UNBEARABLE SPIDER-MAN (たんぽほ°)
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Issue #1
現在、LINEマンガでアメコミの翻訳本が電子コミックで売られています。本小説を機に軽く手に取ってみていただけると幸いです。
もっと多くの方々に原作も読んでもらえるような小説を書ければと思っています。
現在ほぼ全ての場所、時間、生物はなんらかの記録媒体によってそれらを記録されていると言っても過言ではない。
それはここニューヨークでも同じで。
現在ミッドタウンの空は赤く染まっている。雷も鳴っているし、先ほどからスコール顔負けの激しい雨に見舞われていた。
鮫が空中を泳げそうなくらいであったが、こんな天候では飛行機は無理だ。
そんなスコールの中でも一匹の蜘蛛は空を遊泳飛行していた。
3年ほど前に奴のソールに埋め込んだ0.007mm程の厚さの尾行用発信機は車より早く移動する彼の位置情報を俺に送り続けていた。
「さぁ、スパイディ。今日は誰の尻を追いかけている」
蜘蛛の進行方向と警察の無線を傍受すれば、奴の移動先を特定することなんて、2年半前から朝飯を食べるより早く彼の位置を知ることから一日が始まる俺にはもう何の苦でもなかった。
「スポットか」
周辺の監視カメラ、テレビ局のカメラマンが持つフィルムカメラ、SNS…
これではプライバシーなど何処にも存在しないと言えることなどわざわざ言及する必要のない時代へとなっているのかもしれない。
それらが映したのは蜘蛛の拳を次元をねじ曲げる事で回避した白黒のダルメシアン柄のコスチュームを着たバカだ。
三流ヴィランが……貴様ごときでは蜘蛛に敵うことは一生訪れないだろう。お前のような間抜けはたった一発当たったラッキーパンチで勝ち誇る。
その惰性で蜘蛛に結局負かされてしまうのだ。
あれほどの科学技術を持ちながらあそこまで原始的に戦うのは頭が狂ってるとしか俺には思えない。
だから蜘蛛にもまともに相手になどされていないのだろう。
あえなく蜘蛛はスポットをウェブで身動きを封じるとすぐにまた遊泳飛行を始めた。
俺は発信機による記録を続けながら液晶画面から背を向けて、固定器具に繋がれ簡易寝台に横たわる男に話しかける。
「ドミトリ・スメルダコフ…いや、カメレオンだったか。あさましい自己顕示欲の権化でありながら他人を騙る意味のない空疎な人生を送る男よ、お前の出番ももうすぐだ。せいぜい踊り狂えよ」
白面男から視線を移してデバイスを操作する。
「次は貴様らだ」
無機質な電子音が二人の会話を俺の耳に届けてくれる。
『資格?生体サンプルを受け取ることに?待て、これをどこで?』
『教えてもいいが、貴様には手伝ってもらうことがある。答えは?』
『もちろん…喜んで』
奴らもまた一つのピース。
この時を待ちわびたのだ、失敗は許されない。
時系列などにも細心の注意を払って書いていきます。
頑張ります。
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issue #2
この小説は勢いで書き進め、深夜テンションのまま投稿をしてしまったのですが、やはり書くにあたりAMAZING SPIDER-MAN誌(以後ASM) を読み直さなければならんだろうとのんきに読んでいた私が馬鹿でした。
待っていたのは怪物でした。
ダン・スロットって言うんですがね。
ピーター・パーカーという少年は、放射線を浴びたクモに噛まれたのは15歳の時だった。
クモ並みの速度・怪力・敏捷性を獲得した彼は、さらに手足の指先が壁にくっつくようになり、危険を事前に知らせる"スパイダー・センス”も備わった。
彼の叔父であるベンが悲劇的な死を迎えた後、ピーターは大いなる力には大いなる責任が伴わねばならないことを悟った。
こうして彼は、 悪と戦うスーパーヒーロー、スパイダーマンへと変貌した。
大人になった彼はそれまでにあらゆるスーパーヴィランと闘ってきた。
グリーンゴブリン、サンドマン、モールン、サノス、ウルトロン、そしてドクターオクトパス…
彼が闘ってきた相手はいつだって敵の方が圧倒的に強かった。
それは彼がヴィランに対して100%の力を出していなかったこともあるだろう、なぜなら彼はヴィランを傷つけたり殺したりすることを望んでいなかったからだ。
遂に彼が戦いに勝てたとしてもやっぱり結果負けてきた。
ヴィランを打ちのめせば自分が現れないことでMJをがっかりさせて、JJJの仕事をすっぽかし、彼女を待ちぼうけにさせてきた。
以前の彼ならアベンジャーズタワーに住んで、スーパーモデルの妻がいた。以前というのも間違いかもしれないが。
運命は彼にそのような暮らしは似つかわしくないとでも言うように、金に困り、ツいてなくて、ロクな目に遭わない人生に戻してしまった。*1
そんな彼にも大きな転換点が訪れた。
ホライゾンラボへの就職だ。
まあ、高校時代に並のヴィランでは引きちぎれず、1.2時間で溶けてしまうクモ糸を開発して、その発射機構まで発明していた彼には当たり前のことだったかもしれないが。
当時のピーターの人生は確実にいい方向へと向かっていたと言えた。
そして彼のもう一つ大きな転換点が訪れる。マーラ・ジェイムソンの死だ。*2
彼はマーラの死を防げず、良心の阿責を抱え込み、そしてより新たな誓いを立てた。
“自分の周りでは誰も死なせない”
実現不可能な誓いだ。
高潔な誓いでもある。
そして彼を傷つける誓いでもあった。
蜘蛛は
蜘蛛自身を守る力を失ったのだ。
──────────────────────────
十二月も末へと近づいていた日の朝、今から5年前俺はこの世界に誕生した。
世界は冬至の到来を告げるように、凍えるような寒さの朝だった。
レンガ調の壁、そして部屋の真ん中には大きなストーブが鎮座していて大きな丸いテーブルにストーブの前には揺り椅子が並んでいた。俺はなんとなしにストーブのスイッチを付けたのを覚えている。
洗面台のガラスの前に立てば、俺の顔はこの部屋の先住民の顔に変わってしまっていたことが感覚的にわかった。
黒い肌に黒い髪を短く刈り込んだ男がそこにはいて、記憶を辿れば俺の肌は黄色(アジアン)だったことは明らかだった。
当時彼の記憶は一切なかった(おそらくだが)、彼の純然たる悪意、復讐心はしっかりと受け継がれていたようだ。
なにもせず、誰にぶつければ良いかわからない苛立ちと怒りを抱えながらただ棒と日々を過ごしているとある日、彼の書棚の本を手に取った時下へと続く階段が現れた。
隠し部屋…
瞬時に理解ができた。
電灯が照らした深淵は俺の毛羽立った青筋をすっと撫でた気がした。
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Issue #3
階段をくだると開口部には重厚な金属製の扉があった。
おそらく指紋認証によって開閉する扉だ。ドアノブに手をかけると電子音と共にロックが開く。
俺には彼が当時なにをしていたのか、そしてこれからどんな事を起こそうとしていたのかはわからない。
それでもこの憤りを、哀しみを解放してくれる何かがそこにはある気がする。
扉を開けると蛍光灯がつき、中の様子は簡単にわかった。
部屋は広く埃が隅に溜まっていて、どこに繋がっているのかもわからないほど夥しい量のケーブルやメーターの付いた機械にデスクトップ。
スタンドライトの下には手術台があり、なにがなんなのかという状態だった。
彼は医者かなにかだったのだろうか、科学者とも言えるかもしれない。
ナニかになった自分にはそれが何なのかわからなかったし、俺の感情としては知りたいというよりは知らなければならないに近しいものだ。
ただそれを知覚することはできない。
理解することもできない。
それに対する強迫観念に支配されながら部屋を物色する俺の足は軽く、微かな幸福感すらあった。
散らばったパズルを一つずつ填めていく感覚。
デスクトップに貼られたたくさんのメモには何かの設計図や誰かの名前が書かれていて、部屋を抜ければもう一つ部屋があり、そこにはまた手術台と心電図や血圧計が並んでいる。
手術台に横たわると腕にあたる場所には直径3cmほどもある針が設置されているのがわかった。
こちらの部屋はある程度清潔に保たれているようで排水溝や水場も確認。
その時なんとなしに覗いた側の机の上にあった写真を見て彼の情報が俺の脳内に雪崩れのように流れ込んだ。
なるほど。これか。
その時の俺のココロは冷静で、心地良さすら感じた。
そいつの顔は初めて見たのにもかかわらず、あらゆる憎悪や唾棄、嫌忌の感情が溢れ出しそれに流された俺の口角は自然と上がっていた。
頭髪や眉毛は禿げ上がり、頭には数本のチューブが刺さり人工呼吸器に繋がれたその顔面に、短く揃えられた前髪にサングラスがトレードマークだった彼の面影は残っておらず、残ったアイデンティティといえば彼の背面から伸びる金属製のアームのみ。
死にかけだ。
奴は俺が直接手をかけなくとも、直に死ぬ。
それでも俺はやつを殺さなければならない。
強く握り締めた掌からは血が滴り落ちていた。
これはふたつの闘いの物語である。
ひとつは「アメリカンコミック」と呼ばれている「外の世界」から男が身を守ろうとする闘い。もうひとつは、その反面なんとか空虚な目的を果たそうとする闘い。
どちらも心の内側の「男の世界」の中で繰り広げられる。
さまざまな戦線があり、数々の作戦が試みられる。
傷つき、倒れながら。
そんな闘いはもう終戦にしたくて、彼は歩き続ける。
もちろん『彼』の目的を完遂することが終戦の条件だ。
男は、自分を自分としてではなく遥か遠い存在の『彼』としてしか捉えることができない人間であった。それが他者に対するこの内なる闘いを通じて、次第に『彼』から「男」に、「男」から【ウッド】に、そしてついに〔●●●〕に、なることができるのか。
この物語の中では、『彼』も「男」も【ウッド】も〔●●●〕も皆、折々のありのまま、ありのまま語る。
だがもしかしたら、あなたにとっては現実味のない話かもしれない。
そう感じるのが当たり前かもしれない。
しかしそれでも、「男」にとっては、すべてが鮮烈な現実だった。
生きる意味が見つけた「男」はどこに向かうのか。
見届けよう、
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