英雄の魔法と最終の人類 (koth3)
しおりを挟む

キャラクター紹介
主人公紹介


ここに移転させました。


 

主人公 想影真心

 

容姿  橙色の瞳と髪を持ち、長い髪を後ろで三つ編みにしている。

    身長は170cmを超えており、すでに大人と間違えられる。

 

性格  自身に関係ないことは基本的に関わらない。ただし、親しい人間が巻き込まれていたりしたら助ける    ことくらいはする。

 

能力  面影真心(人類最終)の身体能力、精神面の強靭さ、思考能力、才能を手にした。

 

    戯言シリーズの固有の技能と、能力。

 

    新本格派魔法少女りすかの世界のすべての魔法。

 

過去  孤児院の前に捨てられていた(この世界に来たとき矛盾を発生させないために)。その後八歳までは京都の孤児院の中で過ごす。八歳になると視心と天によって引き取られる。その後九歳の時にER3システムへ向かう。十歳ぐらいの時に天と世界を崩壊させかねない殺し合いという名の親子喧嘩を行う。十五歳の時に麻帆良へ向かう。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

神先・L・暁

こちらも移転しました


名前 神先・L・暁

 

能力 英霊エミヤの魔術、及び技能である投影魔術と身体能力

   

   英霊ランスロットの宝具とスキル、身体能力に|騎士は徒手にて死せず≪ナイト・オブ・オーナー≫と、無窮の武練。

   

   英霊ギルガメッシュの宝具とスキル、身体能力|王の財宝≪ゲート・オブ・バビロン≫

                        天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリッシュ)

                         黄金律

 

     身体能力に関しては重複したステータスのうち最も高いものが適用される。

 

人物背景

主人公とは違い、始まりではなく終わりの混沌により、転生させられた存在。

主人公のいた世界と違い西尾維新はいなかったが、ネギま!はあった。

元々はそこまで身勝手な存在ではなかったが、力に酔ったことと、戦争のむごさを知り、人格が変貌してしまった。人間のエゴに触れ、人間に絶望した存在でもある。その為に今では身勝手で傲慢になってしまった。だが、心の底で自身の能力のひとつであるギルガメッシュのように、自分を殺してでも、自身を開放してくれる正義の味方を望んでいた。

 

物語への関与

転生した姿は十歳くらいの所謂小ギル。容姿もそうだが、違うのは金髪ではなく白髪。

転生した場所が魔法世界で、自身を救い知識を教えてくれた女性エルキドゥを慕っていたが、連合と帝国の戦渦に巻き込まれた際にエルキドゥが死に、怒り狂いその場に存在した戦艦と兵士たちすべてを殺した。

エルキドゥは莫大な魔力と豊富な知識を持っており、その力を狙って、両国家何度も接触しており、相手に渡すぐらいならと秘密裏に暗殺される。暗殺した人間は神崎によって跡形もなく殺された。

原作知識を利用し、大分裂戦争を早く終わらせようとし、連合に参入する。しか、結局なに一つ変えられなかったことと、戦争の非道さ、人のエゴにより人格が変わっていた。

昔の神先を知っているガトウは彼を戦争の被害者の一人としている。

その後は英雄となったが、本人も気づかない心の隙間を埋めるため女と闘争に溺れた。

唯一の例外はエルキドゥに関することだけだった。また彼はエルキドゥに惚れてた。

(エルキドゥは珍しい帝国の民で、キメラに近い性質を持つ。性別は女であり、能力は強力だが戦うことはできない性格であった。享年二十四歳)

死ぬ際にはようやくエルキドゥに会えると、微笑みながら死んでいった。

 

名前の由来

神先には神の手先という意味。Lはルシファーを意味し、堕天した(絶望し、堕落していった英雄)という意味。暁は明けの明星からの連想により暁へ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第0章 喪騙 ≪物語≫
第一話


初めまして作者のkoth3です。
処女作なのでグダグダですし、更新も遅いですがよかったら見てください。


第一話 すべての始まり

 

うっすらと瞳を開けたら見えた景色は、一言でいうなら異常だった。

どこまでも白くどこまでも黒い世界。対立する二極であり、矛盾を突き詰め続けた結果のような色。

そこには何もなく、全てがあった。

 

「ふむ、そこの魂ちょうど良い。我の仕事を手伝え」

 

突然声が響き、驚いて後ろを振り返るとそこには龍がいた。

 

「その認識は間違いだ。迷い込みし魂よ。我は貴様らでいう龍に近いが龍ではない」

 

心を覗かれたかのように話しかけられた。

 

「あたりまえじゃ、魂が剥き出しになっているのなら考えたことは世界に伝わる」

 

それが本当なら俺はなぜ魂が剥き出しになっているのだろうか。

 

「ふむ、少し待って。お前の疑問を解く」

 

少しその龍のようなものが考え出した。それと同時に少しずつ思い出してきた。

そうだ、俺は死んだ。

後悔もないし、悔いもない人生だった。

ならここは死後の世界なのだろうか。

 

「いや、違う。ここは死後の世界ではない。ここは世界の中心だ。数多ある世界はここで生まれ、ここで滅ぶ。故に世界で異常ができればここにも連動して異常が発生する。その異常とはお前のことだ。ここには我以外は存在できないが、お前は存在し続けている」

「さて、お前の疑問はすべて答えたぞ。そろそろお前の生涯を把握したな。先ほども言ったがお前には協力してもらうぞ。迷い込んだ魂よ」

 

協力?確かに最初にそんなことを言っていたな。するとしても何をすればいいんだ。

 

「うむ。お前にはここで生まれたとある世界に行ってもらう。どうやらほかの存在がその世界に干渉した結果歪みが生まれたようだ。そのためお前にはその世界に行き、そこで暮らしてもらいたい。我の力の一部をお前に植え付ける。わが力はその世界の秩序を直していく」

 

つまり、俺に生まれ変わりその世界で生活しろと?

 

「そうだ。ちなみに拒否権はないぞ」

 

なんて横暴だ。だが生まれ変われるのなら、また新しい人生を歩めるのならその案に乗らせてもらおう。

 

「では、頼むぞ。世界に干渉したのはどうやら我と同じように世界へ干渉できるもののようだ。お前と同じ生まれ変わりを利用し、世界を混沌に陥れようとしているようだ。その生まれ変わった魂の力は強い。今のお前ではすぐに見つかり殺されるだろう。故に我もお前に力を授けてやる。」

 

力?それはどんなものだ。

 

「ふむ。お前にわかりやすいイメージでいうと小説に登場する力、漫画に登場する力、アニメに登場する力などだな。世界を乱した者の力はFateという作品に登場する英霊の力などのようだな。 お前にもその存在と同じくらいの力をやろう。故に答えろ。お前が望む力を」

 

Fate。確か聖杯と呼ばれる聖遺物をかけての戦争だったはず。人型でありながら驚異的な身体能力と魔術的な力で敵と戦い、全ての敵を倒し願いをかなえる願望器の奪い合い。その中に出てくる英霊の力は非常に強力だ。

 

「一つ聞こう。その敵とやらの力は具体的にどのような力だ?それに敵とやらは倒さなければならないのか?」

「倒す必要はない。お前がそこにいるそれだけで世界は保たれる。力とやらは、エミヤと呼ばれたものの魔術と心象風景。さらにランスロットの武器を使いこなす力。最後にギルガメッシュとやらの能力などに英霊の身体能力。さらに規格外の魔力などのようだ」

 

その能力ならば索敵能力は低そうだ。目立たないように隠れて生活できるだろう。だがもし見つかった場合戦闘できる力が必要だな。俺だって生き残りたい。そのためにも派手な力ではなく、軍隊に対して使うわけではないから一人に効く力もしくは自身に作用する力だな。

 

「決まったようだな」

「ああ、一つ目は戯言シリーズに登場するキャラクター人類最終の能力を」

「よいだろう」

 

「二つ目は戯言および人間シリーズに登場するキャラクターたちの固有する能力及び技術を」

「ふむ、では次になにを」

 

今までの力はどちらかというと肉体的な面だったが、呪いなどを行えるなら魔術的な力も必要だろう。

 

「最後に新本格派魔法少女りすかの全ての魔法を」

 

少し考え込むようにした龍は

 

「いいだろう。力の総量自体もほとんど同じになったようだし、お前はその力を暴走させる危険性もないだろう」

 

「では生まれ変わるお前に力を授けよう」

 

特にこれと言って変わった気がしないがあの龍が言うのだ。何か変わっているのだろう。

 

「ではな、迷い込みし魂よ。生まれ変わった地での祝福があらんことを」

「ああ、ありがとう。じゃあな龍。いや、全ての始まりである混沌」

「くくく、我の本質を見抜いたか。ではまたお前が死んだときにでもここへ来い。話し相手ぐらいにはなってやる」

 

そこにはもはや龍はいない。

ただ、白くて黒い空間が混じっているだけだった。

そしてそれが最後の風景だった。

 

 

 




今回はここまでです。次回は出来上がったら投稿します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二話

二話目の完成です。
序章なのでサクサクかけていますがだんだんと遅くなってしまうかもしれません。
それでも良いのならどうか御読み下さい。


第二話 麻帆良へ

 

想影真心としてあの魂が生まれ変わって、はや15年の歳月が過ぎた。

京都のとある児童養護施設で暮らしていた真心だが、あるとき今の親である二人に引き取られた。

想影 天

想影 心視

この二人の夫婦に8歳のころに引き取られた。

それから一年後にはアメリカにある学術の最果てとも呼ばれるER3システム、大統合全一学研究所の中で彼は育った。

生まれ変わった際の力。いうなれば転生特典と呼ばれるもののおかげで、真心はいまだにほかの転生した人間とは会っていない。引き取られた環境のおかげで、 ここでは研究以外に興味が移らない人間が多いため、 真心は暴君の力つまり、青色サヴァンの電子世界に対する絶対的な力を駆使しありとあらゆる情報を集めた。

その中でもこの世界には特異な力は多くあったが、転生した力とどうやら違うものが多い。例えばラテン語の詠唱で魔法が発動することや札を基にした陰陽術など。そのためにありとあらゆる情報を集めてきたが、ここ最近魔法世界の英雄と呼ばれる人間が麻帆良という学園都市に訪れるという情報がまほネットに流れている。

 

「まずいな、麻帆良にはあの二人がいる。別に普通の奴なら何もしなくていいのだが、こんな噂が立つような奴のところに二人がいるのは少し心配だな」

 

転生したと思われる人物の情報を収集し記載した記録用紙に書かれている内容は

 

『驚異的な戦闘能力を持ち、自己中心的な性格。派手好きで、英雄であることを鼻にかけており彼の言うとおりに従わないと激怒する。また極度の女好きであり、彼に泣かされた女は数多い。』

「この情報だけ見ると英雄であることを鼻にかけやりたい放題をしている存在のようだが、彼女たちに悪影響を及ばさないかが心配なんだが」

 

想影 真心は心配そうに考えをまとめていく。

 

「仕方があるまい。麻帆良に行き、様子を見るとしよう。その結果ガセや噂が嘘だったらよいのだが、そいつ次第でここに戻るか向うに拠点を築くとしよう」

 

橙色の髪と瞳を翻し、彼は荷物をまとめていく。

 

「ふん、どこかに行くのか」

 

彼の後ろから男が声をかけてきた。

 

「そうさ、麻帆良へと向かう。人類最悪」

「『麻帆良へ向かう』。ふん。ならば俺は計画を進めていくだけだがな。まあいい、お前が俺たちの前に来る前のお友達とやらのためにか。選別をくれてやる。もう帰ってくるな」

 

どうやら人類最悪と呼ばれた男は彼の事を知っていて彼と同レベルの情報網を構築しているようだ。

 

「はっ。お前が立てた計画を潰すためにだけにここに帰ってくるさ」

 

お互いが軽口を言うと二人とも笑い始める。

 

「くっくっく」

「げらげらげら」

 

父と子。かつてお互いがお互いを殺し合い、殺しきれなかった存在。彼らの物語は終わりを迎えありとあらゆる物語に関われなくなってしまった。しかし、世界はもう一度物語に関わることを彼に課す。

 

「ではな、橙なる種、人類最終にして神と悪魔の申し子ニャルラトテップよ」

「じゃあな、クソ親父。人類最悪」

 

二人は分かれる。二人の物語はすでに終わったのにここまで関係が続いていたこと自体が奇跡なのだ。

なぜなら、最初からこの世界は彼の物語ではなく英雄の子供の物語なのだから。

 

 

 

埼玉県麻帆良学園

 

疲れた風に真心は顔を曇らせている。彼はここに来るまでにリアルダイ〇ード体験したのだ。ハイジャックなんて普通起きないが。

アメリカヒューストンから航空機に乗り、日本へ向かっている途中その機体がハイジャックされかけていたことに気づいた彼は、だれにも悟られず、ハイジャック犯たちを取り押さえたのだ。

 

「それより、拠点として借りたアパートに向かわないと」

 

心の中で愚痴を言い、歩き出す。その姿はまるで上京したおのぼりさんといった雰囲気を出している。

もちろん、これは彼の演技だ。

この地は関東魔法教会と呼ばれる組織によって守護されている。故に余計ないさかいを起こさないように何も知らない田舎ものをよそおいながらこの都市を観察しているのだ。

 

「ちょっと、そこのアンタ」

 

そんな彼に突然声をかける少女がいた。

ツインテールにオッドアイが特徴的な少女だ。

 

「ん、俺ですか」

 

突然声をかけられたが、動揺すらせず演技を続ける。

 

「そうよ。ここは女子校エリアよ。何でこんな所にいるの」

「そうなんですか。すいません。ここに来たのは初めてで迷ってしまったんです」

「あっ、そうだったの。ごめんね、疑って」

 

彼女は真心を不審者と判断した。

しかし、彼女は少々素直すぎる。もし今言ったことが嘘だとしたらどうするつもりなんだろうか。

 

「いいえ、気にしてませんよ」

「いや~、なんかここ最近物騒でしょう?だから学校でも不審者や不審な物に警戒するようにって高畑先生に言われていて。お詫びに案内してあげるわ。どこか目的地はあるの?」

 

まずいな、もし本当に迷っていたのならありがたいのだが。しかしここで断ると不審すぎるか。

そう真心は考え、

 

「ありがとう。〇〇アパートに行きたいんだけど」

「ああ、骨董アパートね。あんなとこに何しに行くの?」

 

どうやら彼女は少々おしゃべりのようだ。とはいえ、この程度では問題ないにはならない。

そう判断し真心は告げる。

 

「ああ、そこに住む予定でね」

「え、あんな骨董アパートに?あんなとこに住むんだからお金とか大丈夫なの」

「住めば都っていうだろう。それに準備は前もってしてあるから金銭などの余裕はあるよ」

 

どうやらおしゃべりだけではなく、おせっかいでもあるようだ。

 

「そう、大丈夫みたいね。あっ、そうそう私は明日菜っていうんだけどあんたの名前は?」

 

ここで名前を明かすことにより、真心の存在が広がるかもしれない可能性がある。しかし、真心の名前は一部の場所と人間を除けばそこまで有名ではない。

 

「想影 想影真心だよ」

「へぇー、真心ね。いい名前じゃない」

 

どうやら彼女は隣にいる真心自体に興味を持ち始めているようだ。

 

「でもなんで真心はここに来たの?」

 

仕方ない。そう思い、彼は用意しておいたカバーストーリーを話し始める。

 

「ああ、ER3システムで留学していたんだがね、ちょっとしたことでここに来る必要ができたんだよ」

「ええ!学術の最果てに留学していたの。アンタ」

「まあね」

 

話をしながら案内してもらっていた真心だが、ちょうど目的地に着いた。

 

「あっと、ここが骨董アパートよ」

「ああ、ありがとう。世話になったよ」

「別にこれくらいどうってことないわよ。じゃ、私もそろそろこの辺で帰るわ。今度は迷わないようにしなさいね」

 

そう言い、彼女は去っていった。

予想外の事態に巻き込まれたがおおむね真心の目的であった、大体の地形、どこに何を隠しているか、重要な施設などを把握することはできたのだ。

かれは案内されながら、さりげないしぐさ、それこそその道のプロですら不可能と言えるほどの情報をたった十分程度で理解してしまったのだ。

 

「さて、今日はもうすることもないし、荷物を片付けて、明日の準備をしよう」

 




それではまた次回会いましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三話

こんな駄文をお気に入りしてくださった方々。この場を借りてお礼を言わせていただきます。
まずはじめにお読みしてくださる皆さんありがとうございました。
たった数時間でお気に入りユーザーがページに表記され、びっくりしたのと同時に感動してしまい第三話を急いで書き上げました。
この作品を読んでくださっている方々。こんな駄文ですがこれからもよろしくお願いいたします。





第三話 関東魔法協会

 

彼真心が麻帆良へ着いたその日の夜麻帆良学園、否、関東魔法協会は攻撃にさらされていた。

かつて、この日本を守護していた勢力、古の都京都に本拠地を構える関西呪術協会。その中でも過激派と呼ばれる人間たちと関東魔法協会を認めない土着勢力による攻撃だ。

その攻撃からこの地を守るために関東魔法協会は防衛線を繰り広げている。

 

「刹那、先走りすぎるな。援護を待て」

「そんな猶予はない龍宮。すでに私たちは囲まれており、ほかの戦力も足止めされてい応援など来やしない」

 

彼女たちにとっての不幸は彼女たちの防衛範囲が敵の主力部隊の進行ルートだったということだ。

彼女たちを排除するために鬼、烏族、蜘蛛、怨霊などが召喚されており、今もなお、集団での攻撃に彼女たちはさらされている。

 

「ちっ、銀の銃弾は費用が掛かるし、用意するのに時間がかかるから使いたくないのだが」

そう真名と呼ばれた砂漠にすむ民族のように日に強い肌を持つ少女は愚痴をこぼしながら手にした銃を撃っていく。

 

「はぁぁ、斬魔剣」

 

魔を断つ剣。人を守るため怨霊など形無き魔を打ち払うために編み出された神鳴流の奥義の一つ。

妖怪たちにも効果はあるがそれよりも怨霊などに絶大的な効果を発揮する。

 

「ようやく怨霊は倒しきったか」

「そのようだ刹那。だが、油断するなよ?」

 

怨霊、憎しみや憤怒の感情により死後、現世にとどまり続ける者の魂の総称だ。

彼らは、直接的な攻撃方法はないが、呪いにより疲れやすくしたり、ミスを誘発する。

故に、彼女たちは厄介な存在である怨霊を真っ先に倒したのだ。

 

「残るは妖怪たちだけか、龍宮のほうこそ油断するなよ」

 

うっとしい呪いから解放された少女たちは一息つき、少しずつ余裕を取り戻していく。

だがしかし、

 

「ほう、やるな。嬢ちゃんたち。飛び道具の嬢ちゃんのサポートに神鳴流の嬢ちゃんの奥義により殲滅。

 ワイらが近づくと百烈桜華斬により、切り捨てられ、後ろの嬢ちゃんに近づくことすらできん」

 

若いのにここまでやるとはあっぱれじゃと言い、その鬼は笑う。

 

「じゃが、いくら気や魔力で身体能力を底上げしていても限度がある。それを超えるためにさらに体力を消費したお前さんらに今ここにいる鬼たち五十に、烏族三十、土蜘蛛の眷属十。どうやって勝つつもりじゃ?悪いことは言わん。そこらでやめておけ。多勢に無勢の中ここまで持ちこたえられたおぬしらを批判するものなどいんじゃろうて」

 

鬼の言葉は真実だった。ここまでの戦闘で体力の消耗は激しい。特に気は体力から気へと変換されるため刹那の疲労は無視できない領域に達している。

 

「ワイらも未来ある若者の命ここで散らすには惜しいんじゃ。ここまでその年で戦えるものは早々おらん。どうじゃ、あきらめてその道を開けてくれんか」

 

鬼の言葉に同意するように妖怪たちは武器を下げる。とはいえ、奇襲に対応できるように警戒しているようだが。

 

「すまない龍宮」

「やれやれ、わかっているさ刹那。それにここで彼らを通すと報酬が減ってしまうのでね。」

 

その言葉に、刹那は思わず笑ってしまう。

 

「そうか。では、龍宮の生活のためにももうひと踏ん張りするとしよう」

「それが嬢ちゃんたちの答えか。よう言った。お前らへ敬意を払いワイらも全力で戦おう」

 

そして戦いの火は、鎮火しかけた火はまた燃え盛る。

 

 

 

 

 

「かかか、嬢ちゃんたちまさかここまで底力があるとはな。驚いたわ。だがここまでじゃ」

 

先ほどまで二人をかこっていた異形たちはもはや、その鬼のみしか残っていなかった。

 

「は、ははは、最後はお前だけだ」

「悪いが、還ってもらうぞ」

 

息も絶え絶えに二人は意地を張る。意地すら張れなくなったら、戦うことなど出来ないのだから。

 

「そうか、嬢ちゃんたち名前は?」

 

鬼は彼女たちを認め、名前を聞いた。

 

「龍宮 真名」

「京都神鳴流 桜咲 刹那」

 

それに二人も返す。

 

「そうか、我は黒鬼(こっき)。名を覚え逝け」

「お前こそ、私たちが倒し向うへ逝かせてやる」

 

もうその場に声は必要なかった。

鬼は走り出し、少女たちも動く。

 

一人は前に一人は後ろに

 

最後の一発。連射性能も退魔性もいらない。ただ一発の威力を最大限に。

そうして彼女が出した物は、対戦車ライフルPTRS1941.

中れ。そう念じなけなしの魔力で身体強化をし撃つ

 

ただ前へそう念じ少女は特攻する。

触れたものすべてを切り裂くため、なけなしの体力から気を絞り出していく。

放つ技はただ一つの流派の由来にもなった技

 

鬼の渾身の力で振りかぶられた棍棒は真名の狙撃により外される。

 

「なっ!?」

 

その一瞬の隙。それだけあれば十分だった。

 

「神鳴流奥義雷鳴剣」

 

 

かつて、雷は神の怒りであった。神鳴り。神の怒りによって魔を払うそれこそが神鳴流の奥義なのだ。

その一撃に鬼は切り裂かれ、焼けていく。

 

「終わった」

 

限界が来たのだろう膝を付き息も絶え絶えに彼女は言った。

 

「刹那!!」

 

真名の怒号

気が付いた時には鬼のこぶしが当たり吹き飛ばされていた。

 

「効いた効いた。ワイ以外じゃ耐えられなかったわ」

 

そういう鬼の体には切り裂かれた傷に体中を奔るやけどの跡があった。

 

「がっ、はあ」

 

内臓にダメージが来たのだろう。刹那は体を動かすことができなかった。

そして真名自身ももはや一発を撃つ余裕と猶予がなかった。

鬼が棍棒を振り上げる。

 

これで最期か。このちゃん、それにまーくんに会いたかった。

鬼の一撃で命を落とすと感じ、刹那は唯一の心残りを想う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなとこで目をつぶっていると風邪ひくぞ」

 

目の前の光景に刹那は驚きを隠せなかった。

 

「さて、鬼よ。お前さんも仕事なのだろうが、手を出した相手が悪かったな」

 

あの時と変わらない橙色の、太陽の色をした男がそこにいた。

 

「何もんじゃ、お前は」

 

鬼が今までよりも低い声で聴く。その存在を恐れるかのように。

 

「なぜ、鬼の一撃を生身の体で受けられる(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

こことは違う世界でかつて、人類最終のもとになった赤い彼女、人類最強は生身で走行している電車を受け止めた。ならば、後続機である彼がこの程度のことができないはずがない。

 

「なに、人類も最終に至ればこの程度のことはできるということさ」

 

鬼が全力で押し続ける棍棒をまるで子供の力のように扱い、押し返していく。

 

「それより手前、俺様の幼馴染に何してくれている」

 

そう言い放ち片手を後ろに回し腰を回転させながら

 

一喰い(イーティングワン)

 

ただの力任せの張り手。それだけで鬼の体に致命傷を与え、倒したのだ。

振り返りながら彼はあの時と変わらない笑みで

 

「久しぶり、刹那」

 

その言葉を最後に刹那は気を失った。

 

 

 

 




なにか、間違っているといった内容や誤字、脱字がありましたら感想欄にご報告してください。
気が付いたら、急いで修正しますので。
また、質問などの返信はできるだけ返そうと思います。その際に活動報告に記載しますので活動報告をご覧ください。
訂正します。
質問に関しては感想から返信できるようなので返信いたします。
同じような質問が多数来た場合のみ活動報告に記載いたします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四話

お待たせいたしました。四話目です。


第四話 関東魔法教会との対談1

 

関東魔法協会に激震が走った。

その内容は一般人と思われる男によって、一撃で鬼が還されたということだ。

魔という存在は、人間よりはるかに強い力を持ち生身では倒せない。

だからこそ、魔法使いをはじめ裏の人間は魔力や気を用い戦うのだ。

だが、今その前提が崩されかけていた。

 

「お姉さま、緊急集会の連絡が来ましたが、何が起きたかご存知でしょうか?」

「愛衣。私はこの会合の中身を知りませんが、学園長が必要と判断したのです。それほどの内容でしょう。気を引き締めなさい」

「ハ、ハイ。お姉さま」

 

少女二人が話し合っている内容は魔法先生には前もって通達してあるが、魔法生徒には知らされていない。

そのため、大人たちは緊張のみならず、警戒心を全開にしている。

生徒たちもそれを感じ取り、不安になっているのだ。

 

「刀子先生はどう思います。今回の話は?」

「私は・・・あり得るかもしれないと思っています」

 

小太りの男性、弐集院は隣にいた刀子に問いかけ、その答えに驚く。

 

「しかし、それはあり得ないのでは?誇張された情報だという可能性は?」

 

彼自身その可能性は低いと思っている。しかし、そう信じたいのだ。

 

「高畑先生の報告なら信頼性は高いですし、私は、こちらに来る前にそういった存在を見たことがあります」

 

その言葉に弐集院は驚き尋ねる。

人外に対抗できる人間などいるのかと。

 

「はい、気を使わない神鳴流の技を一目見ただけで完全に再現、いえその技を見せた剣士より、はるかに優れた技とキレを持って実行した少年を。彼ならおそらくそんな離れ業すら行えるかもしれません。」

「それは、・・・本当のことなのですね。その顔を見る限りは」

「ええ」

 

「すまぬな。みなの者、集まってもらい」

 

その声の聞こえた先にいたのは、後頭部が異常に長い老人だった。痩せているその体は見る人が頼りないからだと思うことだろうが、この広場にいるだれよりも高い実力を有することを彼らは知っている。

 

「学園長。この集まりは」

「うむ、ガンドルフィーニ君。君の想像通りじゃ」

 

「ええ、僕自身もいまだ信じられませんが」

 

森の中から声が響く。

その声は学園長を除き今の麻帆良においての最高戦力である高畑・T・タカミチの声だった。

 

「お、降ろしてください。体は大丈夫ですから」

 

突然そんな声が響く。

それにこたえるように聞いたこともない男の声が返す。

 

「いや、内臓にダメージを喰らっているし、歩くことすらままならん奴がそう言っても説得力がないのだが」

「そうだぞ、刹那。せっかくの再開なんだ。おとなしく背を借りておけ」

 

面白そうな真名の声も聞こえる。

 

「た、龍宮。後で覚えてろ」

 

怨嗟の声が聞こえ、刹那の姿が森から出て、状況がわかる。

真っ赤な顔をしており、傷ついた体を労わるように橙色をした男に担がれている。

おそらくあれが報告にあった『一般人』なのだろう。

 

「おお、タカミチ君ありがとう。それに刹那君を助けてくださったようじゃな客人よ」

 

言葉は柔らかく、感謝の意を示すがその内側に最大限の警戒を立てて翁は言う。

 

「いやいや、こちらこそ当然のことをしたまでだよ。それに襲われていたのは、俺様の幼馴染なのでな」

 

それに真心は返す。一切の警戒心すら持たず自然体で、そのあまりの姿に学園長近衛門はよりいっそうに警戒を強くしていく。

 

「謙遜することはなかろうて。刹那君を助けてくださったのは貴方じゃし、わしらは応援すら満足にできなかったのじゃから」

 

お互いがお互いに言葉から情報を得ようとする。性格、判断基準、思考力それらを図り始めているのだ。

一種の戦いと言ってもよい。どれだけこちらの情報を少なく、相手側の情報を引き出せるかという戦いだ。

舌戦をしながら真心は思い返す。なぜこうなったのかを。

 

 

 

 

「しまった。食材を買い忘れていた。俺様としたことが」

 

骨董アパートの一室で彼は自身の失敗に気づく。

明日菜に案内されてここまで来たはいいが、その際に食料を買うことを忘れていたのだ。

 

「食わなくても良いとはいえ、やはり何か口にしたほうがよいのは事実だしな」

 

彼の体のもとになった人物は一週間ほど食事をしなくても平気なのだ。

とはいえ、精神的にも食事をするほうが負担は少なく、効率を上げることもできる。

 

「仕方ない。コンビニかどこかで何か買ってくることにしよう」

 

そう言い、彼は食料を買うために外へ出かける。

それにより、今夜が眠れなくなるということも知らずに。

 

 

 

 

 

「コンビニはこっちか」

 

驚異的な視力により、彼はコンビニの場所をただ見渡すだけで把握する。

そうして彼が歩き出すと同時に、音が聞こえてきた。鉄と鉄がぶつかる音が。

とはいえ、自身に関係ないこととして歩もうとしたとき声が聞こえる。

 

「そんな猶予はない龍宮。……」

 

その声は彼がここ麻帆良に来る理由である少女のうち一人の声だった。

だからこそ彼は動き出す。自身の身うちである彼女らを守るために来た。ただその理由を胸に。

 

 

彼が声をした方角へ向かって走りだし十分程度は立っただろうか。

ようやくその姿が見えてきた。

鬼に殴られ、吹き飛ばされた彼女の姿を。

それを見た瞬間彼は腕を爪で切り裂いた。

 

えぐなむ・えぐなむ・かーとるく

 

詠唱と同時に彼が飛ぶ。

空を飛んだのではなく、時空間上を。

それこそ赤き時の魔女の魔法。

血液上に魔法陣で魔法式を書かれており、詠唱すら本来必要とせず魔法の即時発動を可能とする。

だが、精度を高めるために詠唱し、彼は飛んだ。

 

そして、鬼の一撃を受け止め倒した。

 

ただそれだけなのになぜこうなるのだろうか。

彼の前には一人の男がいた。

常に浮かべる笑みは消え去り、何か彼が行動した場合に備えてポケットに手を入れ。

 

「こんばんは、こんな遅くにこんなところで何を」

「おいおい、冗談はよしとけ、見ていたくせに」

 

タカミチは驚いた。

確かに自分は刹那君たちの救援要請に駆け付けた。しかし、間に合わなかった。

居合拳では遠すぎ、豪殺居合拳では刹那君を巻き込んでしまう。

鬼の一撃が来た際、その一瞬に彼は唐突に現れた。

その風景にタカミチは戦慄するしかなかった。

縮地ではないのなら、何らかの門を使った転移系の魔法を使える高位の魔法使いかと思ったために。

だからこそこうして彼を警戒していたのに。あれだけのことしておきながら、まだ周りを見る余裕があるというのか、この男は。

 

「まあ、どちらかというとたまたまお前さんが見たという感じか」

 

そうひとり納得すると彼は刹那君を介抱し始める。

背を向け、隙だらけの状態を見せるが、タカミチにはその隙をつけるか自信がない。

 

「う、うん? ここは」

 

タカミチが考えていると刹那が起きたようだ。

 

「ま、まー君? 何でこんな所に?」

「ちょっとした野暮用でな、刹那」

 

驚いた。刹那君がああも心を開いている存在だとは思わなかった。

 

「まあ、とにかくお前さん」

 

彼がタカミチに話しかける。

 

「な、なんだい?」

「何を動揺しているだ。それより報告しなくてもよいのか?」

「と、そ、そうだね。真名君少し頼むよ。それと刹那君もあとで彼とどんな関係なのか教えてくれるかい」

「ああ、分かったよ。高畑先生」

 

そして刹那にも返事を聞こうとしたら

顔を真っ赤にしどこにそんな力があるのかというほどの声で、

 

「か、かかか関係って、そんな不純なことはしていません」

「なにを言ってるんだ君は!?」

「何をカミングアウトしてるんだ刹那」

 

いきなりそんなことを言われ彼らは驚き、思わず怒鳴り返す。いや、一人はあきれていたが。

それを見ていた彼も思わず腹を抑え、

 

「げらげらげらげらげらげら」

 

まさしく抱腹絶倒といった面持で笑い出し、

それに対して「笑わないで下さい!!」という刹那の言葉はむなしく森に響くだけだった。




次回は関東魔法協会との対談内容に入ります。
気が付いたらたくさんの方がお気に入りをしてくださっており、驚きました。
厚かましいお願いですが、できたら、評価や批評をお願いできませんでしょうか。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五話

ちょっとグダグダしているかもしれません。後学園の先生が空気化しています。
以上のことに気を付けてご読みください。


第五話  関東魔法協会2

 

真心は思い返すことやめ、学園長との話に集中する。

 

「この広大な麻帆良学園を守護していたあなた方になぜ怒りを向けると。本来感謝するのは、この地に住む私たちなのに」

「そう言ってもらえるとこちらも助かるのう」

「ただ、それで刹那が負傷したという事実が消えるわけじゃありません」

 

そう、戦力不足だったのは事実だが、刹那が怪我を負ったということは変わらない。

 

「うむ。今度からの防衛戦においては、何らかの対抗策を行うつもりじゃ。もう二度度とこのようなことはおきんよ」

 

そう、翁が話す。これを持って、この話は打ち切らせるためと同時に周りへのアピールを。

これ以上この話を続ければ真心の学園に対する印象が悪くなってしまう。

真心の心情を予想し、翁は話を変える。

 

「ふむ。お礼は言ったが、名前も知らんとなるとなるとこちらからの誠意が見せられん。悪いが、名を教えてもらってもよいかの」

 

名前を聞くことにより関係を結ぼうとしているのだろう。

ならば、これほどの組織の力を使わない訳が無い。

 

「おお、人に名前を尋ねる際には、自身からじゃな。すまぬの、年を取ると少々物覚えが悪くなるのじゃ」

 

ぴちぴちのお前がうらやましいわいと言い続ける。

 

「関東魔法協会理事長近衛近衛門じゃ」

 

一種の脅しだ。これほどの強大な組織には刃向かえばどうなるか簡単にわかる。

だからこその一手。最初に切り札を打つことによりこちらを逃がさなくする一手。

だが、甘い。

 

「これはこれは。関東魔法協会理事長の近衛門さんでしたか。

自分は、大統合全一学研究所七愚人が一人、想影真心と申します」

 

学術の最果て!? 七愚人の一人だと!?

周りの人間が騒ぎ始める。

仕方がないことだ。関東魔法協会は麻帆良学園でもある。故に、ER3システムの研究結果を利用したものや教材、さらに留学制度などがある。また、協会じたいも彼らの技術を利用した兵装を使うことがある。

そんな組織の頂点の一人に喧嘩を売ることなど出来ない。そのため近衛門は話を変える。

 

「なんと!? 七愚人の一人でしたか。まさかこんなところで会うとは思いませんでした」

「なに、ほんの少し用ができただけですよ。用が片付けばすぐに帰ります」

 

話を変えると同時に目的を探る。これには、あの翁の経験と胆力が見える。

少し用心したほうがよいだろう。そう真心は気を引き締める。

 

「ああ、刹那のことですが」

「安心してくだされ。すでに学園の治癒術師の手により治療されておる。もうすぐ、全快とはいかずとも普段通りの行動ができるだろう」

 

この言葉から彼の思考が少し読めてきた。彼は切り札を与えることになったとしても刹那の状況を知りたかった。彼にとっての第一優先はそこなのだ。近衛門は今手に入れた情報を整理し心にとどめる。

 

「そうですか。では、関東魔法協会の皆様に感謝を」

「なに、これはわしらの罪滅ぼしじゃよ」

 

学園の弱点を限界まで攻め込もうとし、逆に真心の弱点は最小にしてしまう。その状態から脱却するために近衛門は本題へつなげる。

 

「真心殿。貴方のことは理解したがこちらにも聞く必要のあることがあるのじゃ、協力してくださらんか」

 

この出方により、学園のとる手段は決まる。協力すれば学園としては御の字。協力しなくともそのことから打開策を打つことができる。

 

「良いでしょう。あなた方が聞きたいことは、なぜ鬼を倒せたか。そのことについてですね?」

 

真心はそれを知りながら、自身にとって知られても問題ないため素直に話した。

 

「うむ。気や魔力を使うならまだしも、あなたは生身でそれを行った。こちらとしてもそのことについて無視できない内容なのじゃ」

「なに、簡単なことですよ。貴方たちは人間の限界を知らない。ただそれだけですよ」

 

近衛門にはその問いかけが理解できなかった。だからこそ真心に問いかける。

 

「限界とはなんですかな? 真心殿」

「言葉通りですよ。人間の限界。さて、それはどこまでなんでしょうかね。あなたはどう思います」

 

一種のなぞかけかと近衛門は思い、先を促す。

 

「わしは気や魔力を使わないならせいぜいオリンピックの選手たちが人間の限界じゃと思うのがの」

「確かに彼らは肉体的な面に関しては限界に近い。だが、鍵を外していない」

「鍵?」

「そう、精神的な面で行われるリミッター。彼らはそれのはずし方を知らない。外れた時に人間は真の意味で限界に近づくことができる」

 

それが本当だとしたら。そう考え近衛門は思考のなかで、重要なこととしていつでも引き出せるようにする。

 

「そうすると貴方は鍵を外したということですか」

「さあ、それはどうでしょう。これは俺様の持論を展開しただけです」

 

ここらが限度と判断し近衛門は

 

「すまぬの、感謝するこちらの事情につき合わせてしまい」

「気にしないでください。こちらもあなたたちと話し合いができる場ができて、光栄です」

 

その瞬間かすかな違和感が近衛門の身を奔る。危険が迫っている時の特有の感覚が。

近衛門の勘が警報を鳴らした途端に、真心は近衛門の目の前から吹き飛んだ(・・・・・・・・・・)

高畑・T・タカミチの代名詞である『居合拳』によって。

 

 




次回はタカミチがなぜこのようなことをしたかが分かります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六話

六話目です。


第六話 関東魔法協会との対談3

 

その場にいた全ての者が唖然としてしまった。

自身たちが信頼するタカミチが行った突然の蛮行に。

だがそれは次の瞬間にタカミチがした行為の正しさが証明された。

真心のいた場所の地面から鋭い爪が伸びていたのだ。

 

「「「なっ?」」」

 

ほかの教師たちを含め学園長ですら気づかなかった攻撃にただひとり反応し、真心を守るために動いたのだ。

ぼこぼこと地面が膨れ上がるとそこから一匹の妖怪が現れたのだ。

先ほど刹那たちが相手をしていた妖怪。先ほどの戦いで逃げ出し、隠れていたのだろう。名もない低級の妖怪だが、その爪は人を切り裂くには十分すぎるほどの鋭利さを秘めている。

 

「シャアアア」

 

威嚇と同時にその蜘蛛の妖怪は逃げ出そうとする。だが、彼がそれを許すはずがない。

 

「クビキリサイクル」

 

その一撃はどう見えたのだろうか。

周りから見えたの簡単に言えば、技ですらなく、手にしたもので首を切り落とした。

ただそれだけ。それだけのことにあれほど技術を行使したのだ。

タカミチから吹き飛ばされた彼は闇口のスキルを使い気配を完全に殺し、妖怪の死角に回っていた。この時この場の者たちは気づかなかったが、音使いのスキルとジグザグの技術により特殊な音と視認不可能な糸を用い、肉体と精神の拘束をしたのだ。そして接近したのちに、暗器術を利用した技術で一瞬の間にとある鋏を握っていた。

自殺志願(マインドレンデル)』と呼ばれる二つの和式のナイフを無理やり重ねたような鋏。

それで妖怪の首を切り落としたのだ。

ごろりと転がる死体とその首。すぐに還っていったが、それでも恐怖は残る。

 

あんな方法で殺されるなんてそんなことは嫌だ。

 

誰かが思ったその感情は爆発的にこの場に広がる。

しかし、

 

「落ち着けい!!」

 

その一言ともにパニックに陥りかけていた彼らは落ち着きを取り戻し始めた。

それをしり目に、

 

「いや、高畑さん。ありがとうございます。避けるのは不可能ではありませんでしたが、貴方のおかげで妖怪に気取られなくすますことができました。」

 

彼は笑いながらそういう。

自身の落ちいた危機を危機と認識せずに、それすら利用した彼は。

本来彼は今の妖怪の攻撃を高畑よりも早くに認識できていた。

しかし、真心はこの交渉を更に自身に得になるように誘導したのだ。

いまの一撃で彼の技量の高さはここにいるすべての人間が理解した。

また、防御もどうやったのか。自身の体が吹き飛ぶような一撃を喰らいながらもすぐに行動できるタフネスさを持つなら戦場にでても大丈夫だと思わせる。

 

「ああそうそう、学園長。ちょっとした用とは簡単なことですよ。なに、社会経験を積もうと思いましてね。この地で請負人をしようかと思うのですよ。それであなた方に雇ってもらいたかったのですがね。俺様の実力ははかれたと思いますが。」

 

その言葉により、学園長は取れる手段がほとんどなくなってしまう。

先ほど自身が発した防衛に関する改善策をとるという約束が。

これほどの実力を持つ彼を雇ったのなら、戦力の補給になり、約束は守られる。

しかし、彼を雇わないのなら早急に策を練る必要が生まれる。

 

「ほっ、それが本当ならこちらとしても助かるの。麻帆良の防衛という契約をしたいのじゃが大丈夫かの?」

 

だからこそ近衛門は彼を雇った。

だが、それだけではない。これほどのことを行える存在を身近に置くことにより、監視をしやすくするのだ。

危険性も高いがこちらのお膝下で何かされるよりははるかに危険はない。

そう近衛門は判断し、彼を雇ったのだ。

 

そのことを念話で伝えられたタカミチは先ほどの件を見て、彼に対して危機感を持つ用になった者たちを今説得している。

 

「では、その仕事を請け負いましょう」

 

彼はそういい、この会合は解散を迎えた。

 

 

麻帆良学園学長室

 

時計の針が二時をさし、ようやく話がまとまったようだ。

 

「では、この契約内容でよろしいでしょうか?」

 

真心と近衛門、それにタカミチが学園長室において契約内容について確認している。

 

「うむ。これなら問題ない。請負人である君をこの条件で雇おう」

 

学園長と真心のした契約とはお互いの不干渉とした部分の確認と報酬についてだ。

 

要約すると次のようになる。

一項

請負人は学園長の要請により、防衛戦時に協力する義務が生じる。

ただし、何らかの事情により、義務が果たせない場合は除く。

二項

請負人は学園に対し危害を加えることはできない。

ただし、正当防衛および、けんかの仲裁などは特例として認める。

三項

請負人は昼間において学園の整備を行うこと。それにより本来の仕事をごまかす義務が生じる。

四項

学園長は請負人に対して毎月経費を除き、五十万円を支払うこと。

ただし、請負人がそれに見合った仕事をしていないと判断した場合には減額することも可能。

五項

この契約は雇い主である学園長の意志により破棄することが可能である。

六項

この契約を請負人が破棄する場合、前もって一月前には雇い主に報告しなければならない。

 

他にもこまごまとした契約はあるが主な契約はこの程度だろう。

これらを軸に真心と近衛門は契約を交わした。

 

「では、明日から仕事をしてもらうかの」

 

近衛門が明日からといったのには理由がある。これから彼には最低限の知識を与え覚えてもらわねばならない。だれがどの地区を守るか。秘匿回線の暗号のキー。捕縛した捕虜の対処。発生した怪異に対する処置などだ。本来一週間ほどかける内容を一日で覚えるなど無茶だが。

 

「ああ、それらのことについては僕が教師となることになったよ」

 

優秀な人材による教育と彼自身の能力ならそれくらいで覚えきれると近衛門は踏んだのだ。

実際にこれくらいの内容なら彼だけではなく七愚人、それ以外にもER3システムの人間になら簡単に覚えきれてしまう内容だったのだから。

 

「では、お願いしよう。タカミチ頼む」

「いやはや、まさか七愚人に教えることになるなんてね。人生分からない物だよ」

 

そう言い、たばこの煙をくゆらせていく。

何かを思い出すように

 

「七愚人であるかなどは関係ないさ。余計なプライドは持たないということがあそこのルールの一つだからね」

「へぇ、そんなルールがあるのかい?」

「ああ」

 

男二人はもうすでに話が盛り上がり仲良くなっているようだ。

 

「ああ、そうじゃ。真心君。今日の朝一に刹那君に会いに行きなさい。女子寮に入るための書類を渡しておくからの」

 

その言葉に真心はうなずき、関東魔法協会の長い一日は閉じた。

 

 

 

 

 




ちなみに、学園長が妖怪のことに気付けなかったのは主に二つの理由があります。
一つ目は、妖怪の力自体が弱く、妖怪の能力が隠密に特化していたためです。
二つ目は、真心との会談に自身が思ったより深く集中していたためです。
これらの要因が重なり、気づくことができませんでした。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第一章 栄優視 ≪英雄死≫
第七話


注 今回からは真心が来てから半年後の話になります。


第七話 物語の始まりのための始まり。

 

関東の埼玉県に建設された麻帆良学園

その地にかつて魔法世界を救った英雄が訪れる。

 

「ここが麻帆良学園か。ふん、正義バカたちにはもったいない」

 

彼は侮蔑を込めてそう言い放ち、学園長室へ向かう。

彼が歩み初めてすぐに、

 

「お久しぶりですね。神先さん」

 

声が聞こえ、神先と呼ばれた男はその方向へ向く。

 

「ああ、高畑か。案内か?ごくろうだな」

「あははは、変わりませんね。相変わらずに」

 

最後の部分はぼそりとつぶやくようにタカミチは返す。

基本的にタカミチは赤き翼のメンバーには敬意を表すが、この目の前にいる存在にだけはどうしても好きになれず、敬意を表せない。

 

「ん、なんか言ったか?」

「いいえ、何も言ってませんが。こちらが学園長室です」

 

そうして二人は歩き出す。学園長室を目指して。

 

 

 

「ようこそおいでくださったな。神先・L・暁殿」

「ああ、来てやったさ。元老院の愚図どもに頼まれてな」

 

この時点で近衛門はこの英雄の本質を見抜くことができた。権力のある存在に公式の場ではくことではない。しかもここはその権力組織の下部組織なのにこんなことを言うとは信じられない。自分勝手でおそらくは思い通りにならなければ力で脅すことしかできない幼稚な存在だと近衛門は分析をした。

 

「神先殿、今回ここに来ていただいたのは」

「ああ、いい。わざわざ言わなくてもわかっているんだろう。いちいち言うな。面倒くさい」

 

自身の状況を確認せず神先は話を進めたがっている。それを感じ取り近衛門は落胆を深める。

 

「でっ、俺は何をすればいいんだ。魔法先生をやれってか」

「うむ、お願いできんじゃろうか」

 

近衛門は少し言いよどむ。そもそも彼はこの英雄がここへ来ることを反対し続けたのだ。しかし、メガロメセンブリアの元老院たちの手により、彼を招かなければならなくなった。所詮、関東魔法教会はメガロメセンブリアの下部組織でしかないのだ。

 

「はん、当然だな。俺にかかれば、教師なんて簡単に勤まるさ」

 

そんな訳が無い。近衛門はそう思う。もしその程度ならこの学園の教師の質はもっと悪くなる。

新田先生たちの協力なくして魔法先生たちは、まともな授業は行えない。一般の先生たちには魔法教師の戦闘を見回りという形で納得してもらっている。この広い麻帆良学園を業者では見回り切れないためにとうそを付き、一般の先生たちに協力してもらっているんのだ。だからこそ、教師を甘く見ているこの男に対して近衛門は怒りを覚えずにはいられなかった。

 

「では、研修生という形で新田先生のもとで二、三か月働いてもらおうかの」

 

その怒りをかくし、そう言うしかなかった。

自身の力のなさを無力という事実を歯を食いしばるしかなかった。

 

「任せときな。ついでにこの学園の魔法使いすらも教育してやろうか?」

 

彼はそういった後に笑い始めたが、もはや呆れて言葉も言えなくなった近衛門はこの話を打ち切り、終わらせる。

 

「では、研修ののちに、先生として働いてもらおう」

 

そうして英雄と学園長の対面は終わった。

 

 

 

 

「まさか、あそこまでひどいとは思わんかった。そう思わんかね?真心君」

 

英雄が去った後、近衛門は独り言をつぶやくように言う。

近衛門しかいないはずのこの部屋(・・・・・・・・・・)だが

 

「まあ、そうですね。あそこまでとはさすがの俺様も思いませんでした」

 

突然真心は空間から出てくる。

 

「相変わらずすごいのう。『空間制作』というたか。魔法でもなく気でもない。なのにおぬしのことを認識できない状況を作るとは」

「いやいや、それだけではありませんよ」

「ほぅ。まだほかにもしていたのかね?」

「ええ、音使いと病毒使いのスキルで判断力を低下させていましたからね」

「えぐいのう。って、病毒使いってわしも範疇に入っておらんよな!?」

 

病毒使い ありとあらゆる毒または薬により対象に気付かれずに殺すことすら可能とする技術。それ以外にも筋弛緩剤を散布するなどの方法により、敵を無力化したりすることもできる。今回は麻酔に近い性質を持つ薬により神先の判断力を低下させたのだ。

 

「ああ、大丈夫ですよ。雇い主に攻撃するわけないじゃないですか。神先とかいう男の周りにだけ散布したんですよ」

「よ、よかった。おぬしの技は見えぬし認識できない技が多いからいつ誰がかけられているか分からんので心配なんじゃ」

 

彼が今までつかった技の多くは魔法と比べて恐ろしいほどの隠密性を放っており、まさしく暗殺者の見本と陰でいわれているほどなのだ。

まあそれを聞いたところで、真心は闇口ほどじゃないと否定するだろうが。

 

「うむ、では冗談はここまでとし、請負人である君に一つ仕事を頼みたい」

「ええ、どうぞ。金との折り目さえつけば何でもする。それが請負人ですから」

 

そう、彼はほかにも依頼された多くの仕事をこなしている。防衛のみならず、テロ組織の壊滅、失われた秘法と言われるような魔法具の発掘など関東魔法教会に多くの理となる行動をとっている。

とはいえ少なくない金額を請求されるが、結果と換算してもはるかに利はある。

 

「おぬしに教師となることを願いたい。期間は未定。報酬は四十万の追加」

「細かい話は後で詰めるとしてその仕事を請け負いましょう」

 

彼がここに来た理由は二人の少女を守るために来たのだ。ならばその話は渡りに船。故に彼はその仕事を請け負う。

 

「うむ、教員免許はこちらで作るとして、何の教科を担当してもらおうか」

「いや、学園長。教育免許ぐらい持っているんですが」

「そ、そうなの?ま、まあ良い。教科はっておぬし全部教えられるしな。現に刹那君の成績おぬしが教えてからトップクラスに上がったしの。全教科」

 

そう、真心はあまりにも刹那の成績がひどかったために刹那に特別に授業を行った。その結果、刹那自身は自身がこれほど勉強できるのかと驚くほどテストの点数が上がっていたのだ。

 

「まあ、全教科教えられますし。それにカウンセリングの資格も医師免許、応急処置に関する技術もあるので基本的に総合科目及び特殊な科目も行えますね」

「四教科。つまりは、技術科家庭科、保健、音楽、美術の四教科を担当してもらおうかの」

「いくらなんでも多すぎません?それに保健はセクハラでは?」

「ああ、大丈夫じゃ。二-Aの授業のみ活動してもらえばよい。それに彼らの様子を見るためにもおぬしを副担任にさせてもらうぞ」

 

真心は少し思う。それってどう考えても労働基準法超えないかと。というか保健に関して回答してねえしっと。

 

「それとおぬしにもう一つ頼みがある」

 

真剣な表彰で近衛門は彼に話す。それは彼が何とかしようと常々懸念していた内容なのだから。その表情に真心も気を引き締める。

 

「おぬしに担当してもらうクラスに長谷川千雨という子がいる。認識阻害結界の作用を受け付けないようでな。周りとの齟齬により苦しんでおる。彼女のことも任せられんかの」

「クライアントの依頼を一度受けたんだ。その程度のことはアフターケアとして行うさ」

 

そうして、真心は物語に関わり始める。かつて因果を崩壊させ、物語に関われなくなった彼を世界は、否物語が彼を関わらせる。英雄の子の物語に。

英雄と英雄の子。そして、そこに加わる人類の最終存在。物語は捻じれ狂い、崩壊を迎えていく。

 

 

この物語が紡ぎ終わったのなら世界は修正を完了する。

それまでに彼がこの世界から存在しなくなったのならこの世界は崩壊する。

さあ、最終よ。生きて、生きて、生き抜け。それが世界の望みにしてお前の望み

我はまっているぞ。この始まりの場で




次回は2-Aとの顔合わせです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第八話

お気に入りユーザーがふえまして、今現在93名の方々が登録してくださいました。
こんな駄文を気に入ってくださった方々ありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。


第八話 もう一人の少女との再会

 

麻帆良学園都市の女子中学校の校舎を前に二人の男が肩を並べていた。

一人はたばこを吸ったダンディな風貌の男。

その隣にいる男は、橙色の髪を日に輝かせ何かの資料を読んでるようだ。

 

「どうだい。もうクラスの子たちは覚えたかい?」

「ああ、確認は終わったさ。それにしても、木乃香がいるのか」

「?、木乃香君になにか問題があるのかい?」

「いや、問題はない。こちらの事情だ」

 

真心が守ろうとしている少女のうち一人は刹那だが、もう一人は今言った木乃香なのだ。

半年近くこの学園にいたが今の今まで忙しく木乃香に会えなかった。もし木乃香にこのことを知られたら何をされるかわからない。そう真心は思うがゆえに気が重くなるのだ。それに

 

「それに神楽坂明日菜か」

「明日菜君もかい」

「いや、少し知り合いになってな。まあ、いい子なのだろうが。再開したら騒ぎだしそうで怖くてな」

 

いや、騒ぎそうではなく間違いなく騒ぐと真心は考えながら

 

「だから安心しろタカミチ。別に問題があるわけじゃない。

お前さんが預かっている子は問題ないさ」

「さすがだね。こんな短時間でもうこの子たちのバックボーンを把握しているのかい」

 

そう二人は準備の確認をしながら学校の中に入っていく。

 

 

 

「みんなみんな、スクープだよ」

 

報道部に在籍している朝倉和美の声にみんな一斉に反応する。

 

「新しい先生がこのクラスに来るんだって」

 

この少女昨日決まったことをどうやって調べたのか謎である。

 

「えっ、ウソ。どんな人なの朝倉」

「強い人アルカ」

「強い御仁だと喜ばしいのでござるが」

 

クラスメイトの質問も最初を除きまともなことを言っていないが。

 

「うーん、それが詳しいことが分からなかったんだよね。

ただ、職員室のなかでは、ちょっとした騒ぎになっているみたいだよ」

 

どうやら、職員会議を盗み聞きしたようだ。

実際に職員室内でも突然だということもあるが、その新しく来る新任の教師が七愚人の一人ということに騒ぎ出しているのだ。

そんなことを知らずに真心とタカミチは職員室に入り、興奮した教師たちの手によってもみくちゃにされてしまったが。

 

朝倉たちが教師の話をしていると予鈴がなり始めた。

 

「そろそろ先生が来るかも」

 

誰かが言ったその声に反応し全員が着席し、新しい先生が来るのを待っている。

もしもう少し時間があったのなら鳴滝姉妹の手により、罠を作って待っていただろうが。

 

がらりと扉の開く音が聞こえ、担任であるタカミチがクラスに入る。

 

「おや、今日はみんな着席が早いね」

「先生ぇ~、新しい人が来るって本当ですか」

「あははは、情報が伝わるのが相変わらず早いな」

 

苦笑しながらタカミチは答える。

 

「うん。新任の先生が来てね。今から紹介するね。入ってください」

 

その声と同時に一人の男性がクラスに入る。

それと同時に幾人の生徒が反応する。

魔法に関連した生徒は彼のことを知っているからだ。

だが、とある少女は違う。

その男とは小さいころよく遊び、幼いながらも確かに彼のことが好きだったのだから。

 

教壇まで歩き、その男は口を開く。

 

「皆さん、おはようございます。

先ほどタカミチさんがおっしゃった新任の教師の想影真心です。

これから、皆さんの授業を受け持ちますがよろしくお願いします」

 

キャアアア!!!

黄色い声が響きクラス中に声が反響する。

一部の生徒は落ち着いて真心を観察しているが、ほとんどの生徒は真心に興味を示し、興奮してしまっている。それぞれが、質問しようとして声を発するので騒音となってしまっている。

そんな中

 

「マー君?」

 

一人の少女の声が彼女らの声を切り裂き彼の耳に届く。

 

「久しぶりだな。木乃香」

 

呆然とした木乃香の声に返す真心の親しみを込めた返答を見て、さらにクラスのボルテージは上がってくる。

 

知り合い!? 許嫁!? どんな関係!?

 

そんな声があちらこちらから響く中で

 

「ああっ!どこかで見た顔だと思ったら骨董アパートの人」

 

明日菜が声を発した。彼女は真心がこのクラスに入った時から見たことがあると思い、思い出そうとしていたのだ。

 

「えっ、アスナ知り合いなの?」

 

クラスの子の質問に彼女は答える。

 

「うん。半年前に骨董アパートまで案内してあげたんだ」

 

そのことを知った木乃香の瞳が細く引き締められていく。

 

「えっ、あのおんぼろアパートに?」

「うん。あそこに住んでるんだって」

 

「はいはい、皆一旦落ち着いて。

一時間目はHRだから、今日は真心先生への質問の時間にしてあげるから」

 

その一言にクラス中は静まり、ただし目はギラギラ光っていたが。ハーイと元気な声を響かせる。

 

 

そうしてひとまず授業は始まった。

 

「トップバッターは報道部の朝倉和美に任せなさい」

 

そう朝倉はいい、質問を開始する。

 

「先生と木乃香の関係は?」

「ただの幼馴染だ。昔京都に住んでいてよくいっしょに遊んだだけさ」

 

「じゃあ次は何でアスナのことを知っているの?」

「さっきアスナも言っていたが、案内をしてもらった程度だな」

 

「次は、ってそういえば何歳ですか?

「先日誕生日でな。十六だ」

 

「えっ、十六って教師になれるの?」

「いや、日本では無理だ。俺様はアメリカで免許を取ったからな」

 

「俺様って。まあいいや、どこに留学してたの?」

「ヒューストンにあるER3システム、大統合全一学研究所だな」

「うそっ!!学術の最果て!?」

「ほ、本当ですか!?」

 

眼鏡をかけた少女葉加瀬が朝倉のした質問の答えに身を乗り出し聞く。

彼女にとってER3は聖地に値するような場所なのだ。

だからこそここまで興奮する。

 

「ああ。そうだ」

「ちょ、葉加瀬。まだ私の質問の番」

 

葉加瀬の暴走を朝倉が止め、

 

「じゃあ最後にこのクラスで好みの女性は?」

 

それってセクハラではと思いながらも真心は答える。

 

「いや、とくにはいないな」

「え~、つまんない。そこは木乃香が俺の嫁だくらい言わないと」 

 

その回答に一応の満足をしたのか朝倉は質問を終え、メモしていく。

ただ、最後の回答をした瞬間から二名から殺意に匹敵するプレッシャーが真心に向け放たれ始めたが。

 

「はい、次わたし」

 

こうして一時間目は質問されっぱなしで真心とクラスとの顔合わせは終了した。

 

 

 

「どうだった?2-Aは?」

「すさまじいクラスだな」

 

授業が終わり、惜しまれながら(特に葉加瀬)も職員室に向かった彼ら二人は初めてクラスの子たちと会った感想を聞いて答えている。

 

「元気のあるクラスでいいじゃないか。これからは大変かもしれないが。そうだろう?タカミチ」

「大変で済めばいいんだけどね」

 

俺としてはこれからよりもこの後が心配なんだがなと心の中で真心はつぶやき、次に彼らと会う、今日は担当授業がないために 終礼と放課後の準備を進めていく。

 

 

 

 

「明日も元気に登校するように」

 

タカミチそう締めくくり、今日の授業はすべて終わり放課後になった。

真心も明日からの準備をするために職員室へ向かおうとしたがその足を止めるしかなかった。

 

「どこへ行くん?少し質問したいことがあるんやけど?なぁーマー君」

 

笑いながら、その瞳は笑っていないが、近衛木乃香が廊下に立ち、こちらを睨んでいたのだから。




次回は人類最終今世最大の危機。
女性は怖いです。by面影


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第九話

ありがとうございます!!
突然のことで分からないでしょうが私の作品をお気に入りにしてくださった方が100人を超えました。
こんな駄文の知識も経験のない作者がひねり出すこの作品をどうかこれからもよろしくお願いします。


第九話 木と桜、咲き香る少女たちの願い

 

あの後、真心に問い詰めていた木乃香に事情を話すことを約束し真心は解放された。

 

「予想していたとしても疲れた」

 

しつこく木乃香は言い寄り真心も木乃香を落ち着かせるために話をし、なんとか落ち着かせることに成功したのだ。

 

「いや~、木乃香君があそこまで言い寄るなんて。真心君、君いったいなにしたの?」

「何にも。あいつとは幼馴染くらいだよ。それよりもそのにやけた顔をやめろ。なぐるぞ」

「おっと、それは勘弁かな。君の力で殴られたら入院しなければならないからね」

 

普段真心の無茶に付き合わされるタカミチはこの機会に真心をいじり始めた。

とはいえ、タカミチ自身もそこまでちょっかいを掛けないため、真心もそこまで怒らないが。

 

「それにしても、あそこまで木乃香君に好かれているなんて。よかったじゃないか刹那君にも好かれているんだろう。」

「タカミチ。そこまでよいもんではないよ。少なくともこの体のことを考えれば」

 

人類最終。その体の異常な能力のうち、一つに寿命の増加が挙げられる。今の真心の体は普通の人間の数倍以上生きられる。それこそ、タカミチの孫の死に目を見れるくらいには生きられる。

だからこそ彼はあまり関係を持たない。本来の性格ではなく仮面をかぶり(・・・・・・・・・・・・・・)、人と接する。その姿はきしくも人類最悪に似ていた。

 

「どういう意味だい?」

「口が滑っただけだ。忘れてくれ」

 

少し言いよどみながらもタカミチに返答する。

それを見てタカミチも話を変える。

 

「あっ、そうそう」

「ん、どうした?」

「伝え忘れるところだったが、今日の夜に集会があるんだよ。夜十時から世界樹広場前に集合だから」

「ちょ、ちょっと待て。俺様はこれから明日の準備もしなければならんし、木乃香とも話さなければならないんだぞ!それらの時間を合わせれば、絶対に時間が足りんのだが」

「がんばれ!遅れた場合減給だって、学園長が言っていたよ」

 

肩に手を乗せ、満面の笑みで言うタカミチ。

所詮人の恋路だと思っているのだろう。

これからの修羅場について楽しみにしているようだ。

 

「くそ!」

 

悪態をはき、明日の授業の資料を集め計画を立てていく。

ノートパソコンを合計六台近く稼働しながらそれらを操り、作業スピードを速めていく。

周りの職員たちはその作業を見て驚いているが、タカミチにとってもはやこれくらいでは驚かない。

ナギと戦ってこいと言われ無傷で帰ってくるぐらいするだろうとそう思っているからだ。

彼とペアになった夜の防衛などではもっと驚くことがあるからだ。

 

 

 

 

「もうそろそろ、木乃香君のほうに行ったほうがいいんじゃないかな?」

「そうだな。すまんタカミチ。少し早いが抜けさせてもらう」

 

真心は立ち上がり、木乃香との待ち合わせをした喫茶店に向かっていった。

 

 

 

 

 

「いらしゃいませ。おひとりさまでしょうか?」

「いや、待ち合わせだ。」

「そうですか、ではごゆっくり」

 

店員との定型的な話を終え、木乃香のいる机に向かう。

どうやら一番奥にいるようで見づらいが、そこに木乃香がいるのは確認できた。

 

「悪いんやけど、どっかにいてくれへんか」

 

木乃香のいら立ちを含んだ声が聞こえた。

それと同時に

 

「黙れ、お前なんかに名前を呼ばれる筋合いはない」

 

刹那がどうやら話している相手を拒絶したようだ。

それと同時に背の高い男が一人奥から出てきた。

 

「ちっ、まあいい。ゆっくりと好感度を上げていきゃいい」

 

そう言いながら、彼、神先は真心の隣をすり抜け、こちらに気付くことなく店を出ていく。

 

「なんなんあいつ。せっちゃんの秘密を知っていたようだけど」

「このちゃん大丈夫や、あんなやつ気にすることあらへん」

 

二人が神先に対して悪態をついていたのを聞きながら真心は木乃香と刹那の前の席に座り、音を遮断し空間を作った。

 

「二人とも少し落ち着け。ほかの客の迷惑だ」

「「あっ、マー君」」

 

真心の声に反応し二人がこちらを向く。

そんな息の合った二人を見て思わず笑いがこぼれる。

 

「何があったんだ?一体」

「あいつがいきなり私たちの前に来てなんかごちゃごちゃ言い始めたんや」

「ええ、本当に失礼な男です。なぜだか分かりませんが私の秘密を知っているようです」

 

近衛木乃香 桜咲刹那

この二人は本来、刹那の秘密を知るまですれ違っていた。

だが、そこに請負人、請けて背負う人間が混ざることで物語は加速しバックノズルが発生した。

全ての物語が行き着く所は同じ。人類最悪の持論にして、重要視した理論。

それにより二人の仲はすれ違う期間をとばし、お互いを理解したのだ。

 

「刹那の?不可能だ。

刹那のことは分からないように俺様自らが関係した人間にプロテクトをかけ、罠を仕掛けて知ることができないようにしたはずだが」

「電子的なことだけやないもんな。マー君確か、操想術でせっちゃんのこと知っている人間の記憶をいじったもんな。それに脳内干渉も使ったんやろ?あのときに」

「ああ」

「あの時は、ありがとう、マー君。私の体のことを隠すのを手伝ってくれて」

 

刹那の秘密は烏族と人間のハーフということだ。

この秘密をあるとき真心と木乃香は知り、掟で別れなくてはならないことを話した刹那が木乃香と一緒に真心に助けを求めたために。真心は初めて請け負い、長い時間をかけ記憶と証拠を消していった。

そのためこの二人は真心の力を一部とはいえ、知っている。

 

「まさか、実の父親にも改ざんを施してくれというとは思わなかったが」

「しょうがないやん。あのままやったら、私はきっと記憶を改ざんされてたよ?」

 

そう、真心はありとあらゆる手を打ったがそれでも木乃香の家族である詠春には行わなかった。

だが、木乃香自身がそれを望み報酬を支払ったのだから真心は詠春も認識を改ざんした。

 

「まあ、あいつがなぜこのことを知っているか知らんが、調べて問題があるのなら記憶を改ざんするか消去するしかないだろう」

「ごめんな、マー君」

「ごめん、マー君」

 

木乃香と刹那二人が頭を下げるが、真心のほうは、

 

「別に問題ないさ。それに、俺様は身内には甘いんだ」

 

その言葉に二人は安堵し、喜ぶ。

 

「じゃ、あいつの話はここでおしまいや。さて、はいてもらうで。マー君」

 

今までの話とがらりと変わり、まるで浮気した亭主を問い詰める妻のように木乃香は言う。

 

「せっちゃんははいたで。にげられるとはおもわへんことやで?」

 

妙にゆっくりした声で問い質され、半年前には麻帆良にいたことを刹那から聞いていた木乃香の怒りをなだめるために、財布の中身全てを使いケーキなどを貢ぐ真心の姿が喫茶店にあった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十話

皆様評価していただきありがとうございます。
皆様が楽しく読めるように頑張ります。
また、皆様からの意見を参考に作品を書き上げていきますので、いろいろな意見をください。
その意見を参考に作品をよりよくしていこうと思います。


第十話 英雄と最終の対面

 

木乃香に貢いでいた真心は先に広場へ向かった刹那に次いで広場に到着した。

広場にいる多くの魔法教師や魔法生徒がこちらを向いている。

 

「こんばんは。学園長遅れましたか?」

「大丈夫じゃの。制限時間より十分は早い」

 

近衛門と契約した傭兵的な位置にある真心。

七愚人の一人という身分や、最初に彼らと会った際の印象により付き合いづらい面がある。

だから真心はあまり、麻帆良の戦力の中に味方がいない。

味方は刹那、近衛門。そして彼女程度だ。

親しい中であるタカミチとて真心をいまだに警戒している。

 

「学園長」

 

近衛門と真心との会話に割り込みタカミチが報告する。

 

「申し訳ありません。目的の人物が少々遅れるようで」

 

タカミチが報告した目的の人物とは神先・R・暁のことだ。

神先は気づいていないが今も神先の周りは監視されている。

真心も監視されているがこちらは必要なときには監視の目を外せる。

 

「仕方がないのう。皆の者よ、しばし待ってくれ」

 

近衛門の命にその場にいたほとんどの人間が従う。

真心と彼女を除き。

幼い姿だがこの場にいるすべての人間を超える、圧倒的な経験持つ魔の存在。

かつてナギ・スプリングフィールドによって、封印された真祖の吸血鬼。

エヴァンジュリン・A・K・マグダエル

それが彼女の名前だ。

 

「おい、ジジイ。いったいこの私を呼んでなんのようだと思ったら待てだと。バカにしているのか?」

「ふぉふぉ、そんなつもりは毛頭ないぞエヴァよ」

「貴様の毛が存在しないことぐらい見ればわかるわ」

「いえ、マスター。わずかに頭頂部のみですが毛は残っております」

 

それに従者である絡繰茶々丸が主に答える。

 

「おぬしら酷すぎるとは思わんのか!?こんなジジイをいじめて。

ジジイ虐待反対じゃ」

 

まあ、今は学園長で遊んでいるようだが。

しばらく学園長で遊び、

 

 

「ここらでやめておくが、本当に何の用で私たちを呼んだ。ジジイ」

「いつまでもやめて欲しいのじゃが。コホン、うむ。少し紹介したい人物がおってな。

それでおぬしをはじめ皆に来てもらったのじゃ」

 

広場にいた大勢の魔法使いたちが騒ぎ出す。

あの噂は本当だったのか。 英雄が来るのか。

ざわめきが広がったその時に

 

「来てやったぞ。近衛門」

 

堂々とした歩みで英雄は来る。

 

「あの人が」

「確かにすごい魔力だ」

「それだけじゃない気の総量もすごい」

 

それぞれが騒ぎ、隣の人間に話しかけていく。

 

「有象無象が。まあよい。関東魔法協会の戦力として元老院から呼ばれてきてやったんだ。

期待しておけ、雑種ども」

 

あまりの内容だがその身に漂う一種のオーラ、いや王気とでも呼ぶのか。その力にさらされた魔法使いたちはただただ威圧され飲まれていった。

 

カリスマA+ もはや呪いに匹敵するほどの人をひきつける力。それが神先の能力の一つ。

 

魔法使いたちの中でも高位の存在(学園長、エヴァなど)や、その重圧に対抗できる人間(タカミチ、刹那など)のみカリスマの影響下に置かれない。

もちろん真心は前者と後者であるため、効き目はない。

 

「よく来てくださった。お手数ですがわしらの後学のためにもその力を見せていただいてもよろしいか?」

「王の力を見せることも時には必要か。よいだろう。

ただし、最低でもタカミチ程度は用意しろ」

 

そこにあるのは絶対的な自信。タカミチの攻撃などものともしないというように。

そしてそれが事実なだけに余計たちが悪い。

 

「では、タカミチ君。たのむぞい」

「ええ、学園長」

 

二人の実力者が広場の中央に相対する。

 

「かかってこい。弱者に胸を貸すのも強者の役目」

「では、いきます」

 

いきなりの居合拳

それも頭を狙わずに当たりやすい胴体に。

初撃を与えることにより流れをタカミチはつかもうとした。

 

「この程度か」

 

神先にとってこの程度はダメージにすらならない。ランスロットの耐久はA。

英霊にとってこの程度はバランスを崩すことすらない。さらにトップクラスの耐久により、居合拳は効かない。最低でも豪殺居合拳程度には必要だ。

 

「はああ」

 

それでもタカミチは踏み出した足などを攻撃することによって態勢を崩すことを狙う。

 

「ええい、うっとうしい」

 

神先は先ほどから意味のないことを繰り返すタカミチに苛立ちを覚え、

 

「この程度なら貴様を指名せんでもよかったか」

 

投影開始

この言葉に何の意味があるかは分からないがいつもこの人はこの言葉を詠唱していたとタカミチはふと思い出す。

 

男の手に光の輪郭がこぼれ、形を作り出す。

それは奇跡の塊。

人々の願いによって存在する英雄たちが使った武具。もしくは、神々が使った武具。

 

大神宣言(グングニル)

 

それが神先の用意した槍の名前

蒼い氷のような美しさすら併せ持つ槍。

一度放てば、決して敵を逃さない必中の槍

だからこそタカミチはそれを撃たせない。目的を達するために。

 

「右手に魔力、左手に気。合成感卦法」

 

そして放たれるは先ほどよりもはるかに威力の高い居合の拳。

それは神先の体制を崩すのに十分な威力を発揮した。

 

「やればできるではないか」

 

いまだに神先は異常に気づかない。タカミチが先ほどから神先の手札をさらすように動いていることに。気づけないように誘導している人間、真心がいるために。

音を使っているわけではない。戦っている最中の音で音が消されるし周りから目立つために今回は使っていない。

真心はこの戦いが始まる前にそっと左腕を傷つけ少量の血を流しながら

 

属性(パターン)は光、種類(カテゴリ)は召喚」

 

魔法を使った。

魔法により発生した光、それもほとんど見えるか見えないかの強さの光を使った一種の催眠が神先の思考を衰えさせていく。

そして今もなお、タカミチが居合拳しか使わないのに対し神先は多くの手札を見せる。

握った物が武器とかす力。相手を拘束しようとする鎖。黒い西洋甲冑などを見せていく。

それが、学園長と真心の策と知らずに

 

「負けることすらも一つの策」

 

そう言い放ち真心は学園長にタカミチを使い相手の手札をさらせるように要求した。

 

そして、その期待に応え、多くの手札を見せるためにタカミチは粘りに粘った。

居合拳で時には足元を。瞬動を使い、多角的な攻撃など。豪殺居合拳を後方に放ち瞬動することにより、加速力と最高速度を上げたりするなどの方法で粘り続けた。

しかし、それも限界。英雄にあこがれた男は英雄には届かない。

 

「そこまで」

 

近衛門はこれだけ情報があれば十分と判断し、終了の合図を出す。

これが表の関東魔法協会と英雄との会談だ。

 

 

 

 

 

学園長室にて三人の人影が躍る。

 

「でっ、あんな茶番を見せたのは何のためにだ近衛門?」

 

少々の怒りを込め、エヴァは言う。

 

「何、あの時言った通りじゃよ」

「そのために私に猿芝居を突き合わせてか」

「そうじゃ。大体の実力は把握できたし、癖も見抜けた。

特異な能力じゃが対抗策はいくらでもとれるじゃろう」

 

まあいいとエヴァは口にし、

 

「それよりなんだあいつは。魔力の制御がほとんどできてないじゃないか。

魔力のほとんどが外へ漏れ出していたし、術の発動の際、余剰魔力が体からあふれていたぞ」

 

最初に魔法使いたちが驚いた魔力量の多さとは単純に制御しきれない分が表に出ていたのにほかならない。

 

「ナギの馬鹿はそこらはきちんとしていたぞ。詠唱はカンニングしていたが」

 

もう一人の英雄ナギ・スプリングフィールドは魔力の制御自体は天性の勘により、完璧だった。

 

「そこにいるやつとは真逆だな。あいつは」

「げらげらげら。あの程度と一緒にしないでほしいね。俺様としては」

 

想影真心。血液が流れることにより詠唱を破棄し、魔法を行使できる。

そして人類の最終に至った彼の魔力量が少ないはずがない。しかし、彼には魔力がほとんどないと周りから思われている。

簡単だ。彼の魔力は血液に凝縮されている。そのため、魔力が外に漏れださない。

 

「まあだいたい実力のほどは把握できたじゃろう。では、想影殿頼みますぞ」

「くっくっく。正義の魔法使いの長がそんな計画を立てているとはな。

悪である私すら外道だと思うがな?」

「俺様は請負人さ。金との折り目が付くなら何でもするさ。

たとえ、汚れ仕事でも」




明日から学校のため、投稿が不定期かつ少なくなりますがご了承ください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十一話

お待たせしました。
ちょっと地の文が長いです。


第十一話  ジェイルオルタナティブとバックノズル

 

神先が魔法協会と対面し、参入した夜からもう三日が立っている。

その間に数多くの報告が近衛門に届いた。

その力の凄さや、英雄という肩書からか、多くの報告は魔法の強力さと武具をまさしく手足のように使うことから、好意的にみられている。

しかし、中にはその力をむやみに使用しすぎているという報告もある。最悪なことに彼が放つ攻撃はどれも派手な攻撃で、一般人に魔法ばれする可能性が高いものが多く対処の必要性がある。

 

「まずいの」

 

ぽつりとがけっぷちに立たされた人間のような危機感を感じさせる声が近衛門の口からこぼれる。

 

「こんなことしたくはないんじゃが」

 

近衛門は思い返す。先ほど神先と話し合ったことを

 

 

 

「なにかようか。近衛門」

 

神先は近衛門に呼び出され、学園長室まで来ていた。

 

「おお、よく来たの。まあ、その席に座ってくれんかの?」

「これか。粗末な椅子だな」

 

これでも来客を迎えるためにも最高級品を使っているのだが、どうやら神先にとってこの椅子は安物のようだ。

 

「おぬしに少し頼みたいことがあってな。少し来てもらったんじゃ」

「ほう、俺に頼みたいことだと?気分が良い、言ってみろ」

「おぬしには少し魔法を抑えて使ってもらいたいのじゃよ」

「なんだと?」

 

殺気すら放ち、神先は問いかける。

 

「なぜそんなことをせねばならん。面倒だ」

「簡単なことじゃ。魔法の秘匿の原則から外れかけておるからじゃ。

おぬしも知っての通りここ麻帆良には認識阻害結界が張られておる。じゃからある程度のことまでは結界の作用のおかげで問題はないが、おぬしの攻撃魔法はそのある程度を大きく超えておる。

そのために、少しおぬしに魔法を制限してもらいたいのじゃ」

「断る」

 

近衛門の話を神先は一言で断り立ち上がる

 

「そんなことで俺を呼んだのか貴様は。殺してやろうか」

 

その言葉を最後に神先は学園長室を後にした。

 

「ハァ、参ったの」

 

近衛門の、あくまでも非公式の場だが、学園の長として発した言葉だ。

本来協会の傘下にいる神先は従う義務が発生するのだが、それでも神先は従わない。

 

「結界も万能ではないし、それにメガロメセンブリアからの命令を考えると・・・」

 

そうして冒頭に戻る。

 

「しかし、実行するしかないか。

メガロからの命令を無視するのと比べて、あ奴を擁護してもメリットはほとんどないしの」

 

唯一メリットがあるとしたら戦力としてだが、

 

「真心殿の力の方が麻帆良の防衛という場合には優れておる」

 

派手な真名解放と何も気づかせずに相手を無力化可能な攻撃。麻帆良において必要な力は後者だ。

派手な力は魔法ばれのリスクが高くなる。

 

それに加えメガロからの命令もある。

そこに書かれているのは単純な内容だ。

神先・R・暁の暗殺命令。

それがメガロの元老院からの命令だった。

神先はやりすぎた。元老院にとって神先は百害あって一利なしの状態だ。

ほかの赤き翼は行方が知れなかったり、すでに死んでいるといわれている。唯一の例外の詠春は関西呪術協会のトップという地位に存在し、うかつに手を出せない。

死人に口なし。

戦争の真実を知っている神先を抹殺し、ネームバリューのみを利用しようとした元老院の命令だ。

 

「あ奴を殺さねばおそらくは何らかの介入が麻帆良に来る。しかし、今の麻帆良には介入されるわけにはいかん。もし殺したとしてもこちらの弱みが握られる。ならばわしが取れる手段はあ奴を自然死に見せかけ、暗殺の事実を発覚させないことができ、元老院の知らない手札である真心殿しかないの」

 

近衛門は決定した。神先・R・暁の未来を

 

 

 

 

「そうじゃ、では計画通りに」

 

近衛門の声が学園長室に響く。

特殊なケータイを使って真心と計画の進行を決定する。

電波の送信方法を通話しながら変え続けるという方法で盗聴を無効化する特別製の物を使いこの会話が外へ洩れるのを防いでいる。

ER3システムの技術を利用したものだ。

 

ピッ、と通話の切れる音が聞こえ、

 

「すまぬな、神先・R・暁。おぬしにはここで終わってもらう」

 

その声は決して正義ではなくエゴをはらんだ声であり、それを自覚することができた近衛門は力なく椅子によりかかり、一刻も早く自身の罪を裁かれる時を祈り、待つ。

 

 

 

 

 

深夜の麻帆良は危険地帯でもある。

世界樹の魔力に引き寄せられた妖怪や魔の存在が出没するからだ。

他にもほかの土着の勢力が攻撃することもあり、それを防ぐために魔法使いたちが戦っているのだ。

 

「この程度か。歯ごたえのない」

 

神先は周りにいた全ての敵を殲滅し、愚痴をこぼす。

まわりは、まるで災害が起きたといわれても納得できるようなありさまだ。

麻帆良の森の中で発生した魔を倒すために神先はここまで来たが、神先の戦闘によって発生した被害は決して無視できない。

神先の攻撃により木々はえぐれ、岩盤はめくり返っているのだから。

 

「それともお前が相手してくれるのか?」

 

神先は森の奥へ向かって話しかける。

そこから出てきたのは奇妙な男だった。

和服を着ていて、その顔は狐の仮面で覆われていた。そして何より、橙色の髪が目立つ男だった。

 

「神先・R・暁だな?」

 

その男は確認するかのように言う。

 

「そうだ。関西呪術協会か、詠春も、下くらい抑えられないのか」

 

神先は男の和服姿から関西呪術協会の構成員だと予想した。

一度喫茶店ですれ違い(・・・・・・・・・・)世界樹広場でもあっているというのに(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「退屈しのぎにはなるか、踊れ」

 

その背後から黄金の鎖が伸びてくる。

狐面の男を縛り上げ、拘束する。

 

「あっけない。暇つぶしにすらならんか」

 

そう言い、神先は無銘の名剣を取り出し、振り下ろす。

そして、まるで空気を切るようにすりぬけた(・・・・・・・・・・・・・)

 

「なに?」

 

陽炎のように狐の面の男は消えた。

 

「分身だと!?」

 

拘束とはいえ、攻撃を喰らってしばらく過ぎてようやく消えるような分身など普通作れない。

しかし狐面の男は、それを可能とした。

 

病蜘蛛(ジグザグ)及び作曲№8あなたへの愛という名の鎖」

 

後ろからの声。神先は急いで振り向こうとして、体が動かないことに気付いた。

 

「始めま死て、神先・R・暁さん。死んでもらいます」

 

独特な口調で男は神先に話す。

狐の面は外されており、素顔が見える。

 

「貴様!!何をした」

「わざわざ答えるバカはいませんよ」

 

神先は自身を拘束した男に警戒し、怒りを持って問い詰めようとしたがまるで相手にされずに会話を打ち切られた。

 

「殺してくれる」

 

その一言ともに神先の背後の空間が歪み数多の武器が出てくる。

そして、

 

「死ね」

 

射出される。

だが、彼の目の前にいる存在は英霊ではないが、英雄へ至った人間を越えた、人類として最も能力の高い存在なのだ。

故に射出された武器を掴み取り迎撃するくらいは簡単に行える。

 

「何!?貴様!俺の宝具を」

「もう終わりに死ま死ょう。操想術師、想影真心が命じる。抵抗するな」

 

その一言ともに神先が使った王の財宝は閉じていく。

 

「き、貴様何をした!?」

 

体も動かず自身の切り札を簡単に無効化してしまった目の前の男に神先は恐怖を感じ始める。

それが遅すぎる感情だと知らずに。

その強大な力で自身の身に危機を起こさなかった神先にとってこれが初めてなのだ。

死への恐怖という名の感情は。

 

「ぐ、は、離せ。この不敬者」

「想影真心が命じる。桜咲刹那の秘密を他者に話したか答えよ」

「誰にも言っていない」

 

神先は話すつもりもなかったことを自身の口がしゃべりだしたことに驚き、恐れる。

自身の体を操れるこいつはなんだと。

 

「そうか、ならばここで終わりだ」

「な、めるな!!」

 

渾身の力でジグザグと音での操作、操想術を無理やり破り手にしていた剣を振るう。

男の体を切り裂き剣は、その輝きを発し続ける。

人を切ったというのに血もつかずに。

 

「ふははは、英雄である俺にはそれでもかなわなかったか」

 

二度あることは三度あるというのに。

 

「お前が英雄なら俺様は魔眼使いだ」

 

その瞬間、今まで神先を遠巻きで見ていた本物の男が近寄り、その瞳を見せた瞬間に神先の心臓は停止した。

心臓麻痺。

誰もが起きる可能性のある死因。

それを引き起こす魔法こそ究極魔術と言われた魔眼だ。

属性(パターン)雷 種類(カテゴリ)操作

これにより、視認した対象に一切の傷を与えず直接、神経および筋肉に電撃を与え、異常を発生させる。

電気抵抗のある皮膚を無視し、魔法障壁すら無視できる避けられず、耐えられない一撃。

しかも受けた対象は電気信号によるショックを受けた状態だからこそ何の異常も出ない。

だからこそ誰も気づけない。英雄はここで心不全をおこし倒れたと全ての人間は思う。

元老院ですら命令を与えてからの時間から考え、暗殺ではなく病死と判断する。

この方法が可能な真心だからこそこの暗殺は行われた。

真心はそのまま去っていく。自身の存在した証拠を一切残さず。

 

 

ここに英雄は倒れ、最終が生き残った。物語は英雄を拒絶した。

神先はあくまでも代理品、ジェイルオルタナティブでしかなく、バックノズルを崩壊させる要因であるために。

もし、神先が世界を破壊しようとしなければ、この戦い、いや、不用品の処分にあったのは真心だったかもしれない。彼もまた代理品であり、物語を変質させる力を持ち、物語を変えてきたのだから。

しかし、ifの話をしたところで何も起きない。

英雄が死に、最終が生き残った。ただそれだけなのだから。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十二話

第十二話 栄優の史と災襲の所為 英雄の死と最終の生

 

関東魔法協会で一人の魔法使いが死んだ。

英雄 神先・R・暁

彼の死亡したという情報は協会を戦慄させ、厳重な調査が行われた。

その結果は心臓麻痺。心不全によって引き起こされた病死と判断された。

この情報は最重要の秘匿としたが、どこから漏れたのかまほネット中がこの話で盛り上がっていた。

 

「安らかに眠れ、立派な魔法使い」

 

神先の顔はどこかほっとした微笑みを浮かべていた。

近衛門がその顔を見、苦いものがこみ上げながら弔辞を上げ、この葬式も最後になる。

 

「別れの挨拶を」

 

神父の言葉により魔法使いたちは感謝を述べ、別れを終える。

 

「天に召します我らの父のもとへ、この魂に安らかな眠りと祝福を。この魂に哀れみを」

 

ラテン語の詠唱を終了すると、彼を収納していた棺が十字架の下、地面へもぐっていく。

 

 

 

 

学園長室にて、近衛門と真心はこれからについて話し合っている。

 

「英雄は死に、元老院は麻帆良に手を出せなくなりました」

「うむ。おぬしのおかげでアレに余計な者が近づくことはなくなった。感謝するぞ、真心殿」

 

ちらりと窓からのぞける世界樹へ視線を向けながら近衛門は感謝を告げる。

 

「別に気にする必要はありませんよ。こちらとしても必要なことだったので」

 

特に気にもせず真心は答える。

実際、刹那のことを周りに話したかどうかそれだけが知りたかっただけ。

知っていた理由はおそらく能力の一部だろうと、それ以外に知る方法がないため、予測を立てながら、真心は考えを深めていく。

本来真心はもっと確実に相手から安全に情報を回収する方法があるが、それは危険すぎるため使わない。使えない。いくら人を超えた存在でも他者の心を見続けるなど不可能なのだ。あの占い師のようにはいかない。

 

「フン、必要なことか。身内に甘い貴様のことだ。お前の身内にとって排除しなければならない存在だったんだろうが、あの程度の奴を殺す必要性は考えられんな」

 

二人しかいなかった空間の影からずぶりと一人の少女が出てくる。

金色の髪をなびかせながら、彼女は真心へ問う。

 

「今回のことで貴様はどれほどの力を使った?こちらは神先だけではなく貴様も処分する必要があるのだがな。ずいぶんと対応策をこちらも取れるぞ?」

 

面白がった顔と声を仮面にし、エヴァは内心で感心し舌打ちする。

今回の戦いで真心の能力について分かったことは多い。視るだけでも高額な魔法具をいくつか使い、自身も別荘内でまとまった魔力を行使することでようやく観察できた戦いだ。情報の価値は計り知れない。

今まで真心の使った魔法は特殊すぎたがゆえに対抗策を練れず、分析することもできなかったが今回真心が使ったのは気を用いた分身だ。こちらはエヴァも精通しており、ここから真心の戦闘力の一部を図ることもできる。

またそれだけではない、まほネットに入り情報の誘導、改ざん、火消しそのすべてを行ったことにより機械関連の技術の高さと情報操作能力の高さも発覚した。(こちらは茶々丸が分析したが)

それでもこのくらいしかエヴァと茶々丸は分からなかった。

 

確かに今回真心が使用したのは数多くのスキルを使った。

空間制作で神先の周りをだれもよらせないよう空間にした技術。気による分身を使ったかく乱方法。

ジグザグによる拘束術。さらにオリジナルの楽曲での音使いのスキル。

操想術による対象への洗脳による操作。魔眼による誰も疑わない暗殺技能。

あの日だけでこれほどの技能を見せたのだ。真心の能力についてある程度この場にいる二人は把握し始めている。

 

「問題ないさ。対応されたところで対応できないようにすればいい」

 

簡単に、自身のスキルを変質できると真心はこともなげに言う。

 

「気に入らんが、その程度できてもらわなくては話にならん。

この闇の福音を倒したお前にはな」

 

かつて真心に興味を示したエヴァは幻想空間を利用し戦った。

その話は後程語るが結果は真心がエヴァを1000回以上殺し続けたことにより、エヴァ自身が負けを認めた。それからエヴァはさらなる魔法の研鑽を行い麻帆良学園祭の時期程度の魔力の使用を可能とした。

学園長室に入ったのは回復した魔力を使った影の転移魔法だ。

 

「いつの間に戦ったんじゃおぬしらは」

 

近衛門はあきれてものも言えない。

彼らが戦ったのは真心が麻帆良に来てから、一か月ほどたったある日、その日は満月でエヴァ自身の魔力もある程度は回復していたために、すれ違ったその瞬間に幻想空間で戦った。

 

「まあ、よい。おぬしに頼んだことによって今回のことはあらかた方が付くじゃろう。

ならば、最初に頼んでおいたことはどうなっておる?」

 

かつて真心に頼んだ少女のことを思い出し近衛門は尋ねる。

 

「ああ、長谷川のことか」

 

それにエヴァが反応し

 

「それは大丈夫でしょう。カウンセリングで彼女の鬱憤はある程度晴れています」

 

彼女、長谷川千雨には初日は木乃香の折檻により行えなかったが、二日目以降はカウンセリングを行いながら超音波療法、病毒の一つによる嗅いだものの興奮を抑えリラックスする薬をアロマとして嗅がせたのだ。さらに、操想術の初歩での催眠により、少しずつその精神に良い影響を与えていった。

 

「ならば、大丈夫であろう」

 

近衛門はそう締めくくり彼らに話す。

 

「英雄のことは片付いた。

これからの話は、英雄の子のことについてじゃ」

 

物語は変わっていく。

確実に、確実に。異物を取り入れいびつな物語、歪物へと

世界は変わっていく物語を内包し、運命の先で待つ。

かの英雄の子が世界を救うのを。




今回の題名は神先の死の原因である災襲(災いとし襲いかかった)のその後をイメージしつけました。史は、最後の歴史つまりお葬式を上げられたことを指します。
今回は試しとしてこんな形をとりました。次回から思いついたらこうしますが、やめたほうがいい、という意見が来たらやめます。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二章 初真理 始まり
第十三話


私昨日この小説以外にもう一つ作品を投稿してみました。
もしよろしければその作品も見てください。



第十三話 衛勇の弧 英雄の子

 

スーツを着た赤い髪をした男が背中に大きなバッグを担ぎ、麻帆良の地へ降り立った。

この男の名前はネギ・スプリングフィールドといい、赤き翼のリーダー格の男ナギ・スプリングフィールドの直系の子供だ。

今回ネギがここ麻帆良へ来たのは修行のためだ。より強く、より優れた魔法使いとなるように。

そこまで聞けばさぞ立派な人間だと思うだろうが、一目見ればそうではないことがよくわかる。

スーツは明らかな特注品であり、その背中にしょっているバッグはそれほど大きくはないの巨大に見える。

またそのバッグに横向きに突き刺さっている杖は確かに長いが成人男性の身長ほどの長さはないのに目測で男の額くらいの長さはあるだろうか。

ようするに、明らかな子供がそこにいた。

修行と言っても魔法学校の卒業試験の一部であり、ネギがここへ来たのは日本で先生をやることと書かれた卒業試験を迎えるためだ。

 

それから数十分後

 

「なんですって、とりけしなさいよ。このガキ」

 

オッドアイの少女つまりはアスナにネギは頭をつかまれていた。

ネギ本人はあまりよくない相(失恋)が出ているから忠告しただけだが悲しいことにここは日本。

イギリスやアメリカなどのようにはっきりと忠告するのはあまりよろしくなかった。

 

「取り消しなさい!!」

「あう、あうう~~~」

 

頭を揺さぶられ思考力が低下する中、聞こえてきたのは天からの助けだった。

 

「すまんな、アスナ。その手を放してやってくれ」

「僕からもお願いできるかな?」

 

二人の男性の声につまりはタカミチと真心の声に反応しアスナの手の力が抜け、ネギは地面に立つことができた。

 

「いたたた」

 

頭をさすりながらネギは思う。

日本の女の人は親切で優しいで優しいって聞いたのに全然違うと。

 

「久しぶりだね。ネギ君」

「うん、久しぶり。タカミチ」

「し、知り合い!?」

 

アスナはこの無礼な(アスナ主観)子供が恋するタカミチの知り合いということに驚き、この次の言葉にさらなる驚愕の渦に巻き込まれることになる。

 

「さて、親交を温めるのもいいが、これから仕事があるのでな。用件を伝えさせてもらうぞ?」

「ああ、そうだったね。大丈夫、僕からいうよ」

「ようこそネギ先生。麻帆良学園は良いところでしょう?」

 

「えっ、せ、先生?」

「あっ、ハイ。この度英語の教師を務めるネギ・スプリングフィールドです」

 

「え、ええーーーーーっ」

 

それを聞きアスナはタカミチに問い詰めるがさらなる絶望を味わう。

 

「僕に代わって君たちA組の担任になってくれるそうだよ」

 

自身の好いているタカミチではなく、第一印象から最悪なこのガキが自身の担任に代わると聞き、タカミチに問い詰めそれが本当だと知り今度はネギに問い詰める。

 

「なあ、まー君。あの子がうちらの担任って本当なん?」

 

騒いでいるネギとアスカを尻目に木乃香は真心へ問いかける。

 

「ああ、そうだ。今日からお前たちの担任になる」

 

それを聞くと木乃香の瞳は一瞬細められまた元の形に戻る。

 

「ハクチンッ」

 

くしゃみの音に驚き木乃香が後ろを振り向くとそこには

 

「キャーッ、何よこれ!?」

 

なぜか下着姿になったアスナがいた。

それを見た瞬間木乃香は恐るべき速さで前へ振り返り真心の橙色の瞳をつぶそうとした。

 

「うお、いきなり何をする。お前はどこぞの学年主席か!?」

 

余裕はあったがいきなりそんなことをされた真心は驚きながら叫ぶ。

 

「おなごのはだかをみるんやないでおのこごは」

 

呪詛すら放ちそうな、いやもうすでに髪が重力に逆らいメドゥーサの様になってしまっているが。

気を一身にぶつけられる真心は

 

「ハイ、ワカリマシタ」

 

片言で返すしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は飛び、放課後空き教室の一部を使い改修されたカウンセリング室で真心はある少女を待つ。

今までの経験から彼女がここへ来るということは確定しているようなものだ。

コンコン

ノックが響くがその音は普段彼女がする音より強い。

 

「入っていいぞ」

「失礼します」

 

入ってきたのはアスナと似た少女である。

しかし、彼女は長谷川千雨と言い、この麻帆良に張られている認識阻害結界の影響を受けない少女なのだ。

たとえ、魔法先生や魔法生徒ですら影響を受けてしまうこの結界の影響を受けない存在。

まるで誤植のように彼女はこの空間に存在し続ける。まるで何もかもに影響されない存在のように。

 

「まあ、座れ」

 

真心は長谷川に促し、彼女もそれに従う。

 

「今日はどうしたんだ」

「聞いてくれよ先生。こんな時期に突然担任が代わったんだぜ。しかも十歳だぞ、十歳。

有り得ねーつうの。元々高畑先生も出張が多すぎたけど今回はそれを超えるくらいの異常だぞ。

なんなんだよこの学校は。世界樹なんてバカでっけー木はあるし、クラスはロボだし。他にも・・・・・・」

 

まるで嵐のように繰り広げられる少女の言葉を真心は黙って聞き続ける。

 

「はぁはぁ、あっ、もうこんなに時間が立っているのか」

 

長谷川が話し始めてから三十分はゆうに経過している。

 

「ああ、ありがとう先生。愚痴を話したら少しはすっきりしたよ」

「そうか、まあそのためにも俺様はいるんだがな」

「あと、悪いんだけど少し勉強教えてもらえないか?分からないところが授業にでて」

 

相談と同時にちゃっかりと宿題を教えてもらい、ほかのクラスメイトより短時間で終わらせるあたりこの少女も強かなようだ。

 

 

 

 

 

 

さらに時間は飛ぶ。

夜の警護で今回真心は刹那と真名とのコンビだ。

 

「ところでネギの調子はどうだ」

 

真心は出現した魔物を全て倒し彼女たちに質問する。

 

「そうですね。頼りないという感じですがまだ初日です。これからいくらでも成長するでしょう」

「確かにね。少々魔法秘匿の意識は低いが卒業したばかりの頃だから仕方がないね」

 

刹那と真名もネギの評価はこれからの行動で見極め、判断するようだ。

 

「そうか、ふん、ネギの縁を見たらあいつなら『縁があってうらやましい』とでもいうのかね?」

 

そうつぶやき、真心たちは撤収する。

麻帆良にいないはずの幻の狐の足音を聞きながら。




今回の題名の由来です。
衛勇→勇者(英雄)となるように守られた存在。
弧→誰も彼単体を見ていないがゆえに孤独な存在。

ネギま!第一話です。
ネギの行動書くより周りを書いたほうが楽な気がします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十四話

お気に入りが二百件を越えました。大変うれしいのですが、感想は五件って。四十分の一です。
少ないと思うのはおかしいのでしょうか?初めての作品なのでそこらへんがよくわかりません。
感想をください。感想がすごい作品のクオリティを上げる際に必要になるので。
客観的な意見が欲しいんです。悪口や批判でもいいのです。

感想を募集しています。
こんな私の作品に思ったことを書いてくださる方がいてくださると私自身、筆のスピードが上がるので。
浅ましいですがよろしくお願いします。


第十四話 補恋愚素理 惚れ薬

 

ネギが麻帆良へきて次の日。

 

「きりーつ、気を付け、礼」

「おはよーございます」

 

HRと一時間目の英語の授業をネギは行う。

 

昨日は失敗したから今日こそはと気合を入れ、

その気合は空回りした。

 

「アスナさん英語ダメなんですねえ」

 

その一言がきっかけにまたネギとアスナの闘争は再開された。

 

「ハクション!!」

 

ネギは生まれつきの魔力が膨大で制御することがいまだに出来ていない。

故にネギは突発的なこと(くしゃみ)をしてしまうと風花・武装解除と同じ効果を発揮してしまう。

そしてその被害を一番最初に会うのは正面にいたアスナだった。

服が脱げクラス中に笑われて、アスナは

こ、殺す!!

そう怒りを覚えるほかなかった。

 

ネギは先ほどの失態に落ち込んでいた。

なぜだかわからないが自分に勉強を教えてほしいとわざわざ訪ねてくれたのどかも走って逃げて行った姿を見て、気づかないうちに失敗したのかと落ち込んでいく。

 

「どうした。ネギ」

 

そんな時自身の前から若い男の声がし、ネギは顔を上げる。

 

「真心さん?」

 

その男は初日にタカミチとともに自分を迎えに来た教師であり、学園長から何かあった時には頼りなさいと直々に指名されていた男だった。

真心はその一番の特徴である橙色の三つ編みにした髪を揺らし、ネギにもう一度問いかける。

 

「落ち込んでいたようだが、どうかしたのか?」

 

その言葉から自身を心配してくれたということに気付きネギは空元気を見せる。

 

「な、何でもありませんよ!!」

「嘘つけ、バレバレだ。嘘をつくのならもう少しうまくなることだ」

 

しかし、言葉を終えた瞬間には真心から否定され声を詰まらせるしかなかった。

 

「これでもカウンセリングの資格もあるんでな、相談くらいは乗れるぞ」

 

真心の言葉にネギは悩みを打ち上げる決心をする。

 

「はい。実は・・・」

 

英語での時間にアスナを怒らせたことを話し、ネギはどうすればいいか尋ねる。

 

「そういうことか。こういった場合は距離を取って冷静な時に謝るか誠意を見せて許してもらうかだな」

 

その言葉にネギは落ち込んでばかりいた自身に気付き、アスナに対して何ができるか考え始める。

 

「ありがとうございます。真心さん。おかげで何とかなりそうです」

「そうか、それなら俺様はここら辺で失礼しよう。がんばれ、ネギ」

 

独特な一人称を使いながら真心は去っていく。

その後ろでネギは思考を速めていく。ふとした拍子にこぼした魔法の丸薬を見つめネギの思考回路にスパークが奔る。

 

「これがあれば、惚れ薬に似たものを作れる!」

 

だけど自分で何とかするといったアスナのことを考えるとこれを使って惚れ薬を作っても良いのか迷う。

だが、アスナがタカミチに惚れており、自分で何とかすると言ったアスナを応援したい気持ちもあるのだ。

 

「決めた。こんなことで許されるとは思わないけど、これがアスナさんの力になれるなら」

 

そうしてネギは薬を調合する。薬の正しい効果を知らずに

 

 

 

 

 

「あんたが飲みなさいよ」

 

アスナはネギに魔法薬を飲ませてしまった。本来の使い方は飲むのではなくその場に巻き香りをかがせるということを知らずに。(ネギも知らなかったが)

この魔法薬は現在最も気になっている異性に抱いている感情を増幅させるということを知らずに。

 

ネギの体から香る香りでクラス中の人間は三名を除きネギに対して暴走する。

しかし、残りの三人は違う。

二人はとある橙色の男へ向かい、

最も特異的で普遍的な思考回路を持つ彼女はその様子を呆れながら眺めていたが。

周りの人間。それも魔法を知り、魔法に対する耐性の強い少女(二人組うち片方)すら効果が出ているというのに彼女には何も起きないのだ。それがどれほど異常なのか彼女を含め、全ての裏の人間も気づけなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「まって~な、まー君」

 

手にした服を片手に木乃香が橙色の男を追う。

先回りするように刹那が(こちらも手に服を持ち)逃げ道をふさいでいく。

 

「あきらめて着よう?な、悪いようにはしないで」

「そうです。服を着るくらいいいじゃないですか」

「ああ、それが普通の服、最悪女物の服くらいならな」

 

彼女らが手にしているのは紋付袴と白いタキシードだった。

 

「それを着た俺様をどうするつもりだ」

 

彼女らを見かけた瞬間真心は体を奔る電波(つまりは、感情から発生した電気信号)の異常性から危機を感じ、彼は逃げ出したのだ。(彼はその気になれば電波どころか赤外線、紫外線すら見えるし、超音波すら聞き取れる)

しかし、今の彼女たちはその程度では止まらなかった。真心を追いかけ今に至るのだ。

 

「そんなもん決まってるやん」

「そうです」

 

「「婚約の挨拶に京へ帰るんや」」

 

それを聞いた真心は全力で走り逃げ出したが薬の効果なのか、異常な勘を発揮する二人に追いかけられ続けてけっきょく、薬の効果が切れるまで追いかけられたのだった




今回の題名由来です。
補恋愚素理
補は補う
恋はコイ
愚はおろか
素はもと
理はことわり
恋を補うための理の素ほど愚かな物はないという意味です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十五話

活動報告にきのう書きましたがこの作品がランキングに乗り、舞い上がっていました。
今日学校へ行き帰ってきたら、二十位まで上がっており、飛び上がるほど驚きました。
いったい私が学校へ行っている間に何が起きたのでしょうか?

冗談はここまでにしておき、皆様のおかげでこの作品のランキングが二十位まで上がりました。
ありがとうございます。これからもがんばりますのでよろしくします。





第十五話 弩児灸 ドッジボール

 

麻帆良学園の中庭にて裕奈 まき絵 亜子 アキラの四人がバレーをして遊んでいた。

 

「ねぇ、ネギ君が来てから五日たったけどみんなどう思う?」

「いーんじゃないかな」

「授業もがんばってるしね」

 

話題として、ネギのことを上げたが本人たちの気性もあり、話は盛り上がる。

 

「アハハ経験豊富なお姉サマとして?」

 

冗談を言いながら遊んでいた彼女たちに話しかける人影がいた。

 

「誰が経験豊富なお姉さまですって?」

 

 

 

 

 

 

 

一方ネギは職員室でしずなと話していた。

 

「うわあ~~~~ンセンセーー!!」

「ネギ先生~~~」

 

亜子とまき絵がネギに駆け寄り、訴える。

 

「こ・・・校内で暴行が・・・」

「見てくださいこのキズッ!!助けてネギ先生」

 

それを見たネギは驚きながら、憤慨する。

 

「え・・・ええ!?そんなひどいこと誰が・・・!?」

 

ネギは自身の生徒を傷つけた者の怒りを持ちながら走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

真心が中庭を歩いていると、騒ぎ声と人だかりが見え、様子をうかがうと、

 

「なによやる気このガキーっ」

 

高等部と中等部がけんかをしかけていた。

事情を聴くためにアスナとあやかを捕まえたずねる。

 

「何があったんだ。いったい?」

「ま、真心先生!」

 

突然自身をつかんだ者を見ようとしたアスナはその人物を認識し、驚きの声を上げる。

 

「先生、高等部の人たちが私たちを追いだしたんです」

 

一人の生徒の声を聴き、確認を取るために高等部の子たちを真心は見て、尋ねる。

 

「それは本当か?」

「うっ」

 

高等部のリーダー格は自分たちが悪いことを理解しているのか教師の介入により、声を詰まらせる。

 

「本当のようだな。ここは公共の場だ。元々いた中等部が使用するべきだろう?

コート数が少ないとはいえ、後から来たのなら、この中庭の空いているところで遊べばいいだろう」

 

正論を言われ、高等部の者たちはなにも返せなくなる。

真心はその様子を眺め、手を叩く。

 

「はい、これで解散」

 

その様子を眺めながらネギは自身では何もできなかった騒動を簡単にまとめてしまった真心に元々持っていた尊敬の念をさらに高める。そして、自分も頑張らないといけないと思いがんばろうと心の中で誓う。

 

 

 

 

 

「じゃあ、スポーツで決着をつけましょう」

 

ネギは頑張って自身の考えを中等部と高等部の全員に話し、納得させた。

体育の時間両者は自習となり、レクリエーションの場所を高等部側が併せてきたのだ。

それにより、また喧嘩が勃発しかけたところネギが提案した。

それに全員が納得し、お互いのルール確認が終わりドッジボールをすることになった。

 

「なあ、なぜ俺様はここにいるんだろうな?」

 

なぜか近くの生徒に話しかけている真心も審判として参加させられたが。

 

「それでは校庭の使用権および、ネギ教諭の移籍交渉権をかけ試合開始」

 

やる気のない声で告げられた開始の声と同時に試合が始まる。

途中高等部が出したハンデがハンデじゃないと気付きながらアスナたちは善戦する。

 

「太陽拳」

 

太陽を背にしながら高等部のメンバーはアスナにめがけ何度もボールを投げつけ始めた。

 

「ちょ、先生早くとめないと」

「一応、ルール違反じゃないからな。やりすぎたら止めるし、油断しているあいつらならうちのクラスはまけんさ」

「そ、それでも止めたほうが」

 

亜子が止めるように言ったが真心は今の状況を見てその必要性はないと判断する。

 

「がんばりましょう。みなさん」

 

アスナが倒れ、ネギはその場の流れを変えようとみんなにがんばろうと励ます。そんなネギの熱意を感じ取り、クラスが一丸となって行動し始める。

 

「言っただろう?」

 

真心は亜子にそう返し、審判を続ける。

 

そして、

 

「試合終了」

 

その言葉とともに2-Aの勝ちは決まった。

しかしその結果に納得していなかった相手チームの一名の卑怯な不意打ちに、

 

「こんなことしちゃ、ダメでしょう」

 

その言葉と一撃とともに相手側の服を引き裂きながら無力化する。

 

「すごい」

「何の魔球アルカ」

 

そう言い騒いでいるネギとクラスを尻目に高等部は逃げ出していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にどめやで、まーくん」

「そうやで、わたしはいちどめやけど」

その一方、真心は二人の修羅をどうにかしなければならなかったが。

木乃香はまた目つぶしをしようとし、

刹那は小太刀を出し、真心を刺そうとしている。

木乃香と刹那の手を止め、落ち着かせていく。

 

「今回、不可抗力だよな!?」

「かんけいあらへん」

「そうや、かんけいなんてあらへんよ」

 

二人の修羅を落ち着かえせるのに、真心は何か一度言うこと聞く約束を結ばされた。

この約束で未来に何が待っているか知らずに。




今回の題名
弩 すごいという意味
児 子どもということを指しています。
灸 後々彼女たちは真心にきつい灸を与えられます。

私が書いているもう一つの作品この作品と比べてなぜか人気がないんです。
良かったら私を救うと思って、読んでもらえませんか?
お願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十六話

作者爆弾発言します。
この話以降原作(基本)視ません。
どうしてもわからないところを見る程度にします。
原作を見るとどうしても話が狭まり、二次の面白みが欠けるような気がするんです。
ですので、言い回しが違ったりすることがありますがご容赦ください。
さすがに見たほうがいいという意見が多数集まった場合原作を見ながら書きます。


第十六話 輝朱妬 てすと

 

麻帆良学園の一部の生徒を除き全校生徒にとって地獄の期間が始まった。

とはいえ、2-Aにはほとんど関係なく、全員普段通りだが。

 

「ああ、ネギ。いいところにいた」

「はい?なんでしょうか真心さん?」

「学園長から渡すように頼まれたものがあってな」

 

そういい、真心はネギに一通の手紙を渡し去っていく。

 

「なんだろう?」

 

ネギは手紙を開け一枚目の紙に目を通す。

そこに書いてあったのは

 

最終課題通達

 

そう達筆で書かれていた。

最終課題と言われ、何をすればよいのかネギは考え始める。

しかし、そのどれもが魔法を使った課題を想定しており、次の紙をめくり度肝を抜かれた。

 

次回のテストにおいて2-Aが、最下位から上がることができればネギ・スプリングフィールドを正式な教師として雇う

 

そう書かれていた。

ネギはそのくらいなら簡単だと思い喜んでいるがその課題達成の難しさを今はまだ理解していない。

魔法による解決はできず、人とのコミュニケーション、指導力、理解力などが試される試験であることに。

 

 

 

 

 

「渡してきましたよ。学園長」

 

学園長室にて真心は近衛門に頼まれていた雑務をこなしてきたことを告げる。

 

「ご苦労様じゃ。さて、ネギ君はどうするつもりじゃろうかな」

「魔法を使わない。使えない環境を用意し、その行動からネギの内面的な判断をする」

「それだけではない。魔法秘匿のために魔法を封印するよう誘導し、秘匿の難しさを知ってもらう。今のネギ君は魔法に軽率的に頼りすぎじゃ」

 

先ほど渡した手紙には特殊な模様があり、それを見つめた魔法使いは魔法を封印するよう誘導されてしまう催眠術がかけられていた(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「さて、どうやらネギ君はこの課題の難しさを理解し始めたようだじゃな」

 

近衛門は水晶を通じ、遠隔地を見るための探索魔法を使う。

術者の技量次第でどんな物も距離、壁を関係なく覗き見ることができる。中には過去視、未来視すらも可能な魔法使いもいる。こちらは素養の問題も入るが。

主にこの魔法は索敵や要救助者の発見のために使われる。

 

「2-Aにはトップクラスの学力を持っている者もいますが、それよりも底辺を行くバカレンジャーが存在します」

「うむ。危うく刹那君もその一員に入るところじゃったがな」

 

以前も説明した通り刹那のあまりの成績に真心が教えたことにより、刹那の今の成績は学年トップクラスに入る。

 

「まあ、しばらくは魔法生徒も学業に集中してもらわんといけないからの。教師陣に頑張ってもらうしかないの。もちろん、真心殿にもじゃ」

 

この時期、魔法生徒も勉強に集中するべきということで、関東魔法協会の戦力は質はともかく量が圧倒的な不足に陥ってしまう。それを少しでも補うために真心はこの期間中戦闘をし続けている。

人類最終の体力と気力にのみ許された暴挙だ。

だが、それにより協会の戦力は低下していないのだ。

そのため、真心には負担がかかってしまうがこの程度では真心は苦にならない。

 

「ええ、こちらも請負人。この程度はこなしましょう」

「うむ。では、次の頼みごとを進めてくれ」

 

 

次の朝2-Aでは、一部のクラスメイトがいないことに騒ぎ出していた。

特にネギに少々危ないほど愛を注ぐ雪広あやかはその筆頭だった。

 

「連絡事項として最後に、皆も気づいての通り、一部の生徒とネギ先生がいないが勉強合宿によりしばらく授業に参加できなくなった。姿が見えないからとあまり、騒がないように」

 

真心はネギの代替とし担任の仕事と英語の授業も受け持っていた。

そのためにクラスの生徒たちに真心は説明して納得させて(一部は納得していないが)、授業を受ける。

 

「いいですかみなさん。ネギ先生がいらっしゃらないいま私たちに出来るのは点数を上げるために勉強することです」

 

あやかの言葉に文句を言いながらネギのために皆勉強し始める。

 

 

一方、ネギたちは

 

「それじゃこの時間はここまでにして休憩しましょう」

 

ネギが先導しバカレンジャーたちと木乃香を勉強させている。

夕映が話した魔法の書につられ最後の部屋まで来たが、アスナとまき絵のミスにより、この地下空間にゴーレムの手によって叩き落された。

 

「賛成!!」

 

少しずつみんな、ネギの教えと努力により少しずつ成績が上がってきている。

まだ全員気づいていないが。

そうして試験日の前日まで勉強していたが、

 

「キャアア、あのゴーレムが!?」

 

また、ネギたちをここまで落としたゴーレムがまた現れたのだ。

それぞれの持ち味を生かしゴーレムから逃げ、魔法の本を回収することに成功した。

 

「滝の裏に出口があるでござる」

 

楓の言葉に全員が反応しそちらへ逃げる。

だが、そこには問題が書かれた石板があり先へ進めない。

しかし、その問題を古が解き、その先にある問題も全員が解き始める。

 

「フォオオオ、待たんか」

 

ゴーレムの声を尻目に全員が地上行きエレベーターのところまでたどり着き乗る。

 

「重量OVERデス」

 

おとめにとって一番聞きたくない単語を聞き、少しでも軽くしようと服を脱ぎ始める。

 

「僕が外に出ます」

 

ネギが皆を外へ行かせるために一人でゴーレムを引き付けようとエレベーターの外へ出ようとした時、

アスナがネギをつかみ、自身の持っていた本をゴーレムめがけてぶん投げた。

それにより重量制限内になり、エレベータが動き出す。

地上に出れたが、せっかくの魔法の書がなくなり、全員で一夜漬けを行いテストを受ける羽目になった。

 

遅れてネギたちは学校へ到着し、試験を受け始める。

睡眠不足であるみんなの頭をすっきりさせる魔法をアスナたちにかけ、ネギはエールを送る。

 

「おつかれ、ネギ」

「あっ、真心先生。ありがとうございます。僕がいない間授業をしてもらったそうで」

 

声をかけてきた真心にネギは感謝を言い、生徒たちを見守り始める。

そんなネギを邪魔しないように真心は静かに廊下を去っていく。

 

「ふぉふぉふぉふぉ、どうやら成功したようじゃな」

 

その後いろいろあったが結局ネギは正式な担任となった。

近衛門は学園長室でネギの様子を見てつぶやく。

 

「魔法で解決できることは少ない。困難に打ち勝つのは魔法ではなく他者と協力して立ち向かうことじゃ」

 

近衛門はポツリとこぼすとネギの映像を消していく。

 

「次はお前さんのばんじゃ。エヴァ」

「ふん、誰に言っている。まあ、見ていろ」

 

エヴァはそう答えると影の転移門を開き、転移していく。

ずぶずぶと陰にのまれる様は、これからネギの身に起こる様々な困難を感じさせる

 

「約束は履行してもらうぞ?」

「わかっておる」

 

そうして二人の密談は終わった。

ネギに与えられる試練を実行させるために。




すいません入れ忘れていたので入れときます。
今回の題名
輝 一部の人間の成績が光り輝いているくらい良いということ
朱 赤点
妬 嫉妬です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三章 過輪留 変わる
第十七話


今回の作品はおそらくまだ誰もしたことがないことしました。
また、新しい試みを始めました。


第十七話 凶斗へ 京都へ

 

サブタイトル 秘儀 作者の権限キングクリムゾン 章変えリセットじゃないよ

 

 「え、修学旅行の京都行きの中止!?」

 

 学園長室にて近衛門はネギの希望を打ち砕くようなことを聞かしていた。

近衛門自体この問題にそろそろ決着をつけなければならず、ネギを利用し解決させ、ネギの地位を高めメガロの手を出しづらくするためにネギを特使としようとしている。

 

 「うむ、先方が嫌がっての」

「 先方って、お役所がですか?」

 

 ネギに現在の日本の裏事情、関東魔法教会と関西呪術協会についてを教え、親書を渡す。

 

 「では、ネギ君頼んじゃぞ」

 「はい!!」

 

 元気に返事をし、少々浮かれながらネギは去ってゆく。

 

 「次は真心殿か」

 

 息を吐き、気持ちを切り替え真心と対峙する準備を始める

 

 

 

 

 「きましたよ。学園長」

 「うむ。よく来てくれたの」

 「ええ、で要件とは?」

 

 近衛門は真心によって過去に施された秘密をいま暴く。

 

 「さびしいの、一度たまたま会ったときのようにぬらりひょんの怪異と呼ばれても良いのじゃがな」

 

 その一言ともに真心の様子が変わる(・・・・・・・・・)

 

 「ふん、まさか気づくとはな。俺様も少々驚きだよ」

 「ほっほっほ、ほかの者は気づかんじゃろうがな。魔法や気に頼った今の時代の裏の人間たちにはの。

 完璧。いや完全というべきじゃの。魔法による記憶改ざんではなく催眠術による記憶改ざん。純粋な精神学の分野に入るがゆえにわし以外誰も気づかんかった」

 「いやいや、さすがというべきか。それともこのくらい簡単だったろうに。か?」

 「はて、何のことやら」

 「ER3システムの前身であるER2の設立者であるあなたにとって、きっかけさえあれば簡単に解けるような催眠だったか。亀の甲より年の功とはよく言ったものだ。七愚人に匹敵する知識を持っている貴方には解けなくはなかったか」

 「いやいや、恐ろしい催眠じゃったよ。日常的に使う単語を聞けば聞くほど強固となる催眠、とくには苦労したものじゃ。まさか、始動キーを催眠のトリガーにするとはな。それに知識は単純にあの時代急速に科学が発展する世界に知らなければならなかった。ただそれだけじゃよ。」

 

 真心がかつて一度近衛門が秘密裏に京へこなくてはならなかった時に会い、そのあと近衛門が帰るまでに催眠をかけたのだ。それにより忘れさせられた記憶を

 

 「あの事故(・・)いや事件かの(・・・・・・)。あのせいで」

 「おっと、それはそこまでに。どこから情報が漏れるかわからないので」

 

 その話は真心がここで終わらせる。始まらせない。始まりを封印したのだからこそパンドラの箱の鍵を開かせない。

 

 「身内を守るおぬしがいるなら木乃香と刹那君はこれから先安泰じゃな」

 「ふん。身内ぐらい守ってやるさ」

 

 かつて人類最強はそれぐらいのハンデで世界は面白いといったが、彼にとって身内はハンデではない。

 文字通り身の内側なのだ。

 自身の体を守るのに理由はいらない。理由でもなく目的でもなく道理でもなく感情でもなく理性でもなく知性でもなく思考でもなく、ただただ本能が彼女たちを守るのだ。故に想影真心が存在する限り彼女たちは絶対に死なない。たとえ死にそうな目にあっても決して真心が死なせない。

 

 「ではの、修学旅行の件頼んじゃぞ」

 「そのことはすでに請け負っているさ」

 

 そう言い残し、真心は去っていく。

 

 「次はエヴァか」

 

 近衛門はそう言い、彼女との約束を果たす。真心の魔法、技術を自身が持っている知識を総動員して判明したことを知らせるために。これからのことを考え、推測し、自身の愛するものを守るために。彼女と彼を利用していることを自覚しながら。

 

 

 

 

 

 「お札さんお札さんウチを逃がしておくれやす」

 

 そういい木乃香をさらった呪符使いは呪文を発動させる。

 それと同時に走行中の電車の車内に水があふれる。

 

 「斬空剣」

 

 だが、刹那は札を放たれるや否やすぐさま技を放った。

 それにより木乃香と呪符使いの女のいる車両にも水が流れ、一瞬姿が見えなくなった。

 それでも札使いの女はあきらめず逃げ続ける。

 

 切り札たる三枚目の札をネギの術によりふきとばされ危機に落ちいったが、神鳴流の剣士の手により危機を脱した札使いの女は余裕を取り戻していく。一方刹那は木乃香に気を取られ全力を出せず、神鳴流の二刀流の剣士により、助けに向かうことができずにいた。

 このままでは木乃香の身に何が起きるかわからず、不安になり木乃香を刹那はわずかに見て、その色を見つけ安心した。

 なぜならそこには、橙色の髪がちらりと見えていたのだから。

 

 「音使い、想影真心が命じる。動くな」

 

 木乃香の口から放たれた言葉は札使いと剣士を拘束する。

 

 「な、なんや!?体が」

 「う、動きまへん~」

 

 二人が動けなくなると同時に木乃香が立ち上がり刹那たちを向く。

 

 「もう安心してもいいぞ、刹那。木乃香はすでに旅館にいる」

 

 木乃香の口から放たれるその言葉は口調以外木乃香そのものだ。

 だから、ネギたちは混乱する。

 

 「えっ、木乃香さん?」

 「けど今、真心ってでもこの声は木乃香?」

 

 混乱する二人を見て木乃香は髪を引っ張る。

 すると、髪がずり落ち橙色の髪が広がる。

 

 「変装術くらい探偵の必須技能だよ、ワトソン君改め、ネギ君」

 

 まあ、俺様は探偵じゃなく請負人だがなといい、真心は顔に張り付けていた変装に使ったマスクをはがす。

 

 「「え、ええええええ!?」」

 

 「こ、声もそっくりだった」

 「そこですか、アスナさん!?」

 「声自体は声帯模写さ」

 

 ネギとアスナはその顔を見て驚き、質問をする。それに答えた想影の内容も驚愕に値するが。声を真似するのではなく、声帯をまねた。その精度は機械すら判断できないほどだ。

 刹那は先ほどちらりと黒い髪の間からのぞけた橙色の髪が見えた時点で今の木乃香が真心の変装による影武者と理解したのだ。

 

 「おお、お前は何もんや!?」

 「いつ、お嬢様と変わったんですか~」

 

 二人の質問に真心は答える。

 

 「俺様か?俺様は橙なる種、想影真心だ。

 それにいつ変わったかなんて簡単にわかるだろう」

 

 そういい、さらに話を進めていく。

 

 「この状況で入れ替わりが成立するタイミングは二つ。

 一つ目は最初から入れ替わっている場合。しかし、これは俺様が否定させてもらおう。野暮用で少し遅れていたのでな。

 二つ目のタイミングは刹那の一撃でお前と木乃香が水に流されたときだ。全ての人間が認識できず、サルの式神が手を放していたのでな、そこで入れ替わりをしたわけだ。」

 

 そう自身の下にいる呪符使いの女と剣士に言い、ワイヤーで拘束する。

 そしてこの日の夜は終わりを告げた。

 

 

 

 橙が加わることにより、全てが変質していくこの物語。

 物語のはてはどこにたどり着くのだろうか




どうでしたか。ネギとエヴァの戦いを一切描写しなかった話は。
い、痛い! 石を投げないで。みなさん。

今回の題名
凶 禍々しい物が待ち受けている
斗 北斗七星から ホワタッ。アベシッの世界をイメージしました



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十八話

ネギとエヴァの戦いのさいの真心の行動の一部をこの話で記入する予定だったんです。
これからも折々に合わせて真心の行動を書いていくつもりです。

前回から一部戯言シリーズの言い回しに近い物を書いてみましたがどうでしょうか?
良ければ感想をお願いします。


第十八話 節酩 説明

 

 「どういうことなの一体」

 

 あの後、ネギたちが呆然としていながら見ていると、刹那が連絡した関西呪術協会の手により彼女らは回収された。

 過激派の回収をしたのは関西呪術協会の穏健派による手であり、木乃香をさらった敵はもう修学旅行中どころか裏の世界に関われないといっても過言ではない。

 

 「まあ、なんか呪術協会ってのも大変なのはわかったわ。

  けど、何で想影さんまで魔法に関わりがあるの」

 

 アスナは先ほどから感じていた疑問を真心に問いかける。

 

 「ん? まあ昔、賢者の石を見つけた時に関わってな」

 「いやいやいや、賢者の石って伝説の魔法具じゃないですか!?」

 

 真心の説明を聞いた途端ネギは驚愕しながら聞き返す。

 アスナはよくわかっていないようで、ネギがなぜそこまで驚くのかわかっていない。

 

 「もう疲れました」

 

 ネギは自分の驚愕を理解してくれない人たちに囲まれ自分の常識がゲシュタルト崩壊しかけ、疲れ切ったサラリーマンのように言う。

 

 「あれ? 魔法の関係者ということはまさかあの時のアドバイスも」

 「うん? あの時?」

 「期末テストの後に相談していた時のことです」

 「ああ、あのときか。悩んでいたから相談したやつか」

 

 かつてネギが期末試験を終えた後エヴァと戦う羽目になった時、真心から助言されたことがあった。

 その助言により強大な力を誇る吸血鬼にほとんどの魔法を使わず、ネギはエヴァに勝つことができた。

 

 「あれって、僕が大変だということを知って相談に乗ってくれたんですか?」

 「いや、別に」

 

 簡単に真心はネギの言葉を否定する。ただ見かけて相談に乗った。それだけのことなのだから。

 

 「というより、何故そんなことをしなけりゃならない。わざわざお前にかまってやり続けるほど俺様はひまじゃない」

 

 身もふたもない言葉だが、それにより本当に真心が気まぐれで自分を助けてくれたということをネギは理解する。

 

 「それより、明日お前たちはどうするつもりなんだ?」

 「明日ですか? 奈良の班別行動でどうしようか考えていますが?」

 「そうか、ならネギの行動の補佐をする形で俺も行動しよう」

 「補佐ってなにを?」

 

 アスナが疑問に思い口をはさむ。

 

 「これでも一応副担任なんでな。担任の補佐は当たり前だろう」

 

 実際今日の行動でも真心はほかのクラスの先生などと予定の調整などやいたずらの対処に参加していた。

 なので、明日も同じようにするつもりなのだ。

 

 「ふむ。早いうちに寝ておけよ」

 

 真心はそう言い、用意された部屋へ帰っていく。

 

 「ネギ先生。まー、真心先生となにか接点があったんですか?」

 

 刹那は先ほどから疑問に思ったことをネギに聞く。

 それにネギもその時のことを思い浮かべ話していく。

 

 「ええ、少々困っていた時に助けてもらって」

 

 

 

 

 

 

 

 あの時僕はどうすればいいかわからなかった。

 エヴァさんのことでタカミチにも相談できずにアスナさんを巻き込むわけにもいかず、どうしようもいかなくなっていました。

 そんなとき、真心さんが以前のように僕が悩んでいることを理解したんでしょう。

 相談に乗ってくれました。最初はごまかそうとしたんですが、気づいたら悩みを話していました。

 

 「こういうわけで困っているんです」

 「ああー、要約すると自分一人で解決できない問題それも勝負事があって、けど誰の手も借りられないということか」

 「そうなんです。うう、僕はどうすれば」

 「じゃあ、手を借りればいいじゃないか。

  いいか、ネギ。自分ができないことなら手を借りればいい」

 「それができないんですって」

 

 いつもならこれくらいのことなら察してくれる真心さんなのに、今日は理解してくれないよ。

 

 「勘違いしているがネギ。俺様が言いたいのはそういう意味じゃない。

 そうだな、例えば一人用のゲームをしていて、誰の手も借りれない所謂ボス戦になったとする。

 戦いながら相談することは不可能だが、どんな攻撃が有効化などはほかの人に聞けば分かるだろう。

 これも一つの借りだ。戦いごとは相対した時にもう終わっている」

 「戦うのに既に決まっている? どういうことですか」

 「簡単なことだ。またたとえ話になるが敵が百人で襲ってくる。ネギが一人で彼らを倒すのにどうすればいいと思う? 

 簡単に言えば罠を張ることや策を練る。これさえできれば基本負けることはない。

 敵が進軍しているのなら進軍先に地雷をうめるように、相手の嫌がることをし続ける。

 それが勝つ方法だ」

 

 それは卑怯なんじゃと思い真心さんに尋ねると、

 

 「卑怯? そんな言葉に意味はないよ。卑劣に怯えるから卑怯になる。堂々と策を練り、相手を翻弄すればいい。策とは力のない物が強者に勝つ理だからな。

 たとえ相手が悪魔だって策をねろ。それが脆弱な人間が繁栄した理由だ。

 それでも人は望みに叶わない。

 いつだって戦士は戦死し、策士は錯死した。ならば動かない人間は?

 それを人はね、無駄死にというのだ。ならば、せめて一矢報いるくらいした方がいいだろう」

 

  

 

 

 

 

 「何それ、全然意味が分からないんだけど」

 「僕もわからなかったんですけど、たぶん行動しなきゃ何にもならないと言いたかったんじゃ?

 実際そのあとアスナさんと仮契約し、カモ君にも手伝ってもらいましたし」

 「そんなことがあったんですか、まーく、真心先生らしいですね」

 

 そうして三人は明日のために別れ、床に就く。

 この修学旅行がこれから先の道にどれほどの影響を与えるか知らずに。




今回の題名

節 小説の節目
酩 銘柄など物事をはっきりさせる際の名前から


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十九話

ラブラブキッス大災戦の開始です。


 第十九話 外夢 ゲーム

 

 「どうしよう、どうしよう」

 

 ネギは旅館の廊下で転げ回り、よく見るとその顔は異常なほど赤くなっていた。

 今日ネギは宮崎のどかに告白されたのだった。

 

 「あれ、どうしたらいいかな。どう思う真心先生」 

 「げらげら、放っておけ。若者よ悩めってな」

 

  そう言い放ち真心は去ってゆく。

 

 「ああ、ちょっと」

 「行っちゃいましたね」

 

 残されたネギとアスナと刹那はこの後に騒動に巻き込まれ(一名は率先して)、大変な目に合うが。(アスナは巻き込まれなかったが)

 まだそのことを知らないネギたち(主にネギ)はその騒動の主犯にロックオンされていることを知らずに。

 

 

 

 

 「3-A くちびる争奪! ラブラブキッス大作戦」

 

 朝倉主導のもとそのゲームは行われた。

 

 「旅館内が騒がしいが、まあ、修学旅行だ。大目に見よう」

 

 真心の耳には旅館内でのわずかな騒ぎ声すらも聞き取れるが、生徒の気持ちを考え、強制終了はさせないようにした。

 その判断が後で面倒くさいことを起こすとは知らずに。

 

 

 「まー君、止まってくれへん?」

 

 しばらく旅館内をぐるぐるとまわり見張りをしていた真心の前に木乃香が現れた。

 さすがに自身の前にまで来られたのなら大目に見るわけにもいかず、木乃香を捕まえようとした瞬間、今までいたところから一瞬で離脱した。

 その瞬間上空から刹那が鞘付きとはいえ、夕凪を振り下ろしたのだ。

 

 「いきなり何をするんだ刹那に木乃香」

 

 悪びれた風もなく木乃香は言う。

 

 「だってこうでもしないとまー君は逃げ出すもん」

 「ええ、それにまー君ならこの程度問題ないでしょう?」

 

 木乃香の回答に刹那は合わせるように返答する。

 

 「いや、そんなことを聞きたいわけじゃないんだが。

 何をたくらんでいるんだ? さすがにこれは危険なのでな」

 「大丈夫や。この件が始まると同時に何でかクラスの皆はまー君の方から降りたんや。

 だから全力でこっちは攻撃できるんやよ?」

 

 正しく言うと木乃香と刹那の覇気で怯えて参加しなかったのだが。

 

 「とういうわけや。覚悟してえな」

 「何が覚悟しろだ!」

 

さすがに傷付けるわけにはいかないため、真心は逃走を選んだ。

 

 「せっちゃん、ゴー」

 「うん、このちゃん」

 

 妙にあの二人は真心を追いかける際に息が合うがそれでも単純な地力の差で真心は彼女たちを切り離していく。

 

 「あーん、逃げられてもうた」

 「まだチャンスはあるで、このちゃん」

 

  真心にとって恐ろしいことをつぶやきながら彼女たちは真心を探索している。

 真心は木乃香と刹那から逃げるためにも先ほどの介入しないといった言葉を撤回し、ゲーム参加者を探し始める。

 

 「どこだ! この件の主犯は」

 

 いや、参加者ではなく主犯を探していたようだ。

 さすがにここまで旅館内が騒がしいと真心の聴覚でもうまく聞き取れないようだ。

 

 

 そのころネギたちはというと

 

 「お友達から始めましょう」

 

 青春をしていた。

 

 

 

 「朝倉か、この件の主犯は!」

 

 真心は生徒の騒いでいる声の中から主犯を特定し、探し始めた。

 それを、テレビで見ている朝倉はほほをひくつかせている。

 先ほど、楓、古ペアを一撃で気を失わせたところをみていたことと確実にこちらへ向けすさまじい速度で迫ったいるのだ。

 

 「ヤバイぜ、姉さん。ずらかったほうがいいぜ!!」

 「みたいだね、っていうか真心先生の身体能力どれだけすごいの!? 壁を走り始めているよ!?」

 

 テレビ上で真心は異常な速度を使い、壁どころか天井を走っているのだ。

 急いで逃げ出そうとドアを開けた瞬間、

 

 「朝倉、なにか言い分はあるか? 聞いてやるぞ」

 

 そこには鬼神がいた。

 

 「え、えーと、その、お、おちゃめで~す?」

 「そうか、そうかそうかそうか。お茶目か。お茶目をしたのなら叱らないとな」

 

 禍々しい気配を出しながら近づく真心に恐怖を感じ何とかごまかそうとした朝倉だったが。

 

 「さあ、朝まで特別な反省会だな」

 「な、何をされるのでしょうか」

 「う~ん? 簡単なことさ。新田先生と俺様での朝まで説教さ」

 

 いやああああああああ

 旅館内に朝倉の悲鳴が響く。

 それを聞いた正座をしていた3-Aの生徒たちは怯え始める。

 

 「な、何をされているアルカ」

 「拷問でござろうか」

 「い、いえさすがにそれはないでしょう」

 

 

 

 

 まあさすがに朝倉は十二時には解放され返されたが、真心にとってこの件はまだ終わっていなかった。

 ドアを開けた瞬間に木乃香と刹那により、ほほに同時にキスをされたのだ。

 それに反応し仮契約はなされた。本来スカカードしか出ない方法だが、あまりにも高い真心の素質の高さから契約は成功し、正式な仮契約カードができてしまったのだ。

 

 「なっ!?」

 「やった、成功やせっちゃん」

 「うん、このちゃん」

 

 そうして二人は部屋へ戻っていく。

 呆然とした真心を置き去りにして。




今回の題名
外 外道の外
夢 儚い夢
今回のことはカモに原因があると判断した真心はこの後、カモに大変なこと(拷問)をします。
世の中因果応報ということです


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十話

作者です。
突然ですがそろそろ受験を考え始めないといけない時期になりました。これから一日一投稿は無理だと判断しました。作者自身の都合ですがこれから二か月くらい一週間に一度投稿できるかできないかになりました。
こんな駄文を楽しみにしてくださる方々に申し訳がありませんがご容赦ください。


第二十話 煽灯 戦闘

 

 「どうすんのよ、ネギ。

 こんなにカードをつくちゃって」

 

 アスナが手にしているカードはスカカード四枚(楓と古は真心によって気絶させられていたため)。

 ネギ自身も知らないことだったために、慌てているがこのカードを作った原因であるカモが、その場をごまかしてアスナにカードのコピーを渡し、説明する。

 

 「アデアット」

 

 アスナの声に反応しカモの説明通りにアーティファクトが出てきた。

 それをのどかが見ていると知らずに。

 

 

 「そういえば、刹那さんが持っているのは?」

 「これですか? まーく、真心先生との仮契約カードです」

 

 あの時のカードを示され、刹那はアスナに返事する。

 

 「へえ、どんな道具が出るの?」

 「試してみますか?」

 

 刹那はアデアットと魔法具の呼び出しを行い、出てきたものをつかむ。

 

 「これは、狐の面?」

 「そうなんです。狐の面でどう使えばいいかわからなくて」

 

 そこにカモが口をはさむ。

 

 「いや、こりゃすっげーアーティファクトだぜ」

 「え、どういうこと」

 

 アスナの疑問にカモは答える。

 

 「これの名前は『十三の顔を持つ狐』っていってな。マスター側の行える技術を従者が十三個だけなんの負担もなくできる伝説のアーティファクトなんだよ。使用方法はかぶるだけだしな」

 「伝説? なんかすごいのね刹那さんの」

 「なんかどころか歴史上に一人いるかどうかのレベルだぜ。姐さん」

 

 カモの言うとおりだが、このカードには欠陥もある。

 マスターが強力な力や技術を有していないとこの道具は無意味に近いのだ。

 しかし、刹那の場合、マスターが真心のために最大級の力を発揮できる。

 

 

 そうやって話しているネギたちが気になり、のどかはネギたちを覗いていたが彼らの会話に興味ができ思わず試してしまう。

 

 「アデアット」

 

 その瞬間カードは光を放ちカードへ変わっていく。その本に興味を持ち覗き見てすぐさま閉じた。

 なぜなら、そこには自分の気持ちが書かれていたからだ。

 さらに運の悪いところに親友の夕映が近寄り、夕映の感情もわかってしまったからでもあるが

 その本のことは気になりつつもパルにより、用意を急がされ後回しにしていった。

 

 

 

 

 ネギたちは今現在関西呪術協会への道の鳥居の中を走り続けていた。

 

 「おかしくないですか。アスナさん」

 「うん。さっきからずっと走っているのにつかないなんて」

 「ちび刹那さん。この鳥居の道ってそんなに時間がかかるんですか?」

 

 それにちび刹那は

 

 「いいえ、こんなに時間がかかるはずありません。これは・・・」

 「罠ですね。たぶん空間関連の、それもこちらを出さないような」

 

 「あたりや、なんや間抜けかおもったがなかなか頭は回るようやないか」

 

 ネギたちが状況を整理しようとした瞬間に声がかかる。

 

 「ふん、女に化けて千草姉ちゃんたちを捕まえた卑怯もんのくせに」

 

 突然一人の男の子が現れ、襲いかかってきたのだ

 

 「くっ、当たれ」

 

 アスナもハマノツルギで応戦するが身体能力は高くとも戦闘の技術はない。そのために、全く当たらない。

 

 「はっ、どんな力でも当たらなこわへんで」

 

 敵は余裕すら見せてアスナの攻撃を避けていく。

 

 「姐さん、下がってくれ」

 

 カモの声に合わせてアスナが下がると、雷の矢が男の子に向け突き進んでいく。

 

 「やった!?」

 「まだです。

 ラス・テルマ・スキルマギステル 闇夜切り裂く一条の光 わが手に宿りて敵を喰らえ 白き雷」

 

 ネギの放った呪文は煙を裂き、男の子に突き刺さり電撃を与える。

 

 「かっ、なかなかの一撃や。防御用の札全部おじゃんや」

 

 男の子の帽子はずれ落ちその髪の中から耳がのぞける。

 

 「! 狗族!」

 

 獣特有の加速力と速度でネギに接近し、そのまま接近戦を仕掛ける。

 アスナもそれに反応し攻撃するがどの攻撃もはじかれてしまう。

 

 「はは、どや、西洋魔術師。お前らは接近戦では役立たずやからな」

 

 ネギは攻撃を喰らうが、それでも慌てずに状況を判断すし、念話を使う。

 

 [アスナさん、聞こえますか? 聞こえたらそのままうなずいてください]

 

 ネギはアスナがうなずくのを確認すると今練った即席の策を話し、すぐ体を動けるようにしてもらう。それと同時にカモとちび刹那にも。

 

 「はっ、やられっぱなしか。西洋魔術師」

 

 振りの大きい一撃に合わせネギは後ろに跳び、杖を構える。

 

 「なんや?杖術のつもりか?」

 

 ネギは杖の先端を男の子にむけ、手を自身の頭より上に置き薙刀のように、いや、もっと近い形は棒高跳びの選手のように杖を持っている。

 

 「なんやしらんがいくで!」

 

 男の子はネギの重心の落とし方などから素人と判断しまっすぐに襲い掛かる。

 拳を振り上げ殴りかかろうとした瞬間。

 ネギが飛んだ(・・・・・・)

 いや、正確に言うととびかかってきた少年に合わせるように杖を地面につけ、自身の体を杖で支え、ジャンプした。棒高跳びが生まれたころのような飛び方で男の子を飛び越えた。

 

 「はあ!?」

 

 迎撃しようとするならまだしもいきなりこんな方法でよけられ、少年は動きを止めてしまう。

 

 「いまだ!!」

 

 カモが水の入ったペットボトルをなげ、ちび刹那の呪術により、水は霧となりネギたちの姿が見えなくなる。

 

 

 

 「作戦はうまくいったみたいね」

 

 アスナは飛んできたネギを抱え、全力であの場を逃走した。

 

 「ええ、しかしまたすぐに見つかるでしょう」

 

 ネギの言う言葉の通りすぐに見つかってしまうのは事実だ。

 今から刹那が助けにきても時間が圧倒的に間に合わない。

 

 「一種の賭けですが、もう一つ策はあります」

 

 ネギの言葉に全員が驚き、そして策を煮詰める。

 

 

 

 

 「みっけたー!って違う!?」

 

 突然現れた少年にのどかは驚く。

 

 「姉ちゃん、ダメやで。

 通行禁止の看板があったやろ」

 

 少年はのどかを一般人と判断し、対処する。

 

 「後で出してやっから、ちとここでおとなしくしててくれや」

 

 のどかは突然のことで何もできなかったがこの少年が自身の本に書かれていた。ネギの敵ということが分かった。

 だから彼女は勇気を出し、去ろうとする少年に問いかけた。

 

 「あ、あの。私の名前は宮崎のどか。貴方の名前は?」

 「おう、名前か? 名前を言われたら名乗り返すのが礼儀やしな。犬上 小太郎や」

 

 そう言い、小太郎は去っていった。 

 

 

 

 

 「はん、もう隠れんのか?」

 

 小太郎の前にネギたちが戦意を見せたたずんでいた。

 

 「いくわよ」

 

 ネギ策の第一段階はアスナによる特攻。

 しかしアスナはかわされる。もっともそれはネギの予想通りだったが。

 

 「オラ」

 

 ネギに接近した小太郎はネギの怒涛の連撃を与えていく。

 

 「西洋魔術師は呪文さえ唱えさせなければ怖くあらへん」

 

 その言葉通りネギはタコ殴りに会い、もしこれがボクシングならTKOと判断されるほどだ。

 

 「今よ、ネギ」

 

 小太郎の攻撃がわずかに大降りになった瞬間、アスナが叫ぶ。

 アスナに戦いの技術はないがけんかの経験は人一倍ある。あやかとしたけんかの経験が一瞬のすきをネギに教える。

 

 「契約執行一秒 ネギ・スプリングフィールド」

 

 わずかな大降りの一撃をそらし、ネギは自身の魔力供給を完了させる。

 一秒というわずかな時間を生かすためにネギは小太郎が回避行動へ移れないよう、空へ殴り飛ばす。

 

 「がっ!」

 

 わずかな呼気とともに小太郎は浮き上がり。

 

 「ラス・テルマ・スキルマギステル 闇夜切り裂く一条の光 我が手に宿りて敵を喰らえ 白き雷」

 

 小太郎の体に触れての零距離の一撃。

 その一撃を喰らった小太郎はもはや動けなかった。

 これがネギの策。技術はあっても経験の少ないネギと経験はあっても技術のないアスナの二人が力を合わせて初めて使える作戦。

 だが、小太郎にも意地がある。プライドがある。即席の策程度で負けるわけにはいかないのだ。

 故に、

 

 「まだや、こっからが本番や」

 

 獣化し、小太郎が襲い掛かってくる。

 ネギは認識出来ないほどの速度で迫ってくる小太郎に勘で反応しようとし、

 

 「左です先生-!」

 

 聞こえてきた声に反応し、避けれた。

 

 「右」

 「上」

 

 次々とのどかの手により、小太郎の攻撃方法を教えられネギは小太郎の攻撃を避けていく。

 そして、

 

 「ここから出るにはどうすればいいんですかー?」

 

 のどかのアーティファクトは読心術であり、この場において最大の攻撃になる。

 小太郎の考えを読みこの空間の解除方法すら知ることができるのだ。

 そうして、ネギたちはのどかに指示された鳥居に刻まれた呪を破壊することにより脱出に成功し、ちび刹那の術により小太郎を逆に閉じ込めることができたのだ。

 

 こうしてネギたちは小太郎の襲撃を退けることに成功したのだ。 




今回の題名

煽 煽ぐ。つまり、敵を作戦に乗らせたということです。
灯 誘蛾灯に吸い寄せられる蛾のように小太郎がネギの作戦に引き込まれていった様子です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十一話

全文を少し直しました。
受験で時間とれないんだけど、現実逃避している自分がいる。どうしましょう。


第二十一話 衆号 集合

 

 ネギたちが小太郎を退けた後、木乃香と刹那が待ち合わせして、集合した。

 刹那はいまだ刺客がいる事実から総本山に入る方が安全と判断し木乃香と来た。

 

 「何でみんないるの!?」

 

 アスナの質問に刹那は

 

 「すみません。バッグの中にGPS付きの携帯を入れられたみたいで」

 

 その携帯を見せる。

 その携帯の持ち主は悪びれることもなく、

 

 「ふふふ、面白そうなことを私が見逃すとでも?」

 

 反省の色が見れない。

 それにアスナが怒っていると、何も知らない一般人が先へと走って行ってしまう。

 

 「あ、皆ちょっと待ちなさい。

 ここは敵の本拠地なんだから何が起きるか」

 「なんや知らんけど大丈夫や、アスナ。ここ私の」

 「おかえりなさいませ。木乃香お嬢様」

 「実家やから」

 

 巫女たちが木乃香を迎えに来ていた。

 

 「ええ~! 刹那さん聞いていないよ!?」

 「あれ? 言ってませんでしたか?」

 「「言ってません」」

 

 そう言った漫才をしている間にも案内され、ネギたちは広い部屋へ案内された。

 

 「お待たせしました」

 

 一人の男性が下りてくる。

 

 「ようこそ明日菜君、木乃香のクラスメイトの皆さん。

 そして担任のネギ先生」

 

 「お父様」

 

 久しぶりに会った父親に木乃香は抱き着く。

 アスナはアスナで詠春の渋さにひかれている。

 そんななかネギは

 

 「長さんこれを

 東の長麻帆良学園学園長近衛近衛門から西の長への親書です。お受け取り下さい」

 

 ネギの渡した親書を受け取り、詠春はそれを読む。

 

 「いいでしょう。こちらも東西の仲たがいの解決に尽力しましょう。

 任務達成ご苦労様、ネギ・スプリングフィールド君」

 

 「山を降りると日が暮れてしまうでしょう。

 私から学校へ連絡しておきます。今夜はここに泊まっていってください。

 歓迎の宴をご用意しますから」

 

 詠春はネギにひっそりと告げる。

 

 「ネギ君。身代わりは私が立てておきますので修学旅行中でも心配はいりません。

 先ほどのように刺客がいてもここには手を出せないでしょう。ここにいるほうが今は安全ですから」

 「は、はい。ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「どないするんや新人?千草のねえちゃんに、月読も本山につかまっとるんやけど」

 

 小太郎の質問に新人と呼ばれた少年は答える。

 

 「僕が行く。二人もついでに解放してくるよ」

 「あん?そんなことできるんか?」

 

 少年はその回答をせず、本山に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 「白い髪の少年に気をつけなさい。 

 格が違う相手だ。

 並みの相手なら本山の結界も私も破られやしない」

 「学園長に・・・連絡を

 木乃香を頼み・・・ま・・・す」

 「長」

 「刹那さん」

 「ええ、行きます先生」

 

 

 

 

 夕映は山を駆け下りていた。

 突然現れた少年が何かしたのかクラスメイトが石になっていったのだ。

 朝倉の機転のおかげで逃げ出せた夕映は不安に襲われながら考える。

 今のこの状況に助けになってくれる人間がいたか考え、浮かび上がった。

 携帯から彼女へ電話をする。

 

 「もしもし、楓さんですか」

 

 

 

 

 旅館内で楓はくつろいでいた。だが携帯がなりだし、それをとった。

 

 「楓でござる。うん? バカリーダー? どうしたでござるか?

 ふんふん、つまりは拙者たちの手助けが必要でござるか」

 

 そういい、近くにいた真名と古と助けに向かおうとして一人の男に止められた。

 

 「どこへ行くんだ。お前たち」

 「「「!?」」」 

 

 今の今まで存在すらなかったはずの想影真心がそこにいたのだから。

 

 「いや~、何でもござらんよ。修学旅行の醍醐味などしようとも思ってないでござる」

 「そうアルカ?」

 

 だが、楓の話を聞いて真心はにやにやと笑いだし、そして、

 

 「げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら。

 ふうん。醍醐味ね? じゃあ俺様も参加させてもらおうか」

 「悪いでござるがそういうわけにはいかないでござる」

 

 楓は緊張した面持ちでいう。自身ですら察知することができない人間を戦場につれて後ろを撃たれないとは限らないのだから。

 

 「いや、大丈夫だ楓。この人は敵対しない限り何もしないよ」

 

 楓もあの警戒心の強い真名がそこまで言うのならと思い、

 

 「では、引率をお願いするでござる」

 「げらげら。まかされたってな」

 

 

 

 

 関東魔法協会でもネギからの連絡を受けた近衛門が助っ人してエヴァを送る準備をし始めている。

 関西に過剰と言っても良いほどの戦力が集まってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さあ、急いでリーダーに合流するでござる」

 「ああ、こちらの準備も終わったよ」

 「楽しみアル。暴れられるなんて」

 

 三人が三人で準備をし終えたとき真心が彼女らに言う。

 

 「お前たちなら大丈夫だろう。俺様の肩を握りしめろ」

 「こうアルカ?」

 

 古が真っ先に握り、不振がりながらも真名と楓が握りしめる。

 

 「息をしっかりと吸っておけ。飛ぶから」

 「「「へ!?」」」

 

 真心は腕を素早く傷つけ血を流させる。

 

 「疑似・例外のほうが多い規則(アンリミテッドルールブック)

 

 属性(パターン)は肉 種類(カテゴリ)は増殖 この魔法の肉体改造により足が一瞬で筋肉の塊となり膨れ上がる。

 その反動で真心たちの体が浮かび上がり、いや吹っ飛んでいく。作用反作用の法則にのっとり。

 ロケットのように吹っ飛びながら三人は

 

 (この人に肩をつかまれって言われたら絶対に掴まない)

 

 そう遠くなり始めた意識の中で思いながら飛び続けていく。




今回の題名
衆 民衆。つまり大勢の人々
号 号令。異常に反応し人々が集まっていくことから


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十二話

質問にあったことですが十一話での「もう終わりに死ま死ょう」という部分に死を使うのはおかしいのではという指摘がありましたが、これは戯言シリーズに登場する(厳密に言うとスピンオフ作品の人間シリーズですが)死吹と言われる集団がしの発音が死になるんです。これを使った理由は後々、伏線回収も終わってから刹那のアーティファクトとともに説明します。


第二十二話 叩階 戦い

 

 「よくやった新人。ウチラを開放しただけやなく、お嬢様を手に入れたんやお手柄や。

 さあ、急がんと長がお嬢様を取り戻しに来るさかい。早く宿儺をおこすための儀式を行わんと」

 

 先ほどから新人と呼ばれている少年、フェイトと言う名の彼は周りを警戒し続けている。

 

 「うん? どうしたん?」

 「いや。気のせいのようだ」

 

 そういい、彼らはこの場を離れ儀式場に向かおうとして、

 

 「まて!!」

 

 ネギたちが追い付いてきた。

 

 「またアンタらかい。まあええ」

 

 千草は木乃香とともにこちらへ数歩歩き、召喚をした。

 周りからあふれ出す異形のすがたにアスナは圧倒され怯える。

 

 「アンタらはその鬼どもと遊んでもらっておくんやな。

 ガキやし殺さんよう言っとくさかい」

 

 千草とフェイトはその言葉を残し去っていく。

 

 「ど、どうするのこいつら」

 「落ち着いてください。大丈夫です。ネギ先生たちは先に」

 「そういうわけ行かないじゃない」

 

 アスナの言葉の通り、刹那でもさすがにここまでの数を相手にすることはできない。

 一人ならば。

 

 「アデアット」

 

 その言葉とともに狐の面が現れる。

 それはかぶると刹那の顔に取り込まれていった。

 

 「これがあります。まー君の助力がありますからこの程度は楽ですよ」

 

 その言葉にネギとアスカはためらいながらも、

 

 「わかりました。ですが危険でしたらすぐ逃げてください」

 「ええ。三秒後にアスナさんとネギ先生は敵の囲いを抜けてください」

 

 「なんや、作戦会議は終わったんか?」

 

 鬼達やほかの怪異たちが戦闘の準備を迎えた瞬間にネギは空を、アスナが地を駆け抜けた。

 

 「特攻かい。あまい・・・っ!?」

 

 鬼達はその存在に気づきすぐさまネギとアスナから視界を外す。

 

 「ぎゃは。安心しろバケモン。殺戮は一日一時間って決めてるんでな」

 

 殺意とともに莫大な存在感を放ち続けている桜咲刹那(・・・・)に気を取られて。

 

 「なんや、お前? 本間に人間かい。それこそ天神様やあるまい」

 

 あまりの禍々しさに怪異たちが怯えているほどに、今の刹那は異常だ。

 

 「ぎゃは。ただの人喰い(マンイーター)さ。お前たちを食い殺すな」

 

 そういい、手にした夕凪を投げ捨て(・・・・・・・)刹那は突き進む。ただ両手を広げ、

 

 「暴飲暴食」

 

 両手を広げそれで挟み込んだだけ。

 ただそれだけで鬼が一体殺された。

 跡形もなく、そこに存在した後すら残さず、還ることすら許さずに(・・・・・・・・・・)

 

 「ば・・・かな。ありえんやろ? 気を使った神鳴流ならまだしも、なんでただの張り手で鬼を殺せるんや」

 

 怪異が恐怖している間に刹那はさらに殲滅していく。

 

 「う、うわあああああああああ」

 

 恐怖に駆られた怪異がその恐怖に駆られ襲いかかる。

 そんなことでは逃げられないというのに。

 

 「悪いけど私は正義のために殺すんだ(・・・・・・・・・・)。君たちのような絶対的な悪(・・・・・)を見逃すはずないだろう?」

 

 そういい、先ほど投げ捨てた夕凪をつかみ近づいてきた烏族を殺す。

 

 「さあ、悪いが逃がさないよ。正義のために死んでくれ」

 

 その言葉を言い彼女は怪異との切り裂きあいを始める。

 

 

 

 「ネギ、急ぐわよ」

 「ええ。刹那さんが送り出してくれたんです。急がないと」

 

 走るネギとアスナだったが、突然視界の外から黒い影が見えた。

 とっさに二人は防壁と迎撃を選択した。 

 

 「よく気づいたな。ネギ」

 

 黒い髪と学ランの少年、つまりは小太郎が影から出てきて言う。

 

 「さあ、俺を倒さんと先には進めん。どないする、ネギ」

 

 その様子を見たアスナは小太郎に気付かれないようにネギに話しかける。

 

 「あんた、先行きなさい。私がここでこの子を抑えるから」

 「ですが、アスナさん。それは危険すぎます」

 「ネギ。今はそう言っている場合じゃないでしょう。刹那さんの意志を無駄にする気? それに私は負けないわよ」

 

 そう言い、アスナはネギより前に出て小太郎に言う。

 

 「アンタなんて私一人で十分よ。私を倒してからネギと戦いなさい」

 「あん? 女には興味ないんや。どきい、けがするで」

 

 そう言い争うっている間にネギはアスナの言葉を信じ杖で飛んでいく。

 

 「あっ、逃がすか」

 

 小太郎が一歩歩いた瞬間に大きな風魔手裏剣が飛んでくる。

 

 「見事でござる、ネギ坊主。ここで大切なことを見失わない冷静さを持ったでござるか」

 

 その声とともに現れた人物は楓だった。

 

 「な、なんで!? ここにいるの」

 「安心するでござる。救援でごさるよ~」

 「姉ちゃん、邪魔するなよ」

 

 小太郎はネギと戦うことを邪魔され激怒し、楓に言う。

 

 「ふむ、少年。眼力は良いがまだまだ経験が足りぬな」

 

 いつの間にか小太郎の後ろから苦無を使い、頸動脈に添えている楓がいた。

 

 「なっ!?」

 

 驚きとともに小太郎は解放される。

 

 「え、ウソ。今のって」

 

 アスナの疑問を無視し、楓は小太郎と対峙する。

 

 「今のネギ先生と拙者ではまだ拙者のほうが強いでござるよ」

 「上等!!」

 

 こうして楓と小太郎の戦いも始まった。

 

 

 「バケモンや・・・」

 

 怪異のこぼした声だがそれは事実だった。

 周りに存在するのはもはや消えゆく最後の怪異と刹那のみだった。

 

 「楽しそうやな~。先輩」

 

 それに乱入するのは二振りの刀を使う剣士。

 

 「もう我慢できへん~」

 

 それだけ言うと月読は刹那に襲いかかってきた。

 

 「傑作だぜ(・・・・)

 

 服の裾から小型のナイフを取出し、月読の攻撃に合わせ、受け流す。

 

 「さあ、殺して解して並べて揃えて晒してやんよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「へぇ。あたしに気付きかけるとはやるじゃないかあの白い少年。つまらんし殺しあう仲の奴からの依頼だったけど、面白そうなやつを見つけたな。とはいえ、自分のことを人形と考えているのは気に食わないけどな」

 

 彼らの気づけなかった第三者。赤い服を着こなしたまるで地獄のような赤い紅い朱い女性。

 それはまだ物語に関わらず、探し続ける。自身の後続機たる橙を。




今回の題名
叩 張り手で叩くだけで、敵を倒した刹那のことです
階 戯言シリーズにあった人間の位階のようなものです。

今回の最後に登場した人物は!?
戯言シリーズを読んだ方ならわかるでしょう。そう、赤い彼女です。作者が使いこなせるかわかりませんが(オイマテ)
読んだことがない方はしばらくお待ちください。

軽い刹那のアーティファクト説明
『十三の顔を持つ狐』
能力説明 
カモの説明にあった通りマスターの技術を十三個使えるが、とある理由により戯言シリーズに登場する殺し名七つと呪い名六つの技術とその技術を持つ者の人格などの軽い再現がおきる。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十三話

第二十三話 災厄 最悪

 

「二刀連撃斬岩剣~」

 

 振り下ろされる二振りを刹那は異常と言っても良いほどのナイフ捌きで捌く。

 

 「かははは、殺人鬼に殺人狂。殺し合いには最適だな」

 

 左のほほに特徴的な刺青が浮かび上がった刹那は心の底から面白そうに言う。

 月読には言葉の意味が伝わらなかったが、そんなことはどうでもよかった。

 もっとこの時間を、殺し合いを続けたい。ただそれだけの思考になっていった。

 だからこそ、この答え合わせ(・・・・・)を邪魔をした存在を許せなかった。

 

 「なんてことをするんや、殺すぞ」

 

 普段の間延びした声ですらなく反転した瞳を邪魔をしてきた存在に向ける。

 彼女にとってこの戦いは答えだったのだ。

 戦えば戦うほどなぜこうも自分は人を殺したくなるかが分かりそうだった。

 それを邪魔された。無粋に狙撃されて。彼女にとってそれは許せなかった。

 

 「悪いね。こちらも依頼でね」

 「真名、あれはちょっとヤバイネ。殺意にのまれてるネ」

 

 月読を狙撃した真名と戦うためにここへ来た古に彼女は純粋で膨大な殺意を向ける。

 

 「殺します」

 

 そのまま瞬動を行い接近し刀を振り下ろす。

 

 「む!」

 「せいっ」

 

 真名はその一撃を銃のグリップ部を使いそらし、古は歩法でよけ崩拳を放つ。

 それを月読は半歩で間合いの外へ動き避ける。

 

 「すまない龍宮、古。そいつを頼む」

 

 刺青のなくなった刹那はその言葉を残し、一瞬で気配を断ち、見えなくなった。

 

 「そんな、先輩。殺生な」

 

 月読はもはや戦意すらなくなったかの様に刀を下している。

 

 「仕方があらへん。うちの邪魔をしたのはあんさんらや、責任とって死んでもらいます」

 

 降ろしていた刀を再び上げ、襲いかかってくる。

 

 「いくぞ、古」

 「了解ネ、真名」

 

 こうして殺人鬼の卵と狙撃手と拳法家による戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 「兄貴、無謀に突っ込んでもあの白い髪の奴に迎撃されちまう」

 

 カモの言うとおり、このまま戦えば返り討ちにあってしまう。

 

 「遅延呪文を使って足止めをしてみる。敵の強さが分からない今はこれくらいしか策はないけど」

 

 ネギはカモにそれだけ言うと、詠唱を始める。

 

 「くっそ! 結局は神頼みかよ」

 

 カモがこぼした言葉をネギは気にせず、杖を加速させる。

 敵の召喚した魔に対し、加速させながら魔力供給を行い打ちぬく。

 

 「風花風塵乱舞」

 

 ネギの魔法により巻き上げられた水が視界をふさぐ。

 その機を逃がさずネギはフェイトに接近戦を仕掛ける。

 

 「期待がはずれたよ。君にはがっかりだ」

 

 その言葉とともにフェイトはネギに対してカウンターを決め吹き飛ばす。

 

 「がはっ!?」

 

 血を吐きながらネギは吹き飛ぶ。ダメージが大きすぎて動くことができないようだ。

 

 「遅延呪文による零距離からの捕縛術式かな?」

 

 ネギの立てた作戦をあっさりとフェイトは見抜き対処した。

 

 「まあ、ここまでだよ。さようなら」

 

 詠唱とともに指先から魔法の光があふれ、

 

 「石化の邪眼」

 

 放たれた。

 

 「あ、兄貴!!」

 

 光は迫り、そして

 

 「属性(カテゴリ)は肉 種類(パターン)は分解」

 

 ネギの前で立つ男の手に触れた瞬間に跡形もなく消え去った。

 

 「何をしたんだい? 魔法を吸収したようだけど?」

 

 フェイトは彼の手を見てその予想を立てた。

 掌の中央に口があり、長い牙で魔法を喰っていた(・・・・・・・・)様子を見て。

 

 「兄貴最後の仮契約カードの効果を」

 「うん。召喚 ネギの従者 神楽坂明日菜」

 

 アスナが転移され現れたことにより、圧倒的な戦力差は完全に逆転できた。

 

 「これはまずいな、分が悪い。退却させてもらうよ」

 

 アスナとネギならまだしも真心という不確定要素があるなか戦うほどフェイトはバカじゃない。

 そして一瞬で門を作り転移しようとした瞬間、

 

 「その腕一本いただくぞ」

 

 桜咲刹那により腕を切り落とされていた(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 今の今まで真心により命令され、暗殺者のように姿を隠していた刹那は命令されたタイミング。つまりは門を開く一瞬のすきを突いた。

 

 「驚いた。この僕が気付かないなんて」

 

 その言葉を最後にフェイトはこの場から消え去った。

 

 「刹那さん、それに真心さん」

 「安心するにはちっと早いぜ。アスナ」

 

 アスナが気を緩めて真心に言った瞬間に真心は注意した。

 

 「えっ!?」

 

 その明日菜の後ろの祭壇から光が現れリョウメンスクナノカミが現れたのだから。

 

 「やってしまい、スクナ」

 

 千草の命によりいまだ姿を完全に顕現していなかったスクナだったが、拳を打ち下ろす。

 ちょうどアスナのいる場所に。

 

 「い、いやああああああ!!」

 

 アスナが恐怖により動くことができない中、真心はアスナをつき飛ばす。

 

 「あっ」

 

 アスナを逃がすために真心は回避行動をとれなかった。そのためにあっけなく真心の体はつぶされた。スクナの拳の隙間から流れ続ける血の海(・・・・・・・・)がそれを示していた。

 

 「私の・・・せい? また私の所為で? また死ぬの?」

 

 アスナのつぶやく言葉も誰も認識できず、

 

 「真心さんっ!?」

 

 いまだ、|どくどくと湖に流れ落ちて湖を血の色に変え続けている《・・・・・・・・・・・・・・・》真心の死体がある場所を見ながらネギは叫ぶ。

 

 「あははは、見たか! これだけの力があれば応援も魔法協会も怖くあらへん!」

 

 千草が叫ぶ声にネギは激高し、怒りとともに詠唱をはじめ、

 

 『げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら。あ~ん、この程度で勝ったつもりかよ? あめぇっつうの』

 

 あたり一帯から声が聞こえた。

 

 「ただの拳で水は砕けない。まー君の魔法はすべて血液にある。故に倒すのなら、血を一滴も流さないように戦うしかない」

 

 刹那の声が響く。

 その声が響くと同時にあたりに広がっていた血が集まっていく。

 

 『その通り』

 

 『のんきり・のんきり・まぐなあど

 ろいきすろいきすろい・きしがぁるきしがぁず

 のんきり・のんきり・まぐなあど

 ろいきすろいきすろい・きしがぁるきしがぁず

 まるさこる・まるさこり・かぎりな 

 る・りおち・りおち・りそな・ろいと・ろいと・まいと・かなぐいる

 かがかき・きかがか

 にゃるも・にゃもなぎ

 どいかいく・どいかいく・まいるず・まいるす

 にゃもむ・にゃもめ-』

 『にゃるら!』

 

 あまりにも長い詠唱。

 だが、それが終わった瞬間に集まった血の中心から腕が伸びる。

 大人の手。真心よりも長い手が数ミリほどの厚さしかない血からにゅるりと出ている。

 その異常な光景に誰もが行動できなかった。刹那とその腕の持ち主以外。

 

 「アデアット」

 

 仮契約カードの魔法具を召還したその男はずるりと中から出てきた。

 橙色をしたスーツを着たその男は周りの血から作られたかのように立っていた。

 

 「あははははは! 俺様登場ってな。う~ん? どうしたそんな顔をして」

 

 今のその男はおそらく真心であるということはこの場にいるすべての人間が理性で判断したが一方で理性がそれを良しとしない。

 

 「なんだなんだなんだ。まるで小学生の頃に飼っていた幼虫が成虫になったような顔をして。そんなに俺様の変態したのがきになるのか? どう変わったか見るか? 見せねーよばーか!」

 

 真心と同じ所は橙色の髪と瞳。それに一人称が俺様という共通点だけなのだから。

 体が成長している。

 魔法でも不可能な事態を前にそれぞれが止まっている中、真心の笑い声が響く。

 

 「さあ、駄人間。そんな駄柱一つで何をする気だ? 復讐? 無理に決まってんだろう。神と悪魔の申し子ニャルラトテップ相手に手も足も出ないのにか?」

 

 その言葉により、千草は反応しスクナに命じる。

 

 「あいつをやれ。スクナ」

 

 その命に沿ってスクナは攻撃を加えようと腕を振り下ろす。

 

 「よけて!!」

 

 ネギとアスナの叫びを無視して真心は一歩一歩ゆっくりと近づいていく。

 スクナの腕は振り下ろされて真心に当たり、消えていった(・・・・・・)

 

 「うっそやろ、なんで・・・スクナが?」

 「簡単なことですよ。天ヶ崎千草」

 

 宿儺の肩で呆然とつぶやく千草に、翼をだして空を飛んでアーティファクトの効果で気配を遮断し取り返した木乃香を抱きかかえている刹那が答えを示す。

 

 「まー君の血液には魔法陣が描かれている。その効果は単純明快。先ほども言った通りに規定量の血を流すことにより発動する魔法。属性(カテゴリ)は水 種類(パターン)は時間。時間を十年単位で省略しただけ。

 そして今のはスクナの攻撃を自己の時間を停止させ、受けて、スクナの時間をスクナが存在する時間より過去へ巻き戻しただけ」

 

 あまりにも規格外な魔法の効果と使用法に周りは愕然とする中、真心はスクナに触れる距離に来て、

 

 「じゃあな、駄神。次があったらもっと時間を重ねていくことだ」

 

 スクナの時間を数千年前にまで戻し、滅ばした。

 

 「みなさん無事ですか?」

 

 刹那は地面に降り立ち、木乃香を下しながら言う。

 

 「刹那さん。今の翼は」

 

 呆然としたネギがした質問に答えようとし、刹那の左胸を石の杭が貫いた。

 

 

 

 

 

  




今回の題名
災厄 もう読まれたまんまです。

真心が好戦的な性格をしているのには理由がありますがまだ明かされません。
赤い彼女はまだ登場せず。
彼女はもっと後に物語に登場し、物語の根幹をさらしてくれます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十四話

今まで交互に作品を投稿していましたが今回から作品が先に出来上がった作品から投稿します。


第二十四話 偏失 変質

 

 「え?」

 

 誰の声かは分からないが誰かのこぼした声に現実は無慈悲に進んでいく。

 石の杭は確実に刹那の心臓を突き抜けていた。

 

 「そんな! 何で!?」

 

 ネギの声にこたえるかのようにフェイトが現れ、

 

 「悪いけど、彼にはかないそうにないけどせめて従者は葬らせてもらうよ」

 

 それだけ残し、転移しようとして影から出てきた人影に腕をつかまれた。

 

 「まて、小僧。今の私はすこぶる機嫌が悪いんだ。運動の相手ぐらいにはなれ」

 

 金色の髪を翻し、エヴァンジュリンはフェイトを魔力を込め全力で殴り飛ばす。

 

 「真祖の吸血鬼か。ここで戦っても犬死になんでね。ここで失礼するよ」

 

 それだけ言い残しこんどこそ転移した。

 

 「刹那さん、刹那さんしっかり」

 「目を開けてください!」

 

 アスナとネギの声が響く、中木乃香はぽつりとつぶやき真心に詰め寄る。

 

 「せっちゃん・・・

 まー君。お願いや。またあの時のようにせっちゃんを助けて!」

 

 それは純粋な願い。刹那に助かってもらいたいという願い。そしてそのためなら自分の身など気にしないほどの純粋で美しい願いだった。

 だからこそ、真心は自分には決してできないことを行える二人(・・)を助けたいと思えるのだ。

 片方は片方を守り、もう片方はもう片方を想う。自分にはこうなれないことを理解してるがゆえに。

 

 「昔に俺が請け負っていることだろう?」

 

 それだけを真心はいい、刹那に近づく。

 

 「刹那」

 「まー君? またみたい。ごめんね、迷惑かけて」

 「安心しろ。運命は変えられるし、この程度でお前は死なせないさ」

 

 真心は刹那の傷口をふさいでいる石を風化、いや時間軸上から取り除き傷口にあるもの(・・・・)を押し付けた。

 

 「真心さん・・・なんですかそれ」

 

 ネギが怯えた声を上げる。

 なぜならそれは脈動し続けている真心の心臓なのだから(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 それを真心は刹那の駄目になった心臓と取り換える(・・・・・ )

 まるでパンクしたタイヤを取り換えるかのように。

 

 「何をしているんですか!!」

 

 ネギにとってそれは異常としか見えなかった。いや、他の人が見えても異常としか言えないだろう。

 心臓が破れダメになったから他人の心臓を使えばよいなどまっとうな行為とは考えられない。

 

 「大丈夫・・・ですよ。ネギ先生」

 

 刹那の声が先ほどより安定し始めていた。

 

 「私の体の半分近くはまー君の体ですから」

 

 微笑みながら刹那の言った言葉にこの場にいる刹那の体の秘密の一部を知らなかった者たちは驚愕する。 

 

 「どういう意味だ」

 「言葉通りです」

 

 エヴァのもらした言葉に刹那は答える。

 その間にも傷口の中で心臓はつながり大きさを変えて一体化していく。

 真心の体は心臓を取り出した際の怪我が癒え、どろどろと溶け出して元の真心に戻る。

 

 「昔、私が死にかけた時にまー君の血と肉で私の体は生きることができたんです」

 

 かつて刹那は死んだ。厳密に言えば、真心がいなければ確実に死んでた。

 

 「ある件 (・・・)で私の体の半分以上は吹き飛びました。けれどまー君と私の体は相性が良かったんです。だから、こうしてまー君の体を私が使うこともできるんです」

 

 血液を媒介に真心の体の半分を刹那に適合させた。それにより刹那は生きることができている。

 それは真心さえいれば刹那は死ぬことがない(・・・・・・・)という事実でもある。

 

 「ば、かな。そんなことありえん! 治癒魔法ですら半分以上吹き飛んだ部位は治せない。それを治した?」

 

 あまりの内容にエヴァは信じられない。エヴァだけではなくこの場にいるすべての人間が信じられることができなかった。

 

 「せっちゃん!」

 

 だがその程度のことを気にするほど彼女は我慢強くない。

 刹那の傷が真心の血液の作用により完全に修復したのを確認し、木乃香は刹那に飛びつく。

 

 「よかったよ、せっちゃん。生きてくれて」

 

 我慢しきれず木乃香はおえつを漏らし始める。

 答えるように刹那は木乃香を抱きしめて、

 

 「大丈夫や、このちゃん。私はここにいるんよ?」

 

 二人の様子に周りは何も言えなくなってしまう。

 あまりにも異質なその体に嫌悪を覚えた物もいるかもしれなかったがこの二人の様子を見て何か言えるわけがなかった。

 

 「悪いが、少しは現実に戻ってほしい物だな」

 

 真心の声にネギたちは気づき、振り返る。

 

 「関西呪術協会のメンバーとこの事件の主犯を捕まえなければならないから早く後処理をしたいんだが」

 

 そういい、真心はさっさと一人呪術協会へと足を運ぶ。

 

 「お前たちも聞きたいことがあるだろうがそれはまた今度だ」

 

 夜の闇の中太陽は隠れていく。

 一つの秘密が暴かれ、箱が開き始める。

 始まりの物語りの蓋が。

 




今回の題名
偏 これから先段々と物語の比率が偏り始めること
失 刹那の失った普通の感性を指す。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十五話

時間がないのに小説を書いている自分がいる……。

気を取り直して、今回はあれ、今までの設定と違くね。と思われるでしょうがそういう話なんです。
作者が設定を忘れたわけではありません。
過去からの伏線を張り始めました。


 第二十五話 禍根 過去

 

 古い話をしよう。

 これはまだ僕が僕だったころの話だ。

 

 僕は生まれてすぐに捨てられたようだ。施設の人がそう言っていたから間違いないだろう。

 そんな僕だが、何故だか知らないけどほかの子よりも体力などありとあらゆる面はすぐれていた。

 僕は五歳ごろには施設の中だけで遊ぶのが嫌になっていた。だから近くにあった山を登って、遊んでいた。

 そんな時に、僕は彼女たちと会った。

 

 「君だれ?」

 「このちゃん、まって~」

 

 和服を着た子が僕に話しかけて、それを後ろから来た子が見ているという何とも奇妙な光景だっただろう。

 

 「僕? 僕は××××だよ」

 「××? うーん、じゃあ××君だね」

 「どうしてこんなとこにいるん××君は?」

 

 後ろから来た子が僕に質問してきた。だから僕は答えた。

 

 「施設で遊んでいるより、ほかの場所で遊んでいる方が楽しいんだよ」

 「そうなん?」

 「でも、ここ人あんまりいないで?」

 

 これが僕と二人の初めての出合いだった。

 これからも僕は毎日ここまで来て二人と一緒に遊んだ。

 

 「なーせっちゃん。××君って、なんであんなに窮屈そうなんやろ」

 「窮屈? そうなん?」

 「そうやよ。なんかまるでお布団の中にいる人をぎゅうぎゅうと押し付けているみたいなんよ」

 「うーん。ごめんこのちゃん。うちには分からん」

 

 「二人ともおはよう」

 

 二人の話のなかに僕が挨拶して三人で遊ぶ。これが僕たちの間柄だった。

 これが崩れたのは二年後だった。

 

 「おそいな、二人とも」

 

 僕はこのころになると大人くらいの体力があったからここまで来るのも早くなって二人より早く待つようになっていた。

 それでもその日はいつもより二人を長く待っていた。

 この後起きることが僕が覚醒した理由になるとは思わずに。

 

 「助けて、せっちゃん!」

 「このちゃんを離せ!」

 

 二人の叫び声が聞こえ僕はそれが切羽詰まった声だとわかり、声の聞こえたほうへ走っていった。

 そこでは男が木乃香を抱え上げ刹那は化け物によって拘束されていた。

 

 「仕方がない。殺れ」

 

 男の命を受けた化け物はそのまま刹那を片手で持ったままもう片方の腕で殴りつけた。

 まるでパンパンに膨らんだ風船にさらに空気を送ったように刹那の体は半分近くが吹き飛んだ。

 

 「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 木乃香の悲鳴とともに僕の中で何かがかみ合った。

 僕は今の僕のだせる最高速で男に近寄り、

 

 「人喰い(イーティングワン)

 

 吹き飛ばして殺した

 木乃香を抱えそのまま化け物のほうまで行き化け物も全力で殴りつけて殺した。

 

 「せっちゃん! いやや、死んじゃいや!!」

 

 どうすれば刹那を死なせずに済むか、僕はその答えが内側からこぼれたのを感じた。

 その通りにすれば刹那は救われる。それが分かったから実行した。

 僕の腕を自分でねじり切り、その肉と血を刹那の体に埋めていく。

 

 「××君!? ダメや! せっちゃんだけじゃなく××君も死んじゃいやや」

 

 木乃香の叫び声が山に響く中僕の体と刹那の体は癒えていった。

 

 「せっちゃん? ××君? よかったよ。生きててくれて」

 

 木乃香がおえつを漏らして泣き叫ぶ中僕は二人に話す。

 

 「まだ終わっていないよ。まだ犯人はいるはずだよ」

 

 何かがかみ合ったことにより、僕が殺した男の過去が見える。

 この男は実行犯でまだ主犯がいる。

 

 「このままじゃ、木乃香はまた狙われる。刹那もまた殺される」

 

 見えた未来を変えるために僕は二人に話す。

 

 「二人はここにいて、二人()守ってあげるから」

 

 それだけ残し、僕は山を駆け上る。

 見えた過去と未来で知った関西呪術協会の本部へと。

 

 

 

 

 血の海と化した部屋で返り血を浴びずに僕は一人でたたずんでいる。

 これから先の未来を、僕がどうしようもなく最悪だということを理解したがゆえに。

 見えた未来が最悪であり、最低である。そうならないためにも僕はこの地を離れないといけない。

 そう考えていると、

 

 「何事だ!」

 

 衛兵が騒ぎを聞きつけここまで来たのだろう。

 丁度良い。

 手ごまになってもらおう。

 

 「これは!」

 

 驚いている衛兵に想操術で洗脳する。

 洗脳内容は普段は普通に生活して、これから先に刹那と木乃香が危険に陥らないように裏から手を回させるように木乃香の父親である詠春。つまりは長に進言させるように洗脳する。

 ここでするべき事は終わった。二人のところへ戻ろう。

 

 

 

 二人のところへ戻ったがいまだに二人は泣き続けていて抱き合っていた。

 

 「二人とも、これからいうことをよく聞いてくれ。

 僕はもうここにはこれない。僕のことを知っている者がここにいる限り僕がここに来ると二人に危険が迫るから」

 「なんで、いや。離れたくないよ。 ××君」

 「うちらなら大丈夫やよ?」

 

 二人ともこんな僕のために身を危険にすることはない。そう思い二人に話を進める。

 

 「だめだ。僕のことを覚えている人間がこの山に二人以外にいるのならそれは避けようもなくどうしようもない最悪が訪れる」

 「何で? そんなことないよ。最悪なんてこんよ」

 「この地が裏の世界に関わっている限りここに僕の跡を残すわけにはいかないんだ。詠春さん以外の記憶はすでにいじくった。この山にいるすべての人間はもうすでに僕のことを忘れている。詠春さんだってすぐに忘れるだろう」

 「だったら、ここにいても」

 「だめだよ。明日までには僕はここから離れないといけないんだ。離れないためには完全に僕の記憶を二人以外の人間から忘れさせないといけないからね」

 

 僕の言葉に木乃香は考え込む。けれどこれ以外方法はない。この方法で初めて最悪は訪れないようにできる。

 

 「だったら、お父様の記憶も消して」

 

 その言葉に僕は驚いた。

 木乃香の瞳が何を言ったのか理解して覚悟していたからだ。

 

 「だめだ、それは」

 「良いじゃないか。

 そいつは覚悟してるんだろう? なら、請け負ってやりな」

 

 突然響く声に僕は振り向く。

 そこには赤いスーツを着た女が立っていた。

 

 「つーかお前はうじうじ悩みすぎなんだよ。

 ああ! それでもあたしと同類か? 

 そんくらい請け負ってみろってんだ」

 

 赤い女性がいった事はめちゃくちゃだった。だから僕は思った。

 そんな無茶苦茶な。そんな簡単なことじゃ、と。

 

 「簡単なことだろう。

 ただ、お前は怖いだけだろうが。背負うのが、請け負うのが。

 いいか、最悪だか何だか知らんがそんなもん壊しゃ良い。

 お前たちのような運命にもてあそばれる存在だからこそハッピーになんなきゃいけなんだよ」

 「そうや、うちらは離れたくない。離れるくらいなら死んだ方がましや」

 「ほら見ろ。てめーの価値観人に押し付けてんじゃねーぞ。

 友達がいなくなる悲しみを味あわせるんじゃねーよ」

 

 そうして、彼女は僕の額に一発凸ピンをして忘れられないほどの存在感を振りまき去っていった。

 この後僕は、詠春さんに脳内干渉を使い記憶をいじり、僕を忘れさせた。

 僕は力を一切使わず、普通の人と変わらない力だけで、二人と過ごした。

 あの最悪に会うまでは。




今回の題名
今回は非常に分かり易いと思うのでなしとします。
いや、書けよこの馬鹿という方は質問してくだされば書きます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十六話

第二十六話 怪傑 解決

 

 あれから真心は天ヶ崎千草や、彼女を秘密裏に支援していた重鎮たちを捕縛して呪術協会の牢の中に入れた。千草は途中で捕まえたが、重鎮たちは初日の野暮用で捕まえた者たちだ。

 彼らを牢の中に入れた真心はそのままとある場所へ向かう。

 そこで待っていたのは

 

 「よお、久しぶりだな」

 

 赤い彼女だった。

 

 「久しぶりだな。哀川」

 「あたしの苗字だけではなく呼び捨てとはいい度胸だな」

 

 人類最終に相対してなお不敵に笑う。

 赤い彼女はその笑みをさらに深くし、

 

 「まあ、お前があのことを請け負うなんてな」

 「請け負えといったのはどこのどいつだ」

 

 最終も笑う。嘲笑う。

 

 「はっ! 選択したのはてめえだろう。責任を押し付けんなよ。あたしたちは請け負えばいいんだよ」

 「それ以外の選択をさせないようにした人間の言うことかね」

 「良いんだよ。ああでもしなきゃお前はあのまま孤独につぶれていただろうが」

 

 二人は闇の中いつまでも笑い続ける。

 

 「げらげらげらげらげらげふぉげっほ」

 「あっ、せき込んだ。まー君せき込んだ(幼い木乃香の声)」

 「うるせえ。っていうか木乃香の声を使うのやめろ」

 

 恥ずかしいそうに顔を真っ赤にした真心が叫び、

 

 「じゃーな、まーたん。

 それと良い情報だ。クソ親父がまたなんか企んでいるみたいだぞ」

 

 赤い彼女は森の中に消えていった。

 

 「あー、畜生。借り作っちまった」

 

 

 

 

 

 真心は赤い彼女と対談の後、呪術協会へと戻らずに旅館へ帰りネギたちの帰りを待っている。

 

 「よう、遅かったな」

 「遅かったなではないわ。協会ではなくこちらに戻っているとはどういうことだ!」

 

エヴァが真心に対して怒鳴りつけほかのメンバーもそれにうなずく。

 

 「誰も協会で待つとは言っていないだろう?」

 

 確かに真心はそんなことは言っていない。

 

 「もういい。さあ、お前の魔法を話してもらうぞ」

 

 エヴァはそんな真心の様子を見て、何を言っても無駄だと悟り先に進めようとする。

 

 「さあ?」

 「貴様ふざけてるのか?」

 

 真心の回答にエヴァは静かに殺気を放ち始める。

 

 「言葉通りさ。知らない間に俺は魔法が使えるようになったのさ」

 「そんなことありうるわけがないだろう! 魔法は式だ。法則を理解せずあんなことができるはずがないだろう!!」

 

 エヴァの言った通りに魔法は始動キーで精霊と簡易的な契約を結び、呪文で何をさせるか指定し、魔力を流すことで発動させる。このうち真心は言ってしまえば魔力を流しただけで魔法を使っているも同然なのだ。

 だからこそその異常な魔法が認められない。それはつまり術式を作ることすら必要がないということ。そうエヴァは判断したからここまで激昂する。

 

 「それができるのならもはやそいつは人間とは言わん! 神というのだ!!」

 「だから言っただろう俺は“神と悪魔の申し子 ニャルラトテップ”と」

 

 そこまで言うと真心は立ち上がり、部屋へ戻っていく。

 

 「お前では永遠に届かないよ。エヴァンジュリン」

 

 真心はそれだけを言い残し、この修学旅行中もう二度と魔法について話さなかった。

 

 

 

 

 

 「護衛に関しての依頼は完了したぞ、近衛門」

 

 修学旅行が終わったため、真心はクライアントに報告しに学園長室へ尋ねた。

 

 「うむ、すまん。それとおぬしに頼まれていたことの調査じゃが」

 「どうだったかあててやろう。何もわからなかっただろう?」

 「その通りじゃ。古いつてで関西の中枢にすら調べたが不明じゃ。

 なぜ、天ヶ崎千草がリョウメンスクナノカミを模造した式を知っていたかもな」

 

 飛騨の大鬼神。

 それは神話にすら登場する存在。のちの世でゆがめられた情報もあるがその存在が高々600年程度生きた吸血鬼の一撃など本来通るわけがない。本来の宿儺はいまだ飛騨のとある場所で厳重に封印されている。

 

 「それを知っているのは本当に限られたものだけじゃ。なぜなら、この地の神や鬼をおこすのは危険すぎる。日本という土地では古いものほど力を増していくからの」

 

 だからこそ、関西呪術協会は宿儺をまねた式を過去に作り上げた。大江山に存在するかつて封印することに成功した最強の鬼が復活した際の足止めとするための切り札として。

 宿儺をまねることにより、本来の性能よりはるかにすぐれた式となったスクナは封印が解けた際の時間稼ぎとして呪術協会の暗部に伝わっている。

 

 「いくら木乃香の魔力でも神と比べれば一厘ほどの魔力にはならん。式神だからこそ起こして操ることができた」

 「それを実行するには情報が必要だ。木乃香の魔力で式を動かせるという情報がな。式のことを千草に教えた存在がいるはずだ。

 千草はバカではない。本物のスクナを自身では制御できないと知っていた。しかし、式なら別だと考え教えられたそちらを利用しようとした。」

 

 これが真心がスクナのことを駄柱と呼び、あれほど簡単に倒した理由だ。

 本当の宿儺なら、いくら真心でもそう簡単に消失させられなかっただろう。

 

 ここまで情報を合わせていた真心だがもう必要な情報はないと判断し、立ち上がる。

 

 「こちらからも関西呪術協会には忠告するがしっぽをつかめんかったんじゃ。おそらくは無意味じゃろうな」

 「無意味だな」

 

 真心は学園長を出てから先ほど近衛門に返した言葉につなげる言葉を吐く

 

 「最悪の狐相手ではな」 




今回の題名
怪 いまだかげでなにかが蠢いている様子。
傑 こちらは本当に万葉仮名。つまりはただのごろ合わせ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十七話

第二十七話 純毘 準備

 

 「木乃香、真心先生がよんでるよ」

 

 アスナが言った言葉に木乃香は立ち上がり、急いで自身の身だしなみを確認する。

 

 「ホンマか?」

 「うん。何か大切な話があるから世界樹広場に来てくれって」

 

 木乃香はそれだけ聞くと、大慌てで化粧をし始める。内心、慌てているため化粧に失敗しそうだが。

 

 「アスナ、もっと早くいってくれへん? そんな大事なこと」

 「ごめんごめん。けど、わざわざ化粧をする必要はないんじゃ?」

 「念のためや」

 

 そのまま木乃香は化粧を終えると、服を選びだし着替える。

 精一杯のおしゃれをして少しでもよく真心にみられるために準備をして、興奮しながら木乃香は出かける。

 

 

 

 世界樹広場にはすでに真心が刹那と一緒に待っていた。

 橙色の髪がたなびくのを木乃香は見上げながら、

 

 「まー君。話って?」

 

 走り寄り、尋ねる。

 真心はそんな木乃香の質問に普段とは違い比較的真面目な顔で答える。

 

 「近衛門に頼まれてな。お前に魔法を教えてくれとな」

 「魔法?」

 「ああ、それと護身術も身につけさせてくれとな」

 

 真心の言った内容に木乃香は疑問に思い聞く。

 

 「魔法を覚えるのは分かるんけど、なんで護身術も?」

 「簡単なことや、このちゃん。

 接近されたら魔法使いは何もできなくなってしまうから接近されたときの対処を覚えなければならないんや」

 「そうだ。特に木乃香は関西呪術協会の長の直結の血縁だ。所有魔力の多さもあって狙われやすくなるだろうからな。いざという時の保険だ」

 

 真心の言った通りに木乃香は危険なのだ。

 関西呪術協会の長の娘。極東一の魔力。

 それらが重なって危険なめに陥りやすい。護衛を用意したとしてもいざというと時は自身の身を守れなければならない。護衛を突破されたら何もできませんじゃ話にはならないし、護衛から放れて会談しなければならない時もある。そんな時襲われたら今の木乃香ではひとたまりもない。

 そのために護衛である刹那と一緒に真心が鍛えるのだ。

 

 

 

 一方そのころネギはエヴァの自宅玄関に張り付いていた。

 

 「エヴァンジュリンさん、弟子にしてください!」

 「ふざけるな!!」

 

 エヴァの住むログハウスの扉が一瞬で閉まる。

 

 「あっ、ちょっと早すぎません!? もう少し考えてください!」

 「いや、仕方ないと思うけど。ネギ」

 

 アスナがこう言ったのにも理由がある。

 

 「だってね。あの時エヴァちゃんをさんざん罠にかけて卑怯に勝ったアンタが頼んでもね」

 「うう。あの時はそれが一番だと思ったんです」

 

 ネギの言ったことはその時を考えれば間違いじゃなかったが現状ではエヴァを怒らせてしまう原因であり、これではいくら頼んでも失敗するようなものだ。

 ネギは思い浮かべる。あの時の戦いを。

 

 

 「よく来たな、ぼーや」

 「エヴァンジュリンさん、あなたが望むように勝負をしましょう。ただし彼女たちは解放してください」

 

 ネギをここまで案内したまき絵たちの解放をネギは望む。

 

 「ふむ、まあいいか。

 いいだろう。こいつらは解放してやろう」

 

 その言葉をエヴァが言うと同時にエヴァが操っていたメンバーが倒れ伏す。

 

 「安心しろ。しばらく眠っているよう命令しただけだ」

 「そうですか。では」

 「ああ、これからの先はぼーやと私との戦いだよ」

 

 二人の間に停滞した、いや緊迫した空気が流れだす。

 

 「いくぞ、リク・ラク・ラ・ラック」

 

 その瞬間ネギは背中を向け逃げ出した。

 

 「っておい! いきなり逃げ出すか!!」

 

 ネギは今ある魔力を最大限に使い、杖を加速させ目的の場所に向かう。

 

 「っち。敵に背を向けるかこの臆病者が!!」

 

 エヴァはそのまま先ほど唱えていた魔法の射手連弾・氷の17矢を放つ。

 それをネギは用意しておいた魔法具の一部防壁関連のものと魔法薬で防ぎながらさらに加速させていく。

 

 「茶々丸! やれ」

 

 エヴァの声と同時に茶々丸が命令に従いネギを追いかける。その速度は速さに優れるネギにすら追いつくほどだ。

 

 「いまだ! カモ君!!」

 

 茶々丸がエヴァから離れ自身に向かってくるのを確認したネギは前もって準備しておいた魔法具を起動させるためにカモへと合図を出す。

 魔法具戒めの矢Ver。単純に言えば戒めの矢と同じ効力を発揮するだけの魔法具だがネギはこれを茶々丸に使用することでエヴァとの隔離を成功させる。

 

 「よっしゃー!! 兄貴の策がはまったぜ!」

 

 ネギは最初から戦わず逃げだすことを考えていた。そうすればプライドの高いエヴァのことだから追いかけ捕まえようとすると考えその際に最も有効的であるが危険性の高い従者と魔法使いの分離を図ったのだ。

 

 「何!? まさか初めからこれを狙って!」

 「遅いです!」

 

 ネギは取り出した転移魔法符を使いエヴァと自身を転移させる。対吸血鬼、対高魔族用結界。さらに中央には銀の十字架と吸血鬼にとって最も危険な白木の杭を結界沿いにぐるりと張り巡らして用意した。

 

 「これは。フハハ、なめていたのは私だったか。確かにぼーやは今できる最大の準備をして私を迎え撃った。油断しその策に乗りここまで操られたのは私だ。ならば、その策私が力ずくに破壊してやろう!!」

 

 地上に降り立ったエヴァに対してネギとカモ、さらにその前にハリセンを構えたアスナが対峙する。莫大な魔力と覇気によるプレッシャーに押しつぶされそうになりながらもネギは歯を食いしばり続ける。

 

 「これで終わりっへぶ!?」

 

 エヴァが一歩踏み出した瞬間にその足場が崩れ落ち中には水があった。

 

 「は!? ちょ、なんで!?」

 「今です! アスナさん」

 「いいのかな? これって」

 

 ネギとアスナが二人そろって落とし穴のふちからどこかから取り出した袋の中身を投入する。ドバドバと音を立てて投入されるのは野菜のネギとにんにくだ。

 ここにあるすべての魔法具に結界は囮だったのだ。ここまで準備されればここで決戦とふつうは考える。だがネギはその心理を利用しかつてエヴァが破れた戦法を利用した。

 

 「これぞ父さん式対エヴァンジュリンさん用落とし穴です」

 「や、やめ。ネギの匂いが、にんにくが」

 「さあ、降参してください! でなければ貯金をはたいて購入したネギとにんにくを更に投入するだけです」

 

 はたから見ればネギの方が悪役だったが結局エヴァは降参し、ネギはエヴァに勝ったのだ。この後エヴァは蛙の子は蛙の意味がよくわかったと言い、このネギとにんにくの匂いが漂う空間から逃げ出した。

 

 

 「やっぱり無理ですかね、あんなことしたんですし」

 「オレっちもさすがにそう思うぜ。いくらなんでもやりすぎたしな」

 「それでもするしかないんです。三顧の礼よろしく頼み込んでみます」

 

 それだけ言うとネギはもう一度エヴァの家に貼り付きお願いし始める。

 結局、エヴァが根負けして弟子になるための試験を受けても良いというまでネギは頼み込んだ。

 

 

 ネギが古との中国拳法の修行を含めてエヴァとの約束であった試験に合格した数日後のこと。

 

 

 「まー君。このちゃんつよーなったはいいんやけど、私より強いってどういうこと?」

 

 落ち込んだ目でどんよりとした空気を醸し出して刹那は真心に問い詰める。

 

 「いや、俺様も予想外なんだ。ここまで才能があったなんて」

 

 そう言っている二人の後ろで木乃香が格闘団体をポンポン投げ飛ばしていた。

 刹那もすでに投げ飛ばされて、ここにいるのだ。

 

 「なんだと!?」

 「くらえ、漢だっへぶ!?」

 「かおるっぶ!?」

 

 今もなお木乃香の手で三人が投げ飛ばされた。

 

 「枷鎖川遠(かさかわおち)

 

 本来は二人組によって繰り出される技だが木乃香はそれを一人だけで繰り出している。

 間違ったかな~と二人は思いながら今の木乃香を止めるために止めに入る。

 

 「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」 

 

 狂気すらみせ人を投げ飛ばし続けている木乃香だったがさすがにアーティファクトを使った刹那と、真心にはかなわなかったようだ。

 

 「いや~や、もっと投げたいんやうちは」

 「いや、このちゃん。そんな子供が遊びたいっていうような言い方やけどしていることは鬼畜やよ?」

 

 刹那のツッコミはむなしく空に響くだけだった。




今回の題名
純 純化していく木乃香の様子です。(反転した精神の一種です)
毘 恐れという意味を含んでおり、その様子に真心ですらわずかに恐れました。

かっこ悪いネギの戦いでした。まともに戦わずに策を練ってはめました。そのため今作のエヴァは原作と比べてネギに対して辛辣です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十八話

今回は皆様がきっとお好きなあの方をイメージしたキャラが出ます。元ネタが何かわかった人はわーいとぜひ言ってみてください。


 第二十八話 抱懐 崩壊

 

 ネギと木乃香が違う師匠相手に修行をし始めていくらかがたった。

 ネギは順調に戦闘方法を確立させ始めてきているが、木乃香はここで足止めしてしまった。

 なんだかんやとはいえネギの中にはある程度の戦闘経験がある。しかし、木乃香にはそんな経験がない。戦闘技術はあってもそれを効率的に使用する方法がないのだ。

 

 「う~ん。どうしてもあの時からせっちゃんを投げれない」

 「このちゃん……、投げられるうちのことも考えて……」

 

 木乃香と刹那は真心が用意した結界内で修行をしている。最初の時は刹那の油断と慢心から木乃香に投げ飛ばされたが木乃香は技量が高いだけでそこまで強いわけではない。そのため、あれから刹那は木乃香に投げ飛ばされるといったことはおきていない。

 

 「このちゃんは戦闘経験がないから体を効率よく動かせないんや。間合いの取り方虚実の入れ方。これだけで戦い方は全然違うんやで? たまにまー君みたいにそんなものをとらなくても戦える人はいるけどこのちゃんはきちんと取らなきゃ戦えへんで」

 「そっか。なんか投げられないと思うたけど、せっちゃんに間合いを外されていたんか」

 「そういうことだ」

 「「まー君」」

 

 二人が話しているなかに真心が現れて二人に話しかける。

 

 「まあ、戦闘経験が圧倒的に足りないのはしょうがない。だからこそすぐに戦闘経験を積ませるために今日はとある道具を用意した」

 

 そういって真心が取り出したのは一つの巻物だ。

 その巻物を木乃香に渡しながら刹那には違う巻物を渡す。

 

 「その二つには人工精霊である俺様がいる。二人にはちょうどいい経験の戦闘相手になるように設定してある。巻物の中ではこの時間の百倍の時間が流れているが、精神が取り込まれるだけだから肉体には何の影響もない。今日から一週間以内で巻物の中にいる俺様を倒せばいい」

 

 それだけ言い残して真心は去っていく。不吉な言葉を言いながら。

 

 「まあ、一週間でクリアできたらそれだけでどんな状況下でも勝てる力はあるがな」

 

 

 「最後の意味ってなんやったんやろ?」 

 「わからへん。けど巻物を開こうか?」

 

 二人は知らない。今まで目を背けてきたことに強制的に向き合わされることを。

 

 

 

 

 刹那と木乃香が巻物を開いた瞬間二人はそれぞれ違う空間に閉じ込められた。

 刹那のいるこの空間は竹林が生い茂る小さい山のようだ。

 

 「ここは?」

 

 刹那はあたりを見回しても特に何もないことを確認するといったん頂上からこの山の地形を確認しようと翼を出そうとするが。

 

 「!? 翼が使えない!?」

 

 しかし、翼が使えない。驚いた刹那は翼以外にも気を使えないかも調べたがこちらも使えなかった。

 

 「どういうことや? 翼も気も封印されたんや?」

 

 刹那は最初の予定に沿い山を登り始めている。翼が使えず気も使えないが身体能力は大人顔負けであるためこの小さい山を登るくらいなら何の問題もない。

 

 「やあ、君が刹那君か。待っていたよ!」

 

 突然竹林が開け、広場があった。そしてそこにいたのは真心だった。いや、体は真心だが普段の真心ならしないような言動をとっている。

 

 「まー君? いや、違うか」

 「正解だよ! 確かに私は想影真心の体を使っているが私は彼の力の一部であり、それ以上でもそれ以下でもない!」

 

 男は大業な振り付けで動く。体は真心であるのだがなぜかその印象は針金のような男という印象がある。違和感から真心とは違うことを認識できた刹那だったがこの男が何をするかわからず、警戒するしかない。

 

 「さて、私の試練は何をしようかね?」

 「試練? 戦うのでは?」

 「うん? それがいいのかい? それでは面白くないだろう。せっかく女子中学生と会えたんだ。殺し、殺されるなんて野暮なことは私はしないよ。それに私は平和主義者なんだ。そんなことはできるだけしたくない」

 

 男の様子から刹那は本心から言っているということを理解し、警戒をとる。それが絶対的な間違いであることに気付かずに。確かに彼は今のところ(・・・・・)は何もしないだろう。だが、今のところはだ。

 

 「君はそういえばなぜこちらへ来たんだい?」

 「まー君が渡した巻物がここへ通じていただけですが?」

 「ふうん。なるほど。ところで君は何か好きなものはあるかい? いや、人でも構わないけれども」

 「好きな……ですか?」

 

 突然男が話した内容に刹那は呆けてしまう。

 自分がここに来た理由を彼は知らないのだろうか。それともただ、ごまかしているのだろうか。

 

 「あの、私がここに来た理由は」

 「ああ、私を倒せばいいんだろう? だけど私は今は戦う気はないからね」

 

 刹那としても戦意のあるものを切れても戦意のないものを切ることはできない。

 そのために、どうすればいいかわからず先ほどから戸惑うばかりだ。

 

 「質問した内容が理解できなかったかな? 君の答えが返ってきていないのだが」

 「あっ、すいません。えっと、私は」

 「いや、もういいよ。

 なんというか君はえらく不安定だ」

 

 刹那は足元が揺れた気がした。

 

 「不安定で負荷式で不可思議だ」

 

 ぐらぐらと視界が揺れる。まるで自分が見透かされるように彼に見られている。

 その視線が怖い。視線だけで人を怖くなったことなど初めてだった。

 

 「質問したことには回答せず、私がもう一度訪ねて始めて考え出したことといい、そのあとの自分の好きなことを回答出来ないこといい、君はどうしようもないほど不安定だ。君ぐらいの年ならむしろ好きなものがいくらでもあげられるはずなんだけどね。きっと君は私がした質問に答えようとしなかったのではなく答えられなかったのではないかい? それをごまかすために無意識的に話を変えようとしたし、言葉が詰まったのではないのかい? 私のいった事があっているのなら君は常に自身を偽る負荷という式を自身にインプットし続けている。そんな不可思議な存在になってしまっているようだが」

 

 やめろ、その先を言うな。それは私が私でいるために必要なものなんだ! そう声を張り上げて叫びたくとも刹那ののどは少しも動いてくれない。自分の体にすら裏切られたかのように(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 「君は本当は全てが嫌いなのではないかい?」

 「ああああああああああああああああああ!!」

 

 刹那は耐えきれなくなり理性を放棄した。そんな様子を彼は見て、

 

 「少し追い詰めすぎたかな? まあ、君の試練。いや、試験の結果発表だ」

 

 

 

 

                    「不合格」

 

 

 

 

 

 刹那は理解できなかったがそれは周りから見れば異常だった。

 スーツから取り出した特殊な形の鋏、和式のナイフをネジで固定したようなもの。そんなもので彼は半狂乱となり、野太刀を振り回す彼女の懐に鼻歌すら歌えそうな余裕を見せ入り込みその鋏を一回閉じただけ。その結果刹那の首は切り落とされていた。

 

 「安心しなさい。ここで死んだとしても問題はない。君が答えを見つけたらここへ来ると良い」

 

 それだけ言うと彼は後ろを振り向きかけ、

 

 「スパッツだと!? 君みたいな子が悪魔の道具を穿いているなんて! ああ、なんと嘆かわしい!!」

 

 変態ということがよくわかる内容を口に出していた。 

 




元ネタは皆さん分かるでしょう。そう変態です。(違う)
二十人目の地獄でした。
今回の題名ですが書く必要ってあるのか疑問に思い始めて書かないことにしました。もし、書いた方がいいという意見が多数来た場合はまた、書きます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十九話

なんか自分でもわかりづらいと思う今回の話、どうか我慢してお読みください。


 第二十九話 積みの密 罪の蜜

 

 刹那がこことは違う巻物で自身の闇と向き合わされているのと同じ時間、木乃香もまた自身と向き合わなければならなかった。

 引きずられ、たどり着いた空間のなかで木乃香は周りを見渡し、状況を把握する。

 正面はガラス張りの入り口があり、後ろには受付がある。綺麗に清掃されたフロアだが、一つだけ普通のビルと違う物があった。床に散らばる人間を模した人形たちだ。

 

 「ここはなんや? ビルん中であってるんよな?」

 「そうです」

 「ひゃあ!?」

 

 突然自分の真後ろから聞こえた声に驚き木乃香は声を上げてしまう。

 振り向いた先にいたのは真心だった。だが、真心がしないようなどこか女性らしさを持っている。

 

 「まー君ちゃうよね? 何もんなんや?」

 「私ですか。私は面影真心の力の一部でそれだけです。私に名前はありません。主が必要ないと判断されたのですから名前などは捨て去るのが奴隷の役目です」

 

 どうやらこの人物は精神が女性のようだ。普段よりわずかに高くなっている声と言い動作自体が女性らしさを醸し出している。

 

 「さて、一応私の試練の内容を説明させていただきます。今から私はビルのとあるところに隠れます。私を見つけ出して投げることができれば合格です」

 

 そう言った彼女(・・)はいきなり目の前から消える。それに木乃香が驚いているとどこかから声が聞こえる。

 

 「いくらでも時間をかけても構いません。どんな方法をとっても構いません。あなたに私は見つけられないでしょうから」

 

 そのままかけられた声がエコーして消えるまで木乃香は動かなかったが消えた瞬間に動き出した。まずはこのフロアから探そうと建物の奥から順々に探し始めるが見当たらない。

 

 「あなたは卑怯です。

 主として奴隷の面倒を見ていない。いえ、主と奴隷の関係を無視しようとしている」

 「うるさい!! 黙っていてくれへんか!!」

 

 イライラしながら木乃香は彼女を探し続けている。彼女を探して数十分になるがいまだに彼女を見つけることができない。先ほどから自分の近くで喋っていることから近くにいることは分かっているのに。だが、何よりも気をイラつかせるのがのが廊下にも転がっている人型の人形だ。

 

 「それは貴方のために死んでいった人達です。貴方の父親が戦場に赴いたせいで関係ない戦いに巻き込まれて死んでいた人。あなたを守るために戦って死んでいた人。あなたに危害を加えようとして死んでいった人」

 「~~~ッ!!」

 

 響いてくる声による言葉の猛毒(・・・・・・)が木乃香の体と精神を蝕んでくる。

 

 「自身のために他者に死ねと言う勇気すらなく、ただ守られ他者を殺していく貴方。自分でも最低だとは思いませんか?」

 

 声が一つ一つ響くほど木乃香の意識はぼんやりとしていく。

 うちのせいでうちのせいでうちのせいで……。

 ゆっくりと彼女の話している内容が分からなくなっていく。

 

 「貴方は次はだれを殺すのでしょうか? あの橙? 違いますね、貴方が殺すのはあの半妖でしょう。目の前で死んでいくのただ見る事しかできないあなたは奴隷の主にふさわしくない」

 

 同じように繰り返される言葉。自身にとって刹那はどういう存在だったのだろう? だんだんとそれすらわからなくなっていく。

 

 「違う……。違う……。違うんや。うちはそんなこと」

 「実際そうしているではないですか。あなたはどれだけの人間を見殺したのでしょうか? あなただけですらそうなんですからあなたの血統はどれだけの悲劇を生みだしたのでしょうか。貴方の血は流血しか巻き起こさない人殺しの血。先祖代々の人殺し」

 

 違う、違う。そうつぶやくことしかできなくなっている木乃香に最後の一言を彼女は耳元でつぶやく(・・・・・・・)

 

 「あなたにとって、あの半妖の命なんかどうでもいいでしょう?」

 「嫌ああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 心を砕かれかけ木乃香は耳を閉じて、目をつぶる。こうすれば現実を見ず、甘い逃避した世界に逃げられるからと。

 けれどもそれは許されない。なぜならそれこそが彼女の罪なのだから(・・・・・・・・・)

 

 「あなたにとって親しい存在は本当はいなかったのでしょう。だからこそ本当は半妖もどうでもいいと考えている。たとえ周りが血の海ですらあなたは普段通りに歌っていられるのでしょう。命という花を摘み、罪という蜜をすすり、暴虐という風を楽しむ。そんなあなたは誰にも守られる価値はない。そんなあなたは死蝶(デッドバタフライ)と言うんでしょうね」

 

 今の今まで木乃香に覚られず、後ろにずっと立っていた彼女は鉄扇を振り上げ木乃香の心臓に強くたたきつける。

 

 「あなたはまず自身の血にまつわる罪を理解しなさい。まずはそこから。目を閉じていれば救ってくれる人はどこにもいないのだから、いい加減自分で周りを見なさい。そして自身の羽で飛ぶことをしなさい」

 

 心臓の止まった木乃香はそのままゆっくりと意識のみがこの場を離れていく。今の木乃香の心のように。




木乃香の扱いがひどすぎるような。一応ヒロインなんですが……。
次回は二人の心をできるだけ描写できればなと思う作者です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十話

スランプです。うまく話が進まない。元からうまく話を進めていたわけではないけど。


 第三十話 意情 異常

 

 荒い息を吐きながら二人は元の空間に倒れこんでいた。

 

 「いや、や。みんといて。うちを」

 「いや、ぶたないで、蹴らんといて」

 

 二人ははっきりとしない意識でうわごとをつぶやき続けていた。過去のトラウマを刺激されたのと、今まで目をそらし続けていたことを認識させられ、心が耐えられなかった。お互いがお互いに負い目を持ってしまい、逃げるようにその場を後にする。

 

 

 

 「どうした!? 刹那!」

 

 寮の自室に帰った刹那だったがその様子に龍宮は驚き、話しかける。

 しかし、今の刹那には答えるほどの余裕はない。幽鬼のような表情でぶつぶつと何かをつぶやき続けるだけだ。

 

 「おい!!」

 

 あまりの様子に龍宮が刹那の肩をつかんだ瞬間、その手が強くがはじかれ、

 

 「こ、来ないで!」

 

 怯えた表情で龍宮から放れ部屋の隅でうずくまり震えだした。あまりにも普段と違う刹那の様子に龍宮は動けなくなる。

 

 「いやや、殴られるのも蹴られるのも。鞭で叩かれるのも。石を投げつけれるのも」

 

 延々とありもしない幻覚にとらわれて、うずくまり身を守ろうとしようとする刹那。龍宮ですらこの状態の刹那をどうすればいいかわからない。一番近い症状は戦場で何度か見たPTSDだが、どこか違うように見える。

 フラッシュバックした記憶に苦しまれているという点では確かにPTSDと同じだが、これはもっと根深いものが原因だと龍宮は思った。

 

 「私が何かしようとしても無駄か」

 

 龍宮は自身では何もできないと判断してとある人物に連絡する。かつて会った事により何度か世話になっている変人だが、その人物が行う医療というものに龍宮は全幅の信頼を置いている。

 

 「ああ、私だ。久しぶりだな、ドクター。……いや、そこまで卑屈になられてもこちらが困る。急患のようなものだ。貴方のてを借りたい。そうか、受けてくれるか」

 

 真心に任せても良かったが龍宮は真心と彼女なら彼女の方が信用でき、人格的にもまだ好ましいと思っている。そのために龍宮は彼女を呼んだのだ。絵本園樹を。

 

 

 

 青白い顔で木乃香は、大量の脂汗を流しながらなんとか自室まで戻ることができた。

 

 「おかえり。木乃香って!! どうしたの一体!!」

 

 アスナは木乃香の様子に何が起きたかさっぱりと分からずに混乱して叫んでしまう。

 

 「アスナ? 悪いんやけど、少し静かにしてくれへんか?」

 「い、いいけど。大丈夫なの、木乃香?」

 

 親友である木乃香の様子に並々ならない何かを感じ取り、アスナは木乃香に問いかける。しかし、木乃香はアスナに心配されたくないのと自身の血が巻き起こし続けてきた惨劇を知られたくなくごまかす。

 

 「大丈夫。アスナはうちのことを心配する暇があったら、勉強せんとあかんよ」

 

 今ある気力でごまかそうとして、周りから見ればバレバレな嘘をつく。

 

 「だめ、木乃香。今の木乃香が嘘をついているのは私でもわかる。いったい何があったの?」

 「いやや、教えたくない」

 

 今までの木乃香は無理していつものように明るい声でしゃべっていたが、この言葉を言った瞬間は何の温かみもなくどこまでも冷淡な声だった。

 

 「っ!!」

 「アスナ、離してくれへんか?」

 

 木乃香の言葉が棘のように刺さり、怯んだアスナは思わず従ってしまう。

 そのまま木乃香はシャワーを浴び食事をとらずにすぐに就寝したがそれまでは一度もアスナと会話もせず、何もいないかのようにふるまった。

 

 「木乃香。どうしたっていうのよ」

 

 なぜ木乃香がこうなったのか。それが分からずにどうすればいいかわからないアスナだったがとにかく木乃香の祖父である近衛門に知らせるべきだと考え、連絡する。

 

 「もしもし、学園長ですか? 私です。アスナです」

 「おお、アスナ君か。一体どうしたんじゃね?」

 「今木乃香が帰ってきたんですけど、様子がおかしくて」

 「様子が?」

 「はい。いつもの木乃香と違って冷たいというか、何というか」

 

 しばらく受話器からは何も聞こえなかったが学園長はアスナに答える。

 

 「木乃香は寮の部屋にいるんじゃな? 今日はそのままでいいじゃろう。しかし、明日になったらわしが呼んでいたと木乃香に伝えてくれんか?」

 「分かりました」

 「うむ。それではお休み」

 

 そのまま、受話器が降ろされてアスナも電話を切る。

 

 「木乃香。本当にどうしたの? 私にも聞かせられない内容なの?」

 

 木乃香は見失い続けている。本当に大切な存在が何かを。それを知っていたのならここまで不安定になることもないというのに。

 彼女たちはまだ気づけない。答えはすでにそこにあるというのに。

  

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十一話

やっぱりスランプです。上手くいかない。


 第三十一話 唱我鵜 疑う

 

 龍宮はとある駐車場である人物を待っている。刹那の治療を受け持ってもらったがその医者は闇医者と呼ばれる人間だ。闇医者だがその腕は確かであり、龍宮も信用している。その性格を除けば。

 

 「来たか」

 

 龍宮の目には一台ウン千万というような超高級車が減速もせず龍宮に突っ込んできたのが見えた(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 「相変わらずだな」

 

 そのままいるとひかれてしまうために龍宮は急いでその場から離れる。離れた瞬間、そこに高級車が一台ぴったりと龍宮が動かなかった場合いた場所に急ブレーキをかけて止まる。自動車から一人の女性が慌てて飛び出して龍宮に駆け寄る。

 

 「ごごご、ごめんなさい。龍宮さん。私ってその、あの間抜けだから」

 「いや、気にしていないよドクター。貴方がそう言う人なのは知っているから」

 「そうだよね。私なんか龍宮さんに見捨てられてもおかしくはないよね」

 

 車から出てきたのは白衣を着た女性だった。そこまでならなにもおかしくはない。白衣の下に水着を着ていなければ。

 

 「うん、そうだよね。だから皆私のことを」

 「落ち着け、ドクター絵本。それより治療が必要な患者がいるのだが?」

 「う、うん。その人は?」

 「寮にいる。今から連れてくるから少し待っていてくれ」

 

 それだけ言い残していったん龍宮は寮へ帰る。刹那を連れてくるためだ。

 

 

 

 「この子ね」

 「そうだ」

 

 狭い車内の中で二人は話し合っている。今刹那は眠らされている。刹那を連れて来ようとしたときに龍宮ですら手が付けられないほど暴れだしたために眠らされたのだ。

 

 「肉体的なけがじゃないわね。おそらくは精神的なもの」

 「そうだ。今の刹那には周り全てが敵に見えているのだろう」

 

 龍宮の推測を混ぜながら詳しい症状を伝える。それを聞いている絵本はしばらく考えながらもすぐに考えをまとめ上げて龍宮に説明する。

 

 「うん。用意した病室についたら一度患者をおこしてどんな具合かをきちんと調べないといけないと思うの。調べた結果によってはそれがどれくらいの傷なのか、そもそもの原因は何か? そういった事を調べないといけないわ」

 

 簡単な説明だが龍宮はそれだけで納得したのか、

 

 「ドクターに任せるさ。治療に関してはドクター以上に信頼できる人間はいないからね」

 「それって、私が治療以外には役立たないっていうこと? そうだよね。私なんか治療しかできないよね」

 

 その場の空気が暗く重たいものになったが丁度絵本が用意した病室についた。そのためにこれ以上あの空気を吸わなくて済むことになり龍宮は安心する。

 

 (それにしてもへたくそな運転は相変わらずだが、何故私がいないと多少はまともな止め方ができるのだ?)

 

 そんなことを考えながら。

 

 

 

 病室では今、刹那が患者が暴れた時用の拘束具でしばりつけて絵本が話を聞いている。気を使えないように龍宮が符を使ってまでしたのだ。

 

 「一枚三十万なんだが。治療が終わったら後で刹那に請求しよう」

 

 そんなことを言いながら龍宮は一人待ち続ける。時間はかかるが絵本ならば確実に刹那の治療ができると信じているからだ。だが、

 

 「きゃああああああああああああああああ!!」

 

 轟音と共に絵本の悲鳴が響く。

 

 「ドクター!?」

 

 龍宮が慌てて部屋に入るとそこでは白い翼を見せながら額から血を流す絵本を見下ろす刹那の姿があった。

 

 「刹那!!」

 「龍宮、お前もか」

 

 刹那は先ほどのように過剰に怯えているわけではない。だが、その精神は大きく変わっていた。無理やり開かれた心の傷に、抉り出されて傷付けられた心。それらが相まって今の刹那は過剰な行動に今は出やすいのだ。

 

 「っく!」

 

 手刀で頸動脈を切り裂こうと刹那が攻撃を加えてきたの龍宮が認識した瞬間に龍宮の体から血が噴き出す。

 

 「な!?」

 

 慌てて血管を抑えるが頸動脈からの出血がその程度で止まるはずがない。今もなお血を流しながら龍宮は驚愕を顔に貼り付けていた。

 

 「バカな。いくらなんでも速すぎる」

 

 龍宮が言った通り刹那の行動は速すぎた。元々刹那は速い攻撃などが得意だがいくらなんでもこれは速すぎた。出血を止めるために符を使い怪我をいやす。

 

 「どこだ?」

 

 龍宮の魔眼ですら捉えきれない程の速度で刹那は病室という密閉空間を走り続ける。それはつまり完全に制御できる程度の速度で走っていることであり、さらに加速することも可能ということだ。

 

 「仕方ない。このままでは私も死ぬだけなのでな。恨むなよ、刹那」

 

 瞳に魔力が集中すると同時に翼が生える。

 

 「全力解放なんて久方ぶりだ」

 

 龍宮は刹那と同じ魔のハーフだ。それも高位の魔との。そのために魔眼という特異な生態部位を持っている。魔族としての力を開放したその状態ならば普段は使えない力も使える。

 

 「そして、今の私は率直に言うとお前より強いぞ?」

 

 瞳でとらえた刹那を腕で薙ぎ払い、壁に叩きつける。

 

 「がぁ!!」

 

 刹那とて強大な力を秘めているが錯乱している今の状態ではまともに使うことができない。

 パンと軽い音が響き、龍宮が持っている銃から白煙が上がり、発砲された。

 

 「ぐぅう」

 「無駄だよ。風属性の拘束弾だ。コストが高すぎるためあまり使わないがその拘束力はかなりのものだ。お前にはほどけんよ」

 

 ゆっくりと刹那に近寄る龍宮だが、龍宮が近づけば近づくほど刹那は暴れだす。

 

 「なあ、刹那。お前は怖いんだろう? 人が、妖怪が。自分と少し違う。ただそれだけで迫害して殺そうとする奴らが。だがな、それでもお前にはお嬢様とやらがいるだろう? お前を拒絶しなかった存在が。お前を受け止めてくれた存在が」

 「黙れ!!」

 「黙らないさ。なあ、刹那。お前は世界で一番不幸なんて思っていないか?」

 「な、なにを?」

 「なあ、迫害されるのがお前だけと思っていないか? お前以外にもよりひどい不幸を背負わされた人間を私は知っている」

 

 刹那から大量の汗が流れていく。

 

 「そう思わないと幼いかったお前は生きていけなかったんだろう」

 「お、お前に何が分かる!! 私のことを知りもしないで」

 「知っているさ。私もハーフだしな。人間からは拒絶され、悪魔たちからは人間ということで嘲笑われていたよ」

 

 刹那と龍宮が迫害されていた理由は似ているが違う。ハーフということだけでなく刹那には白い翼という理由があったからだ。それでも同じような境遇であった人物がいるだけで刹那にとって多少なりとも感情を抑えることができるようになった。

 

 「龍宮」

 「なあ、刹那。確かに人も悪魔も妖怪も私たちのような奴らには敵かもしれない。けれどもな、私たちのような存在でも味方はいるんだよ」

 「……たとえいたとしても私には信じられない」

 「ならば疑えばいい。人間なんてそんなもんだ。常に他者を疑って生きている。ならば私たちも疑えばいい」

 「疑う?」

 「そうだ。結局人は人を疑って疑って疑って初めて信用することができるんだ。今までお前は疑っていなかった。今から疑えばいい」

 

 刹那にとってそれは考えたこともない事だ。桜咲の家に拾われてからそんなことは考えたことがなかった。

 

 「疑う」

 「そうだ。別に人間不信になれと言っているわけではない。お前が目で見て聞いて信用するかどうか決めろ。まあ、ドクターほどになってもらっては困るがな」

 「?」

 「気にしなくていい」

 

 刹那にとって人を疑うなんて信じられないことだった。だがそれは相手を見極めることの放棄と同じだ。だからこそ今まで築き上げてきた人間関係なんて信じられなかった。だが、今言われたことにより刹那は本当の意味で人を信じるということを知ったのだ。

 

 「龍宮。私は今まで勘違いしていたのかもしれない。人を信じれば人は私を傷つけないとそう思っていた。いや、そう思いたかった。幼いころの虐待は私にとって耐えられるものではなかった。だからこそ人として生きる時には他者を信頼、いや、盲目的に信頼することで傷付けようとしてこないと信じたかったんだろう。けれどな、今回の件で私が抱えていた憎しみを、弱さを知った。だからこそ、私は弱くあろうと思う。人を疑う臆病な弱いそれでも、本当に人を信用できる私になる」

 

 それを聞いて龍宮はうっすらと笑い、

 

 「そうか、がんばれよ」

 

 刹那を励ました。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十二話

第三十二話 訣問う 血統 

 

木乃香は今学園長室にいる。アスナの連絡によって木乃香の状態を知った近右衛門によって呼ばれたのだ。

 

 「お爺ちゃん、何の用や?」

 「木乃香」

 

 机に顔を向けていた近右衛門はその顔を上げる。そこにはいつもの好々翁といった顔はなく、近衛という名を継いだ一人の翁がいた。

 

 「木乃香、近衛が怖いか?」

 「……何の事や?」

 「まだまだ甘いのう。返事をするのに遅れすぎじゃ。そうか、木乃香もまた近衛が怖くなったか」

 

 近衛という一族には長い間の歴史が積み重なっている。その中には血塗られた歴史だってある。

 

 「少し昔の話をしようか」

 「? いきなり何やお爺ちゃん」

 「まあ、少しだけ聞いてくれ」

 

 近右衛門は木乃香にとある少年の話をする。かつて近衛の持つ意味を嫌い、そして理解した男の話を。

 

 

 

 あるところに一人の近衛の姓を持つ少年がいた。その少年は家業の陰陽術に類稀なる才能を示して多くの人に賞賛され、喜ばれた。その少年もそれをうれしく思いさらに張り切り修行にはげんだ。

 長い時を経てその少年が青年といってよい年になった時に青年はある本を見つけてしまった。それは近衛の裏の顔だった。多くの政敵を暗殺し、ほかの優秀な一族に呪いを振りまき力を衰えさせて自己の一族をのし上げ続けてきた裏の顔を。

 

 「それを知った青年はのう、怖くなった。自分の一族が。先祖がしてきた罪を」

 

 それを知った青年は誰も信じられなくなり始めた。父も母も祖父も祖母もいつか自分が邪魔になって殺しに来るのではないかとそう思ったから。夜も眠れない日々が続いた。それでもその苦悩はなくなることはなかった。

 そんな青年に一つの吉報が訪れた。関東魔法協会から関西呪術協会への打診があった。その内容はお互いの若い人間をそれぞれの協会へ招き、相互理解を深めるという内容だ。これを聞いたとき関西呪術協会含めて多くの近衛の名を継いだ人間は反対して激怒した。昔から日本を守ってきた関西呪術協会に対して関東魔法協会は後からやってきた新参者に過ぎない。しかし、本国から送られる魔法使いの力と物量で関西呪術協会は力を無理やりそぎ落とされた過去を持っていたからだ。

 

 「そこでな、青年は近衛の中で発言したんじゃ。近衛から離れるために、自分が行って魔法協会を監視して報告する間者になると」

 

 最初は猛反発を受けたが青年は裏で手を回した。それもすべては近衛から離れるために。それほどまでにその青年は近衛が怖かった。結局最終的にはその青年は近衛を離れて関東魔法協会へと向かうことになった。そして、青年はそこで魔法とであった。

 

 「そのころの関西呪術協会は鬱屈した感情の掃き溜めのようなものじゃった。権力の低下と権力にしがみつこうとする人間たちが多く居たから青年は辟易していた」

 

 古い慣習に縛られた呪術協会よりも目新しく、すべてが新鮮で人助けを主眼とした魔法使いにその青年はどんどんのめりこんだ。いつしか呪術を捨てて魔法を選択するほどに。それでも青年は間者としては機能していた。本当に重要なことは流さずそれでも信頼されるようにうまく立ち回って。

 

 「だが、あるときその青年の父が亡くなった。その青年は家督を継がなければならなくなった」

 

 青年は一族を導かなければならなくなった。しかし、青年にとって、近衛はいまだ恐怖の象徴だった。なにより、自分がそんな罪を犯してきた一族から生まれたという事が嫌だった。青年はうぬぼれていたのかもしれない。自分は何でもできるのにかつての一族の出来事まで変える事ができず、汚点として存在するのに。

 

 「その青年は一族を導く義務より自身の技巧を磨くことを優先してしまった」

 

 その結果、近衛は滅びかけた。多くの政敵、関西呪術協会の長の座を狙うほかの一族から狙われた。もしこれが近衛の家長である青年が対策を練っておけば起き無い事であったはずなのに。

 

 「そうしてなその愚かな青年は気づいたんじゃ」

 

 かつての一族が犯してきた罪は自分の一族を守るためでもあったと。決して許されるものではない。しかし、誰かがやらなければならなかったことであると。それを知った青年は近衛をまとめ上げた。政敵からの呪いを防ぎ呪詛返しで反撃し、近衛に手を出すことを許さなかった。

 

 「なにも血を流すことを良しとするわけではない。じゃがな、その時の青年には遠くの他人よりも近くの一族を優先しただけ。それが近衛の長がしてきたこと。まあ、その青年は近衛に手を出すことで何が起きるかをほかの敵に知らせて隠居した。娘に長を譲り、関西呪術協会の唯一の敵対組織に入り長まで上り詰めて今度は関西呪術協会を守り始めた。その当時、関東魔法協会は関西呪術協会を吸収しようとし、侵略してきていたからじゃ」

 

 それから青年は長い間で政治基盤を築き上げて関東魔法協会の理事となり、下を抑えて関西呪術協会を救い続けた。青年はその時にはすでに老人になっており、その老人の功績を知らぬものから呪術協会の裏切り者として恨まれて、昔の顔なじみからは救世主として慕われて。

 

 「じゃがな、どんな言葉でも報われたことはなかった。何故ならその老人は人を殺したからじゃ。近衛を守るために、一族の歴史を継いだことを。

 木乃香、自分の道を行けばいい。今の近衛は木乃香程の魔力を持つ者はいないが優秀な呪術者はたくさんいる。近衛の血の歴史を継ぐ必要はない」

 「お爺ちゃん」

 「じゃがな、せめて近衛の長のしてきたことは否定してやらんでくれ。彼らもまた木乃香のように苦悩して苦しんだ来たのじゃから。人を殺すことを許容したものは近衛の長にはいない。多くの歴代の長の最後はその苦悩によって自決したのじゃ」

 

 近衛の長は最終的には自決で幕を閉じることが多かった。それは罪の意識かそれともほかの事かは分からない。それでも近右衛門は思う。

 

 「それでもの、彼らは自身のしたことを後悔はしていないと儂は思う。必要悪ともいえんようなもんじゃがそれでも近衛には必要なことじゃ。木乃香、血筋に縛られるなよ? 木乃香は木乃香であり、近衛じゃない。それを一緒にしてはならん」

 「……ありがとう、お爺ちゃん」

 「何、若者を導くのは爺にとって生きがいじゃよ。木乃香、今のお前にとってそれを抱えて暮らすのは難しいかもしれんがいつかは抱えなければならんものじゃ。幸いお前には味方がいる。刹那君と一緒のお前ならきっと負けんじゃろう」

 

 

 近右衛門の言葉は木乃香の中で少しだけあの恐怖を弱めてくれた。自分自身の血にこびりつく恐怖を。学園長室を出る木乃香の後姿には先ほどまでの弱弱しさがなくなり、どこまでも突き進める白い翼が見えた。




うう、オリジナルの部分の出来のひどさに嗤うしかない自分が居る。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十三話

時間が掛かって申し訳ありません! 何とか完成しましたので投稿させていただきます。


 第三十三話 見死 剣士

 

 木乃香と刹那はもう一度、あの巻物中に入ろうとしている。期限まではまだ時間がある。だからこそ、もう一度入り、彼らへ挑戦しようとしている。

 

 「それじゃいくで、せっちゃん」 

 「うん。このちゃん」

 

 二人はそれぞれの巻物を手に取り、同時に意識を失い精神体だけを巻物の中に吸収されていく。

 

 

 

 

 「また此処からか」

 

 周りは竹林。そんな中を刹那はあの場所目指して歩いていく。

 

 「やあ、また会ったね!」

 

 真心、いや真心の皮をかぶった何か。それを見ても刹那は落ち着いて彼に話しかけた。

 

 「ええ、また来させてもらいましたが大丈夫ですか?」

 「もちろん! 大歓迎だよ。君みたいな可愛い子ならね。ただし、スパッツだけは歓迎できないけどね」

 

 ゆっくりと彼はそこらの竹を切った出来た薪に火をつけて大きな焚火を作る。その焚火をはさんで刹那は男と反対に座った。

 

 「それにしても前来た時と君は変わったね? ぐらぐらしてみているこちらが不安になるくらい不安定だった君が今ではしっかり安定しているようだけど。疑って本当に信じることを知ったからかね?」

 

 何せ疑わないという事は一種の人形であり、それを人間がするのなら依存になってしまうからね。

 そう言って、彼は朗らかに笑う。

 

 「さて、では試験は追試だけど合格。だけどここでは私の試験は意味が無い。君が臨む試練へと移行しようか」

 

 ゆっくりと橙色のスーツから鋏を取り出す。和式のナイフを鋲で無理やり止めたような奇天烈な鋏を。

 

 「では始めよう」

 

 その鋏を静かに刹那に向けて彼は走り出す。後ろに(・・・)

 

 「!?」

 

 それを予期していなかった刹那はそのために初動が遅れた。そしてその遅れは絶望的だ。すぐに彼の後を追って竹林の中に駆け込んだがすでに辺りには居なくなっていた。

 

 「こっちか」

 

 とはいえ目の前には竹が切られた跡があり彼が逃げて行った方向はすぐにわかる。警戒しながら走って彼を追いかける刹那だが、

 

 「なっ!!?」

 

 ある一点を越えた瞬間先が鋭い竹が勢い良く迫ってきた。

 

 「くっ!!」

 

 迫ってきた竹をその手に持つ野太刀で切る。

 

 「振りづらくて重い!」

 

 そう。此処は竹林。辺りは竹で覆われていてお世辞にも刀を振るう場所ではない。唯の刀ですらそうなるのに野太刀という規格外の長さを誇る刀を満足に振れる訳が無い。振るった刀は加速が足りずに竹を切るどころか何とか狙いをそらす程度に終わってしまうほどだ。

 それでも刹那は追う。この場所にほかの罠が無いとは限らない。すぐさまほかの罠が連動するかもしれないし彼が来て不利な状態で戦う羽目になるかもしれないからだ。

 逃げる彼に追う刹那。圧倒的な不利な状況に居ながらも刹那は冷静さを忘れていない。

 どうやら彼はぐるりと一周していたようだ。先ほどの広場にまで戻ってきた。そして、目の前に彼がいた。

 

 「まあ、あまり罠で削り殺すっていうのは趣味じゃないからね」

 

 そう言って朗らかに笑う彼を無視して刹那は一気に接近する。この広場であるなら十分に刀を振るう事が出来る。横凪に払った一撃はしかし一歩前に出た彼に簡単に止められてしまう。

 

 「やれやれ、少しは考えたらどうだい? 君は人を疑うという事を知ったのだろう? なら流派についても疑うべきだろうに」

 

  簡単に止められた。その事実が刹那を揺さぶる。

 

 「なっ!!?」

 「簡単な事だよ。そもそも君自身の力はそれほど強くないだろうに。気を使えなければこの程度の力しか出ない。遠心力である程度の威力は出る野太刀だけど薙刀と比べればそれほど威力が出るわけじゃない。それにここまで近づいたら野太刀なんて意味が無い」

 

 一歩踏み込まれたせいで的確な場所での斬撃を放つ事が出来なかった。その為刹那の力と不十分な遠心力。それに彼の力とてこの原理で簡単に斬撃を止める事が出来た。

 鋼と鋼がかみ合う嫌な音が響き彼が持つ鋏が刹那の首を貫こうと迫ってくる。しかし、彼女も神鳴流と名乗るのは伊達じゃない。

 

 「神鳴流 雲流掌!」

 

 迫る鋏ではなくその持ち手を掴み合気道のように力を流す。流した力を利用して彼を投げ飛ばす。クルクルと独楽のように飛ばされていく彼はしかし辺りに生えている竹に足を付けてその反動を生かして超接近戦を仕掛ける。

 刹那が使っている野太刀はそもそも馬上で、あるいは馬ごと人を斬るために作られる太刀だ。その為かなりの長さを誇る。それをふるう事が出来るのは戦術的優位性は計り知れない。だが、逆を言えば戦術的優位性は戦術的劣勢に変わる事もある。野太刀の間合いの長さは近づかれれば逆に無用の長物であり足かせにしかなりえない。その点、彼が持っている鋏はそれほどの長さを持たない。大型のナイフよりは長いがそれでも脇差よりかは短いだろう。その為に接近戦でもその間合いを十分に使える。

 

 「くっ!」

 「如何したんだい? この程度では残念ながら私の首は切れないよ?」

 

 余裕綽々と彼は刹那を追い詰めていく。さらに刹那にとって最悪なのは追い込まれていく方角が竹林だという事だ。このままでは防御のために野太刀を振るう事すらできなくなってしまう。

 

 「くぅおおおおおおおお!!」

 

 だからこそ渾身の一撃を放った。普段のように、雷鳴剣を放つように。

 そして、その結果、竹林には鈍い鋼の音が響き渡った。

 りぃぃぃいん、と鳴った音が消え去った後に刹那は己の手元を見て今度こそ思考が止まってしまった。

 

 「当り前の話だがね。|日本刀なんて人を斬ったところで二・三人が限度だよ《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》。|それをああも力づくで鋼にぶつければ曲がるのは当然だろう《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》?」

 

 簡単な話だが刀は消耗品だ。良くある話やゲームのように何時までも振るえるものではない。すぐに折れる。曲がる。キレ味が落ちる。それが普通の刀だ。しかし、神鳴流にはそれが通用しない。気を使えば決して折れず曲がらず鈍らない究極の刀なんていくらでも用意できるからだ。だが、今刹那は一切気を使えない。刀に気を纏わせて威力を上げる事だけではなく刀の強度を上げる事すら敵わない。普段のように咄嗟にはなってしまったからこそ刀は綺麗に曲がってしまった。

 

 「そこまで曲がり切った刀はもう人なんて切れないよ。君にとっての不幸は神鳴流を最強の流派だと思っていたことだよ」

 

 普段から獲物を失う可能性が高くそれを留意しながら戦ってきた人間と、獲物をいつまでも消耗を気にせず使い続けてきた人間。どちらが長く獲物を持たせる事ができるかなんて火を見るよりも明らかだ。

 

 「まあ、ここまで良く持った方だよ。だから少し面白いものを見せてあげる」

 

 そう言いながら彼は鋏を変えていく。根元の鋲を外すと鋏は二振りの和式のナイフへと変わっていく。其れこそが彼が持っていた武器の本来の姿の一つ。彼が持っている武器の一番使いやすい形になっていく。二振りの人を切り裂くためだけに作られた武器に。

 

 「っく!」

 

 刹那はこの時に追い詰められてしまった。自分の武器を完全に破壊されて相手は最後に全力を出してこようとしてきたと刹那は考え、思考を巡らせる。この状態でどうやったら勝てる? ただただそれだけを思考する機械となって判断する。

 そして今の状態を改善するために一つの策を練り行動し始めた。

 

 「なっ!?」

 

 刹那は手に持っていた折れ曲がった夕凪を彼に向けて投げた(・・・)。いきなりの事に驚いた彼は一瞬動きを止めてしまう。この状況で自分の獲物を投げるという愚策。しかし、神鳴流の刹那だからこそこの策はできた。

 一瞬にぶった腕の片方を掴みひねりあげる。筋肉のつき方からどうやっても腕をひねられてしまえば手首から先の力が抜けてしまう。だからこそその片腕にある一振りのナイフを奪い取れる。奪い取ったと同時に彼を蹴り飛ばして間合いを取った刹那に彼は話しかける。

 

 「驚いたね」

 「そうですか? 貴方も知っているでしょうに。神鳴流という流派について」

 

 神鳴流は獲物を選ばない。例え素手だとしても野太刀ほどではないとしても十分すぎるほどに使いこなせる。

 

 「確かにそうだね。神鳴流は全ての武器をある程度使いこなせるように訓練するからね」

 

 だがそれでも目の前の彼は余裕を崩さない。自身の武器の一つを奪われたというのに。

 

 「うふふふ。面白い。私からそれを奪い取るなんて」

 

 笑いながら今までとは比較にならないほどの殺意を発しながら彼はその獲物の間合いにはいるために詰める。刹那もまたその腕の獲物の間合いにはいるために詰め寄り始める。

 一方は軽快な足取りで、しかし慎重に。一方はすり足だが大胆に迫っていく。お互いの間合いが重なった瞬間に二つのナイフが振るわれる。一合、二合、三合。何度もたたきつけ合いそして刹那のナイフが段々と振るわれる速度が遅くなっていく。

 当然の結果だ。女子中学生の刹那とセーブされた力とはいえ人類最終の真心では力の差が大きすぎる。簡単に力負けしない程度には抑えられているとはいえそれでも力の差は存在する。

 

 「あああああああああああ!!!」

 

 だが力が負けたからなんだ。力で負けるのなら速度で勝てば良い。振るうナイフの速度が加速していく。一振りだったものが二振りへと。二振りから三振りへと。

 

 「っと!」

 

 その速度の連撃に彼はナイフを弾かれてしまう。宙をくるくると回転しながら飛んでいくナイフを確認すると同時に刹那はナイフを構えて体全体で刺突する。決して逃がさないために、此処で致命傷を与えるために。

 

 「ふぅ。まだまだ甘いね(・・・・・・・)

 

 確かに胸に突き刺さった。しかしそれは刹那のナイフではない。|彼がいつの間にか手に持っていた鋭くとがった竹槍に《・・・・・・・・・・・・・・・・・・》。

 

 「……え?」

 

 今の今まで彼が隠し続けていた切り札。ナイフの長さと切り落とされた竹。どちらの方が長い? 人が走れる程度に視界を広げるために切り落とされたのなら落とされた竹の長さはかなりのものになる。それをさらに加工すれば即席とはいえ確かに槍となる。

 

 「君は今までの戦いで私が真に頼るのはこの獲物と考えたようだけどそれは残念。私が持っているあの獲物は私が最も不得意とする武器だよ。

 君たち神鳴流は獲物を選ばないなんて謳うけどそれは事実じゃない。現に君たちは野太刀という武器を使う。その時点で君たちは選んでしまっている。最も得意な武器を。だからこそ違う武器を使うことはできても勝てることはできない。簡単な話だろう? |最も得意な武器で勝てない相手に不慣れな武器で勝てるものか《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》?」

 

 アクションゲームで普段とは違うアイテム、装備でボスを倒すことはできるだろうか? もしレベルが全く違っているのなら可能かもしれないが実力差が無い時はそういかない。いくら相性が良くともその武器を使いこなせるだけの経験が無いのだから。

 

 「けれど私は違うよ。私は、まあ本当は違うのだが結果的に普段から私の獲物は不得意な獲物を使うことで実力をキープしている。まあ、簡単に言うと心苦しいのだけど君を騙していたという事だね」

 

 笑みを浮かべながら彼は一振りのナイフを持ち上げて一閃する。

 

 「惜しかったね。非常に惜しい。とはいえその年でここまで戦えれば十分というべきだね」

 

 笑いながら落ちていく刹那の首に話しかける。彼は軽薄そうな笑みを浮かべながら最後に、

 

 「合格だよ。満点とは言えないが合格点は越えていたよ」

 

 




次回は木乃香のリベンジです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十四話

拙い、一か月一本ペースになっています。


 第三十四話 尖刀技術 戦闘技術

 

 刹那が巻物の中で闘っている中木乃香もまたあのビルの中にいた。

 ロビーにも、階段にも、エレベーターにも倒れ伏している人形の群れの中にポツンと唯ひとり木乃香だけが立っていた。いや、それは語弊がある。正確には木乃香には見えないが確かに真心がどこかにいるはずなのだ。

 

 「相変わらず嫌なもんやな」

 「ならば来なければ良いでしょうに」

 

 木乃香の後ろから聞こえる柔らかい声。しかしその柔らかさには温かさは一切ない。

 

 「でもな、此処で逃げたら何にもならんやろう?」

 「ええ。ですが平穏だけは守れますよ」

 

 木乃香はそれを聞いて思わず嗤ってしまっていた。

 

 「平穏? うちの何処にそんなものはあるんや? 関西呪術協会の一人娘。さらに極東最大の魔力の保有者。こんな状態で平穏に暮らせる訳が無いやろう?」

 「そうですね。訂正させていただきます。貴方に平穏は存在しない(・・・・・・・・・・・)。ですがそれでも知らなくても良い事をわざわざ知る必要はないでしょうに」

 「知らなくてはならない事は知らんとあかん」

 

 笑みを一切変えずに木乃香は後ろから聞こえてくる声に反応して返していく。

 

 「それにな、別に嫌なもんやから避ける必要もないんよ?」

 「? それは如何いう意味でしょうか?」

 「簡単な事や。粉砕してしまえば良い。せっちゃんを、関西呪術協会の人間を利用して嫌なものも壁となるものもすべて破壊してしまえば良い。違うか?」

 「……随分と過激な考えですね」

 「過激で悪いんか? そもそも裏の世界はそういった世界や。どうしようもなく暴力でしか解決できない世界。人間では何をしたとしてもどうしようもなく変わらない世界。そう言った世界に生きるんやから」

 

 妖艶な笑いを見せながら木乃香は一直線にとある場所を目指して進んでいく。

 その歩みは一切のよどみが無く、しっかりとした足取りだ。

 

 「そういえば、この人形たちは私の一族の罪の証と言っていたよね?」

 「……それが如何かしましたか?」

 「よくよく考えれば可笑しくないんちゃう?

 幾ら私たちの一族が古くからあるからって、こんな高層ビルを埋め尽くすほどの人形の数を殺せるはずがないんよ」

 「まあ、そうですね」

 「あの人形は私を精神的に追い詰めるために用意したんやろうけど、それだけじゃあの数の説明がつかん。おそらくあれだけの数が無ければならなかったんやろう。だとしたら、何故?」

 

 疑問風に聞いているが木乃香は確信している。何故此処まで人形が用意されているかを。

 

 「此処で複雑に考える必要は一切ないよね。簡潔に考えるとこれだけの数が必要だったという事や。じゃあ、なぜそこまで必要だったんか? 人形が何らかの役割を果たしているからやろ。それが何の役割かは知らん。多分推測になるけどこの人形は催眠をするんやろうね。そこに居るのにいないように見せる。もしくはいないのにいるかのように見せる。違うか」

 「……非常に惜しいです。本質的には違いますが人形が必要なという一点は正しいです」

 「教えてくれるんか」

 「知られても困りませんのでね」

 

 こくりと頷いた木乃香はとある部屋の前で足を止めた。その先にあるのはシェルターだ。

 ふつうこんなものはビルの中にはない。必要性が一切ないからだ。しかし、この建物は用意されている。なぜなら、此処は普通のビルではないから。

 

 「なら、この人形がなくなれば戦力は低くなる。違うんか?」

 「さあ、そこまでは答える必要はないでしょう」

 「ほうか。少し話が変わるんやけど、此処は精神世界なんやって?」

 「ええ」

 「お祖父ちゃんが言うてたんやけど、こういった世界は本来の実力より強い力も使えるんやって。なら、私も普段は使えない力だって使える」

 「まさか!」

 「そう。この建物ごと焼き払う事(・・・・・・・・・・・)だって可能や(・・・・・・)

 

  莫大な魔力が木乃香を覆う。本来なら木乃香の魔法は治癒に向いていて攻撃魔法などは不得意だ。だが、此処では違う。その身にある莫大な魔力を利用してそのまま攻撃魔法に利用した。

 

 「燃え尽きろ、人形ごと!」

 

 建物が一瞬で紅蓮の炎に包まれる。その炎は木乃香が操作したシェルターの中以外を燃やし尽くしていく。

 

 「初めましてやな。こうやって対面するのは」

 「貴方がそんな無茶苦茶な手段を取るとは思いませんでした」

 

 木乃香の前には確かに、真心がいた。ただし、その仕草は普段と違って女性らしいしぐさをしているが。

 

 「さて、私の試練は投げ飛ばすことやったな。もう逃げられんよ」

 「確かに逃げられませんね。ですが、逃げられないだけです」

 「えっ?」

 

 木乃香の目には何が起きたかは分からなかった。いや、その行動は達人ですら反応できなかっただろう。体幹を一切ぶらさずに放たれた鉄扇による刺突。それは木乃香には避けられない。

 木乃香の鳩尾に突き刺さり、木乃香の動きを強制的に止めさせる。

 

 「がはぁ!」

 「貴方は弱い。確かに投げ技による接近戦は手に入れられましたが、貴方事態が弱すぎる。それでは私のような相手からしてみれば殺し放題です」

 

 そう言ってふらふらになりながらも立ち上がった木乃香の体に鉄扇を突きつける。

 

 「ほら、これでもう一回死にました。

 魔法使いというのは魔法を万能視しすぎている。例え障壁に守られていたとしても関節技を喰らってしまえば意味はない。殺し方はいくらでもある。例えば、頸椎を折るのに打撃は必要ない。関節を動かないように固定しておいて自重をかけてやれば簡単に折れる。それは魔法で強化していても。急所というものは鍛えられないから急所というもの。魔法での身体強化は強化できない弱点が存在する。そこをついてやれば魔法使いはすぐに死ぬ。

 守りと攻撃。それが魔法使いは余りにもアンバランスすぎる。それは貴方にも当てはまる。ただし貴方の場合はさらに最悪。攻撃力はほんの少し。防御力はなく、更に回復魔法しか素質的に使えない。それが貴方という存在」

 「っつ!」

 「知りなさい。これから先、生き残りたいのなら貴方の弱い部分を知りなさい。そしてその弱い部分を隠しなさい。克服する必要性はない。確かに克服しなければならないかもしれないけど、それはばれなければ弱点じゃない。弱点さえ知られなければ全ての敵は如何にでもなる。

 子曰く、敵を知り、己を知れば百戦して危うからず。それと同じ。戦いは私にとって結局どれだけ相手を観察して情報を得るか。そして、自分の情報を隠せるか。唯それだけの作業」

 

 そこまで言って彼女は木乃香の目の前に近づいてきた。

 彼女の言葉は真実だ。魔法使いは魔法を知っているからこそ、他の技術に無頓着だ。魔法を使えば銃弾が当たっても無事でいられる。だからこそ、武術やその他の技術に対する警戒はしない。そして、本当の強者はそんな魔法使いを簡単に殺せる。

 

 「それではさようなら」

 

 振り上げた腕は振り降ろされて、確実に木乃香の頸椎をたたき折った。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十五話

 第三十五話 厄招 悪魔 

 

 

 

 雨が降り続ける中、四つの影が麻帆良に存在していた。

 それは一つの大きな影と、小さな三つの影に分かれて行動し始めた。

 

 「犬上小太郎君についての監視は、あの子たちに任せて大丈夫だろう。それにしても運命というものもなかなか面白い」

 

 そう大きな影はつぶやいて、地面の下、影の中に潜んでいく。今はまだ準備が整っていないからだ。しかしひとたびその準備が整ったのなら、彼は、いや彼らはその牙をもって襲いかかるだろう。

 

 

 

 

 竹刀袋に真剣を入れた少女、刹那は寮の廊下を歩いていた。

 

 「……何だ? 何かの気配がしたようだが」

 

 だが、彼女は何かが気になり、その歩みを止めて辺りを見回し始めていた。

 そんな彼女に、一人の少女が話しかけた。

 

 「せっちゃん」

 

 そう言って話しかけた少女は、全裸の(・・・)木乃香だった。

 

 「なっ!」

 

 驚いて一瞬動きが止まり、

 

 「切り裂かれていろ、偽物が」

 

 一瞬で近衛木乃香は、桜咲刹那の手によって切り裂かれていた。

 

 「な!?」

 

 切り裂かれた木乃香は、一瞬で水のような液体生物へと変わり逃げ出す。

 

 「報告が違ウ! 桜咲刹那は、近衛木乃香が相手になると冷静じゃなくなるんじゃなかったのカ!?」

 「阿呆。何処の世界に裸で外をうろうろする莫迦がいる。そんな事をこのちゃんがするとでも?」

 

 廊下という狭い空間であるがゆえに、長大な野太刀は使いづらい。そう判断した刹那は懐にしまっておいた小太刀を取り出して抜き放つ。

 

 「斬空剣!」

 「うわ!」

 

 しかし、相性が悪すぎた。刀では水は切れない。その正体がスライムである彼女は、斬撃を受けることなく逃げ切った。

 

 「逃がしたか。このちゃんに警戒するよう伝えておかないと」

 

 刹那は携帯を取り出して連絡したのだが、それは少々遅すぎたようだった。

 

 

 

 

 

 木乃香たちの部屋には、三人の人影が有った。一つは木乃香であり、もう一つは気絶させられた明日菜。最後の一人は背の高い男だった。それはさらに詳しく言うと、長身の、変態という名の紳士だった。

 

 「アスナを攫ってどうするん? この変態?」

 「おや、それは少々、いや非常に失礼というものではないかね。初対面の、しかも私のような老紳士相手に」

 「紳士は初対面の人の部屋に押し入って、少女を攫わんよ」

 

 目の前の男は顎ひげを蓄えた、老紳士風な格好だったが、それが偽の姿であることにすぐに気が付いた木乃香はすぐに戦闘態勢へと入っていた。

 

 「ふむ。それは確かに。いやはや、こんな少女に紳士の心構えを教えてもらえるとは。今の日本の若者も捨てたものではないものだ」

 

 笑いながら、しかし次の瞬間に笑みは消え去り、冷酷な顔になった男性は木乃香に告げる。

 

 「さて、悪いが一緒に来てもらえないかね? 手荒な真似は余り支度はない。今一緒に来てくれるのなら、私は君に手荒な真似をしなくて済む」

 「いややね。そもそもアスナを攫っている時点で、そんな話信用できる訳が無いやろ。それに私の力は貴重やからね。アンタ程度でも気を払わんといかんのよ、なあ、悪魔さん?」

 「何と! 大和撫子かと思えば、そこまでの気の強さ。いや、これこそが真の大和撫子というものか! 私は感動しているよ。しかし、残念だ。素直についてきてくれれば、私もこんなことはしなくて済むのだがな」

 

 悪魔は普通の人間では認識できないほど早く踏み込み、木乃香を気絶させるための拳を放つ。その一撃は喰らえば確実に気を失う程には力が込められていた。

 鳩尾を狙って放たれた拳は、しかしすぐに木乃香の手によって止められた。

 

 「なんと!?」

 「どれだけ力が強くとも、その力の元がずれてしもうたら、まともな力は出んよな?」

 

 悪魔の腕は木乃香の手で捻じられていた。拳を必要以上に曲げられてしまった事で悪魔の力は弱くなり、身体強化魔法を使った木乃香の力でも対抗できる程度させられてしまったのだ。

 

 「明日菜を返してくれへん?」

 「悪いが、それはできないのでね」

 「そうなん? じゃあ、運が悪かったと思ってね」

 

 その言葉と同時に、木乃香は腕をさらに捻じる。その結果は、悪魔が横に自分から飛ぶという結果だ。関節を決めてしまえば、投げるのは子供の筋力でもできる。魔力で強化した今の状態では、なおさら簡単だ。

 

 「うおおおおお!!?」

 

 悲鳴とともに投げ飛ばされた悪魔は、しかし近距離への転移魔法を使って、木乃香の手から逃げ出した。

 

 「恐ろしい御嬢さんだ。私も引くとしよう。あの子たちも失敗したようだからね」

 

 それだけ告げると悪魔はアスナを抱えたまま、壊した扉から逃走していってしまった。

 

 「しもうた! 逃がしてしもうた」

 

 慌てて追いかけようとしたが悪魔は速く、既に木乃香では追いつけないところまで逃げきってしまっている。

 

 「どない仕様?」

 

 その場に座り込み、考えている木乃香に一つの音が聞こえてくる。

 

 「これは、せっちゃんからの電話?」

 

 

 

 

 「じゃあ、お爺ちゃんに連絡しておいてな。私はネギ君たちを探しておくから。心配してくれるん? 大丈夫やよ。あの程度なら私のアーティファクトを使えば(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)いくらでも相手取れるんやから(・・・・・・・・・・・・・・)

 

 木乃香は笑いながら、まだ声が聞こえる携帯を切って準備を始める。

 足首に魔法発動体を装着して、服も動きやすい服に着替えて先ほどから魔力の高まっている場所へと向かっていく。

 

 「変態紳士も、まあ少々痛い目見てもらうんしかないかな? まーくんがいればもっと簡単に話がつくんやろうけど、今はいんしな」

 

 

 

 

 屋外の雨が降りしきる中のコンサート会場で、ネギは京都を逃げ出した狗族の少年と戦っていた。相手は三匹のスライム。それに一体の悪魔。今はスライムたちが傍観して、悪魔と戦っている。

 だが何故だか、放出系の魔法は通用せず、一方的なまでの肉弾戦が行われていた。単純な実力が違いすぎるのだ。 

 

 「悪魔パンチ!」

 「っく!」

 「うわ!」

 

 魔法を主に使ってきた、特にネギにとって、この状態は余りにも不利だ。せめて、せめて魔法が使えれば勝てるかもしれないのだが。

 

 「何か策有るか。ネギ?」

 「……今のところないよ」

 「そうか。じゃあ、戦いながら考えろ」

 「うん」

 

 小太郎とネギの戦い方は、やはり気や魔法を使った戦い方だ。確かに段々と接近戦の方法を手に入れ始めてはいる。しかし、それは付け焼刃でしかない。この練度の相手には到底及ばない。

 

 「やれやれ。君にはがっかりだよ。ネギ君」

 

 そんな時に、悪魔はネギに話しかけてきた。

 

 「君は本気で戦っていない。それが私には残念だ」

 「それは、如何いう?」

 「簡単なことだよ。君は力をふるう際に、誰かの為にと言い訳して力を使う。それではだめだ。力とは己が目的を達成するためのものだ。それを他者の為と言い訳している時点で、君の力は全力を出し切れない」

 

 そう言って、悪魔は拳を止める。

 

 「君は実につまらない。只々力をふるう事に恐怖を覚えているのかね? あの雪の日の恐怖を?」

 

 雪の日。それはネギが心の奥底で怯えている恐怖。力をふるう事に対する恐怖の象徴。悪魔たちが振るった

力によって起きたあの夜の事。それがネギの心の底で、本来の力を出し切らせない。

 そして、悪魔にとってそれはつまらなさ過ぎる。

 

 「ならば、こうして恐怖と対面させるしかないかね?」

 「え?」

 

 ネギの前には、あの時スタンを石に変えた悪魔が素顔をさらしていた。

 ドクリとネギの中で何かがはじけた。

 

   

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十六話

 第三十六話 致死忌 知識

 

 ネギが戦っている中、もう一つの闘いはそこで行われていた。ただし、その成果は芳しくはなかったのだが。

 

 「ダメネ! 水の中で威力が殆どでやしないネ!」

 「如何すればこの水牢を!」

 

 そこはネギと仮契約した生徒たちが、水牢に囚われていた。

 風呂場で襲われたために、裸で囚われてパクティオカードも奪われたために抵抗する事すらできないのだ。

 

 「無駄無駄。私たち特性の水牢はそう簡単に破壊されなイヨ」

 「そんな!!」

 

 抵抗できないがゆえに逃げ出すことも敵わない。そんな状態の彼女たちだが、それでもあきらめずに逃げ道を探っていく。だからだろうか。その声が聞こえたのは。

 

 「よお、お嬢ちゃん。そこから出たいか?」

 「え?」

 「何ダ、お前ハ!!?」

 

 スライムすらも気が付けず、そこに一人の女性が立っていた。紅い、朱い、赤い女性。まるで世界に敵はいないとでもいうように、自信満々に不敵な笑みを溢しながら立っている。

 

 「まあ、良イ。悪いがここで少し眠ってもらうヨ」

 「へぇ、おまえがスライムって言う奴か。面白い体だな」

 

 見られたがゆえに、スライムは彼女を抑えようとした。確かに、彼女はスライムが気が付かないような達人だ。だが、気は使っていない。ならば、負けるはずがない。そう思い込んで、スライムは無謀にも彼女に突っ込んでいってしまった。

 

 「弱いな。さすがスライム!」

 

 だから今、スライムは轟音と共に地面に埋め込まれて気を失ってしまう。

 余りの勢いで叩きつけられたせいで、ダメージはなくとも衝撃が体中を襲い、意識を保てなくなってしまったのだ。

 

 「嘘!!?」

 「凄いネ!」

 「で、お嬢ちゃん達。アタシを雇うかい? 代金はお嬢ちゃんたちの財布の中の全財産だけどね」

 

 かけていたサングラスを外しながら言う彼女に、のどかは叫んでいた。

 

 「お金ならいくらでも払いますから、助けてください!!」

 「良いね、お嬢ちゃん。其れ位の方が助け買いが有るってもんだ」

 

 ザパリと水牢は彼女の素手で引き裂かれ、破壊される。

 解放された少女たちはすぐさま、行動を開始していく。のどかと夕映は瓶に飛びつき、クーフェは千鶴をとらえている水牢を破壊する。

 そして、朝倉はアスナにかけられているペンダントをもぎ取った。

 

 「ちっ!」

 「しまっタ」

 「のどか!」

 「えっと、封魔の瓶!!」

 

 夕映たちは迫りくるスライム残り二体を、封魔の瓶に封印する事に成功した。

 

 「行っけぇええ! ネギ君!」

 

 

 

 

 倒れ伏した悪魔、ヘルマンをこの場にいる全員が取り囲んでいた。

 

 「くっくっく。まさか、赤き征服(オーバーキルレッド)、人類最強の請負人がこの地にいるとはな。もしそうだという事を知っていたのなら、こんな仕事は請け負わなかったのだがな」

 「人類最強の請負人?」

 

 ヘルマンの言った言葉に、疑問を抱いたネギは聞き返したが、その答えはすぐに隣にいる小太郎によって明かされる。

 

 「そんなウソやろう! あれが伝説の赤き征服? 女やないか!」

 「小太郎君知っているの?」

 「知っているのやない。生きた伝説や。噂では赤き征服の名の由来は、赤き翼(アラルブラ)を一人で殲滅したっていう伝説から付いたんや!」

 「嘘!」

 

 ネギの驚きも当然だ。ネギの父がリーダーをしていたグループ、赤き翼はまさしく破格の戦闘能力を所有していた。だからこそ、それを一人で倒しきったという話が信じられない。

 

 「ふむ。まあ、その噂話は私は知らないけどね。しかし、最強が現れたか。ならばあれも動き出すかもしれん。……ネギ君。一つ君に忠告しておこう。何、ただの老婆心だとでも思いたまえ」

 「忠告、ですか?」

 「そうだ。かつて、私が戦闘能力を一切持たない人間に恐怖した時の話だ。あの男は常に探しているはずだ。代替(オルタナティブ)の効かない存在を。そして、それは私から見て、君しかいない。だから、君に一つ忠告するのだ」

 「何故、そんな事を?」

 「ふっはっは! まあ、こんな悪魔がする事など早々信用してもらえないだろうが、それでも理由は簡単だよ。私は君のような若い才能が潰れるのを見るが楽しいとも言ったが、逆に才能が伸びていくのを見るのも楽しいのだ。だから、君にはまだまだ育ってもらわなくてはならない。私がする忠告は、知らなければ、いつしか君事態を滅ぼすかもしれないからな。何せ、アレは最悪なのだから」

 

 そう言うヘルマンの顔は今まで見せた顔のどれよりも真剣だった。

 

 「そうだ。私はその存在と会った瞬間、初めて心の底から勝てないと思わされた。確かに戦えば勝てただろう。だが、アレはもはやそのレベルの話ではない。出会った瞬間私は彼に屈服されかけた。幸い、アレは私に興味を持たなかったが故に助かったのだがね」

 「何や、それ? 弱いのに、負ける?」 

 「ふふ、まだまだ君は若い。だから知らないだけだよ。この世界には戦いという次元が無駄な存在もある。それはかの真祖の姫でも決して到達できない領域。真祖の姫君はまだ、勝てるかもしれないという望みを作り出していたが、アレはそうではない。絶対的な弱者であるがゆえに、誰もが彼の前には屈伏してしまう。あれとは戦わず、逃げる事をお勧めするよ。いや、もしかしたら戦うのではなく、勧誘されるかもしれないが、一言も聞かず逃げたまえ。でないと、君という存在が完全に破壊されてしまう」

 

 ヘルマンがもらす内容に、全ての人間が思わず息をのまずにはいられなかった。別に悲惨な内容であるわけではない。だが、それでも話す内容が辺り一帯を支配しているかのように、いや、実際に支配していたのだ。

 

 「むう! そろそろ限界か。だが、まだ話さなければならないだろう。良いかね、ネギ君。約束してくれ。狐のお面を見たら、逃げてくれ」

 「狐のお面?」

 「そうだ。アレは何時も何故だか知らぬが、狐の面をかぶっている」

 「わ、分かりました。約束します」

 「そうか、それは良かった」

 

 余りに真剣なヘルマンに、ネギは威圧されながらも約束した。

 

 「何せ、アレはもはや人間とは言えん。悪魔である私より、悪魔だ」

 「アンタがさっきから危険視してるやつって結局なにをしようとしているの? さっきからいろいろ言っているけど、そこが分からなきゃ、如何警戒するかもわからないんだけど?」

 「おっと、すまないね。お嬢さん。成程、たしかにそれもそうだ。彼の名前は、西東(さいとう)(たかし)。通称、人類最悪」

 「人類最悪?」

 「そうだ。勘違いしてもらいたくはないが、別に彼が人として最悪な手段をとるからそう名づけられたのではない。唯単純に、彼が人類として最悪の願いを持っているからだ」

 「最悪の願い?」

 「そうだ。君たちが想像している物は、アレの願いと比べれば、はるかにマシだ。何せ彼が望んでいる物は、正真正銘、世界の終りなのだから」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十七話

少し短いですが、投稿します。


 第三十七話 諸日 初日

 麻帆良学園が迫る中、真心とネギは3-Aを監督して、期間内ギリギリという事もなく、学園祭の準備を終わらせた。ネギ一人でも、落ち着いて対処できただろうが、それでも一度暴走したら、なかなか止まらないのが3-Aだ。その為に、見張りの一人として、真心も駆り出されていた。一応、教師としているのだから特に問題はなく、都合も良かったのでその話に乗ったのだ。

 そして今、後悔している。

 

「まー君。さて明日は何処に行くん?」

「何処に行くべきかな? まー君は何か決めてるん?」

 

 何故なら、ある二人の生徒に挟まれて、連行されていたからだ。その様は見ていた人間曰く、食虫植物に絡め取られた虫みたい。

 

「もう、俺様はあきらめた」

 

 そう言った真心の姿は余りにも、小さかった。

 

 

 

 

 学園祭の開催日、真心は二人に引きずられて、いろいろなところを巡っている。最初は占い研究会に。まあ、真心はむしろ完璧な未来予知ができるのだが。お互いの手相を占ったり、占った結果、刹那の余りの運の悪さに皆でドン引きしたり、しかしそれでも楽しんでいた。

 午前中を、占い熱に侵された木乃香の開運方法というものに、時間を取られながらも、三人は混雑する前に昼を取ることに成功した。

 

「あれ、ネギ先生?」

「あ、真心先生に、木乃香さん。それに刹那さんも」

 

 たまたま座った席のそばで、ネギは昼食をとっている。如何やら、手軽に食べられる軽食のようで、そろそろネギの食事は終わりそうだ。

 

「あん? お前、時間を遡ったか?」

「え?」

「い、いやいや! そんな訳ないじゃないですか」

 

 慌てるネギを尻目に、真心はじっとネギを、正しくはネギの周りの空気に漂っていいる時間の歪みを見ているのだ。

 

「お前、俺様の魔法を覚えていないのか?」

「うっ!」

「やっぱり未来から転移したか。それにしても、俺様の魔法以外にそんな事が出来るとはな」

 

 うんうんうなずきながら真心は、更に観察を続けていたのだが、これが気に入らない人間が二人。女性を侍らかしておいて、男を視るとは許すまじ。そう言わんばかりに、木乃香と刹那はその顔を見れるネギを引かせるほどの気を放ち、真心の肩に手を置く。

 

「なあ、せっちゃん。女の子を待たせるような甲斐性無しは如何するべきやと思う?」

「そうやね。やっぱり、調きょ……教育やね」

「あの、そのそれは」

「「なんや、ネギ君?(先生)」

 

 びくりと肩を震わしたネギは、恐ろしいものを見たという顔を変えずに、涙目で真心を見上げる事しかできない。一方、ネギに見られている真心はというと、既に顔は笑みすら浮かべ、ネギへ向けて親指を上げながら、囁いた。

 

「女にだけは気をつけろ。英雄が死ぬのは、大概痴情のもつれだ」

「は、はい」

 

 否定できない自分が何となく嫌になったネギだった。

 

 

 

 

 麻帆良学園の一室に、とある革命(・・)を求める組織が集まっていた。その組織は、魔法を世界にばらすことで、世界を救おうとする集団だ。つまり言い換えれば、現在の世界を破壊しようとしている(・・・・・・・・・・・・・・・・)。だからだろう。この世界で最も危険な存在を引き付けてしまったのは。

 

「ふん。さっさと腹を決める事だな。その程度の覚悟で世界を壊したところで、バックノズルで元の木阿弥になっちまう。やるなら、それこそ本当の意味で世界を壊すつもりでやる事だな」

「世界を壊すつもりは私にはないヨ。貴方のようにはネ」

「ふん。そんなのはどちらも同じだ。お前は今の世界を壊そうとしているのに違いない」

「だとしてもヨ」

 

 くっくっくと低い笑い声が部屋を満たす。愉快そうなその声は、そのまま話を続ける。

 

「なら、彼奴を如何にかする方法を探す事だな。このままだとお前たちは俺の孫(・・・)に駆逐されるだけだぞ?」

「孫?」

「『孫?』、か。ふん。そうだ。お前たちの戦力では、紛い物であっても代替なる朱(橙なる種)には勝てやしない。さあ、如何する?」

 

 男の話していることが自分のするべき事と全く違うはずなのに、それでもまるで魅了の魔法を受けてしまったかのように超は引き寄せられるのを自覚していた。自覚していたのに、それを拒否することもできない。訳の分からない心理状態に陥っていった。

 

「貴方はここでなにをする心算ネ?」

「決まっている。世界を終わらせる」

 




出すつもりはなかったんですけど、なぜかこうなったorz。
狐さんがいたほうがやはり良いですかね?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十八話

第三十八話 狐 最悪

 

 麻帆良祭二日目に、一つのイベントが行われた。そこには多くの力自慢が集い、覇を争っている。各々が鍛え抜いた肉体と、その技術を持って戦い、一番強い者を決めるという単純明快にして、至極簡単な大会が開かれた。これに反応しない格闘団体はいない。ありとあらゆる腕自慢が集まり、大会はその現実離れした技に熱中した。一人の少女を除いて。

 

(ああ、本当に何なんだよ! 有り得ないだろう!? 遠当て? 気? 一体どんなCGだよ!!)

「畜生! 何だよ、こいつらは!!」

 

 その少女は、伊達メガネをかけながらその試合を観戦していた。冷めた視線を送りながら、舞台を見て。他の人達が熱中して、狂乱している中を、独りだけ静かに観戦している。その異常性に気が付かないで(・・・・・・・・・・・・・)

 イラつき、その胸に燻る黒い炎を如何にかしないと。そう考えるほどに、少女、長谷川千雨は追い詰められていた。その所為もあるのだろう。

 

「大丈夫かい、姉ちゃん」

「えっ、ああ、ありがと――」

(うっわ、まじかよ。ついてねぇ)

 

 千雨は周りの熱気に充てられ、そして胸に燻る何かの所為で、少しふら付いてしまった。しかし隣から伸びた腕によって転ぶことはなかった。その腕の主にお礼を言おうとしたのだが、余りの姿にその言葉は途中で止まってしまった。何故なら、その人物は良い年をした成人男性でありながら、狐のお面なんかを被っていたのだから(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「――ございます」

「『ありがとうございます』、か。ふん。しかし中々似合っているな、その眼鏡」

「えっ?」

(ナンパか何かか?)

 

 そう千雨は思った。いきなりそんなこと言われれば、誰だってそう思うだろう。だが、帰ってきた言葉は千雨が予想していた物とは全く違うものだった。

 

「自分の本質を隠すための伊達メガネがな」

「な、なん、で……?」

「『何で』、か。ふん。そんな事が分からないとでも? 眼鏡の度が入っていないのは、レンズを見れば分かる。なら後はかけている理由だが、それ自体は大概決まっているもんだ。本当の自分を隠したい奴。そういう奴が伊達眼鏡をかけているんだよ」

 

 自分が眼鏡をかけている理由を言われて動揺している千雨に、更に男は続ける。

 

「さて、お前さんに声をかけたのはそんなくだらない事が理由じゃない。なあ、お前さん。俺と一緒にこの世界を終わらせないか(・・・・・・・・・・・・)?」

「はぁ!!?」

 

 男が唐突に語った内容に、千雨は目を剥いて驚いた。現実的ではないとしても、世界を支配しようという方がまだ理解できる。しかし、千雨と話している男は、そうではなく世界を終わらせようとしているのだ。

 しかも、初対面の相手にいきなりそんな事を言ってくるのに、驚かずにはいられなかった。

 

「何、簡単な話だ。俺はこの世界の終わりを見てみたい。お前はこの世界から抜け出したい。普通ではなく異常がはびこる世界から」

「何を言って」

「お前は普通でいたいのだろう? ほら、見てみろ」

 

 男が指を出した方向につられて千雨は顔を向けた。その先には、アニメのような戦いが繰り広げられている。現実の光景とはとても思えない。それなのに、大勢の観客は盛り上がり、声を大にして応援している。

 

「異常だな。絶対にこんなことは起きるはずがない。なのに、それが実行されている。お前は常々思っているはずだ。こんな世界間違っている。正しい世界が必要だ」

「ど、どういう意味だよ」

「『どういう意味だよ』、か。ふん。言葉通りだ。何、俺はさっき言った通りに世界を壊したい。その為に人材を集めている。昔の人材はすでに崩壊しちまったのでな。ゆっくりと新しい階段を作ろうと思っていたが、今すぐに必要になったわけだ。その為に急遽スカウトしている訳だ」

「す、スカウト?」

「そうだ。それも普通の奴じゃだめだ。代用品(オルタナティブ)が効くような奴ではなく、それこそ世界を探して、そいつ以外にその性質を保有するものがいないくらいではないと」

「それこそ私をスカウトする理由が分からなくなるぜ。私は只の中学生だぞ? 私を誘うくらいなら、ネギ先生とかはどうなんだ? ネットで話題になっているぜ。悲劇のヒーローって」

 

 それを聞いた狐面の男は、鼻で嗤いながら、落胆したかのような声で千雨に返した。

 

「『悲劇のヒーロー』、か。ふん。その程度なら、いくらでも代わりがいる。それこそ悲劇のヒーローと言葉にできる時点で、過去に同じような存在がいたという証拠だ。そんな存在を態々勧誘する価値はない。だが、お前は違う。普通でありながら(・・・・・・・・)普通ではない(・・・・・・)。本来異常になっていなければならない日常を過ごしておきながら、お前は普通であり続けた。それこそが、俺がお前を欲しい理由だ」

 

 狐の面をかぶった男は、嗤う。それこそがお前が異常である証明だと。お前が普通でありたいという言葉は嘘にしかならず、如何しようもなく価値のない言葉でしかないと。そして、それは余りにも正しすぎた。

 

「ふ、ふざけんな! 何で、何でそんな事言われなくちゃ!」

「言ってしまえば、それがお前だからだよ。不悉迂(ふつう)

「ふ、普通?」

「『普通?』、か。ふん。違う。それではない。お前は何が起きようが(・・・・・・・・・・)不変であり続け(・・・・・・・)悉くすべてから受ける影響を迂回する(・・・・・・・・・・・・・・・・・)。不変であり続けるのは本来不可能だ。それこそ、俺の娘でも、孫でもな。その点からいえば、お前は間違いなく異常な人間だよ。お前というのは物語に関わりながら、物語の外にいる。お前は本当の意味で完成した存在になれる唯一の人間なんだよ。それこそ、人類最終も、人類最強もお前と比べれば価値を見出せないほどに。なあ、人類完結」

 

 それは長谷川千雨という性質を端的に表していた。一人で完結しきった存在。強くもなく、弱くもない。只単に、そういう風に育ってしまった天然ものというだけ。

 

「人工的なあいつ等と違って、真にお前は貴重だ。だから俺はお前が欲しい。俺と一緒に来い。こんなくだらない世界はぶち壊して、終わらせようぜ? 俺に着いてきたら全てがどうでも良くなるくらい、気持ち良いぜ?」

 

 世界がまるで変ったかのように思えた。その言葉を聞いた。ただそれだけでもうどうでも良くなった。只々目の前の男と一緒に行けば、何かが見れるだろう。そんな期待が千雨の中を走り抜けた。

 だが、千雨は

 

「悪いがそれは断らせてもらうぜ」

「何?」

「簡単な事だ。私はある人に助けてもらった。その恩を返さないまでには、何もできやしない。それに私が不悉迂? そりゃ的外れな話だ。私は誰からも影響を受け続けるただの中学生さ」

「『ただの中学生』、か。ふん。振られたか。大人しく引き下がるとしよう。ではな、小娘。縁が《合ったら》、また会おう」

「会う事はないさ。アンタと私はきっと、会うべきじゃない。会うべき存在はきっと違う人だ。……何となくそう思っただけだけど」

 

 千雨はそのまま目の前の光景をぼんやりと眺め、狐面の男は誰にも気が付かれずに会場を後にした。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十九話

 第三十九話 赤と橙 最強と最終

 

 瓦礫の山となった麻帆良の広場に紅い飛沫が飛び散る。

 全く同じ瞬間、二つの腕が真正面から衝突し、その威力にお互いの腕が耐えきれず壊れていく。その腕からは既に情人ならば致死量となるほどの血をたらしている。

 最強と呼ばれる力。最終と呼ばれる力。二つの、概念にまで至った力がお互いを倒すために荒れ狂っているが故の結果だ。

 

「さあ、歯を食いしばりな。愚弟」

「テメエこそな。暴虐姉」

 

 

 

 

 麻帆良祭三日目に、学園は建設史上最大の危機を迎えた。

 生徒の一人である超が機械の大群や鬼神を使い、麻帆良を攻めるという事が学園の関係者にネギから伝えられたのだ。その情報を信じた学園は急遽作戦を練り、学生すら利用してこれに対処することを決定した。

 防衛作戦は魔力だまりを守護し、超が発動する魔法の条件をそろえさせないというものだ。

 しかし、それはあくまでも防衛の策。守っていただけではやられるだけ。攻撃の策もまた準備しなければならない。そこで、白羽の矢が立ったのが真心だ。彼はすぐさま一つの考えをその驚異的な頭脳から弾きだした。

 鬼神を使うには学園結界を落とさなければならない。それには魔法的干渉よりも、科学的干渉をするほうが簡単だ。おそらくは、ハッキングをする事で学園結界を落とすつもりだと考えた。

 そこまでわかった真心は、自身の持つ力によってネットの世界を利用したカウンターを行う事にした。彼の技量ならば、銀河系だろうがそこにネットが有ればすべてを支配できる。だからこその考え。その為の準備に彼は一人になった。

 だから、彼はそれと出会ってしまった。赤い彼女に。

 風がはためき、その赤いスーツの裾を揺らす。その赤は歓喜していた。彼女とともにいられることを。彼女の二つ名であることを。

 人類最強。人類最終と並び立つ、赤き征服。全てを破壊しつくす彼女はシニカルな笑みを浮かべ、軽快に真心に言い放つ。

 

「よお、まー君。初めての姉弟喧嘩でもしようか」

 

 

 

 

 麻帆良防衛大作戦が開始して、ネギたちは動き出した。幾人かの仲間が敵の襲撃によって離ればなれになってしまったが、それでもネギたちは後ろを振り向かずに走り続けていた。もはや今いるのはネギと夕映の二人だけしかいない。足止めをしてくれている仲間たちの為にも、止まる訳にはいかないのだ。

 しかしある地点にたどり着いた時、彼らはそれ以降前に動くことができなかった。たった一人の男が彼らの前をふさいでいたというだけで。

 

「よお。そう慌てなくとも彼奴は逃げやしないぜ?」

 

 狐の面を被った、和服の男性。魔力があるわけではない。だからと言って気を使いこなせるとは到底思えない。それに何より立ち方だけで分かる。彼は弱い。だというのに、まるで世界、いや世界に内包されたものが彼という人間に引きずり込まれるような錯覚を巻き起こす。

 そんな男が広場のど真ん中に立ち、親しそうに話しかけてきた。無視すれば良い。そのはずなのに、ネギと夕映は彼を無視する事が出来なかった。

 

「さて。まあ、まずは自己紹介でもさせてもらおうか。俺は人類最悪、西東天。いや、今はこう言うべきか。想影天と」

 

 唐突に出てきた想影という苗字。そこらに転がっている名前ではない。かなり珍しい苗字だ。だが、そのファミリーネームを持っている人物が、この学園にはいる。

 

「真心さんの、家族?」

 

 無意識のうちに、ネギは構えをほどく。真心の知り合いであるならば、安心だと思い。しかし、それは残念ながら違う。彼以上に危険な人間などは存在しないという事を知らずに。

 

「『家族』、か。ふん。確かに間違ってはいない。しかし、正しくもない。俺と彼奴は足の引っ張り合いをしているだけだ。俺が目的を果たそうとすると、彼奴ら(・・・)は足を引っ張り。俺はあいつらの妨害を妨害して、只目的を果たそうとするだけさ」

 

 ネギの質問に対し、全く見当違いの返しをしながら、彼は楽しそうに笑う。そんな彼がくっくっくと口をゆがませて思わず零れてしまったかのような口調に、ネギは怖気が奔った。

 

「それにしても、なるほど。確かにお前はあの男の息子だ。中々奇妙な縁を持ち得ている。だが、だからと言って俺の敵ほどではない」

「何を?」

「何、ちょとした助言をするだけだ。味方と言ってすらない男を信用するなよ。なあ、少年」

 

 敵。その言葉と今までの男がしてきた態度で判断を下したネギは、構えを取り相手に注意を払う。そして、今自分の味方であり、戦闘能力を持たない夕映に大声で指示をする。彼女を守るために。

 

「夕映さん下がって!」

 

 しかしその叫びに、誰も答えなかった。

 

「夕映さん!? いるのなら返事してください!」

 

 敵と思わしき狐面の男に目を向けているが為、周りの状況をネギは把握できていない。だからこそ、気が付けなかった。今、ネギの近くには男しかいなかったことを。

 

「悪いな。お前以外には興味が無かったんでな。木の実の『空間制作』で、お前だけ招待させてもらったわけさ」

「『空間制作』? いや、それよりも何の為に貴方は僕を?」

「『何の為に、僕を?』、か。ふん。決まっている。お前が本当に俺の敵になれるかどうかを調べるためだ」

 

 これから始まる闘いは、ネギの知るものではない。ネギにとっての戦いとは結果だ。勝つことですべてを丸く収めるというもの。しかし本来戦いというものは究極的に相手を否定するものだ。相手が気に入らないから。今の自分が気に食わない。だからライバルと戦い自分を高める。結局この二つに大別される。だが、目の前の男の理由は違う。彼にとっての闘いは、過程でしかない。勝利も敗北も取り返しのつく失敗でしか。

 だからこそ、ネギはこの男に勝てない。ネギは英雄である。しかし英雄であるからこそ人には勝てない。人類の中で最悪の人間に。

 

  

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十話

 第四十話 狐と子供 子供と子供

 

 麻帆良祭が開かれているために、多くの人が訪れているはずなのに誰もいない麻帆良の地で、二人の人物が対面していた。淡い色合いの和服に奇妙な狐面で顔を隠した細身の男性と、スーツを着た一人の少年。二人は麻帆良という舞台で対峙していた。

 

「それは、どういう意味です?」

「『どういう意味です?』、か。ふん。言葉通りだよ。俺としてはお前という個に一切の期待はしていない。高々縁が少しあるだけだ。何か特別な奇縁をお前が持っているわけでもない。作られた縁なぞ、醜悪なだけだ。だがそんなお前にわざわざ俺が会いに来たのは、お前の父親が父親だからだ」

「父さんが?」

「そうだ。お前の父親とは一度戦った事が有ってな。ふん、決着がつかずに終わってしまったが、アレはアレで面白い素質だった。だが、やはり駄目だった。あの程度では俺の敵としては不十分だ。とはいえ、彼奴自体はかなり惜しいところまでいっていたのも事実。純化した血統ならどうかと思い、こうして俺がお前に会いに来たわけだ」

 

 男が何を言っているかネギには分からなかった。純化した血統? 素質? なによりも、英雄とまで言われた父親が何故駄目だったと言われるのか。何もかもが分からなかった。

 

「とはいえ、それも途中でどうでも良くなったがな」

 

 仮面に隠された男の顔は、間違いなく笑みを浮かべていただろう。実際、人類最悪とまで言われた彼にとって、ネギ・スプリングフィールドは面白くなかった。只父親を目指して進む。他の人間が見れば微笑ましいものは、彼が見れば醜悪な依存にしか見えなかった。自分で生きるという事を諦めて、他者に寄りかかり歩みを手伝ってもらう。寄生して生きているくだらない人間にしか見えなかったのだ。

 だから、興味を失っていた。ネギの生徒を見るまでは。

 あれ程才能の満ちた存在が近くに大勢いる。その縁は、男ですら驚きで目を見張るものだった。失った興味を取り戻すには十分だった。しかし、それだけなら男は今此処に居ない。彼が麻帆良を訪れたのは別に本当の理由があるからだ。

 

「じゃあ、何のために来たんですか?」

「『何のために来たんですか?』、か。ふん。お前は先ほどからそればかりだな。答えを誰かに教わらないと不安か? まあ、いいだろう。別に教えても教えなくても同じことだ。答えてやる。俺は決着がつくところを見に来た。」

「決着?」

「『決着?』、か。ふん。娘と息子のな」

 

 男はどこか誇らしげな声を上げたまま、ある一点を指でさした。ネギが男の指差した方角を見た瞬間、『空間制作』によって作られた世界が崩れた。

 

 

 

 麻帆良で防衛戦に参加して戦っている者も、超を探していた全ての人間も、それを見た。轟音が発生して、建物一つが消えた場所に立っていた二人を。赤い、紅い、朱い女性と、代替であり大題を持った橙を。

 似て非なる色を与えられた二人は、一件の建物を粉砕した場所にいた。

 腕は折れ、脚は捻じ曲がり、歯は欠けて、体の至る所から赤い血を流している橙。そんな状態でも震える体で立ち上がり、折れている腕で赤色に殴り掛かる。そしてそんな橙を無傷(・・)で見下している赤。

 その絶対的なまで隔絶し、隔離した力関係を麻帆良にいるすべての人間は知った。

 

 

 

 

「そんな、莫迦な」

 

 ネギはその光景を信じられなかった。彼にとって、想影真心は絶対的な強者でなければならない存在だった。それが、一方的なまでにボロボロにされているのだ。

 

「ふん、やはりな」

「やはり?」

 

 男が発したその確信を持って告げられた言葉に、ネギは驚きとともに振り返って尋ねてしまう。

 

「簡単な事だ。最強と最終。本来はこの二つがぶつかり合えば最終が勝つだろう。幾ら最強でもあっても、無敵じゃない。しかし、最終は全てにおいての最後。言ってしまえばそれ以上上がいないという無敵だ。だがな、それは彼奴が本来の力を100%引き出せるのならば、の話だ」

「100%?」

「別の言い方で言えば、解放だ。心の底で押さえ続けているものを完全に解放できなければ彼奴は負ける。まあ、俺としてはどっちでも良いが。彼奴が負けようが、勝とうが。どちらが死んでも俺の行動は変わらんし、変えられん」

 

 心の底からどうでもよさそうなその声に、ネギは反感を覚えざるを得なかった。何故自分の家族にそんな感情を持てるのだろうと。

 

「そんな! そんな言い方って! 真心さんと貴方は家族なんでしょう!?」

「『家族なんでしょう!?』か。ふん。下らない。そもそも俺と血がつながっているのは最強の方。つまりは今真心を血だらけにしている方だ。彼奴自体は面白そうだから引き取ったに過ぎない。だがまあ、その器と違い、中身は凡庸だったから失望しているがな」

 

 ふん、とネギも真心も見下し、男は二人の闘っている場へ一切の逡巡する事なく近づいていく。

 

「あっ」

 

 一瞬迷ったネギだが、すぐに男を追いかけた。まだネギは分からない。男の言葉と態度。そして何よりもその思想が。それでも一つ分かった事が、男は超を越える何かだという事。それはここで見逃して良いものではないという事だ。

 

「見ろ。あれが、人類の到達できる限界だ」

 

 魔法も気も使われていないというのに、彼ら二人の近くにある建物は崩れていく。腕が振るわれれば、それは真空を作り出して全てを薙ぎ払い、蹴り合えば衝撃で周りの瓦礫が吹き飛ぶ。その戦いは神話に出てくる戦いとしか思えない。

 何度も何度も彼らはぶつかり合い、橙のみが一方的に傷ついていく。

 

「最強と最終。お互いがぶつかり合えば、間違いなく因果律は崩れていく。お互いがお互いの矛盾だからな」

「矛盾?」

 

 先ほどの男の説明とかけ離れている言葉に、――まさしく矛盾した言葉に、またネギの中で疑問が浮かんでくる。

 

「力のインフレだ。最強であり続けなければならない者と最終であり続けなければならない者。お互いがお互いの力を高め合ってインフレを起こし続ける。それこそ、どこぞのサイヤ人みたくな」

「サイヤ人?」

「何だ、おまえは子供のくせにマンガも読まんのか。人生損するぞ?」

 

 本気でそう心配している男をよそに、事態は進んでいく。二人が移動し始めたのだ。

 進路上にいた鬼神を巻き込んで(・・・・・・・・・・・・・・)

 

「なっ!?」

「中々派手になってきたな。しかし、それもまた一興か」

「貴方は超さんの仲間じゃないんですか!!?」

 

 今までネギは男とその仲間である赤が超の仲間だと思っていた。だが、実際は違う。彼にとって超は都合の良い目くらましでしかなかったし、赤にとってはそもそもそんな話が合ったこと自体知らない。彼女は只単に人類最悪から請負(・・)、喧嘩をしに麻帆良まで来たのだから。

 

「そんなものは同じことだ。結局仲間だろうが敵だろうが世界を滅ばす際には関係がなくなる。それに、元から俺は彼奴らを戦わせるつもりだったんだ。最初から俺は裏切り者さ(・・・・・)。そうそう。彼奴らは因果を捻じ曲げるといったが、正しくは世界を崩壊させる。全てを巻き込んで強制的な変化を巻き起こさせる。その果てこそが世界の崩壊だ。さて、一体どうなるか。これから先は。いや、それも結局は同じことだな。俺は只、世界が滅ぶのを見届けるまで動き続けるだけだ」

 

 楽しそうに男は仮面を取り、ネギにその素顔をさらした。その顔には禍々しい嘲笑が浮かんでいた。

 男にとって、これは待ち続けていたことの一つ。もしかしたらではあるが、それでも世界を崩壊させられるかもしれない方法。その一つの結果がわかるのだから、彼は嗤ったのだ。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十一話

今回は、次回へのつなげです。ですので、キャラクターは登場しません。


第四十一話 最終の理論 最終の限界

 

 

 

 人類最終とはすべてを終えた存在といえるだろうか。確かにありとあらゆる分野で、人類最終を越える成果が出ていない。では、人類最終の行う活動は本当に限界なのだろうか。それを知るためには、人類最終がどういった意図で行動をするか知らなければならないだろう。

 莫大な力には、大きな枷が付く。今日、核兵器は世界的に規制され、制限される。それは核兵器の圧倒的な殲滅力を恐れるが故の措置だ。アメリカの大統領ですら、核兵器発射のボタンなど見たくはないと考えている事だろう。つまり、人類は無意識に大量殺戮、或いは大規模な破壊活動を控えようとする精神構造を持つことになる。

 では、人類最終の精神においてはどうなる。人類最終は人類において最も優れた人間だ。本能的な精神構造が人間である人類最終は、やはり破壊活動や大量殺戮を忌避する性質を所持している推測できる。しかしそうなると、人類最終はその力の大部分を封印する必要が出来てしまう。何故なら人類最終は、個として原子爆弾を越える損害を発生させる事が出来るからだ。

 たとえば、人類最終の眼力をもってすれば、地中の弱い岩盤を探し当てる事が出来るだろう。元々人類最終はそこらの電波すら可視化することも可能だ。地中の岩盤の動きや、そこから発生する様々な反応を見逃すことはないだろう。そして、その岩盤に人類最終の力を加えたらどうなる事か。人類最終の怪力ならば、たとえ地中深くの岩盤であろうと破壊することなど朝飯前だろう。その結果、地震という一つの災害を発生させることもできる。

 しかし、それは先に挙げた精神構造から考えるに、不可能な行動だ。つまり人類最終は無自覚にせよ、自覚せよその力を抑えている。では、そうなると人類最終は一体、内から湧き出る衝動をどのように消費しているのだろうか。人間には自己顕示欲がある。あるいは、そんなものでなくとも、抑圧から心を守るために様々な衝動を作り出す。その中には、特に思春期に強く表れる衝動の中で、破壊衝動がある。ではそれはいつ消費されたというのだろうか。

 少なくとも、私が知っている限り、この地球上で大陸が一つ(・・・・・・・・・・・)消失したという話も聞かないし(・・・・・・・・・・・・・・)多くの生物が絶滅したという話(・・・・・・・・・・・・・・)も聞かない(・・・・・)。すなわち人類最終は、いまだ破壊衝動を発散したことがないという事になる。

 そうなると、問題が生まれる。溜まった衝動はいつしか、器を壊してでも溢れるだす事だろう。許容量を越えたダムが決壊するように、ごく自然と。そうなった場合、どれだけに被害が出る事だろうか。例え、七賢人であっても想定することは不可能だろう。何せ人類の限界など、人類最終以外わからないのだから。

 それでもその被害が少なかったと仮定しよう。それはあり得ない事象ではあるが、それでも奇跡的にそういった過程へと進んだ場合、更に厄介なことになるだろう(・・・・・・・・・・・・・)。一度でも衝動を発散したとしたのなら、その快感は忘れ難いものである。ドラッグに手を出した人間が、ドラッカーになるように、破壊衝動の発散を恒常的に繰り返すようになる可能性もないわけではない。

 だが、現実はいまだ世界は存続し、命の営みを続けている。人類最終はまだ壊れていないという事だ。だがそれは安心できるという事ではない。いつ人類最終が限界を迎えるかは誰にもわからないのだ。目隠しをさせたまま、綱渡りをしている最中でしかない。それは一体どれだけ精神を摩耗させることなのだろうか。少なくとも私はしたいとは思わない。おそらくは、人類最終という精神でなければ、耐えられない事だろう。

 即ち人類最終の行動とは、つまるところその負担を最低限にするという意図の下行われているのではないだろうか。そうであるならば、納得する。幼馴染を必要以上に助けようとするのは、心配や怒りというストレスを無くすためであると考えられる。

 故に、人類最終とはすべてを終えた存在でありながら、すべてから束縛を受ける存在であり、すべてにおいて最終的に負けなければならない存在ではないだろうか。

 となると、人類最終は人類最終たりえない。その前に作られた人類最強こそ、人類最終を凌駕する、人類の終わりではないだろうか。

 

                    ER3 特別講師 想影心視『人類の限界』より引用。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十二話

 第四十一話 法解 崩壊

 

 赤の一撃を受けた橙は、一方的に喰らっていた攻撃の中でもそれが特に効いたのか、膝が崩れ落ちる。俯いた顔からわずかに覗ける瞳には意志が見えず、目の前で起きている事象を理解できているとは到底思えない。それだけの一撃だった。衝撃波後方に伝わり、後ろの壁を粉砕するほどの。

 だとしたらこの二人の周りは何だというのか。赤の一撃の衝撃で、破壊された町並み。それはまだ分かる。では、赤に喰らった攻撃に反射したかのように橙が力任せに逆袈裟に振るった一撃で起こされた破壊痕は一体何だというのか。麻帆良を横断するように抉られた大地の惨状はどう説明を付ければよいのか。魔法ではない。気でもない。只の人間が、たんぱく質の塊が元から持ちうる機能を最大限に発揮した結果。それだけで、これだけの大規模な破壊が行われた。

 

『え?』

 

 誰かが挙げた疑問の声は水が砂にしみこむかのように民衆へと浸透していき、学園結界の効力化であるというのにすべからく皆恐怖に囚われた。彼らの中には気や魔法を無自覚的に使用しているものがいる。だからこそその光景に恐怖した。意識でも無意識でも理解できない圧倒的な力。発揮されるはずのない人間という種が生来持っている力。それは多くの人間が火星人との対決と名を打たれたゲームを放棄して、パニック状態で逃げ出すには十分すぎた。

 それは恐ろしかったから。怖くておっかなくおどろおどろしく気味が悪く鬼気迫る何かを感じてしまったから。立ち尽くす橙の陰に。その顔には何もない。喜怒哀楽すら。その顔をかたどっていたのは、純粋な欲望という本能だった。全ての理性がシャットダウンされた今、その理性が押さえつけていたものがあふれ出すというのは至極当たり前だ。その結果がこうなってしまった(・・・・・・・・・)。それだけなのだ。

 今の人類最終は、こう呼ばれるにふさわしい。人類最襲と。破壊するという行為に納得いくまで止まらない怪物に。今まで人類最強に押され続けていたその怪物が、始めて人類最強へと足を踏み出した。たった一歩で彼女の全ての攻撃を、空間を殺すかのように放たれた幾百の攻撃を掻い潜り、その懐に立っていた。

 

「っと」

 

 人類最強が軽やかに、バレリーナが躍るように避けた後ろ側は、更地が広がった。只腕を横に薙ぎ払った。それだけで全てが吹き飛ばされた。残骸も残されないほどに、全ては壊れた。機械も建物も道具も、そして生物も。

 始まった。世界の崩壊が。人類の頂点は誰かという決着をつける戦いであり、世界の終焉を決定づけるかもしれない究極にして至高の戦いが。いやそれは戦いといえるのかも分からない。

 

「は! やりゃあ出来るじゃないか!! アタシがしたかったのは、こういった戦いだよ。悟空とピッコロがするようなね。手加減なんかなくて、全力を出し切って思いを叩き付ける戦いを」

 

 赤はこともなげに言う。今相手をしているのがもはや人類最終と呼べるものではなく、もはや害しか残されていない残骸であっても。それでいいと、形を取り繕ったものよりも、本当の内側をさらけ出して戦う方が気持ちが良いのだ。

 しかしそれはあくまで赤の考え。周りはたまったものではない。被害を受けるのはかれらなのだ。一度でも壊れたものは戻らない。それがどれほど尊く、壊れてはならないものでも。命というもっとも大切なものですら。

 橙はもはや修復不可能。破壊の権化と化した。もはや止まる事はない。止まるという機能がない。

 

「くっくっく。良い具合じゃないか。器がどれほど駄目でも、中身が立派ならばこれくらいはできるのか」

 

 耳障りに嗤う男の声は、廃墟となる運命が決まった麻帆良に空しく響き、轟音にかき消される。人類最強と人類最終が衝突した音で。

 突風という言葉が優しく感じられるほどの暴風が吹き、軽々と近くに有った路面電車が浮き上がり吹き飛ばされる。それを尻目に、狐の男は楽しそうに目の前で繰り広げられる喧嘩(・・)を見る。傍らにいたネギに至ってはあまりの殺意、いや殺意ではない。只の破壊願望の切先が僅かにちらついた程度で、もはや立つ事すらできず、気を失う寸前までになっている。

 それが普通なのだ。化け物と怪物。それらの衝突が人間に耐えられるはずがない。たとえ英雄といわれる存在でも、この二つには耐えきれまい。むしろ耐えきれている狐が異常なだけなのだ。

 

「おっと」

 

 わずかに赤がたたらを踏み、足が一歩分下がった。後ろに下がったそれは、橙と赤の衝突で初めての事だった。そして一度下がった分、赤は不利になる。戦いの勢いを奪われたのだから。

 橙はその本来の性能を完全に発揮して、怒涛の攻撃を繰り広げる。元々経験差と抑えられていたがゆえに生まれた能力差で圧倒されていた橙であるが、本来の性能ならば赤の経験をも凌駕するだけのキャパシティはある。解放された人類最終は、人類最強を寄せ付けない。

 

 

 

 

「「まー君?」」

 

 だからこそ木乃香と刹那は信じられなかった。そこに居る存在(・・)が人類最終想影真心だという事を。破壊の獣と化した想影真心を、悲しそうに顔を歪めて、刹那と木乃香は世界樹の真下で見つめていた。今の今までパニックを起こした群衆に押し流されて、ようやく止まれた場所がここだったのだ。未だ周りには逃げ道を探して人々が走り回り、罵倒が飛び交い、叫び声が上がり続けている。これが本当に麻帆良なのかと疑ってしまう程の光景に、しかし二人は膝を屈することはなかった。

 どれだけ信じられない光景でも、現実に起きている。それを否定して逃避するような莫迦なことはしない。彼女たちとて、未来を変えようと動いているのだ。止まる訳にはいかない。たとえ怖くても救いたい人がいる。ならば動くしかない。未来は変えられる。その希望を最期まで信じ。

 

「せっちゃん」

「うん。このちゃん」

 

 親友同士の共感だろうか、二人は視線を交わすだけでお互いの言いたい事を理解して、叶えようと動き出す。刹那の背中からは白い大きな翼が広がり、木乃香はそれを見るよりも早く刹那の腹に抱き着く形でしがみ付く。昔ならまだしも、ある程度鍛えた今となっては、木乃香でもこの程度簡単だ。

 

「しっかり捕まって」

「わかっとる」

 

 吹き溢れる暴風の発生源へと、二人は飛び込んでいた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

幕間

 幕間 麻帆良嶽煙 麻帆良学園

 

 麻帆良学園全域にて、超が用意した侵略軍からの侵略を阻止しようとしている魔法使いたちは、それに気がつけなかった。鬼神という規格外なものまでも持ち出され、その対処に忙しかったこともある。マシーンによる多量攻撃を仕掛けられ、処理能力をオーバーしていたということもあるだろう。

 各人が死力を振り絞り続けていたのだから、地上で起きている民衆のパニックなど気がつくはずがない。幾人かの魔法使いはそれでも気がついたのだが、それを周りに理解させるのは困難だった。

 呪文詠唱中の魔法使いたちの多くは、意識をそちらに割いており、他のことまで回らない。それは味方の合図でもそうだ。鬼神を止めるための呪文はほかに気を取られて行使できるほど簡単ではない。魔法教師たちは呪文を唱え続けるばかりで、ちっとも現状の認識は進められない。そう言った面では、魔法生徒の方がまだ現状をよく理解していただろう。パニック状態の一般人を落ち着かせようと、あるいは守ろうと孤軍奮闘していた。

 ただ、いくらそれぞれが頑張っているとしても、それは個人戦だ。戦略的な戦いをする必要があるというのに、連携が分断され、事態の判断もおぼつかなくなった時点で、彼ら魔法使いは敗北したも同然だった。だから止められなかった。麻帆良という地が壊れていくのを。

 彼らは一つ間違いを犯していた。本当に止めるべきは超ではなかった。超など、この麻帆良にとうにいないのだから(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 すべては麻帆良祭二日目の夜に起きた出来事だった。超が魔法教師の集団から逃げ延び、三日目の最後における準備をしていた時だ。彼女は麻帆良工科学部の所有する実験棟ではなく、誰にも知らせずひそかに作った、麻帆良の住民街にある隠れ家にいた。

 

「とうとう明日で終わる」

 

 キィキィと作業用の安っぽい椅子が軋む。超の目の前には幾つものディスプレイが並んでいる。椅子と机に幾つかのパソコン。それに繋がるケーブルや外部機器など、生活感が一切ない部屋だった。

 いくつか並べられたディスプレイには、非常に複雑な演算式があとからあとへとスクロールして、計算した結果を表示する。それは彼女の作戦がうまくいっている証明でもあった。あとわずかで叶えられる、本来ありえなかった未来への片道切符。その製造の。未来を変えることに成功したのなら、超はもう二度とこの世界には戻らない。そう心に決めている。自身の勝手で世界を変えるのだ。罰は受けなければならない。

 ふと椅子から立ち上がった超は、固く閉ざされている部屋のカーテンを開く。飾り気が一切ないものではあったが、それでもこの世界の物というだけで愛着が生まれるものだ。いや、この場合執着というべきだろう。もう離れなければならなくなる世界への。だから今、姿を見られては拙いということを理解していても、それでも窓の外にある光景がどうしても見たくなった。

 ガラス窓からうすぼんやりと見える麻帆良の夜景は非道(ひど)く美しい。サファイア、アメジスト、ルビー、エメラルド、ダイヤモンド。幾つもの宝石を無節操にぶちまけ、それでいて全体のバランスが調和しきっている光の絵画。見ていると思わずその世界に入り、二度と外へ出たくなくなる類いの美しさ。童話の世界ではなく、神話の世界のように心を捉えて離さない。

 

「けれど、それは許されない事。私は、この世界にいて良い存在ではないネ」

 

 自嘲気味に顔を俯かせて笑った超は、しかし顔を上げて驚愕した。

 

「……裏切ったのか」

 

 凍った声は鋭い切先になり、相手を非難する。その切先が相手に刺さるかは別として。

 窓にはめ込まれたガラスには、龍宮真名が一丁の拳銃を超の後頭部に突き付けていた姿が映っていた。その瞳は罪悪感にまみれ、濁った光をともしている。傭兵である龍宮は裏切るという行為に慣れているというのに。確かに本人は裏切るという行為をあまり好んではいないが、傭兵ならば雇い主を裏切ることも、裏切られたことも一度や二度ではない。罪悪感にまみれることなどないはずだ。

 

「悪いね、超。契約の違約金も払う。でもね、仕方がなかったんだ。私には無理だった。あの言葉を聞いて、思想に染められ、それでもなおあの人を否定することは!」

 

 追い詰められた人間がするような、今にも壊れそうな叫び声が部屋いっぱいに響く。あまりにもチグハグだ。追い込んだ人間が追い詰められて、追い込まれた人間が追い込んでいる。牧羊犬達が羊によって世話をされている様なもの。摩訶不思議な光景だった。

 

「そんなものが私に効くとでも思っているのカ? 高々三時間程度しか飛べないその弾丸、私のカシオペアならばすぐに復帰できる。それに、そもそも当たるとでも?」

「当たるさ。お前のカシオペアはすでに起動していないんだから」

 

 パシュッと軽い音がする。消音機(サイレンサー)の取り付けられた拳銃からは、ほとんど音がしなかった。弾丸は超に直撃するとともに、その効果を発動する。龍宮が装填していた弾丸は、麻帆良学園祭中しか使えないという制約こそあれど、撃ちぬいた相手を未来へ飛ばす効果を持つ。量産品では三時間。そして今龍宮が装填している弾丸は特別製。飛ぶ時間は量産品の比では無い。

 黒い円球状の檻が、超を包む。それは彼女にとって、絶望としか言えなかった。

 

「何!? 何故カシオペアが作動しない!?」

「カシオペアを作ったのは、超だけじゃない。葉加瀬も関与している。メンテナンスと言って、その実誤作動を作り出すことくらいできるさ。その為に少し脅したが」

「龍宮ぁあああああああああああ!!!!!」

 

 怨嗟が龍宮を焦がす。だが最後まで龍宮の顔色は変わらない。変わらず何かに怯えていた(・・・・・・・・・・・・)

 

「それじゃ、一週間後(・・・・)にまた会おう」

 

 こうして超はこの世界の時間軸から消失した。

 

 

 

 

 進行を続ける鬼神を相手にしていた魔法使いも、ようやくこの麻帆良に起きている事態をだんだんと理解してきた。後ろがあまりにも騒がしい。そう思い振り返った先は、彼らが生まれてから一度も見たことがない光景が広がっていた。慣れ親しんだ麻帆良は、初めからなかったように土が露出し、今もなお建物は吹き飛んでいる。人間が作り上げたアスファルトという皮は剥がされていく。人々の営みがすべて崩壊されつくしているその光景。あまりにも人というものを愚弄している。醜悪で、醜怪で、醜態で、醜状で、醜悪であった。

 しかし魔法使いの多くは、それを見てあこがれた(・・・・・)。正義? 立派な魔法使い? あの力と比べれば、そんなものどうでも良い。足元を這っている蟻よりも価値がない。

 彼らは一様に英雄という名の力を求めていた部分がある。だから誘蛾灯に惹かれる蛾のように、他の人間と違い呆けた表情でそれを見続けていた。人類最強と人類最終の力のみ(・・・)を。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十三話

 四十三話 劇止尽 激突

 

 木乃香と刹那が二人のいるところまでたどり着くのに十分かかった。たった十分だ。それだけの時間で、麻帆良は消滅した。正確に言えば、その麻帆良学園という場所の地表にある全てが根こそぎ薙ぎ払われた。二人の戦いの余波で。それだけのことであり、それだけのことだった。

 

「へっ! やりゃあできるじゃないか!」

「……」

 

 意志を持たない暴走特急はさらに動きを速めていく。振るわれる力はさらに拡大し、まるで今成長期をようやく迎えたかのように、天井知らずに力が上がっていく。そしてそれは赤においても同じだった。最終と最強。お互いがお互いの概念で複雑に絡み合い、その力を高め合っている。まるでライバルのように。しかしこの二人はライバルではない。ライバルたりえない。ライバルというものは、すべからくどこかに情が無ければならない。こんな何も生み出さない悲壮なものではない。少なくともただ目の前にあるものを破壊すると思うだけの存在を、ライバルと言えるはずがない。

 振るわれた赤色の右腕は音速を簡単に超えていた。それは奇しくも麻帆良を守り続けた高畑・T・タカミチの居合拳と同じ現象を引き起こし、麻帆良の一角を居合拳よりもさらに広範囲にわたって吹き飛ばす。同じ現象を基にしても、タカミチとは比べ物にならぬほどの威力の差があった。

 その恐るべき破壊を内包している拳圧に対して橙は、ただ地面を踏み砕いた衝撃で、その拳から発生したソニックウェーブを拡散させた。橙の脚力を叩き込まれた麻帆良の岩盤は乾ききったクッキーのように砕け散り、地面はゼリーのように揺れる。到底立てる状況ではないが、それでも赤色は平然とした顔で定規を背中に指しているかのようにまっすぐと立ち、その体は揺らすことすらなかった。

 弾け散った衝撃は、町中を蹂躙する。建物を倒壊させ、瓦礫を巻き込み雪崩のように吹き飛ばす。その吹き飛んだ瓦礫が逃げ惑う人々へ襲い掛かる。それを迎撃する魔法生徒の群れ。しかし次第に飛んでいく瓦礫は増し、守りきれなくなっていく。

 人々の悲鳴をよそに二人は闘い続ける。誰もが恐怖する力を振るいながら。

 

「ははははははは!!」

 

 赤いスーツが掠れる。蜃気楼のように掻き消えた赤は、瞬きもしないうちに橙の懐へと踏みこむと同時に、橙の顎を膝で蹴り上げた。近くで迫撃砲が炸裂したかの轟音が鳴り響くが、その音がした場所にいる橙はのけぞりすらしなかった。黒々とした、熱のない瞳をその膝へ向けると、素手で掴み取ってへし折ろうとすらしている。それを防ぐために、掴みかかった橙の指を殴る事で力づくで外し、赤は膝をへし折られるのを回避した。お互いの力が再び交差したことで、全方位に衝撃が拡散して、全てを吹き飛ばしていく。

 またもや礫が散弾のように麻帆良を蹂躙する。もはや麻帆良は怪獣映画に登場する、破壊されつくした都市そのものだった。

 その破壊された町並みの崩れかけている建物の影に隠れ、飛んでくる破片から身を守りながら木乃香と刹那は二人に近づいていた。激しい戦いは安全地帯というものを許さない。今隠れている場所もすぐに崩れてしまうだろう。そうなって押しつぶされる前に、木乃香と刹那はチャンスを伺い、二人にさらに近づいていく。あと少しで二人の元へたどり着ける。そこで木乃香と刹那は動けなくなってしまった。

 彼女たちは見てしまった。彼女たちにとっての絶望を。

 

「なんや、それ」

 

 その凄惨な戦いを前に、木乃香はそう呟く事しかできない。止めなければならないのに、どうやって止めれば良いのかまるで分らない。それは刹那もそうだ。

 目の前で繰り広げられている行為が、人間の限界を越えているからではない。そんなものならば、彼女たちは無視するだろう。人間の限界を勝手に決めるな、あるいは愛の前に限界などないと言わんばかりに力づくで。だがそうできなかったのはひとえに橙の、いや想影真心の顔が彼女たち二人が今まで見たこともないほどうれしそうにしているからだ。先ほどまでは表情一つなかったというのに。今は本当にうれしそうに笑っている。欲しくてたまらなかったおもちゃをようやく手に入れられた子供のように。

 意識すらないというのに、それでも満面の笑みがある。想影真心という存在が真に破壊を望んでいる。それが分かってしまったがゆえに、金縛りにあったかのように動けなくなってしまっていた。

 止めたいのに、止めて良いのか。それすらも二人は分からなくなっていく。今まで信じていた二人が持っていた想影真心という存在が掻き消えていく。目の前に存在する一つの怪物が心の底に根付いて、離れなくなる。

 想影真心とは一体何なのか。分からなかった。

 

「そんな、嘘。まー君」

 

 木乃香の膝が崩れる。分かってしまったからこそ、二人は耐えきれなかった。想影真心は、心の底からすべてを破壊したがっていると。その破壊衝動という怪物は、想影真心を壊してしまったと。そう感じていた。

 諦めが二人を襲い、無気力が襲う。へたり込んだ木乃香に、顔を抑えた刹那。二人の耳にかすかな声が届いた。

 

「ダメです、よ、二人とも」

 

 ガラリと、音がした。二人の近くの瓦礫の山、そこにネギが頭から血を流し倒れ伏していた。頭を打ったせいなのか、目には光がない。しかしそれでもしっかりとした意識を保っていた。ただ頭に衝撃がかかったのか、立つ事はできないようではあったが。

 

「ネギ君!」

「ネギ先生!」

 

 助け起こされたネギは切れ切れに、それでも必死になって言葉を紡いでいく。

 

「貴方達が諦めたら、誰が真心さんを救うんですか」

「でも、ネギ君。まー君はあれを望んでいるんやよ?」

「だから何なんです。二人は真心さんにあんなことをしてほしくないんでしょう。だったら、それは言葉にしなきゃダメです。やめてって。それ位、当然です。だって、木乃香さんも刹那さんも真心さんの友達なんでしょう?」

 

 友達。その言葉がすうっと胸にしみこむ。簡単な事だった。気がつけばすごく簡単な事。むしろ何で気がつかなかったかと、自分を責めたくなるような程簡単な事。

 

「そうやね、私たちだって」

「我が儘を言う権利くらいあるんや」

「頑張ってください。僕は動く事が出来ません。だからお二人だけが頼りです。それに、お二人といた真心さんは楽しそうでした。あんな真心さんの笑顔を僕は見たくありません。いつもの、お二人と一緒に笑っていた姿の方が見たいです」

 

 切なそうに顔を歪めるネギに、彼女たちはうなずいた。

 

「ええ」

「うん。ちょっと待っててなネギ君。すぐまー君元に戻してくるから」

「お願いします」

 

 木乃香と刹那は今もなお衝突しあう赤と橙のいる場所へ、向かっていった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十四話

 第四十四話 音反し 恩返し 

 

 狐面を被った男想影天、否西東天は逃げ惑う群衆にすれ違いながらもただまっすぐある場所を目指して歩いていた。その足取りには迷いがない。

 あの時、ネギとどうでもいい(・・・・・・)会話をし、満足した男は目的を果たそうとしていた。すなわち世界の終わりを見るということを。

 この男は世界が憎いのではない。むしろその逆だ。世界が好きで好きで仕方がない。誰よりも、なによりも愛してすらいる。だからそのすべてを知りたくて仕方がない。世界が終わったらどうなるか。その知的好奇心を満足させるためだけに、世界を終わらせるというこれほど馬鹿げたことを企み、実行している。

 男が足を止めたのは、麻帆良を一望できる高台に作られた展望台だ。この男がこれほどの機会を前にこの地を離れるなどあり得ない。少なくとも世界の終りに近い現象が起きている今ならば。

 誰もいない展望台。転落防止用の柵から身を乗り出して狐は麻帆良を眺める。今も最強と最終の衝突で崩れていく麻帆良を。ぴきりという音が響き、麻帆良が砕かれた。どちらかの拳が地面に衝突して隆起させ、建物が上空へ投げ出される。

 そんな空想の、アニメに出てくるような光景が広がっている麻帆良を眺め続けていた。

 

「どうやら縁は合ったようだな」

「……なかったほうが良かったんだが」

 

 そんな麻帆良を楽しそうに見つめながら、自身の後ろへ話しかける狐。そこにいたのは煤が付き、少し傷ついている麻帆良女子中学校の制服を着た、避難してきた少女だった。先日、麻帆良武道祭のときに狐が十三階段へと招こうとした少女、長谷川千雨。彼女は顔を歪めて、息を荒げ腰に手を当てて息を整えていた。

 確かに縁が合った。でなければ、こうして二人は再び合っていない。

 

「なあ、これはアンタの仕業なのか?」

 

 ポケットに入れていた手をだし、指さす千雨。指された麻帆良は今もなお崩壊している。

 

「『アンタの仕業なのか?』、か。ふん。そうだ。その通りだ。と言っても、元々は超とかいう奴の作戦を利用したに過ぎないがな。あの作戦だと、本来ならば機械で制御した鬼神とかいう代物でこの麻帆良を制圧するつもりだったようだ。まあ、それはそれで『魔法というものが世界に存在し、それが隠されている』というひとつの世界を終わらせられるんで、協力してやっていたがやはり駄目だ。あれでは駄目だった。世界を終わらせるのに、あの程度では全くと言っていいほど駄目だ。覚悟が足りない。努力が足りない。平々凡々としたことになるが、アイツは世界を甘く見過ぎている。バックノズル。それに捕まって、結局変わらん。それならばいっそアイツという存在自体を隠れ蓑にして、最強と最終を戦わせ世界を崩壊させようとしたのさ」

 

 クックックと狐の面のわずかな隙間から笑い声が漏れる。体を震わせている狐の男は心の底から面白がっている。

 それを見て、不悉迂と呼ばれた少女は理解した。世界を終わらせると言っていたこの男は、本当に悪い(・・ )ということを。自分の行為が何をもたらすか理解し、それを容認している。人として異常だ。

 

「ああ、それにしても助かったぜ。あいつが何を思ってか最終と闘わせろと言ってくれるなんてな。急いで作った階段は、ひょっろちい。鎧袖一触どころか空間一触だぜ。幾ら彼奴の中にあれがあるからとはいってもな、そういった意味で俺に初めて運というものが近づいてきたのか」

「あれ?」

「『あれ?』、か。ふん。そうだ。彼奴も気が付いていないが、それでもあれは仕込まれている。気づかれないように、ひっそりと。俺が彼奴を預かって、首輪のひとつもつけないはずがないだろう。何せ、彼奴は何をするか分からなかったからな。あの時新しい自我を作っている最中だった彼奴に枷を作り、従わせるための下準備には格好の機会だった。それに元々の自我では弱すぎた。壊れやすい、ただの普通の人間のような精神性ではな。だから人類最終はそれにふさわしい精神性と強固な自我を自ら作り出して覆った。言ってしまえば、変貌した。だが変わっている最中ってのは脆い。蛹が簡単に殺せるように。そっと彼奴の精神に暗示をかけるなど簡単だった。それに特化した階段もその頃にはいたからな」

「暗示、だ?」

「厳密に言えば、催眠か。人類最終がある程度のダメージを喰らったとき、その催眠は起動する。作り上げた自我と精神の根本、土台を崩す。するとどうなる? 積み上げた建造物は一気に崩れ、跡地が残る。それがあの結果さ。あれは気を失っている訳じゃない。本能に従っているわけでもない。ただ自分というものを求めているだけさ。そして今、人類最終は新しい自我を獲得しようとしている。おっと、口が回りすぎるな。柄にもなく興奮しているのか?」

 

 面を素手で覆い、頭を振る狐。その姿のひとつひとつが、気持ち悪い。気味が悪く、気色悪い。千雨はせっかく逃げてきたこの場所から逃げたくなっていた。だがそれでも、しなければならないことはある。彼女は偶々かも知れないが、それでも恩返しの機会を得たのだから(・・・・・・・・・・・・・)

 

「そうかい。まあ、私には良く分からなかったけど、つまりは今先生は簡単に言っちゃ、子供に戻っているってことだろう」

「ううん? 確かにそうともいえるな。だがそれが如何したというんだ」

「何、それが分かれば十分さ。どうせ、あいつ等の事だ。今頃先生のとこにでもいるだろうさ。粘着質というかストーカー一歩手前の状態だったからな」

 

 そう言って、千雨はポケットの中に入れてあった携帯電話の通話を切った。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十五話

 第四十五話 集傑 終結

 

 飛び散るのは赤い血。ワインレッドのスーツに、違う赤みがじわじわと染み出てきて混じる。かすめた爪が肉の一部を持っていく。

 人類最強たる、哀川潤。その強さは今まで何人たりとも寄せ付けてこなかった。確かに幼いころ、まだ人類最強になる前は、負けたこともあった。しかし次に戦うときは必ず勝ってきた。それこそが、最強だ。常に勝つ。ゆえに、最強。

 だというのに、哀川潤は追い込まれている。たった一人に。自分の後続機であり、血のつながらない弟によって。代替なる朱と呼ばれ、橙なる種と周りに認めさせた存在に。人類最終。そう呼ばれるにふさわしい力によって。だが、その力を彼女は認めない。

 哀川潤が認めるのはハッピーエンド。それにはこんな暴力的な力はいらない。だからといって、ハッピーエンドにするためだけに己を押さえつけるのも違う。だから、彼女は戦う。自分の弟を幸せにするために。それが、請負人、人類最強、オーバーキルレッドと滑稽なあだ名を付けられた自分の役目だと知っているがため。

 

「なあ、マー君。あたしは知ってのとおり、幸せが大好きなんだ。辛い思いっていうのは基本的に嫌いだ。人生は王道じゃなきゃいけない。じゃあ、王道っていうのはなんだ? あたしは、こう思っている。それは気持ちをぶつけ合うっていうことだ」

 

 振り抜いた拳が想影真心の頬を貫く。確かな手ごたえが拳の骨に響く。

 

「そろそろ出てこいよ。すべて壊したい? はっ! バカを言え。お前にそんな度胸はないさ。壊したくないから、今まで我慢していたんだろう? 助けたいものがいるから、手を取り合いたい人がいるから、お前は我慢をし続けてきたんだろう? だけどな、そんなもの間違いだ。我慢? 大いに結構。だがな、周りに助けを求められねぇような奴が我慢なんざするんじゃねぇ。鬱陶しい! あたしの後続機だからって、あたしの真似をするんじゃねぇ! 気持ちわりぃ! 手前は手前なんだよ、想影真心! 助けてほしかったら叫べ。助けたいならさらけ出せ! 糞親父の思惑なんざにつきあうんじゃねぇよ!」

 

 殴られた真心は吹き飛び、がれきに埋もれた。

 

 

 

 

 白い世界がどこまで広がっている。不思議とそこは暖かで、想影真心は生まれて初めて強ばった力を抜いた。

 

「ここは?」

 

 世界を、並行世界といえ作り出す力を持つ真心でも、ここがなにか分からない。でもなぜか心地が良いことだけは分かった。とはいえ、いつまでもここにいては意味がない。何処かを探るためにも歩き出す。

 歩くたびに、白い世界に変化が生まれる。黒い汚れのようなものが生まれ、それが形を変えて写真のように過去を写し取っていく。

 強すぎるが故に拒絶された孤児院。であった二人の少女と始めて仲良く遊び、そして助けた時のこと。どこからか現れた狐面の男に親権が渡り、遠い異国に行き、そこで暮らした日々。繰り返される実験と戦い。研ぎ澄まされていく戦闘能力。

 映る光景はほとんどが、血で汚れている。破壊、破壊、破壊。ただそればかりを繰り返すだけ。代わり映えしない世界。どんどんと世界が黒い汚れで染まり暗くなっていく。

 そこに移るのはいつしか戦いに笑みすら浮かべた想影真心だけだった。それは必死になって真心が押しとどめてきた感情だ。いや、願望だ。

 

「いったいなにを見せたいんだ、ここは」

 

 真心は分からなかった。なぜ自分がこんなものを見なければならないのか。

 周りを見たくなく、真心はしゃがみこむ。心に巣食う獣をみたくなくて。

 

「そうだね、これは君が生み出した醜さだ。だから君は、人類最終であっても、目をそむけようとしてしまう」

「誰だ?」

 

 声が後ろから掛けられた。誰もいないと思っていた空間に響く声は、懐かしいもので、思わず真心は振り返ってしまう。

 そこにいたのは男だ。男はこれといった特徴がなかった。いやあるにはあったが真心が出会った存在達と比べれば霞のようにうっすらとしかない。

 

「誰、か。もうそのことは忘れたよ。というより、失ったがいいかな? いや、壊れたというのが最適だろう」

 

 微笑んだまま、その男はそう答えた。真心はその回答に納得できず、首を振る。そんな答えが欲しいのではなかった。

 

「そうだね、じゃあ、私の名前は真心とでもしておこう。それが嫌ならば、他の名前を考えるとしようか」

 

 勝手に自身の名前をかたられたことに苛つきを覚えたが、真心は男に危害を加えようとは思えなかった。目の前にいる存在に攻撃を加えることがなぜか馬鹿らしく、そして無駄だという思いが沸き立つからだ。

 

「それで、その真心さんがなんの用だよ。というより、なんでいるんだよ。ここは俺様の心じゃないのか?」

「うん、正解だよ。ここは想影真心の深層心理。普通は、自覚できない領域だけど、さすがは人類最終というべきだね。そして俺はいうなれば残骸。君の元。僕のようなものは、本来壊れたままであるはずだけど、君の精神が揺れ動いたことで生まれた空白に、わずかに我の意識として再び形成されただけだ」

 

 コロコロと変わる一人称。まるで自己性というものがないように、男は語る。男の語る残骸というものが関係しているのだろうか。真心は黙って、聞いていた。

 

「まあ、人類最強と人類最悪によって無理やりといえ、深層心理に眠る君の闇が引き出されたんだ。君がなくしたいと願った部分が。光である表層意識、理性という名前のペルソナは引っ込むのが道理というものだろう。まあ、そのおかげでこうして話が出来るんだけどね」

「それで、結局用件はなんだよ」

 

 苛つきが、真心の普段の言葉づかいを崩す。

 

「そうだね、私故人(・・)としてはひとつ。そしてもう一つ責任を果たすためかな?」

「責任?」

「そう。君という存在を造り上げてしまった責任だよ。人類最終に、様々な魔法。そんな力を憧れて手に入れようとした愚か者。イカロスのように罰を下された者、それが僕。君自身は分からないかもしれないけど、俺は君の前世さ。本来ならば君は吾だった。だけど、君の力に精神が耐え切れなくて崩壊してしまったのさ。その代わりに生まれたのが君だ。行ってしまえば、君は息子なのさ」

「オカルトは他所でやってくれ」

「君が使う魔法も結局はオカルトだよ」

「それはそうだが」

「オカルトでもなんでいいのさ、結局この身はどうでもいい、壊れ物にすぎない。君が不安定になったから現れたバグにすぎない。でも、よかったんだ。バグというのは早く見つかれば見つかるだけいい。バグの原因はさっさと処分した方がいいだろう? 今の君の欲求不満は、外側が解決している」

 

 ピシリと世界にひびが入った。暗い世界に、白い光が差し込んでいる。

 

「どういうことだ?」

「人類最強が君の欲求を受け止めているのさ。壊したい。全力で戦いという欲求をね。欲求は闇だ。闇が減れば光が増えるのは当然だろう? 段々と君自身が人類最悪の用意した暗示を乗り越えているんだよ。とはいえ、このままではまた君が壊れてしまうかもしれない。だから余がでしゃばったのさ」

 

 そして男は真心に指を突きつける。

 

「最初はお前自身があの子たちの近くにいるって決めたんだ。いまさら、他のことを考えるな。壊したい気持ちがある? そんなもの呑みこめよ。それに、破壊衝動が一番? 嘘を吐け。こんなにも、素晴らしい一番があるじゃないか」

「えっ?」

 

 男の体が崩壊していく。さらさらと粉になって。飛んでいく粉は、白くなった世界である風景を作り上げた。

 木乃香と刹那、そして真心。みんなが笑っている絵を。

 

「頑張れ、想影真心。世界はきっと素晴らしい」

 

 

 

 

 二人の動きが止まる。人類最終と人類最強。頂点同士の戦いが。

 動きの止まった真心に、木乃香と刹那は駆け寄る。駆け寄った二人はそのまま抱き着いた。

 

「「マー君」」

「ごめん、心配かけたな。俺様としたことが」

 

 二人を細く力強い腕が抱きしめ返した。




そろそろこの物語も終わりですかね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十六話

 第四十六話 絆 終わりのない終わり

 

 

 めちゃくちゃに破壊され尽くした麻帆良に、想影真心は二人の少女に抱きつかれながら立っていた。すでにすべてを壊したいという欲求はない。ただまっすぐと麻帆良学園があった荒地を見つめている。

 瓦礫と化した街並み。至る所で火の手が上がり、黒煙といまだ悲鳴が上がり続けている。一体どれだけの被害が発生したのか。どれだけの人間が死んだのか。さしもの真心も分からない。

 だが真心は目をそむけることはしなかった。この惨状を産み出したのは、間違いなく想影真心だ。ゆえに受け止める。それが罪滅ぼしにもならない積亡ぼしを行おうとする、愚か者の責任だ。

 積んできたものを()くす。己による自己のための、利己的な、排他的で、身勝手であり自分本位の独善を。それが想影真心が出した結論。いや、行わなければならないことだ。未来を掴むために今を……。

 

「さあて、あたしももう帰るとするか。久方ぶりにいい汗かいた。ついでに糞親父をぶんなぐるとするか?」

 

 人類最強が、伸びをしている。もう戦う意思はないようだ。晴れ晴れとした顔で、破れた赤いスーツを指でつまみ、「新調するか」と独り言をしている。

 麻帆良学園の駐車場があった方角を颯爽(さっそう)と歩きながら、哀川潤は顔だけ振り返った。

 

「じゃあな、真心ちゃん。いい大人の癇癪に付き合ってやったお姉さまの偉大さに感謝しろよ。そして周りにいるお友達にもな」

 

 豪快で、磊落(らいらく)という言葉が良く似合う人類最強らしからぬ、姉のような最後の言葉に、真心はただ「ああ」と返すだけだった。それ以外言葉にすることなどできなかった。

 帰っていく、赤が。『哀川潤の踏み込んだ建物は例外なく崩壊する』というジンクスを達成して。むしろ土地そのものを崩壊させるというジンクスにさせて。

 

「変わらねぇなあの人は。だけど、俺様は変わんねえと、な」

 

 真心はひょうひょうとした普段の態度ではなく、どこまでも真剣みを帯びた表情でつぶやく。その言葉を聞いた二人は、抱き着くのを止める。

 

「マー君?」

 

 不安げに顔を上げる木乃香と刹那。二人の頭をなで、真心は瞳をみて語りだす。心の底でたまりにたまったヘドロのような思いを。

 

「ずっと俺様は独りだった。いや、独りと思いこんでいた。だって、そうだろう? 人間の限界である力。そんなもの持っているのは俺様だけだ。人類最強だってスペックなら突き放せてしまう。だからすべて一人で終わらせようとしてきた」

 

 その言葉で二人の顔は悲しげなものへと変わってしまう。二人のその表情を見て痛くなく、真心は空を仰ぐ。不思議なことに、空は地上と違いどこまでも澄んで、広々と、高々としていた。それでいて霞む黒煙がうっすらとその青をかき消そうと躍起になっている。だけど空の青さはかき消されない。

 力強く、真心は二人を引き離す。そしてもう一度二人を見る。

 

「だけど違った。俺様がもし一人だったのならば、今頃麻帆良を滅ぼして、(たぎ)る破壊衝動に任せてすべてを壊そうとしていた。哀川潤が、姉さんが。木乃香と刹那がいてくれたから俺様はこうして今正気でいられている」

 

 笑みが浮かぶ。馬鹿みたいな、気が狂ったような嘲笑と違う、純粋なうれしさから生まれたものが。

 

「でも、だからこそ俺様は償わなければならない」

 

 想影真心が作り出したこの惨状の罪を。

 

「だから俺様は行く。二人とも」

「うん、分かった」

「いってらっしゃい」

 

 期間も、内容も言わないというのに、想影真心を信じてくれる二人が、真心にとってただありがたかった。

 だからこそその期待を裏切るわけにはいかない。二人が離れると、真心は目をつむり、息を吐く。

 

「ありがとう。すぐ会いに行くから」

 

 そのまま指を噛み、血を出す。

 ゆっくりと噛みしめるように紡ぐ。

 

「のんきり・のんきり・まぐなあど ろいきすろいきすろい・きしがぁるきしがぁず のんきり・のんきり・まぐなあど ろいきすろいきすろい・きしがぁるきしがぁず まるさこる・まるさこり・かいぎりな る・りおち・りおち・りそな・ろいと・ろいと・まいと・かなぐいる かがかき・きかがか にゃもま・にゃもなぎ どいかいく・どいかいく・まいるず・まいるす にゃもむ・にゃもめ にゃるら!」

 

 血が魔法陣を形成する。血液に込められた魔力が、世界樹もかくやといわんばかりの膨大さで。それが一斉に輝いていく。魔法式に魔力が充填され、かちりとパズルのピースをはめるかのように繋がっていく。

 使う魔法はたったひとつ。すべてをやり直すために。

 

「属性は『水』。種類は『時間』。顕現は『操作』」

 

 時間を操る魔法が発動される。

 過去へ渡るという大魔法が。

 

 

 

 暗く淀んだ空気が漂う部屋に、真心はたどり着いた。時間だけでなく、空間への時空という概念を用いた干渉の結果、元いた場所とかけ離れた場所に転移していた。

 そこは暗く、湿っている。様々な機械やコードがあるが、今は全く使われていない。

 部屋の中央に立つ真心の正面には一人の男が立っている。狐の面をかぶった男、想影天が。想影真心が一度負けた相手。悪意もなく、最悪と呼ばれる物の怪のような男が。

 狐は驚くことなく、口を開く。

 

「ふん。お前がここにいるということは、未来の俺は()()したということか」

「ああ、そうさ。願いをかなえたよ、人類最悪。世界を終わらせるという願いをな。だけど、いやだからこそ俺様はここにいる」

 

 それだけだった。想影天はそれ以上なにも言わず、笑いながら真心の横を通り抜ける。その背へ、真心は投げつける。

 

「最後にひとつだけ言っておくことがある」

「『最後にひとつだけ言っておくことがある』か、ふん。言ってみろ。聞いてやる。今の俺は機嫌がいい」

「次はつぶす」

「く、くく、くくく!」

 

 こらえきれないと腹を抱えて笑う想影天。

 

「そうか。なら次は俺もお前を潰すとしよう。()()()

 

 狐面を外し、端正な顔立ちを見せながら想影天はそう言った。そしてそのまま去っていく。

 真心もまた、想影天が去っていた方へ足を進める。道中下水道にたどり着いたが、特に気にせず真心はマンホールから外へ出た。

 晴れ晴れとした青空が覗ける。

 真心の心に、二人の少女の顔が浮かび上がってきた。




すべてを無かったことにする。どこかの大嘘吐きがしそうなことですが、それこそが狐面の男のもう一つの狙いでした。というより、本命ですかね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。