気がついたら祟り神様(純粋)と一緒に呪術の世界にいた話 (時長凜祢@二次創作主力垢)
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サーヴァントと過ごす呪術師生活
01.気がついたら呪術廻戦の世界で太歳星君と一緒にいました


 いつものように勉強と日常生活を送るなんの変哲もない毎日を過ごしていたはずなんだけど、目が覚めたらなんか見覚えのある子が私の顔を覗き込んでいた。

 

「るかるかー!早く起きろ!今日もいっぱいあそぶ約束をしただろ!」

 

「………おっふ……。」

 

 美少年と表現できそうな男の子。髪の色はちょっと不思議で、二色の色を持ち合わせている。

 それだけなら見た目が珍しい男の子と言うだけなのだが、私の体を揺する手は、明らかに普通の人とは違う。

 

 それは、私がやっていたゲーム、FGOに出てくる一人のサーヴァントだった。

 クラスはアルターエゴと呼ばれるクラスで、プリテンダーと呼ばれるクラスに弱く、フォーリナーと呼ばれるクラスに強く、ライダー、キャスター、アサシンに与えるダメージが大きく、セイバー、アーチャー、ランサーに与えるダメージが小さいと言われていた。

 その真名は太歳星君。太歳神とも呼ばれ、木星の鏡像として考えられた仮想の天体である太歳が神格化した存在。

 太歳は地中に視肉などとも呼ばれる蠢く肉の塊と同一視され、災いをもたらすというその肉塊の伝承から、祟り神としての性質も持つ。

 太歳神はその歳の十二支の方向に位置する方位神であり、その方角にて行われる行為の吉凶に関わるとされているんだったかな……。

 

 いや、なんでいるんですかね……。しかもるかるかって……。ナイトフィーバーはやらないよ?まぁ、確かに私の名前は瑠風(るか)だけどさ……。

 

「あー!やっと起きたのか!?待ちくたびれたぞ!!」

 

「あ〜……うん……ごめん。昨日夜更かししていたせいで寝坊した……」

 

「言われてみれば確かに遅くまで起きてたな。夜は眠らなきゃいけないとダメじゃん。」

 

「しょうがないでしょ。遊んでたら夜になって慌てて宿題やったんだから。」

 

 ……って、なんで私、平然と目の前にいる祟り神様とお話ししちゃってるんだろう。なんか知らないけど、ずっと一緒にいたって認識しちゃってるし。

 え?何?これ、何が起こってんの?

 

「ふぅん。まぁ、いいや。るかるか!早く遊ぼ!しばらくは学校がないから一日中遊べるって言ったのはるかるかなんだからな!」

 

「まぁ、学校がお休みだからね。」

 

 混乱しながらも、太歳星君と話をしつつ、自分の置かれてる状況を整理する。

 視界に入る部屋は、どうも私の本来の部屋じゃない。机の上にあるのは、適当にほっぽり投げているノートやらなんやら。

 とりあえず片付けるフリをして、そこに記されている文字を見てみれば、中学生でやるような内容の数式が書かれている。

 ついでに、都合よく投げられている卒業アルバムと、その場にあるカレンダーに目を向けてみると、どうやら私は卒業した後のようだ。つまり、4月から高校一年生……いや、なんでさ。

 

 ─────……年齢が戻ってる?高校入学前ってどうなってるんだこれ?憑依?トリップ?転生?ダメだ、いまいち情報がないから状況の整理ができない。

 

「るかるか?どうしたんださっきからボーッとして。ワガハイと遊ぶんだろ?」

 

「ああ、うん。ちょっと机、片付けてからね。」

 

「むぅ……!!早くしないと祟っちゃうぞ?」

 

「祟るのは勘弁しろください。すぐ終わらせるからもうちょっと待って。」

 

「…………。」

 

 ……めちゃくちゃ太歳星君が拗ねていらっしゃる。いや、ほんとごめん。ちょっと状況を知るためにいくつか調べないといけないわけよ。というかここ、マジでどこっすか?

 知らないうちに年齢が戻り、更には知ってるはずなのに知らない家にいて、目の前にはなぜかFGOの太歳星君がいるというこの状況の説明も欲しいし……どうなってんのさマジで……。

 

「……ん?」

 

 混乱する思考のまま、机の上をせっせかせっせかと片付けていると、何やら一つの冊子が目の前にあった。よく見ると卒業アルバムと記されており、自分が通っていたと思わしき中学校の名前が記されている。

 何かわかるかもという期待と、好奇心……半々の気持ちでそれを開いてみれば、見知った人物の名前と写真がクラス写真の中にあった。

 

 ─────……は?虎杖悠仁………!?

 

 そこに記されていた名前と写真は、私が読んでいた少年漫画、呪術廻戦の主人公の名前だった。

 それはつまり、ここは呪術廻戦の世界であり、私は、そこにやってきてしまったってこと……?転移か憑依か転生か知らないけど!!

 

「るかるか?どうしたんだ?」

 

「………なんでもないよ。」

 

「ほんとか?」

 

「うん。なんでもない。」

 

「んー?まぁ、るかるかがいいならいいけど……」

 

 不思議そうに首を傾げる太歳星君の頭を軽く撫でてみれば、わっはー!と明るい笑顔が返ってきた。

 その姿を微笑ましく思いながらも、私は、卒業アルバムの下に敷かれていた寄せ書きへと目を向ける。その中に書かれていた文字は、東京に行っても元気でねという複数の一言。

 それにより理解できたのは、私は高校一年生になると同時に、東京の方へと引っ越し、そこの学校へと通うことになるということ。

 

 となると……あの呪術師最強の男である五条悟が彷徨いているホームに足を運ぶことになるわけで、時間軸的に乙骨先輩と里香ちゃん問題には巻き込まれないけど、おそらく憑いてくるであろう太歳星君が私の側に入るわけで……。

 ……え?これ、もしかしなくてもヤバくね?だって、太歳星君よ?マジもんの祟り神様よ?性格めちゃくちゃ純粋で健気だけど。

 

 ─────……連れて行けるのか……?この子……?

 

「……………。」

 

「るかるか?」

 

「ん?どうかしたかな?」

 

「それはワガハイのセリフなのだ!今日のるかるか、なんかおかしいぞ!もしかして体調が良くないのか?」

 

「……いや、体調は問題ないよ。ただ、高校から県外に向かうのかと思って、ちょっと寂しいと思っていただけ。こっちでできた友達ともお別れしちゃうことになるしね。」

 

「お別れか。確かにそれは寂しいな。でも、大丈夫だぞ!るかるかにはワガハイがついてるし!るかるかはワガハイの大切な友達なのだから、離れるわけないからな!るかるかが寂しいならワガハイがどこまでも一緒に付いて行くのだ!……祟りしか振り撒くことができないワガハイに、側にいていいって言ってくれたるかるかを、放っとくわけにはいかないしなー。るかるかって、なんか変なやつに付き纏われやすいし。まぁ、るかるかを傷つけたり、悲しませたりするような悪い奴は、ワガハイが祟ってやるし、安心してくれてもいいぞ!」

 

「あはは。ありがとう、太歳星君。」

 

「どういたしましてなのだ!そんなことよりるかるか!用事が終わったならワガハイと遊ぶぞ!!」

 

「……そうだね。何して遊ぼっか。」

 

「んーとなー……日向ぼっこもしたいし、キャッチボールもしたいし、ゲームも一緒にしたいし、鬼ごっこもしたいな!」

 

「したいことだらけじゃないか。」

 

「当然じゃーん!学校って奴がある時、るかるかはずっと勉強勉強勉強勉強でワガハイのことちっとも相手してくれなかったし!しばらくはいっぱい遊べるなら、いっぱいやりたいことやりまくるぞ!!」

 

「はは……お手柔らかに頼むよ。引っ越しの準備もしないといけないしね。」

 

 苦笑いをこぼしながらそうお願いすると、太歳星君はわかったのだーと軽い調子で返事をしては、私の手を取って歩き始めた。

 

「るかるかの家族にはワガハイは視えないからな。ワガハイと話してるるかるかを変な子みたいに見そうだし、こっからは黙って行くぞ。外に出たら、裏山の方に行って、そこでいっぱい遊ぼう!!」

 

「……そうだね。」

 

 短く返事を返せば、太歳星君がぴたりと足を止める。彼の視線の先にはりびんぐがあり、この世界の私の親と思わしき女性がテレビを見ながら洗濯物を畳んでいた。

 

「お母さん。ちょっと出掛けてくるね。」

 

「わかったわ。でも、なるべく早く戻ってくるのよ?いくら春で、暗くなるのがそれなりに遅くなっているとは言え、暗くなったら危ないんだから。」

 

「うん。わかったよ。」

 

「……むぅ……ワガハイがいるから問題はないのに。」

 

「…………。」

 

 お母さんの言葉に拗ねたような言葉を紡ぐ太歳星君に苦笑いをこぼしそうになる。お話しないんじゃなかったのキミ……。まぁいいや……。

 私の横に堂々と立っているにも関わらず、お母さんに太歳星君の姿は視えていないようだ。

 となると、呪術廻戦の世界に自分の立場を当てはめるとしたら、私は呪霊が視える体質で、呪霊からは狙われやすい立場にある。で、隣にいる太歳星君は、いわゆる呪霊のようなもので、どうしてか私に憑いているって感じかな。

 呪霊と親友って言うのもなんかおかしい気もするけど、これまでの太歳星君との会話からして、私を狙う呪霊を彼が毎回倒してくれていて、彼がいるから私や私の家族は今のところ安全に暮らすことができている……のかな?

 にしても、太歳星君って呪霊だとなんに分類するんだろ……。特級であることは間違い無いと思うけど。

 

「わっはー!!やっと外に出れたー!!るかるかの家はでっかいから、黙ってないといけない時間長いから疲れる!!」

 

「……そうだね。まぁ、父さんの実家って、ちょっと普通の家庭とは違うから仕方ないんだけど。」

 

「そういえばるかるかの父親ってかなり大きい会社だったな。なんだっけ?えーと……」

 

御子神(みこがみ)財閥ね。」

 

「そうそれ!すっごく大きい会社なんだよなー!」

 

「うん、正解。」

 

 家の外に出て、人がいないことを確認したのち、太歳星君との会話を再開する。

 こっちの家族構成とか、これまでの自分の生活がなんだったのかはまだ思い出せていないけど、頭に浮かんでくる言葉を紡げば、太歳星君と穏やかに話をすることができるようだ。

 ……多分、体が覚えていることがいくつもあるから、こんな風に話せるんだろうなとは思う。でも、自分の中での辻褄がいまいち噛み合わないため、早くこの体の記憶も思い出したいところだ。

 

 ま、今はとりあえず、ずっと遊びたがっていた太歳星君と遊ぶことに集中しようかな。まずはこれが大事だろうし、祟り神とはいえ神様との約束を破るわけにもいかないからね。

 

「暗くなっちゃう前に帰らなきゃいけないし、早速遊べる場所に向かおうか。」

 

「わっはー!!大賛成なのだ!!」

 

「うわ!?ちょ、いきなり抱えないでよ!!」

 

「いくいくいくぞー!!」

 

「話を聞きなさいって!!」

 

 太歳星君が私のことを軽々と持ち上げた瞬間、すごい速さで移動を始める。次々と景色は後方へと流れていき、次第に住宅街から離れた山の景色が近づいてきた。

 

「山が近づいてきた!!」

 

「いったい自宅からどれくらい離れてるんだこれ……。」

 

 何度目かわからない苦笑いをこぼしながらも、太歳星君へと体を任せていれば、彼は上機嫌なままに山に足を踏み入れた。

 

「そうだるかるか。ワガハイのこと、太歳星君ってちゃんと呼ばなくてもいいのだぞ?前みたいに、セイって呼んでも大丈夫なのだ!」

 

「んえ?いや、でもキミ、神様じゃん……」

 

「そんなの関係なーい!!今の呼び方だとなんか距離を感じるのだ!!だから、ワガハイのことはセイって呼んでほしい!!」

 

「……わかったよ、セイ。」

 

「うん!それでよし!そんじゃ、山の中に入るぞー!」

 

「はいはい……」

 

 太歳星君に引っ張られながら、目の前にある山の中へと足を運ぶ。……なんか変な気配があるような気がするけど……まぁ、いっか。何かあれば、太歳星君が守ってくれるだろうし。

 

 

 

 




 御子神 瑠風
 (みこがみ るか)
 性別:女
 年齢:悠仁と一緒
 備考
 気がついたら呪術廻戦の世界にいたなんの変哲もない学生……だった女の子。
 呪術廻戦の世界に転移したことをすぐに理解したが、FGOの太歳星君がいる理由はわからない。
 しかし、太歳星君が自分の味方であることは理解しており、普段は一緒に遊ぶ親友として接し、いざと言う時は使役する。
 呪霊が近寄ってくる体質だが、太歳星君が毎回守ってくれるため特に気にしておらず、守ってくれるお礼として彼の遊んでほしいと言ってくる太歳星君と一緒に遊んだり、日向ぼっこをしたり、甘えてくる彼を甘やかしたりとしている。

 太歳星君
 備考
 FGOの世界からこんにちは。瑠風のことは彼女が小さい時から一緒に過ごしており、彼女のことは「るかるか」と呼んでいる大親友。自分がどうしてこの世界にいるのかはわかっていない。
 カルデアのことはいろんなことを教えてくれて、守ってくれて、助けてくれた恩人や、綺麗だと思った存在がいたという曖昧な記憶として残っている。
 瑠風のことは側にいると落ち着くし、一緒に遊んでくれるし、祟り神である自分のことを受け入れてくれている大切な親友であり、大好きな居場所だと思っている。
 そのためか、瑠風を傷つけたり悲しませたりするような奴がいたら絶対に祟ってやる呪ってやるコロコロしてやると考えている。
 瑠風が大好きで、彼女が変なもの(いわば呪霊)に襲われそうになったら問答無用でプチっとしてるし、彼女に悲しんでほしくないから彼女の家族に襲いかかる変なものもプチッとする彼女の守護霊的な立場にある。(祟り神だけど)
 間違いなく特級レベルの存在だが、普段はただの可愛い男の子。(なお、まれにでっかくなっちゃう模様)
 ちっちゃなコンとして稀にわらわらしていることも……?



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02.セイと瑠風の何気ない日常 part.Ⅰ

 それは、なんとなく見た夢だった。

 夢の中の私は、おそらくだけど小学生くらい。なんの変哲もない日常生活を送りながら、夕方の道を歩いていた。

 

『オイデ……オイデ……イッショニアソボウ?』

 

『オイデ……オイデ……ソッチジャナイヨ。コッチダヨ。』

 

『アソボウ……アソボウ……ヒヒ……ヒヒヒヒヒ……!!』

 

『……………。』

 

 暗くなり始めた黄昏時。辺りに人はいないのに、聞こえてくる声があり、それらはとても不気味なものだった。

 小さい私は、表情を歪めながらも、その声を無視して歩いている。それでも不気味な声は止むことがなく、ずっとずっと聞こえている。

 

『アソボウ……アソボウ……ソッチジャナイヨ……コッチダコッチアソボウヨ』

 

 ─────……うるさい。

 

『ドコイクノ?ネェネェアソボウヨ。』

 

 ─────……うるさい……!!

 

『アソボウアソボウアソボウアソボウアソボウアソボウアソボウアソボウアソボウアソボウアソボウ……ヒヒヒ…!!ヒヒヒヒヒヒ!!』

 

 ─────うるさい煩い五月蝿い煩いウルサイウルサイウルサイ!!私に話しかけないで!!

 

『大丈夫か?顔色がすごく悪いぞ?』

 

『!!』

 

 不意に聞こえてきたのは子どもの声。驚いて声の方へと目を向けてみると、そこには一人の男の子がいた。不思議な色合いの髪と目をしている、不思議な服を着た男の子だ。

 私が反応したことに気づいた彼は、にぱっと無邪気に笑って見せる。

 

『はんなまー!ワガハイは太歳星君なのだ!そっちはなんだ?』

 

『……御子神 瑠風(みこがみ るか)。』

 

『ふむふむ、なるほどなぁ……。じゃあるかるかって呼ぼ!なぁなぁるかるか。どうしたんだ?顔色が真っ青だぞ?』

 

『……変な声が………聞こえて……怖くて……』

 

『変な声?あ、そっか!ここら辺にいる奴らがるかるかに悪さしてるのか!それならワガハイに任せるのだ!こんな奴ら、こうしちゃえばいいからな!!』

 

 その瞬間、一瞬の気分の悪さが訪れたかと思えば、不気味な声が聞こえなくなった。その中で見えたのは、異形としか思えない大きな手。不思議で不気味な霧。そして、モヤのようなものと、それが霧散する瞬間。

 それだけで私は、目の前にいる男の子に助けられたのだと理解した。

 

『うん、これでよし!もうるかるかに悪さをする奴はここにはいないぞ!』

 

『…………。』

 

『るかるか?どうしたのだ?』

 

 再びにぱっと無邪気に笑い、私の方を振り返った男の子。唖然とその子を眺めていると、彼は不思議そうな表情をして、首を傾げた。

 

『……どうして……助けてくれたの?』

 

 口から出たのは一つの疑問。普通は感謝を述べるべきなのに、最初の一言はこれだった。

 

『んー?るかるかがすごく嫌そうだったから助けたんじゃん。だって顔が真っ青だったし。あとはそうだなー……ワガハイと話してくれる人がどこにもいなかったから、るかるかがワガハイと話してくれたのがすごく嬉しかったのだ!なぁなぁるかるか!るかるかが嫌だなって思うものは、全部ワガハイがなんとかするし、るかるかが傷つくようなことや、悲しむことから助けてやるから、ワガハイと友達になってほしいのだ!』

 

『友達……?』

 

『うん!一緒に遊んだり、日向ぼっこしたり、いろんなものを作ったり!あとは、こうやってお話ししたりするんだ。前はな?ワガハイと仲良くしてくれる人がいっぱいいたし、不思議な場所で、たくさんの恩人がいたりして、いっぱい遊んだり、話したり、物を作ったりすることがあったんだけど、今はそんな奴らがいなくてな。ずーっと……一人ぼっちで……ちょっと……うーん……すごく……かな?寂しかった。だからな。こうやって一緒に過ごせそうな奴を探していたのだ。だから、るかるかがワガハイの声に応えてくれたことが嬉しくて。まぁ、断られてもついていくけどな。だってるかるかの側って落ち着くし!』

 

 すると、男の子は笑顔で私の質問に答えてくれた。仲良く話せる人がいないことが寂しかったから、会話をすることができる存在が欲しかったのだと。だから、私と友達になりたかったのだと。

 私を変な奴から守る代わりに、一緒に遊んだり、話したり、作ったり、日向ぼっこなどをして過ごしたいのだと。

 

 それを聞いた私は、男の子に笑顔を返していた。その言葉を了承するように、小さく頷いていた。

 私の承諾を確認した男の子は、輝かんばかりの笑顔を浮かべた。同時に、私の方に飛びつくように抱き着き、ぎゅうぎゅう強く抱きしめてきた。

 

『わはー!!ありがとう、るかるか!今からワガハイとるかるかは友達なのだー!!』

 

『わぷ!?ちょ、いきなり抱き付かないでよびっくりしたなぁ!!』

 

『あ、ごめん。でもでも嬉しいのだ!あ、約束通り、るかるかを怖がらせたりする奴はワガハイが祟ってやるし、プチッと潰してやるから安心していいぞ?』

 

『たた……!?』

 

『うん!だってワガハイ、そういうの得意だし!もちろん、るかるかが嫌いな奴もワガハイが追い返してやるからな!』

 

『え……大丈夫なの……それ……?』

 

『んー……わかんない!でもでも、るかるかが悲しむことはなくなるぞー!そんじゃ、約束だからワガハイと遊ぶのだ!』

 

『えっと……わかった……?』

 

『ワガハイのことは好きに呼んでもいいからな!短くしてもいいし、コンって呼んでもいいからな!』

 

『……じゃあ……セイくん……とか?』

 

『セイ!うんうん、それで行こう!』

 

『わかった……。えっと……じゃあ、これからよろしくね……?セイくん。』

 

『うん!よろしくな!』

 

『えっと……遊ぶんだよね?遅くならない範囲でならいいよ……』

 

『うん?』

 

『……暗くなったら、悪い人来ちゃうから。』

 

『わかった!それじゃ、いくいくいくぞー!』

 

『わわ!?急に走らないで!?』

 

 大きな手で私の手を掴み走り出す男の子……太歳星君。それに引っ張られるようにして、私も一緒に走り出す。

 急に引っ張られたこともあり、かなりびっくりしたけれど、太歳星君がいるからか、不気味な声は聞こえてこなかった。

 それが嬉しかった私は、自然と表情に笑顔を浮かべていた。

 

 その日は暗くなる少し手前辺りまで太歳星君と遊んでいた。それで、自宅の方へと帰宅した瞬間、すごい形相のお母さんに怒られちゃって、私は固まってしまっていた気がする。

 

 

 ✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚

 

 

「…………。」

 

 不意に意識が浮上する。ゆっくりと瞼を開けてみれば、見慣れた天井が視界に入り、体には布団と、それとはまた別のぬくもりが巻き付いている。

 

「……セイ?」

 

「ん……あ……るかるか。はんなま。」

 

「……うん、はんなま。」

 

「…………?あ……こっちのワガハイになってた。ごめん……。こっちのワガハイが側にいると怖いし嫌だよね……。」

 

「いや、別に嫌じゃないんだけど……どしておっきく……?」

 

「………わかんない。多分、無意識のうちにこうなったんだと思う。」

 

「そっか。無意識か。」

 

「うん、ごめん……」

 

「謝らなくていいよ。確かに、そっちは本来の神様としての本質が強いセイだけど、例え、大きくても小さくても、セイであることには変わらないし、嫌ったり、怖がったりしないよ。」

 

「……本当に?」

 

「うん。どっちのセイも大切な友達だからね。」

 

「そっか。よかった。るかるかに嫌われなくて。」

 

「逆に嫌う理由がないって……」

 

 苦笑いをこぼしながら、私を抱き枕にしている太歳星君の頭を優しく撫でる。すると、太歳星君は少しだけ気持ちよさそうに目を閉じた。

 同時にその体は光に包まれ、大きな体から小さな体へと変化する。

 

「あ、戻った。」

 

「本当だね。」

 

「まぁいいや!はんなまー!るかるか。今日もいっぱい遊ぶぞ!」

 

「そうだね。」

 

 笑顔を見せながら今日の予定を口にする太歳星君に笑顔を返しながら、一緒に遊ぼうという言葉に頷けば、彼は上機嫌になる。

 彼が嬉しそうにしているとこっちも嬉しくなるのは、この子がかけがえのない親友だからだろうか。

 そんなことを思いながら、ベッドから起き上がる。

 今いる場所は東京。こっちの私の生まれ故郷である宮城県から、一週間前に前世の故郷であるここへとやってきた。

 

 太歳星君ももちろん一緒だ。最近わかったことだけど、彼はどうやら私に憑いていたようだ。さっき見た夢でわかったけど、彼と私は、私を守る代わりに一緒に遊んだり、日向ぼっこしたり、話したり、物を作ったりしてほしいという約束を交わした神と人。

 祟り神であろうとも、確かな神性を持ち合わせている存在と約束を交わし、こうするからこうしてほしいといった釣り合った契約を結んでいるため、太歳星君が神格を持たない私に憑くのは道理である。

 だからか太歳星君は、私が行く場所に憑いてくる。私を守るという約束を果たすために。

 そして私は彼と遊ぶ。守ってくれたお礼をするために。

 

「今日は何して遊ぶの?」

 

「んー……鬼ごっこ……はできないよな。だってここ、人多すぎるし、るかるかはワガハイが視えるけど、ワガハイが見えない奴の方が多いのだ。何がいいかなぁ……」

 

「……ゆっくり考えようか。時間はたっぷりあるしね。」

 

「そうだな!るかるかは今からご飯か?」

 

「そうだね。顔を洗って、パジャマを着替えて、朝ごはんを食べる。」

 

「じゃあ、るかるかがご飯を食べ終わるまでに決めておくな!」

 

「わかった。」

 

 にこにこと笑いながら、今日やることを考えている太歳星君の姿に小さく笑いながらも、私は私のやることをこなしていく。

 東京に来ちゃった以上、間違いなく呪術界最強の顔面宝具お兄さんと出会してしまう可能性が高くなっちゃったけど、できれば会わないようにしたいな……。

 …………無理かな……。

 

 

 

 




 御子神 瑠風
 備考
 目覚めたら呪術廻戦の世界に太歳星君と一緒にINしていた女の子。
 呪霊ホイホイ体質で、小さい時から呪霊に話しかけられまくるのが日常茶飯事だった。不気味な声に気分を悪くしていた時に太歳星君と出会う。
 祟り神な太歳星君と約束を交わした結果、それを触媒に契約が結ばれ、太歳星君に憑かれる結果となる。
 しかし、本人は祟り神に憑かれたことを気にしておらず、守ってくれるし、一緒に遊ぶのは楽しいし、FGOやってた時から好きだったから別にいいかなと思っている。


 太歳星君
 備考
 気分を悪くしていた小さな瑠風を見つけ、心配になったから声をかけた優しい祟り神様。
 瑠風が気分を悪くしている原因が彼女に話しかける変な奴らであると当たりをつけ、一瞬でプチッと潰した上、変な奴らがまた話しかけないようにとこっそり彼女に力を注ぎ、自身の力を彼女の御守り代わりに使っている。
 カルデアの記憶は曖昧だけど、恩人がいたことは覚えており、その恩人たちが自分にしてくれたように、今度は自分が誰かを守ることにした。
 瑠風を守るから瑠風はワガハイと友達として遊ぶことという条件の約束を交わしたことにより契約の繋がりができる。
 大きい自分のことも大切な友達だと言ってくれた瑠風が大好き。


 某呪術界最強の人
 備考
 未だに姿は出てないけど、瑠風が会いたくないと思っている存在。いや、まぁ、嫌いなわけじゃないよ?むしろ好きなんだけどほら、太歳星君がいるからなんか関わりたくないと言いますか……。
 原作には関わりたいんだけどね?高専に行きたいかと問われると微妙というか……だって怪我したくないし死にたくないし!!
 ……と言う理由で警戒されている。




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03.セイと瑠風の何気ない日 part.Ⅱ

「わはー!街って本当に大きいなぁ!!」

 

「あまり逸れたらダメだよ、セイ。」

 

「りょっか!!あ、るかるか!今からどこに行くのだ?」

 

「そうだね……せっかくだし、ショッピングモールあたりかな……」

 

「ショッピングモール?」

 

「いろんなお店が入ってる大きな建物だよ。」

 

 朝食を食べ、身支度を済ませ、呪術廻戦の世界にはどんな場所があるのかを見て回るために外に出る。

 私と話ができる太歳星君は、自身の姿を一時的に現界させ、私の横にくっついていたり。

 にしてもびっくりしたな。まさか、太歳星君がちゃっかり肉体を得て、人間に溶け込めるなんて思わなかったよ。

 どうしたのそれって聞いても、太歳星君自身はわかんないって言うから、仕掛けまではわからないけどさ。

 

「いろんなお店かー!楽しみなのだ!」

 

「初めて行くんだっけ?」

 

「うん!ワガハイ、初めてなのだ!どんなお店があるんだ?」

 

「服を売ってる場所だったり、靴を売ってる場所だったり、日用品を売ってる場所出たりと、沢山のお店があるよ。ご飯を食べる場所もあるし、ゲームセンターもあるかな。」

 

「ゲームセンター!それ聞いたことある!いっぱい遊べる場所だ!」

 

「そうだね。時間があったら行ってみようか。」

 

「りょっか!」

 

 にこにこと明るい笑顔を見せながら、私の横を歩く太歳星君。彼の服装は、とりあえず自分の小さい時のものを組み合わせている。

 小さい時から、私はスカートよりズボン派の子どもで、服の柄とかもシンプルなものばかりが主力だったから、太歳星君が着ても問題はなかった。

 パーカーを気にしていたけど……ラムダたちの記憶が曖昧ながらも片隅にあるからだろうか。

 まぁ、それを聞いても、太歳星君自体はよくわかってない状態みたいだから、何とも言えないけど。

 

「るかるかは、ショッピングモールに何しに行くんだ?」

 

「うん?そうだね。服を見に行こうかなって。去年の服はまだ着ることができるけど、何回も洗って干してを繰り返していると、やっぱり生地の色が褪せたりしちゃうからね。まぁ、お小遣いはそこまで沢山あるわけじゃないから、買うものは考えないとだけど。」

 

「そっかー。でも、るかるかは綺麗だから、きっといろんな服が似合うと思うのだ。」

 

「そう?」

 

「うん!ワガハイ、沢山の綺麗なものを見たことがあるけど、るかるかも負けてないぞ!」

 

「へぇ……それは嬉しいな。」

 

 とはいえ、私はキミの記憶の片隅にある一番綺麗なものには負けてると思うけどな……なんて言葉は飲み込んで、褒めてくれた太歳星君の言葉に、嬉しいと一言返す。

 太歳星君は無著な笑顔を見せながら、私の手をぎゅっと握ってきた。

 

「るかるかはどんな服を買うんだ?」

 

「そうだね……基本的に動きやすい格好をするけど、もうすぐ高校生だし、スカートやワンピースにも挑戦してみようかな。」

 

「スカート?ワンピース?」

 

「スカートは、私が学校に行く時に履いていたヒラヒラしたやつだよ。まぁ、あんまり短いのは履きたくないから長さはあれより長めのものを選ぶけど。ワンピースって言うのは……ほら、あそこのお姉さんが来ているような服だよ。」

 

「そうなのか。じゃあ、ワガハイも一緒に探すのだ!」

 

「探してくれるの?」

 

「うん!るかるかに似合いそうなやつをいーっぱい!」

 

「あはは、ありがとう。じゃあ、ショッピングモールに着いたらお願いしようかな。」

 

「任せろ!絶対るかるかに似合うにを探すからな!」

 

 ……周りから微笑ましげな目を向けられているのは気のせいじゃないと思う。

 何というか、仲のいいご姉弟ねって感じの視線がめちゃくちゃ刺さっている。

 まぁ、確かに今の太歳星君と私の姿は、姉に喜んでもらおうと思って頑張ろうとしている弟と、そんな弟を見守っている姉にしか見えないだろうし、わからなくもない。

 実際のところは、祟り神な少年と、それに憑かれているけど受け入れて契約している人間なんだけどね。

 太歳星君がいなかったら、ずっと呪霊に付き纏われていただろうから、もはや彼がいないとしんどいだけだし、すごく助かってるから問題ないけど。

 

「さてと、ずっと歩いていたら時間がかなりかかるし、電車にでも乗ろうか。」

 

「電車!」

 

「ちゃんと静かにするんだよ。」

 

「りょっかー!」

 

 そんなことを考えながら、最寄りの駅へと足を運ぶ。太歳星君は見た感じ小学生くらいだからな……子ども料金と、中学を卒業した私は、もう子ども料金では乗れないから大人料金で……。

 よし、切符は買えた。

 

「はい。こっちがセイのね。」

 

「んー?」

 

「電車に乗るには、お金を払って切符を買わないと乗れないからね。それは、セイの切符だよ。」

 

「ワガハイの切符!」

 

「そ。で、これを改札……この機械に通して……これで電車に乗るためのホームに向かえる。やってごらん。」

 

「りょっか!」

 

 先に切符を改札に通してホームに向かうための通路へと向かって見せれば、太歳星君も私の真似をして切符を改札へと通す。

 ぴよぴよと鳥の鳴き声のような音を聴いて、一瞬彼は目を丸くしたが、すぐに笑顔を見せて駅の構内へと足を運んだ。

 

「切符は取り忘れたらダメだよ。」

 

「おとと。」

 

 念のために切符を改札から取ることを忘れたらダメだと伝えれば、すぐに太歳星君は切符を手に取り、私の方へと歩いてきた。切符は落とさないようにと告げれば、太歳星君はすぐにそれをズボンのポケットに収める。

 よくできましたと頭を撫でれば、無邪気な笑顔が返ってきた。うん。癒される。

 

「コンビニで飲み物買うけど、セイは何か飲む?」

 

「ワガハイのも買ってくれるのか?」

 

「当たり前でしょ。セイは一緒に出かけてる大切な子なんだから。自分だけ飲み物買うわけないじゃん。」

 

「わっはー!ありがとう、るかるか!」

 

 本当、祟り神と言われている子のはずなのに、純粋無垢で可愛らしいよなこの子と、改めて認識しつつ構内にあるコンビニへと足を運べば、太歳星君は飲み物が並べられている冷蔵庫の方へと向かい、ジッと飲み物を眺め始める。

 私は買うものを既に決めていたため、冷蔵庫から目的のカフェオレを取り、太歳星君を待つ。

 程なくして太歳星君は、ミックスオレを手に取り、私の方に目を向けてきた。

 

「ワガハイ、これがいいのだ!」

 

「オッケー。せっかくだし、何かお菓子も一つ買おうか。何がいい?」

 

「んっと……あ、これがいいぞ!」

 

「チョコレートのファミリーパック?」

 

「うん!これならるかるかと一緒に食べることができるじゃん。ワガハイだけで食べるのはつまんないのだ。」

 

「そっか。確かにそうだね。じゃあ、これにしようか。」

 

「わはー!やったのだ!」

 

 ……本当に祟り神なのかとツッコミたくなるくらい優しいなこの子。私が守らねば。いや、私なんかの力が必要ないくらい強いけどさ。なんかそんな風に思ってしまう。

 なんだろう……庇護欲を刺激されるというか、母性が芽生えると言うか……。

 ……何言ってんだろ。

 

 思考を変な方向へと飛ばしながらも、手にしていたカフェオレとミックスオレとファミリーパックのチョコレートの購入を終わらせて、チョコのみをバッグに収め、ミックスオレを太歳星君へと渡す。

 すると太歳星君はすぐにそれを受け取り、蓋を開けて飲み始める。なんか、ホワホワと花……じゃなくてにこにコンちゃんがふわふわ飛んでるように見えてしまった。

 実際にコンちゃんをそこら辺に撒いてないよねと確認しながらも、ジュースを飲む太歳星君の頭を撫でる。

 

「美味しい?」

 

「うん!」

 

「それはよかった。」

 

 微笑ましく思いながら、私もカフェオレを口にする。うん。美味しい。あ、チョコレートの袋は開けてと……。

 

「ほら。」

 

「チョコレート!」

 

「うん。食べようか。」

 

「食べるのだ。」

 

「じゃあ……はい。」

 

 チョコレートの個包装を外して太歳星君の口元にチョコレートを持っていく。すると彼は素直に口を開け、もぐもぐ待機姿になる。その姿にほっこりしながらもチョコレートを口の中へとチョコレートを入れてあげれば、笑顔でチョコレートを食べ始めた。

 そんじゃ私も、と個包装されたチョコレートを手に取り、包装紙を外して口の中へ。

 ん……ビターだこれ。ちょっと苦い。まぁいいや。

 

「ショッピングモールにはどれくらいで着くんだ?」

 

「そうだね……大体15分くらいかな。」

 

「15分。」

 

「そ。それなりに早めに家を出たし、夕方まで過ごしても結構ゆっくりできるかな。」

 

「やったー!」

 

「暗くなる前には帰るから、遅くまではいれないけど、十分楽しめる時間はあると思うし、いろんな店を見て回ろうね。」

 

「うん!」

 

 ジュースをある程度飲んで蓋を閉めた太歳星君。片手が空いている様子を見た私は、彼に手を差し伸べた。

 すると太歳星君はすぐに私の手に自身の手を重ねてぎゅっと握りしめてきた。

 同時に駅に入ってくる列車。ちょうど春休みなだけあり、結構人は乗っているけど、二人で座れる席は十分ある。

 さて、それじゃあショッピングモールまで、座って一休みしながら向かいますかね。

 

 

 

 




 瑠風
 太歳星君と一緒に呪術入り。
 現界できて一緒に歩けると言うまさかの事実にびっくりしつつも、まぁサーヴァントだと普通に霊的な力なくても現界して歩いてたもんなと納得したが、果たしてこの太歳星君はサーヴァントなのだろうか……と首を傾げながらも、お出かけ中。

 太歳星君
 瑠風と一緒に呪術入り。
 自分の姿は周りに視えないと思っていたらまさかまさかの現界できちゃった祟り神さま。仕組みは全くわかってないけど、るかるかと一緒に遊べるなら問題ないかと楽観視。
 これならるかるかとどこにでも一緒にいけるな!と嬉しくなった。
 服は瑠風の小さい時のものを着ているが、昔の瑠風が着ていた服は男児が着ても問題ないものだったためきにしていない。
 現界時は、人間と同じものを飲み食いできる。


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04.セイと瑠風の何気ない日常 part.Ⅲ

「うーん……これが良いかなぁ……こっちも似合いそうだなぁ……あ!こっちも良いかも!」

 

 ショッピングモールにたどり着き、早速足を運んだブティック。こっちの世界にも向こうと同じように、安くて尚且つ種類豊富の店があったことに少しだけ驚きながらも、お財布に優しいと思い入ってみたら、太歳星君はすぐにレディースの服が並んでるブースの方へと向かっていった。

 すぐにその後を追い、あまり離れすぎないようにと注意しようとしたところ、そこでは太歳星君があれも良いしこれも良いといろんな服を物色していた。

 

「セイ。一人で離れすぎないで。」

 

「りょっか!なぁなぁるかるか!これとかるかるかに似合いそうなのだ!」

 

「ん?どれ?」

 

「これだぞ!るかるかはスカートって言うヒラヒラした奴も買おうとしていたし、この服なら合うかもしれないのだ。」

 

「本当?じゃあ、あとで試着してみようかな。」

 

「見たい見たい!そう言えばるかるか。スカートって色々あるみたいだぞ?どんなスカートを選ぶんだ?」

 

「そうだね……私はあんまり短すぎるスカートは得意じゃないから、こんな感じの長いスカートを探すつもりだよ。」

 

「なるほどなー。じゃあじゃあ、こんな服はどうだ?るかるかにきっと似合うと思うのだ!」

 

「……へぇ……確かに、こんな感じの服装は割と好きだよ。」

 

「やったー!じゃあ、スカートはこんな感じがいいと思う!」

 

「……ちょっと色が可愛らしすぎないかな?」

 

「そうでもないと思うぞ?るかるかなら絶対に似合う!」

 

「そうかな……。」

 

「うん!試着してほしいぞ。」

 

「じゃあ、これとこれを試しに着てみようかな。」

 

「わはー!絶対可愛いのだ!」

 

 側から見たらどう思われているのだろうか。

 明らかに歳の離れた二人組。女は小学生くらいの少年にあれを着てこれを着てと服を手渡され、少年からは絶対に可愛いだのなんだのと褒められている。

 ……かなりシュールな光景にしか見えなさそうだと苦笑いが出そうになった。

 でも、太歳星君が服を選んではどうだと聞いてくる姿は可愛らしくもある。何より楽しそうにしているから、考え過ぎなくてもいいかもしれない。

 

「るかるか。試着はまだか?」

 

「もうちょっと服を見てからね。もしかしたら、他にも着たくなるような服があるかもしれないし。」

 

「りょっか!」

 

「こっちにおいで。逸れないように手を繋ごう。」

 

「うん!」

 

 太歳星君と手を繋ぎ、ブティックの中をうろうろする。すると、パジャマなどが売られているコーナーにやってきた。

 新しいパジャマか……少しだけそこを見て回りながら、どんなパジャマが売られているのか確かめていると、明るい声でるかるかと名前を呼ばれた。

 声の方へと目を向けてみれば、そこにはペンギンパーカーを手にしている太歳星君の姿が……。うん……なるほど?

 

「なぁなぁるかるか!これ買ってほしいのだ!」

 

「……ちょっと値段を拝見。」

 

 値札に目を向けてみれば、意外にもお手頃価格だった。ふむ……ラムダたちとの記憶は曖昧だけど、頭の片隅にはやっぱり存在しているんだな……。

 サイズはキッズと通常のサイズがある。……太歳星君が手にしているのは通常サイズ……うーん……まぁ、これなら大きくなっても着れそうだな……。

 

「これくらいなら買えるね。いいよ。」

 

「わっはー!やったのだ!」

 

 買うことを承諾すれば、太歳星君は笑顔で喜びを表現する。微笑ましく思いながら、優しく頭を撫でれば、気持ちよさそうな表情を見せた。

 

「じゃあ、そろそろセイが選んでくれた服を試着しに行こうかな。」

 

「行こ行こ!」

 

 楽しそうな太歳星君。呪いの神であるこの子を表立って連れ歩いても大丈夫なのかと少しばかり心配していたけど、連れ歩いて正解だったかもしれないな。

 まぁ、あの最強の男に出くわさなければ基本的には平穏な生活を送ることができるのだから、ビクビクと気にしている必要はなかったのかもしれない。

 ……だからと言って、警戒を緩めるつもりは全く持ってないのだけど。

 

「……意外と似合ってる………かな……?」

 

「意外とじゃないぞ。るかるかによく似合っているのだ。」

 

「そう?」

 

「うん!ワガハイは嘘をついてないぞー!」

 

「……そっか。人から見てそう見えているのなら、きっと似合ってるんだろうね。」

 

 そんなことを思いながら、試着している服の値段に目を向ける。うん。持ち手の金額で十分買うことができるね。

 お年玉とお小遣いを一部貯金に回して過ごしていた分、懐はなかなかに温かいのである。

 

「じゃあ、今日はこれくらいかな。」

 

「買うのか?」

 

「うん。選んでくれてありがとうね、セイ。」

 

「どういたしまして!」

 

 籠の中に入っている服をレジの方へと持っていき、さっさとお会計を済ませる。

 レジに立っていた店員さんは、なんだかすごく微笑ましげって表情をしていたけど、もしかして、私たちのやり取りを見ていたのだろうか……。

 だとしたらちょっと恥ずかしいんだけど……うん、気にしない方がいいかな……?

 

 

 ✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚

 

 

「るかるか〜!ワガハイこれが食べたいぞ!」

 

「アイスクリーム?」

 

「うん!」

 

「わかった。どの味が食べたいの?」

 

「んっとねぇ……これもいいし……こっちも捨て難いのだ……。」

 

「……一応、二つ合わせることはできるよ?」

 

「え!?いいの!?」

 

「うん。」

 

「わはー!!じゃあ二つ合わせる〜!!入れ物はカップにするのだ!」

 

「?コーンじゃなくていいの?」

 

「うん!だってこっちだと溶けちゃった時大変そうだし!」

 

「まぁ、確かに場合によってはベタベタになっちゃうね。」

 

「だからカップに入れてもらうー!」

 

「ん。了解。」

 

 時は過ぎてフードコート。買おうとしていたものは買い終えたため、お腹を満たすためにやってきた。

 まぁ、ちょっといろんな店を物色していたから、お昼を過ぎちゃったけど、楽しかったからよしとしよう。

 そうそう……この世界にはFGOは存在していないみたいだった。ゲームセンターを抜けて、フードコートへとやって来たけど、アーケードのFGOがなかったんだよね。

 それで、もしかしてと思ってスマホを開き、アプリの方を確かめてみると、FGOの検索結果は存在しなかった。

 ネット内に話題も全くなく、呪術廻戦の世界には、FGOは存在しないと言う結論が出たのである。

 まぁ、もしFGOが存在していたら、太歳星君がこうやって存在すること自体、あり得なかっただろうからよかった……のか?

 

「はい。セイのアイスクリーム。」

 

「わはー!ありがとうなのだ!」

 

「こっちこそ、今日は買い物に付き合わせちゃってごめんね。」

 

「んー?別に気にしてないぞ?るかるかとお出かけできて楽しかったからな。なぁなぁ、まだショッピングモールにはいるのか?」

 

「うん。もうしばらくいるつもりだけど。」

 

「じゃあじゃあ、ワガハイ、ゲームセンターに行ってみたいのだ!あと、本屋さんにも!」

 

「ん。わかった。じゃあ、残りの時間はそれらに行こうか。」

 

「やったー!」

 

 喜ぶ太歳星君にほっこりしながら、自分のアイスクリームも受け取る。さてと、席に座ってゆっくりとアイスクリームを食べるとしますかね。

 

 

 

 ✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚

 

 

「………うーん。まさか、休憩がてら甘いものをと思ってちょっと足を運んだショッピングモール内で、あんな子らを見つけることになるとは思わなかったね。」

 

 二人の少年少女がフードコートに座ってアイスクリームを食べる中、そんな二人の姿を遠巻きに眺めている者が一人いた。

 それは銀髪の青年だった。目元は目隠しで覆われており、瞳は表に露出していない。

 しかし、その青年の見た目がいいことは一目瞭然で、買い物に来ていた女性たちは色めき立つ。

 だが、女性が賑やかしているにもかかわらず、彼が目にした二人組は気にしていないのか、先程購入していたアイスクリームを口にしている。

 

「あれってどう見ても呪霊……いや、呪霊?どう見ても呪霊レベルで収まるような可愛らしいもんじゃないでしょ……。」

 

 独り言を呟きながら、青年は少女のすぐ隣でにこにこと無邪気に笑いながら、アイスクリームを食べている少年へと目を向ける。

 側から見たら仲睦まじい姉弟にしか見えないが、彼の目には、少年がとんでもない存在であることが視えていた。

 自分たちが回収している特級呪物である指……その本来の保有者たる呪いの王、両面宿儺。

 無邪気な笑顔を見せながら、少女と共に過ごしている少年からは、それと同じか、下手したらそれ以上の呪力が揺らめいており、暴走でもしたらどうなるかわかったもんじゃないと考える。

 

「明らかに特級……だよなぁ……。しかも特級の中でももっとやばいタイプのそれ。なんでこんなのがファミリーが集うショッピングモールなんかにいるの。」

 

 青年は、自身の表情が引き攣っていることを嫌でも理解する。これまでいくつもの呪いを祓ってきた彼であっても、背筋が凍りそうなほどの気配だった。

 

 次に青年は、少年と一緒にアイスクリームを食べている少女へと目を向ける。

 無邪気に笑いながら、一緒にアイスクリームを食べている恐ろしい存在のことを、彼女は怖がっている様子がない。

 むしろ彼女は少年を受け入れており、彼との間に確かな繋がり……契約とも取れる結びつきを得ているようだった。

 つまり、あの少女は共に過ごしている存在を受け入れており、取り憑くことを許していると言うわけだ。

 

「……なんで平気でいられるのかめちゃくちゃ疑問に残るけど、仲がいいってことだけはわかるね、うん。」

 

 雰囲気からして、多分、少年の姿を持つ呪いは、少女に危害が及ばない限り何かすることはないと考えることができる。

 では、少女に危害が及んだり、少女が害されたと感じるようなことが発生したら?

 間違いなくその瞬間大規模な被害が発生し、これまでとは比にならないほどの死者が辺りに転がるだろう。

 

 ─────……あれ、絶対呪霊どころじゃない。祟り神とかそんな分類にあたるよね。なんなのかまでは詳しく調べてみなきゃわかんないけど……あ、いや、でも祟り神って絞れたりする?となると、正体はすぐにわかるかな。まぁ、眼で視てもいいんだけど、視ても大丈夫な奴?なんかダメな気がするんだけど。

 

 思考をぐるぐると回しながら、ジッと少年と少女を見つめる。すると、不意に少年の方と自身の視線が絡み合った。

 その瞬間、青年は背筋を駆け上がるような寒気と、あまり感じたことがない恐怖にも似た感情に一瞬取り憑かれる。

 確かに絡み合った少年の瞳。それが、不気味な色を持ち、間違いなく自身を睨みつけていたのだ。

 

 ─────……こっっっっわ!?何あれ!?やっぱり触れたらいけないタイプの案件じゃん!!

 

 慌てて顔を背け、少年の視界に入らない場所へと移動する。こんな感情に襲われることなんて滅多にないと腕をさすりながら、人混みに紛れてその場を後にする。

 その際、もう一度確認するように少年と少女へと目を向ける。少年はすでに視線を青年から、隣にいる少女の方に向けており、先程の氷水に放り込まれたかのような寒気を感じるような姿ではなく、こちらに目を向ける前の無邪気な少年のような雰囲気に戻っていた。

 

「……はは。流石にあれは僕でも骨が折れそうだね。ていうか、あれって倒せるの?封印までしか行き着かないとかならないよね?」

 

 自身の力の強さには自信がある。しかし、これまでのように、周りに被害を出すことなく祓うことは不可能なんじゃないかと思えてしまうほどの呪霊……いや、呪い神と言ってもおかしくなさそうな存在。

 もし、あの力を少年の隣にいた少女が行使するようなことになれば、どれだけの悲劇が発生するのだろうかと、割り出せない答えに頭を悩ませながらも、青年……五条 悟は、まずはどうするべきかを思案する。

 

 ─────……あの子、こっち側の管轄にするべきかもしれないな。いつ、誰を呪うかわからないし、無意識に力を暴走させてしまう可能性も否めない。年寄りたちには見つからないようにしないといけないかな。見つかった瞬間、あの子は間違いなく死刑扱いになるだろうし、それに少年の方がキレたりなんかしたら、間違いなく上層部は全員アウトになって消える。まぁ、正直あいつらの考えには嫌気が差してるから庇い立てするつもりはないけど、呪いの種類によっては一族全員が……って可能性もかなりある。流石に、上層部みたいな連中以外の一般人……上層部の親戚……遠い親戚もか……。そう言った存在までも捕捉するレベルの呪いとかになったらまずいし。とりあえず、まずはあの子らにどうやって接触するべきかを考えないとな〜……。

 

 あの子に接触した瞬間、祟られたりしないよね?なんてことを考えながらも、五条はショッピングモールを後にする。

 敵対することなく穏便に終わらせる方法は……と思考回路を動かしながら、ひとまず高専に戻り、そのあと時間を見て二人組の様子を観察することを決めるのだった。

 

 そんなことが、アイスクリームを食べている間に起こっているとは思っていない少女、瑠風は、祟り神の少年、太歳星君と一緒に、時間いっぱいショッピングモールを満喫するのだった。

 

 

 

 




 瑠風
 太歳星君とショッピングモールを満喫中。
 まさか、店内に一番会いたくないと思っていた呪術廻戦の登場人物である五条 悟がいることに気づかなかった。
 太歳星君に選んでもらった服は、どれも自分好みだったため、また服を買いに行く時は、一緒に来てもらおうかなと考えている。

 太歳星君
 瑠風とショッピングモールを満喫していた際、五条の気配に気づき、牽制するように睨みつけていた祟り神様。
 瑠風を傷つけるような行動を取ったらどうなるかわからない。
 おそらく全力祟りにより捕捉できる対象の血縁者全てを祟り殺すと思われる。上層部たち、彼は怒らせてはならない。

 五条 悟
 ようやく出てきた最強教師。
 たまたま寄り道として訪れていたショッピングモール内で、まさかの祟り神様と遭遇した上、睨まれて本能的な恐怖心が一瞬駆け巡った。
 あれ何?絶対呪霊の枠じゃ収まらないよね?怖っ!
 祟り神様の力が暴走したり、おそらく使役していると思わしき少女が誰かを呪うようなことになったら絶対被害が大規模になるし、祟り神様と戦ったら自分は無事かもしれないが周りにも絶対とんでもレベルの被害が発生すると考え、なんとか少女を高専に引き入れ、監督することはできないかと思案中。




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05.セイと瑠風の日常は……

 アンケート回答がかなりの量集まったので、導入する鯖二人がチラッと後半で出てきます。
 この話を連載している別サイトでも取っていた同アンケートの数値を合計した結果、この二人組になりましま。


 あれから時間は経ち、夕暮れ近く。

 私と太歳星君は、再び電車を利用して、帰宅路へとついていた。

 

「わっはー!いっぱい遊べて楽しかったぞー!」

 

「それは良かった。」

 

「なぁなぁるかるか!またショッピングモールに行こうな!」

 

「うん。時間が取れたらまた行こうか。今度は映画館とかにも行ってみたいね。」

 

「映画館?」

 

「そ。家にはテレビがあるよね?あれの何倍もある大きさのスクリーンで映像を見て楽しむんだよ。まぁ、おしゃべりとかはできないけどね。他にもお客さんがいるから、騒いだら迷惑をかけてしまう。」

 

「迷惑は良くないなー。」

 

「その通り。だから、映画館の中では静かにしとかなきゃいけないんだよね。」

 

「りょっか!映画館に行った時はちゃんと静かにするぞ!」

 

「セイは偉いね。」

 

「わはー!るかるかに褒められたー!」

 

「で、映画館には行ってみたい?」

 

「うん!その映画館って奴、ワガハイも行ってみたいのだ。」

 

「じゃあまたショッピングモールに行く機会があったら映画館にも行ってみようか。早起きすることになるかもしれないけど、セイは大丈夫?」

 

「もちろん大丈夫なのだ!楽しみが増えたな。」

 

 にこにこと笑顔を見せる太歳星君の姿から、本当に楽しみにしてくれていることがよくわかる。

 こんなに無邪気な子が、まさか太歳神と呼ばれる祟り神であることに、気づける人はいるのだろうか?

 まぁ、呪術師や呪詛師に分類する人たちはすぐにわかってしまいそうだけど。

 その道のプロ集団なわけですし。

 だからこそ、六眼持ちの五条先生には会いたくないんだよね。

 だってこの子が祟り神だとバレたらどんなことになるかわからないし。

 ああ、でも、一番会いたくないのは呪術界の上層部かね?

 五条先生は多少なりとも融通を効かせてくれるところがある分、まだマシな分類かもしれない。

 逆に上層部となると、即行で死刑じゃなんじゃと騒がれるだろう。

 正直、あの人らのクズっぷりはかなりのもんだからね……大嫌いだから見つかりたくない。

 

「るかるか?どうしたんだ?」

 

「うん?そうだね……ちょっと嫌いな奴らがいるから、そいつらには会いたくないし、見つかりたくないなって考えていただけだよ。」

 

「るかるかにも嫌いな奴らがいるのか?どうする?祟っとくか?」

 

「……是非ともと言いたいところだけど、今のところは害されてないから放置でいいかな。もし手を出してきたらその時は任せるよ。」

 

「りょっか!」

 

 嬉しそうにこちらの依頼を引き受ける太歳星君。

 マジであの老人たちが何かしてきたら彼にどうにかしてもらおうと思いながら、ぶらぶらと揺れる太歳星君の手をゆるく握る。

 すると太歳星君は、すぐに私の手を握りしめて、わはーと御満悦。

 しかし、すぐに何かに気付いたような反応を見せ、その場で警戒するように辺りを見渡し始めた。

 

「セイ?」

 

「……るかるか。気をつけて。何かくる!」

 

 何かくるって……と口から出そうになった声は、悍ましい方向のような声により掻き消える。

 何かが猛スピードでこちらの方へと走ってくる気配。

 それは、あまりにも覚えのあるものだった。

 今日の朝、見ていた夢……この世界での御子神 瑠風と言う存在の記憶となる夢。

 そこに現れていた呪いが型を得たもの……呪霊。

 つまり、こいつは私か太歳星君を狙ってこっちの方へとやってきたと言うわけだ。

 そこまで分析した瞬間、目の前に砂埃が舞い上がる。

 一時的に奪われた視界。だが、砂埃の間間に存在している薄い部分からはちらちらと明らかに人でもなければ動物でもない異質な見た目をしている存在が見えていた。

 

「なんのトラブルなく過ごせると思ったのに!!」

 

「るかるか、ワガハイの後ろに早く隠れて!こいつはワガハイがやっつけるのだ!」

 

 呪霊をやっつけると言ってくる太歳星君に頷き、彼から一定の距離を取る。

 同時に太歳星君は、目の前にいる呪霊めがけて走り出した。

 

「るかるかには指一本触れさせないぞー!約束したからなー!!」

 

 声音は子どもらしいというのに、纏う気配は禍々しく、呪いの神であることを改めて認識してしまうほどの気迫を見せる太歳星君。

 でも、纏う力はとんでもないと言うのに、不思議と彼のそれは怖いとは感じない。

 太歳星君が私を守ると約束をしてくれたからだろうか?それとも、彼は必ず私の味方をしてくれると理解しているからだろうか?

 おそらくはその両方。太歳星君は必ず守ると約束してくれた。だから私も、彼を信じることができる。

 

 襲ってきた呪霊めがけて走った太歳星君は、一瞬にしてその姿を青年のものへと変化させ、同時に異形の四本の腕を出現させる。

 そのまま、こちらを襲ってきた呪霊に殴りかかってそのまま潰し……いや殴りかかって潰した!?

 

「待って太歳星君!!まさかの物理なの攻撃!?」

 

「……こっちの方が早いから。」

 

「た、確かに早いけどね……?」

 

「こいつらは……祟るのは難しい。逆に強くなるかもしれないから。でも、こうすればこいつらはすぐに消える。だから、早い。」

 

「そ、そうなんだ……?」

 

「……瑠風。気をつけて。まだ、いる。」

 

「!」

 

 まさかの排除方法に対するツッコミを入れる中、太歳星君から紡がれた言葉に思わず固まる。

 まだいる?どこに?気配は感じないのにと辺りを見渡していると、不意に体を悪寒が貫く。

 慌ててその方に目を向けてみれば、そこには巨大な呪霊が現れていた。

 

「うわ!?」

 

 急いで距離を取るように太歳星君の方へと走り出す。

 すると、太歳星君は一瞬にして私の側にやってきて、四本の異形の腕のうちの一本で呪霊を頭から叩き潰した。

 その際私の体は残りの異形の腕と、普段使いされている二本の腕、計五本の腕で包み込むように抱きしめられる。

 断末魔を上げることなく、呪霊は蚊のように潰された。

 まさにプチッと言う効果音が合いそうな状況だ。

 

 潰された呪霊はその場に肉片やら血やらわからない何かを撒き散らして絶命する。

 太歳星君が腕のおかげでその飛沫を浴びることはなかった。

 

「瑠風……大丈夫か……?」

 

「うん。ありがとう、セイ。助かったよ。」

 

「瑠風を守るって、約束したから。」

 

 太歳星君が小さく笑いながらこちらを見てくる。

 その姿に小さい太歳星君を重ねながら、優しく彼の頭を撫でる。

 その瞬間、太歳星君の体がふわりと禍々しいオーラに包まれた。

 オーラが霧散すれば、いつもの小さな太歳星君の姿が現れる。

 

「るかるか、怪我はないか?」

 

「うん。」

 

「それならよかったのだ!」

 

 久々に呪霊に襲われたなと思いながらも、互いに無事だったことを喜ぶ。

 これで平穏無事に自宅の方へ………

 

「祟り神の中でもそれなりに有名どころである太歳神こと太歳星君を引っ付けてるにも関わらず体調を崩すどころか、守ってもらいながら過ごしてるってすごいな。しかも友好的に接して過ごしてるとかウケるんだけど。」

 

「………Oh……。」

 

 ………聞き覚えのある中村○一ボイスが鼓膜を揺らし、思わず引き攣った笑みが出てしまう。

 ギギギ……と壊れたブリキの人形のように背後を振り返ってみれば、そこには銀髪目隠しのナイスガイ。

 いつか見つかるとは思ったけど、こんなに早く見つかるとは思わなかったよ……。

 ねぇ……五条先生………。

 

 

 ࿐·˖✶࿐·˖✶࿐·˖✶࿐·˖✶࿐·˖✶࿐·˖✶࿐·˖✶

 

 

 五条悟と邂逅してしまった瑠風と太歳星君。

 その姿を遠巻きに見ているものが二人いた。

 片方は少女。片方は外国からやってきたと思わしき女性。

 二人は自身の碧眼と、琥珀色の瞳の中に二人と一騎の祟り神を映す。

 

「おやおや。見つかってしまいましたね、彼女。」

 

「大丈夫かしら……マスター……。」

 

「問題はないと思いますよ?あの銀髪の方。彼女と太歳神に危害を加えるつもりはなさそうですし。」

 

「でも、あの方は呪いを祓う人で、なおかつお強い方なのでしょう?助けなくてもいいのかしら……」

 

「まぁ、もしも危害を加えそうであれば、その時は(わたくし)たちも出るとしましょう。ですので、もう少し様子見をば……。全く……呪いが蔓延る世界とは言え、(わたくし)を護衛の一人として無意識のうちに召喚するだなんて、随分とまぁ変わり者がいたものですねぇ。しかも、彼女の宝具を自身の能力に変換しているとは思いもよりませんでした。ですが、使い勝手は割といいかもしれませんね。短時間の領域展開だけで、かなりのスペックとして作用するようですし。」

 

「でも、まだマスターは気づいていらっしゃらないのでしょう?」

 

「まぁ、気づけるほどの記憶はまだないようですから。ですが、いずれ必ず気づくことになるはずですよ。意識を失うほどの疲労とともに。」

 

「意識を失う……?」

 

「ええ。彼女が内側にある力に気づくのは、少しでも道を誤れば命を失ってしまう現場でしょうから。いわゆる、銀髪の方のような呪いを祓う立場になったら、ようやく自覚できるかもしれない……と言ったところでしょう。ですが、あれを使うとかなり体力を消耗するので、頻繁に使わせないようにしなくてはなりませんね。なんせ、本来ならば人間如きが扱ってはならない技ですし。あれは、(わたくし)たちのような存在だからこそ使えるもの。ゆえに、人間が使えば本来命を落とします。まぁ、彼女に関しては、それをカバーする特異体質があるようですから、意識を失う程度でなんとかなるようですが。」

 

「それなら、私たちもあまり無茶をしてはならないわね。」

 

「ええ。とはいえ、この流れなら彼女は間違いなく呪術師が集まる場所に連れて行かれるでしょうし、周りが無茶をしないとも限りませんから、(わたくし)たちも行動せざるを得ないでしょう。これらのお代は、最期にまとめて請求するとしましょうか。タダ働きなどごめんですので。」

 

「私は……マスターと遊べればそれでいいのだけど……。」

 

「あなたは子ども。(わたくし)は社会人。立場が違えば報酬が変化するのは当然ですわ。なので、あなたは決して(わたくし)の邪魔はしないでくださいましね?」

 

「邪魔はしないわ。だって、私とあなたはマスターを守る力を振うために召喚されたのですから。でも、マスターに無茶なことをするようであれば、その時私は何をするかわからないから。」

 

「……まぁいいでしょう。報酬をしっかりといただくまでは、(わたくし)も彼女に無理難題を突きつけるつもりはありませんし。その分、利子はきっちりとつけますが。」

 

 遠巻きに瑠風たちを見据える二人組の間にわずかながら険悪な空気が走る。

 しかし、瑠風たちが移動する様子を確認するなり、すぐにその険悪ムードを振り払い、その後を追い始める。

 彼女たちの頭の中には、今はとりあえず、自分たちを呼び出す原因となり、この世界でのみの主人を護衛することのみが過ぎっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【瑠風&太歳星君】

 ついに五条と接触してしまった二人組。

 五条が現れた際、太歳星君は威嚇するように瑠風の前に出て彼を威嚇し、瑠風はとうとう最強呪術師に見つかってしまったと肩を落とした。

 

 

 【五条 悟】

 瑠風が少年を太歳星君と呼んだことにより、彼が道教の太歳神であることを確信。

 とんでもない祟り神連れてんのに平然としてるし、むしろ友好的に接してるとかウケるんだけどと笑っていた。

 

 

 【遠巻きに瑠風たちを見ていた二人組】

 実は瑠風と合流していなかっただけで、彼女が呪術廻戦の世界で目を覚ました瞬間、連鎖的に召喚された方々。

 瑠風をマスターと称しており、なおかつ彼女が使える術式も領域展開も知っている様子。

 それを瑠風が自覚していないことも、それを使用した際の弊害も、瑠風の特異体質も知っているが、今のところ本人に告げるつもりはない。

 仲はあまりよろしくない様だが、自分たちが何のためにこの世界に顕現しているのか理解しているため、軽い言い争いはするが、消滅させるつもりはない。

 

 

 



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06.思いがけない合流

「……どうぞ。」

 

「うん、邪魔するよ。」

 

「…………。」

 

 最強呪術師と出会して数十分後。

 私は、彼、五条 悟を自宅の方にまで招いていた。

 私が彼を連れて帰った時、母さんがすごく驚いていたことは記憶に新しい。

 彼の顔の良さと、体調を崩しているのをたまたま見つけたからここまで送りにきたという清々しいまでの嘘に騙された姿もね。

 で、まぁ、母さんがお礼をしたいとか、もう遅いですからとか言って、彼を夕飯に誘ったのは数分前。

 五条 悟……いや、内心でも年上……さらには一応教師でもある人をフルネーム呼び捨ては失礼か……。

 ……五条先生は、母さんが口にした、夕飯を食べて帰らないかという質問に対して、躊躇うことなくそれじゃあお邪魔しますね?と素晴らしい笑顔(目隠しなし)で承諾しやがりました結果、夕飯ができるまで、なぜか私の自室で待つことに。

 

 ─────……なんで私の部屋なんだよ。つか目隠し外して笑顔とか正気かこの人?自分の顔面の良さ理解しての反応だよね絶対。マジふざけんな。母さんが骨抜きになったらどうすんだよこの野郎。まぁ、イケメンだからと言って、母さんが一回りも年下の人に現を抜かすことはないだろうけどさ。ジャニを応援する年上ファンくらいっしょ。

 

「さてと……じゃあ、ちょっと僕と話をしようか。その前に、君の名前を聞かせてもらってもいいかな?」

 

「……そういえば名乗ってませんでしたね。御子神 瑠風(みこがみ るか)。それが私の名前です。」

 

「瑠風ね。僕は五条 悟。この東京にある呪術師の学校で教師をしてるよ。」

 

「呪術師……。」

 

「そ。世界には結構呪いが存在していてね。それを祓うことができる人間がいるんだ。で、僕が勤務しているのは、そんな呪術師が集まる場所……ってところかな。僕も呪術師をやっててね。これまで結構祓ってきたかな。」

 

 知ってます……と口が裂けても言えない。

 そんなこと言ったら、いくら調べても一般ピープルという結果にしかならないであろう私が、なんでそんなこと知ってるんだって話になるし。

 そうなったら面倒臭いことこの上ないことになるのは確定するし、実は別の世界からこっちに来ていて、この世界は漫画になってたんですよ……なんて突拍子もない説明をしたところで誰が信じるというのか。

 むしろ精神科に飛ばされるわそんな話したら。

 だから黙っておく。

 

「その呪いを祓う人が、私に何か用ですか?」

 

 まぁ、理由なんて簡単に想像つくけどね。

 だって、私の側にいるのは太歳神とも呼ばれている祟り神、太歳星君。

 呪術師である五条先生が、呪いの塊や発生源と言ってもおかしくないこの子のことを見逃すはずがない。

 祓う(ころす)か利用するかのどちらかを迫ってくると言ったところだろう。

 もちろん私は彼を祓わせたりしない。

 利用する……という表現は正直したくないけれど、彼には何度も助けてもらっている。

 彼がいなければ、私は呪霊に執拗に狙われる人間になってしまうから、離れてほしくない。

 

 ……幽霊とか、悪霊とか、そういう奴らって、自分たちを認識することができる存在を襲う傾向があるって話があるし、多分、私もそれに近い性質なのだろう。

 でも、どうしてこんな性質を持ち合わせて生まれたのかはわからない。

 なんらかの原因があるのは、間違いないと思うのだけど、それを探ることは今のところ難しい。

 そう考えると、呪術高専に通うことで謎を解明することができるかもしれないし、どっちみち太歳星君を素直に奪わせるわけにもいかないか。

 

「そこにいる子、太歳神とも呼ばれてる祟り神だろう?」

 

「大人しく祓わせろとでも?もしそうだとしたら、こちらも考えがありますが。」

 

「……るかるか。コイツのこと祟ろうか?」

 

「うん、ちょっと待って?僕のこと祟ろうとしないで?それしたらどうなっちゃうか知ってるよね?」

 

「あなたの血縁を中心に、親戚の全てが死ぬでしょうね。」

 

「洒落にならないからやめて。解呪することはできるかもしれないけど、間違いなく時間がすごくかかるし、その内にどれくらい死んじゃうかわからないから。」

 

 太歳星君の祟るかという言葉に即行でストップをかけてくる五条先生。

 まぁ、別に祟るつもりはないけど、一つの牽制としては有効だったようだ。

 今はいいよ、と太歳星君に告げる。

 今はって何?って五条先生に言われたけど、その質問はスルーしておいた。

 

「僕は君らを害するつもりはないよ。流石に祟り神とは言え、神格相手にいくら力がある僕と言えど手出ししない方がいいことは理解してるからね。その子が君のことを守ってることも知ってるから。あの場にいたしね。それに、契約を結んでるみたいだし。どんな条件で結んでるのかまではわからないけど、契約者が害された瞬間、その子がこちら側どころか人類相手に敵対する可能性は十分ある。まぁ、そこら辺は弁えてるから安心してよ。」

 

 五条先生が、私と太歳星君に危害は加えないと告げてくる。

 くだらない冗談は言う人だけど、嘘を無駄に口にする様な人じゃないことはわかるから、これは嘘じゃないと判断する。

 それに、彼が口にした言葉はもっともだ。

 太歳星君は祟り神。神は余程のことがない限り約束を違えない。

 これは、太歳星君にも言えることだ。

 私が約束を違えたりしない限りは、こちらを守るという約束、契約は遂行される。

 つまり、現在もまだその約束、契約を継続している私を害するということは、神格を敵に回すに等しい愚行。

 流石に最強呪術師と言えど、祟り神……というか、神格持ちにまで手を出した場合、自分だけは助かっても周りに生じる被害がとんでもないことになることはわかるようだ。

 

「じゃあ、何のために来たんですか?」

 

 となると、彼が私たちに接触した理由は勧誘に絞られる。

 別に問題はないけどね。

 むしろ、呪術高専に通わせてもらえるのであれば、それだけでかなり助かる。

 太歳星君がこの世界にいる理由。私が持ち合わせている呪霊に狙われやすい特異体質。

 そう言ったものを調べる機会がたくさんあるだろうから。

 

「その前に、少しだけ質問してもいいかな?」

 

「質問?」

 

「うん。」

 

 五条先生からされた質問は、太歳星君とはいつ頃から一緒に過ごしているのかや、太歳星君とはどんな契約を結んでおり、どの様な条件を設けているのか……呪術に関しての知識とかは持っているのかと言ったものだった。

 太歳星君と一緒に過ごし始めたのは小学生から。

 太歳星君と交わした契約は、守る代わりにして欲しいことや太歳星君が望んでいるものを必ず返すという内容。

 呪術に関しての知識は皆無であり、呪術師なんてものは初めて聞いたこと(実際は漫画やアニメの影響で知ってるが)と言った答えを返した。

 私の返答を聞いた五条先生は、なるほどと小さく呟く。

 そして、最後の質問があると告げてきた。

 

「最後の質問……?」

 

「うん。これは、瑠風に対する質問じゃないんだけどね。」

 

「?」

 

 私に対する質問ではないとはどういう意味なのか……素直に疑問を浮かべていることを知らせる様に首を傾げる。

 しかし、それは次の五条先生の言葉と、それにより現れた存在により答えを理解することとなる。

 

「瑠風と接触した時からずっと僕のことを観察しているよね。君らも相当ヤバい存在みたいだけど、瑠風の知り合いか何かかな?」

 

 五条先生が視線を向けたのは、私と太歳星君がいる場所のさらに後ろ。

 彼に倣う様に背後へと視線を向ける。

 その瞬間、その場には光の粒子が降り注ぎ、爪先から第三者たちの姿を形作り始めた。

 

「……どうやら、お気づきのご様子で。ああ、でもある意味で必然的なのかもしれませんねぇ。太歳神は祟り神であり、呪いの塊の様なもの。(わたくし)は獣たちの怨嗟より発生した悪霊であり、同時に自然神の側面を持ち合わせている獣。呪いに敏感で、なおかつ厄介な眼を持ち合わせていると思わしきあなたならばなおのこと。ああ、ですがお気をつけください。流石のあなたでも邪神の巫女は精神がやられてしまうかもしれないので。」

 

「そうね。例えどれだけ強い方でも、私のことはその眼で視ないことをおすすめするわ。特に、悪い子になった私のことは。」

 

「今の姿でも十分危険な気もしますがね。」

 

 辺りに響くのは二人の女性の声。

 その二人も、太歳星君と同じように、聞き覚えのある声だった。

 まさかと思い、目の前に広がる光景に眼を見開けば、光の粒子が消えていき、一人の女性と少女が姿を現した。

 

「……確かに、そっちの女の子もヤバいものがついてるのはわかってるんだけどね。それ以上に君の方がヤバいと思うのは僕の気のせいじゃないよね?見た感じは普通の女性のようにしか見えないけど、その割には随分と禍々しいものが視えてるよ?」

 

「否定はいたしませんわ。なんせ、これが(わたくし)ですので。ですが、今はその時ではないですし、こうして演じているのです。それとも、(わたくし)の本性……お見せいたしましょうか?ねぇ?呪術師最強とも謳われる、五条 悟様?」

 

 辺りに重苦しい空気が流れる。

 しかし、今の私はそれを気にしている暇なんてなかった。

 どうしてここにこの二人がいる?私がこの世界に生まれ落ちると同時に連鎖的に顕現したってどういうこと?

 ねぇ……コヤンスカヤ。アビゲイル。

 

 




 瑠風
 何らかの力を持っているようだが、それに気づいていない異世界からの訪問者。
 連鎖的にサーヴァントが呼ばれる理由と、呪霊から狙われやすい体質になってしまった理由は、実は共通している理由なのだが、彼女に呼ばれた二騎のサーヴァントしか理解できていない。

 太歳星君
 瑠風が転移すると同時に発生した祟り神。
 しかし、彼は他の二騎とは違い、自分が発生した理由はわかっていない。
 だが、二騎と同様に、瑠風を守ることだけは本能的に理解している。

 五条先生
 実は瑠風と接触した時に、他にも二騎ほどヤバいのがいることは視えていた呪術師最強。
 瑠風を害するつもりはないし、上層部に教えるつもりもない。
 隠れていた二騎のうち、一騎がかなりの悪霊であることはもちろん理解済み。
 一応、もう一騎もかなりヤバい存在であることは理解しているけど、禍々しいものが視えるだけで何が原因かはまだ考えあぐねている。

 タマモ・ヴィッチ・コヤンスカヤ(闇)
 瑠風の特異体質と、その原因の影響で呪術廻戦の世界に顕現したフォーリナーのサーヴァント。
 普段はNFFサービスの女社長や、獣のサーカス団の団長という姿をしているが、戦闘時は本来の彼女に戻る。
 オシャレ好きのため、瑠風は問答無用で彼女の着せ替え人形にされることになるのだが、瑠風はまだ気づいていない。
 五条先生が持ち合わせている能力等を理解しており、彼から言われたヤバい存在という言葉を否定しなかった。

 アビゲイル・ウィリアムズ
 瑠風の特異体質と、その原因の影響で呪術廻戦の世界に顕現したフォーリナーのサーヴァント。
 普段は年相応の女の子として生活しているが、戦闘時は第三再臨状態に姿が変わる。(戦闘に特化してると判断しているため)
 五条先生に気づかれていたことに関しては驚いていないどころか、五条さんなら気づいていてもおかしくないと認識していた。
 コヤンスカヤと呼ばれた際は、一応の配慮として、第二再臨状態で姿を現した。
 若干第三再臨の自身が出ている状態だが、瑠風を害していないことから、精神に対する負担を少なくしていた。


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07.五条悟からの勧誘

「なんで……コヤンスカヤとアビゲイルがいるの?」

 

 ピリピリとした雰囲気の中、五条先生と言葉を交わしているコヤンスカヤとアビゲイル。

 私は、この状況がよくわからず、混乱したように問いかける。

 すると、コヤンスカヤが私の方に目を向けては、口元に笑みを浮かべる。

 

「もちろん、(わたくし)とアビゲイルさんを、あなたが自身の身を守るために召喚したからですわ、マスター。(わたくし)たちはあなたのサーヴァントとして、顕現しておりますので。」

 

「私のサーヴァント……?なんで……」

 

「それに関しては詳しくお答えすることはできません。ですが、(わたくし)たちが呼ばれた理由は、あなたの体質と関わりがある……とだけ申しておきましょう。こちらに関しては、あなた自身で気づいていただかなくては意味がないので。」

 

「でも安心して、マスター。私たちは問答無用でマスターの味方だから。あなたを害する者が現れた時は、私と狐さんと太歳星君さんで全てを終わらせるわ。」

 

 穏やかな笑みを浮かべながらも、かなりの爆弾発言をしているアビゲイル。

 よく見ると額には鍵穴が。どうやら第二再臨状態でやってきたようだ。

 ……まぁ、この発言に関しては、あとで注意するとして、コヤンスカヤが口にした、二騎のサーヴァントがやってきた理由。

 詳しくは教えてもらえないみたいだけど、私の体質と関わりがある……と言う発言に、少しだけ眉を顰める。

 かなり重要なことを彼女は知ってるんだな……。

 できれば教えて欲しかったんだけど………。

 

「……話は終わったかな?」

 

 そんなことを考えていると、五条先生から声をかけられる。

 彼の方に目を向けてみれば、なんか目隠し取っていた。

 うわ、イケメン。

 ……じゃなくてなんで目隠し取ったんだあんた。

 

「ええ。(わたくし)たちの話は終わりました。」

 

「……なんで目につけてたそれを外したのだ?」

 

「うん?そこのコヤンスカヤ……だっけ?彼女が口にしたことが少し気になってね。ちょっと瑠風のことを視てみたんだよ。それでびっくり。瑠風。君ってばなんか厄介なものを引っ提げてるみたいだね?呪物……とは少し違うような気もするし、呪物と表現することもできる、特異物質。階級を当てはめるとしたら……特級……いわゆる、一番階級が高く、危険性が計り知れないくらいヤバイものが宿ってるみたいだよ。」

 

「え?」

 

 いつのまにか目隠しを外していた五条先生に、太歳星君が外した理由を問う。

 すると、五条先生はサラッと私の体の中に特級レベルの物質が入り込んでいると指摘してきた。

 その言葉に驚き目を丸くする。いったい、何が入り込んでいると言うのか……。

 

「……それって、るかるかに害がある奴か?」

 

「いいや?どうもそれは彼女の身を守るために機能してるみたいだからね。祝福のようなものだと僕は思うよ。でもね、祝福も時には呪いになることがあるんだよ。行き過ぎた祝福はまさにそれ。過保護なまでに発動するから、周りを無条件で傷つけることがある。」

 

「でも、るかるかが傷つくことはないんだろう?」

 

「それはもちろんその通り。むしろ、瑠風を守るために発動するから、彼女はいろんな攻撃を防いでしまう。少しだけ僕が持ってる術式に近いみたいだけど、性質としては結構タチが悪いんじゃないかな。僕の場合は意識して使用できるけど、瑠風の場合は無意識下で常に発動しているような感じ。他にもいくつか特殊な術式を持ち合わせている様子があるけど、これって言わない方がいいんでしょ?」

 

「ええ。こればかりはマスターご自身で自覚し、認識していただかなくてはなりません。もちろん、誰かに教えてもらうと言うのも一つの手であることは理解しておりますが、術式を使うならば、外部から言われて認識するよりは、マスターご自身で自覚し、認識する方がよほどマシかと思われます。なんせ、彼女の主な力となりうるであろうもの……この世界で言う術式と称すことができる力は、人の身である者が扱っていいものではございませんので。」

 

「……うん、なんか聞き捨てならないような言葉が聞こえてきたような気がするけど、今は指摘しないでおくよ。で、話を戻すけど、瑠風が宿してるそれは、瑠風を守るために機能してる。だから、瑠風が傷つくことはまずないんだけど、その反面、瑠風以外の存在は傷つけ、最悪命を奪うような効能を発揮しちゃうみたいなんだよね。まぁ、敵意に反応するみたいだから、敵意さえ向けなければ被害はまずあり得ない。でも、ただの喧嘩だけでそれが発動してしまう恐れがあるから。コントロールはそれなりにできた方がいいと思うんだ。それに、コントロールすることができるようになれば、自分から外敵を排除できるようになるかもしれない。」

 

 私の中にある強力な力。私の身を守るためだけに発動している何かしらの祝福。

 それは時に無意識のうちに人を攻撃し、最悪の場合、相手が命を落とすことがある。

 その話を聞いて、私は少しゾッとした。

 自身がどれだけヤバイ状態だったのか、五条先生の指摘により気づく。

 つまり、私はくだらないことだけでも人を殺めてしまう可能性があったわけだ。

 身を守るために与えられた祝福……でも、その理屈なら確かに呪いとも捉えることができる。

 いったい、誰がそんな祝福を私にかけたのだろう。

 おそらく、過去の私が出会った何かなんだろうけど、夢で見た太歳星君と出会った過去までしか記憶にない。

 過去、太歳星君以外の何かと出会ったのは確かだと思う。

 その先だけ、まるで靄がかかったかのように思い出せないから。

 

「……私自身が得たわけではなく、外部からかけられたと思われるこの力は、コントロールすることができるんですか?」

 

「もちろん。確かにそれは外部にかけられた祝福だけど、自分の意思で発動させるさせないのオンオフの切替えも、その力を逆に利用して戦うための糧にすることも可能な力みたいだからね。多分、かけた張本人は、君自身にできれば戦ってほしくないし、そのまま守られる存在でいて欲しいと望んでいるんだろうけど、いざと言う時は力を使って闘うことも必要だと考えていたんだろうね。じゃなきゃそんな選択肢を用意することなく、守るためだけのものへと変えているはずだよ。」

 

 その説明を聞いて、私は少しだけ考え込む。

 予想通りの結果になりそうではあるけど、これは、私だけじゃなく、周りのみんなのことも守るために必要であるはずだ。

 まぁ……元から見つかったらどうするかなんて、すでに決めているようなものだったんだけど。

 

「私、この力をコントロールできるようになりたいです。それに、どうやら私は、幼い時の記憶をいくつかどこかへと落としてきてしまったみたいですから、それを見つけるためにも行動をとった方がいいと思うし。」

 

 静かに口を開き、自分の意思を五条先生に伝えれば、彼は小さく笑ったあと、手にしていた目隠しを再び装着し始める。

 やっぱり疲れるんだな、それ……なんてことを考えながらも、五条先生を見つめていれば、彼は明るい口調で言葉を紡いだ。

 

「よし!じゃあ君は高専行きね。その力をコントロールするためには、相応の技術を学べる場所に行かなきゃ意味がないし。行き過ぎてもはや呪いレベルになってる過保護なその力を使いこなせるようになるまでいろいろ教えてあげるよ。」

 

 その言葉に小さく頷けば、五条先生は満足げに笑い、優しく頭を撫でてきた。

 ワオ、イケメンに頭撫でられちゃったよびっくり。

 

「……ところで……私、入学する高校決まっちゃってるんですけど、どうしたらいいです?」

 

「ん?ああそこら辺は安心して。こっちが必要な手続きを済ませるし、君の親もちゃんと言いくるめて高専に通えるようにしとくから。ってことで、三人目の高専新入生だよ、おめでとう!」

 

「……喜んでいいのかな?」

 

「……そうですねぇ……ご自身の気持ちに素直になればよろしいかと。まぁ、あまり喜ばしくないような気もいたしますが。」

 

「……ワガハイ、なんかコイツ嫌い。」

 

「え〜……?ひどくない?」

 

「基本的に、私たちはマスターから離れたくないんですもの。私たちに手を出さないと言ってはいるけど、それでも私たちの繋がりを切ることができるような力を持ってる存在には、あまりいい気持ちは抱かないわ。」

 

「アビゲイルさんは……まぁ、呪いというよりは、彼の外来の方々のうちの一柱の巫女……依代のようなものですから、あからさまに気分が悪くなると言った状況には陥ることはなさそうですが、(わたくし)や太歳神は怨嗟や負の感情と言ったものから生まれた呪いのようなものですので、呪いを祓う方に対して本能的に嫌悪感を抱くもの。マスターがそちらに行くというのであれば同行いたしますけど、あくまで(わたくし)はマスターのサーヴァントですので、決してそちら側の味方になるわけでもなく、あなた方の指示に従うわけでもない……と言うことだけはお忘れなきよう。」

 

 そんなくだらないことを考えていると、太歳星君とアビゲイルが左右から私の体に抱きつき、五条先生にジト目を向ける。

 そして、コヤンスカヤは堂々とした相変わらずの立ち振る舞いで、太歳星君の嫌い発言にひどいと返しながら笑う五条先生に対し、自分たちがどのような存在であり、自分たちはあくまで私と言う人間にしか従うつもりがないと告げる。

 

「だろうね。君らはあくまで瑠風と主従契約を結んでる存在であり、彼女の内側にある力より生まれた呪力の塊のようなものだもん。まぁ、でも、それくらいは問題ないよ。周りに被害が出ないなら、自由に過ごしてもいいから。」

 

 三騎からの視線を浴びても、余裕が崩れない五条先生には流石と言う言葉しか返せない。

 ……何はともあれ、私も呪術高専に通うことが決定した。

 これで……少しは人を助けることができるようになるかな。

 

 

 

 




 瑠風
 特級レベルのヤバイものを宿してやって来た異世界からの訪問者。
 どうやら呪物とは違うが、呪物とも取れる物質のようで、力の操作方法を理解すれば、その力を上手く使って呪霊を殲滅することも可能らしい。
 なお、操作方法を理解してなければ、彼女に対する敵意にカウターとして自動的に発動し、くだらない喧嘩をしてるだけでも敵意判定が発動、そのまま命を奪う可能性もあるようだ。

 太歳星君
 今回あんまり話してないけどずっと瑠風の側にいた祟り神様。
 瑠風に敵意を向ける奴絶対祟るマンなため、彼女に敵意を向けた場合、自身の一族が祟られるということを忘れてはいけない。
 五条 悟はなんか嫌い。

 闇のコヤンスカヤ
 なんか話の進行役になっちゃってたフォーリナーのサーヴァント。
 瑠風の見方はするが、その他大勢には味方する気はありません。
 ですので、(わたくし)にマスター以外の方は命令しないでいただけます?とは彼女談。

 アビゲイル
 瑠風の敵は絶対に倒します精神のフォーリナーのサーヴァント。
 瑠風とは絶対に離れたくないので、引き離そうとしたらお父様から力を借りちゃうのでご注意を。
 太歳星君やコヤンスカヤのようなあからさまな嫌悪はないが、五条 悟に対してはあまりいい気分は抱いていない様子。

 五条先生
 ずるっと出てきた呪力と同じようで違う力により顕現していると思わしき三騎に対して、実は結構寒気を抱いていたりいなかったり。
 瑠風を高専に引き抜けてご満悦。
 六眼により、瑠風の術式や彼女が宿してる力を確認してみたら、執着とも取れるような祝福と、強大な力に守られていることがわかり、内心冷や汗をかいていた。
 祝福も行き過ぎたら呪いだよ。



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08.記憶のカケラ

 不思議な夢を見た。

 私が今の私になる前の、いわゆる転移前の私の記憶。

 視界はそれなりに高い。地面の距離や見える景色からして、中学生ぐらいだろうか。

 春の花が咲き誇る昼下がりの道のりを歩き、記憶の私はどこかへ向かってる。

 記憶の私の視点のようだけど、この体を自分で動かすことはできないようだ。

 多分、記憶を追走しているだけだから、動くことができないのだろう。

 そういえば……転移前の世界でも、私は生まれた時から東京にいたわけじゃなかったと、流れる景色を眺めながら思う。

 どの県で過ごしていたのかは覚えてないけど、東京じゃない場所だったことだけは確かである。

 

『……こんにちは、──さん。』

 

『おや……瑠風じゃないか。久しぶりだね。』

 

『うん。久しぶり。』

 

 そんなことを考えていると、記憶の私は穏やかな声で誰かに話しかける。

 景色は田舎を思わせる砂利道ではなく、古びた神社へと変わっていた。

 おそらく、この記憶の私がさっきまで向かっていたのはこの神社だったのだろう。

 神社には狩衣を着た誰かがいる。

 声はどこか低く、色気を含んでいるような穏やかな声だ。

 誰かに例えるとしたら、井上○彦さんだろうか。

 どことなく、某刀の上杉公が使っていたとされる、一文字のお頭さんのような雰囲気の声をしている。

 

『今日はどうしたのかな?』

 

『……ちょっと、お話がしたかっただけ。』

 

『?……どうしたんだい、瑠風?どこか、すごく寂しそうに見えるが……』

 

 その人の顔はわからない。いや、思い出せないが正しいのだろうか。

 思い出そうとすると、靄がかかっているようになり、少しだけ頭が痛くなる。

 悪い記憶ではないと思うのだけど……。

 いったい、目の前の男性は誰なのか……昔の私と親しいようではあるけど、どうして思い出せないのか……いくつか浮かぶ疑問の中、記憶の私は言葉を紡ぐ。

 

『あのね……私、来月からこの地域からいなくなっちゃうんだ。親が仕事で都会の方に行くから、それについて行かなきゃいけないの。向こうの学校に受かっちゃったしね。』

 

 ポツリポツリと紡がれた言葉は、呪術廻戦の世界に来た私によく似た状況を説明するためのものだった。

 私の言葉を聞いた狩衣の男性は、一瞬驚いたような表情をしたあと、どことなく寂しそうな笑みを浮かべ、そうかと一言呟いた。

 相変わらず目元から上は見えないけど、声音から十分寂しいという感情が伝わってくる。

 

『ごめんなさい。私がいなくなっちゃったら、あなたが消えちゃうのは知っていたんだけど……母さんたちが、高校を卒業するまでは側で成長を見たいからって一人暮らしを許してくれなくて。おばあちゃんも……つい最近亡くなっちゃったし。』

 

『謝らなくても大丈夫だよ。いつかこうなることはわかっていた。わかっていたんだ。だから覚悟はしていたさ。……だが……うん。実際にそれを告げられると……やはり、寂しくなってしまうね。君と過ごすこの穏やかな時間は、とても楽しくて好きだったからな。』

 

『…………。』

 

 どこか悲しげな声音で紡がれた言葉をに、記憶の私は答えることなく下を向く。

 少しだけ視界が歪んでいるのは、きっと彼女の涙のせいだろう。

 他人事のように言葉を聞くしかできない私の意識。でも、ひどく悲しいと思ってしまっているのは気のせいじゃない。

 これは、この時私が感じていた気持ち。それを思い出した。

 

 不意に、記憶の私に影が差す。同時に感じたのは温もりに包まれる感覚。

 視界に広がるのは男性の狩衣の布。記憶の私は、彼の腕に抱きしめられている。

 

『泣かないでくれ、瑠風。君の涙は得意じゃない。私も苦しくなるし、悲しくなってしまうからね。』

 

 穏やかな声音で宥められ、優しい手付きで頭を撫でられる。

 それを合図にしたかのように、私の両目からはぽろりぽろりと大粒の涙がこぼれ落ちていき、地面や男性の狩衣にシミを作っていく。

 頭上から小さく漏れたような笑い声が聞こえてきた。仕方がないなと言うような、どこか呆れているけど優しいものだ。

 涙は得意じゃないと言っていたのに、私が泣いてしまったからだろうか。

 でも、彼は突き放すでもなく、怒るでもなく、私が落ち着くまで抱きしめてくれている。

 

『……落ち着いたかな、瑠風。』

 

『……うん。ごめんなさい。』

 

『謝らないでと言ったはずだ。君は何も悪いことをしていないのだから。』

 

 しばらくは涙を流した記憶が続いていた。しかし、ずっと見つめていればその記憶は終わり、記憶の私と神社にいた狩衣の男性が、神社に併設されている古びた家の玄関に座って話す記憶が現れる。

 記憶の私の顔はわからないけど、きっと目元が腫れているのだろう。

 それほどに長く、彼女は涙を流していた。

 でも、狩衣の男性は気にしていないのか、穏やかな声音で言葉を紡ぐ。

 

『……瑠風。遠くへと行ってしまう君に、私から贈り物を贈らせてもらうよ。』

 

『贈り物?』

 

『ああ。君が寂しくないように。君がこれから先で深く傷つかないように。いざと言う時は、私がすぐに君の元へと駆けつけることができるように。』

 

『──さん……。』

 

『ここの私は、君がいなくなってしまったら確かに消えてしまう。だが、君が私を忘れたりしない限り……仮に忘れてしまったとしても、心のどこかで覚えていてくれる限り、私は完全に消えることはない。だからこそ君に託そう。私からの祝福と共に。』

 

 ふわりと両頬に大きな手が添えられる。その手により顔は上に向かされ、吸い込まれそうなほど美しい紅玉の瞳と自身の瞳が重なり合う。

 ようやく見えたその顔は、何よりも美しく気高いものであり、同時にどこか強大な力を持ち合わせている存在だった。

 

『あなた……は……』

 

 息を呑むような美しさを持ち合わせている存在を見て、ようやく記憶ではない私自身が言葉を紡ぐ。

 だが、その瞬間視界は全てノイズにより塗りつぶされていき、私の意識も遠のいていく。

 

『瑠風。私は君のことを愛してしまった。だからこそ与える祝福と力だが、これはきっと、いつか過剰なものへと変わってしまうだろう。だとしても私は、君を手放したくはない。できることなら全てをこの場で奪い去ってしまいたいとも思ってしまうほどに。祝福を与える前にこのようなことを言うなどどうかしているとは思うが、これだけは告げさせてもらう。……すまない。そして愛している。例え君がどこまで遠くへと行ってしまっても、必ず見つけ出すための証を刻み込んでしまうほどに。』

 

 どこか遠くで、しかしすぐ近くにいると錯覚してしまうような声が鼓膜を揺らす。

 最後に見えたものは、美しくも悍ましい存在の端正な顔が、私の方へと近づけられる記憶だった。

 

 

  ❁.。.:*:.。.✽.。.:*:.。.❁.。.:*:.。.✽❁.。.:*:.。.✽.。.:*:.。.❁.。.:*:.。.✽

 

 

「………今のは……?」

 

 不意に意識が浮上する。

 ぼやける頭と視界の中、私はポツリと小さく呟く。

 何か夢を……大事な記憶を見ていたような気がするのだけど、雲がかったように曖昧で、何を見ていたのかハッキリと思い出せない。

 

「るかるか……。」

 

 そんな中、すぐ近くから聞き慣れた声が聞こえてきた。

 すぐに声の方へと目を向けてみれば、そこには太歳星君がいて、なんだか心配しているような視線が送られている。

 

「……どうしたの、セイ?」

 

 どこか不安気な様子を見せている太歳星君に声をかければ、彼はぎゅっと私の手を握りしめてきた。

 その手は少しだけ震えていて、何かを怖がっているようだった。

 

「セイ……?」

 

「……さっき…………。」

 

「うん?」

 

「さっき……るかるかから、普段は感じることがない大きな力を感じたのだ。ワガハイやあの狐、あびあびとは全く違う力だった。」

 

「……セイでもなく、コヤンスカヤでもなく、アビーでもない大きな力…………。」

 

「うん……。」

 

「………そっか。」

 

 太歳星君の言葉に対し、小さく呟くように相槌を打つ。

 おそらく、私が見ていた夢に関わりあるものだろう。でも、夢でハッキリと見ていたはずなのに、その力を持つ者が誰なのか……曖昧になっていて思い出せない。

 どうして思い出せないのだろうかと考える。小さい時の記憶だから?転移する前の記憶だから?それとも、何かしらの外的要因によるものなのだろうか?

 そんなことを考えながら、近くにある目覚まし時計に目を向ける。

 時計が指し示しているのは午前3時。高専の方へと移動するのは昼間だったし、アラームをかけているのは7時。

 まだ起きるにはあまりにも早すぎる。

 

「……もう一眠りするか。」

 

「るかるか、まだ寝るか?」

 

「うん。」

 

「じゃあワガハイも寝るのだ。」

 

「そうだね。じゃあ寝ようか。」

 

「うん!」

 

 そこまで確認した私は、再びベッドに横になる。太歳星君も同じように横になり、私の体をギュッと抱きしめてきた。

 抱き枕じゃないんだけど……と少しだけ苦笑いしたくなったが、太歳星君が満足そうにしているし、指摘はせずに抱きしめ返す。

 

「わはー。るかるかあったかいのだ〜。」

 

「セイもあったかいよ?」

 

「ワガハイもあったかいのか?」

 

「うん。」

 

「そっかー。ワガハイもあったかいんだな〜。」

 

 へにゃんと笑う太歳星君の頭を優しく撫でれば、彼はすぐにウトウトし始める。

 程なくして寝息が聞こえてきて、彼が眠りについたことがわかった。

 小さくお休みと呟いて、自身も眠りにつこうと目を閉じる。

 その際、一瞬だけ自室の出入口付近に、穏やかな笑みを浮かべる狩衣の男性がいたような気がしたけど……あれは、気のせいだったのだろうか……?

 

 

 

 




 瑠風
 転移前の世界で、不思議な出会いを経験し、同時に出会った存在から愛されてしまっている異世界からの訪問者。
 しかし、出会した存在が誰で、どこにいたのかは覚えていない。
 眠る時に狩衣を着た誰かがいたような気がしたが、再び目を覚ました際に忘れてしまった。

 太歳星君
 瑠風の内側から普段は感じない大きな力が渦巻いたことに気づき、目を覚ましてしまった祟り神様。
 自分のものでもなく、コヤンスカヤのものでもなく、アビゲイルのものでもないその力に含まれている執着のようなものが少しだけ怖かった。

 ????
 瑠風が過去に出会っている狩衣の男性。しかし、どういうわけかその記憶は忘れており、夢で見た時も名前にはノイズが入り、その顔も夢の終わりになるまで見えなかった。
 瑠風に対して、執着とも取れる愛情を向けている様子があるようだ。


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09.いざ、呪術高専へ

 不思議な夢を見て二度寝を決めて、かけていたアラームで起床する。

 結局、自分が見ていた夢がなんなのかはわからなくなってしまったけど、どうしてかまた見るような気もするし、今はとりあえず気にしないでおくことにしよう。

 念のために太歳星君に、夜中に感じた力は感じるか聞いてみたら、今は感じないって話だし、多分、大丈夫。

 

「おはようございます、マスター。」

 

「うん。おはよう、コヤンスカヤ。アビーもおはよう。」

 

「ええ。おはようございます、マスター!」

 

「……夜中は起こしちゃってごめんね、セイ。」

 

「確かにびっくりしたけど、大丈夫だぞー!あ、忘れてたな。はんなまー!るかるか!」

 

「おっと。確かに忘れてたね。はんなま、セイ。」

 

 そんなことを思いながら、私は三騎に増えたサーヴァントたちと挨拶を交わす。

 そういえば……アビーとコヤンスカヤはサーヴァントって言ってたけど……私、令呪なんて………。

 

「………あったわ。」

 

 そんなもんあったっけと自分の体を探してみれば、くっきりと右手の甲に令呪が浮かび上がっていた。

 なんだろうこの形……流星……のように見える。

 なぜ流星……?フォーリナー中心だから?それとも太歳星君が地上を巡る星だからなんだろうか……。

 もしかしてコヤンスカヤ(闇)の影響で?……どれもあり得そうだな。

 

「マスター?」

 

「どうしたのだ、るかるか?」

 

「おや、ようやく令呪を見つけましたか。いささか遅すぎませんこと?」

 

「………うるさいな。サーヴァントを連れて動くことになるとは思わなかったから知らなかったんだよ。」

 

 無言で令呪を見つめていると、アビーと太歳星君が不思議そうな表情を見せる。

 コヤンスカヤの指摘はちょっと一言余計だったので軽く言い返しておいた。

 

「昨日までは令呪なんてなかったのに……」

 

「そうだったのですか?それはおかしいですねぇ……。(わたくし)たちは、マスターがこの時代に生まれ出でた時にはすでに契約を結んでいたはずなのですが……。」

 

「え?ここに生まれた時から?」

 

「はい。となると……何かしらの細工がされていたのかもしれません。(わたくし)たちをサーヴァントとして認識したら令呪が発生するとか……そんな感じの何かが仕掛けられていたとか。まぁ、こちらに来る前の記憶が戻る前に令呪なんてあったら、周りからなんだこの痣は、みたいな感じに気味悪がられていた可能性もありますねぇ。」

 

「ああ……まぁ、確かに、それはあり得るかも。この世界には、本来サーヴァントは存在しないし。」

 

「ええ。ですので、それを避けるためにも隠されていた可能性があります。マスターがサーヴァントという存在を認識できるようになった上、自身が持ち合わせている力をうまく扱えるようになりたいと望むまで。」

 

 コヤンスカヤの言葉に、なるほどと小さく呟く。

 本来ならばこの世界に存在しないはずの神秘。サーヴァントとそれを使役するマスター……そして、マスターが手に宿す令呪。

 側から見たらかなり不気味なものと言えるだろう。ただでさえ、この世界には呪霊と呼ばれる異形化した呪いが存在しており、それを見ることができる人間が少なからずいるのだから。

 それに、どうやらコヤンスカヤたちはサーヴァント……ではあるけど、魔力ではなく呪力により顕現しているような状態のようだから、呪術師や呪詛師には姿を消していても視えるようだし、もし、呪術師の上層部とかに見つかっていたらどんな目に遭うかわからない。

 だから、私がこの力を扱いたいと望まない限り、令呪は現れなかったというのも少しは納得できる。

 

「そういえば、この令呪は通常の令呪と同じもので、使ったら一画ずつなくなるのかな……」

 

「そうですねぇ……どちらかと言うと、カルデアの方に近いかと思われます。特殊な令呪ですので、(わたくし)たちにバフをかける程度のものであり、一画消費しても時間経過で復活するタイプみたいですから。」

 

「……それ、どっかに魔力供給源ならぬ呪力供給源があるってことでは?」

 

 別の世界で聖杯戦争とかやめてよね。

 いや、そもそも聖杯があるのかわからないけどさ。

 

「まぁ、この世界は呪力が溢れているような場所のようですし、もしかしたらそこら中にある呪力が供給元になってるのかもしれませんよ?」

 

「それはそれでなんかイヤだな……。」

 

 どんだけ呪力が世界中に溢れてんのよ。怖いっての。

 コヤンスカヤの言葉に、少しだけ表情が引き攣る中、供給源はいったいどこにあるのか少しだけ考える。

 この家なのか、それとも自分の体の中にある何かのせいなのか……あ、なんか嫌な予感がしてきたから考えるのやめよう……。

 

「……とりあえず、荷物まとめるか。」

 

「手伝うわ、マスター。」

 

「ワガハイも手伝うぞるかるか!」

 

「では、(わたくし)は少々マスターのクローゼットを漁りますね。」

 

「いやクローゼット漁るなよ。」

 

「何をおっしゃいますか。漁るに決まっていますでしょう?なんせあなたは女子高生。もうちょっとオシャレに力を入れても構わない年齢なのですから。それに、一応(わたくし)はNFFサービスのトップを務めている者ですのよ?多少はオシャレをしていただかなくては困ります。」

 

「めんどくさ……」

 

「何か?」

 

「………ナンデモナイデス。」

 

 コヤンスカヤの目がちょっと怖かった。

 自分と契約をする以上、マスターも一匹の獣に過ぎないとか、洋服と言い理屈と言い、人間はどうして裸になることを嫌うのかとか言っていたくせに、オシャレさせるんかい。

 あれか?あっちはいわば神としての側面が全体的に出ているからであり、こっちの自分は人間に擬態して生活している部分が出てるからとかなのか?

 ていうか、コヤンスカヤはカルデアの記憶あるんだ。

 太歳星君は曖昧にある状態で、アビゲイルはほとんど覚えてない状態に見えるのに。

 

(わたくし)が愛玩の獣であることをお忘れですか?他のサーヴァントとは違うのは当然でしょうに。」

 

「いや心を読むな。」

 

「マスターがわかりやすいのが問題かと。読んだ覚えはありません。」

 

 ……どうやら、ビーストと通常のサーヴァントはかなり違うようです。

 太歳星君は通常のサーヴァントとはどこか違うような気もするけど、忘却補正とかないのかね……。

 ゲーム内では、直接彼を藤丸立香たちがカルデアに連れて帰った感じだったから、あの島の出来事を覚えていただけってことかな。

 まぁ、なんでもいいや。

 

「るかるか。これはどうするんだ?」

 

「それは持って行くよ。そっちは持って行かない。」

 

「マスター。ぬいぐるみさんたちはどうするのか決めているの?」

 

「……少しだけ持って行くつもり。なんか落ち着くから。」

 

「まぁ、可愛らしい。まるで幼子ですねぇ?」

 

「うるさいよコヤンスカヤ。」

 

 余計な茶々を受けながらも、順調に荷物を纏めて行く。

 こっちの下着を見たコヤンスカヤがダサくありません?とか言ってきたけど、まだ高校生だから問題はないでしょうが。彼氏がいるわけでもないんだし。

 女ならば下着にも気を使うべきではとか言うなし。それは大人になってからでいいだろ。

 別に私は胸が大きいわけでもないんだから。

 

「……こんなものかな。」

 

「それなりにコンパクトにまとまりましたねぇ。」

 

「……気のせいかしら?コヤンスカヤさんの側に、結構大きな荷物がある気がするのだけど。」

 

「おい狐……なんなのだその荷物は……」

 

「こちらですか?もちろん、マスターの私服ですわ。しっかりと選別しておきましたので、お出かけの際はこちらを着ていただきます。そういえば、あのペンギンの衣装は……?普通のサイズのようでしたが。」

 

「セイの寝巻きだよ。この子が欲しいって言ったからね。値段的にも十分買えるものだったから買ったんだ。」

 

「ああ……なるほど。彼女と過ごした記憶が、曖昧ではあっても存在しているのですね。」

 

「みたいだね。だから、それも荷物に入れてあげて。」

 

「畏まりました。」

 

 必要な荷物をまとめることができて一安心。

 あとは、そろそろ迎えに来る五条先生を待つだけだ。

 そう考えながら、それなりに片付いた部屋をベッドに腰掛けながら眺めていると、玄関のチャイムが鳴り響く。

 

「瑠風〜。五条先生がお迎えに来てくれたわよ〜?」

 

「うん。今行く。」

 

 同時に聞こえてきた母さんの声に返事を返し、まとまった荷物を持って自室から出て行く。

 そのまま玄関の方へと向かえば、そこには五条先生が立っており、ヒラヒラと私に手を振っていた。

 彼の背後には大きめの車が一台。太歳星君たちも乗れるようにしているのだろう。

 まぁ、私がいるだけで四人分だからね。仕方ないね。

 

「やっほー瑠風。準備はいい?」

 

「ええ。大丈夫です。」

 

「オッケー。じゃあ高専に向かおうか。本来なら面接とかあるんだけど、瑠風はちょっと特例って言うか、他人から危害を加えられそうになったら何が起こるかわからない爆弾状態だからね。なんとか免除してもらえるよう説得しておいたから、そのまま高専に入れるからね。」

 

「……面接で危害が加えられるって何…………?」

 

「……まぁ、いろいろあるんだよ、いろいろ。」

 

 まぁ、知ってますけどね。悠仁が夜蛾学長にやられていたし。

 確かに、あれをやられたら何が起こるかわからないわな。五条先生曰く、私の中にある特異物質は私に対して攻撃性のあるものや危害を加えようとするものに反応してカウンター的に相手に攻撃を引き起こすものらしいし、コントロールできていない以上、試すための攻撃に反応したこっちの力が相手を殺めるとか言う過剰防衛が入る可能性があるようだし……。

 

「……深くは聞かないことにしときます。」

 

「うん、そうして。」

 

 普段は余裕な様子を見せる五条先生が苦笑いを溢すとかレアでは?

 なんて、彼の表情を見ながら考えていれば、玄関から母さんが出てくる。

 すぐに母さんに視線を向けてみれば、母さんは穏やかな笑みを浮かべながら、私のことを見つめていた。

 

「行ってきます、母さん。」

 

「ええ、行ってらっしゃい。たまには連絡を入れてよ?父さんがいないと、母さん一人になっちゃうんだから。」

 

「もちろんだよ。」

 

「……気をつけてね。」

 

「うん。」

 

 何のために出てきたのかはすぐにわかった。だから私は、母さんと短く言葉を交わしたあと、五条先生に目を向ける。

 五条先生は小さく笑みを浮かべながら、私の方に手招きをしてきた。

 それに従うように近づけば、車のドアが開く。

 これに乗り込んだら私は呪術高専の生徒。すぐには自宅に戻れなくなるけど、自分の中にある力をコントロールし、欠けてる記憶を見つけるためだ。

 最後に母さんの方に手を振って、車の中へと乗り込む。

 あ、運転席にいるの伊地知さんだ。とりあえず軽く挨拶だけはしておいた。

 

「じゃ、行こうか。」

 

 五条先生も車に乗り込み、ドアが閉まると同時に車は動き出す。

 どんどん離れて行くこの世界での自宅。原作に関わる準備が、また一歩進んだのだと改めて認識するのだった。

 

 

 




 瑠風
 自分の中にある力の一つに嫌な予感を抱く異世界からの訪問者。
 危害が加えられたら自身の中にある特異物質の力と何かの祝福が、カウンターとして力を発動し、相手を殺めると言う過剰防衛になるのは勘弁して欲しいので、呪術高専で力の使い方を学ぶため自宅より離れる。

 太歳星君
 瑠風のサーヴァントの一騎である祟り神様。
 お気に入りのペンギンパーカーを瑠風が高専に持って行ってくれたことにご満悦。
 コヤンスカヤのことは狐。アビゲイルのことはアビアビと呼んでいる。
 五条先生のことはあまり特異じゃないが、瑠風に危害は加えないみたいだしと、あだ名を考え中。

 闇のコヤンスカヤ
 カルデアの記憶ありなビースト幼体からこぼれ落ちた一欠片で、現在は瑠風のサーヴァントなフォーリナー。
 神としてのの(わたくし)は確かに服を身につける人間に対して疑問を抱いておりますが、社長としての(わたくし)はモラルがあるのでオシャレくらいは自由にさせます☆
 まぁ、服装は全般的に(わたくし)が選びますが。

 アビゲイル
 瑠風の側にいるフォーリナーのサーヴァント。
 悪い子じゃない時の彼女は、全般的に瑠風のお手伝いをするし、瑠風や太歳星君と一緒に遊んでる。
 悪い子が入ったらコヤンスカヤを狐さん呼びにするが、普段はコヤンスカヤさんと呼んでいる。

 五条先生
 夜蛾と話し合うことで瑠風には面接をしないことを決めた先生。
 だって、瑠風の中にある祝福って、少しでも刺激したら容赦なく命の危険に晒してくる爆弾だから、試すだけのものでも過剰に反応しそうだからとは先生談。
 ちなみに、説明した際に使ったトドメの言葉は、三人目の新入生、あの太歳神が憑いてるから刺激したら何が起こるかわからないし、最悪大勢が死ぬの一言だった。
 もちろん上層部には黙ってるし、夜蛾にも話してはダメだと念をおしておいた。




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10.はじめまして、夜蛾学長

 車に揺られて山の中。程なくして現れるのは、城や寺を彷彿とさせるような大きな和風建築。

 東京都呪術専門高等学校と書かれた正門前を見て、本当に呪術廻戦の世界に来たんだなと改めて考える。

 いやぁ……憧れがなかったわけじゃないけど、まさかリアルでこの学校を見ることになるとは思わなかった。

 とりあえず今言えることは……

 

「……広くない………?」

 

 この一言のみである。

 いや、マジで広いなここ。いったいどれくらいの敷地があるんだ……。

 

「そう?普通じゃない?」

 

「普通じゃないと思います。」

 

 いや、思いますじゃねーわ。普通じゃねーわ。

 いくら呪術師がこの学校を起点として動いていると言えど、これだけの広さは敷地を持て余すでしょ。

 呪術師ってそこまで多くないって言ったの先生ですよね?

 あれか?ずっとこの学校を拠点にしてるから、感覚バグでも起こしてらっしゃる?

 色々ツッコミを入れたくなりながらも、リアル呪術高専を見渡す。辺りには山と呪術高専の建物しかない。

 何というか、ここだけまるで隔離されているかのような感覚に陥ってしまうな……。

 

「それじゃあ、一応学長に挨拶しに行こうか。この学校のまとめ役だし、顔を合わせないと怒られちゃうからね。」

 

「わかりました。」

 

 先行して学校の敷地内へと足を運んでいく五条先生についていくように、私も敷地内へと足を踏み入れる。

 ……本当に呪術高専に足を踏み入れちゃったよ。最高って気持ちと、この学校で上手くやってけんのかなって疑問を抱く。

 まぁ、それなりに生活はできると思うけど、呪術廻戦のキャラクター、みんな好きだから興奮で鼻血とか出ないよね?

 

「わはー!すっごく広いのだー!今日からここで生活するのかー!」

 

「マスターに嫌がらせをするような方がいないといいのだけど。」

 

「そのような輩がいたら、あなたの手でSAN値直葬コースにでも送って差し上げればよろしいのでは?そう言う精神攻撃、お得意でしょう?」

 

「それはわかっているのだけど、マスターを傷つけるような方がいらしたら、私、抑え切れる自信がないの。だって、マスターを傷つけるような方はいらないじゃない。」

 

「まぁ、過激だこと。(わたくし)、ちょっと引いてしまいます。」

 

「マスターに害する者は必要ないと思ってるもの。狐さんだってそう思うでしょう?」

 

「はぁ……(わたくし)の意見……でございますか?そうですねぇ……。基本我関せず状態でいるのでなんとも……。なんせ(わたくし)は雇われ秘書のようなものですので。あとは、まぁ、別にマスターが気にしないのであれば、(わたくし)はどうとも思わない主義ですから、同意はし兼ねますわ。」

 

「あなたはマスターが傷つけられてもいいの?」

 

「別にそうは言っていないでしょう?マスターが本当に、面倒だなー?邪魔だなー?こいつら消したいなー?……と思わない限り、こちらから何かをするつもりはないと言うだけの話です。流石にマスターがそのような感情を抱くようなら、黙っているつもりはございません。」

 

「あびあび。るかるかを傷つけるような輩がいたら、ワガハイたちだけでどうにかしてやればいいのだ。狐は基本、るかるかの意見に従うだろうからなー。」

 

「その通りです。呪いたい。祟りたい。殺したい。終わらせてしまいたいとマスター本人が望まぬ限り、または、愚かな方々が虎の尾ならぬ()の尾を踏みつけるような愚行をやらかさない限り、(わたくし)はどうこうするつもりなどありません。それに、これらの領分は太歳神の領分でしょう?(わたくし)に意見を求めるのは、少々お門違いじゃありませんこと?」

 

「……マスターのサーヴァントなのに、マスターが傷つけられても気にしていなければ何もしないの?」

 

「マスターのサーヴァントである以前に神ですので。基本的には様子見しか致しません。その際にギルティが見つかった時は裁きますが。」

 

 ……なんか、すぐ側でかなり物騒な会話がされているような気がする。

 ていうか、コヤンスカヤに関しては、キレたら即行で辺り一面が焼け野原と化して悲劇しか生み出さない気がするなー……。

 

「……ちょっと瑠風のサーヴァントたち、物騒過ぎない?」

 

「……通常運転です。」

 

「通常運転かー……」

 

 本当に大規模爆発が起こるレベルの爆弾じゃん……ウケるんだけどと五条先生が呟く。

 でも、ドン引きしているのがよくわかるような声音だ。少しでも核に刺激を与えたら爆発し、爆発物処理班を呼んでも解除できないのではレベルのものが三騎もいるんだから無理もない。

 ていうか、アビーちゃん……やっぱりマスターガチ勢なのね……。太歳星君も結構ぶっ飛んでいらっしゃる。

 コヤンスカヤはこっちが望まない限り何かしらの制裁を与えないらしいからまだストップが利くみたいだけど、多分……いや、絶対に神様の逆鱗……彼女の場合は尻尾を踏んづけられたらかな……?そんなことやらかすようなことをしたら、間違いなく都市が丸々消し飛ぶな。

 雷天日光(らいてんにっこう)禍音星落火流錘(まがねぼしらっかりゅうすい)は、対界宝具だしね。

 そんなことを考えながら、五条先生について歩き続ければ、呪術高専内の一室に辿り着く。

 

「戻ったか、悟。」

 

「ええ。ちゃんと連れて来ましたよ。」

 

 その瞬間、五条先生に声がかかり、五条先生はそれに応える。

 視線を新たな声がした方へと向けてみれば、サングラスに髭を生やしたヤのつく自由業でもやっておられますか?と聞きたくなるような容貌をしていらっしゃる男性が一人、チクチクとカワイイを作っていた。

 

 ─────……ヤーさんがカワイイを作ってる…!!

 

 思わず原作で悠仁がしていたようなツッコミを心の中でする。夜蛾学長……この呪術廻戦の世界に出てくる人物の一人であり、呪骸と呼ばれる呪いを込めて操作することができる依代を使う呪術師。

 ヤーさんじゃないのはわかっているんだけど、見た目のせいでヤーさんなオッサンがカワイイぬいを作ってるのを見ると、あまりにもシュール過ぎて言葉を失ってしまった。

 

「……その子が祟り神を連れていると言う少女か。」

 

「そうですよ。視たらわかるでしょ?」

 

 言葉を失って夜蛾学長を見つめていると、彼はこちらをじっと見つめ始めた。

 ……いや、違うな。彼が見てるのは私じゃない。

 夜蛾学長を警戒するように見つめながら、私に抱きつく太歳星君とアビー、それと、私の少し後ろの方に立ち、堂々と彼を見据えているコヤンスカヤのことを視ている。

 

「……悟。私は、祟り神を連れているとしか聞いていないんだが?」

 

「あ、言い忘れてた。実は彼女、祟り神だけじゃなく、なんか他にもヤバイの引き連れていたんですよ。しかも、全部特級レベルで、中には世界規模に影響を与えそうなのもいたりいなかったり。」

 

「……はぁ……………。」

 

 夜蛾学長が深い溜め息を吐く。うん、吐きたくもなる。

 報連相はちゃんとしないとダメでしょ五条先生……。

 

「えっと……とりあえず、はじめまして。今日からお世話になる御子神 瑠風と言います。私の側にひっついてる男の子は祟り神の太歳星君で、女の子はちょっと特殊な事情を持っているアビゲイル。そして、私の付き人のコヤンスカヤです。私が持ち合わせている呪力により顕現している式神のようなものと思ってください。まぁ、式神と示すにはあまりにも力は強大すぎますがね。なんせ、戦闘機一機分くらいの力は余裕で持ち合わせていますから。五条先生から、自分の中にある力は制御できるようにしておかなくては無差別に人を殺しかねない代物であると聞かされたので、その使い方を学ぶためこちらに足を運びました。よろしくお願いします。」

 

 早速五条先生のちょっとした適当な部分を知ってしまい、苦笑いをこぼしたくなりながらも、夜蛾学長に挨拶をする。

 面接は必要ないと言われたけど、念のためここに来た理由を口にすれば、夜蛾学長は小さく頷く。

 

「ああ。ようこそ、呪術高専へ。……しかし、よくそれだけの存在を側に置きながらも平然と過ごしていられるな。」

 

「この子たちは基本的に私に対する害意や敵意を消しにかかる子たちなので、余程のことがない限りは力を使わないんですよ。まぁ、私を侮辱したり、攻撃したりすると反射的に行動を起こし、こちらの指示を聞くことなくそれらを行った者を滅ぼさんとするようですが……。なので、五条先生と学長さんが上層部の方々に私のことを報告することをしないと約束してくださり助かりました。私のように呪いを扱う者、意識をしていなくとも外敵を排除するための呪いを持ち、ばら撒く恐れがある者、または、すでにばら撒いてしまった者は規定により処断されると五条先生か伺いました。特に、ばら撒き被害を出した者は、問答無用で死刑扱いにされてしまうとも。もし、そのようなことがあったら、間違いなく上層部の方々は全滅するし、血縁者共々全ての命が消され兼ねませんからね。」

 

「……太歳神と呼ばれる祟り神の怒りに触れれば、一族全てを祟られることも、その太歳神が君を大切にしていることも悟から聞いたのでね。少しでも君に敵意が向かないようにしたまでだ。流石に、太歳神の祟りは、こちらでも手に余る。」

 

「でしょうね。神様の力は偉大ですから。」

 

 私の言葉を聞き、夜蛾学長が少しだけ渋い顔をする。

 何気ない言葉でも敵意認定をされてしまったら、問答無用で太歳星君や、私の中にある力が反応し、守るための攻撃に転じる可能性があるため、言葉を選ぼうとしているのだろう。

 その姿に少しだけ笑ってしまう。でも、その気持ちは別に、わからないわけでもなかった。

 神は寛大だと言うけれど、少しでも地雷をつついてしまったら瞬く間に蔓延する呪いを持ち合わせている祟り神の力は、想像するだけでも恐ろしいからね。

 それに、私の中にはサーヴァント以外の強大な力がある。

 でも、それは未知なるもので、なおかつ私でも認識することができないのだから、余計に恐怖を抱いてしまう。

 

「ですがご安心を。私はこの子たちのマスターなので、ある程度抑えることは可能です。神格を完全に抑え込むことはできませんが、多少の抑止力にはなりますよ。」

 

 とはいえ、サーヴァントに関してはマスターとサーヴァントと言う主従関係のようなものが存在しており、令呪がある限りは指示を聞くと言う縛りが存在しているから、ストップをかけることはできるはずだ。

 だから、よほどのことがない限りは、彼らを使って数多の命を終焉に導くことはしないだろう。

 

「こちらも、上層部に気取られぬように努力をする。……が、呪術師が起点としている呪術高専で過ごす限り、絶対に見つからないと言うことはまずあり得ないと思われる。だからその時は、その者たちを抑制してくれ。」

 

「ええ。できる限りそうします。まぁ、限界もあるので、そこら辺は悪しからず。」

 

「………悟。彼女を寮に案内してやれ。」

 

「わかりました。じゃあ、学長に挨拶も済ませたし、瑠風がこれから生活することになる寮に案内するよ。ついてきて。」

 

「はい。」

 

 太歳星君たちをできる限り抑制することを夜蛾学長に約束すれば、夜蛾学長は、少しだけ複雑そうな表情をしながらも、五条先生に私の案内を頼む。

 五条先生はすぐに案内を引き受けたのち、寮に案内するからついてきてと私に言ってきた。

 了承するように頷いた私は、夜蛾学長に会釈をしたのち、歩き始めた五条先生のあとを再び追いかける。

 次に会えるのは誰かな。

 

 

 

 




 瑠風
 呪術高専入りを果たした異世界からの来訪者。
 太歳星君たちを抑制することは可能だが、神格やら外なる神とのつながり持ちを抑制できる限界がある。

 太歳星君
 瑠風のサーヴァントな祟り神。
 瑠風が抑制すれば基本的に誰かを祟ることはないが、あまりにも瑠風に対する敵意が強い者がいたら、瑠風の抑制を振り切り容赦なく対象とその一族を祟る。

 闇のコヤンスカヤ
 瑠風のサーヴァントなビーストの分御霊。
 基本的には瑠風の意思に追従し、向けられる敵意を瑠風が特に気にしていないようであれば何かをするつもりもない。
 しかし、あまりにもおいたが過ぎたり、戯れが過ぎたら荒御魂となるのでご注意を。

 アビゲイル
 瑠風のサーヴァントである銀の鍵。
 瑠風が大好きなので、少しでも瑠風が傷つけば即ギルティ。
 一応瑠風の抑制は利くのだが、一番外敵排除意識が強いので怒らせてはならない。

 五条先生
 瑠風の側にいるヤバイ思考の御三方に少しだけ冷や汗をかいていた最強呪術師。
 触らぬ神に祟りなしって、この時に使える言葉だよね。くわばらくわばら……。

 夜蛾学長
 祟り神以外にも特級レベルの手札を持つ瑠風に冷や汗をかいていた学長。
 上層部が瑠風を見つけたら最悪なことが間違いなく起こると確信したため、なんとか誤魔化す方法を全力で模索中。



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11.はじめまして、伏黒くん。

 五条先生に案内されながら、校内を歩くこと10数分。前方の方に漫画やアニメでも見ることがあった呪術高専の寮が見えてきた。

 うわぁ……とうとう来ちゃったよこの寮に!伏黒くんとか既にここで暮らしてんのかね?

 もし、ここにいるんなら、是非とも挨拶しておきたいものだ。重要人物だしね。

 

「とーちゃーく。ってことで、ここが今日から瑠風が暮らすことになる寮だよ。」

 

「ここが……。生徒が少ないのに、随分と大きな寮ですね。」

 

「否定はできないね。でも、表向きは宗教関連の学校扱いされてるわけだし、これくらいはしとかないといけないんじゃないかな?」

 

「……まぁ一理ありますね。」

 

「でしょ?」

 

 五条先生と会話をしながら、寮の中へと入り、五条先生の後を追いかける。

 しばらくして五条先生はある一室の前で足を止めて、手にしていた鍵で扉を開錠した。

 

「ほい。」

 

「うわ!?」

 

 徐に鍵が宙へと放り投げられる。慌ててそれをキャッチすれば、ナイスキャッチと褒められる。

 でも、私は呆れの感情しかなかった。鍵を投げるか普通……。そりゃまぁ、鍵は金属でできているから、落としたくらいじゃ壊れたりはしないけどさ、それでも万が一落下の衝撃で少しでも曲がったら使い勝手悪くなるんだぞ……。

 溜息を吐きたくなりながらも、手招きをする五条先生の元に近づけば、先程彼が解錠したドアが開けられる。

 視界に広がるのは真っ新な一室。掃除はしっかりされているようで、埃は被っていないし舞い上がりもしない。

 

「ここが瑠風の部屋ね。好きに使っていいから、君が過ごしやすいようにカスタマイズしてもいいよ。」

 

「模様替えしていいんだ。」

 

「まぁね。だって、これから長く使う時があるだろうし、規定規定ばっかだとちょっと嫌でしょ?」

 

「まぁ、確かに。」

 

「模様替えするのかー?」

 

「うん。とりあえず、荷解きしていこうか。」

 

「では、(わたくし)はマスターの服の方を。」

 

「こっちのお荷物は、私とマスターと太歳星君さんでやっていきましょう。」

 

「そうだね。……まぁ、言わなくともわかるとはいますが、とりあえず服とかも出すので、五条先生は一旦外に出てください。」

 

「じゃあ、瑠風は荷解きをささっと済ませちゃって。僕は君の同級生になるもう一人の生徒を呼んでくるからさ。またあとでね。」

 

「……わかりました。」

 

 こんな間取りになってるんだ……と、漫画やアニメでは一部しか出てこない与えられた個室を見渡していると、五条先生が部屋は自由にいじっていいと言って部屋を出て行く。

 その背中を見送った私は、すぐに持ってきた荷物を順次解いていき、どこに何を置くのかを太歳星君やアビーに教えながら片付けを始める。

 ……が、口元がにやけそうになって少しだけヤバイ。

 

 だって、呪術廻戦の重要人物である伏黒くんと、寮に移動してすぐ出会すことになるのが確定したんだよ?

 呪術廻戦の世界の重要人物に出会えるって、なんだかテンション上がらない?

 まぁ、一番みたいのは植物トリオ&五条先生の絡みとか、植物トリオと二年組の交流とかだけどさ。

 まだ原作が開始されていない現状を考えれば、それはもうちょっと先になっちゃうんだよね、どう考えても。

 ……彼らが出会した瞬間、物語の歯車も一気に回り始めることも理解しているし、その分、原作で命を落としていった人たちのカウントダウンも始まるから、ちょっと複雑な気持ちでもあるけど。

 

 ……もちろん、私は出来る限り人を助けるつもりだ。例えどんな手を使っても。

 少しでもいい。被害を最小限に抑えていく。

 でも、必要な物語も維持する必要はあると思う。……今はどうすればいいかわからないけど。

 

「……るかるか?どうしたんだ?眉間に皺が寄ってるのだ。」

 

 複雑な気持ちのまま思案していると、太歳星君が私の顔に触れ、むにりと頬を摘んできた。

 突然のことに驚いていると、翡翠のような緑色の瞳が、私の目を覗き込んで来る。

 

「嫌なことがあったのか?」

 

「……違うよ。少しだけ考え事をしていただけ。上手くやっていけるかなってね。」

 

「そかー。うん、るかるかならここでもきっと頑張れるのだ!それに、ワガハイたちもいるからなー!」

 

「マスターが不安になる必要はないと思うわ。だって、私たちもコヤンスカヤさんもいるもの!」

 

「……そうだね。みんながいるから大丈夫か。」

 

「当たり前じゃーん!だってワガハイたちは強いんだからな!」

 

「私も、いざと言う時はマスターをしっかり助けるわ。危なくなったら遠くへと逃してあげることもできるから。でも、逃げるのは本当にダメな時だけで、とっきゅーじゅれい……?も、ある程度は倒せるもの。」

 

「……そうなの?コヤンスカヤ?」

 

「そうですねぇ……。(わたくし)たちは、マスターの呪力により顕現している状態ですが、機能性としては最終再臨の状況と変わりませんし、なんなら、普通にLV.100を超越してるくらいには力がありますので、特級とされる呪霊にも難なく善戦することは可能です。特に、祟り神である太歳神こと太歳星君は、逆に呪霊を糧にすることで自身の強化を永続的に可能にしている状態ですので、ひたすら呪霊を狩り尽くすこともできますわ。」

 

「……そんなスキル太歳星君にあったっけ…………?」

 

「ここに召喚された際、あなたが彼に付与した一つの特性です。」

 

「………………は?」

 

「おや、こちらは無意識でしたのね。あなたは自身の力を使うことにより、他人に新たな特性を与えることができる術者ですのよ?効能は一時的のようですが、戦闘時は常に魔力ならぬ呪力回収率アップが与えられているような状態になるそうです。攻撃時に呪力を吸収し、永続強化が行われるというおまけ付きで。」

 

「……ちょちょちょ、待って待って待って!?なんでそんな能力あるの!?」

 

「そこは詳しくお話できません。ですが、それがあなたが持つ力の一つであることは断言できます。ちなみに、普通の人間にも何かしら与えることができるようですが……まぁ、むやみに使うべき能力では無いので、とりあえずは(わたくし)たちのようなサーヴァントのみに使用する方がよろしいかと。呪術師や呪詛師に見つかったら厄介なことにしかならないでしょうし。」

 

「厄介過ぎるわ!!なんでそんな力持ってんの私は!?」

 

「厄介者に愛された結果の果てですわね。なにせあなたは……おっと、これ以上はお話しない方がよろしいかもしれませんね。彼らも指摘されたことをきっかけに見つけてもらうよりは、マスターご自身に思い出してもらい、見つけてもらう方がよろしいでしょうから。」

 

「ヒントくらいちょうだい!?」

 

(わたくし)から言えるのは厄介者×2に気に入られてしまい、愛されてしまった結果、大量の貢物をされまくってることくらいしか申し上げることができませんねぇ。」

 

「厄介者×2!?」

 

「はい。もちろん、その×2がどなたなのかはこちらから告げることはありません♡」

 

 ハートがつく勢いでとんでもない発言をしてきたコヤンスカヤに絶句する。

 厄介者に好かれた結果、大量の貢物をされまくってるって何!?

 でも、発言からして数は絞れるわけで……いや、肝心なことに関して何も教えてもらえてないじゃん!!

 

「あーもう!記憶が曖昧になってるから何に好かれたのか全くわからん!」

 

「曖昧な記憶は何かしらの原因で封じられている状態になっているからのようですねぇ……。地道に思い出して封印を解くしかないかと思われます。」

 

「……術が関係してるってことはよくわかったよ。」

 

 記憶を封じないと不都合が生じるのか?それとも、別の理由で封じられていたりするのだろうか……。

 とりあえず、術を使う何かが原因であることは理解できた。

 でも、それは呪術?それとも魔術?使える本人にしかわからないような、不可思議な力?

 いったい、私の記憶を封じている力は何なわけ?

 

 ぐるぐるぐるぐると思考を回しながら頭を抱えていると、部屋のドアが三回ノックされたことに気づく。

 

「感じ取れる気配は二つ。どうやら、あの呪術師がマスターの同級生とやらを連れて来たようですわね。」

 

「……みたいだね。開いてますよ。片付けも終わらせてあるので、どうぞ。」

 

「お邪魔するよー。」

 

 コヤンスカヤから扉の向こう側にある気配は五条先生と第三者の気配であることを教えてくれたので、入室許可の言葉を返す。

 すると、私の言葉を聞いた五条先生が、邪魔するの一言を口にしながら、ドアノブを開けて入ってきた。

 彼の後ろには黒髪の少年。間違いなく重要人物の一人である伏黒 恵である。

 

「……五条先生……彼女が……?」

 

「そ。さっき説明した恵の同期になる御子神 瑠風ちゃんね。見ての通り、結構とんでもないの連れ歩いてるんだけど、彼女に危害を加えない限りは向こうからも見限られないみたいだから安心していいよ。まぁ、怒らせたら間違いなく祟られるから気をつけないといけないけど。」

 

「祟られるって……」

 

「るかるかを傷つけたらた〜た〜る〜ぞ〜!!」

 

「………あ、これ絶対マジのやつだ…………。」

 

 太歳星君がいつもの口調で話しかけながら、威嚇程度に呪力を纏う。

 すると伏黒くんはすぐにマジのやつだと呟き冷や汗を滲ませていた。

 その姿に思わず苦笑い。威嚇程度の呪力であっても、祟り神の呪力となれば必然的にかなり強くなるからね。

 わずかでも背筋が凍ってしまうだろう。……まぁ、私は背筋が凍るようなことはないんだけど。

 使役してる本人だからか……それとも太歳星君が好意的だからなのか、はたまたその両方の理由なのか……。

 神のみぞ知るとはまさにこのことだろう。

 

「驚かせてごめんね。私は御子神 瑠風。見ての通り呪霊……に近い存在を使役してるタイプの人間だよ。君の目に映る三人は、私の呪力により顕現してる。戦闘は基本的にこの子たちがしてくれて、私は後ろでバックアップする感じの戦い方になると思うけど、呪術高専に通うことで、自分の中にある力を使いこなせるようになりたいからここにいる。よろしくね。」

 

「ああ。俺は伏黒 恵。ざっくりとだけど、五条先生から話は聞いてる。まぁ、最初は特級呪霊級の存在と、祟り神を連れてるなんて話を聞いて、んなわけないだろとか思ったけど、マジだったんだな。」

 

 実際に見てよくわかったわ……と少しだけ引き気味に伏黒くんが呟く。

 引かないでくれと言いたかったけど、状況的に引くなと言う方が無理な布陣だったな、これ。

 祟り神、外なる神がいる場所へ通ずる銀の鍵兼外なる神の巫女、自然を生きる獣たちの怨嗟から生まれた自然神であり、破壊神であり、霊基としては10万トンの質量を有している元愛玩の獣の幼体だし。

 さらに私は、自分の力を使うことにより、このサーヴァントたちに新たな特性を付与し、一時的な強化を行うことができるみたいだから、伏黒くんが引くのも仕方ないことである。

 

「小さい時から守られてる感じがしてるから私はもう慣れてるし、何とも思わないんだけど、伏黒くんは今日初めて接触したからちょっとビックリするし、警戒もしてしまうよね。でも大丈夫。五条先生の説明の通り、敵意を向けない限りは遊びたい盛りの子ども二人と、仕事ができる敏腕秘書だから。」

 

「待て待て待て待て。情報量が多過ぎるだろ。」

 

「あはは!特級呪霊レベルの三体をそんな風に紹介するとかウケるんだけど。」

 

「ちなみに、この子は太歳星君で、こっちはアビゲイル・ウィリアムズ。私の後ろに控えてるのはコヤンスカヤだよ。フルネームはタマモ・ヴィッチ・コヤンスカヤだけど。」

 

「出身国バラバラかよ。ていうか太歳星君って……それ、中国の方の特級の祟り神だろ……。そんなの連れてるって規格外過ぎる。」

 

「否定はできないかな……」

 

「心強い味方が増えたって思えばいいと思うけどな〜。」

 

「そうかもしれないですけど、祟り神を連れた呪術師って……。それって、下手したら俺らもとばっちり食らいそうですよ。」

 

「怒らせなきゃ大丈夫って瑠風も言ってるから大丈夫大丈夫。彼女に関しては、上層部にも詳しく話してないしね。呪術師に適性を持ってる女の子を見つけたから呪術高専に通わせることにした。術式はまだわかってないから、わかり次第報告するってね。あとは、まぁ、怒らせたら寿命が縮むかもしれないから怒らせないようにねって言っといたよ。祟り神を連れてることは言わなかったよ。それ言ったらこっちが被害のとばっちり受けるかもしれないからね。上の連中って頭硬いし、似たようなことしか言わないだろうから。瑠風に敵意を向けさせないようにするために、これからも報告は真実と偽りを混ぜてはぐらかすつもりだよ。」

 

「それ、大丈夫なんですか?」

 

「まぁ、何とかなるんじゃない?」

 

「………適当だな。」

 

「……この人、そういうところあるから覚えておいた方がいいぞ。」

 

「伏黒くん辛辣……まぁ、覚えとくよ。」

 

「………二人してひどくない?」

 

 なぜか少しだけ伏黒くんと仲良くなった。もし、ストレスマッハになったりしたらいつでも愚痴りに来ていいからね。

 ストレス発散、大事。

 

 なんてことを考えていると、太歳星君が伏黒くんをジーッと見つめていることに気がつく。

 伏黒くんも太歳星君の視線に気づいたようで、少しだけ訝しげな目を彼に向け始めた。

 二人の間に微妙な空気。警戒と警戒のぶつかり合いかと首を傾げて眺めていると、太歳星君がにぱっと笑った。

 

「めぐめぐはるかるかと友達になるのかー?それならワガハイも友達になるー!」

 

「……は?」

 

 急な友達になる発言に、伏黒くんが呆気に取られたような表情を見せる。

 まぁ、祟り神から友達になるって言われたらな……。ポカンとするのも無理はない。

 にしても、ふしふし呼びかと思ってたけどめぐめぐ呼びなんだね、太歳星君……。

 脳内にちょっとエンドレスナイト流れちゃったけど、うん、忘れよう。

 

「……よかったら仲良くしてあげてよ。セイは確かに祟り神と呼ばれている存在だけど、普段は純粋無垢な男の子でね。祟り神としての力をある程度制御できるから、無闇矢鱈に誰かを祟ることもないし、いっぱい遊べるのが嬉しくて、友達をいっぱい作りたいらしいんだ。」

 

「……まぁ、呪力は感じるが、害意は感じないな。」

 

「君が私に敵意を向けていないからだよ。さっきも言ったように、この子らは私に対する敵意に反応して行動するのが基本なの。だから、敵意を向けてくる外敵に対しては容赦ないけど、敵意を向けてこない味方は傷つけない。」

 

「そうか。まぁ、気が向いたらな。祓う側からしたら、すぐに仲良くしろってのも難しい話だ。」

 

「……だってさ。」

 

「ん〜……まぁ、今はそれでいいや!いつか一緒に遊ぼうな、めぐめぐ!」

 

「僕は?」

 

「…………ごじょーはなんかヤだからパスするのだ。」

 

「え……。」

 

「………ブフッ」

 

「ちょっと恵!?何笑ってんの!?」

 

「あ、ヤベ……。」

 

「あははは!」

 

 くだらないことを考えたり、この場で起こったことに対して笑い声をあげたり、なかなか賑やかな顔合わせとなった。

 でも、伏黒くんと仲良くなれそうな気配があるのは確かだし、さっきまで抱いていたちょっとした不安もだいぶなくなった。

 命を落としたり、生死不明に追い込まれたり、術式が使えなくなってしまったり……さまざまな状況に陥る人たちをみんな助けることができるのかって不安が完全に拭えたわけじゃないけど、まぁ、とりあえず今は未来のことを想像するより、今できることをやっていくとしようか。

 最初の転機は入学して数ヶ月後に起こるであろう宿儺の器の誕生。次に、少年院に発生する特級呪霊との戦闘、および一時的な悠仁の死。

 次が順平くんとのいざこざで、その次が京都校との交流戦……そして、渋谷事変と死滅回游。

 私が一番関わりそうなのはここら辺の出来事だろう。

 禪院姉妹の悲劇に関しては、どこまで与することができるかはわからない。

 ただ、今考えないといけないのは、これらの物語が発生するまでに自分の力に対する理解を深めることといったところだろうか。

 あと、可能であれば獄門疆の回収もしておきたいところ。まぁ、回収した後はしばらく悠仁たちとは別の行動を取らなくちゃいけなくなるだろうけど。

 ……メロンパンの油断を誘うなら、五条先生は封印される道を選ぶべきかな。んで、封印されたそれをさっさと回収してダミーを設置は狙う方がいいかも。

 なんにせよ、大まかな道のりはそのままに。そんで被害は最小に。

 これを狙って動かないとね。

 最悪、アビーに門を開いてもらって、そのまま被害に遭いそうな人たちを渋谷から全部追い出さないとかな……。

 やることが多いから大変だと思いながらも、目の前にいる伏黒くんと五条先生とのちょっとしたひと時を満喫する。

 スタートダッシュを完璧に決めることができたらいいな。

 

 

 




 瑠風
 何者かにより一部記憶が曖昧になった状態にある異世界からの転移者。
 コヤンスカヤにより、自分が持つ能力の一つが、人間やサーヴァントに新たな特性が付与できるものであることに戦慄してしまった。
 これ、バレたらあかんやつ─────!!

 太歳星君
 瑠風の能力により、呪霊を狩れば狩るほど自身の力が強化できる新たな特性を手に入れた祟り神。
 この能力は戦闘時のみにしか発揮されないようだが、戦闘時になれば自動的に発動するため、呪力切れ知らずな上、あらゆる特級を凌駕する可能性が浮上した。

 闇のコヤンスカヤ
 瑠風が持っている能力がなんなのか知っている敏腕秘書なフォーリナー。
 どうやら、彼女は瑠風が持ち合わせているスキルやステータスを全て知っているようだが、自分の口から教えるつもりはない。

 アビゲイル
 瑠風が持ってる能力を一部理解しているフォーリナー。
 この話ではいい子なアビーちゃんだった。瑠風を手伝うことが好き。

 伏黒 恵
 やっと出てきた重要人物の一人。五条から瑠風が持ち合わせている能力をざっくりと聞いていた。
 自分が使う術式である十種影法術とは似ているようで違う能力を持つ瑠風に興味はある。
 祟り神の太歳星君に最初はびっくりしたが、サラッと五条に対する嫌悪を口にする姿から少し好感を抱いた。

 五条先生
 太歳星君にサラッと嫌われた最強呪術師。だが、瑠風と恵はすぐに仲良くなってくれそうな様子に少し嬉しい。
 でも、太歳星君から嫌いと言われた上、それを恵と瑠風に笑われたことはショックだった。


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瑠風のサーヴァント風ステータス

 御子神 瑠風 サーヴァント風ステータス

 

 クラス:フォーリナーorキャスター(異世界からの転移者だから前者かな?)

 属性:中立・中庸

 真名:御子神 瑠風

 時代:現代

 地域:日本

 筋力:D 耐久:D(EX)

 敏捷:C 魔力(呪力):EX

 幸運:C+(EX) 宝具(領域展開):B

 

 保有スキル

 ⬛︎⬛︎特権 EX

 備考:ネロ・クラウディウスが持つ皇帝特権と同種のスキル。しかし、瑠風は皇帝ではないため、皇帝特権というスキル名ではなく⬛︎⬛︎特権というスキル名になっている。

 自分自身や自分以外に新たな特性やスキルを与えることができるスキルで、これにより太歳星君に戦闘時永続呪力吸収状態と戦闘時永続強化状態が付与されており、戦闘中、呪霊を狩れば狩るほど強大な力を発揮することを可能にさせている。

 

 ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎の加護・暴 EX

 瑠風に付与されている何者かの加護。この加護は瑠風に向けられる敵意に反応してカウンター発動する力であり、回避不能の呪詛返しの加護と化している。本来ならば瑠風の意思により操作可能なのだが、曖昧な記憶スキルの影響であらゆる敵意や些細な衝突だけでも発動する暴走状態になっている。

 

 ⬛︎⬛︎の祝福・抑 EX

 瑠風に付与されている何者かの祝福。この祝福は、瑠風の基本的なステータスに作用するスキルなのだが、曖昧な記憶スキルの影響で、本来のステータスを抑制する原因となっており、呪力以外全てが一般人と変わらない状態にある。

 

 ⬛︎⬛︎ノ寵愛 B-(EX)

 瑠風に与えられている何者かからの寵愛という名の貢物。瑠風の力を最大限発揮するための特殊スキルなのだが、彼女が誰から寵愛を与えられているのか覚えていないため、本来の力が発揮できておらず、祝福や加護の抑制、暴走に繋がっている節がある。

 

 曖昧な記憶 A

 瑠風に付与されているデメリットスキル。このスキルの影響により加護、祝福、寵愛スキルが阻害されており、能力が本来の力とは違う方向に発動してしまう原因となっている。

 これを消すには、曖昧な記憶を完全に思い出さなくてはならないのだが、A相当のスキルとなっているため、簡単には解除することができない。

 

 

 クラススキル

 領域外の生命 B

 異世界から転移してきた影響により会得していたスキル。外側の生命体の影響によるものとは違い、漫画やアニメの世界だった場所に、三次元からやってきたという状況がスキル発現の原因となったと思われる。

 あり方は闇のコヤンスカヤやアビゲイルとは違うらしい。

 

 サーヴァント使役 C(B+)

 サーヴァントを召喚することができるスキル。本来ならば、特定の属性、または呪いや恐怖に付随して生まれた存在全てを召喚することができるのだが、それらは全て加護と祝福に支えられることにより可能にする能力であるため、曖昧な記憶の影響により、本来の力を発揮することができなくなっているため、ランクがかなり落ちており、現在側にいる三騎のサーヴァント以外は顕現させることができなくなっている。

 

 

 宝具

 領域展開・⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎

 種別:対軍宝具

 レンジ:3〜30

 最大補足:100

 あるサーヴァントが保有している宝具を、呪術廻戦の世界に転移した日に⬛︎⬛︎特権を無意識のうちに使用して自身の領域展開へと変化させた能力。

 コヤンスカヤ曰く、これを使用することにより味方側の強化等を可能にし、援護することができるようになるのだが、本来人の身で使役していいものではないため、使用後は必ず意識を失ってしまう。

 使用できる時間も短時間で、1時間持つかわからない能力となっているので、味方全体に強化を施して短期決戦に持ち込むことが主な使用用途となる。

 強化以外にも、いくつか作用する特殊バフをかけることができるらしいが、それがどのような能力なのか、コヤンスカヤは語ろうとしない。

 知りたければ聞くのではなく、自ら使用することをお勧めいたしますとは彼女談。(もっとも、曖昧な記憶の影響がある限り、使用するのは難しいようだが……)

 この情報は、何者かの力により秘匿されています。

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 この情報は、何者かの力により………



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12.はじめまして、先輩方

 呪術高専にある寮へと引っ越してしばらくした頃。

 私は伏黒くん……改め、恵くんと結構仲良くなっていた。

 まぁ、仲良くなったきっかけは五条先生の無茶振りに振り回されたことに対する愚痴を私が聞いたからなんだけどね。

 何日が前に、恵くんがあまりにも疲労困憊でストレスマッハ状態だったもんだから、何があったって聞いてみたんだよ。

 そしたら出てくる出てくる五条先生に対する愚痴。

 その日も突発的に無茶振りをされて、それをこなして帰ってきたところだったらしい。

 お疲れ様としか言えなかったよね。でも、何もしないわけにもいかないし、かと言って五条先生に何かできるわけでもないしってことで、とりあえずココアと焼いたクッキーをあげた。

 なんでクッキー焼いたのかって?H☆I☆M☆A!!だからだよ。

 一般ピーポーだった分、私は呪術師のこととか(原作知識があるとは言え)詳しく理解できているわけじゃないし、自身が持ち合わせている能力を上手く使いこなすことができていない状態だから、現場に行くのは許可されてないんだよね。

 少しでも敵意が触れたら大爆発する兵器のようなものだから、周りに被害が出る可能性が否めないらしいし。

 だから、五条先生も呪術に関しての知識を得るまでは、もうちょっとゆっくりしててと言ってきたのである。

 一応、ちらほらと五条先生に教えてもらったりしはいるけど、いまいちわかっておりません。

 

 ……で、まぁ、しばらくは学んだら寮に戻って、五条先生や恵くんが教えてくれたことをノートにまとめて復習したりとかその繰り返ししかできないんだよね。

 だから時間に軽く余裕ができるから、暇潰しにお菓子を作ってみたり。

 そんな中起こったのがこの出来事でね。とりあえず話だけは聞くよってクッキーとココアを用意して、愚痴を吐き出すための場を設けたわけで。

 そしたらそれが効果抜群だったのか、頻繁に恵くんがこっちの部屋にやってくるようになった。

 決まって顔色は悪く、ストレスマッハの状態異常で。

 

 出てくるのもちろん五条先生に対する愚痴。それでスッキリしたら世間話と言った感じだ。

 ……原作開始したら、ますます恵くんストレス漬けになりそうな気がするんだけど気のせいかな……?

 

 ああ、恵くん呼びに関しては、なんか自然とそうなっていた。あまりにも頻繁にお茶会と言う名の愚痴吐き出し大会が開催されるもんだから、思わず伏黒くんじゃなくて恵くんって呼んじゃったんだよね。

 それで、あっと、ヤベ、と思って謝罪したら別に下の名前で呼んでもいいってさ。

 で、流れで伏黒くん、御子神って呼び方が、恵くん、瑠風に変わった。

 ちなみに、太歳星君やアビーは私と仲のいい恵くんを見て、完全に友達認定をしていたりする。

 コヤンスカヤはあまり呪術師に興味がないのか、あまりアクションを起こしたりしないけど、影から姿を現す式神が獣型だからかそれなりに気に入っている様子がある。

 やっぱり獣が大好きなんだね……。

 

 ……と、まぁ、そんな感じに、恵くんとは友人関係になっている。お茶飲み仲間とも言えるけどね。

 基礎的な知識は教えてくれるから結構助かってるし、別に嫌と言うわけではないのだけど。

 

今日は甘さ控えめのビターチョコレートクッキーと、恵くんが好んで飲んでいるコーヒーって感じのお茶会メニュー。

 何回かお茶会を繰り返しているうちに、少しずつ恵くんの好みがわかってきたので、それを組み合わせて彼に出していた。

 恵くんは次々と私が好みを把握していくもんだから結構びっくりしていたけど、今は特にきにしていないのか、こっちにお礼を言ってはもぐもぐ食べ始めていたり。

 うん、気に入ってくれてよかった。

 

「へぇ、本当に女子の部屋に入り浸ってんだな、恵。」

 

「意外だなぁ。とうとう恵もそんな年かぁ。」

 

「こんぶ。」

 

 そんなことを思いながら、今日も恵くんの愚痴を聞いていると、アニメで聞いていた新たなキャラクターの声が聞こえてきた。

 驚いて声がした方へと目を向けてみると、そこには禪院真希さんとパンダと狗巻棘先輩の姿があって……いやいやいやいやほぎゃあぁあぁあぁあぁああ!?

 

「うお!?って禪院先輩!なんでここに!?」

 

「苗字で呼ぶなって何回も言ってるだろ。」

 

 まさかの登場人物に内心で思わず荒ぶる。このタイミングで真希さんたちに会うとは思わなかったんですが!?

 って言うか目の前で繰り広げられてる親戚同士の会話、原作でもあったよねぇ!?

 

「つか、この部屋呪霊が三体いるじゃねーか。どうなってんだ。」

 

「なんか二体ほどそんじょそこらの特級とは比べ物にならないのいるしね。」

 

「しゃけ。」

 

「あっちの子どもも、一見なんの変哲もない子どもに見えるが、とんでもねー呪力があるし……なんだこの部屋?」

 

「……えっと……私が率いてる呪霊……のようなものです?」

 

「まぁ……パンダが喋っていらっしゃいますねぇ。これは……なんでしょう?獣のようで獣じゃない……ですが、パンダという見た目は非常に気に入りました。」

 

「え、俺?」

 

「コヤンスカヤ、ステイ。お気に召すのは構わないけど、ちょっかいは出さないでよ。」

 

「んもう……わかっておりますわ、マスター。少しだけ残念ではありますが、眷属にするのはやめておきます。」

 

「……今眷属って言ってた?あの姉ちゃん。」

 

「言ってたな。」

 

「しゃけ。」

 

 めちゃくちゃ興奮していたけど、コヤンスカヤの一言で冷静さを取り戻す。

 わかってるとか言ってるけど、私が止めなかったら容赦なく眷属化していたよね?

 勘弁してくれ。呪術キャラに危害なんか加えたくないぞ。

 メロンパンとメロンパン率いる特級連合は別だけど。むしろコロコロしてやりたいけど。

 あ〜……でも脹相は微妙なところだな……。敵に回れば仕留めて、悠仁の味方をしている間は手を出さない方がいいかな?

 うん、このほうが良さそうだな。

 

「で、恵。こいつ、新入生だろ?」

 

「はい。御子神瑠風って言って、何日か前からここで過ごしてます。」

 

「恵くんの反応からして、呪術高専の先輩方ですよね?はじめまして。御子神瑠風と言います。私の右側にいるこの子は太歳星君で、左側にいるのがアビゲイル。ベッドに座っているのはコヤンスカヤで、全部私が連れ歩いている呪霊に近い存在です。」

 

「「太歳星君とか言うヤバイやつを連れて歩くな。」」

 

「おかか……」

 

 とりあえず自己紹介と、連れているサーヴァントの紹介をすれば、即時に太歳星君に対するツッコミが飛んできた。

 まぁ、そうだよね。祟り神だもんね。そりゃそんな反応にもなるわ。

 でも、この太歳星君は悪い子じゃないんだけどなぁ……。

 

「大丈夫ですよ。私に敵意が向かないのであれば、この子は基本的に遊びたい盛りの無垢な子どもです。確かに、ずっと土の中に埋まってて、掘り起こされたら掘り起こした者を祟って、また埋め戻されるの繰り返しだった子ですが、力のコントロールが可能なので、無闇矢鱈に誰かを祟ることはありません。私に敵意を向けられたら話は別ですが。」

 

 そんなことを思いながら、太歳星君は確かに祟り神だけど、自分に敵意が向かない限りは祟ることはないから大丈夫だと真希さんたちに話す。

 少しだけ寂しそうで……とても悲しそうな表情をしている太歳星君を優しく抱きしめて、優しく頭を撫でながら。

 私の言葉を聞いた太歳星君は、一瞬だけ驚いたような表情をしたが、すぐにいつもの無邪気な笑顔を浮かべ、ぎゅっと私を抱きしめ返す。

 ……アビーが太歳星君に対してジトーっとした目を向けていたから、とりあえず反対の手で頭を引き寄せ、軽く頭を撫でつけた。

 それが嬉しかったのか、アビーの機嫌は治ったご様子。にっこにこの可愛らしい笑顔を見せてくれたよ。

 

「……まぁ、その姿を見たら納得できるけどな。」

 

「だな。呪力はかなりヤバイけど、害意は感じないし。」

 

「しゃけ。」

 

 すりすりと私に擦り寄りながら、へにゃんとした柔らかな笑みを浮かべる太歳星君を見ながら、真希さんたちが言葉を紡ぐ。

 多分、一年前の真希さんたち……さらに言うと、乙骨先輩という非呪者でありながらも、助けてくれた優しい人がいたから、多少なりとも反応が丸くなってくれたの……かな?

 まぁ、なんにせよ、すぐに受け入れてくれそうで安心したよ。

 

「私は禪院真希。あんま苗字で呼ばれんのは好きじゃねーから、真希って呼んでくれ。」

 

「パンダだ。よろしくな。こっちは狗巻棘って言って、呪言師って呼ばれる言葉に呪いがのせられる術式持ちだからおにぎりの具材しか話すことがない。まぁ、それなりに過ごしてりゃなんとなく言いたいことがわかってくると思うぞ。」

 

「高菜。」

 

「もう一人二年がいるんだが、今日はそいつ任務に就いてるから会えるかどうかわかんねーけど、黒制服じゃなく白制服を着てるやつだから、見かけた時にでも挨拶すりゃいい。一応、私たちからもあいつには言っとくけどな。」

 

「ありがとうございます。あ、よかったらクッキーどうぞ。甘さ控えめになってますけど、まぁ、お近づきの印にでも。」

 

「ありがとな、瑠風。」

 

「甘さ控えめ……ってことはまさか……?」

 

「ツナマヨ。」

 

「待ってください。なんですかその目。もしかしなくとも誤解してませんか?瑠風とは別に変な関係じゃ……」

 

「え!?下の名前で呼び合ってる!?」

 

「ニヤニヤしないでください!!」

 

 ……なんだろう。0巻の乙骨先輩と真希先輩に下世話なお節介を披露していたパンダが目の前にいる。

 そしてなぜか巻き込まれた。いや、まぁ、誤解してもおかしくない状況かもしれないけどさ。

 私なんかよりも恵くんにお似合いな女性はきっといると思うんだけど。

 ていうか、こんなイケメン生徒の恋人とか絶対私には務まんないから。

 

「パンダ先輩。恵くんの言う通りですよ。彼はただのお茶飲み仲間であり同級生です。どこぞのGLGのせいでストレスマッハによくなってるから、愚痴を聞くついでにクッキーを用意したんですよ。甘さが控えめなのは、恵くんが初めて愚痴りにきた時、少しだけ表情を顰めていらっしゃったので、もしかして甘すぎるのはちょっと苦手なのかな?って思って、調節した結果です。ストレス発散のためのお茶会のはずなのに、それでストレスがかかるのは元も子もありませんし、なにより、せっかく誰かに食べてもらうのなら、美味しいと思ってもらえるものを作るのが道理ですよ?」

 

「おっふ……」

 

「ったく……瑠風。この畜生の話は真に受けなくていいからな。私も前やられてイラっとしたけど、まともに受けごたえするだけ時間の無駄だ。」

 

「おかか。」

 

「………。」

 

「……?どしたの恵?」

 

「………いや。」

 

「お?」

 

「っ〜〜〜!なんでもないです!!」

 

 何やら妙な反応を恵くんがしているようだけど、これはツッコんでもいいのだろうか?

 いや、やめておこうかな。逆にストレスになりそうだし。

 

「ん。このクッキーうめぇな。」

 

「しゃけ、しゃけ!」

 

「え、俺も食べる!」

 

「……パンダなのに食べれるんですか?」

 

「瑠風。パンダ先輩はただのパンダじゃないから問題なく食えるぞ。」

 

「あ、そうなんだ。」

 

「お、本当だ。めっちゃ美味い。」

 

「それはよかった。」

 

 私が作ったクッキーは、どうやら皆さんに好評だったらしい。元々お菓子作りとか好きだったから嬉しいことである。

 まぁ、お菓子にスキル全振りしすぎたのか料理は簡単なやつしか作れないのだが……。

 

「セイ。アビー。コヤンスカヤ。みんなも食べていいからね?」

 

「わはー!やったのだー!」

 

「ありがとう、マスター!」

 

「では、(わたくし)もいくつかいただきますわ。マスターが作るお菓子は絶品ですので。こればかりは(わたくし)も偽りなしの感想を言えます。料理は可もなく不可もなく……と言った平凡な味にしかなりませんが。」

 

「……うるさいな。仕方ないだろ。お菓子作りとは全然違うんだから。」

 

「ところでマスター?お菓子を売る仕事にご興味は……?」

 

「いや、お金取れるレベルじゃないから。」

 

「そんなことはありませんのに……。」

 

 絶対に売れると思うのですけど……とか言ってるコヤンスカヤを無視して、私は一つの袋を棚から取り出す。

 袋の中に入っているのはクッキーで、目の前にある甘さ控えめのクッキーとは違い、普通に甘いクッキーだ。

 ミルクチョコのチップ入りクッキーにナッツ入りのクッキー。そして、ジャムを乗せたクッキーに、アイシングクッキー。

 それぞれ数は二枚ずつ。合計六枚の手作りクッキーだ。

 

「瑠風。どうすんだそれ?」

 

「見てればわかりますよ。」

 

「「「?」」」

 

 私の手元にあるクッキー入りの袋を見て、真希さんが疑問の声を上げる。

 狗巻先輩とパンダ先輩も不思議そうに首を傾げる中、恵くんだけは私がクッキー入りの袋を取り出した理由を知っているため、見たらわかると一言告げる。

 同時に聞こえてくるのは廊下を走るような地響き。これを取り出した原因となる人がこの部屋に真っ直ぐやって来る。

 

「ちょっとちょっとちょっと!!僕だけ除け者にしてティーパーティーってひどくない!?僕も仕事頑張ってるんだけど!?甘いものちょうだい!!」

 

「ほい、甘いものです。」

 

「いで!?ちょ、くれるのは嬉しいけど投げないでよ瑠風!!ていうかたまに瑠風の攻撃が僕に当たるのなんで!?」

 

「自分が持ってる能力を軽く利用してるだけですが。」

 

「ええ……?僕の天敵になる能力なんだけど……。」

 

「最近見つけました。面白いですよ、先生の術式を貫通させるの。」

 

「楽しまないで?」

 

 地響きが止まると同時に私の部屋のドアが勢いよく開く。それに合わせて一時的な防御強化状態解除を自身が持つ力を使って付与した私は、ドアを開けた張本人、五条先生の顔面目掛けてクッキー入りの袋を投げつけた。

 いやぁ、なんとなく無下限による無敵って貫通できるのかなって試してみたらあっさり五条先生の術式を貫通するもんだから面白い。

 解除不能なバフでなければ対粛正防御すらも無視することができるタニキの強化後コインヘンを元に使えるようにしてみて正解だった。

 五条先生の術式って、身の危険を感じないものであれば意外と剥ぎ取れるんだよね。

 だから、自身の中にある新たな特性を付与する力を利用して、一時的にそれを剥ぎ取る力を自身に使い、その状態でクッキーの袋を投げつける。

 すると、クッキー入りの袋にも同じ効果が一時的に付与されるから、顔面キャッチを強いることができる。

 まぁ、投げる際の動きを悟られたら無下限を意識的に使用されちゃうから防がれるけど、動きが見えなければ綺麗に決まるものだ。

 

「ぶっあははははは!!」

 

「マジか。悟がクッキー顔面キャッチな上にダメージ受けてるぞ。」

 

「おかか。」

 

「ふ………っ………ね?見ていたらわかったでしょう?」

 

「ちょっと真希と恵!!笑わないでくれない!?あーあ!!先生傷つきました!!ってことで瑠風!!責任とって僕にシュークリームを献上しなさい!!もちろん手作りで!!」

 

「残念ながら、本日の瑠風ちゃんパティスリーは閉店致しましたので、またのご来店をお待ちしております。」

 

「はぁ!?それはないでしょ!?無理矢理シャッターこじ開けちゃうよ!?」

 

「きゃーおまわりさーん。こっちにお店のシャッターを無理矢理こじ開けようとするGLGがいまーす。」

 

「ちょ、ま、るか……るか……!!これ以上笑わせんな……腹が捩れる……!!」

 

「っ〜〜〜〜………!!」

 

「既に笑い死んでるの一名いるな。」

 

「しゃけ。」

 

 恵くんとお茶会をするようになってから、こっちが作るお菓子の匂いを嗅ぎつけてやって来る五条先生が現れるようになって、それからしょっちゅうやるようになったやり取り。

 未だに見慣れてない恵くんや、うずくまりながら肩を震わせる真希先輩が笑い死にしそうになってるのを横目に行ったそれに対して、冷静な様子を見せるパンダ先輩と狗巻先輩の二人。

 それを見た私は小さく笑いながら、机の上にあるカフェオレを口にする。

 いい加減泣きそうになってるような、キレそうになってるような五条先生に、明日はシュークリーム作るので、今日はそれで我慢してくださいと告げることで宥めるのだった。

 

 ……生徒に宥められてクッキーポリポリ食べ始めた五条先生は、情けなくもちょっと可愛らしかった。

 

 

 

 




 ちょっとした予告なのですが、瑠風が自分の持ち合わせている能力と、自身にくっついてる存在のうちの一人に気づき、領域展開を開けるようになった時、太歳星君以外のメイン鯖二騎を入れ替えた上、自身の能力の一端を認識し、使えるようになった状態で始まるIFストーリー、さしす組の同級生となったバージョンを連載に追加することをお伝えします。
 IFストーリーの瑠風は少々やることが大規模で、なおかつ戦力過多になる上、若干悪属性入ってない?と言った雰囲気になります。
 ルートとしては、夏油さんnot離反ルートで、ひたすらさしす組とわちゃわちゃ+太歳星君、及び入れ替え加入したサーヴァント、そして五条や夏油に愛される話になる予定です。
 本編のこっちに比べたら恋愛色が濃いめな上、キャラ崩壊にますます拍車がかかるので、公開した際の閲覧にはご注意ください。
 最終的に誰と結ばれるルートにするから決めていないので、もしかしたら公開時にアンケートを実施するかもしれません。
 公開までに決まればいいのですが……。


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13.瑠風の武器

 真希さんたちとも仲良くなり、数週間が経ったころ。私は、自身の戦闘に必要なものは何かと考えていた。

 自身が持ち合わせている何かしらの力。それを解放するにはまだ少しだけ時間がかかりそうだった。

 でも、このままじゃ呪術師として動くことができないから、お荷物コースが確定である。

 呪術を扱えるようになるのはもちろん必要なことだけど、出来ることなら多少なりとも戦闘ができるようになっておきたい。

 

「コヤンスカヤ。」

 

「こちらに。どうかなさいましたか、マスター?」

 

 夕方の赤に染まりゆく空。それを確認するなりカーテンを閉めて、部屋の明かりを点ける。

 そして、頭を働かせるためにと甘めのココアを用意して、飲みながら頼り甲斐のあるアドバイザーへと声をかける。

 まぁ、まともな返答が返ってこない可能性も否めないけどさ。それでも、ダメ元で質問をするくらいは問題ないと思うんだ。

 

「……私が持ってるあらゆる力を付与する力のことなんだけどさ。これを使ってどれだけの自己拡張ができるかとかわからないかな?」

 

「自己拡張……にございますか……。そうですねぇ……一人に永続的な拡張を施すのであれば、一、二個くらいが限界かと思われます。一時的な拡張……いわゆる、一時的なバフの付与等ならば無限大に可能ですがね。」

 

「へぇ……これには答えてくれるんだ。早めに聞いておけばよかったな。……それってさ、私が何かしらの武器を持つことも可能だったりする?呪いに関連した武器とか。」

 

「呪いに関連した武器ですか?」

 

「そ。こっちの世界で言う、呪具に分類する武器だね。使いたい武器が一つあるんだけど……。」

 

「……ふむ……まぁ、可能だとは思いますよ。ですが、それってかなり負担がかかる武器を扱うつもりでは?もしそうだとしたら、あまりおすすめは致しませんが。」

 

「……負担がどれだけになるのかはわからないけど、扱えるようになったらそれなりに使えるんじゃないかなって思ってる。呪力を乗せることで火力も上げることができるだろうし。」

 

「……なんとなく、呪いがこもった武器という言葉で察してはいますが、念のためにお見せいただけます?どのような武器をご所望なのかを。イメージはございますのでしょう?」

 

「わかった。」

 

 コヤンスカヤの言葉に頷き、私は手元にあるものを出現させる。

 それは、ゲイ・ボルク。見た目は赤の槍だけど、心臓を穿ったと言う事実を発生させることにより発動させることができる呪いの朱槍。

 呪霊には心臓がないからランサーのような即死を発動することはできないだろうけど、ゲイ・ボルクの回復阻害を発動させ、動きを鈍らせることができるならば、呪霊を始末するために活躍できるのではないかと思ってる。

 まぁ、一時的な能力の付与を利用すれば、タニキが使う【抉り穿つ鏖殺の槍】レベルを放つこともできるけど、こっちの限界まで力を上乗せして投擲することになるだろうから、一発使用するのが限界だろう。

 多分、ぶっ倒れるだろうし。

 

「やはり、アルスターの光の御子であるクー・フーリンのゲイ・ボルクでしたか。」

 

「うん。本来の効能を全のせしたら間違いなく倒れるから、使う場は限られるけどね。特に【抉り穿つ鏖殺の槍】はぶっ倒れるだけじゃなく、身体にも何かしらの異常が出るだろうから、使う場所は考えないといけないと思う。効能的に呪霊を鏖殺できるのはこっちだから、できれば何回も使いたかったけど。で、こっからが本題なんだけど、【刺し穿つ死棘の槍】の方なら、メインウェポンとして使い勝手がいいと思わない?かのアルスターの英雄のように、心臓を穿ったという因果を作って放ち、即死させるような芸当は呪霊に通用しないだろうけど、回復阻害の呪いならかけることができるんじゃないかな。」

 

「まぁ、呪霊は呪いの塊ですので、まず心臓がなくても動きますからね。心臓を穿ったという因果を作っても致命傷にはなりませんし、意味がありません。ですが、回復阻害ですか…。それくらいならば、呪力を消費したからちょっと疲れたな…程度の負担で使用できそうですね。呪霊の回復が阻害できればその分勝率も上がりますし、特級と呼ばれる階級の呪霊などの回復も阻害できれば、祓う時の負担がかなり軽くなるでしょう。」

 

「でしょ?だからゲイ・ボルクの力を借りることができないかなって思ってさ。」

 

 どう思う?とコヤンスカヤに問いかければ、彼女は小さく頷く。それは、紛れもない賛同の意味を込めたものだった。

 同意してくれたことによかったと呟く。そして、私は自身にゲイ・ボルクを使えるという特性を付与した。

 状況に応じて【刺し穿つ死棘の槍】、【突き穿つ死翔の槍】、【抉り穿つ鏖殺の槍】の三種類を変則的に使えるように。

 【抉り穿つ鏖殺の槍】を使用した場合は残ってる呪力に応じて、動けなくなるように条件を設けて。

 

「オルタニキさんが使う【抉り穿つ鏖殺の槍】を使用した場合は呪力の残量に応じて動けなくなる……ですか。」

 

「うん。すっからかんになったら、この世界で使われている反転術式をかけてもらっても一ヶ月は動けなくなると思う。呪力の消費量は一応コントロールできるから、どれだけの範囲に【抉り穿つ鏖殺の槍】を放つか決めて使用すれば、数日で動けるようになるけどね。でも、やっぱり撃てるのは一戦闘に一発のみが限界かな。【刺し穿つ死棘の槍】は連発できるけど。」

 

「当たり前でしょうに。マスターが使用するそれは、本来、その宝具を持つ者が使用するからこそノーリスクで放てるというもの。人の身であるあなたが使用していいものではないのですから。バックアップを利用して、“使用できるのは戦闘時に一回だけ”。“使用したら動けなくなる”と言う縛りを設けなくては使えるはずがありません。ああ、“呪力の残量によって動けなくなる期間が長くなる”という縛りも使うのでしたね。これらは妥当の縛りでしょう。まぁ、どちらにせよ使用したら動けなくなるだけで終わるのは奇跡に等しいです。【刺し穿つ死棘の槍】も、本来なら動けなくなってもおかしいのですから、なおさらに。」

 

「でも、賛同はしてくれるんだね。」

 

「ええ。(わたくし)たちがマスターを不測の事態に追い込むことはまずないと言い切れますが、万が一と呼ばれる事態は神の身であってもいつ起こるかわからないと言うもの。低確率であっても可能性がわずかにでもあるとすれば、マスター御自身にも身を守る術を一つくらい所有していただければ、安全性が上がりますので。ですが、よほどのことがない限り、使用は控えていただけますね?」

 

「……わかってるよ。無茶して倒れたら意味がないからね。そう言えば、なんとなく私はこれ以上何かしらの能力拡張ができない気がするんだけど、間違いない?」

 

「はい。その通りでございます。マスターはこの地に生まれ落ちた際、自身が持ち合わせている能力を付与する特性を使用し、永続的に使える能力を一つ獲得して生まれ落ちておりますので、今回の能力拡張により、永続能力枠は埋まってます。こちらの方は……まぁ、いわば、領域展開のようなものですので、使う場所は限られておりますね。ついでに、この能力と、此度付与した能力は併用することも可能です。しかし、併用した場合は間違いなく呪力が素寒貧になると思われますので、使用することはおすすめできませんね。」

 

「……なるほど。教えてくれてありがとう。」

 

 少しずつなら情報を開示してくれるんだと思いながらも、コヤンスカヤに感謝を述べる。

 彼女はどういたしましてと一言口にしたのち、他にご質問は?と聞いてきた。

 ないことを示すように首を左右に振れば、そうですかという短い言葉だけが返ってくる。

 

「るかるかも戦うのかー?」

 

 さて、使う武器も決めたし、次は槍の使い方を学ばないといけないな……と考えながら、呪力により顕現させたゲイ・ボルクをくるくる回していると、太歳星君が話しかけてきた。

 視線を太歳星君に向けてみれば、どことなく心配そうな表情を浮かべている。

 小さく笑いながら小さな頭を優しく撫でて肯定すれば、心配そうな視線はさらに強くなった。

 

「マスターは私たちが守るから、マスターは戦わなくても大丈夫なのに……。」

 

「そんなわけにはいかないでしょ。二人が心配してくれているのはよくわかるけど、呪術師の世界で生きるためにも、戦う術を一つくらい持っておかなきゃ。だから、私はこの槍を借りるんだよ。この世界で生きている間だけね。」

 

「でもでも、るかるかに傷ついてほしくないのだ。」

 

「ありがとう。でも、こればかりは譲れない。」

 

 何を言われても、ゲイ・ボルクを使用する意思は変わらないことを告げれば、太歳星君とアビーが拗ねたような表情をする。

 そして、ベッドに座る私の体をぎゅうぎゅう抱きしめてきた。ちょっとアビーの力が痛い気がするけど、決めた以上はやめるつもりないからね?

 

「あまり使わせないためにも、我々は気を抜くことなくマスターの代わりに戦闘をこなせばいいだけの話です。あくまで呪いの朱槍はいざという時の最後の砦。まずは、マスターに敵を近づけさせないことを最優先にして行動を取ればよろしいかと。」

 

 手にしていたゲイ・ボルクを消し、ぐりぐりと抗議するように頭を押し付けてくる太歳星君とアビーの二人の頭を撫でていると、コヤンスカヤがあくまでゲイ・ボルクは不測の事態が起こった際の最後の砦であり、基本的には自分たちが呪霊を一掃すればいいと口にする。

 それによりようやく納得いったのか、太歳星君とアビーは渋々私に抗議するのをやめた。

 コヤンスカヤにありがとうと告げれば、お気になさらずという言葉とともに、いざと言う時以外は絶対にゲイ・ボルクを使うなと念を押す言葉を残す。

 苦笑いをしながらその言葉に頷けば、満足げな笑みを彼女は浮かべた。

 

「……とりあえず、明日から真希さんに呪具を使い方を教えてもらおうかな。あとは、槍術をネットで調べたり、タニキやクーニキの戦闘時の動きを思い出したりといろいろしないとね。」

 

 翌日からやることを脳裏に浮かべながら、ベッドの上に置いていたスマホを手に取る。

 この世界にFate関連のものがないため技術をものにするまで時間がかかりそうだけど、少しずつやれることをこなしていこうか。

 ……タニキが召喚できたらいいんだけど、多分無理だよな。

 はーしょんぼり………。

 

 

 

 




 瑠風
 自身が持つ新たな力を追加して拡張する能力を利用して、呪いにまつわる武器の一つであるクー・フーリンの武器、ゲイ・ボルクを使用できる状態を自らに付与した異世界からの訪問者。
 【刺し穿つ死棘の槍】は低コストで呪霊に回復阻害の呪いを付与するメインウェポンとして使い、【突き穿つ死翔の槍】は呪力の消費量を上げることにより複数の呪霊に同時に回復阻害とダメージを与えるサブウェポンとして使う。
 最終手段として大量の呪力の消費と引き換えに【抉り穿つ鏖殺の槍】を戦闘時に一回だけという縛りと、使用後は自身の中にある呪力の残量に応じて3週間から一ヶ月は動けなくなるという縛りを施すことにより使用できるようにした。
 コヤンスカヤは、最終手段を使用した場合、特級は瀕死、一級以下は消滅に追い込むことができる凶悪な威力になると予測しているが、同時に瑠風に返ってくる負担もかなりのものになるという見解を抱いている。
 なお、人に使用した場合は本来のゲイ・ボルクと全く同じ効能になるらしく、間違いなく食らった相手は死ぬらしい。

 太歳星君&アビゲイル
 瑠風がゲイ・ボルクを使用してでも戦闘を行おうとする姿に大反対。
 そのため、それを使用するような状況にならないように、絶対瑠風を守り抜くと決意した。

 闇のコヤンスカヤ
 瑠風の能力を全て理解している敏腕秘書。ゲイ・ボルクの使用を可能にしようとした瑠風の意見に賛成の意を示したが、あくまで万が一が起こった際の最終砦の扱いとして使用することに対する賛成の意である。
 彼女自身は太歳星君やアビゲイル同様、そのような事態を起こさないように注力を尽くすつもりである。


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14.瑠風のお仕事見学 出発編

 ちょっとした報告ですが、IFストーリーである高専ごじょーたちの同級生になったパターンの話の連載をちょっと前倒ししようかと思います。
 脳内にプロットできちゃってるから、さっさと書き記したい衝動に駆られまして。
 こちらの本編で能力が開示されていないので、そこら辺は伏せますが、サーヴァントが太歳星君以外入れ替わります。ついでにサーヴァント数が増えます。
 お見かけになられましたら、覗いてみてください。


 真希さんに武器を使った戦い方を教えてもらいながら過ごし、呪術高専で過ごすようになって一ヶ月を回る頃。

 筋力の少なさを呪力を利用することによりカバーしながら、いつものように槍を振っていたら、瑠風、と五条先生から名前を呼ばれた。

 

「どうしました、五条先生?言っときますけど、お菓子はありませんからね。」

 

「え、僕、毎回お菓子を集りにくる人って思われてる?」

 

「思われてるだろ。」

 

「思われてるだろうなぁ。」

 

「しゃけ。」

 

「思われてるでしょうね。実際、五条先生が瑠風に話しかけてる時、当たり前のようにお菓子ちょうだいって言ってるし。」

 

「否定はできないけど今日はそんなんじゃないって!お菓子はほしいけど!」

 

「「やっぱりか。」」

 

「おかか。」

 

「やっぱり菓子目当てじゃないですか。」

 

「瑠風が作るお菓子が美味しすぎるのが悪いと思うんだけど……じゃなくて、本当に今日はそれが目的じゃないから。あ、今度シュークリーム作ってくれない?」

 

「……………。」

 

 サラッとお菓子のリクエストをしてくる五条先生に対して思わず無言になる。

 本来の目的ついでにリクエストをしてくるんじゃない。本当に甘いもの好きだなこの人。

 いずれ糖尿になるのでは?まぁ、それはそれとして……

 

「……ま、茶番はここまでにして。」

 

「うん、茶番ってちょっとひどくない?」

 

「なんの用ですか?見ての通り訓練中なんですけど。」

 

 手にしていた竹槍をくるくると回しながら、話しかけて来た本来の理由……いわゆる本題を話すように促す。

 基礎的な動きは完全にマスターできたから、現在応用を教えてもらってる途中で、せっかく楽しく訓練していたのに邪魔されてちょっとだけおこだぞ。

 

「うん、そろそろ瑠風も現場に出ていいかなって思ってさ。今日、恵の任務について行ってもらって、見学&実戦ってことにしようって考えたんだよね。僕もついて行くから、安全面は保障するよ。」

 

「実戦……ですか……。できるかな………。」

 

「瑠風なら大丈夫だと思うよ?だってほら、ここにくる前も、一級相当の呪霊を祓ってたでしょ?そこの祟り神様がね。でも、それじゃあ実戦にはならないから、二級相当は太歳星君やコヤンスカヤ、アビゲイル、あとは二級の呪術師である恵にやってもらって、四級から三級相当の呪霊を相手取る時は瑠風も戦闘に加わるって感じにしようかなって。今の瑠風なら、十分四級や三級を倒せるだろうしね。ただ、二級辺りになると、今の瑠風じゃちょっと厳しいだろうから、突っ込んだらダメだけどね。」

 

「……………なるほど……?」

 

 五条先生が私に話しかけた本当の理由は、そろそろ実戦に出てみようと言うものだった。

 現在の私なら、三級までなら普通に祓うことができるから、とりあえずの訓練と言うことだろう。

 五条先生も、一応様子見として付いてくるみたいだし、少しだけレベルアップするためのチャンス……なんだろうか。

 

「マスター。」

 

 頷くべきか否かと考えていると、コヤンスカヤが耳元へ口を寄せて話しかけて来た。

 なんだなんだと目を向ける。すると、コヤンスカヤは少しばかりお耳を拝借いたしますと告げ、再び耳元に口を寄せて来る。

 

「マスターが獲得した能力の使い方や、槍を使った戦い方に関してですが、マスターが持ち合わせている大元の力を利用すれば、自然と脳内にインプットされます。最初のうちはオートで動く感じになると思いますが、身体能力や体力が追いついて来れば、かのアルスターの光の御子と同じ動きができるようになるかと。まぁ、いわゆるチュートリアルというやつですね。なので、一旦は戦闘に出ても問題はないかと思われます。しかし、後日筋肉痛になる可能性はかなり高いので、記憶の片隅には入れておくとよろしいかと。」

 

「……ちょっと待って?なんで私の能力そんな感じなの?」

 

「まぁ、マスターを大切にしている誰かさんのせいでしょうねぇ。祝福だの加護だのは、行き過ぎると異常なまでのステータスになりうると言うわけですわ。なんにせよ、使えるものは片っ端からご使用なさるのが吉です。そうすれば、マスターが持ち合わせている本来の力も解放できると思うので。」

 

「ええ……?」

 

 コヤンスカヤから告げられた言葉に思わず困惑する。平凡だったはずの私に、なんでそんな溢れんばかりの祝福と加護が付与されているのか理解できない。

 元の世界で何かしてたっけ?かなりの徳を積んだ記憶は全くと言っていいほどにないのですが?

 

「いずれわかることです。すでに力の抑制は少しずつ外れておりますので、来るべき時に疑問の答えを得ることができますわ。それまでの辛抱です。んふふ……最初に枷が外れるのは、どちらの記憶でしょうねぇ?」

 

 楽しげに笑うコヤンスカヤに思わず表情を顰める。この敏腕秘書、完全に楽しんでやがるな?

 ていうか、記憶の枷が外れたら、自分の能力がわかるようになるのか……。それなら、早めに記憶を戻すべき……なんだけど、一体それはいつになるのやら……。

 

「こちらから今言えることはこれくらいです。そうですねぇ……もう一つ真実を明かすとしたら、マスターのステータスや能力は、誰から与えられた力であるかを認識するまではランクダウンしていると言ったところです。認識することができれば、力の枷は少しずつ外れていき、最終的にはかなりの強さを会得し、多くの人を助けることができるようになる……と言ったところでしょうか。ハッピーエンドを掴み取れるほどの強大な力が、マスターの中にありますので。その力を理解した時、せいぜい欲にまみれぬよう、気をつけてくださいましね?」

 

 そんなことを考えていると、コヤンスカヤから忠告のような言葉をかけられる。

 欲にまみれぬように……って、随分と意味深なことを言って来るものである。

 やっぱり私の中にあるのは、万能の願望器と呼ばれてるアレなのか?表情を軽く曇らせながら、コヤンスカヤを見つめていれば、彼女はくすくすと小さく笑う。

 自身の中にある力がアレである可能性を頭の片隅に置いておきながら、私は五条先生に視線を戻す。

 

「任務同行の件、受けます。どれだけやれるかはわからないけど。」

 

「……瑠風ならそう言ってくれると思ったよ。」

 

 恵くんの任務に同行する件を承諾すれば、五条先生が満足げに笑う。そして、私と恵くんに視線を向けて、静かに口を開いた。

 

「任務には今から向かうから、準備を済ませて。正門の方に伊地知が車を回してるはずだから、そこで合流ね。」

 

 これからどうするかを指示したのち、五条先生は私たちに背を向けて立ち去って行く。

 それを見送った私は、小さく溜め息を吐いたのち、真希さんに訓練をつけてくれたことへの感謝を述べ、一旦準備をするために、寮の方へと足を進める。

 すると、恵くんがすぐ私の隣に並んできた。

 なにやら物言いたげな視線を感じたため、恵くんに視線を向ける。

 

「あんま、無理すんなよ瑠風。危なくなったらすぐに逃げろ。」

 

 どうやら私のことを心配してくれたらしい。少しの顰めっ面を見せながら、静かな声でいざと言う時のことを告げて来る。

 それが少しだけ嬉しくて、私は小さく笑いながら、恵くんの言葉に頷いた。

 やれることは全てして、それでも力不足になれば、戦闘から離脱すると言うことも一緒に告げた。

 恵くんは少しだけ安心したような表情を見せては、口元に小さく笑みを浮かべる。

 

「それじゃ、さっさと準備を済ませて行くか。」

 

「そうだね。」

 

 短く言葉を交わしては、自分たちが過ごしている寮の部屋へとバラバラに移動する。

 さて、呪霊相手に、私はどれだけ立ち回れるのだろうか。

 

 

 




 瑠風
 五条先生から伏黒の任務に同行するように指示を出される。どれだけやれるかはわからないけど、自分にできることは全てやろうと決め、任務へ向かうための準備を始めた。

 闇のコヤンスカヤ
 相変わらずアドバイザーポジにいるフォーリナー。
 瑠風の能力の抑制が訓練を重ねるたびに緩んできていることに気づいているため、少しずつ瑠風の能力に関する情報を開示し始めた。

 伏黒
 自分が引き受けることになった任務に瑠風が同行することに少しだけ驚いたが、とりあえずは同行を許可する。
 しかし、彼女に無茶はしてほしくないため、いざと言う時は逃げるようにと指示を出すし、任務に慣れてない瑠風を全力でサポートするつもり。
 この時点で既に瑠風のことを、「幸せになるべき善人」として認識しているため、自身が助けるべき対象にしている。

 五条先生
 突発的に伏黒の任務に瑠風を同行させることを決めた最強呪術師。瑠風が作るお菓子が好きで、なにかしら集りに来ることがある。
 瑠風の戦闘能力がだいぶ上がってきていることに気づいており、三級までの呪霊は問答無用で無傷討伐が可能であると判断した。
 二級呪霊と瑠風を戦わせたら、ほぼ互角の迫り合いを見せたのち、瑠風が勝利すると考えているが、いきなり二級に瑠風を当てたら間違いなく瑠風もそれなりにダメージを受けると認識しているため、二級は慣れてる恵や、彼女が率いるサーヴァントに任せるように告げた。


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15.瑠風のお仕事見学 現場到着編

 準備を済ませて伊地知さんたちと合流し、今回恵くんが向かわされた現場へと到着する。

 そこは、お墓が近くにある廃村であり、もう人がほとんどいないのか、崩壊寸前の木造建築がちらほらと存在している場所だった。

 五条先生曰く、この村は数年前から人が寄り付かなくなって行き廃れていったとのことらしく、すでに村に住む人は誰一人としていないのだとか。

 でも、この雰囲気のせいもあり、肝試しをするために足を運んだ人間がそれなりにおり、肝試しを行った人々は何かしらの不調を訴えるようになったらしい。

 中には自殺にまで行ってしまった人間もいるようで、こっちの方に恵くんが向かわされたとのことだ。

 

「うっわ〜……確かに雰囲気ある……。」

 

「…………」

 

「ん?どうしたのセイ?」

 

 廃村のあまりにも雰囲気ありすぎる姿に、肝試しをしたくなる気持ちもわかると納得していると、すぐ近くにいる太歳星君が、なにやら警戒状態に入り、一つの方角を見つめていることに気がつく。

 不思議に思いながら、太歳星君にどうしたのかと問いかければ、彼は自身が見ていた方角を指差しながら、静かに口を開いた。

 

「……るかるか。めぐめぐ。ごじょー。こっちの方角は大凶だよ。」

 

「「!」」

 

 太歳星君の言葉に思わず目を見開く。それは、今、太歳星君が述べた方角はあまり良くないものがの危険が存在していると言うこと。

 つまり、呪いの発生源がこの方角にある可能性が高いということだ。

 

「……へぇ。太歳神ってそんな能力あるんだ。」

 

 大凶の方角を口にした太歳星君の姿に、少しだけ五条先生が関心を抱く。

 まぁ、あまりよろしくない方角を見定める能力は、何かしらの役に立ちそうだしね。関心を抱くのも、わからなくもない。

 ……それはそれとして、だ。

 

「……どうしますか?五条先生。」

 

「そうだねぇ……とりあえず、まずは弱いやつをちゃちゃっと片付けちゃおうか。一般人もここはいないみたいだし、さくさく進めるよ。」

 

「「わかりました。」」

 

 五条先生が任務を始めると口にしたので、私はすぐにコヤンスカヤとアビーを呼び出す。

 姿を現したコヤンスカヤとアビーは、どちらも第三再臨状態の姿へと変わっていた。

 恵くんと五条先生が反射的に警戒態勢を見せる。どうやら、こっちの姿のコヤンスカヤたちの呪力はいつも以上に強大であり、呪術師にとっては、ピリリとした空気になってしまうらしい。

 

「コヤンスカヤとアビーは攻撃範囲が広いから、少しずつでいい。片っ端から呪霊を始末して。セイは私と一緒に行動。私が取り漏らした呪霊をお願いできる?」

 

「りょっか!」

 

「かしこまりました。では、一旦こちらの秘書モードをやめ、戦闘寄りの(わたくし)として蹂躙し尽くして参りましょう。」

 

「太歳星君さんだけで大丈夫かしら?」

 

「む!!ワガハイだってやればできるのだ!」

 

「それならいいのだけど……。弱い子たちを全部終わらせたあと、すぐに合流するわ、マスター。早く行きましょう、狐さん。」

 

(わたくし)に命令を出せるのはマスターだけなのですが……。」

 

 そんな二人のことなど気にしていないのか、コヤンスカヤたちはいつもの調子で会話を行う。

 少しだけ喧嘩腰になっているような様子があるけど、おっ始める様子はないらしい。

 まぁ、喧嘩されても困るんだけどさ……。

 

「ああ、コヤンスカヤ。ちょっといいかな?」

 

「はい、なんでございましょう?」

 

 そんなことを思いながら、私はコヤンスカヤの名前を呼ぶ。コヤンスカヤはすぐに私の声に反応して、すぐ近くにまで寄ってくれた。

 そんな彼女の頭に軽く手を乗せた私は、自身の能力を発動させる。

 あらゆる対象に、新たな特性を追加することができる能力……それを使うことにより、コヤンスカヤがFGO内で使用していたあらゆる地域の獣を取り込み、自身の眷属へと変える能力の対象範囲を呪霊にまで広げたのである。

 

「これは……」

 

「使えそうな呪霊がいたら、自身の糧にするなり、自身の眷属にするなりと自由にしても構わない。」

 

「……んふ……そうですか。では、ありがたく使わせていただきますわ。」

 

「次はアビー。君には、太歳星君と同じ力を付与しておくよ。」

 

「太歳星君さんと同じ力というと、呪霊を倒していけばいくほど能力が上がる戦闘時限定の能力よね?」

 

「そうだよ。」

 

「ありがとう、マスター。この力を使って、もっともっと役に立って見せるわ。」

 

 続けるようにして、私はアビーにも新たな特性を付与した。と言っても、太歳星君にも付与してある戦闘時のみに発動する呪力ドレインによる強化能力と変わらないけど、戦闘時に常に強化していくことが可能なら、それだけでもかなりの戦力を保持することができるから使い勝手がいい。

 コヤンスカヤにはこっちよりも自身の眷属を増やすことによる戦力補充の方が相性いいと思うから付与はしなかったけどね。

 まぁ、でも、取り込んだ呪霊を自身の呪力に変換できるようにはしているから、いざと言う時の呪力補給源にはなる……だろう。多分。

 

「じゃあ、コヤンスカヤとアビーは別行動で。行くよ、セイ。」

 

「りょっか!」

 

 私の指示を聞いたコヤンスカヤとアビーが一瞬にして姿を消したのを確認した私は、すぐに五条先生たちに視線を戻す。

 すると、五条先生が私の方に目を向けたまま、穏やかで、しかし、どこか寒気を感じる声で話しかけてくる。

 

「……ねぇ、瑠風。さっきの能力って何?見たことないものだったけど。」

 

 どうやら、私が使用した能力であるスキル付与に関しての質問のようだ。

 とは言っても、私が持ってるこの能力の正式名称はわかっていない。ネロ・クラウディウスが使ってる皇帝特権の上位互換のようなものであることくらいはわかるけど。

 なんて答えるべきか……ああ、そうだ。

 

「正式名称はわかっていませんが、能力効果は理解してます。いわゆる自分自身と、私が連れているサーヴァントに新たな特性を一時的に付与したり、永続的な特殊強化を施すことができる能力ですね。使い方によっては、戦闘時のみ、呪霊を倒すことにより、倒した呪霊が持ち合わせていた呪力を吸収し、自身の強化にその呪力を回すことも可能になります。そのため、最終的には特級すらも一瞬にして葬る力を会得することもできます。まぁ、戦闘態勢を解けば効果は無くなりますが、永続強化の場合は、戦闘に入るたびに呪力ドレイン効果が発動します。」

 

 少しだけ考えたのち、先程使用した能力の効果を五条先生に説明する。

 こちらの能力の効果を初めて聞いた恵くんは目を丸くして固まり、五条先生はなるほどと小さく呟く。

 ……なんか、五条先生にはこの付与能力の本質が見抜かれていそうだな。まぁ、だからと言って掘り下げるつもりもないようだけど。

 

「じゃあ、任務始めちゃおうか。」

 

 五条先生が話を切り上げるように、任務を始めると口にする。すぐにそれに頷いて村の中に足を運べば、少しだけ寒気を感じた。

 しかも、寒気の発生源は私のすぐ側。となると……

 

「……セイも戦闘態勢だね。」

 

「うん。こっちの方が、瑠風を守りやすいから。」

 

「ありがとう、セイ。」

 

「ワガハイは、当たり前のことをしてるだけだよ……?」

 

「そうだったね。」

 

 視線を横に動かしてみれば、やっぱり太歳星君が大きい方の太歳星君になっていた。

 先程寒気を感じたのは、彼が呪力のリミッターを外したことを意味するものだったと言うわけだ。

 あ、恵くんのお顔が真っ青……。すぐ近くで特級の呪力が一気に増えたからかな?

 五条先生は、太歳星君の呪力をすぐ近くで感じていても、「祟り神の呪力量やばすぎてウケる」とヘラヘラ笑っている。

 最強の名は伊達じゃないなぁ……。粛正防御すら剥ぎ取る防御強化状態解除を使ったら普通に物理叩き込めるけど。

 まぁ、流石にしないけどね。

 

「恵くん。大丈夫だよ。確かに呪力量がおかしいし、臓腑の底から寒気を感じてしまうかもしれないけど、君がよく知る無邪気な太歳星君と同じ子だし、ちゃんとした味方だからさ。」

 

「あ、ああ……。」

 

「あはは。やっぱりまだ恵にはちょっと刺激が強すぎたみたいだね。まぁ、仕方ないけどさ。ガチもんの祟り神なわけだし。僕でも最初は冷や汗をかいたくらいには危険性が高い存在なんだから、無理もないよ、」

 

 とりあえず、太歳星君の呪力に当てられて、少々顔色を悪くしてしまった恵くんに対して、大丈夫だと言い聞かせるように声をかける。

 それにより彼は落ち着いたのか、小さく頷きながら表情を引き締めた。

 よし、恵くんの怯み状態も解除できたし、初任務を開始しようかな。

 

 

 

 




 瑠風
 自身の能力を使い、コヤンスカヤとアビゲイルに新たな特性を付与した。
 コヤンスカヤに付与した呪霊もスムーズに取り込める能力を使って、特級呪霊とか取り込んでくれないかな?と少しだけ考えている。

 太歳星君
 瑠風のお仕事見学に同行し、現在戦闘モードである大きい太歳星君状態になっている。
 大凶だと感じた方角には間違いなく強い何かがいるから、早く呪霊を倒して自身の強化をしようと考えている。

 闇のコヤンスカヤ
 本来の能力である獣を取り込み眷属化する能力に、新しく呪霊も取り込んで眷属化することができる能力を追加してもらって強化されたコヤンスカヤ。
 気に入った呪霊は取り込む気満々だし、瑠風からの指示があれば、特級呪霊も取り込む気満々。
 気に入らない呪霊?取り込むことすらすることなく消滅させますが何か?

 アビゲイル
 瑠風から太歳星君が持ってる呪力ドレインからの自身の強化能力を付与してもらったフォーリナー。現在第三再臨状態で戦闘モード。
 太歳星君じゃなくて私をおそばに置いてくださればいいのに……と少しだけ不満に思いながらも、彼女からの指示を遂行するため行動を起こす。

 伏黒恵
 瑠風が率いる三騎のサーヴァントの戦闘モードに対して顔を真っ青にしていたが、瑠風と五条に声をかけてもらうことで治った。
 こんな奴らと常に一緒にいるのに平然としているとか、瑠風はすごいなと思ってる。

 五条先生
 瑠風のサーヴァントたちの戦闘モードに少しだけ寒気を感じていたが、表には出していなかった。
 瑠風が持ってる新たな特性を付与する能力が持つ効能は全部わかっているが、自分とサーヴァントだけにしか使えないと口にした瑠風の意志を尊重し、詳しく言及はしなかった。まぁ、僕は知ってるしね。



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16.瑠風のお仕事見学 戦闘開始編

 恵くんが呼び出した玉犬と、私が連れている太歳星君が辿る呪霊の気配に従いながら、廃村の中を走り回る。

 すると出るわ出るわの大量呪霊。魑魅魍魎の百鬼夜行かと軽くツッコミたくなるくらいには、結構の数が湧いて出る。

 

「呪霊大量すぎでは?」

 

「それな。」

 

 恵くんが式神を使って呪霊を祓う中、私はチラホラと現れる三級以下の呪霊を手にしているゲイ・ボルクを利用して倒していく。

 コヤンスカヤからのアドバイスをもとに、人に能力を追加する力を利用して、戦闘時のみクー・フーリンの動きができるようにしてみたけど、これすごいわ。

 本当に次々と呪霊を薙ぎ倒せる。戦闘なんて一回もしたことないはずなのに。

 なにこれチートじゃん。でも、たまに人体ってこんな動きできんの?って言いたくなるような動きすることがあるから、彼女が言っていた慣れるまでは筋肉痛になる恐れがあるって言う話は本当なんだろう。

 

「うわっなんか呪霊溜まりあるんだけど。」

 

「ああ。小さい呪霊が集まってる感じか。」

 

「ふーん。ねぇ、ちょっと試したい技あるから試していいかな?」

 

「は?」

 

「呪力をそれなりに消費するから連発はできないけど、一発くらいなら多少疲れる程度でなんとかなるし。」

 

「いや、何をしようとして……」

 

「んー……対軍宝具?」

 

「……何だそれ?」

 

「見ていればわかるよ。」

 

 そんなことを考えながら呪霊を倒していると、目の前に小さな呪霊が大量に集まってるのが見えて来た。

 0巻の時に狗巻先輩と乙骨先輩が出会したあれみたいなやつだ。

 低級呪霊の群れ……0巻のアレよりは小さいけど、それなりの数。

 だからこそ、私のこれが役に立つわけで……。

 

 手にしているゲイ・ボルクに流す自身の呪力を少しだけ増やす。すると、ゲイ・ボルクは赤い光を帯び始めた。

 それを確認した私は、槍投げの構えをする。

 

突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)!!」

 

 そして、ある程度呪力が宿ったことを確認したのち、手にしていたゲイ・ボルクを呪霊の群れ目掛けて放り投げた。

 呪霊の群れ目掛けて真っ直ぐと飛んでいくゲイ・ボルク。少しの間飛翔していたそれに、変化はすぐに訪れる。

 分裂……彼が単体に向かって放つ【刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)】とは違い、魔槍の呪いを最大限開放して渾身の力で投擲するこれは、心臓に命中させるのではなく、一撃の破壊力を重視しており、相手に向かって無数に分裂していき一発で一部隊を吹き飛ばすとされている。

 因果逆転程の強制力はないが、一度ロックオンすれば「幾たび躱されようと相手を貫く」という性質を持つため標的が存在する限りそこが例え地球の裏側だろうと飛んでいくのではと推察されているけど、実際見たことはないから謎である。

 

 無数に分裂した朱槍は、目の前にいた呪霊を一匹残らず貫いた。次々と消滅していく呪霊の姿を見て、恵くんが目を丸くしている。

 まぁ、そりゃびっくりするよね。何で一本の槍が無数に分裂した上、的確に呪霊を貫いてんだよって感じに。

 それを聞かれても、これはそう言う性質なんだから仕方ないとしか言えないんだけど。

 そんなことを考えていると、長物が風を切るような音が辺りに聞こえてくる。

 すぐに手を上に上げて手のひらを開いてみれば、そこにあるのが当たり前だと言わんばかりに、朱槍が綺麗に収まった。

 

「……何でクー・フーリンが持ってる武器を使うのかと思ってたけど、こう言うこと?」

 

「はい。呪いの武器って類だし、呪霊の数によって応用が利くので。数が多ければさっきのを使うし、単体だけだったり、不測の事態が発生した場合は少しだけ呪力を込めてそのまま突き刺せるので。後者の単体に叩き込む技なら心臓を穿つと言う因果を作ってから放つので必中になるし、なんらかの拍子にまれに外した場合も呪霊がすぐに回復できなくなるように回復阻害の呪いを残せるから便利なんですよ。ガンド……ルーン魔術の一種で、相手を指差すことにより病に陥れる、または病状を悪化させるって能力も考えていたんですけど、複数の呪いを相手にする可能性を考慮すると、単体も複数体も相手にすることができるこれの方がやりやすいなって思って扱えるようにちょっと能力で自身をいじりました。」

 

「あはは。やることがぶっ飛んでるねぇ……。」

 

「よくやろうと思ったな。まぁ、確かに応用は利きそうだが。」

 

「でしょ?」

 

 槍の柄の部分で肩を叩きながら、恵くんの応用は利きそうと言う言葉に対して笑顔を見せる。

 単体相手ばかりを相手にするなら本当にガンドでもよかったんだけどね、コストは低いだろうし。

 でも、今回みたいに低級でも複数体現れることがある可能性を考えたら、一体一体を指差すのめんどくさいからこうした方が早い。

 まぁ、その分呪力を消費するから、余程のことがない限りは連発に持ち込めないところが玉に瑕だけど、使い勝手の良さを考えたらガンドよりマシだ。

 

「さっきのを使うとしたらどれくらいの呪力を消費するのかな?」

 

「うーん……まぁ、数値化するなら3桁くらいはガッツリ持っていかれますかね。少ししたら回復するけど。それで、単体に放つだけの方なら2桁くらいかな。」

 

「へぇ……」

 

「ちなみに、全呪力を込めれば、さっきの以上の火力を出せる上、特級すらも一撃で消すことができるであろう技も一応ありますが、あまりにもコストが大きいし、最悪一ヶ月は動けなくなるので、余程のことがない限り使うつもりはありません。」

 

「まぁ、それくらいの火力がある技なら、妥当と言えるリスクかな。」

 

「何でそんな技を作ったんだよ……」

 

「うーん……基本的にはサーヴァントたちが何とかしてくれるんだけど、万が一サーヴァントが動き辛い状況が発生した場合、自分でも特級に対応できるように……かな。どんな呪霊が現れるかわからないからね。そう考えると、自分でも対処できるようにしないといけないかなって。めちゃくちゃでかいリスクできちゃったけど。」

 

「デカすぎるだろ。」

 

「まぁね。でも、ジョーカーは持っていて損はないでしょ。」

 

「そうかもしれないけどよ……。」

 

 恵くんから心配気な視線を向けられる。なんだろう。絶対に使わせないようにしなきゃ的な意思も感じられる気がする。

 まぁ、でも、今はお仕事が先かな。

 

「呪霊の気配は?」

 

「……こっちの方はもういない。次は、あっちが多い……かな?」

 

「なるほど。呪霊多すぎでは?」

 

「……………。」

 

「「………五条先生?」」

 

 太歳星君に呪霊がいる場所を答えてもらう中、五条先生がやけに無言で一点を見つめていることに気がつく。

 不思議に思い彼に声をかけてみれば、どうやら恵くんも同じように疑問を抱いていたのか、2人分の声が重なった。

 

「……ああ、ごめんごめん。ちょっと考え事をしててさ。……もしかしたら、僕も動かないといけなくなるかもね。」

 

「え……?」

 

 五条先生の返答に目を丸くする。五条先生も動かなきゃいけないって、それ特級案件ってこと?

 いやいやいやいや、なんでお仕事見学の場でそんなことになっちゃうのさ。

 

「……瑠風。恵。警戒は怠らないで、なおかつ、身の危険を感じたらすぐにこの場から離脱して。サーヴァントたちの力があれば、すぐに離れることくらい簡単でしょ?」

 

「確かに簡単ですけど……」

 

「じゃあ、危なくなったらすぐに離脱。これは一つの命令だから、ちゃんと聞いてくれるよね?」

 

 五条先生から命令と言う言葉が出てくるって相当なことだと思う。

 つまり、ガチの特級案件ってわけか。……太歳星君も一緒に呪霊を倒していたから、呪力ドレインによる強化はできているけど、五条先生がそこまで言うとなると、素直に従った方が良さそうだね。

 

「わかりました。その時はすぐに離脱します。」

 

「うん。そうして。恵もね。」

 

「わかりました。」

 

 五条先生の命令に素直に頷けば、五条先生はそれでいいとばかりに笑みを浮かべる。

 

「それじゃあ続けようか。2人とも、気を引き締めてよ。」

 

「「はい。」」

 

「太歳神。いざと言う時は2人の離脱よろしく。」

 

「わかった。」

 

 太歳星君がいざと言う時は私と恵くんを離脱させることを承諾するなり、五条先生は村の中を歩き始める。

 とりあえず、低級の呪霊は始末して行こう。

 

 

 




 瑠風
 試しに投げボルクを使ってみたら思った以上の効果が出て上機嫌。
 しかし、すぐに五条先生からヤバいのがいるかもと言う言葉と共に、いざと言う時は離脱するようにと命令されて気を引き締めた。

 太歳星君
 呪霊の位置や数を把握しては瑠風たちに知らせていた呪霊レーダー。
 五条先生から危なくなったら瑠風と恵の2人を連れて離脱するように言われ、すぐにその指示に頷いた。

 恵
 瑠風が放った投げボルクに思わず戦慄した。呪力の消費量によってはあれ以上の火力が出ると言われ、そんなもん使おうとするとかぶっ飛びすぎてると冷や汗をかいた。
 五条先生からヤバいものがいるかもしれないと言われ、気を引き締めた。特級が潜んでいたらすぐに瑠風を連れて離脱するつもり。

 五条先生
 あまりにも次々と瑠風が呪霊を薙ぎ払っていくし、投げボルクを使って一気に低級呪霊の群を掃滅させるため、接触してよかったとハッピー。
 しかし、あまりにも村の中に呪霊がいるため、もしかしたらアレがあるかもしれないとすぐに頭を切り替えた。
 特級が出てきたら必ず瑠風たちに離脱してもらうため、命令と言う強い言葉を使った。


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17.瑠風のお仕事見学 サーヴァント合流編

 五条先生の忠告を守りながら、そこら辺に散らばっている呪霊をゲイ・ボルクを使って始末していき、時には太歳星君に呪力によるサポートを施して、一気に蹴散らしていくこと数分。

 私の視界に一人の少女の姿が映り込む。鍵穴付きの扉からタコともイカとも形容することができない触手を呼び出して呪霊を捉え、引きちぎり、すり潰し、叩き壊しているその子は、間違いなくアビゲイルだ。

 

「アビー!」

 

「!あら、マスター!あなたの方から合流してくれるとは思わなかったわ!待っててね。すぐにこいつらを消してあげるから!!」

 

 少女の名前を呼べば、金髪碧眼の愛らしい少女から、銀髪で薔薇色の瞳を持ち合わせている狂気の少女へと変貌していたアビゲイルはすぐに返事を返し、その場にいる呪霊の足元全域に鍵穴付き扉を出現させて、無数の触手で呪霊を殴殺する。

 そして、この場にいた呪霊が全ていなくなったことを確認しては、私の方へと駆け寄ってきた。

 うん、いくら小さな少女でも、やっぱり第三再臨姿はちょっと露出が多すぎるな……。

 流石にそれはいかがなものか……そう思った私は、着ていた呪術高専の上着を脱ぎ、アビゲイルにさっさと羽織らせた。

 

「マスター?」

 

「あんまり女の子が肌を露出させたらダメだよ。」

 

「別に平気なのだけど、マスターが貸してくれるなら、遠慮無くこの上着は使わせてもらうわ。それよりマスター、見てくれた?私、いっぱい呪霊を倒したわ!私の呪力もこんなに大きくなったの!もっともっと呪霊を倒して、全部全部私の呪力に変えてみせるわ!そうすればあなたの役に立てるもの!!」

 

「そうだね。でも無茶だけはしないように。いくらサーヴァントの身であっても傷を作れば弱体化するからね。そこら辺はちゃんと覚えておいてね。」

 

「……わかったわ。マスターがそう言うのであれば、無茶をしないように頑張るわね。それよりマスター。少しいいかしら?さっき気づいたことなのだけど、この廃村、何か大きな力が眠っていると思うの。お父様とはまた違った、強大で悍ましい何かの力よ。」

 

「……そうか。わかったよ。」

 

 アビゲイルから告げられた言葉に、思わず五条先生に目を向ける。すると、五条先生は無言で遠くを見つめたあと、小さく頷いた。

 

「うん。任務の難易度が上がってるみたいだね。もしかしたらアレがあるかもしれない。」

 

「アレってまさか……」

 

「そう。特級呪物の一つ、“両面宿儺の指”のうちの一本だ。」

 

「!!」

 

 五条先生の言葉に、恵くんが言葉を失う。私も少しだけ目を細めた。

 特級呪物、“両面宿儺の指”……呪術廻戦の原作に大きく関わるアイテムの一つ。

 四本の腕を持ち合わせていた呪いの王。その指を喰らったことにより、物語の主人公である虎杖悠仁は呪いと戦う世界へと身を投じることになる。

 そして、そんな悠仁が経験することになるのは数多くの出会いと別れ。打ち拉がれてしまうような、重苦しい試練とのぶつかり合い。

 なんともまぁ難易度がハード突き抜けてルナティック並みの世界である。

 ……物語の元凶となる宿儺の指がこんなところにあるとは思わなかった。

 まぁ、本当にあるかどうかは、目で見て確かめないといけないんだろうけど。

 

「とりあえず、コヤンスカヤとも合流しましょう。もしかしたら詳しい話が聞けるかもしれません。バラけた時、彼女はセイが大凶と告げた方角の方へと移動していて、今もその付近で呪霊を倒しているようですよ。」

 

「彼女、あっちの方に行ったんだ。」

 

「わざわざ大凶の方に行ったのか……」

 

「まぁ、狐さんならなんとかなりそうではあるけど。」

 

「彼女は……隕石のようなものだから、ワガハイよりも力はあるし……」

 

「そう言えばそうだったわね。あの狐さんの宝具、10万tの衝撃をおこす隕石攻撃だもの。」

 

「ワガハイは……確かに祟り神なのだけど、物理的な能力だと、彼女に絶対に敵わない。」

 

「コヤンスカヤは能力関係の比較対象外にした方がいいと思うんだけど、私だけかな?」

 

「隕石っておい。」

 

「……瑠風が連れてる子たち、規格外すぎない?」

 

 私たちの会話を聞いて恵くんと五条先生が引きつった笑みを浮かべる。

 サーヴァントが規格外過ぎるのは当然だろうと言いたいけど、今話しているのが世界規模に影響を与える宇宙からの飛来物と何ら変わりない存在の闇のコヤンスカヤだからね……当然と言っていいのか悩みどころである。

 でもなぁ……カルデアのサーヴァントって世界規模に影響与えるものがかなりいるし、中には本気で力を発動させれば隕石の爆発による都市の消滅どころか、世界そのものをぶっ壊せる乖離剣持ちがいるしなぁ……。

 他にも敵味方関係なく弱体化させて自身が圧倒的な力を得たりする皇帝様とかもいたんだよなぁ……。

 ……カルデアってやっぱ色々ぶっ飛んでるな。それだけあの世界がヤバイって話なんだけど。

 

「瑠風〜?瑠風ちゃ〜ん?なんで遠い目してるのかな?」

 

「瑠風……まさかとは思うが、あのコヤンスカヤって名前のサーヴァント以上に規格外な奴が手札にいるとか言わないよな?」

 

「……いやぁ……手札にはいないと思うんだけど、私の知識内にはサーヴァントと呼ばれる存在が規格外のインフレを起こしてるって内容がありまして……。私が持ってるわけじゃないんだけど、世界レベルでとんでも現象起こすサーヴァントってかなりいるんだよね。」

 

「絶対呼ぶなよ。」

 

「下手したら収拾つかなくなると思うから呼ばないでね?」

 

「呼ばないよ。………多分。」

 

「多分?」

 

「多分って言った?」

 

「…………イッテナイデスヨー……」

 

 しらを切るように言葉を紡げば、なんとも言えない視線を二人から向けられる。

 あはは……そんな目で見ないでくださいお願いですから。

 でも……多分呼べないと思うんだよね……。何かしらの条件を満たせば呼べると思うけど、今はその条件を満たせていないような気がするし。

 だから、まだ安心できると思うけど。

 

「そんじゃ、コヤンスカヤと合流しましょうか。彼女の呪力が結構増えているし、相当の数の呪霊が出てるみたいですから。」

 

「棒読みがめちゃくちゃ気になるんだけど、まぁ、彼女との合流が先か。」

 

「深掘りしてもよくわからないような気がしますけどね。」

 

 そんなことを考えながらも、私たちはコヤンスカヤがいる方向へと向かっていく。

 もちろん、道ゆく途中途中で呪霊が湧き出てくるけど、私と太歳星君とアビゲイル、それと、恵くんが使役している式神たちの力で全て薙ぎ払うことができる。

 時折五条先生も呪力を纏わせた物理で呪霊をのして走り抜けるけど、基本は私たちに任せるみたいだ。

 まぁ、私のお仕事見学だもんねこれ。呪霊を祓うことがどう言うものかを学ぶためのチュートリアルなら、あまり先生も手を出さないか。

 

「瑠風。呪霊を倒した時に残る残留した呪力は、瑠風も吸収できると思う。」

 

「え?」

 

 休息なしの真・格闘王の道をさせられている気分だなと思いながら走り抜けていると、太歳星君から何やら気になる言葉を告げられた。

 残留した呪力を吸収できるってなに?

 

「マスターの一つの特性よ。私たちみたいに、倒した呪霊の呪力を回収することができるの。あなたも、呪霊の呪力でわずかながらに回復することができるのよ。強い呪霊を倒せばその強さに応じた分沢山の呪力を回収することができて、自身の呪力やサーヴァントに流す呪力を増やせるわ。もちろん、そうするごとに私たちの力は大きくなり、宝具の展開もすぐできるようになるの。」

 

「マジか。知らなかったな。」

 

 初耳の能力を教えられ、少しだけ引きつった笑みを浮かべてしまう。

 まさか、自分の特性に素で呪力を吸収し、いろんな力へと変更することができるようになっているとは思わなかった。

 でも、それならゲイ・ボルクを使用する際に減少した呪力を少しずつ回収できるから助かるな。

 ま、抉り穿つ方を使ったらそれも意味ないんだけど。

 

「瑠風?知らなかったのそれ?」

 

「全くと言っていいほどに知りませんでしたね。どうやら私は、自分の能力を把握しきれてないみたいで。ですが、サーヴァントはそれらをほとんど知ってるみたいです。セイは……ちょっとよくわかりませんが。」

 

「ワガハイは……瑠風の能力を把握できていないと思う。瑠風のサーヴァント……であることは間違いないのだけど。」

 

「そう。」

 

 ……ふむ……やっぱり太歳星君は、私の能力を把握していないようだ。

 となると、考えられるのはコヤンスカヤやアビゲイルとは違う方法で顕現したから……ってことになるんだろうけど、その答えを探すのは今度でいいか。

 

「あ、いたいた。コヤンスカヤ!」

 

「おや、マスターではありませんか。そちらの方は終わったのですか?」

 

「うん。だから合流したんだよ。」

 

「なるほど。まぁ、予想通りと言ったところでしょうか。こちら、見ての通り、呪霊が次々と無限湧きしているものでして。」

 

「みたいだね。何か原因があると思うんだけど……」

 

「ああ……それでしたらおそらく、こちらの奥の方に原因があるかと思われます。明らかに、他とは違う気配が存在しておりますので。まぁ、(わたくし)の敵ではないと思いますが。」

 

「もはや祟り神であるセイ以上の力になってるもんね、今のコヤンスカヤ。いったいどれだけの呪霊を取り込んだのそれ。」

 

「そうですねぇ……10〜20以上は取り込んで力へと変えさせていただいた気がします。あ、いくつか獣の怨嗟から生まれた獣型呪霊がいたので、しっかりと眷属化いたしました☆」

 

「……だろうね。視界にもちらほら映ってるもん。獣の姿をした呪霊。あと、君、回収した呪力を利用して新しい獣型の呪霊作っただろ。」

 

「もちろんです。能力値としては、二級から準一級くらいでしょうか?取り込みまくった呪力をこねこねと練りまして、新しく生まれ変わらせました。」

 

「まぁ、戦力が増えるのはありがたいからいいけどね。」

 

「いや、呪霊が呪霊を取り込んで回収した呪力を使って新しい呪霊を作んなよ。」

 

「呪霊操術ならぬ呪霊創術ってこと?」

 

 ……無駄に上手いことを言わないでください、五条先生。

 

「じゃあ、恵と瑠風はここから離れて。もし、本当に“宿儺の指”があるのだとしたら、二級術師でも手に余る呪霊が集まって来てるかもしれないからね。これだけ呪霊が集まってると、封印がかなり脆くなってる可能性もあるし、多分、いや、きっと二人にとってはちょっと荷が重い。」

 

「「……わかりました。」」

 

 五条先生の指示を聞き、私と恵くんと、私のサーヴァントである太歳星君、アビゲイル、コヤンスカヤは、ここまでの道のりを戻っていく。

 少しだけ背後を振り返ってみれば、五条先生が私たちにヒラヒラと手を振ったあと、こちらに背を向けて奥の方へと走り去っていくのが見えた。

 ……なんと言うか、謎にカッコよく見えてしまった気がするんだけど気のせいだろうか…………?

 

 

 




 瑠風
 自身に素で呪力ドレイン能力がついていたことにびっくりしていた。
 とりあえず五条先生の指示に従い、恵とともに一時撤退する。

 太歳星君
 コヤンスカヤやアビゲイルとは違い、瑠風の能力は把握できていないのだが、その理由は不明。
 祟りとかの面では誰にも負けないと思っているけど、瞬間火力や持続火力に関してはコヤンスカヤはもちろん、アビゲイルにも勝てないと断言している。
 瑠風たちと共に、廃村奥から一時撤退する。

 闇のコヤンスカヤ
 無限湧きする呪霊相手に猛威を振るって暴れ回っていたサーヴァントその①。
 呪霊を取り込み、自身の呪力に変換したのち、勝手に自分で呪霊を生み出して使役していた。
 獣型呪霊は軒並み回収済みで、多少見た目をいじって眷属にしている。
 呪力量がかなり上がっていたため、特級相手にも容赦なく一撃死を与えることができるようになっていたが、瑠風たちとともに廃村奥から一時撤退する。

 アビゲイル
 無限湧きする呪霊相手に猛威を振るって暴れ回っていたサーヴァントその②。
 与えられた能力により呪霊を狩りまくって自身の呪力量を増やしていたため、特級相手にも難なく善戦できるくらいには自己強化をしていたが、瑠風たちとともに廃村奥から一時撤退する。

 恵
 規格外としか言いようのないサーヴァントたちに頭痛を覚えてしまった呪術師。
 自身は使役できるかわからないけど、知識として持ち合わせているサーヴァントの中には世界規模に影響をもたらす存在は大量にいると彼女に言われ、ますます頭を抱えた。
 頼むからこれ以上頭が痛くなるようなサーヴァントを呼ぶなよと思いながらも瑠風たちと廃村奥から一時撤退する。【この時の彼は、フラグが建設されたことにry((殴】

 五条先生
 太歳星君、アビゲイル、コヤンスカヤの三騎の反応から、宿儺の指があることにほぼ確信を抱いて廃村奥へと走っていった最強呪術師。
 サーヴァントと呼ばれる呪霊と似ているようで全く違う存在を使役する瑠風を見て、もし、この三騎以外にもサーヴァントが呼べるのだとしたら、戦力と脅威の両方を兼ね揃えた子になっちゃうな……と内心苦笑いをこぼしている。
 しかし、もしその力を引き出し、同時にコントロールする術を身につけさせれば、自身が考えている望みを叶えるための要の一つになると思っているため、手放すつもりはない。
 とりあえず、さっさと指を回収して、大事な教え子たちの元に戻らないとね。




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18.瞬間顕現、少女を守る神格の気配

 !!ATTENTION!!
 ※最後の方にオリキャラが出てきます。
 ※オリキャラは瑠風に対してかなり重い感情持ちです。ヤンデレ一歩手前気味。
 ※この物語の主人公である瑠風は、私が別のサイトで書いているの一次創作から設定を最初から持ってきているため、このオリキャラはその設定繋がりの存在となります。
 ※オリ→オリ傾向強めですが、オリ→オリ←呪&鯖的な展開もこの先出る予定です。


 以上を踏まえての閲覧を推奨いたします。


 恵くんと一緒に廃村を駆け抜けること数十分。私たちは廃村の入口付近まで戻ることができた。

 呪霊が湧いてくる気配はない。とりあえずは一安心だろうか。

 

「呪霊の巣窟だったな……」

 

「五条先生の話がマジなら、この廃村のどっかに特級呪物がある。となれば、呪霊のバーゲンセールみたいになるのは仕方ないことだと思うぞ。」

 

「特級呪物……確か、とんでもない呪い……呪力が宿ってるもののことを言うんだよね?」

 

「ああ。」

 

 村の中に学校でもあったのか?と呟く恵くん。

 あらゆる感情の受け皿となる場所になってるって原作でも言っていたし、もしかして、村の子供たちが通っていた学校でもあるのだろうか?

 そんなところに“宿儺の指”があるとか、とんでもないな。

 原作開始前の数ヶ月くらい前だから、時期的には変わらないだろうし、ここにある指の封印もだいぶ劣化していたのかな。

 

「“宿儺の指”は、呪物の呪いが強すぎるからな。もし、本当にここにあるのだとしたら、経年劣化で封印がかなり緩くなってるはずだ。となると、もはやそれは呪霊にとって力を底上げするための餌にしかならない。村で自然発生する呪霊も、その呪いを嗅ぎつけて外からやってくる呪霊も桁違いになるのは目に見えている。ま、それは廃村の奥の現状を見てたらわかるだろ。」

 

「うん。まるで真・格闘王の道をやらされてんのかってくらい連戦したね。」

 

「……急にカー○ィの話すんな。」

 

 ……恵くん、カー○ィ知ってるんだ。意外だった。

 

「こんなに無限湧きするとは思わなかったけど、封印が緩くなると、呪いを大量に呼び寄せるって本当だったんだ。」

 

「ああ、そうか。瑠風はこっちに来てから呪いとか呪物のことも知ったもんな。その割には呪霊を使役していたが。でも、やっぱり現実味がまだ湧いてなかったか。」

 

「否定はできないかな。」

 

 恵くんと話しながら、廃村の入口付近で五条先生の帰還を待つ。

 今のところ呪霊の気配は奥の方にしかないけど、念のためにサーヴァントや恵くんの玉犬たちは、呪いが現れないか警戒をしている。

 ……奥の方から戦闘音が聞こえてくるな。五条先生がしっかりと呪霊を祓ってるんだ。

 ちょっと時間がかかってるのは、無限湧きスポットになっちゃってるからとかかな?

 一撃で沈めていそうだけど。

 そんなことを思いながら廃村を眺めていると、辺りに寒気が発生したことに気づく。

 一番強い寒気を感じるのは……私の影!?

 

「「瑠風!?」」

 

「「マスター!!」」

 

 慌てて寒気がする方へと目を向けると、同時に影の中から呪霊が現れた。

 それは、明らかに二級ぐらいの力を持ち合わせている呪霊だった。

 誰かの影に入り込むことにより、気配に気づかれることなく近づけるのだろうか?

 影から浮上してくるまで、そこにいることがわからなかった。

 

 ─────……あ……ヤバいかも。

 

 呪霊の手にあり鋭い爪。それが私めがけて振り下ろされる。

 躱すための猶予はない。サーヴァントたちも間に合わない。動揺により、ゲイ・ボルクを構えるタイミングを見逃してしまっている。

 この状態が指し示すことは……。

 

『低俗な呪い如きが、誰のもんに手を出そうとしてやがるんだ?消え失せろ。』

 

 景色がゆっくりと動く中、不意に、脳内に響くような声が聞こえてくる。

 それにハッとした瞬間、私に襲いかかって来ていた呪霊が一瞬にして消え去った。

 まるで、無数の刃でも食らったのかと言いたくなるほどに、その身をバラバラに刻まれながら。

 

「え?」

 

 突然のことに戸惑いの声をあげる。いったい、私の目の前では何が起きた?

 

「瑠風!!」

 

 混乱しなら目の前の現状を眺めていると、恵くんが私の名前を呼びながら走り寄って来た。

 すぐに彼の方に目を向けてみれば、その表情にかなりの焦りが浮かんでいる。

 

「ごめん、ちょっと油断したみたい。」

 

「いや、俺が気付かなかったのも問題がある。悪かった。怪我はないか?」

 

「うん。なんとかね。」

 

 私のことを気にかけてくれる恵くんを安心させるため、小さく笑いながら無傷であることを伝えれば、彼はホッとしたような表情を見せたあと、ある一点を見つめる。

 彼の視線を追ってみれば、先程バラバラにされた呪霊の亡骸がそこにはあった。

 

「何が起こったんだ?瑠風に襲いかかったかと思えば、急にバラバラになったように見えたが……」

 

「……わからない。ただ、呪霊がバラバラになる前に、声を聞いたよ。」

 

「声?何も聞こえなかったぞ?」

 

「でも、確かに聞こえたんだ。“低俗な呪い如きが、誰のものに手を出そうとしてやがるんだ?消え失せろ”……って、どことなく殺意がマシマシで、どこか……懐かしく感じる声が。」

 

「………そうか。」

 

 恵くんの質問に答えれば、彼は短く返事をしたのち、傍らにいた玉犬に、目名前にある呪霊の亡骸を喰らうように指示を出す。

 それを聞いた玉犬たちは、すぐに呪霊に近寄って、その身体をバクバクと食らい始める。

 

「お疲れサマンサー。」

 

 玉犬たちの餌なのかな……と無言で眺めていると、どこからともなく聞き慣れた声が聞こえて来た。

 すぐに声の方へと目を向けてみると、そこには五条先生の姿がある。

 

「こっちの方に呪霊出て来たんじゃない?それなりに強めのやつ。恵なら倒せるレベルのね。」

 

「ええ。」

 

「狙いは私でしたけどね……。私の影に入り込んで潜んでたみたいです。それで、いきなりバッと出てきて襲って来ました。」

 

「……え、マジ?怪我はしなかった?」

 

「はい。なんとか。」

 

 私の返答を聞いて、少しだけ五条先生が安堵したように息を吐く。しかし、何かに気付いたような反応を見せたのち、おもむろに彼は目隠しを外した。

 

「五条先生?」

 

 急にイケメンフェイスを出さんでくださいとくだらないことを考えながらも、目隠しを外した先生に声をかける。

 だが、彼は返事をすることなく、私のことをじっと見つめてくるばかり。

 

「五条先生。どうしたんですか?」

 

「ああ、うん。ちょっとね。」

 

 首を傾げながら五条先生を見つめていると、無言で辺りを見渡したのち、再び私の方へと視線を戻す。

 そして、何かわかったのか、小さく笑いながらなるほどね……と呟いた。

 何がなるほどなんだろうか?全くもって理解ができない。

 

「瑠風。君、もしかして何かに助けられた感じ?呪霊や恵たちの呪力の残滓じゃない、全く別物の……しかも、呪いなんかよりも厄介で強大な力の残滓が辺りに散らばってるんだけど。」

 

「………確かに、助けられましたね。呪霊に襲われた瞬間、声が聞こえて来て、それで、一瞬にして呪霊がバラバラに刻まれました。」

 

 五条先生の質問に答えると、彼はやっぱりね……と呟きながら、苦笑いをこぼした。

 

「なんとなく気付いてはいたけど、今回のこれで確信できた。瑠風を守ってる強大な力。それ、完全に神格を持った何かの力だね。いったい、何をやらかしたらそんな存在に好かれるんだか。」

 

 五条先生から告げられた言葉にフリーズする。

 は?私を守ってる力って、神様の力なわけ……?

 

「神格って……そんなことあり得るんですか?」

 

「実際に目の前にいるってことはあり得るってことだよ。だけど、滅多にない……というか、数千年に一度あるかないかの事象だ。これ、コントロールできるようになるのかわかんなくなって来た。まぁ、それでもある程度は使いこなしてもらわないといけないんだけどね。」

 

 五条先生の言葉に無言になる。まさか、私みたいなのが神格に気に入られているなんて思わなかった。

 でも……なんだろう……?何か、思い出せそうで思い出せないような……だけど、何かしらの留め金が外れかかっているような……そんな気がするような……?

 

 よくわからないモヤモヤに苛まれながら、どんな神格が私に力を与えているのか考える五条先生と一緒に首を傾げる。

 その際、僅かに海のような匂いが鼻腔を通り抜けた気がするけど、海は近くにないはずだし、気のせい……だよね?

 

 

 ࿐·˖✶࿐·˖✶࿐·˖✶࿐·˖✶࿐·˖✶࿐·˖✶࿐·˖✶

 

 

 瑠風が不思議な力に首を傾げる中、濤声の中でその気配を感じながら、静かに目を閉じる者がいた。

 それがいるのは現実から離れた世界。目で見ることは叶わずとも、少女の魂に刻まれた一つの海原。

 その姿はいわゆる青年だった。黒にも見える濃紺の髪を、海原を走る潮風が揺らす。

 しかし、その青年は不意に感じた何者かの視線に意識を向ける。

 閉じられていた瞼を開き、海原と同じ蒼の瞳を虚空へと動かし、彼は小さく笑みを浮かべた。

 

「へぇ……なかなか面白ぇ眼を持ってるガキがいるじゃねぇか。完全とはいかないようだが、俺のことが見えてやがる。」

 

 吐き捨てるように呟かれた言葉。声音はどこか穏やかで、心の底から楽しんでいるようなものだった。

 だが、青年が纏う気配は一瞬にして降下して、寒気を催すものへと変わる。

 

「誰の許しを得て俺を見てやがるんだか。力を持ってるだけのただの人間如きが、無断で見ていいと思ってんのか?」

 

 軽い殺気と怒気を含んだ声音が、海原の濤声に消えていく。

 だが、青年は背後から聞こえて来た女の声を耳にするなり、その殺気をすぐに霧散させる。

 青年が声の方へと歩いてみれば、そこに黒髪の少女が横たわっており、胎児のように丸まって眠っていた。

 

「……最近、こいつ寝返りを良くするようになったな。ちらほらと声も聞こえてくるし、そろそろ俺を思い出す頃か?」

 

 眠る少女の頬に手を伸ばし、無防備にさらされている頬に触れる。

 先程までの怒りを纏っていた彼はどこへやら。その手つきは壊物に触れるかの如き柔らかなものだった。

 

「……ったく。思い出さねぇ方が幸せだろうに。俺を思い出しちまったら、お前、また俺から逃げられなくなるぜ?それでもいいのかよ。」

 

 呆れたような声で青年は言葉を紡ぐ。しかし、その言葉と感情とは裏腹に、青年の表情には早く俺を思い出せと言う欲が見え隠れしていた。

 海原のような蒼の瞳には、涼しげな色とは真逆の熱が宿っており、妖しい光がゆらめいている。

 

「……せっかく来世では好きなように生かしてやろうと思ったのによ。思い出したりなんかしたら、またお前は俺の水牢の中に逆戻りだぞ。人間との恋愛なんざ不可能で、結ばれることも許されない、自由とは程遠い生き方になる。それでもお前はいいってのか?」

 

 ポツリポツリと呟きながら、青年は鼻で笑い飛ばす。

 それが嫌なら思い出すな。忘れていれば力に制限はかかってしまうが、人として最期まで走り抜ける道を選ぶことができるようになるのだから。思い出すなら覚悟を持てと、音にすることはない忠告をのせて。

 だが、その忠告とは裏腹に、青年はさっさと思い出せと言う感情を荒波のように激らせる。

 そうすれば、自分という海神の檻に、再び閉じ込めることができるのだから。

 

「まぁ、もうしばらくはこの力は機能するし、こっちの力が効いている間にゆっくりと考えるといいさ。記憶に触れるも触れないも、全てお前の意思一つで決められる。だが、触れるという道を選んだ瞬間、お前は再び俺の手中へと収まることになるぜ?まぁ、俺自身はそっちの方がいいけどな。……さぁ、どれくらいの期間、お前は俺の海から逃げられるかな。」

 

 “逃がすつもりも毛頭もないが”……そんな呟きを最後に残し、青年は目の前で眠る少女の魂に口付ける。

 その姿を知るのは、この領域に響き渡る穏やかな濤声と、口付けをした当本人のみである。

 

 

 

 




 瑠風
 影に紛れて襲ってくる呪霊の罠にハマったが、爪が体を引き裂く前に、目の前で一瞬にして切り刻まれた呪霊にポカン。
 彼女を守らんと力を与えたなんらかの神格のせいだったようだが、靄がかかったように思い出せない。
 ただ一つ、どこか懐かしい濤声と、広い海原の匂いがしたことは理解できたし、落ち着く誰かの声が聞こえたのは確かだった。

 恵
 影に潜り込み人を襲う呪霊に瑠風が襲われて焦ったが、一瞬にしてその呪霊が消えてしまったためポカン。
 五条から聞かされた何かしらの神格が瑠風を守っているという言葉を聞いてますますポカンとした。

 五条先生
 瑠風と恵側に呪霊が一体出て来たことに気付いていたが、恵なら倒せるレベルだからと特級相手の方を優先し、無事“宿儺の指”の内の一本も回収して瑠風たちに合流した。
 薄々気付いてはいたが、合流した先であたりに残された呪霊の呪力の残滓でもなければ呪術師の呪力の残滓でもない、厄介な力の残滓を視たことにより、瑠風に強大な神格を持つ何者かが憑いていることに確信を持つ。
 六眼にて改めて瑠風を見た際、瑠風の内側にいる神格から睨まれたことには気付いており、結構冷や汗をかいていた。

 ????
 瑠風を守り、深く愛している存在であり、彼が過ごす領域にある海が示す通り、海にまつわる神格を持つ青年。
 かつては自身の大切な愛し子である瑠風に、自分以外の存在との恋愛など許さなかったし独占していた。
 魂に刻まれた過去の記憶を封じている張本人で、記憶を封じた理由は、そうすることで自分という神格からの支配を一時的に外し、彼女に自由という権利を与えるための気遣いだったのだが、この術が解けた場合、瑠風の魂は再び自身という水牢へと閉じ込められ、自由を奪うという縛りを使っているため、彼女が彼を思い出した時、彼女の魂の自由は完全に封じられ、この神格以外の存在に対して恋慕を向けることができなくなる。
 しかし、絶対に向けることができなくなるわけではないと言う話があるとかないとか。



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19.記憶のカケラ part Ⅱ.

 オリキャラ×主人公のターンです。


 呪霊が無限湧きしていたのは、廃村に残されていた“宿儺の指”のせいだった。

 封印が緩まっていたことと、そんなことを知らないで廃村に肝試しにやってきた人々の負の感情が、かなり集まっていたことで、あのような事態になっていたらしい。

 “宿儺の指”を見せながら、そう説明してくれた五条先生。彼は、しばらく“宿儺の指”がありそうな場所を探してみると私たちに告げ、この日の任務の終了を口にした。

 それを聞いた私は、そろそろ原作が始まるんだなと考えた。

 “宿儺の指”から始まる、一人の少年の地獄のような物語。

 その物語の中で、私はどんな立ち振る舞いをしたらいいのだろうか。

 ……廃村で私を助けてくれた神格の力を使いこなせるようになれるのだろうか。

 そんな不安に駆られながら、自身に割り当てられた自室にて眠りについた。

 

 程なくして聴こえて来たのは穏やかな濤声。

 部屋の中で眠っていたし、海が存在しているわけないから、これはきっと私の夢。

 

 でも、ただの夢ではないようだ。

 感じ取れるのはどこか懐かしい神格の気配。鼻腔をくすぐるのは海の匂い。

 頭を撫でてくるその手つきは優しくて、触れてくる温もりはとても温かい。

 夢はここまでハッキリとした感覚を感じない。だけど私は感じている。

 どこか、前見た夢と似たような……だけど、あの時間軸よりはかなり昔のような……そんな気がする。

 

『よぉ。目を覚ましたみたいだな。』

 

 不意に頭上から声が聞こえて来た。記憶の中の私は、その声に反応するように、ゆるりと体を起き上がらせる。

 どうやら眠っていたようだ。この記憶の中の私は。

 

『───。』

 

 音として聴こえない言葉が紡がれる。これもあの時によく似ている。記憶の中にいる誰かの名前を、口にすることができない状況に。

 

『お前の主神様がせっかく嵐海殿に連れて来てやったって言うのに、眠って相手にしてくれないとかひどくねぇか?』

 

『ごめん。ちょっと昨日夜更かししちゃって。』

 

『は?夜更かし?なんで夜更かししたんだお前?まさかとは思うが、俺以外の奴と……』

 

『ちょ、なんでそんな話になるのさ!?巫女の仕事をしていただけだよ!!』

 

『本当か?俺以外にうつつ抜かして浮気とかしたんじゃねぇのか?』

 

『そんなことできるわけないだろ。私は問題ないかもしれないけど確実に相手が死ぬし、そもそも私は──以外と夜を共にするつもりはないと何度も言っているじゃないか。』

 

 だけど、あの時の記憶とは全然違う。あの時の記憶は、相手の顔を認識できなかったのに、この記憶では、相手の顔も輪郭も、髪の色すらも把握できる。

 目の前にいるのはガタイのいい青年。たくましい筋肉を持ち合わせている、黒い髪を持つ男性だ。

 瞳の色は海の色。宝石に例えるならシーブルーカルセドニー。美しい鮮やかな蒼の瞳を持つ、()()()()()()()()

 ……あれ?

 なんで私はそこまで彼を認識できているんだろう……?

 

『まぁ、そうだけどよ。』

 

『心配性だね。大丈夫。本当にただ巫女としての仕事をしていただけだよ。なんせ、年末年始だからね。神々の領域に足を運び、言葉を交わすことが唯一許されている人間という立場にある分、無病息災や必勝祈願、他にも様々な祈願に引っ張り出されるから忙しいだけだよ。神々に近い分、私が祈祷すると効果がかなり出るらしいんだ。』

 

『まぁ、人間っつっても、ルカに名前を与えたのも、巫女っつー立場に座らせたのも全部俺だからな。お前には俺とほぼ同格の神性があるし、ついでに言うと俺の───だし、そりゃお前が起動したらかなりの効果が出るわな。』

 

『……ちょっと待って?神性諸々の話ははじめて聞いたんだけど?』

 

『はじめて言ったからな。』

 

『私人間だよね!?』

 

『ああ。人間だな。寿命とかは人間と全く同じだ。だが、魂に宿ってる神性はこの海神様と同格だぜ?』

 

『なんでさ!?』

 

『なんでって、当たり前だろ?お前は俺の巫女であり、俺の魂の──なんだからよ。まぁあれだ。俺みたいな海神に気に入られて捕まった時点でアウトって奴だ。』

 

『惚れられた時点でアウトってことか……!!』

 

『ご名答。ま、諦めて受け入れるんだな、何もかも。』

 

『すぐに受け入れ難い真実な気もするけどね!!』

 

 どこかの神社とは違う認識と状況に混乱しながらも、私は目の前で起こっている過去の自分と、神格を持つ青年のやり取りを眺める。

 ……人間だけど神性を持っていて、その神性は目の前にいる蒼眼の青年と同じもので、私は青年の──で……うん?──ってなんだっけ?

 

「へぇ、随分と懐かしいもん見てんじゃねぇか。」

 

「!?」

 

 引っ掛かりを覚える単語に首を傾げていると、背後から誰かに抱き寄せられた。

 驚いて声の方へと目を向けてみると、そこには記憶の中にいた青年と全く同じ青年の姿があった。

 

「いつの記憶だったか……ああ、そうだ。お前がまだ十六歳の時の大晦日の記憶だな。俺が暮らしてる神殿である嵐海殿に連れて行って、二人きりで年越しをしてやろうと思ってたのに、お前はグースカ寝やがって……クソ姉貴の目から離れたってのに夜伽もすることができなくて、そんでちょいと苛立ってた時だったな。」

 

 言葉を失って固まっていると、青年が目の前の記憶がいつ頃のものだったかを口にして、懐かしむように笑みを浮かべる。

 その姿をじっと見つめれば、彼は私の方へと目を向けて、穏やかな笑みを見せた。

 

「ルカ。これ以上記憶を眺めていたら、お前にかけといた記憶封じがぶっ壊れるぜ?そうなったら最後、お前はまた俺のところに戻ってくることになる。まぁ、お前の爪の先から頭のてっぺん、髪の毛一本から魂の全部まで元は俺のもんなわけだし、俺としては戻ってきてもらえる方がいいんだがな。ただ、今のお前は、俺の記憶を封じているから自由に過ごせてるようなもんで、俺を思い出したら最後、その自由は消え失せる。そう言う縛り。そう言う決まり。そう言う繋がりが俺たちにはあんだよ。」

 

 しかし、その穏やかな笑みはすぐに消え、真剣と言う言葉が当てはまる表情へと塗りつぶされる。

 

「……だからこれは一つの忠告。そして、一つの助言だ。人間としての当たり前の幸せを掴み、人間と言う枠組みの中での終わりを迎えたきゃ俺を思い出すな。多少能力の制限がかかるが、呪いを祓うだけの力を使うだけなら制限された能力でも十分いける。だが……もし、力を解放し、あらゆる生き物を救うために力を振るうと言うのなら、当たり前の幸せと当たり前の最後に別れを告げて俺を思い出せ。お前が持つ神性を取り戻しゃ、全員を助けることなんて容易くなるし、お前が使っていた武器も解放できる。」

 

 紡がれた言葉を脳裏で反芻する。

 人間としての当たり前の幸せと、人間としての当たり前の終わりを迎えたければ記憶を封じたままに放置しろ。

 当たり前を切り捨てる覚悟があるのであれば、記憶を全て思い出せ。

 ……なんとも難しい選択である。

 でも、みんなを助けると言う意味では、全てを思い出す必要があるのか……。

 

「別にすぐに決めないといけないわけじゃねぇよ。ただ、全ての力を取り戻すには、かなりのメリットとデメリットがあるってことを頭の片隅に入れときゃいい。」

 

 無言でどちらを選ぶべきか考えていると、穏やかな声で今決めなくてもいいと告げられる。

 考えるために外していた視線を青年の方へと向けてみれば、彼は小さく笑って私のことを見下ろした。

 

「力を取り戻したいと思ったなら、俺のことを考えろ。そうすれば自然と俺の生得領域にお前は導かれる。ついでに、前思い出したであろう邪魔臭ぇ狐野郎も呼んでやるからよ。だが、俺のところにやって来て、記憶と力を解放した場合、お前はまた俺から逃げられなくなるぜ。体を交えることができるのも、睦ごとを囁けんのも、全部俺だけになる。つまり、俺以外の奴と恋愛なんてできなくなるし、子を成すこともできなくなるってわけだ。まぁ、俺が納得できる野郎となら、多少なりとも許してやらなくもないが、基本は俺優先になるってわけだな。……よーく考えてから俺のところに来いよ。」

 

 青年の大きな手が私の両目を覆う。それに従うように目を閉じれば、意識が少しずつ遠くなっていくことに気づいた。

 あの時と一緒。かの霊獣との記憶(・・・・・・・・)を思い出した時と同じだ。

 でも、どうしてだろう?現実で目を覚ましたとしても、この夢だけは、この逢瀬だけは、忘れていないような気がする。

 

「そろそろ起きる時間だろ?なら、このまま現実で目を覚ませ。六眼持ちのガキンチョが、何かしらの知らせを持ってくるだろうしな。」

 

 六眼持ちのガキンチョ……って、どう考えても五条先生なんですがそれは……。

 ていうか、あの人をガキンチョ呼ばわりってなんだ。

 

「まぁ、神代の頃から生きてるんでね。俺にとっちゃ、人間は全員ガキンチョなんだよ。ああ、だがルカのことはガキンチョ扱いしないぜ?お前は俺の大切な女。俺が唯一特別と見る愛し子だ。だから、自分もガキンチョだとか言う勘違いだけはすんじゃねぇぞ。」

 

 人の心を読むなし。

 言葉を発していないのにスラスラとこっちが聞きたい答えを口にしてさ。助かると言えば助かるけど、なんかちょっと解せない。

 そんなことを考えていると、それも読んだのか青年はくつくつと喉を鳴らすような笑い声を漏らした。

 

「なぁ、ルカ。」

 

 ちょっと不服だと思いながら、意識を手放そうとしていると、穏やかな声で名前を呼ばれる。

 同時に両目を覆っていた手が離れ、再び世界が視界に入る。

 気のせいだろうか?先程まで見えていた記憶の景色とは全く違う景色が辺りに広がっているような……。

 そんなことを考えていると、ふわりと体が傾いた。

 背中から地面へと倒れていき、柔らかい布の上に倒れ込むことで体は静止する。

 見えるのは木造りの天井と、私の大切な主神様。

 

「お前をここで待っている。だから、できれば俺を思い出す選択を選んでほしい。だが、それじゃあ幸せになれないと思うなら、俺を忘れて今生を謳歌してくれ。」

 

 どことなく寂しげな笑みを浮かべながら、穏やかな声で言葉を紡ぐ彼の姿を見て、私は無意識のうちにその手を伸ばしていた。

 触れたのは彼の滑らかな頬。相変わらず彼は暖かい。

 私が手を伸ばしたことに驚いたのか、彼は一瞬目を丸くした。

 しかし、すぐに小さく笑い、再び私の両目を片手で覆う。

 

「おやすみ、俺のただ一人の愛し子。俺はお前を見守っている。お前のことを求めてはいるが、お前の幸せも願っている。まぁ、お前を世界で一番幸せにできんのは間違いなく俺だろうがな。」

 

 自信満々に告げられた言葉に、思わず小さな笑い声を漏らす。

 彼の名前は思い出せないけど、主神としてではなく、ルカ(・・)と言う一個人として、私も彼を大切にしていたことだけは記憶にあるから、とても懐かしいと思ってしまった。

 

「ありがとう。うん、いざと言う時は君の元へと足を運ぶよ。その時が来たらお願いするね、私の主神様。」

 

「ああ。」

 

 短い会話を最後に交わし、私はこちらの意識を手放す。

 その際に感じ取れたのは、彼の唇の温もりだった。

 

 

 ࿐·˖✶࿐·˖✶࿐·˖✶࿐·˖✶࿐·˖✶࿐·˖✶࿐·˖✶

 

 

「……スター……マス……ー……マスター。マスター。起きてください、マスター。」

 

「ん……」

 

 不意に聞こえて来た声に目を覚ます。

 静かに瞼を開けてみれば、そこにはコヤンスカヤの姿があった。

 どことなく表情は嫌悪というか、うげぇ……とでも言いたげな表情が浮かんでいる。

 

「どうかしたのかな、コヤンスカヤ?」

 

「どうしたもこうしたもありません。なんて気配をさせてるんですか?明らかに神格の気配なのですが?」

 

「ああ……多分……いや、きっと夢を見たせいだろうね。まぁ、夢と称するには、あまりにも形がありすぎるのだけど。」

 

「……マスター?あなた、そのような話し方をされていましたか?」

 

「うん?ああ……これかな?まぁ、ちょっといくつか思い出してしまったものがあってね。少しばかり、こっちにも影響が出たみたいだ。」

 

「……どうやら、夢の中で彼に出会したようですねぇ。」

 

「うん。」

 

「ですが、完全に思い出してはないみたいですね。」

 

「そうだね。思い出してしまったら、確かな力を得る代わりに、いくつか縛りができてしまうから、まだ思い出していないよ。まぁ、忘れていたら忘れていたで、別の縛りと抑制が入ってしまうのだけど。」

 

「でしょうね。……思い出さない選択を選ぶのですか?」

 

「今のところは。」

 

「はい?」

 

 コヤンスカヤに明確な疑問と言う感情が現れる。

 今のところはとはいったいどう言う意味ですか?って聞きたいんだろうな。

 そんなことを思いながら、私は静かに言葉を紡ぐ。

 

「今はまだ、記憶を取り戻したりはしない。明確に必要なタイミングが出てくるまでは封じておくつもりだよ。まぁ、なんとなく近い将来必要になりそうな予感はあるけどね。」

 

 小さく笑いながらそう答えれば、コヤンスカヤはしばらく私を見つめたのち、そうですかと小さく呟く。

 

「……この話は終わりにしようか。ところで、なんか私に用事があったんじゃないの?」

 

「ええ。確かに用事はあります。あなたからかの神格の気配を強く感じたので、思わず忘れておりました。五条さんからお話があるようですよ。指でも見つかりましたか?と聞いたところ、そんなにすぐ見つかるわけないよと返されたので、別件か、これからのことについてのお話があるのではないかと思われます。」

 

「そっか。わかった。すぐ行くよ。」

 

 とりあえずコヤンスカヤから話しかけて来ていた用件を聞いた私は、すぐにその場で寝巻きから制服へと着替える。

 そう言えば、太歳星君とアビゲイルがいないような?

 

「太歳神とアビゲイルさんなら、マスターが目覚める前に部屋から出ていかれましたよ?マスターが夢を見ている時に、とてつもなく大きな神格……さらに言うと、陰陽で示すところの陽……荒御魂と英雄神の側面を持つ、大海原の神格の強大な力が全体的にマスターを覆っていたので、息苦しさを感じたのではないかと思われます。悪性持ちからしたら、マスターが本来持ち得る能力は、少々居心地悪く感じてしまうので。」

 

「おっふ……そっか。お高めのお菓子か、好きなお菓子を買ってお詫びしないといけないね。」

 

「それがよろしいかと。あ、(わたくし)はケーキと高級紅茶で手を打ちましょう。こちらもかなり不快感MAXでしたしね。もちろん、買ってくださいますよねぇ?」

 

「あはは……了解……」

 

 苦笑いをこぼしながら、コヤンスカヤの交渉を受け入れる。

 かなり高い奴買わされそうだけど……まぁ、なんとかなるかな。父さんからおかしな量のお小遣いもらってるし。

 そんなことを思いながら鏡の前に座れば、コヤンスカヤがすぐに私の背後に回って来た。

 

「ん?」

 

「たまには気分転換に髪型を変えたらどうかと思いまして。少々櫛とシュシュをお借りしますわ。」

 

「え、あ、はい。」

 

 不思議に思いながら眺めていると、私の手元からシュシュと櫛を取り上げて、こちらの髪を弄り始めるコヤンスカヤ。

 髪質としては(わたくし)と同じのようですねぇ……とかぶつぶつ言いながら手際よくヘアアレンジを施してくる彼女の姿を鏡で眺めながら、私は大人しくその場に座る。

 ……さて、五条先生からの話とはなんなのやら。

 

 

 




 瑠風
 再び自身の記憶を夢で辿っていた異世界からの訪問者。
 しかし、今回は前の夢とは違い、はっきりと何を見ていたか覚えたまま目を覚ました。
 夢の中で出会した黒にも近い濃紺の髪を持つ海神 ──── の ── という立場にあり、同時に海神 ──── の巫女としてかつては別の世界で過ごし、最後を迎えた。
 海神 ──── に名を与えられ、魂の結びつきを持ち、同時に惹かれ合う体質を持ち合わせているのだが、海神 ──── との記憶をもうしばらく封じておく道を選び、人間としての当たり前をまだ手放していない。
 だが、いずれはそれを手放すつもりらしく、時が来たら海神 ──── の領域へと足を運ぶつもりでいる。

 ????
 かつての瑠風に名を与え、自身の巫女、および ── として自身の手元に置くことにした海神の一柱。
 例え瑠風が自身との記憶を忘れていても、彼が抱く彼女を愛する気持ちは変わっておらず、彼女を手に入れるためなら強制的に思い出させることも厭わない。
 だが、彼自身は瑠風の意思を尊重することを信条としているため、まだ思い出さない、まだこのままでいると望む彼女の好きなようにさせている。
 しかし、彼女が危うくなったり、悲しむようであれば、その信条を捻じ曲げることに躊躇いはない。

 闇のコヤンスカヤ
 瑠風から海神の神格と同格の神性を感じ取り、表情をかなり歪めていたが、ちゃんと秘書として働いていたフォーリナー。
 瑠風の中にいる神格が何者か理解しているが、彼女が気づくまでは黙っているつもりである。
 瑠風がお休み中、休憩を挟みながらも仕事をこなし、高専関係者からの瑠風への言伝等を引き受けては伝える作業を行う。

 太歳星君&アビゲイル
 名前だけしか出ていなかった二人組。実は瑠風から溢れ出た海神 ──── の神性を感じ取り、居心地が悪くなって離れていた。
 このあと、瑠風からとびきり美味しいパフェを食べることができるお店に連れて行ってもらったことにより機嫌を治す。




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始動、呪いの物語
20.物語の始まり


 五条先生からされた話は、これからも恵くんと一緒に行動を取り、任務にあたれと言う話だった。

 どうやら、今回の初任務でどれだけ私が動けるか分析した結果らしく、これなら恵くんと一緒に任務に当たっても十分動けると思ったようだ。

 私としては願ってもないこと。これで、本格的に原作に介入することができるし、救済行動も取ることができる。

 ちなみに、五条先生曰く、上層部に私の術式のことは話したとのことだ。

 なんでも、あまりにも新しく入った呪術師の力が不明瞭だから、話せ。さもないとその呪術師の入学、及び活動を許可しないと言われたらしい。

 脅してくるとかマジないよねー、本当、さっさとくたばってくれないかなあの年寄りたち……と吐き捨てていた様子から、相当なストレスとなったようだ。

 

 で、まぁ、とりあえず五条先生は私の術式を召来霊術(しょうらいれいじゅつ)と仮称し、自身の呪力を媒体にして、式神に近い存在を召喚し、使役することができる術式だと教えたらしい。

 それを聞いた上層部は、未知数な能力であることに変わりはないため、かなり微妙な反応をしていたようだが、必ず呪術師として正しい道へと歩ませることや、もしもの時は自分が責任を持って終わらせることとを条件として出して折れてもらったようだ。

 まぁ、呪術師最強の男にそうまで言われたら、向こうも黙るしかないと言うことだろう。

 上は最強をあまり敵に回したくないだろうしね。

 

 さて、これまでの出来事の説明はこれくらいだろうか。いったい誰に説明していたのかはわからないけど、とりあえず大まかな内容はわかったと思う。

 では、ここからが本題だ。まぁ、本題と言っても、今の私の状況についての話なんだけどね。

 

 これまで私は、恵くんと一緒に行動を取りながら、いろんな任務に当たっていた。

 相変わらず戦うのはサーヴァントばかりではあるけど、それでも着々と任務をこなしていき、ある程度は好き勝手できるようになった頃。

 私は、恵くんと一緒に呪術高専から離れた場所、宮城県へと足を運んでいた。

 そう。宮城県である。ついでに言うと、いる場所は杉沢第三高校で、月は六月。

 ここまで言えば、多くの人が気づくだろう。【呪術廻戦の原作が開始した】のだと!!

 そう、とうとう開始してしまったのである。あの物語が。

 

 杉沢第三高校にいる理由は、言わずもがな“宿儺の指”の回収のため。

 五条先生が色々調べたところ、ここに20本のうち一本が置かれていると言う話が浮上したわけだ。

 もちろん、私はワクワクした。今まで紙越しでしか見ることがなかった物語の世界に私はおりたち、そして歩んでいるのだと。

 不謹慎だから、ニヤニヤするのはなんとか我慢したけど、ようやく訪れた原作開始の合図に、内心かなりテンションが上がっていた。

 で、まぁ、今は恵くんと一緒に、杉沢第三高校へと足を運んでいるわけだけど……

 

「百葉箱!?そんな所に特級呪物保管すぎるとか馬鹿過ぎるでしょ。」

 

〔アハハ。でも、おかげで回収も楽でしょ?〕

 

「確かに楽かもしれませんが、その代償に呆れと言う感情に苛まれてるんですけど。雑な保管は身を滅ぼしてしまいます。下手したらかなりの被害者が出るでしょう?」

 

〔それは言えてるね。〕

 

 ま、案の定“宿儺の指”は百葉箱に雑に保管されているわけで……。この流れからすると、原作通りオカ研に持って行かれているだろうね。

 

「セイ。何か感じ取れるものはある?」

 

「うーん……すくすくの指の気配を一つ見つけるのは難しいなー……。なーんか、呪いの気配がここら辺全体に広がってるせいで、正確な位置がわからないのだ。」

 

 そんなことを思いながら、念のためにと太歳星君に“宿儺の指”の気配は感じ取れないか問いかける。

 が、原作の恵くんが言っていた通り、呪いの気配があまりにも大き過ぎて判断し辛いようだ。

 そっか……と小さく呟いて恵くんに目を向ける。

 私の視線に気づいた恵くんは、こちらの視線の意味を汲み取ることができたようで、首を左右に振って、わからないことを伝えてくる。

 既に拾われているのか拾われていないのか、それを確かめるために一応声をかけたんだけど、やっぱりダメかー……。

 

「これだけ呪いの気配が大きいと、移動している可能性を確かめることもできないね……。」

 

「ああ。廃村の時は、指を取り込んだ呪霊がいたし、五条先生の能力もあってすぐに見つけることができたが……」

 

「とりあえず、百葉箱をまずは確認するべきかな。拾われていなければそれでいいし。」

 

「だな。」

 

 恵くんのスマホをスピーカー状態のままにして、私たちは一斉に走り出す。

 百葉箱の位置は既に把握できていたから、しばらく走ればすぐに辿り着くことができた。

 

「前の私だったら絶対恵くんについていけずにバテてたな。」

 

「二年生と五条先生に体術とか教えてもらったおかげだろうな。」

 

〔うんうん、瑠風がしっかりと成長してくれて僕も鼻が高いよ。〕

 

「そうですか。」

 

〔あれ、反応が薄い……〕

 

「とりあえず、百葉箱見つけたんで、中を確かめます。」

 

〔恵もなんかちょっと冷たくない……?まぁ、今はいいか……。頼んだよ〜。〕

 

 恵くんが百葉箱の取手に触れ、すぐにその扉を開く。本来ならば、そこにあるはずの“宿儺の指”。

 だが、原作通りそこはもぬけの殻であり、呪物と思わしき物が入ってる入れ物一つ見当たらない。

 あるのは特級の残穢のみ。うん、持って行ったなオカ研。

 

「……ないですよ。」

 

〔え?〕

 

「現在恵くんと一緒に百葉箱の中を覗いているのですが、特級の呪力の残穢のみが残っており、百葉箱自体はもぬけの殻です。」

 

〔マジで?ウケるね(笑)〕

 

「笑い事じゃないんですけど?」

 

「ぶん殴りますよ……」

 

〔二人とも、それ回収するまで帰ってきちゃ駄目だから。〕

 

「「は?」」

 

 やっぱり持っていかれるんかいと呆れ返りながら五条先生の言動にツッコミを入れる。

 しかし、“宿儺の指”を回収するまでは東京に帰ってきたら駄目だと言ったあと、ブツンと容赦なく切られた通話により、辺りには静寂が訪れた。

 

「………なぁ、瑠風。」

 

「何?」

 

「今度マジで五条先生を殴らないか?瑠風の能力ならできるだろ?」

 

「ああ、無下限強制剥奪コインヘン?」

 

「コインヘンが何かまでは知らないが、五条先生のあれ、解除できるんだろ?」

 

「できるね。」

 

「……殴らないか?」

 

「躱される可能性はあるかもしれないけどやってみようか。」

 

「ああ、やろう。」

 

 とりあえず、恵くんがかなりマッハでストレスゲージを溜めているようなので、五条先生を今度殴ろうと言う提案に乗っておく。

 躱されるかもしれないけど、その時はその時でいつものようにお菓子とお茶をご馳走して愚痴を聞こう。

 五条先生にはお菓子抜きにして。多分ダメージ入るだろうし。

 二年生組と恵くんと私で帰ったらティーパーティーだ。

 

「……探すか。」

 

「だね。でも、こうまで呪いが広がっていると見つけるまで時間がかかりそうだよ。」

 

「なぁ、瑠風が呼べるサーヴァントって、太歳星君とコヤンスカヤとアビゲイルの三騎だけなのか?」

 

「……うーん……どうだろう。今のところ呼べるのはこの三騎だけど、何かしらの条件を満たせば、他のサーヴァントも呼べると思うんだけど。」

 

「そうか。太歳星君は知らないのか?」

 

「んー……ごめんなめぐめぐ、るかるか。ワガハイ、るかるかの能力は詳しくわからないのだ……。あの狐やアビアビなら何か知ってるかもしれないんだけど……」

 

「……教えてくれなさそうだよなぁ…………。」

 

 うーん……と考えながら、早く“宿儺の指”を見つけ出すための方法を考える。

 こんな時、気配を辿ることを得意としているサーヴァントが呼べたらいいんだけど、呼べるかどうかわからないんだよな。

 新宿のアヴェンジャーとか呼べないかな……。残穢辿れそうなんだけど……。

 

「………おい、瑠風。」

 

「ん?」

 

「後ろ……」

 

「はい?後r……うおわぁ!?」

 

 どうしたもんかと首を傾げていると、恵くんが声をかけてきた。

 後ろに何かあるのかと思い振り向いてみると、そこには今しがた考えていた新宿のアヴェンジャーの姿があり、思わず驚いてしまう。

 

「ガウッ」

 

「………」

 

 グルルルという唸り声を漏らす新宿のアヴェンジャーとどうしたの?と言ってるような雰囲気を持つその上の人。

 新宿のアヴェンジャーからは敵意を感じない。ガウッと一声吠えるだけ。

 その鳴き声は、まるでさっさと用件を言えと催促しているようだった。

 

「……協力してくれるの?アヴェンジャー。」

 

「─────………」

 

「……!」

 

 念のため確認するように、協力してくれるのかと問いかければ、フンッとアヴェンジャーは短く鼻息を漏らした。

 同時に上の人がジェスチャーでその通りだと肯定してくれたので、思わず小さく笑みを浮かべた。

 

「瑠風?」

 

「……どうやら、他にもサーヴァントは呼べるみたいだね。彼らが特別に協力してくれるみたい。手伝ってもらおう。」

 

「……ああ!」

 

 恵くんに新宿のアヴェンジャーが特別に協力をしてくれるらしいことを伝えれば、彼は、助かると笑いながら、新宿のアヴェンジャーに目を向ける。

 そんな恵くんから新宿のアヴェンジャーは目を逸らし、さっさと指示を寄越せとばかりに尻尾で叩かれた。地味に痛い。

 

「本来なら、百葉箱の中にあるはずの特級呪物が無くなっててね。誰かが移動させたと思うんだ。人間の匂いで気分が悪くなるかもしれないけど、ごめん。探してくれるかな?多分、呪物の残穢だけじゃ辿りきれないと思うから。」

 

「………。」

 

 とはいえ、新宿のアヴェンジャーの気が変わって協力してもらえなくなるのは少し困るので、協力してくれる気力があるうちにやることを済ませようと考えて指示を出す。

 すると、遅いと言うかのように鼻息を漏らしたのち、開いている百葉箱の中に鼻先を近づけた。

 残り香を覚えるように嗅ぎ始める新宿のアヴェンジャーをじっと見つめていると、静かにこちらを振り向いてきた。

 

「行ける?」

 

「─────……!」

 

 誰に物を言っていると言わんばかりの咆哮が辺りに響く。呪霊の状態であるため、非術師たちには聴こえない声。

 だが、呪力を持ち、呪霊を視ることができる私と恵くん、そして、私が召喚している太歳星君には、大迫力のそれが聴こえていた。

 

「わはー!アヴェアヴェやる気満々なのだー!」

 

「……瑠風……こいつは?」

 

「……そうだね。とある物語に出ていた復讐者とだけ言っとくよ。」

 

 にこにこ笑顔の太歳星君と、冷や汗ダラダラの恵くん。対照的な反応を見せる二人を眺めながら、恵くんの質問に答えれば、獣の姿を持つ、復讐に燃える存在ってなんだっけ?と首を傾げた。

 だが、不意に新宿のアヴェンジャーが動き出したことに気づくなり、すぐに頭を切り替える。

 

「見つかったみたいだね。案内を頼むよ。」

 

「ガウッ」

 

 一声短く吼えるなり足を進め始めるアヴェンジャー。

 その後ろに続くようにして、私たちは杉沢第三高校の敷地内を捜索するのだった。

 

 

 




 瑠風
 原作に突入したことに大興奮した異世界からの訪問者。
 だが、原作通りに百葉箱がもぬけの殻になっていたり、五条先生のめちゃくちゃな発言に対して怒りを覚えたりして、いずれ恵と一緒に五条悟ぶん殴り計画を行うことを決意する。
 五条先生のおかげで、とりあえず自身の術式に名がつく。
 【召来霊術(仮)】
 瑠風の生得術式で、FGOに出演するサーヴァントを召喚することができる術式。
 とりあえずは式神を呼び出して戦うと五条先生は上層部に説明した。
 未知数の能力ではあるが、どうやら脳裏に浮かべたサーヴァントをいくつかの条件を満たすことで召喚できる模様。
 しかし、瑠風はその条件をまだ理解していない。


 太歳星君
 瑠風と恵の二人と一緒に“宿儺の指”回収の任務につく瑠風のメインサーヴァント。
 新宿のアヴェンジャーがやる気に満ちている様子から、自分も頑張るぞ!と考える。


 新宿のアヴェンジャー
 巨大な狼と首無しの幽鬼という異色の組み合わせの復讐者。瑠風が脳裏に彼を浮かべた結果召喚された。
 人間は嫌いだが、繋がりが強い瑠風の指示はちゃんと聞くし、自身のマスターである以上、協力はする。
 必要な時に呼ばれ、それ以外の時は呼ばれないシステムは気に入っているし、どうでもいい存在ではあるが、マスターとサーヴァントらしく、マスターのことは守るつもりではある。
 気分によっては召喚に応じないが、まぁ、この人間なら理由もわかるだろうと考えている。


 恵
 瑠風が頭を悩ませていると、いきなり背後に現れた新宿のアヴェンジャーにかなりびっくりしていた二級呪術師。
 のちに新宿のアヴェンジャーの咆哮を聞き冷や汗を流したが、協力してくれるのは助かると思っている。
 ある物語に出てきた復讐者という紹介を聞き、どれだ?としばらく考え込んだ。


 五条先生
 特級呪物が行方不明という言葉に口ではウケると言い、見つけるまで東京に帰ってきたら駄目だという指示をしつつ、動く準備を始めている呪術師最強の男。
 新宿のアヴェンジャーが咆哮した時、県外にいるにも関わらず、ピリリとした張り詰めた空気を一瞬感じ取り、瑠風が何か召喚したな?とすぐに認識していた。



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21.“宿儺の指”を求めて

 自身の術式(仮)を使用することで呼び出すことができた新宿のアヴェンジャー。

 私と恵くんは、百葉箱の中や付近に残っていた残り香をたどりながら、杉沢第三高校の敷地内を歩き回る彼らの後を追いながら、“宿儺の指”を探す。

 そんな中、不意に新宿のアヴェンジャーが足を止め、上の方を向いた。

 釣られて姿勢を動かしてみると、そこには呻き声を上げて校舎を眺める呪霊が一匹、ポールの上に存在していた。

 

「なんだこのラグビー場……?」

 

「死体でも埋まってるのかな?あれ、どう見ても二級レベルの呪だけど……。」

 

「ガウッ」

 

「………!」

 

「ふんふん……。るかるかー。めぐめぐー。アヴェアヴェとなしなしは、この広いところには人の匂いはしないっていってるぞー?」

 

「じゃあ埋まってないのかな?」

 

「ってことは、“宿儺の指”の影響か?」

 

「かもしれないね……。」

 

 死体が埋まっていたら大事件だったから、実際になくてよかったな……なんてことを思いながら、私は新宿のアヴェンジャーに目を向ける。

 あれは殺さなくていいのかと言う視線を彼から向けられた。

 うーん……まぁ、別にやってもいいとは思うけど、これは祓うべきなんだろうか?

 

「瑠風。」

 

「ん?」

 

「さっさと回収しに行くぞ。」

 

「え?あの上のやつ放置して大丈夫?」

 

「ああ。ひとまずは後回しだ。確かに、二人でやれば祓えないことはないと思うが、余裕で祓えるとは限らない。だから、まずは先に呪物を回収し、安全を確保したあとでアレを祓う。」

 

「ん〜……まぁ、理にはかなってるか……。了解。ってことで、アヴェンジャー。引き続き捜索を頼めるかな?」

 

「ガウッ」

 

 狩ってくれとお願いするか否か考えていると、恵くんがまずは呪物を最優先することを告げられる。

 特級呪物を回収したあと、呪いを祓う方が安全だと。

 確かに理にかなっている理由だ。そう思った私は、新宿のアヴェンジャーに捜索を続けることを告げた。

 なんだ殺さないのかとどこかつまらなさそうな反応をされたような気がするけど、とりあえずスルーしておこう。

 

「このまま捜索して見つからない……ってことはないと思うけど、万が一そうなったらどうする?」

 

「そうだな……いざと言う時はあまり気が進まないが、一度学校を閉鎖し、呪いを祓った後で隅々まで探すしかないかもな。」

 

「めんどくさいな……」

 

「仕方ないだろ?」

 

 小さく溜め息を吐きながら、私も六眼が欲しいわホント……なんて少しだけ内心で愚痴る。

 あれがあれば”宿儺の指”の呪力とか辿れそうなのに……。でも、術式の名前からして、多分サーヴァントの力しか一時的な付与もできないんだろうなぁ……悲しみ。

 

「こっちだこっち!」

 

「早くしろ!」

 

「陸部の高木と西中の虎杖が勝負すんだよ!」

 

「種目は!?」

 

「砲丸投げ!」

 

「!!?」

 

 そんなことを考えながら足を進めていると、賑やかな生徒たちの声と、虎杖という言葉が聞こえてくる。

 それを聞いた私は、慌てて持ち歩いていた帽子(なぜか猫耳がついてる五条先生カスタマイズ)を目深に被る。

 

「……どうした?」

 

「……私、中学までは宮城の仙台……つまり、この地域に住んでたんだよ。でも、親の仕事の都合から、高校からは東京に行って生活してたんだ。さっき、虎杖って言葉が聞こえていただろう?実は彼、同中出身なんだよね………。」

 

「……マジか。」

 

「うん。だから、ちょっと顔は見られたくないかなって。仲よかったんだけど、ほら、一般の人に呪術師のことを話したくないし、巻き込みたくないからさ。それに、急に呪いの話とかして、頭おかしいやつとか思われたくない。まぁ、虎杖くんはそんなこと言わないだろうけど、彼以外の知り合いとかだったらあり得るから。」

 

「なるほどな。……つか、なんで猫耳なんだ?」

 

「知らん。五条先生に渡された。もうちょっと普通の帽子がよかったわ……。」

 

「……あの人はまた……。でも、もらったからって素直に被らなくてもよかったんじゃないか?」

 

「流石に贈り物は無碍にできない。」

 

「律儀だな。」

 

 目深に被っていても確認できる外の景色。

 それと一緒に見える恵くんから、呆れと同情の視線を向けられている。

 

「14m!」

 

「スゲー高木。全然現役じゃねーか!どーする虎杖!」

 

 やっぱりもらっても律儀に使わなくてもよかったのだろうかと思いながら、周りの様子を眺めていると、かなりの生徒が盛り上がっていることがよくわかる。

 よく見るとヒソヒソと話しているガタイのいい男子とメガネをかけてる女子がいるな。

 あの二人が悠仁の先輩たちか。

 そんな二人が向けている視線の先には、砲丸投げに使う砲丸を持ち、陸上部の顧問である男性に話しかけている悠仁の姿がある。

 原作通りならば、なげ方について聞いているのだろう。

 

 顔を見られたくないと言う気持ち半分と、原作のシーンに立ち会っていることに対する嬉しさ半分で、悠仁の動向を眺めていれば、彼は原作通り手にしていた砲丸をピッチャー投げで投げ飛ばす。

 投げ飛ばされた砲丸は、真っ直ぐと砲丸投げのフィールドを越し、そのままサッカーゴールのポールをひん曲げた。

 ……悠仁ってフィジカルゴリラだったかな?違うよね?

 

「なぁ、瑠風。」

 

「何かな?」

 

「あの虎杖って奴、知り合いなんだよな?」

 

「うん。一応友達だったね。」

 

「中学の時からあんなだったのか?」

 

「まぁ……身体能力はおかしかったかな。呪力は見ての通りないはずなんだけど。」

 

「素の力であれか。禪院先輩と同じタイプかな……。……って見てる場合じゃなかったな。」

 

 恵くんが悠仁の身体能力を見て、呆気に取られたような表情をする。

 しかし、すぐに頭を切り替えて、早く“宿儺の指”を探すぞと促すように肩を叩き、校舎の方を指差す。

 でも、私はすぐに校舎に行こうとする恵くんのことを静止した。

 恵くんが不思議そうな表情で私を見てくる。なんで行かないんだと言いたげだ。

 私はすぐに新宿のアヴェンジャーに目を向ける。そこには、真っ直ぐと悠仁を見つめている彼の姿があった。

 

「見つけた。百葉箱の中にあった呪物を拾った張本人。」

 

「!?」

 

 私がポツリと言葉を口にした瞬間、恵くんが慌てて悠仁の方へと目を向ける。

 しかし、恵くんが声をかける前に、悠仁が私たちのすぐ横を走り抜ける、正門の方へと走り過ぎていく。

 その際、感じたピリリとした気配は、紛れもなく廃村で感じ取ることができたものと同じものだった。

 

 さて、どうしたものか……。

 原作通り悠仁と合流して、原作通りに物語を進めるか……それとも何かしらの理由を取っ付けて二手に分かれて被害を最小に抑えるか……。

 

「─────……」

 

「…………。」

 

「ん?どうしたの?アヴェンジャー。」

 

「─────……」

 

 ぐるぐると思考を回していると、新宿のアヴェンジャーが校舎を見つめながら唸り声を漏らす。

 明らかに何か警戒しているみたいだけど……いや……待てよ?これ使えるかも?

 

「瑠風!さっきの虎杖って奴を追いかけるぞ!」

 

「待って、恵くん。アヴェンジャーが校舎を警戒してる。」

 

「!?」

 

 早く悠仁を追おうと話しかけてくる恵くんに、アヴェンジャーが警戒していることを告げれば、彼は目を丸くして固まった。

 しかし、すぐに慌てて校舎に目を向け、そして静かに首を傾げた。

 

「何も感じないが……」

 

「恵くん。アヴェンジャーは見ての通り狼だ。憎悪に染まり切っているとはいえ、生存本能に長けていた存在。私たちなんかよりも何倍も感覚が優れている存在が警戒心を露わにしていると言うことは、何か起こる可能性が高い……そう考えることができるんじゃない?」

 

「でも……“宿儺の指”はどうするんだ?」

 

「うん。そこで提案なんだけど、ここは二手に分かれて行動を取るのがいいんじゃないかな?」

 

「二手に……」

 

「そ。片方が学校にこのまま残って警戒して、片方が指を回収する。それが手っ取り早いと思うんだよね。」

 

「……じゃあ、俺がここに残……」

 

「いや、恵くんは虎杖くんを追って。こっちは私が受け持つよ。ほら、私ってば特級レベルの存在を三騎一気に呼べるから、戦力はかなりあるでしょ?二騎はとりあえず自由に校舎内を駆けてもらって、一騎は私の側で一緒に行動をすれば安全確保もできるから、多分、私が残る方が効率的にはいいと思うんだ。」

 

「………わかった。でも無理はすんなよ。」

 

「大丈夫。いざと言う時はサーヴァントに抱えてもらって脱出するからさ。」

 

「……絶対だからな。」

 

 私の説得に渋々頷いた恵くん。

 彼はすぐにその場で玉犬を出現させ、悠仁が持っていった“宿儺の指”の残穢がべったりついたケースの跡を追わせ、その場から離脱した。

 それを確認した私は、猫耳帽子を被り直し、警戒心を露わにしている新宿のアヴェンジャーの横に並ぶ。

 

「さて……試したいことがあるし、それも兼ねて警備しますか。夜になったら呪霊が湧くだろうし、次々とそれを消していこう。」

 

「ガウッ!」

 

「………!」

 

「りょっか!さぁ、やるやるやるぞー!!」

 

 二騎のサーヴァントに挟まれながら、私は目の前の校舎を見つめて小さく笑う。

 今のうちに祓えるものは祓って、原作のイベントが発生したら、一気にお掃除を開始しますか。

 

 

 

 




 瑠風
 恵と一緒に“宿儺の指”を捜索していた三級呪術師。
 原作知識、および新宿のアヴェンジャーの警戒態勢に乗る形で、恵と二手に分かれた。
 なぜか猫耳帽子を五条先生から渡されたので、とりあえず自身の素性を隠すことに。
 学校側に残った理由は、試したいことが一つあるから。

 太歳星君
 瑠風のサーヴァントとして、学校側に残ってやる気満々な祟り神。
 新宿のアヴェンジャーはアヴェアヴェと呼び、上の人は首無しという理由からナシナシと呼んでいる。
 呪霊がたくさん出てきても大丈夫!ワガハイが全部祟ってみせよう!!

 新宿のアヴェンジャー
 校舎側で何か起こることを本能的に察知した復讐の狼。
 呪霊が大量発生した場合、その全てを噛み砕き滅ぼしてやろうと考えている。
 勢い余って人を殺してしまいそうな雰囲気はあるが、瑠風がいる以上優先順位は呪霊>人気味。
 たまには体を動かしたいと思っていたので、呪霊が現れたらもれなく殺されます。

 伏黒
 瑠風の言葉により、渋々悠仁を追うことを選んだ二級呪術師。
 自分より瑠風の方が戦力があり、なおかつ同時使役可能数が負けていることも理解しているが、それはそれとして呪術師になって間もない瑠風を(サーヴァントがいるてはいえ)一人で学校に残したくはなかった。
 なるべく早く彼女と合流できるように、急いで悠仁を追う。

 虎杖悠仁
 ようやく出てきた原作の主人公。
 原作通りオカ研に入り、原作通り陸部の高木と勝負して勝利した。
 友人である瑠風が杉沢第三高校にいることには気づいていなかったが、猫耳帽子を被ってる謎の女子(瑠風)を見て、一瞬だけどっかで会ったような?気のせい?となっていた。




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22.試してみたいこと

 恵くんと別れ、杉沢第三高校に残った私は、太歳星君の手を借りて、校舎の屋上へと移動していた。

 警備をするためと、あることを試すために。

 

「るかるか。今から何をするのだ?」

 

「さっき、試したいことがあるって言ったでしょ。それを試してみようと思ってね。」

 

 太歳星君が首を傾げる中、私は、自身が試したいことを試すために、すかさずその場で自身の術式を発動させる。

 脳裏に浮かべるのは自分のカルデアにいたサーヴァントたち。この場にいる太歳星君と、新宿のアヴェンジャー以外の存在。

 自分のカルデアにいるサーヴァントの記憶はちゃんとあるからね。お世話になっていたサーヴァントも全て。

 まぁ、何らかの条件を満たしていようとも、来てくれなさそうなのもいるんだけどさ。

 なんてことを考えていると、自身の周りに三騎ほどサーヴァントが増えた気配を感じ取れた。

 

「ンンン!まさか拙僧が呼ばれるとは思いもよりませんでした!こちらの様子は呼ばれると同時にどのようなことになっているのか、知識として刻まれておりますので、説明は不要ですぞ。」

 

「なぜドーマンがいるのでしょう?」

 

「知るかよ。つか、こいつ呼んで問題ねぇのか?」

 

「うげぇ……ドーマン……。やっぱり齧られそうで怖いのだ……。ジュナオルとクーオルがいるだけマシだけどさぁ……」

 

「ガウッ」

 

「……………」

 

「ンン……マスター?なにやら拙僧、歓迎されてないようなのですが?」

 

 なんとも言えない表情をしながらこちらを見てくるアルターエゴは放っといて、私は呼び出したサーヴァントたち一人一人に目を向ける。

 善、悪、中庸、秩序、混沌、中立……そんなの全部関係なしに自身のカルデアのサーヴァントを脳裏に浮かべたはずなんだけど、やって来たのは混沌・悪属性を有している道満、ジュナオ、オルタニキの三騎だけ。

 もしや、混沌・悪属性しか呼べないのかと一瞬脳裏に過ったが、混沌は有していても、中庸属性持ちである太歳星君や、悪と善、両方を有しているジュナオがいるため、正確なルールがわからない。

 考えられるとしたら、混沌と悪、または中庸の組み合わせを持ち合わせているサーヴァント以外は呼べないのだろうか……。

 しかし、それにしては呼び出したサーヴァントの数が少ない。

 宝具レベルはともかく、それなりに私のカルデアにはサーヴァントが集まっていたはずだし、これだけと言うのはまずないだろう。

 ということは、サーヴァントは混沌か悪、中庸属性に属する者の中から五騎を呼び出せる……ってことなのだろうか。

 

「マスター?マイマスター?ンン!拙僧を無視しないでくだされ!」

 

「ちょっと考え事してるんだから黙ってくれるかなネコ科マッチョ。」

 

「ネコ科マッチョ……何故名前で呼んでくれないのですかマスター……。」

 

 黙らせるため以外何がある。じゃない。今はそれじゃない。

 

「……ジュナオ。」

 

「はい。どうかなさいましたか、マスター?」

 

「あのさ。私のこの術式……とりあえず、召来霊術(しょうらいれいじゅつ)と名付けてるんだけど、これで呼べるサーヴァントの条件って、混沌・悪か、混沌・中庸属性を持ち合わせているサーヴァントのみって認識でいいのかな?」

 

「ええ。正確には、悪か中庸属性を持ち、聖杯転臨や、スキル上げなどのリソースが注ぎ込まれ、マスターとの繋がりが深い者……マスターたちが口にしていた、絆が高い者のみ、五騎の同時顕現が可能です。」

 

「なるほど……そんな決まりがあるんだね。」

 

 道満のことをスルーしながら、自身の術式……能力に関しての知識を整理するため、この中で一番教えてくれそうなジュナオに問いかけ、その返答を聞くことにより、ようやく自身の力がどんなものか認識できた。

 召喚した全てのサーヴァントが呼べるわけじゃなく、悪か中庸の属性を持ち合わせたリソース注ぎ込み済み……なおかつ絆レベルが高い者のみを呼び出せる能力だったとはね。

 まぁ、でも、全てのサーヴァントが呼べたら間違いなくチートだし、これでよかったのかもしれない。

 ……いや、ジュナオがいる時点でチートだよ何言ってんだ私のアホ。

 

「全員、ステータスは向こうにいる時と変わらないのかな?特にジュナオ……能力値がかなりあれだけど、あのままきたりしてる?」

 

「拙僧たちの能力値ですかな?であれば、全騎向こうの世と違いなくそのままの能力を持って顕現しておりますれば。マスターの指示さえあれば、瞬く間に世界を蹂躙し尽くすことも可能故、いつでもお申し付けくださいませ。」

 

「世界は蹂躙しないわアホ。何考えてんの道満。」

 

「……マスター。悪いことは言いません。この外道は即刻処断すべきです。そこにいるだけで邪悪しかばら撒かない存在ですので。」

 

「俺もそいつに賛成だ。この外道はさっさと霊核ごと砕いちまえ。なんなら、すぐに俺が抉ってやろうか?」

 

「るかるか。ドーマンは帰らせた方がいいと思うのだ。」

 

「─────………。」

 

「…………。」

 

「………満場一致で帰れだってさ。」

 

「ンンンン手厳しい!拙僧は何も悪いことはしておりませぬぞ!!」

 

「「「「どの口が言ってるんだ腐れ外道。」」」」

 

「ガウッ!!」

 

「…………!」

 

 ……うん、普段のジュナオからは考えられないような言葉遣いが聞こえてきたような気がしたけどあえてスルーしよう。

 敬語キャラが急に敬語じゃなくなるのってなんか怖……。

 ていうか、太歳星君もそんな口調できたんだね。

 

「まぁいいや……。呪いに関してはエキスパートレベルだし、道満はとりあえず継続現界。他のみんなも、今回は一緒に仕事をしてくれると助かるよ。多分……いや、絶対、今日ここで大きな事件が起こるから。」

 

 そんなことを思いながら、私は現界しているみんなに指示を出す。

 いちいち説明しなくても、私の目的ややることは全て霊基に刻まれているらしいから、すぐに全員頷いてくれた。

 道満がいるなら、偵察の幅も広がりそうだね。

 

「サーヴァントはどれだけ呼べるのか。どんな条件下にあるサーヴァントが声に応じてくれるのか。その二つを確かめるという個人的な目的は達成したし、次は呪術師としての活動だ。今からみんなに指示を出すよ。まず道満。キミは式神を駆使して広範囲の警戒と、いざという時の連絡をお願いするよ。オルタニキとジュナオ、そしてセイは校内を霊体化して巡回。低級の呪霊がいたらすぐに祓うこと。最後にアヴェンジャーは外を霊体化して巡回。呪霊を見かけたら祓うなり食らうなりしていいからね。じゃあ、私からの指示は以上だよ。行動に移してくれ。」

 

 そんなことを思いながら、私はその場にいる全員に指示を飛ばす。

 すると、全員承諾の声をあげた後、すぐに行動に移し始めた。

 太歳星君とジュナオ、オルタニキの三騎は霊体化して校内に入り込み、新宿のアヴェンジャーは霊体化しながら屋上から下へと飛び降りる。

 屋上に残されたのは、私と道満のみ。

 ……なんかじっと見られているけど、ちょっかいを出そうとする素振りは見せてこないな。

 

「にしても……現世には呪いが蔓延る斯様な世界があったとは。やはり、人間たるもの、いつの世も変わりませぬなァ……。」

 

「そうだね。」

 

「ンン。マスター……何故拙僧に対する当たりがそこまで厳しいのでしょう……。確かにこの身、かつてあなた様と敵対していたことを記録として有しておりますが、今はマスターのサーヴァントなれば。そこまで距離を置かれてしまいますと、いくら拙僧でも傷ついてしまいますぞ?」

 

「そう言われてもなぁ……。どこまで行ってもキミは蘆屋道満であり、異星側にいたリンボに変わりないわけで、そりゃ警戒もしたくなるって話だよ。同位体ではないにせよ、同位体の……敵側だった時の記憶を有しているならなおさらね。腕は買ってるつもりだけど。」

 

「そうですか……。まぁ、そうなるのも致し方なし。ですが、マスターがあの赤毛の娘の足取りを見てきたものであり、拙僧をあそこまで酷使してきた存在であるならば、拙僧とあちらのあなた様の繋がりが深いこともよく知っておいででしょうに……。」

 

「所詮は二番じゃないか。一番最初に絆レベルがマックスになったのはオルタニキとジュナオだよ。」

 

「ンン!確かに拙僧は二番手ではありますが、それでもあなた様との繋がりは強いものだと自負しております!ですので、もそっと……もそっと近うお寄りくだされ。」

 

「ヤダよ。即行でポキっとやられそうだし。」

 

「そのようなことは決して考えておりませぬゆえご安心召されよ!まぁ、確かにマスターの細首、細腕、細腰程度、この手でポキリと即折ることが可能ではありますが、決してそのようなことはしないと誓いましょう!確か……西洋の方でしたかな?悪魔と呼ばれる妖魔の類の中に、嘘つきで有名なものがおりましたが、そのものの特性に則って言うなれば、神に誓って!決してマスターに害をなさないと誓いましょう!」

 

「神とか信じなさそうな奴がなんか言ってる。」

 

「拙僧!!これでも陰陽道の法師なれば!!」

 

「うるさ。無駄に声が大きいからちょっと声量抑えろ莫迦。」

 

 うるせぇ……と言うように、道満側に向いている片耳を押さえて吐き捨てれば、道満が少しばかり固まったのち、その場でしゃがみ込んでしまった。

 心なしかゼンマイ……ゲフンッ……髪の毛がしょんもりしているような気がするけど、スルーすることにしたのは言うまでもない。

 

 

 

 




 瑠風
 自身の術式がどのようなものであるかを知るために校舎警備に残った呪術師。
 道満のことは好きだけど信頼や信用はしていない。
【術式】
 召来霊術(しょうらいれいじゅつ)
 聖杯やスキル上げにリソースを欠いた絆レベル5以上の悪属性、または中庸を持ち合わせているサーヴァントを召喚することができる術式。
 サーヴァントの能力値は全て、彼女のFGOデータにあった能力値のまま召喚が可能で、最大五騎まで同時現界させることができる。

 太歳星君
 道満同行反対派。でもるかるかが呼んだなら仕方ないと我慢した。
 瑠風と道満を二人で残すことに不安はあるが、今は瑠風の指示に従って行動を取る。
 絆レベルは10。スキルマのLV.90のアルターエゴ。

 蘆屋道満
 瑠風に呼ばれ、彼女の元に馳せ参じた陰陽師。5.5章の記憶はあるが、瑠風の味方を必ずする。
 藤丸立香の目を通して世界を観測していたのも小娘だったことには少し驚いたが、自身と同じく神格を宿している瑠風に興味を示している。
 個人的にも気に入っている様子。
 絆レベルは10。スキルマLV.100のアルターエゴ。

 アルジュナ・オルタ
 瑠風に呼ばれ馳せ参じたあらゆる神格を内包した異聞帯のアルジュナ。
 人間に近い方のアルジュナであり、アルターエゴ・蘆屋道満は即刻排除するべきではと考えているが、一旦は瑠風の指示を聞いて行動中。
 絆レベルは15。スキルマLV.110バーサーカー。

 クー・フーリン・オルタ
 瑠風に呼ばれ馳せ参じたメイヴの望みによりあり方を歪めた狂王。
 瑠風のことは大切な妹分的認識をしており、怪しい動きを道満がした場合、即行で霊核ぶっ壊してやるからなと考えている。
 絆レベルは15。スキルマLV.120のバーサーカー。

 新宿のアヴェンジャー
 瑠風に呼ばれ、共に行動を取っている。人間は嫌いだが蘆屋道満はもっと嫌い。できることなら早く首を刈りたい。
 人間は嫌いで、瑠風のことも正直言ってどうでもいいが、マスターである以上はちゃんと守る。
 絆レベルは12。スキルマLV.90のアヴェンジャー。




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23.はーい、その指は回収させてもらいまーす!

 杉沢第三高校の屋上にて、道満と一緒に過ごすこと数十分。

 

「おや?マスター。あちらの方にやった式神がなにやら見つけたようですぞ?」

 

「あっちにやった式神?」

 

「ええ。」

 

 急に道満が、私に話しかけて来た。彼が放った式神のうちの一枚が何かを見つけたとのことだ。

 彼が指差す方向へと目を向ける。スマホにあるマップと照らし合わせてみると、家庭科準備室がある方角のようだ。

 確か、原作では家庭科準備室がオカ研の部室になっていたよな……。となると、間違いなく悠仁の先輩方がいるはず。

 

「急ごう。」

 

「向かわれるので?」

 

「うん。原作通り物語が進むのであれば、間違いなくオカ研の人間が呪霊に襲われるからね。被害を最小に抑える……を目的にしているから、向かわない理由がないんだよ。」

 

「左様ですか。では、拙僧が足がかりとなりましょう。こちらに。」

 

「え……?」

 

「ンンン!!何故そこで警戒なさるのですかマスタァ!!拙僧はマスターの味方でございます!!」

 

「いや、だってリンボだし。」

 

「確かに記録として有しておりますが、こちらの世には手出し致しませぬと何度も言って……」

 

「オルタニキ。いるんでしょ?」

 

「ああ。一通り見て回ったからな。話は聞いている。あっちに行くんだろう?」

 

「うん。お願いできるかな?」

 

「了解。リンボ野郎はもうちとここら辺に待機しておけ。」

 

「いつのまにこちらに戻られていたのですかクー・フーリン・オルタ殿!!というか、異変を感じたのは拙僧なのですが!?」

 

「知るか。」

 

「道満は引き続きこの場に残って警戒。ついでに恵くんに指を捕捉したことを式神で伝えておいて。セイとオルタニキの二騎を連れて行こうかな。」

 

「俺がいりゃ問題なくねぇか?」

 

「いざと言う時の殿として、力を温存してもらうんだよ。耐久力にも優れてるしね。」

 

「そうかい。」

 

「セイ!指を見つけたから移動する!こっちに戻ってくれるかな?」

 

「マスタァ─────!!拙僧を無視しないでくだされぇ─────!!」

 

 背後から道満の悲痛な声が聞こえて来たがスルーしてオルタニキに足がかりを頼めば、彼は軽々と私を抱き上げたのち、そのままその場から飛び去る。

 程なくして太歳星君も合流し、戦闘準備は万端だ。

 

「るかるか〜。どーまんはむしむしでいいのか?」

 

「能力面としては問題ないけど、性格がちょっとあれだからね。頼りにはなるけど信用はちょっとできないから……」

 

「だったら消しちまえばいいだろうが。なんで放置してんだ。」

 

「連絡係には使えるから……」

 

「じゃああれか?恵とか言う奴が合流したら消すのか?」

 

「そうなるかな……。呼ぶなら玉藻の方がよかったかな……」

 

「あの狐を呼ぶのかー?なーんかやな感じがするんだよなー、あの狐……近寄りたくない。」

 

「うーん……でも、道満よりかはマシじゃない?」

 

「どっちもどっちだろ。良妻願望垂れ流しのアイツも、うちに秘めてやがるのは黒いもんだしな。」

 

「一応、玉ちゃん自体は、中国を騒がしたあれとは違うって言ってるんだけどなぁ……。」

 

 玉藻の前に対する太歳星君とオルタニキの評価に思わず苦笑いをこぼす。

 あの子は本当に、ただ純粋に良妻として最愛の殿方の側にいたいと思っているだけなんだけど。

 疑いたくなる気持ちは……まあ、事実からして仕方ないんだろうけど。

 

 そんなことを思いながら、オルタニキに協力してもらって数分後、道満が言っていたちょっとした異変があったと言われた家庭科準備室近くに着地する。

 呪力はかなり強い。この学校全体に広がっていたそれとは明らかに桁違いの重圧だ。

 

 ─────……流石は呪いの王の指。封印が施されてもなおこんな呪力を放つのか。

 

 漫画やアニメじゃいまいち強さがわからなかったけど、実際に感じてみてようやくわかった。

 廃村の時は遠くにあったから感じる重圧はそこまでなかったからなんともなかったけど、これだけ近づければ冷や汗が吹き出してくる。

 

「……すくすくの呪力はこれだったのかー。」

 

「随分とまあ、厄介そうな怪物がいることで。魔神柱共や、ビーストとはまた違った存在感じゃねぇか。」

 

「……仮に宿儺が受肉して力を取り戻した場合、オルタニキは勝てそう?」

 

「勝てとお前が言うなら勝てるだろうよ。お前の呪力はすっからかんになるだろうがな。」

 

「セイは?」

 

「ワガハイはどっこいどっこいの気がするのだ。大きい方のワガハイなら勝てるかもしれないけど、被害はかなり広がりそうな気がする。」

 

「あはは、マジか。やっぱり規格外だな、両面宿儺。」

 

「でも、ジュナオルとクーオルとワガハイとどーまんとアヴェアヴェが一緒に戦えば勝てそうな気もするのだ。」

 

「………やっぱりサーヴァントの方が規格外だったね。」

 

「あの弓の方の教授や、ビーストの狐女×2を導入して俺と黒化したアルジュナを差し向けりゃ余裕で潰せそうだな。」

 

「……Bバフ可能敏腕秘書×2とか火力がおかしなことになりそうな気がしてならないナー……」

 

 いつだったかW殺コヤでバフを乗せてオルタニキやジュナオに宝具を打たせた時を思い出す。

 あの時は本当に見たことない数値がイベ特攻関係なしで出たから驚いたものだ。

 コヤコヤオベロンのバフも恐ろしいことになってたっけ……。バスター環境な弊カルデアにはありがたかったけど、初見は引きつった笑みを浮かべていた記憶しかない。

 

「うわ……ッ」

 

「どうした!?」

 

「……これ……人間の………指……?本物……?」

 

 苦笑いをしながらそんなことを考えていると、家庭科準備室の中から声が聞こえて来る。

 同時に先程以上に感じ取れる苦しいまでの呪力と、新たな複数の呪霊の気配を感じ取った。

 すかさず家庭科準備室のドアを勢いよく開け広げた私は、中にいた二人組の頭上に現れた呪霊をゲイ・ボルクで一閃する。

 

「おわ!?」

 

「誰だ!?」

 

 突然乱入して来た私の姿に、中にいた二人組……原作で、宿儺の指の封印を解いたことにより危ない目に合っていた悠仁の先輩である佐々木 せつこと井口 たかしの二人が驚く。

 でも、私はその視線を気にすることなく、現れた呪霊を祓う。ある程度減らすことができれば、気配は一時的に落ち着いた。

 

「ふぅ……間に合ってよかったー。」

 

 軽く息を吐き、手にしていたゲイ・ボルクを肩に担ぎ直す。

 そして、唖然としている二人組に向かって手を差し出した。

 

「はーい、その指は回収させてもらいまーす。死にたくなければ大人しく渡してね?」

 

 




 瑠風
 杉沢第三高校に残り、被害を最小に抑えるためオカ研に突撃訪問&死にたくなければ宿儺の指を渡せとカツアg……回収作業を行なっていた呪術師なマスター。
 口元は笑っているのに目は笑っておらず、その上ゲイ・ボルクで自分の肩を軽く叩きながら手を差し出していたので、ヤバい人間の図になってしまった。

 太歳星君
 るかるかちょっと怖いのだー……と思っていたのは言うまでもない。

 クー・フーリン・オルタ
 道満に代わって瑠風を運ぶ足がかりを担った狂王様。
 見た目に反してそんな顔もすんだなコイツ、と面白がっていた。

 道満
 拙僧を─────!!無視しないでくだされ─────!!(伏黒恵に式神を使って連絡しながら)

 佐々木 せつこ&井口 たかし
 札が貼られまくった指の封印を剥がしてしまったが、呪霊に襲われる前に先回りしていた瑠風に守られた二人組。
 え?不思議な見た目をしてる男の子とトゲトゲの衣装を着たワイルドマッチョなイケメンを連れた女子生徒にカツアゲされた……?



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24.杉沢第三高校を脱出しよう。

 混乱したように固まる佐々木さんと井口さん。まあ、いきなり知らない人間が複数も現れたんだから、そうなってしまうのも無理はない。

 だが、今は固まるより先に、指をこっちに渡してほしいんだよねぇ……。

 

「えっと……死にたくなければ指を渡せってどう言うこと?」

 

 そんなことを考えていると、佐々木さんが口を開いた。この指に何かあるのかと聞きたいようだ。

 あるから渡せって言ってるんだけどな。指の札が剥がされてから、呪霊の動きが活発になってるし、いつまた呪霊が現れるかわからない状況なんだからさ。

 一応、ジュナオも道満もアヴェンジャーも、呪霊と交戦して被害が広がらないようにしているみたいだけど。

 

「それ。ガチモンの厄災呼び寄せ装置。過去に実在していた呪いに長けていた存在の指のミイラでね。それを持ってると……」

 

 ん?道満が一匹呪霊を逃した……?いや、違う!!わざとこっちに呪霊を行かせやがったなあの陰陽師!!

 呪力の流れから状況を判断した私は、すかさず手元にあるゲイ・ボルグを持ち直す。

 同時に現れたのは、原作で佐々木さんと井口さんを呪物ごと取り込もうとしていた、何時ですかと連呼していた呪霊だった。

 

「うわぁあぁあぁあぁああ!!!!」

 

「きゃあああああああ!!!!」

 

 現れた異形に叫び声をあげる二人組。ゲイ・ボルグを構え直していた私は、すぐに言葉を口にする。

 

刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルグ)!!」

 

 鋭く踏み込み、手にしていた朱槍で呪霊めがけて放つ。放った槍の切っ先は、呪霊の体を貫き、その心臓を刺し穿つ。

 

 ギャアアアアアアア!!と叫び声を上げた呪霊は、私から距離を取るように、その場から慌てて離れた。

 

「セイ。」

 

「いくいくいくぞー!!」

 

 やっぱり本家のような火力や効能は出ないか、と軽く落ち込みながらも、側にいた太歳星君に声をかける。

 私の声を聞いた太歳星君は、すかさず動く。目の前にいる呪霊を出現させた2本の巨大な手でそのまま切り裂いた。

 太歳星君の攻撃を食らった呪霊は断末魔をあげて消失する。同時に発生した呪霊の残穢は、太歳星君へと吸収されていった。

 

「やったぞるかるかー!!」

 

「うん。ありがとう、セイ。」

 

 笑顔で褒めて褒めてとくっついてきた太歳星君の頭を撫でながら感謝の言葉を述べる。

 オルタニキからは、やっぱり贋作は贋作か……と言う呟きをもらったが、スルーしよう。

 そんなことを思いながら、手にしていた朱槍の切っ先を上に向け、柄の部分を床に突き、杖代わりにして寄りかかる。

 

「……さて、これでわかったかな?それがどんなものか。」

 

 さっさと渡さないから……と呆れながら、自分たちの手元にあるものがどれだけ危険なものか理解できたかと問いかける。

 佐々木さんと井口さんの二人組は、こちらの言葉を聞くなり、首がもげそうな勢いで何度も頷いた。

 

「じゃあ、さっさと渡して?本当に死ぬよ?」

 

 手を差し出しながら、指を貸せと促せば、佐々木さんが震えながら指を手渡してきた。

 確かに回収できましたっと。さて……じゃあ、脱出するとしましょうか。

 

「外は間違いなく脱出系ホラーゲームみたいになってるだろうけど、脱出させてあげるからついてきて。」

 

 こちらの言葉に佐々木さんと井口さんが頷く。護衛がいないと危ないことをしっかりと理解してくれたようで何よりだ。

 

「じゃあ行こうか。セイ。オルタニキ。頼むよ。」

 

「了解。」

 

「りょっか!」

 

 それならさっさと外に行こう。そう考えながら、家庭科準備室の外に出てみれば、一気に振り返る呪力の気配の波。

 うわぁ……と軽く引きながらも、辺りを見渡して様子を見る。うん、呪霊はなんとかジュナオたちが抑えてくれてるみたいだね。

 つか、やっぱり道満、わざと逃したのか。

 確かに、呪霊を見てもらった方が、状況を理解しやすくなる。今のような特殊な状況下なら、呪力を持っていなくても、呪霊を視認することができるしね。

 でも、だからと言ってわざと逃して襲わせるのはおかしいだろうに。私や太歳星君、オルタニキがいるから大丈夫だと思ったにしてもだ。

 それとも、私が放置した腹癒せか?あーあ……ゲステラ今だけ使えないかな。

 軽く舌打ちをしたくなりながらも、問題はないことを確認した私は、佐々木さんと井口さんの二人に顎を使って行くぞと指示すれば、二人は恐る恐る廊下の外に出る。

 それを見た私は、自分が先行する形で、廊下を進んで行く。一番手っ取り早いのは、オルタニキに二人を抱えてもらって、この四階から飛び降りてもらうことだけど……。

 

 ─────……ダメだな。外には低級だけど、結構な量の呪霊がうろついてる。

 

 暗くなった外を、窓から眺めながら表情を歪める。一人だけならともかく、二人を抱えて移動させるとなると、オルタニキも二人も危ない。

 低級呪霊って個々はそこまで強くないけど、まとまって襲ってくるとかなり厄介なんだよね。

 となると、やっぱり中を歩く方が先決か。個々の呪霊の力は結構高いけど、低級に比べたらまとまりが薄い。

 それに、中なら戦力が潤沢だ。校庭はアヴェンジャーだけだけど、中にはジュナオも道満もいる。側には太歳星君とオルタニキもいる。

 なら、選ぶ道はやっぱり……。

 

「道満。式神を通じてこっちを見てるのはわかってる。ジュナオと合流して、すぐにこっちに来てもらえる?この場から離脱するには、二人の力も必要だ。セイとオルタニキばかりに負担をかけるわけにもいかないしね。」

 

「「?」」

 

 そうと決まれば、ジュナオと道満に合流するように声をかけようと、静かに虚空に声をかける。

 背後から佐々木さんと井口さんの不思議そうな視線を感じたけど、気にしている暇はない。

 

「マスター。」

 

「ようやく合流のお声がけですか、マスター。」

 

「「うわ!?」」

 

「……霊体化してショートカットして来たな?」

 

「物理的な干渉が少なくなるもので。」

 

「マスター。ここから脱出すると聞きましたが……」

 

「うん。この二人を護衛しながら移動するから合流してもらったんだよ。」

 

「なるほど。」

 

「一般人の護衛ですか。まあ、確かに。それをしながらの移動であれば、戦力が多い方が最適ですなァ。」

 

 急に現れた道満たちに、佐々木さんたちがびっくりするが、気にすることなく、道満とジュナオの二騎に合流させた理由を説明すれば、納得したような様子を見せる。

 

「では、早速撤退行動に移りましょう。」

 

「襲い来る呪いは、我々が悉く殲滅してくれましょうぞ。」

 

「妙な行動を取ったらすぐに殺すからな、リンボ。」

 

「るかるかにも、後ろの二人にも何かしたら、ワガハイたちが許さないからなー?」

 

「ンンッ恐ろしいことで。くわばらくわばら……」

 

 ちっとも思っていないことを口にする道満に呆れながら、外に出るための移動を再開する。

 呪力の流れから、なるべく少ない道を選べるし、問題はないと思うけど……なんか、少しだけ嫌な予感がするね。

 

 

 




 瑠風
 佐々木と井口が呪霊に襲われないようにしながら、校舎からの脱出を図っている転生者。
 胸に燻る嫌な予感に、少しだけ不安になりながらも、怪我なく外へ送り出そうと決めている。

 太歳星君
 護衛①
 絶対にみんな怪我なく脱出させるぞー!と張り切っている。

 オルタニキ
 護衛②
 道満を相変わらず警戒している。

 蘆屋道満
 護衛③
 呪霊をわざと逃したのは、瑠風の行動をスムーズにするためだが、軽くイラつかれた。

 ジュナオ
 護衛④
 道満に対する警戒は怠ることなく、そして護衛もしっかりこなす満々。
 第三再臨でいることが多い。

 佐々木&井口
 瑠風たちに守られた一般人。
 最初は現れた瑠風に混乱していたが、なんか知らんバケモンに襲われたので、大人しく指を瑠風に渡した。




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25.ミッションコンプリート……?

「邪魔だ!!」

 

「マスター、こちらへ!!」

 

「るかるか!ジュナオルの側にいるのだ!どけどけー!!」

 

 杉沢第三高校の廊下を移動しながら、片っ端から呪霊を片付けていく。

 二級より上の呪霊は私じゃ一撃で倒せないから、そこら辺はオルタニキと太歳星君に任せて、手にしているゲイ・ボルグで襲ってくる二級より下の呪霊を貫いた。

 

「す……すご……!!」

 

「いったい、なんなんだこの子……。」

 

 背後で庇っている佐々木さんと井口さんの2人が、驚いたような声を上げる。

 次々と現れる呪霊を、あまり年が変わらない女が悉く潰しているからだろう。ほとんどは私のサーヴァントが始末しているんだけど。

 

『ちゅーるちゅーるちゅる』

 

 そんなことを思っていたら、目の前に黒い柱のような姿を持つ目ん玉呪霊が姿を見せた。

 これ、どう見てもアイツだよね……。恵君が玉犬に食わせたヤツ。

 でかいけど……呪力はそこまで高くない……?となると三級とかそこら辺なんだろうか?

 なんて考えながら、私は自身の身体能力を一時的に強化する瞬間強化を自身へと使用する。

 マスタースキルを自分自身に使うってなんか変な感じではあるけど、こうすることで一時的に能力を飛躍的に上がるのであれば、使用するに越したことはない。

 まぁ、これ使ったらしばらくクールタイム有するからしばらく使えなくなるんだけど!!

 

 内心で文句を言いながら、廊下の床を強く蹴り上げる。

 瞬間強化をかけたことにより、普段よりもかなりのスピードが出たような気がするけど、今はそんなものどうでもいい。

 むしろ、能力が上がってることがよくわかるから、このわかりやすい能力の向上は助かるもんだ。

 そんなことを思いながら、ちゅるちゅるうるさい呪霊との間合いを詰め、呪力がやけに集まっている場所目掛けてゲイ・ボルグを振るう。

 

「【刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルグ)】!!」

 

 勢いよく踏み込み、そのまま呪霊の核と心臓目掛けて呪力を込めながら突き出し、そのまま核と心臓を貫き穿つ。

 普段より威力が上がっているそれは、普段は呪霊を即死させることができない低威力だが、一時的な強化により威力も効力も上がっていたのか、その呪霊の心臓と核を破壊した。

 断末魔を挙げながら、消えていく黒柱目玉呪霊。それを確認した私は、手にしていたゲイ・ボルグをクルクルと回して、その柄の部分を床に付ける。

 

「怪我はないね?」

 

「「ひゃ………ひゃい………。」

 

 消滅した呪霊を確認した私は、すぐに背後にいる佐々木さんと井口さんに怪我の有無を問う。

 2人はすぐに小さく頷いた。間抜けな声を漏らしながら。

 

「それならよし。急いで外に行こう。出てくる化け物は、全部私たちが倒すから。」

 

 そんな2人を安心させるように小さく笑いながら声をかければ、2人は再び頷く。

 それを確認した私は、すぐに前を向いて再び外に出るための道を走り抜ける。

 前方はオルタニキと太歳星君が先行して行ってくれるから、問題はないだろう。

 ジュナオも私の側にいてくれてるしね。いざと言う時は、ぷららやしてもらうか。

 

 そんなことを考えながら、廊下を走っていると、不意に呪霊が近寄ってくる気配を感じ取る。

 すかさず手にしていた朱槍を使うことで防御行動を行えば、同時に校舎の壁が破壊され、かなりの衝撃に襲われた。

 

「い゛!?」

 

 その衝撃はあまりにも重たく、一瞬手が痺れる。しかも、ガードはできたけど、与えられた衝撃により私の体は軽々と吹っ飛ばされ、そのまま校舎の壁に背中から激突した。

 かなり痛い。こんな痛み初めて食らったものだ。前の世界では暴力沙汰とはほぼ無縁だったし、こんな馬鹿力を持つ存在に殴り飛ばされることもなかったから。

 

「マスター!?」

 

「うわぁ!?るかるかぁ!?」

 

 ジュナオと太歳星君から慌てたような声が発せられる。オルタニキからは舌打ちが聞こえた。

 まあ、先行していた場所から後方から出て来たもんね。そりゃ驚くし舌打ちもするよな。

 サーヴァントはマスターの剣であり盾。ダメージを与えられないように、同時に敵を倒すように行動を起こす存在だから、攻撃がマスターに飛ばないように守るのも役割だろうし。

 

「おい!!」

 

「大丈夫!?」

 

 吹っ飛ばされた私の姿を見た佐々木さんと井口さんが、慌てて私に話しかけてくる。

 背中を思い切り壁に打ちつけた以外は特に何もなかったから、問題ないことを知らせるように手を挙げ、すぐに立ち上がる。

 背中にジンとした痛みはあるけど、骨などがイってる様子がない。咄嗟のガード、および咄嗟の防御力強化で被害を軽微にしたおかげだろう。

 少しだけ安堵しながら、視線を前に向ける。そこにいたのは、ラグビー場にいた二級相当の呪霊だった。

 

「やっぱりお前がくるんかい……」

 

 思わず苦笑いをこぼしてしまう。でも、原作通りの呪霊が来てくれたことはある意味助かるものだ。

 二級相当の呪霊なら、私は無理でも、サーヴァントたちがなんとかできる。

 

「セイ。やる気は?」

 

「十分だぞ〜!」

 

「オーケイ。じゃあ、呪力を回す。頼んだよ、私のアルターエゴ!!」

 

「よーし、やるやるやるぞー!!るかるかをぶっ飛ばした恨みを倍返しなのだ!!」

 

「ジュナオとオルタニキは先にそこの2人を連れて離脱。キミらの火力と機動力なら、ある程度呪霊を片付けたこの校舎内を突破することができるだろう?場合によっては、セイに宝具を使わせるつもりだし、その影響範囲からは出て欲しいんだけど……」

 

「わかりました。移動する際も、呪霊は片っ端から片付けていきますね。」

 

「……お前のところの方が、退屈しなさそうなんだがな。まぁいい。向こうじゃよく使ってくれたが、こっちでのメインはそいつなんだろ?なら、その指示には従ってやる。」

 

 目の前の二級相当の呪霊と向き合いながら、オルタニキとジュナオの2人に指示を出す。

 指を私が保有している以上、呪霊はオルタニキたちと一緒にいる佐々木さんや井口さんに目を向けることはないだろうし、嫌な予感がある以上、早めに離脱をさせた方がいい。

 私の指示を聞いたオルタ化コンビは、ジュナオが佐々木さんを横抱きにし、オルタニキが井口さんを俵担ぎにする形で持ち上げ、その場からさっさと離れていく。

 一瞬、ジュナオに横抱きされた佐々木さんが小さい悲鳴……と言うより、照れも混ざったような短い悲鳴をあげたような気がしたけど、気のせいかな?

 まあ、ジュナオってイケメンだもんね。神に近いジュナオじゃなく、人に近い方のジュナオだから、感情表現も豊かだし、穏やかな好青年にしか見えないから。

 めちゃくちゃ馬鹿力を叩き出すバーサーカーだなんて言っても嘘でしょってくらい優しいし。

 そんな感想を脳裏に描きながらも、私は太歳星君と一緒に目の前の呪霊と向き直る。

 よく見ると太歳星君、おっきい方の太歳星君になってるや。

 

「よし、立ち去ったな。んじゃ、さっさと終わらしますかね。セイ。呪力を回す。ステータスもスキルを使ってなるべくあげるから、ささっと済ませようか。」

 

「うん……わかった。」

 

 いつの間に変化したんだろうと思いながら、呪力とスキルによるサポートを太歳星君へと施す。

 一時的な能力の向上であれば、呪力が尽きるまで使えるのは本当ありがたい。

 クールタイムがなければもっとマシなんだけど、流石にそれはバランスブレイカーすぎるのかな……。ただでさえサーヴァントとか言うチート級の存在を使役できるわけだし。

 恨むはバランス調整か……と溜息を吐きながらも、太歳星君に攻撃力アップと三色コマンドアップを行い、太歳星君と呪霊の戦闘に巻き込まれないようにと後方へ下がる。

 

 それを合図に太歳星君は床を蹴り上げ、目の前にいる二級相当呪霊へと飛びかかった。

 これを倒せば、よほどのことがない限りミッションコンプリート……だけど……なんでだろう……。

 

 

 

      嫌な予感は消えそうにない。

 

 

 

 

 

 

 




 瑠風
 杉沢第三高校から脱出するためにサーヴァントを使役しながら突き進むマスター。
 原作通りの呪霊が立ち塞がったことに安堵しながら、突破すれば被害はほとんどないと考えているが、嫌な予感が抜けないことに、表情を曇らせる。

 太歳星君
 瑠風と一緒に校舎内での戦闘のために残ったアルターエゴ。戦闘時はもっぱら本来の大きい方の太歳星君になりがち。
 瑠夏が表情を曇らせていることに気づいているので、警戒は怠らない。

 オルタニキ&ジュナオ
 機動力と火力面でかなり優秀なWバーサーカー。
 その能力の高さから、瑠風の判断により、一般人脱出の方に回された。
 オルタニキは不満気にしている。

 佐々木&井口
 瑠風の起点により、呪霊の被害を受けることなく脱出に専念できた一般人二人組。
 井口はオルタニキが軽々と自身を持ち上げたことに驚き、佐々木はジュナオの横抱きに軽くときめいた。



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