漂流傭兵小噺~なんで右も左もケモ耳ばっかなんだ、いやそんなことよりまずはカネだ龍門幣だ!~ (ラジオ・K)
しおりを挟む

プロファイル・???
プロフィール ???


物語が進むその都度、少しずつ更新……もとい明らかになっていきます。

現在の記述だけでも人によってはネタバレになるかもしれません。
苦手な方は、プラウザバックを推奨します。


 以下の情報は本人の記述を基にしている箇所がある。

 よって、その情報が必ずしも正確ではないことを、閲覧者は注意してくれ。

 ――ケルシー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

基礎情報

【コードネーム】  ■■■

【性別】      男

【戦闘経験】    半年

【出身地】     地球(自称)

【誕生日】     4月14日

【種族】      アヌーラ(自称)

【身長】      170cm

【体重】      74kg

【鉱石病感染状況】 メディカルチェックの結果、非感染者に認定。

 

 

 

能力測定

【物理強度】    標準

【戦場機動】    標準

【生理的耐性】   標準

【戦術立案】    標準

【戦闘技術】    標準

【アーツ適性】   欠落

 

 

個人履歴

 サルヴィエント郊外で特別単独任務に当たっていたロドスオペレーター、グレイディーアが発見した、身元不明の人物。

 同地で一時的な協力関係となり、その後紆余曲折を経てオペレーター■■■よりの紹介を受け、ロドス人事部の門を叩いた。

 結果、ロドスへの雇用契約が成立。某堅塁攻撃小隊及び■■■■■に所属している。

 

 

健康診断

 造影検査の結果、臓器の輪郭は明瞭で異常陰影も認められない。循環器系源石顆粒検査においても、同じく鉱石病の兆候は認められない。以上の結果から、現時点では鉱石病未感染と判定。

 

【源石融合率】   0%

【血液中源石密度】 0.00u/L

 

 とはいえ……こんな数値、本当にあり得るのか? 源石との接触はちゃんと確認されているのに……! やっぱりあり得ない。「0」だなんて(以下、同じような文章が続いたので削除された)。

 ――検査した医療オペレーターの日記より

 

 

第一資料

 現在編纂作業中…………

 

 

 

 

モジュール基本情報

 

形状

 極めて標準的な、封された試験管である。中には彼の血液が、一定量、入っている。

 

使用方法

 試験管を砕く。それだけである。その際の方法は問わない。

 

効果

 試験管の中にある血液量により、ある種の「アーツ」を発動する。

 その名称と効果は以下の通り。

 

 

エディアカラの始まり

 全ての遠距離攻撃を消し去り、無力化する。効果時間は2秒間。

 

カンブリアの爆発

 周囲3メートル圏内に5つの火球を生じさせる。火球は術ダメージを与える。

 

オルドビスの大寒波

 前方向4メートル、扇状に局所的な吹雪を発生させ、【寒冷】を付与する。

 

シルルの大渦

 詳細不明。

 

デボンの大津波

 詳細不明。ただ、不死の黒蛇、それが操る炎を一時的に無力化することができるという。

 

ミシシッピとペンシルバニアの大森林

 周囲5メートル圏内の味方にシールドを付与。シールドは敵の攻撃を5回、完全ガードする。

 

ペルムの大噴火

 詳細不明。

 

トリアスの大鎧

 味方1人に防御力300%、術耐性60を付与する。効果時間20秒。

 

ジュラの大成長

 体の一部を変化させ、最大射程10メートルの薙ぎ払い攻撃を行う。攻撃終了まで使用者は一時的な不死となり、撤退しない。

 

白亜の大隕石

 詳細不明。

 

 

 




意外に書くの難しいですね……
こうした方がいいよ! この情報も欲しい! 等の意見があれば感想にどうぞ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第1部 始まりのイベリア編・上
サルヴィエント郊外にて


天啓が舞い降りたので、二次創作、始めました。
ふつつかものですが、よろしくおねがいします。

初回は、色々と遊んでみました。


「31」

 

 斬る。一閃。

 

「47……」

 

 斬る。真向斬(まっこうぎ)り。

 

「11!」

 

 斬る。袈裟斬(けさぎ)り。

 

「7、なな、(なな)ぁ!」

 

 斬る。逆袈裟斬(ぎゃくけさぎ)り。

 

 

 斬って、斬って、俺は斬り続けた────

 

 

 

 そして約5分後。

 もう、このあたりで立っているのは俺だけとなった。

 

 ふぅ。一体何なんだコイツらは。ふと目を覚ましてみたら突然この、ボロ切れを纏った老若男女が襲い掛かってきたのだ。1人1人が別の数字を叫びながら。

 

 「■国映画でよくあるゾンビもののロケ地だとか、ドッキリ企画じゃないよな?」

 

 そう呟きながら刀を虚空にしまう。

 

 

 「てか、ここ何処だ?」

 

 

 空を見上げると、どんよりとした、陰鬱な雲が多い尽くし。

 地面を見渡せば、酷く荒れ果て、生き物の気配はどこにもない。

 かつては整備された幹線道路と思わしき道は、そこら中にヒビと雑草を生やし、所々隆起している。車で走ったらさぞかしよい尻のマッサージとなるだろう。とても痛そうだ。

 

 

 しばらく歩くと潮の香りと一本の柱が見える。海沿いだったのか……全く、気が滅入(めい)るリゾート地だなこりゃ。

 と、柱の上に今にも朽ち果てそうな看板を確認する。

 

 ……なんだこりゃ。全く知らん文字だ。まさか、ここは地球ではないのか?

 一瞬そんなバカげた考えが頭をよぎる。

 奇妙なことだが、それでも文字は読めた。所々擦れてはいるが……

 

 

 【□□□り、左10キロ、サルヴィエント】

 

 は? 何……()()()()()だって? 全く、聞いたことがない土地だ。

 

 

 1人困惑していると──殺気

 

 猛烈な勢いで飛んできた()()を弾けるように横へ飛び、(かわ)す!

 足元の砂が舞い散るその刹那(せつな)、感じる猛烈な潮の臭気(しゅうき)。思わず顔を(しか)めてしまう。

 

 ずるり、という音と共にその何かは引っ込む。

 振り返り、そちらを見ると。

 

「何だ、ありゃぁ……?」

 

 それは一見すると、黒々とした海藻(かいそう)をたっぷりと振りかけた、塊だ。

 塊は細かく蠢動(しゅんどう)し、うねうねと身をよじらせる

 何て気色悪い、むっ!

 

 今度は2つ、塊から伸びてくる!

 今度は真後ろへと跳ね飛び、躱す。

 俺は見た。「それ」が虚しく海岸を叩き巻き上がる砂が降りかかるのを。

 「それ」は無数の粘液を自己主張させる吸盤を持つ──触手だ。

 

 と、塊から嘴が伸びてくる! その形は鳥のよう。

 

 

「■■ケ■……タ■■テ……」

 

 

 触手の塊が、喋った、だと?

 

 

「KIみ、のたぁすぅ、け。が、ひづようなん、DA。増えるためぇにぃ」

 

 

 この見た目で知性があるというのか? 一体どうなっているんだ!?

 

 

「必、よう。Dあ。チ、が……魔っ赤なぁ、陸人のGあぁぁぁ!!」

 

 

 触手の塊が一気に俺の方へと跳ね飛ぶ! 

 嘴を大きく開いて。

 

 なんだよ、こんなワケわからん所で……タコもどきに食い殺されてたまるか!

 俺は無意識の内に虚空より無数の得物を取り出し、迎撃する──

 

 

 

 

 そして激闘の果てに。俺はタコのバケモノを撃ち倒すことに成功した。

 

 

「はぁ、はぁ、……くそっ、自分を喰って回復しながら戦うとか、反則だろうが……」

 

 

 大小様々な()()()()の死体を前に、息も絶え絶えにそう突っ込む。

 ホント、寝起きの身には辛いぜ。

 

 

 その時、少し光が辺りを照らす。太陽が出たのだろうか。

 そう思うのも束の間。

 巨大な影が背中から迫りくる。

 何かと思い振り向き、仰ぎ見ると。

 

「何だ、ありゃぁ……鉄の山? いや、都市か?」

 

 

 先まで曇っていたせいで視界がやや悪かったから気づかなかったのか。

 それ以前にあまりにも生気がない黒で染まっていたためか。

 今、その都市の残骸は、俺の前に姿を現す。

 

 

 何というか、死んだ巨大生物の骨みたいだな……。

 漂う鉄の錆風(におい)と共に暫し呆然と見上げていると。

 

 

「──渇水の大洋裂断」

 

 

 上品な声と共に突如として湧いて出てきた水が俺を締め上げ、どこかへと引きずり込もうとする!

 

 

「なっ!?」

 

 一瞬だけ藻掻(もが)こうとして、即座に悪手だと判断。体を僅かに縮ませ、できた隙間によりほんの一瞬、締め付けが緩む。

 そのチャンスを見逃さず、俺は一気にジャンプし上方向へと抜け出す。

 そんでもってどうにか着地に成功した。

 次から次へと……一体何なんだ!?

 

 

「海の眷族をこうもあっさりと仕留め、(わたし)の攻撃を容易(たやす)くいなすとは、あなた、何者ですの?」

 

 やや上から響くその声に目を向けると。

 

 黒と白の絶妙なコントラストに身を包む、長身の、赤目の女が、俺を見下ろしていた。

 




読んでくださり、ありがとうございます!

もし面白いと感じてくれましたら、評価をお願いします!
感想や指摘も大歓迎です!

エタらないよう、1次創作活動と上手く付き合いながら書いていこうと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

カジキとの出会い

幸いにも筆が進みました。


「海の眷族をこうもあっさりと仕留め、(わたし)の攻撃を容易(たやす)くいなすとは、あなた、何者ですの?」

「男……ということは間違っても()()ではないようね。()()()()()も……全く、見られない。なのにあの眷族を倒した」

 

 少し高い場所、大岩の上より見下ろす彼女は、どこか気品を漂わせる、黒と白の絶妙なコントラストに身を包んでいた。

 真っ白な美しい髪を、特徴的な尖りを持つ帽子で半分ほど隠し、細い赤目で俺を見下ろす。

 その瞳は、猜疑心(さいぎしん)と困惑で半々といったところか。

 何分彼女は身長が高いこともあり、妙な威圧感があった。

 

「何者かって、そりゃぁ俺は──」

 

 そこまで言いかけ、はたと気づく。

 あれ、()()()()

 おかしい。地球の事は色々と思い出せるのに、肝心の自分の事はサッパリだ。

 一体どうなっていやがる。

 

「──? ちょっとあなた、早く、質問に答えて下さる?」

 

 急に沈黙した俺のことを訝しんだのか、はたまた時間が惜しいのか、その両方か。

 女はややイラつきながら詰問する。

 だが、今答えられるとするなら、これしかないだろう。

 

「すまんが忘れた」

「……はい?」

もっかい言うぞ、忘れた。どうも記憶喪失というものらしい」

「本当ですの?」

「もちろんだとも。どう証明すればいいかは、知らんが」

 

 女は顎に手を当て、少し考える。

 

「とすると、先程あなたが使用していたアーツ、その詳細もわからないと?」

「何の詳細だって?」

「アーツ。もう一度言いますわよ、アーツ

 

 こ、こいつさっきの俺のマネしやがって……! ひょっとして根に持つタイプなのか?

 いや、それよりも。

 

()()()? なんだそりゃ。新しいスイーツの名前か何かか?」

 

 その答えに、呆れたような息を吐かれる。どうも余程的外れの回答だったようだ。

 瞳に呆れの表情(かお)、トッピングが追加された。

 

「あんなにも銃を使っていたのですから、てっきりサンクタかと思いましたが。頭に輪っかもないようですし、その線もあり得ませんわね」

「そしてアーツの存在も全く知らない。そのことは思いっきりイントネーションがおかしい事から明白」

「どうやら記憶喪失ということは本当の様ですわね。自分の種族すらわからないのはあり得ないと思いますけど」

 

 猜疑心(さいぎしん)表情(かお)、トッピングが取り除かれた。いいことだ。その味はよろしくないからな。

 

「俺の事はもう話したぞ。次はそっちの番だろ」

「部外者に話すことなどありませんわ」

「なっ……!」

 

 こ、この野郎。何て冷たいやつなんだ。

 変なアダ名で呼んでやろうか……そうだ! 脳裏にある魚の姿が思い起こされる。

 

「これからは()()()とでも呼んでやろうか」

「なっ……!」

 

 大きな声を出し、赤目を大きく見開く。

 よし。やったぜ。

 

「どうしてあなたがそのネームを知っているのかしら?」

 

 大岩より飛び降り、女は一気に俺との距離を詰め、目と鼻の先まで近づく。

 うぉ、なんだ急に。ひょっとしなくても、地雷踏んだか?

 だが改めて見ても、デカいな。身長、180ぐらいはあるんじゃないか?

 その勢いに少しばかりのけぞりながら、答える。

 

「どうしてって、そりゃあ……なんとなーくそのイメージが湧いたからだよ。本当だって。だが……なんでだろな? ()()()()()()()とか、まるでクトゥルフ神話みたいだ」

 

 その答えを俺の瞳をジッと覗きながら吟味する。

 何秒が時が流れ──

 納得したように距離を取る女。

 

「それも本当のことのようですわね。失礼しましたわ」

「そりゃぁ、どうも」

「さて、遅くなりましたが、お礼を言わせてくださいませ」

「? 何のことだ」

「先にあなたが倒した海の眷族──蛸魚(タコたま)は、私が追っていた獲物でしたの。陸人の血を吸いつくし、その豊富な栄養を基に多量の卵を産み、増殖する厄介な奴でしてよ」

「なんちゅうか、害悪すぎる蚊みてぇだな」

「何よりもし吸われた陸人が感染者であれば、自らの体に源石(オリジニウム)を生やし、その死後に()()()()()()()()()()()()()()()。全くもって厄介な生態ですこと。悪趣味ですわ」

 

 なんかまたわからん用語が出たな。

 その源石(オリジニウム)を生やしたりするのことの、()()()()()()()()

 

 女の瞳には、もう負の表情(かお)、トッピングはなかった。

 とりあえず和解したの、か?

 

 

 そして何より。

 喋るタコのバケモノがいるとか、ワケわからん用語が沢山出てくるわ、なんか。

 ここ、地球じゃねーわ。

 俺、どーなるんだろ。

 

 




ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

もし面白いと感じてくれましたら、評価をお願いします!
感想や指摘も大歓迎です!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

断じてストーキングではない。断じてな。

PSO2のBGMを聴きながら書きました。
途中、ミスって下書きが消えました。

泣きながら再び書き直しました。


 中々鮮烈な出会いより2時間が経過した。

 俺はというと。

 

「それで、あなた。いつまでつけてくる(ストーキングする)つもりですの?

「いや、行く当てもないからとりあえず()()()の後についていけばいいかなーと、思っ」

「そのカジキ呼ばわりするの、やめてもらえるかしら。非常に不愉快ですわ」

「じゃぁ何て呼べばいいんだ? 流石に『お前』とかだと不便だろ」

「そうですわね……」

 

 彼女(カジキ)は立ち止まって、暫し考えようとして──突如走り出す!

 まるで俺を置いていくように。

 その速度、優に50キロは出ている様に見える。本当に()()か?

 って、そんな感想を抱いている場合じゃない!

 急いで追いかけないと!

 何しろ、このワケわからん世界で掴めた今んとこ唯一の繋がり(出会い)なのだから──

 

 

 

 

 

 30分後。

 突然始まった逃走劇(追いかけっこ)彼女(カジキ)の諦めにより、自然収束した。

 流石に疲れたのか、吐く息は少し荒い。まぁ、俺も同じだが。

 

ヴイーヴル(ワイバーン)クランタ()セラト(サイ)でもないあなたがどうして、そんなに速く走れると、いうのですの……?」

「さっきから知らない言葉ばっか飛び出してくるな。……それはともかく、俺もわからん。何となく、体が覚えているって感じだ」

 

 その言葉にやや納得していなさそうな彼女(カジキ)

 やがて何かをあきらめたように頭を左右に振る。

 

「はぁ、もう、いいですわ。これ以上は時間の無駄でしょうし。それに……」

「それに……?」

「あなた、それなりに腕が立つようですし、今回の()()()()調()()に臨時助手として同行させてもよいでしょう」

 俺の体をしげしげと観察しながら、彼女(カジキ)はそう答えた。

 

「ってことは一緒に」

「ついてきてもよい、ということですわ」

「おお、ありがとう! えっと──」

 

 先程の会話から、カジキ呼ばわりするのはいけないらしいから、新しい代案を必死に脳内で探していると。

 

「これからはグレイディーア、と呼んで下さる?」

「!」

 

 名前を教えてくれた、ということは俺と知り合いから友達へとステップアップ──

 

「違いますわよ?」

 

 ……アンタ、心が読めるのか? はっ、まさかグレイディーアは超能力者──

 

「違いますわよ?」

 

 …………はい、すみません調子に乗っていましたごめんなさい許してくださいというか置いていかないで──

 

 

 

 

 

「それで、グレイディーアは何処に向かっているんだ?」

「あなたも看板を見たのでなくて? あの廃墟都市、サルヴィエントですわ」

「ああ、サルヴィエントって都市の名前だったのか。でも、どうして?」

「ここ最近、この周囲の稼働都市で人々が次々と失踪しているという情報が入り、()()()()()()()()()()から調査の依頼が入ったのですわ」

「なんで製薬会社?」

「この世界(テラ)は揉め事が多いからですわ」

「それって民間軍事会社(PMC)の役目では?」

 

 何というか、地球とは大分違う世界の様だな……これが俗に言う異世界転生というやつだろうか。

 

 暫くして。

 

 

「着きましたわ」

「え? でもここって警備用の詰め所か何かなんじゃ──」

 

 そう。今俺達がいるのは都市の入り口ではなく。

 その少し前にある小ぶりな建物。恐らく警備員か何かが待機している用だと思われる。

 多分ここで()()()()()か何かをしていたんだろう。まあ、この建物以外は軒並崩壊しているから、元は何だったのか、判別ができない。

 

 聞くに堪えない音と共にドアを開け、中に入る。

 中は……想像通り、まともに機能しそうなものなんて残っていないように見えるが……?

 

「臭いますわ」

「えっ? 何が」

「深い、(ふか)い場所からの、不快な潮の臭いが。陸人にはわからないでしょうね──そこですわ

 

 と、グレイディーアは背中に格納していた(もり)のような大剣を取り出し、地面のある一点を突く!

 崩れ、露わになる隠された入口! それはさながら、秘密基地の様だ。

 迷いなく進むグレイディーア。

 その長身を追って暫くすると、明らかに稼働している実験施設にたどり着いた。

 じめっとしていて、深い緑色の霧のせいで、視界が悪い。

 

 やがて眼が慣れていくと、現れるのは広々とした廊下。その壁一列に並ぶ用途不明の機器と、人間大のカプセル。

 中には人が!

 近づいて見てみると、それはこの世界に来て直ぐに襲い掛かってきた連中そっくりの見た目だ。

 というかよく見たらイヌ耳やらネコ耳やら、色んな()()()がついている。

 

「なんだ、こいつらは」

「見てわかりませんの? これが失踪した人々の末路ですわ。奴らの実験体とされたようね……漬けられているのは、液化源石(オリジニウム)のようね」

 

 グレイディーアは自分の発した言葉に目を細め、嫌悪感むき出しの表情をする。

 察するにその源石(オリジニウム)というのはとんでもなくヤバい代物らしいな。

 

「……!! どうやら、ここの主はわたしたちを歓迎してないようですわね」

 

 その言葉が言い終わらないうちにカプセルがヒビ割れ、パリン! という音と共に中の実験体(人間だったもの)が這い出て来る。

 

「41」 「53」 「67」 「25」 「18」「18」「18」 「5」 「1」 「89」 「76」……

 

 あの時と同じ、皆、それぞれ特定の数字を細々と呟きながら、こっちへ突っ込んでくる!

 

 話も通じなさそうだし、どうも()しかないようだな!

 俺は虚空より刀を召喚して──

 

 

 

 

 

 

 戦闘自体はあっさりと終わった。

 敵は大して強くなく、刀を一度振るえば、直ぐに倒せたからだ。

 しかし、何か後味が悪い。まるで無抵抗の人を虐殺してしまったような。

 

「グレイディーア、こいつらが言ってた数字、何なんだ?」

「もうお判りではなくて? 察するに彼らの()()ではなくて?」

 

 ということは……なんてことだ。あの中には、子供も、いたのか。

 誰だが知らねぇが、何ていうことをしやがる!

 自然と頭に昇る怒り。

 

「恐らくこの惨状を引き起こした主、あの扉の先にいるのでしょうね」

 

 グレイディーアが指し示す先、広々とした廊下の先には、両開きの扉が。

 冷静そうに見えて、かなり頭にきていたのだろう。

 

 手に持っていた大剣で殴りつけるという、古今東西でトップクラスの荒っぽいやり方でグレイディーアは扉を開ける(破壊する)

 そして室内に足を踏み入れ、その足は、直ぐに止まる。

 

「──なぜ、なぜ、あなたがそこに、いるの──」

「グレイディーア?」

 

 彼女の様子がおかしい。どうしてそんな、呆然自失とした声を。

 俺も室内に入り様子を見ると。

 

 

 そこには。

 巨大な培養槽に、漬けられた。

 修道服に身を包む白髪の、女性の姿が。

 

 グレイディーアの口が、短い音を紡ぐ。

 

 

 サメ、と。

 

 




ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

本格的に「独自設定、解釈」が自己主張し始めました。
何か明らかにおかしい、という点がありましたらコメント欄で教えて欲しいです。

もし面白いと感じてくれましたら、評価をお願いします!
感想、大歓迎です!
してくれたら、大変励みになります。
歓喜して、そのお返しに更新速度が上がるかもしれません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

中ボスが、あらわれた!

戦闘シーン、いつ書いても難しいですね。


 一歩

 また一歩。

 それは無意識か。

 

 まるで死んだはずの人に会った、そんな表情をしながらグレイディーアは歩みを進める。

 目の前にあるは巨大な培養槽と。

 修道服に身を包む白髪の、女性の姿。

 その両手は胸の前で組まれており、まるでナニカに祈りを捧げているようにも見える。

 

 また一歩、グレイディーアの脚が進む。

 明らかに尋常ではないその様子に、俺は思わず声をあげてしまう。

 

「お、おい。一体どうしたっていうんだ──」

 

 俺は彼女に追いつき、歩みを止めようととりあえず肩に手を──

 

 俺達は気づかなかった。

 罠に。

 

 

 俺が足を踏み出し、グレイディーアとほぼ横一列に並ぶ。

 床に重さが加わる。二人分。

 次の瞬間。

 床が砕け落ちた。

 

 「!?」

 「なっ」

 

 ガラガラガラッ、というけたたましい音と共に落下する──

 

 

 

 

 時間にしてほんの5秒ほどだったか。

 割と直ぐに底は見えてはいたのだが、落とし穴の面積がかなり狭いことと、大量の瓦礫が邪魔をしてうまく体勢を整えられず。

 俺もグレイディーアもろくに受け身を取る暇もなく、地面と熱烈な抱擁を交わした。

 

「痛ってぇ……クソ、そっちは大丈夫か?」

「え、ええ。なんとか、無事ですわ」

 

 俺の問いかけに胸や()()()()()を抑えながらグレイディーアはそう答える。

 ……? その様子にふと違和感を覚える。

 その時。

 

「うん? ……何だ、この臭、くっさ!?」

 

 強烈な異臭が辺りを漂い始める!

 無意識のうちに鼻をつまんでしまう、顔を背けてしまう、()えた海と血の臭い!

 

 

 

「AA、お客しゃま…………?」

 

 人ではないナニカが、無理やり声というものをマネしたような()()()が、聞えてくる。

 強烈な臭いをどうにか我慢しながら、その方向に顔を向けると。

 

「ZOの■い、魔っ赤ナ陸人のと、おいちい海人の……?」

「ごちそ、ごちそだ! 萎びた(実験体の)漬物WA、もーう、飽きたNだ!」

「あれ、あれれれ、陸人、、違う? オリじニうムの■り、しないね?」

「まいいっか、いただきます♪」

 

 

 馬鹿でかい、無数の口を生やした、

 ホヤが、襲い掛かってきた!

 

 

 

 

 そして──

 

「ッ! 何なんだそれ、反則にも程があるだろうが!」

 

 俺とグレイディーアは今、突然襲い掛かってきたきたホヤのバケモノに大苦戦していた。

 

 

 最初、てっきり体当たりか何かで攻撃してくるのかと思っていたのだが、ホヤの攻撃は、全く予想外の方法であった。

 奴に生えている大量の口、そこからまるで舌のように伸びてくる──()()()()()

 ウツボ自体にも意識があるようで、避けるこちらを執拗に追ってくる。

 

 それだけじゃない。

 

 別の口からは舌先に括りつけられたエビやカニの(はさみ)が、深海魚の鋭き(あぎと)が、その他多種多様なモノを括り付けた舌が襲い掛かってくる!

 

 それだけでも厄介なのに、この舌ども、リーチが5メートルと、とんでもなく長い!

 落ちた部屋自体、精々8メートル程と狭いから、殆ど逃げ場がない。

 本体(ホヤ)を攻撃しようとしても、部屋の隅っこに陣取っているので挟撃もできないし、そもそも敵の攻撃が激しく、スキが生まれない。

 

 今や俺もグレイディーアも満身創痍(まんしんそうい)。着ている服はボロボロ、体じゅうキズだらけ。動きがどんどん遅くなる。

 

 というかさっきのタコといい、今回のホヤといい、この世界の動物はこんなんばっかか!? 修羅にもほどがあるだろ!

 

 

 そんな余計な事を考えていたのが悪かったのだろう。

 

「しまっ──」

 

 俺はそこら中に転がっている瓦礫に足を取られ、ほんの僅かに動きを止めてしまう。

 ホヤはそのスキを逃さず、舌の一本で俺を絡めとる。舌の先にはゴカイか何かの口が!

 俺の下半身はがっぷりと(くわ)えられてつかれてしまう!

 

「いっ──でぇぇぇ!? 離せ、この!」

 

 何本もの汚い歯が俺の腰に、脚に突き刺さる! 

 服を、皮膚を貫通し、肉に突き刺さる!

 下半身を襲う電撃のような痛み!

 経験したことがない強烈な感覚に情けない声をあげてしまう。

 

「っ──この、融魚(ゆうぎょ)が!」

 

 俺の苦境を見たグレイディーアが駆け付けようとして、そのスキを突かれエビの鋏により思いっきり壁に叩きつかれてしまう。

 

「ぐっ……」

 

 と、声にならないうめき声をあげるグレイディーア。

 その美しい髪は乱れ、苦痛を体現するかのような表情(かお)となっていた。

 

 その様子を喜ぶかのように鋏をカチカチと鳴らすホヤ。

 悪趣味な奴だな……!

 

 というか、くそ、下半身の感覚が薄れてきた。

 このまま、だと……まずい、いしきが徐々に、遠のいて…………い  く。

 

 ばちゃん!

 

 そんな朦朧とする俺の頭に、何かの液体が、()かった。

 

 




ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

本作を投稿してから、僅か1日で1000UAを突破しました!

皆様、ありがとうございます!

まだまだお話は終りませんので、「漂流傭兵小噺」をどうか、よろしくお願いします!

感想等もありましたら是非!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

漂流の、始まり

ようやくプロローグが終わりそうです。


 2人が融魚(ゆうぎょ)=ホヤの化物と落とし穴の底で戦っている頃。

 

 その激しい戦闘の振動は上にも響き、設置されている培養槽内の液体を揺さぶり、波紋を起こす。

 中に漬けられている修道服に身を包む女性が、微かに身じろぎをした。

 そして当然、部屋内にはそれ以外にも多くの備品が満ちており──その中のある棚から、あるビンが転がり出る。

 

 コロコロコロ……

 

 やがてビンは、まるで導かれるように落とし穴へと転がり落ち、ホヤの()に拘束されている男の頭上に落下。中の黒い液体をぶちまけたのであった。

 

 

 

 

 

 ばちゃん!

 

 

 意識が朦朧としていた俺の元に突如として降りかかった液体。その刺激により俺は意識を完全に取り戻す!

 

「うっ……一体何が……おお?」

 

 俺は不思議な感覚に包まれる。()()()()()()()()()()()と共に、体から痛みが倦怠感(けんたいかん)が消失。思考速度が一気に加速する──

 

 

 絶え間ない2本の()による猛攻を(もり)のような剣で受け流すグレイディーア。防戦一方となったその顔には濃い疲れと焦り、苛立ちが浮かぶ。

 その様子をホヤの口から伸びる多種多様な生物の顔やら(あご)やら(はさみ)らが、まるでニタニタと笑うように動き、音を立てる。

 

 ……舐めやがって……! 舌だけに、とでも言うつもりか!

 

 その時、ふと思う。()()()()()()()()()()()()()()()? 今、あいつらが一斉に襲えば10秒もしないうちに、決着がつくだろうに。更に俺を拘束している()は……何で()()()()()()()()()()()()()

 ということは、こいつら……まさか。俺の頭にこの状況を打破するアイディアが、閃いた!

 

 俺は大声で叫ぶ!

 

「グレイディーアッ! 今から俺が決定的な()()を作り出す! そしたら、初めて会った時みたいに奴を隅っこから引きずり出してくれっ!」

 

 何故か、確信があった。彼女ならきっと、できるのだろうと。

 

 俺は無意識の内に発動していた()()()()()()()()()()()()。それを足元に向けて発動する。もちろん召喚するのは刀とかではない。わかっている。こういったときに必要なのは──

 3秒後。

 舌の内部、根本まで転がり落ちた()()()()()()()()()マークII手榴弾(パイナップル)計3発が一斉に爆発した!

 醜い音と共に舌の根元が吹き飛ぶ。俺を咥えていた口は即座にその機能を停止。俺は解放された。

 

 *言葉になっていないホヤの呻き声!*

 

 怒りのまま、ホヤはグレイディーアに向けていた舌、2本をこちらへの攻撃に回す! 

 そうだ。それを待っていたんだ! てめぇ、()()()()()()()()()()()だけだろ!? それが弱点だ!

 

「逃げる前に私の許可は取ったのかしら?ねぇ、獲物さん。──渇水の荒波掌握」

 

 グレイディーアが持つ(もり)のような剣より放たれる2本の水柱。それが俺に向かう舌に巻き付き、ホヤを部屋の隅から中央へ引きずりだす!

 

「!?!?!?」

 

 俺はそれを確認するや否や、全身に力を籠め、跳躍。奴の真上へ! そして──見えたぜ。ホヤの本来の口、入水管と出水管が。奴はその後の未来を悟ったのか、慌ててその身を奥へと引き返そうとする。だが、そう問屋は(おろ)さない。

 

「おもちゃで遊ぶのもここまで。──渇水の乱渦狂舞」

 

 グレイディーアが持つ剣から更に放たれた大量の水。それがホヤの足元から巨大な渦を作り出し、拘束(バインド)する!

 そして俺は虚空からRPG-7(ロケットランチャー)を2つ取り出し、両手でそれぞれのトリガーへ指をかけ、発射!

 

「ちょっと強火の蒸し焼きが、てめぇにはお似合いだぜ!」

 

 そして──ホヤの口2つにそれぞれ命中し、内部から大爆発を起こす! 断末魔をあげることも叶わず、粉砕されたのだった。

 …………あー、蒸し焼きにはならんかったか。残念だ。

 ちと火力が高すぎたようだ。

 

 

 

 

 

「大丈夫か、グレイディーア?」

「その言葉、そっくりそのまま返させていただきますわ。あなたこそ、こうやって私が支えてないと今にも倒れてしまいそうではありませんこと?」

「その言葉、そっくりそのまま返させてもらおうか。グレイディーアこそ、俺が支えてないと今にも倒れそうじゃないか」

 

 そう軽口を叩き合い、やがて微かな笑い声が響く。

 俺とグレイディーアはホヤの残骸(ざんがい)を避け、互いに肩を貸し合いながら、落とし穴からの脱出を目指していた。幸いにもホヤが最初いた場所、その後ろに扉があるので、そこから上へと進む。

 たどり着いたのは、培養槽の、横。そこに出入り口があったらしい。それよりも気になったのは。

 

「グレイディーア、あんた負傷してたんだな。俺と出会ったときから」

「どうして、そう……思いますの……?」

「半分勘だ。胴体をしきりに気にしていたようだったからな。落っこちた時に。こうして密着すると、呼吸の乱れがよくわかる。あの蛸魚(タコたま)とかいうやつか?」

「ふっ……」

「そうかい」

 

 俺はとりあえず、部屋の中にあった手術台? のような器具にグレイディーアを寝かせる。傍に「石棺」って書かれているから多分本来の用途ではないだろうが。次は……何か包帯とか欲しいな。そう思って辺りを見回すと。

 

「わたしの事なら、大丈夫……ほっとけば勝手に塞がりますわ」

「いや、そんなわけにもいかんだろう。何か探してくるから、グレイディーア?」

「…………」

 

 疲れ果てて眠っちまったか。だが、その呼吸は落ち着きつつある。勝手に治るって本当のことか……? ゲームの世界でよくある継続回復(リジェネ)でもあるまいし。そう思いながら自分の上着を寝ている彼女に被せる。万が一冷えるといけないだろうしな。さてと。とりあえず物色しますかね。

 

 

 

 

 結論から言うと、医療品らしきものはなかった。用途不明の器具ばかりである。

 ただ、あの時顔にぶっかけられた液体が入っていると思わしきビンを多数見つけたので全て回収する。ゲームで言うところのバフアイテムかも知れんし。どうやって全て回収したのかって? ……実は回収するか、と思った瞬間ビンは全て消え失せ、自分の()()()()()に格納された。どうしてかそのことがわかってしまう。本能的に。

 まるでMMORPGのアイテムボックスだ、と苦笑する。人の事、言えねーじゃんか全く。

 

 培養槽の横には巨大な円状の電動のこぎり? のような武器が置いてあった。これと培養槽の中に漬けられていた女性を回収(たたき割った)。寝ているグレイディーアの場所まで持っていき、横にさせる。

 胸が少し上下しているあたり、ちゃんと生きているようだ。そういえば培養槽のネームタグに「スペクター」とあったな。彼女の名前だろうか。その姿は何故かサメを連想させた。グレイディーアが言っていた「サメ」というのは……あだ名とか?

 

彼女(サメ)を解放してくださったのですね? 礼を言いますわ。あとこの上着も」

「起きていたのか! もう治っていたのか?」

「ええ。ようやく毒も抜けましたし、本来のわたしの回復レベルはこんなものですわ」

「そ、そうか」

 

 流石異世界? とでも言えばいいのだろうか。

 

「時にあなた、どうして潮の香りがするのでしょう。ほんの僅かですけど」

「えっ?」

「それにその目。前と大分形状が違いますわよ? ……ちょっと、うなじを見せてくださるかしら?」

「お、おう」

「……あなた、アヌーラになってますわよ?」

「何て?」

アヌーラ。カエルの特徴を併せ持つ先民(エーシェンツ)のことですわ」

 

 なん……だと? まさか、人間、辞めちったのか!? 一人で混乱する俺をよそにグレイディーアはうなじをつついたり、俺の顔を両手で挟み込んだりして観察している。っていうか服の中をまさぐらないでくれ!?

 

「会った時のあなたとは、あちこち変化している箇所がありますわね。何か心当たりがおあり?」

「もしかして、あれかも」

 

 俺はさっき回収したビンを取り出して見せ、色々と説明をした。

 

「それは中々興味深いですわ。種族を変化させる薬品……ねぇ、あなた。記憶がないというけれど、行く当てもないのでしょう?」

「あ、ああそうだが」

「ではわたしの所属する組織──ロドス・アイランドというのだけど、そこに滞在する意志はなくて? きっと()()()()()()()()()は歓迎すると思いますわ」

「滞在先ができるってことか。そうだな、よくわかんないが、いいぜ。渡りに船ってやつだ」

「決まりですわね」

「で、どうやって行くんだ?」

「まさか死んだと思っていた彼女(サメ)、ローレンティーナを見つけられるとは予想外のことでしたし、急いで帰る必要があるわね。だから」

 

 「これを使いましょう」と懐から取り出したのは、小さなキューブだ。5センチの、正方形……ルービックキューブみたいな見た目をしている。彼女曰く、これを使うと特定の場所に瞬間移動できるらしい。ファストトラベルかな?

 

 

 そして急いで出立の準備をした。電ノコをグレイディーアは背中にしょい込み、さらにローレンティーナ……修道服の女性を横向きに抱える。お姫様抱っこってやつだな。

 

「では、わたしの腕をつかんでくださいませ。使用者に触れていれば、問題なく発動するはずですわ」

「お、おう。では……失礼。ところで、その、重くはないのか? そんなにたくさんの荷物」

「問題ありませんわ」

 

 グレイディーアの腕は、服越しではあるがひんやりとしていて、同時に人の温かみも感じられた。

 

準備(覚悟)はよろしくて?」

「ああ」

「では、行きますわよ」

 

 そう言ってグレイディーアは手元のキューブを操作して──

 

 

 

 

 視界が白く染まった。

 感じる風圧。

 閉じていた目を開けると……何故か空を舞っていた。全裸で。周囲は当然、誰もいない。

 

「あれ、あれ……あっれぇぇぇ!?」

 

 そのまま、異世界にも当然のようにある重力の導きに従っていく。

 俺、これからどうなるんすか!?

 

 

 

                                                     漂流傭兵小噺、始まりのイベリア編・上 終

                                                     次回に続く!

 

 




長くなってしまいました。
もちろん、物語は続きますのでご安心を!

これからも「漂流傭兵小噺」をよろしくお願いします!
感想などあれば遠慮なくどうぞ!

どの程度アークナイツ世界を描写すべきか、悩んでいるので、アンケートを作りました。
よろしければ回答をお願いします。
あ、一番上は「全く読まない」の略です。修正できずすみません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

始まりのイベリア編・下
ここはどこ? 俺は追い剝ぎ(見た目)だ!


新章、というよりイベリア編後半がスタート。
さて、誰を出しましょうかね?


 イベリアのとある荒野にて。

 

 

「兄貴、こっちの略奪はもう終わりましたぜ!」

「おう。奴ら(感染者)の死体は、ちゃんと()()しただろうな?」

「もちろんでさぁ!」

「よし。死体から発せられる粉塵(ふんじん)、吸い込んでないだろうな?」

「へい。言いつけの通り、口を布などで覆いながら作業いたしやした」

 

 その返答に男は満足そうに頷く。男の視線の先には略奪品が満載された荷車が。全てイベリア本国より強制退去させられた感染者のものである。品を譲るように「説得」した時についたのであろう色()せた血が、どのような行為をしたのかを静かに物語っていた。

 

 彼らはこの後、荒野にある「難民」キャンプに物品を高値で売りつけに行くのだ。

 源石(オリジニウム)に頼って文明を発展させたテラ世界。その源石(オリジニウム)が原因となり発病する鉱石病(オリパシー)鉱石病(オリパシー)を患った者達は「感染者」と呼ばれ、死ぬまで不当な扱いを受ける。例えば、公共の安全とかを理由に都市から追い出されたり。

 その末路は、ほとんどがこんな感じで死んでいく。その死に違いがあるとすれば悪意なき獣、自然環境、天災か。それとも悪意ある暴力か。

 

 男は知っている。源石(オリジニウム)がある限り、()()の供給が絶たれることはないだろうと。だってもうこの稼業を10年も続けてきたのだから──

 

 時に、不幸とは唐突に降りかかるものである。

 

 EEEEYHAAAAAA…………

 

「ん? なんだ、この声……上から?」

 

 そう、例えばこんな感じで。

 

 

 

 

 

 

 

 不幸より15分後。

 

 

 あーいててて。まさか突然空に放り出されるとはなぁ。グレイディーアが言っていた「ロドス・アイランド」とかいう場所に連れていくとかいう話、嘘であるとは感じられなかった。……まさかこの大空と大地が、そのロドスというわけではあるまい。

 となると考えられるのはキューブとかいう装置の誤作動か。にしたって予告なしに全裸で放り出すことはねぇだろ。俺はター●ネーターかっつーの。いやになっちまうぜ全く。幸いにも真下にあった荷車のおかげでかすり傷程度で済んだからよかったものを。

 

 俺はそう誰に説明することもなくボヤきながら、追い剝ぎどもの衣服をかっぱらう。誰も見ていないとはいえ、流石に全裸はヤバいからな。表現規制的に。ん? 俺は何を言っているんだ?

 暫くかっぱらった服を警察の押収物陳列のように並べ、その中から丁度よさそうなものを調達。早速着る──そうだ。その前に確認しないと。荷車の中にある鏡を取り出し、自分の姿を確認する。

 

「へー、これがアヌーラとかいう種族の特徴なのか」

 

 何とも言えぬ特徴的な、瞳。ちっとわかりにくいが瞳孔がナナメ? になっている気がする。そしてうなじに現れた、茶色の鱗。字面の割にすべすべしていてすこしくすぐったい。敏感なのだろうか。そして手から粘液とかが出せるようになった。常時垂れ流し、ではなく自分の意志でできるようだ。

 なるほど。言われてみればカエルっぽいかもしれん。とにかくこれで正体不明の人物から一歩脱却できたかもしれん。やったぜ。

 

 最終的に俺が選んだのは色褪せ、ボロボロになった軍服っぽいジャケット&パンツ(ズボン)に、黒のバンダナで頭を巻き、ゴーグルをセット。立派な追い剝ぎ(見た目は)の完成である。

 さて、見知らぬ新天地へと行きますか!

 

 

 

 

 

 で。肝心の現在位置=目的地となる都市、がわからんかったので。

 追い剝ぎ共が利用していたバイク、その痕跡(タイヤ跡)を辿ることにした。ひょっとしたら何か拠点、村とかあるかもしれないし。

 

 

 

 

 

 漂流開始より1日目。

 この日は特に収穫なし。近くから出てきた甲殻類っぽい獣を倒す。苦労して解体してみると、その肉、旨そう。追い剝ぎ共が残した略奪品でもって即席のテントを作り、一夜を明かす。獣の肉は茹でて、塩で味付け。エビとカニとイナゴの佃煮(つくだに)を掛け合わせたような、クリーミーなお味。ちと見てくれが酷いが、まあ、うまければそれでよいのだ。

 ちなみに塩? の見た目は黒みがかかった水晶のような、鉱物だ。透かすと黄色くも見え、◇のような模様が浮かぶ。地球にはないものだが……ここの特産品だろうか。とりあえずかじってみたらしょっぱかったので使用した。

 

 

 漂流開始より3日目。

 追い剝ぎ共のバイクを利用して速度を上げる。そのおかげか、小さな村に到着する。海沿いだった。そして……村は蛸魚(タコたま)の襲撃により壊滅していた。蛸魚(タコたま)共を倒してから辺りを捜索してみるも……生存者はおらず、食料も皆腐っており、収穫はないと思われた。しかし。

 地図があったぞ!

 これで街の場所がわかる! ええと……マルヴィエントというのか。情報によると、比較的大きな都市らしい。

 

 

 漂流開始より5日目。

 マルヴィエントまであと1日かと思われたが、問題発生。()()()()()()()()()()! な、何でや!? このままだと正体不明とか難癖つけられて街に入れんかもしれない。いや、街に検問所が必ずあるとは思えんが……楽観視しない方が良さそうだしなぁ。

 暫し頭を抱えたがまてよ、と思い例のビン、その中の液体を自分に振りかけてみる。すると……予想通り()()()()()()()()。ということはこの液体には効果時間があるのか。ちゃんと把握した方がよさそうだな。

 

 

 

 

 

 

 

 そして……ついにマルヴィエントにたどり着いた、のだが。問題発生! やっぱあったよ検問所! くらったよ足止め!

 

「えーと、つまり? 嬢ちゃんが言うその、通行許可証、というやつがないと入れんのか?」

「私は立派な成人女性です! というか仮に許可証があったとして、アナタのような明らかに怪しい者をこの街に入れるわけないでしょう?」

「そ、そんなぁ? 嬢ちゃん、俺ってそんなに怪しい?」

「私にはアイリーニという立派な名前があるんですけど?」

「そ、そうか」

「ところでアナタのその見た目……何となく指名手配犯のスニーキー・バンデッドに似ている……?」

「えっ」

 

 それってまさか漂流初日に倒したあの追い剝ぎのこと……? それが、指名手配犯。あ、これは……まずい!

 

「私は審問官。律法を犯したすべての過ちは……私たちが見つけ、解決する!」

 

 そう言うとアイリーニは腰に下げた剣を抜き、凄まじいスピードで攻撃を繰り出す!

 

 俺の異世界漂流史上最大のピンチ、到来!

 




補足。
・マルヴィエント=Mar Viento(スペイン語)、意味は海風。Google翻訳なので正確ではないかもしれません。
 ちなみにアークナイツのサイドストーリーイベント「潮汐の下」に登場するサルヴィエント=Sal Viento、はスペイン語で潮風という意味だそう。ソースはアークナイツ攻略wikiより。

 皆さん、彼女を、審問官アイリーニを知っていますか? 私の好きなキャラの1人なので登場させました。これを機にSS界隈で広まるといいな。
 言葉遣いはうまく再現できたか、自信ありませんが、彼女のご活躍をどうぞ見守っていただけたら嬉しいです。
 ところで、彼女の種族、どれでしょう? 私はリーべリだと思っているのですが。誰かご存知の方、いらっしゃいましたら感想欄で教えて欲しいです!


 感想等ありましたら遠慮なく!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

大ボス、見習い審問官・アイリーニ

 まさかの時のイベリア審問裁判(物理)、開廷!

 ところで、アークナイツ内ではイベリアの審問官に見習いなどという制度があるとはどこにも書かれていません(私の知る限り)。
 なので、完全にオリジナル設定です。設定を見落としてた!? とご乱心のドクター諸兄、ご安心を。
 勘の良いドクターはひょっとして本作の時系列が「いつ」なのか、悟ったかもしれませんね。


 まずい、まずいぞ! この鳥を連想させるお嬢ちゃん、じゃなくてアイリーニ審問官()は俺の事を指名手配犯か何かだと勘違いしてやがる。

 何とかして誤解を解かないと、捕まってしまう! というか殺される! 

 

 彼女の細身の剣から繰り出される一撃は、まるで針のよう。

 一点を素早く、とても素早く、空気に穴を開けるように、突く!

 体感ではヒュン! という音と同じ速度で剣先が迫る。今のところ、どうにか回避し続けられているのだが……。

 

 それ以上に問題なのは俺は今──うぉっ! 危な! 危うく右目が持っていかれるところだった。串に刺した団子みたいに。

 

「ちょ、顔はダメだろ顔は! 俺には隻眼で悦に浸れるような妄想力はねぇんだ(中二病患者じゃねぇ)!」

「何をわけのわからない事を! それよりも、いつまで避けているつもりですか?

 

 そう、さっき言い損ねたことだが、俺は今丸腰でひたすらアイリーニの攻撃を避け続けている。というのも、彼女が所属するという審問官、どう考えても民間組織じゃないだろ。ってことは彼女を傷つけてみろ。地球でいうところの公務執行妨害とかいうやつで本当にしょっ引かれちまう。

 そんなことは御免だ。だからこうしてひたすら回避に徹して、相手の疲れを待つ! というか。

 

「アンタの剣裁き、中々の速さだと思うが、その代価として大分単調だな? おかげでほれ、この通り──スピードに慣れれば(かわ)せる」

ハァ! ──なんたる侮辱……いつまでもその幸運、続くと思わないことですね!」

 

 さらにスピードが上がり、激しくなる攻撃! だがその分アイリーニの負担も大きくなる。顔は赤くなり、そのきれいな髪や顎からは汗が(したた)る。

 俺はというとなるべく最小限の動きで、タイミングを読んで躱す。それだけではなく更に──今だ

 彼女のブロードソードを用いる剣裁きは突く、に特化したとものだ思われるが、突きの瞬間に剣先が止まってしまう。俺はそれをある()()()と共にそっと指先でもってあらぬ方向へ押す。

 意図せぬ力がほんの僅かに、剣を通してアイリーニに到達し、その体幹をずらす。ただでさえ疲労が蓄積している彼女にとって、体幹を攻撃しながら整えるのは非常に負担が重いはずだ。

 

 

 結果、どんどんアイリーニのスタミナは減り続け。息が誰が見ても荒くなり始めたころ、ようやく剣の異常に気づく。

 

「ハァ、ハァ……クソっ、どうして当たらないんですか! それになんでこんなに剣が()()──って何これ!?」

「ようやく気付いたか。もうお前のご自慢の剣は、なまくらだぜ?」

「こんなに粘液が……いつの間に!?」

 

 そう。俺は指先で剣を逸らす度、少しずつアヌーラの特性だと思われる、自在に出せる粘液を垂らしていたのだ。彼女の攻撃はほとんど「突き」だからな。垂らす機会などいくらでもあった。

 結果として彼女の剣は俺の粘液によりベトベトに。重みが増し、その刃は覆われ、蓄積した疲労を相まって、もう(ろく)に振れないだろう。

 彼女の灰色の瞳には屈辱の為か、怒りの涙を放出している。その腕はもう、上がらない。

 勝負あったな。俺の勝ちだ!! ……まぁ不戦勝みたいな気もするが。

 

 

 さてと、ここからアイリーニを説得させないと。俺が怪しいモンじゃなく単なる通りすがりの記憶喪失者であることを。取り巻きの役人どもが動く前に。

 

 何という完ぺきな計画! だと思っていたのだが。

 残念なことに、俺が与えた屈辱は想像以上だったようで。完全に頭に血が上がったのか、アイリーニは大声で役人に指示を出そうと──

 

 

「あの……少々よろしくて?」

 

 唐突に第三者の声が殺伐とした空間に割り込んできた。 

 

「先程からのやり取りを見ていましたが、審問官さんが彼を襲い始めたのは指名手配犯のスニーキー・バンデッドに似ているから、ですわよね?」

「べ、別に襲っていたわけではありません!」

 

 ンなわけあるか! と思わず心の中でツッコミをいれてしまう。口に出すと第2ラウンドが始まりそうだったので、どうにか堪えたが。

 

「ところで、これはあくまで(わたくし)の考えなのですが。彼は指名手配犯ではないと思うのです」

「その主張には何か根拠があるのでしょうね狩人(ハンター)さん?

「もちろんですわ。といっても簡単な話。そこのあなた、巻いてるバンダナを取ってくださる?」

「あ、ああ」

 

 言われるがまま、素直にバンダナとついでにゴーグルも取る。すると……アイリーニの顔は怒りの赤から「やらかした」という青に変わっていった。その速度たるやまるで信号機だ。中間の黄色はなかったが。

 

「あっ! ……くっ、私としたことが、何という簡単なミスを……!」

「彼はレプロバ(ハイエナ)ではなく、見てわかる通り(わたくし)と同じ、()()()()ですわ」

 

 こうして、この騒動は一件落着(?)し、誤解してしまったお詫びとして、また意図せずではあるが指名手配犯を倒したという実績により仮入国が認められたのだった。

 

 

 

 そして俺は今、助けてくれた女性とマルヴィエント内にある小さなカフェで向かい合っていた。淹れられたコーヒーによる香ばしい薫りが満ちる。マスター曰くボリバルのドッソレスにある「コーヒープレイン」という会社から調達したものだそう。旨そうだ。

 

「えっと、先程は助けてくれてありがとう。おかげで見知らぬ世界の土地を漂流するところだった」

「構いませんわ。こういった時はお互いに助け合いませんと。それに久しぶりに同族(アヌーラ)の方と出会えましたもの」

 

 青を基調とした(パーカー)に身を包む、ピンク色のおさげ髪の女性(ひと)はそう微笑む。

 

「自己紹介が遅れましたわね。改めてはじめまして、アズリウスと申しますわ」

「ああ、よろしく。俺は──」

 

 そう言いかけて、俺は口を(つぐ)む。本格的に旅を開始して以来、目をそらし続けていた問題が今、立ちふさがる! すなわち──

 名前、どうしよう




 作者
 「初めての対人戦、書いてみたけどどうかな、グレイディーア!」
 グレイディーア
 「凡才ですわね」
 作者
 「(´・ω・`)」

 というわけで、テラ世界初の対人戦でした。楽しんで行けたら幸いです。
 ところでアヌーラに男性っているんでしょうか。普通はいると思うのですが……誰か知っている人がいたら教えて欲しいです。

 ちなみにブロードソードは本来両手持ちらしいですが、立ち絵やイベントでの描写から片手持ちにしました。アイリーニ、強い。今後も出番がある予定です。

 面白い、と感じてくれたら☆評価や感想をよろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

俺の名は?

 現在(4/20の夜)時点で、週間UA数が上から2番目になりました!
 皆様のご愛読に感謝を!


「なるほど、そういった経緯でこちらにいらしたのですね、そして記憶がないから名前もないと」

「ああ」

 

 俺は目の前の女性、アズリウスにこれまでの顛末(てんまつ)を軽く話した。とはいえ、自分の本当の種族については伏せといた。俺自身もよくわからん問題だし、うまく説明できずに混乱すると思ったからだ。何より今の状態では説明できんしな。

 

「とすると、困りましたわね。せっかくのご縁ですし何か支援をしてあげたいのですけれど、住所はともかく名無しというのは難しいですわね」

「なるほど……って支援? 助けてくれるのか? 会ったばっかの俺に?」

「ええ。同族(アヌーラ)ということもありますけど、先の話を聞く限りあなたは相当腕が立つ、とお見受けしましたわ。その腕を買うという意味もありましてよ」

「俺はそんなに強いとは思わんが……あの蛸魚(タコたま)とか融魚(ゆうぎょ)とかいう連中だった単独では絶対に勝てなかった」

「ご謙遜を。ああいった連中はそもそも滅多に姿を現しませんし、対処の際は20~30人程の小隊で討伐するのが通常ですのよ。それに比べてたった2人で立て続けに2体も討伐するのは、とんでもないことですのよ?」

「な、なるほど」

 

 ぶっちゃけた話、融魚(ゆうぎょ)に関しては相方のグレイディーアがいなかったら絶対に勝てなかった。なので俺は思ったほど強くない──と続けそうになったが、話がこじれるので言わないでおく。

 

「話が逸れ(脱線し)ましたわね。さて、あなたの名前を決めませんと。何か、思いつくものはありまして?」

「そう言われると意外と難しいな……」

 

 2人分のドッソレス産コーヒー、プレインカプチーノの香ばしい(かお)りが満ちる中。こうして大喜利(おおぎり)大会、もといダメ出し大会が始まった。というのも、何故かことごとく俺の出したアイディアが却下されたからだ。

 

 

 

TAKE1

「見たまんまのカエル男というのは」

ヘタクソなパロディ。却下ですわね」

 

 

TAKE4

「カエルを英語でフロッグ、これをもじってフロック」

「却下ですわ。駆逐されますわよ?

 

 

TAKE5

「名無しそのものを指して、無名(むめい)!」

「却下ですわ。ツラヌキ筒で心臓皮膜ブチ抜かれますわよ?

 

 

TAKE8

「確か元の世界(地球)の小説で朝起きたら虫になっていたという話が……そうだカフカというの」

「却下ですわ。とっくにプレイアブル化(実装済み)ですもの。何かのミスで2人が鉢合わせたら書くのが大変と作者が言っていますわ」

 

 

TAKE13

「ならシンプルに……旅人というのは」

何が何でも却下ですわ。訴えられますわよ?

 

 

 こうして30分が過ぎて。

「どうして……どうして……」

 

 頭の中で現場ネコが泣きわめいているイメージが鮮烈に浮かぶ。……って何なんだこれは。

 

「おかしいですわね。何故か無性に却下しなくてはという謎の使命感が湧き上がって」

「お、おう。……そうだ! 俺の今の状態、『漂流』をイベリア語(ポルトガル語)っぽくして──『デリヴァ』というのは」

「…………謎の使命感が湧き上がってきませんわね。それならいいと思いますわよ?」

 

 

 こうして俺はデリヴァ、となった。改めてよろしくな!

 

 

 

 

 

 扉を開け、ホテルの一室へと足を踏み入れる。ここはアズリウスより紹介された宿だ。なんでもこの国はとある出来事以来、だいぶ閉鎖的になっているようで、ほとんどの宿は一見さんお断りらしい。彼女がいなかったら野宿するとこだった。

 

 部屋は2つ。1人用ベッドを中心とした居間と簡素なシャワールームだ。後者はトイレと一緒になっているタイプだな。一泊のお値段なんと2500龍門幣(ろんめんへい)! いや、相場がわからんから高いか安いか、見当もつかん。

 が……部屋の内装を見るにこの部屋が高い、というわけではないようだ。壁紙、剝がれかかっているし。ちなみにこの世界で流通している通貨というのがこの龍門幣(ろんめんへい)だ。俺のはもちろん、あの追い剝ぎ共から分捕ったやつだな。

 

 虚空より取り出し、早速数えてみよう! さてさて……いくらになるかな?

 

 

 

 

 3万。そう、3万龍門幣(ろんめんへい)である。このままだと12日しかもたない! まずいな、このままじゃ……いや、落ち着け俺。質素なベッドサイドテーブルにあったメモ帳を適当に破り、これからどう動くか、そのプランを(まと)める。

 

 

 ・最終目標

 グレイディーアが所属しているという、ロドス・アイランドなる組織に行く。その時の口ぶりから察するに、きっと雇って(?)くれるはず。

 

 ・そのために必要な事

 この国(イベリア)より出国する為の龍門幣(ろんめんへい)を稼ぐ。

 その間、宿に泊まれるぶんの龍門幣(ろんめんへい)を稼ぐ。当然のように食費も稼ぐ。もしくは外で狩る。

 

 

 

 こんなもんかな? 書いてて思った。やはりカネだ……全てはカネが解決するのだ! ベッドに寝そべりながらそんなしょうもない事を考える。少し前に立ち寄った村にあった地図によると今いるのがイベリアという国の、端っこ側。で、次に近いのが……このサルゴンって国のアカフラという地区らしいな。よし、とりあえずここを目標にしよう!

 

 目標を決めて、一安心したからか、一気に眠くなってきたぜ。

 ここは、からだの、おのぞ みのまま……ZZZzzz……

 

 

 

 

 ゲリラ的昼寝を敢行した結果、夕方を通り越して夜になった。

 

 俺は今、夜風に当たりながらそこらを散策していた。やっぱり屋根の下で眠るのはいい気分だぜ。安心感がまるで違う。それはともかく腹が減ったな。何か食う場所は……お、あそこにあるの、酒場か! 見た感じそこまで人が多いというわけでもなさそうだから、落ち着いて飲めそうだ。

 値段を見ると……うん、多分1品2品であれば何とかなりそうだ。それに明日はアズリウスが何か仕事──荒事系の──を探してくれるらしいし、まぁ何とかなるだろう。

 

 というわけで酒場に入り、ビールと蛸のオリーブ漬け、パエリアを頼む。これで1000龍門幣(ろんめんへい)。多分、安いのだろう。味も塩っ気がきいていて、ビールによく合う。海鮮のダシもイイ感じだ。

 ビールの味、故郷(地球)とあんま変わんないんだな。静かにそう感動していると。

 

「ますたぁ~ビールの、L!」

「いつものですね、()()()()()

 

 呂律が回っていない女が入ってきて、かなりの音量でやりとりしているのが聞こえた。どう聞いても酔っているな。ハシゴ(2件目)か? そう思っていると声の主はこちらへと近づき、遠慮なく腰を降ろす。手にはLサイズジョッキと小さな小皿。豆か何かのご様子。

 で、声こそ小さくなったが酒の勢いに身を任せて気炎を吐く。

 

「────! ~!! ──、──~、────」

 

 聞き取り辛いが、()()()()()()()の愚痴を吐き出しているらしい。曰く、せっかく気合い入れて任務に参加、誰も文句言えないような成果を挙げて「長官(先生)」に褒めてもらうんだ──と思っていたのにあの男のせいで全て台無し──恥をかいた──等々。

 ところで、その男って。ひょっとしなくても。と思ったタイミングでこちらを振り向く()()()。その顔があっという間に赤に染まる。信号機の速度を遥かに超えて。

 

 

「あ、えーと。どうも()()()()()()()()()。改めまして、恥をかかせた男、デリヴァと申します」

「…………こ」

「こ?」

「この男のせいでぇ!?」

AIEEEE!?

 

 とある業界の、アクションゲームの大ボスは、必ずといっていいほど()()()があるという。

 

 大ボス、見習い審問官・アイリーニ(酒乱のすがた)が、襲い掛かってきた!

 

 

 

 

 そして意識が暗転し、俺は──

 

「……うう、ここは、一体……?」

 

 見知らぬ天井だ。微かに消毒液の匂いがする。と、目の前に見知らぬ女性が現れた。片目を眼帯で覆った、紫の髪と瞳を持っている。その姿はどことなくクラゲを連想させた。

 

「ああ、落ち着いてください。焦ることはありませんよ」

 

 安心させるように女性は微笑む。

 

「あなたにお話が、あるのです」

 

 




 作者
 「頑張ってギャグシーンを書いてみたけどどうかな、グレイディーア!」

 グレイディーア
 「フッ……」

 作者
 「(´・ω・`)」

 読者の皆様、ごきげんよう。ギャグシーンが苦手な作者です。今回はパロディを詰めてみました。楽しんで頂けましたら幸いです。

 面白い、と感じてくれたら☆評価や感想をよろしくお願いします!

 ちなみにアンケートはあと数日したら打ち切ります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

傭兵新生活が、始ま──らない。

 本日はアークナイツの「公式生放送~2022春の大感謝祭スペシャル~」をやるらしいですね。
 全裸待機しながら書いてます。


 前回までのあらすじ。

 

 苦闘の末、なまえをてにいれた!

 安宿を、ゲットした!

 酒場で、飲んだ

 大ボス、見習い審問官・アイリーニ(酒乱のすがた)が、しょうぶをしかけてきた!

 

 おれはながいねむりに、ついたようだ!

 

 

 

 

 

「ああ、落ち着いてください。焦ることはありませんよ」

「あなたにお話が、あるのです」

 

 目の前の女性は安心させるように微笑む。いやでもその言い方は何故か妙な胸騒ぎが──

 

「どうか、落ち着いて。貴方はずっと泥酔状態にあったのです。ええ、ええ。わかっていますよ。どれくらいの長さか?」

 

 思わず唾を飲み込む。まさか……9年とか?

 

「貴方が眠っていたのは……昨日の深夜から今日の昼にかけて。半日です」

「おう……」

 

 単に酔いつぶれていただけやんけ。あっでも何でだ……? 昨日はそこまで飲んでいなかったはず。む……待てよ。確か昨日は途中でアイリーニと飲んで……あっ。

 

「それで、昨日の夜に酔いつぶれた貴方を運んで来たアイリーニさんが、これを」

 

 女性は一切れの紙を差し出す。今度こそ、嫌な予感が

 手に取って、見る。それは請求書(レシート)

 その金額、1万龍門幣(ろんめんへい)

 

 

 *言葉になっていないカエル(アヌーラ)の呻き声!*

 ちきしょう! 全財産の1/3が吹っ飛んだ! 

 

 何ということでしょう。折角昨日作ったばかりの計画が……。

 ベッドの中で一人うなだれていると、更なる追い打ちが!

 

「もし、デリヴァさん。その……1つ悪いお知らせが」

「アズリウス? いたのか」

「ええ。(わたくし)、彼女──ウィスパーレインさんの元でお世話になっていますの」

「放浪医師の、ウィスパーレインと申します」

「デリヴァだ、よろしく」

 

 ウィスパーレインと握手をする。とても細い、繊細な手だと思った。

 

「それで──アズリウス、悪い話って?」

「その……大変申し上げにくいのですが。簡潔に申し上げますと、仕事がないのです」

「えっ、ないの」

「残念ですけれど……」

 

 

 なんてこったよ。新天地での生活2日目にて、今までの出来事を全て上回る、大ピンチだ!

 

 

 

 アズリウスによると、イベリアという国はしばらく前から鎖国状態にあったらしい。そのせいで、例えば輸送業者(トランスポーター)の護衛といった荒くれ者(傭兵)の仕事は年々減少している。昨日誤解されたなんとかという指名手配犯は、そうした職に(あぶ)れた者の末路だという。

 

 他には町の外にいる「怪物」を始末する仕事かなんかもあったが、ここ1週間ほどその出現頻度がピタリと途絶えてしまったそう。

 

(わたくし)も丁度遠征より昨日帰ってきたばかりでしたので、まさかこんな事になっているとは想像できませんでしたわ。なので、昨日の約束は……」

「それはアズリウスのせいじゃないだろ? だから、謝んなくても大丈夫だ。しっかし、そうするとどうやって稼ごうか……」

「ウィスパーレインさんのところでは、彼を雇うことはできませんの?」

「そうですね……残念ですが、ご覧の通りこの地区は患者さんが少ないですし、余りお給料は出せそうにありません」

 

 そういえば俺達が話始めてからもう数時間立つけど。誰も患者来ないな……。閑古鳥が鳴いているぜ。

 

「まあ、ここでウジウジしててもしょうがない。ちと街の外に出てみる事にするぜ」

「何かアテがありますの?」

「いいや。けれどもひょっとしたら何かいるかもしれないだろ? それに怪物を始末しなくても、何かの動物がいればそいつを食料とすれば少しは節約できる」

「そういうことでしたら、(わたくし)もご同行してよいかしら? このクロスボウで遠距離支援ができますわ」

 

 アズリウスはそう言って懐より小型のクロスボウを取り出す。遠距離攻撃持ちか! それは頼もしいな。俺は即座に承諾することにした。

 

 

 

 

マルヴィエント郊外にて

 

 

「なぁ、アズリウス。話違くない?

「ほ、本当ですわ。おかしいですわね、狩人協会で聞いていた話と全然違いますわ」

 

 俺達2人は困惑していた。

 目の前に広がる海辺には、大小様々な蛸魚(タコたま)の、遺体。この辺りについて以来、まるでタワーディフェンスゲームのように次々と湧いて出てきたのだ。ほぼ一定間隔で。そのおかげで俺が前衛、アズリウスが後衛という感じの即席パーティでもなんとか殲滅できた。

 

「しかし、今度の連中()()()()()()()

「むしろ喋る蛸魚(タコたま)なんて見たことないのですけど」

 

 困惑気味にアズリウスが言う。その反応から察するに多分俺が会った奴が特別だったのだろう。そう考える俺をよそにアズリウスは短刀を取り出し、比較的小さな蛸魚(タコたま)の元へ。そして解体作業を始めた。って、ええ!?

 

「えっなんで解体するんすかアズリウスさん」

「知りませんでしたの? 蛸魚(タコたま)、小さいものでしたら食べることができますのよ?」

 

 マジか。待てや。俺が昨日食べた「蛸」のオリーブ漬けというのは……ハハハまさか、な。……な、そうだよなそうに違いないよな? なっ?

 あまりの「な」の多さにゲシュタルト崩壊を起こしつつ、こうして無事狩りは成功。かなりの大漁だったので、持ちきれない分は俺の「力」で格納し、大量の蛸魚(タコたま)(小)を持って帰ることに成功した!

 

 

 そしてその日の夜。 

 ウィスパーレインの診療所にて。

 

「どうしましたの? そんな浮かない顔で?」

「いや……やっぱり昨日の蛸は「蛸」だったんだな~と」

 

 俺は聞いてしまったのだ……獲れた蛸魚(タコたま)の一部を、昨日お世話になった酒場に売りに行った時。

 

「ああ、これは新鮮な蛸魚(タコたま)をありがとうございます。丁度()()()()()()()()()が切れていたものですから」

 

 と、言っていたのを……。

 

「そんな深刻な顔しなくても、大丈夫ですわよ。確かに見た目は()()()()()アレですけど、味は保証しますわ」

「ま、まぁ味に関しては昨日食べたから知ってはいるが。でも何かなぁ~」

 

 おっとまずい。せっかくの食事が台無しになってしまう。

 では、気を取り直して。

 

「えーでは、今日の大漁を祝って乾杯!」

「乾杯ですわ」

「かん、ぱい」

 

 俺、アズリウス、ウィスパーレインがそれぞれのテンションで乾杯を上げる。こうしてささやかながら、ウタゲが始まった。ん? なんか字が違うな……? まあよい、多分伝わるだろ。

 酒のつまみは皆、今日捕れた蛸魚(タコたま)の刺身や唐揚げなど。

 

「それにしてもデリヴァさんの()()()、大変便利なものですわね。異空間にあらゆるものを格納、好きな時に展開できるなんて。大変トランスポーター向きですわ」

「なんか、SF小説で出てくる冒険者、みたいですね……」

「あーそれなんだが、そもそもあーつって何なんだ?」

「ご存知ないのですか?」

「それも記憶喪失の影響でしょうか?」

「ん、そのことは──」

「ウィスパーレインさんには(わたくし)の方から伝えておきましたわ」

「お、そうか。……その反応から察するに、常識的な単語なんだな?」

「その通りですわよ。もしよろしければこの機会に教えておきましょうか?」

「! 是非、頼む!」

 

 これは有意義なウタゲになりそうだ! あれ、やっぱりなんか字が違う気がする……。

 

 

 

 

 そして──

 ふー食った食った。いやぁこの世界について色々と知ることが出来たぜ。特にアーツというのは中々面白いなぁ。俺も早く使いたいぜ。あ、しまった! あの()()()()()()の事を聞くの忘れていたぜ。ま、また次があるさ。

 

 安宿の階段をギシギシ鳴らしながら、3階にある自室(仮)を目指す。そこまで飲んでいないから、迷うことはないぜハハハ。

 ……うん? 扉の前に誰か、いる? ゴシゴシと目を凝らし、じっと観察する。

 やはり、誰か、いる!

 

 俺はこっそりと動こうとし──やべ、気づかれた! 遮蔽物も何もない、一方通行の廊下だからか畜生! 

 その謎の人物が、突撃して来る! まずい、防御を──

 

今までどこに行ってたんですか! ずっと待っていたんですよ!?

 

 その声、アイリーニか!? 何でここに──って待っていた? 

 

「私の特訓相手になってくれると()()()()したじゃないですか!」

 

 

 ふむ……昨日の敵を今日の友(?)とするとは、酒は人生の潤滑油だな!

 俺は脳死気味にそう思うのだった。

 




 アズリウス
 「ところでウィスパーレインさんはお身体が弱いと聞きましたが、お酒は大丈夫ですの?」
 ウィスパーレイン
 「あ、これはノンアルコールですから大丈夫ですよ♪」
 アズリウス
 「少し酔っていらっしゃいますわね……お酒はほどほどに、ですわ」


 公式生放送視聴中……
 新イベント、リミテッドスカウト、ニアール異格キタ! これで勝つる!

 というわけで記念すべき第10話でございます。また、UA数が6000まで秒読み段階と来ました。
 皆様、ご愛読ありがとうございます!
 この話を面白いと感じてくれたら☆評価、感想をよろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

デリヴァのせつめいしょ

 新イベ、楽しみですね。この日の為に貯めた石……今こそ解き放つ!

 集計期間がどの程度かイマイチ解りませんが本日の11時時点で、「アークナイツ」週間UA数がトップとなっています。
 初の二次創作でここまで健闘できるとは全くの予想外でした。
 皆様のご愛読に感謝を!


■■の●

 

 そこは、昏く、冷たい。

 そこは、流れる、圧力が、満ちる、

 この大地が生誕して以来、積り積もった悪意のように。

 ドロドロの(おり)が、何もかも押しつぶす。

 適応し、進化できた■■ボー■以外、拒み通す。

 

 

 そんな場所で、「彼」は起きた。未発達の口からは高濃度の潮が吐き出される。陸人にとっては、この上ない毒となるものだ。

 先民(エーシェンツ)で言うところの「鼻」に相当する器官を膨らませ、辺りを、嗅ぐ。

 

 言葉を発する。失敗する。

 言葉を発する。 失敗する。

 ■ェ■■■を発する。   成功する。

 

 「彼」は感じた。■■■の断片を。だがよく場所が特定できない。

 会いたい。逢いたい。その言葉を聞かねば。最期の。

 

 「彼」は上体を起こした。

 


 

 

前回までのあらすじ!

 

 酒は人生の潤滑油なり!

 以上。

 

あ、あと(タコ)美味しかったです。

 

 

 

 

 

 

 

次の日の朝、マルヴィエント郊外にて

 

 

「さて、始めるか」

「はい! よろしくお願いします!」

 

 デリヴァ()とアイリーニは約10メートル程離れて向き合う。その姿はまるで決闘のよう。アイリーニの手には細身のブロードソードが。対して俺は──何もない、素手だ。

 

「では、参ります!

 

 アイリーニが一陣の風と化す。俺はその軌道を見切り、(かわ)す! あの時と違い、アイリーニは決して焦らない。様々なパターンで俺に攻撃を仕掛ける。単に一直線(突撃)ではなく、時にフェイントを。時に時間差を、早く、遅く。

 

 何をしてるかって? 見ての通り、アイリーニの特訓に付き合ってるのさ。昨晩の、というか一昨日アイリーニと飲んだ際、剣の特訓に付き合う約束をしたらしい。それだけでは俺には何のメリットもないと思うかもしれない。

 だが、あるのだ。彼女曰く──

 

「付き合ってくれたらご飯おごりますよ?」

よしまかせろ

 

 というわけ。いや、もちろんそれだけではない。一応、もう1つ理由があるのだ。それは──

 

 

「よし、そろそろ俺の番かな」

「! わかりました。では、どこからでもかかってきてください!」

 

 攻守逆転。次は俺からアイリーニへ攻撃を仕掛ける。俺の謎の力を使いつつ。

 

「──ッ、いざ喰らってみるとよくわかります。反則(チート)ですよそんなの!」

「そうでもない、さ! 実際頭の中は大忙しだ!」

軽口叩く癖によく言う!

 

 次々と()()()()()()()()()()に翻弄されるアイリーニ。

 

 

 

 マルヴィエントに来るまでの日々、先日の蛸魚(タコたま)討伐戦などを通して、ようやく俺は自身に宿る謎の力を把握することができた。

 

 それはいうならば「アイテムボックス」だ。もっとわかりやすく? そうだな……某国民的アニメに登場するネコ型ロボット、それが持ってるなんちゃらポケットってやつ。それが実体としてどこにあるかはわからんが、その中に格納されているものを俺は何時でも召喚できるというわけ。

 召喚範囲は自身より半径2メートル程度というところか。

 

 この力、生活面で大変役に立つのは言うまでもないだろうが、戦闘面においても大変役に立つ。例えば。

 

「くっ!」

 

 剣同士の鍔迫り合いは分が悪いとみたアイリーニは後ろへとバックステップ。距離を取ろうとするが──そうはいかない。俺は剣を前方へと突き出す。その行動(モーション)中に、一瞬にして剣は消え失せ、()()()()()

 剣の刺突だと思っていたアイリーニは想定外の強力な槍の刺突を、予想より()()()()で受け、思いっ切り吹き飛ぶ。

 

「ちょっと、もう少し手加減しなさい!」

「うっ、すまんすまん」

 

 彼女に手を貸し、起き上がらせる。いくら双方が刃を落とした訓練用の武器とはいえ、当たりどころが悪ければ怪我をする。相手を怪我させるところだったということは、俺もまだまだってことだな。

 

 こういった訓練を更に1時間程続けた。

 そして一休み。

 

 

 虚空より青い電気ケトルを召喚。あ、別にカップ麵を作るわけではないぞ。不健康だしな。夜中に食べるのはやめよう! おっと、話がズレちまったぜ。

 更にコップを2つ召喚。ケトル内の紅茶を入れ、アイリーニに振舞う。

 

「ほれ、お疲れ様」

「……ありがとうございます。そのアーツ、ホント便利ですよね。羨ましいです」

「あーこれ? 確かアーツというのはアーツ学とかいうものを勉強して、更に道具を使って扱うものなんだろう? でも俺はアーツ学なんて知らんし」

「確か記憶喪失と言っていましたよね。昔その分野の天才であったという説は」

「多分ないなぁ。そのアーツロッド? とかユニット? というのも持ってないし」

 

 その答えに少し考え込むアイリーニ。

 

「聞いたことがあります。この大地にはアーツに頼らずとも、未解明(謎の)原理で似たような術を使う者がいると。俗に異能と呼ばれているものです」

「何という中二病的単語よ」

「その中二病とかいうの、何なんです? 初めてあった時もそうでしたが」

 

 ジト目でこちらを見る。アイリーニ。この無駄に「そそられる」単語がわからぬとは……これより、哀しみが、あるぞ。

 

「まあそれよりも。その理屈だと俺は『異能力者』ということになるのか?」

「多分ですけど」

 

 2人揃って首を傾げる。どこかで鳥が鳴いた。

 

「ところで、私の剣術はどうでした?」

「そうだな、何のかんのいってパターンがかなり単調だな。あれだと動きの速さに慣れれば避けやすい」

「そうですか……至高の術(デストレッツァ)の道はまだまだですね」

 

 そういって悲しげに目を伏せる。うーん、何かアドバイスをしてやりたいが……俺の戦闘技術は殆ど記憶を失う前、体が覚えているという感じだ。なんでそのまま教えようとすると出来の悪い根性論か何かになってしまう気がする。

「どうしてそこで諦めるんだ! もっとおれの動きを見ろ!」みたいな。……みたいな? 何このイメージ。

 

 ん、そうだ!

 

「その至高の術(デストレッツァ)というのが何なのかわからないが、修めた者は強いんだろう?」

「もちろんです! イベリア人剣士の多くは様々な流派を取得しますが、最終目標はその至高の術(デストレッツァ)なのですから」

「ふーむ、多分だが。アイリーニの技がスピードと突きに特化しているのは、至高=1つを極めると考えているからじゃないか?」

「!! ……そうですね、確かにそう考えています」

「だが余程なレベルでない限り、俺のように見切られるのがオチだ。ならば……様々なやり方で相手を翻弄して打ち勝つというのも1つの方法だと思うんだが」

 

 その言葉に暫く考え込むアイリーニ。その顔が上がった時、目は輝いていた。

 

「その言葉、一理ありますね。そして……」

「そして?」

「目の前に様々な武器を扱う、よい練習相手がいます! さぁもう休憩は終わりです私の至高の術(デストレッツァ)の為に踏み台となってもらいましょう!」

 

 何ということでしょう! 俺の負担が増えてしまうではありませんか!

 こうして特訓は日が沈むまで続くのだった。

 

 

 ちなみに。至高の術(デストレッツァ)を修めた人に師事するのは? という俺の疑問についてアイリーニ曰く、かつてイベリアに住むとあるエーギル人の男性がいたというが、少し前に出国してしまったのだそう。物事、中々タイミングよくいかないものだな。

 

 

 

 

 

 こうしてマルヴィエントでの日々は続く。

 一週間が経過する頃には、俺の行動パターンも決まってきた。とはいっても大したことじゃない。アズリウスとひと狩り行くか、アイリーニと剣術の特訓……もとい(まと)となるか。あとは偶にウィスパーレインの診療所のお手伝いをするとか。会計とかだな。

 残りの時間は情報収集のお時間だ。

 

 そして太陽がお隠れになった時刻となり。

 粗末なテーブルの上にペンとメモ帳。たまにブツリと消えるランプに悪戦苦闘しながら、今日わかった事を纏める。

 

 

 

 マルヴィエントに来てから10日目。

 今日はトランスポーター達が集まるという建物に行ってみた。1人もいなかったのだがな! 付近の住民によると、数か月前に大規模な隊商が出発して以来、この都市と外国とのつながりはないそう。多分例外が俺なのだろうか?

 鎖国状態のイベリアから外に出るには方法が2つ。隊商の護衛として雇われくっついていくか(運賃を払って「荷物」としてもらう方法もアリか)、自力で突破するか。

 この世界の知識がまだまだ不足する俺に、後者は論外だろう。有効な「足」もないことだし。

 だが、聞くところによると次の隊商が来るのは未定なのだとか。

 困ったな。このままだと永遠に釘付けだ。グレイディーアがいるロドス・アイランドという組織にたどり着けない……。なお、この組織について知っている人はいなかった。アズリウスやウィスパーレインも含めて。有名ではないのか?

 

 

 よし、こんなものだろう。住民によると数か月前にここを離れた隊商の中に巨大なドローンガン(電波銃)を抱えた、下半身が不自由なエーギル人の女性がいたのだとか。どうも機械いじりが得意そうだと言っていたから、技術者だろうか。

 

 その人がもしまだ居れば、このバイクとか修理してもらえると思ったのに。まぁガソリンとかの問題があるからそう上手くいかないかもしれないが。そう思いながら虚空よりバイクの先っぽを召喚。眺める。

 

 これは数日前だったかな。アイリーニとの特訓中に斧と間違えて出したものだ。「殺す気ですか!?」とめっちゃ怒られた。危うくバイクでもって押しつぶすところだったし……気をつけないと。

 俺のアイテムボックスにはこんな感じに使えないものも多数あるようだ。例えばタライとか。なんでやねん。

 

 

 さて、そろそろ寝るとしますか。疲れた体をベッドに投げ出す。ギシリ、と軋んだ。

 そういえば、例の()()()()()()()()のこと、またも聞きそびれていた……ま、いいっか。また明日で……ZZZzzz……。

 

 


 

深■の底

 

 「彼」は困っていた。どうしてもを感じることが出来ないので囚われている■■■を感知できないのだ。そして数日悩んだ末、決めた。

 あの付近を掃除すればいい。■■■はその程度で、死ぬわけないから、探すのも簡単だ。

 赤目を出し入れしながら彼は早速行動に移した。

 

 「彼」は口もないのに吠えた。言葉はない。だが、配下の魚たちは、何をすべきか即座に理解した。次々と()へ、泳いでいく。

 「彼」は吠える。

 征け、恐魚どもよ、純粋な、世代交代の進化どもよ、■■■を見つけるのだ!

 

 その時に発生した振動は、うねりとなり、圧力の(おり)に波紋を刻む。

 そして、恐るべき速さで恐魚を押し出しながら()へと飛び出す!

 そして、災厄が解放された。

 


 

 

 俺は突然、跳ね起きた。何かとても悪い夢を見ていた気がする。肌寒いと思って体を見下ろすと寝汗でびっしょりと濡れていた。

 まるで海から陸に上がってきたみたいに。

 更に首の後ろに違和感を感じ、触るとアヌーラの特徴たる鱗がざわめくように熱を帯びていた。

 何かを警告するように。

 

「何だ、何かイヤな予感が……なんだ、これは」

 

 俺は気づく。揺れているのだ。カタカタと。

 ランプが、ベッドが、窓枠が、この部屋が、建物が、大地が。

 

 どんどん、どんどん、どんどん強く強く強く──

 

 この現象、まさか。

 

 俺はこの世界で、初めて「それ」の洗礼を受けることになる。

 

 




アークナイツWikiや考察記事を片っ端から眺める筆者を見て
 ソーンズ
 「ああ……この資料、確かに役に立つところもある」
 グラウコス
 「うーん?あ、なるほど、そういうことですか。わかりました」
 筆者
 「どっから湧いてきた君たち!? まだ出番は先だぞ!」

 というわけで、記念すべき第11話でした。読者の数が昨日辺りからどんどん増えてきて嬉しい限りです。
 ところで上記の2人は、本文中に登場を示唆する文言を入れましたが、皆様お気づきでしょうか? よかったら探してみてくださいね。

 新しいアンケートを用意しました(8話から)。よろしければご回答ください。

 もし「漂流傭兵小噺」が面白いと感じてくれたら、☆評価や感想を是非、よろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

災厄、襲来。

「バッドパラドックス」を聴きながら書いてます。


 カタカタ、カタカタ、カタカタ……。

 部屋が、建物が、世界が音を立てる。

 あらゆるものを利用した()()による不協和音。

 音はどんどん大きくなり──

 ついに破局した。

 

 

 ゴォッ!

 

 強力な、懐かしいとさえ感じる横揺れ。(デリヴァ)はベッドより弾き飛ばされ、思いっきり壁に叩きつけられる。受け身も(ろく)に取ることができず、頭を強打。

 意識が遠のいていく。

 

 くそ、なんちゅう二度寝の、はいりかただ、よ。あんま りだ……ぜ……

 


 

10分後。「海」と隣接するマルヴィエント外縁部、海岸沿いにて。

 

「おーい、無事か?」

「ああ、少し擦り傷があるだけさ。おたくは?」

「こっちも大丈夫だ。なぁ、ところで今のって」

「どう見ても()()だよ、な」

「やっぱり!? まずいな、すぐに避難しないと!」

「ああ!」

 

 住民たちが一斉に、荷造りさえせずに、着の身着のままで避難を開始する。目指すは街の中心部、教会だ。住民は皆、信じている。この事態に、司教様が救いの手を差し伸べてくれると。

 

 

 

 そう祈りながら避難しているとある住民が不吉な予感と共に、ふと背後を振り向く。

 背後には、海。

 海は恐ろしい。海は怖い。海にはバケモノが住み着いている──そう教えられてきた海が。()()()()()()()()

 ざざぁ、ざざぁ、と音を立て、盛り上がりはどんどん成長し、10メートルを超え始めた。

 まだ、成長していく。まるで壁のように。

 今や、壁は街へと迫っていた。

 

「に、に、にげぇろおぉぉぉみんな! 海がおそってくるぞぉ!!!」

 

 住民が叫ぶ。走ろうとする。足がもつれ、派手に転ぶ。顔は恐怖の色が塗りたくられていた。その目が迫る壁を捉える。

 壁には、無数の赤い光が揺らめいていた。

 

「く、クイントゥス様……! どうかお助け──」

 

 

 


 

 頬に感じる、水。冷たさ。そして誰かの、断末魔(だんまつま)

 

「う、うう……。クソ、俺は一体……?」

 

 デリヴァは起き上がろうとして、失敗する。というより殆ど身動きが取れない。

 

「な、何で……俺は、埋まっている、のか?」

 

 片目で周囲を観察する。視界は全て瓦礫で覆われていた。試しに叫んでみるが、誰も答えない。

 また、断末魔が、聞えた。

 

「とにかく、脱出しないと……だが、どうやって?」

 

 考えた末、体と瓦礫の隙間。そこになんでもいいから物を召喚し、隙間を大きくしていくことで──

 

「……しゃぁ! 脱出成功! 何時ぞやの追い剝ぎ共のガラクタ、役に立ってよかったぜ。今は……夜か」

 

 空を仰ぐと、雲で覆われていた。お陰で見通しが悪い。

 とりあえず四肢を動かし、体に異常がないか確かめてみる。うん、特に骨が折れているとかはなさそうだ。これ、つまり泊まっていたホテルが倒壊したという事か? まー耐震工事とかしてなさそうだしな。

 

 そう思いながら辺りを見渡し──周囲の尋常でない様子を目の当たりにする。

 

「何だ、こりゃぁ……本当に地震後か?」

 

 周囲の建物はことごとく倒壊し、あちこちで火災が起きている。有毒ガスを含む煙が辺りを覆い、怨念のように空に昇っていく。

 そこまではまだ、見覚えがある。元の世界(地球)でも。

 

 問題は──地面に転がる、大量の肉片。そのほとんどは服を着ている。それは、()()()()()()()()

 近づいて見ると、その異常さが露わになる。

 

「これ、は……この抉られた跡。何かに喰い殺されたみてぇじゃねぇか……!」

 

 辺り一体に、人の気配はなかった。

 

 とにかく、誰かを探さないと。というか、アイリーニやアズリウス、ウィスパーレイン達は無事なのか!? そう考え一歩を踏み出すと。

 

 ぱちゃん

 

 その音は、あまりに違和感があった。下を見る。地面は、水で満ちていた。

 

「何だ? 地震と水……この都市は海沿いだし、津波でもあったか?」

 

 それにしては強烈な違和感が。片手で(すく)ってみると、違和感がはっきりとなった。指の隙間から、()()()()()()()()。スライムのように弾力がある、というわけでもないのに。水が手に(まと)わりついているという奇妙な光景が出現していた。

 

 顔を近づけ、匂いを嗅いでみる。……濃厚な、潮の臭いだ。本当に海水か、これ?

 そう思っていると。瓦礫から脱出する際にできたのだろう傷から、一滴のが垂れる。それは、まるで吸い寄せられるように手のひらの水に、落ちた。

 すると、

 

 ぼちゃん

 

 という音と共に、水が手から零れ落ち、地面を覆う水に吸い込まれた。まるで俺から逃げるかのように。

 

「……?」

 

 目の前で起きた光景に首を傾げていると、「うわぁぁぁ──!!」誰かの、叫び声!

 方向は──そっちか! 

 俺は声の元へ急いで向かう!

 

 

 だが。だが、遅かった。遅かったのだ。

 住民の足が、生えている。魚の口から。

 足はやがてボリボリという耳障りな音と共に、ゆっくりと()()されていった。

 

 魚共が一斉にこっちを見る。いや、多分、魚だ。

 犬と(ワニ)を掛け合わせたようなもの。イソギンチャクの足元から移動するための触手を生やしたもの。

 そういった、魚だ。

 魚の目は全て、

 

「ンだよ……何こっちを見ているんだよテメェら……!」

 

 気の利いたセリフなど、出なかった。

 俺は体の底から湧き上がる怒りと共に、魚共に襲い掛かる!

 

 

 

 

「……!」

 

 斬る。

 

「■!」

 

 斬る。

 

「■■!!」

 

 斬る。

 

「──!!」

 

 斬る!

 

 

 斬って、斬って、俺は魚共を斬り続けた────

 だが、一向にその数は減る様子がない。寧ろ、どんどん集まってくる感じだ。魚共のバリエーションも増えてきた。

 特に厄介なのが頭部が鉄砲みたいな形の魚で、水を噴き出してくる。その速度は相当なもので、避けた先にあった高さ1メートル程のコンクリの瓦礫が吹き飛んだほどだ。

 下手すると当たった瞬間、死だ。

 なのでそういった魚には、遠慮なく真心(殺意)を込めた鉄の銃弾をプレゼントしてやった。

 

 今の俺は片手にハンドガンを、もう片手に剣を装備する変則的な二刀流だ。

 まるで元の世界(地球)にあったどこぞの高難易度アクションゲームの狩人だぜ。

 

 そう一人虚しく自嘲していると、地響きと共に巨大な魚が現れる!

 

「くっ──!」

 

 その魚が繰り出す()による一撃を、紙一重で(かわ)し──その魚と相対する。

 

「なんだよ、(タコ)にホヤときて……次は(カニ)かよ全く。てめぇも……個性的な、見た目だなぁ!?」

 

 蟹の目玉は8個。顔だけじゃなく鋏や甲羅にも、生えている。

 蟹の脚は、無数。まるで馬陸(ヤスデ)のようにびっしりと、生えている。

 

 

ガ、キィン!!

 

 クソ! やはり蟹だけあって甲羅が硬い! 剣もハンドガンもまるでダメだ……うぉっと! 右側の鋏から繰り出される叩きつけ攻撃を、左側に転がることで回避。お返しにハンドガンからアサルトライフルに変更し、撃ちまくる。が、なんの手ごたえも感じなかった。

 

 目の前の蟹は大量にある脚のおかげで見かけよりも遥かに素早く、滑らかに動く。おかげで回避が難しい。のだが……コイツ、どうして右の鋏だけで攻撃してくるんだ? 左の鋏はちゃんとついているのに。

 よく見ると、「何か」を握っているような……?

 

 その時。誰の意図か、はたまた偶然か。

 空を覆う雲が、晴れる。姿を現す、満月。

 

 生理的嫌悪の塊のような蟹の、全体像が露わになる。

 月は平等に、蟹の左側も照らす。

 左の鋏には、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 彼女の華奢(きゃしゃ)な体は、酷く傷つき、()()()()()()()()

 彼女の細い首は、あらぬ方向に、曲がっていた。

 彼女の目に、光は、なかった──

 

 

 

 




 次回、イベリア編のラスボスが登場します。
 本日は病院の為、投稿が遅れてしまいました(汗)。
 書き溜めなどをしてない事の弊害ですね。

 あ、ちなみに原作登場キャラクターが退場することはないのでご安心を。

 もし「漂流傭兵小噺」が面白いと感じてくれたら、☆評価や感想を是非、よろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

前哨戦。

 あと2,3話でイベリア編が完結すると思います。
 そういえば、先週の時点で全二次創作の週間ランキングで145位でした。
 いつも「漂流傭兵小噺」を読んでくださりありがとうございます!


 (デリヴァ)は、無惨にも喰い殺された、ウィスパーレインの姿を見て。

 頭にある、何かが、切れた。

 

────!!!

 

 その叫びは、言葉にならない。

 その叫びは、魂の言葉だったのだろうか。

 

 俺は衝動のまま、仲間を喰い殺しやがった(カニ)のバケモノ目掛けて突撃する! 

 その一脚目の踏み込みは、深く、激しく大地を叩き、足跡を残す。

 空気の流れが緩やかとなり、俺の周囲で激しい渦を巻き、後方へと流れる。

 

 (カニ)の口が嗤った。

 (カニ)の下腹部が、ばかぁ、という粘度を伴う音と共に開く。

 そこからまるで槍のように勢いよく飛び出すは()()()()。如何なるわけかその口の形状は、先民(エーシェンツ)のものとそっくりだ。

 

■■■、ミィツケタ!

 

 その攻撃は、完全に意表を突く奇襲となるはずだった。

 だが。

 

「突き攻撃はアイツ(アイリーニ)のおかげで──慣れてるんだよ!!

 

 俺はサイドステップでその攻撃を(かわ)し、迂闊(うかつ)にも露出しっぱなしの下腹部に肉薄。口の接合部、根本は柔らかい内臓だ。

 ──ここなら、剣も通るよな?

 そう思いながら俺は両手に()()()を召喚。撃ちまくる!!

 

 ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン────────

 *言葉になっていない蟹の叫び声!*

 

 その()()()()衝撃に、マヌケにもバランスを崩し蟹はひっくり返る!

 

「そんなザマじゃ、もう、逃げられねぇよな?」

 

 俺は撃ち尽くした散弾銃を捨て、新たに全弾装填済みの散弾銃を召喚。

 後は死ぬまでゼロ距離射撃をプレゼントしてやるだけだった。

 

 

 

 5分後。ついに蟹のバケモノはくたばった。両方の鋏も、無数の脚も垂れ下がり、二度と動くことはない。

 俺は左側へ周り、鋏を破壊。囚われていたウィスパーレインを丁寧に回収し、床に横たえる。

 

「……ひでぇ。こんな、こんなんになっちまって……」

 

 両目から涙が音もなく、溢れ流れ落ちる。

 彼女は片腕しかなく、両足は膝から下がなく、片胸は引きちぎられ、胴体のあちこちにギザギザの穴が、そこから幾つもの臓器が見え隠れしている。

 とても言葉では表せないほどの惨さ。だからせめて目を閉じてあげようと、その顔に手を伸ばし──違和感。

 

 何だ。この違和感──温かい? 遺体が、こんなにも?

 慌てて頭から下を確かめようとして、首に触れた時。更に気づいた。

 折れていた首が、治っている? そんなバカな。さっき見た時は確かにあらぬ方向へと曲がっていたはず……。そう考えながら、ウィスパーレインの左胸に耳を当てると。

 

 ドクン──ドクン──ドクン──

 

 これは、心臓の音か! 彼女は生きている!? それを裏付けるように、胴体にあった穴が、ゆっくりと塞がれ始める。それを見た時、脳裏に閃く元の世界(地球)のとある知識。

 曰く、とある種のクラゲは寿命を迎えたり()()()を受けたりすると、幼体(ポリプ)へ退行し、再び成長を続ける特性があるという。

 その特性は若返りとも言うし、人によっては半分不死であるとも言う。

 今、彼女に起きているのはその現象ではないか? だとすればまだ希望がある!

 

「とりあえず、彼女を安全な場所に……」

 

 そう思い辺りを見回すが、当然そんな場所など、なさそうだ。というより……変だな。さっきまであんなにいた魚共が、どこにもいないなんて。

 と、何かが音を叩て降ってくる!

 

「何だ!?」

 

 落ちてきた人型のそれは、付近の瓦礫の山に頭から突っ込んだ! 両足が藻掻くようにジタバタと動いているから、死んではいないようだ。慌てて引きずり出すと……

 

「お前、アイリーニか!?」

「うっ……この声、デリヴァ? アンタ、生きていたの!?」

 

 そう言うや否や俺を確かめるようにギュッとしがみつく。

 

「丸一日も……どこほっつき歩いていたのよ全く!」

「な、何だって、丸一日だと?」

 

 アイリーニの話をまとめると、地震と同時にマルヴィエント市内に現れた海の魚共の襲来より既に丸一日が経過。市民の内半分ほどは既に高台の教会まで避難を完了。

 そして今、街の守備隊や賞金稼ぎ、狩人、戦闘可能なトランスポーターなどが総力を挙げて撃退しようと戦闘中らしい。

 だが、その戦況は芳しくないという。

 

「どおりで誰もいなかったわけか……丸一日も寝ていたとは、全くもって情けねぇぜ」

「瓦礫の下敷きになっていたんでしょ? なら仕方ない──ッ!」

 

 話の途中でアイリーニが目を大きく開ける。

 

「そうだ、こんな話している場合じゃない! はやく、救援に行かないとッ……」

「救援だって?」

「市内中心部の大広場で、敵の指揮官と思われる個体を発見、今も戦闘中なの! 私はさっき奴の攻撃で吹き飛ばされて──」

 

 早口でそう説明しながら急いで向かおうとし──よろける。危ない! 俺は咄嗟に彼女を支える。

 

「お前、酷い怪我じゃないか! そんな状態で行っても足手まといになるだけだろ!」

「でも──」

「ここは俺が何とかするから、アイリーニはウィスパーレインの面倒を見てくれ!」

「ウィスパーレイン……? って彼女こんな傷で、生きているの?」

「ああ、生きようともがいている!」

 

 俺はこの場をアイリーニに任せ、急いで市内中心部の広場へと向かう!

 

 

 

 

 いつの間にか月は再び隠れ、大雨が降り始めた。大量の瓦礫や見通しを更に悪くする雨に四苦八苦しながら、どうにか広場前までたどり着く。怒鳴り声や剣戟(けんげき)の音が聞こえるから多分このあたりのはずだ──

 

 その時、付近の崩れかけた柱に青のパーカーを着た女性が倒れているのを見つける。その姿……アズリウスか!?

 彼女の元に慌てて駆け寄り、脈拍などをチェック。……大丈夫だ、息はある。意識を失っているだけのようだ。

 

「う……で、デリヴァ、さん?」

「ああ、そうだ、俺だ。この傷……何にやられた?」

「ごほ、ごほっ……広場の、方に…………が」

「わかった。後は俺に任せておけ」

「よろ……がいします……わ」

 

 アズリウスは再び気を失う。俺は彼女の両手をちらりと見て、怒りに身を任せながら進む。

 彼女の両手は、潰されていた。

 

 

 広場に近づくにつれ、どんどん戦闘の音が、小さくなっていく。

 

 そして俺が広場に到着した時、付近一帯には破れた数多くの戦士たちの、骸。

 数は50を優に超えていた。

 そして今──

 

「や、やめっ──ぐぎゃっ」

 

 最後の戦士の頭が砕かれ、降る雨にが混じる。

 

 その「魚」は、今までのどの魚よりも、洗練されていた。洗練という文字が「無」であるというのならば。

 二足歩行の魚人。「彼」には顔がなかった。その顔面は海面のように何もない。ただ反射するだけ。

 

縺ゅ≠縲√≠縺ェ縺溘′笆?笆?笆?縺ョ蝗壹o繧後↑縺ョ縺ァ縺吶??

 

 魚人は喋ろうとした。いや、実際に喋ったが……その言語は未完成(アンフィ二ッシュ)

 だから、切り替えた。フェロモンに。

 潮が空気に混ざり、拡散していく。

 

 

ああ、あなたが■■■の囚われなのですね? 貴方様をずっと、探していました。どうかお言葉を、貴方様の最後の──

 

うるせぇ

 

 俺は()()()()()()()()()()なぞ聞かずに、突撃。その鏡みたいなド頭に一撃を入れる。

 

 後に「アンフィニッシュボーン(未完成な骨の)ノットトーカー(口下手野郎)」とケルシーによって名付けられる敵との戦いが、今始まった!

 

 




 昨日中国で開催された、3周年記念公式生放送を見て「あの」キャラクターの実装に狂喜乱舞した作者です。
 祈りが……通じた、だと?
 寝れませんでした。

 それにしても、毎回カッコイイPVやら演出で涙が出ます。只々感服するのみですね。

 次回は「伝説ボス、アンフィニッシュボーン・ノットトーカー戦」となります。

 もし「漂流傭兵小噺」が面白いと感じてくれたら、☆評価や感想を是非、よろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

伝説ボス、アンフィニッシュボーン・ノットトーカー戦

 なんとなくお気づきの方もいるかと思いますが、本作には「Bloodborne」や「エルデンリング」をモチーフとした表現というか、小ネタというか、そういったものが含まれています。
 文章であれらを表現するの、キツイ……(涙目)。
 というかタワーディフェンス×死にゲーという組み合わせってこれ如何に。


 クソ野郎が口上を終えるまでご丁寧に待つ必要なんて、1ミリもねぇ!

 

 俺はペラペラと()()()()()()()魚人に向け容赦なく突撃。地面を踏み込み、ジャンプ。全ての生物にとって弱点であろう頭に向け、渾身の(剣による刺突)一撃を喰らわせる!

 だが──

 

「手ごたえが、()()()、だと……!?」

 

 魚人の鏡面のような顔(のっぺらぼう)が、ニタリと嗤うように歪む。次の瞬間、顔から無数の針が!

 

「くっ!」

 

 俺は両足で魚人の胴体を蹴り、その反動で距離を取る。何だ、あれは。剣をブッ刺した時、途中までは手ごたえがあったのに、いきなり固い物に当たり刃が止まってしまった。そして今の顔からの針。予備動作らしきものは一切なかった……。

 

ああ、急いでは事を仕損じますよ? ■■■の(わっぱ)よ。

 

 そうバカにしたように()()()()()()()魚人。その両手がぐぐ、と音を立てながら鋭い刃状に変形、構える。

 

さあさ、踊りましょう?

 

 そう()()()瞬間、目の前に現れる魚人! 

 

「何!?」

 

 移動が速すぎ──などと思っている最中に繰り出される重い一撃。その一撃は咄嗟(とっさ)にガードするために使用した剣二本を容赦なく砕き、俺の体を吹き飛ばす。

 

「ぐはっ……痛ェじゃねぇか──くっ!!」

 

 倒れ伏す俺の真横に音もなく現れる魚人。真上より繰り出される刃を転がり、(かわ)す。危ねぇ、ほんの少し遅かったら串刺しになっていたところだ。

 

「剣がダメなら……こうだ!」

 

 俺は両手にアサルトライフルを召喚。撃ちまくりながら突撃する。魚人は脅威とみなしたのか、腕を交差させガード。今だ!

 十分に接近する前にアサルトライフルを捨て、(メイス)を召喚。打撃なら、どうだ!

 だが、その一撃は魚人の表皮がまるで水面のように揺れただけであった。手ごたえ、ゼロ。

 

残念でしたね?

 

 魚人は両刃をゴム膜のように変形、俺を弾き飛ばす。地面に再び叩きつけられる俺。次の攻撃が、来る! そう思い前を向くと。

 衝撃が()からきた。

 

「な、に──」

 

ちゃんと見ましょうね?

 

 魚人は俺の真下から、出てきたのだ! 防御が間に合わず、重い一撃を受け、無様にも痛みで地面をのたうつ。

 

「くそ、が……」

 

 痛みでろくに呼吸ができない中、考える。なぜこいつはこんなにも速い? 単に肉体スペックの差ではない気が──いや、わかったぞ。

 

「てめぇ、の体──あれだろ? 水みたいなもんだろ。だから自由に予備動作もなしに変形できるし、形状を変えて真下から攻撃なんて、マネもできる……」

 

 ゆっくりと立ち上がりながらそう種明かしをしてみるが。クソ、あちこちの骨にヒビが入ってるな、呼吸するのも辛い。1秒ごとに、全身を針で突き刺す激痛と鈍器で叩かれたような鈍痛が、波状攻撃を繰り広げてくる。

 もう、これ以上攻撃を喰らうわけには……今、必要なのはあの時のような()()()()だ。

 俺は素早くサルヴィエント郊外の謎実験場で拾ったビン、それを召喚し中の液体を飲み干す!

 

……!!

 

 数秒もしないうちに全身の痛みが噓のように消え、力が(みなぎ)ってきた。よし、これでまだ戦える!

 

「水は、攻撃できない……物理ならな!」

 

 俺は三度突撃を敢行。今度は槍だ。魚人は何故か棒立ちだ。罠か? まぁいい──これでもくらえ!

 持っていた槍を攻撃する寸前に手放し、代わりにバイク用の燃料(ガソリン)が入ったタンクを召喚! 中身を全てぶちまけて、更に召喚したライターで火をつけ即座に退避する!

 

 一気に全身から火を上げる魚人!

 

 よし、やったぞ! 奴をデカい松明にしてやったぜ! 後は熱で水分が消し飛ぶのを待つだけだ。上手くいくかどうか不安だったが、奴は今だ棒立ちのまま、効いている証拠のはず。最初はスタンガンとかで感電、と考えたがずぶ濡れの俺も被害を受けるから、採用しなかったというワケ。

 

 どうにか、勝ったぜ……! さて、早くアズリウス達を安全な場所に運ばないと。

 背を向け、一歩を踏み出し──

 

ようやく、逢えました……! そこにいらっしゃったのですね、■■■よ

 

「な──」

 

 目の前に魚人が! そう認識した瞬間、腹に異物感。喉から灼熱のが勢いよく噴き出す! 目玉をどうにか下に向けると、奴の両刃が、俺の体を貫通していた。いう事聞かない頭をどうにか動かし、後ろに目を向けると、燃える水たまりが。

 ……ガソリンを、分離しやがったか……!

 

アーツであれば、良かったのですが。残念でしたね(わっぱ)よ。

 

 クソが……!

 俺はまるで幼子を高い高いをするかのように、持ち上げられる。腹から大量の(ほとばし)り、魚人を、周囲の水たまりをに染める。

 

確か陸人のからだは、ここにたくさんのが集まるのでしたね?

 

 魚人の鏡面が、波打ち現れるは巨大な(あぎと)。それがぐい、と俺の方へ伸びていき──胸を喰い抉った。えぐり取られる心臓。信じられないほどの血が、噴き出す。噴火する火山から出るマグマのように。

 魚人はデリヴァの心臓を丸呑みにした。

 

 

 魚人はデリヴァの体をそこらへんに投げ飛ばした。

 べちゃり、という不快な水音がする。

 もう、動かない。

 何処かで、クジラのような、鳴き声がした。

 

 

 魚人は、勝ち誇るように両腕を広げ、天を見ゆる。祝福するように、雨が降り注ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お前はこれで終わりなのか???

 

 異変が、生じる。

 魚人は、突然藻掻き苦しみだす。まるで、先程の心臓が毒物であったかのように。

 

あ、が、が、ギィ!? ち、違う! これは、陸人のでは……違う、違う、違う!

 

 魚人の口から、溢れ出す青い。それは外のではない。内なる(アビサル)だ。

 

珍しい客だから、特別に褒美をやろう。さぁ、元の世界の力を存分に使うとよい。

 

 心臓を失ったデリヴァが、幽鬼のように立ち上がる。ぽっかりと空いた穴から、(深い紫)の液体が溢れ出し、あるべき姿へと血肉を補充する。

 

 デリヴァの双眸が、に染まる。

 彼の口から、飛び出すは言葉ではなく。

 ■■■鬼■。

 

「ペルムの大噴火。」

 

 それは、とても小さな、小さな音だったが。直ちに滅びを(もたら)した。

 

 デリヴァが今まで流した、その全てが一斉に燃え広がる! 

 それはまるで煉獄のよう。辺り一面はその熱により融解し始める。

 デリヴァのを全身に浴びていただけではなく、取り込んでいた魚人は、逃れるすべはなく。外と内、双方から焼き尽くされる。

 

コ、コノチカラ、まさか……■■■と同ジコキョ……ギィヤァァァァ!!!

 

 あっという間に、魚人は黒焦げになり、灰となり、焼失した。

 

アア、ケツゾクタチノ元へ、イザ参り……生きる。

 

 それが魚人、アンフィニッシュボーン(未完成な骨の)ノットトーカー(口下手野郎)の残した言葉であった。

 崩れ落ちるデリヴァ。

 

 雲が晴れる。

 太陽が昇り始める。

 戦いは終わったのだ。

 

 




 今日はハローワークへ通っていたため、少し投稿が遅れました。
 そう、筆者は無しょ
 ニェン
 「お、呼んだかー?」
 筆者
 「当分先やで?」

 あ、今更ですが、感想受付設定を非ログインユーザーにもできるようにしました。遅れてしまいすみません。

 もし「漂流傭兵小噺」が面白いと感じてくれたら、☆評価や感想を是非、よろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

うごめく、ものたち、組織たち。

 ちょっと視点が変わります。次回には戻りますのでご安心を。
 また、アークナイツ本編のとある章より事実上の引用をした箇所があります。ここはなるべく手を入れない方が良いと思いまして。


 これは、マルヴィエントの戦いが終結した頃の、おはなし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 音もなく雪が積もる中。

 ポタポタと滴る。

 それは、命の

 

 彼女はそれを見て足を止め、急いで駆け寄る。

 ポタポタと滴る。

 それは、心の雫。

 

「あ……あ……■■ー■……!!」

 

 友の名を呼ぶ。声は擦れ、ほとんど聞こえない。

 はやく、はやく止血を! 治療を!

 だれか、だれでもいいから──

 友を抱え、彼女は道を引き返す。息を荒らしながら。

 

「もうすぐだ、ア■■■……もうすぐだからね! だから目を閉じるな……目を閉じないでくれ!」

 

 そして──

 友のは、もう、枯れた。

 彼女の雫も、もう、出ない。

 

 そのあとに起こったことは憶えていたくなかった。

 彼女は何も憶えていなかった。

 彼女が憶えているべきものは、すべて雪と共に溶けていった。

 

 ある者は疑問の声を上げ、ある者は訝しみ、ある者は一定の理解を示す中。

 

 ドラコはエラフィアを背負い駐屯地を通り過ぎていった、彼女たちの姿はゆっくりとぼやけていき、徐々に森の輪郭へと溶け込んでいった。

 そのあとに起こったことは誰一人知らなかった。

 彼らはただ見ていた、タルラが黒夜に歩み入っていくところを。

 

 ここはウルサス辺境の、とある村。

 ここで、目覚めたのだ。

 公には真のレユニオン・ムーブメント(Reunion Movement)が。

 

 だが、この時。

 一匹の黒蛇(怨霊)が目覚めたということを知る者は、ごく僅かである。

 

 


 

 移動都市による履帯、その文明の極致を語る駆動音が静かに響く中。会議は続いていた。

 

「──それで、彼女の救出作戦、いつ決行する?」

「様々なタイミングを見て、半年以内になると思います、ケルシー先生」

「ねぇアーミヤちゃん、私も救出任務のメンバーに選ばれてるよね?

「えっと、ブレイズさん、その……」

「お前は目立ちすぎるから向いていない(ダメ)だろう、ブレイズ」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「そんなこと言わないでよ、AceにScout! 何か()()()()()()()が発生するかもしれないじゃん!」

「まぁまぁ、まだ今すぐというわけではありませんから……」

「ケルシー殿、貴方の配下であるS.W.E.E.Pからの情報は、どうなんだ?」

「潜入中からのスカベンジャーからは……気になる情報が1つ。最近活動中のとある組織が、急に先鋭化(せんえいか)しているとのことだ。」

「その組織というのは?」

「レユニオン・ムーブメント、という組織で『感染者は自らの立場に誇りを持ち、積極的に力をつけ、そしてそれを行使すべきだ』と主張しているらしい」

 

 

 数時間後、会議が終わりケルシーは自身の執務室に戻る。そこには微かに潮の香り漂わせる先客の姿が。その手には小さなメモ用紙があり、何かを熱心に書いているようだ。

 

「いたのか、グレイディーア」

「ええ。会議お疲れ様ですわケルシーさん。それで、()についての議題はありまして?」

()? ああ、サルヴィエント郊外で会ったという人物か……そして何故か転送キューブが反応しなかったという」

 

 ケルシーは執務室内に保管されている透明なケースに目を向ける。それはグレイディーアとローレンティーナがロドスに緊急帰還(テレポート)した際に()()した衣類だ。

 

「今、これらの切れ端をバイビークに鑑定させているが、まだ開始して日も経たないのに既に奇妙な点が報告されている」

「というと?」

「簡潔に言うとこれらの衣類、素材やデザインの点ではある程度共通している割には、制作した企業の名前が見覚えないという点があるが、これは目を(つぶ)る。問題なのは様々な形態を持つ先民(エーシェンツ)()()()()()()()()()()()()()。まるで異世界の衣類だ、とバイビークは報告していた」

「……それは、興味深いですわ」

「だが、今我々ロドスとしては──」

 

 ケルシーは端末にある映像を映し出す。ウルサス、チェルノボーグの極秘施設にある石棺が。その中に眠るはロドスで最も重要な、かつ最も大切な人物だ。

 

「彼女を、ドクターを救出するのが、最優先となる。だからこの件について直ちに支援はできない」

「……わかりましたわ。では、わたし独自で捜索する(動く)とします」

 

 そう言い残し、出ていこうとするグレイディーア。その背中にケルシーはふと、疑問を投げかける。

 

「そういえば、何をメモ帳に書いていたんだ?」

「彼の名前を考えていただけです。記憶を、名を、失っていたようでしたから」

「随分とご執心だな?」

「ええ。彼は──」

 

 何処か、私達と「似て」おりますもの。そう言い残しグレイディーアは執務室より去った。

 


 

 光ある所、影あり。

 企業ある所、暗部あり。

 その企業が善だろうと、悪だろうと。

 

 

 その企業は、計10のセクションがあることが一般には知られている。

 即ち、

 ・コンポーネント統括課

 ・構造課

 ・エネルギー課

 ・オリジニウムアーツ課

 ・生態課

 ・科学調査課

 ・ビジネス課

 ・警備課

 ・エンジニア課

 ・人的資源課

 である。

 ところで、実はもう1つだけ、隠されたセクションがあることを知るのは、ほんの一握り。

 その名とは──

 

 

「さて、今日は何か素晴らしい知らせがあるとか?」

「はい。それでは皆様、こちらの資料をご覧ください」

 

 会議室の中央に示されるは、如何にして手に入れたのか、マルヴィエントでの戦いの映像。それが一気に早送りにされ──ある男が倒れる、その瞬間を捉え映像は一時停止される。

 

「この男──その瞳の色。まさか……」

「次いでこちらをご覧ください」

 

 次に映るは病室の写真。先の男は眠っている様子だ。左下の日付から、マルヴィエントでの戦いより2日ほど経過していることがわかる。

 

「驚いたな。瞳の色と髪色、そして肌色の変化。これが意味するのは──」

「ええ。まさかの、()()()でございます」

「なるほど、なるほど。しかも、変異過程がわかった4人目のアビサルハンターか! しかも男! なんと素晴らしい!」

「女のみ()れるであると考えていましたが。男でも……しかもここまで急速に」

「これは大発見ですな!」

「これでアビサルハンターの力の秘密がわかり、更には()()()への道も」

「そのためには、他の組織に所属する前にとりあえず捕獲したいですな」

「うむ。ここは……()()()()の、新入りの彼女に任せるとしよう。アーツも捕獲向けであることだし」

 

 1つの影が後ろを振り向く。そこには壁にもたれかける、ヴイーヴルの女性がいた。

 

「一応、説明しておこうか。潜在意識にしっかりと刻み付けておいた方が何かと便利だろうからな」

「君、よろしく頼む」

「はい。では……現在我らが『イデアの目』が観察、捕獲対象としている検体は以下の通りでございます」

 

 会議室の中央に、一枚のスライドが表示される。そこには目標の顔写真、コードナンバー、所属等の情報が示されている。

 

 

 No1(ウヌス).個体名、イシュマエル。活動名はスカジ。

   所属:なし。フリーの賞金稼ぎとして活動中。なお、現在我らと業務提携中のロドス・アイランドと接近中。後述のNo2(ドゥオ)の身柄が目的と推察される。

 

 No2(ドゥオ).個体名、ローレンティーナ。所属組織でのコードネームはスペクター(仮称)。

   所属:なし。現在、ロドス・アイランドにて治療中と推測される。

 

 No3(トレス).個体名、グレイディーア。所属組織でのコードネームは個体名と同一。

   所属:ロドス・アイランド。正式契約ではない模様。ロドスの医療部門トップであるケルシー医師と協力関係にある。

 

 

「そしてここに……くだんの男が加わります。コードナンバーはいかがしましょう?」

「そうだな、何もない(ゼロの)状態から、アビサルハンターになったのだ。先例に(なら)い、No0(ニヒル)としよう」

「では……元ライン生命警備課主任に命ずる。No0(ニヒル)を生きた状態で捕獲せよ。その際、多少欠損部位があっても構わぬ。要は生きてさえいれば、良いのだ」

 

 ヴイーヴルの女性は、覚束(おぼつか)ない仕草で一礼する。そのオレンジの瞳に、生気はなかった。

 

 

 生命の冒涜者(ぼうとくしゃ)達の会議は続く。

 彼らの目的は1つ。世界を、生命の円環(えんかん)たるメビウスの輪。その外側(イデア)を研究し、征服し、強奪すること。

 それを成し遂げた(あかつき)には、テラの神となるだろう。

 




 ま さ か の
 10,000UA突破(ちと遅い)! 
 皆様、今までのご愛読ありがとうございます!
 
 この回でようやく時系列がはっきりし始めたかと思います。
 次回、イベリア編最終話(の予定)となります。

 また、UAが10,000を突破したので、記念としてデリヴァ君とアビサルハンターメンバーとのイチャイチャを番外編として書いています。
 なにぶん初の試みですので質は保証できかねますが、お待ちいただければ幸いです。

 これからも「漂流傭兵小噺」をよろしくお願いします!
 もしこの話を面白いと感じてくれたら、☆評価や感想を是非、よろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピローグ

 まさか1日も休まずにイベリア編を連続投稿で終えるとは思っていませんでした。
 全ては読んで下さる皆様がいてからこそ。
 感謝!



 あの戦いからだいたい半月程経過していた。

 言っとくが、俺は途中から何も覚えていない。あの時、確かに俺の心臓は喰われたはずだ。そんなダメージ、普通は死ぬはずだが……何故だか、こうして生きている。

 

 俺はあの広場でぶっ倒れていたらしい。周囲は何があったのか原型をとどめないほど融解していて、回収するだけで一苦労だったとか。

 あの魚共も、いつの間にか引き上げていった。まるで潮が引くみたいに、自然と。

 だが、マルヴィエントはほぼ崩壊。住民もその半数が帰らぬ人となった。

 

 で、俺は3日間、眠り続けていたらしい。

 普通に目を覚ましたつもりだったんだが……ずっと看病してくれたアイリーニはそう思わなかったようで。曰く、ずっと起きないものだと考えていたとか。

 結果、起きてから3秒後にはアイリーニの感極まった抱きつき攻撃を食らって、あまりの強さに俺は耐えられず、即座に再び気絶という醜態をさらしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 そして──旅立ちの日が、来た。

 

 崩壊し、もう町として機能しないマルヴィエント。イベリア本国はマルヴィエントの全面放棄と、ここからもっと近い町であるサルヴィエントの再稼働を決定したらしい。

 多くの難民は、イベリア教会の者達によって先導され、離れていく。

 

 俺はと言うと。彼らと反対側を向いていた。

 

「その……このような恩知らずな処分、本当にごめんなさい!!」

 

 少し後ろに立っていたアイリーニが頭を下げる。

 

「……別にお前のせいじゃ、ないだろ?」

「でも……」

 

 実のところ、イベリアから見ると俺は不法移民という扱いらしい。そして事実上の鎖国状態にあるこの国では、俺は公式としては犯罪者となるらしい。だが、そうなっては俺の目的が、グレイディーアと合流することが出来なくなってしまうだろう。

 今まで俺が自由に過ごせていたのは、アイリーニが色々と誤魔化していてくれたから。だが、本国の役人が来ている以上バレるのは時間の問題。

 故に俺は今日、脱出する。

 

「でも、こんなの、()()()()()()()()()()に対してすることじゃありません……!」

「うーん、そういわれてもな、俺はよく覚えていないんだよ。本当にあのバケモノを倒したのか、どうか」

「そんなの、状況から考えてあなたしかいないじゃないですか!」

(わたくし)もそう思いますわ」

「アズリウス! それにウィスパーレインも、来てくれたのか!」

「ほんの一時とはいえ一緒に過ごした仲ですもの。当然ですわ。……その点、()()()は少し残念でしたわ」

 

 少し寂しさが混じる、悲しげな表情をするアズリウス。俺は少し屈んでその子と目線を合わせて挨拶しようとし……

 

「……っ!」

 

 逃げられた。少し怯えの表情を見せながら、アズリウスの背中側に隠れる、ウィスパーレイン。

 その姿は、戦いの以前とは大きく違っていた。

 

「やっぱり、ダメか。()()()()()()じゃ、ないよな?」

「元々ウィスパーレインは人見知りな方でしたし、記憶がなくなってしまったので、気に病む必要は……ないかと思いますわ」

 

 かなり無理をしながら慰めてくれるアズリウスと、何とも言えない表情で話を聞くアイリーニ。

 って顔の件はノーコメントかよ。

 

 先の戦いで死亡したかと思われたウィスパーレインは、確かに蘇った。俺が考察した通り、()()()()姿()で。元々俺と同じくらいの身長があった彼女は140センチ台まで小さくなっていた。一気に中1まで戻った感じだ。

 それは別に問題ではない。問題なのは。

 記憶を無くしていたという点だ。

 

 幸いにも全ての記憶を無くしたというわけではないが、俺についてはきれいさっぱり忘れてしまったらしい。

 ウィスパーレインから見て今の俺はちっと()()()()()()の、見知らぬ他人だ。トドメに人見知りとくれば……まぁこんなもんだろう。

 

「そういえばアイリーニもアズリウスも、ケガの方は大丈夫なのか?」

「私はこの、傷が残るぐらいですね」

(わたくし)も──この通り、問題なく」

 

 アイリーニは左目の辺りに1本の鋭い傷跡が残っている。

 アズリウスの方は潰れていた両手は無事回復。問題なく日常生活を送れそうだ。

 こうして見ると、医療アーツというのは凄まじいな。元の世界(地球)よりも優れているんじゃないか? もっともウィスパーレインによると万能ではないらしいが。そう言う時の彼女の顔は少し悲しげだったな。あれか、この世界にも()()()()というやつとかあるという事なのだろうか?

 

 アイリーニに用意してもらった車に近づき、中の時計を見る。

 予定していた時間だ。もう行かないと。

 

「もう時間ですの?」

「ああ。今までお世話になったな」

「これからどうするの? 何か行くアテとかあったり?」

「とりあえず、このサルゴン? とかういう国の……一番近いのはアカフラ地区というところか。そこに行こうと思う」

「どれどれ……うーん、そこよりもサルゴンとミノスの国境地帯にあるこの村、アクロティというのが最も行きやすいと思いますが」

「そうなのか? えーとこのシエスタ? というのじゃダメなのか?」

「確か地形的な問題で行きにくい気がしますわ」

 

 なるほど。今見ている地図は地形的な特徴が描かれていないからな。とても助かる情報だ。

 

「探している組織(ロドス)、見つかるといいですわね」

「そうだな。なぁに、案外すぐ見つけられるかもだぜ?」

「そうなることをお祈りしてますわ」

「ありがとう、アズリウス」

 

 俺は車に乗り込み、エンジンをかける。心地良い振動が伝達され始め、エンジン音が鳴り響く。

 そんな中、アイリーニがぽつりと呟く。

 

「また……会えるよね?」

 

 俺は彼女の方に顔を向け、力強く頷いた。

 

 

 

 

 

 遠く、遠くなっていく。

 マルヴィエントが。

 見知らぬ世界で、世話になった3人が。

 アイリーニは激しく、アズリウスは淑やかに、ウィスパーレインは控えめに、それぞれの方法で手を振る。

 サイドミラーでそれを眺めつつ、俺は前を向く。

 目指すはサルゴンとミノスの国境地帯の村、アクロティ。

 果てして次は、どんな出会いがあるだろうか。

 

 そう考えながらアクセルをぐっと踏み込む。

 響くはエンジンの音、タイヤが地面とタイヤ自身を削る音。

 うーん、なんか物足りねぇな。片手で隣の席に置かれている物品をまさぐると。

 

 ……これは、音楽CDか? ちょうどいい。いいBGMを頼むぜ?

 プレイヤーにセットし、再生ボタンを押す。流れてきたのは……

 

 

 ────♪ ────♪ ──♪ ──♪ ──♪

 

 ロックか? いいね。

 ふと、車内にある鏡を見る。そこには、いつのまにやら変異した俺の顔が。姿が。

 肌は日焼けた肌色から白へ。

 髪は根元が白。先端が黒へと。

 目は右目が黒からへ。

 

 そして、深い場所からの、潮の匂い

 

 曲は続く。

 俺はこれからどうなるか、わからない。誰にも。

 

 

 でも俺は進むさ。

 俺の漂流は始まったばかり。

 これは、そんな俺の──

 ほんの小噺(こばなし)さ。

 

 

 

 

始まりのイベリア編、終。

 

 


 

 一方その頃。

 廃棄都市、サルヴィエント中心部の教会、その最奥にて。

 

 この地に()()()()()()()()()()()()()、「潮風の司教」クイントゥスは静かにため息をつく。

 

 ──今回の出来事は誠に、誠に予想外の事でした。

 全く、司教      も人が悪い。「使者」にも間違えることがあるのは、わかっていたことなのですから、きちんと導いて差し上げないといけないというのに。

 全く、あの放任主義者ときたら!

 

 ──まぁ、それでも結果的に生贄が増えたのですから、よしとしましょう。

 

 司教は薄く笑う。

 その声は名状し難い響きを伴いながら、教会全体を震わせた。

 

 

 

The Next story is──Under Tides(潮汐の下).

 




 パラス
 「歓呼せよ! 震え上がれ、真の勇敢さを前に。偉大なる戦士たちよ、私が──」
 作者
 「ちょ!? まだ出番じゃないよ、まだ君が登場するの先だってば!」

 というわけで、無事にイベリア編が終わりました!
 で、次の舞台は……これ、何て言えばいいんですかね? サルゴン編? それともミノス編? ともかく、そのあたりが舞台となります。
 多分明るい話になるんじゃないでしょうか。
 なお、作中の妙な空白部分はわざとですので、タイプミスではないです。

 そして現在、「漂流傭兵小噺」がUA1万を突破した記念に、現在主人公君とアビサルハンター達とのロドスでの日常(?)を記念として書いています。
 何故か「アレ」な方向になっていますが……。
 進捗率は50%ほど。

 これからも「漂流傭兵小噺」をよろしくお願いします!
 もしこの話を面白いと感じてくれたら、☆評価や感想を是非、よろしくお願いします!

 追記
 最後に登場する楽曲は危機契約#1のPVソングです(の予定でした)。良かったら同曲を聴きながら読むと、没入感が出るかもしれません。
 該当部分がガイドラインに違反していたとのことなので、削除しました。
 お騒がせしました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編・UA数10.000突破記念回
カエル、さかな達に食べられてしまう


書いてみました。R18ではないはずです。
R18ではないはずです(2回目)。
……たぶん。

時系列的に第1部より少し後、ゲーム的には潮汐の下の後となります。


 何故か食物連鎖という言葉が浮かんだ。

 朝一番に。

 

 いやまて。どうしてこうなったよ。

 俺は酸欠の中、そうぼやく。もちろん、心の中でだ。

 

 何故かって?

 

 口が塞がれているからだ。同じ口によって。

 目の前には狂気的な色を孕む赤が、2つ。

 

「あむ……ちゅっ、れろぉ……じゅるるるる……」

 

 吸われている。吸われている。俺の口から出る、ちとベタつく液体が、吸われている。

 奇襲により始まった口づけはあっという間に次の段階(ディープ)へと移行。

 棒立ち状態だった俺の舌はあっという間にスペクターの舌に絡めとられた。

 

「……ん、はむ、んぅ、あむ、ちゅっ、ちゅ……ぷはっ」

 

 圧倒的な力により上から覆い被さられているため、身動きが、抵抗ができない中、吸われ続け……

 そして、ようやく口が離された。横目で時計を見たが、なんか10分は経過している気が。

 

「あ、あの、スペクター? どうしたんだいきな――」

「だいぶ()()()けど、まだ足りないわね」

 

 こちらが反応するより早く、迫る舌。反撃の言葉は、物理的に遮断された。

 

「んちゅっ。れろ、れろ、ん、ちゅ……じゅるるるる……」

 

 口内を、歯の裏を、内頬を、舌を、舌の裏を、更には奥歯のその先まで。

 それは、愛情表現というよりは,捕食。

 思いのほか長いスペクターの舌は、蹂躙しつくす。生気を、魂を、吸い取るように。

 

 食物連鎖。そうだよカエルがサメに勝てるわけないじゃないか――

 

 三度口が離れた時には、舌と舌の間には透明な、それはそれは立派(えっち)な橋がかかっていた。

 

 目の前の捕食者は妖艶に微笑む。口元は互いの唾液が混ざり合った証がキラキラと光を反射していた。

 

「――やっぱり。とっても、()()()()()

「へっ?」

「やっと『私』も目覚めたことだし……もっと楽しみましょう?」

 

 俺を押さえつけていた双腕のうち片方が離れ、下へと移動――っておいまてなんでベルトを外しているんだちょっとズボンを降ろすなそれシャレにならないやつ――

 

「サメ、そこまでよ」

「あら?」

 

 咎めるようなグレイディーアの声と共にスペクターの体が誰かにひょい、と持ち上げられ俺の体はいとも簡単に解放される。見るとスカジがまるでフォークリフトのように彼女を移動させているところだった。流石である。

 ともかく、助かった。さて、どう釈明しようか……いやまて。これはどう見ても俺が被害者なのでは? などと寝起きの頭をフル回転させていると。

 

「全く……独り占めはダメだと事前に約束したでしょう」

「だってカジキもシャチも中々来ないんですもの」

「効果があるかどうか、観察していたからよ。さて、次は私の番ね」

 

 ……ん? 今、私の番って言った? 番って、何の?

 グレイディーアがベッドに腰掛け、こちらに近づく。

 ベッドが軋む。

 

 ……ともかく、助かってなどいなかったようだな!

 理性が足りない頭でそう考えていると。

 

「……んっ」

 

 軽く口と口が、触れる。

 まるで幻であったかのように、すぐ離れる。

 

「今のは、ごあいさつ。まずは会場を綺麗にして差し上げますわ」

 

 再び迫る口。

 

 ちゅ、と小さな音が口元から聞こえる。次いで、舌がつつつ、と皮膚を撫でる感覚。

 妙な電撃が脳裏を走る。

 

 ちゅ……れろ、れろ、れろろろろ――ぴ、ちゃっ。

 ちゅ……れろ、れろ、れろろろろ――ぴ、ちゃっ。

 ちゅっ……れろ、れろ、れろろろろ――ぴ、ちゃ。

 

 先程の、スペクターが残していった暴食の()()

 それをキレイに拭き取り、自らのソレでもって上書きしていく。

 

「きゃぁ! ねぇねぇスカジスカジ、見てる? 見なさいよ! 隊長ってば意外と独占欲あるのね!」

「そうね……意外だわ」

 

 外野が姦しく騒ぐ中。

 掃除を終えたグレイディーアが改めて、侵入してくる。

 

「さぁ、踊りましょう?」

 

 耳元でそう囁いた後に。

 

 口内を舞台に、生暖かきダンスパーティーが始まった。

 

衣擦れ。

 

 俺は全く踊れない中、グレイディーアのエスコートが始まる。

 最初はゆっくり、絡み合い、少しずつ動きながら。こちらを労わるようように、優しく。

 時に表裏を入れ替え、上品な刺激をもたらす。

 

 適度に甘ったるいねばつく水が会場に満ち始めると、ゆっくり、ゆっくり、と飲み干されていく。

 グレイディーアの喉が小さく、ごく、ごく、と音を立てる。

 

衣擦れ。

 

 今や俺の脳内は妙な感覚による数多の電撃で完全に機能停止していた――ああっ!?

 

 とんとん、とんとん、とんとん……

 

 その振動は、うなじから。

 グレイディーアの片手は俺の頭を固定し、もう片方の手は俺のうなじにあるアヌーラ特有のウロコを、優しく叩く。

 知らなかったことだが、ウロコには神経が集中しているらしく、未知の恐るべき快感を俺に与える。

 

衣擦れ。

 

 とんとん、とんとん、とんとん……

 ちゅ、ちゅ、じゅる、れろ、あむ、れろ……

 とんとん、とんとん、とんとん……

 ん……ちゅ、ちゅっ……じゅる、じゅるる……

 

 余りの気持ち良さに俺の腰は砕け、力は抜け、抵抗の意志は何処かに飛んで行ってしまった。

 

 そんな俺をグレイディーアは目をきゅっ、と細めて見ている。

 その目、その表情は外での冷酷さからは全く想像できない、愛おしげなものであった。

 それを見ることができるのは、同族たるアビサルハンターだけなのだろう。

 

「あらあらあら~あんなにも蕩けた表情! ねぇねぇスカジ、着替えてないで見なさいよ!」

「もう見てるわよ」

 

 そんな拷問めいた時間もようやく終わった。

 ぷはっ、という湿度が籠った音と共に、口は離れ、ダンスパーティーは終った。

 

「ふぅ、ご馳走さまでした。私の侵食も止まると良いのだけれど。……気持ちよかったかしら?」

「……………………」

「隊長隊長、彼ほぼ気絶してるわ。よっぽど隊長のテクが凄かったのね!」

「そう。スカジ、最後はあなたの番……どうして、寝間着になっているのかしら?」

 

 グレイディーアの目に映っているのは、いつもの内股が空いたカウボーイスタイルではなく。可愛らしいシャチのデフォルメキャラがあちこちにプリントされているセパレートタイプパジャマに着替えたスカジの姿であった。

 

「だってこれから()()のだから、当たり前じゃない」

「「…………」」

 

 スカジはそう言い残し、放心状態のデリヴァを押し倒した。

 そして――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベッドの上には本来の主であるデリヴァを抱き枕にした状態で眠りこけるスカジの姿が。

 そんな2人にそっと毛布をかけるグレイディーア。

 

「なーんだ。てっきりお楽しみの時間だと思ったのに。ま、スカジらしいといえばそれまでだけど」

 

 少しは予想できたとは言えあんまりだ、と愚痴を漏らすスペクター。

 

「この子は初心ですし、これでもかなりの勇気を出したのだと思いますわ。それに――」

 

 この中で一番、深海の侵食が浅いのだから。と静かに漏らした。

 

 

 

 

 

 

 

 同じ頃。

 ロドス船内のとある秘密会議室にて。

 そこにはロドスの三大トップたる女性たちが集っていた。

 大スクリーンにデカデカと映し出されるはアビサルハンター達の一連の行為である。

 

 アーミヤが顔を真っ赤に染め、両手で目を覆いながら、それでもしっかりと指の隙間から「観察」している中。

 彼女(ドクター)は長い長いケルシーの説明を聞いていた。

 

「――――つまり、本人の弁を信じるのならば、未確認種族からアヌーラを経てアビサルハンターと成ったデリヴァは、海の脅威に対して並外れた耐性、免疫を所持している可能性が示唆されている。君も読んだであろうワルファリンレポートのようにな。さて、そんな彼の成分をどうにかして()()すれば、例えばスペクターの洗脳などが解ける可能性があるかもしれない。グレイディーアやスカジの怪物化を防ぐ、もしくはその進行を大幅に遅らせることができるかもしれない。私はそう考えて助言した結果が」

「これ、だと?」

「そうだ」

「でも、どうしてこんな形に?」

「恐らく、男女の関係から、本能的に摂取する最良かつ手軽な(規制ギリギリセーフの)方法として、ああなったのだろう。言い方を簡略化すれば――発情期だ」

「発情期」

 

 あまりのパワーワードに思わず復唱するしかないドクター。

 

「絶対にその単語での例えは違うと思います!」

 

 アーミヤの抗議を受け流し、ケルシーは続ける。

 

「ともかく、デリヴァの鉱石病(オリパシー)に罹らない、言い換えると源石(オリジニウム)が彼の肉体を認識せず、各消化器官をすり抜けるという摩訶不思議な体質にこのような更に不可解な特性が追加された。これは彼を特別隔離病棟に移し様子を見るべき案件だと私は考える。元々彼とスペクターを接触させていると、彼女の狂気が和らぐことも確認済みだ。ドクター、異論はないな?」

 

「え、ええ……」

「ではデリヴァにその説明を頼む。私はこういったことは苦手だからな。彼は君と仲がいいし、適任だろう」

「わかった。……え? 本当にこう説明するの? 今朝の出来事はアビサルハンターたちの発情期によるものだ。そしていつか本番行為もあり得る、って?」

 

 はやくも理性が失われつつあるドクターであった。

 

 

 その後、理性回復剤(2→62)を投入しつつどうにかこうにか説明責任を果たしたドクターに対し、デリヴァは一言。

 

「それなんてエ□ゲーの設定?」

 

 

 

 

 結果、デリヴァは一時的に住処を変えることを快諾。暫しの間スペクターと同棲することになった。

 それを見た多くの男性職員、オペレーターから、「あの」スペクターを陥落させた! として尊敬されることになるのだが。

 それはまた別のお話。

 

 




 と、いうわけで「漂流傭兵小噺」のUA数1万突破記念として、書いてみました。
 もうすぐ2万行きそうな勢いですが。
 いつも読んで下さる皆様には感謝の限りです。

 ところで、これってR18に入るんでしょうか? 少し不安ですね。

 とりあえず2週間連続投稿&イベント「ニアーライト」に間に合わせることができました。
 第2部はイベントこなすのと、本業の一次創作作品「異形ト化シタ極彩色世界ノ冒険譚」(カクヨムで連載中)の執筆を再開させるため、遅れる可能性があります。

 これからも「漂流傭兵小噺」をよろしくお願いします!
 もしこの話を面白いと感じてくれたら、☆評価や感想を是非、よろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

デリヴァの日常 with スペクター

書いてみました。
UA数2万突破記念です。
全世界待望のスペクターが甘えてくる回。

R18までの道、そこをギリギリを責めてみました(つもりです)。
また、本編より時系列はやや先の話となります。



 漂う2人分の潮風の匂い。

 何処か甘い香りのセット付だ。

 上を見上げると、禍々しく光る月。

 

 ここは水面の上。

 俺は立つ。

 

 包み込む水はゆっくりと、引いていき、やがて海底が見え始める。

 さて、起床の時間だ。

 

 

 

 8:56A.M 天気/晴

 ロドス特別医療室 収容患者名:スペクター

 

「ぬ……うん? またあの夢か」

 

 (デリヴァ)()()()()()による疲れが完全に取れない中、ゆっくりと瞼を開ける。映るは無機質な天井。香るは消毒液と――甘い潮の匂い。

 

 ――すぅ――す――す――

 

 寝間着に身を包み、穏やかな顔で隣で眠るスペクター。俺の片腕に抱きついた状態で、リラックスしているように思える。

 

 と、微かに身じろぐ。覚醒が近いか。さて、今日の調子はどうなる? 

 

「う、うう……ぐ、あ……」

 

 クソ、ダメか。慌ててカレンダーを見ると、今日は満月。……なるほど。やはりこの日はよろしくないらしい。前回もそうだったからな。

 

「失礼するぜ、お嬢さん――」

 

 俺は口内の液体を充満させた状態で、彼女の端正な顎を持ち上げ、そっとキスをする。

 相手の口をゆっくりとこじ開け、舌を絡ませ、己をゆっくりと流し込み始める。

 少しばかり入れてやると、スペクターの両目がパチッと開かれる。

 至近距離で見つめ合う双眸の赤、その奥は――海の狂気、その残滓が。

 

 それを確認した瞬間、スペクターの舌の動きが一気に激しく、貪るように変化する! 

 そこに言葉など必要ない。伝えたいことはもはや明白。

 俺の頭をアビサルハンター特有の怪力でがっつりと固定し激しく俺の舌を吸う。

 

 ……ちゅ(もっと)ちゅっ(もっと)あむ(はやく)はぁむ(ちょうだい)れろ(たくさん)れろ(ちょうだい)んれぇ(わたしを)あむ(海から)じゅる(解放して)……

 

 ――仰せのままに、お嬢様。

 

 

 俺の朝って毎日こんな風にして始まる。


 

 

 ああクソ、やっぱり片手っていうのは慣れないな。あのタルラっていう龍女め、容赦なく右腕を消し炭にしやがって。覚えていろよ……! 心の中でそう毒づきつつ着替えに奮闘していると。

 

「はぁ、全くもう。見てられない! ほら手伝ってあげるわよ、さっきのお礼にね!」

「……どうも」

 

 この年齢で誰かに着替えを手伝ってもらうのも……と思いつつ、素直にスペクターの手助けを借りてロドスの一般オペレーター制服に着替える。

 ご覧の通り、朝の熱烈な行為の結果、一時的ではあるがスペクターの狂気は薄まった。

 いや、元々の性格が「いい」だけにどう変わったか、そう聞かれると若干わかりにくいところはあるが。

 

 今は昼過ぎ。

 2人共所定の検査を終え、精神・体調面共に良好なことから外出許可が下りたのだ。精神面とは勿論スペクターのことである。狂気のまま外に出て、「うっかり」すると壁に大穴が開いたりするらしいからな……恐ろしや。

 

「で、今日はどこ行くんだ?」

「そうねぇ、とりあえず静かな場所がいいわぁ。根も葉もない噂話で周りが盛り上がるの、懲り懲りだもの」

「根も葉もない……? えっどの辺が

何か?

「アッハイなんでもありませんさぁいきましょうお嬢様」

 

 ちなみに今の彼女の服は「カンブリアン1096ウィンターモデル/暗流」というもので現在純正源石×15コでロドス購買部にて販売中だ!

 ……俺は何を言っているんだ……?

 まあいいや。

 ともかく、俺の残っている左腕に絡みつくスペクターを先導しながら目的地に向かう。

 その先は……

 

 

「ちょっと聞いてよドクター!! デリヴァが酷いのよ!?」

「ノックしてくださいよスペクターさん!? というか直したばかりのドアがっ」

 

 哀れ、ドクター執務室のドアよ。

 スペクターの怪力によって無理やりこじ開けられ、見事に変形したドアがそこにあった。

 

 それを見たドクター、悲しきことに理性が完全に飛んだようで「あびゃー」とか「くぁwせdrftgyふじこlp」とか虚ろな目で力なく叫んでいる。

 それを見たスペクター、つかつかと執務室に近づき机の上にあった初級理性回復剤をドクターの口へ放り込む! 

 

「ちょっと聞いてよドクター!! デリヴァが私達についての噂を否定してくれないの!」

「えっえっちょ、なななんて噂なんですかぁというかバイザー掴んでブンブンするのやめてぇ!」

 

 その言葉に従い、ピタッと体の動きを停止、厳かに噂の中身を話す。

 

「簡単に言うと……『アビサルハンター達って色々とヤバイ』って感じなの」

「えっそれ割と事実なんじゃ?」

「…………ふーん。へぇー。ド・ク・タ―も、そう思うんだぁ?」

「はっ、いやですね今のは単に心の声、じゃなくて素直な気持ち、ああいやこれでもなく――なっなんでそんないい笑顔してるんですかスペクターさん!?」

「デリヴァ! 今すぐ私の武器を召喚しなさい、このドクターにわからせてやるわ!」

「ダメに決まってんだろ。てかそうゆうとこやぞ」

 

 他人と話せることがなんやかんやいって楽しいのか、暴走するサメの頭を思いっきりひっぱたく。

 

「きゃっ! 痛いじゃない何するのよ」

「お前らみたいなじゃれ合い方は皆に誤解を与えるんだよ全く。ほれみろあそこ」

「あら」

 

 執務室の天井裏、そこに通じる穴から漏れ出る殺気。これは――同僚のレッドだな。

 その殺気は俺がスペクターを宥めすかすと音もなく消えた。いやーよかった、危うく乱入バトルが始まるところだったよ。

 一件落着である。

 

 

 

「時にドクター?」

「何かなデリヴァくん?」

「書類の量が……異様に少ないんだが。今日の秘書は?」

「ふっふっふー、誰だと思う?」

「ふむ。まだおやつの時間帯なのにも関わらず、この書類の少なさ……この処理能力の高さ……今ここにいないという事は独自の案件があり恐らくロドスにはもういない。つまり余程の大物か。という事は、つまりか!」

「そう、その名は!」

「「真銀斬!!(シルバーアッシュ)」」

「デリヴァくん、大正解! 景品にこの飴ちゃんをあげちゃう!」

「はは~ぁっ! 勿体なき褒美、我、有難く頂戴いたしまする」

 

 この茶番をソファーから眺めていたスペクター、飽きれたように一言。

 

「あなた達、いつの間にこんなに仲良くなったのよ?」

 

 そう、何故か彼女(ドクター)とは仲がいいんだよね。ウマが合うというか何というか。

 

 

 

 幸いにもドクターの仕事はそこまで忙しくないとのことなので。俺達2人は執務室で暇を潰すことにした。

 暫くして。

 ワルファリン謹製の亜鉛入りサプリをポリポリとかじりながらテラの雑誌を眺める俺に声がかかる。

 

「デリヴァ、デリヴァ」

「はいはいデリヴァですよ?」

「ちょっと、こっちきて?」

 

 見るとスペクターが自身の膝をポンポンと叩いている。これは……膝枕ってやつ?

 もう片方の手にはドクター愛用の耳かき棒が。これは……えっまて何されるんだ俺。

 

「お嬢様、どうして突然そのような事を?」

「ほら、この前自室でASMRというやつを聞いてみたじゃない。あれ、やってみたくなったのよ」

「あー。そうゆうことなら……ほい」

 

 俺はスペクターの膝上に頭を預ける。この一か月間でスペクターを始めとするアビサルハンター達とは毎日一緒に寝ているので、あったはずの抵抗(羞恥心)は何処かへと吹き飛んでしまった。慣れとは恐るべきものである。

 深淵の狂気に苛まれるスペクターは、時として強烈な不眠に襲われる。なので試しにArk Tubeの「カシャチャンネル」の『ASMRやってみました!』だったかな、そんな感じの奴を視聴してみたら、仲良く2人揃って夢の世界へ旅立ったのだ。ハハッ!

 その時の素材が耳かき音声だったというわけ。

 

「では、行きますね……」

 

 細い指が耳たぶに触れる。

 ゆっくりと侵入する「何か」

 かりかり……

 外側をゆっくりとなぞり、徐々に奥へ。

 かり、かり、かり、すーっ……

 かり、かり、かり、すーっ……

 かなり至近距離まで顔を寄せているのであろう。スペクターの吐く息が耳元へとかかり、妙な感覚を覚える。

 異物は更に奥へと進み、絶妙な位置で止まる。

 ぐいぐい、かり、かり、かーりかり。

 とんとん、かり、かり、かーりかり。

 ……何というか、あれだな。とても穏やかな気持ちになっていく。

 ざり、ざり、ざりっ……

 かり、ざり、かりかり……

 ふぅーっ。

 

「うお」

「ふふ、ビックリした?」

「あ、ああ。まさか息、とはな」

「私の腕、どうでしょう?」

「とても気持ちいいよ。何つーか、子供の時を思い出す感じな」

 

 反対側、つまりスペクターのお腹側を向きながら、そう答える。

 

「ふふふ、デリヴァもママに耳かきされた経験、あるってことかしら? 意外ね」

「意外って何だよコラ。俺を何だと思って……でも、正直わからんな」

 

 記憶がないから、とそう付け加える。

 すると……

 

「へぇ~じゃ、今は私がお母さん代わりってわけね!」

「ちょ、おま、何言って……」

 

 思わず振り返ると。普段の狂気的、或いは衝撃の塊のような性格の顔ではなく。

 穏やかな母性を感じさせる微笑みを浮かべるスペクターがいた。

 

「~っ!」

 

 どう答えていいか分からずに、衝動的に下を向いてしまう。そんな俺に何か言うこともなく。耳かきが再開される。

 かりかり……

 お腹側を向いているからか、体温だとか、甘い潮の匂いがダイレクトに伝わる。

 ざりざり……かり、かり……

 ぐり、かり、ぐり、かーり……

 どんどん眠く、なってきた、ような。

 かりかりかり……

 ざりっ、ざりっ……

 ドントン、かりかりかり……

 あっ、とても、気持ちいい――――

 

 

 

 

 

 

 

「ふー、今日のお仕事終わり! まさか定時前に終わるなんてね! どう? デリヴァくんにスぺ――あれ? こ、これは中々……」

 

 わたしは彼らを起こさないようにそっと近づく。

 目の前には眠りこけるデリヴァくんと彼の頭を抱えるように、守るようにして眠るスペクターさんの姿。

 

 わたしは全てではないけど、知っている。アビサルハンター達の苦悩を。

 突然この世界に現れ、その苦悩に巻き込まれたデリヴァくんの辛さを。

 わたしは知っている。

 だから――

 

「なんて尊いの……! こっこのままだとわたし、わたし……!」

 

 心臓を抑え、そのまま仰向けにひっくり返るドクター。

 彼女の理性は、0であった。

 

 

 

 

 

 

 

 そして夜が来る。

 ある意味、俺にとっては戦場だ。

 

 俺とスペクターは真正面から向き合う。

 ゆっくりと近づき、お互いの手を、腕を、体を。

 片手は2つの双丘へと、もう片方は顎、頬、耳へと。

 

 そして口を近づけ、触れ合い始める。

 何回か繰り返すと、その証拠として透明な粘性の橋が架かり始める。

 

 お互い、体温が上がり始めたことがよくわかる。

 彼女は体を全体を。

 俺は下半身を中心と。

 

「では……今日もよろしくお願い、ね?」

 

 赤い双眸を輝かせるスペクター。

 その瞳は上気する頬と同じくらい、輝いていた。

 俺はそんな彼女を、ゆっくりと抱き寄せた。

 

 

 特別医療室に、賛美歌が響き渡る。

 神をたたえるその歌は、人数が変わることもあるが、この一か月間に渡り同じ旋律であった。

 その歌は、ちょっと艶やかで、湿っぽい。

 

 

 

 

 

 

 ところでさ、いつもやられっぱなしというのは、何か違う気がするんだ。ワンパターンというのは良くないだろ?

 というわけで攻勢に回ってみたわけだ。

 突撃、突撃、突撃あるのみである!

 その結果、スコアは「6」となった。

 

 

 そして次の日の、朝。

 

 中々起きない2人を起こしにスカジがドアを蹴破ると。

 肌の艶に磨きがかかったスペクターと、萎びたデリヴァの折り重なった姿が、そこにはあった。

 残留する匂いから何があったか悟るスカジ。

 しかし、彼女は賞金稼ぎ(バウンティハンター)。慈悲はない。

 

 デリヴァの頬をぺちぺちと、()()()()()()()叩き、彼を起こす。

 疲労の色が今だ濃いデリヴァに対し、致命の一撃を放つ!

 

次は、私の番よ?

「……ひぃ!」

 

 

 

 がんばれデリヴァ!、まけるなデリヴァ!

 全世界(テラ)が、応援しているぞ!

 

 

 

続く……?

 

 

 




 弊ロドスのスペクターはこんな感じの日常を送っています。
 1日で書きあげてみましたが、いかがだったでしょうか。
 R18版で誰を登場させたいか、についてのアンケートは次話、掲載する予定です。
 ……直ぐに書けるかは、わかりませんが。
 経験が、ないのです(悲しみ)。

 なお、この回を書くために某耳かき専門店へ行ってきました。

 これからも「漂流傭兵小噺」をよろしくお願いします!
 もしこの話を面白いと感じてくれたら、☆評価や感想を是非、よろしくお願いします!

 追記
 こんな話を書いたので、タグに「スペクター」を追加しました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

デリヴァの日常(秘書編)

 pixivのマルチ投稿を開始しました。

 この回はUA3万突破記念と練習を兼ねたものです。
 また、コメント欄にあったとある方の推しキャラを登場させました(少しでコメンなさい)。

 これからも「漂流傭兵小噺」をよろしくお願いします!




 カリカリカリ……

 カリカリカリ……

 

 薄っぺらくても、積もれば山となる。

 その小さな山が、たった今、消えた。

 

「よぉし、今度こそ書類も一段落したし一休み」

「ドクター、すまねぇがまだ束があるんだ。まだ休んじゃだめらしいぜ」

 

 俺はそう言いながら虚空より新たな書類を召喚。ドサッと無慈悲な音と共に執務室の机に置く。バイザー越しでもわかる。固まった、笑顔になりかけの顔。

 

「ある程度優先順位や種類別に前以て分けてあるから、少しは楽なはずだぜドクター?」

「うう……神よ、寝ているのですか……? そのセリフ、今日でもう6回目だよ? いつになったら終わるのさ仕事って」

 

 がっくりとうな垂れるドクター。その姿は悲しみに満ちていた。

 

「デリヴァくんが秘書をしてくれる時ってさ、いつもこんな感じだよね。小規模な書類が次々とベルトコンベヤーみたいに……まるでタワーディフェンスゲームみたいだよぉ、あと何ウェーブで終わるのさ!?」

「ドクター、嬉しいお知らせがあるぞ。あと書類の束は……3つほど。んで今の時刻は午後2時。頑張れば3時のおやつに間に合う――」

 

 そこまで言ったところで俄然、やる気を取り戻すドクター。凄まじい勢いで目と手が動きだし、小さな書類の山が飛ぶように消えていく。スイッチが入った彼女は基本的に恐ろしいほどの集中力を見せる。ぶっちゃけ俺が話しかけても答えることは滅多にない。

 というわけでそっと残り全ての書類を置き、後はただ見守るのみ。

 

 時計のカチ、コチ……カチコチ……という音と、カリカリカリ……という書類を片付ける無機質な音が執務室を支配する。

 幸いにも今日は来客予定がない。更にこの部屋にいる「もう一人」のお陰で、突然現れる乱入者もそういないだろう。彼女の誤解はまだまだ解けていないからな。こればっかりは時間をかけるしかないか。

 

 執務室に備え付けられているふかふかのソファー、そこで眠りこけている修道服が微かに身じろぎをした。そろそろ起きるかな?

 そのタイミングでドクターの「やたーっ!」という嬉しそうな声が響いた。時計を見ると、丁度3時である。

 

「これで安心しておやつを食べれる!」

 

 ウキウキとしたタイミングで冷蔵庫に向かうドクター。さて、俺もおこぼれに預るとしますかね。その時「ふぁ~」という欠伸がソファーから聞えた。

 

「あら、これは……紅茶の匂い。 丁度いいタイミングで起きれたようね!」

「おはよう、お嬢様?(スペクター?) (精神)の調子は……よさそうだな」

「ええ、おかげさまでこの通りよ」

「あっ、起きたんですねローレンティーナさん!」

「ごきげんよう、ドクター」

 

 お盆にティーカップやらお菓子屋らを載せてドクターがやってくる。頭脳労働後の楽しいお茶会の始まりだ。

 

 俺はスペクターの隣に、ドクターは反対側へと座り仲良くケーキをつつく。話題は日常的なあれこれから俺とスペクターの病状について移っていった。2人共ロドスの患者でもあるからな。ま、俺はどっちかというと実験サンプル的な扱いだが。

 

「そうですか、アビサルハンター達の『進化』は抑えられつつあると。よ、よかったです!」

 

 若干涙を貯めながら我が事のように喜ぶドクター。この分け隔てない優しさが男女問わずモテる理由でもある。

 

「全ては隣のデリヴァが主に『夜』に、頑張ってくれるからよ。ねぇ?」

「言っとくが毎晩毎晩、クソ大変なんだからな」

「でも気持ちいいでしょ? しかも最大4……」

 

 おっと、それ以上はいけねぇ。俺はお嬢様(スペクター)の頭を軽くはたいて発言を中断させる。女の下ネタってわりとド直球だな……。いや、コイツの場合は元からか。

 そんなスペクターの失言にも特に目くじらを立てずにくすくすと笑うドクター。

 そうして優しい時間は過ぎていって。

 

「デリヴァくん、明日の予定は?」

「明日は午前にオペレーター採用面接が何件か入っているな。これがその資料だ」

「ありがと。あれ、この龍門からのヴイーヴル人女性というのは?」

「ああ、それはちと厄介な機密が絡んでるらしい。俺もよくわからんが、明日の秘書担当のチェン殿が説明・同席するってさ」

「そっか。うー、何かが起こる気がするよー」

「まぁドクターなら何とかなるでしょ」

 

 実際、目の前のドクターは単なる優しいお姉さんといった風だが戦場とか企業間の交渉だとか、そんな場面では一変するからな。

 俺も何度か見たことはあるが、いつもこれ同一人物? と思ってしまうほどだ。そんなわけで俺も含めてほぼ全てのオペレーターは彼女の事を信頼・信用している。

 たまーに重い奴もいるが。

 

 お茶会が終わり、暫くして。ドクターよりメモリーチップを受け取る。

 

「じゃぁ、これ。中は秘書の仕事、その引継ぎデータだから。チェンさんに渡しといてね」

「わかった。チェン殿は今訓練室だったっけ?」

「えーと、うん。そうだね、マウンテン君と模擬戦やっているよ」

「おうふ……星6オペレーター同士の模擬戦とは、命がいくつあっても足りんな」

「またまたぁ。きみはあの皆が恐れる『アビサルハンター』の1人なんだよ? もっと胸を張ってもいいと思うけどな~」

「恐れていられているのは残り3人衆でしょ」

 

 それに俺、オペレーターとしては星2だし。3倍の数に勝てるわけないでしょ。

 

「さてそれじゃぁ。オペレーター、デリヴァお先に失礼します!」

「はい、お疲れ様。今日はありがとう。またよろしくね!」

 

 俺は右手に義手を装着し、スペクターを連れて執務室を後にした。

 

 

 

 俺とスペクターはロドスの後方下部にある訓練室へ向かう。俺の左手にはスペクターの右手がしっかりと握られている。指を絡める、恋人つなぎとか言うやつ。

 

 ロドス中の噂となっている「付き合っているのか」という質問はちょいと難しい。だが少なくともプラトニックかどうかという点ならば、答えは「ノー」だ。

 

 理由は全く不明、というか現在調査中なのだが俺にはアビサルハンターらが抱えている様々な問題を「先送りにする」という体質? があるらしい。

 スカジやグレイディーアが将来なるであろう「怪物化」やスペクターの「狂気」などがそれだ。

 そしてその効果は俺が傍にいるだけでも効果が発揮される。まぁ最も効果的なのは彼女らが俺の体液を吸収すること。それ自体は毎晩やってる。

 

 ともかく、ケルシーから言い渡された基本的にスペクターが特別医療室から出る条件は2つ。俺が常に傍にいること。そして「何か」あった場合は責任を持って鎮圧すること。

 もちろん武器は携行してないがさっぱり油断できない。彼女らアビサルハンターらは素手で壁をブチ抜いたりするからな……。

 

 スペクター本人はそこまでこの処置に不満を持っているわけではないらしい。何度も握り方を変えてより密着しようとしたり、たまに顔を腕やら胸に擦り付けたりしてくる。

 しかしさっきから無言だ。ちとヤバいか?

 

 そう警戒しながら訓練室の扉を開ける。

 

 丁度模擬戦を終えたのか、チェンは後片付けをしているところであった。

 

「チェン殿、これが明日の秘書業務に関する各種データだ。受領を」

「む、デリヴァか。了解した。……確かに受け取った。本日の業務ご苦労だったな」

「ありがとうございます」

 

 これで本日の「表向きの」仕事は全て終了。やったぜ。

 

「ところで……先程から彼女(スペクター)、やけに静かだが。大丈夫か?」

「うーん、発作に規則性は中々見出せませんでしたからなんとも」

「そうか。もし事となったらいつでも呼んでくれ」

 

 素直に頭を下げる。いまんところ、スペクターに表情は無邪気さというか、純粋というか。そういったものが混ざっている感じだ。瞳を覗いてみるが、特に狂気の色は見られない。

 とはいえ念の為、早めに帰るべきだろうか。

 

 そんなタイミングでマウンテンが控えのシャワー室から出てくる。相変わらずの高身長、威圧感のある体躯だ。だが彼が非戦闘時においては穏やかな人物であるのは周知の事実である。

 

「おや、そこにいるのはデリヴァ殿とスペクター嬢ではありませんか。こんばんは」

「よう、アンソニー。こんばんは」

「…………御機嫌よう」

 

 お、スペクターが喋った。まだ持ちそうか。

 

「お体の調子は如何でしょうか? 私が見るに少し疲労の色があるようですが」

「ん、そうかな」

「ええ」

「そうか……なら今日は早めに「済ませて」寝るとしよう。ありがとな」

「お安い御用ですよ。となると本日の酒宴は参加できそうにない?」

「だな。すまんがまた今度で頼む」

 

 マウンテン改めてアンソニー・サイモンとはちょっとした出会い(脱獄作戦)の時に共闘して以来友好的な関係となっている。たまに飲みに行ったりな。

 なお、そこにドクターを引きずるブレイズが現れた場合、大宴会か修羅場のどちらかとなる。でもってニェンも現れたら、混沌の出来上がりだ。

 

 

 ともかく用事を終えた俺達はチェンとアンソニーに別れを告げ、晩飯を食いに食堂へと向かった。

 

 

 

 俺はジェイ特製の海鮮丼(大盛り)に魚団子スープと生牡蠣を2つ。スペクターはマッターホルン特製のCランチセット(おろしポン酢ハンバーグ)を頼んだ。

 で、食堂の端っこら辺にてちまちまと食べる。やはり海鮮を作らせたらジェイが一番だな。素材の味が生きている。故郷を思い出すぜ。違う世界だが。

 たまに懐よりワルファリン謹製の活力サプリ(亜鉛入り)を取り出し、かじりながら辺りを見渡す。

 

 比較的早い時間での晩飯だからか、元学生などの若い連中も数多くいるようだ。

 それぞれで固まって仲良く食べる各行動予備隊。

 おしゃれ談議に花を咲かせるウタゲやアンブリエル、ロープ。

 少し騒がしい方向に目を向けば。

 何かの教えを乞うシェーシャと眠そうに対応するドゥリン。

 占いの結果に議論を咲かせるギターノとクロワッサン、そしてパラス。

 

 ってパラスの奴、まーた酒を飲んでいやがる。足元には空瓶が3つも。こりゃぁ、来るな。と思ううちに医療部のフォリニックがアーツでも纏ってんのか、という勢いで飛んできた。始まる説教。のらりくらりと躱すパラス。茶化す周囲。

 

 そんな喧噪はアーミヤがドクターを連れてきたことでより一層、ボリュームアップをみせた。

 

 その喧噪は俺達2人には届かない。陸の祭りを見る海に住まう大魚のようだ。目に見えない海岸線というものを感じる。

 そこに深海より迫る影が1つ。

 

「あなたたち、ここにいたのね」

「お、スカジか。これから飯?」

「私はもうグラニと済ませたわ」

「確か2人は……あそうか一緒に巡回任務に就いていたんだっけ」

「どうしてあなたが知ってるのよ」

「今日の秘書は俺だからな。各オペレーターの任務や配置場所はある程度把握しているさ」

「そう」

 

 あ、ちなみにケンカ中とかじゃないぞ。普段から俺とスカジの会話はこんな感じ。スカジにとって俺は普通にコミュニケーションが取れる数少ない相手なのだ。グラニの保証付き。彼女曰く「かなり照れてる中でよく頑張って会話している」とのこと。

 

「スペクターの様子は……大丈夫なの?」

「ん、多分大丈夫だ。楽しそうに食べていたし。いや、今は寝てるけど」

 

 Cランチセットを平らげ、俺の肩に顔を乗せ、静かに眠るスペクター。髪から微かに甘い潮の香りが漂い鼻腔を刺激する。

 むぅ。意識した途端に強制的に高ぶってくる本能。サプリの効果が発揮され始めたか。急がんと。

 

「俺達はもう引き上げようと思う。そっちは?」

「私もよ。清めたらそっちに行くけど、いい?」

「オーケーだ。そんじゃ、また後で」

 

 俺は席を立つ。

 

 

 

 薄暗い廊下を。ロドスで知る者はごく僅かであるこの廊下を。俺は進む。

 

「ウフ、ウフフフ…………アハハハ…………」

 

 隣は静かに発狂しつつあるスペクター。だがまだ大丈夫。その瞳は健全な赤だ。

 

 俺はロドスのオペレーター、デリヴァ。

 異世界より迷いし、記憶を失い、何の因果かアビサルハンターと成った隻腕のアヌーラだ。

 髪はついに全て白に染まり、肌の色素は抜けつつ、瞳は赤に染まりつつある。

 使うは分類不可の異能、計2種類。

 

 そんな俺の本当の任務、治療はここから始まる。

 深海のような闇が支配する夜にて。

 深海より満ちる脅威を、俺が鎮めるのだ。

 

 

 

 流れるシャワーの音。

 

「で、だ。いつも思うんだが」

「何?」

「どうしてパジャマ姿なんだ」

「だってこれから寝るんだから当然じゃない」

「かなり薄着だし、色々と危ないと思うんだが。それに俺が言えたことじゃないと思うけど、襲われたらどうするんだ、狼に」

「狼なら目の前にいるわ。だいぶ発情している、誰かさんが」

 

 スカジの視線は俺の顔より下、お腹より下に注がれている。どこ見ているんだコラ。真面目に指摘されると恥ずかしくてしょうがない。

 

「恥ずかしがることはないと思うわ。いつもやっていることだし」

「なんか複雑な気分だな……こう、恥じらいとか」

「今更何をいっているの。あんなに激しくする癖に」

 

 スカジの顔は桃色にうっすらと染まり、口元はやさしく、目は期待する輝きを放っている。何回か致したから、わかる。既に準備完了のご様子。

 人生とは不思議なもので、初対面ではガチの殺し合いをしたはずだが。どうしてこうなったんだ。

 

 シャワーの音が止まる。

 中から湯気を纏って、いや違う。湯気以外は何も纏わずスペクターが出てきた。

 

「本日も、どうか寵愛を……」

 

 いつもとは全く異なる顔で、声で、囁くスペクターに。

 俺の理性は瞬時に切れて、立ち上がり、駆け寄り、その悪い口を己の口で塞ぐ。

 もつれあいながら共にベッドに倒れ込み、その上よりそっとスカジが覆いかぶさってきて。

 

 夜が、儀式(任務)が、始まった。




 ちなみにスコアはスカジが「6」、スペクターが「7」です。

 最新話については数日中に投稿されると思います。

 もしこの話を面白いと感じてくれたら、☆評価や感想を是非、よろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2部 全ての道はロドスに通じる……というか通じてくれ! 上編
巨像と商人


 というわけで第2部、はっじまるよー。
 ちとわかりにくいかもですが、番外編の日常回は未来の時間軸となります。
 


 巨大な拳が、強烈な風圧が、目の前に迫る!

 回避!

 (デリヴァ)は逢えて前方向へ回避。真後ろから響く衝撃を受けながら、奴の真下へ。

 大槍を両手に召喚し――()()の膝裏に叩き込む!

 だが。

 

「ちっ! ダメか!」

 

 大槍は突き刺さるが、ただそれだけ。生身ではなく単に岩の塊だから生物学的な弱点もクソもないか。まあ、予想は出来ていたが……。

 慌てて股下から脱出。巨像の背中側に出る。

 巨像の顔がぐるりと180度回転し、その真ん中の「瞳」が、俺を見下ろす。

 

「よう。俺は単なる通りすがりだぜ? 見逃してくれませんか――ねぇ!」

 

 巨像が再び拳を振り上げ、叩きつける。

 俺は再び、今度は後ろ側に避け、その拳に飛び乗る!

 

「その攻撃、もう見切ってるんだよ! そんでもって……テメェ、早いのは攻撃時だけだろ!」

 

 巨像の腕を伝い歩き、肩へ乗っかり、目の前には1つ(コア)が。

 全く、分かりやすくて助かるぜ。

 ここが、弱点(ウィークポイント)だ!

 

 俺の生涯の友、RPG-7(ロケットランチャー)を召喚し……撃つ!

 

 ドカーーーーン!!!

 

 頭部を吹き飛ばされた巨像はガラガラという音を立てて崩れ落ちる。

 破片は、もう、動かない。

 

 

 中ボス、はぐれの巫術巨像を、撃破した!

 


 

「ふぃー終わった終わった。おーい、そこの人、大丈夫か?」

「はい、おかげさまで。どうもありがとね」

 

 褐色肌、銀髪をした女性が頭を下げる。……にしてもまた、とんでもなく際どい格好だな。彼女の足元には大量の段ボールが散乱している。

 

「なあ、アンタ。あの巨像に襲われていたみたいだから、取り敢えずぶちのめしたが……何なんだ、コイツ?」

「えっ? 知らなかったの? あれはね、元はサルカズの古い巫術により造られたものらしいよ。ただ、今は術者がいないから、ああして『はぐれ』て、時たま襲ってくるんですよ」

「なんかペットにした猛獣が野生化したみたいな言い方だな。アンタは飼いならせないのか?」

「わたし? 無理無理。アーツの種類というか系統? が全然違うもの。でさ……ちょっと相談があるんだけど」

 

 目の前の女性が俺の車を指差す。

 

「私の乗り物、はぐれのせいで壊れちゃったんだよね。あなたのに乗せてくれない? この沢山の荷物も運ばないといけないんだけど、」

「ふむ。一応聞くぞ。見返りは?」

「んー、龍門幣(おかね)かな」

 

 その回答に俺は素早く財布をひっくり返し、中身を数える。どれどれ……ふむ、数字のケタが3しかないのを確認し、宣言する!

 

その話、乗った!

「ん、そう来ると思ったよ。わたしはトランスポーターのイナム。あなたは?」

 

 俺は予め用意していた答えを口にする。

 

漂流(フリー)傭兵のデリヴァだ!」

 

 

 トランスポーターのイナムが、パーティーに加わった!

 

 

 

 暫く後、車内にて。

 

「へぇー組織()探しの旅、ねぇ。それでとりあえずマルヴィエントから最も近い集落であるアクロティ村に」

「そうそう。いやーにしても行き先が一緒というのは、幸運だな!」

「その探してる組織名、何て言うの?」

ロドス・アイランドというんだが。知ってたりする?」

「うーん、ごめん、わからないや」

「そうか……」

 

 アズリウスやウィスパーレインの時もそうだったが、やはり有名ではないのだろうか?

 

「ところでさ、この流れている曲、いいロックだね。何て名前なの?」

「ん、確かここにパッケージが。えーと、『定期試験(危機契約)#2のテーマ』ってやつ。いやまてや、何だこの名前……?」

 

 なぜかわからんがこの「危機契約」の4文字を見ると武者震いが止まらん! うーむ、謎だな。

 

「で、イナムは何でアクロティに?」

「商売のためだよ。近々、あの辺りで大きな戦いがあるらしくてね。花戦争(ソチヤオヨテル)って呼ばれてるんだけど。で、保存食とか武器とか、色々売りに行くってわけ」

「なるほどな、さっきの沢山の荷物は商品ってわけか」

「そうゆうこと。それにしてもあなたのアーツ、無限に格納できる空間を操るってすごく不思議だけど便利だね」

「俺もまだその全容を把握しきれてないから何とも言えんが。まぁ便利ではあるな」

「軍事的にも有用だと思うし、ひょっとしたらあなたも雇われるかもよ?」

「ふむ、ちょうど龍門幣(ろんめんへい)には困っているからな。そうだとしたら好都合だ。戦っているのは……ミノスとサルゴンという国か?」

「そうだよ。このアクロティはずっと前から小規模な争いが絶えない地域なんだ」

 

 元の世界(地球)にもある紛争地帯というやつだろうか。どの世界もこういった面はあるようだな。

 仮に傭兵として仕事をするとすると、どちらにつくべきだろうか?

 そんなことを考えながら運転を続ける。

 

 だが――

 どちらの陣営につくべきか、そもそも雇ってもらえるのか、その2つの心配は実のところ全く不要だったのだ。

 どうもこの先の運命は既に決まってたらしい。

 

 

 

 荒野を抜け、道なきジャングルを進み、車と徒歩を切り替えつつ。俺達はどうにかアクロティ村に到着することができた。のだが。

 

「ああ、私の三日三晩の祈りが、遂に通じたのですね……! 大いなるミノスの十二英雄よ、感謝を。運命に導かれ召喚されし勝利を護りし勇者よ、そして偉大なる戦士よ、その武に祝福を。畏れることなどもうありません。さぁ共にあの蛮勇な狼藉ものどもを放逐し我らに勝利をもたらそうではありませんか!」

 

 立派な角と、何故か額に花を飾った祭祀が熱烈に歓迎してきた。

 えーと、要約すると私の祈りに応えて召喚した勇者よ、共に蛮勇な狼藉ものども(魔王)を倒せってこと?

 

 傍らに控える大剣を持つ護衛の目が「もっと簡潔に話せ!」と語っている気がした。

 

 やたらと話が長いこの祭祀は自らをパラスと名乗った。

 

 そんなわけで。

 こうして俺の異世界転生物語が始まったのであった!

 なんか突然作品が変わった気がするんだけど?

 

 




 パラス
 「遂にこの私の出番が! さぁ読者よ歓呼せよ! 私の時代がここから始まるのです! さぁ貴方も……」
 ヘビーレイン
 「ちょ、私を巻き込まないでくださいっ!?」

 念のために……作中に登場するイナムというキャラはオリキャラではなくサイドストーリー「帰還!密林の長」で登場したキャラクターです。
 いつの日か実装してほしぃなぁ……。

 もしこの話を面白いと感じてくれたら、☆評価や感想を是非、よろしくお願いします!

 最後の方に、前話(番外編)で予言したR18版についてのアンケートを乗っけておきます。
 よろしければご回答ください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

話が、長い!

 これから先は原作のとあるエピソードを妄想、もとい改造したお話となります。
 そんなに長くはならないと思いますが……
 


前回までのあらすじ。

勇者、始めてみました。

まだ始まってねーよ!

 


 

――今、この時よりも遥かにむかしむかし、あるところに……

 

「ちょっと待て」

「なんでしょう、志を共にする我が勇士よ?」

「祭祀さんよ、一体いつの話から始める気だ?

「それはもちろん、この大地が生誕し、悠久の時を越えた先」

「もっと後だ後! ついこの間の出来事だけでいいだろ!」

「なんとまぁせっかちな方でしょう。この地の歴史をイチから知ることで、この度の英雄的叙述詩、その素晴らしき」

「誰がせっかちだコラ。ほれみろ、客人方は今にも席を立ちそうだぞ」

「まぁ」

 

 パラスの目の前には勝手に集められていた()()が今にも席を立ち――いや、クランタの兵士は既に建物の出口へと――

 

「ああっ! どうか落ち着いてくださいサルゴンからの客人よ、今はあなた方の力が」

「落ち着くのはそちらの方でしょうが! それに私は先を急いでいると言いましたよね!? あっ、こら、放せ……」

 

 2人の女性が暫しの間もみ合い、そして決着がついた。

 

 

TAKE2

 

――おほん。元々この地、アクロティ村は2つの大国、即ちサルゴンとミノスの間に挟まれていた影響で常に領土紛争の舞台となっていたのです。そして私はとある時事故に遭い「身の上話はまたの機会に、な? 祭祀さんよ」「なんとまぁせっかちな方で」「さっきと同じネタを繰り返すんじゃねぇ!」

 

 一時中断して。

 

TAKE2.5

 

――ともかく、私とこの村の勇敢なる村人たちによってこの村がもう2度と戦果に焼かれないように平和条約を締結することが出来たのですが、そんな喜ばしい出来事の矢先に、「彼ら」がアカフラの奥より訪問してきたのです。

 

 

「頼もう! ここに屈強な戦士たちがいると聞いた! 手合わせを願いたい!」

「どうして会話1秒でそうなるのでしょう、屈強なアダクリスの戦士よ」

「む、聞えんかったか。では。頼もう! ここに屈強な戦士たちがいると聞いた! 手合わせを願いたい!

「ちゃんと聞こえていますよ、声高きアダクリスの戦士よ。手合わせ、ということですが、何故その様な事を? まだ祭りの時期ではありませんが」

良くぞ聞いた! 我、誉れ高きブラン(腕力)族の長、ブレインである! 我らの地よりあのすンごぃ強い、ガヴィルが出奔して以降、開催されたマヒゾッティアにて優勝し、栄えある大族長となったのだ!」

「……」

「…………?」

「それで?」

「だから、手合わせを願いたい!」

「…………???」

 

 

 その後、2時間程会話して判明したことは、要は腕試しがしたいとのことなのです。大族長としての実力をアピールする為に、そして何よりも戦いたいから。

 

 

「腕試し、ですか。望むところ! と言いたいのですが声五月蠅(うるさ)きアダクリスの戦士よ。我が方の戦士たちは未だ先の戦いの傷から回復しておりません。なのでそちらが望むような手合わせは出来ないで」

「それは困る! 我! は戦いに来たのだから!」

 

 で、どうにか戦う理由について激論を交わした結果、戦いには戦利品が必要である。という結論になったのです。さて、彼らは大所帯でアクロティに来たわけですが当然、食料が必要です。戦士という者は皆大食(おおぐ)らいですから。

 …………ところで、そこにあるやたらと華美な装飾の瓶の中身は……ほう、ほう。お酒ですか。

 なるほど。

 

「では、私達(ミノス)はあなた方が行軍中に拾ったというウルサス産高級酒、『スピリタス~密林の甘美()を添えて~』をもらいましょう」

「では、我! はお前の頭に生えている赤い()を貰おう! 初めて見るものだ、きっと価値があるに違いない!」

 

 こうして、互いに譲れない「花」を賭けた花戦争(ソチヤオヨテル)が開催されることになったのです――

 

 

「ところが困った事に我が方の戦士たちは先の戦いの傷から回復しておらず、このままでは私とこのせっかちな傭兵さんの」「誰がせっかちだ。というか俺は参加しないぞ」「計2人しか戦闘要員がいないのです」「無視すんな!」

 

「……で、俺達がその補充要因だと?」

「そうです、 流石私の三日三晩の祈りによって召喚されし勇者よ! なんと素早い理解力――」

 

 何かペラペラと喋る祭祀(パラス)の話を聞き流しつつ、横に座る女兵士に顔を向ける。

 目と目が合う。

 完全に初対面だが、何故か心の奥底で通じた気がした。

 

「「帰る」」

「ああっ!」

 

 

 入口付近で揉み合う女2人と男1人。中々の激戦で、勝敗への道は未だ遠い。

 

「私はただ遠くに行きたいだけだというのに全く!」

「てかコイツ、なんて力しているんだ! 2人がかりで振りほどけないなんて!」

「このままでは私のトレードマークが失われてしまいます。そうなってはプレイアブル化(実装)した際、ドクター諸兄(プレイヤーの皆様)にネタを提供できなくなってしまうのです! これはアイデンティティの(もん)だ」

「「急にメタい事言うんじゃねぇ!(言わないでください!)」」

 

 

 両者の均衡、なおも崩れず。護衛の傭兵はやれやれといった趣で、イナムは面白いバラエティー番組を見るような趣で、加勢せず。

 そんな中、デリヴァにパラスが耳打ちしたことで、遂に均衡が崩れる!

 

「…………もし助けてくれたらお礼として10万龍門幣(ろんめんへい)を」

「聞こえてますよ!というかいくらなんでも見境なさ過ぎでしょう!? 私達がその程度の誘惑で言うことを聞くと――」

その話、詳しく聞こう

「!?」

 

 この時クランタの元サルゴン軍兵士(脱走中)、ヘビーレインは悟ったのである。

 敗北を。自身が騒動に巻き込まれることを。

 

「……では、12万龍門幣(ろんめんへい)でどうでしょう、勇者よ」

「…………乗った!」

 

 ヘビーレイン、それを聞いて思わず叫ぶ。

 

「こっこの、裏切り者め!」

 

 

 前衛教官のパラスが、パーティーに加わった!

 重盾衛士のヘビーレインが、パーティーに加わった!

 

 




 パラス
 「ところで、どうして私のセリフは最後まで言わせてくれない事が多」
 ヘビーレイン
 「もっと簡潔に喋ってください!」

 なるべくギャグ風にしてみましたが、いかがでした? 作者はギャグセンスの適性が欠落しているので、どうしてもパロディ&メタ要素が多めになってしまいました。

 もしこの話を面白いと感じてくれたら、☆評価や感想を是非、よろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

トークタイムin温泉

 一応補足を。
 作中の「花戦争」には元ネタがあります。
 それは15世紀ごろのアステカ帝国(簡単に言うとメキシコの辺りにあった国)に行われた儀式戦争のことです。
 割とサルゴンとかミノスに合う気がしたので採用しました。


 カコーン、というししおどしの音が、聞えた気がする。

 ……多分、幻聴だろう。

 ここは故郷の地(地球)ではないのだから――カコーン

 

 再び、湯気の中から聞こえる。どうも幻聴ではなさそうだな?

 俺はゆったりと自らをお湯の中に浸し、ノスタルジックな気分になる。時刻は夜。ここはアクロティ村にある祭祀(パラス)専用の小浴場だ。明後日の花戦争(ソチヤオヨテル)に備えて英気を養うため、特別に俺達一行に貸し出されたというわけだ。

 

 ふぅ、生き返るぜ。ここへ来るまでの間は基本的には車中泊だったし、数日だけやたらと髪の長い灯台の守り人見習いとかいう人物と廃墟で過ごしたこともあったが、当然のことだが湯につかるなんてことはできなかったしな。

 あの少女、アリアは元気にしているかな? ししおどしの音に耳を傾けながら回想していると。

 

「あの音が気になるか? デリヴァとやら。あれはパラスが極東に旅行に行った際の土産物だ。風情があるとかそんな理由で大層気に入ってな」

 

 今度の()は……幻聴ではなさそうだ。

 湯をかき分ける音と共に筋骨隆々、逞しい体と共に1人の男が反対側に座る。その頭には悪魔の如し角が側頭部より生えていた。確かサルカズ、という種族だったか。

 

「確かアンタ、パラスの護衛の――あれ、名前は?」

「名乗る名なんざ俺にはねぇよ」

「じゃぁなんて呼べばいい?」

「単にサルカズ傭兵でいい。この村にいるサルカズは俺だけだ」

「そ、そうか。で、護衛の仕事はいいのか?」

「今やってるだろ」

 

 サルカズ傭兵はこの状況にもかかわらず仮面を外していない。が、その目線はじっと俺に注がれているのがわかる。値踏みでもするかのように。浴場内に満ちる温水がさざ波を立て始める。

 

「なんだよ。祭祀の護衛サマは――俺の事を脅威だと思っているのか?」

「ああ、その通りだ」

 

 温かいはずの温度は、少し下がった。

 

「えーと、俺、何もしていないはずだが」

「そこが問題だ」

 

 目の前のサルカズ傭兵が一歩、二歩、湯気の中より出で来て、仁王立ち。俺を見下ろす。鍛えられた傷だらけの体とあちこちから生える()()()()()()がよく見える。威嚇するかのようだ。

 

「俺はこう見えても多くの死線を潜り抜けてきた」

「どう見てもそう見えるのだが?」

「どうして生き残れたのか、それはある種の勘を持つことだ。目の前の敵がどのくらいの力量を持つのか、というな」

「こうして出てきたってことは……あれ、でもさっき俺の事が脅威って……ああ、なるほど」

 

 これ、臨戦態勢ってやつか。えっまさかここで殺る気か? そう思った途端、彼は身を引いていく。

 

「自覚なさそうだから、教えようか迷うが。俺はさっきからお前の目を見ていた」

「大分一方通行な『見つめ合い』だな」

「そのアヌーラ独自の瞳、だけではないな? お前の瞳は()()()ある。そんな生物は初めてだ」

 

 こちらを向いたまま、背を向けずに浴場から出ていくサルカズ傭兵。

 

「変なことはするなよ? 俺とて一応はプロだ。勝てないとわかってたって一勝負する気概ぐらいはある」

 

 そう言い残して去っていった。一体何だったんだ……? まぁいい。もう少しゆっくりとしてから出るとしよう。それにしても明日の花戦争(ソチヤオヨテル)は名目上は祭りという事らしいので殺害はご法度らしい。となると銃とか生涯の友(ロケラン)は使えんよなぁ。刃がある得物もちと危険か……

 そんなことを考えていたら、再び湯気の中から声が聞こえる。

 

「ああ~やっぱりお湯はいいですねぇ。生き返ります」

「さぁさ、可憐な少女よ、共に1日の汗と泥を流し素晴らしき明日を迎えようではありませんか」

「ちょ、自分で洗えますから、放せ……というかどこ触っているんですか!」

 

 ふむ。女の声が3つ。つまり(かしま)しいというやつだ。

 

「ふぅ、やっぱりお湯はいいものですね、生き返ります。おや、デリヴァもいたんですね。長風呂する人ですか?」

「いや、普段はそうでもないぞ。まぁ久しぶりだからかなぁ湯に浸かるの」

「奇遇ですね、私もです」

 

 ふうむ、イナムとは話が合いそうだ。

 続いてヘビーレインと名乗った女兵士と、パラスが入ってくる。目の前が一気に華やかになった。せっかくの風呂に野郎だけというのもな。

 

「おや、勇者殿もいらしたのですね。どうです、この場で一杯やりませんか?」

「ほう、酒風呂か。オツじゃないか、いいね。もらおう」

「どうぞ。リターニア産のロイヤル・リキュールです。元はガリアという国で生産されたもの。大変れあなものですよ」

「どれ……ほう、これは中々……」

「貴方もこの味がわかる方のようですね」

「あたりまえだ。このあじがわからんやつは、りせいがぬけたやつだけだろうよ」

 

 赤ら顔で何度もうなずくぱらす。

 ふうむ、かのじょとはきがあいそうだ。

 

「デリヴァと言いましたか?」

「そうだ。そういうお前は、へびーれいんとか言ったな?」

「さっきから堂々としてますが恥ずかしかったり気まずくはないんですか? デリヴァの出身がどこなのかはわかりませんが、こういった(混浴)文化はサルゴンとミノス、あとは極東のごく一部のみであると聞いたのですが」

 

 そうは言うものの、はずかしいのかみずからのからだを手で隠し、ぱらすのうしろへ隠れながらへびーれいんが問いかける。ふはは、いったいなにがはずかしかったりするというのだよくじょうではだかなのは当然ではないか。

 

 ……うん。

 よくじょうで、裸。おれは、おとこ。かのじょたちは、おんな。

 なるほどなるほど……は?

 

もしかしなくても、ここ、混浴?

 

 無言で頷くパラスとイナム。どこか呆れた(今気づいたのかという)目で見てくるヘビーレイン。彼女らの反応に酔いが一気に醒める。

 

「てかなんであんたらは平然としているんだよ」

「むしろどうして慌てるんだと思うの?」

「何言ってんだイナム。普通に考えて異性同士が裸の付き合いをするのは」

「ああ、確かに恥ずかしい部分もありますがこの辺りの文化では発情期にでもならない限りはそこまで問題にはしないんだよ」

 

 こういった水源(温泉)は限られているからね、とイナムは付け加えた。言われてみると他のメンツもそこまで大きく、というか全く騒いでいない。逆に騒ごうとする俺の方が恥ずかしいまである。

 それに――どうしてかほぼ裸の彼女らを見ても、「そういった」気分に全くならないんだよなぁ。特に枯れてしまった、とかいうことではないはずだが。釈然(しゃくぜん)としないものの、結局俺は彼女らと共に湯に浸かり続けるのだった。

 

 

 

 

 そして夜。

 俺達4人は同じ部屋、祭祀でもありこの村人らから女神と信仰の対象として見られているパラスの大部屋で寝泊まりをすることになった。

 俺は横目で少し離れた場所で酒瓶を抱えながら、上機嫌な様子で眠るパラスをそっと見る。頭に咲いている花が気持ちを代弁するかのように上機嫌に揺れていた。

 

 決戦は明後日か。とっとと決めて、早く()()を聞かないとな。

 俺は、昼の出来事を回想する。丁度俺がヘビーレインと共に帰ろうとしていた時の話だ。それを引き留めようとしがみつくパラスは、隣のヘビーレインには聞こえないぐらいの超小声で俺の耳元にこう伝えたのだ。

 

「私は、貴方の旅の目的地であるロドス・アイランドについての情報を持っています。もし私達に協力してくださるのなら、全てが終わった時にお伝えしましょう」

 

 と。その後、報酬の龍門幣(ろんめんへい)云々(うんぬん)の話となったのだ。もちろん龍門幣(ろんめんへい)も大事、超大事だが……この騒動に首を突っ込むことにした最大の理由が、これだ。

 

 その為にも、必ず花戦争(ソチヤオヨテル)に勝たないとな。そう決意しながら、俺の意識は沈んでいく。深海(うみ)に潜る魚の如く。

 

 

 

 

 




 お風呂回でした。難しかったです。
 男女混浴についてはサイドストーリー灯火序曲「星火燦燦」より開示された設定をを忠実に(重要)再現してみた結果です。
 話の内容はだいぶ独自解釈が入っていますが。

 第2部・上編はあと5話もしないうちに終わると思います。
 さぁ、早くロドスに合流するのだデリヴァ君。楽しい生活が待っているぞ!

 もしこの話を面白いと感じてくれたら、☆評価や感想を是非、よろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

花戦争、開幕

 イベントストーリーを見て。
 どうにか燭騎士を登場させたいと思いました(小並感)。


 パラスによると、花戦争(ソチヤオヨテル)のルールは以下の通り。

 

・1つ、攻撃側はパラスを倒す。

・1つ、防御側はパラスを守りつつ、攻撃側を全滅させる。

・1つ、攻撃側、防御側共に相手を殺害してはならない。

 

 ふむ、大変シンプルでわかりやすい。

 そして肝心の敵側、ブラン(腕力)族の人数は140人。

 対してこちら側は……どうにか戦えそうな村人を含めても20人弱。あきらかに劣勢である。

 

 とはいえ、幸いにもブラン(腕力)族のメンツは事前に公開されている。そして結論から言うと族長ブレインを倒せば他の連中はそこまで脅威でないことがわかった。

 それを踏まえて俺達が採るべき戦術はただ1つ。

 

 午前の訓練という模擬戦を終えて、パラスはこう宣言した!

 

「私を守りつつ、少数精鋭が本陣に攻め入り、ブレインを討ち取れば良いのです!」

 

 なんというシンプルさ。誰でもわかるって、いいよね。

 

「じゃぁ、その少数精鋭を決めることが肝要だな。問題はその役目を誰にするか……ん?」

「……」

「……」

「……」

 

 なんだよ。パラス、ヘビーレイン、イナムの3人が俺を凝視している。なんだよ、照れるじゃないか。それを見ていたサルカズ傭兵がポツリと。

 

「どう見ても全会一致。決まりだな」

「えっ」

「デリヴァ、あなたに我々の命運を託します!」

 

 うっそだろ。てか、俺1人? それは自殺行為ってやつじゃないのか?

 

 最初はそう抗議したのだが、人数が少ない中でこれ以上突入組を減らせばパラスの防衛が難しくなる。そんなわけで最終的に俺はその役目を了承することにするのだった。

 

「それならば、だ。ちょっと頼みごとがあるんだが、いいか?」

「可能な限りであれば、なんなりと」

「なに、ちょーっとだけ特訓に付き合って欲しいだけさ」

 

 こうして午後の内半分は俺自身の特訓に、もう半分は防衛側の連携練習に当てられた。

 

 

 次の日。

 アクロティ村の郊外で、花戦争(ソチヤオヨテル)が始まった!

 

 

「全隊、突撃せよ! 突撃せよ! 突撃せよ!

「畏れることはありません。蛮勇の徒など敵ではありません! さぁ勇者たちよ、我に続け!

 

 両陣営から(とき)の声が上がり、大地が震える中、肉と武器がぶつかり合う音が響く!

 

 っておい! 守るべき対象(パラス)までも突撃してどーすんだ、あっという間に囲まれて――

 ――片っ端からボコボコにするパラスの姿があった。

 得物である鞭をしならせ。広範囲の敵を一度に薙ぎ払う。本来鞭という武器は「掴んで」しまえば逆に相手を拘束することができるはずだが、パラスの鞭捌きは巧妙でそのスキを与えない。どうにか接近することに成功した兵士は彼女の頭突きやら拳やら蹴りやらで大地にキスを強要されている。

 そして真後ろの攻撃にはヘビーレインがフレイルと盾の見事なコンビネーションにより阻止され、その奮戦ぶりに(おのの)慄く兵士は軽快に移動するイナムのトマホークを受け昏倒する。

 村人たちは大盾と長槍でもって規律正しく敵の攻撃を防ぎ、押し戻す。

 

 

 そんな戦場の様子を俺は少し離れた高台から眺めてた。もしかしなくても俺、要らなくね? ついついそう思ってしまった。特にパラス、物凄く表情が生き生きとしていて楽しそうである。ホントにあれ祭祀なのか……? ゴリゴリの武闘派じゃないか。

 とはいえ数は相手側が圧倒的。敵の兵士もガッツがあるようで気絶していても目覚めたら即起き上がり、再び戦いに身を投じる。キリがないな。やはり大将をとっとと倒して短期決戦といきますか。俺は行動を開始した。

 

 

 

 もちろん、そう簡単にはいかない。大将が陣取っていると思われる天幕に近づくと、あっという間に多数の兵士に取り囲まれる。ふむ、遠距離攻撃はいないな。丁度いいぜ。

 

「くらえ!」

 

 1人の兵士が棍棒を持って突撃してくる。単純な、遅い動き。

 

「甘いな」

 

 俺はひょい、と攻撃を(かわ)し、相手の腹に一撃。呻き、緩んだ手から武器を奪い取り、遠慮なく顔面を強打! 

 

「ふう。地面のお味はどうだい? って聞いちゃいねぇか。ほれ、来いよ」

「野郎! お前ら、一斉にかかれ!」

 

 ふふ、それこそ思う壺ってやつさ。集団で一斉に単一目標を攻撃しようとすると、ついお互いが干渉しあってしまい効率的な攻撃はできない。そうなると相手の攻撃はかなりワンパターンとなる。

 それさえわかれば後は簡単。見切り、カウンターを加え、敢えて同士討ちさせ、ひるんだ瞬間を叩き、地面に転ばせる。

 時には持っている武器を投擲(とうてき)。意表を突かれ、困惑する敵に一瞬で近づき、足払い。からの一撃。

 この場合使うのは全て敵の武器。遠慮はいらない、どんどん使いつぶす。

 

 

 5分が過ぎたころには周囲の兵士は一掃されていた。強く殴ったのでしばらくは動けないだろう。……昨日やった特訓というのがこれでパラス達にひたすら俺を攻撃してもらったのだ。俺はそれらを見切り、カウンター攻撃をする。そんだけだ。

 特に苛烈な攻撃をしてくれたパラスには相当の打撃、流石に顔は不味いと思い腹パンしまくったのだが、全く堪えていなかった。「ミノス人は丈夫ですから。ですからどうぞ遠慮なく」とは本人の談。

 とはいえ限度というモンがあるだろ、軽く二桁は殴ったんだぞ……その日の風呂で一応、確認してみたが(あざ)等は一切なかった。あれには少し自信を無くしたぜ。普通にピンピンしていたし。

 

 そんな回想をしつつ、本陣にたどり着くと。立ちはだかる影が1つ。……女の子か? 非常に大きな角と尻尾が特徴だ。そして露出する見事な腹筋が眩しいぜ。

 

「えっと……こ、この先は立ち入り禁止です! なので引き返してください!」

「お、おう。だがそれは困るな。俺はこの先の人物にちょっと用事があるんだ」

「どうしても、ですか?」

「ああ。ほれ、あそこで俺の仲間たちが戦っているだろ。彼女らを助けるためにも、俺はアンタの背の奥に進まないといけない」

 

 こんな会話をしなくても、問答無用で襲えばいい話なのだが。この純朴(じゅんぼく)そうな娘にそれをするのは躊躇(ためら)われた。ここは正々堂々といくとしよう。

 

「俺は漂流傭兵のデリヴァ。どいてくれないのならば、これ()で話をしようじゃないか」

「うう、仕方ない、ですね……わかりました。私、エステルがお相手をします! ここは、通さない…!」

 

 中ボス、エステルとの戦いが、始まった!

 

 

 




 少し短めの回でした。
 戦闘シーンはなるべく簡潔にしようとした結果、こうなりましたが……いかがだったでしょうか?
 次回、中ボス&大ボスの連戦となります。

 もしこの話を面白いと感じてくれたら、☆評価や感想を是非、よろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

中ボス、エステル戦

 UAが40000、お気に入り登録数が700を越えました。
 また、アクセス解析によると連載開始よりはや一か月(と一日)で累計PV、UA共に10万を越えたようです。
 読者の皆様に感謝を!


 中ボス、エステルとの戦いが、始まった!

 

 

「行きます!」

 

 律義にそう宣言して、エステルの攻撃が繰り出される! ふむ、拳か。徒手空拳(ステゴロ)であれば……受け止め、カウンターを、

 

 ズドン!

 

「ぐっ!?」

 

 クソッ、見通しが甘かったか……!

 攻撃を受け止め……られずに思いっきり吹き飛ばされる。咄嗟に適当な鉄板を召喚して受け止めたにも拘わらず。

 派手な音を立てて倒れる鉄板は「く」の字にひん曲がっていた。その中心には拳の形をした跡が。素手で鉄板をひん曲げるとか、これは不味いぞ!

 一撃でも喰らえば両腕が粉砕させるなんて如きでは済まされないぞ。

 

「あなたを怖がらせること、できたかな…?」

「ああ、そりゃぁもう。お嬢さん、強いんだな」

「じゃぁ、引いてくれる?」

 

 やや期待するかのような声色と共にエステルは質問してきた。その内容は気遣いの色すら見える。

 俺は視線を後ろへと回す。視界に映る、多数を相手に尚も善戦しているパラス達。だが……パラス以外のメンバーには疲れが見え始めているようだ。

 

「すまんが……やはり引けないな」

 

 その返答にやや悲しそうな顔を見せるエステル。だがそれも一瞬。すぐに引き締まった顔と共に打撃を開始した!

 

 

 そうして既に5分は経過しただろうか。

 エステルの猛攻は途切れることなく続いていた。一撃で俺を戦闘不能にできるであろうその拳を、奇跡的な確率でもって避け続ける。

 だが、俺がいい加減に攻撃しようとした時。

 運が、尽きた。

 

「はあっ!」

 

 その()()は全く予想外の方向から来た。俺は10メートルは吹き飛ばされ、無様に地面に転がる。これが地面の味かぁ。……鉄の味だな!

 どうにか起き上がり、ステキな打撃をプレゼントしてくれた主を見る。それは長く、太い()()であった。

 今まで俺がやってきた、カウンターを取られたか。因果応報ってやつだな。自嘲気味に、ゆっくりと立ち上がりながらそう考える。俺の服はあちこち破れボロボロだ。

 そんな俺の姿にまだ戦闘の意志ありと思い、再び構えるエステル。正解だ。

 

 これは……どうしたものか。俺の攻撃では一撃で昏倒させるのは、不可能だろう。対して彼女はそれができる。

 スキをかいくぐり、攻撃しようとしても、待ち構える尻尾。リーチも広い。もしかしなくても、難関不落か?

 

 いや、何か手があるはずだ、何か……俺は震える体に鞭打ちながら構えを取る。しっかりと、エステルを観察しながら。

 

 お互い、じり、じり、と距離を詰めて、詰めて……磁石のように引き合う。俺とエステルの距離は3メートルを切った。この距離で互いに動けば、即座に攻撃範囲内だろうな。

 

 さて、多分だが。お互いに「隠し玉」が1ずつある。それをどのタイミングで出し、どう活用するかに、勝負の行方があるなこりゃ。 俺は……勝つぞ!

 

 一陣の風が、辺りを撫でる。

 砂を蹴る音。

 

 勝負は一瞬であった。

 

 一気に距離を詰め、互いの拳が交差。

 刹那、異変が。

 エステルの腕が、()()()と軌道が逸れる。

 予想もしなかった事態に慌てつつも、次弾の尻尾を放とうとするエステル。その一撃に全てを集中させて。

 ――尻尾は、狙った腰よりも手前でデリヴァの手により阻まれ、またもや()()()と軌道が逸れる。

 力が行き場を失い、バランスが崩れかけるが――踏ん張る。

 迫るデリヴァ。

 エステルは「隠し玉」を解放する!

 己を少し後ろへ、弓なりに反らしデリヴァの顔めがけて放つ頭突きを即座にイメージする。その先には大きな、大きな()。彼女が罹患した病気のせいで巨大化するその角は、立派な武器ともなる。

 もう一度、これが最後だから。

 再び大地を踏みしめ、最後の一撃(頭突き)――

 

 できなかった。

 

 ()()()と、足元から滑り、自身の体が崩れる事を自覚するエステル。

 下を見れば、そこには粘液が。

 アヌーラ人特有の、ぬめりを帯びた粘液。

 それが拳を、尻尾を、そして自分自身を()()()()のだ。

 そして下から迫るはデリヴァの、拳。

 

 ろくに防御態勢がとれぬエステルの顎に、見事なデリヴァのアッパーカットが命中(クリティカルヒット)

 その一撃は脳震盪を起こさせ、かくしてエステルの意識は刈り取られた。

 

「はぁ、はぁ……危なかったぜ……」

 

 エステルを背負い、近くの木陰にそっと寝かしてやりながら呟く。アヌーラの粘液で打撃を滑らせ、逸らす。と見せかけ……()()()()使()()というアイディア。少しでもタイミングがずれるとこっちの負けであったろうな。彼女の見た目的にあの立派な角を使うことは予想できた。順当に考えれば、頭突きであろうか。

 勢いよくその攻撃をするためには、踏ん張ることが肝要だ。そこが狙い目。拳と尻尾を粘液で逸らした時、態勢を整える時1度踏ん張る。そして頭突きにもうひと踏ん張り。ついさっき成功したのだから、まさか失敗しないだろう――という思い込みを突いてその足元にほんの2雫程、粘液をそっと流したのだ。

 

 はっきり言って分の悪い賭けだったが、どうにか成功した。

 去る前に、彼女の顎をそっと撫でる。多分、そこまで腫れはしないだろう。骨にも異常なさそうだし。ちゃんと手加減できたぜ。

 

 

 

 激闘を制した俺は本陣にたどり着く。待ち構えていたのは――

 

「我、誉れ高きブラン(腕力)族の長、ブレインなり! いざ尋常に勝負!」

 

 

 中ボス、ブラン族の長、ティアカウチャンピオンのブレインが襲い掛かってきた!

 

 

 クソッ、いきなりかよ! なんて短期なヤローだ。それに……デカ過ぎんだろ!?

 

 数メートルはあろうかというギザギザに尖った棍棒が叩きつけられ、地面クレーターができる。目の前の長は、身長が3メートル程あった。

 いやいや、怪獣かよ。こんなんにどう勝てばいいというんだ!? とにかく、まずは観察だ観察。少しでも敵の特徴を把握しなくては。

 

 ブレインの猛攻を紙一重で(かわ)しながら観察する。

 まず、得物。数メートルの棍棒に……よくみたらギザギザの部分は黒い石が複数ついている。相手を殺すのではなく「傷つける」事に向いてそうだな。まああの大きさじゃ少し掠っただけで致命傷っぽいが。

 そして大きな盾。恐らく木製。こちらも縦横共に数メートルの大きさ。いくら木製とはいえこの大きさでは防御力も凄まじいだろう。

 あと頭に防具を(まと)っている。

 以上、終わり!

 

 だめだ、全く勝機が見えない。少なくとも拳でやりあうのは無理だな。かくなる上は――

 俺は虚空よりとりあえず標準サイズの剣と盾一式を召喚。ブレインに挑みかかる!

 

「ほう、武器を取り出したか。だが甘いわ!

「何ッ」

 

 俺の武器はブレインの棍棒とぶつかるや否や、あっさりとボロボロになり、粉砕されたのだ! 

 いきなり武器が劣化したように見えたぞ。 一体これは……?

 

フハハハハ、残念であったな愚かな勇者よ。我のアーツは武器・防具の類の耐久力を弱めるのだ! まぁ我自身にもかかってしまうのだが。だが、その点己の肉体と強度が高い武器で戦えば帳消しとなるものよ!」

 

 こいつ、名前からして単なる脳筋だと思ったが……ちゃんと考えてやがる!

 彼の言い分が正しいとすると武器で戦うのは下策かもしれん。だが拳では有効打を与えることは難しいだろう。あの体格じゃぁエステルみたいに脳震盪を起こさせようとする、とめちゃくちゃなパワーがいるはず。

 

 不味い、詰みかもしれん。

 どうする、どうすればいい……!?

 




 丸2日間考え続けた戦闘シーンでした(ガバガバ過ぎない?)。

 そして本来であれば中ボス×2の戦が終わるはずでしたが、結果はご覧の通り。どうしてこうなった。
 じ、次回こそ決着がつきますから(震え声)!

 もしこの話を面白いと感じてくれたら、☆評価や感想を是非、よろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

中ボス、ブラン族の長・ティアカウチャンピオン戦

_(-ω-`_)⌒)_

開幕土下座!

いや、すみません。一次創作の更新をほぼ毎日していたら更新遅くなりました。
次話もなるべく早く書きたいなぁと思います。

危機契約? 知らない子ですね(白目)。


 まるで降ってくるような攻撃。

 躱す。躱す。躱す!

 そして隙をみて攻撃!

 

 だが……その図体には(デリヴァ)の拳は通らず、かといって武器を使えば奴のアーツによりたちどころにボロボロとなり、これも通じない。

 

 そして再び攻撃を躱す……その繰り返し。

 そんなことをもう10分は続けている気がする。というか、このままだと詰みって奴じゃね? 俺は軽く絶望してしまう。そんな()()を抱いたのがいけなかったのだろう。

 

「隙ありッ!」

「な、しまっ――」

 

 一瞬の間だった。硬直した俺の体にブレインの棍棒が振り下ろされる!

 慌てて後ろに飛びのこうとした。

 間に合わなかった。

 

「がはっ――」

 

 棍棒についたギザギザの黒い石。これが俺の体に次々とめり込み、不快な音を立てながら肉が引き裂かれる。そのまま振り下ろされたものだから無数の傷は下方向へ広がる。

 結果、出来の悪い刃で胴体を右上から左下へとナナメに袈裟斬(けさぎ)りされた格好となった。

 大量のが口から、傷口から噴出し大地を(けが)す。目を見開きその光景をただ、見つめる俺。

 

 ……くそ、めちゃ()()じゃ、ねー、か。力が、いしきが、だんだんはなれていく――

 

「ようし、これで  ン 命の  に差しだ 。念のためもう 撃入れる 」

 

 ……なんか、めのまえのでかぶつがブつブツ言ってやがる。てにもつ棍棒をふりあげた。とどめをさす気だな? てか殺害はるーるいはんなんじゃねーのかよ。この――

 

 朦朧とした意識の中、俺が最後に発した言葉は悪態じゃ、()()()()

 無意識のうちに唱えたのは、■■血■■。

 

 

 

 

 

 

「ジュラの大成長。」

 

 それは、とても小さな、小さな音だったが。直ちに滅びを(もたら)した。

 

 

 デリヴァの体に着いた大量のが蠢き、右手に集まる。次の瞬間、一気に右手が成長した!

 

「何!?」

 

 その後に起きたことは一瞬だった。

 

 成長し、肥大化した右手がまず強烈な突き攻撃を繰り出し、ブレインを()()()()()

 次いで一度右手を引っ込め、薙ぎ払い攻撃! ブレインの盾と(防具)を粉砕する。

 その衝撃にふらつく(スタンする)敵。そのスキを見逃さず左手に召喚するはやはり――生涯の友、RPG-7(ロケットランチャー)。それを発射!

 白煙を上げて飛び出す弾頭がブレインのどてっ腹に命中。うめき声も出せずに倒れ伏す。

 

 俺はその光景を、呆然と見ていた。……なんだ? これは。なんだ? この力は。

 

 

中ボス、ブラン族の長・ティアカウチャンピオンのブレインに勝利した!

 

 

 

 これは後から聞いた話なんだが。

 ブレインのアーツにはちと複雑なもので、以下のような感じらしい。

 

 ・目で見える範囲内にいる敵の武器・防具の耐久性を低下させる。ただし、有効範囲は3メートル(1マス)

 ・戦闘に集中している間、目の前の敵以外から放たれる攻撃は無効化される(なんでやねん)。上と同じく、有効範囲は3メートル(1マス)

 

 こうして書くとわかるが、完全に近接特化だな。アイツの弱点は遠距離攻撃であったというワケ。だから、距離を取られる前に問答無用で攻撃してきた。挑戦相手を強制的に土俵の上にあげたって感じか。

 で、俺は謎の力で無理やり距離を取らせ(相当な力で吹き飛ばし)、かつ攻撃時の衝撃でふらつかせる(スタンさせる)ことでアーツを無力化&行動不能にさせることで、単なる置物にした。あとは遠距離攻撃を当てるだけ。

 ……というのが真相だ。

 

 ともかく、総大将を打ち破ったことで花戦争(ソチヤオヨテル)は俺達の勝利に終わった。めでたしめでたし。

 

 いや、実は俺がブレインの盾と兜を破壊した丁度その時に他の兵士が突然戦意を失って降伏したんだよ。奇妙なことにさ。なんで呆けてる連中をあっという間に気絶させて、ハイ敵は「全滅した」という判定となったわけだ。

 さて肝心のブラン(腕力)族の連中だが不気味なことに口を揃えてこう言ったんだ。

 

「俺たち……どうしてここにいるんだ?」

 

 で、あっという間に故郷へと向け帰っちまった。何というか……まるで洗脳を受けていたようだったな。

 

 

 ちなみに俺のキズはアホみたいなスピードで塞がってしまった。ぶっちゃけ不気味さでは俺の方が上だな。

 


 

 そして夜。祭りに勝っためでたい日、興奮する戦士たち、相手から分捕った酒。ここまでそろえばやることは1つ。

 ウタゲ、じゃなくて宴会である!

 

 ……から俺は抜け出していた。表向きは用を足すためだ。

 

「あいつらやべーよどんな肝臓してるんだよ飲みすぎだろ全く!」

 

 特にパラス。足元に瓶を10本転がしてもなお、人生の歓びを摂取し続けていた。どうやったらあんな量が胃袋に収まるんだ?

 なお、パラスの横には酔いつぶれたヘビーレインとイナムが転がっていた。

 

 

 用事を済ませた後、そこら辺をぶらぶらと歩く。今すぐ宴会に戻るのは流石に遠慮したいからな。

 俺はポッケから小さな機械を取り出す。それはピンバッジサイズのカプセルだ。俺が謎の力でブレインを倒した時にくっついていたものだ。

 

「ん、なんかロゴが書いてあるな」

 

 月明かりに照らす。そこには……

 

+と-、それから、これは(無限)のマークだったっけ?」

 

 でもなんか違う―― 

「それ、返して?」

 ――殺気!?

 

 真上から何かが降ってくる!

 どうにか躱す。何か、はさっきまで俺がいた場所に突き刺さった。紅紫色の……さそりの、尻尾?

 音も立てずに尻尾が引っ込む。その方向に振り返ると――何もいな

「返して? それ」

 

「何!?」

 

 横腹にブスリ、と何かが刺さる!

 見ると先程の紅紫色の尻尾。刺された場所から鋭い痛みが広がる。少し尻尾が脈打った後、引っこ抜かれたその先端には毒々しく輝く針が。

 

「まさか、毒、か……?」

 

 体が、しびれて、うまく……立てない……!

 

「クソ、が……!」

 

 目の前に、少女が音もなく姿を表した。無機質なピンク色の瞳が俺を見下ろす。

 

「わたし、マンティコア。能力は、こっそり殺す……。怖がらないで、あなたは、殺しの対象じゃない……」

 

 マンティコアのほっそりとした手が、俺に伸びる。

 

 




 というわけで25日ぶりの更新でした。いや、ホントに遅れてすみません。
 私が書いている一次創作というのはカクヨムで連載している「異形ト化シタ極彩色世界ノ冒険譚」というお話です。↓URLです。気が向いたら読んでみてね。
 https://kakuyomu.jp/works/16816700428673808393

 さて、危機契約#7やるか……。

 もしこの話を面白いと感じてくれたら、☆評価や感想を是非、よろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

中ボス、マンティコア戦

えっと、そのぉ…………
――クッソ遅くなりました。ごめんね。


「わたし、マンティコア。能力は、こっそり殺す……。怖がらないで、あなたは、殺しの対象じゃない……」

 

「わたし、言われてる……よそから来た珍しい者を……捕まえて、って」

 

「そしたら、とっても近くに、たまたま……あなたが……いた」

 

 マンティコアのほっそりとした手が、(デリヴァ)に伸びる。神経毒によって不自然に痙攣(けいれん)する喉に絡みつく。きゅ、と絞り上げる。指はすぐに喉肉に食い込み、女の子特有の(なめ)らかな感触を打ち消した。

 

「――っ、か、あッ……がァ……」

 

 息が、できな――詰まる! 死ぬ、このままじゃ!!

 

 ピンク色の瞳が近づき、すぐに下に向かって、いく。違う。俺が、持ち上げられて、いく。なんつー力だ。

 毒だけでなく酸欠が身体を容赦なく蝕み、四肢が脱落。筋肉のみが未だ自己主張をするけれど、本体の意思を無視してバラバラに震える。だらだらとやけに粘つく汗が垂れ始めた。

 そんな様子をマンティコアはじーっと観察していた。冷酷さの奥に好奇心の色を滲ませて。一方でデリヴァの後頭部に己の尻尾――毒針をそっと押し当て、油断を見せない。

 そんな時間が続いたのは精々5秒といったところか。

 何故なら――

 

「――えっと…………わたしね、初めてな」

 

 

 ずるり。

 

 目を見開くマンティコア。首を掴んでいた手は――粘つく汗、ではなく粘液にまみれていて。決して大きくない手で人の首を無理やり掴む、という行為はこうして中断されたのだ。

 

「フッ――!」

「――!!」

 

 神経毒と酸欠で蝕まれているはずの目標(デリヴァ)が機敏に動くことに動揺しつつ非常に長い尻尾を振るい――金属音。弾かれる。毒針に接触したのは、ロケットランチャーの側面部。

 

(何もないところから突然――どうして――これが彼のアーツ???)

 

 もちろんこの現象はデリヴァの「力」――アーツ、のルビは振らない――のことをこの時のマンティコアは知らなかったし、目の前の物体がとある世界では「M202型ロケットランチャー」ち呼ばれていることはもっと知らないこと。

 デリヴァは召喚した武器(ロケラン)をマンティコアに向ける。その右手、人差し指がトリガーに――向かわない。思いっきりぶん投げる。約12キロの長方形がマンティコアの胸部に衝突するその寸前。信じがたい程の速度で地面に這いつくばり、少女は駆ける。武器(ロケラン)は虚しく空中を走り抜け、地面に突き刺さった。一方少女は上空から見ると「8」の字を描くように機敏に動く。1秒も満たない時間のうちにデリヴァの正面に出現する。両手を伸ばす。右手は広げ、左手は拳を固めて。左手が先行しデリヴァの顎に。命中する――

 

「!!」

 

 

 デリヴァは少し体をずらしつつ横を向く。顔面を掠るのは毒針。想定していないその動きーー読まれていた。わざわざ真っ正面に現れて繰り出した攻撃は、ブラフ。本命は長いリーチを持つ尻尾、そこから繰り出される毒の一撃。その計略は失敗に終わった。

 デリヴァの左手が毒針のすぐ後ろを下から掴む。ぐい、と前に突き出す。同時に右手は尻尾の中央部やや後ろを掴み取る。その姿は暴れる大蛇を押さえつけるよう。

 

「きゃっ」

「おらよっと、お!」

 

 尻尾の先端を地面に突き刺す。右手を大きく上に伸ばし、それにより少女の体は一気に宙に昇る。火事場の馬鹿力か、と驚く間もなくマンティコアは背中側から大地に叩きつけられた。首にかけていた無数のドックタグが擦れてちゃらり、と鳴る。

 

「カハッーーァァ……!」

 

 背骨が弓なりに。衝撃が臓器に染み渡り、目は限界まで見開かれ、舌が開いた口から突き出される。飛び出した唾液が水玉となって顔を濡らした。息継ぎをする間もなく、ほっそりとした少女の首元に無骨な指が添えられた。

 

 

 VICTORY!

 

 

 

 

 ーーふーっ。ようやく一息つけるぜ。久しぶりの空気はやっぱ旨い。

 

「どうして……」

「何が」

「……息を……したの?」

「さぁな」

 

 とっさの判断だった。ーー知ってるか? カエルの皮膚はクソ薄いがその代わり皮膚呼吸できるんだぜ。常に濡れている、という条件付きだが。だったらアヌーラも同じかもって思ってな、試しに粘液で体を覆ってみたんだ。そしたら、いけた。その代わり全身びちょびちょだがな。

 ま、教える必要はないだろ。

 

「んなことはどうでもいい。質問に答えろ。--誰の差し金だ?」

「…………しら、ない」

「そうかい。じゃーこれ、なんだ?」

 

 俺はマンティコアの前にカプセルを突き出す。それは+と-、そして(無限)のマークがついているもの。

 

「…………知らない」

「ああ?」

「でも、大切な、ものって、言ってた」

「誰が」

「白衣の、フェリーンの、水玉模様のネクタイかけた……男の人」

「名前は?」

「知ら、ない…………クルビアの人、普段こっち(サルゴン)に来ないから……名前、聞き取りづらい、の……」

 

 どうやら嘘は言っていなさそうだな。というかよく考えたらこの娘は所謂雇われ、というやつだろう。ならろくな情報を持っていないはずだ。ん、待てよ。試しに――

 

「最後の質問だ、依頼主の所属は?」

「…………えっ、と……うまく言えない……R,hine、La……ボ?」

 

 ふむ? だいぶたどたどしく発音したな。「知らない」のは聞き取れなかったから、なのかもしれん。これ以上聞き出せることはなさそうだ。

 

「あの……」

「なんだ?」

「どうして、わたしのこと……見えるの? ちゃんと潜伏、していたのに……」

「何言っているんだ、迷彩服もつけずに」

「…………」

 

 黙るマンティコア。その後少しブツブツと何か言っている。「用済みに」「でもひょっとしたら」「抜けるチャンス」などの言葉が微かに聞こえた。

 そしてーー

 

「あの……」

「ん?」

「その、お願いが、ある……んだけど……」

 

 

 

 

「……もし、よかったら、わたしをや◆縺励r縲√d縺ィ縺」縺ヲ縲√⊇縺励>縺ェ

 

 言葉は、耳に入らなかった。顔面を滑り、どこか遠くへと飛ばされていく。視界が急に真っ白になり、渦巻くノイズが取り囲み、即座に消える。その驚くべき現象におれはこえおだすこともできないしあくしょんをとることもできないしいきおすうこともはくこともできずにくうかんがのびてのびてのびて

 

 プツン、と切れた。 

                                        静謐

 

 

 ギャ――――ァァァァア!! 

 ――おいで。■ヲ■■■■■、■■■■■■■‐■■■■■。

 

 


 

 

 しばらくして。

 その場所に人影が現れた。少しオドオドした、真っ白な髪の毛を持ち、肉付きのよい下半身と極めて大きな太っとい尻尾を持つ少女である。顔を左右に動かし、誰かを探しているようにも見える。結局その目的は果たせなかったようであるが。ふと何かを見つけたようで少女はその物体に近づいていく。地面にめり込んでいた「それ」を少女はいともたやすく引っこ抜き、物珍しそうに眺めるのだった。

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 キーン、という物凄い耳鳴り、毒々しく生暖かい闇、そして実体を持っているんじゃないかと思ってしまうほどの濃い腐臭が俺を出迎えた。

 

「ウッ――オェッ、な、なんなんだ。一体何が」

 

 何かやたらと粘つくモノが周囲を覆っているようだ。とりあえずかき分けて進んでみる。すると何分もしないうちに灯りが見えてきた。そこを目指し、抜ける。じゅぼっ、とかぬぽっ、とかいう音とともに。

 灯りは月たちの光だった。片方は黄金色。もう片方は――赫々と。波と潮の香りが風景を包む。

 

「いつ見ても月が二つってのは慣れないな。んで、どこだよここ……漁村か? ――うおっ、何だコイツは」

 

 ふと後ろを振り返り俺は驚愕する。そこにいたのは巨大な()()()だった。鱗がなく気味が悪い程真っ白で、透明な体液がとどめなく流れ落ちている。それもそのはずで、ソイツは傷だらけで、とっくに死んでいた。どう見ても数十メートルはありそうなそのからだはズタボロ。巨大かつ鋭利な刃物で無惨に切り裂かれている。その半身は潮に浸かっており、見てみると不揃いの眼窩が大量にあった。全て虚ろ。顎から突き出る無数の刃は赤々と血塗られているが、どれもへし折られていた。ギザギザの断面は何かに衝突――もしくは殴られたのだろうか。

 

「っていうか……うわ。さっきの出口ってコイツの腹じゃん。そりゃあ臭いわな。――ん、雨?」

 

 ポタポタと水が垂れ始めて、あっという間に霧のような雨に変わった。なのに、空は蒼い。なんでだ。月たちもよく見える――色が、いつの間にか、変わっていた。黄金が、に。

 そして気づく。この空間にないものを。

 それは、音。

 雨音も、波音も、消えていた。自分の息遣いすらも、聞こえない。どうゆうことだ。何か物凄く、イヤな予感がする。離れなくては。急いで、早く!

 

 

 

「まだ生き残りがいたのね」

 

 女の声。振り向く。真っ先に飛び込んできたのは、既視感のある美しくとても長い銀髪。特徴的な帽子の下は輝く赫。冷たさと怒りがそこにあった。背にはその丈と同じほどの大剣が。

 何故かシャチを思い起こさせる、そんな美しい体は今、大量の血液に塗れていた。所々服や肌が見えている部分はひょっとしたら後ろのヤツの体液かもしれない。

 音もなく一瞬で女は抜刀。剣先をこちらに向ける。小さな口が動く。

 

「厄災は全部私が、倒すわ」

 

 大剣をまるでゴルフのフルスイングのように構える。本能が叫ぶ。アレを喰らったら、即死だ!

 

「ちょ、待って」

「ダメよ。私はスカジ、バウンティハンターよ。覚える必要はないわ」

 

 その姿が消えた。

 直後、漁村に轟音が響き渡る――

 

 

 

 




数年後。
「ケルシーに殺される!」
と、いう叫び声が上空で響いたそうな。

次回、大ボス戦です。お楽しみに。最近戦闘してばっかだなというかあの娘に勝てるわけないやろ

そうそう、これでも一応Twitterをやっています。(今更?)それなりの頻度で活動していますので、もし生存を確認したいという稀有な方がいれば覗いてみてね。
https://twitter.com/reoparutK


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。