訳ありはどこにでもいる。簡単な話。 (諸喰梟夜)
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入学編
1:【幻】有り体に言えばスペアなんだっけ


(ハーメルンには)初投稿です。
2095/04/03、入学式前



【幻】

 

 "魔法"。―――それが伝説や御伽話の産物などではなく現実の技術になったのはいつの事だったか………あ~~~いいや面倒くさい。なんでわざわざ俺が説明してんだ、仮にも科学の申し子なら知ってんだろ便利な方法。検索しろ検索。

 そんな献策はさておくとして………昔のことなんか知ったことか。起きたことは起きたこと、遠い過去の事なんか考えても面白くもなんともない。どうせ好き放題書き換えられるわけでもないわけで。

 あー…まあ最低限魔法だけでも説明しておくとしよう。魔法とは事象の定義を書き換える技術、ざっくり言ってしまうなら「"世界"を変える技術」といったところか。元は超能力と呼ばれていたものが、研究過程の中で体系化されたものだとさ。まあそれでも全部が分類されてるわけではないようだけど。例外はどこにでもある。簡単な話。ま、今はどうでもいいか。

 

「早すぎたんちゃうか」

「早すぎたねえ」

 いやはや早めに出たことを差し置いても到着が早すぎた。どうやらうっかり古い地図を参考にしてしまったと思われる。そんなことある?と思った奴もいるかもしれない、けど残念ながら「あるからなっている」としか言えない。

 地図は並べて推移を見るのが楽しくて古いものも保管してるけど、それでたまにこういうことをやらかしている。これだけ科学技術が発達した現代でも、俺が使うのは紙の地図。やっぱ触れられる形がある方が落ち着くんでね。

 …初っ端から話が脱線してしまったけど、ここは第一高校…正式名称は国立魔法大学付属第一高等学校。…付属?附属?どっちでもいいな?OK。名前からお察しの通り、先に述べた魔法について学ぶ学校だ。んで、本日4月3日(日)はここ第一高校の入学式。

 …なんだけど現在まだ式が始まる二時間前、というね。

 

「これから通うんだし、こうして建物の案内図を見て覚えとこうと思ったんだけど…ここまで余裕があると敷地内一周できちまいますなあ」

「敷地内一周どころで済むんかね」

「そりゃもうアレよ」

「わからんわどれやねん」

 

 …あ、そうそう自己紹介が遅れた。まあ手短に。俺は高塔(タカトウ)幻人(ゲント)。今年から第一高校に入学する。新入生というやつだね。前髪が長くてよく"見えてる?"って心配されるけどちゃんと見えてる。心配ご無用。メカクレの魅力を語るのはまた気が向いたときにしよう。んで今隣であきれ顔でため息をついているぼさぼさ頭がヨースケ…月田(ツキダ)庸介(ヨウスケ)だ。中学二年以来の親友である。関西ノリがとても楽しい。

「今関西ノリ楽しいとか思っとるやろ」

「ご明察~。さすが古式魔法師」

「関係あるかい。結界術にどこまで期待しとんねん」

 半目でぶすっとした表情に見えるけどヨースケはこれが通常モードだ。無愛想なのは顔だけ…あごめんて睨まんで。そのまま雑談を交わしながら歩き、講堂が見えてきた。…おや、誰かいる。

 

納得できません!なぜお兄様が補欠なのですか!?

 そんな声が響き渡った。青年と少女が向かい合っている。青年は見たところ結構背が高いしガタイもいいようだ。そんな青年の顔を見上げる形の少女の方は横顔だけでも非常に整った顔立ちであることがわかる。距離があるのでこちらは気づかれてはいない様子。

 

「修羅場だな?」

「ツッコミ追い付かんからやめろや、お兄様言うとったやろ」

 それはそう。お兄様と呼ばれた青年は、不満を隠そうともしない少女をなだめているようだ。まあ俺達には直接関係はないな。身内の話。万が一面白そうだと思っても首を突っ込むことじゃあない。イカれてる自覚はあるけどさすがにその辺の節度は持ってるつもり、むしろこういうのは巻き込まれる前に離れるに限る。というわけでふいっと背を向けて離れることにした。

 

「補欠ねえ…」

 ふいとヨースケを見る。第一高校の制服はとにかく白い。清廉なイメージがあっていいとは思うが汚れが際立つ…いや、むしろ分かりやすいからいいのか…(しかし俺は清廉とはほど遠いのでわざと汚しておくのも一手かもしれない)。さてそんな中、俺の制服にはある花みたいなマーク…エンブレムと言ったか…がヨースケの制服にはない。

 第一高校には二科制度があり、どちらになるかは主に現代魔法の腕前で決まるらしい。実力主義とはいえ、なんとも勝手な話…と思わんでもない。

 

「二科生って有り体に言えばスペアなんだっけ~?そっちの方が楽そ」

「楽とかそういう問題やないと思うけどな…」

「だって一科生は主力じゃん~。向上心もへったくれもないのに勝手に期待寄せられるの嫌だよ?俺」

「…ほんまブレんよなぁ幻人」

「それほどでも~?」

「誉めてはないねん」

 

 

 ❁ ❁ ❁ ❁ ❁

 

 

 そのまま敷地を一周したころにはけっこう人が増えてきた。まあそれでもまだ開場には早いけど。そして、周囲の視線と影口が耳につくようになってきた。

 

「アッハハ、ねえ今聞こえた?一科生と二科生が並んで歩いてるなんておかしい~だってさ」

「勝手に言わせとけばええやろ、すごい顔して振り返ったぞさっきの」

「やーごめんごめん、他人の知ったような口は面白いなあって」

「めっちゃ油注ぐやんええ加減に」

「あ、おーいマモ~!」

 叫んで手を振ると、相手もこちらを見て笑顔で振り返してきた。名前は深瀬(フカセ)(マモル)、髪の色が薄い以外述べようがない見た目こそ地味だが親友の一人であり、俺にとっては恩人でも―――いや、堅苦しい話は別にいらんか。いっけな~い蛇足蛇足。

 

「っと、ほたるんとシキは?」

「後ろにいるよ」

 いつもの笑顔でそう言われたので体を伸ばしてマモの背後を見…ようとしたところで、いつも通り目付きの悪い赤みがかったポニーテールの少女、宍倉(シシクラ)(ホタル)がマモを押しのけて出てきた。まもるはたおれた!

 

「ほたるんつよーい」

「衛が弱いのよ衛が。あとその呼び方やめなさいっつってんでしょうが」

「えーなんでよカワイイでしょ、ほたるん」

「カワイイ担当じゃないわよあたしは。そういうのはよーすけでしょう」

「は?いやなんで俺やねん、せめて後ろのそいつのほうやろ」

「友人をそいつとは聞き捨てならんな~?」

 しれっとヨースケを巻き込んだほたるん(かわいい)の後ろからにこにこ笑顔で顔を出したのは黒髪で尼削ぎの古御堂(コミドウ)(シキ)。…で、尼削ぎってなんだ?…本人が言ってただけで俺髪型とかよく知らん。識はまあこの名前、呼び方に悩むのはわかるけどねーと言いながら、ほたるん(つよい)の隣でorzになっているマモ(よわい)の腕を引っ張りあげている。さしもの俺も不安だよ?マモのその体力。

 マモがようやっと(小鹿のように足を震わせながら)立ち上がったところで、あ、と識が小さく手をあげた。

「ところで、そろそろ開場みたいだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 





☆ざっくり紹介

・高塔幻人
一般家庭()発、人からどう思われるかとか気にしない系自由人

・月田庸介
古式家庭出身、ツッコミ担当関西弁

・深瀬衛
現代魔法家庭、外見は目立たない。体力が底辺

・宍倉螢
無愛想で気が強い。地味に攻撃的

・古御堂識
古式家庭出身()、おどけたような言い回しが目立つ。語り手になりやすいかも


・司波兄妹
原作と同じ(はず)。見かけられただけ


 ❁ ❁ ❁ ❁ ❁


書きたくなったものは仕方ないと書き始めたけども、治癒魔法強者なモブに傍観させる程度の予定だったけどキャラ作ってるうちにその程度じゃ済まなくなって現在に至る…という経緯持ちでした
こんな感じですが、よろしく(お手柔らかに)お願いします。



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2:【識】ちょっと悲観的にならざるを得ないけど

とりあえずここまでは上げておく
サブタイは比較的適当に抜粋してます

2095年4月3日、入学式


 

【識】

 

 会場には椅子が並んでいる…けどなんと言うか、とても分かりやすい感じになっていた。

 

「これ一科と二科で座るところ変えるやつなん?めんど…」

「いや、自然になってるだけだと思うよ?」

「かたや遠慮でかたや優越感、といったところかね…よし、ここはひとつ」

「待ちなさい、悪い予感が」

「おん?至って平和そのものだが^^」

 いや、幻人君の「ここはひとつ」には悪い予感がする。そういうものだ、螢に共感。まあ私は乗り気だけどな!

 幻人君は列を数えて、よっこらせ、と席についた。左右で言えば端っことはいえ前後で言えばど真ん中、後半の最前列の右端。自然と後ろの皆様の視線を集める形になるけど、幻人君はそんなこと気にしないわけで。

 

「…?どした?」

「いや、なんか思ったよりは確かに平和だなって」

「そんなこともありますよ^^」

「それ自分で言うんか…」

 ツッコミを入れる庸介君を横目に私は幻人君の前に着席。呆れ顔をしながらも螢と衛君が私の横に並び、庸介君が幻人くんの隣に座った。わっはっは、これでみんな共犯だ。

 

ま、あとはおとなしく式が始まるのを待つだけなのでね。

 

 

 ❁ ❁ ❁ ❁ ❁

 

 

「攻めてたねえ総代さん」

 入学式はつつがなく()終わり、窓口でIDカードを受け取ってまた合流。合流するなり幻人君がケラケラと笑いながら言った。ちなみに私と螢はB組、幻人君と衛君はD組、庸介君はG組だった。幻人君が言っているのは新入生総代…司波(しば)()(ゆき)さんといったか。彼女のスピーチのことだ。

 "等しく"、"一丸となって"、"魔法以外にも"。…うん、外でいろいろひそひそ言うのを聞いたのも記憶に新しいこちらからしてはかなりきわどかった。首席合格した新入生総代である彼女だからこそできることだよね、あれは。

 ………まあ、見目麗しさに心奪われてる向きがけっこう多かったようなので、届いてほしいところに届いたかと言われれば…ちょっと悲観的にならざるを得ない、けど。うん。

 

「言うなれば社会問題みたいなやつだろうからね。生徒会は差別解消に意欲的らしいし、総代さんは一石を投じる期待の新人、といったところになるのかな」

「まあ誰しも僕みたいに好き勝手言わせときゃええ、とはならんしなぁ」

 男子二人は賛同の構え。私も同じ…というかそもそも反対する理由が特にない。本日入学の身だぞこちとら。

 ところで庸介君、IDカードの扱いが雑。さっきから何回落としてんの。コイントスはコインでやろうね?

 

 螢は「興味ない」と一蹴した上で話題を変えた。つよい。

「ところで、このあとはどうするの?ホームルームは全員参加じゃないでしょう?」

 そうそう。螢が言う通り、今日やらなければいけないことは全部済んでしまった。ホームルームも強制参加ではないのだ。

 クラス内の親睦がどうのこうの言っても、私たち五人はもうクラスを越えた親睦を持ってるわけで……まあ要するに「別によくない?」となってしまうわけで。

 

「僕は一応顔出しとこうとは思うんやけど皆は…お察しか」

「そだねぇ~わざわざ初日から二人一組になってプライド(笑)高い皆様の中に突っ込んでいくのはちょっと」

 まあ幻人君は行かないだろうとは思った。衛君も神妙な顔で頷いているから同じようだ。…幻人君の中で早くも同級生への不信感が火花を散らしている。確かに周囲からそういう声がしていることには気づいてるけども……ちょっと不安よ。

 

「んー…私もホームルームには出ようかと思うんだけど。螢は?」

「あたしも遠慮しておくわ」

「そっか~」

 螢と幻人君、衛君はこのまま帰るというのでそこで別れた。心配そうにする螢には、あんまりうざいやつが来たら蹴り倒すから!と言っておいた。横で庸介君がすごい顔で見てきたけど。

 




・古御堂識
アクティブ

・高塔幻人
たぶん認識を改めるのは早い、気分屋なので

・深瀬衛
兄姉が卒業生/現役生なのである程度内情を知ってる

・月田庸介
この中では彼だけ二科生になった。一人称が僕

・宍倉螢
つよい

 ❁ ❁ ❁ ❁ ❁

4月3日はひとまずここまで、翌日に移ります
しかし私のことなのでここを忘れてまた書きために没頭するかもしれない…


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3:【識】毎度思うけど強すぎでは?

二日目、2095/04/04、昼休みまで


【識】

 

 翌日、早めに教室に来て自席を見つけ、さっそく端末を起動して規則等を読み込み、受講登録だけ済ませておいた。

 

「っし、これで終わりーっと」

「わ、早いね…」

「おわっふ、びっくりした、いつの間に」

「いや、今来たところだよ。来るのもだいぶ早いよね」

 そう言いながら後ろの席についたこの子は(さくら)(こう)()(あか)()。昨日のホームルームでできた友人その一。

 そこへ、えいやーっ!とか言いながら赤髪の少女が紅葉に抱きついた。まあ元気……この子が友人その二、(あけ)()(えい)()。イギリス人とのクォーターで本名はもっと長い。エイミィって呼んで!とご希望なので沿うことにしている。

 ちなみにエイミィは小柄なので、女子の中では長身な私との身長差がやばい。今は私が座ってるから気にならないけどな。

 二人して空々しい笑い声を交わしているのを見たときは何してんだ…と思ったけど、結果的にはいい友達ができてよかったと思う。

 

「わ、シキはっや…もう受講登録までやったの?」

「やっぱり時間に余裕があるに越したことはない、って私は思うんだよ」

「なるほど…」

「私たちはまだ入学したばっかり、早いうちに多く知っておくのは悪いことじゃないっしょ?」

 そうだねぇ、と言いつつ紅葉もポケットからIDカードを取り出したので、「それじゃ、またあとで!」とエイミィは自席へ戻っていった。けどすぐ他の生徒に囲まれている。しゅごいにんきもの…確かにあの人柄に心引かれるものがあるのはわかる。にしてもちょっと大変そうだ。

 

「さーてっと私も絡みに行くか~」

 隣の列の一番前。そこが螢の席だ。見ると螢も受講登録を行っている。

「ほたるんほたるーん♪」

「あんたもか貴様」

「二人称ぶれてるのウケるんだけど」

「ウケるのは試験と感銘ぐらいにしなさい…。で、何?」

「大したことじゃないっちゃ大したことじゃないけど、お昼一緒に食べようってさ」

「ええ、いいわよそれくらい…というか元からそのつもりだったし」

「わーい」

 ハイタッチをスルーされたところで予鈴が鳴った。

 

 

 

 ❁ ❁ ❁ ❁ ❁

 

 

 

 オリエンテーションはすぐに終わり、専門授業の見学も済ませ(わあっと言う声の上がる方にはだいたい総代さんの姿があったね。さす総)、昼休憩のため解散!となったところで、エイミィと行動を共にしていたらしい紅葉が声をかけてきた。

「識、お昼一緒にどう?」

「あーごめんね、先約があるんだよ」

「そっかー…!それ、あたしたちも相席していい?」

 おや?断ったはずなんだけどエイミィはもう一歩近寄ってきた。ぐいぐい来るね…そんなにご一緒したいかい?ここが幻人君なら「なんの意味がw」とかってばっさり切り捨てそうだよ。

 まあ私はやらないけど。そもそも断る理由ないからさ。ただちょっと懸念事項はひとつ。

 

「んー…まあいいけど…その、確認だけど一科生とか二科生とか気にしますかい?」

「まあ…特には」

「ね」

「…ならいいよ」

 結局押し切られる形になった。螢を呼んで、エイミィと紅葉もついてくる旨を伝えると「識がいいならいいでしょ」とのこと。うーんストイックというかいいかげんというか。いいかげんはむしろ私だと思ってるけどなぁ。

 

 

 

 ❁ ❁ ❁ ❁ ❁

 

 

 

 でさ、まさか食堂でウザ絡みされるとは思わなかったよね。うん。

 

 食堂のテーブル席に集まったのは8人。いつものメンツである私、螢、幻人君、衛君、庸介君に、私についてきた紅葉とエイミィ、それと庸介君もクラスメイトを一人連れてきていた。北蒼朔(きたそうさく)君という小柄な男子…いやほんと小柄。中一と言われてもうなずけるぞ。

 …なのだが、問題は無駄に目敏いのが近くの席にいたことだった。ここはあくまで食事の場なんだけどなぁ…なるほどなるほど、わざわざ席を立って絡みに来るあたりよっぽど暇なんだとお見受けした。

 

「ちょっんぐ!?」

「気にしないで~こっちの問題だから、紅葉もね」

 隣でエイミィが何か言いかけたけどすぐさま口を塞いで、その向こうで心配そうにしている紅葉にも釘を刺しておいた。二人は今日たまたま居合わせただけなのだから関係ない。正直むしろ参戦された方がややこしい。

 入りたくなる気持ちはわかるけどさ?今目の前ではウザ絡みしてきた一科生君(ここは敬意()を込めてMr.選民思想君と呼ばせていただこう☆)と幻人君がおしゃべり()している。こういうときはやっぱり妙に弁が立つ彼だ。幻人君が相手し出してからほたるんはまったく意に介さなくなった。毎度思うけど強すぎでは?

 

 G組の二人は…庸介君は、隣のそーさく君を気遣いつつ平然と食事を続けていた。やっぱりか。庸介君はこういうの本当に気にしない。自分の家の古式魔法に誇りがあるから、現代魔法の出来はちっとも気にしてないんだよね。真面目だから勉強はしてるけど、で?という感じ。同じ古式魔法の家出身としては古式魔法師の鑑だと思う。

 しかし北君のほうはそういうわけではなく、まだ現代魔法界隈に足を踏み入れたばかりの一般家庭なのだという。…ほら~北君がみるみるうちに暗く沈んでくでしょうが。何?「一科生としての誇りはないのか」って?

「人としての成長には邪魔でしかないでしょう?」

「持つのはいいけど、オフにまで持ち込むのはナンセンスだよね」

「僕はそもそも誇れるような成績じゃないからさ」

「家の掃除機に吸わせちまったかなあ」

 …上から順に螢、私、衛君、幻人君である。衛君は何かあったようで卑屈に磨きがかかっている。そんで幻人君は字が違うな?はは、私もちょうどその同音異義は皮肉が効いてるなと思ってたところだよ。

 向こう(Mr.選民思想君)は数秒ほどポカンとしていたが、はたと我に返ると「ふざけるな!!」と怒鳴ってきた。いやぁいい顔だった。…エイミィ笑い声漏れてる、もうちょっと抑えて。

 

「ふざけてんのは君でしょーが。残念だけど、意気揚々と火種投げこんだところでここにそれが燃え上がる環境は整ってないんだわ。無駄に目敏いと思ったけど、ふたを開けてみればその程度だったね☆」

 あ、語尾に星がついた気がする。そろそろ鎮火した方がいいかな?*1と思ったところに、おいそこ!!と鋭い声が飛んできて肩が跳ねた。相手が舌打ちひとつ残してそそくさと去っていったので、そちらを見ると風紀委員の腕章をつけた人物…

「あ、姉さん」

「「「「えっ」」」」

 衛君の発言に、B組二人&G組二人で声が重なった。

 

 

「へぇ~お姉さんが風紀委員」

「うん、そうなんだ」

 衛君はエイミィの言葉にうなずいた。彼と同じ色のおさげ髪が印象的なこの風紀委員、名前は深瀬(かなで)さんといって、衛君のお姉さん。現在ひとつ上の新2年生。本人は幻人君に話しかけている。

「一科と二科でいざこざが絶えないとはいえ幻人君?きみ思いっきり喧嘩売ってたね?」

「いやーどうせなら向こうから昼休憩の時間ごっそり奪ってやろうと」

「…ね、あの二人距離近くない?」

 さっきの"おいそこ!!"と同一人物とは思えないな~と眺めていると横からエイミィがこっそりと尋ねてきた。目を向けている場所は同じ。ついでに紅葉も顔を寄せてきている。

 

「あ~…幻人君はちょっと、いろいろあって深瀬家に居候してたことがあるから。あそことは衛君だけじゃなくて家族ぐるみで仲がいいんだって」

「…なんだか複雑な事情があるのね」

「そうだね~複雑。少なくとも私が説明できる域は越えてる」

 

 そんなこんなで私たちは昼食を済ませた。そういえば遠くの方で何か騒いでたようだけど私たちは知らない。見てないし聴いてないしなんといっても関係ないし。北君も調子を取り戻したようでよかったよかった。

 

 

 

 

 

 

*1
敬意()を込めた辺りの自分のことは棚に上げた




・識
蹴り倒すほどヤバイやつには出くわさなかった。友達が二人できた
ちなみにエイミィのように"サクラ"と呼ばないのは、実の姉が"古御堂桜"のため。しかし現時点では登場予定がない

・紅葉・エイミィ
というわけで、はじめに関わる原作キャラはこちらのB組メンツとなりました

・幻人
何やらおしゃべり()慣れしてる怖いもの知らず(複雑な事情持ち)

・螢
つよい

・庸介
識の言う通り、家の古式魔法ができてる(実際かなりの腕前)から現代魔法の評価は気にしてない

・衛
地味さが発揮される回であった。()
入試成績、一科生最下位であったことをどこからか知っている

・北蒼朔
入力に手間取る名前はさておき、小柄で寡黙な読書家

・深瀬奏
深瀬家長女(上にまだ兄が二人いる)。風紀委員の枠を一人分拡大して投入した
おこるとこわい


・著者
脚注機能使えてテンション上がった

・誇りを掃除機に吸わせた
実のところ今回はこれを出すための流れと言ってもよかった()


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4:【識】いい笑顔してんじゃないよ +α

書きためは現在入学編をどう締めようか悩み中

2095/04/04、放課後のあれ、+α


【識】

 

 …国立魔法大学付属第一高校、こんなに穏やかじゃないもんなんだなぁ…と、正門の前の人だかりを見ながら私はすっかり感心してしまった。や、褒められたもんじゃないが。

 

 遡ること数分前。私はエイミィや紅葉とは教室で別れ、螢と連れだって校舎を出た。昨日はホームルーム前の時点で解散してしまったので、今日はいつものメンバーで帰ろうと思い立って。

 少し待っていると男子勢三人がそろってやってきた。北君も来るのかな?と思ったけど、彼は図書館に用があったらしい。それで五人肩を並べて歩いていると、前方に人混みを見つけ、言い争う声が聞こえてきて、思わず誰からともなく立ち止まった。そして今に至る。

 

「わぁ~修羅場~^^」

「笑顔で言うことちゃうぞ幻人ぉ」

 笑顔の幻人君と、白目の庸介君。螢は私の隣で「正門前で何を…」とつぶやきつつ騒ぎを半目で見つめている。全く同意件、右に同じ。…いや左か。そして衛君は興味なさげに端末に目を落としていた。地味にすごいな君。

 どうやら一科生と二科生のいざこざであるらしい。ほんと正門前で何してるんだい…よく見るとあれ総代司波さんじゃないか……どれどれ…何?「お兄さんと一緒に帰る」?

 

「どっすか?耳がいい人」

「認識がひどくないかい幻人君、まあその通りだからいいけど……総代さんは二科の面々と帰りたいけど、一科生がそれを許さないってさ」

「ほーん…ま、首突っ込んでも面白くなさそうだし、とりあえず横通れそうか見に行くわ」

「面白そうなら突っ込んだのね」

「ご名答~」

 歩き出した幻人君からの軽い返答に、ご名答じゃないわよ…と螢は眉間を押さえている。とりあえず幻人君は横を素通りしていくことにしたようだ。

 それにしてもこっそり順風耳(仮)*1使ってたけどやっぱりばれたか。

 

「幻人君の面白そうのラインいまいちわかんないんだけど私」

「ただの喧嘩に興味はございません以上!」

「あ、そ」

 なんかいつにもましてテンション高いな…と思ったそんな折、

あなたたちブルームが今の時点で一体どれだけ優れているというんですかっ!?

 前の集団からそんな女の子の声がした。なんか雑音の少ないタイミングだったのでよく響き渡った。

「ブドウの実に付着している白い粉は水分などが抜けるのを防いでくれるそうですが…」

「ツッコミに困るボケええ加減やめーや」

 幻人君?それたぶん伝わる人が少ないやつ。現に今私がわからない。螢も見るからにわかってない。衛君は…たぶんわかってると思うな。

 というか、差別語として横行しちまってるやつをネタにする精神……と思ったところで、何か固いものがぶつかり合う音が聞こえた。よく聞いてなかったけどさっきの言葉で一科生の誰かが激昂したか。幻人君もさすがに足を止めたが、

 

「修羅場が活性化してきたか…^^」

「めちゃくちゃいい笑顔してんじゃないよ…?」

 割とガチで引いた。おいおい、見る人が見たら何を言われるかわかったもんじゃないぞ……まあ今はみんなの視線があのいざこざに集まってるし、それに何か言われたとしても幻人君だしなぁ……そんなことを考える私をよそに、正門前の集団はそこから一気に騒がしくなった。

 

「ほんとに活性化したわ」

「…これでもただの喧嘩?」

「おうとも」

「そう…」

「へぇ…こんな部活あるんだ」

「衛お前無敵か…?」

 そんな目の前の騒ぎはしかし、「全員そこを動かないで!」という声により一瞬で水を打ったように静かになった。私たちもちゃんと固まっ…いや衛君(いまはつよい)にぶつかられた。

 生徒会長と風紀委員長のお出ましのようだ。そりゃまあこんな騒ぎになったら来るんじゃないかとは思ったよ、これはいよいよ大騒ぎになるかな…と、私は端末に没頭してる衛君の肩を引っつかんで止めながら思った。…んだけど、

 

「すみません、悪ふざけが過ぎました」

と、誰か男子が場を納めていた。そしてそのまま特におとがめなしで済んだようだ。

 人だかりでよく見えなくてほとんど音声だから詳しいところはわからないけども、あれをここまで鎮静化する腕前には素直に感服した。シバタツヤ…ね。一応覚えとくか。E組ならたぶん会うこともないだろうけどさ。

 

 人だかりは思ったよりあっという間にぞろぞろと散っていった。

「やっと正門開いたなぁ」

「…ん?ああ終わった?」

「「衛(君/は)無敵なの?」」

 さっき庸介君も言ってたツッコミが私と螢の口から飛び出して、幻人君が声をあげて笑った。

 

 

 

【 】

 

「うーん…?」

「どうした?真由美、新入生のデータベースとにらめっこして」

「摩利…いやね、どうも百山校長が気にかけてる生徒がD組にいる、って先生方の間で噂になってるみたいなのよ。それが気になってね」

「校長?……となると、彼じゃないか?深瀬衛。深瀬の家とは縁が深いだろう」

「私もそう思ったわよ。たしかに深瀬は百山校長と付き合いの深い家、けれど彼は一科生の中で最下位の成績だった生徒、ではあるんだけれど…どうも違うみたい」

「違うのか?」

「というか、深瀬の子ならもう風紀委員に一人いるじゃない、去年はこんなことなかったと思うけれど?」

「あぁ…そうだった。弟が入学したって言ってたな。じゃあ誰なんだ?」

「わからない…。校長本人もとくに何も言わないし…でも、気にかけられるほどの何かがあるのは確かよねぇ」

「それはまず間違いない、と思うが…」

「あ、姐御」ベシッ!!「…痛いです委員長」

「噂をすれば影だが姐御はやめろ奏」

「すみませんつい…一科と二科でいざこざがありまして。こちら報告書です」

「ああわかった…早速ちらほら出ているな…」

「そうですね、今回は弟の友人がすみません」

「知ってるヤツなのか…」

「はい…ところで噂をすれば、とは?」

「いや実はねぇ、校長が気にかけてる生徒が1年D組にいるって噂があって」

「おい真由美、」

「そうなんですか………もしかして幻人君では?」

「げん……あぁ、高塔幻人…こいつか?確かに入学早々トラブルメーカーになっているが」

「諸事情あってしばらくうちに居候してたんです。校長とも面識はあるはずです」

「あ、さっき弟の友人って言ってたわね………その諸事情って、聞いちゃっても大丈夫かしら?」

「踏み込みますね会長…残念ながら。私もそこまで詳しくは聞いてませんし、あまり気持ちの良い話でもないので。すみません」

「そう…わかった。けどがぜん興味が湧いてきたわね。どんな子なの?」

「私から見ても本当にただただ無邪気なトラブルメーカーですけど…どうしてもどこかに入れたいというなら保健委員でしょう。治癒魔法の腕があるので」

「…一年で、すでに"()()()()"なのか?」

「はい、適性が高いみたいです」

「面白いじゃない…!今年の一年は本当に期待できそうね!」

「ああ、そうだな…」

 

 

 

 

 

 

*1
私のは先天性スキルだし、一般に認知されてるやつとはなんだか違うらしい




・識
地味に行動力の塊。幻人とはとても仲良し
先天性(の割にややこしい)スキル登場。視覚に依存する点で順風耳とは異なるが、まさかの正式名称をつけていない適当っぷり。いくらCAD無しで行けるからって軽率に使うな

・幻人
面白そうなら首を突っ込む…が、本人のフィーリング次第。かなりノリで生きてる。人にどう思われるかとか知らんし
そんな人柄でありながら治癒魔法強者であることが判明した
入学早々トラブルメーカーになるのはやめようね

・庸介・螢
ツッコミに回る二人
しかし後者、実はひそかに強行突破も考えてたりした

・衛
こんかいはこっちがつよい

・達也
名前は覚えられた
識の魔法は認識したが本人を見てない

・[深瀬]
百家支流。いくつかの古式の家と連携し、主に百家の間で人材派遣のような役回りをしているため、そのあたりでは名前が通っている。十師族では十文字家としか積極的に関わってない。

・校長
正確には関心を寄せている程度。

・生徒会
「(面白そうね!)」
「(大変そうだな…これから)」


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5.【識】わくわくしちゃうあたり私も私

下書き、入学編は終わってるけど投稿ペースは気が向いたときになると思います
@幕間と称してオリジナル編を作る高難易度ミッション中


【識】

 

「ほたるちゃんおはよ~」

 

 皆様、速報です。

 

「おはよう、コノハ」

「部活決めた~?私まだ悩んでるんだけど~」

「私も悩んでるところね…」

 

 螢に友達ができています。しかも私も知らないうちに。あのストイック一匹狼ちゃんなほたるん(つよい)に。

 螢はいつも目力が強くて、あと物言いにしょっちゅうトゲが混入してしまうこともあって、いつも勝手に怖がられて周囲から距離を置かれていました。私と幻人君が突っ込んでいったことをきっかけに、「いつもの五人」とくくられるほど私たちとは仲良くしていますが、結局このクラスでも距離を置かれている感じはありました。

 しかしなんということでしょう。今現在、席に着いている螢は、自身の机に正面からだらしなく寄りかかっている私としてははじめましてな女子とたわいもないおしゃべりを繰り広げているではありませんか!

 

「識…?」

 あ、呼ばれてた。自分の頬をぴしゃりと叩き、二人のもとに向かうと怪訝な顔をされた。

 

「フリーズしてたけどどうしたのよ?」

「いや…識に私たち以外の友達ができたんだなあとしみじみ」

「これくらいのことでしんみりしないでよ!?」

「あれ…ごめ~ん、なんかまずかった?」

「いやまずくない、まずくないよ全然むしろ私は感動してる。あ、私はk

「古御堂識ちゃん、でしょ~?」

 名乗ろうとしたら当てられて、スンッとらしくもない真顔になった。向かって左前髪の編み込みが特徴的なお相手は「わたし顔と名前覚えるの得意だから~」と自慢げな顔をしている。先程からと同様眠たげな顔でもあるが。矛盾して……はないな。

 ということは自己紹介の時に覚えたのか。マジ?自分で言うのもなんだけど私地味だぞ?…いや名前は印象的なのか?*1

螢の机に寄りかかった状態から立ち上がった彼女は、螢の隣の席に腰を下ろした。

 

「わたし、(みね)琥ノ葉(このは)。よろしくね~」

「あぁ…隣の席」

「ちがうよ?」

「違うんかい!」

 がくっと膝を折った私を見て、コノハは口許を隠してくすくすと笑っている。くぅ…いい性格してるじゃんこいつぅ………まさか私がツッコミをさせられるとは…ッ!

 教室の後ろの方から峯さーんと声がして、あ~ちょっと呼ばれてるから行ってくるね~とコノハは離れていった。

 

「いやぁ……まさかねぇ…」

「だからしんみりしないで…ふわふわしてて居心地がいいの」

「胸が?」

「わかった、蹴る」

「いや冗談!冗談だから!」

 おもむろに立ち上がった螢を見て私は思わずスカートの前を押さえた。お察しの通り私、前科持ち。一度全力で蹴飛ばされて撃沈した。それはもうめちゃくちゃ効いた。男子だけ特効じゃないんだねこれ。小一時間は動けなかった。もう反省してるので何をしでかしたかは聞かないでくださいお願いします。

 後ろ暗い話はさておき、たしかにコノハはふわふわしてた、性格的に。雰囲気が癒し系だからそりゃ人気者になるわ~。しかし実際、物理的にも立派なものをお持ちだったな…とか考えてたら座り直した螢がジト目で見てくる。

 

「…私そんなに分かりやすい?」

「そうだけど?」

「えっ^^」

「それより。識は部活決めたの?」

「あー……いや、まだ決めてない。けどせっかくだから目新しい魔法系競技にトライしてみようかなって」

 そうだ、本日から部活動勧誘週間に入るらしい。毎年のようにかなり過激な勧誘活動が行われると衛君経由で奏さんから聞いていた。風紀委員は大変な時期なのだとか。ちょっとわくわくしちゃうあたり私も私。

 

「そう。一緒に回る?」

「いやいや~悪いこと言わないから、コノハちゃんと友情深めといで」

「………何、もしかして妬いてる?」

 螢にしては珍しく変な間が空いた、と思ったらそんなことを聞かれた。こういうことでもまっすぐな目ではっきり聞いてくるあたり本当に螢…いや目力強いなマジで。

 

「ぜーんぜん?螢もしばらく衛たちと会わなかったでしょ?まずは二人の間で、ってのが私たちのやり方だからさ。せっかくだから六人目にしちゃおうって…あ、そーさく君いるから七人目かな」

「なるほど…コノハは忙しそうだけど」

「そうだねぇ」

 

 

 

 

 

*1
身長170cm




・識
実はほたるんのいつもの五人以外の人間関係をひそかに心配してた
なお前科はシンプルなセクハラ。今回とそう変わんねえじゃねーか。
後のおっさん化の気配を察知ーーー
なお本人はプロポーションだけなら深雪に近い…というかさらに高い背丈なんだし…地味とは?(哲学)

・螢
無自覚に怖がらせるタイプだし、あまり人脈形成にも積極的じゃない。けどコノハにはすっかり懐いてる
安定のアグレッシブ。慈悲とかないです
ちんちくりんだけど一切気にしてない

・峯琥ノ葉
新キャラ登場。ゆるふわな雰囲気で螢に懐かれた
何がとは言わんがほのか並み

・幻人・衛・庸介その他
@別クラス



☆あのいつもの五人について
もともと家の付き合いがあった衛と識⇒幻人参加⇒螢参加⇒庸介参加で現在に至る


2022/05/02
軽微な修正を加えました


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6. 第二小体育館にて【衛】

四月中にもうひとつは投げとこ


 

【衛】

 

 第一高校は毎年、部活動の勧誘が激しい。姉さんから聞いていたことだが、やはり実際に目の当たりにすると気圧(けお)される。特に一科生はなかなか熾烈な争いに巻き込まれるものだそうだ。まあ僕は早くも無関係になったわけだけど。

 

「B組の二人大丈夫かなあ…」

「大丈夫っしょ、二人ともメンタルめちゃ強だし」

「さらっといなしとるイメージしか湧かんな」

「…まあそうだね」

 言われてみればあの二人のことだ、きっと様子を書き起こしたら「にべもなく」*1と「のらりくらり」*2が連発されて、むしろ勧誘する側の皆様が可哀想になってくる。なら「それはさておき」でもよさそうだ。

 

 こちらは現在、速攻でロボ研に入部を決めた僕と、速攻で美術部に入部を決めた庸介と、まだどこにも入ってないけど美術部だと()()()()()()()*3かわしている幻人の三人で回っているところ。

 幻人本人いわく「入りたいなって思える部活がひょっとするとあるかもしれないし、そうでなくてもこのお祭り騒ぎに飛び込まないなんて選択肢ないじゃん」とのこと。本当ぶれない。

 

 現在放課後、闘技場とも呼ばれる第二小体育館にて行われているオリエンテーションを見物中。すごいなあ。魔法に頼りっきりで体力面が貧弱な僕には、運動部なんて考えられない。姉さんや学兄さんに運動もしろって頻繁に注意されてたけど、魔法を使うのが楽しくて耳を傾けなかった結果がこれだ。

 

「後悔は先に立たないぞ~マモ」

「うん……………え?声に出てた?」

「いや、作者が言ってやれって」

「さくしゃ……?」

「お?なんや揉めとるな」

え!何!?

 パァンッ!という音がしたと思ったら、庸介の言葉に幻人が身を乗り出していた。めちゃくちゃ目が輝いてる。

 

「声が大きいよ、幻人」

「もっと優先すべきことあるんとちゃうか」

 うん、なんか揉めてるよね、と返すと庸介はため息をひとつ。なんだろ…?それはさておき男女の言い争う声がしている。

 

「なんだ痴話喧k」ゴスッ、というのは庸介の結界が幻人を黙らせた音。

「このアホが言う"耳がいい人"がおらんからようわからんな~」

「剣道部と剣術部みたいだね…」

 見ているとなんだか打ち合いが始まった。わあすごい…僕よく知らないけど。でも面は被るんじゃなかったっけ?見ていると両者真っ向からの相討ちで動きが止まった。

 

「物騒やなぁ…ちょおトイレ行ってくるわ」

 任せた~と安らかな顔の幻人*4を任され、そういえばわざわざ見てる意味ないか…と無心に視線をさまよわせた時、先程の揉め事の方から何か叫び声とざわめきが起きた。そして顔を上げたとき、すぐ隣から想子が撒き散らされるのがわかった。

 

 ❁ ❁ ❁ ❁ ❁

 

「キャストジャミングぅ?」

「んー。あるいはまあそれに近い何か」

 庸介のすっとんきょうな声に、幻人がいつもの調子で答えた。あのあと戻ってきた庸介と、風紀委員の到着でざわつく第二小体育館をあとにした。その後とくに行くあてもなくぶらついてるわけだけど、僕はそこで先ほど幻人がばらまいた想子について質問した。すると返ってきたのが「キャストジャミング避け」という一言。

 

「でもそれ、なんか特殊な鉱石ないとあかんやつやろ」

「そ。でもまあ有り得なくもないじゃん?なんといってもここは天下の第一高校、しかも今は魔法が飛び交う無法地帯。おおかた誰かか何かしでかして緊急措置が出た~ってとこでしょうよ」

「確かに…だけどそれだいぶヤバイ状況では…」

「何しでかしたら特殊な鉱石出動するんや…」

「爆破とか?」

「何部やねん」

 まあジャミングの対象についてはそれでなんとかなったんじゃないかなと思いつつ、いつも通り漫才のような応酬を聞きながら歩いていると後ろから足音。ん?と振り向くと、小柄な赤髪の少女が白衣の女性の手を引いて横を走り抜けていくところだった。

「なにごと?」

「医療案件やろ」

「左に同じ」

「右やろ立ち位置」

 

 

 

 

 

*1

*2

*3
変な表現だけど幻人にはしっくり来る。

*4
生きてる





・衛
ツッコミが機能しないド天然。彼も彼でぶれない。

・幻人
騒動は楽しむもの。OK?

・庸介
ツッコミが足りなくて困るあまり、ついに魔法で黙らせる手段が登場


・赤紙の少女と白衣の女性
こちらはまた次回。

・キャスト・ジャミングを実行した風紀委員
「…今のは……?」


・作者
ん?何か?



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7.【識】ちょうどいいや一緒に逝こ

このブロック分け方がわからないので適当に切っておく


 

【識】

 

「う…大丈夫、立てる、から」

「だめ、無理しないで」

「いや、ほんとに…軽症、だから、さ」

 右手でぐらぐらする頭を押さえながら、私はなんとか左手で膝を押して立ち上がった。幻人君の想子バリアの真似…でも状況が状況だったし、あいにく私は彼みたいな素晴らしい野生の勘は持ってないから発動がだいぶ遅れて避けられなかった。…何を?ってところは私もよくわからないので不問ということで。

 

「ほーら、なんともない」

「いや、すごく顔色悪いよ?」

「全然なんともなくない」

「アレェ…?そう?」

 両手を広げて余裕の笑顔!…のつもりだったんだけど、(やや長いので前略)バイアスロン部からの助っ人二人からの印象は変わらなかった。そんなにか…?

 

「形だけでも運ばれてなよシキ、ほんと、紙みたいに顔真っ白だから!」

「はい…」

 おっふ。エイミィにまで言われたらもうそうなのだろう。私はおとなしく助っ人二人のご厚意に甘えることにした。

 

 さて、若干遅くなったけど状況説明をしよう。私はエイミィと一緒に狩猟部に入部した。紅葉は入りたいところがあるそうなので別行動。ま、私ももともとサイトの部活動紹介のページで見て興味あって、それでエイミィも一緒なんだ!と喜んで入ったわけで。あ、あと私不思議と動物に懐かれやすいんだよねー。実際お馬さんたちにはすぐ懐かれた。

ところが突然ぐわんっ、と足元が揺れる感覚と一緒にお馬さんたちが暴れだして、急いで離れたけどもう船酔いみたいな状態になっていた。

 

「優しいねぇ二人とも…ごめんね私背高いよね…」

「いえいえ…」

「これくらいは大丈夫」

「頼もしい…さすが2位と3位は伊達じゃない…」

「「!?」」

 二人ともピシ、と固まった。ア"ッッ待って頭に響く

「ごめ゛……気になってサーチした、うち古式以外疎いから」

「そっか…びっくりした」

 うん、まあ知ってたのはそういうことだ。黒髪の方が北山(きたやま)(しずく)、財閥のご令嬢さん。たぶん衛君が知ってるけど、知り合いかは不明。で、茶髪の方が(みつ)()ほのか。光井はなんだっけ、光の…なんとか言う家であるらしい。理解できる気がしないと思って早々に諦めたから知らん。とりあえずコノハに負けず劣らずのご立派なものを………あ~待ってやばい、これはもうそろそろ、頭が回らん…

 

「…えと…ちょっと先に謝っとく……ごめんもう無理だわ…」

「え?それってどういう…っ!?」

「ちょっ!?」

「え、何?シキどうかした?」

「……………寝てる」

 

 そういえば私、船酔いしたら毎度寝落ちするんだわ。ほんとごめん。

 

 

❁ ❁ ❁ ❁ ❁

 

 目が覚めて、端末を起動して確認するとまだ下校時刻は過ぎていなかった。よかった…と思いつつベッドから下りる…えっと靴……はそっちか。先輩方はまだ眠っているようなのでここに一人いても微妙に居心地が悪い。すみません…と誰にともなく謝りつつ部屋を出た。

 …さて。ここはどこだ?初めて来たから勝手がわからん。とりあえず二階だ。階段を見つけて一階に降り、外に出たら見知った背中を見つけた。

 

「お、いたいた!エイミィ~!」

「シキ!?もう大丈夫なの?」

「大丈夫大丈夫!もうばっちり万全よ」

 ほーら軽症だったでしょー、と言いながらくるりとターンしてみせた。エイミィはあきれたカオしてる。そこで下校時刻を知らせる放送が流れた。

「あ、もうそんな時間か…なんかさんざんな一日目だったね、シキ」

「いやいや、部活決まった時点で十分だよ?私としては」

 

 ご機嫌だね、変な時間に寝ちゃったから体動かさないと、などとたわいもない話をしながら外へ出たのだが…校門前には勧誘活動に精を出す上級生たちの姿が。

「うっわ」

「こーりゃすごい…あ」

 エイミィが小走りに走り出した。その先には…あの(前略)バイアスロン部からの助っ人二人。エイミィに後ろから肩を叩かれ、光井さんの方は飛び上がって驚いていた。かわいいな?

 

「識」

「ピャッ!?」

 …人のふり見てなんとやら。振り向くと螢とコノハがいた。

「変な声出たわよ」

「かわいいねぇ」

「待って言わんで…あ、呼ばれてるわ。ちょうどいいや一緒に()こ!」

「今変な変換しなかった?」

 そりゃあんた校門の様子を見なさいよ。とりあえず二人を引き連れてエイミィと合流~。

 

「やほ、いや~今日は悪いね、運ばれてる途中で寝ちゃって」

「疲れてたんでしょ?しょうがないよ」

「は、待ってそれ何?」

「ほたるんとコノちゃんにはあとでねー」

「ほたるん言うなし」

「コノちゃんって…?」

 

 ひとまず初対面のところで自己紹介は済ませておいた。あと(略)バイアスロン部の二人には自己紹介してなかった私も。これで心置きなく名前呼びができる。やったね。

ちなみにほたるんとコノハはまだ部活を決めかねているらしい。まあ「週間」なわけだからそんなに焦る必要もない、か。むしろ私みたいな即決の方が珍しいかもしれない。

 

「それはさておき諸君、これは戦争だよ

「急にキャラ変えるのやめなさい」

「どうやって帰る~?」

 いや、私は真面目(当社比)に言ったんだけども。そもそもなんで螢はそんなに平然と…いや、訊かないでおこう。この子のことだ、焼き払うとか言い出すかもしれん。と、コノハの脱力感あふれる問いに、そうだ!とエイミィが手を挙げた。

「誰か隠密系の術式持ってる?」

「オンミツ…?」

「密かに隠れる、の隠密?姿を隠したりとか?」

「そうそれ!」

 さすが我らがほたるん(つよい)、ファインプレー。それを受けて私たちは顔を見合わせた。具体的にはほのかと雫の二人と、私と螢とコノハの三人とで。

「私は使えないけどほのかは得意。そっちは?」

「光波振動ならあたしもコノハもある程度は…けどコノハの方が強いわね。識は論外」

「すごい言われようだけど」

「はーい振動系は論外でーす」

 ひらひらと手を振っておく。いやほんと振動系はてんで駄目なんよ私は。もうそういうもんだって割りきってるからほら泣いとらんし。

 

「でもいいの?魔法を勝手に使うのはルール違反よ」

 そんな螢の発言に、雫もうなずき返しているけど…

「そう言ったってねぇ…もう今更でしょ」

「そーそー、いつもと違って今は魔法が飛び交ってるでしょ」

「そうだけど…」

 

 光井さんは何やら魔法の使用をためらっている様子。…なにか事情持ちかな?

「別に、ダメならあたしが先頭出るわよ?今なら蹴散らしても正当防衛でしょ」

「ほたるん絶対そういうこと言うと思ったんだ私ぃ!!」

 待たんかいほのしずエイミィの三人凍りついたぞ!!私は頭を抱えた。コノハは「物騒だね~」と通常運転。とてもつよい。さすがほたるん(つよい)と友達になれるだけある。

 

「いいんじゃないの~?別に人に向けるわけじゃないしさ♪」

「珍しくノリノリね?コノハ」

「うー…分かったよ」

 

 

 

 

 





・識
狩猟部に入部。ウマむs((殴
アレを食らった。対応はしたが間に合わず
光のエレメンツとかSSボード・バイアスロン部とかについて適当さが垣間見える。というか「やや長いので前略」の方が余裕で長い
加速加重移動に強い一方、振動系は論外

・エイミィ
再登場。識と仲良く狩猟部へ

・ほのか・雫
初登場のA組コンビ

・螢・琥ノ葉
過激派クールとゆるふわ強メンタル。まだ部活決めてない
魔法力はコノハのが上


桜小路さん何部なんですかね……?なんか別行動にしちゃったけど修正になるかも


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8.【識】はい拍手~。わーすごーい。 +α

前回の後編+α

本文を間違えて前書きにコピペしちゃうのやめたい


 

 

【識】

 

 さて、作戦はこう。……とでも私が説明できると思ったか?残念ながら門外漢もいいところな私には具体的に何をしてるのかよくわからない。ただ確かなのは「今現在、周囲から私たちは茂みの向こうにいると錯覚されている」ということ。はい拍手~。わーすごーい。

 先頭はほのか、その後ろを私たちは静かに、しかしできる限り早足で移動している。後ろをカバーするためにコノハが最後尾。上級生たちに気づかれることなく順調に進んでいた…のだが、ちらっとコノハの方を見たとき、前にいた雫にどしんっとぶつかった。

「痛っ……え?ちょっとどうかした?」

「ほのか?」

「あれって…達也さん?」

「はん?…あーはいはい」

 

 誰…と思ったけど、聞こえてきた声で思い出した。シバタツヤ、だったか。一昨日月曜の放課後、正門前で聞いた名前だ。タメらしいので勝手にシバくんと呼ばせてもらおう。

そのシバくんは現在、取っ組み合いをしている二人組を止めに入っている。…なんか二人組の動きが妙にわざとらしいような。気のせいか?

「よく知らんのだけどどちらさん?」

「同じ一年だけど、深雪のお兄さん」

「入試で無駄のないすごくきれいな魔法を使っててね、すごく印象に残ってたんだ」

「ほーん」

 

 …けっこう濃いお方でしたな………総代さんと関係あるんだろうなと思ったけど兄弟でしたか。あと雫はいつの間に総代さんを名前呼…あ~そっかそっか同じクラスだよね把握。

 二科生のようだけどまあ、今回の入試にその辺はあまり関係なかったんだろうね…と思っていると、シバくんが二人の間に割って入った瞬間、彼に向かって魔法が飛来するのがわかった。

「あ」

「危ない!」

 思わず声が出た(雫は叫んだ)けど、シバくんはその魔法(エア・ブリットというそうだ)を軽い身のこなしで躱した。ほのかと雫はほっと胸を撫で下ろす。

 

「あれを避けるんだ…」

「しかも今見てなくなかった…?」

 あれだ、いわゆる「背中にも目がついてるのか」ってやつだ、半端ない。前の正門前の騒動の時といい、かなりハイスペックでは…?

 シバくんはエア・ブリットの発射地点の方向に向かおうとするが、二人組がまた揉め出して…いや違うな、あれは完全に妨害してる動きだろう。ちょっと"聴いて"みたけど、言い争ってる内容もいまいち要領を得ない……ははーん察した。グルだな。

 

「おーいシキ~」

「んぇ?ごめん聞いてなかった何?」

「襲撃されてる達也くんのためにさ、私たちで証拠押さえちゃおうよ!」

「乗った!」

「即答…」

 あっはっは、いいじゃん楽しそうだもの。私、見た目は真面目そうらしいので意外に思われることが多いけど、行動原理は基本その程度だったりする。

…あれ、そういえばツッコミが飛んでこないような?

 

「光井さ~んさすがに限界そう~」

「へ?…あ!」

 そうだった光学迷彩的な魔法やってた完全に忘れてた!ほのかの魔法がどこかのタイミングで解けてしまっていて、代わりをほたるんとコノハでやってたらしい。…けどエキスパートと言っていい高レベルだったほのかのに比べれば…

 

「精度低いからさすがにバレそうだわ……もうここまで来たんだし、あとは走って逃げるわよ!」

「は、はーいっ!」

 ほたるんの鶴の一声を受けて、私たちは走って逃げ出したのであった。

いやーいい運動になった。

 

 

【 】

「そうだ、昨日頼んだ人探しなんだけど、収穫はあったかい?」

「はい、お兄様が言っていた通りの生徒をデータベースで見つけましたので、顔写真データだけ許可をいただいて借りてきました」

「…うん、間違いない。…高塔……聞かない名前だな」

「彼が何か?」

「あぁ…擬似キャスト・ジャミングを使ったとき、気になることがあってな…こちらのジャミングに対して、想子をばら撒いて防御したんだ」

「防御…?剣術部ですか?」

「剣術部でも剣道部でもないようだったよ。少し離れたところにいて、騒ぎとは無関係だ」

「無関係だった…にもかかわらず防御を行なった、と?」

「いや、不思議なのはそこじゃないんだ。あの擬似キャスト・ジャミングはどうやら闘技場の外まで広がってしまっていたらしい。なにぶん使っていたCADも、旧式だけどエキスパート仕様の高級品だったからね。

…問題は、彼が動いたのがジャミングと()()()()()()()、ということだ」

「な…!?」

「近くに他の生徒もいたが、想子は明らかに彼から出ていた」

「…お兄様はもしや、彼が私たちの脅威になると…」

「…確証は持てない。ただあれほど鮮やかに防がれてしまうと、やはり警戒せざるを得ないかな。杞憂に終わってほしいところだけどね」

 

 

 





・識
髪型は整ってるし着崩したりもしない見た目は優等生。しかし行動原理はアレ。自由人だけど幻人に影響されたわけではない。念の為。
スキルが再登場しました。使ってる間は聴覚全集中しちゃうので周りの音を聞いてない。…原作(優等生)参照前にこの辺まで書いてたけど思った以上に聞いてない。要領を得てるかどうか確認してたからね仕方ないね。

・エイミィ・ほのか・雫
このあと識と一緒に少女探偵団始動。彼女たちとの絡みが多いため優等生のほうをちまちま揃えています。現在八巻。

・螢・コノハ
このあと少女探偵団には不参加。だって部活決めてないし。
螢の得意魔法は振動系だけど光波は専門外。でもとっさに埋め合わせに動けるだけ偉い。


・司波兄妹
幻人を認知。ひとまず要警戒の人物とした
何だかんだこの二人のキャラを一番把握できてない気がする作者であった


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9.【幻】気にしなくてもいいでしょその辺は

内容は薄いので実質幕間()


 

【幻】

 

「東西東西。さあさあ皆様お待ちかねの放課後でございます」

「誰に対して言うとんねん」

 

 はてさて、勧誘週間二日目、放課後。え?午前中のことは別にいいでしょ、まだ通常授業しかないし、面白いトラブルもこれといって起こらないし。特筆するならA組の森崎くんっていう茶化し甲斐のある人間が見つかったくらいか。マモとは同じ百家支流同士、知ってはいるけど精々面識がある程度らしい。まあ置いといて。とかくこの勧誘週間、やはり面白いトラブルは放課後が旬。わくわくすっぞ☆^^

 

 これといった目的もなく、勧誘を軽やかなステップ(当社比)で躱しつつお馴染みの三人でうろついていると、風紀委員の腕章をしている見知った顔を見つけた。向こうもこちらに気づいたようだ。きっちりと整えられた黒髪、伊達の黒縁眼鏡、お手本のような着こなしの制服。真面目な生徒を絵に描いたようなその雰囲気が、

 

「よーっす、どっか入部した?」

 口を開いた途端に崩れるから面白い。

 

「ゆっきー@名前で損しているじゃん、風紀委員どうよ」

「そんなアカウント運用してねーよ。どうもこうも見ての通りてんてこ舞いだ。…そんでこっちの質問には答えんのか」

「黙秘権を行使しまーす」

「あっそ」

 

 そんなそっけない返事すんなよ~。しかし察しのよさに定評がある彼は俺の状況なんか大体わかってるだろう。まあだからって何かしてくることはないだろうけどさ。

「なんの時間なんこれ」

「教室でもこのノリだよ」

「はー…驚いた。幻人のノリに対応できるやつがおったとは……あ、僕はG組の月田庸介。いつもこのアホがすまんな」

「いや、これも一興と思うことにしたから大丈夫。俺はD組の聲元之晶(こえもとゆきあき)だ」

「…名前で損…?」

「字面が強烈すぎて第一印象がそれになる」

「あーそういう」

 

 どうやらヨースケとゆっきーはツッコミ担同士馬が合うらしい…?とか思っていると、ゆっきーがふとこちらを見る。

 

「あーそうだ幻人、お前二科になんかやらかしたか?」

「ん?いや…二科生にやらかしてる一科生にやらかすのは日課だけど」

「日課にするなそんなもん。委員長経由でE組の風紀委員仲間からなんだっけ…刺客?みたいな役割頼まれてな」

「危険物取扱者乙種?」

「その資格じゃねえな。気になってるから様子見て教えてくれってさ」

「幻人を?」

「おん。俺もよくわからんけどまあそれくらいならって」

「はーん…俺は別にいいけどー。とりあえず歩き回ってるだけだしやましいことなんか何にもないしぃ?」

「様子見やったら斥候やな」

「あーそうそれ」

「なるほど、美術部のデッサン人形」

「おこるぞ^^」

「ヘイヘイ^^アンガーマネジメントカモン^^」

「怒らせてるやつのセリフとは思えんな」

 

 ちょうどそこで呼び出しがかかったようで、ゆっきーはじゃあなーと軽く手を振って走り去っていった。

「ここまで幻人に対応できるやつがおるとは」

「やはり魔法科高校は伊達じゃない」

「専門外やけどな」

「だがゆっきーは女子がたいへん苦手らしい。残念だ」

 

 仲間内に引き入れてやりたいがそういうわけで、誠に遺憾である。まあ閑話休題。

「しっかし俺を様子見ねえ」

「あー…そういや相手方の名前聞かんでよかったんか?」

「え~気にしなくてもいいでしょその辺は。当方まだ新入生な訳だし、やましいこと何ひとつないし*1

「まあ主観的にやましいことないよなお前は…いや確かに客観的にもそうやけども」

「驚異的にぶれない」

「それが俺ですから~?」

 

 二人からはなんとも言えない微妙な顔をされている。まあまあいつも通り。とりあえず美術部の方にでも行くか、と移動を再開することにした。

「ま、何にしても誰かから注視されてるって程度だけ把握しときゃいいっしょ」

「ほんまこいつ適当」

 

 

 

 

 

*1
大事なことなので二回言いました





・幻人
騒動は楽しむもの。OK?
ほんまこいつ適当。警戒心とか危機感とかどっかに落としてきてる。このアホとか言われてるがまったく気にしてない。
面白そうなトラブルには進んで首を突っ込むしたまに自分で起こすこともある。お労しや森崎…。

・庸介
ツッコミ要員は仲間を見つけた。

・衛
またしても地味さを発揮している回であった。()

・聲元之晶
名前がつよい新キャラ。クラスでは浮きがちな幻人と衛のフォロー役として欠かせない。
減速・停止系統に高い適性を持つため風紀委員にスカウトされた(奏さんを増やした分各学年一人多くなってる枠)

・風紀委員仲間
お察しの通り
ちょうどクラスが同じ風紀委員がいたので



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10.【識】気持ちはわからなくもない +α

日付変わる前に急ピッチ且つ片手間でというのはさすがに甘かった。甘々であった。

少女探偵団始動


 

【識】

 

 さて、まあそんなわけで発足しました少女探偵団。

 リーダーはエイミィ、その他メンバーはほのか、雫、そして私の三人。螢とコノハはまだ部活決めかねてるのもあって不参加。螢は「決めても参加しないわよ」って言ってたけど…まあしばらく二人にさせておこう。どのタイミングで男子と引き合わせるかな。

 それはさておき、私たちは屋上にいる。ここならあの怒濤の勧誘にも巻き込まれないし、広い範囲が見渡せる。配布された各部のユニフォームまで身に纏っているのは念押し。…立ち入り禁止になっていないか心配したけど大丈夫なのか~。しかも人気もないし、これは思わぬ穴場発見だな。

 

 そして現在、屋上で四人肩を並べて双眼鏡を覗き込んでいる状況だ。

「…識、双眼鏡の使い方独特だよね…」

「ん?あーこれ?」

 言われて私は左隣の雫にちらっと視線を向けた。右目に双眼鏡の片方を当てたまま。

「ちょっとスキルをね、使えたら使おうかと思って」

「スキルって?」

「端的に言えば盗み聞き。ただし直接見てないと駄目ってやつ」

「そんなことできるの!?」

「欠点多いから乱用はしないけどね」

 

 視線を戻して司波君を探す……いたいた。ちなみに字面は掲示板で、各委員のメンバー紹介を見て知った。蛇足だけど幻人君と衛君のクラスにも風紀委員が一人いたのは驚いたね。平和にやってたらいいけどちょーっと不安。

 しっかしあのハイスペックさを見るに司波君、ひょっとしたらこうやってる私たちにも気づいてるかもね……とか思っていたら、見えた。司波君の周囲に、魔法の兆候。

 自分とほのかの口から「あっ」という声が出た。けれどその次の瞬間には、兆候は魔法の形をなすことなく消えてしまった。まるで煙が散るように。

 

「今のって」

「キャスト・ジャミング?」

 …ほのかの口からも出てきたのにはちょっとびっくり。アンティナイトという鉱石に想子を流し込むことで発生する…現象?まあ、とりあえず想子が引っ掻き回されて魔法がうまく作動しなくなる~とかだったと思う。

 ほのかは雫の家で、ボディーガードの人が使うのを見たことがあるらしい。そういえば左隣のこの子ご令嬢だったわ。なんだか巻き込んでしまって申し訳…いや、今さらだな。

 

「でも、お兄さんがアンティナイトを持っているようには見えないよ?」

「稀少な鉱石らしいしねぇ………」

 …"いっぱしの高校生が持てるものじゃない"と続けようとしたけど、あのスペックでいっぱしは無理でしょwと思う自分がいたのでなんとなくやめておいた。

 司波君がすぐさま顔を向けた方に、逃げていく人影。雫が魔法を発動しようとしたけど、人影はすぐに行方をくらませてしまった。"聴き"耳を立ててももう聞こえない。…雫?待って今何をしようと?…まあいいか。彼女のことだし、そんなに危険なこっちゃないだろう。

 

「見たよ、バッチリ!あれは男子剣道部のキャプテンだったと思う!」

「ほんとに!?」

「なんと」

 おっと、話が進んでたってかマジかエイミィ見てたのか顔。ファインプレーじゃん。

 写真を見て確認するため生徒会に掛け合いたいというわけで、A組二人が深雪に聞きに行った。しばらくお待ちください…いや、私はエイミィと監視を続けるんだった。

 

 ❁ ❁ ❁ ❁ ❁

 

「え、端末で見れんの?」

「そうらしい」

 …広報委員会のページで見られるらしい。へー。それで(主に目撃者たるエイミィによって)特定されたのは3年F組の(つかさ)(きのえ)という上級生…まさしく剣道部キャプテンであった。

 …どうでもいいけど日本名でフルネーム二文字って見るとちょっとテンション上がる。

 本当にどうでもいいな。

 

「さっそく生徒会に知らせないと!」

「おーよしよし落ち着けほのかちゃん、これだけじゃ不十分だぞ」

「なっ…」

「そっかあ…あたしたちは見ただけだし…」

「もっと決定的な証拠がないと、イタズラって思われても仕方ないと思う」

「…うぅ…そんなぁ…」

 ほのかは撃沈した。まー何とかしたい気持ちはわからなくもないけど…

 …とか思っていたら突然、ほのかが「そうだ!」と叫んで立ち上がった。

「おぉっと、どうしたのびっくりしたよ」

「襲撃現場の写真を撮るっていうのはどうかな!」

「写真?」

「…そこまですると完全にストーカーなんじゃ…」

 

 エイミィはあきれたカオしてる。…デジャヴだな。しかしほのかの押しが強いし、雫もどこか乗り気…じゃなくて、止められそうにないから仕方なく乗っかることにしたのね。

 …私?こんな楽しそうなことに乗っからないとでも?

 そんなわけで今度は現場の激写を目指すことになりました。調査継続!スタジオにお返ししまーす。

 

 

 

【 】

 

「…そうだ、深雪」

「なんでしょう」

「お前のクラスの光井さんと北山さん、あの二人とは親しくしているのか?」

「…はい。クラスメイトの中でもっとも親しくさせていただいていますが…彼女たちが何か?」

「…普通の子たちなんだよな?異常な性癖がなく常識的な行動ができるという意味で、だが」

「そういう意味でしたら…普通だと思います」

「…そうか」

「あの二人がお兄様に何かご迷惑でも…?」

「そういう訳じゃないさ、落ち着け……………見回り中の俺のことを度々見ているようだから、何が目的かと思ってね」

「あの二人が、ですか?」

「あの二人と更にもう二人。鮮やかな赤毛と、短い黒髪の女子生徒だ」

「……それで、何かあったのですか?」

「いや、心配されるようなことは特にないが、どうやら写真を撮られているようでね」

「写真!?お兄様のですか!?」

「いや、被写体は俺じゃない。自分が撮られていたらその場で何とかしているよ。…どうも、俺にちょっかいを出している相手の撮影を狙っている感じなんだ」

「本当ですか!?またお兄様に手出しする者が!?」

 

 

「……申し訳ございません」

「気にするな。それと…以前、正門前で森崎と騒ぎになったとき、人混みの外から盗み聞きの魔法が使われていたという話をしただろう」

「…はい……それがまた、ですか?」

「ああ、恐らくもう二人のどちらかだろう。これもその相手に向けられているようだったが…それでまあ、俺の方に実害はないんだが、彼女たちが何を考えているのかと思ってな。…高校生レベルの嫌がらせで済めばいいんだが、そうでないならあまり首を突っ込みすぎるのは…」

「お兄様…?」

「…いや、考えすぎか」

 

 

 

 

 

 





・識
刺激的な青春を満喫中
つまり楽しんでる。義憤的なものはあるけど三割程度
屋上に入り浸るかもしれない
何度でも登場する先天性スキル。…これでもやっぱり名前はない。主な欠点については後述
"聴く"ほうに集中して色々聞いてないのは相変わらず。

・エイミィ
識のスキルを知ってビックリ、と共に今回の働きにひそかに期待

・ほのか
とても張り切っておられる。

・雫
ほのかはもう止められない…(観念)
あのとき本当に何をしようとしたのか…まあそんなに危険なこっちゃないだろうけども。

・螢・琥ノ葉
部活探し継続。参加しないったらしない(螢談)

・D組風紀委員
安心してください。平和にやってますよ。


・達也
ここで識本人を視認
作者は彼のできる範囲がわからなくて手探り

・深雪
写真を欲しいって思っちゃうのも部屋を凍てつかせるのも原作に同じ
識のことはまだ見てない



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11. 幕間【仄】

大筋にはあまり関係なかったりする。切り捨てていい訳ではないけど


 

【仄】

 

 マンションのエントランスを出ると、親友はもうそこにいた。

「雫!おはよう!」

「ふぁ………おはよ」

 挨拶は返ってきたけど、雫は大きなあくびをして目をこすっている。

「珍しいね雫…眠れなかったの?」

「ちょっと調べものが白熱しちゃって…」

 

 雫もそんなことあるんだなぁ…とぼんやり思っていた私はその時、走ってくる足音に気がつかなかった。あ、ほのか後ろ!という雫の声に反応するが早いか、突然ドンッ!と後ろからぶつかられ、私はよろけて倒れそうになった。

「ひゃあ!?……っわ、え?」

 …けど、想子(サイオン)光が一瞬見えたあとにぐんっと引っ張られる感覚があって、気がつくと元通りまっすぐ立っている自分がいた。雫も目を丸くして固まっていた。

 

「完全に俺の不注意だったごめん!大丈夫?」

「あ、はい!大丈夫です!」

 声をかけてきたのは第一高校の制服を着た、同じくらいの背丈で前髪の長い男子だった。大丈夫と告げると相手は「ならよかった、じゃ!」と言って、カバンを持ち直して走り去った。

「あ、ちょっと!……行っちゃった」

「…」

「…あれ?…雫…?」

 

 想子光があったということは魔法を使われたんだろう。あの一瞬ですごいな…と思っていたけど、隣で雫が完全に固まっていることに気がついた。

「…すご…」

「え?」

「…さっきの男子、CAD使ってなかったんだよ」

 

 

 ❁ ❁ ❁ ❁ ❁

 

 

「…ってことがあって」

 朝、廊下で合流したエイミィと識に、私と雫はこの話をした。

「えっと…倒れるところを引っ張りあげるってことは」

「たぶんベクトル反転。あと減速も入れてるはず」

「それをとっさで、かぁ…すごい早業じゃん」

「得意分野だけどそんなとっさにできる気がしないわー」

 

 二人ともはーっと感嘆の声をあげている。その気持ちは私と雫も同じ。

 CAD…普段私はアシスタンスと呼んでいるけれど、これは魔法の発動を簡略化・高速化するためのもの。つまり魔法は生身でも使えないことはないけど、使うときに比べて使用者への負担は大きいし、発動までの時間も長くなる…本来は。

 だけど、名前のわからない彼が使ったベクトル操作は本当に一瞬だった。…もしかしたら、アシスタンスありの私よりも早いかも。

「上級生?」

「それはわからないけど…」

「制服もカバンもまっさらで新品っぽかった。…あと私、たぶん会ったことあると思う」

「えっ!?ちょっと雫、聞いてないよ!?」

 

 まさかの爆弾に思わず大きな声が出てしまった。当の雫は腕組みして難しい顔。

「いや、私もさっき思い出したから…中学のとき、どこかのお屋敷にお邪魔したときに見た顔…まあ前髪が長いから、顔と呼ぶのはちょっと微妙だけど」

「っ、…?」

「…識?どうかした?」

 なんだか「前髪が長い」のあたりで識が挙動不審になった。気になって声をかけると、頬に手を当てて考え込む様子。

「うーーーん…ちょっと心当たりがあるというかないというか…」

「どっちなの」

「該当しそうなやつは知ってるけど………にしては親切すぎるから違うかなーって」

「親切さで判断するの…?」

「まあ他人様の喧嘩を笑顔で眺めてるタイプだよね」

「「うわ」」

 おどけた様子で語る識に、雫とエイミィの声が重なった。いや、「うわ」はやめなよ…。

 

「ところで、そろそろチャイム鳴っちゃうと思うよ」

「あー…確かに。じゃあまたあとでね」

「放課後、屋上に集合ね~」

 エイミィの言葉にうん!と返すのとほぼ同時に予鈴が鳴ったので、いそいそと教室に入る。今朝の話はそこでおしまいで、また話題に上ることはなかった。

 

 

 

 

 





・ほのか
今回の語り手。【ほ】はなんかなぁと思って勝手に漢字変換
当事者①。引っ張りあげられた。

・雫
当事者②。傍らで見てた。
雫がほのかのおうち行くんだろうか…?と書いてから思ったけどまあ……たまには…あるんじゃない……!?
ちなみに"どこかのお屋敷"の家の子も既に登場済

・エイミィ
聞き手①。
そういえば小柄って聞いてたけど優等生のほうだとよくわかんないな…(とても今更


・識
聞き手②。
なお、心当たりは合っている



・男子
残念ながらその他人様の喧嘩を笑顔で眺める彼である


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12.【識】残当というやつか

とうとう日付的にいつなのかわからないこれが来たね



 

【識】

 

 あ、私たちヤバイことに首突っ込んでるんだ、と察したのはいつ頃だったろう。結構早かったかも。しかし楽しい!が勝ってたから目をそらしてきた。結局は私も、その場の空気に流されやすい性質(タチ)のようだ。………けど、

 

「あれ、でも今日剣道部は休みじゃないって教室で聞いたけど」

「そうなの!?怪しい!なんかピンと来た。ちょっと尾行(つけ)てみよっか」

 

 …これはそろそろ無視できないかもしれない。

 ひとまず状況の整理をしよう。あのあと私たちは、司波君に攻撃を仕掛ける襲撃者の撮影に成功し、その写真を使って生徒会に匿名で通報した。しかし待てど暮らせど音沙汰はなし。司波君の状況も何一つ変わってはいない。

 そして、そういえば魔法って写真に写らないよね…*1とかなんとか話してたら、くだんの剣道部主将・司甲先輩を発見したわけで。

 

「シキ?どったの?顔がひきつってるけど」

「いやあ、さすがに尾行はまずいんじゃないかと」

「大丈夫だよ、私たちなら!本当に危ないと思ったら逃げよ!」

「…まあ、そう…だよねぇ」

 三人は意気揚々と、しかし忍び足で尾行を開始。それを後ろから見ている私………言いにくいんだけどさ、私知ってるんだよね…。誰かと連絡を取りつつ、こそこそ隠れて陰から攻撃を仕掛けるの、見覚えがあるといえばある。…で、それが何を意味するのかも、大体の察しはつくんだよね。

 最初はそれっぽさがあるかなぁ…程度でしたが、今ではもう確信の域にあります。なんということでしょう。こんなビフォー&アフターは嫌だ。

 でも言ったところでこの三人は止まらない…どころか、さらに躍起になるだろうし…………しょうがないなぁ…

 

「招聘しますか……有識者」

 私は一通のメールを送信した。この面々に引き合わせるのは若干気が引けるけど、ここは彼を呼ぶのがたぶん手っ取り早い。ごめんね、でも私だって不安なものは不安だからさ。

 

「おーいシキ~」

「はいはい今行きますよーっと」

 …"逝"にならないことを祈りつつ、ね。

 

 

 ❁ ❁ ❁ ❁ ❁

 

 

「やっぱりかぁ…」

 小声でそうつぶやいたのが答え。いやはや懸念した通りになってしまった。残当*2というやつか。

 

 我らが尾行のターゲット、司甲先輩はどんとん細い脇道へ入っていった。キャビネットで通学してるのはたまたまだけど私も見た。やはり帰路ではない、か。うーん…でも誘導されてる感が否めない。覗き込むと誰かと電話しているらしい。

 

「電話してる…?」

「シキ、あのスキル使える?」

「いや、やめた方がいい。向こうに思いっきりバレる」

 私のあの順風耳(仮)、欠点の筆頭として挙がるのが、相手の近くの空間に微量ながら想子(サイオン)光が発生してしまうこと。まあ日中なら太陽光に紛れてくれるけど、それでも極力相手がそんなの気に留めていられないような状況でしか使いたくない。こんな薄暗くて人気のない場所じゃなおさらバレバレだ。

 

「そっか…じゃあ仕方ないっ」

 エイミィはそう言うと脇道へ踏み込んだ。ほのかと雫もあとに続き、三人は物音をたてないよう慎重に近づいていく。わぁ~マジか~……まあここまで来てついていかない手もないけどさ…。

 …と、通話を終えたらしい司先輩が突然走り出すではないか。

 

「っ!?」

「気づかれた!?」

「わかんないけどとにかく追うよ!」

 いや気づかれたでしょさすがにこれは!言っても仕方ないけど!

 もう決定的に後戻りできなくなったと思いつつ私も走る……けど向こう速いなおい…!

 

「速い…っ!」

「…っ、あーもう、頑張るしかないなあっ!」

 渋々私はぐんっと前に躍り出た。「識!?」と驚いた声がしたけど、どうせとっくに学校の監視システムの外、加速系は私の十八番なんでね!

 しかしたぶん向こうも使っていたんだろう、たいして差は縮まらなかった。そうして角を曲がると―――司先輩の姿は消えていた。

 

「あれ!?いない…」

「撒かれちゃったか…はぁ……っ!?」

 息を整えていたら突然聞こえてきたエンジンのうなり。顔を上げると目の前には四台のバイクが立ちふさがっていた。

「なっ、何ですかあなたたちは!?」

そう叫んだほのかの隣で、私がつぶやいたのが冒頭の、というわけで。

 

「合図したら走るよ。CADのスイッチを」

 雫があくまでも淡々とそう告げる。ほのかと雫はお互い恐怖で身を寄せあっているように見えて、互いに互いのCADのスイッチを入れ合う格好だ。考えたね…私はさっき思いきってスイッチ入れちゃったからもう関係ないや。

 あちらさんは何やらしゃべっているけどガン無視して、「Go!」の合図で駆け出した。

 

 すぐさま「逃がすな!」とかなんとか叫んで追いかけてくる…勢いよく壁を駆け上がってみたけどしまったこれ援護できないじゃん何も考えてなかった。

「ただの女子高生だと思ってなめないでよね!」

 しかし、あやうく捕まりそうになっていたエイミィは魔法で相手を地面に伸していた。自衛的先制攻撃…やだなんて甘美な響き。私も欲しかったよその語彙力!

 そしてほのかの閃光魔法も決まって、追っ手の足が鈍くなる。あれ、逃げ切れちゃいそうだなこれ。……とか思っていた時期が私にもありました。

「くそ…化け物め!これでも食らえ!」

 何か切り札が、と思って軽く振り向いた途端、脳を直接揺さぶるようなノイズが響き渡った。

 

 

 

 

 

*1
あまりにも今更であった。

*2
残念だけど当然





・識
一歩引いて見れるタイプの自由人。しかし常識人かと言われると……少なくともあの五人の中ではだいぶ常識人度低い。先に言っておくが彼女はそこそこヤバイ。
CADは指輪型、得意分野は加速系。本当に危ないと思ったら逃げるのを援護しようと思ってたけどやらかした。
順風耳もどき(相変わらず名無し)の欠点のひとつが紹介されました。むやみやたらに使わない(少なくとも本人的には)、その大きな理由。

"大体の察し"……何らかの組織がいることには気づいてる。

・ほのしずエイミィ
少女探偵団(公式)。原作(優等生)とおおむね同じ
勇敢で機転も利くけど、だからって。

・尾行対象
原作と同じ。というかこちら側に関して言うことはない

・有識者
手近な一人を巻き添えにしてやって来る模様


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13. " 倒れるわけにはいかないんだよね " 【雫】

前後がやや長いので短め


 

【雫】

 

 

 頭の中がかき回されるような感覚にさいなまれ、意に反して足は止まり膝をついた。聞きたくなくて耳を塞いだけど効果はない。状況は何も変わらない。

 

「苦しいか?司様からお借りしたアンティナイトによるこのキャスト・ジャミングがあるかぎり、お前らは一切魔法を使えない」

 覆面を被った男たち、その一人が私たちにそう告げた。アンティナイト…そんなものが、なぜ……ダメだ、頭が回らない。想子(サイオン)感受性が高いほのかは、真っ青になって倒れてしまった。悔しいけれど、魔法が使えないのは事実…と思ったとき、近くに見慣れた光がちらついた。

 

「…何?」

「識…?」

 覆面の男たちからもやや動揺しているような声が聞こえてくる。名前を呼ぶと、目線だけがちらりと向いてきた。識は青い顔で両手をこめかみに当てたまま、荒い呼吸をしながら想子をまき散らして……ジャミングのノイズを、はね除けている?エイミィも気づいたようで、目を丸くした。

 

「シキ!?何、して…」

「私も…受け売りの、見よう…見まねだから……下手だけどさ…!」

「…まだ効果が足りないようだな?」

 その言葉の直後、さらに強まったキャスト・ジャミングに私もエイミィも倒れてしまった。識は「ぐっ…!」と苦しげな声をあげて顔を伏せたけど、すぐに顔をあげて男たちを睨み付ける。そして、

 

「…おあいにく様…っ、私はまだ、倒れるわけにはいかないんだよね!」

 そう叫んで力強く立ち上がると、男たち――その中の、アンティナイトの指輪を持つ一人めがけて走り出した。

 しかし、指輪に手を伸ばしたところで蹴飛ばされてしまった。

 

「あ…っう…くぅ……」

「識…!」

 倒れた識の顔色が急激に悪くなっていく。もうキャスト・ジャミングを防ぐ余裕はなくなってしまったらしい。

 

「少々手こずったが…あとは手筈通り。我々の計画を邪魔するものには消えてもらう……まずは貴様からだ」

 識に近づく男の手には大振りのナイフ。助けなきゃ、と思うけれど何もできない…起き上がることすら……!

「この世に魔法師は必要ない!!」

そう叫んだ男は、識めがけてナイフを振りかぶって―――

 

―――突然、吹き飛ばされた。

 

 

 

「…えっ?」

 …少し、呆然とした。何が………何か、半透明の何かが勢いよく伸びてきて、ついさっきまで目の前にいた相手を遠くへ突き飛ばしたんだ。そうわかったとき、後ろから軽い拍手とともに声がした。

「いや~何回見ても壮観だわ」

「あとは知らんからな?俺は」

 

 振り向くと、二人の知らない男子を背にして立つ黒髪の美少女がいて。

 

「当校の生徒から離れなさい」

 

 彼女――深雪が、冷たい声色で男たちに告げた。

 

 

 

 

 





・雫
!?

・エイミィ
!?

・ほのか
見ているだけの余裕はなさげ…?

・識
対処ができちゃっていらっしゃる。事象干渉力ェ…
ただいっぺんまともに食らいはしたし、さらに別の魔法を使う余裕もなかった

・男子①
有識者。壮観だと拍手してた方

・男子②
巻き添え。吹っ飛ばしてあとは知らん方
withBとか言うんじゃない

・深雪
何やら原作とは違う様子で現着



サブタイ、他人の台詞を引用したい場合はこうすることにしました


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14.【庸】マイペースかこの野郎


語り手君が設定上本日誕生日なのにかこつけて予約投稿お試し


 

【庸】

 

 話は数分前に遡る。もはやお馴染みの三人組で肩を並べて帰路についていたとき。

「あーちょい待っといてすぐ戻るわ」

「ん?あーわかった」

「お?は?おいおいおいおい」

 

 ふと端末を取り出した幻人は、いきなり俺の腕を掴むとそそくさと歩き出した。衛は笑顔でいってらっしゃーいと手を振っている。なんやあいつ適応力高すぎやろ。

「待たんかいなんやねんなんや急に」

「面白いこと!」

「そうか、いつも通り悪い予感しかせんなぁ!」

 幻人はときおり端末の画面に表示した地図を見ながらずんずん進んでいく。すると何やら人影が見えた、と思いきや…

「総代さんやん」

「おやお嬢さんどちらまで?」

「へっ!?」

「おいこら」

 

 幻人の無遠慮を絵に描いたような発言で向こう…司波さんの足が止まった。いやまあそれ以前に、制服から同校生徒とわかるとはいえこんな路地裏で知らない顔と出くわしたら足も止まるわな…しかし。

「こいつがすまん。あとたぶん目的地同じなんちゃいます?」

「こんな濃厚な魔法の気配あるわけだし」

「っ……あなたたちは」

「当事者から呼ばれましたーっと!」

「で、それに巻き込まれ…おい」

「ちょっと待っ…!?」

 

 言い切らないうちにまた早歩きを始めた幻人を(今度は手が離れていたので)追いかける。マイペースかこの野郎。…知っとるわマイペースや。

「これはっ…恐らく、キャスト・ジャミングです!」

「あー魔法阻害するあれな」

 

 漂う魔法の気配から推測したらしい。さすが入試トップ。…つうか最近聞いたなそれ。となると幻人はもうわかっとんか。

「あそーそー、一発目庸介に頼んでいい?」

「俺かい」

「そりゃ困ったときの五鈷杵でしょうよ」

「それを言うなら如意棒やな」

「話が見えてこないんですが…?」

「すんませ…お」

 

 この曲がり角の先。覗き込んだ俺たちが見たのは、……見慣れた仲間に向かってナイフを振り上げる覆面の男。

 

 こういうときはかえって無言になる。素早く印を組み、出てきた正方形を男めがけて思いっきり伸ばしてやった。

 

 

 ❁ ❁ ❁ ❁ ❁

 

 

「あ…ありがとうございます」

「おう」

「…あの、」

「はぁ…遅刻だぞーまったく…」

「見た目のわりに元気やんかコミドーサン?」

「うっわよそよそし…ごめんて」

 覆面男たちの制圧に向かった二人を見送り、念のため倒れている四人を取り囲むように結界を張る。キャスト・ジャミングが止んだことで、一高の女子制服を着た四人はゆっくりと起き上がってきた。

 そして識がしれっと話しかけてくるのでしれっと返しておくことにする。少なくとも制服に靴跡つけたまんま言うことちゃうぞ。

 

 ついでに言うと識以外の三人は知らない顔。知ってたが友達を作るのが早い。しかしそれも肩を並べて妙なことに首を突っ込めるレベルの友達やと?そこまで来たらもうコミュ力高いとかいう騒ぎちゃうやろ。怪物やん。コミュ力お化けやん。

「末恐ろしいわ…」

「何が?」

「なんでも。あと俺はいつも通り巻き込まれただけやし、そのクレームは幻人か通信回線に入れるべきや思うぞ」

「じゃあ通信回線かな?」

「待ってシキ説明は!?」

 

 赤毛の女子が目を白黒させて叫んだ。…おや、もう制圧は終わったらしい。やっぱ厳めしいのは見た目だけやったか。あの二人では造作もないことはもはや自明。そんで幻人は司波さんと何やら話している。…たぶん何かしらの迷惑はかけとんな。

「…まあ要するに、さしもの私も不安になったから用心棒を呼びましたってこと。勝手にごめんね」

「いや、結果的に助かった。ありがとう……深雪は?」

「途中で出くわしただけやな。キャスト・ジャミングが撒き散らされとるとかいう異常事態、さすがに気になったんやろ」

「そっか…」

 

 そうこうしてるうちに幻人が、途中でなにやら識とハイタッチをしつつ駆け戻ってきた。

「さてと、あとは司波さんが引き受けるらしいんでさっさと戻りますか」

「え!?」

「まあ人待たせとるからな。コミドーサンは別にええか?」

「まだ続けんのそれ…まあいーよこっちで」

「ほなこの辺d「待って、名前だけでも」

 

 短い黒髪の女子が食い気味に引き留めてきた。俺は立ち止まったが…幻人はお構いなしというふうに走り去ってしまった。

「…行っちゃった」

「自由人やからな…あいつは高塔幻人、俺は月田庸介。詳しいとこはそこの識に聞け。以上」

 

 手短に、あとは識に丸投げしておいて、幻人を追う。また妙なことに首突っ込む前に追い付かんと。

 

 

 

 

 





・庸介
巻き添え以上でも以下でもない。
ただ精神的には強いし任されれば全力。
伸びてきた半透明のものは彼の結界でした。結界師に影響を受けてるのは自明ですが滅だのなんだのはない。隔離・遮断に重きを置く性質がある。一度出してから形を変えることも可能
訛りはあくまで著者のものなのでいわゆる関西弁とは異なります

・幻人
有識者としてはまったく役に立っている気配がなかった。
制圧後のは本当にたわいもない雑談だったようです

・深雪
制圧は問題なく済ませたけどまだ困惑はしてる

・識
見た目の割に元気、ハイタッチまでしちゃう

・少女探偵団(公式)
さんにん は こんわくしている!

・衛
平然と待っている。




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15.【雪】注視しておくべきかもしれません

深瀬家があるため雪のほう

深雪なかなか難しい…相変わらず主人公兄妹一番把握しきれてないかもしれない。特に兄


 

【雪】

 

 走り去っていく後ろ姿を見ながら、私は二人が使った魔法について思考を巡らせていました。

 

 月田、と名乗った男子…その名前は、古式魔法家系のひとつとして覚えがあります。使っていた術からも、その家でまず間違いないでしょう。…シンプル故に応用力が求められるという"月田流結界術"。しかしまさか、()()()()()()()()()()()()とは…その展開速度にも目をみはるものがありました。

 

 そして、もう一人…高塔幻人。以前お兄様が気にかけていた、擬似キャスト・ジャミングを防御したという生徒。

 制圧を済ませた私の隣で「俺来なくてもよかったかなぁ」と言ってはいましたが…いつのまにか相手が持っていた武器の類いはすべて彼の足許に散らばっていました。傷ひとつなく…いえ、それどころか私も気づかないうちにそんなことを実行できてしまうあたり、やはり一般家庭の出とは…

 

「深雪?」

「あっ…ごめんなさい、少し考え事を」

 呼ばれて振り向くと、見慣れたクラスメート…ほのかと雫、それにもう二人。赤毛の少女には見覚えがあります。

 

「ほぁ…深雪が助けに来てくれた…これは夢?」

「夢じゃないわよ。みんな無事でよかった」

 ひとまず、ぼんやりとした表情になったほのかの手を引いて立ち上がらせました。スカートについていた汚れを落とすのも三度目です。…この制服、なかなか汚れが目立ちますよね…。

 初対面の二人からは軽い自己紹介を受けました。二人とも1年B組で、小柄な赤毛のほうはアメリア=英美=明智=ゴールディ。ゴールディ家といえば、英国の現代魔法の名門です。一方、長身の黒髪のほうは古御堂識。…古御堂も古式の家系だったように記憶しています。制服のお腹のところに靴の跡が残っていましたが、当人はあまり気にしていないようで、魔法で落とすと申し訳なさそうな顔をされました。…ここで、ふと気になったことがひとつ。

 

「ところで…さっきの二人は"当事者から呼ばれた"と言ってここに来ていたけれど」

「あ、それは私。ちょっとツテを頼りまして」

「…そう」

 すっと手を挙げたのは古御堂さん。…あの二人はいったい何者?そう聞きたくなりましたが、ほのか達もいる今ここで追及するのは避けた方がいいでしょう。彼女の言う「ツテ」がどれ程のものかもわからない以上、彼女も注視しておくべきかもしれません。

 

「で、話してくれる?識」

「…えと、またあとでいい?この状況で話すことじゃないでしょ。あとは総代さんが引き受けてくれるらしいし?」

「…そうだね。そういえば深雪、引き受けるって?」

「…ちょっと大事(おおごと)にしたくない事情があるのだけれど…でも、被害者であるみんなが訴えたいなら止めはしないわ」

「ううん、必要ない。監視カメラにも撮られてないし」

「そう。それならこの場は私に任せて?」

「わかった!じゃあまた学校でね、深雪!」

 …立ち去っていく四人の姿が完全に見えなくなったところで、ある人に電話をするためサイオンシールドと音波遮断の術式を張りました。

 

 

❁ ❁ ❁ ❁ ❁

 

 

「あら」

「深雪」

 数日後の放課後、ほのか、雫、エイミィの三人とばったり出くわしました。どうやら部活帰りのようです。

 

「久しぶりね、エイミィ…でいいかしら?」

「うん、堅苦しいのもナシでいいよ!…その、この間は本当にありがとうね」

「当然のことをしたまでよ。…ところで、古御堂さんは一緒じゃないの?」

 この間、と言われてふと、その時にはいた顔がここにはないことに気がつきました。以前は"この状況で話すことじゃない"と流されたことが、私も気になっていたのですが。

 

「シキは中学からずっと一緒のメンバーがいるらしくて、放課後はだいたいそっちに行っちゃうんだよね…前はたまたまこっちを優先してくれてただけみたい」

「そう…」

「でも、エイミィはそのメンバーと会ったことあるんでしょ」

「えっ?」

 お預けになると知って気落ちしましたが、雫の発言に思わず顔を上げました。

 

「容赦ないよね雫…まあいいけどさ……入学式の次の日、食堂で集まってるところにお邪魔したんだ、サクラ…桜小路紅葉って子と一緒に。そこで会ってたんだよね。えっと…同じ飛び入りがもう一人いたけど、とりあえず高塔くんと月田くんっていうあの二人はいた。それで識と、あと同じクラスの宍倉さんって女子と、D組の深瀬くんっていう男子」

 …人物を整理するとエイミィ含めて八人。飛び入りを除けば五人というわけですね。

「深瀬…って名前は、確か百家支流にあったような気がするけれど」

「たぶんそうなんじゃない?風紀委員にお姉さんがいたし。一科生とトラブルがあってそのお姉さんが来てた」

「そっちもトラブルあったの…?」

「高塔くんが言い負かしてたけどね」

 …私たちは憮然とした表情をしていたと思いますが、エイミィはおもしろおかしいというふうに笑っていました。と思うと今度はびしっ!とほのかを指差して。

 

「それを言うならそっちも面白い話あったじゃないほのか」

「えっ……あ、そうだ!私と雫、前に高塔くん見たんだよ!私と同じアパートに住んでるみたいで」

「えっ、本当?」

「うん…アパートの玄関先で私とぶつかって転びそうになったんだけど、気づいたら普通に立ってて!」

「魔法で引っ張り上げてたんだよ…CADを使わずに、一瞬で」

「…それは…」

 ある程度の実力があればCADなしで魔法を扱うことはできる…けれど、それを"一瞬で"できるとなれば相当な実力者といえます。ほのかはしどろもどろになりながらも興奮した様子、雫は一見するといつも通り淡々と話しているようで、けれどその瞳には確かな光が宿っているようです。…本当に"一瞬"だったのでしょう。

「確かD組だったよね…そんな実力者だなんて、全然聞いたことなかったけど…」

「そのあたりは何か事情があるのかもね」

「複雑な境遇って言ってたなあ…シキも詳しくは知らないらしいけど」

 

 その後、先に帰っているとばかり思っていたお兄様と駅で合流し、三人とはそこで別れました。

「すみません、お待たせしてしまったようで」

「いや、俺が独断で待っていたから気にしなくていいよ」

 

 …しかし…急ぎの案件ではありませんが、やはり気になります…。

 

 

 

 





・深雪
原作主人公[優等生side]
当事者に呼ばれたという二人が気になる。

・ほのか
"これは夢?"はやっぱり言ってもらうことにした
幻人がどうやら同じアパートに住んでいるらしいことは知っているけど部屋までは知らない(そこそこ遠い)。

・雫
"ううん必要ない"のあたりでメンタル強者では?って思った作者。
思い返して静かに興奮してる

・エイミィ
ネット上では出典によってフルネームの並びが異なる模様
覆面男たち事件(呼び方が雑)の後しばらく登場しなくなるのもあって深雪との距離感がわからぬい

・識
有識者を呼び出してなんとかなった。
めんどうごと の けはい を さっち! どうする?
▶️にげる

・幻人
今回は登場なし
皆さんが思っている以上に彼は何も考えていない
武器奪取は主に移動系魔法

・庸介
公開は登場なし
何も考えていなくはないが、深雪やほのか達のことは言うほど気にしてなかったりした

・達也
原作主人公[劣等生()side]
申し訳程度に登場していただいた

・衛・螢
平穏そのものな蚊帳の外


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16.【幻】さすがは天下の第一高校

オリ編の展開模索中なので投稿ペースは落ちそう
そもそも平行してるもの多いし…


 

【幻】

 

――――全校生徒の皆さん(…キィィィイイイイイィィン…………)!!」

 

 一般に放課後と呼ばれる時間になった直後。激しいハウリングを伴った突然の放送に思わずぶはっと吹き出してしまった。変なものを見る目を向けてきた隣席の女子と正面に座るゆっきーにごめん、と軽く謝っておく。反対側のマモはこちらには無反応だったので放置。

 放送の主は"学内の差別撤廃を目指す有志同盟"を名乗り、……あとはよく聞き取れなかった。クラスでも血気盛んな面々がやいのやいの抗議してたから。

 

「こんなとこから何言っても届かんて。元気なのはいいけどエネルギーの無駄無駄ぁー」

「まあそんなこと言ってもな…おっと」

 ゆっきーが端末の画面を見ておもむろに立ち上がる。

「ん?ひょっとしてフキンノヨジ?」

「長音が全っ然足りてねえ。放送室が不法占拠されてるとのことで呼び出しだ」

「あらま非公式。まあそりゃそうか」

 

 小走りに教室を出ていくゆっきーを見送ると、こちらもちゃっちゃと荷物を整理することにした。

「帰ろうぜマモ~ここにいてもしゃーないわ」

「そうだねぇ」

 

 まだぎゃいぎゃい騒いでる暇人もいる教室をあとにする。と、シキとばったり遭遇した。

「Heyお姉ちゃん今帰り?」

「言い方よ。まあその通り、なんだけどほたるんがもう新しい友達と一緒に行っちゃいました~というわけで」

「こういう変な騒ぎ嫌いそうやもんねぇ…とりまヨースケ拾いに行こうぜ」

 

 …ヨースケで思い出したけど、これ敵意を向けられてるだけの一科生より巻き込まれる二科生の方がよっぽど迷惑だよなぁ。行動を起こしてるのはその行動力だけが取り柄な一部だろうし。忘れられがちだけどサイレント・マジョリティーはどこにでもいる。簡単な話。

 廊下の人口密度が上がってきたし、さっさと降りますか。

 

 ❁ ❁ ❁ ❁ ❁

 

 翌日、第一高校は面白いことになっていた。

 なんでも、昨日放送室を乗っ取っていた…なんか安直で長い名前だった同盟とやらは、明日の放課後に生徒会と公開討論会を執り行うらしい。そんでその公開討論会に向けて、彼らは仲間を増やそうと、授業の合間を縫って精力的に()()しているわけで。

「はぁぁぁぁぁぁ…ウッッッッッッッザ

「どうやらごきげんななめのようだ」

「どうやらもようだも何もご機嫌斜めじゃい」

 

 昼食の席にて、いち早く食堂の角の一番奥まった場所の席を確保したヨースケは壁にもたれ掛かってゲッソリしていた。

 なにぶん、同盟(笑)がターゲットとするのはその主張の内容もあって二科生。それゆえここまで半端なく絡まれてきたらしい。部活動勧誘週間の喧騒が思い出されるけど、活動団体は一つだけなんだよなぁ。それでここまでの大騒ぎとは…さすがは天下の第一高校*1

 

 ちなみにいつも通りの五人で行動してたら、ヨースケを指して「その二科生を解放しなさい」とか言われたのが俺は未だにツボだったりする。なかなか良質な腹筋の運動ですよこれは[要出典]

 

 現在このテーブルにはそのいつもの五人とゆっきー、さらにB組からの新メンバー・峯琥ノ葉(コノちゃんと呼ばせてもらうことにした)がいる。ほわほわした雰囲気をまとう彼女は、困ったようにヨースケに声をかけていた。

「なんというか…お疲れ様?」

「あのな……まだ昼やねん」

「よーすけなら正論突きつけて殴り飛ばすくらいできるでしょ」

「ほたるんはそのすぐに手が出るのをなんとかしようね…」

「正論も毎回やるとなったら現実的やないな…」

 

 向こうが激昂して暴力沙汰になる可能性はあるけど、それに目を瞑れば正論突きつけはありかも?とか思いつつ。口にしたら「「「「目を瞑るな」」」」と斉唱された。解せぬ。

「お前には解せんやろな…」

「まあまあ、そこんとこはうちのゆっきーになんとかしてもらうから」

「おいこら、聞いてねーし決まってねーぞ急に呼び出しといて雑すぎんだろ」

「でも引き受けるじゃん」

「…まあ特にデメリットもねえしな。教室までは無理だが」

「^^」

「なんの顔だそれは」

 

 さてさて、この件はすんなり決まったのでよしとしよう。すると今度はゆっきーがそれで、と口を開いた。

「あんたら討論会は行くのか?」

「「「「「行かない」」」」」

「私も~」

「…そうか」

 ものの見事に五人で声が揃った。ちなみに他四人およびコノちゃんはそれぞれ部活らしい。俺はフリーだけどまあ、終わるまでどっかで暇潰しかなーといったところ。

「どういう意図の質問か聞いて大丈夫そ?」

「風紀委員としての質問だよ。当日は警備とかで就くことになるだろうし」

「なーる」

 

 会話が終わって、ヨースケとゆっきーがトレーを片付けに立った…ところで、ぽつりと零したのはほたるんだった。

「…明日何が起きるか楽しみって顔してるわよね、幻人」

「ん?」

「あん?…」

 

 食器を整理していたシキが顔を上げ、テーブルに背を向けていた二人も足を止めて振り向いた。マモはマイペースに食事を続けている。やれやれ、と思いつつ識から回ってきたトマトを急いで飲み込んだ。

「やっぱりほっちゃんは口数少ない代わりにそういうところ気づくよねぇ」

「しれっと新しい呼び名作んないで」

「…討論会以外にも何か起きるってのか?」

 ずいっと詰め寄ってくるゆっきーをかわすように、空いたヨースケの席へ移動。ひゅー怖い怖い。まあ秘密にしておく必要もないとはいえ大声で話すことは若干ためらわれる。なので手招きして顔を寄せ合う形にした。コノちゃんもこの際巻き込んでしまおう。

「一応オフレコな。同盟(笑)の連中みんな妙なリストバンドしてるだろ?」

「あのどっかの国旗にありそうなやつな」

「むしろあったような気もする。笑うのはやめたげようね」

「へいへい。あれな、俺よそで見たことあるんだわ」

「マジか?どこで」

「ま、ちょっとロクでもないとこだよ」

 

 そこでパッと顔を離し、背もたれに身を預ける。他のメンツもばらばらに席に戻っていく。

「なんというか、大変そうだね」

「慣れるとそうでもないゾ^^」

「そういうの狂っとる言うんちゃうか…知ってたが」

「…衛は妙に落ち着いてるわね」

「もう同じ意見共有してたからね」

「マモには伝えといた方がいいっしょ、深瀬家が動くかは知らんけど」

「いやー…動くったって現役生は僕と姉さんだけだからなぁ」

 

 何はともあれ、明日何が起きるか楽しみだね*2

 

 

 

 

 

*1
無関係

*2
躊躇のない明言





・幻人
大抵のことは笑い事。くるとる
トリコロールカラーのリストバンドについて知ってはいる

・衛(マモ)
鋼のメンタル1号

・之晶(ゆっきー)
D組の苦労人
余程のことがなければ引き受けるくらいの行動力はある
女子苦手(対面や対話は落ち着かないレベル)は健在なので食堂でもそういう配置だった

┌───────┐壁
│琥 螢 衛 庸│
│□□□□□□□│
│  識 幻 之│
└───────┘通路側


・識
相手によってはツッコミに回らざるを得なくなるタイプ
食の好き嫌いが多い

・庸介
ゲッソリ

・螢
勘がいい一面も持ってる。でもやっぱりすぐに手が出る

・琥ノ葉
なかまいりをはたした!
ほわほわした雰囲気はなかなか崩れない鋼のメンタル2号。



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17. 襲撃の一幕【衛】 / 【雫】

※討論会とか諸々はない図書館スタートです。ご了承ください
オリ編を無事終わらせられるか不安になるけれど、わたしはげんきです。


 

【衛】

 

 本日4月23日(土)、現在放課後。討論会を見に行ったメンバーが多いためロボ研を早く上がることになって、端末で手短に連絡をとると幻人は図書館にいるとのこと。

 

「なーんか空気がピリピリしてると思わん?」

 図書館前で合流すると、幻人は開口一番そう訊いてくる。

「さぁ……言われてみればそんな気もする」

「ま、あれだけ同士集めに東奔西走してた同盟の大一番をやってるわけだし。緊迫感はあって当然か…あ、ちなみにヨースケもソーサク君と来るってよ」

「美術部もかぁ」

「気になるわなぁ~言っちゃえば一科と二科のぶつかり合い?となれば少なくとも全校生徒の半数はいるっしょ」

 

 程なくして庸介と北くんも到着し、図書館に入ると一度解散する運びになった。北くんがあっという間にどこかへ姿を消し、庸介も探し物があると言って本棚の合間に消えていった。僕は何か目的があって来たわけではない手持ち無沙汰の身の上なので、足早に二階に上がっていく幻人についていくことにする。

「そういやずっと思ってたけどさ~ここの一階ってエントランス部分だけ張り出してるけど、あの上って出られるんかって」

「…見たところ無理そうだね」

「はーつっかえ……まあ特に安全柵とかもないし希望的観測だったけども」

 

 図書館に入ってすぐは吹き抜け。幻人が言うエントランス上のスペースは、階段を上ってすぐのここからよく見えるけど行くすべはなさそうだ。見たところ窓も開かないらしい。

「あ、隣は開きそう」

「いやー、さすがにそこまでして」

 窓に近づいたとき、外からすさまじい爆発音が響き渡った。

 

 

「なんやなんや?」

 階下から庸介の声。ほどなくして二階に上がってくる姿が見えた。

「やらかしたか…科学部」

「あったっけ?」

「いやなかったけど」

「ないんだ」

「ないんかい、あったか思ったわ」

 庸介ががくっと左肩を落とす。テレビで関西の芸人がやっていたコケ方をこんなところで見られるとは。

 

「息するように嘘つくのやめようね幻人」

「嘘つくように息してるんで大丈夫^^」

「どこが大丈夫やねん」

「せっかく幻の人なんて名前なんだしいいじゃん、名は体を表すんだぜ」

「それは傾向であって義務やない」

 下から「何事?」と声がして、庸介が「奥に引っ込んどいた方が安全なんちゃうか?」と返していた。どうやら北くんの声だったらしい。寡黙だから滅多に聞けない。…ん?

 窓の外、なにやら武装した集団が生徒と共に図書館にやって来ているのが見えた。庸介も見て「おぉ?」といぶかしげにしている。さらに横から幻人も顔を出した。

 

「何?司書増員?」

「あり得んやろこの状況で。格好も明らかにちゃうし」

「それはそう、でもなんかそういうベストセラーあったよね」

「あったあった、いいよねあれ」

「おい危機感仕事しろ」

 おっと、そうだこんな暢気な話をしてる場合じゃないか。…と思ったときにはもう幻人の姿がなかった。…一階に繋がる階段の方へ走っていく後ろ姿しか。

「あ」

「あー(諦め)」

 

 銃声と女子生徒の悲鳴が響いたその現場を、僕は思いのほか穏やかな気持ちで眺めていた。たぶん庸介も。

 

 

 ❁ ❁ ❁ ❁ ❁ ❁ ❁ ❁ ❁ ❁

 

 

【雫】

 

「なるべく跡が残らないようにはするけど」

 武装した男たちに取り囲まれた少女がそうつぶやいて、姿勢を低くした。私たちがいる場所からは少し離れているけど、声ははっきりと届いてきた。そして次の瞬間、

「…あたし不器用だから、失敗するかもねっっ!!」

 

 ―――何か衝撃音がした、と思った次の瞬間には、五人の襲撃者は地面に倒されていた。その真ん中で、少女は頭をかきながら深いため息をついている。

 私…いや、私たちは彼女を知ってる。部活動勧誘の期間中に出会った、識の親友。少女探偵団が発足したときに居合わせたけど、「あたしは参加しない」と言っていた。私は他の襲撃者がいないことを確認して、声をかけた。

 

「螢?」

「はぁ…なんだってこんなときに限ってコノハはいないのよ………ん?あぁ、A組の…北山さんに光井さん」

「雫でいい。螢はひとり?」

「…はぐれた、が適切ね。おかげで見ての通り面倒なことになってる」

 コスチュームにある文字列を見るに、クラウド・ボール部に入ったらしい。倒れている五人の男たちには目もくれず歩き出す螢に私たちもついていくことにした。…けど。

 

「面倒って…本当に一瞬だったけど、さっき…?」

 うん、私もほのかと同感。すると螢は足を止めて振り向いた。その手元にぽっ、と小さな明かりが灯った…小さな火だ。

 

「私の得意分野は振動系の加熱側…慣れてもけっこう加減が難しいのよ。さっきのは単純に、自分の体に使って強化しただけ」

「それってかなり消耗するんじゃ?」

「だから面倒なの……けど」

 

 もう一度歩き出した螢の足どりはさっきより速い。眉間に皺を寄せて、焦りが感じられる。

「けど?」

「うちの困ったさんがもっと面倒なことになってる気がするのよね…!」

「困ったさん…?」

「落ち着かない…けど、たぶんあたしが行っても意味がないし…」

「大丈夫なの?」

「…自慢じゃないけど、こういう勘はけっこう当たるのよ」

 





・衛
暢気。危機感も緊張感もどこかに落としてきて手元にない。
※彼はそれなりに規模のあるおうちの人間です。念の為

・幻人
マイペースが過ぎるぞ貴様…
謎の武装集団にちょっかいかけに行く謎(または恐怖)の思考回路をお持ちだった

・庸介
ツッコミ担当(粘り強くはなく、途中で諦めて溜め息つくタイプ)の苦労人

・蒼朔
北くんようやく喋った。一単語だけ。
読書に没頭するタイプで、余程のことがなければ…の余程のことが今回あったわけだが。

・壬生さん
!?

・なんかそういうベストセラー
語り継がれてるかリメイクか別作品かは想像に任せる

❁ ❁ ❁ ❁ ❁ ❁ ❁ ❁ ❁ ❁

・雫・ほのか
たまたま螢に出くわし、その身体能力の高さに驚いた

・螢
身体スペック高。小型かつ高性能。
勘冴えて悔しい人。
振動系の加熱側に適性が高い。今回の使用例は二次元でよく見るけど、これって実際どうなの課…?と思ったり。

・困ったさん
☑言及済み

・識
今回はお休み。また後でね~

・作者
今回の【雫】が短すぎて単独投稿できず、展開的にもこっちにねじ込んだ方がいいかなということでこう(再投稿に)なりました。迂闊。
オリ編の展開に懊悩を極めてOh,no!とか言ったりするけれどわたしはげんきです。


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18.【幻】これはいわゆる様式美ってことで

@図書館に戻る


 

【幻】

 

 ―――――魔法が発動する。

 

 立ち上がり、埃を払いつつ武装集団~女子生徒一人を添えて~が消えていった重厚な扉を見る。あ~貫通してちょっと血が飛んじゃったか。めんどくさいな。ついでに制服のズボンにも穴が開いたので、これで晴れてダメージジーンズ(物理)に……いやこれスラックスって言うんだったか。ダメージスラックス(直球)では絶妙にダサいので却下です。残念無念。

 以前、清廉とはほど遠いのでわざと汚しておくのも一手…とか言ってはいた*1ものの、まさか汚す前に穴を開けてしまうとは。人生何が起きるかわからない。

 

「よう大丈夫か?」

「いやぁこれでダメージジーンズ(物理)だと思ったけどこれジーンズじゃなかったね」

「これやもんなぁ~…心配するだけ無駄やでほんまに」

 ヨースケはそよ風が起きる勢いでがくりと膝に手をついた。後ろでマモは無言でほほ笑んでいる。そういえばなんか笑顔は攻撃的なものだという話があったね故人いわく。俺は知らんが。

 

「まあこれはいわゆる様式美ってことで。さて、閉じこもられちゃったけどどうします?」

「様式美は自分で言うことちゃうやろ……どうもこうも、俺らがどうこうしてええことなんか?これは」

「ここまでいくともう、生徒会とか風紀委員に任せた方がいいんじゃないかな」

「信頼ある委員くん(ただし割と女子が多い)?」

「もうツッコまんぞ」

 銃弾を見つけて拾っておいたのはシンプルに好奇心から。なかなかこうしてお目にかかれるものではないからね。一旦外に出ようかと思ったけど、どうやら図書館前がもう混戦状態らしいので断念した。窓際に寄るとヨースケが結界を張った。視線避けらしい。

 

「自販機でなんか買って眺めとくかな…」

「スタイリッシュ不謹慎ェ…」

「ところでソーサク君は大丈夫かね?」

「…引っ込んどるし大丈夫ちゃうか?本に集中してたらなかなか戻ってこんしな」

「そっかー」

 一階を覗き込んだヨースケの言葉にひとまず安心した。なるほどうっかり出てきて変に疑われる可能性すら潰れるか。素晴らしいことですね。

 二科生、それもまだ魔法師界隈に足を踏み入れたばかりの家庭出身…実を言うと、ソーサク君は不安要素として少し警戒してはいたけど、手首に例のリストバンドはなかったのでおおむねシロと見ていいだろう。あれだいたい運動部に多い傾向があるように思えたし。

 とはいえ今回こうやって巻き込まれちゃってるので、さすがにこの変人*2にも心配する気持ちが芽生えたわけだ。二重の意味での安心である。

 …あ、風紀委員来た。あと総代さん。その他数人。図書館前の武装勢力がじゃんじゃん蹴散らされていく。それはもう清々しいくらいに。

 

「「「おー…」」」

「…これ僕らがいるとむしろややこしいよね」

「そういやここ、どっか裏にも階段あったんでない?」

「あーまあ…これほどの規模の建物やし、ない方がおかしいか」

 まあ信頼ある委員くん(+α)も来たことだし。無責任にも傍観を決め込ませていただきますか。ソーサク君は回収できるかな。

 

 

 

*1
1話参照

*2
躊躇の欠片もない断言





・幻人
緊張感?知らない子ですね。
※彼はダメージジ……スラックス(物理)を作ったばかりです、念の為
自覚のある変人。どうせちょっとだけだし…と血痕を残していくことにも躊躇はない(有れよ)。

・衛
相変わらず危なっかしいなぁ^^…何?別に怒ってないよ?^^
実際すぐいつも通りに戻るのが彼である

・庸介
なかなか状況は変わらない、ただ一人のツッコミ担
視線避けは一応光学系。慣れだ慣れ。

・蒼朔
こいつ、銃声が気になりこそすれ書棚の間から出てくる気配はない。恐ろしい本の虫である。

・信頼ある委員くん(+α)
言うまでもなく男女比1:1の公式メンツ
うち一人が次の語り手になるけどちょっとキャラ把握に自信ない


まさか階段が正面のあれしかないなんてことはないと思うんだ
ややこしくなるから登場しなかったんだろうけど


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19. 彼らのこと【エ】

語り部のところは不本意ながらこうするしかなかった、とだけ書いておきます


 

【エ】

 

「!」

 剣道部の上級生と一旦間合いをとったとき右から気配。ちら、と見ると男子が三人……図書館に入るとき、達也くんが「二階の奥に三人いる」と言っていた。その三人だろう。

 一瞬警戒したけどエンブレムがあるからたぶん違う。それに今の状況わかってるの?と思うくらいのんびりしてる雰囲気で…

 

「チィッ…!」

 舌打ちが聞こえたと思ったら、さっきまで相対していた上級生が三人の方へ向かっていく。私たち側の援軍だと思われた?これは止めに入った方が―――

「あっ待て…っ!?」

 …って思ったんだけど。上級生は見えない壁に弾かれるみたいにして、あたしの目の前を横切る形で弾き飛ばされて尻餅をついていた。

 

「はいはいこっちは無関係やからな」

 一人目立って背の高い男子がそう告げる。…若干気勢を削がれた感じはあるけど、ここは乗っからせてもらおう。

「そうそう、あんたの相手はあたしよ!」

 

 

 相手を峰打ちで沈めるのは一瞬だった。まあ向こうには困惑の色があったし、正々堂々とは言えない勝ち方だったのが若干不満といえば不満だけど。

 振り向くともう三人の姿はそこにはない…と思いきや、さっきとは反対側の奥から一人増えて出てきた。…ん?そういえば見覚えのある顔…

 

「衛くん?」

「やあ千葉さん、大変そうだね」

 百家支流・深瀬家の衛くん。同い年で同級生なのは知ってたけどこんなところで学内ファーストコンタクトとは喜べない。声をかけると、いつも通りの穏やかな笑顔で右手を小さく挙げてくる。

「これを()()()()で済ませるあたり強いよね……状況わかってる?」

「まあなんとかなるんじゃない?じゃあ北くんも無事回収したし僕らはこれで」

「はいはーいっと」

 キタくん、というのは増えた一人のことか。さっきからは背の順ワーストが書き変わってる。けどさっきと同じ、相変わらずのんびりした雰囲気のまま四人は図書館を出ていく。…ん?一人スラックスに穴開いてるぞ?

 

 足音に振り向くと、階段を降りてくる壬生先輩と目が合った。

 

 

❁ ❁ ❁ ❁ ❁

 

 そういえば、特別閲覧室の前で脚を撃たれた生徒がいた。

 ブランシュのアジトに突入するメンバーを決めたタイミングで、壬生先輩がおそるおそるといったふうにそう伝えてきた。

「…でも、あなた以外には誰も運ばれてきていないわよ?」

「まだ現場に倒れている、のか?それとも…」

 思わず全員が視線を向けた先、安宿(あすか)先生の言葉に数人の顔がこわばった。けど実際に図書館に突入した達也くん、深雪さん、あたしの三人は思わず顔を見合わせる。

 

「ですが…私たちが着いたときには、もう誰もいませんでしたよね?」

 深雪がきょとんとして、再び達也くんに顔を向けつつ言う。達也くんは「ああ」とうなずいたけど、少し考え込むそぶりを見せて続けた。

「だが、確かにわずかな血痕だけは残っていた。場所からして、俺たちが倒した相手ではない他人と思われるものが」

「えっ、そうなの?」

 

 思わず達也くんの顔を見た。いやまあ、あたしはずっと階段の下にいたからそこまでは見てないんだけど。深雪さんも気づきませんでした、と目を丸くしている。しっかし脚を撃たれた…ふーむ……?

「…あ、あたし見たかも。その本人」

「何だって?」

「エリカ、本当?」

「違うかもだけど……遅れて避難してきた四人の男子がいてさ、一人だけスラックスの右脚に穴開いてるなって」

「そういえばオレも見たな、そいつ。でも普通に歩いてたぜ?」

「そだねぇ…全然なんともない感じの軽い足取りだったよ」

「あの状況で軽い足取り…ですか…」

 深雪さんはひきつった表情。そうだね、あたしもさすがに引いた。あとレオも見てたか。…にしても、どういうこと?

「治癒魔法ってそこまで早くないわよね?」

「あくまで応急処置ですからね…完治まではしないはずです」

 一同うーん…?と考え込む形になってしまった。一足先に保健室を出ていた十文字会頭は、廊下で誰かとなにやら話し込んでるらしい。

 

「……なんかもう、大丈夫そうだったなら大丈夫そうでよくねえか?それに急ぐんだろ?あちらさんが態勢を整える前に」

「根負け早すぎない?…と思ったけど、そうねぇ……四人とも本当にのんびりしてる感じだったし、これはもう後回しにしちゃってもいいかもね」

 …うん。若干不本意だけど、今回はレオに乗っかることにしよう。平然としてた当事者がここにいない以上、あたしたちが勝手に悩んでても意味がない。それよりも今は優先することがあるし。

「…そうだな」

 達也くんも深雪さんも、生徒会の面々もしぶしぶといった様子で承諾してくれた。保健室を出たら、そこには十文字会頭と、剣道部の桐原先輩の姿があった。

 

 あたしは、壬生先輩がその撃たれた生徒について"前髪が長い"って言ったとき、達也くんの顔色が少し変わったのが、まだちょっと気になってるけどね。

 

 

 

 

 





・エリカ
ここにおいて一番いい立ち位置と思って語り部にしたが難しい
場違いな雰囲気の三人(→四人)に内心困惑気味ではあった

・男子四名
衛→→安定のにこやか
幻人→安定のマイペース
庸介→空気を固めて上級生を弾き返した張本人
蒼朔→あとでちゃんと借りに来よう…って思ってる

・剣道部上級生
泣いていいと思う。


・@保健室
壬生先輩→思い出して不安になったが、
     軽い足取りと聞いて???ってなってる
レオ→見かけて少し気になった程度なので顔とかは見てない
先生・先輩方…重傷者のようで心配したけど、………?
深雪→軽い足取り……?
達也→血痕のことは後回しにしてあえて言わなかった。
   …まさか…な。


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20.【螢】ずいぶんな騒ぎになってたけど +α

入学編ラストはここに来て初の語り部になります


 

【螢】

 

 光井さんの魔法で反射されて映る景色の中で、今回の騒ぎの重要参考人と目されるという剣道部主将が二人の風紀委員に捕縛されていた。どんな事件でも、終わりはこんな風にあっけない。…まあ、下手にこんがらがったり被害が広がったりするよりはずっといいことよね。

 風紀委員のひとりがこちらを見てさっと腕を振ったのを見て、光井さんもはにかみながら少し手を振っていた。そして魔法を解除して振り返ると、両手を頬に当ててもじもじしている。

「役に立てて嬉しい、って顔ね」

「えへへ…わかる?」

「わかりやすいわよ。まあ、有意義に使えるのはいいことよ」

「やっぱりすごいね、ほのかちゃん!」

 

 さて、テンション高めな彼女はコノハに預けるとして…武装集団による襲撃は、風紀委員その他の活動や生徒たちの護身()によってすっかり沈静化されたようだ。そこここで騒動が起きていたのもすっかり落ち着いている。

「はぁ、やれやれね…まさか入学早々、こんな物騒なことに巻き込まれるとは思わなかったわ」

「これにて一件落着、なのかな?」

「あとはあっても()()()()くらいでしょう」

「言い方は微妙だけど…そうだね」

 

 そこは他に言いようが思い付かなかったからしょうがない。そもそも配慮する必要性を感じなかったし。…その()()()()も、風紀委員の仕事になるだろう。護身のための使用許可はいつまで続くかわからないけど、私たちがこうしてうろつく理由はない。ちょうど端末の通知バイブレーションがしたし。

「とりあえずもう放課後だし、あとは早めに帰宅しなさーいくらいでしょうね。…あなたたちと一緒にいる理由も、もうないわ」

「「えっ」」

 

 …?……なんだかA組の二人にすごく動揺されているような。

「ほたる、その物言いはあんまりだと思うよ?」

「そう…かしら?本当のことを言ったまでだけれど?」

「これだもんね~」

「…とにかく、あたしは識に呼ばれてるから」

 

 端末の通知を見せる。かわいい…という声が光井さんの口から漏れたのは、壁紙にしている子猫の写真のことだろう。身近に癒しがあるのは大切なことだ。

「時間切れかぁ…」

「何かしら?北山さん」

「いや、なんでも。…雫でいいって言ってるんだけどね」

「………善処するわ。それじゃ、また月曜ね」

 

 

 ❁ ❁ ❁ ❁ ❁

 

 

「おーいほったるーん」

「…はぁ」

 視界の先に、ぶんぶん手を振っている識。その傍らに男子三人が揃っている。…あの可愛らしくて締まりのない呼び方、なんだかむずむずするからやめてほしいのだけれど、どうにもすっかり定着してしまったらしい。最近よーすけにまでからかい半分で呼ばれて軽く殺意が湧いた」

「あの殺気で軽かったんか?」

「心読まないでくれる??」

「いや声に出とったぞ」

「えっ………こほん。それはさておき」

「「「「(誤魔化した…)」」」」

「ずいぶんな騒ぎになってたけどみんなどうしてたの?」

 

 …生ぬるい視線が刺さるけど気にせず続けることにする。質問を向けると、あ、と識が声をあげた。

「私らはちょっと離れた演習場使ってたから、実はそれ私が一番聞きたい」

「識はなんともなかったの?」

「さすがに演習場から直帰とはいかないから、なんともなかったわけじゃないけど。それでも来たときにはもうだいぶ落ち着いてきてたんじゃないかな」

「そう……あたしは途中でA組の知り合いと合流したら、その子たちが首謀者…というか重要参考人というかを知ってるらしくて。そいつ通報して、風紀委員に捕縛されるのを見てたわ」

Wow…」

「誰?今の声」

「幻人」

 

 どこかの遊園地のコマーシャルで聞くやつの真似だろうけど無駄に再現度が高い。どっから出したそんな声。当の幻人はけらけら笑いながらゆったりと拍手をしてくる。やめろ。

「いいじゃん~充実した時間過ごしちゃってまあ~^^」

「どこが……はぁ…。部活も満足にできなかったし、こんなイベント望んでないわよ…。そういう幻人は?」

「図書館で足撃たれて、そのあとちょっとばかし負傷者治療行脚をね」

「は?詳しく」

 

 

 

 

 





・螢
ほのしずとしばらく同行。通報は一歩引いて見てた
騒ぎも沈静化したようだし、放課後なので帰りたい
※彼女に塩対応の自覚はありません
ほたるん呼びを嫌がっていたのはむず痒いから。可愛がられるのが苦手。突然の可愛い言い回しはあったが
あなたもその"ずいぶんな騒ぎ"の中にいたでしょうに
やはりというか、癒し系にめっぽう弱い模様

・ほのか
ちゃんと役に立てて嬉しい。気持ちがすぐ表に出る
螢ともっと仲良くなりたい

・雫
風紀委員に情報を送る作戦発案者
螢ともっと仲良くなりたい。呼び名が一向に変わらないのが気になる

・琥ノ葉
途中から合流したゆるふわ癒し枠。通報は一歩引いて見てた


・識
今回はほぼ蚊帳の外
馬がいる狩猟部、普段はちょっと離れたところで練習やってそう…実際どうなのかわからんけど……

・庸介
あの殺気で軽かったとは思えない。まあ平然としていたが。

・衛
^^
つまり通常運転

・幻人
そんな面白いことになってるなら合流したかったね!^^
それはそうとお前は何をしているんだ

・Wow…
関東の民には馴染みがないかもしれない


ここまで入学編でした
次は5人組(6人になったけどね)に迫るオリジナル編になります
よろしくお願いします





 ❁ ❁ ❁ ❁ ❁

【 】

「……行っちゃった、螢ちゃん」
「善処するって…。とりつく島もないとはこの事だね…」
「だいたい誰に対してもああだから、あんまり気にすることないと思うよ」
「けど、コノハは普通に接してるでしょ」
「そうだよ!なんかコツとかある!?」
「あ~…いや~~実を言うと、わたしもなんで気に入られてるのかはよくわかんないんだよね。申し訳ない」
「そっかぁ…」
「まあまだ四月だし、これからいっぱい接してみたら心開いてくれると思うよ?窓口なら私がなるからさ」
「うん、そうだね!」
「…コノハはその包容力で受けたのかもね」
「あはは、そうかも。…で、雫ちゃんは螢ちゃんが気になってるの?」
「うん。…友達の、私たちとは別にいる親友ってこと以上は知らないから」
「識ちゃんかな?」
「そう。識もしっかり者で信頼できるって言うし、ツンケンしてるけど悪い子じゃないのはわかるから」
「気長にいこうね、けっこうデレると一気みたいだから」
「あはは…」
「ふふ、わかった」

「…(あと、気のせいかなとは思うんだけど………雰囲気がどことなく似てるんだよね、深雪に)」


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オリジナル編・五月騒動
21.調査報告【雪】


【 】
「どうぞ……あら?」
「おや」
「深瀬…衛といったか。(かなで)の弟だったな」
「はい。すみませんちょっと立会人になろうと思いまして。ほら幻人」
「先に言っておきますけど治す以外のことはしませんからね!!」
「だそうです」
「…これは」
「いや、だそうですってな」
「ね、変わり者でしょう?」
「お前も来たのか、奏…」
「ははは、まったく聞いてた通りだね。はじめまして高塔くん。保健委員長の(まえ)()博秋(ひろあき)だよ」
「生徒会長の七草(さえぐさ)真由美(まゆみ)です。来てくれてありがとうね」
「あー…まあ、私はあまり関係ないんだが。風紀委員長の渡辺(わたなべ)摩利(まり)だ」
「ご存じの通り高塔幻人です。重ねて申し上げますが治す以外のことはしません、トラブルを増やす自信しかないので」
「あーうん。いいよ」
「いいのか!?」
「いいの?ヒロくん」
「まあ保健委員はすでに最低人数は超えてるので。本人の意向を酌めない状態じゃない。それに適材適所ってものがあるからね」
「まあ…それはそうね」
「理解ある委員長でよかったね幻人」
「ええもう一時はどうなることかと思いませんでした」
「思わなかったんだ…」
「それにしても治すのだけはするんだな…」
「そりゃ使えるもん使っていかなきゃ無駄ですからね。テツさんにも申し訳が立たないですし」
「テツさん…?」
「あぁいえ、大したことじゃありません。ほんの戯れ言です」

 ❁ ❁ ❁ ❁ ❁

というわけで、オリキャラについて語るためのオリジナル編へ突入します
オリ設定が火を噴きます。各自衝撃に備える姿勢をとってください。結構長いし
※後書きのラストは意図的です念の為
それでは、はじめに魔法科二次恒例・八雲先生チェックのお時間です

たまたま日付と曜日が一致する年に書き始めたの結構ラッキーだったな
2095/5/1(日)


 

【雪】

 

 月が変わった日曜日、私はお兄様と九重(きゅうちょう)()を訪れました。お兄様がひそかに依頼していたある調査が一段落ついたという報告を受け、その結果を私も聞かせていただくために。

「お兄様、依頼した調査というのは、もしや…」

「…しばらく前に話した、高塔幻人という生徒についてだ」

「!…あの、剣道部と剣術部の騒ぎの時、ですか」

「ああ。それにブランシュ騒動のあと、保健委員に抜擢されたらしい」

「…保健委員…ですか…?」

「なんでも一科二科を問わず負傷した生徒に治癒魔法をかけて回っていて、それが保健医も驚くほどの腕前だった、とのことだ。…それで、騒動が落ち着いた頃合いを見て、師匠に調べてもらうよう持ちかけていたんだ」

 

 …実を言うと私は、ほのか達が襲撃を受けた際に対面しているのですが……その事はまだお兄様には伝えることができていません。

 

「やあ達也くん、深雪くん!待ってたよ」

「っ!?」

 境内には誰も見当たらない…?と思った折、突然背後からかけられた声に肩が跳ねました。

「…驚かさないでください、師匠……改めて、今回はこんな突飛な依頼を――」

「あーいやいや、大丈夫だよ。これくらい造作も…なくはなかったのはまあ、確かだけどね」

「…それは」

 

 お兄様の謝罪を遮った九重(ここのえ)()(くも)先生も、歯切れの悪い返事……先生でも調査が難航した、と?

「高塔くんのことだろう?一応周囲まで含めてざっと調べているけど、どこから話そうか」

「周囲、とはどこまででしょうか?」

「よく彼と行動を共にしている面々だよ。まず、聲元(こえもと)之晶(ゆきあき)(きた)蒼朔(そうさく)、それから(みね)琥ノ葉(このは)の三人は一般家庭に近い。聲元くんと峯くんは第三世代、北くんは第一世代で…聲元くんは界隈でそれなりに名前が通ってるけど、これは純粋に本人の腕前ゆえだ。同じ委員会に属する達也くんなら、よく知っているだろう……でも、」

「他は違うんですね」

「そう。まあ立ち話もなんだから座りなよ」

 

 これはもっと早く言うべきだったね、と笑いながら縁側に案内し、私たちが腰を下ろすと「さて」と手を叩きました。

「突然だけど、二人は"深瀬"についてどれくらい知ってるかな」

「ええと…百家支流のひとつ、ですよね?」

「それと…支流の中でも高い魔法力があり、四系統八種類すべてを使いこなす『汎用』の深瀬、ですね」

 

 …迂闊にも、あまり詳しく知らない家だったので答えに窮していると、お兄様がすらすらと続けてくださいました。さすがはお兄様…!

「うんうん。そういえば、達也くんのクラスには千葉エリカくんがいたね。彼女からの情報かい?」

「はい。加えて、百家や古式の家々と提携して様々な依頼を受ける家だと」

「その通り。深瀬は端的に言えばよろず屋かな。僕もご当主とは面識があるよ。まあ、さすがに全ての古式の家と繋がりがあるわけじゃないようだけれど。で、衛くんはそこの五人きょうだいの四番目。二人のお兄さんは一高OBで、お姉さんは現役生…達也くんも知っての通り、二年生の風紀委員だ」

「そうだったのですか?」

「ああ…普段は気さくだけど、仕事にはひたむきで、尊敬できる先輩だよ」

 

 その優しい表情から、本当に深い尊敬の念を抱いていることがうかがえます…それにしても、深瀬という家系がまさかそんな近くにいただなんて、知りもしませんでしたが…

「まあ、深雪くんの疑問ももっともだと思うよ?」

「なっ…私はまだ、何も」

「ごめんごめん、表情から読ませてもらったよ……深瀬はあまり表舞台に出てこないし、十師族にもほぼ関わらない。"コンセプトが七草と同じだから"というのをその理由にしてる。一応、十師族に反旗を翻したりはしないというパフォーマンスとして、十文字とは懇意にしているけどね。……で、この深瀬と提携する古式家系が」

「…月田と、古御堂、ですか」

 

 私の言葉にうんうんと満足げにうなずく先生の顔を見つつ、私はあの時に見た二人を思い出しました。先生はまず、と右手の人差し指を立てて話し始めます。

「先に古御堂について触れておこう。古御堂が扱うのは"()(ゆう)(じゅつ)"…想子ではなく霊子を主に使って式紙を飛ばす……()()()()()()()()古式魔法だ」

「考えられている?確定ではないんですか?」

「なにぶん現代魔法とは長らく疎遠な境遇にいた家だったからね…今でもあそこと付き合いのある家は、深瀬を筆頭にごく少数。それで霊子と考えるのが一番妥当だけど、まだ確信は持てない、という感じなのさ」

「霊子…となると、SB魔法でしょうか」

「そう思えるけど、精霊のたぐいに頼るものじゃない……人造精霊に近い感じになるかな。式紙の作成まで含めて、すべて術者自身の力で行われるものだ」

「そんな術が…」

 

 霊子(プシオン)は想子と同じように超心理現象で観測される粒子。情動を形作るものと比定されていますが、まだ詳しいところまでは解明されていません。ですが古式では精霊魔法など、霊子が関わる魔法を扱う家は多くあります。

「あぁ、実に興味深いよ…ただ、識くんがそれを使えるかはわからない」

「えっ?…それは、どういうことですか?彼女は第一高校の一科生で…」

「そう混乱するのもわからなくはないよ?けれど理由はまさしくそれさ。そもそも一科生たるほどの魔法力というのは、古御堂の者としてはどうも異例中の異例らしい」

「それは……想子ではなく霊子だから、ですか?」

「そういうことだ。少なくとも調査中、彼女が魔法を使うそぶりはあったけど、その紙游術を使う様子は見られなかった。ただ想子能力自体は高い。彼女の姉…古御堂(さくら)は魔法科高校をはなから受験しなかった、ということを鑑みても、そんな"異例中の異例"である彼女は家の術を使えないのかもしれない」

「なるほど…」

「あと、識くんはどうやら"遠くの音を拾う"先天性スキルを持っているようだ」

「遠くの音……盗み聞き…?」

「おや、ひょっとしてすでに使われたのかな?人気者だねえ」

「あまり嬉しくはないですね…」

「彼女にとっては興味本意だと思うよ。あまりよろしくないことだけど、日常的に使っているようだし」

 

 まあ彼女についてはこれくらいかな、と先生は言い、今度は中指も立てました。

「一方の月田は、シンプル故に応用力が求められる結界術を扱う。だけど血縁に縛られず、適正さえあれば入門できることもあってか情報は比較的オープンだった。庸介くんは現当主・月田康一の甥っ子、同世代の中では本家直系の次に皆伝をもらっていることからも、相当の実力者と見える」

 

 結界術では相当の実力者。…あの展開速度と応用術を目の当たりにした私としては、その言葉に疑いようもありません。

「月田の本家は…確か姫路でしたよね?どうしてそんな実力者が、はるばる第一高校まで…?」

「月田流はね、皆伝をもらえば全国に散らばる傾向があるんだよ。…ただ、彼の場合は『東京にいた月田の者がいなくなったから』という理由だったようだけど」

「いなくなった…」

「三年ほど前だね。あまり報道もされなかったようだけど、当主の弟である月田康二が交通事故で亡くなってる。その埋め合わせで、そのまた弟である月田康三一家…庸介くんが来たようだ」

「…そんな事情があったなんて」

「事情は誰にでもあるものだよ。さて、そんな庸介くんが東京に来たのと同じ頃、一人の少年が深瀬の家に保護された。それが、高塔くんだ」

 

 ここに来て胡座(あぐら)を解いて座り直す八雲先生を見て、いよいよ本題に入るという緊張感を覚えます。

「…彼は、何者なんでしょうか?俺も調べはしましたが…深瀬に保護される以前の情報は、何も見つかりませんでした」

「そうだろうねえ…。いやぁ、僕にとってもなかなか衝撃的な結果だったし、あまり気持ちのいい話でもないから、少々心して聞いてほしいかな。大丈夫かい?」

「聞かせてください。俺たちは今日そのために来たんです」

 やや渋るような態度を見せる先生に、お兄様がまっすぐな言葉を告げました。…先生が心の準備が必要、とまで仰る事情は気になりますが、私もお兄様と同じく覚悟はできています。

 

……できているつもりでした。

 

 

 

 ❁ ❁ ❁ ❁ ❁

 

 

「君たちが一番気になっているであろうことに答えておくと、君たちの脅威になる可能性は…こちらから手を出さない限りはまずないね。…因縁が残っているといっても、少なくとも彼の方からは特にないようだし」

 

 意識的に明るい調子に戻したらしい八雲先生のその言葉を聞いてなお、私はショックからなかなか抜け出せずにいました。お兄様はうつむいて考え事をしている様子で、場にはすっかり沈黙が下りています。先生も少し思案顔をしたのち、注意を引くように柏手をひとつ打ちました。

「まあ、彼らについて僕から言えることは以上だ。僕も興味が湧いたから、引き続き調査する予定だけど―――」

「待ってください師匠。…周囲の人間について、一人だけ意識的に避けていますよね?」

 先生を引き留めたお兄様の指摘に、私はハッとしました。…そういえば以前エイミィから聞いたうち、飛び入りを除いたメンバーは五人。…高塔幻人、深瀬衛、月田庸介、古御堂識と、もう一人。…まだ直接の面識はありませんが。

 眼光鋭いお兄様に対し、八雲先生は困ったように頭をかいて答えました。

「う~んバレたかぁ。敵わないね、達也くんには。…宍倉螢。彼女については…きっと僕よりよく知っている人物が、君たちの身近にいるはずだよ」

 

 その人物とは、私たちも全く予想だにしなかった…叔母上。四葉家当主、四葉真夜その人でした。

 そうして私たちは叔母上の口から、"宍倉"と…その系譜の先、かつて第四研を去ったという"紫芝(ししば)"について知ることとなったのです。

 

 

 

 

 





・深雪
只事ではないだろうと思って情報共有のためについてきた。
幻人について何を聞いたのか…(露骨)

・達也
密かに調査を依頼した人。ようやく黒髪女子と盗み聞きが繋がった。

・九重八雲
密かに調査を依頼された人。螢に関しては一般人のようで近づきがたい何かがあって、もしや…という。

言ってないことはまだある。お気づきだろうか?

・『深瀬』
古式と提携し、人材派遣やよろず屋に近いこともしている。百家や古式の中で顔が広い。ので

・『古御堂』
深瀬と提携する家庭。
もともと剪紙成兵術をやろうと思ってたけど作中日本では衰退してるようなので、式神をびゅんびゅん飛ばすオリジナルの"紙游術"ができた

・『月田』
深瀬と提携する家庭。
14でも触れた結界術。展開・解除・付与の三つしかないシンプルさ故に応用力が試される。

・識・庸介
訳ありはどこにでもいる。簡単な話。

・幻人
保健委員に、されたよ!(錦□長◇川並感)
やる気:どちらかと言えばなし

・前野博秋
オリキャラな理解ある保健委員長。だって公式出てない…よね?これで把握してないスピンオフで出てたら泣く。日本史の教科書から名字を拾っています
ここの保健委員はちょっとぐらい定員超えてるくらいがいいのではないかという独断と偏見

・『紫芝』


書いてませんが+αが先に来るというややこしいスタイルになりました
それではGo for the next


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22.彼女たちの事件(前)【螢】/【雪】

引き続きオリ設定が火を噴きます。各自衝撃に備える姿勢をとってください。特に今回

優等生、残るは11巻だけになったタイミングで
2nd seasonとか南海騒擾とかに売場を譲って近所の書店から消えちゃったよ\(^o^)/

2095/5/15(日)


 

【螢】

 

 ピピピピ、という高い音で意識が浮上した。目覚まし時計に手を伸ばして音を止め、液晶に"5月15日(日) AM 8:28"と表示されているのを確認して、また布団をかぶった。

 今日は休日、つまり休む日。と言うのなら目いっぱい体を休めるに限る。いつも通り、10時半くらいまで寝てしまおう………

 

 

「………る……ほ…る!……起きなさい、螢!」

「…うぅ……ん…?」

 呼び掛ける声に身じろぎしたとたん、つかんでいた掛け布団が引っ張られ、ばさあっと剥ぎ取られた。眠い目を擦り、視線をさまよわせ、時計を見るとまだ"AM 8:44"。15分くらいしか寝られていなかった。掛け布団を畳んでいる母に思わず不満げな顔を向けてしまう。

「何…?」

「起きたわね?お友だち来てるわよ!」

「は…?」

 寝起きのふらつく足取りで一階のリビングに下りると、インターホンモニターがまだ点いていて、玄関先の様子を映している。

 

「………っ!!?」

 その光景に、眠気は一瞬で吹き飛んだ。慌てて玄関まで走り、魚眼レンズを覗いて確認するけどやっぱり同じ。と、レンズ越しに目が合った識が話しかけてきた。

「およ?ほたるん起きた~?」

「識…?聞いてないんだけどあたし?」

「ほたるんも一緒にお出掛けしよって電話かけたんだけどなぁ~…(みどり)さんに」

「そこはあたしに直接かけなさいよ!!あと光井さんと北山さんはわかるけどなんで司波さんがいるの!?」

「まあそこはおいおいね☆」

「お……っ、相変わらず行動力だけカンストしやがって…!!ちょっと着替えてくるから待ってて!!」

「相変わらず頼んだら来てくれるほたるんやっさし~☆」

「うっさい!!!」

 玄関扉に背を向け、玄関を破壊しない程度に最大限のスタートダッシュを切る。一体全体識は何を考えて、とか言ってる場合じゃない。大急ぎで洗面所に寄り道したのち、階段を駆け上がって自室に飛び込んだ。

 

❁ ❁ ❁ ❁ ❁

 

【雪】

 

 ショーケースに見入るクラスメート二人の声を聞きながら、ちらりと隣の小柄な少女を見やりました。つい最近、先生や叔母様との間で話題に上ったばかりの人物。…宍倉螢。まさか、こんな早くに接することになるなんて。

 

 

 今日のショッピングについて、ほのかと雫から提案されたのは金曜日のこと。その時B組にも顔を出してエイミィと識も誘っていたけれど、土曜の放課後になってエイミィから急用が入って来られない旨を伝えられたそう。

 そうして当日の朝。集合場所に決めていた駅前で待っていると、雫、識、ほのかの順番でやって来ました。

 

「落ち着かな~い!」

 メンバーが揃ったところでそう言ったのは識。膝に手をついて困ったように眉を下げています。

「どうしたの?識」

「だってぇー…いやまあエイミィのドタキャンは聞いてたけど、基本的にみんなと私ってエイミィ経由だし…」

「確かに…言われてみれば、エイミィだけいないのは初めてだね…」

「慣れてるメンツがいないと私は弱いんだゾ…」

 落ち着かない!と声に出してしまうあたり、弱いとは言えない気がしますが?…などと思っていると、「…よし」と身を起こした識がどこかに電話を掛けました。

 

「あ、もしもし?…はい、識ちゃんです~。あのですね、ちょっと娘さんを借りに行きたいんですけど、大丈夫ですか?……あ、ありがとうございまーす!ではまたあとで!」

「えっ」

「識?」

 通話を切ると、きょとんとしている私たちの方を向きます。とてもいい笑顔で。

「識…今、"借りに行く"って…」

「それじゃ、ちょっと寄り道としゃれ込みましょう☆」

 

 

 住宅街の一角にある二階建ての家。ああもう!!と叫びながら奥に引っ込んでいった螢は、けれど思いのほか早く出てきました。服装も素朴ながらセンスの感じられる組み合わせ。

 そして現在、先程とは打って変わって楽しげな識、相も変わらず不機嫌そうな螢、そしてほのか、雫、私の五人は、広いショッピングモールの中を散策している最中です。

 

「ふゎ………っと、はーやっべ急に眠気」

「はしたないわよ識」

「生理現象だから仕方ないんですぅー。ほたるんこそクレープ買い食いしてんじゃん」

「朝ごはん食べてないの……誰かさんが急に呼び出さなきゃ、昼前まで寝てるつもりだったんだから」

「そういえば識、螢のお母さんとも仲いいんだ」

「うん。"この子ってば誰に似たのか不器用だからいつもフォローありがとうね~"って」

「んああぁぁ!もうなんの公開処刑よこれ!?司波さんといいワケワカンナイのよ識の人脈!北山さんも「雫でいいってば」………っ」

 …あら?雫がむすっとしてる。横からこっそり教えてくれたほのか曰く、「雫でいいって何度も言ってるのにずっとスルーされてる」とのこと。そんな雫を相手に、螢は明白にたじろいでいる様子。

 

「ほたるんて呼び方に関しては頑固なとこあるよね」

「……なんか…慣れなくて」

「かわいいかよ知ってた」

「これから慣れていけばいい。私もほのかも、もう螢って名前で呼んでるんだから。遠慮しなくていいよ」

「…わかった。…雫、ほのか」

「ついでに深雪も名前で呼んじゃう?お兄さんもいるらしいし」

「初対面だけど!?……でも、そうね…いいわ。深雪」

「!…ええ、よろしくね、螢!」

 …識からの予想外のパスと、すんなり受け容れた螢に驚きはしましたが、結果的に距離が縮まったように思えました。…ほのかと雫がふらついたのは何でしょう?

 

 

❁ ❁ ❁ ❁ ❁

 

 精神干渉への適性を失い、第四研を去ったという"紫芝(ししば)"について伝えられはしたものの、私たちに螢に接触することを禁じる、というようなことはありませんでした。

『どうも私たちの世代では既に、宍倉は魔法師としてもう衰退寸前だったようで…私も深夜も全く面識はなかったわ』

『…それは、つまり』

『四葉との繋がりはないといってもいいほど希薄。調査の結果としても、彼女はこの事を知らないと見ていいでしょう』

 

 

「あたし、深雪とは初めて会った気がしないわ」

 そう聞いていたので、帰り道で螢がつぶやいたその言葉に内心どきっとしました。私がその顔を見ると、螢も前の三人に向けていた視線をこちらに寄越してきます。

「螢…?」

「なんとなくよ、なんとなく。別に深く考えなくていいわよ」

 それだけ言って正面に向き直った螢にこれといって変わった様子はなく、どうやら本当になんとなく思ったことを口にしただけのよう。安心できるような、できないような……と思っていると、ほのかの「あれ?」という声が聞こえました。

 

「ほのか?」

「ねえ…このあたりって、こんなに人通り少なかったっけ…?」

 はっとして見わたすと、いつの間にか辺りは無人。混雑する大通りからひとつ奥に入った通りとはいえ、小洒落た店がいくつか立ち並んでいます。しかも今日は休日。…にもかかわらず、店から人が出てくる気配すらありません。

「一旦大通りに出る?」

「そうしよう」

 識の提案に雫がすぐさま乗る形で、大通りに通じる道を目指します。…と、ほのかが肩を震わせていることに気がつきました。

「ほのか、大丈夫?」

「ぅ…お、思い出しちゃって」

「大丈夫、今は深雪がいるから。それに螢も」

「あたしもって何?」

「ほたるんてば頼られてるぅ」

「識はいっぺん黙って」

 私がいるから大丈夫、と言われるのは嬉しいけれど複雑です…。

 

 …それにしても……この異様な状況でほのかも雫も不安げにしているのに、あとの二人は妙に平然としているような……そう訝しんだとき、ガシャン!という音が響き渡りました。

「っ!?……カメラが」

 音は斜め上から。近くの街灯についていたカメラが、横から強い衝撃を受けたように破片をまき散らしながら吹き飛ばされていました。一見して魔法の痕跡はなし。となれば、まさか…?

「識!」

「言われなくても!」

 螢があげた叫び声に、識がきょろきょろと辺りを見渡し、別のカメラが壊れた瞬間に「あっち!」と遠くに見えるビルを指差しました。

「へ!?ちょっ、識?」

「スナイパーとはテンション上がるねぇ」

「上がらないよ!?ねえ待って!?」

「大丈夫大丈夫、ここで狙われてるのは」

 

 識の姿がブレた、と思った次の瞬間には、識を後部座席に引きずり込んだ黒いワゴン車が走り去っていくところでした。

 

「…えっ」

「「識!?」」

 あまりにも一瞬の出来事に思考が止まって、ほのかと雫の叫び声で我に返りました。…今、目の前で起きたのは明らかに誘拐。私と雫はとっさに追いかけようとして―――その手を螢に掴まれました。

「ちょ、ほた」

「大丈夫よ、あの程度」

 彼女がそう言い終わるのと、視線の先で黒いワゴン車が突如スピンして横転するのがほぼ同時でした。

 

 

 

 

 





・螢
休日は全力でだらけるタイプだが、視覚情報で叩き起こされた。完全に問題児(識)に振り回されるしっかり者(螢)の図
それでいて仲間(識)には全幅の信頼を寄せる

四葉の遠縁。しかし本人はそのことを知らない。
衰退寸前の家に産まれた、かつてのような高い魔法力を持つ人間である

・深雪
螢と識の二人にすっかり精神的に揺さぶられまくっている。可哀想
あなたの心から笑顔は破壊力がすごいんですよ

・ほのか
破壊力に当てられてふらついた
不穏な気配に以前の一件を思い出してざわついたけどそのあとの急展開についていけない
 
・雫
破壊力に当てられてふらついた
クエスト『螢に名前で呼んでもらう』達成!…したと思ったら!?
螢を信頼してる理由は17話に

・識
行動力をはじめとして色々とおかしい。言ったでしょ?そこそこヤバイって

・エイミィ
伏線とかではないごく普通の急用

・宍倉翠
序盤に出た螢の母

・作者
たわいもないお出掛けを書けないことに定評がある 


・『紫芝』
諸流の中で精神干渉の適性を突発的に失い、自発的に名を変えて第四研を去った家。(もろもろの時期的にこの設定が可能なのか不安ではある)…分家が名前を変えるスタイルは変わらず。ほとんどの家系は四葉との縁を残していて、大漢報復に同行し壊滅。縁が切れていた『宍倉』『月芝』の二家が残った。
なお、『月芝』は現代魔法からも離れてしまっているので出る予定はない。


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23.彼女たちの事件(後)【雫】

引き続き衝撃に備える姿勢(訳:自衛)をよろしくお願いします

実のところ、オリ編はまだ〆方を模索中だったりするのでゆっったり更新になります



 

【雫】

 

「いや~ひどい目に遭いました!^^」

「ひどい目に遭ったテンションじゃないよ識」

 

 横転したワゴン車から元気よく出てきた識は、その場で何かしてから悠々と戻ってきた。後ろから何か話し声がすると思って振り向くと螢が電話を切ったところ。

「とりあえず連絡は済ませたから、三人とも気にしなくていいわ」

「いやっ……いや、これを気にしないではハードル高くない!?」

「そうです!せめて説明はしてください!」

「私も、はいそうですかとは退けない」

 螢も識も何でもないことのように流そうとしてるけど、私たちが納得できるわけがない。三人で詰め寄ると二人はお互いに顔を見合わせる。

 

「……任せた!」

「断る。たまには識がやりなさい」

「えー…めんど」

「別に幻人みたいな壊滅的な説明力じゃないでしょあんたは」

「むー…しょうがないなぁ。まあ簡潔に言うと今、私が狙われてました。以上」

「「…いや簡潔すぎる(わ)よ!?」」

 ほのかと深雪のツッコミに対して、識はお腹を抱えて笑って…あきれた様子の螢に背中を強めに叩かれて「痛っ!」と悲鳴をあげた。今すごい音鳴ったけど大丈夫?

 

「世間一般には笑い事じゃないんだから真面目にやれ」

「はーい…厳密に言うと、狙われてるのは幻人君なんだけどね。ちょっと実家と色々あって。会ったでしょ?高塔幻人。襲われたときに」

「高塔くん?」

 そう言われて思い出した。少女探偵団が窮地に陥ったあのとき、深雪と一緒に来ていた二人。高塔くんは飄々とした態度の、前髪が長いのが特徴的なほうだった。…私はどちらかといえば、近くにいた月田くんの方が印象に残ってるけど。かなり背高かったし。たぶん達也さんと同じくらい。

「識あんたトラブルに巻き込まれ過ぎじゃない?襲われたときって何?」

「少女探偵団」

「だいたい察した。自業自得ね」

「「うぐ…っ」」

「待って螢、それはそっちの二人にも…う効いてるな」

「いや大丈夫…続けて、今は識の話だから」

 

 歯に衣着せぬ螢の言葉は耳に痛い…けど今はその話をしてるんじゃないから、続けるよう促しておいた。

「やっべ☆そうだった。それで、普段幻人君と一緒にいる私たちも狙われることがあるってわけ。特に私はなんか気が合うからガールフレンドとかだと思われてるのかもね」

「それで大丈夫なの?二人とも」

 不安げな深雪の問いかけに、識と螢は一度顔を見合わせ…また私たちの方に向き直った。識はいつも通りの笑顔で、螢は目を細め、凛とした表情で。

「心配することないよ、さっきの見たでしょ?」

「大丈夫じゃなきゃ一緒に居続けたりしないわよ。私はそこまで向こう見ずじゃないもの」

「それに私に関しちゃたぶん人質目的だろうし。この程度なんてことないよ」

「…そっか」

 

 

 今度は白いワゴン車が来て、少し離れた場所に停まった。とっさにCADを構えたら識に「いや、あのナンバーは知ってる」と制止された。降りてきたのはスーツ姿で青い帽子をかぶった男性。

「あれ、今回は(まなぶ)さん」

「うん。兄さんは忙しくてね」

「まあ次期当主ですもんねぇ」

「そういうこと。螢さんも久しぶり。お友だちと一緒だったかぁ……災難だったね」

 

 さらに別のセダンもやって来て、そこや白いワゴン車からぞろぞろと出てきた人が現場の処理を進めていくのをよそに、識と螢はその男性と話し込んでいる。…というか、

「私、あの人知ってる」

「えっ雫?そうなの?」

「深瀬学さん。百家支流の深瀬家の人。私も面と向かって話したことはないけど」

「深瀬…向こうの仲良しメンバーにいたよね、確か。ひょっとして雫のお家も?」

「うん。ビジネスパートナーになってる所のひとつ」

「そうなのね…」

「君たちは大丈夫かい?怪我とか」

「あ、はい!」

「問題ないです」

 

 話してたら学さんがこっちに来ていた。そして私を見て『おや?』という顔をしている。自然と背筋が伸びた。

「君は確か、北山さんのところの」

「はい、北山雫です」

「識が何か迷惑かけてないかい?」

「…たぶん、大丈夫です」

 軽く戸惑いつつ返事すると、学さんは「そうかぁ~」と…何を聞かれるかと少々身構えていたので、ちょっと拍子抜けしてしまった。

「迷惑かけてるの前提だなんて心外だなぁ」

「あんたは自省してからもの言え」

「はにゃ?」

「可愛くない」

「あの…よくあるんですか?二人が襲われることって」

 

 安定のやり取りを始めた螢と識は、横転した黒ワゴン車の近くにいた人に呼ばれて離れていく。そこで、不安そうな様子のほのかが学さんに質問をぶつけていた。

「まあ…特に識は、ひと月に数回くらいかな」

「そんな…そんなこと、私たち全然…」

「それはそうだろうね…本人としても巻き込む人を増やしたくはないだろうし、それに識は心配されるのが苦手だから」

「苦手って…」

 

―――私はまだ、倒れるわけにはいかないんだよね!

 細い路地で襲撃されたあの時、識がキャスト・ジャミングに抵抗しながら叫んでいた言葉。あのときは識が倒れずにいられることにただただ驚いたし、それができるから"まだ倒れるわけにはいかない"んだと、そういう意味だと思ってたけど。…それに、助けが来たときの第一声。

―――はぁ…遅刻だぞーまったく…

 少なくともあんな、紙みたいな真っ白な顔色で言うことじゃなかった。…それを言うなら、初めて会ったときだって。

 

「…識って…すごく強いんだと思ってたけど」

「端から見ればそうでしょうね。実際強くはあるけど」

「ぅわぁ螢!?」

「…螢、ひとこと言ってから入ってきてほしい」

 離れていった学さんと入れ替わるように、いつのまにか螢が戻ってきていた。

「以後気を付けるわ…話を戻すけど、あいつは平気を装うのがちょっと上手いだけよ」

「ちょっと…なの?」

 首をかしげる深雪。…深雪みたいな美人のこれは破壊力すごいな、と私は(たぶんほのかも)思ったけど、螢はやっぱり眉ひとつ動かさない。

「私たちは別に問題ないけどまあ、心の片隅にでも留めておいて」

「何々?なんの話?」

「あんたが自省しないって話」

 戻ってきた識はえーっ?とか言って螢に絡んでいる。…それがあまりにもいつも通りすぎて、先ほど誘拐されたばかりだということをうっかり忘れてしまいそうだった。

 

 

❁ ❁ ❁ ❁ ❁

 

「…やっぱり、不安なものは不安だよ」

「私も…」

 振り向いてももう現場は見えない場所まで来ているけれど、どうしても後ろ髪を引かれる心地で足が止まってしまう。

 

 あのあと、いつのまにか警察車両も来ていて、私たちもいくつか質問をされた。…当事者にしては妙に少なかったけど。

 そして数分後、現場がある程度片付いてきた頃合 、申し訳なさそうな顔をした識から『あーっと…とりあえず今日はここで解散にしていい?もともと帰るところだったし、このまんまここにいても危ないかもしんないし』と提案を受けた。…気になることはたくさんあったけど、実際識の言う通り。なので私たちは一足先に現場をあとにしたわけで。

 

「…深雪?」

 ふと、難しい顔をしている深雪に気づいて声をかけると、彼女はハッとしたような顔でこちらを見て、また眉を下げた。

「いえ…識も、それに螢も、妙に手慣れていると思ったもので」

「識はよく襲撃されるって言ってたけど…螢も全然心配してなかったよね」

「…住んでる世界が違う、って思った」

「わかる…」

 意図せずとも遠い目になってしまう。…けど、降りた沈黙が気まずくなってきて、ふと気になったことを確認することにした。

「…そういえば、さ…黒いワゴンから戻ってくるとき、識が何かしてたけど」

「…なんか、『軽くどついて眠らせた』って言ってたね…」

「直接触れてないなら…空気弾かしら?」

「振動系は論外って言ってたけど…他はけっこうできてるよね、識」

「あと、『スナイパーにはベクトル変換で返品した』って」

「そんなのいつの間に…?」

「そもそも、スナイパーを特定したのは?」

「遠くの音を拾うスキルを持ってるから、それだと思う」

「……対処ができすぎじゃない?」

「そう…だね……あのさ、深雪」

 …そういえば、深雪に大切なことを伝えていなかった。

「私、まだ話してなかったと思う。あとこれはほのかも見てなかったかも」

「えっ?」

「何?」

「私たちとエイミィが襲われたあのとき…深雪が来るちょっと前まで、識はキャスト・ジャミングに抵抗してた…抵抗できてたんだよ」

「っ!?…それは」

「対処できる…ってことは、さ」

「…経験済み、でしょうね」

 そういえば、覆面の男たちが現れたときにも識は「やっぱりか…」とつぶやいていた。…本人が大丈夫って言うなら、そう…なんだろうけど、だからって黙っていられるわけがない。…でも。

「…私たちにできること…あるのかな…?」

 ほのかがぽつりとこぼした言葉に、私は何も返せなかった。…ただ、深雪は何かを決心したような表情を浮かべていたけれど。

 

 

 

 

 





・雫
識も螢も対応ができすぎてて呆然とした。住んでる世界が違う…
そしてここで新情報、深瀬は北山家のビジネスパートナーのひとつ。11話で出た"どこかのお屋敷"は深瀬家でした^^

・識
すでに普段通りのテンション。※誘拐されかけました
そして犯人をしれっと軽くどついて眠らせる系女子。狙撃返品は収束系の障壁+ベクトル変換を使いました。なので銃が爆裂してるかも、と深瀬の人に伝えてある。オリキャラ随一の推しがチート気味になっていく…
心配されるのは苦手。なるべく自分(たち)だけで解決して余裕の笑顔で済ませたい。なおいかに苦手かはこれから遺憾なく発揮()される模様
 
・螢
連絡先は深瀬だった。前回からお察しだが識のことはまったく心配してない
容赦:なし
識が平気を装うことはある程度周知しておきたい

・ほのか
状況に全然ついていけていない。放っておけないけど…できることあるのかな…

・深瀬学
深瀬家当主の次男坊。報せを受けてやってきた
実は在学中は二科生だった一高OB

・深雪
次回は彼女のターンです




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24.調査報告への追記事項【達】

短め。原作主人公語り手は初かな…
引き続き衝撃に備える姿勢(訳:自衛)をご愛顧ください
推しうちの子が徐々にチート気味になっていく…

2095/5/16(月)


 

【達】

 

「ではっ…先生は知っていたのですか!?」

 深雪がそう声を張って師匠に詰め寄った。吹きすさぶ冷気を押さえ込みつつ、本人を引き止めることはしない。自分にとっても師匠の言葉は予想外のものだったから。

「うん。いかにも幻人君は、星人教の残党に付け狙われているようだ」

「確か、星人教との関わりはない…という話では」

「少なくとも()()()()()()、ね。識くんたちについても同様だよ」

「師匠…それは詭弁では」

「まあ詭弁じみた言い方にはなってしまったね。けれど達也くんは察していたんじゃないのかい?」

「お兄様?」

 

 …深雪の矛先がこちらに向いた。師匠はにやにやと笑みを浮かべている。本当に人が悪い。

「落ち着け深雪…察しまではしなかったけど違和感はあった。師匠の調査中、古御堂識に()()()使()()()()()()()()()ことだ。それも、()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「っ…!!では、先生はなぜ…」

「…正直なところね、僕は君たちをあまりこの件に関わらせるべきではないと思ったんだ」

「…どういうことですか?」

「どうも星人教の残党に関しては、全て深瀬が管轄としているんだよ」

「管轄?…もしや、警察内部にも?」

「厳密には提携する古式が内部にいる。…まあおおよそ30年前、組織解体に向けた全面戦争の頃から深い因縁があるからねぇ。あまつさえそこに幻人君という火種が飛び込んで、どうやら再燃してしまったらしい」

「ですが!だとしても識や螢が巻き込まれる謂れは…っ」

 

 納得いかない様子の深雪の叫びを、師匠は手で制した。

「落ち着きなさい深雪くん。彼女たちは当事者として、自ら望んで参加しているようだ。心配する気持ちはわかるけど、信じてあげることも大事だよ」

「…はい」

「それと深雪くん。識くんとは仲がいいようだけど、うまくやっているかな」

「へっ?」

「師匠?それはどういう意図の質問でしょうか?」

 

 失礼を承知で割り込んだ。おどけたりからかったりすることが多いとはいえ、師匠がそこまで踏み込んでくることは珍しい。

 すると師匠は少しばかりうつむき、声を低くして告げた。

「…識くんは調査している僕たちのことに気づいていたよ」

「!……師匠のことに、ですか?」

「僕だってことまでは突き止めていないだろうけど。すでにあの"盗み聞き"を向けられたこともある。…厳密に言えば幻人くんにも気づいている素振りはあったけど、アクションを仕掛けてきたのは識くんだけだった」

 忍である師匠ですら存在を察知されるほど…意図せずとも表情が険しくなっていたのだろう、師匠は声音をもとの明るいものに戻した。

「まあ前にも言った通り、手出ししなければ身に危険が及ぶことはないだろう。けど…識くんには少しばかり警戒しておいた方がいいかもね」

 

 

 

 





・達也
今回は妹の付き添いに近い立ち位置。彼はちゃんと気づいていました。さすおに

・深雪
前話の事件を受け、兄とともに八雲先生のもとへ突撃かました

・八雲先生
これがまだ言ってなかったこと。警告だけはしておこう。軽率に手出しするところじゃないよ。なお盗み聞きからは即座に逃れていた

・『深瀬』
「いつのまにか警察車両も来てい」たのはそういうこと

・識
視線や気配に敏感なのは自身が盗み聞きのスキルを持つ故に育ったものの模様。視線に敏感+圧倒的行動力=恐ろしい子…!



うーん話の構成的に急に出ることになってしまった"星人教"…詳細は後程


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25.【雪】普段通り無邪気そうに

引き続き衝撃に備える姿勢(以下同文
どうしてもご都合感が拭いきれないけれど、わたしはげんきです。

2095/5/20(金)


 

【雪】

 

「みーゆちゃん♪︎」

「っ…識?」

 放課後、生徒会室に向かう途中の人気のない廊下で肩を叩かれ、振り向くと識がいつも通りの屈託のない笑顔を浮かべていました。

 …10センチほどある身長差に加え、先生からいただいた忠告が脳裏をよぎって少し身体がこわばりましたが、なんとか平静を装います。

 

「こんなところで…ひょっとして、生徒会室に用事かしら?」

「いや、深雪に用があってさ。ちょっとばかしお時間いいかな」

「?ええ、時間はあるけれ…ど……?」

 …識はにこやかにそう言うと、私の肩に手を置き、顔を寄せてきて、

 

「私たちのこと嗅ぎ回ってるとかあったりしない?」

 普段通り無邪気そうに、その質問を突きつけてきました。

 

 

「…何のことでしょう?」

「うーん…入学して少し、あのテロリスト騒動のあとぐらいからなーんか嗅ぎ回られてる感じがあってさぁ、それがどうも私たち…螢まで含めてターゲットに見てるだけっぽいから、この学校で知り合った誰か関連だろうなってまず思ったの」

 あくまで自然に、知らないふうを装うと、識は私から少し離れて独り言のように話し始めました。

「知り合いではない可能性はないんですか?」

「相当低いだろうね。付き合いの範囲が狭い深瀬家について、及びその周辺が探られるならわかる。実際あったし。けど、螢のおうちは深瀬とほぼ無関係だからね。私たち五人…少なくとも私と螢のセットを先に知ってる誰か、の方が有力」

「…そうですか」

「それで~最初は雫かなと思ったけど、北山家もといホクザングループは深瀬家とすでに付き合いがある。調べるまでもない。じゃあ残りの誰か…ほのかがとりそうな行動には思えないし、エイミィなら私に直でぶっ込んでくるだろうし……ってところで、じゃあ深雪かなぁと思ったわけよ。ちょうどハイスペック兄妹ってことで気になってたし~」

 

 にやりと笑う識。"兄妹"ということはお兄様も気にかけていたということ…そういえば、お兄様もあの遠くの音を拾うスキルを向けられていたんでした。…それにしても…

「…こうして突き付けるには、曖昧すぎるんじゃないかしら」

「そうだねぇ。なにしろ私は適当かつ無謀に生きてるもんでさ」

 私にたどり着いた識の推理はしかし、そのほとんどが確証もない憶測。そう指摘すると、識はやはりあっけらかんとした態度で。

 

「でもでも~…態度を改めてまでまともに取り合っちゃうかなぁ…ねえ深雪」

 

「っ…!?」

 声をひそめた指摘に息が詰まった私をよそに、識は面白そうな表情で言葉を続けます。

「いや~なんか久々に聞いたよ?深雪の敬語。私が冗談多いの知ってるでしょ?笑い飛ばしてくれればそれで済んだのに、初っぱなから本気で向き合ってきたよね~真面目さんなんだからぁ」

「それは…っ少し、取り乱しただけで」

「んー?そこまで取り乱すようなことあるかな?私いつも通りのはずだけど?」

「………っ」

 ほらほら、とその場でターンしてみせる識を見て、私は墓穴を掘ってしまったことを悟りました…それも、かなり初歩的な方法で。

 

 

 





・深雪
引っ掛かってしまった。警戒したらそれ自体が罠だった件

・識
引っ掛けた。友人だろうと容赦がないのはこちらも同じらしい 


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26.【識】上目遣いは卑怯ですよ

衝撃に備える姿勢…は今回はお休みしてもいいかも
前回の続きから


 

【識】

 

 辺りに青白い光が漂い、気温がすぅっと、いや一気に下がっ…

「さっっぶ!?うわ…雫から聞いてたけどこれかぁ」

 キレると辺りが冷気に包まれるとかいう話。半端ない事象干渉力がこんな形で発揮されちゃうらしい。にしても得意魔法ってここで出るもんなんだな…いやはやちょーっとカマかけた程度のつもりだったけど、なんかスイッチを入れちゃったっぽい。

 

「…やはり、先生のおっしゃる通りでしたか

「み、みゆきちゃーん?識ちゃん寒いんですけどー?」

何が目的ですか?

 恐る恐る声をかけたら、深雪はキッと睨み付けてきて。きゃー美人のこの顔絵になるぅーとか言ってる場合じゃないぞ私。

「何が目的って…私は別に、誰が探ってきてるのかわかればいいよ?襲いかかってくる感じじゃないのは薄々勘づいてたし。だからほら殺気しまって?ね?」

「…そう…ですか」

 内心びくびくしつつ説明すると深雪の眼光もだんだん穏やかになって…あ、よかった気温も戻ってきた。

「ふぅ…一応いつもの面々もとい深瀬家には伝えることにはなっちゃうけどさ。まさかそこまで警戒されるとは…あ、どうして探ってるかは聞いて大丈夫な感じ?」

「…わかりませんか?

 

 ん?質問を質問で返され…あれ、おかしいなまた気温が下がってきた。地雷踏んだか?

「え、えーっと…?」

「私は…純粋に心配なんですよ?識や螢の…あなたたちのことが」

「え、や、だからそれは」

「対処ができるのはわかっています…しかしだからといって、黙って見ていられるわけがありません!…ほのかも、雫も同じ意見です」

「…そっかー」

 私は生返事を返しつつ頭を抱えた。…黙ってられない、のはわからなくもない。しかしまさか深雪がここまでアクティブだとは……あーでもほのか達でアレだもんな…こういう時に頼れる先があるならなおさらかー…

 

「識…無理しないで、いつでも頼ってくれていいのよ?」

「あ~~うん…善処します。けど無理してないのはほんとだから、ね」

 目線だけ上げると、いつのまにか冷気をしまった深雪は心の底から心配してる表情だった。あダメだ、まだ効いてない…美少女の上目遣いは卑怯ですよ深雪さん??

 …心配されるのはやっぱり苦手だ。こうなった場合どうすればいいのかが本当にわからない。検索したい。まあこれだ!って情報にはなかなか出会えないわけだけど、新しくお得な情報が入荷(in stock)されてるかもって希望的観測はある。けど今ここではできないから後で。

 …安心させる方法、ねぇ……ん~~~~~今この状況で効果的なやり方、となると………

 

「んぅぅ……ネタバレ…だけど深雪になら、いいかな」

「?…何ですか?」

「…私たちが巻き込まれてるトラブル。…とりあえず来月までには…完治は難しいけど落ち着きはするよ」

 

 

❁ ❁ ❁ ❁ ❁

 

 

「馬鹿なの?」

「うん!^^」

「秒で認めんな馬鹿!胸を張るな!!」

「ゴッファ!?」

 全力で開き直ってみたところ、右胸に拳が飛んできてむせた。

 

「ほ゛…螢っ、……脂肪(クッション)あるから、って…こんなガラスのハート(物理)近いところぶん殴らんで…?」

「どこからどう見たらガラスのハートなのよ。"なーんか怪しい"程度で突撃する奴がどこにいる」

「いるさ、ここに一人な!」

わかったわよ歯ぁ食い縛りなさい

「おわーっタンマタンマ!」

 ほたるんがかなり""ガチ""だったので後退を余儀なくされた。主に目つきとか構えとか。幸い接近して確実に一撃を加える感じではなかったのか、すぐに構えを解除してくれたけど。

「はぁ……ったくほんとこのヒトの皮かぶった行動力は…」

「せめて化身って言ってよそこはさ」

 

 五人揃った昼休み。そこで私は昨日の放課後の、深雪と交わした会話について報告することにした。なにしろ予告しちゃったからね。最善と判断したとはいえ。

「本当に深雪がクロだったからいいとはいえ、よ?」

「あー…来月までには~を言っちゃったのは別にいいのカナ?」

「いいでしょ別に。とっくに確定事項なんだし、それに説得Fランクなあんたの全力だったってんなら何も言えないわ」

「ングゥちくちく言葉ぁ…」

「文句が言える立場とお思いで?…で、なんであんたらはさっきからだんまりなのよ」

「いや、相変わらず漫才やなぁって」

「嬉しくない」

「知ってた」

「して衛君、進捗はいかがです?」

 

 ぷくーっと頬を膨らませるほたるん(かわいい)を傍目に、この中では当の計画に最も深く関わるメンバーに声をかけた。

「…とりあえず、幻人に僕と庸介が同行することは決まったよ」

「張り切ってこうぜ☆」

「張り切ることやないと思うぞ」

「で、私と識は暫定留守番組な訳だけど…確定になりそうね」

「あー…やっぱり?外部の対応に迫られる感じ?」

「迫られるってほどではないにせよそうやな」

「誰かさんの行動力のおかげでね」

「ぅぐ…んじゃまあ、私とほたるんがそっち担当ということで」

 

 

 

「あ、あとシキ」

「ん?何?」

「俺のこと聞かれたらもう知ってる範囲教えちゃっていいからね、泣いてもわめいてもそこは通行料ってことで」

「りょーかーい。…セリフが強すぎるんだよなぁ。なんだ今のパワーワード」

 

 

 

 





・識
"なーんか怪しい"程度で軽率に切り込んだし心配をストレートに伝えられて取り乱した。自他ともに認めるお馬鹿。絶妙に危機感がない辺り本当にお馬鹿。
心配されるのはむず痒いけど止め方がわからないから苦手。今回遺憾なく発揮()された

・深雪
警戒心をあらわにして、解いたら今度は心配が伝わってなくて説教に入った。吹きすさぶ冷気…
意味深なネタバレとやらを貰うことになった

・螢
説教二巡目担当。バイオレンス(物理)なのは相変わらず
なおギャップ萌え担当でもある模様

・庸介
女子コンビに対しては傍観に徹するツッコミ枠

・衛
何かしらの計画に関わるらしい。

・幻人
張り切って行くらしい。

・琥ノ葉
計画には関与しないので今回は不在


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27.【雪】それはあまりにも一方的な


お待たせしすぎました(断言)。お手数お掛けしますが再びの衝撃に備える姿勢をお願い申し上げます。
タイトル分けてるけど実質前後編

2095/5/26(木)


 

【雪】

 

 深雪、エリカ、達也さんの三人が識たちを探していると話すと、ほのかと雫も三人に同行してくれることになりました。なんでも、居場所に心当たりがあるそうなので。

 

「何があったの?」

「…識が襲撃を受けてる件なんだけど…実は先週、識から"来月までには落ち着く"って言われたのよ」

「え!?私たち何も聞いてないよ!?」

「二人には控えてたみたいだし…私が話したってことは秘密でいいかしら」

「わかった…それで、今日は?」

「…D組とG組。ほかの三人が揃って()()()()()で休んでるのよ」

「それは…何かありそうだね」

「けど二人とも、ほんとにそこにいるの?」

「"何かあったらとりあえずそこ"らしいから、きっといるはず。―――ほら」

 …正門を出てすぐ右側。さっきまで門の陰になって見えなかったそこに、目的の二人の姿はありました。

 

「来るんじゃないかとは思ってたよ?まさかそんな大所帯になるとは思わなかったけど」

 言いながらこちらを向いた識も、ポケットに手を入れたままの螢も、見たところは普段通りですが…。

「D組の二人が"家の用事"で学校に来ていないと聞いたから、もしかしてと思ったのよ」

「それで二人に場所を聞いて、私たちのとこまで来たわけだ。…そんで、あなたが噂のお兄様?」

「ああ…噂の内容にもよるが。司波達也だ」

 

 やや固い表情で認めるお兄様。一方の識はそっかぁ、と軽くうなずいています。…初対面のはずなのですが、そういう風に見えないのは識がお兄様と同い年だと知っているからでしょうか?

「素敵なお兄様としても風紀委員としても噂はかねがね。…で、それからほのしずと…後ろのあなたははじめましてかな」

「千葉エリカよ。テニス部の」

 識の言葉に口を挟んだのは螢。…えっ?

「エリカ…知り合いだったのか?」

「あー…たまにテニス部にも顔出してくるからさ。あたしが剣道部に行くのと同じ感じで。…まさかこんな形でも会うとはね、螢」

 そう言ってエリカは挑戦的な笑みを浮かべますが、螢の態度は…表情すらも変わる気配がありませんでした。

「別にどんな形でも、会うときは会うでしょう」

「そっけないなあ」

「これがほたるんだよねぇ」

 

 ❁ ❁ ❁ ❁ ❁

 

 識の提案で移動したカフェ、テラス席の一角。

「一品くらいなら私払えるから注文していいよ、普段からぜーんぜん使ってないし」

 注文を聞かれた際に識はそう言いましたが、さすがに遠慮しておきました。…でも言われてみれば、以前のショッピングでも識はあまり物を買っていなかった記憶があります。

 

「さてと、それじゃあまず確認だけど、みんなどこまで把握してるのかな?」

 パチンと手を叩いて言った螢に、私たちは顔を見合わせ……先に口を開いたのは雫でした。

「私たちは本当に…識たちが襲われることがあるけど、深瀬家と連携して対処できてるってこと程度しか…そっちは?」

「…おおむね似たようなところだな。付け加えるなら、それらの事件が全て深瀬家の管轄とされていることか」

 

 …私とお兄様は、八雲先生を通して既に多くのことを知ってはいますが、軽々しく話せるようなことでもないのでまだ誰とも共有していません。…エリカは深瀬家が管轄としている件について、身内に警察官がいる彼女を通して確認をとるため巻き込んだ形ですが。

「そっかそっか~。じゃあ、何が聞きたい?」

「識、螢。あなたたちはいったい何に巻き込まれているの?」

 まっすぐ尋ねたのは雫。

「…犯罪組織の()()()()、ってとこかな…念の為言っとくけど、巻き込まれてるんじゃないよ。私たちはちゃんと参加してる。当事者として、ね」

「…犯罪組織の」

「悪あがき…?」

 ほのかと雫が顔を見合わせています。……事情を教わっている私でも、"悪あがき"という言い方には眉をひそめました。

「あーっと…ほたるんこれどっから話せばいいと思う?」

「知らないわよ、情報開示なんだから開示してけばいいだけでしょ、私たちが相手してるのは宗教団体にして反魔法団体としても知られる『星人(せいじん)(きょう)』。といっても、だいたいは27年前の残党よ」

 

「「「『星人教』っ!?」」…ちょ、ちょっと待ってそれ本気!?」

 …螢の口から出たのは、かつて反魔法を唱えてたびたびテロを起こし、27年前に解体された宗教団体の名前。一切の遠慮がないカミングアウトに対し、エリカがぐいぐい二人に迫っていきました。

 それはさすがに、と止めに入ろうかと思いましたが、螢は冷静にぐい、とエリカを押し止めてしまいます。

「事実に本気も何もないでしょう」

「こういうとき遠慮なくなるよねほたるん?これ以上はちょっとアレなとこあるんだけど?いっちゃう系?」

「行動力お化けのあんたに言われても何も響かないけど何か?それに割り込んででも止めないんなら、どうせ許可は下りてるんでしょ」

「そうだけどさぁ」

「許可…って?」

 

 またしても二人だけの会話に突入していましたが、雫が聞き返すとぱたりと会話をやめ、識が答えました。

「私たちの事情…幻人君が中心だから、詳しく話そうとしたら幻人君の許可が要る。…まあ割と簡単に下りるし、みんな言いふらしたりしないだろうから話すけど」

「あ、割と簡単に下りるんだ…?」

「まあ幻人君図太いし…それに、むしろ今回は向こうからOK来たんだけどね」

「え?」

「それって…?」

「さあ~?正直幻人君が何を考えてるかは私たちにもさっぱり。…さてと、みんなの覚悟が決まったところで本題に戻らせてもらうね」

 

 それはあまりにも一方的な言葉でしたが、異を唱える声は誰からも挙がりません。平然と話を続ける識は、そこで顔の前に人差し指を立てて示しました。

「星人教が狙ってるのは他でもない幻人君。…どうしてだと思う?」

「どうしてって…」

「…こういうこと言うのもあれだけど…何か、恨みを買うようなことでも?」

「あっはっは、言うねえ雫~。幻人君ならやりかねないのはよくわかるよ。…でも、そうじゃない。端的に言うなら、幻人君が()()()だからだよ」

「忌み子?……って、まさか」

 首をかしげたほのかと雫の後ろで、エリカが顔色を変えたのを見て、識はぱちんと指を鳴らしました。

 

「お、わかっちゃった?たぶんそのまさか。…あそこは幻人君の実家なんだ」

 

 識の語りに耳を傾けつつ、私は八雲先生から教えられたときのことを思い出していました。

 

 

 

 

 





・深雪
識とのやり取りを兄に話したあと、意を決して本人を直撃することに決めた
幻人君の出自は八雲先生から先に聞いている。次回

・識
セッティングはしたけど後の事はあんまり考えてなかった。あくまでも行動力の化身だからね仕方ないね
何でも軽妙に語れてしまう厄介(?)なタイプ
意外と物欲に乏しい

・螢
容赦はログアウト中。だって古御堂識とかいう名前の行動力お化けが発端だもの
ここはすぐ二人の会話になるな………百合になる予定はない。念の為

・エリカ
こんなところに興味本位でついてくるべきではないと思う。本気か?
螢とは知り合い…というか、魔法なしでも強いのでお気に入りではある

・達也
深雪から報告は受けていた。立場的には今回も付き添いに近い
幻人君の出自は八雲先生から先に聞いている

・ほのか・雫  
そこはかとない巻き添え感があるけど彼女たちも気になる側


・『星人教』
"純然たる人間"を教義の中核としており、そこに含まれない筆頭として挙がるのが魔法師。設定自体はは元からあって他意はないんですよ念の為

・幻人
重大なカミングアウトを他人に任せる思考回路。俺たちにできないことを平然とやってのける。そこにシビれ(ry 


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28. " 泣いてもわめいても通行料 "【雪】


衝撃に備える姿勢もそろそろ慣れてきたことかと存じます。引き続きよろしくお願いします。
あと整理を諦めた文字数の暴力です。
回想シーンから始まっていることにもご注意ください。



 

【雪】

 

『そもそもの話、彼はもともと高塔という名前じゃなかった。一度名前が変わってるんだよ。彼の出生名は、弥勒寺(みろくじ)幻人』

『弥勒寺…?』

『そう。そして彼の父の名は弥勒寺幻猷(げんゆう)。…過激派反魔法団体としても知られる宗教団体、《星人教》の現教祖だ。反魔法を唱える集団の長のもとに生まれた第一世代の魔法師……それが彼なんだよ』

 

 星人教…60年ほど前に興ったという新興宗教団体。教義の中に反魔法を含み、過激なテロ活動で世間に知られていました。ですが―――

『星人教は…20年以上前に、解体されたはずでは…?』

()()()()ね。残党はどうしたって出てくる。その中で再興に向け誰よりも積極的に動いていたのが、最高幹部の一人にして新たな教祖を名乗る弥勒寺幻猷だった。しかしそんな矢先に、彼が生まれてしまった…というわけさ』

 

 お兄様も私も、少しの間言葉を失っていました。…いえ、お兄様は口に手を当てて、何か考え込んでいる様子でしたが。

『それで、彼は他の家に引き取られた、と?』

『それが、"引き取られた"というような穏便な流れじゃなかったみたいでね…。彼が書類上、今の名前になったのは10歳の頃。養子として迎え入れたのは高塔哲裕(てつひろ)。当時現職の神奈川県庁職員だった』

『現役の県職員?』

『さすがと言うか、幻人くんの過去の戸籍はそれはもう巧妙に隠匿されていてねぇ、今回一番苦労したのはそこだったよ。で、この高塔哲裕は星人教の元信者だったようでね』

『脱会して彼を引き取った、ということですか?』

『うん、時系列からしてもどうやらそうらしい。彼…高塔哲裕自身に何があったかはわからないけど、少なくとも彼は幻人くんの味方に回った、ということみたいだ』

 

 なるほど…先生でも難航する調査となったのは、戸籍に関わる本職が隠蔽を行っていたから、でしたか。

『付け加えておくと当時、高塔哲裕の家には弟で外科医の高塔克裕(かつひろ)が同居していた。具体的にどのタイミングで発現したかまではわからないけど、今の治癒魔法の腕前には少なからず彼の影響があると見える』

『医療関係者が身近に…確かに、治癒魔法の使い手としてはこの上ない強みですね』

『そういうことだ、医学書に目を通したりしていたのかもしれない。

 

……けど、高塔哲裕・克裕兄弟はその翌年に殺害されている』

『…えっ?』

『…それは…』

『なんでも、マンションの一室が蜂の巣のようになっていたそうでね…周辺で魔法が使われた痕跡は一切なし。まあ十中八九、星人教が絡んでいると考えられている。幻人君はわずかな血痕だけ残してそれからしばらく行方不明……そして二年後、山道をさまよっていたところを深瀬家当主・深瀬(いづる)に保護され、現在に至る。…以上が彼の経歴だよ』

『…報告した、"キャスト・ジャミング避け"は』

『名残だろうね。行方不明になっていた…恐らくは星人教から逃げ回っていた頃の。見たところ彼の魔法力はかなり高い。特に、躊躇なくばらまけるほどの想子量。とてもじゃないが第一世代とは思えないほどだ。異様な反応速度とやらも、もしかすると何がしかの知覚系魔法かもしれないね』

『…そうですか』

 

❁ ❁ ❁ ❁ ❁

 

 識が語った内容は、八雲先生が語ったものとおおむね同じ内容でした。戸籍の改竄辺りの話はさすがにありませんでしたが…しかしその代わり、先生も把握しきれなかったであろう、"星人教を追放され、高塔家に保護されるまで"が補われていました。

 …高塔哲裕氏が彼を(かくま)ったのは、治癒魔法で救われたから。しかし、魔法を使ったことから実の親に命を狙われ、親代わりになって保護してくれた人も突如失った。本人不在のまま繰り広げられたそんな身の上話に、ほのかも雫も、エリカまですっかり言葉を失って………話している識と平然としている螢以外、すっかり沈鬱な雰囲気になっていました。

「…識…その、こうして人に話すには過激すぎないかしら」

「まあ残念だけど事実だし、遠慮も慈悲もないよ。ご本人の言葉を借りるなら『泣いてもわめいても通行料』だからね」

「…識あんたそれ言いたかっただけでしょ」

「そりゃそうよ声に出して読みたい日本語じゃんこんなの」

「そう…まあいいけど。とにかく、実家がまだ幻人を狙ってるってのが目下の問題として…あら」

「おっと時間切れかあ」

 

 ピピピ、という小さな音。そこで話を切った識は、ポケットから携帯端末を取り出してテーブルの中央に置きました。画面には着信の表示。その相手は…

「…深瀬」

「…衛くん?家の用事で休みって話じゃ」

「今からするのはその()()の話。…もしもーし聞こえる?」

『聞こえるよ。こっちの声は?』

「問題ないよー。今カフェにいるから音量控えめでね」

『カフェ…ってことは、やっぱり接触あったんだね。螢は?あと誰がいる?』

「この通りいるわよ。あとは…E組の千葉さんは予想外だったけど、おおむね想定してた通りのメンツね」

『千葉さんも来てるんだね、了解』

 

 画面越しに聞こえる穏やかな声。けれどその向こうからは、サイレンや怒鳴り声がたびたび聞こえていて…お兄様や雫、エリカは険しい表情を浮かべていました。ビデオではない音声のみの通話なので、向こうの様子は見えません。

「…ただ事ではない状況のようですが…?」

「じゃ単刀直入に…衛君、用件を聞いてもいい?」

 

『それはもちろん。…星人教の拠点の強制捜査が終わった。幹部はおおむね取り押さえたけど、教祖には逃げられた。以上』

 

「「「「「っ!?」」」」…識!?落ち着くって」

「そうだよ?まあ強制捜査の話自体は前からあったし日程も決まってたけど。…しっかしやっぱ完全に押さえるのは無理だったかぁ」

『そらそうよ。逃げ足だけが取り柄なのは前からじゃん』

 なんてことないように話す識。そしてそこへ、携帯端末の向こうから唐突に割り込んできた違う声…聞き覚えがありますが…

「お、幻人君!どうだった?」

「げんっ、え!?いるのそっちに!?」

「大丈夫なのか?捜査現場にいて」

 …やはり渦中の人物、高塔幻人その人。思わず叫んだほのかをなだめつつお兄様の質問にうなずくと、向こうからは笑い声が返ってきました。

『はっはー大丈夫大丈夫、もうこうまでなっちゃえば赤の他人と相場が決まってる』

『初耳やが?…まああとは大人の領分やから、未成年の我々はこれから帰りますよーっちゅう報告や』

 さらに割り込んできた声はもう一人。結界術を使っていた…月田庸介といいましたか。

「これで五人揃ったね…りょうかーい。誰か怪我したとかは?」

『こっち側は特に誰も』

「うむ!くるしゅうない」

『急にどの立場やねん』

『そんじゃまたねー』

「はいな~……とまあ、こういうわけで。これでしばらく…もしかしたら残党の悪あがき程度はあるかもだけど、しばらく私たちを本格的に狙ってくることはなくなった。だから大丈夫。ね」

 電話を切って笑顔を浮かべる識。隣で頬杖をつく螢もふぅ、と息をついて口許を緩めていますが…私たちは言葉を失っていました。

 識がすっかり冷めたコーヒーに手をつけた頃、沈黙を破ったのは雫でした。

 

「あなたたち…いったい何者なの?」

 雫?とほのかが小声で問いかけますが、雫は無表情で無言のまま。一方の識と螢は、数秒ほど呆気にとられた様子でしたが…螢からはあきれたように、識からは少し真面目な様子で返答がありました。

「…そんな大したものじゃないわよ」

「強いて言うなら~…"百家支流・深瀬と愉快な仲間たち"かなー。それ以上でも以下でもないよ」

「…そう」

「そんな固くなんないでよ雫ぅ~そりゃあ確かに今日はこんな一大イベントの日だったけどさぁ」

「失敗するかもとか思わなかったの?」

「おっと容赦ないねエリカ(お嬢)ちゃん…そこは大丈夫、そこは深瀬の人脈の見せ所。協力してくれるところはいっぱいある。だからほら肩の力抜いて??」

「接続詞が仕事してないわよ識……それじゃ、主目的は果たせたみたいだし私は帰るわ」

「「「「えっ!?」」」」

 

 眉尻を下げる識の隣できっぱりと言って立ち上がった螢。私も思わず声が出てしまいとっさに口を押さえました。当の本人は立ち上がったその姿勢のままジト目を向けてきます。

「…何」

「い、いや…ほんとに帰っちゃうの?」

「…私のおうち自体は一般家庭だから。深瀬一派にいるのは私だけよ。この危なっかしい行動力お化けを放っておいたら何が起きるかわかったもんじゃないんだから」

 螢は拗ねた様子の識の背後に回ってその背中をばしばしと叩き、識は「痛っ、ちょ、痛いっ」とうめいています。…彼女が一般家庭とは言えない血筋であることをお兄様と私は知っていますが…本人はあずかり知らぬこと。もちろん口には出しません。

 

「…()()()()()()()()()、とでも思ったかしら」

「「「っ…」」」

 螢の言葉に思わず息を呑みました。それはまさしくあのとき…識の誘拐未遂に出くわしたあとで、雫がこぼした言葉。

「それはそう、違って当たり前よ。私たちにはこの通り深瀬一派っていう世界がある。…でも特別じゃない。深雪の生徒会とか、識の狩猟部とか、その辺とそう変わらないわ。なければ一緒、関係性はそう簡単に変わりはしないわよ。だから安心しなさい。識もね

「…ほたるん今日めっちゃ喋るじゃん」

「あんたが拗ねて機能不全だからよ、しゃんとしなさい!」

「痛ぁい!」

 再び二人の掛け合いが始まる一方で、もやもやしていた気持ちが霧散していくように私は感じました。

 

「だから背中痛いって…あーもう、すっかりほたるんにレスキューされちゃったや」

「やっぱり識に他人の説得なんて百年は早いわね」

「ねえ耳にも痛いじゃん…私はさ、みんなから真面目に心配されてるんだってわかって、それでなんとか安心してもらうために今回こう…みんなにサプラーイズ!したわけで…ね?」

「…さすがに荒療治が過ぎると思う」

「ん~~うん…まあ、発案は幻人君だし…」

「識はノリノリだった時点で同罪でしょう、反省しなさい」

「………"善処するわ"」

「喧嘩売ってる?」

「アッいや待ってごめんて…その、わざわざこんな集まってもらうほどとは思ってなかったし、そこはごめん。またこれまで通りに接してくれると嬉しいかな~なんて」

 

 どこか困ったような笑顔で冗談めかしたように話す識。…それに真っ先に口を開いたのは、

「…わかったよ」

「雫?」

「精一杯私たちを安心させようとしてることは。…けど、やっぱり放っておいて他人事にするなんてできないよ」

「んぇー…やっぱダメ?」

「ダメ。だから、せめて困ったときには頼るくらいはしてほしい」

「うー…あんまり巻き込みたく「わかったわ」…ちょ、ほたるん!?」

「ナマ言ってんじゃないわよ識、最善の妥協案でしょうが。関係修復したいならごちゃごちゃ言わずにこれくらい呑むべきよ」

 

 …螢の情け容赦ない物言いに私の思考も止まりかけましたが、識はテーブルに両ひじをついて頭を抱えました。

「そ…っかぁ……あんまりなことは押し付けられないからね?」

「もちろんそれはわかってる」

「…ほんと、雫にも敵わないや」

「見ての通り、こいつ押されると弱いからこれからはガンガン押していきなさいね」

「よ、余計なこと言うんじゃありませんッ!」

 ほのかや雫がふふっと笑い、いつのまにか場の雰囲気はすっかり穏やかなものに変わっていました。

 

 

 





・深雪
先にある程度は知ってたけど深瀬の用事には驚いた

・識
心配や警戒がまともに突き刺さって弱体化。バイオレンスほたるんのおかげで背中が痛い
すぐ螢といちゃつくけど百合は咲きません念の為

・螢
やはり名前ほど儚くも可愛くもない、本日のMVP
引き続き容赦はログアウト中。耳にも痛い
識に対しては常にアドバンテージがある強者

・雫
ガンガン斬り込んでいく今回のキーパーソン。

・ほのか
途中から完全に置いていかれるなどしていた

・達也
先にある程度は知ってたけど深瀬の用事には驚いた
あくまで付き添いを貫く感じで今回影は薄い

・エリカ
突然のお嬢ちゃん呼びで数秒フリーズするなどしていた

・幻人
旧姓:弥勒寺。こんな重たい身の上話を他人に任せるとかいう所業。俺たちにはできないことを平然とやってのける。そこにシビ(ry
なお、目からハイライトは消えているかもしれない。慈悲もなし

・衛・庸介
報告担当。お疲れっした~
なお今回の筋書きを考えたのは衛

・八雲先生
冒頭のみ登場。幻人君のことは大層気になるご様子

・作者
前後編にしなかったのはこのタイトルを使いたかったから。いやほんと声に出して読みたい日本語じゃんこんなの。
などと供述しており



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29.【螢】嘘も方便 +α

これにてオリジナル編を終了とします。やっとか~

九校戦(一発変換が難しすぎる)編は原作の参照にてこずっている&平行執筆が増えたので時間がかかると思われます…


 

【螢】

 

「それじゃ、この辺で解散としますか。会計は私が済ませとくね~言い出しっぺだし!」

 席を立って足早に駆けていく識。不慣れなことをしたからか、やっぱりぎこちないし妙に早口。だから気になっても放っておけばいいと思ったのに。何度首を突っ込んでしっぺ返しを食らっても懲りる様子もないからたちが悪い。

 こちらも席を立って歩き出すと、横からぽんぽんと肩を叩かれた。

 

「そういえば帰るって言ってたけど、結局ずっといたよね~螢」

「あれで流れは変わったでしょう?」

 話し掛けてきたエリカは何やらニヤニヤ笑ってるけど他意はない。嘘も方便、はじめから帰るつもりなんてなかった。ただあのまま放っておいたらこのメンツと識の間で堂々巡りになると思ったから。

「エリカも司波君もごめんなさいね。特に司波君。初対面でなっていい空気ではなかったわ」

「いや、大丈夫だよ。あくまでも深雪の付き添いだから」

「そう?…きょうだいってそういうものかしら」

「いや、ここの二人はちょっと変わってるから…」

 …苦笑いを浮かべるエリカ、無言でうなずくほのかと雫、きょとんとしている兄妹…なるほど大体察した。

 

「そう…それは置いておくとして、さっきはああ言ったけど本当に大丈夫?ほのかとか震えてたでしょう?」

「う…そうだけど、でも…さっきから何回も言ってると思うけど、知らないふりなんてやっぱりできないんだよ」

「…まあ、少女探偵団のことを踏まえるとそういう(タチ)よね。あいつはその辺わかってるか知らないけど」

 順番が回ってきて会計中の識を見やる。見た感じはもう普段通りかしら。深雪たちを見たら元通りになるかもしれないけど。

 

「二人とも、優しいのね」

「はっ?」

 思わず振り向いたらふんわりと微笑む深雪。…高嶺の花だのなんだのB組の教室でも言われてるの聞いたことあるけど、これはそう言われても当然…じゃなくて。

「…別に、これくらい普通じゃない。特別優しくなんかないわよ」

「むしろ頑固だと思った」

「雫…」

「…その指摘は甘んじて受けるわ。識が」

「えっ何??」

 戻ってきて早々困惑している識に内心ほくそ笑みつつ店を出た。

 

「それじゃまた来週、学校でね」

「!…ええ、また来週!」

 

 

 ❁ ❁ ❁ ❁ ❁

 

【 】

 

「なんというか…」

「聞いちゃっていいの?ってことを聞いたよね…」

「いいから話したとわかっていても…不安になるわよね」

「あたしはあんな重大な話を他人任せにする幻人君とやらがわかんなくなったよ」

「そういえば、エリカは初対面だっけ」

「四月の、あの武装した奴らが来た騒ぎの時に見かけた程度かなぁ…図書館から悠々と出てくるところだった。あとの二人も一緒だったね」

「図書館って、なんか大騒ぎになってたんじゃ?」

「そうそう…でも、あの三人はやけにのんびりというか…あの状況にそぐわない雰囲気だったなぁ」

「あの…お兄様はどう思われますか?」

「そうだな…とりあえず、気にしないわけにはいかないだろうな」

「まーアタシですらさすがにほっとけないなって思うし、そりゃそうだよね」

「それもあるが…実は深瀬家について、十文字会頭にも当たってみたんだ。十師族の中では唯一、関わりを持っていると聞いてな」

「そうなの?」

「…そっか、言われてみれば。全く関わりを持たないと『古式引き連れて反旗を翻すんじゃないか?』って疑われてもおかしくないよね」

「そういうことだ。それで十文字会頭いわく、深瀬家には実力者が多く、提携する古式も無名どころは多いが粒揃いとのことだ。百家関連をはじめ、頼ることもよくあるらしい」

「へー…あれ、そもそもなんで十師族と関わり薄いの?」

「そういえば二人には説明してなかったっけ。コンセプトが七草と同じだかららしいよ」

「なるほど…確かにそれは実力者」

「無名どころの古式が粒揃い、って聞くと完全に影の実力者って感じだよね…」

「確かにそうだな…。それと深雪、"深瀬家には伝える"と言われたんだよな?」

「はい…ということは」

「ああ。推測するに、深瀬は情報力でそれなりにアドバンテージを持っている…ということだ」

「そうなるとあんまり敵には回したくないよね~」

「ああ。でも現状、そういう大きな変化が起きることは考えられない。俺としては、今の関係のままにしておくのがいいと思うよ」

「そうですね…わかりました」

 

 

「そういえばさ」

「なんだ?」

「四月の件で思い出したんだけど、"図書館で脚を撃たれた生徒"って、まだ謎のまんまだよね」

「…ここで言うってことは、()()()()ことか?」

「ま、アタシは当事者だからね。むしろ達也くんも…ってのが意外かな」

「まだ推測の域を出ないけどな。具体的に何をしたかもわからない。ただ、可能性としては十分にあるだろう」

 

 

 

 





・螢
あんたがMVP。しかし地味にいい性格してる
でも結局懲りないんでしょうね…

・識
弱体化の余波は健在なので逃げた
ここまで押された経験はありません!

・深雪
アグレッシブ雫により途中から見守る側にシフトしていた。螢も動揺させるとはさすが純正美少女
これからもよろしくね?

・雫
衝撃を受けはしたけど、だからって退くとでも?
うちなら全力でサポートできるよ

・ほのか
怒涛の展開になかば放心状態。震えはしたけど退きたくはない

もう大切な友達だもん…

・達也
一歩退いて見てた①
思わぬ躊躇のない情報開示に戸惑いはあり、警戒を解いたわけではない。しかし現状維持が最良と判断

・エリカ
一歩退いて見てた②
図書館での一件はまだ気になってる



・深瀬家
言いしれぬ陰の実力者感…
※裏社会とは通じてません。念の為


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九校戦編
30.夏の舞台を前にして【識】/【螢】


やっとバスのくだり進められる感じになったので、"せめて章は作っときたくてですね"をこっちでも

2095/7/16(土)



 

【識】7/16sat

 

「すご~い!おめでと~!」

「うぉ、え、あ、あぁ…うん…」

「コノハ、コノハ待って押しが強い」

 いつものメンバー、食堂にて。異性に詰め寄られて激しくうろたえるゆっきー君は見てて面白いとは思うけど、さすがに助け船を出さないほど薄情じゃない。躊躇なく歩み寄っていくコノハを後ろから抱きすくめて引き留めておいた。…密かに豊かな果実の感触を楽しんだのは、まあご愛嬌t

あ痛っ!?…何だいほたるん」

「バレてないとでも?」

「ナンノコトヤラー」

「まあまあ、それより本当におめでとう之晶」

「あー…ありがとう。まだいまいち実感湧かなくてな」

 

 照れくさそうに頭をかくゆっきー君。…いったい全体何がおめでたいのかというと、この我らが幻人君と衛君が頼るD組の級友ゆっきー君(枕詞が長い)…もとい聲元之晶君が、九校戦の出場選手に内定したことだ。選手内定の決め手となるのは7月に行われる定期試験の結果。お察しの通り彼は好成績を納めたわけだ。努力の人つよい。ちなみにD組からは女子がもう一人出るとか。

「競技は決まったの?」

「いや、まだだな」

「なるほど協議中」

「絶対それ言いたかったやつだろ」

「バレた?」

 ジト目で見てくる之晶君にてへっ☆と舌を出しておいた。はじめは我々女子を相手にするとノンストップ挙動不審に陥るレベルだったけど、近頃はだいぶ慣れてきた感じがあって…なんか、成長を見守る親の気分が早くもわかりつつある。けど私より先にほたるんに慣れてたのはなぜだろう。ちらりと見るとほたるんも視線を返してくる。

「日頃の行いよ」

「日頃の行いやな」

「あの心読むのやめてもらっていいすか?」

「分かりやすいのが悪い…まったく、同じ選手内定者のくせしてなんなのかしらこの差は」

「…えへ?」

 

 …そう、そしてほたるんの言う通り、この私こと古御堂識も選手内定をもらっているのだ。もともと想子の量と操作能力には恵まれてる感じの私だけど、それでも実技8位は頑張った方だと思う。…ただ、出場の方はいまいち気が進まないでいるけども。

「…事情はわかるわよ」

「…ありがと。まあやれるだけ頑張るけどさぁ。競技はこれだ~!ってのがあるし」

 

 

 ❁ ❁ ❁ ❁ ❁

 

 

【螢】

 

「シ~キ~~!このこの~!」

「あっはっは~!全然効いてないぞ~!」

「…何を見せられてるの?あたしたちは」

「まあまあ…」

 抱きつくエイミィ、抱きつかれる識、背景になって見守るあたしたち。思わずこぼしたらほのかになだめられた。つい睨んでしまって、ほのかはびくっと肩を震わせている。…いや、だって端から見ても意味不明でしょこの状況。ここからどうしろと。

「いやーエイミィは比較的慎ましやかな方ではあるけどこれはこれでぁ痛ぁ!

 とりあえず本人を目の前にして平然とセクハラを口走る識はぶっ叩いておいた。幸いにもエイミィ本人は聞いてなかったみたいだけど雫が本気で引いてるから。やめろ。

 

 まあ絡み合いになってる理由はわかる。あたしたちはあたしたちで集まって勉強会をしていたこともあって、識の出場決定が発足式でお披露目な感じになったからだろう。…7月に行われた定期試験の総合結果。とりあえず深雪、ほのか、雫がトップに並んでいた。エイミィは…7位かそこらだったか。フルネーム長いから目立ちそうだけど、あたしはあまり気にしてなかったから厳密なところはわからない。

いつものメンツの中で選手内定を受けていた識は11位。実技8位だったのが大きかったらしい。之晶は理論10位の総合16位。衛がその下の17位。…聞くところによると、コノハとあたしはギリギリの21位、22位だったらしい。本当に衛はどこからこういう情報を貰ってくるのかしら。…にしても。

「幻人は予想通りのランク外…ね」

「予想通りって?」

「…"周囲がやる気満々だと冷める"って。ふざけてんのよあいつは」

「…手抜き…ってこと?この試験で??」

「理解できなくていいわよ。幻人のやる気がないのはいつものことだもの」

 

 はいはいどうどう。ポカンとした表情の雫をなだめておく。九校戦につながる今回の試験に並々ならぬ熱意を向けていたことは知ってるから。

「本気を見たこと…は…まあ、あるわよね…」

「そんな言いよどまなくていいわよ深雪。そうね…本気で望んでれば、氏名公表の対象にはなるでしょうね。まあ選手内定は結局蹴るだろうけど」

「そんなに…」

 勉強会ではあれほど勉学のペースにラグがあるなんて感じさせない快進撃を見せていた幻人だけど、蓋を開けば139位(衛情報)。呆れてものも言えないのにも、もはや慣れつつあってやばい。

「地力は高いのよ、本人は自覚してないかもしれないけど。入試の方も、深瀬家から圧かけられてなかったら間違いなく二科だったと思うわ」

「圧かけられてたの…?」

「ウケるよね~」

「いやウケないけど…」

 

 識がしれっと会話に入り込んできたところで、「そういえば」と深雪がこっちを向いた。

「そのD組の深瀬君が内定を辞退したって聞いたのだけれど」

「え!辞退!?」

「あ~…」

 識と顔を見合わせると、うんうんとうなずいていた。…ほのかや雫、エイミィは驚いてるようだけど、私たちにとっては特に驚くことじゃない。だって、

「「衛君/あいつ運動能力が絶望的にないから」」

「そっ……いや、でもさ、ほら」

「そういうの関係ない競技もある。スピード・シューティングとか」

「おぉ、とっさに出せるあたりさすが九校戦マニア」

「思わず建前から言っちゃったわね…深瀬は毎年、大会運営側。中でも衛は救護班のヘルプに行くのよ。幻人と、あとコノハも手伝いで一緒だって」

 

 衛と幻人が救護班で出動する、とは結構早い段階で聞いていた。先月末ごろ。そして治癒魔法を早くマスターしたいというコノハもついていくことが決まったのは先週のことだったりする。背丈は逆の師弟関係に頬が緩みそうになったりしたけど閑話休題。

「救護班?」

「そっか…そういえば運営側にいるのは知ってた。けど、学生のうちからそっちに回るのはなんか意外だね」

「まああとはあいつが本番に弱いってのもあるけど…あの家は慣習的にそうしてるのよ。そもそも風紀委員やってる奏さんがどの競技にも出てないの、不思議だと思わなかった?」

 あ~…という声を今度は四人があげる側だった。蛇足ながら奏さんは総合5位と言っていたか。本当に頭も良くて強い、あたしの憧れだ。

「あとそのコネを借りて、あたしと庸介も会場来るからね」

「「「「……………え?」」」」

 

 四人が仲良くフリーズした。識はうつむいて口許を押さえて、笑いをこらえている様子。

「「「「えええええ!?」」」ちょ、それ本当!?」

「本当だけど…仮に嘘だとしても、こんなしょうもない嘘ついてどうするの」

「さすがほたるん、ネタバレに躊躇がない」

「?…別に隠すことでもないでしょう?」

「…そこはほら、サプライズの精神でさ…」

「…あんたのサプライズの精神がろくでもないから学習したってことにしておいて」

「クリティカルが過ぎるぞ貴様~!」

「…そういえば、競技は決まったの?」

 

 目を潤ませて肩をポカポカ叩いてくる識を押しのけたところで、エイミィがそう尋ねてきた。…いや、もちろん私にじゃなくて識にだけど。「んー?」と識が顔を上げる(もう涙目の痕跡はない。切り替えが早くて結構)。

「あれだよあれ…クラウド・ボール」

「クラウド・ボールって…螢とコノハが入ってる部の?」

「私選ばなかったやつ!え~おんなじ競技出ようよ~」

「や、だって私の十八番(オハコ)自己加速ぞ?動かなきゃ意味ないぞ??」

「あと識は中学から経験者で、実力はあるからね…正直、今の私でも勝てるかどうか」

「そんなに…?」

「そんなによ」

 驚いた様子の四人を横目に考える。現代魔法特訓の一貫としていろいろ魔法競技にも触れていた識だけど、クラウド・ボールは得意魔法のラインナップ的にとても相性がよかったらしく、私よりも圧倒的にうまくなっていった。あたしも引っ張られるように上達しはしたけど、なかなか追い越すことはできないでいる。…コノハは私より善戦できるだろうけど、どうなのかしら。

 

「こういうこと言っちゃうものアレだけど…なんで今は狩猟部なのシキ…?」

「新しいことがしたかったからでーす!^^それに動物大好きだし」

 びしっ!と手を挙げ、笑いながら振る識。エイミィは「そっかぁ」と笑って流していた。…雫はまだ納得しきれていない様子が窺えるけど。

「悩んでも無駄よ雫。識()は識()なんだから」

「ほたるん?なんか含みを感じたよ今??」

「…そうだね。識は識だよね」

「そうだね???」

 

 

 

 

 





・識
総合11位。出場するよ。けどいまいちやる気がない。理由についてはまたあとで。作者が不安になるレベルで安心と信頼の変態

・螢
総合22位。安心と信頼のツッコミ担当(ただしややバイオレンス)、出場はしないがコネで行く。こんなことサプライズ精神を使うまでもなくない?

・雫
総合3位。九校戦に並々ならぬ情熱を注ぐため、幻人や衛には驚いた

・エイミィ
公式の数字わからんけど総合一桁ではあると思う。部活仲間の思いがけない特技にびっくり。そういえば加速系が一番得意って言ってたね…。

・深雪
総合1位。辞退されたことを会長も渡辺先輩もあまり深刻に受け止めていない様子だったのはそういうことでしたか…。

・ほのか
総合2位。どうしても影が薄くなりがちで申し訳ない…

・之晶
総合16位。出場する。異性苦手はだいぶ克服できてきたけど押しが強いコノハは苦手

・衛
総合17位。でも家優先で出場はしない。むしろしても無理なのでこういう家でよかったと思ってる、本番に弱いタイプ。試験はなんとか大丈夫だったらしいが。

・幻人
総合139位。正真正銘やる気がない。ラグについては家庭の事情。

・琥ノ葉
総合21位。救護班に参加表明してOKもらえた。わーい

・庸介
総合55位。コネで来ますよ。実はまた別の目的もあったり。




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31.夏の舞台の道すがら【識】

どんどん亀更新になりつつある
2095/8/1(月)


 

【識】

 

「それで、色々確認しておくために幻人君たちも前乗りしてるってこと?」

「そそ。とりあえず『待たせたな!』くらいは声かけとくつもり」

「いや声のかけ方」

「もっと何かあるでしょ…」

 さてさて、あっという間にやって来た8月1日。とはいっても今日は九校戦会場に出発する日で、大会自体は明後日からなわけだけど。

 ちなみに現在、本来出発しているはずの時間なんだけど生徒会長がおうちの用事で遅れるとかでバスは待機中。

 

「結局いつものメンバーなんだね」

「とは言っても、ほたるんと庸介君は大会運営の手伝いに入るし、あとは救護班だし…って感じだから、そう都合よく会えるかはわかんないけどね…あ、会長来た」

 窓の外、風紀委員長の渡辺先輩と司波君のもとへ駆け寄る生徒会長…七草先輩の姿。

 時計を見ると、乗り込んでからすでに一時間以上は経過していた。雑談してたらあっという間だったね。…おや、バスに乗ろうとした会長が戻って司波君に話しかけている。

「気に入られてるみたいだねぇお兄様…」

「どうかした?」

「いや?どうもしないよ?」

 不思議そうに訪ねてきた雫にはなんとなーく誤魔化しておいた。特に深雪はかなり本気で()()()()()()()てるから、見たらちょっと嫉妬とかしちゃうかも……あれ、なんか会長困惑させてるな。ウケる。

 

 

 さて、いよいよ走り出したバスの中。前方の上級生が何やらわいわいやってる一方で、…こちらはなんだか冷えきった空気になっていた。物理的に

「ありがとうほのか。でもごめんなさい、まだそんなに喉は渇いていないの。私はお兄様のように、この炎天下に、わざわざ、外に立たせられていた訳じゃないから

「あ、う、うん、そうね」

 ほのかが深雪に差し出したお茶を引っ込めつつ、慌てたように相づちを打った。…深雪が怖い。なんか会話に入ってこないなーとは思ったけど、どうやらお兄様の処遇にたいへんおこでいらっしゃるらしい。この日常風景にその読み聞かせスピードは普通に怖いです。

 と思いきや今度はうつむいて、普段よりワントーン低い声で何やらぶつぶつ呟き始めた。内容に目を瞑れば完全にホラー映画の音声ですありがとうございました。私の軽口も今ばかりは機能不全です。困った。とりあえず、隣のほのかがちょっと涙目なの気づいてあげて…

 

「でも深雪、そこがお兄さんの立派なところだと思うよ」

 そこで突然口を開いたのは雫。身を乗り出すように見せかけて自然と、違和感なくほのかと席替えすることも忘れずに。そして虚を衝かれたらしい深雪に雫はさらに(まく)し立てる…こら拝むな拝むな。

「バスの中で待ってても文句を言うような人は、たぶんここにはいない。でもお兄さんは『選手の乗車を確認する』っていう仕事を誠実に果たしたんだよ。確かに出欠確認なんてどうでもいい雑用だけど、そんなつまらない仕事でも手を抜かず、思いがけないトラブルでも当たり前のようにやり遂げるなんて、なかなかできることじゃない。深雪のお兄さんって、本当に素敵な人だね」

 立て板に水のごとくすらすらと出てくる褒め言葉。ちょっと見え隠れするトゲが気になるけど、これを平然と言える雫よ…。私ですら背中がむず痒いのに、正面からまともに食らって無事なのか?とほのかの背中をさすりつつ様子をうかがうと、当の深雪は数秒固まって目をぱちくりさせたあと、

「…そうね、本当にお兄様って、変なところでお人好しなんだから…」

 少し赤くなった頬に手を当てて微笑んだ。…あ、冷気も引いてきたな。危うく外に出たらフリーズドライになるところ…こら、ガッツポーズしない。

 

❁ ❁ ❁ ❁ ❁

 

 荒ぶる氷の乙女騒動*1のあと、なにやら男子勢が深雪にお近づきになろうと集まってきて、見かねた渡辺先輩により席替えが強行されるなどした。

「ねえいくら揺れが少ないとはいえ走行中のバスの中めちゃくちゃ動き回るじゃんみんな」

「あはは…みんな気持ちがアガってるんだと思うよ?私もだけどさ」

 ぼそりと呟くと、隣のエイミィが苦笑いを浮かべた。私は座席数の加減で深雪たちについていかなかったけど、どさくさに紛れてエイミィが隣の席を確保してきたのはさすがに笑った。

 通路を挟んで反対側の先輩に話しかけているエイミィを尻目に、何の気なしに窓の外を見る。…しかしここは高速道路上。いくらバスの窓は高い所にあるとはいえ、外を見ても銀色の防音壁。…どうしよう、退屈になってきた。周りのみんなには申し訳ないけど、やっぱりいまいち興が乗らなくて…

 

危ない!!

 突如として前方から響いた叫び声に振り向いたら、大勢が反対側の窓に視線を向けている。「パンクだ」「脱輪じゃ?」という声から察するに、対向車線で事故かな……そう思った次の瞬間、数人が悲鳴を上げた。

「…はっ?」

 …理由は、私の位置からでもはっきりと見えた。ガード壁を乗り越え、宙返りしながら飛んでくる事故車の姿が。

 

 

「…みんな、大丈夫?」

 急停止したバスの中、一番前の列から通路に顔を出した七草先輩の言葉に、ぽつぽつと肯定の返事が聞こえた。

「危なかったけれど、もう心配いらないわ。十文字くんと深雪さんの活躍で、大惨事は免れたみたい」

 七草先輩の言葉通り。火に包まれた事故車がバスに激突する大惨事は、深雪*2と十文字先輩*3の二人によって手際よく回避された。

 …いや、あいにく無事にとは言えなかったけど。パニックになった数人が事故車に向かって魔法を使おうとしたお陰で、一時車内は想子(サイオン)の嵐のような混沌になっていた。なんか一瞬で綺麗さっぱり消えてたけど。…妙にタイミングがよかった気もするなぁ…。

 

「それと…識でしょう?」

「えっ?」

 突然名前を呼ばれて身を起こすと、渦中の深雪がこっちを見て微笑んでいる。…まさか。

「急ブレーキの時に掛かった魔法。慣性でつんのめることがないように止めてくれたでしょう?」

「識!?」

「古御堂さん、あなただったの?」

「…立ち歩く人多いなと思って、考えてたんですけど…使うことになるとは思いませんでした」

 バ…バレてる~^^;!いやだって走行中にもかかわらず席替えまでしてるしちょっと心配だったんだよ!それで吹っ飛ばないためにはどんなのがいいかなって勝手に考えて、座標で定義する収束系がいいかなと思って。コスパ度外視で長時間は無理だし安全面もちょっと不安だったけど、結果的には大成功だった。そしてめちゃくちゃ疲れた。

 先輩方から称賛のコメントをもらったけれど、疲労と羞恥で顔を上げられなかった。スミマセンチョットムリデス……あぁでも、一応みんなに報告しとかなきゃな…。

 

 

 

 

 

*1
勝手に命名

*2
消火

*3
障壁展開





・識
実はいまいち興が乗らないまま出発当日を迎えた。
荒ぶる乙女に対してできることはありません。なぜなら自分も荒ぶる側なので。
自分を中軸に座標を作ればあとは自分次第だよなという発想。理論上可能だけどどうなんだろこれ。とりあえず張り切ったのでめっちゃ疲れた。うまく行ってよかったよほんとに。

・深雪
おおむね原作通り。
気づいてましたよ?それにしても規模が大きめなので疲れてるだろうなとは思ってた。

・雫
冷静じゃなかった。反省。
識が冷静なのは驚いたけど、考えてみれば当たり前だったね…

・ほのか
!?

・エイミィ
!?

・先輩方
誰の魔法かまでは把握できてなかったので驚いた。なにぶん当人は後ろの方に残ってたので。


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32.【識】たぶんそれは褒め言葉になる

 

【識】

 

 さて。道中アクシデントを挟みつつ*1、やって参りました九校戦会場。えーとこのあとは昼食、それから各自解散して部屋に戻って、午後に懇親会なる行事があるらしい。

 予定を確認しつつ、ホテルのロビーに入ってあたりを見回す。声をかけてきたエリカには軽く手を振っておいた。そしてそちらに歩いていく司波兄弟を尻目に、私もお目当ての人物を見つけて駆け寄った。

 

「待たせたな!」

「待ってない」

「ツレナアイ!」

 ロビーの片隅。かけた言葉に返ってきたのは冷ややかな視線。うんまあ、ほたるんのことだからこうなるだろうとは思ってたけどね。その隣で奏さんがくすくす笑ってるからいいか。

「ふっふふ…っ、通常運転ね、識ったら」

「わざわざ探してまで来たの?」

「そりゃね~?始まっちゃったら気軽に会えなくなるし?」

「かたや出場選手、かたや救護班と諸々の手伝いだからね」

「ほたるんは具体的に何するんだっけ?」

「運営側の手伝いが主だけど…私は基本的には救護班に入り浸ってる感じになるかしら。庸介は力仕事に駆り出されてくるって言ってたから、別行動になりそう」

「別にほたるんもだいたいの力仕事はできると思うけどな~普段からあれだけパワフルでバイオレン待って待って待っ………あぅ

 おもむろに顔めがけて手が伸びてきて、目を瞑ったらデコピンを食らった。

「実際にさせてもらえるかは別問題ね…それにしても、聞いたわよ?事故があったって」

痛い…その様子だと全然心配してないな?」

「若干はしてたけど"待たせたな!"で吹っ飛んだわよ。大体あんたがくたばるのが想像できないわ」

「それ褒め言葉として受け取っても?」

「勝手にしなさい」

「わーい!痛い」

 

 識、と後ろから名前を呼ばれてて、デコピン二発目を食らった額を押さえつつ振り向くと、深雪とエリカ、それからメガネをかけた女子が一人いた。

「なぁに深雪…あれ、エリカと…はじめましてかな?」

「あ、はい。柴田美月です。えっと、深瀬先輩と…古御堂さんと宍倉さん、でしたっけ」

「そうそう、やっぱり二人から聞いてる感じ?」

「はい、エリカちゃんが面白い子だって」

「面白い子かぁ~」

 チラリとエリカを見たら…あ、ほたるんに話しかけてて聞いてなかったみたい。お互いに蚊帳の外。こういうことさらっと伝えちゃう辺り、美月ちゃんとても純粋らしい。じゃエリカも言われちゃうのはわかってたかな。

「…どうかしましたか?」

「んーん?なんでもない」

「あ、私呼ばれてるから先に行ってるわね」

「はーい」

 

 軽やかな足取りで立ち去っていく奏さんに手を振って見送る。…と、そこに見覚えのある男性が通りかかって、思わず呼び掛けた。

「お?田久保さん」

 当の人物…田久保さんはすぐに気づいたようで、「おや」とこちらを見た。彼は深瀬の親戚筋の一人で、言ってみれば渉外を担当してる人だ。当然私も会ったことがある。そして…

「おはよう識ちゃん。そっちは宍倉さんだね、こんにちは」

「ええ…こんにちは」

「やーまさかこんなところで会うなんて…と思ったけど、そのカッコってことは運営側かぁ」

「そうだね。人手はあった方がいいからって呼ばれたんだよ。今はちょっと忙しいから、またあとでね」

「ん、わかった。またあとで」

「…識、あの人は?」

 再び背中を見送る私に、深雪が問いかけてきた。見ればエリカも美月ちゃんもキョトンとしてる。そりゃそうか。

「『深瀬』ってさ、実はよろず屋として一般にも門戸を開いてはいるんだよ。そっちを任されてるのが田久保さん。来てるってことは、よろず屋はお休みかな」

「へぇ…そんなお家なんですね」

「変わった家だよねぇ~知ってるけど」

「あっはは、たぶんそれは褒め言葉になると思うよ。それじゃ、行こっか深雪。長話しちゃったし」

「ええ、私たちも荷物を整理しないと。じゃあ二人とも、どういう関係者なのか知らないけど、パーティーで会いましょう?」

 

 エリカたちに用がある男子が来たようなので、雑談はその辺で切り上げることにした。案の定「おいエリカ、自分の荷物くらい自分で持ちやがれ!」と声をかけている。E組仲間かな…私二科のことはよくわからないからなー。気軽に行けないし、庸介君も人脈広げるタイプじゃないし…

「およ?ほたるんこっち?」

「たまたまよ。…じゃあまた、会場のどこかで」

「ねー」

「ねーじゃない」

「またね、螢」

「…ん」

 エレベーターの前までは一緒に来たけど、ほたるんは背中を向けて横の廊下へ歩いていった。…深雪の名前呼びにはまだ慣れてないっぽい。そういうとこはかわいいと思うんだけどなぁ。

 

 

 

 

 

*1
あの騒ぎで30分ロスしたらしい。長いんだか短いんだかよくわからないけどスケジュール上は問題ないとのこと





・識
有言実行。車内で寝落ちしたので元気
実はこんな大理石の塊みたいな場所に来る機会は少なくてちょっとテンションが上がり気味。

・螢
安定の塩対応。
心配はない、信頼はある。

・深雪
言われてた通り螢がいたので話しかけに行った。

・エリカ
こんなところでも螢と再会。お互いコネで来たことはわかるけど多くは話さない。

・美月
ここに来て初登場。
E組メンツ全然出せてないね…接点が薄いから仕方ないけども。

・奏
久々の登場、衛のお姉ちゃん。
笑いの沸点は低いのでちゃんとウケる。

田久保(たくぼ)基之 (もとゆき)
オリ設定のオリキャラが増える…本文で説明してる通りの立ち位置。深瀬の血筋で一応魔法師ではある。

深瀬がとても特殊




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