獅子と歌姫の結ばれるとき(全年齢版) (双子烏丸)
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1話

 

 

 鏡に映る自分の姿──改めて不思議な気分だ。

 

(オーブの軍服を着ている感じと似てはいるけれど、でも少し違うな。この白いタキシード……似合っているだろうか?)

 

 そう思いながら鏡を見ながら裾や襟首を調整する。もう何回も直してはいるけれど、それでも心配になってしまう。

 

(何しろ大切な日だ。俺と……彼女との)

 

 だから身だしなみはしっかりしないとな。改めて服装のチェックをしていた、そんな時に。

 

「アスランのタキシード姿、よく似合っているよ」

 

 目の前の鏡に映り込む俺の親友。オーブ軍准将の士官服をしっかり着込んで挨拶に来てくれた、キラ・ヤマトの姿。

 そんな唯一無二の親友に顔を向けて、俺はにこやかに返事を返す。

 

「来てくれたのか、キラ。プラントからわざわざ俺達のために来てくれて、凄く嬉しい」

 

 俺の今いるオーブは地球上にある島国だ。対してプラントは宇宙に浮かぶスペースコロニー、わざわざ地球にまで降りて会いに来てくれた事には感激だ。

 

「当然だよ。だって今日は君の晴れ舞台、結婚式なんだから。

 改めて結婚おめでとう、アスラン」

 

 友からの祝福の言葉、俺は嬉しく思いながらもう一度、鏡に映った自分の姿を見直す。タキシードを着こんだ俺の姿。──うん、ばっちりだ。

 俺は席を立ってキラに、自信を持って言った。

 

「さて、じゃあ行こう。俺の大切な──花嫁が待っている」

 

 

 

 俺とキラは花嫁のいる更衣室に移動した。すると……出迎えてくれたのは。

 

「キラ、それにアスランも。よく来てくれました」

 

「二人とも良いタイミングだったな。丁度、こっちも準備はバッチリだ」

 

 プラントの歌姫であるラクス・クラインと、それにオーブの元首であるカガリ・ユラ・アスハ。部屋に入るとすぐ二人が俺達を迎えた。

 

「やっぱりラクスとも一緒に来たんだな」

 

 俺の言葉に隣にいるキラははにかむ。

 

「もちろんだよ、彼女も結婚式に来たがっていたから」

 

「ふふふっ。キラと同じで、私もアスラン達を祝福したいですから。

 ──ご結婚、おめでとうございます」

 

 ラクスからも祝福の言葉を受けて、俺は彼女に礼を伝える。それから──。

 

「……カガリも」

 

「当然だろ? ようやくアスランが結婚するんだ、私にも祝わせてくれよ」

 

 俺に明るく笑ってくれるカガリ。俺も笑い返そうとするが……それでも、罪悪感で少し顔を俯けてしまい。

 

「すまない。カガリ、俺は──」

 

 彼女も祝ってくれているのはもちろん嬉しい。けれど同時に、強く申し訳なく思って。

 けれど、カガリはそんな俺の右肩にポンと手を置いて、逆に励ますように言ってくれた。

 

「気にするな、私にはそれよりもオーブを導いて行く事が大切だ。……父上から受け継いだ大切な使命なのだから。それに、メイリンとも二人で話して納得もしている。

 私たちは大丈夫さ。そして、あの子にはお前が必要だ。アスランにとってもきっと同じだと思う。互いに心の支えになれるはずだから」

 

「俺が彼女にとって、か」

 

「ああ! だからお幸せにな。お前もちゃんと彼女を幸せにしてあげなよな?」

 

 俺自身、今回の結婚に踏み切るまでに色々思い悩み、葛藤もした。それでも……俺は。

 

「俺はもう迷わない。必ず、二人で幸せになってみせる」

 

 俺の言葉にカガリも満足したような、表情で応えてくれた。

 

「よしっ! そうこなくっちゃな。

 ……それにさ、花嫁の方も準備は終わっているんだ。会いに来たんだろ? だったら──ほらっ!」

 

「おっと……と」

 

 カガリは俺の横後ろに行くと、そのまま背を押して部屋の中に押す。

 すると目の前に、いたのは。

 

「来てくれたのねアスラン! その白いタキシード……とても恰好良いですよ」

 

 純白のドレスを身に纏って屈託のない表情を向ける、俺の大切な花嫁。

 ウェディングドレスの白と鮮やかな桃色の髪と、星を象った前髪の髪飾りがよく映えて。それに、ラクスと似た顔をしてはいても彼女だけが持っている、にこやかで天真爛漫な笑顔を向けて、俺に。

 

「ふふっ、そう言ってくれて嬉しい。

 ……それによく似合っている、白いウエディングドレスを着た君も。凄く綺麗で、それに可愛い俺だけの花嫁だ────ミーアは」

 

 

 俺が返した言葉。それに照れたように、だけど心から幸せに満ちた笑顔で応えてくれたんだ。

 

「はい! ようやくあたしもアスランのお嫁さんになれますから。嬉しくて……胸が一杯です!」

 

 ああ。ようやくこの時が、来たのだから。俺は彼女にそっと手を差し伸べる。

 

「一緒に行こう。今日は幸せで一杯の、最高の結婚式にしたい」

 

 俺の花嫁……ミーア・キャンベルは喜びに溢れた表情で、俺の手を優しくとって頷いてくれた。

 

 

 

 ────

 

 オーブにある教会で挙げた結婚式。花嫁姿のミーアと二人で、赤いカーペットの上を、ウェディングロードを歩いて行く。

 ……決して大きい教会、式場と言うわけではない。結婚式そのものも知り合いに限った小さい物だけれど、それでも多くの人が集まってくれた。親友のキラやラクス達ももちろん、イザークにディアッカに……それにシンとルナマリアまで。

 

(みんな俺達のために、こうして。やはり嬉しいものだな)

 

 あの大きな戦い……メサイア攻防戦、デュランダル議長のディスティニープランを阻止した後、地球とプラント──ナチュラルとコーディネーター、二つの人類の争いも一応の一段落を見せた。

 いつまた大きな戦いが起こるかは分からない。それでも手には入れられた、ささやかな平和だ。……だからこそ。

 

 

 俺はウェディングロードを歩きながらミーアに、少し顔を向けて視線を投げかけてみた。彼女も、同じようにして俺を見つめて、にこりと微笑みで応えてくれた。

 

 

 

 ──ウェディングロードを渡って、結婚式のクライマックス。

 この俺、アスラン・ザラとミーア・キャンベルは神父の前で誓いの言葉を、永遠の愛を互いに誓い、それから結婚指輪をお互いの薬指にはめた。

 俺が指輪をミーアの指にはめた時、彼女はまるで子どものように目をきらきらとさせていた。そう言う所も、とても可愛くて。

 

 

 そして、お互いが結ばれるための……誓いの口づけも。

 既に良い年した大人で、これまで激しい戦いや大変な事を経験したけれど、何だかひどくドキドキして、赤面して固まってしまった。一番大事な所でこんな事になるとは、我ながら情けない。だけどミーアは、少し可笑しそうにはにかんだ後で。

 

「……くすっ! 大好きです──アスラン」

 

 そう言うと彼女は、しなやかな両腕を俺の両肩と首に絡めて、ぐっと身体を引き寄せて口づけ──愛情一杯のキスをした。

 

「!!」

 

 ミーアの積極的な好意。彼女らしい、そんな愛情で。驚きはしたけれど、もちろん……俺だって。

 

「──ふっ」

 

 俺もミーアを強く優しく、抱きしめて応えた。

 愛していると言う、想い。それは俺だって負けてはいないのだから。

 

 

 

 ────

 

 こうして俺たちは晴れて結ばれて、夫婦になれた。

 披露宴も無事に終えて、それからは交流も兼ねた軽いパーティー。来てくれたみんなに二人で挨拶をして回って、改めてミーアとの婚約を祝って貰えた。

 楽しいパーティーだった。それから、俺達は。

 

 

 

 

「これが平和なんだな」

 

 パーティーも一段落。俺は少しみんなから離れて、教会裏の草原で一息、休息をとっていた。

 

(それにしても俺が結婚、か。自分でも──大きい決断だったと、そう思う。けれど)

 

 ミーア・キャンベル、元々はプラントの歌姫であるラクス・クライン、その影武者となった女の子だった。……その為に顔までラクスと同じに整形して、デュランダル議長の駒として利用された。  

 

 ただ、彼女は──ミーアは。

 

 

 

「なっ!?」

 

 いきなり目の前が何かで覆われて、真っ暗で何も見えなくなる。驚いた俺にすぐ近くから……悪戯めいた声で。

 

「あたしが誰だか分かりますか?」

 

 この声、もちろん俺が間違えるはずがない。俺はもちろんと言って、正体を当ててみせる。

 

「俺の一番大切な人の声だ。……ミーア」

 

「はい! 大正解ですっ、アスラン!」

 

 ぱっと、目を覆っていた両手が外された。いきなりの光で眩くて、そんな俺の後ろから現れて姿を見せた、桃色髪の花嫁。

 

「ははは、ミーアはまるで子どもみたいだな。こんな悪戯を俺にするなんて」

 

可笑しく思いながらも、少しだけ苦笑いしながら俺はミーアに言った。彼女は不満そうに頬を膨らませて……。

 

「だってアスラン、一人でどこかに行ってしまいますから。

 あたしを置いて行ってしまうなんて……ひどいです」

 

「っと……すまない。つい少し、一人で考え事をしたいと思って、その……」

 

 置いて来てしまったのは悪い事だったと思う。言い訳に近いかもしれないけれど、そんな俺にミーアは右手の指先を口元に当てて、くすりと微笑んでくれた。

 

「──大丈夫です。だってアスランはよく考え詰める所があるって、メイリンさんから聞いていましたから」

 

 メイリン・ホーク。メサイア戦の後で最初に交際していたのが、彼女だ。けれど価値観や考えの違いとかで上手く行かなくて、別れて。そんな中でミーアが俺に告白して来た。

 俺の事が──好きだと。

 

「横取りみたいかもしれないけど、でも凄く嬉しかったんです。アスランの優しさだからかもしれないけれど……あたしの気持ちを受け取ってくれて」

 

 あの時は、俺も色々とどうしたらいいか考えもした。けれど今は、結果的には良かったと思っている。

 

「こんなにミーアが幸せそうな姿が見る事が出来た。もちろん俺だって、君といると嬉しい気持ちで一杯だから」

 

「あたしが幸せなのも、アスランのおかげです。……こんなに胸の奥が温かいのも」

 

 ミーアは自分の、人並みよりもふくよかな胸に手をそっと置いて呟いた。それから……。

 

「ねぇ、アスランは覚えてますか?」

 

「──どうかしたか?」

 

 不意に尋ねて来た彼女。何の事なのか、俺は聞いてみると……穏やかに表情を緩めて話の続きをした。

 

「あの戦いの中であたしが一度死にかけた時の事。ラクスさまを庇って……代わりに銃で撃たれて。

 沢山利用されて悪い事もしましたから。だからあたしが身代わりになるべきだって。だってラクスさまの影武者、偽物ですから。そうなるのは当然だって思ったの」

 

「……」

 

 複雑な話だった。けれど、それなら俺もミーアに伝えたい事がある。

 

「ミーア、君は──」

 

「……だけど、例え偽物かもしれなくても、今生きてこうしていられるのが本当に嬉しいんです」

 

 けれど俺が伝えるよりも先に、彼女は明るく言って応えてくれた。

 

「撃たれて死にそうだったけれど、奇跡的に助かって。戦争が終わった後もまた歌う事だって出来ましたから」

 

 ミーアの言う通り、あれからオーブでも彼女は歌手、アイドル……歌姫として再び活動していた。

 今度はラクスの影武者でなくミーア・キャンベルと言う、一人の人間として。

 

「それがあたしに出来る事で、歌う事も……大好きですから。

 ──もちろんこうしてお嫁さんに。歌と同じくらい大好きな、アスランと結ばれた事も嬉しいんです」

 

 上機嫌で、幼い少女のようにニコニコしながらくるり、くるりと回って楽し気に舞う。まるで妖精のように。

 

 

 そうして俺の前へと来たミーア。

 新緑色の草原に立って、済んだ青空と海を背景に言った。

 

「アスラン。せっかくだからあたしの歌を聞いて欲しいの。

 今の幸せを新しく歌にしたんです。だからあたしにとって一番の人に、聞いて欲しくて」

 

 ミーアの歌……か。

 

「もちろん。俺も聞いてみたい、ミーアが歌う……歌を」

 

 俺の答えに彼女は幸せ一杯の、笑顔を見せた。それからそっと両目を閉じると……静かに歌い出す。

 

 

「~♪ ~♪」

 

 

 穏やかな自然の中で歌う、花嫁姿のミーア。

 優しい風にたなびく白いドレスとベール、それに彼女の長い髪。陽の光に照らされる白とピンクはより鮮やかに、綺麗に見えて。俺も見惚れてしまっていた。

 それにミーアの歌も。彼女はラクスと違いどちらかと言うとアイドルのような、明るくきゃぴきゃぴした歌が得意だ。しかし今の歌は、この自然に調和するような穏やかで静かな……綺麗な歌で。

 

(本当にミーアは歌うのが好きなんだな。歌が好きだって言う想いと、俺への好意も……よく伝わって来る。

 ミーア、やっぱり君は──)

 

 ミーアは確かに議長の駒としてラクスの代わり、影武者として利用されていた。けれどミーアはミーアだ。

 俺やキラのようにモビルスーツに乗って戦う事は出来なくて、軍人ですらない。ラクスやカガリとも違って政治や国を動かす力もない。ただ彼女は歌う事が好きな、一人の普通の女の子なんだと。

 優しくて、繊細で純粋な、恋心も抱く……女の子で。俺はそんな所に惹かれて、何より守りたいと思った。ミーアの、ミーアとの幸せを。

 

 

 ミーアが歌うのを、俺は心から聞き惚れていた。──そして歌い終えると彼女は、一言。

 

「これがあたしの新曲……アスランのために作った歌です。気に入ってくれました?」

 

 感想はもちろん、決まっているとも。

 

「ああ。ミーアの歌は俺の心に何より届いて響く、最高の歌だ」

 

 俺が伝えた思い、感想。それを聞いたミーアは……。

 

 

「──えへへっ!」

 

 

 また嬉しそうにして、屈託のない眩しい笑顔を見せてくれた。

 年頃の女の子が見せるような、純粋な笑顔。そんなミーアの笑顔も守りたい、これからも……俺が守ってみせると。

 

 

 俺は愛する彼女に微笑みを返して、そう強く誓った。

 

 



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