実況パワフルプロ野球20xx 「球界の至宝」取得RTA投手チャート (TE勢残党)
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1/n キャラメイクと初期戦力

 流行りに乗り遅れてる気がしますが筆が止まらなかったので初投稿です。


 はい、よーいスタート。

 

 今回はタイトルの通り、シリーズ最新作「実況パワフルプロ野球20XX」を走っていきます。

 

 目的に掲げる「球界の至宝」はオリジナル選手を活躍させるマイライフモードにおける最高称号、および各ゲームモードに1個だけ設定されているゴールドトロフィーです。

 

 条件は野手と投手で違いますが、今回走る投手ルートでは

 

・日米通算401勝以上

・サイ・ヤング賞獲得

・完全試合を2度達成

・メジャーリーグのワールドシリーズで優勝投手になる

・規定投球回到達かつシーズン防御率0点台(米なら1点台でもよい)

 

 のうち2つ以上の取得、および投手プロ野球記録を2つ以上更新することを求められます。大雑把に纏めるなら「最強の野球選手になれ」ということですね。そう考えれば雑……シンプルでいいですね、ええ。

 

 各モードに設定されているゴールドトロフィーは、いわばこれを取得できれば全クリ、という称号です。この「球界の至宝」もその例に漏れません。だからこそこうしてマイライフRTAの鉄板レギュレーションになったわけですし。因みに野手じゃないのは出場回数が少ない分「早送りモード」の読み込みが軽いからですね。

 

 ではマイライフモードを開いて「はじめから」を選択。本作はスタート時期を中高大プロの4つから選べるのが最大の特徴ですね。この1点だけで歴代最高傑作を名乗ってると言って過言じゃありません。もちろん先駆者兄貴達と同様、中学生からを選びます。まあ揃えないとWR名乗れないし、多少はね?

 

 本作のマイライフはそこそこ以上の活躍をしようとすると極端に難易度が上がる仕様なので、がっつり育てていかないと普通に戦力外貰ったり半端な成績で終わったりします(1敗)。本走みたいにサクセスからの引き継ぎを使わずにレジェンド級の選手を作ろうと思ったら、それ相応のやり込みが必要な訳ですね。

 

 プレイ時間もなかなかのもんです。体感時間を圧縮するフルダイブ技術が標準化されて久しいとはいえ、実働時間で言うと「中→高→大→プロ」で最長40年ですからね。ほぼ人生1回分です。

 

 一周3年程度のリメイク版アトリエシリーズとか一周2年~の完全再現仕様SAOなんかと比べてもダンチの長さ。和製ゲーでは最長クラスですね。昔ながらの30年プレイ勢の皆さんが狂喜乱舞してたのが記憶に新しいという方も多いでしょう。

 

 ちなみに今回、社会人野球も一応あるにはありますが、今作の選手寿命が「社会人またはプロになってから30年目終了まで」となっていることを筆頭にシステム的に不遇というか取って付けた感が強いので一般的には無いもの扱いされがちですね。それでも念願の学生→プロまで連続して再現というプレイヤーの夢は叶ってるので、ままエアロ。

 

 説明も済んだところでキャラメイクです。サクセスからの引き継ぎはレギュレーション上禁止なので、まだタイマースタートはしていないけれど作ってるところをお見せする必要があるんですね。

 

 まあどう作ったってステータスに影響しないのでランダムボタンをパパパっと押して、終わり! いえ、正確には「ムード○」や「人気者」の入手条件、一部彼女イベント、登場人物の好感度補正なんかに大きく関わってくるんですが……今回のチャートでは脳筋野球マシーンになって貰うのでそんなものフヨウラ!

 

 では改めてランダム生成をポチっと……おや、案外普通な感じにまとまりましたね。デフォルトからちょっと目元とか鋭めにさせたくらいです。

 

 普段はもっとはっちゃけた外見になるもんですが、まあ見映えがいい分にはモチベーションにプラスなので文句ありません。

 

 名前はそうですね、入力速度を考慮して「ほも」……としたい所さんですが、残念ながらNGワードに引っ掛かりますので今回は「北条元哉(ほうじょう もとや)」 略してほもとします。字面だけだと大名みたいだなお前な。

 

 投球フォームや背番号、アクセサリ類なんかは適当で構わないので、走者が使いなれている設定を使っています。後は若干の補正目当てで左投左打を選択。

 

 フルダイブだと利き腕じゃない方で投げたり打ったりしようとすると恐ろしく操作しづらいので、左にはその分を強めにカバーしてくれる隠し補正があります。

 

 有り体に言うと、左投げが強いんですよこのゲーム。野手ならそれほどの差は感じられませんが、投手だと直感的に分かるくらい違います。その補正を元から左利きの私が悪用することで、更なるメリットに化けるんですね。

 

 さて、初期設定も終わったのでいよいよ始めていきます。忘れずに「ここまでの設定を記憶する」にチェックを入れましょう。

 

 さあいよいよ開始……と言いたい所さんですが、まだ仕事が残っています。スゥゥゥゥ……

 

 

 リセマラの時間だあああああ!

 

 

 スタートボタンでオープニングをスキップ、チュートリアルを表示しないを選び、△ボタンで選手能力を確認。特能欄にピン留めされたような意匠があるか確認します。

 

 なければリセ、あっても中身が金色じゃなければリセ。これを繰り返します。皆さんご存知、天才選手厳選ですね。本チャートではダイジョーブガチャを極力廃する安定重視の構成を取っているから、先んじて苦労しておく必要があったんですね(変則メガトン構文)。

 

 この時キャラメイクの設定を保存しておけば、即座にデータをロードして再開できるという訳ですね。忘れるとイチから設定し直す羽目になってモチベが死にます(n敗)。良い子は忘れないようにしようね!

 

 リセマラ中に仕様の説明をば。本作では通常の青特、金特の他にマイライフやサクセス限定の特能があり、それらを保持している場合はこのように、選手能力画面にメモがピン留めされる形で表されます。今までのサクセスにもあった「センス○」とかの表示がマイライフに輸入された形ですね。

 

 この時点で持っている可能性があるのは青特「センス○」またはその上位互換に当たる金特「天才肌」の二種類です。この「天才肌」を持っているのがシリーズ伝統の天才選手です。

 

 効果は「すべての必要能力ポイントが20%減少」。分かりやすく言うと人権です。ずっとマスクデータだった天才選手がついに可視化して、厳選も楽になりました。

 

 ただし、これらの能力は主人公以外のキャラクターにも付くことがあるので、「敵に天才肌持ちがいる」という絶望感たっぷりな状況も起こるようになったのには注意が必要です。まあ1周の間に1人見るか見ないかくらいの出現率なので、心配する必要もありませんよ。

 

 他にも例によって妙に初期能力が高いとかオープニングの中で「小学生の頃から天才肌でどうこう」みたいな話があるとか確認方法はいくつかありますが、多分これが一番速いと思います。

 

 というわけで、ひたすら天才ガチャをし続けるのが第一の関門となります。出現率は約1%、初期設定の記憶機能のお陰で一周がスムーズなのが救いですね。まだタイマースタートすらしてないんだよなぁ……。

 

 ちなみに、今回はここで天才選手を引くまで粘ってますが、センス○でよければこの先のイベントで狙って取得可能なので、この後のダイジョーブガチャ30%を1回以上引き当てる自信があるならそちらで妥協しても構いません。今苦労するか後で運試しするか、お好みでどうぞ。

 

 こいつはリセ。これもリセ。ん?特能欄に……センス○。リセ……リセ……リセ……

 

 

…………あ り ま し た。

 

 

 苦節40分、よーやく天才肌持ちを発見致しました。この瞬間を持ちましてタイマースタートです。

 

 なんかもう満身創痍な感がありますがとんでもない。北条元哉君の華々しい経歴は今始まった所、私のプレイもこれからスタートです。

 

 初期ステータスポイントはスタミナに全振り。以降は球速3:スライダー3:スタミナ4の構成で行きます。中学レベルまでは手動でコントロールのごまかしが効きますので、無理して上げなくてもどうにかなります。

 

 さて放課後の時間ですが、まずはクラスメイトとチームメイトでそれぞれ話せるやつを探します。

 

 友達作りとかそういうのではなく、中学編で共に戦う戦力の確認です。卒業までに1度以上は全国大会(とできれば世界大会も)で優勝しておきたいので、まずは現有戦力の把握が最優先です。

 

 天才選手でプレイを開始した場合は小学生時代に大活躍したという体で話が始まりますので、最初から強豪シニアに所属している場合が多く、チームメイトに所謂ネームドキャラが在籍している確率が高くなります。

 

 今回もその例に漏れず、地元の強豪シニア所属のようですね。やはり才能……才能は全てを解決する……。

 

 これまでのシリーズ作品で出たサクセスキャラは大体出現の可能性がありますが、特に猪狩兄弟や霧崎、六道あたりを引き当てるとこの先の攻略が非常に楽になります。

 

 今回は矢部君(確定出現)と……お、ひとり吹き出し出てる女の子いますね。まあこの段階なんでまともなキャラじゃなくてもリセとまでは行きませんが、強ければ強いほどいいですよね。

 

 まぁ2人を除いて少なくとも高校までは1軍でやれるような奴らなので、ほぼほぼ勝ち確ですよ勝ち確。さてさてどんな強キャラかな? 橘かな、早川かな?

 

 あれは……川星ほむらちゃんですね。今は中学なのでまだクラスメイト止まりですが、高校に上がれば野球好きが高じてマネージャーやらを引き受けてくれる「~っス」口調が特徴の彼女候補です。

 

 イベントのこなしかた如何では選手になることもありますが、戦力としてはんまあそう……って感じなのでマネ枠にしといた方が有用です。ガチャに例えるならR~SRって感じでしょうか。

 

 この子が初期からクラスメイトの場合、確率でシニアの練習を勝手に見に来るイベントが発生しますので、恐らくそれを一発目で引き当てたのでしょう。

 

 因みに初期配置枠のキャラは1人なので、(彼女以外の戦力は)ないです。これマジ? 才能に対してチームメイトが貧弱すぎるだろ……。

 

「……え、えと、北条君ッスよね。どうしたッスか? じろじろ見て……や、やっぱ勝手に練習見に来たらダメだったッスかね? うぅ……何か言ってくださいよぉ……」

 

 

 ──かわいいからまあいいか!! よろしくなあ!




現時点での能力

北条 守備位置:投(先発)

投手能力
球速:120km
コントロールE45
スタミナD53

変化球
スライダー2
チェンジアップ1

特能
・天才肌(金特)

判明している仲間
・矢部明雄
・川星ほむら


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おまけ①

パワプロの新作も出たので初投稿です。


 川星ほむらは焦っていた。

 

「…………」

 

 眼前では、同い年とは思えないほど大柄な──それこそ、既に教師陣と遜色ない体格の男子が、しげしげとこちらを見つめている。

 

 ほむらは中学に上がったばかり。男子が体格相応の老け顔であるのも災いして、傍目にはかなり危ない絵面に見える。

 

 だが、ほむらの焦りは男子の威圧感によるものではなかった。

 

「え、えと、北条君ッスよね。どうしたッスか? じろじろ見て……」

 

 大の野球マニアであるほむらは、男子のことを一方的に知っていた。知っていたから、彼女は大いに狼狽えている。

 

 ──北条元哉。同中(というか、同じクラス)の同い年。身長は小6の時点で174cm、左投左打、4月21日生まれ。

 

 リトルリーグではチームそのものがせいぜい中堅どころだったため、全国に出場はしたがそれまで、よくいる強豪の域は出ない。しかし彼は早くも球界の注目を浴び始めていた。

 

『とりあえず一球投げてみろ』

 

 入団の時、監督は何の気なしにそう言ったそうだ。まあ普通、体が大きく左利きとなれば、何はともあれピッチャーの適性を試すだろう。運が良いのか悪いのか、丁度手元にスピードガンもあった。

 

 元哉ももちろんそれに応じた。と言っても野球始めたてとすら言えない素人である。フォームは雰囲気で真似ただけ、ボールは鷲掴みで投げるのは力任せ、暴投スレスレのボール球。誰がどう見ても素人の投球、よく見る光景であった。

 

 違ったのはただ1点。103km/hという表示のみ。

 

(……6年の頃には球速も120キロに到達して、あっという間に噂が広まって、地元の新聞に特集記事が載って)

 

 この世界でダントツの競技人口を誇る「野球」というスポーツは、小学生であろうと活躍すれば「将来のスター」として全国の注目が集まる。元哉はすっかり地元の有名人だった。

 

 そして隣の校区で活躍を聞いていたほむらからすると、彼は一番身近で、一番活躍を実感できる「憧れの野球選手」だったのだ。

 

 つまるところほむらは、元哉のファンだったのである。

 

 もっと平たく表現するなら、突然「推し」にこちらを捕捉されてしまい限界化しているのである。

 

「や、やっぱ勝手に練習見に来たらダメだったッスかね?」

 

 無言を貫く元哉。いたたまれなくなって言葉を続けるが、いっこうに反応が帰ってこない。

 

「うぅ……何か言ってくださいよぉ……」

 

 ついには半泣きになってしまったところで、元哉はようやく「……ああ」と低い声で唸った。

 

「川星か。同じクラスの」

 

 なんのことはない。入学して日の浅い元哉は、クラスメイトとはいえ席の離れている彼女の名前を思い出すのに数秒かかっただけだ。

 

 だが、ほむらにとって重要なのはそこではなかった。

 

「お、覚えててくれたッスか!? えっとえっと、光栄ッス!」

 

 さっきまでの気まずい空気が嘘のように、『ぱぁっ』という効果音のついてきそうな勢いで元気を取り戻すほむら。この感じだとさっきまでの話は全部吹っ飛んでそうだぞ、と初対面の元哉からも分かる舞い上がり度合いであった。

 

 コロコロと忙しく表情を変える様に、元哉も内心悪い気はしていない。……ただしどちらかといえば、子犬か何かを見るような微笑ましさであるが。

 

「あ、えと。ほむらは東町の小学校行ってたッスけど、西町に同い年ですごい野球のうまい子がいるって聞いてて、ほむら野球好きだから、ほんとすごい尊敬してて、えっと、えっと!」

 

 憧れの存在にいきなり会ってしまったせいで脳内がショートし、わたわたと要領を得ない説明をするほむら。

 

 しばらくは首をかしげていた元哉だが、彼はこう見えて頭の回転も早い方である。目の前でわちゃわちゃしている女の子が「隣町から噂を聞き付けてきた自分のファン」だということは、とりあえず理解できた。

 

 元哉も年頃の男だ。行動力のある女子に突撃されて悪い気はしなかった。

 

「落ち着け……ジュースやるから、これでも飲んで」

「いいッスか!? うわー、うわー! ホントに貰っちゃった!?」

(面白いやつだな……)

 

 それゆえ、とりあえず練習用に用意していたスポーツドリンクを飲ませ落ち着かせてやることにした。それ自体は、中学に上がりたての彼にしては冴えた行動だっただろう。ただ彼は、この大野球時代における「天才小学生」の称号の重さが、まだよくわかっていないだけで。

 

 結果として、嬉しさのあまり語彙力を失ったほむらを宥め、監督のところに連れていき見学の許可を取り付けてやるのがシニアでの最初の仕事となった。

 

 面倒に巻き込まれたと語る割には終始楽しそうにしていたと、後にチームメイトにからかわれたのは別の話である。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 野球部(正確には、シニアチームのメンバー)の生活というのは単調だ。

 

 最低限の内申点を確保できる程度に授業を受け、先輩方の命令を聞き、全体練習をこなし、個別のメニューをやって、自主練をして、寝る。土日は大人の運転するマイクロバスで試合の旅に出る。

 

 休みなどないに等しいが、これでも「常識的」の範疇に収まるというのだから驚きである。

 

「高校くらいになると強豪でも帝王実業とかあかつき大附属みたいに『常識寄り』の練習をするところもあれば、アンドロメダみたいに怪しげな噂がつきない所まで千差万別ッス。ひどい所になると人体改造疑惑まであるッスからね」

 

「なるほどでやんす……けど、普通強豪校の練習方針って似たような感じに収束してくものだと思うでやんす」

 

 ほむらの『講義』を受けているのは、元哉のほかにもう一人。同じチームに所属している矢部明雄がいた。

 

 チームメイトの中でも何となく元哉と親しくなった彼は、いつの間にやら定例化した練習の合間の講義会にほぼ皆勤の勢いで参加している。

 

 最初はあからさまにほむら目当てだったが、やがて彼女の関心が元哉にだけ向いているのを把握しても、講習会に参加するのはやめなかった。本人に言うと調子に乗りそうなので黙っているが、そういう何だかんだ筋を通す所を、元哉は気に入っている。

 

「そう! 普通のスポーツなら科学的に『正解』が示されて、強豪が一斉にそれを真似し始める……みたいな流れをたどるのが一般的ッスけど、なぜか野球ではそういう『練習の統一化』が起こりづらいと言われているッス! 理由までは未だに解明されてないッスけど、いろんな方法でトップ選手を目指せるってことが経験的に知られているのも、人気の原因かも知れないッスね!」

 

 水を得た魚のように、普段のわちゃわちゃっぷりが嘘のように饒舌に話すほむら。幸いにしてこんな強豪シニアの部室で好き好んで座学しに来るような連中には野球バカしかいないので、その知識量が純粋に尊敬されていたのだった。

 

「本当に詳しいな……何聞いても答えが返ってくる」

 

 質問した張本人である元哉が、感嘆したような言葉遣いで締め括る。彼は無表情で寡黙な質だが、比較的声に感情が乗る方だ。

 

 ──あの後結局、紆余曲折を経てマネージャーの地位に落ち着いたほむらは、小学生のうちに野球規則をほぼ全て頭にいれてしまったという異次元の野球愛によって生き字引として活躍していた。

 

「えと、こんな感じで良かったッスか?」

 

 ほむらがおずおずと元哉の方を見る。

 

「ありがとう。助かった」

 

 言葉少なに礼をいい、褒められたほむらがにへら、と頬を緩める。

 

 それを見た矢部は「まーたいちゃいちゃしてるでやんす」と嫉妬を通り越してあきれ気味な表情を浮かべる。これもまた、お決まりの流れであった。

 

 しかし矢部を知る人物なら、その反応は僻み根性の強い彼にしてはかなり控えめであると気づくだろう。

 

 それは元哉がこのタイミングで突っ込んだことを聞き返した場合、二人にしか理解できないディープな野球談義が勃発して余計ひどい目に遭うということを、この1ヶ月ほどでみっちり分からされているためだ。

 

 興味のない・理解できない話を延々聞かされるくらいなら、まだ他人の色恋沙汰を見せつけられる方がマシ。矢部の心は、大変な葛藤を経てそう結論を出したのである。

 

 もとより元哉は理論派である。理屈屋、と言い換えてもいい。科学的な手法を取り入れたり、高校レベルで行われているトレーニングを体に負担のかからない範囲で先取りしたり、選手たちの行動を見て意味を考察したりするのに余念がない。

 

 野球をはじめてまだ数年の彼だが、既にその知識量はほむらにも匹敵しうるものへと成長しつつあった。

 

 そして、ほむら。彼女の野球マニアっぷりは、恐らく全国でも屈指の代物だろうと元哉は見ている。

 

 近年の球界の動向に始まり、戦術、詳細なルールその他もろもろ、およそ「野球」と名の付く事柄を余すことなく網羅する彼女は、既にプロ球団のスコアラー級の知識量を有していると言っていい。

 

 実際、ほむらが正式にマネージャーを任されることになったのは、(彼女を気に入った元哉による推薦があったのは確かだが、最終的には)正式なスコアブックを書けると監督にバレたのが決め手だった。

 

「よし、いい時間だな。次紅白戦だろ」

 

 元哉は立ち上がると、「1」の背番号が入った真新しいユニフォームを正してそそくさと出ていく。

 

「ちょっ、待つでやんす! 北条くんが出たらもう打てないでやんすからせめてちょっと遅れるでやんすよ!」

 

 謎の、しかし気持ちは分かる理論を振りかざしながら追いかけていく矢部を見送って、ほむらは一人部室に残された。

 

 紅白戦のスコアとりも彼女の仕事なので早めに出発すべきなのだが、つい元哉のことを考えてしまう。

 

 120キロという球速で無敵を名乗れるのは小学校までだ。中学にはもっとすさまじい投手がいるし、高校に上がれば当然もっとレベルが上がる。

 

 だが、監督は元哉に1番を与えている。上の世代からも文句は出たが、結局覆らなかった。

 

 全く贔屓されていないとは言わない。だが主たる原因は、その成長の早さにあった。

 

 一球投げ込む度に、目に見えてフォームが改善されていく。モーションが流麗になる。見ただけで、他の投手のモーションを分析できる。

 

 現時点での能力値だけとってみても、まあこのシニアのエースと大体同じくらいだった。

 

 が、野球はチームの競技である。実力が同じとするなら、将来性より年功序列を考慮してエースまでは与えないことが普通だ。他のチームメンバーとの連携もイチからやらなければならないのを考えると、多少能力的に優れていても総合的には赤字である。

 

 それでも元哉が「1番」なのは、前のエースが認めたからだ。

 

 正確に言えば、前のエース(のプライドや技術やなんやかんや)を、元哉が粉砕してしまったからだ。

 

 たった数ヵ月で、元哉の球速は10キロ近く伸びていた。

 

 いや、その表現はきっと正しくない。

 

 ──「120」で、止めてたのか。

 

 半笑いの、壊れたような呟きを、ベンチで近くに座っていたほむらは聞いてしまっていた。




 お気に入り、感想ありがとうございます。励みになります。

 ステ振りを済ませた瞬間急に強くなる現象を、ここでは「試合等で初披露した」という表現にしています。


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2/n 蹂躙劇その1

 2022に面白い特能が多いので初投稿です。
 大会編入るまではRTA→小説のローテで行きます。


 シニアリーグで無双するRTA、はーじまーるよー。

 

 前回は初期設定を済ませて現有戦力を確認したところまででした。中学のうちはひたすら走り込んでればいいので、単調な絵面は画面右下に追いやりまして、この隙に今後のチャートの進め方について、お話します。

 

 説明などフヨウラ! という方は、後半で試合が始まるまで飛ばしていただいて問題ありません。

 

 まずは中学編での大まかな行動方針について。

 

①球速を132km/hまで上げる(中学2年6月まで)

      ↓

②回復AとケガしにくさAを確保(順不同)

      ↓

③スタミナをAまで上げる

      ↓

④コントロールと変化球を上げる

 

 という流れに沿って育成を進めていきます。え? 女っ気が無さすぎる? 中学編だとコンプラ的なアレでLOVEパワー筆頭にまともな彼女イベントが出ないからわざわざ作る必要がないんですよね、彼女。

 

 後述しますが、この時期に特能のコツ貰っても腐らせるだけなんで……。

 

 モチベの維持にはいいかもしれませんが、それならほむら姉貴の限界オタクムーヴを眺めてれば十分ですよね。今も練習終わりの元哉くんとこにスポドリ持ってきてくれてます。かわいい(パラガス)。

 

 なので基本そういうのは高校まで放置で構いません。本作のLOVEパワー回りの仕様そこそこ生臭いから仕方ないね。流石に中学生がやることやってると色々面倒ですので。

 

 さて、チャート内容について詳しく見ていきましょう。

 

 本チャートでは高卒ドラ1でプロ入りの後、遅くとも5年以内にシーズン防御率を0点台に乗せ海外へポスティングします。

 

 そこから3年以内にサイ・ヤング賞を取って条件達成、という流れを想定しています。概ね仙台の神の子とか札幌のキックボクサーとかがたどった流れを早回しする感じですね。

 

 野球漫画ならどんなチート主人公だよと言われるところですが、悲しいけどこれマイライフなのよね。むしろ二刀流も史上最高球速も実現しないだけマシと思っていただきたい。

 

 そんなわけで、まずは「高卒ドラ1」が当面の目標になります。天才選手の才能の暴力をもってすれば中学までは簡単に無双できますし、最悪活躍できなくてもなんとかなります。

 

 このマイライフの成長ステージは大きく分けて3段階、

 

 中学編:高校で必要になるものを見据えて準備する期間

 高校編:甲子園とプロの為に必要なスキルを揃える期間

 プロ編:高校までに得た能力でいかに成績を上げられるか試す期間

 

 に分けることができます。

 

 プロでの目標が前述した「防御率0点台」と「サイ・ヤング賞」だとすれば、高校での目標は甲子園優勝とドラフト1位指名に加え、卒業時点でステータス的に完成していることも求められます。

 

 したがって中学のうちにやるべきは、高校卒業時点の「完成形」から逆算して、足りなくなりそうなステータスポイントを1点でも稼いでおくこと。

 

 具体的に言えば、ひたすら走り込んで筋力ポイントを溜める、となる訳です。これで今画面右下で走り込んだり投げ込んだりしてる元哉くんの行動がわかりましたね?

 

 しかしカンのいいシリーズ既プレイの兄貴は、今の説明で「ん?」となったかと思います。マイライフなのに筋力ポイント? それはサクセスの仕様じゃないのか? という部分ですね。鋭いです。説明を続けましょう。

 

 今やっているこれはマイライフモードの中学編という位置付けではありますが、システム面はサクセスから流用したところが多いらしく、プレイ感としてはサクセスとマイライフのいいとこどりって感じです。

 

 プロになって以降も原則ポイントを使って成長しますが、行動は1日単位で指定(方針だけ設定しての早送りも可)、彼女やライバル選手からヒントを貰う傍ら、大会ではいちいちピンチになるのを待たなくても全投球を自力で操作可能。

 

 仕様を混ぜたことによる欠点もあれど、全体として非常に高いクオリティでまとまっております。

 

 話を戻しますと、要はプロ入りまではサクセスと同じような成長システムだということですね。

 

 それを踏まえて、今回作る「最強の野球選手」こと元哉君には本格派ピッチャーになって貰わなければいけません。中継ぎや抑えではメジャー挑戦まで時間がかかりすぎますのでね。

 

 そうなると必然的に、この投手チャートにおける最大の敵は経験点、具体的に言えば筋力ポイントになります。

 

 ランダムイベントによる上振れ下振れは一周が長い分比較的リカバリーしやすいんですが、成長ポイントばっかりは一度足りなくなるとカバーが難しいんですよ。

 

 視聴者の皆様の中にも、サクセスで本格派投手を作ろうとして筋力ポイント不足に泣かされた方は多いでしょう。私もその一人です。

 

 本作でもそれは健在でして、特にこういう駆け足のプレイングでは常に「筋力不足」の四文字に追いかけ回されることとなります。

 

 球速はもちろん、スタミナ、重い球、奪三振、球速安定……「本格派」と称されるピッチャーに必要な能力にはことごとく100点単位の筋力を要求され、いくら効率化しようがあっという間に溶けていきます。

 

 さらに厄介なのが、本作に設定されている「年齢補正」「基準値」と呼ばれる二つの数値。画面は大会まで代わり映えしないのでこれも説明しちゃいます。なんなら大会も2年になるまでは投げる→完封を繰り返すだけで単調ですしね。

 

 まず、この二つのパラメータは大雑把に言うと「年代ごとのレベルの違いをゲーム的に表現するためのもの」です。影響するのは、年齢補正の方が球速以外の全能力、基準値は球速のみ。

 

 年齢補正は球速以外の部分に与えられます。今、元哉くんのステータス画面に「中」という文字があるのが見えますでしょうか。これは「今出している能力評価は中学レベルに照らしてのものだよ」という意味です。

 

 中学→高校で2ランク、高校→大学で1ランク、大学→プロで2ランク分、査定に差があり、進級したときその分が再計算される仕組みになっているんですよ。今までのパワプロでよくあった「高校生なのにオールAの敵いっぱい出てくる問題」を解決するために取り入れられた仕様ですね。

 

 割と複雑な仕様なので、理解を深めていただくために例を出したいと思います。

 

 例えば中三で

 

球速130km

コントロールB

スタミナA

スライダー4

フォーク2

ケガしにくさA

奪三振

 

 の選手がいたとします。この選手が高校に上がると、その瞬間にステータス画面の「中」が「高」に変わり、ステータスは

 

球速130km

コントロールD

スタミナC

スライダー2

ケガしにくさA

奪三振

 

 になり、変化量がゼロになったフォークは一度消滅し、代わりにもとのレベルに応じたコツが手に入ります。

 

 球速は前述した「基準値」が適用されるので影響なし、ケガしにくさと奪三振は特能扱いなのでこれも消滅・ランクダウンはしません。

 

 ただし、特能の入手に必要な経験点には年齢と共に補正がかかっており、早くに手に入れようとするほど必要な経験点が多くなります。

 

 ぶっちゃけ中学レベルだと重すぎて取れたもんじゃないので、フィジカルだけでゴリ押しした方がお得です。天才選手の場合、パワプロ特有の「自分が天才だと自覚する」イベントによる能力補正もあって余裕で勝てますしね。

 

 なんというか、若いうちから小手先に頼ってるヤツは大成しない、という妙にリアルな教訓を与えてくれます。

 

 そうこう言ってるうちに大分ポイントが貯まって来たら、「ケガしにくさ」と「回復」を最優先で確保。残りはスタミナに突っ込みます。先ほど上げたマイライフを3期で分ける考え方に基づくなら、中学のうちは高校の練習効率を上げるためにポイントを使うべきです。

 

 体力が微妙な時のケガ率を落としてくれるケガしにくさと、休みや体力回復イベントでの回復量にブーストをかけてくれる回復は、多少効率が悪くなろうとも最優先で確保します。

 

 これにおこづかいを全ツッパして最短で高級アロマと高価なトルマリンリングを揃えれば、練習効率の準備は完了です。

 

 後はスタミナから来る最大体力のアップもできるだけ早期から得ておきたいので、残った分をスタミナに流し込みます。

 

 90(S)に到達すると色々イベントが起こって面倒なので、一旦はAでストップ。その後、コントロールと変化球を上げていきましょう。

 

 ただし、最初に挙げたチャートの通り、上記の流れは球速が「132km/h」に到達した後からスタートするものです。ここで出てくるのが、先ほど説明を残していた「基準値」です。

 

 球速にのみ設定されたこの値は、各年代ごとの日本記録をもとに2段階で算出され、1段階目(概ね日本記録マイナス10km/h)を越えると必要な経験点が激増し、2段階目(2020年代当時の日本記録)を越えると強制的に「ケガしにくさ」がガタ落ちします。くそが(悪態糞土方)。

 

 データの取得元が2020年代になっているのは、作中の時代設定がそのくらいだからでしょう。まぁ遺伝子改造だのドーピングだの機械化だの、もろもろ考えなくていい時代だから選ばれているのでしょうね。

 

 それによると中学での基準値は1段階目132km/h、2段階目142km/hです。高校になると2段階目が163km/hまで跳ね上がります。

 

 本チャートではそこにぴったり合わせる予定ですから、累計で必要な筋力ポイントは完璧にチャート通りに進行しても2000を優に超えます。今のうちからそれに備えてポイントを貯めましょう。

 

 ただし、ここにはひとつ裏技があります。

 

 2年の7月1週にダイジョーブ博士と遭遇し、そこで主人公は自分が天才選手であることを自覚し覚醒する、というイベントがあります。シリーズ恒例のやつですね。

 

 高初期値+覚醒+天才肌の三重補正により、本作の天才選手は歴代最強の呼び声も高いですね。人権の名は伊達じゃありません。

 

 この時の覚醒で成長する能力は固定で「球速+8km、コントロールかスタミナで選んだ方が+20、選ばなかった方が+10、新変化球1つ、選択した変化球の変化量+3」です。

 

 つまり、この時点までに球速を132km/hまで上げておけばバカみたいな量の筋力ポイントを支払わずに140キロの球を放れるようになる訳ですよ。

 

 これらを纏めると、

 

①球速を132km/hまで上げる(中学2年6月まで)

      ↓

②回復AとケガしにくさAを確保(順不同)

      ↓

③スタミナをAまで上げる

      ↓

④コントロールと変化球を上げる

 

 となり、初めに挙げたチャートが完成するんですね。

 

 ただし注意点として、本作では特能のコツを入手した後、その特能を取得しないまま学校を卒業するか、丸3年が経過するとコツを忘れます。中学で貰ったコツを持ったままプロ入りして安く特能ゲット、みたいな無茶は残念ながらできません。

 

 なので、確定でコツをくれる彼女候補やライバルなどのイベントはできるだけ高校以降に回した方が得なんですね。シニアの大会で見かけても、最低限試合で関わるだけにしておきましょう。

 

 さて、長々と説明しましたがようやく秋の大会が始まりました。この時点で監督評価が70以上なら1年からスタメンを任せて貰えます。今回みたいにね。

 

 今回の相手は……最高でも評判B止まり。フン、雑魚が。

 

 本作の世界における中学硬式野球の大会は、現実のそれと似ているような微妙に違うような独自方式が取られています。

 

 現実だといくつもリーグが乱立してそれぞれから代表を出し合い全国大会、という感じなんですが、この世界では()()()()の旗のもとリトルシニアに全て統一されていますので、恐らくその辺の影響でしょう。

 

 各地域の連盟主催大会、全国大会、世界大会で大きく3種。地域大会の優勝チーム+αが全国に出場する、までは縦に繋がってますが、世界大会は日本中から突出した選手をかき集めて代表チームを作るプロ野球方式です。

 

 全国までは年に2回、世界大会は隔年で行われます。マイライフ中学編においては、世界大会は1年生時と3年生時で固定ですね。

 

 そして本チャートにおける必要条件は世界大会での活躍。最悪、代表入りするだけの活躍さえできれば全国では負けても別に構わないんですよ。

 

 私のやるべきは、シニアのチームメイトを鍛えることではなく、世界大会の代表チームで有望なやつと仲良くなり、同じ高校に進学することです。

 

 シニアのチームメイトはどうせネームド以外じゃまともなのがいないので、元哉くんの性能をアピールする場まで連れてきて貰えるだけの戦力があればよし。

 

 見たところ今回はやや上振れ気味らしく、矢部くん達だけでもまぁ十分でしょう。要は全チームから1点取ってくれればいいので。

 

 なのでちょっと考えましたが、やはり(川星ほむらの戦力化は)ないです。彼女は一定の条件を満たした上で勧誘すれば選手としてチームに加入してくれるんですが、そこまでするほど戦力が逼迫してる訳でもないですし、もっと強い選手はいくらでもいますからね。

 

 彼女はマネージャー兼情報要員、秋山殿の戦車道を野球にすげ替えたみたいな活躍を期待しましょう。

 

 では大会です。

 

 1回戦。17-0、4回コールド。

 4回無失点・12奪三振・完全試合参考記録。

 

 2回戦。25-1、4回コールド。

 登板なし。

 

 3回戦。14-0、4回コールド。

 4回無失点・2四球1失策(ノーヒットノーラン参考記録)。

 

 準決勝。9-4。

 登板なし。

 

 決勝。5-0

 7回無失点・被安打3・2四球。

 

 いやぁ快勝快勝。順調すぎてダイジェスト以外なにも言うことなかったですね。どうやら今回、同地区に強力なチームや選手がほぼいなかったみたいです。序盤3回も立て続けにコールドが発生するの結構珍しいですよ。

 

 決勝には見覚えのあるやつがいた気もしましたが、まぁ1年次は弱いですし、抑えられたので問題ありません。

 

 ちなみにこの世界、中学生投手の連投制限とかは現実よりかなり緩いので結構無茶が効きます。小学生の変化球禁止もないらしいという旨がイベントで語られますし、全体的に無茶させがちです。物語的に美味しい展開を作りたいからでしょうかね?(すっとぼけ)

 

 まだ1年なので元エースの先輩と交互に投げ合ってますが、来年からはたぶん全試合投げることになるんじゃないですかね。

 

 裏で色々やってる組織の闇を感じますが、まぁ人気スポーツの宿命ですね。だから、多投連投に備えて回復とケガしにくさを確保する必要があったんですね(メガトン構文)。

 

 では時間も押しているので今回はここまで、次回は全国大会からやっていきます。それでは。




 18:10追記:全体的な構成・細かな字句を修正。
 評価・感想ありがとうございます。モチベーションのもとになっています。


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おまけ②

評価バーに色が付いたので初投稿です。
後半は掲示板回。


 蹂躙だった。

 

「ストライッ! バッターアウト!」

 

 チームのマネージャーであり、同年代では一番の情報通を自負する川星ほむらから見て、いや素人目にもわかる。

 

 一人だけ、およそ中学レベルの強さではなかった。

 

「ストライク、バッターアウト!」

 

 まるで散歩でもするみたいに──あるいは本当にウォームアップくらいの力加減なのかもしれない──そのピッチャーは、三振を量産していた。

 

「彼」はいつもの無表情のまま、淡々とキャッチャーに向けて球を放る。明らかに他の選手より重たい音を響かせて、白球がミットに吸い込まれていった。

 

「ストライク、バッターアウト! チェンジ!!」

 

 このご時世、野球にかけられる予算の額は他スポーツの追随を許さない。地方球場だろうと市民球場だろうと、球速を表示する電光掲示板くらいは完備されているのが普通だ。

 

 だからこそ、「彼」の怪物たる()()()が、誰の目にも明らかな形で見えてしまう。

 

 131km/h。

 

 今日何度目かはわからないが、またしても球場がどよめいた。恐ろしいのは、この数字は今の球が初めてではないこと。この試合だけでも都合4度、130キロ台に乗る豪速球を叩き込んでいる。

 

 誰が信じると言うのか。あの球を投げているのが、中学1年の左腕であると。

 

 左なのを考慮すれば、「131」は甲子園でもよく見かける球速だ。断じて13歳がほいほいと投げる球ではない。

 

 それ故無理もないのだろうが……彼は「狙って」いなかった。なんとなく真ん中をめがけて投げ、球の荒れ具合であちこちに散っているだけだ。

 

 元がド真ん中狙いだから四球が出ない。際どいところを狙うまでもなく抑えられるから失投もほとんどない。

 

 だから力一杯投げられる。時代錯誤のオーバースローも、クイックと見紛う投球モーションの早さも、彼のフォームは()()なのだ。

 

 数年間の球歴により「投球フォーム」という枠に収まってこそいるが。その本質は入団時に放った鷲掴みから何一つとして変わっていない。

 

 言葉にすれば単純明快。故にこそ、どうしようもなく絶望的な──

 

 ──()()()()()()()()()()()()

 

 ただそれだけで、彼は中学硬式野球の頂点に立とうというのだ。

 

「ストライク、バッターアウト!」

 

 白球がミットに突き刺さる。三度に一度はアウトが宣告され、さらにそれを三度繰り返すとチェンジになる。

 

「ストライク、バッターアウト! チェンジ!!」

 

 もはや投球練習だ。野球という競技から打者の概念が消えてしまったようだった。

 

 確かに相手は弱小だ。だがわざわざ大会に出てくる熱心な中学生球児でもある。

 

 2回の頭で空振り三振を喫した四番打者などは、マネージャー兼情報担当であるほむらも名前を知っている。地元ではそれなりに名の通った選手で、打率の高さが持ち味だったはずだ。

 

 このとき打線も爆発しており、3回を終えて11-0。もはや4回でのコールドは確定として、注目は「彼」──北条元哉の連続奪三振記録がどこまで伸びるか……それくらいしか、不確定要素のない試合だった。

 

 応援席は、いや球場全体が異様な空気に包まれている。

 

 中学の地区大会一回戦。注目選手である元哉が出場するとあって普段よりは客の入りが多いが、まだまだ大半は出場チームの父兄、出場者のクラスメイトや教員などが占める。

 

 素人目にも異常な試合展開を前に、ひそひそ話と落胆したような声が絶えず、かわいそうに、なんて声すらぽつぽつと聞こえてくる始末。

 

 マネージャーとして応援席の最前列を陣取っているほむらは、しかし周りの観衆のことなど、とっくに眼中になかった。

 

 確かに噂に聞いていた。隣の校区にすごい球を投げる小学生がいると。親に頼んで購読している野球雑誌の記事で見たこともある。

 

 当時、元哉のチームが想定外に早く敗退してしまったせいで、試合を見に行きそびれたのが今でも悔しくてならない。

 

 ほむらにとって彼は同い年の、一番身近なヒーローだった。どんな球を投げるんだろう、どうやって打者を抑えるんだろうと、毎日のようにワクワクしながら夢想していた。

 

 今の時代、野球は世界一の人気スポーツだ。小学生でもちょっと実績や能力を示すと、各メディアはこぞって「将来のスター候補」だと囃し立てる。

 

 そして、その大半は「ただの早熟選手」か、「期待はずれのドラ1」か、「故障に泣かされた悲劇のエース」の三択に消えていく。ほむらはそれも知っていた。

 

 ──では、「彼」はどうだ。 

 

「彼」が左腕を振りかぶる。体格以上に大きく見えるその姿に、相手チームの打者はすっかり萎縮していた。

 

「彼」の投球モーションは短い。すぐに豪速球が飛んでくる。

 

「す、ストライク!」

 

 審判が困惑気味に宣言。ド真ん中へのまっすぐだったが、バットはピクリとも動かなかった。

 

 4回表、ツーアウト。既に打者は一巡しており、格付けの済んだ3番打者は、球が来る前から怯え気味ですらある。

 

「ストライク!」 

 

 2球目はスライダー。真ん中やや上から抜けていったが、これも見逃し。見れば電光掲示板が120km/hを示していた。

 

 ベンチからは「何やってんだ」も「タイム」も聞こえてこない。スタメンの全員が、打席にたてば同じようになると確信しているためだ。普通の中学生が向き合うには、元哉は大きすぎた。

 

「ボール」

 

 再びスライダー、今度はやや高目に外れてボール。バットは動かない。

 

 キャッチャーから返されたボールを受け取って、元哉は一旦目を閉じ、ひとつ深呼吸をした。

 

 開かれたつり目は、眼光鋭くキャッチャーミットを睨み付ける。

 

 次の球を最後にする。

 

 言われずとも意図は伝わり、ほむらは小さく息を呑んだ。

 

 次の瞬間、元哉の左腕が唸りをあげる。

 

 ──ズバァン!!

 

「……っ!」

 

 思わず、ほむらの肩がびくりと震えた。目は見開き、瞳孔は収縮する。

 

 その()を、ほむらは知っていた。

 

 父親にせがんで毎週のように野球観戦に勤しんでいた彼女は、「プロの投球を受けるキャッチャー」を間近で見たことが何度かある。

 

 その時と、同じ音だった。

 

 一瞬の放心から、過去一番の音量のどよめきを耳にして我に返り、がばりと電光掲示板を見る。

 

 132km/h。

 

 その日の最高球速。元哉が練習の中で何度か出していた数字でもある。

 

 しかしほむらの目には、プロの試合を含め今まで見たどんなストレートより鮮明に、力強く映った。

 

 明らかにもう10キロは出ていそうな球威。投球直前に一瞬だけ見せた鋭い気迫。何より、それを同じクラスの男の子がやっているという事実。あとは、少しの吊り橋効果。

 

「すごい……」

 

 最後の一球を投げた時の元哉の姿が脳裏にフラッシュバックし、惚けたように言葉が溢れる。

 

 この1試合で、彼は何人に野球を辞めさせただろう。

 

 そして、何人に野球を始めさせただろう。

 

 マウンド上の「彼」……ほむらの夢想したヒーローは、思っていたよりずっと寡黙で、力強く、荒々しく、

 

「…………っ」

 

 そして、思っていたより何倍も格好よく見えた。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

【速報】三鷹シニア北条(1年)、完全試合wywywywywyw

 

1:風吹けばパワプロ ID:z2xuaZFWp

ソース

https:/bunbunmarusinbun.archive/20240915

 "怪物左腕"北条元哉選手、怒涛の「連続完全試合へ」

 15日に行われたレシプロ財団杯全国中学野球選手権大会 関東ブロック予選1回戦(三鷹対茨城北)において、三鷹シニア先発の北条元哉選手(1年)が完全試合を達成した。ただし試合結果は17-0で、4回コールドでの試合終了のため参考記録扱いとなる。1年生の完全試合、全アウト三振での完全試合、先頭打者から12連続での奪三振はともにシニア史上初。リトルリーグから数えても二例目となる。

 

 

2:風吹けばパワプロ ID:S1fLJvQD7

ヤバすぎて草も生えない

 

3:風吹けばパワプロ ID:oXmWk/4UV

小学校時代からソースが必ずある男

 

5:風吹けばパワプロ ID:1r2JKKGaO

こいつ小6で120キロ出してた奴?

 

6:風吹けばパワプロ ID:SensEihR0

>>5

そう

そして今は132キロッス

左で

 

8:風吹けばパワプロ ID:iiQRvqnUb

ファーwwwww

 

10:風吹けばパワプロ ID:KLKKb2EzI

どうして半年で12キロも球速が上がるんですか?

 

11:風吹けばパワプロ ID:JftH98ust

ワイも1年で10キロ太ったしそのくらい行けるんちゃうか

 

14:風吹けばパワプロ ID:emETSuaEV

動けデブ定期

 

17:風吹けばパワプロ ID:8pmOGyfnN

マジな話小学校の頃は球速抑えとったらしいで

どっかのインタビューでそんなこと言ってたわ

 

18:風吹けばパワプロ ID:SensEihR0

>>17

週刊リトルリーグのインタビュー記事ッスね

たしか去年冬のやつ

 

19:風吹けばパワプロ ID:IrIqEFPiK

>>18有能やけど北条ガチ勢多ない?

 

20:風吹けばパワプロ ID:IrIqEFPiK

リトルリーグ通算防御率0.33とかやろ?

それで手加減しとったとかマジ?

もう当時の連中立ち直れんやろ

 

21:風吹けばパワプロ ID:W4fv+bzDG

>>20

まず公式戦だと小中通算で2点しか取られてないからな

 

23:風吹けばパワプロ ID:Lj1Q8aGlz

ウッソだろお前wwwwww

→マジだった……

この流れ多すぎん?

 

25:風吹けばパワプロ ID:nMqc6JGVZ

アンサイクロペディアに嘘を書かせなかった男有力候補やぞ

 

26:風吹けばパワプロ ID:fYK4v+qyX

>>1の(1年)が強すぎて何度見ても笑ってしまう

 

28:風吹けばパワプロ ID:hGZliDCbA

>>19

1人や

そいつ多分有名な北条ガチファンやぞ

ファンクラブ1号を自称しとるやべーショタコン

 

31:風吹けばパワプロ ID:0D+QXorUa

>>28

言うほどショタか?

174cmやぞ

 

34:風吹けばパワプロ ID:LgNjeL7B9

スポーツ用品店勤務ワイ、上司の機嫌が北条の活躍に左右される

頼むで

 

37:風吹けばパワプロ ID:8EDTJNVf9

>>31

そいつ三鷹シニアのメンバーかその兄弟説があるんよな

何度かガチの関係者じゃないと分からんようなこと発言しとるし

実は歳も近かったりして

 

38:風吹けばパワプロ ID:6/cS4FD2o

>>34

今日の上司ニッコニコやろなぁ

 

39:風吹けばパワプロ ID:oj1CVS8N2

中学生がなんJ見てちゃいかんでしょ

 

42:風吹けばパワプロ ID:Le96f0puy

いかんのか?(中学二年生)

 

45:風吹けばパワプロ ID:GonwDTuUh

ほらやっぱり湧いてきた

 

47:風吹けばパワプロ ID:Xuq0qWTqT

案の定すぎて草

 

48:風吹けばパワプロ ID:6ruypLFPn

実際小学校の時のスレと比べると人増えたよな

 

49:風吹けばパワプロ ID:53FFMb6oo

テレビのニュースにもなったしなあ

中学野球板の方はサーバー落ちたし

 

50:風吹けばパワプロ ID:C0pE1+nih

一回戦の球場おったけどあのフォームがええわ

キレイな訳じゃないけどパワーありまくりって感じで

 

53:風吹けばパワプロ ID:KA4NkFgi+

わかる

見るからにフィジカルだけで押してるもんな

伸び代たっぷり感があって見ててワクワクするわ

 

55:風吹けばパワプロ ID:YcL6SMACD

うらやまC

次の登板3回戦だっけ

試合のチケット買おうかな

 

58:風吹けばパワプロ ID:mv2FVlgDA

>>55

とっくに完売して転売されまくっとるぞ

 

59:風吹けばパワプロ ID:6wal4159K

判断が遅い!

 

62:風吹けばパワプロ ID:y+KQwjKeF

中学地方大会の3回戦のチケットが完売するってなんだよ(困惑)

いやその前に関東の市民球場って土日は入場無料ちゃうんか

 

63:風吹けばパワプロ ID:Cb4LGqdko

>>62

大正義レシプロ財団の運営だから普通はそうなんやが

大入り満員が予想される時は事前予約必須になるんや

もう公式ホームページとtwitterに声明出とるで

 

65:風吹けばパワプロ ID:Js305+iGb

ファッキューレシプロ

 

66:風吹けばパワプロ ID:Me2h72CXg

でも6つだかあった中学硬式リーグを2~3年で統一して分かりやすい全国大会整備したよなあいつら

お陰で世界大会の戦績も上がっとるし

 

68:風吹けばパワプロ ID:3kDOm4M2C

サンキューレシプロ

 

69:風吹けばパワプロ ID:KdF4hPh5t

J民の手首はボロボロ

 

 

………………

 

 

92:風吹けばパワプロ ID:EtqtQhc5E

さぁ北条だ!

  

94:風吹けばパワプロ ID:gpjk6x0eu

登板からして様になっとるな

中学の地区大会とは思えん

 

96:風吹けばパワプロ ID:W9YfTVQ0W

3回戦何回でコールドになるか賭けようぜ!

俺は4回!

 

97:風吹けばパワプロ ID:gpjk6x0eu

三回戦相手どこだっけ

98:風吹けばパワプロ ID:gpjk6x0eu

>>97

横浜南やな

正直あんまり強くない……あっ(察し)

99:風吹けばパワプロ ID:rhT269eLz

>>96

全員4回に賭けるから成立せんやろ

 

101:風吹けばパワプロ ID:RoYQwaq8w

息をするように奪三振

プロの中継ぎ連中も見習ってほしいわ

 

102:風吹けばパワプロ ID:gpjk6x0eu

>>98

はえーサンガツ

言ってる傍からバチクソに抑えられてて草

104:風吹けばパワプロ ID:cq/U6+zz3

こいつ四球も少ないもんなあ

 

105:風吹けばパワプロ ID:RoYQwaq8w

真ん中に投げて球の荒れ具合で適当に散ってるだけとか聞いたわ

 

106:風吹けばパワプロ ID:gvmHCJ834

いつもなら北条ガチ勢ニキがくどいくらい解説してくれるんやが

いないならいないで寂しいな

 

107:風吹けばパワプロ ID:bNIYjWcdn

ガチ勢ニキ試合中はおらんよな

現地行ってるにしても実況してくれればええのに

 

110:風吹けばパワプロ ID:BGD2ek0dM

お、ガチ関係者説再浮上か?

 

112:風吹けばパワプロ ID:TjkPVAXPp

北条があんまり抑えまくるから皆他の話してて草

 

115:風吹けばパワプロ ID:M9fNMN6SF

いや……だって、ねぇ?

 

116:風吹けばパワプロ ID:qgG5pFHwc

2回終わって6三振だからもう(カウント以外すること)ないじゃん

 

118:風吹けばパワプロ ID:abX+SOO4N

こんなの野球じゃないわ!

ただのピッチング練習よ!

 

121:風吹けばパワプロ ID:7kn2zP3u7

だったら打てばいいだろ!!

 

123:風吹けばパワプロ ID:8V1LgtZLA

>>121

打てましたか……?

 

125:風吹けばパワプロ ID:eipDJc/KB

あ、四球出た

 

128:風吹けばパワプロ ID:mZvCdmN13

よっしゃここから逆転や!

この回20点取れ!

 

130:風吹けばパワプロ ID:Eee0hFUia

唐突な横浜推しニキに草を禁じ得ない

 

133:128 ID:mZvCdmN13

>>130

ワイあそこのOBなんや

すまんな

 

135:風吹けばパワプロ ID:Eee0hFUia

>>133

ええんやで

 

136:風吹けばパワプロ ID:NTtMMa9Va

やさいせいかつ

 

138:風吹けばパワプロ ID:mu3+m5szy

言ってる間にもう4回っすよ

これ、野球観戦の辛いとこね

 

139:風吹けばパワプロ ID:2hywk7dxm

結局フォアボール2のエラー1か?

ノーノーペースやんけ草

 

140:風吹けばパワプロ ID:SdiHdYJq9

2連続ノーノーってやったやつおったっけ?

 

142:風吹けばパワプロ ID:V3O3KwpAd

プロでもおらんぞ

まぁ4回参考記録になるから2つで一回ぶんやろ

 

145:風吹けばパワプロ ID:45lqccIft

>>142

一理ある

 

146:風吹けばパワプロ ID:Gfq6eBJKq

さりげなく爆発してる打線のことも忘れないであげてください

 

149:風吹けばパワプロ ID:iXINDf0Tq

つっても単打やら四球連発して順次帰ってるだけやからなあ

14点も取っててホームラン1本しかないのは逆にどうなんや

 

150:風吹けばパワプロ ID:ONOFTnedc

でもあの矢部とかいうメガネのやつ結構やるやん

 

152:風吹けばパワプロ ID:mFfMav3yl

オタクっぽいけど四番打ってるだけあるよな

今日は3ランも打ったし

オタクっぽいけど

 

155:風吹けばパワプロ ID:ky2rH+tgw

>>152

それ言い出すと北条も割と陰キャっぽいから……

 

156:風吹けばパワプロ ID:tff3FzV2x

チームメイト全員に評判聞いて回って

「無口」としか返ってこなかった話好き

 

158:風吹けばパワプロ ID:qffRTXpvy

マジで全然喋らないらしいな

体育会系の声出しどうやってクリアしとるんやろ

 

159:風吹けばパワプロ ID:n7oieRe3A

コミュ障とは聞かんし

単に嫌いなだけでやろうと思えば出来るんやないか?

ハイスペックの陰キャはそういうやつ多いやろ

 

160:風吹けばパワプロ ID:qIsVJcM2v

結局陰の者認定からは逃れられないの草

 

161:風吹けばパワプロ ID:CIznvl9a0

あとアウトひとつやぞ

試合の話したれよ

 

163:風吹けばパワプロ ID:IM1YB4ftL

じゃあネットの中継画面に戻るか……→いや球威エッグ!?

 

164:風吹けばパワプロ ID:VjMLmB5H4

俺じゃん

 

166:風吹けばパワプロ ID:I0QynXSt4

ミットがヤバい音出してるんよな

そりゃ掠りもせんわと

 

167:風吹けばパワプロ ID:4WTrPgF5L

そういやまだ公式戦ノーヒットか?

 

169:風吹けばパワプロ ID:HNac+zdAk

せやな

セカンドがフライ落としてる隙に1塁行った奴が唯一の出塁

 

172:風吹けばパワプロ ID:HHSh/d0l1

前に飛ばなさすぎてヤバい

鉄球にバットぶつけたみたいな音出るし

 

175:風吹けばパワプロ ID:A+oIH+1uI

完全に対処できとらんな

四番も余裕で扇風機になっとったし

 

176:風吹けばパワプロ ID:h6ORVKsVT

いや中学生に左の132kmは無理やろ

さっさと甲子園行け

 

179:風吹けばパワプロ ID:fltaZYI4c

こないで

もうプロ行け

 

182:風吹けばパワプロ ID:XxtOggvn3

あ、三振

 

185:風吹けばパワプロ ID:snLfYHHhl

え、今のが最後?

 

187:風吹けばパワプロ ID:dhUrNXxw+

なんJ史上もっとも静かなノーノーの瞬間やないか?

 

188:風吹けばパワプロ ID:05JJ7vDbI

二試合連続完全→ノーノーとかいう歴史的快挙達成の瞬間がこれである

 

190:風吹けばパワプロ ID:05JJ7vDbI

なお本スレは落ちた模様

 




実在のチーム名出すのもどうかと思ったので調布市からちょっと北側にズラしました。

ルーキー日刊ランキング掲載、ありがとうございます。


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3/n 蹂躙劇その2

伸びてきたので初投稿です。


 フィジカルゴリ押しRTA、続きです。

 

 前回は中1秋の地区大会を蹂躙したところまででした。

 

 まぁ全国になってもやることは変わらないので、テンポよくやっていきますよ~イクイク。

 

 本作での中学全国大会は、

・北海道東北・関東・中部・近畿・中四国・九州沖縄で行われる各地方大会の優勝・準優勝チーム(計12枠)

・特に競技人口の多い関東と近畿に追加枠が1つずつ

・同じ要領で北海道東北に追加枠が1つ

・前回優勝チームの所在していた地方(今回は関東)に追加枠1つ

 

の計16チームによって行われます。主人公は東京都三鷹市に本拠地を置くチームに所属していますので、関東大会の1位通過枠で全国出場、となるわけですね。

 

 4回戦しかないのは、1人でここまできたタイプのエースが連投で故障するのを防ぐための措置らしいです(川星ほむら情報)。

 

 ルールによってエースを酷使できる(つまり、大会で目立つ)ようにしつつ、本格的に壊れるのは防いでいく。人材発掘の観点ではなかなかのもんですね、ええ。

 

 そして見ての通り関東だけで3チーム(今回は4チーム)も枠がありますので、地域大会の準決勝まで残った段階で出場はほぼ確実となります。

 

 ただ、優勝・準優勝枠と違って追加枠は純粋な大会成績で選ばれる訳ではありません。

 

 そのため3位4位で安心しているとごく稀に新設されたチームや話題選手のいるチームに枠を奪われることがあります(1敗)。きちんと決勝まで進みましょう。

 

 現実より大幅に出場校が少ないこと、全く同じ要領の大会が年2回開かれているのが特徴です。この世界のGHQはどっちか削れとか言ってこなかったんでしょうかね。

 

 なんにせよ、パワプロ世界では野球がぶっちぎり世界一人気のスポーツなので、中学生の大会だろうと全国からはテレビ中継があります。BSだかCSですけど。

 

 ここで派手な活躍を見せて強豪校のスカウトたちに名を売って、何よりこの後春に控えている世界大会に代表入りしなければいけません。

 

 体感になりますが、1年次での日本代表選出基準は、

 

・少なくとも1完封

・全登板3失点以内

・球速130km/h(左の場合)

・変化球3種

 

のうち2つ満たすってところですね。普通にプレイしてるとかなり大変です。

 

 今回は1回戦と準決勝で登板が予定されています。まぁ一年ですし、(決勝は元エースの先輩に任せて華を持たせるのも)多少はね?

 

 まぁ実際は「先輩が1回戦負けして登板機会ゼロ」の事態を防ぐために私から志願したんですけど、物は言いようってヤツですよ。実際監督評価上がりましたし。

 

 ではいつも通りダイジェスト気味に見ていきます。主将やってる元エース先輩がほむら姉貴つれて抽選に行ってきましたので、まずは結果を確認しましょう。

 

 1回戦の相手は近畿ブロック1位通過の……高槻?

 

 ちょっと止めてもらっていいですか(等速)。

 

 対戦相手である高槻リトルシニア、この世界における関西の超名門チームです。チーム評価は当然のごとくS。いやーキツイっす。

 

 大阪府の地理に詳しい方ならだいたい察しがつくと思うんですが、川を挟んで反対側に現実で日本一有名と言われるボーイズリーグのチーム本拠地があります。まずそこが元ネタと見て間違いないでしょう。

 

 当然ながら本作でも全国屈指の強豪として扱われており、中学編の実質的ラスボスとして君臨しているチームですよ。

 

 ちなみに、地域の関係なのか過去作の西強大・西強高に在籍していたネームドキャラが多く所属しています。あとたまーに帝王実業とかの奴も出てきますね。

 

 本作では対戦相手が本当に抽選で決まっているとはいえ、1回戦から関東1位と近畿1位がぶつかるとかどうなってんですかね? これもう半分決勝だろ……だから1回戦は先輩に任せられないんですよ。

 

 ですがまあ、相手が強いほど活躍時のスカウト評価にはブーストがかかりますので、これをどうにか抑えられれば代表入りは確実と見ていいでしょう。

 

 手動操作でなら勝算がないってほどではないので、多少のロス覚悟で確実に勝っていきます。

 

 下手に複数回接戦を演じて手動操作が長引くくらいなら、一戦だけフル操作して後流した方がタイム的にも早いですしね。

 

 さて、強豪を引き当ててしょげているほむら姉貴ですが(かわいい)、君に落ち込んでいる暇はありません。どうにかチーム情報を聞き出します。誰が在籍しているかはランダムで変わりますのでね。

 

 ほも君と同じく三鷹在住のほむら姉貴ですが、あの知識量なら関西のシニアチームのことも当然押さえているでしょう。

 

「え、選手情報ッスか?」

 

 そうだよ(肯定)。おうあくしろよ、対策すんだよ。

 

「……っ、やっぱり4番の清本くんがダントツッスね。中学最高バッターとも呼ばれるパワーヒッターで、予選終わった時点で中学通算50本超えたッス」

 

 清本和重、4番。

 

「あとはエースの山口くんッス。マサカリ投法って知ってるッスか? あの投げ方からとんでもなく落ちるフォークを使う右投手で、まっすぐが134km/h出るッスね。……北条くんが今大会最速じゃなかったのはこの人がいたからッス」

 

 山口賢、エース。

 

 以上二名がネームド判定ですね。このように、評価A以上のチームが相手の時は、マネージャーが特筆すべき選手(ネームド)を教えてくれるんですよ。

 

 因みに両方とも三年生だそうです。このように、一部キャラは世代がズレることがあります。

 

 パワプロも息の長いシリーズですから、ほとんど全てのキャラに登場の可能性があるこの作品だと同学年が飽和しますのでね。

 

 ──現実逃避終了。

 

 やべぇよやべぇよ……清本引いちゃったよ……。

 

 とりあえず説明しましょう。説明はいい、自分の知識に語りかけて心を静められる。

 

 清本和重は、パワプロ11で初登場した厳つい外見の内野手。当時から西強大学の主砲として猛威を振るいました。

 

 主にサードを守り、容赦なくホームランを浴びせる様から「難易度:清本」の異名すら持つ投手プレイの天敵です。

 

 外角高めにはやや弱いと設定されていますが、あくまで設定ですのでパワーS+パワーヒッター+広角打法+強振多用+積極打法の前に散った投手は本作でも数知れず。

 

 中学の時点で既にその才能は開花しています。ラスボスに相応しいどころか作中最強打者の筆頭候補ですよ彼は。

 

 1年の全国1回戦で清本は非常にまずい。下手しなくても飛翔しかねません。今の元哉君を1年の宮永照だとすると相手は3年の戒能良子くらい戦力差があります(ホモ特有のわかりづらい例え)。

 

 しかもエース山口も大概な強さなので崩れるとも思えませんし、私には清本を抑えたまま味方が1点取るのを待つという超ハードな条件が課されてしまいました。

 

 かといって敬遠すると試合後に人気落ちたり経験点が減ったりでものすごくまず味なのでやりたかないですし、どうにかして抑えるほかないですね。

 

 幸い、かつてのパワプロのように確率だけで決めるのではなく相手のAIがかなり賢いので、それを逆手にとって手動でハメることも不可能ではありません。どうにかします。

 

 そして山口賢。目深に被った帽子とその下で光ってる目が特徴の帝王実業のエース(になる予定の中3)ですね。将来的に肩を壊して左投げに転向するんですが、この時はまだ右投げでブイブイいわせてます。

 

 こいつがいなければ2~3点取られても何とかなってたんですが、俊足巧打タイプの矢部くん(1年)が4番で固定されちゃう程度にはあへ単揃いのこのチームだと……んにゃぴ、これもう(勝敗)わかんねぇな?

 

 因みにチームが打力不足なのは残念ながら仕様です。主人公が野手なら投手力がイマイチで馬鹿試合多発、投手なら打力が足りずムエンゴ。

 

 それを何とかするためには1年生のうちに他のチームから選手をスカウトしてくるか、技術を教えたり連れ回したりしてチームメイトを強化する必要があります。

 

 今回はどっちもやってません。チャート上必要ありませんでしたので。辛うじて夏場に矢部くんのチャンスFを改善するイベントをこなしたくらいです。

 

 まぁ弱音を吐いてても仕方ありません。やっていきましょう。

 

 

全国1回戦。三鷹1-0高槻。

延長11回完封・被安打4・奪三振15・3四球1失策。

 

 

 ──っしゃおらぁ!

 

 やってやりましたよ、あの清本を5打席1安打に抑えてやりました。

 

 後続のためにやり方を説明しておきますと、

 

・ストライクゾーンギリギリに向かって速度を抑えた速球

・上記と同じコースにスライダー

・ストライクゾーンギリギリに全力ストレート

・上記と同じコースにチェンジアップ

・意図的に投じたど真ん中失投

 

 を投げ分ける感じで行きます。細かなタイミングや投球バランスは感覚で覚えるしかないので相手の反応をみながら練習して、どうぞ。

 

 近年の技術の進歩により、手動操作時の相手打者はまるで人間みたいな挙動をします。

 

 人工何たらとかなんとかトランスレーターとか、ハード面詳しい訳ではないのでよくわかりませんが高度なAIが標準搭載になってから劇的に賢くなりました。

 

 しかし家庭用ゲーム機のAIですからさすがに本物の人間よりは抜けが多いらしく、例えば対人戦で魔球扱いされがちなチェンジアップ系統と失投がそのまま通用します。

 

 何より怖いのはホームランですから、芯かタイミングをはずす戦いかたが主流になるのも必然でしょう。私は元々対人畑でしたので、この辺は一日の長がございます。

 

 これにより、とりあえず打たれて取るピッチングならチェンジアップ+1球種あれば実現可能です。ね、簡単でしょう?

 

 ……いやぁフェン直された時は死んだかと思いましたが、二塁打で済ませて結局残塁させたので勝ちみたいなもんですよ(小声)。

 

 プレイヤースキル依存の強いVRサマサマ、エースの連投規制がほぼないパワプロルールサマサマです。

 

 次は先輩の登板ですが、どう、(勝ち星)出そう?

 

全国2回戦。三鷹3-2大宮。

登板なし。

 

 やりますねぇ! 相手が弱かった(関東4位)とはいえ勝ちは勝ち、これで準決勝進出、ベスト4が確定しました。

 

 続く準決勝の相手は九州沖縄1位のチームですが、チーム評価Aながらネームドは抱えていませんでした。その程度なら恐るるに足りません。サクっと流します。

 

全国準決勝。三鷹2-0小倉。

7回完封・被安打2・奪三振11・2四球。

 

 OKOK、問題なく勝てましたね。いい加減貧打が板についてきましたが、それと引き換えにキャッチャーBのモブを正捕手に抱えてるだけヨシとしましょう。

 

 最悪私の球を受けられずに手加減せざるを得なくなる場合もあるので、打率はあるから地区大会じゃ無双できても全国レベルの投手相手だと前に飛ばせなくなって完封される程度の打力でもお釣りが来ます。

 

 で、決勝ですがまぁ、正直無理ですね。私はいないし、何より相手チームは確定でネームド複数人を引っ提げてきます。今回は……

 

「あのチームは何より二遊間が強いッス。蛇島桐人って人と霧崎礼里ちゃんって子なんスけど、ああ、そう、霧崎ちゃんの方は女の子ッスよ。ちょっとだけ話題になってたッスね。まぁすぐ元哉くんの完全試合に話題取られたッスけど」

 

 ふんす、って感じでドヤってるほむらちゃんかわいい。最近好感度が上がってますます懐いた子犬感が増してきましたね。

 

 それはそうと、案の定強力なネームドが二人もいますね。帝王実業(予定)の蛇島桐人に、恵比留高校(予定)の霧崎礼里。どうやら蛇島の方が2年で霧崎は1年のようですね。

 

 投手がモブなのを喜ぶべきか、恐らく先輩では太刀打ちできない二人がいることを悲しむべきか……まぁ、既に十分以上の活躍は果たしていますからここは負けても問題ありません。のんびり先輩の活躍を拝見するとしましょう。

 

 先輩が投げてる間は暇ですね。元哉くんは応援で忙しいでしょうが、私が操作する必要はありませんので、何かこの隙に話しておくことは……

 

 ──そういえば、さっきの選手情報のくだりでなんで元哉君の名前を言い淀む必要があるんですか(指摘)と気づいた目ざとい視聴者兄貴がいるかと思います。

 

 追記しておきますと、川星ほむらの彼女ファイルは「試合でいいところを見せる」ことで好感度を上げて解放していくシステムなんですよ。

 

 そのため、普通にエースなり4番として野球してるだけで好感度が上がっていくんですよね。

 

 さっき完全試合なんかやったもんだから、恐らく好感度もうなぎ登り。デートでも野球の話をしてればいいので、ある意味では非常に初心者向けの彼女候補といえます。

 

  先程言い淀んでたのは好感度100(上限ではない)のイベント、名前呼びになる前段階のやつです。決勝前の時には名前呼びになってたことからもわかる通り、ここでひとつイベントが進展していますね。

 

 さっきのさりげない名前呼びに反応することで(恥ずかしがったりなんたりした後)好感度が上がって次の段階に行くことは分かっておりますので、敢えてスルーしておきました。

 

 前回言った通りこの段階で彼女を作ってしまうともらえる特能のコツが腐ってしまいますからね。

 

 適当に遊んで別れる前提なら別にいいんですが、ほむら姉貴のマネージャー技能は手放すに惜しすぎます。だから、当面は朴念仁に徹する必要があったんですね。

 

「……鈍感」

 

 聞こえよがしの独り言をスルーしまして、試合は佳境……あれ、なんか勝ってないこれ?

 

 6回表敵の攻撃で……7対4でリード? マジ?

 

 見ると相手方が1回に4失点してるので、どうも相手の先発が燃えましたねこれは。全国の決勝にもなって珍しいこともあるもんです。

 

 けど先輩もさすがにガス欠気味、1アウト満塁です。

 

 大会規定に投球回の宣言はないので交代すべきなんでしょうが、残念ながらこのチームにはまともに戦力になる投手が先輩と私しかいません。

 

 先輩が1年からずっとエースしてたせいで後続が全く育たなかったんですね。強い一人に入れ込みすぎると周りの選手がへなちょこばかりになると何十年も前から言われているのに……。

 

 私がエース奪っちゃったので弱そうにみられてますが、あれでも右で125キロ投げるしコントロールだけなら元哉くん超えてるしスライダーとフォーク使うしで結構すごい人なんですよ。

 

 というかこの人の球受けてたからキャッチャーが鍛えられてて私のも補球できるんでしょうね多分。

 

 あ、打たれた。これで1点入って7対5、残念ながらもうダメのようですね。先輩、仇は次の大会で私が──

 

「……北条、2イニング行けるか」

 

 

 

 

 

 マジすか監督?




お陰様で総合日刊ランキングに乗りました。
ありがとうございます。

07:15追記:一部表現を加筆修正。
13:22追記:全国一回戦の戦績について投球回等を変更(9回で5打席は無理がある為)


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おまけ③(前編)

日刊1位になったので匿名外して初投稿です。
ついに長くなりすぎて分割になったゾ。


 高槻シニアの部室は、異様な静けさに包まれていた。

 

「ストライク、アウト!」

 

 唯一の音の出所は、マネージャーの私物であるノートPC。ミットにボールが放り込まれる音と球審の声だけが、規則正しく響いている。

 

 普段の彼らは練習での声出しを重視する方針だ。怒号が飛ぶことはあっても、静まり返ることはあり得ない。

 

 それを知る上級生ほど、今の異常事態に対応できずにいた。

 

 チームの主将である絶対的エース、山口賢。

 

 1年から4番を打ち続けてきた中学最強打者、清本和重。

 

 日本一厳しいと言われる練習を主導する3年生2人が、揃ってPCに齧りついたまま微動だにしないのである。

 

「ストライク! アウト!」

 

 2人の視線の先では、再び打者が三振に打ち取られ、のそのそと帰っていく様子が映し出されている。

 

 画面の向こうで腕を振るっているのは、関東最強と名高い三鷹シニアの秘密兵器。

 

 1年生にしてエースナンバーを背負う左腕の怪物、北条元哉。

 

 元哉がついに12人目の打者から三振を奪い、審判がコールドゲームを言い渡したところで動画は終わっている。

 

 秋期大会、関東地区予選1回戦の映像だ。ネットから拾ってきたものではない。

 

 彼らにとって最大のライバルであるかのシニアを打ち砕くため、そして新エースだという1年生の実力を見極めるため、東京に親戚のいるチームメイトの伝手をたどって球場に人を送っていたのである。

 

 元哉による完全試合達成のニュースが全国を駆け巡った時、彼らはその選択が正しかったことを確信した。

 

「…………どう見る」

 

 動画終了からたっぷり1分は空いただろうか。

 

 重々しく発せられた清本和重の言葉に、しかし山口賢はこともなげに答える。

 

「本気ではないな。いや、球威と球速……"力"はあれが最大だろうが、"技"を隠していると見るべきだ」

 

 部室が明らかにどよめいた。しかし2人はそれすら意に介さない。

 

 「やはりそう思うか」と清本は得心が行ったとばかりに頷いた。

 

 いくらなんでも投球テンポが機械的すぎるだとか、使えるはずのチェンジアップをほとんど投じていないだとか、真ん中を狙って投げ続けられるんだから四隅でも同じことができるはずだとか、文字に起こせる根拠はいくつもある。

 

 だがなにより、もっとも信頼する投手である山口と自分の意見が一致した以上、それはどれだけ荒唐無稽であっても真実として扱うべき。山口もまた、その見解で一致していた。

 

 故に、次の答えは決まっている。

 

「5打席くれ」

 

「分かった。持たせよう。お前たちもそれでいいな?」

 

 静まり返った部室だが、チームメイトたちは「高槻流」で徹底的に扱かれてきた叩き上げだ。

 

 無茶だとか、出来るのかとか、そういう理屈はやった後でいい。その場の全員が、そう叩き込まれてきた。

 

 彼らが考えていいのはひとつだけ、目上の命令に従うこと。

 

 喉が張り裂けるほどの大声が、部室に戻ってきた。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

「ごめんなさい!」

 

 いつもの「ッス」口調が鳴りを潜め、川星ほむらは平身低頭していた。

 

 全国大会の抽選会。チームの主将である元エース、朝倉と連れだって現地に赴いたほむらは、2人で引いた抽選の結果、優勝候補である高槻シニアを1回戦で引き当ててしまった。

 

 中学通算51本塁打を誇る世代最強打者と、今大会で唯一元哉に球速で勝る速球派右腕。彼らが入団して以来、チームは夏秋連覇を含む3度の日本一に輝いている。まさに黄金世代だった。

 

 なにかと世話になっている女子マネに表だってきつく当たる者はいなかったが、流れるどんよりとした空気はいかんともしがたい。

 

 現在のチームには、長打力が不足している。チーム全員の共通見解であった。

 

 確かに地区大会では圧倒的な点差を残した試合が多い。だがその内訳はほとんどが単打と四球による押し出しであり、本塁打に至っては5試合であれだけ得点しておいて2本しか出ていない。

 

 現三年のもうひとつ上の世代は逆に打力偏重で、1年当時の朝倉がエースをせざるを得ないほどだったと言うが、今や内容は真逆。

 

 人材不足に揉まれるうちに全国レベルの投手にまでのしあがった朝倉、新たな逸材の北条。2人ともパワーピッチャーであることから、投手陣は磐石と言える。

 

 巧打の選手は多い。守備のレベルも全国屈指と名高い。矢部を筆頭に足のある選手もいるし、正捕手である占部は2年生ながら超中学級の捕球能力があると密かにスカウトから注目されているくらいだ。 

 

 総合力は高い。だが、山口賢を相手にして打球が前に飛ぶのか?

 

 いくら北条でも、清本という怪物を抑えきれるのか?

 

「──川星。相手チームの情報をありったけ出してくれ」

 

 敗戦ムードが漂い始めていた部室の空気を払拭したのは、しかしまたしても元哉だった。

 

「ぇ、選手情報ッスか?」

 

 責められるでも慰められるでもなかったほむらは、元哉の物言いに面食らってしまった。

 

「おう。……何やってんだ、対策しないと始まらないだろ」

 気負うでもなく、格好つけるでもなく、さも当然とばかりに言い放つ元哉。

 

 相手が誰であろうとやることは変わらず、強豪ならばなおさら、余計なことを考えている間に早く始めた方がいい。

 

 至極当たり前の、そして何より難しいことを、彼は実践していた。

 

「……時々、北条くんのマイペースに救われるでヤンス」

「ピッチャーは鈍感さと切り替えの速さが大事なんだよ。朝倉さんもそうだった」

「誰が鈍感だって?」

 

 矢部の感じ入るような呟きを合図に、全員がほむらを囲って聞く姿勢を取った。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

レシプロ「ほいよ。具だくさん、アチアチ、一回戦ね」

 

1:風吹けばパワプロ ID:019Jok0jY

 

レシプロ財団杯全国中学野球選手権大会

1回戦第1試合

 

三鷹リトルシニア 対 高槻リトルシニア

 

        スタメン

4(中)矢部明雄(1年)   4(三)清本和重(3年)

打率.750 本塁打1    打率.667 本塁打51

5(捕)占部恭介(2年)   5(投)山口賢(3年)

打率.500 本塁打3     防0.67 打率.334  本塁打7

    ・

9(投)北条元哉(1年)   

防0.00 打率.100 本塁打0

 

 

2:風吹けばパワプロ ID:q4Z0/thF3

本当にアチアチなのやめろ

反応に困る

 

6:風吹けばパワプロ ID:wjZIeS/l9

これもう実質決勝戦だろ

 

10:風吹けばパワプロ ID:oA6TFuubR

左132kmと右134kmが投げ合うらしい

 

12:風吹けばパワプロ ID:lNCuFD5yF

>>10

ええやん

甲子園の何回戦?

 

13:風吹けばパワプロ ID:RWKMnSfJz

左の方が中1とか誰も信じないんだよなぁ

 

14:風吹けばパワプロ ID:GNOAFdOxb

左132は高1でも怪物扱いやぞ

 

15:風吹けばパワプロ ID:q1rXkDFcN

ま、まぁゴリ押しで技術はないから……

 

19:風吹けばパワプロ ID:guQPhG1Yf

世代最高打者と完全試合達成者の対戦とかプロでもそうそうないで

 

20:風吹けばパワプロ ID:XNOqpCbkW

もう金取れ

 

22:風吹けばパワプロ ID:/Hs1L1r04

>>20

全国は入場チケット有料定期

 

26:風吹けばパワプロ ID:CZq0izJy5

配信も有料チャンネルだけやしな

誰かウォッチパーティ持っとらんの?

 

30:風吹けばパワプロ ID:LMXE4n0yA

月500円ぽっちなんだから自分で払って、どうぞ

 

31:風吹けばパワプロ ID:zpEezEr/r

この試合が見れるんやったら500どころか50000円くらいの価値あるやろ

 

33:風吹けばパワプロ ID:FdC1Plagz

実際今のチケット相場その辺やぞ

レシプロ財団は転売対策がザルなんよ

 

35:風吹けばパワプロ ID:pZmPzBY3x

自分達でダフ屋運営してる疑惑が年イチくらいで持ち上がるもんな

 

39:風吹けばパワプロ ID:7eqvsaCdh

お、一回裏来るで

 

42:風吹けばパワプロ ID:Dofcy94tN

北条は相変わらず入場が堂に入りすぎてる

 

45:風吹けばパワプロ ID:m6v4QF6Iw

投球練習の時点で音ヤバいな

 

48:風吹けばパワプロ ID:G8LwkZBF3

結局3凡か

これ三鷹もワンチャンあるんちゃう?

 

49:風吹けばパワプロ ID:mloYFVXy6

次やろ

初球ソロ全然あるで

 

50:風吹けばパワプロ ID:CP3oTaPW2

で、当然のごとく山口も三凡

 

51:風吹けばパワプロ ID:0jDe2ruQz

実は間違えてプロの試合放映してたりしない?

 

52:風吹けばパワプロ ID:gB170aZ7t

さぁ清本だ!

 

54:風吹けばパワプロ ID:iQid4NN1G

北条対清本とかいう推定中学頂上決戦

 

55:風吹けばパワプロ ID:AZRjZlwsv

片方1年やぞ

 

57:風吹けばパワプロ ID:ui61OjymI

ファッ!?

なんやあのコース!?

 

58:風吹けばパワプロ ID:lMZ10sQq6

ストライクゾーンギリギリを出し入れしてんな

あれ、え?

 

59:風吹けばパワプロ ID:1x8Z73zoO

北条ってあんな曲芸できるタイプやったか?

 

60:風吹けばパワプロ ID:e5UT4/jzA

球速落ちとらんなぁ……丁寧に投げてるとかでもないんか……

 

61:風吹けばパワプロ ID:1x8Z73zoO

4球キッチリ四隅に叩き込んで三振!?

影武者やろこいつ

 

 

     ・

     ・

     ・

 

72:風吹けばパワプロ ID:MFiIXuww0

ここまでのスコア

   1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

三鷹 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

高槻 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

 

 

76:風吹けばパワプロ ID:YfWaxXEzf

清本四連続で抑えてるのマジでヤバい

 

80:風吹けばパワプロ ID:pf0jhX3Io

フルカウントからど真ん中にチェンジアップ投げるのなんなん?

クソ度胸とかいうレベルちゃうやろ

 

82:風吹けばパワプロ ID:EZUHO94f7

打ち取った後珍しく何か言ってたけど聞き取れたやつおる?

 

84:風吹けばパワプロ ID:8DDxgluC8

日シリ第7戦級の大歓声やぞ

無茶言うなや

 

87:風吹けばパワプロ ID:1+sDYUnv3

四回パーフェクトの山口も大概おかしいんだよなあ

 

91:風吹けばパワプロ ID:SensEihR0

>>82

台詞の長さと唇の動き的に

たぶん「まっすぐ真ん中ゆるい球、必要なのは勇気だけ」だと思う

雨野投手と2人先発してたレジェンドの名言ッスね

 

92:風吹けばパワプロ ID:HCMt6jamB

出たわね

 

96:風吹けばパワプロ ID:uBEkDcWtk

キッショ

なんでわかるんだよ

 

97:風吹けばパワプロ ID:qfZVyl8mG

昔テレビでやってたな

チェンジアップの極意

 

99:風吹けばパワプロ ID:5Xo6hG150

中1で実践できるもんだっけ……?

 

100:風吹けばパワプロ ID:EaBKNjjjI

そもそも北条はストガイちゃうかったんか?

 

103:風吹けばパワプロ ID:84T3yzjDZ

>>100

偽ってた

 

105:風吹けばパワプロ ID:OYtnzyA/H

今現地やが清本の第一打席ほんま鳥肌たったで

それまでど真ん中投球だったのに

第一球からずっとストライクゾーン四隅を出し入れしてたからな

 

107:風吹けばパワプロ ID:kXg2eTYtK

それ

本気出してきた感ヤバかった

 

110:風吹けばパワプロ ID:K1RQSyJX1

地区大会は舐めプやったんやなって

 

114:風吹けばパワプロ ID:v0iBv52X/

四隅ギリギリの全く同じコースにストレート→チェンジアップ→スライダーでいれてったの何?

 

115:風吹けばパワプロ ID:75UU39Itk

緩急の使い方が異様に巧いよな

本当に中1か定期

 

118:風吹けばパワプロ ID:8Ynw//AVF

>>76

でも四球三振→フルカウント三振→ファールしまくってからのキャッチャーフライ→サードライナーやぞ

"近づいて"ないか?

 

119:風吹けばパワプロ ID:LNbMUn7vv

>>118

ヒェッ……

 

121:風吹けばパワプロ ID:UzTOEptOH

こっわ

 

122:風吹けばパワプロ ID:ZT2nJB1YQ

っぱ清本よ

 

125:風吹けばパワプロ ID:WtV2vX4lc

でも五打席目あるか?

 

126:風吹けばパワプロ ID:ZSKvnq7Mc

矢部3塁打wwwww

 

130:風吹けばパワプロ ID:+wcXOrdDJ

ほんま侮れんなあのオタク

 

133:風吹けばパワプロ ID:WUeCPwPId

占部打ったぁぁぁぁぁあ!!

 

135:風吹けばパワプロ ID:5qGH4tojm

うおおおおおおおお!!!

 

138:風吹けばパワプロ ID:H4HV15OO0

やりおったわ

 

139:風吹けばパワプロ ID:DdDw5dsVE

初球打ちwwwww

山口こりゃスタミナ負けやな

去年も似たようなガス欠っぷりで負けてたもん

 

141:風吹けばパワプロ ID:e+2qU3q5f

まだ裏に清本の第五打席があるぞ

 

143:風吹けばパワプロ ID:hjsoXqc9v

>>141

いうて今日4タコやし行けるやろ!!

勝ったな、風呂入ってくる

 

147:風吹けばパワプロ ID:cBzBWy6qn

あそこから1点だけで済ます当たり山口諦めとらんな

 

148:風吹けばパワプロ ID:3EF28L7vG

>>141

打順1番からやんな

清本の前が誰か出塁すればええんか

 

149:風吹けばパワプロ ID:9XYrnf2hq

男北条、挨拶代わりの四球wwwww

 

150:風吹けばパワプロ ID:2VErAqvMj

言ったそばから1番が塁出たぞ

 

152:風吹けばパワプロ ID:8oGM2ot11

2番はセカンドフライやな

 

155:風吹けばパワプロ ID:GJNTbbBwT

あの球外野まで飛んだことないんちゃうか?

 

156:風吹けばパワプロ ID:QchyNeoEM

3番三振!!

 

160:風吹けばパワプロ ID:9Cy/VQime

さぁ清本だ!!

 

162:風吹けばパワプロ ID:BF8j/1EUP

清本最強!清本最強!清本最強!清本最強!清本最強!清本最強!

 

166:風吹けばパワプロ ID:ilbVaT0+T

いきなり大ファールやなぁ

 

168:風吹けばパワプロ ID:gFEezOmMl

延長11回裏2アウト1塁サヨナラチャンスやぞ

ここで打たんと清本ちゃうやろ

 

170:風吹けばパワプロ ID:s2yLwxrOk

またファールや!

 

174:風吹けばパワプロ ID:rCHzKKSR4

北条の球あんだけバットに当てるのやっぱヤバいわ

 

176:風吹けばパワプロ ID:2pgu+ldN/

!?

 

178:風吹けばパワプロ ID:jHCQnECnb

逝ったああああああああ

 

180:風吹けばパワプロ ID:kBTnUz11I

サヨナラだーーーーー!!

 

182:風吹けばパワプロ ID:cGlIAZOks

いや入っとらん!!

 

186:風吹けばパワプロ ID:Dv/3ytsen

フェン直! フェン直です!!

 

189:風吹けばパワプロ ID:BcS84+whj

1番間に合えええええええ!!

 

191:風吹けばパワプロ ID:21TvkE3UV

2、3塁で止まった!

ツーベースや!

 

193:風吹けばパワプロ ID:IMxaQgEf/

あと1メートル違ったら入っとったな

 

194:風吹けばパワプロ ID:vgcs4motW

ぐああああああああ

 

197:風吹けばパワプロ ID:7b6U0kODz

男山口(5番投手)、代打を出される

 

201:風吹けばパワプロ ID:vWZjaQnN2

監督に食って掛かってて草

気持ちはわかるがやめとけ

11回投げたとこやぞ

 

205:風吹けばパワプロ ID:/cUOaj/q9

代打あっさり三振とられてて草、お疲れ様でした

北条、公式記録で球が外野まで飛んだの今のが初めてやないか?

 

206:風吹けばパワプロ ID:sGmU2H75m

そういや長打は初か

そう考えると昭和の怪物みたいな球威しとるんやなあ

 

209:風吹けばパワプロ ID:X20PuAkwe

いや……

フライ含めて球が外野に届いたこと、エラーの時以外なくない……?

 

213:風吹けばパワプロ ID:8seicK5YQ

ウッソだろお前wwwww

マ?

 

214:風吹けばパワプロ ID:Ynp2ofTEL

なんJ史に残る名勝負やったなあ

216:風吹けばパワプロ ID:XQpm+Cbfa

結局どっちの勝ちなんや?

 

217:風吹けばパワプロ ID:T+CZYmwBS

結局0封したしギリギリ北条じゃね

 

220:風吹けばパワプロ ID:A4ukKJ1lB

引き分けでしょ

 

221:風吹けばパワプロ ID:ilGCTbYbL

最後ので格付け済んだやろ

清本や

 

223:風吹けばパワプロ ID:1ftjYiYCB

三つに別かれ混沌を極めてて草

 

226:風吹けばパワプロ ID:4QsKB9aer

なああれ

試合後に何か話しとらんかった?

 

227:風吹けばパワプロ ID:FM0xwQK9X

してたな

何て言ってたんやろ

教えてガチファンニキ!

 

229:風吹けばパワプロ ID:e8OlOKyqV

いやそう都合よく出てこんやろ

 

230:風吹けばパワプロ ID:SensEihR0

>>227

「次はこうはいかん」がハモってた

滅茶苦茶カッコよかったッスよ

 

233:風吹けばパワプロ ID:DZHRBP7CT

キッショ

なんでわかるんだよ

 

236:風吹けばパワプロ ID:BXSxqN15F

メロンパンが定期化してて草

 

 




没会話

清本「野手である俺には信じがたい。荒れ球をごまかす為に真ん中に投げているのではないのか?」
山口「それこそ信じがたい。であれば、ああも立て続けに同じ場所を狙えるものかよ」


現時点での能力
北条 守備位置:投(先発)

投手能力
球速:132km
コントロールC60
スタミナA80

変化球
スライダー3
チェンジアップ1

特能
・天才肌(金特)
・ケガしにくさA
・回復A

判明している仲間
・矢部明雄(外野手・1年)
・川星ほむら(マネージャー・1年)
・朝倉(投手・3年)
・占部(捕手・2年)



曇らせる方の本編はもうちょっと待ってくださいなんでもしますから


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おまけ③(後編)

日刊1位になったので初投稿です。
ちょっと遅れました。


 一般的に、習い事を始めるのは早ければ早いほどいいとされる。世界一の人気スポーツと言われて久しい野球も例外ではなく、自分の子供に少年野球をやらせようという親は多い。

 

 中・高・大またはプロと、十数年に渡って同世代のライバルとしのぎを削る、というようなストーリーは枚挙に暇がない。

 

 後にプロとして大成する天才たちのほとんどは甲子園で活躍しており、甲子園で活躍する選手たちのほとんどは中学時代に全国で名を揚げている。

 

 そういう「金の卵」が集まるのが、日本三大リトルシニアと呼ばれるチームだった。

 

 かつて6リーグ時代にはいくつもあった強豪チームだが、台頭してきたレシプロ財団による組織再編の荒波の中で統廃合が相次ぎ、最終的には3つのチームが際立った大会実績を残す構造となった。

 

 関東、東京都三鷹市。

 近畿、大阪府高槻市。

 中部、愛知県豊田市。

 

 日本三大都市の近隣に本拠地を置くそれらのチームは、やはり分母の多さからか大会成績も突出したものとなる。

 

 過去10年の全国大会においては夏秋あわせて20回の優勝のうち17回(三鷹6回、高槻8回、豊田3回)を3チームで分け合うほどだ。

 

 他にも横浜北、仙台、小倉あたりも全国常連(それぞれ過去10年で全国優勝1回ずつ)とされるものの、やはり上記の三チームは別格とみられ、スカウト等からの注目も相応。

 

 ちなみに、夏の大会と秋の大会は運営母体こそ同じだがあくまで別の大会であるとのスタンスが取られており、前回優勝チームがいることによる追加枠は昨年の同じ大会の結果によって選定される。

 

 ──昨年秋の中学全国大会における優勝チームは、三鷹リトルシニアだった。

 

「…………」

 

 その時の()()()()である「朝倉(あさくら)杏香(きょうか)」は今、ベンチから後輩の登板を見ている。

 

 対戦相手は、数ヵ月前に夏の全国大会で優勝している高槻リトルシニア。()()からすれば、1年当時から何度となく対戦してきた因縁のチームだった。

 

 マウンドに立っていなくとも鮮明に思い出せる。

 

 1年の秋、打力はあっても投手力が壊滅的だったチーム事情からエースを任されてしまったこと。

 

 2年の夏、先輩方の強力過ぎる援護により炎上しても勝ててしまうものだから、連投に次ぐ連投を強いられ肩を壊しかけたこと。

 

 2年の秋、13-11の乱打戦の末に山口・清本のエースと四番コンビを下したこと。

 

 3年の夏、1回り強くなって帰ってきた二人に徹底的に打ち込まれたこと。

 

 そして今。チーム最大のライバルと言える高槻戦に、杏香の居場所はない。

 

 彼女は体格に恵まれている。13歳の時には既に170センチ近い身長があって、女子でありながらチームの入団基準をパスできる程度には身体能力が高かった。

 

 今の時代、実力が追い付くのであれば大会に女性選手が出場するのは認められているし、ほんの数名ではあるが女性のプロ選手も存在している。

 

 それでも、「あの」三鷹シニアが1年の女子にエースナンバーを渡したとあって、当時はかなり波風が立ったのを覚えている。

 

 それをねじ伏せて、勝ってきた。清本以外には力負けしない自負があった。

 

 だから、1年の北条にエースナンバーを渡すという相談を監督から受けた時、あっさり頷いた自分に驚いていた。

 

 監督が杏香からの1番剥奪を決めたとき、客観的に見て元哉と杏香の実力はだいたい同じくらいだった。

 

 伸び悩みつつあった自分が、夏大会で打ち込まれたことで見きりをつけた監督の判断はわかる。だが、それは理屈だ。

 

 いつもの杏香なら、キレて監督につかみかかってもおかしくない。自慢ではないが、3年生になった杏香は監督の背丈を追い越している。

 

 だが、杏香は理解してしまっていたのだ。自分の実力が既に、完成してしまっていることを。

 

 つまり杏香は、早熟の天才だった。人より体が大きくなるのが早くて、技術を磨き終えるのが早くて、実力の最終形を大会まで持ってくるのが早かった。

 

 なまじ元哉と同じくらいの実力だったからこそ、それを否応なく理解させられた。

 

 杏香が2年の時から球を受けてもらっている占部が、不思議そうな顔で捕球するようになった。

 

 言葉にするなら、「この人の球はこんなに簡単だったかな?」といったところだろう。彼は元哉の荒れ球に引っ張られて、見る間に捕球技術を上げていた。

 

 そして、彼は気遣いのできる男だ。自分の違和感の原因に気づくと、杏香の前ではその戸惑いを一切見せなくなった。

 

(なーにが鈍感だよ。気づいてた癖に)

 

 杏香の凋落と元哉の台頭を、占部恭介は知っていた。

 

 杏香もそれをわかった上で、表面上は何もなかったように振る舞っていた。

 

「キャッチャーフライだ!!」

「やっぱすげぇなあの一年坊、あの清本を完封してんぞ」

 

(だって仕方ないじゃんか。……格好よかったんだから)

 

 元哉の投球を見て。

 

 杏香はつまり、その()()()()()に惚れていた。

 

 それは自分のなりたかった姿そのもので、ただの早熟な大女だった自分には絶対にたどり着けない場所だったから。

 

 彼に対抗心を持てず、純粋な憧れと、好意さえ向けていることを自覚した時、彼女は自分の選手寿命を悟ったのだ。

 

 清本を相手に、それまで一切使ってこなかった技術の数々を解禁していくのを見て、彼女はベンチで訳知り顔だった。

 

 自分しか知らない元哉の技術が白日のもとに晒されるのは少し嫌だったが、逆に言うとそれだけだ。

 

 数ヵ月前に「5打席5安打2本塁打6打点」をやられた相手を抑え込んでいることへの嫉妬も、対抗心も、既に彼女にはなく。

 

 まだある残り火のような力をこの大会で出しきったら、きっぱりと野球からは引退しようと決めていた。

 

 ここまでの青春を野球につぎ込んできた彼女は知らないが、それは概ね、世間では惚れた弱みだとか、男を知って腑抜けたとか言う。

 

(でも、後輩くんによわっちいとこは見せられないね。あたしこれしか取り柄ないんだし)

 

「元哉が一回戦に立候補してきた」と監督に聞かされた時、それが意味するところを彼女はかなり正確に読み取っていた。

 

(全国だもん、出番ナシで終わったら最悪だもんなあ)

 

 元哉が立候補したのは抽選会より前だったが、つまり彼は1回戦を杏香に任せ、敗北して自分の出番がなくなるのを嫌ったのだろう。

 

 杏香の読みは、概ね正しい。

 

「ふふ、かーわいい」

 

 それを杏香は、元哉が功を焦ったと受け取った。元哉としては投手・朝倉を微塵も信用していなかったというだけなのだが、知らぬが仏であろう。

 

(せっかく決勝は譲ってもらったんだし。勝たなきゃね)

 

 監督の言うところでは、決勝を3年の杏香に任せたいから自分が1回戦をやりたいと言ってきた、ということだった。

 

 せいぜい二年連続優勝の栄冠を手に入れて、後輩くんに自慢してやろう。

 

 杏香は1回戦が終わらないうちから、決勝での算段をつけ始めていた。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 杏香の見込みは、甘かったと言わざるを得ないだろう。

 

 6回にして1アウト満塁、7-4。

 

 打線の援護のお陰でだましだましやれているが、ついに年貢の納め時が近づいてきた。

 

 誤算の原因は相手チームの1番2番。2年蛇島と、1年霧崎からなる二遊間コンビである。

 

 抜群の守備力でセンター前ヒットをただのゴロにすること2回、併殺2回。打ってはここまで全打席で出塁している蛇島と、1本塁打を含む3打点を上げている霧崎。

 

 有り体に言って、全く太刀打ちできていなかった。

 

 序盤にかなり粘られたせいで投球数は100を超えようとしており、息は上がり、ただでさえ胸でつっぱりがちなユニフォームが汗で張り付いて気持ちが悪い。

 

 腕はとっくに精密なコントロールができる状態ではなくなっている。この大会で使い潰しても構わないという心構えで投げていたが、この分だと本当にそうなりそうだ。

 

 それでも、彼女の闘志は失われていない。

 

 同級生たちに続々と実力で追い抜かれても。実力を純粋に尊敬できてしまう後輩が現れても。同じ女の子の遊撃手に散々打ち込まれても。後のことは元哉に任せて引退すると決めていても。

 

 朝倉杏香は、強豪三鷹シニアの元エースであり、中学全国の優勝投手である。

 

「……っ!!」

 

 打席に立つ9番打者(捕手)が、その気迫に一瞬、たじろぐ。

 

 すかさずスライダー──スタミナ切れにより、まともに動かないが──を投じた杏香だが。

 

 極限の集中状態は、9番打者の口角がほんの少し上がったのを杏香に認識させた。

 

 地鳴りのような歓声が上がる。三大リトルシニアのうち、高槻を下して上がってきた関東1位・三鷹と、往年の三鷹と同じ1年女子をスタメンに入れた中部1位・豊田。

 

 野球に興味のない一般人でも名前くらいなら知られている2チームによる決勝戦。試合前に流れていたテレビ中継によると、観客動員数は歴代最多を更新したらしい。

 

 杏香の頭を走馬灯のように情報が駆け巡る間、豊田シニアは3塁走者を返して1点を確保。守備には定評のある三鷹シニアである。球が外野へ行こうが、滅多なことではツーベースにならないのだ。

 

 被害は最小限に抑えられたが、これで7-5。打順も1番からとなる。

 

 打席には1年、霧崎。

 

(……まだ、まだ)

 

 やれる。

 

 その言葉が脳裏に出てくるより早く、マウンドに監督がやってきた。

 

 監督の言葉に、杏香は呆けたように、しかししっかりと頷く。

 

 

 

「選手の交代をお知らせいたします。ピッチャー、朝倉杏香さんに代わりまして──北条元哉君

 

 ──一瞬の沈黙。その後、どよめきが爆発するような歓声へと変わっていく。

 

 すっかり熱を持った肩をかばいながら降板すると、大急ぎでブルペンでの投げ込みをすませてきたらしい"後輩くん"が待っていた。

 

「先輩。お疲れさまでした」

 

 元哉は真面目くさった顔でそう述べる。「優勝投手が転がり込んできた」と顔に書いてあったが、杏香はぷっと吹き出したように笑うと、騙されてやることにした。

 

「……生意気だぞ、後輩」

 

「すみません」

 

「後。任せたからね」

 

「はい」

 

 自分より4センチほど背の低い、けれどすぐに追い越すだろう大投手が頼もしくて、杏香はひらひらと手を振りながらベンチに消えていった。

 

 ──この後。北条元哉は自身の通算奪三振数を5つ増やし、先発としては史上初の大会通算防御率0.00を達成。おなじく史上初となる、1年生優勝投手になった。




朝倉杏香(あさくら きょうか)
右投右打 オーバースロー
適性:先発・中継
球速:125km/h
コン:B73
スタ:D58
変化球
スライダー3
フォーク2
特能
軽い球(赤特)
キレ○
回復B

 関東の強豪、三鷹シニアの前エース。身長178cm。非常に早熟な選手で、中学1年の時にはほぼ体が出来上がっていた。長い黒髪をポニーテールにまとめ、ぱっちりした目元が特徴。体格相応に発育がよく、しばしば男子に二度見される。

 女子選手であることを考慮すれば国内トップクラスと言える体力と筋力を持っており、大会史上初となる女子の1年生エースとして全国大会に出場し話題になる。

 2年秋の大会では全国の優勝投手となった一方で、プロのスカウトからは典型的な早熟型で伸び代がないことを見抜かれており、性別の壁もあって評価が低い。

 負けん気が強く男勝りな性格。しかし本人も自覚していないが、世話好きなところがあり自分で戦うよりは他人を応援する方が性に合っている。

 本編では長々と理屈を並べ立てているがその実、元哉に力で理解らされて雌堕ちしたということになる。

 余談だが、保険会社に勤める従姉が近頃働きすぎなのを心配しており、従姉の彼氏にさっさと家庭に入れてやれと圧を掛けているらしい。


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4/n 世界大会と高校への布石

ゴールデンウィークなので初投稿です。


 勝ちました。

 

 何に勝ったって? 全国大会の決勝にですよ。これで1セーブが付きました。いよいよもって東北の神の子っぽくなってきましたね。

 

 前回、元エース先輩の予想外の善戦とガス欠を前にして私が抑えとして登板する羽目になった所まででした。

 

全国決勝。 三鷹7-5豊田。

1回2/3パーフェクトピッチ・奪三振5・無四球。

 

 1番が霧崎ちゃんなのを考えるとオートに任せてる場合じゃないので、またしても手動操作でガチンコする羽目になりました。まぁ余裕で完封できたので問題ありません。いかにネームドと言えどもまだ一年や二年、大した強さではありませんよ。

 

 というかですね、3年清本より高難度のキャラなんて早々いて貰ったら困るんですよ。他に何が来ようが余裕の奪三振ショー出来るくらいじゃないと清本という選手は抑えられません。

 

 霧崎ちゃんからすごい目で見られてる気がしますが、悲しいけどこれ試合なのよね。

 

 何にせよ、先輩のお陰で全国優勝投手の座が転がり込んできました。ありがとナス!! では表彰式やら何やらはカカッっと飛ばしましてお次は世界大会、の前に楽しい戦後処理のお時間です。

 

 本作では、大会や練習試合での活躍に応じて直接ステータスがアップしたり、特能を手に入れたりすることがあります。過去作でも似たような仕様はありましたが、今作だとポイントをすっ飛ばしてステータスが上がる場合があるのが特徴ですね。

 

・球速が1km/h上がった!

・投手調子安定になった。

・荒れ球になった。

 

 今回はこんな感じです。

 

 最大三項目、1つ目がステータスで、大雑把に成績を上げると球速、多投連投するとスタミナ、奪三振が多いとコントロールが上がります。今言った順で優先度が高いので、今回は球速が伸びました。やったぜ。

 

 後は特能が二つまで付くんですが、やらかすと容赦なく赤が付くし変な赤青が付くしで狙っていい能力を得るのが大変です。むしろデメリットでないものが二つ付いただけラッキーと思いましょう。本作の荒れ球は強いので。

 

 今回の場合を見ても分かる通り、地区大会で完全試合したのに青特が出てません。緑(調子安定)と赤青(荒れ球)です。この場での青特取得条件はとんでもなく渋い上に確率に左右されるので、出たらラッキーくらいですね。

 

 青じゃない特能の中では当たりと言われてる二つ。これで十分です(つーか、これが限界)。

 

 例えば大会最強打者(今回の場合、清本)を完封できればこの段階で対強打者〇が付いたり緩急〇が付いたりもするんですが、ご存知の通り二塁打を打たれましたのでないです。くそが(悪態糞土方)

 

 まぁ球速さえ伸びてくれれば万々歳ですよ。1km/h伸ばすのに死ぬほどポイント食いますからね本当に。アメフトの世界では0.1秒縮めるのに1年かかるらしいですが、こっちは1km/h伸ばすのに1年かかるのもザラですよ。ありがてぇ……!!

 

 他は適当に会話イベントがあるだけなのでスキップ。前エース先輩にやたら可愛がられてる気がしますけど、モブの持ってる経験点なんて大したもんじゃありませんからね。すぐ引退して友情タッグすらくれなくなる3年の先輩にかかずらってる時間はありません。

 

 お次は世界大会。これが本命です。

 

 この世界における大会は、先ほどの全国で活躍した選手たちから選抜された日本代表チームでトーナメントを戦う形式です。二年に一度行われ、大会期間は2月。選抜されれば、3年生もギリッギリ出場できます。

 

 そのため高校進学前の力試しであったり、強豪校のスカウトへのアピールの機会として重宝されているんですね。この世界の日本はかなりの野球強豪国なので、国内プロは勿論メジャーのスカウトにも顔が売れます。経験値的にも非常にうま味なので行かない手はないです。

 

 今ほも君がやってるように、スカウトの評価が足りている場合は12月頭~半ばに代表発表があり、選手であってもそれで知ることになりますね。

 

 あと因みに、世界大会はDH制があります。何だかんだ、世界最強の野球リーグはアメリカさんなので、そこに合わせてルールが作られてるのでしょう。

 

 それを踏まえて、今回のオーダーは以下の通り(太字はネームド)。

 

 

1(中)矢部明雄 1年 東京・三鷹 

2(指)友沢亮  1年 神奈川・横浜北

3(三)滝本太郎 2年 兵庫・神戸 

4(一)清本和重 3年 大阪・高槻 

5(右)牛島徹  3年 福岡・小倉 

6(二)蛇島桐人 2年 愛知・豊田 

7(遊)霧崎礼里 1年 愛知・豊田

8(左)及川辰也 3年 宮城・石巻

9(捕)占部恭介 2年 東京・三鷹

 

投手 北条元哉  1年 東京・三鷹 

   山口賢   3年 大阪・高槻

   猪狩守   1年 神奈川・横浜北

   朝倉杏香  3年 東京・三鷹

   早川あおい 2年 東京・板橋

   (友沢亮   1年 神奈川・横浜北)

 

 

 ――なんやこの厨パァ!

 

 というか友沢猪狩早川はどっから生えてきたんですか? 同じ関東ブロックだったんだから地区大会から戦ってないとおかしいはずなんですけど……ちょっと思い出してみます……あっ。

 

 横浜北は確か地区決勝で当たった所でしたね。見覚えのある金髪の野手は友沢でしたか。当時ほも君が打たれた3安打のうち2本が確かこいつなので、その辺を評価されての選出ということでしょうかね。

 

 今の友沢は所謂4番ピッチャーで、二刀流選手として登録されているらしく投手の方にもカッコ付きで名前が付いています。正直投手より野手の才能の方があるからさっさとコンバートして欲しい所ですけどね。

 

 で、猪狩です。居たとしたら既に天才だなんだと持ち上げられてないとおかしいんですが……左腕で使う球種が似てるからほも君が話題喰っちまったんですかね。

 

 とは言え選出されてるってことは何かしら、まぁ三鷹とは違うブロックで全国出てたんでしょうけど……あぁ、アレです。

 

 ちょっとうろ覚えですが、確か当時のスコアボードが

 

    1 2 3 4 5 6 7 計

三鷹  2 3 0 0 0 0 0 5

横浜北 0 0 0 0 0 0 0 0

 

 みたいな感じだった筈。先発しか確認してなかったのでアレですが、1回2回でけちょんけちょんにされた先輩に代わって出てきた妙に強い投手。アレ猪狩だったんですね、道理でねぇ。多分猪狩は1年だからまだエースと認められておらず、試合後半から出てきたのでしょう。

 

 最後に早川。板橋は準決勝で当たった所だった筈なので、こっちはそもそも先輩が投げてて私見てませんでしたねそう言えば。本走は何かと女子選手に縁がありますね。さりげなく元エース先輩選ばれてるし。

 

 後は全体的に帝王実業系の選手が多いですね。この感じだと甲子園のラスボスはあの高校になりそうです。あそこ東東京にあるので自分で入っちゃうのもアリですね。まぁスカウト次第ですが。

 

 それにしても往年の強キャラがかなりの数揃ってこの、パワフェス感覚、いいじゃないですか。

 

 しかしニチャってる場合じゃありません。そもそも世界大会出場の目的は「1.日米のスカウトに顔を売り」、「2.試合出場による特能や能力アップ確保し」、「3.高校へ一緒に行ってくれる強キャラと仲良くなる」という三つでした。

 

 特に3つ目が非常に重要となります。プロでの指名には甲子園での活躍が絶対条件ですからね。軽く優勝できる面子で高校に殴り込む必要があります。

 

 そのためには、今のうちから同級生の有望な連中と仲良くなっておく必要がある訳ですね。ここで接点を確保して置いて、3年の春までに好感度が一定以上だとイベントを経て同じ高校に来てくれます。

 

 進学先が強豪であるほど必要な好感度も控えめになる仕様なので、出来るだけあかつき大付属、帝王実業、大東亜学園あたりの最高ランクの高校に進学するようにしましょう。

 

 代表に選ばれると2週間の合宿期間を経て大会に臨みますので、この期間はひたすらコミュに割きます。

 

 1年生の今回は、特に同学年の生徒を重点的に見ていきます。次に余裕があれば一個上の先輩。3年生は既に進学先決まってますからほったらかしてて構いません。

 

 その上で同ポジションの猪狩・早川両名はどうやっても他の学校に行ってしまいますので、つまり友沢と霧崎にウザ絡みするってことですね。貴重な二遊間を守れる守備の名手、しかもホームランも打てるタイプの万能打者ですから。この二人には是非同じ高校にいて欲しい所さんです。

 

 何より、選手たちを同じ高校に引き抜けるということは甲子園で敵として出てこないということですからね。(野手として)敵に回すと清本滝本の次くらいに怖い友沢と戦わなくていいのは爆アドです。

 

 1個上とかだったら清本の兄貴を引き抜きたかったんですけどね。こればっかりは仕方ありません。(3年後に甲子園の)決勝で会おう。

 

 という訳で練習が終わったら霧崎友沢の二人に構いに行きます。友沢はこの時二刀流ですが、こいつも野球の腕で好感度が上がる人種なので適当に10球勝負を吹っ掛けて勝ち続ければそのうち好感度も付いてきます。

 

 お、今回は向こうから申し込んできましたね。地区大会で舐めプしてたのが相当お冠だった様子。何故手を抜いたのかと聞かれたら本気出すまでもないだろとか答えて、煽りに煽っておきましょう。

 

 こいつが焦れば焦るほど、投手としての練習にも根を詰めるようになり、そして一緒に代表入りしている蛇島先輩に目を付けられて肘を破壊される可能性が高まります。友沢は壊れてからの方が強い、当たり前だよなぁ?

 

 ついでにしつこく何度も勝負を挑んでくるようになるので、戦いを通じて経験ポイントも大量に手に入ってお得、という訳です。うん、おいしい!!

 

 後は来年あたりで肘破壊→遊撃手転向→和解イベントを経由すればライバルから味方になってくれますので、あとは自軍に引き入れればOKです。

 

 これで友沢の方は大丈夫でしょう。この時点で結構なポイントを確保できましたが、しかし本命は霧崎ちゃん、彼女です。この子が同学年なのは非常に引きが良い。何故ならこの子、上手くやれば中学の段階から自チームに引き入れることができるんですよ。

 

 因みにこの時の霧崎ちゃんはまだ改造されてませんのでアプリの追憶仕様、こげ茶の髪と目をした可愛らしい女の子です。

 

 お陰で原作ほどの性能はまだ出せていませんけどね。改造前の段階から占部先輩より打撃強いのはまあ、腐っても原作キャラということでしょう。

 

 前のファ〇アーエムブレムでもそうでしたけど、ゲーム会社を問わず茶髪から改造されると目と髪が白くなるみたいな伝統がありますよね。極度のストレスによる脱色とかそういうアレなんでしょうか。

 

 そんな霧崎ちゃん、この後恐らく2年の夏頃に改造イベントを挟んで急激に強化されます。それまでにめいっぱい好感度を上げておきましょう。本作では彼女にできない女の子はおりませんので、この子に関しては(貰えるコツがいまいち弱いから)最悪くっついてしまっても構いません。

 

 改造前の彼女はとても活発で社交的ですが、彼女に関しては向こうが来る前にグイグイ行きましょう。幸い決勝でやり合ったばかりだからネタはいくらでもありますしね。困ったら勝負に持ち込めばいいという逃げ道もあります。目が合ったらデュエル開始、野球人なんてそれでいいんです。

 

 それこそ彼女が既に持ってる「読心術」のことでも持ち出して君素質あるよと煽ててやればよろしい。これを一回やっておくと、後のイベントで色々ボーナスも付きますしね。

 

 そもそも今のほも君は1年にして中学ナンバーワンピッチャーで、陰キャ寡黙な質なのも伝わっています。そのせいで野球に関してはちょっとほめるだけで非常に好感度が伸びるんですね。

 

 さて、実績と攻略情報があれば中学1年の乙女を手玉に取るくらい造作もありません。試合が始まるまでの期間は友沢と勝負→霧崎ちゃんとイチャイチャする→清本の兄貴から筋力ポイントをねだりに行くというルーティンを繰り返しましょう。

 

 二人と絆を作ったら、いよいよ世界大会に臨みます。キャッチャーの占部先輩が付いてきてくれてますので、荒れ球(コントロール悪化と引き換えに球威アップ)の付いた球も全力で投げ込めますね。サスガダァ……

 

世界大会、1回戦。7-0

5回無失点・奪三振8・2四球。

 

世界大会、2回戦。5-2

登板なし。

 

世界大会、3回戦。4-1

2回1/3パーフェクト・奪三振5・無四球。

 

 ヨシ!!

 

 息をするように三戦全勝、これで決勝ラウンド進出が決定いたしました。

 

 次の試合まで数日空きますが、まぁいつもの通り霧崎ちゃんの所にでも──

 

 

「…………っ」

 

 

 ──ほむら姉貴!? ナズェミデルンデス!?




占部恭介(うらべ きょうすけ) 2年
捕手/一塁 右投右打
弾道:2
ミート:74B
パワー:48E
走力:38F
肩力:67C
守備:75B
捕球:96S
特能
キャッチャーB
ムード〇

 関東の強豪・三鷹シニアの正捕手。チームの特色にたがわず巧打で知られるが、鈍足なため打順的には5番当たりに固定されがち。

 身長167cm、捕手の割には体格に恵まれていないが、それを補って余りあるリードの巧さと捕球能力で知られる。特に捕球では、「朝倉の球が取れたからレギュラーにした」という監督の言に相応しい能力を持ち、一年から全国大会に出場しながら未だに後逸0という離れ業を成し遂げプロのスカウトやコアなファンを唸らせている。

 厳格な父の教えを受けて育ったためか、人の顔色や僅かな動作から行動を予測する術に長けている。「気が利く男」と評判であり、チーム内でもムードメーカーとして知られる。




18:37追記:友沢亮の故障個所について修正(肩→肘)
      一部表現を加筆修正。
19:36追記:冒頭部の決勝スコアのコピペミスを修正。


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おまけ④

忙しいけど筆は進むので初投稿です。


「ピッチャーの交代をお知らせいたします」

 

 ──それは、いわゆる理不尽だった。

 

 6回ワンアウト満塁。7対5。つい先程、1点タイムリーが入ったばかり。打順は1番、つまり私。

 

 相手のピッチャーは見るからに疲弊していた。

 

 逆転優勝の目はある。私──霧崎礼里はそう思った。

 

 去年秋の大会の優勝投手──ものすごく体格のいい女性選手──が降板して、()()がやってきた。

 

 不思議だったのは、降板していく朝倉投手から感じられる【思考】。

 

 そう、私は本当にボンヤリとだが、他人の考えていることが分かる時がある。私はこれを「声を聞く」または「受信する」と表現しているが、誰にも打ち明けていないからどれくらい正確かはわからない。

 

 例えば試合中。お互いの闘志がぶつかり合う時、希に相手投手の考えが読めることがある。

 

 内、とか。外す、とか。恐らく、相手が強く思っている時だけ、思考の上澄みというべきものが私にまで漏れ聞こえてくるのだろう。

 

 人の思考が発信源で、私が受信装置。だが私の()()()()は弱くて、かなり強いシグナルしか受け取れない。おそらくそういう仕組みなのだと、私はなんとなく理解していた。

 

 外では「察しがいい」で通しているけれど、中学生にもなれば何となく分かる。これは、皆にはないものだ。

 

 しかし私は、便利で野球にも応用できるそれに密かな自信さえ持っていた。

 

 先程の朝倉さんは、意識がマウンドの外に向いていたように思う。闘志を漲らせてこそいたが、何となく、それは打者を打ち取るためではなく、味方にむけたもっと別の──

 

 そこまで考えたところで、新たな投手の登板が完了した。

 

 マウンドに立つのは、私と同じ1年生。

 

 かの山口賢と延長11回まで投げ合い、あの清本と互角の勝負を演じた、三鷹シニアの隠し球。

 

 つい一昨日、九州の主砲と呼ばれる牛島外野手を軽々と完封して一部界隈を騒がせたばかりだ。

 

 この場に出てくるのは、監督から朝倉投手以上の評価を得ていることの証左。

 

 上級生に華を持たせるという綺麗事に惑わされず、非情だろうと1年生だろうと、勝つために使えるものはなんでも使う「三鷹らしさ」の真骨頂。

 

(……そこまでやるか)

 

 正直に言って、誤算だった。

 

 だがそれでも。中学1年生にして全国の決勝にまで手を掛けた私は、どこかで自惚れていたのだろう。自分が放つ渾身の決勝打を、私は疑っていなかった。

 

 この時点までは。

 

「ストライク!」

「──ぇ?」

 

 球が、見えなかった。

 

 そりゃあ、明らかに疲れていた朝倉から全開の北条だから、球が速くなるのは分かる。

 

 MAXからかなり落ちた110km/hそこそこが一気に132km/h。左と右。明らかに段違いな球威。

 

 捕り方が上手いのだろう、微動だにしないキャッチャーミットからは、聞いたこともないほど重たい音が響いてくる。

 

 しかし何より、分かってしまったのだ。

 

 ()()()()()……!?

 

 それは、強い気持ちを持っていないということ。この状況を、私を、なんとも思っていないということ。

 

 まるですっかり慣れたルーチンワークをこなすみたいに、彼は淡々と投げていた。

 

 腕を振りかぶって、ボールを投げる。何も聞こえない。強く意識されていないのだ。歯牙にもかけられていないのだ。普段通り投げればそれで抑えられると、舐められているのだ。

 

「ストライク!!」

 

 なのに、打てない。掠りもしないどころか、バットが出ない。

 

 正直に言おう。怖かった。

 

「……っ!」

 

 だが。少しビビっただけで三振してやるほど私は甘くない。聞こえないなら、能力に頼らず打撃するまで。

 

 私は強豪・豊田シニアの1番だ。大会通算6割を打つ遊撃手だ。

 

 飛び込んできた白球に狙いを定め、力の限りバットを振った。

 

 あの球は目で追えるようなスピードではない。ほとんど当て勘だ。

 

 そしてこの力の副作用なのか、私のカンは昔から良く当たる。

 

「ファールボール!!」

 

 観客席が爆発的な歓声をあげている。ただバットに当てただけでアレだ。

 

 手の痺れが酷い。気にするものか。

 

 あの荒れ様だ、芯で捉えられていないのだろう。前に飛ばないどころか金属バットを押し戻された気さえした。だが修正は可能だ。

 

 ──次は、打てる。

 

 いつしか私は、今までにない闘志を投手にぶつけていた。

 

「私を、見ろ……っ!!」

 

 口から漏れだした呪詛じみた主張に、背後の敵キャッチャーがわずかに身じろぎした。どうやらサインを変えたらしい。

 

 ──まずいぞ。

 

 確かに聞こえた、キャッチャーの「声」。それに投手は、北条元哉はしっかりと頷き、一度目をつぶって深呼吸した。

 

 その仕草を私は知っている。

 

 地区大会で完全試合を演じた彼が、最終打席で見せた構え。全国の一回戦で、清本を相手にした時やった行為。

 

 トップギアにいれる時の、ルーティーン。

 

「──っ!!」

 

 全身にぞくりと何かが駆け上った。

 

 来る。

 

 私は先ほどと同じように、直感に任せてバットを振るう。悔しいが、今の私では彼の投球を技術でとらえることはできない。

 

 極限の集中状態だからだろうか。飛んでくるボールが嫌にゆっくりと見え──

 

「!?」

 

 違、実際に遅っ

 

 まず、もう振り始めて

 

止め

 

 無理、当た、らな──

 

 ──ぶんっ。

 

 気の抜けた、中途半端なスイング音。

 

 一拍遅れて、ミットにゆるゆると収まっていく白球。

 

「す、ストライク!! バッターアウト!」

 

 外角低め、93km/hのチェンジアップ。それが、私を打ち取った魔球の名だ。

 

 フルカウントからいきなり真ん中にスローボールじみたチェンジアップを投げ込んでくることがあるのを、私は知っていたはずだ。

 

 表情ひとつ変えないどころか、そういう球を投げる時ほど表情に気合いが入っていることを、私は知っていたはずだ。

 

 それを、たった2球と深呼吸ひとつで忘れさせられた。

 

 私の察しのよさを、ルーティーンの研究を逆手にとられた!?

 

 (だとすると、さっきまで何も聞こえなかったのはひょっとして、挑発を兼ねて意図的に無心で──いや、さすがに考えすぎか……?)

 

 私が愕然とマウンドを眺めていると、そこに佇む男が口を開いた気がした。

 

()()()さ。最初から」

 

 あるいは、口には出していないかもしれない。

 

 だが私には、確かに()()()()()()

 

 何故かは具体的に言葉にできないけれど、それがなんだか、無性に嬉しかったのを覚えている。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 秋の全国大会を終え、3年生の大半は中学野球を引退となる。

 

 例外は、2月に行われる世界大会に選出された者たちだ。

 

 2年に一度行われるこの大会は、文字通り中学世界一を決めるために大リーグが主催しているものである。

 

 近年両リーグともDH制が導入されたメジャーに合わせたルール大会が運営されることから、事実上メジャー選手候補の品評会という性格を持ち合わせている。

 

 そして当然だが、日本代表に選ばれることはすなわち中学日本一の選手と認められたことを意味する。

 

 選考基準は主に直近の大会での活躍度合いだ。

 

 目だった成績を残した選手はもちろんのこと、全国優勝を果たしたチームは選考を担当しているスカウトたちの目につく機会も多い分、例年多めに選出される傾向にある。

 

 とはいえ、あくまで必要なのは個人技。「強いやつから順番に9人並べれば最強」という球界の盟主がやりがちな力技を、日本代表という権威によって彼らは実現していた。

 

 つまり。全国大会がチームでの戦いの場なら、代表選考はいわば個人戦なのである。

 

「凄いな」

 

 その「個人戦」にて、清本和重と並んで選考チーム満場一致のトップ通過を果たした北条元哉。

 

 彼は今、自分と同じく合宿先にいた霧崎礼里に絡んでいた。

 

「そ、そうか?」

 

「一人だけ、()()動くんじゃなく()()()動いてたろ」

 

 言葉少なく、しかし鋭い元哉の指摘に、礼里は思い当たるところがあった。

 

 自分の持つ、おそらく他人にはない力。便宜上「読心術」と呼んでいるが、他人に話したことはない。言ったところで、今の年代によくある妄想の類と受け取られて微笑ましく見られてしまいだ。

 

 その力を応用して、打撃では打つ前から投球内容を予測し、守備では打球の到達予測地点を割り出している。

 

 当然、球を見てから反応するより動き出しが早くなる。素の身体能力もかなり高いとは言え、1年の女子である礼里が日本代表ショートに選出された()()()がそこにあった。

 

「打つ時も守るときも、動き出しに迷いが()()()()()、あれは"反応"じゃなくて"読み"だろ。百発百中だから逆に誰も気づいてないだけで。だから凄い。何かコツとかあるのか?」

 

 この合宿が始まって、まだ2日。

 

 全国の時からチェックしていたのだとしても、ものの数試合。

 

 たったそれだけで、礼里の眼前に立つ投手は彼女を丸裸に解析して見せた。

 

 そして同時に、わかったことがある。

 

(あぁ……この人、すっごい野球バカだ)

 

 確かに元哉は無口だが、声に感情が乗る方なのは話していればわかる。彼は純粋に、礼里の野球の腕を買っていた。

 

 心の声をうっすら読める礼里からすると、相手の褒め言葉に「女子にしては」という枕詞がついているかどうかくらい容易く見破ることができる。

 

 いや、それだけならまだよく、同年代の男子が(酷い時は大人たちであっても)礼里の美貌を前に考えることなど大凡一通りしかないものだ。

 

 男所帯に混ざって野球なんかをやっている手前、男子のあれこれには理解のある方と自負しているが、そんなものを聞かされていい気はしない。

 

 この力が身に付いて以来、礼里は一部の信頼のおける男子たち以外にはドライに接するようになり始めていた。

 

 その点、元哉からはそういうスケベ心が感じられない。

 

 全く無いわけではないのだろうが、彼の場合未だ見ぬ技術への興味が先に来ており、礼里の受信能力ではそれ以外を読み取ることができなかった。

 

(あはは、どれだけ野球好きなの、この人)

 

 そう考えると、得体の知れない怪物に思えた元哉の印象は、ただの不器用なデカい人に早変わりする。

 

「じゃああれか、打った時にはどの辺にいくか分かってるのか」

 

「"分かる"ってほどではないけど、大雑把に予想はできるかな」

 

 元哉ほどの選手に目をかけられれば、当然悪い気はしない。

 

「凄いな、無敵だろそんな力があったら」

 

「も、もーくすぐったいなあ、褒めすぎだよ……」

 

 どころか。自分よりよほど優れた同い年の選手が、色眼鏡にかけずに純粋な実力を評価して素直に褒めてくれる。

 

 中学1年のスポーツ少女にとっては、必要十分な劇物であった。普段のクールキャラがどこかに消えて、素の活発な自分が出てきてしまう程度には。

 

 とりあえず野球のことを話していればいい、という安牌があったのも大きい。試合のこと、技術のこと、話せる範囲での「読心術」理論、そして話題が尽きれば10球勝負。

 

 元哉はそれをスポンジのように吸収して、見る間に自分の技術へと転化させていった。それを見て、時には10球勝負でコテンパンにやられた礼里もまた奮起し、二人は切磋琢磨していく。

 

 合宿は恙無く進んでいるように見えた。

 

「…………っ」

 

 めっきり構われなくなった、一人を除いて。




こ↑こ↓の礼里はまだ改造されてないから、ちょっと仲良くなるとクールキャラが簡単に崩れて素の口調が出てきます。改造後はこうもいきませんけどね。


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5/n 世界大会と1年の終わり

 本日2話目の更新なので初投稿です。
 朝に更新した前話を見逃した方はそっちを先に見て、どうぞ。


 実況ときめきメモリアルRTA、続きです。

 

 ──違うだろぉ?

 

 前回、パワプロ界最高の遊撃手ともいわれる霧崎礼里をチームに引き入れるべく、コミュをとりまくっているところまででした。

 

 世界大会も順調そのもの、決勝ラウンドを控えての練習時期に、これです。

 

「……え、へへ、来ちゃった、ッス」

 

 ほむら姉貴!? 何故ここに!?

 

 と思うでしょうが、一応これ、予期された事態ではあります。

 

 好感度が彼女ライン……つまり、押せば落ちるラインまで来ている女の子がいる時、大きな大会などを控えているとランダムで逢い引きイベントが発生します。

 

 通常、世界大会で国外にいるときは発生しないこのイベントですが、対象の女の子がチームメイトの時と川星ほむらの時は例外です。

 

 チームメイトなら普通に会えますし、ガチの野球ファンであるほむら姉貴ははるばる応援に来てくれます。部外者立ち入り禁止のこんなところまでどうやって来たのかまでは知りませんがね。

 

 結果、このタイミングでかち合う可能性も捨てきれないんですね。

 

 当然、想定していたからにはこの場の対処法も心得ております。そもそも今のこれ、修羅場みたいに見えてますけどただの友情タッグトレーニングなので。

 

 この場は何食わぬ顔で応援に来たのを喜ぶ。これだけで構いません。霧崎ちゃんはさっさと帰ってますし。

 

「あ、そ、そうッスね。応援、来たッス、うん」

 

 心が痛まないではないですが、いちいちそんなこと気にしてたらRTA走者は務まりませんよ。

 

 そもそも意図的に友沢の肘を壊すのがチャートに入ってるくらいなんですから、今さら乙女の純情くらい何だってんですか。

 

「えと、練習、邪魔して悪かったッスね。またあとで、来るッス、あはは……」

 

 とまあ、根がオタクなほむら姉貴なら普通に押しきれちゃうというか、向こうから帰っちゃうんですよね。かわいそうはかわいい、それ一番いわれてるから。

 

 なお、この時点ではフラグが折れるということもありませんし、醜聞を言いふらされてムード×が付く、という事態もほぼありません。

 

 そもそも彼氏彼女の関係ではないので、私が察しなければそのままです。後で霧崎ちゃんが彼女じゃないって話はしますけど、彼女の場合それで十分機嫌なおしてくれますね。かよわいいきもの……。

 

 一度こうなると、こっちからほむら姉貴にアプローチをかけるまで関係の進展はありません。1月程度でギクシャクした感じは表面上収まりますが、それだけです。

 

 これを利用して、高校入学まで時間稼ぎをしようという訳ですね。

 

 さすがにこれ単体で丸2年稼ぐのは厳しいものがあるのでほかにも色々小技を用意していますが、とにかく今この二人がくっつくのは認めん。チャートに傷がつくからな……。

 

 というわけで、ほむら姉貴とのイベントをやり過ごしたら世界大会に戻ります。これもチャートのため、卑怯とは言うまいな……。

 

世界大会準決勝、7-2。

登板なし。

 

世界大会、決勝。6-4。

5回無失点・被安打1・奪三振9、2四球1失策。

 

 ──ヨシ!

 

 くぅ~疲れましたw これにて世界大会終了です! 決勝の時は後続が燃えたみたいですけど勝ちゃあいんですよ。

 

 まぁ正直、設定の問題なのか何なのか、全国の連中の方が苦戦しやすいので世界は結構楽なんですよね。

 

 アメさん達は中学だとまだ本気出してこないし、他の国々とならまともにやり合える分、ネームドのいるこちらに分があります。

 

 国内と違って投球制限がキツいから一人あたり5回くらいしか投げられないのがちょっと面倒ですが、今回は後ろに猪狩山口朝倉が控えてますから。(世界一は)当たり前だよなぁ?

 

 国内に凱旋したら、ギクシャクしてるほむら姉貴のことは占部先輩にでも丸投げしておいて練習に戻ります。

 

 おそらく来年度からは私が全試合投げることになるので、体力の続く限り経験ポイントを貯めて備えます。既に球速とスタミナは万全なので、あとはコントロールとか変化球ですね。

 

 高校に上がった時に全ステータスが2段階落ちますので、変化量は多いに越したことはありません。目安としては、卒業時点で4球種、5・5・5・1(チェンジアップ)を目処に伸ばしておきましょう。

 

 今スライダーとチェンジアップを持っているので、とりあえず1種……フォークを習得して変化量3くらいまであげときますか。

 

 横(スライダー)と縦(フォーク)を揃えればまぁ大体は抑えられますので、とりあえずはこの構成でやっていきます。

 

 そんなこんなで3月。3年の先輩方はこれでお別れですね。元エース先輩の見送りに行くとしましょう。校舎裏に呼び出されてしまいましたが、お礼参りでもされるんでしょうか?

 

「あー、えーっとね…………うん。あたし、元哉君のこと好きだわ」

 

 ファッ!?

 

「あーいいよ答えなくて! 最後にケジメつけたかっただけだから! そんだけ! じゃあね!」

 

 言うだけ言って帰っていきましたね。

 

 ここは()()()()()()()()()()()

 

 これはモブの彼女ファイルとしていくつか設定されているランダムイベントのひとつです。ここで呼び止めた場合はフラグが継続、先輩が彼女になります。

 

 恐らくその上で「高校でも先輩と野球がやりたい」とか言わない限り、先輩はここまでで野球を引退するでしょう。

 

 が、当たり前ですが今先輩を彼女にするとほむら姉貴のフラグはほぼ折れますし、数名いる先駆者兄貴達みたく上手い乗り換え手段があるわけでもありませんからね。

 

 ほも君の初彼女は先輩ではありません。ほむら姉貴です。この先先輩がどうなるかまではわかりませんが、恐らくもう会うことはないでしょう。

 

 それこそ、ほも君のこと引きずってもう一度野球で再会しようとでも考えてたりしない限りはこのままフェードアウトするはずです。たぶん。

 

 ……これが霧崎ちゃんだったらオリチャーの余地はありましたが、先輩の持ってるコツは回復のみなので性能的にも特能的にもあんまり美味しくないんですよね。

 

 先輩は成長タイプも超早熟だったので遠からず成長限界に達しますし、戦力的にも期待できませんから、彼女とはさっぱり別れるのがチャート上最善です。

 

 さて、これをもって2年生になった訳ですが、ここからはある程度行動がルーチン化してきますので、ガンガン飛ばしていきますよ~イクイク。

 

 直近のイベントは5月の練習試合と、7月1週の天才覚醒……と言いたいところさんですが、その前に新入生ガチャが待っています。

 

 彼らひとつ下世代とは、これから高校、プロとながーく付き合って行かなければなりません。できるだけ強い子が揃っていることを祈ります。

 

 ただ、自分がピッチャーかつ直近の大会で活躍していると、どこからともなく捕球に自信ニキが集まってくるという仕様がありまして。

 

 活躍度合いに応じてランクが分けられているんですが、最高ランク(全国優勝または世界大会出場)だと新入生のなかに──

 

「あなたが北条先輩か。いくらか投げ込んで貰えますか」

 

 確定で六道聖が入るんですよ。

 

 なので、投手でスタートした場合1年目には聖が現れないようにプロテクトがかけられているんですね。

 

 本来の設定とは世代がブレますが、そもそもこのゲーム内だと同じ世代にキャラが偏りすぎるのを防ぐためにランダムで世代が散る仕様があります。

 

 ここまでのチャートで私が捕手の心配をしてなかった理由はこれでお分かりですね。たまたまランダムで占部先輩を引き当てたのは単なる豪運。彼女を確定ツモできるから心配するまでもなかったのですよ。

 

 六道聖、紫髪と赤い瞳が特徴的な女性キャッチャーで、作中トップクラスの捕手能力を持つネームドキャラです。今回はランダム出現の占部先輩に捕球負けてますけどね。

 

 彼女がいればこっちが何を投げようが十分捕球してくれますので、今後高校、プロと長いお付き合いをしたいところですね、ええ。

 

 で、先程の初対面のシーン。キャラなのはわかるけど先輩にはちゃんとした敬語使えよ、という指摘をした視聴者兄貴も多いかと思います。

 

 この時の彼女は他の自信ニキたちと同じく私とバッテリーを組みにやってきた訳ですが、大した経験もない女子ながらトップ成績で三鷹シニアに合格したことでちょっと調子にのってるんですよ。かわいいですよね。

 

 なので泣かさない程度に軽く揉んでやって、まだまだひよっこということを教えるのが先輩として最初の仕事です。実際、これを怠ると大した能力には育ってくれませんからね。

 

 この時点だとひじりんの捕球能力はC65ってところです。1年なりたてにしては破格も良いところですが、ほも君の球を受けるにはやや不足ですね。最低70はないとポロポロこぼします。

 

 とはいえひじりんもネームド。何度もこぼしてると占部先輩が助け船をいれに来てくれますが、それを拒否して食い下がろうとします。

 

 そろそろひとつキレておこうかなと思っている占部先輩を制止しまして、このままひじりんが満足するまで投げ込みに付き合いましょう。

 

 このイベントを経ることで体力はゴッソリ持っていかれますが、ひじりんの好感度を一気に稼ぎ彼女の捕球も強化することができます。

 

 このイベントを経ると彼女の捕球が10増えるので、夕方ごろにはちゃんと球を受けられるようになるって寸法ですね。

 

「なんで……ここまで、付き合ってくれたんですか?」

 

 敬語似合わねえなひじりん(素)。

 

 まぁ問いかけには正直に答えればOKです。占部先輩の次の正捕手は間違いなくこの子ですからね。今のうちから鍛えておいて損はありませんよ。現に強くなってる訳ですし。

 

 これでもエースなので、キャッチャー候補を自分で選ぶ程度のえこひいきも多少はね?

 

「……ふふっ。なんだそれは。いいのか? 本気にしてしまうぞ?」

 

 っぱひじりんはこのしゃべり方の方がいいですね、ええ。

 

 ……近頃見られているような気がするんですが、気のせいだということにしておきます。聞こえた悲鳴には聞こえないふりをしろ、いいね? と錬金術師の姉貴も言っていることですし。

 

 とまあ新たな女房役(実戦投入は来年から)を手に入れたら、一気に時間を進めていきます。ひじりん以外の一年の面倒はまあ、それなり程度に見ておきましょう。

 

 万が一天才肌持ちが混ざってたりしたら話は別ですが、今回はそういうわけでも無さそうなので例年並みですね。 

 

 さて、練習試合の方は目をつぶってても勝てるからいいとして、いよいよお待ちかねの覚醒の時間がやってきました。

 

 中学2年7月1週。

 

 この週で、いくつかの大きなイベントが進行します。

 

 まずひとつ目が私の天才イベント。次に(登場している場合は)霧崎礼里の人体改造。ほかに現在の中学リーグをまとめているレシプロ財団に黒い噂が目立ち始めるのもこの時期から。

 

 よくも悪くも、ここから話が本格化しだす訳です。ドラクエで言うと「はがねのつるぎ」が買えるようになった辺りですね。

 

 さて、天才覚醒と人体改造がどちらも発生し、かつ霧崎ちゃんからの好感度が一定以上の場合、イベントが纏まって特殊なものに変わります。

 

 ──SNSに、霧崎からメッセージが届いている。

 

─────────────

 

『たすけて』

 

─────────────

 

 始まりました。

 

 レシプロ財団の研究所の場所は事前の散策などでアンロックしてあります。

 

 では行くとしましょう。パワプロ・パワポケの混じった本作でも猛威を振るう、あのクソジジイのところへ。




現在の能力

北条元哉 2年
守備位置:投(先発) オーバースロー115

投手能力
球速:133km/h
コントロールC67
スタミナA80

変化球
スライダー5
フォーク2
チェンジアップ1

特能
・天才肌(金)
・ケガしにくさA
・回復A
・投手調子安定(緑)
・荒れ球(赤青)

判明している仲間
・占部恭介(3年・捕手)
・矢部明雄(2年・外野手)
・川星ほむら(2年・マネージャー)
・六道聖(1年・捕手)


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おまけ⑤(前編)

 いつの間にか前作のお気に入り数を超えてるので初投稿です。
 応援ありがとナス!


 川星ほむらは、三鷹シニアのマネージャーである。

 

 一般の雑用にとどまらず、様々な情報収集や助言の数々を行うこともある。

 

 遠方の無名チームだろうと内情を丸裸にしてしまう情報収集能力とその知識量から、一部のチームからは選手以上に警戒されるほどの存在だ。

 

 それらは別に、猛勉強の末に身に付けたものではない。

 

 小学生の頃から野球が好きで、野球と名のつくあらゆる書籍、ネットの記事、実際の試合、プロの交流会を通じて自然と身に付いたものだ。

 

 残念ながらこの強豪チームで選手をやれるほどの身体能力は持ち合わせていなかったが、「好きこそものの上手なれ」を地で行く彼女は、立派にチームの頭脳として活動していた。

 

 そんな彼女にかかれば、世界大会で日本を出た代表チームの合宿先くらい簡単に調べがつく。

 

 同じく会場を訪れている気合いの入ったファンを囮に使えば、ちょっと球場のフェンス横に入るくらい容易なことだ。

 

 日本ほど野球の盛んでない今回の開催国では、警備も日本ほど厳重なものではない。

 

 ──来た当初は、そこまでするつもりはなかった。

 

 代表選出チームの関係者ということで、世界大会のチケットは優待券が届いている。

 

 親の仕事の関係で決勝ラウンドの開催に前乗りするのが精一杯だったが、空いた時間を利用してチームの……もとい、元哉の練習をこっそり覗くつもりでいた。

 

 差し入れ等するとさすがに問題になるから、一声くらいかけてまた帰る、というのが当初の予定だ。

 

 実際、簡単にグラウンドまでたどり着き、自主練で外に出ていた元哉を発見する。

 

「あっ!」

 

 ぱぁっ、と表情を明るくするほむら。誰かがその様子を見ていたら、「飼い主を見つけた時の犬」という評価を下すだろう。頭の上でぴこぴこ動く耳と、激しく揺れる尻尾を幻視するような有り様だった。

 

 そんなほむらの意中の男子は、相変わらずストイックに練習をしていて──

 

「凄いな、無敵だろそんな力があったら」

「く、くすぐったいなぁ。褒めすぎだよぉ……」

 

 そして、一人ではなかった。

 

 ほむらは物陰に身を隠しているが、この角度からはグラウンドがよく見える。

 

 二人きりのようだ。既に全体練習は終わっているらしい。というか、時間的には夕飯の後、就寝までの隙間時間だろう。

 

(あれは、豊田の──)

 

 こげ茶の、光の具合によって微妙に変化する髪色。スポーツ少女らしい健康的な肉付きの肢体に、凛とした目元。

 

 ほむらからすれば見間違いようがない。元哉と同じく世界大会に選出されている、霧崎礼里だ。聞いていた話と違い、元哉には気を許しているように見える。

 

(こんな時間に二人で……いやいや、あの北条君に限ってそんな)

 

 ──別に、この二人がこの時間、ここで練習をしていることに不自然な点はない。

 

(そ、そうッスよ。きっと決勝の打席の話でもしてるに決まってるッス)

 

 チームメイトだし、礼里の守備は動き出しの早さで知られる。元哉のことだから、その辺りに興味を示して絡んでいるのだろう。

 

 ほむらの情報処理能力と元哉への理解は、瞬時に正答を弾きだした。

 

(そうそう、だから大丈夫……あれ?)

 

 あるいは、ここまで思考がめぐってしまうほど、ほむらの中で受け入れがたい事態が起こっていた。

 

 今までは何となく一緒にいたし、元哉のことはよく知っているつもりだ。

 

 元哉は、野球のことにしか興味がない。多分だが、彼もまた、方向性は違えど自分の同類(野球オタク)なのだとほむらは思っていたのだ。

 

 元哉には、興味の有る無しがはっきり態度に出るという悪癖がある。

 

 ほむらの語るコアな野球論には嬉々として付いてくる割に、流行りの音楽だのファッションだの映画だのの話になると露骨に興味なさそうにしているのを、彼女は何度も目撃していた。

 

 ほむらはチームで唯一、元哉と同じ中学の同じクラスである。

 

 普段から誰よりも遅くまで自主練しているので家にはほとんど寝に帰るだけらしく、彼女の知る限り、元哉には野球以外に趣味らしい趣味はない。

 

 地頭がいいのか学業成績も実は優秀なのだが、無口な上に口を開けば野球の話しかしないので、クラスメイトの評価はおおむね「野球星人(バカ)(元哉)とその理解者(ほむら)」で固まりつつある。

 

 とはいえ世界一の人気スポーツで全国優勝したという肩書きの力は大きく、「やっぱり全てを野球に注ぎ込むくらいじゃないと全国は獲れないんだな」とか「あれに付いていけるとか流石は日本一のマネージャーだ」とか、好意的に解釈されることが多かったが。

 

 そしてプロ入りが確実視されているからか、極端なストイックさがツボに入るのか、女子からはそれなりに人気があるのだが、当の本人がむしろ迷惑そうにしている有り様だ。

 

 中学の教室でもほむらと絡みがちで、何なら傍目には付き合っていると思われているらしい。

 

 元哉が噂話に無関心なのをいいことに、ほむらは敢えて肯定も否定もしていない。

 

 ──普段がそんな感じだったから、彼女はすっかり安心していた。朝倉先輩には悪いが、「元哉が興味をむけている異性」というポジションには、明らかに自分しかいなかったから。

 

 まさか元哉が、自分から女子に絡みに行くとは。

 

 しかし同時に、ほむらの明晰な頭脳は「ありうる」とも思っていた。

 

 元哉は、野球に関係することなら誰よりも貪欲で熱意に溢れている。優れた技術があれば褒め倒すだろうし、そこから何かを得るために積極的に関わろうとするだろう。

 

 そして恐らく、今回それがたまたま女性だっただけだ。

 

 彼女には知る由もないが、ほむらの読みは概ね正しい。

 

 しかしそのような理論武装が済んでもなお、彼女の胸のうちでは、自分でも良くわからない感情が荒れ狂っている。

 

(大丈夫って、何。ほむらは、何を心配して……あれ?)

 

 つまりほむらは、礼里に嫉妬していた。

「……川星?」

 

 自分に向けたかなり困惑気味な声が聞こえて、ほむらの意識はようやく戻ってきた。

 

 見れば、元哉がしげしげとこちらを見つめている。奇しくも、初めて会ったときと同じだ。

 

「え、へへ、来ちゃった、ッス」

 

 困惑するばかりで何も言えなかった最初とは違い、いたずらが見つかった子供のように、弱々しくほむらは答えた。

 

「来ちゃったってお前……応援に、来てくれたってことか?」

 

 初めは驚愕していた元哉も、数秒としないうちにほむらの行動力を思い出して質問を変える。

 

 ここで嬉しそうにできるのは、ある意味元哉の才能と言えるだろう。

 

 他人への関心のなさ、極端なマイペースさは、時に肝の太さや器の大きさに転化しうる。

 

「あ、そ、そうッスね。応援、来たッス、うん」

 

 こうなると、テンパっているほむらは分が悪い。

 

 異性経験など皆無と言っていい、しかも奥手な方であるほむらには、礼里との関係について問い詰めるとか、対抗してアピールするとか、そういう行為に出る勇気はない。

 

「そうか。ありがとうな」

「……ッス」

 

 こちらの目線に合わせるためか、少し屈んで礼を言われる。それが嬉しくて、ほむらはますます、礼里について聞く気がしなくなってしまった。

 

 興味のないもの、使えないものに対して、元哉は極端に無関心だ。

 

 それを誰より知っているほむらには、自分がそのくくりに入れられてしまったら耐えられない自信があった。

 

 だから、今の関係を壊せない。

 

「えと、練習、邪魔して悪かったッスね。またあとで、来るッス、あはは……」

 

 結局ほむらは、何ひとつ聞くことができないままその場を後にし、翌日以降の試合をモヤモヤとした気持ちで観戦する羽目になった。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

「悪いこと言わないんで、止めといた方がいいですよ」

 

 ほむらと元哉が会っていたほぼ同時刻。

 

 占部恭介は、 朝倉杏香の相談を一刀両断にしていた。

 

「うぐぅ……あたしそんなに魅力ないかな……」

「北条にとって、って前提付けるなら、そうなりますね」

 

 元哉に告白するか迷っている。

 

 杏香は占部を呼び出すと、おもむろにそう言ってきた。

 

 一切の遠慮なく、思ったまま答えてくれという前置きを付けて、彼女はその爆弾発言を、自分のもっとも信頼を置く元・女房役に持ちかけたのだ。

 

 それに対する占部からの返答が、冒頭の即答である。

 

「……確かにあたし、好みのタイプ正反対っぽいもんなあ、ほむらちゃんの構われ方見るに。でもほら、結構長いこと二枚看板やった戦友だし、決勝助けてくれたし、顔面にはまあまあ自信あるし……ワンチャンないかな?」

 

 杏香の身長は178cm。既にほぼ成長が止まっているので、2月になった今では元哉にほぼ追い付かれている。

 

 普段の元哉が恐らく140センチもないだろう川星ほむらばかり構っているところから見ると、元哉の好みはああいう小動物タイプのように思われた。

 

「そこでその認識になる辺り、朝倉さんじゃ荷が重いですよ」

 

 が、占部はそれにも容赦なくダメ出しを敢行する。「まさかこれがジャマになるとは」と自分の体格相応に豊かな胸を持ち上げていた杏香は、驚いて占部を向き直った。

 

「えー!? 今のどこがダメだったの!?」

「……言っちまっていいんすか。これ結構エグいですよ」

 

 真剣な顔で聞き返す占部を見て、杏香も茶化すような口調を止めて近くのスツールに腰かけた。

 

「聞くよ。占部くんの見立てなら多分間違ってない」

 

「信頼されてるようで何より。じゃあ言いますけど、北条は多分、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 天井から釣り下がっている旧型電灯の、ごくわずかな駆動音だけがその場に響く。

 

「まぁ、みるからに野球しかできないタイプだもんね。男の子はそれくらいの方がいいと思うけどな」 

 

「そういう考えもありますけど、あいつのはちょっと度が過ぎてますよ」 占部は一息置いて、手元に用意していたペットボトルのお茶を一口飲む。

 

「あ、あたしも飲みたい」

「どうぞ」

「ありがと……ぷは、それで、度が過ぎてるっていうのは?」

 

 杏香が問い返すと、占部は考え込みながらぽつぽつと口を開く。

 

「くくり、レベル、……いや多分()()()すねあれは。あいつの中に『自分が野球をするのに有意義な奴リスト』みたいなものがあって、どーも()()()()()で付き合いを選んでる節があるんですよね」

 

「……きょーみのある無しがはっきりしてるなあとは思ってたけど」

 

「そんな生易しいもんじゃないですよあれは。考えてみると、あいつが普段から仲いいのは川星ちゃん、おれ、矢部で、合宿所来てから絡んでるのが霧崎ちゃん、友沢、たまに清本さんでしょう。マネとしてめちゃ有能な川星ちゃん以外は同世代の最強格が勢揃いだ」

 

「……そこに、あたしが入ってないのはなんでかな」

 

 不服そうに、しかし自覚はあるのだろう。あくまで疑問という形で、杏香はそれを口にした。

 

「……言いづらいんすけど」

「あぁ、それで大体わかった。()()()見られてるんだ」

 

 自分の限界を事も無げに口にする杏香に、今度は占部が閉口する番だった。

 

「……北条の見る目は恐ろしく正確だ。なんせ5月の時点で矢部の才能を見抜いてたくらいだから、小技でごまかすのは不可能と思っていい。あいつの気持ちを向かせたいなら、恐らく野球で役に立って見せるのは絶対条件と思っていい。けど」

 

 言いよどんだ占部に代わって、杏香があっけらかんと答える。

 

「そうだね、そりゃ抱きついても反応しないわけだ。もう北条くんに教えられることないもん」

 

「それもあるし、多分使えなくなったら容赦なく捨てますよあいつは。北条はそういう奴だ」

 

 占部は、あくまで分析結果を話すのに徹している。だが彼としても、2年間球を受けた大先輩を勝ち目のない戦いに行かせたくはなかった。

 

「現にあたし、捨てられようとしてるもんね」

「先輩……あんま自虐しないでくださいよ。調子が狂う」

「ごめんごめん」

 

 へらへらと謝って、すぐに杏香は表情を引き締めなおす。

 

「つまり、あたしがもっと野球上手くなれば、北条くんはこっち向いてくれるってことだね!」

 

 意気揚々と宣言した杏香に、占部は驚愕の視線を隠せない。

 

「今の聞いて出す結論がそれですか。正直、朝倉さんにゃそのまま卒業してってほしかったんでちょっと盛って話しましたけど、あいつの傲慢さはマジですよ?」

 

「そのマジかこいつみたいな目やめてよ。……それが強さの秘訣でしょ、正直あたしに言わせれば、それ含めてカッコよさでしかないかな」

 

 ──あたしが好きになったのはね、北条くんの人柄でも見た目でもなくて、あのどうしようもない"力"だから。ある意味、あたしと北条くんは似た者同士なのかもね。

 

 愛おしそうにそう語る杏香を見て、流石の占部も説得は不可能と悟った。

 

「……やっぱり、北条に朝倉さんはもったいないですよ」

 

「ふふふ。おれでよくない? とか言ってくれてもいいんだよ?」

 

「勘弁してくださいよ、朝倉さんおれに彼女いるの知ってるでしょ。今こうして会ってるのでもバレたら結構ヤバいんですからね」

 

「分かってるよ、言ってみただけ」

 

 二人は二年来の付き合いで、その大部分をエースと正捕手のバッテリーとして過ごした。お互いのことは知り尽くしている。

 

 杏香が言い出したら聞かないのも、それを分かっていて占部があれこれ入れ知恵するのも、今に始まったことではなかった。

 

「とりあえず、高校どうすんですか」

 

「そうだね。野球やめようと思ってたけど、北条くんをぎゃふんと言わせたくなってきたからなあ。スカウト貰ってた中だと一番強いとこ……"大東亜"にしようと思うよ」

 

 早熟選手であることを見抜かれて評価の低かった杏香だが、実績は実績。それなり以上の強豪校からも、いくつかスカウト話は来ていた。

 

「あそこの人材ほしい病も大概ですね。案外北条も入ってきたりして」

 

「だったらいいなあ。3年までにきっちり仕上げて、入ってきた北条くんに頼れるところ見せてやるんだー」

 

 それなり以上に甘い見通しではあるものの、決意を固めた先輩に、占部はそれ以上かける言葉を持ってはいなかった。

 

(応援はしてますよ、先輩)

 

 占部はただ、心の中で尊敬する"エース"の恋路を応援する。

 

 そして自分に残された1年で、北条の性根を最低限叩き直してやろうと決意を新たにするのだった。




 走者に人の心は分からない。
 占部はそれをバッチリ分かっているんだな!(一般通過ホップ)


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閑話1

少し時間が空いてしまったので初投稿です。
時系列的には繋がってるので、実質的にはおまけの中編に当たります。


 結局、中学世界大会は日本勢の圧勝で幕を閉じた。

 

 野球は世界一の人気スポーツとはいえ、他に何もスポーツがないわけではない。南米や欧州ではサッカー人気と拮抗しているし、インドでは相変わらずクリケットが強い。

 

 日本ほどの野球人気を持つ国は世界的にみればあまり多くなく、強さも概ね、熱心さに比例する。

 

 何より、世界最強の野球リーグを持つ米国で、中学の段階から野球に専念する選手があまり多くないこともそれに拍車をかける。

 

 絶対王者不在の中、15歳までなら日本代表は敵なしと言われていた。むしろ、「今回も当然勝つんだろうな」というプレッシャーの中で彼らは世界大会に望み、そして予想通りの結果をもち帰った。

 

 羽田を降り立った彼らは、それなりの数の取材陣と気合いの入ったファンを捌きながら貸し切りバスへ。

 

 中学生とはいえ、競技人口10億とも言われる野球のトッププレイヤー。世間からの注目度は相応に高く、「全国」や「世界」くらいになると選手たちは一躍スターなのだ。

 

 中学生である以上、大っぴらに接待をする訳にはいかず、大金を渡す訳にもいかず。出場メンバーはどんな強豪校にも特待で思いのままだが、逆に言えば報酬はそれくらいである。

 

 かといって二年に一度、最低でも銀メダルを持って帰ってくる日本代表選手たちに、何もなしでは世間が黙っていない。

 

「では、世界一を祝って」

「「乾杯!!」」

 

 というわけで例年、都心の某高級焼肉店での打ち上げが彼らを待っている。

 

「なんだ、今年の連中は静かだな」

 

 小倉のチームから唯一選出された牛島(うしじま)(とおる)は、チーム最大を誇る183センチ、筋骨隆々の巨体に見合わずあまり騒がしいタイプではない。

 

 今回のチームもまた、体育会系の集まりにしては騒ぐタイプが少なく、精々大学生の飲み会レベルの騒がしさに収まっていた。

 

「そういえば、牛島さんは二回目の選出でしたね」

 

 隣で優雅に上ロースを焼いていた猪狩守は、プライドの高い男だが野球には真摯だ。当時のことに興味を示し、牛島に話を振る。

 

「おう。前の時は三鷹に主砲クラスが何人もいたから俺はベンチだったがな」当時を懐かしむように、どこか遠くを見ながら牛島が答える。

 

「当時の三鷹は本当は埼玉に本拠地があるんじゃないかと疑われるような豪打投壊のチームで」

「誰が投壊だって?」

 

 待ったをかけたのは、牛島のもう片側の隣に陣取っていた朝倉杏香。

 

「ほぉ。防御率7点台で全国出てくる奴は記憶力が違うな」

 

 杏香が一年だった頃。チーム事情の関係でエースをやらされていた彼女は、毎回のように4~5失点しながらも打線の援護で無理矢理に勝ち星を付け続けていた。

 

 5回12失点の勝ち投手。

 

 2年前、秋期大会の地区大会決勝で起こった珍事。当時の三鷹シニアをよく表した事件であり、未だに擦られることがある杏香の異名のひとつだった。

 

「あー! 言っちゃいけないこと言った!! 劣化版清本*1のクセに!!」

 

「今大会は清本より打点多いぞ、俺」

 

 中学最強打者・清本和重の名は既に日本を超えて広まっている。ついこの間の秋季大会で勃発した「北条対清本」世紀の一戦などは、雑誌やローカル局のニュース番組などで早速特集が組まれるほどである。

 

 それらの情報をもとに清本を敬遠した相手投手の油断を、牛島は見逃さなかった。

 

(うわー! 向かいに北条くんいるのにカッコ悪いネタ蒸し返さないでよも~!!)

 

 左から杏香、牛島、猪狩。向かいの列には、北条元哉と霧崎礼里、そして蛇島桐人。

 

 焼き網の関係で6人ごとに分けられたテーブルは、その中でも何となく二つに分かれていた。

 

 元哉の方を分かりやすくチラチラ見ていた杏香だったが、残念ながら当の元哉は礼里と何やら話し込んでおり、牛島はその辺り鈍いタイプの人間であった。

 

「仲、よろしいんですね」

 

 事情を概ね察している猪狩は、それをほんの少し憐れに思ったか普段のスカした態度が少し崩れた。本音が出て、感心したように口を開く。

 

「何度か戦ってるからな」

「やりあえば大体どんな奴かは分かるからね」

 

 こともなげに答える牛島と、ニヤリと好戦的に笑う杏香。公式戦・練習試合を含め十数打席を戦った彼らは、何だかんだでお互いを理解していた。

 

 その傾向はなにも、彼ら二人にとどまらない。

 

 このチームに集められた大半が全国で戦ってきたライバル達であり、互いの手の内も人となりも、野球を通じて何となく分かり会える戦闘民族の集まりなのだ。

 

「では、あの時のチェンジアップは失投ではないのか」

 

「狙って失投した、が一番正確な表現かな。清本さんだからこそ、こっちが際どい所の出し入れもできると研究できてると読んだ」

 

 一方で元哉はと言えば、相も変わらず礼里との野球談義に興じている。

 

「凄い次元だな……大会でも思ったが、いつかまた同じチームで野球がしたい」

 

 大会中元哉の背後を守り抜いた礼里は、お互いにファインプレーを連発しそれをお互いに褒めるという好循環によってすっかり心を通わせていた。

 

「それこそ俺の方からお願いしたいよ。蛇島さんとあわせて3回もヒット消して貰ってる。俺の背後を守ってくれれば、今から甲子園に出てもベスト8くらいにはなるんじゃないか」

 

 繰り返しになるが、元哉は普段無口な質である。ここまで饒舌な、というか、おそらく完全に素で喋っている元哉を見るのは三鷹シニアのチームメイトでも稀なことだった。

 

 今まで見たどんな時より、元哉は機嫌がいいようだ。

 

「お、おお……すまない。存外に高評価だな」

 

「同じ1年であれだけ動かれたらな。今まで見たショートだと一番上手いと思うぞ」

 

「あぅ……」

 

 一方、尊敬する大投手に褒め倒されて赤面し、モジモジと顔を背ける礼里。隣の蛇島は「ご馳走さまです」と苦笑するばかりだ。

 

 評価のためなら手段を選ばない蛇島であるが、元哉のお陰で世界一選手として全国の注目を得た以上、利用価値のあるうちは元哉に手を出すつもりはなかった。

 

「……思ったが、その口調はどういうキャラなんだ」

 

「キャラとか言わないで! 舐められないように一線引いてるの!」

 

 わざとらしい小声で言って見せる礼里。想定外に仲が進展しているらしいことに蛇島は一瞬細目を見開き、直ぐいつもの笑顔を顔に貼り付け直した。

 

 顎に手を当てて考えを巡らせる蛇島をよそに、元哉の様子をチラチラ見ていた杏香がたまらず口を挟んだ。

 

「ちょっとー! 少しは先輩を敬えー!」

 

 向かいに座る元哉の眉間をうりうりとつつくのに際し、杏香はわざとらしく机に身を乗り出している。

 

 現在の杏香は私服なので、愛用しているゆるいサイズのTシャツ姿だ。

 

 当然、元哉の眼前では彼女の体格相応に豊かな胸元(とグレーの下着)が、ゆるい襟首を通して無防備にさらけ出されている。

 

「……すみません」

 

 が、元哉はすぐに視線を杏香の指へ向け、やや戸惑いがちに謝った。効果は今一つのようだが、仕掛けた杏香の考えは違うらしい。

 

(よ、よしよし。たぶん効いてる……けどはっずかしいなこれ!? 無反応だったらどうしようかと思った~)

 

 競うより持ち味を活かしてみようと思ったはいいが、うっかり見えてしまうのと自分から見せるのでは(当然だが)勝手が違うようだ。相手が好きな異性であれば特に。

 

 当初はこれがうまく行けば次は少しくらい触らせてやってもいいかと考えていた杏香だが、この分だと恥ずかしさで頓挫しそうだ。

 

 ようやく事態に気づいたらしい牛島は、今更ながら居心地悪そうに肉をぱくつき出して猪狩に呆れられている。

 

 涼しい顔で謝ってのけ、しかし態度を改善する気はなさそうな元哉に、思わぬ横やりが入った。

 

「ははは、そこまで熱心に口説かれては、つい()()()()を疑ってしまいそうだ」

 

 蛇島である。彼の中では、既に「元哉>>>礼里」という利用価値の算定が済んでいる。

 

 が、素直に礼里を人身御供に捧げて北条に取引を持ち掛けるほど、蛇島桐人という男は優しくなかった。

 

「引きっ!?」

「北条くんそれ本当!?」

 

 これに反応したのは、蛇島の想定通り女性陣2人。いよいよ顔を真っ赤にした礼里と、思わぬ急接近に焦り出した杏香という違いはあるが、おおむね驚きという点では一致していた。

 

 他の面々もにわかに飛び出した「引き抜き」というワードに関心を隠せずにいる。

 

 現在の規定では、所属の変更があった選手はその後1年間は公式試合に出場できない。

 

 逆に言えば、このタイミングで北条を引き抜ければ3年の大会には間に合うのだ。

 

「ふふふ。ですが、こういうものは本人の意思が重要ですから。そうでしょう、霧崎さん?」

 

「ひゃっ!? は、はひ……」

 

 クールキャラどころか茹で蛸のようになりながらも、意思表示だけはなんとか済ませる礼里。それを見た蛇島はより一層笑みを深くする。

 

「では、ここはおあいこと言うことで、私からも提案しましょう。元哉くん、我々のチームに来ませんか?」

 

 主戦力である礼里の流出を牽制しつつ、最後は自分の意思だと言質をとった上で、周囲の介入を最小限にした状態で勧誘を行い、北条の方が移籍してくる可能性を発生させた。

 

 仮に何か問題が起きても、序盤のやり取りで言葉の綾だと言い訳が効く。中学二年生とは思えぬ政治力溢れる一手であった。

 

「蛇島さんと霧崎はおそらく中学日本一の二遊間だ、是非背後を守って欲しいと思ってます。案外悪くないかもしれないですね」

 

 周囲が誤算だったのは、元哉が一瞬でも前向きな答えを返したところだ。

 

「いや、でも占部さんとバッテリー組めなくなるからやっぱり行けません」

 

「ははは、まあ今はそれで構いませんよ。私としては、()()()()でもあなたの背後に立ちたいところなんですがね」

 

 蛇島もあっさり引き下がり、この場はそれで終わり。

 

 だが、全国と世界を戦った中学2年の言う「次」が何であるか。球児であれば言われずとも分かるはずだ。

 

 焼肉に徹していた牛島と、一人マイペースに焼いては食べを繰り返していた猪狩は、これを境に朝倉・霧崎両名の目の色が変わったと意見を一致させている。

*1
清本の打率.667 本塁打51に対し、牛島は打率.520 本塁打42




現在多忙により感想返しが滞っておりますが、全件目を通しております。いつもありがとうございます。強い励みになっております。
5/12 19:10追記 感想返し完了しました。次話は翌朝7時03分を予定しています。


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おまけ⑤(後編)

できれば三分割をやめたいので初投稿です。
書くことが……書くことが多い……


 3月。

 

 世界大会優勝の喧騒も一通り収まった頃、公立中学では卒業式のシーズンが訪れる。

 

 人間関係は流動的になり、同じ高校に進む者、同じ部活を続ける者、様々な形に再編されていく。

 

 国分寺市某所にある公立中学でも、その例に漏れない。

 

 卒業式の正門前に数名、地元ローカルテレビの取材陣が来ているが、学校行事の際にはよくあることだ。

 

 この学校に在籍している中学野球界のエース、朝倉杏香を取材に来た報道陣は一紙、女子選手の積極的な野球参画を唱える社会派雑誌のみだ。

 

(……まぁ、こんなもんだよねぇ)

 

 杏香は"分かっていた"風に腐してその現実を受け止めた。

 

 中学生とは言え全国優勝を2度、世界大会の代表入りを1度経験している彼女は、女子選手たちの憧れの的として、そして高校球界の注目選手として高い知名度を誇っている。

 

 特に、実績を残す女子選手は常に不足気味である。加えて、全国の舞台で戦うレベルのスポーツ少女にしてはルックスも優れている。

 

 快活なキャラクターと分け隔てない態度、そして少しの迂闊さ、ガードの甘さ。面と向かってかわいいとは言われないけれど、蓋を開ければ絶大な男子人気を誇る。杏香はそういう女子であった。

 

 メディアに持ち上げられるだけのポテンシャルはある筈だが、彼女は昔から取材陣を背負うことが少なかった。

 

 見るからに早熟で、成長は望めない。中学レベルに大人の体を持ち込んだから辛うじて戦えているだけ。勝ち運は確かだが、それではいつか行き詰まる。

 

 高校では通用しない。

 

 そういう評価を、入学当時から常にされ続けて来た。

 

 全国優勝を果たしてもなお、彼女自身が世間から評価される機会は驚くほど少ない。今はもう、新星・北条に人気が集中している。

 

 朝倉は今まで、それをあまり気にして来なかった。チーム内では頼りにされていたし、むしろ気を遣われるのが嫌いだったからだ。

 

 しかし今。中学野球を引退した段になって、自分の評価が低いことを焦りを感じている。

 

 同時に、トップクラスと言われる強豪校からも、1つだけだったがスカウトが来たのを嬉しく思っていた。

 

 少し前まで引退を考えていたとは思えないほど喜びを露にして、近くにいた占部恭介に嗜められたくらいだ。

 

「単純だなぁ、あたし」

 

 1年の頃からマイペースで傍若無人、(上下関係が緩い)三鷹でなければ殺されていると称された杏香は、中学野球を引退した今になって初めて、周りからの評価を気にし出したのだ。

 

「……北条くん、か」

 

 原因は分かりきっている。杏香にできた二つ下の後輩だった。

 

 杏香から見た北条元哉は、寡黙ながら力強く前に進む男だ。信頼する後輩・占部恭介の下した「傲慢」という評価も、恐らく間違ってはいないだろうと理解している。

 

 およそロクな男ではないだろう。だが誰よりも強く、他のことには目もくれないまっすぐさに、杏香は夢中だった。

 

「ふふ、趣味わる」

 

 色々とアプローチもしているが、正直望み薄だろうことは自分自身がよく分かっている。それでも、投手として3年戦った杏香は、自分で思っている以上に諦めが悪かった。

 

「何がですか?」

 

 杏香の思索は、横っ面にぶつけられた低い声に遮られる。

 

「うわっひゃぁ!? 居たの!?」

「先輩の卒業式ですから」

 

 北条元哉。いつの間にか杏香の身長を追い越した後輩が、校舎裏にたたずんでいる。

 

 先輩の卒業式には必ず行く、というような決まりはないが、裏で恭介が散々圧力をかけた結果であった。

 

「あー、えっとね……」

 

 沈黙が場を支配する。だが、元哉が「どうしました?」と声をかけるより、杏香が覚悟を決める方が早かった。

 

「……!」

 

 卒業式の日。放課後。人のいない校舎裏に二人きり。ベタだが、シチュエーションとしては最上だろう。

 

 一方元哉も、杏香が現れたあたりで遅まきながら事態を察した。

 

 ()()()()()()()()()とあらば、という理由で喜んで校舎裏に待機していた彼は、頭の回転は早い方だし決して鈍いわけでもない。

 

 ただ、普段は関心を向けていないだけだ。

 

「うん。あたし、元哉君のこと好きだわ」

 

 だから元哉は、その告白を眉ひとつ動かさずに見つめていた。

 

「あーいいよ答えなくて! 最後にケジメつけたかっただけだから! そんだけ! じゃあね!」

 

 口に出すまでで限界を迎えた杏香は、幸か不幸か元哉の反応を確認出来ていない。

 

 真っ赤な顔で言うべきことを言いきって、逃げるようにその場を後にする。

 

「…………」

 

 元哉は、これから自分の行うことが意味するところを理解している。

 

 だが彼は、躊躇わずに踵を返した。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「卒業おめでとうございます、朝倉さん」

 

「……うん」

 

 翌日、中学近くのファストフード店。

 

 困ったように笑う杏香は、しかし持ち前の快活さが鳴りを潜めていた。

 

 同席している占部恭介は、杏香の目元が赤いことを指摘しない気遣いを持ち合わせている。作戦失敗を悟った恭介は、居住いを正して聞く姿勢を取った。

 

「…………ちょっとくらい、期待してた。何だかんだ言って、まぁ、あれだけやられたら追っかけてくれないかなって」

 

 ぽつぽつと語りだした杏香の話を、対面の恭介は黙って聞いている。

 

「バカだよね、あたし。()()()()()になびかないところが好きだって、自分で言ってたクセに」

 

「バカがいるとしたら北条と俺です。そこまでやるとは読めなかった」

 

 頭を下げる恭介を手で制して、けれど杏香は黙ったまま。

 

「謝らないで。まだ諦めてないから」

 

 うってかわった強い口調に、恭介は一瞬面食らう。

 

「言ってたでしょ。こっから野球で大活躍して、向こうから告白させてやる。合宿の時いってたやつ、まだ有効だからね」

 

 思わずぽかんと口を開けていた恭介が、一拍空けてニヤリと笑う。

 

「良かったです。ショックのあまり忘れてたらどうしようかと思いましたよ」

 

「あたしが諦め悪いの知ってるクセに」

 

「そりゃあ、俺が1年の頃は先輩、炎上して降板させられる度にベンチで悔し泣きして──」

 

「わー!! いーわーなーいーでー!!」

 

 まさしく薮蛇となった杏香は、顔を赤くして話を遮り、

 

「でも、ありがと」

 

 小声で、しかし確かに感謝を述べた。

 

「いいってことですよ」

 

 それでこの場はお開きとなったが、恭介には考えることが他にもあった。

 

 杏香が帰った後のテーブルで、恭介は1人思考を巡らせている。

 

 この数日前、恭介は2年生にして()()()()()()()()()()()()していた。

 

 高校野球の強豪校はあちこちにスカウトを派遣して有力な選手を探している訳だが、その中でも傾向の片寄りというのが存在する。

 

 京都市に所在し、甲子園最多出場を誇る西強高校は高槻や神戸のパイプが強い。

 

 横浜のあかつき大付属は横浜北と、三鷹、板橋の一部。

 

 例外的に、板橋区の帝王実業は日本中からまんべんなく集める方針だが、これは非常に珍しい。

 

 では港区の大東亜学園はと言うと、 これも日本中から見込みのある生徒を集める傾向にあるものの、中でも三鷹シニアからの進学者が例年多いことで知られている。

 

 レシプロ財団による中学野球界の統一が起こってからも、あるいは起こったあとの方が、強豪校による選手の囲い込みは起こりやすかった。

 

 それでも普通、3年にならないうちから進学先が決まるようなことはない。

 

 恭介は学年的に、隔年で行われる世界大会への出場はもうないため、その当たりを勘案して早めに判断したのだと大東亜学園の編成担当は言っていた。

 

 実際、大東亜のスカウトのあと、帝王実業と白鳥学園からは既にスカウト話が舞い込んでいる。

 

 恭介が大東亜からの青田買いにウンと言ったのは、都心という立地条件の良さに加え、特待で学費・寮費・用具費用に至るまで全額免除という破格の条件をどこより早く提示してきたことが大きい。

 

(俺が行けば、ほぼ間違いなく北条はついて来る。あの先輩のことだから諦めないだろうし、上手くやれば同じバッテリーが組めるかもな)

 

 当初こそ、そんな思惑を抱いていた恭介だが、しばらくしてある疑念が頭をよぎる。

 

 話が決まる前から、自分の進学先が確定したかのように案内する監督。妙にトントン拍子に進んでいく面談。一言ウンと言った瞬間、凄まじい勢いで進む手続き。

 

 今回は自分が承諾したからスムーズに終わった。

 

 だがもし、()()()()()()()()()()としたら、果たして自分の意思は反映されたのだろうか?

 

(朝倉さん……ハシャいでたな)

 

 全国優勝投手の割にスカウト評価が低いことでも知られていた杏香は、それなりの学校からはお呼びがかかっても、全国常連クラスの強豪校からは敬遠され気味なところがあった。

 

 それが、土壇場で「大東亜」。創立から30年も経っていないが、同地区の帝王実業を甲子園から遠ざけてしまうほどの超名門。

 

 三鷹シニアの現監督は、大学・社会人リーグで華々しい成績を残した大東亜学園第一期生である。

 

 そして彼は、勝つためなら手段を選ばないという今の三鷹スタイルを築き上げた人物であるが、それは必要とあらば非情な判断もできるというだけだ。

 

 私人としては人情味溢れる人で、投壊時代のチームを支えた功労者である杏香からエースを剥奪したことを心苦しく思っていたと、恭介は独自の情報網で知っていた。

 

 聡明な恭介の脳内にはずっと、ひとつの仮説が留まっている。

 

 

 

 

 

 ──おれの()()()()で、朝倉を大東亜に入れたのか。

 

 

 有力選手の入学を確約するのと引き換えに、チーム側で選んだ選手も一緒に入学させる。そういう取引は、古い時代から往々にして行われてきた。

 

 占部はついぞ口に出さなかったが、「朝倉は高校レベルでは通用しない」という言説は正直、正しいと思っている。

 

 少なくとも、元哉が来るまでの朝倉は既に停滞していたし、それ以降は完全に元哉を応援し出していた。

 

 「元哉に認められたいという気持ちで奮起するかも」という身内の贔屓目を抜きにしたら、杏香は選手としては終わっている。

 

 その評価に異を唱えることは、キャッチャーとして鍛えた自分の目が許さなかった。だから一切、口に出さなかった。

 

 今のままでは、彼女は大東亜で通用しないだろう。

 

「…………がんばってくださいよ、本当に」

 

 そして大東亜は"マンモス野球部"と言われる選手層の厚さを持つ反面、成績不振の選手に対して一切の容赦がないことで知られている。

 

 たくさん入りたくさん脱落し、残った少しが強者となる。

 

 ──それは、恭介の信条とも一致していた。

 

(多分、さっきのが最後になると思いますけどね)

 

 ふ、と息を吐き出すと同時に、恭介の笑みが一瞬のうちに消えた。

 

 彼は気配りのできる男だ。

 

 だが内心、強い者、優秀な者以外には価値がないと思っている。

 

 アドバイスもするし、求められれば答える。成長してくれそうなら、全力で手伝いもする。

 

 だが、実力に関しては極めてシビアだ。

 

 元哉と違うのは、嫌いな相手だからといって、いちいち態度に出すほど子供でないというだけ。

 

 キャッチャーというポジションを選んだのは、野球において最も個人技に優れた選手を見ることができるからだ。その興味・関心のお陰で、彼は投手の全てを知り尽くした女房役でいられている。

 

 恭介と元哉は案外似た者同士で、だから波長が合っていた。

 

 杏香にバーターのことを言った方が奮起するのか、このまま恋愛の力で突き進ませた方がいいのか。恭介は散々悩んだ末、後者を選んだのである。

 

「おれがそっちに行ったとき、まだ()()()()()()()で居てくれるのを祈ってますよ」

 

 ──おれはいつだって、強いやつの味方です。

 

 恭介の独白を聞くものは、誰もいなかった。




 各高校の所在地は独自設定に基づいています。


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6/n 博士と天才

ようやく本来の執筆環境を取り戻したので初投稿です。


 おい野球しろよRTA、続きです。

 

 ここ3話くらい野球から離れている気がしますのでおさらいしておくと、現在は中学2年生の7月。天才覚醒イベントと霧崎ちゃんの改造イベントが纏めて発生した所です。

 

 この翌週からは夏の全国予選が始まりますので、さっさと研究所に行きますよ~イクイク。幸いにしてゲノム大学の本拠地でもある研究所は東京都心にありますので、ここ三鷹からだと地下なんだか地上なんだか良く分からない電車で一本です。

 

 とは言え練習すっぽかして恐らく外泊になりますので、まぁ後でそれなりの処罰は覚悟しましょう。パワプロ特有の放任主義な親じゃなかったらヤバいわよ!!

 

 ここは表向きゲノム大学の遺伝子工学研究所ということになっています。特に関係ないように見えるスポーツ用品企業が出資している……と見せかけてレシプロ財団が裏から糸を引いており、さらに辿るとプロペラ団にたどり着きます。

 

 ここはあくまでパワプロの世界、関わらずにいれば知らないうちに組織等は解体されたり解決したりするので問題ないのですが……自分から裏側に関わりすぎれば、いつの間にか世界の闇に触れパワポケ時空へと飲み込まれてしまう仕様がございます。

 

「そっち側」への没入度合いはマスクデータにて管理され、これを便宜上「裏側ポイント」と呼称しますが、これが多くなるほどストーリー上にパワポケ仕込みのイベントが増えて行きます。

 

 そして内部的に100ポイントを超えるとストーリーが分岐、パワプロ君がパワポケ君に変貌します。今回の一件の場合、介入すると+50ポイント、無視しても+20ポイントですね。

 

 パワポケ√に絶対行きたくない場合はそもそもイベント自体を発生させないようにしましょう。その場合はちゃんと、高校で白くなった霧崎ちゃんに出会えますので。

 

 が、当然ながらそんなことをすればチャートどころの騒ぎではなくなってしまいます。イベントは組み換え、比較的あっさり目のパワプロ系イベントから14作分のストーリーを詰め詰めで味わえるパワポケモードに路線変更。

 

 ゲームオーバーの中に「死」が当然のごとく現れますし、身内の死亡も珍しくない修羅の道。分岐に入ってしまったらリセですね。

 

 ところがぎっちょん、まったく0ポイントだとそれはそれで育成効率が落ちるという罠もあるんですよ。

 

 例を挙げるなら身の回りに改造選手が現れず経験点が減るとか、一部のキャラクターの登場フラグが立たなくなって味方の戦力が減るとか。同じくフェードアウトするキャラがいたりとか。

 

 今回の霧崎ちゃんなんかは典型例ですね。中学2年までに一定以上好感度を稼いだ上でこのイベントを発生させ、研究所に駆け付けることで好感度キャップが解除されるほか、彼女という戦力を引き入れる唯一の方法でもあります。

 

 霧崎ちゃんだけでなく、大半のネームドキャラには仲間に引き入れるための条件が設定されており、それをサクセスの中で達成すれば高校以降同じチームに入ってくれる可能性がグっと高まります。確定するかどうかは人によりますが。

 

 さて、説明している間に研究所に着きましたね。ここでパワポケ名物ABC選択肢が入ります。

 

 ──おそらくここだ。

 研究所は厳重に警備されている……

 

A.強硬突破だ!

B.裏門なら多少緩いんじゃないか?

C.ここは頭を使おう

 

「おそらくここだ」はいくつかある場所の選択肢から正解を引いたことを表します。

 

 選択肢、Aはハズレで確定失敗(もしくは、改造霧崎を敵に置いておきたい人用)、Bは確定成功ながら時間がかかりすぎてギリギリ間に合わない√、Cは学力判定、成功すれば間一髪霧崎ちゃんを救い出すことができます。

 

 ここではBを選択しましょう。

 

 未改造の追憶霧崎√(Cを選択した場合)では、彼女からの好感度は最も高くなる代わりに戦力がやや落ちます。Aではそもそも彼女が交友関係から外れ、甲子園で敵として立ちはだかります。

 

 A√霧崎を打ち負かした時の「どうして、もっと早く……」にも一見の価値はありますし、C√のデレデレ霧崎も中々いいもんですが、今回はB√、ギリギリ改造には間に合わず最低限の好感度は維持できる√に進みます。

 

「止まりなさい!! そこで何をしているの!」

 

 この場合は研究所の中でオレンジ髪の美人、加藤理香に止められます。原作で出て来る時はもうちょっと大人のお姉さんって感じですが、この時はまだ若いですね。見かけ高校生くらいです。

 

 因みにこの時の彼女は銃持ってるのでおとなしく指示に従いましょう。

 

 後はイベントなので高速台詞送りを眺めておけばOK。初見のホモたちのために要約しますと、

 

・加藤理香は、ここで研究者をしている()()()()()()()()の助手である。

・既に改造手術は始まっている。今から踏み込めば逆に患者を危険に晒す。

・だが自分も博士の非人道的な実験はどうかと思っているので、ここは見なかったことにするから出て行った方がいい。

 

 って所ですね。因みにこの時、患者との関係を聞かれるので戦友だと答えておきましょう。「好きな人」は本心からそう思っていない限りドボンです。

 

 隣の部屋で手術台の上にいる霧崎ちゃんは既に白霧崎に近づいていますので、ここからの行動は全て本心を見られていると思った方が良いです。

 

 んで、出ていった方がと言われているのを拒否していると直後に手術室のドアが開きます。ここで白霧崎ちゃんと対面ですね。

 

「ぁ。み、みないで……みない、で……」

 

 一応弁明しておくと、この時の霧崎ちゃんはちゃんと服着てますよ。どっちかというと強くなろうとして無様を晒した自分を恥じてのものでしょうね。

 

 まぁそっちは(ここまで来たら確定仲間加入だから)後で適当に慰めておくとしまして、次はダイジョーブ博士です。

 

「フム……招カレザル客デスネ。アマリ気乗リハシマセンガ、ココヲ知ラレタ以上仕方アリマセーン」

 

 とまあ、こういう感じで改造に巻き込まれるんです。シリーズの博士を見れば分かる通り、彼には一部の記憶を消す施術も可能です。ついでにここでの記憶も朧気にされる……かと思いきや、

 

「……ソノママ聞イテクダサーイ。ワタシハ近々ココヲ抜ケヨウト思ッテイマース。アナタガココデアッタコトヲ7日間喋ラナイト誓ウナラ、記憶ハ消シマセーン」

 

 とまあ、こうなります。

 

「ワタシノ専門ハすぽーつ医学デース。ESPノ開花ハ副産物ニ過ギマセーン。……彼女ニツイテハ、可能ナ限リ寿命等ニ影響ガ出ナイヨウ注意ヲ払イマシタ。科学ノ発展ニハ犠牲ガ付キ物デース。シカシ、犠牲トナッテヨイ者ハ、自ラ犠牲トナル覚悟を持ッタ者ノミデース」

 

 今は雇われ研究員のダイジョーブ博士ですが、聞いての通りプロペラ団の研究には満足行っていないらしく、ほも君にちょっとだけ愚痴ってくれます。

 

 因みに原作パワポケ時空だとプロペラ団脱退→加藤姉妹を拾う、という流れのようですが、本作だと脚本の都合なのか既に二人が助手をしていますね。

 

 因みに加藤理香・京子姉妹はパワプロに出て来るゲドー君の中身でもあります。ドイツ系であるダイジョーブ博士では「かとう」が発音できずに「ゲドー」になっちゃうらしいです。

 

 この先のイベントでダイジョーブ博士が登場するときは既にプロペラ団を脱走しているんですが、よく女の子二人連れて逃げおおせたもんですね。

 

 さて、本題は次です。

 

「本当ハオ詫ビモ兼ネテ、キミノ体デワタシノ理論ヲ試ソウト思ッテイマシタガ……私ノハ凡人ヲ天才ニスル技術デース。外レ値ヲ改造スルニハ未ダデータガ足リマセーン」

 

 ここです。自分が天才選手でない場合、ここでダイジョーブイベントの選択肢が発生するんですね。因みにやめろと言えばやめてくれます。

 

 そして、自分が天才選手の場合は……

 

「デスガ、アナタハマダ自分ノ才能ニ振リ回サレテイルヨウダ。改造ノ代ワリニ、天才ナリノ体ノ動カシ方ヲ教エマショウ」

 

 として、ほも君の体質に合った体の動きを教えてくれます。直接脳に知識を書き込んでるっぽいですけど。

 

 まあ、特定の記憶を脳から消せるんだから、特定の情報を脳に書き込むこともできますよね。

 

 これをもって天才覚醒イベントは完了、お待ちかね能力アップの時間です。

 

 

 

 ──北条元哉は天才であることが発覚した!!

 

 今なら何か新しい変化球を覚えられる気がする!

 

 

 ここではカーブを習得します。スライダー・カーブ・フォーク・チェンジアップの4球種(余裕があればツーシームも追加)+ストレート系のオリ変が最終系ですので、この時点で球種数だけはそこに到達しましたね。何だかんだ言って正統派が一番強いんですよこういうのは。

 

 強化する変化球(1つ目)を選んでください

→スライダー

 

 強化する変化球(2つ目)を選んでください

→スライダー

 

 強化する変化球(3つ目)を選んでください

→カーブ

 

 重点的に強化したい項目を選んでください

→コントロール

 

 

 球速が8上がった!

 コントロールが20上がった!

 スタミナが10上がった!

 カーブを覚えた!

 カーブの変化量が上がった!

 スライダーの変化量が大きく上がった!!

 

 Foo↑気持ちいい!!

 

 これで名実ともに一回りデカくなりました。最早中学レベルに敵はありません。

 

 後は霧崎ちゃんの処遇ですが、口車に乗せられただけで人体改造しちゃう学校には戻りたくないということなのでそっちの対処は大人にお任せします。最悪ほも君の親父殿(弁護士)に助けを求めましょう。

 

 サクセス主人公の父親はこういう時の無茶の救済措置として存在しているらしく、1周につき2回くらいまでは助けてくれますし、ある程度裏の業界のことも知っているみたいです。俗に「一生のお願い」と言われているやつですね。

 

 今回は弁護士でしたが、他に政治家だったり中小企業の社長だったりもしますね。全体的に実家が太いのが特徴です。やはり権力……権力は全てを解決する……。

ともかく、女の子を助けるためだと言えばギリギリ協力してくれるはずです。

 

 今回はその一生のお願い1度目をこれに使いまして、諸々の転校手続きやら何やらが終わるまで霧崎ちゃんは東京で仮住まいですね。霧崎ちゃんの親御さんはんまあその……娘が改造されるの黙認しちゃうタイプの人類なので……。

 

 ともかくこれで一件落着。後は来週の大会に向けて、まずは体力がゼロになるまで罰走です。大事な時期に練習すっぽかしたからね、仕方ないね。スタメン外されなかっただけ有難く思いましょう。

 

 まぁ、スタミナ経験値貰えるので得ってことにしときましょう。白くなった霧崎ちゃんも応援に来てることですしね。

 

 それでは2年次の大きなイベントも終わったことですし、後は早送りで見て……夏の全国大会で優勝しました。

 

 2年次は強力なライバルもいませんし、去年の2個上勢も卒業してるので大体軽く終わります。天才覚醒を果たした主人公に敵はありませんね。少なくとも3年になるまでは。

 

 そう言う訳なので、後はひじりんの練習見ながら秋大会で暴れる姿を見ながら今回はここまでとします。他にこれと言ったイベントもないので、多分次回が始まるころには3年に上がっていることでしょう。それでは。




北条元哉 2年
守備位置:投(先発) オーバースロー115

投手能力
球速:141km/h
コントロールA89
スタミナS90

変化球
スライダー7
カーブ2
フォーク3
チェンジアップ1

特能
・天才肌(金)
・ケガしにくさA
・回復A
・投手調子安定(緑)
・荒れ球(赤青)

判明している仲間
・占部恭介(3年・捕手)
・矢部明雄(2年・外野手)
・川星ほむら(2年・マネージャー)
・六道聖(1年・捕手)

・霧崎礼里(2年・???)


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おまけ⑥(前編)

 執筆時間確保の目途が立ったので初投稿です。


 この世界において、女子の野球選手は珍しいが皆無ではない。

 

 単純に人気が高いため、世のスポーツ少女たちにも「ソフトボール」ではなく「野球」を選ぶ者が多少おり、その中で男子たちの体力・膂力に立ち向かえる天才少女が数年に1人は出現する。

 

 小学校までなら男女の体格差がほぼない為女子もそこそこの数がいる。しかしこれが中学になり、高校になると、第二次成長による筋力の差で大半の女子がついて行けなくなりポロポロと脱落して行くものだ。プロに行くような「外れ値」達は常に夢を与えるが、実際に並みいる球児たちを押し退けられる女子選手など滅多にいない。

 

 その大半は中学に上がる時か高校に上がる時に性差の壁に打ち砕かれ、世代に数名の天才的才能の持ち主を除いては、大会のことを考えていない弱小校に多少残るのみとなっていく。

 

 そうして野球の夢を諦めたスポーツ少女たちは、しかしその高い基礎体力と身体能力から他競技で活躍することが非常に多く、「元野球少女」の肩書だけで女子バレーやバスケの強豪校に推薦入学できるケースがあるほどスポーツ界で重宝される。

 

 そういう界隈の中で、六道聖は天才だった。

 

 強豪リトルで4番を打ち、U12の世界大会にも女子ながら正捕手として出場している。身体能力はともかく、高いバッティング技術とリードの巧みさは既に高校レベルに匹敵すると評判だ。

 

 日本中のリトルシニアからスカウトを受けたが、その中で彼女は三鷹シニアを選んだ。

 

 往々にして、強力なピッチャーを擁するチームには良い捕手が集まりやすい。名投手の女房役として注目を集めやすいからでもあるし、単純に、レベルの高い投手の球を受けたいと思うのが人情だからだ。

 

 だから今年の三鷹シニアでは、5人いるスカウト入団の選手のうち捕手は聖のみで、あとは全員外野手である。有望なものは向こうから来ると踏んで、スカウト陣がポジション問わず強打者の獲得に全リソースを投入した結果だ。

 

 目論見通り、例年以上に厳しい倍率の入団テストをかいくぐった18人の一般入団選手たちのうちには、捕手希望者が7人もいる。

 

 誰も彼も華々しい経歴の持ち主で、他のチームでなら1年から正捕手を任されてもおかしくない人材だ。

 

 ポジション争いは過酷で、全体練習の初日だというのにもうコンバートを宣告される者が出始めていた。

 

 そんな中で聖は圧倒的な成績で初日の練習(主に体力テスト)を終えて貫禄を見せつけると、自主練の時間になった瞬間、グラウンド端に立てられたポールに向かって走って行った。

 

 7人のライバルたちと比べても頭一つ以上抜けた能力を持つ彼女は、本人にも自覚がないのだろうが、実力に絶対の自信を持っていた。

 

 グラウンド内を小走りに移動する聖は、やがてポール間走を始めようとしていた元哉の前にたどり着いた。

 

「あなたが北条先輩か」

 

 敬語ですらない、不遜と取られても仕方のない態度。それでも彼女には、相応の実力があったから今まで何も言われなかった。

 

「いくらか投げ込んで貰えますか」

 

 申し訳程度の丁寧語で、キャッチャーミットを構える聖。有体に言って、彼女は調子に乗っていた。

 

 例えばこれが朝倉だったら、軽くゲンコツでも貰ってまずは先輩に対する礼儀を教え込まれていただろう。

 

 山口賢なら、一喝されて倒れるまで罰走させられている所だ。

 

「……防具付けてこい。ネット前集合」

 

 普通の後輩を相手にした北条なら、歯牙にもかけなかっただろう。

 

 だが彼は、相手に実力があるなら、そして自分が野球をやるのに有意義と認めれば、それ以外の部分は評価に考量しない。

 

 聖の実力は、元哉に自分のトレーニングメニューを邪魔するに足ると認められた。

 

「……っ!! はい!」

 

 この時は少なくとも、聖は純粋に闘志を燃やしていた。

 

 占部から正捕手の座を奪い、自分がこの大投手とバッテリーを組むのだ。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「はぁっ、はっ、はぁ……」

 

 十数分後。

 

 20球ほど投げ込まれた聖は、自分の体たらくに愕然としていた。

 

 

 

 取れない。

 

 

 

「次、バックドアのスライダー」

 

「あ、ああ!」

 

 聖の構えたミットに、寸分たがわずスライダーが突き刺さろうとし……衝撃に耐えきれず、ミットから球が弾かれる。

 

「ぐ、ぅ」

 

 転がった球を拾い、元哉に投げ返す。

 

 元哉は無表情のままそれを受け取り、すぐに次の球種を予告してくる。

 

「次、フォーク」

 

「次、真っすぐ」

 

 ランダムに投げ込みを続ける元哉は、聖のことなど微塵も気にしていないように見える。

 

 だが、キャッチャーとして観察眼を磨いて来た聖には分かる。

 

 自分が一球落とすごとに、弾くごとに、彼の投球がほんの少しずつ早く、そして──こちらのことを考えなくなってきている。

 

 つまり、自分への関心が薄れていっている。

 

(こんな、はずは……っ!!)

 

 自分なら、どんなボールだろうと軽く捕れる。占部から正捕手を奪えると、素で疑っていなかった。

 

 だが今、聖の自尊心は、高々20球で粉々に砕け散っていた。

 

「は、ひっ、ぐっ……」

 

 投げるまでが非常に早いため、ポロポロと零れる球を拾って投げ返す際に半ばノックのような移動量を要求され、聖は息が切れ始めていた。

 

 球を受ける。3度に1度は捕り切れずこぼす。そうでなくとも、辛うじて捕れているというだけの素人のようなキャッチングに成り下がっている。

 

 決して聖の技術が足りないのではない。元哉の球威が、中学生の水準を大幅に超過しているのだ。

 

 幾ら上手いとは言え、それは同年代での話で。ついこの間まで小学生だった彼女では、甲子園球児顔負けの元哉の球は受けきれなかった。

 

 悔しさで思考が定まらない。眼が涙でにじんでいる気がする。

 

「…………この位にするか?」

 

 遂に見かねたか、元哉が口調はそのままに助け船を出す。

 

 だが、聡明で、そして元哉のことを詳しく研究している聖は気づいていた。

 

 見かねたのではない。見切りを付けられたのだ。

 

 自分は見捨てられようとしている。それが、聖には耐え難いことに思えた。

 

「いえっ!! 次お願いします!!」

 

 思わず、弾かれたように口が開く。

 

 自信を砕かれ、無様を晒せば晒すほど露骨にこちらへの興味が薄れていき、ついには見捨てられかけ──

 

 元哉はたった20球で、見事に聖との上下関係を完成させて見せた。

 

「北条、何やってんだ?」

 

 そこへ、元哉にとって予期せぬ人物が現れる。

 

 現在の正捕手、占部恭介だ。元哉は最初から軽く走った後ここで投げ込む予定だったので、事前に話を通していた恭介が投げ込み相手として合流してきたのである。

 

「うら、べ。先輩」

 

 息も絶え絶えと言った風に、軽く会釈する聖。明らかに練習中よりしおらしい態度だった。

 

(なるほど。六道のやつ、中々やるな)

 

 つまり、北条が認めて試したが、思ったほどではなかったので散々にやられた。北条のことだから手加減どころか途中から露骨に機嫌が悪くなって、自信を砕かれた精神ダメージと先輩に失望されるのが手に取るようにわかる恐怖でここまで仕上げた。

 

 恭介はあっさりと状況を把握すると、六道を心の中で褒めた。彼の関心にとまり、そして今も辛うじてとは言えとまったままなのは、世代トップクラスの能力を持つ証だ。

 

 ポテンシャル十分。そう考えた恭介は元哉に短く指示を飛ばす。

 

「北条。()()いけるか」

 

 恭介の問いかけを受け、元哉はおもむろに、自分の左腕を見ながら軽くひねったり回したりし始めた。

 

 念入りに、しかしテキパキと各関節をチェックする様子は、機械が正常に動作しているか確認する熟練の職人のようにも見える。

 

「……3球なら」

 

「分かった。六道ちゃん、構えて」

 

「あ、ああ」

 

 数秒開けて応えた元哉、ノータイムで指示出しする恭介。三鷹シニアの練習中、よく見られる光景だった。

 

 とは言え今回は、元哉の球を受けるのは恭介ではなく聖だ。

 

「内角低め、スライダー」

「分かった」

 

 言葉少なに指示する元哉に合わせ、聖はミットの位置を調整する。

 

 それまでの投球との違いは、すぐに理解できた。

 

 ()()()()()()()()()()()。投球モーションが明らかに長い。どちらも、聖の知る元哉にはない特徴だった。

 

 公式大会で見せていたクイック染みて早い投球とは打って変わり、平均的な投手と同程度に時間をかけて力を溜めている。

 

 普段の倍ほどの時間をかけ、しかし決して緩慢ではない。むしろ固いバネを無理矢理押し込むような、今にも「ギギギ」という音が聞こえて来そうな不安定さを見せながら、元哉は振りかぶり、そして──

 

 ストライクゾーンを横断するように曲がった球が、聖のミットよりかなり斜め上を抜けて背後のネットに突き刺さった。

 

「──ッ!?」

 

 聖は唖然として自分のミットを見つめている。

 

「拾えバカ!! 振り逃げホームランされたいのか!!」

 

 恭介の檄でハっとして、ようやく転がった球を拾い元哉に返す。それほど聖は混乱していた。

 

 次の球はフォーク。聖の直前でワンバウンドして後逸。

 

 そしてその次が、明らかに段違いのノビを持つフォーシーム。すべて宣言通りの球種とコースだ。

 

 元哉の荒れ球が、聖の構えたミットよりボール1つ分ほど上を通過し、聖の胸部に思い切り突き刺さった。

 

「がっ、ひゅ、いぎぁ……っ!!」

 

 衝撃とともに一瞬目を見開き、強制的に空気が吐き出される。たまらず、両手でボールが当たった部分を庇うように押さえながらうずくまった。色気のあることを考えるより、肋骨の心配が先に来る音量である。

 

 防具越しとは言え、明らかに公式戦より威力のある直球が中学一年生の女子に直撃している。騒ぎになるかと思いきや、様子を見ている二人は至って自然体であった。

 

 いつもの無表情で見ていた元哉は、その様子を3秒ほど見つめてから声をかけようとする。

 

「わ──」

 

()()()()()()()

 

 それを制止したのは、意外にも恭介だった。

 

 ──今謝ったら、"()()()()だと知らずに本気で投げた俺が悪い"って意味になる。そしたらこの子野球やめるぞ。

 

 恭介の耳打ちを受けて、元哉はまさに「期待外れ」として視界から外そうとしていた動きを止めた。

 

 この時の「悪かった」を最後まで言わせていたなら、六道聖というキャッチャーはこの先現れなかったに違いない。

 

「う、ぁ、え゛ほっ……」

「見てみろ、あの子ここで潰すのは惜しくないか」

 

 あまりの痛みでのたうち回っている聖は、しかし真っ赤な涙目を見開いて、一点を見つめているように見える。しかし視線の先には何もない。

 

「本気で考えてる奴は、目をつぶらない。けど何も見てない。今あいつは、()()()()()()()()()()必死に考えてる」

 

 ──アレは伸びしろデカいぞ。

 

 こと強さという観点において、恭介はスパルタだ。

 

 実力かポテンシャルか、もしくは両方のない相手には、全く肩入れしない。そういう相手には、彼なりの「適当さ」で接する。それ故恭介は、気を許している者にほど当たりが強くなると言われることがあった。

 

 その恭介に、伸びしろがデカいと言わせた。

 

 無表情な元哉が目を見開いて、次いでニヤリと笑ったほどの、掛け値なしの最高評価であった。

 

(おれが卒業する頃には、相当なもんになってるだろう。けど2コ下だからおれを追い越すには恐らく5年はいる。……十分だ。おれのいない間、3年の北条の球を受けてくれる()()()()強さの捕手になる)

 

 というのが、占部恭介の見立てであった。

 

 そしてその読みは、概ね正しい。

 

「おれは他の連中の様子見て来るけど、北条」

「はい」

「そいつ鍛えてやれ。おれの後正捕手になる」

「はい」

 

 上機嫌にそれだけ告げた恭介は、元哉がしっかり頷いたのを確認するとそのままどこかへ去って行った。

 

「今、の、たま。どうし……投げな……っ」

 

 激痛を堪え、途切れ途切れに、しかし真っすぐ元哉に問いかける聖。恐らく「今の球をどうして普段から投げないのか」と言った所だろう。

 

 先ほどまで投げていた球でも、占部なら止められるという確信が聖にはあった。実際、占部は何度かこの球も受けているが、初見の時ですら一応こぼしはしなかった。

 

 腕をほぐすように振っていた元哉はそれを見て──獰猛に笑う。普段のクールな印象とはまるで別人のような姿に、聖は面食らう。

 

「体が持たない。多分さっき真っすぐで145~6キロくらいだけど、コントロールがイマイチ定まらない上に、本気で10球も投げると肘か肩が痛くなる」

 

 昨年と一昨年、元哉は練習時間のほとんどを筋力トレーニングと走り込みに費やしている。

 

 それは制球力不足を改善するためでもあるが、中2にして181cmもある彼の体躯をもってしても、自分の全力投球に体が耐えきれないのを理解していたからだ。

 

 元哉にとっては投げる以前の問題で、パワーを安定して出すための身体づくりの期間という側面が強かった。

 

「多分それでも、あと5年くらいは全力で投げられる。……けどそれじゃあ駄目だ。足りない。だから、あと30年投げられるくらいの力で投げて、コントロールと緩急で抑えてる」

 

 それは、全国大会でしばしば見られた「チェンジアップによる三振」と「ボール球を打たせての凡打」に現れている。

 

 技巧で抑えていたということは、つまり力だけでは抑えられなかったということ。事実地区大会までの彼は、力押しで強引に抑えるパワーピッチャーだと認識されていたのだから。

 

「去年の清本さんとの対戦、なんでおれがあんな器用な投げ方を出来たか、分かるか」

 

 相変わらずグラウンドに転がっている聖に手を差し伸べながら、元哉は問いかけた。

 

「な、ぜ……」

 

 聖は頭の回転が速く、洞察力が高い。どちらもキャッチャーに求められる技能で、彼女にはつまり才能がある。

 

「まさ、か。本気じゃ、ないから」

 

 だから理解(わか)った。

 

「そう。()()()()()()()からだ」

 

 球速を出せない分、ある程度余裕を持って投げられる。そこに生まれるリソースの余剰を、「狙った所に投げる」ことに費やしていた。

 

 それで、あの球威。あの球速。あの荒れ球。

 

 理解した瞬間、聖はこれまでにないほどの衝撃を受ける。

 

(じゃあ、わたしが憧れたあの球は。受けてみたいと思ったあの球は、感動したあの球は……)

 

「…………っ」

 

 思わず、その場で構えをとっていた。

 

 何故そうしたのかは自分でもわからない。

 

 だがとにかく、元哉の球をもっと受けたくて仕方がなかった。

 

「……よし」

 

 言葉はいらない。元哉は再びボールを持つと、いつもの簡易投法で振りかぶった。

 

 ──恭介の見立ては、概ね正しい。

 

 誤算があるとすれば、元哉が一度は消しかけた聖への評価を再度上方修正したことと、聖が元哉のストイックさについてこられる根性の持ち主だったこと。

 

「今日1日付き合う。その間に全球種受けられるようになれ」

 

 昔と比べ、元哉が恭介の影響を受けて「見込みのある奴が成長するのは助ける」という考え方を身に付けていたこと。

 

 

 

 

 この日元哉は実に120球を投げ、最終的に聖は「普段の球」なら受けられるようになった。




 7/n後のおまけは久しぶりに掲示板回になりそうです。


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おまけ⑥(中編)

聖を痛めつけたら露骨に反応が良くなったので初投稿です。
やっぱ好きなんすねぇ。


 恐らく初恋だった。

 

 霧崎礼里にとって、そもそも「気兼ねなく話せる友人」は多くない。それは自分からクールキャラを気取って、周りと距離を取っているからだ。

 

 彼女は世間的に見ると、強豪シニアで1年からレギュラーに定着し、野球で全国出場する世代トップクラスのアスリートである。

 

 (利用する腹積もりとは言え)チームメイトの蛇島が何かと気にかけてはいるものの、本人が積極的に関わろうとしないのだから、無理に矯正しようとまではしない。

 

 インタビュー等でも当たり障りのない答えをし、ネット上の悪意──朝倉と違ってクセのない美人なため、ストレートに性的なものがかなり多い──にも我関せず。

 

 "霧崎礼里は孤高を好む"。それが周囲の認識だ。実際容姿と実力というのは得なもので、その路線で「高嶺の花」的な人気を得ている。

 

 ──だが彼女自身は別に、人とコミュニケーションを取りたくないわけではない。

 

 ただ、クラスメイト達の心を深く感じるのが嫌で、もっと正確には……周りの人達が皆持っている、自分に向けた嫉妬や欲望を見るのが嫌だった。

 

『……思ったが、その口調はどういうキャラなんだ』

 

『キャラとか言わないで! 舐められないように一線引いてるの!』

 

 その点、元哉は違う。あれはただの野球バカだと礼里はいつも腐しているが、要は照れ隠しだった。

 

 彼女と元哉が会っていた期間は短い。全国大会で戦って、世界大会で合宿をした。

 

 だが彼女にとってその期間は、いつになく楽しいと感じられるものだった。

 

 何せ相手は野球のことしか考えていないから、余計な気を回さずに素で接しても問題ない。スケベ心を持っていないから、警戒の必要もない。嫉妬されないから、思う存分野球に打ち込める。

 

『お、おお……すまない。存外に高評価だな』

 

『同じ1年であれだけ動かれたらな。今まで見たショートだと一番上手いと思うぞ』

 

『あぅ……』

 

 どころか、自分の野球を本心から認めてくれ、掛け値なしに褒めてくれる。"キャラ"のままでいるのがなんとなく嫌で、ついつい素の口調で喋ってしまう。

 

「……ふふ」

 

 気づけば、元哉のことを考える時間が増えた。

 

 一応SNSは交換しているが、意外にも元哉は(少なくとも、礼里に対しては)筆まめだ。どうやって時間を捻出しているのか、何か送ると練習中でない限り数分で既読が付いて返信が来る。

 

(でも何を書けば……)

 

 何せ礼里がその手の機微を知り始めた頃、周囲の男子は全力で性の目覚めに振り回されていた。

 

 内心を見透かせてしまう礼里は、頻繁に流れ込んでくる自分のあられもない姿(想像図)に辟易して、顔には出さないが男子が苦手になった。

 

 次いで、そんなモノを有難がって何部がイケてるだの誰に破いて貰っただのと議論している周りの女子たちと価値観が合わなくなっていった。

 

 安心して付き合える相手自体、両親と2年生ながらキャプテンを務めている蛇島、後は北条くらいなもの。

 

 つまり彼女は、13歳という年齢を抜きにしても恋愛知識がまるで無かった。

 

「…………あ」

 

 礼里が悩んでいると、見透かしたように着信がある。大抵他愛もない内容で会話自体も長続きしないが、なんとなく思いが通じているようで嬉しかった。

 

 因みに、このからくりは種を明かすと簡単だ。「元哉が日課の自主練を終えて帰路につき、母親の運転する車の中でスマホを開く時間」と、「礼里が帰宅後に風呂から上がって机に向かい、スマホとにらめっこし出す時間」が一致しているのである。

 

 

「またスマホ? たまにはお母さんとお話してよ」

 

「……おう」

 

 母親の運転する車で、方々にLINEを済ませる元哉。

 

 練習場から家まで車で30分ほどだが、その時間で彼は

 

①占部と今日の練習についてのおさらい(主将になった占部への業務連絡も兼ねる)

②監督に翌日の自主練メニューを報告

③自分の練習ノート(電子化しているので、これもスマホ)に気付きなどを記入

④来ていた時は、友人たちのLINEへの応答

 

 まで済ませており、この合間を縫って欠かさず霧崎に連絡をとっているのは、彼が霧崎という選手へ破格の評価を下している証左でもあった。

 

 それは同時に、彼の筋金入りの傲慢さを示すエピソードでもある。

 

「もう。キミはいっつも"ああ"と"おう"と"うん"しか喋らないんだから」

 

 元哉の母親──北条洋子は、息子のことを「キミ」と呼ぶ。狙っている訳ではないのだろうが、滅多に家に帰らない父親の(精神的な意味での)代わりを、元哉が務めている部分もあった。

 

 ……元哉に出来るのは、「飯・風呂・寝る」の古典的な代物くらいだが、野球漬けで帰りが遅いのもあり、それはそれで上手くいっているようだ。

 

 人間味がないと言われがちな元哉だが、親に世話してもらっておいて舐めた口を利くのはダサいと考える程度には歳相応な所もあった。

 

 息子の関心がスマホから離れないことに焦れた洋子は、やむなく「秘密兵器」に頼ることにする。

 

「ね、今度お父さん帰って来るってよ」

 

「……親父、来るんだ」

 

 それまでと打って変わり、露骨に話題に食いつく元哉。

 

 一人っ子であり、事実上女手一つで育てられた彼だが、月に1度帰って来るか来ないかの父親の方に懐いているのだった。

 

「も~、お父さんの話には食いつくんだから」

 

 口では文句を言いつつも、まんざらでもない様子の洋子。

 

 何のことはない。普段の洋子が自分の夫に焦がれたようなことばかり言うから、十数年かけて元哉にもそれが刷り込まれてしまっただけだ。ある意味では、これも惚れた弱みの一種かも知れなかった。

 

 元哉は「次の全国を楽しみにしてる」という一文で霧崎礼里との会話を切り上げると、洋子の話に付き合うことにした。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 ──次の対戦を楽しみにしてる。

 

 ここ数か月、礼里のモチベーションはこの言葉だった。

 

 ほぼ毎回元哉が会話を締める時に使う言葉だが、恐らく本人には自覚がないのだろうと礼里は思っている。

 

(……ふふ、相変わらずだなぁ)

 

 この文面を見てそう独り言ちるのが最近の日課だ。

 

 同世代最強ピッチャーからの注目宣言(そして礼里本人にも自覚はないが、初恋の相手からの激励)が、明確に彼女を動かしている。

 

 元哉に追いつくために、或いは次の試合で彼に無様な姿を見せないようにと、彼女は今までに増してハードなトレーニングに励んできた。かつては優れた容姿から雑誌の特集やニュースのインタビューなどを受けることも多かったが、今では専ら練習の虫だ。

 

 普通の女の子は着飾ったり化粧をしたりして意中の男性にアプローチする訳だが、元哉の場合一番効果的なアプローチの仕方は「野球で魅せること」で、幸いなことにそれは礼里の得意分野だった。

 

 元哉は性別どころか野球に関する部分でしか人を判断していない節がある(逆に、全く野球に関係ない時はある程度普通なのだが)し、礼里は男子にいやらしい目で見られるのが嫌いだ。ある意味、お似合いであると言えるだろう。

 

 彼には関わった人物を自然と動かしてしまうカリスマ性のようなものがあるのかもしれない……などと、礼里は半ば本気で思っている。

 

 元哉にカッコいい所を見せたい。

 

 自分の得意分野を褒めて欲しい。

 

 ──向こうに入団したという、元小学生ナンバーワンキャッチャーに取られたくない。

 

 礼里にとって、同系統のライバルは聖になる。朝倉は告白して玉砕したらしいし、ほむらはマネージャー枠なので元哉の好みとはズレている……というのが礼里の見立てだ。

 

 実の所、これは礼里の好みである。彼女は恋人というより、"理解者"と"戦友"を求めていた。

 

 礼里は本質的に孤独で、親にさえ秘密を抱えて生活し……だから、()()()()を受けた時、誰にも相談しなかった。

 

 中学二年の彼女は、大人たちの美辞麗句の裏が読めるほどスレてはおらず、密約を受け止められるほど強くもなかった。

 

(本当に……大丈夫なの?) 

 

 治療であると聞かされていた。ゲノム大学傘下の研究所で、自分のような能力を調()()()()研究が行われているのだと。両親と一緒に現れた白衣の若い女性はそう言っていた。

 

 両親が自分の能力を知っていたのは意外だったが、一緒に暮らしている以上いつかはバレると思っていたので驚きはなかったし、治療を受けろという指示にも深く考えずに従った。唯一、この能力抜きに元哉に対抗できるかだけが心配だったが。

 

 初めは食後に錠剤を飲まされる程度の手軽さだったものが、2、3ヶ月かけて段々と大がかりになっていった。

 

 能力は弱まるどころか、精度を増しているようにすら感じられた。強い感情を向けられた時にしか発動しなかった能力が普段から心の声を拾いっぱなしになった。授業中に先生の声と混線したし、階下や隣室の人の心を勝手に読んでしまって不眠気味にもなった。

 

 終いには手術をすると聞かされて、目の前の女性から明らかに能力を増幅しようとする意志が感じられた時、初めて自分が何か大変な間違いを犯しつつあると察しがついた。

 

 両親に縋るように目を向けて──そして、気まずそうに、しかしどこかソワソワと目を逸らす二人から、"厄介払い"と"大金"というワードを()()()()()時、礼里は自分の心にヒビが入る音を聞いた。

 

 最も優れた詐欺とは、相手に欺瞞があると認識させた上で目標物を差し出させることである。方法は色恋であったり信仰心であったり様々だが、今回使われたのは、目的が金ではない場合に限り最も手っ取り早く、便利な方法。すなわち、金を積んで黙らせる。

 

 礼里が読み取った所では、後20年近く残っている家のローンを完済して、自分を除いた夫婦二人で数年間海外を遊び回っても使い切れない程度。それが、自分の能力に……身体につけられた値打ちらしかった。

 

 つまり礼里は、両親に売られた。

 

 それを突きつけられて、全身の血が凍ったようだった。

 

 薄々見ないようにしていた最悪の結末が、今目の前にある。そう確信した時礼里はとっさにスマホを手に取って、取り押さえられるまでの間にどうにか「たすけて」の四文字を入力した。

 

 宛先に元哉を選んだことに、明確な理由はない。

 

 ただ、自分の知っている中で一番強くて、立派で、頼りになる人を。

 

 咄嗟の人選だったが、結論から言うとそれは正しかった。




あまりにも時間かかりそうだったから分けるゾ。
次回は早めの更新を心がけます。


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