割とありふれてるただの百合物語 (九十九一)
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1ページ目 物語は唐突に

 突然ですがみなさん。

 

 女の子が女の子に告白するということって、現実にあると思いますか?

 

 いきなり何を言っているの? と思うかもしれませんが、まあ聞いてください。

 

 わたしは何というか、昔からその……ちんまい、とか、年下に見える、とか言われるような容姿なんです。

 

 どれくらいちんまいかと言えば、身長が140センチくらいと言えば想像できませんか?

 

 え? できない? じゃあ、そうですね……中学一年生が、背の順で並んだ時、一番前にいる女の子くらい小さいと言えば想像できませんか?

 

 ……難しいかもしれませんが、とにかくそれくらいだと思ってください。

 

 そんなわたしなんですけど、実は中学一年生の時を最後に、背が伸びなくなってしまって、今も、ちょ~っとちっちゃいんです。

 

 だから、高校生になってもそれは変わらなくて、学園ではマスコットのような扱いを受けます。

 

 あ、こらそこ、幼女って言わないの!

 

 わたしが小さいんじゃなくて、みんながおっきいんです! わたしはちっちゃくないもんっ! ……あ、こほん。

 

 と、そんな、人よりもちょっとだけちっちゃいわたしですが、今現在……

 

「あなたのことが好きだ。私と、付き合ってくれないだろうか?」

 

 桜の雨と思えるくらいに、桜の花びらがひらひらと舞い散る桜並木で、美少女に告白されている最中なんです。

 

 …………ど、どどどどどーしてこうなったの!

 

 

 この発端を語るには、結構時間を遡らなければいけません。

 

 具体的に言うと、さっきの部分が二年生に進級した初日で、そこから遡ると約一年。正確な数字にすると、十一ヶ月前になります。

 

 それはともかくとして、まずは自己紹介が先だよね!

 

 みなさま初めまして! わたしは『百合花学園』という共学の学園に通う二年生、炉莉宮(ろりみや)ノエルと申します。

 

 あ、先に言っておきますけど、わたしはノエルという名前ですが、間違ってもキラキラネーム的なものじゃないですよ? これはママが付けてくれた名前です。だって、外国の人ですからね! わたしのママ!

 

 ノルウェーの人なんですよ! すごい? レアですよね!

 

 だから、わたしは所謂ハーフというものなんです!

 

 どやぁ。

 

 おっとっと、今はそういうボケをする場じゃなかったですね。ごめんなさい。

 

 わたしのパパは海外でお仕事をすることが多い職業で、ママとはノルウェーで仕事をした時に出会ったそう。

 

 二人は意気投合して、恋人になって、そして結婚。

 

 そうして生まれたのがわたし、というわけです。

 

 でも、ノエルって言う名前は、どちらかというとフランスとかに多そうなんですけど……まあ、深いことは気にしちゃダメだよね!

 

 で、そんなわたしなんですが、今は一人暮らし中なんです。パパとママは今ノルウェーにいるので……。

 

 え? そういう情報はいらない? 早く続きを話してほしい?

 

 いえいえ、実はこれが重要になってくるんです。

 

 わたしは一人暮らしをしているのですが、パパとママはわたしが生活に困らないほどの金額を仕送りとして振り込んでくれます。

 

 ただ、わたしとしてもお年頃というか、できればパパとママに負担をかけたくないと思っちゃうわけです。

 

 なので、学園に入学してからアルバイトをしようと思っていました。

 

 最初こそ、自分にもできそうなお仕事にしよう!

 

 とか思っていたんだけど……悲しいかな、わたしの容姿が原因で、どこも雇ってはくれませんでした……。

 

 うぅ、わたしのどこがいけないのっ!

 

 ただちょっと、人よりちっちゃいだけだもん!

 

 140センチくらいしかないけど、それでも高校生だもん!

 

 ……あ、ごめんなさい、今までのことがフラッシュバックして、ちょっと悲しくなっちゃった……。

 

 えーっと、あれだね。あの、わたしのお話。

 

 アルバイトを探していたけど、一向に見つからなくて困っていた矢先に、わたしの中学校の時からのお友達、優香ちゃんがね、

 

「いいアルバイトあるよー」

 

 って言って、アルバイトを紹介してくれたの!

 

 もちろん飛びついたけど、ハッとなって、ちっちゃいわたしでも大丈夫? って聞いたら、

 

「可愛ければ大丈夫だよ」

 

 って言ってくれたの。

 

 わたし自身、可愛いかはわからないけど、それでも一縷の望みと思いながら面接を受けにお店まで行くと……

 

『『『おかえりなさいませ、ご主人様!』』』

 

 そこはメイド喫茶でした。

 

 思わずぽかーんとしちゃいました。

 

 連れてこられたのがまさか、メイド喫茶だとは思わなかったので……。

 

「あ、ゆうかりん、こっちの子が例の?」

「そうそう。あたしの友達のノエルだよ。可愛いでしょ?」

「あ、えと、の、ノエルです! 優香ちゃんのお友達でしゅっ! ……あぅ」

「「「か、可愛い……!」」」

 

 肝心の挨拶で噛んだら、なぜかほんわかされました。

 

 むむむ、これはまた、子供に思われちゃってるのでは?

 

 そう思いました、当然。

 

 でも、

 

「あ、飴ちゃん食べる?」

「食べるー!」

「ジュース飲む?」

「飲むー!」

「ケーキ食べる?」

「食べるー!」

 

 こんな風に甘やかされるのなら得かなって。

 

 お菓子とジュースには勝てないっ……!

 

 美味しいんだもん。

 

 まあ、それはともかくとして、散々甘やかされた後、わたしはそのままお店の奥に通され、面接へ。

 

 あ、一応その時の面接風景を流しますね。

 

「こんにちは~。あなたが、優香ちゃんが話していた娘ね~? わたしはここのお店の店長をしています、ミーナって言いま~す。よろしくね~」

 

 すると、なんだかぽや~っとした人が現れた。

 

「あの、えと、外国の人、なんですか?」

「秘密よ~」

 

 見た目どう見ても日本人なのに、なぜかミーナと名乗ったのが気になったので、外国人かどうか尋ねたら、秘密と返された。

 

 あとから聞いた話だと、優香ちゃん曰く、色々と情報不詳の人なんだとか。

 

 謎です。

 

「じゃあ、面接をしますよ~。志望動機は何でしょうか~?」

「え、えっと、今一人暮らしをしてて、ぱ――じゃなかった。えと、お父さんとお母さんが仕送りをしてくれているんですけど、あんまり負担をかけたくなくて……。だから、わたしもアルバイトをしてちょっとでもお金を稼ぎたいと思ったからです!」

「ふむふむ……。じゃあ、お仕事内容についてなんだけどね、見ての通りこのお店はメイド喫茶です。だから、ちょっとだけ恥ずかしいセリフを言うこともあります。それは大丈夫~?」

「が、がんばりますっ……!」

 

 初めてのアルバイトでメイド喫茶はハードル高いけど、それでも頑張らないと……!

 

「やる気に満ちてますね~。それで、炉莉宮さんでしたっけ~?」

「そ、そーです!」

「優香ちゃんが連れて来たみたいだけど、メイド喫茶だとは思ってなかったですよね~?」

「は、はい、思ってなかったです。なので、さっきああ言いましたけど、ちょっとだけ困惑しちゃってたり……」

 

 意気込んではみたものの、やっぱりメイド喫茶というのは恥ずかしいと思ってしまう。

 だ、だって、『お帰りなさいませ、ご主人様!』って言わなきゃいけないんだもんっ!

 

「そうですよね~。んー、まあ、やりたくなければ別に無理しなくてもいいですよ~?」

「い、いえ! わたし、アルバイトがしたいんですっ! だ、だから、どんな恥ずかしいことだってやってみせます!」

 

 いくら恥ずかしくても、お金を稼がないと!

 そう思って、九十度のお辞儀と共に、お願いしたら。

 

「つまり、このお店で働きたい、そういうことですね~?」

「そーです!」

「……炉莉宮さん可愛いし、銀髪蒼眼の女の子メイドって言うのも受けそうですしね~、じゃあ採用で~す!」

 

 採用を貰えました!

 

 あ、補足ですが、わたしはお母さんの血の方が濃く出たのか、銀髪蒼眼です! ちなみに、髪の毛は太腿の中ほどまで伸ばしてます!

 

「い、いいんですかっ?」

「お~け~お~け~ですよ~!」

「ありがとうございますっ!」

「じゃあ、炉莉宮さんは来週の月曜日から入ってくださいね~」

「来週からですか? わたし、今日とか明日からでも全然大丈夫ですよ!」

「やる気があるようで何よりなんだけど~……実は、炉莉宮さんくらいの体格の制服がなくて~……。なので、オーダーメイドになっちゃうんです~」

「……」

 

 そして、アルバイトができると思い、高いテンションのわたしでしたが、ミーナさんの申し訳なさそうにしながら放った一言で、一気にマイナスまで落ち込んだ。

 

 ……ぐすん。

 

「あ、泣かないで~! た、たしかに炉莉宮さんが着られるメイド服はないけど、これも可愛い炉莉宮さんをさらに可愛く見せるためだから~!」

「…………うぅ」

「え、えと、泣かないで~……? お、お菓子、食べますか~?」

「……食べます」

 

 結局、お菓子で慰められました。

 

 

 と、このような経緯で、わたしはメイド喫茶『アスセーナ』にてアルバイトとして働くこととなりました。

 

 最初こそ、服がなくて落ち込んだものの、前向きなわたしはすぐに立ち直り、アルバイト頑張ろう! と思いながら、お仕事が始まる日を待ちました。

 

 そうして、遂にわたしの初出勤の日。

 

 最初はどんな仕事をするのかなー、と不安と期待を抱きつつ、優夏ちゃんと一緒にお店に行くと……

 

「それじゃあ、ビラ配りから始めてね~」

 

 と言われました。

 

 ……どうやら、わたしの初仕事はビラ配りだったようです。

 

 なんだか肩透かしを食らったような気分になったけど、すぐに頭を切り替えて、チラシを受け取り、お店付近でビラ配りをしました。

 

 とはいえ、やっぱりこう、なかなかもらってもらえないものです。

 

「よ、よろしければ入ってみてください!」

 

 こんな風に、道行く人に声をかけてみるんだけど、なかなかチラシを受け取ってくれない。

 

 最初の内は、まだ大丈夫……まだ大丈夫……!

 

 そう自分に言い聞かせながら、お仕事をしていたんだけど……

 

「だ、誰も受け取ってくれないよぉ……」

 

 受け取ってくれる人がなかなか現れず、気分が落ち込み始めていました。

 

 これで誰か一人でも受け取ってくれていたのなら、こうなることもなかったのかもしれないけど、誰も受け取ってくれなかったから、わたしは悲しくなった。

 

 もちろん、これで辞めたいとは思いませんでした。

 

 でも、受け取ってもらえないというのは、結構心に来るもので、わたしは初日からちょっと泣きそうでした。

 

 それでもめげずに、せっせせっせとチラシ配りを頑張っていると、

 

「――っ!」

 

 わたしの近くで、不意に息を吞むような音が聞こえてきました。

 

 一体何だろうと思って、音がした方に目を向けると……そこには、凛とした雰囲気を持った女の人がいました。

 

 その人は、なぜかわたしを見ながら硬直していたんです。

 

 どうしたのかはわからないけど、これはもしかすると、受け取ってもらえるチャンスなのでは? そう考えたわたしは、

 

「あ、あのっ、よかったら一枚どうですかっ!?」

 

 全力のスマイルを浮かべながら、チラシを一枚渡してみた。

 

 すると、

 

「……こ、これは?」

 

 その女性は、おずおずとチラシを受け取ってくれて、チラシを指差しながらそう尋ねて来た。

 

「ここは、メイド喫茶『アスセーナ』って言います! すぐそこがお店なんですよ!」

 

 受け取ってくれたことと、どういう場所なのかを尋ねてくれたことに嬉しくなって、わたしは嬉々として説明を始めた。

 

「そ、そう。……あなたも、そこの従業員なのかな?」

「はいっ! 今日からの勤務なんです!」

「もしかして、初めてだからチラシ配りをしていたのか?」

「そーですよ!」

「ふ、ふーん…………可愛い……」

「んゅ? 何か言いましたか?」

「あ、い、いや、気にしないで。……ち、ちなみに、なんだが、ここってこう、指名みたいなことってできるのだろうか?」

「指名ですか? んーと…………あ、できるみたいですよっ!」

 

 女性に尋ねられて、制服と一緒に渡された手帳を見ると、そこには指名あり! の文字があった。

 

「ほんとかっ?」

 

 あれれ? この人、どうしてそんなに食い付くんだろう?

 

 んー……もしかして、メイドさんが好きなのかな?

 

 まあ、そういう人がいても不思議じゃないよね!

 

 ともあれ、気にせず説明しないと!

 

「はいっ! えっとですね、支給されたこの手帳によると、指名した相手と色々できるみたいです! 例えば、お菓子の食べさせ合いっことか」

「た、食べさせ合い……!」

「他には、じゃんけんゲームをして、勝った方は相手に言わせてみたいことを一つだけお願いできるとか! あ、もちろん、えっちなことはだめですよ!」

「言わせてみたいこと……!?」

「それ以外だとー……あ、甘々コースっていうのがあります!」

「ち、ちなみに、それはどういうコースなの……?」

「んっと……恋人のようなことができるコースです!」

「恋人のようなっ……!?」

「はいっ。内容は、お料理をあーんしてもらったり、お料理を作ってもらったりと言った感じですね!」

「あーんっ……!?」

「ど、どうでしょうかっ!」

 

 なんだか食い付きのいい反応を示す女の人に、様々な期待を込めて尋ねると、スッと表情を引き締め、

 

「――行きます。そして、あなたを指名したいのだが」

 

 ほとんどノータイムでそう言いました。

 

「んにゃ!? わ、わたしですか!?」

 

 まさかわたしを指名されるとは思っていなかったので、思わず猫の鳴き声みたいな声が漏れてしまった。

 

 は、恥ずかしい……。

 

「はい、あなたです。ダメ、だろうか?」

「ちょ、ちょっと待ってくださいね?」

 

 び、びっくりしたぁ……。

 

 まさか、わたしを指名してくるなんて……!

 

 と、とにかく電話電話!

 

「あ、もしもし、ニーナさんですか?」

『そうよ~。何かアクシデントがあったんですか~?』

「じ、実は、ビラ配りをしていたら、指名を受けちゃったんですけど、この場合どーすればいいんでしょうか……? わたし、今日入ったばかりなので……」

『あらあら、そんなことになっていたんですね~。ん~……でも、そうですね~……とりあえず、今日はビラ配りをしてもらう予定だったんですよね~』

「あ、そーなんですね」

『だから、今日はちょっと難しいわ~。なので、できれば来週に、って伝えてもらえる~?』

「わかりました! そう伝えますね!」

『そのお客様には一応謝っていただけると……』

「もちろんですっ!」

『ありがとうございます。じゃあ、お願いしますね~』

 

 通話を終えて、スマホをポケットにしまうと、女性に向き直る。

 

 見れば、女の人はかなり期待している様子なんだけど……なんだか申し訳ないなぁ……。

 

「えっとですね、わたしは今日入ったばかりの新人なので、難しいみたいなんです」

「そう、なのか……」

 

 わわっ! すっごく落ち込んでる!?

 

「あ、だ、大丈夫です! 今日がダメと言うだけであって、店長さんが言うには、来週の月曜日からなら大丈夫だそうですから!」

「なら、その日にまた来るとしよう」

「はいっ、お待ちしていますね!」

「あぁ。では、私はこの辺りで」

 

 そう言って、女の人は去って行きました。

 

 その背中は心なしか、嬉しそうでした。




 初めましての方は初めまして、他作品を読んでくださっている方々はどうも、九十九一です。

 今作は、わたしがふと思いついたただの百合小説です。

 正直、どこにでもありそうな、ごく普通の百合小説です。できれば、甘い系の物にしたく思いますが、あまりネタがあるわけではないです。なのでまあ、何かしてほしいシチュエーションがあれば言って頂ければ、それを書こうと思いますので、なにかあれば遠慮なしに言ってくださいね!

 現時点で書きあがっている部分は四日くらいで出そうと思います。

 そこから先は結構不定期になるかと思いますので、ご了承ください。

 そんなわけですので、この作品をよろしくお願いいたします。


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2ページ目 初めてのお客様

 そんなことがあった初日の勤務から時間が進み、例の月曜日に。

 

「ノエルー、そろそろ行こー」

「うんっ! 今行くよー!」

 

 約束を覚えていたわたしは、今日と言う日をちょっと楽しみにしていたり。

 

 優夏ちゃんに呼ばれて、足取り軽く二人でお店へ。

 

「「おはようございます!」」

「おはよう~。ノエルちゃん、例のお客様が来ているから、ちょっと急いでね~」

「あ、わかりました!」

 

 お店の奥へ行くなり、ニーナさんに件のお客様が伝えられ、わたしはいそいそとメイド服に着替える。

 

 ちなみに、ニーナさんが言っていたように、わたしのメイド服はオーダーメイドの特注品です。

 

 ……これが、背が高くて、とか、胸が大きすぎて、とかだったら、わたしもちょっとした優越感のような物に浸れたのかもしれないけど、小さいから、と言う理由だと……複雑な気持ちになります。

 

 ……辛いよね、小さいって。

 

「お仕事入りまーす!」

「あ、ノエルちゃん! 急いで急いで! 指名さんそわそわしながら待ってるから!」

「あ、はーいっ!」

 

 そんなに楽しみだったのかな、メイド喫茶。

 

 女の人でこう言うお店に来るのは珍しいなぁと思いながら、ふふっと軽く笑いを零していると、目的の人が座っていた。

 

 パッと見た感じ、一週間前に合った時と同じ服装、かな?

 

 セミロングの黒髪を後ろで結わえて、帽子と眼鏡を身に着けてるね。

 

 うん、やっぱり凛とした雰囲気がある。

 

 素顔は眼鏡と帽子で正確な顔立ちとかはわからないけど、多分美人さん、かな?

 

 ……むむ、背が高いのが羨ましい。

 

 わたしなんて、こんなにちっちゃいのに……。

 

 ……って、今はそういうことを考えている場合じゃなかったね。

 

 えーっと。

 

「ご指名ありがとうございます! ご主人様!」

「あ、こ、こんにちは」

 

 とりあえず、マニュアル通りに挨拶をすると、一瞬だけビクッとしたけど、すぐに挨拶を返してくれた。

 

 心なしか、ほっぺが赤い?

 

「んーっと、まずは自己紹介が先ですね! わたしは『のえる』と申します! ご主人様のお名前をお尋ねしてもよろしいでしょうか?」

「とりあえずは、アヤでいい」

「はい! アヤ様ですね! それではアヤ様、ご注文をどうぞ!」

 

 指名が入った場合、そのお客様に対する呼び方は、『ご主人様』呼びじゃなくて、そのお客様の名前+様付けで呼ぶことになっています。

 

 その方が恋人っぽいとのこと。

 

 恋人というより、主従関係に近い気がするけどね!

 

「ふ、ふむ……では、甘々コースを、お願いしよう」

「かしこまりました! それでは、このメニューの中からお好きなお料理とデザート、それからお飲み物を選んでくださいね!」

 

 メニューを開いて手渡すと、アヤ様は一瞬悩むそぶりを見せたものの、すぐに選び終えました。

 

 わわ、決断が早い。

 

「それでは……特製オムライスと、ハッピージュース、スペシャルパフェをお願いしよう」

「かしこまりましたっ! 少々お待ちくださいねっ!」

 

 元気いっぱいの声と笑顔で承ったことを伝え、軽く一礼してから厨房へ。

 

「……可愛い」

 

 一瞬、ぽそっと何か呟いたような気がしたけど、多分気のせい!

 

 さぁ、頑張ろー!

 

 

「お待たせしました! 特製オムライスと、ハッピージュースです!」

「これが……美味しそうだ」

 

 作った料理を持って行って、アヤ様の座るテーブルに置くと、アヤ様は目を丸くさせながらそう呟いた。

 

「そう言ってもらえると、作った甲斐がありました!」

 

 見た目とはいえ、美味しそうと言われるのはやっぱり嬉しい。

 

「え、本当に、あなたが作ったのか?」

「はいっ! 甘々コースは、指名された人が作ることになってるんですよ! 本当なら、もう少し先みたいなんですけど、わたし、お料理が得意でしたので! アヤ様の為に、愛情をたっぷり込めながら作らせていたきました!」

 

 お仕事だから、と言うのもあるにはあるけど、わたしとしては、初めてのお客様のようなもの。

 

 だから、自然と頑張ろうって思えて来るわけです。

 

「……天使?」

 

 そんな思いから来る言葉だったんだけど、アヤ様はなぜか少し感極まったような顔をしながら、ポツリと漏らした。

 

「んゅ? 天使? あはは、わたしは天使じゃなくて、メイドさんですよー」

「あ、あぁ、すまない、そうだった、ね」

「アヤ様って面白い人なんですね」

「そ、そうだろうか?」

「はいっ。なんとなくですけど」

「……ふふ、そう言われたのは初めてだよ」

「そーなんですか?」

「そうなんだよ」

 

 軽く笑みを浮かべながら肯定。

 

 うーん、わたしの感じ方がおかしいのかなぁ。

 

 でも、面白い人のような気がするし……。

 

 ……まあ、お客様の詮索(?)はダメだもんね。

 

 とりあえず、お仕事お仕事。

 

「それでは、わたしも対面側に座らせていただきますね!」

「ど、どうぞ」

「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ! それでは……んっしょ、と……ここのお店の椅子はわたしにはちょっと高い気がします」

「ふふっ、ノエルさんは一般的な人よりも、少しだけ背が低いみたいだからね」

「そーなんですよ……わたし、もっとおっきくなりたいんですけど、全然伸びなくて。……アヤ様みたいになりたいです」

 

 羨まし気な目をアヤ様に向けると、アヤ様はふふっと笑いを零しながら苦笑を浮かべた。

 

「私は……大人びて見られる場合が多いから、ノエルさんみたいに、可愛らしい物が似合いそうな人が羨ましいかな。それに、見ての通り、口調もやや堅いからね」

「そーですか?」

「そうなのさ」

 

 なるほど、そういう見方もあるんだね。

 

 考えてみたら、わたしは大人っぽくなりたい! って考えるけど、世界にはアヤ様みたいに、可愛らしい物が似合う人になりたい、って思う人もいるわけだもんね。

 

 そう考えると、わたしとアヤ様ってちょっと反対、なのかな?

 

「っとと、そろそろ食べないと冷めちゃいますね」

「そうだった。そ、それじゃあ、お願いしてもいいかな?」

「はいっ! 任せてくださいね!」

 

 期待の籠った声と表情で言われ、わたしは笑顔でそれに答える。

 

 お料理と一緒に持ってきた、柄が少し長めのスプーンを持ち、オムライスをすくい、

 

「はい、あ~ん」

 

 笑顔を浮かべながら、オムライスが乗ったスプーンをアヤ様の口元にまで運ぶ。

 

「あ、あーん…………むぐむぐ……んっ。美味しい」

「ほんとですか? それならよかったです!」

 

 やっぱり、自分で作った料理を、美味しいって言ってくれるのは本当に嬉しい。

 

 元々お世話をするのは好きだし、もしかすると、このお仕事向いてるのかも?

 

「それじゃあ、どんどん行きますねっ!」

 

 もしそうなら、気合が入ると言うものです。

 

 

 お料理とデザートに関しては、基本的に同じだったので、そこはカットで。

 

 この次に行われたのは、じゃんけんゲームです。

 

「それじゃあ、ルール説明をさせてもらいますね! このじゃんけんは三回勝負で、アヤ様が二回勝てば、わたしに好きなセリフを言わせることができます! もちろん、えっちなことはダメです!」

「了解した。……それで、私が負けた場合は?」

「負けた場合は何もありません! もちろん、罰ゲームもないので、安心してくださいねっ!」

「デメリットはない、というわけだね」

「そのとーりです!」

「理解した。それじゃ、早速やろうか」

「はーい! じゃあ、行きますよー! 最初はぐー! じゃんけん――」

「「ぽんっ!」」

 

 一回戦目、わたしはぱー、アヤ様はちょき。

 

「むむっ、わたしの負けですね! 早速リーチです!」

「ふふ、今日は運がいいのかもしれないね。……二回戦目、お願いできるかい?」

「もちろんですっ。じゃあ、行きまーす! 最初はぐー! じゃんけん――」

「「ぽんっ!」」

 

 二回戦目、わたしはちょき、アヤ様はぐーでした。

 

「おめでとうございます! アヤ様の勝ちです!」

「やった」

 

 じゃんけんに勝利したアヤ様は、嬉しそうな表情を浮かべながら、小さくガッツポーズをしていました。

 

 一瞬、可愛い、と思ってしまいました。

 

 凛とした雰囲気を持っているから、あまりそう言うのをしないと思っていましたし。

 

 偏見はダメですね。

 

「それでは、言わせてみたいことをどうぞ」

「……もうすでに、考えて来てあるんだ」

「用意周到ですねっ」

「もちろん。今日はこのために来たと言っても過言ではなくてね」

「おー、気合十分ですねっ! それでは、リクエストをどうぞ」

「……お、お姉ちゃん大好き、って言ってもらえるだろうか? で、できれば、甘えた感じで」

「な、なるほど……」

 

 そう来ましたかぁ……。

 

 むぅ、やっぱりわたしが小さいから……だよね。

 

 昔から、妹みたいって言われてきたし、今更ではあるんだけど……それでも、ちょっとだけ複雑な気持ち。

 

 ……でも、NGなものじゃないし、これはお仕事。

 

 できるメイドさん(まだまだ新人)は、どんな時でも常にお仕事を優先するのです!

 

「わかりました。それじゃあ、い、行きますよ?」

 

 一度椅子から降りて、アヤ様の近くへ行き、わたしは覚悟を決した。

 

「いつでもいいよ」

「すぅー……はぁー……お姉ちゃん、大好きっ!」

 

 そして、深呼吸をした後、アヤ様のリクエストの通りに言葉を口にした。

 

 あぅぅ、結構恥ずかしいですね、これ……。

 

 顔が熱いです。

 

 っと、アヤ様の反応は……

 

「………………あ、まずい。鼻血出そう」

「えぇ!? だ、大丈夫ですか!?」

 

 顔を真っ赤にしながら、口と鼻を手で覆っていました。

 

 そして、鼻血が出そう、と。

 

「だ、大丈夫。ただ、あなたが可愛すぎて……うっ」

「大丈夫じゃないですよね!? というか、え、そんな理由で!?」

 

 わたし、そんなに可愛いんですか!?

 

 い、一応同性の方からだけど、それでもお世辞だと思っちゃう。

 

 でも、お世辞ならこんな風に言わないと思うし……うぅ、どうなんだろう……?

 

「あ、あの、大丈夫ですか? えと、ティッシュ、いりますか?」

「もらえるとありがたい……」

「わかりましたっ! ちょっと待っててくださいね!」

 

 わたしは慌てて裏へ駆け込むと、アヤ様のためにティッシュを持ってきた。

 

「……ありがとう。なんとか落ち着いたよ」

「それはよかったです……」

「……すまないね。危うく、流血沙汰になるところだったよ」

「いえいえ、気にしないでください」

「はぁ……なんだか申し訳ないな。こんな失態をしてしまうなんて。私、もう来ない方がいいかもしれないな……」

 

 心底がっくりした様子で、そう呟くアヤ様。

 

 わわっ、これはフォローしないと!

 

「そ、そんなことはないですよっ! アヤ様はとってもいい人です! 新人のわたしを指名してくださいましたし、何よりチラシを受け取ってくれましたから!」

「……でも、あんなセリフを言わせた挙句、鼻血を出したわけだぞ? さすがに、ドン引きなんじゃ……?」

「そんなことはないです! わたしはそーいうの気にしませんから!」

「……ほんとに?」

「はいっ! それに、アヤ様はわたしの初めてのお客様でもありますからねっ! たとえ変な体質でも問題ないです! アヤ様はいい人ですから!」

「の、ノエルさん……」

 

 全力で思ったことを告げると、アヤ様は感極まった様子に。

 

 どうやら、フォローはできたみたい。

 

「……じゃ、じゃあ、また指名してもいい、だろうか?」

「はいっ! 全然大丈夫ですよ! わたしも、アヤ様が来るのを待っていますね!」

「~~っ! そ、そう。じゃあ、また来ることにするよ」

 

 嬉しそうな表情を浮かべて、アヤ様はまた来ると言ってくれた。

 

 やった。

 

「ありがとうございます!」

「お礼を言うのはこっちの方だよ。……さて、私はそろそろ帰ることにしよう。お会計お願いしてもいいかな?」

「お会計ですね! それではレジへどうぞ」

 

 明るい笑顔と声で、そう言って、立ち上がったアヤ様とレジへ。

 

「では、100円のお釣りと、レシートと、スタンプカードです! それじゃあ、いってらっしゃいませ、ご主人様!」

「また来るよ、ノエルさん」

 

 こうして、わたしとアヤ様のファーストコンタクトは終わりました。



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3ページ目 日常のちょっとした変化

 それからと言うもの、わたしが出勤する日には、必ずアヤ様が来てくれるようになりました。

 

 所謂、お得意様というものですね。

 

 ニーナさんや、先輩の人たち曰く、新人で早速お得意様ができるのは珍しい事らしくて、ラッキーだって言ってました。

 

 さらに言えば、それが同性の相手であることも含めると、さらにラッキーなのだとか。

 

 そうなんだー、くらいに思っていたわたしだけど、同性のお得意様ができたのは素直に嬉しいことです。

 

 ……そう思うのには、ちょっとした訳があるんですが……。

 

 と、そんなわたしのお得意様的存在なアヤ様は、お店の常連さんたちにも覚えられていて、

 

「おかえりなさいませ、ご主人様!」

「ノエルさんを指名したいのだけど、空いている?」

 

 こんな風に、来店すると同時にわたしをすぐに指名することもあり、

 

『お、早速ノエルちゃんの信者が現れたぞ!』

『おー、ナイトだナイト!』

『ほんと、ナイトはノエルちゃん一択だよな~』

 

 ちょっとした有名人になっていました。

 

 常連さんたちの間では、アヤ様は『ナイト』と呼ばれていたりします。

 

 理由は色々あるんですけど、一番大きい理由としては、わたしに危害……というか、痴漢のようなことをしようとしてくる人がいると、

 

「何をしている。その人にいかがわしいことをしようとするんじゃない」

 

 その人の手を掴み、思いっきり捻り上げるんです。

 

 そして、痴漢のようなことをしようとした人は、慌てて逃げていく、と言った感じです。

 

 その時のアヤ様はちょっと怖い顔をするんですけど、わたしから見ればカッコよく見えちゃうんですよね。

 

 いい人です……。

 

 その他にも、わたしが転びそうになると、

 

「大丈夫? 怪我はないかな?」

「あ、は、はぃ、だ、大丈夫れす……」

 

 腰に手を回して抱きとめてくれるんです。

 

 凛とした雰囲気で、いかにも美人さんといった風貌のアヤ様なんですけど、中身はかなりイケメンなんです。

 

 下手な男の人よりもカッコよくですね、ついつい好きになっちゃいそうで……。

 

 も、もちろん、相手に迷惑がかかるからしないんですけど!

 

「ふふ、それならよかった」

 

 な、なんて素敵な笑顔……。

 

 き、気をしっかり持たないと……!

 

 ……とまあ、このようなことがよく見られるため、アヤ様は『ナイト』と呼ばれているんですね。

 

 わたしとしても、そういう風に思っちゃってたり。

 

 だって、カッコいいんだもん。

 

 もし、身近にそういう人がいれば思っちゃうと思うんです。

 

 え、思わない?

 

 わたしは思うんですっ!

 

 

 ……と、メイド喫茶で働き始めてからは、こんな風にアヤ様といる場合が多かったですね。

 

 シフトが入っている日は基本的に来てくれますからね。

 

 それに、プレゼントもくれたりするんですよ。

 

 そういうものは、家に持ち帰って大切にしていますとも。

 

 ……じゃあ、わたしのアルバイトのことをお話したら、次は日常生活についてですね。

 

 主に、学園でのわたしとか、お休みの日とか。

 

 必要ない、と思う人がいるかもしれませんが、一応冒頭のあれに関わってくると思うので、お付き合いください。

 

 

「んふふ~、やっぱりいいなぁ、こういうの……」

 

 ある日の昼休み、わたしは自分の机でマンガを読んでいました。

 

 わたしが通う学園は、基本的に自由な校風で、スマホやゲーム、マンガ等の持ち込みがありなんです。

 

 あと、使用許可も出てます。

 

 もちろん、休み時間限定ですけどね。

 

 この校風は、今時の若い人にとってはかなりありがたいものなので、実は結構倍率が高いんですよ、わたしが通う学園って。

 

 この辺りは、頑張って勉強してよかったと思ってます。

 

「ノエル、また顔が緩んでるよ?」

 

 机でマンガを読んでいると、優花ちゃんに注意されてしまった。

 

「わわっ、それはダメだね! 優香ちゃんありがとう!」

 

 わたしとしても、それはちょっと恥ずかしいのでありがたい限りです。

 

「いいよー。やっぱり、親友の緩んだ表情はあまり見せたくないからね、親友としては」

「優香ちゃんってたまに過保護だよね」

 

 優花ちゃんとは小学校からの付き合いで、かなり長いんです。

 

 そんな優花ちゃんは、昔からわたしに対して過保護になることがあったり。

 

 わたしが困ると、すぐに助けてくれるんです。

 

 転びそうになると、猛ダッシュで近づいて来て、転ばないようにしてくれたり、逆に転んでしまった場合は、どこからともなく取り出した応急セットで治療するんです。

 

 それ以外だと、わたしの髪色や目の色が原因でいじめられそうになった時なんかは、自分に飛び火することも承知の上で、問題の人に突っ込んでいったりね。

 

 あれはすごかったです。

 

「そうかな? でも、見ず知らずの男の人に、ノエルのだらしない姿とか見せられないしね! それに、ノエルはあっちでしょ?」

「そんなにだらしなくないんだけどなぁ。あと、優香ちゃんってわたしがあっちなのに、よく普通に接してくれるよね。バレちゃった時は焦ったよー」

「秘密の一つや二つ、誰にでもあるから。それに、今時そういうことで差別する人は炎上しちゃうからね。あたしも気にしない派だし、そういう形があるのも事実だもん」

「わたし、優花ちゃんと知り合えてよかったなぁ」

「あたしもだよー」

 

 持つべきものは理解のある親友。

 

「あ、そう言えば五時間目は集会だったよね?」

「そーだよ。……でもわたし、集会って苦手……」

「どうして?」

「だって、一番前なんだよ? 幸いここは講堂があるからいいけど、それでも見上げないとステージの上が見えないし、何より一番前だから結構目立っちゃうんだよね……」

「あー、一年生って前だもんね。仕方ないよ」

「むぅ、身長伸びないかなぁ……」

「ノエルはちっちゃいから魅力的なんだけど」

「わたし的には、生徒会長さんくらいになりたいんだけどね」

「今の生徒会長って、美人だもんね。まさに、大和撫子! って言わんばかりの容姿だし」

「うん。羨ましい限りです」

 

 この学園の今の生徒会長さんは、結構な美人さんです。

 

 優花ちゃんが言った通り、黒髪黒目の和風美人な人で、背は高く、スタイルもいいという、どこの物語のヒロインですか? と言わんばかりの人。

 

 当然、かなりモテているみたいで、かなりの頻度で告白されているのだとか。

 

 でも、一度もOKをしたことがなくて、容姿良し、性格良し、家柄良し、の三拍子揃ったような完璧人物じゃないとダメなのでは? とささやかれるほどです。

 

 わたしも集会時や学園内を歩いていると見かけることがあるけど、本当に綺麗な人でした。

 

 男女問わず慕われるような人で、色んな人に話しかけられていたのを見た時なんて、かなり眩しかったです。

 

 一個上の先輩と言うこともあり、憧れに近いかも。

 

「ちなみに、ノエル的にはどうなの? 生徒会長は」

「あっちの意味で?」

「あっちの意味で」

「んゅ~……ありと言えばありだけど、わたしなんかじゃ無理だと思うし、何より普通は成就しないと思うからね」

「まあ、いかにもノエルちゃんの好み、みたいな感じだもんね、あの人」

「そーだね。わたしも、ついつい妄想しちゃうもん。あ、もちろん、非実在の人だよ?」

「わかってるよー。……でも、人は見かけに寄らないって言うよね。ノエルなんて、まさかその容姿と性格であっちの人だとは思わないから」

「んーん、わたしは完全にそっちよりっていうわけじゃなくて、どちらかと言えば真ん中くらいだよ? まあでも、あっちにちょっとだけ傾いてるかもしれないけど」

「ほら、そういうのならあっち側だよ」

 

 くすくすとからかい交じりにそう言ってくる優花ちゃん。

 

 ……さっきから、あっちとか、そっち、と言っていますが、それの内容と言うのはですね、わたしの恋愛対象に対することなんです。

 

 実はわたし……同性愛寄りのバイなんです。

 

 突然とんでもない告白をしているかもしれませんが、本当なんです。

 

 と言っても、最初からそうだったわけじゃなくて、小学校中学年頃まではまだ普通だったんです。

 

 ちゃんと、恋愛対象が男の子だったんですけど、何と言うか、事件が起きまして……。

 

 事件とは言っても、わたしが男の子にいじめられて~、みたいな重いものじゃなくて、わたしのお家にあったマンガ雑誌が原因だったんです。

 

 わたしのパパとママは家にいないことの方が多くて、それを申し訳なく思っていた二人は、わたしが一人でも退屈しないように、っていろんなマンガや雑誌を買って、お家に置いておいてくれたんです。

 

 パパとママがいないのは当然寂しくて、でもお仕事とわかっていたから我慢していたわたしは、二人が買ってくれたマンガや雑誌を読んで過ごしていました。

 

 その中に、問題の物があったのです。

 

 その雑誌は、青年向けのマンガ雑誌で、内容は……全部百合物だったんです。

 

 わたしのパパとママは、そっちの方面に詳しくなくて、多分、女の子の絵がいっぱい書かれた拍子だったから、少女マンガの雑誌と間違えて買っちゃったと思うんですけど、そんなことを知らない、当時の無垢なわたしは、それを見て電流が走りました。

 

 ――こんな恋愛があるんだ!

 

 って。

 

 女の子って、男の子よりもませている子が多いので、中身がどういうものかを直感で理解しちゃったんですね。

 

 当時のわたしは、その雑誌が面白くて、全部のコマのセリフと絵を雑誌を見ないで言えるくらいになっちゃったんです。

 

 それくらい読んでいたんですね。

 

 それが原因だとは思うんですけど、気が付けばわたしは、女の子が恋愛対象になっちゃっていて……。

 

 でも、それが普通じゃないとわかっていたわたしは、それを隠していたんです。

 

 そんな時に、親友の優花ちゃんにこのことがバレちゃって、当時は慌てましたよ。

 

 もしかしたら、嫌われちゃうかも、って、

 

 でも、優花ちゃんは嫌うどころか、

 

『あたしはノエルちゃんを応援するよ!』

 

 って言ってくれたんです。

 

 まさか受け入れてもらえるとは思ってなくて、当時のわたしは思わずぽかーんとしました。

 

 だからこそ、わたしは優花ちゃんを親友と思っているわけなんだけどね。

 

 ちなみに、わたしは優花ちゃんを恋愛対象として見たことはないです。

 

 理由は、そーいうのとは違うと思っているのと、親友だからというもの。

 

 わたしは別に惚れっぽいわけじゃないからね。

 

 一応好みはあるけど、多分いないと思うから諦めてたり。

 

 かと言って、男の子の好みがあるかと訊かれると……思いつきません。

 

 漠然と、優しい人、くらいにしか思ってないんです。

 

「そう言えば、アヤさん、だっけ? ノエルのお得意様の」

「あ、うん。それがどーかしたの?」

「あの人って、ノエルがいる日は必ず来てくれるでしょ? もしかして、ノエルのことが好きなんじゃないのかなーって思ってたり」

「わたしのことを? あはは、さすがにないよー。多分、話しやすい、とか、初めて話したから、っていう理由じゃないかな? わたし、ちっちゃいもん」

「ちっちゃいは関係ないと思うけど……でも、他の娘たちの間でもノエルのことが好きなのでは? って噂になってるよ?」

「え、そーなの?」

 

 初耳なんですけど。

 

「うん。だって、いつも来てくれてるし、プレゼントも用意してくるし、ノエルが困っていたらいつもさらっと助けてくれるしで、明らかに好意を持ってそうでしょ?」

「そ、そーかな? ただ、優しいからとかじゃないの?」

「さすがに、優しいから、というだけじゃ、プレゼントは用意しないと思うよ」

「……んー、どうなんだろ? でも、アヤさんの素顔知らないからね、わたし」

「言われてみれば、たしかにあの人って、素顔を隠してるよね。帽子に眼鏡だもん。しかも、眼鏡のレンズは色がちょっと濃いし、帽子も少し深めに被ってるから余計に」

「そーだねー」

 

 アヤさんは、今優花ちゃんが言ったように、お店の中でも帽子と眼鏡を外さない。

 

 素顔を見られたくない理由でもあるのかもしれないけど、それでも気になっていたり。

 

 雰囲気や、少し見える顔立ちから、綺麗な人なんだろうなーって思うんだけど、素顔が見えないからその辺りは不明。

 

 いつかわかるかな?

 

「ちなみに、アヤさんからもしも告白されたら、ノエルはどうするの?」

「告白されたら? うーん……お友達からお願いする、かな?」

「あ、すぐにOKはしないんだ」

「うん。わたしが知っているのは、お客様としての姿だから。プライベート時の姿も知った上で、好きになりたいなー、なんて。まあ、さすがに告白されることはないと思うけどね」

「……それもそうだね。あ、そろそろ時間みたいだし、移動しよ」

「うん!」

 

 時計を見ると、たしかにちょうどいい時間だったので、わたしと優花ちゃんは講堂へと向かいました。

 

 

 それから講堂へ行き、ほどなくして集会が始まりました。

 

 まず最初に、司会の先生から挨拶が入り、その次に生徒会長さんの言葉となります。

 

 わたしの学園では、生徒会長は集会時に毎回何かを話さなければいけないため、結構大変な役職となっています。

 

 なので、やりたがる人が少なくて、場合によっては立候補者がいなくて大変な時期もあるそうなんですけど、今の生徒会長さんはなんと、一年生の時に立候補した人なんです。

 

 司会の先生に呼ばれて、今壇上に立っているのは、その生徒会長――麻柚葉綾乃さんです。

 

 肩口より少し下程の艶やかな黒髪に、夜空のような深い色の黒い瞳をした切れ長の目。

 

 唇は淡い桜色で、身長はそれなりに高く、160センチ前半くらいはあるかな?

 

 その上、スタイルもいいという美人さんで、かなりの頻度で告白されているとか。

 

 わたしもたまにその状況を目にすることがありましたしね。

 

 わたしとしましては、大和撫子な容姿や、凛とした雰囲気があったりなど、まさにわたしの理想の姿と言える麻柚葉先輩は、憧れだったりします。

 

 それに、麻柚葉先輩は文武両道を地で行く人で、成績優秀、運動もできる。

 

 性格も、生真面目なものの、時には柔軟性を見せることから、決して堅苦しいとか、めんどくさい人、とか思われていないんです。

 

 本当にすごいと思います。

 

「皆さんこんにちは。生徒会長の麻柚葉です。時間が経つのは早いもので、気が付けば季節は夏になりましたが、皆さんは真面目に授業を受けていますか? 近頃、外の暑さや、冷房の効いた教室で授業を受けているからか、ややだらけたような雰囲気が学園内に流れており、授業中に寝ている生徒や、真面目に授業を受けていない生徒が見受けられているようです。授業が面倒くさい、と思っている人は多くいるかと思いますが、出来れば授業は真面目に受けてほしいと思っています。とは言え、私に強制する権力などなく、成績が上がるも下がるも、結局は本人次第です。努力をした者は報われる、なんてよく言いますが、必ずしも報われるわけではありません。しかし、努力をすることは、決して無駄になるわけではありません。思いもよらないところで、その努力が役に立つ時もあります。もちろん、役に立たないこともあるでしょう。ですが、その時得た経験や知識は、必ずプラスとなるはずです。なので、どんなに面倒くさくとも、授業はしっかりと受けるようにしてください。特に、一年生と二年生は、卒業までまだあると油断すると思いますので。今のうちに頑張っておいた方が、後々地獄を見ないで済みますので。では、私からは以上です」

 

 優等生らしい言葉でした。

 

 しかも、どれもが共感できるものだったしね。

 

 努力をしたことは決して無駄にならない、その通りだと思います。

 

 わたしだって、小学生の頃から勉強を頑張って来たもん。

 

 それでこの学園に入学できたからね。

 

 ……それにしても、やっぱり麻柚葉先輩は綺麗だなぁ。

 

 わたしも、背が高ければ麻柚葉先輩みたいになれたのかな?

 

 ……自分のことながら、背の高い姿が想像できない。

 

 悲しい。

 

 はぁ、とため息を吐き、ふと顔を上げると、

 

「――っ」

 

 麻柚葉先輩と目が合った気がした。

 

 すると、麻柚葉先輩はなぜか顔を赤くして、すぐに視線を逸らした。

 

 あれれ? どうしたんだろう?

 

『やっべ、会長と目が合っちまった!』

『は? 今のどう考えても俺だろ』

『いやいや、俺だって』

 

 麻柚葉先輩の反応が気になって、首を傾げていたら、近くの男の子たちがそんなことを言い合っていた。

 

 それを聞いていると、目が合ったのは気のせいな気が。

 

 でも、たしかに合ったような気がするんだけど……まあいっか!

 

 集会に集中しよー。

 

 

 この時が原因なのかは不明ですけど、学園内で麻柚葉先輩とよくすれ違うことが多くなりました。

 

 最初は、何かを確かめるかのような感じだったんですけど、次第にそんな感じはなくなって、気が付けば、

 

「こんにちは」

「あ、こ、こんにちは」

 

 挨拶をされるようになりました。

 

 いきなり挨拶をされるのは、かなりびっくりする。

 

 憧れの先輩ではあるから余計に。

 

 しかも、『麻柚葉先輩と付き合えたらなぁ』みたいな妄想をすることもあるんだよね……。

 

 でも、どうして挨拶をされるようになったんだろう?

 

 それがわかりません。

 

 これが、生徒会のメンバーだったり、何らかの委員会の役職持ちであれば、月に一回ある定例会で関りがあるから、っていう理由で納得出来るんだけど……わたし、麻柚葉先輩とは接点がないんですよね。

 

 だからこそ、すごく疑問なわけです。

 

 ただ、向こうはかなり友好的……というか、何か別の感情が混じっているような気がしてなりません。

 

 わたし、どこかで眼を付けられるようなことした、のかな……?




 どうも、九十九一です。
 案外普通のラブコメ系作品よりも百合系の方が書きやすい、とか思い始めました。というかまあ、他の作品とかもなんだかんだ言って百合物ばかりなんですけどね。正確に言えばTS百合ですが……。
 そう言う意味では、今作が初の純粋な百合作品になるんですがね。うーん、ちょっと難しい。
 明日の投稿は10時くらいだと思いますので、よろしくお願いします。
 では。


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4ページ目 ラブレターからの告白

 麻柚葉先輩に対する疑問はありつつも、お仕事の方は順調。

 

 気が付けば一学期の期末テストを乗り越え、なんとか無事に夏休みへ。

 

 その間と言えば、

 

「やぁ、のえるちゃん」

「あ、アヤ様! おかえりなさいませ!」

「いつものをお願いしたいんだが、大丈夫かな?」

「はいっ! 甘々コースですね! では、こちらへどうぞ!」

 

 いつもアヤ様が来てくれて、わたしを指名してくれていました。

 

 アヤ様が来るようになってからすでに二ヶ月半ほど経過していて、その間にかなり打ち解け他結果、アヤ様はわたしのことを、さん付けから、ちゃん付けに自然と変わっていました。

 

 わたしも、その方がなんだか嬉しかったので、むしろ歓迎しましたけどね!

 

 綺麗な女の人にちゃん付けされるのって、結構嬉しいものです。

 

『いやー、のえるちゃんが入ってから二ヶ月半。初指名時から、マジもんの常連だよな~、ナイトは』

『だな。オレ、メイド喫茶で『いつもの』って頼んで伝わる人、初めて見たわ』

『ってか、それ以前にのえるちゃんが出勤する日は欠かさず現れて、確実に甘々コースを注文していくし、しかもプレゼントも週一ペースで用意してる時点で、ナイトの財力が気になるんだが』

『『『それな』』』

 

 そんな常連さんたちの会話が聞こえて来て、たしかに、とわたしも思いました。

 

 この二ヶ月半。 常連さんの言う通り、アヤ様は必ずわたしが出勤する日に現れて、その上このお店で一番高額な『甘々コース』を注文していきます。

 

 わたしとしては、アヤ様と一緒に過ごせるからとっても嬉しいんですけど、言われてみれば、財力が謎。

 

 見た感じ、最低でも高校生くらいに見えるんですよね、アヤ様って。

 

 ちなみに、『甘々コース』は六千円です。

 

 指名料もその内に含まれていて、その内一部が指名された人のお給料に上乗せされます。

 

 わたしはアヤ様というお得意様がいるので、最初のお給料が平均より多いそうです。

 

 ……わたしも、ちょっとびっくりした金額が振り込まれてて、思わずミーナさんに『間違いじゃないんですか?』って訊いちゃったくらいです。

 

 ……っとと、話が逸れました。

 

 一回の注文で、六千円もするのに、それをわたしの出勤日に必ず注文をしてくるのって、よくよく考えたら結構異常なんじゃ……?

 

 だってわたし、基本的に周五日で入れてるんですよ……?

 

 しかも、常連さんが言ったように、週に一回はプレゼントを用意してきますし……。

 

 わたしを指名してくれるのは嬉しいし、プレゼントもすごく嬉しいんだけど……さすがにこの頻度は心配になっちゃいます。

 

 ……ちょっとだけ訊いてみよう、かな。

 

「あの、アヤ様に訊きたいことがあるんですけど、いいですか?」

「ん、ああ、構わないよ。何でも訊いて欲しい」

 

 よかった、問題なさそう。

 

「ありがとうございます。……えっと、ですね。その、アヤ様って、いつもわたしを指名してくれてるじゃないですか?」

「そうだね」

「しかも、週に一回、プレゼントも持って来てくれますし……」

「そうだね」

「……だから、無理をしているんじゃないかな、って、心配になっちゃいまして……」

「心配? ……あぁ、金銭的なことかな?」

「は、はい。えと、どう、なんですか? も、もしかして、借金してる、とか……」

 

 心の底から心配していることなので、ストレートに尋ねてみました。

 

 アヤ様は一瞬だけきょとんとしましたけど、すぐにふっと笑みを浮かべました。

 

「あぁ、なるほど、そう言う心配をしていたんだね。ふふっ、のえるちゃんは優しいな。でも、大丈夫だよ。全部私のポケットマネーさ」

「ほ、本当、ですか?」

「本当だよ。……こう見えて、私の家は由緒ある家柄でね。そうだから、と言うわけではないのかもしれないが、世間一般的に言う、社長なんてものを父がしているんだ。そんな父だから、私も家業が気になったし、何より自分でお金を稼ぎたいと思った私は、高校生になってから家業を手伝っているんだよ。そして、それで得たお金を、投資で増やしている、というわけさ」

 

 なんて、何でもない風でそう言ってきました。

 

 ……え、な、なんですか、そのハイスペックっぷりは。

 

 家はお金持ちで、お父さんとかからお金をもらっているわけじゃなくて、お仕事を手伝うことでお金を稼いでるの……?

 

 この発言で、周囲のお客様方もざわついています。

 

 ……ま、まって? アヤ様って、いくつ、なんだろう?

 

「あ、あの、アヤ様って、おいくつなんですか……?」

「私? 私は十七だぞ」

『『『!?』』』

 

 アヤ様の口から飛び出した情報に、お店の中がさらにざわついた。

 

 ……も、もしかしてわたし、とんでもない人がお得意様になってる、の?

 

「お、驚きました……。一個上、なんですね」

 

 アヤ様の衝撃発言から最初に口に出た言葉はこれでした。

 

 …………ま、まあ、お金があるからなんだ、っていうお話、ですからね。

 

「と言うことは、のえるちゃんは十六歳なのかい?」

「そーですよ。高校一年生になってから、そんなに経ってないぴちぴちの十六歳です!」

「ふふ、ぴちぴちか。のえるちゃんくらいの容姿だと、それよりも下に見られるのではないかな?」

「……まあ、そうですね」

「あぁ、拗ねないでほしい。別に、バカにしているわけじゃないんだ」

 

 ぷくぅっ、と頬を膨らませて拗ねたように話すと、アヤ様はちょっとだけ慌てた様子を見せて、すぐに訂正しました。

 

「じゃあ、どうしてですか?」

「前も言ったかもしれないが、私としてはのえるちゃんのような人が羨ましくてね」

「あ、そういえば前に言ってましたね。たしか、自分は平均よりも背が高くて、口調も堅いから、可愛いものが似合わない、とかなんとか」

「そう。私はそう言うとは無縁でね。だからこそ、そう言った可愛らしい物が似合うのえるちゃんが羨ましいんだ」

「な、なるほど」

 

 ……あれかな、わたしが背が高くて綺麗な人に対する羨望と同じ感じ、かな?

 

 意外と、アヤ様も苦労して来たのかも。

 

「それに、家の方針で少し武術の心得があってね。下手な男の人よりは強いと自負している」

「わ、それはすごいですね!」

「そうだろうか? 私としては、女としてどうなんだろう? と思うんだが……」

「いえいえ! わたしはアヤ様の人の方が好きですよ! カッコいいですし!」

「……そ、そう。そう言ってくれると嬉しくなるな」

 

 かぁっ、とちょっと頬を赤くさせながら、嬉しそうに笑うアヤ様。

 

 わわ、なんだか見惚れちゃう……。

 

 眼鏡と帽子であまり素顔はよくわからないけど、やっぱりアヤ様って綺麗。

 

 どこか凛とした雰囲気があったのは、家がお金持ちだから、なのかな?

 

「まあ、最初こそ、後ろ向きな気持ちにはなったが、今ではのえるちゃんが困っている時に助けられるし、こんな育て方をしてくれた両親には感謝しているけどね」

 

 パチッ、とお茶目にウインクされた。

 

 ズキュン!

 

 ……うん、普段は少し堅い話し方の綺麗な人が、お茶目にウインクすると、なんというか……ギャップ萌えが……。

 

 ど、どーしよう。ちょっとドキドキする!

 

 や、やっぱり美人な人はすごい……。

 

 なんて、わたしが思っていたら、

 

 く~……

 

 という、可愛らしい音が鳴った。

 

「あぁ、すまない。どうやら私の体が食事を欲しているらしい。早速作ってきては貰えないだろうか?」

「あ、はいっ! すぐにお持ちしますね!」

 

 いけないいけない。

 

 お客様であるアヤ様を待たせるのはまずいですしね!

 

 

 こんなことがあったり。

 

 ちなみに、この一件の後、さらにアヤ様と仲良くなりました。

 

 どーしよう、ちょっとずつアヤ様に惹かれている自分がいる気がします……。

 

 なんて思う、涼しくなった秋の日。

 

 ただ、本当に好きなのかはわからないですし、何より仲のいいお友達感覚なんじゃないかな、アヤ様って。

 

 だからこそ、わたしは我慢をしないといけないのです。

 

 それに、麻柚葉先輩にも惹かれちゃってると言うか……。

 

 実は、二学期が始まってからと言うもの、ちょこちょこ麻柚葉先輩とお話をするようになったんです、わたし。

 

 廊下で挨拶をするだけの関係だったんですけど、今ではほんのちょっとだけ、世間話的なことをしたり、学業のことを話したりなどなど、色々。

 

 うーん、わたしって惚れっぽい、のでしょうか?

 

 それかもしくは、浮気性?

 

 ……いやいや、さすがにない、よね?

 

 そもそも、今まで恋なんてしたことないもん。

 

 わかりっこないから、多分気のせいでしょう。

 

 と、まあ、わたしの日常はちょっとずつですけど、こうして変化しているんです。

 

 

 それからもアヤ様との関係は続きつつ、学園では麻柚葉先輩と日常会話をしたりと、わたしとしてはかなり充実した生活だと思います。

 

 好みな人と一緒にいられるのって、結構幸せだもん。

 

 ……なんて思うわけですけど、やっぱり、わたしみたいなちんちくりんに好かれるのは、アヤ様としても嫌なんだろうなぁ……。

 

 九割九分九厘諦めているわたしは、少しの未練を残しつつも、そのまま生活しました。

 

 

 そうして、入学してから一年が経過し、二年生に進級したその日。

 

 それは起きました。

 

 

 今日と言う日は、春休み明け最初の登校日で、始業式と入学式が行われる、一年の最初の日とも言えます。

 

 しかも、今年から二年生になるので、結果として、先輩と後輩が同時にいる立場、となるわけです。

 

 とは言っても、わたしは初見で先輩と思われることはないので、結局去年と変わらないんですけどね……。

 

「ノエルー! ……何してるの?」

「あ、優香ちゃん。えと、自分の不運な運命を嘆いていた、かな」

「先輩に思われない、っていうあれ?」

「それです」

 

 さすが優香ちゃん。

 

 長年一緒にいるだけあって、わたしの嘆きはお見通しらしいです。

 

 すごい。

 

「まあ、言えばわかってくれるし、大丈夫だよ!」

「……そーだといいんだけどねぇ……」

 

 過去に、『飛び級ですか?』としょっちゅう訊かれるわたしとしては、そう思ってくれる人はいないんだろうなぁ、ってマイナスに考えちゃいます。

 

 やっぱり、身長は大事だよ……。

 

「とりあえず、帰ろ帰ろ! あたし、行きたいところがあるんだー」

「うん、帰ろ」

「じゃあ、行こう! 美味しいパンケーキのお店ができたからね!」

「わ、それは楽しみ!」

 

 パンケーキ!

 

 自分で作ったりするけど、やっぱりプロのものが食べたくなるわけですからね!

 

 どんなお店かな?

 

 思わずスキップしてしまいそうなほどにうきうきなわたしは、周囲から来る生暖かい視線には気づきませんでした。

 

 

「でね、そのパンケーキがかなりふわふわで」

「ふむふむ。優香ちゃんのお話を聞いてたら、お腹空いてきちゃった。早く行こ……って、あれ?」

 

 パンケーキのお話をしながら昇降口へ行き、自分の下駄箱(運が悪いことに一番上。でも、わたし専用の踏み台があるので問題なしです)を開けると、何か手紙らしきものが入っていた。

 

「これって……」

「どうしたの? ノエル。……って、それってラブレター?」

「なのかな……?」

 

 わたしが手にしている手紙を見て、優香ちゃんは不思議そうな顔をした。

 

 ただ、優香ちゃんが言うように、どうやらラブレターみたい。

 

 だって、ハートのシールで留められてるんだもん。

 

 今時こんなにベタなラブレターってあるんだ。

 

「……ノエルに渡すとなると、相手はロリコン……」

「何か言った?」

「いえ、なんでもないです!」

「それならいいです。……とりあえず開けるね?」

「うん、あたしも見たい」

 

 興味津々と言った様子で、手元を覗く優香ちゃん。

 

 優香ちゃんに見られつつ、わたしはシールを剥がして中の手紙を取り出した。

 

『十一時半に、学園裏の桜雨通りに来てください。大事なお話があります』

 

「……シンプル」

「みたいだね。……でも、この筆跡、男の子じゃなさそう」

「うーん……たしかに、そう……かも?」

 

 優香ちゃんの言う通り、わたしの下駄箱に入っていたラブレターらしき手紙に書かれた文字を見る限りだと、あんまり男の子が書いたっていう気がしないんです。

 

 ちょっと丸っこくて、かなり綺麗な文字と言いますか……。

 

 や、もちろん、そういう筆跡の男の子がいるかもしれませんけど……正直な話、男の子がハート型のシールで封をするのって……ほとんどないと思いますし……。

 

 そうなると、相手は女の子、になるのかな?

 

 でも……

 

「結構簡素だよね。こう言うのって、大抵はもっと書かれてると思うんだけど……これを書いた人が、結構合理的な人なのかも?」

 

 優香ちゃんの言う通り、内容は本当にシンプル。

 

 場所と時間、目的しか書かれていないタイプ。

 

 でも、物語に出てくるラブレターって、こんな感じのものが多いと思うし……どうなんだろう?

 

「それで、ノエルはどうするの?」

「もちろん行くつもりだよ? せっかくこうしてお手紙を書いてくれたんだもん。それに……相手が女の子だったら、かなり嬉しいし……」

「そっちが本音だね?」

「だ、だって……」

「うんうん、わかってるよ。ノエルちゃんは、女の子の方が好きなんだもんねー?」

 

 うぅ、この何でもわかってるよー、と言わんばかりの生暖かい表情を向けられると、ちょっと恥ずかしくなるよ……。

 

「じゃあ、あたしは適当に校門の辺りで待ってるよ」

「うん、ごめんね」

「いいよいいよ。あたしとしても、ノエルが幸せになれる道を歩んでくれれば、って思ってるしね」

「優香ちゃん……」

 

 どうしよう……優香ちゃんが、本当にいい人過ぎで泣きそうです……。

 

 どこかのガキ大将さんみたいじゃないですけど、思わず『心の友よー』なんて言っちゃいそうです。

 

「とりあえず、女の子だといいね」

「理想はそうだけど、多分男の子じゃないかなぁ」

 

 むしろ、それが普通なんだから、女の子が来るわけないよね。

 

 仮に、同じ学園に、わたしと同じ同性愛者の人がいたら、相当びっくりする自信があります。

 

 どういう確率してるの? って思うもん。

 

「まあ、どちらにせよ、頑張ってね」

「うん! ……って、頑張るのはわたしよりも、相手の人だと思うけどね」

「あはは、そうだね。……じゃあ、あたしは先に言って待ってるねー」

「すぐに追いつくからー!」

「ゆっくりでいいよー!」

 

 気を遣ってくれたのか、最後にそう言って優香ちゃんは校門の方へ走り去っていきました。

 

「……うん、行こう」

 

 男の子でも、女の子でも、告白されるとわかると、ドキドキしちゃうね。

 

 ……どんな人なんでしょうか?

 

 不安と期待を抱きながら、わたしは待ち合わせ場所へと向かいました。

 

 

 そして――

 

「あなたのことが好きだ。私と、付き合ってくれないだろうか?」

 

 と。

 

 待ち合わせ場所にいた人――麻柚葉先輩が、シンプルでありながら、それでいてストレートに気持ちを、告白と言う名の好意を伝えるセリフを、わたしに向かって言ってきました。




 どうも、九十九一です。
 同時期に出したTS物の方が倍くらい受けているという状況を見ていると『私、TSしか向いてないのか?』と思えて来ます。マジで何なんだろう?
 まあ、そんな愚痴は良いとして、私としてはこういう純粋な百合物は書いてみたかったので全然OKなんですけどね。
 ちなみに、今書きあがっているのはほぼここまでです。一応この先も書きあがって入るんですけど、私の中での投稿基準の文字数を超えていないので、出せないです。まあ、次の話は追々。
 では。


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5ページ目 返事と悩み

 ――ということだったよね!?

 

 え、な、なに!? どういうことなんですか!?

 

 た、たしか、わたしが指定場所に行ったら、なぜか麻柚葉先輩がいて、誰かと待ち合わせかなー? なんてのんきに考えていたら、まさかのお手紙の相手が麻柚葉先輩だとわかって……え? え!?

 

「あ、あああああのあのあのあのあの…………だ、誰かと勘違いしている、なんてことはない……ですか?」

「む、どうしてそう思うのかな?」

「だ、だって、わたしみたいなちんちくりんのことが好きになる人なんていないと思いますしそもそも女の子なのにわたしを好きになってくれる人なんていないと思いますしそれに麻柚葉先輩みたいに綺麗で大人な雰囲気を持ってるすごい人がわたしを好きになるはずがないと思って……」

「……いや、私は君のことが好きなんだ」

「う、嘘、ですよね……?」

「なぜそこまでして疑うのかはわからないが……本気なんだ。だから、本気で交際を申し込んでいる」

「……」

 

 あ、あの、全生徒の憧れの、麻柚葉先輩がわたしのことを……?

 

 ぎゅ~~~~っ、と頬を引っ張ってみると……

 

「いはい……」

 

 痛みがありました。

 

 我ながら、なんともベタな方法だなぁ、なんて現実逃避気味に考えていると、麻柚葉先輩がいつもの凛とした表情をしつつも、どこか不安と期待に揺れる様子も併せ持った表情を浮かべながら言いました。

 

「急かすようで申し訳ないが……返事を聞かせてもらえないだろうか?」

 

 と。

 

 ……へ、返事……返事、ですか。

 

 ……よ、よく考えるんです、わたし!

 

 相手は全校生徒の憧れの麻柚葉先輩。

 

 本来、わたしなんかじゃ釣り合わない人。

 

 その上、わたしと同じ女の子。

 

 現実的に考えれば、何かの罰ゲームとかドッキリとかだと思いますけど……

 

「……」

 

 この真剣な眼差しを見る限り、絶対にそういうものではないと思えて来ます。

 

 多分、本気、なんでしょうね。

 

 だからこそ、真剣に考えないといけません。

 

 …………わ、わたしとしては、普通に付き合ってもいいかな、とは思うんですけど、わたしはまだ麻柚葉先輩との付き合いはかなり短いです。

 

 関わり合いだって、廊下ですれ違った時にちょっとした世間話をするくらいですし……。

 

 むむむぅ~~~……。

 

 ……とりあえず、

 

「えと……わたしは麻柚葉先輩のことをあまりよく知らないので……」

 

 と、ここまで言いかけたところで、麻柚葉先輩が目に見えて落胆の様子を見せました。

 

 あわわっ!

 

「あ、べ、別に断るわけじゃなくて……えと、えと……お、お友達からでお願いしますっ!」

 

 麻柚葉先輩が酷く悲しそうだったので、わたしは慌ててそんなことを口走っていました。

 

 ……わ、わたし、なんてベタな返しをしたんだろう……?

 

「い、いいのかい?」

「は、はい。えと……ま、麻柚葉先輩さえよければ、ですけど……」

「……いや、ありがとう! 嬉しいよ!」

「――っ!」

 

 麻柚葉先輩が普段見ることのない満面の笑みでお礼を言ってきました。

 

 それがあまりにも魅力的で、わたし好み笑顔で……思わず、顔を真っ赤にして顔を逸らしてしまいました。

 

 はぅぅっ、み、魅力的すぎるよぉ~……!

 

「どうしたのかな?」

「あ、い、いえっ! ちょっと目にゴミが入ってしまい……」

「む、それはいけない。君のその綺麗な瞳にゴミが入るのは、看過できないな。ちょっと見せてくれないかな?」

「ふぇ!?」

 

 くいっと顎を持ち上げて、わたしの目を覗き込んできました。

 

 はわわわわっ! ち、近い! 近いよぉ!

 

 しかも、い、いい匂い……。

 

 うぅ、綺麗な人って、匂いもいいのかなぁ……?

 

「……うん、大丈夫そうだね。……っと、すまない。顔を近づけて過ぎた。不躾だったかな?」

「い、いえっ、大丈夫です! ……むしろ、ちょっと嬉しかったと言いますか……」

「ん、何か言ったかな?」

「あ、え、えっと、こ、こっちのことです!」

「ふふ、そうか」

 

 はわ~……どうしよう、本当に綺麗な人過ぎますよぉ……。

 

 やっぱり、麻柚葉先輩はすごいなぁ。

 

「……っと、そろそろ行かなければ」

「あれ? どこか行くんですか?」

「まあね。ちょっとした私用さ。行きたい場所があって、そこに行くんだ。毎週五回、欠かさず行く場所でね。私のお気に入りの場所なんだよ」

「へぇ~、そんな場所があるんですね。いいところなんですか?」

「それはもう、とてもね。……それじゃあ、私はそろそろ失礼するよ」

「あ、は、はいっ。えと、お、お気をつけて」

「君の方こそね。……さっきの返事、とても嬉しかったよ」

「あ、い、いえ。わたしの方こそ、好きだと言ってくれて嬉しかったですよ」

 

 今にも爆発してしまいそうなほど、心臓がすごい速さで鳴っているのを努めて無視して、わたしは心の底からの笑顔を浮かべ、麻柚葉先輩にそう言いました。

 

「――っ。君は、本当にいつも、天使みたいだね」

 

 かぁっ――と顔を赤くさせた麻柚葉先輩は、片手で顔を覆いながら、少しだけ声を震わせました。

 

 て、天使って……。

 

「あぁ、そうだ。これ、君に渡しておくよ」

 

 不意に、制服のポケットから何かの紙きれを取り出すと、わたしに手渡してきました。

 

 なんだろう? これ。

 

 そこには、小文字のアルファベットと数字で構成された文字列が書かれていました。

 

 見たところ、何かのアドレスみたいだけど……。

 

「これは?」

「私のLINNのIDさ。友人から始めるのであれば、連絡先の交換は当然だと思うからね」

「……え、い、いいんですか!?」

「もちろん。私が好きでしていることだ。できれば、登録してもらえると、私は嬉しい」

「しますっ! 家に帰ったらすぐにしますっ! なんでしたら、今ここでしてもいいくらいですっ!」

「そこまで食い気味にされるとは思わなかったな。……まあ、そうやって前向きな反応を示してくれると、私も嬉しいけどね。……っと、いけない。そろそろ行かなければ。では、また明日、学園で会おう」

「あ、はいっ! また明日、です!」

「あぁ。それでは」

 

 そう言って、麻柚葉先輩は去って行きました。

 

 その背中は、今にもスキップしてしまいそうなほど、歓喜に包まれていたような気がしました。

 

「……あ、わたしも優香ちゃんの所に行かないと!」

 

 ぽーっと去って行く麻柚葉先輩を見送ってから、わたしは待たせている親友の優香ちゃんのことを思い出して、たたっと走って校門へ向かうのでした。

 

 

「優香ちゃーん!」

 

 嵐のような時間の後、わたしは歓喜の気持ちを隠そうとしないで、優香ちゃんのところへ走りました。

 

 校門に背中を預けてスマホを弄っていたけど、わたしの声に気が付くとスマホをポケットにしまって手を振ってくれました。

 

「お待たせっ」

「待ってたよ。すっごい嬉しそうだけど……とりあえず、カフェに行こっか。そこで話を聞くってことで」

「うんっ! 楽しみ~」

 

 

 優香ちゃんと一緒に、今話題になっているお店へ。

 

 お昼時に引っかかってはいたけど、幸いすんなり入ることができて、わたしたちは早速件のパンケーキを注文。

 

 軽い雑談をして待ちました。

 

 大体十分くらいでパンケーキと飲み物が来て、早速食べる。

 

「あー……んっ。んっ~~~~! 美味しいっ!」

「うんうん、これは美味しいねぇ」

 

 一口口に入れると、すっと溶けるように消えて、優しい甘さが口いっぱいに広がりました。

 

 その美味しさに、思わず子供のように手足をバタバタさせちゃったくらいです。

 

 このパンケーキ、すごいっ!

 

「優香ちゃん、よく知ってたね、このお店」

「ふふん。あたしは情報通だからね。お客さんからこういう情報をもらってるの」

「あ、なるほど。そういえば優香ちゃん、よくお客さんと話してるもんねっ」

「そそ。おかげで、美味しいお店とか知れるんだよねー。隠れた名店とか」

「おー。わたしも訊いたら教えてもらえたりするかな?」

「教えてもらえるんじゃない? ノエル可愛いし、マスコットみたいだから」

「むむぅ~……もしかしてわたし、お店のお客さんから、そー思われてるの?」

「そうだね」

「あぅ……そっか……」

 

 わたし、どこへ行ってもマスコットとしか思われてないのかなぁ……。

 

 ちっちゃいし……。

 

 顔立ちだって、自分で言うのはなんですけど、可愛い系から変わりませんし……。

 

 綺麗系の人が羨ましい限りです。

 

「あれ? 落ち込んでるように見えて、いつもより全然ダメージなさそうだね。何かいいことあったの?」

 

 あまり落ち込んだ様子に見えなかったみたいで、優香ちゃんが不思議そうにしていました。

 

「あ、そうだったっ。聞いて聞いて、優香ちゃんっ」

「う、うん、どうしたの? 随分テンション高いけど」

 

 いきなりテンションが高くなったわたしを見て、優香ちゃんがちょっと引きました。

 

 あ、いけないいけない。

 

 もうちょっとテンションを抑えて……。

 

「じ、実はね、実はね……」

「うん、実は?」

「……告白されちゃったのっ!」

「あ、やっぱりラブレターだったんだ。ノエルがそんなに嬉しそうにするっていう事は、女の子だったの?」

「うんっ」

「へぇ~、よかったじゃん、ノエル」

 

 優香ちゃんはすごく優しそうな笑顔でそう言ってくれました。

 

 昔から知っていたから、こういう時自分のことのように喜んでくれて、わたしはいいお友達を持ったんだなぁ、ってとっても嬉しい気持ちになります。

 

「それで、相手は?」

「麻柚葉先輩っ!」

「へぇ~、麻柚葉先輩………………え、麻柚葉先輩!?」

 

 しばらく微笑んだ優香ちゃんだったけど、それから少しの間を空けて素っ頓狂な声を挙げました。

 

 あ、驚いてる。

 

「うんっ、麻柚葉先輩!」

「じょ、冗談ではなく?」

「ほんとだよっ!」

「幻でも、嘘告白でも?」

「うんっ、全部現実だったよ!」

「ま、マジかー」

「マジです!」

「そっか……あの麻柚葉先輩にね…………ふふっ、よかったね、ノエル。じゃあ、付き合う事にしたの?」

 

 驚き顔から一転して、にこにこ顔を浮かべてそう訊いてくる優香ちゃん。

 

 その質問を受けたわたしは、一瞬うっ、と言葉を詰まらせました。

 

「あれ? もしかして……OKしなかったの!?」

「じ、実は……そ、そーなんです……」

「何やってるのノエル! ノエル、ずっとそういう人と付き合いたいって言ってたじゃん」

「あぅっ、そ、そーなんだけどぉ~……」

「そうなんだけど、何?」

 

 あぅぅ、なんだか責められてるみたいだよぉ……。

 

 しかも、優香ちゃん目がマジだし……。

 

「……え、えと……ま、まだ麻柚葉先輩のこと、わかってないから、えと、あの……お、お友達から、って……」

「なるほど……ノエルらしいというかなんというか……で、先輩は落ち込んだ?」

「う、ううん。最初、わたしが断り文句みたいなことを言った時は落ち込んでたんだけど、慌ててお友達からって言ったら、とっても嬉しそうにしてたよ! もうね、わたしの心にずきゅんっ! って!」

 

 その時のことを思い出して、身振り手振りでわたしの嬉しい気持ちを伝えました。

 

「あー、はいはい。それほど嬉しかったんだねー、おめでとー」

「あ、あれれ? なんで優香ちゃん、適当なの……?」

 

 そしたら、なぜか呆れ笑いのような顔と一緒に、適当な言葉で返されました。

 

 なんで?

 

「いやさ……あんなに付き合いたい、みたいな感じのノエルが、まさか『お友達からお願いします!』なんて、定番のセリフを言うとは思わなくてねぇ。そこはさ、『ぜひぜひお願いしますっ!』くらい行った方が良かったんじゃないの?」

「あぅっ」

「ノエルってば、昔から変なところで押しが弱いし。逃げられちゃうかもよ?」

「はぅあっ!」

「そうならないために、OKしちゃったほうが良かったんじゃないの?」

「はぅぅぅっ!」

 

 容赦のない優香ちゃんの正論に、わたしは胸を抑えた。

 

 た。たしかに、わたしはその……押しには弱いかも……。

 

 相手を優先しちゃうあまり、自分が疎かになっちゃうと言いますか……うぅ。

 

「……まあでも、ノエルの気持ちはわかるけどね」

「……優香ちゃん」

「まだよくわかっていない相手に告白されて、いきなり『OKです!』なんて言うのは相手が好きだったか、もしくは誰でもいいかの二つだしねー。けど、今回のは世間一般的に見ればかなり特殊だし、相手だって本当は騙しているのかも? なんて思いそうだしね」

「う、うん、実はそーなの……。だ、だって、わたしはともかく、会長さんがその……わたしと同じように、同性が好き、なんて思わなかったんだもん……」

 

 文武両道、才色兼備で、男女問わず人気な麻柚葉先輩だからちょっと予想外と言いますか……。

 

 むしろ、想像できた方がすごい気がするし……。

 

「んー……ねぇ、ノエル」

「……なぁに?」

「先輩が告白してきた、ということで一つ確証が持てたことがあるんだけど」

「確証?」

「うん。それがさ、先輩にはある噂があってね。それも、それなりの信憑性があるみたいで」

「噂? わたし、聞いたことないけど……」

「まあ、ノエルはあんまりそういうのに興味ないしね」

「噂は噂だもん」

 

 それ以上でも、それ以下でもないです。

 

 でも、火のない所に煙は立たぬ、とも言うし、何かあるのかな?

 

「それでそれで、噂ってなぁに?」

「どうやら先輩、百合趣味なんじゃないか、っていう噂があったの」

「……ふぇ? そーなの?」

 

 優香ちゃんの口から出てきた噂の内容に、わたしは思わず面喰いました。

 

 だって、あの凛とした美人さんな麻柚葉先輩が、百合趣味だなんて……って思っちゃうし……。

 

「そうみたいでね。なんでも、微妙に男子と女子で雰囲気の柔らかさが違ってたみたいなんだよね。他にも、カバンの中から百合系のマンガやラノベが見つかったとか」

「わわ、それはたしかに噂になりそう……」

 

 生徒会長っていう肩書だし、そういったことが少しでも露呈すれば、噂になっても不思議じゃないね。

 

 一般の生徒さんだったらそうでもないのかもしれないけど、有名な人ともなれば話は別。

 

 噂は立ちやすい。

 

「でも、それはあくまで噂だったんだけど……今回、ノエルに告白してきたっていう事は、どうやら今までの噂は事実だったみたいだね」

「……かも、しれないね」

「だからまあ、相手がノエルと同じ恋愛対象、って言う部分は結構信憑性高いかもね。実際、実行に移してるわけだし」

「……うん」

 

 優香ちゃんの言う通り、わたしへの告白を考えたら本気に思えます……。

 

 だって麻柚葉先輩、とっても真剣な目をしてたもん。

 

 きっと、すごく勇気を込めてしてくれたんだと思うし……。

 

 そう考えたら、すごく嬉しい。

 

 ……でも。

 

「というわけで……ノエルは今後、友達付き合いから始めるんだよね?」

「うん。そのつもりだよ。それに……」

「それに?」

「……アヤ様もその……気になってるし……」

 

 わたしは、告白を受けなかったもう一つの理由を話しました。

 

「あー、ノエルの常連のナイト」

「うん。だから、ね。わたし……迷っちゃってて……どーしたらいいかなぁ、って」

 

 たしかに、会長さんから告白されたことは、今までのわたしの人生で一番嬉しい出来事でした。

 

 でも……わたしは、アヤ様にも惹かれちゃってて……。

 

 アヤ様はいつもわたしに会いに来てくれます。

 

 店長さんたちも言っていたけど、ああしていつも来てくれる人はかなり稀だそうです。

 

 だからこそ、わたしは幸運なんだって。

 

 もちろん、プレゼントを貰ってるから、とか、わたしに貢いでくれるから、なんて理由で惹かれたわけじゃなくて、顔は見えないけど、優し気な微笑みとか、いつも助けてくれる王子様みたいな性格だから、わたしは惹かれたわけなんです。

 

 お金じゃなくて、性格です。

 

 お店で会うだけの関係とはいえ、アヤ様との関係は一年も続いてるからこそ、惹かれちゃってると言いますか……。

 

 うぅ、わたしはどうすれば……。

 

「なるほどねぇ。…………まあ、どちらも同じように接してみればいいんじゃない?」

「それじゃあ、二股かけよーとしてるみたいだよ……?」

「そうはならないと思うよ、あたしは」

「そ、そー?」

「うん。迷うからこそ、お互い同じように接するしかないんじゃないかな? そうやって、自分の気持ちを確かめることで、どっちが好きかハッキリすると思うんだよね」

「な、なるほど」

「だからさ、どっちも同じように接してみればいいと思うよ」

「…………うん。わかったよ。そうしてみるっ」

「そうそう。その意気! じゃあ、ちゃちゃっと食べて、バイトに行かないとね」

「うんっ!」

 

 お仕事のためにも、腹ごしらえだねっ!




 どうも、お久しぶりの方はお久しぶり、他作品を呼んでいる方はどうも、九十九一です。
 この作品が最後に投稿されたのは、まさかのまさか、約七ヵ月前です。いや、本当に遅くなってすみません。
 読んでいる方は少ないかもしれませんが、それでも待たせたことには変わりないと思うので、マジで申し訳ない。
 久しぶりに書いたため、正直ノエルのモノローグとか口調、テンションなんかを忘れていたため、読み返しながらの執筆でした。正直、大変でしたね、マジで。
 まあ、今後はなるべく早く投稿できたらなーとは思います。
 次の投稿は早くて一ヶ月以内ですね。さすがに、七ヵ月更新停止はない……と思いますので、まあ、よろしくお願いします。
 では。


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