装填し、『ベータ・トライデント』を発動させた。

 

この魔法は物質を陽子と中性子にまで分解しさらに中性子をベータ崩壊させる魔法であり、第一段階として物質を原子に分解、第二段階として原子核を陽子と中性子に分解、第三段階として中性子から電子と反電子ニュートリノを分離する。魔法の効果が持続している間、陽子は中性子から分離された電子を捕獲することができず、電子の大部分は陽子と共もにプラズマ状態で拡散する。

これによって、放射性同位体は安定的な元素に組み換わり毒性が除去されるのだ。

 

この魔法に集中するため、一時的に飛行魔法を切って、トリガーを引いた達也。それによって放射性物質が全てプラズマ状態と化して拡散する…

その光景を見た、深雪は言葉を漏らす。

 

 

「…流石はお兄様です」

 

 

その瞳は、丸で白馬の王子の活躍を見た、お姫様のようだったと、後に総司は語った。




魔法科世界の秘匿通信


・エリかとレオが特撮にはまっているのは、総司の強い勧めがあって、視聴してみたため。



・『ベータ・トライデント』とは、後に作成される魔法『バリオン・ランス』の試作魔法であるが、原作と違い、開発に至った経緯はリーナと戦った時に知ったFAE理論の実在と、分解魔法…というより魔法が一切効かない総司のような相手を想定して研究が開始されている。



二章連続で戦闘にあんま絡まない主人公ェ…


後、次回からダブルセブン編ですが、100話記念で少しだけ描写があります。


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ダブルセブン編
百話記念 馬鹿(主人公)と馬鹿(作者) 


今回でこの小説も100話を迎える事が出来ました!

ここまで続けてこられたのは、読者様方の応援があってこそだと思います。そしてまもなく一周年にもなります。二年目も、皆様が面白く読んでいただける様な作品を書いていきたいと思います。


また、この話は同時投稿されている『星を呼ぶ少女編 最終話』までのネタバレが含まれます。

まだ読んでいない方は、読み終わってからこの話を読んでいただけると幸いです。


ルールル、ルルルルールル…

 

 

「さて、今日も始まりましたマツ○の部屋。本日のゲストは、本作の主人公。橘総司さんです」

 

 

パチパチ、パチパチ、パチパチ…

 

 

「……」

 

「おや?どうかされましたか総司さん。あまり元気が無いようですが…」

 

「いや…ちょっとツッコミどころ多すぎて追いつかなくてですね…」

 

「ツッコミどころ…?はて、どこかおかしな点でもありましたかな?」

 

「いや、まずこの状況がおかしいだろ。なんで作者であるお前が俺と話をしてるんだよ、というかなんで俺はこれが創作だって知って精神が壊れないんだよ」

 

「順に回答しましょう、君と私が話をしている理由…それは単なる、記念作品だからです。そして君が精神が壊れないのも、同じ理由です」

 

「そう(適当)…というかさ、なんか読みにくくない?」

 

「読みにくいですか?この話が?」

 

「だって、何か一向に地の文書かれないけど。大丈夫なのこれ」

 

「大丈夫ですよ。今回地の文が書かれないのは、普段地の文を書いている私が会話に参加しているからです。よって今回は地の文はありません」

 

「うっそだろオイ!?読みにくいったらありゃしねーだろーが!」

 

「やれやれ…仕方ないなぁ総司君は…はい、」

 

 

地の文~!

 

 

「ドラえも○じゃねーか!」

 

「…もう良いじゃ無いか地の文なんて。結局地の文あっても会話してる相手は変わらないよ」

 

「…それもそうか。で、お前が俺を此処に呼んで、何をしたいんだ?」

 

「オイオイ、この部屋の名前を忘れちまったのか?この部屋が何の部屋なのかを思い出せば、大丈夫なはず」

 

「…徹子○部屋「マツ○の部屋な」違うだろうが!?」

 

「何が違うって言うんだ。…それで、今回の目的は分かりましたか?」

 

「…近況を徹子○部屋みたいに話ってことか?」

 

「いや、謎解きだけど?」

 

「いやマツ○ってデラックスじゃなくて謎解き作ってる方かよ!?」

 

「冗談冗談、君の推測であってるよ」

 

「そうならそうとさっさと認めろよまったく…」

 

「ごめんごめん。それで、近況聞かせてくれますかね?」

 

「聞くも何もお前が書いてんだろ」

 

「っと、これは一本取られた」

 

「…俺が気になった事を聞くって事で良いか?」

 

「おお、良いじゃん。分かってきたね」

 

「じゃあ聞くが…俺、二章連続で役立たずだったけど、ホントに主人公なのか?」

 

「主人公に決まってんじゃん、じゃなきゃこの空間に呼ばないよ」

 

「いやさ?こう主役補正とか無いわけ?」

 

「充分あるでしょ、その異常な力。正直強くしすぎて困ってるんだよね。原作勢じゃ対抗できるのは達也ぐらいしか居ないし」

 

「つまり?」

 

「君のそれは逆主役補正です」

 

「…ちゃんとこれから活躍あるんだよな?」

 

「あるよ、モチロン。主役ですから。というか来訪者編はともかく、星を呼ぶ少女編は君が手を出せる話じゃ無いから、どうせならダウンさせとこって感じだったから」

 

「そんな軽い気持ちで俺をダウンさせるのはやめてくれない?」

 

「この作品は、頭の足りない作者が書いてるからね、大体がなんとなくで生まれた設定だよ。そのせいで君みたいな動かしづらい主人公が生まれたんだし」

 

 

「…じゃあさ、俺と雫ちゃんは今後幸せに暮らしていけるのか?」

 

「さあね?それは君の頑張り次第だよ。もし雫ちゃんに向かう凶弾を君が防げなかったら、どうなるだろうね?」

 

「ほざけ、雫ちゃんはそう簡単にやられねぇよ」

 

「それはね総司君、信頼ではなく油断と言うんだよ」

 

「…頭の片隅にでも残しとくぜ」

 

「無理だね、君は馬鹿だし、そもそもこの空間での記憶を君は引き継ぐことは出来ないよ」

 

「…っち、ケチな奴だな」

 

「俺は適度なメタはともかく、デッドプールみたいな次元の壁を認識してるようなキャラは書きたくないよ」

 

「…そうかい」

 

 

「じゃあ次が最後の質問だ」

 

「最後?そう言わずにもっと聞いてくれてもいいよ?答えるかどうかは別問題だけど」

 

「…俺ってなんなんだ?」

 

「………」

 

「あの研究所での一件で、自分が自分じゃ無いような…まるでゲームのアバターを動かしているような感覚になるんだ」

 

「…それで?」

 

「ほぼ確実に、あの時の俺に何か起こった。真由美パイセンが怯えていた、零次が何かを知っている様子だった、達也が無理をしてまで俺を救った。…なあ、俺は一体何者なんだ?」

 

「…話はこれまでだ」

 

「はあ!?ちょ…待てよ!答えてから「言ったじゃん、答えるかどうかは別問題だって」

 

「んなっ!?」

 

「それじゃ、バイバイ~」

 

「だから…!待てって!?オイ!」

 

 

 


 

 

「待て!?」

 

「…大丈夫?総司君」

 

「…雫ちゃん?」

 

 

総司は、何か不思議な夢を見ていたかのような気持ちになりながら、自室の…というより、雫との部屋で目を覚ます。雫は寝言を言いながら起きてくるという初めての経験により、若干総司を心配しているようだ。

 

 

「大丈夫だよ、俺は無敵だからな」

 

「…違う、大丈夫じゃ無い。…やっぱり、あの夜の…」

 

「…!雫ちゃん、落ち着いて。ああ、ほら!そんな泣かないの!今俺はピンピンしてるから!本当に大丈夫!」

 

 

あの夜、全てがハッピーエンドで収まったあの日。衛星は落下前に破壊され、大した被害も無かった。達也により放射性物質は全て『分解』され無害化されて、肝心の本人のオーバーフロー問題も、事前に『誓約(オース)』の解除に成功していた事もあって、まったく問題無かった。助け出された九亜を始めとするわたつみシリーズの調整体達も、然るべき機関に預けられた。

 

だが、あの夜。総司の不調を知った雫。そして真由美や摩利の表情から総司に何かがあったことを察した雫は、こんなことになるなら連れてこなければ良かったと後悔をしているのだ。ここ数日、それを悔いては泣き出してしまい、総司に慰められると言うサイクルが続いている。総司的には、真っ向から否定しようにも、自分の体調…というより、感覚がどこかおかしくなっている点には違いなかったため、慰めにあまり説得力が無いのも困りどころだ。

 

 

「ほら…元気出して、雫ちゃん!最近雫ちゃん忙しかったから、疲れてるんだよ。…今日はホームパーティーがあったよね、達也達も来るって言ってたし、他にも色んな人が来るけど、それが終わればしばらく落ち着くだろうし。そこまでの辛抱だよ」

 

「…それもそうだね。分かった、用意してくる…落ち着いたら、また一緒に居ようね」

 

「モチロン。お望みとあらば」

 

 

ギリギリで泣くのを堪えた雫は、総司の軽口にフフッと軽く笑った後、今日のパーティーに向けての準備をしに部屋を退出していった。

 

 

「(…俺の事を心配してくれてるってのが、ひしひしと伝わってくる…俺の事を愛してくれてるんだろうなぁ)」

 

 

総司は自分の身を必死に案ずる雫の姿を見て、自分が彼女に愛されている事を自覚する。

 

 

「(本当に…)」

 

 

まだ彼女と出会ってちょうど一年程だが、彼は雫への想いを強くしていく…

 

 

「蝌イ隨代€よ�縺ェ縺ゥ謌代↓縺ッ荳崎ヲ�(好きだなぁ…)」

 

 

瞬間、総司は目を見開いて自身の口を抑える。その表情は、驚愕で染まりきっていた。

 

 

「(何だ…!?今、俺は何て言った…!?)」

 

「あ、あ、あ…アクセスフラッシュ!…しゃべれる…」

 

 

ベッドに座り込む総司。自分の身に一体何が起こっているのか…それを総司は、今だ知る術はなかった。

 

 

「何だってんだよ…!」

 

 

悪態をつき、うなだれる総司…仮に、この姿を誰かが見ていれば、驚きの声を上げたであろう。何故なら、一瞬、総司の体が、()()()様に見えるのだから…




次回から、ダブルセブン編に突入します。


後、申し訳ありませんが、一周年記念は投稿しない事にしました。何卒ご理解の程よろしくお願いします。


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ダブルセブン編 その一

二年生編スタートしますが…この作品の一周年が迫ってきていることに対して、案をひねり出してみたのですが、足りない作者の頭では一向に思い浮かばなかった為、一周年記念は投稿しない方向でいます。何卒ご容赦を…


「流石に広いな…」

 

「…そう思うか?達也」

 

 

時間はたち、北山邸でのホームパーティーが開かれていた。本日のパーティーは雫とその恋人、総司のUSNAからの帰国祝いと、二人の進級祝いを兼ねていた。北山家の家族構成は両親に祖母、雫、弟、となっているが、総司が居ることと、主催者である潮の弟、及び姉妹が五人もおり、潮が晩婚であった事も相まって、雫の従兄弟は半数以上が雫より年上であり、その中には当然既婚者もおり、そう言った者達は各々が家族同伴であり、未婚者もフィアンセや近日中に結婚予定の相手を連れてきており、その人数は内輪のパーティーでありながら大人数だ。更に…

 

 

「お久しぶりです、総司さん」

 

「ん?…光宣君!?君体調は大丈夫なのか?」

 

「ええ、今日はいつもより優れていたので…」

 

 

このパーティーには九島の関係者も訪れる予定であった。そして訪れたのは、九島烈の孫である九島光宣、そして、

 

 

「あら、達也君もいたのね」

 

「藤林少尉…」

 

「ダメよ達也君、ここじゃその呼び方は」

 

「失礼しました、藤林さん」

 

 

その光宣のお目付役として藤林響子が訪れていた。てっきり響子だけが来ると思っていた総司は、光宣までパーティーにやって来た理由を聞いた。

 

 

「…総司さんに、謝罪をと思いまして」

 

「謝罪?何を?」

 

「いえ、あの横浜事変以降の一連の事件には、僕が原因となったものもあるので…」

 

「…まさか、俺の遺伝子情報を盗まれた事を言ってんのか?あれは研究所の奴らの管理がずさんだっただけだ、気にすると身体に毒だぞ」

 

「ですが…」

 

 

そもそも、零次達、総司のクローンが製造されたのは、一時期総司の強靱な肉体を解析すれば、光宣を健康に出来るのではないかと考えた烈によって進められた研究に用いられた総司の遺伝子情報が元となっている。実験結果は、総司の肉体は平均的な十代男子のものであり、その身体能力の秘密は不明という少し不思議な結果となったのだが、何かに使えるかもとそのまま保管をしていた遺伝子情報をまんまと奪われた形となる。

 

光宣はそう言った経緯もあり、若干の負い目を持っているのだ。

 

 

「ほら、光宣君。総司君は気にしないって言ったじゃ無い。貴方も気にしないで良いのよ」

 

「…はい」

 

 

響子に諭され、了承の言葉を漏らす光宣。その様子が、渋々承諾したというものに映った響子と総司だが、達也は気づくことが出来た。

 

 

「(彼…今水波を見ていなかったか?)」

 

 

その視線が、深雪と親しげに話している水波に向けられていたことに…

 

 

 


 

 

しばらくして…

 

 

「惚けるつもり!?」

 

「っ!?…お義母さん!?」

 

 

唐突に会場に広がった怒声に、雫を交えて、深雪や水波と話をしていた総司は、怒声がした方向を向く。そこには、雫の母である北山紅音が、達也に向けて怒鳴りつけていたのだ。

 

 

「紅音、少し落ち着きなさい。司波君、妻が失礼したね」

 

「いえ、、自分の方こそ、色々と生意気な事を申し上げました。何分未熟な若輩者の申す事故、ご容赦いただければ幸いです」

 

 

騒ぎを聞きつけ妻を制止しに来た潮。その潮に頭を下げられ、達也も丁寧に謝罪をする…が、その内容が人を食うようなものであったため、総司は乾いた笑いを漏らす。

 

 

「一度、御前を失礼させていただきたいのですが」

 

「ああ、そうだね。娘も総司君も、君と話したいだろうし」

 

 

そう潮に断りを入れた達也が、こちらにやって来た。そして達也が何かを言おうとしたが…その前に雫が頭を下げる。

 

 

「ごめんなさい、達也さん」

 

 

そしてその口から謝罪の言葉を告げると共に顔を上げる雫。その表情には、普段の乏しい表情の中に、確かな羞恥を覚えている事が窺える。因みに総司基準で、「滅茶苦茶恥ずかしがってる…」とのこと。それも当然、自身が招いた同級生に、自身の母が因縁を付けたのだから、これは誰でも恥ずかしくなるだろう。これで恥ずかしがらない人間など、最早羞恥心を無くした総司と達也ぐらいのものだ…

 

 

「いや、お母さんの気持ちも分かる。娘に得体の知れない男が近づいているとあれば、心配になるのは当然だろう。俺は気にしてないから、雫も気にするな」

 

「確かに得体が知れないな」

 

「お前には言われたくないぞ」

 

 

というか、お前は全部知ってるんだろうが。と言いたげな表情の達也の視線を軽く流し、会話を続ける。

そこで飛んで来たのは…

 

 

「そう言えば、なんで総司君は着物なの?」

 

 

ほのかからのこの問いであった。現在総司は、確かに格式高い人間の様に見える着物を着用していたが、このパーティーは洋風のものであり、周囲はドレスやスーツを着ているものばかりだ。遠くから水波をチラチラと見ている光宣すらスーツだと言うのに、総司はただ一人着物であった。正直言って浮いてしまっている。

 

 

「え?なんかおかしい?」

 

 

肝心の本人には、浮いているという意識すらないようだが。

 

 

「もう…総司君ってば」

 

 

雫の視線は最早、羞恥を通り越して子供を見るような温かいものになっている。明らかに総司に対する補正が働いているのはおいといて…。

 

 

ある意味でこの中で一番居心地が悪そうなのは、他でもない達也だ。だが達也はそう言うことを気にするような男ではない。寧ろ、華やかなドレスに身を包む美女四人、格式高いが、明らか場違いの着物を着る総司。その中に地味なスーツの達也が混じろうと、結局一番目立つのは総司なのだ。まったくおめでたい頭をしているものである。

 

そして、この集団の会話は、初対面の水波が混ざっているとは思えない程、スムーズに進んでいた。ほのかが気を使って水波に話しかけ、雫が行き過ぎないように時々ブレーキをかけ、深雪のアシストを受けて水波が控えめに受け答えする、その間にデリカシーのない発言をする総司をシバく達也と、完璧に回っていた。

そんな中、達也に話しかける少年がいた。

 

 

「あの、司波達也さんですよね」

 

 

振り向いた達也は、その小さなお客さんに肯定を示す。

 

 

「「航」君」

 

「姉さん、義兄さん。ゴメン、邪魔だった?」

 

「ううん。でも、ちゃんとご挨拶をして」

 

「そうだな、それぐらいで目くじら立てる奴じゃないが、礼儀は大切だぞ」

 

「お前が礼儀を説くのか?」

 

「ンだとテメエ?」

 

七草真由美(小悪魔ババア)やら渡辺摩利(鬼の委員長)やら十文字克人(人の形したゴリラ)やら、先輩方に失礼な呼び方をしていたお前がかと聞いたんだ」

 

「あと、吉田幹比古(コックカワサキ)吉田幹比古(インセクター羽我)だったりね」

 

「雫ちゃん?最後のは共犯だよね?」

 

 

航をそっちのけで雫の援護射撃をもらいながら達也が総司を糾弾する。因みにこの間、主人に失礼な態度を働く人間として、水波からの総司への評価は著しく下がっている。

 

 

「…その」

 

「ああ、済まない。悪く言うならお前の義兄にしてくれ」

 

「さりげない罪の擦り付け…」

 

「俺に罪はない、だがお前には罪がある」

 

「つまり?」

 

「✝悔い改めて✝」

 

 

一向に航が話せないからと、ほのかと深雪が仲裁に入る。やっと落ち着いた二人、それを見計らって航は達也に自己紹介をする。

 

 

「はじめまして、北山航です。今年、小学六年生になります」

 

 

航は達也の方に身体ごと顔を向けて自己紹介をした。その後、深雪に対しても行ったのだが、航は深雪の方を見ようとしなかった。どうやら舞い上がってしまわないように、ということらしい。達也に続いて深雪が挨拶を返している最中、微妙に視線を外し奥歯を噛み締め全身に力を込めていた事からして、間違いない。

 

深雪は航の可愛らしいその態度に微笑ましさしか感じなかった。しかし「主」に向けられた礼を失する応対に、水波は不快感を隠しきれなかった。

 

 

「お目にかかり、光栄に存じます、航様。桜井水波と申します。達也兄さま、深雪姉さまの従妹に当たります。よろしくお見知りおき下さいませ」

 

「…庶民の従妹にしちゃ、できすぎた妹さんですね?」

 

「…分かっているくせに確認をするな」

 

 

達也の言う確認とは、モチロン水波の嘘についてだ。総司は達也の出生の秘密を知っている。故に達也にこんな年の近い従妹が居ることはないのは知っていたのだ。面白そうに揶揄う総司。

 

しかし二人を余所に、その周辺の空気はお通夜状態に向かいかけていた。何故なら、水波の態度があまりに大人げないからである。相手小六ゾ?ちょっと失礼しちゃった位勘弁してあげようよ。

 

 

「航君、何か達也さんにご用があったんじゃないの?」

 

 

ここで助け船を出したのはほのか。流石、この中で一番空気を読めるだけはある。読み過ぎてボケに回りがちなのはいただけないが。

 

 

「あっはい…司波さん、一つ教えて欲しいのですが」

 

 

この場には司波さんは二人居るのだが、どちらに話しかけているかなど、話を聞いていれば分かるであろう。総司だけは「どっち…?」と疑問符を浮かべた表情をしている。話聞いててもこれか。

 

 

「良いよ、答えられることなら」

 

「あの…魔法が使えなくとも、魔工技師にはなれるのでしょうか」

 

 

その質問は、普通の子供が聞く分には問題無かっただろう、しかし航は北山家の跡取り息子…であるはずだ。流石の潮も総司に任せる等という暴挙には出ないはずである…それはともかくとして、その立場にある航がするには少々奇妙な質問であった。現にほのかと雫は「えっ?」と言いたげな表情だし、総司に至っては声に出ている。すっげえバカっぽいね。

 

 

「無理だな。魔工技師とは魔法技能を持つ魔法工学の技術者のことだ。魔法が使えない技術者を魔工技師とは呼ばない」

 

「へえ~、そうだったんだ」

 

 

どこぞのケンミンshowみたいな相づちを打った総司。もうちょっと勉強しようね。そしてその達也のきっぱりと言い切った返答に、航は肩を落とすのだが…

 

 

「もっとも、魔工師ばかりが魔法工学技術者ではないんだけどね」

 

「えっ?」

 

 

続く言葉に顔を上げた。そんな航を見下ろす達也の落ち着いた笑み。航は期待感に目を輝かせて次の言葉を待っている。

 

達也はわざともったいぶるような、性格の悪い真似はしなかった。

 

 

「魔法が使えなくても魔法工学を学ぶ事は可能だ。CADの調整は魔法的な感覚が無ければ難しいが、魔法が使えなくてもCADを作る事は出来る。他の魔法技術組込製品も同じだ。君が本気で勉強すれば、お姉さんの役に立つ知識と技術を身につけられるはずだ」

 

「あ、いえ、僕はそんなつもりでは……」

 

 

 口でいくら否定しても、そんな恥ずかしそうな顔をしていれば本心が丸わかりである。そして、達也に向けられる目も、見ず知らずの大人に対する警戒と畏怖の眼差しから、尊敬と憧れの入り混じった眼差しに変わっていた。

 

 

「(…水波ちゃんって、分かりやすいな…)」

 

 

達也への航の視線に機嫌を良くしている水波を見て、総司はこう思った。水波ちゃん、総司からこのように評されるということは、かなりの重症である事を気づいてほしいものだ…




魔法科世界の秘匿通信


・この時点で光宣君は水波ちゃんをロックオン。まあしたところで行動に移せるだけの元気も理由もまだ無いから、意味ないんだけどね



・正直紅音さんの性格が結構サバサバした感じなの、この話を書くために読み返すまで覚えていなかった。ので、以前登場した紅音さんの性格が優しくても、ユルシテ


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ダブルセブン編 その二

「…おやおや、達也達もお熱いね~」

 

「仕方ないよ、あの水波って子も一緒に登校するようになっちゃったら、二人きりの登校が出来なくなるからね」

 

「俺達はほのかちゃんが一緒の時以外は基本二人きりだからな~」

 

「この道通ったらもうみんなが来るけど、それもこの道だけだからね」

 

 

新年度初日、前方の司波兄妹、後方の総司と雫のカップルのイチャつきを間近でくらわされている非リアの一高生の顔が青ざめて、今にも吐血しそうな今日この頃。様々なしがらみで二人きりとはいかない司波兄妹と違って、自分達は比較的自由である事の喜びをかみしめていた総司達。

 

 

「オハヨ~」

 

「おっ、エリカちゃん。それにみんなも」

 

 

そんな総司達に話しかける声が。その声の主はエリカであり、レオにほのかに幹比古、美月も勢揃いだ。そして少し前に司波兄妹を見つけたエリカはそちらへも挨拶をする。それに手を上げて答えた達也。少し歩を進めて合流する総司達。

 

 

「幹比古、一科生の制服の着心地はどうだ?」

 

「からかわないでよ、達也。達也の方こそ、真新しいブレザーの着心地はどうだい?」

 

「新しいといっても今のところは看板だけだからな」

 

 

進級するに伴い、幹比古は一科生に、達也と美月は魔法工学科へと転科した。その際に制服も替わった為、この三人は去年までとは違う制服を身に着けている。

 

 

「なんだよ、冷めてるなぁ」

 

「ホ~ント。美月なんか頬が緩みっぱなしだっていうのに」

 

「ゆ……緩んでなんかないよ!」

 

「いや、緩んでるね」

 

「もう!総司君まで…」

 

 

二科生三人の揶揄いに美月が抗議する。彼女としては、二科生の三人を気遣っていたつもりなのだろうが、その表情からは喜びが隠しきれていなかった。

 

 

魔法工学科の教室は本校舎三階の中央階段横にあった。クラスはE組。つまり達也と美月にとっては先月まで通っていた教室の真上という事になる。ちなみにエリカとレオ、総司は同じF組である。

達也が教室に入った時、席は約半数が埋まっていた。達也は自分の席へ向かった。廊下側一列目、前から二番目。隣の席は昨年度に引き続いて美月である。

 

 

「よーす!どーも俺だ!」

 

「うるさいなぁ、ぶっころすよ?」

 

「挨拶だねぇ達也。そんなに俺が教室に遊びに来るのが嫌か?」

 

「そう言う訳では無いが、少しウザいとは思う」

 

「それ嫌って事じゃないか」

 

 

達也の教室は去年までいた教室の真上、つまりF組の上だ。こうして総司やレオにエリカが遊びに来ても不思議ではない。今でこそ総司しか来ていないが、別に立ち入り禁止という訳でもないからである。

 

 

「…それよりさ、何か見覚えない奴多くない?」

 

「お前にとっちゃ全校生徒の八割が見覚えない奴だろうよ」

 

「バカを言うな、九割だよ」

 

「より悪いよ…自信満々に言うことじゃないよ総司君…」

 

 

総司のボケに美月が呆れながらツッコミを入れている横で、達也自身も確かに総司の言うとおりだと思考する。

 

 

「仕方ないですよ、達也さん目当てで転科を希望した人も多いって聞きますし」

 

「やっぱそうだよ、俺は間違ってなかったんだ!」

 

「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる…か」

 

「オイこらどう言う意味だ」

 

「意味分かってる?」

 

「分からんから聞いたんだろうが」

 

「本当に意味を知らないパターンってあるんですね…」

 

 

そんな会話をしていた三人の元に、声が割り込んできた。

 

 

「ちょっと良いかい?」

 

 

後ろから掛けられた声に達也が座ったままで振り向く。それと同時に美月と総司の視線もそちらへ向く。そこには教室に入ってきた男子生徒が爽やかな笑顔を浮かべていた。

 

 

「ちゃんと挨拶するのは初めてだよね? 僕は十三束鋼。よろしく、司波君」

 

「そうだな、名前は知っているが実質的には『はじめまして』か。司波達也だ、よろしく、十三束」

 

「十三束君、はじめまして。柴田美月です。よろしくお願いします」

 

「こちらこそよろしく」

 

「俺の名前は工藤新一…高校生探偵だ」

 

「うん、よろしくね、橘君」

 

「…はい、よろしく」

 

「(コイツ…出来る!)」

 

 

十三束が達也と美月に挨拶を返す。その後の総司のふざけた挨拶も、完全に無視して切り返した。これには総司もテンション爆下げだ。達也は対総司の切札が一つ増えたと思った。

 

 

「しかし意外だな…学年総合五位の十三束が工学科に来てたなんて」

 

「僕の家は戦闘やレスキューよりこっちが本領だからね…それに僕は……実技に問題があるからね」

 

 

その十三束の返答に、申し訳ない気持ちになりながらも、達也と美月は彼の二つ名とそれについての噂を思い浮かべる。モチロン総司はそんなもの知らない。

 

レンジ・ゼロ。射程距離ゼロという彼のニックネームは、ゼロ距離なら無類の強さを発揮するという敬称であると同時に、遠隔魔法が使えないという蔑称でもある。しかもゼロ距離で無類の強さというなら眼前の総司の方が数千倍強い為、その異名自体も微妙なものだったりする。

 

その後、つつがなくホームルームを終えた。

 

 


 

 

一時限目こそ履修科目の登録に当てられたが、二時限目からいきなり通常通りのカリキュラムが始まって、今は昼休み。達也は生徒会室に来ていた。

 

彼は今日から生徒会副会長。達也が風紀委員会から生徒会へ移籍させるというあずさと花音の秘密の計画が、達也の意思を無視して遂行された結果だ。そして今、生徒会室には生徒会推薦枠で風紀委員に入った幹比古、同じく部活連推薦枠の雫、そして風紀委員長の花音、何故か居る総司と生徒会メンバーの九人が揃っていた。

 

九人もいれば会議用のテーブルも手狭だ、という理由で、花音は先ほどから五十里にピッタリくっついている。総司は何の理由も無しに雫を膝に乗せ、ずっと頭を撫で回している。雫の表情は最早猫と言っても過言じゃないものになっていた。

 

昼休みも半ば近くになると、間近に迫った入学式の話題が展開される。

 

 

「今日の放課後もリハーサルなんですか?」

 

「リハーサルというより打ち合わせですね。答辞のリハーサルは春休み中と式直前の二回だけです。それも段取りを練習するだけで、実際に原稿を読み上げたりはしませんよ」

 

「そうなの?今回はちょっと特殊だから、もっと何かあるのかと思ってた」

 

「…それ何処から聞いたんですか?」

 

「そりゃ総代本人よ」

 

 

幹比古の問いに深雪が公の場ならではの礼儀正しい言葉で返答を返す。それに練習無しで大丈夫なのかと問うた総司。それもそのはずである…

 

 

「だって今回は異例も異例、新入生総代が三人もいるんだからさ」

 

 

そう、なんと本年度の新入生総代は、過去に例を見ない三名。それぞれのテストで点のばらつきがあるものの、奇跡的に三人が横並びになったため、三人合同で総代として扱うことにしたのだ。その三人こそ…

 

 

「流石は真由美パイセンの妹達、あの真面目ちゃんな琢磨に並ぶとはね」

 

 

そう、その三人とは、七草の双子こと七草香澄と七草泉美。そして総司の愛弟子でもある七宝琢磨であった。本人から聞いただけあって、総司の口からは情報がまだまだ出てくる。どうやら琢磨は師匠の悪い点(戦闘以外でバカ)を少し引き継いでしまったらしい。

 

 

「なんか七草の双子の…あれ、零次によりなついてる方が、こっちを敵視してくるって」

 

「それは…次世代の数字付きでも十師族を抜き去って最強と称される七宝の定めなんじゃないだろうか」

 

 

原作においては、琢磨は七草家に強い憎しみを抱いていたが、そんなものこの世界には存在しない。琢磨は今や次世代でも克人、将輝に並んで三強とすらされており、琢磨が家督を継げば、十師族のメンバーが変動するとまで言われている。別に十師族の立場に固執している双子ではないが、同年代でそこまで言われた人物がいると、敵視したくもなるだろう。

 

 

「変なイザコザがないと良いが…」

 

 

 


 

 

 

入学式当日…

 

 

「……」

 

「ええ…」

 

 

その壇上、新入生総代の答辞にて。

琢磨を露骨に睨み付ける香澄、困惑顔で「この状況でもその態度なん?」と言いたげな琢磨、表面上は笑顔だが、冷や汗を流している泉美。

 

その様子を見て生徒会メンバーは…

 

 

「「「「「(あっ…これ今後大変なやつだ…)」」」」」

 

「琢磨~、そんな小娘ぶっ飛ばしてやれ~」

 

「七草先輩の妹だぞバカ」

 

 

これからの学生生活に気苦労の気配を感じたのだった…




魔法科世界の秘匿通信


・総司が九島の関係者だったり、安倍晴明の血族であることは最早一高の常識だが、魔法が下手な事に変わりないので、二科生続行。



・香澄はライバル的な認識で琢磨を見ているが、琢磨は昔はともかく今は七草へ恨みはないし、総司と出会った事で原作ほどの気性の荒さが無くなった(外敵は例外)ので、ライバルとかの競争相手を求めない。故に琢磨は香澄に睨まれている理由がサッパリ分かっていません。


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ダブルセブン編 その三

「…世界はオワオワリ…」

 

 

達也が絶望したような表情で呟く。今も尚、壇上にて競り合う(香澄目線)総代三人を見つめる。本音を言えばこのまま何も言わずに静かに壇上を降りてほしいものだが、そもそも前に出てきた意味が無くなってしまうので、できるだけ手早く終わらせてくれないかなぁ…と願いながら眺めていると、まずは先陣を切って琢磨が答辞を行うようだ。

 

 

「…全略」

 

「え…」

 

「…新入生総代、七宝琢磨」

 

ザワ…ザワ…

 

 

静かに降りていく琢磨「ちょっと待ったー!!」

 

「…何だよ」

 

「いやいや!今の何!?前略しか言ってないじゃない!?」

 

「ちゃんと言ったじゃないか、全略って」

 

「…まさか、前略じゃなくて、全部略すって意味の全略?」

 

「そうだけど?」

 

「うっそ正気!?アンタ正気!?」

 

「正気って、何を持って正気と…「ああ、そういうのいいから」あっそう?」

 

 

前代未聞の琢磨の行動に、香澄だけでなく体育館に居る全生徒、全教師が驚愕し騒がしい。そらそうよ。

だが琢磨はこの行動をまったくおかしいと思わない。いや、思わないように育ってしまった。小学生の時、たまたま上京していた総司に出会った事が原因で、性格が総司に限りなく近しいものに変化してしまった。その変わりようと言えば、親の反対を押し切って総司の居る孤児院に一人で遊びに行く(東京から京都へ、それも複数回)など、破天荒な事をし出し始めた程だ。更には総司を狙う『伝統派』の連中や、二八家の琢磨を狙う者など、様々な敵を総司と協力して打倒してきた経験から、琢磨は頭が良い、魔法も一流だった場合の総司の様になったのだ…あれ?それって上位互換じゃ?

 

 

「ほら、次お前の番だろ?早く答辞をしたらどうだ」

 

「じゃあ降りないでよ!?普通発表者って複数人いたら一人が発表している時は他の人は後ろで座って待ってるのが普通じゃない!?」

 

「何を持って普通と…「だからそう言うのいいって!?」あっはい」

 

 

琢磨は面倒くさがっていた。正直、琢磨は総司と会う度に行う決闘を早くやりたいとウズウズしていた。この一年、勉強に専念するため会うのを避けていたのだが、それも必要は無くなった。総司なら誘えば式典程度抜け出すだろう。一刻も早く自分の実力を尊敬する総司に対して試したくてたまらないのだ。

だからこそ、全略とか言うふざけた答辞とも言えない答辞と、おざなりな態度でこの場をやり過ごそうとしているのだ。やっぱコイツバカかもしれない。

 

 

「っく、コケにしてくれるわね…!」

 

 

まったくしていない。琢磨は同年代のライバル的な人材の事を把握しており、モチロン七草の双子の事もだ。しかし琢磨にとってライバルとは総司の事なのだ。同年代の人材の評価は正当だが、それ以上に琢磨にとって総司は輝きが強すぎた。琢磨にとって同学年など取るに足らないのだ。

故に、香澄が怒っている理由が分からない…いや、普通こんなことをやれば怒るに決まっているのだが、事実この体育館に爆笑している者(総司)もいる。その爆笑マンの弟分ともなれば、正常な判断が出来ないのも仕方ないのかも知れない。

 

 

「いいから、はやく戻ってきなさ…「あ、あそこに総司先輩に似た人が…あれが安部零次?」え!?どこどこ!?零次君どこ!?」

 

「香澄ちゃん…」

 

「…っは!?し、しまった!?」

 

 

琢磨は賢い、何かに使えないかと、総司からの情報で眼前の女子が誰にゾッコンなのかも把握していた。琢磨はあたかも観客の中に総司に似た…つまりクローンたる零次を見かけたとして香澄の気を引いて、その間に逃げ出すことに成功した。大好きな零次が来ているとなって興奮して探し始めてしまった香澄だが、泉美がため息をついているのを見て、思い出す。一高の入学式には保護者は同伴しない、完全に生徒だけで執り行われる。そもそも悪目立ちしている総司のそっくりさんなんて騒がれて当然だ、それが無かった以上、零次はこの場にいない。

騙された事を理解した香澄だが、もう琢磨の姿は見えないし、さっきまで聞こえていた笑い声…つまり笑っていた総司すら体育館から消えていた事に気づく。

 

 

「…く、悔しいー!」

 

 

まんまと出し抜かれてしまった事への悔しさが、思わず爆発してしまった香澄なのであった…

 

 

 


 

 

「っふ…!」

 

「久しぶりだが楽しいな、琢磨!」

 

 

そんな問題児二人は、現在人が一切居ない実習棟の第三演習室にて、組み手を行っていた。ルールは少ない、琢磨側に一切の縛りはなく、総司が琢磨に掛かっている身体強化を異能で打ち消さない。これだけしか決め事がないほぼルール無用のガチンコバトルである。

 

この組み手では、大抵の場合琢磨から仕掛ける。今回の琢磨は右足を用いたハイキックから入ってきた。迫ってくる蹴り、総司は左手首を琢磨の足首に合せるだけでその蹴りの威力を完全に相殺する。普通の組み手であれば、このまま足を掴まれ、バランスを崩して琢磨が負けるだろう。だがこれはルール無用の魔法師同士の組み手である。

 

琢磨は軸足という概念を無視した左ハイキックを繰り出す。簡単な浮遊魔法で一時的に肉体を浮かせる事で、足が地面についていなくとも問題無くなった故の攻撃である。普通はこんな異常な攻撃はくらって当然だが、ここは魔法の存在が普通の世界、そして幾度となく琢磨と戦う総司には大した奇襲にもならず、右と同じように手首と足首を合せられる…それを予期した琢磨は、合わさった瞬間に足首に力を、自身の肉体に魔法を掛け、インパクトと同時に後ろへ跳躍する。物理法則を無視した動きで後退する琢磨だが、物理にのっとりながら物理の常識を越える総司は縮地の要領で距離を再び詰める。

 

 

「もらった!」

 

「もらって…ないです!」

 

 

普通にくらえば大怪我しそうな程の威力を秘めた総司の右ストレートを、拳が当たる直前に総司を掴んで若干力の向きをずらし、直撃を回避する。からぶった拳はおおよそ人間が起こして良いものでは無いソニックムーブを引き起こし、暴風が吹き荒れる。

微妙に体勢が崩れた総司に蹴りによる追撃を行う琢磨だが、その足を掴まれ、投げられてしまう。投げられた方向に魔法式を投射、魔方陣を形成し、その中をくぐることで速度を軽減するも、その行動を行う隙を逃す総司ではなく、お前には重力や空気抵抗がないのか?と問いたくなるほどの直線的な跳躍。無理な体勢から行ったその跳躍によるダメージは総司の体には見受けられないが、残念なことに実習室の床がお釈迦になった。

 

まっすぐ向かってくる総司を見た琢磨は、おもむろに制服のジャケットを脱ぎ捨てる。すると…

 

 

「う…おっと!」

 

 

その脱ぎ捨てたジャケットから大量の紙切れが総司を襲いに来た。七宝家の切札、『ミリオン・エッジ』である。ただの紙切れと侮るなかれ、普通の紙のような薄さでこそあるが、その繊維の中には硬化や振動系など、強度を高めながらも殺傷力も上げようとする魔法式が、刻印術式として織り込まれている。努力が見られる代物だ。織り込まれた術式の中には、『切られたら切り痕が残る』という概念を具象化する魔法もあり、総司は無かった事に出来るが、気づかなかった場合に限り、総司にすら傷をつけられる強力な能力を持つ。

 

そんなものを数千と放ってきたのだ、総司は思わず上に跳躍し、回避を試みるが…

 

 

「それは…予測済みだ!」

 

 

総司の行動を人読みで見抜いた琢磨は、逃げるであろう場所にも刃を向かわせていた…だが、ここで終わる総司ではない。

 

 

「…これでもくらえ!」

 

「馬鹿な、総司先輩がま、魔法だと!?」

 

 

総司は身体を捻って体勢を変え、足を天井に向け、そして足をめり込ませる事によって擬似的な空中浮遊を実現する。そして総司は、脳天のあたりから魔法式を投射する。そこに込められた意味は『停止』の一工程だけなのだが、流石は安倍晴明の血族と言ったところか、強大すぎる出力で、強引に『ミリオン・エッジ』によって操られていた紙切れ達は、そのまま地面に落ちる。琢磨が驚愕している隙に足を天井から引っ張りだして、距離をとる。

 

 

「成長したな…琢磨!」

 

「総司先輩こそ…面倒になりましたね!」

 

 

二人はまだまだ余裕、これからだと言いたげな表情のまま戦闘を仕切り直す。その様子を影から見ている者がいた。

 

 

「…こ、怖くて声掛けられない…」

 

 

そう、何を隠そう、中条あずさ会長である。彼女は生徒会長として、抜け出した不良共を体育館に連れ戻そうとしていたのだが、二人の気迫は本気で殺し合うときのそれなので、ビビりまくって動けなかったとさ…




魔法科世界の秘匿通信


・やけに琢磨が強化されていますが、もちろん七草の双子も強化しています。お楽しみに


・総司が使えるのは一工程の魔法だけですが、何故か出力が馬鹿馬鹿しい程高いです。やろうと思えば達也の『質量爆散』による物質のプラズマ化すら止められる。


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ダブルセブン編 その四

前回から一週間もたってしまい申し訳ありません…最近忙しいのと単純に難産だった事もあって投稿ガ遅れてしまいました。

今後もこれぐらい期間が空くことが多くなりますが、ご了承ください。


「…ハァ、ハァ」

 

「お疲れ、琢磨。強くなったな」

 

「…先輩こそ、ハァ、以前よりも強くなってますよね」

 

「そりゃ、守らなきゃならない人が居るからな」

 

「お、お二人とも~!」

 

「ん?…あーちゃん会長か」

 

「あっ!総司君、その呼び方やめてくださいよ~!一年生の前なんですから!」

 

「別にコイツは総代だからいずれ聞くことになるでしょ」

 

「いえ、俺は部活連に行くつもりなので」

 

「あら、誘う前に振られちまったな、生徒会」

 

 

総司が不意打ちで放った魔法に気をとられ、総司のボディブローをモロに受けた琢磨は、演習室で横に寝転がり大の字になっていた。そこにとことこやってくるあずさ、真面目な彼女はサボり魔二人を見過ごせなかった。だがあずさが来ることなど総司にとっては予想済み。彼女では自分達を止められないことをしっかり理解していた。故に高を括っていたのだが…

 

 

「…ほう?どうやら随分とじゃじゃ馬を連れてきたようだな?総司」

 

「っげ、はんぞー先輩」

 

「服部君!?」

 

「貴方が、あの…」

 

 

あずさの後ろから現われたのは、怒りの表情を浮かべた範蔵であった。特段範蔵でも止められない事が多い総司だが、範蔵があずさよりは数百倍やりにくいのは確か。苦虫を噛みつぶしたような顔をする総司。そんな範蔵だが、とてつもなく優秀であり、現三年生から『ジェネラル』などと呼ばれ、旗印として掲げられる程だ。その噂は校外にも響いており、琢磨はそれを耳にしたのか、噂の人を目にした事により、「この人が…」と言いたげな表情をしている。

 

 

「何しに来たんだよ先輩」

 

「無論、お前達を連れ戻しに来た…と言いたいところだが」

 

「…?」

 

「…もう入学式は終わった」

 

「ええっ!?」

 

「なんであーちゃんさんが驚いているんですか」

 

「ちょっと、七宝君!?その呼び方は!?」

 

「そうか、分かったぞ。どうせ中条の事だ、殴り合っている二人を恐れてしばらく声を掛けられなかったのだろう」

 

「あー…ありそう」

 

「は、服部君…」

 

 

既に入学式は終わった事を告げられ、入ったばかりの新入生にあだ名呼びをされ、同輩からほぼ直接的に、「お前びびってたんだろ?」と言われたあずさの表情は七変化もいいところであった。入学式が終わったと知った時の驚愕の表情、琢磨にあだ名で呼ばれたときのショックを受けた感じの表情から、範蔵の言葉を聞いた時のしょんぼりとした表情の変化に、思わず男子三人はほっこりさせられてしまう。その光景はさながら小動物を眺める不良集団と言ったところか。

 

 

「…そんで、結局何しに来たんだ」

 

「…七宝の事は、総司を尊敬するなどという、あってはならない愚行を犯しているという事から、警戒していたんだ」

 

「おいこら、俺は孤児院の子達からは滅茶苦茶慕われてるんだからな!」

 

「洗脳か?」

 

「違うわい」

 

「総司先輩を尊敬して悪いことしかありませんでした」

 

「琢磨ぁ?」

 

「ほう…実は物事の本質を見抜けていたと言うことか…」

 

「あの…えっと…私戻った方がいいですかね…?」

 

「中条、気にすることはないぞ…だからいい加減落ち込むのはやめろ」

 

 

範蔵の失礼すぎる発言にツッコミを入れる総司だが、それを琢磨に肯定され、その琢磨を裏切り者を見るような目で見ている。その横で範蔵の制服の裾をクイクイと引っ張り、自分が会場に戻るべきがどうかを問うあずさの顔は、やはり青ざめていた。流石に範蔵は可哀想に思ったのか、軽くフォローを入れる。

 

 

「俺がここに来たのは…七宝琢磨」

 

「っ、はい!」

 

「お前を、部活連に勧誘する為だ」

 

「おっと、こりゃ丁度良いじゃん」

 

「…はい!よろしくお願いします!」

 

「…え?もしかして私、生徒会の勧誘まだしなきゃいけないんですか?」

 

「いやいや、男子の琢磨は終わったんだから、後は女子二人でしょ。いけるって先輩」

 

 

元々連れ戻すつもりもなかった範蔵。その目的は琢磨を自身が長を務める部活連に入れる為だった。元から入りたかった事もあり、体育会系のような挨拶を返す琢磨。それを眺めながら、もしかするとまだまだ仕事がつづくことに気づいてしまったあずさを総司が慰めていた…

 

 

 


 

 

しばし時間はたち…

 

 

 

「七宝琢磨!ボク…私達と勝負しなさい!」

 

「え、嫌だけど」

 

「なんで!?」

 

「なんでって…考えれば分かるでしょ香澄ちゃん…」

 

 

今にも下校しそうになっていた琢磨を見つけた香澄は、ビシィ!と効果音が付きそうな勢いで勝負を申し込むも、顔面にありありと「面倒くさい」と書かれた琢磨によってそれは呆気なく却下される。その答えに驚愕を漏らす香澄、今にも目が飛び出しそうだ。対する泉美はこの展開を予想していたので、まったく動揺していない。

 

 

「俺、これから久々に先輩と遊んで帰るから」

 

「先輩って…」

 

「あの、橘総司って奴?」

 

「…?知ってるのか、魔法が下手くそで有名だったりするのかな」

 

「お前毒吐きすぎな」

 

「痛いです」

 

 

香澄と泉美は驚愕の表情で琢磨の後ろに現われた総司を見る。その総司は今現在、琢磨の頭をグリグリして懲らしめるのに夢中で、自分を見つめる視線に気づいていない。

そして、その総司を見た二人の感想は、やはり息ぴったりな双子と言うこともあり、完璧にシンクロしていた。

 

 

「「(なんか…この人の方が()()()()()()()())」」

 

 

彼女達は、昨年の1月頃から香澄の一目惚れが原因で、総司のクローンたる零次を匿っているのだが…その零次を数ヶ月見てきた上で、本物を改めて見た二人の感想がこれだ。二人とも、クローンである零次の方が作り物である事は分かっている。だが彼女達は、どこか総司から、()()()()の気配を感じた。これは元から人為的に生まれたという自覚がある零次には見られない、まるで自分が人間だと()()()()()()()()()()

 

 

「そこで何をしているの?」

 

「あっ…」

 

 

そんな集団に声を掛ける人物が一人。その声に反応して振り返った香澄は、その人物の腕に付いている風紀委員の腕章が目に入って、思わずと言った様子で声を出してしまう。

まさか誰かが、この現場を見て喧嘩していると思って風紀委員に通報したのか?と思考する泉美だが…

 

 

「おっ、雫ちゃん」

 

「どうも、ご無沙汰しています」

 

「うん、よろしくね琢磨君。…それより、貴女たちは何をしているの?」

 

 

此処で七草の双子は目の前の風紀委員が誰か理解する。総司の恋人にして最高の理解者である北山雫だ。恐らく彼女の目的は喧嘩の仲裁ではなく、総司とその後輩とに会いに来たのだと。

どこか不安げな泉美の態度を不自然に思った雫は、自分が風紀委員である事が災いして、彼女達に要らぬ不安を抱かせてしまったかと考え、安心させようと口を開く。

 

 

「大丈夫だよ、別にとって食べようって訳じゃないんだし」

 

「いえあの…」

 

「?」

 

 

言えない。よもやこの場で琢磨に喧嘩をふっかけていたとなれば、注意を受けてしまうかもしれない。別に雫は、その程度の事でいちいち取り締まりをしたりはしない。去年のこの時期にこの校門でいざこざを起こした雫としては、魔法が不正使用されない限り、争い事も見逃すつもりであった。それにいちいち細かに取り締まるなんて面倒くさいとすら思っている。だがそんな雫の心の内を知らない泉美。

入学早々に風紀委員に目を付けられてしまう…それは嫌だと黙秘を決めようとした泉美であったが…

 

 

「七宝君に勝負を挑んでいました!」

 

「香澄ちゃん!?」

 

 

自身より本能的に動く香澄にその目論見を踏み潰されてしまった。泉美は驚きの表情で香澄を見た後、すぐさま雫の方を振り向いた。もちろん雫の反応を伺う為だ。そして香澄の発言をを聞いた雫は目を細めながら…

 

 

「いいね、せっかくだから受けてあげなよ、七宝君」

 

「「「…え?」」」

 

「…雫ちゃんったら、いつからこんなに嫉妬深くなったんだか」

 

 

まさかまさかの、その勝負を行うのを勧めてきたのだ。一体どう言うことだと、双子と琢磨は考えるが、総司だけはその細めた瞳からの視線で、俺に構われている琢磨が羨ましいのだろうと察した総司。その表情のまま総司に身体をすり寄せてきた雫。その行動の真意をやっと理解した琢磨は総司から距離をとる。

 

 

「…と、言うことだ。お前達は用意をしてこい、俺はどこか場所が取れないか掛け合ってみる」

 

「えっ、なんでいきなりそんなに乗り気なの!?」

 

「…まさか、気づいていないのか?」

 

「ウチの香澄ちゃんが本当に申し訳ありません…」

 

 

琢磨としては、双子からの挑戦を受けても良いとは思っていたが、今回は久々の尊敬する先輩との放課後を過ごそうという思いを優先したのだ。そんな先輩が別件で自分と遊べないと分かれば、琢磨に勝負を断る必要は無くなった。寧ろ暇つぶしに丁度良いとすら考えていた。…この琢磨の相手を上から見る態度は、プライドではなく自分の方が絶対に強いという、過去からの経験があるからだ。

 

それは良いとして、拍子抜けした様な表情で琢磨の心変わりに驚く香澄。これで琢磨と泉美は悟った、香澄は雫の行動の真意を理解していないのだと。随分と朴念仁な女だなという感想を持つ琢磨、自分も恋をしているのに、他人の恋路には気づけない香澄に呆れたようにため息をつく泉美。

 

二人から呆れ気味に見られる理由に心当たりがない香澄は「えっえっ何?」と二人の顔を交互にをキョロキョロと見る。このやり取りにはもう意味がないと悟った琢磨は、自分の連絡先を簡潔に泉美に伝え、自分は勝負の会場を探しに行ったのだった。




魔法科世界の秘匿通信


・入学式の締めは生徒会長が担当するはずだったが、二人を追いかけて演習室にいたせいで出席出来なかった。代理として深雪が出席する。



・本作にしては珍しく、双子にはアッパー調整が施されていないので、ほぼ原作通りの実力。その時点で琢磨に対する勝ち目はゼロだが、一体どうするつもりなのか


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ダブルセブン編 その五

「「……」」

 

「ふ、二人とも…?なんだか空気が重「「悔しいぃぃぃ!」」ひゃっ!?」

 

「何なのアイツ!何なのアイツ!」

 

「勝てはしなくとも、善戦はすると思ったのに…あそこまで完膚なきまでに負けてしまうなんて…!」

 

 

七草家の夕食の席にて

 

暗い空気で食卓を囲んでいた双子。その空気に耐えきれなくなった真由美が、問うて見たところ、二人は至極悔しそうな顔をして絶叫する。二人の発言から推測するに、数時間前に手合わせをした琢磨に対する感情だろう。あの後問題無く演習室を借りられた三人は、双子対琢磨の模擬戦を行ったのだが…

 

 

『甘いな、地力は悪くないが、連携が荒削り過ぎだ。そんな体たらくでは、一人で戦った方が勝算があったんじゃないか?』

 

 

と言う言葉と共に、琢磨の『ミリオン・エッジ』に香澄達は完封されてしまったのだ。今だ十師族ではない師補一八家の琢磨に、自信のあったコンビネーションを掛けたのにも関わらず、余裕の態度で受け流された。二人はさして十師族という立場に固執してはいないが、十師族でない者に負けた事を引きずっている、彼女達も悔しいものは悔しいのだ。

 

尚、この二人の連携は世界でも通用する程の練度であり、荒削りなどと呼べるものではないのだが、総司とのアイコンタクトすら不要とする連携を行える琢磨にとってはそう映ってしまったようだ。要するに、自分のレベルが高すぎて、二人の連携がまだまだであるという結論に至ってしまった。その時点で、双子と琢磨の実力の差が如実に表れている。

 

 

「…アンタはどう思う?」

 

「七宝の子息は第七研が生み出した中で最強の魔法師だ。加えて実戦経験も豊富、億が一にもあの子達が勝つことなど出来なかっただろう」

 

「だよなぁ」

 

「それとも何だ、君が娘達の仇をとってくれると?」

 

「バカが、分かって言ってんだろ。俺が七宝を叩いたらオリジナルが出てくる。アンタ、九島と戦争でもする気か?それにただの学生のお遊びだろこれ」

 

「フン、分かっているとも。それと、私はテロリストに与した覚えなど無い。もしお前が九島の秘蔵と差し違えたとて、九島がテロリストを処理したという記録が残るだけだ。」

 

「あくまで自分は関係ないですよーってか」

 

 

不満顔をしながら小声で「狸野郎が…」と呟いたのはこの家の居候、安部零次だ。零次は双子が早速総司と出会った事を非常に気にしていた。あの男はすぐに周囲をおかしくしてしまう。あの子達もそれに巻き込まれないか…と思っていた。なので、今彼は結構焦ってたりする。何せ琢磨は総司に非常に近い。その琢磨に近づくという事は総司に近づくと同義。だからこそ今の双子の感情の動きに胃を痛めていた。この二人、放っておけばリベンジを挑みに言ってしまうだろう。そうやって総司に近づいてしまうのは何とか回避してもらいたかった。

 

そんな零次と会話をしていたのは、この家の頂点にして、十師族七草家の当主。七草弘一だ。実の娘である真由美から「あの狸親父が…」と言われてしまう程陰謀が大好きな人間だ。今でこそ、零次を七草に部分的にだが従う兵力として捉えており、一応は味方扱いをしているが、結局の所零次はテロリスト。何処かで潰れて欲しいと願うのも無理はないだろう。故の発言だったのだろう、彼は遠回しに「危険な力を持つ総司と相打ちにでもなってこい」と言ったも同じであった。

 

 

「ねえ零次君!どうしたらアイツに勝てるかな!?」

 

「いや…それは「それは無理って意見は無しで」ハハハ」

 

 

弘一に変にプライドがなく、双子のリベンジを後押しする気が無いのは良かった。それなればこちらで関わらないように誘導すれば…と考えていた零次だが、基本的に双子の尻に敷かれているこの男が、相談などされてしまえば、断る事も出来ない。こちらをキラキラとした瞳で見つめる香澄を見返しながら、冷や汗をかいてどう返したものかと悩む零次。結論として、彼は中間の提案をする。

 

 

「…今は勝てないだろ、せめて力を付けないといけない」

 

「どうやって?」

 

「学校のカリキュラムをこなしたり、自主練なんかで順当にレベルアップするしかないだろ」

 

 

リベンジを否定せず、それでいて極力近づけない提案。それすなわちリベンジの為に修行しようと言うものだ。キチンと練習や勉強をして、訓練を行う。そうやって戦闘力を高めてから再度挑戦すると言うものだ。だがこの提案はある否定材料があった。

 

 

「それじゃアイツも同じぐらい強くなっちゃうじゃん!」

 

「…ダメかぁ」

 

 

香澄に見えない様にしながら苦虫を噛んだような表情を浮かべる零次。この提案は、時間を掛けて強くなっていくという性質上、相手にも時間を与えてしまう。総司という遙か高みの目標を持つ琢磨は、時間さえあれば更に強くなっていくだろう。香澄もその点に気づかない程バカではなかった様だ。因みに泉美は一旦気持ちを切り替え、深雪の素晴らしさを真由美に説いていた。真由美は困り果てた顔で相づちを返しているが、それに泉美が気づく様子はない。

泉美に真由美が捕まっている以上、真由美から効果的な案を出してもらうことは出来ないだろう。

 

 

「ああもう!こうしてる間にもアイツは訓練をしてもっと強くなろうとしているかも知れない!」

 

「そ、そうだな」

 

「ううううう!アイツは時間をどうやって使っているのー!」

 

 

七草家に香澄の叫びがこだまする…

 

 


 

 

少し前…

 

 

 

 

「それではこれより、中条に着せるコスプレの案を出すぞ!」

 

 

ウオオオオオオオォォ!!

 

 

「は?」

 

「無難にメイド服とか良いんじゃないのか?」

 

「ここは猫耳でしょ!」

 

「いーや、犬耳だね」

 

「猫でしょ!」

 

「犬だね!」

 

「ここでワンニャン戦争はやめろ」

 

 

異様な熱気に包まれた此処、部活連の会議室。それぞれからの報告が終わったあたりから、各部の部長達が頭の狂った事を話し合い始めた。書記として早速会議に参加させてもらった琢磨は、絶句する。

 

 

「何てことだ、もう助からないゾ♡」

 

 

いい笑顔で琢磨に笑いかけた総司に、琢磨は総司が周囲に及ぼす影響力を忘れていたことを痛感した…

 

 


 

 

白熱する会議の中、やっと気持ちの整理が追いついた琢磨は、議長を務めている範蔵に断りを入れて、クロス・フィールド部2095年度部長こと、総司に近づいて質問を行う。

 

 

「…総司先輩、普段の部活連ってこんな感じなんですか?」

 

「そうだな、部費やらなんやらの事務的な報告が終わったら、こんな感じで雑談してるよ」

 

「雑談と言うには白熱しすぎですし、内容がおかしくないですか?」

 

「あーちゃん会長は全学年から大人気だからなぁ、卒業前に遊びたい先輩方は特に白熱してるよ」

 

「人で遊ぶとか人の心ないんか?」

 

 

困惑し、聞こえていないとはいえ先輩達にめちゃくちゃ失礼な発言をする琢磨。しかしこればかりは、あずさのカルト的な人気が問題だろう。先程から度々「ハイレグレオタード!」やら「スク水白ニーハイ!」やら「逆バニー!」やら、明らかに卑猥な格好を挙げて行く者達もいる。因みにいずれもあずさの友人と呼べる女子達だ。あずさは人付き合いを間違えたらしい。

 

 

「おいおい、逆バニーとか何とか、そんなモラルに反した格好はダメだろう」

 

「人を着せ替え人形にしようとしてる時点でモラルに反してんだろ」

 

 

思わずツッコミをしてしまう琢磨。だがそんな真っ当な人間の意見などこの魔の巣窟に必要は無かった。しかし…

 

 

「…そうだな、そういうのは良くねえ」

 

「俺もそう思うぜ、武明先輩」

 

 

すっと立ち上がって範蔵の意見に賛同し始めた桐原と総司。それを見た範蔵と琢磨、特に範蔵は嫌な予感を感じていた。桐原はともかく、総司がこう言ったおふざけに加担しないという事は、別に面白いと思う事を考えているときだ。更にその兆候を見せたのが自分の意見に賛同したが故というのが、範蔵にとっての嫌な予感を更に助長させていく。

 

 

「「だって…」」

 

「…だって?」

 

「「そういう格好は彼女にしてもらいたいものだよなぁ服部ィ!」はんぞー先輩ィ!」

 

「お前達ィ!表に出ろやボコボコにしてやるよォ!」

 

「「やってやろうじゃねえかよこのヤロー!」」

 

 

予感的中。総司の企んでいた事は、結局卒業前に告白しそびれ、以降思い人たる真由美とほぼほぼまったくと言って良いほど関わりが無い範蔵への揶揄いであった。それを理解した範蔵、あまりにも鮮やかにブチ切れる。そして揶揄った側、もしくは彼女いる側たる桐原と総司は、範蔵の怒りはモチロン予測通りであるため、ハンドサインでかかってこいと煽る。そのまま会議室を後にする三人。

 

それを見た琢磨は、三人を止めなければと思い行動をしようとして…周囲の先輩達を見て、思いとどまった。

 

 

「どっちが勝つと思う?俺は桐原と橘にジュース一本」

 

「ちょっ、ずっけえ!それ賭けにならないじゃねえか!」

 

「フッ、じゃあ敢えてここで俺が、我らが『ジェネラル』どのに賭けようじゃないか」

 

「ねえ、紗耶香~桐原君が言ってた事って、もしかして実体験だったりしない?」

 

「ど~かな~?」

 

「あ~!紗耶香めっちゃニヤニヤしてる~!ヤらしいんだ~!」

 

 

最早あの喧嘩が他の先輩達にとって娯楽と化しているようだ。琢磨はよく知らないが、桐原の彼女とおぼしき…と言うか彼女の壬生も、同年代の女子と猥談している。やっていることがただの高校生だ。ホントに魔法科高校かここは?

 

遠い目をしだした琢磨に話しかけたのは、マーシャル・マジック・アーツ部の部長、沢木だ。彼は若干の苦笑をしながら口を開く。

 

 

「ビックリしたでしょ?」

 

「めっちゃしました、正直俺、総司先輩の事理解したつもりだったんですけど、まったく分かってなかったんだって」

 

「そう気落ちしないでくれ、彼も最初からああだった訳では無いんだ。…そうだな、彼が丁度北山さんと付き合い始めてからだったかな」

 

 

そう言われて、琢磨はハッとした。変わらない人間などいない。証拠として、総司と出会った自分は、七草への憎しみを全て捨てて前に進む事が出来た。総司は雫と出会って変わった。ただそれだけの事なのだ。

妙に納得した表情をした琢磨に、大した言葉を言ったつもりもなかった沢木は少し困惑顔だ。すると沢木は、彼に話しかけた本題を告げた。

 

 

「七宝君、橘の奴を気遣ってやってくれ」

 

「…どう言うことですか」

 

「…4月に入ってから、アイツの様子がおかしい…いや元々おかしいけどさ。でもこの変化は、北山さんと付き合い始めた時の前向きで分かりやすい変化とは違う、後ろ向きで分かりにくいものだ。もしかすると、春休みの間に何かあったのかもしれない、大した繋がりはないが、心配なんだ」

 

 

それは、時たま手伝いとして風紀委員の仕事をしていた総司と、たまに一緒に仕事をする程度でしかないが、仲が悪いという訳でも無いという関係性だった沢木の、中途半端な立ち位置だったからこそ見えて来た総司の異変。

それを聞いた琢磨は、何か気になるものを覚えた。それは勘違いではないだろう。そう琢磨が考えたのは、先日の入学式を抜け出しての模擬戦の時に、総司が魔法を使った事だ。

 

 

「(…総司先輩に何が)」

 

 

琢磨の思案顔は、窓から下に見える、いつの間にか二対一から一対一対一になっていた三人の喧嘩を見ることはなかった。

 

 

 


 

 

京都府内某所…

 

 

「…それで、考えていただけましたか?老師殿?」

 

「…意図が読めんな。何故そこまで要求に固執する?」

 

 

政界のVIPでも知らない、秘匿された屋敷。此処は『元老院』藤原道長の屋敷であった。そこで相対するは、年齢にそぐわない若々しさを発揮する男、藤原道長と老齢な容貌に、丸で現役の軍人かのような覇気を放つ翁、九島烈であった。

立場では道長の方が上であるが、烈はその重ねて来た功績により、本来であれば失礼に値する物言いでも許される。そしてその烈は、心底理解出来ないという顔で道長に問うていた。

 

 

「簡単ですよ…彼は子飼いにするには勿体ないのですよ…それに、貴方にとって彼は息子同然です、構わないのでは?」

 

「……」

 

 

烈は沈黙したままだ。だが道長に気分を害された様子はない。寧ろ楽しそうな笑みすら浮かべていた。

 

 

「…貴方がお亡くなりになられれば、正直なところ九島は十師族ではなくなるでしょう。失礼ながら現当主の真言様は、当主たるカリスマをお持ちでないように思われます。今なお九島が十師族でいられるのは、貴方様がご健在であるからでしょう」

 

「それと、あの男に権力を握らせる事の何が関係するのだ」

 

 

烈の問いに、ニヤリと笑って返した。

 

 

「無論、彼はいずれにせよ、この日の本を…いえ、世界を牽引するであろう人間だ。今のうちにこの日の本で立場を用意しておけば、いずれ世界の勢力図で我々は有利に立てます」

 

「根拠は「ありますとも!何故なら彼は、世界を救う救世主なのだから!」…」

 

 

道長の狂気的な笑みに、烈は何も言えなくなっていた。その様子に、自分がヒートアップしすぎた事に気づいた道長は、最後にこう締めくくった。

 

 

「まあ、考えておいてください。彼に…橘総司に、九島を継がせる事を…」

 

 

こうして京都の夜は更けていく…




魔法科世界の秘匿通信


・クロスフィールド部部長:正直言ってクロスフィールドの描写がないからどう言う活動してるか描写出来ない。助けて



・今回もノリで書いているので、何が設定と齟齬があった場合や、違和感があった場合は意見をください。


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ダブルセブン編 その六

遅くなってしまい申し訳ありません、作者です。

あのですね、ついこの間GWと言うこともあり、原作を読み返していたのですが…

ダブルセブン編って琢磨と七草双子のイザコザを主軸にした話だと私は考えているのですが、そのイザコザも原作琢磨の七草への憎しみが燃料だった訳で。
本作の琢磨にはそんな感情は微塵も無く、逆にちょっとしたライバル意識を双子に持たれている程度なんですよね。

達也や他のメンバーを嘗め腐ってる琢磨が十三束と達也の模擬戦で実力差を見せつけられるみたいな展開も、本作の琢磨はしっかりと相手を見定める力を持っていますし、そもそも琢磨は本作でもトップクラスに強いので、原作の展開がほぼ使えないンですよね。

どうすっか…と悩んだ結果生まれた本話です、よろしくお願いします。


「また負けたぁ~!」

 

「香澄ちゃん…悔しいからと言って生徒会室で大声を挙げてはいけませんよ?」

 

 

2096年4月26日は昼休み。生徒会室にてこれまでに何度聞いたか分からない悔しげな少女の叫びが響き渡る。どうやらまたしても琢磨に敗北してしまった様だ。

香澄の表情は、明らかに悔しさに歪んでいる。このまま誰かが賛同するような言葉を言ってしまえば更に爆発してしまうだろう。事実今までも泉美と琢磨に対する文句でヒートアップしすぎて、見かねた弘一が零次に伝説の首トンをさせて無理矢理寝かしつける程である。

 

だが今回香澄はともかく、泉美が香澄を諫める様に行動しているのは、すぐ近くに司波深雪(憧れの先輩)がいるからだろう。家族の前でもそうでなくても、普段冷静な彼女にしては珍しく恥も外聞も捨ててブーブー文句を言っていた泉美だが、深雪の前では流石に控えようという思いがあるようだ。

 

 

「ちょっと!零次…じゃなかった、橘先輩!貴方アイツにどんな教育をしてきたんですか!?」

 

「うーん…強いて言うなら、サーチ&デストロイかな?」

 

「それは人間ではなく殺戮兵器に行う教育じゃないか?」

 

 

最近ずっと琢磨への不満…琢磨は勝った後に無自覚に相手を煽る言葉を発してしまう。だが香澄達には意図的に言っているものと解釈されている。…を、琢磨を今の状態まで持ってきてしまった総司に向かって、身を乗り出す勢いでぶつける香澄。そんな香澄への返答は、随分と投げやりな返答だった。まあそれも当然、総司からしてみれば、普通の先輩後輩(ただし一緒に魔法犯罪などを食い止めたりしてきた)として接していたらいつの間にかあんな性格になっていたのだ。此処で自分が悪いと考えないのが、総司流なのかも知れない。

 

だがその投げやりな返答も、実際の場面を目撃していない他のメンバー達にとっては、冗談に聞こえないこともある。事実達也が、本当にそんなことしてたのか?と言いたげな表情でツッコミを入れる。

 

 

「…その様子だと、また七宝君に何か言われたの?」

 

「はい!アイツ、『昨日の実験が成功したからって調子乗っているんじゃないか』って!」

 

「「「「…あ~」」」」

 

「何ですかその『その通りかも』って表情!?」

 

 

香澄が琢磨に言われた昨日の実験とは、「常駐型重力制御魔法を中核技術とする継続熱核融合実験」というものである。小難しい事を言っている様に聞こえるが、簡単にかみ砕いて言えば、常駐型魔法を開発出来さえすれば、それを利用した莫大な電力を発電できてしまうトンデモ発電機の実証実験と言ったところか。

 

この研究は、魔法師を兵器から解放する手段であるとして、達也と細かい所は違えど、昨年度卒業した市原が重要視した研究であり、昨年の論文コンペで一高がプレゼンしたのもこの研究である。

そんな研究の実験が、何故昨日行われたのかというと、色々と事情はあるのだが、一言で言えば魔法師を頭ごなしに否定する政治家が、魔法高校をこき下ろす材料を探しに一高へと急遽訪問する事が決定、それに対するカウンター的にこの実験を執り行ったのだ。

 

結果は見事に成功(達也が開発した物が失敗した試しがないので当然と言えば当然だが)。否定派の政治家ですらこの実験は賞賛するしかないものだったようで、一部の尖りまくったメディアが水爆扱いしてきた事以外には概ね好評であった。

 

そんな実験は、現状開発段階であると言うのもあり、起動には複数人の協力が必要となる。

そんな訳で、見事メンバーに選ばれた香澄(泉美とセットであるが)。彼女達の担当は第四態相転移(フォースフェイズシフト)、液体を第四態、つまりプラズマに状態変更する発散系の相転移魔法を担当した。

 

魔法力の関係、コントロールの精巧さの点を鑑みれば、現時点の双子よりも琢磨単体の方が高いのだが、総司に悪い影響を受けた琢磨は戦闘に使わず、日常でも使わない魔法は苦手としているのだ。メディアに水爆扱いされたように、失敗すれば爆発の危険性もあったこの実験に専門的な魔法の技術に欠ける琢磨では役不足であったのだ。

 

 

「…まあまあ、七宝君に負け続けているのは今に始まった事じゃないし「うるさいですぅ!」今は達也さんのお誕生日パーティの内容決めでもしようよ」

 

「ちょっと待ってくれないか雫」

 

「ん、達也さん。どうぞ」

 

「なんだその議長みたいな口調は…」

 

 

正直生徒会室にいる一同には、双子の絶叫など慣れたもの(深雪だけは泉美が絶叫した所を見た事が無いが)、今双子と達也以外の意識は、達也の誕生日パーティーに向いていた。確かにいつもなら盛大に祝おうとする深雪が簡単な祝辞だけで済ましてきたことに、違和感を覚えた達也ではあったのだが、遂に深雪も兄離れか…と納得しその夜ホロリと涙した(真顔で)のだ。

 

だが実態はもっと大事になってしまっていたことに動揺する達也。正直なところ、自分は雫の母親に警戒されているので、あまり雫の家で開催されるパーティーにお招きされたくないのだ。

 

 

「開催予定日は?」

 

「今週の日曜日かな」

 

「…申し訳ないが、その日は用事があるんだ」

 

 

嘘ではない。と言うのも、2096年の頭に、ドイツのCADメーカーであり、業界最大手であるローゼン・マギクラフトが発表した完全思考操作型CADを題材に、稀代の天才CADプログラマー『トーラス・シルバー』としても活動する達也は、職場であるFLTで対抗する商品の開発会議を行う予定ではある…のだが。

 

 

「あれ?その日は午前中はともかく、午後は時間があるって深雪に聞いたんだけど?」

 

「(深雪~!)」

 

「…(てへっ☆)」

 

 

雫の言う通り午後の時間は空いているのだ。それを教えたという深雪に恨めしい視線を向けると、冷や汗を流しながらも、舌出しウィンクで謝ってきた深雪の可愛さに免じて許すことにした達也だった。

 

 

「安心しろって達也。義母さんには俺から言っておくから」

 

「総司…(安心できねえ…)」

 

「オイコラ、今何考えてやがる」

 

「橘先輩って何で真顔の司波先輩の考えてる事が分かるんですか?」

 

「何でなんだろうね…」

 

 

ほぼほぼ空気になっている泉美が、同じく空気になっているほのかに質問を行う。そんなもの分かるわけがないんだよなぁ…




魔法科世界の秘匿通信


・恒星炉:将来達也を象徴する偉業の一つになる物。飛行魔法と同じく加重系魔法の技術的三大難問とされていた。重力制御魔法で継続的な核融合反応を維持することでエネルギーを発生させる装置のこと



・完全思考操作型CAD:スイッチに手が触れていなくても操作できるCADである。ローゼン・マギクラフトが最初に発表したが、携帯用CADとしてはかなりの大型に当たるため、現状の使用者は少ない。


今回かなり短いです…最近忙しすぎて執筆できひん…


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ダブルセブン編 その七

今回から完全にオリジナル展開です。


「…私達も行って良いのかな、司波先輩の誕生日パーティー」

 

「別にそんな気にすることないでしょ!北山先輩と橘先輩はオッケーだしてくれたんだし」

 

 

放課後、それぞれ生徒会業務に風紀委員業務を終わらせた七草の双子は帰路に付いていた。そう言った業務は多忙を極める為、帰宅は他の生徒達よりも遅い時間になってしまった。泉美は本来なら深雪と帰宅したかったのだが、やはり達也とのイチャラブ空間の間に入るのは至難の技の様で、渋々諦めたのだ。

 

 

「…それでさ~」

 

「…ちょっと待ってください、香澄ちゃん」

 

「ん?どうしたの?」

 

「…周りが静かすぎませんか?」

 

 

学校と駅までの中間とも言える地点にて、香澄の話を止めて、泉美が周囲の様子を伺う。それにならった香澄も周囲を見渡すと、確かに人の気配がしない。先程帰宅は遅くなってしまったとあるため、人が居ないのは別におかしい事ではないはずだ。だが、ことこの二人にはそれがあり得ない事を理解していた。

 

七草の双子は十師族の直系である。ならば本来、彼女達には護衛がいて然るべきなのだ。そして事実彼女達には、いつでも彼女達を守れる様に待機している護衛がいたはずなのだ。だが今、その護衛達の気配すら感じられない。

 

 

「…ちょっと、変じゃない?」

 

「っ、急ぎましょう、香澄ちゃん!」

 

 

おかしいとは思っているが、未だに危機感を持てない香澄。そんな香澄の手を、嫌な予感を感じていた泉美が引っ張って走り出す。いくら人が居ないといえども、駅まで行って個人車両(キャビネット)に乗り込めば大丈夫なはずだと判断したのだ。そしてその判断は正しかったのだろう。

 

二人を数人の人間が囲む。

 

思わず足を止めた二人。どこからともなく現われた謎の集団、しかも二人が駅まで逃げようとしたタイミングで現われたと言うことは、間違いなく二人が目的と考えて良いだろう。

 

 

「だ、誰ですか貴方たちは!」

 

「……」

 

「だんまりか、泉美!」

 

「ええ、行きますよ香澄ちゃん!」

 

 

明らかな不審者、この状況を考えれば、人払いを張った上で護衛達を無力化したと言った所か。だが、それでは不充分だ。香澄と泉美の連携は、評価のレベルが異次元な琢磨からしてみれば、まだまだという判定だが、達也の所感では、もっと練度を上げれば世界でもトップクラスの連携を行える…そう判断されるほどの実力を持っているのだ。その要因として挙げられるのはやはり…

 

 

「…!」

 

「よしっ、一人撃破!」

 

「順調ですね!」

 

 

二人が発動した…同時ではなく()()()発動した魔法、『熱乱流(ヒート・ストーム)』が二人を囲む者達の内の一人を行動不能に追い込む。『熱乱流』は500℃近い温度の空気塊を生成し撃ち出す魔法である。だが、この魔法は特別おかしい点はない。だが、彼女達にはあるのだ。

 

乗積魔法(マルチプリケイティブ・キャスト)

 

複数の魔法師の魔法力を掛け合わせて一つの魔法を発動させる技術の事であり、魔法式の構築と事象干渉力の付与を分担して一つの魔法を発動する事ができる。これを高い練度で発動できる事こそ、七草の双子の真骨頂である。故に一人一人ならばともかく、二人揃った双子は、並の魔法師では太刀打ちできない…のだが、

 

キィィィィィィン

 

 

「「あぐっ…!?」」

 

 

突如として甲高い音が鳴り出したと思えば、二人は頭を抑えて膝をついてしまう。一体何があったのか…

二人を囲む者達は、自身が付けている指輪を二人に向けていた。

 

()()()()()()()

 

『キャスト・ジャミング』の条件を満たすサイオンノイズを作り出す真鍮色の金属の事である。『キャスト・ジャミング』とは、魔法式が対象物のエイドスに働きかけるのを妨害する無系統魔法の一種であり、無意味なサイオン波を大量に散布することで、魔法式がエイドスに働きかけるプロセスを阻害する魔法である。

 

この金属は以前、一高を襲撃しようとしていた反魔法組織『ブランシュ』が有していた物である。本来ならばこれを用いて一高を制圧する手筈だったのだが、魔法が使えなくとも剣で戦える武人である桐原と壬生、そして魔法すら使わずに一国を相手取れる武神の如き存在、総司によって制圧されたため、あまり目立ってはいないが…本来ならばこれを用いられるだけで魔法師は魔法が発動できなくなり、圧倒的に不利な状況へと追い込まれるのだ。

そして以前、雫とほのかがアンティナイト持ちに襲われるという、総司が知ればブチ切れ必至案件の事件では、使用者が非魔法師であったため、不安定なジャミングしか行えていなかった為、その程度は自身の領域干渉力で無効化できてしまえた深雪によって制圧されたと言うこともあった。この出来事から考えるに、十師族レベルの魔法力を持っていれば、()()()()によるジャミングは無効化できるのだろう。

だが、今双子はそのジャミングによって苦しめられている。と言うことは、発動しているのは魔法師であると言うことだろう…

 

苦しむ二人に一人が近づいてきた。体格的に男であろうか、他の不審者達の様子から察するに、どうやらこの男がリーダーのようだ。相手を無力化したのであれば、やることは二つ。殺害か誘拐かだ。

 

 

「…泉美!」

 

「香澄ちゃん…!」

 

 

最後の抵抗をするために、二人の力を合わせようとお互いに手を伸ばす香澄達…だが、それの直前で二人は昏倒してしまった…

 

 


 

 

 

翌日…

 

 

 

「…七草達が居ない?」

 

「ああ、どうやら家にも帰っていないらしいんだ」

 

「おいおい…それってYO!」

 

「十中八九、連れ去られているだろうな」

 

 

会話していた総司と琢磨の間に割って入ったのは森崎であった。彼は風紀委員として七草香澄と関わっていたからこそ、この情報をいち早く知れたのだろう。それにしても耳の早いことこの上ないが…

そしてここ一年、何かしらの情報が入ったときには総司に相談するのも何時も通りだ。だが、今回の話はかなり大事であった。

 

 

「…七草の現当主は、誘拐事件を毛嫌いしている…」

 

「え、そうなのか?」

 

「総司先輩知らないんですか…」

 

 

総司はありとあらゆる情報にアクセスできる『フリズスキャルヴ』を有してはいるが、彼が知っていることは実に少ない。それは彼が普段ニュースを見ない上に、興味が無いことにはとことん興味が無い質なので、ツールを使ってまで調べる気にならないのだ。

だが、七草の当主が誘拐という言葉に敏感なのは誰もが知っているはずなのだが…

 

七草家現当主、七草弘一は右目を義眼としている。それはかつて、大漢の有していた魔法師開発機関、『崑崙方院(こんろんほういん)』によって、四葉家現当主、四葉真夜が誘拐された事件にて、巻き込まれて負傷した際のものだ。この事件がきっかけで、当時は婚約関係にあった真夜との婚約が破談になっている。そしてその事件にて真夜は生殖能力を失っているのだが、それを受けてか「自分だけ何もなかったかのように無傷で生きる事はできない」と治療を拒んだのだ。

 

こう言った事から、弘一は誘拐と言う言葉に敏感…というより、若干トラウマになっている節がある。前回は婚約者、そして今回は実の娘二人…事情を知らない者はこう思うだろう、『七草弘一は今回の一件に腹を立てている』と。

 

 

「でもよ、俺達で何とかできるのか?」

 

「俺達は無理だが…お前ならできるだろう?総司」

 

 

一応調べれば居所ぐらいは簡単に割り出せそうだと思いながら、ポーズとして何もできない風を装うとした総司だが、森崎はあたかも総司に対抗策があると分かっているかのように発言する。これには総司も目を見開いて驚く。去年のこの時期とは比べものにならない程成長している自分の友人に、少し嬉しい気持ちを覚えている。

 

 

「…?何とかできるんですか、先輩?」

 

「ああ、友達に言われちゃ、何とかしてやるしかないだろ」

 

「いいのか?言っちゃ何だが、此処にいる全員、七草の双子とあまり関わりないだろう」

 

 

森崎の疑問はその通りだ。森崎は泉美とは接点がなく、香澄と同じ風紀委員と言うだけ、琢磨は確かに家同士で因縁があるが、それは琢磨本人には関係が無い。そして総司は、なんやかんやで絡まれる琢磨の先輩というだけ。三人全員、あの双子に対してそこまでする義理はないのだ。だが…

 

 

「…あの二人の連携はもっと高レベルな物になると思うので…此処で死んでしまったりするのは勿体ないかなと」

 

「照れ隠しだね~」

 

「うるさいですねぇ、ぶっころしますよ?」

 

「おー怖…まあ俺達はな、あの小悪魔ババアになんだかんだで世話になったしな」

 

「お前それ後で七草先輩に伝わるように言っておくから」

 

「この呼び方で誰か分かったお前も同罪だぞ」

 

「この事は墓場まで持っていくことにするよ」

 

「鮮やかな掌返しですね…」

 

 

琢磨は、なんだかんだであの双子の事を気に入っていたらしい。様は友達を助ける為に動くと言う事か。そして森崎と総司の動機はやはり、七草真由美という先輩に世話になった礼とでも言ったところであろうか。何はともあれ、七草の双子は救出に行かねばならない。

 

 

「…俺は早速調べてくるよ。お前達は早退の用意でもしておけ」

 

 

そう言った総司は、瞬間的に速度を出し、眼にもとまらぬうちに二人の前から立ち去った。残された琢磨と森崎が顔を見合わせ、覚悟を決めたような顔で頷いた後、早退許可を取ろうと事務室に…

 

 

「ちょっと待ってくれ、そこの二人」

 

「…!貴方は」

 

「俺も一枚、噛んでもいいだろうか」

 

 

向かう二人を呼び止めたのは、この学校において、数字を持たない者の旗印…『ジェネラル』であった。

 

 


 

 

プルルルル…ガチャ

 

 

「…よう、零次」

 

『…何の用だ、オリジナル』

 

 

しばらくした後、学校の屋上にて、自身のクローンたる零次に連絡を取る総司。そして電話口から聞こえる零次の声は、どことなく疲弊していた。恐らく、昨日からずっと探し回っているのだろう。

 

 

「…双子の居場所が分かったと言えば、どうする?」

 

『…!?そ、それはどこだ!?早く教えろ!』

 

「…教えてもいいけど、お前がどう判断するかは知らないぞ」

 

『どう言う意味だ、オリジナル!』

 

 

居場所が分かったと知るや否や、いつもよりも大きな声で、早く答えろと言外に言うような零次。その言葉に従う訳では無いが、総司も本題を切り出した。

 

 

「双子を攫ったのは、お前のお上…大亜連合だ」

 

『…何だと?』

 

「正確に言えば、その現代魔法派だな。お前がどっちに属してるのかは俺の知ったことではないが、奴らは双子のスキルを狙っているようだ」

 

乗積魔法(マルチプリケイティブ・キャスト)…!』

 

「ああ、どうやら大亜連合は、自国の魔法師の弱さを、乗積魔法で底上げしようとしているらしい」

 

 

それは零次にとって最悪の展開だった。双子は助けたいが、まさかの連れ去った犯人は自分の上司だと言うでは無いか。零次は今、双子を失うか、立場を失うかの二択を迫られている。電話越しの零次が、一瞬だけためらいの息を漏らす…だが、それは本当に一瞬だった。

 

 

『…具体的に何処にいるんだ?』

 

「…組織は裏切るんだな?」

 

『…ああ、だが俺はお前の味方というわけではない。それだけは覚えておけ』

 

 

最早零次にとって、どちらが大事かなど明白であった。送られた座標に即座に向かう零次。願わくば、二人が無事なことを祈って…




魔法科世界の秘匿通信



・七草弘一:表面上は真顔で何時も通りだが、内心焦りまくってるしブチ切れまくっている。腹心からは、裏側で火遊びを好みながら結局は表側の住人であると表されるような人間。



・零次:表面上も内心も、焦ってるしキレまくってる人。流石に大亜連合とは糸が切れた。だけど伝統派と手を切った訳では無い。


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ダブルセブン編 その八

一年前にもこの様な話題を出したのですが…次のスティープルチェース編で本作がタイトル詐欺になる可能性が浮上してきました。

と言う事で、ここでタイトルを変えるか否かのアンケートを取ろうと思います(再放送)。

今回は作者の案がいくつかと、皆さんの意見(ある方は感想へ)、変える必要ないの選択肢を用意しました。皆さんご協力よろしくお願いします。


あ、今回ちょっと胸糞注意です。後ギャグないです。


「急がなくては…!」

 

 

金曜の昼下がり、市街地に突風が吹く。その正体は、視線を逸らす簡易結界を発動しながら全速力で街を駆け抜ける零次であった。彼は、昨夜誘拐されたと思われる香澄と泉美を死に物狂いで捜索していた。だが零次は式神を使っても尻尾すら掴めずに半日が経ってしまい、絶望感に苛まれていた。そんな中、自分が打倒するべき敵である総司から、二人の居場所の座標を送られて、そこに向かっていたのだ。場所は横浜の中華街の辺りだ。やはりあの地域は諸外国からの侵入者が多い印象だ。更には総司からの情報を信じるのならば、二人を誘拐したのは自分のお偉方に当たる現代派の魔法師達だった。

 

その目的は双子のスキルたる『集積魔法』の解析という事らしいが…大亜連合の過去の誘拐事件にて…あの四葉がアンタッチャブルと呼ばれる様になった要因たる事件では、現当主四葉真夜は非人道的な人体実験に加え、強姦も行われたと言う。当時の事件は研究所が向こうのホームにあったのに対し、今回は未だ敵地に留まっている事を考えると、一概に比較することもできないのだが、もし二人が真夜と同じ行為を行われていたら…

 

 

「…外道共が…!」

 

 

零次は奥歯を噛みしめながら、呟く。彼はクローンだ。自分の生まれた国がどれだけの非道を行ってきていたか、記録では知っていた…知っていたつもりだった。ただ、実態はもっと悪質だっただけだ。そして彼は、今や大亜連合を優先するのではなく、七草香澄を優先して動くようになった。これもクローンの定めと言うべきか、総司とやることが似通っている。

雫と出会う前の総司に、誰か一人しか守れないのならば、誰を守るかという質問を投げかけたならば、迷わず「烈爺」と答えていた。しかし雫と出会った彼は、食い気味に「雫ちゃん」と答えるだろう。似たような変化は零次にも起こっていた。

 

 

「待っててくれ香澄…!泉美…!俺が、俺が助けてやる…!」

 

 

零次は鬼の形相で、後悔が滲み出る口調で本能的にこう呟いた。果たして…零次は二人を助ける事ができるのだろうか…

 

 

 


 

 

ドガァン!!

 

 

横浜の中華街近くの廃墟。そこに壁を蹴破ってダイナミック入場する零次。この時点で彼の冷静さが失われている事を気づくことができるだろう。本来の彼ならば、一旦この廃墟内を式神で索敵するだろう。だがそれをしなかったと言う事は、彼は今二人を助ける事以外の…つまり、どう助けるかのプランすらも固まっていないと言う事だ。

だが、零次の単体性能ならば、それでも問題が無いのかも知れない。事実、零次は轟音を聞きつけて集まってきた敵の魔法師達を一瞥すると、激情に駆られた、おぞましい形相で叫ぶ。

 

 

「邪魔だ!この産業廃棄物共がァ!」

 

 

『身体強化』で尋常ならざる力を得たまま、零次は突貫する。その零次へ向けて、魔法が殺到する。だがその魔法は全て、零次の展開した結界に防がれてしまう。

…ここまで明言した事は無かったが、零次の本領は『身体強化』ではない。彼の本領は、類い希なる式神操作の技術と、『結界』という魔法を拡大解釈した攻撃だ。

 

数名の魔法師が射程距離内に入る。此処で零次は、『亡別(なきわかれ)』を発動する。すると、射程距離内の魔法師達の丁度身体の上下半分の地点に、『結界』が生成され…

 

 

「っあ」

 

「ぎゃああああああ!?」

 

 

生成された『結界』に阻まれるように、上半身と下半身が綺麗に『泣き別れ』になった。そしてその魔法師達は、絶叫と共に気絶する。このまま放置していれば失血死は確定だろう。

『亡別』とは、零次本来の戦闘スタイルを象徴するものであり、いずれ零次が総司を打倒した時にはこの戦術に()()()()()()()()()()ものでもある。それは零次の『身体強化』には制限が設けられていると言う事でもある…

 

 

「香澄は!泉美は!二人はどこだ!?さっさと返しやがれェ!」

 

 

零次が単純な力だけで制圧しないのは、理由がある。それは自身の超パワーを使ってしまえば、二人を巻き込み兼ねないのだ。何処にいるかも分からない状況では、迂闊に廃墟を壊せば、二人が無事では済まないかも知れない。そういった理由で、彼は力をセーブしたまま、戦闘を行っているのだ。

 

とある程度進んだところで、嫌な予感をひしひしと感じる扉を見つける。ここに無策で突撃すれば、どうなるかは分からない…そう感じさせる異様な雰囲気を漂わせる扉。だが、零次の頭脳は理解していても、本能と肉体はその危険信号を無視し、その扉を開いて中に突入した。

 

 


 

 

 

その扉の先は、本当に廃墟の中なのかと錯覚させる程の異質感を放っていた。そうまるで、このフロアそのものが()()()()()かのように…

 

パッ

 

 

「っ…!香澄!泉美!」

 

「おっと、動くなよ製造番号零番」

 

「お前は…大亜連合の研究者か?」

 

「左様」

 

 

フロア内の照明が一斉に点灯する。明るくなった事でよく見える様になったフロア内は、様々な実験器具が所狭しと並んでいた。そしてその中央奥に、縛り付けられている香澄と泉美、そして今回の首謀者らしき研究者の男がいた。そしてその三人を囲むかのように、武装した男達がこちらへ銃口を向けていた。おそらくは銃を扱いながらも、魔法を併用してくるタイプの兵士達だ。口を塞がれているが、目は解放されている二人が、こちらに助けを求める視線を投げかけている。

 

 

「テメエ…!その娘達に何もしてねえだろうな!?」

 

「ああ、していないとも。今の所はね」

 

「今の所だァ?」

 

「折角面白い事をするんだ。どうせならこのガキ共を気に入っているらしい君が来てから始めようかと思っていてね」

 

「ゲスが…!」

 

 

ニタニタと笑う研究者に、怒りを滲ませて叫ぶ零次。零次の怒りメーターは最早上限を突破していた。

 

 

「…最近の君は勝手が過ぎた。上でも処分した方が良いという意見すら出てきてね…そこで君に提案だ。我が国に帰還したまえ。そうしたらこの娘達を君の性奴隷として使わせてやってもいい。…無論、実験が済んだ後であるし、君専用という訳でもないが」

 

「…は?」

 

 

零次の中で何かが切れた。怒りの感情だけに染まり、完全に思考が飛んでしまった零次は、フラフラと歩みを進める。

そんな零次を余所に、兵士達の何人かが、二人の衣服を剥ぎ始める。その中で、何を思ったのか口を塞ぐガムテープを剥がした者がいた。微かに聞こえる声から判断するに、「絶望の叫びが聞きたい」との事だ。事実、口が自由になった二人は、全力で抵抗しながら、拒絶の言葉を叫んでいる。

そして…

 

 

「「助けて!零次!」さん!」

 

 

その叫びで零次は爆発した。身体中にサイオンを巡らせ、最短最速で二人を救出するべく、『身体強化』を発動する。そして全力で駆け出す為、視線を正面に向ける。そこで、零次はどこか引っかかる事があった。明らかに零次が何をするつもりなのかが分かっているのに、研究者もその周りの男達も、未だにニヤニヤしていた。そして研究者は何かのスイッチを握っていた。だが、何があろうと、押される前に殺してしまえば…そう考えて零次は一歩を踏み出す…

 

 

「…あ」

 

 

そこで、零次は自分の下策をしった。()()()()()()。いつものような超スピードが出ない、精々が一般的な魔法師の『身体強化』であった。その事に戸惑っている内に、研究者がスイッチを押した。

 

 

キィィィィィィィィィィン

 

 

「ッァ、ガァァァァァァァァ!?!?!?」

 

 

途端、零次は異常な程に苦しみだして、その場に膝をついた。そしてそのまま倒れ込み、もがき苦しんでいる。

その様子を面白がっているのか、香澄達を犯そうとしていた兵士達も零次を眺めている。双子は何が起こったのかさっぱり分からず、理解ができないという顔で硬直している。苦しむ零次に近づいていく研究者。手を伸ばせば容易く触れる距離に来たにも関わらず、零次は研究者に危害を加えようとしない。いや、できないと言った所か。

 

 

「ァガ、な、何をっ!ァグッ!?した!?」

 

「何をした、か。そうだね、簡単に言えば、『キャスト・ジャミング』だよ」

 

「そんっな、馬鹿な!?ァァァ!…それはここまでのものでは!ッッッ!」

 

「そりゃ、君の為にチューニングしたものだからね…他の魔法師には全く効果を与えないが、君だけには…ほら、ご覧の通りだ」

 

 

心底面白いという顔で研究者は零次を足蹴にする。のたうちまわっている零次にそれに抵抗するだけの力は残されていなかった。

 

 

「チューニングだと!?そんな事っ、できるはずが!」

 

「できるんだよ、君限定…正確には()()()限定だけどね」

 

「…っ!?ま、まさか貴様ァ!?」

 

 

研究者の言い回しで何かに気づいたのか、零次が信じられないという顔で研究者を見上げる。

 

 

「そう、この部屋には波を発生させるCADが複数あるのだがね…それら全てに、『ソーサリー・ブースター』が用いられているのだ」

 

「っ、ほ、本当にやったのか!?」

 

 

驚愕する零次。それほどまでに研究者の発言が信じられないのだろう。『ソーサリー・ブースター』とは、起動式を提供するだけでなく、魔法式の構築過程を補助する機能も持つCADの一種である。魔法師が本来持っているキャパシティを超える規模の魔法式形成を可能にする補助具なのだが…CADには本来、感応石というアイテムが用いられているのだが、この『ソーサリー・ブースター』はその感応石の代わりに()()()()()()()()()()()()を中枢部品にしているのだ。そして何故それで対零次用の『キャスト・ジャミング』を作り出せたのか…

 

 

「全く、君以降のナンバー共も、こんな使い方があったとはな。奴らも国家に貢献できた事を喜んでいるだろう」

 

「…貴様ァ!俺の…よくも俺の()()()をォ!」

 

 

そう、この『ソーサリー・ブースター』には、零次の兄弟…つまり、零次以外の総司のクローン達が用いられているのだ。性能が低すぎて実用に耐えなかった者、横浜事変の際に投入される予定が、撤退を選んだことで投入されなかった者、密かに横浜事変を生き残っていた者。そう言ったクローン達の脳を一律で『ソーサリー・ブースター』に加工し、対零次用の『キャスト・ジャミング』を作り出したのだ。

しかしだ、この装置が起動する前に、零次は魔法を使って動き始めていた。何故、彼の動きは遅くなっていたのか…それも、研究者が自慢げに語り出す。

 

 

「だが、君の『身体強化』の前には、起動前に何とかする事も可能だっただろう…だが、此処は君が知っている世界ではないのだよ」

 

「…!『結界』…!?」

 

「その通りだ、君の『身体強化』は、簡単に防ぐ事ができたよ…何せ私は、そのロジックを理解しているからだ。原理は簡単だ、自身の肉体を、橘総司の物だと定義する事によって、君の『身体強化』は真価を発揮するのだ」

 

 

一体どう言うことなのか…それはこちらで解説するとしよう。本来、零次の『身体強化』は大した出力を持たない。だが、零次にはある特徴があった。それは、()()()()()()()()()()()()()()と言う事だ。これにより、自身の肉体は安部零次の物ではなく、橘総司の物だと定義する事によって、世界の修正力から本物と同レベルの身体能力を得られるように補正が掛かるのだ。総司を殺してしまえば使えないというのはそう言うことだ。零次の『身体強化』は、総司という生き証人がいたからこそ成り立っていた物だったのだ。

そしてこの研究者はそれを利用した。このフロアを『結界』を用いて異界化させる。異界化した地帯では、世界のルールから暫くの間外れることができる。すると、総司という物差しを失った零次は、『身体強化』を十全に扱えないという事だ。

 

そして、研究者は懐から注射器を取り出したかと思うと、それを零次の首に刺して注射をした。

 

 

「っ、何を…!?」

 

「これは君たちクローン共の細胞を死滅させる薬品だ。人工的に生み出された物にしか効かないから、本物に使えないのは残念だが…」

 

 

零次の意識が朦朧とする。既に口もきけないかも知れない。それを機に、研究者や兵士達は零次へ興味を失ったのか、香澄と泉美へ視線を投げる。その視線に二人は思わず悲鳴を漏らす。

 

 

「全く…使えない奴だったよ、君は。丸で産業廃棄物そのものだ。罰として、愛した者達が穢されていくのを見ながら死んでいくといい」

 

「あ…ま、thえ」

 

 

自身に背を向けて去って行く研究者に手を伸ばす零次。その口から漏れる言葉は最早言葉としての体裁を保てていなかった。

 

 

「しかし…此処を短期間で探し当てるとは、()()()()()()達は存外優秀なようだな…兵士は脆弱なようだが…」

 

 

そう呟きながらこちらに向かってくる研究者の後ろにて、事切れたかのように倒れ伏している零次を、香澄と泉美は絶望の表情で見つめていた。そしてとうとう、自分達は下着まで手を掛けられてしまった。そしてそれを乱暴に引きちぎる兵士達。遂に生まれたままの姿にされてしまった二人は、泣き叫ぶ事しかでき無かった。これからの自分達の未来への絶望、そしてなにより、大切な人が死んでしまったのだという悲しみに、二人は包まれてしまった。そして彼女達の純潔は、今にも散らされる…

 

 

 

ドガァァァァァァァァン!!

 

 

「ぐばっ!?」

 

「ガハッ!?」

 

「「…っえ?」」

 

 

…その寸前に、零次の背後の壁が爆発する。そして一陣の風が吹いたかと思うと、二人はいつの間にか、二人の男に抱き留められていた。そしてその二人にそれぞれの男が自身が来ていたブレザーを着せる。香澄と泉美は、自分達を守るかのように立つ、憎きライバルと、自分達の家族と同じ顔をした男達の後ろ姿に、涙を滲ませた。

 

 

「悪いな、遅れてしまった」

 

 

そのライバルの、聞き慣れた素直じゃない口調と共に、香澄達の後ろから二人の男が追加で現われた。その場にいた四人の男…一高男子生徒達は、眼前の敵達に視線を投げていた。

 

 

「ここからは、俺達の時間だ」

 

 

助けに来た男達のリーダー…総司が、そう宣言した。




魔法科世界の秘匿通信


大亜連合の研究者:圧倒的な力を持つ零次を完封したやり手。そして趣味がクソみたいな男。零次の目の前で双子を穢して、絶望させながら殺す為の計画は完璧だったが、あまりにも軍事や政治に関わりすぎたせいで、敵対しているにも関わらず、その敵に手を貸すお人よしの存在を勘定に入れられなかった。


安部零次:ブチ切れて突貫するが、ガッチガチにメタられて、自身の得意とする『結界』を用いた策によって敗北した。実は総司が存在しないとそこそこの強さしかない。大亜連合の現代派と縁を切るとは言ったが、自分が負けて死ぬことは勘定に入れてなかった。縁切るどころの騒ぎではない


異界:本作オリジナル…なのかな?理論。本来の世界から隔絶した空間。だが、これと言った特権を術者に付与する訳ではない為、使う魔法師はほぼゼロ。今回は零次の身体強化対策に用いられた。



…何だ、この話は…本当に俺が書いたのか…?嘘だろ…?(←ギャグを書きたい人)

次回までちょっとギャグないかな…流石にメイン級キャラ死にかけてる状況でぶっ込む自信はない。



前書きで書いた新タイトルの案です

A:魔法を使うより殴った方が速いし強いよね?

B:魔法が現実となった世界なのに、拳で敵をシバき倒す奴


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ダブルセブン編 その九

今回ちょっと総司の秘密の断片が見えるような気がする


突如として現われた四人に騒然となる兵士達。そして、その中でも一番の動揺を見せていたのは、研究者の男だった。

 

 

「た、橘総司…!?ば、馬鹿な!?何故此処に!?」

 

「そりゃ、そこの女の子達救うためだよ…物のついでだ、そこに転がってる俺のクローン…いや、俺の()も救っていくとしよう」

 

「製造番号零番を…?何を言っているんだお前は!そいつとお前は幾度となく敵対してきたはずだ!」

 

「だからってなんだよ、敵だったからってコイツを救わない理由にはならないぜ」

 

「…理解ができん!」

 

「分かる訳ねえよ人でなし。これが人間の優しさって奴だ。心に刻みながら地獄に落ちやがれ」

 

 

その言葉の途中で、研究者が手を挙げる。すると動揺を制御して見せた兵士達の半数が腕を、半数が銃を向けてくる。

 

その様子に、アンティナイトを使い全員を無力化した後、ハイパワーライフルで殺すつもりなのだと気づいた香澄と泉美は、四人に警戒するように呼びかける。

 

 

「き、気を付けてください!アイツらは『キャスト・ジャミング』を…!」

 

「撃てー!」

 

 

しかしその呼びかけの前に、銃弾とサイオンの波が襲って…

 

 

「グワッ!?」

 

「…?!銃が!?」

 

「何っ!?」

 

 

…来なかった。

 

 

「…以前、司波妹の話を聞いていてよかったと思っているよ」

 

「『キャスト・ジャミング』も、所詮は魔法式なんだよ」

 

 

何故なら、銃が射貫かれ、『キャスト・ジャミング』の魔法式が途中で破壊されていたからだ。

 

銃を射貫いたのは範蔵、魔法式破壊は森崎だ。

 

範蔵の放った『ドライ・ブリザード』は銃を完膚なきまでに破壊し、森崎の放ったサイオン弾は、構築中で無防備の魔法式に的確に撃ち込まれていた。

 

 

「突っ込む!ついてこいよ琢磨!」

 

「ハイ!」

 

「俺達は七宝の援護をする!」

 

「総司は一人で充分だろ!?」

 

「あったり前だろはんぞー先輩!俺を誰だと思ってんだァ!」

 

 

そして動きが止まった一瞬の内に、総司と琢磨が駆け出す。それに慌てた兵士達は、先程完璧に対応されていた作戦をもう一度実行してしまう。

 

 

「っ、お願いします、お二方!」

 

「任せておけ!」

 

「俺達を前にして戦いを選んだ事を後悔させてやる!」

 

 

『キャスト・ジャミング』と共に、銃を構える兵士達に突撃する琢磨。彼は高度な魔法師であるが、『キャスト・ジャミング』への対策も、フルパワーライフルを防げるだけの防御力もない。だからこその二人であった。

 

範蔵が次に繰り出したのは『ドライ・ストーム』。広範囲にドライアイス弾をばら撒く無差別攻撃である。流石に範蔵達が居る場所は射程圏外だが、琢磨や総司は思いっきり圏内にいる。だが、何の心配もない。

 

森崎が『キャスト・ジャミング』の魔法式を撃ち抜く片手間に、琢磨に向かう氷弾を撃ち壊す。森崎が現在両手に装備している特化型CADの名は、『スター・アサルト』。知り合いのCAD技術者に作ってもらう…というていで、FLTで牛山と達也(『トーラス・シルバー』)により、森崎専用に開発された物だ。

このCADには極限まで魔法式構築の時間を短くする機構と、発射した瞬間からコンマ一秒足らずで発動するループ・キャストを組み込む事により、森崎の技術である『クイックドロウ』を最高レベルにアシストする物だ。

欠点として、特化型にあって当たり前の照準機能がオミットされているが、そんなもの関係ないとばかりに使いこなしている森崎の技術の高さが窺える。

 

これにより、『ドライ・ストーム』の広範囲高火力であるが味方を巻き込み兼ねないという弱点を、強引に解決した。事実『ドライ・ストーム』が放つ無数の氷弾は、銃もしくは兵士本人を無力化させながら突き進む。更にはその密度で既に放たれた弾丸すら相殺していく。そして琢磨には森崎のカバーによりノーダメージだ。

 

因みに総司には何の援護も付いていないが、彼には『キャスト・ジャミング』は効かないし、肉体が頑丈すぎてハイパワーライフルも氷弾も涼しい顔で受けている。総司は丸で肉盾かのように研究者の男の逃げ道を作ろうとする兵士達をなぎ倒していく。まさに一騎当千と言ったところだ。

 

 

「これなら…!」

 

「っ、零次君!」

 

 

四人の圧倒的な強さに安堵の表情を浮かべた香澄と泉美は、戦闘にはもう勝ったものと思って、つい零次の傍に駆け寄ってしまった。それに気づいた研究者の男。零次が倒れていた位置は、双子をカバーしていた森崎と範蔵の防御範囲から外れてしまっていた。それに範蔵も森崎も気づいたが、森崎は流石に琢磨をカバーしながら『キャスト・ジャミング』を無効化するので手一杯であった。それ故に上手く氷弾を避けて接近戦を仕掛けてきた兵士達は範蔵が対処していた。なので二人に双子を助けに行く余裕はなかった。

 

 

「…はっ、所詮は学生。まだまだ未熟者よ!」

 

 

研究者の男はまだ隠していた兵士達を奥から呼び出し、双子に向けて発砲させた。それに気づいた総司は、軽くバックステップを踏む。すると、その軽さからは到底想像できない速度で後退し、双子と零次の前に躍り出る。総司は自分の下や横を通り過ぎそうな弾丸を拳で弾き、自身に当たる弾丸は完全に無視していた。

 

 

「七草!変に動くな、危ないだろうが!」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 

叱咤を飛ばす総司に、助けてくれた感謝をする泉美。だが香澄は…

 

 

「…グスッ、だって、だってぇ…!」

 

「…大分状況がヤバそうだな」

 

 

香澄は零次の顔を覗き込みながら大粒の涙をこぼしていた。香澄を一瞥した後に零次に目を向けた総司は思わず言葉が漏れる。零次の肉体は、一言で表すなら()()()()()()()。自壊を促進する薬品を打ち込まれた事による症状だ。早く医者…いや、このレベルでは最早この場に達也を連れてくる以外には零次に生存の目はないだろう。

 

 

「…諦められないよ」

 

「っ!」

 

 

心の何処かでもうダメだと思っているのかもしれない、だがそれだけで愛する人が死ぬことを受け入れられるはずもない。絞り出すかのように声を出した香澄を見て、そして今にも消えてしまいそうな零次を見て、総司は決意をする。

 

 

「琢磨ァ!」

 

「っ、ハイ!」

 

「お前は首謀者を確実にぶっ飛ばせ!しっかりやれよ、任せたからな!」

 

「何っ!?総司、お前はどうするつもりなんだ!?」

 

「決まってんだろ…!コイツを治してやるんだよ!」

 

「治す!?一体どうやって!?」

 

「知らん!」

 

 

そう言うと総司は零次の傍に駆け寄る。モチロン、自分を盾とする事で零次や香澄達を守る事も忘れない。

治す、と豪語する総司。だが彼は基礎単一系の魔法しか使えない。せめて『再生』が使えれば…

 

 

「(…この感覚は?)」

 

 

そんな時、総司の本能が『できるで』と言った様な気がした。

 

 

「…俺は、かつて『邪眼(イビル・アイ)』を使った…」

 

 

総司は3月末にあった戦略級魔法とわたつみシリーズという調整体達を巡る戦いで暴走し、『邪眼』を発動していた…と言う事は真由美から聞いている。何故自分が『邪眼』を使えたのか、今の今まで気になっては居たのだが、総司は思いだしたのだ。

彼はその事件の少し前に光波振動系の『邪眼』を、去年の4月に精神干渉系の『邪眼』をそれぞれくらっていたのだ。総司の性質からして、前者は効いたが後者は効いていなかった…というのは置いておいて。総司は一つの結論に至った。

 

 

「(まさか俺は、一度見た事のある魔法を扱う事ができる?)」

 

 

あの時、暴走した総司を見た零次は、何かしらの事情を知っていたようだったが…そこから分かるのは、あの状態に総司がなってしまうことは、ある程度想定済みであったと言う事だ。となれば。

 

 

「…フン!」バチィ!

 

「「!?」」

 

 

思考をまとめるために自分の両頬を思い切り叩いた総司。その音に驚く双子を放っておいて、総司は自分の中に問いかける。

 

 

「おい、俺の知らない誰かさんよ!俺の中にいるなら話を聞いてくれ!」

 

「た、橘先輩?」

 

 

いきなり自分に質問をし出した総司に思わず泉美が総司に問いかけをする…だがそれに総司が答えるより前に、総司が頭を抱え苦しみ始めた。

 

 

「ぐ、あぐっ!?」

 

「ちょ、どうしたんですか!?」

 

 

まるで先程の零次のような症状に、香澄達は思わず『キャスト・ジャミング』を受けているのかと思ったが、その類いのサイオン波は未だでていない。すると、総司の表情が苦しむ様子の物から、一瞬で余裕そうな笑みに変わる。

 

 

「菴輔°逕ィ縺具シ溷勣繧�」

 

「…は?」

 

「何を言って…」

 

「っぐ、誰だか知らねえけどよ!人様の身体間借りしてるってんならそれ相応の対価ってモンがあるよなァ!?」

 

 

総司の口から出た言葉…かどうかすら怪しい音に思わず総司に質問をする二人。だがそれに答えることなく、またも苦しそうな表情となった総司。その口ぶりは、丸で見えない誰かと会話をしているようで…

 

 

「縺サ縺�€ヲ莠コ縺ョ霄ォ縺ァ逾槭↓讌ッ遯√¥縺ョ縺�」

 

「ハァ!?そんな事知ったこっちゃねえよ!いいからさっさと手を貸しやがれ!」

 

 

どうやら総司は自分の中に居る存在…とやらと喧嘩をしているようだ。余裕の笑みと苦しみに耐える歯噛みの表情をコロコロと入れ替えながらしばらく言い争っていた総司だが…

 

 

「ええい、埒があかない!無理矢理にでも使わせてもらうぞ!」

 

「…!縺セ縺輔°窶ヲ莠コ縺ョ邊セ逾槭〒逾槭�蝎ィ縺溘k閧我ス薙r蛻カ蠕。縺励※縺ソ縺帙k縺�…!」

 

 

余裕の笑みを浮かべていたと思われる方の人格が焦ったかのような声を出した後、普段の人格に戻ったと思われる総司は、苦しそうな表情はしておらず、ニヤリと笑みを浮かべると…

 

 

「…!?一体何を!?」

 

「総司から…溢れるこのサイオンは…!何て出力なんだ!?」

 

 

自身の肉体からオーラ代わりとでも言いたげにサイオンを放出する。その量は、超優秀な魔法師たる範蔵と森崎も驚愕に値する程であったのだ。その光景を見ていた研究者の男は…

 

 

「馬鹿な…!人の善性だけであの力を制御しているだと!?あり得ない、それを行える人格はまだ主体化していないというのに!」

 

 

総司の正体を知っているが故か、総司が行使している力に強い衝撃を覚えているようだ。それは俗に、「その力は、アイツの…!」パターンと言って良いだろう。

 

 

「帰ってこい!零次!」

 

 

そして総司は放出していた力を左手に集め、零次の肉体へと叩きつけた…

それを見届ける前に、研究者の男が絶叫する。

 

 

「…者共!我らの命、最早これまで!…せめて最後は、我が母国の礎となって散るのだ!」

 

 

その言葉を聞いた兵士達は攻撃を中断し、全員が一律に何かしらの薬品が入った注射器を取り出した。それは研究者の男もそうであったが、その注射器の中身だけ、他の物より色が濃かった。

 

 

「させるとでも「七宝、下だ!」!?」

 

 

危険の気配を感じ取った琢磨が妨害をしようとするが、森崎からの忠告を受けて、慌てて飛び退く。すると先程まで琢磨がいた場所に無数の刃が出現していた。総司達が突入した時点で異界化はほぼ解除されていたのだが、まだ奥の方は異界としての力を保っていたようで、何らかのトラップが起動した物と思われる。

森崎のファインプレーで琢磨には傷一つないが、その所為で妨害が遅れてしまった。人数をいくら削っても未だ無数と呼べる程の数がいる兵士達の姿が、巨大な異形の物と化す。所謂『ミュータント』という存在だ。

 

 

「大亜連合、万歳!」

 

 

そう言って研究者の男も薬品を自身に打ち込む。これにより、ミュータント化。しかも他のミュータントよりも強力な力を持っていそうだ。

そしてミュータントとなった兵士達が突撃してくる。『ミリオン・エッジ』と自身の身体能力を駆使して正面から迎撃する。しかしそれでも余裕が無さそうだ。それほどにミュータントの膂力は凄まじいと言う事だろう。同じく突撃されている範蔵と森崎。範蔵は『ドライ・ブリザード』の氷弾で迎撃しながら、近くに落ちていた廃材の鉄パイプを拾い上げ、『高周波ブレード』を起動して、自身に近づいたミュータントを一閃した。対する森崎は、正面から迫り来る二体のミュータントの拳をギリギリまで引きつけ、華麗に跳躍する事で回避。そのまま貫通力を強化させるチューニングを施されているサイオン弾を『スター・アサルト』の連射性、速射性を存分に活かしてミュータントの頭蓋を寸分違わず貫通させた。

 

だが問題は…

 

 

「七草!」

 

「しまった、抜けられたか…!」

 

 

自分達に向かってくるミュータントの対処で手一杯であった三人を避け、双子の元へと突撃するミュータント達。三人に襲いかかった時よりも明らかに多い数のミュータントがその暴力的な拳を双子に叩きつけ…

 

 

ドゴォ…!

 

 

事は無かった。あまりに大きく、あまりに鈍い打撃音が()()。遅れて吹き飛ばされたミュータント。そしてそのミュータント達を吹き飛ばしたのは…

 

 

「…よお、随分と遅いお目覚めだな」

 

「ああ、全くだ。しかも起きて早々お前と顔を合せなければならないとは、俺の生涯で一番の悪夢かも知れんな」

 

「そんな簡単に生涯なんて言葉を使うんじゃねえよ。お前にはまだまだ未来がある」

 

「…そうだな」

 

 

背中合わせに立つ、うり二つの青年達。その姿に、双子は歓喜の涙を流し、琢磨達は勝利を確信した笑みを浮かべる。

 

 

「さっさと終わらせて上手い飯でも食おうや」

 

「良いぜ、とりあえず…」

 

 

二人はそれぞれ拳を研究者の男が変貌したミュータントに向ける。

 

 

「「目の前のくそったれ共をぶん殴るとしますか!」」

 

 

総司と零次が、並び立つ…!




魔法科世界の秘匿通信


・『ドライ・ブリザード』:一対多において超強い魔法。だが味方がいる状況で撃つのには躊躇われる。本作オリジナル(多分)


・『スター・アサルト』:稀代のCADエンジニアたる『トーラス・シルバー』により制作された特化型CAD。詳細は本編にあるとおり。他にも機能があるが、それはその時に。名前の由来は光(星)の速度で強襲する弾丸を放つから。


次回でダブルセブン編を終わらせたい


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ダブルセブン編 最終回

ダブルセブン編最終回です


「…先輩!」

 

「…馬鹿な、総司の奴あの傷をどうやって!?」

 

「だが、ファインプレーだ!」

 

 

双子に襲いかかったミュータント達を吹き飛ばした総司と零次。その姿を認めた琢磨達が喜びを露わにする。逆にその姿を見た特殊なミュータント…研究者の男が変身したミュータント(以下ミュータントα)は頭を掻きむしっている様子だ。どうやら言語は話せなくとも、意識はあるようだ。散々頭を掻きむしった後、二人がいた場所に向き直る…しかし、その場には座り込んでいる香澄と泉美しか見えなかった。

 

 

「「…上だよ」」

 

 

ミュータントαは反射的に上方向へ腕を振るう。しかし全く手応えがなかった。ミュータントαが遅れて上を向くと、そこには小さな紙切れのような物が浮かんでいた。それを認識した直後、ミュータントαは下方向からの二つの強烈な拳を受けて吹き飛ぶ。どうやら先程の声は零次が式神を用いて出した物のようで、完璧に不意を突かれたミュータントαはその巨体を宙に浮かせる。そこからの怒濤の連撃が始まる。

浮いたミュータントαの腹部に追撃を入れる零次。斜め45度から叩き込まれた拳により、反対方向へと吹き飛ぶミュータントα。その移動先を完全に把握していた総司により、顔面に対して真下へ向けた音すら置き去りにした蹴りを受ける。リニアモーターカーもかくやという勢いで地面に激突するミュータントα。その威力はαの巨体をバウンドさせる程でもあった。そしてバウンドしたαの腕を掴んだ零次は、右から左へとまるで鞭でも扱っているかのようにαを振り回す。その後投石機でも使っているかのような勢いで投げ飛ばされたα、その身体にどこからか飛んで来た無数の機材達がぶつかる。そして総司が再びαの移動先に先回りしていた。今度は部屋にあった巨大な機材を両手に持っている。どうやら他の機材を投げつけたのも総司のようで、最後に特段大きかった物を引き抜いてきたようだ。その機材を思いっきりαに叩きつける総司。その威力に粉々になる機材達。だがそんな事お構いなしと言うかのように総司が拳を握って振り抜く。その驚異的な速度の拳撃に晒されたαはそのまま部屋の壁にぶつかって動きを止める。

 

それを見ながら総司と零次が着地する。

他のミュータント達を捌きながらも、琢磨達は二人の完璧に息の合った連携に喉をうならせる。オリジナルとクローンの関係性故か、それともお互いの実力に、双方信頼を置いていたからなのかは分からないが、美しいとすら言える完璧な連携であったのだ。αはまだ息はあるようだが、最早抵抗する力は見受けられない。その様子に、総司は零次をチラリと見る。その目は『これで満足していいのか?』と言外に問うていた。総司はあれほどの仕打ちをしてきたクズ相手にこれで手打ちにするにはまだ零次に不満があるのではと考えたようだ。だが零次の表情は憑きものが取れたかのようにスッキリとした顔だった。

 

 

「…今まで、俺はあの子達と、大亜連合…というより、俺の生みの親、どちらを取るか悩んでいた」

 

「おい、お前正気か?絶対あの双子の方が良いに決まってるだろ」

 

「…お前は気楽で良いな。どうせお前の事だ、九島烈と北山雫。二択を突きつけられた時、ノータイムで北山雫と選ぶんだろう?」

 

「お前みたいにどっちの味方につくかで悩むならまだしも、その二人俺にとってどっちも味方なんだが…後、それは勘違いだぜ」

 

「何だと?」

 

 

双子に目をやりながら、肩の荷が下りたとでも言いたげに話す零次は、総司への問いかけに意外な返答が来たことで思わず聞き返してしまった。そんな零次に、ニヤリと笑った総司は答えた。

 

 

「全部ひっくるめて守るんだよ、多少の優先順位はあっても、二人とも俺の大事な家族だ」

 

「…そうか、だから俺は勝てなかったのかもしれない」

 

 

その言葉を聞いた零次は、目を伏せる。無惨に死んで行ってしまった他のクローン達の事に思いを馳せているのかも知れない…

そうしている内に、他のミュータント達も殲滅し終わったらしい。

 

 

「…じゃあ終わらせるか」

 

「そうだな…」

 

 

二人はαに歩み寄って、再び同時に拳を叩き込んで上空に打ち上げる。そして総司と零次はαに背を向けて歩き出す。そして打ち上げられたαは、琢磨、範蔵、森崎の最高火力で木っ端微塵に爆発してしまった。それをバックに仲間の元へ歩を進める二人。その瞳は奇しくも、まさしくオリジナルとクローン(愛する者と仲間を守る決意)と言うべき炎が宿っていた。

 

 

 


 

 

その後…

 

総司と関わりが深い人物達が、七草邸に集められた。そこには卒業生である克人や摩利の姿もあった。

 

 

「…それで、安部。話とはなんだ?」

 

「その名で呼ぶのはよせ十文字克人。今の俺は『名倉』だ」

 

 

名倉とは、第七研の数字落ち(エクストラ)ではあるが、当主である弘一が護衛として雇っている者の名だ。日本で生きていく上で、親類としていた方が都合が良いという弘一の判断により、零次は養子として迎え入れられた。そしてこの会談の場を用意したのは零次らしい。

 

 

「…今から話すのは、総司の正体についてだ」

 

「…俺の?」「総司君の?」

 

 

零次から出てきた言葉に、本人と雫が疑問を持つ。総司の事を一番理解している二人(本人と恋人)が聞き返すと言う事は、零次しか知らない情報という事だろう。

零次は一拍おいて話し始める。

 

 

「…お前達は、以前俺と香澄達を総司が助けたときに、総司が『再生』を使ったのを知っているか?」

 

「『再生』?なにその魔法?」

 

 

零次が口に出した魔法を知らないと言う千代田。彼女達は原作と違い、達也が『再生』を用いた事を知らない。その点を考慮して、深雪が解説を始めた。此処にいる人達のことは、達也も深雪も信頼しているようだ。そして事情を聞いた者達が口々に驚愕の言葉を漏らす。そんな中で、会話を進めようと深雪が質問をする。

 

 

「…確かに総司君が何かしらの魔法を使って貴方を助けた事は知っていましたが、それがまさかお兄様と同じ『再生』だったとは思いませんでした」

 

「そうか…七宝、お前は何か感じたか?」

 

 

次に零次は、琢磨に目線を向けて問いかける。琢磨は既に数日経ったあの日の事を思い返して、しばらくして確信を持った言い方で返す。

 

 

「いえ、何も感じませんでした。魔法を使った予兆などが丸で見えませんでした」

 

「…やはりな」

 

 

琢磨の返答に納得した様子の零次。そして零次は、正面の位置に座っている総司を見据えて、結論を話した。

 

 

「…端的に言おう、総司。お前は…()なんだ」

 

「「「「「…は?」」」」」

 

 

零次以外のその場の人間が、口を揃えて疑問を示す。ハッキリ言って零次の言ったことが突拍子もなさ過ぎたのだ。だが、零次の話は止まらない。

 

 

「正確には()()()と言った方が正しいか…以前にお前がお前でなくなると言う様な話をした気がするが、この事だな」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!?」

 

「なんだ、総司」

 

 

至極真面目な顔で話を続ける零次に、衝撃の事実を伝えられた当人以外は、口を塞ぐ事しかでき無かった。

 

 

「お、俺が…神の器!?いったいどう言うことだ!?」

 

「落ち着け、それを今から話すんだよ。…そしてその理由だが、お前のその肉体の異常性は先祖由来の物だからだ」

 

「先祖由来…と言うと、安部清明?」

 

「正確に言えば、晩年に清明が自分の血筋に仕掛けた()()の影響だな」

 

 

零次の言葉に誰も返答を返せない。確かに総司は人間離れしている。だからと言って、総司が神の器?そんな話を信じるには、未だ情報が足りなかった。

 

 

「じゃ、じゃあ、俺が達也の『再生』を使えたのも何か理由があるのか!?」

 

「大いにあるな。その理由は神の器としてお前の身体に宿っている機能にある」

 

「機…能?」

 

「そうだ。先程七宝に質問したが、お前が『再生』を使った時、七宝達はその予兆を感知できなかった。それは何故か。魔法師は普段、展開された魔法式や、そこに流し込まれるサイオンで、相手が使おうとしている魔法の大体の種類を判別できたりする。逆に言えば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()すれば、普通の魔法師に魔法の判別は困難だ」

 

「あり得ない、そんな魔法師が存在するものか!」

 

「存在するんだよ司波達也。…そうだな、分かりやすい例を出そうか」

 

 

零次の言葉を否定する達也。技術者として、何より魔法師としての経験が、零次の言葉を認めさせないのだろう。だがそんな達也を横目に、零次がディスプレイモニターに問題を表示していく。表示されたのは二問。一つは、俗に『フェルマーの最終定理』と呼ばれる数式、もう一つは1+1というあまりにも簡単な数式だった。

 

 

「さてお前達、こういうことだよ」

 

 

そしてその数式の横に、『魔法師』と、『総司』という文字を書いた。『フェルマーの最終定理』の数式の横にある『魔法師』という表記を指さしながら話し出す零次。

 

 

「俺達にとっては、極論魔法発動は、コンマ0.000数秒で、魔法演算領域にて行われる計算によるものだ。仮にこの『フェルマーの最終定理』を解くことで俺達がやっとこさ魔法を発動できたと過程すると、総司はこの1+1を解けるだけで魔法が使えるんだ」

 

「おいおい…イマイチ意味が分かんねえぞ」

 

「アンタ考えずに言ってるでしょ」

 

「なんでお前そんな突っかかってくんだよ!?」

 

 

零次の説明で理解出来なかったらしいレオにエリカが文句を言う。そしてその最中で、達也が分かったとばかりに口を開く。

 

 

「途中式の有無か?」

 

「その通りだ。俺達魔法師が相手の魔法の種類を判断するときは、言わば解かれている数式の途中式を覗いて、何の数式を解いているのかを予測しているのと同じなんだ。それに対して、1+1なんて問題に、途中式なんて書く奴がいるか?いないだろう?…総司の魔法発動が認識できない理由は、総司が俺達がついて行ける為の途中式を用いない…いや、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだ」

 

「…でも俺は普段魔法を上手く使えなくて…」

 

「その点に関しては、司波達也が詳しいんじゃないか?」

 

「…俺が?」

 

「総司が『再生』を使えるのならば、誰かに使用された時点で総司の内に眠る神の人格に記憶されただろうな。そしてその魔法を使えるのはお前しかいないんだ…当時、何か違和感はなかったか?」

 

 

ここで達也は思い出す。過去二回、横浜事変の時と、パラサイト事件において、達也は総司を治す為に『再生』を用いていたのだが、その両方とも、自身の演算領域がオーバーフローを起こしかけ、酷い頭痛に襲われたのだ。それはつまり、達也の脳では処理しきれない()()()があった可能性が…

達也は自分の考えを零次に伝えた。

 

 

「まさしくそれだよ。総司の奴は、生まれつきから魔法式を発動し続けているんだ…肉体を神の器として昇華させる為のものだな。流石の神を生み出す魔法式は規模が大きく、総司の脳でも処理しきれなくなって、大魔法の一つも使えない僅かな領域しか残されてなかったんだよ」

 

「…そんな」

 

「そして、その魔法式は完成に近づいている。総司が最近魔法を少し使えるようになったのが理由だ、お前の肉体の進化が終わり、徐々にお前の脳にリソースを返却しているんだろうな。だからお前の進化は最終段階に入ってしまったんだよ」

 

 

再び沈黙が訪れる。その沈黙を、雫が切り裂いた。

 

 

「…このままだと、総司君はどうなるの?」

 

「恐らく完全に器が完成した時、総司の人格を神の人格が消しに来るだろうな」

 

「それを対策する方法は?」

 

「ない。強いて言えば、いずれ起こると認識しておいて、総司がいつでも対抗できるように気を引き締めている必要がある…ぐらいだな」

 

 

雫の表情が落ち込んだ物になる。そんな雫を見て、困惑してばかりであった総司の顔が引き締まる。

そして零次に質問を投げかける。

 

 

「まだ、その時じゃないんだよな?」

 

「恐らくはな。お前の使える魔法の規模が大きくなればその危険性が高まっているのだと思う」

 

「…分かった、結局の所、俺が頑張れば良いって事だろ?その神の人格って奴とはこないだ争って勝ったからな。もう一度勝てば良いってだけだ」

 

 

総司の表情は、激戦を覚悟したものになっていた…

 

 

 


 

 

数ヶ月後…

 

 

「ふにゃああああああああああ!?」

 

「ど、どうしたんですか中条会長!?」

 

「…これはこれは」

 

 

いきなり奇声を上げたあずさによって生徒会室が騒然となる。どうしたどうしたと一同が気にする中、あずさが今見ていたメッセージを確認した深雪は思わず声を出す。そこには、『九校戦の競技内容の一部変更のお知らせ』と記載されていた…




魔法科世界の秘匿通信


・零次:「名倉零次」に改名し、香澄と泉美の護衛として一高付近で待機することが多くなる。衝撃の事実をメンバーにぶちまける。因みにこの会話に参加していたのは、あずさ、市原、十三束などのそこまで総司と絡みがあるわけではないメンバー以外が来ている。


・総司:実は神の器、所謂現人神であった事が判明。だが人格さえ破壊されなければ問題無いという零次の情報を信じる。彼は雫を悲しませないためにも死ぬわけにはいかないのだ。


次章予告…!


「本当にこの競技に…!?」

「総司君は総てにおいて最強、一切合切問題なし」

「深雪様、さすがです!」

「七宝!スティープル・チェースで勝負だ!…えっ!?男女別なの!?」

「おい、なんで、アイツがいるんだ…!?」

「北山雫…貴女と私、どちらが総司様にふさわしいでしょうね?」

「やってみせろよ、総司!」

「何とでもなるはずだ!」

「一条将輝だと!?」

「橘、お前、今…」

「誰よアンタ達!?」

「お前らの事情なんざ知らねえよ!いくぜエリカ!」

「これは…情報通りパラサイト!」

スティープル・チェース編、開幕…!



今回の話、自分の頭の中ではちゃんとまとまっているんですけど、イマイチ分からないって人が多かったなら、コメントで教えていただけると次回辺りの前書きで解説しようと思います。


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スティープル・チェース編
スティープル・チェース編 その一


コメントで質問が来ていたのでここで回答します。

総司が何の神なのかという質問についてですが、基本的に日本神話の神々が元ネタになります。理由は単純、魔法の作成者が日本の安部清明という設定だからです。

よって総司には北欧神話やクトゥルフ神話の神々は関係は無い…ので


「もう終わりです…折角の事前準備が全て水の泡…あばばば」

 

「しっかりしてください、中条会長」

 

「ですがお兄様、確かにこれは…」

 

 

あずさが絶望している理由、それはいきなり九校戦の競技内容が変更されたというお話であった。

 

 

「どれくらい変更されたんだ?」

 

「ほぼ全てです!」

 

「うおビックリした」

 

「俺は何の断りも無しに生徒会室に入り浸っている方がビックリしてるよ総司」

 

 

ダイニングサーバーの前で料理が出てくるのを今か今かと待っていた総司が、いきなり復活して叫んだあずさに驚く。因みに雫はどうやって居るのかSDキャラ化して総司の頭に捕まっていた。どうやってんの…?

 

 

「変更があったのは三種目です! スピード・シューティング、クラウド・ボール、バトル・ボードが外されて、新たにロアー・アンド・ガンナー、シールド・ダウン、スティープルチェース・クロスカントリーが追加されました。しかも掛け持ちでエントリー出来るのはスティープルチェース・クロスカントリーだけなんですよ! その上、アイス・ピラーズ・ブレイク、ロアー・アンド・ガンナー、シールド・ダウンはソロとペアに分かれているんです!」

 

「長々と説明ありがとうございます中条会長」

 

「あの…ロアー・アンド・ガンナーやシールド・ダウン、スティープルチェース・クロスカントリー……とはどのような競技なのですか?」

 

「私が解説するよ!」

 

「うおビックリした、いきなり飛び降りると危ないよ雫ちゃん」

 

「というか雫のそれどうやっているんだ…?」

 

 

深雪の疑問に、九校戦フリークであり、魔法競技全般になんだかんだで詳しい雫が解説に名乗り出る…SD化したままで机に立ちながら。いい加減仕組みを教えてほしいものである。

 

 


 

 

「…と言う事なんだけど、分かった深雪?」

 

「ええ、ありがとう雫」

 

「…ロアー・アンド・ガンナーとシールド・ダウンはともかく、スティープルチェース・クロスカントリーは高校生にやらせる競技じゃない。運営委員会はいったい何を考えているんだ?余程しっかり対策を練らなければ、ドロップアウトが大勢出るぞ?」

 

 

その発言は、運営委員会に顔が利く烈の関係者である総司を見ながらの発言であったが、それを聞いたあずさと深雪は驚愕の表情を、雫はその可能性を思いついていて、「やっぱり危ないよね…」とテンションが若干下がっていた。

そして総司の返答は…

 

 

「ん?…ああ!そういやこないだ烈爺が、上からの圧力で運営が競技を変更せざるを得なくなったとか言ってたな」

 

「…老師が口出しした訳じゃないのか?」

 

「口出しはしたみたいだけどな、所謂影の権力者って奴がバックにいるっぽくてな、所詮歴史の浅い、血筋だけの十師族じゃ流石に発言の重みが違うってよ」

 

「…老師の意見を突っぱねざるを得ない程の権力者だと…!?」

 

 

小さく呟かれた達也の驚愕は他のメンバーには聞こえず、あずさを必死に励ます深雪と雫がいた…

 

 

 


 

 

「って事があったんだよ」

 

「大変なことになってるみたいだね…」

 

 

時と場所は変わって、放課後の喫茶店『アイネブリーゼ』にて、いつものメンバー+水波がいた。途中までは香澄と泉美もいたのだが、長く零次と傍に居たかった香澄の要望によって、近くに控えていた零次に抱えられて既に帰宅している。

 

 

「へえ…面白そうじゃない、特にシールド・ダウンとか」

 

「ええ…そうかな?なんだか怖そう…」

 

 

シールド・ダウンは言わば近接戦闘の競技であるため、エリカが楽しそうに口元を歪めるが、一般人の感性を持つ美月は怯えていた。

 

 

「そうだね…去年まで採用されていた競技はどれも、選手同士が直接ぶつかりあわないものばかりだったから…」

 

「モノリス・コードですらそうだったのに…」

 

「そうだったか?」

 

「そうだったんだよ」

 

 

モノリス・コードでは自分は物理攻撃しかしていない事を思い返して、疑問を唱えるが達也が即座にその感性のズレに突っ込む。

 

 

「なあ達也、今回の変更って何か軍事色が強い気がするんだが?」

 

「その通りだなレオ。恐らくだが、おそらく横浜事変の影響だろう。去年のあの一件で国防関係者が改めて魔法の軍事的有用性を認識し、その方面の教育を充実させようとしてるんじゃないか?」

 

「魔法の軍事的有用性…?」

 

「そうだな、お前は相変わらず物理だったな」

 

 

先程のやり取りと同じく、横浜事変も物理攻撃(なんなら九校戦よりもこっちの方が印象深い)しかしていない総司。達也はもうツッコミたく無さそうだ。

 

 

「しかし、時期が悪いとしか言いようが無い。何故こんな分かりやすい変更を行ったのか……現下の国際情勢で焦る必要は無いと思うんだがな……それはとにかく、これから忙しくなりそうだ」

 

「大変そうだな…」

 

「お前も巻き込むから」

 

「えうせやろ」

 

 

本気でウンザリしていそうな表情で呟く達也、それを他人事の様に言い放つ総司を巻き込む決意を固めた。

 

 


 

 

九校戦の競技種目変更は、予想通り一高に大混乱をもたらした。大会の公式サイトに詳細が公表された事を受けて、競技種目に関係のあるクラブでは一喜一憂する生徒が大量発生したが、最も影響を被ったのはやはり生徒会だった。

 

全ての部活への説明や、何が許可されていて何が禁じられているのか、各競技場の大会ルールを読み込む事から始めなくてはならなかったので、この日校門を出た時には、生徒会役員の全員が疲れ切った顔をしていた。それは達也も深雪も例外では無かった。因みに総司は雫を連れて脱走している。体力が減っていた達也では到底総司を止められないのだ。

 

そして次の日…

 

生徒会室で達也と範蔵が二人で話し合っていた。この場には他のメンバーも揃っていたのだが、この二人が優秀すぎて、この二人だけで話がドンドン進んでいくのだ。

 

 

「アイス・ピラーズ・ブレイク、ミラージ・バット、モノリス・コードの出場選手は重複種目を調整するだけで良いと思うが、どうだろう?」

 

「それで良いと思いますが、本戦のピラーズ・ブレイクはソロとペアの組み分けが必要です」

 

「女子は司波さんがソロ、千代田と北山がペアで良いんじゃないか?」

 

「さんを付けろよデコ助野郎!」

 

「ああもううるさい!後輩なんだから別に呼び捨てで良いだろ!いちいち文句言うな総司!」

 

 

ここまで順調に計画を練っていく二人。しかし、次の話題で二人の会話が一瞬止まってしまう。どうやら、男子ピラーズ・ブレイクについてだ。

 

 

「…男子はどうしますか?」

 

「…男子は、一人が強すぎて、他二人はまあまあだ。そして、その一人はペアを組む必要はない…」

 

「おう、任して!」

 

 

二人は勢いよく返事をするその強すぎる一人を見てため息をつく。何を隠そう、その一人とは総司に他ならない。

 

 

「…話には聞いていましたが、総司君が本当にこの競技に…!?」

 

「総司君は総てにおいて最強、一切合切問題なし」

 

 

不安感を見せる深雪と、絶対の自信を持っていいと言う雫。去年の新人戦での優勝者と準優勝者からの評価が割れているという状態に、やはり総司は色々とイレギュラーなのだと達也は思う。

 

 

「…話を戻そう。ロアー・アンド・ガンナーはスピード・シューティングの代表候補とバトル・ボードの代表候補から選べばいいと思うが」

 

「ペアはそれでいいと思いますが、ソロは高いレベルでのマルチ・キャストの技術が必須です」

 

「そうか…では、射撃と漕艇のどちらを重要視するべきだと思う?」

 

「ロアー・アンド・ガンナーのボートはバトル・ボードのボードよりも安定性を見込めるので、射撃技術の方を優先するべきかと」

 

「なるほど…」

 

 

そうして、代表の再選考会は進んでいくのであった…

 

 


 

 

京都某所…

 

 

荘厳な雰囲気の和室に、二人の影が見える。内一人は中年の男性、もう一人は学生とおぼしき少女だ。恐らく親子なのだろうと推測できる。

 

 

「…総司様の進化は、止められないのですか?」

 

「不可能だ、あの男…()()()()というバグにより、あの術式は制御を失っている。太古の術式、しかもいつ現われるか分からない脅威に対抗するために用意された術式は、長い時を経て劣化している。それで尚神を、現人神を生み出せると言うのだから、安部清明という男は何処までも天才だったのだろうな」

 

「…そうですか」

 

 

少女…不二原改め、藤原束は悲しそうな顔を見せる。その表情に、おおよそ悲しむ娘を見て浮かべる物ではない悪辣な表情を湛える男、藤原道長はこう付け加えた。

 

 

「諦めることはない、我が娘よ。まだ時間はあるんだ、君があの男の心を奪いたいと願うならそうすればいい。あの北山雫という「その名を口にしないでいただけませんでしょうか!」…女の嫉妬というものは、時の人を殺めかねないものだね…まあいい、所謂略奪愛、君もそう言っていただろう?君が橘総司の心を北山の娘から略奪するんだ」

 

「私が、あの方の心を…」

 

「いいかい束?人は生きている限り、諦めない限り、可能性を持っているんだよ」

 

 

その言葉を聞いて、束は決心したかのように部屋を出て行く。その後ろ姿を見送った後、襖を開けて夜空を見上げる。

 

 

「…束の実力ならば、ただの代表選手ではなくスティープル・チェースを兼任で出場するだろう…ふむ、あの子はたかだか兵器如きに負ける事は無い。予定通り、パラサイドールをもって()()()()()()()()()()()()()としようか…」




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・選考され直された選手達:メインキャラでは、氷倒し女子に深雪と千代田・雫ペア。男子は総司とモブ二人ペア。他は原作通り。



・原作との相違点:パラサイドールを作成したのが九島ではないので、関係者である藤林がその事に気づけず、軍部も情報の糸口すら掴めない…掴めたとしてももみ消されてしまっているので、パラサイドールの事は、藤原氏しか知らない。


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スティープル・チェース編 その二

七月に三期に関する生放送があるらしいですね!

この情報を見たときに、「へえー、結構早めに情報出すんだな」と思って調べてみたら、三期決定したのもう一年前なんですね…ショック受けてます、発表が完全に今年の正月だと思ってた。


「「達也!」君!」

 

「…どうしたレオ、エリカ」

 

「どうしたもこうしたもねえよ!」

 

「いきなりアタシ達をシールド・ダウンの練習に呼んだと思えば、対戦相手はベクトル反転で弾き飛ばしてきたり、水波ちゃんに至っては障壁で浮かせてきたりさぁ!」

 

「仕方ないだろう、試合を見てお前達を選手に選ばなかった理由を服部会頭が求めていたのだから」

 

 

七月七日、土曜日。この日は七夕…ではあるが、専ら今行われているのは九校戦に向けての練習だ。急な競技変更から立て直すのに五日を要したが、何とか選手が決まったので練習を行っているところだ。そしてシールド・ダウンの練習相手として呼ばれたレオとエリカは、彼らが特定の魔法を使った近接戦が強いだけの脳筋である事をバラされて腹を立てているのだ。しかし、レオは硬化魔法、エリカは自己加速術式程度しか使えないのもまた事実、実力があっても一科生になれなかったゆえんである。

 

 

「…丁度良いな。ピラーズ・ブレイクの方が準備できたようです。自分はそちらに移動しますので、此処は任せても宜しいでしょうか」

 

「構わないぞ、ご苦労」

 

「ねえちょっと今達也君なんて言った?」

 

「何も言っていないが」

 

「ウソつけ!絶対言ってただろ!?」

 

「落ち着け西城、千葉。少なくとも俺は司波が丁度いい等と言ったのは聞いていないぞ」

 

「聞いてんじゃねえか!?」

 

「くっ、達也く…いない!?」

 

 

賢い男司波達也。彼は引き際を見誤らない…

 

 


 

 

ピラーズ・ブレイクの練習には毎年、演習林の奥にある五十メートルプールを使っている。去年まではこの準備作業にかなりの時間がかかっていたのだが、今年は例年の四分の一以下まで時間短縮する事に成功した。何故って?今はお兄様が居るからに決まってんじゃん。

 

 

「あっ、お兄様。準備は整っております」

 

「ご苦労様。随分速かったな」

 

「お兄様をお待たせするわけには参りませんから」

 

 

既にプールには氷柱が用意してあった。その種と言えば、達也が深雪に授けた水流制御魔法と、氷結魔法の組み合わせによる、神業と言えるだろう。満面の笑みを向けてくる深雪。その笑顔に癒やされた達也が顔を上げると、彼の頭を悩ませる、ストレスの元がそこに居た。

 

 

「いや~悪いね、深雪ちゃん。無理言って先に使わせてもらってさ」

 

「構いませんよ、総司君。…しかし、凄い戦法でしたね」

 

「流石は総司君、天下無敵」

 

「ちょっと相手のペアが可哀想ではあったけどね…」

 

 

プールサイドの反対側で未だに息を切らしている本戦男子ペアとは対称的に、炎天下の中にいても汗の一つもかいていない総司。彼が今回のピラーズ・ブレイクで取る予定の戦法は、当初深雪や千代田など、彼の実力を知っていても、魔法力の低さも同時に知っていた者達からしてみれば、彼の戦法は彼の成長と、相変わらずの規格外さを思わせるものだった。

 

 

「…後で映像をもらえるか?と言っても、自陣をバカみたいな出力の情報強化で防御して、敵の氷柱を拳圧で破壊するなんて普通はできないぞ」

 

「って言っても、俺これぐらいしか戦法ないしな」

 

 

総司が取った戦術は達也が言ったとおり、単純な情報強化で自陣の氷柱を補強。後はひたすら空中を殴った拳圧で敵陣の氷柱を破壊するだけである。去年のクラウド・ボールと同じで、魔法を添え物にしか見ていないかのような戦術である。よく出禁にならなかったなコイツ。九校戦って魔法力を競い合う場のはずなんだが…

 

 

「兎に角、今は深雪達の練習を見よう。…三人とも、準備は?」

 

「できてるわよ」「できています」「できてる」

 

「よし…それじゃ始めてくれ」

 

「頑張れ~!雫ちゃん~!」

 

 


 

 

模擬戦を五連続で行った結果、ムスッとした顔で折り畳みいすに座り明後日の方へ向けている花音がそこにいた。深雪と雫が立ったままどうしようと困惑した表情を向け、達也はため息を一つ吐いて解決に乗り出した。因みに総司は後ろで見学に来ていたほのかや泉美に対して、壊れた氷柱の欠片を指さしながら、「コレクッテモイイカナ?」と聞いていた。ほのかと泉美は呆れていた(香澄は練習を抜け出して零次とデート中)。

 

 

「千代田先輩が攻撃、雫が防御。この戦術は基本的に間違っていないと思います」

 

「魔法で負けたんじゃないって言うの? じゃあ何が間違ってたのよ」

 

「間違っていたのではなく連携の練習不足ですね。今日が初日ですから当たり前ですが」

 

「……何処が悪かったの」

 

「先輩の魔法発動領域と雫の情報強化領域が少し重なり合っていました」

 

「先輩のせい…って事ォ!?」

 

「うっさいわね、ぶっ飛ばすわよ総司!」

 

「スイマセン先輩、私のミスです」

 

「大丈夫、北山は何も悪くないわ」(裏声)

 

「オイ総司、それは私のモノマネのつもり?」

 

「あれ?そう聞こえるぐらいには俺のモノマネが上手かったって事ですかね?」

 

「はいブッコロ~ス!」

 

「火に油を注ぐな総司」

 

「その言い方だと、お前も先輩を火だって思ってたって事になるけど」

 

「やっべ…」

 

「おい、司波」

 

 

フォローをしようとした達也だが、総司に妨害されて失敗。更に怒りに火を付ける形となってしまい、千代田から達也への君付けが外れる。三十六計逃げるに如かず、二人はダッシュで逃げ出した。しかし残念かな、今この場所はギャグ時空、此処ではどんな強者も展開という神のイタズラの前に敗北するのだ。つまり、二人は捕まってしまったってワケ。ファー!甘い甘い!(煽り)

 

 

「…なあ、今誰かから煽られた気がするんだけど」

 

「気のせいだぞそれ」

 

「アンタ達、私語厳禁って言ったわよね?」

 

「「スイマセン…」」

 

 

こっぴどく叱られる二人。だがそうやってストレスを解消できたお陰か、ちゃんと競技に向かいあう事ができたようであり、二人を解放した後は雫と深雪と三人で話し合っている。この様子なら大丈夫そうだと別の練習場に移動しようとした達也だが、その足をほのかに止められる。

 

 

「達也さん…ハァハァ」

 

「どうしたほのか、鼻息が荒いぞ。後、できたらそのまま近づかないでもらいたいんだ。なんせ危機感を覚えてしまっているからね」

 

「達也さんの…滴る汗…!」

 

「あ、ダメだこりゃ。…助けてくれ総司」

 

「さ~て、はんぞー先輩や幹比古にしこたま絞られてるだろう琢磨の応援にでも行きますか…」

 

「おい、ちょっとまっ」

 

「達也さん…」

 

「待て、ほのか。落ち着いてくれ!」

 

「知らない知らない僕は何も知らない…」

 

 

炎天下の中で作業を続けたお陰で、流石の達也といえど汗をかいてしまっていた。そしてそれに興奮したほのかが暴走するのも、詮無き事なのである。総司は実に哀れんでいますという表情を達也に向けた後、そっとその場を立ち去るのであった。

 

 


 

 

京都某所…

 

縁側から出れば照りつける太陽を目にできるのこの和室で、涼しい顔をして会談を行う男達…実際、この部屋は魔法で完璧な空調操作が行われている。

 

 

「…では、パラサイドールに狂化術式を仕込むのは、認めてくださるのですね?」

 

「もちろん、しかしこちらからも条件がある」

 

「心得ておりますとも。()()()()()()()()()()()()()()()…特に、司波深雪の方を優先せよと」

 

「分かっているじゃないか」

 

 

その会談を行っていたのは、周公瑾と藤原道長であった。その二人は聞く者が聞けば、恐怖で震え上がってしまいそうな話をしている。何を目的として核爆弾のスイッチを同時押しするような暴挙にでるのか。それについては、公瑾も知りたかったらしく、道長に質問をする。

 

 

「…失礼ですが、この未熟者にはあの二人を殺すことは、御身の首を絞める事になるだけだと思うのですが…」

 

「別に構わないよ。私を殺せば彼らは社会から孤立するし、彼らが世界を滅ぼすというのならそれも一興だ」

 

「…別に目的があるのではないですか?」

 

「ハハハ、流石は公瑾法師殿だ、実にご聡明で」

 

「いえいえ、勿体ないお言葉です」

 

 

お互いが人の良い笑みで社交辞令をぶつけ合ったあと、道長が真の目的を語り出す。

 

 

「私が狙っているのはね、世界が滅びかねないという事態そのものなんだ」

 

「…と、言いますと?」

 

「橘総司…彼の肉体に秘められている術式は、自らの一族を生贄にして、世界を守護する神を降臨させんと安部清明が仕組んだものだ。そんな中で、世界が滅びかけたら、どうなると思う?」

 

「…もしや、神を完全に覚醒させる為の策ですか?」

 

「その通りだ。司波達也が暴れて世界を破壊しようとすれば、確実に神は橘総司を支配して、肉体の制御を得ようとするだろう。同時に北山雫を殺すのは簡単な事、橘総司の精神的支柱を破壊して、神の人格が橘総司を屈服させられやすくする為だ」

 

「おお…、なんと言うご慧眼でしょうか…!」

 

 

神を降臨させるため、世界を一度危険にさらす…道長はひょっとすると、大博打を打つギャンブラーの質があるのかもしれない。

 

 

「…ですが、宜しいのですか?」

 

「何がだい?」

 

「確かご息女は、橘総司の心を欲しがっていたはず。それなのに神の人格で橘総司を塗りつぶしてしまって、宜しいのでしょうか?」

 

「ご息女…ああ、束の事か。まあ正直、()()()()()()()()()。あの子は元老院の座を継がせるには器が足りない…もっと経験を積んで、一人前になってもらわなければね…人を強くするのは、自身に起こる悲劇を乗り越える事だから」

 

「…悪い方だ」

 

 

悪の大人達の笑いが、京都の空にこだまする…




魔法科世界の秘匿通信


・総司の戦法:本編に付け加えると、情報強化のやり方は領域に掛けるタイプの展開方法なので、深雪の『ニブルヘイム』などにめっぽう強い。自分が雫に授けた『神風』も異能で無効化できる。因みに弱点として、点に干渉してくるタイプの魔法が苦手。例を挙げると一条将輝。よりによってか…(爆裂はピラーズ・ブレイクに置いて最強)


・その後の達也:無事、深雪さんによって救出されたとのことです、ッチ!


・道長の目的:彼の想像の中のフローチャートとしては、達也暴走→神「ちょ、何か世界に危機が訪れとるやん!?どけオラお前ぇ!」→総司の人格を神が屈服させる→神が肉体を得る→神降臨。

こんな感じ


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スティープル・チェース編 その三

パラサイドールを達也が発見する云々の話は丸々カット。なぜなら九島じゃなくて藤原が動いているので、情報統制が完璧すぎて外部に一切漏れてないからですね。しかも連絡方法は伝書鳩とかなので、電子情報にアクセスするフリズスキャルヴでも情報が出ないので、完全に不意打ちになります。怖いね~


「馬鹿な…今日は何も起こらなかった…だと?」

 

「そんなに何かが起こっても困るんだが」

 

 

九校戦に出場する選手達が宿泊するホテルでの前夜祭パーティーで、驚愕したような表情で驚いている総司。去年が異常だっただけだと突っ込む達也。その達也の横で達也の制服の魔工科の刺繍をみてニマニマしている深雪と、その頭に乗っかって、息をフンスフンスさせて総司を見つめている雫(SD)がいた。

 

 

「総司先輩の感覚はバグってますからね。司波先輩はそろそろツッコミをやめないと過労死しますよ」

 

「流石は一番付き合いの長い七宝だな。参考になる」

 

「ぶっ飛ばすぞお前ら」

 

 

総司の言うお前らとは、総司を貶した琢磨と達也だけでなく、その会話を聞いて爆笑している範蔵や桐原などのイツメン(言う程いつもでてるワケじゃない)も合せている。

 

 

「…おかわりお持ちしました」

 

「ああ、ありがとう」

 

「すいません、ちょっと俺にももらえないですかね?」

 

「…かしこまりました」

 

 

空になった達也のグラスを目ざとく見つけたのか、ウェイターが新しいグラスを持ってきた。そのウェイターに謝辞を述べる達也を見ながら、自分にもと要求する総司。それを了承したウェイターは総司にもグラスを手渡…さなかった。グラスを持ったまま、総司の近くに来たのだ。

 

 

「…ん?」

 

「それでは失礼致します」

 

 

ガシャアン!

と音を立てながら、ウェイターが総司にグラスを叩きつける。グラスの中のドリンクが派手に飛び散る…事は無く、総司の制服にすら掛からず、総司の顔面だけを濡らす。あまりに突然の出来事に女性陣は硬直、男性陣は大爆笑していた(達也含めて)。

 

 

「…え?どゆこと?」

 

「失礼、あまりにもアホ面を晒されていたので、思わず叩きつけてしまいました」

 

「え、ああ、うん。それは別に良いんだけど」

 

「「「「良いんかい!」」」」

 

「…何でお前が此処にいるわけ?零次」

 

「「は?」」

 

「…お嬢達ぐらいは気づいててくれよ」

 

 

総司が困惑の言葉をこぼす。ただしその困惑の原因は、ウェイターの奇行ではなく、そのウェイターの正体であった。そう、その正体とは何を隠そう名倉に名を変えた零次であった。大亜連合で製造されたときに叩き込まれたのか、完璧な変装術であったために数ヶ月共に過ごしている香澄や泉美でも見抜くことができなかったらしい。まだまだ精進の余地がありそうである(雫は総司がどんな姿でも見分けることができるため)。

 

そして本来九校戦選手以外が入ることができないこの会場に零次がいる理由を、幹比古は懐かしく思い返していた。どうやら今年度もエリカ達は部屋を取っているらしいが、去年の二番煎じは面白くないと普通に部屋で過ごしているらしい。それを知っていたからと言うのもあるが、だからこそ零次の不意打ちは完璧であった。

 

 

「つーか、お前なんでこっちいるんだよ。お前の顔と俺の顔が瓜二つなの気づかれるとマズいのはお前だろ?」

 

「俺の目的はお前達の意識を引きつける事だよ…お前達に来客だ、色々言いたいことがあるだろうが、同じ選手として、学生として話がしたいらしいぞ」

 

 

そう言って零次は踵を返して、厨房内に引っ込んでいく。

 

 

「待てって言ってるだろうが!」

 

「今始めて言ったし、そこまで引き留める必要もないだろう」

 

 

何故か一瞬だけ鉄華団団長になりかけた総司だが、達也が無事引き戻す。そして零次が言っていた来客という人物に目を向けると、その人物を知っている者は目を見開いた。

 

 

「皆さん、お初にお目に掛かります。本年度から魔法大学附属第二高校に入学して参りました、不二原束と申します」

 

 

その人物を知らない者はその容姿に感服した表情を見せる。深雪にすら負けず劣らない美貌。魔法力が高いほど顔が左右対称になる傾向がある事から、非常に高い魔法力を持つことが窺える(尚、曲がりなりにも神の肉体を持ち、いっそ不気味なぐらい完璧に左右対称な総司を無視するとする)。そして魔法科高校の女子の中でも随一なのではないかと思えるほどの長身(身長190近く)、そして昔のオヤジが見ればボン、キュッ、ボン!と口に出していそうなスタイルを持つ、端的に言えば超が付くほど美人で、ケツもタッパも胸もデカくてウエストだけ細い女生徒であった。

そんな彼女は、今年の三月ごろに総司を殺しかけた程の身体能力を一時的にだが発揮できるほどの使い手でもある。その事実を知る者、知らない者もそれぞれの理由で口を開けない中、総司が真っ先に言葉を紡いだ。

 

 

「…アンタ、年下だったんだな」

 

「「「「「いやツッコむとこそこ!?」」」」」

 

「…うふふふ」

 

 

先程も述べたとおり、束のスタイルはトップモデルもかくやという勢いで男が寄りつくであろう美貌を誇っていた。そしてお互いに自己紹介すらすることが無かった三月の一件では、総司には束が年上の女性に見えていたのだ。あの一件を共に乗り越えた面子からのツッコミが入った後、一人から疑問の声が挙がった。

 

 

「…貴女は結局、何をしに来たの?」

 

「北山雫…」

 

 

そう、雫である。彼女は当時藤原氏の部下であった数字落ち(エクストラ)三人衆をアメリカで撃退している。つまりはイツメンの中で一人だけ、束の存在を知らなかったのだ。そして対する束も雫に厳しい視線を向ける。何を隠そう恋敵だ、敵視するのに充分に値する。

 

 

「…北山雫さん、私は貴女へ宣言します!」

 

「…何を?」

 

「え、え、何いきなり」

 

「「「…くわばらくわばら」」」

 

「服部会頭は、逃げるのではなくて総司の女たらしぶりを参考にしてみたら如何ですか?」

 

「いきなり俺に毒を吐くな司波」

 

 

総司に身を寄せる雫の姿を見て、少しの間ワナワナと震えたかと思うと、いきなり束が声を上げた。大方の目的を察した雫は、相手方の覚悟を問うために敢えて聞き返し、女の戦いの前兆を目の前で見せられ、困惑した総司を隠れ蓑に、三年の男子三人組が修羅場から遠ざかろうとする。その中で唯一彼女も婚約者もいない範蔵に、達也は唐突に口撃した。

 

それはともかく、束は雫に宣言した。

 

 

「私、不二原束は!橘総司様の心を射止めに参りました!」

 

「そういやなんで君は俺の事が好きなんだ?」

 

「うっわ総司君デリカシーなさすぎ…」

 

「流石に引きます…」

 

「私も…」

 

「お兄様はちゃんと答えて差し上げましょうね?」

 

「零次~?零次~?どこ行ったの~?」

 

「香澄ちゃん!今は止してください…!」

 

「俺の扱い酷くね?」

 

「残当」

 

 

やけに見栄を張ったポージングで、ビシィ!と総司を指さして宣言する束。その光景をバックに、女子に自分の何処が好きなの?と聞く男子と全く同じ言葉を吐くレベルの総司のデリカシーの無さを女性陣が批難する。因みに七草の双子は厨房の方に消えた零次を探して回っていた。

後、深雪が達也にアドバイスを向けた際、恐ろしい速度で目を光らせ(心なしか本当に光っているかのように見える。これが光のエレメンツの力…!?(違う))ながら達也の方に顔を向ける。それから目を逸らすかのように勢いよく達也は首を180度回転させた…死んでないか、それ。

 

案の定『再生』で首を元通りにする達也…やっぱ死んでたよね、それ。

そして各々が意見を言った後、宣言された本人…雫に視線が集中した。…心なしか、雫はとてつもなく眠そうであった。そして、そんな中で雫が導き出した返答は…!

 

 

「ふ~ん、エ○チじゃん」

 

「…え?」

 

「「「「「「…!?」」」」」」

 

「私の親友の性癖壊れちゃっ…たぁ」

 

「泣いちゃった!」

 

 

その場の誰も彼も…束ですら困惑するその発言に、雫の親友たるほのかと、総司だけがすぐに反応できていた。

 

 

「…ここ最近の雫は、眠たくなってくるとちょっと意味が分からないこと言い出すんです」

 

「いやほのかちゃん意味分かってたじゃウボァ!?」

 

「ふふふ♪」

 

 

ほのかが親友の変化を説明する。彼女は彼氏と同棲している雫の家に、構うものかと言わんばかりに泊まりに来ていたりしていた。ならば雫のここ最近の変化を知っていてもおかしくない。因みに変化した理由の150%が総司のせいだと思っている。雫の状態の解説の際、達也からの印象を下げないように淑女的に振る舞う…その邪魔をしかけた総司には腹パンをお見舞いしてやった。ギャグ時空かしているこの場でならば、ほのかの非力な力でも総司に膝を付かせる事が可能であった。

 

未だ抗議の言葉を紡ごうとした総司の頭を踏みつけて黙らせたほのかは、ビビりまくっている周囲に申し訳なさそうな笑みで発言する。

 

 

「すいません、雫は眠そうだし、総司さんは体調が悪そうですので、私が部屋まで連れて行っておいて宜しいでしょうか?」

 

「「「「あっ、どうぞ…」」」」

 

「で、でも来賓の方の挨拶が今から…!」

 

「落ち着け中条。総司は九島閣下の息子の様な存在だ。いくら来賓でもケチを付けることなどできんだろう」

 

 

他のメンバーや範蔵の賛同もあり、ほのかは笑顔で雫と総司を抱えてパーティー会場を出て行った。因みに雫はほのかの右腕にお姫様だっこされており、総司は左肩に俵担ぎされていた。

その光景を唖然とした表情で見送った束に、同じく唖然としている…が、もう慣れたとも言いたげな達也が、束に声を掛けた。

 

 

「悪い、総司に用があるならまた日を改めてくれ」

 

「…分かりました」

 

 

一高生達の前に現われた時とは比べものにならないほど意気消沈した様子の束は、すごすごと自分の高校の選手達がいるテーブルの方に向かって行った。




魔法科世界の秘匿通信


・総司達を中心に一高生達の雰囲気は一般の高校に通う学生と同レベルになっているので、周囲は遠巻きに、しかし若干羨ましそうに眺めていた。魔法師は出身によって色々なしがらみなどがあるためだ。


・雫が帰ってしまったので、四校に通う雫の従兄経由で黒羽兄妹と初対面風に接触する事ができなくなった。


・男子と女子を同じ部屋に泊まらせる訳がないので、カップルだろうと婚約者だろうと部屋が同じであるはずがない。部屋割りとしては総司:達也、桐原:五十里、深雪:雫、壬生:千代田である…!(何かに気づく音)。
おいこれってYO!利害の一致ってやつじゃあ…(続きは達也に『分解』されました)


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スティープル・チェース編 その四

「…総司は?」

 

 

次の日の朝、朝食を取りに来た達也は、雫が来ているのに総司が居ない事に違和感を覚えた。雫は一秒でも長く総司と傍に居たいと言うタイプなので、起こさなかった…という可能性は低い。大体総司は睡眠こそ取っているが、睡眠を必要とするほど一日に疲れないので、彼は基本雰囲気で寝ている事が多い。よって総司が起きないという事はあり得ないのだ。

と言うわけで達也は、総司の事を最も知っている上に、今日も同じ部屋で寝ていた(部屋を交換している事はカップル・婚約者持ち組の間の秘密である)雫に問い掛けるた。

 

 

「…実はさっき、デモ隊が騒ぎを起こしてて」

 

「…デモ隊と言えば、人間主義のか」

 

 

人間主義というのは、魔法師も人間であるとして、未来ある若者である魔法科高校生達の殆どが軍に入隊している事実はおかしいと騒ぎ立てる連中のことである。そんな事を言ったって、現状魔法を一番有効活用出来るのは軍事関係である。文句を言うなら、まずは魔法を有効活用出来る職種の開拓を進めてからにしてほしいものなのだが…

 

 

「それで?アイツはデモ隊の言っている意味があまりよくわからんだろう」

 

「それは総司君を嘗めすぎ…デモ隊が騒いでた場所が私達の部屋から近くて、デモ隊の声で私が起きちゃったの」

 

「…ああ」

 

 

達也は納得した。つまるところ、愛する人の安眠を妨害してきたうるさい奴らに拳を振りかざしに行ったのだろう。流石にやりすぎはマズいので控えて欲しいが…

 

 

「それにしたって遅くないか?アイツならもっと早くに鎮圧させてこっちに来ているだろ」

 

「デモ隊をボコボコにした事が、服部先輩にばれちゃったんだって」

 

 

つまるところ、総司は暴れすぎたとして範蔵に叱られているのである。達也は随分と運がなかったのだな。と思った。聞いた限りでは朝早くであったようなので、その時間帯に範蔵が総司を同じ場所にいたのを達也は少し疑問に思った。因みに範蔵が総司の暴れっぷりを目撃した…つまりデモ隊の元に居た理由は、範蔵は総司と出会って頭のネジを数本持って行かれてしまったので、範蔵もデモ隊を懲らしめにやって来ていたのだ。総司がやってなかったら範蔵がデモ隊をボコボコにしていただろう。

 

それと、仮にその時間に現場に赴いていたのならば、総司の行動を把握した上で人間主義を集めて、騒ぎを起こさせて総司と話をしようとして、失敗して落ち込んでいた名家のお嬢様(束の事)の姿が見られたであろう…

 

 


 

 

時間は飛び、九校戦が開幕した。初日は本戦アイス・ピラーズ・ブレイクの男女ペア予選とロアー・アンド・ガンナーペアが行われる。

そして場所は女子アイス・ピラーズ・ブレイクの会場…

 

 

「いけ~雫ちゃん!花音先輩雫ちゃんの足引っ張るなよ!」

 

「騒ぎ過ぎだよ総司君…」

 

 

自分の愛する人を全力で応援する総司の姿があった。その隣にはほのか、またレオやエリカなどのイツメンも揃っている。総司としては去年のように控え室まで行きたかったのだが、今回は千代田もいることから控えている。

総司は去年真由美に行ったように、法被などを着て全力で応援する構えを見せていた。その光景に周囲のメンバーは少しでも自身への風評被害を避けようと、「この人とは席が近くなっただけです」感を装っており、試合に出ている二人に至っては赤面している。尚、この赤面は雫(あまりのうれしさに照れていた)と千代田(羞恥心によるもの)で意味が違ってきていた。お前千代田に足を引っ張るなとか言ってるくせに、お前のせいで千代田調子を崩しかねないぞ。

 

 

「…そろそろ開始ですね。相手のペアは…」

 

「取るに足らない雑魚だ!」

 

「言い方ァ!」

 

 

そうこうしている内に試合が始まった。雫と千代田のペアは、基本的に前年優勝者でもある二人のペアである事も相まって、本競技の最有力候補だ。また両者ともに、魔法の精密さは欠けるが、事象干渉力や広い範囲への干渉が得意だ。更には千代田、彼女には千代田家一子相伝の『地雷原』の魔法を習得している。水上の氷柱を倒さないといけないこのゲームにおいて、地面を揺らすことに何の意味が…と思われる方も居るかも知れないが、水面を地面であると定義する事で、水面にすら『地雷原』を適用することができるのだ。それ故、千代田は氷柱の同時破壊が容易である。対する雫は点の火力においては他を大きく突き放しているが、面での攻撃が最も効率がよいであろうこの競技では、防御にも意識を割かなければならなかった。しかし、その攻撃役を千代田が担う事で、雫は防御に集中できるのだ。最近になってかなりの時間維持出来るようになった『神風』で自陣の氷柱に干渉する魔法を吹き飛ばし、千代田による敵陣の氷柱の破壊を待つ。

 

まさに攻防一体の二人のペア。事実開始した試合では、敵がいくら魔法で氷柱を破壊しようとしても、雫の『神風』に押し返される。ならば防御に徹して、雫のスタミナ切れを狙おうとしてもここ数日で磨き上げた千代田との完璧な連携、千代田の『地雷原』を消さず、それでいて相手の魔法は消す。この合わせ技により、二人は何の問題もなく勝利した。

 

 

「よっしゃー!ナイスだ二人ともー!」

 

「…正直言って今回の女子氷倒しは一高の優勝で確定でしょ」

 

「深雪も雫達も、止められる人はいないだろうしね…」

 

 

そう、この試合で全力で応援するのは総司ただ一人なのだ。他のメンバーは、深雪と雫・千代田ペアの優勝を疑っていないし、他の学校の生徒ですら、女子氷倒しは半ば諦めている程だ。そんな意見が出るほど、一高は広範囲高火力アタッカーが多いと言う事。力こそパワーである。

 

 

 


 

 

時は流れ、今日の試合が全て終了した。朝一から試合に出場していたエイミィ達のペアが女子ロアー・アンド・ガンナーのペア本戦で優勝、男子ペアも三位と好成績を残した。そしてアイス・ピラーズ・ブレイクは男女ともに決勝リーグ出場決定。女子は言わずもがな、男子は総司にしごかれた(圧倒的なまでの敗北)おかげか、所々危ない場面を見せながらも無事決勝に出ることができる。

 

しかしながら、一高幹部陣の表情は優れない。それはロアー・アンド・ガンナーで七高が見せた仕上げっぷりにあった。

 

 

「…女子ペアでは優勝できたが、男子ペアでは三位…そして七高が女子二位、男子一位か…彼らも頑張ってくれたが、現状七高にリードを許している状況だな…」

 

「流石は『海の七高』だね。術式の精度は負けていなかったけれど、選手の練度が桁違いだったよ」

 

「明日のソロは七高が一位を独占してくれた方が、後々の点数勘定は有利になるやもしれんな」

 

「三高と点差が開かないからかい?」

 

「自分でも消極的だとは思うがな」

 

 

目頭を押さえ、昨年の先輩方の苦労を感じる範蔵。そこに千代田が暴論を挟む。

 

 

「じゃあさ、司波君にロアガンのソロを担当させるのはどう?司波さんならどうせ誰が担当しても、北山がいないなら勝てるでしょ」

 

「今からのエンジニアの担当変更は不可能です。更に言えば、今回は術式ではなく練度の問題なので、俺が担当しても実践訓練を多く積んでいる七高や三高相手に状況が好転するとは限りません」

 

「何お前どした?めっちゃ焦ってない?」

 

 

幹部席に吹き込んできた凍てつくようなプレッシャーを感じた達也が、即座に千代田の案を却下する。その慌てぶりに首を傾げる総司。お前は深雪のプレッシャーに気づけ、つーかなんで幹部席にいるんだ。

 

 

「でもさ、結局ロアガンで七高や三高に負けてても、アイス・ピラーズ・ブレイクで取り返せばいい話じゃね?女子はソロペアどっちも優勝できるだろうし、アイツらはともかく、俺は勝つぜ?」

 

 

総司は言外に焦り過ぎだと言う。確かに七高はともかく、三高と点差が付くのは避けたい展開ではあるが、氷倒しで巻き返せば良いだけの事。女子はほぼ一位の点が入ってくる。そしてソロには総司が居る。

普通なら確かに、と安心するであろう。だが今回はそうも言えなかった。

 

 

「…だが、男子ソロアイス・ピラーズ・ブレイクには、三高から一条将輝が来る。一条とお前をぶつける意味を、三高の幹部陣が理解していないはずはない。必ず何かしらの策があるはずだ」

 

 

そう、男子ソロ氷倒しには、一条将輝が出場してくる。この事に関して幹部陣が何故警戒しているのかと言うと、三高の選手名簿の公開が、一高のそれより遅かった事にある。仮に将輝が氷倒し用に調整を進めていたにしても、魔法を無効化する術を持った総司の名前を見て、モノリス・コードに変更せずにピラーズ・ブレイクのままで通してきた。モノリス・コードとは違い、正面からの勝負であるピラーズ・ブレイクにおいて、総司を相手にすれば三高は大エースを二位という順位に甘んじさせてしまいかねない。去年とは違い、同時に選手登録できる競技がスティープル・チェース・クロスカントリー以外にない以上、将輝はモノリス・コードに出場できない。総司に将輝が負ければ、三高は一高との点レースにおいて、圧倒的なディスアドバンテージを背負うことになる。

しかしながら、そのリスクを承知で将輝をピラーズ・ブレイクに出場させた。何かしらの、総司打倒策があってもおかしくはないだろう。範蔵他幹部陣はそれを警戒していた。しかし…

 

 

「そんなの、どうせ小細工っすよ。俺に任しといてください!」

 

 

と大胆に総司は言い放つ。その言葉に、幹部陣は一人(あずさの事)を除いて安心感を覚えるのであった…




魔法科世界の秘匿通信



・人間主義達と見せかけて実は束の息が掛かった者達であった。そして彼らをダシに総司とお話ししようと束は企んだのだが、先に範蔵がOHANASIをしてしまったので凹んでしまった。


・将輝は原作で、スティープル・チェース・クロスカントリー以外の何の競技に出場したのか明言されていないが、原作での結果を元に、本作ではアイス・ピラーズ・ブレイクに出場。
幹部陣の懸念の通り、総司対策をしてはいるが…?


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スティープル・チェース編 その五

「…ああ!総司良いところに!」

 

「ファッ!?」

 

 

初日の日程が終わった頃、雫はチームメイトとお風呂に入りに行くと言うので、手持ち無沙汰になってホテル内をぶらぶらとしていた総司に、大きな声を掛ける人物がいた。驚いた総司がその声の方を見れば、そこにはレオがいた。その隣には、見慣れない男性がいる。その光景を見た総司は、いつもは働かない勘を無駄に働かせて思いつく。「もしやダル絡みされているのでは?」と。

 

 

「…レオ!やっと見つけたぜ~!って言うか別に今ほど大声で呼ばなくてもよくね?」

 

「おう…悪いな、お前の姿を見つけたもんでよ…悪いが、俺はコイツと先約があるんだ」

 

 

レオは総司がすぐに察してくれたことに安堵の表情を浮かべつつ、眼前の男性へ告げた。総司の予想通り、ダル絡みされていたらしい。

 

すぐにその場を離れる二人。その後ろ姿を一瞥して、男性も反対側へと歩き出していった。そしてその男性の姿が見えなくなった辺りで、レオが警戒を解いて総司に感謝を述べてきた。

 

 

「…助かった総司、今度礼はさせてくれ」

 

「安心しろ、友達の貞操の危機を救って、それ以上を望むほど俺は落ちぶれちゃ居ないぜ」

 

「……」

 

 

レオの表情が一瞬で怒気をはらんだ物になる。総司はどうやら、ダル絡みと言っても性的な誘いであったと解釈しているようだ。丸でレオが魔法科のBL本に出てきやすそうな体つきしてるからって…!だが先程の男性との邂逅はレオに取ってはあまり周知されて欲しくないこと。今回は癪であるが総司の勘違いに乗っかった方が良いとレオは判断した。

 

 

「…そういうことだからさ、この事は誰にも言わないでくれ」

 

「モチロン、それくらいのことは俺でも気遣うさ。特にエリカちゃんには絶対に言わないようにするよ」

 

「そこでなんでアイツの名前が出てくるんだよ!?」

 

 

唐突に出てきたいけ好かない女同級生の名前が出てきた事に困惑するレオ。そんなレオに総司は「分かってるから!そんな誤魔化すなって!」と言いたげな表情でまあまあとレオをたしなめている。そもそも普段の二人を端から見ていると、お似合いの喧嘩ップルにしか見えないのだ。流石にこれは訂正するべきだとレオが口を開こうとする前に、総司は「大丈夫だってこの事も誰にも言いふらさないから!」と言いながら足早に去って行ってしまった…

 

 

 

さて、そんなこんなでレオと別れた総司だが、此処で自分が何故あの場に居合わせたのかを思い出す。彼は暇であったのだ。だがレオが性的に襲われる可能性に動揺してしまい、折角の暇つぶしの相手をみすみす失ってしまう形となってしまった総司。なんだか引き返す気にもならず、暇だな~とホテル内のカフェに立ち寄る総司。窓際の席に座った総司は、そこでコーヒーを飲みながら夜景を眺めていたのだが…

 

 

「相席、宜しいですか?」

 

「んお?…君は」

 

「うふふ…」

 

 

総司の席の対面に座る女性。その女性へと目を向けた総司は、それが束であった事に気づくだろう。どうやら予想外に夜景が美しかったため、気配を読むのが遅れたらしい。

相席可かどうかの確認をしながら、まるで断る事など無いでしょう?と絶対的な自信を持った表情で対面に座る束。束を見て、総司は彼女に聞きたかった事をもう一度聞いてみることにした。以前は仲間達にデリカシーがないと半ば強制的に却下された質問ではあるが…

 

 

「君は、なんで俺のこと好きなんだ?」

 

 

そう、総司には束に好かれる原因が分からない。彼が救った人間は数知れずだが、束はあの『元老院』の四大老に次ぐ権力者たる藤原道長の娘だ。元老院の権力を持ってすれば、総司がその場に居合わせでもしない限り、すぐに事件が解決してしまうのだ。故に、総司は何故自分が束から好かれているかの理由が分からない。彼女は本気だ、雫から鞍替えするつもりなど毛頭ない総司が今できることは、せめてその気持ちに応えようと、彼自身も本気で向き合う事だ。それにあたって、総司は束に質問したのだ。以前彼女にしてやられたように、彼女は総司の実力を把握している節がある。ならば彼女は…

 

 

「幼い頃、貴方が神に進化することを知ったお父様から見せられた映像で拝見致しました。初めて貴方様を拝見した時…私に感情が芽生えたのです!」

 

「あたかも素晴らしい出会いかのように恍惚とした表情で語ってるけどさ、君が俺を一方的に認識していたってだけだよな?」

 

 

大方総司の予想通りではあった。だがそれによって今度は、ここまで執着する理由を知りたくなってくる物である。動画で見ただけで、それで一目惚れしただけで、誰かの恋路を邪魔してまで自分の物にしようと思うだろうか。総司はダウンしていたので分からないが、彼女は今大分猫を被っている。本来の彼女はもっと快活に話す。しかし総司の前ではそうしない、それはあたかも、()()()()()()()()()()()()()のような厳格さだ。彼女の気持ちは恋というより…

 

 

「どうして君はそこまで俺に執着するんだ?」

 

 

相変わらずストレートな質問の仕方をしてくる総司相手に、いやな顔一つせず、束は答えた。

 

 

「…当時の私は、身体が弱かったのです」

 

「…それで?跳ね回ってる俺が好きになったと?」

 

「いえ、確かに憧れてはいましたが、そこが決め手ではありません」

 

 

そう言うと束は懐から何かしらのアクセサリーを取り出してきた。そのデザイン…と言うより見た目は、貝の様な形をしていた。

そこから、力の残滓を感じ取ることができた総司。まさかとは思ったが、その真偽を考察できるほど総司の頭はよくない。故に普通に質問する。

 

 

「…ひょっとして、その貝のアクセサリーは…」

 

「はい、お察しの通り『レリック』です」

 

 

『レリック』、この世界でのレリックとは、「魔法的な性質を持つオーパーツを意味する物質」を指す言葉である。現代の魔法科学技術でも再現が困難または不可能である、貴重な物だ。そしてその『レリック』を愛おしそうに撫でながら、彼女は嬉しそうな表情で言葉を紡ぐ。

 

 

「この『レリック』には、「愛」の魔法が込められているんです」

 

「「愛」…それが魔法だって?」

 

「ええ。…誰かを思う「愛」の気持ち。その大小によって、様々な力を人に与えるのです」

 

 

撫でる手を止めた束は、ふと夜景に目をやった後、昔の事を思い出すかのように目をつむる。そして語り出すのだ。

 

 

「私は、貴方様に愛という名の信仰を捧げることで、自分の身の健康を手に入れようとしたのです。最初は確かに少し憧れているという程度の惚れ具合だったのでしょう…ですが、貴方様に愛を、信仰を捧げる度に、その度に体調が回復していく。その様は、丸で信者に見返りを与える神様のようだと感じました、だから私は、貴方様に永遠の愛を捧げても構わないと真剣に思うようになったのです」

 

「…随分と歪んだ愛だな」

 

「そうでしょうか?人々が神を信じるのも、神を愛している故とは思いませんか?」

 

「結構珍しい物の見方だと思うよその考え方」

 

「お父様はは私を勘違いしていらして、私が貴方様を人として愛していると思われているのです。確かに人としても好意的だとは思いますが、私のこの感情は、貴方様に私だけの神になって欲しいという独占欲と信仰心なのです」

 

「…それを君は『愛』と表現するのか…」

 

 

眼前の少女の狂ってしまった情緒を心配しながら、総司は目頭を押さえた。まさかここまで予想を裏切られるとは思いもよらなかった。まさかあまりにも大きい信仰心と独占欲が、巡り巡って恋をしているように見えるのだから。彼女の気持ちに応えるわけにはいかない。彼には雫がいるし、何より彼は神になる気など毛頭ないのだ。ならば彼女に伝える言葉はただ一つだ。

 

 

「…ごめん、俺は神じゃない。確かに今は神になりかけているんだろう。でも俺は人間でありたいんだ。そして俺には、雫ちゃんがいる。彼女を手放すわけにはいかない。だから…」

 

「…ダメです」

 

「え?」

 

「それだけではダメです!…北山雫は、物心ついた頃から貴方に焦がれている私から、貴方をかっさらっていった泥棒猫!私の感情が間違っているとしても、あの女にこのような負け方をしたままではいられません!」

 

 

歪んだ愛を持つ彼女なりのプライドを見た総司は呆然とする。そんな総司に束は今裏で動いている陰謀について語る。

 

 

「…女子スティープル・チェース・クロスカントリーで、『パラサイドール』が使用されます」

 

「…パラサイドール?パラサイトか!?」

 

「ええ。それを人形の中に入れ、人間の制御下に置いた兵器です。…お父様は女子スティープル・チェース・クロスカントリーに投入されるパラサイドールに仕掛けを施し、競技が始まると同時に暴走開始するように仕組みました。暴走したパラサイドールは、そのまま北山雫と司波深雪を狙い始めます」

 

「…なんだと?」

 

 

道長は娘のことを多く知ろうとはしなかった。故に気づかない、自身の配下の三分の一は既に自身ではなく束に従っていることを。その配下から得た情報が総司に伝えられる。そしてその情報は、総司を一瞬でキレさせるのに最適であった。

 

 

「…何のために雫ちゃんと深雪ちゃんを狙うんだ?」

 

「おそらくは、貴方か司波達也、どちらかの世界を滅ぼしうる魔法師を怒りで暴走させ世界の危機を招く。貴方の御身に宿る神は、この世界の防衛機構のようなものです。この世界が滅び欠けるとなれば、降臨を前倒しにしてくるかも知れない…それを理由として、あなた方の心の支えであるあの二人を殺す。それがお父様が今回の九校戦で暗躍する理由だと思います」

 

「どうすれば止められる?」

 

「女子ということもあり、貴方が介入しようとすると会場の人に止められてしまうでしょう。それに九校戦は全国に放送されます。仮に貴方がパラサイドールを処理してしまうと、将来の貴方の評価は著しく下がるでしょう。だから…」

 

「だから?」

 

「私と北山雫の模擬戦を執り行ってはもらえないでしょうか?」

 

「…は?」

 

 

怒り心頭であった総司の表情が一瞬でマヌケズラを晒す事になってしまう。束の真意とは…




魔法科世界の秘匿通信



・レオの隣にいた男性:正体はエルンスト・ローゼン氏。ドイツのCADメーカーにして、業界第一位を誇るローゼン・マギクラフトの日本支部支部長にして、正当なローゼン家の血筋。




・束の『レリック』:効果は本編通りだが、その作り方として、存在しないはずの難題として有名な秘宝、『燕の子安貝』を燃やされたはずの『蓬莱の薬』に浸して作るという、いかにも藤原製と言いたくなる素材が使われている。



ごめん、眠気と戦いながら書いたから支離滅裂なところが多いと思います。ですが個人的な納期に間に合わないので、投稿しました。この作品がノリだけで作られているメリットとデメリットを同時に味わいましたわ…


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スティープル・チェース編 その六

これだけ時間があいてこれぐらいの内容しか思いつかなかった作者を許してくれ…


「…何悩んでるの総司君?」

 

「え?悩んでる?このひょっとこ踊りしてる奴が悩んでいるだって?」

 

「流石は雫ちゃんだな…実は…」

 

「マジで悩んでたのか…」

 

「オイ服部。お前長いことコイツの相手してんだからいい加減慣れろよな」

 

 

ホテルの談話室的なところで、ひょっとこ踊りで自分の内心を隠していた総司の足掻きを見事に看破した雫によって、イツメンによる会議が始まろうとしていた。

 

 

「…ほう、あの一年は北山との模擬戦をお望みと」

 

「私はいいよ、受けて立ってあげるから」

 

「北山、総司が悩んでいるのはそこではない…そうだろう?」

 

「おおよそ、自分すら凌駕しうる身体能力を持っていることを問題視してるんだよね」

 

「…そうだよ、それに彼女、雫ちゃんを泥棒猫とか言ってたし、事故に見せかけてそのまま殺す気かもしれない…」

 

 

思い詰めた表情をする総司。なら受けなければ良いじゃんという男性陣の意見は、受けないと不意打ちで雫ちゃんに牙を剥くかもしれないという総司からの不安の言葉に、掛ける言葉を見失ってしまった…そんな感じで若干暗い空気の男性陣を見て、雫を含めた女性陣がコテンと首を傾げている。その仕草に各々の恋人が彼女の可愛さで心臓が止まってしまう。苦しそうに胸を押さえる三人を余所に、ノーダメージであった範蔵が質問をする。

 

 

「どうしてお前達はそこまで余裕そうな顔をしているんだ?」

 

「だって…北山は総司の速度は見切れるはずよ」

 

「「「「すげぇ…?、は?え?嘘だ!?」」」」

 

 

男性陣は彼女達が能天気なのだとばかり思っていたのだが、千代田から飛び出てきた発言に驚きの表情を見せずにいられなかった。ただの人間が総司の速度を見切れるはずはない。そう思い立った男性陣…特に総司はすぐさま行動に移した。彼は立つこともなく、ノーモーションで雫の背後に回ろうとする。そして彼女の後ろに立った…そう思った時総司の目の前にあったのは、雫から向けられている指鉄砲だった。

 

 

「やべえ!マジじゃん!?雫ちゃんパネエ!」

 

「嘘だろ…?俺達ですら何処に移動したか気づくのにしばらく掛かるのに…」

 

「総司君は自分一人で移動する時、高速で目的の場所に行くクセがあるから…目が慣れちゃった」

 

「「「「いやそうはならんやろ!?」」」」

 

「「「なっとるやろがい!」」」

 

 

尚も否定する男性陣に女性陣の一喝が飛ぶ。とりあえずしみったれた顔をするなとのことだ。

 

 

「とりあえず、今は北山さんに直接挑戦状を出せないビビりの一年の話はもう良いの」

 

「言い方ァ…」

 

「今私達が話し合わないと行けないのは、明日からの九校戦の事よ」

 

「そういやあーちゃん会長以外の三年幹部いるな」

 

「…コホン、とりあえず一旦は不二原の話は忘れよう。そこまで話したいなら九校戦の話をするが…結局の所、アイス・ピラーズ・ブレイクは確実に勝ち上がるだろうし、ロアガンはキツいって話ぐらいしかできないだろう?」

 

「そうじゃなくて、どうして三高のクリムゾン・プリンスがアイス・ピラーズ・ブレイクに出ようとしたのかって事を話し合いたいのよ」

 

「…はあ」

 

「何よ!?」

 

「おまえ、ルール確認してないのか?」

 

 

千代田の無知っぷりに呆れながら、範蔵は端末を操作し、今大会のルールを見せる。そこには…

 

 

「…『競技の進行が困難になる程の防御を禁ず』…!?これって!」

 

「おそらくは総司対策だろうな」

 

「こんなの誰が!?」

 

「そりゃ、烈爺でしょ」

 

「アンタね、その呼び方心臓に悪いからやめなさいって!…でもどうしてそう思うの?」

 

「だって先輩、この九校戦の正式名称知ってますか?『全国魔法科高校親善魔法競技大会』ですよ?魔法を使わずに優勝した人に文句を言わない人が居たと思いますか?」

 

 

明らかに総司だけを縛るルールに千代田が文句を言うと、どこか怒っている雫が説明を始めた。どうやらあの試合の後、魔法を使用せずに戦っていた事が何処かから漏れたらしく、総司の生まれもった身体能力と異能の事を、『ズルい』だの『卑怯』だので片付けて文句を言う奴が多すぎたらしい。総司にとってはそれらの要素は『伝統派』にウザがらみされる理由にもなっているので、苦労の種とも言える。それに対して不躾に文句だけを言う奴らが雫には許せないのだ。しかし対称的に総司はそりゃそうだよな、と納得していた。なので総司の評判を心配した烈老師が競技委員会に頼んでルールに一部追加をしてもらったのだ。

 

 

「でもこのルールってちゃんと読み込まないと分からない様に小さく書かれてるから、花音が気づかなくても仕方ないとは思うよ」

 

「まあ俺も烈爺から直接言われなきゃ知らなかっただろうし」

 

「…毎年ルールを律儀に確認している俺が間違っているのか?」

 

「安心しろ服部。お前はよくやってる、恋愛以外はな」

 

「一言余計だ、はっ倒すぞ」

 

 

再び彼女いない煽りをされた範蔵が青筋を立てながらも総司に質問をする。

 

 

「しかし、お前。その条件であの一条将輝に対抗できるのか?お前の情報強化に異能を合わせれば容易だろうが、逆に異能をフルに使えなければ厳しい相手だぞ」

 

「大丈夫、心配するなって」

 

 

笑いながら心配は無用だと宣言する総司。雫以外の一同が、総司の能天気な発言に不安になったその時、

 

 

「「「「…!?」」」」

 

 

突如として一同を『圧』が襲った。それは何か見えない物…というより、形のない膨大なサイオンに感じた。そしてその『圧』の発生源に全員が目を向けた。

 

 

「…俺は負けないよ」

 

 

何処か機械的な笑みを浮かべた総司が、いつの間にか金色に変色した瞳で一同を見つめていた。

 

 

「明日は試合もあるし、俺は寝る事にするよ…まあ、寝る程疲れてるワケじゃないんだけどな」

 

 

椅子から立ち上がり、そのまま自室へと向かって行く。そんな総司の様子を見た雫は…

 

 

「アレは…誰?」

 

 

そう、言葉をこぼしたのであった…

 

 

 


 

 

 

翌日…

 

 

 

「さあ、元気よくやっていこうか!」

 

「「「「「……」」」」」

 

「…え?なんでみんなそんなテンション低いわけ?」

 

「みんな疲れてるんだよ、そっとしといてあげて」

 

「そう…?昨日はそうじゃなかった気がするけどなぁ…花音先輩・啓先輩、紗耶香先輩・武明先輩ペアは、昨日はお楽しみでしたねで片付けられるんだけど…ねえ」

 

「おう、また性懲りもなく俺煽りか?いい加減喧嘩買うぞ?おん?」

 

 

一高テントで意気揚々としている総司を見た一同は、昨日最後に見せたあの謎の迫力が総司から消えている事に、内心安堵していた。その安堵ぶりたるや、総司の煽りに動揺せずに即座に反応できるほどだ。此処で反応できなかったら範蔵は総司から体調を心配されていただろう。そんなことで体調の異変の有無を判断するな。

 

 

「今回のアイス・ピラーズ・ブレイクは、一条将輝以外敵ではない。思いっきり暴れてくるんだな」

 

「おうともよ、達也!深雪ちゃんもファイト!」

 

「ええ、お互い頑張りましょう総司君」

 

 


 

 

男子アイス・ピラーズ・ブレイク本戦会場…

 

 

一人の男子生徒は汗を流していた。理由は眼前にいるワケの分からない格好をしている男だ。ほぼ水着のような服を着用し、そして頭にはヒヨコのかぶり物をした対戦相手…橘総司の実力に恐れ慄いて居るのだ。

 

 

「(ック、何だよコイツ、強すぎる!魔法が全然効いている様子はないし、俺の氷柱は魔法の気配も何もないただの拳圧で破壊されている…いやどういうことだよ!?)」

 

 

総司の戦い方は、以前にも言及したように、圧倒的な出力の『情報強化』で防御しながらの、拳から放たれる衝撃波による攻撃だ。此処で使用されているのは単純な『情報強化』だけ。猿まねをするだけなら全魔法科生が可能だろう。問題があるとすれば、『情報強化』が論外な出力をしているという点と、そもそも普通の人は魔法無しで衝撃波を生み出せないという点だ。

また、ルールに追記されたのは『競技の進行にが困難になるほどの防御を禁ず』である…つまるところ、攻撃に異能を用いても全く問題無く、男子生徒側の防御術式をいとも簡単に破ることができていた。

 

 

「(これが…『一高の暴力兵器』…!」

 

「なんか不名誉な名前をつけられている気がするピヨねえ…」

 

 

総司の猛攻に耐えられるはずもない一般男子生徒は、ものの一分程度で敗退を決められてしまった…




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・雫の強化:実は単純な実力だけでいえば、かなりの上位に位置する。本作では基本的に殆どのキャラがアッパー調整を受けているが、雫はそれが分かりにくい。範蔵と同じでオールマイティに能力が上昇しており、不意打ち込みとはいえ数字落ちトリオを一人で制圧できる実力を有している。因みに予定だと雫はまだ強化入ります。


・総司の様子の変化:これが起こり始めた理由として、総司の中にいる神の人格が無意識の領域で未来予測を行い、達也もしくは総司によって世界が滅びかける可能性が浮上してきた為、予定を前倒しして総司を乗っ取ろうとしたと言う理由がある。今回は束の相談で、雫の身の危険に恐怖していた隙を狙われた。一晩経ってその隙も埋まった為、今はなりを潜めている。


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スティープル・チェース編 その七

結果として、深雪と総司は圧倒的な試合によって、予選を突破した。しかし、それに対してあまり一高首脳陣は喜びの感情を見せなかった。それはやはり、前予想の通りにロアー・アンド・ガンナーの上位を他校取られ、特に一位を七高に独占された事が大きいだろう。一高は男女ともに四位であり、ポイントはゼロだ。

 

 

「…やはり、ロアガンには森崎を使うべきだったか」

 

「それを今議論しても仕方ありません。私達の見通しでは三高は一条将輝さんをモノリス・コードに出場させると思っていたのです。それに本戦モノリス・コードは、スティープル・チェース・クロスカントリーを除いて一番ポイントが高い競技です。そこに全力を尽くすというのは間違っていなかったと思います」

 

「…だが」

 

「ちょっとみんな~!そんなへこたれてちゃダメだぞ?」(甲高い声)

 

「「「「…」」」」

 

「こんな時は、僕と一緒にぴえヨンブートキャンプで汗を流そうじゃないか!」(甲高い声)

 

「「「「遠慮します」」」」

 

 

範蔵が今更森崎をモノリス・コードの選手に登録した事を後悔していたのをたしなめるあずさ。彼女は気こそ弱いが、真由美の姿を見てきただけはあり、最低限の生徒会長としての威厳を持っている。二人の会話に他の首脳陣が口を挟むこともできなかったその時だ、まだ変態的な格好をしているバカがアホな提案をしてきたのは。

 

 

「というか、あのなあお前。なんでそんな格好で競技出てたんだよ」

 

「別に良いじゃん、ピラーズ・ブレイクってコスチューム自由でしょ?」

 

「確かにそうだが…そう言った事が大々的に行われていたのは女子の方だけでな…」

 

「じゃあ俺が前例となれば実はコスプレしたかった男子もできるようになるじゃん」

 

「…それはそうだな。だが、お前のそれは何のコスプレなんだよ」

 

「え!?苺プロの稼ぎ頭たるぴえヨンを知らないのか!?」

 

「なんでさも一般常識かのように語ってるんだよ!?」

 

 

肩で息をする範蔵。いつもツッコミお疲れ様です。

そんなのを端において、総司が話し出す。

 

 

「七高が水上競技で強いなんて今回に始まった事じゃないだろ?去年のバトル・ボードだって摩利パイセンと事故りかけた先輩も七高で優勝候補だったワケじゃん?寧ろ去年のせいで七高を俺達が蔑ろにしすぎただけなんだと思うぞ」

 

「……」

 

「…?どしたんパイセン」

 

「いや、お前そんな事を覚えてたんだな…」

 

「ははは、ぶっ殺すぞ?」

 

 

範蔵と総司のやり取りは、一見すると普段と同じように見える。だが、範蔵は確かに困惑していた。総司の記憶力にだ。彼は本当に興味のないことには記憶の容量を全くと言って良いほど割かない。そんな彼が、摩利が事故に遭いそうだった事を記憶していても、その相手が誰かまで覚えていただろうか。あの時、もし摩利が怪我をしていたなら覚えていたのかも知れない。だがあの時、摩利が怪我をせずにすんだのは、他でもない総司によるものだ。

一年以上彼と絡んでいる以上、流石にこれぐらいのことは見抜ける。よって一高首脳陣…あずさはあまり絡みがないのでノーカンとする…は全員違和感を覚える。そして彼らが違和感を覚えたとするならば…

 

 

「…確かに、妙だな」

 

「でしょう達也さん?総司君があんな事覚えてるはずがないよ」

 

 

幹部テントをのぞき見している二人、達也と雫。この二人、特に雫は総司との繋がりは尋常ではない。達也も、過去に自身の叔母から警戒するように申しつけられた事によって、総司を注視していた事が功を奏しているのだろう。他のメンバーが違和感程度に感じている事柄を、明らかに異常であると結論づけた。何も知らない人が聞くと、流石に総司をバカにしすぎだと感じるだろうが、実際それぐらいバカなのだから救いようがない…のは置いておいて。

 

 

「…実は、九校戦のルールが変わったり、競技が変更されたりした頃あたりから、違和感は持っていたの。でも確信に至ったのは今日の昼頃。会話が明らかにいつもより理知的になってる」

 

「雫は、これをどう見ている?」

 

「総司君が賢くなった…それで済ませればいいんだろうけど、十中八九神絡みの案件だと思う」

 

「もしかすると…総司の中の神は、乗っ取りを画策するのと同時に、総司の人格との統合も狙っているのかもしれないな」

 

 

達也の考えついた可能性、それは神の人格が総司を乗っ取れなかった経験を元に、乗っ取るのではなく統合するという道も試しているのかも知れない…というものだ。仮に再度試みられるであろう主導権の乗っ取りが失敗しても、本来の人格と混ざりあっていれば、神の人格の目的に沿うように誘導すれば、実質的に乗っ取られたのと同じ、神の肉体を神に獲得されてしまうということになる…そうなったとき、人類がどうなるのかは誰も予想が付かない、何せ神など信仰の対象であり、本当に降臨して良い存在ではないからだ。

だが、当の本人はそのリスクを話されても「問題無い」の一点張りだ。おそらくは本人がそう考えているのに加えて、若干統合しかけている神の人格が、そう思うように思考を誘導している可能性まである。

だから今は…

 

 

「…総司君」

 

「静観するしかできない…か」

 

 

テントから出て行こうとする総司に見つからないよう、身を隠す二人。その二人に見えない角度で、総司の口元だけが歪に弧を描いた…

 

 

 


 

 

次の日、一高の成績はアイス・ピラーズ・ブレイク男子ペア三位、女子ペア一位。シールド・ダウン男子ペア一位、女子ペア予選落ちという結果に収まった。特にシールド・ダウンの女子が予選落ちというのは予想外の出来事であり、雫と千代田のペアがピラーズ・ブレイクで優勝した事をすら祝う雰囲気ではなかった。総司が狂ったように踊って祝っていたが、それに続く者は居なかった。しかし夕食終わりに達也の作業車に全員で集まった時、始めてみんなが祝いはじめた。

 

 

「お疲れ様雫!絶対勝てるって思ってたよ!」

 

「当然。あの程度の敵、私と千代田委員長のコンビの前には塵芥も同然…」

 

「別の選手の事塵芥って言うのはやめなさい!」

 

 

千代田からのツッコミチョップを「いて」と受ける雫。夕食の席で盛り上がらなかった分、達也が作業している横で宴会のような雰囲気でワイワイし始めた一同。そして話題は明日の試合の話へと移る…

 

 

「明日は深雪と総司さんの試合だね、二人なら絶対優勝できるよ!」

 

「当たり前だろ、俺と深雪ちゃんと雫ちゃんが負けるわけがない」

 

「さりげなく雫入れてるのは相変わらずって感じ…」

 

 

ほのかの激励に総司が答える。その返答の仕方に総司らしさを感じて苦笑してしまうエリカ。総司の様子におかしな所は見受けられない。

 

 

「でも、総司の方は一条将輝だろう?防御に異能を使えないなら、かなりきついんじゃないか?」

 

「それパイセン達にも言われたわw」

 

「そりゃ言われるだろうなぁ…実際どうやって倒すつもりなんだ?」

 

「そりゃ簡単でしょ」

 

「?」

 

「「!」」

 

 

来た…!達也と雫は内心で身構えた。総司の雰囲気が変わったのに気づいたからだ。

 

 

「…誰が相手でも、徹底的に叩き潰すだけだよ」

 

「「「「「!?」」」」」

 

「「……」」

 

 

またあの『圧』だ、雫はそう思った。そして話を聞かされていた達也も「これが…」と思っていたぐらいだったが、他の面々は面食らっていた。総司の目は、変色していないはずなのに金色に輝いているように見えた…

 

 

 


 

 

四日目…男子ピラーズ・ブレイク、決勝戦…!

 

 

「…橘総司!」

 

「人違いです」

 

「…いやお前っていうか、君なんで!?」

 

 

一条将輝の目の前に立つのは、身長158cmの少女…というか、北山雫に『仮装行列(パレード)』で変身した橘総司であった。




魔法科世界の秘匿通信


・女子ピラーズ・ブレイクがコスプレ会場的になっているのは、自分の一番やる気がでる服装で参加できるというルールがあるから。故に総司の一番やる気の入る格好は、雫そのものであった。



はい、三日目は総司の異変を知らない人達に総司の現状を知ってもらう為に犠牲になりました。次回は一条との戦闘が始まります。

後、アンケートは締め切っておきます。魔法を使えるようになるかもなのに、分からないままなの草生えますよ


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スティープル・チェース編 その八

最近いい話が書けなくなってきたな…


「いいからとっとと始めよう」

 

「…その格好どうにかならないのか」

 

「この姿が一番俺のやる気を沸き立たせてくれるんだ」

 

 

ざわざわと騒がしい男子ピラーズ・ブレイク会場。彼が最初雫の姿で出てきた時、「男なのに女の格好して恥ずかしくないのか!」などと言う実に前時代的な発言が飛んで来て、かの有名な「女装とは最も男らしい行為である」という反論をして、そういった野次を黙らせてはいたのだが、やはり静かにはならないのがスポーツ観戦というものだろう。

観客席は、次世代十師族でも圧倒的な力を発揮するだろうと思われている将輝と、その対面に位置する異様な魔法科生の試合を心待ちにしていた。

 

 

そうして、試合開始を合図するランプが灯った…!

 

 

「ふっっ!」

 

 

先手はやはり、拳を突き出すだけで攻撃を行える総司であった。見た目が雫の為、腕は細い。しかしそこから出ているとは到底信じがたい威力の指向性を持つ風が将輝の氷柱を狙う。

 

 

「…そう来るだろうなと思っていたよ」

 

 

バン!という破裂音と共に、その風は見事に霧散した。会場が騒然となる。今まで相手の防御を無効化して氷柱を確実に倒していた風が、防がれたのだ。そしてその理由を、観客席にいる総司の仲間達が考察する。

 

 

「総司君の攻撃を防いだ!?」

 

「総司の奴、異能の使い忘れとかじゃねえよな?」

 

「流石にアイツでもそんなことはしないだろう。…あれは、去年も使っていた『偏倚解放』だな」

 

「確か…空気を圧縮し破裂させ、その爆風を一方向に与える魔法でしたか?」

 

「そうだ。そして、この『偏倚解放』は総司の異能では防げない」

 

「…総司の異能は魔法そのものに対して発動する。だけど既に魔法によって生み出された現象は対処出来ない。既に爆風が生み出されているから、総司が風に異能を乗せても届く前に押し返されるんだ…!」

 

「そんな…!じゃあ総司さんの攻撃は届かないってことじゃないですか!」

 

「一応、魔法とただの物理攻撃により発生した自然現象という違いで、一条のサイオン切れまで粘れれば、総司の勝ちが見えてくるだろう。だが…」

 

 

達也が試合の方へ目をやると、二人のファーストコンタクトはどこへやら。方や将輝は特化型CADを相手に向けて、総司は右の掌を相手に向けて、そのまま睨み合っていた。端から見れば二人とも何もしていない様に見えるだろう。だが実際は…

 

 

「マズいな…一条の攻撃に対して、総司が完全に受け身になってしまった」

 

「あの…もしかしてお二人は…」

 

「一条は総司の氷柱に『爆裂』を行おうとして、総司が今なお上乗せしている『情報強化』を破れないでいる。…しかし一条の干渉力は総司の『情報強化』の強化倍率よりも高く、そして早く上昇している。総司ですら集中しなければ一条からの干渉を防ぎきれないのだろう」

 

 

そう、達也の推測通り、将輝の干渉力は想像以上に高かったのだ。防御に異能を使ってしまえばルール違反になってしまうここでは、総司は『情報強化』でやり過ごすしかない。だが圧倒的なサイオンから形成されるそれを、将輝は乗り越えるべく、サイオンだけの大雑把な『情報強化』を技術を伴った魔法で突破しようとしていたのだ。流石は十師族のエリートと言った所だろうか。並の魔法師であれば、総司の『情報強化』を破るどころか拮抗する事など出来はしない。

 

 

「(マズいな…このままだと押し負けてしまう…)」

 

 

総司は将輝を侮っていた訳ではないが、自分の力を過信していた事に間違いはないだろう。総司は今まで『情報強化』はおろか、サイオンの使い方すら知らなかった総司にとって、身体能力と違い自分の魔法の限界をまだ知らない。そして、未だ細かい調整をできない総司は力で押しつぶすしかない…だが、よくスポーツの試合などで言われるように勝負には、心・技・体が揃っていなければ勝てないと。

 

そして…バァン!!という轟音と共に、総司側の氷柱が一つ破壊されてしまった!

 

 

「なっ…!?」

 

「総司様!?」

 

「行け、将輝!」

 

 

一高側の人間は、目の前の出来事に驚愕で満たされた。この中で最も驚いていたのは、雫…ではなく、雫程の理解度を持ってはいない琢磨と束であった。琢磨は総司が展開していた暴力的なまでの『情報強化』を突破して見せた将輝の実力に、束は全能と崇めてすらいる総司が押し切られた事に。

 

そして反対に、歓喜の渦が巻き起こったのは三高側だ。彼らは将輝を信じていなかった訳ではない、寧ろ勝てると信じていたが、実際に勝てそうな状況になっているとボルテージが上がるというものだ。特に吉祥寺はガッツポーズを決めて喜びを露わにしていた。

 

そして会場もざわめきと共に、このまま将輝のではないか?という雰囲気になっていた。

 

 

「どうした、橘総司。お前の実力はそんなものなのか?」

 

「…」

 

 

…将輝に煽るという目的はない。彼は本当に総司がまだ何かを隠し持っているのだと思っている。だが、総司は言葉を返せない。何故なら彼は本当に何も持っていないからだ。『情報強化』しか防御策がない総司は、将輝がサイオン切れになるという一縷の望みに掛けて耐えきるしか方法は無かった。

…総司は異能がなければ魔法に対して無力なのだ。

 

 

「総司君!何へこたれてんのよ~!」

 

「一本ぐらいで諦めてんじゃねえぞ総司!」

 

 

エリカとレオが檄を飛ばす。総司は立ったまま脱力しているように腕を揺らしている。それは、端から見れば絶望して諦めたかのように見えるだろう。しかし、総司の心とは反して、体は魔法を行使していた。反撃に回った瞬間に全ての氷柱を破壊されてしまうであろう状況で、総司は相変わらず全力で『情報強化』を掛けるしかない。

一高の生徒達は普段とはまるで違う総司を見て、応援すらでき無い者もちらほら居る。特に一度助けられ、総司を絶対的な強者として見ている七草の双子などがそうだ。

 

 

「しずっ…!総司さん、頑張って…!」

 

「…頑なに北山の姿を取り続けるのか」

 

 

そう、まともに使える魔法を突破され、反撃の兆しが見えない中でも、総司は『仮装行列』を解除せず、雫の姿で居続けた。その在り方は、親友たるほのかが一瞬呼び間違えてしまうほどだ。今の総司は、総司であって雫のようにも見える。

 

そうしてやがて…

 

 

バァン!!!

 

 

「…ラスト一本!」

 

 

会場の熱気は最高潮に達していた。魔法を知らない者が見れば二人の人間が向かい合い、しばらくすると女子に近い方の氷柱が破裂していくだけなのだが、魔法を少しでも知っているのならば、圧倒的な力とそれを打ち破る技の応酬が見て取れていた。

…会場の空気は、もう将輝の勝利を確信していた。まだ将輝の余裕はある上に、総司の氷柱は後一本、対する将輝は全て健在だった。勝負は確定した、誰もがそう思った。

 

 

「…?」

 

「「…!」」

 

 

そんな中で、今まで顔を俯かせていた総司が顔を上げ出す。その様子に、対面の将輝はまだ何かあるのか?と反撃を期待し、達也と雫は…

 

 

「「…マズい!」」

 

 

目を黄金に輝かせた雫(総司)の姿に、()()()()()()()()()と臨戦態勢を取る。

 

 

「…解析完了」

 

 

総司の口から機械的に発された声と共に、フィールドを覆っていた膨大なサイオン流が止まる。総司が『情報強化』を解除したのだ。少しの様子の変化には気づいたが、明確な異常が総司に起こっている事を認識できていない。諦めたのか…と失望感に苛まれていた…そんな事をしている余裕などないというのに。

 

 

「…適切な対処法へシフト。『情報強化』から『再生』のループキャストに変更」

 

 

諦観と共に将輝が放った『爆裂』は確かに氷柱に命中し、その形を粉々にしていた…()()()()()。将輝が疑問に感じ、何度もトリガーを引く…しかし、それは全て無意味だった。何度やっても総司の最後の氷柱は砕けなかった。

 

 

「…一体何が?」

 

「…『再生』のループキャストだと!?」

 

 

美月の疑問は、半ば独り言のような達也の言葉によって返答をもらうことができた。そしてその返答はその場の仲間達を、特に深雪を大きく驚かせる形となった。

それは一体どう言うことなのか、それを深雪が達也に問おうとしたとき…!

 

 

「…対処の効果を確認。続いて対象の撃破に移る。…対象の氷柱をターゲットとして、『()()』の発動を実行」

 

 

その瞬間、将輝の氷柱が轟音と共に全て破裂した。

 

 

「…な」

 

 

判定機器は正しくこの結果を読み取ったようで、会場の画面は総司が勝者であることを告げる。

自分の家の秘術たる『爆裂』を、親族的な関わりのない目の前の相手が使ってきた事に、将輝の体は硬直した。

 

 

「……」

 

 

そんな将輝に目を向けることなく、総司は早々に控え室へと向かって行った…

 

 

 


 

 

「総司君!」

 

「総司!」

 

 

急いで総司の控え室に向かった一行は、そこで異常な存在を目にする。

 

 

「…疑問、『仮装行列』の解除に難航。原因推測…個体名『橘総司』が抵抗しているものと断定」

 

 

そこに居たのは、総司であり雫であった。より正確に言えば、半分総司の半分雫と言える存在である。半分と言っても別に中心で真っ二つに分かれているのではなく、雫という『外套』にできた綻びから総司という『中身』が出てきている、それが直感的に肉体の半々を占めている様に感じるのだ。

 

 

「ひっ…!」

 

「なんと面妖な…」

 

 

雫の友たるほのかと深雪は、しかし二人のそれぞれの感性から違う反応を見せる。ほのかは単純にあまりの不気味さから、深雪は不気味さよりも歪さに驚いていた。総司の体格は男性の平均的なものであるのに対し、雫の体格は女性の平均でも華奢と呼べる程だ。そこには誤魔化しきれないほどの確たる差があり、その差は特に現在の総司の顔を見れば分かる。やはり総司の意思が多めに抵抗の意思を示しているのか、顔の大半は『仮装行列』で作成された雫のテクスチャが貼られているが、総司から見て左側の顔が総司に戻っている。二人の顔のサイズの差から放たれる異質さは並大抵のものではなく、美月に至っては今にも気絶してしまいそうな程に顔面蒼白だ。

 

何故こんなことになっているのか、雫や達也達には分からないが、総司…の中にいた神の人格とおぼしき存在の発言から察するに、総司が抵抗をしているのだろう。恐らく体は乗っ取られているのだろうが、本人が先程将輝に言った「この格好は一番俺のやる気を出してくれる」という発言はあながち間違いではなかったようで、『仮装行列』が解かれることに全力で抵抗している証なのだろう。

 

 

「…術式そのものへの干渉、失敗。対象の『異能』によって防がれたと推測…続いて対象の精神を取り込み…」

 

 

再び総司と雫を掛け合わせたような『ナニカ』の姿をした存在がブツブツと呟き、再び何かしらの行動をしようとしているときに、雫のテクスチャが生き残っている左拳が握りしめられる。それに気づいた様子がない『ナニカ』はそのまま左側の総司と化した顔に、とんでもない威力を持つ左拳が叩き込まれた。

 

一瞬衝撃を受けた姿勢で止まり、突如バグったかのような奇天烈な挙動をしたのちに、総司の姿が完全に雫のものに変わる。それは『仮装行列』が正しく展開されたことに変わりない。

 

 

「総司君、大丈夫!?」

 

 

倒れ込む見た目だけは自分自身となっている恋人に、酷く泣きそうな顔で声を掛ける雫。その声を聞いたのか、『仮装行列』を自分の意思で解除した総司は、力なく笑い返したのだった。

 

 

そして、その状況を式を使って確認していた者が一人…

 

 

「残された時間は長くない…北山雫と決着を付けて、どちらが彼の隣に…彼を救うのにふさわしいか早々に決めなくては…!」

 

 

束は一人、決意を固めた表情で会場を去った。




魔法科世界の秘匿通信



・総司の焦燥につけ込んで一時顕現。肉体の操作権を得る。試合中殆ど俯いていたのは、総司が最後まで抵抗していたから。気づけばラスト一本まで追い込まれていた状況に更に焦ってしまった総司を横目に、主導権を握った。



・一番やる気のある格好をしていたお陰で乗っ取られなくて済んだ。これは『仮装行列』で着込んだ雫のテクスチャを、自己暗示で雫そのものであると自分に誤解させることで抵抗を可能にした。だがそれは、総司の愛ですら、神は容易に超えかねないと言う事である。


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スティープル・チェース編 その九

来年が楽しみですね!


「…そっか、碧ちゃん勝ったんだ」

 

「その呼び方続けてると、沢木先輩に殺されるよ」

 

「ないないw俺の方が強いから」

 

 

四日目の夜、部屋で横になっていた総司に今日の試合の結果を報告する雫。本日の結果はピラーズ・ブレイク、シールド・ダウン双方のソロ男女で一位を獲得するという破竹の勢いだ。三高のエース、一条将輝を抑えた総司の活躍もあり、一高は百点以上離れていた点差は四十点近くまで迫った。

 

 

「…本当に大丈夫なの?」

 

「大丈夫…じゃないかな」

 

 

力なく笑う総司…いや、雫の姿をした総司と言おうか。彼は今、自身の内なる神の人格を抑えるため、気合だけに頼るのではなく、外殻を補強する目的で先程効果が見られた、『仮装行列』を用いた自己暗示による精神強度の底上げを行っていた。この行為を提案してきたのは達也と深雪であった。達也は『精霊の眼』で、深雪は精神干渉魔法に対する深い理解を有しているからの意見であった。

 

 

「にしても不思議…自分自身が目の前にいるのに、貴方を正しく見分けられる。所作が男らしいというのもあるけれど…やっぱり愛の力っていう物なのかな」

 

「雫ちゃん…」

 

「…雫」

 

「え?」

 

「ずっと…今までずっとちゃん付け。他の子に対しても。…私だけ特別扱いしてくれてもいいんじゃないの?」

 

「…それは」

 

 

総司はそう言われてハッと気づかされた。総司は確かに女子に対してちゃん付けする事が多かった。それは施設に入っていた時の癖のようなものだったのだが…

 

 

「ゴメン…雫」

 

「…!謝る必要なんてないよ、総司」

 

 

付き合ってもうじき一年となる二人は今日この日、本当の意味で恋人になれた気がした。

 

 


 

 

「大丈夫ですか総司先輩。生きてますか?」

 

「生きてるわボケェ!」

 

「…それなら、そこで泣いてる北山先輩に言ってあげてください」

 

「…は?」

 

「…総司!」

 

 

ふと総司が気が付くと、横になっている自分を見て軽口を叩きながらも、心配そうな表情をしている琢磨と涙を流している雫が眼に入った。総司が起きた事に気づいた雫が涙の勢いを増しながら抱きつく。その状況に総司は困惑していた。

 

 

「気が付いたか、総司」

 

「達也…?」

 

「…お前、四日も眠っていたんだぞ?」

 

「…何だって?」

 

 

部屋に入ってきた達也からの説明を受ける総司。達也曰く、新人戦の日程は全部終了したとのこと。新人戦はペア競技だけなので短い日程で終了したらしい。ロアガンでは男女一位、シールド・ダウンは男子三位、女子一位。ピラーズ・ブレイクは男子三位、女子一位。ミラージ・バットは検討むなしく二位。四高の黒羽亜夜子は強かった。そして…

 

 

「…優勝できたんだな、琢磨」

 

「当たり前ですよ…貴方の後輩なんだから」

 

 

モノリス・コードは一位。四高の黒羽文弥は双子の姉と同じく強力な魔法師であったのだが…

 

 

~回想~

 

 

「くらえ!ダイレクト・ペイン!」

 

「グヘェ!?」

 

「アバァ!?」

 

「よし!あと一人だ!くらえ!」

 

「こんなん効く分けねえだろうがよ!(気合)」

 

「何だこの化け物!?」

 

「お返しじゃゴラ!『ミリオン・エッジ』!」

 

「やな感じ~!」

 

 

~回想終了~

 

 

と、琢磨がそれを上回る魔法師であったと言う事で、問題無く勝つことができた。因みに誰も見ていないところで文弥が達也に泣きついたとかなんとか。兎にも角にも。

 

 

「明日の競技って何だっけ?」

 

「ミラージ・バット本戦とモノリス・コード本戦の予選だな」

 

「そっか…もう大詰めだな」

 

「体調の方は大丈夫か?」

 

「問題無い…って言って良いか?」

 

 

総司は力なく笑う。やはり全快には程遠いようだ。仕方ないという風に頭をふった達也は、琢磨を連れて部屋を後にした。そして、部屋には雫と総司が残る。

 

 

「雫…心配かけたな」

 

「大丈夫だよ、信じてたから」

 

「今にも泣きそうな顔で言うなよ…」

 

 

目に大量の涙をため込んだ雫が総司の手を握りしめる。その様子に思わず笑ってしまった総司だったのだが、そこでふと気づいた事がある。

 

 

「お前…それ」

 

「…ああ、これね」

 

 

雫の首にネックレスのような物を見つけた総司はそれは何だと質問する。そして彼女がネックレスを外して総司の前に持ってきたとき、総司は驚愕で目を見開いた。

 

 

「…おい、これって!?」

 

 

そのネックレスには、貝の様な物が付いていた。そう、束が所有していたレリック、蓬莱の薬を染みこませた燕の子安貝を用いたネックレスであった。以前、これがとても大切な物だと言っていた束がこのネックレスを手放している事実には驚きしかない。

 

 

「どうしてこれを…?」

 

「…それはね」

 

 

そうして雫は、何故このネックレスを所有しているのかを話し始めた…

 

 

 


 

 

総司が眠って二日目の事であった。

 

 

「…どうも、北山雫さん」

 

「不二原さん」

 

 

後輩の雄姿を見届けた雫は、足早に部屋に戻って総司の様子を見に行こうとしていた。しかしそれを阻む声が。その主は何を隠そう不二原束であり、その表情は重かった。先程ピラーズ・ブレイクに出場していた彼女であったが、優勝者である泉美に完封されてしまい、随分と落ち込んだ様子だ。

 

 

「貴女に、勝負を挑みます」

 

「…勝負?」

 

 

そんな彼女が、雫を睨み付けて提案する。その手には、貝のネックレスが固く握りしめられていた。

 

 

「どちらがあの方にふさわしいかを…ここで決めます」

 

「…私に簡単に勝てると思わないで。言っておくけど、私は貴女がさっき負けてた七草より強いよ」

 

「私だって…!戦闘なら負けないから…!」

 

「…猫かぶりはもうお終い?」

 

「手加減はしない…!あの方は私がもらう!」

 

「悪いけど…総司は私のだから」

 

 

二人の視線が交差し、火花が起こる(気がしている)。…ここに、総司を掛けた戦いが始まった。




魔法科世界の秘匿通信


・総司は今なお神の人格と争いあっている。総司が四日も寝ていたのは、それほどまでに精神世界で追い詰められていたから。



次回は雫VS束の全力勝負です。始めて総司が関わらない戦闘を書く気がする。


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スティープル・チェース編 その十

九校戦会場の敷地、普通自身が出場する競技への最終調整を行う選手が使用する場所だが、今この夜間の時間では誰も居ない…いや、誰も居なくなっていると言った方がいいだろうか。

 

 

「(話には聞いていたけど、何て汎用性の魔法なの…!?)」

 

 

内心で驚愕する雫も、無理はない。今この周囲半径100メートル近くの広範囲が、事前準備もない一つの言葉、束の『近寄るな』という言葉だけで構築された人払いの結界である事は、確かに驚愕に値するものだからだ。

しかもこの結界を維持するために魔法力を割いている様子もない。恐らく一度貼ったらならば術者が解除するか死ぬかまで解除されないのだろう。その持続性も実に驚異的だ。だが、雫は動揺するわけにはいかない。

 

 

「…これほどの魔法が使えるのに、七草に負けたんだね」

 

「…私の魔法は制御が効かない。総司様の為に制定されたルールは私を縛り付ける物でもあったの」

 

 

総司の目の前でもない、最早猫を被る必要がなくなった束は先輩である雫相手にも不遜な態度で言葉を放つ。今回の九校戦に追加されたルールは、確かに総司を違反とする者達からの意見を取り入れた烈老師からの提案により制定された物だが、奇しくもその縛りは魔法出力が常に最大限のパーフォーマンスを発揮してしまう…有り体に言えば手加減ができない束にとって、得意の『言霊』を封じられたと同義だったのだ。…しかし、ここは尋常な果たし合いの場。そんなルールなんてクソ食らえである。

 

 

「今からでも降参すれば命は助けるけど?」

 

「冗談を。貴女から総司様を奪い取る事に、自分の命を惜しむ必要なんてない!」

 

「ッ!」

 

「…!?」

 

 

雫からの挑発に、束は不意打ちで回答した。総司を自分の物にするために手段を選んではいられないといった所か。おおよそ人間の物とは思えぬ速度で駆けた束は、その速度をそのままにして右足での中段キックを放つ。普通の魔法師相手ならこれでチェックメイトだ。だが、その不意打ちは束にとって最も予想外の手法で止められてしまう。束は「自分の命を惜しむ必要なんてない」という言葉に、自己を省みない強化を施す『言霊』を使用した。だが、雫は事前に仲間から彼女の魔法を聞いていた為、常に警戒を怠っていなかった。雫の回答とは…

 

 

「(…振動魔法を腕に掛けて、私の蹴りの衝撃と対になる様に振動を発生させる事で、ダメージをいなした…!?)」

 

 

北山雫は、振動系魔法を得意とする。原作の彼女の代名詞と言えば『フォノン・メーザー』であるが、アレも光波振動系魔法なので振動系魔法の一種だ。であれば彼女が主武装とする魔法は振動系。あのA級魔法師北山紅音の娘である雫、今まで大した戦闘をしてはいないが、その魔法が持つ精度と強度は、圧倒的な力を持つ総司の弱点にはなるまいと励んできた努力の証だ。そして総司からの愛を受ける彼女は、総司から無意識に精霊のバックアップを受けていた。魔法が下手とはいえ総司はかの陰陽師安部清明の子孫。そんな彼が無意識にとは言え雫にバフを与えていた環境で雫は訓練を積んできた。今や彼女は達也を持ってしても崩すのは容易ではないだろう。

となれば束が取れる方法は一つ、『言霊』での直接攻撃である。

 

 

「っ『潰れろ』!」

 

「…!」

 

「なんで!?…うあっ!?」

 

 

防がれたことに驚いた束は、咄嗟に『言霊』による干渉で雫を攻撃しようとする。だが、どういうわけかその魔法は正しく発動せず、逆に雫からの強力な蹴りをいただいた。その蹴りを受けながら、仮にも近接魔法師としても戦う我慢強さでダメージに耐える。そして自分の体に異変を感じ、それによって何故雫に『言霊』が通用しなかったのかが分かった。

 

 

「…ん!?(喉の空気が、揺れてる!?)」

 

 

そう、喉の中に微細な揺れを感じたのだ。恐らく、先程『言霊』による攻撃を行おうとした瞬間、その一瞬だけ束の喉の空気に魔法を掛け、故意に振動させることで言葉を発するのを阻害したのだ。言葉を正しく音として世界に向けて発声できなければ『言霊』は発動しない、その弱点を突かれてしまった。一瞬しか掛けなかったのは、自分の防御方法を悟られないようにするためだろう。だが束も超優秀な魔法師、自身への肉体の異常はすぐに感知できた。

 

 

「…中々やるわね(あの魔法は彼女と私の魔法力を考えると、口の中が見えていたからあの方法が使えたと言う事のはず…)」

 

「…今度はこっちから」

 

「っ来る!」

 

 

束は前方から丸でアニメのビーム砲のような魔法『フォノン・メーザー』が接近してきているのが分かる。この女殺す気かよ!?と内心悪態をつきながら跳躍して避ける束。正直彼女自身も相手を殺す気満々だったが、だからといって相手がすぐに割り切り、こちらを殺しに来るような女とは思えなかったのだ。束の考えは正しいのだが…とある理由から雫は自分が手加減をする必要がない事を重々理解していたのだ。

 

 

「まだまだ…!」

 

「連射速度おかしいでしょ!?」

 

 

雫はこれからが本番だとでも言うかのように、全力で『フォノン・メーザー』を連発してくる。その速度はいくら特化型CADを二丁用いているとは言えども、軽く機関銃と同等の連射力であった。…本来なら此処で、束は気づくべきであった。標的に命中しなかった『フォノン・メーザー』が、背後で空間に阻まれて消失している事に。最も、最初は単なる射程距離の終点であると考えるだろうが。

 

 

「でもこの距離なら…!『吹き飛べ』!」

 

「甘いよ!」

 

「…ウッソ!?」

 

 

充分に距離が離れた今なら、先程のような防御方法は使えないと判断した束は、『言霊』での攻撃を行う…しかし、その内容に反して雫は吹き飛ぶ事は無かった。よく見ると雫は、両腕にリストバンド型の汎用型CADを二つずつ、計四つもCADを装着していた。手に持つ特化型二丁と合せればCAD六台使用だ。そして束の『言霊』を避けた方法だが、まず足を振動させその振動に指向性を持たせる。そして地面をある程度掘ったらそこで地面を直して固定。攻撃が終わったら穴を開けて足を戻す。ただそれだけのことなのだが…その実行速度が異常であった。目にもとまらぬ速さで四台のCADを操った彼女は、『言霊』による命令をイデアが受け取った時点で既に自身の足を固定する事に成功していた。控えめに言って化け物である。

 

 

「…てっきり総司様に頼り切りのお姫様かと思ってたけど…化け物じゃん」

 

「レディに対して化け物呼ばわりは失礼だよ、ママから習わなかった?」

 

「お生憎様、生まれた時から母の顔は見た事も無いね!というか、私もレディなんだけど!?」

 

 

驚異的なCADの操作技術、振動系魔法への深い造詣。これでは『言霊』という反則魔法を持つ自分ですら、魔法だけでの勝負は難しい。となれば、近接である。先程は防がれたことに動揺してしまったが、対応されることを前提に立ち回ればまた結果も変わってくるだろう。そう考える束だが、すぐにこの思考に至らないあたり、実戦経験は意外と少ないのかも知れない。

そう言う思考で近接攻撃を仕掛ける束。だが、雫は身体強化も最小限にとどめ、技術的に束の攻撃を防いで反撃を狙う。その反撃の鋭さは、雫の華奢な外見からは到底予想が付かない程であり、その反撃を回避するのに束は神経を尖らせていた。しかし、『言霊』によって世界からの修正力をほぼ無視して強化を扱える束にとって、それは苦もない事であり…

 

 

「っ!」

 

「取った!」

 

 

こうして自分の体を囮に、高速で背後に回ってからの攻撃は容易い。事実そのフェイントに引っかかってしまった雫は、急いで振り返って反撃を試みる。しかし視線の先にいる束が、既に回避不能な攻撃を仕掛けてきているのを見た雫は、サイオンを両腕の汎用型でも、両手の特化型でもない、胸元の札にサイオンを送りこむ。

 

 

「うわっ!?」

 

 

瞬間、雫と束の前に現われた五芒星から暴風が発生する。それに当たって攻撃に使おうとした魔法が強制的に解除されてしまう束。そう、雫は魔法『神風』を発動する為の札が仕込まれていた。『術式解体(グラム・デモリッション)』と同じ原理で魔法を無効化するこの魔法は、サイオンの塊による隠蔽効果も持っていた。

 

 

「この…!って、居ない!?」

 

 

『神風』の不意打ちを食らってしまい、その間に雫の姿が見えなくなったことに束は動揺する。付近に魔法の気配は一切しない。かといって先程自身が貼った結界から出て行ったという事も感知出来ない。そしてこの場には殆ど障害物がない。なのにも関わらず、束は雫の姿を見失ってしまった。半歩ほど後ずさりして周囲を警戒する束だが、雫の姿は一向に発見できない。不意打ち狙いなのであろうが、一体どこから来るのか束には分からなかったが…一番可能性が高いのは背後である。そして…

 

 

「…!『気絶しろ』!」

 

 

キィィン…と背後で魔法発動の兆候を感じた束は、振り向いて『言霊』で決着をつけようとするが…

 

 

「…!?ぁう…」

 

 

何処からともなく強烈な振動を受ける束。そのまま彼女は脳震盪を起こして気絶してしまうのであった…

 

 


 

 

「…ここは?」

 

「目が覚めた?」

 

 

一体どれ程眠っていたのだろう。束は自分が眠っていた事に気づくと、まだダルさを感じる体を起こす。そこに、雫が声を掛けてきた。そこで束は理解する、「自分は負けたのだと」。

 

 

「…お見事」

 

「まあ、総司君の為ならこのぐらいのことはね」

 

 

悔しさ満点の顔で呟く束の賞賛に、相変わらず無表情に近い顔で応ずる雫。そんな雫を一瞥した後、束は首に提げていた貝のネックレスを外して雫に手渡す。

 

 

「…これを貴女に」

 

「…いいの?」

 

「ええ。このネックレスは所有者が持つ誰かに対する愛情の大きさによって所有者に力を与えます。…そしてその効果は永続です。ネックレスを提げ続けるのは、愛が大きくなった時の更新の為ですがね」

 

 

その説明を聞いた途端、雫は自身の中から溢れんばかりの力が生み出され始めた事を理解した。そして、不思議な万能感を。

 

 

「そのネックレスは魔法力の強化もできますが、一番は肉体の強化です。今の貴女なら、総司様と同等の身体能力を獲得していてもおかしくはないですね」

 

「…私が総司君と同じぐらいの力を」

 

 

そう呟く雫の瞳は、力を得る不安にも、それを悪用しようとする感情も一切見えず、まるで彼氏とのデートが決まった時のような喜びの感情を宿していた。

 

 

 


 

 

「ひえ~、おっかねえ」

 

 

そんな二人を近くの建物の屋上から見下ろす影が。今は姓を名倉に変えた零次であった。彼は結界に対する感受性が強い為、束が人払いの結界を貼った事でそれを察知してこちらの様子を見に来ていたのだ。上での文章で雫が加減なく魔法を撃って居たのは、総司の気配が近づいてきて、それでも勘でそれが総司ではない事に気づいた(となれば当て嵌まるのは零次だけ)雫が、「危険な当たり方をしそうになったら止めに入るでしょ」という腹づもりで、総司の障壁、結界魔法に頼っていたのが大きいのである。

 

 

「…さて、仕事の続きだ。たっく周公瑾の野郎…何処に隠れやがった?」

 

 

零次はそう呟くと、夜の闇に消えていった。




魔法科世界の秘匿通信


・本作での北山雫の戦闘能力は、高い振動系魔法への知識と複数のCADを扱う技術、持ち前の火力とキャパシティで戦う魔法師…でした。束にネックレスを渡されたので、底なしの愛の力で身体能力が大幅上昇。総司と同等の力を得ました。


・決まり手:最後の決着は、『神風』で怯んだ隙に『天岩戸』を発動。どんな状況でもその場を動きさえしなければ絶対に居場所を知られることのない隠蔽魔法を使い隠れ潜み、事前に時間で設定した魔法発動で振り向いた隙に、振動魔法をぶち当てました。簡単に言えば、熱い勝負の末、原作通りの負けた方をしたはんぞー という例えが一番分かりやすいでしょう。


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スティープル・チェース編 最終話

シリアス「いやー最近出番が多くて困っちゃうね、いや別に嫌とは言ってないんだけどさ」


作者「…なら、一つだけ質問させてくれ」


シリアス「なんだい?」


作者「…ギャグとコメディ、どこへやった?」


シリアス「…君の様な感の良い物書きは嫌いだよ」


「…やったなはんぞー先輩、森崎、ダイナソー竜崎」

 

「いや僕の名前は幹比古だ!というかなんだよダイナソー竜崎って!?」

 

「あの遊○王の超有名キャラダイナソー竜崎をご存じでない…?」

 

「いや知らないよ!?」

 

 

九校戦十日目の夜。見事優勝を飾ったモノリス・コード代表達を中心に生徒達がお祭り騒ぎを起こしていた。前日にミラージ・バットでほのかとスバルがワンツーフィニッシュを決めた事も相まって、他校と大きくポイントを引き離すことに成功したからだ。正直油断しなければ残すスティープル・チェース・クロスカントリーでも問題無く勝てると予想されている。唯一気がかりなのは三高で、三高はなんだかんだで三位入賞をしていたりと、実践に大きく比重を傾けている方針ならではの見事な魔法捌きで一高に追いすがって来た。

しかしこちらには、空前絶後、超絶怒濤の天才CADエンジニアこと司波達也がいる。個々の魔法スペックが高い上に本来スペックダウンしているはずの競技用CADの性能を、普段使いのCADよりも使いやすいと選手達に評価される程の完成度までに調整するその腕前。更に発表されたばかりの新魔法や新技術、使える物は何でも使うスタンスの貪欲さは、他校のエンジニアには真似できない、特に実践を重視するが故に高い腕前のエンジニアが少ない(そんなこといったら一高の方が多分少ないのだが)三高との差だろう。

 

今日は明日のスティープル・チェース・クロスカントリーにも出場が決定しているモノリス・コード代表の三人を労ると共に、最終決戦前の景気づけをしている真っ最中だ。そしてその場には、つい昨日までダウンしていた総司も元気そうな表情で参加している。相変わらず幹比古を玩具にするのが楽しいようで、達也から「幹比古の体力がなくなって明日勝てなくなるぞ」と若干無理がある説得をされるまで(総司はバカだからそれで納得しかねない)総司は幹比古をいじり倒していた。

 

 

「明日のスティープル・チェース・クロスカントリー、全く心配事がないな!」

 

「ホントそれ!女子の方は司波先輩達に勝てる人なんて他校にいないし、男子の方で強いのはクリムゾン・プリンスぐらいだもんね!」

 

 

実に上機嫌そうな声がちらほらと聞こえてくる。どうやら九校戦に参加した一年生の声らしい。よく聞かなくても明日の出場選手達を褒めちぎっており、シンプルな尊敬が窺える。その横で話を盗み聞きし、訳知り顔をしながら目を閉じて何度も頷く琢磨の姿…の隣に見える本当にお嬢様なのかと問いたくなるぐらいはしたなく料理を自分の皿にのせる香澄とそれを咎めている泉美のコンビに上級生達は腹を抱えて笑っていた。最早総司の生み出したギャグ時空に一度飲み込まれた双子はボケとツッコミに早変わりして、一高生達の笑いを誘っていたのだ。

 

そんな雰囲気の会場を、一歩離れた場所で眺めながら飲み物をたしなむ男が一人。司波達也である。彼は丸で自らをよくある壁のシミですとでも言うかのように気配を消して、他の生徒との交流を断っていた。事実先程からキョロキョロと、友人と話しながらも達也の姿を探して居るであろうほのかの姿が目に入る。因みに深雪は時折達也の方をチラチラ見ていた。これが差だぞほのか。

このように、親愛なる妹様以外が察知できないように忍びの技をフル回転させている達也。そんな彼に話しかけてきたのは、一人のウェイターであった。

 

 

「よう、司波達也」

 

「…名倉零次」

 

 

達也は一瞬『安部』と呼びそうになったところを寸でのところで彼の現在の姓に言い直す。このシチュエーションは九校戦の前夜祭パーティーの時にも経験しているため、達也は全く驚いていない。しかし彼は、どうして零次が話しかけてきたのかがよく分からなかった為、彼に質問を行う。

 

 

「…俺に何の用だ?」

 

「お前の耳に少し入れておきたい事があってよ」

 

「総司は呼ばなくて良いのか?」

 

「メンタルがボロボロのアイツを呼んでも最悪の事態が起こる可能性を少し上げるぐらいにしかならねえよ」

 

「そうか、それは避けるべきだな」

 

 

二人して壁際を背にして、リラックスする。仮にも以前敵だった者同士、こうやって落ち付かなければ反射で攻撃してしまいかねない。そうしてリラックスを終えた零次は、同じく終えていた達也に話を始めた。

 

 

「…四日前、この会場に周公瑾が現われたとの情報を得た」

 

「何だと?」

 

「そんな怖い顔するな司波達也。重要なのは、何故奴がこの会場に現われたかだ。確かに奴は去年この九校戦で賭博をしていたノーヘッド・ドラゴンの関係者ではあるが、今回に至ってはそう言った組織の介入を認められたない」

 

「…それなのに何故奴が現われたかか…単純に復讐じゃないのか?総司を殺そうとして、俺達に妨害されていただろう」

 

「だがそれは俺も同じだろう?それに少し関わった俺からの推測だが…奴は目的の為なら私情を捨てられる人間のはずだ。となると…」

 

「別の目的がある、と」

 

 

零次と達也は互いに顔を見合わせる。情報がない以上、強者たりえる二人でも策を練ることができない。どんなに対策を講じても、講じた人間が知らない方法をとられてしまえばそれでお終いなのだから。

 

 

「…まあ、互いに充分気を付けておこうぜ」

 

 

周公瑾は九校戦会場にいる勢力を考えれば大した脅威ではない…ならば警戒しておくだけに留めておこうという零次の考えが、明日から始まる地獄の日々の幕開けになるとは、この二人は気づきようもなかった。

 

 


 

 

翌日…

 

 

誰一人として、今回の九校戦に仕組まれた闇を見つけることができないまま、女子スティープル・チェース・クロスカントリーが始まろうとしていた。今朝から嫌な予感を拭いきれないと言う総司の不安は、そのまま雫にも伝わっていた。だが、元よりスティープル・チェース・クロスカントリーはその性質から怪我をしやすい競技だ。雫や他の一高生が怪我をする危険を感じ取ったのではないか、と雫は結論づけた。

 

 

「…本当に大丈夫なの?雫」

 

「大丈夫だよほのか。ここ数日で結構慣れたから」

 

 

ここの二人の会話の意味は、つい先日の雫の提案に由来する。本番を控えた作戦の最終確認の際、雫から『この作戦からは私を外して欲しい。私は一人で先行する』という提案があったのだ。最初こそ花音を始めとした代表団に却下されかけたのだが、雫の強く揺るがない眼差しに承諾せざるを得なかったのだ。

そうして本番を迎えた今日、未だにほのかは心配しているが、雫は自分達の勝利を確信のように微笑んでいた。

 

選手全員が位置に付く。このスタートラインで一番観客の目を引いているのは、他ならぬ雫であった。他の選手達は腕を構えて体を少し前に落とす、普通の走り出すときの姿勢を取っているのに対し、雫は一人クラウチングスタートの姿勢を取っている。この競技は、長さ4km、幅4kmの人工林を舞台とした競技である。まあざっくり言うと、短距離でもないのにクラウチングスタートの意味があるのかと誰しもが疑問に思った。観客の中には、雫をバカにしてクスクス笑っている者も居る。同じ一高の仲間達さえ驚愕の表情を隠せていない。

ただ、この場でその真意に気づいていた人間は四人居た。

 

一人はモチロン総司である。彼は目覚めた時に、総司が眠っていた間に彼女が手に入れた力を本人から聞かされていたからだ。そしてその力と同じ事ができるこの男は、雫の体勢の意味を理解していた。それは同じ様な戦闘スタイルを持つ零次もであった。

そして彼女にその力を与えた張本人である束、事前に使用にあたる危険性の有無を相談されていた達也。この四人が、雫の体勢の意味を正しく理解できていた。

 

そして、スタートを告げるランプが点灯する…!

 

ドンッッッッッ!!!!

 

 

「「「「「はあ!?」」」」」

 

 

直後炸裂する爆発音。いや、爆発音の様に聞こえただけの風切り音である。見事なクラウチングスタートを切った雫は、リニアモーターカーもかくやという速度で走り出した。そんな雫の通り道が、爆発の様な風切り音を発したのである。

以前に束から譲り受けたレリックは、雫に圧倒的な身体能力を与えた。その身体能力は、最早総司と同等かそれ以上のスペックをたたき出せるほどに。しかし欠点といえば欠点であるが、雫の体は元は一般的なものであったために、最大出力こそ総司と同等だが、自分の身を傷つけないようにセーブする必要があった。だがそれでも、魔法師にですら不可能なレベルの速度を叩き出す彼女は、ありとあらゆるトラップが反応してから作動する前にその場を走り抜けていた。

 

 

「なんだあれは…!?」

 

 

三高の一条将輝を始めとした、各学校の人間が、いやこの競技を観覧している全ての人間が驚愕した。これでは丸で、総司がもう一人いるようで…

 

 

「「っ!?」」

 

「…あれは!?」

 

「戦闘用ガイノイドか…!?」

 

 

雫がゴール目前に迫った直後、念動力の様なもので押し返された。数少ない雫の力を知っている者達は、他の人間と比べて早くその事実を受け止めることができた。特に総司と零次なんて、離れた場所で見ているはずなのにタイミングがバッチリであった。

念動力を受けて押し返されるも、自分の速度と押し返された衝撃を空中を数回回転する事で殺し、地面に着地した雫。その眼前には、数にして十六体の女性型戦闘用ガイノイドが立ち塞がっていたのだ。

 

そして、その存在に最も動揺しているのは雫ではなく、精神がボロボロになっていて余裕のない総司であった。

 

 

「馬鹿な…!アイツら、ピクシーちゃんと同じでパラサイトを宿してる…!?」

 

「ええ、その通りですよ」

 

「…!?」

 

 

そして普段よりも大きく狼狽した様子の総司に、語りかける存在がいた。周公瑾である。その存在を認めた後に総司が周囲を見渡すと、いつの間にか自分の周囲には人が居なくなっていた。どうやら周公瑾が『鬼門遁甲』を使用して総司以外を別の場所へ移動させたようだ。そして雫に集中していた総司は、その事に今の今まで気づくことができなかったのだ。

 

 

「お前、何を知っている…!?」

 

「…お教えしましょう、アレは『パラサイドール』。パラサイトを軍事利用する目的で開発された兵器です」

 

「…そんなものが作られていた事は、この際どうでもいい。なんでそんな存在が九校戦に?」

 

「目的ですか?…司波深雪と北山雫を殺す為ですよ?」

 

 

そう公瑾が発した直後、その腕を掴んだ総司は公瑾を山の方へと投げ飛ばした。ものすごいスピードで飛んでいく公瑾を、総司は高く跳び上がる事で追いかける。その過程で周囲に貼られていた『鬼門遁甲』が解除される。公瑾の完璧な術が解けたとしても、他の人間達は誰一人として気づかなかったが、結界に高い感受性を持つ零次だけがそれを知覚した。そして総司の気配が会場の外へと向かったのも察知することができたのだ。

 

 

「(総司…!)」

 

 

零次は焦りを覚えて走り出す。総司の物語が、終幕へと動き出した…

 

 

 


 

 

夏の風物詩たる蝉の鳴き声がうるさい森林。喧しくも、夏の静寂とも呼べるこの空間で、突如激しい激突音が鳴り響く。

 

 

「グウッ…!」

 

 

ものすごい勢いで飛んで来た公瑾は、地面に激突し大ダメージを受けていた。そしてだんだんと近づいてくる風切り音。それがだんだん近くなり、やがて人の影が見えるようになる。そしてその影の顔が認識できたとき、その顔は丸で悪鬼羅刹と言っても過言ではない形相であった。明確に激怒している総司は、拳を振りかざして公瑾の頭の横の地面を殴り抜く。尋常ではない程の轟音と共に山が揺れる。それを至近距離で耳にしてしまった公瑾の右耳からは血が出ていた。鼓膜が破れたようである。

そしてダメージと音の衝撃で動けない公瑾の胸ぐらを掴んだ総司は、激しく彼を問いただす。

 

 

「説明しろ!雫と深雪ちゃんを殺すだと!?ふざけやがって!」

 

 

激しく恫喝する総司。その総司を見て公瑾が力なく、しかし確かに嬉しそうに笑みをこぼす。

 

 

「…何がおかしい!?」

 

「…ックックック、ここまで神がお膳立てをしてくれるのならば、『パラサイドール』など必要なかったなと、自分達の生き急ぎ様に笑っていただけです」

 

「どう言う意味だ!」

 

 

意味不明なことを言い出す公瑾に総司が今にも胸ぐらではなく首を掴み直して、そのままへし折りそうな勢いで問う。

そして公瑾は、丸で勝利宣言をしているかのように堂々と言い放つ。

 

 

「我々はあなた方を追い込み、意図的に世界を危機にさらそうとしていましたが…その必要はなかったと言うことですよ!」

 

「っ!?っく!」

 

 

瞬間、公瑾が点滅しながら光り輝く。総司はその光を直に見てしまった。そして彼は…

 

 

「う、があああああああああ!?」

 

 

頭を抑えて苦しみだしたのだ!

 

公瑾が今し方発動したのは『邪眼(イビル・アイ)』である。しかし一般的に邪眼と呼ばれている精神干渉系魔法ではなく、催眠を効果を持った光波振動系魔法の方である。

普通どちらとも使えるのであれば、前者を使うのが当然だが、自身に対する直接的な干渉は異能で無効化できる総司に対しては、抵抗力の低さから光波振動系の方を選択するのが効果的である。事実、過去に公瑾からこの魔法を受けた総司は異能を使えなくなり、束が発動していたリミッター解除の『言霊』を無効化するのに異能を使えなくなっていたのだ。

 

今回も催眠効果を十全に発揮した『邪眼』は、総司の心に絶大な隙を造り出した。その影響もあってかしばらくすると、総司に更なる異変が起こり始める。作られた隙を逃さずに神の人格が行動を起こし始めたのだ。

総司の体が、丸で電球が点滅するかのように変化をくり返し始めた。その姿が雫のものに変わったかと思えば、すぐさま総司の姿に戻る。これは以前乗っ取られそうになった総司が、『仮装行列(パレード)』を使って雫の姿を取り、精神的安定を図る強化外装とした事があった。それを行おうとしている総司と、それを防ごうとしている神の人格のせめぎ合いといったところだろうか。

 

ともかく目が痛くなるほどの頻度で変化を繰り返している総司の肉体。そしてやがて…その姿は総司のままで変化が収まった。

これは、勝ったと言う事にはならない。以前の総司は勝利した後、その後しばらくは雫の姿を取ったままであった。つまりは防御を固めるという意味で『仮装行列』を使い続けていたのだが…その為の『仮装行列』使用が無いと言うことは、それすなわち守る必要がないと言うことである。

 

結論から言おう。総司は…()()()()のだ。

 

 

「…ふはは、はははははは!遂に!神がこの世に降臨した!はははははははは!」

 

 

森の中に、公瑾の高笑いが響く…!

 

 

 


 

 

「総司…!」

 

 

遅れてやってきた零次は、爆音と笑い声を頼りに二人の元までやって来た。そしてその眼前に広がっていたのは…

 

 

「…こ、これが本来の力…!さすがは、神と呼ばれる、存在、です、ね…」

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

完全に消滅した公瑾を見て、目の前の総司の様な()()()が成した事を、零次は考えついてしまった。

 

 

「まさか…エイドスを変更して、周公瑾が()()()()()()()()()()のか…!」

 

 

思わず出してしまったその声を聞いて、総司の様なナニカ…いや神が、こちらに掌を向けてきた。その瞬間に零次は死を覚悟する。自分も公瑾と同じように、この世には居なかったと書き換えられると思ったからだ。しかし、変化は一向に訪れない。覚悟してつぶっていた目を開いた零次。眼前の神は、どこか人間味を持ちながら首を傾げている。どうやら何かの不具合があったらしい。そして神は、零次に目を向けた。

 

 

「っ…!」

 

「…」

 

 

あまりの圧に動けなくなる零次。そんな零次には興味が失せたのか、神は踵を返して森の奥へと消えていった。

 

 

「…っはー!っはー!」

 

 

重圧から解放された零次は、膝をついて肩で息をする。自分達が、強大すぎる敵と戦わなければならない事実を、受け止める事ができなかった…

 

 

 


 

 

「…!総司!?」

 

 

パラサイドールと激戦を繰り広げ、十二体のパラサイドールを活動不能にした雫は、最初の四個体(プライム・フォー)と呼ばれる四体のパラサイドールの連携を何とか捌ききっていた。しかし、弾かれたように山の方へと目線を投げてしまった雫は、大きな隙をさらしてしまう。そこにプライム・フォーからの追撃が飛んで来た…その時、プライム・フォーの体が、追いついてきた深雪の放った魔法で凍り付いてしまった。その音と冷気で我に返った雫は、振り向きざまに手刀を一閃。見事プライム・フォーを撃破することに成功した。だがその表情は、明るくない。寧ろ、命よりも大切な物を失ったような、そんな喪失感を感じさせる表情であった。

 

 

女子の結果は、雫が一位で深雪が二位。花音が三位で、ほのかが五位。スバルは八位であった。

だがその後の男子スティープル・チェース・クロスカントリーで、選手登録されていた総司が時間までにやってこなかったと言う事で、棄権扱いとなってしまう。結果として優勝は将輝に譲ってしまったが、二位から四位を一高モノリス選手陣が独占したことにより、総合優勝を獲得した。

 

かくして九校戦は終了し、生徒達は日常へと戻って行く。そんな中で…

 

 

「そう…じ…」

 

 

二人で住んでいたはずの部屋の中、愛する人の帰りをただ待つ雫の頬には、彼女の名前と同じ物が目から落ち、カーテンから入ってくる月光で輝いていた。




魔法科世界の秘匿通信



・世界を危機にさらす事で神に本気になってもらおうとしていた公瑾達だが、元から神が本気で総司を乗っ取りに掛かってたので、後一押しの援護をするだけで落ちた。


・以降、総司は神と呼称される。



次章予告…


「総司を探し出して、ボコボコにしてでも此処に連れて帰ってくるぞ!」

「「「「応!!」」」」


総司を取り戻すため動き出す一高生達。


「我らが神のご意向のままに…!」

「こいつら、伝統派か!?」


立ちはだかる伝統派の魔法師軍団。


「彼のお方こそ、世界を支配するにふさわしいのだ…!」

「市民がおかしくなってやがる!?」


増え続ける信者達。

全ての障害を乗り越えて…


「…敵性体は殲滅する」

「戻ってきて!総司!」

「総員!北山を援護しろ!」


彼らは総司を取り戻す事ができるのか?


最終章、『妄執の機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)』編、始動…!


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妄執の機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)
妄執の機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)編 その一


え~、宣言します。この章はギャグとかコメディとかないです、スイマセン。




「…みんな」

 

「やっときたわね、雫」

 

 

総司が行方不明になってから三日後。雫はクロスフィールド部の会議室に呼び出されていた。そこは臨時の会議をするときに前部長である十文字克人が愛用していた部屋であった。ただ行方不明になっただけでなく、総司がこの世から居なくなってしまったという恐怖で、精神がボロボロになっている雫は、俯きながらどこか活気のない部活動生達とすれ違いながらこの部屋にたどり着く。そして扉を開けると、中にいたエリカから声を掛けられる。その声で顔を上げた雫は、その部屋には総司の友人達が多く集っていることが分かった。そしてその奥には…

 

 

「…先輩方?」

 

「よく来たな、北山。お前は俺達の中でも一番辛いだろうが、話を聞いてくれると助かる」

 

 

部屋の奥に、卒業したはずの克人を中心として、同じく卒業したはずの真由美と摩利が厳しい顔つきで佇んでいた。何故此処にいるのかと思った雫の考えを読んだのか「今回特別に使わせてもらった」と答えを教えてくれる克人。どうやら雫達をこの部屋に呼び出したのは克人達らしい。この部屋に来たのは雫が最後らしく、雫が席に着くと克人がおもむろに話し始めた。

 

 

「…さて、お前達に今日集まってもらった理由は…分かるな?」

 

「ええ、十中八九総司の事でしょう?」

 

「そうだ、奴の事で共有しておきたい事があるんだ」

 

 

克人の放つ圧に口を開けなかった下級生一同、そこに率先して質問した達也によって、克人が話を続ける。

 

 

「…俺達は先日、総司いや、奴の中にいる神とおぼしき存在と交戦した」

 

「「「「なっ!?」」」」

 

「へ、平気だったのですか!?」

 

「落ち着いてはんぞー君。私達がこうしてここにいる事が、平気である事の証明よ」

 

 

心配した様子の範蔵をたしなめる真由美。丸で去年の生徒会が戻ってきたかのようだったが、今はそんな感傷に浸っている場合ではないので、克人は話を続ける。

 

 

「どうやら奴は、世界を統一する事を目指しているらしい」

 

「「「「……はあ!?」」」」

 

 

そして、そんな克人から何気なく発された言葉に、在校生一同は驚愕した。世界を統一する?何故そんなことをするのかが分からない。総司という人格を破壊しておいて、何故そんなことを企むのか。その答えは、克人から返ってきた。

 

 

「奴は、我々十師族を手駒にできないかと考え接触してきた。その交渉の際に奴が話したのだが…どうやら、奴の目的は世界を破壊する悪魔を打倒する事なのだそうだ」

 

「…世界を破壊する悪魔?」

 

「どこにそんな奴がいるのよ!?」

 

「それに、そんな存在と戦うために世界を支配するとか、意味が分からないわ!」

 

 

雫、千代田、壬生。彼氏を持つ女性陣が疑問の声を上げる。そして言葉を続ける克人曰く、どうやらその理由も神はご丁寧に教えてくれたそうだ。

 

 

「…奴はあくまで旗印に過ぎず、悪魔を打倒するには世界の団結が必要なのだと。奴はそう言っていた」

 

「なるほど、それで世界を統一すると…」

 

「だけどよぉ、どうやって世界を統一する気なんだ?何処の国だって、「ハイ分かりました」なんて言って従うなんて事ないだろ?」

 

「…そうか、だから神なのか」

 

 

神の目的は分かった。それを成そうとする理由も。だが今度はその方法論が分からない。しかし、ここでその方法を思い立った男が一人。古式魔法の名家、吉田家の神童こと吉田幹比古である。

 

 

「恐らく奴は、自分を信仰の対象とすることで、世界の統一を図っているんだ。だって、人に取り憑かせるなら悪魔でも構わないはず。だがその存在を神と呼称したなら…」

 

「人々からの信仰が目的、と言う事か」

 

「そう言うことだね達也。確かに世界中の人間を狂信者に変えれば、世界は神である奴の言葉に絶対服従になる」

 

「…鋭いな、吉田」

 

「え?」

 

「俺達が奴と接敵したとき、奴は無数の市民と少数の古式魔法師を連れていた」

 

 

克人の言葉に騒然とする会議室。それが本当なら、奴は一日二日で信者を増やしていると言う事だ。

 

 

「古式魔法師達は恐らく、『伝統派』でしょう。総司を狙っていたのも自分達の物にならなかった腹いせだと、本人から聞いた事があります」

 

「それで、奴が出てきたことで便乗してるってワケか」

 

「…でも、市民まで連れていたんですか?」

 

 

美月の口から出た疑問には、これまた克人が答える事になる。

 

 

「無数の市民達は何の力も持たない一般人だったが、うわごとの様に『神よ…我らが神よ…世界をお救いください…』と呟き、俺達の魔法師部隊に襲いかかってきた。制圧はさほど苦ではなかったが…」

 

「何か問題が?」

 

「…彼らには最上級の精神干渉系魔法が掛けられていた。あの様子では…もう助からないだろう」

 

「そんな…!?精神干渉系魔法は確かに危険ですけど、それだけで命にも危険が!?」

 

「彼らは捕らえられた後、先程も言った様に神への崇拝の言葉を呟くだけで、支給された食事すら取らない始末だ。このままでは大量に餓死で死人が出る」

 

「…待ってください?もしかして私達が此処に集められた理由って…」

 

「そうだ。このまま奴に対する信仰が進めば、それにのめり込んで餓死してしまう人間が多くなるだろう」

 

 

そう、総司が変質した神の厄介な部分はこの点にあるのだ。かの神は悪魔を打倒するために、世界を統一するために信仰を広めるのだが、その信仰を得るために精神干渉系魔法を用いているため、一般人はすれ違うどころか遠目で目にしただけでも神を信仰してしまう。そしてその信仰を捧ぐ事に精一杯になって、自分のことを顧みなくなる。これにより食事をする時間すら惜しんでしまう様になってしまい、餓死してしまうのだ。

 

 

「更に、奴自身の行動力も問題だ。奴は我らと交渉しに来たが、十文字と七草が取り合わないと分かった瞬間、こちらに牙を向けてきた」

 

「…使用魔法は一体?」

 

「…あまり思い出したくはないがなアレは…」

 

「渡辺先輩がそこまで言うのですか?」

 

「…アレは、人を世界に最初から居なかった事にする」

 

「「「「!?」」」」」

 

 

恐らく神が周公瑾を消した時と同じ手法を目にしたのだろう、至極怯えた様子で摩利は語る。そしてその意味を理解した達也達にも鋭い緊張が走った。そんな魔法、勝ち目がないのではと…

 

 

「…よく無事で帰ってこられましたね」

 

「重要なのはそこなのよ、はんぞー君」

 

「…と言いますと?」

 

「そんな驚異的な魔法を持つ相手を前にして、私達が生きて帰ってこられると思う?」

 

「!?…ですが!」

 

「服部!少し考えれば分かるだろう?奴はこちらと魔法力で争う必要がない。私達が魔法で火を起こす様に、奴は人を消す事ができる。人体のエイドスではなく、世界のエイドスに変更を加えているからこちらからは防ぎようがないんだ」

 

 

そこまで話されて、一同に更に絶望感が広がる。自分達が知っている友が、後輩が、そして恋人が、ここまで恐ろしい化け物に変質するなど思いもよらなかったからだ。だが、克人の言葉に在校生達は耳を疑う事になる。

 

 

「…奴は俺達三人に同様の魔法を発動しようとして…失敗した」

 

「失敗…した?」

 

「そうだ。そして俺はあの失敗の仕方に覚えがある。アレは失敗したと言うより…『無かった事にされた』のだ」

 

「…それっで!」

 

「ああ、総司の異能だろう」

 

 

そう、十文字家、七草家の合同魔法師部隊と交戦した時、神はこの場にいる元一高の三巨頭にも所謂『消去魔法』を使おうとしていた。だがその魔法式のロードは途中で中断…いや読み込みという行動がなかった事にされたのだ。これはつまり…

 

 

「総司の意識が…まだ生きている?」

 

「俺達は、そう考えている。その可能性に掛けるしか道がないほどにはな」

 

 

雫の絞り出した様な声に克人が是を示し、場の雰囲気がほんの少し和らぐ。もしかしたら、総司を取り戻す事ができるかもしれない。そんな希望が、全員の胸に到来した。そんな中で、克人が扉を見ながら口を開く。

 

 

「そして、この件に関して一番知見の深そうな人間に、協力してもらうことに成功した。…入ってくれ」

 

 

そうして部屋の扉が開く。一同が扉の方を振り返って見るとそこには…

 

 

「…不二原さん?」

 

「どうも、北山さん。あの方を引き留めきれなかった様で残念です」

 

 

やれやれと言った顔をした束と、総司に瓜二つな男、名倉零次が扉を開けていたのだ。




魔法科世界の秘匿通信

・総司に宿っていた神を創造する術式は、平安からの長い年月を掛けて、プログラムに異変が起こってしまった。


・悪魔とは、司波達也を指す。



ちょっと作者は忙しくなるので、今週来週は投稿できません。

そこで意見をいただければと。
総司の中の神を奴だとか神だとかで表現してますが、作者的に納得できる呼び方ではないので、呼び方を考えていただければありがたいです。コメントに書いていただければ、採用させていただくかもしれません


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妄執の機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)編 その二

おまたせ☆


「…なんて、少し意地悪でしたね。謝罪します」

 

「謝る必要なんてない。だって、事実なんだから…」

 

 

開口一番で罵倒を飛ばした…と思えば即座に訂正し謝罪をする束。そんな束を見て、より一層表情を暗くする雫。それもそのはずだろう、彼女は総司を神から守り切る事ができなかったのだから。雫の重い表情で更に空気が悪くなるが、此処で声を上げる人物が一人。

 

 

「そんなへこたれても奴は戻ってこないぞ北山雫。…取り戻したいなら、お前が自分で取り戻すんだ」

 

「私が…?」

 

「零次、お前何を知っている?」

 

 

零次の放った言葉は一同の下がり気味だった顔を上げさせる。その上がった顔は説明を求めるように零次の方を向いている。だがその零次は隣の束に目をやった。どうやら説明は束が行うようだ。

 

 

「早速本題に入りますが…総司様を取り戻す策がございます」

 

「それは本当!?」

 

「っ!?」

 

「雫!?」

 

「…っ、ごめんなさい」

 

 

束がそう言った瞬間、雫が泣きそうな表情で束の肩を掴んで必死に本当かどうか問う。その強化された身体能力を持った雫の速度を、此処で初めて体感した束はかなり驚いた様子だ。それを察したほのかから雫へ制止の言葉が投げられる。

ほのかからの言葉で我を取り戻した雫は、束へ謝罪の言葉を掛ける。雫はやはり、思い詰めていると考えて良いだろう。

 

 

「…話を進めても?」

 

「頼めるか、不二原…いや、藤原殿」

 

「十文字君…?」

 

「七草、彼女はただの古式魔法師ではない。彼女の家系…藤原家こそ、十師族を創設した一族の一つだ」

 

 

その事実に真由美を始めとした一同が驚愕を示す。唯一知っていて協力していた過去がある零次だけはシラッとした顔をしている。穏やかな笑みをしたままの束は、周りの様子など気にせずに話を続ける。

 

 

「変質してしまった総司様ですが…どうやらここまでの状況を見ていると、一部あの方の意思は残っている様子…なればこその勝機です。仮にあの方が神に…いえ、あんなおぞましいプログラムのなれの果て、神と呼ぶにふさわしくない。そうですね…仮に偽神とでもいたしましょうか。

奴に総司様が完全敗北してしまった時は使えない策ですが…聞いていただけますか?」

 

「勿論だ」

 

「仲間を救える可能性があるなら、いくらでも試してやるぜ」

 

「結構、では…北山雫さん?」

 

「…何?」

 

「貴女には、『かぐや姫』になっていただきます」

 

 

全員…事情を知っている零次と、言葉の意味を理解した達也以外が、その発言に首を傾げた。

 

 


 

 

束は位置を変えて、ホログラムデバイスを展開して、詳しい解説を始める。

 

 

「…さて、私の家名と『かぐや姫』という単語で、何かを連想できた方が居るのではないでしょうか?」

 

「…君が言っているのは、『かぐや姫の五つの難題』の事だろう?」

 

「流石は一高の秀才殿、頭の回転がお早いようで」

 

 

達也の返答に満足そうに頷く束。そのまま、彼女はかぐや姫の話を深掘りしていく。

 

 

「ここで皆さんに質問ですが…五つの難題と、かぐや姫における藤原の名前の意味を理解していらっしゃいますか?」

 

 

その問いかけに、ちらほらと声があがる。五つの難題については、「かぐや姫が結婚を申し込んできた五人に課した難題、あり得ない代物」と、藤原に関しては、「蓬莱の薬をもらうも富士山の頂上で燃やしてしまった」と。その返答に頷きながら、束はこう言い放つ。

 

 

「皆さん、不正解です!」

 

「…そうなの!?」

 

「ええ、そうなのです。俄には信じがたいでしょうがね?」

 

 

驚く一同を眺める束の表情はイタズラが成功した時の悪ガキのそれになっていた。雫と零次以外のメンバーにも素を晒し始めたようだ(もっとも以前戦闘している時は猫を被ってなかったから今更だが)。

 

 

「五つの難題を五つの難題たらしめた理由は、存在するかどうかすら疑わしい、入手困難な物品だったからではないのです」

 

「じゃあ一体…」

 

「簡単な事です、五人ともと結婚したくなかったかぐや姫は、決して献上できない物を要求したのです」

 

「献上できない…っ!もしかして、かぐや姫が難題を課した時、かぐや姫はその物品達を所有していたと言う事!?」

 

「その通りです七草のご長女。既に有している物を、どうやって他者が献上できるのでしょう?まだ複数個ある可能性がある物品ならまだしもね」

 

 

そう、伝説においてかぐや姫は五人からの申し込みを断るべく、蓬莱の玉の枝、火鼠の皮衣、仏の御石の鉢、竜の首の玉、そして燕の子安貝という五つの難題を課したが、実際のところは全て所有していた…と言う事だ。よしんば手に入れたとしても、五人はかぐや姫に遅いと一蹴されてしまっていただろう。

 

 

「…まさか、このネックレスの貝って」

 

「御明察、まさしくそれは五つの難題の一つ、燕の子安貝を用いて作られたものです」

 

 

雫が首から提げているネックレスを眺めながら、意識せずとも口を開いてしまう。まさかお伽噺に登場する幻の物品を、自分が手にすることになるとは思っていなかったからである。その驚愕も冷めぬうちに、束が話を続ける。

 

 

「そして、平安時代からそのネックレスが残り続けている理由として、蓬莱の薬の存在が関わってくる」

 

「蓬莱の薬って、飲んだら不老不死になるってあれか?」

 

「…なるほどな、不老不死を授ける薬を、恐らく五つの難題とされる物品達に使ったのだろう。それによって、不老不死ではなく不朽不壊の属性を得ることになったと」

 

「…司波さんは頭が良すぎてつまらないですね」

 

 

達也がレリックの製造された手法についての心当たりを述べると、全く以てその通りだったのか束は面白くなさげだ。

 

 

「雫が持っているネックレスの事を考えれば、残りの難題もレリックなのですか?」

 

「その通りです司波深雪さん。最も、仏の御石の鉢と蓬莱の玉の枝は合体していますがね」

 

「…どういう意味だい?」

 

「五つの難題と蓬莱の薬を素材としたレリックは、そのネックレスのように加工されているのです。火鼠の皮衣はマントに、竜の首の玉は指輪に、そして…仏の御石の鉢と蓬莱の玉の枝は、石剣の刃と柄に加工されました」

 

「石剣…?」

 

「一応仏のと付いている物品を武器に転用したんですか…?」

 

「私に言わないでくださいよ。加工したのは当時の藤原家の人間です、私に責任ないです」

 

 

そう言うなら平安の時代に皮衣をマントに加工するって、マントを何処で知ったんだ?って感じなんですけどね(作者のガバ)

 

 

「それで?それを使えば偽神を倒せるの?」

 

「ええ、総司様の異能を使われないという前提がありますがね」

 

「不朽不壊の属性が総司の異能でなかったことにされる可能性があるのか」

 

「ええ。ですがその可能性がなければ、人を神と同等の力を与えるでしょう」

 

 

その言葉を聞いて、雫の目に覚悟が灯る。彼女は今自分が人外に至る決意を固めている、総司を取り戻した後に彼と共に歩む事ができなくとも…(因みにパッシブ型のレリックは子安貝のネックレスだけで、他の難題を装備しても外したら効果が消えることを知るのは後の話である)

 

 

「そのレリック達はどこに?」

 

「勿論、京都の藤原邸です」

 

 

ニッコリと質問を返す束。その返答にみんなが「あっそっかぁ…」と言いたげな雰囲気を醸し出しかけて…一つ気づいた。

 

 

「…総司が今居るのって、京都だよな?」

 

「そうですね」

 

「…藤原邸の場所って公表されてる?」

 

「されていないですし、魔法師も権力で雇うのが基本で家飼いの魔法師は居ないので探知はされていないはずです」

 

「それは良かったが…今から行けば?」

 

「偽神の配下、もしくは本人からの攻撃を受けますね」

 

 

…一瞬の静寂が場を支配した後、束以外全員の「結局それ、突撃って事じゃね?」というニュアンスの叫びが響いた。




えー、ご報告です。この章は本作オリジナルの章なので、執筆が遅れます。と言うのも、今までのペースで書けていたのは、足りない部分の補完は原作を見ていただければ解決する範囲だったからです。ですがこの章は一から百まで自分で書かなければならないので、ペースが落ちます。落とさない様に頑張りはしますが、期待しないでください(白目)。第一温泉旅行の話を書けなかった時点でまだオリジナルの話を書く経験が足りないのは致命的に明らか。

もっと説明しろ!意味が分からねえんだよ!という方は、質問に書いていただければその次話の前書きに説明を付け加えたり、ストーリ-に大きく関与する事には話の修正等行おうと思います。

これからも頑張っていきますので、ご愛読よろしくお願いします!


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妄執の機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)編 その三

ほんと遅れてごめんね…言語化ムズイ…時間足りない…風呂敷の中身が大きすぎて閉まらない…


「…と言う事で、京都にやって来ました~パチパチ」

 

「おい、こんな『そうだ、京都行こう』みたいなノリで来て良い場所なのか此処は」

 

「普段の京都なら問題無いんじゃないですか?今の見渡す限り狂信者だらけの状況でもそう思えるかは謎ですが」

 

 

ここは京都の町外れ。ここには現在達也、束、そして雫の三人がいる。この人里から少し離れた場所に、藤原邸はあるのだ。敵対する総司の中の偽神は、超越的な視点を持つが故に、自分に対抗してくる者は力尽くで屈服させる以外の選択肢を持っていない。しかし、自身に並びうる可能性を感じた場合事前に介入してくる可能性があるため、一高と協力者達は班を分けたのだ。

その一に、十文字克人率いる十師族総掛かりの軍勢だ。本拠である京都を支配されてしまい、連絡が取れなくなってしまった九島以外の十師族、あの四葉さえも協力を宣言する、日本史で最も強力な軍隊と言えよう。しかしその軍勢など、本丸の為の露払いにしかならない。偽神は雑兵が億ほど集まろうが、容易く塵にできてしまう。本質的な役割は本命の目的を隠す為の囮になる。

 

その二に、零次率いる一高の在学メンバー達だ。実戦において抜きん出た実力を持ち、総司と非常に親しい彼らは、総司の意識が残っており人体に直接干渉する魔法が使えない偽神に対して、五つの難題を揃えた雫以外の唯一の勝ち筋と言えよう。彼らの目的は十師族のアシストを受けて、雫達がレリックを集める時間稼ぎ、あわよくばその場で偽神を打倒する役割だ。

 

そして三つ目が束率いる三人だけの少数精鋭。難題が保管されている場所を唯一知る束、手に入れた傍から装備して、偽神との戦闘に向かえるように雫、二人をアシストするために高い戦闘力と隠密スキルを併せ持つ達也。この三人が、藤原邸に潜入する役割を持っている。

 

そして現状の説明をすれば、この町外れにすら大勢の狂信者達が自分達の神に仇成す者達に対して警戒を強めている。京都の中心なんてそれはもう酷い事になっているだろう。

 

 

「さて、まずは目下の狂信者達を制圧して行きましょうか」

 

「ああ…雫?」

 

 

早速潜入を開始しようとする束だが、そこで達也がふと雫の様子がおかしいことに気づく。雫は、先程から時折爆発音が聞こえる様になった京都の中心街の方に目を向けて放心していた。おそらくはそこに居るであろう総司の心配をしているのだ。それに気づいた達也は、そっと雫の肩に手を置いて言葉を掛ける。

 

 

「行こう、雫。君が総司を助ける鍵なんだ、一刻も早く助けてやりたいだろう?」

 

「…そうだね、達也さん」

 

 

そうして三人は、密かに歩を進めた…

 

 


 

 

さて、軽いノリで京都を訪れていた束の部隊だが、それはあくまで藤原家が所有する裏道を通ってきたからに他ならない。つまるところ何が言いたいのかと言うと…

 

 

「っく、数が多すぎる…!」

 

「まさか、京都だけでなく、大阪や奈良の市民まで…!?」

 

 

十師族の軍勢は陸路を進んでいくのだが、そこに大量の市民からの妨害が入る。流石の魔法師部隊も、千を遙かに超え、万にすら届きうる人数を捌くのは容易ではなく、足が止まってしまう。また、妨害が入っても進める様にと部隊をいくつかに分けていた(四葉などと関わりたくない一部の十師族の思惑もあるが)にも関わらず、その全てに同じほどの数の妨害工作を行う市民が現われており、京都の中心街を観測する衛星からの情報も合せると、どうやら京都だけでなく他の県の市民すら連れてきているようなのだ。非常に数が多い。

しかも数が多いだけではなく…

 

 

「グワァッ!?」

 

「…!?まさか、敵の魔法師か!?」

 

 

そう、民衆に紛れて『伝統派』の魔法師が攻撃を仕掛けてきているのだ。服装も一般人に合わせているため非常に分かりにくい。こちらは向こうの魔法師を認識できていないが、あちらはできているという、何たる不平等だろうか。よって十師族の勢力は着々と削れ…おや?

 

 

「っ!?いきなり爆発した…!?一般人じゃないだろうな!?」

 

「…いや、ソイツは魔法師だ。サイオンを制御できていたからな」

 

「!貴方は…」

 

 

市民に紛れて攻撃をしていた魔法師が突如爆散した。丸で血を入れた水風船の様に。こんな現象を起こせるのは間違いなく一条家の『爆裂』だろう。そう、この男は一条将輝なのである。将輝の攻撃により敵魔法師が爆散する。その様子を見た市民達は、将輝を恐れる…そう思われていた。

 

 

「…おお、なんと恐ろしい事か!かのような化け物、我らが神に近づけさせる訳には行かぬ!」

 

「我らが神の為に、怪物殺しを!」

 

「…まさかここまで状況が酷くなっていたとは」

 

 

恐れてはいる、死への恐怖を感じている。だが、だからと言って神に背いてまで逃げだそうとは思わない。むしろ神の為に自らを犠牲にしてでも敵を打ち倒さんとする。まさしく狂信者と言えるだろう。その状況に目を覆いたくなる将輝。このままでは、市民すら手に掛けてしまう必要が…

 

 

「…!?なんだこの障壁は!?」

 

「この魔法は…」

 

「…お前もいたのか、一条」

 

「十文字さん」

 

 

そんな暴徒化した市民たちの前に現れた障壁。その障壁はまさしく『ファランクス』、十文字家が誇る、日本最硬の魔法であった。そうなれば、こういった戦場に出てくる『ファランクス』の使い手など、一人しかいるまい。そう、十文字克人ただ一人だ。彼は確かに偽神に対抗できる人員の一人だが、それと同時に十氏族を率いる必要があるのだ。そうして行軍に参加したのだが、どうやらそれは幸運だったらしい。こうして一部ではあるが、京都市内に潜入できそうである。

 

 

「さあ、一刻も早く神を騙るあのバカを りつけに行くぞ」

 

 

十氏族の軍勢が、京都に攻め入る…!

 

 


 

 

そして…一高のメンバーはと言うと…

 

 

「ああ、クソッ!やっぱりヘリなんて使うべきじゃなかったんだ!古式魔法師を舐めすぎだ!」

 

「今グダグダ言ってもしょうがないわよミキ!」

 

「僕の名前は幹比古だ!」

 

 

京都市内で、多数の古式魔法師とそれに追従する狂信者たちと戦闘を行っているのは幹比古とエリカだ。彼らの発言から察するに、一高メンバーはその人数の少なさを活かして、ヘリで上空からの潜入を試みたようだが、古式魔法師に撃墜されてしまったようだ。それによって分断されてしまったのだろう。周囲には二人以外の仲間は見受けられない。

 

 

「早くみんなと合流するわよ!」

 

「一般人は切ったら駄目だからね!」

 

 

二人は戦場となった京都を駆け出した…!

 

 


 

 

「……」

 

 

長いこと薄れていた意識が覚醒していく中、総司の姿は神泉苑にあった。その様相は、平安時代には現在の30倍の面積を持っていたとされる当時の様子を思わせる広大さだ。

 

 

「…なんで俺ここにいるの?」

 

「回答。それはここが私の精神世界だからだ」

 

 

総司が池を眺めていた後ろから、唐突に話しかけられた。その驚きは相当なものだ、何せ自分の声から呼びかけられたのだから。後ろには、それこそ自分自身がいた。ただし、その眼には生気を感じない機械的なものを感じる。まさしくこの総司こそ、今現在日本全体と戦争を行う「偽神」であるのだ。となれば…

 

 

「今ここでお前を倒せば、全て丸く収まる可能性があるってコトォ!?」

 

「笑止。ここは私が支配する世界。勝つ方法など…」

 

「お前を〇す」デデン!

 

 

総司が偽神をノーモーションで殴りつける。それにより偽神は数メートル吹き飛ばされる。その様子を見た総司は、自分の拳の威力が著しく低いことに気づいた。今の手ごたえであるならば、普段は数百メートルはくだらない程吹き飛ばすはずだ。しかし実際は違った。そのことに総司は非常に困惑したのである。

 

 

「…無駄。貴様が現状使用できるのは、貴様が有する異能のみ。精神世界ではあるが、貴様は魔法を無かったことにする異能を持つだけの存在だ、本来有していた身体能力も剝奪されている」

 

「ふ~ん、終わりじゃん」(絶望)

 

「…その割には全く絶望しているようには見えないが」

 

「だって、お前はそんな危険もなさげな俺という絞りカスを対処しに来たんだろ?ならそれには何らかの意味があるはずだ」

 

「…やはり失策だったか」

 

 

偽神は、以前焦って総司の精神を乗っ取ろうとした際に自身がとった方法が間違いだったと確信した。その方法とは、偽神自身の精神を総司と同化させることにより、気づかれることなく総司を支配するというものだ。しかしそれは残念ながら、今こうして裏目にでている。裏目に出た要素は二つ。

一つは今こうして総司が明確に偽神に対して抵抗ができる点である。この精神世界は偽神のものであって総司のものではない。だが総司の中には僅かながらに偽神が混ざっているため、総司は明確な抵抗を示すことができている。

二つ目は、先ほどの総司の発言とは思えない長文だ。偽神の一部が混ざったことにより、総司の知能に著しいブーストが掛かっている可能性が高い。普段の総司なら意味を大して理解せずに戦闘に向かうだろうが、彼は現在自分の存在が偽神にとって不利益極まりないものであると一瞬で看破してのけた。やはりこの存在はここで消すしかない。

 

 

「…時間をかけるつもりもない、すぐに貴様を掌握する」

 

「強がりか?やめておけ、俺はお前が何をしてきたか、この一瞬で知識として知ったが…信仰に狂わせることでしか人の心を掌握できないお前は、きっと千年たっても俺を取り込めないよ」

 

「強がりは貴様もだろう!」

 

 

総司と偽神が、精神世界の京都で激突する…!




現在の戦況


・十氏族(克人、将輝はここに含まれる):現在市民や『伝統派』の妨害を受けながらも行軍中。被害は既に看過できないほどに上っている。


・一高メンバー(零次、真由美、摩利はここに含まれる):ヘリを用いて上空からの侵入を試みるも失敗。合流を目指しながらも、総司を探す。


・潜入メンバー:藤原家に向けて隠密行動開始。藤原家は元老院なので、非常時用の通路を所有しており、そこから京都に侵入した。


・総司:偽神が異能を我が物とするために制圧しようとしていることを上昇した知能で察知。自分が抗うことで時間稼ぎになると信じて戦闘を開始する。


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妄執の機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)編 その四

今回から、潜入チームの話をした後に、分断されたファーストコンタクトチームの話をしていきます。


「…ゲッボ」

 

「…疑問。なぜそこまで抗う?この戦いは全くの無意味であると私は考える」

 

「言ってくれるなぁ…」

 

 

偽神の精神世界。ここで現在繰り広げられているワンサイドゲームは順調に進んでいた。総司の意識が覚醒したあたりでは、とても美しい景観を保っていた京都も、見るも無残な荒野になり果ててしまっている。これはすべて、総司を弾丸として偽神が破壊しつくしたものだ。そんな扱いを受けている総司は、精神世界であるにもかかわらず満身創痍の様子であり、立つのもやっとのようだ。

だがその瞳からは未だに火が消えていない。その瞳は、何を映しているのか。

 

 

「…無意味だって考えるなら、見逃してくれないか?」

 

「不可能。貴様を生かしておくのは、こちらに一害あって百理なし。排除が適切だ」

 

「そっか…なら、尚更負けるわけにはいかないな」

 

 

総司の瞳に、自分と同じ顔をした偽神は映っていなかった。その瞳には仲間と、自身の愛する人が映っていた。

 

 


 

 

「…おかしいわね」

 

「何がだ?」

 

「人が少なすぎるわ、こんな非常事態なら藤原の私兵が動いていてもおかしくないのに」

 

「ッフ!…今攻め込んできているこいつらは違うのか?」

 

「悪いことを聞くのねあなた。…私兵にしては弱すぎるでしょう?」

 

「それもそうだ」

 

 

こちらは潜入チーム。現在藤原家が実質的な権利を有している土地の範囲に侵入してきているのだが、ここに来るまでも来た後も、藤原が有する私兵団が動いていないのが奇妙なのだ。敵に回ったにしろ味方のままであったにしろ、こんな事態になって動かないのは異常だ。

 

 

「…こっちは片付いた」

 

「流石は五つの難題ですね、魔法師へと与える力が段違いです」

 

「…素直になれない人」

 

 

達也と束と少し離れた場所で戦闘を行っていた雫が戻ってきた。彼女はネックレスの力により身体能力がブーストされており、そこに振動系の強力な魔法を使いこなせる。その実力がアイテムだよりではないことを知ってはいても、恋敵としてなかなか認められない束は素直には褒められなかった。

 

 

「二人とも、また新手だぞ」

 

「あら、雑魚がうじゃうじゃと」

 

「…一応市民だからな」

 

 

束が苛立ってきたのか、言葉遣いが荒くなる。それを見ながら、達也は「この人大丈夫かなぁ」と思いながらも、さっさと目的を果たすために気にしないことにしたのだった。

 

 

そぅしてしばらくして…

 

 

「ここが私の家ですね。ここの地下に難題が安置されているはず」

 

「…ホントに貴族の家?人の気配がしないけど…」

 

「それは、そうだろうな」

 

「「??」」

 

 

一行は藤原家の前にたどり着く。だが雫の言ったとおりに人の気配がしない。その発言を肯定したのは『精霊の眼』で家の中を確認した達也であった。

 

 

「…入ればわかるさ」

 

 

『精霊の眼』を知らないため、達也の発言の意味を理解できない二人を連れて、達也が門を『分解』した。そこには…

 

 

「…そ、そんな…」

 

 

そこは、まるで地獄絵図であった。あったのは、死体の山。この家に仕えていたであろう老若男女問わず、等しく腹に穴を開けられていた。そして…

 

 

「お父様…」

 

 

藤原道長は、その死体の山の中心にいた。まるで幸せそうな顔をして、十字架にかけられていた。その体からはおびただしい量の血がこぼれている。

 

 

「…いったい何が?」

 

「…総司か」

 

「え…?」

 

 

達也がポツリとつぶやいた言葉に、雫が信じられないといった声音の疑問の声を出す。その表情を見ながら、達也は苦々しげに自身の考えを話し始める。

 

 

「…今、偽神の中には総司の意識がまだ生きていると聞いた。なら、もし総司が自分が怪物となるのを速めてしまった元凶である存在を知っていたなら…」

 

「なら…?」

 

「総司の殺意を察して、偽神が本能的にここを襲った可能性がある」

 

 

達也の考察は、当たらずも遠からずであった。偽神はここに本能的に来たわけではない。偽神は道長に呼ばれたからここに訪れたのだ。そして訪れた際に、道長が偽神がとても素晴らしい魔法的芸術であると賞賛し、予定よりも早く見ることができて嬉しい。と発言したのだ。

これにより偽神内の総司の意識が本能的に殺意を抱いてしまった。そしてその殺意に従うように偽神は道長たちを一瞬で切り捨てたのだ。ほかの死体の表情は苦悶の表情であるがゆえに、芸術による死を望む狂人は道長だけであったらしい。哀れにも主人の趣味に巻き込まれて死んでしまったのだ。まあ、遅かれ早かれ偽神に洗脳されていたはずなので、廃人になるか死ぬかの二択を強制的に死に決められたといえる。

 

 

「みんな…みんな…お父様…!」

 

 

束が膝をついて涙を零し始めた。さすがに破綻した考えを持つ乙女であったとしても、家族の情は持っていたらしい。その背中を、いまだにこの惨状を総司が起こしたかもしれない可能性に打ち震えている雫が、動揺していながらもさする。そんな二人の光景を眺めながら、自分も深雪を殺されてしまったらこうなるのだろうか、と感情を宿した瞳で眺めていた。

 

 

 


 

 

場面は変わって…

 

 

「だああ!埒が明かないぜ!」

 

「踏ん張りどころですよ西城先輩!」

 

「わかってるよ!『パンツァー』!」

 

 

金閣寺を舞台に、レオと琢磨が『伝統派』を相手取っていた。奴らが使う古式魔法は、現状二人には打破する方法がなかった。一般人を盾にしているため、琢磨の『ミリオン・エッジ』も十全には扱えない。二人は現在、金閣寺の屋根の上で籠城戦を行っていた。さすがに屋根まで一般人を持って運ぶような真似は相手もしてこないらしく、近づいてきた敵を各個撃破している。

だがそれでは何時までたっても仲間と合流ができない。

 

 

「クッソ、こんな雑兵どもに時間かけてる場合じゃないんだよ!?」

 

「そうですね…まだ余裕はありますが、この数じゃ何時になったら終わるか…!」

 

 

そしてとうとう、伝統派は覚悟を決めてしまったようだ。

 

 

「っつ!?爆発!?」

 

「まさかあいつら、俺たちを金閣寺ごと!?」

 

 

伝統派はどうやら二人を金閣寺の破片で沈めてしまおうという魂胆らしい。仮にも伝統派などと名乗っているくせして、やり口がせこい敵である。ここで琢磨は逡巡する。それは自分の身体強化を使うか否かである。強化を使えば、伝統派の魔法師を倒すことは容易いであろう。しかしその余波のコントロールは、総司よりも下手である。その上、異能が使えない偽神に対して、身体能力で迫れる琢磨はこれ以上消耗するわけにもいかないのだ。

そうして、琢磨は迷う。そして…金閣寺が爆散した!

 

 

「…二人撃破」

 

「これより撤退をかい…」

 

「ん…!?ど、どうし、ぐわああああああ!?」

 

 

崩れ行く金閣寺を見ながら、伝統派の魔法師たちが次なる標的へと狙いを定めようとしたとき、一人が倒れたのを皮切りに、バッタバッタと魔法師たちが倒れていく。

 

 

「…これは」

 

「貴方たちはいかなければならないのでは?」

 

「君たちが、これを…?」

 

 

琢磨とレオは金閣寺跡地から少し離れた地点にいた。その二人の目の前には、ゴスロリと言われる服をまとった()()が二人。どうやら彼女たちが助けてくれたようだ。

 

 

「誰かは分からないけれど、助かったよ…君は、見覚えがある気がするな?」

 

「ふふふ、気のせいですわよ」

 

「ウッドフェアリーか…」

 

「「???」」

 

 

琢磨は何気なくこの言葉を口にしている。総司にだいぶ染められてしまっているね、可哀そうに。

 

 

「とにかくありがとう。…またいつか会えたら礼をさせてくれ」

 

「お前たちも気を付けてな!」

 

 

そう言って琢磨とレオは走り出す。その後姿を眺めながら、二人の中で胸がない方の少女…いや()()がポツリと一言。

 

 

「七宝君…姉さんには見覚えがあって、僕にはないんだね…」

 

「それほど完璧に偽装できているってことじゃない」

 

「嬉しくないよ!」

 

 

少年の嘆きが、京都の空に消えた…




魔法科世界の秘匿通信


・実は、藤原家の庭にあった死体は数が足りない。つまり何人かは洗脳されている可能性がある。


・琢磨が身体強化を使わないのは、対偽神用の主要戦力の一人だからであり、極力の温存をしたかったから。


・一体どこの黒羽の双子なんだ…?


ちなみに本作の二年目モノリスは、身体強化で突風を巻き起こして敵を宙に放り上げ、そこを『ミリオン・エッジ』でたたくという戦法をとった琢磨が、文弥を擁する四高すら轢き殺して優勝している。


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妄執の機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)編 その五

マジで書けない…


「…行きましょう、こんなところで立ち止まっているわけにはいかないわ」

 

「強いんだね、不二原さんは」

 

 

しばらく家族や従者の無残な死体の前で涙を流していた束であったが、次第にその涙も薄れ立ち上がる。その表情には、最早陰りはない。この短時間で短い人を失った悲しみを乗り越えたのかと、雫は驚愕の声を漏らしていた。

その横で、達也も驚いていた。自身に唯一残っている感情は妹への愛情だ。そんな彼は、妹へ危害が加えられようとした瞬間に激昂する。それ故、妹を失ったときはどうなるか自分でも予想がつかないが…この世に意味はないとして暴れだしてしまうやもしれない。

そんな自己評価を持つ達也は、自身にとっての妹…つまり束の家族の死を、悲しみながらもすぐに乗り越え、目的を見誤らない束の精神力に内心感心していた。

 

 

「こっちよ。こっちに地下に続く階段が…っ!?」

 

 

立ち上がった束が、二人を案内しようと振り向いた時である。無数の死体の、これまた無数の腕が、束の足をガシッと掴んできたのだ。驚いて向き直る束の前で、倒れていたはずの死体たちが立ち上がり、こちらへと虚ろな目を向けてきていた。

その立ち上がった死体の中には、束の父である藤原道長のもあった。親しい者の姿をしていたにも関わらず、命のを危機を感じたが故に束は掴んできた腕を切り飛ばす。急いでバックステップで距離をとると、雫も達也も臨戦状態であった。

束の腕を掴んできた死体の腕は、再生することはなかった…が、その腕がひとりでに動き出す。そんなバイオハザードじみた集団の目的は、ほぼ間違いなく三人であろう。気づけば死体がすべて立ち上がっていた。そして…

 

 

「っ、速い!」

 

 

本当に死んでいるのかどうか疑わしい速度で、こちらへ向かってきたのだ。この突撃を三人は跳躍でかわす。そして悪いとは思いながらも、達也は死体の首をすれ違いざまに切り落とした。すると、その死体は動きを止めたのだ。

 

 

「…首を切断すれば止まるのか」

 

 

着地した三人。達也と雫は迫りくる死体たちに向けて戦意を見せる。だがそれを束が手で制した。

 

 

「彼らは…私が倒します」

 

「…できるのか?」

 

「ええ、情に負けて役立たずを切り捨てられないのは、上に立つ者として失格でしょう?…地下へ続く道は魔法による隠蔽はかかっておりません。貴方ならすぐに見つけられるかと」

 

 

束の発言は、暗に「先に行け」と言っていた。確かにここで足止めを食らっていたままでは、偽神が京都の外へ出て行ってしまう可能性もある。束の覚悟を信じて、達也は雫を連れて地下へ続く道へ向かった。

 

 

「みんな…お父様…」

 

 

迫りくる死体たちと相対する束の眼には、覚悟の火が灯っていた。

束は、死体たちへと向けて駆け出した…!

 

 

 


 

 

 

「…またお前か、結構会う機会が多いな」

 

「言いたくなる気持ちはわかるわよ…なんで私ここにいるんでしょうね…」

 

 

丸で偶然会った知り合いかのように話す二人の人物。確かに二人は偶然ここで出会った、しかしその二人は自分たちに襲い掛かる敵をバッタバッタとなぎ倒しながら会話しているのだ。

 

 

「スターズの総隊長の癖に、一番こき使われてるんじゃないか?」

 

「命令が下った以上従うしかないしね…」

 

「軍人はつらいな」

 

 

その二人とは、名を改めた男名倉零次とUSNA最強の魔法師、アンジー・シリウスことアンジェリーナ・クドウ・シールズである。USNAの軍人である彼女がなぜここにいるのか。それは日本が驚異的な存在である偽神に対抗するために、USNAに対する救援要請を行うことを判断したからである。

それゆえに最大戦力であるリーナが送り込まれてきたのだが…

 

 

「正直、ここに来たのは間違いだったわね…」

 

「間違いじゃないだろ。俺たちだけで総司をぶっ飛ばせるか分からないんだぞ」

 

「そうじゃなくて、今この場所ってコトよ」

 

「ああ…」

 

 

そう、この二人は雑魚狩りをするにははっきり言って過剰戦力なのだ。方やUSNA最強、方や最強の人間のクローン。この二人の組み合わせを止められる力は、伝統派には残っては…

 

 

「…!何か来るぞ!」

 

「え?キャッ!?」

 

 

結界術で周囲に索敵用の結界を張っていた零次が、リーナを俵抱きで抱えて跳躍する。次の瞬間、二人がいた場所に何かが突撃してきた。

地面は抉れ、辺り一帯には紫電が這っていた。

 

 

「アイツ、何者だ…?」

 

「その前に私を下ろしなさい!」

 

 

リーナがじたばたと抗議するが、零次は正体を確かめようと集中して飛来物を見つめているため、その願いは届かなかった。

そして煙と紫電が晴れ、その正体があらわになる。

 

 

「…これ以上、京都を破壊しないでください、総司さん!」

 

「…誰だお前?」

 

 

その飛来物…いや、襲来者の正体は、九島光宣であった。どうやら、零次を総司と勘違いしているらしい。

対する零次は、光宣のことなど知らないために、目の前の相手が総司の知り合いであるらしいこと以外は分からなかった。

 

 

「…僕のことも忘れてしまったんですか!?…そんなUSNAの軍人までも連れてきて、本当に日本を滅ぼす気ですか!?」

 

「いやだからお前だ「…なんですって!?」アッまずい」

 

 

思考よりも先に思わず言葉を出してしまった零次は、その発言で勘違いしたままの光宣に説明をしようと試みるが、途中で光宣が挟んだUSNA煽りのせいで、抱えられていたままのリーナがキレてしまう。

最初からやれよと言いたげな身のこなしで、零次の腕から脱出したリーナは勝手に侵略者扱いしてきた光宣に文句を投げつける。

 

 

「アンタねえ!USNAのこと外敵みたいに扱ってくれるけどね、こっちからしたらアンタの方が任務の邪魔をしてくる敵よ!」

 

「そりゃ、侵略を妨害してくる奴なんて、侵略者からしてみれば敵以外の何物でもないでしょうね」

 

「くっ、こいつ…!」

 

 

…現状、正しい状況を知っているのは一高メンバーとそのOBぐらいしかいない。であれば光宣が情報不足の中で駆け回っていたことが容易く想像できる。そんな中で見つけた、総司(のそっくりさん)と行動を共にするUSNAの出身らしき相手。光宣側からしてみれば、総司がおかしくなってしまったのはUSNAのせいなのだと考えてしまえたのだ。

 

 

「アンタは先に行きなさい、アイツは倒さないと腹の虫が収まらないわ!」

 

「時間稼ぎのつもりか!?」

 

「いやだから…ああもうめんどい、勝手にやっててくれ…」

 

 

その後、言い合いが過激化してしまった二人は、お互いが本来の目的を忘れてしまい、目の前の相手をぶっ飛ばすことしか考えられなくなっていた。

その様子に、まだ偽神と戦う前なのに疲弊した零次は、放っておくことにしたのだった。




魔法科世界の秘匿通信


・藤原家の人間たちの死体が動き出したのは偽神の仕業ではなく、伝統派の魔法師が束への嫌がらせのために使用した。



え~、なんでこいつら(光宣とリーナ)戦ってんの?


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妄執の機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)編 その六

今回は遅かった上に短いです…


「…っく、鬱陶しい戦い方するわね…!」

 

「強い…!こいつ、スターズでも上澄みの戦闘員だな…!」

 

 

京都の町中…風情溢れる街並みではなく、中心街に近い所謂都市部と言える場所にて、光宣とリーナは戦闘していた。

光宣は主に、『スパーク』をはじめとする放出系の魔法で、リーナは主に『分子ディバイダー』を用いた近接戦闘で戦っていた。

 

そしてお互い、防御を『仮装行列(パレード)』による幻術を主にしていた。この戦闘にて、お互いが『仮装行列』を使っていることを悟った二人だが、親戚だから使えている(リーナは光宣の祖父である九島烈の弟の孫である)という思考には全く至っておらず、お互いの技術が盗まれたと相手を悪者前提で考えている。

 

 

「(この男…魔法の強度や精度、戦闘力の高さは目を見張るものがあるけれど…少し体力がないわね。そこを突けるかどうかが、勝敗を分けそう)」

 

「(このまま消耗戦を続けていけば、先にダウンするのは常人より体が弱い僕だ。なるべく速攻で決着を…!)」

 

 

この戦闘のキーは、二人の考え通り光宣の体の弱さにある。魔法の技量は同レベルに高水準な二人だが、体力面を見ると体調を崩しがちな光宣と比べ、現役軍人であるリーナは体力もあれば近接戦の心得もある。

そしてリーナは、最も得意とする放出系魔法を隠している。手札を隠して、ここぞというときに開放する算段なのだ。しかし光宣もリーナが何かしらの切り札を隠していることに気づいていた。

どうにかして吐かせたい…そう考えて、再び『スパーク』を発動する光宣、それを回避しながら『情報強化』した銃弾を撃ち込むリーナ。

 

放たれた銃弾を、再び発動された『スパーク』で撃ち落とす光宣。その光景を見たリーナはすかさず次の手を打つ。

 

 

「(ここっ!)アクティベイト!ダンシング・ブレイズ!」

 

「っ!?遅延術式か!?」

 

 

戦闘中に至る所にばらまいたナイフに仕込まれた術式を発動させるリーナ。驚いた光宣は、体が硬直するも、反射で魔法を発動する。

 

 

「なっ、『疑似瞬間移動』!?」

 

 

光宣が『疑似瞬間移動』を使用して『ダンシング・ブレイズ』を回避する。しかしリーナも驚いたのも束の間に、光宣の出現位置に目を向けて攻撃用意をする。『疑似瞬間移動』は移動に際して、周囲の空気を押し出す気流を作り出す必要があるため、移動先が読まれてしまうのだ。

そうして光宣が姿を現すと同時に攻撃をしようとリーナが構えていると…

 

 

「っ、キャア!?」

 

「なんだ!?」

 

 

二人の立っていた場所に巨大な亀裂が走る。同時に大きな振動が襲ってきた。それに驚愕した二人は足を止める。そして…何者かが二人に向かってきていた。

 

 

「…ソウジ」

 

「総司さん…」

 

「…ははははは排除、排除排除排除。敵生体とおぼしきききき存在を、は排除じょじょじょ」

 

 

焦点の全く合っていない目で、壊れたように何かをつぶやく偽神がそこにいた…

 

 


 

 

京都の町に鳴り響く轟音。その轟音を近くで聞いていたのは、真由美と摩利であった。二人は音がしたその場所まで向かう。到着したとき、二人の眼には…

 

 

「…なんだ、この惨状は」

 

「…!摩利、人が倒れているわ!あれは…シールズさん!?」

 

 

京都の中心街。そこは最早、文明の残った後すらなかった。京都駅を中心に半径200メートル程の大規模なクレーターが発生している。その端に、二人ほど人影が見えていた。内一人は遠くて確認できないが、この距離でも感じるほどの「美」のオーラを感じる。

そして倒れているもう一人は、二人も見覚えがある人物、アンジェリーナ・クドウ・シールズであった。本来彼女は『仮装行列(パレード)』を用いて自身の容姿を偽装しているのだが、ダメージが大きく気絶しているためだろうか、その魔法も解けていた。

 

二人は倒れている顔見知りに駆け寄ろうとする。すると、ふっと二人に影が覆いかぶさる。

その影を横目で確認した二人は、驚愕で目を見開く。

 

 

「ははははははは、排除じょじょじょ!」

 

 

全く生気が感じられない総司…いや偽神が、二人の頭に向かって掌を向けてきている。彼の元々の身体能力を知っている二人からしてみれば、偽神が何をしようとしているのか容易く想像できた。彼は自分たちの頭を引きちぎるつもりなのだと。

唐突に訪れた回避不能の死の気配に、二人は体が動かなくなってしまった。そんな二人をよそに、偽神は二人の頭を掴む…

 

 

「…何やってんだお前ェ!」

 

 

…その直前に、偽神の顔面に高速のキックが叩き込まれた。その勢いで、掴みかけていた二人の頭に指が掠りながら、偽神が途轍もない速度で吹き飛ばされる。

死の危険から一時的に開放された二人は、自分たちを助けた存在にもまた心当たりを持っていた。

 

 

「零次君!間に合ったのね!」

 

「ああ。遅くなってすまないな真由美。…あのバカどもの喧嘩を見てられなくてここを離れたんだが…待っているべきだったかな」

 

 

そういいながら、零次はリーナと遠くの人影…光宣に目を向けた。起こしに行こうかとも考えた零次だが、偽神が激突したビルからガラガラという物音がしたのを見て、戦闘態勢を再びとる。

 

 

「おい、神気取ってる偽善者さんよ!さっさとオリジナルの体返して成仏しちまいな!」

 

 

…北山雫が来ない限り、零次に勝ち目は薄い。結界術と身体能力が取り柄ではあるが、向こうは己を超える速度にパワー、そして得体のしれない魔法を使ってくる可能性も…

 

 

「ははい、排除排除、ははは…驚愕、ここまでの抵抗を見せるとは」

 

 

立ち上がった偽神は、少しの間言葉がおかしかったが、すぐに立ち直って見せる。零次たちの耳に聞こえてきた「抵抗」という単語に、零次は未だに偽神の中で総司が生きているのだと理解した。

まだ勝機はある…零次はそう信じて、偽神との戦闘に臨む…!




魔法科世界の秘匿通信



・偽神がこのタイミングで現れたのは、総司の意識が予想以上に暴れまわったがゆえに、一時的に体の主導権が混同してしまったから。


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妄執の機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)編 その七

偽神戦、開始です…投稿ペース上げたいなぁ…


「…橘総司は、お前すらも大事な仲間と認識しているようだな」

 

「へえ…そりゃ好都合だ!」

 

 

ふっ、と偽神が零次に手を向けてきた。その姿に、かつて周公瑾を消してしまったときの光景が零次の頭をよぎったが、どうやら偽神の中の総司は抵抗を続けているようで、零次は即座に消してしまわれることはなかった。

その事実に冷や汗を流しながらも表情をニヤつかせた零次は、偽神へと突貫する。その姿を見た偽神は…

 

 

「…抵抗の意思を確認。迎撃を開始する」

 

「…っ!?この魔法…現実じゃなくて因果律に干渉している…!?」

 

 

迎撃のため、偽神が使用したのは神の手法に近い、現実干渉ならぬ因果律干渉を行う魔法であった。それにより、地面が通常の魔法師では不可能なレベルで複雑な変化を始める。

それを見た零次は足を止め、結界術で形成した投擲槍を偽神の腹目掛け投げつける。しかしそれは、変化の速度を加速させた地面により形成した壁で防がれる。

 

だがこれにより視界が塞がれた。

 

 

「…おらよっ!」

 

「…無駄、その攻撃は予測済みで…っ!」

 

 

視界を塞いだ一瞬に、偽神の背後に回った零次が蹴りを放つ。しかし偽神は容易く予想できていたようで、その攻撃を防ごうとするが…

 

 

「アクティベイト!ダンシング・ブレイズ!」

 

童子(同時)斬り!」

 

 

攻撃の方向は、更に増えていた。零次の後ろから、零次ごと攻撃するようにナイフが飛翔してきている。意識を取り戻したリーナの『ダンシング・ブレイズ』だ。

そして壁を斬って現れたのは摩利。彼女は愛しの彼氏と再現した斬撃、『ドウジ斬り』によって、三方向からの同時攻撃を行っていた。

 

背後を囲むようにナイフ、横方向への退避は、零次の横薙ぎの蹴りによって不可能。そして前方には摩利のドウジ斬り。必然的に上方向に回避を試みる偽神。だが…

 

 

「…もちろん、そう避けるわよね!」

 

 

偽神の退避方向には、真由美が放った『ドライ・ブリザード』が降り注いでいた。そう、彼らは即興で連携をして、一瞬で偽神を追い詰めたのだ。

勿論、彼らはこの程度で偽神が倒せるとは思っていない。総司は素の防御力で対魔法師用のハイパワーライフルを防ぐことができる。リーナはそんなこと知らないが、他の三人は、それでもダメージを見込めると思っていた。

 

 

「……」

 

 

その瞬間、偽神の姿が消えた。この時、接近していた摩利と零次は、その原理が疑似でもない、正真正銘の瞬間移動であることに気づく。そして真由美もマルチスコープでそれを遅れて知覚し…

 

 

「…まずは、索敵持ちから撃破を優先」

 

「なっ、しまっ…!?」

 

 

…真由美の真横に現れた偽神が、真由美を蹴り飛ばす。まるでサッカーボールの様に扱われた真由美は、大きく吹き飛ばされ、倒壊したビルの瓦礫に強く打ち付けられる。

だが、まだ息はありそうだ。

 

 

「…橘総司、ここまでの抵抗は予想外」

 

 

偽神の口ぶりから考えて、どうやら真由美が即死しなかったのは、総司が威力を最小限にまで押し込めたからのようだ。もし早々に総司の精神が諦めてしまっていたら、この時点で二人の人間が死んでいる。

 

傍から見れば死んでもおかしくはない攻撃を受け気絶した真由美を見て、結界によってナイフを防御した摩利と零次が激昂する。

 

 

「お前…!よくも真由美を…!」

 

「…!」

 

 

摩利は怒りの言葉を吐きながら斬りかかり、零次はその怒りを豪速の右ストレートで表した。

偽神は二人を見つめ、二人に対して的確な反撃を決めようとして…

 

 

「…?」

 

 

視点が落ちる。痛みという電気信号をキャッチした偽神の脳からの指令で、彼の眼は反射で自身の腹部を確認する。そこには幾何学模様が描かれた半透明の結界と、それによって泣き別れになった下半身があった。

結界というものは元来外界と内界を隔てる技術だが、零次の技量と干渉力が合わされば、人体を結界で切断することも可能だ。

 

いきなり人体が真っ二つに分かれた偽神…いや、総司の体を見て摩利は驚きで目を見開いている。さすがにここまでの攻撃を零次が行うとは予想できなかったようだ。落ちる視界の中で零次の方を見る偽神。どうやら零次は怒りの中に冷静さを失わずにいられたらしく、右ストレートは囮でどうやら本命は偽神の顔面が落ちてくる丁度の場所に向かっての左アッパーであった。体でうまく隠していた為、偽神は察知が遅れたのだ。

 

そして零次の拳が偽神の顔面にあたる直前…

 

 

「んなっ!?」

 

「まっず!?」

 

 

瞬間的に偽神の体が消え、零次の拳は摩利の顔面に命中する直前であった。刹那にも満たない時間で零次は偽神の位置を探す。そして、偽神の気配は自分の背後に迫っていることに気づいた。切り落としたはずの体は修復されている。

 

 

「…うおおおおらぁ!」

 

「…!…予想外」

 

 

それを知覚した瞬間の零次の反応速度は、異常な速度であった。摩利に拳が命中する直前、物理反射の効果を持つ結界を間に張り、自分の拳を無理やり反射した零次。

キャアン!という甲高い音と、グキャグキャ!という到底人体から出てはいけない音が零次の左腕から発せられる。恐らくこの音の大きさからして、左腕は使い物にならなくなったと考えていいだろう。

肝心なのはその後、自分の拳が反射された勢いを利用し自身の体を回転させて、背後から迫る偽神に威力の増したキックを放つ。

 

それを偽神は驚いたようにガードするが、あまりの勢いに踏ん張っていても数十メートル押し返される。

 

 

「ハア、ハア…」

 

「大丈夫か、零次!?」

 

「…俺の事はいいから、さっさと真由美を回収してこい!」

 

「わ、分かった…!」

 

 

肩で息をして、左腕が力なく揺れている零次だが、気丈に摩利に指示を出す。その言葉を受けた摩利が一時的に退避する。

 

 

「…レイジ!まんまとしてやられたみたいね!」

 

「ハッ、情けなく気絶してたやつに言われたかないね…!」

 

 

零次の隣に、復帰したリーナが降り立つ。今の彼女はアンジー・シリウスという名の仮面を被っていない。全ての魔法力を戦闘に回すつもりで立っている。

 

 

「…高々一人増えてぐらいで私を倒せるとはおも「頭上注意だぜ!」!?」

 

「『パンツァー』!」

 

「…態々居場所を明かすとは、愚か…!」

 

「そりゃ、ソイツは囮だからに決まってるじゃない」

 

 

眼前に立つ零次とリーナを打ち滅ぼさんと動き出そうとする偽神。しかしそれは上空から聞こえてきた声によって阻まれた。レオが硬化魔法を使いながら、上空から降ってきたのだ。しかしレオが声を出したことで存在を察知した偽神は反撃しようとして…背後から迫りくるエリカに気づけなかった。最大限の助走をつけることができたエリカ。

エリカにとってそれは、自身の最高火力を叩き込む条件であった。千葉家の秘剣、『山津波』。

術者と刀にかかる慣性を極小にして高速接近し、インパクトの瞬間に消していた今までの慣性力を上乗せして叩きつける魔法だ。助走距離が長いほど威力は増大し、偽りの慣性質量は最大で10tに及ぶとのことだ。

 

見事レオに釣られてエリカの攻撃を防げなかった偽神は、10tの火力を諸に受けた。それによって、偽神は数百メートル単位で吹き飛ばされた。そもそも、斬撃を受けて吹き飛ぶということ自体がおかしいのだが。

 

必死に攻撃を行う一高メンバーだが、偽神は立ち上がる。その表情に一切変化はない。ダメージはないと考えていいだろう。

 

 

「…探す手間が省けた。まとめて消し炭に変えよう」

 

 

絶望は終わらない…!

 


 

 

一方その頃…

 

 

「雫、こっちだ!」

 

「この通路にも敵が多いね…!」

 

 

藤原邸の地下、『精霊の眼(エレメンタル・サイト)』で道を確認している達也の先導に従う雫。ここには藤原の家のエージェントの約六割ほどが守りを固めているのだが、正確な数を知らない、なにより数などお構いなしに進むしかない二人にとっては些細な事だ。

 

達也の『分解』、雫の振動パンチで敵をバッタバッタと薙ぎ倒していく。そして、固く閉ざされた扉が目の前に現れるのだが、達也の『分解』の前に強固な守りは塵芥同然の様に破かれる。

 

 

「…ここか」

 

「これは…」

 

 

そこには、ケースに入れられて燦然と輝くレリック群があった。

 

 

「…経年劣化がほぼない…『蓬莱の薬』で不朽の性質を得ているというのは本当らしいな」

 

「こんなものが、平安時代に…?」

 

「おかしくはない。元来レリックとは、現代科学や魔法で作り出すことができない過去の遺物の事だ。ひょっとすると、遥か昔に存在した文明の方が、現代よりも発展していたものだったかもしれない」

 

 

達也の相変わらずの解説口調を半々に聞き、雫はレリックが収められているケースに手を伸ばす。どうやら物理的、魔法的な防御が両方かかっているらしく、簡単には開けられない。だが先ほども述べた通り、今この場にはどんなセキュリティをも一瞬で突破できる達也がいる。

達也が『分解』でケースの蓋を消し飛ばす。

 

蓋が消えたケースからレリック群を取り出した雫は、それを自ら身に着けていく。

 

『火鼠の皮衣』を加工したマント、『蓬莱の玉の枝』を柄とした、『仏の御石の鉢』を加工して作られた石剣。『龍の頸の五色の玉』を加工した、五つの指輪。そして雫が持つ『燕の子安貝』のネックレス。

偽神に対抗するファクターはそろった。

 

 

確かに絶望は終わらない。

だからと言って、希望が生まれないとは限らない…




魔法科世界の秘匿通信


・基本的に偽神は相手の人体に直接干渉する魔法を使えない。総司の異能で止められているからだ。



・フルアーマー雫完成。その実力は如何に…


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妄執の機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)編 その八

「グハァ!?」

 

「レオ!」

 

 

攻撃を寸でのところで発動した硬化魔法で防御しながら大きく吹っ飛ばされるレオ。持ち前の速度を活かしてその回収に向かうエリカ。

…先ほどから何度この光景を見てきただろうかと零次は歯噛みする。

 

上空の囮を利用した『山津波』は確かにクリーンヒットしたが、それ以降が続かない。特に機動力がないレオ、逆に防御力がないエリカがよく偽神の攻撃で一時的に吹き飛ばされやすい。リーナは『仮装行列(パレード)』の幻覚で何とか誤魔化せてはいるが、あと二回ほどで完璧に見破られるようになってしまうだろう。そうなってしまえば、正面から攻撃を防げる零次は、今しがたのガン攻めより守りに入る必要が出てくるかもしれない。

こうなってしまえば、言わば零次達は窮地に陥っていた。…総司が敵に回った時点で窮地であることはそうなのだが。

 

 

「くっそ、眠りの王子様を起こしに来る白雪姫はまだかよ!?」

 

 

思わず零次はそんな悪態をついてしまう。現在の時系列的に、丁度雫たちが全てのレリックを手に入れたところだろう。京都の中心のここから若干離れた嵐山、更にその街はずれとくれば、しばらくその援護は望めないだろう。

しかし零次からしてみれば、もう持ちこたえるのも限界だ。零次本人はまだしも、リーナは疲れが見えてきているし、レオとエリカは攻撃を何度か食らったことによるダメージが大きそうだ。おまけに真由美が再起していないため、その介抱に摩利が付きっきりになってしまっている。光宣はどこに行ったか姿が見えない。もしかすると瓦礫に埋まってしまったのだろうか、そんなIFを妄想する余裕は零次には残されていなかった。

レオとエリカが離れた隙を埋めるようにリーナと二人で接近して攻撃を加えようとするも、二人を分断するように、高層ビルを念動力で持ち上げて投げつけてくる偽神。すんでのところで回避に成功した二人。偽神側に残ったのはリーナで、一人でも偽神を足止めしようと果敢に立ち向かう。零次も投げられ、地面に突き刺さった高層ビルの中腹辺りに結界でトンネルを生成。それを通ってリーナに合流しようとする。

そしてとうとう、リーナの『仮装行列(パレードが)』見破られてしまったようだ。殴りに行こうとしていた体を止め、リーナと偽神の間に結界を張る。それは偽神によって破られてしまうが、威力を下げることはできたようで、偽神の拳は当たってしまったものの、リーナはまだまだ余裕そうだ。

 

 

「…何を企んでいる?」

 

 

偽神は、唐突に零次たちに向けてこう問うた。偽神視点、零次たちは勝ち目のない戦いの中でも諦めずにいる。だとすれば、それは彼らには勝ち目があるということに他ならない。だから偽神は訝しんでいる。ここまでの戦力差をひっくり返すだけの何かがあるのかと。

…そして、このひっくり返す何かとは、何者かの魔法師かと考えている。

 

…偽神は道具というものを見くびっていた。いつか壊れる、いつか性能に限界が来る。人の様に糧を得て成長することがない、一度作られてしまえばその時点での性能しか発揮できない。

道具というものは進化した者が快適さを求めて作るものであり、それ自体が進化することはないと。

 

…だが、不朽の宝物達は、そんな偽神の常識を超えるほどの物品の数々である。そこに、人類の勝利が掛かっている。

 

 

「…だが、今お前たちが時間稼ぎをしていることは分かる」

 

 

そう、偽神は自分を滅ぼしうるのが不朽の宝物を身にまとった一人の少女であることは知らないが、少なくとも現状は零次たちが耐久に専念する必要があるのは動きからしてみてとれていたのだ。

いい加減、この眼前の人間を滅ぼす必要性を感じた偽神は、零次の背後に瞬間移動した。そして因果を操作し、零次の首が落ちるように結果を設定。あとは手刀が振るわれたという原因を作れば、零次の命は消え…

 

 

「…!?っく!」

 

 

その直前、偽神の眼前に途轍もない輝きの閃光が瞬く。これによって、偽神は零次の首に手刀を振るうことができなかった。

ところで、現在この戦場にいるレオとエリカ。彼らには京都に着いた当初、共に行動していた者たちがいた。そんな者達がどこへ行ったのか…

その答えはズバリ、他の仲間を迎えに行っていたのだ。戦闘音を聞いた時、先にレオとエリカが先行していたが、琢磨と幹比古は他の仲間との合流を優先したのだ。

 

偽神の足元が凍り付く。振動・減速系の冷却魔法、間違いなく司波深雪だろう。となれば、先ほどの閃光は光井ほのかか。視界が回復した偽神を待ち受けていたのは、本当に回復したか疑わしい、歪みに歪んだ景色であった。これはおそらく幹比古の古式魔法だ。これによって、偽神は次の攻撃を視認することができなくなっていた。

 

偽神の腹部と頭目掛けて、二人の蹴りが飛んでくる。頭への攻撃は先ほどと変わらず零次であるが、腹部を狙ってきたのは琢磨であった。幹比古の魔法により前後不覚でまともに動くことすらままならない偽神は、二人の強烈な蹴りを食らう。二人とも挟み込むように攻撃したのだが、零次の方が威力が高かったのか、腹部が見るに堪えない形に変形しながら、それとは逆方向に首が回転させながら吹き飛んでいく。

その光景は、仮に総司の精神がこの場で言葉を発せられるなら、『オイオイ、死んだわ俺』と言ってしまうほどに惨いものであった。事実、背後のビルに激突した偽神は惨殺死体かのような様相であった。

 

しかし、全員が瞬きしたころには偽神の肉体はすっかり元通りになっていた。深雪はその光景を見て確信する、あの偽神は達也の『再生』のプロセスを利用していると。

敬愛する兄の力を利用されていることに対する嫌悪感と、その脅威をもっとも知っているが故の、どうやって対抗するかが思いつかない絶望感を深雪は感じる。

 

…だが、今その兄と友人が眼前の恐怖を打倒せしめる準備をしている最中だ。ここで臆してしまうわけにはいかないと深雪は自身を鼓舞する。

 

そんな時だ、偽神が突如として頭を抱えながら苦しみだす。あまりにいきなりであったため、一同は硬直してしまう。

 

 

「…なんだ?」

 

「…邪魔をするな橘総司ィ!」

 

 

どうやら中にいる総司が抵抗を更に活発にし始めたようで、偽神はそれに苦しんでいるようだ。しかし、実体としては居もしない総司を吹き飛ばすかのように、腕を振るうという因によって発生する暴風という果が魔法で現出。身体能力お化けである零次と琢磨は地面に足を突きさすことで堪え、他のメンバーは深雪が咄嗟に背後に発動させた氷壁で踏ん張ることに成功した。

意図しない魔法行使でこの威力。もし総司が制限をかけずに、偽神が全開で魔法を使えていた可能性を考えると恐ろしくなってくる。

 

 

「…っ、なんですか、これは…!?」

 

 

深雪が思わず声を上げる。偽神は苦しみから逃げ出すように頭を大きく振ったかと思えば、深雪たちを一瞥し、そちらへと手を向ける。すると地面が鎖の様に変化し、その場にいる全員を拘束してしまう。身体能力は比較的非力な方である深雪やほのかはともかくとして、レオや幹比古、リーナと言った男性陣や軍人として訓練を積んだ人間が、そして零次と琢磨という怪力自慢の二人すら拘束されてしまう。どうやら人体の構造上力が入りにくい姿勢で拘束してきているようだ。

全員が外そうともがくが早々すぐには外せない。その隙に、上空に黄金に輝く球体を形成していく偽神。それは達也が解析すれば、光弾ではなくレーザーを放つ魔法でもない、分類上は魔法剣になることが分かるだろうが、拘束されていて防御も回避もできない一同には気づくことはできないことであった。

 

鎖を冷却して脆くして破壊した深雪、『ミリオン・エッジ』を発動し鎖を切り刻んだ琢磨、自分の肉体に纏う様に結界を張って鎖を吹き飛ばした零次の三人は、その攻撃に対しての防御姿勢をとることができた。考えられる威力からして防御ではなく回避、回避よりもそもそも撃たせない方がいいとは分かっているが、今からでは止められないし回避もできない。

 

 

「『ミリオン・エッジ』…!」

 

「『アイアスの盾』ェ!」

 

「『穿天氷壁』!」

 

 

琢磨の『ミリオン・エッジ』を束ねて円盾状に、零次のかの概念武装として名高き『アイアスの盾』を模した七重の結界を重ね、更にその前に深雪の大規模な氷の壁『穿天氷壁』を合わせることで偽神の攻撃を防ごうとする。

しかし…!

 

 

「…ああ、儚きかな」

 

「…だめだ、耐えられない!」

 

 

偽神の魔法は、戦略級魔法を超える超戦略級魔法…本来の用途としては、()()()()()()()()()()魔法、『星薙剣(フォトン・エッジ)』であった。光を高速振動させ、極薄の単分子ブレードを構成することで万物を切り裂く最強の魔法剣。そんな圧倒的な『暴』の前に、一同はなすすべなく…

 

 

「はああああ!」

 

「…なんだと?」

 

 

三人が全力展開した防壁が砂の城の様に脆く崩れて、一同に『星薙剣』が当たってしまうという直前、突如として流星が落ちてきて、最強の切断魔法である『星薙剣』が逆に斬られた。流石に想定外なのか、片眉を上げて驚く偽神。途轍もない光の奔流が切断されたことにより、周囲一帯がまばゆい程に輝く。そしてその輝きが収まったとき、流星の正体が現れる。

 

 

「…みんな、遅れてごめん」

 

 

バサッ!と『火鼠の皮衣』のマントを翻した雫が、神々しい輝きを放つ石剣を片手に佇んでいた。偽神はまた新手か…と内心呆れながらも攻撃をしようとして…

 

スパッ、と偽神は体を細切れにされる。その傷自体は逆再生かのように元通りになるが、今の一瞬で自分の背後に回って己を切り刻んだ相手である雫をにらむ。

 

 

「その体…返してもらうよ」

 

「…愚か」

 

 

音速を超える速度の拳と斬撃が交差する…!




魔法科世界の秘匿通信


・『星薙剣』:ライブ感の塊みたいな本作の中でも、比較的初期から登場が確定していたオリジナル魔法。元ネタは『アクセル・ワールド』のグラファイト・エッジの解明剣(エルシデイター)。


・『穿天氷壁』:ヒロアカの轟のパクリ


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妄執の機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)編 最終話

雫ちゃんが強すぎて…


「…総司の体を返して」

 

「そう言われて頷くとでも?」

 

「だよね、だから力づくで取り返す」

 

 

一閃。偽神と正面で向き合っているにも関わらず、偽神の警戒を超えて雫が偽神の肉体を真っ二つに両断する。しかし、相変わらず直ぐにその肉体は再生してしまう。『再生』の魔法を使用しているのだ。

 

 

「…随分と切り込んでくるな。お前は橘総司の女なのだろう?死んでほしくないのでは?」

 

「変な奴が入ってるからね、総司の為に追い出してあげるの」

 

「何を言って…!?」

 

 

いくら回復するとはいえ、雫の性能は偽神に対して脅威として最大限の警戒を持たせた。その切り込む為、雫に揺さぶりを掛けてきた偽神だが、その体は突如として膝から崩れ落ちる。心なしか体の制御が上手くいかない。総司に若干取り返されたような気がしてきたのだ。

偽神は予想外の事態に困惑を隠せない。何があったのか、それは雫の持つ石剣の刀身、『仏の御石の鉢』に由来している。

 

この石は、悪しき気を祓うという効果を持つ。そんな効果を持った石が刀身として加工された為、祓うという性質が断ち切るというものに変わっているのだ。…本来偽神の精神も悪しき気ではないのだが、本来の持ち主の体を占拠している故に、悪しき気判定らしい。

だがそんなことを知る由もない偽神は、雫が自分を殺しうる存在だと最大火力をねじ込んでくる。

 

 

「死ね、人類に仇なす者よ!」

 

「…可哀そう、自分こそが人類を滅ぼしてしまうという事が理解できていないんだね…」

 

 

そこで偽神が発動したのは、『ヘヴィ・メタル・バースト』であった。自分の魔法がパクられた事を理解したリーナが抗議の声を上げようとするが、すぐに閉口してしまう。

その理由はズバリ、背後に現れた魔法陣の数である。十、百、千、万…数えることすら億劫になるほどの夥しい量の魔法陣が、偽神の背後に出現する。その一つ一つは全てが『ヘヴィ・メタル・バースト』であり、これが直撃してしまえば、彼らは、いや京都全域が更地になってしまう程の出力。一点集中させなければ世界に甚大な被害をもたらすことすらできるだろう。

ただし、偽神はあくまで人類の為に行動しているので、そんなことは流石にしないのだが。

 

しかし、それ程の威力を持つ攻撃を個人相手に放つという事から、偽神の雫に対する警戒度合いがうかがえる。その常識外の魔法を見た一同は、口々に雫に引く様に訴える。特にほのかなんて号泣しながらである。

…だが、彼ら彼女らは過小評価をしていた。北山雫という少女の胆力、そして『五つの難題』によって最強の存在と化した人間の強さを。

 

 

「終わりだァ!」

 

「雫ダメッ、逃げて!」

 

 

ほのかの叫びをかき消すほどの轟音とともに、眩すぎる光の奔流が雫へ向かう。だが、雫は全く焦りもしていない。丸で愛する人が久しぶりに帰ってくる前の少女のような表情を浮かべていた。

 

雫が腕を一振りすると、そのレーザーを丸々防げるような大規模な魔法陣型の障壁が展開される。だがそれでは普通耐久力が足りなくて容易く破られてしまうであろう…普通はであるが。

 

 

「…何故だ、何故生きているのだ?」

 

「すっげぇ…一体何したってんだよ…」

 

「簡単な事。…十文字先輩には感謝しないとね」

 

 

偽神が恐怖からの声を、レオを始めとした救出メンバー達が希望を見たような声を漏らす。そして雫はその種を明かし始めた。

 

 

「使ったのは単純に、『ファランクス』の真似事をしただけだよ」

 

「『ファランクス』だと?そんなものでは止められるはずは…」

 

「それ、人間の範疇で話してるよね?理論上では、相手の攻撃を防ぎきるまで障壁を維持できれば、『ファランクス』でも、ただの障壁でも防御可能だよ」

 

「バカな…まさか、単なる障壁魔法のループ・キャストだけで…!?」

 

 

そう、雫は理論上可能だが、到底成し遂げることはできないことをやって見せたのだ。その種として、やはり『五つの難題』が関わってきている。

まず、石剣の柄である『蓬莱の玉の枝』は、所有者に尋常ならざる魔法演算領域を与え、更に人智を超えたCADとしての役割も持っている。これにより、増えた演算領域を使用して、コンマ0.00001秒にも満たない時間で障壁魔法をループ・キャストし続けたのだ。

更に、雫が左手に装着している指輪についている『龍の頸の五色の玉』の効果により、サイオン効率を飛躍的に上昇させ、最早自然回復で大きくリカバリーが取れる程しか魔法によるサイオン消費が行われていないのだ。これにより、一切の消耗をすることなく、偽神の最大火力を防ぐことができたのだ。

 

その事実にたどり着いてしまった偽神は、雫に対して交渉を持ちかけようとする。その表情は確かに人類に対する慈愛が見て取れるが…余計なお世話というやつである。偽神が悪魔としている存在である達也は深雪に危害が及ばなければその力を開放することはないだろう。つまるところ、神の誕生を祝福しようとしていた藤原氏以外、偽神の降臨を望む者はどこにもいないのだ。

 

だが偽神は達也が悪魔であると信じて疑わない。故に交渉の余地があると考えたのだ。それは雫にとって、大切な友人を貶すことと同義であることすら思い至らずに。

 

 

「ま、待て!今私が消えれば、悪魔によってこの世界は…」

 

「その悪魔っていうのは、達也さんの事?」

 

「…!そ、そうだ!その者は危険だ!奴が本来の力を引き出す前に滅ぼせばこの体も返…」

 

 

その言葉を偽神が口にした瞬間、辺りに極寒の冷気が満ち、偽神の体だけを氷柱に取り込んで凍り付かせた。雫が下を見やると、鬼の形相をしている…しかし絶世の美少女という世の評価は覆らないだろう…深雪が怒りとともに冷気とサイオンを噴出していた。

 

 

「…お兄様を侮辱するものは何人たりとも許しません、それが正義に基づいた考えを持つものだとしても!」

 

「深雪の言うとおりだね…それに、達也さんは悪魔なんて言われるように力を使ったりしない。そんなことをしようとしたら、大事な妹から叱られちゃうからね」

 

「まあ!雫ったら、お兄様にとって私が大事な存在だなんて…!」

 

「「「「……」」」」

 

 

久しぶりに見た深雪の発作に、全員が苦笑いを浮かべた。だが、これにて勝敗は決した。雫は苦笑いをやめ、覚悟を決めた表情で眼前の氷柱に閉じ込められた偽神に向かい合う。魔法を発動して逃げ出しそうなものだが…雫には、そんなことはないと確信があった。そしてその氷柱ごと、偽神を横一閃するのであった…

 

 

 


 

 

偽神は目を覚ます。辺りを見回せば、そこは先ほどまで自分がいた京都とは違っていた。そこは見覚えはないはずだが、どこか見たことがあったような気がした。確か…

そう偽神が思考を巡らせていると、背後に気配を感じた。急いで振り向いた偽神に待っていたのは、強烈な威力の拳であった。

 

その拳を受けた偽神は、大きく吹き飛ばされ地面を転がる。よろよろと顔を上げた偽神の眼前には、いい笑顔を浮かべた自分がいた…いや、この男は…

 

 

「よお…やってくれたよなお前ェ…」

 

「…橘、総司…!」

 

 

そうだ、思い出した。この光景をどこでみたのか。それはこの男…橘総司の記憶からだ。ここは…

 

 

「…俺の精神世界ってこんななんだな…全く、どんだけ雫が好きなんだよって感じだ」

 

 

魔法大学附属第一高校、その校門。総司と雫が初めて出会った場所だ。先ほどは精神世界は大昔の京都の様相を呈していたが、それは偽神の精神世界でありこの校門こそが総司の精神世界の象徴なのだろう。そして精神世界が塗り替えられているという事は…

 

 

「やっと自分の状況を理解できたようだな?…お前は負けたんだよ」

 

 

先ほど偽神が氷漬けになった際、何故魔法で脱出しなかったのか。それは偽神が発動しようとした魔法を、総司が異能で無かったことにしていたからだ。それは偽神が精神をボロボロにされて弱体化したおかげと言えるだろう。

これにて立場は逆転した。偽神はどんな犠牲を払おうとも世界を救おうとしたが、そんなこと被害者である総司には関係なかった。

 

 

「…後悔するぞ、世界はいずれ悪魔によって…」

 

「滅びるってか?ありえないね…だって」

 

 

数瞬の間をおいて、総司は偽神に言い放った。

 

 

「俺と仲間たちがいる」

 

 

その言葉と、迫りくる拳を受けて、偽神の意識はこの世から消えていった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

西暦2100年 4月24日…

 

総司の姿は、インド洋上に浮かぶイギリスロイヤルネイビー空母『デューク・オブ・エディンバラ』の艦内にあった。

 

 

「お待たせ、待った?」

 

「…お前、それを言うために態々遅れてきたのか?」

 

「別にいいじゃ~ん。ここには一瞬で来れるんだし、時間にもちゃんと間に合ってるだろ?」

 

 

彼がここにいる理由は友人である達也と遊ぶ為…などというわけもなく。彼はここにある組織の設立に関する立会人を務めることになっているのだ。

「そうだ、誕生日おめでとう達也」「ありがとう、プレゼントは地球か?」「ほざけw」などと会話をしていると、艦内から二人の人影が歩いてくる。

 

その人影とは、インド・ペルシア連邦(India = Persia Union)、通称IPUの魔法学最高権威、アーシャ・チャンドラセカールと、彼女の護衛である非公認戦略級魔法師アイラ・クリシュナ・シャーストリーであった。

 

 

「まさか、貴方に協力を仰げるとは思ってもいませんでしたよ、ミスター橘」

 

「そういう貴女もちゃんと分かってるぽいな、今回の組織設立に大賛成なのは俺だけだって」

 

「ええ。()()も貴方を制御しきれていないようで」

 

 

 

社会人としての礼儀として、初対面の総司に礼儀正しく接するチャンドラセカールに対して、相変わらずどんな相手にも態度が変わらない総司。だがチャンドラセカールはそういった総司の人となりを知っていたらしく、気を悪くしたようには見えなかった。

 

 

「こんなじゃじゃ馬を旗印としてだけでも迎え入れてしまった協会の失敗ですね」

 

「おいおい…俺のおかげでお前もやりやすくなってんだから感謝してくれよ?」

 

「その点に関しては本当に感謝しているさ」

 

 

達也と仲睦まじく、しかし真面目に仕事の話をする総司は、雫が見れば「…成長したね、総司」とウルっとしてしまう事間違いなしであった。

すると、その会話に入りにくそうにしながらも、チャンドラセカールが確認するべき事項を総司に再確認する。

 

 

「貴方は今回、マクロード氏の代理人でもあるという認識で構いませんね?」

 

「ああ。マクロードさんっていうか…イギリスの代理人みたいな感じだけどな」

 

 

聞きたかった返答が聞けたチャンドラセカールは満足そうだ。そして、総司に期待の言葉を投げる。

 

 

「貴方のような、魔法資質を持つ人間すべての人権を保障しようという考えを持つ人間が、()()()()()()に立ってくれて本当に良かった」

 

「なに、俺だけじゃそれこそ抑止力にしかなれない。なら、俺よりうまくやれる奴の後押しをする必要があるだろ?」

 

「それでもです。貴方の働きかけがなければ、協会の妨害をイギリス政府が受けていたかもしれません」

 

「いや、さすがにそこまでは…やらんよ?」

 

 

多分ね?と不安そうな様子で明言を避けた総司は、苦笑いを浮かべながらも式典の…メイジアン・ソサエティ設立についての署名式の開会を宣言した。

 

その翌日、世界に激震が走った。それは国際魔法協会以外の魔法師の国際組織ができたという事にもであるが、IPUとイギリス政府、何より国際魔法協会からその正当性を認められたという事に対してだ。

今まで実戦レベルに達していない魔法資質を持つ者…メイジアンに対する保護を行ってこなかった国際魔法協会は、つい2年ほど前に会長が変わったことによりその方針を転換したことを知られていた。メイジアン・ソサエティの支援もその一環なのか…世界ではそう考えるものも少なくなかった。

 

その会長とは…

 

 

「じゃあな、達也。こんどはメイジアン・カンパニーだっけ?を設立するんだろ?それにステラジェネレーターの社長にもなるって義父さんから聞いたぞ?忙しくなるだろ」

 

「お前ほどじゃないさ、()()殿()?」

 

 

達也から皮肉を返され、そう来なくちゃとニヤッと笑って見せる総司。

 

 

橘総司…仕事で使っている名前であり、本名を()()総司。

 

彼は()()()()()()()()()()()であり…()()()()()()()()()だ。

 

 

 


 

時は遡り…

 

2096年9月某日…魔法大学附属第一高校にて…

 

 

「だ~か~ら!考えた魔法理論の素晴らしさを発表するのと、雫の素晴らしさを発表するの、そこになんの違いもありゃしねえだろうがって!」

 

「何もかも違うだろうがァ!」

 

 

総司の情けない訴えと、達也の怒号が響いていた…




次章予告…!


「論文コンペを、ぶっ壊~す!」

「こいつ止めるぞォ!」


論文コンペを我が物とし、雫のいいところ発表会に変えてしまおうと画策する総司を止めようとする3年ズ。


「ここがこうして…それで…」

「達也、君も手伝ってくれ!」

「…一向に研究が進まん!」


怒り心頭の達也…


「水波…さん?」

「九島さん…ですよね」


新たな恋の予感…


「…それで、どうやって私たちを潰すつもりなの?」

「拳で!」


ついでに存続の危機に陥る四葉家…


論文コンペを目前に、再び京都で思惑が錯綜する!


『京都って俺の地元だったりするんだぜ?だから…俺がルールだ(超理論)』、略して古都内乱編(!?)、開幕…!



という事でね、ここで一区切りという事で、次回はオリキャラのプロフィール紹介でもやっていこうと思います。

後、総司のバックストーリーは全部消化したので、総司に関するネタバレは全てなくなりました。
これにつきまして、別小説としてキグナスの乙女たち編を始めようと思いますので、賛成かどうかのアンケートを取りたいと思います。
投稿ペースとしては、基本的にこちらの小説:別小説で6:4か5:5で投稿できるように努めていきたいと思っています。
こちらアンケートを取らせていただきますので、回答お願いします。


また、今回京都には七草の双子や三年ズも来ていました。あと美月も。このメンバーの話も欲しいという方は、コメントしていただけるとこの章の番外編という事で書いていこうと思います。

本小説はまだまだ続きますので、変わらぬご愛読よろしくお願いいたします。


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古都内乱編
古都内乱編 その一


プロフィールまとめを書くと言ったな?あれは(半分)嘘だ。

正確には半分ほど書いたんですがね。正直ここでプロフィールに正確にまとめてしまうと、後からライブ感で動かすのが難しくなりそうだったのでね…


後、最終章って言ってたじゃん!ってコメントが来ていたのですがね、ほら某透き通る青春物語も最終章やったけど終わらなかったじゃん。そういうことだよ。


「どうしてお前って生徒会長に立候補しなかったんだ?怠惰?」

 

「いきなりなんだ総司…」

 

 

九月某日、論文コンペまで一か月を切った今日ではあるが、一高生達の主な話題はそのことについてではなかった。食堂までの道すがら(総司は雫と合流するため)、チラチラと達也の一行を見てくる生徒たち。

その話題は今週末に迫った生徒会長選挙についてだ。

 

やれ深雪たんスーハースーハーだの(この生徒は後日達也に締められました)、達也は何故立候補しなかったのかだの、総司が会長になったらこの学校は終わるだのと好き勝手に噂話がなされていた。

その噂話を耳にしたが故の総司の質問なのだが、どうやら様々な事情で学校に来られないことを考慮してのことだという事を理解していないようだ。

そしてその話に乗っかるかのように、エリカと美月が達也に質問を投げかける。

 

 

「総司君は確かに失礼だけど、確かに気になるわね。どうして立候補しなかったの?」

 

「え?俺なんか失礼なこと言った?」

 

「なんで自覚してないのよ」

 

「確か達也さんって、去年は無効票とは言え中条先輩に勝っていましたよね?」

 

 

美月の確認の問いに反応したのは、達也ではなく総司であった。

 

 

「は?みんな馬鹿なのか?こんな仏頂面よりあーちゃんの方が万倍可愛いだろうが」

 

「生徒会長は可愛さで選ぶものじゃないぞ総司」

 

「マジ?みんな深雪ちゃん選んでるからそうかと思ってた」

 

「深雪を可愛いという単語だけで評価できると思うな殺すぞ」

 

「達也君って最近面白くなったよね」

 

 

豹変した達也からの罵倒を受けてシュン…と大人しくなった総司を見ながら、エリカが楽し気に言い放つ。それに美月は「あはは…」と苦笑いを浮かべた。

しばらくすると達也は、自分を落ち着かせるために頭を振る。ここ最近自分が暴走しがちなのを理解しているようだ。しかしその原因が、ここ最近魔法の開発に精を出しすぎて寝不足だからというのには気づけていないが。

 

 

「俺は学校を度々空けるしな。学校にいない会長なんてお飾りもいいところだろう?」

 

「そこを解決してこその会長だよ」

 

「お前は俺と会長という地位をなんだと思っているんだ」

 

 

呆れ気味に総司を見やる達也。一高には、かつてと変わらぬ平和が戻っていた…。

 

 


 

 

その少し前の時間、生徒会長選挙の準備をしていた深雪、及びその手伝いをしていたほのかと雫も、似たような話題で話をしていた。

 

 

「…ほのか、お兄様との時間が減ることを危惧しているのは分かっているけれど、その質問には飽きたの。まだ選挙も終わっていないのだし、急かさないでほしいわ」

 

「うっ、ごめん…」

 

「ほのか、おちんついて」

 

「雫?総司君から教わったのね?その言葉遣いはやめなさい?」

 

 

ほのかが気にしていたのは、深雪が生徒会役員を決めているのかどうか。つまり達也と自分が生徒会役員になれるのかどうかを確かめたかったのだ。達也に惚れているほのかは、生徒会役員同士という立場は達也と接するために貴重な機会となる。気になるのは必然であろう。

すると、深雪は何かを思いついたかのように言葉を発する。

 

 

「…どうしようかしら、もしかすると二人とも役員にしないかもしれないわね?」

 

「うう…いじわる言わないでよ深雪ぃ…」

 

 

ほんの嗜虐心の疼きからの言葉だったのだろう。深雪はついそんなことを口走ってしまう。その場にいたのが二人だけだったのなら、深雪の意地悪に翻弄されるほのかという構図ができていただろう。事実今そうなっているが…この場にはもう一人いた。

 

 

「…ってことは、忙しくないほのかと達也さんでイチャラブチュッチュできるってことじゃん」

 

「「雫!?」」

 

 

雫の繰り出した総司仕込みの時代遅れなセクハラが二人を直撃する。その発言に声を上げる二人。その二人はどちらもその考えがあったか!という顔なのだが、チャンスを感じているほのかと、ピンチの予感を感じた深雪と違いがあったりした。

特にピンチを感じた深雪は、内心二人は確定で役員に選んで監視しようと思いながらも、雫に注意を促す。

 

 

「雫?そういう言葉遣いはダメだって」

 

「いいじゃん深雪。いつも家で甘美の限りを尽くしているだろう深雪なんだから、学校でぐらい達也さんを譲っても」

 

「雫?怒るわよ?それとも怒られたいのかしら?望みどおりにしてあげましょうか?」

 

「でも事実でしょ?」

 

「そんなわけないでしょう!?家には水波もいるのよ!?」

 

「えっ…もしかして、3P?」

 

 

瞬間、猛烈でありながら、指向性を持った冷気が雫へ襲い掛かる。深雪が怒りのままに発動させた冷却魔法だ。しかし雫は強化された反射速度と身体能力で、ハンカチに偽装してある『火鼠の皮衣』を展開してその冷気を防いだ。

フー!フー!と肩で息をしている深雪を、防御するために顔を覆っていたマントをずらし、少しニヤついた笑みを浮かべた雫は、展開した皮衣をハンカチに戻しながら窓から生徒会室を脱出するのであった。

 

 

「…雫」

 

 

どこか置いて行かれたかのような悲し気な顔をしたほのかに気づかぬまま。

 

 


 

 

時は戻り、食堂で合流した総司と雫は、中庭で二人仲良くお弁当を食べていた。その際の話題は、つい先ほどイジってきた兄妹の様子であった。すっかり一高の超機動カップルと化してしまった二人、他の生徒が羨み、崇めることしかできない二人をおもちゃ扱いだ。

 

そして話題は論文コンペの話に移る。

 

 

「論文コンペの会場は京都…なんだか不思議な感覚だね」

 

「俺にとっては地元だし、雫たちもこないだ行ったばかりだしなぁ…」

 

 

いつものメンバー内では、あの事件は総司の変わらぬハチャメチャぶりに加え、総司が『再生』で破壊された街を元通りにしたこともあって、タブーにはならずに済んでいる。なので誰も京都に後ろめたいものを覚えていないことを知っていてほしい。

 

 

「ところで、私が可愛いっていう論文でいこうって五十里先輩に提案したんだってね?」

 

「おう。絶対優勝とれるぞ」

 

「いや、総司のかっこいいとこを論文にまとめた方が優勝できるよ」

 

 

こいつらは何を言っているんだ?(困惑)んなわけないんだよなぁ…と中庭にいて聞き耳を立てていた生徒たちの思考は一致した。二学期から一段とくっつくことが多くなったカップルに声をかける猛者などいないのだが。

 

 

「あ、いたいた。総司先輩!」

 

 

居たわ。

周囲の「よせってやめろ!空気読め!」というプレッシャーを物ともせずに総司たちに話しかける勇者七宝琢磨。彼は雫とは別方向から総司に最も近しい人物の一人と言える。二人の間に遠慮はいらない、それを知っている雫にも遠慮はいらない。そういう関係性なのだ、彼らは。

 

琢磨は二人に近づいて、早速要件を述べた。これはこの場に長くいたくないという訳ではなくて、単純に琢磨本人の昼ご飯がまだだからだ。

 

 

「次期の部活連会頭、先輩でほぼ確定みたいですよ」

 

「え?はんぞー君は俺に会頭やらせるの嫌だって言ってたじゃん」

 

「ほんとですよねー。寄りにもよって総司先輩なんて、服部会頭なんか悪いものでも食べたのかな…?」

 

「ぶっとばすぞ?」

 

「それストレート出しながら言う言葉じゃないですよね?」

 

 

後輩からの急な毒に、右ストレートで反省を促そうとした総司だが、寸でで琢磨に避けられる。どうやら琢磨の目的はそれを伝えるのが主だったらしい。さっさと食堂に向かっていく琢磨を見ながら、総司はふと気になったことを雫に尋ねた。

 

 

「そういや風紀委員長はもう決まったんだろう?誰になったんだ?」

 

「私はやりたくなかったから、他の委員の子に圧をかけて満場一致の吉田君だよ」

 

「幹比古ェ…」

 

 

幹比古は泣いていい。そう思った総司なのであった。




後書き何も書くことないわ…


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古都内乱編 その二

九月二十九日、今年は生徒総会も生徒会長選挙も何事もなく終わった…いや、次代の三巨頭に不安を覚えた現三巨頭による(あずさは代理として桐原・壬生を送り込んだ)、力づくでも達也に三つの委員会を兼任させようという策略を達也本人が直々に叩き潰した際に、三巨頭VS達也・レオ・幹比古の三対三の戦闘が内々に勃発していたのだが、それを知るのは本人たちだけなので、他の生徒からしたら何事もなく終わったのだ。

 

 

「それでは!深雪の会長就任を祝し!ミキの風紀委員長就任ザマァと総司君の会頭就任に絶望しながら!」

 

「「おいこら」」

 

「かんぱーい!」

 

「「「「「かんぱーい!」」」」」

 

 

エリカの音頭に二人以外が追従する。名指しで罵倒された二人は顔に青筋を立てながらエリカに詰め寄る。

 

 

「おいこらエリカちゃん…お前表でろや…」

 

「ザマァってそんな風に思ってたなんてね…それと僕の名前は幹比古だ」

 

「何?そんな寂しいなら二人で表でなさいよ」

 

「それもそうだな(?)行くぞ幹比古」

 

「…ゑ?」

 

 

エリカの発言にまんまと乗せられた総司は、幹比古の首根っこを掴んで、そのままアイネブリーゼの外までドナドナして行ってしまった。恐らく完全に表に出るまでは総司は自分のやっていることの無意味さに気づけないだろう。

 

 

「…しっかしまあ、順当と言えば順当なんだけどね?」

 

「まったくもってその通りです!深雪先輩は登校を代表するにふさわしい人材です!この実力!才能!美貌!まさしく天からの思し召しです!」

 

「言い過ぎよ泉美ちゃん…」

 

「私はコイ…司波先輩でもよかったと思うけどね」

 

「それは俺もそう」

 

 

エキサイトしている泉美をよそに、素直な感想を述べる香澄。そこに一人で戻ってきた総司が同調する。

 

 

「ミキは?」

 

「外に連れ出したらなんだか俺を怒らせたのが幹比古の様に思えてきたから…ちょっと埋めてきた」

 

「鳥頭?」

 

「レオ、引っこ抜いてきてあげて」

 

「なんで俺なんだよ?」

 

 

ぶつくさ文句を言いながらも、幹比古を連れ戻そうと席を立つレオ。その後ろ姿を見ながら、琢磨が先ほどの話題に戻す。

 

 

「…実のところを言うと、達也先輩に入れたって人は結構多いみたいですよ?」

 

「…また無効票か」

 

「ねえねえ七宝、総司にはどれくらい入っていたの?」

 

「マイナス一億票ぐらいですかね」

 

「はいこっち来ようね~」

 

 

今度は琢磨の首根っこを掴んで表に連れていく総司。その際に、気絶した幹比古を俵抱きで担いで戻ってきていたレオが、すれ違いざまに奇異の視線を向けた。

 

 

「アイツ何やったの?」

 

「自業自得ですから拾いにいかなくていいですよ先輩」

 

「そうか?ならいいんだけどよ」

 

 

香澄の鶴の一声によって、琢磨を心配する人間はだれ一人としていなくなった。悲しいかな、琢磨はこの中では比較的雑に扱われる役なのだ。

そうして、一同の話題は気になっていたあの話になる。

 

 

「深雪は役員はもう決めたの?」

 

 

雫からのその問いに、耳を研ぎ澄ます者が二人。その気配を感じ取りながらも、深雪は気づかないふりをしながら質問に答えた。

 

 

「副会長は泉美ちゃんにお願いしようと思っているわ」

 

「本当ですもがっ!?」

 

 

深雪からの副会長、つまり右腕に任命されたことが嬉しすぎた泉美が悲鳴に近い大声を上げようとするが、雫からの「止めろ」というアイコンタクトを受けた総司が泉美の中に向けてロールケーキ射出した。それによりもがもがし始めた泉美。だが誰もそれに興味を示すことなく、深雪に話の続きを促す。悲しいかな、テンションがおかしい時の泉美は比較的雑に(ry

 

 

「でも他の役員はまだ決めかねているの。ほのかには入ってほしいけれど、雫を引き抜いたら吉田君が大変でしょうし…」

 

 

深雪は未だ気絶したままの幹比古をみながら言う。確かに今の風紀委員会はただでさえ人手不足である。そこから最強の風紀委員である雫を引き抜いてしまえば、その戦力はガタ落ちだろう。雫が手に入れた戦闘力を鑑みれば、事務的な仕事が多い生徒会よりも、実戦が多い風紀委員会の方が雫を活かせるというのもある。

 

 

「…じゃあさ、水波ちゃんはどうさ」

 

「それは…」

 

「やっぱ知らない人より知ってる人がいいだろ?水波ちゃんも魔法が上手いって話じゃん?問題ないと思うけどなあ」

 

 

総司の提案は、総司本人が意味を理解しているかどうかはともかく、達也や深雪にとっては願ったり叶ったりなのだ。何せ委員会にはCADの校内携行許可が下りるからだ。ガーディアンとしての務めを水波が果たすなら、それは必須と言えるだろう。

その後、他愛のない会話が続いたが、達也が生徒会に入るかどうかの話は行われることはなかったのだった…

 

 


 

 

その頃、まるで監視をするかのように…いや、事実監視のためにアイネブリーゼを張っている影が二つあった。

 

 

「…本当にやるの姉さん?」

 

「当たり前でしょう?本家からの指令よ、断ることなんてできないわ」

 

「でも…あの惨劇を起こして、その後自分で元に戻すような奴だよ?」

 

「それでもよ」

 

 

その二人は、四葉の分家黒羽家の双子、黒羽文弥と黒羽亜夜子であった。何故二人がアイネブリーゼを監視しているのか。その口ぶりからして、どうやら監視しているのは…総司だろう。監視が必要と判断するほどまでに四葉は総司を警戒しているという事なのだろうか…

 

 

「…!?誰だ!?」

 

 

それは、この男に暴いてもらうとしましょう…

 

 

「誰だとはこちらのセリフだ。…ゴスロリというんだったかその恰好?そんな恰好で不審な行為をしていて、気づかれないと思っていたのか?」

 

「(まさか!?これでも裏社会で十分通じるレベルの隠行だったのに!?)」

 

「(やはりこの男…侮れない…!)」

 

 

ゴスロリといういかにも浮いた格好でこそこそしている二人に、特化型CAD『スター・アサルト』を二丁向ける男…彼こそ風紀委員の実績エース、森崎瞬なのである…




魔法科世界の秘匿通信


・実は、雫は風紀委員の仕事をあまり積極的に取り組んではいない。その結果、検挙率が最も高いのは森崎だったりする。


・ちなみに一高内で唯一総司を検挙できたりするのも森崎だったりする。




え~、アンケートの結果を反映いたしまして、この度新たにこの作品と同一世界の魔法科高校世界を舞台とした、キグナスの乙女たち編を別小説で始めさせていただきます。

題して、

『絶対防御☆百合百合カップル♡ VS 百合の破壊者(自称)VS 恋する秀才 VS ダークライ VS またしても何も知らない大〇洋』

となります(ダークライとまたしても何も知らない〇泉洋は本来の題名に含まれません)。

気になっていただけたのなら、読んでいただけるとありがたいです。

https://syosetu.org/novel/329493/


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古都内乱編 その三

この間キグナスの乙女たちで新しく作品をスタートさせましたが、今のところ評価が不透明なんですよね…閲覧が少ないんですが、そもそもキグナスの乙女たちを題材にしたのが私の作品を合わせて二作品しかないというのも驚きました。

確かにキグナスの乙女たちは原作を読んでない人にはとっつきにくそうだもんな…


「ッ、グゥ!…またこれか」

 

 

放課後、部活動生はまだ活動中だが、所属していないもしくは休みである生徒は帰宅した…そんな微妙な時間帯に、森崎は二人の不審者を相手取り、住宅街の屋根上を舞台に戦闘を繰り広げていた。

森崎は時折自身を襲う謎の痛みに膝を折りながらも、必死に喰らいついていた。戦闘中の相手…黒羽姉弟の弟、黒羽文弥の魔法である『ダイレクト・ペイン』の影響だ。『ダイレクト・ペイン』は相手の精神に直接痛みを認識させる系統外魔法にして、文弥の固有魔法である。

その威力は、最大出力ともなると傭兵の経験を持つ者でも意識がブラックアウトするほどなのだが…文弥は短期間に、二人の人間に複数回叩き込んでいる。一人目は今年のモノリス・コード決勝戦で戦った一高の七宝琢磨。いくら威力が下がっていたとはいえ、精神に直接与えられた痛みを物ともせずに突撃してくるあの男の姿は今でも恐怖を感じるレベルだ。

そして二人目が眼前にいるこの男、森崎瞬だ。今は威力を手加減する必要があった九校戦とは違い、文弥は本気で魔法を放っているのだが、森崎が片膝を折って体勢を崩すだけですんでいるという事実が信じられなかった。

 

 

「(…こいつ、文弥の『ダイレクト・ペイン』をあんなに受けてもあの程度のダメージしかないの!?)」

 

 

そしてそれは、文弥の全力があまり効かないという事実は、双子の姉である亜夜子すら驚かせている。情報として知っていた、あの橘総司をお遊び程度とはいえ拘束できるというその意味を、亜夜子はこの時ようやく正確に理解した。

 

 

「精神干渉系魔法と、収束系魔法の使い手のコンビか…強力だが負けるわけにはいかないな!」

 

 

そういって森崎は、二人に向けてそれぞれ一丁ずつ、トーラス・シルバー謹製の特化型…特にループ・キャストの速度が異常である拳銃型CAD、『スター・アサルト』を介して放たれる、高速かつ正確かつ高威力のサイオン弾がこれでもかという程連射する。『クイック・ドロウ』という固有技術を持つ森崎は、その技術を活かすために、早打ちをサポートし、ヨーイ、ドン!での打ち合いで有利をとれるように総司の伝手として手渡されたCADである。

因みにオーダーを受けた達也は当初ここまで尖った性能でよかったのかと心配していたのだが、それを使って総司を拘束してしまう森崎を見てその評価を改めたという事件があった。

 

今回は怪しい人間に声をかけただけであったが、本来敵地では見敵必殺を信条に掲げる森崎。眼前の敵が己を恐れながらも戦っているという事実に気づかず、どうにかして一対一の状況を作り出したいという考えで戦闘を行う。

上述したが森崎は一対一の近距離では無類の強さを誇り、現在一高に在籍している生徒の中でも、サイオン弾の速射に限ればぶっちぎりの才能を持ち、距離とタイミングさえかち合えば深雪すら倒しうるガンマンである。

 

だが、四葉からの直々の指令を受けて動いている黒羽姉弟はその点を正確に理解していた。二人は扇状に展開し、お互いつかず離れずの距離を維持して戦っていた。お互いがカバーできない位置で森崎と一対一の状況に持っていかれると、その時点で敗北が確定してしまうからだ。

 

 

「(…大丈夫、焦るな僕。このまま『ダイレクト・ペイン』を与え続ければ、奴もいずれ疲弊するはずだ)」

 

「お兄さん、さっきからどうしたの?当たってないのに痛がっちゃってさ。どこか怪我してるんじゃないの?頭とかさっ!」

 

 

姉弟の狙いは森崎の体力切れによるダウン。もしくはこの場からの逃走だ。どちらも森崎を削らないと実行できない策。ならばと再び文弥は『ダイレクト・ペイン』を最大出力で放つ。その威力は、人ひとりが痛みで発狂死してしまいかねないほどの威力であった。どうやら先ほどまでのを耐えられたのならば、これも耐えられるだろうという目算のようだ。同時に、これを食らえば森崎は力尽きるとも。

 

 

「っ、アア…!?」

 

「(入った…!)」

 

 

その『ダイレクト・ペイン』のあまりに高すぎる威力は、森崎を沈黙させるに相応しかった。文弥渾身の一撃を喰らった森崎は、今しがた立っていた屋根から転がり落ちた。文弥は、かなり時間がかかったこの戦闘に終止符が打たれたことに、若干の安堵を覚えていた。

 

 

「…でも、これで尾行がバレてしまった。これ以上ターゲットを追跡すると、このことを知った他の生徒に気取られやすくなるかもしれない…」

 

「ほう、やはり尾行していたのか。ターゲットは総司と司波のどっちだ?」

 

「なっ、ガッ!?」

 

「動くな、少しでも動けば撃つ」

 

 

屋根に森崎が戻ってくる気配を感じなかった文弥は、四葉家にこれ以上の尾行は危険であると報告しようと決心した。だがその瞬間、文弥は銃を突き付けられ、地面に組伏せられていた。

一体誰が組み伏せたのか…それは何を隠そう、森崎瞬その人であった。

 

 

「バカな…なんで立っていられて…」

 

「さあ?なんでだろうな?(…総司に精神干渉系魔法への対抗策を聞いていてよかったな…)」

 

 

文弥の疑問に答えるように内心で呟く森崎。そう、彼は総司から偶然にも対抗しうる方法を聞いていたのだ!

 

 


 

~森崎の回想~

 

 

「イーヤーヤハヤハ」

 

「はあ」

 

「ヤハァー!」

 

「なるほど」

 

「イイィィィィィヤッハァァァァ!!」

 

「そう言う事か」

 

 


 

 

「(…奴の教え方がアバウトすぎて再現に時間がかかったが…結果オーライだ)

 

 

お前は何を言っているんだ?

森崎基準でアバウトだが、こちらからしてみれば最早言語にすらなっていない総司の奇声を翻訳すると、『術式解体(グラム・デモリッション)』の要領で自身の精神情報体の周囲に高密度のサイオンを纏わせることで、敵が放った精神干渉系魔法を破壊できるという技術だ。

因みに考案者は総司…ではなく、そのクローンである零次の結界に対する豊富な知識をもとに達也が精神防御魔法として考案した方法だ。このせいで、深雪が生まれた理由が世界から消えてしまったが、司波兄妹が幸せならそれでOKです。

 

ともかく、その方法を取って土壇場の精神防御を行い、最大出力の『ダイレクト・ペイン』を防いだ森崎。だが、この防御法には『術式解体(グラム・デモリッション)』程ではないが、それに匹敵するレベルのサイオンを消費する。森崎の一般的な保有サイオン量では一度が限界。更には先の戦闘での疲労も相まって、森崎は既に気絶寸前であった。

 

だがそんなことを知るはずもない文弥は、眼前の男が自身の最大出力を…精神に直接痛みを書き込まれる苦痛を完璧に耐えきった男として、絶対に敵わないという絶望感で満たされることになる。

 

 

「…何者だ、正直に全てを話せば、命までは取らないでやる(ふう…、これで正直に話してくれればいいんだが…)」

 

「っく、化け物め…!」

 

 

文弥は森崎を化け物であると罵るが、森崎は内心冷や汗ダラダラであり、さっさと勝負を決めてしまわなければと考えていた。それゆえに…

 

 

「…っ!?か、体が動かない!?」

 

「はっ、これは…姉さん!」

 

「まったく、ヤミ?詰めが甘いわよ?」

 

 

いきなり背後に現れたヨル…いや亜夜子に、森崎は拘束されてしまった。しかし、拘束と言っても物理的なものではなく、何もされていないのに体が動かないのだ。その隙に文弥に体勢を整えられてしまう森崎。

 

 

「(この速度は…『疑似瞬間移動』か!あの魔法も確かに収束系魔法…警戒しておくべきだったか…だが)」

 

 

亜夜子がいきなり自身の背後を取れた理由を森崎は理解できたが、自身を拘束するこの感覚については正体が掴めなかった。それもそのはずだろう、これは亜夜子の固有魔法なのだから。

極致拡散(きょくちかくさん)』、通称極散。収束系魔法であり、指定領域内における任意の気体、液体、物理的なエネルギーの分布を平均化し、識別できなくする魔法である。これにより、森崎を含めた周囲の『運動エネルギー』と『気圧』の分布が平均化された。これにより、いくら体を動かそうと力を込めても、同じ力で押し返してくる気圧によって森崎は身動きが取れなくなってしまったのだ。

 

 

「森崎瞬…さんでしたわね?素晴らしい戦いぶりでした。ですが、あと一歩届きませんでしたわね…ヤミ、『ダイレクト・ペイン』を」

 

「えっでも…さっき防がれて…」

 

「防がれたのは一回だけでしょう?その一回以外では彼は全てダメージを受けていた。それはつまり、防ぐにも限度がある…そうですわね」

 

「(っく、見抜かれたか…!)」

 

 

亜夜子は二人の戦いを俯瞰していたからこそ、森崎の精神防御が回数に限度があることを見抜いたようだ。そして森崎にトドメを刺そうとしているのだ。

 

 

「…殺しはしません。ですが、しばらく眠ってもらいます」

 

 

亜夜子のセリフとともに、文弥が『ダイレクト・ペイン』を森崎に叩き込む…!

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ッ!?消えた!?」

 

「そんな!?一体どこに…!」

 

 

その瞬間、森崎の姿は二人の目前から忽然と消えた。森崎の動きを注視し警戒していたはずなのに、見失ってしまったことに二人は動揺する。そうして二人は辺りを見渡し、後ろを振り向くと…

 

 

「「…あっ」」

 

 

双子であるが故に、同時に後ろを向いた二人は目撃した。

感情の抜け落ちた顔で、二人へ向けた両の掌を向けてきている総司を…

 

こうして、二人の意識は暗転した。




魔法科世界の秘匿通信


・深雪が作られた理由は、完全無欠で傷つくことのない達也の精神を凍らせて殺せるように…だったのだが、この防御法が確立したことによって、それは絶対にできないこととなってしまった。
まあ、原作でも深雪が多分無理だと認識してるし大丈夫なはず。


・総司が来た理由は単純、戦闘が激化しすぎて総司にサイオンを感知されたから。黒羽姉弟には落ち度はないが、森崎が隠すつもりなく戦闘していた為、森崎の荒ぶるサイオンで戦闘中だと総司に感づかれた。



皆さん、一回キグナスの乙女たちの原作読んでみません?結構面白いですよ。


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古都内乱編 その四

シャニソンとシャニマスの二足の草鞋を履いているせいで投稿遅れました。本当に申し訳ない…


「…も、もうやめっ」

 

「ダメ。こんなに可愛い男の子見たことない。悪いことしてたんだから少し反省して。さ、次はこれに着替えて、早く」

 

「いやっ、助けて姉さ、ああああ!?」

 

「ほらほら」

 

 

東京某所、二人の高校生、カップルが住むにはあまりに広大な邸宅。北山家の資金力と権力、そして九島家の圧力によって確保された一等地に堂々と建立する豪邸にて、一人の少年が着せ替え人形にされていた。そんな様子を呆然と眺めているのはその少年の姉だ。

 

 

「…あの、拷問とかしないんですか?」

 

「んー?いや、森崎が起きてこないとか後遺症が残るとかだったらわかんないけど、アイツあの後平然と起き上がってきたから別にいいかなって」

 

「でもお咎めなしとはいかないから…」

 

「そう、その結果がアレね」

 

 

出された紅茶を恐る恐る飲む亜夜子は隣に座る家主である総司を見やる。つい数時間程前、亜夜子とその弟の文弥は彼の友人である森崎を気絶させている。それに気づき、怒りで動いた総司に二人は捕らえられた。その時、二人の顔は恐怖で歪んだ。総司の眼が、完全に自分たちを亡き者にせんとする殺人的な視線であったからだ。

しかし、総司が来たことでギャグ時空が発生したのか、それとも普通に起き上がったのかは分からないが、森崎が目を覚ましたのだ。目を覚ました森崎は、目の前で殺人を犯そうとする友人を制し、思いととどまるように声をかけた。その声で我に返った総司は、追いかけてきた雫を入れて三人で双子の処遇を話し合い、結果しばらく拘束という名目で総司と雫の家に連れてきたのだ。

 

結果的に命拾いした二人だが、流石にこのお遊びが終わった後は襲撃の理由を詰められるだろう。二人は今から、どう返答すべきか頭を悩ませるのだった…

 

 

「あっ、次は君がアレの餌食だからね」

 

「えっ」

 

 


 

 

ここは、旧長野県との県境に近い旧山梨県の山々に囲まれた狭隘な盆地に存在する、地図にも載っていない名も無き小さな村…

この場所こそが、日本が誇る十師族の一つであり、世界から『触れてはならない者達(アンタッチャブル)』と呼ばれる一族、四葉の人間が住まう村なのだ。

 

その中の一際大きな平屋建ての屋敷、四葉本宅にて四葉家の当主である四葉真夜は、執事である葉山から報告を受けていた。

 

 

「…そう、亜夜子さんと文弥さんは失敗したのね」

 

「現在は橘総司と北山雫が居住している邸宅にて拘束されております。拷問を受けているというような報告は受けてはおりませんが、類似する行為を受けていると思われます」

 

 

物憂げな表情の真夜に葉山が残念そうに告げる。まあ確かに見方を変えれば着せ替え人形も拷問扱いだが、それはおいておいて。

 

 

「…しかし、あの魔人に挑発行為を行って、本当によろしかったのですか?あの者は、立ちはだかる障害を排除するためには労力を惜しまないでしょう。今回の一件で、我々と対立することになると思われますが」

 

「いいのよ、彼にはこちら側に攻め込んできてもらわなくては。それが、スポンサーからの依頼。彼が『()()()()』を手に入れる前に、ここで殺す。さもなくばこの世界の権力は全て彼の暴力に屈してしまうことになるわ」

 

「彼を殺すには、真夜様の魔法が必要ということですな。そして確実性を増すために、こちらのテリトリーに招き入れる必要があると」

 

 

真夜がその言葉に首肯する。

真夜の固有魔法、『流星群(ミーティア・ライン)。「空間の光分布」に作用する収束系の系統魔法であり、の分布を偏らせることで光が100%透過するラインを作り出し、有機・無機や硬度、可塑性、弾力性、耐熱性を問わず対象物に光が通り抜けられる穴を穿つ魔法である。

この魔法の特徴として、この魔法は光を介して間接的に物質の構造に干渉し、熱や圧力によらず固体・液体を気化させるというものがある。これはつまり、総司の異能を貫通して総司を貫くことができる数少ない魔法であるという事。

 

そう、四葉真夜は橘総司を殺しうるのだ。この魔法を使って、『再生』を使われる前に総司の脳を貫くことさえできれば、総司を殺すことが可能だ。それを、四葉のスポンサーとやらは狙っているのだろう。

だがそれには問題がある。

 

 

「ですが…彼に勘付かれた以上、九島の者やあの藤原氏まで動くことになりますぞ」

 

「…藤原の小娘は警戒するには十分だけれど…やはり九島閣下がどう動くかがカギね」

 

 

四葉の夜は、着実に総司へと手を伸ばし…同時に、滅亡へのカウントダウンが始まっていく…

 

 


 

 

場所は戻って橘・北山邸…

 

 

「ふう…やっと解放された…」

 

「お前の姉ちゃんが犠牲になったけどな」

 

「僕の屈辱に比べたら姉さんのダメージは皆無に等しいでしょうが…」

 

「それはそっか…」

 

 

雫の着せ替え地獄から生還した文弥は、今度は自分の代わりに着せ替え人形になってしまった姉を見て…若干雫と一緒にはしゃぎ気味の姉を見て、はあとため息をついた。亜夜子がはしゃぎ気味なのは、ひとえに女子だからである。そもそも文弥は男、本当なら女装をすることすら嫌なのにそれを聞き入れず散々おもちゃにされては、面白くもないだろう。

そんな文弥と亜夜子を見ながら、総司は質問を投げかけた。

 

 

「なあ…君たちは、こんな仕事をしていて、楽しいのか?」

 

「…それは、どういう意味ですか?」

 

「言葉のままさ。いくら家の当主からの指令とはいえ、平穏な暮らしを投げ捨てて自ら敵への諜報活動をするなんて、俺は楽しくないから」

 

「…楽しいと言えば、嘘になります」

 

 

文弥は総司からの問いに、俯きがちに答える。その瞳は、嘘を付いているようには見えなかった。

 

 

「本当なら、達也さんみたいに学校生活を楽しみたい…」

 

「(…アイツ、言う程楽しんでるか?)」

 

「達也さんの後輩として、一緒に学校生活を送りたい…」

 

「(それは別にどうとでもなるのでは?)」

 

「正直に言えば、四葉家は…僕たちには不要だと思います」

 

「(そこまで?裕福な立場までいらないって切り捨てるの?)」

 

「達也さんの素晴らしさを理解できない人が多いあんな家…僕たちには…!」

 

「(何この子、達也のファンボーイなの?)」

 

「…聞いて、どうするんですか?」

 

「…ふっ(やっべ、何も考えてない)」

 

 

総司からしてみれば、軽い世間話程度のつもりであった。だが、文弥の予想以上の達也好きと、そこから派生する四葉家…正確には達也を蔑ろにする四葉家の人間たちへの怒りを目の当たりにして、何も言えなくなってしまった。正直総司からしてみればどうでもいいのだが、「まさか…?」と期待のこもった視線を向けられると流石に困ってしまう。

 

そうして、少しばかりの逡巡の後、総司はこう返すのだ。

 

 

「…俺が、四葉をぶっ潰してやるよ(達也も平穏が欲しいっぽいし、これぐらい許されるでしょ)」

 

 

総司、なんとなしで四葉との開戦を宣言す…

 

 


 

 

そんなころ、京都は九島邸にて…

 

 

「ふむ、我らの支援がしたいか…何を企んで居る、藤原よ」

 

「…お言葉ですが老師、私はあの方をお慕いしております。私はあの方を支援するのです、あなた方ではない」

 

「ふっ、総司の為に我らと手を組むと。面白いことを言うな」

 

 

九島邸の一室で、九島烈と藤原束が向かいあって話し合っていた。会話の内容から察するに、『元老院』としての地位を継いだ束が、その地位を利用して九島のスポンサーになると言うのだ。そしてその理由は総司と…失恋しても相手を慕う心、束はどうやら鋼のメンタルを持っているらしい。

 

 

「…して、お主は我らに何を望む?いくら総司を支援するためとはいえ、こちらから何か対価を支払わなければならんのだろう?」

 

「ふふ、流石は老師お話が早い…私が望むのは一つ、『十二天将』を総司様に継がせることです」

 

「ふむ…『十二天将』か」

 

 

『十二天将』。それはかの安倍晴明が式神として使役したとされている十二体の神や精霊、妖怪たちのことである。あの有名な四神、『朱雀』・『青龍』・『白虎』・『玄武』…そしてその神々をまとめる『黄龍』などを含む、一人間に従えられるものではない規模の、強大な式神たちである。

四葉のスポンサーとやらも、総司がこの十二天将を従えてしまうことを危惧しているようだ。なるほど確かに、京都を地獄に変えて、わずか一瞬にしてその地獄を元通りにしてしまった総司の力を見てしまった後であれば、これ以上強大な力を総司に持ってほしくないのは想像に難くない。

 

 

「…よかろう、『十二天将』の術式を探すとするか」

 

 

だが、それは総司と敵対している者たちの恐れであり、逆に言えば総司の味方達は、総司が更に強大な力を手に入れることを望む。それも、権力や弱みでなく、家族としての絆で味方としている烈にとって、総司が更に強力になることは損得勘定抜きで喜べることなのだ。

 

こうして、九島は四葉が最も嫌がる行動をとることとなり、これが十師族始まって以来の大抗争の火種となるのであった…!




絶対に総司を強化前に始末したい四葉家&状況を何も把握していない達也VS絶対に総司を強化したい九島家&何も考えていない総司

レディーファイッ!


正直作者の黒羽姉弟の解像度の低さのせいでなんか変な事言ってますが、本作のキャラ崩壊にもれず、四葉家<達也ぐらいの優先度が更に偏ってるぐらいに考えてください。


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古都内乱編 その五

キグナス書けないんだが…?第二話でここまで詰まるとか頭を抱えちまうよ…


今季の生徒会には『書記長』という役職ができた。これは深雪が達也を自分より下の立場にしたくなかったが故に生まれた役職なのだが、職員室では少し問題になった…が、深雪の暗黒微笑とその背後で目を見開きながら肩を回す総司、この二人の圧に押されて教師陣は押し黙るしかなかった。

 

そうやって深雪と総司が教師陣を黙らせた辺りで、新生徒会発足に合わせて代替わりした新風紀委員長と副委員長が生徒会室に挨拶をしに来た。

 

 

「なんか今更こう言うのも不思議な気持ちがするけれど…一年間よろしくお願いします」

 

「こちらこそ、よろしくお願いしますね吉田君」

 

「お前に風紀委員長が務まるのか!?」

 

「押し付けたの君の彼女なんだけど!?」

 

「黙れ小僧!」

 

 

新三巨頭が挨拶を済ませているときに、副委員長として生徒会室を訪れた雫はほのかと談笑していた。

 

 

「達也さんが生徒会に残ってよかったねほのか」

 

「うん…でも、雫今すっごく不満そうな顔してるけど」

 

「そりゃ、達也さんには風紀委員会で馬車馬…社畜…エースとして働いて欲しかったから、この機に風紀委員会に連れ戻せなかったのが悔しいんだ」

 

「雫?お兄様を今なんと呼んだのかしら?」

 

「妹のことが大好きなイケメンお兄さんかな」

 

「まあ!雫ったら、私とお兄様は結ばれるべきだなんて…!」

 

「耳ひん曲がってる?」

 

「もう駄目だよこの学校」

 

 

目の前で繰り広げられるコントを見て、この学校の自治組織の内二つのトップが頭がおかしいことを改めて理解した幹比古は頭を抱える。ついでに言えば、雫が面倒くさがって幹比古に委員長を押しつけていなかったら風紀委員会も頭のおかしい委員長であった可能性があることを忘れてはならない。

 

 

「…誰か雫ちゃんの事をバカにしてる気がするんだが…」

 

「気のせいだろう、仮にしていたとしても妬みか何かだ」

 

「…そっか」

 

 

達也のファインプレーで総司が荒れ狂うのを阻止できた。そんな時、総司が思い出したかのように達也と幹比古を手招きで呼ぶ。

 

 

「どうした総司。ついにこの学校を退学する時が来たのか」

 

「んな訳ないだろうが、まだ会頭になったばっかりだぞ?そうじゃなくてだな…」

 

 

総司は一呼吸おいて、二人に問う。

 

 

「二人とも、『十二天将』って知ってるか?」

 

 

 


 

 

~回想~

 

 

「『十二天将』をおまえにつがせる!」

 

「おかのした」

 

「でもなるべくじぶんでさがせ!」

 

「おかのした」

 

 


 

 

「ってことなんだけどさ」

 

「回想短っ!?」

 

「というか、それを誰に指示されたんだ?」

 

「烈爺だけど」

 

「老師がそんな話し方するわけないだろ!」

 

「でも要約すればこんな話だったから」

 

 

総司は家族であるが故に烈に対してかなり失礼な態度をとるが、やはり京都に実家を持つ幹比古としては九島家の大魔法師に対して失礼がないようにと振舞うのは当然なのだろうか。

烈に対する総司の態度に幹比古が苦言を呈している際、達也が耳元によってきて小声で質問をする。

 

 

「総司、お前『フリズスキャルヴ』はどうした?」

 

「いや、それがな…いつの間にか使えなくなってたんだよ」

 

「…なんだと?」

 

 

達也がもっとその事に対して掘り下げると、どうやら端末を使用しても、アカウントが無いと閲覧を拒否されてしまったとのことだ。その旨を総司が友人であるレイモンド・クラークに相談したところ、

 

 

「どうやら管理者権限でソウジのアカウントが消されてしまったようだね。恐らくだがその端末での『フリズスキャルヴ』の利用はもう不可能だろう」

 

 

との見解が帰ってきたとのこと。故に自分で調べる必要があるのだが、どうやらこの時代、『伝統派』の根回しにより『十二天将』の情報は軽々しくネットには出てこなくなっているようで、こういった機械音痴の総司はダークウェブで探すなんてこともできない為、こうして二人に質問をしたそうだ。

 

 

「…幹比古、もうお説教はいいからさ。『十二天将』について何か知ってることはないか?」

 

「…『十二天将』は、陰陽師にとって必須の占術の『六壬神課』で使用する象徴体系の一つで、北極星を中心とする星や星座に起源を持っていて、それぞれが陰陽五行説に当てはまるんだ」

 

「…?」

 

「おい幹比古、総司が全く理解していない。もっと嚙み砕いて説明してやってくれ」

 

「はあ…まあ、方角に対応してて占術に使われる象徴…いわゆる神様だね」

 

「なるほど…?」

 

 

未だに総司の頭には?マークが浮かんでいるが、それでも何とか理解は示しているようだ。ここで、総司ではなく達也から質問が飛ぶ。

 

 

「…だが、老師は総司に『十二天将』を継がせると言っていたんだろう?象徴をどうやって継ぐんだ?…そもそも、象徴体系の何を継ぐんだ?」

 

「それはおそらく、『十二天将』の神々をかの安倍晴明が式神として従えていたという逸話からだろうね」

 

「ということは…『十二天将』は式神として今も存在しているということか?」

 

「九島家が態々総司に継がせると宣言したんだ、少なくとも九島家は式神としての『十二天将』の実在を信じているようだね」

 

「…?」

 

「だめだ肝心の総司が付いてこれていない」

 

「ほっとけばいいでしょ」

 

 

宇宙猫状態の総司をおいて、生徒会室での時間は過ぎていった…

 

 


 

 

その日の放課後、総司の姿は屋上にあった。眼下で巡回をしている幹比古、森崎、そして雫を見ながら、隣にいる人物に話しかける。

 

 

「それで、いきなり訪ねてきた理由は?」

 

「…東京、特にお前たちが居住している区域周辺で、四葉と思われる諜報員が多数確認されている。それは、この学校周辺もだ」

 

「それはあの双子の事か?」

 

「いや、もっと多い。この学校を張っていた奴らはあの二人以外は俺が気絶させて一か所にまとめて回収しやすくはしておいたがな」

 

 

もしこの場に何も知らない生徒がいた場合、総司は双子であったのかと錯覚するだろう。何せ同じ顔の人間が横並びで座っているからだ。

その片方…零次が、言葉を続ける。

 

 

「…どうやら俺の雇い主は、お前が四葉を壊滅させることを望んでいるらしい」

 

「おいおい、そんなこと言うなら自分で滅ぼせやって感じなんだが」

 

「七草の保有戦力では、どこに居を構えているか分からない四葉と戦りあうのは少々不利だ」

 

「お前がいるじゃん」

 

「…確かにそうだが、それでも七草が直々に手を出してしまえば、十師族同士の争いとして大問題になる」

 

 

総司が「めんどくせー!」と言葉を漏らす。そういった組織としてのしがらみは、総司はあまり好まないのだろう。あれ?でもこいつ部活連のトップ…?

そんな時、総司は零次の言い分から、疑問に思ったことを聞いてみた。

 

 

「お前が戦うことは七草が動くことになってダメなんだろ?だったら俺が動いても九島が動いたことになるんじゃないのか?」

 

「…そう思うのも当然だが、それは違うと明確に否定することができる」

 

「なんでさ」

 

「理由は二つだ。一つに、お前の立場だ。俺は七草の当主に直々に使える使用人だが、お前は既に当主を引退している九島烈が引き取って育てた孤児だ。故にお前は明確には九島の人間ではない…というのは、二つ目の理由の為の方便だな」

 

「よくわからないけど…二つ目は?」

 

「二つ目は、お前の戦闘は公にこそなっていないが、正式に災害扱いされることが陸軍の軍議で決定づけられたからだ」

 

「なんでさ!?」

 

 

総司が目を見開いて驚愕する。今まで化け物扱いされたことは多々あるが、災害扱いされたことはなかったからだ。その顔には「そこまで言われるようなことしてないけど」と書いてある。お前暴走したこと忘れてんのか。

 

 

「そう決定された理由として、お前はあまり魔法を戦闘に用いない、そして用いたとしてもお前の異能によってその魔法痕跡が消されてしまう…故に、お前がやったと言わなければ、今の技術ではお前の所業かどうかを確かめるすべがないんだ。故に、お前が自白しない限りは災害扱いとなる」

 

「そんな理由で人の事災害って言うのなんなんだよ…」

 

 

総司ががっくりと肩を落としたのを横目で見ながら、零次は「用件は伝えたぞ」と透明化してこの場からいなくなってしまった。その後もしばらくショックから立ち直れなかった総司だが、仕事終わりの雫を迎えに行くために腰をあげるのであった。




えー、以前本作とキグナスを5:4ぐらいで投稿すると言いましたが、変更して9:1ぐらいに変更します…キグナスは今のところ一か月に一回投稿できるかどうかだと思います。それぐらいに書けないです。


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古都内乱編 その六

すいません…インフルエンザにかかって投稿が遅れてしまいました。焦りからか今回は短めの文量です。申し訳ない…


「よっ、久しぶりだな光宣」

 

「僕からしたらそこまで久しぶりではないですけどね…」

 

 

某日、総司は九島の本邸を訪れていた。その理由は総司の目の前に立つ男、九島光宣からの呼び出しを受けていたからだ。総司的には四月以来なのだが、光宣は八月に偽神にボッコボコにされた苦い記憶があるので、あまり久しぶり感はしていなかった。

 

 

「そんで?用件はなんだ?」

 

「…総司さんが『十二天将』を探しているという話を聞きました。僕もそのお手伝いをしたいと思って…」

 

「ほーん…じゃ、呼び出したからには何か教えてくれるってわけだな?」

 

「ええ、早速ですが情報を掴んだので!」

 

 

そうして、光宣はAR端末で地図を呼び出し、そこにマーキングされた地点を指さす。マーキングは四か所あり、東西南北に一つずつされていた。

 

 

「『十二天将』の内、四方向を守護している四神は祀られている伝承がある神社に式神の札が安置されているようです」

 

「おっ、じゃあ早速取りにいこうぜ」

 

「ですが、ここに行くと『伝統派』に襲われる可能性が高く…って、総司さん話聞いてますか?」

 

 

光宣が危険性を説明しているのにも関わらず、総司は既に外出の用意をしていた。そして総司は振り向いて光宣を見やる。その視線は、「お前何言ってんの?」と言いたげだ。だって…

 

 

 


 

 

「ヒャッハー!」

 

「「「「うわああああああああ!」」」」」

 

「フォー!」

 

「「「「ぐあああああああ!」」」」」

 

 

大半の戦力を、偽神を由来とする戦闘で十師族の魔法師団との戦闘で失った『伝統派』。そんな虫の息な組織に対して、頭として担ぎ上げられていた本人が殲滅できない道理は無く…

早速一枚目の札を回収しに来た二人を妨害しようとした『伝統派』の一団は、哀れ総司に吹き飛ばされてしまった。戦闘シーンを書きづらいんだよお前ェ…!

 

 

「これがその札ってやつなんだろ?」

 

「はい、ここは松尾大社なのでこの札は『白虎』のものだと思われます」

 

「なるほどね…確かに何か力を感じはするけどな…」

 

「式として扱えそうですか?」

 

「それはまだ何とも言え…ッ!?」

 

「総司さん、どうかしまし…っ!?総司さん!?総司さん!?」

 

 

物珍し気に札を眺めていた総司であったが、突如として体勢を崩して膝を折る。一瞬何者かの気配を感じて周囲に目をやっていた光宣は気づくのが遅れてしまったようだ。必死に光宣が総司を揺するが、総司はどこか上の空で違うものを見ているような眼をしていた。

 

 

「…これは、まずいことになったな」

 

 

総司が倒れないように壁にもたれ掛けさせた光宣は、立ち上がりながら周囲に敵意を飛ばす。すると茂みや木の陰から、黒服の男たちが現れた。体運びからして一人一人が達人と言えずとも強者。『伝統派』ではないだろう、となれば…

 

 

「四葉…!」

 

 

残るは総司を殺そうとする四葉の集団に他ならないだろう。事実黒服たちは光宣に警戒心を向けども、殺意は総司にのみ向けていた。光宣は狙っていないということなのだろう。目的が尊敬する総司の命なのであれば、光宣が手を抜くことなどない。光宣はCADを構えて、黒服たちと対峙するのであった…

 

 

 


 

 

「…ここは、精神世界か?」

 

 

周囲にまばゆい光沢を放つ金属が無数にある謎の空間、そこに総司は居た。偽神との戦いを経験した総司は、ここが精神世界であると断定することができた。そして…

 

 

「…っ、バカでかい存在感だな…!!」

 

 

総司の前に、巨大な虎があらわれた。そう、『白虎』である。この時の総司は知る由もないが、『十二天将』はかの安倍晴明が使役したからと言って、全て所謂善い神であった訳ではない。吉将(善い神)と凶将(荒々しい神)が六体ずつ。それが『十二天将』の内訳だ。

中でも『白虎』はかなりの凶暴さをもった凶将であったとされている。

 

最近の創作物、特に四元素(火・水・風・土)を取り扱う作品では、『白虎』は風属性を割り振られていることが多いが、実際は土属性に該当する。本来水属性を持つ『玄武』が土、風属性の『青龍』が水のイメージを持たれているのが災いしているのだろう。

ともかく『白虎』は土の力を操る、特に金属に類する力を扱うのが得意だ。それゆえ…

 

 

「うおっ、なんか飛んできた!?」

 

 

『白虎』の眼が輝いたかと思うと、途端に周囲から輝く何かが飛来し総司を貫かんとしてきた。それらを拳で全て弾き返した総司は、弾いた輝く何かが消える直前に、それが金属が鋭利に尖った物であったことを認識した。

 

 

「へえ~、やってくれるじゃん…!」

 

 

普段の総司であれば何の問題もないだろう攻撃だが、ここは精神世界。ガードできなかったという認識が致命傷になりかねない。自分を殺す気でかかってくる目の前の獣のごとき凶暴さを放つ神に、総司は不敵な笑みで答えるのであった…

 

 


 

 

一方その頃…

 

 

「ごめんなさいね、こんなおもてなししかできなくて」

 

「いえ、歓迎されているだけでもありがたいので」

 

 

先ほどまで総司たちがいた九島家の屋敷には、深雪と水波を連れた達也が訪れていた。どうやらかつて四葉に対して敵対行動をとっていた周公瑾を匿っていた『伝統派』の情報を得るためのようだ。四葉は周公瑾が大亜連合の手先であったことに気が付いているようだ。だからと言って、次期当主候補の深雪を現在敵対している九島に向かわせるなど言語道断なのだが…

そこには現在の九島家内部の情勢が関係している。

 

現在九島は、その権威を老師と総司の二人の力だけで支えている。『電子の魔女(エレクトロン・ソーサリス)』と讃えられる藤林響子も居るにはいるが、やはり直接的な戦闘力こそ十師族の権威を確かにするものである。

そんな権威を支える総司の最も嫌いな事は、身近な人間に手を出されることである。敵であったとしても、彼の学友であり総司自身が友とする達也たちに手を出せば、九島は自らの首を絞めることになる。故に総司の機嫌の為に達也達は丁重に扱われているのである。

 

閑話休題

 

 

「それで、『伝統派』の情報が欲しいんだってね…?」

 

「ええ。ご協力いただけたらと」

 

「そうね…せっかくだし、総司君にも同席してもらおうか?」

 

「総司ですか?今京都にいるので?」

 

「今は所用で松尾大社に…」

 

 

その時である。その場にいた全員が、弾かれるように席を立ち、同じ方角を睨みつけた。その方角はまさしく松尾大社がある方角であり、そこには総司がいるとのことだが…

 

 

「…虎?」

 

「お兄様?」

 

 

一人『精霊の眼』で松尾大社の状況を確認した達也だが、見えたのは松尾大社がどこにあるか見えなくなるほどに強大な虎の形状の『霊子』であった…



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古都内乱編 その七

全然書けない…スランプ&モチベ無


「…めんどくせー!」

 

 

暗闇に金属光沢の光だけがきらめく世界で、白虎と相対している総司だが、本人の精神時間ですでに一時間ほど戦闘を続けていた。総司の顔には疲れは見えないが、明らかにやりにくそうな表情をしている。

 

 

「こいつ、しぶとすぎる…それに戦法卑屈すぎんだろ!」

 

「ギャアアアアオ!(うるせえ!)」

 

「うわ返事帰ってきた!?」

 

 

総司が苦戦している理由、それは本人の発言通り白虎がとっている戦術にあった。凶将の中でも凶悪ではあるが、そのうえで堅実な戦い方を白虎は取っていた。

金属により作られた様々な形状の武器を射出しながら、白虎そのものは下がっていく…所謂引き撃ちだ。精神世界であるがゆえに異能は使えないし、そもそも魔法で生み出された金属加工品を射出する、異能では防げないタイプの攻撃であるため、総司は一撃一撃に丁寧な防御を要求される。

更に白虎本体のバイタリティも相まって、総司は白虎を打倒するのに苦戦していた。

 

 

「…よっと、掴んだ!これをこうしてこうやって…よし、ボールを相手のゴールに向かってシュート!」

 

「ギャアオ!(残念だったな、トリックだよ!)」

 

「何ィ!?ガッ!?」

 

 

ただでさえ近づけないのに逃げていく白虎。この状況を打開しようと総司は飛んできた金属を掴んでこねくり回し、ボール状に成型して蹴りだす…が、白虎の力は金属を生み出す力だけではなく、操る力も持っている。故に総司が放ったシュートは空中で静止し、総司に向かって帰ってきたのだ。

驚きのあまり対処が遅れた総司は、クリーンヒットではないがダメージを負ってしまう。だがそれも僅かであったのか、体勢を立て直して着地する。

 

 

「…ふう、なかなかやりにくいぜ…」

 

「ギャアオ(お前みたいなバカに使われたくないから、全力で抵抗させてもらう)」

 

「お前四文字に意味詰込みすぎだろ」

 

「ギャオ(気にするな)」

 

 

白虎は途轍もない強敵だ。だからと言って諦めるわけにはいかない、というか諦めたら死ぬ。総司は気を引き締めなおして、白虎に向けて走り出す。

取る戦法はいたって単純、近づいて殴るだ。というかこの男はそれしかできない。飛び道具になりそうな金属は相手の支配下であるし、精神世界故か拳を振るっても風圧が起きない。なら直接ぶち当てる以外にない。

 

 

「くたばれオルァン!!」

 

「ギャオギャオ!(貧弱貧弱ゥ!)」

 

「ゴッホ!?殴り返しは卑怯だろうがァ!」

 

 

飛来してくる無数の金属類を避け、白虎に肉薄する総司。そして顔面に目掛けて強力なパンチを放つ…が、直前で白虎に殴り返されて墜落した。だがその場所は白虎の足元であり、未だ距離を放されたわけではない。

総司は右拳を握りしめ、再び白虎の顔面へ狙いを定める。

 

 

「行くぞォ!お前の幻想をぶち殺してやるー!!」

 

「ギャアアアオ!(お前の元ネタその1のセリフパクってんじゃねえぞ!)」

 

「はっ、馬鹿め!それを待っていたんだ!」

 

「ギャアア!?」

 

 

某ツンツン頭の名台詞をパクりながら白虎の顔へと跳躍する総司。それに対して白虎は、先ほどと同じように殴り返すことで対応しようとした。だが、それは総司の狙い通りだったのだ。

総司が狙っていたのは、白虎の足の破壊である。殴り返しによる反撃には、人間であれば腕を使えるが知性を持っているとはいえ体が虎である白虎では、前足を使わざるを得ない。それに気づかれ、総司にまんまと前足を一本砕かれた。そのダメージで動けなくなった瞬間、総司は隙を逃さず残りの足も破壊する。

 

白虎の巨体が精神世界に横たわる。先ほどまで総司を苦しめていたのは、白虎の引き撃ちによるしぶとさであった。だが一時間も戦い続けて、白虎も流石に疲労したのだろう。弾幕にブレができてきた辺りで総司はこの結末を予見していた。

痛みにより、四肢をもがれた様に頭しか動かせなくなった白虎。そんな白虎に最後の一撃を入れようと総司が進んでくる。その姿を見て、白虎は咄嗟に命乞いを始める。

 

 

「ま、待て!それ以上近づけば、貴様は金属の刃で貫かれ死ぬだろう!」

 

「お前しゃべれたの!?」

 

「さっきから会話しとっただろうが!」

 

「してないが!?」

 

 

白虎の口から人間の言葉が発せられたことに眼が飛び出るほど驚く総司。そもそも鳴き声で相手の言いたいことを理解できていたさっきもおかしいのだが、やはり虎が流暢に話し出す状況はびっくりするのだろう。

だが白虎はその驚きの間に金属でできた巨大な刃を生成する。

 

 

「ほれ!それ以上近づけばこれが落ちてガハアアア!?」

 

「DAKARANANY」

 

 

一閃。刃による脅迫むなしく総司の拳は白虎の脳天をカチ割り、それと同時に精神世界が崩壊し始めるのだった…

 


 

 

「総司さん…」

 

「…こいつこのままにしておいた方が良かったりしないか?」

 

「お兄様、事実でも言っていいことと悪いことがあるんですよ」

 

「光宣さん、介抱変わります」

 

「あっ、よろしくお願いします」

 

 

一方その頃、傍から見ればグースカ寝てるだけの総司の周りに仲間たち四人が集っていた。総司が気絶した後、光宣は四葉のエージェント達相手になかなかに不利な状況の戦闘を強いられていたのだが、松尾大社を訪れた深雪の一声で、エージェント達はこの場を離れていった。これにより、光宣は深雪と達也の正体に勘付いてしまったが、自分を助けるような真似をしたという事は仲間なのだろうと考えた。

 

事実達也達三人は総司の気配を追ってここまで来た。到着するや否や自分たちの家の手駒が友人を殺さんとしていたことにビックリした三人は、次期当主候補最有力と目されている深雪の咄嗟の判断によりエージェント達を下がらせはしたが、当初どう立ち回るべきか悩んだが、そのあたりで総司のギャグ空間に立ち入ってしまい考えることをやめてしまった。

結果として家の方針に反逆する行動をとることになる三人だが、総司がいればたいてい何とかなるので大丈夫だと考えていた。思考停止にも程があるだろう。

 

しかし気絶している総司というのは非常に珍しい光景だ。一体何があったのかと光宣に問うたところ、『十二天将』の白虎を手に入れた瞬間にこうなったと説明する光宣に、達也は先ほど『精霊の眼』で見た虎の幻影はこれだったのかと納得する。

そんな時…

 

 

「…ッハ!」

 

「うわめんどくさいやつ起きた」

 

「…なんで君たちいるの?」

 

 

総司が目を覚ます。その表情は健康そのもので、全員が彼に介抱の必要はないと判断した。

達也達がここにいる事情を話すと、総司は今いち分かっていなさそうな顔をしていたが、「大体わかった」と返事したので全員がそれ以上言うのをやめた。

 

 

「…で、なんでここにいるの?」

 

「フンッ!」

 

「痛ァ!?」

 

 

言うのをやめたが手を出すのをやめたとは言っていない。総司の間抜けな返しに、達也は渾身の右ストレートを叩き込むのであった。




魔法科世界の秘匿通信


・総司の当初のイメージは、『使い勝手の良い幻想殺しを手に入れた全盛期オールマイト」』


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古都内乱編 その八

やばい…テイザービジュアルに光宣がいるから三期は古都内乱編までやるの確定したようなものじゃないか…!という事で、アニメに追いつかれないようにさっさと古都内乱編を執筆することに決めた作者です。

アニメ新情報でモチベも取り戻しましたが、相変わらずスランプ気味ではあるのでご容赦ください。


京都にて総司が目を覚ましてしばらくした後、東京の橘邸にて…

 

 

「…なんだよ爺さん、ここは勝手に入っていいとこじゃないぜ?ボケてるつっても容赦はしないぜ?」

 

「ちょっと市ノ瀬!?明らかにこのおじいさん只者じゃないでしょ!?というかなんか物凄い神気を感じるし!」

 

「うっせー分かってるわそんなこと!だからって引くわけにはいかないだろうが!ボス(総司)は居ないし、雫お嬢様もどこかに行ってしまったし!」

 

「へへへ…爆破しがいのありそうな老木…!」

 

「おいこら双葉!この家壊したらあの二人から大目玉なの分かってんだろうな!」

 

「ほっほっほ。最近の若者は元気がないと思っておったが…ここまで元気なののいるものじゃな…」

 

 

突如、どこからか侵入してきた見た目は八十代男性の不審者。この家が途轍もなく高名な二つの家の所有物であることはこの近所では有名で、特にその家が戦闘魔法師を多数抱えているというのも相まって、この家に近づく不届き者など現れていなかった。しかしこの老人はそれを知らないのか…それとも知ったうえでこうして無謀にも堂々と盗みに入ったのか…はたまたそもそも盗みが目的ではない可能性もある…

 

相対するは、以前雫に分からされて総司の部下となったバカ三人衆こと市ノ瀬・双葉・久豆葉。前回の登場が星を呼ぶ少女編であり、実に一年近くの久々登場である。こいつらの事覚えている読者いるの?

一応彼らは『数字落ち(エクストラ)』の中でも上澄み中の上澄みであり、かつての藤原道長が部下としたのも納得の実力派エリートたちである。

 

 

「少し手合わせを願おうか、あの橘という少年に会う前の軽いウォーミングアップじゃ」

 

「舐めやがって…!俺たちは朝飯前ってか!?どこの馬の骨かも知れねえジジイが!」

 

「…そういえば、まだ名乗っておらんかったのぉ」

 

「別に名乗らなくてもぶっ飛ばして…!」

 

 

その言葉を最後まで口にしようとした市ノ瀬を久豆葉が全力で止める。彼には理解ができていたのだ、目の前の老人の強大さが…!

 

「ワシの名は貴人という。よろしゅうたのむな」

 

 


 

 

橘邸にてバカ三人衆が十二天将の主神に喧嘩を吹っかけてからしばらくして。

京都に程近い大阪の海は、ある存在によって荒れに荒れていた。

 

 

「騰蛇…!?『十二天将』最強の式神がなぜここに!?」

 

「ギャオオオオオ!」

 

「おースゲー。よくできた映像だなー!」

 

「ねー!なんか本当に熱い気もするし!」

 

「っつ、野次馬根性腹立つ…!『逃げなさい』!」

 

 

U〇Jから出てきたばかりで、ミニ〇ンのグッズで全身を固めている束が、突如として現れた炎を纏いし蛇、『騰蛇』を目視した。近くにいる人たちは映像か何かだと思ったようだが、十二天将の実在を知っている束にとっては寝耳に水もいいところである。『言霊』の魔法で声が届いた範囲の人々に避難を促した。

 

束の魔法により人々は一目散に逃げだしていくが、ここで問題になってくるのが束では『騰蛇』を止められないということである。『騰蛇』程の上位存在に『言霊』の魔法は効かないと考えていいだろう。そうなると『言霊』以外の魔法は並み以上ではあるが、強力という程でもない束一人では不安が残る…

 

 

「手伝うぞ、おじょ…束」

 

「零次!?貴方どうしてここに!?」

 

 

そんな時、彼女の背後から一人の男性…名倉零次が現れた。何故大阪に居るのかと質問したところ、七草真由美の護衛として京都の日本魔法協会支部を訪れていたようで、『騰蛇』を目視してここまで跳躍してきたとのことだった。

 

 

「しかし、なんでいきなり騰蛇なんて…あのバカ(総司)が今集めていることは知っているが…」

 

「おそらく、他の十二天将が目覚めたことに呼応して現れたのよ…!私たちで止めないと、大阪が火の海になる!」

 

「分かってる。とりあえず海の上で戦おう。集中して守るのが背後だけなら俺も戦いやすい…っ!」

 

 

そんな会話をしている最中、騰蛇が街に向かって炎弾を放つ。再び跳躍して炎弾の射線上に躍り出た零次は、結界術で出現させた巨大な五芒星で炎弾を防御する。そのまま着地した零次は、騰蛇の周囲から水の鎖が現れて騰蛇に向かっていく光景を見る。束が『言霊』で騰蛇を拘束にかかったのだ。しかし騰蛇の放つ熱は予想以上だったのか、容易く水は蒸発してしまい鎖は崩れ去った。

 

 

「拘束はできないか…なら、動き出す前にぶっ飛ばせばいいってことだよな!」

 

 

その様子を見ていた零次は、自分で騰蛇をあの場に釘付けにしてしまえばいいと考え、そのまま空中を走り出す。尋常ではない速度で走り、更に足を踏み出した先に結界で足場を作成するという荒業による走行。総司にはできない高度な魔法行使の賜物である。

走り出した零次は、騰蛇が迎撃のために放つ炎弾を防ぎつつ、方向を逐次変えつつじりじりと騰蛇に接近し…!

 

 

「ハァッ!」

 

「GYAAAAAA!?」

 

「イイの入った!もう一発…!?」

 

「AAAAAAAAA!」

 

「ガッ…!?」

 

 

騰蛇に強力な拳を直撃させる!そのダメージは大きく、騰蛇は体を大きくのけぞらせる事となった。有効打が入った事を確信した零次は即座に追撃を行おうとするも、すぐにのけぞりから回復した騰蛇によって体の遠心力を利用した強烈なはたき落としを喰らってしまう。

そのまま零次の体は超高速で地面へと向かっていくのだが…!

 

 

「『速度落とせ!』」

 

「うおっ!…悪い、助かった」

 

「私じゃ騰蛇に直接魔法をかけられないんだからお互い様よ。それより…」

 

「ああ。奴さん、今ので激怒してしまったみたいだな…!」

 

 

束が減速させたことにより事なきを得た零次だが、攻撃を受けたことにより激怒した様子の騰蛇は既に、臨戦態勢に入ってしまっていた。これにより、大阪の未来を占う大激闘が火蓋を切られるのであった。

 

 


 

 

そして、大阪の戦火と同時期。休みすら返上し来る論文コンペに発表する研究について調整を行っていた五十里達、そしてそれを護衛すると称して仲間内で談笑しているレオやエリカなどのいつもの面子。だが、今彼らは最大級の警戒心を持って、眼前の老婆に相対していた。

 

 

「どうやって監視を潜り抜けて…!」

 

「婆さん、アンタ論文コンペの研究を狙うテロリストかなんかか?もしそうだったら容赦はしねえぞ!」

 

 

一高の防衛設備を無視してここまで老人がたどり着いていることに驚いている範蔵、威嚇しながら竹刀に『高周波ブレード』を纏わせている桐原。他の戦闘を得意とするメンバーは漏れなく戦闘態勢を取っている中、幹比古が何かに勘付いたかのように呟く。

 

 

「まさか…十二天将の1柱、『太陰』か!?」

 

「…はあ!?」

 

 

叫んで驚いているエリカを始めとして、太陰はともかくとして十二天将の名を聞いた者たちは、そろって驚愕の表情を浮かべていた。それを見ていた老婆は、クックック、と不気味にしゃがれた声で笑った。

 

 

「…若人たちよ、人が生を謳歌する中で、最も大切な物が何かわかるか?」

 

「…最も大切な物」

 

「そうじゃ。それは人がそれぞれ己で決めるものじゃろうが…しかしじゃ、その何かを「決める」という行為そのものに、最も必要なものが何か…」

 

「…知恵。そう言いたいんですね」

 

「左様」

 

 

『太陰』とは、智恵に長けた神あるとされる。それを知っていた幹比古は、圧倒的な迫力を放つ老婆の求める答えを出すことができた。そのことに機嫌を良くしたのか、老婆は笑いながらこう告げた。

 

 

「若人たちよ、そなたらに試練を与えよう…」

 

「何!?そんなもの押し付けられても迷惑なだけなんだけれど!?」

 

「ちょっと花音、相手は神だよ?何をしてくるか分からないのに、挑発してはだめだ!」

 

 

老婆の態度に少しイラっと来たのか、千代田が反発しそれを五十里が制す。そして『太陰』が告げたその試練とは…!?

 

 

 

 

「名付けて、ドキドキ☆何問答えられるかな?ゲームじゃ!」

 

「?????????????」

 

 

何を言っているんだこのババア…!?(困惑)

 

 


 

 

総司の精神世界…

 

 

十二天将が各地に出没し、総司の仲間たちと相対しているころ、当の総司は何をしているのかと言うと…!

 

 

「う~ん?のう総司坊や、昼飯はぁ、まだかの?」

 

「おじいちゃんさっき食べたでしょ?ほら、お散歩の時間ですよー」

 

「う~ん、そうじゃったかのぉ?」

 

 

おじいちゃんの介護をしていたのであった!




魔法科世界の秘匿通信


・別に祀られている十二天将しかいないわけではないので、今回の様に勝手に動き出す者達もいる。


・現状戦場に立っていないのは、雫・ほのか・香澄・泉美・真由美・十文字ぐらい。


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古都内乱編 その九

なんか文章おかしいかも。最近疲れてるからかな…


「…なんだよ、あれ」

 

 

大阪の空、巨大な竜と見紛う大蛇『騰蛇』。突如として出現したその存在に対応するために出撃した警察は、一様に目を見開いていた。そんな強大な存在が、たった一人の人間と戦っていたのだから。

 

 

「『断層結界』!」

 

「GYAAA!!」

 

「チッ…やっぱそんな上手くはいかないか…!」

 

「…あんなのが、俺たちと同じ人間なのか…?」

 

 

対象の位置に結界を張り、その効果で疑似的な切断を行うこともできる結界術『断層結界』を放つ零次。だが、騰蛇の干渉力に阻まれて騰蛇の体に結界を生成できず、切断することはできなかった。お返しと言わんばかりの火球を平然と多重展開した結界で防御し、ついでに生成した貫通力を持つ結界を放ち距離を開けることに成功する零次。

そんな上位の存在を見た警察は呆然とし、本来の役目である住民の避難誘導すら行えずに…

 

 

「『さっさと仕事しろ』!」

 

「…?そうだ、こんなとこで道草食ってる場合じゃねえ!早く市民の方々を避難させるぞ!」

 

 

そんな無能警官たちだったが、どこかから聞こえた声に自分のやるべきことを思い出したかのように避難誘導を開始する。その声の主は、避難誘導されている方向とは真逆方向に向かって走っていた。

 

 

「ちょっと!ここから先は危険です…!」

 

「急いでるの!『通して』!」

 

「…どうぞ!お気を付けて!」

 

 

勿論仕事に忠実である警官に止められるその主…束は、再び『言霊』で警官たちに指示を送って自分を通させるように命じる。そうやって開いた道を再び走っていく。

 

 

『束、今どこに居る!?』

 

「今第二チェックポイントの直前辺り!」

 

『OK、もうしばらく耐久しておくぜ』

 

 

束の耳元に巻き付けられた紙が淡い輝きを放ったかと思うと、そこから絶賛戦闘中の零次の声が聞こえてきた。零次が束に持たせた遠隔通話用の式だ。今しがた束の発言した第二チェックポイントは何かは未だ定かではないが、零次がそれを待っているようなので、どうやら騰蛇を倒すための策を弄しているようだ。

束はチェックポイントにたどり着き、何やら文字が書かれている札に、()()()()()()()()()()()()()を打ち込んでその場に固定する。その後、ふと束が空を見上げると相変わらず零次と騰蛇のタイマンが続いていた。

 

 

「…耐えて、零次!」

 

 

束は次なるチェックポイントに向けて走り出した!

 

 


 

 

「問題!西城レオンハルトは千葉エリカと同じ風呂に入った事がある!〇か×か!」

 

「「はあああああああああ!?」」

 

「えええ!?二人ってそんなご関係だったんですか…!?」

 

「確かにいっつも二人で居るな…とは思っていたんだよね」

 

「お前らって所謂喧嘩ップルってやつだったんだな!」

 

「「ちがーう!!!」」

 

 

なんだ…この空気感の違い…?

第一高校の敷地内に侵入した、自身を『太陰』と呼ぶ謎の老婆の繰り出す問題に、一同は苦しめられていた。

 

現在ターゲットになっているレオとエリカの顔は真っ赤に染まっている。みんなが一様に二人をからかうが、太陰という存在と十二天将の強大さを理解している幹比古には、それは後々自分の首を絞める行為だと理解していて混ざることはなかった。

 

 

「(…こんな、本人たちぐらいしかしらない情報をどうやって抜いているんだ…?僕たちの頭を覗いてでも居るのか…?)」

 

「それで?結局〇か×かどっちなんだよ?」

 

「そ、それは…」

 

「そんなの×に決まって…」

 

「ちなみに不正解だと死ぬぞ」

 

「「〇ー!!」」

 

「「キャアアア!!」」

 

「「フゥゥゥゥ!!」」

 

 

え…風呂入った事あんの?と思われた方もいるだろう、一つだけ言っておくとこの二人は原作より仲がいいぞ、ただそれだけは言っておきます(目逸らし)。

そんな男女問わず騒ぎだす一同の中、幹比古は太陰の口の上手さを理解する。

 

 

「(…太陰は十二天将の中でも吉将に分類される。誰かを呪殺したという伝承はないはずだ。つまり今の発言は完全なるブラフ…)」

 

 

そう、幹比古が感心しているのはこのブラフを平然と言ってのけ、それを嘘だと疑わせもせしないその話術だ。

事実レオとエリカは、太陰の「間違えたら死ぬ」という発言に迷うことなく正しいことを口走った。変な質問をされて動揺しているというのもあるだろう、だがそれだけでいくらあの戦闘以外はポンコツ気味の二人でも引っかかることはそうないはずだ。

 

 

「(…そもそも、何をすればこのクイズが終了するのかも教えられずに始めさせられた。最大限に警戒していたにも関わらず、この状況まで持ってこさせられた…恐ろしい話術だ…)」

 

 

どうにかしてこのオホーツクババアの知力を突破できないかと幹比古は頭を悩ませる。だが、そんな抵抗を智恵の神が見逃すわけはなかった。

 

 

「次の問題じゃ!吉田幹比古は柴田美月の胸に顔を埋めたことがある!〇か×か!」

 

「うわああああああ!?」

 

「きゃあああああ!?」

 

「「FOOOOOO!」」

 

 

幹比古の考えを乱すべく、幹比古を題材とした問題を繰り出す太陰。これにより盛大に動揺してしまった幹比古は思考が中断させられてしまい、未だその打開策を出すことはできなかった…

 


 

橘邸にて…

 

 

「ひゃははははは!楽しー!」

 

「おい双葉!なんでもかんでも爆破してんじゃねえ!」

 

「クッソ、音を誤魔化すので精いっぱいだ…!」

 

「本当に面白い若者たちじゃのう…」

 

 

戦場を広大な庭に変えた一行。メイン火力の双葉が若干暴走気味に爆破魔法を使用し、市ノ瀬が爆破の火力以外ポンコツの双葉の肉体を操作して機動力を補助、そして偽装に長けた久豆葉がその戦闘音を誤魔化すという流れ。そしてその爆破全てを防ぎきっているのは十二天将の主神『天一貴人』。戦闘力こそは騰蛇に劣るものの、決して侮れない強力な神である。

 

 

「…あの人、全然爆死しないー」

 

「殺すな…というか殺せるのかあのジジイ…?まあいいか」

 

「よくないよ…あの人って神なんでしょ?何してくるか分からないし、正直逃げに徹するのきっつい…」

 

「…ホホホ」

 

 

双葉は一条を除く日本の魔法師の中で、最も高い火力を出せる魔法師の家系だ。しかし、水を爆弾に変えられるような強力な『爆裂』と違い、無機物を限定して使用できる双葉の『爆衝』は、何故かあまり評価されなかった。どう考えても最強レベルの魔法であるにも関わらず、『数字付き』から落とされた双葉家。どうやら裏に巨大な権力者が潜んでいるとの情報が…

 

だがそんなこと双葉本人にはどうでもいいことだ。そもそも彼女は十師族の立場を、魔法師としてちやほやされるアイドル的な立ち位置だと思っているので、彼女の十師族への感情は他の『数字落ち』の者と違う異質な物だったりする。

それはそれとして、彼女は未だに天一貴人の周囲に『爆衝』を使用し続けているが、一向に天一貴人にダメージが入っているような様子はない。

 

 

「…そろそろ、決着をつけるとするかの」

 

「「「!!」」」

 

 

そう天一貴人が呟いたかと思うと、彼が三人に指を向けてきた。その指に眩い程の光が収束する。三人は、特に回避のために魔法で全員の動きをアシストしていた市ノ瀬は、その攻撃は不可避であり、防げもしないという事を悟ってしまう。

そうして天一貴人の指から光が解放される…それと全く同時に、飛来してきた人物が、()()()()()()()()()()()()()()()でその光を両断した。

 


 

 

総司の精神世界にて…

 

 

「ビームじゃ!」

 

「ビーム」

 

「そう、ビームを放つのじゃ!」

 

「魔法なしで?」

 

「魔法なしで」

 

「…殺すぞ~!」

 

「おうおう!?今時の若いもんは気性が荒いのう!?」

 

 

老人口調の亀…四神最強にして北方を守りし神、『玄武』。そんな彼が総司に要求したのは、魔法なしでのビームを放つことであった。もちろんんな事できるわけないので、総司はブチ切れである。

こんな状況になったのは、上賀茂神社に玄武を回収しに来た総司が、白虎の時と同じように精神世界に引き込まれた形で出会ったことにあった。

 

 

「どうやってビームなんて撃つんだよ!?」

 

「そりゃあれじゃよ…所謂「波あああああ!」ってやつじゃ」

 

「亀だけにかめはめ波ってかやかましいわ!」

 

「そこまで言うなら…見せてやろうか!」

 

 

その発言をした瞬間、玄武の口から青い光線が放射された!

その威力は、いくら精神世界といえども総司を吹き飛ばすほどのものであった。しかし先の白虎と違い、ビームを喰らっても総司には大したダメージを負っていない様子だ。どうやら現在ギャグ時空が展開されているらしい。

 

 

「なんで~!?」

 

「ほっほっほ、今考えたらこれはワシじゃからできることじゃったわ!人間である主には魔法なしではできん事じゃったの!」

 

「このクソジジイ…!」

 

 

因みにこの裏で大阪では騰蛇が暴れ、一高に太陰が襲来し、橘邸には天一貴人が現れているのだが、そんなこともつゆ知らずに総司は玄武と喧嘩していた。

 

 

「あったま来たぜ!ぶん殴ってやるから覚悟しろジジイ!」

 

「こいや若造がぁ!」

 

 

総司の拳が、玄武の甲羅と衝突する…!




魔法科世界の秘匿通信


・バカ三人衆で一番強いのは双葉で、そこから市ノ瀬、久豆葉と続く。基本的に双葉が暴れて他二人がサポートするのが基本戦術。


・オリジナル魔法の『爆衝』。双葉家が開発した魔法で、対象の無機物を、空気に触れると起爆する爆弾に構成しなおす魔法。それゆえにサイオンの消費が激しいが、双葉はかなりのサイオン保有者であり、本作で四番目にサイオンを持っていたりする。
因みに三位は双葉の三倍ほどのサイオンを持つ深雪、二位はそんな深雪よりも圧倒的なサイオンを持つお兄様。一位はそんなお兄様の1000倍くらいのサイオンを持っている総司君です。


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古都内乱編 その十

Chu!パルやりすぎてごめ~ん!(投稿)ペース遅くてごめ~ん!
Chu!筆遅すぎでごめ~ん!ムカついちゃうよねマジですいませんでした…


「しまッ…!?ガッ!?」

 

 

ドゴォン!と強烈な爆発音が大阪の空に響く。それは騰蛇の尾の叩きつけ攻撃によって吹き飛ばされてしまった零次がビルに激突してしまったことによる音だった。

その威力は凄まじく、激突されたビルはバランスを崩して崩壊を始めてしまう。幸いにもビル内に人はおらず、既に避難済みだったのだが、ビルの破片が落下していく先には未だ大勢の人々がいた。自分たちや目の前の人の末路を想像して絶叫してしまう人々。

 

しかしその末路を実際に辿ることはなかった。人々の頭一つ上に、まるで透明な壁ができたかのように障壁魔法が張られていた。周囲を見渡すと、破片が落ちてくる可能性のある範囲を四角形に囲う様に式が展開されていた。これは紛れもなく零次の放った式であり、彼が未だ健在であることの証明でった。命を拾い上げた人々はそれを知ることはないが、遠くから第三チェックポイントから第四に移動する途中であった束は少し胸をなでおろした。

人々が完全に崩壊したビルの被害が出ない位置まで離れた瞬間、結界を発動させていた四枚の式が再起動し、その姿を光の矢に変えて騰蛇にへと突貫していく。その矢は騰蛇に傷を負わせることこそなかったが…その意識を僅かにだが反らした。

 

 

「どこみてんだデカブツゥ!」

 

 

声に反応して騰蛇は火球を放つ用意をしながら背後へと向き直る。しかし、そこにあったのは零次の姿ではなく、一枚の式であった。そこから零次の声が放たれているのだ。言葉こそ発せないがそれを理解した騰蛇は、では零次はどこにいるかと困惑する。

その隙を逃す零次ではなかった。彼はブラフをしっかりと活用し、騰蛇の上を完全にとって、その大きな頭蓋に様々な魔法をかけ合わせた拳を放つ。

 

 

「(『重力制御』に『高速移動』…!更に拳に結界を張って一時的に世界の修正力を誤魔化し、通常よりも遥かに強力な『強化』を掛ける…!)」

 

「GYAAAAAAA!?」

 

 

零次が放った拳は、騰蛇を地面に叩きつけ周囲に甚大な被害を出すほどの高出力な一撃だった。しかし、そこは流石の零次。その被害を人々が受けないように、先ほど倒壊したビルの辺り…つまり既に十分な避難が行われたであろう場所に向けているので物的被害はともかく、人的被害は最小限に抑えられたと言える。

だが、それ程強力な一撃を見舞われたにも関わらず、騰蛇はすぐに体勢を立て直す。零次は脳内でその堅さに舌打ちするが、これは目論見通りではあった。

 

 

「(こいつはあのバカの戦力になりうる存在だ…ここまで強力なら、そのメリットはでかい…!)」

 

 

そう、騰蛇が突如現れた理由、それは他の十二天将の復活に合わせたからである。十二天将最強の騰蛇をここで殺害してしまえば、その分十二天将を味方にする理由が少し減ってしまう…騰蛇ともあろう存在が死ぬのかは定かではないが。

つまり、零次達がとるべき最善は…

 

 

「…束!『封魔結界』の式の展開はどうなってる!?」

 

『今第四チェックポイントに打ち込んだところ!最後の一つを設置しに行くわ!』

 

 

二人が狙っているのは騰蛇の封印であった。ここで騰蛇を沈めたとしても、それで必ず元の式に戻っているとは限らない。ならばこの場で封印してしまうことを彼らは選択した。

二人の言うチェックポイントとは、ある一点を中心として、まるで五芒星を描くかのように式を設置できるポイントの事であった。そして束の言葉から、後一つで封印の魔法が発動できることを確認した零次は、予定する位置まで騰蛇を移動させるべく行動を開始し始めたのだった。

 

 


 

 

「…早く次のポイントに行かないと…!」

 

 

束は魔法をかけて全力疾走していた。騰蛇と零次の戦闘が激化したことによる被害を心配する心はあるのだが、なにより今現在零次が騰蛇を抑え込んている位置は、発動しようとしている術式の効果範囲で、最も理想的と言える位置だったからだ。いかに零次が実力者と言えど、騰蛇を長時間同じところにはとどめておけないだろう。成ればこそ、一刻も早く次のポイントに向かわなければならないのだが…

 

 

「…っ!?貴方たちは…!?」

 

 

束の前に立ちふさがるエージェント達。こんな状況で束の妨害をしようなどと考えるのは、おそらく四葉家の人間だろう。おおよそ、零次が騰蛇を討伐すること自体には異論はないが、そのまま騰蛇が消滅する可能性を考慮して、再封印をされるのは阻止したい…そんな思惑で派遣されたエージェント達だろう。

自身の前に立ちふさがる集団に、束は非常に困っていた。

 

束は知る人ぞ知る強力な『言霊』使いの魔法師だ。そんな強力無比な魔法師相手に挑みかかってくるにしても、多少の対策はつきものだろう。恐らくは目の前の集団も何かしらの対策はしている。だが、普段の束ならそれすら強引に突破して勝利することができるだろう。だが今回は一刻を争っている、突破できるとはいえ時間はどうしてもかかってしまう。

 

どうやったらこの集団をかわすことができるのか、束が悩んでいるとき…!

 

 

「なっ、うああああ!?」

 

「…『ドライ・ブリザード』!?まさか…!」

 

「ええ、そのまさかよ。まったく零次君ったら、私をいきなり置いていくんだからひどいわよね?」

 

 

氷の弾丸で横槍を入れる人物が現れた。それは日本魔法協会の支部に零次とともに訪れていた真由美であった。彼女は機動力が無いため今の今までこの場に来れなかったが、とうとう追いついたのだ。

勿論状況は詳しく把握できていないのだが、自分の顔見知りとその前を塞ぐ集団。どちらに与するかなど即座に判断できよう。

 

ウィンクで自分の意図を束に伝えた真由美。それに頷いた束は走り出す。もちろん黒服のエージェント達はそれを妨害しようとするのだが、それを真由美が許すはずもなく、『ドライ・ブリザード』の牽制で彼らを束に近寄らせなかった。

 

そして、束は目的の場所まで走り出すのであった!

 

 


 

 

『零次!」

 

「…!」

 

 

判断は一瞬だった。束からの通信が、式の設置終了を知らせるものだと半ば確信した零次は、再封印の為に結界を展開する。

設置された式がまばゆい光の線を伸ばし、それが繋がっていくと、やがてそれは五芒星の形をとる。五芒星の形をとった瞬間、中心にいる騰蛇に向かって無数の鎖状のエネルギーが騰蛇を拘束したのだ!

 

 

「GYAAAA!…GAA!?」

 

「無駄だ、お前の狙いは分かっているからな」

 

 

拘束された騰蛇は、自身に備わっている魔法への抵抗力を用いて、この拘束魔法を無効化しようと試みる。しかし、それはなされなかった。なぜなら、その魔法は現在世界に『元からあったルール』として固定されているのだ。

そう零次が対総司に与えられた異能、『魔法を元からあったことにする』という異能だ。これはもともと、総司の『魔法を無かったことにする』異能に対するカウンターとして与えられた。

 

総司の異能は、魔法の発動をなかったことにして、世界を『元の状態』に戻す異能である。文章だけだとわかりにくいかもしれないが、要するに人が起こした異常を、世界が定めた正常に戻すという異能だ。

だが零次の異能は、世界の定めた正常を、世界を完全に騙すことで正常そのものを歪めることで総司の異能を無効化するものであった。

 

そしてその副次効果として、他の魔法無効化の手段に対しても強く出れるようになったのだ。だからこそ、騰蛇では、この異能で補強された魔法を無効化できない。

途轍もなく悔しそうな叫びをあげながら、騰蛇は眩い光に飲まれ、一枚の式に戻るのであった…




魔法科世界の秘匿通信


・総司の異能と零次の異能は、魔法の領域を超えた超常の力である。


・束の魔法『言霊』は、耳栓などをしていても無効化できないが、対策用の訓練法で精神を鍛えたら、ある程度は防げるようになる。


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古都内乱編 その十一

二か月待たせてすみません…


東京の住宅街の一角で一本の閃光が瞬き、直後にその閃光は二つに割れてすぐに霧散した。

橘邸の庭には、天一貴人の魔法を前に死を覚悟してへたり込んでしまった『数字落ち』の三人組と、閃光を放った本人である天一、そしてその閃光を両断した人物である北山雫の姿があった。

 

 

「ふむ…君がここの主人かね?」

 

「正確にはもう一人いるけど…確かに私はここの主人。おじいさん、人の家で暴れて何がしたいの?」

 

 

目的の人物が現れたのかを確認する天一に対する雫の顔は、かなり不機嫌な様相を呈していた。婚約者との愛の巣で暴れられた上に、優秀な使用人を失いかけたことにかなりご立腹の雫なのだが、相変わらずその表情は真顔である。だがにじみ出る怒りを天一は察したのか、ニヤリと顔をゆがめて面白そうに笑う。

 

雫の姿は『五つの難題』をフル装備した最強状態である。バカ三人衆がボコボコにされていると聞いて、少し嫌な予感がした雫は『五つの難題』を持ってきた訳であるが、それは政界であったと雫は内心冷や汗を流す。先ほど天一の攻撃を閃光と称したが、それを魔法に分類するならば、光波振動系ではなく無系統魔法、つまり単純なサイオンの放出であったのだ。閃光の様に見えたのは、純粋なエネルギーとして発射されたサイオンの内、一部が余剰エネルギーとして光エネルギーに変換されただけなのである。

つまり何が言いたいのかと言えば、先ほどの攻撃を雫はあたかも軽々防いだかのように見えるのだが、その実『仏の御石の鉢』と『蓬莱の玉の枝』を合わせた石剣(総司曰くディーソードベガ)の効果で魔法を切れていなかったら、雫はマントで無事としても、後ろの三人はこの世から蒸発してしまっていたであろうことは容易に想像できてしまった。

 

 

「…おじいさん、何者なの?」

 

「神…と言えば、納得するのかい?」

 

「するかも。私を倒せるのは総司以外には神ぐらいしかいないしね」

 

「大言壮語を…!」

 

 

その会話を皮切りに戦闘が再開される。今回の戦闘は、全て雫から仕掛けていく形となった。石剣を左腰に当て、居合のような体勢をとった雫は振動系魔法と自己強化を利用して、ただでさえ向上している身体能力を何倍にも高め、一気に踏み込んだ。

踏み込みと同時に繰り出された、エリカ仕込みの抜刀術は天一の首元を容易く切り裂く。そう、容易くである。

 

 

「(蜃気楼…!)」

 

 

雫のマント、『火鼠の皮衣』にはありとあらゆる魔法から術者を守る効果がある。しかし、その場に居ると錯覚させるために光信号をいじっただけの魔法は、その防御対象に含まれなかったようだ。鮮やかな居合は、蜃気楼でできた天一の幻影を切り捨てるにとどまる。しかし石剣の効果により、蜃気楼の魔法が無効化されたことでその姿は消える。本体を見つけ出すため雫が周囲を見渡すと、天一は空に浮いていた。飛行魔法を発動しているような兆候はないのに、継続して宙に浮き続けているその姿を見た雫は、見えるところに居るのは好都合と、マントを翻しながら回転して天一に突撃する。その際にマントに硬化魔法をかけ、天一の脳天目掛けて突き進む。

 

しかし、天一の位置はまたしても違った場所にあり、再び雫の攻撃は空を切った。遊ばれている…いや、実力を試されていると感じた雫は、石剣を使って周囲に張り巡らせられている蜃気楼の魔法を切り裂いた。

すると、たちまち天一の姿が現れる…しかし、その数は数百体であるが。

どうやら魔法を消された瞬間に別の魔法が作用するように仕組んでいたようだ。これによって天一の位置は一向につかめない。七草真由美の『マルチスコープ』でもあれば話は変わってきたのだろうが、そのような索敵用魔法を有さない雫では、天一を捉えられない。

 

 

「…おじいさんって本当に神だったりする?」

 

「最初からそうだと言っとろうに…」

 

 

雫の問いかけに天一が答えた瞬間、その声の発生源向かって雫が『フォノンメーザー』を放つ。先ほど天一が使ってきたサイオン放射よりも威力は低いが、『フォノンメーザー』もバカにはならない威力だ、原作雫のメインウェポンなだけはある。

しかしそもそも命中しなければその威力もただの案山子、しゃべっていたのは幻影の一体で、結局天一にはかすりもしなかった。

 

 

「…当たらないか」

 

「見かけによらず狡猾な手を使うのだねぇ」

 

「おじいさんが神って言うのも見かけによらないけどね」

 

「はっはっは、こりゃ一本取られたわい」

 

 

会話を交わしながらも、周囲を取り囲んだままの天一。それを見渡しながら剣を握りしめたままの雫。だが唐突に、彼女の剣を持つ手から力が抜けた。

それをみた天一は、よもや負けを認めたわけではあるまいと、より雫の一挙手一投足を見逃さぬようにと構える。

 

 

「…おじいさんは、私の事を評価してるんだっけ?」

 

「そうじゃ。あの狂った自浄作用についていけている常人の女子など、気にならないわけないじゃろう?」

 

「狂った自浄作用…?それは総司の事なの?」

 

「そうさ。あの神の模造品の持つ力は、本来魔法を否定するための力じゃった。だが地球は奴の力に気づけなんだ」

 

 

雫は目の前の老人を強くにらむ。どうやらこのご老体は最愛の人の力の一端のルーツを知っているようだと理解した雫は、必ず口を割らせてやろうと決心するのだった。

 

 

「…面白そうな話だね?詳しく聞かせてほしいな」

 

「ふむ。ワシを捉えられぬ者に聞かせてやる話はないの」

 

「そう。じゃ今から捕まえればいいわけでしょ?」

 

 

そこで天一は気づく。橘邸の敷地内を水の膜が覆っていることに。そして目の前の少女に向き直ると少女は、雫は不敵に口をゆがめた。

直後、周囲が丸で昼間かと見紛う程の巨大な光が発生した。

 

 


 

 

「ミスっちゃったね、これは…」

 

 

住宅街の一角、先ほどまで豪勢な邸宅があったはずの荒れ地の中心で、雫は手にする『札』を見て悔しそうにしていた。ここは先ほどと場所は変わらず橘邸だ。ただ、橘邸と呼ばれていたものはもう跡形もなく消えていることを除けば。

 

先ほどの水の膜は何だったのか、光の正体は一体?結論から言えば、バカ三人衆の合体技である。

 

水の膜は、水分を操る魔法を使える『第一研』出身の市ノ瀬の魔法による産物だ。何故そんな水の膜を作る必要があったのかと言えば、もう一人の魔法から周囲を守る為であるのと、獲物を逃がさないようにするためである。

そう、光とは『第二研』出身の双葉の大爆破による光だったのだ。その爆破にはもちろん雫も巻き込まれるだろう、しかし今回は『範囲内の空気中の窒素が爆発する』という魔法である。つまりは爆発そのものが魔法であるため、雫のマントでそれを防ぐことができたのだ。

 

だがそんな大掛かりな準備をしていては天一に気づかれてしまう。だが、そこは久豆葉が対応することで解決した。久豆葉の家は、精神干渉系の古式魔法を操る家系であった。だが以前『第四研』…実質四葉家から、『第九研』に苦情が入ったのをきっかけに、『第九研』を追い出された。

だが、自分たちの専売特許を奪われたと四葉が感じるほどに久豆葉の精神干渉は強力であり、神である天一相手ですら敵を雫のみと断定させ、それ以外のことへの警戒心を下げるという納得の技量を見せつけてくれた。

 

以上が、先ほどの巨大な光の正体である。ではなぜ雫は失敗したと呟いたのか。それは、『天一の存在は天一自身の魔法で作られたもの』であったからだ。逃げ場がなく、自分にだけは影響のない大爆発の中で雫は天一に石剣を突き立てることができた。

だがそれにより、天一が自身を実体化させるために使っていた魔法を剣の効果で無効化してしまったのだ。

 

神を実体化させるなどという魔法は、神自身でしか使えない。つまり総司の話は聞けなくなってしまったわけであり…雫は「失敗した」と感じたのだった。

 

 

「…はあ、総司に連絡して家を直してもらお」

 

 

そういいながら雫は総司に通話を掛ける。だが、その通話にでたのは達也であった。

 

 

「達也さん?なんで達也さんがこの通話にでるの?私掛け間違えた?」

 

『いや、間違えていない。今総司は『朱雀』を懐柔するために精神世界に潜っているんだ』

 

「『朱雀』って四神の?」

 

『ああ。今まで『白虎』・『玄武』・『青龍』の順で懐柔していたんだが、今の『朱雀』に一番時間がかかっているんだ。雫は総司に何か用なのか?』

 

「うん。家が壊れたから直してもらおうと思って」

 

『?????』

 

「そのままの意味だよ」

 

『…わ、分かった。聞こえるかは分からないが、総司に伝えておこう』

 

「お願い」

 

 

通話を切った雫は、そのままバカ三人衆を呼び出して、周囲の人払いを開始させるのであった…




魔法科世界の秘匿通信


・バカ三人衆の家は、残っていたら現在の対応する数字の十師族と入れ替わっている可能性があるほど優秀な家であるが、何かしらの問題で『数字落ち』した、




次回はいつの間にか終わってた玄武戦、すっとばされた青龍戦、開幕した朱雀戦をお送りしていきます。


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古都内乱編 その十二

お ま た せ


総司の精神世界にて…

 

「っしゃオラァ!なんかでたァ!」

 

「ほう!中々に筋がいいではないか」

 

 

総司は玄武に課せられた、『水のビームを撃ってみろ』という試験をクリアしていた。ちなみに方法は気合だそうで。気合でビームって出るんだね()

 

 

「試験を無事クリアした褒美じゃ!わしが直々に相手してやろう!」

 

「よ~し来た来たくたばれェ!」

 

 

総司は玄武の言葉を聞いた瞬間にトップスピードでその硬い甲羅に拳を叩き込んだ。だが…

 

 

「っつ!?硬って~!」

 

 

総司の拳は玄武の強固な甲羅に弾かれてしまった。流石の『四神』最強の名は伊達ではないということだろう。

 

攻撃を弾かれて困惑している総司に、玄武は語り掛ける。

 

 

「なんのための修行だと思っとる!貴様が習得した技でワシを超えるのじゃ!」

 

 

どうやらこの精神世界では玄武に対しては先ほどの『水ビーム』でなければダメージを与えることができないようだ。

 

 

「なるほどな!じゃ食らえ!」

 

「おっと!さっき習得したばかりなのに出が早いのう!」

 

 

攻撃が効かない理由と玄武を倒せる方法を知った総司は何の予備動作もなく掌を向けることで『水ビーム』を発射する。いきなりの高速発動に驚いた玄武だが、即座に同じ技を出して相殺を狙う。そして玄武は一唸り。

 

 

「(ここまでの短時間でワシの術と肩を並べる威力にまで昇華させるとは…!神を目指して作られた器とはかくも強力な力を持つのか…人類はよくこれに勝てたものだ)」

 

 

自分の数百、数千年にわたる経験を身体スペックだけで凌駕しかけている総司のポテンシャルに驚愕を隠せない玄武。だがそこまでであった。確かに凌駕しかけているが、決定的に超えることがどうしてもできていない。

これは総司が今まで魔法を使わなかったことと、魔法理論のほとんどを一切理解できていないことに由来する。術の全てを理解している玄武を超えるには、後わずかでも術への理解度を高める必要がある。だがここに総司を教え導いてくれる存在はいない。これではこの勝負の決着は一向につかない…

 

 

「…ビームってなんだか雫を思い出すなぁ。…ん?雫?」

 

 

…おや?総司の様子が?

 

 

「そういや雫って『フォノンメーザー』ていうビーム使ってたよな。確か…こんな感じだっけ?」

 

「…!?ぬおおおおお!?」

 

 

総司がビームを使う身近な人物、つまりは雫の姿を思い浮かべながら改めて力を籠めると、驚愕の事態が起こった。

 

先ほどまで拮抗状態であったはずの二人のビームだが、総司側のビームの威力が途端に跳ね上がる。雫がビームを撃っている姿を連想しただけで、術への理解度を上げたのだ。だがそれ自体は問題ではない、問題なのはわずかな理解度の上昇だけでも先ほどよりも十数倍の出力へと変貌したことだ。

 

そのあまりの異常さに、玄武は肉体が失われていく感覚を感じながら、総司の強さを認める

 

 

「なんという力…これが、世界を守らんとして清明めの亡霊が生み出した…」

 

 

玄武の言葉はそれ以上紡がれることなく、その肉体は消滅してしまった。

 


 

 

「…っは!曲者~!出会え出会え~!」

 

「うおびっくりした。…総司、起き抜けにすらふざけるのかお前は」

 

 

玄武を倒したことにより総司は現実世界へと帰還していた。目を開けた先には、「このまま眠ってればよかったんだけど」と冗談交じりにいう光宣や、良い子なので総司をしっかりと心配していた水波、呆れた眼差しを向ける達也とその胸元に顔を押し付けてスリスリしていう深雪(なにしてんねんお前)がいた。

 

総司がしっかり覚醒したことを確認した達也は、総司に立つように促してから、響子からの伝言を総司に伝えた。

 

 

「藤林さんによると、四葉の私兵とおぼしき集団の妨害にはあったが、残りの『四神』を回収したとのことだ。四葉が九島邸に侵入してくる前に式神たちを従えてほしい」

 

「合点承知の助」

 

 

そう言うと総司は瞬く間にほかの四人を抱えると、そのまま跳躍して九島邸に向かうのであった。

 


 

あっという間に到着した九島邸。そこには四葉との戦闘で少なくない傷を負ったものや、もはや物言わぬ亡骸となってしまった者もいた。そんな惨状の中をまっすぐ突き進み、響子が待つ部屋へと向かう。

 

 

「総司君!よかった、無事だったのね」

 

「むしろ無事じゃなかったらどうすんのさ」

 

 

言外に総司が無事で済まないなら九島は滅んでいると言っているような発言だが、実際その通りであるので響子は何も言わず話を続ける。

 

 

「ここに『青龍』と『朱雀』の式があるわ。他の二柱と同じように彼らを従えてほしいの」

 

「おかのした」

 

 

総司はまず『青龍』の式を手にとった。そして総司は再び精神世界へと潜ってゆく…

 


 

精神世界にて…

 

総司が目を開けて見上げてみると、『白虎』や『玄武』にも劣らぬ巨躯を持つ青き龍、『青龍』がいた。あまりにも名前通りの姿をする『青龍』に流石の総司も即座に戦闘態勢をとる。そんな総司を見た『青龍』が口を開いた。

 

 

「我が名は『青龍』…京の都を守りし『四神』、最弱のものなり…」

 

 

『青龍』が口を開いた瞬間、総司はいつ攻撃が飛んできてもいいように構え、その言葉の途中で疑問を覚えて構えを下げた。

 

今奴はなんと言った?『四神』最強ではなくて最弱?確かに最強は『玄武』なので最強でないというのはわかるが、最弱?

 

首をひねる総司に向かって、『青龍』は言葉をつづけた。

 

 

「我は『四神』最弱。ゆえに…あの、戦闘とかは勘弁してもらえませんかね?」

 

 

総司は盛大にずっこけた。

 

 

「おおい!ビビッて損したじゃねえか!ってかなんでお前そんな及び腰なの?え、何本当に最弱なの?」

 

「はい…『白虎』先輩が負けたあたりですでにビビッてたんですけど、『玄武』さんが負けたのを感じてこれもう俺じゃ無理じゃんと…」

 

「ええ…(困惑)」

 

 

これには流石の総司も困惑である。いや確かに戦闘とか試練とかなしなら時間が確かに短縮されるのだが、お前ほんとにそれでも神なのかと言いたくなってしまう総司なのであった。

 

ちなみに青龍は確かに自分より強い『四神』たちが負けたことで勝てるわけがないと思っているのもあるが、かつて自分をこれでもかとボコボコにしてきた安倍晴明と目の前の少年が瓜二つの容姿をしているのが怯えている一番の理由である。

 

まあとにかく、総司は『青龍』を従えることに成功したのであった。

 


 

現実にて…

 

 

「いや早くない?」

 

「それな」

 

 

思わずと言いたげな響子に賛同する総司。一番驚いているのが総司本人なのだから当然である。

 

 

「じゃ、じゃあ次の式神をお願い」

 

「りょ」

 

 

総司は再び精神世界へと潜ってゆく…

 


 

再びの精神世界にて…

 

 

「「「「「おかえりなさいませ、旦那様!」」」」」

 

「What?」

 

 

先ほどまでの精神世界とは一転した雰囲気、先ほどまで精神と時の部屋のような、神々と総司しかいない、真っ暗な空間であった精神世界が、今はこじゃれたバーになっている。それに相対するのは『朱雀』ではなく…

 

 

「やあ総司。頑張ってるようだな、ここで少しやすんでいけ」

 

「総司君~、私ず~っと待ってたんだから~!」

 

「摩利ちゃん、それに小悪魔ババア」

 

「誰が小悪魔ババアよ!?」

 

 

総司の知り合いの女性たちがバーに勢ぞろいしていた。しかも全員、いかがわしいお店で着るような露出過多なバニースーツに身を包んでいた。

 

総司は何が何だかわからなかった。自分をやけに熱の籠った視線で見てくる女性陣。その中に深雪も含まれていたことから、ここが決して現実世界ではないことは想像がついている。となれば、ここは正しく精神世界であり、おそらくは『朱雀』が見せている幻術か。だが総司の異能によって精神干渉系魔法は効果がないはずだ。それにも関わらずこのレベルの幻術は一体どうやって…

 

 

「「総司さん!」」

 

「うおっ、でっっっか!?」

 

 

総司の思考を遮るかのように自分たちの胸部を見せつけるようにして前に出てきた美月とほのか。その行動は効果抜群であり、総司の思考が止まる。

 

だがここが現実でないという考えは残っていたので、まともな答えが返ってくるわけがないと思いつつも一応質問をしてみた。

 

 

「なあ、ここはどこなんだ?」

 

「どこでもいいじゃないですか総司君。今夜はここでゆっくりなさってください」

 

「そうよそうよ!こんな美少女たち侍らせておきながら、それを放っておくほどのことが何かあるの?」

 

「そうよ総司君。今日はゆったりと楽しんでいきましょ?」

 

「チェンジで」

 

「だから私に対するその態度はなんなのよ!?」

 

 

上から深雪、リーナ、真由美だ。久々のリーナ登場がこれって…

 

 

「いやだって、なんか真由美ちゃんってあまりに大人びてるから、そういう恰好してるのが逆にキツイっていうか…」

 

「キツ…!?」

 

 

その言葉を聞いて凹んでしまった真由美は、店の隅で座り込んでしまった。そんな真由美を摩利と市原が慰める。

 


 

「…なんだか、バカにされた気がするわ」

 

 

時を同じくして大阪、事態の収拾にあたっていた真由美は、誰かが自分の悪口を言っている気がした。

 

 

「気のせいだろ、考えすぎだ真由美」

 

「悪口を行っているのは総司君な気がするの」

 

「…」

 

 

怒れる獅子を起こすまいとフォローに回ろうとした零次だが、真由美は既に獅子と化していた。どうやら総司が自分を貶したことは真由美の中では確定事項らしい(正解)。

 

 

「…どうせ、『変に大人びてるせいで若作りに見える」とかそこらへんだろ。アイツのいつものおふざけだ、気にする必要はない」

 

「それ、零次君も思ってるからそんなこと言えるんじゃないの?」

 

「悪いな束、俺は先に帰るよ」

 

「やっぱり思ってるってことじゃない!?って、コラー!待ちなさーい!」

 

 

零次は脱兎のごとく逃げ出した。真由美はそれを追いかけた。追いつけるわけはなかったが、帰宅後に零次はしばらく真由美の椅子として生活するのであった…

 


 

 

それは置いといて、総司はしばらくエッチな格好の女性陣たちにもてなされていたが、何かが足りなかった。そしてそれを総司は理解していた。

 

 

「雫ちゃんが居ないのがなぁ」

 

 

そう、彼を取り巻く女性陣の中に雫が含まれていなかった。故に、総司はあまり満たされていなかったのだ。

 

そしてこのようにバニーさんたちに囲まれた状況で想い人を思い浮かべた総司は、一つ思い立った。

 

 

「せや、一旦帰って雫に着てもらおう」

 

「「「「…え?」」」」

 

 

そういいながら立ち上がり、店の出口らしき扉に向かって歩み始める総司。そんな総司を女性陣達は必至で止める。

 

 

「ちょ、ちょっと待って総司君!まだ疲れがとれてないんじゃないかな!?」

 

「チェンジ」

 

「だ~か~ら~!!」

 

「もうこんなの止めにしようぜ?流石に飽きちゃった」

 

 

その言葉を聞いた女性陣の表情が、たちまち能面の様になる。そして風景が崩れ始め…

 

 

「…あんた、随分な精神力をしてるんだね。気に入ったよ!」

 

「お前が『朱雀』か?」

 

「その通り!京の南を守りし、清明殿お墨付きの切り込み隊長!『朱雀』様たあ俺の事よ!」

 

 

他の『四神』と変わらぬ真っ暗な空間に、ポツンと浮かぶ太陽かの如く輝く『朱雀』が現れた。総司は、他の神たちとは違う試験の出し方だったと思って質問をする。

 

 

「今回のアレは一体なんだったんだ?」

 

「ありゃあ、あんたの精神力を試す試験さ。あのままアンタがあそこで女の子たちにメロメロになってたら、気づかぬうちに俺の火で焼き殺されてたんだよあんたは」

 

「じゃあなんで雫を出さなかった?ワンチャン負けてたかもだぞ?」

 

「ダメダメ!あんたのあの女子への想いは、あんたが思ってるよりでかい。出したところで、現実の本物に会いたくなってしまって、今回よりも早い段階で脱出してただろうさ」

 

 

そういうと朱雀の体が輝きを増し始めた。

 

 

「兎にも角にも、俺はあんたを認めた。力を貸してやるよ!」

 

 

そう言い残すと、朱雀は式へと戻った。

 

 

「…なんでバニーだったんだろう?」

 

 

精神世界から浮上しかけている総司のその問いに答えてくれる声は、ここにはなかった…




魔法科世界の秘匿通信


・玄武の水のビームは正式名称を『水龍波動』と言い、周囲の空気の運動を振動魔法で減速させ、液化させて水を生み出し、圧縮して放つという大雑把な技である。因みにモチーフは原神の『ヌヴィレット』から

・青龍は風を操る力を持ち、これによってかまいたちでの遠隔斬撃が可能になった。


・朱雀は炎を操る力を持ち、今回の幻覚は蜃気楼である。奇しくもほぼ同時刻に夫婦(総司&雫)が蜃気楼に苦戦していた。


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