火の貝の勇者の物語 (おもらしパワーアップ)
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大貝獣物語・奴隷商人ドグラー編
火の貝の勇者タケル


いつもと変わらぬ日常を過ごしていたあなたは視界にキラキラと光る何かを見つけた。

あなたはその光に引き寄せられるように近づき、その光が何かを確認する。

 

貝殻だ。

 

綺麗な赤い貝殻が落ちている。

不思議な事にその貝殻は神秘的な輝きを放っている。

あなたはその輝きに導かれるように貝殻に触れようとした。

 

その時。

 

貝殻を中心に光の柱が空へと伸びた。

あなたはその光に包まれ意識を失う、あなたは選ばれたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰かがあなたを揺さぶっている。

あなたは目を覚ますと全身の殆どを髭に包まれた謎の生き物の顔を見た。

驚きのあまり唖然とするが、あなたが目を覚ました事にその生き物はとても喜んでいるようだった。

 

「おお、目覚められましたか火の貝の勇者殿!突然こんな所に呼び出されてさぞ驚かれた事でしょう…ここは幻大陸シェルドラド、そしてわしは貝獣村の長老、貝獣仙人じゃ、勇者殿、そなたの名は何というのじゃ?」

 

その髭の生き物、貝獣仙人はあなたが目覚めたのを確認すると突然よく分からない事を話してきた。

 

火の貝の勇者?

 

幻大陸シェルドラド?

 

怪獣村の怪獣仙人?

 

何故言葉が通じるの?

 

疑問は尽きないがあなたを勇者と呼ぶ貝獣仙人にとりあえず名前だけを教える事にした

 

「うむ…タケル、タケルというのか、良い名前じゃ。タケルよ…落ち着いてわしの話を聞いてほしい…」

 

貝獣仙人から語られたのはこの世界の伝説だった。

大魔王ファットバジャーと伝説の貝の勇者たちの戦い。

火の貝によって勇者に選ばれた異世界の少年と貝獣の中から選ばれた、大地、大気、水、三人の貝の勇者。

貝の勇者たちは大魔王に勝利するとオーラの玉という不思議な玉に大魔王を封印したらしい。

 

そしてなんとそのオーラの玉が昨日空から降って来たとのこと。

しかも空から落ちたショックで大魔王の封印が解けそうな感じがするとのこと。

そんな危険な玉を南海の孤島であるこの貝獣村からドラドシティーという世界の中心にある都まで運んで行って勇者であるあなたに封印して来て欲しいとのこと…。

 

そして…。

 

残念な事に火の貝の勇者をサポートするはずの他の勇者たちが先日起きたという大津波の影響で何処かに流されてしまった勇者の証であり不思議な力を秘めた三秘貝を探しに出て留守の為にあなた一人でプカシェルという貝獣たちによって作られた不思議な帆船の様な小船に乗って大海原へと旅に出なければいけないという話だった。

 

 

あなたは恐怖した、そして断固拒否した。

すると貝獣仙人は困った顔をしてあなたに暫くこの村で休んでくれと言って何処かへ去っていった。

貝獣たちがあなたを取り囲み用意された部屋へと『案内』した。

 

軟禁状態である。

 

あなたは暫くその部屋から脱出する方法などあれこれ考えたが、脱出するのは不可能であり、どうせここから脱出できてもこの村の外は海だという、逃げ場はない。

 

最後の手段としてあなたはベッドの中へと潜り込んだ。

目が覚めれば自分の部屋で目覚める事を願っていたが…。

 

次の日。

 

「おはようタケル…どうじゃ?わしらの頼みを引き受けてくれる気になったかな?」

 

夢ではなかった。

これは現実である、そして貝獣仙人の最初の一言がこれである。

あなたはここへ来て食事どころか水さえ与えられていない、それでこの一言である。

あなたは怒りに震えながら再び拒否した。

 

「ふむぅ…旅立ちは一日でも早い方が良いのじゃが…どうじゃ?やっぱりわしらの頼みは引き受けられぬか?」

 

あなたは怒鳴りたくなったが、怒りを抑え引き受けられないと応えた。

 

「ぬぬぬっ…タケルが引き受けてくれぬのならば我ら自身で行くしかないが…タケルはわしらで行った方が良いと思うのか?」

 

この世界の事を何も知らないあなたよりもこの世界の住人である彼らが運んだ方が余程良いだろう。あなたはそう思うと頷いた。

 

「うむむっ…しかしわしらは誰も火の貝に選ばれておらぬ…じゃからしてオーラの玉を封印する事は出来ぬのじゃ…タケルよ!どうじゃ?わしらの願い、聞いてもらえぬか!?」

 

普段のあなたなら少しの罪悪感を覚えそうだが、今のあなたは怒り心頭である。何度頼まれようと受け入れるつもりはない。

 

しかし、空腹である。

空腹のあまりにあなたは自身のお腹を擦ると、何故か仙人は嬉しそうに驚いた。

 

「おおっ!?タケルよ!今首を縦に振ったな!なっ!縦に振ったんじゃよな!?わしゃ信じとるぞ!縦に首を振ったんじゃよな?」

 

貝獣仙人はあなたが空腹の為に腹を擦る時に頭を軽く下げたのを首を縦に振ったと言っているようだった。

この生き物は何を言っているんだろうか、あなたは振っていないと答えた。

 

「………そんなに照れんでも正直に言っていいんじゃぞ!」

 

貝獣仙人の言葉と共にあなたの背後にある赤い貝殻が光り輝いた。

まるでこの茶番を早く終わらせろとでも言わんばかりだ。

 

「おおっ!火の貝があんなに輝いでおる!流石は貝の勇者じゃ!!」

 

浮かび上がった火の貝があなたの懐に潜り込み、まるで逃がさないぜと言わんばかりに輝きを増した。

貝獣仙人もそれが分かっているのかあなたの動揺と言葉を無視して話を進め始めた。

一刻も早くあなたはこの島から追い出したいらしい。

 

貝獣仙人の話も終わり、あなたは多くの貝獣たちに運ばれてプカシェルへと放り込まれた。

 

異邦人のあなたにいったい何が出来るのか、空腹と理不尽に対する怒りを声に出してぶつけるが、貝獣たちは笑顔であなたを見送っていた。

 

「先に旅に出た貝の勇者、バブ、クピクピ、ポヨンによろしくな~~~~」

 

遠ざかる貝獣村からそう叫ぶ仙人の声が聞こえたような気がした。

 

 

空腹のあまりにあなたはプカシェルの中に座り込んでしまった。

 

 

プカシェルにはあなた一人…そして、オーラの玉らしきオレンジ色の大きな玉が転がっていた…。

…あなたが思っていたよりも随分と大きな玉だ…玉だというからドラゴンボールのような手のひらサイズくらいの大きさかなと想像していたのだが、玉はあなたの背丈と同じくらいの大きさだ…横にも縦にも大きく、しかも中々の重さがありそうだ…こんな玉をドラドシティーという都まで運ばなければならないのだろうかとあなたは不安で仕方がなかった。

 

いっそのこと、この大きな玉を海へと捨ててしまおうか…。

そんな邪な考えも浮かんだが、こんな大きな玉を動かす力も気力もないあなたはそんな事よりもプカシェルの中に何か食べ物がないか、飲み物はないか探す事にした。

 

…。

 

最期の力というわけではないが、頑張ってプカシェルの中を探して見たが。

 

結局あなたとオーラの玉以外何もなかった。しかもこのプカシェル、勝手に動いているようで操縦方法など何一つ教えられていないあなたには何か行動する事は出来ずに、まさに風任せの船旅となった。

 

 

 

 

しかしこれは火の貝の勇者の物語だ。何処から進めても良い自由な物語ではなく、基本的には道順が決まった物語である、自分の意志で行動しているように見えて、あなたの運命は既に決まっているのだった。

 

 

 

 

大きな揺れがプカシェルを襲った。

海に落とされないようにとあなたは必死でプカシェルにしがみ付いていたが揺れは酷くなるばかりか、海の底から空へ向かって何かが飛び上がっているようだ。

 

その衝撃はまるで大砲の砲弾である。

必死でプカシェルにしがみつくあなたには見えていなかったが、海から飛び上がっている物体はオーラの玉とそっくりなようにも見えた。

 

そして、その物体はあなたの乗るプカシェルに直撃し転覆…あなたは海へと投げ出され意識を失ってしまうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

あなたは夢を見ていた。

ピンク色のサボテンに介護されるという夢だ。

夢の中のサボテンはその仕草から女の子の様にも見て取れた。

そのサボテンは自分の棘があなたに刺されない様に気を使っておでこに濡れた布を乗せてくれたりと世話してくれている。

 

おかしな夢だと思いながらもあなたはそのサボテンのされるがままに身を任せていた。

しかし夢の中でもあなたの空腹と喉の渇きは収まらない、あなたはピンク色のサボテンに食べ物と飲み物を求めた。

 

「待ってて!すぐに用意するから!」

 

何とそのサボテン、言葉を話すではないか。

あなたは驚いた、この世界はやはり異世界、貝獣というおかしな生き物でも日本語を話すのだから日本語を喋るサボテンがいてもおかしくないのかもしれない。

 

というかこれは夢じゃないのだろうか?

 

よく見れば食事の準備をしているピンク色のサボテンの頭?には赤いリボンが付いていて、女の子が着るような服を着ている。顔?の辺りにはつぶらな瞳に口っぽい穴がある、これは間違いない、夢だけど夢じゃなかった。

 

その女の子のサボテンが食事の準備をしていると緑色の太いサボテン…しかも髭が生えている…が部屋の中に入ってきた。その太いサボテンはあなたを怖がらせない様に距離を置きながら優しく言葉を語りかけて来た。

 

「やっと気が付かれましたな。わしはこのサボテン族の村、チクリーの長老カクタスですじゃ。そしてこの子はわしの孫娘のアロエスですじゃ。あなたの名は?」

 

サボテン族の村、チクリー…孫娘のアロエス…サボテンだけに…。

 

これは笑う所なのだろうか。

 

あなたは自分を救い面倒までみてくれた二人を前に失礼な事を考えながら自己紹介をした。

 

「タケルさんって言うのね。私、アロエス、どうぞよろしく。人間さんが食べられそうな食事を用意したけど、タケルさん、大丈夫かしら?」

 

アロエスの用意してくれた食事は、棘があちこちに刺さったパンと、棘が何本か入った水だった。

食べたら怪我をする事は誰にでも分かる食事だったがあなたはその棘を気にすることなく無我夢中でパンを頬張り、水を飲みほした。

 

口の中や喉の奥がチクチクするが、それすらどうでもいいと思えるほどの幸福感があなたを満たした。

 

「…人間さんって思ってたよりも丈夫なのかも…」

 

なんて言葉が聞こえたが幸福感に満たされたあなたには聞こえなかった。

 

 

 

あなたが食事を終えたのを見計らってカクタスがあなたをこの村に運んだ時の事を教えてくれた。

 

「タケルさん、あなたはこの近くの浜に気を失ったまま打ち上げられていたのですじゃ、しかし食事も元気に食べられたようですのでとりあえず一安心ですじゃ」

 

何も知らないあなたを海に放り出した貝獣たちとは違ってサボテン族の人達はとても優しい人たちのようだ。

あなたは助けてくれたお礼を言ってアロエスに手を差し伸べたが、彼女はあわてて手を横に振った。

 

「私たちの身体は棘だらけだから、握手しちゃうとあなたを傷つけちゃうわ」

「わしらにお礼は必要ないですじゃ、ゆっくり休んで体調を取り戻してくだされ」

 

何て優しい人たちなのだろうか。

この世界にやって来て初めて思いやりというものを感じ、あなたの目頭が熱くなった。

 

あなたはベッドから立ち上がり、アロエスとカクタスの棘だらけの手に自分の手を添え、再び感謝した。

2人は驚いていたが、嬉しそうにほほ笑んでいた。

 

しかしあなたはこんなに素晴らしい人たちをサボテンでチクリーとかサボテンだけにアロエとか考えていたのだ。

 

罪悪感が半端ない。

 

あなたは再び二人にお礼を言い、そのままこの世界にやって来た経緯を二人に話すのだった。

 

「なんと…タケルさんがあの伝説の火の貝の勇者…しかもオーラの玉を封印する為に旅をしていると…ところで、タケルさん…そのオーラの玉はどちらに…?」

 

あなたははっとした。

そう言えばオーラの玉が見当たらない。

 

あれだけ大きくて重い玉だ、もしかしたら海へ沈んでしまったかもしれない。

その言葉を聞いたカクタスとアロエスは心配そうな顔をしていたがむしろこれはこれで良かったのではないかとあなたは思った。

 

オーラの玉が海の底に沈めば誰にも見つからない。

封印が解けたとしても大魔王は海の中で溺れて窒息死するのではないかと。

しかし、サボテン族の長老カクタスはそれをないと答えた。

 

「オーラの玉に封じられた大魔王は人々の悪の心から生まれた存在…我々が存在する限り不滅の存在なのです…」

 

カクタスの様な善の存在もいれば貝獣仙人のような悪の存在もいる。

貝獣仙人のような悪人がいる限り大魔王も滅びないわけだとあなたは思った。

 

では、貝の勇者たちはその大魔王をどうやって倒したのだろうか?

 

「貝の勇者様たちは、その平和を愛する心をもって大魔王を倒したと伝えられておりますじゃ、しかし…100年以上昔の話、詳しい事はこれ以上分かりませんですじゃ」

 

カクタスの話を聞き、あなたはかつての火の貝の勇者も自分の様にあの貝獣たちに召喚された存在なのだろうかと疑問に思った。

 

そしてもしも今、大魔王の封印が解けて、オーラの玉から復活したその時…。

火の貝の勇者として選ばれたあなたが他の貝の勇者たちを引き連れて大魔王と戦う事になったのならば、あなたは他の勇者たちと共に平和を愛する心を以て大魔王を倒し、封じる事が出来るのだろうか?

 

今のあなたの心の中には漠然とした大きな不安しか存在していなかった。

 

 

 

そんなあなたの不安を他所に、村中を包むほどの大きな地響きと爆音が響き渡るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

火の貝の勇者の物語はまだまだ始まったばかりである。

 

 

 

 

 

 

 

 



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