CoCシナリオキャンペーン『魔法科高校の劣等生』 (虚憑き)
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キャンペーン導入1


初投稿です。
魔法科にコズミック成分を混入させてみようという試み。



 

 

《彼は現代日本に住む、特段は目立った特徴の無い社会人だ》

《趣味も友人達とのTRPG(大体KPをやらされる)と多少珍しいがその程度のものだ》

《さて、そんな彼の下にある日、不審な荷物が届くところから本キャンペーンは始まる》

 

「……誤配送か?」

 

部屋でゴロゴロしてたら宅配が来て、頼んだっけ?と思いながら受け取ったらマジで覚えがない件について。

開けちゃったけどコレ大丈夫なんかな?なんか芸術品っぽいんだけど……指紋拭いたほうが良いのか?いや、拭く物あったっけ……雑巾…か、ヨシやめよう。

 

《彼の下に届いたのは精緻な意匠が施された銀色に輝く鍵のようなものだ》

《ような、と形容したのはそれが玄関等に使うものよりも2回り以上は大きいためだ》

《彼は、その物体を眺めている》

 

「…んー、『銀の鍵』みてぇだな」

 

《それは、彼の知るゲームに登場する『アーティファクト』と酷似したものだった》

《それを眺めていた彼は突然、それを使用したい、という衝動に駆られる》

 

…ふ、と使ってみようという衝動に駆られ、キョロキョロと辺りを見る。

いや、別に悪いことをするわけじゃないんだけど。

推定誤配送のもので遊ぶってのはちょっと…ねぇ?

 

「えーと…左に何回か、右にそれ以下の回数回すんだっけ…」

 

大体シナリオによって規定は違うが、原作だとどうだったっけ?

まぁ、こういうのは気分だしな。

細かいことは気にせず使わなければ。

 

「ヨシ!開けー、ゴマ!なーんて」

 

《彼は鍵を中空にかざして言葉を発する》

銀の鍵を空に差し、門を開く言葉を唱えた(・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・)

《彼がその言葉を唱えた直後、部屋に静寂が訪れる》

《物音を発していた物体が床に倒れ、動かなくなったからだ》

《密室で行われ、容疑者も何も見つからなかったこれは、一つの怪奇事件として忘れられていくことになる》

《実態はともかく…ね》

《さて、今彼は自身のHO(ハンドアウト)を確認してキャラメイクを行っている》

《HOは今は明かさないので推理して楽しんで欲しい》

《体は向こうでいいものを用意している》

《あの体では魔法も使えないし、目的から少し外れているからね》

《お馴染みの転生チートってやつも付いてるから、安心してほしい》

《ん?私が誰かって?》

ナレーター(・・・・)だよ、暇をもて余した、ね》

 

 

☆ミ

 

 

《彼が目覚めるとそこは待合室のような場所だった》

《机に椅子、机の上に何かの原稿に見える紙、少し離れて椅子に座っている女生徒が見える》

 

目が覚めたら、知らない(知っている)天井だった。

何を言っているか分からないかもしれないが私も混乱しているので安心してほしい。

有り体にいうと魂だけで他人の体にお邪魔しています、という状態だ。

だからなのかはわからないが、自分の覚えのない知識を自分の知識として認識している。

吐きそう(SANチェック並感)。

 

「え、えと顔色が悪そうですけど大丈夫ですか?」

「大丈…いえ、少し手洗いに行ってもいいですか?緊張からか吐き気が…」

「大丈夫ですか!?」

 

女生徒、【中条あずさ】先輩から心配げに聞かれたので少しふざけてかえしたのだが、大分心配された。

なんかすごく申し訳ないことをしている気になる。

 

「え、えと、会長に連絡?答辞を遅らせて貰って、いや先に保健室?」

「中条先輩、混乱させてしまって申し訳ないです…冗談なんです…」

「へ?…あ!いや、こちらこそ慌ててしまってすみません!」

 

逆に謝られてしまった。

それほど心配される顔色ということなのか私。

 

「とはいえ、手洗い自体には行ってきても大丈夫ですか?少し、顔を洗いたくて」

「はい、それでしたらまだ余裕はありますので大丈夫です。場所は分かりますか?」

「えぇ、出て左に曲がった後、少し歩いて右手側でしょう?」

 

コクリ、と頷いたのを確認してから部屋を出て、トイレを目指して歩く。

着いたら真っ先に洗面台に立ち寄って水を出し、頭から被った。

 

《じゃー、と蛇口から冷たい水が流れている》

《まだ春先の時期である今、水は冷えていて、彼の頭を冷やす一助となっただろう》

 

きゅっ、と蛇口を閉めて魔法で水気を飛ばして乾かす。

壁にもたれ掛かって鏡を眺めながら、独り言を漏らす。

 

「…これ、どうしような?」

 

思い出すのは合格通知書が届いた時のことだ。

より正確には合格通知書とともに届いた別の用紙、その内容なのだが。

 

第一高校を首席合格(・・・・・・・・・)なんだよなぁ…」

 

はぁ、と溜息をつく。

ねぇ色々と待って?




《君は目的を達成するに当たって行動を起こすのも、起こさないのも自由だ》
《勿論関わる、関わらないも選択できるとも》
《何故かって?どう動いても楽しい娯楽足り得るからだよ》

《…まぁ、失敗したら君で遊ぶだけさ》


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キャンペーン導入2


投稿して少ししたら、しおりやお気に入りの人が居てくれて心が浮足立ったのじゃ(自語り)。
前話を見返すと伝わり辛いだろうなと言うものがズラリと…。
他作者様の説明能力の高さに感服する次第なこの頃、導入を再開します。



 

 

《彼は壁に体重を預けたままで、鏡を見ている》

《先程まだ大丈夫と言われた通り、式が始まるまではまだ時間があるが、あくまで手洗いに行く時間を考慮してのものだ》

《考えに使える時間は少ないだろう》

 

改めて考える。

いや、考えるべきことを考える。

まずは原作知識を活かせるかどうか、これは本来の首席である【司波深雪】ではなく私が首席になっている時点で信頼できるか怪しい。

いや、自分の知っている範囲だけではこれだけ、というだけで更に別の部分で何かしら起きている可能性もある。

今は調べる術がないから後回しだな、次。

原作に沿って動くかどうか、そうできたら楽だと考えていたが、これも情報が足りないので後回し、次。

司波兄妹と関わるか否か、できれば関わりたくないけどあの邪神のことだから無理そう……。

 

「これからのことを考えても良い案は浮かびそうに無いな…」

 

何ということだ、貴重な時間を無駄にしてしまった。

お前はいつもそうだ。誰もお前を愛(略。

まぁ、それはともかく未来を想定できないなら現状の再確認だけでもやっておこう。

 

《改めて、彼は鏡を見る》

《鏡に映る自分の姿を見る》

《全く見慣れない、けれども見慣れた自分の姿を見る》

 

鏡に映るのは誰が見ても整っている、と言うだろう顔立ちの少年だった。

身長は平均と比べてやや低いか同じ水準(170弱程度、あともう少し欲しい)ぐらい。

以前の自分は170強あったのだが、バランスを崩す、といったことは無い。

名前は【糸里(いとり)(ぎん)】、一人称は「私」で他人には「(きみ)」で呼ぶ、家族構成は両親とは死別していて、病気の妹が1人。

親戚のうち1人が親権を持っているが、こちらに顔を出すことはほぼ無い。

幼い頃から文武両道で優秀な成績を収めており、周りとの仲も良好。

今回の首席合格の際も友人達がそれを祝ってパーティを開いてくれる程度には親しい。

 

ここまでを見ると完璧超人かよ、と思わないでもないんだがなぁ…。

まず、忘れてはならないがこの体は例の邪神(・・・・)が「用意した」と言ったものだ。

この時点でスペックがいくら盛られていても警戒しかできない。

しかもそれを裏付けるようにこの体は『魔術』の知識がある。

『魔法』ではない、『魔術』だ。

そう、コズミックでホラーなTRPGでお馴染みのアレである。

しかも何時、何処で覚えたのかを記憶していない。

更に、親権を持っているという親戚は顔を見た覚えがない。

一度聞いたとき、酷い火傷痕があると聞いたことはあるが、今考えたら怪しく思える。

妹の病気は先天性色素欠乏症、分かりやすく言い換えるとアルビノなのだが…コレは判断が難しい、敵か味方か或いは私に対する枷か。

…今考えてもしょうがねぇなコレ。

 

総括しよう、信頼できないやつから高性能ボディを貰った。

 

「ヨシ……コレでどうしろってんだ…っ」

 

原点に立ち戻ってしまった。

現状を整理して、理解しても目の前の問題が直ぐに解決したりはしないのだ。

一つ賢くなってしまったな…なんて馬鹿なことを考えるが、そろそろ時間も怪しい。

初日から、責任を投げ出して探索するほどの勇気は私にはないので大人しく元の部屋に戻りながら溜息をつく。

 

「はぁ…、情報が足りない…」

 

しかもこの後も何時間かは拘留される予定である。

首席合格ってクソやな(多方面へ喧嘩を売る)。

 

 

いや、まぁ。

 

「どうなるんだろう、ってワクワクはしてるけどね?」

 

控室の前で呟き、扉を開いた。





※控室ではそろそろ呼びに行くべきかと、あーちゃんがオロオロしてた。

これにて導入は終了でございます。
正直、コレはこうだな!と伝えることが出来たか自信はないのですが、楽しんでいただけてると幸いです。
どういうことだ。まるで意味が分からんぞ!という方も教えて下さるのとありがたいです、今後の向上に繋げれるので。
まぁ諸々はさておき、次回「シナリオ『入学編』その1」開幕します。


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シナリオ『入学編』その1

評価を貰っている事に気付く→テンションが上がる→発散するものを求める→体が闘争を求める→ACの新作が出る。

なるほど、これが評価の力か…。
誠にありがとうございます!




《彼は首席の答辞はつつがなく終えた》

《校内にある問題に触れるような、危なげのある答辞はせず、どこまでも無難なことを話した》

《それを終えると彼の役割は終了し、1入学生として式を見ることとなる》

《退屈だが、学生の醍醐味とも言えるソレを堪能した後に彼はこれから1年を共に過ごすクラスへと移動する》

《いや、しようとした》

 

「糸里さん、少し時間を貰っていいかしら?」

 

クラスに移動しようとしたら生徒会長、【七草真由美】に補足された。

いや、何の用なのかは分かってる。

自分が首席なのだから生徒会への勧誘だろう。

 

「構いません。それで、どういったご要件でしょう?」

「ありがとうございます。単刀直入に言うと、貴方に生徒会への所属をお願いしたいの」

 

やはり勧誘だったか。

どうにも代々の伝統らしく、首席合格者は生徒会へと勧誘されている。

そこで今年の首席である自分に話が来たのだろうが…。

ぶっちゃけ断る気マンマンである。

原作『魔法科高校の劣等生』は、ざっくり言うと主人公である司波達也が隠していた能力を見出されることから始まる。

逆説的に言えば、能力を見出されなければ物語が始まらない可能性がある。

実際には時系列に沿って動くだろうが、幾つかの物語は確実に始まらないと言える。

それらは達也の実力、或いはその危険性を見ることが発端となるのだから。

なので、ここは1つ断らさせていただこう。

幸い、と言うには少し微妙だが断る理由もある。

 

「…お誘いいただいて、ありがとうございます。ですが、辞退させていただけないでしょうか?」

「残念です。理由を聞いても良いですか?」

 

言葉の割に残念がってなさそうである。

これは多分、こっちの事情を知った上で確認に来た感じかな?

よく見れば他の役員の姿が見えないし。

 

「はい、自分には妹が居まして…先天性の病にかかっていて、家から出すことが困難です。家の中で大人しくしてくれていても、時折発作に悩まされています。そんな妹の傍に出来るだけ居てあげたい、私事ですがそれが理由です」

 

魔法師にとって、遺伝子病は対岸の火事ではない。

何故なら自らの長である、十師族は遺伝子操作の果ての産物なのだから。

だからか魔法師は先天性の病というものに対してことさらに丁寧に接してくる印象がある。

まぁ、そんな目論見もあって同情を引く要素を交えて話せば…

 

「話してくださってありがとうございます。そういった事情であれば仕方ありませんね」

 

やったぜ。

まぁ、言った言葉に嘘は無いので純粋には喜べないのだが。

 

「折角お誘いいただいたのに断ってしまって申し訳ありません」

「良いんですよ、家族を大事にするというのは悪いことではありませんから」

 

それと、他にも候補は居るから…かな?言わないだろうけど。

これでおそらく司波深雪の方にも話が行くはず。

そこからならまだ、私が生徒会に入るよりは原作に近い流れになるだろう。

 

「引き止めてしまってごめんなさいね。私は用事があるのでこれで」

「此方こそ、お時間いただきありがとうございます」

 

去っていく七草会長を見送った後、のんびりと自クラスへと向かう。

途中に良さげな支柱があったのでもたれ掛かって自クラスを確認する。

Aクラスっと。

…うん、知ってた。

 

 




主人公が首席になったから一足早くクラスに入った深雪ちゃん。
そこには彼女と仲良くなりたいというモブの皆さんが!
押し寄せて来る人、人、人の群れ。
深雪頑張って!貴女が頑張らないと達也と一緒に帰るって約束はどうなっちゃうの!?

次回、『深雪、人波に飲まれる』デュエルスタンバイ!(大嘘)


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シナリオ『入学編』その2

クトゥルフ要素…何処…?最初?
全ては作者の遅筆が悪いので許してください(土下座)




《少々時を飛ばして、彼は現在ちょうど帰宅したところだ》

《一般的な一軒家だが、一部の部屋がイヤに厳重に戸締りされている見慣れた家である》

 

(まぁ、妹の日光対策の一環なんだがね)

 

見た目がおどろおどろしくなってしまうのが難点だな、などと思いつつ扉を開ける。

 

「ただいま、【(さき)】帰ったよ」

 

居るはずの妹に声を掛けるが返事が無いので、部屋を確認する。

すわ大事かと思ったが、寝てるだけだったので安心して自室へと移動する。

 

妹には悪いが、この世界に来て1日目だ。

いや、何年もずっと生きてもいるんたが。

それはさておいて、調べておきたい情報が大量にあるので先にそれらを調べておきたかったのだ。

具体的には、いあいあっとした事件とか、コズミックな宗教団体とか。

そして学校では出来なくて、自宅では出来る情報収集はー?そう、ネットだね。

…いや、学校でも出来るけど初日から宗教団体を調べる奴ってのはその、外聞が…な?

ともあれ、検索である。

情報だ、情報を寄越すのだ。

 

 

 

☆情報収集中☆

 

 

 

「全っ然出ねぇ…」

 

1件2件は覚悟してたのに何も引っ掛からないとは思わなかった。

それらしき怪談はあっても、明らかな別物だったり実際の被害らしき痕跡もなかったりと、実に怪談チックな、言い換えれば現実味の無いものばかりだった。

 

「どーすっかなぁ…」

 

溢れているほどでは無いが、少しアングラなサイトを巡ればらしい(・・・)証言はあると思っていたのだ。

それがまさかの0件である。

コンピュータか図書館に失敗したのだろうか?いや、あの邪神様(ク〇野郎)は「賽は振らない」みたいなこと言ってたし普通に神話事象が起きていないのか…?

分からない、ということしか分からない。

 

「ついでに出どころが余計に不明になりやがった…」

 

魔術のことである。

この家には行っていない場所などないし、妹は動けないので隠し持っている可能性は低い。

なんなら掃除の手伝いもするので隠せるとは思わない。

地下室なども存在しないので、私の中では『突然頭に閃きが!』が最有力である。

…コズミックホラーなら意外とありそうな気がするな。

 

「…とりあえず出来ることはしておくか」

 

少し画面を弄って操作する。

コレしてアレしていあっとすれば…。

 

「多少は役に立つ…といいなぁ…」

 

掲示板サイトの出来上がりである。

装飾も何もない作りだが書く込むやつは書き込むだろう。

コレで神話事象っぽいのが引っ掛かれば万々歳だ。

 

一応話のタネとして、自分から話を投げ込んだところで物音。

どうやら妹が起きたようなので作業を中断して、そちらへと向かう。

ついでに時間を確認すれば夕方を少し超えていたので、夕飯を食べることにする。

妹に食べれるか聞くと、どうやらお腹が空いたから起きたようなので一緒に夕飯を食べることにする。

 

正直なところ、この妹に対しても俺は疑念を抱いている。

私が邪神が用意した体だというのなら、その妹はいったい何で出来ていると言うのか。

実は普通の人間です、と言われてもそうなのかと納得は出来そうにない。

なので個人的には警戒しつつも情報を取った方が良いと考えるのだが……。

 

「にぃに、どうしたの?おいしくないの?」

 

《舌っ足らずな口調で彼に話しかけるのは小学校低学年程の幼い妹だ》

《その目は食事が余り進んでいない彼の手元を、心配そうに見ている》

 

「…いや、初めての高校だからね。少し疲れただけさ、心配ないよ」

 

…疑いづれぇわ!

小さい子どもをねぇ…疑ってかかるのはねぇ…心が辛い。

なんならコズミックな知識無しで数年は看護しているのである。

心情的にものすごく疑いたくない。

それでも何処かで疑念を抱いているのは、まだ心が混乱しているのかな。

 

「えと、じゃあコレあげる!」

「心意気は嬉しいけどピーマンは食べような」

 

HAL(ホーム・オートメーション・ロボット)が作ったから手作りではないけど、美味いし栄養はあるのだ。

しっかりと食べなさい、背が伸びませんことよ。

 

《疑念を持ちつつも彼は日常を過ごす》

《いつ崩れるのかを恐れながら》

《不安がりながら》

《楽しみにしながら》

 

(…あぁ、こんな日がずっと続くのなら良いのになぁ…)

 

《その日は近いってわかっているくせにね?》




…そもそも魔法科要素もすくn(殴



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シナリオ『入学編』その3


前回よりも2倍以上の文章量ですよ!
エッ前話の投稿日から何日立ったって?

………スッ(土下座)




 

「何の権利があって二人の仲を引き裂こうとするんですか」

 

《少女の声が響く》

《決して大きな声ではないが、その気弱そうな外見からは想像できないような棘を含んだ言葉はその場にいる全員に声を届けた》

 

時は入学式翌日、放課後の正門前でのことである。

一科生数人と二科生数人が対峙していた。

事の起こりは本日昼頃のことらしい。

曰く、調子付いた二科生によって同級生(司波深雪)と仲を深める時間が減った、と。

曰く、その後の専門授業見学会でも二科生のクセに最前列で見学していた、と。

曰く、二科生のクセに司波さんと仲が良さそうだ、と。

昼はともかく、見学会の際には遠巻きには見えたし聞こえたが、清々しい程に自分達の都合しか考えない様には一科生云々よりも人としてどうかと思うところがあった。

が、一部の生徒には大層ウケが良かったらしい。

その中でも特にバイタリティ溢れる者たちが動いたのが今の状況だ。

 

「どよ!糸里くん!修羅場でしょ!?ヤバない!?」

「人の修羅場を楽しげに見ている君の方がヤバいと思うよ」

 

ちなみに私はそれを遠巻きに眺めている。

隣で楽しげに見ている女生徒は「正門前で修羅場だって!」と(何故か)伝えに来たクラスメイトの相澤さんである。

明るい性格で積極性が強い…というより、やたらグイグイと絡んでくる。…面が良いせいなんだろうか?できれば面倒事から離れた事柄で発揮されてほしかった。

じゃあ避けて帰るかぁー、と考えていたら「何してんの糸里くんはコッチ!」と連れてきた張本人である。

イヤナンデ?

 

「だって見てみなよ司波さんの顔!アレは恋しちゃってる乙女の顔ですよ!一科生と二科生…立場を越えた禁断の愛…司波さんの心はその間で揺れて…キャーッ!!」

 

人を連れてきて一人でヒートアップしないで欲しい。

 

「…ソーダネー、ところで私を呼んだのは何で?」

「おっとそうだった、いやぁ騒ぎが大きくなる前に我らが主席様にこの場を収めてもらおうかと」

「首席にそんな仕事は無いでしょ…やるけど」

「えっマジ!?いやぁ、言ってみるものですなぁ」

 

期待してなかったんかい、じゃあなんのために呼んだねん。

しかし、揉めている一科生の中に見知った顔が幾つか見える。 というか同級生である。

この後、司波達也が穏便に収めてくれるのを知っているとはいえ、同級生が犯罪紛いの事をしでかすのを止めず、何もしないのも収まりが悪い。

というか、此処にいるのを達也に気づかれてる……と思う。

視線はあってない、が何時でも動けるように重心を移している。

原作では一科生相手にそこまで警戒してなかったと思うので、この警戒は私に向けられたもの…じゃないかなぁ?

なので此処で動かなかったらマイナス印象を植え付ける可能性があるわけですね、お排泄物です(ク○)わよ。

そういうわけで止めようというつもりはあったのだ。

 

《彼が周囲の雑踏から集団へと近づいていく》

《その時にその言葉は聞こえた》

 

「…今の時点で一体どれだけ優れているというんですかっ?」

 

あやっべ、駄弁りすぎたわ。

 

《先程も声を上げていた女生徒の言葉が響く》

《それと同時に空気が変わる》

《ぴん、と何処か張り詰めた、緊張感のあるものへと》

 

「…どれだけ優れているか、知りたいなら教えてやるぞ」

「ハッ、おもしれえ!是非とも教えてもらおうじゃねぇか」

 

《慈悲か、嘲りか、或いは最後通牒か》

《ともかく一科生側が発したその言葉を二科生は一蹴した》

 

今から止める…止まるか怪しいな。

魔法の準備をしつつ近づく…あ、間に合わないわ、急ご。

と、考えた途端に体が動いた。

体を前に倒しつつ、足を後方へと蹴り出す。ロスを最小限にしつつ集団へと一息に近づく……今サラッとやったけど私、随分人間離れした技術使ってない?

いや、考えてる暇ねぇわ。

 

「だったら教えてやる!」

「いや駄目だろう」

 

言葉と同時に腕を振るう。

振るわれた腕からは燐光と共に粒子が漂った。

その粒子に気づいたのか、一科生に近づいていた二科生二人は飛び退き、逆に一科生は全員それに触れた。

何をしたかは単純、想子を打ち出しただけである。

ただし、打ち出す形は粒子状にして少しの間漂うように調整したが。

魔法を構築する魔法式に他者の想子が干渉すると、魔法式は効力を失う。

故に、魔法式の構築前から打ち出して置くことで妨害を…気のせいかな?森崎のCADに魔法式が見えるんだけど?え、間に合わなかったのか?…あ、良かったちゃんと無力化できてるっぽい。あせったわ。

 

「想像してたよりも早いじゃん森崎、間に合わないかと思った…」

「お前…糸里!何のつもりだ!」

「何って…あぁ、これは想子を弾丸状に固めずに粒子状で射出するように組んだ魔法式でな?速度では劣るが多少の時間漂って魔法を妨害できるのが強みかな」

 

とりあえず、すっとぼけておく。

本来の流れだと、この後に風紀委員によって取り締まられる流れになる。

実際に罰せられる前に達也がフォローを入れた結果、事なきを得たが同じように動いてくれる保証はどこにもない。

なので、此方から納得させてみようという試みである。

やるメリットは成功させると一科生側の心象が良くなる可能性があること。デメリットはそもそもやるつもりがなかったから、何も考えていないということだろうか…やっぱ駄目な気がしてきたわ。

ちなみに二科生側のことはあまり考慮していない。

ある程度誤り倒せば信頼は得られるんじゃないかと楽観的な考えと、関わりがなくても別に困らないなという考えの元、まぁいいやという結論に至ったのである。

司波兄妹?妹が同じクラスの時点で色々と諦めた。

 

「そこの1年!何をして―」

「お仕事ご苦労さまです、渡辺風紀委員長殿」

 

遠目で居たのを確認していたが、風紀委員長(+生徒会長)が到着したので此方から話を始めることにする。

首席として挨拶はしたことがあるから私のことは分かるだろう。

悪いことは自白するに限る…事実全てを言うつもりは無いのだが。

ついでに相手を役職付きで呼んで周りが黙ることを期待しておく。特に一科生。

 

「委員長は昼休憩中、その後の専門授業見学会で新入生同士で多少の諍いがあったことはご存知でしょうか?」

「聞いている、それが?」

「当の本人達だそうです」

 

まずは前提を誤魔化しておく。

そもそも当事者面して話しているが野次馬である。

諍いといっても一科生側が突っかかったくらいで、直ぐに終わっている。

何なら突っかかった張本人かどうか分かっていない。

だが、そうした方が何故、正門前で争っているのか?という内容にあまり突っ込まれない。

先程の話を聞いたらこう思うだろう「なるほど、昼間の続きか」と。…突っかかったのが別グループで、特定個人の把握も風紀委員会が把握していたら破綻するのだが…。

その時は別の方向に誘導するだけである。

わざわざ伝聞調で当事者だと伝えたのでそうでしたか、で済む。

 

「なるほど…今の状況は?」

「言い争いが発展、自らの実力を侮られたと感じた一科生が、その実力を披露のために自分と魔法の早撃ちを行いました、その直後に委員長が到着しました」

 

最後以外に嘘は言っていない。

ただ、現在の位置や構えを見ると、CADを構える一科生、(私が突っ込んで来たことで)離れて様子を伺う二科生、となっている。

これだけを見ると一科生同士で(・・・・・・)模擬戦をしていたように見えるのだ。

まぁ、即興で考えたものだからガバガバな展開だし、突っつかれたらバレそうなんだが。

…コレ野次馬してた方が良かったのでは説が出てきましたね?

 

「ほう?そこの男子以外にも魔法を構える発動しようとしているように見えたが?」

「普段見ない魔法を前に思わず構えてしまったのでは?素晴らしい反応ですね」

 

経緯には突っ込まれていない…行けただろうか?

後は納得してもらって帰るだけ―

 

「そうか…ところでキミは七草の魔法を知っているか?」

「?えっと、知っていますが…うわぁ…」

 

「七草の魔法」、それが指し示すのは十師族の七草の方ではなく、七草真由美個人の魔法だろう。

そして個人として、ある程度有名な話がひとつある。

遠隔知覚魔法を先天的、かつ自在に扱えるというものがある。

コレは言葉通り(個々人によって見え方は異なるが)、遠くを知覚するという魔法だ。

で、この情報を踏まえて先程の言葉の意図を考えるとこうなる。

「お前の言ってること、こっちの見た情報と違うぞ?」と。

つまり最初から大凡全てを知っている状態で経緯を聞いてきたわけである。

性格悪ないか?

 

「性格悪くありません?」

「褒め言葉として受け取っておこう。改めて当事者には事情を聞かせてもらう、着いてきなさい」

 

思わず口から本音が漏れてしまった。

さて、前提ご崩れてしまった。

どうすりゃ誤魔化せるかなと考えていたところ…

 

「すみません、悪ふざけが過ぎました」

 

何処かで聞き覚えのあるフレーズが聞こえた。

 

 

☆ミ

 

 

いつか見たような流れで、覚えのある展開で、その場はお咎めなしで解放された。

一科生側は未だに敵意の残る言葉を吐きながらその場を後にした。

原作グループの三井さんと北山さんも達也たちに合流した。

最終的には私が動いた意味はあったんだろうかと思える結果だなコレ…。

ちなみに相澤さんは委員長が出てきた辺りでトンズラしてた。

さてはあやつ、面倒ごとの気配がしたから逃げたな…。

ちなみに私は、

 

「改めて、助かったよ。フォロー入れてくれなきゃどうなっていたことやら」

「先程も言ったが、深雪の言葉のおかげさ。気にしなくていい」

「そうだとしても、それを受け入れる空気を作ってくれたのは達也の言葉だよ。本当にありがとう」

 

小難しい事は考えるのを止めて、達也たちと茶をしばくことにした。

このケーキうめぇ。



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