エリス「そうか。騎士クンを、最強に、すればいいんだ」ミソラ「( 'ω')ふぁっ」 (ルーピア)
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エリス「そうか。騎士クンを、最強に、すればいいんだ」ミソラ「( 'ω')ふぁっ」

自分は推しはミソラちゃんです!
清純そうな見た目なのに破滅願望持っているギャップたまらなくないですか?
ミソラちゃんに「負けちゃっていんですよ〜♪ 騎士クンさん★」てな具合に優しい声と微笑みを浮かべながらえげつなく責められたら最高だと思いません?
最後は「あーあ、とーても、かっこ悪く負けちゃいましたね★」みたいな事を言われたい!
あとレギオンウォーの時のミソラちゃんのUBのドルルルル!ってとても、えっt

独自設定
ミソラ→超能力のおかげで現実とゲームの世界を行き来できる。
ループ回数。


これはもう一度、きみと繋がる物語。

 

 

 

 

 

 

──果てなく続く純白の空間。

 

「見下ろすことすらしないというの……おまえは! おまえはああああ! ぁあああああ」

毒々しい色合いの茨城によって両手足を拘束され、身動きが封じられていた、七冠、覇瞳皇帝(カイザーインサイト)は断末魔をあげ、爆散し、灰燼に帰した。

永遠に続くとすら錯覚する純白の空間に静寂が訪れる。

『今回』も覇瞳皇帝は敗北した。アストルムの世界の運営装置。言わばこの世界の『神』とも呼べるその存在によって。

 

「……はぁ」

 

宙に浮遊する、漆黒の装束を纏い、黒薔薇のステッキを手に持った仮面の女──エリスは諦念のため息をつく。

今回もダメだった。BADEND。

主人公(騎士くん)たちは巨悪たる覇道皇帝を前にして、全滅した。

 

あとはいつもの流れだ。

 

その巨悪は神の座を求めここへやってきて、エリスが赤子の手をひねるが如く消し炭にする。

そして、滅んだアストル厶の世界と住人達を再構築する。

その度に、エリスは苦痛を味わうことになるのだ。

 

(何度も、何度も、何度も、何度も……同じことの繰り返し)

 

もう気が狂いそうだった。

リセットの条件。愛しい騎士クンか、あの忌まわしく憎悪すべき対象である草野優衣が欠ける度、強制的に履歴(ログ)を見せられ、膨大な情報を焼きこまれる。

騎士くんや、仲間たちが絆を結ぶ光景を、騎士くんや草野優衣が、どのように果てたのか。

……そして、時には騎士クンが誰の思いに応えたのかすら。

 

「私は、騎士クンと、言葉を交わしたくてもかわせない。触れ合えたくても、触れ合えない。愛しいあの人に存在すら、気づいてもらえないというのに…」

 

……草野優衣の願いが叶った今の世界の運営装置であるエリスは世界に直接干渉することを許されない。

リセットの条件が整いエリスが世界に干渉できるようになるまで、隔離された外の空間から主人公たちの様子を観閲するしかない。

 

全てはこの世界『アストル厶』を創造した七冠(セブンクラウンズ)とソルの塔の頂上で願いを叶えた草野優衣のせいだ。

 

草野優衣という一人の少女の願いが原因で、VRゲーム レジェンド・オブ・アストルムにログインしていた全世界のプレイヤーがアストルムの世界に幽閉された。

 

幽閉されたプレイヤーたちは記憶を操作され、アストルムの世界こそが自分たちの生まれ育った『現実』だと認識させられている。

それは願いを叶えた草野優衣も例に漏れない。

 

自分の願いによってゲームの世界に世界中のプレイヤー達が幽閉されるという大事件を起こしておいて当人はその罪を覚えていないというのだからまったく度し難い。

 

そして、世界が幾度もリセット──ループしている最たる原因。七冠、覇瞳皇帝(カイザーインサイト)千里真那。

 

己が理想とする世界を創造するがために、主人公たる騎士クン達を何度も果てさせ、何度もエリスに挑み敗北する存在。

騎士クンたちが覇瞳皇帝を倒さない限りこの無限地獄は続く。

覇瞳皇帝はループの記憶を所持していて、現時点で15531回の敗北を喫しても一向に神の座を狙う事を断念する気配はない。ホントいい加減にしてほしい。

 

エリスはたった一人で世界を滅ぼした覇瞳皇帝を圧勝できる程の権能と力を有しているが一部の例外を除いてリセットの条件が満たされた後しか世界に直接干渉する事はできないため、騎士クンを覇瞳皇帝から救うことができないでいる。

 

強大な力があるのにこの世で最も愛し恋焦がれている騎士クンを助けられないのがどれ程、ジレンマであるか!

 

 

「あらら★ 今回もダメだったんですね〜可哀想なエリスさま♪」

「……」

 

何も無かった空間から突如あどけない表情をした少女が現れる。

 

さらりとした藤色の髪の上に付けた白のラインの入った黒い蝶リボン。

白を基調とした清楚な印象を与えるセーラー服と黒の横ラインの入ったミニスカートから覗いているむっちりとした太ももはどこか官能的な妖しさを秘めていて、幼さを感じさせるリボンつきの短いニーソとのギャップが蠱惑的だ。

 

「……ミソラ、戻って、いたの」

「はい、ただいまです★」

 

ミソラはオペラグローブをつけている右手を額の近くまでもっていき敬礼ポーズをとった。

 

「あなたが、戻ってきたということは、駒が五つ揃った、ということ?」

 

エリスにそう訊ねられたミソラは敬礼ポーズをやめると「うーん」と口元に右手の人差し指をあてる。

 

「ごめんなさい★ 私を入れて四人までしか集められなかったです♪」

 

ミソラは無邪気な笑顔で手を合わせる。

エリスは仮面越しに無感情にじーとミソラを見る。

 

「幾ら願いがなんでも叶うという餌があっても、七冠を相手にできる程に優秀で、今の幽閉状態のアストルに入りたいって人が世界中を回ってもなかなか見つからなかったんですよ。三人見つけただけでも褒めてください♪」

「……」

「……」

 

希薄な感情と相まって無言の圧が凄いエリス。

無言ながら無邪気にニコニコして圧を躱すミソラ。

先に沈黙をやぶったのはエリスだった。

 

「……そう、わかった。なら後一つの駒は、ロストした魂を使って、こっちで作成する」

「ありがとうございます★ あーそれと、もう一つご報告があるんですけど〜」

「……なに」

「私が集めた三つの駒さんたちが、ここに来れるのは少し先の事になりそうなんです」

「どのくらい、先になりそう」

「アストル厶の世界の中で多分、三、四ヶ月くらいですかね〜」

「……遅い、二ヶ月は早くこれるようにして」

「これでもかなり無理を通してるんですよ。今こうしている間も私の分身が超能力をフル稼働させて準備を進めてますし♪ 覇瞳皇帝さんがだいたい半年に一回のペースでアストル厶の世界を滅ぼしてエリスさまの元にやってくるのは理解してますけど〜超能力者の私が全力を尽くしてそれくらいかかると言っているんですから、こればっかりは納得してもらうしかないですね★」

「……」

「そー不機嫌にならないでくださいよ〜。最低でもあと1ループの辛抱ですから♪ 私たちがこっちに来たら覇瞳皇帝さんなんてとっとやっつけて、他の七冠も捕まえて、この世界の創造者の七冠の情報を解析して〜世界をぐちゃぐちゃに壊して♪〜新世界を創造して♪〜エリスさまと、騎士クンとの二人が結ばれる理想郷を作っちゃいましょ★」

 

エリスは夢想した。自分と騎士クンが自身が想像した新世界の理想郷で結ばれる光景を。

 

理想郷では騎士クンと好きなだけ言葉を交わせて、好きなだけ触れ合って、好きなだけ共にあれて、騎士クンに大切にしてもらえる。

 

ああ。なんて、尊く、幸福な光景だろうか。

 

幸福な光景の想像に耽っているエリスにミソラは恐ろしく冷めた瞳をするがすぐに何時ものにっこにこした柔和な表情になって毒を吐いた 。

 

「それにしても、エリスさまはホントに可哀想な御方ですね★ 騎士クンたちが弱いばっかりに世界は何度もループを繰り返して〜思い焦がれる騎士クンには一向に会えなくて、言葉も交わせず、触れ合うこともできない。存在にすら気づいてもらえないなんて★」

「……」

「騎士クンが覇瞳皇帝をやっつけちゃえるぐらい強ければ、エリスさまが気が狂いそうになるほどの間ループする世界を見せ続けられることもなかったのに♪」

 

エリスは口元をムッとさせる。思いを寄せる人を悪く言われるのはいい気がしない。

確かに騎士クンは単純な武力では弱い。

だが、誰よりも優しくて、どんな困難な状況でも諦めない強い心を持っている!

反論しようとし、エリスの脳裏に天啓が舞降りる。

 

「……そうか。そうだよ」

「エリスさま?」

「ミソラ……」

「はい? なんですか」

 

様子のおかしい友達のエリスにミソラは首を傾げる。

 

「妙案よ。あなたが友達で良かった」

「え?」

 

ミソラとしては、騎士クンを侮辱されたことにムスッとした自分では何も出来ない不自由なエリスさまが、乙女ぽいことを言って騎士クンを庇う滑稽なところを見たかったのだが…。何故か褒められ感謝されたことに困惑するしかなかった。

 

「そうか。騎士クンを、最強に、すればいいんだ。……覇瞳皇帝を、倒せるくらいに」

「( 'ω')ふぁっ」

 

ミソラはエリスの不意の思いつきの発言に驚くしかなかった。

 

 

 

 

 

草野優衣は願った。

 

──みんなと、アストルムで一緒に、ずっと一緒に居たい。

 

そして、もう一つの本心の願い──

 

──わたしは騎士クンとずっと一緒にいたい。でも騎士クンが傷つく姿はもう見たくないの。騎士クンが幸せじゃない世界なんていらない! そんなのはわたしの願いじゃない!

 

その願いのせいで騎士クンか草野優衣が果てる度、世界は何度もループし続けてきた。

 

さて、ここで自問しよう。

 

草野優衣にとっての騎士クンとはどういった存在を指すのか?

 

騎士クンの魂を宿した騎士クンのアバターデータの事を指すのであれば、アバターデータの強さを弄るのはアウトになるとエリスは今まで勝手に思いこんでいた。

 

だが、草野優衣が騎士クンのどこが一番好きなのかと言えば、他人にどこまでも優しくて、諦めない強い心を持っている内面だ。あと、あの、のほほんとした容姿も好きだ。愛おしい。

 

そこに肉体的な強さの有無は関係ない!

 

ならば! アバターの容姿と魂はそのままでステータスやスキル、耐性を弄るだけならばギリギリセーフではないか?

エリスが、そして、エリスのオリジナルである草野優衣が、騎士クンのどこが好きなのかと言えば、容姿と内面なのだから!

 

もう気が狂いそうとか思ってたエリスは実はとっくの昔に頭がちぇるっていた。

しかし不幸中の幸いと言うべきか。頭がちぇるり散らかすことでエラーが蓄積されそれが結果的に彼女にAIの域を超える柔軟な(ぶっとんだ)発想を与えた。

 

 

思いついたら即実行。エリスは、リセットまでの僅かな間に全管理者権限を総動員し騎士クンのアバターのステータスが完ストになるように仕組み世界が騎士クンの強さを認識しバグだと判断できないように全管理者権限でゴリ押した。

 

仕込みが終わったあと、リセットまでほんの数十秒残っていたので騎士クンたちが覇瞳皇帝をぶっ倒した後、間接的に干渉し、騎士クンと接触をするための試験端末、D型検体0005bを作成する。

 

そして、世界はリセットされ、再構築される。

 

これはもう一度キミとつながるための物語。

 

 

第一部 五章六話 最初で最後の同窓会

 

覇瞳皇帝によって、王宮の玉座の間から四方山囲まれた草原の空にテレポートさせられたユウキ。

 

転移先の近くに偶然居合わせたペコリーヌによってキャッチされ騎士クンは助けられた。

 

ペコリーヌの近くには、七冠の三人、クリスティーナ。ラビリスタ。ラジラジ。そして、この世界の謎の鍵を握る存在、ムイミの姿があった。

 

一同は騎士クンを追ってテレポートしてきた夜空に神々しく君臨する覇瞳皇帝と対峙し僅かの間対話を行う。

 

 

 

覇瞳皇帝はこの場にいる重要人物達を葬る気満々だった。将来的に自分の前に立ち塞がる存在であるからだ。なので早いとこ潰して置こうと考えた。

因みにペコリーヌは優先度低いが丁度いたしついでにぶっ殺すわよ! との事だ。

 

「あなたたちはここで仲良く死ぬのよ。私が蓄えた膨大な魔力を消費して戦略級の攻撃魔法を放つわ……♪ この表現じゃあなたたちには伝わらないだろうけど、まぁ核兵器ぐらいの威力はあるのよ。あなたたちは肉片も残さず消滅して死ぬことになるわね。私の覇道の邪魔をしかねない連中をまとめて掃除するの……予定通りに物事が進むと気分がいいわね」

 

月を背景に覇瞳皇帝は邪悪に歪んだ笑みを浮かべながら右手を対峙するユウキたちへ突き出す。

ユウキたちも各々武器を構え臨戦態勢に入る。

 

 

覇瞳皇帝の手に赤黒く禍々しい膨大な魔力が集まっていく。

核兵器にも匹敵する威力を持つ戦略級の攻撃魔法。

集約された膨大な禍々しい魔力が解放されユウキたちに襲いかかる。

 

全てを焼き付く程の巨大レーザーともいえる赤黒い魔力光線に、ペコリーヌ。ラビリスタ。クリスティーナ。ラジラジ。ムイミが戦慄し、回避のため手段を模索する中、ユウキは迫りくる膨大な禍々しい魔力を睨み剣先を向け突き進む。

 

 

魔力を全身と剣に纏い。身体を左に捻り。剣先を地面へ。右足を前に踏み込み。左斜め下段の構えから右斜め上へ、気合いの咆哮と共に剣を振り上げる。

 

「はあああああああああああああ!」

 

全てを焼き付く威力の大規模破壊魔法とユウキの魔力によって強化された剣撃が激突する。

 

「せああああああああぁぁぁ!」

 

ユウキがもう一段気合いと力をを入れ剣を振るうと破壊魔法の光線は上へと弾き飛ばされ夜空の月を背にし霧散した。

 

「は?」

 

覇道皇帝は呆気にとられた間抜け顔で口を開ける。

 

ムイミの鈴のペンダントを使い、ラジラジを強化し空間跳躍して逃げようとしていたラビリスタも度肝を抜かれた様子で目を何度か擦る。

 

「え、今、少年が戦略級の攻撃魔法を剣で弾き飛ばしたように見えたんだけど〜私目がおかしくなっちゃったかなぁ……」

 

「いいえ、あなたの目に異常はありません。私も見ました。信じ難いことですがあの少年がその手に持つ剣であの禍々しくも圧倒的な破壊力を誇った魔法を弾き飛ばし霧散させたのです」

 

ラジラジが冷静に答える。

 

「フフははは! 全く、坊やは何時だって私の退屈を意図も容易く吹き飛ばしてくれるなあ!」

 

愉快そうに笑うクリスティーナ。

 

「あなたはほんとに常識外れに強くて、ヤバいですね☆ 頼りになりすぎです♪」

 

窮地から自分達を救ってくれて頼りになるユウキの存在が嬉しいペコリーヌ。

 

「お前いつの間にそんなに強くなったんだ!? あの真那の破壊魔法をぶった斬るなんて凄いじゃないか!」

 

自分の知らぬ間にめっちゃ強くなっているユウキに興奮するムイミ。

 

覇瞳皇帝は呆然と盛り上がっている下界の者達を眺めていていたがはっと正気を取り戻し今起きた事を整理した。

 

溜め込んでいた膨大な魔力をほぼ消費して放った核兵器にも匹敵する破壊魔法を、ユウキ、プリンセスナイトが剣をたった一振りして弾き飛ばした。

……ありえない。

キャルからは確かにユウキがとんでもなく強いという事を聞いて『今回』の彼はそこそこやるのかもしれないと思った。

けど、それはあくまでも今までよりも少し実力があるくらいの認識だった。

何処の誰が大規模破壊魔法を剣の一振りで弾き飛ばす程の化け物であると予想できようか。

いや、そもそもこんなことはありえない。この世界のユウキはプリンセスナイトはイレギュラーすぎる!

 

「……こんなのありえない……核兵器並の破壊力の魔法よ。それを、たったの一振で弾いて、しかも無傷なんて……なによ。なんなのよお前はあああああああああああぁぁぁ!」

 

自分の理想を阻むイレギュラーを睨み覇瞳皇帝がいらだちから髪を掻きむしりながら発狂する。

ユウキは苛立つ覇瞳皇帝を見据え答えた。

 

「僕は! ギルド美食殿所属のユウキ! プリンセスナイトだ! みんなは、仲間は僕が護る! さっきはよくもキャルちゃんを酷い目に合わせたな! 覚悟しろ!」

 

「え、あいつがキャルちゃんに酷い事を!? それは絶対に許せません!」

 

ユウキは王宮でキャルに酷い行いをした覇瞳皇帝に怒り心頭だった。

ユウキの発言から覇瞳皇帝によってキャルが酷い目に合わされた事を知りペコリーヌも激高する。

 

覇瞳皇帝は自身の権能の全てを見通す目『覇瞳天星』を使用しユウキを見る。

そして、見えた。全ステータス、全スキル、全耐性がカンストしている。

 

「(っ! そういう事! 全てはあの元凶の仕業という訳ね)アハハハハハ! いいわねぇ。あなたは世界に愛されていて! ……世界に愛されたこの世界の主人公、仕組まれたイレギュラー! ほんと、虫唾が走るわ!」

 

「……どういう意味?」

 

「どうせ今のあなたには理解できない事よ。けど、そうね。今回のあなたはとっても特別な存在みたいだし……殺せば少しはアイツに一泡吹かせられるのかしらっ!」

 

「っ!」

 

覇瞳皇帝の殺気が膨れ上がるのをこの場にいる全員が感じとった。

 

「神たる私の為に首を差し出しなさい!」

 

覇瞳皇帝は先程の大規模破壊魔法で自身に蓄えていた魔力をほとんど消費した。

しかしそれはあくまでも自分の中で蓄えていたものにすぎない。

覇瞳皇帝にはシャドウや魔物から魔力を自身にもってくる事が可能。

覇瞳皇帝は全魔力を総動員し最終形態へと進化する。

圧倒的な禍々しい魔力は最早人の域を超えていた。

 

「なんだあれは……陛下あなたは本当に神にでもなるつもりなのか」

 

覇瞳皇帝の圧倒的な魔力の奔流と神々しさすら感じさせる邪悪な格好に畏怖するクリスティーナ。

 

「いや、あれを神と呼ぶには纏う魔力がおぞましすぎる。化け物や悪魔と形容する方が相応しいかもしれません」

 

ラジラジは冷や汗を流しながら覇瞳皇帝を評する。

 

「これはホントに今すぐ逃げた方が良さそうだね」

 

ラビリスタの危険に対する警鐘が激しくなり続けていた。

 

「確かにやばそうな感じがビンビン伝わってくる!」

 

ムイミも覇瞳皇帝の本気を目の当たりにして総毛立つ。

 

そんな中、ユウキとペコリーヌだけは戦う気満々だった。

何故なら大切な仲間であるキャルを傷つけられたからだ。

 

「ユウキくん強化をお願いします!」

 

「わかった! ペコさん。僕があいつ地面に落とす。ペコさんは落ちたところをプリンセスストライクで攻撃して!」

 

「わかりました! 任せてください☆」

 

強化を発動しペコリーヌのステータスをユウキは向上させる。

 

「天上の存在である神たるこの私を地に落とそうというの? 身の程を知れ!」

 

覇瞳皇帝は『覇瞳天星』の権能でこのエリアのありとあらゆる情報を読み取り、天才的な頭脳をフル稼働させ未来を演算する。

 

(跳躍で一瞬で私の背後に移動し、剣の腹で私を地面まで叩き落とす。ふざけたスペックね。チートよ。チートよ。

 

……けど、来るとわかっているなら対処は簡単だわ。彼が跳躍して私の背後に移動した瞬間、ゼロ距離から最大出力の大規模破壊魔法を叩き込む。

 

いくら彼がステータス、スキル、耐性が完ストしているといってもゼロ距離からの最大出力の破壊魔法を受ければ跡形もなく消し炭になるでしょう)

 

ユウキはグッと両足に力を入れ、跳躍、さらに風魔法で速度を強化し、一瞬にして覇瞳皇帝の背後へと移動し、剣を振りかぶる。

 

演算した未来の通りの光景に覇道皇帝は勝利を確信してニヤリと口元を歪ませ嗤い振り返り……。

 

「残念だったわね。神たる私には全て御見通しよ! 去ねプリンセスナイトォォォ!」

 

核兵器以上の破壊力を持つ神の裁きともいえる魔法をゼロ距離で放つ。

 

「──っ!(どういうことっ!)」

 

覇道皇帝は確かに魔法を放った。

ユウキが剣を振り下ろすよりも早くに魔法を発動させた。

 

(なのに、なんなのよ。これは……)

 

覇瞳皇帝が見た光景は理解の及ばないものだった。

加速した思考の静止した時の中でユウキの剣だけが徐々にゆっくりと動き振り下ろされていく。

一方で自分は全く動けない。破壊魔力も発動直後の状態で止まっている。

ユウキの剣の一振りは音どころか時を置き去りにする。人知を超えた剣速。神速の一刀。

 

覇瞳皇帝は悟る。

諸悪の根源、全ての元凶であるアイツがユウキに干渉し力を与えた時点で……。

 

(今回、私には、ハナから勝ち目なんてなかったという訳ね)

 

(ああ、例え数え切れぬほどの敗北だったとしても、こうして跪くのは、本当に口惜しい……)

 

「っボベッ!」

 

覇瞳皇帝は音速を超えた弾丸となり月夜の空から地面へと撃ち込まれた。

地に墜ちた瀕死の神など、神に値しない。

 

「私の存在を奪ったこと、そして何より大事な仲間のキャルちゃんを傷つけたこと絶対に許せません! 全力、全開! プリンセス、ストライクーーーーーーーー!」

 

地を這う神を自称する者が意識を途切れさせる直前に見たものは、プリンセスナイトの力でフル強化し、さらにキャルを酷い目に合わせた怒りと自分から全てを奪った者への憎悪とその他も諸々の思いを胸にしたプリンセスの燐光の王剣。

 

(オーバーキルもいいとこね。本当、最低な気分……)

 

爆音と衝撃が轟き、山中に虹色に輝く巨大な王冠が描かれる。

 

覇瞳皇帝は凄まじい衝撃と共に意識が吹っ飛び……。

 

「全力、全開!」

 

(えっ! まだ来るの! ちょ、まっ)

 

「プリンセスストライクーーーーー!」

 

爆発音が山中に響きわたる。

覇瞳皇帝は二連続のプリンセスストライクにより白目を向いて撃沈した。

 

その後、覇瞳皇帝は七冠の協力の元捕まった。

ペコリーヌは王女の座に戻ることができた。そして、裏切りものだったキャルを許し、ギルド美食殿は続行。無事、大団円を迎える事ができたのだった。

 

 

エピローグ

 

「ミソラ! 何やっての! 早く! ミソラ!」

 

エリスは珍しく感情を露わにして焦っていた。

 

覇瞳皇帝を騎士クンたちというか主に騎士クンが倒したのはいい。遂にこれでループせずに済むのだ。それは嬉しいことだ。

 

問題なのはあまりに早く倒しすぎた事。

 

これは非常に不味い。

 

この『世界』のためには、何時までも続く『冒険』のためには、必ず、敵が必要なのだ。

 

覇瞳皇帝を倒した今、世界には新たな敵が必要だ。

 

予定では覇瞳皇帝を倒した後、騎士クンたちの次なる敵としてミソラと用意した駒を騎士クンたちにぶつけるはずだったが、騎士クンたちが思ってたより早く倒してしまった為、ミソラはまだあっちから現実世界から戻ってきていない。

 

アストルムではループのReスタート地点からまだ二ヶ月とそこらしか経っていない。

ミソラは最低でも戻ってくるまでにはこっちの時間で三ヶ月はかかるといっていた。

まだ後半月もある。最悪は1ヶ月半。それだけの期間があれば七冠たちが世界を解放する術を見つけてしまうかもしれない。

 

それだけじゃない。ランドソルが平和になった後 、ユイと騎士クンの関係がより親密になってきている。

不味い…。このまま二人が、あの諸悪の根源と騎士クンがチョメチョメする関係になってしまったら……エリスの騎士クンに恋してトゥインクルしてるハートがディバインレインでブレイクしちゃう!

 

ミソラ! なにやってんの! 早く! ミソラ!(二回目)

 

エリスは傍観する事しかできないため、ミソラが早く戻ってくるのを願って待つしかなかった。

 

 

■■■■■

 

ミソラは予定よりも少し早くエリスの元に帰ってきた。

 

帰ってきてそうそう「……信じてた。ミソラなら、早く戻って来てくれるって」とエリスに言われた時は突然どうした?という感じだったが、経緯を聞き理解した。

 

騎士クンが覇瞳皇帝を思いの外早く倒してしまったため、世界に敵がいなくなったこと。

七冠たちがこの世界からプレイヤーを解放するために動き出していること。

そのせいでエリスが精神的に追い詰められていたこと。

エリスさまは自分じゃなにもできなかったから、ただミソラが早く戻ってくる事を祈る事しかできなかったこと。

 

(凄い力を持っているのに不自由でエリスさまってほーんとに可哀想な御方ですね★)

 

可哀想なエリスを見れて機嫌を良くしたミソラはスカウトしてきた三人とエリスが作成したドラゴン族のプレイヤーとの五人でレイジレギオンなるギルドを作った。

 

七冠を捕まえ己の願いを叶えるという目的のためにレイジレギオンは活動し、騎士クンと仲間たちとの激闘の末破れる。

 

正確には……エリスが全ステータスをカンストさせた騎士クンのせいでほぼ一方的な展開で敗北した。

 

カリザきゅんは、戦闘(騎士クンの蹂躙)によってズタボロになった服で、腰をおって、しりを突き出した状態で動けないまま「なんなんだよあいつ!」と目尻に涙を浮かべ。

 

アゾールドは頑丈な木の棒に縄で手足をくくりつけられ、吊るされながら「やれやれ、私は丸焼きにしても美味しくはありませんよ。お腹が減っているのであればこのアゾールド、料理の腕には多少の心得がある故──」云々と呑気な態度を装いながら内心焦りながら、近くで「お腹がペコペコなせいですかね。アゾールドさんが大きな豚さんみたいでとっても美味しそうに見えます……じゅるり」とよだれを垂らすペコリーヌを説得し。

 

ランファは、歌で魔力を使い切って一歩も動けずその場にへたりこんで。

 

ゼーンは戦いでは龍化して騎士クンに挑んだが、終始、剣技、パワー、魔法で圧倒され、敗北し、潔い表情で審判の時を静かに待つ。

 

ミソラも戦いで魔力を込めて使用するガトリング砲を「ドルルルル!」とノリノリでブッパしまくっていたが騎士クンが完ストした防護魔法で全てことごく防がれて完ストしたレベルの拘束魔法と状態異常の麻痺魔法を騎士クンにかけられあっという間に敗北した。

 

(エリスさまったら騎士さんを強くしすぎじゃないですか。これじゃあ全然勝負になりませんよ。まぁ元々最後は負けるつもりだったから別にいいんですけど★ 今回の大規模襲撃でエリスさまが一時的にこっちにくるための条件満たせましたし♪)

 

その後、和解的な流れになり、ユイが座りこんでいるミソラに手を差し伸べる。

拘束魔法や状態異常魔法の解かれ動けるようになっていたミソラは差し出されたユイの手の上に一枚の黒の薔薇の花弁を一枚乗せた。

 

「ゲームオーバーです。ユイさん★」

 

「え?」

 

次の瞬間花弁はあとかともなく消え……ユイの内側から何かが弾けた。

 

 

■■■■■

 

どれだけの間この時を待ったことか。

 

繰り返される世界の無限地獄の中、ずっとあなたと合って話をして触れられる日を夢みて、それだけを支えにしてきた。

そして、今日というこの日、遂にその夢を現実にする事ができる。

 

そこには愛しい騎士クンがいた。

ずっと好きだった。

ずっと会いたかった。

ずっと話したかった。

ずっと触れ合いたかった。

 

私は騎士クンの元へと歩いていき、その身体を抱きしめる。

ああ、騎士クンに触れられた。

これが、騎士クンの感触。

ああ、騎士クンの匂いがする。

騎士クンの息遣いが聞こえる。

騎士クンの存在を全身で味わいながら、私は仮面を外す。

 

「騎士クン。私だよ。ずっと、ずっと、あなたと会いたかった」

「ユ、イ?」

「……ううん。違うよ。違うよ騎士クン。私はエリス。草野優衣とは違う。私は私だよ」

 

私は私だ。

例え、元は草野優衣の『記憶』を含めたアバターデータの複製だったとしても、私は私だ。

私の君への想いは愛は、私だけのものだ。

 

「……やっと、あなたにあえた」

 

さぁ、ここから始めよう。私とキミの物語を。

 

fin




独自設定 エリス→(草野優衣のアバターと同じデータ=記憶を含む)
騎士クン→全ステータス完スト。全スキル完スト。全耐性完スト。

騎士クンが活躍する系の話誰か書いてくれないかなぁ|*・ω・)チラッ
ミソラちゃんはどうか同人誌でお願いします神絵師様方ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛


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コッコロ「わたくしめになんなりと罰を。覚悟は、できております」ユウキ「鞭で打たれたい?」

コッコロちゃんはMだと思います。


「はじめ、ちょろちょろ♪ な〜か、ぱっぱ♪ あかっご泣いても、蓋とるな♪」

 

女の子の歌声が耳朶を打ち、ユウキは目を覚ました。

 

可愛らしい紫根の瞳と視線が交差する。

 

銀髪の髪に花飾り、エルフの特徴である尖った耳。

 

ユウキは今、エルフの少女(12歳)に膝枕されていた!

 

「……おや、お目覚めになられたのですね、主さま」

 

ユウキはムクリと起き上がると、寝惚け気味のぼーとした顔で、少女をじーと眺め……。

 

「だれ?」

 

と、素朴な質問をした。

 

「わたくしは、偉大なるアメスさまによって派遣された『ガイド役』……名前は、コッコロと申します。どうぞ、以後、お見知り置きを」

 

そういうと、コッコロは、ユウキに柔らかく微笑んでみせる。

 

「主さまをお守りし、おはようからおやすみまで……揺籠から棺桶まで、誠心誠意お世話するのがわたくしの役目でございます。なんなりとご用命を、主さま」

 

「……?」

 

キョトンとした表情になるユウキ。彼には、コッコロが言っていることがよく分からなかった。

 

(せいしんせいい? ゆりかご? かんおけ? なにそれ?)

 

今のユウキは訳あって、ほとんど(・・・・)の記憶を喪っていた。

 

「おや、キョトンとされておりますね。えぇっと、不躾ではごさいますが……あなたさまのお名前を、お聞かせ願いますか?」

 

「なまえ……ユウキ」

 

「ふむ。ユウキさま、と仰るのですね。良かった、わたくしのお仕えする主さまで間違いないようです。よもや人違いなのでは、など疑って申し訳ありません」

 

「ん、いいよ」

 

「ご不快でしたら、なんなりと罰をお与えください。鞭で打たれようがなにをされようが、わたくしは一向に構いません!」

 

この不詳コッコロ、覚悟は出来ております!

 

キリッと、表情筋を締めるコッコロ。

 

(え、罰が欲しいの?)

 

そして、ユウキの無知から生まれるすれ違い!!

 

(ふかい? なにそれ? お与えくださいとは、くれってこと?)

 

というのも、ユウキは「不快」の意味がわからなかったのである!!

 

よって、ユウキ目線だと、コッコロは、突然SMプレイを求めてきたヤバい少女にしか見えなかった。*1

 

(いや、でもなにかの間違いかもしれないし……)

 

念の為、確認しておこう。

 

「……コッコロ、罰、お与える?」

 

お与えという言葉を覚えたユウキは、お与えるという間違った日本語を使った。*2

 

ユウキ的には、罰欲しいの? という意味での問いかけ。

 

しかし、ここに来て、日本語が悪さをした。

 

「を」と「お」の発音は結構似ている。

 

その結果、コッコロには 「コッコロ、罰を与える」に聞こえてしまったのだ!!

 

「……! はい。わたくしめに、なんなりと罰を」

 

「……鞭で打たれたい?」

 

頼むから、僕の間違いだと言ってくれ! と、内心願いながら、恐る恐る訊ねるユウキ。

 

だが、相変わらず言葉が足りていない。これでは「鞭で打たれたい?」とSっ毛のある意地悪な男の言葉責めとも解釈できてしまう。

 

そして、豊富な知識を持っているコッコロはソッチで解釈してしまった。

 

(ッ!! わたくし、お父さまの書庫にあった書物で、このような展開を目にした記憶がございます。確か、書物のタイトルは……主と従者のイケナイ関係〜許してくださいご主人様♡ 読んでいる途中、お父さまに「これはまだコッコロには早い」と取り上げられてしまい内容を全て読むことは叶いませんでしたが、わたくし知っております、これは質問系の言葉責めというものにごさいますね!)

 

ならば、従者たる自分は、主さまの要望に、応えなくては!!

 

「鞭打ち。それが主さまからの、わたくしへの罰なのですね。……了解いたしました。では、どうぞ、こちらの鞭をお使いください」

 

コッコロは、腰のポーチから手際よくソレを取り出すと、スっとユウキに差し出す。

 

ユウキはあまりに自然に差し出されたので、ついその鞭()を受け取ってしまった。

 

鞭だと気づいたのは「なんだろこれ」と、手に取ったそれを自分の顔の前まで持ってきて確認した後である。

 

12歳の少女から鞭を受け取る17歳の少年……完全にアウトな絵図だ。

 

というか……

 

「ぇ、どうして、鞭持ってるの?」

 

「乙女の嗜みです」

 

どこか誇らしげですらある自信に満ちた顔で即答するコッコロ。

 

「故郷であるエルフの里に居た頃、よく使っておりました」

 

「……」

 

絶句するユウキ。

 

よく使ってたってなに? コッコロが自分で使ってたの? それとも人に? こんなに小さい女の子が?

 

ああ、もう! わけわかんないよ〜!(テイオウ節)

 

(乗馬は乙女の嗜みですからね。ランドソルでも乗馬の機会があるかもしれないと思い所持して来ましたが、結果的に主さまの要望に早急(さっきゅう)に応えることができてようございました)

 

アストルムの世界では乗馬は淑女の嗜みとされていて、自然豊かで自然と共に生きるのがモットーのエルフの里で育ったコッコロは都会で育つ一般人より乗馬の経験が豊富であった。

 

そして、ユウキはそのことを知らない。当然、発生する勘違い!!

 

鞭を右手に握り、ダラダラと冷や汗を流すユウキ。

 

(おや? どうして、主さまは、難しい顔をしてらっしゃるのでしょう。わたくし、何か主さまを困らせるようなことを言ってしまったのでしょうか?)*3

 

「ほ、ほんとにやるの?」

 

「わたくしは、仕えるべき主人である、主さまを疑い、ご不快な思いをさせてしまったのです。その鞭で、愚かな過ちをしてしまったわたくしに、どうか罰をお与えください」

 

(おろか? あやまち? またわかんない言葉……)

 

しかし、分かっている事もある。

 

コッコロは、ユウキに、主である自分に鞭で打たれたいのだ。

 

何せ初対面にもかかわらず、自分から鞭を所望するくらいだ。きっと、鞭で打たれるのが好きな、特殊性癖の持ち主なのだろう。

 

こんなに幼い女の子がどうしてそんな歪んだ性癖を持つことになったのかはわからない。

 

※全部ユウキの勘違いと妄想です

 

…そんな女の子を前にして…ユウキは……。

 

「……いやだ」

 

「……主さま?」

 

「鞭打ち、いやだ! これ返す!」

 

ユウキは、コッコロに押し付けるようにして鞭を返却する。

 

コッコロは内心首を傾げた。

 

(主さまは、愚鈍な従者たるわたくしに鞭打ちによる罰を与えると確かに(おっしゃ)られたはず。なのに、ここに来て、突然の拒絶? どういうことでしょう?)

 

「しかし、それでは、わたくしはなんの罰を受ければ……」

 

「罰、おあたえない! 痛いのダメ! 僕は、コッコロ、傷つけたくない!」

 

必死に自分の思いを拙い語彙でコッコロに伝えるユウキ。

 

「ですが、わたくしは、仕えるべき主たる、主さまの事を疑い、ご不快な思いをさせてしまったのです。なのに、なんのお咎めなしというのは」

 

「ごふかいとか、おろかとか……、コッコロの使う言葉難しくてよくわかんない」

 

ユウキのその言葉を聞いて、コッコロは、ぽかーんとする。

 

そして、ハッと何かを思い出した表情になり……

 

「……そうでした。アメスさまの託宣で、主さまは殆どの記憶を喪っていると聞き及んでおりましたのに……わたくしとしたことが主さまへ不敬を働いてしまった事を気にするあまり、すっかり忘れておりました。……配慮が足らず、申し訳ありません主さま」

 

「いいよ。けど、もう罰をお与えくださいって頼むのだめ」

 

「かしこまりました。以後、絶対に口にしないと、主さまとアメスさまに誓います」

 

「うん。約束」

 

出会って間もない初対面の少女(12歳)と、変な約束を交わす少年(17歳)の姿がそこにはあったという。

 

 

 

「主さま」

 

「ん? どうしたの?」

 

「その……心優しい主さまに、罰を与えると言わせてしまった事、申しわけなく思います」

 

「言ってないよ?」

 

「きゅ( °×° ) で、ですがわたくしの記憶では確かに……」

 

「いつの事か教えて?」

 

「わたくしが主さまに、ご不快でしたらなんなりと罰をお与えくださいと申し出た際、主さまはこう仰いました「コッコロ、罰を与える」と……」

 

「お与えくださいって、欲しいとか、くれとか、ちょうだいってことだよね?」

 

「はい、概ねその認識で間違ってはいませんが……」

 

「だから、僕、コッコロに確認したんだよ? 罰、お与える? って」

 

(確認? ……っ! まさか!?)

 

「っ、主さま、不躾……失礼な頼みかと思いますが、コッコロにのところから、もう一度、同じ事を言ってくれませんか?」

 

「コッコロに確認したんだよ? 罰、お与える? って」

 

「罰『を』与えるではなく、罰、お与える? という確認系の問いだったと?」

 

「うん、そう」

 

能天気に返答するユウキ。

 

対して、コッコロは内心、頭を抱える思いだった。

 

コッコロの中で全てが繋がった。

 

つまり、全ては主さまへ配慮が欠けた己の言動が招いた、勘違い……。

 

「なんということでしょう……。という事は、主さまにはわたくしが自ら率先して罰を求める……それどころか、鞭で打たれようが何をされようが構わないと言い切る……特殊なあの……その……これは違うのです主さま! わたくしは、コッコロは、本来、そのような卑猥な事を主に求めるエルフではありませんのでぇええ!!」

 

白磁の肌を、かーと熟れた林檎のように真っ赤に染め、若干涙目になりながら弁明するエルフの少女(12歳)。

 

ユウキは、コッコロが落ち込んでいる!? 元気づけなきゃ! と思い、必死に空白だらけの記憶からこういう時にかけるべき言葉を模索し、恥ずかしさのあまり顔を伏せていたコッコロに声をかけた。

 

「ドンマイ」

 

「……穴があったら入りとうございます」

 

 

 

2

 

ぐううううう〜。とまるで獣の咆哮のような腹の虫の音が鳴る。

 

(主さまがお腹を空かせている。特殊性癖があると勘違いされてしまった汚名を挽回チャンスです)

 

「お腹が空かれたのですね。実は、こんなこともあろうかと、わたくしご飯を炊いておりました」

 

コッコロが目を向けた先には、焚き火後と木の枝で作ったトライポッドにぶら下がるキャプテンスタッグがあった。

 

ご飯をかき混ぜるのでしばしの間お待ちください。あ、主さま、一つお願いがあるのですが……これをご飯をかき混ぜ終えるまで預かっていただけますか?」 

 

コッコロがユウキに手渡すのは鞭だった。 

ユウキは?を浮かべる。なんで元々しまっていた腰ポーチに治さないんだろう。 

でも、さっきの失敗もあるしコッコロにはなにか意図があるのかもしれない。 

 

(主さまにいいところを見せないとおぉ!) 

 

意図なんてものは、無かった!!

 

コッコロはおめいをそそぐ事を優先して考えるあまり、ポーチに治すという単純な事をド忘れして、この手にあるやつ邪魔だし、主さまに預かっててもらおう、と考えただけ。

 

コッコロがご飯をかき混ぜていると、ぐううううう〜、また大きなお腹の虫の音が鳴る。

 

「ふふっ、主さまのお腹の虫はとても大きな音で鳴きますね。それだけ主さまの器が大きいということでしょうか」

 

「僕のじゃないよ?」

 

「え、それでは一体誰の……」

 

コッコロが素朴な疑問を口にした時だった!

 

「も、もう我慢できません! ご飯ンンンっ!!」

 

森の方から、茶の混じったプラチナブロンドの長髪を靡かせ、とてもたわわな二つの果実をお持ちの、何処かの国のプリンセスとかしてそうな少女が凄まじい速度で飛び出してきた。

 

その少女は一直線に、コッコロの方、炊きたてのご飯が入ったキャプテンスタッグへ肉薄してきた。

 

少女は、コッコロの手からキャプテンスタッグを強奪すると、しゃもじをスプーン代わりにして、キャプテンスタッグの中のご飯を、あっという間に平らげてしまった。

「ふぅ〜。ご馳走様でした。ご飯ありがとうございます。助かっちゃいました♪」

 

エルフの里では、大人びた子供、で通っていて、温厚で穏やかな性格のコッコロだったが、これには流石にブチ切れた。

 

「いきなり、なんなんですか! あなたは!」

 

「特殊プレイの最中だったかもしれないですけど、ごめんなさい! けど、もうお腹ぺこぺこで、どうしても我慢できなかったんです! ヤバいですね☆」

 

これが後に、コッコロによってペコリーヌと呼ばれるようになる少女、ユースティアナ・フォン・アストライアとの出会いである。

 

 

余談。

 

 

ユースティアナを抹殺のため彼女を監視していたキャルという獣人の少女はというとユースティアナより遠い場所からユウキたちのことを眺めていて、女の子─コッコロがユウキに鞭を手渡した時……「あんな小さな子が、鞭を……世も末ね。けど、私も、陛下になら……って何言っているのよ私! 今はアイツを何とかして仕留めるのが先決でしょ!」と一人で騒いでいたとかなんとか。

 

 

 

その後、ユウキ、コッコロ、ペコリーヌの前に、大量の魔物に追われる少女ユイが現れ、助けを求めてきた。

 

その魔物たちは、ステータス完スト。スキル完スト。全耐性完ストのチート騎士クンによって一掃され、ユイちゃんは恋に落ち、何処かの世界でそれを見ていた仮面の女はどうしてそこにいるのは自分じゃないのかと、苛立ちのあまりディバイレインを連発しまくるのだが……表の世界の住人たちはそんなこと知るよしもなかった。 

 

騎士クン一人によって、魔物を全滅させられ、その時の余波で気絶していたキャルちゃんは全員によってランドソルの病院に運ばれ、院内で目を覚まし、別に助けとか頼んでないから感謝なんてしないんだからね!とツンデレかまして「なにあいつ! 存在がチートよ! チート! 陛下に慰めてもらおう!」と陛下のいるお城へと戻ったわけだが、案の定キャ虐される羽目になった。 

 

「ああ。愚かなキャル。可愛いキャル。あなたはどうしてそんなに馬鹿なのかしら?」 

 

地面に這いつくばらされ、陛下にボロカスに言われるキャルちゃんであった。 

 

主人公たちの冒険は始まったばかりだ! 

*1
この騎士くんはSMプレイについては覚えている

*2
全部記憶喪失のせいだ!

*3
自覚無しって怖い






最強の騎士クンが活躍する話を書こうと思ったらなんかプロットから脱線しまくってついに一番描きたい騎士クンの活躍がダイジェストになる事態に陥ったのが私です。
……深夜に書いちゃダメだね。

めちゃつよーい騎士クン活躍する話を誰か気が向いたときでいいので書いてほしぃっす。


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クリスティーナ「早く本気になってワタシを愉しませろ!」ユウキ「無理」

【クリスティーナ】

 

獣人と戦ってみたかったからオクトーの坊やを使って、プリンセスナイトの傘下のギルドに所属する人間が乗る荷馬車を動物苑の傘下ギルド【自警団(カォン)】が襲った構図を作り出し、大義名分を掲げて【自警団(カォン)】のギルドハウスに【王宮騎士団(NIGHTMARE)】の副団長して単身乗り込み、望み通り獣人と闘争を楽しむことができた。

 

ワタシは獣人を二人同時に相手にした。

刀身が波打つ剣──フランベルジュを獲物にしている獣人の女と見たこともない武術を使う武闘家の獣人の女の二人。

獣人は獣の本能と強度、人間の知性と柔軟さを柔軟さを併せ持っていた。

未知の強い相手と戦えるのは退屈が嫌いな私にとっては楽しい時間だ!

 

 

フランベルジュを振るう獣人は剛の剣というのが似合う一撃一撃が重い斬撃。

武闘家の獣人は息をつく間も与えない全身の力の乗った良い拳や足技を組み合わせた連続攻撃を放ってきた。

両者ともまだまだ荒削りだが、素晴らしい才をもっている。

まぁ、ワタシには遠く及ばないがな。

 

戦いを愉しみたかったワタシは少しだけ本気を出した。

ワタシの能力『乱数聖域』

相手の能力、行動、周囲の環境。それらの膨大な情報を瞬時に計算する事で『必ず当たる』『必ず防げる』ルートを導き出す力。

『絶対攻撃』と『絶対防御』攻撃は絶対に必中し、相手の攻撃は絶対に当たらない。

 

結果、獣人の女二人は『乱数聖域』のワタシを前に攻撃一つ掠らせる事すらできず、逆にワタシの黒と白の刀身のロングソードの攻撃は回避しようとしてもできず全て必中しダメージを負う。

 

その一本の槍飛んでが飛んできたきたのはワタシが更に獣人の女たちに追撃を加えようとした時だった。

 

何時もなら『乱数聖域』の演算による『絶対防御』によって欠伸をしていても避けられるな大した速度も出ていない槍の投擲を──ワタシは躱すことができず剣で防いだ。

 

咄嗟の防御で意図せず体勢が崩れた。

 

「姿勢が崩れた。今がチャンス! 仕留めるぞカオリ!」

「はいは〜い! これで終わりさ。キッついのをお見舞してやるさ〜!」

 

そこを狙われ獣人の女二人の攻撃を受けてしまう。

攻撃をした獣人二人はすぐにワタシから距離をとり各々構え直す。

 

「くっ、なんだ。ワタシの『絶対攻撃、絶対防御』が乱れたっ!?」

 

 

 

『乱数聖域』で 演算しきれなかった。

稀にこういうことはある。

例えば雨の時、ワタシは雨粒を無意識的に一粒一粒を演算してしまう。そのせいで演算キャパを超え『乱数聖域』の精度が格段に落ちる。

だが、今このギルドハウスでは雨どころか埃だって舞ってはいない。

 

槍は後方から飛んできたな。

後ろをみれば右手を振り下ろした体勢の銀髪のチビ女のエルフが居る。

あいつが槍を投げたのか。

 

チビエルフの後ろには場に不釣り合いな和やかな雰囲気の男がぽけーと佇んでいる。

こっちにはあまり興味が引かれないな。

 

 

普段ならあんな不意打ち対応して避けられる。

戦いを愉しみすぎて勘が鈍ったか?

……それとも、貴様がなにか特別なのか?

 

ギロリッ♪

 

「ひっ……? なんですか、あの目は? りょ、良識がある人間とは思えません!」

「これが人間さ。強欲でいつだって快楽の奴隷だ。しかし興味深いな、見たところ単なる小娘のようだが……ワタシや『陛下』のように特別な存在なのか?」

「……? どういう意味でしょうか」

 

本人には思い当たることがないようだ。

 

「単なる偶然か? 先ほど不意打ちを食らったのもワタシが油断していただけかもな? まぁいい、調べればわかる。貴様、こっちにこい。このクリスティーナがとっくり検分してやる。切り刻んで腑分けして、貴様の全てを暴いてやろう♪」

 

未知な存在ほど心踊るものはない。

ワタシはチビエルフの小娘へと近づくために脚を踏み出す。

チビエルフの小娘の後ろにいた男が護るようにチビエルフの小娘の前に出る。

 

「主さま!」

「ほう。貴様がチビの飼い主というわけか。ペットに似て随分と愛らしいなりをしているじゃないか」

「コッコロは傷つけさせない!」

 

左腰に吊るされた鞘から剣を抜き、柄を両手で握り、正面で構えるマントを翻す騎士風の男。

いや、坊やか。構えをみただけでわかる。

剣をもって間もない素人の構えだ。

だが、目だけは評価しよう。覚悟を決めた良い目をしている。

 

「威勢は良し。男の子はそうでなくちゃなあ! さぁ、ワタシから貴様の大切なペットを死ぬ気で護ってみせろ!」

 

さぁ、どう来る!

 

坊やは剣を振り上げて──ワタシの右手に凄まじい衝撃が走る。

耳を劈くような金属音。

ピキっ。

それはワタシのロングソードの刀身にヒビが入る音だった。

一泊遅れ衝撃波が巻き起こった。

 

「ぐっ! なんだこのデタラメなパワーは!」

 

これをやったのは眼前で剣を振り下ろした体勢の坊やで間違いない。

 

……まさか『乱数聖域』をフル稼働させどんな攻撃でも回避出来る自信のあった『絶対防御』を正面からぶち破って来るとは予想だにしなかった。

 

坊やがやったことは至ってシンプル。剣を振り上げ、肉博し、ワタシのロングソードを狙って振り下ろす。

動き出す前の目線や身体の力の入り方から何処を狙っているのか丸わかりのつまらない素人の剣だが─恐ろしく速い。

一連の動きが、まるで時を止められたみたいに速すぎる!『乱数聖域』で全く演算することができないくらいに!

 

攻めなくては。守りの回った時点で此方に勝機はない!

コンマ0.0001秒で判断。

ワタシは足払いで相手が体勢を崩すのを狙い、全力で坊やの脚裏を狙い右足を全力で振り抜く。

 

素人剣士によくある先入観は剣士は剣でしか闘わないというものだ。

だからこそ闘いの相手が剣士だった場合咄嗟の剣以外の攻撃に対応できない。

 

実際、反応できていない。

ワタシの振り抜いたは、坊やの右の脚に直撃した。

バキッと嫌な音が響く。

 

フッ、逝ったな……。……ワタシの足が。

坊やの脚はまるで地に根を張っている巨大樹のような強度でぴくりとも動かなかった。

 

坊やは顔を下げ、それを見ると不思議そうな顔でワタシを見て。

 

「……? なにがしたいの?」

「っ! 貴様の脚は大木かなにかでできているのか?」

「……? 骨と筋肉と神経と皮膚でできてるよ?」

 

こいつ天然か? 比喩が通じてないぞ。

 

「それより、大丈夫? 目、涙浮かんでいるよ?」

「……。一つタメになる事を教えよう──女の涙は武器だ。事実、こうして貴様は油断してワタシに隙をみせたからなッ! 『乱数聖域』!」

 

超至近距離からの『絶対攻撃』による右下段から右腰から左肩にかけての裂け斬り。

高濃度の魔力で身体能力と武器の強化。更に『乱数聖域』を総動員した至高の一刀。

 

卑怯というなかれ。闘いに不意打ちはつきものだ。

ワタシはな。血湧き肉躍る本気の闘いがしたいんだよ!

ワタシが心の底から満足できる相手は『陛下』くらいだと思っていたが、目の前のこの男こそが──

 

「えい!」

 

『絶対攻撃』の一刀。

それを軽々と、確実に後から動いたにも関わず剣で防いでみせたこの理解不能な存在こそが!

──ワタシの求めていた!

 

甲高い金属音と共に衝撃波が起こる。

 

周りで見ていた小娘4人が、グッと腕を顔の前に持ち上げ衝撃波で吹き飛ばされないように耐えている。

 

鍔迫り合いの体勢だが、ワタシだけが必死に剣に力を加えている状態だ。

坊や──

 

「おい、貴様名前を教えろ! ワタシはクリスティーナ・モーガンだ」

「ユウキ」

「ユウキの坊や──お前こそがワタシが求めていた未知の最強。剣の腕も戦闘に関しても素人。だが、身体能力と魔力はあの陛下ですら手の届かない程の遥か高みに到達している。お前は異質だ! 戦いの素人が最強なんてアシンメトリーにもほどがある! だからこそ──最高だ!」

「ありがとう?」

「礼を言いたいのはこっちの方だ!この世界に生まれてきてくれてありがとう!ワタシはお前の存在のようなやつをずっと追い追い求めていたんだ♪ そして、早く本気を見せてくれ! まだまだ、こんなもんじゃないんだろ? 早く本気になってワタシを愉しませろ!」

 

ユウキの坊やが少し力を入れただけでワタシは押し返される。

ワタシの熱烈な愛の告白を受けたユウキの坊やの返答は!

 

「無理。本気出すと危ない」

「……本気を出してくれないとユウキの坊やのペットを見るも無惨な惨たらしい目に合わせるぞ♪」

「コッコロはペットじゃない。大切な仲間! 絶対にそんなことはさせない」

「なら、殺す気で本気で来い! 絶対そんなことはさせないんだろ? だったらワタシの息の根を止めることだ」

「嫌だ!」

「先に言っておくがワタシは剣を壊されたくらいでは絶対に止まらんぞ!」

「だったら、気絶させる!」

「やれるものならやってみろ! 舌を噛んででも絶対にそんなつならない結末にはしないぞ!」

 

……。

………。

…………。

 

 

【ユウキ】

 

クリスティーナという女の人と戦った。

 

多分、今まで出会ってきた人たちの中で1番強かったと思う。

 

最初、武器破壊を狙ったけど剣同士がキンッってなるところに瞬時に魔力を集中して、破壊を防いでたし。

 

剣での攻撃も僕がかわそうとする勝手についてくるから防ぐしかなかった。

 

クリスティーナは怖い人だけど、多分、悪い人では無いと思う。

 

そんな気がする。なんでかはわからないけど。

 

 

本気を出せと言われた。本気を出さないとコッコロを傷つけると。

僕が本気を出すと、クリスティーナが危ない。

 

初めて魔物と戦った時、本気で剣を振ったら森の一部が消し飛んで、地面が大きく抉れて以来、自分の力が怖いものだと知った。

 

もし武器を破壊されたとしても止まらないっていう。

……だったら気絶させるしかない。

中途半端な衝撃じゃ本当に舌を噛んで耐えそうだし……。

一発で意識を刈り取るしかない。……少しだけ本気を出すか。

けど、上手く加減できなかった時が怖いな。

……そうだ!

 

「っ!」

 

プリンセスナイトの強化の力をクリスティーナに最大出力で使う。

 

「……なんだ。力が内から無尽蔵に溢れてる。これは……坊やがやっているのか。……敵を強化するとはいったい何を考えている?」

「今からちょっとだけ本気を出す。それにクリスティーナが耐えられるように強化した」

「ほう。少しとはいえ本気を出すのか。ならばワタシも全身全霊でこの剣を振るおう。坊やの強化のおかげで人生最高の剣を振るえそうだ!」

 

クリスティーナの全身から魔力が溢れ出す。魔力のオーラは剣に集まっていく。

僕は自分の剣の柄を強く握りしめて……。息を長く吐いて……。

 

──自分の抑えている魔力を少しだけ解放する!

 

「……っ! ……なんという膨大な魔力だ。それで少しの本気か。素晴らしい。ここまで高ぶったのは陛下と初めてあった時以来だ。……いや、それ以上かもしれん! 坊やはワタシをどこまで楽しませれば気が済むんだ! 」

「……」

「つれないな。舞い上がっているのはワタシだけか。──ならばワタシが舞せてみせよう。この剣で! 『乱数聖域』!」

 

クリスティーナが間合いを詰め剣を振るう。

 

僕は何故か戦闘時になると相手の動きがスローモーションに見える。

そして、僕だけがその遅くなった時の中で普通に動ける。

なんだかズルをしているみたいな気分になるけど、この力のおかげで仲間を護ることができるならそれでいい。

 

遅くなった時の中を僕は動き、ギラギラとしているクリスティーナの頭に剣の腹を振り下ろす。

 

そして、時は動き出す。

ゴーンと音がなり……。

 

すれ違った形で僕の横を通り過ぎたクリスティーナはばたりと倒れた。

 

 

そのあと、サレンが来てこの場を収めてくれた。

 

コッコロからクリスティーナが倒れている事情を聞いて顔を真っ青にしたかと思うと僕の両肩を「あんたはここにはいなかった。いい?」とすごい怖い顔で言われたので頷いておいた」

 

 

 

翌日

 

サレンディア救護院

 

「やぁ坊や! クリスティーナお姉さんが遊びに来たぞ♪」

 

元気ピンピンのクリスティーナがやってきた。

 

で、なんかそれからたまにサレンディア救護院にクリスティーナが来るようになった。

サレンが頭を抱えていたけど……まぁいいか。





Qクリスティーナとユウキが戦っていた時、【自警団(カォン)】のみんなが手出ししなかったのはなんで?
Aユウキの強さを知っていたため。加勢すると攻撃の余波の衝撃波とかで吹っ飛ぶからね♪


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モーラ「アンチビーストの体には強力なバリアが張られてて」ユウキ「えい」モーラ「( ゚д゚)」

今回はプリコネRのイベントストーリー「魔法少女二人はミスティ&ピュアリー」の二次創作作品です。

一部ネタバレ。独自設定。独自解釈。独自考察。が含まれるのでご留意ください。


【カスミ】

 

「──キミたちには、魔法少女になってこのランドソルを救って欲しいんだ!」

 

宙を浮遊する全身体毛の二頭身の生物──モーラくんはキラキラとした目で私とシオリさんにそう頼んできた。

 

もふもふの大きな二つの獣耳。

額には柄の違う体毛でできた可愛らしいハートの模様。

あざといくらいなつぶらな瞳。

首元にはベルの装飾が施された蝶々結びの赤いリボン。

もふもふの尻尾には星型の装飾が輝いている。

 

このファンシーな生き物は魔法の国から来たという自称魔法生物のモーラくんだ。

 

 

まずはなぜ、私とシオリさんがこの自称魔法生物と関わりを持つに至ったのか説明しよう。

 

シオリさんに誘ってもらい、二人で好きな推理小説の作家のサイン会に行った帰り、空から光った物が空から落ちてくるのを目撃した私たちはそれが落ちた場所へと向かった。

 

そこにはバケツに頭からハマったモーラくんが助けを求めていて、私たちは彼? を助けてあげた。

 

そうしたらいきなりお願いがあると言われ、今に至るというわけだ。

 

助けてもらっていながら、更に頼み事とは……ちょっと厚かましくはないかい?

 

というか……。

 

「魔法少女?」

 

意味をそのまま考えるなら魔法を使う少女になるけど。

 

ランドソルでは魔法を使える少女なんて珍しくないし多分違うんだろう。

 

では、モーラくんがいうところの魔法少女とはどういったものを指すのか。

 

「そうさ! 純粋な心と可憐な容姿! そして、溢れ出る愛! 平和のために戦う、魔法少女だよ!」

 

……。

 

……うん、何をいっているのかさっぱり理解できない。

 

「……シオリさん。この魔法生物くんがなにをいっているのか、分かるかい? 私はその、論理的に理解できない話は苦手でね」

 

シオリさんは困った時に出る空笑いをする。

 

「ええっと……モーラさん。どうして、私とカスミさんなんですか?」

 

「魔法の国の女王がいっていたのさ。世界には必ず、ボクらを助けてくれる人がいるって!」

 

それといったいなんの関係があるんだろう。

 

「カスミちゃんにシオリちゃん。キミたちは僕を助けてくれたでしょ? きっとこれは運命だと思うんだ!」

 

いや、偶然だよね。

 

「直感したのさ! キミたちこそがボクの探している魔法少女に間違いないってね!」

 

うん、だからさ。

 

「いや、どう考えてもただの偶然だと思うのだけど……」

「いいえカスミさん。魔法少女のお話はいつもこういう偶然から始まるものなんです。可愛らしいマスコットとの出会いをきっかけに平凡な毎日が一変して─!」

 

まくし立てるように言葉を紡ぐシオリさん。止めないと、ずっと語り続ける勢いだ。

 

「おっとシオリさん。思いのほか語るね」

「あ、いえ。すみません。『魔法少女ベルルちゃん』とか読んでいたもので、つい……」

 

少し恥ずかしそうに頬を赤らめるシオリさん。微笑ましい。

 

「ふふ、熱弁をふるえるのはいいことじゃないか。それで、魔法少女の物語だと次はどうなるんだい?」

「ええっとマスコットとであったあとはだいたい──」

「っ! この邪悪な気配……二人とも気をつけて、アレが近くにいるよ!」

「……敵が現れますね」

 

「GUOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」

 

ランドソルの街に魔物が現れる。

しかも私たちの居るところからかなり近い場所に、だ。

 

「うん。よくわかったよ。というかこんな街の往来に魔物だって? 警備はどうなっているんだい!」

 

それに、こんな街の往来に魔物が迫っていて今の今まで騒ぎにすらならなかったなんて。

 

「しかもあんな魔物本の中でも見たことがありません」

 

博識なシオリさんも知らない魔物か。

 

それにしても……タイミングが良すぎやしないかい?

 

じーとモーラくんを見る。

 

「やっぱり現れたか。あれはアンチビースト! この世界に災いをもたらす存在さ!」

「魔法生物だの。アンチビーストだの忙しないことだね」

「あっ、見てくださいカスミさん!」

 

シオリさんが魔物の居る方を指さす。

 

視線を向ければ、アンチビーストと青い外套を纏った剣士が戦っていた。

 

「みんなこっちに来ちゃダメだ! 魔物の居る逆の方に逃げて!」

 

アンチビーストから近くに居た街の住民を護ろうと戦うその人は私のよく知る人物だった。

 

「あれは──助手くんじゃないか!こんなタイミングで居合わせるとは……不運な事だね」

「そうですね。不運としかいいようがないです──あのアンチビースト」

「ちょっと二人ともなに落ち着いてるの? あの騎士さまってキミたちの知り合いなんだよね? 助けないと!」

 

モーラくんが焦った様子でいってくる。

 

「んー。大丈夫だと思うよ。助手くんなら」

「ええ。あの人はとっても強いですから」

 

私とシオリさんは助手くんがとんでもなく強いことを知っている。

 

だから助手くんにもしものことが起きるなんて不安は微塵もなかった。

 

「あの騎士さまがどれだけ強いのかは知らないけど、アンチビーストの体には強力なバリアが張られていて普通の攻撃は効かないんだ!」

「そうなのかい?」

「そうなんですか?」

「そうなんだよ! バリアを破るには愛の込められた魔法少女の力しか──」

「えいっ」*1

 

バリッーン!

 

「魔法少女の力しか……。……」

「モーラくん。キミの言う普通の攻撃が効かないというバリアとやらがたった今、助手くんの普通の攻撃に破られたみたいだけど……?」

「………( ゚д゚)」

 

モーラくんは口を半開きにした状態でフリーズしている。

 

「モーラさん。急に静かになって、どうしたんですか?」

「……今はそっとしておこう。きっと助手くんの常識外れの強さに脳の情報処理が追いついていないんだよ」

「なるほど。私も最初はそうでした。でもやっぱり……あの人が戦っている姿は凛々しくてとてもカッコイイですよね」

「え!? シオリさんもそう思う!? 」

「カスミさんも同じですか!?」

運命とか、直感とか、論理的でないものは普段あまり信じようとは思わない私だけど、今だけは直感している。

 

シオリさんも今、私と同じ気持ちを抱いていると!

 

「ああ! それに助手くんの格好良さは強さだけじゃなくて、優しさにもあるよね」

「わかります!」

 

食いつくように反応するシオリさん。

 

「……これは一度、助手くんの格好良さについて徹底的に語り合うしかないね」

「はい。……望むところです」

 

モーラくんに会う前に話していた推理小説について語り合うなんて話は私たちの頭からはすっかり消えていた。

 

あるのはただ互いの想い人がいかに素晴らしく、かっこいいのか語り合いたいと純粋な思いと。

 

「でも、今は──」

「はい。わかっています」

「助手くんの」「あの人の」

「勇姿をこの目に焼き付けよう」「勇姿をこの目に焼き付けましょう」

 

そして、今目の前でアンチビーストと戦っている助手くんの勇姿を脳に刻みつけたいという欲求だけだった。

 

 

バリアの破られたアンチビーストはあの助手くんの攻撃に三度耐えた。

剣を振るえば、地が割れ、海が割れ、空が裂けるあの助手くんの攻撃をだよ?

アンチビースト。キミは充分誇っていい。ただ相手が悪すぎた。

 

ランドソル最強にして無敵の騎士にして──私の助手くん!

助手くんと居合わせた時点でキミが倒されることはほとんど決まっていたんだ。

住民を襲わなければ、優しい助手くんのことだから魔物の居る森とかに返したのかもしれないけど。

 

アンチビーストが倒されてなお愕然とした表情のままのモーラくんを一度見上げ、小さなため息をつく。

 

もし、ランドソルの街の住民を襲うように命令されていたなら、どの道、助手くんの剣の錆となっていたことだろう。

 

……運がなかったね。

 

でも。……ありがとう。アンチビースト。不謹慎かもしれないけど、キミのおかげで私とシオリさんは助手くんが戦うカッコイイ姿を脳内記憶に保存することができたよ。

 

どうか安らかに眠ってくれ。

 

 

「ふぅ。意外に硬かった。あ、おーい。カスミ〜! シオリ〜!」

 

剣をベルトに吊るす鞘に収めた助手くんが私たちに気づいて手を振り、こっちに歩いてくる。

 

「やぁ助手くん! 大活躍だったね」

「ええ、とてもかっこよかったですよ」

「そう? ありがとう。……これなあに?」

「ああ。そこで呆然自失としているのは、自称魔法国から来たという自称魔法生物のモーラくんだ」

「じしょう?」

 

助手くんは記憶喪失だからたまに知識が欠けている場合があるんだよね。

説明すればいいだけだから気にしたことはないけど。

 

「自称の意味は、嘘か本当かの事かともかく、自分の名前や職業や肩書きを自分で称する……言うことですね」

「自称についての丁寧な説明ありがとうシオリさん。助手くんにも分かりやすい説明だったんじゃないかな」

「うん。教えてくれてありがとうシオリ、カスミ」

 

助手くんは笑顔でお礼をいってくれる。

うっ、その顔ずるいなあ。もう魔性の微笑みだよ。

あ、シオリさんも赤くなってる。私もこういう顔になってるのかなあ。

 

「自称魔法の国から来たの? ねぇ、自称魔法生物なの?」

 

つんつん。と、モーラくんのほっぺをつつく助手くん。

 

「はっ! ボクはいったい今までなにを。……そうだ! アンチビーストは?」

「アンチビーストならそこにいる助手くんが倒したよ」

「っ! あ、あなたは! アンチビーストと戦っていた騎士さま! というか……え、本当にアンチビーストを一人で倒しちゃったの?」

「アンチビースト?」

「助手くんがさっき倒した魔物のことだよ。特殊なバリアが張られているとかで普通の攻撃は効かないらしいけど、助手くんには関係なかったみたいだね」

「……そんな! ね、ねぇ、騎士さま。いったいどうやってアンチビーストのバリアを破ったの?」

「普通に剣で叩いたら割れたよ? パリーンって」

「え?え? だ、だって『あのバリア』は愛のある魔法少女の力じゃないと破れないはずで……え? あれ?」

 

ふーむ。どうやらモーラくんは常識の通じない相手に初めてであって困惑しているみたいだな。

 

それにしても……『あのバリア』ねぇ?

 

まるでアンチビーストについて知り尽くしているような物言いに思えるのは探偵という職業柄、穿った見方をする癖のある私だからだろうか?

 

「あ、わかった!」

 

閃いたとばかりにモーラくんが自分の手をポンと打つ。

 

「なにかわかったんですか?」

 

シオリさんがモーラくんに訪ねる。

 

「私も気になるね。是非、モーラくんがなにについて理解したのか聞かせてくれないかな?」

 

「なんかすごい食いつくね」とモーラくんは苦笑いを浮かべると表情を引きしめそのわかった事とやらを簡潔にいってのけた 。

 

「騎士さまは──」

「助手くんは?」

「この人は?」

 

「きっと魔法少女なんだ!」

 

……はぁ。なにを言い出すかと思えば……。

 

「そんなわけあるかああ! そもそも、助手くんの性別は男だ。少年であっても少女ではないよ」

「この人が魔法少女……。……私、ありだと思います」

「シオリさん!?」

 

……シオリさんがわからない。

助手くんのことなら通じ合えていると思ってたのに。

 

「魔法少女? なにそれ?」

「純粋な心! そして、溢れ出る愛! 愛と希望と平和のために戦う、魔法少女だよ!」

「おぉー。魔法少女かっこいい」

「ねぇ、シオリさん。……なんかモーラくんがいっていることがさっきと微妙に違う気がするは私だけかい?」

「いいえカスミさん。私もそう思います。……この人は充分、可憐な容姿なのに」

 

シオリさん本人が目の前に居るのによくそんなこと言えるなぁ。

 

「だからきっと『魔法少女ベルルちゃん』に出てくるような魔法少女の姿も似合うと思うんです」

 

うん。……よく本人の前でそんなこと言えるなあ(遠い目)

 

 

「で、どうなの騎士さま? 騎士さまは、魔法少女なんだよね!」

「え違うよ?」

「……( ˙▿˙ )」

 

モーラくん私が言ってたこと聞いてなかったのだろうか?

いや、多分、現実逃避しているだけなのだろう。

 

「モーラくん。いいかい? 落ち着いて聞くんだ。君とっては受け入れ難い事実なのかもしれないが、助手くん──君の目の前に居るユウキくんは魔法少女ではない。そもそも少女ですらない。ただ常識外な強さを持つだけの少年なんだよ」

 

モーラくんは何度か頭にもふもふの手を当て悩むと、ついに乾いた笑みを浮かべ。

 

「……あはは。……はぁ。わかった。……認めるよ。騎士さまは魔法少女じゃないけどアンチビーストを倒せる。そんな常識外れな強さをもった人だって」

「やっと現実を受け入れてくれたか。……さてと。アンチビーストは助手くんが倒した事だし、事件は万事解決ということで。私たち三人はこれで失礼するよ。ふぅ、魔法少女とやらにならずにすんで正直、ほっとしたよ。ありがとね助手くん」

「よくわからないけど。どういたしまして?」

「あ、この流れは……」

 

シオリが不穏なことを呟く。

 

「なにいっているのさカスミちゃん! 戦いはまだ始まったばかりじゃないか。」

 

嬉々とした様子で話すモーラくん。

 

「……こうなっちゃいますよね」

「えぇぇ……」

「騎士さまが倒したアンチビーストは見たところ大した強さをもってなかった。きっとまだ様子見だったんだ」

「「あれで様子見!?」」

「二人ともなんで驚いてるの?」

 

助手くんが不思議そうな顔をして驚いた私とシオリさんを見てくる。

 

「だって、あなたの攻撃を3度も耐えたんですよ?」

「助手くん。いつもどんな魔物だって一撃で沈めるキミの攻撃をあのアンチビーストは耐えた。しかもそれが様子見だったなんて言われたら驚きもするよ」

「んー。普通の魔物よりはちょっとだけ硬かったけど、そこまで強くはなかったよ?」

「あなたにとっては他の魔物と大差ないんでしょうけど……」

「私たちにとってはとても大きな差だ。助手くんはもう少し自分の常識外れな強さを自覚したほうがいいと思う」

 

助手くんは「うん。わかった。気をつける」と和やかに微笑む。きゅん。

 

「……ちょっとだけ? やっぱり騎士さまの強さはおかしいよ。絶対普通じゃない

「モーラさん、今、何か言いました?」

「いや、なんでもないよ!」

 

……やっぱりモーラくんがアンチビーストをけしかけたんじゃないだろうね?

 

「そもそもアンチビーストってどういう存在なの?」

 

助手くんがモーラくんに質問する。

 

「アイツらは色んな場所に現れ、災いを振りまく存在。ボクの国にも現れて、様々な混乱を引き起こしたんだ。奴らが狙うのは……愛の力。ここに現れたということは、次はこのランドソルを狙っているに違いない!」

「……」

 

なんかアンチビーストがランドソルを狙っているのを今確信した。みたいな空気を出しているけど……。

 

モーラくんはアンチビーストが現れる前の時点で私とシオリさんに魔法少女になってランドソルを救って欲しいと頼んでいた。

 

これはアンチビーストがランドソルに現れる事を事前に知っていたとしか思えない。

 

アンチビーストは本来なら魔法少女の力でしか倒せないらしいからね。

 

 

それにアンチビーストが現れたのがモーラくんに魔法少女になって欲しいと頼まれたすぐ後だった事も気になる。

 

助手くんが偶然近くに居なければ、モーラくんの望み通り私とシオリさんが魔法少女にならざるを得ない状況だっただろう。

 

正直、できすぎ。としか思えない。

 

 

「カスミちゃん、シオリちゃん! もう一度改めてお願いするよ! この世界のために魔法少女になって戦って欲しい!」

 

モーラくんはそのつぶらな瞳に誠実さを宿させ、私とシオリさんに頼んで来る。

 

「私はやりたいです」

「え、本気かいシオリさん?」

「はい。私はランドソルの街が好きですから。それにアンチビーストに対抗出来る手段があるのに、ユウキさんばかりにアンチビーストを任せるのはなんだか申し訳なくて……」

「うっ、そう言われるとたしかにそうだけど……」

「シオリちゃんの言う通りだよ! 魔法少女になればアンチビーストを倒せるのに、騎士さまばかりに頼って負担をかけるのはちょっと薄情なんじゃないかな?」

 

……このっ魔法生物! 助手くんへの良心を引き合いに交渉とはなんて狡猾な!

 

「全然、負担じゃないよ? 冒険者ギルドのクエストで魔物を倒すのとあんまり変わらないし。でも、魔法少女には興味あるかも。僕も魔法少女なれる?」

「ほら助手くんもこういってることだし……え? 今なんて?」

 

助手くんが魔法少女に?

 

「騎士さまは男の子だから魔法少女になるのは難しいかな。あはは……」

「そっかー。残念。……魔法少女なりたかった」

「……流石に冗談だよね助手くん?」

「私はユウキさんが魔法少女。ありだと思います! ……カスミさんはどうして魔法少女になりたくないんですか?」

「そ、それは……」

「もしかして、魔法少女になるのが恥ずかしいんですか?」

「いや、たしかに羞恥心が無いわけではないのだけれど……問題はそこではなくてね……」

「じゃあ、何が問題なのさカスミちゃん! キミもシオリちゃんと一緒に魔法少女になって騎士さまと協力してアンチビーストからランドソルの平和を守ろうよ!」

「うーん。しかしだね……」

「騎士さまはシオリちゃんとカスミちゃん二人の魔法少女としての姿を見たいと思わないかい?」

「見たい!」

「助手くん!?」

 

このマスコット助手くんの魔法少女への好奇心を利用するなんて……なんて悪辣な。

 

しかしこの状況。3対1で圧倒的、数的不利。

 

こうなったら……もうとれる選択肢は一つだ。

 

「やれやれ……わかったよ。魔法少女の件、考えてみることにするよ」

「カスミちゃん!」「カスミさん!」

「勘違いしないでくれたまえ。まだ、私は魔法少女になると決めたわけじゃない。考えてみるといったんだ」

「ええ! 魔法少女になってくれるんじゃないの? 完全に魔法少女になる流れだったじゃないか!」

 

その流れを作ったのはキミだけどねモーラくん!

 

 

「モーラくんを信じてもいい。そう思えたら私は魔法少女になるよ」

「どういうこと?」

 

首をコテっと傾げるモーラくん。一々、あざといな。

 

「モーラくん。正直に言おう。私は、君のことを信用していない」

「え! なんで!」

「というか、さっきのアンチビーストは実は君がけしかけてきたのではないかと疑ってすらいる」

「そんな酷い!」

 

モーラくんがショックを受けた声を出す。

 

「……カスミさん。私にはモーラさんはアンチビーストと敵対しているように思えます。その考えは流石に飛躍しすぎじゃ……」

「シオリさん。モーラくんと出会ってからのことを順を追ってよく思い返しておくれ」

「えっと……バケツにハマっていたモーラさんを助けて……『魔法少女になってランドソルを救って欲しい』と頼まれて……それでアンチビーストが現れて……」

「はいストップ。まず私がモーラくんに疑いを抱くに至った理由の一つはそれだよ。モーラくんが私達に魔法少女の話を持ちかけたすぐ後にアンチビーストは現れた。……まるで気を見計らったようなタイミングでね」

「偶然だよ!」

 

モーラくんを見て助手くんが首を傾げている。

 

これはもしかすると……本当に……。

 

「偶然にしてはあまりにタイミングが良すぎやしないかい?」

「でもカスミさん。魔法少女もののお話ではそういう偶然はよくある話ですし……」

「シオリさん。それはフィクションでの話だろ? ここは『現実』だよ。ただの偶然で最初から結論ずけるのは論理的ではない」

「それは……確かに。そうですけど」

「シオリさん。アンチビーストが私たちの近くに現れたのが偶然ではないとしたら? それを踏まえた上で考えてみてくれ。もしあの場に助手くんがいなかったらどうなっていか」

 

シオリさんは少し考え……。

 

「……アンチビーストから街の人を守るために、多分、私たちが魔法少女になってましたね」

「そう。モーラくん曰く、アンチビーストには普通の攻撃はきかない。例外の助手くんが居なければ、アンチビーストに対抗するためには私たちが魔法少女になるしかった。モーラくんが望んだ通り、私たちが魔法少女にね……」

「こ、こじつけだよ! それに、それはボクがアンチビーストをけしかけた証拠にはならないじゃないか!?」

「推理小説では証拠を出せという台詞を言うのは犯人だと相場は決まってるのだけど……。ここは現実だからね。まあ、確かに君の言う通り証拠にはならないだろう。でも、そういう疑惑を抱くには充分な要素だとは思わないかい? なにせあの状況は私たちに魔法少女になってほしかったモーラくんにとって、あまりに都合が良すぎる展開だからね」

「……そう言われてみれば、そうですね」

「シオリちゃんまで!」

 

私の話を聞いてシオリさんも冷静になってきたみたいだ。

 

「これが一つ目ということは、他にもあるんですよねカスミさん」

「もちろんだよ。私がモーラくんを疑っている理由はもう一つある。──モーラくんキミはアンチビーストがランドソルに現れることを事前に知っていたね?」

「え!? ……どうしてそう思うの?」

「質問に質問で返さないでくれないかい。今は私が君に聞いているんだ。それで、どうなんだい?」

 

返答次第によっては黒かどうか判断できるだろう。

 

「し、知らなかったよ?」

 

ああ、これは……黒だね。

 

 

「……知らなかった、か」

「本当だよ! 信じてカスミちゃん!」

「モーラくん。それはおかしいんだ」

「え……。い、いったい何がおかしいって言うのさ?」

「モーラくん。君は私たちに助けられたすぐあと、私とシオリさんに頼み事をしてきたね。その時、自分がなんと言ったか覚えているかい?」

「勿論、覚えているさ。なにせついっさきのことだしね! ……あ」

 

モーラくんが自分の失態に気づいたのか、顔色が変わる。

 

「『キミたちには魔法少女になってランドソルを救って欲しいんだ』……でしたね。でもこれって──」

 

シオリさんがあの時のモーラくんの言葉を一字一句違わず再現し、モーラくんを見る。その目は疑惑に変わっていた。

 

どうやら気づいたようだねシオリさん。

 

「──そう。モーラくんはあの時既にランドソルに危機がやってくることを、アンチビーストが現れることを予見していた。……あるいは必ず現れると知っていたんだ。そうでなければ魔法少女になってランドソルを救って欲しいなんて言葉が出てくるはずがない。……さて、こうなるとさっきのモーラくんの知らなかったという発言には矛盾が出てくるね」

「……モーラさん正直に答えてください。モーラさんはアンチビーストがランドソルに現れることを知ってたんですか?」

「……い、今のはそう言葉のあやと言うか。そう! 騎士さまの強さがあまりに衝撃的で記憶が飛んでただけなんだ。今思い出したよ! カスミちゃんの言うとおり僕はアンチビーストがランドソルにやって来ると予見していたんだ」

 

予見、ね。

 

「ふむ。では、どうやって予見したんだい?」

「魔法の国にはアンチビーストの反応を見つけるための技術があるんだ。それで数日前にこのランドソルにアンチビーストの反応を感知したんだよ。ボクは魔法の国の女王にアンチビーストからランドソルにいる人々を護るために魔法少女になれる人材を探すよう任務を言い渡されてそれでここにやって来たんだ!」

 

助手くんはまた?を浮かべている。

 

「じゃあ、君が私とシオリさんに魔法少女になるよう頼んだあのタイミングでアンチビーストが現れたのは本当に偶然だったのかい?」

「そう言ってるじゃないか!」

「ということだけど。……どう思う助手くん?」

「 ……優しい騎士さまはボクの味方だよね! この目が嘘をついている魔法生物の目に見えるかい!?」

 

つぶらな瞳をうるうるさせて助手くんに媚びるモーラくん。

 

助手くんはじーとモーラくんを見つめる。

 

……判定はどうかな?

 

「見える。思う。だってモーラ、ウソついてた」

 

シオリさんのモーラくんへの目付きが完全な疑惑へと変わる。

 

どうやら大勢は決したようだね。

 

「ええ! あれは本当にただの偶然だったなのにどうして信じてくれないの!」

「あ、またウソついた」

「ウソじゃないよ! それともあれかい? 騎士さまは相手がウソをつているのかどうか見抜けるのかい?」

「うん」

「……ぇ? ……(꒪ᗜ꒪ ‧̣̥̇)」

 

さて、ここで種あかしといこう。

 

「モーラくん。助手くんは相手がウソをついているのかどうか看破できるんだよ。しかもその的中率は驚異の100パーセント。そしてそれは助手くんの知り合いなら殆どの人が知っていることだ。もちろん、シオリさんもね」

 

シオリさんは「はい」と小さく頷く。

 

「ユウキさんにはババ抜きでババを持ってる時や人狼ゲームで人狼になった時は一度も勝てた試しがないですから……。だから私はユウキさんのモーラさんがウソをついたという言葉を信じます。そして、モーラさん。すみませんがさっきの魔法少女になるという話はなかったことにしてください」

「そんな! 騎士さまが勝手に言ってるだけでボクがウソをついてるって証拠にはならないじゃないか!」

「モーラくん。最早、証拠がどうこうといった話じゃないんだよ。助手くんがウソだと断定した。それこそが事実なんだ。君がどう言葉を尽くそうが、ね」

「理不尽すぎるよそんなの!」

 

助手くんは理不尽な存在さ。

 

彼がいるだけで大抵の事件は解決するんだからね。

 

「あれが偶然でないならモーラくんとアンチビーストには何らかの関わりがあるのは間違いない」

「もしかするとアンチビーストという存在自体モーラさんが用意したのかもしれません。魔法少女ものにはダークな感じの話もあって、それでは魔法少女を生み出すマスコットが大抵黒幕なんです。『魔法少女まどかマギカ』とか『魔法少女育成計』とか」

「なんだいその子供にトラウマを植え付けかねない魔法少女物語は……」

 

あ、モーラくんがギクッとしている。

 

……魔法少女。思ってたより闇が深いのかもしれない。

 

「こんな、茶番に、つきあえるか! 信じてくれないみたいだし、ボクはもう魔法の国に帰らせてもらうよ!」

 

空へ飛んで逃げようとするモーラくん。

 

「助手くん! モーラくんが逃げられないようにしてくれ! 彼にはまだ聞かないといけないことがある」

「わかった。任せて」

「無駄だよ! どんなに騎士さまが強くたって空の上までは追いかけてこれないでしょ!」

 

30m以上のところまで上昇しているモーラくんが言う。けど……。

 

「……それフラグですよ。モーラさん」

 

次の瞬間、助手くんは地を蹴り空を飛んだ。

 

助手くんが立っていた場所の地面が陥没している。弁償代高くつくかなぁ? いやランドソルに危機が迫った緊急時なんだし大丈夫のはず……多分。

 

そして、一瞬にしてモーラくんを両手で捕まえると地上へとゆっくり降りてくる。

 

地上へしゅたっと降り立った助手くんに拘束されたモーラくんと目が合った。

 

「やぁ、モーラくん。さっきぶりだね」

「え? ……えっと。あの、その。あはは。二人とも……魔法少女にならないかい?」

「断る」「お断りします」

「……ですよね」

「さて、それじゃあ隠している事を洗いざらい吐いてもらおうか! モーラくん!」

 

…。

……。

………。

 

その後、助手くんに拘束され逃げることのできなくなったモーラは助手くんの天才的な指テクによる擽りの拷問を受け洗いざらいを話した。

 

あのアンチビーストは自分が第三者に力を与え利用して仕向けたものであることは勿論。

 

魔法少女とアンチビーストは愛と希望の力を回収するためのマッチポンプのために創造した存在であることも。

 

モーラくん、というかモーラくんの魔法の国に住む魔法生物たちの生命の源は愛と希望の力に依存しているらしい。

 

愛と希望から生まれる力の回収。それこそが私たちで言うところの食事にあたる行為なんだとか。

 

アンチビーストが愛と希望の力を回収し、魔法少女がそのアンチビーストを討伐し人々に希望を与える。そしてまたアンチビーストが愛と希望を回収する。その繰り返す。

 

そうして半永久的に愛と希望の力回収するための舞台に今回選ばれたのがランドソルだった。

 

事情があるのはわかったけど、ランドソルに危機が来るのをわかっていてそれを許す訳にはいかない。

 

……どうしたものか。

 

解決しなければいけない問題はモーラくんたち魔法生物に必要な愛と希望の力の安定した供給。

 

けど、それはあっけなく解決した。

 

なんと助手くんのプリンセスナイトの強化の力が愛と希望の力を増大させることがわかったんだ。

 

モーラくんがアンチビーストをけしかけるのに利用した人物は助手くんの自称お姉ちゃんであるシズルさんだった。

 

シズルさんはアンチビーストの力を吸収していて暴走していた。

 

暴走を止めるために助手くんがプリンセスナイトの強化の力でアンチビーストの力を上書きした際、その力を目撃したモーラくんが「これは愛と希望の力が増大していく!

そうか! 騎士さまは愛と希望の騎士さまだったんだ!」とまたわけの分からないことをいいながら目を輝かせていた。

 

事件解決の後、モーラくんは助手くんが定期的に力を分け与えてくれるなら魔法少女とアンチビーストを使ったマッチポンプをしなくて済む!

 

といいだし、助手くんはこれを了解した。

 

しかも助手くんのプリンセスナイトの強化の力は通常の愛と希望よりも濃い濃度であるらしく月に1回回収するだけでも魔法の国の全魔法生物たちの10年分の寿命は担保できるということだ。

 

そうして助手くんはモーラくんに月に1回力を分け与えることになったのだけど……。

 

 

「騎士さま! 騎士さまは以前、魔法少女に興味があるって言っていたよね!」

「うん。それがどうかしたの?」

「魔法の国の女王が魔法の国のために愛と希望の力をくれる騎士さまにお礼をということでね。なんと男の子でも魔法少女になれる力を騎士さまにプレゼント──」

「こら! モーラくん! 助手くんを魔法少女にしようとするんじゃない!」

「私はありだと思います!」

 

助手と私と一緒に推理ゲームをしていたシオリさんがノリノリで言う。

 

ああ……。もうこの中でまともなのは私だけなのなのかな!

 

「カスミ。シオリ。僕と一緒に魔法少女になってよ!」

 

私とシオリさんの手をとると、助手くんは魔性で微笑んだ。

 

そして、気がついたら私は魔法少女の姿になっていた。

 

助手くんとシオリさんと一緒に……。

 

……解せぬ。

*1
ユウキが剣を振りおろす声





結局、カスミは魔法少女になるオチだったというね……。

今回頭を悩ませた点。

Qくっ、モーラが黒幕という決定的な証拠がないどうすればいいだ!

a主人公のチートで解決!

ユウキがウソを100%見抜けるというのは諸悪の根源さんが調子に乗ってカンストさせたスキルの中に看破スキルがあったという独自設定です。

ご都合主義ともいう…。


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エリス「……ギリッ(歯ぎしり)」

頭がちぇるってるエリスさまのお話


【エリス】

 

騎士クンが覇道皇帝を打ち倒してから、アストルムの『現実』時間で1249600秒*1が経過した。

 

わたしは現在──

 

『はい、あーん……』

 

『あむ。もぐもぐ……』

 

『……ど、どうかな? 美味しい?』

 

『ユイの作ったオムライス凄く美味しい!』

 

『良かったぁ……』

 

『ユイも食べた方がいい』

 

『そうするね。あむ……。うん、美味しいね♪』

 

「……ギリッ*2

 

ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!

 

──映像画面上に映る、ギルドハウスで騎士クンとイチャついている草野優衣による精神攻撃で脳が破壊されていた*3

 

……騎士が口をつけたスプーンで関節キス! 羨ましい! 羨ましい! 羨ましい! 羨ましい! 羨ましい!

 

どうして其処に居るのが、懲役の元凶で、大罪人であるお前で、わたしじゃないんだ!!!

 

『……(わたし今、騎士クンに食べさせてあげたスプーンで、そのまま食べちゃった……!? これって関節キ……!)あわ、あわわわわ……! きゅうぅぅ……』

 

咀嚼を終えてから、おくれて関節キスであることに気づいた草野優衣がバタンキューする。

 

騎士クンの唾液の付着したスプーンを躊躇なく口に入れ、その味を舌で堪能するなんて!

 

なんて卑しくて、淫乱な女! ああ、羨ま……汚らわしい!

 

それを見て、草野優衣に駆け寄るのは、騎士クンに草野優衣があーんして手作りオムライスを食べさせるという余計な提案した獣人族のアバターを操る女、安芸真琴。

 

『ユイ!? どうしたんだよおい!しっかりしろユイーッ!!』

 

『……ぷ、ぷしゅうぅぅ*4

 

騎士クンと草野優衣の中は徐々にだが確実に深まっていってしまっている!

 

 

覇道皇帝が倒された今、アストルムの『現実』世界は至って平和だ。

 

その平和な時間が、騎士クンと彼に群がる邪魔な女たちとの仲を深める余裕を与えてしまっている。

 

このままではまずい!

 

このままでは近いうちに騎士クンが数多いる女共の誰かの√*5に突入してしまう。

 

というか今までループする度に騎士クンが誰の想いに応えたのかを見せつけらることが、どんな膨大なアストルムでのログを脳に焼き付けられるより苦痛だった。

 

それが草野優衣なら発狂する自信がある。

 

今までは、草野優衣の控えめで臆病な性格+覇道皇帝がわたしのもとに来る条件が騎士クンか草野優衣を消すことだったから2人が結ばれた世界線は存在していなかった。

 

が、覇道皇帝が倒され脅威のない今の世界では大いに有り得る!

 

 

 

この草野優衣の願った『世界』のためには、ずっと続く『冒険』のためには『敵』が必要だ。

 

アストルムの運営装置でもあるわたしが、この裏側から表の『現実』世界に行くためにも……。

 

そして、草野優衣と7冠を始末し、わたしの願い、騎士クン、2人だけの理想の世界、理想郷(エリュシオン)を叶えるためにも。

 

だから、お願い……。

 

「help! ミソラ! ミソラ、早く! 早くこっちに戻って来て!」

 

自分で動けない、わたしは『現実世界』で計画のための駒を集めているミソラがアストルムに戻ってくることを祈るしかなかった。

 

この後、ミソラが戻ってくるまで何度も草野優衣に脳を破壊されたことはミソラには秘密だ。

 

知ったらあの子、絶対、嬉しそうな表情で「可哀想なエリスさま★」って言うだろうし……。

 

 

*1
だいたい二週間くらい

*2
歯ぎしり

*3
略して、脳破壊

*4
ユイちゃんがオーバーヒートして情報の処理が追いつかなくなった時に出る例の効果音

*5
それなんてギャルゲー?





ユイちゃんのお話は完成し次第投稿しますm(*_ _)m


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ユイ「あ、これダイエットのための運動とかにも役に立つかも」

夢で見る騎士の少年は、あまり強くはないけれど、わたしがピンチな時にはいつも助けに来てくれるヒーローで。

 

わたしはあの人のお人好しなところというか、通り越して馬鹿なところとか、もっというと不憫なところというか。

 

自分のことよりも、困っている他人を助けることを優先してしまう。

 

そんなあの人のことが、わたしは、大好きだった。

 

…。

……。

………。

 

【ユイ】

 

ランドソルの街から少し外れた場所にある森。

 

冒険ギルドで薬草採取のクエストを受けたわたしはひとり、目当ての薬草が群生するこの場所に採取に来ていた。

 

この森に生息する魔物は温厚な性格で、こちらから刺激を与えるようなことをしなければ襲われることは滅多にない。

 

だから、回復や支援魔法の適性が得意な一方で、攻撃魔法があまり得意じゃない魔法士のわたしひとりでも大丈夫。

 

そう思っていたのに……。

 

「「「グオオオオオ!」」」

 

「イヤ〜! こっち来ないで〜!!!」

 

わたしは、今、大量の魔物に追いかけられていた。

 

どうしてこうなったの!? わたしはただ、薬草を摂りに来ただけなのに〜!

 

大量の魔物たちから、必死に走って逃げながらこうなった経緯を思い出す。

 

えっと、森に入って、しばらくして、薬草を発見、薬草採取済ませて、さぁ、帰ろうと思ったら、茂みから様子がおかしいキノコの魔物たちが出てきて……。

 

しかもその後、普段は深部にいるはずのゴーレムまで現れて……*1

 

普段は温厚なはずの魔物たちは、わたしを見るや否や、なぜか襲いかかってきて……。

 

魔法士のわたしひとりじゃ倒せっこないから急いで逃げ出して……そして、今に至る。

 

うん! これどこにもわたしに非はないよね! 魔物に襲われるようなことはなにもしてないもん!

 

思い返してみれば、魔物たちは最初から何処か様子がおかしかった気がするし。

 

ということは魔物が凶暴化している原因はなにか別にある? それがなにかはわからないけど。

 

とにかく今はランドソルの街を目指して逃げ続けるしかない。

 

街には騎士団の人がいるだろうし、それに森の外に出れば、疎らではあるが人が通る道だ。

 

運がよければ、誰かに助けてもらえるかもしれない。

 

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ、っ!」

 

息が苦しい。お腹の横が痛い。足が重い。

 

走りながら、ちらりと後ろを確認する。

 

魔物との距離はさっき確認した時よりも縮まっていた。

 

前を向く。

 

どうしよう。このままじゃ追いつかれて、食べられちゃうよ!

 

 

なんとか、なんとかしなくちゃ。なんとか……。

 

……! そうだ。

 

「『フラワーヒール』」

 

自分の身体の周りが一度、緑色に輝く。

 

疲労感が癒え、呼吸が楽になった。

 

「『フラワーブースト』」

 

次は、橙色の光が一度、煌めく。

 

身体も軽くなって、走る速度が上がる。

 

回復魔法で自分の疲労を癒して、身体能力を一時的に増強する。

 

これなら魔力が尽きるまでは魔物から逃げ続けることができる。

 

「……! あ、これダイエットのための運動とかにも役に立つかも」

 

支援魔法を使えば、重い樽とかを何個も縄にくくって引いて走れるだろうし、疲労は回復魔法で癒せば、魔力が尽きるまでの間ずっと運動することができる……これなら、短期で痩せることも夢じゃない。

 

これでもう甘いもののカロリーを気にしないで食べられる!

 

そんな、別のことを考えるゆとりもでてきた。

 

あとは、街につくまでわたしの魔力がもつかだけど……うーん。回復と支援魔法を使うタイミングを見極めて、できるだけ魔力を無駄に使わないようにして……ギリギリもつかどうかって感じかな。

 

 

「──?」

 

「──!」

 

「──」

 

……! 今、あっちの方から人の声がしたような。

 

ランドソルの街につくまで確実に魔力がもつ保証はない。なら……。

 

わたしは声がした方を目指して走った。

 

そして、開けた場所に出る。そこには3人の人影があった。

 

お願い──

 

「助けて〜! 魔物が、大量の魔物が追いかけて来る〜!」

 

 

わたしがそう助けを求めてすぐ……3つの人影の1つが掻き消えたかと思うと。

 

後部で、爆発が起きた。

 

「きゃあああああ!」

 

爆風で吹き飛ばされて、地面に顔面からダイブする。

 

「……イタタ」

 

なんとか腕の力で起き上がって、四つん這いになる。

 

「いったいなにが起こって……」

 

「だいじょうぶ? ケガはない?」

 

後ろから男の人の声がした。

 

「な、なんとか……」

 

と、いうかわたし今、四つん這いになってるから、後ろからはわたしのスカートの中が丸見えなんじゃ!

ばっ! と急いでスカートの後ろを両手で抑える。

 

「そうだ魔物は! ……え」

 

立ち上がり、声の主の方に振り向いて……わたしは愕然とすることになった。

 

「たおした」

 

そこに居たのが青い外套を纏った騎士の少年でいつも夢に出てくるあの人にそっくりだったから? それもある。

 

でも、それよりも……さっきまであった森の一部が3キロくらい先まで直線上に綺麗に無くなっていて、代わりに抉れた地面の道が出来上がっていたことが衝撃すぎて。

 

「……これあなたがやったの?」

 

「うん」

 

「え、でも。……え?……え? ……ど、どうやって?」

 

「……? この剣を、えい、って振ったらこうなった」

 

蒼穹の剣を自分の胸元くらいの高さまであげて、抉れた地面の道の方を見て、説明してくれる騎士の少年。

 

夢のあの人に姿がそっくりだから、この後、わたしは騎士クンって呼ぶようになるんだけど……。

 

その時のわたしは、びっくりして、混乱するあまり、騎士クンに、大量の魔物から助けてもらったことのお礼を言うよりも、素直に思ったことを言葉にしてしまった。

 

「いや、普通、そうはならないよ!?」

 

そんなツッコミの言葉を……。

 

 

この後、ちゃんと助けてくれた事へのお礼をいって、騎士クンと合流したコッコちゃんとペコリーヌさんたちとお互いに自己紹介して、ペコリーヌさんが見つけてきた気絶したキャルちゃんをランドソルの医療機関までみんなで送り届けて、その場で解散した。

 

その日の晩。わたしは自分の部屋のベットの上でうつ伏せに寝っ転がりながら今日であった騎士クンのことを考えていた。

 

「騎士クン。あの人とそっくりだったなぁ。なんであんなにそっくりなんだろう……。もしかしてこれって運命の出会いだったりして…………/////」

 

何言ってるんだろわたし! でも、夢の中のわたしはあの人のことが大好きだったし……。

 

それに……。

 

──だいじょうぶ? ケガはない?

 

騎士クン優しかったなぁ。

 

ドクンッ。

 

刹那、鼓動が高鳴る。

 

「……/////」

 

騎士クンのことが凄く気になっちゃてる。ソワソワする〜!

 

「そうだ。この気持ちを日記を書けば少しは気持ちが落ち着くかも」

 

わたしはベットから起き上がって、自分の本棚のところから日記帳を探し出す。

 

そして、机の前に、座って日記を描き始めた。

 

 

〇月×日

 

今日は、森で大量の魔物に追いかけられていたところを、いつも夢で見る騎士のあの人とそっくりな男の子、騎士クンに助けてもらった。

 

 

わたし、騎士クンのことが凄く気になちゃってる。

 

もしかして運命の人なんじゃないかって想像しちゃったり……恥ずかしいよね。

 

けど、家に帰ってきてからもずっと騎士クンのことが気になちゃって全然頭から離れない。

 

夢のあの人のそっくりなこととか。

 

あの人と優しいとこともそっくりなところか。

 

騎士クンのことを考えると、なんだかソワソワしちゃう。

 

もしかしてこれが、恋、だったりするのかな?

 

 

「……はあ。騎士クンまたお話したいなあ。……ランドソルに居るんだし、またどこかで会えるよね」

 

ふと、思いを馳せて、窓をみれば、ランドソルの夜闇の空に美しい三日月を背にするソルの塔が見える。

 

「……そして、いつか夢で見たみたいに、騎士クンと同じギルドで仲間と一緒に冒険できたら……。ファ〜。日記を書いて気持ちが少し落ち着いたらなんだか眠くなってきた」

 

 

わたしは、日記を本棚にしまうと自分のベットで眠りについた。

*1
キノコの魔物と同じで何処か様子がおかしかった



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ミソラ「バレンタイン戦争です★」前編

ミソラちゃん実装で、ミソラちゃんの二次創作たくさん増えるといいなあー(*´ω`*)


A

 

 

目を覚ますと、そこは暗闇の中だった。

 

→……なにも見えない。

 

状況を把握するために手近な周囲を調べる。

 

騎士クン(あなた)は自分が、椅子かなにかに座った状態である事と、自分の前にテーブルのような台があることを把握した。

 

そして、どうして自分がここにいるのか思い出そう記憶を辿ってみることにした。

 

あなたは、昨日の夜、確かに、美食殿のギルドハウスの自分の部屋のベットで眠りについた筈だ。

 

そのあとの記憶は無い。目が覚めたらこの暗闇の空間に居た。

 

→ここは一体……

 

あなたが独り言を呟いたその時だった──!

 

バッ! と闇を切り裂いた、一つのスポットライト。

 

ライトに照らされたのは騎士クン(あなた)のよく知る悪役(少女)だ。

 

藤色のサラサラとした髪、白のラインが入った黒の蝶リボン。

澄んだ空のように碧い、若干タレ目気味の可愛い瞳、桜色の薄いぷっくりとした唇がすっと上がり、素敵な笑みを作る。

 

白を基調とした清純な印象を与えながらも、華奢な肩が丸見え大胆な制服。そして、制服の上からでもわかるくらいのはちきれんばかりのたわわなふたつの果実。

制服と同じく白を基調としたスカートから除く、むっちりとした生身の太ももはどこか官能的ですらある、ハイニーソックスというのがまた一段と少女の瑞々しい太ももの魅力を引き上げていた。

 

あなたはその少女の名を呼んだ。

 

→……ミソラちゃん!?

 

「おはようございます♪ 騎士さん★ それとも、こんにちは? こんばんは? まーどっちでもいいか★ なにせこれは『夢』なんですから。そんなの気にするだけ無駄ですよね♪」

 

→ ……夢?

 

「ええ♪ ここは『夢』の世界。騎士さんのここで目が覚める前の最後の記憶もベットで眠りについたところまで……そうですよね♪」

 

右手の人差し指を、その小さな顔の近くで立てて、可愛らしいポーズするミソラちゃんに同意を求められる。

ああ、そうだ。ミソラちゃんのいうとおりだった。

と、いうことはこれはただの『夢』か。とあなたは不思議と納得できた。

 

「どうやらここが『夢』だって納得してくれたみたいですね。それじゃあ〜騎士さん♪ そろそろ始めちゃいましょうか♪」

 

→始めるって、なにを?

 

あなたの問いに、ミソラちゃんは楽しそうににっこりと微笑む。そして、ノリノリなな口調でそれを告げた。

 

「──バレンタイン戦争です★」

 

 

 

 

『バレンタイン。それは、一年に一度、女の子が好きな異性にチョコレートを送る世界に愛が溢れる特別な日』

 

何処から出したのか、マイクを右手に、突然、語りだすミソラちゃん。

 

『手作りで作った愛のこもったチョコレートを手渡して、そのまま愛の告白なんかもしちゃって、恋が叶ったり、叶わなかったりするそんな甘々なイベント満載なバレンタインですが(・・・)。想いを寄せる相手が被るということは往々にしてあっちゃうわけです』

 

たしかにそういうこともあるだろう。しかしそれがバレンタイン戦争とどう繋がるというのだろうか?

 

『そして、そこで発生するのが、その被ってしまった特定の好きな異性を巡る乙女たちによる湯煎したチョコレートのようなドロドロとした戦い。バレンタインのチョコレート決戦。それが───バレンタイン戦争です★』

 

……うん。意味がわからない!

 

『……あれ? 意味がわからないって顔してますね』

 

困った生徒を見るような目であなたを見てくるミソラちゃん。

 

→……実際、よくわらない。

 

『あー。じゃ〜あ、騎士さんのために簡単に説明しますね? つまりですねー、騎士さんを巡って行われる乙女たちのチョコレートを使った料理対決です♪ 騎士さんにはその審査員をしてもらいます★』

 

どうやらあなたはバレンタイン戦争と言う名のチョコレート料理対決の審査員に抜擢されたらしい。

 

『それと、騎士さんを巡るバレンタイン戦争といっても、騎士さんに行為を寄せる女性、全員を此処へ呼ぶのはこの『夢』の定員を余裕でオーバーしちゃうので、わたしの独断と偏見で騎士さんへの好感度が高いと思う二つのギルドのメンバーでチームわけをして、そして、特別枠のチームも一つ用意しました♪』

 

ノリノリのミソラがパチッと左手の指を鳴らす。するとバッ!とこの空間全体に次々と松明の明かりが灯った。

その場所に、あなたは見覚えがあった。

 

その場所は、捕まったトゥインクルウィッシュの解放をかけて、ミソラとゲームをした祭壇のようなところだ。

 

違いがあるとすれば、大きな調理台とガスコンロつきキッチンが3つずつあることだろう。

 

『最初に紹介するのは、このチーム。食への探究心なら誰にも負けない。チーム、ギルド【美食殿】のみなさんでーす〜★』

 

調理台の前に三つ人型の光が現れ、弾け、姿が明らかになる。

 

「は、え? ちょっと、ここいっったいどこよ! もしかしなくてもミソラ(あんた)の仕業よねこれ!」

「キャルちゃん落ち着いてください!」

「え、ペコリーヌさん、キャル、それにママ……じゃなくて、ココッロさんもいるの?」

「キャルさま、ペコリーヌさま、シェフィさま、おはようございます。おや、……ここは……」

「なにコロ助、ここに見覚えあんの?」

「そうなんですか? コッコロちゃん」

「はい。以前、ミソラに囚われの身となってしまったトゥインクルウッシュのみなさまを助けるために、ゲームをした場所にとても似ている気がします」

 

ギルド【美食殿】のキャル、ペコリーヌ、コッコロ、シェフィの4人に……

 

『続いて紹介するチームは〜人助け中心に活躍するなんでも屋。困った時はおたがいさまさま。チーム、ギルド【トゥインクルウィッシュ】のみなさんでーす』

 

人型の光が現れ(以下略)

 

「え、ここどこ! あれ? あたし、寝たはずじゃ……というかなんで立って? もしかして、寝ぼけて知らない何処かまで歩いて来ちゃったとか!?」

「落ち着くんだヒヨリ。どうもそういうわけではないみたいだよ」

「レイちゃん、ヒヨリちゃん!? それに美食殿の人達まで居るの?」

「いや、美食殿だけじゃない……あれは、まさか!?」

「えーーー!」

「ッ! あれは……」

 

ギルド【トゥインクルウィッシュ】。驚愕するするヒヨリ、レイ、ユイの視線の先には

 

『そして、みなさんお待ちかね、特別枠のチームの紹介です★』

 

「……また、会えたね騎士クン」

「一緒に騎士さんへのチョコレート作り、頑張りましょうね♪ エリスさま★」

 

『エリスさま&わたしのふたりのチーム。チーム名は、ぺんぽこりんで〜す♥』

 

「いや、おかしいでしょう!!! なんでミソラがふたりいんのよ!?」

 

キャルちゃん恒例のツッコミがミソラちゃんに炸裂する。

 

司会をしているミソラちゃんと、エリスと一緒にいるミソラちゃん。

 

この場にはふたりのミソラちゃんがいて、つまり此処は、一部の人間(ミソラちゃんのファン)にとっては、理想郷だった。

 

『なんでって〜超能力で分身してるからに決まってるじゃないですか〜。もうキャルさんったら、変なんですから★』

 

「変なのはあんたでしょうが! というか、なんなのよこの状況! どういうことか説明しなさいよ!」

 

『もー。きゃるん、きゃるん騒がしいですね〜』

 

「そんな奇声、一回も発しとらんわ!!」

 

『色々この『夢』についてみなさんに説明する前に、キャルさんに大人しくしてもらうためにも、先に特別ゲストの紹介と行きましょうか』

 

→特別ゲスト?

 

「はぁ? 特別ゲストォ? そんなのいいから早く説明を──」

 

『──今回のキャ虐担当、特別ゲストの覇道皇帝(カイザーインサイト)さんです★』

 

ついさっきまで、なにも場所に豪奢な玉座が現れる。そしてそこには白き狐の偉そうな獣人が目を閉じたまま、ふんぞり返って居た。

 

「へ? へ、へ、へ、陛下ぁぁぁあああ!!」

 

顔を青くしたキャルちゃんの絶叫が空間に響く。

 

七冠(セブンクラウンズ)覇道皇帝(カイザーインサイト)は、閉じていたゆっくりと瞼をあげ、心底鬱陶しそうな赤い瞳をキャルに向ける。

 

「まったく、きゃるん、きゃるん、何処の馬鹿が騒いでいるのかと思ったら、あなただったのね──キャル」

 

「あ、あの陛下、あたしは、きゃるん、きゃるんなんて口には──ヒッ」

 

ギロリと深紅の眼で、キャルちゃんを一睨みする覇道皇帝。それだけでキャルはビクッと身体を硬直させる。

 

(間違いない。このシッポがビリビリくる圧倒的な威圧感、本物の陛下!)

 

恐ろしい眼光とは相反して、優しい声色で覇道皇帝はキャルに語りかける。

 

「どうしたのキャル? そんな蛇に睨まれた蛙のように固まってしまって。ほら、早く続きを言いなさい? 口には……何かしら?」

 

答えを誤れば『殺される』。獣の直感はやがて悪寒となりキャルちゃんを襲う。

キャルちゃんは、今の自分は何をするべきなのか、猫の獣人として生きてきた全ての時間を思い返し、必死に模索する。

 

生存本能を最大限まで高め、生き残ろうとする生への執着が導いた行動それは、鳴くという行為だった。

しかしそれはにゃあという猫の獣人らしいものではなく──

 

「──き、きゃるん! きゃるん! あ、そ、そういえば、よく考えてたらこれってあたしの口癖でした! 今、思い出しました! 思い出させて下さりありがとうございます陛下!!」

 

奇妙な鳴き声をあげ、早口で感謝を述べるキャルちゃん。

 

「自分のことも忘れてしまうなんて、ホント愚図な子。もう二度と忘れることが無いように、痛みで、躾てあげようかしら? 一時的なものとはいえ、暴力ほど効率のいい指導は無いこと、身をもって知ってるわよねキャル」

 

口の端を吊り上げて、ニヤッと邪悪な笑みを浮かべながら、スっと、黄金の短剣を向ける覇道皇帝だったが……。

 

「………久方ぶりの再開だから、ちょっと(じゃ)れただけよ。だから、この首元の忌まわしい剣を早く下ろしてくれないかしら? 晶のプリンセスナイト」

 

次の瞬間には、あなたによって、首元のスレスレに剣を突きつけられ、身動きできない状態となっていた。

 

→みんなに危害を加えないと約束してください

 

「嫌よ。どうしてあなたの勝手な都合に此方が合わせないといけないわけ。相変わらずの楽観思考。……虫唾が走るわ」

 

→お願いします

 

「何度頼もうが答えを変える気は無いわ。けど、あなたが危惧する事態にはならないと断言しましょう」

『わー。一瞬で見抜くなんて流石ーって感じですねー』

 

覇道皇帝に賛辞の言葉を送るミソラ。

 

→どういうこと?

 

『夢』(ここ)では他人に危害を加えたくても、加えられないようになっているんです★ 危害を加えようとすると強制的に〜寸・止・め♪ させられちゃいます。なんなら試してみますか?』

 

→試してみる。

 

剣を鞘に仕舞ったあなた。そして、覇道皇帝の正面に立つ。

 

「……? 視界に立たられると邪魔なのだけど。退きなさい。……って、なにその指の形……あなたまさか!」

 

あなたは、親指と中指をくっつけて、力を貯める。

そう、覇道皇帝にデコピンで危害を加えることができるか試してみるつもりなのだ!

力をMAXまで貯めて、ズバンっと覇道皇帝のデコを目掛けて、中指を解き放った。

 

凄まじい速度で、覇道皇帝のおでこに迫る中指の爪。回避不可能の一撃。

『覇瞳天星』で中指の動きを追えていた、覇道皇帝の脳裏を過ぎったのは『死』という一文字。

そして、おでこに中指が直撃する直前、ピタッと停止した。

あなたは覇道皇帝のおでこをデコピンするつもりだった。しかし、その意思に反して、寸止めさせられた。

 

『どうですか♪ 攻撃しようとしたのに無理やり寸止めさせられる感覚は★』

 

→したくてもできなくて、なんか変な感じ?

 

『あはっ★ もしかして〜癖になちゃいましたか♥』

「……知能指数の低い会話をしている暇があったら、早くこの鬱陶しい手を退けなさい」

 

冷汗ぐっしょりの覇道皇帝があなたに言う。

話を進めるためにも、あなたは寸止めくらった指を引っ込めて、元いた台の椅子へと戻っていく。

 

 

 

「それじゃあ、キャルさんが大人しくなったところで、みなさんが集められた理由を説明しますね♪」

 

ミソラはバレンタイン戦争についてこの場に居る者に概要とルールを説明した。

 

調理台とキッチンはチームごとに用意されているものを使用する。

材料や調理器具は欲しいと願えば、それが具現化する。

 

「なるほど。つまり、主さまにわたくし達が作ったチョコレートを食べてもらって、その出来と味を評価してもらえばよいのですね」

「そして、三つのチームでその評価点を競う、と」

 

コッコロとシェフィが簡潔にまとめる。

 

「……こんなバカな催しのためにあたし、呼ばれたわけ……。……特別ゲストはあの陛下だし……モウオウチカエリタイ」

「まぁまぁ、キャルちゃん。バレンタイン戦争? 楽しそうじゃないですか☆ ここは、みんなで一緒に彼のために、おいしいチョコレートを作るために頑張りましょうよ!」

「……てか、どうしてあいつのためにあたしが手作りチョコを。……やる気があるあんた達だけで頑張りなさいよ」

 

『ちなみにー。勝者したチームには、後日、騎士さんと夢の中で2人っきりでイチャイチャできるチケットが人数分、授与されます★』

 

「「 「「……」」」」*1 「「「……」」」*2 「……」*3

 

「キャルちゃん! この戦い絶対に負けるわけにはいきません!」

「ま、まぁ? 今回だけよ? 今回だけは、あたしも頑張ろうかしら」

 

──勝つ

 

このバレンタイン戦争で、絶対に勝つ!

ミソラを除いた、恋する乙女たちの気持ちが一致した瞬間であった。

 

 

優勝景品である騎士クン《あなた》との夢イチャイチャチケットを求め、闘志を燃やす乙女たちを、見ていた覇道皇帝は心底くだらないと言った感じでつぶやく。

 

「くだらない茶番だわ。ねぇ、そこのミソラといったかしら? 私を今すぐこの心底くだらない『夢』(ところ)から解放しなさい」

『ダメです★ バレンタイン戦争に招集されたものは、この戦いが終戦するまで何人たりとも『夢』から出すわけにはいきませんー』

「私は参加者でもなければ、審査員でもないのだし、なんら問題はないでしょ?」

『そう言われましても、そういうルールなのでー。 それに♪ 覇道皇帝さんには、キャ虐っていう大事な役目がありますし、バレンタイン戦争が終わるまでは我慢、お願いしますね★』

「……はぁ、こんな茶番に巻き込まれるなんて、ツイてないわ……恨むわよキャル。あなたがこの場にいさえしなければ、私が巻き込まれることもなかったのだから 」

 

ギロリっ。

 

「き、きゃるんっ!?」*4

*1
美食殿

*2
トゥインクルウィッシュ

*3
エリスさま

*4
キャルちゃんの悲鳴





後編へ続く


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アメス「USOでしょ……」

番外編的な……(目逸らし)


【アメス】

 

「USOでしょ……」

 

おっと、驚きのあまり、ウソをローマ字読みをしてしまったわ。

 

と、いうか。

 

「全ステータス及び、全スキルと全魔法の熟練度完ストって、いったい何がどうなってるのよ……」

 

近未来的なベットの上で、健やかに眠っている青い外套を纏った騎士の少年、かつて仲間たちと共に沢山の冒険をしたあたしの相棒、ユウキを眺めながら、独り言を口にする。

 

異変に気づいたのは、ユウキをリダイブさせるための調整を開始して、すぐのことだった。

 

ユウキのステータスの能力数値が何故か軒並みアストルムの限界の値である9999になっていたの!

 

さらに調べてみれば、全スキルと全魔法は習得済みになっているし、熟練度も完ストしていたのよ? わけわかんないわ!

 

ユウキがアストルムでは特別な存在のプリンセスナイトであることを加味しても、こんなステータスになるのは、どう考えてもおかしい。

 

てか、プリンセスナイトって戦闘指揮特化だし、ユウキの場合、プリンセスナイトとしての固有能力が強力だったから、戦闘能力は低くめに設定されていたはずなのに……。

 

……ホント、いったいどうなってるのかしら? 調べてみた感じ、不思議なことにバグ扱いでは無いのよね。ステータスが【不正な改造(チート)】で書き換えられたとしか思えないわ。

 

こんな芸当、今のアストルムじゃ【七冠(セブンクラウンズ)】でも出来ない。

 

もしやれる存在がいるとすればそれは、このアストルムの世界を運営する神(ミネルヴァ様)*1くらいなんじゃ……。

 

つまりこいつの今の完ストステータスは、運営公認の公式チートってこと!?

 

……でもこれなら。今度こそ、今回こそ、行けるかもしれない──何度も繰り返されてきたバットエンドのその先に!

 

自然、リダイブのための作業をする手に力が入る。

 

丁度、その時、ユウキの瞼が半分くらい開いた。

 

「……ここは?」

 

「ごめん。起こしちゃった? 作業に集中したいからまだ寝てていいわよ」

 

「……キミは、誰?」

 

「初対面みたいな反応をされるのは、やっぱりちょっと凹んじゃうわ」

 

何度も繰り返してきた最初のやりとり。

 

……忘れられるっていうのは、何度経験してもやっぱり、寂しいものね。

 

「あたしは、まぁ……アメスとでも名乗っておくわ」

 

アメスになる前の、ガイド妖精だった頃のフィオの名は自分では名乗らないことにしている。

だって、フィオって名乗ったとして、ユウキに知らないって言われたら、とっても悲しいもの。

あたしの相棒だったあの頃のアンタはもういないって痛感しちゃうから……。

 

ムクリとユウキは上半身を起こす。寝てていいって、いったのに。

 

「……アメス……アメス。知らない。……何も思い出せない。僕は、誰?」

 

「ユウキ。それがアンタの名前よ」

 

「ユウキ……僕は、ユウキ。……!! 教えてくれて、ありがとう!」

 

そう言って、ユウキは花が咲いたみたいな笑顔を浮かべた。

 

私は嬉しくて、自分の口元が少し吊り上がるのがわかった。

 

記憶が無くても、アンタのそういう優しくて純粋なところは、変わってない。

 

「ユウキ。あたしは、自己修復が終わるまでは動けない。『現実』には関われない。だからあたしの代理として、あんたには『ガイド役』を派遣しておいたから。詳しい話はそっちに聞いてね」

 

きっとコッコロたんなら、今回も上手く『ガイド役』をこなしてくれるから。

 

「現実? ガイド役? なんの話?」

 

きょとんとした顔で私を見るユウキ。純粋無垢って感じで、可愛いわね。こういうところにユイたちは惹かれるのかしら?

 

まーアタシは、ノリはいいけど、若干ウザいアンタとの掛け合い好きだったからさ。またいつか、いえ、今回こそアンタと『現実』でそんな馬鹿みたいな掛け合いをしたいものね。

 

……あーあ。もうリダイブの時間か。

 

「……ごめん。今回はこの辺でお別れしないといけないみたい。ホントは、もっといっぱいお喋りをしたかったけど。でも、いつまでも『夢』は見ていられないから……」

 

ユウキの周囲から白い光が溢れ出す。

 

暖かなそれでいて優しい光。ユウキはウトウトとし始めて、ベットに横になり、ついに瞼を落とす。

 

「……またね。あんたの人生が、現実が、幸福なものであるよう祈っているわ」

 

 

…。

………。

…………。

 

その日の夜、ユウキの記憶データを見てみたんだけど……。

 

ユイとの出会い。

 

『助けて〜! 大量の魔物が追いかけてくる〜! (爆風) *2きゃあああ!!』

 

「って、魔物と一緒に森の一部が直線上に消し飛んだああああああ!? てか、確かあの周辺ってキャルちゃんが隠れてたわよね!? え、キャルちゃん死んだ? この人でなしいーーー!!」

 

幸運なことにキャルちゃんは生きていた。

 

どうやら消し飛んだ森部分のすぐそばに居て、余波で吹き飛ばされたみたい。

 

『……死ぬかと思ったわ。後、ほんの二三十センチ先にいたら……あたし……! ……あ、あ、アンタ。いったいなんなのよ!馬鹿なの!? 大馬鹿なの!? 化け物なの!? ぶっ殺すわよ!!』

 

病院で目を覚まして、ユウキにブチ切れるキャルちゃん。

 

これは、キャルちゃんの怒りはごもっともだわ。

 

よく良く考えれば今のユウキってかなり危険じゃないかしら?

 

イメージとしては、歩く核の赤ん坊……あ、これうっかりアストルム滅びないわよね?

 

とりあえず、こういう時は、えーと

 

──ウチの相棒(バカ)が馬鹿やってすみません!

*1
エリスを知らない設定

*2
ユウキが剣を振るって魔物もろとも森の一部を消し飛ばした音



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ミソラ「バレンタイン戦争です★」後編

お気に入りが100になったから初投稿です。

……このままだと、エタりそうだったので、急遽、強引に終わらせることにしました。すみませんm(*_ _)m


ending

 

騎士クン(あなた)が目を覚ますと、そこは、ギルドハウスの自室にあるベットの上だった。

 

→変な夢見たなあ……。

 

ミソラちゃん主催のバレンタイン戦争。

 

美食殿、トゥインクルウッシュの面々に、ミソラ&エリスの3チームに分かれ、あなたと夢でイチャイチャできるチケットを賭け、少女たちがチョコレート作り対決をするというなんとも奇っ怪な夢。あと、なんか、覇道皇帝も出てきたし……。

 

ベットから降り、部屋の壁にかかったカレンダーを確認する。

 

2月14日。

 

そう今日はバレンタインなのだ!

 

……だからあんな変な夢をみたのかな?

 

そんな分析をする。

 

……まぁ、夢だったんだし、そんなに深く考えなくてもいいや。

 

あなたは、すっかり日課となった素振りをするために鞘に入った剣を手に、部屋を出た。

 

 

2

 

庭先で、いつものように素振り500回を終えたあなたが、ギルドハウスに戻ると……。

 

「「「「……」」」」

 

美食殿の女性陣四人が、妙な空気を纏って、テーブルを囲っていた。

 

→みんな、おはよ〜。

 

「「「「ッ!」」」」

 

あなたに声をかけられ、ビクッと身体を震わせる女性陣。

 

「あ、おはようございますユウキくん☆」

「お、おはようユウキ」

「おはようございます。主さま」

「おはよう……」

 

ペコリーヌ、キャル、コッコロ、シェフィが取り繕った表情で挨拶を返す。

 

明らかに様子が変だ。

 

→みんなどうしたの? なにかあった?

 

「べ、別にぃ? 何もないわよ? ね、ペコリーヌ、コロ助、シェフィ?」

「はい☆」

「ええ、特に何か問題が起きたなど決してございません!」

「うん。みんなの言う通り。あなたが心配するようなことは何もないわ」

 

→それならいいけど……。僕、シャワーでかいた汗を流して来るね。

 

ギルメンみんなの態度にどこか釈然としないものを感じながらも、あなた シャーワールームへと汗を洗い流しに行った。

 

 

3

 

騎士クンがシャワールームへと行ったのを確認した美食殿の四人の少女たちは、テーブルへと視線を向ける。

 

テーブルの上には、四枚の青いチケットがあった。

 

チケットには『騎士さんと夢の中でラブラブできるミソラチケット★』と書かれている。

 

「まさかあれが、ただの夢じゃなかっただなんて………」

 

シェフィが呟く。

 

ミソラ主催のバレンタイン戦争を制したのは、美食殿だった。

 

「ねぇ、話を戻すけど、結局、これどうするわけ?」

 

と、チケットを指でツンツン突く、キャルちゃん。

 

このチケットを使うのか? 使わないのか? の確認だ。

 

「そんなの決まってるじゃないですか♪」

「結論は最初から出ております」

「そうね。……そういうキャルも、そのチケットをどうするかもう決めてるんでしょ?」

「そ、それは……まぁ……そうだけど……」

 

テレッとした表情で、髪の毛を弄り始めるキャル。

 

美食殿のヒロインたちの心は一致していた。

 

ありがたく使わせてもらいますよ、と。

 

 

4

 

ソルの塔の頂上、コントロールルーム。

 

「……」

 

いつも以上に仏頂面で不機嫌オーラを撒き散らすエリスが、アームチェアの肘掛に肘を置いて、頬杖をついている。

 

「ご機嫌斜めって感じですねーエリスさま★」

「……誰のせいだと思っているの? ──ミソラ」

 

ミソラは、にっこりと薄っぺらい笑みを貼り付けたまま、自分の顎元に指先を当てる。

 

「えーわたし、何かやっちゃいましたかー?」

「……チケットの件、わたしは、聞かされていなかった」

「優勝景品を用意するってちゃーんと最初に説明しましたよ?」

「景品が何かまでは、こっちが聞いても、はぐらかすばかりで、開示しなかった……」

「それは、ほら、全部、最初からネタバレしちゃったらつまらないじゃないですか」

 

「……はぁ」とエリスは重いため息をつく。

 

「……あなたは、わたしの恋のキューピット役じゃなかったの?」

「わたしは、そのつもりですよー。じゃなきゃ、騎士さんに直接チョコレートを手渡しにいけないエリスさまのために、あーんな夢の舞台を作ろと思いませんって」

 

バレンタイン戦争は、ミソラが用意したエリスのための舞台だった。

 

 

事の発端は、2月になったばかりの頃にエリスが突然、ミソラに言い放った一言。

 

「チョコレートが作りたい」

 

ミソラはまた、エリスさまが頭ちぇるったことを言い出したぞ……と思いながらも事情を聞いた。

要約すると、バレンタインチョコレートを作って、騎士クンに手渡して、それを目の前で食べてもらいたいそうな……。

しかし、エリスさまは特定の条件*1が揃わない限り、アストルムの表に顕現することができない。

だから、ミソラ! 超能力でも何でもいいから何とかして! との事だった。

 

(テレポーテーションで騎士さんをここまで連れて来れば、エリスさまの願いは簡単に叶いますけど、それじゃあ面白くないですしねー。んー、あ、そうだ♪)

 

「わかりましたエリスさま★ そ、れ、な、ら♪ エリスさまが騎士さんに、チョコレートを手渡して食べてもらえるよう夢の舞台を超能力でぱぱっと作ってあげますね。ただ、それにあたって、一つ条件があるんですけどー……」

 

その条件というのが、バレンタイン戦争の開催である。

 

エリスとしては騎士クンと二人でバレンタインデーにふさわしい甘い日を送りたかったが、そうしないとミソラは夢の舞台を作ってくれないと言うので、条件を飲むしかなかったのである!

 

そして、現在。

 

「あなたが本当にわたしの恋のキューピットというのなら、騎士クンに群がる他の女たちをつれて来る必要はなかったはず……」

「いーえ、恋のキューピットだからこそですよ」

「……どういうこと?」

「あの場には、数多いるヒロインの中でも、騎士さんと親密な女の子たちを集めました。そんな彼女たちとのバレンタインチョコレート作り勝負に正々堂々エリスさまが勝ったなら? それはもう実質、エリスさまがヒロインの頂点! 騎士さんのヒロイン・オブ・ザイ・ヤー間違い無し!」

 

「ッ!」ハッとした表情をするエリス。

 

「って、良かれと思ってやった事だったんですけどー。残念ながら、エリスさま負けちゃいましたからねー」

「……」

 

シュンとするエリス。

 

「敗因はやっぱり、パイロキネシスで溶かしたチョコを念動力で象った等身大騎士さんチョコレートが精巧すぎたことでしょうか? ほら、人間に寄せられすぎて作られたロボットに対して嫌悪感を抱く現象、確か、不気味の谷現象でしたけ?」

 

因みに等身大騎士クンチョコレートの設計者はエリスだった。

 

「……ミソラがわたしの事を思って、あの舞台を用意してくれたということは十分に理解した」

「それなら良かったです★」

 

ミソラは思った。

 

(まー実際のところは、エリスさまが簡単にハッピーになっちゃうのは面白くないから、なんですけどね★)

 

ミソラは不幸で可哀想なエリスのことが大好きだ。

ミソラは、自分よりも不幸で可哀想な存在であるエリスに、内心、優越している。

だからこそ、ミソラは、エリスが不幸で可哀想でいる間は、可能な限り、味方で居続けるつもりだった。

 

(でーも、恋のキューピットとしては、エリスさまと騎士さんがくっつのを応援してますよ……。エリスさまと騎士さん理想郷が作られるその時が、世界の終わり、わたしが終わる時ですから★)

*1
今回の場合、世界が冒険できなくなるくらい壊れる事を指す






本話まで、読了ありがとうございました!
突然ですが、これにて、本二次創作は、連載終了ということにします。
元々、二次短編読み切りのつもりでしたためたものですからね。
ここまで続いたのは読者の皆さんが、お気に入り登録してくれたり、感想くれたり、そして、評価をくれたり、誤字脱字を報告してくれたお陰です。

最後にもう一度、ありがとうございました!


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