強くてニューゲームを続ければ、いずれ英雄になれるだろうか? (ライadgj1248)
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1話

 まずは一話なのでどこでも見かけるようなテンプレ展開になります。テンプレ万歳。


 異世界転生。それは多くのオタクが夢見て憧れた定番ネタだろう。辛い現実世界から輝かしい異世界へと移り住み、現代知識や神様から貰ったチート能力で無双し、様々な種族の美少女にちやほやされて愛を育む。まさにもてない男の夢そのものだ。

 かくいう自分もそんな異世界転生という奇跡を授かったオタクの元社畜だ。仕事が終わってフラフラしながら帰宅する途中で、暴走したトラックが突っ込んで来るのを目にした時は、ああ・・・これで異世界に転生出来れば良いのになぁ・・・とぼんやり考えていた。まさか本当に異世界転生が出来るとは信じていなかったが、きっと神様が自分の頑張りを見てくれていたに違いない。ここから自分の人生は大逆転して華やかな生活を送れるのだ!!

 

 

 

 そんなふうに考えていた時期もありました・・・

 

―――――――――――――――――――――

 

「・・・・・・ここは?」

 

 ふと目が覚めて起き上がると見慣れない風景が目に飛び込む。少し薄暗くて雑然とした路地のようだが、建物は見慣れた鉄とコンクリートではなくレンガで作られている。道に敷かれたレンガはところどころボロボロになっているし、上を見上げると建物の間にロープが張られていて、洗濯物らしきものが干されている。あれが日光を遮っているせいで薄暗いのだろうか?それにしてもここはどこだろう?今どきレンガで作った建物なんて観光地とかにしか無いと思う。少なくとも日本では探す方が大変なはずだ。レンガの建物が並ぶなんてまるで中世ヨーロッパをモチーフにした異世界のような・・・

 

「異世界のような!?」

 

 待て待て待て!?自分は今まで何をしていた!?思い出せ!!思い出せ!!確かいつもどおり勤務先の工場でこき使われ、予定通りの残業を終えたと思ったら想定外の仕事が入って、フラフラになりながら帰宅している途中で・・・暴走したトラックが突っ込んで来た!?

 

「よっしゃああああ!!異世界だよな!?これ異世界転生だよな!?マジかぁ!!いや、普通に大人の体っぽいし異世界転移か?それとも誰かの体に憑依しちゃった系か?出来ればイケメンとして生きていたいから、元の体のままじゃない方が良いんですが!?」

 

 まずは現状の把握からだ!!死後の世界とかで神様が説明してくれるイベントはなかったのが悔やまれる。とりあえず自分の手を見てみたが、そこには普段見慣れた自分の手ではない!!華奢と言う程ではないがわりと細身の腕になっている!!つまり長年連れ添った小太りボディとはおさらばだ!!

 

「よっしゃああああ!!」

 

「うるせえぞ!!こんなとこで騒いでんじゃねぇ!!」

 

「す、すみません!!」

 

 どこからか野太い声に怒鳴られて反射的に謝ってしまう。振り返ると建物の裏口っぽいところからガタイの良い強面のおっさんが出てきたようだ。あれだな、きっと鍛冶屋か凄腕の冒険者のどちらかだろう。もしくは裏社会の住人的な人かもしれない。とにかくヤバイ人だ。

 

「どこの誰だか知らねえが人んちの裏で騒ぐな!!近所迷惑だろうが!!」

 

「す、すみませんでしたぁ!!」

 

 ペコペコと何度か頭を下げて走り出す。強面のおっさんはわざわざ追い掛けては来ないようで、少し安心しつつも狭い路地裏から大通りらしき場所へと飛び出す。そこでまず目にしたものは・・・迫りくる馬だった。

 

「あっ・・・・・・」

 

 う、馬デケェ!!

 

「グフッ!!」

 

 馬にはね飛ばされて激痛に悶える暇もなく、後続の馬が迫って来て・・・踏み潰され・・・

 

―――――――――――――――――――――

 

「ハッ!?」

 

 気が付くと薄暗い路地に倒れていた。バクバク暴れる心臓と荒い呼吸に苦しみながらも周囲を見渡す。見慣れないレンガ作りの建物が建ち並び、上に目を向ければ張られたロープに洗濯物が干してある。自分の体を確認すると慣れ親しんだ小太りボディではなく、すらっとした体格で怪我もない。

 

「はぁ・・・ずいぶんと嫌な夢を見たな・・・せっかく異世界転生を果たしたというのに、冒険に旅立つ前に事故で死ぬとかどんな悪夢だよ・・・転生後に即死とか誰得だって話だ・・・」

 

 ようやく心臓と呼吸も落ち着いてきたので、ゆっくり立ち上がって大通りらしき方向に向かう。恐る恐る路地から大通りの様子を伺うと、なかなかに活気のある場所のようだ。道に沿って露天が立ち並び買い物客で賑わっている。おっ!?あれは猫耳か!?つまり獣人が存在する世界感か!!ならばエルフやドワーフなんかも居るかもしれない!!それにしても何故か露天も人々も道の端の方に集まっていて、道の中央部分は誰も居ない空間が出来上がっている。

 

ドドドドドド!!

 

 右側から地響きのような音が聞こえて慌ててそちらに目線を向けると、騎馬に乗った騎士のような一団が凄い速度で走って来ていた。騎士達はそのまま道の中央を物凄い速度で走り抜けて行ったが、街の人達は特に驚いたような反応は見当たらない。どうやら道の中央を空けていたのは、馬が走る為のスペースのようだ。現代での車道みたいなものか?つまりあそこに不用意に飛び出せば馬にはね飛ばされ踏み殺されても文句は言えないという事か。最悪な悪夢だったがあの悪夢のおかげで命拾いしたな・・・

 

「なんだい物珍しそうにキョロキョロして。あんた田舎から出てきたお上りさんかい?」

 

「えっ!?あ、はい。」

 

 突然声をかけられて驚いていると、声をかけてきたちょっとふと・・・恰幅の良いおばさんがバシバシと肩を叩いてくる。

 

「そうかいそうかい!!西の街は凄いだろう?王都の華やかさにゃ流石に勝てないけど、この辺りじゃ一番栄えている街だからね!!あたしが生まれ育った自慢の街だよ!!」

 

「そ、そうですね。見たことが無い物が多くて驚いています。」

 

 これは嘘ではない。現代社会で育った自分にとって中世ヨーロッパ風のファンタジー世界は見るもの全てが新鮮だ。漫画やラノベではよく見かける設定でも、実際にその地に立って自分の目で見るのとは全く別物だ。

 

「そうかいそうかい!!うーん、見たとこあんたは特に荷物を持ってないみたいだね?だったら仕事の用事で来たってよりかは、仕事を探しに来た感じかい?それともただの物見遊山かい?」

 

 し、仕事かぁ・・・前世での社畜の記憶が蘇る。会社や上司の愚痴をぶつぶつ呟きながらも、やるべき仕事に追われて汗水垂らし、少ない給料をやり繰りしながら過ごした日々・・・だが異世界に転生したからと言って働かなくて済む訳ではない。働いて金を稼がなくては食事もままならない。だがどうせ働くならば憧れの冒険者生活をしてみたい!!剣や魔法で迫りくるモンスターを討伐し、一流の冒険者となって魔王やドラゴンに挑む。そして数多の女の子から好意を寄せられて最高のハーレムを作る!!これこそ漢のロマンだろう!!

 

「その、冒険者に憧れてこの街に来たんです!!」

 

「おお!?冒険者かい!?やっぱり若者は夢を持っていて良いねぇ♪よし!!じゃあおばちゃんが冒険者ギルドまで案内してやるよ。ついてきな。」

 

「ありがとうございます!!」

 

―――――――――――――――――――――

 

 おばちゃんに色々と案内して貰いながら街を歩く。と言っても自分が居た場所は冒険者達がよく利用する区画らしく、冒険者ギルドまでの道のりは短かった。その短い道のりの間に食料品店や雑貨屋に武器防具屋などの基本的な施設などがあり、他にも魔導具屋・薬屋など様々な施設があるらしい。ギルドも冒険者ギルドだけではなくて、商人ギルドや職人ギルド魔術師ギルドなどがあるらしい。このへんはラノベとかで慣れ親しんだよくある設定だから、わりとすんなり受け入れられる。ちなみにおばちゃんは宿屋兼食堂を経営していて、今は買い出しの途中だったそうだ。

 

「ここが冒険者ギルドだよ。さぁ、夢の冒険者になる第一歩だよ!!頑張ってきな!!」

 

「ありとがうおばちゃん!!」

 

「ちゃんと礼を言えるのは良い子だね。冒険者になって金稼いだらうちに食事を食べに来なよ。大熊亭だから名前忘れんじゃないよ!!」

 

「了解!!絶対飯食いに行くから!!」

 

「楽しみに待ってるよ!!」

 

 おばちゃんに見送られて冒険者ギルドの扉を開いて足を踏み入れる。今が昼過ぎだからか人はまばらだが、何人か冒険者らしき人がたむろしている。ちなみに冒険者ギルドには酒場が併設されており、こんな時間から酒を飲んでいる奴もちらほらいる。現代ではこんな時間から酒浸りなんてクズと言われてもおかしくないが、冒険者なんて荒くれ者ならなんとなくカッコいい気がする。なにはともあれまずは受付だな。冒険者ギルドの受付には数人の女性が座っており、冒険者達の対応をしたり書類仕事をしていたりする。うーむ、胸の大きい美人さんのところにするか、小柄な可愛らしい娘に担当して貰うか悩むところだ・・・どっちも魅力的だが美人さんは慌ただしく仕事をしていて、可愛らしい娘は冒険者の相手を終えて一息ついているようだ。ここは可愛い娘のほうにしておこう。

 

「すいません、ちょっと良いですか?」

 

「はい、なんでしょう?」

 

「冒険者になりたいんですけど、どうしたら良いでしょうか?」

 

「冒険者の登録ですね。文字は書けますか?」

 

 受付さんが書類とペンを取り出したが、その書類に書かれている言語はまったく読めない。かと言って異世界の文字を理解出来るような特殊な力は無いようだ。会話は普通に出来るのに・・・

 

「す、すみません。文字はかけなくて・・・」

 

「なるほど、何か身分を証明出来るものはお持ちでしょうか?」

 

「あ、いや・・・それも・・・」

 

「そうですか・・・」

 

「ま、まずいですかね?」

 

「いえ、辺境の村や開拓村の出身であればよくある事ですから。お名前は?」

 

 文字の読み書きと身分証明書はセーフみたいだが、流石に名前を答えられないはマズイ。かと言ってファンタジー世界で日本の名前というのもどうかと・・・まぁいいか。

 

「俺の名前は一輝です。」

 

「カズキさんですね。冒険者になる前は何をされていましたか?」

 

「えっと・・・農作業を・・・」

 

「分かりました。それでは登録料として銀貨一枚をお願いします。」

 

「ぎ、銀貨一枚!?」

 

 ま、まずい。そう言えば自分の持ち物なんて確認してなかった!?神様!!どうか初期費用くらいは準備してて下さい!!そう祈りながらズボンのポケットに手を突っ込むが、願いは虚しくなにも入っていない・・・ですよね・・・なにか入ってる感じしないし・・・

 

「えっと・・・持ち合わせが無い感じでしょうか?」

 

「・・・・・・ごめんなさい。」

 

 引き攣った笑顔で確認してくる受付さんにそう答えるのが精一杯だった・・・ちくしょう・・・

 

「でしたら救済措置としてギルドがご案内出来るドブさらいのお仕事はいかがですか?このお仕事ならば常に人手が足りていませんので、登録の無い方でもすぐにお仕事することが出来ますよ。それとこのお仕事を10日間して頂いた方は、ギルドの登録料を免除する制度もありますよ?」

 

 ドブさらいかぁ・・・かなりキツくて人気の無さそうな仕事だ。だからこそいつでも人手不足なのだろうが、異世界転生していきなりドブさらいか・・・だが背に腹は変えられない・・・所持金も無いならなんでも出来る仕事をして今日の飯代を稼がなくては・・・世知辛い世の中だ・・・

 

「はい・・・それでお願いします・・・」




 異世界に行くには暴走トラック。これはもはや常識。


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2話

 まだまだチュートリアルです。まだまだ世界観の説明も兼ねてる感じです。


 ドブさらいは良いものだ。確かに最初はキツくて臭くてたまったものでは無いと考えた。しかし黙々と一人で作業するのは嫌いでは無いし、臭いなんて人間の鼻は都合が良く出来ているのですぐに気にならなくなる。元々前世では肉体労働をしていたので、キツイ作業もそこまで苦では無い。それになにより定時で仕事が終わる、急な残業対応など無いのだ。さらにはなんと昼食と飲水の配給まである。もちろん簡素なパンと少量の干し肉だけだが、金欠の人間には充分な施しだ。

 

「よう兄ちゃん、兄ちゃんは今日で十日目だったな。これで今日から冒険者の仲間入りだな。」

 

 仕事が終わってその日の給料を受け取る時に、ドブさらいの監督をしている役人のロレンツさんが話しかけてくる。役人とはいうものの本人も作業に参加したりするので、体格のガッチリした土木作業系の人間だ。むしろ書類仕事とか出来なそうだ。

 

「はい!!このあと冒険者ギルドに行って登録をするつもりです!!」

 

 ドブさらいの仕事は夕方までで、冒険者ギルドは酒場も併設している関係かわりと遅くまで開いている。なんでも緊急の依頼主が来たりするので、少数の受付さんが夜も働いているとか。ギルド勤めはわりとブラックなのか?

 

「だったら水浴びくらいはしていけよ。兄ちゃんの鼻はバカになってるから気が付かねぇだろうが、今の俺達はかなり臭いからな。あまりの悪臭でギルドから叩きだされるぞ?ハッハッハッ!!」

 

「そ、それは勘弁ですね・・・どこか水浴びが出来る場所はご存知ですか?」

 

「公衆浴場なんて行く金はねぇんだろ?だったらいつも泊まってる馬小屋のとこに井戸があるだろ?あれで充分だろ?」

 

「そ、それもそうですね・・・」

 

 ロレンツさんには色々と教えて貰っている。ドブさらいの仕事に来るような人間は貧乏人ばかりだ。その日の暮らしも危ういからと稼ぎに来る者が多い。そんな人間を相手にしてきたからか、ロレンツさんは貧乏人がどうやって生きれば良いかの知恵が豊富だ。今寝泊まりしている馬小屋もロレンツさんの伝手で泊めて貰っている。

 

「まあ、冒険者なんて奴らも似たような生活をしている奴も多いから気にすんな!!大半の奴らはしっかり稼いで宿屋に泊まったりしてるが、無計画に生きるろくでなしも多いからな!!なぁに、また生活に困ったらドブさらいに戻って来いよ!!真面目に働く兄ちゃんなら大歓迎だ!!ハッハッハッ!!」

 

「もしもの時はまたお世話になります。それじゃ!!」

 

 ロレンツさんにそう言ったものの、もうここに来ることは無くなるだろう。なぜなら今日から俺は冒険者になるのだから!!

 

―――――――――――――――――――――

 

 井戸水を浴びてさっぱりしてから冒険者ギルドに入ると、ちょうどよく先日対応してくれた小柄で可愛い受付さんの前が空いていた。これは幸先良いな!!

 

「すみません。改めて冒険者の登録がしたいです。」

 

「ああカズキさん、今日もドブさらいお疲れ様です。これで10日間のドブさらいをして頂きましたので、冒険者ギルドへの登録料は免除ですね。あ、先に今日の分の報酬をお渡ししますね。」

 

 そう言って受付さんは今日の報酬である銅貨5枚を渡してくれたので、ひとまず財布にしまう。ちなみに貨幣の価値だが、生活に最低限必要なのは銅貨3枚くらい。馬小屋生活で昼食が提供されるドブさらいの仕事なら、1食分浮くから銅貨2枚で済む。銅貨10枚で銀貨1枚、銀貨10枚で金貨1枚、そして金貨100枚で聖金貨1枚だ。金貨から聖金貨のとこだけ倍率が違う。

 

「ありがとうございます。ではさっそく登録を。」

 

「はい、先日に必要事項の確認は終えていますので、今日はステータスの確認からですね。」

 

「おお!!ステータスですか!?」

 

「はい、ステータスとはその人の持つ能力の事で、筋力・生命力・魔力・精神力・敏捷性・器用さの基礎の6項目職業とスキルと称号によって構成されています。基礎の6項目の数値によって取得出来る職業が決まりますよ。」

 

 ふむふむ、HPやMPの概念は無いのか。そこは隠しステータス的なものなのか?

 

「スキルはなんとなく分かりますが称号とは?」

 

「称号はその人の生きた証とも言われていて、一定の条件を満たせば称号を獲得出来て、その恩恵として多少ステータスが上昇したり特殊な効果が得られたりしますので、是非積極的に取得してみて下さい。」

 

「具体的にはどんなものが?」

 

「そうですねぇ?初心者の方であればゴブリンバスターとかジャイアントラットバスターあたりが狙い易いでしょうか?条件もゴブリンやジャイアントラットを数多く討伐するだけですし、多少ステータスも上がるのでオススメです。それにゴブリンやジャイアントラットによりダメージを与える事が出来るオマケ付きです。」

 

「そ、そうですか・・・」

 

 なんかこう・・・もうちょっとカッコいい称号が欲しいんだけど・・・まあ、初心者なら仕方ないか・・・ドラゴンバスターとかならカッコいいんだけどなぁ。

 

「と、とにかくまずはステータスの確認をしてみましょう。こちらの水晶板に手を翳して下さい。」

 

 よ、よし!!気を取り直してステータス確認イベントだ!!神様的なやつと話をするイベントがなかったせいで、自分がどんな能力を秘めているか分からなかったけれど、きっと転生特典的ななにかがあるはずだ!!その力で無双して美少女ハーレムを築くんだ!!

 

「い、いきます!!」

 

 水晶で作られた板に手を翳すと、水晶板が少し光り始める。そのまま10秒くらい手を翳していると光がおさまる。

 

「もう良いですよ。」

 

 受付さんに言われて手を離すと、受付さんは水晶板の下に敷いていた紙を取り出して確認する。

 

「え!?こ、これは!?」

 

 よっしゃあ!!これは絶対当たりな反応だろ!?基礎ステータスがとんでもなく高いのか!?それとも何か特別なスキルがあるのか!?

 

「ど、どうなんですか!?早く教えて下さい!!」

 

「あ、えっと、その・・・」

 

 こちらの様子を伺っていたのか、周囲の冒険者達もざわつき始める。さあさあ!?俺の秘められた力はなんなんだ!?

 

「どうしたのシア?何か問題でもあった?」

 

「エレナさん!?ちょっとこれ見て下さい。」

 

「あらあら?これはまたずいぶん珍しいわね。」

 

 受付さんの対応に興味を抱いたのか、胸の大きな美人な受付さんが様子を見に来て、ステータスの紙を見て驚いている。あと小柄な受付さんはシアさんで美人の受付さんはエレナさんか。覚えておこう。

 

「早く俺にも見せて下さい!!」

 

「あら?ごめんなさいね。はい、どうぞ。」

 

 エレナさんから紙を貰って見てみるとそこには

 

 

カズキ

 

筋力  10

生命力 10

魔力  10

精神力 10

敏捷性 10

器用さ 10

 

職業  なし

スキル なし

称号  なし

 

 

 スキルなしかぁ・・・基礎ステータスは全部10だけどこれはどうなんだろう?

 

「えっと・・・これってどうなんですか?」

 

「こんなに均一なステータスなんて初めて見ました!!すっごく珍しいですよ!?」

 

「そうねぇ。でもこれだと冒険者になるのはちょっと大変かもしれないわ。」

 

「そ、そんなぁ・・・」

 

 あれだけ期待させておいてそれかよ・・・珍しさ特化とか誰得だよ・・・シアさんは物珍しさに驚いているみたいだけど、エレナさんはちょっと困ったよえな顔をしている。

 

「あ、いえ、別に冒険者になるのが無理なわけではないのよ?ステータス的には基本職なら何にでもなれるくらいの才能があるわ。神官だけは神殿の加護を受ける必要があるけれど・・・」

 

「え!?どんな職業にもなれるんですか!?」

 

 それは不幸中の幸いだ!!自分のなりたい職業を選べるのはせめてもの救いだろう。

 

「そう・・・なのだけど・・・能力値が均質だからこそ特別秀でたものが無いというか・・・前衛職に就くには筋力と生命力が低めだし、魔法職に就くには魔力が低めだし、弓使いやスカウトなんかに就くには敏捷性や器用さが低めなのよ・・・」

 

「つまり器用貧乏だと・・・」

 

「でもどの職にもなれるだけの最低値は確保してるのよねぇ。だからあなたの好みで選べば良いと思うわ。とりあえず前衛職・魔術士・弓使い・スカウトで選んで貰えるかしら?そこから細かいところを決めましょう。」

 

 どうするべきか・・・やっぱりファンタジー世界なら剣で戦うのが王道だと思うけど、魔法を使えるのもまた魅力的だ。弓使いやスカウトはちょっと地道だから除外して・・・

 

「魔術士でお願いします!!」

 

「分かったわ。じゃあ魔法の属性だけど、攻撃系と回復系と補助系のどれが良いかしら?」

 

「攻撃系が良いです。」

 

「だったら火属性が無難かしら?雷属性は制御が難しいから初心者向けじゃないのよねぇ。それか風属性も使い勝手が良いわね。」

 

 雷属性はカッコいいけど制御が難しいならちょっと辞めておこう。ここは無難に火属性で良いか、派手でカッコいいし。

 

「だったら火属性でお願いします。」

 

「分かったわ。じゃあシア、あとは任せたわよ。」

 

「は、はい!!ではカズキさんを火属性の魔術師として登録します。もう一度水晶板に手を翳してください。」

 

 言われた通りに手を翳すと、自分の手の上にシアさんが手を重ねて何か呪文をつぶやく。というかシアさんの手は小さくてスベスベだ!!もっとこの感覚を味わっていたかったが、すぐに水晶板が光ってしまいシアさんの手が離れてしまう。そして先程同様に水晶板の下から紙を取り出す。

 

 

カズキ

 

筋力  10

生命力 10

魔力  12

精神力 11

敏捷性 10

器用さ 10

 

職業 魔術士(火)

スキル 基礎魔術(火)

称号 なし

 

 

「おお!?ステータスが上がった!!しかも基礎魔術(火)のスキルもゲットした!!いっきに冒険者っぽくなったな!!」

 

「ふふっ、おめでとうございます。ですが油断は禁物ですよ?まずは冒険者ギルドが管理している演習場で練習する事をオススメします。最初は魔力操作の感覚に慣れてなくて、上手く使用出来ない方も多いですから。」

 

「なるほど。さっそく練習したいです!!」

 

「ではここの裏手に演習場がありますのでそちらを利用して下さい。この時間ならまだ管理人は居ると思いますので、その人の指示に従って利用して下さい。」

 

「ありがとうございます!!」

 

 シアさんに頭を下げてからギルドの演習場へと駆け出す。せっかく魔法が使えるようになったんだ!!とにかく早く試してみたい!!

 

「頑張って下さいね〜」

 

 シアさんが可愛く応援してくれるなら、俺はどこまでも頑張れます!!




 こういうちょっと欲望に忠実な主人公が書きたかった。


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3話

 この作品は主人公がいきなり無双する感じではなく、一歩一歩前に進む感じです。俺強ぇええ!!が読みたい方にはあまりオススメ出来ないかもです。


 喜び勇んで演習場に駆け込んだものの、時間が遅めだからか人の気配はほとんど無い。夕日もほとんど沈みかけているので辺りは薄暗く、いくつか置いてある篝火が頼りの状態だ。

 

「見かけない顔だな?新入りか?」

 

 演習場でキョロキョロと様子を伺っていると、強面のおっさんから声をかけられた。なんだかどこかで見た事があるような気もするが、ちょっと思い出せない。かなりガタイが良いし、腰に剣を装備しているから戦士系の人だろう。

 

「は、はい!!今日冒険者ギルドに登録したばかりでカズキです。職業は火属性の魔術士です。」

 

「そうかそうか、俺はリゲルだ。元冒険者で今はこの演習場で教官をやってる。それで試し撃ちがしたいのか?魔法を使うのは初めてか?」

 

「はい、初めてです。」

 

「なるほどな。魔術と言っても様々な形態があるが、魔法が初めてって事は基礎魔術しかスキルが無いんだろ?だったら詠唱魔術だな。」

 

「詠唱魔術ですか。」

 

 魔法を唱えて発動するタイプか。よく見かける設定の魔法だな。

 

「おう、その名の通り呪文を詠唱して発動するタイプの魔術だな。今からあの訓練用の的に向かって撃ってやるから見てな。」

 

「え!?リゲルさんは魔法が使えるんですか!?てっきり前衛職の方だと思ってました。」

 

「俺くらいのベテランなら前衛職でも基礎魔術くらいなら使える奴は多いぞ?使える手段は多く用意しておく方が良いからな。まあ見てろ。」

 

 そう言うとリゲルさんは無造作な動きで、的になっている鎧を着せた案山子に向かって手の平を向ける。杖とかは必要ないんだ。

 

「炎よ 我が敵を撃ち抜け ファイヤーアロー!!」

 

 短い詠唱の直後に炎の矢が的に飛んでいく。それなりの速度で飛んでいった炎の矢は、鎧の表面を焼いて霧散する。流石に金属の鎧を貫通する程の威力は無いみたいだが、初めての魔法にちょっと驚いた。

 

「これが火属性の基礎魔術の一つファイヤーアローだ。魔力の制御も簡単で発生が早く狙いもつけやすい。初心者向けの魔法だな。やってみるか?」

 

「はい!!」

 

 的に向かって手の平を向けて一つ深呼吸をする。

 

「炎よ 我が敵を撃ち抜け ファイヤーアロー!!」

 

 詠唱をした瞬間体の中を何かが走り抜けて、手の平に集まるような感覚を感じて驚く。これが魔力を使用する感覚なのか!?次の瞬間自分の手の平の前に炎の矢が形成されて、的に向かって勢い良く飛んでいく!!残念ながら的の右側に逸れてしまったが、それでも初めての魔法の発動に成功した!!

 

「ほう、悪くはないな。」

 

「もう一回!!炎よ 我が敵を撃ち抜け ファイヤーアロー!!」

 

 今度は最初から体の中を何かが走り抜ける感覚に驚く事なく、落ち着いて発動出来たのだが・・・今度は的の左側に逸れてしまった。

 

「ふーむ、少し別のやり方を試してみるか。」

 

「別のやり方ですか?」

 

「例えばこうだ。」

 

 リゲルさんは今度は手の平を的に向けるのではなく、的を指差して狙いをつける。そして短い詠唱と共に炎の矢が飛んで的に命中する。

 

「こんな感じで魔法の撃ち方にも色々ある。人それぞれやりやすい方法があるからな。素手でやるなら手の平を向けるか指差すのが多いな。後は両手で三角形を作ってその中心に相手を捉えるとかもあるな。この辺は色々と試してみると良い。杖があるなら杖を向けるのが一番だがな。だがちゃんとした杖はそれなりに高価なものだからな。」

 

「なるほど、試してみます。」

 

 今度は指差しでファイヤーアローを試してみると、ようやく的に当たった。逆に両手で三角形を作るやり方はしっくりこなかったので、今後は指差しの形で使うとしよう。それにしても魔法を連続で使ったからか、それなりに疲労感を感じる。

 

「ん?もうへばってるのか?」

 

「あ、いえ・・・まだやれます。」

 

「まだやれるは冒険では危険な状態だな。冒険は常に命がけだが、命あっての物種だから無理をしないのが長生きするコツだ。・・・だがまあ、演習場ならぶっ倒れても死にやしない。自分の限界を知っておきたいなら止めはしねぇよ。新人魔術士なら命削って魔力を得る手法なんて知らねぇだろうから安心だ。」

 

 自分の命を削って魔力を得るか・・・そんな危険な手法もあるのか・・・だがそんな知らない手法は置いといて、自分の限界は知っておきたい。

 

「ご迷惑をおかけしますが、自分の限界は知っておきたいです。」

 

「ならあと2つの基礎魔術を教えといてやる。その練習してぶっ倒れろ。まずはファイヤーボールだ。」

 

 そう言ってリゲルさんは再び的に向かって手の平を向ける。

 

「炎よ 我が敵を焼き払え ファイヤーボール!!」

 

 今度はスイカくらいの大きさの火の球が飛んで、的にぶつかると小規模の爆発が起こる。

 

「こんな感じだ。ファイヤーアローよりは込める魔力が多いぶん威力は上で、爆発するから直撃しなくても敵の近くに当たれば多少のダメージは与えられる。だが見て分かるとおりファイヤーアローよりは発生と速度で劣るし、命中精度も若干劣る。状況次第で上手く使い分けると良い。」

 

「分かりました。やってみます。炎よ 我が敵を焼き払え ファイヤーボール!!」

 

 ファイヤーアローの時よりも魔力が走り抜ける感覚を強く感じる。疲労感もあってか多少ふらついてしまったせいか、自分が放ったファイヤーボールは的が置いてあるとこよりも手前の地面に当たってしまった。これはまだまだ練習が必要だな。

 

「はぁはぁはぁ・・・けっこうキツイですね・・・」

 

「そろそろ限界も近いみたいだな。最後は少し性質が変わった付与魔法だ。ちょっと見てろ。」

 

 リゲルさんは腰から剣を引き抜くと、その剣に向かって手を翳す。

 

「炎よ その力を宿せ エンチャントファイヤー!!」

 

 リゲルさんが詠唱を終えると剣が炎を纏う。炎の剣とか厨ニ心をくすぐる一品だな。その場でリゲルさんが軽く3回程炎の剣を振るうと、火の粉を散らして消えてしまった。意外と効果時間は短いな。

 

「こんな感じで武器とかに炎を纏わせる魔法だ。こいつはかなり応用が効く。付与する範囲と継続時間を魔力量でコントロール出来るからな。あとは武器の先だけに炎を纏わせて、緊急時の松明代わりに使ったり出来る。その代わり範囲の指定をミスったら自分も火傷するから気を付けて使えよ。」

 

「なるほど、今までよりも少し難しいですね。」

 

「そこは練習だな。いきなり手に持ったものに付与させるのは危ねえから、お前はあの的に付与してみろ。」

 

 なるほど。それなら安全に練習出来るな。だがそろそろ魔力も空になるのか、かなり疲労感が強い。少しふらつきながらも的に近づいて手を翳す。

 

「炎よ その力を宿せ エンチャントファイヤー!!」

 

 体内の魔力を振り絞るつもりで呪文を詠唱したが、的に着せている鎧が一瞬炎に包まれただけで消え失せる。そして限界を超えたからか、ふと意識が遠のいた。




 基礎魔術数回で気を失う貧弱魔力ですまんな。


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4話

 気まぐれ更新なので、更新頻度はかなり遅めです。気長にお付き合い頂けると幸いです。


 念願の魔法を使えるようになった次の日、さっそく早朝から冒険者ギルドへと駆け込む。今日から俺も冒険者の一員だ!!これから英雄として駆け上がるんだ!!そう考えていたのに俺は物凄く大事な事を忘れていた。

 

「・・・・・・文字読めないんだった。」

 

 ギルドの職員が掲示板に張り出した依頼書に群がる冒険者誰が、次々と依頼書を持って受付に行く中で呆然と立ち尽くす馬鹿が一人・・・読めない依頼書を前にどうやって依頼を受けろって言うんだよ?どこかで文字を習うべきだったか・・・

 

「そんなとこにぼーっと突っ立ってどうした?装備も何も無いが新入りか?」

 

 振り返ると金髪で背の高い槍使いが声をかけて来たようで、その後ろにガタイの良い斧使いとちょっと小柄な弓使いが居た。全員男のパーティのようだ。

 

「あ、すいません!!新入りのカズキです!!昨日冒険者登録して魔術士になったばかりです!!宜しくお願いします!!」

 

「ふーん、魔術士か。うちのパーティには魔術士は居ないんだよなぁ。ちなみに覚えた魔法と魔力がいくつか教えてくれるか?」

 

「おい、ライド!?まさかこんなひよっこをパーティに入れるつもりか!?」

 

「まあまあ、とりあえず聞くだけだって。」

 

 おっ!?もしかしてこれは仲間に入れてくれるパターンか?

 

「えっと、火属性の基礎魔術で魔力は12です!!魔術は覚えたばかりだけど一生懸命頑張ります!!」

 

「あー、そうか。まあ、邪魔して悪かったな。詫びと言ってはなんだが先輩からのアドバイスをしてやる。クエストなんて受ける前にまずは装備を整えろよ。それだけでも少しはマシになるはずだぜ。じゃあな。」

 

 ライドと呼ばれた槍使いは俺の肩を軽くぽんと叩いて去って行ってしまった・・・まあ、そりゃそうだ。駆け出しでなにも装備を持っていない魔術士を誘う馬鹿がいるわけない。これで才能がある魔術士なら先行投資をする意味があるかもしれないが、俺の魔力はお世辞にも高いとは言えない。はぁ・・・とりあえず杖に関しては無くても戦えるけど、せめて服装くらいは整えたいところだ。魔術士ならローブが定番か?でもあれってただの布だから普通の服と大して変わらないか?魔術的な付加価値のついたローブなんて高くて買えないだろうし。

 

「よう、そこの新入り!!行くあてが無いなら俺と組まないか?」

 

 今度は誰が声をかけて来たかと思えば、自分と同様にほとんど装備の揃っていない奴だった。茶髪でさほど背は高くないが、見たところ体は多少鍛えているようだ。自分と変わらないようなボロい服だが、一応腰のベルトにこん棒をぶら下げているから戦士ってところか?

 

「なんだよ?お前も駆け出しか?」

 

「まあな。3日前に登録したばかりだ。でももう冒険者として活動してるから俺が先輩な。あ、俺の名前はタイシだ。この街のからさらに西にある田舎の出身だ。」

 

「カズキだ。まあ似たようなところの出身だ。ところでそんな装備で冒険してるのか?見たところまとまなのはこん棒くらいだが・・・」

 

「おうとも!!とは言ってもこの街の下水道でジャイアントラット退治だけどな。あいつらは弱いからこん棒だけでもなんとかなるもんだぜ。」

 

 ジャイアントラットか・・・たしかシアさんから名前だけ聞いたな。口ぶりからしてゴブリンと並ぶ最弱のモンスターっぽかったな。

 

「ジャイアントラットか・・・ちなみにどれくらいの大きさなんだ?」

 

「なんだよ?カズキはジャイアントラットも見たこと無いのか?まあいいや、あいつらはネズミにしてはデカいけど、立ち上がってもせいぜい膝の高さくらいか?あれでジャイアントなんて完全に名前負けしてるぜ。」

 

 つまり小型犬くらいの大きさか。確かにそれくらいならこん棒一つでもなんとかなりそうだ。タイシの言う通りでネズミにしては巨大だが、ジャイアントなんて大げさだな。元の世界で最大のネズミであるカピバラさんのほうがよっぽどジャイアントだ。

 

「とは言ったものの俺は魔術士だが杖すらないぞ?装備だって普通のボロい服だし。」

 

「そりゃそうだろ?駆け出しなんて皆そんなもんさ。むしろ最初から杖なんて持ってる奴は、それなりに裕福な奴だろ?だから装備を整える為の下積みとして、ジャイアントラットの討伐をするんだよ。」

 

「なるほど・・・だが危なくないのか?」

 

「そりゃあいつらだってモンスターの端くれだからな。普段は逃げ回ってても、追い詰められたら噛もうとしてくるさ。だが危険を冒すから冒険者だぜ?ジャイアントラットにビビるくらいなら、最初から冒険者なんてならない方が良い。」

 

「それもそうだな。」

 

「それにモンスターの討伐をしなけりゃどうやって稼ぐつもりだ?薬草や鉱石の採取なんて知識がなけりゃ出来ないし、護衛の仕事なんて信用の無い駆け出しに声がかかる事なんて無いぜ?配達なんかも一緒だな。だから討伐以外で残るのなんてドブさらいくらいだろ?」

 

 確かにせっかく冒険者になったのにドブさらいをするのは勘弁願いたい。それにタイシはジャイアントラット討伐の依頼を達成したことがあるならば、少なからず頼りになる。魔術士が一人で挑むよりはよっぽど良い。

 

「・・・そうだな。じゃあ俺もジャイアントラット討伐に行こう。宜しく頼む。」

 

「おう!!頼むぜ相棒!!」

 

 相棒か。そういうのも悪くないな。二人で握手を交わして即席のパーティーが出来上がると、タイシはさっそく受付の方へと向かった。

 

「ん?依頼書は取らないのか?」

 

「ん?ああ、俺は文字が読めないからな。受付の人に直接頼めば低ランクの依頼なら受けれるんだぜ。」

 

「そうか・・・」

 

「心配すんなって!!ジャイアントラットの討伐なんていつでも出てる依頼だし、報酬は討伐したジャイアントラットの尻尾を持ち帰って、ギルドに渡したら討伐数に応じて貰えるんだ。」

 

 そう言うとタイシは懐からナイフを取り出すと、こいつでスパッとな!!と言って笑う。ナイフは刃渡りも短く武器としては頼りないが、尻尾を斬るだけなら問題ないのだろう。 

 

「なるほどな。完全出来高制ってわけか。実力主義の冒険者らしいな。」

 

「まあな。それじゃさっそくいきますか!!」

 

―――――――――――――――――――――

 

 ギルドに併設されている道具屋で松明だけを購入してから、街の下水道の入口まで来た。街にはいくつか下水道の入口があるが、ここは冒険者ギルドから一番遠くの入口らしい。タイシ曰く「近場は獲物の取り合いになるから」との事だ。確かにわざわざ遠くの入口まで来ている奴は自分達だけみたいだ。

 

「じゃあ俺が先に行くからカズキは松明を持ってついて来てくれ。あと魔法での掩護も頼むぞ。」

 

「了解だ。」

 

 下水道の中は真っ暗なので、入口で松明をつけてから中に入る。灯りがなくなったら困るから、この松明が燃え尽きる前には帰らないとな。いざとなったらエンチャントファイヤーで明かりを確保出来るが、それは最後の手段だ。それにしてもやはり臭いな。ドブさらいで多少の耐性はついたと思っていたが、下水道はそれ以上の臭さだ。それに足元も気をつけておかないと、滑って下水道わきの通路から下水道の中に落ちてしまいそうだ。

 

「お?さっそくいやがったな。」

 

「ん?あれがジャイアントラットか・・・」

 

 確かに事前に聞いたとおりジャイアントと名がつくわりには大きくないな。なにかエサでも探しているのかこちらにはまだ気が付いていないみたいだ。暗闇で松明をつけているのに気が付かないって事は、かなり目が悪いのか?

 

「じゃあ見てろよ・・・せぇぇええい!!」

 

 じりじりとジャイアントラットに近づいたタイシがこん棒を振り上げて猛然と襲いかかる!!・・・・・・しかし振り下ろしたこん棒は通路を叩き、ジャイアントラットは奥へと脱兎の如く逃げ去ってしまった。

 

「・・・・・・ふぅ。逃したか。」

 

「逃げられたな。」

 

「あいつら逃げ足だけは速いからな。」

 

「襲う時に大声出したのがまずいんじゃないか?」

 

「いや、そうだけどさ・・・無言だとなんか気合入らなくてさ・・・」

 

「そっか・・・とりあえずつぎ探そうぜ。」

 

「おう!!次こそ任せとけ!!」

 

 タイシはそう言って笑顔を向けてくる。あまり頼りにはならないけれど、お互い駆け出しなんだからこんなものかな?一緒に少しずつ前に進めばいいか。




 美少女ハーレム目指してたはずなのに、男のパーティーも満更ではなさそう?


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