鋼殻のレギオス~ご都合主義 (ペコ)
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鋼殻のレギオス~ご都合主義

シリアスが苦手だと分かったのでこの作品はシリアスはほぼ入りません。
批判等は受け付けません、誤字、著作権等の指摘は歓迎します。


この話はオリ主は登場しません。 純粋に物語のキャラのみで再構成します。(但しオリキャラ等は出るかも)

 

次に注意事項を書いておきます。

 

1 この小説は友人とのチャットの中で安価で鋼殻のレギオスをやってみたらという話題から出来たものでそれに筆者が細かい設定を付け足して再構成しているのでキャラの性格等が不自然なくらい変わったりします。(安価なのでこのあたりは悪しからず)

 

2 小説に関して誤字等の指摘は受けとりますがそれ以外の批判やおかしいと言った指摘は黙殺しますので御了承ください。(何せ大本の流れは筆者だけが作ったものではありませんので)

 

3 ちなみに似たようなレスはとある魔術を安価でやってみた 等のスレがあるので興味がある人は見ると納得がいくかもしれません

 

4 以上を踏まえ何があっても何でだよww と流せる寛大な心を持つ方のみお読み下さい。

 

5この作品は二次ファンで連載していました。

 

それではまず簡単なプロローグからどうぞ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼は天才だった。

 

生まれつき膨大な剄を持ちながらにして、あらゆる剄技を見抜くかつそれを再現できる才能を持ち、幼き頃より傍らにいた少女により膨大な剄力を与えられた。

 

故に彼は恐ろしいスピードにて武芸者としての道をかけ上がった。

 

6才にして初陣をこなし8才にてサイハーデン免許皆伝を得る。

 

そして……

 

 

「今ここに最後の天剣授受者の誕生だーー!! その名前はレイフォン・アルセイフ! わずか9才にして最少年の天剣授受者記録更新だー!そしてここに12人目の天剣授受者レイフォン・ヴォルフシュテイン・アルセイフの誕生だー!」

 

 

「「「「うわあああああああーーーー!!!」」」」

 

 

 

彼はあらゆる武芸者が数多の戦場を生き抜き飽くなき修練の元たどり着く場所に才能という翼をもってして僅か9才にしてアッサリとたどり着いた。

 

天剣授受者という槍殻都市グレンダンにおいて武芸者の最高峰に立った。

 

 

 

それに彼の出身である孤児達は英雄の誕生に沸き上がり、同世代の子供達は奮起した。

 

 

〜そして5年の歳月が流れた。

 

 

 

 



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第一話

それは一人の男から始まった。

 

ガハルド・バーレーン グレンダンにて隆盛を誇る武門ルッケンスの師範代にして次期天剣候補と謳われる男の一言だ。

 

天剣授受者レイフォン・ヴォルフシュテイン・アルセイフの闇試合への出場。

 

彼はそのことを脅迫の材料としてレイフォンを脅し、天剣を得ようとしたのだ。

 

しかし王宮はそんなことは百も承知。 天剣が誇る稀代の念威操者デルボネ・キュアンティス・ミュラーがこのグレンダンで起きることを知らぬはずがないのだ。

 

そしてそれはガハルドの企みさえもが王宮に、女王に知られているということだ。

 

しかし、それを知ってなおグレンダン女王アルシェイラ・アルモニウスは放置した。

 

それによりガハルドの企みが成功するかと思われた……が!

 

それは起きた。

 

天剣授受者決定戦前日の汚染獣襲来。

 

それにより出撃した武芸者168名

 

そして死者は……18名

 

襲来した汚染獣のなかに特異型の老成体が混ざっていた故の悲劇だった。 すぐに天剣授受者が出撃してこれを撃破したが通常の汚染獣戦ではあり得ない死者を生み出した。

 

そして死亡した18名のなかにはガハルド・バーレーンの名があった。

 

そして翌日行われる筈だった決定戦は中止。レイフォンは告発されることはなかった。

 

しかし、いずれまた第二、第三のガハルドが現れかねない。

 

そこでようやく腰を上げた女王により対応がなされた。

 

まず都市民(一般人)には事実を伏せて武芸者にのみレイフォンが闇試合に出場していた事実を告げる。

 

そしてその処罰として期間限定の都市外追放処分とする。

 

この事実を伏せておくならば他の闇試合出場者、またはその存在を知りながら黙っていたもの達の罪は問わない。と

 

そして表向きの理由として一般人にはあまりに幼くして天剣授受者となったレイフォンには一般常識が不足している為に学園都市に留学させるという発表がなされた。 それにあわせレイフォンが十分に勉学に励めなかった要因、孤児達の現状についても触れ、その改善策もあわせて発表となった。

 

ちなみにそれでもなお一般人に事実を広めようとした某王家のお坊ちゃんがいたが、女王直々のO・HA・NA・SHI(これ以上面倒を増やすな)により沈静化した。

 

そして、それに伴う副次効果として最年少天剣授受者にして自分達の目標であるレイフォンが学園都市に留学することを聞いた同年代の武芸者はレイフォンに教えを乞おうと大挙して留学を決めた。

 

有名な武門の長子などはそれを止められたが、それでもなお30名近い武芸者がレイフォンの留学する学園都市ツェルニへ留学することとなった。

 

 

 

そして出発前日

 

レイフォンは王宮に呼び出されていた。

 

 

「で? 結局どこに行くんだっけ?」

 

「あ、はい。 ツェルニです」

 

「ふーん、意外と遠いわね」

 

「はあ、何せここ以外は落ちてしまうか奨学金のランクが低くて」

 

「へえそう、ならこれを持っていくように」

 

そういってアルシェイラが投げて寄越したのは白金に輝く錬金鋼(ダイト)天剣だった。

 

「…………いいんですか?」

 

今更この女王のやることには驚かないが、さすがに今回のこれはどうかそう思い発した言葉だったが……。

 

「だってぇ〜、私のお気に入りのリーリンがいくのよ?移動中も含めて何があるか分からないじゃない、 それになんかカナリスがグレンダンの人間が大量に動くのだから何らかの対策は必要だっていうから〜。あ、だから都市外装備も持っていくのよ」

 

「はぁ……」

 

そういえば暇潰しに院を訪れたアルシェイラは何故か幼馴染みであるリーリンが気に入ったらしくシノーラという偽名を使って何度も遊びに来ていた。

 

しかしそれを考えても……

 

「いーから、とにかくそれを持っていくこと。大丈夫必要な時には帰ってくるし。 ……だからリーリンに傷ひとつ着けてたら許さないわよ」

 

「わ、わかりました。失礼します」

 

 

こうしてレイフォンは天剣と共に学園都市ツェルニに行くことになった。

 

 

 

 

 

 

 

side〜アルシェイラ

 

 

「はあ〜、行っちゃったわね……」

 

そう言ってアルシェイラはグレンダン女王は恐るべき内力系活剄で強化した眼で先程出発した放浪バスの姿を追っていた。

 

その中には自分の剣一振り(レイフォン)と同年代の武芸者達、三王家の血を受け継ぐ自分の従姉妹(リーリン)が乗っている。

 

「……本来なら私の産んだ子がなるはずだったんだけどね……」

 

しかしそれはもう愚痴でしかない、もう手遅れなのだ。 あの子の中にはすでに力が眠っている。 そしてすぐ側には自分の剣がいる。

 

もしやそれは運命と呼ばれるものだったのだろうか?

 

そう思ったところで元凶たる存在が頭をよぎった。

 

ヘルダー・ユノートル、自らと結ばれる筈だった癖に他の女と駆け落ちした呪わしき愚か者。

 

「何で……グレンダンに残したのよ……」

 

再び愚痴が溢れる。

 

出来れば争いは次の代に回してやりたかった。自分の代で終わらせようとは思っているがなにもそれがリーリンでなくともよい、リーリンがレイフォンとでも結婚して幸せになってもらい、二人の間に生まれた子供にでもその役目を負わさせたい。

 

なにせリーリンは何の力も持たない一般人だ。 武芸者ではない、なのになぜそんな過酷な運命を背負わせるのか?

 

しかし歯車はすでに回りだした。 ならば自分は剣をそして自身の力を用いて彼女を守ろうと誓った。

 

実のところレイフォンを助けたのも彼女の為だ。 なぜこんなにも彼女のことをリーリンのことを気にしているのかはわからないが、せめて全てが終わったあと彼女が幸せであるように動くだけだ。

 

そんな決意を胸にアルシェイラは遥か遠くを行くの放浪バスを見つめ続けた



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第二話

sideレイフォン

 

 

 

「ここがツェルニか……」

 

 

グレンダンを出て約一ヶ月後、レイフォンは学園都市ツェルニの地を踏んでいた。

 

道中汚染獣の群れに何度か出くわしたが、バスに乗っている乗客は天剣授受者たるレイフォンがいることへの安心感からか、むしろもっとよく見ようとする人間ばかりだった。退屈なバスでの生活もあってか普段はシェルターにいてその姿をみることの出来ない幼馴染みも双眼鏡を持ってその中に入っていたくらいだ。 もちろんそんなことをしていたのはグレンダン出身の人達ばかりではあったが

 

しかしようやくバスの旅から解放されたというのにレイフォンはくたびれていた。

 

「やっと着いた……」

 

理由は簡単だ。

 

何せ放浪バスは狭い空間であり、その中で時間を潰す一番の手段は会話であり、そしてレイフォンと同乗していたのはグレンダンの同い年の武芸者達だ。 尊敬の視線とともに尋ねられる質問の数々に元々話すことは、まして大勢と話すことの苦手なレイフォンに相当なプレッシャーを与え、結果、レイフォンは疲れきっていた。

 

「や、やっと解放された」

 

隣でジト目を向けてくる幼馴染みの姿すらろくに見ることなく

 

とりあえずその日は疲れから黙って宿舎に直行し、リーリンと別れるとすぐに眠りに落ちた。

 

幸いなことに同室の者はいなかった。

 

 

 

 

そして翌日、あまりの眠気に目を擦りながら歩き、リーリンにシャキッとしなさい!と怒鳴られながら歩いていたレイフォンの目の前でそれは起きた。

 

「なんだとぉ!?」

 

「やるか!?」

 

突然の怒鳴り声、そして漂う闘いの気配、グレンダンにおいて非常に慣れ親しんだ気配だ。

 

「まったく……どこの都市でも一緒なのね」

 

それを感じ取ったリーリンが隣で呟いていたが聞いてはいない、レイフォンにとって彼らは自分の平和な朝を乱した狼藉者だ。

 

次の瞬間、喧嘩をしていた二人は地面に叩きつけられていた。

 

 

 

 

 

 

一時間後。

 

そしてレイフォンは呆然とした気分で生徒会室にて直立していた。

 

「とりあえず座ったらどうかな?」

 

そういって目の前にいる銀髪の眼鏡をかけた生徒が椅子を指し示した。

 

「あ、はい」

 

そう答えて座ったもののまだ現実感が出ない、なにせ寝ぼけなまこでぼぅっとしていたらいつの間にか生徒会室に連れてこられていたのだ。ちなみに連れていかれる時の幼馴染みの視線が一番堪えていたりする。

 

 

「先ずは感謝を、君のお陰で新入生達に怪我人が出ることはなかった」

 

「いえ、当然のことをしたまでです」

 

とりあえずは無難にそう答えておく、なにせ感謝を述べるためだけならここに呼ぶ意味がわからない、そしてわからない以上、自然と相手の意図を探ることになる。

闇試合の一件以来、そうした世渡りに必要な技術を多少は学んだレイフォンだった。……まあ、恋愛というか人の機微には相変わらず疎いまんまだが。

 

「新入生の帯剣許可を入学半年後にしているのは、こういう、自分がどこにいるのかをまだ理解できていない生徒がいるためなのだけど……やれやれ、毎年のことながら苦労させられるよ」

 

あくまでも爽やかに苦笑する生徒会長に、レイフォンは相手の意図を読むことができずにただ気の抜けた相槌を打つのみだ。

 

「それでここに君を呼んだ理由なんだが……」

 

生徒会長が、いやカリアンがそう言いかけたとき……

 

コンコン

 

扉をノックする音が聞こえた。

 

「ああ、やっと来たか………入ってきたまえ」

 

しかしカリアンはこの来客をどうやら待っていたようで、ノックした人物を部屋に招き入れた。

 

「失礼します。 第5小隊隊長 ゴルネオ・ルッケンスです。生徒会長お呼びですか?」

 

そう言って入って来たのは銀髪の大男だった。しかしそれに反して愛嬌のある顔立ちをしている。

 

「ああ、呼んだよ」

 

その人物を手招きするカリアン。 一方レイフォンは顔見知りの登場に驚いていた。

 

「まあ、君もかけたまえ、それで知っていると思うがゴルネオ君、彼がレイフォン・ヴォルフシュテイン・アルセイフ君だ」

 

「どうも、昨日はお世話になりました」

 

「とんでもない、当然のことをしたまでです。ヴォルフシュテイン卿、 困ったことがあったら何でも申し付けてください」

 

「……わかりました」

 

もう呼ばれかたについては諦めたとばかりにため息をつくレイフォン。ちななみにゴルネオに気をとられていて何故自分が天剣授受者であることを知っているのかという疑問は抱いていない。

 

一方カリアンは目の前のやり取りに驚いていた。

 

「なんだ、二人は顔見知りかね?」

 

「はい、ですが先日自分が挨拶に参上したばかりです。 陛下と兄からヴォルフシュテイン卿のサポートをするよう命ぜられましたので」

 

「はい、実際顔を会わせたのは今回で二回目です」

 

「そうか、なら話が速くて助かるよ。 実はレイフォン・ヴォルフシュテイン・アルセイフ君。 君には小隊に所属してもらおうと思っているんだがゴルネオ君はどう思うかね?」

 

カリアンがそう言うと、ゴルネオは驚いた顔をした。それを聞いてレイフォンは首を傾げる。

 

「えーと? 汚染獣を倒すチームのことですか?」

 

グレンダンでは汚染獣戦闘の基本はやはり集団戦であり、その最小単位が小隊である。実際養父であるデルクも小隊長を務めていたはずだ。それが集まって中隊、大隊を編成する。

 

「いや、そうではないよ。 まあ、ここはゴルネオ君に説明をお願いしよう」

 

「………わかりました」

 

そう返事するとゴルネオはツェルニに於いて小隊とはエリートの集団のことであり、スキルマスターなどと呼ばれる存在であること、そしてその主な役割は都市戦での中心を担うことであり、一般武芸者を率いることであり、いわば幹部候補生のことである。そしてツェルニは過去の武芸大会で惨敗しており、セルニウム鉱山が後一つしかない状況でもう後がないと説明した。

 

 

「えっと……つまり僕に都市対向戦で戦って欲しいと?」

 

確かにそのくらいならお安いご用だ。 自分としても留学先が潰れてしまうのは避けたい。

 

「ああ、そういうことだよ。 ただ……悪いんだが君には手加減して欲しくてね」

 

「手加減?」

 

「ああ、確かに君は強い、おそらくプロの世界に身を浸した君から見ればここにいる学生なんて相手にもならないだろう。 だがここは育てる場所なんだ。 いくらなんでも君に依存するような形になるようなことは望ましくない。 皆の成長を止めてしまうからね」

 

カリアンの話を聞いたレイフォンは一応は納得した。

 

「分かりました」

 

「ああ、悪いけどよろしく頼むよ」

 

「それでだ。 ゴルネオ君に来てもらったのは彼の小隊入りについて意見を聞きたかったのと、同じグレンダン出身である君に今年の新入生を統制してもらおうと思ってね」

 

「どういうことですか?」

 

「レイフォン君の影響か知らないが今年は大量のグレンダン出身の新入生が入ってきたからね、実力に足る者がいるのなら新しく小隊を立ち上げるのも悪くないかと思ってね」

 

「………はぁ、しかしそれならヴォルフシュテイン卿のほうが適任かと」

 

「そうかい? しかし一応は小隊長を務めている君じゃないとそういったことは行えないよ。 なにせいかにレイフォン君が天剣授受者といってもここは学園都市、グレンダンではないし、まだ新入生である彼に任せては周りが納得しないだろう」

 

そう言われてゴルネオは黙る。 しかしそのまま言いなりにはならない

 

「……ではヴォルフシュテイン卿にサポートをお願いするくらいならいいでしょう?」

 

「うん、それくらいなら問題ないよ、ヴァンゼには話を通しておくから早いうちに頼むよ。 それからレイフォン君。 小隊の件に関してはまた人をやるからそれまではゴルネオ君のサポートを頼むよ」

 

「わかりました。 しかしそれならお願いがあるのですが」

 

カリアンが話をまとめようとしたところでレイフォンは口をはさんで、先程話を聞いた時から考えていたことを披露した。

 

それを聞いたカリアンは話をまとめながら呟いた。

 

「………成る程。 つまりグレンダンから来た学生は皆、君に師事したいと言っていてそのための場所を提供してくれれば小隊入りするし、先程の話も実行しやすくなるというわけか……」

 

そういってカリアンは五秒ほど考えこんでいたがすぐに顔を上げた。

 

「わかった建築科に専用の道場を建てさせよう。 それまでは建築科の実習区域の空き地を使うといい」

 

「ありがとうございます」

 

「いやなに、君の協力を得られるなら安いものだ。 それに少々条件をつけさせてもらうよ」

 

「条件……ですか?」

 

レイフォンが警戒した目を向けるとカリアンは何でもないというように両手を振りながら答えた。 急な提案に対応する機転といい今の自分にたいする対応といい、なかなかに侮れないというのがレイフォン

のカリアンの評価になりつつあった。

 

「ああ、いやなに大したことじゃない、他の学生もその道場に入門できるようにして欲しいということだけだよ」

 

「……それですか?」

 

「ああ、それだけだ。 とはいえ始めは君たちだけになるとは思うが……」

 

「いえ、それならば大丈夫です。 話は以上でしょうか?」

 

「ああ、わざわざ呼び出してすまないね。 ゴルネオ君も後は頼むよ」

 

「わかりました」

 

そう言って二人は会長室を辞した。

 

 

 

 

 

 

 

「………さてレイフォン・ヴォルフシュテイン・アルセイフ君とグレンダンの武芸者達か………彼らはツェルニを守ってくれるのだろうか?」

 

二人が去った会長室でカリアンはそう呟いた。

 

しかしそれも一瞬、次の瞬間には打てる手は打っておくとばかりに精力的に動き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、会長室を出たレイフォンとゴルネオは話ながら頼まれごとをこなすべく打ち合わせをしていた。

 

「すいませんヴォルフシュテイン卿。 このようなことをお願いしてしまい……」

 

「いえ、構いませんよ。 それより会長の言ってた話はどうします?」

 

「はい、そちらに関しては自分が準備しておくので用意ができたらお呼びします」

 

「わかりました。………しかしやはりここでは貴方が上級生ですし敬語は辞めませんか?」

 

「いえ、天剣授受者であるヴォルフシュテイン卿に対しため口などとても……それに自分は王家からもサポートするよう仰せつかっておりますので……」

 

「……わかりました」

 

 

真面目で実直なゴルネオの態度に何をいっても無駄だと悟ったのだろう。 結局レイフォンが折れた。

 

「では準備ができたらご連絡差し上げます。 それまでは小隊入りを控えていただけるとありがたいです」

 

そういってゴルネオは頭を下げて去っていった。

 

それを何となくながめていたレイフォンだったがふと幼馴染みの顔を思い出して青くなると慌てて教室に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ〜〜!? 本当にりっちゃんの言った通りだ」

 

慌てて教室に入ったレイフォンを迎えたのは見知らぬ女子の声だった。

 

二つに括った明るい栗色の髪をした女生徒だ。

 

「ね? 私の言った通りでしょ?」

 

そう言って幼馴染みがリーリンが笑う。

 

「本当だ。 いや、よかったなメイ?」

 

「あぅっ!」

 

そう言って傍らの少女に声をかける赤髪の少女とそれに恥ずかしそうに反応する黒髪の少女。

 

それが教室に入ったレイフォンを迎えた光景だった。

 

「えーと……リーリン? これは何?」

 

とりあえず状況を知るべく幼馴染みに声をかける。

 

 

「あー、うん紹介するわね、こっちが……」

 

「ハイハーイ! 一般教養科一年ミフィ・ロッテンでーす! それからそっちの背の高いのがナルキ・ゲルニ 君と同じ武芸科。 で、こっちのかくれんぼしてるのがメイシェン・トリンデン一般教養科ね。 で、三人ともクラスメイトで交通都市ヨルテム出身だよ」

 

説明しようとしたリーリンを遮って茶髪の女の子ミフィが一気にまくしたてた。 困惑しながらも幼馴染みを見れば苦笑しながら頷いていたので、自分も自己紹介をする。

 

「僕はレイフォン・アルセイフ。 槍殻都市グレンダン出身だ」

 

「わお、武芸の本場! だからあんなに強かったんだ」

 

「いや、そういうわけじゃ……」

 

「アホ、リーリンの幼馴染みって時点で同じ都市出身に決まってるだろ。 それよりほら、メイ……」

 

赤毛の少女ナルキに背を押されて黒髪の少女メイシェンが前に出る。

 

「あの、ありがとう……ございました」

 

それだけ言うのが精一杯という様子でメイシェンは再びナルキの背に隠れてしまう。

 

「悪いね、こいつは昔から人見知りが激しいんだ」

 

「それでも、入学式で助けられたからってお礼をしたいって。ねえ?」

 

ミフィにそう言われてメイシェンはさらにナルキの背に顔を押し付けてしまった。

 

助けた……というとレイフォンには全く覚えがないが件の二人を打ち倒す前に人混みを掻き分けたのはぼんやりと覚えている。 たぶんそのときに助けたのだろう。 なんて考えたところでレイフォンは寒気が走った。

 

ギギギッっとまるで油のたりないゼンマイ人形のような動きで原因を探ると、案の定、先程から一言も言葉を発していなかった幼馴染みが言葉の代わりに不穏な気配を発していた。

 

これには覚えがある。 確かロンスマイア家の少女クラリーベルが訪ねて来たときもそうだった。確かその日は一日中不機嫌で居心地が悪かったのをよく覚えている。

 

レイフォンが冷や汗を流していると……

 

「(…………レイフォンったらこっちに来ても相変わらずなんだから……)」

 

と何事か呟いた後、リーリンはすぐにいつもの雰囲気に戻った。 この辺り女とは恐ろしいものである。

 

「まっ、立ち話もなんだし、お茶にしない?」

 

そして次の瞬間にはミフィからの提案に笑顔で答えているのだからレイフォンにはもうなにがなんだか分からなかった。

 

 

 

その後、女四人の会話に圧倒されながら、くたくたになるレイフォンの姿があった。

 



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第三話

入学式の翌日

 

実にいろいろとあった昨日とうってかわり、実にのんびりとした時間が流れていた。昨日のような騒動もなくカリアンからも連絡がないのでレイフォンはのんびりとリーリン+三人娘と過ごしていた。 時折そんなレイフォンにクラスの男子が殺意を向ける程度で(一般人なら居心地が悪いがレイフォンは鈍感である)なんらトラブルは起きていなかった。

 

レイフォンも学生生活を楽しんでいた。

このまま順風満帆、なんの問題もなく1日が終わるかと思われたが………

 

 

 

 

「すいません、ヴォルフシュテイン卿……」

 

「いえ……」

 

そうは問屋が卸さなかった。

 

 

 

 

放課後これから遊びにいこうとはしゃぐミフィに連れられて街に出たレイフォン達だったが、そこでゴルネオから昨日の件について呼び出しを受けて、共にカリアンの元に向かっていた。

 

「せっかく平和だったのに……」

 

グレンダンを離れたというのに自分はどうしてこうもいろいろと巻き込まれるというかやっかいごとがついて回るのか……

 

「御察しします……」

 

戦闘狂である兄サヴァリスをもちにたような思いに覚えのあるゴルネオはそんなレイフォンに同情の視線を向けた。

 

 

そんなこんなで昨日と同じく会長室にたどり着くと昨日と全く変わらぬ顔でカリアンが迎えてくれた。

 

「やあ、昨日の今日だというのにわざわざすまないね二人とも、実はゴルネオ君から問題が起きたと伺ってね。 それでレイフォン君にも来てもらったんだよ」

 

「はぁ……」

 

何故呼ばれたのかは理解したものの問題が何なのか検討もつかず曖昧に言葉を返すレイフォン

 

「では、問題について説明しよう。ゴルネオ君の話を総合して分かりやすくするとこうだ。 『弱い奴の下につく気はない』これがグレンダンからの武芸科新入生の意思のようでね」

 

「は?」

 

「要するに自分達より弱い小隊長の下になんか着けない、小隊入りを拒否するということだよ」

 

「成る程……」

 

確かにレイフォンについてツェルニについて来たのはレイフォンを

目標として毎日グレンダンでその腕を磨いてきた者達だ。

当然その質は高い、何せかなりの人数が実戦経験のある、グレンダンでも武芸者として認められたもの達だ。(そうでなければ武芸者というだけではそれほど優遇されない貧乏なグレンダンから留学することはできない)

 

「実は昨日ゴルネオ君に頼んで量ってもらったが、グレンダンからの新入生の技量は小隊員をやれるどころか隊長すら務められるレベルのようで辛うじて武芸科長ヴァンゼとゴルネオ君が張り合える程度らしい で、小隊入りのオファーをしたところ先のような返事が返ってきたのだよ」

 

そう言ってカリアンはため息をついた。

 

強力な戦力は欲しいが扱えないのであれば意味がない。

 

「実力的には合格のヴァンゼとゴルネオ君の隊では全員を受け入れられない。 そこで君には新しく隊を作るのでその隊長を務めて貰うことにした」

 

「隊長……ですか?」

 

レイフォンが戸惑いながらもそう呟くとカリアンは意地の悪い笑顔を浮かべていい放った。

 

「レイフォン・アルセイフ君。 君を新生第一中隊長に任命する」

 

それにゴルネオは固まり。

 

レイフォンは首を傾げた。

 

 

カリアンの発言、それはツェルニに新しい隊を(仕組みを)作るという前代未聞の発言だった。

 

「それならグレンダンからの新入生全員を受け入れられるし彼らもレイフォン君になら大人しく従うだろう」

 

とんでもない発言をしたというのに淡々とカリアンはその意図を説明していく

 

「小隊で駄目なら中隊を作ればいいのだよ、それに、むしろ今まで無かったのが不思議な位だね。 何せ武芸大会は互いの都市の武芸者全員のぶつかり合い、大規模戦だ。 なのに小隊単位でしか鍛練を行わないというのは不自然どころか不合理だ。 ならばこれを機に新しい制度を立ち上げるのも一興だよ」

 

カリアンが自分の考えをスラスラと述べていく。

 

「成る程、確かにヴォルフシュテイン卿なら十分に務まるでしょうが……」

 

と、そこでようやく硬直から回復したゴルネオがそう言って苦々しい目をカリアンに向けた。

 

「分かっている。 確かに昨日私が言った通りレイフォン君は1年生だ。 しかしそれはただの未熟な新入生の場合だよ」

 

「……つまり力があれば1年であっても隊長にして問題ないと?」

 

「ああ、武芸者は結局強者を重んじるだろう? それにこれまでにない試みなんだ。 若い、まだ可能性のある一年生こそ相応しいと思わないかい?l

 

「会長のおっしゃりたいことは分かりました。 が、どうやってヴォルフシュテイン卿の力を、実力を示すつもりです?」

 

「それについてだがこんなものを考えてみたんだよ」

 

そう言ってカリアンが差し出した紙には新入生対抗戦と書かれていた。

 

「ここでレイフォン君には思う存分力をふるってもらう」

 

「……こんなものは」

 

「うん、今までなかったけどね? 有望な1年を発掘する場として今回武芸大会で後がないこともあり開催することにしたんだよ」

 

 

そう言ってこちらを見るカリアンを見て、レイフォンは己の選択肢が無いことを悟った。

 

「詳しいルールは明日発表になる。 だが一応ここで説明しておこう」

 

そう言ってカリアンは大まかなルールを箇条書きにした紙をレイフォンとゴルネオに渡した。

 

「ゴルネオ君はグレンダンの生徒に今の内容を教えてやってくれたまえ。 今の内容なら彼らも納得するだろう」

 

「わかりました」

 

「では、レイフォン君もそれでいいかな?」

 

「ええ」

 

「新入生対抗戦は三日後に行う、急なことだが今年は武芸大会があるから仕方ないと諦めてくれ」

 

そう言ってカリアンは解散を宣言した。

 

 

 

 

生徒会長室を出たレイフォンは説明に行くというゴルネオと別れ、リーリン達と合流すべく歩きながら、カリアンから渡されたルールを読んでいた。

 

 

 

 

新入生武芸大会ルール

 

 

この大会は新入生のみの参加である。

 

基本的に個人戦である。

 

戦闘は新入生全員によるバトルロワイヤルである。

 

練金鋼(ダイト)は持ち込み自由である。

 

この大会は技量を確認するのが目的である。

 

最後まで残っていたものの勝ちとする。

 

閃光弾などの道具の使用は禁止である。

 

 

などなど、大まかなに見た限りたいして問題ないと感じたレイフォンはなんと言われるのか……と思いつつリーリンの元に向かったが……その途中

 

「あれは?」

 

光輝く念威端子を見つけた。

 

いや、見つけたという表現は正しくない、正確には気づいたと言うべきだろう、なぜならそれは隠れながらもレイフォンの後をついて来ていたからだ。

それにレイフォンが気づいたのは、彼自信の技量と闇試合に出ていたことにより追跡者の気配を察知する能力が磨かれていたことも大きいだろう。(後ろぐらいことをしている自覚はあったので尾行を気にしていたため)

 

相手の目的はわからないが、こちらを監視していることに気づいたレイフォンは罠にかけることにした。

 

「ん……」

 

何気ない風を装いながら人気のない路地へと入っていく、すると当然端子もついてくる。

しかし薄暗い路地で光を放つ物体は目立つ。

かなり距離も取っているし、並の、少なくともツェルニの武芸者では気づけないだろう、しかしレイフォンにはそれだけで致命的だ。

 

「さてと……」

 

回りに人気の無いことを確認したレイフォンは端子を押さえるべく動く

 

サイハーデン刀争術、 水鏡渡り。

 

静謐な超速移動。 次の瞬間にはレイフォンは端子を掴んでいた。

 

『っ!?』

 

端子から驚いた気配が伝わってくる。 しかしレイフォンはそれに構わず淡々と問いかけた。

 

「なにかご用ですか?」

 

『…………』

 

無言、端子からはなにも返ってこない。

 

「では一つ忠告しましょう。 なぜ僕を尾行しているのかは知りませんが………なにかしたら潰しますよ?』

 

しかし、そんなことは無視してレイフォンは己の意思を相手に伝える。 ただ淡々と感情の一切含まれていない声で

 

グレンダンと同じ対応をレイフォンは行う、相手も気づかぬうちに端子を奪われたことで実力は分かっただろう。 よほど愚かでない限りレイフォンにちょっかいを出してはきまい。

 

そう考えたレイフォンはリーリン達と合流すべく、先程と同一人物とは思えないほど慌てた姿で去っていった。

 

 

 

 

レイフォンが去った後、端子は再び浮かび上がると一人声を漏らした。

 

 

『……レイフォン・アルセイフ。 何者でしょう?』

 

そう言うと端子の持ち主は彼について詳しく調べるべく動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方レイフォンはというと

 

「まったく………」

 

「ご、ごめん……」

 

またもやカリアンに利用されているレイフォンにリーリンが呆れたような視線を向け、それにひたすらレイフォンが頭を下げていた。

 

「まーまー、それくらいにしときなよリっちゃん、それよりレイとん。 その話本当!?」

 

「う、うん。 さっき会長に言われたばかりだけど、今日の夜には発表するって……」

 

「そうか……ならアタシも準備しとかないとな」

 

「そうだね。 ナッキとレイとんは大変だね〜」

 

「けど、もう一つの話のほうが驚いたぞ」

 

「だね、中隊なんて初めて聞いたよ」

 

「ほんと、まさかグレンダンの生徒を受け入れる為だけにそんな制度を作るなんてね」

 

「一応、武芸大会に向けての対応策みたいだけど……」

 

「そんなの、方便に決まってるじゃん! 明らかにレイとん達のためだよね」

 

「そうだな……さすがグレンダン。 武芸の本場というのは伊達じゃなかったみたいだな」

 

「そうかしら? グレンダンでもレイフォンは例外よ?(天剣授受者だし)」

 

「それでも他の生徒もということはやはり実力が高いということだろう」

 

「そうね、じゃあレイフォン。 ちゃんと手加減するのよ」

 

「分かってるよリーリン」

 

そう言って睨んでくる幼馴染みに冷や汗をかきながらレイフォンは返事をした。

 

「よーし、じゃあ。 パーっと遊ぼうか?」

 

そう宣言したミィフィの言葉により、2日連続でレイフォンの運命は決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして三日後

 

 

「うう……厄介なことに」

 

三日後、試合を前に興奮する一年生の中でただ一人、レイフォンは暗い顔をしていた。

 

それというのも……

 

「無駄に怪我させたら駄目よ? させたら……わかってるわね?」

 

そう言って笑顔でこちらを見てきた幼馴染みのせいだ。

 

しかし確かにそれもあるが一番堪えているのが……

 

「「「ヴォルフシュテイン卿! 胸をお借りします!」」」

 

そういって気合いをいれたこちらを見てくるグレンダンの者達のせいであるところが大きい、何せ周りからも奇異な目で見られるはめ

になるのだから試合前からレイフォンのHPはガリガリ削られていた。

 

「なあ、レイとん。 大丈夫か?」

 

心配してナルキが声をかけてくれるが、気休め程度にしかならず、実は密かに人気のあるナルキに声をかけられているのを見て、一部の生徒が嫉妬に狂った視線を向けてきたりと、逆効果であった。

 

「胃が痛い………」

 

グレンダンでは悪意や嫉妬の感情には慣れていたが所違えばそれもまた違う。 レイフォンはそれをしみじみと実感していた。

 

 

「では、全員入場してください」

 

そこでようやく、時間になったのか放送が始まる。

 

係員の声を受けて全員がぞろぞろと移動する。

 

これでやっと開放されたと思ったレイフォンだったが、あれよあれよと人混みに流され、気づけばグランドのど真ん中にいた。

 

「あれ?」

 

しかしはっとしたときにはもう遅い。

 

「それではぁ! 試合開始ぃぃぃいい!」

 

アナウンスの声が響きわたり、全員が動き出した。

 

そして真ん中にいたレイフォンにほぼ全員が襲いかかる。

 

ぼうっとしていたレイフォンだったが、戦闘となればスイッチが切り替わる。

 

『外力系衝剄の変化 竜旋剄』

 

レイフォンを中心に竜巻が発生する。

 

それは不用意にレイフォンに飛びかかった数人の生徒を巻き込み、内部の衝剄の嵐に巻き込む。

 

慌てて止まった生徒達にも悲劇は襲いかかる。

 

『外力系衝剄の変化 九内雨』

 

凝縮された剄の刀が、周囲に降り注いだ。

 

竜巻が収まった後には十数名の生徒が倒れていた。

 

「「「「うわあああああ!!」」」」

 

それをみて歓声が上がる。

 

しかし砂煙が晴れて見るとそこにいるはずのレイフォンがいなかった。

 

観客が驚愕する。 もちろん同じグランドにいた者達も同様だ。

 

しかしそんなことでレイフォンは止まらない。 戦いのスイッチが入ればレイフォンは強く、そして余計な感情はカットされる。

 

追撃が為される。

 

『外力系衝剄の変化 気縮爆』

 

突然大気が歪んで爆発を起こす。

 

「「「っつ!?」」」

 

それによって爆風が吹き荒れ、野戦グラウンドは砂煙に包まれた。

 

そして……

 

「うわっ!?」

 

「なっ!?」

 

「ちっ!」

 

「がはっ!」

 

誰もが視界を奪われ動けない、そんな中でレイフォンだけが動いていた。

 

動けずに立ち止まっていた生徒が次々と昏倒させられていく中で、グレンダン出身の生徒達は冷静に対処する。

 

それでも何人かはレイフォンにやられた。

 

 

 

しかし、流石はグレンダン、集団戦においてはおそらく世界一だろう、彼らには衝剄を重ねる秘技があった。

 

『撃てぇ!』

 

一人の号令とともにいつの間にか集まっていた十数人から一斉に衝剄が放たれる。 それらは巧みに配置され、遅いもの早いものとが空中で合わさり威力を増していく、 そしてその効果範囲は広い上に、その威力は汚染獣をも倒すため未熟な一年生では下手したら死者が出ただろう。

 

しかし………

 

「面倒な……」

 

それをさせないのが天剣授受者レイフォン・ヴォルフシュテイン・アルセイフだ。

 

『外力系衝剄の変化 閃弾―渦』

 

刀から放たれた衝剄はあっさりと複合衝剄をかき消した。

 

 

 

続く連撃

 

 

『活剄衝剄混合変化ー鳳仙』

 

レイフォンが無数に分裂する。

 

無数に分身したレイフォンが次々と技を放つ

 

『外力系衝剄の化錬変化ーー朧月夜』

 

形の定まらないぼんやりとした衝剄が飛び出すと次々と変化、会場を一変させた。

 

『『『『『!!???』』』』』

 

 

次の瞬間現れたのは闇夜だった。 レイフォンが化錬剄で作った剄が会場の照明を覆い、灯りをシャットアウトしたのだ。

 

視界を奪われ、しかしそれでも動こうとした彼らを物質化した剄が阻む

 

『外力系衝剄の変化ーー刃鎧』

 

天剣授受者カルヴァーンの技だ。 さっきの朧月夜のとき撒いた剄で作ってある。

 

視界、それに加えて動きまで封じられた彼らは的も同然だった。

 

 

有り余る剄力と豊富な技。

 

圧倒的な力でレイフォンは勝利した。

 

そして上手く出来たと喜ぶレイフォン。

 

 

しかしその後会場を真っ暗にしたことによりメイシェン怖がらせてしまったと怒られてへこむ姿からは威厳も何もなかった。

 

 

 

そして表彰式が行われ、ツェルニの生徒に第一中隊の発足が告げられた。

 



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第四話

新入生武芸大会でその力を見せつけたレイフォンは、カリアンによる中隊制度発表と合わさってその名をツェルニ中に轟かせた。

 

よって……

 

「うう…視線が痛い」

 

好奇の目にさらされることとなる。

 

「ま、なにせ中継までされてたから都市中の人が顔を覚えちゃったみたいだからね~」

 

「ミィ、何の慰めにもなってないぞ」

 

「というかとどめを刺したよね」

 

「ま、いままでも似たような感じだったんだから慣れだよ慣れ」

 

「といってもやっぱりきついよ…」

 

なにせレイフォンが好奇の視線にさらされてきたのは武芸関係だけであって普通の生活の中ではとりたてて注目されることはなかったのだ。 

それが今やどこに行こうとも注目されかつ、やっかみや嫉妬といった感情を受け続けるのは武芸以外ではスイッチの緩いレイフォンには少々酷だった。

 

「ま、グレンダンも似たようなものだったし、時間がたてば収まるでしょ」

 

そういって幼馴染のリーリンからも見放されたレイフォンはテーブルに突っ伏していた。

 

そんなレイフォンを憐れむ三人娘と幼馴染。

 

と、そこに乱入者」が現れた。

 

「失礼する」

 

そういってレイフォンたちの教室に現れたのは生徒会長のカリアンである。

 

「……何用ですか?」

 

元凶の登場に顔をあげ不機嫌そうに言葉を返すレイフォン。

 

「まあまあ、そんなに邪険にしなくてもいいだろう? それよりちょっと例の中隊の件で話があるんだが今からいいかね?」

 

「え? いや授業があるんですけど……」

 

「ふむ、それなら仕方ない、放課後にまた生徒会室に来てくれたまえ」

 

そう告げると急を要することでもなかったのかあっさりと引き下がるカリアン。

 

「では放課後に」

 

そう告げると秘書らしき女性を従えて去って行った。

 

すると途端に教室に喧騒が戻ってきた。

 

しかしほとんどの視線はレイフォンのほうを向いている。

 

「やっぱり胃が痛い……」

 

レイフォン・アルセイフ15歳 この年で胃薬が必要なようだった。

 

 

 

 

 

 

 

放課後

 

幼馴染と三人娘に別れを告げ、レイフォンは一人生徒会室にやってきていた。

 

とりあえずゴルネオにならって扉をノックする。

 

「入りたまえ」

 

そして返事があったので扉を開けると、そこにはカリアンと顔をしかめた大男がいた。

 

「やあ、よく来てくれたねレイフォン君」

 

「どうも」

 

そういって部屋に入りつつ扉を閉めるレイフォンを大男が睨んでいた。

 

「紹介するよ、彼はヴァンゼ・ハルディ 武芸長を務めている」

 

「……ヴァンゼだ」

 

そういってこちらに手を差し出すヴァンゼ。

 

一瞬きょとんとしたがすぐに握手を求めているのだと気づき慌てて差し出された手を握った。

 

するとすかさず万力のような力で握られたのでとりあえずグレンダン流にこちらも力を込めて応じる。

 

「っつ!!」

 

もちろん手を壊さないよう手加減はしたのだが、ヴァンゼは驚いたような視線を向けてきた。

 

「さて、じゃあお互い実力は分かったみたいだし。 話し合いにはいってもいいかな?」

 

そういって、カリアンが話を始めた。

 

「今日レイフォン君をここに呼んだのは他でもない、中隊制度について話し合うためだよ」

 

「はぁ……」

 

「でだ、最初はうまくいくかと思ったんだが、やはり各小隊から反発の声が上がってね」

 

「当り前だろう、いきなり一人で話を進めよって、武芸長である俺に何の話も上がってこないというにはどういうことだ?」

 

「とまあ、ヴァンゼのいうような声が小隊からも上がっているし、直接戦うことのなかった者たちには今一つ君の実力が伝わっていない そうだねヴァンゼ?」

 

「…ああ、実際グレンダンの生徒と手合せした俺には彼らをも圧倒してみせたお前の実力がとてつもないものと理解できたが、どうも各小隊の連中は新入生の中ではやるほうだという認識しか示していない」

 

「そうなんですか? わざわざ化錬剄で会場を覆うなんて離れ業をして見せたのに…ですか?」

 

「……未熟をさらすようで恥ずかしいがツェルニにはお前と同じグレンダン出身のゴルネオと、その教えを受けたシャンテくらいしか化錬剄の使い手は居なくてな、どれだけのものか理解しかねているのだろう」

 

「そうなんですか……」

 

どうやら珍しくレイフォンが行った気配りは空振りに終わったようだ。

 

「まあ、そういうわけで彼らに再び実力を示してもらわないといけないわけだが、流石に先日のような催しは行えないので身内だけで小隊長の勝ち抜き戦を行おうと思う」

 

「つまり、また僕にそれに参加して欲しいと?」

 

「うん、話が早くて助かるよ。 君にはそれに第一中隊長として参加してもらい、彼らに君の力を見せつけて欲しい。 トップが敗れれば下の小隊員も納得するだろう  それでいいねヴァンゼ?」

 

「いいも何もそうするしかなかろう、放っておけばあいつらは何をしでかすかわからんぞ」

 

「ふぅ、やれやれ。 力を持つものほど自制して欲しいけどね…、ではレイフォン君私とヴァンゼはこのまま今の話の調整に入るが…参加してくれるということでいいのかな?」

 

「はい、こうなったらしかたありませんから」

 

「ありがとう、そういってくれると助かるよ。 それじゃあもう退出していいよ、連絡は追ってするが近日中には話が行くはずだ」

 

「わかりました、失礼します」

 

こうして、レイフォンは小隊長たちと勝ち抜き戦を行うこととなった。

 



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第五話

感想いただいたので更新します


小隊長との対抗戦、それは武芸科の生徒にのみ告げられたのだが、今話題のルーキーレイフォン・アルセイフについての情報とあってか、その話はあっというまにツェルニ中に広がることとなった。

 

なにせ新入生対抗戦で圧倒的な実力を示したレイフォンが今度は小隊長達と戦うとあってその注目度はうなぎのぼり。 あちこちで賭けが始まり、一般生徒からは見物したいとの声が続出した。

 

そして、いち早くその声に応えたカリアンはすぐさま舞台を整え、一般生徒の観覧を許可。さらに前回以上に大々的に取り上げるため週刊ルックン等の取材許可や、TV中継、ラジオでの特番といった話をまとめあげあっという間に小隊長対抗戦をツェルニ挙げての一大イベントにしてしまった。

 

 

「いいのか? こんなに話を大きくしてしまって?」

 

「構わないさ、なにより前回の新入生対抗戦で気づいたのだが、一般生徒からこういうイベントを行うとかなりの収入を得られることがわかってね、富はあって困るものではないし、前回のレイフォン君の試合映像フィルムをちょっと実家の伝手を使って販売の話を他都市に持ちかけたところ非常に好感触でね。 どうやらかなりの利益が見込めそうなんだよ(レイフォンからは当然不許可)それに後がない対抗戦を前に一般生徒もかなりぴりぴりしているからね、ガス抜きにもなって一石二鳥だよ」

 

「お前は……まあ、お前に武芸者の理念をとやかく言っても仕方がないしな。 どうせ辞めるつもりも今更ないのだろう? なら思いっきりやるのだな」

 

「そのつもりだよ」

 

こうしてカリアンとヴァンゼの話し合いは終わり…

 

 

「うう…胃が痛い……」

 

レイフォンは再び大観衆の視線に晒されることが確定して憂鬱になるとともに、胃を痛めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして対抗戦当日

 

流石に何連戦もしたらレイフォンがきついだろうとということで対戦する小隊長は第一小隊長ヴァンゼ・ハルディ、第三小隊長ウィンス、第五小隊長ゴルネオ・ルッケンス、第十小隊デイン・ディー、第十四小隊長シン・カイハーン、第十七小隊長ニーナ・アントークとなった。

 

レイフォンとしては別に何連戦だろうと構わなかったのだが、相手が減るということは試合時間が短い、イコール視線に晒される時間が短いということでそれに合意。

 

こうしてお互いの考えや思惑がたまたま重なった結果人数は減らされた。

 

 

 

 

 

 

サイド:ニーナ

 

「よう、ニーナ 浮かない顔してどうした?」

 

私が試合を前に控室で集中していたところ、シン先輩が話しかけてきた。

 

「そんなに顔色良くないですか?」

 

「あー、いやなんつうかどうもお前さんらしくねえ感じがしてな。 あのルーキーに何か思うところでもあるのか?」

 

シン先輩の言うルーキー レイフォン・アルセイフ。今日私が戦う相手であり、このツェルニに現れた超新星である。

 

「ま、確かに気になるのも無理はねえな。 なにせお前さんは一年にして小隊員なんてエリートだったがやっこさんはその上をいくまさかの隊長就任、しかも小隊長じゃなくて中隊長ときたもんだお前さんが気にするのも無理はねぇ、てか武芸者なら誰もが気にしてるだろうさ」

 

シン先輩はそういったが私が気にしているにはそれだけが原因ではない

 

彼は入学式の時暴れた新入生を的確に鎮圧した。それを見たとき私はようやく十七小隊をスタートできると思った。 ーーしかしそれは叶わなかった。

 

「悪いがニーナ君 彼にはやってもらうことができたのでね」

 

直談判に行った会長には断られ

 

「ニーナ・アントーク お前ごときが天剣をヴォルフシュテイン卿を扱おうなどおこがましい」

 

同席していた第五小隊隊長ゴルネオ・ルッケンスには鼻で笑われた。

 

ならばと出向いたグレンダンから来た新入生たちにもすげなく断られ

 

「我々はヴォルフシュテイン卿に師事する、あなた方から学ぶことなどない」

 

そしてどうやらあのフェリでさえなにやら彼について調べていた。

 

 

自分では動かせなかったものを動かし、周囲から絶大な尊敬と敬意を受けるレイフォン、彼は何者なのか

ニーナは思い悩み、そしてこの大会で明らかにしようと決意する。

 

 

「それではお待たせしました小隊長対抗戦スタートです!」

 

アナウンスを受けてニーナは席を立った。

 

 

 

 

 

 

第一試合 レイフォンVSニーナ・アントーク

 

 

大歓声を受けながら二人は前に出る今回は勝ち抜き戦になっている。

 

 

「よろしく頼む」

 

「こちらこそ」

 

 

二人を闘技場の中心に残し、残りの隊長達は引いていった。

 

 

「準備はいいか?」

 

ニーナが問いかける。

 

レイフォンはこくりと頷いた。

 

「そうかなら……レストレーション」

 

ニーナが小さく呟く。 途端、ニーナの持つ二つの棒が変化膨らみが増し、光を吸い取るようなつや消しの黒が、天井の光を跳ね返すようになった。 握り部分がニーナの手に合わせて最適化する。打撃部分に環状の膨らみがいくつも生まれた。 ニーナの両腕がだらりと下がる。

 

先ほどまでと、重量感がまるで違った。

 

「鉄鞭……」

 

現れた武器を見てレイフォンがそうつぶやいた。 すでに普段のおどおどした様子は消え去り冷静にただそこにある事実を確認するかのように冷たい視線をそれに向ける。

 

「…レストレーション」

 

それに応えてレイフォンもダイトを復元する。

 

現れたのは天剣を模して作ってもらった白金錬金鋼(プラチナダイト)の剣である。

 

ちなみにそれを見て客席のリーリンが溜息をついていた。

 

二人がダイトを構えたのを見て審判が旗を掲げ

 

「始め!」

 

合図とともに振り下ろした。

 

 

「私は本気で行くぞ」

 

合図とともに、空気をひきちぎるような音を立てながらニーナが右手の鉄鞭を振るった。 鉄鞭の先はレイフォンの額に向かって突き出される。

 

(これは金剛剄でも痛いな……)

 

予想以上のニーナの一撃に内心驚きながらもレイフォンは冷静に相手を観察する。

 

いきなりだ。

 

 間合いもなにもなくニーナが飛び込んできた。

 

右手の鉄鞭がそのままに突き出される。 狙いは先ほどと少し変わって胸。

 

その一撃をレイフォンは身をひねってかわした。そこに左手の鉄鞭が隙を見せた背中めがけて振られた。

しかしそれをレイフォンは背中に回した剣で受け止める。 重い一撃ではあったがレイフォンは巧みに力をそらして腕を痛めることなく受け止めた。

 

そのまま体を回転させて、鉄鞭の双牙から脱出した。

 

距離をとって仕切りなおす。

 

そうして互いに対峙しながら隙を窺う。 今度は慎重に、ニーナは間合いを計って動かない。

 

そうやって向き合いながらもレイフォンは試合前に会長に言われたことを思い出していた。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

「レイフォン君、君の実力ならあっという間に勝負をつけることができるのだろうけど、少しは…そう、最低五分は持たせてくれないかい?」

 

「それは構いませんが……何故です?」

 

「なに、小隊員というエリート集団のトップたる隊長がそう簡単に負ける姿を見せては、一般生徒に今年の武芸大会は大丈夫かと不安に思わせてしまうからね。まあ、多少は彼らのプライドも考慮してはいるが……あまりに圧倒的すぎると君に追いつこうという気概を失くしてしまいそうだからね」

 

「そうなってしまえばそこまでだと思いますけど……」

 

「まあ、そうだろうが。ここは育てる場所なのでね、頼んだよレイフォン君」

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

そこまで思い出したところでニーナが再び動いた。

 

内力系活剄ー旋剄

 

次の瞬間にはニーナが目の前にいた。 そのまま重量の乗った一撃を繰り出してくる。先ほど受けてみてあの外観にふさわしい重量を備えていることは十分に分かっていた。それを操るニーナの筋力と練熟にレイフォンは内心舌を巻いた。

 

学園都市には未熟者しか来ないと聞いたが、小隊長ともなればそれなりのものを持ってるようだ。

 

しかし、レイフォンには、天剣授受者には届かない。

 

外力系衝剄の変化ーー蝕解

 

「つっ!?」

 

ニーナの一撃を迎撃したレイフォンの剣に触れた瞬間、ニーナは自らが自信を持って放った一撃が無駄だったことを悟った。 鉄鞭が、頑丈さでは武器の中では一二を争う己の武器が破壊された瞬間に……

 

「なっ!?」

 

慌てて後ろに下がって武器を確認するが、なまじ威力を乗せるため鉄鞭をクロスさせていたため両方ともやられた。

 

それを確認してニーナは驚いた視線をレイフォンに向けた。 自らの渾身の一撃をあっさりと受け止めた。 一体どれだけの膂力、内力系活剄なのだろうと、そして自らの武器は壊さず的確にこちらの武器だけを破壊した。 一体どれだけの技量なのだろうと

 

 

と、そこでレイフォンの姿が消えた。

 

内力系活剄の変化ー水鏡渡り

 

そしてニーナの背後に回ったレイフォンの一撃を受けて昏倒しながら、ニーナはレイフォンの呟きを聞いた。

 

「五分……」

 



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第六話

感想をいただいたので投稿です


目の前で崩れゆくニーナをレイフォンは冷静な目で眺めながら、ちらりと入口に立てかけられた壁時計を一瞥する。通常では見ることのできないであろう距離であるが、内力系活剄で強化されたレイフォンの目はそれをたやすく確認する。

 

(4分58秒か……少し早かったかな)

 

カリアンと約束した時間は5分、2秒ほど早かった。

 

わずか2秒ではあるがレイフォンは自身の体内時計が狂っていたことに不快感を覚える、老生体との戦いは下手をすれば数日にも及ぶ、わずかなズレも死につながる世界ではーー天剣授受者にとってそれは決して看過できるものではなかった。

 

「き、き、決まったぁああああああ!! なんとあの第17小隊隊長であるニーナ・アントークを打ち破ったのは期待の超新星(スーパールーキー)レイフォン・アルセイフだぁああああ!!!!」

 

崩れ去るニーナを確認して司会者が叫ぶ、と同時に会場の観客がどよめいた。

 

ニーナがあまりにあっさりと敗れ去った事実に動揺したモノ、レイフォンの実力に驚嘆したものなど理由は様々であったが驚きが大半を占めており、カリアンやリーリンが恐れていたような恐怖という感情は見られなかった。

 

 

 

 

 

ーーーしかし、それは未熟な武芸者や一般人のみの話である。

 

 

「な……なんだあれは!?」

 

小隊長達が集まっている控室では驚きの声が上がっていた。しかしそれは当然だろう、自分たちが良く知るニーナ、一年生にして小隊員という快挙を成し遂げた実力者があっさりと倒されたのだから。

 

「俺みたいなタイプならともかく、鉄鞭を使うニーナを一撃かよ……」

 

特に自分の隊にいたこともあって、ニーナのことをよく知るシンの驚きはひとしおだった。

 

ニーナのスタイルは基本は専守防衛だ。重厚な二振りの鉄鞭によるガードはまさに鉄壁、そう簡単に崩せるものではない

 

(それをああも、あっさり崩すかよ……)

 

一合剣を振るっただけで武器としてはかなりの頑強さを誇る鉄鞭を砕き、返す刀でニーナを昏倒させるなど並みの力量ではない

 

(ニーナが武器を破壊されたことで動揺していたことを差し引いてもあの速さは異常だぜ……)

 

なにせ一瞬でニーナの背後に回ったそのスピード離れた場所から俯瞰で捉えていたというのに一瞬見失ってしまっていた。内力剄活剄の大部分を視力の強化に回していたというのにだ!

 

「こりゃ……俺でも相手にならねえな……」

 

そう呟いたシンの声を控室にいた全員が聞き取っていたが、それを弱気と断ずることは誰もできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「す、すごかったねーレイとん!」

 

「はっと気づいたら相手の人が倒れてるんだもん」

 

「強いのはこの前十分に思い知ったつもりだったがこうして見るととんでもないな……」

 

「あら、そう?いつもこんな感じだったけどなぁ」

 

一方、観客席でも三人娘+リーリンが姦しく騒いでいた。

 

「えー、グレンダンでもあんな感じだったの?」

 

「ええ、おかげで小さいときからどんどん上に上がっていちゃって、ろくに勉強もしなかった結果がこれよ…」

 

そう言ってため息をつくリーリン

 

レイフォンがあまりにもバカな為学園都市に来たと説明されている三人はそのセリフに苦笑するしかない

 

「お!次の試合が始まるみたいよ!」

 

ミィフィの声と共に第二試合がスタートし四人は再びグランドに視線を戻した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「第14小隊隊長シン・カイハーンだお手柔らかに頼むぜ」

 

「レイフォン・アルセイフです。よろしくお願いします」

 

二人の挨拶は割と本気なシンのセリフからスタートした。

 

「ま、ギャラリーもいるし、気楽にやろうぜ、な?」

 

「はぁ……」

 

気さくに声をかけてくるシンに、先ほどのニーナやヴァンゼのような真面目な人間、というイメージを小隊長に持っていたレイフォンは戸惑いながらも頷いた。

 

 

「両者構え!」

 

しかしその戸惑いも審判の声に従い互いに構えた時点で消失した。先ほどまで纏っていた軽薄な雰囲気はなりを潜め、無言でこちらを見つめながら己の武器であるレイピアを構えるシンの姿が見えたためだ。

 

(戦いと普段とでは切り替えるタイプか……)

 

そこまで考えたところでレイフォンに戦闘態勢に切り替わった。思考が研ぎ澄まされ、余計な雑念は消失する…自然と顔は引き締まり、先ほどまで感じていた胃の痛みも忘れる。

 

 

 

 

「それでは試合ぃいいいい!開始ぃいいいいい!!」

 

先ほど同様、司会者の絶叫と共に試合は始まった。

 

 

 

外力系衝剄の変化ーー点破

 

「っつ!?」

 

開幕早々からシンが仕掛けた、様子見など考えていない本気の一撃だ。

 

突き その一転に特化された構えから突き出されたそれはわずかな遅滞もなくレイフォンを襲ったが、驚きつつもレイフォンは躱した。剄の動きが見えるという反則ものの特技を持つレイフォンには技の前兆が丸見えだったのだ。

 

しかし自慢の一撃が回避されたと見るやシンは動揺することなく次の技を繰り出す。

 

外力系衝剄の変化……点破 連の型

 

 

威力を下げた代わりに一気に五発もの衝剄が放たれる。しかもそれらはいやらしく間合いを取って広がっており、必ず一部は命中するという技の意図が透けて見える攻撃だった。

 

それをレイフォンが受けるか、避けるかした隙に必殺の一撃を叩き込もうと構えたシンだったが、レイフォンが取ったのはそのどちらでもなかった。

 

サイハーデン闘争術 畳み返し

 

色々と突っ込みどころのある技が発動すると同時にシンが放った点破は全てレイフォンの目の前で反転、シンに襲い掛かった。

 

 

「っな!?」

 

自らが放った技がそのまま返ってくるというありえない状況に驚いたシンが動揺し隙を見せてしまったのは仕方がないともいえる、しかしそのわずかな意識の間隙をついてレイフォンの一撃がシンを襲った。

 

外力系衝剄の変化 点破

 

「!?」

 

剣という違う武器でありながらもシンの点破を放ってきた。その時点でも驚くべきところだが、さらに凄いのは一度しか見ていない技を一瞬で自分のものにしたそのセンスだろう。

 

結果、二重の驚きを受けたシンは上手く衝撃を受け流すことができずに吹き飛んだ。

 

普通であれば自らが放った技にやられるようなシンではないが、自分の攻撃+レイフォンの攻撃を受けたのでは堪らない、それでも咄嗟に技の威力を受け流したのは流石であるが完璧にはいかず吹き飛ばされた。

 

「ぐっ!」

 

多少なりとも威力を受け流したお蔭かなんとか意識を保っていたシンだったが、吹き飛ばされながら彼が見たのは自分に襲い掛かる衝剄の雨だった。

 

 

レイフォンが使った技、畳み返しの原理は鍛錬法である、押し合いの応用である。しかしそれには莫大な剄量の差が必要な為、常人には使用不可能な力任せの技である。

 

そんなことを知るはずもないシンは襲い掛かる衝剄により意識を刈り取られた。

 

 

「あ、しまった……」

 

なお、思わず追撃をかけてしまったレイフォンは気絶するシンを見て五分立っていないことに気づいたが後の祭りだった。



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