ロトの勇者として (火桜 葵)
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プロローグ

 ある王国での朝の一幕。国民の喧騒にまみれた城下町を歩く1人の青年。

 彼の名はカイン、この王国の王子の1人だ。そんな彼に国民たちは目を合わせれば気軽に挨拶を交し雑談を混じえ、彼に果物や食べ物を投げ渡す。

 自身の住まう国の王子への対応には到底見えない行動だが、当の本人であるカインはそれを喜ばしいことのように笑顔で受け入れていた。

 

 国民からのこの気心の知れた友人のように接してくるこの日常は彼にとって心地のいいものだからだ。

 しかし、王子であるはずの彼がわざわざ城下町まで降りてくるのはなぜか? 

 それは少ししたらわかる。国の喧騒は人々の声から、鉄を叩き上げるカッーンといった子気味のいい音に変わる。

 心做しか1歩ごとに空気が熱を帯びるように感じるカイン。それその筈、カインが訪れたのは城下町から少し離れた鍛冶場だった。

 作られているのは包丁や日常に使われるようなものではなく武器。大剣に槍、片手剣や短剣。果てにはブーメランなどのキワモノの武器まで、ありとあらゆるものが職人の手によって作り出されている。

 同じ地方にある鍛冶を主要とするホムラの里ほど活気のあるものではないがこの国も次にと言っていいほど鍛冶が活気的だ。

 

 その鍛冶に魅入られたモノが1人、それがカインだ。

 この地方には昔から伝わるある伝説がある。それが勇者伝説。そこに古くから伝わる勇者伝説に数十年前新しく追加された話。

 その勇者は頼れる仲間と共に魔王、そして邪神まで打ち倒したという。

 この地方で生きる人間ならば誰しもが聞いたことのある有名な伝説だ。勇者のように強く逞しく、そして頼れる仲間と冒険をしたいという夢を抱えるものも数え切れないほど居る。

 しかし、カインが惹かれたのはそこではなかった。勇者はどこで手に入れたのか、あらゆる場所で鍛冶をすることが出来る不思議なアイテム。ふしぎな鍛冶というものを手に入れた。

 勇者はそれを扱いさまざまな武器や防具、果てにはアクセサリーまで自身の手で作り出し最後には勇者としての代名詞と言っても過言ではない勇者の剣さえ仲間たちとともに作り上げてしまった。

 

 その話にカインは心震えた。求めたのは自身の力でもない頼れる仲間でもない、求めたのはただ1つ自身の手で武器を作り出すという術だった。

 そしていまもこうして毎日のように鍛冶場へと足を運び鉄を叩き熱気を浴び身体を焼いた。

 

 と言っても、カインも齢19の男。かっこいいものに憧れない訳でもなく勇者になれたら良いなとちょっと心の隅でいまでも思ったりしている。

 そしてその心に呼応するようにカインの手の甲に光る痣が現れた。

 そのアザは勇者伝説でも聞き及ぶ勇者の証。ロトの紋章

 

 目を見開き驚くカインを他所にアザは更に光の強さを増していく光がカインを包むほどになったとき、光はようやく輝きを失いそこには既にカインの姿はなかった。

 

 

 

 

 



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衝撃

 カインの手に勇者の紋章が現れてから数刻。

 現在カインは4人の男たちと1つ屋根の下で話を交わしていた。

 

「それでカインだっけ、結局お前はどこから来たんだよ」

 

 座って話を聞いていたカインに詰め寄る金髪の男。彼は槍の勇者モトヤス、現代で言うチャラい青年といったところだろうか。

 自身の身の上を話しロトゼタシア地方の王国から来たということを話す。

 

「だからそのロトゼタシアというのが知らないと言ってるんですよ」

 

 槍の勇者の問いに何度目かの答えを返したカイン。それに弓の勇者 イツキが呆れたようにまた問う。

 さて弓の勇者や槍の勇者とはなんだと。

 

「俺たち四聖勇者が別世界の日本から来たってことはわかった。だがお前が言うロトゼタシアってのはここにいる誰も聞いたことがない」

 

 そう言う剣の勇者レン。その粗暴な態度にカインも眉をしかめる。

 そう四聖勇者、いまこの場にいる剣、槍、弓そして盾の4つの武器を扱う4人の勇者のことだ。

 そしてカイン、彼はその4つの枠組みとも外れている。この世界に来た時点で4人は各々の装備を持っておりカインだけは世界に来る前に身につけていた小さな袋しかない。

 それを置いておいても剣の勇者の対応が気に食わないカインは剣の勇者を挑発するような言葉を吐く。

 

「……なに?」

 

 些か不機嫌になった剣の勇者に畳み掛けるように更に挑発するカイン。

 

「……お、お前!」

 

 カインの言った言葉に激昂しカインの胸ぐらを掴む剣の勇者。それを冷めた目で見るカイン。

 一触即発の空気に1人口を挟む男がいた。

 

「……ロトゼタシア、ロトゼタシアってあれじゃないか? ドラゴンクエストの」

 

 そう言ったのは盾の勇者ナオフミ。その言葉に他の3人は納得がいったように驚く。

 知ってる人が居たことに3人同様に驚くカイン。

 

「……あぁ、やっと思い出したよ。その手の甲のアザになんか見覚えあると思ったんだよな。それロトの紋章だろ?」

「ロトの紋章って、あのロトの紋章か!?」

 

 盾の勇者が言った言葉に驚く槍の勇者。胸ぐらを掴んでいた剣の勇者を突き飛ばしカインの手のアザをマジマジと見つめる。

 男にマジマジと手を見られるのは少し気色が悪いななどとカインは思いつつも疑いが晴れるならと好きにさせていた。

 

「……本当にこれロトの紋章じゃねぇか。ってことは本当にドラクエの世界から来たってのか、しかも勇者」

 

 カインは更に驚いた。なぜなら自身の居た世界ではこの紋章を勇者の証だと知っていることの方が常識だったが、他の世界ではそうとは限らないからだ。この紋章を見てすぐに勇者へと繋げられるということは、こちらの世界のことを何かしらの術で知っているということに他ならない。

 そこが気になったカインは4人に何故知っているのかどこで知ったのかどうして知ったのか、その事について詰め寄った。

 4人はカインの積極的な様子に若干引きつつも全てのことを話した。

 

 カインの聞いたことを大まかにまとめると

 ・4人はカインの居た世界をドラゴンクエストという娯楽品を通じて遊んだり知ったりした

 ・ドラゴンクエストは人が作ったゲームだった

 ・ドラゴンクエストはロトゼタシア以外にも多数の地方そして彼が居た世界と時間軸での話のゲームもあったと

 

 カインはそれを聞いてふむと座り込んで考える。自身の居た世界や会ってきた人々そして大切な人達との思い出が全てが人によって作り出されたかもしれないと考えると思わず目頭を押さえそうになるが、別世界での話。そういうこともあるかもしれないと納得がいかないものの無理矢理納得することにした。

 ガシガシと頭を掻いてその場から立ち上がる。モヤモヤとした気持ちを無理矢理押し込んだせいで少し気持ちが悪く感じてしまう。

 

 そしてカインが彼らの知るドラゴンクエストの勇者だと知るや否や彼らは先程までの態度を一変させ、呪文を見せてくれ特技を見せてくれだと口々に言う。

 その要望をカインは全て一蹴する。若干気まずい空気になったところに召使いが彼らに食事の用意が出来たと言ったところで話は終わった。

 

 

 

 

 



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葛藤

 

 カインが勇者4人から話を聞いた翌日。勇者4人が王宮へと向かっていった時間に彼だけは城下町を1人で歩いていた。

 城下町を歩く国民は自身たちが生きることが普通だと感じる……そんなことも思わずこれが日常だと言うように笑って家族と話して仕事をして、それを見るカインの目は心做しか冷めていた。

 

 カインは昨晩4人に聞いた話を思い出していた。自身が居た世界が作り物かもしれないと考えると気分が悪くなる。

 いまでもそうだ。横を通り過ぎる人々にもしお前達も自分と同様ならどうするのだと心の中で八つ当たりをしていた。

 そんなヤツらを見るだけで心の中で燻っていたこの気持ち悪さが外に出てしまいそうだと、足早に王国から出る。

 

 

 

 

 

 王国から出るとそこは人1人も居らず、見渡す限りの緑の草原。自身の居た世界と同じだ。同じ光景のはずだと、この感じる爽やかな風も、草原の草が足をくすぐる感覚も全て現実なはずだとカインは自身に言い聞かせる。

 考えれば考えるほど嫌なことばかり考えてしまうと自身の両頬を叩いて1度嫌な気持ちを吹き飛ばす。

 こんなときこそアレをするべきだろうと、カインは腰掛けていた小岩から立ち上がる。

 

 カインがこの世界に持ち込めたアイテムの1つ、まほうのふくろを取り出す。手のひらサイズの白いふくろ、この袋は生きているもの以外ならば何でも入れることができ、そして際限なく入れられるというまほうのふくろ。

 カインはそのふくろから独特な形をした機械と鉄槌を取り出した。

 そして機械にふくろから更に取り出した鉱石を入れ、起動させる。

 機械から入れた鉱石が集まって溶けた液体であろうものが台に流れ出てくる。カインはそこに向けて鉄槌を振り下ろす。カッーンと子気味のいい音が草原に鳴る。

 この不思議な機械、名をふしぎな鍛冶と言い作るモノに合ったアイテムを鍛冶台に取り付けられている鍋のようなものに入れると勝手に複合し液体として流れ出てそれを叩くことによって鍛冶が成り立つという鍛治職人殺しのアイテムである。

 カインはこのアイテムを使うことを良しとはしないが、モノがモノなだけに扱いも難しいアイテム。その為使いこなせるモノも少ない、これは勇者伝説に出てくる勇者から受け継がれた貴重な代物。それが王国へと受け渡され、使えるカインにへと渡されたという経緯がある。

 

 いまは場を整えて鍛冶をする手立てはないため、こうしてふしぎな鍛冶を使うしかなかった。

 今回作るのは比較的作るのは簡単で素材もありふれたものである『てつのつるぎ』である。

 カインの世界では店にも売られていることも多い。

 

 カインは何度も何度もただ無心に打ち続ける。様々な機能が付いているふしぎな鍛冶だが、武器が出来たタイミングを知らせてくれるような機能はない。

 いいものが作れるかは使用者次第だ。

 

 十数分もすれば流れ出てきた液体は剣の形となっておりカインは鉄槌を振り下ろすのを止める。

 満足そうな顔をしているため、てつのつるぎは殆ど出来上がっているのだろう。

 カインはそれを台から取り出し先程アイテムを入れた鍋の中にまた入れる。

 熱した鉄を水の中に入れたような音が鳴り、そして鍋の中からてつのつるぎが1本出てくる。

 出来上がりを表すとするなら『てつのつるぎ+3』といったところだろうか。カインも会心の出来に思わずニヤリと笑みを浮かべる。

 

 そして取り出したてつのつるぎを掴み近くにいた風船型の魔物を切りつける。

 風船型なだけあり、切ると風船が割れるような音を鳴らし魔物は死亡する。すると驚くべき光景がカインの視界に映る。EXP+1という文字が視界に突然現れたのだ。

 

 カインは少し考え、理解する。どうやらこの世界にはレベルというものと経験値が存在するようだ。

 経験値が先程出てきた文字のことだろうとカインは当たりをつける。そしてレベルが上がることで自身の能力が上がる、なんとも簡単な世界だろうと嘲笑が溢れる。

 

 これではこの世界の方が余程作り物ではないかと。そうカインは思ったのだ。

 うじうじと悩んでいたことをバカにされた気分だった。そうだ確証なんてないのだ。自身の居た世界が作り物だとしてほかの世界が作り物じゃないと言いきれるわけじゃない。その世界に住む人々や生物が気付いていないだけで自身と同じような状況の可能性だって十分に有り得る。

 そう考えるとだいぶ気が軽くなったとカインは心の中を整理して洗い流す。そうと決まればやることは1つ、知らない世界に飛ばされ身寄りのないカインに出来ることは生きる術を得るために強くなることだ。

 

 そして試したいこともあった。それは元の世界で使っていた呪文と特技についてだ。昨晩は使うことは躊躇ったが、今日は使うことを決めた。これが使えるか使えないかというだけで今後の生き方が大幅に変わる。

 

 まずは呪文からだ。カインの使える呪文はメラ系統とヒャド系統だ。

 メラ系統の呪文の特徴は炎を出せることにある。高威力の上位メラ呪文を使うには修練が必要になるが、一般的な呪文と聞かれればこの呪文だと口を揃えて言うほどよく知られている呪文である。

 

 呪文を使う際に必要なのは自身の中にある魔力を引き出す技術と効果の把握の2つ。これに当てはまらないふしぎな呪文も存在するがそれは置いておこう。

 メラを使う際、これは完全に人それぞれだが杖を持っている人間は杖の先から持っていない人間は手のひらや指先から射出したりする。

 唱えるのは「メラ」の一言かそれに準ずるような言葉である。要はその呪文が使えるというイメージさえ出来ればいいということだ。

 

「メラ!」

 

 そう唱えるとカインの身体の周りでサークルが回り、突き出した手のひらから小さなボール程度の火の玉が風船型の魔物に直撃する。

 そしてカインはおかしいなと首を傾げる。前いた世界ではもっと威力の強いメラが撃てていたし、それにサークルなんて出ていなかったからだ。

 呪文というのは、使用者の力量や魔力量によって威力が変わる。同じメラだとしても魔法使いなりたてと大魔法使いが使うメラには圧倒的な差が出るというもの。

 そしてカインの実力はというと、メラ系に関しては当時教えを乞うていたロトゼタシア地方でトップに居るような人間から免許皆伝と教えることはないと言われるほど卓越した呪文の使い手だったのだ。

 それがこのようなおかしなことになっているのは何故だろうと頭を悩ませたが、答えは一瞬で出てきた。この世界でのカインのレベルが低いからだと。

 培った知識の技能は持ってこれたが能力はこちらに引っ張って来れなかったということだろうとカインは考えた。その証拠にメラ1発で普段感じることの無い倦怠感を感じていた。これは魔力を使った弊害で魔力切れに近いときになるものだ。

 つまり、低級呪文1発で疲労するほど魔力が身体からなくなっているということだ。魔力は特技を使用する際にも消費する力の1つでこれがなくなってしまったのは痛手だなと思うカイン。

 

 しかし、呪文が変わらずこちらの世界でも使えるというのを知れただけでも大きな進歩だろう。そう自分に言い聞かせて、続けて魔物を持ったてつのつるぎで切り捨てていく。風船型の魔物名称オレンジバルーンだけでは経験値も微々たるものだろう。このままではいつまでたってもレベルが上がらないのでは? とカインは思うもあまり国から離れすぎるのも良くないかと言い聞かせ。

 ひたすらバルーンを狩り続けた。

 

 そしてオレンジバルーンを狩り続けて気付いたことがあった。それは残骸を残すこと。前の世界では魔物と言えば倒せば大抵が魔力、魔物で言えばマ素というものに還ってしまい残骸を残さない。たまに素材を落とす場合もあるが、稀である。

 そしてカイン考えつく。元いた世界と違って魔物の体系が全く違うということに気付いたことといままでと違ってこの魔物の残すこと残骸で武器が作れるかもしれないというのを考えついたのだ。

 ふしぎな鍛治であればどんな状態のものでも作るものに合ってさえいれば大抵は素材として変換してしまうから大丈夫だろう。そう思うと鍛冶職人としての魂が震えるといったところだろうか……。

 

 バルーンの素材を回収しつつそんなことを考え、さてもう一息とバルーン狩りを再会しようとするカイン。

 しかし気がつけば当たりは夕暮れに染まっており、カインも狩りを中断せざるを得なかった。

 

 

 

 そして国へと帰ったカイン、1つ気付く。

 金がないので宿に泊まれないということを……。

 

 

 

 



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会談

 

 緩やかな波が流れ白浜を濡らす。私はそんな濡れた白浜を踏みしめる。ドロっとした砂が足の指の間に入り込んできて妙な感触。

 引いた波が戻ってきて私の足も濡らしていく。海の水の冷たさに思わずビクッと驚いてしまった。

 そんな私を見守る男の人、『鍛冶』の勇者■■■さんにも一緒に来ないかと誘ってみる。

 

「■■■さん■■■さんすごく気持ちいいよ!」

 

 ■■■さんは自分はいいと私の誘いを断って私たちの仲間の1人である魔物のスペディオの頭を撫でる。……むぅ、羨ましい。

 

「……もぉ」

 

 ■■■さんはいつもこうだ。私のことを子供扱いして。

 でも、こうして波風を浴びれるようになったのも■■■さんとスペディオと私の3人でこうして旅が出来るのも全部カインさんのおかげだ。

 

 憧れた盾の勇者様みたいにカッコよくもないしズボラだし、ちょっと意地悪だけど。

 でも、それでも私は───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ゆめ、か。ふふっ、いつか私もあんな風に冒険出来たらいいな」

 

 でも、いまはそんなことを考えてるときじゃないよね。1歩でも前に歩かなきゃ、行き先なんてないけど生きるためにいまだけは歩かなきゃ。

 

 

 ◆

 

 

 カインが宿に泊まる宿泊金どころか財布に一銭も無かったことに気がつき外で野宿をした翌日。

 彼は現在、目の前で起きていることに頭を抱えていた。

 

「だから俺はやってないって言ってんだろ!」

「じゃあマインが嘘ついたってのかよ!」

「さっきからそう言ってんだろうがっ!」

 

 槍の勇者と盾の勇者両名がそう言い合っている最中だった。どうしてこんなことになっているのか、時は少し遡

 る。

 

 カインが野宿を終えて国へと帰ってきた早朝。

 たまたま通りかかった宿屋の前で青年と国の騎士が揉めているのを目撃した。

 触らぬ神に祟りなしという言葉もある、カインは見て見ぬふりをして騎士たちの横を通り抜けようとした。

 しかしよく見ると揉めていた片方は先日知り合った盾の勇者ナオフミであることが分かり、いったい何が起きたのかと、騎士たちに話を聞いた。

 聞けば盾の勇者が仲間のマインという女に無理やり性的暴行を加えたとのことらしかった。

 しかし盾の勇者はやっていないの一点張りで連行に手間取っていると。カインも盾の勇者と話したことはあるが彼がそんなことをやるような人間には到底見えないと考えていた。

 そこに違和感を感じていたものの、とりあえず詳しい話と全貌を知るために1度盾の勇者をなだめ王宮へと向かわせることにした。

 

 そしてカインがそこで目にしたのは、盾の勇者に暴行を加えられたと悲壮感あるように槍の勇者に泣きつく赤毛の女ことマイン。

 カインは知らないが元は盾の勇者のパーティーに入っていた女だ。

 

 その後の流れは王が盾の勇者を断罪、そして他の3人の勇者からの誹謗中傷。言われなきことを言われ、してもいない罪を着せられた盾の勇者は激昂し王城から立ち去ろうとしていた。

 それを待てと止めたのがカインだった。そして王へ進言したのだ。盾の勇者がここで断罪されこの国で生きにくくなるなら四聖勇者たちで連携を組むのが困難になると、それだけは盾の勇者だけでなく他の勇者も困ることになる筈だと、だから最後に四聖勇者と自身だけで話をさせてほしいと頼んだのだ。

 

 結果としては、了承は出た。少し渋っている様子はあったものの、カインをロトの勇者だと知った弓と剣の勇者2人が手助けとして横から支援したおかげで現在の対談は成立したのだ。

 

 だが、始まった当初から「やっていない」「やったんだろ」の平行線になる話ばかりしているためカインは頭を抱えていたのだ。

 

「お二人共一旦落ち着きましょうよ」

 

 カインの様子を見て言い合っている2人を宥める弓の勇者。それを聞いて落ち着いたのか盾の勇者は一旦席に着く。

 槍の勇者は少し不満そうだったが、相手が下がったことを見て渋々といった感じに同じように席に着いた。

 

「それで、俺たちを集めてなにを話すって言うんだ?」

 

 そう剣の勇者がカインへと問う。カインは、その言葉を待ってましたと言わんばかりに意気揚々と席を立った。

 口を開いて4人に言ったのは、今後の四聖勇者としての行動と連携のとり方。

 そして、波への対処法と情報交換だ。

 

 

「これからの行動ですか?」

 

 弓の勇者の言動にカインは頷く。四聖勇者としての行動、つまりこれからの勇者としての在り方と人々への見せ方というのを説明した。

 まずひとつに、勇者としての相応しい態度と行動を示す。

 これは群衆からヘイトを買ったり悪い噂を流されて行動を阻害されないようにするためである。

 

「勇者としてのふさわしい態度だと? はっ、笑えるね、そこの盾の勇者様が現在進行形でふさわしい態度じゃないんじゃないか?」

 

 煽る槍の勇者。それに咎める視線を送るカイン。話が進まないからと切り出すカイン。

 言うのは今回に限ってだけで構わないから、まずはやったやってないの考えを突破らってほしいと、これによってやっと話が進むと槍の勇者へ向けて言う。

 

「やったやってないの考えも何も実際にナオフミが……ッ!?」

 

 カインの話を聞かずまたもやそう言い出す槍の勇者向けて先日作ったてつのつるぎを投擲するカイン。惜しくもその剣は槍の勇者の頬を掠めて高そうな壁に突き刺さっただけに終わったが、槍の勇者への脅しとしては完璧だったようで口を閉じて首を縦に振っている。

 

 1連の行動にドン引きした視線を送られるカインは飄々とした態度で話を続ける。

 ふたつめに、勇者の連携のとり方。これに関しては波を解決する度に今回のように話し合いの場を設けようとカインは言った。

 その事に王が許さないのでは? や、周りからの評判も悪くなるだろうという意見も出た。しかし、カインはそれらを一蹴してやるべきだと言う。

 勿論、王が許さないや周りからの評判が悪くなるかもという意見は対処する必要がある。

 しかし前者は対処が必要な程でもないだろう、そこは4人がゴリ押して言えば通る話だ。

 後者に関しては、盾の勇者本人に頑張ってもらうしかない。この国の国民からの評価は恐らく今回のことが知れ渡っているだろうし並大抵のことじゃ上がらないだろうが、外の話となれば別だ。盾の勇者としての身分を隠して慈善作業をしてほしいとカインは頼む。

 

 盾の勇者はその事に、なんで俺がと渋い顔をするものの結局縦に頷くしかなかった。

 

 波での対処、これに関しては折角タイプの別れた4人が居るのだからその点を最大限活用するべきだとカインは言った。

 伝説の勇者とて1人で魔王や邪神を倒したわけじゃない。頼れる仲間たちと共に強敵を打ち倒し障害を乗り越えていった。いくら強力な力を持ち、今後成長することで更に力を付けると言っても1人では得手不得手というものがあるだろう。

 だからこそ短所と長所を勇者たちで補うのが妥当な案であるとカインは懇々と伝えた。

 

 この案に4人は渋い顔をして、あまり乗り気では無いのが目に見えた。カインにとって正直想定内のことであったため、この4人を動かすための飴を渡す約束をすることにした。

 それは、自身が4人のために自身にできる最高の武器、盾を作り上げるというもの。これでも自身が居た世界の王国では上位に組み込める程度の実力はあると自負している。それ故の交渉だった。

 

「……カインさんの鍛冶の実力がどれだけのものかは分かりませんが、僕は賛成です」

「俺もだ。何よりメリットがデカすぎる、ドラクエ武器の最高峰と言えば攻撃力も高い」

「……ナオフミの野郎と共闘しなきゃいけないのは嫌だが、仕方ねぇ」

 

 弓の勇者、剣の勇者、槍の勇者と続いて賛成の意見を得る。残りは盾の勇者1人だけだが、当の本人は椅子に座り込んで考え込んでいるようだ。

 少ししたら考えがまとまったのか口を開く。口を開いて出てきたのは否定的な言葉だったが。

 

「俺は、反対だ。他の3人は武器を与えられて戦力が上がるだろうが俺は別だ。与えられたとしても火力のかの字もない盾だ。今後確かにメリットになり得るかもしれないが、それでもすぐにわかるものじゃない。ただでさえ俺はこの国から追い出されてる身だしな」

 

 これもまあ想定内だと思うカイン。ここで必ず盾の勇者から不満が出るのはわかっていたし彼が置かれた現状を考えれば当たり前のことだった。

 勿論それに関しての返しも用意してある。

 それは盾の勇者への個人的な支援と、今後何かサポートが必要であれば手助けすること。

 

「ちょっとそれは流石におかしくないですか。いくらナオフミさんが不利な状況ではあるといえ、カインさんがそこまで入れ込む必要があるんですか?」

 

 そこで否定的な意見を出したのは弓の勇者。他の2人も同様だとカインの方を見ている。

 3人が言いたいのは、盾の勇者以外がノーマルモードから始めるのに盾の勇者は初期から強力な味方が着いた状態で戦えるのはズルいと言ってるのだ。

 

 その意見への返しは勿論、盾の勇者はハードモードだが? だった。お前らは何を言っているんだ? という呆れた表情を前面に押し出してゴリ押して納得させる。

 まぁたしかに、ここまでして1人にカインが入れ込む必要も無い。ほか3人の中立に徹しろもしくは自分の陣地に来いというのもおかしな話ではあるが、これもカインだって考えあっての行動であること。

 今後を見通したときに、必ず自身にメリット有り得る存在が盾の勇者だろうと判断したからである。

 多少擦れてしまったが、それでも根本は人のいい青年から大差変わらないだろう。貸した恩は返してくれるだろうしと下心ありきでの考えであった。

 

 それに今後、彼は大きなことをしでかしてくれるとカインの感が信号を発していた。

 カインが提示した条件でようやく意見に賛成した盾の勇者を含めて、話は最後の詰めに。

 最後は、そう情報交換である。この情報交換、知識がない盾の勇者及びカイン自身のためにほか3人から情報を得て経験の早期習得を狙ったもの。

 もちろん、ほか3人も各々の情報から更に力を付けることだろう。

 

 そして、小さなことから大きなことまで情報交換をしカイン自身が満足したところで今回の会談は終わった。

 その後は王からの実質の追放と、国からの冷たい視線を受けなければいけないナオフミのサポートをカイン含めてほか3人で対処することが決まり今日のところのイベントは終了した。

 

 

 



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