鬼畜王じゃないランス (F-Shinji)
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第1話:気が付いたら目の前に不幸な忍者が居ました

 

 

 

――――あのランスが死んだ。

 

 

 

 

いや……それは、必然だったのかもしれない。

 

元々、人間ってのは脆い生き物だ。

 

いくら才能限界が無限だろうと、英雄としての素質を持っていようと、死ぬ時はアッサリ死ぬのさ。

 

ゆえに必要なのは強運。

 

彼は今までソレが有ったからこそ……今の今まで生きて来れたんだ。

 

 

 

例えばリーザスの王女が遊び半分で浚った少女を救出したり。

 

カスタムの町で反乱を起こした4人の魔女達に"お仕置き"+αが出来たり。

 

ヘルマンの侵攻によって墜ちたリーザスを立て直し、何体もの魔人を倒しちまえたり。

 

神に飛ばされた場所の"浮遊大陸イラーピュ"が墜落するも、無事に脱出できたり。

 

更にはハピネス製薬での事件では、誤って殺されたと言うのに生き返る事も出来たりした。

 

 

「くそっ……ッ……ヘルマンの奴らめ……」

 

 

しかし"今回"だけは強運に恵まれなかった。

 

今の彼には仲間は一人もおらず満身創痍。

 

ヘルマンで盗賊生活をしていたモノの、軍隊に成敗され何とかリーザスの国境まで来たのだが……

 

大きな外傷は無いモノの、極度の疲労と空腹と脱水は限界に来ており、彼の人生は終わりを遂げた。

 

 

「…………シィル……」

 

 

≪――――ガシャンッ≫

 

 

 

 

……

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

「ランス。何でアンタがこんな所に居るの?」

 

「…………」

 

「倒れてた時は見間違いだと思ったけど、どうしてヘルマンに……」

 

「……(何処だよ此処……)」

 

 

ある日、気が付いたら紫っぽい髪をした、忍者みたいな格好をした女の子が起こしてくれました。

 

全く意味が分からないまま立ち上がって先ずは周囲を見回していると、彼女は俺を見上げながらベラベラと強めに質問を投げ掛けて来るんだけど、そんな事など頭に入らず動転する俺。

 

どう考えてもオカしいだろコレ……部屋のベッドで寝てたハズなのに、何で山の中に居たんだ?

 

夢にしては凄くリアルだし、意味が分からないんですけどマジで。

 

それにしても、随分と可愛い娘だな~。

 

しかし、何処かで見た事が有る気がする。

 

大分前にハマった有名なゲームの……誰だったか……

 

 

「ちょっと聞いてるの!? ランスッ!」

 

「(――――ランス? ……ッて、まさか!?)」

 

「ど、どうしたの?」

 

「……君の名前は?」

 

「えっ? "見当かなみ"だけど……な、何か有ったの? オカしな事を言って……」

 

「(やっぱり!?)」

 

「ひょっとして、頭でも打ってた?」

 

「そ……そうかもしれん」

 

「そう。だったら、もう一度聞くけど、何でランスが"こんな所"で倒れてたの?」

 

「その前に此処は何処だ?」

 

「バラオ山脈。ヘルマンとリーザスの国境よ」

 

「なるほど」

 

「じゃあ質問に答えてッ」

 

「それは……ヘルマンから逃げて来たからだ」

 

「ならヘルマンで何をしてたの?」

 

「盗賊をやってた」

 

「!? ……って言う事は……」

 

「予想した通りだと思うぞ」

 

「……完全に自業自得じゃない」

 

「そうだな」

 

 

嘘だろ!? ……マジかよ……どうやら俺は"鬼畜王"のランスになってしまったらしい。

 

それは、この娘が"見当かなみ"と言うキャラであり、俺がランスと呼ばれた事で納得が出来てしまった。

 

彼女との会話から、オープニングの直後で有る事も間違いない。

 

鬼畜王ランスは……もう10回以上はクリアしてたしなァ。

 

 

「ならシィルちゃんは?」

 

「捕まった」

 

「えぇ~!? ど、どうして"見捨てた"りしたのよッ! ヘルマンの捕虜になったりしたら、まず助けられないわ!!」

 

「…………」

 

「あッ。ご……ごめんなさい」

 

「いや、いい」

 

「それならシィルちゃんは、どうするの?(ランスの事だから、私と一緒に引き返すとか……?)」

 

「シィルは……必ず助けるさ」

 

「でもッ」

 

「だから"リア"の所まで案内して欲しい」

 

「り、リア様に? 貴方、何を考えて……」

 

「――――頼むッ!」←手の平と平を合わせながら

 

「!? わ……分かったわよ。でも無理って言われたら諦めなさいよ?」

 

「あァ」

 

「……うッ……(な、何だか随分と素直なランスね……逆に怖くも見えるけど……)」

 

 

 

 

……

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

俺は"見当かなみ"に案内されてリーザス城へと赴いた。

 

正史通りシィル・プラインを救う為に。

 

彼女を救出できそうな仲間(ガンジーとか)を一人で集め始めるのも良いんだが、リーザスを放って置くと、いずれリトルプリンセスがケイブリス軍に浚われて"魔王ケイブリス"が誕生してしまう。

 

魔剣カオスを譲って貰える様に動きつつレベルを上げまくり、ホーネット軍との合流ってプランも魅力的と言えるが、ソレだとシィル・プラインとソウルを見捨てる事になってしまうし、両立するとしても厳しいのだ。

 

今の俺には彼女に対する"こだわり"は無いんだが、拷問で死なせてしまうと寝覚めが悪いしな。

 

――――さて置き。

 

到着には数日を要したけど、宿で休むとかなみは消えてしまうので、特に交流は無かった。

 

そんな彼女は改めて接すると本当に美少女だったので、こんな娘をランスってヤツは……

 

んでもって、モンスターはやはり存在した。

 

当然、俺(ランス)の敵では無かったけど、今後レベルは十分過ぎるくらいに上げとかないと、生き残るのは難しそうだな。

 

だけど、今のレベルはたったの20しかなかった。

 

道中で25までは何とか上げたが、見当かなみはLv27→30に成長。

 

最初は武器さえ無かったので、ブツブツ言うかなみから金を借りて日本刀を購入したんだが、旅の終わりに金を返したら目を丸くしていた。

 

あァ……ランスなんだから、踏み倒されると思ったのか。

 

だが、そんな事は流石に出来ないさ。

 

前述の通り、今の俺は彼女よりもレベルが低いのだから。

 

リア王女の存在で"今"かなみが俺を殺す事は無いけど、後々の暗殺イベントのフラグは折らなければ。

 

 

「ダーリイイィィン!!」

 

「おわッ!?」

 

「わざわざリアに会いに来てくれるなんて嬉しィ~んっ!」

 

「ち、ちょっと……離れろって」

 

 

……そんなワケで、かなみの計らいでコッソリと"リア王女"との謁見が出来たのだが。

 

彼女の自室だけ有って此処にはマリス・アマリリスと 見当かなみしか居ない為か、リア・パラパラ・リーザスは自重せず俺に凄い勢いで抱きついて来て、ギュウギュウと乳房を押し当ててくる。

 

中々の美乳だと感心してしまうが、鎧を着ているのでダメージは無いのは、さて置いて。

 

余程嬉しいのかちっとも離れてくれないので、腕に手を絡められる程度で妥協するしか無かった。

 

ハァ……俺は君が好きな"ランス"じゃ無いってのに……でも真実を話すワケにもいかんし……

 

 

「今リアと結婚すれば、リーザスの国が付いて来ま~す」

 

「……分かった。結婚しよう」

 

「えッ!? わ~いッ、やった~!! ダーリンと結婚、結婚なの~っ!」

 

「そ、そんな……ランスッ! マリス様も何か仰って――――」

 

「良かったですね……リア様……いつぞやの夢が、とうとう現実となって……!」

 

「うッ……だ、ダメだわコレは……」

 

「じゃあマリスぅ! さっさと準備して~ッ!」

 

「はい、直ちに」

 

「ダーリンも早く行こぉ~!?」

 

「う、うむッ」

 

「あの~、リア様……私は~?」

 

 

でも、まあ……こんな可愛い娘と結婚できるんなら良いか~。

 

この時点での性格は、好きにはなれないけどね。

 

だったら夫として更生させてやるしかあるまいッ!

 

シィルを救出した後、辺りがミソとなるだろう。

 

そんな事を考えながら絡められていた腕を王女に引っ張られる中、見当かなみは蚊帳の外だった。

 

余程嬉しかったのか、リア王女は俺しか眼中に無し。

 

マリス侍女も彼女さえ幸せなら他は二の次なのか、既に退室してしまっている。

 

しかし、俺にとっては此処まで世話になった娘だし、引っ張られながらも首だけ其方に向け言った。

 

 

「――――かなみ」

 

「えっ?」

 

「すまなかったな」

 

「へッ?」

 

「もォダーリン、早く行こうよ~ッ!!」

 

 

≪――――バタンッ≫

 

 

「あ……あのランスが……わ、私に……謝った……!?」

 

 

≪すまなかったな≫

 

 

「し、しかも本当に"すまなそうな"表情で……もうッ! 何なのよ!? 今回のランスわァーーッ!!」

 

 

 

 

……

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

……アレから一週間。

 

主にマリス侍女によって早急に結婚式の段取りが組まれ、いざ開始されると其処にはリーザスの将軍達の姿は勿論、招待されたっぽいカスタムの娘達の姿も有った。

 

その中でマジな話、魔想さんを見た時には密かに感動しました。

 

でもリアとの初夜(?)は踏ん切りがつかなかったので、出来ませんでした。

 

会ったばかりなのに寝れるかよ!!(魂の叫び)

 

一応"腹が痛くなった"とか言って誤魔化したけど、逆にリアは構わないとか言って来たさ。

 

ちょっと何言ってるか理解できませんでしたね……されど、俺にはそんな趣味は無いのだ。

 

原作と違ってハーレムは作らないと思うから勘弁してくれ。

 

 

『うおおおおぉぉぉぉーーーーっ!!!!』

 

『リーザス万歳!! リーザス王、万歳ッ!!』

 

 

また例の"お披露目"では"ランスらしい発言"をせず反乱も未然に防いだ。

 

アレだけの戦力がエクス・バンケットに付いた事から、裏で手を引いていた者も居たっぽいが……

 

それはマリスに黒の軍・白の軍に不穏な動きが無いか調べさせれば、旨く治めてくれるだろう。

 

だとすると、今の俺が遣るべき事は……部下達のイベントの消化と、自分自身のレベルアップである。

 

 

「ランス王。何か御指示は?」

 

「そうだなァ……リーザス城下町で臨時徴収を行ってくれ(……安全盆栽が欲しいし)」

 

「畏まりました」

 

「ねぇダーリィン。早くリアとエッチな事しようよ~、しようよ~」

 

「…………」

 

「何なら此処でも良いよ~? 他言したら此処の皆は死刑にしちゃうから~」

 

「う、五月蝿いなッ。今はそんな気分じゃ無いんだ」

 

「ぶぅ。メイドにも手を出して無いみたいだし、ひょっとしてインポにでもなっちゃったの~?」

 

「!? そんなワケ有るかッ!」

 

 

普通に真面目な事を考えているのに、リアは初夜の時からコレだ。

 

……本当に一国の王女なのか?

 

キスくらいはともかく、性格を何とかしないと抱く気にはならんな~。

 

俺の為にも、彼女の為にも。

 

一方、マリスがまだ用が無いかと目で訴えて来ているので、俺はリアを無視して口を開く。

 

 

「リック・アディスンを呼べ」

 

「はい」

 

 

――――マリスが頷くと、5分程度で赤の将軍が現れた。(かなみが影で動いたんだろう)

 

 

「お呼びですか? キング」

 

「……(ヤベェ、本物だ怖い!)」

 

「キング?」

 

「んッ? いや……久しぶりだな。リック」

 

「はッ。先日は見事な御手前でした」

 

「それで用件なんだが」

 

「何でしょうか?」

 

「"ザラック"と言う男を知っているか?」

 

「……ザラック?」

 

 

無名の兵士なのでリックは知らない様だったが、後日彼の事を調べ上げたリックの口から、メナド・シセイとは今の所は接点が無い人間だと言う事を聞き、俺は一安心する事が出来た。

 

当然、ヤツは素行不良を理由にクビにする予定なので、コレで"あの娘"は安心だろう。

 

勿論、何故いち兵士でしかないザラックの事を知っていたのかとマリスに聞かれたが、一人でリーザス周辺を散歩していた際に目に付いた事にした。

 

戦争で殺してしまうのが一番なんだろうが、メナドが汚されてからでは遅いしコレが一番だよな~。

 

 

「……と言う事で、調べて置けよ?」

 

「ははッ」

 

「……(じゃあ次はどうするか……)」

 

「あの、キング」

 

「なんだ?」

 

「真に恐縮ですが、いずれ私と手合わせをして頂きたいのですが……」

 

「なぬっ?」

 

「キング程の方との模擬戦となれば、部下達にも良い勉強となるでしょうし」

 

「わ、分かった……が、少し待ってくれないか?」

 

「少し?」

 

「悪いが今はヘルマンでのイザコザの所為で本調子じゃないんだ」

 

「そ、それは失礼しましたッ」

 

「いやいや。ちょっくら鍛え直したら、必ず相手をしてやるから安心してくれ」

 

「!? わ、分かりました。有難う御座いますッ!」

 

「うっわあ、リックったら嬉しそ~」

 

「いかんせん彼は剣を持つ騎士としては強過ぎる故に、なかなか見合った相手が居ませんでしたからね」

 

「じゃあ行って良いぞ?」

 

「ははっ! 試合の件、楽しみにしております!!」

 

「(何時の間にか試合になってるやんけ……)」

 

 

余程ランスと戦える事が嬉しかったのか、リックは軽い足取りで去って行った。

 

しっかし怖かったな~、流石はリーザスの赤い死神……今の俺だと絶対に勝てないだろう。

 

だけど彼に負ける様では、魔人にも勝てない。

 

いずれは、ケイブリスとも殺し合うんだろうしな……

 

……とは言え、幸い今のランスにはリーザスの財力と原作の2倍の規模の兵力が有るし、此処はひとつ前者を頼りに鍛錬だ。

 

目標は、最低でもリック・アディスンに勝てるレベルだな~。

 

よって、俺は続いてマリスに"天才病院"の建築と不足部下の補充を任せると、手を振って見送るリアとメイド2人(ウェンディとすずめ)を背後に、謁見の間を出てから歩みを進めると、適当な場所で見当かなみを呼んだ。

 

 

「呼んだ? ランス」

 

「あァ。忙しかったか?」

 

「"忍者工作"の任務も無いし大丈夫よ。それで何の用?」

 

「今から迷宮に潜るから、付き合ってくれ」

 

「!? そ、それって何処の?」

 

「プアーの東の魔物の洞窟だ。2週間を予定している」

 

「魔物の洞窟か……そこそこの迷宮だったと思うけど……」

 

「リックと戦う事になったし、其処くらいは潜れないと話にならないからな」

 

「ハァ……アンタの事だし、どうせ断っても無駄なんでしょ?」

 

「悪いな」

 

「だ、だから謝らないでよ! ランスの癖にッ!(今は王様だけど)」

 

「無茶苦茶を言うなよ」

 

「でも……良いの? 王様なのに迷宮に潜るだなんて」

 

「手っ取り早く強くなる必要が有るからな」

 

「……ランス……(本当はリック将軍と戦う事より、シィルちゃんの事を……)」

 

「だが来週には自由都市の"ジオ"を落としたいから、かなみには足にもなって貰いたい」

 

「そ、そんな事だろうと思ったわよッ」

 

 

生憎、リーザスの将軍の多くは迷宮探索だと役に立たないから、彼女の方が余程役に立つ。

 

レイラさんの親衛隊は補正が有ったと思うけど、軍の派遣だと大金が掛かっちまうからな~。

 

まァ今回の迷宮は鬼畜王最低の難易度だし、2週間も有れば2人でも楽に攻略できるだろう。

 

手に入るアイテムはメイドの"ウェンディ・クルミラー"のフラグになるが、俺にとっては重要じゃ無いな。

 

それよりも、自由都市の攻略にランスの部隊は出撃できないが、今のリーザスの戦力は申し分ないから苦労はしない筈だ。

 

 

「じゃあ、早速移動の手配をするか」

 

「それは私がやるわ、ランスは道具の準備をお願い」

 

「分かった」

 

「……(ほ、本当に素直なランスね……でも その方が……)」

 

 

≪――――ッ≫

 

 

互いの話が纏まると かなみは音も無く消えた。

 

きっと手配が終われば、俺が何処に居ても現れるだろう。

 

一方、俺の武器は"リーザス聖剣"と申し分なく、鎧も最高級なのでレベル不相応の装備だ。

 

金も滅茶苦茶有るので"まんが肉"や"世色癌3"でも買い占めるか~っと思いながら、意気揚々と歩き出そうとした時。

 

 

 

「あ、あのォ……」

 

「んッ?」

 

「……え~っと……」

 

「君は、もしかして"メナド・シセイ"かい?」

 

「!? ぼ、ぼくの事を知ってるんですか?」

 

「一応、王様だしなァ」

 

「初めて御会いするのに……光栄ですッ!」

 

「そりゃどうも」

 

 

――――青い短髪の女の子で、リーザス赤の副将軍"メナド・シセイ"が登場した。

 

 

「ところで、その~……」

 

「何だね? 生憎、俺は忙しいんだが」

 

「ぼく……さっきの話を、聞いてしまっていたんです」

 

「!? 迷宮の事をか?」

 

「は、はいッ! 宜しければ、ぼくも連れて行ってくれませんか!?」

 

「へっ?」

 

「かなみちゃんも行くみたいですし、羨ましいな~っと思って……」

 

「…………」

 

「ダ、ダメだったら別に構わないんですけど……」

 

 

≪じ~~っ……≫

 

 

こ、これは完全に予想外だ。

 

……そう言えば、こんな娘だったんだな……メナド・シセイって……

 

副将軍としての業務は良いのかとか、そもそも何で此処に居るのか等、色々とツッコミたい気分だ。

 

後から聞いた話だとリックを追って来たらしいが、運悪く合流できなかった様で今に至る。

 

それはそうと、彼女の業務の事を考えて断るつもりだったが、上目遣いの視線が反則なんですけど?

 

まるで、捨てられていた子犬が哀願する様な視線……ソレに俺が抗えるワケが無いのは明白だった。

 

 

「わ、分かった……連れてってやる」

 

「!? わ~い!! やった~ッ! ……あっ、ごめんなさいッ」

 

「謝罪は要らないよ。でも、足は引っ張るんじゃないぞ~?」

 

「はいッ! 勿論です!!」

 

「やれやれ……じゃあ、アイテムを城下町に買いに行くから付き合ってくれ」

 

「分かりました!!」

 

 

メナドの迷宮補正がどうかは覚えてないが、単独で戦う分には関係無いだろう。

 

かなみより才能限界は高かったと思うし、レベルも俺より高い今なら頼りになる筈だ。

 

よって、メナドの表情に押される形で許可すると、彼女は飛び上がって喜んでくださった。

 

 

「(両手に花で冒険ってワケなのに……色々と前途多難だな……)」

 

「(王様、優しい人みたいで良かった~。よ~し、これから頑張ろうっと!!)」

 

 

――――そんなワケで鬼畜王の世界の飛ばされた俺の、記念すべき一週目がスタートされた。

 

 

 

 




【リーザス軍】
ランス   :リーザス正規兵:1000名
レイラ   :リーザス親衛隊:1000名
バレス   :リーザス正規兵:1200名
疾風    :リーザス一般兵:1500名
リック   :リーザス正規兵:1000名
メナド   :リーザス一般兵:1500名
コルドバ  :リーザス正規兵:1200名
キンケード :リーザス一般兵:1500名
エクス   :リーザス正規兵:1200名
ハウレーン :リーザス一般兵:1500名
アスカ   :リーザス魔法兵:100名
メルフェイス:リーザス魔法兵:300名
(反乱が起きていないので、戦力が多いです)


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第2話:王となった俺は生き残る為にレベルを上げる

 

 

 

 

「ランス王ッ!」

 

「えっ? バレス将軍と……」

 

「ハウレーン・プロヴァンスか?」

 

「はい」

 

 

メナドと並んで城内を歩いていると唐突に声を掛けられたので、振り返るとプロヴァンス親子が居た。

 

おっさんの方は戦争では非常に"使える"男だが、ハウレーンの方は正直微妙だった気がする。

 

しかし仏頂面ながら物凄く美人なので見とれた為、呟く様に名を漏らすと軽く会釈するハウレーン。

 

こりゃ(自称)女を捨てたとは到底思えない……ッとそんな事より、この意外な遭遇の対処だ。

 

 

「メナド副将と、どちらへ参られるのですかな?」

 

「え~っと、それはだな~」

 

「お、王様……?」

 

「いや隠しても仕方無いか。ちょっくら迷宮にでも潜ろうと思ってる」

 

「何と!?」

 

「な、何故即位されて間も無いと言うのに、迷宮などへ行かれるのですかッ?」

 

「単純に鍛錬の為だ。リックにも言ったが、大分鈍ってるからな」

 

「!? それでは、やはりヘルマンから逃れて来られたと言うのは……」

 

「バレスも知ってたのか」

 

「お、王様が……ヘルマンから?」

 

「どういう事なのですッ?」

 

「良く聞くのだ2人とも。ランス王はヘルマンにて"悪"と戦われていたが多くの仲間を失い、何とか此処リーザスに逃れて来られたのだ。故に捕らえられた仲間達を救う為……そして、世界を統一し全世界の人間を救う為に立ち上がられたッ! うぅっ……御立派で御座います!!」

 

「いや……別に」

 

 

――――只盗賊をしてたダケだと思うが、大方リアが尾鰭を付けてバレスが過大評価したっぽいな。

 

 

「しかし戦(いくさ)など儂らに任せて置けば良いモノを……自らも強く在ろうとする上……あまつさえ、危険な迷宮に潜られるなど……ずびっ……爺は感動の余り涙が止まりませぬッ」

 

「ふわぁ~」←メナド

 

「ち、父上。涙と鼻を拭いてくださいッ!」

 

「すまぬ……ハウレーンよ……」

 

「じゃあ、そう言うワケだから俺達は行くぞ?」

 

「!? お待ちくだされ、ランス王!!」

 

「うん?」

 

「バレス将軍?」

 

「王さえ宜しければ、娘を……ハウレーンを連れて行っては貰えませぬか?」

 

「えぇッ!?」

 

「何だとォ?」

 

「父上!?」

 

「あ~ッ……本当に良いのか? 副将が揃って不在になっちまうが」

 

「主君を守るのも騎士としての勤め。娘にも良い経験になりましょう」

 

「俺は別に構わないが……ハウレーンは良いのか?」

 

「御命令と有らば」

 

「じゃあッ!」

 

「決まりだな。宜しく頼む」

 

「か、畏まりました(……ランス王には悪い噂も多かったが、所詮は噂だったと言う事か……?)」

 

 

そんなワケでバレスの爺さんの御蔭で、ハウレーン・プロヴァンスも付いて来る事になってしまった。

 

確か才能限界は30後半程度だった気がする……人類としては十分に高いから戦力になりそうだ。

 

勿論、今の彼女からは原作で有った反乱による敵対心は皆無であり、王として認識してくれている様子。

 

原作ではランスの所為で堅物なイメージしか無かったが、一連の会話ダケでも割と表情が変わる事が多くて新鮮だった。

 

しっかし、イキナリ女性3人と一緒に冒険か~。

 

かなみとダケの予定が、随分とズれちまったなァ。

 

 

 

 

……

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

城下町へ出ると……メナドとハウレーンと共にアイテムを購入した。

 

主に世色癌3と竜角惨、そして食料を中心にだ。

 

うち竜角惨はぶっ壊れ性能なので割と高価だったが、王様なので無問題。

 

ちなみに"まんが肉"はデカくて重いので買っていない。

 

資金面では苦労しなさそうでも、持てるアイテムの数ダケはゲームに勝てそうもない。

 

んで道具屋を出ると"うし車"の手配を終えたかなみが現れたので、今は4人で目的地へと歩いている。

 

尚、メナドとハウレーンが加わった事を知った彼女には、俺と二人きりにならなくて良かったと皮肉を頂いた。

 

 

「それにしてもランス」

 

「なんだ?」

 

「暢気に迷宮探索なんかしていて良いの?」

 

「……普通に考えたら無いなァ」

 

「だったら分かってるでしょッ? 貴方が王様になって不満を言う貴族の連中も多いわ」

 

「その辺はマリスに任せれば大丈夫だろ」

 

「うッ、否定できないかも……」

 

 

――――実際クーデター後に大きな暴動が起きなかったのも、殆どはマリスの御蔭なんだろうしな。

 

 

「まぁ、反乱なんか起こす奴等が居ても黙らせてやるけどな(……実際そうしてたし)」

 

「ハァ……やっぱりランスらしいわ」

 

「そうか?(……何処がだよ……)」

 

「…………」

 

「…………」

 

「うん? どうしたんだ? 2人とも」

 

「え、えぇ~と……王様とかなみちゃん、随分と仲が良いな~って」

 

「彼女はランス王が即位される前からの、旧友だったと言う訳ですか?」

 

「……まぁ、そんな所か?(3とか4でどう接してたか知らんが)」

 

「ち、違うでしょッ? 今迄は任務だから組んでたダケ!! 別に仲が良いワケじゃ無いからッ!」

 

「あァ……考えてみれば、そうだったな」

 

「えっ!? お、王様は納得しちゃうの?」

 

「むぅ(……ランス王……いまいち分からない方だ)」

 

 

≪かなみか? コイツは俺様の女なのだッ! がはははははは!!≫

 

 

「(普通なら ああ言う筈なのに……や、やっぱりランスらしくない気がする……)」

 

 

 

 

……

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

"うし車"でそれなりのスピードで街道を駆け、俺達4名は4日で"魔物の洞窟"にへと辿り着いた。

 

そして迷宮へと侵入し、モンスターを蹴散らしながら奥へと進んでゆく。

 

どんな仕様なのか心配だったが、普通に楽勝みたいだな~。

 

もし軍隊で攻略するなら、一層一層のモンスターを全滅させてから次の階に降りるのが基本。

 

だが大佐ハニーとかが纏める高難易度のダンジョンであれば、防御して多くの味方を犠牲にしつつ切り抜けなければならない。

 

されど今回は両方とも違ったみたいで、遭遇したモンスターだけを倒す小規模の闘いを繰り返していた。

 

 

「何か居るな……かなみ、見えたか?」

 

「あれは"マーダー"よ!」

 

「お、大きい~ッ」

 

「(迷宮ボスだな)メナド、ハウレーンッ! 魔法に注意しろ、初撃は俺が抑える!!」

 

「はいっ!」

 

「承知ッ!」

 

『"ディーゲル"!!』

 

 

≪――――ドオオォォンッ!!!!≫

 

 

「ぐわっ!?」

 

「王様!? ……このっ!」

 

「はぁあッ!!」

 

 

流石は迷宮ボスだ……これまでの雑魚とは一味違う。

 

出会い頭の攻撃魔法は結構カラダに堪えた。

 

まだ弱い部類のボスとは言え、一回の攻撃で20人は戦闘不能にするしな~。

 

元気に居座ってた時点で、普通の冒険者じゃ勝てないのだろう。

 

けどリーザス上位のメンバー3人を含む俺達が易々と殺られるハズは無く、先ずは2人の騎士が斬り込む!

 

 

『…………』

 

「か、硬い!? 違う、鈍いのかな?」

 

「それに……詠唱しているのか?」

 

「かなみッ!」

 

「――――しッ!!」

 

 

剣攻撃に続いて、かなみの放った手裏剣がドスドスと直撃する。

 

"ビスマルク"か"メッサーシュミット"か知らんが大魔法を撃たせると危険なので、集中攻撃する事によりマーダーの詠唱をキャンセルさせたのだ。

 

ランス6だとキャンセルは麻痺が決まった時or確率だったが、コレは3人の攻撃によるダメージの蓄積によるモノだろう。

 

勿論、ターン制でも無いのでメナドとハウレーンの剣撃は現在進行形で続き、俺も参加する事でマーダーは装甲を次々と失っている。

 

 

『"ディーゲル"!!』

 

 

≪――――ドオオォォンッ!!!!≫

 

 

「ぐぅッ!?」

 

「は、ハウレーンさん!?」

 

「この野郎!!」

 

「まだ浅いわッ! ランス、そろそろ"何時もの"をしなさいよ!」

 

「仕方ないな……(恥ずかしいけど)……やってやるかッ」

 

『"ディーゲル"!!』

 

 

≪――――ズガアァァンッ!!!!≫

 

 

「そんなものッ!」

 

「かなみちゃん!?」

 

「メナド、ハウレーンと下がってろ!!」

 

「うッ……わ、分かりました」

 

 

マーダーは既に満身創痍に見え、長い詠唱は諦めたっぽいが、苦し紛れの反撃は強烈だったらしい。

 

その一撃を食らいハウレーンが吹き飛ばされたので、メナドが気遣う一方、俺とかなみが攻撃を加え続ける。

 

しかし巨体ながら未だ浮遊しているので、決定的なダメージが必要らしく遂に"あの技"を使う時が来たか。

 

必殺技を叫ぶとかガラじゃないので今まで使っていなかったが、かなみが注意を引いてくれているので急がなければ。

 

尚、基本的に魔法は必中なんだけど、彼女は俊足と障害物(岩)を旨く利用して魔法を防いでいる模様。

 

その発想は無かったな……流石は現実だ。

 

ゲームのシステムでは到底無理だった事を、平然と行えている。

 

……って、感心している場合じゃないッ。

 

俺は遅れて我に返ると、マーダーに向かって剣を構えながら走り出した。

 

 

『"ディーゲル"!!』

 

「クッ……まだなの!?」

 

 

≪――――ダダダダダダッ!!≫

 

 

「必殺!!」

 

『!?!?』

 

「ラーンス・アタック!!」

 

 

≪――――ドゴオオオオォォォォンッ!!!!≫

 

 

『……!? ……ッ……!!』

 

「す、凄ぉい……」

 

「これ程とは……」

 

「ふ~ッ(出来たか)」

 

「ランスッ! 何であんなに遅れたのよ!? もう少しで魔法に当たりそうだったじゃない!!」

 

「すまん」

 

「!? だ、だからランスの癖に謝らないでよッ!」

 

「……(どうしろと……)」

 

「ともかく注意してよね? 魔法なんて何度も避けれるモノじゃ無いんだから」

 

「分かったよ」

 

「…………」

 

「…………」

 

「んっ?(似たような視線が……)」

 

「な、何なんですか?」

 

「やっぱり王様とかなみちゃん……仲が良いみたいですね~」

 

「余程、信頼し合っている間柄と見受けられます」

 

「何故に」

 

「だ、だだだだから何でそうなるんですか~ッ!!」

 

「ハウレーン。食らった魔法は大丈夫だったか?」

 

「既に世色癌を飲みましたので問題ありません。それよりもランス王の御体は……?」

 

「えッ? あァ、俺も特には――――」

 

「ランスもアッサリ流さないでよぉ!!」

 

「……(かなみちゃん、ひょっとして王様の事好きなのかな~?)」

 

 

 

 

……

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

……攻略2日目。

 

 

「ランスさんは経験豊富とみなされ、レベル30となりました」

 

「良しッ」

 

「かなみさんがレベル33となるには残り――――の経験値が必要です」

 

「もう少しね」

 

「メナドさんは経験豊富とみなされ、レベル35となりました」

 

「やった~っ!」

 

「ハウレーンさんは経験豊富とみなされ、レベル32となりました」

 

「有難う御座います」

 

「それではランスさん、ご機嫌よう~っ」

 

 

ダンジョン内だろうとレベル神・ウィリスを呼び出しつつ、俺達は魔物の洞窟を攻略していっている。

 

昨夜は野宿をする際にランスの性格を知っているかなみがギャーギャー五月蝿かったが、迷宮内でセックスする気は起きないので黙って寝ると、彼女は呆気に取られた様子だった。

 

う~む……やっぱ普段から"ランスらしく"した方が良いのか?

 

せめて、一人称を"俺様"にしたり……

 

だがハウレーンに自分から嫌われそうな行動をしなくてはならないし、イマイチ踏ん切りがつかん。

 

まァ"ランスらしく"しなくちゃいけなそうな場面だけ装えば大丈夫な筈……多分だけど。

 

 

「さて、儀式も終わったし出発するか」

 

「そうね」

 

「それにしても、やっぱり王様って凄く強かったんですねッ」

 

「でもなあ……レベルは皆より低いぞ?」

 

「けど、アレだけ頑丈だった"マーダー"を沈めちゃった時の一撃は、ぼくじゃ絶対真似できません!!」

 

「あと20くらいレベルを上げりゃ~本来の"俺様"に戻るんだけどなァ」

 

「そうなれば更に……やはり魔人すらも倒されたと言うのも頷けますね」

 

「す、すっごいですッ! ぼく尊敬しちゃいます!!」

 

「ダメよ? メナド。ランスは煽てると直ぐ調子に乗るから――――」

 

「それほどでもないさ」

 

「ガクッ」

 

「あれ? かなみちゃん、大丈夫?」

 

 

俺が頑張れているのは殆どがレベル不相応の威力を持った"リーザス聖剣"の御蔭なんだが、何故か俺自身の強さの方が目立っているらしく、メナドがキラキラとした視線を送って来る。

 

ハウレーンも初対面時の仏頂面と比べると、それなりに表情が緩んでいる気がしないでもない。

 

こりゃ連れて来て正解だったな~。

 

リーザス城内でハウレーンと交流しようにも、世界制覇が始まった時点で機会は極端に減ってしまうだろう。

 

だけど才能限界になってからも迷宮へ連れ回す為には……『アレ』っきゃないのが今の悩みの種だなァ。

 

一方、相変わらずかなみは強いギャップを感じている様子だが、悪いけど慣れて貰うしかないか。

 

 

 

 

……

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

……攻略3日目。

 

 

「開きそうか? かなみ」

 

「もう少しよ」

 

 

≪――――ぱかっ≫

 

 

「これは……(予想通り)……壷だな」

 

「蓋の裏には"大魔王の壷"って書いてあるわね」

 

「何だか可愛い壷だねッ」

 

「コレが"この迷宮"の財宝と言う訳ですか」

 

「そうなるな~。つまり?」

 

「攻略終了って事ね」

 

「えっ? そうなんだ~、やったねッ!」

 

「少なからず、達成感と言うモノを味わえました」

 

「ハウレーンもか?」

 

「は、はい。この様な経験は今迄に無かったモノで」

 

「そうか……だったら今夜は"プアーの街"で祝勝会といくか?」

 

「ランスにしては良い提案ね」

 

「わ~い! ぼくもう、お腹ペッコペッコだったんですよ~」

 

「此処3日は世色癌と竜角惨が主食みたいなモンだったからなァ」

 

「……(迷宮に同行する事で、唐突に即位されたランス王を見定めるつもりだったが……)」

 

「んッ? ハウレーンは反対か?」

 

「!? いえ、とんでもありません」

 

「そうか。だったらメナド」

 

「はいッ! お帰り盆栽、使いますよ~?」

 

「……(どうやらランス王は、私が剣を捧げるに相応しい方だった様だ……)」

 

 

 

 

……

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

……その日の夜。

 

何気に泊まらずスルーしていたプアーの街へと戻った俺達は、4人で豪勢な夕食を摂った。

 

うちメナドとハウレーンは今迄に無い冒険だった為か、疲れが溜まっていた様で既に寝ている。

 

反面"ランス"とかなみには少し余裕が有り、今は俺の借りた個室にて彼女に指示を出そうとしている最中だ。

 

実行は明日の朝からで構わないのだが、かなみには冒険だけでなく"忍者"としての任務が残っていた。

 

 

「とりあえず"魔物の洞窟"の攻略自体は無事に終わったと伝えてくれ。だが此処で宿を取りつつ、もう2日くらいは篭ってから戻るから、リーザス城に着くのは一週間後と言う事も忘れずにな」

 

「はい」

 

「それと"ジオの街"の攻略は既に指示してるが、先陣をリックの部隊のみに任せる事にしている。削った後はバレス・エクス・メルフェイス・アスカの4部隊で一気にカタを付ける手筈だ。そんで次回の臨時徴収は(アルカノイド貝狙いで)マリスに"アランの街"を指示してるから、それらの結果を聞いてから戻って来てくれ。大事じゃない限りは、ゆっくりしていって良いからな?」

 

「分かりました」

 

「じゃあ休んでくれて良いぞ。お疲れさん」

 

「う、うん……」

 

「(さて俺も寝るかなァ)」

 

「……ッ……」

 

「何見てんだ? かなみ」

 

「えっ!? な、何でも無いわッ」

 

「そうか」

 

「そ、それじゃ――――」

 

 

……この瞬間、俺は流石にヤバいと思った。

 

幾らなんでも今の自分は"ランスらしく"無さ過ぎると。

 

それ故に……いや、元々酒に弱いランスにアルコールが入っていた為かもしれないが、訝しげな視線を向けて来たかなみを"このまま"立ち去らせては不味いと思っちまったのだ。

 

よって、彼女を引き止める為の言葉を考えたんだけども、真っ先に浮かんでしまった"ランスの台詞"は……

 

 

「待てッ! かなみ!!」

 

「えっ?」

 

「寝る前に一発やらせろ!!」

 

「!?!?」

 

 

――――案の定セックスの促しであり、別に断られても"ランスらしい"と思われりゃ良いの精神だ。

 

 

「なに驚いてんだ? かなみ」

 

「そ、そりゃ驚くわよッ! イキナリ何を言い出すの!?」

 

「何だァ嫌なのか~?」

 

「……ッ……」

 

「だったら構わ――――」

 

「別に、嫌ってワケじゃ無いけど……」

 

「ゑっ?」

 

「その……迷宮じゃ頑張ってたと思うし、ランスが……ど、どうしても~って言うなら……」

 

「どう言う風の吹き回しだ?」

 

「!? そ、それは私の台詞よッ!」

 

「へッ?」

 

「だって変じゃないッ! ランスなのよ!? 良いヒトだったら見境なく襲うランスなのよ!?」

 

「(……もしかして酔ってるんじゃ……)」

 

「なのに今迄、私に何も求めて来ないんだもん!! メナドとハウレーンさんに対しても色目すら使わないしッ!」

 

「抱かれるのは嫌じゃなかったのか?」

 

「それは……最初は嫌だったけど……何か今のランスは……や、優しく抱いてくれそうだったから……」

 

「(マジで!?)」

 

「……それに、えっと……」

 

「何だ?」

 

「や、"やらせろ"って言ったのが……3人の中で私が一番最初で……嬉しかったし……」

 

「……ッ……」

 

 

ドアの前で呼び止められて振り返ったかなみは、何と不快感を露わにするドコロか、もぢもぢとしながら衝撃的な事を言って来る。

 

真面目に戦っていたのを認めてくれたのはともかく、メナドとハウレーンより真っ先にカラダを求められた事が嬉しかっただと!?

 

信じられん誤算だッ。

 

そんな彼女の表情は非常に魅力的に見えたので、俺は何時の間にか彼女に近づくと小さな体を抱き締めていた。

 

 

≪――――ぎゅっ≫

 

 

「あッ」

 

「今のお前……めっちゃ可愛いぞ。何で気付かなかったんだ」

 

「!? ほ、本当?」

 

「うむ」

 

「……♪」

 

 

――――僅かな沈黙が続くと、自然とかなみも俺の事を抱き返してくれていた。

 

 

「じゃあ……ホントに良いのか?」

 

「う、うん。でも優しくして欲しい」

 

「任せとけ」

 

「――――んッ」

 

 

……こうして酔った勢いでかなみを抱く事ができてしまい、互いに熱い口付けを交わした。

 

そんで繋がる際、ランスのデカい息子を考えて全体的にソフトに行ったが、ソレも好評だったみたいだ。

 

典型的な『不良が優しくなるパターン』だったと言えるが、かなみにとっては効果覿面だった模様。

 

ちなみに、朝に俺(全裸)を起こしに来たと思われる、メナドの挨拶(ドア越し)を目覚まし代わりに覚醒した時、既にかなみの姿は無かった。

 

考えてみれば、互いに部屋に居たままだったら言い訳が難しかったと思うので、彼女の気遣いには感謝である。

 

と、ともかく今日も改めてレベル上げだッ。

 

そんで"ジオ"の街を落としたら、次は"レッド"の街だな。

 

早い段階でレッドに有ると思われる"魔剣カオス"を入手できれば大きなアドバンテージになるし、適当に頑張るとしますか~。

 

 

「(やっぱりランスは王様になってから"変わった"のね。出来る限り力になってあげなきゃッ)」

 

 

 

 



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第3話:かなみちゃん……ぼくの事をそんな目で……

 

 

 

 

……遠征の為にリーザス城を出発してから丸2週間後。

 

ようやくリーザスの城下町に戻ってくると、俺は"うし車"から降りながら溜息を漏らした。

 

正直、乗り心地が良くなくてケツが割と痛かったから、今度はクッションでも用意しとくかな……

 

いや、現代のバスや電車みたいに内部を改造するのも有りだろうし、色々とアイデアが浮かんでくる。

 

 

「ふ~ッ、到着っと」

 

「お疲れ様でした。ランス王」

 

「あァ。ハウレーンこそな」

 

「それにしても……大丈夫だったの?」

 

「何がだ? かなみ」

 

「えっと、主に体調とか」

 

「別に"うし車"で気持ち悪くはなってないぞ?」

 

「酔いじゃなくて! 迷宮で凄いペースで狩ってたみたいだし」

 

「それに関しては竜角惨サマサマだな。何をどうやってアレを開発したんだ? ハピネス製薬は」

 

「知らない。でも値は張るけどね」

 

「今は王様だから、予算的には何も問題無い」

 

「冒険者の殆どは金の為に戦いますが、レベル上げが目的……かつアイテムの消耗を気にしない場合は……」

 

「従来の価値観からすると、無茶をしてる様に見えても仕方ないのかもな」

 

「そ、そうみたいね。まァ、私も竜角惨を沢山貰えたから、移動には苦労しなかったんだし……」

 

「うむ。正直、あんなに早く合流してくるとは思わなかったぞ? ゆっくりして良いって言ったのに」

 

「い……入れ違いになるのが嫌だったダケよッ」

 

「ともかく、良い鍛錬をさせて頂きました」

 

「俺的にはまだまだかな……レベル32だし……」

 

「十分に凄いペースよ……私と再会した時は20だったのに」

 

「何にせよ、あの迷宮はもうダメだな。新しい場所を探す必要が有る」

 

「(ランス王の目指す場所は遠いと見える。やはり本気で魔人をも倒すつもりだと言うのか……?)」

 

「……ッ……」

 

 

レベル上げの結果は俺が32。

 

かなみは33。

 

メナドは36で、ハウレーンは33となった。

 

また、かなみの伝達によると殆ど被害も無く"ジオの街"は落とした様で、合併の手続きが終了。

 

臨時徴収も終わった様で"アルカノイド貝"を回収。

 

意味が無いアイテムだけど、ランスらしさをアピールする為のコレクションだ。

 

そんな報告をしてくれたかなみは、帰りの道中は明らかに態度が軟化していた。

 

理由は言うまでもない。

 

だが……彼女と違って、今の会話に全く混ざっていなかったメナドがボケーッとしている事が多かった。

 

真面目に戦っていたので問題には至らなかったが、かなみの態度から、俺との関係を察してしまったのかもしれない。

 

どう対応しようか少しだけ迷ったが、今のメナドには副将としての仕事に集中させる方が良さそうだな。

 

 

「……(メナド?)」

 

「じゃあ、俺は早速リアの所に顔を出しにでも行ってくるかなァ」

 

「私も父に報告をしようかと思います」

 

「なら途中まで行かないか? ハウレーン」

 

「はッ。御一緒させて頂きます」

 

「そんなワケだからかなみ。"うし車"の処置とかは頼んだぞ? 面倒だったら兵に任せても良いからな?」

 

「あッ、うん」

 

「…………」

 

「ちょっとちょっとッ、メナド!! ランスもう行っちゃったわよ!?」

 

「!? えッ? も、もうリーザスに着いたんだ~」

 

「……それ以前の問題なのね」

 

「ハァ……」

 

「メナド!!」

 

「は、はいッ」

 

「さっきから一体、何が有ったのよ? 私が戻って来てから貴女何か変よ?」

 

「そ、それは……えっと」

 

「私達は親友でしょ? 何か悩みでも有ったら――――」

 

 

 

 

……

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

……3分後。

 

 

「だから、その辺がどうなのかな~って」

 

「つ、つまり……私とランスの関係が気になってたのね?」

 

「うん。攻略が終わった日の夜、かなみちゃん部屋に戻って来なかったし……」

 

「……うぐッ」

 

「きっと、以前の王様とは恋人同士――――」

 

「!? そ、そそそそんなワケ無いでしょ!? 只腐れ縁なダケで、ランスに抱かれたのも任務……そうッ、妾みたいなモノで仕方なく抱かれたの!! だから、そんな寒気のする事言わないでよッ!」

 

「寒気って……どうして?」

 

「ランスと元恋人同士なんて間違われたら、私がリア様に殺されちゃうでしょ?」

 

「あッ……ご、ごめんね」

 

「分かれば良いのよ。だから、気にしなくても大丈夫だからね? 別に無理矢理とか、そう言う類でも無いからッ」

 

「うん。でもまァ、改めて考えてみると……ぼくには最初から関係ない話だったよね……」

 

「関係ないって?」

 

「かなみちゃんは可愛いけど、ぼくみたいな男女が王様の妾になる事なんて、絶対に無いだろうし」

 

 

≪どよ~ん……≫

 

 

「め、メナド?」

 

「きっと、一生ぼくは半人前の騎士として、男の人とは無縁のまま生きて行くんだろうなあ……アハハハ」

 

「何言ってんの? しっかりしなさいよッ」

 

「かなみちゃんとは、そう言う(恋人ができない)意味で親近感も有ったんだけど、残念だよ~」

 

「さり気なく酷ッ! でも大丈夫よ? 既にメナドはランスに目を付けられてるから!」

 

「そ、そうなの?」

 

「だって、私の方こそメナドの事が"可愛い"って思ってるもの。だから自分に自信を持ちなさいよッ」

 

「……うッ……うん、分かった。ぼく頑張ってみるよ」

 

「それでこそ貴女だわ」

 

「王様の妾……じゃなくて――――認めて貰う為にッ!」

 

「ね、ねぇメナドッ! 前者のは本気じゃなくて間違いよね!? 間違いで言ったのよねッ?」

 

「ハッ!? ……それよりも……かなみちゃん……ぼ、ぼくの事をそんな目で……」

 

「話をややこしくしない~ッ!」

 

 

 

 

……

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

……謁見の間。

 

 

「ダーリン!? おっ……」

 

「…………」←耳を塞ぐランス

 

「……ッ?」←釣られて耳を塞ぐマリス

 

「そおおおおぉぉぉぉーーーーーーーーーーッい!!!!」

 

「オマエの方は五月蝿い」

 

「こ、鼓膜が……」

 

「大丈夫か? マリス」

 

「な……何とか」

 

「もうッ! リアに内緒で何処に行ってたのよ~!?」

 

「ソレはかなみから聞いてただろ?」

 

「でも心配したんだからァッ! ダーリンの馬鹿馬鹿、大ッ嫌い!!」

 

 

そう言いつつ、俺の胸板をポカポカと叩いてくるリア。

 

動作の何もかもが可愛いので、そこまで罪悪感が湧かないのが彼女の怖い所。

 

だが、ある程度好きにさせたら直ぐに手を引いたので、本気で怒っている訳では無さそうだ。

 

 

「どっこいしょっと」

 

「お疲れ様でした。ランス王」

 

「あァ。それよりジオの制圧は問題なかった様だな?」

 

「御伝えさせた通りです」

 

「なら次はレッドとハンナ辺りだな。どちらも500万Gの資金提供を条件に合併を促してくれ」

 

「断られた場合は如何しましょう?」

 

「残念だが武力制圧だ。天才軍師が居るハンナとは、出来れば揉めたくない所だけどな」

 

「畏まりました」

 

「じゃあ、次の臨時徴収はジオで行ってくれ。割と溜め込んでるイメージが有る」

 

「妥当なところですね」

 

 

――――今は4月の2週目末。

 

記憶では5月の1週目には魔人+魔物の軍勢がリーザス城に攻めて来る。

 

ソレまでに"魔剣カオス"を入手し、レベルを可能な限り上げて置きたい。

 

序盤のイベントながら、ぶっちぎりで命に関わりそうだしな~。

 

ゲームでの魔人戦だと、例えばランスなら……平地戦で1000名の部下を盾にしつつ安全に攻撃を加えていたが、現実では絶対に無理そうだ。

 

逆に、後のシリーズの様に俺がカオスを持っているダケで『無敵結界』を破れるなら、軍隊規模で襲えば楽勝かもしれないんだが……沢山の死傷者が出ても、ゲームと違って容易に補充できない兵数を考えると、何度も行える手段では無いだろうし、結局は『ランスパーティー』のレベルが全てだと言える。

 

そうなるとレベル32ではオハナシにならないので、少なくとも40以上……出来れば50にはしたい。

 

また、カオスの仕様次第でレイラさん・リック・コルドバ・メナド・かなみ・メルフェイスと、個人の才能限界が高い面子にも魔人への攻撃に加わって貰う事で、より奴等を倒し易くなる筈だ。

 

尚、初めて対峙する事になりそうなのはラ・サイゼルで、才能限界値は120前後の氷の魔人だったか?

 

一人で倒すのは不可能だろうが、仲間との連携が可能なら『無敵結界』という自惚れの不意を突き、意図していないダメージを与えて動揺させれば、一気に畳み掛ける事が出来るだろう。

 

よって極端な話、魔人の攻撃に有る程度耐える事ができつつ、かつトドメを刺せる火力を得る為のレベル上げと言って良い。

 

そのレベル上げの次の場所が……レッドの南東に位置する『ハイパービル』である。

 

記憶によると、有用な『知恵の指輪』が存在する。

 

或いは、ハンナの南東に位置する解呪の迷宮。

 

数多くのイベントを消化できる場所なので、其方も攻略が必須だ。

 

リーザスを守るダケならレベル上げは程々でも良いんだが……毎週毎週倒せない魔人相手に防衛とか、現実となった今じゃストレスが溜まりそうなので、冒頭と言うのに色々と画策する俺だった。

 

いずれ小川 健太郎・サテラ・メガラスが加わるとは言え、早急に魔人を潰すに越した事は無いのだ。

 

全く支援する手段が無かった、ホーネット軍の負担を減らす事にも繋がるかもだしな。

 

そんな事をマリスと会話した後に黙って考えていると、リアが既に俺の正面を20往復以上していた。

 

マリスも直立不動で、黙って頭の中で予定を纏めている事が多いらしく、俺が似た様な雰囲気だったのか口を挟んでこなかった辺りが、甲斐甲斐しくも感じてしまう俺サマ。

 

だが、思考を停止してリアの方を向いた直後に、待ってましたと言わんばかりに声を掛けて来た。

 

 

「ねぇダーリンッ! お話とか終わったんなら、いい加減エッチしようよ~っ!」

 

「う~ん」

 

「ランス王……」

 

「酷いよ~ッ! なァ~んでかなみとはエッチして、リアとはしてくれないの~っ!?」

 

 

それは彼女と暫く冒険をして、信頼を得たゆえでの結果なんだが、いずれはリアともそうなれば良いとは言え……

 

 

「あのなァ。少なくとも"こんな場所"で、そんな事を言われちゃ萎えるんだよ」

 

「そ、そんな事言ったって~ッ」

 

「お前もそう思うだろ? マリス」

 

「はい、その……少々、場所を選んで頂けると……有り難い気は……」

 

「もうッ! マリスもダーリンと同じ事言うのォ!? 大っ嫌ァい!!」

 

「が~ん」

 

「ほほォ。じゃあ俺の事も"大嫌い"なんだろ? だったら抱く必要は無いなッ」

 

「えぇッ!? ど、どうしてそ~なるのよぉ!! ……うぅ……ひっく……」

 

「り、リア様?」

 

「ありゃ(……からかい過ぎたか?)」

 

「グスッ。リアは……ダーリンの奥さんなのにぃ~ッ」

 

「……ったく」←頭を掻きながら

 

 

≪――――ぽんっ≫

 

 

「ふぇッ?」

 

「そんな事で泣くな。お前らしくもない」

 

「リアにとっては、重要な事だよォ」

 

「だったら今から"デート"でもど~だ? 何気に初めてだろう?」

 

「!? そ、そう言えば一度も……わ~い!! ダーリンとデートなの~ッ!」

 

「良かったですね。リア様(……デート自体初めてじゃないかしら?)」

 

「それじゃ~ダーリンッ、早く行こぉ~!?」

 

「やれやれ。後は任せたぞ? マリス」

 

「はい。行ってらっしゃいませ」

 

「えっとねえっとねッ! 先ず最初は、ホテルに入るの!!」

 

「それはデートと言わんだろうがっ!」

 

「(ランス王とリア様……一応は旨くいっていると見て良いのかしら?)」

 

 

――――ちなみに騒ぎまくったリアは結局疲れて寝てしまい、今日も彼女とのHを回避できた。

 

 

 

 

……

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

……翌日。

 

既に本日から"お忍び"でレッドへ旅立つ事を決めていたので、リアを撒くのに苦労してしまった。

 

今は一人で廊下をスタスタと歩いているが、途中で"見知ってはいるが初めて会う男女"が何やら話しているのを発見した。

 

そんな2人は俺に気が付くと軽く身形を直し、此方に向かって丁寧な会釈をしてくださる。

 

 

「おや? これはランス王ッ」

 

「エクス・バンケットとメルフェイス・プロムナードだな? おはよう」

 

「はい。おはようございます」

 

「お早う御座います……王様」

 

「エクス将軍は今からハウレーン副将と、ハンナの街に出発だったか?」

 

「はい。交渉が旨くゆけば良いのですがね」

 

「智将としての手腕を期待しているぞ?」

 

「御期待に沿えれるよう、努力する次第ですよ」

 

「うむッ(……まあゲームだと300万Gでも足りるし大丈夫だろ)」

 

「ランス王は再び迷宮に向かわれるとの事ですが?」

 

「!? 知ってるのか? 情報が早いなァ」

 

「ハウレーンに色々と聞きましてね。彼女は、なかなかランス王の事が気に入った様ですよ」

 

「そりゃ~有り難い」

 

「恐縮ですが、迷宮は何処を御選びに?」

 

「レッドのハイパービルを予定している。以前と同じ2週間だ」

 

「成る程……ふ~む……」

 

「……エクス?」

 

 

唐突に考える仕草をするエクスに、俺は彼の名を漏らす一方、メルフェイスは首を傾げた。

 

対して、エクスの思考時間は予想よりも短く済んだ様で、直ぐに此方を見て口を開いた。

 

 

「ランス王。宜しければ、彼女を同行させては頂けませんか?」

 

「え、エクス将軍ッ?」

 

「……何か理由でも有るのか?」

 

「前回の遠征では、メナド副将とハウレーンが同行した様ですので」

 

「他には?」

 

「生憎、僕は個人戦には向きませんが、彼女は非常に力になってくれるでしょうから」

 

「ふむ」

 

「それに――――」

 

「……ッ……」

 

「それに?」

 

「何と言うか……少し問題が有りまして、僕が彼女を連れて"ハンナ"に向かうよりは、ランス王に託す方が都合が良いんですよ。理由は僕の口からは申せませんが……」

 

「ほう」

 

「メルフェイス。君はどんな考えだい?」

 

「……そうですね……私の"大変な時"が近いと言うのに、ハンナと交渉をしている将軍の妨げになるよりは、ランス王と行動させて頂いた方が、迷惑が掛かり難いかもしれません……」

 

「????」

 

「例え最悪の結果が訪れたとしても……迷宮でしたら、ひっそりと逝けますし……」

 

「何を言うんですかッ。ランス王が色々な意味で"強い方"だと言うのは保証しますよ? 僕よりも余程ね」

 

「全く話が見えないんだが?」

 

 

彼女が薬の副作用で【2ヶ月間強い男性に抱かれないと狂死する】事は知ってるが、知らん振りをする俺。

 

抱いてた女を躊躇い無く俺に託すエクスもどうかと思うが、彼は"抱くけどソレだけ"と割り切れる奇特な人間なのだろう。

 

だったら、多少は感情移入できる俺の方がマシなのかな~?

 

何と言っても、相手は超絶美人の長髪金髪女性(25)だし。

 

身長も今の俺(ランス)と同じくらい有る……のはさて置き、現段階の彼女は非常に頼りになる筈だ。

 

 

「すみませんランス王。近い内に分かると思いますから」

 

「精一杯頑張りますので……宜しければ、私を御連れください……」

 

「分かった。丁度戦力が欲しかったし、元々何人かには声を掛けるつもりだったが、そう何度も副将を連れて行くワケにはいかんしなァ」

 

「有難う御座います。それでは、僕はコレで失礼致します」

 

「あァ」

 

「(彼方の意味でも彼女を無事に守れるのか? 申し訳ないですが、試させて頂きますよ? ランス王)」

 

「それでは……その……」

 

「うむ。よろしく頼むぞ? メルフェイス」

 

「は、はい……此方こそ……」

 

 

う~む……どうも彼女の瞳には、生きる気力が感じられないな。

 

最初のかなみよりも遥かに酷いし、メナドとは完全に正反対だ。

 

こりゃ~原作通り、いずれは部下と結婚して頂くに限るのかもしれない。

 

戦争だと解呪せずとも微妙だった気がするが、個人戦だと期待出来そうなので様子を見るに限るな。

 

 

 

 

……

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

……5分後。

 

 

「はァ……また迷宮に付き合わされるのね?」

 

「悪いな。かなみ」

 

「別に良いわよッ。それよりも、何の為に私を呼んだの?」←謝られるのは慣れた様子

 

「前回と同じ準備をして貰いたい」

 

「……うし車の手配ね? でも……3人ダケで良いの?」

 

「一応、レイラさんには声を掛けるつもりだ。生憎、メナドはリックとレッドに行くしな」

 

「流石に親衛隊はリーザスに残ると思うけど? 他の将軍が忙しい今、特にお城を守る必要が有るし、リア様の護衛だって有るのよ?」

 

「無理なら3人で行くさ」

 

「まァ……アイテムの蓄えさえ十分なら、ハイパービルでも大丈夫だと思うわよ? 何せ今回はメルフェイス様が居るし、ランスも最初と比べれば強くなったしね」

 

「そんなに凄いのか? メルフェイスは」

 

「うん。一概には喜べない事だけど……」

 

「すみません」

 

「い、いえッ。謝るのは私の方です! 無神経でしたッ」

 

「ともかく。準備の方を頼んだぞ? レイラさんに会ったら直ぐに行くからさ」

 

「分かったわ(……それだけ必死に……少し妬けちゃうかも)」

 

 

≪――――ッ≫

 

 

「それで、今の時間は何処に居るのかな?」

 

「……確か訓練をされていた気が……御案内致します」

 

 

 

 

……

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

……更に5分後。

 

 

「残念ながら都合が悪いですね」

 

「ですよね~」

 

「ですが、指示なされたのはマリス様です。ランス王に撤回して頂ければ、私が護衛に当たる事も……」

 

「いや構わん。アイツの組んだ予定を無理に狂わせたくない」

 

「……そうですか」

 

「それよりも」

 

「はい?」

 

「俺の事は、以前と同じ様に呼んでくれて構わないぞ? 敬語も要らん」

 

「!? ……それなら……ランス君……で良いかな?」

 

「うむ、グッドだ」

 

「ふふふッ。相変わらずで安心したわ」

 

「そうかなァ?」

 

「……どうやら、難しかった様ですね」

 

「まあ仕方無いさ」

 

「私としては、是非付いて行きたかった所なんだけど……」

 

「別に問題無い。鍛錬の方、頑張ってくれよ?」

 

「勿論です! ……あッ……でも"あの娘"だったら――――」

 

「レイラ将軍?」

 

 

メルフェイスに案内された場所では、親衛隊の女の子達(全員可愛い)が勇ましく訓練していた。

 

そんな中、俺の存在に気付いたレイラさんが近付いて来たので同行を促したが、無理みたいだった。

 

……だが、有る程度は予想していたので気にしない事にする。

 

本来ならかなみと2人で行く予定だったのに、今は3人に増えてるし。

 

よって、この場を立ち去ろうとした俺だったが、彼女が考える仕草をしたので留まっていると……

 

 

「あァーッ! ランスちゃんだ~!!」

 

「お、お前は……ジュリア・リンダムか!?」

 

「!? そうそうッ。ジュリアを連れて行けば、ランス君の役に立てると思うわ」

 

「あれッ? でも、ジュリアって確か……」

 

「コレでも凄く強いの。悔しいけど、私に勝つ事も有るのよ?」

 

「そーだよ~ッ! ジュリアはつッよいんだぞーっ!? にゃははははッ!」

 

「でも……本当に"強いだけ"だから、部隊は到底任せられないけどね……」

 

「う~む、納得」

 

 

訓練中だったっぽい『ジュリア・リンダム』が、俺の姿を発見したのか此方へと走って来た。

 

かなみと同じ17歳ながら見た目がとても幼く、レイラさんが言っている"強さ"とは全く結び付かなかった。

 

しかし、訓練の相手だった親衛隊の女の子が目を回して気絶してるって事は……スーパージュリアか!?

 

……説明しようッ! "スーパージュリア"とは、ハニーキングに改造された超強いジュリアの事なのだ!!

 

"鬼畜王"だと使った事が殆ど無いのでメタ的な強さは覚えていないが、魔人戦で役立つなら今回を機に是非レベルを上げて欲しいぜ。

 

恐らく"ランス4"で既にハニーキングに強化されていたんだろうが、こりゃ~ナイスな想定外と言える。

 

ランスの冒険の記憶が残ってたら最初から連れて行く選択肢が有ったんだが、他にも似た様な事が増えそうだな……

 

 

「それでェ、何の話をしてたの~?」

 

「今から迷宮に行くんだ。ジュリアも一緒に来ないか?」

 

「これは非常に名誉な事なのよ!? ジュリアッ」

 

「良く分からないけど……面白そうだし行ってみようかな~?」

 

「じゃあ、決まりだな」

 

「ジュリアさん……宜しくお願いします……」

 

「あれぇ? この綺麗な人は誰なの~?」

 

「もうッ。メルフェイス将軍でしょ? それくらい、知ってなさいよ……」

 

 

――――これで頼もしい仲間が2人加入したんだが、ジュリアの頭の弱さが心配になった俺だった。

 

 

 

 




【補足】
例えばリアのデザインは正史と同じですが、鬼畜王基準なので性格がアホの娘です。
メルフェイスはランス10とデザインが全く違っていますが、容姿は鬼畜王の方になります。
メナドも鬼畜王基準なのでランスを呼び捨てにはしませんし、ランス1や3でも出会っていないので前話が初対面です。

【レベル】
ランス   :32/無限
かなみ   :33/40
メナド   :36/46
ハウレーン :33/36
メルフェイス:25/48
ジュリア  :14/38


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第4話:真面目に戦ってたらメルフェイスが倒れた!

 

 

 

 

【LP03年04月3週目】

 

 

「高いなァ」

 

「高いわね」

 

「……高いです」

 

「たっかいね~」

 

 

レッドの南東に位置する"ハイパービル"を見上げて、俺達4人は呟いていた。

 

うち、俺だけは観光気分で感心した様に言ったのだが、他の三人は溜息交じりと言った感じだ。

 

そして十数秒の沈黙の後……右隣のかなみが、コンコンと左手の甲で俺の鎧を軽く叩いて告げた。

 

 

「コレ……本当に登るの? ランス」

 

「あァ。頂上まで行くぞ?」

 

「……出来るのでしょうか?」

 

「アイテムの出し惜しみはしなくて良いし、無茶さえしなきゃ問題無い筈だ」

 

「そうですか」

 

「でも、時間が有り余ってる訳じゃないわよ?」

 

「あァ。2週間でリーザスに戻るつもりだ。只でさえ移動で丸2日使ってるし、間に合わないなら潔く諦めるさ」

 

「2週間……(それまで、私の体が保つのかしら?)」

 

「ハァ~ッ。何だか面倒臭そうだな~」

 

 

――――軽い気持ちで付いて来たが、実物を見てゲンナリした感じか。

 

 

「言ってる傍からボヤくなよジュリア。またヌイグルミを買ってやるから」

 

「!? えッ、ホント!? だったら頑張るよランスちゃんッ!」

 

「はははっ。その意気だ。頼りにしてるからなァ~?」

 

 

≪ナデナデ≫

 

 

「えへへ~っ」

 

「……ッ……」

 

 

――――ハイパービル。

 

その名から連想できる通りの超高層ビルであり、地上201階にも及ぶ高さとの事。

 

ファンタジーな世界に何故こんなモンが存在するのか疑問だが、鍛錬には持って来いの場だ。

 

しかし"ランス3"の事は昔過ぎて覚えていないので『鬼畜王』基準になってしまうが、モンスターの質は"魔物の迷宮"と大して変わらない筈なので、とにかく量を狩る攻略になりそうだ。

 

そう考えれば、俺とかなみダケで攻略しないでメルフェイスとジュリアを連れて来たのは正解だったな。

 

道中で遭遇したハニーやヤンキー等の雑魚の相手をさせた時、2人の実力は本物だった事も分かっている。

 

だけど大人しいメルフェイスはともかく、我侭なジュリア(17)の士気を保たせるには手を焼いているが……

 

厄介な性癖を持つリアよりはマシなので、ランスと違って俺はイライラもせず彼女の"やる気"を煽っていた。

 

よって、今や自然な流れでジュリアの頭を撫でたりしていると、少し距離置いてかなみが不機嫌そうに見ていたので、彼女の方に近付くと小声で対応する。

 

 

「なんだなんだ? かなみ。お前も撫でて欲しかったのか?」

 

「!? ち、違うわよッ! それよりも、幾ら機嫌を取りたいからって、そんな甘やかして良いの?」

 

「なんで?」

 

「出発してから"うし車"の中の荷物が増えていくばかりじゃないッ(……そもそもランスらしく無いし)」

 

「そうでもないとヤる気になってくれないんだから仕方無いだろ?」

 

「で、でもアンタの性格って言うか……王様として、護衛役にどうかと思うって言うか……」

 

「……全く問題無い。じゃあ、とっとと行くぞ!?」(この直前まで小声)

 

「はァ~い!!」

 

「分かりました」

 

「えッ!? ち、ちょっとランス!? 待ちなさいよ~ッ!」

 

 

 

 

……

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

……攻略初日。

 

ハイパービル25階。

 

 

「この階に敵はッ! ……居ないみたいだなァ」

 

「随分と階層によって、モンスターの数にバラけが有るわね」

 

「じゃあ、早く次の階に行こうよ~ッ!」

 

「あッ。ダメよ? ジュリア。危ないわよ?」

 

 

何時の間にか、メルフェイスがジュリアの姉orお母さんみたいな役割になっているのは、さて置き。

 

面倒な事にハイパービルは一階一階が狭いので、次の階段にまで辿り着くには、居合わせた敵を全滅させる必要が有った。

 

今の様に、モンスターが一匹も居ないってパターンも有るが、とにかく戦闘が嵩んでいる。

 

だが『鬼畜王』と違って50~100前後のモンスターは居たりせず、狭いフロア相応のエンカウントであり、4人でも十分楽に勝利を重ねる事が出来ていた。

 

一方、ゲームで1000人規模で攻略する場合は、戦闘域ギリギリの物量で轢いてゆくっぽいので、そりゃ~楽な筈だぜ……

 

反面、真似しても戦闘域が狭いと隊長に経験値が入らなそうだし、そもそも『鬼畜王』だと低過ぎるしで『こちら』の方が圧倒的に美味しいけどな。

 

 

「まァ、ジュリアなら一人で先に上がっても大丈夫だろうけどな」

 

「そ、そうかもね。雑に戦ってるのに、何てデタラメな強さ……」

 

「早くテッペンまで上がって、ランスちゃんにヌイグルミ10個買って貰うんだぁ~♪」

 

「多ッ!? せめて5個にしろジュリア!!(しかも死亡フラグだろッ!)」

 

「……それでも十分多いわよ」

 

「(とても面白い方なのね……ランス王は……)」

 

 

――――こうして、俺達4名の快進撃が始まってゆく。

 

 

 

 

……

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

……攻略2日目。

 

ハイパービル55階。

 

 

「ちいッ! 割と多いが、この程度の数なら……斬り込めッ! ジュリア!!」

 

「どっかああぁぁ~~ん!!」

 

 

≪――――ドドドドォッ!!!!≫

 

 

今回、共に戦う事になったジュリア・リンダム。

 

17歳としても、童顔で小さな女性。(149cm)

 

剣戦闘と盾防御の技能は"Lv0"なので意味が無いスキルと言え、高い才能限界(38)も宝の持ち腐れ。

 

【"才能は秘められた状態"と言う設定ですが、主人公は知らないので上記の様に考えています】

 

だけどハニーキングの改造により驚異的なパワーアップを遂げ、技能も"Lv1"にアップした様だ。

 

よって、今や親衛隊の標準装備の細身の剣ではなく、リーザス正規兵が持つ長剣を装備し、それを身長150センチにも満たない小柄な体で振り回して、モンスターを圧倒する騎士となった。

 

今の戦闘でも、素早く斬り込んだジュリアが前衛のモンスターに剣の身幅(側面)を引っ掛け、そのまま振りかぶる事で後方の魔法型のモンスター等をも巻き込みつつ吹っ飛ばし、そのまま息絶えさせる始末である。

 

流石にタフなヤツは起き上がって応戦してくるが、其処は残りの3人がフォローすれば済む話だ。

 

う~む……まだレベル36の俺だと、レベル18のコイツにも勝てないような気がするんだが……

 

やっぱりレベルのみでは"オロチ"の例も有るしで、相手の力量は計り難い。

 

魔人化によるブーストを越えてそうな、ジュリア程のスペックの人間なら尚更だ。

 

 

「片付いたわね」

 

「あァ。それにしても、ジュリアの動き……かなみ以上に速い気がするんだが?」

 

「うぐッ……で、でも彼女には無駄な動きが多いもの。だから、私ほどじゃ無いわ!」

 

「……よく見られているのですね……王様……」

 

「うん? まァ、動きが速いヤツを見るのは、目を慣らす訓練にも成るしな」

 

「ぶぅ~ッ、かなみちゃん酷ぉ~い」

 

「はははっ。馬鹿にされたくなかったら、しっかりと訓練を受けるんだな」

 

「え~ッ、でもレイラちゃんとかと訓練すると疲れるんだも~ん」

 

「だったらリックを推薦してやろうか?」

 

「そ、それじゃ死んじゃうよ~ッ!」

 

「違いない(……割と良い勝負しそうだが)」

 

「ぶぅ……ランスちゃんの意地悪ッ!」

 

「でもジュリアは強くなってから、最近は真面目に訓練はしているみたいよ?」

 

「そうなのか?」

 

「う、うんッ。"お空"じゃ最初は何も出来なかったけど……今なら頑張る分、強くなれてるし……」

 

「あァ~」

 

 

今の話によると、一応ジュリアにも、以前は親衛隊の"お荷物"だったって自覚は有ったみたいだ。

 

現代で言えば働かない国の役人を税金で養ってる様なモノだし、そう考えてみるとリーザスには必要無い。

 

しかし、今や立派にリーザスの騎士として、王の俺を守る為に戦っている。

 

……何とも良い話じゃないかッ!

 

それにしてもリア……凡人だったジュリアをイラーピュに派遣したのは、マジでどうかと思うぞ?

 

更には、親友の彼女の処女をランスに捧げさせる為に……いや、真面目に考えると頭痛がするので終了だ。

 

 

「でも、頑張りすぎると疲れちゃうから、ジュリアは今のままで良いかなァ~って」

 

「別に良いんじゃないか?」

 

「……えッ?」

 

「少なくとも、今は十分に"仕事"をしてくれてる……そうだよな? かなみ・メルフェイス」

 

「えぇ、間違いないわ」

 

「とても頼もしいです」

 

「だから訓練の話は冗談だ。この調子で頼むぞ~?」

 

「……ッ……わ、分かった! ジュリアに任せといて~ッ!」

 

「ん!? おいッ! 敵も増えて来たし、そろそろ勝手に先には……!!」

 

 

――――元気付けが旨くいったか、再び階段に走り出したジュリアを追って俺も走って行った。

 

 

「仕方ないわね……(もう違和感を気にするのは疲れたわ)行きましょう? メルフェイス様」

 

「……ッ……」

 

「メルフェイス様?」

 

「何でもありません。それよりも、王様とジュリアを……」

 

「は、はいッ」

 

「(あんなに小さなカラダの娘が頑張っているんだもの。私も保つようにしないと……)」

 

 

 

 

……

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

……攻略3日目。

 

ハイパービル85階。

 

 

「え~いッ! いっくぞぉ~!?」

 

『!?!?』

 

 

≪――――ブゥウンッ!!!!≫

 

 

「あ、あれッ? ……きゃッ!」

 

『たこやキーック!!』

 

 

ハイパービルのモンスターに置いて、強敵なのが"たこやき"。

 

1メートル弱の小型モンスター。

 

何故か"バグ"と言う仮面ラ〇ダーっぽい姿に変身する事ができ、手痛い必殺技を放ってくるのだ。

 

出来るだけ変身する前に片付けるべきだが、小さいのでまれにジュリアの攻撃を避けて反撃してくる事がある。

 

実際ジュリアは火力は圧倒的だがタフな方ではなく、防御は体格&レベル相応の低さな上に、盾防御のスキルを持ちながら盾を持って居ないので、食らえばダメージは必至なのだが……

 

 

「何いきなり蹴ろうとしてる訳ッ!?」

 

 

≪――――ガコォンッ!!!!≫

 

 

『!?!?』

 

「ランスちゃん!?」

 

「ランスラァッ!!」

 

『オンドゥルーッ!!』

 

 

そんな時は俺が素早く割り込んで、盾で攻撃を防御する。

 

……さすがメイン盾は格が違った!!

 

思わずブロントってしまったのは、さて置いて。

 

弾き飛ばされた"たこやき"を、リーザス聖剣の一太刀で倒す。

 

そう……実を言うと、俺は今回リーザス聖盾を持って来ており、主に皆を守る役割を担っていた。

 

火力はジュリアとメルフェイスで足りており、撃ち漏らしはかなみが居れば大抵は大丈夫。

 

勿論、俺も火力に含まれるが、適材適所を考えると、どちらかと言うと守りに入った方が良かった。

 

たった今みたいに、幾らかなみでも『ジュリアの攻撃を避けた敵に対する対処』はし難いのは確定的に明らか。

 

 

「大丈夫か?」

 

「うんッ。有難うランスちゃん!」

 

「流石ですね……王様」

 

「それほどでもない」

 

「(け、謙虚なランスとか……)」

 

「世色癌が勿体無いしな」

 

「もうッ、ランスちゃんったら素直じゃな~い!」

 

 

――――昨日から、ジュリアが我侭に対するフォロー無しに、士気が高い様な気がして助かる。

 

 

「とにかく、油断は禁物だぞ? 世色癌で傷は癒えても、食らえば痛いんだからな」

 

「分かってるよ~ッ。それよりも、今の御礼してあげるっ! んん~ッ!」

 

「どわッ!? 殲滅の確認が済んでも無いのに、抱き付いて来るんじゃない!!」

 

「はいはい。ちょっと見て来るから、其処で待っててよ?」

 

 

 

 

……

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

……攻略4日目。

 

ハイパービル115階。

 

 

「ランス! 流石に数が多いわッ」

 

「だが"この程度"の質なら……メルフェイス!!」

 

「はいッ! ――――氷雪吹雪!!」

 

 

≪ビュオオオオォォォォーーーーッ!!!!≫

 

 

ハイパービルの攻略が100階を越えた辺りで、メルフェイスの中級広域魔法が真価を発揮する。

 

10階に一度は多くのモンスターが待ち構えている事が有るが、彼女が容易に一掃してしまうのだ。

 

……かなみ曰く、メルフェイスの範囲魔法は従来の氷雪吹雪より『二回り』は威力が高いらしい。

 

考えてみれば、仕様を完全に無視して『連射』してた氷の矢も、殆どの敵を一撃で沈めていた為『鬼畜王』での微妙さが考えられない強さと言える。

 

 

「残っているモンスターは居ないみたいね」

 

「流石はメルフェイスだ」

 

「でもォ……此処まで強かったら、ジュリアの出番が~ッ」

 

「気が付いてしまったか」

 

「ら、ランスちゃん!?」

 

「冗談だよ」

 

「……ッ……」

 

 

≪――――どッ≫

 

 

「えっ!? め、メルフェイス様ッ!」

 

「どうした!?」

 

「メルフェイスちゃん!?」

 

「…………」

 

「き、気絶してるみたいね……」

 

「うおッ? 凄い汗じゃないかッ」

 

「もしかしてぇ、魔法でカラダの熱を~?」

 

「まさか其処まで……」

 

「とにかく今日は切り上げるぞ!? かなみッ、"お帰り盆栽"だ!!」

 

「う、うんッ」

 

 

 

 

……

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

……攻略5日目。

 

時刻は午前10時。

 

メルフェイスが倒れた直後、俺達は攻略を切り上げてレッドの街に戻ると、適当な宿屋で一泊していた。

 

尚、今現在の俺はベッドの脇の椅子に座り、メルフェイスが目覚めるのを待っている。

 

 

「……ぅんッ……」

 

「おッ? 目が覚めたのか」

 

「!? お、王様……此処は……?」

 

「レッドの宿屋だ。急に倒れちまった時は驚いたぞ」

 

「す、すみません……足手纏いになる様な事を……」

 

「いやッ」

 

「本来は、私が王様を守らなければいけない立場だと言うのに……」

 

「だから」

 

「いっその事、私など置き去りにして頂いても……」

 

「待て待て待てッ! 幾ら何でも、ネガティブ過ぎるだろ!? それはッ!」

 

「で、ですが私は……その……」

 

「事情はかなみから聞いた」(キリッ)

 

「!?!?」

 

 

勿論、最初から知っていたが、改めてかなみからメルフェイスの"呪い"について聞き出している。

 

率直に言えば、彼女は故郷を賊から守る為に禁断の秘薬を飲み、前日の戦いの通り強大な魔力を身に付けたのだが、薬の副作用で2ヶ月に一度は自分より強い男に抱かれなければ狂死してしまう……と言うのは、先日も述べた通りだ。

 

よって、エクスが居ない今"この流れ"だと、確実に俺が"強い男"の役割を担う事になるだろう。

 

正直、こんなトップモデルみたいな長身の金髪美人を抱けると思うだけで、今でも股間が疼いてたまらない。

 

しかし、彼女にとっては冗談では無い境遇だろうし、真面目な顔を必死で作って話を進める事にする。

 

 

「もう抱かれないで、どれ程になるんだ?」

 

「……ぇとッ……1ヶ月以上になります」

 

「!? だったら、余程我慢してたって事になるんじゃないのか?」

 

「は、はい……時間としては、手遅れでは無いですが……王様に無様な姿を見せる訳には、いきませんので……」

 

「……今は?」

 

「目が覚めたばかりな為か、何とか抑える事が出来ていますが……徐々に"別の私"が現れて来て……ぅくッ……」

 

「……ッ……」

 

 

自分の体を抱きしめる様にして俯く、ネグリジェ姿で上半身を起こした状態のメルフェイス。

 

発情に抗う為に、両手の指にはかなりの力が込められているのか、血が滲み出てしまいそうなレベルだ。

 

彼女の看病をした見当かなみは、一週間の途中経過を伝えにリーザスに戻っているのは、さて置き。

 

メルフェイスは有る程度抱かないと淫乱になるんだが、その状態の彼女は全くの"別人"みたくなる。

 

彼女で有って彼女では無く、セックスを終えて人格が戻ると『しでかした』事を思い出しては死にたくなる程だ。

 

今までの行動を振り返ってみると、極めて真面目だったとしか言いようが無いので、それも無理はないな……

 

だから、王様である俺に『淫乱な自分』を見せまいと、必死で"別の自分"を魔力を無理に使ってでも押さえ込んでいたのか?

 

エクスが俺の元に彼女を置いた時点で、隠しても無駄だと言うのに……あれッ?

 

そもそも、副作用を隠すなら向こうから迫って来るのを待つしか無いのに、何で我慢する必要が有ったんだ……?

 

 

「だから王様ッ! ……こ、これ以上……私の事は気にしないで……」

 

「いやだから待てって!! 何でそうなんだよ!?」

 

「えッ?」

 

「失礼なのを承知で言うが、エクスは君が"俺に抱かれる事"を承知で寄越したんだろ? それなのに、何で倒れるまで我慢してたんだッ? ましてや、そんな大事なコトを今迄隠してるなんて」

 

「そ、それはッ」

 

「メルフェイスにとって俺は、死んでも抱かれたくない程、威厳も実力も足りない男だったってのか?」

 

「――――!?」

 

「君にも"譲れない事"が有るんだったら、それも仕方ないかもしれないけどなァ」

 

「そ、それは違いますッ!」

 

「じゃあ、何で?」

 

「今までの戦いから……ランス様は王として……だ、男性としても素晴らしい方でした……常に私達の状態を気遣い……戦いでも、身を挺して仲間を守り……助けられたのは私達の方です」

 

「(あれ~? 何で評価高いの?)」

 

「そんな王様に……私の淫らな姿を、見られるのが……耐えられなかったのは勿論……何時の間にか……"薬の副作用"と言う、つまらない理由で……抱いて頂きたいとも……言い辛くなってしまって……」

 

「(副作用を隠したいレベルで!?)な、成る程……だったら遠慮は要らないワケか?」←後者は小声で

 

「はい?」

 

「いやッ、何でもないぞ? それにしても……メルフェイスはアホだな」

 

「あ、アホ?」

 

「仲間を気遣って、身を挺して守る。そう捉えられた俺が、君を狂死させられるワケが無いだろう?」

 

「!? そ、それでは……王様……」

 

「俺は君の命を繋ぎ止める為に抱く。問題無いな?」

 

「……はッ……はい、有難う御座います……」

 

「礼なんて必要無いさ」

 

「――――でもッ」

 

「今度は何だい?」

 

「い、いえ……何でも有りません……(好きになってしまいそうで……怖いかもしれない……)」

 

 

 

 

……

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

……2時間後。

 

メルフェイスは抱かれて一度果ててしまえば、それでカラダの疼きは止まってしまう様だった。

 

だけど俺の興奮が全然治まらなかったので、トコトン彼女の体を堪能してしまったのでした。

 

き、きっとランスの肉体だったからだと思うよ!?

 

対して『我慢していたのはお互い様でしたね』とメルフェイスは寛容に受け入れてくれた。

 

それにしても"ランスっぽく"しなかった事で、彼女が必要以上に我慢する選択をするとはね……

 

 

「メルフェイス。起きてるか~?」

 

「はい……起きています」

 

「改めて、カラダの方はどうだ?」

 

「もう何とも有りません。本当に有難う御座いました」

 

「だから礼は良いって。俺の方も、かなり溜まってたしな……」

 

「ふふふッ。王様も、若い男性ですから……」

 

「おっ? 何気に、初めて笑ったのを見た気がする」

 

「!? こ、これも……王様の御蔭だと思います」

 

「何故に」

 

「(叶わぬとも……夢を抱ける方……)あんな気持ちで抱かれたのは……久しぶりでしたから」

 

「もうちょい、詳しく頼む」

 

「そ、それは言えませんっ」

 

「ちょッ!?」

 

 

……んで今現在は、精も根も尽き果てて裸で肌を重ねてたんだけども。

 

意味深な言葉に疑問を感じた後、メルフェイスは背を向けて布団に包まってしまった。

 

それを察せる程の甲斐性は無いが、笑顔が戻ってくれたので有れば、それで良しとする事にするか。

 

ついでに、強化も施されているなら完璧ッ!

 

……回数を重ねて、検証するしか無いのだが。

 

 

「それよりもッ。今日はハイパービルには……?」

 

「流石に休みだ。かなみも別行動だしな」

 

「分かりました……明日からまた、宜しくお願い致します……」

 

「うむ。期待しているぞ~? まァ、もう少し休む事にしようか」

 

「は、はいッ」

 

「そしたら、街に出てるジュリアと合流して、遅れた昼食ってトコだな~」

 

「(エクス将軍……私は御命令の通り、この方に付いて行こうと思います……)」

 

 

そんなワケでメルフェイスを抱け、スッキリとした気持ちのまま4月の3週目が終わる。

 

階層的にハイパービルの攻略は順調だし、余裕を持ってリーザス城に戻る事が出来るだろう。

 

現在のレベルは40なので、この調子でレベルの底上げを行って、魔人との戦いに備えたい。

 

また、更に重要なのは『魔剣カオス』の入手であり……攻略でレッド近辺を選んだのも、半分は"アレ"が目的だ。

 

十分にレベルを上げてかつ、リーザスの財力を活かした最高な態勢で迎撃できても、ダメージが通らなければ意味が無いからな。

 

何にせよ、しっかりと努めていれば、今回みたく"結果"が伴ってくれると信じるしかない。

 

 

「(う~ん、一人で買い物してもつまんないッ。やっぱりランスちゃんと一緒が良いよ~!)」

 

 

「(才能限界になったし、そろそろランスに……でも今はメルフェイス様と……もうッ!!)」

 

 

――――ちなみに再会したジュリアとかなみは機嫌が悪そうであり、ランスの神経が羨ましかった。

 

 

 

 




【レベル】
ランス   :40/無限
かなみ   :40/40
メナド   :36/46
ハウレーン :33/36
メルフェイス:33/48
ジュリア  :22/38


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