ポケットモンスター・ライフ (ヤトラ)
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その0「注意書き」
この注意書きを読んでおくと「あ、こういう小説なんだ」という概念が解るはずです。
どうも初めまして。作者の百聞一見と申します。
ポケットモンスターは初代からダイヤモンドパールまでプレイ済みで、現在はポケモンブラックをプレイ中。
中途半端な知識と育成を楽しむだけの非廃人ですが、ポケットモンスターの世界観が大好きです。
この小説は「ポケモンと暮らす人達」を題材にした、ホウエン地方を中心としたスローライフ小説です。
その他の地方はカントーからカロスまでありますが、カロス・イッシュは知識だけの雑な物となる可能性があります。お許しください。
チャンピオンを目指すとか、バトル三昧とか、巨大な悪に立ち向かうとか、伝説のポケモンを追うとか、ハーレムを作るとか、誰にも真似できないような夢を描くとかそんなことはしません。
むしろここではポケモンと一緒に店を営んだり、畑仕事をしたり、個性的なバトルをしたり、有名人と出会ったり、旅行したり、ポケモンと暮らす誰かの生活を覗いたりします。
特に大きな目的も無く、ポケモンが増えたり友達が増えたり恋をしたり店で大変なことが起こったり旅行先で事件に巻き込まれたりと支離滅裂です。
また、ポケモンの生態やポケモンバトルは「ポケットモンスターSPECIAL」を参考にしていますが、独自の設定などが練りこまれております。
ポケモンバトルにおける独自の設定を幾つか挙げますと
・空飛ぶポケモンは飛行タイプとしても影響が出る。(例:『ふゆう』持ちのマタドガスが『うちおとす』を食らうと一時的に地面に落下し『じしん』が当るようになる)
・『ステルスロック』や『まきびし』は戦闘中のポケモンにも影響され、設置したポケモンも含め全てに影響が出る可能性有り(注意して戦うことも可)。
・『リフレクター』や『ひかりのかべ』などの壁は『かわらわり』でなくても破壊されることがある。(最大パワーの『ころがる』とか『もろはのずつき』と言った打撃技など。斬撃系は弾く)
・隠れ特性はドリームワールドとか関係なく『珍しい又は貴重な特性』として捉えられている。
などなど、出来る限りのリアリティを求めた作者の無駄な努力が炸裂することもあります。
読者ごとに考え方が違うとはいえ、作者の描くポケモンバトルは変かもしれません。ご注意ください。
ご指摘やアドバイス、批評や不備な点などありましたら感想板にてお願いします。
そんな「平和8割・波乱2割」なポケモンライフを楽しんでもらえればと思います。
時には別のポケモントレーナーの生活を覗いたりもし、個性豊かなポケモンライフをお届けしたいと思います。
では皆さん、個性的なきのみ屋のガーデニングと経営を中心に、ポケモンと人の生活を楽しんでいってください。
ちなみに作者が一番好きなタイプはくさ・むし・いわ・はがねです。
イッシュ地方の虫ポケモンが素敵過ぎてメインメンバーになっちゃってます(笑)
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その0.5「登場人物&登場ポケモン紹介」
登場人物や裏庭のポケモンが増える度に更新する予定です。
7/7:誤字修正及び登場ポケモン追加
8/28:情報編集・登場キャラ及び登場ポケモン追加
10/22:登場ポケモン追加。すっかり忘れてた(ぉ)
3/15:登場ポケモン追加。
●登場人物
●ハヤシ
ガーデニングが趣味な元トレーナー♂。20歳。穏やかな性格。考え事が多い。
身長180cmの黒髪黒目。長い髪を後ろで纏めており、緑色のバンタナを頭に巻いている。
シダケタウンできのみ屋を営んでおり、ガーデニングときのみ栽培が趣味。料理も得意。
『ステルスロック』や『リフレクター』といった設置系の変化技を好む。持久戦型。
●ミツル
ホウエン地方各地を旅しているトレーナー♂。14歳。頑張り屋な性格。粘り強い。
ポケモン達と共にホウエン各地を旅しているが、たまに両親が居るシダケタウンに帰省する。
『コットンガード』や『めいそう』などのステータス上昇系の変化技を好む。防御型。
現在はイッシュ地方でドクターを目指して旅をしている。
●ナタネ
ホウエン地方へ旅行しに来た
その正体はシンオウ地方のジムリーダー。ハヤシとは草ポケモン好きの友人として仲良くしている。
『リーフストーム』や『ソーラービーム』といった豪快な草タイプの技を好む。短期決戦型。
―――
●登場ポケモン
ローちゃん(ロゼリア♀)
親:ハヤシ
特性:しぜんかいふく
穏やかな性格。抜け目が無い。ハヤシの花壇に紛れ込んでいた時にゲット。
ハヤシの手持ち第一号で、畑のきのみや花の水加減を教えてくれる。お母さんタイプ。
ゴーさん(バクオング♂)
親:ハヤシ
特性:ぼうおん
寂しがりな性格。力が自慢。ゴニョニョの時、遊んでとせがまれた時にゲット。
力仕事に役立つ他、手先が器用なのでお店の商品を並べる仕事も得意。中身はお子様。
サンちゃん(サンドパン♀)
親:ハヤシ
特性:すなかき
頑張り屋な性格。気が強い。サンドの時、砂漠遺跡で砂かきをしていた時にゲット。
畑の土を『たがやす』のがお仕事。仕事熱心なワーカーホリック。出来るOLさん。
ガーさん(シザリガー♂)
親:ハヤシ
特性:てきおうりょく
やんちゃな性格。ケンカをするのが好き。ヘイガニの時、初めての釣りでゲット。
裏庭の池の整備や警備が主。バトルが好きで色々な技を覚えている。喧嘩好きな不良。
アーさん(エアームド♂)
親:ハヤシ
特性:がんじょう
暢気な性格。居眠りが多い。居眠りをしていた時にゲット。
『ステルスロック』や『まきびし』を撒くが得意なトラッパー。お寝坊さん。
ヤーやん(ネンドール)
親:ハヤシ
特性:ふゆう
真面目な性格。とても几帳面。砂漠遺跡周辺をグルグル回っていた所をゲット。
壁を張り、きのみ畑を警備するガードポケモン。表情は読めないが真面目な頑固者。
ロトやん(ロトム)
親:ハヤシ
特性:ふゆう
臆病な性格。物音に敏感。テッセンより芝刈り機とオーブン付きで譲り受けた。
カットフォルムで芝刈り、ヒートフォルムで調理と便利なポケモン。生まれたてで、まだビクビクしている。
イーくん(リーフィア♂)
親:アキコ
特性:ようりょくそ
腕白な性格。物をよく散らかす。イーブイから進化した際、アキコおばさんに譲ってもらった。
とにかく腕白でいつでも遊び盛り。子供っぽさに似合わぬあざとい一面も。ゴーさんの親友。
クケちゃん(ドクケイル♀)
生意気な性格。イタズラが好き。シンオウ地方行きの船まで付いて来た所をゲット。
技を豊富に覚えている強敵。何故かハヤシに付き纏う。所謂ツンデレ。
ミノちゃん(ミノマダム♀/草の蓑)
親:ハヤシ
特性:きけんよち
勇敢な性格。血の気が多い。ソノオタウンであまいミツに誘われた所をゲット。
喧嘩っ早く気が強い、しかし上下関係に五月蝿い女番長みたいなポケモン。イーくんの天敵。
キッパさん(マスキッパ♂)
親:ハヤシ
特性:ふゆう
素直な性格。食べるのが大好き。ノモセ湿原のサファリでゲット。
地元では「大食い」と呼ばれるほどの食いしん坊。狡賢いのに聞き分けが良い。
ダイトさん(ナエトル♂)
親:ハヤシ
特性:しんりょく
暢気な性格。のんびりするのが好き。ナタネから貰ったタマゴから孵った。
よく昼寝するが単にのんびり屋なだけらしい。今後に期待。
スーちゃん(スボミー♀)
裏庭に生息。
控えめな性格。好奇心が強い。畑に紛れ込んでは水浴びをせがむお茶目なお子様。
キンさん(コイキング♂)
裏庭に生息。
勇敢な性格。負けず嫌い。黒いメガネを掛けているヤンキーっ子。まだ弱い。
ザンさん(ザングース♂)
裏庭に生息。余所からやって来た。
意地っ張りな性格。気が強い。経験豊富でとにかく強い。年老いておりいつもは寝ている。
そういえば主人公の外見について記載したのってコレが始めてかも(コラ)
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その1「きのみ屋さんの朝」
なんでガーデニングがメインなんだって?ガーデニングに憧れていたからさ。
金銭感覚とか土地とか食料事情とか電化製品とかどうなっているのかって?僕にも解らんよ。
そんな適当さも混ざっている微妙な小説ですが、楽しんでもらえれば幸いです。
かつてホウエン地方に伝わる伝説のポケモンによって地方各地の陸と海が荒れに荒れ、ホウエン全体を騒がす大事件に見舞われた事があった。
そんな大事件は「ある者達」の協力により見事治められ、3年も経った頃には自然と落ち着き(この間にも他地方で大騒動があったが、ここでは伏せておく)、再び平和な日々が訪れた。
そんな日々の中、世間は他地方の技術やブーム、新たなポケモンに目が行くが、ここホウエン地方では少なからず注目を集めている店がある。
―曰く「きのみの専門店」
―曰く「お子さんでも優しいお値段」
―曰く「野生のポケモンが出没する、大きくて綺麗な裏庭」
―曰く「元・キンセツシティのガーデニングマニア」
―曰く「今も昔も趣味で出来ている店」
その店の名は「大きな庭のきのみ屋さん」。
先人が隠居する前よりシダケタウンで人気の小さな店の名前だ。
―――
僕ことハヤシの朝は、窓から差し込む光で目を覚まし、近所のドードリオの鳴き声で眠気を覚ます事から始まる。
まぁ子供の頃から早寝早起きを習慣としていたこともあるけど、一番の理由は「趣味の為」に尽きるだろう。人間、やりたいことがあると早く起きられるもんです。
遅れて鳴り響くポッポ時計を止め、背伸びをする。時刻は6時を指していた。
窓辺に置かれた鉢植えの上では、ローちゃん(ロゼリア♀)が一先早く起きており、気持ち良さそうに朝日の光を浴びていた。
そんなローちゃんに「おはよう」と言って頭のトゲを優しく撫でやると嬉しそうにはしゃぐ。可愛い。
ちなみにうちの子の特性は「しぜんかいふく」なので安心。以前「どくのトゲ」持ちのロゼリアのトゲに触れたらえらい目にあった……。
ローちゃんには先に降りてもらい、僕は洗顔と歯磨きをさっと済まし、2階に設置しているポストから新聞と手紙を出す。窓を見たら配達員を乗せたペリッパーの後ろ姿があったので手を振って見送る。
「カロス地方で話題のハチクマン、ホウエンムービーズで上映決定!」と書かれた記事に目を配りつつ、手紙の差出人を確認。一つはマサ、もう一つはテッさんからだ。
けどうちは朝から忙しいので、手紙は私室のテーブルに置いて後回し。さっさとツナギに着替えようっと。
新聞を読みながら階段を降りていると、「バクォーン!」というデカい音が木製の壁を通じて耳に響く……が、慣れっこなので効果は今一つ。
ご近所さん家のダブルス(ドードリオ♂)を見習いなさい。音量は劣るけどキレがいいんだ。
1階にたどり着くと、朝日に照らされた、僕がよく見ているお店の光景が広がっていた。
右側からは窓から漏れる朝日が入り、左側に並べられた商品棚とテーブルが照らされ……あ、ローちゃん、テーブルクロス掛けてくれてありがとね。
今は商品が無いからガランとしているけど、これから棚やテーブルに品を並べると思うとやる気があがるってもんだ。
「よし、今日も頑張ろっか!」
「ロー!」
うん、いい返事だローちゃん。
意気込みを注入してからローちゃんと一緒に背伸びをして、僕は厨房から朝御飯を出す。昨日の売れ残りのオボンブレットとモモンのみのジャム、モーモーミルク、そして各種ポケモンフーズと受け皿。
肩に乗せたローちゃんにミルク瓶を持ってもらい、残りを両手で抱えた僕は裏庭に向かう。
「大きな庭のきのみ屋さん」の名の通り、ここの裏庭はかなり広い。低木で囲まれた庭の半分はきのみ畑、後の半分は庭木が並んでおり、奥には綺麗な水辺がある。
イシ爺が営んでた頃の庭は荒れまくっていたのに……趣味のガーデニングが旅で鍛えられた結果がコレだよ。ドヤァ。
「みんなー、朝御飯だよー」
それは置いといて、今は戦前の腹ごなしだ。
裏庭のテーブルに自分の朝食を並べながら声を掛けると、庭に居たローちゃんを除く全員がやってくる。
奥の水辺からガーさん(シザリガー♂)が。
ケムッソを外に逃がしてたゴーさん(バクオング♂)が。
警備メカみたく決まったルートを浮遊していたヤーやん(ネンドール)が。
地中からサンちゃん(サンドパン♀)が。
アーさん(エアームド♂)は寝ぼけてたのか庭木から落っこちてきた。
そしてローちゃん(ロゼリア♀)は皆の分のポケモンフーズを配膳済み。
他の子を差し置いて自分だけ先に食べるような卑しい子じゃないんだよ、うちの子らは。
これが、店を継ぐ前から苦楽を共にしてきたポケモン達です。タイプ相性とか考えず、気に入ったから捕まえた子ばかりです。
畑に散らばる各種トラップに注意しつつこっちにやってきて
「「「「「( ゜▽゜)ノノ(ごはん、ごはん!)」」」」」
と言わんばかりにご飯をねだってくる。個性豊かなうちの子だが、ごはんとなると気持ちが一つになるんだよね、あっはっは。
―――
時刻は朝の7時。
ラジオを聴きながら朝御飯を食べ終えた後は、いよいよ趣味兼仕事の時間。腕がなるぅ~。
「よーし、今日も頑張るぞー!」
―え、さっきも言っただろって?こういうのは気分で言うもんだからいいの!
まずはきのみ泥棒対策にに敷いておいた各種トラップの駆除から。
アーさんの『ふきとばし』で『まきびし』や『ステルスロック』を吹き飛ばし、ローちゃんに『くさむすび』をほどいてもらい、ヤーやんに畑を囲んでいる『リフレクター』と『ひかりのかべ』を取り除いてもらい、駆除完了。
これだけ厳重にも関わらず、しつこくきのみを狙ってくるポケモンがいるんだよね。『どくびし』を撒かないのは優しさです。
ちなみに罠を解除した後から鳥ポケモンや虫ポケモンが狙ってくる事もあるが、ゴーさんとアーさんが番ポケしているので大丈夫。
次はきのみ畑で採取と雑草抜き。
今日多めに採るきのみはクラボ・ヒメリ・フィラの辛いきのみ三種類とオレン。今日の特売品はきのみスパイスとオレンパンにしよっかな?
モモンとチーゴはほどほどに採り、珍しいきのみは5個ほど、人気のオボンとラムは実がなっていないので諦める。実るのは明日とみた。
あ、カゴとナナシが枯れてた。畑の土も寂れてきたし、そろそろ耕そっか。
新しく落ちてたカゴとナナシのきのみを拾い、畑に生えているきのみの草木を根ごと抜き取る。枯れたものは畑の端に置いといて、それ以外は鉢植えに移植する。
「サンちゃん、この畑に『たがやす』よろしくー」
呼ぶとサンちゃんは「待ってました!」と地中から顔を出し、自慢の爪で畑の土を掻き回す。がんばり屋なサンちゃんは働く姿が一番似合うよ、うん。
にしても農作業に便利な技だよね、『たがやす』って。『じならし』よりも丁寧にしてくれるからありがたい。
サンちゃんが耕している間はローちゃんと一緒に畑の雑草抜きに励む。時々ナゾノクサがいる事もあるので慎重に。
広い畑の雑草抜きは一人と一匹がやる事で短縮され、終わる頃には耕しが完了してる。お疲れさまサンちゃん、ローちゃん。
同じルートを巡回するヤーやんを尻目に新しいカゴの実とナナシの実を植え、畑全てに肥料を蒔く。新しく植えた畑にはより良い肥料を蒔くのがうちのやり方。
肥料を蒔いたら水やり。ちなみにガーさんは水タイプだけど水は蒔きません。ガーさんは水辺の番ポケだから。
水やりはホエルコ如雨露で一つ一つ丁寧に。必要な水の量をローちゃんに教わりつつ、少なすぎず多すぎずを見極める。
この時、草木に紛れて畑に埋まっているナゾノクサにも水をかけてやる。クサイハナに進化したら自分から出ていくし。
―なんでこんな面倒な事をしているかって?ポケモン同様に愛があるから手間を掛けるのさ。
そうやってきのみとナゾノクサに水を蒔いて廻ると……お、居た居た。
きのみの草木に紛れ込むようにして、しかしソワソワしてるからバレバレな草ポケモンが一匹いる。
この子は最近になって畑に混ざってきた、ロゼリアの進化前であるスボミー♀だ。
毎朝水やりの時に欠かさず現れるので、今では常連さん扱い。スーちゃんと名付けてます。
スーちゃんはバレていないと思っているのか堂々と立っており、今か今かと水浴びを待っている。
気付かないフリをしながら水を蒔くと、スーちゃんは花が咲いたような笑顔を浮かべて喜ぶのだ。うん、いつ見てもめちゃくちゃ可愛い。ローちゃんなんてメロメロだよ。
他のナゾノクサ達も「はやくー」と水浴びをせがんできたので、広範囲に如雨露を振って雨を降らす。これぞ人間の『あまごい』……無いな、うん。
―――
さて、これで水やりは終了。スーちゃんはいつも通り茂みの中に消えていった。
ヤーやんに壁を張ってもらい、居眠りしてるアーさんを起こして「まきびし」を蒔いてもらう。昼間の防犯はこれで十分。
時刻は8時30分。やはりポケモンに手伝ってもらっても時間が掛かるなぁ。
心地よい疲れ、そして満足感と達成感を味わった所でツナギを脱ぎ、私服に着替える。
アーさんとヤーやんとガーさんに畑の警備を頼み、ゴーさんとローちゃんを連れて開店の準備を始める。
第一にやる事は、裏庭への入り口に「まきびし注意!勝手に入らないでね」と書かれた看板を置く事。いるんだよね、勝手に庭に忍び込んで痛い目に逢う輩が。
次は今朝取れたばかりのきのみを商品棚に並べる。辛い、甘い、苦いと、きのみの味ごとに分けるのがポイント。
その次はきのみで作った商品をテーブルに並べる。
お得なきのみの詰め合わせセット、モモンのみのジャム、カゴのみドリンク、乾燥させたきのみの粉袋、12種類のきのみ汁などなど。昨日の売れ残りは半額コーナーに。
―ゴーさん、売れ残りのオボンクッキーをつまみ食いしないの。
色んな商品を並べ終えた頃には九時を少し過ぎてたので、急いで玄関に向かう。今日はまだ人が来ていないようだ。
玄関の黒板に今日のオススメや特売品を記し、「クローズ」の札を裏返して「オープン」と表示させ、看板ポケモンことローちゃんを専用の鉢植えに置いて準備完了。
さぁ、「大きな庭のきのみ屋さん」、本日も元気に開店だ!
さて、これからきのみスパイスときのみパンを焼かないと。
―続く―
変なネーミングセンスだと思うでしょう。けど私としてはポケスペみたいな名づけ方ができて満足です(笑)
ちなみにネーミングの基準は♂なら「●●さん」、♀なら「●●ちゃん」、性別不明は「●●やん」です。
現在プレイしているポケモンブラックも全てこれです(酷ぇ)
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その2「きのみ屋さんの午前」
後、これから記す調理過程とかは割と適当です。
僕は旅をして学んだ事がある。
生きて旅をする以上、食べ物に詳しくなり、食べ物を好きなように調理できるようにならなくては楽しくないと。
こう言い切れるようになったのも、僕と一緒にキンセツシティを旅立った2人のおかげ……いや2人のせい、と言うべきだろうか?
何しろ2人揃って勢いで行動するから決まった日程で目的地に着いた事が一度も無く、計画性が無いから食べ物はすぐに消えて無くなる。正確には胃袋の中で。
大食いな2人+ポケモン達の食材を賄う為にも、道端のきのみを上手く調達し、美味しく調理しなければならなかったのだ。少なくとも僕しかまともに作れなかったから。
パン屋のおじさんから作り方を学んだ。激ウマなきのみ料理店でバイトをした事もあった。カナズミシティできのみの勉強を1から学ばされた時は長かった……ツツジちゃん、元気にしてるかな?
そんな事もあり、僕は料理も得意だったりする。趣味のガーデニングに比べたら見劣りするだろうと自負してるが。
まずはオレンパン。磨り潰したオレンのみを混ぜて練り込んだパン生地をちぎって耐熱皿に並べ、表面にミルタンク印のバターを軽く塗る。
ついでに乾燥して保存してたオボンのみを細かく切り、別のパン生地に混ぜ込んで型に流し込む。これはオボンブレット用。
これらきのみ入りパン生地を業務用オーブンに入れて焼く。売り切れればよし、余れば夕飯に良し、そして焼き上がり待ちと色んな意味で楽しみで仕方ない。
焼いている間にきのみスパイスを調合すべく、クラボのみをベースに辛味のあるきのみを細かく刻み、よく混ぜてから味を確かめ……。
「か、辛っ……!」
辛いきのみのみだから当たり前だけどコレは辛い……!しかし旨味が出てるからカレーとかに入れたら最高かも。
試しに辛いものが好きなゴーさんにスプーンで食べさせてみた所、好評だった。僕が甘党なだけ?
後は汁気が無くなるほど炒めて乾燥させ、磨り潰して瓶に入れればOK。炒めるのに時間は掛かるけど。
-チリンチリン
お、誰か入ってきた。
多分あの人だろうと予測しながらフライパンの火を弱め、厨房と直結してるカウンターに向かう。
「いらっしゃい……あ、アサ婆ちゃんか。こんにちわ」
「こんにちわハヤシくん。きのみパンは焼けたかしら?」
やっぱりアサ婆ちゃんだ。
アサ婆ちゃんは先代……この店の元家主・イシ爺が営んでた時からの常連客だ。遠いフエンタウンから毎日チッチ(チルタリス♀)に乗って来ては、大好物のきのみパンを買っていく。
結構なお年寄りだが、毎日フエン温泉に浸かったりきのみパンを食べたりしているからか、アサ婆ちゃんはいつも元気いっぱい。
そんなアサ婆ちゃんは、きのみパンが焼ける頃合いを狙って来店するんだけど……。
「さっきオーブンに入れたばっかだから、もう少し掛かるかな?」
「あら、残念ねぇ……」
本当に残念そうな顔をするアサ婆ちゃん。今日は勘が外れたね。
「売れ残りのオボンブレッドでよかったら焼いて食べる?いつも贔屓にしてくれてるし、タダでいいよ」
「あら、そういうなら頂いちゃおうかしらねぇ」
あ、すぐ明るくなった。単純だなぁ。
さて、店から良い香りがして、10時になって、アサ婆ちゃんが来たとなると……。
-チリンチリン
「いらっしゃいませー!」
―お客さんが増えてくる時間帯だ!
―――
「これくださーい!」
「オボン2個にキー2個、カゴが3個にヒメリ4個で合計650円ね」
「店長さーん、モモンのみのジャムはもう無いのかしらー?」
「すみません、今日出したので全部なんですよー」
「オレンパン4つちょーだい!」
「はいよ600円!焼きたてだよ!」
「なんか目が痛い……ていうか、辛い?」
「しまった、きのみスパイス炒ってたまんまだー!」
「写真撮ってもいいですかー?」
「お好きにどうぞ!裏庭はヤーさ、ネンドールに声を掛けてくれたら乗せてくれますから!」
「店主さん、裏庭で泥棒のおじさんがもんぞり返ってるよ!?」
「……あ、もしもしジュンサーさん?大きな庭のきのみ屋さんです。今うちの裏庭に泥棒が……話が早くて助かります、回収お願いします」
「このロゼリアかわいい!」
「ローちゃんです!」
「うわーん怖いよー!」
「ゴーさん、お子さんのウケ悪いんだから近づかないであげて!」
忙しい忙しい、パンが焼けてからは特に忙しい!アサ婆ちゃんは既に帰っていきました。
ここ1ヶ月間で解ったけど、お客さんが倍以上に増えているな。
観光雑誌片手に持つ客の半数近くは別地方からやって来た観光客らしく、連れ回っているのは雑誌やパソコンでしか見たことがないポケモンばかりだ。
あれはパチリス、空飛ぶマイナンみたいなエモンガ、小さなライチュウみたいなのは……なんだっけ?デブンネ?珍しいポケモンばっかだー。
遠いとこからお客さんが来てくれるのは嬉しいけど、趣味で開いた店ってそんなに需要のあるご時世だっけかな?不思議。
とにかく客が増えてきたからというものの、ゴーさんの手を借りても全然間に合わない。手先が器用だけどこわモテなゴーさんに接客は無理だし……悪い子じゃないんだけどなぁ。
やっぱりバイトを雇おうべきだろうか?2階にはまだ空き部屋があるし、住み込みバイトも視野に入れて考えとこ。
「きのみスパイスはまだかのぅ?」
「今から磨りますのでお待ちをー!」
それは置いといて、お仕事お仕事。炒って乾燥させた辛いきのみを薬研でゴーリゴーリ、オニゴーリゴーリキーってね。
―――20点だな。
―――
お昼休みになる頃は客足が少なくなり、だいぶ落ち着けるようになった。
接客してたローちゃん、商品を並べてくれたゴーさんにお疲れ様と言って昼食の準備を始める。
売れ残りのきのみパンは売り切ったし、今日は久々に丼飯かな?シンプルにラッキーの卵丼とか……。
-チリンチリン
「こんにちわー」
あ、この声はあの子か。
「やあミツル君。久し振りー」
「お久しぶりですハヤシさん」
深々と頭を下げるこの少年はミツル君。緑の髪が特徴的だ。
お隣さんである彼の両親を通じて知り合った仲で、たまに旅から帰って来てはうちに寄ってくれる。
「……なんか肌がツヤツヤしてんね。もしかしてフエン温泉の帰り?」
「あ、解りますか?長旅で汚れていたので両親に会う前に洗ってきたんですよ」
いい心構えだよ。野宿の多い旅は自然と体が汚れるからねぇ。というか、旅をしてると意外なほどに汚れるんだこれが。
ミツル君は過去にチャンピオンロードを抜けかけ、あるライバルに負けてからはより見聞を広めようと、ホウエンを巡る旅に出ているんだとか。
そんな彼を応援しようと、きのみの詰め合わせをあげたりバトルに付き合ってあげたりと少なからず旅に貢献していたりする。
けどミツル君が育てるポケモンって結構強いし、ミツル君のトレーナーとしての判断力も高い。信頼度が高いんだよね。
「あ、これお土産のフエン煎餅です。よかったらオヤツにでもどうぞ」
「君はなんて良い子なんだ!」
あーもう可愛いなぁ!おじさん(20歳だが心はおじさんだと自分で思ってる)頭撫でちゃうぞー!
こんな子が病欠だったなんて嘘みたいだ。山登りやロッククライムもするワイルドな一面もあるのにねー。
せっかくだからお昼に誘ってみたけど、ミツル君は両親の家で食べるからと断ってから別れた。
なのでいつも通り、「まきびし」を取り除いた裏庭でポケモン達と一緒に昼食。ラッキーのタマゴ丼ウマー。
―さーて、午後も程ほどに頑張りますかー。
―続く―
●さっと登場人物紹介
・ハヤシ:キンセツシティ出身のポケモントレーナー。趣味はガーデニング。
・イシ爺:「大きな庭のきのみ屋さん」の前家主。現在はカイナシティの息子夫婦と生活している。
・アサ婆ちゃん:皺の深い白髪のお婆ちゃん。フエンタウンの温泉の常連さん。イシ爺とは友人。
・ミツル:元トウカシティ出身のポケモントレーナー。病弱だったのが嘘みたいに元気いっぱい。
登場人物項目は後日製作予定です。要らないかもだけど(苦笑)
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その3「きのみ屋さんの午後」
A:マサはハヤシと一緒に旅立った友人で、現在はイッシュ地方のバトルサブウェイに入り浸り中。いずれ登場予定。
6/14:誤字修正。ご指摘ありがとうございました!
6/20:誤字修正。ご指摘ありがとうございました!
7/3:誤字修正。ご報告ありがとうございました!
大きな庭のきのみ屋さんの営業時間は、AM9:00~PM0:00とPM3:00~PM5:00の計5時間しかない。
元々ここは裏庭があるだけの一軒家でしかなく、趣味である造園ときのみ畑を活かそうとしてきのみ販売を始めたのだ。
先代ことイシ爺から受け継いだ後も営業は昼前と夕食前にしており、シダケタウンの皆さんも習慣として理解してくれている。
そんな僕らがお昼ご飯の後にすることは、ガーデニングと庭掃除である。
日々あちらこちらから野生のポケモンがやってくるこの裏庭は、畑に壁を張り、番ポケに見張らせていても足りないほどにチマチマと荒らされるのだ。
「自然に限りなく近い庭」をテーマに掲げている僕としては野生ポケモンが増えるのは嬉しいし、「荒らされてもより美しく直す」をモットーにしている僕らの作業力があれば問題ない。
食器を片付けツナギに着替えた僕はポケモン達を連れて裏庭に赴く。
今日は結構面倒な相手がいるんだよなー……なにせチルタリスの夫婦が現れたんだから。
お食事中に裏庭に訪れた2匹は凄く目立っていたが、それでもお構いなしに庭木を物色していた。どうやら巣作りを検討しているらしい。
この裏庭に生える庭木は鳥ポケモン達にとって絶好の巣作りポイントとなっていて、時々彼らのような大型の鳥ポケモンが訪れることもあるが……まさかチルタリスとはねぇ。
しかもこの2匹、イシ爺が若い頃から大切に育てている、裏庭で一番大きな高木に目をつけてしまった。
あの高木はイシ爺が若い頃から大切に育てていたものだから古くなっていて、小型ならともかく大型の鳥ポケモンが乗ると枝が折れちゃうんだよね。
だから軽そうなチルタリスでも2匹いっぺんに乗っかられたら枝がバキバキ、なんてことになりかねない。なんとしても阻止しなければ。
とりあえずローちゃんを肩に乗せてチルタリス達に近づく。
高木の周りをグルグル飛んでいたチルタリス夫婦が足音に気付き、滞空したままこっちを見下ろしてきた。人間慣れしているのか敵意は無い。
「あのー、その木は古くなってるから巣作りはあっちにしてくれないかな?」
問題はその高木だけなので、理由を話してお願いする。巣作り自体はいいのよ?
指差した方角はエアームドのアーさんですら耐えられる若木ばかりだ。背丈は物足りないだろうけど緑の量はバッチシの良物件ですよ?
バサバサと翼(?)を羽ばたかせる夫婦は互いに向き合い、何かを話し合っている。野生のポケモンでも人の言葉を理解できるってありがたいよね。
メスの方は若い庭木と相方を見比べながら話しかけ、オスの方は嫌そうに高木を見ていた。どうやらオスとしてはこっちの方が良さそうだ。
「こっちが良い」と渋っているかのようにギャアギャア騒ぐ夫を前に妻が「古いから巣に向かないでしょ!」と一喝。
ギャアギャアと騒ぎ出した2匹を見ていると不安でしかない……喧嘩になる前に一手打っておかないと。
「ローちゃん、『アロマセラピー』で落ち着かせてあげて」
肩のローちゃんにそうお願いするとピョコンとボクの頭に跳び移り、両手の花をチルタルス夫婦に向けて振る。良い香りだなー。
その香りに中てられた2匹は喧嘩上等オーラから一転、香りに現と肩(?)の力を抜かし、穏やかな雰囲気に包まれた。
落ち着いた2匹は話し合い、若木の方へと飛んで行く。喧嘩にならなくてほっとした。可愛いけど、ドラゴンタイプだから暴れると大変なんだよね。
先住民のスバメ達を驚かせつつ新築見学をする2匹を余所に、僕らは裏庭の掃除を始めるのだった。
―――
夕方頃になると2匹は見学だけして帰って行った。他に良い場所があるといいね。
裏庭の掃除を終え、午後3時から夕方5時までの営業を終えた僕らはようやく「クローズ」の札を玄関に掲げることが出来るのだ。
なんだかんだでお疲れの皆にご褒美のポロックをオマケしておくのが夕飯のお約束。特に店の事を担当するゴーさんとローさんのポロックは気持ち多めにしとく。
さて、夕食を食べた後は一休み。ポケモン達は裏庭で各々自由に暮らしている。
僕はデッキチェアに腰掛けながらラジオのニュースを耳に傾けている。……巨大な黒いポケモンがホウエン地方でも目撃された、ねぇ……。
暗くなったから傍のテーブルに置いてある土産物のランプラーランプに火を灯し、今朝届いた手紙に目を通す。
1通目はイッシュ地方へ旅立った友人のマサ。
なんと、ようやくノボリさんとそのポケモン達に勝てたそうだ。シングルトレインとはいえ、充分凄い。
以前来た時にバトルレコーダーの記録で見せてもらったけど、ノボリさんとポケモンの実力はかなり高い。
次はクダリさんに会うため、ダブルバトルの猛特訓中なのだという。相変わらずスパルタだが、彼のポケモン達もストイックだし、いっか。
それで、是非とも僕と一緒にダブルバトルをして欲しいとマサが誘っているが……僕はいつも遠慮している。
ダブルバトルだったら僕の小賢しい戦法が通じるだろうけど、あんな高次元な戦いについていく自信が僕には無い。足を引っ張るかも。
なので申し訳ないが、断りの返事を書いておかないと。……いい加減、ライブキャスターを買うべきかなぁ……?
2通目はテッさんことキンセツシティジムリーダーのテッセンさん。
僕だけでなくキンセツシティに生まれ育ったトレーナーにとって、テッセンさんは良いおじさん的存在だ。今はお爺さんだけど、僕らにとってはおじさん。
そんなテッさん(バッジを6個以上手に入れたらあだ名で呼んで良いと言われ、以後そう呼んでいる)からの手紙なんて珍しい。なんだろうか?
「……あ、ようやく新しい芝刈り機の話か」
以前テッさんから「開店祝いにとっておきの芝刈り機を送るぞい!」と言ったのが1年前の事で、今の今まで忘れられたのかと思ってた。
ようやっと最新型の芝刈り機を貰ったから、ジムの仕事が片付き次第オマケ付きで送ってやる、との事。買ったんじゃないんだ。
うちの中古の芝刈り機もとうとう三日前に動かなくなったし、丁度よかったかも、片付き次第ってのが気になるが。
さて、手紙の確認もしたし、お風呂に入ろうかな。
ちなみにうちのお風呂は裏庭に置かれているドラム缶を二個重ねたもの。
中央の小さなドラム缶に水道水を流し、大きなドラム缶との間にガーさんの「ねっとう」で温めるのだ。考えたもんでしょ?
良い感じに温まったお湯を頭から被って汚れを落とし、湯に浸かる。
ラジオから流れる音楽番組「ザ・ドガーズライブ」に耳を傾けながら星空を見上げ、一日の疲れと汚れを湯で洗い流す……贅沢だ……。
最高なのはポケモン達と一緒にガーデニングときのみ栽培をしている時だけどね。
―そこらではしゃぐポケモン達を見て、明日も頑張ろう、と心に決めるのだった。日課になっているけど。
『本日のリクエストはP.N庭弄りさんより、「DEADLY POISON」!ホミカさん、どうぞ!』
え、ウソ、この間送った僕のペンネームじゃん!?
『おっけぇ!あんたの理性、ブッとばしてやるよぉ!!』
ひやあぁぁぁぁホミカさぁぁぁぁん!!
この後、興奮しすぎと湯あたりでのぼせちゃった。けど後悔はない
―続く―
ちなみに作者はカミツレよりホミカ派で、ハヤシは大のホミカファン。
いつか生ライブを見に行きたいですね。小説でもゲームでも。
「DEADLY POISON(猛毒)」はホミカ作曲の小説内オリジナル設定、つまりは妄想です(コラ)
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その4「きのみ屋さんとバトル・前編」
この作品がゲームと違う所の1つ:賞金なんてなかったんや。
6/19:小説の投稿先を間違えていました!読者の皆様本当にありがとうございます!
「ふへへへへへへ」
「気味が悪いですよハヤシさん」
ミツルの「悪意の無い悪口」攻撃!
「君って時々ドライだよね」
効果はいまひとつのようだ……なんてね。
パインのみの皮を剥きながらニヤニヤ笑っているとか怪しさ抜群だから、ミツル君の言っている事が正しい。厨房でよかった。
けどなー、僕がリクエストした曲をホミカさんが選んで歌ってくれたと改めて思うと……にへへ、笑いが止まらないぐらいに嬉しい。
おかげで興奮して中々眠れず、今朝は久し振りに一時間も寝坊しちゃった。ポッポ(時計)さんは運悪く寿命を迎えました。電池交換はマメにしないと。
店の準備に3匹そろって慌てていたんだけど、たまたま早めに来てくれたミツル君が手伝ってくれたおかげで、なんとかいつものペースを取り戻せたよ。
もちろん裏庭の仕事はサボったり手抜きしたりしません。仕事兼趣味ですから。朝食をしっかり取り、きのみ栽培に収穫、スーちゃんの水やりもちゃーんとやりました。
後でミツル君にはサービスしてあげるとして、お仕事お仕事。今日の特売品はパインのみの皮の砂糖漬けだよー。甘酸っぱくて美味しいよー。
「ハヤシさん、言われた通り書きましたけど、どうですか?」
パインのみの皮剥きをしていた所へミツル君が声をかけ、いつもは玄関先に置いてある黒板を持ってきてくれた。そこには……。
「ポケモンバトル挑戦受けます。勝てば好きなきのみを10個、負けても4個を進呈。勝敗に限らず店の手伝いを1日だけしてもらいます」
―――と書かれた黒板の下半分に
「アルバイト募集!年齢問わず、やる気のある方歓迎。短期、長期、当日、住み込みなんでもOK。仕事・給付・時間については応相談」
―――と書き足されていた。ミツル君って字が綺麗だなー。上半分の僕の字とは大違いだ。
「文章はそんなもんでいいよ。後はアルバイト募集の文字に赤い下線を足しとけばオッケ」
赤い下線があると人目につきやすいからね。
「解りましたけど……随分アバウトですよね、これ」
言われたとおり赤いチョークで下線を書き加えながらミツル君はそう言った。
確かに募集するにはアバウトだろうけど、こちらにはこちらなりの考えがあるんだよ?
「気軽にやれるってのが大切なんだよ。旅のトレーナーでも小遣い稼ぎできるようにね」
悲しいけど、旅をする上でお金は割と大切なんだよね。
旅をして学んだ事の一つだが、自分とポケモンの命を守る以上、必要なものは沢山ある。
食材は勿論のこと、傷薬やモンスターボール、衣服や寝袋、僕ならテントに調理器具に救急セット、そしてガーデニングセット。
最後のはガーデニングマニアにとって必需品です。良い植木をカットしたり野生のきのみ畑の整理とかに使っていました。
これらは道具である以上はいずれ消耗し、買い足すのは勿論、長く使い込んだとしても買い換える必要もでてきてお金が掛かる。
商品によってはトレーナー割引もあるし、ジムリーダーに勝てばバッジと一緒に賞金も貰えるが、それでも旅ってのはお金を使う世知辛いもんです。
旅ってのは楽しいもんだけど、時には辛いと思ったり悲しいと思ったり、そしてお金が無いときの侘しさを味わう時もあるんだよね。それなのにあの2人ったら無計画で……いや、今は語るまい。
そういう訳で、トレーナーとそのポケモンは時にバイトなどして働く事もある。
人とポケモンが沢山いる世の中だが、だからこそ人手とポケモン手が常に足りず、世間には放浪するトレーナーでも受けられる短期求人やバイト募集が山程あるのだ。
お金を稼げるだけでなく、社会を学び見聞を広め、将来の進路を考えさせる事も出来る為、ポケモン界のお偉いさん達(主に歴代チャンピオン)は積極的にトレーナーを対象にした求人を設けるよう社会に呼びかけているんだとか。
ちなみに僕が旅をしていた時は料理店や植木屋、造園の補助が主。趣味と実益を兼ね揃えました。
そんな事もあって、うちもトレーナーを対象にしたアルバイト募集を始めようとしたんだよ。ここんとこ観光客が増えていて人手が足りないってのも事実だし。
趣味の店だけどそれなりに儲かっているし、給料に色を付けてあげられる自信がある。ついでに人1人分暮らせる空き部屋があるので宿も提供できます。
「……なるほど、解りました」
それをミツル君も理解したのか頷きながら微笑み、黒板を玄関に置きに行った。
ミツル君も旅の最中によくポケモンセンターでお手伝いさんをしていたから、働く事の大切さを知っているんだろう。
やっぱり良い子だなーミツル君。両親(特に父親)が自慢し、いつも心配しているだけあるわ。よし、お駄賃は奮発してロメのみをあげちゃろ。
さて、剥けたパインのみの皮を瓶に詰めて、そこに砂糖水を容れて……。
「ハヤシさーん」
「はーい?」
ミツル君の声だ。どうしたんだろ?
「この人がハヤシさんに話したいそうです」
厨房からカウンターに向かうと、ミツル君と大きなリュックを背負った見知らぬ人の姿が。
歳は僕と同じ20代ぐらいで若い方だが背丈は並。僕がのっぽなだけか。ちょっと目つきが怖い。
「えっと、さっき黒板の案内を見たんだけど……」
普通に対応してくれました。目つきが怖いとか考えてごめんなさい。
なになに?さっそくバイトしに来てくれたとか?
―――
ポケモンバトルの挑戦でした。ちょっと残念。
さっきの人はバックパッカーのマサユキ(呼び捨てOKだけどマーさんというあだ名は却下された。チェッ)と言って、遥々イッシュ地方から旅をしに来たのだという。
イッシュでは砂漠や岩山などで珍しい砂や石を採取しそれを売って稼いでいたのだが、初めてのホウエン地方では上手く行かず路銀が尽きたのだとか。
せっかくだから宿も兼ねて住み込みバイトを薦めてみたが、頻繁に野宿をしていたマサユキは一箇所に留まるのが嫌なんだと。いじっぱりさんめ。
なので、節約とポケモン達の修行も兼ねてうちに挑むそうだ。確かに勝っても負けても一日バイトをしきのみが貰えるのは、マサユキにとって好条件だね。
そっちがその気なら、こっちも手加減無用で頑張るとしますか!
お客さんに事情を説明すると、「バトルだバトルだ」と野次馬たちがゾロゾロと集まってきた。ミツル君も乗り気で審判役を買って出たし。
ゴーさんに店番を任せ、看板っ子のローちゃんを連れて行く。うちのゴーさん、実は大雑把な性格が災いしてバトルが苦手なんだよね。
で、場所は裏庭。ポケモンバトルをするならここで決まり。
「……なぁ、ここってお前さんにとって庭だろ?ここでバトルしても大丈夫なのか?」
昼寝をしていたアーさんを起こし、翼を羽ばたかせ『まきびし』を吹き飛ばすようお願いしていた所へマサユキが声をかける。馴れ馴れしくしているのはお互い了承したので問題なし。
マサユキはホウエン地方の旅行雑誌を見てココに来たらしく、裏庭についての情報は聞いている。旅行雑誌の取材の時にしっかりと自慢しといたからねぇ。
「え?荒らしてもより綺麗に直しますが?」
『荒らされてもより美しく直す』が僕達ガーデンマニアのモットーですから。
バトルするんで集合してくれた(ゴーさん以外の)ポケモン達も自慢げに胸を張る。うん、それでこそ僕の精鋭達だ。
「そっか、なら無茶しても大丈夫だな」
そんなポケモン達を見てマサユキはニっと笑う。荒々しい戦法でも好むのかな?
けどそんなマサユキの顔を見てほっとした。庭を気遣って全力で戦えないのはこちらとしても嫌だからね。
バトルは2対2の公開無しを所望してきたので、僕のポケモン達をモンスターボールに戻してシャッフルする。
混ぜている中、一つだけカタカタと震えるモンスターボールが……
「それではこれより2対2のポケモンバトルを始めます。先に手持ちのポケモン全てが倒れた方が負けとなります。
またトレーナーは道具及び図鑑の使用を禁止しますが、ポケモンに道具を持たせるのは許可します」
ただし同じ道具を持たせることは許しません、とミツル君が告げる。それに僕らは一言返事をして了承する。
マサユキのポケモンは既に持ち物を持たせているらしいので、僕の手持ちにも持ち物を持たせておく。何を持たせたのかは内緒。
僕とマサユキを交互に見て確認したミツル君は片手を挙げ、バトル開始を宣言。
「試合はじめ!」
そして2人同時にモンスターボールを投げる。
―さぁ、バトル開始だ!
―続く―
園児ですら微少とはいえ賞金を進呈させる仁天堂マジブラック。
トレーナーがアルバイト、という独自設定はそんな殺伐を減らす為に浮かんだ妄想です。一番多いアルバイトはポケモンセンターのお手伝いというどうでもいい設定。
ちなみにジムリーダーが渡す賞金はポケットマネーという私的設定。リーダーも大変だ。
~オマケ・寂しがりなゴーさん~
―ボクもバトルしたかったなぁ。けどボクが戦うと近所迷惑だからって怒られたからなぁ。遊びたいなぁ。
「皆バトルに夢中だね」
「せっかくだし、お店のきのみをコッソリ貰っちゃおうよ」
「えー、ドロボウはダメだよー」
「一個ぐらい大丈夫だって!さっそくお店に……」
―お坊ちゃん、お嬢ちゃん、今はお店に入っちゃダメだよぉ。
(はわわわ、こ、こいつってバクオング!?)
(ここここっちを睨んでるよ、ドロボウしようとして怒ってるんだよきっと!)
―そんなことよりボクと一緒に遊びましょう。
「バグオォーン!」
「「うわぁぁぁん怖いよぉぉぉ!」」
―逃げられちゃった……ボクってそんなに怖いのかなぁ?……寂しいなぁ。
バクオング♂のゴーさん。寂しがりな性格で好奇心が強い。見た目は
―続かないかも―
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その5「きのみ屋さんとバトル・後編」
―前回のあらすじ―
バックパッカーのマサユキが勝負を挑んできた!
今回は初のポケモンバトル回なので長めで、最後辺りが雑になります(汗)それでもよろしければどうぞ!
楽しんでもらえれば、そしてこれが百聞一見流のバトル描写なんだと思ってくれたら幸いです。
お互いに放り投げたモンスターボールから出てきたポケモンは……僕のからはロゼリアのローちゃん、マサユキのからは……岩タイプのゴツい奴だ。
そいつが出てきて地面に着地した瞬間、ドシン、と裏庭が揺れたよ、すげー。
確かあれは……ギガイアス、だっけか?イッシュ地方の岩ポケモンだったはず。
ゴローンみたいなゴツゴツした岩っぽさもなく、コドラのような鎧っぽさとも違う、硬い鉱石そのものがポケモンって感じで強そう。
しかし岩タイプなら草タイプのローちゃんに分があるはず!だからデカさにビックリしないでくださいローちゃん。
「突っ込めギガイアス!」
マサユキの指示でギガイアスが動き出し、ローちゃんに向かって突進。タイプ相性を恐れず突っ込むとは中々豪快な奴だ。
四つの足で地鳴りを上げながら突進してくる岩ポケモンの姿は迫力満点だが、速さが足りない!
「避けてローちゃん!」
小柄なローちゃんは揺れる地面の上で走り、勢いはあるけど遅い突進を難なく回避し―――。
「『ロックカット』!」
―ロ、『ロックカット』ォ!?
ギガイアスの表面に皹が入ったかと思えば硬いはずの岩がボロボロと崩れ落ち、全体が三角形に似たシャープな身体つきになった。
空気抵抗を減らした上に崩れた分だけ軽くなったギガイアスの突進は唐突に3倍近く加速し、急旋回してローちゃんに迫る!
しかし回避!ローちゃんは「ピャー!」と悲鳴を上げるが、急に加速したんだからそりゃ驚くわ。
外したと解ったギガイアスは四股を踏んで急ブレーキをかけるが、勢い余って滑―――らない!?
ギガイアスが足を地面にめり込ませる事で無理矢理停止したんだ。さっきの突進の勢いといい急な方向転換といい、なんていう脚力!
「俺達のホームグラウンドは砂漠と岩山!足場の悪い場所で鍛えた足腰は伊達じゃないんだよ!」
「ギガイアスに腰ってあるの?」
「そのまま後ろに向けて『いわなだれ』だ!」
―あ、誤魔化した。
地面にめり込んだ後ろ足を蹴りあげ、細かい岩と大量の土が降り注ぐ中でローちゃんは咄嗟に『まもる』を使用するも、土と岩の雪崩に埋まってしまった。
それにしても凄い脚だ。よほど悪路慣れし、かなり脚が鍛えられているのだろう……だがしかし!
「『しびれごな』をばら蒔け!」
土の山からニュッと生えた赤い薔薇から黄色い粉が噴出し煙として広がっていき、当然ギガイアスに降りかかった。これでしばらくは動きが鈍るはずだ。
粉が晴れると土の山からローちゃんが這い出てきた。あーあ、土まみれだよ。
うちのローちゃんは畑での土弄りに慣れているし、サンちゃんにしょっちゅう遊びで埋められているから土や泥には耐性がありますよっと!ただし岩は勘弁な。
「今度は『やどりきのタネ』だ!」
テンプレな草タイプのコンボ『しびやど』だが地味に強いよね、これ!
両手の薔薇をギガイアスに向け、『やどりぎのタネ』を乱射するローちゃん。『タネマシンガン』にあらず。
体力を奪う種がギガイアスに取り付いて―――いない!?
「『てっぺき』で硬くなったギガイアスの体は『やどりぎのタネ』を受け付けないんだよ!」
ざまーみろ、とばかりに胸を張るマサユキとギガイアス。似た者同士?
強力な『やどりぎのタネ』だが、時にはこんな風に無効される事もあるんだよなぁ。毒の身体で種を枯らすベトベトンとか、炎の身体で種を燃やすマグカルゴとか、今みたいに全身が硬すぎて根を伸ばせず種が付かないギガイアスとか。
もちろん種を付けるコツはあるんだが、このギガイアスには無理っぽい。流石に口や目につける訳にもいかないしなぁ……。
「『じならし』で反撃だ!」
「仕方ない、『ギガドレイン』でゴリ押して!」
『マジカルリーフ』だと弾かれそうなので、硬さに関係なく相手の体内からエネルギーを吸収する『ギガドレイン』で攻めるローちゃん。
しかし草タイプのドレイン技は動きを止めなきゃならないので、痺れていようが僅な動きですら自身の体重を活かし発動できる『じならし』の揺れを受けてしまう。
けどこのままだと吸収しきってこちらの勝ち……お、早くもギガイアスが震えだした。弱ったにしては早いし震え方がオーバーな気が……ん?
よくみたらあのギガイアス、口に何か咥えてる。あの石って確か……。
「バカ、それだけは止めろギガイアス!」
思い出した。あれって『ノーマルジュエル』だ。イッシュ地方の洞窟とかで取れる、ノーマルタイプの技の威力を上昇させる珍しいジュエルで。
「みんな伏せろー!」
―イヤなよかーん。
ギガイアスからカッと白い閃光が、てか目がぁー!目がぁー!
―――ギガイアス の 『だいばくはつ』!
―――
幸いな事に、マサもミツル君も観客も、畑に棲んでいるポケモン達も無事だった。僕は失明していないけど目が痛いです。
しかしギガイアスもローちゃんも倒れ、でっかいクレーターが出来上がっていた。流石ジュエル大爆発。オボンのみ無駄だったね。
皆唖然としていて、ミツル君も「ギ、ギガイアス、ロゼリア、戦闘不能……」となんとか言葉を出す程に呆然としていた。
―それにしても……。
「あーあ、明日は穴埋め作業しなきゃなー」
目が慣れてきたから改めて見たけど、でけー穴。明日はサンちゃん大活躍の巻だな。
「なんで落ち着いているんだよ!」
「直せるからです!」
穴埋めればいいだけだし、土いじりは慣れっこなんだよ。ドヤァ。サンちゃんがボールの中で張り切っているし、明日頑張ろっと。
―――
どうやらマサユキのギガイアスは相当な意地っ張りで、負けるぐらいなら道連れにするタイプらしい。ガッツがあるけど怖いよ、それ。
ギガイアスを抑えられなかった事とノーマルジュエルを持たせたままだったのを忘れていた事を深く反省し謝罪するマサユキを見て落ち着くように言った。
反省しているなら許す道理はあるし、観客たちも驚きはしたが無事だったので問題ないと言ってくれた。やっぱシタゲタウンの皆さんは優しい。
「では仕切り直しで……両者、次のポケモンを出してください」
ミツル君はすぐに復帰。さっきまで呆然としていたのは音と光にビックリしただけだからだって。
あんなことがあっても勝負は勝負だからとボクは続けるか聞いてみたら、マサユキは驚きつつも、煮え切らない思いから続行を希望した。その意気やよし!
―とは言ったものの。
「『だいばくはつ』の直後に『ステルスロック』を撒くとか器用なことするね」
「あいつしょっちゅー爆発するからか自ら編み出したんだぜ?」
えー、マルマインじゃないんだからさー……。
ギガイガスが爆発した際に弾けた身体の一部が『ステルスロック』として周囲に漂っているのだ。
クレーターの周囲には尖った岩が浮遊しており、ポケモンを繰り出そうものならダメージを受けるだろう。その厄介さはよく理解しているつもりだ。
とはいえ試合は続行。お互いにモンスターボールを投げる。
「いけ、イワパレス!」
「やっちゃってガーさん!」
僕はシザリガーのガーさんを、マサユキが出したのはイワパレスという虫タイプのポケモンだ。背中の地層がパンケーキみたいでおいしそう。
そう思っていたらガーさんの悲鳴が。『ステルスロック』が刺さったんだね、痛々しい……と思ったら「なにすんじゃゴルァ!」と怒り出した。流石ヤンキー。
しかしそれは相手も同じ。これだけ『ステルスロック』が広がっていたら向こうさんも尖った岩が……殆ど背負っている地層に刺さっていました。
そっか、本体は小さいから『ステルスロック』が刺さりにくいんだ。ガーさんに比べたらダメージ低いだろうなありゃ。
「へっへん、そっちが不利っぽそうだな?」
悔しそうに痛がっている所へマサユキが挑発したもんだから「なんだとコノヤロー!」と怒るガーさん。どうどう、ドードー……5点。
『ステルスロック』のダメージに加え、あくタイプを持つシザリガーにとって、むしタイプのイワパレスの相手は厳しいだろう。
―けどね、それはそっちも同じなんだよ?
「そっちこそ、自分のポケモンをよく見なよ」
「何……って、なんじゃこりゃ!?」
マサユキが驚くのも無理は無い。だってイワパレスが毒状態になって苦しんでいるんだもの。
イワパレスの割と小さな身体をよくみると、脚に何かが刺さっているのがわかり、マサユキもそれに気づいたようだ。
「『どくびし』?……さっきのロゼリアか!」
そう、ギガイアスが爆発する直前、咄嗟にローちゃんが相手側に向けて撒いたものだ。
エアームドのアーさんには劣るが、ローちゃんも『くさむすび』や『どくびし』など設置系が得意だったりする。
「とにかく『からをやぶる』で……げ、いつの間にか『ちょうはつ』されてる!?」
マサユキが言うが、イワパレスはなんかお怒りの様子。
あ、ガーさんが鋏をクイクイ自分に向けて「ヘイカモーン」って『ちょうはつ』してた。ガーさんって自分から喧嘩を売るタイプだからぁ『ちょうはつ』し慣れているんだよね。
それにしてもギガイアスで確実に一体を道連れにし、『からをやぶる』で『ステルスロック』の影響を受けにくくなったイワパレスの高速戦闘で攻める。良い戦法だと思う……だがこっちのガーさんだって手はある!
「ガーさん、『アクアジェット』で殴り込みだ!」
そう言われてガーさんは身体に水を纏い、空を飛ぶような勢いでイワパレスに突っ込んでいく。
水を纏っているから『ステルスロック』も『どくびし』も身体に当たる前に吹き飛ばされるから安心!
そのままイワパレスに激突するが、ぶつかった先は地層であってイワパレス本体ではない。けど接近すればこっちのものだ!
「『シザークロス』で迎え撃て!」
「『クラブハンマー』で殴りまくれ!」
言うよりも先に行動していたガーさんが先制をとり、両の鋏で殴る殴る。いつみても悪役ボクサーみたいで怖い怖い。
殴られながらもイワパレスも同じく鋏でシザリガーの胴体に切りかかる。リーチもパワーもガーさんが上回っているが、イワパレスは急所を狙いやすいようだ。
けどガーさんはケンカ大好きなヤンキー。『シザークロス』でダメージを受けてもお構い無しに殴りまくる!
右へ左へと鋏で殴りつけるガーさんの剣幕に流石のイワパレスもビビっている。怖いだろうなぁ。
「『ロックブラスト』で弾き飛ばせ!」
接近戦は不利と思ったのだろう。今度は至近距離の『ロックブラスト』で吹き飛ばし、射撃戦に持っていくつもりだ。
けどお互いに相当ダメージが入っているのは確かだ!ここで一気に決めてやろう!
「逃がすな!『はたきおとす』!!」
ガーさんの鋏が振り下ろされ、イワパレスの脳天に叩きつける!命令しといてなんだけど痛そ~!
この一撃が効いたのか、イワパレスは支えていた足の力が抜け、ズズンと音を立てて地層ごと横に倒れた。
「イワパレス、戦闘不能!よってハヤシさんの勝ちです!」
「よっし勝ったー!」
「ガガガー!」
ミツル君の勝利宣言に喜ぶ僕とガーさん。観客から僕らとマサユキらを称える拍手を貰っちゃいました。照れるなぁ。
けどバトルに勝てると嬉しいもんだね。ガーさんなんか「やったぜウラー!」と鋏を突き上げて喜んでるいし。
「いやー、負けた負けた。ていうか怖ぇなそのシザリガー」
倒れているイワパレスをモンスターボールに戻したマサユキはおっかない物を見るようにガーさんを見る。こらガーさん、喧嘩腰にならないの。
「うちのガーさんは喧嘩好きなんで」
「喧嘩好きっつーかヤンキーみたいなポケモンだな」
全く持ってその通りです。ごめんねイワパレス君、怖かったろうに。それはそれとして……僕は周囲を見てみる。
バトル見たさにやってきたお客さんが増えて結構な人数になっている。そして決まってバトルが終わった後は……。
「約束は守ってもらうからね。こっちも約束を守るから」
―今日はお客さんが増えて忙しくなるから、覚悟しといてね。ニヤリ。
「ハヤシさんマグマ団みたいな顔していますよ?」
―ミツル君の 真実の言葉 攻撃!
「それって悪人顔ってことじゃないですかヤダー!」
―こうかは ばつぐんだ!
―
「パインのみの砂糖漬け出来たから棚に並べてー!」
「はいよー!」
「キーのみ5個くださーい!」
「はいよー!お会計はこちらー!」
「この砂糖漬けくださいな」
「はいよー、ちょっと待っててな。はい、500円で250円のおつりね」
「お兄さんお兄さん、さっきのジュエル?って奴でいいもの余ってない?」
「ひこうのジュエルとはがねのジュエル、あとノーマルジュエルしか無いなぁ」
「わーいわーい!でっけー!」
「ギガイアスにイワパレス、悪ぃけど子供らと遊んでやってくれや」
「あっちでバクオングが地面にのの字を書いて落ち込んでいるけど何かあったの?」
「ハヤシ曰く『そっとしておいてやって』だってさ」
いやー、お客さんが増えたから忙しいのなんのって。マサユキが来てくれてよかったー。
マサユキ君もバイトなれしているのか接客も会計も出来るし、珍しい岩ポケモン目当ての子供達相手もしてもらっているから、本当に助かっているよ。
バトルも楽しかったし、後で渡すきのみとお給金に色つけておこ。パンとか瓶詰めとか。
さぁ、とりあえずお昼まで頑張ろう!僕、午前の営業が終わったらサンドイッチご馳走してやるんだー!
あとさゴーさん、いい加減に機嫌直してよ。どうせ子供達に怖がれたんだろうけどさ。
―続く―
どうしよう、モンハン小説よりポケモン小説の方が書くのが楽(笑)描写が少ないだけでこうも違うとは。
ちなみにキンセツシティ出身のトレーナーはついついポケモンダジャレを言う人が多いです。原因はもちろん明るい電気オヤジ。
ハヤシの戦法はトラップを仕掛けるやらしいタイプでした。ガーさんのイメージは路上闘士のミスター闘牛さんです。怖いけど悪い奴じゃないバカです。
―オマケ・白昼夢―
「うーん……ハッ」
「お、ようやく起きたか。メシ食ってすぐ寝るなんてよほど疲れてたのか?」
「……ねぇマサユキ、今見た夢の話をしていい?」
「別にいいが、どんな夢だ?」
「目の前で、鳥兜を被ったニャースと、イワークが巻きついても足りないほど巨大なイワパレスがきのみを食べ漁る夢を見た」
「ナニソレコワイ」
~続かない~
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その6「きのみ屋さんとハスボー」
この作品がゲームと違う所の1つ:
技を覚える方法は色々ある。ポケモンから教わるか真似するか、あと生まれたときからの遺伝もある。
6/23:また誤投稿してしまいました。本当にすみません。
「はぁ……仕事の後のきのみジュースってなんでこんなに美味しいんだろうか……」
労働の後の一杯は趣味(ガーデニング)の後の一杯と比べたら格別に美味しい。
けど穴を埋めて綺麗になった畑を一望しながら飲むこの一杯もたまらない。ポケモン達も(1匹を除き)幸せそうだ。特にサンちゃん。
今日は水曜日。世間的には平日だが、我が大きな庭のきのみ屋さんは定休日なのだ。ちなみにもう一つは日曜日。
朝からゆっくり過ごしながら畑仕事をして、いつもなら営業している時間に皆できのみジュースを一杯飲んで一休みするのが水曜日の決まり。
けど今日は、昨日の『だいばくはつ』によって出来た穴を埋める作業に集中することに。まぁ殆どサンちゃんがやってくれたんだが。
ちなみにマサユキは昨日の夕方頃に旅立ちました。給料ときのみ、そして夕飯ついでのきのみパンを持たせてね。随分と働いてもらったわけだし。
それと、せっかくなので「ほのおのぬけみち」に出現するコータスをゲットすることをオススメしてみた。あの人、硬いポケモンが好みだって言っていたしピッタリだと思う。
そういえばマサユキとミツル君が何か話し合っていたみたいだけど、深くは聞かないでおいた。きっとホウエンを巡る上でのアドバイスか何かだろう。
さて、一休みした後はどうするかと言うと……今日は釣りをしようと思う。
実は裏庭の水辺、こことは別の川と繋がっている。器用貧乏なガーさんの「あなをほる」で掘り進め、池の底と川底とを繋げる二つのトンネルを掘り、常に川からの水流が発生し水を綺麗に保つのだ。
そんな仕組みだからこそ、水流トンネルを通ってこの水辺に住み着いた予想外なポケモンも居たりする。ちなみに生息している水ポケモンの殆どはコイキング。
以前キバニアの群れが紛れ込んで大変な事があった為、週に一度は釣りをして観察がてら楽しむのだ。もし危ないポケモンが混ざっていたら専用の溜池に移し、後日川に戻します。
水辺付近の高木に腰掛け、木陰の下で釣りモンスターボールに餌を仕込み、お供兼ボディガードの鉢植え付きローちゃんを添えて準備万端。
ちなみにガーさんはコイキング達と恒例のおいかけっこ中。イジメではなく単なる遊びなので、あしからず。喧嘩好きガーさんだが弱いものイジメはしない主義なのだ。
さて、さっそく釣りモンスターボールをポイっとな。
何が釣れるか楽しみにしつつ、ラジオから流れる音楽を耳に傾けながら木陰で一休み。今日の選曲はホミカ作曲「Venom Shock」だ。ラッキー。
一度でもいいから生で会ってみたいなー。けどイッシュ地方は遠いしなー。……大きなライブとかあったら行ってみよ、そうしよ。
―――
うとうとしていた時に浮きが沈んでいたから、反射的に釣り上げたんだけと……。
「君、水タイプというより草タイプのポケモンだよね?」
「ハボ?」
いや、「ハボ?」じゃなくてさ……いやそうとしか答えられないだろうけどさ、ポケモンだし。
釣りモンスターボールに引っ掛かっていたのは、なんとハスボーだった。1匹目からコイツって凄い珍しくない?
確かに水タイプでもあるけど、ハスボーは水中深くまで潜れたものだったかな?水面をプカプカ泳ぐイメージだったんだが……そもそもハスボーって釣れるもんなの?
川の方から吸い込まれて裏庭の水辺にやってきたか、それともわざわざ夜遅くに陸地を歩いてやってきたのか……うーむ、謎だ。
それはいいとしよう。このハスボーをどうしようか。正直言って余所へ逃がすのも勿体無い。だって可愛いもん。
当のハスボーはローちゃんにじゃれついていた。随分と人懐っこいな。野性味が低そうだし、生まれたてかな?まぁローちゃんがお母さん属性なのも起因しているだろうが。
試しに頭の蓮をつついてみたら、「やーめーろーよー」と嫌がるような素振りをして楽しんでいた。可愛い。
―しかしこの裏庭の湖に現れた新参者をほっとくほど「奴」は甘くない。
ザパリと水から揚がって僕らの前に姿を現す一匹のポケモン。
こいつはあのケンカ好きなガーさんですら手こずる程の乱暴者で、ヤンキーオーラが全身から溢れている凄い奴だ。僕は畏怖を込めて「キンさん」と呼んでいる。
どこで拾ってどうやって掛けたのか解らない『黒いメガネ』越しにキンさんはハスボーを睨み付ける。
-おうおう、俺のシマに入るたぁいい度胸じゃあねぇか
などと独特的な男性ボイスが聞こえてくるような鋭い眼光を向けて威嚇するが、向けられたハスボーは体を傾げる。解ってないようだ。
こんなお子様ポケモン相手でも容赦のない威圧感を放つキンさんは流石といえよう。
-コイキングでなければ。
ギャラドスに進化すれば池に君臨する偉大なボスになれただろうが、悲しき事に彼は未だにコイキングのままだった。
せっかくの威圧感と鋭い眼光もビチビチと跳ねる姿で全て台無し。黒いメガネですら精一杯の背伸びアイテムにしか見えない。ていうかサングラスが変な位置にあって可笑しい。
しかし心は立派なヤンキーで、毎日ガーさんにどついて己を主張する勇敢な奴だ。ハサミパンチ一発でやられる程に弱いけど。
そんなコイキングを前にハスボーは
-クキュ~……。
腹を鳴らしていた。可愛い。
-ジュルリ
-ギョッ!?
涎を垂らすハスボーから補食者の目で見られたコイキングはビビる。
そこから先は一瞬だった。
―――
「こんなちっさいのに『ギガドレイン』を覚えていたなんて、凄い子だなぁ」
「全くだ」と頷くローちゃんは感心しているようだった。
無理もないか。こんな小さなハスボーが草タイプ最強のドレイン技を覚えていたんだから。同じ草タイプだからこそ解る凄さってやつだ。
-チューチューチュー
-ビチビチビチ
ハスボーがコイキングとロデオごっこをして遊んでいるようにしか見えないけど、ちゃんと吸っています。主に養分を。
しかし長続きはせず、とうとうコイキングが力尽きて倒れた。息はしているし、瀕死ではあるが死にはしないだろう。後でオレンのみでも食べさせれば元気になるかな。
満足そうにゲップをするハスボーの頭を「偉い偉い」と撫でてやるローちゃん。お母さんキャラだなぁ。ハスボーも嬉しそうだし。
それにしても『ギガドレイン』を覚えているハスボーかぁ……ますます手放すのが惜しくなってきた。
僕もポケモントレーナーとして、今のメンバーに満足しているから薄れてはいるものの、珍しいポケモンや強力なポケモンを見たら置いておきたいと思うような欲は少なからずある。
とはいえゲットするつもりはなく、
……居つく場合、片っ端からコイキングを『ギガドレイン』で吸わないようハスボーに言っておかないとかな?
そして何より―――僕は草タイプが大好きなのである!
幼少の頃から草木を切りそろえたり花を育てたりするのが好きだったけど、草ポケモンの世話をするのも大好きだった。
特に自然の中でのびのびと過ごす草ポケモンが好きなので、なるべく自分からはゲットせず、僕についてきてくれるポケモンだけをゲットしている。記念すべき草ポケモン第1匹目はローちゃん。
そんな僕の抱いている夢の一つは、僕とポケモン達が綺麗に整えた裏庭に沢山の草ポケモンが居付いてくれる事。広い庭に沢山の草ポケモンが暮らす……おっと、涎が。
そんなわけで、是非ともこのハスボーには居付いてもらおう。ローちゃん、世話役お願いね……あ、ハスボー相手にお母さんぶってる。可愛い。
―
この後はいつも通りコイキングが9連続も釣れたので釣りは終了。ハスボーを除いて池の異常無しと見た。
お昼にマトマのみのスープとサンドイッチを食べ、あのハスボーをローちゃんに預け、アーさんに乗って買い物に出掛ける。アーさんの『そらをとぶ』は時々眠気でフラフラするから危なっかしい。
買い物から帰って来た頃にはアーさんを除くメンバー全員と仲良くなり、それどころか半野良スボミーのスーちゃんとも仲良しになっていた。このハスボー、只者じゃない。
結局ハスボーは池の住民として周りから認められ、裏庭の仲間入りとなった。雄なので「ハーさん」と名付けよう。
余談だが、この日よりキンさんの兄貴分は二匹に増えた。1匹はガーさん、もう1匹はハーさんだ。
頑張れキンさん、負けるなキンさん。ギャラドスに進化するその日まで。……まだ「たいあたり」を覚えていないけど。
―続く―
作者は草ポケモンが好き。あと鋼タイプと岩タイプと地面タイプ。タフなポケモンは特に好き(笑)
それにしてもコイキングが『黒いメガネ』をかけるってシュールですよね(←なら書くなよって突っ込まないであげて)
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その7「きのみ屋さんとドクケイル」
それはそうと、乱雑とはいえ最新話を書くのに二日かかりました。
「なんという事だ……」
僕は久方ぶりの絶望感を味わっていた。旅でも様々な絶望を体感してきたが、全身に重くのし掛かってくるように落ち込む気持ちは初めてだよ。
僕は膝をつき、伸ばした手を地面につけて身体を支える。このまま重力に任せ倒れてしまった方が楽かも知れないが、そうは問屋が卸せない。
目の前ではローちゃんが僕を見上げ、必死に何かを訴えていた。よく聞けば他にも声が……ああ、サンちゃんか。君も励ましてくれるんだね。
けどさ二人とも、目の前の現実を見てみなよ……。
『リフレクター』と『ひかりのかべ』を失ったきのみ畑は半分以上が食散らかされ。
その壁を張るはずのヤーやんは瀕死になって置物のように倒れたまま動かず。
バトルが上手いガーさんは池の上で犬神家状態となってコイキングに囲まれ。
攻撃力だけは高いゴーさんは怖くてお店の方へ逃げちゃって。
こうなる直前まで寝ていたアーさんは吹き飛んでどっか行っちゃった。それでいいのか鳥ポケモン。
―全てはアイツ……ドクケイルがやって来たからだ!
-ひらひら
ちくしょー、目の前でひらひらと舞う姿がからかっているようにしか見えん!毒を撒かないし、完っ全に遊んでいるなコイツ!
そんなドクケイルにケチをつけるローちゃんとサンちゃんたが、ドクケイルは「やーいやーい」と言っているかのように遠ざかりながら舞い続けている。腹立つ~!
どうしてこうなったのかを話す為に思い返そう。誰に話すかなんて解らないけど。
―――
始まりは朝早く。裏庭を整備しようと赴いたら、いつの間にかドクケイルがきのみ畑をうろついていた。
『ステルスロック』が撒かれていたはずの畑を悠々と飛ぶドクケイルは僕を見た途端に飛びかかって来たのだ。ビックリして尻餅ついたわ!
ドクケイルの燐粉ってプロレスラーも寝込む猛毒と聞いていたので慌ててハンカチで口と鼻を塞いで後退りするが、それを楽しんでいるかのようにドクケイルは追いかけてきた。なんでや!?
そんな時、同じルートを浮遊していたネンドールのヤーやんが動き出した。ヤーやんは畑のガードポケモンなのだ!今更出てきたのかよ、なんて言っちゃダメよ。
さっそく『サイケこうせん』を発射するがドクケイルはヒラヒラと優雅な動きで避ける。連射しても避ける。頭上で『サイケこうせん』と毒の粉が舞っていたので僕は死ぬ気逃げた。
しかし確実に当てなかったのが悪かった。なにせこのドクケイルは避けながら『ちょうのまい』で積んでいたのだ!
『ちょうのまい』は特攻・特防・素早さを上げる強力な変化技だ。そんな技を覚えているコイツは、『サイケこうせん』をヒラヒラ避ける技術も含め、相当強いんだろう。
そう考えていたらヤーやんが『むしのさざめき』を受けて一発KOしちゃいました。攻撃性よりタフさを目指して一生懸命育てたヤーやんがあっさりと倒れた……だと!?
ヤーやんが倒れたとなれば、うちの中で一番バトルに適したガーさんに出てもらうしかあるまい!
噂をすれば「おうおうケンカ売っているんかいワレ!」と言わんばかりに水辺からガーさんが上がって来た。後ろで舎弟(?)のコイキング達が水面から顔を出して応援している。特にキンさんは熱狂的だ。
しかし特攻が高まったドクケイルの『むしのさざめき』で一発KO。その間、僅か13秒。
そうだよなーそうでしたわー、ヤーやんもガーさんも虫タイプの技に激弱だったよねーアハハー……涙が出ちゃう。
「ま、まだだ!出て来いゴーさん!」
次はバクオングことゴーさんだ!バトルは苦手だが、『ハイパーボイス』と『ほえる』の威力は桁違いなんだぞ!近所迷惑になるけど!
呼んでしばらく経ったけど……出てこない。なんでだろうかと思って後ろを振り向いたら……。
「怖いからイヤですよぉ」
そう言っているかのように物陰に隠れているゴーさんの姿が。そして視線が合うと、そのままお店へゴートゥバック。
そんなんだからいつまで経っても中身はゴニョニョなんだよぉ!けど無理強いできない!だって毒にやられたらかわいそうだもん!
最終手段!虫タイプ・毒タイプに強い飛行+鋼タイプのアーさんに頼むしか……って居眠りしてんなや―――!!
しかもドクケイルの『ふきとばし』で寝たままどっか飛んで行った―――!それでいいのかよろいどりポケモォーン!!
―そして冒頭へ戻るのである。
―――
「さーて、どうするかねぇコイツ……」
畑の半数以上の木の実を食べ終え、何故か僕の回りで嫌がらせのように飛び回っているドクケイルを見ながらそう呟いた。頭の緑のバンタナを口元に巻いております。
ローちゃんの攻撃は虫/毒タイプのドクケイルに殆ど通じないし、サンちゃんは飛んでいるポケモンの相手に弱い。空中戦が苦手なのよ、サンちゃんって。
ドクケイルが僕に構っていることもあり、2匹に畑の整備をお願いしてもらうことに。幸い、きのみは全滅とまでは行かず、全ての木の実が1個以上残っていた。
それにこのドクケイルが暴れてからというものの、裏庭のポケモン達が隠れてしまい、静観するだけに留めてしまった。庭木にはスバメやタネボー、畑では地中に潜ったナゾノクサなど。スーちゃんは庭木に、ハーちゃんは池に避難しました。
しかし不思議なことに『リフレクター』などが無くなったのに余所から鳥ポケモンや虫ポケモンが寄り付くことはなかった。特にしつこかったアメモースですら近づく事を躊躇っている様子。
つまり天敵の鳥ポケモンですら恐れるほどこのドクケイルが強いのだろう。そうとしか考えがつかない。
しかしなぁ……ちょっかいを出してくるドクケイルを手で払おうとしたら難なく避けて「やーいやーい」と遊んでいるコイツがねぇ……随分と生意気な子だ。
「……仕方ない、かなー」
ドクケイルに帰る気配は無さそうだし、このまま放っておいたら危険だよね。
―――
『申し訳ありません。ドクケイルがうろついているのでお店はしばらくお休みです』
そう書かれた黒板とローちゃんを乗せた鉢植えをゴーさんに手渡すと、ゴーさんは申し訳ないオーラを漂わせて玄関へ歩いていった。
それを見送った僕は溜息を吐く。視線を逸らせば今度はサンちゃんをからかうドクケイルの姿が。イタズラ好きにも程があるよ。
だが好機と見た僕はヤーやんとガーさんをモンスターボールに戻してポケモンセンターへと足を運ぶ。サンちゃん留守番お願いね。
―あ、ミツル君発見。
「うわ、予想以上に凄いことになっているじゃないですか!」
畑の惨状を見て驚くミツル君。どうやらゴーさんとバッタリ出会ったらしく、黒板の内容を見ていた様子。
「いやぁ、あのドクケイルが予想以上に強くてね……万が一お客さんが襲われたら大変だし、しばらくお休みさせてもらうよ」
「そ、そんなに強いんですか?」
「そらもー強いのなんの。半分以上やられちゃったし……なによりアイツ『ちょうのまい』を覚えているんだもん」
「うわ、それってかなり強い変化技ですよね」
ポケモンバトルの経験も豊富なミツル君も『ちょうのまい』の強さを知っているのだろう。
ポケモンバトルの番組やマサの記録が主だが、『ちょうのまい』を覚えているモルフォンはかなり活躍できるとされている。つえー。
―あ、バトルで思い出した。
「ねぇミツル君、よかったら君のポケモン達であのドクケイル追い払ってくれない?」
ミツル君もポケモンバトルに強いんだし、案外なんとかしてくれるかも!
なのでお願いしてみると、ミツル君は虚を突かれたように目を丸くしてこっちを見た。
「え?あ、僕らがですか?」
「僕の時は『ちょうのまい』を沢山積まれたからやられちゃったけど、今ならなんとか出来るんじゃないかな?」
今なら変化技の効果が切れているだろうから、速攻で決めればいいんじゃないかな?
ミツル君の相棒サーナイトやチルタリスなら相性バッチシ。レアコイルなら毒は効かず虫・エスパーは半減するし。エネコロロとロゼリアは微妙だが。
「んー……解りました。ハヤシさんにはお世話になっていますし、なんとかしてみます」
「やった!ありがとうミツル君!」
本当にありがとう!今日は無理だけど、きのみの収穫期が来たら沢山あげるからね!
ふっふっふ、覚悟しろよドクケイル、君の野望はこのミツル君とそのポケモン達が阻止してくれるわぁ!
「なんか偉そうにドクケイルを指差してますけど、頑張るのは僕達なんですからね?」
うう、最近のミツル君はドライで辛いっ!それだけ心を許してくれた仲ってことなんだけどさー……。
―――
「キュウ……」
「ああ、サーナイト!」
ドクケイルの『ぎんいろのかぜ』で吹き飛ばされたミツル君のサーナイトが吹き飛び、そのまま地面に伏す。
「やだ、このドクケイル、強すぎ……?」
まさかミツル君相手に5タテで勝利するとは……思わず声に出ちゃったよ。何このドクケイル、本当に強すぎ!
まさか希少な回復技である『はねやすめ』まで持っていただなんて!持久戦に最適な回復技じゃないですかヤダー!
そんなことよりミツル君のポケモンだ。毒に侵された子もいるし、急がないと。
「ミツル君、君は早くポケモンセンターに行って視てもらって」
「くっ……解りました、すみませんハヤシさん!」
倒れたサーナイトをモンスターボールに戻すミツル君は申し訳無さそうに頷いて走り去っていく。仕方ないよ。
そんなドクケイルは多少ボロボロながらもミツル君に向けて「やーいやーい」とヒラヒラ舞っていた。
「くっきぃ~!生意気な奴めぇ~!」
「♪」
あ、今さっき笑ったなチキショー!
―――
結局、ドクケイルは夕焼け頃に帰っていった。お店?もちろんその時まで閉めていましたよ。
「クケー」
「おいおい、今頃になって帰ってきたんかいアーさんや」
しかも寝ぼけ眼で「ごはんまだー?」ってねだってくるし。お前まさか吹っ飛ばされた先で寝てたんじゃ……?
―続く―
ミツル君のパーティーはかなり強いです。ドクケイルはもっと強いです。
まぁ上記を上回る格上は世界から見れば山ほどいるんですがね。サブマスとかフロンティアとか四天王とか(笑)
次回、大きな庭のきのみ屋さんに救世主あらわる!
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その8「きのみ屋さんとザングース」
やっぱ戦闘描写ってポケモンでも難しいですね。時間が掛かってしまいました(汗)
とりあえず、ポケモンの強さは種族よりも技や経験、その時その時の技の選択の方が大きいってことを示したかったです。
一応ポケモンの技は最新(XY)の物を採用しております。BW2時代の教え技とか無くなったそうで残念です。
7/3:誤字修正
パットー、パットー、とマメパト時計(せっかくなので別の時計にしてみた)が鳴って目が覚めるが、少しダルい……しかし止めないと鳴り止まないので、仕方なく止める。
いつもより早い時間帯に起きたので日がまだ差しておらず、ローちゃんが寝ぼけている。けど起きなきゃいけないから水を掛けて起こしてやった。怒られた。ショボン。
どうして早起きしなきゃいけないのかと言うと……昨日のドクケイル対策をしなきゃならないからである。
ドクケイルにしては珍しく日中に活動するタイプのようで、夜に僕と3匹で張り込みをしたが全く出てこなかった。
ならば朝方に出てくると予想して早起きをし、ドクケイルが来る前に撃退準備を整えようと考えたのである。
ちなみにガーさんとヤーやんはポケモンセンターで回復済み。ミツル君のメンバーも含めて怪我ポケが大勢居たから、ジョーイさんがてんてこ舞いだったよ。ごめんね。
2匹ともリベンジに燃えている(……らしい。ヤーやんは表情が読めなくて解りづらいんだよなぁ)が、今回はアーさんが主役(の予定)。ざぁんねんでしたぁ。
―さて、まだ暗いし眠いけど、いざ裏庭へ―――そこに居たのは、なんと!!
―――
「なしてザングースがいるの?」
「「「「(´д`;)(知らんがな)」」」」
うわ、揃いも揃って顔文字みたいな顔しやがって。ゴーさんは強面のまま、ヤーやんは表情が変わらないのでそのままだが。
イシ爺が大事に育てていた高木。その根元にネコイタチポケモンことザングースが丸まって寝ていたのである。
山岳地帯の114番道路で見かけたことがあるポケモンだけど、ここまで来るなんて珍しい。はぐれザングースかな?
しかしこのザングース、よく見ると口元に皺があるし、痩せて見えるし……もしかして結構なご老体かな?ちょっと失礼して毛並みを……。
「フシャー!」
「スイマセンっしたー!」
▼うまく逃げ出せた!
怖かった凄く怖かった!『ネコ』イタチポケモンが寝ていたからって油断してた!ザングースって素で怖いんだった!
ヨシヨシしてくれるローちゃんとサンちゃんのおかげでビックリしてドキドキする心臓が落ち着きついてきた。
その迫力はガーさんですら怯むほど。喧嘩好きなガーさんが躊躇するなんて、あのザングースは気迫ってもんが違っているわ。
しかしこっちが遠ざかったらすぐに寝たので、とりあえず向こうから襲い掛かったりはしないようで安心した――――ん?
―バサバサ
(げ、ドクケイル!?)
羽ばたいた音が聞こえたからなんだろうと視線を向けたら、高木の幹にドクケイルが留まっていたじゃないか!もしかしてアイツ昨日の!?
夜中に忍び込んできたのか僕達よりも早く来たのか解らないが、バサバサと微量の粉を撒き散らしながら羽ばたきするドクケイルは、僕達に向けてアピールしているかのよう。
その粉がザングースの元に降り注ぐが、「めんえき」持ちのザングースは眉を顰めるだけで、ドクケイルに向けて短く鳴いた。「五月蝿い!」とでも言っているんだろうか。
しかしその威嚇がドクケイルを刺激したらしく、高木から飛び降りたと思ったらザングースの前でヒラヒラと……ちょ、ちょっかい掛けるのやめとけって……。
「フギャー!」
あちゃー、とうとうザングースが怒り出した!短気なやっちゃなー。
それにしても、さっき触ろうとした時とは比べ物にならないぐらいに迫力があって怖い!ポケモン達もちょっと引き気味です。アーさん寝るな。
しかしドクケイルは間一髪で後ろへ飛び、ヒラヒラ舞いながらザングースをからかう。既に『ちょうのまい』を行っているらしく、戦闘準備満タン。喧嘩好きなのか?
しかしザングースは怒っているもののすぐには動かず、ドクケイルに爪をクイクイ動かし……あ、あの動き、『ちょうはつ』か?
案の定ドクケイルは途端に怒り出し、ヒラヒラと舞うような動きを止め、羽を羽ばたかせて『ぎんいろのかぜ』を放つ。
そう、このドクケイルは素で強い!ガーさんが変化技を止めるために『ちょうはつ』したら猛攻が凄いのなんの。
風を使った広範囲の攻撃技は勿論、『サイケこうせん』による射撃や『ヘドロばくだん』など技も豊富なのだ。
そんなドクケイルを相手にする年老いたザングースはひとたまりも……ん?ザングースが大きく息を吸い始めた。
そして息を吐いた途端、『ぎんいろのかぜ』にぶつかるようにして『ふぶき』が……え!?『ふぶき』!?
白い雪が入り混じった吹雪は風とぶつかり合い、相殺。余波で冷たい風が肌を刺激してきた。寒い。
今度はドクケイルからピンク色のオーラが溢れ出て、それと同じようなオーラがザングースを包み込む。これは『サイコキネシス』か?
苦しそうな顔を一瞬だけしたザングースは口から炎……『かえんほうしゃ』を発射。火に弱いドクケイルを怯ませ『サイコキネシス』から解き放たれる。
その瞬間を逃さず、ザンクースは四足歩行で素早くドクケイルに接近!『でんこうせっか』で確実に近づくつもりか!?
しかしドクケイルは『ちょうはつ』が切れたが幸いして『まもる』で……おっとここで跳躍したザングースの『フェイント』がドクケイルの腹(?)にヒットぉぉ!
続けて空中から『ブレイククロー』!しかし『かげぶんしん』の残像だ!ぐるりと空中で身を捻らせ『やきつくす』!焼かれながらも『むしのていこう』!受けた衝撃で落ちるも空中で『つるぎのまい』!
ドクケイルの『ちょうのまい』!ザングースの『いばる』!ドクケイルは混乱し暴れまわる!ザングースの『つるぎのまい』!『ひかりのかべ』!『かえんほうしゃ』!混乱が治って『むしのさざめき』!『みきり』で回避!
……えっと……。
「すげーハイスペックな戦い」
確かテレビ番組で放送していた特番『夢の四天王対決!カゲツVSフヨウ!』で似たような光景を見た気がする。
皆もそう思っているのか、無言で頷いてくれた。……ヤーやん、寝ているアーさんに『サイコショック』お願い。
これにはガーさんも唖然とするしかないだろう。正直割り込む隙が無いので脳内実況しか出来ないよ。
ドクケイルの熟練した技も凄いが、あのザングースの技のレパートリーも半端無い。口から火を吐いたり冷凍ビームを吐いたり、爪使えやって話。
こんなに派手な戦いなのに木の実畑にも庭木にも大きな損害を与えていないのだから、2匹のバトルセンスの高さも侮れない。
そんなこんなで2匹の争いは続き、短時間にも関わらずお互いに限界が近づきつつあった。苛烈な戦いだから仕方ないね。
受けたダメージはドクケイルの方が大きいが、ザンクースは軽傷にも関わらず息が荒い。やはり老いには敵わない、ということだろうか。
ここで勝負を仕掛けるつもりか、ドクケイルが天高く飛び上がり、そのまま急降下!多分あれは『ギガインパクト』か!?
真上から落ちてくるドクケイルをザングースは……普通に「ひょい」と横へ跳び、ドクケイルは地面に激突してズズンと地面が揺れた。
土ぼこりが晴れて見えたのは……地面にめり込んだまま痙攣しているドクケイルの腹が。うん、あの勢いで落ちたらそうなるわな。
にしても、あの壮絶なバトルの結末にしては……言っちゃ失礼だけど、凄く呆気なかった。なんだかなぁ……。
呆然と地面に埋まったドクケイルを見下ろす僕らを余所に、ザングースは「やれやれ」と息を吐いて眠り出した。
「……さてと、ドクケイルを抜いて穴埋め作業をしなきゃ」
お、サンちゃんが「お仕事ですか!?」と瞳を輝かせて見上げてきた。やる気があるようで結構!
ドクケイルをどかすのはゴーさんにお願いしよう。虫ポケモン苦手なのは解っているけど、我慢してね。
―――
とりあえずドクケイルをお送り(という名目の『ともえなげ』)して差し上げて、畑と店に平和が訪れた。
追い払ってくれたザングースだが、寝ていた時に添えておいた山盛りのオボンのみをモソモソと食べてくれた。お礼、受け取ってくれてよかった。
その後も高木を陣取っていたが、近づきさえしなければ攻撃してこないので安心できる。ガーさんもしばらくは様子見に留めるようだ。
そして畑仕事が終わった後は一日ぶりの営業。心配してくれたお客さんから色んな言葉を送ってもらったよ。優しいなぁ。
ただし裏庭への看板に新しい注意書きとして「ザングースに近づくべからず」と追加しておいた。近づく奴は容赦なく威嚇する怖いやつですので。
―――で、もう一つ厄介なことは……。
「……あの、ハヤシさん」
「なぁーにーミツルくーん?ウブのみを使った手作りのど飴の味が悪かったぁー?」
「いえ、美味しいんですが、その……」
「なんだよミツル君、言いたい事があるならハッキリ言いたまえよ」
「あのドクゲイル、ずっとハヤシさんを見ていますよね?」
ああ、窓に張り付いてこっちを見てくる、焦げ目が目立つドクケイルね。
お客さんにもポケモンにもちょっかいを掛けず、窓に張り付いてじっとしているドクケイルに一部のお客さんも唖然として見ている。
とりあえず暴れる気配が無いのでお客さんも安心しているが、なんで追い返したはずのあいつが大人しくしているのか……ザングースに目をつけられて暴れられないのか?
「もしかしたらあのドクケイル、ハヤシさんの事が好きなんじゃないですか?どうやらメスみたいですし」
「はぁ!?冗談言わないでよ!?」
ふふって微笑んでいて良い話っぽく言っているけど、あんな生意気なイタズラ者に気に入られるなんてゴメンだよ!
「あ、ドクケイルが羽をばたつかせていますよ?もしかして脈ありなんですかね?」
「ミーツールーくーんー!!」
今日の君はやけに絡んでくるね!?本気でやーめーてー!!
―気のせいかな?ミツル君、笑っているのにどこか寂しげだな……。
―――
その日の夕方。
閉店し、一喝したら珍しく帰ってくれたドクケイルの後姿を眺めた後の事だ。
「うわぁぁーーんハヤシくぅーん!」
「ぶぼっふ!?」
ご飯にしようかなって思った時に後ろから『とっしん』を受けた!痛い!
何事かと思ってみたら、僕に抱きついてきたのはミツルの叔父さんだった。小太りなおじさんだが、髪型は甥っ子のミツル君に似ている。
「うおぉぉん君からも何か言ってやってくれぇぇぇ!」
「ななななんですか一体!?」
穏やかなミツルおじさんがここまで泣き喚くのは珍しい。一体なにがあったんだ?
「ミツルが、ミツルがぁ―――――イッシュ地方へ旅に出るって言い出したんだぁ!」
―――この日、僕はミツル君が抱いた新たな夢を聞く事になる。
―続く―
ピンチに続く突然の展開!ミツルの意図とは!?そして何故イッシュ地方なのか!?
今回登場したザングースは元はトレーナーに居たものが野生化したものです。野良化した理由は追々。
それとミチル君のお父さんはほぼオリキャラ化しています。すみません(汗)
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その9「きのみ屋さんとミツル」
今回はスッキリ書けなかったので長いです。予約投稿ですが、後ほどいくつか修正すると思います(汗)
ミツルのおじさんは穏やかで優しい人だ。そして息子のようなミツル君に並々ならぬ愛情を注いでいる。
病弱なミツル君の為に空気の澄んだシダケタウンへの引っ越しを受けいれたぐらいで、面倒ではあるが病院送りにするより遥かに良い選択で、ミツル君が自分の意思で元気になっていく事を願っていたに違いない。
そしていつのまか、ミツル君はポケモントレーナーとなって元気に育ち、ホウエンで知らない場所は無いと言えるほどに各地を旅している。あのマボロシ島にのみ生える木の実をお土産に持って来てくれた時はビックリした。
そんなミツル君の冒険談を自分の子のように楽しく話し同じぐらいにミツル君を心配するおじさんを見ると、立派な父親だと思える。もちろん、うちの両親も立派だよ?
そんなおじさんにミツル君から「遠い地方に旅立つよ」と言われたら取り乱すのは必然。
そして我が子を愛する父を落ち着かせるのが難しいのも必然なわけで……。
「だからまずは落ち着いてくださいって!」
そう言って僕はおじさんを羽交い絞めにして落ち着かせようとし。
「うわぁーんミツルくぅぅぅん!どうして行ってしまうんだよぉぉぉ!」
おじさんは混乱のあまり暴れて(僕が羽交い絞めにしている理由はコレ)。
「お、おじさん話を聞いて、聞いてってば!」
おじさんが取り乱した原因であるミツル君がオロオロしながら父を落ち着かせようとし。
「全くもうおじさんったら、ミツルの事となるといつもこうなんだから……」
顔がミツル君と似ているミツルママが困ったように三人を傍観して……ってママさん、ちょっとは手伝うなりしてくださいお願いします。
僕とミツル君のポケモン達はどうすればいいのかとオロオロしている。下手をしたら傷つくかもしれないから、こちらの場合は静観が正しいかも。
ちなみに従姉のミチルさんは旦那さんと旅行中なんだって。羨ましい。
それにしたって、なんで店の前で僕がおじさんを羽交い絞めにしているんだろうか……咄嗟とはいえミツル君に頼まれたから仕方ないけど。
しかしこのままじゃ焼け石に水状態。もしかしたら夜までこのままかもしれないし、早くなんとかしないと……。
「おお、やっと見つけたよ」
―おや、こんな時間に誰だ?
声がした方へ振り向けば、そこには車椅子に腰掛ける大男と、車椅子を押す女性と……あ、シダケタウンのジョーイさんだ。
なんだろうこの組み合わせ。大男と女性は見た感じ夫婦に見えるけど、ここら辺では見た事の無い人……ていうか「やっと見つけた」って?
「あ……」
突然の来客に落ち着いてきたおじさんを筆頭に視線が彼らに向けられる中、ミツル君が掠れた声を上げる。
ミツル君は目を丸くして呆然と大男を見ていたが、やがて表情に喜びが溢れ出てきて、そして走りだした。
「山男のおじさん!目が覚めたんですね!」
「ああ、君のおかげだよ!」
なんだか嬉しそうなミツル君と大男。お互いにここに居ること自体を喜び合っているようにも見える。
というかこの人……誰?ていうかなにこの流れ?おじさんも混乱に混乱を重ね、ついに固まったまま動かなくなっちゃったよ。僕も、叔母さんも、そしてポケモン達も。
―え、また急な展開になるの?
―ミツル視点―
すみませんハヤシさん、裏庭お借りした上にお食事まで呼ばれてしまって……お母さんのシチューのレシピ教えて?後でお母さんに聞いてください。
ジョーイさんもいいんですか?ポケモンセンターの方は……ジョーイさんも向こうで聞いていたんですね。解りました、全部僕の口から話します。
えっと、この場をお借りしてまずは紹介します。この人は煙突山で会った山男さんで……あ、そういえば名前聞いていないや……ケンサクさんで、そちらは奥さんですね。
おじさん、おばさん、それにハヤシさん。食べながらでいいんで、僕の話を聞いてください。
僕がイッシュ地方へ旅立とうとする切欠は、ケンサクと会った……いえ、ケンサクさんを
先週、煙突山を覆う程の嵐が来たことは知っていますよね?……そうです、ここシダケタウンにすら襲い掛かった、あの嵐です。
僕はあの日に煙突山にいたんですけど、快晴だった空の向こうから雷雲がやってきていて、気付けば凄い大雨が降ってきて……ええ、ハヤシさんの言うとおりです。
シダケタウンに帰る前にフエン温泉で落としたのは、旅の汚れじゃなくて雨の汚れだったんです……黙っていてゴメンねおじさん、心配掛けたくなかったんだ。
大雨に見舞われた僕はすぐに下山しようとしたんだけど、そこへ3匹のイシツブテが道を阻み、助けを求めてきた。只事じゃないと思った僕は、彼らの後を追った。
ついた先は高い崖で、その下に岩に押し潰されているケンサクを見つけたんだ。イシツブテ達はケンサクさんのポケモンで、彼を助けたいが為に大雨の中でも誰かを呼ぼうとんだと思う。
僕は無我夢中でケンサクさんに駆け寄って、なんとかポケモン達全員で岩をどかしたんだけど……その時のケンサクさんは、下半身が酷い状態で、しかも虫の息だった。
あの時、僕は怖くなって解らなくなった。
ポケモンセンターで働いた事があるから怪我をしたポケモンやトレーナーを見てきたけど、あの時のケンサクさんほど酷くはなかったから。
そんな時、僕のサーナイトが手を繋いできて……ケンサクさんの気持ちが伝わってきたんだ。「一人は嫌だ」「怖い」って。
僕はその時、まだ病弱だった頃を思い出して、思ったんだ―――苦しい時に1人になるのは、凄く怖い事なんだって。
お母さん、ミチル姉さん、それにおじさん……支えてくれた人が沢山いたから、今の僕が居る。
だから僕は、ケンサクさんを助けようとした。助けを呼ぶだけじゃなくて……ケンサクさんの命を助ける為に。
……今でも解っていますよ、ジョーイさん。素人が救命行為をすることがどれだけ危ないことか……それでも、助けたかったんです。
けど、僕はやれるだけのことをやったに過ぎません。
僕が応急処置を取って、エネコロロに助けを呼びに行かせ、チルタリスの羽毛で怪我人を包んで、レアコイルに「でんきショック」で電気マッサージをして、ロゼリアの「アロマセラピー」で落ち着かせて、サーナイトの「リフレクター」で雨風を防いで……。
3匹のイシツブテが見守る中、僕らは必死で看病して……気づけば、雷雨が去っていました。
―そういえばその時、雨雲と共に3匹の見慣れないポケモンが居たような……いや、それは置いときましょう。
それでも看病を続けていたら、エネコロロと一緒にフエンタウンの看護師さん達が来てくれました。
いつの間にかポケモンセンターのベッドで目覚めていて、ケンサクさんは眠っているだけで無事だと知って、そちらのジョーイさんとポケモン達からお小言を頂いて、先に退院して……今に至ります。
―――
長い話だったけど、先週のミツル君は凄い経験をしていたんだなぁ。
僕も旅に出ていた頃は救助活動の1つや2つぐらいはしていたが、ミツル君ほど深刻な事態は無かったなぁ……マグマ団アクア団の面倒事はカット。
「改めて御礼を言わせてくれ。助けてくれて本当にありがとう」
「そ、そんな、顔を上げてください!」
食べ終えた食器を片付ける中、ケンサクさんはミツル君が困っていようとも頭を下げてお礼を述べている。
ケンサクさんも律儀なもので、ミツル君の事をフエンタウンのジョーイさんから聞いて、退院した今日にお礼参りしにシダケタウンまでやって来たのだ。命の恩人にお礼を言うのだから、当然だろう。
「あの時は無我夢中で……それに、僕がもっと早く助けていれば、足が悪くなることなんてなかったんです」
ミツル君の言うとおり、車椅子に乗っている以上ケンサクさんの足では山を登ることはできないだろう。むしろ岩に押し潰されたのに長期入院しなかったのが不思議だ。
もっと早く、そして的確に治療が出来れば、という罪悪感がミツル君の心の中で沸いているのかもしれない。
けど、それは要らぬ心配って奴だよ。ケンサクさんの顔を見てみなよ―――まるでイタズラっ子のように明るいんだから。
「それなんだがな、ジョーイさんによると山登りは無理だが、リハビリ次第ではハイキングぐらいはできるそうだ!」
「……あんな大怪我だったのに、歩けるようになるんですか?」
ポカンとしているミツル君。どんな大怪我かは知らないが、回復が見込めると聞いて驚いているのかな。
「あんな大怪我だったのに、だ!医師も、素人がここまで適切な処置が出来るとはって驚いていたよ!」
ケンサクさんも、そして奥さんも凄く喜んでいる。ケンサクさん自身も、もう歩けないのだと最初は絶望していたんだそうだ。そんな時に回復の見込みありと言われたら喜びもするだろう。
そしてケンサクさんはギュっとミツル君の手を握り、ブンブンと縦に振る。
「ありがとう!本当にありがとう!偶然だろうが必然だろうが、君のおかげで助かったのは紛れも無い事実なんだ!」
目に涙を浮かべ喜ぶケンサクさんを余所に、ミツルママとミツル君のポケモン達は誇らしげにミツル君を見つめていた。きっと僕もこんな目をしてミツル君を見ているんだろうな。
ミツルのおじさんだけは、なんだか複雑そうだけど。
―――
その後、お礼は必ず贈ると行ってケンサクさん夫婦はジョーイさんの車に乗って帰っていった。
僕達はそれを見送り、ミツル君は車が見えなくなるまで手を振っていた。
「……さてと」
夜の帳が下ろされたけど、ここからが本題だ。丁度おじさんも落ち着いているし、話を聞こう。
「もしかしてミツル君がイッシュ地方に旅立つ理由って」
「ええ……そうです」
僕の問いかける前に、ミツルは静かに答えた。質問は最後まで聞きなさい。
けどケンサクさんを助けたあの日が原因なのは解った。それが何故イッシュ地方なのか、そしてミツル君は何をしたいのか。
それを話すのはミツル君であり……話すべき相手は、困った顔をしているおじさんだ。
「おじさん……僕は医者になりたい。その為にイッシュに行きたいんだ」
うわお、ドストレート。
「……医者になるんなら、ホウエン地方でも出来るじゃないか。なんでわざわざ遠い地方へ旅立つんだい?」
唐突に言い出したとはいえ、だいぶ落ち着きを取り戻したからか口調は穏やかだ。しかし心中はそうではないのだろう。顔に焦りが浮かんでいた。
「イッシュではポケモンセンターの機材が無くてもポケモンの治療が出来る、トレーナーのように旅が出来る『ドクター』という職業があるって聞いたんだ。その人に教えてもらって、旅先でも治療できるような腕を身につけるようになりたい」
そういえばマサから聞いた事がある。
イッシュでは各地でドクターやナースに出会うこともあって、大きな機材が無くても旅先でポケモンを治療してくれるんだとか。
「で、でも初めて行く地方なんだ。伝手も当ても無いだろう?」
「マサユキっていうイッシュ出身の旅人がお願いしてくれるよ」
「え?マサユキが?」
思わぬ人物の名前に僕は声を上げた。マサユキって、この間うちでバトルを挑まれて、一日だけバイトしてくれたあの人だよね?
そういえばあの時、ミツル君とマサユキが何か話し合っていたような気が……。
「リゾートデザートって所でドクターをしているタツロウっていう人が居て、マサユキさんもよく世話になったそうです。まずはその人を訪ねてみようと思います」
リゾートデザート……確か古代の城が眠っているっていう砂漠地帯だ。
砂嵐が厳しいっていうあの場所に居るなんて変ったドクターだね……いや、厳しい環境だからこそか?
けどミツル君が話す度に、どうすればいいのかと焦っている。……そういえばミツル君って明日に家を発つって言っていたけど、その日にイッシュに行くつもりなのだろうか?
「そ、そんな……イッシュは随分と都会だと聞くし、君には厳しいよ。忘れたのかい?いまでこそよくなったけど、それはホウエン地方だから良くなったわけで、君は元々は「おじさん」……」
ミツル君の一言でおじさんの口が止まった。ミツル君の真っ直ぐな目には、おじさんをそうさせるまでの何かを宿している。
「僕も本当はずっとここで暮らしたいとも思っているんだ。おじさんが、お母さんが、姉さんが、ハヤシさんが、そしてユウキさん達ホウエンで出会った人々がいるこのホウエンで暮らした方が幸せなんじゃないかって」
「ミツル君……」
「……けど忘れられないんだ。病弱だからって諦めずにポケモントレーナーを目指し、そして叶った日々を。ポケモンと一緒に旅してきた日々を……初めて、ポケモンを捕まえた日の事を」
そういってミツル君はサーナイトの頭を撫でる。
嬉しそうに寄り添うサーナイトを見て微笑んだミツル君の脳裏には、初めて捕まえた日の事を思い出しているのかもしれない。
「あの時は凄く感動した……そしてケンサクさんが助かったと知った時、その時と同じぐらいの感動を覚えたんだ」
「不謹慎だろうけど」と苦笑いするミツル君だが、その顔に後悔や罪悪感はない。
「だからおじさん、僕はドクターになるよ。こんな僕だけど、何も知らない僕だけど、病弱だった僕だけど……」
他者の命を任される者の責任感がどれだけ重いか。
医者を目指し挫折した人がどれだけ多いか。
ポケモンを救えなかった時の悲しさがどれだけ苦しいか。
ミツル君よりも多く旅してきた僕は、そういった人も沢山みてきた。それはミツル君も……いや、多くをポケモンセンターで働いた彼の方が良く知っているはずだ。
けど、ミツル君の目は輝いていた。
「あの感動を知っちゃったら、もう目指すことしか考えられないよ!」
感動。それは何かを目指す切欠になりえるものだと僕は思う。それは厄介なもので、大切なことだと思う。
雄雄しくそして堂々と歩む伝説のポケモンの姿を見て感動したマサのように。
初めての本場のポケウッドを見て感動したミサトのように。
広大な海を越える事に感動を覚えたユウキ君のように。
広大な大地を走る事に感動を覚えたハルカちゃんのように。
そして、小さな種が大きな花になった事に感動して、ガーデニング好きになった僕のように。
感動を覚えてしまったら、「こうありたい」としか考えられなくなって、その為の努力を惜しまないようになる。
だから、僕はおじさんに言いたくなる。
「諦めなよ、おじさん。こうなったらミツル君はダメだと言っても止まらないよ」
こればかりは、おじさんの味方がしたくてもしょうがないよ。元から僕はミツル君の味方だけどね。
―その後の結果は、ハッキリしたものだった。
―――
翌朝。ミツル君は旅立った。
その日はマサユキも来てくれて、一緒に船に乗っていくんだそうだ。なんだ、マサユキがイッシュに帰る日って今日だったんだ。
新しい手持ちのコータス(この子も意地っ張りだった)、そして大きなリュックを背負ったミツル君を連れて、シダケタウンを去っていった。
当然ながら、僕達シダケタウンの皆総出で見送った。僕はお土産に長期保存の出来る木の実の詰め合わせを選別に贈った。
おいおいと泣くけど、最後の最後まで「行かないで」と言わずに見送ったおじさんは偉かった。やっぱりミツル君の事を思ってくれているんだよね。
さて……ミツル君が行っちゃったし、僕は畑の準備でもしよっかな……そう思って、もう一度ミツル君が行った方へ振り向く。
「待っているからね、ミツル君」
マサも、ミサトも、ユウキ君も、ハルカちゃんも、そして君の事も。
僕はこの店で、君たちの帰りを待っているよ。……どっかでバッタリと会うかもしれないけど。
ポケモンと一緒に待つ側ってのも、悪くないもんだよ。
あ、ポストに手紙が入ってた。あて先は……ホ、ホミカサァァァァァン!!!????
ファ、ファンレターの返事!?うわ凄いホミカの本物のサインだ!さ、さっそく中をあけてみよう!
「美味かった byホミカ」
そう書かれた手紙には、空になった皿を持ってピースするホミカさんの写真があった。
ファンレターと一緒に送ったナナの実のタルト、食べてくれたんだ!感激ー!
もう1つの手紙は……「ザ・ドガーズ」のバンドメンバーからだ!こ、これは仕事が終わってからの楽しみにとっておこうそうしよう!
うわーい!今日は通常の3倍は頑張れるぞー!
―続く―
ざっくりとした話ですが、感動して決めた道っていいもんだと私は思います。
ミツル君がドクターを目指すという個人的な設定になりましたが、いかがでしょうか?
どうでもいい設定:「ジョーイ」とはポケモンセンターでの看護師さんの名称。そっくりさんにあらず初代ジョーイさんから由来。してつけられた。
ナナの実のタルトは読者様のアイディアです。ありがとうございました!ホミカが美味しく頂きました(笑)
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その10「きのみ屋さんとナタネ・前編」
後、ホミカの次に好きなジムリーダーだからです!
そういえば活動報告でポケモンに関するコラボ小説のアンケートを行っています。よかったら見てください。
7/15:アニメ版ナタネの性格にギャップを感じたり中の人で悲しくなった方が居たので修正。ゲーム版とポケスペを参照にしています。
―ジムリーダー。
それは若きポケモントレーナーを導く為、自ら壁となって立ち塞がる強者である。
ジムリーダーは老若男女関わらず、優れた判断力と豊富な知識、自分なりのポケモンへのこだわり、そして責任能力が備わってさえいればなれる者とされている。
常人より優れたポケモンを育てる責任。
若きトレーナーを自分なりの教示で導く責任。
地方に君臨する8つのジムを任される責任。
リーダーとしてジムを、町を、そして時には地方を守る責任。
偉人になるとは、常に責任が伴われるものだ。そしてジムリーダーはこだわりと個性に溢れている。
高い教養と知識を兼ね備えた者もいる。
ポケモンバトルに美を求める者もいる。
人を引き寄せる何かを持つ者もいる。
ジムの傍らで副業に励む者もいる。
ジムの傍らで趣味に走る者もいる。
ジムに妙な仕掛けを施す者はかなり多い。
そんな自分のこだわりを貫けるのも、責任能力や仕事の能力が常人よりも優れている証拠。
つまりジムリーダーとは、職務を全うさえできれは基本フリーダムなのだ。
―――
爽やかな朝の日差しが差し込む早朝。
ポケモン達と裏庭で朝御飯を食べようと玄関を開けたら、目の前で人が倒れていました。
「うふふふ、トロピウスゲットぉ、むにゃむにゃ」
前言撤回、目の前で人が寝ていました。
明るい茶色のボブカットに緑のケープを着ており、ハーフパンツを穿いた女の子だ。うつ伏せになって倒れているので顔は解りません。
目立った外傷が無い事から、どうやら野宿で休んでいるというより力尽きて眠ってしまったらしい。目の前に店が、というか町に着いたのにワザワザここで倒れたか。
そんな事を考えてはいるが、やはり倒れている女の子を見ていると不安になる。僕の足を小突くローちゃんも心配してそうに女の子を見ていた。
「とりあえず起こそっか。『アロマセラピー』よろしくね」
コクリと頷いたローちゃんは女の子の前に立ち、両の花からミントのような香りを放つ。爽やかでスーっとする匂いは眠気覚ましにはピッタリだろう。
女の子は身動きこそ示したものの、「エヘヘヘご馳走だー」と寝言を呟くだけで起きようとしない。駄目かー。
……ん?ごちそ―――きゅ~くきゅるるる―――あら、可愛い音。
どーやら倒れた理由はベタな藻様子……ローちゃん、しばらくこの子を見ていてね。
さて、朝御飯のチャーハンを追加で作らないと。それもたっぷり。きのみスープはそのままでいっか。お昼の分が無くなるだけだし。
―――
所変わって、ここは裏庭。女の子は無事に復活しました。
「ご馳走様でした。どうもありがとう!」
米粒一つもスープ一滴も残さず空になった食器を並べ、彼女は明るい笑顔で応えてくれた。改めて見ると可愛い。
彼女のポケモンであるロズレイド、ドダイトス、チェリムも「ゴチになりました!」とお礼を述べいるかのようにお辞儀をする。トロピウスはまだお食事中。
大食いのゴーさんですら唖然とするほどの食べっぷりは見事だったよ君達……おやおや、照れない、照れない。
「どういたしまして。お茶のおかわりは?」
「いただくね。あ、私の紅茶はミルク多めで」
素直なんだが図々しいんだか。けど素直可愛いから許す。食器の片付けはゴーさんにお願いしよっと。
紅茶を淹れながら彼女を見ていたら、彼女の視線は裏庭の光景に釘付けのようだ。造園した僕達からしたら嬉しい限りだ。
「そういえば君、どこから来たの?」
そもそも何であんなところで倒れていたのか、という質問は後回し。
「おっとっと、そういや名乗りですらまだだったね!じゃあ自己紹介から」
はっと気づいた彼女。そういえばお互いに名前ですら明かしていなかったよね。
「私はナタネ。シンオウ地方から来ました」
「次はこちらの自己紹介。僕はハヤシといって、この店の店主をしています」
そして僕らはお互いに「よろしく」と笑顔で握手。トレーナーにとって挨拶と握手は大事、だと思いたい!
「それにしてもシンオウからかぁ。遠路遥々からようこそホウエンにいらっしゃいました」
「なんか照れるなぁ……」
ホウエン代表として歓迎のご挨拶をしたら彼女は照れくさそうに笑った。
良く見れば彼女を囲んでいるドダイトス・ロズレイド・チェリムはシンオウ出身だったよね。トロピウスはホウエンでも良く見るけど……食べるのおっそいなぁ。
「……で、なんでうちの前で行き倒れに?」
では次は倒れた理由。するとナタネちゃんは「う……」と恥ずかしそうに頬を掻きだした。
「……実はカイナシティの港に着いて早々トロピウスを見つけて、感極まって追いかけちゃって」
「感極まって?」
「私、草ポケモンが大好きなの」
あ、だからナタネちゃんの手持ちは草タイプばかりなんだ。しかも見た感じからして強そうだ。
見た感じで解るほど強さを証明できるポケモンを持つってことは、育て方が上手な証拠。育て方次第では弱そうなエンティ、強そうなピカチュウがいるぐらいだからね。
庭を眺めていたこともあり、この子はきっと草タイプというより自然そのものも好きなのだろうか。ならホウエンの大自然はきっと気に入るはずだ。
「けど飛行タイプのポケモンを持ってないから仕方なく走って追い続けたんだけど、捕まえた頃には夜中になってて、ようやくお店を見つけたと思ったらお腹が空いて……」
「うちの前で倒れて眠っていた、と」
「恥ずかしながら……」
照れくさそうに笑うナタネちゃん。可愛い。
このトロピウスってゲットしたばっかりなんだ。だから慣れていない事が多くて動作が緩慢なのかも……おっとりしているだけにも見えるが。
するとナタネちゃんはテーブルに身を預ける。落ち込んでいるのか、投げやりな感じだ。
「あーあ、いくら珍しい草ポケモンを見つけたからって、もう一つの目的を忘れちゃうなんてさー」
「本来の目的?」
「大きな庭のきのみ屋さんって言う噂の店を訪ねたくて」
「それってうちじゃん」
「はい?」
思わず即答しちゃったよ。ナタネちゃんは首を傾げてこっちを見上げている。……紅茶ウマー。
さて、紅茶を飲み終えた所で、改めてこのお店を紹介するといたしましょうか。笑顔、笑顔。
「ここがそうだよ。ようこそ、大きな庭のきのみ屋さんへ」
しばし目を点にしてこちらを見ていたナタネちゃんだが、少ししてから目を輝かせた。
「ホント?ちょっとゴメンね」
そういってナタネちゃんは玄関へと走りだして……あ、戻ってきた。
「本当だった!」
「本当だってば」
まぁ疑うのも無理はないけど。その様子だと看板を見て確信したみたいだね。
するとナタネちゃんは喜びの表情を浮かべて……あ、裏庭に向けて走りだした。
「うわぁ、雑誌で見た通り綺麗!ちょっとお邪魔するね」
「ちょっ、ま、そっちにはまきびしが」
「あいだだだだ!」
お店の事を知っていたんなら『まきびし』を撒いてあることを知っているとばかり……あ、ナタネちゃんのポケモン達が。
「「「Σ(>皿<;)(痛い痛い痛い!)」」」
まきびしの餌食に……いくらナタネちゃんの為に駆け出したとはいえ、それはどうよ?トロピウスはまだナタネちゃんに懐いていないのか、遠巻きで見ていた。
うーん、ポケモンはトレーナーに似るっていうけど、穏やかなようで意外とハイテンションな子達だなぁ……歳いくつだろ?
「「「「(´・ω・`;)(早く助けてやれよ)」」」」
うちの子の訴えるような視線が気になるので早く助けよう……というわけで起きてアーさん。
―――
アーさんを起こして『まきびし』を吹き飛ばした後、ナタネちゃんはおおはしゃぎ。
芝生の上で転がったり、きのみ畑を見てはしゃいだり、畑に居着くナゾノクサを眺めたり、庭木を見上げ「いやーいい仕事してますねー」と感心したり。
ガーデニングマニアである僕は鼻が高いけどね。ドヤァ……。
そして今は何をしているのかといえば。
「ん~、ハスボーって可愛いな~♪」
ほっぺすりすりされてもハスボーのハーさんは嫌がるどころか楽しんでいる様子。そんな様子を羨ましそうに見上げるスーちゃん。和む。
ナタネちゃんのポケモン達も各々が庭で好き勝手過ごしている。特にロズレイドはローちゃんと親しげに話して……なんつーか、おばちゃんの井戸端会議っぽい。
ちなみにドクケイルことクケちゃんは今朝は居ない。ザングースことザンさんが追い返したんだろう。後でお礼の木の実を進呈しなければ。
さて、ナタネちゃんが和んでいるのはいいが、彼女の今後を聞いておこう。
「ナタネちゃん、店を見つけた後はどうする予定なの?」
「ホウエンの草ポケモンをゲットしに一週間の旅に出ようと思って」
ハスボーを頭に乗せたナタネちゃんは気合を込めてそう告げた。告げるのはいいんだけど……。
「……じゃなくてさ、飛行ポケモンがいるとはいえ宿とかどうするの?地図とかある?」
「あー……地図はあるけど施設とかはまだ……け、けど探せばあるよきっと。飛べるし!」
行き当たりばったりな旅なこって。それじゃあ一週間で回れないわな。
肝心の「飛べるし!」と言っていていたトロピウスは……あ、アーさんと一緒に日向ぼっこしていた。
捕まえたばかりでスキンシップも取れていないだろうし、僕の提案を聞いてもらおう。
「ならさ、旅する間うちに泊まらない?」
「ん?」
「店でアルバイトを募集してて、住み込み用の部屋が空いているんだ。資金稼ぎしながらそこを拠点にするのはどう?」
女の子を家に連れ込んでどうするつもりだって?どうにもしないさ。宿に困った人は老若男女関係なく放っておけないもんです。
まぁナタネちゃんは困ってはいないけど、確認ぐらいはしてもバチは当らないでしょ。ナタネちゃんも顎に手を添えて考えているし。
「お金に不自由はしていないけど……ここに泊まれるのは魅力的かな」
ナタネちゃんは頭に乗せていたハスボーを両手で抱えこみ、裏庭全体を見渡す。気に入ってくれたみたいで嬉しい。
それでも結局は諦めるかも。いくら助けてくれたとはいっても、見ず知らずの人の店に泊まるってのも抵抗ってもんが……。
「じゃあお言葉に甘えて、ここでアルバイトしよっかな」
「するの!?」
決断はやっ!しかしナタネちゃんは自信ありげにこっちを見ている。
「自然を愛する人に悪い人はいないよ。助けてくれたし、ここで働くのも悪くないし」
そういって微笑むナタネちゃんの顔は、こちらを疑う要素が全く無い。ま、眩しい……。
侮っていました、あなたは旅の上級者です。年季や経験が豊富な人ほど、無条件に相手を許し信じる寛容な心を持つのです。ダイゴさんとかテッさんとか。
そんなナタネちゃんを見て小さく溜息を吐く。色々な意味で勝てない人だと悟ったのだ。
「それじゃ今日はお休みだし、色々教えておかないとね」
お店の事とか、裏庭の事とか、お仕事の事とか、部屋の事とか、頼み事とか色々ね。まずはそれを聞いて最終的な判断を仰いでもらおう。
心なしか、ナタネちゃんがワクワクしているような気が……まぁ、やる気があるならよし!旅の目的を忘れていなきゃいいけど。
―そういえばナタネって名前とその格好、どっかで見たような気が……。
―続く―
当作品で描くナタネはアニメの影響を受けています。穏やかだけどテンションあがりやすい子です。
ちなみにナタネの手持ちはプラチナ強化後の手持ちを参考にしました。
現在の手持ちが3匹なのはホウエン地方のポケモンを手持ちに加える予定だからです。
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その11「きのみ屋さんとナタネ・後編」
プロットが纏まらなくてグダった時はパっと書いてサっと投稿するに限ります(笑)
「ナッゾー、ナッゾー♪」
「はいはい、そっちにも水まくよー」
雲が転々と浮かんでいる青空からの光は適度なもので、草ポケモンのナゾノクサ達はそれに合わせ適度な水分を欲してくる。
そんな奴らにホエルコ如雨露で水をやると、プルルッと震えて喜ぶのだ。いずれクサイハナになって庭から出ていくとはいえ、やはり愛着が湧く。
はい、今日は日曜なのでお休みだけど、いつも通り畑仕事をしています。ナタネちゃんに色々教えると言ったな?あれは嘘だ。
というのも一昨日ドクケイルことクケちゃんによって畑を荒らされた分だけ直した、新しく植えたきのみ畑の世話をしなきゃならないからだ。何せ半分以上がボロボロだったからねぇ……グスン。
今日になって木の実の芽が出たので、しっかり水やりをしておかないと。マメに世話すればするほど、木の実の質は良くなり、実が生る数も増えるからね。
そんな風にきのみ畑の世話をしていたんだけど……。
「ハヤシさーん、こっち側の木の実は収穫し終えたよー!」
一番端のきのみ畑からナタネちゃんの声が。振り向いてみれば、適度な量の木の実が入った籠を脇に抱えている。
「ありがとー!さっき言った所にまとめておいてー!」
「わかったー」
そう言ってナタネちゃんは籠を持って店へと向かった。
庭でゆっくりしていけばいいと言ったんだけど、せっかくだからと手伝ってもらっているのだ。助かるわー。
さて、この辺の水遣りはオッケーかな。ローちゃん、それにロズレイド、水遣りを手伝ってくれてありがとうね。
―――
畑仕事が終わった後、ナタネちゃんが採ってくれた木の実を見る。オボンとオレンの畑が無事なのは不幸中の幸いだったよ。
それにしても、ナタネちゃんが選んで採った木の実はどれもこれも……。
「おおー、身が詰まっていそうな良い木の実だね」
ゴーさんとドダイトスがヨダレを垂らして眺めているほどだよ。ポケモンが一目で見て涎を垂らすということは、良い木の実である証拠だ。
「私もトレーナーとして木の実には世話になっているから、良い木の実の区別ぐらいはできるよ」
自信ありげにブイサインを向けるナタネちゃん。
木の実は旅のトレーナーにとって傷薬の次にお世話になる道具の一つだ。様々な効能があるのはもちろん、野生の物なら実質タダで採れる。
それに苗などで手軽に育てることもできるから、トレーナーに限らず家政婦やお子さんなども木の実栽培をやっているほどだと聞く。
目利きの良いナタネちゃんのことだから、きっと彼女自身も自宅で木の実を栽培しているのかも。
「それでさ、この木の実はどうするの?今日はお店はお休みなんでしょ?」
今日は店の定休日だと予め聞いていたナタネちゃんは首を傾げて僕を見上げてくる。
そんな彼女に僕はニヤリと笑みを浮かべる。何に使うかって?それはもちろん!
「今日のお昼にするためさ!」
今日のお昼はオボンブレッドにオレンパンのパン尽くしだーい。
……こら、勝手に木の実をつまみ食いしようとしないのゴーさ……ドダイトス、君もかい。
―――
モーモーミルクにモモンの実のジャム、そして焼きたてのオボンブレットとオレンパン。ちょっと作りすぎたかな。
けどナタネちゃんは気に入ってくれたみたいでパクパク食べているよ。やったねハヤシ!残りは明日の半額コーナーに出そ。
で、せっかくなのでお昼を食べながら今後のナタネちゃんのスケジュールを相談してみた。
一応彼女は住み込みアルバイターでもあるので、アルバイトの時間と旅する時間をしっかいり分けておかないとね。
幸いトロピウスという移動手段もある為、旅はかなり楽になるだろう。後、簡単な地図しか無かったので詳しい地図も渡しておいた。不安2割増し。
その結果、お店仕事は午前中のみにして、お昼を食べた後は夕飯頃までホウエンを巡るという事になった。後は時間が余れば畑の整理などを自主的にしてくれるらしい。ありがたい。
お店のお手伝いはもちろんのこと、旅の道中に珍しい木の実があったら採ってきてもらうようお願いしてある。なにせ今のうちの畑では心もとないから……。
―――
お昼ご飯を食べた後はナタネちゃんが暮らす部屋を紹介しよう。
うちの家屋は縦長で、1階には二分の一を占める店内・厨房・トイレに洗濯機、2階は1階へ続く階段と廊下・小部屋が2つと物置がある。
ナタネちゃんが住むのは廊下から見て真ん中に位置している部屋。僕の部屋が手前、奥が物置となっている。
細長い部屋の両端にベッドと棚が置かれているだけのシンプルかつ狭い部屋だが、日当たりはいいので問題ないだろう。僕の部屋も質素だが住み心地は充分だと思っているし。
旅するには丁度良いとナタネちゃんは喜び、大きなリュックに沢山入れていた生活必需品を次々に置いていく。身軽になって旅もしやすくなるだろうか。
「そういえばさ、この家ってお風呂はどうしてんの?」
同じようなケープとハーフズボン数着を棚にしまいながらナタネちゃんが問いかけてきた。
「それは夜になったら教えてあげるよ」
茶目っ気にウィンクをしてみるが、ナタネちゃんは「そう?」といって興味なさげに視線を戻した。残念。
せっかくだ。ナタネちゃんもドラム缶風呂を堪能してもらおう。物置からシャワースクリーンを出しておかないと。
ところでナタネちゃん、まさか服はそれだけなわけがないよね?……あ、それだけですか。そっか、お気に入りなんだね。
ミサトみたいに服が何十着もないタイプではないみたいだけど、もう少しお洒落してもいいんじゃないかな……。
―――
さて、部屋の紹介も出来たし、ナタネちゃんの(余分な)荷物も置いた。膨れたお腹も落ち着いたということで……。
「では行ってきまーす」
「夕飯までには戻ってきてねー」
トロピウスに乗って飛んでいくナタネちゃんに向けて手を振ってお見送り。
最初はサイクリングロードがある110番道路でコノハナを捕まえるんだーと活きこんでいたが、何故にコノハナ?庭にいるタネボーじゃあかんの?
まぁナタネちゃんが凄く良い顔でワクワクしていたので良いとしよ。女の子は笑顔が一番!
さて、僕は夕飯までのんびりと過ごそっと。
―なんか忘れているような、そうでないような……?
――
時間が経つのは早いもので、もう夜になりました。何があったかって?クケちゃんに遊ばれたんだよチクショウ。
ナタネちゃんは草まみれで帰ってきて、夕飯の木の実スパを美味しく平らげた。ゲットしたかを聞いたら「内緒」と茶目っ気にウィンクされた。キュン。
そうそう、ナタネちゃんは夕飯後のドラム缶風呂を気に入ってくれました。あ、ちなみに水着を着ています。
「湯加減はいかがー?」
「ばっちりー。最初は面倒な沸かし方だなーって思ったけど、案外いけるね」
そういってナタネちゃんは気持ち良さそうに溜息を零す。シャワースクリーンで遮っているから詳細は解らないけど。
僕はデッキチェアに腰掛けて順番待ち。今日のラジオはカミツレ特集なので耳に流す程度にしておく。
「そういえばナタネちゃん、ホウエンはどうだい?」
「緑が栄える良い場所だと思うけど……旅立ってまだ二日目だから解らないかな」
そりゃそうだ、と僕は呟いて小さく笑った。
「まぁゆっくり周って行ってよ。ホウエンの緑はきっと気に入ってくれるはずだから」
ホウエン以外はジョウト地方ぐらいしか行ったことがないから解らないけど、長年旅をしていたのだから言える。
ヒマワキシティとかトウカの森とか……あ、サン・トウカもいいかな?とにかくオススメできる場所がいっぱいあって悩む。
「うん。楽しみにしているよ」
上機嫌なナタネちゃんの声。楽しみにしてくれるなら、ホウエン生まれの僕としては嬉しい限りだ。
―少しの間だけど、彼女の出会いと旅路に幸あらんことを……なーんてな。
(どうやらハヤシさんは私がハクタイジムのジムリーダーであることを知らないみたいね。
せっかくだしここは黙っていようかしら?お忍びで旅行に出かけたのは事実なんだし。もしバレたとしてもその時は
「草ポケモン好きな只のトレーナーとは仮の姿。その正体は、シンオウ地方ハクタイジムのジムリーダーなのよ!」
……と言ってフォレストバッジを掲げれば
「な、なんだってー!」
……って言って驚いてくれるかも。フフフ♪)
「なにか言ったー?」
「いいえなんでもー」
気のせいならいっか。
―続く―
次回から本気出せる!(なんのだよ)
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その12「きのみ屋さんとお客さん」
それにしてもナタネもそうだけど原作キャラクターの口調が合っているのか不安でたまらないです(汗)
今日は営業日。曇り空だからかあまり元気のないナゾノクサ達+αに与える水の量を控えめにし(この辺ワガママで困る)、木の実も控えめに収穫。もうそろそろ新しい畑の木の実が生るかな?
庭の芝生や庭木の手入れをした後、ナタネちゃんとポケモン達で店の準備をする。今日は木の実が少ないこともあり、保存しておいたジャムや飴、乾燥して粉にしたものがメイン。
「そういえばさ、なんで頭にタオルなんか巻いているの?」
今ナタネちゃんを見て気づいたけど、頭に白いタオルをバンタナみたいに巻きつけていた。
確かに今朝みたら寝癖があったけど、洗って直したんじゃなかったっけ?
「ああこれ?食べ物を扱うし、髪の毛が落ちないようにしてんの。ハヤシさんだって緑のバンタナを巻いているでしょ?」
「なるほど」
僕は庭弄りすることもあって汚れやすく、調理もするから常日頃バンタナを頭に巻いている。
そして店内の仕事は木の実やその加工食品を配る仕事があるから、髪が落ちないようにするのは確かに大事。忘れていましたわ。
それに気づくとは……ナタネちゃん、もしや出来る子?今後の働きに期待しちゃう!
(早々バレたらつまらないしね)
「ナタネちゃん何か言った?」
「独り言でーす」
―――
さて、営業時間になってお客さんが来ました。今日はそこそこの賑わいでホっとした。
玄関に置かれた黒板には木の実が少ないと書かれているけど、それでもお客さんは保存食や焼きたての木の実パンを買ってくれる。
趣味で出来た店とはいえ、お客さんが来てくれるのはやっぱり嬉しいもんだ。ありがたや、ありがたや。
そういえばナタネちゃんはどうしているかといえば……立派にお仕事してくれています!
なんていうか、イメージでいえば「出来るOLさん」って感じ。そう思えるぐらいにスムーズな働きぶりを見せてくれる。
接客よし、会計よし、商品の並べ方よし、要領よし、そして笑顔よし!んもうパーフェクツじゃないですか!見習いたいぐらいよ。
「ハヤシさん、確かカゴの実の予備って物置にあったよね?とってきまーす」
「あ、はいはーい」
って、もう行っちゃったし……いやぁ本当に凄い人だ。高い能力からして結構なお偉いさんだったり……ああ、また頭に何かが引っかかる……。
「ハヤシさんちゃーっす」
おっと、この声は確か。
「あ、イサミちゃんか。こんにちは」
「ご無沙汰っすー」
光るおでこに赤毛のポニーテール、そして頬の絆創膏が特徴的な10歳ぐらいの女の子。
シャツに半ズボンのみというボーイッシュな格好をした彼女はイサミちゃんと言って、うちの常連さんであるアサ婆ちゃんのお孫さんだ。
イサミちゃんは女の子だけど、見た目どおり男の子のような口調で話す元気な子だ。アサ婆ちゃんの子供の頃もこんな感じだったとか。
あ、アサ婆ちゃんで思い出した。
「そういえば今日はアサ婆ちゃん来なかったけど、イサミちゃん何か知っている?」
「それがさー、婆ちゃんったら今朝ギックリ腰になっちゃって」
「ギックリ腰?」
あんなに元気なアサ婆ちゃんがギックリ腰なんて珍しい。軽くビックリしたよ。
「そーそー。そんなんだからアタシが婆ちゃんの代わりに買い出しに来たんすよ」
「それはお疲れサンダース」
「つまんねーっすよ」
ズバっというねこの子は。まぁ自分でも10点も行かないようなポケモンダジャレだと思うけどさ。
けどあれだよ、キンセツっ子はダジャレをついつい言っちゃいますから……そうだよね?
それにしても、アサ婆ちゃんがギックリ腰かー……いつも木の実パンを楽しみにして来てくれていたのに。
早く売ってくれと急かすイサミちゃんに木の実パン入りの紙袋を渡す直後、僕は決めた。
「あざーっす。んじゃアタシはこれで」
「ねぇイサミちゃん、今度お見舞いに行っていいかな?」
「婆ちゃんの?……お土産にパン持ってきてくれたら喜ぶんじゃないッスかね?」
「もちろんだよ。ここんとこ畑弄りに夢中でフエン温泉に行っていないし」
「フエン温泉ですか?」
「「どわっふ!?」」
び、びっくりした!居たなら事前に声かけてちょうだいよナタネちゃん!
しかしナタネちゃんの目がキラキラと輝いているような……もしかして温泉目当て?
「友達に、ホウエンに行くなら絶対にフエン温泉に行っておけって言われていたんですよ。行くなら私も連れて行ってよ」
「けど僕は一応お見舞いで行くんだよ?ナタネちゃんはナタネちゃんで温泉入りに行けばいいじゃない」
「こういうのは誰かと一緒に行った方が楽しいじゃない!」
うわぁ、ナタネちゃんから「連れてけ~、連れてけ~」ってオーラが溢れ出ている……ように見え る。気のせいかロズレイドもキラキラとした目でこちらを見ているし。
……む、隣では生暖かい視線で見られているような、ていうかイサミちゃんじゃないか。どしたのそんな目でコッチを見て。
「はっはぁん?ついにハヤシさんも彼女もちですか?」
そういえばイサミちゃんって普段は男の子っぽいけど、色沙汰とか恋人(ユウキ君とハルカちゃんみたいな)を見る目ってこんな感じになるよね。
それで、女の子であるナタネちゃんが傍に居るからそう思ったわけか。
「「そんなことないない」」
おお、ナタネちゃんの台詞と被っちゃったよ。ナイスシンクロ。
「ハヤシさんは恩人で友達みたいなもんだよ。それに草ポケモン好き仲間でもあるし」
「確かにナタネちゃんは可愛いけど、そんな風に捉えたりはしないよ」
可愛いと思っているのは認める。素直な所とか、自然と触れ合う姿とか、草ポケモンを可愛がる所とか。
僕って、僕を知る友人曰く、「自分よりも小さな子なら誰でも可愛いと思える性質」らしいからねぇ。
ホミカさん?彼女は僕の憧れです。
「……相変わらずッスね、ハヤシさんって」
ほっとしたようなそうでないような、と呟くイサミちゃんの顔はどこかつまらなさそう。
そんな期待されても困るなぁ。そういうイサミちゃんこそ彼氏の1人ぐら、いだぁぁぁぁ足踏まれたぁぁぁぁ!!
―――
商品が少ない事もあって11時にはお客さんが居なくなったので、午前中の仕事はここまでにしておこう。調理品増やさないとなぁ。
せっかくなのでお昼の準備。ポケモン達はその辺で遊んでいるのだが……いい光景だ。
まだ慣れていないからかキョロキョロと辺りを見渡すトロピウスをローちゃんとロズレイドが宥め。
はしゃぐドダイトスを遊びで持ち上げるゴーさんを見たポジフォルムのチェリムが拍手を送り。
トロピウスに喧嘩を挑もうと跳ねるキンさんを慌ててガーさんが止める。
……あ、ハーさんとスーちゃんがトロピウスの背中に登ろうとしている。トロピウスは子供ら相手に困っている。可愛い。
ああ、草ポケモンが居る光景っていいなぁ……タネボーとかナゾノクサとかもいるけどさ。
「ああ、草ポケモンが居る光景っていいねぇ……」
「あ、ナタネちゃんもそう思う?」
「当然でしょ、やっぱり草ポケモンは自然の中ではしゃぐ姿が美しいよね」
その通り!やはりナタネちゃんとは感性が合うなぁ。
「……それで、フエン温泉にはいつ行くの?」
お仕事モードが終了したナタネちゃんはテーブルを広げながら僕に聞いてくる……目をキラキラさせながら。
広げたテーブルにテーブルクロスを敷きながら、僕は彼女にピシリと言わせてもらう。
「言っとくけどお見舞いが主体だからね?温泉にも入るけど」
「解っているって」
解っているならいいけど……まぁ、友達と一緒に温泉に行くのは久々だし、楽しみには違いないけどさ。
「明日の午前中から行くよ。お見舞いついでにフエンタウンで一泊するつもり」
「おっけー!なら今日中にお目当ての草ポケモン捕まえてくるね!」
「頑張るぞー!」と自分の手持ちポケモンに伝えるようにして叫ぶナタネちゃん。
早く行く理由だけど、アサ婆ちゃんに早く木の実パンを届けてあげたいからね。明後日はお休みだし。
―さてさて、久々のフエンタウンだ。アスナさん元気にしているかな?
――
その日の夜。
「ただいまー!」
「遅かったねー……って、うわナタネちゃん砂だらけじゃないのさ!?」
「いやー、あの砂漠って凄いわねー。侮ってたわ」
どうやらサボネア目当てで111番道路の砂漠へ行ったみたいだけど……ナタネちゃんって強い子だなぁ。
―続く―
ボーイッシュ少女イサミちゃん。名前の由来は「アサ」婆→「イサ」ミとシンプル。彼女もトレーナーです。
ちなみにナタネちゃんの言う友達とはスモモとスズナの事。
―オマケ・お客さんの反応―
(なぁ、あのアルバイトの子ってナタネちゃんじゃね?)
(あ、本当だ。ヘアバンドしていないから解んなかった)
(あの噂は本当だったんだなぁ)
(トロピウスを追っかけてたナタネ似の女の子って、本物のナタネさんだったんだな)
(どうする?サインでも貰う?俺、実はジムリーダーのサイン色紙を集めているんだよね)
(うーん、わざわざトレードマークを隠すってことはお忍び旅行じゃね?黙っておいてあげようよ)
(だなぁ。周りの人もそっとしてあげているみたいだし……)
(おい、なにロズレイドに近づいているの?)
(せっかくだし、こっそりロズレイドにサインでも貰おうかなって)
(ポケモンにサインねだるなって)
(あ、サインあざーっす)
(本気でサインしてくれたんか!?)
―続かない―
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その13「きのみ屋さんとフエンタウン」
秘密基地仲間だとぉぉぉぉぉ!!?
秘密基地ジムだとぉぉぉぉぉ!!?
(ポケモン公式サイトのPVを見て思ったこと)
「オメガルビサファ絶対買う」と決める後押しになりました(ほっこり)
7/23:一部追加
今朝は清清しい青空を拝めることができた。昨日の曇り空が嘘みたいだ。
早起きしてパンを焼き、ナタネちゃんとポケモン達と一緒に朝御飯を食べ終えた後、僕の手持ちポケモン達を一列に並ばせる。
「はい注目ー。今日と明日はお見舞いついでにフエンタウンにお出かけしまーす」
「はーい」と言っているかのように各々が声を上げる。ヤーやんだけは声を出さないけど。
「アーさんとローちゃんは僕と一緒に来てもらうとして、残りの皆にはお留守番をお願いするね」
エアームドことアーさんは移動手段として、ロゼリアことローちゃんは長年の付き合い故に護衛としても信頼できるからね。
水が苦手なサンちゃんと仕事か食事以外に関心を持とうとしないヤーやんは快く返事をしたが、ゴーさんとガーさんは不満げだ。
ゴーさんは遊び盛り、ガーさんは喧嘩好きだから積極的にお出かけしたい性質なので当然といえば当然だろう。しかしココは心を鬼にして……。
「留守番中、戸棚の特注ポケモンフーズを取ってよし」
「「Σく(`◇´)(合点承知!)」」
―それは後世に語り継がれるような、あまりにも立派な敬礼であったとかなんとか。
「心を鬼にできていないね」
そんな僕らを見てナタネちゃんがケラケラ笑った……口元にジャムをつけながら。
そういう君こそ、ハスボーを膝に置いて猫可愛がりすぎだと思うけど……ツッコミを『こらえる』ことにした。だって可愛いじゃん。
「だって留守番してくれないと畑の番ポケが居なくなるじゃない」
「あのザングースじゃダメなの?」
……あの高木で寝ているザンさん?
確かに、ナタネちゃんとその手持ちポケモンが苦戦するほどに強いザンさんなら番ポケとして相応しいだろうが……。
「ザンさんって怖いんだもん」
「確かに怖いよね……」
ナタネちゃんもあのザンさんの怖さは色々と思い知ったからなぁ。強さとか殺気とか……悪タイプじゃないかってぐらい怖いよ。
人の言うことを理解しているほどに人慣れしているとはいえ、寝ているところへ近づくとすぐに威嚇するからなぁ……。
「けど何事も試しだよ。頼んでみるだけ頼んでみれば?」
他人事だと思って暢気な……けどゴーさんもガーさんも「そーだそーだ」とナタネちゃんに同意している。
よほどお出かけしたいんだろうが……仕方ない、ちょっと交渉してみよっかな。意地っ張りなザンさんを木の実、いやお菓子で懐柔できないかなぁ……。
「ねぇねぇ、お菓子と畑の木の実をある程度なら食べていいから、二日ほど畑を守ってくれない?」
(コクン)
おいおい、あっさりOKもらちゃったよ。そこまで気に入ったのかうちのモモンの実。
―――
ザンさんという心強い護衛が畑に居ることで安心した僕は、ガーさんとゴーさんを連れて行くことにした。2匹のハイタッチが印象的だった……。
そんな訳でお留守番組にお願いし、ドクケイルがまだ居ないもあってさっさと店を出てフエンタウンに出発することに。休業の案内を黒板に書いておいたから大丈夫。
僕はアーさん、ナタネちゃんはトロピウスに乗って空を飛び、
―ぽっぺんぺっぽん
「……あのさぁハヤシさん」
―ぺっぽぺっぽぽっぺん
「もしかして飛んでいる間ずーっと
―ぽっぺん
今のは「もちろん」の意味。ナタネちゃんは「あっそう」といって諦めてくれた。ほっ。
僕が吹いているのはハジツゲタウン付近のガラス職人に作ってくれた「青いビードロ」。と呼ばれるガラス製の楽器みたいなもの。
これを吹くとポケモンの眠気が覚めるので、居眠りが多いアーさんに長距離飛行をしてもらう間はずーっと吹かないといけない。
でないとアーさん眠気に負けてフラフラになる(落ちるとは言っていない)から……キンセツシティまでは大丈夫なんだけどな~。
そんなわけで、フエンタウンに着くまではビードロを鳴らすのだ。ぺっぽぺっぽ。
「楽しんでいるでしょ」
―ぺっぽん
今のも「もちろん」の意味。楽しくなかったら事前にカゴの実ジュースを飲ましているからね。
―――
やってきましたフエンタウン!地図で見るとシダケタウンの真上にあるから、飛べば楽に着くんだよね。
そのままアサ婆ちゃんの家に行こうとしたら、度々フエンタウンのお年寄りに声を掛けられた。久々なのに覚えていてくれたんだ。
せっかくなので手持ちポケモンを出してみたら、彼らを覚えているお年寄りが可愛がってくれる。特にローちゃんはお年寄りに大人気。可愛いから仕方ないね。
「ハヤシさんってフエンでの知り合いって多いんだね」
「強面になったねぇ~」と言われてショックを受けたゴーさんを宥めている中、ナタネちゃんがヒョイと割り込んでくる。彼女さんかえ、と言われたけど2人してやんわりと否定。
「これでも元は木の実を求めホウエン中を駆け巡ったトレーナーですから」
「……このへんって火山活動が活発だから木の実って少ないんじゃない?」
「店をやる前は温泉目当てでよく通っていました」
『そらをとぶ』って本当に便利だよね。距離にもよるけど大抵はひとっ飛びで町に着けるもん。
それに木の実とか畑弄りとか旅とかしていると汚れが溜まるものなんで、清潔を保つ為にも必要だったんだよ。本当だよ?
だからそんな「素直じゃないんだから~」って目で見ないでくださいお願いします。
「そういえばハヤシちゃん、ここまでは空を飛んできたのよね?大丈夫だった?」
「大丈夫だった、ていうと?」
「実はねぇ……」
(そういやあの子、ナタネちゃんじゃないかぇ?ほれ、シンオウ地方の)
(ああー、そういや見たことあるのぉ)
(お忍び旅行かねぇ?)
(青春じゃのぉ)
なんか外野がコソコソ何か話しているような……まぁいっか。
―――
お年寄りの皆さんからの話を聞いた後、僕達はアサ婆の家にやってきた。
息子夫婦は仕事で居ないとの事なのでイサミちゃんが出てくれて、今はアサ婆ちゃんの部屋に向かっている。
「婆ちゃーん、ハヤシさんとお友達が来てくれたよー」
「おじゃましま~す」
「お、お邪魔します」
「あらいらっしゃい。来てくれてありがとうねぇ。」
イサミちゃんの案内で部屋に入り、布団で寝転んでいるアサ婆ちゃんに挨拶。開いた襖の先には庭があり、そこではアサ婆ちゃんのバクーダが寛いでいる。
僕は何度か来た事があるので平常運転だけど、ナタネちゃんは恐縮のあまりパートナーのロズレイドを脇に控えさせている……が、ロズレイドも緊張してた。ダメじゃん。
けど仕方ないかな。アサ婆ちゃんの家ってフエンでも1、2を争うほど大きい家な上、内装がジョウト風の格式あるものだからねぇ。最初は僕も相当ビビっていたし。
今朝焼いた木の実パンを受け取って嬉しそうに綻ばせるアサ婆ちゃんだが、聞いておくことがある。胡坐をかいて視線を合わせ、問う。
「ご近所さんから聞いたよ。アサ婆ちゃん、マグマ団の残党にやられたんだって?」
「そうなのよぉ。残党を気取った下っ端どもなんだけど」
アサ婆ちゃんは眉を歪ませて答えてくれた。隣ではイサミちゃんが悔しそうな顔をし、バクーダも苛立ちからか地団駄を踏んでいる。
マグマ団。かつてホウエン地方を騒がせた、アクア団と対を成す悪の組織。
チャンピオンやジムリーダーにケチョンケチョンにされた今では各地で小さな悪さをしているらしく、もはやゴロツキ集団に成り下がっている。
ニュースではドロボウやら強盗やら起こしてもすぐに取り押さえられたり追い出されたりする小さな悪さしかしていないが……まさかアサ婆ちゃんに襲い掛かるとはなぁ。
「いやビックリしたわよ。煙突山を飛んでいたらいきなり打ち落とされてねぇ……チッチの羽毛のおかげで大丈夫だったんだけどギックリ腰になっちゃって、仕方なくバックンに乗って逃げたのよぉ」
バックンことバクーダが「俺はやったぜ!」とばかりに鼻息を鳴らす。このバクーダって足速いんだよね、いやマジで。
それにしても飛んでいる所を打ち落とされるとか……確かにそれならバトルに強いアサ婆ちゃんも不意討ちでビックリするわな。
「酷いことするねマグマ団も。こんなお年寄りを打ち落とすだなんて」
「んー、そうかしらぁ?『お年寄りを打ち落とすんじゃねぇ!』って下っ端に叱っている人が居たのよ」
お婆ちゃんを空から落とした事で怒るナタネちゃんだが、アサ婆ちゃんはそうでないと否定した。
下っ端を叱るってことはそいつがリーダー格なんだろうか?煙突山で残党を名乗るぐらいだ。よほど腕が立つ奴なんだろうか。
「それよりハヤシくん、あなたとうとう彼女を持ったのかしら?」
「あんたもかい」
ニヨニヨしているアサ婆ちゃんは正直言って気持ち悪い。というかイサミちゃんに聞かなかったの?
そういう辺りを見ると、イサミちゃんとアサ婆ちゃんって血の繋がった家族なんだよなぁ。確かアサ婆ちゃんも婚期が遅かったってアツタさん(アサ婆の息子)が
「いっだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「ロ、ロズレイド、今の『つぼをつく』攻撃を見切れた!?」
「(@皿@;)(いや全然)」
―続く―
つぼをつく(対人用):親指で足裏の悪いツボを突く。必ず急所に当る。
アサ婆ちゃんはトレーナーとしても強く、御家も凄い。そんなお婆ちゃんです。
フエンタウンってどんな手持ちポケモンが似合うと思いますか?(カントー~イッシュまで)
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その14「きのみ屋さんとフエン温泉」
7/28:後書きにて解答追加。記入忘れていました(汗
突然だけど、フエンタウンのトレーナーの殆どは炎タイプのポケモンを所持している。
フエンジムリーダーのアスナさんが炎タイプの使い手だというのもあるが、煙突山に近いこの辺りは昔から炎タイプのポケモンが多く生息しているってのも理由の1つ。
そんなわけで炎タイプのポケモンに詳しい老人が多く、炎タイプを極めんとするトレーナーにとってのメッカでもあったりする。
何が言いたいかというと……フエンタウンは草ポケモン使いにはひっじょ――――に辛い場所なのである!
「コータス、戦闘不能!ロズレイドの勝ちじゃ!」
「やった5連勝ー!」
僕の目の前では5人目の挑戦者に勝利したことを喜ぶナタネちゃんとロズレイドの姿が。
ちなみに悔しそうに足をバタつかせるコータスはイサミちゃんのポケモンで、そんなに弱い方ではない。
ちなみに挑戦者の中で一番強いのは3人目のお爺さんとゴウカザル。大技の『フレアドライブ』を覚えている強敵だった。
敢えてもう一度言おう。フエンタウンは草ポケモン使いにはひっじょ――――に辛い場所なのである……はずなんだけどなぁ。
やっぱりナタネちゃんとそのポケモン達は強い。実力もさながら頭脳戦も中々のものだ。
草タイプならではの絡め技やドレイン技、何よりも「くさむすび」による相手への行動制限は中々のもの。この設置技は参考にさせてもらおっと。
こっちなんかお婆さんのマグカルゴを2匹で相手しても勝てないぐらいからなぁ……草タイプのロゼリアと鋼タイプのエアームドだから仕方ないんだろうけどね。
「よっしどんどんこーい!」
「次はワシが相手じゃ!ワシのポチは強いぞぉ!」
調子に乗って張り切るナタネちゃんとロズレイドがそう宣言すると、やる気満々のポチ(ウィンディ♂)を連れたお爺さんが挑んできた。
それにしても、本当に強くて元気な子だなぁナタネちゃんって。調子に乗りすぎて熱い目みないようにね。
(誰も私の事をシンオウ地方のジムリーダーだって気づいてくれない……それはそれで寂しいかな……)
どうしたんだろ。ナタネちゃんの目元にうっすらと涙が。
―――
結局ナタネちゃんとロズレイドはウィンディに敗退。「でんせつポケモン」に見合う激しい戦いぶりを見せてもらいました。
バトルの後で汗を掻いたこともあり、2人でポケモンセンター付属の温泉に入ることに。ちなみに混浴なので水着着用。
「タッダけ~ん、タッダけ~ん♪温泉に~飲み物に~マッサ~ジ~♪」
ナタネちゃんは5連勝したことで色んなタダ券を貰ったので上機嫌。ポケセンの温泉は元々からタダなんだけどね。
ちなみに彼女のポケモンは着衣室に置かれているモンスターボールの中。草ポケモンに温泉は遠慮した方が良いから。
「いいなぁナタネちゃん。後で何か奢ってよ」
「コーヒー牛乳のタダ券なら1枚あげよう」
「フルーツ牛乳のタダ券もあるんでしょ?」
「そっちはダメ」
「そっかー」
まぁコーヒー牛乳も好きだから遠慮なく貰おう。ラッキー。
それにしても良い湯だなー……あ、ゴウカザルとヒコザルが温泉に浸かってる。炎ポケモンなのになんかしっくりくるなぁ……。
そんな風にボーッと温泉の様子を眺めていたらナタネちゃんが聞いてきた。
「ねぇ、この後なんだけどさ、煙突山に行っていいかな?」
「煙突山に?なんで突然」
まぁ理由はなんとなく解るけど。
「アサ婆ちゃんの話を聞いた時から気になるんだよね、マグマ団の残党」
ナタネちゃんは顎に手を添え、真剣な表情で言う。
ナタネちゃんとアサ婆ちゃんは今日のお見舞いで初めて出会ったんだけど、ナタネちゃんにとって「お年寄りに危害を加える輩」が気に入らないのかな?
聞いた話だけどシンオウ地方でも悪の組織が悪さをしていたそうだし、ナタネちゃんもそいつらに迷惑を掛けられたのも理由の1つかもしれない。
とにかくやる気満々そうで悪いけど、一応年上(のはず)として忠告はしておこう。
「敵討ちのつもりなら止めようよ。残党とはいえ群れている相手をするのは厳しいし、そもそもフエンジムの人達が退治しに向かっているでしょ?」
お年寄りの皆さんから聞いたが、煙突山で飛行ポケモン使いを狙うマグマ団を止めんと、ジムリーダー・アスナさんが動き出したとのこと。
とはいえ1人で挑むには無謀と感じたのか、或いはフエンタウンの人々を安心させる為かは解らないが、ジムトレーナーを何名か連れて行くそうだ。それなら安心だね。
若いとはいえジムリーダーでも1人では難しいと判断するほど、集団ってのは面倒なものなんだ。だから僕らが混ざっても……そう思った所でナタネちゃんの人差し指が向けられた。
「それでもさ、やっぱり許せないよ!ハヤシさんは何も思わないの?」
「そりゃあ僕だって許せないよ?けど」
「じゃあ私だけでも行くね」
意気込みを見せ付けるかのように、ザバ、と立ち上がるナタネちゃん。
……はぁ。言うと思ったよ。
「そうなっちゃうと放って置けないから僕もついていく破目になるんだよね」
幼少の頃から勢いばかりの友人を支えてきたから、こういうことは慣れっこなんだけどね。女を放っておくのは男の恥、とユウキ君から学んだし。
ナタネちゃんは追うようにして立ち上がった僕を嬉しそうな顔で見ていた。当てにしてくれるのは嬉しいけど、強くない方だから期待しないでね?
さてさて、きのみ屋さんと(自称)只の草ポケモン好きなトレーナーが残党VSジムリーダーの戦いにドコまでついてこれるのやら……。
「せっかくだからフルーツ牛乳のタダ券ちょーだい」
「こんな時にそれ言う?」
いやぁ、場の空気を和ませようと思いまして(`・ω・´)キリッ
ポケモン達にこれからの活動を報告した時のみんなの反応。
「Σd(・ω<)」
「(―ω―)。○」
「ε‐○(`▲´)○」
「Σ(@■@;)」
さて、僕の手持ちの誰がどの表情をしていたでしょーか?
―続く―
ちなみにナタネちゃんがジムリーダーと気づいている人は多いです。ただ優しさで黙ってあげているだけで(笑)
本来なら趣味で店を開いてガーデニングをしているだけのお兄さんがしゃしゃり出る問題じゃないですよねぇ。
まぁマグマ団とはいえ残党だからおあいこってことで一つ(苦笑)
遅れましたが顔文字問題の答えは上からロゼリア、エアームド、シザリガー、バクオングでした。
次回、VSマグマ団(残党)!
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その15「VSマグマ団残党・前編」
ユニークアクセス数1万、お気に入り件数150突破!ありがとうございます!
―ぺっぽぺっぽぺっぽんぽっぺん
「ハヤシさん、これからマグマ団に突っ込むってのにそれは無いよ」
「だってこうでもしないとアーさんの眠気がだね」
けどナタネちゃんの言うのも御尤も。念の為にと思って吹いているけど、この音を聞くとモチベーションが下がるでしょうなぁ。
ナタネちゃんの提案でアサ婆ちゃんの仇を取ろうとマグマ団にぶっこむ事にした僕らは、残党が居るという煙突山に向かって飛んでいた。
ポケモン達には一応了承を得ており(大抵は賛成してくれたがゴーさんだけ嫌がった。男の子がビビらないの)、戦闘準備と覚悟は完了済み。
一番やる気があったナタネちゃんはトロピウスの背で真剣な表情を浮かべていたが、ビードロの音を聞くに連れて微妙な顔をしていくのだ。ゴメンよ。
しかしそれも終わり。空から降って来る火山灰の量が増えたので視界が悪いが、とうとう煙突山が見えてきた。目を凝らしてよく見れば、煙突山の中腹で大規模なバトルが始まっている様子。
ナタネちゃんもそれが見えたようで、トロピウスに囁いた後、グンと加速させる。アーさんはそれを見て続いて加速するが……。
「ちょっと待ちなさい!」
そう言って僕らを止める者が下から現れ、アーさんとトロピウスは速度を緩め滞空する。
何が飛んでやって来たかと思えばリザードンだった。その背にはフエンジム所属の証であるバッジを(平らな)胸に掲げた女性が乗っている。
「私はフエンジムの者よ。この先でマグマ団の残党とジムの人が争っているから、通すわけには行かないの」
彼女に同感しているのかリザードンも「さっさと帰れ」と言っているかのように口から威嚇の炎を吹き出す。
まぁ予想はしていた。何も知らない通りすがりが現れて巻き添えになる可能性だってあるのだから、ジムトレーナーの何人かを見張りに割り当てる必要性も出てくる。アスナさんも考えるようになったなぁ。
ジムトレーナーの人の目つきは真剣そのもので、どんな理由でも通さないっていう意志が現れていた。かっこいい。
「アスナさんの助けになるかもしれないから、私達が来たの」
そんな彼女に対し、ナタネちゃんが凛とした表情で言い放つ。ていうかナタネちゃん、私
僕そんなに強くは……ていうか、あれ?ナタネちゃんってアスナさんと会った事あったっけ?何か知っている風に聞こえるんだけど。
「……あなた、何者?」
ナタネちゃんから放つ何かをジムトレーナーも察知したのか、ナタネちゃんに何者かを問いかける。
彼女の問いかけにナタネちゃんは「ふっふっふ」と笑いを零しながら、懐に手を伸ばし何かを手探る。
「ついに正体を明かす時が来たようね……何を隠そう私こそ」
―チュドォーーン!!
ナタネちゃんが何かを言っているようだけど、向こうで起こった爆発音で聞こえないや。
「今のは……アスナさんっ!!」
ジムトレーナーは慌ててリザードンに指示を送り、爆発が起こった煙突山の中腹へ向けて飛び去っていく。良く見たら砂嵐まで起こっているじゃないの。
えっと、とりあえずどうしようかナタネちゃんに……ちょっとナタネちゃん、なんで懐に手を忍ばせたまま固まっているの?
「……わ、私達も急いで追おう!」
誤魔化すような言い方が怪しいけど、飛んでいくトロピウスを追いかけるようにしてアーさんが加速。さっきの爆発音で目が冴えたのかな?アーさんが凛々しく見えるよ。
そういえばすれ違い様に見えたけど、ナタネちゃん悔しそうな顔をしていたような……何を隠しているつもりなんだろうか?
―――
誰かやったか知らないけど、火山灰が降るこの煙突山で『すなあらし』を起こすなんてとんでもない事してくれたね!
火山灰と砂が嵐となって吹き荒れ、視界が悪いのなんの……!事前に土産屋で買ったゴーグルが無かったら、目に灰と砂が入ってムスカっちゃう所だったよ!
けどゴーグルは目を守る為にあるものであって、こんな視界の悪い景色を空から見るのは一苦労……あ、何か見えた。
「ナタネちゃん、アレ見えるー!?」
「見えてるー!かなりピンチだねー!」
え?ピンチってことは戦闘が見えているの?ナタネちゃんって目ぇいいんだね!
意識してよーっく見てみると、炎と岩が飛び交っているのがわかった。あそこで戦闘が起こっているのかな?
「先に行くね!
「ちょ、ナタネちゃん!?」
まだバトルをしていないはずのトロピウスを戦地に向けて飛ばすナタネちゃん。あ、見えなくなっちゃった……。
ど、どうしよ、適当に援護をって何をすれば……んー、『あのやり方』でいいかなぁ……一応店で軽くバトルして見せたことあるし、大丈夫だよね?
その為にも、敵に見つからないよう飛ばないと。
―――
●アスナ視点
いくら連中の方が多人数だからといって、ドガースを『じばく』させるなんてね……。
けど下っ端のドガースを相手していたのがコータスでよかった。咄嗟に『てっぺき』でガードしたおかげで無事みたいね。
けど不利には違い無いわね……悔しいけど!
「押せ、押せ!砂嵐がある内は俺達が有利だ!」
ゴウゴウと吹き荒れる砂嵐の中、親玉の片割れが叫ぶ。奴のカバルドンを倒せば少しは砂嵐が収まるのに、今はそれが難しい。
私達フエンジムのトレーナーが今日になってマグマ団残党を叩くことにしたのは、ここ最近の活動が色濃くなったからだが……今日は空から降る火山灰の量が多く、視界が悪くなった程。
連中はこの日を狙っていたのか、万全の態勢で迎え撃ってきた。それが2人いる親玉の片方が使っているカバルドン。特性『すなおこし』で砂嵐状態にしてきたのだ。
この砂嵐と火山灰が混ざることで視界が悪くなる他、連中はサボネアやサンドパンといった『すながくれ』の特性を持つポケモンで固め、『ミサイルばり』でチマチマ攻撃してくる。
幸いなのはゴロツキみたいな下っ端のポケモンはバラバラなことか……いや、それでも数は圧倒的に相手が上だし、大抵のポケモンが『ぼうじんゴーグル』を身につけていているし……どこであんな道具を大量に用意したんだろうか?
それに今は見えないけど、固まっている私達を囲んでいるかもしれない。なにせマグマ団残党の人数は15人に対し、
巻き添えが無いようにと見張りに割り当てたのが裏目に出ちゃった……けど負けられない!煙突山の平和の為にも!
「『じしん』が来るぞー気をつけなさいよぉー!」
―また来るか!
「『まもる』!」
マグカルゴとコータスに指示を送った後、大きな揺れが地面越しに身体を揺らしてくる。
バランスを崩しそうになるが懸命に堪え、辺りを見渡す……他の皆やポケモンも対処できているみたいね。よかった。
「いまだ!『ミサイルばり』『ヘドロこうげき』、とにかく遠距離から撃てる技で一斉に攻撃しろ!」
「しま……っ!」
既に囲まれていた!?まずい、一斉に攻撃されたら……!
「『リーフストーム』!!」
―ビュゴワッ!
え!?何、なんなの!?
一点に集中したかのような竜巻が私達の横を通り過ぎ、広範囲に渦巻いていた砂嵐がそこだけ晴れ、代わりに大量の葉が舞う。
そのまま竜巻は葉が舞うトンネルを作り、その範囲内に居た敵ポケモンが軽い物から順に吹き飛ばされていき……カバルドンが見えた!
「そこね!『マジカルリーフ』よ!」
砂が混ざり消えつつある葉っぱのトンネルを、今度は鋭い葉が高速で飛んでいく。
捉えられたカバルドンに鋭い葉が数枚刺さり、弱点どころか急所を突かれたカバルドンは戦闘不能に陥る。
「『にほんばれ』!」
カバルドンが倒れた直後、砂嵐が急激に衰えるどころか、暗雲のように覆っていたはずの火山灰が晴れて青空が見え、マグマ団残党の連中とその位置が明らかになる。
晴れて取り乱したゴロツキみたいなのが私達を取り囲んでいて、その奥に正統派のマグマ団数名と親玉らしき2人組。全員マグマ団の戦闘服を着ているから詳細は解らないけど……。
「チクショウ、まさか草タイプの技を使ってきやがるとは……!」
カバルドンをボールに戻す、頬に傷跡を宿したグラサンの男。
「フエンジムの連中だけじゃなかったなんてねぇ!」
レンズのようなものを片目に突けているサイドンを静める、明らかに小さい身体なのに声と目が鋭い幼女。
この2人が、マグマ団残党の親玉コンビだ。彼らから感じる気配が、ジムリーダーとしての経験がそう語らせ……いけない、ジムリーダーとして強気にでないと!
「ようやく見えたわね!あなた達が親玉?」
「そんなこたぁどうでもいいのよ……そんなことより」
そんなこととはなんだそんなこととは!せっかく強気になって質問したのに……サイドンが岩を手に持った?
「そこのあんたは何者だい!?」
幼女が空に向けて手を払い、それを合図にサイドンが手に持っていた岩を投げる。『うちおとす』か!
思わず目で追ったら、私達の後方にはトロピウスが。飛んできた岩をすり抜け、そのまま私の止まりに着地する。
トロピウスが着地点の傍らには息切れしたドダイトス、その背には2匹の草ポケモン……ロズレイドとチェリムだ。
「何者だ、と言われたら答えるのが基本よね」
そういってトロピウスから飛び降りる女の人……あの人、まさか!?
「私の名はナタネ!ハク「シンオウのジムリーダー・ナタネじゃねぇか!」タイジ……」
そう、この人はハクタイジムのナタネさ……なんでサングラスの男が知っているの?
すると周りが、ドヨヨ、と騒ぎ出した。騒ぎ出したが……ゴロツキ達は逃げ腰になっているのに対し、親玉2人の周りにいる連中は大きく騒いではいない。この格差って何?
「本当かいカトリ?それがならこれって」
「ああ、ヤバい状況ってやつだぜ、ヒバナ。俺達の手持ちじゃ不利だ」
会話を聞く限り、幼女がヒバナでサングラスの男がカトリという名前で、連中の手持ちは草ポケモンと相性が悪いんだろう。
フエンジムは炎タイプが主流だから、そこを突く為に岩・地面タイプで固めていたわけか。もしかしたら水タイプも居るかもしれない。
「……アスナちゃん、あいつらブッ倒すの手伝ってもいいわよね?」
「え?あ、はい、久々に会ってなんですけどお願いしま……す……」
ちょっと、なんでそんなに怒っているんですか?しばらく見ない内に何かあったんですか?穏やかで優しいこの人が怒るなんて、一体何が?
なんか怖いけど、この人の強さはジムリーダーとしての先輩らしく私よりも上だ。相性補完もあって頼もしいことこの上ないし。
そんなナタネさんの気迫もあってか、ゴロツキ集団はタジタジだ。
「お、おい
「怯むんじゃねぇ、てめぇらぁーーー!」
カトリのドスが利いた渇によりゴロツキ集団が恐怖で止まる。私達も一瞬だが竦み、ジムトレーナーもビクリと震えた程だ。
「今だよ、『ストーンエッジ』!」
そんな僅かな硬直を狙ってか、ヒバナのサイドンが尖った岩を勢いよく投げた。
一瞬の出来事に目を開いたが、尖った岩はどこへ……。
「チェ、チェリム!?」
ナタネさんが悲鳴を上げる。そこには尖った岩が食い込んだチェリムが……急所に入ったわね。
ナタネさんは倒れ込んだチェリムをボールに戻す。あのサイドン、かなりの射撃名人みたいね……!
ジムリーダーのポケモンが1体倒れたのを見たからかゴロツキ達は戦闘意欲を取り戻し、親玉2人は懐から新たなモンスターボールを取り出した。
「てめぇら、あの若造ジムリーダーに一泡吹かせてやりてぇんだろ!男なら決めたことは最後までやり遂げやがれ!」
「それに『すなおこし』持ちのポケモンはまだ居るんだよ!気ぃ引き締めな!」
カトリが渇を、ヒバナが打開案を入れることでゴロツキ達はたちまちやる気を取り戻していく。
いくら調子の良い連中が大半とはいえ、数の劣勢には違い無い……私もナタネさんも、気を引き締めて……。
―コツン
「あだ!」
あ、ヒバナの上から何かが落ちてきた。痛そうに頭を抱える姿は幼子にしか見えないのになぁ……。
「……『まきびし』が空から降ってきた、だぁ?」
落ちてきた物を拾い上げたカトリがそう言った。けどそれが本当なら、なんで空から『まきびし』が……って。
「はいはーい、どんどん撒いてねー」
そ、空からエアームドとロゼリアが『まきびし』と『どくびし』をバラ撒いてるー!?
「……ねぇリザードン、アスナさんの援護に行こうとしたはずなのに、なんでデコボコ山道に居るんでしたっけ?」
「(―_―;)(なんでですかねぇ)」
―続く―
―どうでもいいキャラ設定―
マグマ団残党・カトリとヒバナ。カトリがヤ○ザな組長、ヒバナが合法ロリ姐御です。
名前の由来は「線香」とついたものです。ホムラ・カガリに対ししょぼそうな火力ですね、可哀想に(ぉぃ)
エリートトレーナーのカレン(オリ):手持ちポケモンはリザードン。
新人ジムトレーナー。実力もあり礼儀正しいが、ポケモン共々、残念なまでの方向音痴。
アスナはナタネちゃんと同い年だけどジムリーダー暦はナタネちゃんの方が上、という設定。
後編へ続く!
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その16「VSマグマ団残党・後編」
どうも。アーさんに乗って空を飛んでいるハヤシです。僕の肩にはローちゃんが乗っています。
いやー、下は凄惨な光景が広がっておりますなー。
「あだだだだ!」
「こ、こら、こんなことしてただでアダダダダ!」
「サンドパンを持っている奴は『こうそくスピン』で弾き飛ばし、イダダ、こっち飛ばすな阿呆!」
「『どくびし』だけには特に気をつけるんだよ!」
アーさんの鋼の翼から薄い金属を星型に切り取ったような物が零れ落ち、それを避けようと慌てているマグマ団の皆さん。
エアームドの翼にある数枚の羽がボロボロと剥がれていくことで金属製の『まきびし』になっているんだよね。ちなみに羽根はすぐに生えます。
ローちゃんの『どくびし』はそんなマグマ団の皆を取り囲むようにして撒いている。
普段はこんなことしないけど、悪党相手なら容赦は無用なのです、フッフッフ。
ついでに向こう側を見ていると……お、アスナさんとナタネちゃん側が押しているみたいだ。
フエンジムを相手にしている方のマグマ団は既に瓦解状態に陥っている。一応まきびしのあられ攻撃の範囲外なんだけどなぁ。
僕みたいな素人が参戦できるのも、ナタネちゃんが砂嵐を晴らしてくれたおかげだ。やっぱナタネちゃんも強いね。
「調子に乗るんじゃないよ!『うちおとす』!」
―ガインッ!
「グケッ!?」
ア、アーさん!?あわわ、落ちる落ちる~!
―ガッシ!
……あ、あれ?地面に激突していない?思わず閉じた目を開けてみると……。
そこにはアーさんを両手で受け止めている、片目にレンズを付けたサイドンが。力持ちなんだねぇ君って。
「あ、これはご丁寧にどうも~」
このサイドンのトレーナーであろう、怖い顔をした女の子にお礼を言う……怒っているから言っても無駄だろうけど。
「そのまま叩きつけな!」
女の子の命令を受けてサイドンが片手でアーさんを……り、離脱っ!
―ズドンッ!
「あだだだだ!」
アーさんが地面に突き刺さって、ていうか足の裏が痛い痛い!刺さってないけど靴裏に食い込んで超痛い!
降りなかったら巻き添えでもっと痛い目にあっただろうけど、これもまた痛い!裏に刺さっていないかなー……って。
―落ち着いた途端、僕が敵中のど真ん中にいることに気づきました。怒りの視線が360度向けられて怖いです。
「よう……ロゼリア1匹でどうにかなると思っていないだろうな?あぁ?」
と、特にこのサングラスの人が凄く怖い……いやマグマ団とそのポケモン全員の殺気が溢れている時点で怖いんだけどさ!
後ろにはマグマ団のサイドンが指の骨を鳴らしているし、これって絶体絶命のピンチ―――――になるかは!
―ボン!
降りる寸前にこっそり投げておいたボールから出た、ゴーさんに掛かっている!
「『ほえる』!」
ローちゃんと一緒に耳を塞ぎ、隣に出てきたゴーさんに指示を送る!
「バックオオォォーーーーン!!!」
うおおおお耳を塞いでも体中に響き渡るこの轟音んーー!流石は騒音ポケモン!思わずコケちゃった。
この叫び声を聞いた、いや感じてしまった時点でポケモンも人も大騒動を巻き起こす。
たちどころにパニックになって逃げ出そうとする者が現れ、どくびしを避けようとしてまきびしを踏んでさらにパニック。阿鼻叫喚の地獄絵みたいだ。
そんな光景を目の当たりにした幼女と黒メガネは耳を塞ぎながら団員達に何かを言っているようだけど、彼らは全く聞く耳を持たない。鼓膜は破れていないけど一時的に聞こえなくなったのかな?
さて、今のうちにこっそりと逃げて……さっきのサイドンがまだ居た!
「ゴガァッ!」
「グオーっ!」
サイドンが僕に向けて尾を振り回そうと身を捻るが、それよりも先にゴーさんがサイドンを抑えてくれた。
そしたら先にゴーさんを倒そうと考えたのか、ゴーさんにガッチリと掴んで力勝負を挑む。力自慢のゴーさんなら勝てそうだけど……だめだ、押されている!
「ローちゃん、『はっぱカッター』で……っ」
しばらく旅をしていないけど、旅をしていて身についた直感が告げている……動いたりしたら刺されると!
ちらりと視線を下に向けたら、そこには地中から半身を出したサンドパンの爪が僕の顎に向けていた。いつのまに。
「おう兄ちゃん、そろそろ観念しろや」
どうやらこのサンドパンは黒メガネの親玉のものらしい……プ、プレッシャーが……!
ローちゃんは僕が人質にされて動けないし、ゴーさんはサイドンに押されているし、慌てていた団員達は落ち着いてきたし……本気でヤバい、かも。
「ヤバいよカトリ、ジムリーダーどもがこっちにきている!」
しかしこっちに向かってくるフエンジムの皆とナタネちゃんの姿が見えてきたことで、僕の周囲にいるマグマ団はざわめきだした。
さっきの距離を考えると走っていることもあってすぐに駆けつけてくれるだろう。相手側もそう思ったのか黒メガネの親玉が舌うちする。
「悪ガキ程度でココまでなら上出来、てか?……命拾いしたな兄ちゃん。引き上げるぞ!」
もはや一撃当てるですら惜しいと思ったのかサンドパンを引かせ、黒メガネの親玉は懐からボールみたいなものを手に持ち、それを投げる。
―ボフンッ
け、煙玉、ゲホゲホッ!至近距離で煙玉なんて使われたら思いっきり煙たくなるんですけどぉ!
だ、ダメだ目が痛いし喉も痛い、ゲホゲホ、ロ、ローちゃんにゴーさん、あと地面に刺さったアーさんも大丈夫、ゴホッ!
「くそう、逃げられたか……ってハヤシさん大丈夫ですか!?」
そ、その声はナタネちゃ、ゴェホ、ゲホ!も、もう煙晴れているの?め、目がバルス状態で、喉はガラガラで、鼻は痛いしで、ゴゲホォッ!!
「あだだだだだ!ま、まきびしぃぃぃぃ!」
あ、ナタネちゃんの他にも『まきびし』を踏んじゃった人がいるみたい。
―――
よーやく治まった……ローちゃんもかなり咳き込んでいたらしい。僕と一緒に煙を思いっきり被ったからなぁ。
アーさんは無事だったゴーさんによって地面から抜かれ、今は傷薬で治療中。治療してくれたリザードンのお嬢さんに感謝感謝。
あの後、マグマ団は地中に潜って逃げ出したのを確認し、取り残った団員はジムの人によってお縄となった。
其の場で取り調べた所、残された団員の殆どはフエンタウンの問題児だったらしい。温泉のマナー違反者、温泉客にカツアゲした不良、アスナさんにコテンパンにされた挑戦者などなど。
そんな彼らは「連中に騙されていたんだ」とか「俺らが悪いのではなくマグマ団が悪い」とか、傍から見ると言い訳ばかり。お兄さん情けないよ。
どうやら彼らはマグマ団に利用されたクチらしいとアスナさん談。
そういえば世間では悪の組織になりきり罪を擦り付けようとする小悪党も結構いるのだとか。いやな世の中だなぁ。
とりあえず彼らは罰として、しばらくはフエンタウンのボランティア活動に強制参加させることで片をつける事にするんだと。
フエンタウンの皆にマグマ団残党を追い払った事を聞くと、やいのわいのと大騒ぎ。アサ婆ちゃんも嬉しそうに笑ってくれた。
まぁ本物のマグマ団は逃げ延びたとはいえ、しばらくは活動を控えてくれるだろうと予測している。
本当にアレだけならいいんだけど、なんてフラグめいたことを言ってみる。
で、僕とナタネちゃんはといえば……。
「はぁ……なんで私達がこんなことしなきゃならないんだろぉ……」
「ごめんねぇ」
「すみません2人とも」
煙突山に散らばった『まきびし』と『どくびし』を掃除しています。アスナさんとアーさん・ローちゃんもお手伝い。
ここって人が通るからそのまま放置するわけには行かないし、一応は部外者である僕らが喧騒に割り込んだ罰としてアスナさんから命じられたのだ。
助けになったとはいえ見張りを置いてまで部外者の立ち入りを禁止していたのだ。そこへ割り込んだ僕らにも責任があり、それを罰するよう命じるアスナさんの面子もあるから仕方ないね。
「そういえばさ、アスナさんってナタネちゃんの知り合いだったんだよね。どんな関係?」
「ああ、ナタネさんとはムゴゴゴ」
「む、昔ポケモンバトルした仲だよ!草タイプ使いとして、炎タイプ使いのアスナちゃんによく挑んだものでさ!」
ほほぉ。だからナタネちゃんは炎ポケモン相手でも強いんだね、納得。
なんでアスナさんの口を無理やり塞いでいるかは解らないけど……一応アスナさんより年下だよね、君って?
まぁいいや。さっさと終わらせないと夜になっちゃう。夕飯前に一風呂浴びるんだーい。
(いきなし何するんですかナタネさん!)
(しー!お願いだから私がジムリーダーってことハヤシさんに黙っておいて!彼はまだ気づいていないんだからさ!)
(え?ハヤシさんってナタネさんのこと知らないんですか?とうかなんでそこに拘るんですか?)
(意地でも「実は私はジムリーダーなのよ!」って名乗ってやるんだから!)
(……頭のそれって拘り鉢巻じゃないですよね?)
2人で何コソコソ話しているんだろ?女の子同士の密談?
―続く―
どうやらナタネちゃんがジムリーダーってことをハヤシはまだ気づいていない様子。
次回からシダケタウンに戻り、平穏モードに突入。
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ポケモンハン「火炎竜リザードン」
とりあえず御三家からやってみようかなと思い、一番しっくりするポケモンを選びました。
ちなみに当作品に出てくるポケモンはゲーム内の体長より2~3倍ほど大きくなっています(ぉ)
9/3:大幅変更。TUEEE成分が多すぎていたので修正しました。ご指摘ありがとうございました。
アルセウス隠しって、知っているかな?
世の中にはね、卵から孵ったばかりのポケモンを野性に帰しちゃうトレーナーがいるんだって。
酷い話だよね。生まれたてのポケモンは専用の施設で新しいトレーナーに送る。子供からチャンピオンまでそうしているのに。
そんなポケモン達を可哀想だと思ったアルセウスっていう伝説のポケモンは、彼らを新しい世界に送るんだって。
こことは違う世界……いわゆる異世界でノビノビと暮らしているの。それがアルセウス隠し。私が子供の頃からお婆ちゃんに聞いたお話。本当かどうかは私にも解らないけど。
異世界で暮らしているポケモンはどうしているのかって?……うーん、逞しく生きているんじゃないかなぁ?
―――
火竜リオレウス。それはモンスターを狩る者・ハンターにとって一人前となる為の壁である。
飛竜種の代表とも呼ばれるリオレウスは、飛竜に違わぬ高い飛行能力を持っており、行動範囲の広さから様々な地域に生息している。
さらに口から吐く炎のブレスは強力なもので、「火竜」の2つ名に恥じぬ戦いぶりを敵に見せつける。
そんな火竜リオレウスに真っ向から勝負を挑むモンスターがいた。
その飛行能力はリオレウスを余裕で抜き去るほどのスピードと自由な方向転換を可能とする機動力を併せ持ち。
その攻撃性は火竜の名が付くリオレウスですら劣等と思ってしまうかのような、多種多様な炎を口から吐き出し。
そんな細腕で大丈夫か?と言ったら必ず後悔するような、細腕でありながら鋭く硬い爪を使ったヘビー級パンチや鋭い斬撃を繰り出し。
何よりも恐ろしいのは、どんな状況下でも勇敢に挑んでくる勇ましさだ。火球ブレスをブチ破って突っ込み、マウントポジションでも即座に起き上がってやり返す。
このモンスターに名は無い。何故なら
そのモンスターの名は―――「かえんポケモン」リザードン。大きな翼と命の炎を燃やす尾を持ったポケットモンスター。この世界風の別名をつけるとすれば「火炎竜」が相応しいだろう。
火炎竜リザードンは必死だった。リオレウスという敵を目撃して以降、倒さねばならないという危機感に襲われているからだ。
ヒトカゲの時代から学んでいること―――それは『やらなければやられる』という弱肉強食の世界で生き抜く術。
リザードンは大きな翼を広げ、しなやかな体と尾でバランスを取りながら悠々と飛び、リオレウスをぐるりと周る。
空高く飛ぶリオレウスは比較的緩やかなカーブでしか曲がることが出来ない為、速度を上げて引き離すしかないのだが……このリザードンを相手にするには分が悪かった。
速度を上げても余裕で追い越し、口から炎を吐いて四方八方から攻撃するリザードン。倍返しっていうレベルじゃねーぞ!
しかしリオレウスも伊達や酔狂で人々から「火竜」と呼ばれてはいない。火を扱うが故に火に強くなった甲殻は炎を耐えることが出来る。
とはいえまるで小鳥のように自在に飛びまわれるリザードンを振り切ることが不可能だと考えたリオレウスは高度を下げようとする。
そこを逃すリザードンではない。地上に近ければ三次元による攻撃が難しくなることもあり、一気にリオレウスに近づく。
近づいただけに留まらず、なんと隣接してリオレウスを両手で掴み取ったではないか。
細腕に似合わぬ腕力がリオレウスをガッチリと捉えられ、そのまま強引に軌道を修正。ぐるりと宙返りし、そのまま回転。
円を描いて振り回すその技は―――『ちきゅうなげ』と呼ばれるものだ。
そして回転の勢いに乗じ、リオレウスを地面に向かって投擲!その体の重さと重力が合わさる事でダメージはさらに加速する!
リオレウスはリザードンに掴まれ回転させられたことにより脳が揺さぶられ、上手く飛ぼうとせずそのまま地面に激突。
「ゴオオォォォッ!」
俺はやったぜ!とばかりに空中で咆哮を轟かせるリザードン。
だがリザードンは知っている。リオレウスと呼ばれる巨大なドラゴンは、この程度で倒れるような相手ではないと。
もうもうと溢れ出る土煙から、何発もの火球が空へ向けて飛んでくる。一瞬でも油断していたリザードンはそのうちの一発をモロに喰らい、よろよろと落ちていく。
土煙が晴れた頃には、地に足をつけ天―正しくはリザードン―を見上げるリオレウスの姿が。硬い甲殻と強靭な筋力を持つ彼は、高高度から落ちた程度で倒れはしない。
地面に激突するものかとリザードンは翼を広げ、太い両足を地面にめり込めせて着地。
着地の隙を逃すまいとリオレウスは続けざまに火球を吐き出すが、リザードンは翼を羽ばたかせ一時的に浮遊して回避。
飛行タイプになったことで走力が落ちたリザードンではあるが、しっかりと大地を踏み締め、翼を活かし浮くことで得たスピードをもって突進。
だがリオレウス相手にそれは迂闊ともいえよう。己も翼を広げて滞空。リザードンを正面に見すえたままサマーソルトによる尻尾攻撃を繰り出す。
ビッシリと生えた鱗と棘が生えた尻尾は、鱗など硬い物を生やしていないリザードンにとって当れば致命傷どころではない。
だがリザードンにとって重要なのはこのスピードと知性、そして細腕に似合わぬパワーだ。
ギリギリの所で右へ避け、ぐるりと回るリオレウスに合わせて光り輝く拳―――メガトンパンチを振り上げる。
サマーソルトによる下への移動と振り上げたリザードンの拳はリオレウスの腹部にクリーンヒット!錐で突かれたような一撃にリオレウスは口から一気に息を吐く。
流石のリオレウスも腹部という急所を突かれては動きを止めざるを得ず、そのままリザードンを巻き添えにして地面に倒れ込む。
自身の体長の倍以上、体重に関しては数倍もある巨体に押し潰されるリザードンだが、ここで(リオレウスに比べ)小柄なリザードンは持ち前の俊敏性で何とか潜り抜ける。
ドスンと地面に倒れるリオレウスだが、まだ意識はある。これ以上の追撃はされないと再び後ろ脚に力を込めようとして―――それを見上げた。
―力を込めることで光り輝き、鋼鉄の硬度を宿した尾を、加速度と重力を用いてリオレウスの頭に叩きつけた。
しかしリオレウスの頭殻もまた鉄並みに硬かったのか絶命には至らず、逆にリザードンの方が痛かったのか自身の尾にフーフーと吐息で冷やしていた。
しかし勝ちは勝ちだ。そう誇示するかのようにジンジン痛む尾を振り回し、天に向けて咆哮する。
―あ、やっぱり痛いのか、尾を持ってフーフーしだした。
――
ポケットモンスター。縮めて「ポケモン」。
彼らは何らかの世界で異世界―――彼らよりも強大なモンスターが蔓延る世界へと飛ばされる。原因は不明だ。
このリザードンは
しかし彼らもまた「モンスター」の名を冠する生命。異世界だろうとなんだろうと生き延びる凄まじい生命力がある。
このリザードンだってヒトカゲの頃から懸命に生き延び、今では本来の体長の2~3倍の巨体を得ることが出来たのだ。
もし彼の生息している場所が―――未だ人が見つからない遠い大地でなければ、人と接して安穏と暮らせたかもしれない。
この世界は彼らが棲んでいた世界よりも殺伐としている。食うか食われるかの、人ですらモンスターを狩る事がある弱肉強食の世界。
だがポケットモンスターはそれに従い生きてきた。「棲めば都」という言葉があるように、彼らの知性と適応力はそれに順応してきた。
アイルーという種族に対しては友好的だが、己に敵意を向けてくるのであれば迎え撃つ。その精神を元に戦い続け、生き延びる。
このリザードンもこの世界で生き延びる為、今日も空を飛んで獲物を探す。
その獲物が何なのかは――ご想像にお任せしよう。
―終―
ポケモンがモンスターハンター入り。いかがでしたか?
攻撃性と知能ならポケモン、耐久性とパワーならモンスター。そんな振り分けだと私は思います。
知能が高い時点でポケモンが有利っぽそうですが、モンスターには古龍種がおりますしおすし(笑)
読者様のご指摘で気づいたのですが……。
リオレウスがリザードンに噛み付いた場合:一撃必殺!
リオレウスがリザードンに体当たりした場合:一撃必殺!
リオレウスのサマーソルトがリザードンに当った場合:一撃必殺!
リオレウスの火球がリザードンに当った場合:大文字並みのダメージ(効果はいまひとつ)
ま、まぁリザードンは耐久低めです押すし
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その17「きのみ屋さんと草ポケモン」
穏やかな日差しが差し込む午後。湯気と火山灰と砂嵐が多かったからか青空が久しぶりに思えるよ。
アーさんから飛び降り、懐から出したモンスターボールを全部投げて一言。
「ようやく我が家に帰れたー」
背伸びをして凝りを解した後、僕とナタネちゃんは一日ぶりの店の裏庭に帰ってきた。ポケモン達も裏庭を見て嬉しそうだ。
お留守番をしていたサンちゃんを筆頭に庭中のナゾノクサがお出迎えしてくれた。スーちゃんもこっそり紛れている。
ナッゾーナッゾーと歓迎というよりは水を強請っているようなので、ホエルコ如雨露を取りに行こうっと。
「ハヤシさんモテモテですねー」
「そういう君こそ、ハーさんに愛されまくっているね」
ナタネちゃんの足元で「遊んでー遊んでー」と擦り寄ってくるハーさんを見て言う。
僕らが到着した途端、ハーさんは池から一直線にナタネちゃんに向かって走っていたよね。それだけ懐いている証拠ってことだ。
ナタネちゃんはハーさんを抱き上げて頬ずりすると、ハーさんは嬉しそうに鳴く。二つが合わさりサイキョーに可愛く見える。
さて、僕は足元に群がってくるナゾノクサの為に、水遣りの準備をしますかね。あ、その前に木の実畑を守ってくれたザンさんにお礼言っておこ。
なんかそこでドクケイルことクケさんが黒焦げになって倒れているけど気にしない。後で治してあげるけどさ。
―――
「はぁ……疲れた」
午前中にたっぷりフエンタウンの温泉宿で休んだんだけどなー……水遣りと畑の整理はともかく、治して飛びかかって来たクケさんを追い返すのに疲れたよ。
まぁ昨日のマグマ団騒動や
アサ婆ちゃんの誘いもあって泊まる事にしたんだけど……あの格式ある家で粗相は出来ないと2人して緊張しまくったからなぁ……コレが疲れの原因かもしれない。
そんな訳で、やることやったから午後はのんびり過ごそう。今日は水曜日で休業日だし、お昼はフエンタウンで食べてきたし。
「さてと……」
高木の下でラジオを点けようとしてた手を止め、ナタネちゃんを見る。
一頻りハーさんを可愛がったナタネちゃんは、懐から出した三つのモンスターボールを見てニコリと笑っていた。
けどナタネちゃんの手持ちは今、外で遊んでいる。ロズレイドはヤーやんに乗って遊び、ドダイトスはガーさんに背中の木を綺麗にしてもらい、トロピウスはゴーさんに果物を強請られて。
じゃあ、あのモンスターボールは何が入っているんだ?チェリム?
「出ておいで!」
ナタネちゃんがボールを放り投げ、そこからポケモン達が出てくる。
そこから現れたのは、凛々しい顔つきをしたキノガッサ、ビンボー揺すりをするコノハナ、「やぁ」と片手を上げるサボネアだった。……チェリムは犠牲となったのか?
見慣れぬ光景を忙しなく見渡す彼らを見て解った。
「その子達が新しく捕まえたっていう?」
「そ。この短期間にめぐり合った、ホウエン地方の草ポケモンだよ」
見て見てとアピールするかのように両手を広げるナタネちゃん。
なるほど、裏庭でゆっくり過ごすこの時間なら、捕まえたばかりの子達とスキンシップできて丁度良いか。
さっそくとばかりにナタネちゃんは三匹の間に割り込み、一匹ずつスキンスップを謀ろうと触れ合っていく。
それを見たドダイトスとロズレイドも彼らと親しくなろうと、トロピウスを引っ張って近づいてきた。
自然好きなナタネちゃんの事だ。ハーさんの事もあり、あの三匹と仲良くなるのも早いだろう。
僕のポケモン達も程ほどに割り込んでくるのを見た後、僕はラジオを耳に傾ける。こういうのはポケモンに任せておこっと。喧嘩好きなガーさんも自重するだろうし。
―――
ガーさんも自重するだろうし―――そう思っていた時期が、僕にもありました。
「頑張れコノハナぁー!」
「ロー!(やっちゃえガーさーん!)」
ナタネちゃんとポケモン達の声援を受けて、コノハナとガーさんのバトルは白熱さを増す。
僕がホミカさんの歌を聞き入っていた間に何があったんだ……?
どうやらせっかちなコノハナとやんちゃなガーさんとは性格的に相性が悪かったらしく、いつの間にか大喧嘩に発展したんだとか。
喧嘩っていうよりはコノハナがガーさんをおちょくっているという感じ。ひょいひょいと跳びながらガーさんを避け、ケラケラ笑っているんだから……あ、一発殴られた。
「というかナタネちゃん、なんで止めてくれないの?」
「やっぱり自分のポケモンには勝って欲しいから」
ハーさんを抱きしめながら胸を張るナタネちゃん。妙に自信ありげなのがまた可愛い。
「いいから止めて頂戴!」
けど出来れば止めて欲しい。コノハナの為にも。
自慢するようでなんだけど、うちのガーさんのパンチはヘビー級だから!コノハナの体力が0になっても凶戦士魂で追撃しちゃうから!
「やっぱりダメかぁ……よし、キノガッサやっちゃって!」
ビっと指差し、キリっとしたキノガッサに出撃命令を下すナタネちゃん。
任せてくださいとばかりに身を乗り出し、2人の喧騒から少し離れた所でステップを踏む。集中しているのかな?
ブンブン鋏を振り回すガーさん。連続バク転で回避するコノハナ。移動距離はゆっくりだが動きは激しいぞ……?
キラリ、と目が光った(気がする)途端、キノガッサの伸縮自在の腕が伸びる!『マッハパンチ』だ!
―ボグシャっ!
「あ、ザンさんに当っちゃった」
ナタネちゃんの冷静な声が響く。
寝ていた所を頬で殴られたザンさんの怒りと殺気のオーラが裏庭に充満する。
そして震える2匹の間を潜るようにしてザンさんを殴ったしまったキノガッサは
「(@皿@;)(やっちまった~!)」
……という顔をして驚愕していた。
このキノガッサって勇敢だけどおっちょこちょいだぁーーー!!
「フシャアーーー!!」
――
攻撃してきたのはキノガッサだけど、何故かガーさんとコノハナもしょっ引かれた。寝ていたと思ったら喧騒でイライラしていていたのかな?
とにかくキノガッサ・シザリガー・コノハナを1分もせずにノックアウトするザンさんマジ厨キャラ。格闘ゲームで出たら強そう。
あくタイプのガーさんとコノハナは効果抜群だからわかるけど、キノガッサですら『インファイト』で一発KOとかスゲェ。
そんなザンさんはボコボコにした三匹に対してお説教。ガミガミ言っております。
キノガッサとコノハナに至っては正座で静聴していた。ガーさんは地べたに身体をつけて屈服モード。
「ザンさんって本当に強いよねー。怖いよねー」
ギュっと抱きついてくるハーさん、足元にしがみついているロズレイドとサボネア、身体を擦り寄ってくるドダイトスとトロピウスを宥めるナタネちゃん。
ローちゃんとゴーさんも僕にしがみついてザンさんに怯えているが、昼寝しているアーさんやマイペースなヤーやんはともかく、サンちゃんも平気そうだった。
「サンちゃんはザンさんのこと平気なの……って」
サンちゃんの顔を覗き込んだら、顔を紅くしてザンさんを熱い眼差しで見つめていました。
え、なに?サンちゃんってもしかしてザンさんLOVEなの?……爪を頬にあて「キャっ」と恥ずかしがるサンちゃんかわゆす。
意外な事実を前に、別の意味で恐ろしさを覚えた僕なのであった。留守番中にサンちゃんに何があったし。
―続く―
この後、ザンさんに叱られた3匹は滅茶苦茶ヤケ食いした。
サボネア「(´・ω・`)(出番あまりなかったな……)」
ごめんよサボネア、君を活躍してあげられなかったよ……。
○ナタネの草ポケモンズ(ホウエン産)
・ナタネのキノガッサ
勇敢な性格。おっちょこちょい。
・コノハナ
せっかちな性格。イタズラが好き。
・ナタネのサボネア
大人しい性格。粘り強い。
・ナタネのトロピウス
おっとりした性格。とても几帳面
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ポケライフ「ダイバー・ユウキの場合」
初となる今回のポケライフテーマは「スキューバダイビング」です。浅瀬の海を妄想してみました。
夏といえば海水浴。皆さん熱中症対策や日焼け、海の危険生物への対処はできていますか?(後者は難しいでしょうが)
3/2:後書きにてトレーナー情報追加
眩い夏の太陽。絵の具で描いたような青空。水平線に浮かぶ入道雲。
海に近いカイナシティの浜辺と市場では人で賑わっており、特に夏に入ってから活気が5割以上も増していた。
こんな日は浜辺で海水浴をするのに持って来いだが、海の中が一段と綺麗になる日でもある。
そもそもカイナシティが海水浴として有名なのは綺麗な海水と程よい浅瀬が広がっているからであり、泳ぐには最適の場所だからだ。
そして綺麗な海水は野生のポケモン達にとって綺麗な空気も当然で多くの水ポケモンが暮らすようになる。サメハダーやドククラゲに注意。
そんなカイナシティの浅瀬を自ら泳いで巡るスキューバダイビングは、カイナシティで大人気の観光ツアーだ。
―――
揺らめく海面を夏の日差しが照らし、海中でありながら陸地のような明るさと水中に美しく揺らめく光を映えさせる。
そんな海面越しの光を受けるのは岩礁と珊瑚礁、そして浅瀬だと思えない程に多く漂っている水ポケモン達だ。
タッツーの群れが珊瑚礁に群がったかと思えばそれは寝ていたサニーゴ達で、目覚め動き出した彼らにビックリしてタッツー達が慌てて逃げる。
パウワウが岩礁を小突いて遊んでいると、『ほごしょく』で姿を消していたヒドデマンが嫌そうに離れていき、それをパウワウが楽しそうに追う。
クラブとクラブが岩礁の穴の前で縄張り争いをしていると突如として片方がキングラーに進化し、キングラーが勝つかと思ったが……キングラーは狭くなった穴を見て渋々帰っていく。
そんな多種多様なポケモンの光景を楽しそうに眺めている新婚夫婦のリョウジとサヤミ。スキューバダイビングツアーの参加者の内の一組だ。
クリアな水中メガネ越しに見える光景を楽しそうに笑っている中、ポンポンと2人の肩に誰かの手が触れ、後ろを振り向く。そこには1人の少年ダイバーがいた。
彼は2人の注目を指先に向けさせ、近隣でメノクラゲの群れが漂っているのを確認させる。
漂っているだけとはいえメノクラゲの群れは危険だと事前に説明を受けていた2人は頷き、足につけたフィンを蹴って海面へと泳ぎ出す。
海面近くを漂っているホエルコが3人の姿を見ると真っ先に少年に擦り寄ってくる。どうやら少年の手持ちポケモンのようだ。
3人はホエルコに掴まり、少年がポンポンと叩くとホエルコはゆっくりとメノクラゲの群れから離れていく。
そのままゆっくりとした水泳速度を保ちつつ、少年はキョロキョロと何かを探すかのように周囲を見渡している。
ふと少年は夫婦の注意を寄せ、あるものを見せようと後ろを指差す。
夫婦が後ろを向いて見たのは、自分達を追うようにして泳ぐラブカスの群れだった。
少年がホエルコを誘導し角度を変えて泳げば、ラブカスの群れがハートマークを描いて泳いでいるのが解る。
永遠の愛が約束されるというラブカスの群れは、新婚ホヤホヤな2人にとって心が躍るような気持ちにさせてくれた。嬉しさのあまり夫婦同士で抱き合った程だ。
少年はそんな2人を見て微笑みを浮かべるが、突如として鳴き出したホエルコに意識が戻り、注意深く辺りを見渡し―――それを見つけた。
マンタインに乗って高速で泳ぐ先輩ダイバーとツアー客の3人。それを追うサメハダーの群れ。
明らかな危機的状況を目の当たりにした少年の心境は、飽くまでも冷静なものだった。
「任せる」と言っているようにホエルコを軽く叩いた後、ここにいて欲しいとハンドサインで夫婦に伝えた後、少年はフィンを蹴って泳ぐ。
泳ぐ最中に腰のモンスターボール2個に手を伸ばし、この状況を打開してもらおうと、中のパートナー達を呼び出す。
モンスターボールから現れたのは、ラグラージとハブネーク。
水タイプのラグラージはともかく、なぜハブネークまでいるのか。それは彼の手持ちの中で最も水中戦慣れしているポケモンだからだ。
少年がすぐそこまでやってきたサメハダーの群れを指差すと、ラグラージとハブネークは意図を読み行動を開始。
ラグラージはバタフライをしながら泳ぎ、ハブネークは砂地を這うようにして泳ぐ。
サメハダーの群れに向かっていくラグラージとすれ違ったマンタインはそのまま少年と合流。先輩ダイバーはハンドサインで助かったと少年に伝え、少年を乗せてマンタインは迂回する。
標的をツアー客からラグラージに切り替えたサメハダー達はジェット噴射で一斉に飛び掛る。
しかしこのラグラージは相当強い。片手で突っ込んできたサメハダーを受け止め、そのまま両手で掴んだサメハダーを振り回して群れを吹き飛ばす。
水中を漂い豪腕を振るうラグラージにタジタジなサメハダー達だが、下から尾の刃を振り回しながら襲いかかってくるハブネークに驚きまた瓦解する。
こちらのハブネークはサメハダー達の近接攻撃を長い身体をくねらせて交わし、『ポイズンテール』を振り回して一匹ずつ仕留めていく。
豪腕のラグラージが円を描くように振り回し、その周囲をハブネークが仕留める。サメハダー達も混乱してきた。
そこでサメハダーの何匹かはマンタインとツアー客に目を向け、そちらに襲い掛かる。
慌てるツアー客だが、先輩ダイバーと客を庇うようにして立ちはだかる少年が手に持つ『それ』をサメハダー達に向ける。
少年が取り出した物―――パールルから発した見えない壁『バリアー』がサメハダーを遮った。
マンタインごとツアー客を覆った『バリアー』によって手出しできなくなったが、それごと食い破ろうとサメハダー達は必死に噛み付いてくる。
慌てる先輩ダイバーとツアー客だが、少年は手をかざして彼らの視界を遮り、片手のパールルを掲げる。
―パールルの『あやしいひかり』!
パールルから発した妖しい光がサメハダー達に降り注ぎ、彼らは混乱して滅茶苦茶に泳ぎまわる。マンタインは前に出た少年により遮っていたので大丈夫だ。
加えて向こう側ではラグラージとハブネークによってサメハダー達を追い返した為、残った混乱状態のサメハダーを撃退しに掛かる。
そして3分もしない内に残りのサメハダー達もジェット噴射で逃げ出していった。
可哀想に思えるだろうが、実力を持って追い払わないといつまでも追いかけてくるから困り者なのだ。
少年はラグラージとハブネークをボールに戻し、ペコペコと頭を下げるツアー客を手で制して泳ぎ出す。
すぐそこには少年のホエルコと新婚夫婦がおり、2匹はツアー観光用の船を目指して泳ぐ。
―――
のんびりと操舵していたカガラ船長は、甲板を見張っていた己のヌオーの鳴き声を聞いてそちらへと視線を移し、それらを確認する。
「おうお前ら、無事だったみたいだな」
ダイバー2人とツアー客全員が五体満足で帰ってきたのを見て、カガラは自慢の顎髭を揺らしながらケラケラと笑う。
しかし30代のダイバーと一部のツアー客はそうではなく、スーツやマスクを外した直後、サメハダーから逃げ切った安堵感で息切れしてばかり。そんな彼らに近づいてきたヌオーののほほんとした顔に癒され、落ち着きを取り戻す。
そうでないのは、事情を知らない新婚夫婦と、最初から最後まで落ち着いて行動していた少年だ。
少年は独特的な帽子を被ってパールルの頭を撫でた後、水面に漂うホエルコをボールに戻してカガラ船長の元へ向かう。
「ただいま戻りました。途中サメハダーの群れに襲われましたが、とりあえず撃退しておきました」
「おう、俺も見えたぞ。見事なバトルだったな」
「船長、いつサメハダーがまた追って来るか解りませんし、早く岸に戻りましょう」
「はいよ。にしてもお前さんは相変わらずマイペースな奴だなぁ」
カガラは少年をそう評価しつつも、船を岸へと急がせる。サメハダーは時にはしつこく追いかけ船底を噛み砕くこともある事を知っているからだ。
少年はその風を気持ち良さそうに受け止めながら、癒されたいとヌオーを取り囲むダイバーとツアー客に近づく。
「皆さん聞いてください。確かに海は危険でもありますけど、海とはそういうものです。今日はそのことを学ぶことができたと思います」
少年は語り出す。ツアー客はヌオーに抱きついたまま黙って聞き、先輩ダイバーは「また始まったよ」と苦笑いを零す。
真面目な顔をしていた少年だが、一転させて微笑を浮かべ、手に持っていたパールルを客に向ける。
「だからこそ言います。海は凄いです。時に美しく、時に優しく、時に激しい。今日知った海の美しさと海のポケモンの恐ろしさを忘れずにいれば、次はもっと楽しめると思いますよ」
パールルは上向きに水を噴出し、ツアー客達の前に綺麗な虹を作り出す。
その虹に一瞬でも美しいと思ったツアー客は、これまで見て来た海とポケモンの景色を瞼の裏で思い返すのだった。
そんな客達を、少年とパールルは嬉しそうに見て笑うのだった。
――
ユウキという男がいる。
ホウエン地方ポケモンリーグ制覇という偉業を成し遂げた、ミシロタウン出身のポケモントレーナーだ。ホウエン事変の解決者の1人でもある。
一度はホウエン地方のチャンピオンとして輝いたものの、突如としてその座を元チャンピオンである鋼タイプ使い・ダイゴに譲ったという。
徐々に彼がチャンピオンであると世間から忘れ去られる中、彼はダイバーとして生活していた。
伝説のポケモン・カイオーガと出会って海の恐ろしさを知った彼は、海に関する仕事に興味が沸き、ダイバーとして様々な海を巡る。
父センリに似て求道者としての一面を持つ彼は、知るにつれて好きになっていく海をもっと知りたいと思えるようになったかだ。
ポケモンダイバー・ユウキ。元チャンピオンにして海の求道者。
彼の行く道は彼自身もまだ解っていないが、これからも色んな海を巡って行くのが彼の願い。
彼がカイナシティを中心に様々な海を巡り、様々な事件を解決していく事を、世間は少しずつ知っていくことになる。
―完―
●ユウキ
ホウエン地方出身のポケモンダイバー♂。頑張り屋な性格。ちょっぴり見栄っ張り。
誰に対しても丁寧な口調で話す穏やかさと、有事の際は的確な指示を下す冷静さを併せ持つ。
海に関連した仕事やバイトをしながら転々と海を渡る事から「海の求道者」の通り名をも持つ。
『バリアー』や『あやしいひかり』など防御と妨害を中心に立ち回る。防御+妨害の併せ型。
ユウキとは言わずとしれた、ルビー・サファイヤの男の子主人公です。
当作品の男の子主人公はアクア団と接触しカイオーガと戦ったサファイアバージョンでお送りしています。
今回初めて投稿したポケライフはいかがだったでしょうか?
これを見て、あなたなりのポケモンがいる生活を妄想して楽しんでくれると幸いです。
次のポケライフは女の子主人公・ハルカの予定です。
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その18「きのみ屋さんとテッセン」
UA15000、お気に入り件数200突破!ありがとうございます!
なんかコラボとポケライフをアップしてから一気に増えた気がするような(笑)
昨日はザンさんに3匹のポケモンが怒られたっていう事以外、特に問題なくゆっくりと過ごせました。
んで、今日は木曜日。晴れ空の下、やっと全部実った木の実畑を色々と採取。木の実って育つのが早くて助かるわー。
そしてナタネちゃんがお昼過ぎに遊びに出かけお客さんが増えてきた頃―――その人は突然やって来た。
「おおハヤシや、お久し
そう言ってワッハッハと笑うのは、キンセツジムリーダー・テッセンさんことテッさんである。
僕達が旅立った頃に比べると年老いたとはいえ、テッさんは昔と変わらない明るい笑顔を見せてくれる。
そんなテッさんの笑顔を久々に見た僕は懐かしい気持ちに駆られる―――だがしかし。
「んー……30点が妥当かな」
ポケモンダジャレの採点には容赦しません。というかさっそくカロス地方のポケモンをダジャレに使いますか。
「なんじゃい、相変わらず厳しいのー」
そう言いつつもまた楽しそうに笑うテッさん。久しぶりだがこれもお約束なので、やはり懐かしい。
ローちゃんもゴーさんも懐かしさのあまり、仕事を放ってテッさんに挨拶。テッさんはそれに応じ、懐かしいのぉと良いながら撫でる。
昔はテッさんのライボルトやレアコイルにコテンパンにされたもんだよねぇ。
懐かしさを味わうのはそこそこにして、隣町のジムリーダーだからとお客さんにチヤホヤされるテッさんに声を掛ける。
「久しぶりだねテッさん。何か御用で?」
「おお、ようやくジムの仕事が片付けたんでな。顔出しついでに開店祝いを持って来てやったぞい」
ああ、そういえば言っていたね、そんなこと。ずっと前だから忘れていたよ。
だいぶ歳を取っているテッさんだがジムリーダーとしての実力や仕事の処理能力は健在で、日々ジムの仕事で忙しなく過ごしている。
時々顔を見に行こうとしても挑戦者が居るからとジムに入れない事が多く、ライブキャスターも無いので顔を合わせる事も無かったのだ。
「手紙で言ってくれたら
「そっちの方が面倒じゃろうが!それにお前さんらはワシに取っちゃ息子みたいなもんじゃからな。息子の顔を見に行きたいっちゅーオジさん心じゃよ」
確かに隣町の店に一々手紙を送るぐらいなら会いに行く方が早いよね。ライブキャスター買おうかなぁ……。
けどテッさんが土産を持ってまで会いに来てくれたっていうのは、やっぱり嬉しくなる。
「ありがとうテッさん……」
「わっはっは!笑いながら泣くのはよさんか!礼を言う時は元気よくな!」
ワッハッハと笑うテッさんの横で、ゴーさんとローさんが真似して背を反らしながら笑う。
それを見て小さく笑った後、テッさん足元に置かれていた大きな箱に目が行ってしまう。現金な奴だよなぁ、僕って。
「その箱がお祝いの品?」
「おお、お前さん新しい芝刈り機が欲しいと言っておったよな?」
テッさんは「どっこい
箱の大きさを見ると芝刈り機にしては小さい……というかテッさんが両手で持ち上げられるほどって、芝刈り機にしてはやけに軽くない?
そんな僕の考えを見抜いているのか、テッさんはニヤリと笑って箱に手を伸ばす。
「これはな、世にも珍しい全自動芝刈り機じゃぞい!」
僕の断りなく勝手にあけようとするテッさんの顔は、自信に満ち溢れて……というかあの顔は悪戯を仕掛ける前の笑顔だ。年老いても変らないね。
それにしても全自動芝刈り機ってどんなものなんだろう?そんな風に考える僕は、年甲斐にも無くワクワクしているのであった。
―――
●ナタネ視点
はー……ヒワマキシティって自然と調和している良い場所だった!自然豊かって言ったらトウカの森が一番良いけど、町と森が一体化している町って素敵だよね。
トロピウスの背に乗って空を飛んでいる私は、ハヤシさんの居る店に向かっている所。風が気持ち良いねーコノハナ。
コノハナはトロピウスの首元に掴まって心地よく風を受け止めているようだったが、早く行け、と言わんばかりに急かしている。せっかちな子だなぁ。
おっとりとしたトロピウスは気にせず、しかし目的地が見えたからと急降下。ゴウと吹き抜ける風を体全体に浴びながら、我が家のような気持ちでいられる店に辿り着く。
裏庭の『まきびし』が無い場所に着地したトロピウスの背から降り……お、さっそく愛しのハスボーちゃんがやって来たね。
「ただいま」と言って喜んでくれたハスボーを抱きしめ、私はトロピウスとコノハナを置いて店の玄関に足を運ぶ。コノハナはザンさんことザングースにただいまの敬礼。
店の表に向かっていたら、オレンジ色の不思議な物体を抱えているハヤシさんを発見!
「ハヤシさーん、たっだいま帰りましたー!」
茶目っ気で敬礼しながらただいまの挨拶を……げ、なんで隣にテッセンさんがいるの!?
「ほー、ナタネちゃんじゃないか!お久しブリガロ「二度も言わませんよ」なんじゃいハヤシ、厳しすぎるぞい」
ハヤシさんとテッセンさんの漫才が耳に入るけど、私はちょっと焦っています。な、なんとかハヤシさんに私がジムリーダーだってバレないようにしないと!
「え、えーっと、ハヤシさんの持っているそれって何かな!?」
ここは話題変更!丁度そのオレンジ色の物体が何なのか気になっていたし!
なんだろ、車っぽいメカなのは解るけど、電源が無いような……ラジコンカーか何かかな?
「ああ、これはこちらのテッさんっていうお爺さんからの贈り物で……」
ハヤシさんは私の視線に合わせるようにオレンジ色の物体を持ち上げ……ん?にゅ~って、なんか顔っぽいものが浮かんで……。
「……なにこれ?」
「ロトムっていうゴーストタイプのポケモンだよ。しかもカットフォロム。珍しいでしょ」
声色からしてにこやかな顔をしているんだろうけど……えっと……ゴーストタイプ?
「身内から貰ったんじゃが生まれて間もないポケモンでな、せっかくじゃからハヤシに譲ってやろうと思ったんじゃ」
「え?この子生まれたて間もないの?その割には妙に人懐っこいね」
「じゃが気をつけるんじゃぞ?こいつは臆病な性格らしいでな、大声を出そうものなら暴れ出し」
私!
ゴーストポケモンが!!
大の苦手なのよぉーー!!!
「キャアアーーーーー!!」
「Σ(◎■◎川●)(ギャアアーーーー!?)」
――
ナタネちゃんがロトムを見て叫んだ途端、臆病なロトムがビビって大暴走。裏庭で暴れ出してさぁ大変!
これだけ聞けば微笑ましいだろうけど、カットフォルムのロトムが裏庭で暴れ出して、芝生が刈りに刈りまくって大変なことに!
「ああぁぁぁデタラメに刈らないでぇぇぇ!」
せっかく芝生を均一に刈って庭木を綺麗にカットしたっていうのに、ロトムがデタラメに刈っていくぅぅぅ!そしてその道が不自然に見えるぅぅぅ!
「いやぁぁぁ追いかけて来ないでぇぇぇ!」
ナタネちゃんせめて逃げるならまっすぐ走って!ロトムが君を追っかけているから、デタラメな刈り跡を少しでも減らすには君の走り方に掛かっているんだからさぁ!
ていうかデタラメに走っている癖に『まきびし』をしっかり避けて走っているから凄い。
「わっはっは!良い仕事っぷりじゃのう!しっかり育てるんじゃぞハヤシよ!」
この電気親父ぃぃぃ!物音に敏感な子なら前もって言っておいてよ!大人しかったから大丈夫かと思ったのにぃぃぃ!
木登りできる小ポケモンは木の上に、ナゾノクサは地中に潜ってロトムからやり過ごしている様子。ハーさんとスーちゃんもトロピウスの背に避難した様子。
こんな時に限ってガーさんは水中に居て気づいていないようだし……どの道ロトムが素早すぎてポケモン達が追いついていないようだけどさ。
一応ローちゃんやロズレイドに『マジカルリーフ』を放つようお願いしたけど、カットフォロムのロトムには効果はいまひとつ。
広範囲の地面タイプの技『じしん』も、防犯に撒いた『まきびし』も特性『ふゆう』で効果は無い。じゃあどうやって芝刈っているんだって話だけど、僕も知らん。
「コ、コノハナお願い助けてぇぇぇ!」
ロトムから逃げ惑いながらナタネちゃんが木の上で寛いでいたコノハナにお願いする。
確かにすばしっこい悪タイプのコノハナならロトム相手になんとかできるかも。コノハナはさっそく飛び降り……。
高速で走るロトムのスピードが勝っていたらしく、コノハナは呆気なくロトムに撥ねられてしまいました。コ、コノハナァァァァ!
止まらないロトムに逃げ続けるナタネちゃん。騒動に気づいてなんだなんだと集まるお客さん。相変わらず楽しそうに笑うテッさん。あまりにも五月蝿いので庭から出て行ったザンさん。
この珍騒動は何時まで続くのか……そう思っていたとき。
―バシン!
偶然にも池の脇を走っていたロトムをハサミパンチで叩き落とすガーさん。いつの間に水面から這い出てきたの?
事情を知らないガーさんは「なんなんだこいつは」と言わんばかりにハサミで掴んだロトムをじっと見る。ロトムは気絶しているようだった。
「うわぁぁん、ありがとうガーさぁぁん!」
「よくやったよガーさん!」
知らなかったとはいえ、ロトムを止めてくれたガーさんに感謝しつつ抱きつくナタネちゃん。ついでにナタネちゃんが無事だからと喜んでしがみつくハーさん。
そしてこれ以上の被害を食い止めてくれた事に感謝。当のガーさんは事情が解らず混乱しているが。
とりあえず、パチパチと拍手してくれているテッさんとお客さん達に言っておこう。
「テッさんのせいでご迷惑をおかけしました」
「なぬ!?ワシのせいなんか!?」
「当り
「わっはっはっはっは!」
えー……怒っている時にポケモンダジャレ言う僕が悪いけど、今ので笑っちゃうのかよテッさん……。
―――
結局あの後はお客さんにお帰り願い、裏庭の芝生を均一に戻す為にサンちゃんの爪を借りることに。
『いあいぎり』で一生懸命刈るサンちゃんマジ働き者。僕もナタネちゃんも手伝ったけど。……テッさん?仕事があるからと言って逃げちゃいました。後日何か強請ったろ。
ロトムことロトやん(目が覚めた後で命名)はローちゃんに預けている。
臆病なロトやんは起きた後もビビっていたけど、ローちゃんの母性に掛かれば大人しくなるってもんさ。
脅かしたナタネちゃんもビビりながらも謝り、ロトやんもペコリと頭を下げたことで両者は和解。
「それにしてもナタネちゃんってゴーストポケモンが苦手だったんだねぇ」
「うう……恥ずかしながら……」
夕飯に2人で木の実カレーを食べながらお喋り。けどナタネちゃんは恥ずかしさで顔を紅くしている。
けど気にしないで。誰にだって苦手なポケモンはあるもんだよ。ちなみに僕はネイティ・ネイティオが苦手。あの目にトラウマがあってね……。
あ、けど……。
「近年カロス地方では草・ゴーストタイプのポケモンが出たって聞いたけど」
しかも2種類いるみたいだね。オーロットとパンプジン、だっけ?オーロットは育ててみたいなぁ。
あ、ナタネちゃんが複雑な顔してる。
余談だが、翌日の金曜日は、ロトやんとナタネちゃんが緊張しながらも触れ合うだけで丸一日使ったそうな。ついでにテッさんがお詫びとしてロトム用のオーブンを持ってきてくれた。
いい機会だからゴーストポケモンを克服したいっていうけど、うちの子で試さないでください。ビックリしなきゃ大人しいけどさ。
もう1つ思い出したけど、その次の日……土曜日はナタネちゃんがシンオウ地方に帰る日だったね。
―続く―
テッセンさんは良いオジさんだけどトラブルメーカーな人だと思う。
ロトムことロトやんのデータなどは後日に登場ポケモン一覧に追加する予定です。
次回、とうとうナタネとお別れ。そこには意外な展開が。
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その19「ナタネとお別れ」
土曜日の朝日を拝み、朝御飯を食べて新聞を読み終わった後。
僕らは旅支度を終えたナタネちゃんを見送る為、裏庭に集っていた。
「よいしょっと」
大きなリュックサックを背負うナタネちゃん。最初来た時よりリュックが大きくなっているのは気のせいじゃないよね。
シンオウ地方まではミナモシティから出る客船に乗って帰るらしく、ミナモシティまではトロピウスに乗っていけばいいから見送りは
ナタネちゃんの手持ちポケモンと僕の手持ちポケモンが各々でお別れの挨拶をしている仲、ナタネちゃんは僕を見てから頭を下げる。
「それじゃあハヤシさん、今までお世話になりました」
「いやいや、こちらこそお世話になりましたよ」
ナタネちゃんが店に居る間は楽できたからねー。接客から庭弄り、畑仕事までお手伝いしてくれたもん。
何よりも……色々面倒事もあったけど、ナタネちゃんが来てから凄く楽しかったんだよ。
草タイプ好き同士通じる所もあって話も弾んだし、ちょこちょこバトルもした。働いていた時も何気に楽しかったなぁ。
新作の木の実スイーツを試食してくれた時の幸せそうな顔を見たはキュンって来たし。
ナタネちゃんの古参メンバーもそれぞれ別れを惜しんでいるようだし、ポケモン達にとってもここは良い思い出になってくれそうだ。
さて、ナタネちゃんに渡す
池からちょこちょこと走ってきたハーさんが、ナタネちゃんの足元にギュッと抱きついてきた。
小さな四本足が彼女の片足にしがみ付き、ハスボーのつぶらな瞳がナタネちゃんの顔をじーっと見つめている。
「……あの」
流石のナタネちゃんも面食らってハーさんに話しかけるが、ハーさんは離れる気配が無いどころか、逃がすかとばかりにギュっと強く抱きついてくる。
じーっと見上げているハーさんを見て、ああなるほど、と思わず口走る僕。理由が解ったので、どうすればいいのかと戸惑うナタネちゃんに声を掛ける。
「ナタネちゃん、ハーさんはナタネちゃんと一緒に居たいみたいだし、よかったら連れてってくれない?」
「……いいの?ハヤシさんのポケモンじゃあ」
「ハーさんは半野良だよ?ボールで捕まえたことない」
「そうなの!?名前付いているからてっきり……」
言っていなかったっけ?言っていないよね。
まぁこんなに小さいのに人慣れしているから、ナタネちゃんは僕が親だと思い込んでいたのだろうね。
いつの間にかナタネちゃんはハスボーと視線を合わせるようして持ち上げ、じっと見詰め合っている。
「……一緒に来てくれる?」
「ハボッ!」
もちろん!と言っているように元気よく答えるハーさん。……ローちゃん、ハーさんが行っちゃうからって泣かないの。
それを見て嬉しそうな顔をした後、ナタネちゃんはいつものようにハーさんを胸に抱きしめた。ハーさんも嬉しそうだ。
元々から人懐っこいハーさんだけど、ナタネちゃんと出会ってからは彼女に引っ付くようになった。それだけナタネちゃんを気に入ったからこそ、離れたくないあまり、この庭を出て行くことに決めたんだ。
なら、僕はそんなハーさんの為に、ハーさんをナタネちゃんに譲るべきだ……勿体無いっていう気持ちが強いけど。だって可愛いじゃんハーさん。
「ハーさんを大事にしてね」
「もちろん!」
ぎゅっと抱きしめる腕に力を込めるナタネちゃん。彼女ならきっと大事に、そして強く育ててくれる事だろう。
さて、もう1つ選別が……お、ヒートフォルムになったロトやんが来たね。ナタネちゃんがビクって震えたから、すぐ解ったよ。
ロトやんもナタネちゃんを見てビクビクしているが、オーブンの蓋であるお腹を僕に差し向ける。僕はその蓋を開け、中身を出す。
―ああ、ブリーの実の甘い香りが香ばしい。
「んー、いい香り♪」
「この香り……もしかしてブリーの実のクッキーかな?」
ご名答~。ブリーの実を乾かして、それをクッキーの生地と混ぜて焼いたクッキーだよ。早起きして作っておいたんだ。
焼きたてのそれをロトやんの手が掻き集め、用意しておいたクッキー用の缶にザラザラと流し込む。ゴーさんにドダイトス、そんな目をしてもあげないからね。
なにせこのクッキーは、ナタネちゃんへの贈り物なんだから。
「ほい」
「はい?」
「ナタネちゃんはブリーの実のクッキーが一番好きだったよね?だからあげる」
蓋を閉じただけのクッキー缶をナタネちゃん……というかハーさんの雨受け皿に乗せる。ハーさんは迷惑ってわけでもなさそうだ。
呆然としているナタネちゃんを余所に、僕はさらさらっとメモ用紙にこの店の住所を記し、それを切り取ってナタネちゃんの指と指の間に挟み込む。
「もし食べたくなったら、またここに遊びに来るか、手紙を送ってよ。いつでも美味しい木の実菓子を作って、この裏庭で待っているからさ―――僕ら、友達だもんね」
身勝手な妄想じゃなければいいんだけど。ナタネちゃんには是非とも遊びに来て欲しいし、手紙を出して欲しい。その時は大歓迎するさ。
ロトやんも僕の背の陰でオドオドしながらも、ナタネちゃんにペコリと頭を下げる。短かったしまだ慣れていないけど、この子もナタネちゃんと遊べて嬉しかったみたいだし。
呆然として僕を見るナタネちゃんだけど、次第に口をへの字に曲げ……あ、泣き出した。
「泣いてるの?」
「泣いてない!」
しっかり泣いているよ。強がりしちゃって。
ナタネちゃんは袖で涙を拭き取ってハーさんを降ろし、僕が渡したメモに何かを書き加え、そこだけ千切った物を僕に握らせる。
「手紙、帰ったら絶対に出します!後ライブキャスター買ったら、ここに連絡してください!」
どうやらメモに書いたのはナタネちゃんのライブキャスターの番号らしい。僕は笑みを浮かべて頷き、そのメモ用紙をポケットに入れる。
手渡した僕の手を両手でぎゅっとにぎり、ブンブンと振りだした。敢えて逆らわず、されるがままにされる。
「シンオウ地方に遊びに来るときは言ってください!大歓迎しますから!手作り菓子、期待して待っていますから!」
「うん。もちろんだよ」
最後に菓子をねだる辺りは彼女らしい。だから微笑ましい。
もう一度袖で目元を拭った後、ナタネちゃんは「行くよ」と言ってハーさんを除くポケモン達をボールに戻してトロピウスに跨る。
―あ、そういえば聞くの忘れてた。
「ねぇナタネちゃん、実は初めて会った日からずーっと気になっていたんだけど……君って結局、何者なの?」
強く育っている草ポケモンを持っていて、仕事が出来て、アスナさんとも親しい……自称「草ポケモンが好きなだけのトレーナー」。
徐々に彼女を知っていく中、彼女が只者でないことと、何かを忘れているような気がしてならない感覚が増えていく事が解ってきた。
だから今更だけど―――否、今だからこそ聞いてみる。彼女は何者なのか。
当のナタネちゃんは目をパチクリして呆然とした後―――唐突に笑い出した。
「ふっふっふ……」
な、なにさその含み笑いは……っと、トロピウスの背に立ち、首元に手を添えてこちらを見下ろしてきた。
「今まで黙っていてごめんね……草タイプが好きなだけのトレーナーとは、私の仮の姿」
黙っていてごめん?仮の姿?な、なにがはじまるんです?
「しかし、その実体は―――!」
――そ、その手に掲げたバッジはまさか……ハクタイジムのシンボル「フォレストバッジ」!?
「シンオウ地方ハクタイジムリーダー……ナタネなのよ!」
「な、なんだってーーー!?」
思い出した思い出した思い出したぁぁぁぁ!ここんとこホミカさんに夢中ですっかり忘れてたぁぁぁぁぁ!!
「は、『映える緑のポケモン使い』、ナタネちゃん!?今まで気づかなかったけど本物?本物なの!?ていうか本物だぁぁぁ!こういうのもなんだけど、草タイプ好きとしてあなたの大ファンです!サイン下さい!」
うっはー!今更だけど改めてみると前に見たテレビ番組に出てた姿そっくりだ!なんで気づかなかったんだろ、ていうか理由言ったよね恥ずかしい!
世間じゃ草タイプジムリーダーっていえばエリカさんがメジャーだろうけど、個人的にはナタネさんの方が良いと思う!草タイプの技で豪快に圧す勇姿がカッコイイから!
……あ、呆れてる?呆れているんでしょ!?今更になって気づいたのコイツ、みたいなバカにしているような顔をして!自分でもバカだと思うけど!
ナタネちゃんはクスっと笑った後、トスンとトロピウスの背に跨り、トロピウスが羽ばたき出す。
「次に会えたらサインあげるからね、おマヌケさん!バイバイ!」
そう茶目っ気にウィンクした後、トロピウスは大空へと羽ばたいていった。ハーさんが短い前脚で手を振っていたような。
空の果てへと吸い込まれていくトロピウスの背を、僕は呆然と見送っていた。
「今度お詫びの手紙を送ろ……お菓子付きで」
―続く―
最近はホミカブームだったからナタネのことをすっかり忘れていたというマヌケさん。
すっかり忘れていた時点でファンじゃないよねって話はしないであげて(汗)
もうちょっとだけ続くんじゃよ。
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その19.5「動き出す組織」
大きな庭のきのみ屋でハヤシとお別れした後。
ルネシティの港町から離れ、徐々に地平線の彼方に消えつつあるホウエンの大陸を甲板から眺め続けていた。
ハスボーを抱き寄せたままボーっと眺めている中、突如としてライブキャスターが鳴り慌てて画面を開く。
「もしもーしって、オーバさんじゃないですか。久しぶりですね!」
『おう、元気そうだな』
画面にはシンエウ地方四天王が1人・オーバの姿が映っていた。
『明日からジム職に復帰するなら、今ごろ船に居るだろうって踏んでな。ホウエンは楽しかったか?』
「すっごく良い場所でした!良い人にも出会えて、良いポケモンも沢山ゲットできましたよ!」
「ねーハスボー」と頭の上で寝ていたハスボーを起こさないように小さく声をかけるナタネ。
相手側の画面にハスボー付きの顔が映ったからか、オーバはプッと吹き出し笑顔を浮かべた。
『そっか。楽しかったようでなにより……つーか、なんかニヤニヤしてっけど、何かあったのか?』
「さーて、なんででしょうね?」
思い出すだけでニヤニヤしてしまうが、ナタネは敢えて黙っておく。
ハヤシにジムリーダーとして名乗れたこと、それに驚いてくれたこと、そして自分のファンであったことなど、予想外な反応に嬉しくなってしまうからだ。
はぶらかすナタネは置いておくことにしたのか、オーバは話を切り替えようとする。
『まぁいいとして……それよりビッグニュースだ。明日からさっそくジム戦に入るだろうから、ジムリーダーとして聞いといた方がいい』
「な、なんですか?」
一転して真面目な表情を見せるオーバに戸惑いつつナタネは尋ね……知る事になる―――シンホウ地方のジムリーダーにとって驚愕の事実に。
―――
「エ、エレキブル戦闘不能!よって、挑戦者の勝利です!」
審判でありながら信じられないという表情を浮かべ、しかし審判として事実を告げる。
―――負けた、か。
それが、シンオウ地方に君臨する8つのジムが1つ、ナギサジムのリーダー・デンジが浮かんだ言葉だ。
しかし今日の敗北はいつものジム戦とは違い―――充実し、そして言い逃れ出来ないぐらい熱くなれたバトルができた。
高まったテンションが落ち着く独特の心境を久々に味わいながら、デンジはモンスターボールを掲げる。
「ご苦労さん」
満身創痍と言った感じに気絶しているエレキブルをボールに戻し、全滅した己のポケモン達に簡素な称賛を告げる。
余計な言葉は要らない。ポケモン達も久々に燃え尽きて本望だろうから。
「刺激的なバトルだったよ、挑戦者。このビーコンバッジはお前さんのもんだ」
デンジは礼を述べ、懐から取り出したバッジを投げる。
傍から見れば不敬な行為だろうが、この挑戦者は気にするような奴ではないと知ったので、気にしない。
片手で難なくバッジを受けとり、挑戦者はデンジに向けニコリと微笑む。
「ありがとうございます。良きバトルでしたよ」
穏やかな口調でお礼を延べてから、己のポケモンをボールに戻す。
挑戦者はストレートの赤毛に赤いスーツを纏った、全身を燃えるような赤で統一した変わり者の青年だった。
今でこそ穏やかな表情を浮かべているが、時節見せる刺すような眼差しを見たデンジは察していた―――こいつはかなりの手練れだと。
久々の強者故に情報が欲しくなる。デンジはそれらを可能な限り引き出そうと、尋ねる。
「他のジムリーダーから聞いていたが、まさかここまで早く制覇できるとはな」
最初に挑戦したクロガネジムを制覇したと聞いてから今日まで1ヵ月。この間に殆どのジムリーダーを倒してきたと聞く。
デンジと同い年の青年とはいえ、ここまで早い期間でバッジを収得するトレーナーはそうは居ない。だからこそジムリーダーからリレー越しにデンジ伝えてきたのだ。
しかし赤毛の青年は微笑んだまま首を振り、人差し指を掲げる。
「情報がお早いようですが、1つ訂正を。ハクタイジムがまだ残っております」
「ハクタイジム?」
そういえば忘れていたが、ハクタイジムリーダーのナタネは1週間前から休暇を取り、ホウエン地方に遊びに行っていたはずだ。故に、残るジムはハクタイジム、という事か。
しかし青年の答えは、デンジの予想とは違っていた。遠くを見るように―――ハクタイジムがある方角へと顔を向けてから囁く。
「ハクタイは良い。緑が映えるあそこは、ソノオタウンの次に好きな場所です。だから最後にしておきたかった、それだけですよ」
デンジの探るような視線を見据え、赤毛の青年はクスリと笑う。こちらの意図を読まれたような態度を見たデンジは少し不満げだった。
「では私は用がありますので、これにて」
しかし赤毛の青年は振り向きもせず、そして気にする様子も無く、ナギサジムを出んと歩き出す。
デンジもコレ以上は無駄だと解った途端に興味が失せ、いつものダルそうな表情に戻る。
そしてデンジは、先ほどまでバトルが行われていたステージを見渡す。
「あの野郎……せっかく改造したジムだってのに、ひでぇ事しやがる」
巨大な歯車を幾多も並べ、面倒な仕掛けとカラクリを豊富に揃えたデンジ自慢の改造ジム。
それらがバトルステージの影響を受け、砂と岩と泥と草で汚れまくっているのだから。
ポケモンバトルが繰り広げたステージに至ってはもっと酷く、まるで岩山に居るかのように巨大な岩がステージを囲み、床は砂で埋もれ、砂の床からは幾多もの双葉が芽生えている。
機械チックなジムが一転、自然に満ち溢れた場所に変貌しているのだった。
(まぁ、さらに改造できるからいいが)
デンジの頭の中には、既に改造後のジムの構図が浮かび上がっているのだった。
シンオウジムリーダー最強の男デンジが早々に敗退。本気と本気のぶつかり合いをして、だ。
ジムリーダー内で密やかに騒がれている事実は、シンオウ地方へ帰宅中のナタネにも伝わっていた。
―――
私です……ええ、そちらこそご苦労様です。当初よりもご連絡が遅れてしまい申し訳ない。
それと私の事をボスと呼ばないように。私達にとってのボスはあの方だということを、どうかお忘れなく。
……なるほど、例の件は予想以上の結果になりましたか。そこらの雑魚を使ったにしては実に良き事、カモフラージュには充分でしょう。
こちらも残すジムは1つになりました。そろそろ実行が近いと考えていいでしょう。
打ち合わせ通り主力部隊をこちらに寄越し、残りの部隊は各地で低規模かつ低俗な活動を続け、カモフラージュするよう伝えておきなさい。
……もちろんあなた方にも来ていただきます。元は只の下っ端でしかない私達3人がここまで来たのです。むしろ最後まで付き合って貰うよう頼むのは私の方でしょう。
期待していますよ、カトリにヒバナ。その手腕を、ここシンオウ地方でも存分に振るってください。
そして願っていてください……マグマ団復活の為のこの作戦が上手く行くことを。
ああ、マツブサ様。私が敬愛するボス。……このエンザン、あなた様が帰還する日を願い、ここまで任務を遂行してまいりました。
マグマ団復活の為、ドンと派手に行います。何処へ消えてしまったマツブサ様、ホムラ様、カガリ様がお戻りになるよう……盛大に。
手はずは整えております。ホウエン地方であたかも残党であるかのように見せかけ、裏でシンオウ地方に団員を集わせ、私が各地を巡り情報を収集し、
……残すジムバッジは1つ。私が愛するシダケタウンを思い返すハクタイの森に近いジムを制覇すれば、作戦は最終段階に進められる。
あ、後で「もりのようかん」でもいただきましょうか。
―続く―
本当はアクア団の裏活動も書きたかったけど、余計だし量が増えて更新が遅れるだろうと書かなかった寂しさ(苦笑)
ここでお知らせですが、しばらく本編の更新をお休みさせて頂きます。2~3週間ぐらい。
その間は「ポケモンハン」及び「ポケライフ」を投稿しようと思います。ご了承ください。
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ポケモンハン「水亀カメックス」
今回は中身が薄いです、すみません(汗)
ポケモンハン「火炎竜リザードン」大幅に修正しました。
9/3:誤字修正。土砂竜が雷様ポケモンになってました(笑)ご指摘ありがとうございます。
モンスターが蔓延るのは地上だけではない。空、山、そして海と、人間では容易に足を踏み入れない場所を広範囲に行き来することが出来る。
しかしハンターは時には海深くまで潜ることだってある。海の恵みを求め開拓する人々をモンスターから守る為だ。
海という狩猟場で最大の敵となるのは、やはり海竜種だろう。魚竜種の発見が先とはいえ、数や種類は海竜種の方が多い。
中でも水獣ロアルドロスと呼ばれるモンスターは、ハンターにとって海竜種の登竜門とも言えよう。ちなみに個人的に獣竜種の登竜門は土砂竜ボルボロス。
ロアルドロスは淡水から海水まで広く生息し、水辺と一定の温度を保てる環境さえあればあらゆる地域で見かける事の出来るポピュラーな海竜種だからだ。
とはいえ、ロアルアドロスも含めた海竜種は一部を除いて陸上での活動を得意としていない。
水陸両用と聞けば便利だと思うだろうが、どちらを優先して進化したかによって体つきや特徴は変化していくものだ。
ロアルドロスは水中での活動を中心にしたもの。体内の狂走エキスにより陸上でも活動できるものの、負担がある為に動きは鈍いし、適度に水分を補給しなければ弱るという弱点もある。
まぁ、動きで言えばロアルドロスが相手しているモンスターの方がもっと悪いだろうが。
暖かな日差しが降り注ぐ孤島。モガの村に近いこの場所は澄んだ水と広く深い海が広がり、海の幸が豊富に取れる自然の宝庫でもある。
そんな孤島のエリア10では、この辺りを縄張りとしているルドロス達が集い、ある戦いを目撃していた。
一匹はルドロス達のリーダー格であるロアルドロス。ほんの僅かな海水が地に広がる浅瀬に身を投じ、目の前の敵に向けて威嚇している。
対するのは―――見た事も無い、亀のようなモンスターだった。
大きさはロアルドロスの半分もなく、妙に丸い形状をしている。小さく見えるがこれでも立派に育った方らしい。
丸い甲羅からは短い手足が生え、短い尻尾と両足を使って仁王立ちし、やや前方面へ傾けた姿勢でロアルドロスを睨みつけている。
何よりも特徴的なのは背中に背負った一対の筒のようなものだ。甲羅から生やしロアルドロスに向けられたそれは、まるで大砲のよう。
カメックス―――この世界とは異なる世界からやってきた「こうらポケモン」だ。
甲羅や手足には無数の傷があり、特に顔は目から口まで伸びる刀傷が痛々しく残っている。
カメックスは眼前のロアルドロスを睨みつけているものの、その頬には海水とは違う塩水が滴り落ちている。
ロアルドロスは溜め込むようにして重心を後ろに下げ、一気に放出して滑りながらカメックスに突っ込んでいく。
己の身体上、避けきれないと判断したカメックスは甲羅に手足と首を引っ込め防御。直前にロアルドロスはブレーキをかけつつ側面を向けることで顔面直撃を回避し、体全体をつかってカメックスを吹き飛ばす。
巨体をまともに受けて甲羅は大きく吹っ飛ぶが中身は無事だったらしく、海の岸辺で止まった所で手足と頭を出す。しかし痛かったには違い無いだろう。
海辺に近づいたことを切欠にカメックスは足元の水を大量に吸い上げだす。ロアルドロスはそれを見るよりも先に走りだす。
大量の海水を呑み込んだカメックスは2本の砲塔をロアルドロスに向け―――
激流となった2本の水柱をモロに食らったロアルドロスは水圧によりグイグイと押し出させ、ルドロス達が屯っていた場所に激突。ルドロスは逃げ出したものと壁にサンドイッチされたものが半々。
それを逃さぬとカメックスは再び甲羅に篭ってそのまま横に回転し、水が張っていることも助かって滑りながらロアルドロスに突っ込んでいく。
だが重さはロアルドロスが上。ただ硬いだけの甲羅が転がってきただけではロアルドロスに致命傷は与えられない――が、ダメージはある。
ぶつかってきた痛みで怒りを覚えたロアルドロスは、まだ甲羅に篭っているカメックスを頭で押し、ひっくり返しそのままグイグイと海へ向かって押していく。
這い出たカメックスは焦った。ひっくり返った状態では身動きがとれず、砲塔から水を噴射してもロアルドロスの重さと力強さにより押される一方だったからだ。
そのまま2匹は海へ飛び込み―――水中戦へと突入するのだった。
―――
ロアルドロスは元から水中戦に特化している為、直線的な動きが多いにしろ、陸上に比べ縦横無尽に泳ぐことができる。
その辺を泳いでいたルドロス達の助けもあり、包囲網も万全だ。
しかしカメックスは水を得た魚の如き反撃を見せる。
陸上では己の重さ故に使えなかったが、水中に入ることで甲羅の隙間から水を吐き出す「アクアジェット」で推進力を得たのだ。
これによりスピードは向上。まるでロケットのように水飛沫を上げながら海中を泳ぐ姿に、ルドロス達もタジタジだ。
だがロアルドロスはそうではない。仮にも自分達の縄張りを侵してきたカメックスを許せないのだ。
カメックスもそうだ。複数のモンスターに囲まれているとはいえ、ここの魚を食べる為に、己の強さを彼らに証明しなければならない。
今、水獣ロアルドロスと
始まらなかった。
―グオオオォォォォ!
海竜種の代表にして頂点とされるモンスター……海竜ラギアクルスが余所から流れ着いたからである。
ロアルドロスも、そしてカメックスですらラギアクルスの恐ろしさは知っている。
ロアルドロスは遺伝子に刻まれた本能として、カメックスはラギアクルスと戦って惨敗経験があるが故に。
バリバリと海中で発電するラギアクルスが2匹の争いに割り込もうとして、2匹(+その他大勢)は逃げ出した。
海の食物連鎖の頂点に君臨するラギアクルスを前にしては、ロアルドロスもカメックスも劣るというもの。
カメックスに至っては弱点である電気を克服できないが故に恐怖ですら覚え、ジェット噴射を強め水中どころか空をも飛んで逃げ出すほどだ。
かつて「俺こそが最強!」と小さな海辺を我が物顔で支配していた野生のカメックス。
余所から来たトレーナーに敗北して逃げ出して異世界に紛れ込み、ラギアクルスという超強いモンスターに遭遇し惨敗した不運な奴。
いつか最強の座をゲットしてやる!と強気なカメックスは、今日も餌を求めてどこかへ行くのだった。
―後日、孤島で謎の飛行物体の目撃証言が相次いだが、何事も無かったかのように忘れ去れたそうな。
―完―
上には上がいるってことを書きたかったんです。ちなみに甲羅の硬度はバサルかグラビ並(妄想)。
ラギアキルスは電気/水タイプ。けど水/ドラゴンも捨てがたい。ポンデは単水確定ですね。
次は御三家が一体「フシギバナ」の予定です。募集するならその後かな?
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ポケライフ「アスリート・ハルカの場合」
今回のポケライフテーマは「トライアスリート」です。お仕事というより趣味に近いですが。
3/2:後書きにてトレーナー情報追加
―だるい。疲れた。しんどい。
そんな言葉が頭の中を占める中、私は走り続ける。
雨に打たれ、強風に吹かれ、サングラス越しでも雨水と風で見えにくくなる。
体中の筋肉が悲鳴を上げ、呼吸は荒くなり、雨水と汗で衣服がビッショリと濡れていた。
けど私は走る。遠いと思っていた目的地がすぐそこにあるからだ。
当初はとても遠いと思っていたのに、夢中になって走ると時間を忘れちゃうんだね。
いつしか雨雲は嘘のように晴れ渡り、走り続けた私を迎えるかのように眩しい光が差し込んでくる。
ああ、まるで出来すぎた物語みたい。けど私は喜びのあまり、辛かったはずの足が軽くなる気がしてきた。
そして私はついに―――――!
「とうちゃ~く!」
ヒマワキシティから120番道路を通り、ミナモシティに到着!やった、私
……あれ?皆どこに行ったのかな?てっきり後ろについてきているとばかり思っていたけど。
まさか走っている途中で迷子になったとか……流石にないよねぇ~。
―――
120番道路の空には雨雲が浮かんでいるが、そこを抜けたミナモシティでは穏やかな日差しが差し込んでいる。
そんなミナモシティの入り口付近に1人の女性がソワソワしながら待っている。トライアスリートのカナタだ。
彼女はある人物を待っているのだが、ヒマワキシティで別行動を取った直後に降ってきた大雨を前に、徐々に不安になってきたのだ。
すると彼女のポケモンであるドドド(ドードリオ♀)がコツコツと軽めにカナタの頭を突きだし、我に戻ったカナタはその先を見る。
赤いスポーツブラとスパッツを着込み、赤いバンタナを頭に巻いた女の子―――ハルカがこちらに向かって走っていた。
不安げだったカナタの表情がパッと明るくなり、背負っていたリュックから大きなタオルと美味しい水が入ったペットボトルを取り出す。
「とうちゃ~く!」
「ハルカちゃんお疲れ!はいコレ」
息切れしながらもガッツポーズを取るハルカをカナタは迎え入れ、ペットボトル飲料を手渡すのだった。
ハルカはさっそくペットボトルを受け取り、飲む。喉が渇いているからと飲みすぎず、ゆっくりと。
「そういえばハルカちゃん、あなたのポケモン達はどこへ?」
ふと気づいたカナタはハルカの後ろを見て問いかける。
確かヒマワキシティを出る直前まで、バシャーモ・ザングース・ライボルトも一緒に走っていたはずだが。
ペットボトルを口につけたままハルカは後ろを振り向き……。
「……さぁ?」
本気で解っていないように首を傾げるのだった。
相変わらず走る事となると夢中になりすぎる子なんだなー、とカナタは呆れ半分尊敬半分の気持ちを抱くのだった。
―――
ハルカの手持ちポケモン達は、ハルカがミナモシティ入り口に着いた30分後に合流することが出来た。
麻痺した傷らだけで毒液まみれのザングースをバシャーモが担いで。麻痺させた張本人だろうライボルトはいつも通り冷静だった。
この様子から見て途中でハブネークに出会い決闘をし出したのだろう。豪雨の中でも頑張ったのか、バシャーモは特に息が荒かった。
そんな彼らにハルカが気づかずココまで走り続けたのは、きっとランナーハイになっていたからだと思われる。
とりあえず皆にお疲れ様と声を掛け、ハルカとカナタはフエン煎餅と美味しい水を振舞うのだった。
ところ変わって、2人とポケモン達はミナモシティにあるカナタの家に居た。
シャワーを浴びてスッキリしたハルカはカナタと自分のポケモンしか居ないからとハレンチな格好をしているが、ハルカもカナタも付き合いが長い為、気にしていない。
……どんな格好かって?少なくとも裸ではないな。
「しっかし随分とタイムが縮んだね~」
「そうかな?」
ワシワシとタオルで頭を吹いていたハルカは自覚がない為に首を傾げるが、タイム測定してくれたカナタが言うのだからそうなのだろう。
「そうだよ。この調子ならトライアスロンも夢じゃないよ」
ハルカは嬉しかった。トライアスリートとしての先輩でありコーチでもあるカナタのお墨付きだからだ。
世間はポケモンに関する大会に注目が集まっているが、決してポケモンばかりではない。
「ポケモンと付き合うにはまず体力から」という言葉があるように、ポケモンは人よりも優れた身体能力を持つ者も多く、付き合うには相当の体力を要することもある。
その為に趣味でスポーツをするトレーナーも多く、トライアスロンといった長距離を走る大会も番組としては人気だ。
ハルカもまた大地を駆け抜け海を渡るトライアスロンに興味を持ち、日々カナタの指導を受けて特訓している身だ。
ランニングにサイクリング。ここまでは順調なのだが……。
「後は泳ぎを覚えるだけね」
「う……っ!」
しかし悲しきかな、今までルンパッパに乗っていた為か、ハルカはまだ泳げないのだった。
バシャーモ達3匹も「イイ加減泳げるようになろうぜご主人」と言っているかのように生暖かい目で見られる始末。
キラキラと輝く水平線を眺める彼女の視線は遠く、表情は険しい。それだけ泳げない事を自覚しているのだと察してください。
「なんならユウキ君に泳ぎを教わればいいのに」
カナタが冗談交じりにそういうと、ハルカは顔を赤くしてカナタを見る。
「べ、別にユウキ君に頼る必要はないもん!」
「強情な子ねぇ。いやユウキ君も強情なんだけど」
そっぽを向いて再び海を眺めるハルカを見たカナタは、両想いでありながら強情故に認めようとしない少年少女を思い出して笑う。
ハルカは知らないだろうが、カナタはミナモシティのダイビングツアーで度々ユウキを見ている。そしてユウキもミナモシティで特訓しているハルカの存在を知らない。
バッタリ会った時の2人がどうなるのか楽しみだ―――20代独身のカナタは己の状況下を理解しないままほくそ笑むのだった。
―――
ハルカと呼ばれる少女は、元チャンピオンであるユウキと過去幾度と戦ってきた強者だ。
移動手段は足か自転車のみという彼女とそのポケモン達は凄まじい脚力とタフネスを誇り、別名「ド根性ガール」という名で知られている。
彼女もまたマグマ団とアクア団の野望を阻止した貢献者であり、大地を創造したとされるポケモン・グラードンと対峙した経験を持つ。
彼女は現在、トレーナーでありながらトライアスリートとしての道を歩んでいる。
先輩であるカナタの指導の下、いずれはトライアスロンに出場し、ホウエン地方を己の体だけで一周することを夢見ているのだ。
いつどこで走っているのかは解らないが、彼女はこのホウエンの大地の上ならどこでも走っているだろう。
また、本業がポケモントレーナーとだけあってポケモンバトルも強い。
足があるポケモンなら必ずと言っていいほどランニングに付き合わせる為、彼女のポケモンは総じてタフで素早い。
バトルはもちろんのこと、ポケモン達が三つの競技を行うとされる「ポケスロン」でも上位に君臨するほどの実力者揃いだ。
特に彼女のパートナーであるバシャーモは足技が尋常でないほど強いので、挑む時は注意しよう。
かといって、もしトレーナーに直接攻撃しようなら止めた方がいい。ハルカ自身もバシャーモから鍛えられているので強いからだ。
自身とポケモンを心身ともに鍛え上げるアスリート・ハルカ。彼女は今日も、大地のどこかを走り続けている。
しかし彼女は未だカナヅチ。泳げるようにならない限り、トライアスロン出場への夢はまだまだ遠いようだ。
―完―
●ハルカ
ホウエン地方出身のトライアスリート♀。頑張り屋な性格。ちょっぴり強情。
頭よりも体が先に動く直感タイプ。体を動かす事が大好きな元気娘。笑顔が眩しい女の子。しかしカナヅチ。
ホウエン地方を己の体だけで制覇することを夢見てトライアスリートの特訓をしている。しかしカナヅチ。
『つるぎのまい』や『ビルドアップ』といった強化系を使ってから戦うのを好む。攻撃型。
ハルカとユウキはラヴです。けどお互い個性が「ちょっぴり強情」だから認めようとしないという(笑)
そんなわけでポケライフ「トライアスリート」編。いかがでしたか?
ポケモンばかりじゃないだろうと思い、女の子主人公だけどスポーツに走らせてみました。
前回は仕事なのに対し、今回は趣味というイメージで書いてみました。
ポケモンとあまり関係なくね?とお思いでしょうが、トレーナーがスポーツに走ればポケモンもスポーツに強くなると思うんですよ。
だからハルカもポケモンも総じて心身共に強い子なんです!多芸はわが身を助けるともいいますし(違う気が)
さて、次回はキモリを選んだトレーナー(オリキャラ予定)のポケライフを書こうかどうか……。
いっそポケモンハンごとリクエストを設けるかゲフンゲフン
ではでは!
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ポケモンハン「花蛙フシギバナ」
お相手は我らが先生ことイャンクック。けど可哀想なポジションです(コラ)
今回も短めです(汗)
木漏れ日が注がれ大地を照らし、そこらへんを這っていたクンチュウ達を照らす。
温かな日差しが差し込む未知の樹海は今日も―――波乱万丈であった。
クンチュウの甲殻が日差しを反射し輝いたのが切欠なのか、彼らを好物とするイャンクックが空から舞い降りてきた。
天敵がやって来たことでクンチュウは慌て、這って逃げるもの地中へ逃げるもの転がって逃げるものの三つに分かれてイャンクックから逃れようとする。
しかしイャンクックにとっては大した問題ではなく、手始めに地中へ潜ったものをスコップのような嘴で地面から掘り出し、それを飲み込む。
硬いクンチュウでも丸呑みにして消化するクック先生マジパネェ。柔らかい部分から消化しているんだろうけど。
数歩進んでは掘り起こしてクンチュウを丸呑みし、数歩進んではクンチュウを丸呑みにし……イャンクックはある物を発見する。
日差しを独り占めできるそこに、巨大な花が咲いていたのだ。大きさはリノプロスほどだが、花にしては巨大だろう。
強敵も居ないことで余裕があるイャンクックは花に興味が沸いたようで、トコトコと歩いて近づき、間近で観測する。
しきりに首を傾げ嘴で突こうとする中、モゾモゾと花が動き―――突如として黄色い煙が舞う。
臆病なイャンクックはこれに大層驚き、翼を広げ後方へと一気に飛んで距離を取った。
黄色い煙が晴れた後、花はより一層激しく動き出し、地中から何かが出てくる。
それは緑色をした蛙のようなモンスターだった。大きさはイャンクックとドッコイドッコイ。
とはいえ、テツカブラやザボアザギルといった両生種にしては足が短く、丸っこいイラスト風の蛙のような見た目をしている。
そのモンスターの背中には先ほどイャンクックを驚かした花が生えており、体と花が一体化していることが解るだろう。
このモンスターも、異世界から流転してきた「ポケットモンスター」の1体。
名はフシギバナ。この世界風の異名をつけるとすれば「
さて、地中から這い出たフシギバナは「ビックリしたやろ!」と怒っているイャンクックを睨みつけて思う―――相性滅茶苦茶悪いな、と。
このフシギバナは未知の樹海に入って日が浅いとはいえ、イャンクックぐらいなら何度か遭遇したことがある。ここではクック先生の遭遇率が高いのだ。
嘴は痛いわ炎は吐いてくるわと、草タイプであるフシギバナにとってイャンクックは相性が悪く、なるべく関わりたくない相手であった。
とはいえ、イャンクックは一度怒り出すと自身が弱るまで戦い続けるから、追い出すのはムリだろう。
怒って我武者羅に炎を撒き散らすイャンクックから距離を取りつつ、フシギバナは戦って追い返す事を決意。やり方次第ではイャンクックを返り討ちにできるから大丈夫だ。
そうと決めたフシギバナは、気合を表す為に咆哮を轟かせる。その声はどことなーくテツカブラに似ていた。
音に敏感なイャンクックはフシギバナの咆哮に怯むものの、フシギバナに攻撃を仕掛けんと突撃。先生としてフシギバナに自然界の厳しさを教えてやるようだ。
フシギバナ自体は動きが遅い為、敢えて動かない。代わりに背中に生えている花から蔓を伸ばし、イャンクックへと勢いよく向かっていく。
蔓はバタバタと歩くイャンクックの足を払い、転んだイャンクックは勢い余ってゴロゴロと転がっていく―――フシギバナの前で。
おかげでフシギバナとクック先生がゴッツンコ。もし硬いまたは刺々しい甲殻だったら柔らかなフシギバナにダメージが入っていただろう。重いから結局痛いが。
フシギバナを上から背で押し付けたクック先生は起き上がりたいとバタバタ足と翼を動かすが、逆にフシギバナの頭をバシバシ叩く結果に。
ポケモン風に言うなら「にどけり」・「つばさをうつ」の連続攻撃だろうか。効果は抜群だ、というより頭に当っているからフツーに急所で痛い。
大きさは似通っていても、育った環境が違う為にクック先生の方が圧倒的に重い。
しかしこのフシギバナにはタフでパワーがある。太い四肢に力を込め、よっこいしょと右半身を上げて背中のクック先生を落とし、四股を踏んでから逃げ出す。
ノッシノッシと逃げ出す際に、花から先ほどと同じ黄色い粉をばら撒く。「しびれごな」だ。
この世界のモンスターは状態異常への耐性が強いらしく、クック先生ですら「しびれごな」をマトモに受けても動けてしまう。
だが埋まって潜んでいいたフシギバナ近づいた時に放った「しびれごな」も合わさったことで、クック先生は仰向けに転がったまま麻痺状態に陥ることに成功。
ここで逃げ出せばいいのだろうが、しかしフシギバナは振り返って麻痺しているクック先生を睨みつける。
この世界のモンスター、特に鳥竜種は痛い目に合うとそのモンスターから逃げ続けることが多い。フシギバナが未知の樹海で学んだことだ。
なので叩く。フシギバナは木々から差し込む光を見上げた後、花にエネルギーを集中する。「ソーラービーム」を撃つつもりだ。
―ようやく麻痺から解き放たれ起き上がったクック先生が目の当たりにしたのは、視線一杯に満ち溢れる光だった。
「ソーラービーム」をマトモに受けたイャンクックは黒焦げになり、体を引きずってフシギバナから逃げ出そうとする。
殺しはしない。ポケモン特有の優しさもあるが、殺せば調子に乗ったランポス達が繁殖して自身に襲い掛かる事も理解しているから。
何よりも、イャンクックを殺そうものなら、別の大型モンスターの注意を彼に逸らすことが出来ないからだ。擦りつけともいう。
未知の樹海は様々なモンスターが生息している。その中には当然、フシギバナが戦っても敵わない危険な相手も大勢居る。
むしろ同じモンスターでも実力の差が大きく違う。あのイャンクックだって、先月戦った別のイャンクックよりも小さかった。
ポケモン達の世界でも同様で、同じポケモンでも経験の違いだけでも強さに大きな差を生じることがある。この世界のモンスターはそれ以上に解りづらい。
フシギバナがこの世界で学んだことは「油断大敵」。特にこの樹海では何時どんな時にどこで襲われるかなんて解っちゃもんじゃない。
なので基本的には地中に体を潜らせ、花となって擬態して過ごすことが多い。見つかりさえしなければ大抵は難を逃れられたし。
しかし戦えると解ったら戦って追い返すというあたり、このフシギバナが狡賢い一面を持っているということだろう。生に執着していることあるが……。
とはいえ、このフシギバナとて生命だ。生き残るためならあらゆる手段を用いて生き抜く覚悟がある。
各種状態異常による攻撃も有効だし、大概のモンスターに大ダメージを与えられる必殺技もある。先の「ソーラービーム」と―――「ハードプラント」だ。
フシギバナが生き抜こうと決めた理由。それは元の世界へ帰還し、己のトレーナーと再会すること。
フシギダネの頃から大事に育ててくれた少女の姿を忘れられないフシギバナは「今日も勝ったよ」と伝えるかのように空を見上げ、地中へと潜るのだった。
―完―
フジギバナは日々若手から熟練といった多くのクック先生から学んでいる立場であります。
今回の展開は温めでした。相手がクック先生だから調子に乗っちゃったんですよ、悪いフシギバナだ(コラ)
短いとはいえ無事に初代御三家を登場させることに成功しました。強さの比較とかはともかくとして(苦笑)
リザードンを始めとして様々なご指摘や感想を頂けましたが、ポケモンハン自体は概ね好評だと思っております。
まぁポケモンに比べモンスター側に圧倒的な差がありますが(苦笑)
とりあえず三体分書いてみたポケモンハン。私的には満足ですが、読者の皆様はどうなのか。
今後の読者の反応を、次回更新予定のポケライフ共々、見極めたいと思います。
読者様の感想・ご指摘・評価・辛口コメント・ご希望、なんでも良いのでお待ちしております。
ではでは!
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ポケライフ「けんきゅういん・クータの場合」
今回のポケライフテーマは「宇宙研究員」です。お勉強に励んでいる身です。
短めでしょうがご了承ください(汗)
9/28:サブタイトル変更
ヒワマキシティ生まれミシロタウン育ちのポケモントレーナー・クータ。
好奇心旺盛でありながらしっかり者で、どういう訳か金髪をクロワッサンみたいな髪型にする事に拘っている。
彼は幼少の頃から背が低く、同い年であるユウキより頭1つ分低い為に大抵は子ども扱いされているのが悩み。
だからか、彼は高い所を好んでいる。自分より高い他人を見下すのではなく、高い所から見る光景が好きだからだ。
そんな彼の夢は、誰よりも高い場所に上ること。
ユウキ・ハルカと同時期にオダマキ博士の頼み事を引き受けたのも、ホウエンを見渡せるような高所を周る旅のついででしかなかった。
最も、二つの悪の組織に挑むユウキ・ハルカのサポートに回っていたとはいえ、図鑑の完成度が一番高かったのはクータだったが。
そんな彼は、憧れの場所がある。それは――――。
―――
トクサネシティ。南国のこの島では宇宙センターがあり、何週間かに一度はロケットを打ち上げている。
そのトクサネ宇宙センターの資料室に、1人の少年が本を読んでいた。クータである。
大勢の利用客が宇宙関連の資料を探したり読んだりしている中、椅子に腰掛けているクータは難しい顔をして読み続けている。
しかし地方唯一の宇宙センターということだけあって読んでいる資料は難解極まりなく、クータの頭からは知恵熱で生じた煙が漏れていた。
隣ではパートナーのジュカインが心配そうにクータを見ている。ちなみにこの資料室では迷惑さえ掛けなければポケモンの同伴は可能だ。
時間が立つに連れて煙の量と濃度が増えていき……やがて暴発。
脳の処理能力が追いつかなくなったクータは一瞬にして気が抜けてしまった。ジュカインの支えがなかったら倒れていた所だ。
「く~あ~……」
「大丈夫かいクータ君?」
魂でも抜けているんじゃないかと心配になったのか、白衣の研究員がクータに声を掛ける。
「あ、お邪魔しています。正直、大丈夫じゃないですね……」
倒れかけから一気に復活。礼儀よく挨拶するも、頭を使いすぎた疲れは隠し切れないようだ。
「丁度よかった。フウとランがバトルの練習に付き合って欲しいって」
「フウとランが?」
思い描くのはトクサネジムリーダーを務める双子の元気な姿。
クータがここトクサネシティで一人暮らしを始めてから双子とはよく会っており、ジム戦で互いを認め合った過去もあってバトルの練習に付き合わされることも多い。
クータは2人を弟分として、フウとランはクータを兄貴分として慕っていることもあってかなりの仲良しだ。
「そうッスねぇ……気分転換にバトルでもすっか」
頭が疲れている時は体を動かすに限る。そう決めたクータは背伸びをして立ち上がった。
パァっと明るくなるジュカイン。勉学よりバトルの方が、主人が活き活きすることを知っているからだ。
さっそくとばかりにクータは資料を元の位置に戻し、研究員に挨拶してから資料室を出る。一連の動作に無駄は一切ない。
「やれやれ、不慣れなのに頑張るねぇ」
研究員の男はそんなクータの背中を見て小さく笑う。
バトルや木登りなど体を動かす方が好きなのに、宇宙センターの研究員として働けるよう、苦手な勉学に励む。
そんな彼だからこそ、彼の目指している夢が本物であると伝わってくるのだから、応援してやりたくなる。
それは彼の背を見送る研究員の大半がそう思っていた。決して小さい子を応援するようなものではない。
―――
有人ロケットの研究と開発。それがクータの目指す夢への第一ステップ。
有人ロケットを開発し成功した後は、そのパイロットとして搭乗すること。これが第二ステップ。
クータが目指している夢。それはこの星で一番高い場所―――宇宙へ登ることだ。
かつて図鑑所有者として旅をしていた頃に偶然見つけた、グラードン・カイオーガに並ぶ伝説のポケモン・レックウザ。
図鑑にすら載っていないポケモンの事を独自のルートで調べてみれば、レックウザはオゾン層という宇宙と空の境目を飛んでいるのだと知った。
そんな高い所まで飛べるとは、伝説とはいえポケモンは凄い存在なのだと知った。
しかしクータは同時に、人間も宇宙へ飛び立つことは出来ないだろうか、とも思えるようになった。
頻繁にロケットを打ち上げるトクサネ宇宙センターを筆頭に、クータは宇宙に関連する様々な事を調べてみた。
ギンガ団という悪の組織に手を出しかけた時は冷や汗すらかいたが、結局はトクサネ宇宙センターへ落ち着き、現在は研究員見習いとして勉学に励んでいる。
「けどさ、遠いよなー宇宙って」
晴れ渡った青空を見上げながらクータが言うと、ジュカイン・ペリッパー・オオスバメ・フライゴン・クロバット・ソルロックは同意するように頷く。
これからフウとランに挑むというということもあり、しばらくボールの中で大人しくしていた彼らを解放し、共にトクサネジムに向けて歩いていた。
遠いというのは、場所だけではない。その道のりもだ。
見習いとして働き始めたのはいいが、やっていることは雑用ばかり。それは構わないが、何よりも大変なのは勉学だ。
研究員として本格的に働くのに必要な資格や知識を求めて毎日資料室へ足を運んでいるものの、身についているという実感はほとんどない。
ロケットの開発はもちろんのこと、宇宙に関する基礎知識も膨大な量を占めており、2~3年経った今でも半分どころか百分の一ですら入っているかどうか怪しいほどだ。
しかしクータは努力を怠らない。苦手な勉学を毎日欠かさず行い、着実に知恵を身につけている。
それを知っているのは彼を支えるポケモン達であり、彼と共に働く仕事仲間の皆だ。
「……なぁお前ら、宇宙から見た景色ってどんなんだろうな?」
そんな事を聞いてみた。
ジュカインは「きっとこんなに広いんだよ!」と言っているように両手を広げ。
ペリッパーは空を見上げたままボーっとしており。
オオスバメはテンションがあがったのか其の場でビュンビュン飛んで見せて。
フライゴンは想像もつかないのか首をかしげ。
クロバットは「それより太陽の光キライ」と言っているように翼で目を隠し。
ソルロックはしきりに体を横に回転させている。
各々の反応を見たクータはクスクスと笑い、「ま、いっか」と呟く。
「そんなことより今日はバトルだ!フウとランにゃ悪いが思いっきり暴れようぜ!」
クータの宣言を聞いたポケモン達は「オー!」と言っているようにはしゃぎだす。
やっぱり難しいことより、バトルといった体を動かした方がポケモン達にとっても嬉しいんだろう。
すぐそこのトクサネジムの前で待っている双子に向け、クータを背に乗せたジュカインを筆頭にスピードアップ。
―俺達の宇宙への旅はこれからだ!
その後、壁に激突して気絶したポケモン達の横でクータに説教するフウとランが居た。
―完―
●クータ
ホウエン地方出身の見習い研究員♂。やんちゃな性格。おっちょこちょい。
高い所が好きな、子供の面倒見の良いガキ大将。クロワッサンみたいな髪型にするのがこだわり。
世界で最も高い場所である宇宙を目指し、トクサネシティの宇宙センターの研修員として勤めている。
スピードのあるポケモンでガンガン攻めるのが好き。速攻型。
ちなみに年は当作品のユウキとハルカと同じです。旅立った日も一緒。二人と違って悪の組織に直接関わってはいませんが。
レックウザに関わったのはほんの少しですが、それでも大空を翔る姿は圧倒的なんだろうなーと思います。
そして図鑑で見て驚いたのはオゾン層なんてスゲー所を飛んでいるってことですよ。流石は伝説のドラゴンポケモン。
で、なんで宇宙に関連したかっていうと、「高い所が好き」を最高まで目指してみた結果です(笑)
最初は飛行士あたりを考えてみたんですが、どうせなら宇宙目指してみようぜ!と考えてこうなりました。
何はともあれ、ポケライフ第3弾を読んでくれてありがとうございました。
後日ポケライフとポケモンハンに関するリクエストやアンケートを活動報告で知らせる予定ですので、よろしければ。
ではでは!
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その20「きのみ屋さんとイーブイ」
話は変わりますが、活動報告でポケライフ・ポケモンハンに関するご意見募集あり。
しかしよく考えたら自分のやりたいようになってもいいんじゃないかと思ってきました。
モンハンの更新もあるんだし、気負いしすぎでしょうか?(汗)
そんな優柔不断な作者の戯言(汗)
「迷子の迷子のイーブイさん♪あなたのお家はどこですか♪」
「○。(‐0‐ )」
欠伸しているし。いや歌のようにキャンキャン泣かれても困るんだけどさ。
ナタネちゃんがシンオウへ帰っていったあの後、僕はナタネちゃんへの手紙に悪戦苦闘する羽目となった。
最近ホミカさんに夢中だったとはいえ、ナタネちゃんのファンなのに忘れちゃっていたなんて情けなさすぎるんだもん……。
そんなこんなで遅くまで起きていたもんだから、今朝は寝坊しちゃった。今日は日曜日だったから良かったんだが。
で、木の実畑の様子を見に行ったらこのイーブイが寝ていたと。
ていうか気づけや見張り役のヤーやん。いや、気づいていても無害だから無視したんだろうけどさぁ……。
それにまだ小さいから生まれて間も無いみたいだし、ザンさんを始めとした他のポケモン達はそっと見守ることにしたんだろう。
どうしてここにいるのか気になるんでイーブイに声を掛けてみたんだけど、寝ぼけ眼でいるからか尽く無視される。
地平線から伸びる朝日に背を向けて気持ち良さそうに寝ている姿は可愛いものだ。
とにかくまだ寝ているっていうんなら仕方ない。疑問に思うだけで困る理由は無いわけだし。
「じゃあ朝御飯にしましょうかね」
まだ用意していないんだよねー、朝御飯。
―ざわざわ、ざわざわ
「朝御飯」のキーワードに反応したのか、ぞろぞろとポケモン達が集まってきた。
僕の手持ちポケモン達はもちろん、スーちゃんを始めとしお零れに預かる半野良ポケモン達も揃っておねだり。ザンさんやクケちゃんも居るし。
食い意地の張った奴らだ(笑)クケちゃんは最近にやってようやく大人しくなったから、朝御飯を一緒に食べる権利が与えられました。
―で、当たり前のようにイーブイも参列している、と。
キチっと背筋を伸ばしているイーブイ君(一応♂だと解った)に一言。
「……朝飯食うかい?」
「?(・ω・ )(え?当たり前じゃん)」
と言っているかのようにキョトンとした顔で首を傾げるイーブイ君。
これが「可愛さあって憎さ百倍」というやつなんだろうか?まぁ素直だから良しとしよう。
―――
スーちゃん達ちっちゃなポケモン用の大皿に盛ったポケモンフーズを無遠慮に食べまくるイーブイ。小さな身体に大きな食欲……やりよるわ、こいつ。
とりあえず朝御飯を食べながらイーブイを観察していると、その首に首輪をしているのが解った。人馴れしていると思ったら飼いポケだったんだ。
「ポケモンはモンスターボールに入れるもの」と考えるのは仕方ないけど今はそーでもなく、タマゴから還ったポケモンは育て方次第でボールなしでも人の言う事を聞く事ができる。
まぁトレーナーのポケモンはモンスターボールに入れる必要があるけど。そのモンスターボールがポケモンの身分証明書の代わりになるからだ。
そうしない場合、例えばまだ生まれて間も無いポケモンやペットとして飼育するポケモンは、飼い主の住所が書かれた首輪をかけておく……らしい。僕トレーナーだからそこんとこ詳しくないのよ。
とにかく、飼い主が居るって事が解った以上、このイーブイを飼い主の下に帰してあげるのが筋ってもんだろう。
食べ終えた頃を見計らい……あら、ゴーさんに遊んでもらってる。強面のゴーさん相手でも平気でいるとは肝っ玉の据わった子だ。
楽しそうに高い高いしているところ悪いが、ゴーさんを呼び止めてよう。
「ゴーさん、そのイーブイは飼い主がいるらしいから送り届けないといけないんだよ」
僕の肩によじ登ったローちゃんも「そうそう」と頷いている。他の4匹は各々の持ち場に戻っていった。
するとゴーさんはイーブイを持ったまま視線をあわせ、じっと見つめあう。
「「( ・・)(・・ )((・・・・・・))」」
「「(・・ )(・・ )(くるり)」」
「「(^▽^ )(^▽^ )((もっと遊びたいからヤダー))」」
イーブイは可愛い笑顔を、ゴーさんは怖い笑顔を浮かべてこう言った……ように思えた。
そしてゴーさんはイーブイを抱えたまま猛ダッシュ。『まきびし』は除去していたから裏庭を走っても問題ないが……。
「捕らえろ!捕らえるんだー!」
せめて首輪の住所を見せてくれなきゃ飼い主に連絡も出来ないっつーの!
僕はイーブイを抱えて走るゴーさんを指差して叫ぶと、まずはローちゃんが『マジカルリーフ』を放つ。
誘導ミサイルのように追いかけてくる葉っぱを見たゴーさんはイーブイを放り投げ、甘んじてその葉を受け止める。
一方イーブイはといえばクルリと回転してから着地。リフレクターが張られている畑に走り、フヨフヨ浮いていたヤーやんの前に立ち止まる。
ピタリと止まったヤーやんの前でイーブイはコロリと転がり、体をヤーやんに擦り付けてきた。あれは『ほしがる』かな?
可愛らしい仕草を目の当たりにしても微動だにしな……ヤーやんが一部のリフレクターを解除し、『ねんりき』で木の実をイーブイにあげよった!
真面目なヤーやんのハートを容易く射止めるとは……あざといなあのイーブイあざとい!
ヤーやんからカゴの実を受け取った直後、畑の地中からサンちゃんが現れる。
僕の指示を聞いていたのかサンちゃんはイーブイに跳びかかるが……。
「ブイー!」
口に銜えていたカゴの実が消えたと思ったら水溜りが浮かび、それがサンちゃんにぶっかけられた。
今の技……まさかこのイーブイ『しぜんのめぐみ』を覚えているの!?
効果抜群の技を受けて気絶したサンちゃんに「アッカンベー」と舌を向けてイーブイは逃げる。
流石に仲間が痛い目に見て放っておけないと思ったヤーやんは「ねんりき」でイーブイを捕らえようと目を光らせる。
しかしイーブイが予想以上にすばしっこいのか中々当たらず、ナゾノクサを引っこ抜いたりスーちゃんを浮かばせたりと外しまくっている。
「ヤーイヤーイ」とヤーやんをからかっているイーブイを見てイライラしていたのか、今度はガーさんが水辺から上がってきた。
ガツンガツンと鋏を打ち付けていると、横からイーブイを庇うようにしてゴーさんが立ちふさがってくる。ゴーさんそんなにイーブイが気に入ったのか、無理も無いが。
しかしガーさんは「新入りに上下関係っつーもんを教えてやる」と言わんばかりに気合が入っており、ゴーさんの脇を通る。
そんなガーさんを掴んで抑えようとし……両者の間に火花が散る。え?ゴーさん珍しくやる気なの?
後は予想通り、ゴーさんとガーさんの喧嘩が勃発。
技のガーさんに力のゴーさん。2匹のバトルは苛烈を極め、野次馬の応援が入ってきた。
―畑ではイーブイ争奪戦が、水辺付近では戦闘要員の頂上決定戦が。
「ローちゃん、どうしてこうなったんだろうか?」
「(―▲― ;)(さぁ……)」
仕方ない、使用料は高いがザンさんとクケちゃんに助けてもらおっか。
ザンさんは良いお菓子じゃないと怒るし、クケちゃんは遊んでやらないと毒を撒くからなぁ
とりあえず木の枝で寝ているアーさんに八つ当たりしてやろ。
―――
流石プロレスラーも眠る猛毒。あの腕白イーブイもイチコロよ。ヤーやんとサンちゃんを含めた畑のポケモン全部寝ちゃったけどな。
ザンさんは寝起きが悪かったこともあってゴーさんとガーさん2匹を相手に1発KO。『つるぎのまい』からの『インファイト』は伊達じゃなかった。
お礼は後でするとして、イーブイを抱えて首輪に書かれた住所を見る……あ、キンセツシティのアキコおばちゃん家だ。
さっそく寝たままのイーブイを持って行こうとしたらゴーさんが涙目で掴んできたので、仕方なくゴーさんに預けておく。
お友達が出来たのが余程嬉しかったのか、ゴーさんはスヤスヤ眠るイーブイを大事に抱えている。微笑ましいんだが、顔が怖い。
ローちゃんに面倒を見てもらうようお願いしてから、僕はキンセツシティに向かう。今日は日曜日だし、畑仕事は後回しにしておこ。
アキコおばちゃんは知人のようなものだし、用件を伝えればすぐに終わるだろう。ついでにザンさん用のお高い木の実菓子を買っておかないと。
「じゃあ行ってくるねー」
バッサバッサと羽根を広げて「待っているからねー」とアピールするクケちゃんに見送られて出発。なんかヤダ。
キンセツシティはすぐそこだし、アキコおばちゃんにイーブイの事を聞けばいいだけの話だ。すぐに終わるだろう。
―まさか帰って来てからあんな騒動が起こるだなんて、この時の僕は考えもしなかったのです。
―続―
きのみ畑における「しぜんのめぐみ」って強いんじゃね?と思って書きました。木の実選び放題タイプ選び放題よ?(笑)
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その21「きのみ屋さんとリーフィア」
前回のあらすじ:迷子の腕白イーブイはあざとかった
10/2:誤字修正
突然だが僕ことハヤシはシダケタウンにお店を構えているものの、実家があるキンセツシティには度々立ち寄っている。
都会寄りだからフレンドリーショップの品揃えが良くて買い物にしょっちゅう行くし、ご近所さんや友達からお茶会やバトルに誘われることもたまーにある。
中でもアキコおばちゃんは、知り合いであれば誰でもお茶に誘い、ぺちゃくちゃとお喋りをする気のいいおばちゃんだ。息子のゲンタ(ジムトレーナー♂)が遠くに行っちゃったこともあって寂しいんだろう。
「あらあらそうだったのぉ。ごめんなさいねぇわざわざ伝えに来てくれて」
「ゴメンナサイネー」
「いえいえ、お気になさらず」
そんなアキコおばちゃんにイーブイの事を話したと思ったんだが、いつの間にかお家の小さな庭でティータイムと洒落込んでいた。
流石アキコおばちゃん。何気なく(良い方向へ)誘い込む術が時に恐ろしくなるぜ。ペラップのペッコ(♀)も一緒。
「実はねぇ、あのイーブイは息子のゲンタから貰ったタマゴから孵ったのよね。最初は大人しかったんだけど、育つに連れて腕白になって手がつけられなくなったのよぉ。お部屋をいっつもグッチャグッチャにしちゃうのよ」
「グッチャグッチャー」
「あー、確かにあれは凄かったですね」
おばちゃんが困ったように頬を当てて言うが、それは全力で同意する。ペッコもイーブイの被害にあったのか、嫌そうな顔しているし。
食べた分をすぐに消費するかのような腕白っぷりだったからなぁ。元気なのは良い事なんだが、加減を間違えると厄介だよね。
「でね、ここんとこ首輪をさせてお外で遊ばせているんだけど、遠くまで遊びに行っちゃうことも多くてねぇ。ハヤシ君みたいに隣町から来たっていうのはまだいい方なのよぉ。この間なんかトウカシティのセンリさんが連れてきてくれたぐらいで」
「トウカシティって……」
真面目なセンリさんの事だから帰りは彼の手でアキコおばちゃんの家まで届けたにしても、片道だけでも結構な距離があるはずじゃ……。
あのイーブイの行動力は底知れないなぁ……あの子、本当に生まれたて、しかも人の手で孵化したポケモンか?野性味がありすぎる。
そういや子煩悩(無自覚)なセンリさんで思い出したけど、ユウキ君どうしているかな。相変わらず海に潜っているんだろうか?
「……話が逸れましたが、イーブイを引き取ってもらえますか?」
「あらあら、私ったらついつい」
「ツイツイー」
お喋りは楽しいけど、下手したらアキコおばちゃんは2~3時間は話しちゃうからね。さっさと用件を済ませよう。
―――
さて、腕白イーブイを引き取ってもらう為、アキコおばちゃんを連れて店にやってきたわけなんですが。
「フィ!」
裏庭で片方の前脚を上げて元気よく挨拶をするリーフィアが出迎えてくれました。
「あら、ハヤシちゃんの新しいポケモンかしら?可愛いわねぇ」
おばちゃんがリーフィアの頭を優しく撫でる。アキコおばちゃんはペッコを含め、可愛いポケモンならなんでも好きだからなぁ。
リーフィアも嬉しそうに撫でられるが、そんなリーフィアを見つめる視線が幾つか……ローちゃん・ゴーさん・ガーさんの3匹だった。
困ったように見ている3匹の視線の先はリーフィアっていうより首元……あ。
「アキコおばちゃん」
「なにかしら?」
「そのリーフィア、おばちゃんのイーブイが進化したっぽい」
「……あらあら」
目を丸くしたアキコおばちゃん。彼女に抱かれたリーフィアが「どうしたの?」と言っているかのように見上げている。
そのリーフィアの首には、つい先刻まで裏庭をはしゃぎまわった腕白イーブイがつけていた首輪があったのだった。
―なぜにリーフィアに進化したし?
―――
リーフィアをアキコおばちゃんとペッコに任せるとして、裏庭の状況を確認しよう。
裏庭そのものが荒らされた様子は無い。流石ザンさんとクケちゃん、他ポケを寄せ付けないその強さに痺れる憧れるぅ!ただしクケちゃん、遊ぶなら後にしてちょうだいね。
次に水辺。コイキング達は普通に泳いでいる。しかし水辺に近い陸地ではサンちゃんがびしょ濡れで気絶していた。地面タイプがたっぷり水を浴びたらダウンするわな。
原因は……まぁあのイーブイなんだろう。問題はどうしてリーフィアに進化したかだ。
しかし僕には心当たりがあった。陸と水辺の境目に置かれている、苔むした小さな岩だ。
シンオウ地方の「ハクタイの森」、イッシュ地方の「ヤグルマの森」、僕が知っている限りではそういった場所でリーフィアに進化するらしいが、いずれも進化する条件として「コケで覆われた岩の付近」というものがある。
うちの庭にある岩は頭ほどしかない大きさだが、もしこの傍でイーブイがサンちゃんを倒したとしたら条件は当てはまる……当てはまるんだが……。
「それにしたってこの裏庭でリーフィアに進化するなんて……驚きモモンの実サンの実だよ」
モモンの実はともかく、サンの実は育てたことも見たこともないけどね。一度お目にかかってみたいなぁ。
緑溢れる森の中で進化するというリーフィアがうちの裏庭で進化するって、それだけうちの庭は自然豊かってことなのかな?
それにしたって人の手が加えられた人工的な自然だし……草タイプ好きとはいえ生態に詳しいわけじゃないし、ましてや進化ポケモンの謎は専門家じゃないとわからないよなぁ……。
―草タイプで思い出したけど、ナタネちゃんに手紙届いたかな?
「ちょっとハヤシちゃん、聞こえているかしら?」
「は、はへ?」
「まったくもう、あなたは考え事が多いわねぇ」
うう、いつの間にか思考に耽っちゃった。おばちゃんが声を掛けてくれなかったらもうしばらく考え込んでいたかも。
おばちゃんに抱かれていたはずのリーフィアは裏庭でゴーさんとペッコの3匹で駆けっこを始めたらしい。駆けっこ好きなのかな。
「そういえばおばちゃん、リーフィアを連れて帰らないんですか?」
「そのことなんだけどねぇ」
おばちゃんは諦めたような顔で駆け回るリーフィアを見つめている。
「リーフィアちゃんをあなたの家において欲しいのよ」
「……え?」
これまた唐突ですね。ちょっと僕、頭の処理が追いつかないよ。
「ほら、リーフィアちゃんったらあんなに嬉しそうにはしゃいでいるでしょ?窮屈なうちじゃ滅多に見られない顔よ。そう思うとねぇ、おばちゃんの家よりハヤシ君の家で暮らした方が幸せじゃないのかって」
「いいの?せっかくゲンタさんから貰ったタマゴから孵したっていうのに」
ここから遠いムロジムでジムトレーナーとして働いているゲンタさんが、久しぶりにアキコおばちゃんの元に帰って来た時に貰ったというイーブイのタマゴ。
そのタマゴから孵ったイーブイを我が子のように可愛い可愛いと、キンセツシティの知り合いに自慢しまくっていたのに。ちなみに僕は1時間聞かされました。
「可愛い子には旅をさせろっていうでしょ?息子もリーフィアちゃんも大事だから、遠くでも幸せに暮らして欲しいと思うのよ。……で、どうかしら?」
寂しがりなアキコおばちゃんだが、こういった所も含め、しっかりとしたおばちゃんだね。
けど肝心のリーフィアに聞かなきゃ始まらないので、僕はリーフィアを呼んでみる。パタパタと尻尾を振りながらこっちに向かってきたよ、可愛い。
パタパタと振ってお座りするリーフィアの頭を撫でながら、僕は尋ねる。
「おばちゃんがココに住んでもいいっていうけど、君はココに居たいかな?」
撫でていた手を離すとリーフィアは、少し考え出し、ちらりと後ろを振り向く。
そこには期待しているかのようにリーフィアの見つめるゴーさんの(怖い)顔が。すっかり仲良しになったね、君ら。
「……フィ!」
リーフィアは、今後ともよろしく、と言っているかのように良い笑顔を見せてくれた。
後ろでゴーさんが喜びのダンスを踊るのを無視し、もう一度リーフィアの頭を撫でる。
「これからもよろしくね」
―あ、このリーフィアって男の子だ。
サンちゃん「(;ω;)(私、忘れられてる・・・)」
アーさん「(―ω―)zzzZZZ(グーグー)」
ロトやん「(@_@;)(知らない子コワいコワい)」
―続―
おめでとう!イーブイは(なぜか)リーフィアに進化した!
かなり不可解な進化になりましたがご了承ください(汗)
今後はこの謎を解く為、他地方に旅行に出かけます。
これは投稿序盤から考えていたネタで、最初はイッシュにしようと思ったんですが、話の流れから解るようにシンオウを目指す予定です。
変った理由?リーフィアが登場したシンオウが関わりが深いし、ナタネに愛着が沸いてしまって(笑)
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その22「きのみ屋さんとツツジ」
(以下、本音)
カブラ亜種めぇぇ!爆弾岩なんか捨てて掛かってこぉぉい!!亜種装備作るんじゃぁぁ!!!
10/16:誤字修正
今日は木曜日。
「いい加減にライブキャスターを買ってください」
店内のカウンターの向こう側に居るカナズミジムリーダー・ツツジちゃんが怒り顔で迫ってきています。
「ちゃん付けはやめてくださいっていつも言っているじゃないですか!」
「心を読まれた!?」
穏やかな晴れの日で、木の実畑の栽培にはもってこいの天気。
腕白リーフィアことイーくんは嬉しそうにはしゃぐけど、ゴーさんという遊び相手がいるからか他に迷惑をかけることもない。
臆病なロトやんもようやくココでの暮らしに慣れ、最近の日課となっている芝刈りに精を出している。芝刈りの先輩であるサンちゃんから指導を受けているようだ。
僕もノンビリと畑仕事をしようかなーと思った時、ツツジちゃ……ツツジさんがやってきたのである。
ちなみにホミカをさん付けで呼ぶのは僕の中でカッコイイ系にカテゴリしているから。
ツツジさんは近所のトレーナーズスクールでたまにやっている木の実講座に使う木の実をうちの店で購入してくれる。曰く「質の良い木の実ですから」とのこと。
しかしジムリーダーの仕事はもちろん、トレーナーズスクールの臨時教師として教鞭を持つこともあるのでテッさん以上に多忙で、手紙を寄越すかジムトレーナーの誰かを向かわせて注文するかして木の実を届けに行く。
ついでに心機一転を謀りたいと言ってトレーナーズスクールの生徒として勉学に励むようになったんだとか。相変わらず真面目な子だなぁ。
「……で、そんな忙しいツツジさんがなんでうちに?」
「忙しいのに連絡手段が訪問か手紙だけ、というのが不便で仕方ないんです!」
追い討ちで「前々から言っているでしょ!」と怒られちゃった。
そう、うちには通信手段が手紙しかない。パソコンはあるけど、実はメールが全然使えない。
僕は流行に弱い人間だからか、ポケナビが発売されても「安売りしてから買う」と言っていつしか時代遅れになって使えないどころか買えなくなってしまった。
現在の主流はテレビ通信も出来るライブキャスターとされているが同じ理由で買うのを躊躇っている。
それになんていうか、新しい通信機器が出るかもしれないとお告げが。具体的にはポケナビのパワーアップ版みたいな。
「言っておきますが、そのうち買うよ、なんて言わせませんからね?」
「ありゃ」
「ありゃ、じゃありません!」
バン!とカウンターを叩いて怒鳴るツツジさん。なんか鬼気迫るものを感じて怖い。肩に乗せたローちゃんが怖さで頭に抱き付いてきたよ。
ふと我に戻ったのか、叩いた手を引っ込め、コホンと咳き込んでから照れくさそうにメモ用紙とチラシをカウンターに置く。
「注文する木の実の種類と数、それと届けに来て欲しい日付と場所を記した物です。こちらはデボンコーポレーションのチラシです」
スラスラと説明する中、僕は簡単な地図とメモが書かれた紙、そしてチラシを見る。
何々……「ライブキャスター・カラーバリエーション倍増キャンペーン」?
「丁度デボンコーポレーションでライブキャスターのキャンペーンをしていますから、木の実を届けるついでに買っておいてください」
「へぇ~、色々出たんだなぁ」
主体の赤だけじゃなくて青や緑、紫やピンクとか色んなカラーが出てきたんだね。しかもキャンペーンなだけあって、最新機器を除いた全種が2割引と来た。
ふとチラっとツツジさんの顔を見てみる……うわ、「買ってこなかったら怒りますよ?」と言わんばかりの不機嫌そうな顔。
「わ、わかったわかったよ。トレーナーズスクールに届ける前に買っておくよ」
いい加減に通信手段を増やすべきなのは確かだし、イッシュに行っちゃったマサやミサトに連絡したいしね。
そういえばナタネちゃんの連絡先も貰ったんだし……買ったら先に連絡しよっかな?手紙見てくれたかな?
なんて事を考えていたらツツジちゃんが「よし!」とガッツポーズを決めていた。何故に?
「では失礼しますね。く・れ・ぐ・れも!よろしく頼みますわよ?」
僅か0.5秒(体感)で雰囲気を切り替え、優雅に背を向けるツツジさん。
付き合いは長い方じゃないけど、今日だけでツツジさんのイメージがガラリと変わったよ。なんであんなに張り切っていたのやら。
あ、思い出した。
「ちょっと待ってツツジちゃん」
「ちゃん付けはやめてくださいと」
背を向けたツツジさんが勢いよく振り返ってきた。よし、食いついたね。
「ちょっと見て欲しいものがあるんだけど、いいかな?」
頭のいい彼女なら、あの苔むした石の事で何か解るかも。
―――
「ふむ……この石でリーフィアに進化したんですか」
ある程度の話を聞いてくれたツツジちゃんは興味深い物を感じたのか、屈んで苔生した石をマジマジと見つめる。
顔は至って真面目だが、「遊んでー遊んでー」とツインテールにじゃれつくリーフィアで台無し。この腕白っ子め。
しかし博識かつ聡明な彼女が集中すればそんな事どうでもいいとばかりに顎に手を当てて考え込み、やがて区切りがついたのか立ち上がる。
「ハヤシさん、実はこういった事例は僅かながらあるんですよ」
立ち上がったことで若干の差はあるが視線が合い、ツツジちゃんは予想外な事を言ってきた。
「……人ん家の庭にある岩で進化したことがあるの?」
「流石に裏庭の石で進化した、というのはありませんがね」
話が長くなりそうなので、せっかくだからテーブルでお茶でもしよう。お茶請けはブリーの実のジャムを使ったスコーン。
淑女みたいに優雅に紅茶を啜っているかと思えば、ジャムをつけたスコーンを一口食べた途端に年相当の女の子に。好物だったのかな。
口にジャムがついたのを知らぬまま、彼女は軽く咳き込んでから語る。
リーフィアの進化条件は知ってのとおり、苔生した岩がある場所。ハクタイの森やヤグルマの森など、深い森に置かれていることが多い。
だが実はそれ以外でも場所で進化したという事例はいくつかあるが、前者で挙げた場所が有名なので雲隠れしてしまっている。
その場所はバラバラではあるが、ツツジ曰く丁寧に手入れされた庭や畑にポツンと置かれた石……僕の裏庭にあったような苔生した石があるんだそうだ。
森の中に比べて人の手が加えられたということもあり石から放つエネルギーの範囲は狭く、石にピッタリ寄り添うなりしないと進化しない、という報告もある。
そもそも草タイプのエネルギーが豊富に含まれているリーフの石があるのにどうしてリーフィアに進化する条件がそんなややこしい物なのかも解っていない為、まだまだ謎が多い。
「……そんなわけですので、今度あの石を持ってシンオウに行ってきてください」
「話が唐突すぎるんですが」
未だに口元にジャムがついていることを知らないツツジさんが真面目な顔で言ってきたので反射的に突っ込んでしまう。
うちの裏庭で進化したのは異質じゃないってのが解っただけで充分なのに、なんでわざわざ遠い地方まで行かなきゃならんのさ?
「ハヤシさんは知らないから無理もありませんね」
そういってツツジさんは再度、コホン、と咳き込む。相変わらずジャムには気づいていない。
「先も言いましたが、こういった事例は極僅かなものです。なので見つかった場合は私達ジムリーダーのような事情を知る者がナナカマド博士に報告・仲介する義務があります」
「ナ、ナナカマド博士に?」
それぐらいなら僕でも知っている。シンオウ地方どころか各地方のポケモン博士でも最年長とされる偉い人だ。
ポケモンの進化に関する研究の権威者でも有名で、最近はメガシンカについても色々と調べているとかニュースで言っていたな。
「ですからこの場合、私がナナカマド博士に報告し、あなたがその石を運んできてもらう必要があります」
「なんで僕が持っていく事になるの?この裏庭を調べるんじゃなくて?」
「私も詳しくは知りませんが、なんでも石そのものにエネルギーがあるかどうか調べるんだそうですよ?それにアチコチ回っていて忙しいようですし」
そういえば地形などで進化したりメガストーンで進化したりと地方毎に新しい進化が見つかるから、調べる人は忙しいことこの上ないだろう。
「丁度よかったです。あなたがライブキャスターを買えばナナカマド博士へ報告する手間が省けますわ」
ナイスタイミング、とツツジさんは大喜び。そんなに僕のアナログな通信手段が面倒だったんですか。
「とにかく、この件は私も仲介役を務めますので、後日お話の続きと致しましょう」
そういってツツジさんは「話はそれで終わりだ」と言わんばかりに立ち上がる。
なんというか、色々と唐突なことばかりでちょっと頭が混乱しているけど……。
「色々ありがとうね、ツツジちゃん」
「私にも色々と事情がありますからね。後、ちゃん付けはやめてください」
なんてことないとツインテールを片手でかき上げるツツジさん。
とりあえず明日買うライブキャスターを早く決めておかないと。濃緑と若葉色のどっちにしようかなぁ。
「そういえばツツジさん、口元にジャムついているよ」
「……あ」
言われて口元を触ったツツジさんがやっと気づいたらしく、顔を赤くしだした。
……やっぱり、ちゃん付けで呼んじゃダメかなぁ。
「ダ・メ・で・す!!」
「心を読まれた!?」
最後の最後にテンドンでした!
―続-
この小説を書いていた時に最新情報で新ポケナビに気づきました。なのでこの作品におけるライブキャスターは若干中古品です。
どうしていきなりツツジがライブキャスターを買うよう勧めたのかは次回明らかに!
ちなみに作者の中のツツジは、聡明で賢いけど大人ぶりたい背伸びっ子、というイメージがあります(笑)
(以下、余談)
Q:今作者の中で一番熱いメガシンカポケモンは?
A:メガスピアー
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その23「きのみ屋さんとライブキャスター」
加えてモンハンに熱が注いでいることもあり、執筆が遅いです(本当)
未だにメダロット8とポケモンORどちらにしようか悩んでいるし……。
まぁ予約しちゃったから無理でもポケモンになるんですけどね(苦笑)
今日は木曜日。カナズミシティのトレーナーズスクールに木の実をお届けする日。
お留守番……というかイーくんの相手を裏庭の皆に任せ、お供にローちゃんとアーさんを連れている。
……で、僕はカナズミシティで何をしているのかというと。
「念願のライブキャスター、ゲットだぜー」
「ワーワーパチパチ」と肩に乗せたローちゃんから拍手を貰いました。サンキュー。
デボンコーポレーション支店で、ついにライブキャスターを購入しました。選んだカラーは草っぽい若葉色。
買う前に一応キンセツシティに居る両親にも話したけど、少しでも安くしたいので家族割のある家族契約にしました。通信機もタダってわけじゃないんだよねぇ。
支店の張り紙に「あのポケナビがパワーアップして帰ってくる!」というのがあって悩んだけど、これ以上買うのを伸ばしたらツツジちゃ……ツツジさんに怒られそうなので諦める。
さてと、目的の品は買えたし、さっさとトレーナーズスクールに……。
『手紙、帰ったら絶対に出します!後ライブキャスター買ったら、ここに連絡してください!』
『シンオウ地方に遊びに来るときは言ってください!大歓迎しますから!手作り菓子、期待して待っていますから!』
ふと、お別れする直前のナタネちゃんの言葉を思い出しちゃった。手紙はまだ受け取ってはいないけど。
出かける前にポケットに入れておいた、ナタネちゃんのライブキャスターの番号が書かれたメモを取り出し、少し考える。
ボーっとしているアーさんはともかく、肩に乗せているローちゃんは「掛けちゃいなよ」と言っているかのように頭を揺らして急かす。
……よし、掛けてみよっか!さっそく番号を入力して、少し待つ。
―ピッ
『ふぁー……いっ!?』
お、映った。腕時計みたいな小さな画面なのにくっきり顔が映るなんて凄いなぁ。
にしてもお昼過ぎだというのに、ナタネちゃんの寝ぼけ眼と寝癖を見てしまったとはちょっと驚き。
まぁ、向こうからしたらもっと驚いているんだろうなー。けどとりあえず。
「ナタネちゃんヤッホー」
『ちょ、ハヤシさん!?うわぁぁぁなんでこんな時に連絡してくるのちょっと待ってください後でこっちから連絡するから!じゃ!』
―プッ
あらら、切れちゃった。まぁ仕方ないよね、寝起きだったみたいだし。
ジムリーダーって忙しいと聞くけど、ナタネちゃんって忙しくて寝る間も惜しんでいたのだろうか?まぁ他地方に旅行に行っていたぐらいだし、仕事が溜まっていたのかもね。
とりあえずトレーナーズスクールにお届けに行こっか。アーさん起きろーボールに戻すぞー。
―ピリリリリリ
あ、ライブキャスターに着信が。ピっとな。
『ハヤシさんヤッホー!お待たせ!』
画面には髪型が整ったナタネちゃんの顔が。顔も洗ってきたんだろうけど、それにしたって早い。
「改めて、こんにちはナタネちゃん。さっきはゴメンねぇ」
『いえいえ、たまたま寝ていただけだから!』
照れくさそうに笑うナタネちゃん。いやー、掛けるタイミングが悪かっただけなんだろうなぁ。
それにしても元気そうで何より……ん?画面右下に緑っぽいものが動いているんですが。
『それより見てよ!ハーさんがハスブレロに進化したの!ほらほら!』
『ハッスー』
ライブキャスターの位置が変わったのか画面が急に変わり、片手を挙げて挨拶するハスブレロの姿が。
その姿を見た途端、肩に止まっていたローちゃんが「うわー久しぶりー!」と言っているかのように大喜び。この喜びようからして、このハスブレロは間違いなくハーさんなのだろう。
「随分と早く成長したねぇ」
『この子って意外とバトルのセンスあるんだよねー』
褒められたハスブレロは「いやぁそれほどでも」と照れくさそうに頬を掻いている。
穏やかだけど遠慮無しにドレイン技使いまくる子だったから、案外バトルに向いていたのかもしれないね。
まぁ久々にハーさんことハスブレロの元気な姿を見れたので、せっかくなので聞こう。
「そういえば思いつきで連絡したけど大丈夫だった?寝ていたっていうし、忙しいんじゃない?」
『それが聞いてくださいよー』
どうやら忙しいというわけではないようだ。これから何か嫌な事を話すようなので、聞き手に回るとしよう。
それが終わったら、言い忘れていたけどこの前のお詫びを言葉としてお伝えして……。
「遅ぉーい、ですわ!!」
キィィン、って耳が、耳がぁぁぁ……。
画面内に映っているナタネちゃんも痛そうに耳を押さえているのを見てから、僕は何事かと声がした後方へと振り向く。
そしたらそこには、腕を組んで貧乏揺すりをする、怒り顔のツツジちゃんが。
「ちゃん付けはやめてください!」
「もう突っ込みませんからね」
「それはそれで寂しいんですが」
えー……段々とツツジさんのキャラが解らなくなってきた。
ボケのつもりだったのか、ツツジさんは「コホン」と咳き込んで誤魔化す。
「中々来ないと思って来て見れば、何駄弁っているんですか……あら?ナタネさんではないですか」
小さい画面に映る顔を目敏く見たツツジちゃんがヒョッコリと覗き込んできた。
『あ、ツツジさん!ヤッホー!』
対するナタネちゃんは画面越しで気軽に挨拶。そっか、ジムリーダー繋がりだから交流があったのかな?
「ナタネさん、ハヤシさんと何時お知り合いになられたのですか?」
『この間ホウエンに旅行に行っていた時に知り合ったの!お店に泊めてもらったんだー♪』
「ああ、そういえばあなた迷子になって一度カナズミに……いやそうではなくて!」
あ、この間の旅行でカナズミにも寄っていたんだナタネちゃんって。
そう思っていたらツツジさんがこちらを睨みつけるように見上げてきた。何を怒っているんだろうか。
「ハヤシさん、なんで先にナタネさんに連絡しちゃうんですか!」
「……なんでそこで怒るの?」
この間は連絡手段が無いからって怒っていたのに、なんで一番がナタネちゃんって所で怒るの?
……固まっている……かと思えばアワアワと慌て出した。何が言いたいんだろうか?
『ツツジーん、いい加減話しちゃいなよ』
「こ、このおチャラけた声は……!?」
聞き覚えのある声がツツジさんの方から響いたのでハっとなる。
画面内のナタネちゃんは首を傾げているが、ツツジさんは観念したかのように脱力し、肩を落とした。
その際、ずっと後ろ手で隠していた右腕に付けているライブキャスターの画面がチラリと見えた。
「すみませんミサトさん、【ハヤシんのライブキャスターに一番乗りだぜミッション】失敗です……」
掲げて僕にライブキャスターの画面を見せるツツジさん。画面に映るのは、イッシュ地方に旅立っていった僕の幼馴染が1人!
『ヤッホーハヤシん、おっひさー♪』
「ミサト!」
ピンク色のツインテールの少女、ミサトが居たのだった!犯人は貴様か!
『……誰?』
ごめんナタネちゃん、彼女の説明はまた次回だ。
―続―
女の子が多いですが恋愛要素は殆どありません。不感症ってわけでもないです(ぉ)
次回はとっととシンオウに旅立たせようかと。
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その24「きのみ屋さん、シンオウへ行く」
「さーて、今日のランキングはどんな感じかな」
12位(ポケットモンスター)
ポケットモンスター・ライフ
「Σ(@■@川)ナ、ナンダッテー!?」
皆様本当にありがとうございます!
そんな訳でさっさとシンオウに行かせたいので、荒削りながら本編更新。
11/16:誤字修正
今日は日曜日。窓辺から差し込む朝日が眩しいぜ!
なーんて格好つけているが、昨日はワクワクし過ぎてあまり寝付けなかったんだけどね。朝日がキツい。
けど朝だと解ったからか脳が活性化したので、窓辺の鉢植えで寝ているローちゃんを小突いて起こし、ベッドから起き上がる。
ベッドの足元で寝ているリーフィアのイーくんを踏まないよう注意しながら立ち上がり、着替える。ほれイーくん、起きなさい。
2匹の草ポケモンは朝日を受けると元気になり、おはようと鳴いてから1階へ向かう。朝御飯となると元気になるんだから。
そんな2匹を見送ってから、僕は先にやっておくこと―旅行鞄のチェックをしておくことに。
大きい緑色のキャリーバックを開いて中身をチェック。
着替えに保存食に水筒に2Lの水入りペットボトル、ポケモンフーズに小型調理器具、予備のモンスターボールと乾燥した木の実が入った容器。
そしてシンオウガイドブックに地図、キャッシュカードに財布、携帯ガーデニングセットとナタネちゃんへ贈る木の実菓子!
あ、後ナナカマド研究所に持っていく裏庭の苔石。真空パックに入れて厳重に保管しています。
少し多いかもしれないが「用意しておく事に越したこと無し」が僕の旅の信条なので。これで良いのだ。
昨日念入りにチェックしたとはいえ確認は大事だよね。
さて、準備は出来たし、後は朝御飯を食べて旅の支度をするだけだ!
―――
時は遡る事3日前。
ツツジさんのライブキャスターに映る、明るいピンク色の髪をツインテールにした、ツツジさんと同じぐらいに小柄な美少女ことミサト。
彼女はイッシュ地方に旅立った幼馴染の一人で、バトル三昧のマサとは違い、ポケモンと共に俳優を目指しポケウッドで過ごしている。
最近の手紙によるとホウエンムービーズ放映に向けた調整などで忙しいと書いていたはずだが……。
『お久しぶりだねんハヤシん♪』
ウィンクして画面越しに語りかけるミサト。ちなみに彼女は名前に「●●●ん」とつけて呼びます。
「……で、ミサトはツツジさんと何をしようとしていたのかな?」
『ありゃりゃ、まずはそこからか』
当たり前ダグトリオ。しばらく会っていないとはいえ、ミサトの性格を知らないでか。
『ねぇハヤシさん、この子は誰?ツツジさんとどういった繋がりがあるの?』
ジトっと画面内で目を反らすミサトを睨んでいると、僕のライブキャスターからナタネさんの声が。
トレーナーズスクールの談話室とはいえ、お互いが利き腕のライブキャスターの画面を向き合うようにして掲げている姿は滑稽だなぁ。
とりあえずナタネちゃんにも改めてミサトの顔を見てもらおう。……暢気に「ヤッホー」って手を振っているんじゃないよミサトさんよ。
「この子は幼少の頃の幼馴染でね。良い子なんだけど気まぐれで悪戯好きで、小さい頃のツツジさんをからかったり、弱味を握って遊んだたりしてたよ」
『してたんじゃじゃなくて、現在進行形で遊んでいるよ~』
「今でもツツジさんで遊んでいるの!?」
地方の壁ですら越えるとは……恐ろしい
ツツジさんもツツジさんだ。剣呑とした仲というわけでもなく仲良しには違いないけど、なんで未だに遊ばれているのやら。
そう思ったのは僕だけでなくナタネちゃんもそうらしく、ジーっとツツジさんを見る……あ、照れくさそうに俯いた。
「実は私……ハチクマンの大ファンでして」
「あー」『あー』
そういえばツツジさんって昔っから映画「ハチクマン」が大好きだったよね。
ポケウッドに入り浸りしているミサトなら会う機会も多いから、サインや握手会のチケットなんかを餌に遊ばれているんだろうか。
……あれ?けどハチクマンことハチクさんって、確かイッシュ地方とはいえ、ジムリーダーだったような。ジムリーダー同士で交流とか無いの?
『そういえばツツジさんって、ジムリーダーとしての仕事やワールドトーナメントとかで会っても、あまり話しかけたりしなかったよね』
ナタネちゃんナイス質問。
「い、いざジムリーダーとして対面すると緊張して話しかけられなくて」
ウブい。なんてウブいんだツツジちゃん。こんな時に女の子魂全開だ。
『ツツジんから「ハヤシはいい加減にライブキャスターを使うべきだ」って愚痴を聞いて、せっかくだから私が一番乗りに電話できるよう、サイン色紙を条件に手配しといたんだん』
ピースを作って笑顔を浮かべるミサト。
なるほど、妙に切羽詰ってライブキャスターを買えと言って来たのはその為か。お使い感覚で手配しおって。
『けどザンネーン。まさか先客が居ただなんてさー。それも女の子とか珍しいね~』
「連絡先を貰ったのがつい先日だったもんで」
『おかげさまで一番乗り貰っちゃいました!』
ポリピリ頭を掻いて言う僕に対し、画面内のナタネちゃんは嬉しそうにピースサイン。
しかしミサトもあまり執着していないようで、ツインテールを片手で掻き分け「まぁいいけど」と一蹴。
「それよりミサトさん、約束のハチクマンとメイファンさんのサイン、もらえるんですよね?」
『だ~いじょ~ぶ、だ~いじょ~ぶ!ハチクさんとメイちゃんからバッチリサインもらっているから、今度送っておくね!』
「やった!」
嬉しさの余り軽く跳ねるツツジさん。今の彼女は理系ではなく可愛い系で通ると思うよ。
『それよりさハヤシん聞いたよ~?今度シンオウに行くんだって?』
『え、本当ですかハヤシさん!?』
おや、ツツジさんから聞いたのかな?ナタネちゃんも食いついたし、「そうだよ」と軽く返事しておく。
『ちょ~どよかった!マッサんからも頼まれていたんだけど、お使いお願いしていいかなん?』
『ハヤシさん!実は折り入ってお願いがあるんです!』
「……?」
女の子2人からお願い、しかもマサからも頼まれるなんて、一体何があるんだろうか?
特にナタネちゃん。僕のようなガーデニングマニアになんのお願いがあるんだろ?
―――
さて、出発前に再確認をしておこう。
自慢の店「大きな庭のきのみ屋さん」の玄関は閉まっており、「しばらくお休みします」と書かれた看板が掛かっている。
いつもなら特売品などを記す玄関前の黒板には、畑で獲れる木の実の種類と金額、そして「無人販売しています」と書かれている。
裏庭へ歩いて見れば、そこはいつもと変らない光景にポツンと置かれた料金箱と注意書き。
そして僕のポケモン達だけでなく、裏庭の半野良ポケモン達がお見送りに来てくれた。
お留守番をお願いしたゴーさん、ガーさん、ヤーやん、サンちゃん、珍しくアーさんも起きて僕に手(または羽)を振っている。
そのお見送りに応じるのは僕と、僕が旅行に連れて行くポケモンのローちゃん、そしてイーくんとロトやんだ。
前者は手持ち一号ならではの豊富な経験による信頼、後者は広い世界を見せるために連れて行くのだ。モンスターボール登録は済んでいるので問題なし。
「じゃあ行ってくるね」
3匹をモンスターボールに入れてからキャリーバックの取っ手を握り、手を振って裏庭を出る。
後ろ越しに聞こえる色々なポケモン達の鳴き声が「いってらっしゃーい」と言っているようで、見送られる側としては嬉しくなる。
しかし何よりも嬉しいのは、久々の長期旅行と、これから行くシンオウ地方での楽しみだ!
徒歩でキンセツシティの実家へ向かう中、僕はこの間の会話を思い出す。
―――
「マキシマム仮面のサイン?……ああ、マサか」
『そうそう!ハヤシんがシンオウに行くーって言ったら食いついてさ~、マキシマム仮面のサイン取って来いって伝えとけって言われたのよん』
ミサトったら伝えるの早いな~。ていうかマサも食いつき早いな~。
バトルマニアなマサは子供の頃からポケモンバトルが好きだったが、同時にプロレスといった格闘技にも強い興味があった。
故に多くの四天王やジムリーダーが居る中、ノモセジムリーダー・マキシさんことマキシマム仮面は幼少時代からの大ファンだったはずだ。
そういえばマサはイッシュ地方のワールドトーナメントにもいくつか出場しているが、尽くすれ違ってしまって会えないと嘆いたような。
『ちなみに私なんだけど、ヨスガシティの衣服店『DoH』へ代わりに買い物に行ってきて!後でリスト送るからさ!』
『あ、「Dress Of Handmaid」の事?私よくそこへ行っているよ!』
『ホント!?ならラッキ~、今度ハヤシんをそこに連れていってよ!男はオシャレ感覚がなくて困るんだから!』
『ガッテンです!』
なんか女の子2人で盛り上がって……あ、ツツジさんも外野ですか。
後、話が勝手にそして強引に流れていくんですが、僕に拒否権は無いんですか?ていうかそういうなら自分で買いに行きなよ!
……まぁ、買いに行くんだけどさ。稼ぎが良いから余ったお金で食べに行ったりできるし。
にしてもノモセかぁ……ノモセのサファリパークとか寄りに行きたいなぁ。マスキッパとか。
『ハヤシさん、次に私の頼み事があるんですけど、聞いてくれます?』
「おっと、なんですかい?」
『実はこの間のジム戦でハクタイジムの緑が荒れに荒れちゃって……ハヤシさんのガーデニングテクを見込んで庭弄りを』
「承ろう!」
『早っ!?』
庭弄りと聞けば黙っていられぬ!尊敬する草タイプジムリーダーの頼みなら尚更!も~え~て~き~た~!
『あ~あ、ナタネんったら頼んじゃいけないこと頼んじゃって~』
「ハヤシさんのガーデニング好きは昔から変っていませんわねぇ」
―――
そう、僕はシンオウ地方のハクタイジムで、荒れに荒れたというジムの緑をガーデニングしに行くのだ!
くっはー!ガーデニングマニアとしての血が騒ぐ~!待っていろよハクタイジム!このハヤシが弄りに弄って、素敵な庭園に染め上げてくれるわぁ!
さて、両親が車を出して待ってくれているはずだから急ごうっと。船の出発時間はまだだけど。
~通りすがりの人々の談話~
(ねぇ、あの人ハヤシさんよね?……気づいていないかな?)
(シンオウへ旅行しに行くって言っていたから張り切っているのかしら……けど流石に気づくべきでしょ、あれは)
(けど距離も大分あるし静かに飛んでいるから気づかないのかも。……シンオウまで付いて行くつもりなのかしらねぇ)
(あのドクケイルもご執心よね~)
―続く―
次回よりハヤシがシンオウに旅立ちます。
色んな人のポケライフを記したり、草ポケモンをゲットしたり、マグマ団残党が織り成す騒動に巻き込まれる予定です。
後、ダイヤモンドパールの主人公+ライバルも登場します。独自設定のポケライフも盛り込むので(適度に)お楽しみに!
今回のハテナワードはこちら。
●ポケウッドのメイファン
ポケウッドで最近人気を集めている映画俳優。メイファンは芸名で、正体はお察しの通り、BW2のポケモントレーナー。
●ヨスガシティの衣服店「Dress Of Handmaid」
ポケモンコンテンストで用いる衣装を全て手作りで提供する隠れた名店。有名度は地方各地に轟くほど。
改めて、ポケットモンスター・ライフ、御愛読ありがとうございます!
モンハン二次小説優先とはいえ、これからもコツコツ頑張ります!番外編はポケライフ中心で(ぇ)
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その24「きのみ屋さん、シンオウを歩く・前編」
そんな訳で頑張って書きました。珍しく速い投稿です(笑)
なお、シンオウ地方は本当に久々なので、殆どがwiki頼りです。あしからず(汗)
両親の車に乗ってミナモシティまで送ってもらい、シンオウ地方行きの船に乗って二日。
予約していた個室で一泊二日の船舶旅行を楽し……いや初日は大変だった。まさかクケちゃんが追って来るとは思わなかったもん。軽く騒動起こったし。
初日はクケちゃんをたまたま知り合った方と協力し、騒動が大きくなる前に甲板で捕まえる事に成功。捕まえる直前に嬉しそうに鳴いていた気がしないでもない。
手持ちの偏り具合もあって、あの人が居なかったら厳しかったろうなぁ。ありがとう、ルカリオを連れた青の似合うナイスガイさん。
殆ど揺れない船の個室でグッスリと眠り、水平線から漏れる日差しで目覚め、肌寒くなってきた甲板の上でブラブラすること数時間。
お昼頃になって目的地―――シンオウ地方の港町・ミオシティの船着場に到着したのだった。
―――
船から降りて賑わう船着場に辿り着くと、シンオウ地方の寒さを改めて思い知りました。
「うう、寒っ!」
ホウエン地方じゃ小春日和な気温だったのに、同じ明るい空でもシンオウはこんなにも風が冷たいとは!
シンオウガイドブックで「シンオウは寒冷地なので厚着を忘れずに!」と書かれていたけど本当だわ。コート持ってきてよかったぁ。
けどポケモン達はそうではなく、草タイプであるはずのローちゃんとイーくんは久々の陸地、そして未知の地方だと解っているのか結構はしゃいでいる。
ロトやん(カットフォルム)は僕の足元でビクビクしつつも見慣れぬ外に魅力を感じているのか、キョロキョロと辺りを見渡していた。臆病だけど可愛い奴。
一番困るのは新たな手持ちとなった、ドクケイルことクケちゃんだよ……燐粉を撒かないとはいえバサバサと僕の周りを飛ばないでっての。
「大人しくしなさいクケちゃん。これから一緒に旅するんだから遠慮を覚えないと」
「(▽A▽ )(……)」
「( //▽A▽//)(ぷいす)」
……ミツル君の言う事はまさか本当なんだろうか。ちょっと不安です(毒の粉的に)。
さ、さてとりあえず歩こう!ポケモン達をボールに戻し、緑のキャリーバックを引っ張って船着場を出る。
ミオシティを歩こうとして上を見上げたら、そこにはシンオウ地方を横断するように聳えるという山脈―――テンガン山が一望できた。
これがシンオウのテンガン山かぁ……冬だからかほぼ白く染まっており、神秘的な何かを感じさせる。ハクタイシティはこの山の近くにあるらしいし、行く楽しみが増えるってもんだ。
それにしても、小春日和には違いないからか、ミオシティを歩く人達は僕みたいにコートを羽織らず少し厚着している程度だ。やはり北国出身の人は違うなぁ。
とりあえず道端で立ち止まり、地図を広げて確認。まずはナナカマド博士の研究所に裏庭の苔石を届けないと。石が取り除かれるだけでも旅は楽になりますから。
……となると旅路は、まずは218番道路を通ってコトブキシティへ行き、202番道路を南へ下ってマサゴタウンのポケモン研究所。
距離的にも遠くなさそうだし、夜には到着できるはずだ。旅の経験はあるし、足腰は畑仕事で鍛えていて問題なし!
……というわけで、まずはミオシティでお昼ご飯!新鮮な海の幸とかあるかなぁ。
―――
お昼ご飯を食べた後にちょっと食休みして、いざ出発!
せっかくなのでイーくんとロトやんをボールから出してやり、のんびりと歩く。クケちゃん?燐粉が怖いからヤダ。
道中にフローゼルやカラクナシと出会い、イーくんが興味深そうに戯れる様子を楽しみながら歩き、道中に会った人と挨拶を交わしつつまずはコトブキシティへ。
コトブキシティには三時ぐらいに辿り着き、足に余裕があったのと腕白イーくんが急かすのと理由があって、さっさとマサゴタウンに行くべく202番道路へ向かう。
で、202番道路を歩いていたら、コロボーシの群れに紛れていたコロトックという珍しい虫ポケモンを発見。
イーくんは物珍しさ故にピスピスと鼻を鳴らしながら、敵意が無いと解っているが警戒しているコロトックに近づこうとする。
「こらイーくん、あまりからかっちゃダメだよ」
なんて忠告するが、イーくん聞く耳持たず、コロトックにちょっかいを出し始める。
チョイチョイと前脚で突かれるコロトックはたまらないだろう。アッチいけ!と鋭い爪を翳すも、腕白イーくんは遊んでくれると思って跳びかかる。
本来なら苦手なはずの虫タイプですら果敢に遊びに掛かるとは流石イーくん。ちなみにロトやんはコロボーシに囲まれて遊ばれています。カゴメカゴメされちゃっているよ。
……ん?なんかいい音色が……というか眠く……。
―――
―第三者視点―
その日は妙に拾い物をする日だと少年は思っていた。
誰かがポケモンを捕まえようとして用意していたのが落ちたのか、アチコチでモンスターボールを拾う。
何気なく見つけて拾ったとはいえ、空のモンスターボールをジュンサーに届けるわけにもいかず、せっかくだからと貰うのだが。
ポケモントレーナーでもあるし、貰えるものは貰っておこう。そう思って3個目のモンスターボールをカバンにしまった時だった。
―ビビビビビ
羽音が聞こえてきた。しかし聞きなれた音なので怯えもせず、音がした方へと視線を向ける。
そこではビークインが羽音を出して威嚇し、コロトックと子分であるコロボーシ達を追い払っている所だった。
「メイプル、何をしているの?」
少年はビークイン―どうやらメイプルという名の手持ちポケモンらしい―に声を掛けて近づく。
すると草むらに隠れていた物……うつ伏せになって寝ている青年と、少し離れた所で眠っているリーフィア・カットロトムを発見する。
「あ……コロトックの『うたう』でも聞いて寝ちゃったのかな?」
少年は納得する。ビークインは眠ってしまった彼らを守る為、群がっていたコロトック達を追い払ってくれたそうだ。
とはいえ、聞いた直後なのか見事にグースカと眠っており、少年が声をかけても指で突いても起きる気配が無い。
ここで少年は思い出す……何事も真剣に、と。
真剣に考えてみた結果、こんな所で寝ては野性のポケモンに襲われかねないからと、手荒な手段を用いても起こそうと決意。
「出ておいで、スパイク」
腰のベルトにつけられたモンスターボールを放り投げ、中から虫ポケモン・スピアーを放出させる。
スパイクと呼ばれたスピアーは嬉しそうに少年の周りを飛んだ後、少年は頭を軽く撫でてから、眠る青年の前で合掌する。
そしてスピアーに視線を送った後に青年を指差し、スピアーはその意図を読んで……。
「アーーーーーーッ!!!」
それが少年―――コウキと呼ばれるポケモントレーナーの聞いた、青年の悲痛な叫びだった。
―続く―
コウキはポケモンDpの男の子主人公です。詳細はまた次回以降。
それにしてもハヤシはシンオウについて早々ついていないな(笑)
え?スピアーに何をされたかって?ご想像にお任せします(ぉ)
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その25「きのみ屋さん、シンオウを歩く・後編」
ビフォー:さっさと殿堂入り済まして、こだわり育成してやろっと!
アフター:はーいポフレだよ~♪ミニゲームして遊びながら鍛えようね~♪
ポケパルレが可愛すぎて進行どころじゃない……これがポケパルレの罠ってやつか!
それと、ドクケイルが可愛すぎて困る(割と本気)
しかも初のケムッソ進化がマユルド。この小説を書いている事もあり、なんか運命を感じてしまう(笑)
そんな訳で上がったテンションを活かしてザックリと書き書き。
11/25:誤字修正
11/26:誤字修正
いつの間にか太陽が沈んで夕焼けになった頃。
僕は正座している少年と、その隣で地面に伏せている虫ポケモンに怒りをぶつけていた。
「痛かったんだからね!すっごく痛かったんだからね!?」
「すみません……一番確実な起こし方だったもんで」
「(◇ ◇;)(すいやせん)」
「(◇ ◇#)(なんで私まで)」
年下相手、しかも寝ていた所を起こしてもらった相手に大人気ないとは思うけど、物っ凄く痛かったんだからね!?
確かに確実に起きはするであろう!あろうけどさ、スピアーの腕でもある針ってすっげー太くて鋭いんだよ!?
それをこんな所に……あだだ、未だに痛む……手で擦っておかないとやってられないよ。なんでかは知らないけど血は出ていません。
「しかも『とどめばり』で刺すとか何考えてんの!」
『とどめばり』とは、威力の低い虫タイプの技だが、トドメを刺すと攻撃力が二段階アップする技だ!
「一番攻撃力の低い技だったもんで」
「殺意しか感じないよ!」
威力が低いだろうけど「とどめ」だよ!?殺す気満々かい!
年上として、そして被害者として、さっきのやり方の危険性をミッチリ教えたる!
「(― ―;)(しばらく時間かかりそうだね)」
「(―ω― )(そだね)」
「(@▲@;●)(コワイコワイ怒っているご主人コワイ)」
―――
―第三者視点―
緑のバンタナを巻いた青年が赤いハンチング帽の少年を叱っている。
そんな2人を遠くの木陰から見ている陰が2つ。2つとも同じ衣装を纏っており、片方が無線機を片手にボソボソと連絡を取っていた。
やがて無線機の電源を切り、改めて確認するように2人の様子をじっと見つめ、ニヤリと笑みを浮かべる。
「間違いない。ナナカマド研究所に最重要物質を届けにいくとか言っていたガキだ。オマケにあのバンタナ野郎は石を届けにホウエンから来た奴だ」
「へへ、あのガキを探していたら別のターゲットまでいるとはな、こりゃ俺達ついているんじゃねぇの?」
「油断するな。
「したっぱである俺らの出世チャンスってわけか……行くか?」
「もう少し待とう。なに、焦る必要は無いさ」
2つの影はそれぞれモンスターボールを片手に控えながら、ゆっくりとその時を待つのだった。
―――
この少年は大人しい顔しているくせに、結構荒療治を好むんだね……手っ取り早さを重視しているからって……。
まぁ今後はあんなやり方をしないと誓わせたので、僕以降の被害者が増えないことを祈るとしよう。
……さてと、本題に入ろうか。
「ところで……君は誰?」
コロトックの音色から起こしてくれた恩人には違い無いんだし、名前ぐらい聞いておこう。青が似合うナイスガイさんの名前は聞きそびれたけど。
……さっきまで散々怒っていた癖に?お礼を言うのと所業を叱るのとは別です。
「コウキって言います。この先にあるマサゴタウン出身です」
羽音を出して浮かぶ虫ポケモン2体を両脇に添えて少年―コウキ君がペコリと頭を下げてご挨拶。
見た限りでは2匹とも強そうで、特に右に控えたビークインの放つプレッシャーが半端無い。特性だけってわけじゃなさそうだ。
それにコウキ君との距離の近さからして、お互いにかなりの信頼度があると見た。
「ご丁寧にどうも。僕はハヤシ。ホウエン地方から来ました」
観測終わり。今度は僕が自己紹介。足元にイー君、肩にローちゃんを添えて。ロトやんは後ろに隠れているけど。
するとコウキは目を軽く見開き、じーっと僕の事を見つめる……かと思えば手をぽむっとたたき出した。何してんの?
「思い出した。ナナカマド博士が言っていた、石を持ってくるっていうハヤシさんだ」
「ん?僕のこと聞いているの?」
「僕もナナカマド博士に今日届け物があって、もしかしたら遭遇するかもって博士が言っていたんです」
ほほー、それは奇遇ですな。その奇遇がもう少し早く気づいていればあんな悲劇が起こらなかったんだろうか……うっ、古傷が……。
そういえばコウキ君の手には小さくとも頑丈そうなケースが握られている。なんか重要物っぽそうで恐れ多いな。
「それじゃあ目的地は一緒なんだし、そこまで一緒に歩かない?怒っておいてなんだけど、君にはお礼もしたいしさ」
「いいですよ」
微笑んでいるが……なんというか淡白な子だなぁ。素直といえば素直なんだろうけど。
ビークインとスピアーにじゃれついているイーくんを沈め、目的地であるナナカマド研究所に行こうと歩きだし……。
「ちょっと待った!」
わ、ビックリした!誰だ……ってその格好はまさか!?
「な、なんでここにマグマ団がいるの!?それも2人!」
「細かい事は気にするな!」
「てなわけで、大人しくその荷物をこっちに寄越しな!」
マグマ団の下っ端らしい男2人が僕らの行く先を阻み、有無を言わさず言い寄ってきた。
既に相手はポケモンを出していたらしく、デルビルとドンメルの2匹を繰り出している。炎ポケモンが2匹とか、うちの手持ちポケモンには厳しいっ!
思わずチラリとコウキ君を見るが、彼は無表情に多少の睨みを加えたような顔で、しかし震える事無く下っ端達を見ている。
「コ、コウキ君……僕のポケモン、炎タイプに弱いから、勝つのは難そうなんだよね……」
肝っ玉の据わっている様子から見て、結構なポケモンが控えていたりは……。
「僕のポケモンも弱いです。というか、今の手持ちはメイプルとスパイクしか居ないんです」
メイプルとスパイクって、ビークインとスピアーの事?ていうことはタイプ相性的に全滅じゃないですかヤダー!
流石のイーくんも姿勢を低くして唸り声を上げるが、デルビルが口からボっと火を出しただけでビクリと震える。ロトやんなんかビビッて隠れちゃった。
そういえば新参者2匹はバトルをまだしていなかったんだよね……ていうことはローちゃんしか戦えない、ていうか戦ったらアウトっぽそうだし。
ということは……仕方ないけど、まだ希望が持てそうなこの子で!
「さぁ、バトルで負けて寄越すか、大人しく寄越すか!どっちかにしな!」
「出番だクケちゃん!」
「スパイク」
僕はボールからドクケイルことクケちゃんを出し、コウキは名を呼んでスピアーを前に出す。
クケちゃんもスパイクもやる気満々らしく大きく羽ばたかせていた。た、頼りになる虫ポケモンだなぁ!
「へっ!炎ポケモン相手に虫ポケモンとか、俺達本気でついているぜ!」
「やっちまえ!」
敵さんは僕らのポケモンを見て余裕だと思い込んだのか、一気にデルビルとドンメルに攻めるよう指示。
2匹はそれぞれの速度で走りだすが、その前に!
「クケちゃん、ドンメルに『サイケこうせん』!」
「スパイク、追撃で『ダメだし』」
クケちゃんが放つ『サイケこうせん』はドンメルに命中し、その光線が消えた直後にスパイクが瞬時に割り込み『ダメおし』する。
こちらの攻撃にスパイクが合わせてくれたっぽい。『サイケこうせん』を受けた直後に大きな針で刺されたこともあり、ドンメルは一発でお陀仏。
「ド、ドンメルぅぅ!」
「か、『かえんほうしゃ』だ!」
片方が叫び、片方はデルビルに指示。口から放たれる炎が向かった先は……クケちゃんか!
「(▽△▽#)(なにするのよー!)」
「ちょ、効いてねぇだと!?」
炎が晴れた直後、ギャーギャー元気よく騒ぐドクケイルを見て下っ端とデルビルが驚いちゃった。
いや、効いてはいるんです。効いてはいるんだけど、クケちゃんレベルと特殊防御が高いんですよね。
焦げ目を残してもピンピンしているクケちゃんは怒りを羽ばたきに込め、『むしのざざめき』をデルビルにお見舞いする!
「(▽■▽#)(おとといきやがれー!)」
「(@皿@;)(ひーっ、おたすけー!)」
なんかデルビルが哀れに思えて仕方ない……。
吹っ飛んだデルビルは下っ端へと落ちていき潰された。漫画みたいなやられ方してんね。
倒れた相方を見て慌ててデルビルを降ろそうとする下っ端。このまま逃げてくれるとありがたいんだけど……。
「スパイク、『とどめばり』」
「え?」
アーーーーーーッ!!!
―――
「君、『てめぇには血も涙もねぇのか!』とか言われたことない?」
「昔ギンガ団の下っ端によく言われていました」
「やっぱり……」
段々この子の性格が解ってきた。コウキ君って冷静なマイペースっ子だ。しかも無邪気に容赦ない。
スパイクの『とどめばり』に刺された後、下っ端2人は痛そうに手で押さえながらスタコラサッサと逃げ出した。「覚えてやがれ!」の捨て台詞も吐けないぐらい必死に。
確かに僕は「倒れた人を起こす為に使わないで」とは言ったが……コウキ君曰く「悪者相手には容赦しない方が良いかと思いまして」とのこと。
その過激さはクケちゃんですら怯ませるほど。というか刺されているところを見てビクっと震えたよね。
まぁそんなわけで可哀想な下っ端2人を追い返した僕らはナナカマド研究所へ向けて歩いているわけで……クケちゃんを可愛がりながら(バトルのお礼)。
そろそろ夜になるなーって頃合になってマサゴタウンに到着。短いけど濃密な時間だったなぁ。
コウキ君の案内で研究所へ向かっていると、研究所らしき建物の前に誰かが待っていた。
タンタンとビンボー揺すりをして待っているあの人は……ナ、ナナカマド博士!?
「おお、コウキ君にハヤシ君!待っておったよ!」
苛々していた顔をしていたのに、僕らを見たら一変して嬉しそうな顔に。
ライブキャスターで事前に顔合わせはした事あったとはいえ、僕は聞かざるを得ない。
「どうして博士がココに?」
歓迎してくれたのは嬉しいんですが、確か忙しいって聞いていたんですけど?
「最近忙しすぎて疲れが溜まっていてな。つい先日、我が家に戻ってきた」
ボリボリと頭をかきながらナナカマド博士は照れくさそうに言う。研究熱心と言えども疲労には勝てないというわけか。
そんな事より、と言ってコウキ君に視線を向ける。……なんかソワソワしていますよね?
「それよりコウキ君、
何やら期待感に満ちていらっしゃる。僕の苔石よりも大切なものをコウキ君が持っているんだろうか。
コウキ君はさっそくとばかりに手に持っていたケースを博士に手渡す。
博士はウキウキしながらケースを受け取り、余程待ちきれなかったのか、さっそくとばかりにその場で開け出した。
―そこに入ってたのは、なんと……!!
「……フィナンシェにマドレーヌ?」
ようするに焼き菓子ですな。
焼きたてらしく、あま~い蜂蜜の匂いが微かにする。うわぁめちゃくちゃ美味しそう。
「コウキ君は修行中のパティシエでな、たまに蜂蜜を使った焼き菓子を届けてくれるんじゃ」
「ナナカマド博士って甘いものが好きですから」
まぁ確かに、疲れた体に甘い焼き菓子は最適だよね。
それにしても良い匂い……はぁ、なんかお腹空いてきちゃったし、苔石を渡したら夕飯にしよっと。
―続―
●コウキ
シンオウ地方出身のポケモントレーナー♂。冷静な性格。抜け目が無い。
今でこそテンション低めのマイペース程度だが、かつては無気力系だった過去がある。
今はパティシエの修行をしており、お菓子作りが大の得意。ハチミツが好物。
『ダメだし』『どくづき』といった追加ダメージのある技を好む。攻撃型。
コウキに悪気は無いし、容赦も無いんです。昔はもっと酷かったけどねー(ぉ)
彼に関してはまたいずれ明らかになります。もうしばらくお待ちを。
用事も済ましたし、次回はハヤシをハクタイへ向けて旅立たせたいと思います。気長にお待ちください。
……結局どこを刺されたのかって?少なくとも急所と尻ではないな(ぇ
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ポケライフ「元したっぱ達の集い・その1」
ホウエン地方カイナシティにある居酒屋「
港町の近くに建てられたこの店は、小さいながらも豊富な海の幸を肴に、各地で取り寄せた美味い酒を提供する人気店である。
小規模な店ではあるが団体さんの予約も受け付けており、宴会または飲み会用の個室を空けてくれる。
なお、この店の女将は結構な美人さんであることで有名。
―――
「えーっと、今日の面子は全員揃ったか?」
「おう、揃ったぜアカイシの旦那」
「ウッス。主役のリリスちゃんもココにちゃーんといるッスよ」
「恥ずかしながら……」
居酒屋「帆得王」で予約した小さな個室には、海鮮鍋を囲んで4人の男女が揃っていた。
上から順に男3:女1の割合ではあるが、性別ぐらいで後は一般人としか思えないぐらいに普通の
―しかし、この4人にはある共通点がある。
「では……」
―スッとジョッキを掲げ……。
「「「元プラズマ団のリリスちゃん、就職おめでとー!」」」
カコン、と4つのジョッキがぶつけ合い、キューっと酒(ウツミヤはウーロン茶)を飲む。
プッハー、と声を出してからが飲み会開始の合図。グツグツ煮込んだ鍋を肴に飲むわ食うわ。
―そう、この4人は今でこそ足を洗った、元・悪の組織のしたっぱどもなのだ!
―――
「どうだいリリスちゃん、ホウエン地方での暮らしは」
「イッシュとは違って、自然豊かでいいですね。特にブラックシティ出身の私には別世界に思えちゃいましたよ」
「仕事の方は上手くやっているか?元悪党だからって虐められてねぇか?」
「元プラズマ団だと解った上で、私個人を見て受け入れてくれた飲食店ですからね。皆さんとても優しいです」
「最近多くて助かるッスよねぇ、自分達みたいな元したっぱを受け入れてくれる店って」
「今も昔も忙しい世の中だし、人手が足りないんでしょ。良識さえ解ってくれたらこっちのもんだし」
「違ぇねぇ!俺もこんな荒くれ者だが、漁師はこんぐらいでなきゃなんねぇって仲間が言ってくれてな、おかげで昔も今も変わっちゃいねぇぜ俺は」
「アオイさんマジ海の男って感じッスもんねー。アクア団の下っ端ってそんな感じッスか?」
「おいおいウツミヤの坊主、元下っ端なら坊主も知っていんだろ?俺みたいな奴は奇異な奴で、殆どが没個性みたいな連中よ!」
「右に同じくー。マグマ団って聞いたら赤、つまり情熱や熱血ってイメージがあったけど、実際入ってみたら皆個性がバラバラだもん」
「そんなもんッスか?俺っちらギンガ団の下っ端はさ、統一感っつーか、思念とかそういうの統一しているっつーか、みーんな似たり寄ったりになっているんすよ」
「そ、それはかなり奇異ですね。私達プラズマ団はポケモン解放の為と唱えても、悪事の為にする下っ端と、本気でポケモン解放を訴える派閥に分かれていましたから」
「へー、組織内で派閥とかあるんだなぁ」
「ええ……今考えると、ポケモンの為と一心不乱になってしまったのか、その先にある悪事の為にやっていたのか解らなくなってしまいましたがね」
「おめぇさんとしてはどうしたかったよ?」
「小さい頃にポケモンを虐めてばかりいるトレーナーが近所に居て……どうして自分のポケモンを虐めるのかと悩み、気づいたらポケモン解放を唱えるプラズマ団に入っていた、という感じで」
「あー、けど解るな。俺もマグマ団に入ったのって、大地を広げて土地問題とか解決したいって気持ちがあったからさ」
「俺ぁとにかく暴れたいと思って入っちまったが、今になるとアレは単なるストレス発散でしかなかったなぁ」
「俺はアオイさんと一緒ッスけど、スケールが違うッスよ!何せ俺らギンガ団は、宇宙創造を目指してましたから!」
「失敗したじゃん(笑)」
「うん、知ってる(笑)」
「……ですけど、今になって解ることがありますね」
「「「「やっぱり人間、真面目に働くのが一番」」」」
解散後のしたっぱ達は徒労に暮れるわけではなく、真面目に働きさえすれば、苦労はすれど暮らしていけるものである。
「元したっぱどもの集い」―――それは、足を洗い真っ当な暮らしを始めた、元したっぱ達が集う飲み会サークルである(全国各地受付中)。
―完―
今回のしたっぱさん達
アカイシさん(元マグマ団したっぱ♂)
アオイさん(元アクア団したっぱ♂)
ウツミヤさん(元ギンガ団したっぱ♂)
リリスさん(元プラズマ団したっぱ♀)
飲み会の場所:「居酒屋・帆得王(ホウエン地方カイナシティ)」
飲み会の切欠:「友達の就職祝い」
飲み会の話題:「組織の目標と入った理由」
次はちゃんとしたポケライフを書きたいですね。
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その26「きのみ屋さん、ソノオタウンへ行く」
感想板で色んな方の評価を頂きましたが、中でもスローライフ作風を気に入って頂けた方が多いのが嬉しいですね。
これだけアクセスしてもらえてたこともあり、この作風も需要があるんだなと嬉しく思います。
まぁ、誤字が多すぎてその報告をしてくる方も多いんですが(汗)
いつもありがとうございます!
11/29:誤字修正
ナナカマド博士に裏庭の苔石を渡した後(微量なエネルギー反応があるらしく研究の価値ありだとか)、僕はコウキ君の家にお邪魔することになった。
簡易テントで一晩過ごそうかと思ったけど、あんなことしてしまったお詫びも兼ねて泊まらないかと勧められたこともあり、遠慮なくそうすることに。
コウキ君のお母さんも唐突な来訪にも限らず歓迎してくれた。コウキは良い子なんだけど迷惑もよく掛ける子で、こうしてお客さんが来る事も多いんだとか。
苦労していますねって声を掛けたんだけど、コウキ君のお母さんは気にする様子は無く。
「子供は少なからず迷惑をかけるものよ。元気に暮らしてくれたら言う事はないわ」
―と強い笑顔を浮かべて笑っていた。そんな母を見る淡白なコウキ君の表情も、どこか嬉しそうだった。
うん、コウキ君のお母さんは強い人でした。それと昔ポケモンコンテストに出ていたらしく、ポフィン作りも非常に上手。色々教わりました。
料理のお手伝いなどしつつ夕飯をご一緒させてもらい、イーくん達の面倒を見てもらいました。腕白イーくんと生意気クケちゃんを大人しくさせるなんてコウキ母さんマジすげぇ。
その後はコウキ君の母さんからポフィン作り、見習いパテシィエのコウキ君からお菓子に関する談話をしつつ、お世話になり過ぎないようにとソファで一晩過ごす。
いやー、野宿するつもりだったけどラッキー。ありがたや、ありがたや。
―――
……で、薄い雲から漏れる弱い朝日が差し込んだ翌朝(昨日より寒かったが、朝方は大抵こんなんだという。ブルブル)。
しっかり朝御飯もご馳走になり、僕はマサゴタウンを出てソノオタウンに向かうことに。
ソノオタウンは見事な花畑があることで有名なので、ハクタイの森と同じぐらいに楽しみにしていたから気分も軽い。
意気揚々と出かけようとするとコウキ君が
「僕もソノオタウンの店に戻らなきゃいけないんで、途中までご一緒しませんか?」
という風に誘われた。コウキ君の働いている店ってソノオタウンにあるんだ。
一晩過ごして解ったが、コウキ君は容赦こそないものの基本的には良い子だ。ポケモンに自分なりの愛情を持って接し、親睦を深めるタイプ。
しかし良くも悪くもズバっと本音を言う真っ直ぐさもあるので、クケちゃんみたいなツンデレとは相性が悪いようだ。相性の良し悪し次第では好きにも嫌いにもなりそう。
そんなわけでご一緒することに。現地の人が居ると助かるっていう点もあるが、人間1人より2人がいいよね。
飛行できるポケモンを持っていないのでモチロン徒歩。寒いので早足で出発。
道中で解ったけど、スピアーのスパイクは意地っ張りで血の気が多く、ビークインのメイプルは陽気で食べるのが好きらしい。
2匹ともコウキがビートルとミツハニーの頃から育ててきた、いわゆる幼馴染ポケモンなんだとか。理由は蜂蜜好き仲間。
さて、コウキ君とそのポケモン達について談話しつつ、いつの間にかコトブキシティと204番道路を越えて……。
―――
「やってきましたソノオタウン!」
肩に乗せていたローちゃんが拍手を送ってくれた。相変わらずの合いの手の良さで。
それよりも見よ、寒空の下で健気に咲く広大な花畑の美しさを!すンばらしー!
季節は冬でありながら色取り取りの花が咲き乱れており、花の種類ごとに並べられた色合いも美しい。今咲いているのは寒さに強い花なんだって。
そして冬であることにも関わらず観光客やそのポケモン達も大勢居る。僕のように花畑に魅了された人が多いってことなんだよなぁ。
その綺麗さのあまり、イーくんとクケちゃんはもちろん、臆病なロトやんですら嬉しそうに駆け回っている。柵はあるから花畑に入らないだろうけど、荒さないようにねー。
肩の上でソワソワしているローちゃんを降ろしてやると、ローちゃんも我を忘れて花畑に駆け寄る。やっぱり草ポケモンなんだなぁ。
するとトントンと肩を叩かれたので振り向くとコウキ君が。夢中になって気づかなかったよ。
「それじゃあハヤシさん、僕は店のこともあるんでこのへんで」
そっか、ここにコウキ君の店があるんだった。2匹の蜂ポケモンは既に店に向かったのか、その場には居なかった。
「わかったよ。道中ありがとね」
「もし店を見かけたら寄って行ってください。それでは良い旅を」
僕がお礼を言うと、コウキ君はトレードマークの赤いハンチング帽を軽く上げて別れの挨拶。踵を返して走っていく。また会える予感がするなぁ。
コウキ君の店って確か洋菓子店だったよね。この町特産の「あまいミツ」を使ったカロス地方風のお洒落な菓子が自慢の。
まぁそれは後で寄るとして……僕はポケモン達を呼び集める。
「まずはフラワーショップに寄ろう!」
フラワーショップ「いろとりどり」はシンオウガイドブックでチェック済み!さぁ、色んな木の実を買うぞー!
ついでに「あまいミツ」で虫ポケモンでも捕まえてみようかな?
―続く―
確か昔ポケモンパールで「あまいミツ」を使ってヘラクロスを捕まえようと必死になっていた記憶が(苦笑)
ここで一旦コウキ君とお別れ。再開フラグを今のうちに建てて置いとこうウヘヘヘ(ぉ)
とりあえずソノオタウンに滞在する期間は短めです。ここで捕獲するポケモンは決めているんで。
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その27「きのみ屋さん、あまいミツでポケモンを誘う」
さぁ、ハヤシがゲットするポケモンはなんなのか!?
12/01:誤字修正
手からじとじとした土を感じる……。
「いい湿り具合ですねぇ。これなら郵送しても、向こうに着く頃には程よい湿り気を保っているでしょう」
「そうでしょ?うちのフワラーショップで良く使われている肥やしよ」
赤バンタナにピンクのエプロンを着た女性店員が自慢げに言う。いやはや参りました。
流石はシンオウ地方で一番の花畑があるソノオタウン。フワラーショップといえど良い肥料を使っているようだ。
「いろとりどり」の店名に相応しい様々な肥料を一つ一つ直に触らせてくれるなんて、この店も気前がいいなぁ。
ちなみにポケモン達を待たせるのも忍びないので、外の花畑で店員さんのハニー(ミツハニー♀)と遊んでいます。
指を動かしてみるが、手の平に溜まった肥料は中々落ちようとしない。ちょっと粘土状の土が混ざっているのかな?柔らかいし、保湿性に優れていそう。
他にも粘り気のある肥料や栄養価の高い肥料もあるけど、郵送してもらうならこの「じめじめこやし」かなぁ。値段も手ごろだし。
「……よし、買います!」
「ありがとうございます~」
女性店員の笑顔が「勝った」と言っているかのよう。けどいいの!良い肥料なんだし!
「そうそう、その肥料を使うならね……」
「ふむふむ……」
保湿性の優れた肥料と相性の良い木の実についてお話中。お花屋さんって木の実畑にも詳しいから話が合うんだよね~。
……純粋に花を育ててみないかって?木の実とローちゃんで充分なので、別にいいです。
―――
店員さんとガーデニングについて話して、そこそこの量の肥やしを郵送してもらって、僕の心はホックホク。いやぁ、便利だなぁフキヨセカーゴサービスって。
お値段控えめだから僕の小遣いでも余裕で買えたし、懐にも余裕があるっていうのがさらに心を暖かくさせてくれる。悲しいけど、お金は大事だよ。
ポケモン達と一緒にソノオタウンを歩きながら(クケちゃんとは大分慣れた。捕まえてから前より大人しくなった気がする)、僕は目的地へと辿り着く。
―ソノオタウンでやりたかったこと、その2だ。
「さーてと、そろそろかな?」
フラワーショップに寄る前に「あまいミツ」を塗っておいた「あまいかおりのする木」。
その香りと「あまいミツ」はポケモンを引き寄せ、木の大きさ上1匹しか寄り付けないので、独占していて夢中になっていた所をゲットできるというソノオタウンだけのゲット方法。
シンオウガイドブックを読んで一度やってみたいと思っていたのだ。こんな経験、ホウエン地方じゃ出来ないからねぇ。
さて、どんなポケモンが居るのかなー……あ。
「フィ、フィ♪」
「(×<×)(やめれー)」
一足先にイーくんが「あまいかおりのする木」に行っていたらしく、その木にぶら下がっているミノムッチにじゃれ付つこうと跳びかかっていた。
なんかネコじゃらしに釣られているエネコみたいで微笑ましい。ミノムッチとしては迷惑らしく、身を揺らして避けようとしているだけなんだが。
にしてもミノムッチかぁ。確か回りの葉や砂などを蓑にする面白いポケモンだったよね。うちの裏庭で育てたらどうなるんだろうなぁ。
「(▼<▼#)(いい加減にしろっちゅーの!)」
「フィーっ!?」
お、ミノムッチがイーくんの背中に噛み付いた。いやー「むしくい」だから、噛み付いた、とは違うか?
とにかく背中に張り付いて攻撃してくるミノムッチにイーくんが慌て出した。ちょっかいをかけるからそうなるんだ。ザマァ。
「フィ、フィイフィイ!」
これ取ってー、と言っているかのように背中を見せつけながら跳んだり跳ねたりするイーくん。
けど怒りっぽいミノムッチはその程度では離すつもりは無く、むしろバトルする気満々っぽい。
……そういえばイーくんってまだバトルしていなかったな。
「……頑張れ!」
「Σ(@■@;)(そ、そんなぁ!)」
虫タイプ相手に厳しいと思うけど、相手は小さいし、初バトルには丁度いいでしょ!
ローちゃんはチアガールのように両手を振って応援しているし、ここは傍観ってことで。クケちゃん、あまいミツやるから大人しく見守ってやってね。
ちなみに僕の育て方としては、草ポケモンなら草ポケモンの先輩から技などを一通り教わり、初バトルは野生のポケモンと自分だけで戦わせる。
まずはじゃれあいとバトルの違いを感じてもらうのだ。野良ポケなら違いが解るけど、タマゴから孵って人の手で育ったポケモンは解りにくいものだから。
この育て方は相手次第にもよるが……今回の相手が怒りっぽいミノムッチで良かったー。
とりあえず背中に張り付いたミノムッチを振り払いたいのか、イーくんは「でんこうせっか」で加速。
花畑の外で戦っているから、ジグザグに走っても問題なし。お客さんもバトルと感づいたか離れ出したし。
流石のミノムッチもイーくんの最高速度に耐え切れず地面に落下。即座に起き上がって跳ねながらイーくんを追いかける。
イーくんはミノムッチの怒りを目の当たりにしたからか、四肢を踏ん張って威嚇。バトルする気になったみたい。
しかしミノムッチの怒りは威嚇程度では止まらず「めざめるパワー」で攻撃……当ったけどイーくんには効果は今ひとつのようだ。
「めざめるパワー」のランダムに助けられたイーくんはローちゃん直伝の「マジカルリーフ」で反撃。枚数は少ないが立派にホーミングしていくよ。
しかし残念、ミノムッチは虫タイプなので効果はいまひとつ。ダメージはあるけど余計に怒らせちゃったみたいだ。
プンスコと怒るミノムッチだけど……結構迫力あるな。イーくんもタジタジだよ。
噛み付いてやる~!と言わんばかりに跳びかかってくるミノムッチを前に、イーくんは尻尾を口に当てて……。
―♪~♪~♪
「くさぶえ」……ああ……眠くなってきた……。
―ぐごごががが!
「うるっせ~!」
このミノムッチ「いびき」を覚えていたんかい!
―――
……で、ミノムッチVSリーフィアの戦闘はというと。
「(^<^ )(勝ったど~!)」
「(×皿×;)(参りました)」
―カンカンカーン、と脳裏にゴングの音が響いた気がした。
相性の悪さと浅い戦闘経験故か、イーくんはミノムッチの「むしくい」の前に破れた。悪くなかったんだけどなぁ。
うつぶせて倒れるイーくんの背中でピョンピョン跳ねるミノムッチは上機嫌。参ったか、と言わんばかりに時々強く跳ねる辺り、相当根に持つ子と見た。
ちなみにイーくんに木の実を渡していれば「しぜんのめぐみ」を発動して勝てたんだろうけど、敢えてしません。
さっきも言ったけど、初バトルは自分の手だけで経験してもらうのが僕の育て方なんです。この次からは僕直々に指導するゆもりだが。
それに腕白なイーくんもこれを機にちょっかいをかけることを減らしてくれる事だろう。むしろそうしてください。
……さて、それはおいておくとして。
「(Θ<Θ#)(ああん?やんのかコラ)」
「ローちゃんレッツゴー」
「(>▽< )(ガッテンですわ!)」
生まれたてのイーくんと経験豊富なローちゃんの格の差を見せてやるよ、ミノムッチ……ちゃん?くん?まぁいいか。
悲しいけど、目的は飽くまでゲットですから。アーメン。
―――
「しびれごな」で麻痺させて草タイプの技でチマチマ弱らせてからゲット。流石はローちゃん、手馴れているぜ。
ワイルドなミノムッチは♀だったのでミノちゃんと名づけ、ポケモンセンターでイーくんと一緒に回復。怒られたけどね。
こうして僕は、シンオウ地方に入って初めてポケモンをゲットしたのだった。クケちゃん?ホウエン産なのでカウントに入れません。
そんなわけで手持ちとなったミノちゃんの歓迎会ということでおやつタイムにしたんだが……。
「(@v@;)(ど、どうぞ)」
「(―<― )(あらアリガト)」
3分の1ほど残したポロックをミノちゃんにおすそ分けするイーくんの図。
モソモソと食べるミノちゃんの隣でビシっと座るイーくんはまるで……そうだ、舎弟みたいだ。
いやぁ、あのバトルだけで一気に上下関係が生まれるとか、このミノムッチやりよる。
「(0▲0#)(あまりイーくんを虐めちゃダメよ?)」
「(><<;)(わ、わかってますって姐さん!)」
ローちゃんがミノちゃんより上で。
「(0<0 )(ボス、ご一緒してもいいでしょうか!)」
「(▽A▽ )(好きにすればー?)」
クケちゃんが最上級か。この中では当然かな、実際強いし。
それにしてもこのミノちゃん、怒りっぽいけど上下関係には五月蝿いようだ。また個性的なやっちゃなー。面白くなりそうだけど。
「(▽<▽#)(ちょっと、ボスのご飯が足りないわよ!早くお寄越しなさい!)」
な、なんかミノちゃんが僕に突っかかってきた!一応トレーナーなのに!
「(@▲@;●)(コワイコワイあのミノムッチコワイ)」
「(@皿@;)(だよねー)」
さて、コウキ君の店で買ったオヤツを食べ終えたら、次はハクタイの森に出発だ!
―続く―
そんなわけで、ゲットしたのはミノムッチでした。勇敢な性格でちょっと怒りっぽい。
ちなみにミノムッチは覚え技で「いびき」を覚えるそうなので採用しました(サイト調べ)
ネタのためなら過去の覚え技ですら平然と出す辺り、作者の気まぐれ度が物語りますね(汗)
コウキ君の店については後日語ります(←先延ばし体質)
というか今回のシンオウ編でシンオウ主人公とライバルのポケライフを覗くつもりですので。
設定は浮かんでいても本編優先で省くかもしれませんが(ぇ)
次回はハクタイの森へ行きます。
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その28「きのみ屋さん、ハクタイの森を歩く」
今回はブラリ旅です。特に大きな意味はありませんが、すれ違いの出会いを楽しんでください。
思い出せ、思い出すんだハヤシ。僕はなんの為にシンオウへ来たんだ?
1つ!ハクタイジムの修復!挑戦者を待たせてはいけないから早い目に来て欲しいってナタネちゃんから頼まれたじゃないか!
2つ!ミサトに頼まれていた衣装を買いに行く事!こっちもなるべく早く郵送しておかないと!
3つ!マサに頼まれていたマキシさんのサイン!もし忘れたりしたら絶対マサにボコボコにされる!
そう、このシンオウ地方へは旅行に来たんだが、同時に頼まれ事も受けたじゃないか!
だから道草し過ぎちゃいけない……いけないんだけどさぁ……!
―ショキショキ……うーん、なんかバランスに納得がいかない。
「……もう少し切るか」
邪魔になる枝をハサミでチョキっと。野性の若木を相手に切り過ぎてはいけないから、慎重にね。
ソノオタウンを出た僕達一行は、昼の日差しが零れるハクタイの森に到着しました。
思いっきり息を吸って森の香を楽しんだ後、思いっきり吐いて幸せを噛み締める。これ、僕なりの森への礼儀です。
で、目の前に丁度良い高さの若木があったもんで……ついつい専用のハサミでいじっちゃっています。
木々から漏れる光で照らされているとはいえ、ここは深い森の中。草ポケモンのローちゃんとイーくんは結構はしゃいでいます。ソノオタウンでもはしゃいでいたがな。
ロトやんとミノちゃんは僕がいじっている木の根元でお昼寝。静かにしてくれるならありがたいので、集中してハサミ弄りを……。
「(▽A▽#)(退屈~。遊びなさいよ~)」
「ぶぼっふっ!?」
ク、クケちゃんの燐粉を吸ってもうた……ゲホゲホ、く、苦しい……っ!
―――
僕が吸った燐粉が毒だと思った?残念むせるだけの燐粉だったよ!……何がしたいんだ僕は。
ドクケイルの粉って気分次第で毒性とか変わるものなのかはさておき、毒の粉でなかったことに一安心です。
そんなわけでクケちゃんを怒らせた事もあり、さっさとハクタイの森を抜ける為に歩く。
まぁこういった森で道草を食ってしまうのは悪い癖だったので、あんな目にあったとはいえ中断できたのはよかったかも。急ぎの用もあるし。
しかしハクタイの森は美しい。トウカの森とは違った趣があるよ。
トウカの森はキノココがいるから時々胞子を吸っちゃうこともあるが、ここハクタイの森はそれが無さそうなので悠々と深呼吸できるのもグー。
ちょこちょこ見える珍しいポケモン。葉と葉の間から零れる光。なんか不気味な館は全力でスルーします。コワイコワイ。
そんなわけでハクタイの森を練り歩く中、旅の楽しみをいくつか見つけました。
―――
「こんにちは」
「こんにちわぁ」
チェリムを連れたお婆さんとご挨拶。背中に籠を背負っており、中には木の実がいっぱい。
「すごく沢山採るんですね」
「毎日ここに来ては水遣りをしていてねぇ、おかげさまにこんなに実ったよ」
どうやらハクタイの森へは散歩で来るらしく、水遣りをしてはたまに木の実を採取するんだとか。
いくつか木の実を土に植えて水をやった後、木の実スムージーのレシピを聞いてお別れ。
―――
「こんにちわー」
「こんにちは」
バイクを停めて森の風情を撮影している若いカメラマンと挨拶……あ、ビリリダマで発電するタイプの電動バイクだ。
「写真撮影ですか?」
「うん。今はシンオウ地方を旅しながら、こうして気に入った風景を写真に撮っているんだ」
バイクに乗った撮影の旅……いいね!一ヶ月以上シンオウに居るけど、撮りたい風景が多すぎて半分も回れていないとか。
いくつか彼がお勧めしてくれた写真を見せてもらい、これから行くというソノオタウンについて話した後に別れた。
―――
「おーっす!バトルしねぇ?」
「いきなりですか」
マッスグマを連れた元気な短パン小僧にバトルを挑まれました。どっちも絆創膏がアッチコッチ貼ってあるよ。
「一応急ぎでもあるんだけどなぁ」
「1対1でいいからさ!いいだろー?なーなーなーなーなー!」
「(▽■▽#)(うっさいわねこのチビ!)」
「(`■´#)(ご主人に何するんだ!)」
元気に駄々をこねる短パン小僧にクケちゃんが怒り、ご主人を守ろうとマッスグマが立ちはだかる!
結局バトルしたが、結構な場数を踏んだマッスグマ相手に拮抗し、最後にはクケちゃんの勝利。やっぱ強いなぁ「はらだいこ」。
成り行きとはいえバトルしてくれた礼に「ゴスの実」をくれてお別れ。店にも無い木の実だったから嬉しかった。
―――
突然ですがお昼のランチターイム。簡単な調理器具と木の実、保存用のパンがあれば美味しい料理が作れるもんさ。
そしたら匂いに釣られたのか、お腹を空かしたバックパッカーの少年が草むらから出てきて、せっかくだからとお昼をご一緒した……大食いウォーグルと一緒に。
食べながら話を聞くと、彼はイッシュ地方出身で、今は事情があって全国を旅しているらしい。
「ご馳走様でした!ありがとうございます!」
「お粗末さまです」
なんかデジャヴが。
「そうだ。実は人を探しているんですが……こんな人を見ませんでしたか?」
彼がゴソゴソとリュックから出して見せた物は、綺麗に折りたたまれた人相書きだった。
ふむふむ……綺麗な絵だし特徴も解り易く、名前はもちろん性格や好きな物まで書かれていてとても丁寧。
「残念だけど見ていないなぁ」
こんな目立つ子を一目でも見たら一生忘れない自信がある。なので会っていません。
「そうですか……」
―ピリリリリ
「ちょっと失礼……もしもし?……本当!?どこに……テンガン山の頂上だね?すぐ行くよ!」
彼のライブキャスターが鳴ったと思えば即座に繋ぎ、急に立ち上がってウォーグルに跳び乗った。
「すみません、探している人が見つかるかもしれないんで、これで失礼します!」
そういってバサバサと吹く羽ばたきの風に吹かれながら、僕はウォーグルに乗って飛び去った彼を見送った。
なんていうか、行動力に溢れた子だなぁ。荷物の量といい、人相書きの丁寧さといい……よほどその人に会いたいんだろうね。
「頑張れよトウヤくーん」
もう届かないだろうけど、一応ね。
……にしても、ナチュラル・ハルモニア・グロピウスかぁ。長い名前の探し人だな。
―――
トウヤ君と別れて少し休んだ後、ハクタイの森にある岩を見つけ、その前で佇んでいる人を発見。
「こんにちわー」
「こんにちは。良い天候に恵まれましたね」
穏やかな表情だけど目が鋭い、赤い髪に赤いスーツを着込んだ青年だった。雰囲気がバトルジャンキーなマサに似ている気が。
足元には彼の手持ちらしいイーブイがおり、陰に隠れながらこちらをチラチラ見上げている。可愛い。
「何をしているんで?」
「いえ、私のイーブイをリーフィアに進化させようか悩んでいるところでして……どうやらあなたもリーフィアをお持ちのようですし、何かアドバイスなどあれば」
「あ、うちのイーブイも進化したばっかで、まだ良い点が解らないんですよね」
可愛いっていのは確かなんだが、それを言ったらブイズは大抵可愛いよなぁ。
そうですか、と小さく囁いた後、赤毛の男は再び苔生した岩を見上げる。それほど進化が重要ってわけでもなさそうだ。
「それにしてもイーブイとは不思議なものです。高エネルギーが込められた進化の石で進化するかと思えば、このような地域で進化することもある」
岩の表面……水気と冷気を吸って冷たいであろう苔に触れながら彼は言う。
「イーブイは大地の恵みによって進化する……そう考えると、大地に敬意を持たざるを得なくなるってものです」
「けどイーブイって懐き具合でも進化するじゃないですか」
……あ、つい突っ込みを言ってしまった。
「……あっはっは、それは1本取られましたね」
軽く笑って流してくれた。この人ええ人や……!
一応急ぎの用事もあるということで、一言二言会話を交わした後でお別れ。
こんな森の中でも色んな人に出会えるから旅って楽しい。庭弄りをしたり店を開いたりする方が僕としては好きだけど。
さて、そろそろハクタイの森を抜けるかな?オヤツ時にはハクタイシティに着くでしょ。
―続く―
まさかのトウヤ登場。電話の相手はトウコ。2人揃って「Nを探し隊」(笑)
こちら2名もいずれポケライフとして登場させたいですね。ちなみに作者はN主派です。
他、感想板でピンときた者が1人、読んでいればどこかで見たはずの人も出てきました。
まぁ今回は出あっただけの話で、大きな意味はございません(苦笑)
すれ違いっていいですよねぇ。
次回はメインの1つ、ハクタイジムに到着!
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ポケライフ「海のトレーナー達」
さっそく活動報告に書かれていたトレーナーが出てきます。もう一人は感想板でフラリと書かれていたもの。
暖かな南国であるホウエン地方にも、本格的な冬がやってきました。
雪こそ降らないが曇り空が多くなり、冷たい寒気が肌を突き抜けるのでコートが必須になる日が増えてきた。
水辺が冷たくなる時期でもあるので、寒さに弱い水ポケモンも暖を取ろうと色んな手段を用いて温まるのに必死である。
そんな寒空の下、僕ことユウキはホエルコのホエ2世(1世ことホエルはバトル用)に乗って海を渡っています。
秋から春にかけてダイバーの仕事が激減するので僕は暇を弄ぶようになり、ここしばらくは気ままな海の旅を楽しんでいる。
とはいえ、そろそろ家に帰ろうと思い、ムロタウンから出てトウカシティへ向かう。空の旅の方が楽だろうけど、僕は海の旅が好きなんです。
「おーい!」
あ、色違いのサメハダー。ということはその背に乗っているのは……やっぱりカグラさん(ポケモンレンジャー♀)だ。
水上を管轄しているカグラさんとはダイバーの仕事を通じて知り合った仲で、救助活動からスキューバダイビング前の指導まで、色々な面で世話になっている。
凄いスピードでこちらに平行してきたかと思うと、切羽詰ったような顔で僕に詰め寄ってきました。
「ユウキ君、今大丈夫かしら?」
「どうかしたんですか?」
「実はさっきメノクラゲの群れに襲われているって連絡があって、今向かっている所なの。君が居てくれたら心強いんだけど、頼めるかしら?」
「解りました、僕も行きます!」
この時期はメノクラゲが増えやすいから一大事だ!僕はさっそくボールからサメハダーを出し、乗り換えてからホエル2世をボールに戻す。
それを見ていたカグラさんは僕がサメハダーに乗り換えると同時にラブカ(色違いのサメハダー♂)の速度を上げて先行。僕も後に続く。
―――
流石はサメハダーのジェット噴射。2~3分もしないでメノクラゲの群れを見つけることが出来た。
波に紛れるようにして広がるメノクラゲの群れに中心には、カグラさんが言っていた目印『一回り大きいラプラス』が。
「こ、こっちに来るなぁ!あっちいけよぉ!」
図鑑で記されていた全長よりも大きなラプラスの背で、パーカーを羽織った海パンの男が泣きそうな声で叫んでいる。
彼の手持ちらしいオクタンがラプラスの首に張りついており、ラプラスに近づこうとするメノクラゲに片っ端から『サイケこうせん』を撃っていた。
けどメノクラゲの数は圧倒的に多く、オクタンとラプラスだけじゃ寄せ付けないようにするだけで精一杯のようだ。既に2匹は疲労している。
数は軽く50を越え、僕達が加わっても全部倒すのは厳しいだろう……けど!
「サメハダー!」
「ラブカ!」
―意外だろうけど、海を漂うメノクラゲならこれが一番有効なんですよ!
「「『なみのり』!」」
―ザッパ~ン
大きな波を作り、メノクラゲの群れはその波に従って流されていく。
図体の大きいラプラスは重さ故に波に逆らうも、メノクラゲ達を避けるようにして泳ぎ、危機を脱した。
波を抜けるようにして跳び出たのはラプラスだけで、メノクラゲ達は波に飲み込まれ、あっと言う間に遠くへと流されていくのが解る。
「へっきし!」
ただし、波を抜けたということは、ラプラスの背中に乗っていた人はずぶ濡れになるわけですけど。
―――
とりあえずそこらへんの孤島へ移動し、濡れた体を温めることに。
「いや~、助かったよ。ありがとう」
ガチガチと青い顔で震えながら言われても。念のためにとコータスを手持ちに持っておいてよかった。
カグラさんは予備の厚着やホットドリンクを提供。流石は海上を管轄しているポケモンレンジャーですね。
コータスで暖房と乾燥を兼ね、乾かしている間、服や暖かな飲み物はカグラさんが提供。これで冷えた身体が回復するだろう。
「この時期はメノクラゲが増えやすい時期ですからね」
「いや~、解っていたつもりでは居たんだけど、初めてのホウエンだからって浮かれちゃって」
「あら、あなた別地方から来たの?」
「うん。ジョウト地方から来たんだよ」
「そんな遠くから?」
いつの間にか話題が弾んでいった。それだけ体が温まってきたという証拠だから良し。
ちなみに他のポケモンは余所でポケモンフーズを食べています。大きなラプラスは特に食い意地が張っていたようで。
そんなラプラスの背中をポンポンと叩きながら、アオヤマさんは自慢げに言う。
「僕は水ポケモンが大好きでね~。このラプラスと一緒に全国の海を周りながら、色んな水ポケモンに会う旅に出ていたんだ」
「へ~、大きな夢ねぇ」
カグラさんが羨ましそうに大きなラプラスの背中を見ている。ラブカが嫉妬していますよ?
それにしてもラプラスに乗った海の旅かぁ。ドラマとかでありがちだけど、実際は大きな水ポケモンに乗って旅をするっていう人は多いんですよね。
「それならもっと気をつけてくださいね。メノクラゲの群れは怖いんですから」
だからこそ、メノクラゲの大群に遭遇して遭難した、という人が続出しているのだ。
「今度、私が指導してあげるわ。ポケモンレンジャーとしてね」
「あははは、お手柔らかに頼みます」
カグラさんの指導は厳しいから覚悟していてくださいねアオヤマさん。
その後はしばらく水ポケモンの魅力について語った後、僕はトウカシティに帰る為に2人と別れた。
海の魅力を伝えたい僕としては有意義な時間を過ごせたので、帰りは心がホッカホカだ。
―さて、父さん心配しているかなぁ……最近顔出していなかったから怒るかな?
ポケモンレンジャー♀のカグラさんでした。短いですが登場させました。
ダイバーのユウキとは仕事の関係上よく会うという個人設定です。
にしても体型について触れたかったなぁ……(ぇ)
ちなみに本来は色違いは珍しいので、キャラとして出すのは遠慮しがちです。
色違いだったら目立つしきっと載る!と誤解されぬようお願いします。
こんな感じに、活動報告に投稿した本編やポケライフでフラっと出てくる可能性があります。
ただし、作者の気まぐれ、登場したけど陰が薄い、理想と違うなど色々と不都合が生じると思います。すみません。
活動報告の読者様のキャラをみて「ああ、こんな生活送っているのかなぁ」と妄想して楽しんで貰うのが一番かと(笑)
ではでは。番外編「ポケライフシリーズ」もよろしくお願いします。
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ポケライフ「元したっぱ達の集い・その2」
あれって同じしたっぱが混ざっていたりするんだろうか?なんて。
12/7:文章追加+修正
ホウエン地方キンセツシティに店を構える飲食店「コックカビゴン」。
「キンセツキッチン」に比べると知名度は劣るが、安いお値段で提供するバイキングが自慢である。
ホウエンの中心というだけあって地方各地の食材を厳選しているので味もよく、食べ盛りの若者に人気だ。
―――
夕焼けが地平線に沈み、大人達が酒を飲みに出るようになる時間帯。
本日の「元したっぱどもの集い」は若い衆が多い為、ここ「クックカビゴン」で食べ放題飲み放題のバイキングを楽しんでいた。
メンバーは20代前半が大半を占める男女5名。順に紹介していこう。
「いやー、フエン温泉の掃除も楽じゃねーっての」
ジョッキでビールを飲むスポーツ刈りのガタイの良い青年・サカイ(元ロケット団したっぱ)。
「いやいや、カイナシティの市場の売り子も大変よ?声を張って張って張りまくってさー」
少々ガラガラした声で話すセミロングの女性・ミナ(元マグマ団したっぱ)。
「ワタシ、まだホウエンに慣れてなくて未だに通勤中に迷子になったりするんデスが」
カロス出身故にカタコトで話す暗い雰囲気の若者・レアード(元フレア団したっぱ)。一番年下。
「元したっぱは皆大変だ!トレーナーとバイトを兼任している奴は特にな!」
自分で剃ったという禿げ頭の中年・トウマ(元ロケット団したっぱ)。最年長の30代前半。
「ハグ、マグマグ」
そして先ほどからずーっと料理と酒に夢中のふくよかな女性・コトワ(元アクア団したっぱ)の5名である。
「……今日はよう食うなコトワちゃんよ」
「何?仕事でストレスでも溜まっていんのか?」
「……あ、いや、そういうことじゃないのよ?こういう機会でも無いと好きなだけ食べられないのよ」
「あれ?コトちゃんって確かミナモシティでバイトしているから金払いよかったじゃない」
「今月給料厳しいんデスか?」
「実はね、この間からホエルコを育て始めたのよ」
「それマジ!?ぱないわね!」
「おいおいホエルコっつーたら結構食べるポケモンじゃねーか。何故に?」
「いやね、アクア団に入る前から夢だったのよ~ホエルコ育てるの。これがまた可愛くて可愛くて……」
「コトワさん、マミーの顔していますネ」
「好きなポケモンを育てられるってのは良い事だ!けど体壊すなよ!?」
「大丈夫よ~、今月厳しいだけで、来月からは余裕が持てるから」
「このブルジュワめ(笑)」
「そういえば思ったんデスが、したっぱの頃の皆さんはどんなポケモンを育てていましたカ?」
「えーっと」
「まった!1つ質問させてくれや……この中でズバット育てたことある奴てぇ上げろ」
「「「「( ・・)ノ」」」」
「全員じゃん(笑)」
「悪の組織って少なくともズバットは育てているみたいね」
「俺達ロケット団は悪と言えば毒ってイメージだったからな!」
「マグマ団もアクア団もポチエナ・グラエナは育てていたわよねぇ」
「フレア団は色々なポケモン育ててマスヨ。ゴクリンとか」
「カロス地方って色んなポケモンが居るって聞いていたけど本当なのね~」
「じゃあ次は私が……この中でゴルバットに進化させましたっていう人~!」
「「「( ・・)ノ」」」
「……あれ?私とサカイさんだけ?進化できてないの?」
「言ってて悲しくならねぇのか(泣)」
「私は手数で勝負派ですしー、グラエナには進化させたからいいんですー」
「私もグラエナに進化させたんだけどねぇ」
「そういえばクロバットに進化したっていう人はいますカ?」
「おいおい流石にクロバットに進化させるなんて」
「あ、俺やったことあるわ」
「ま、マジっすかトウマさん!?」
「したっぱにあらぬ偉業がここに!」
「大したこたぁしてねぇよ!ズバットの頃から『悪役面は歯が命!』っつーて、バトルが終える度に歯を丁寧に磨いてやっただけで」
「そりゃ懐きマスヨ」
「それにしたって悪者が自分のポケモンに優しいっていうのも可笑しいわねぇ~」
「他人のは他人の!自分のは自分の!自分のポケモンぐらいしっかり管理していいだろ!」
「いや立派ッスわ」
「私達も見習っておけばズバットにあんな想いをさせずに済んだのかしら……」
「元悪の組織の一員デスけどね、自分達」
「「うっさい!」」
「けどクロバットに進化したぐらいなんだし、出世できたんじゃな~い?」
「それがアテナ様……ロケット団残党幹部の1人な。その人が『したっぱ風情が幹部を追い抜こうなんて言語道断よ!』っつーてクロバット使用を禁止されたんだよ」
「ウソだろ!?」
「ひどくなーい!?」
「したっぱ差別デス!」
「あー、けど私も同じことあったわぁ。いつまで経ってもサメハダーに進化させてくれないとかぁ」
「したっぱの意外な苦労がでましたネ。私は中途半端に育てていましたガ」
「「俺(私)らはそれ以下ってことか……」」
「落ち込まない落ち込まない~。今は色々育てているんでしょ?」
「さっき言っていたズバットだろ、ドガースだろ、ベトベターに、スコルピに……」
「毒ばっかじゃん!私なんかズバットにドンメルにキャモメにゴニョニョにキノノコにイシツブテとか育てていますから!」
「……したっぱから抜けて結構経つのに未だに進化していないんデスネ」
「「うっさいぶっ飛ばすぞ!?」」
「そういえばトウマさん、そのクロバットは今はどうしているのかしらぁ?」
「元気元気!俺んトコのエースだぜぇあいつは!今日は飲み会ってことで連れて来ていねぇけどよ」
「まだ歯を磨いてあげてるのぉ?」
「もちのロンよ!そっちはどうよ?ホエルコだけじゃねぇんだろ?」
「キバニアはサメハダーに進化したし、グラエナもゴルバットも一緒よぉ。皆元気でねぇ」
「おう、そりゃよかった!」
「ああ止めてくださいワタシ酢の物だけは苦手なんデス!」
「ほら食え食え美味いぞ!」
「好き嫌いを治そうっていうアタシらなりのエールよ!ガンバガンバ!」
同じしたっぱでも、トレーナーとしての素質や力量はバラバラのようだ。
「元したっぱどもの集い」―――それは、足を洗い真っ当な暮らしを始めた、元したっぱ達が集う飲み会サークルである(全国各地受付中)。
―完―
今回のしたっぱさん達
フエンタウンの温泉宿の従業員・サカイさん(元ロケット団したっぱ♂)
カイナシティの市場の売り子・ミナさん(元マグマ団したっぱ♀)
デボンコーポの従業員・レアードさん(元フレア団したっぱ♂)
ポケモンレンジャー・トウマさん(元ロケット団したっぱ♂)
ミナモシティの従業員・コトワさん(元アクア団したっぱ♀)
飲み会の場所:「クックカビゴン」
飲み会の切欠:「食べ放題飲み放題キャンペーン実施中」
飲み会の話題:「したっぱ時代に育てていたポケモン」
会話オンリーって楽そうで、キャラ分けや話題作りが大変だったり。楽しいけど(苦笑)
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その29「きのみ屋さん、ハクタイジムに着く」
どっちが効率的なんだろうか?(←キチンと育てた事が無いなんちゃって経験者)
とりあえずシンクロラルトスの全性格をコンプせねば(←計画性の無い鈍足トレーナー)
後、ポケバンクをダウンロードしようかな……(←精々ポケモンBW2しかない惰弱者)
そんな私ですが、ポケモントレーナーの日々を楽しく過ごしています(笑)
今回ポケモン要素低めです。
ハクタイの森で色んな人とすれ違いながら歩いていくと、徐々に差し込む光の量が増えてきた。
これだけの量の光が差し込んできたという事は、この先は木々が大きく空いている、つまり出口が近づいてきたと言う事。
森の中の散歩を楽しんだ草ポケモン達をボールに戻し、嫌がるクケちゃんを強引にボールにしまう。喧嘩を吹っ掛ける悪い子はしまっちゃおうねー。
ハクタイの森を抜け、久しぶりな気がする太陽の日差しを浴び、歩くこと少し。ハクタイシティに無事到着。
ソノオタウンから出て長かったようで、意外と短かったな。
―――
歴史に深い街・ハクタイシティ。午後のおやつ時という事もあり、街の人に限らず、僕みたいな観光客も大勢いた。見分けるポイントはガイドブックと厚着。
ハクタイシティに飾られているドラゴンポケモンの像を拝み、コウキ君が働くソノオタウンの店で買った蜂蜜マドレーヌを食べ歩く。
マドレーヌを食べ終えた頃、ナタネさんが務めるハクタイジムが見えてきた。
見えてきたんだが……屋根からはみ出ているあの岩はなんすか?
ジムに近づくにつれ、その人並みあるデカい岩が『ストーンエッジ』だと解り、よく見ると窓ガラスやら壁やらが随分と破壊されていた。
それなりに大きなジムの周りには修理屋らしき作業員達が、アリアドスやデンチュラと一緒に修復作業をしていた。なるほど、命綱は蜘蛛ポケモンの糸で代用しているのか。
唖然としながら荒れ果てたジムを見上げていたが、ジムの入口で掃き掃除をしている人が誰かようやく解った。
―ジムで一番偉いはずの人……ジムリーダーのナタネさんだった。何故に?
「あ、ハヤシさんヤッホー!お久しぶりです!」
掃除に夢中だったのか今になって僕に気づいたらしく、ナタネちゃんは竹箒を持ったまま茶目っ気に敬礼。
前に来た時と変わらないフレンドリーさで嬉しくなるが、一応お辞儀をして挨拶。
「お久しぶりです~。いや今日はお招きありがとうございました」
「敬語でなくていいですよ。ハヤシさんは年上で、草ポケモンの良さが解る友達だし!」
にぱっと元気よく笑い、気にしないでと片手を振ってアピール。可愛い。
友達か……憧れのジムリーダーの一人だから恐縮だけど、嬉しくなるなー。ええ子や。
「じゃあ遠慮なく……どうしてナタネちゃんが掃き掃除してんの?」
一応キミ、ジムリーダーだよね?
するとナタネちゃんはため息を吐いて俯いてしまった。え、禁句だった?
やがてナタネちゃんは顔を上げ、観念したかのような顔で話し出した。
「実はね……」
―――
ジムはポケモントレーナーの為の施設でもあり、ポケモンバトルをする為の施設でもある。
その為に施設の耐久性はもちろん、防水、防火、防電と様々な防災に備えるのが基本とされている。その為、災害時には緊急の避難先にもなる。
しかし相手はポケモン。いかに計算づくで強度を増したとしても、人間が想定できないような威力を見せる事も当然ある。
トレーナーの育て方次第では滅茶苦茶な威力を発揮する事もあり、ジムが半壊、という自体は割りと多い。時折キンセツジムでも凄い音が響いた事もあるし。
そういう場合を考慮して、ジムの修理代は経費として落ちるんだが……。
「修理が追い付かなくて予算が間に合わない、と」
「恥ずかしながら。しかもフルメンバーで挑んでおきながら負けましたし……」
ナタネちゃん悲しそう。勝負自体は後悔していないが、ジムがここまで壊れたのだから仕方ないか。
この間のジム戦は特に被害が大きく、ジムの外側にまで貫通する程の激戦だったとか。あの『ストーンエッジ』も、その激戦の一端なんだろう。恐ろしや。
しかし経費は無限ではない。本年度中に2回ほど激しいバトルでジムを破損した事がある為、予算はギリギリらしい。
そういう場合、ジムリーダーはどうするかと言うと。
「ジムの修理はちゃんとした建築業にお願いして、内装……つまり植物関係は知り合いの庭師に頼んでます」
「で、その一員に僕が選ばれたと」
「あたり~」
受付の女の子に軽く挨拶した後、僕達はジムの通路を歩きながら話す。
ジムリーダーは私用から仕事まで、様々な理由で外出する事は結構ある。だから基本的には予約制。
そしてどんな人でも言えることだが、外出するなり仕事するなりすれば、自然と人やポケモンと関わり、交友関係や仕事仲間が次々とできる。
そう言った人物、特に専門職を持つ友人に「頼み事」を依頼し、少しでも費用を減らすのだ。僕ことハヤシで例えれば、ツツジさんが授業で使う木の実を提供したりとか。
で、ガーデニングマニアの僕を、ジムの庭を整理する役に選ばれ……うわぉ。
「激しいバトルをした結果がこれだよ」
「これは酷い」
開閉式らしい天井が開いていて日差しが差し込む広い空間。本来はジム一面に広がる綺麗な芝生や草木があったんだろう。
それらは、岩と砂と泥と若葉と水溜まりでぐちゃぐちゃだった。なんじゃこりゃ。
芝生を塗り替えるように砂が広がり、『いわなだれ』や『ストーンエッジ』などで積み上げたらしき小さな岩山が聳え、砂に混じり泥となった水が草木を濡らし、そこを苗床に『グラスフィールド』で生やしたらしい若葉が芽生えている。
まるでポケモンを用いて無理矢理フィールドを変えてしまったかのよう。最近増えたという技「●●●フィールド」よりも荒っぽい。
そんな荒れ果てたジムを直そうと色々な人とポケモンが総動員で働いている。
ゴーリキーやドサイドンが岩をどかし、ガバイトやサンドパンといった地面ポケモンが砂を掃き、それら土砂をつめた袋をフワライドが外へ運んでいく。
向こうではバックパッカーらしきトレーナーが、右肩が赤いゴルークとアイアントと一緒に岩をどかしている。知り合いかな?
―しかしまぁ……これはこれで……。
「いやー、知り合いの庭師さんやトレーナーにお願いしたんだけど未だにこんな状態で……ハ、ハヤシさん?」
「責任者どこ?」
「あ、あちらで図面とにらめっこしている人です。私がジムリーダー成り立ての頃からお世話になっているイナゴロウさん」
何をビビッているのかねナタネちゃんは?アッハッハ……あの人か。
さて、リュックからガーデニング専用エプロン(緑)、軍手、その他諸々を出して……良しっ。
ガーデニング完全装備を施した僕は、ナタネちゃんが言っていた、図面を広げにらめっこしているお年寄りへ向かって歩く。
「こんにちは」
「……おう」
こちらへ振り向いたお年寄り……いや、あの顔はお年寄りっていう顔じゃない。薄い灰色の髪をしているし皺もあるが、立派な職人面だ。
おおう、見ただけでもガーデニングの最強装備じゃないですか。傍らには専用のチェーンソーが幾つも並んであるし。欲しいなぁ。
見ただけで解った。この人は同士……否、同
「ハヤシといいます。ホウエンからナタネさんに頼まれて来ました」
「イナゴロウだ。臨時の責任者をやっている」
軍手越しに交わす握手。分厚い軍手の先からは、暖かい人肌の熱とゴツゴツした触感を感じ取った。
口をへの字にして声が重いが、不思議とプレッシャーは感じない。真面目さは伝わってくるが。
「今は力自慢のポケモン達を使って物をどかす作業の途中だ。ワシらの出番はその後になる」
「わかりました」
「……で、だ。今よ、ジムに花時計を取り込もうとしてんだけどな」
「花時計!いいですねぇ」
花時計とはそれぞれの時間帯に応じて咲く花を並べることで、さながら時計のように花が時間帯を教えてくれるというものだ。
イナゴロウさんに並び、図面を見てみる。おー、ハクタイジムって本当に時計みたいな仕掛けがあったんだ。
土木作業の様子を見ると、植え終わるのは明日か明後日かな……ポケセンの宿泊施設に予約入れておかなきゃ。
「頼りになるなぁ」
ナタネはそんな庭師2人の後姿を見てホっと溜息を零し。
(なんでこんな事しているのかなー。まぁ頼まれたんだから仕方ないんだけど)
最近ナタネと知り合ったというバックパッカー・キリコ(25歳♂)は心の中で嘆きつつ仕事を続ける。
その心境を理解しているのだろうか、右肩が赤いゴルークとアイアントは岩をどかす作業のスピードを速めるのだった。
―続―
バックパッカーのキリコ
寡黙で冷静。25歳の♂。心の中で独白するのが癖。騒動に巻き込まれやすいタイプ。
ハクタイシティに訪れた際、知り合いのナタネに頼まれて作業入り。どうしてこうなった。
活動報告で応募したトレーナーを採用してみました。チラっと程度でごめんなさい(汗)
このように、「皆が考えるハンター&トレーナー生活 」の読者様のキャラが本編に登場する可能性があります。
次回は作業終了後のお話です。
とりあえず作中でハヤシが働いている描写はカットします。描写面倒&更新速度優先で(ぇ)
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その30「きのみ屋さん、ナタネから報酬を貰う」
ポケモンは出ているんですが中心ではないってどうなんだろうか。
僕ことハヤシがハクタイジムを訪れた二日目。
ようやくジム内の岩石や土砂を粗方どかした所で、僕達「庭師連合(仮称)」の出番。
イナゴロウさんとキリカブ(オーロット♂)の指示の下、草ポケモン好きや庭師、ガーデンデザイナー達の力を合わせ、大規模な改築作業が始まった。
なお、殆どがナタネチャンの知り合いで、中にはナタネちゃんに世話になったからそのお礼として参加している人も居る。流石はジムリーダー、といった所かな?
念入りに掃き掃除して綺麗になった芝生をカットロトムで整え。
草ポケモンと協力し壁際をぐるりと回る花壇に様々な花を植えて。
入り口以外を時計の如く囲むよう、各所に新しい庭木を植え替えて。
中央の時計のような大きい花壇に、時間帯別に咲く12種類の花を植え。
芝生を深く刈ることで出来る線を用いて、ジムトレーナーと戦えるだけのスペースを各所で確保。
ジムリーダーであるナタネちゃんが立つバトルステージを取り囲むように、均等に木を植える。
最初の頃はナゾノクサが群生できる花壇を作ろうと提案が出たが、流石にジムに野生のポケモンはあかんだろということで却下。
……ウツボット?キミは何を言っているのかね、アハハ。
朝から夜まで植え替えやら芝刈りやら剪定やら忙しくなるけど、楽しい。ガーデニングが趣味だもの。
それはイナゴロウさんを含む皆も同じで、草ポケモン達も美しく整えられる植物を見ると嬉しくなるらしく、一生懸命働くのだった。
ちなみにナタネちゃんはジムトレーナーに捕まり、書類整理に追われているそうな。
もしかしてジム入り口の掃き掃除をしていたのは、これから逃げる為だったのかもしれない。
そして、僕がハクタイジムを訪れてから三日目が経ち、お昼前になった頃。
ハクタイジムは新たな姿に生まれ変わったのだ!
―――
「どうでぇ、ナタネさん」
いつもは無愛想なイナゴロウさんだけど、今は勝者のような笑みを口元に浮かべている。
ジムの造園に携わった僕達「庭師連合(仮称)」も自慢げに胸を張っています。自信あるよ!
さて、肝心のナタネちゃんはといえば。
「すっ――――――――ばらしいです!!!」
キラキラと輝く瞳でジムの内装を眺めるナタネちゃんの表情には喜色しか浮かんでいない。
傍らに並んでいる彼女の手持ちポケモン達もとても嬉しそうにしており、今からでも走り回りたい!と言っているようにウズウズしている。
しかし喜ぶのも無理はないだろう。何せ「庭師連合(仮称)」が提案し、造園したジムの内装は素敵なものとなっているのだから。
ジムの天井は、設計者曰く強度が高いのに材料費が安いという強化プラスチックで覆われ、太陽光が遠慮なく差し込み。
ジムの内円を囲むように植木・花壇と交互に並ばれ、あたかも時計の数字のように色取り取りに並ばれている。今の植木は若木だから、今後の成長が楽しみだ。
中央ある時計ような仕掛けは完全に修復され、花時計としても機能するよう12種類の花が12等分になるよう植えられている。時間帯によって花が開くぞ!
その花時計を囲むようにバトルステージが用意されており、ジムの最奥部にあるナタネちゃん専用ステージは低木・花壇の二重で囲まれた豪華な仕様となっている。
全体的に見ると、芝生は綺麗に、花壇は美しく、木々は均一に、それを守る木材のバリゲードは程好い大きさを保つ。見た目のバランスも美しい。
スプリンクラーや芝刈り、ヒーター・加湿器・消火器はもちろんのこと、緊急用具(折りたたみタンカや消火栓)も各所に配置!
植物園としても定評が出ること間違いなし!そんな内装を目指しました。あ、もちろんジムとしても考えましたよ?
「皆さん本当にありがとう!ありがとうアリガトウありがとう!」
我慢できずジム内を駆け巡るポケモン達を余所に、ナタネちゃんは嬉し涙を零しながら一人ずつ握手を交わす。
その中に僕も含まれ、ブンブンと握られた手を振られつつも、その嬉しそうな顔を見ていると心がホッコリする。
それは周りの皆も同じで、土木工事や力仕事に協力してくれた人々もお礼を言われて嬉しそうに笑みを浮かべていた。
人の役に立てると嬉しいというのは、いつでもどこでも、そして誰でも一緒なんだなと思った瞬間である。
―――
さて、一頻り大喜びしたナタネちゃんは満足したのか、協力してくれた人達に報酬を渡そうとする。業者さんへは後日入金するのだとか。
けど大抵の人はナタネちゃんに助けられたりした事があるのか「別にいい」と断る人が続出した。
ちなみに僕は。
「ガーデニングできたこと自体が報酬みたいなもんだから良いです」
ほら、ローちゃんも首を振ってますでしょ。僕達は庭弄りが趣味ですから。
「「「(`ε´ )(お礼欲しいー)」」」
お黙りなさい、イーくんクケちゃんミノちゃん。ロトやんは「別にどうでもいい」って感じ。
それでもナタネちゃんは。
「そうは言わず!こんなに素敵なジムにしてくれたんだもん。お礼がしたくてしたくて仕方ないの!」
……と、彼女も頑なである。なのでそれぞれに、お金ではなく物で送ることにした。
例えばバスの回数券。例えばコンテスト会場の予約席チケット。例えば……あ、フエンタウンのバトルで貰ったタダ券だ。
トレーナーには役に立つ物や珍しい物が中心。『タイマーボール』や『リリバのみ』は解るけど、『ねっこのカセキ』とか『プロテクター』とかドコで手に入れたし。
イナゴロウさんには草タイプ技の威力を上げる『きせきのタネ』を、バックパッカーのキリコにはイッシュ地方へ行く船のチケットを渡した。
けどナタネちゃんに憧れているというソーマ君は『今度バトルしてください!』と頼み、物は受け取ろうとしなかった。
元々トレーナーとして挑戦されたら断れない性質なのでナタネちゃんはOK。相棒のドダイドス&アリアドスと一緒に大喜び。元気なトレーナーだなぁ。
そして僕には……。
「じゃじゃーん!ナエトルのタマゴでーす!」
―――目玉が飛び出そうな程ビックリしたよ!
「あはは、やっぱり驚いてくれたね!」
両手で持つポケモンのタマゴを見せ付けながら、僕の顔を見たナタネちゃんは嬉しそうに笑う。
けど僕はちょっと余裕がなく、興奮する心を表すかのように震える手で恐る恐るタマゴを受け取るしかできない。
「ほ、ホントにコレ、ナエトルのタマゴ!?嘘つかない!?」
受け取ってタマゴの重みと暖かさを感じて、やっと言葉が出たよ。
「うちのドダイトスが生んだ、正真正銘の本物だよ!ホウエンからわざわざ来てくれたんだし、これぐらいしか渡せないけど……」
「いやこれぐらいなんてとんでもない!ありがとー!いやっはー!」
一度でいいからナエトル育ててみたかったんだー!やっはーい!
タマゴを落とさないよう両腕で抱きしめながら、思わずクルクル回転して喜びを表す。ローちゃんも頭の上でレッツダンシングだよ!
「いやーシンオウに来てよかったー♪」
思う存分ガーデニングできたしー、ナエトルのタマゴ貰っちゃったしー♪
「まだ用事があること忘れないでくださいよー?」
「解っているよー♪」
うわはは、今は浮かれているけど、用件は忘れていないもんねーだ。けど今はこの幸せを存分に噛み締めるんだーい!
「……さて、お昼にしよっか」
「切り替え早っ!」
だってお腹すいたんだもん。皆もお昼にするみたいだし、ナタネちゃんも一緒に食べよ?
―続―
虫取り少年のソーマ
草タイプと虫タイプを好むポケモントレーナー。ナタネとリョウに憧れている。
普段はハクタイシティの果樹園を手伝っており、ハクタイの森での散歩を好んでいる。
本編に関われそうな設定を書いたからと言って確実に載るわけではありません。
そんなわけでナエトルのタマゴ、ゲットだぜ!草ポケモンコンプへ着々と近づくハヤシであった(笑)
次回はヨスガシティ。ミサトに頼まれ衣服屋に行くが、そこには意外な人物が。
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その31「きのみ屋さん、ヨスガの衣服店に行く」
今回は活動報告に書かれた読者様のトレーナーがチョビっと登場します。
初めて知ったけど、トロピウスの背中って意外と暖かいんだね。葉っぱの皮もフサフサしていて気持ちいいし。
旅していた時は幼馴染みの二人に振り回されてゲットできなかったけど、いつか必ずゲットしたる。
別の機会で休みを作って、ホウエン地方の草ポケモンを探してみようかな?
―まぁそれはいいとして。
「寒い!」
「……今さらそれを言います?」
僕の前に座る、しっかりと防寒着を着込んだナタネちゃんが言う。
考え事をして寒さから逸らそうとしたんだけど、コートを着ていても寒い!
いやぁ、迂回するとはいえ、テンガン山の空を甘く見ていました。流石は北の国の山。
ジム改修を終えてお昼ご飯を食べた後、仕事友達(特にイナゴロウさんとは番号を交換しあった)と別れた。
午後にミサトの頼まれた物を取りにいって、夜はヨスガシティのポケセンかホテルに泊まる予定だ。明日はノモセシティに。
そのままヨスガシティに行くバスに乗ろうとしたらナタネちゃんが来て、トロピウストヨスガシティに送ってくれると言い出したのだ。
なんでもジム復活は二日後に予定していたが、予想以上に早く改修が終わったので、その間は暇なんだとか。
「ミっちゃんとの約束もありますからね!ハヤシさんの代わりに目配りヨロシクって!」
……とはナタネちゃんの談。ちなみにミっちゃんとは依頼主のミサトのアダ名。いつの間に仲良しになったし。
ついでに、僕がこれから行く衣服屋で働いているという、ナタネちゃんの友達に会いに行くんだとか。うわぉ、妙な偶然。
そんな訳で、トロピウスに乗って空の旅路を言っている訳です。
―それにしても。
「寒いー」
一肌が恋しくなるから後ろから抱きついちゃえ。
「抱きつかないでください。これでも私、レディなんですよ?」
冷静だなーナタネちゃん。けど心なしか、温かさが増したような気がする。
いい歳した男だけど、人肌が恋しい時ってあるのだ。高い所だし、背中越しでも抱いていると安心感ってもんが。
-ぼんっ
「(▼■▼#)(離れなさいよー!)」
ひー!クケちゃんが勝手にボールから出てきt、北風に流されていったー!?
余談ではあるが、もし僕らがテンガン山を迂回せず飛び越えようとした場合。
黒くて大きな電気ポケモンに乗った緑の髪の青年を、ウォーグルとバルジーナに乗ったバックパッカーの少年少女が追いかける様子を見ることになっただろう。
まぁ、それは飽くまでもしもの話なんだけどね。
―――
ヨスガシティ。ポケモンコンテスト会場があるお洒落な街。
ジムリーダー・メリッサがコンテストの常連であるほどに、ポケモンコンテストの影響力は高いのだという。
街行く人達も、暖かい格好こそしているが、誰もがお洒落と思える服装をしているし。
……まぁ、ポケモンコンテスト会場のあるミオシティも負けてはいないけどさ。地元が一番!
―で、どんだけヨスガシティの人達がお洒落好きかというと。
「あらぁ、あなたのドクケイル中々プリチーじゃな~い!」
「いやいやこの子ならかしこさコンテストでしょ!優勝は無理でも上位は狙えるわ!」
「このリボンつけてみて!」
「いや敢えてシルクハットをだな」
「(@▲@;)(な、なによなんなのよ!?)」
「ほらほら、トレーナーさんもダンディに着込みましょ!」
「うちで作ったタキシードをどうぞ!」
「いやうちの店でじっくり試着をだな」
「執事服とか狙ってみてもいいと思うんだ」
なんとか救出できたドクケイルことクケちゃんをそのまま連れ歩いただけで、この有り様。
クケちゃんはポケモンコンテスト出場者らしい人達からコーディネイトされ、僕は衣服屋の人達に引っ張りだこ。
さらに強制的に着替えさせられてしまいそうな事態……どうしてこうなった。
「あーあ、だから言ったのに……」
遠くでは「初めてヨスガシティに来たんならモンスタボールにポケモンしまっておいてね」と事前に忠告してナタネちゃんが見ていた。
ああ、その「軽んじていた方が悪いんだよ?」と言っているような冷たい目つきは止めて!だってクケちゃんが嫌がったんだし~!
「ナ、ナタネちゃん助けて~!」
「ワタシ、ナタネチガイマスヨー。タダノ草ポケ好キナトレーナーネー」
ナタネは バンタナで髪を隠して 逃げだした!▼
「この人でなしぃ~!」
それだけのことをナタネちゃんもされたってことなんだろうけどさ~!
ああ、既にクケちゃんがリボンで可愛らしく……意外と似合うもんだな。
「さぁ!次はあなたをコーディネイトよ!」
「よし!着替えは俺達に任せろ!」
「新作のタキシードを試したかったんだ!」
「た、助けてぇぇぇっ!」
天は我らを見放したのかー!……「悪くないかも」と言わんばかりに鏡の自分を見つめていなでよ、クケちゃん。
「フレイ、ここがヨスガシティだ。お前に相応しい衣装を見繕って……」
フライゴン(♀)を連れたトレーナーが現れた!▼
「あ、フライゴンだわ!」
「皆!あっちの
僕にタキシードを着替えさえようとした男女がトレーナーさんを指差し、一気に人混みは向こうへ流れていく。
「やぁお兄さん!良いフライゴンね!」
「あら女の子なのね!しかもトレーナーさんと凄く仲良しなのねぇ~!」
「大胆にフライゴンにエプロンをつけてみない!?それも新妻の如く白いエプロン!」
「いいな!夫婦並の仲良し度だから似合いそうだ!」
「……結婚衣装なんてどうだろう?」
『それだ!』
もはやトレーナーとフライゴン(♀)の意見なんざ聞く気もないのか、皆揃ってワイワイガヤガヤ。
しかしトレーナーとフライゴンは新婚夫婦風コーディネイトを見て幸せそうなので、よしとしよう。
―何が言いたいかというと。
天は我らを見放さなかったー!……はいはい、リボンが可愛いからくっ付かないでねクケちゃん。
―――
「いやぁ、災難でしたねぇハヤシさん」
「面白い物を見たような顔で言っても説得力が無いよ」
クケちゃんをボールに戻した僕らは、ミサトに頼まれていたお店に向かう。
ちなみにクケちゃんはコーディネイトが気にいったらしく、施してくれた人はリボンだけだからとタダでくれるという。やった。
多少のトラブルはあったものの、ナタネちゃんの案内もあって早く店に辿り着くことができた。
―衣服店『Dress Of Handmade』。おしゃれ好きなミサトが地方の壁を超えてでも欲しい物があるという衣服屋。
他にもコンテスト衣装のお店や大きな衣服店があるが、この店はどちらかというと小さい方で、店そのものにオーダーメイドめいた造りを感じさせる。
レンガ造りで看板や屋根などは木材を用いた他、屋根を貫くようにして煙突が立っているからか、ノスタルジックな雰囲気がある。
この店は横に広がっているらしく、入り口から見て右側はレンガ造りの壁があり、二種類の光景が見える窓が交互に並んでいる。
まずはウィンドウショップの如く衣服が並んでいる窓。人用とポケモン用、果てはポケモンドールまであり、これが全部手作りっていうんだから驚きだ。
もう1つの窓が面白く、なんと店内で作業する様子が見えるのだ。ミシンで縫う人、手編みのセーターを作る人、完成間近の衣服と睨めっこする人、一生懸命ドールを縫う女の子までいる。
「あそこでエネコドールを塗っている子……ラナちゃんって言うお友達なんだけどね。彼女もホウエン出身で、ぬいぐるみ職人目指して修行しているの」
「へぇ!そりゃ凄い!」
あのぐらいの年頃はポケモントレーナーとして旅している頃だろうに、生まれ故郷と別の地方で修行しにくるとは。
塗っている様子も一生懸命だし、足元のエネコもそれを解っているのか控えめにじゃれついている。
それほどまでに大きな夢があるのか、或いは裁縫が好きなのか。とにかく頑張れ!
さて、のんびり見ているのは良いが頼まれごともあるので、さっさと店内へ。
ニャルマーをモチーフにした焼印が刻まれた木のドアを開け、扉につけられたベルがチリンチリンと鳴る。
「いらっしゃいませ」
20代後半ぐらいの青年がニコリと微笑んで僕らを迎えてくれた。名札もあるし店員さんで間違いないだろう。
隣では彼の手持ちらしいサーナイトが衣服を並べており、ペコリと頭を下げてきた。あ、どうも。
店は広いが、恐らく三分の一が作業所だったのだろう、衣服が並べられた売り場は思いのほか狭かった。
ここで造られたであろう衣服が幾つも飾られており、一つ一つがマネキンに飾られている事もあって高級感が半端無い。
店内も綺麗だし、お店の人もエプロンを着込んだ職人風。柄にも無くドキドキしちゃう。
「……おや、ナタネさんじゃないですか」
「ミイさんこんちわーっ。また遊びに来ましたよっ」
「毎度ありがとうございます。少々お待ちください」
おや、ナタネちゃんとは知り合いみたい。この人はミイさんって言うのかな?
するとミイさんは店内の右奥へ……あ、ここからでも作業所の様子が見える。うわ、色んな人が裁縫やらしていて、まるで工房みたい。
「あの人がナタネちゃんの言っていた、会いに行く予定の友達?」
「違いますよ、いや友達には違いないけど、一番の友達がこの奥にいるんです」
ニコリと微笑むナタネちゃん。一体どんな子なんだろうか。
すると奥の工房みたいな作業所から姿を現したのはミイさんと……作業着を着た紺色の髪の女の子だった。
「久しぶりヒカリちゃん!顔を見に来たよ!」
茶目っ気に敬礼して挨拶するナタネちゃんに対し、彼女―ヒカリちゃんもペコリとご挨拶。
僕の存在にも気付いたらしく、ヒカリちゃんはニコリと微笑んで……!?
―な、なんだこの、癒し系と愛したい系と健気系のハイブリットオーラは!?
―続く―
お針子見習いのラナ
ホウエン出身の女の子。16歳の♀。可愛い系のポケモンを好んでいる。
自分が作ったドールが店や市場に並ばれるのを夢見ており、シンオウ地方で修行中。
ポケモントレーナーのミイ
元コンテストトレーナー。28歳の♂。より美しく、よりカッコよくがモットー。
服飾関係の仕事についており、そこそこ稼いでは好きなポケモンをゲットしている。
今回は衣服店を出すので、上記の2名を採用させていただきました。
性格とかがわかっていないので曖昧です、ごめんなさい(汗)
ポケットモンスターの主人公が1人、ヒカリ登場!詳細は来年の投稿に(ぉぃ)
癒し系と愛したい系と健気系のハイブリットオーラを出す愛され系の予定です(謎)
次回はシンオウ地方の有名人が続々登場!待て来年!(ぉ)
それでは皆様、良いお年を!
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ポケライフ「元したっぱ達の集い・その3」
年末ということで、忘年会風に書かせていただきました。最も、内容は忘年と関係ありませんが(苦笑)
もうすぐ今年も終わり、新年が始まろうとしている。
社会人は仕事仲間と、友人らは親しい友達と一緒に、今年の最後を締めくくる忘年会を開いていることだろう。
忙しい人も忙しくない人も、何かしらの交友関係を持つ人達と飲みに行ったり、遊びに行ったりする。そうすることで、来年を気持ちよく迎えるのだ。
それは「元したっぱどもの集い」も同じであった。
―――
エンジュシティの居酒屋「
高級感溢れる仕様でありながらお値段は優しく、しかも料理は美味しくて団体さんもどんとこいな心強いお店である。
今回は複数の団体さんが忘年会に来ているらしいが、「元したっぱどもの集い(ジョウト支部)」にとってはどうでもいい事だ。
「あー……堅苦しい挨拶は抜きじゃ!今年もご苦労さん!……乾杯!」
『かんぱ~い!』
総勢30人を越える人々(全員元したっぱ)が各々の杯を掲げ、その後きゅーっと飲む。
それを起爆剤にするかのように、各々のグループに分かれてお喋りに興じ、飲み放題の酒を楽しむのだった。
ちなみにこの忘年会の経費の殆どが、ジョウト支部の古株5人の奢りなのだという。寄せ合った集金を含めても相当太っ腹な話だ。
飲んで食べて喋って。元したっぱ達は心行くまで楽しんでいく。
今年も大変だったな、来年も穏やかに過ごせると良いな……したっぱ達の平穏を求める声は意外と多かった。
「ふう……今年も、もうすぐで終わりなんじゃなって実感するのぉ」
長くて白い顎鬚を伸ばした老人・ダキが賑わいを眺めながら、しみじみと焼酎を飲む。
「せやなぁ。……そや、今年も新規の元したっぱがぎょーさん集いましてん」
目が弱いらしくサングラスをかけた妙齢の男・チュウネンがダキのお猪口に酒を注ぎながら言う。
「毎年、新規者も転職者も増える一方!『元したっぱどもの集い』を開いた甲斐があったってもんだ!」
ガハハと笑うのは禿頭の中年・トウマ。豪快にジョッキのビールを飲んでいるが未だに酔っている気配が無い。
「ほんに早いですなぁ。こーいんやのごとしやねぇ」
はんなりとした口調でお猪口の焼酎を飲む少女の名はテンナ。見た目は20代後半だが、声色と気配が大人の色気を醸し出していた。
「ロケット団から始まってフレア団まで入るとはな。……それだけ悪の組織がつぶれたって聞くと悲しい気がするがな」
右頬に爪で斬られたような痣を宿す目つきの鋭い男・ツダは微妙に疲れた吐息を吐く。
この5人は「元したっぱどもの集い(ジョウト支部)」の幹事であり、全員が初代ロケット団のしたっぱなのだ。
その他の会員はジョウト地方で暮らしてはいるが、元の組織はバラバラだ。
彼ら5人は大きな仕事を成功させ出世した資産家でもあり、「元したっぱどもの集い」を開いた「最初の10人」に数えられている。
その事については追々話すとして、今は忘年会を楽しむとしよう。
「……う、ううっ」
「ど、どないしたんやダキはん、何を泣いておりますねん」
「いやのぉ、実は今年の春に旅立った孫娘の事を考えると、歳を取ったなぁと思ってのぉ」
「チハルちゃんか!ありゃ良い女になるぜ、ガッハッハ!」
「あかんわぁトウマはん、ダキはんの大事な孫ですぇ?」
「今は何しているんだ?」
「憧れのホウエン地方で旅をしているんじゃないかのぉ……この間、ぼくれー?ちゅうのを捕まえたとか言っておったな」
「ボクレー?カロス地方におるんやなかった?」
「俺、仕事柄ホウエン支部によく行くから知ってるぜ?なんでも近年、ホウエン地方に他地方のポケモンが出たとか……そうそう、イーブイも出たってよ!」
「イーブイ?ほんまどすか?」
「それって激レアなポケモンじゃねぇか」
「いやテンナはんにツダはん、昔はそうやけど、今はそうやないんです。今じゃイーブイは各地に広まっていて、一般家庭のペットとしても有名になっとるんですわ」
「あれまぁ驚きどすなぁ。うちらロケット団は随分貴重なポケモンやったのに」
「世代ってやつか……そういや化石ポケモンも最近じゃメジャーらしいな」
「復元装置ってやつでんな。もはや化石やあらへんっちゅーな(笑)」
「俺らの時代じゃ、プテラ、カブト、オムスターが有名だったな!」
「わしゃガチゴラスが欲しいのぉ。男のロマンをくすぐられるわい」
「解ってあらへんなぁ。男のロマンちゅーたらラムパルドやろ!」
「あらあら、男のロマンっちゅうもんは解りまへんなぁ。それよか、うちはニンフィアが好みどす」
「イーブイの進化系も色々と増えたらしいな……ていうか、どんどん面倒になるよな」
「言うたらあきまへん(苦笑)」
「面倒っつーたらあれだぜ、昔はデカい交換装置だったが、今じゃ片手で通信できる品物になったよな」
「がははは!世代ってのは便利になっていくもんだよな!昔は交換っつーたら近くの友達か現地集合しかできなかったのによ!」
「わしもついにオンラインデビューできたし、簡単になったものじゃのぉ」
「世代ゆたら、わいが一番驚いたのはアレやな、アレ」
「「「「「メガシンカ!」」」」」
「じゃの~」
「そうどすよね~」
「実物を見た時は『え?そこまで進化しちゃうん、ポケモンって?』って感じやったわ」
「実際は『シンカ』であって『進化』じゃないが、あそこまで行っちまうたぁポケモンってぇのはすげぇなオイ!」
「今じゃメガシンカはお強いトレーナーはんの基本らしいわぁ。メガボーマンダやメガミミロップが人気ゆーとりましたわ」
「メガシンカに使う奴って、確か大層な貴重品じゃなかったか……?」
「道具を持たせて進化するポケモンが増える度、もしかしたら4段階目が出るかもと一度は考えたことがあったがのぉ」
「来年も新しい発見があるんやろうなぁ。ありえる話ですわ」
「ポケモンってのは奥が深いぜ!そりゃ悪の組織が増えてもしかたねぇわ!ガッハッハ!」
「まぁ、足を洗ったうちらには関係のない話どすな。ポケモンはともかく」
「全く、俺らみたいな年寄りには驚きの連続だぜ」
「「「「「けどそれが世代ってもんだよね~」」」」」
――
一方、隣の宴会場にて、互いの宴会場を隔てる襖に耳を傾けている人が6人いた。
(いや~、それはワシも歳を取る度に思うのぉ)
(けど世代ってドンドン進むものですよね。僕は最近頭の毛が寂しくなってきて)
(いや、ポケモンの世代の話じゃなかったかい?私も初めてポワルンを見た時とか驚いたなぁ)
(懐き、特性、フォルムチェンジ、道具を使った進化、メガシンカ……ポケモンとは謎が多いのぉ)
(あ、けど私、博物館で飾られた昔の通信機器を見て驚いた経験があります)
(んー、それもそうだけど一番不思議だなーって思ったのって何かといえば……さぁ皆さんご一緒に)
(((((マーイーカの進化方法ですよねー)))))
隣の個室で忘年会を開いていたポケモン博士達ですら、年を重ねる度に驚きの連続を体感しているようだ。
「元したっぱどもの集い」―――それは、足を洗い真っ当な暮らしを始めた、元したっぱ達が集う飲み会サークルである(全国各地受付中)。
―完―
今回のしたっぱさん達
シルフカンパニーのお偉いさん・ダキさん(元ロケット団したっぱ♂)
カントー地方運送会社社長・チュウネンさん(元ロケット団したっぱ♂)
ポケモンレンジャー・トウマさん(元ロケット団したっぱ♂)
エンジュシティの大手旅館の女将・テンナさん(元ロケット団したっぱ♀)
カントー地方警備会社社長・ツダさん(元ロケット団したっぱ♂)
飲み会の場所:「居酒屋・
飲み会の切欠:「ジョウト地方の会員35名の忘年会」
飲み会の話題:「世代毎に驚いたこと」
ホント、ポケモンの新シリーズを知るたびに驚きが絶えませんでした(笑)
きっとポケモン博士も驚きの連続だったんだろうな~と、混ぜてみました(笑)
それでは皆様、良いお年を!
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その32「きのみ屋さん、衣服屋の用事を思い出す」
多数いた場合は早期削除し、大幅に修正します。
なら何故書いたのかといえば……。
障害持ちでも元気に暮らせる。そんな世界だと示したかったです。
あと、日頃からコツコツ書かないからこうなる。
ヨスガシティの工房みたいな衣服店『Dress Of Handmade』で働くナタネちゃんの友達、ヒカリちゃん。
紺色の髪にピンク色の髪留めをしているが、ほんわかした雰囲気が目を引く子だ。こういうのを「かわい子ちゃん」と言うのだろうか。
そんな彼女とナタネちゃんを介して接している内に、意外な事実を知った。
―――
「ヒカリちゃんって喋れないんだ」
僕がポロリと言うと、ヒカリちゃんは手に持った使い捨てのスケッチブックに鉛筆を走らせる。
書き終えると裏返し『そうなんです』と自分の言葉を見せた。目より下を隠す彼女は照れくさそうだった。
「昔トラウマになる出来事があったらしくて、心は立ち直れても声が出なくなったんだって」
クリクリとヒカリちゃんの頭を撫でながらナタネちゃんが代わりに教えてくれた。
そういう事を勝手に話すのもどうかと思ったが、ヒカリちゃん自身は気にしていない様子。むしろ撫でられる事が恥ずかしいみたい。
ポケモンは良い意味でも悪い意味でも人に影響を与えるものだ。
ヒカリちゃんは幼少期に凶暴なポケモンと遭遇してしまい、通りすがりのトレーナーに助けられたものの、ショックの余り声が出なくなったんだとか。
心は親の献身的な介護によって立ち直ったが、体はそうでもなく、図鑑を授かり各地を旅し終えた今になっても声は出ないらしい。
まぁヒカリちゃんはまだ良い方だろう。中にはポケモンを見るだけで反射的に逃げ出す子もいるらしいし。
それにナタネちゃんとミイさんの3人で楽しそうに話して(?)いる様子を見る限り、不幸というわけでもなさそうだ。
それになんというか……ここまで愛されるのはヒカリちゃん自身の本質だろう。昔っから色々な人に愛されていたんだろうなぁ。
なにやらオシャレに関するアレコレを話しているようなので、傍から眺めているだけにしよう。
「ジーパンとチノパンって似たようなもんじゃないの?名前とか」とか言ってしもーた男ですので。
「ヒカリ。何をしているの」
ヌッと作業所から姿を現したのは、目つきがやたらとキツいメガネウーマンと、その相方らしいハハコモリ。
背丈はナタネちゃんほどだけど、顔つきは鋭くてピシっとした印象を与えられる。ポニーテールの黒毛がスラっとしており、仕事人っていう雰囲気バリバリだ。
そのピリっとした空気と眼鏡越しの鋭い目つきに、僕を除く3人がビクっと震えるほど。ミイさんとヒカリちゃんは解るけど、なんでナタネちゃんも?
「貴方は貴方の仕事があるでしょう。持ち場に戻りなさい」
僕らの間に割り込みヒカリちゃんの行く手を阻み、ピっと作業所を指差す彼女は相当厳しい人のようだ。
有無を言わさぬ迫力を前にヒカリちゃんはペコリと頭を下げ、さっさと作業所へと戻っていく。けど怖がっているというよりは「あ、忘れてた!」と言わんばかりの慌てっぷり。
そのまま彼女はジロリとナタネちゃんとミイさんを睨み、二人が怯んだ直後にグチグチと言い出す。傍ではハハコモリがミイさんのサーナイトを叱っているし。
「公私混同は仕事の邪魔です。ナタネさんも自重してくださいませ。
ミイ、貴方もお客様から指定されたからといって作業中の彼女を呼びつけるんじゃないの。時と場合というものを考えて……。
失礼。其方は初めてですよね?私は店長のスラスと申し上げま……あら?」
「な、なんでしょ?」
唐突に彼女―スラスさんがこっちに振り向いたかと思えば、じっと見上げてくる。め、目つきが怖いです店長さん。
考え事をしているかのように顎に手を添えていたが、思い出したのかスラスさんが「ああ」と声を上げる。僕、何かしましたか?さっきの着せ替え騒動再びとか?
「もしかして貴方、ホウエン地方からいらっしゃったハヤシさん?」
「そ、そうですけど」
「失礼。イッシュ地方のミサトさんから話を伺っていました。貴方、ミサトさんに頼まれごとがあってうちにいらっしゃったのですよね?」
「ああそういうことか」
思わず手ぽむ。そういえば僕ってミサトから買い物を頼まれていたんだっけ。忘れていました。
どうやらミサトは事前にリストを書いた所か、店長であるスラスさんにも情報を提供していたようだ。こういう所は用意周到なんだよねミサトって。
それじゃあ話が早いということで……えっと、どこにやったか……あったあった、鞄のポケットに入っていたリストをスラスさんに差し出す。
「これがミサトの買い物リストです」
受け取ったスラスさんはメガネの縁を摘んで度を調整し、リストを睨みつける。
するとスラスさんは溜息を漏らし、胸ポケットのメモ帳を取り出してサラサラっと書いた後、それを破く。
「……承りました。ミイ、こちらの品を店から揃えて包装しなさい。残りの品はこれからオーダーメイドするから」
「解りました」
メモを受け取ったミイさんはさっそくとばかりに狭い店内を駆け巡り、メモに書かれた物を幾つか取り出していく。取り出しはミイさん、受け取りはサーナイトと役割分担も忘れずに。
そんな作業を傍から見ていたスラスさんは、はぁ、と嫌そうに溜息を漏らす。な、何故にそげん怒っとると?
するとジロリと視線だけでこっちを見て来た。や、やっぱり怖いですこの人。
「あなたも大変ですね。聞くからにワガママそうな子に買い物を任されるとは……オーダーメイドの品は簡素な物ですが、少々お時間を頂きます。一時間程お待ちください」
「い、いえ……」
「はぁ……オーダーメイドを売りにしているこの店に、幾ら忙しいし遠いからと言って他人を寄越すなんて腹立たしいわ。オーダーメイドとは創作者と依頼者が妥協を認めず一から自分好みに作るということ。手作りの醍醐味というものをまるで解っていないわね……外にテラスがございますので、そちらにてお待ちください。ではごゆるりと」
ペコリと頭を下げて作業所に戻る最中でも早口で言う愚痴を止めようとしないスラスさん。
そんな彼女の気持ちを代弁するかのようにハハコモリはペコペコと頭を下げ、スラスさんの後を追う。
なんというか……。
「キッツい人でしょ?あの人、すっごく真面目で、色々な事に怒っているんですよね」
「うん。完璧な仕事人間だね」
ナタネちゃんが怖がるのも無理は無いわ。あの人、一切の妥協とか手抜きとか許さないタイプの仕事人だ。
ハクタイジムの修復に協力してくれたイナゴロウさんも自分の仕事には厳しい人だったが、あのスラスさんはそれ以上って感じ。
目つきが鋭いし、マンガとかに出てきそうなキツキツ系OLって感じ。美人さんだけど。
けどああいう人ほど、仕事に情熱を注ぐ人から慕われたりするんだよね。
でなけりゃ外から見た仕事風景が生き生きしていないもん。誰も彼もが真剣に、そして一生懸命頑張っているわけだし。
ポケモンのためでもあり人のためでもある服飾系の仕事は幅が広い分、どこまでも自分好みに頑張れることだろう。特にオーダーメイドとなれば、こだわりも強くなる。
さて、ミイさんは包装中みたいだし、オーダーメイドの品は時間が掛かるらしいからテラスでお茶でも……。
―チリンチリン
あ、新しいお客さんが……って……。
「ヒカリちゃ……あら、ナタネじゃないの」
「あ、お久しぶりですシロナさん!」
まさかのシンオウ地方チャンピオンご来場ぉ―――!?
―続く―
●ヒカリ
シンオウ地方出身のポケモントレーナー♀。おっとりとした性格。辛抱強い。
過去のトラウマが原因で声が出なくなった為、常にスケッチブックを持ち歩いている。
多くの人やポケモンに支えられつつ、コンテスト衣装を作る事を遣り甲斐としている。
『つるぎのまい』等で積んで『インファイト』等で一気に責める戦法を好む。攻撃型。
ヒカリちゃんの詳しい話を、コウキの話と一緒に執筆中。いつか同時投稿したいです。
正月休み気分が未だに(仕事以外で)抜けない自分(汗)日頃からコツコツ書かないと……。
次回、シンオウ地方の大物が次々と来襲する!(犯人はヒカリ)
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ポケライフ「コウキの過去と現在」
ポケットモンスターの主人公ズは自分の手で切り開いて行っていますが。
ジムリーダーによって救われ道を見出した子が居たって良いと思うんだ。
3/2:後書きにてトレーナー情報追加
コウキは容赦が無い。思ったことはズバっと言うし、やろうとしたら強引にやる。
幼少の頃からそうで、子供相手でもズバっと言うし、間違いだと思ったら強引に正そうとする。
イジメられっ子を助ける為にイジメっ子とケンカしたり、川に落ちたニャルマーを助けようと飛び込んで逆に溺れかけたりした。
時にはイジメっ子が課した無理難題の為に、近所のルクシオの鈴を横取りしようとして痛い目に見ることもあった。
そんな一生懸命なコウキは、いつしか同い年の子らから遠ざけられた。大人は真っ直ぐな子だと思われても、子供から見たらコウキは異端であった。
そこまでやらなくてもと言われるのが大抵で、幾度と無理難題を吹っ掛けてきたイジメっ子は「頭がおかしい奴」と言って恐れられた。
例外はジュンとヒカリだけ。ジュンはコウキの真っ直ぐな所を気に入り、ヒカリは声が出なくなった自分をいつも通りに接するコウキの存在がありがたかった。
それでもコウキは寂しかった。だから自分を偽ることにした。
本音を隠し、本やテレビで得た『常識的な子供』に沿って行動し、多数決で物事を決める。
子供が泣いていても放っておく子が大勢居れば放っておくし、皆が無理だと言えば無理な事なのだと諦める。
本当の自分を出せるのはジュンとヒカリ。その2人は隠すことないと言ってくれるが、子供達と遊べるならとコウキは止めなかった。
自分を偽るようになってから子供達と
癒されるのは好物のハチミツを味わう時と、家族と親友らと接する時と、いつしか友達となったミツハニー・ビードルの2匹と遊ぶ時。
コウキはそれで良いと思った。遠ざけられる恐怖を知ってしまったが故に、遠ざけられない為の虚偽を続けるのだ。
やがて、コウキはジュンとヒカリと共に、ナナカマド博士の頼みで旅に出るようになった。
コウキは「大人の頼み事は受けるもの」という
ミツハニー、ビートル、博士から貰ったナエトルを連れて旅に出たコウキは様々な事を学び、経験してきた。
それでもなお、コウキは自分を偽り続けた。彼が学んだ一般常識が邪魔をし、時にはギンガ団の暴行を見てみぬ振りですらして。
コウキは、ずっと世間に偽り続けるかと思っていた―――あの出会いがあるまでは。
トバリシティに到着したコウキはトバリジムに向かっていると、道端で倒れている少女……スモモと出くわした。
空腹で倒れていた彼女に持っていた蜂蜜の瓶を差し出すと、スモモは蜂蜜を口一杯に頬張り、瞬時にエネルギーに転じて復活。
―なお、この時コウキは初めて「エロっぽい」と思ったらしい。
コウキは何故空腹で倒れていたのかと尋ねた。礼儀正しいスモモは、それに余すことなく応えた。
うちが貧乏であること。父がスロットでお金を使いまくること。1日の食事が木の実1個であること。自分がジムリーダーであること。
ジムリーダーであるなら何故体調管理に気を使わないのかとコウキが言えば、貧乏だからとスモモは応える。
貧乏なのは父が原因だから父を追い出すなりすれば良いとコウキが言えば、あんな甲斐性なしでも自分の父親だからとスモモは応える。
ジムリーダーは副業も許されるはずだから副業で稼げば良いのではとコウキが言えば、スモモは未熟だからジムリーダーしか考えられないと応える。
体術も体力も良いしスポーツジムの講師に向いていると言えば、自分はジムリーダーとして真剣にやりたいからと応える。
コウキは何度も何度も尋ねた。スモモはそれに真剣に応えた。
コウキは判らなくなった。何故苦しいのに自分を変えようとしないのか。何故苦しいのに他を変えようとしないのか。
いつしかコウキは出会ったばかりのスモモ相手に、夕日が沈むまで同じような質問を続けていた。
夕日が沈んだ頃になって、初めてスモモからコウキに言った。
「どうして私の為に、真剣に心配してくれるんですか?」
コウキは応えられなかった。何故自分は初対面の子をこんなに心配しているのか。
何故自分は―――昔のように、ズバズバと物を言ってしまったのか。
応えられず戸惑うコウキを前に、スモモは微笑みながら言葉を続けた。
「私は自分のことしか考えられない未熟者です。だから真剣に目の前を見て、真剣に挑んで、真剣にやり遂げる。それしか考えられないんです」
「なのにあなたは他人の為に真剣に考え、真剣に悩んで、そして真剣に伝えてくれた。自分のためじゃなくて、私のために言ってくれているんですよね?」
「それはとても嬉しくて、とても素敵なことですよ。私が出来ないだけだから、あなたは何も悪くないです」
「私の為に真剣になってくれて―――ありがとうございます」
頭を下げて礼をして、顔を上げて微笑む彼女の言葉。
それがとても心に響き―――心を縛っていた鎖が砕ける音が聞こえた気がした。
そうか―――僕はずっと「ありがとう」って言って欲しくて頑張っただけだったんだ。
それをやっと理解できたコウキは、いつの間にかボロボロと涙を零していて、スモモが必死に泣き止まそうとしているのに気付いた。
―――
翌日の朝は、まるで生まれ変わったような気持ちで起きる事が出来た。
清清しさを感じながらポケモンセンターを出て、己の手持ちポケモン達を出す。
ドダイトス・ビークイン・スピアー・ヘラクロス・カラクナシ・フワライド。
これまで共にしてきた仲間達に改めて己の本音を伝え、より一層仲が深まった所で彼らに告げる。
「今日はトバリジムのスモモさんに挑むよ。スモモさんは凄い人だから、今回は負けるかもしれない。だからこそいつも以上に真剣に、そして容赦なく挑もう」
そう言ってトバリジムに挑戦しに行き―――餓死寸前の死屍累々を目の当たりにするのだった。
ジムリーダーのスモモに聞けば、全員が貧乏で、昨日貰ったハチミツ以降何も食べていないのだという。
もしかしてと思い手作りのハチミツ菓子を持ってきて正解だった。ジムトレーナー共々奪い合うようにして食べてくれた。
この時、コウキのもう1つの起点が
「このお菓子凄く美味しいですよ!これなら素敵なお菓子職人になれますね!」
―と菓子を口一杯に頬張って幸せそうなスモモが言った言葉だった。
―――
いつの間にかコウキはトバリジムを後にし、お菓子を作る人になろうと決意していた。
脳裏に浮かぶのはお菓子を食べるスモモの幸せそうな笑顔。ありがとうと言って浮かべたスモモの嬉しそうな笑顔。
あの笑顔の為になろう。そう口を漏らしたらポケモン達も賛同してくれた。彼らもコウキの作るハチミツ菓子が大好物だからだ。
最初は食べ物を作る人なら何でも良いかと思ったが、そうではないとも思った。
何故なら自分が持ってきたハチミツのお菓子は、自分が一番好きなハチミツで作った物だ。だからこそ真剣に作り、得意なお菓子となった。
それをスモモは喜んで食べてくれた。自分が真剣に作った、自分が真剣に好きなお菓子を、真剣に食べてくれる。
だからこそ、自分はお菓子職人になろう。旅を続けながら。
ジュンとヒカリと再会したら「元のコウキに戻った!」と喜んでくれた。
ヨスガジムでメリッサと対面して「ジムの仕掛けに算数とか馬鹿にしているんですか?」と言って泣かしてしまった。
ギンガ団の悪行に容赦なく突っ込み「てめぇには血も涙もねぇのか!」と怒られた。けど容赦はしなかった。
旅の途中で『意思』を司るシンオウの伝説のポケモン・アグノムと出会った。
キッサキジムのスズナに恋愛と気合はどう繋がるのかと質問して「気になる子がいるのかな?」と言われ顔が赤くなった。
ナギサジムのデンジにナギサシティの人達を代弁するように説教したら、何故か気に入られた。
これらの合間にパティシエとしての仕事先を探したりスモモに会いに行ったりした。
そして図鑑とバッジを出来る限り集めたコウキは、ソノオタウンの洋菓子店「ミエル・ドゥセ」で働き始めた。
カロス地方出身のオーナー・ルガーはソノオタウンのハチミツを使った上品で甘いお菓子を作るパティシエで、コウキもメロメロになったほどだ。
コウキはそんな彼の下で一生懸命働いた。作り、売り、洗い、接客する。調理以外は慣れぬ事も多いが、持ち前の真剣さで頑張ってきた。
もちろんお菓子作りの修行も忘れない。解らないと思ったら容赦なくルガーに尋ね、失敗と成功を繰り返して良いお菓子を作っていく。
一部のパティシエ候補生は彼を「何でもかんでも聞かなきゃ出来ない甘ったれ」と蔑むが、ルガーは彼らにこう言った。
「ムッシュコウキは、客という多人数の不確定よりも、誰かの為という確定の志がありまス。故ニ明確に、そして真剣にタルトやサブレを作りマス。
そもそも私は真剣かつ真摯に問いかけ話を聞く彼を悪いと思ったことは一度たりともありませン」
ルガーの言葉は、意地悪なパティシエ候補生を黙らせ、コウキがルガーをより尊敬するようになるのには充分だった。
ルガーもスモモと同様、コウキの真剣さを理解してくれたのだ。理解者がまた増えたことで、コウキの心は一段とやる気と向上心にあふれ出した。
こうして彼は、ソノオタウンの見習いパティシエとして生活するようになった。
それとは別に―――。
―――
ある日のトバリジム。
いつものように腹を空かして特訓していたスモモらの前に、2匹のハチポケモンを連れたコウキが現れた。
「お邪魔しまーす」
―甘い菓子の匂いを漂わせて。
一列になって正拳突きをしていた一同は匂いにやられ、ドタバタとコウキに駆けつけた。
「こ、こんにちはコウキ君!きょ、今日もアレ、かな?」
ゴクリと唾を飲み、ジムトレーナー共々期待の眼差しでコウキ―最近になって「さん」でなく「君」と呼ぶようになった―を見つめる。
そんな期待の眼差しに応えるように、最近見せるようになった笑顔を浮かべながらコウキは言う。
「うん。新作を作ったから皆で
初めて持って来た時に「差し入れ」と言ったら恐縮したので、建前上は「新作の味見」として。
どう見ても味見にしては大きすぎるハチミツのタルトを見せた後、スモモはその箱を受け取る。
横ではビークインがポフィンの詰め合わせが入った箱を、スモモのルカリオが受け取っている。このポフィンもコウキの自信作だ。
「はい!しっかり
「「「オス!」」」
斜め45度の素晴らしく礼儀正しい、それでいて息のあった礼であった。
それを合図にスモモらはタルトに群がり、実に幸せそうに食べ始めた。ルカリオやチャーレムといった格闘タイプのポケモン達もポフィンを美味しそうに食べている。
一部の格闘家なんか「この時をどれだけ待ち望んだことか」と漢泣きするほどだ。
そんな彼女ら……特に嬉し涙を零して食べるスモモの姿を見て微笑むコウキ。
出会った時からスモモに恋しているのだと彼が知るのは、大分先の話。
ハチミツのような甘い恋心を胸に、コウキはパティシエとしての修行を続ける。
●コウキ
シンオウ地方出身のポケモントレーナー♂。冷静な性格。抜け目が無い。
冷静でマイペースだが、物事には一直線に向き合う真っ直ぐな奴。容赦が無いが悪気も無い。
今はある理由でパティシエの修行をしており、お菓子作りが大の得意。ハチミツが好物。
『ダメだし』『どくづき』といった追加ダメージのある技を好む。攻撃型
コウキは『意思』を司るアグノムをモチーフにしています。
幼少の頃に怖がられた自分を認めてくれる。それがどれだけ嬉しいか。
自分の手ではなく他者の、それも著名人とは違うジムリーダーのおかげで変えられたというお話です。
強固な意志を持つコウキを、礼儀正しく真剣に挑むスモモが認め、救う。そんなエピソードでした。
後、シンオウのジムリーダーでナタネに続きスモモが好きだからです(笑)
なので当作品……というか作者内ではコウキ×スモモが熱いのです(ぇ)
最後に一言。
「あま~~~~い!(某ギャグ)」
ではでは。
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ポケライフ「ヒカリの過去と現在」
後、本人は自覚していなくても、才能があるあると周りに言われたら調子に乗っちゃうもんだと思います。
3/2:後書きにてトレーナー情報追加
ヒカリという少女は喋れない。
無口や恥ずかしがり屋というわけでは無く、言葉を発することが出来ないのだ。
喉や口に異常は無く、むしろ身体は健康そのものだ。異常があるのは心……それも最も奥深くにある記憶の片隅だった。
ポケモンを連れて行けない程に小さかった頃、たまたま街外れを散歩していた時――ドラピオンと遭遇してしまったのだ。
幸いにも通りすがりのトレーナーによって救出されたものの、「ばけさそり」と対面した少女は心に大きなトラウマを負い、声が出せなくなってしまった。
これは放っては置けぬと、両親はあの手この手でヒカリの心の傷を癒そうと試みる。
人の心に敏感だというラルトスとリオルの助力もあって、ヒカリは元気を取り戻すことに成功。
心を整理し前向きな思考を得るものの、過去のトラウマが意外にも根深く、声は未だに出ないままだが。
それでも元気に育ったヒカリは、ラルトスとリオル、そしてナナカマド博士より譲り受けたポッチャマを連れて旅に出た。
過去のトラウマからポケモンの事をもっと知りたいと思うようになった彼女は、ナナカマド博士の頼み事は渡りに船。意気揚々と旅に出る。
幼馴染にしてトラウマを負った自分を支えてくれたジュンとコウキと分かれたのは意外にも辛かったが、様々なポケモンと人々の出会いがそれを忘れてくれた。
ヒカリが旅に出たことで、彼女の内に眠る数多の才能が芽生える事となった。
彼女は元々から辛抱強く、声が出ないからと他者からからかわれても物ともしない精神力がある。まぁ迫害する者より応援する者の方が圧倒的に多いが。
それに筆記用具で言葉を伝えるとはいえ、彼女は声が出ない代わりに表情をコロコロと変える為、言葉無しにしても非常に解りやすい。
おっとりとした性格・堅い精神力・他者を気遣う優しさ・表情の豊富さと、他人を惹き付け魅了するには充分だった
また、その辛抱強さと努力はポケモンバトルやコンテストでも発揮している。
彼女は特注のカスタネットを使ってモールス信号で指示するという異例な方法でバトルを繰り出すのだ。動体視力と観察力も高く、ことバトルにおいては圧倒的な勝利数を誇る。
その努力はコンテストにも及び、母譲りの美的センスと裁縫技術を用いて様々なコンテスト衣装をも創り上げたほど。
そして彼女一番の才能はそのカリスマ性だ。
他者の助力もあったとはいえ、彼女はトラウマを持った。つまり負の感情を理解しているということだ。
優しいポケモン世界でも悪い所はある。その悪い点をあえて受け止め、世界を知り、他者を理解して真摯に向き合う気力がある。
故に彼女のポケモン達は育つにつれ、まるで臣下のように彼女に付き従うのだ。特に幼少より育てたエルレイド・ルカリオの忠誠心は高い。
性格・才能・カリスマ。これらを併せ持つ彼女は瞬く間に成果を上げていった。
シンオウ中のジムを制覇し、親友らと共にギンガ団の野望を阻止し、二対の伝説のポケモンとエムリットに遭遇した。
波動を学ぶべくゲンに弟子入りしたこともあった。チャンピオンだと知らずシロナとバトルして友情を深めたこともあった。シェイミという幻のポケモンと出会った。
チャンピオンになるのも時間の問題だとシロナのお墨付きもあり、王者の座は確定のものだと誰もが思っていた。
しかし……彼女がチャンピオンになることはない。それはヒカリの幼馴染が起因していた。
強さを求めたジュンは、父クロツグのようになりたいとバトルフロンティアで修行を続け。
明確な目的を持たなかったコウキは、突如として幼少時の真っ直ぐさを取り戻し、パティシエを目指す。
2人も一時はチャンピオンを目指したはずだった。しかし2人は、自分の本当にやりたい事を明確に見出し、別々の道を歩む事を決めたのだ。
ヒカリは2人の行く先を知って思い出す。
自分が最もやりたい事……それは才能が最も秀でたバトルではなく、母から教わり魅力を知ったコンテストにあった。
誰も彼もがポケモンリーグチャンピオンの座を勧める中、親友らが同意してくれたこともあり、ヒカリはコンテストの道を目指すことを決意。
愛弟子として可愛がってくれたゲンと妹のように可愛がってくれたシロナの号泣には心が揺さぶられたが、あえて突き放した。雛はいずれ鳥となって旅立つのだ。
―――
こうしてヒカリはポケモンコンテストの道を歩み、ヨスガシティの衣服店「Dress Of Handmade」で働くようになった。
この衣服店はオーダーメイドに強い拘りを持ち、打ち合わせから完成まで全て手作りで行うという徹底ぶりだ。
ポケモンコンテスト出場者として尊敬するメリッサに紹介された日からずっと憧れていた店だ。採用が決まった時のはしゃぎようは忘れられない。
とはいうものの……この店の店長にして責任者のスラスは、一切の容赦が無かった。
声が出ない事に関してではない。才能があると言われた自分ですら「及第点には程遠い」と常に叱られるからだ。
事実ヒカリの周りは才能も経験も桁違いだった。最年少であるラナですら、ヌイグルミだけならスラスのお墨付きを貰ったほど。
もちろん、そういった人は並外れた努力と歳月を持って成長してきた。自ら辞めて行った人が多い中、彼らは辞めようとはしない。
咎めるのは失態や技術不足の指摘だけ。励ます人も居る。友達も大勢出来た。ポケモン達とも触れ合った。
それでもヒカリはスラスの厳しさの余り、初めて本気の悔し涙を零したことがあった。
―この時、エルレイドとルカリオの忠臣コンビが怒りの余りスラスに襲い掛かりそうになったが、詳しくは省く。
ハハコモリの糸で雁字搦めにしたポケモン2匹を余所に、スラスはヒカリにこう言った。
「私が嫌いな物を3つ教えてあげる。
1つ、才能の無い人。2つ、止まり続ける人。3つめ、挫折を知らない人。
私は職人を見出す為の努力は惜しまない。本当に才能が無いと解ったら早々に追い出すし、止まり続けるなら給料泥棒として放っておくわ。それにね……私は挫折を知らない
あなたは2つ条件を満たしているようだけど……3つめは怪しいわね。3つ全てを持っていないと判断したらすぐ追い出すから、そのつもりで」
スラスの言葉を聞いたヒカリは、脳天に雷が落ちたようなショックを受けた。
そうだ。自分は才能があるとチヤホヤされて、いつしか何でも出来ると思い込んでいたんだ……と。
バトルもコンテストも勝ち抜き続けた中、初めて壁を知った。
テンガン山に登山した時もギンガ団に立ち向った時も諦めなかった中、初めて挫折を知った。
多くの親友とポケモン達に愛された中―――初めて『厳しさ故の愛』を感じた。
自分に波動と武術を教えてくれた、厳しさと優しさを兼ね揃えた師匠。
ポケモンにも人間にも分け隔てなく接する、責務と自由を併せ持った姉のような存在。
大好きなことに一生懸命になれる、ポケモンコンテストの大先輩。
そして二種類の真っ直ぐさを持ってして、幼少の頃から励まし合った親友2人。
全てが自分の尊敬すべき親友だ―――しかしこの日から、ヒカリにとって最上と言えるほどに敬愛する人間が出来た。
ただひたすらに厳しく、ただひたすらに本気で、ただひたすらに邁進する―――壁であり師である上司・スラス。
ヒカリは多くの敬愛すべき人々に囲まれた事を知り、過信した己を恥じ、更なる進化を覚悟する。
本当に好きな事に本気でぶつかる喜びと、自分を愛してくれる人々の感謝を胸に抱いて。
●ヒカリ
シンオウ地方出身のポケモントレーナー♀。おっとりとした性格。辛抱強い。
過去のトラウマで声が出せないが、それを補った豊かな表情と優しさで他人の心をガッシリキャッチ!そんなアイドル。
ポケモントレーナーとして優秀な才能を持つがコンテストを好み、現在は衣服屋で働いている。
的確に弱点を突き『クロスポインズン』や『つじぎり』といった技で急所を狙う戦法が得意。攻撃型。
過去と現在っていうタイトルなのに現在の様子が書かれていない?
それは本編で書かれているからいいんですー(ぇ)
そういえばポケライフって人の生活は描いていてもバトルとかポケモンとか薄れちゃうな……(汗
ではでは。
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その33「きのみ屋さん、衣服屋で修羅場を見る」
書く内容は決まっていても持続力と無いなぁ……。
シンオウ地方のチャンピオン・シロナといえば超が付くほどの有名人だ。少なくとも僕みたいなスローライフ人間でも知っている程に。
というのも、チャンピオンとはドッシリと構えている者ではなく様々な理由を持って各地を周る者なので、自然とバトルを挑まれて腕前を宣伝していくからだ。
ジムリーダーもそうだが、チャンピオンとはバトルに強くて賢ければ良いというわけではない。常人、いや天才以上の才能の知識と才能、そして自身の能力が高くないとならない。
シロガネ山山頂に一年中篭れる程の体力と精神力を併せ持つ者。
世界各地の様々な石を収集しメガストーン研究にも貢献した者。
イッシュ地方の経済に影響を及ぼす、毎年チャンピオンの座を争う少年少女。
カロス地方のチャンピオンには詳しくないが……とにかくチャンピオンっていうのは凄い。強いだけでは片付けられない程に。
もちろん一度二度チャンピオンの座から降りた事があるらしいが、いずれも再び這い上がり、逆に世の中への知名度を高めている。
さて、このシンオウ地方チャンピオンの何が凄いかというと……。
「またヒカリに会いにいらっしゃったのかしら?今は仕事中でして」
「もちろん仕事の邪魔はしないわ、スラスさん。それに今日はお客としてきたのよ?」
「邪魔はしない。つまりは会いに来るのが主な目的なのでしょう?」
「あら、ばれちゃいます?……ほら、ナタネも何かフォローしてよ」
「ヒカリちゃんにダダ甘なシロナさんが悪いです」
「だって可愛いじゃない。チャンピオン戦の前からお気に入りなの」
「確かに。僕は今日初めてヒカリちゃんに会いましたけど、只者じゃないオーラを感じましたねぇ」
「ハヤシ君、だったかしら?あなた人を見る目があるわねぇ」
「けど個人的にはナタネちゃんに軍配が上がります。元気が一番良いので」
「ちょ、恥ずかしいこと言わないで!」
「あら、ナタネちゃんったら恥ずかしがっちゃって。ハヤシ君も罪作りねぇ、このこのっ」
「僕みたいな一般人にゃ、ナタネさんとは釣り合わないですよ」
「私は結構お似合いだと思うけど?緑一色のお笑いコンビみたいで」
「お、お笑いコンビって酷いですよシロナさぁん!」
「お客様リストの物を渡しておきますね(リア充爆発しろ)」
「どわっふ、ミイさんいきなり全部渡さないで、お、重い……」
「あらミイちゃんじゃない。コーディネイトは順調かしら?」
「あ、ご無沙汰ですシロナさん。おかげさまで順調ですよ。それとミイちゃんは止めてください
「……はぁ。お静かにお願いします、お客様。それとミイ、サボっているなら拳固よ」
「真面目に働きますですハイ」
いつの間にかガチガチに堅くなっていた僕は当たり前のように会談に興じており、和やかな雰囲気に包まれていた。
あの生真面目なスラスさんですら、先ほどまで苛々していたのが嘘のように和やかな空気を醸し出している(目つきは怖いままだが)。
まるで元から友人であるのように気安く話してくれるのは、僕の人柄を見抜いたからだという。シロナさん曰く「穏やかで冗談好きな男の子」だとか……僕が20代だと見抜いた上でそう言うか。
シロナさんの凄い所は、この温厚で明るい性格……すなわち人柄だろう。
悪党には容赦はせず、基本はクールビューティとして平等に接し、他者から慕われたり自分が気に入ったりすれば本性を晒してフレンドリーに接する。
雑誌やテレビの特集でもシロナさんの人柄を良く取り上げており、ポケモンにも人にも自分なりの愛情を注いで真摯に付き合う所を評価されているとか。
いつの間にかポケモンに似合うコーディネイトの話題で盛り上がっていると。
―ドッタンバッタン、ギャーギャー
「なんか外が騒がしいですね」
ナタネちゃんが口にした。そう言われてみれば確かに騒がしいな……何か合ったのかな?
なんかシロナさんが真剣な目で窓を見ているので、僕らも窓の外を見て……。
―どこかで見たことある青の似合うナイスガイさんが杖でマグマ団らに殴りかかっていました。
「……チッ」
ちょ、シロナさん何ですかその舌打ちは。しかも青の似合うナイスガイさんを嫌そうな目で見ているし。
ていうかそんな場合じゃないでしょ!なんでこんなシンオウ地方でマグマ団がいるの?コスプレ?成り切り強盗?
けど、気絶しているマグマ団をルカリオ(クケちゃんを一撃で落とした奴だ)が縄で縛っているし、騒動は終わったみたい。
呆然としている僕ら(シロナさん除く)を余所に青の似合うナイスガイさんは人混みから割って出たジュンサーさんに話をして……あ、こっち来た。
―チリンチリン
「やっと見つけましたよ、シロナさん」
「何事も無かったかのように入って来ないで下さい」
一部始終を丸ごとカットしたかのような澄まし顔で参上した青の似合うナイスガイさんマジクール。
間違いない、この人は僕がシンオウ行きの船でクケちゃんを止める時に手伝ってくれた人だ。強いと思っていたけどシロナさんの知り合いなら納得だ。
けどシロナさんの青の似合うナイスガイさんを見る目はまるで仇であるかのよう。な、なぜそげん嫌そうにしとると?
「あらゲンじゃない。随分と早かったわね」
「チャンピオンから頼まれましたからね、早い内に片付けるのは当然でしょう?シンオウへ帰ってきたのは今日です」
「こうてつ島で修行ばっかしている貴方の為に、旅行ついでに頼んだつもりのだけどね」
「旅行ついでに
「あら、人探しに便利な波動を使える貴方なら簡単なお使いだと思ったのだけど?」
「……はっきり言いましょう。僕を遠ざけるつもりなら無駄ですよ?」
「うふふ、なんの話よ。失礼ねぇ」
「本当ですね」
「うふふ」
「ははは」
―バチバチバチバチバチ
み、見える……笑い合う2人の目線上で激しい火花が散っているのが僕でも見える……!
ナタネちゃんに視線を向ければ冷や汗を掻きながら衣服を選ぶフリをしているし、ミイさんを見れば「さて仕事仕事」と無視している。助けは無理そうだ。
この2人の反応を見る限り、この2人の仲は最悪なんだろう……え?腰がカタカタ震え……ポ、ポケモン達がモンスターボールの中で怯えている、だと!?
笑顔で無言の圧力をかける2人を前に、僕はどうすることもできずこの圧力に屈してしまうのだろうか……そう諦めかけたその時!
『休憩中』と書かれたスケッチブックを抱えたヒカリちゃんが作業所から戻ってきた。
―その直後、空気は一変する!
「ヒカリちゃ~ん!」
仮にもチャンピオンであるはずのシロナさんは嬉しそうにヒカリちゃんに抱きつこうと近寄り。
「やぁヒカリ君。お邪魔しているよ」
そんなチャンピオンの壁になるかのように一歩前に出て、ナイスガイことゲンさんはヒカリちゃんに微笑む。
阻まれたシロナは一瞬だけ怨敵のようにゲンさんを睨み、ゲンさんは振り向き様にドヤ顔を見せる。ナイスガイとはなんだったのか。
けど2人の姿を見たヒカリはパァっと嬉しそうな顔を浮かべて駆け寄る。すると2人は瞬時に表情を微笑みに変える。
―これを見て解った、ていうか確定した。この2人はヒカリちゃんが大好きで、どちらが一番か競い合っている仲なんだと。
呆然とそんな3人を見ていたら突如腕が引っ張られた。何事かと声を出そうとして、ナタネちゃんの手で蓋をされた。
そのままナタネちゃんに引っ張られ、コソコソと3人から距離を取る。うわ、だだ甘オーラ全開だ。
(ごめんねハヤシさん、びっくりしたでしょ?)
(色々な意味で。……で、詳細は?)
(シロナさんとゲンさん……あの青い服が似合うナイスガイね……はヒカリちゃんにメロメロです)
(効果は抜群か)
まさにその通りです、と言わんばかりに頷くナタネちゃん。
傍ではゲンさんのルカリオがヤレヤレと言わんばかりに首を振っている……ていかいつからココに居るし。
もう一度3人を見ると……実に楽しそうに話している。互いの尻を抓っている大人2人の後姿さえ見なければ仲良しに見えたのに。
……ミサトに頼まれた物を受け取ったらさっさとノモセに行こうそうしよう。
「そういえば君、この間に船で会ったよね?久しぶり」
「あら、君はゲンとも知り合いだったの?」
は、話をこっちに振って来たー!
―続く-
チャンピオンと波動使いをダメな大人にする癒し系美少女・ヒカリちゃん(特性メロメロボディ)。
シロナとは姉妹、ゲンとは師弟または兄妹のような間柄。ヒカリは2人が大好き。
グダグダしてきたので物語を進めるペースを上げます(更新速度が上がるとは言っていない)
トレーナー同士の日常を描くのもいいけど、やっぱポケモンも出したいので。
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その34「きのみ屋さん、マグマ団の暗躍を聞く」
自由にあれこれできる環境にしておけばよかったと後悔しています。
まぁ出した以上は目的完了まで頑張ります。
話を振られた時はどうしようかと思ったけど、ヒカリちゃんを巡る修羅場が治まったからか穏やかに話を進められました(表向きは)。
改めてゲンさんにクケちゃん暴走事件のお礼を述べる事が出来たが、クケちゃんって何?とシロナさん言われてクケちゃんを出せば。
「ドクケイル……なるほど、だからクケちゃんなのね。間近で見ると意外に可愛いじゃない」
とシロナさんとヒカリちゃんは好評。ナタネちゃん気になる様子。うーむ、アゲハントの方が人気あると思っていたんだけどな。
けど僕だけではなくゲンさんも微妙な顔をしている。女の子の可愛さの基準は男から見れば解らないものだとほっとしました。
するとシロナさんは悪戯を思いついた子供のような笑顔を浮かべ。
「せっかくだからコーディネイトしちゃいましょっか!」
「Σ(▽△▽川)(え、なんでよ!?)」
『賛成です!』と書かれたスケッチブックを掲げるヒカリちゃんも、それ面白そうだなーとクケちゃんを見るナタネちゃんもノリ気であった。
さっき街の人から着せ替えポケモン扱いされたからか、クケちゃんは僕の背中にしがみついてイヤイヤと首(?)を振る。必死だなぁ。
けどクケちゃんが僕の背中にいるからか、女の子らの「着せ替えたい」オーラが僕に注がれることに……こ、怖い……!
「そ、そういえばゲンさん、シロナさんから頼まれていた事ってなんだったんですか!?」
こ、ここはゲンさんに話を逸らそう!「あんなもの」が何なのか気になるし!
ゲンさんは僕の意図に気付いたらしく、僕らの前に立ちはだかってシロナさんと向き合う。
「忘れていましたよシロナさん、
そういうとゲンさんはシロナさんにジャラリと鳴る小さな袋を手渡した。
「あ、忘れてた」と言わんばかりに目を丸くしたシロナさんはゲンさんから袋を受け取り、中身を確かめようと手の平に落とす。
そこに入っていたのはキラリと輝く『石』だった。珠のように丸みを帯びた物が幾つか入っており、主に二種類ある。
どちらも不思議な色合いをした輝きを持っていて、ただの石でないのは明白だ。しかし進化の石とも違う。
「……うん。本物のようね。ご苦労様」
「ダイゴさんから貰ったんだから本物に違いないだろう?」
僕とヒカリちゃん、ナタネちゃんが首を傾げながら『石』をマジマジと見る中、シロナさんは「違いないわね」と言ってゲンさんと笑い合う。
ダイゴさんといえば『チャンピオン』としての知名度より『ストーンゲッター』としての知名度の方が有名な石コレクター。
チャンピオンがダイゴさんとゲンさんを頼ってでも欲しがっていた石……ま、まさか……。
「あの……もしかしてコレって」
「キーストーンとメガストーンよ。それも加工前の」
「どっしぇー!?」
「えーっ!?」
僕とナタネちゃんの奇声にヒカリちゃんも(未だに)背中に張り付いていたクケちゃんもビックリ。ゴメンね。
耳でしか聞いたことがないキーストーンとメガストーン、それも加工前の物を見るなんて始めて!ハヤシさんビックリよ!
「チャンピオンたるもの、キーストーンとメガストーンの一式ぐらい持っておいた方がいいかなって思ってね。ガブリアスナイト欲しかったし。
ポケモンリーグでもチャンピオンのキーストーン所有を認めてくれたから、今頃は他地方のチャンピオンにも回っているんじゃないかな」
「シ、シロナさん、そんな情報を一般人に教えちゃっていいんですか?しかもさらっと私情まで混ぜちゃって」
「あら、いずれ公式でも発表する予定だからいいじゃない。ナタネちゃん達ジムリーダーにはまだ話していないけど」
「こりゃ皆驚くだろうなぁ……トウガンさんとか特に」
どこまでもフランクな人だなぁシロナさんって……いい加減にクケちゃんをボールに戻そ。重いし。
そんな僕らの間にゲンさんが割り込んで、真剣な表情でシロナさんを見る。その視線には僕も含まれていた。
「そういえばシロナさん、もう1つ話があるんですが。……ハヤシ君もよかったら耳に挟んでくれないか」
「……さっきのマグマ団のこと?」
朗らかだったシロナさんの目つきが鋭くなった。そういえば何気なく忘れていたけど、さっきマグマ団がいたじゃん。それも複数。
空気を読んだヒカリちゃんが『お邪魔しました~』と書いてそそくさと逃げようとして、シロナさんに捕まって抱き人形と化した。
「……どうやら連中はシロナさんがこの店に来ることを事前に知って、シロナさんにキーストーンを届ける僕を待ち伏せしていたみたいだ」
一瞬ヒカリちゃんに抱きついたシロナさんに向ける目つきが怖かったけど、瞬間なので気にしない。気にしないったら気にしない。
「随分と用意周到ね……そういえば各地で赤い服を着た悪党の噂が絶えないけど、それ全部マグマ団のことよね?」
「ハヤシ君、ホウエン地方出身の君に聞きたいが、マグマ団についてどれだけ知っているかな?」
シリアスな雰囲気の中で唐突に声を掛けられたので一瞬ビビるが、事態は思っていたよりも悪そうなので話せるだけ話そう。
「えっと……陸を増やして活動範囲を広げようとしていたテロリストだって聞いています。
ホウエン事変でアクア団っていう敵対組織と一緒に、2対の伝説のポケモンを呼び起こして物凄い事になったけど……」
嫌な記憶だなぁ。一日だけで日照りと大嵐が何度も入れ替わるから、庭を守る云々言っていられなかったよ。
大嵐の中、材木で窓を補強していた時にアメモースがぶつかってきた時なんか死ぬかと思ったね。作業していた場所が2階だったから。
「けど2人のトレーナーが組織をやっつけてくれて、伝説のポケモンも大人しくなったんでしょ?組織も解散したって聞きましたけど」
「ナタネちゃんの言うとおりです。けどホウエン地方じゃ残党が未だに残っているんだよね。大半がコソ泥集団だけど」
ナタネちゃんも煙突山で会ったアイツらも小悪党だったんだろうけど……今考えると小悪党にしては腕が立つ連中が混ざっていたなぁ。
そんな印象があるけど、僕が知らないマグマ団の暗躍っぷりをシンオウ地方の面々が語ってくれた。
「そんなコソ泥集団がシンオウ各地に広がり、『石』を探して暗躍しているらしいんだが……どうも情報が曖昧なんだ。
奴らは『貴重な石』であれば闇雲に首を突っ込む。情報収集はバッチリなのに、目標である『石』の狙いが曖昧すぎるんだ」
「ヒョウタ君の所にもしょっちゅう出てきたそうね。化石が目当てってわけじゃなかったらしいけど」
「そういえば以前、スズナちゃんとスモモちゃんの所でも赤い服の強盗が出てきましたよね。確か親友のコルニさんから贈られたメガストーンとキーストーンが届いた直後でした」
ふーん、そんな事があったんだ……なんでシンオウ地方に足を運んでいるんだろうねぇ?
化石は元より、メガストーンなんか近年になってホウエン地方でも掘り出されるようになったのに。
あ、マグマ団で1つ思い出した。ここに来る前にも会ったじゃん。
「もう1つ思い出したんですが、ナナカマド博士に苔生した石を届けたんですけど、その時もマグマ団の2人に襲われました。偶然一緒にいたコウキ君っていう少年もターゲットに含まれていたみたいで」
そう言うとヒカリちゃんが反応を示し、スケッチブックに何かを書く。
台詞を書くにしては長いなぁと思って待っていると、見せたのはデフォルメしたコウキ君の似顔絵と台詞だった。
『コウキ君ってこの子ですか?私の友達なんです』
「そうそう、その子」
なんだ、ヒカリちゃんの友達だったんだ。目を閉じて微笑んでいるが、思い出に浸っているんだろうか。
「懐かしいな。……彼のことだから、容赦なく返り討ちにしたんだろう?」
「『とどめばり』でトドメまで刺して」
「ああ……彼らしいなぁ」
「悪い子じゃないんだけど……私もよく驚かされるわねぇあの子には」
ナタネちゃんはジムリーダーだから解るとして、ゲンさんやシロナさんも彼の知り合いだったんだ。彼も彼で顔が広いなぁ。
ていうか3人……いや困ったような笑顔を浮かべているヒカリちゃんもか、この人達が微妙な顔をするとかどんだけ容赦がないねん。
「とにかく『石』という言葉があればドコでも出てくる。キーワードはハッキリしているが、どの石が目当てなのかさっぱりだ」
「……あれ?今さっきみたいに捕まえたりしているんですよね?尋問とかは……」
「それがね、したっぱも『石』を奪えと言われただけで『何の石を』奪うのかは聞いていないそうなのよ。だからしたっぱに聞いても解らないの一点張り。情報漏洩を防止する為か、或いは陽動なのかは解らないけど」
それでいてメガストーンだろうが化石だろうが「珍しいから」って言う理由で奪おうとする大雑把っぷり。
どうしてシンオウ地方で活動しているかってのも謎。やっぱ煙突山の連中とは違う理由で動いているんだろうか?
謎が謎を呼ぶ……しかし。
「お話中に失礼します。ハヤシさん、ミサトさんに頼まれていた物ができたので確認してください」
「あ、了解でーす」
僕には関係ないので、スミスさんが言うミサトの頼まれた物をチェックしよっと。
「それとヒカリ、休憩の時間はとっくに終わっているわよ」
『解りました』
「え~?もう少しスキンシップさせてくれても」
「さっさと帰れ」
「スミスさん辛辣すぎ!」
スミス店長マジ強ぇ。
―続く―
加工前のキーストーンというのは独自設定ですのでご勘弁を。
というかポケモンXYやっていないから原型があるかなんて知らないんですよね。ポケモンYやろうかな……。
ちなみに原作キャラにキーストーンを持つならシロナ→メガピアス・ゲン→メガロッドと妄想しております(笑)
次はノモセシティへ。さっさと片付けてホウエンに戻らせたいところです。
その前に残党の相手やら色々としないといけないのでまだまだ続きそう。
というか(都合上)ポケモンの出番が少なすぎてテンション下がるんですわ。
細かくアレコレ書く癖がこんな所でグダるとは(汗
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ポケライフ「元したっぱ達の集い・その4」
なら何故書いたかって?たまには浮いた話とか書きたかったからです(笑)
フエンタウンの一角に建つ温泉宿に設けられた居酒屋「
温泉の熱を利用した料理を扱う飲食店が多い中、この店は温泉で温めた熱燗が人気だ。
ライバルが多い温泉宿の中で唯一居酒屋を持つからか、温泉帰りに飲酒してくる客も多い。
―――
「あ~、良い湯だったわねぇ」
「本当ですねぇ」
「湯上りのモーモーミルクも最高だったわ~」
「コーヒー味が無かったのが残念だったけど……」
「まぁまぁ、元気出してくださいミヅキさん。今はお酒を楽しみましょう」
上から順に、元ロケット団のナツカ、元マグマ団のミナ、元アクア団のコトワ、元ギンガ団のミヅキ、元プラズマ団のリリス。
全員が「元したっぱどもの集い」の女性会員だ。歳はバラバラであるが、同じホウエン地方で働く者同士として女子会を開く事が多い。
本日は温泉に通うついでに、ここフエンタウンの居酒屋「フエンの湯」で酒を飲もうという魂胆だ。
「はぁ……」
「ちょっとちょっとリリスちゃん、飲もうって言ったのに何溜息を吐いているのよ」
「す、すみませんミヅキさん。ちょっとホームシックみたいで」
「とか言っておいて何を見ているのかなぁ?」
「きゃー!み、見ないでくださ、あ、あ、返してくださいよ、ナツカさん!」
「良いではないか良いではないか♪……なにこれ、男の子の写真?」
「見せて見せて!……うわ美形!誰これ!?」
「あらあらぁ、リリスちゃんも若いのにスミに置けないわねぇ」
「ミナさんもコトワさんも見ていないで、N様の写真を返してください!」
「えぬ、ていうの?この写真の子。はい、ごめんね」
「まったくもう……ええ、私達元プラズマ団の女性の中では憧れの的だったんですよ」
「あ、思い出したわぁ。エヌっていう子、確かイッシュ地方で有名になった子ねぇ」
「へぇ~、流石ブルジュワコトワさん。情報通ね」
「ブルジュワ関係ないじゃなぁい?(苦笑)」
「どれどれ……あ、この子、カメラマンの仕事で会ったことあるわ」
「マジで!!?ドコ、ドコで会いました!?」
「コ、怖い顔で素早さをガクッと下げないでリリスちゃん……カイナシティの港でバッタリと」
「カイナシティですね……じゃ!」
「ちょっちょっと勝手に帰ろうとすんな!それに一ヶ月も前だし船に乗る前だったからもう居ないわよ!」
「なんだ、ガッカリ……」
「大人しい印象があったけど、リリスちゃんって意外にアクティブなのね。ミヅキびっくり」
「けど良い男よねぇ……私もあと4年若かったらな~」
「ナツカさんはまだまだ若いからいいじゃないですか」
「それ、私達の中で二番目に若いミナちゃんが言える義理かしらぁ?」
「けど男欲しいわよ~。あ~あ、ダイゴさんみたいなお金持ちのイケメンが出てこないかな~」
「あらぁ?ジムリーダーのミクリさんの方がイケメンじゃないかしらぁ?」
「ミクリさんはイケメンっていうより美形って感じよね。カメラ目線がウザいけど」
「N様の方がカッコイイに決まっています!」
「いやエヌ?っていう子はイケメンっていうより美少年よね。若いし」
「じゃあさ、各地方でカッコいいと思えるジムリーダーの話とかしてみません?」
「え?四天王とチャンピオンは入れないの?」
「当たりマンタインでしょ?知名度高すぎるし、グリーンさんとかレッドさんに至っては高嶺の花っていうより大宇宙に浮かぶ一番星って感じじゃん。ムリムリ」
「じゃあ一番ミヅキいきま~す。ジョウト地方のマツバさんとかどう?」
「有名処来たね~。ミステリアスな感じがいいわよね。元ロケット団の私には苦い思い出があるけど……」
「なんか超能力持っているんだっけ?背も高いし、良い男よね」
「じゃあ次は私ねぇ。ミクリさん以外ならシンオウ地方のデンジさんとかどうかしらぁ?」
「私あの人パス!ナギサシティの停電事件は絶対に許サーナイト!」
「ミヅキさん何かあったんですか……に、睨みつけるで防御下げないでください」
「けどあのダル~って感じがギャップ燃えって奴よね。いざとなったらカッコいい所見せてくれそうで」
「電気タイプで思い出したんだけど、私カントー地方のマチスさんも良いなって思うわ」
「あれ?ナツカさんはイケメンでお金持ちがいいんじゃないの?」
「マチスさんって元軍人のジムリーダーですよね?面食いなナツカさんにしては珍しい」
「マチスさんは中身よ、中身!ワイルドでバリバリの軍人育ちとか、頼もしいなぁ」
「あ~、確かに中身で考えればカッコいいわねぇ」
「中身でカッコいいといえばイッシュ地方のヤーコンさんも言えるんじゃないかしら?仕事一筋の頑固オヤジって」
「いや~年を考えないとダメでしょミナちゃん。マチスさんもギリギリだけど」
「それをいうならハチクさんもアウトですね。イッシュ地方出身としてはカッコいい候補に上げたかったです」
「あ、そういえばリリスちゃんってイッシュ育ちよね?もしかしてハチクマンのDVD持ってたりしない?」
「持っています持っています!全シリーズ揃っていますよ。なんなら今度貸しましょうか?」
「マジで!?ありがと~心の友よぉ~(嬉し泣き)」
「ミヅキちゃんったら現金ねぇ(笑)」
「ていうかカッコイイ男の話をしろや(苦笑)」
「あ、カッコイイといえば新人ジムリーダーのチェレンとかも良くない?堅物だけど中身はウブっそうで中々……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「な、何よ皆、その無言の圧力は」
「「「「ナツカさんってショタコン?」」」」
「ショ、ショタコンちゃうわい!バリバリの面食いやで!?」
「ナツカさん、ジョウト弁になってますよ(苦笑)」
「じゃあナツカちゃんがショタコンじゃない鑑定でもしましょうかしらぁ」
「何それ?ていうかショタコンちゃうて」
「ヒワダジムのツクシ」
「……良いわね」
「トクサネジムのフウとラン」
「可愛いわよねぇ」
「サンヨウジムのデント・ポッド・コーン」
「いいわぁ」
「ミアレジムのシトロン」
「ストライクだわ」
「……N様に手ぇ出したら」
「いや私より背丈が高い子はちょっと」
「「「「やっぱショタコンじゃん」」」」
「はうあぁーーー!!」
「というか、カッコイイ男の話は?(苦笑)」
「けどヒウンジムのアーティさんは微妙だよね」
「「「「確かに……」」」」
美的センスとは人によって違うが、年齢差だけは気をつけなければならない。
「元したっぱどもの集い」―――それは、足を洗い真っ当な暮らしを始めた、元したっぱ達が集う飲み会サークルである(全国各地受付中)。
―完―
~オマケ・イッシュ地方のイイ女性ジムリーダー~
ヒウンシティのカフェ「憩いの調べ」にて。
「なぁなぁ」
「なんだよ」
「イッシュ地方のジムリーダーでイイ女といえば誰を挙げるよ?」
「俺はホミカ」
「え?ロリコン?(ドン引き)」
「違ぇよ!充分カッコイイだろ?あの年でロックバンドのボーカルを兼任してんだ、小さい体に熱いハートを見せ付けられたぜ」
「あ~……そう考えるとカッコイイな。けど俺はフウロさんがイイと思う」
「所詮はオッパイか(笑)」
「……と思うじゃん?自分の飛行機に乗って空を飛ぶパイロットとか、男の憧れを擽られちまうぜ。鳥ポケモンじゃなくて敢えて飛行機っていうのがまたカッコよくてよ」
「なるほど、一理あるな」
「イッシュの女はカッコイイ奴が多くていいなぁ」
「だよなぁ」
(所詮は顔か胸か、とか思ってマジゴメン。けどカッコイイ……カッコイイのか……)
(私、カッコいいんだぁ……今度カミツレちゃんに自慢しよっかな)
元プラズマ団の2人の会話を、お忍びでミックスオレを飲みに来たホミカとフウロが聞き耳を立てている図。
宅配会社ゴーリキーサービスの従業員・ナツカさん(元ロケット団したっぱ♀)
カイナシティの市場の売り子・ミナさん(元マグマ団したっぱ♀)
ミナモシティの従業員・コトワさん(元アクア団したっぱ♀)
フリーのカメラマン・ミヅキさん(元ギンガ団したっぱ♀)
育て屋のお手伝い・リリスさん(元プラズマ団したっぱ♀)
飲み会の場所:「食事処・フエンの湯」
飲み会の切欠:「女子会」
飲み会の話題:「カッコいい男ジムリーダー」
次は男子会で女ジムリーダーの話でもすべきだろうか?(笑)
ではでは。
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その35「きのみ屋さん、マキシさんとバトルする・前編」
2/17:語弊修正。「はえとりポケモン」→「むしとりポケモン」
―えっと……どうしてこうなったんだろうか。
「頑張れよー!」
「負けるつもりで突っ込んできなー!」
「当って砕ける覚悟で挑め!」
観客席から応援の声が伝わってくるが、応援というより励ましに聞こえるのは気のせい?
「ウワッハッハ!張り切って挑んで来い!このマキシマム仮面のサインが欲しければな!」
前方で豪快に笑うのは、ノモゼジムリーダー・マキシさんことマキシマム仮面。楽しそうだなぁ。
観客席のエールもどちらかといえばマキシさんを応援する声が多い。といっても贔屓しているわけでなく、バトルを楽しみにしているのが大半だろう。
ココはノモセジム。中央のバトルフィールドをプールで囲んでいるので水中戦もできる仕様だ。
そのプールの外周に立って対峙しているのが僕ことハヤシとマキシさん、その間に立つ審判、審判の反対側には結構な人数の観客。
中央のバトルフィールドには、初の本格バトルよりも外野にビクビクしているロトやんと、ハサミをガチガチ打ち鳴らして威嚇するキングラー。
そんな僕らに審判さんは改めて確認する。
「準備はよろしいですか?」
「僕は大丈夫です」
「言わずもがな、だ!」
マキシさんは当然として、僕も落ち着いて了承する。
まぁロトやんだけは緊張してビクビクしまくっていますがね。なんとかなるでしょ。
「これより、挑戦者ハヤシとジムリーダー・マキシによる、4VS2のハンデ戦を開始します!……試合開始!」
直後に吹き鳴らしたホイッスルを合図に、2匹が動き出す!
―――
ここで1日ほど時間を遡ってみよう。
ミサトに頼まれていた衣服類を確認して郵送し終えた僕は、シロナさんとゲンさんと別れた。2人ともヒカリちゃん目当てかと思えば、一応衣服の買い物もしたらしい。
その後はクケちゃんをボールに戻してナタネちゃんと少し歩いた後、ポケモンセンター(カプセルホテル風)で一泊過ごす事にした。
ちなみに一緒に夕飯を食べようとしたが、ナタネちゃんはライブキャスター越しにハクタイジムに戻るよう言われたらしい。
なので、残念ながらここでお別れ。短かったけど旅できて楽しかったよと言ったら、ちょっと悲しそうな顔をして笑ってくれた。
ホウエンに帰るまでにまた会いに行くと約束したらいつも通り笑ってくれて、その後にお別れ。それまでにナエトルが孵っているといいな。
翌朝に早足でトバリシティを抜け(新婚夫婦風のコスをしたトレーナーとフライゴンを見た気がする)、ノモセシティへと旅立った。
道中は新入りのミノちゃんや経験の浅いイーくんロトやんにバトルを教える為、野生ポケモンやトレーナーとバトルをしながらのんびり歩く。
ちなみにクケちゃんはバトルをお休み。新参者の訓練が優先だからね。代わりに連れ歩きしてご機嫌を直してもらったが。
割と沢山バトルしたからか、3匹の戦闘スタイルを把握できただけでなく、なんとミノちゃんがミノマダムに進化。ちなみに草のミノ。
新しく『めざめるパワー』と『はっぱカッター』を覚えてくれたのも嬉しい。まぁ成長した分、勇敢度が増しましたが。
そんなこんなで番道路を歩いていたらノモセシティに到着。ちなみにトレーナー戦は5戦中2勝3敗。草は弱点が多いから仕方ない。
で、さっそくノモセ湿原のサファリパークに行った、と。草ポケモンを愛する僕としてはどうしても欲しいポケモンが居たもんで。
一日の半分をサファリパーク練り歩きに用いたが、捕まえたポケモンは1体だけ。目当てのポケモンは捕まえられたが、運が悪かったんだろう。
泥んこになったレンタル着を洗って返却し、あちこち歩き回った疲れを食べ歩きと自然を満喫することで解消。
次にマキシさんことマキシマム仮面のサインを貰おうとノモセジムを訪ねたところ……。
「お、挑戦者か!?……何?友人の為に俺のサインを?ウワッハッハ!友達想いじゃないか!
お安い御用と言いたいが、せっかくジムを改修したのに予約も飛び入りも無くて暇してたんでな!俺とバトルしたらサインをやろう!
……なんだ、バトルに自信がないってか?なら俺が2体でお前が4体のハンデ戦だ!大事なのはバトルを楽しむ事だからな!
ほれほれ、さっさとバトルの準備だ!バトルをしないとサインはやれんぞ!?ウワッハッハ!」
そういってマキシさんは、身長差があるにも関わらず僕を脇に抱えて連れ去って行った。なんだろう、このサッパリとした強引さ。
すると集まってくるのはノモセの人々。マキシさんのバトルは公式でも私用でも人気らしく、バトルをするといったら集まるんだそうだ。
そうしてマキシさんと観客の皆さんの流れに沿って行ったら、いつの間にかジム戦をすることになった、と。
まぁタダでサインを貰うなんて思っていなかったので、勝ち負けを気にしないバトルなら大歓迎です。「勝ったらやる」って言われたらどうしようかと思った。
―――
そんなわけで、最初はロトやんことカットロトムとキングラーの試合。
フォルムチェンジしたロトムを知っているトレーナーなら、草タイプと電気タイプを複合したロトムの方が有利に見えるだろう。
だがしかし。
「ロトやん『でんじは』!」
「『こうそくいどう』で駆け抜けろぉ!」
ロトやんが微弱な電気を放射線状に放つが、キングラーは横向きに高速移動する。考えちゃ悪いけど、動きがキショい。
直線ではあるがロトやんの周りを迂回するように、しかし電磁波に当らぬようジグザグに走りながら避けている。『かげぶんしん』も織り交ぜているかな?
4VS2だから1匹だけでも麻痺できればと思ったんだが、予想以上に早いやっちゃ!
しかし近づけば電気の餌食になるからか、迂闊には近づけないみたいだ。キングラーもじれったそうに鋏をガチガチ鳴らしている。
高速移動による回避なんてジムリーダーにしては対応が荒っぽい気がするが、何かあると思ってしまう。
しかし、うちにはスピード対策がある!
「ロトやん、今度は『でんげきは』だ!」
覚えたてだから不安だけど、命中率の高いこの技なら!
ロトやんから放たれるのは、電磁波とは比べ物にならない速度で飛んでいく電撃。
地を走るようにして放たれた電気はキングラーの軌道に沿ってカクカク曲がり、もう少しで直撃しそうになる。
「うおぉぉぉ『こらえる』んだキングラァァァ!」
握りこぶしを振りかざして叫ぶマキシさんに応え、キングラーは急ブレーキを掛けて電撃をモロに受ける!
『でんげきは』は命中率が高い代わりに威力は低いが、硬い甲殻とは裏腹に特殊防御が低い為にかなりのダメージ。
だが体を力ませて体力をギリギリ残す『こらえる』のおかげで倒れるには至っていない。
―というか今気づいたけど、キングラーとロトやんの距離が意外と近……っ!
「『じたばた』だぁぁぁ!」
再び轟く叫び声。キングラーはシャカシャカ走り、ロトやんに迫る。
そのスピードと気迫にロトやんも僕も咄嗟に対応できずにキングラーの接近を許し、じたばたと暴れさせてしまった。
倒れ間際の必死さで上がったパワーを、ハサミ・足・体全体を用いてロトやんにぶつけていく。うわぁ痛そう!
元々体力が低いこともあり、ロトやんはKO。目を回して倒れ、地面にコロコロと転がって気絶。
「ロトム、戦闘不能!」
「よぉぉぉっしよくやったぁぁぁ!」
審判の判定をかき消すほどの大声で喜ぶマキシさん。あれか、叫ばないと死んじゃう病でもかかっているんだろうか。
対するキングラーは残り僅かにも関わらず、嬉しそうに鋏を振り上げている。
「随分と足の速いキングラーですね」
ロトやんをボールに戻しながら言う。高速移動したからといってあの速さは無いでしょ。
「カントーのジムリーダーから薦められたんで育ててみたんだが、こいつが中々見所あってな!パワーとスピードを武器にするよう育てたのよ!」
自慢げに胸を張るマキシさん&キングラー。このキングラー、育てる内に似たのか、それとも元から似ていたのか……多分後者だ。
さて、それはいいとしてバトルバトル。けど参ったなぁ……あのキングラーの素早さが厄介極まりない。
経験不足と言えど麻痺ぐらいしてくれると思っていたが、流石はジムリーダーの育てたポケモン。スペックが違いました。
イーくんとローちゃんの『くさぶえ』も『マジカルリーフ』も、あのスピードを前にしたら一瞬で近づかれて『じたばた』でアウトだろう。
ミノちゃんも固定砲台と化しているから厳しいだろうし……クケちゃん?とある理由があって出せません。理由は後ほど。
―しょうがない、不安だけど新入り君の力を借りよう!コイツならなんとかできる!
僕はサファリボールを手に取り、ノモセ湿原のサファリパークで捕まえたこのポケモンを出す。出て来るのは―――
「さっそくだけど出番だよ、キッパさん!」
「キシャァァァ!」
―マスキッパこと、キッパさんだ!
むしとりポケモンのマスキッパ。シンオウ地方で捕まえたいと思っていた草ポケモンの1匹だ。
ただ、このマスキッパは普通のマスキッパとは違い、図鑑で記された平均サイズも一回り大きい。というのも。
「……ハヤシとやら、そのマスキッパはもしやノモセ湿原の『大食い』か?」
「やっぱりマキシさんも知っていましたか」
その異名で呼ぶがその証拠。僕がその名と意味を知ったのは捕まえた後だけどね。
ノモセシティを纏めるジムリーダーだけあってよく知っているようだ。
キングラーを見て舌なめずりするマスキッパを見るマキシさんの視線は、信じられない、と言っているかのよう。
そんな目でキッパさんを見るのはあなたで3人目です。1人目はサファリパークで同行していたトレーナー、2人目は係員さん。
「知っているもなにも、そいつはノモセ湿原じゃ有名だからな!よく捕まえてくれた!」
マキシさんは嬉しそうに笑う。大勢の観客も「これで面倒事が減ったわ!」と喜んでいた。
この大きなマスキッパ、ノモセ湿原のサファリパークでは結構有名な個体らしい。
というのも『大食い』の異名の通り、ポケモンを捕まえる為に投げた餌を片っ端から食らう食いしん坊だからだ。
そのくせ逃げ足は早く、時に木々へ逃げ込み、時に沼地を潜水し、時に空を飛んで逃げると悪知恵が働き、中々捕まえることは無い。
そんな『大食い』をどうやって捕まえたのかと言うと……たまたま後姿を見つけて、気付かれない内に近づいてボールを投げてゲットしただけ。
食いしん坊ってだけで人に懐かない訳でもなく、きのみをあげたら素直に喜んでくれた。意外と素直な子だね。
ちなみに虫ポケモンをモグモグするのが好きらしく、ミノちゃんとクケちゃんをモグモグしちゃいました。
おかげでクケちゃんは不貞腐れてしまいボールから出てきてくれない。本気で食べないだけまだよかったじゃん。
……まぁそんなわけで。
「とりあえずバトルに戻っていいですか?」
「おお、悪かった悪かった!審判、続きだ!」
「やっとですか……では、試合始め!」
切り替えが早く、雰囲気は一瞬でバトルモードに。
「いけぇキングラー!近づけぇ!」
「空を飛んで距離を取って!」
マキシさんと僕が同時に叫び、キングラーは高速で地を這うが、キッパさんは浮かんで回避。
降りて来いと言っているかのように鋏を振り回すキングラーだが、高く浮かんでいるキッパさんには届かず、キッパさんはアッカンベーをして挑発。
マスキッパの特性である『ふゆう』は、飛行ポケモンほどでは無いが飛行能力を得られる。
キングラーは足こそ速いが獣のように跳躍力があるわけではない。なら空中戦にも強いキッパさんならと思ったが、予想が当ってよかった。
「ぐぬぅぅぅ!仕方ない『ねっとう』だ!」
「『つるのムチ』!」
今度は僕の方が早い!キングラーも熱湯を放つつもりで鋏を向けるが、それより早くキッパさんの蔓が伸び、叩きつける!
―ペッシィン!
キングラーの頭に『つるのムチ』がヒット!残り体力僅かだったこともあり、キングラーは力なく倒れる。
「キングラー、戦闘不能!」
よし!2匹目でマキシさんの1匹目を撃破!ジムリーダー相手にこれは美味しい!……だけどねキッパさん。
「キングラーを食べようとしちゃいけません!」
確かに美味しそうだけど、気絶したキングラーを持ち上げて大口を上げないで!カニポケモンだけど!
―――
キッパさんを止め、人のポケモンをモグモグしないようにと説教をして3分後。
「失礼しました」
「お、おう……やっぱ『大食い』だなぁそいつは」
噂に違わぬ食い意地よ、とマキシさんが呟いた。素直なんだけどなぁ、キッパさん。
「にしても、育てて間もないポケモンで俺のキングラーを倒すとは天晴れよ!」
「タイプ相性もありますけど、選んだポケモンが良かったんですよ」
「ウワッハッハ!謙遜するな!」
いや、マジで選出が良かったです。イーくんやローちゃんじゃ負けてました。
キッパさんが居なかったらキングラーに4タテされて……いや、キッパさんが居なかったらクケちゃんを出せていたから、どっちもどっち?
改めて戦闘意欲が沸いたキッパさんを続投し、試合再開。マキシさん、2匹目は何を出すのやら。
「ようし!こいつはキングラーに続く『とっておき』だ!いけぇ!」
そう言って青いモンスターボール―『ダイブボール』を放り投げるマキシさんは、獰猛な笑みを浮かべていた。
文字通りの『とっておき』だから自信があるんだろう。さて、プールサイドにザブンと飛び込んだそのポケモンは……。
―岩のような皮膚を持つ魚ポケモンだった。
「……これって、ジーランス……ですよね?」
「おう!ホウエンのジムリーダーから薦められたのよ!俺にピッタリだってな!」
自慢げにマキシさんが紹介する2匹目のポケモンは、どこか糸目が愛らしい、ちょうじゅポケモンのジーランスだった。
ちょっと主人公っぽく、特別っぽいマスキッパを捕まえさせてみました。
大食いで一回り大きい程度の普通のマスキッパですがね(笑)クケちゃんをモグモグできたのは不意打ちだからです。
それと、マキシさんが今回出した水ポケモンは完全に作者の好みです。マキシさんに似合うなーと(笑)
原作ではフローゼル・ヌオー・ギャラドスを使いますが、ジム戦でもないしジムリーダーに似合うポケモンを選びたかったので(笑)
次回、VSジーランス!一見するとハヤシ側の有利だが、果たして!
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その36「きのみ屋さん、マキシさんとバトルする・後編」
2/23:誤字および語弊修正。ご報告ありがとうございました。
どうも。草ポケモン大好きなハヤシです。職業は木の実屋さん。トレーナージョブでいえばブリーダー、だといいな。
この度、友人マサに頼まれたマキシマム仮面のサインをゲットすべく、ノモセジムリーダー・マキシさんに挑むことになりました。
マキシさんのキングラーを2体目のポケモンで倒した後、マキシさんは新たなポケモンを繰り出してきた。
そのポケモンが、岩と水の複合タイプを持つ、生きた化石とも言われているジーランスだった。ホウエンでもかなり珍しい。
そのジーランスですが、プールサイドから顔を出しているだけでボーっとしとるんですが……。
「おうジーランス、シャキっとせんかシャキっと!」
渇を入れるマキシさん。ハっとして目を「―」から「/」にして声を荒げるジーランス。
そんなジーランスに向けて大口を開けて「キシャー」と威嚇するキッパさん。
これって、ジーランスがモンスターボールから出た直後にすべき行動では……まぁ、のんびり屋なポケモンによくある光景だけどね。
「では、試合始め!」
でも、バトルは容赦なく続行されるんだけどね!
「近づいてキッパさん!」
「水中に潜れ!」
潜る前に近づきたかったけど、水辺に近づく前にジーランスが水中に潜っちゃった。
キッパさんは浮遊こそするし『つるのムチ』の威力からしてパワーもあるけど、遠距離攻撃がまるで無い。
そして草ポケモンにありがちな『しびれごな』といった粉系の技も覚えていない。ローちゃんに教われば覚えるだろうけど……。
そう、本来なら草ポケモンは水中戦にも割と強い。何故なら粉系の技を水中にばら撒くことができる為、下手したら地上よりも効率が良くなるからだ。
マキシさんの事だから元から対策もあるだろうが、それ以前に相手が『大食い』のマスキッパだから粉系の技は覚えていないと判断し、水中に逃がしたんだろう。
それにしたって何を仕出かすつもりだろうか。
「『もろはのずつき』ぃぃぃ!」
マキシさんの叫びと共に水中から若干スリムになったジーランスが勢いよく出てくる!
―ドッスン!
出てきた所を攻撃してやると空中で身構えていたキッパさんの腹(?)に直撃!それどころかキッパさんは空高く吹っ飛んでいく!
腹にジーランスの頭がモロにヒットした為か気絶してしまい、天高くから落ちて来るキッパさんをモンスターボールに戻す。
「マスキッパ、戦闘不能!」
そんな僕は審判の判定で我に返った途端、頭が混乱しだした!
「なんですか今の技!?『ずつき』?あれって『ずつき』ですか!?『ロケットずつき』でもなく!?」
ゴッツンどころかドッスンって音していたよ!滅茶苦茶いたそう!腹パンなんか目じゃないぐらいに!
そんな混乱して喚く僕を「落ち着け落ち着け!」と大きな声で制してくれるマキシさん。
「なんだお前さん『もろはのずつき』を知らんのか?」
「し、知らんとです」
「威力は絶大だが反動で自身にもダメージを受ける、文字通り諸刃の剣とも言える頭突き技だ!」
そう説明してマキシさんは「ロマン溢れる技だろう!」と大笑い。ジーランスはまたボーっとしておりますがな。
それにしてもそんな技があるとは知らなかったなぁ。格好悪いけど僕ってバトル沢山しているわけじゃないから。
ということはあのジーランスは相当な『いしあたま』ということなんだろう。『ロックカット』でスリムになって高まったスピードと相まって、その威力は絶大なもの。
―今度はどうやって突破すればいいんだ……。
バトルするなら勝つ気でやらないと、努力して育てたトレーナーにも愛情を受けて育ったポケモンにも失礼に値する。バトルマニアのマサに教えられたことだ。
なので勝とうとする気で考えてみるも、あのジーランスの破壊力は恐ろしい。ローちゃんが粉系の技を使おうと水辺に近づけばアウトだろう。
残り2匹ということもあって慎重に考えた結果……次はこの子に決めた!
「頼んだよミノちゃん!」
今度はミノマダムことミノちゃん(草の蓑)!フィールドに陣取る姿は
「おお、ミノマダムとは珍しいな!」
「え、ミノマダムってシンオウ地方出身でしょう?」
「あまり見ん!」
「えー……」
まぁ草と虫の複合タイプって弱点めちゃくちゃ多いから仕方ないね。
ちなみにイーくんやローちゃんでなくミノちゃんを選んだのは、彼女の戦闘スタイルに起因している。
「それでは……試合開始!」
「潜水して身を隠せ!」
「『はっぱカッター』!」
―シュドドドドド!
「ぬおぉ!?ジ、ジーランス!」
ポケモンへの指示はマキシさんの方が早かったが、ミノちゃんの高速射撃が上回った!
体に纏う蓑から大量の葉が高速で射出され、頭から潜ろうとして見せたジーランスの背中に直撃。
草と岩の複合タイプというだけあって相当の痛手を負えたのは美味しいが、それでも水中に潜られてしまった。
「うぐぐ、なんという早撃ち!しかしまだまだやれるぞぉ!」
「こちらこそ!」
そう、痛手を終えたが致命傷ではない。タイプ相性が良くてもレベル差があるからなぁ。
それに水中に潜られたら打つ手なしという状況もそのままなので、じっと耐えるしかない。
さてどこから攻めてくるか……お互いにバトルフィールドと水辺を見張る中、マキシさんの目がくわっと見開いた!
「『ストーンエッジ』ぃ!」
「『まもる』!」
よし、今度はこっちの指示の方が早い!
一瞬だけあらゆる技を無効化する『まもる』の障壁がミノちゃんを包み、右斜め後ろから飛んで来た鋭い岩を弾き飛ばす。
障壁を解いて後ろを振り向くが既に姿無し。ボーっとしているようで意外と機敏に動くね、あのジーランス。
「今度は『あくび』だぁ!」
「あ、『あくび』!?」
「○。(―■― )(ふわぁ~)」
「○。(―◆― )(ふわぁ~)」
しばらくすると眠らせてしまうっていうあの技か!そんなのまで持っていたのか!
欠伸をしていたミノちゃんが素早く振り向くけど、既に潜っちゃっていて姿が見えない。あ、フラフラしだした。
「○。(―ω― )(スヤァ…)」
―まぁ寝ちゃうよね。すぐに戻せばよかったんだろうけど。
「もういっちょ『ストーンエッジ』だぁぁぁ!」
「ですよねー!」
―こうかは ばつぐんだ!
―――
虫タイプに岩タイプの技とかキッツいです。しかも急所。
「ウワッハッハ!さぁ後が無いぞ、どうする!?」
「もう1匹さえいれば逆転の可能性だって充分ありますよ」
「なんだ、優男かと思えば中々豪胆だな!良いぞぉ!」
豪胆と言うか強がりなんですけどね。ジーランスはまだまだ健在だし。
とはいえローちゃんと相性が悪いのは事実。水辺に近づけば頭突き、遠くから撃とうにも射出速度が足りない。
ここで空を飛べるクケちゃんが使えればいいんだけど……仕方ない、ラストはこの子だ!
「頑張れよ、イーくん!」
「フィー!」
やっと出られたー!と言っているかのように嬉しそうに飛び出るリーフィアことイーくん。
何するのー?と尻尾と頭の葉をパタパタと揺らすが、目の前の
「イーくん、バトル頑張ってね」
「フィ……」
遊びではなくバトルだと知って残念がるイーくん。この子、遊びは好きだけどバトルはそれほど好きじゃないみたい。
「試合開始!」
―とりあえずバトルだ!今度はこの手で!
「『くさぶえ』を吹いて!」
―♪~♪~♪
尻尾の葉を口にあて、眠気を誘う軽やかなリズムを奏でるイーくん。
音なら水面から顔を出した途端に聞こえるから、強襲の対処には充分だよね!
「なんのこれしきぃ!『とびはねる』んだぁぁぁ!」
―ザッパァン!
うお、あの重そうな体で空高く跳べるとは……あ、『ロックカット』で身を削って軽くなったのかな?
とはいえ避ければ良い―ズドォンッ―だけの……あれ?
「(×皿×; )(むぎゅう……)」
いつの間にか、イーくんがジーランスの下敷きになって気絶していました。
……あれって『とびはねる』じゃなくて『ヘビーボンバー』だったんですか?ジーランスが覚えるかは知りませんが。
「リーフィア、戦闘不能!よってジムリーダー・マキシさ「マキシマム仮面だ!」マ、マキシマム仮面の勝利!」
「よっしゃあぁぁぁよくやったぞジーランスぅぅぅ!」
審判さんの宣言、そしてマキシさんの雄叫びで観客は大喝采。僕へも拍手を送ってくれました。
あ、呆気ない終わり方……。
ちなみにジーランスは『ヘビーボンバー』を覚えないようです。
●ハヤシの新入りポケモンの戦闘スタイル
・キッパさん(マスキッパ♂)
空中戦が得意なパワーファイター。草タイプにしては搦め手が少ない。
・ミノちゃん(ミノマダム♀)
高速射撃が得意で命中率も高い。反射神経が鋭いが殆ど動かない。
・イーくん(リーフィア♂)
今のところ戦闘スタイルが決まっていない。今後に期待。
●マキシさんのポケモンの戦闘スタイル
・キングラー♂
高速移動と影分身を合わせた超スピード型。空中戦はからっきしなのが弱点。
・ジーランス♂
ロックカットで素早くまたは自身の重みを生かした攻撃の2つのスタイルを使い分ける。
こんな感じです。とりあえずマキシマム仮面とのバトルはこれにて終了。
後はサインを貰うだけですが、ただで終わらないのが小説というものです(ぇ)
最後にナタネと再会したいし、シンオウ編はもうちょっと続きます。
なるべく早い目に終わらせて、ホウエン地方に帰して日常モードに戻したいです。
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その37「きのみ屋さん、タマゴが孵る瞬間を見る」
そんなわけで一気に加速させました。期待させるような展開(?)しといてすみません(汗)
前回のあらすじ・マキシさんに4対2で負けました。
いやぁ、流石はジムリーダー。うちの4匹は新入りも当然とはいえ、相性の悪い草ポケモン相手に2匹で勝てるとは。
それでも観客の皆さんからポケモン達への賞賛を貰ったし、マキシさんは楽しめたようだし、この街はポケモンバトルが好きなんだなぁ。
―さて、当初の目的を果たすとしましょう。
「ほれ、約束のサインだ!マサって奴によろしくな!」
「ありがとうございます~」
マキシマム仮面のサイン、ゲットだぜ!(昔知り合った4人組の内の少年の決め台詞……らしい。糸目のブリーダー君から聞いた)
極太マジックで豪快に「ウォーターストリームマスクマン・マキシマム仮面」と書かれたサイン色紙。一目で誰のサインか解る字っていいなぁ。
「それにしてもホウエン地方出身のトレーナーに俺のファンが居るとは、冥利に尽きるな!」
「水ポケモンを好んで使うぐらいですし、ポケモンと並んで喧嘩とスポーツが大好きな奴ですからね」
「おお、俺と同じ水ポケモン使いか!どんな奴だマサって奴は」
「うーん……生傷と包帯の絶えない奴です」
「なまきず?」
嘘は言っていません。それに「喧嘩とスポーツが大好き」と言ったでしょう?……バトルマニアってのはポケモンだけに言えることじゃないんです。
とりあえずそのマサから頼まれていた物もゲットしたし、マキシさんと少しお話したらノモセを出ようか―――。
―モゾモゾ
「……あ!」
「おい、お前さんのリュックがモゴモゴ動いているぞ?」
「タマゴが孵るんだ!」
「なんと!?」
受け取ってから一日経っているとはいえ、意外と早かった!もしかして産んでからしばらく経っていたのかな?
モンスターボールからローちゃんを出し、背負っていたリュックを下ろして中からモゾモゾ動くタマゴを取り出そうとする。
うわ、手から伝わるこの脈動感!何気にタマゴを孵化したのってコレが初めてなんだよなぁ、感激!
僕とマキシさんはマジマジとタマゴを見つめ―――パリパリとタマゴの殻が剥がれていく。
―そして、ナエトルが生まれました!
「……」
プルプルと身震いして体についた殻を落とすと、パチクリと目を開いて僕らを見上げる……ゴクリ。
「(-~- )(ぐう)」
生まれた直後なのに寝よった。
「……マキシさん、タマゴを孵したことってありますか?」
「あるが……生まれてすぐに眠るやつなんざ、カビゴンとかナマケロぐらいじゃないか?」
「ですよねぇ」
随分と暢気なナエトルだこと。ローちゃんはそんなナエトルをおんぶしてあやし始めた。可愛い。
なんかデジャヴを感じる光景だと思ったらエアームドのアーさんに似ているんだ、このナエトル。
「……とりあえずお邪魔しました」
眠るナエトルをおぶったローちゃんを引き連れ、さっさとハクタイシティに向かうとしましょうか。というわけでマキシさんにお辞儀。
「おう!バトル楽しかったぞ!道中気をつけ……なくてもいいぞ!」
「なんでやねん!?」
ここは「道中気をつけろよ!」って言うところでしょ!?
「今朝方に国際警察から連絡が来たんだが、とうとうマグマ団残党を捕らえたんだと」
「え?早くないですか?」
いや、国際警察って聞くからには凄い警察なんだろうけど、それにしたって捕まるの早いな?
「まぁあれだけアチコチ出回っていたんだ。窃盗やら器物破損やらで迷惑だったし、さっさと片付けたってことだろう!詳しくは話せないし、聞いていないがな
というわけで、しばらくシンオウ地方は平和になるだろうから、安心して旅してこい!」
「は、はぁ……」
ジムリーダーの言う事から信用できるし、安心できるといえばできるが……呆気ない終わり方だったなぁ、マグマ団。
つくづく思うが、少し巻き込まれたからといって騒動の中心に居ることは無く、僕の知らない所で勝手に終わっていたりするものなんだな。
呆気ないといえば呆気ないが、世の中には悪い人以上に良くて強い人が沢山いるんだ。こんな風に終わる事もあるだろう。相手は残党だし。
さて、物思いに耽る前にマキシさんに手を振って別れを告げ、ローちゃんをボールに戻して代わりに両手でナエトルを抱っこする。重いなコイツ。
名前は実は前々から決まっている。ドダイトスに進化することを期待して「ダイトさん」。あえて真ん中辺りを捩ったのがポイント。
ポケモンセンターでロトやん達を回復したらダイトさんをボールに登録して、そしたらハクタイシティに行こう。
生まれたナエトルをナタネちゃんに見せてからお別れしてホウエン地方に帰るんだ。お店と畑はどうしているかなぁ。
さて、ハクタイシティに行くバスが今日中にあればいいんだけど。
―続―
これ以上ゴチャゴチャする前にさっと終わらせてしまいました。期待していた方、ごめんね(汗)
やはりポケモンで書きたいのはストーリー物というより、色々な場面を覗かせるスローライフだと気付いたので!
マグマ団残党はどうなったのか。ポケライフ「国際警察・ギンジの場合」に続きます。
次回からはあらすじどおり、ホウエン地方でスローライフ生活を送ります。
……なんかやっとホウエン地方に戻れると思うと、ほっとすらしました(苦笑)
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ポケライフ「国際警察・ギンジの場合」
ギンジはHGSS主人公のライバルの名称です。作者が名づけました。
HGSS未プレイな上にポケスペの設定が少し混ざっています。ご了承ください。
どうでもいいけど、スパイってカッコイイよね(笑)
シンオウ地方各地で騒ぎを起こしていたマグマ団の残党。
世間は珍しい石があればどこにでも現われ騒動を起こす迷惑な集団として捉えており、シンオウ地方のお茶の間で有名となった。
しかし近日になって一斉に逮捕。シンオウ地方に蔓延るマグマ団の残党を根こそぎ捕らえたのだという。
何故今更になって、そしてここまで徹底的に捉える必要があったのか。そもそもマグマ団残党の目的はなんだったのだろうか。その答えをお見せしよう。
―――
シンオウ地方のバトルゾーンに聳える火山・ハードマウンテン。その麓では激戦の跡地が広がっていた。
岩が飛び交い、草木が芽吹き、炎によって溶けた岩が散らばる。全てポケモンが起こした現象であった。
幾多のマグマ団らしき人間とそのポケモン達が倒れており、中でも一際目立つのは、宝石のような突起を地面にめり込ませて気絶しているメガハガネールだろうか。
そのメガハガネールの主……赤毛赤スーツの男・エンザンが呆然と己のメガハガネールが倒れる様を見ていた。
「まさか、ここまでやるとは……っ」
ギリ、歯軋りを鳴らすエンザン。マグマ団残党を率い、マグマ団復活を説いたリーダー格。
彼の足元では同志であるカトリとヒバナが倒れており、これで残党全てが
そんなエンザンに足音を立てて近づくのは、メガハガネールを含め、全てのポケモンと人間を倒した少年だ。
エンザンは普段の落ち着いた仕草からは思えぬ程の鋭い目つきで少年を睨むも、少年の目つきはその上を行き、エンザンを怯ませた。
「まぁ、ご愁傷様だな。残党にしちゃ頑張った方じゃねぇか?」
どうやら少年の目つきは元からこうだったらしく、目つきとは裏腹に口調は穏やかで、むしろ労いの言葉ですら投げかけていた。
ゆっくりと近づいてくる少年を前にエンザンは怨念を抱かずにはいられなかった。このような少年1人に夢を費やされるとは思っていなかったからだ。
「各地のジムを半壊させてジムリーダーを動けなくしたまではよかった……しかしまさか国際警察が動き出すとは予想外でしたよ」
怨めしい目つきで少年を睨むが、少年は気にした様子も無く歩を進めている。
このような悪がきのようなポケモントレーナーが唐突に自分達の前に立ちふさがり「国際警察だ」と言って証明書を掲げた当初は、冗談かと思っていた。
しかし、彼がマグマ団の復活の狼煙である「火山の置石の回収」及び「ヒードランの復活」、そして「リバースマウンテンの噴火」を暴いた時は驚愕したものだ。
組織の障害になる……そう判断したエンザンは偶然手に入れたメガストーンとキーストーンを用いてメガハガネールを繰り出し、全員で襲い掛かったが……結果はコレだ。
そんな事を思い返していたエンザンが我に返ると、目の前には少年の姿が無い。
どこに行ったのかと視線を彷徨わせて後ろを向けば、少年が死屍累々の中から一人の団員を引きずり出していた。
自分をリーダー格と見抜いておきながら何を……そう思って見ているエンザンを余所に少年はしたっぱの胸倉を掴み、徐に顔を掴む。
「おい、起きろ」
―
「ん、んん……ひ、ひぃっ!?」
脳を揺らされたことで意識を覚醒した紫の髪を持つ男が、少年の顔を見た途端に顔を青くし、驚愕と恐怖に染めた。
「
「会いたかったぜぇぇぇ
したっぱだった男―ラムダ冷や汗を掻いて曖昧な笑みを浮かべるが、ギンジと呼ばれた少年の三日月のような笑みを目の当たりにして倍の汗が出る。
何がどうなっている。この男は誰だ。ギンジとはこの少年の事か。
2人のやり取りを横で見ていたエンザンは様々な疑問が過ぎるが、それでも2人はエンザンを無視して話を続ける。
「な、なぜ坊ちゃんが、へばっ!?」
「その呼び方は止めろっつってんだろ。何べん言わせんだ屑。もっぺん殴るぞ?」
「す、すいやせん、つい癖で……と、ところでなんで貴方様がここに……それも国際警察なんかになっているんで?だって貴方様は……」
「一つ目。俺がここに居るのはクソ親父を探し出すため。二つ目。クソ親父をとっ捕まえたい国際警察とは馬が合うんで協力することにした。以上」
「
「俺はいたって本気だよ。その為にマグマ団残党を隠れ蓑にかくれんぼしてた手前を着き出したんだ……さぁ、本題に移るぞ―――吐け」
「な、何をでしょうか?」
「クソ親父の居場所だよ」
「むしろ俺が
「……なんだよ、手前が居るって情報を聞いた時はもしやと思ったが、ココも外れかよ……使えねぇ」
そう言うとギンジは途端に興味が失せ、ラムダの胸倉を離して踵を返す。
「ど、どちらへ?」
「もう用は無ぇよ。俺相手なら知っていたら居場所を吐くだろうからな。……それと、横流ししたバトルハウスの景品は全て部下が回収しといたから。時期にこっちに来るけど」
「そ、そんなぁ!あれだけの物を盗み出すのにどれだけのしたっぱを用いたかご存知ないんですかい!?」
「知るか」
そのまま歩き続けて……ふと思い出したかのように足を止める。
「あ、そうだ」
「?」
振り向いてこちらへ歩み寄るギンジを見て首を傾げるラムダ―――そのラムダの顔を。
「面倒かけんな屑」
―頭蓋骨が陥没しそうな勢いで、殴った。
今度こそ鼻血を出して気絶したラムダに踵を返し、ギンジは鼻血のついた手を振りながら歩き出す。
呆然と立ちすくむエンザンの横を通り過ぎようとした所で足を止め、告げる。
「多分お前の知りたい答えはコレだろうな……お前らは利用されたんだよ。金になるキーストーンやメガストーンを集める為にな……じゃあな」
その一言は、エンザンの膝を地面につけるのに充分であった。
自分達は利用されただけ。そして利用されたまま、目的を果たすことなく費えて終わってしまった。
なんという呆気ない最後。そして無意味な最期。我々の努力は何だったのだろうか。
―シンオウ地方に身を置き過ぎたエンザンは、ホウエン地方の裏側を知らぬまま、呆気なくお縄につくのだった。
―――
―ピッ
『モロバレル』
「スグバレル」
『ナゼバレル』
「タマゲタケ」
『銀の匙』
「ハンサム」
『……コードネーム・銀の匙、ご苦労だったな』
「それよりこの合言葉変えたいんだが」
『む……私は悪くないと思うのだが……まぁいい。それより、例の情報は?』
「クソ親父の居場所は知らない、だと」
『そうか……元ロケット団の幹部なら
「残念無念また今度、てか。だが、まだアポロとアテナが残っている。そいつらを探し出してやるさ」
『解った。引き続き、暗躍しているロケット団の捜索を続けてくれ。マグマ団残党に関してはこちらで処理を行う』
「了解……ついでに聞くけどよ、ホウエンでの噂なんだが」
『ああ、
「マジか……残党の連中が可哀想に思ってきた」
『お前が他人を思いやるなんて珍しいな。明日は砂嵐が起こるか』
「ぶっとばすぞおっさん」
『ゲフンゲフン……では通信を切る。健闘を祈る』
「了解。後、次ぎ合ったらマジでぶっとばすから覚悟しとけ」
―プツッ
「……さてと」
―ピリリリ……ピッ
『私だ』
「今度ぶん殴らせろ
『その物騒な物言いはギンジで間違いないな。事は済んだと捉えさせてもらおう』
「誰のせいでこんなことしていると思ってやがる。自分の部下ぐらい自分で片付けやがれ、ドッカリ座っているだけのナマケロ野郎」
『せいぜいケッキングに進化しないよう努力しよう。それよりも欲しい物が私にはあるんだが?』
「離反した雑魚どもはぶっとばした。ついでにラムダもぶっとばした。横流しした景品は警察に返した。マグマ団復活は本当。以上」
『相変わらずの単調な報告で結構。国際警察の動きはどうなっている?』
「注文の多いナマケロ親父だな……今の所は本拠地を明かしてはいないし、俺が
『ほお……流石は変装を得意とする国際警察。疑心暗鬼はお手の物、ということか』
「面倒なこと押し付けやがって……」
『ああ、そういえばお前が欲しがっていたキーストーンとメガストーンがようやく手に入ったが』
「おめでとう、ナマケロ親父からヤルキモノ親父に進化した」
『それは光栄だな。では通信を切るぞ』
「おう」
国際警察のギンジ―――その正体は、ロケッド団が送りつけたスパイ。
彼がその姿を明かす日が来るか否かは、定かではない。
―完―
●ギンジ
ジョウト地方出身のポケモントレーナー♂。生意気な性格。負けん気が強い。
己の信念と欲望に忠実で、目的の為なら国際警察でもロケット団首領でも利用するカリスマ。
普段は国際警察兼トレーナーとして世界を渡り、裏では貴重品を条件にスパイとして暗躍している。
『かげうち』『こおりのつぶて』と言った超高速戦闘を得意とする。攻撃型。
そんなわけで「国際警察に紛れ込んだスパイ」、ギンジでした。
悪の王子としての才能と立場を受け入れつつ、己の信念に沿って気ままに行動するエリートトレーナー。
国際警察をやっているのは世界中を遠慮なく巡る為の権力と権限を得る為であり、
ロケット団のスパイをやっているのは国際警察でも入手しにくい貴重品を得る為。
両者を両立させる程の優れた能力を持ち、両者を利用しきっている頭脳を持つ超人。それがギンジです。
悪の王子って聞くと完璧超人を浮かべるのは私の悪い癖です(苦笑)
後書きは後日書き足す予定です。何せ勢いで書いたので(汗)
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ポケライフ「元したっぱ達の集い・その5」
3/8:誤字修正
イッシュ地方ライモンシティに立つ「バー・パッチール」。
フットボールやテニスなどの試合で沸いた観客が夜の帰りに寄っていくのにピッタリな酒場だ。
広い席に多種多様な酒、そして完備された防音壁。興奮収まらぬ客が語り合いを肴に飲み明かすのが、この酒場の日常だ。
また、二十歳以上のトレーナーがバトルサブウェイでの激戦を語るのも良く観られる光景である。
―――
この日の「バー・パッチール」では、ライモンシティに住まう元したっぱ達の飲み会が開かれていた。
3人とも20歳以上でありながらポケモントレーナーを続けており、働きつつもポケモンバトルの腕を磨くのだ。
「今日は10連勝行けたぜ!どうだっつーの!」
元プラズマ団のしたっぱ・金髪碧眼といった外国人のような青年ランデがビールジョッキを片手に自慢げに言う。
そんなランデに対し、彼と同期であった赤髪の青年ジョージが鼻で笑った。
「はん、こっちは11連勝!」
「1勝違うだけだっつーの!」
「いいじゃん!1勝は1勝だ!」
「まぁまぁ2人とも、落ち着いてください」
そんな2人を落ち着かせようとしているのは、元フレア団のしたっぱの青年ビリー。大人しそうな眼鏡青年だ。
ビリーは近年になってライモンシティに引っ越してきた新入りで、ランデとジョージは先輩に当る。仕事人としても会員としても。
またこの3人は、休日にはバトルサブウェイに入り浸りするほどのバトルマニアで、激戦を終えたら「バー・パッチール」で飲みあうのが日課だった。
「けど私から見ると、電気ポケモンに偏りがちなランデさんの方が凄いと思いますよ?」
「なんだよビリー、こいつの肩持つ気かよ。どうせ地面タイプに当らなかっただけだろ」
「バトルサブウェイでそんな事あるかっつーの!普通にカバルドンとかヌオーとか出たっつーの!」
「ちなみにランデさんの手持ちは何でした?」
「ウォッシュロトム、レアコイル、クロバットだな」
「ウォッシュロトムか……嫌な思い出しかねぇなぁ」
「使っていて解るけど、ウォッシュロトムって中々便利だぜ?トリックでこだわり系入れ替えて行動縛りとか、鬼火やら電磁波やら」
「しかも特性は浮遊ですし、地面タイプにも強いですよね」
「最近じゃエリートトレーナーが是非にもと欲しがるポケモンらしいからな。ちきしょー、どこで手に入れやがったコンチキめ」
「それよりも僕はレアコイルですよ。もしかして進化の輝石持ちですか?」
「おお。この前、コツコツ貯めたBPを奮発して使ったんだ」
「くっそー、俺なんかアップグレードと怪しいパッチ目当てでコツコツ貯めているってのに……」
「お前本当に好きだなぁポリゴン。ポリゴン2持ってたろ?」
「次はポリゴンZ狙いなんだよ!」
「そういえばポリゴンも電気タイプの技って覚えますよね。私も電気ポケモン育てようかなぁ」
「確かお前って飛行タイプが好きだったんだよな。ならエモンガとかどうよ?」
「可愛い系よりカッコいい系が好きなんですよ。狙うならレントラーかゼブライカかなぁ」
「俺はエレザードを進めるぜ。技のレパートリーが自慢よ」
「お前はどう足掻いてもノーマルタイプを付けたがるんだな」
「弱点がほぼ無いって便利じゃん」
「電気だって弱点がほぼねーよ。シビルドンなんか弱点無しだっつーの」
「サブウェイマスターのクダリさんも使っているぐらいですし、強いですよねシビルドン」
「けど時代は、スピードのあるポケモンを活かした蜻蛉ルチェンが主流らしい」
「とんぼるちぇん……ってなんです?」
「とんぼがえりとボルトチェンジを使って、攻撃しつつ交換する戦法だな。便利だぞ」
「だぞってことは、お前も使ってんのか?」
「2、3回使っただけだっつーの。電気ポケモン使いだからって毎度の如く蜻蛉ルチェンしているわけじゃねーっつーの」
「電気タイプのポケモンって大抵はボルトチェンジを覚えますもんね」
「偏見反対だっつーの。電気タイプだからってボルチェン覚えてるとは限らねーっつーの。地面ポケモンで止まるし」
「そうよそうよ。便利だけど」
―隅の席、つまりは3人の隣の席でチビチビと酒を飲んでいた女性……ジムリーダーのカミツレが同意した。
「「「カ、カミツレさんーーー!!?」」」
「あら、意外な反応。あなた達、私がこの店によくお忍びで飲みに来ているって噂、知らなかったの?」
「し、知らなかったッス……」
「ま、まじで本物のカミツレさん?驚きだっつーの……」
「今まで気づきませんでした」
「そりゃそうよ。ここは試合の語り合いとかで騒がしいから、隅で大人しく飲んでいれば目立たないのよ。ここのお酒はお気に入りだし」
「は、はぁ……」
「……で、電気タイプポケモンの話の続きなんだけど、電気タイプの偏見っていえばあれよね、電磁波とか嫌がられるわよね」
「あ、ああ。普通のバトルとかだと電気タイプってだけで嫌がられるなぁ。どんだけトラウマあるんだっつーの」
「麻痺で動けないのはイライラしますし、幼いトレーナーは電光でビビっちゃうことが多いらしいですからね」
「あ、だから電気タイプのジムリーダーって中堅以上が基本なのか?」
「それは秘密よ。少なくとも電気タイプポケモンは扱いが難しいともされているわね」
「プラスルやマイナンといった電気ポケモンがイタズラで配電盤を壊して停電、という事故が多いぐらいですからねぇ」
「感電して気絶したっていうケースも多いらしいな……そこんとこどうよ、ランデ」
「しょっちゅう感電して気絶したっつーの。連中に悪気は無いし、今じゃ慣れっこだけど」
「お、おう……大変だな電気ポケモン使いも」
「……フッ」
「なんですかカミツレさん、その含み笑い」
「ランデ、と言ったわよね……甘いわ。私なんかポケモンの放つ雷を直撃した事があるわ」
「「「いやいやいや!それ死ぬんじゃね!?」」」
「普通にアースで逃がしたから助かったのだけど」
「あーす?」
「電気の逃げ道よ。電気を通しやすい線を地面に垂らして、電気を地面に逃がすの。電気ポケモン使いの間じゃ割とメジャーな対策よ」
「……ランデ、お前知ってたか?」
「しししし知っていたっつーの!」
「知らなかったのね」
「……はい」
「精進なさい。同じ電気ポケモン使いとしての助言よ」
「う、うっす。頑張ります」
「さてと……そろそろ帰るわね。楽しかったわ。よかったら受け取って頂戴」
「ちょ、なんで金なんか置いていくんだっつーの」
「少しだけど、楽しませてくれたお礼。……それと、謝罪料」
「謝罪料、ですか?」
「実は今日以前にも見ていたのよ、あなた達の事」
「マジっすか?……で、それの何の関係が?」
「見覚えるのあるプラズマ団のしたっぱだったから、何か企んでいるんじゃないかと疑っていたのよ。けど、話す内容はどれも楽しそうな話ばかり。だからついつい参加しちゃった」
「ああ、そういうことっすか。気にしなくていいっすよ、俺達、疑われるの慣れっこだし」
「今でこそこうして楽しく暮らしているけどな(笑」
「そうですよ。むしろカミツレさんとお話できて光栄でした!また電気ポケモンの極意とか話してください」
「……そうね。楽しみにしているわ」
「つーか今度、バトルしてください!電気ポケモン同士で!」
「おいおい人気者のカミツレさんはスケジュールが」
「あら、なら明日一日空いているからジム戦に来なさい。ここんところ暇なのよ」
「マジっすか!?やっほい!」
「ていうかスターが暇してるってどういうことなの」
「スターが暇しちゃいけない?ていうか、自分で暇を入れられるぐらいのスケジュール管理を出来るのが一流スターってものよ」
「な、なるほど……」
元したっぱの彼らは、他人から疑われても気にしない。何故なら真っ当に暮らせているのだと証明できるのだから。
「元したっぱどもの集い」―――それは、足を洗い真っ当な暮らしを始めた、元したっぱ達が集う飲み会サークルである(全国各地受付中)。
―完―
ポケモンブリーダーのジョージ(元プラズマ団したっぱ♂)
駆け出しギタリストのランデ(元プラズマ団したっぱ♂)
バトルサブウェイの清掃員ビリー(元フレア団したっぱ♂)
特別ゲスト:シャイニングビューティ・カミツレ(ジムリーダー♀)
飲み会の場所:「バー・パッチール」
飲み会の切欠:「バトルサブウェイの語り合い」
飲み会の話題:「電気ポケモンについて」
足を洗った下っ端は清く正しく生きているんだ!けどヒュウとか考えなしに突っ込んできそう(ぇ)
そろそろ、したっぱ団の飲み会の話題についてリクエストとかすべきだろうか(ぇ)
ネタは色々と思いつくので必要ないかもしれませんが(苦笑)
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その38「きのみ屋さんと庭弄り」
3/16:語弊修正
思えばシンオウ地方って寒かったんだなぁ。
北国だから当然だろうけど、旅の間はヒシヒシと寒さを感じながら過ごしたものだ。ノモセ湿原とか地味に厳しかった。
どうしてそんな事を思ったのかといえば……。
「ホウエン地方に到着~」
正確にはカイナシティの港だけどね。暖かな日差しと潮風を感じると安心するなぁ。
一晩を船の中で過ごしたのに、シンオウ地方とホウエン地方との気温差をここまで感じられるとは思わなかったけど。
やっぱり地元はいい。他地方の旅は滅多に無いが、こうして地元に帰ってきた時の安心感は心地良かったりする。
船から降りて人混みから抜け出すと、海が見える岸で止まってモンスターボールを放る。
出てきたのはドクケイル・リーフィア・ミノマダム・マスキッパ・ナエトル・ロトム。ローちゃんはパソコンで転送して保管しています。
クケちゃんは望郷というものを感じないのか僕に引っ付くだけで終わるが、イーくんはちょっと嬉しそう。ロトやんはいつも通りビクビクしてます。
そして初めて来た南国地方に、新入りであるミノちゃん・キッパさん・ダイトさんは興味深そうに海を眺めている。
いやぁ、思えば短いようで長い、いや濃い旅だったなぁ。人と出会ったり、ジムで草弄りしたり、ジム戦したり、ポケモンゲットしたり、タマゴが孵ったり。
そうそう、船に乗る前に一度ナタネちゃんと再会しました。生まれたばっかのナエトルことダイトさんを見せるためにね。
アーさんと同じ暢気な性格らしく、のほほんとした可愛らしい子だ。ナタネちゃん曰く母親似だとか。ナタネちゃんのドダイトス♂は意地っ張りらしい。
ナタネちゃんと色々とお喋りしたり草ポケモンを可愛がったりして、改めて交友を深めることが出来た。草ポケモン好きという共通点があるっていいね。
最期は再会と定期的な連絡を約束してお別れ。お手紙を希望したので、今度は保存の効く木の実菓子とか送ってやろうっと。
いやぁ、草ポケモンが増えて、友達も増えて言うこと無し。コウキ君やヒカリちゃんと再会できなかったのは残念だけど、きっと元気でしょ。
さて、徒歩は辛いので適当にヒッチハイクでもしながら……あ、個人営業のチルタリス便だ。ラッキー。
―――
チルタリスって乗り心地が良くて大人2人乗せられる程に大きいから、小遣い稼ぎ感覚で運び屋モドキをするトレーナーが多い。
トレーナーとチルタリス次第で危険度やら乗り心地やらでバラつきがあるので多少の不安だったが、今回は当りだったので無事シダケタウンに着きました。
自宅に帰る前にご近所にご挨拶。お土産(もりのようかん)を渡して近状を聞いておく。特に何かあったわけでもないので一安心。ポケセンでローちゃんの回収も忘れずに。
さて、一通りご近所回りをしたところで。
「ただいま~」
「「(^▽^ )(おかえり~)」」
玄関じゃなくて裏庭に直行し、バクオングのゴーさんとサンドパンのサンちゃんが出迎えてくれる。うん、帰ってきたって感じ。
そして裏庭全体を見てみるが……見事に雑草まみれだなぁ。
名も知らぬ花が咲いたり、枯葉が散らばっていたり、大勢のスバメが木で巣作りしていたり、アーさんが枯葉のベットで寝ていたり、ナゾノクサが雑草を練り歩いたり。
池はシザリガーのガーさん、木の実畑はネンドールのヤーやんが見張ってくれたからか割と無事だ。ゴーさんの水遣りのおかげか枯れてはいない。
ゴーさんとサンちゃんをヨシヨシと撫でつつ、今日の作業プランを想定する。とりあえず新入り達の紹介は後回しかな。
しかしちょっと残念ではあるな……もっと荒れてくれた方が燃えるってものなのにさ。
ふふふ、長期間(というほどでもないか?)の旅の楽しみの一つが、この庭の掃除だったりするのだ。
部屋と店の掃除をしたら、張り切って庭掃除するぞー!……その前にポケモン達に餌やり、あそういや郵便のチェックもしなきゃ。
―――
部屋と店の掃除をちゃっちゃとして、ポケモン達と昼ごはんを食べて(この時に新入り達を紹介)、そして庭の掃除。午後いっぱいは掃除で埋まるだろう。
キャアキャアと楽しそうに逃げるナゾノクサ達をゴーさんとイーくんが追いたて、居なくなった所から僕とサンちゃんが雑草を刈る。
旅の疲れが抜け切っていないから多少キツいが、ガーデニングという趣味が僕の腰と脚を動かすのだ!さて、ザクザクと刈り取っちゃおうねー。
程好く刈れたらカットロトムのロトやんが芝刈り。いやぁ、テっさんも良いポケモンを寄越してくれましたよ、ホント。
さて、草刈をしながらポケモン達の様子を見てみよう。
まず、ダイトさんとアーさんが仲良しになった。これは性格が似ているから当然だろう。
驚いた事に、アーさんが葉っぱの布団を作り、そこにダイトさんを乗せて寝かしつけたのである。しかも自分はダイトさんの傍で座り込んで寝ているし。
イーくんのときは無関心だったのに……性格が似ると父親心をくすぐるのだろうか?……あ、スボミーのスーちゃんが混ざって寝てる。可愛い。
ミノマダムのミノちゃんはコイキングのキンさんとガーさんの喧嘩仲間入り。喧嘩っ早いから当然か。
上下関係的にはガーさんが兄貴分、キンさんが下っ端か。まぁキンさん未だに弱いから……。
少々突っ張り気味ではあるが関係は良好。小さな草ポケモンや虫ポケモンからは恐れられているが、そこはまぁ仕方ない。
マスキッパことキッパさんは、意外にもネンドールのヤーやんと一緒に行動して……いや、行動と言っていいんだろうか?
大食いなキッパさんには木の実畑の木の実を勝手に食べないよう言い聞かせ、ヤーやんはキッパさんを見張るように言ってある。
だからだろうか、畑を気に入って漂うだけのキッパさんを追いかけてヤーやんがフヨフヨと漂う、の構図ができるのだ。
……害が無いので良し!頑固なヤーやんにも友達が出来ると思えば期待ですら持っちゃうよ。
後はいつも通りかな?イーくんとゴーさんは遊んでいるし、ローちゃんはナゾノクサ達の面倒を見ているし、ロトやんは芝刈りしているし。
ザングースのザンさんも例の如く木の根元で寝ているし、クケちゃんは僕の背中に張り付いて離れないし……って。
「どおりで重いと思ったら君のせいかい!」
「(▽▲▽ )(だって暇だもん)」
背中に羽根が生えた人みたいでビックリするでしょうが!早くどきなさい!どく気ないよね解っていますとも!
あーもう、こんなんで庭掃除が終わるんだろうか……ホミカさんの曲を聞いてテンションあげっか。
―――
ザックザックと雑草を刈って、ロトやんで芝刈りすることしばし。緑の平地が完成!野花も移し変えたし、見栄えがよくなったね。
次は木の実畑の整理だ。無人販売所にはソコソコの金額が入っており、木の実も多少減っている。律義な人が多くて助かります。
ソノオタウンで買った「じめじめこやし」が届いていたこともあり、さっそく試すとしますか!
ヤーやんが張っていた壁を解除し、古くなった木の実や根、雑草を引き抜く。ここでの手伝いはゴーさんとキッパさん。
キッパさんが古くなった木の実を処分(という名の胃袋直送)している間に雑草や草木を『はっぱカッター』などで細かく刻む。燃料や肥しに使います。
まだ実る見込みがある物や畑に住み着いたナゾノクサを引っこ抜いて土だけにしたら、次はいよいよ新しい肥しを試す時!
サンちゃんの『たがやす』で土を耕せば、じめじめした肥しを、客からの需要が多いオボン・ラムのある畑に撒く。
安いとはいえ、うちの木の実畑の3分の1ぐらいに使う量しか買っていません。効能が良かったら注文する予定。
余った分はモモンの実あたりに撒き、残りはうちで使っている肥料を使う。後は植え替えて水遣りだね。
さて植え替えようと思って戻れば、「じめじめこやし」を撒いた畑にナゾノクサ達が群がってた。もちろん追っ払う。ごめんよ。
流石はソノオタウンの肥料、ナゾノクサ達もメロメロか。今度追加注文しておくべきだろうか?
それにしても……。
「やっぱ僕は草弄りの方が好きだわ」
暖かな日差しに照らされ、草ポケモンに囲まれて畑や草木を好きなように開拓する。
旅ももちろん楽しかったけど、こうして草木に囲まれる生活の方が癒されるなぁ。ホウエン地方さまさまだよ。
まさに……スローライフ万歳!
あ、アメモースが来た。木の実目当てかな?追い払わないと。
―続―
次回からはORAS要素も混ぜつつスローライフを満喫します。どんな展開にするかはその時次第です(ぇ)
ただ延々とのんびりしたポケモン生活を見せるだけの小説ですが、楽しんでもらえれば幸いです。
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その39「きのみ屋さんと妙な男達」
シンオウ地方から帰ってきて数日が過ぎ、月曜日がやってきた。
ミノちゃん達は大分ここに住み慣れ、今や当たり前のように裏庭の住民と化している。
キッパさんは畑を回り、ミノちゃんは木の枝で過ごし、ダイトさんはナゾノクサやスボミーと一緒に土の中で寝ている。
遠い地方から遥々やって来た彼らが新しい環境に慣れてくれてほっとした僕は。朝の恒例である畑の整備を始めることに。
そうやってノンビリと裏庭で過ごしていて、もうすぐで開店時間になる頃。
「うひょひょ。お邪魔しますよ」
変な笑い方をする太った男性が、2人の男女を連れて裏庭に直接やって来た。
「あ、いらっしゃい。そろそろ店を開こうとしていたんで、御用件なら店の方で聞きますよ?」
「お気遣いありがとうございます。ですが私達の用件は売り買いではないのでしてね、こうしてガーデンまでやってきた次第です。ひょひょひょ」
結構丁寧な人だね。裏庭の看板の注意書きを見てくれたのか、看板前で立ち止まっているし。やっぱり笑い方は変だけど。
3人ともビジネスマンのような服装をしているし、デボンのお偉いさんか何かな?後ろで直立している2人は彼の部下とか。
「ご丁寧にどうも。立ち話もなんですし、あちらのテーブルでお話とかどうでしょう?」
「店の方はよろしいので?」
「ここしばらくは落ち着きましたし、開店直後はあまり人が来ないんですよ。本格的に客が来るのは10時ごろなので、大丈夫かと」
「……それでしたら、お言葉に甘えさせて貰いましょう」
「それじゃあ僕についてきてください。『まきびし』が撒いていない……」
「いえ、それには及びませんぞ」
そう言って彼は裏庭に足を踏み入れ、部下らしき2人もその後に続く。
……凄いや、芝生に隠れている小さな『まきびし』が見えているかのように、しかし足元を見ずに平然と歩いている。
注意書きを読んでいながら堂々と歩く様を見た僕は、失礼ながら「へぇ~」と声を上げてしまう。
「凄いですね。『まきびし』が見えているんですか?」
「まぁこの程度ならノープロブレムですな。うひょひょ!」
大きなお腹を張って自慢げに言った。意外とお茶目な人なのかも。
対応が丁寧で口調も柔らかく、それでいてちょいとお茶目なビジネスマン。うん、好感度高いなぁ。
気のせいかポケモン達が彼らを警戒しているようだけど……きっと後ろ2人の目つきが怖いからだろう。うん。
―――
普段はご飯を食べるために用いるテーブルにテーブルクロスを掛け、4人分の椅子とお茶菓子をご用意。お茶請けはオボンクッキー。
「……そちらのお2人もお座りになられては?」
「ご心配なく」
「お気になさらず」
部下らしき2人はそう言って彼の後ろに並んで立ち、結局座ったのは僕と彼だけ。真面目というかお堅い人達だなぁ、トホホ。
商談らしいので対面する形で座るんだけど、部下2人が立っているからかちょっと緊張する。ええい、いつも通りに接すればいいんだ!
「では改めて自己紹介を。私はデボンコーポレーション社ミナモ支店のメンバー、ホムラと申します」
「ホムラさんですね。僕はハヤシといいます。さっそくですけど、うちへの用件ってなんでしょうか?」
「おお、話が早くて助かりますな。実は木の実栽培に詳しい貴方に栽培して欲しい木の実がありまして……」
支店とはいえ、デボンコーポレーションの人がうちのような個人経営の店に木の実栽培を?中々無いなぁ。
そうホムラさんが言い終わると同時に、女性の方が一歩前に出て、持っていたアタッシュケースをテーブルに置く。
そのままアタッシュケースを開くと、中には緩衝材に半分埋もれている木の実が十数個ほど……って。
「こ、これはまさかタマンタ!?」
ついキンセツ流ポケモンダジャレを言ってしまったが、この木の実って図鑑でしか見たことがない、あのレアな……!
「た、タマンタ?……いや失礼。チイラの実とヤタピの実、これらの栽培し、増量させて欲しいのです」
ホムラさんには悪いけど、僕は非常に珍しい木の実を目の当たりにして震えが止まらないとですよ!
一流トレーナー同士のバトルとかバトルハウス特集番組ですら一握りしか使われた所見たこと無いけど……やばい涎が。
いやいや、こんな貴重な木の実となれば慎重に話を進めなければ!邪念を振り払うように頭を軽く振り、ホムラさんに向き合う。
「こ、こんな貴重な木の実を育てて貰えるのは光栄ですけど、何故うちに?木の実名人と呼ばれる方が居ますけど、そちらに任せた方がいいのでは?」
ホウエン地方では有名な木の実名人なら間違いないだろう。何度かお世話になったけど、あそこの畑は凄いの何の。
チイラやヤタピほどではないがホズの実など珍しい木の実も沢山あるし、畑は広いし、収穫する量も多い。
最近のあそこはバイトやお手伝いさんを雇うようになったが、それでも人手が足りないらしい。おじいさんも大変だ。
「あー……実は木の実名人にもお声をかけたのですが、先客がおりましてね。申し訳ありませんが御宅の店は次点でセレクトした次第です」
困ったように眉を歪ませるホムラさん。なるほど、タイミングが重なっちゃったわけね。
申し訳ないとはいったけど木の実名人の次にうちを選んでくれたのは正直嬉しい。
「――」
「何か言いました?」
「ああいえ、コチラの話です」
舌打ちして何か囁いていたけど……きっとライバル支店に取られたか何かで悔しいんだろう。
とりあえず木の実名人はダメだったのは解ったし、任せて貰えるっていうんならそれでいいや。
「解りました。ですけど、初めて育てる木の実なので、もしもを考えて今の半分の量でよければ引き受けます。それでいいでしょうか?」
「ふむ。貴方の反応を見る限り、初めてというのは本当のようですし……ではそれで頼みますよ」
「ありがとうございます。ちなみに期限や目標数はどれくらいで?」
「期限は1ヶ月以内。一週間毎に直接お伺いしますので、その際に目標数に近ければお受け取りします」
「随分と悠長ですね……もしかして相当な個数を用意する必要が?」
「はい。ざっと100個ずつですかな」
「ひゃ、100!?」
二種類だから、計200個!?多いよ!支店で売り出す分と考えれば妥当かもしれないけど、すげぇ多い!
驚愕する僕を余所にホムラさんは電卓を取り出してポチポチ押し出す。すまし顔で。
「いやはや、何せ貴重な木の実です、多い事に越したことはありませんからな。収穫した木の実1つにつき……このプライスでどうでしょう?」
ホムラさんが置いた電卓の数字を……これ木の実1個の卸値にしては高くね?
「そうそう、もし余ったらそちらの取り分として木の実は差し上げ「やります!やらせてください!」、ひょひょ、驚くほど食いつきましたな」
してやったりと言わんばかりの笑みだけど、チイラとヤタピを分けてもらえるって言うんなら受けざるを得ない!
僕はガーデニングマニアであり、草ポケモン好きであり……木の実収集家でもあるんだから!何のために木の実畑を作ったんだって話だよ!
「うひょひょ、やる気があるようで結構です。では頼みますぞ」
「合点承知のストライク!」
「……ノーコメントで」
流していただいて結構!今の僕はテンションマックスなのです!
やっはーい、珍しい木の実だー!育て甲斐がありそー!余ったらさらに栽培しちゃうもんねー!
まぁ落ち着くとして、連絡先やら雑談やらしてお開きにしますかね。
「うひょ?マルチナビをお持ちでないんですか」
「まるちなび?」
「ポケナビのパワーアップ版で、最新器ですよ」
あー……ライブキャスターを買ったと思ったらコレだよ。
―――
●ホムラ視点
ふむ、すっかり遅くなってしまいましたな。お茶請けの菓子が美味しくてつい買い占めてしまいましたよ。
さてと、2匹のオオスバメに掴まって空を飛んで帰路についていますが、急いでキンセツ支部に戻らなくては。
「よろしいのですか、ホムラ様」
「何がです?」
「半分とはいえ、貴重な木の実をあの方に手渡してよかったのかと」
相変わらずの能面顔ですねぇ2人とも。部下とはいえ、いい加減に楽にしてもいいと思いますがね。
「まぁ在庫はあるのです。こちらでも栽培を検証していますし、増えればラッキー程度に考えていいでしょう」
要は、より多く木の実が増えればいいのです。全てとは言いませんが、ある程度の数の団員に配って戦力が強化できれば越したことはありません。
ピンチ時限定とはいえ、攻撃力を上げるチイラの実と、特殊攻撃力を上げるヤタピの実。たかが下っ端でもこれらがあれば若干の戦力アップになるでしょう。
「どんな些細なことでも、我々マグマ団の為になるなら何でも利用する。それが私の信条なのですよ。うひょひょ!」
何せ1つでもあれば木の実はバンバン増えていくものなのです。元値を考えても充分なお釣りがでます。
その為に有名な栽培師に託すのですよ。まぁ身分は偽っていますがね。
「それより仕事はまだまだありますよ。マグマスーツの開発やらアジトの再興やら色々あるんですから。お前達もしっかり働いてもらいますよ?」
「「了解」」
No.1の座を得る為にも、明日からも頑張らなくてはなりませんね。頼りにしますよ2人とも。うひょひょ!
「……ところでホムラ様、合点承知のストライク、とはどんな意味でしょうか?」
「あ、まさかタマンタの意味も是非」
「……ノーコメントで」
本当にギャグの通じない方々ですねぇ……多分ダジャレだと思うんですが、いかんせん無理がありますよね、あれ。
少なくとも……リーダー・マツブサとカガリには1マイクロも受けないこと必須でしょうな。笑う顔とか想像も出来ませぬ。
―続―
ハヤシ、知らぬ内に悪の組織の片棒を担ぐ羽目に。しかし喜々として栽培します(笑)
アルファサファイア版を買ったからかホムラの口調が怪しいです(汗)
ちなみに作中でホムラが囁いていたのは
「アクア団め、野蛮な連中と思って油断したぜ」
……です。乱暴な口調。
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その40「きのみ屋さんと畑作り」
ホムラさんから木の実栽培の依頼を受けた後、僕らはいつもどおり午前の仕事に励んだ。
アサ婆ちゃんに木の実パンを売り、種類豊富な木の実をお客さんの要望に応えて売り、加工商品を売ったり宣伝したり。
シンオウ地方に帰った次の日は久々の開業ということで忙しかったが、徐々に落ち着きを取り戻しつつある。愛用してくれて嬉しいなぁ。
―で、あっと言う間にお昼休み。
「今日は新しく専用の畑を作ろうと思います」
ポケモンフーズをモグモグしている家のポケモン達に発表。僕はサンドイッチを食べ終えました。
「どうしたのいきなり」と言っているようにポケモン達はこちらを見ているので、彼らに説明する事に。
「今日は超珍しい木の実を貰って、これを育てる事になりました。けど僕も初めて育てる木の実なので、しっかり管理しようと思ってね」
それに加えて会社から依頼されたことだ。今までの栽培は趣味でやっていたけど、今度ばかりは管理を徹底的にしないといけない。
徹底といってもさほど難しい話ではなく、店を開く前のように少ない木の実を厳重に見張り、水遣りや土弄りに気を使うっていう程度だけど。
「というわけで皆にも手伝って貰う事もあるから、そこんとこよろしくー」
そう言うと皆は快く返事をしてくれた。うん、我が家のポケモンは頼りになるね。新入りズはともかく。
こういう時は人間の手もいいけど、ポケモンの手はもっと便利だからありがたい。
―――
そんなわけでお昼休みも終わり、時刻は午後1時。作業着も着たし、道具も揃えたから準備万端!
隣には土弄りの得意なサンドパンことサンちゃんが並び、気合を入れているかのように『つめとぎ』をしている。
「新しい畑はココと……」
ザリザリと棒で地面を削り、囲いを作る。まずは池と畑の間に1つ。
「ココに作ります」
少し歩いて、店と畑の間に1つ。ザリザリっと囲いを作って目印を作る。
この二箇所は本来通路用として広めに開けといた所だが、同時に新しく手に入った時の為の予備でもある。何事も予備があると便利だからね。
加えて大事な木の実なので、店側は即座に駆け付けられるし、池側はガーさんがいるので防衛としても便利になるはず。
「最初は店に近い方から耕そう。サンちゃん、『あなをほる』お願いね」
木の実の個数が少ないから、まずは増やすことから始めないとね。
サンちゃんは「よっしゃー!」と言っているように爪同士を擦りつけ、線で囲った芝生を掘り始める。
Nの字を描きながら長方形になるよう正確に掘り進み、その土をゴーさんの手で綺麗に埋めなおし、僕が鍬で耕す。
その耕した土に埋まりたいと駆け寄ってきたナゾノクサをローちゃんが止め、それでも入ろうとする奴は……お、ミノちゃんが追い払ってる。
ザックザックと鍬を振るっている内にサンちゃんが掘り終え、ゴーさんから見て反対側から掘り返した土を埋めていく。
それを見たゴーさんが張り切って土を埋めていくが……全部埋め終えるのも時間の問題だな。そしたらサンちゃんと交代してもらおうっと。ザクザク。
ふと見てみると、掘り返した土に混ざる雑草を手のような葉っぱで払うキッパさんの姿が。おお、何も言わずにやってくれるとは利口な子だな!
そう思ってキッパさんを見ていると視線に気付くと、木の実畑の方をチラチラ見る……ああなるほど。
「後で好きな木の実を上げるから頑張ってね。ただしチイラとヤタピはアカン」
「Σく(>■< )(合点!)」
ご褒美狙いってわけね。流石はサファリパークで幾多もの餌を横取りした知恵者、といった所か。狡賢いとも言う。
狡賢いとはいえ賢い子には違いないので、今度色々と教えてみようかな?バトル以外にも活躍の場があるっていいよね。
今度は足元に何かいるのを察知して、ナゾノクサかと思って見下ろしてみると、ナエトルのダイトさんが居た。ローちゃんが通したんだろう。
ヨイショヨイショと前脚で土を埋めている。お手伝いのつもりだろうか……可愛いから許したいけど、仕事の邪魔なんだよなぁ……。
「クァー」
そう思っているとアーさんが歩いて近づき、嘴でダイトさんの背中を摘んで持ち上げ、背中に置く。
ダイトさんはすっかりアーさんに懐いており、キャッキャと嬉しそうに背中の上ではしゃぐ。心なしかアーさんも嬉しそう。
そしてダイトさんを背中に乗せたまま、テクテクと歩いて畑を出ていく。お父さんしているなぁアーさん。輝いて見えるよ(光の反射的にも)。
いやー、ポケモンが増えると楽しくて仕方ないや。……だがイーくん、土遊びするだけなら畑からさっさと出なさい。
さてと、土を埋めなおして反対側からサンちゃんが耕しているようだし、僕は肥料を出してくるとしますかね。
―――
土よし。広さよし。肥料よし!ちなみに反対側も耕しました。
この良い畑に埋まりたいとナゾノクサ達が羨望の眼差しで見て来たので、ギブアップして新しい畑を別に作ったんだ。おかげで午後の開店時間ギリギリだよ。
幸せそうなナゾノクサ達を見れてホッコリしたので、店側の畑に木の実を植えるとする。
「さてこれを植えて……っ!?」
―殺気ならぬ、食気!
うちのポケモンは食いしん坊が多いからか、食べたいなーっていうオーラが解るようになっている。
そんなオーラが周囲から注がれていることに気付いた僕は周囲を見渡し……そいつらを見つけた。
超珍しい木の実の僅かな匂いに誘われたのか、ジグザグマとゴクリンの群れが裏庭に入り込んでいた。いつのまに。
手に持ったチイラの目をじーっと見つめ、口から涎を垂らすジグザグマとゴクリン達。食べたいっていうオーラ全開だなぁ……。
試しに右から左へ木の実を持つ手を移動し……視線が左へ移る。うん、絶対木の実狙っているわコイツら。
「総員……」
ジリジリと近づいてくるジグザグマ達が、ついに木の実に向けて飛び掛ってきた!
「かかれー!」
だが渡さん!この木の実は僕の物だー!
次々と飛び掛ってくるジグザグマをガーさんの『はたきおとす』で文字通り叩き落とし、大口を開けて飛んできたゴクリンをヤーやんの『サイコショック』で落とす。
ローちゃんとミノちゃんの『マジカルリーフ』による援護を受けながら、僕は木の実を抱えて必死にジグザグマ達から逃げる。
ワラワラと集まってきたジグザグマ達も負けてはいない。『なきごえ』で油断を誘い、『たいあたり』で一気に飛びかかるなど攻撃的になる。
ゴクリン達は『スモッグ』で僕の動きを封じようとするが、それを防ごうとクケちゃんが行く先を塞ぎ『ぎんいろのかぜ』で吹き飛ばす。
おおクケちゃん、君はやっぱりバトルでこそ輝くよ!偉い!カッコイイ!キャークケちゃーん!
と言っていたら回り込まれたので、急いで方向転換して逃げる。
くそう、珍しい木の実があるだけで野生のポケモン達がここまで頑張るとは!
今回の木の実栽培……油断していたら負けるっ!
―続く―
しばらくは木の実栽培でアレコレ起こる予定です。
とりあえず今の課題は「ジグザグマとゴクリンの猛攻に耐えれるか否か」ですね(笑)
後、ORAS要素もチョビチョビ加えたいですね。ミツル君帰還とか主人公ズ再来とか。
誤字や語弊など多くなると思いますが、ご了承ください。報告も遠慮なくどうぞ。
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ポケライフ「旅する者達」
メインはバックパッカーとなったトウコ&トウカの話になります。捏造設定注意。
なので活動報告のトレーナーは出番が少ないです。ごめんなさい(汗
4/3:誤字修正。ご報告ありがとうございました。正しくはトウヤでした(汗
「ああ、この子なら先ほど会ったよ。煙突山の頂上に行くんだってね」
―この一言はトウコとトウヤにとって、今年最高の幸運を掴み取った瞬間であった。
「「YEAAAH!」」
―パンッパンッ、グッグッ、ガッガッ、ドンッ
その幸運を、妙な動きで呼吸を合わせながら体現する二人。コンビネーション抜群だ。
「よかったね2人とも!」
「「ありがとうミツキちゃん!」」
同じ探し人の旅に出ている旅仲間・ミツキ(バックパッカー♀)は2人の喜びに同調し、3人でハイタッチ。
2人を喜ばす情報を提供したリーク(けんきゅういん♂)もコレにはビックリ。唖然とするしかない。
「ふむ……友を訪ねて三千里か。唄を作りたくなるぐらいに良い話じゃないか」
逆にオールファン(ぎんゆうしじん♂)は、その喜びようでいかにその少年を探し出したかったかを知って感動する。
トウコとトウヤは双子の旅人だ。それも各地方の隅々まで回っている程に長い旅を続けている。
バックパッカーズと言っても過言ではない程の荷物を背負い、移動手段に富んだポケモンを連れて陸海空を巡っているという。
このホウエン地方にやってきたのも、2人が捜し求めている少年―Nを見つけ出す為だ。
Nという少年もまた世界各地を旅しており、かつて敵対し最後には和解したはずの2人から逃げ続けている。
それを許すまいと、性格や性質は似ていないがコンビネーションは抜群に合う2人の力を合わせて探し続け、何度か遭遇してきた。
そして今日。ホウエン地方で知り合った、行方不明の兄を探している旅仲間と訪れた煙突山で、総計12回目の再会を果たそうとしている。
現在はここデコボコ山道の生態を調査しているという30代にしか見えないリーク(22歳)にNの似顔絵を見せた所、当りを見つけたのだ。
そのリークの友人であるオールファンという青年も目撃者の1人で、確かにNらしき少年と出会ったという。
「これならすぐにでも見つけられるわ!行きましょうトウヤ!」
「待ってトウコ。Nの事だから何か対策してくるはず。まずは今の手持ちポケモンのチェックを……」
「そんな事していたら逃げられるじゃない!すぐ行くわよ、すぐに!」
「静かにしてよ!こっちの存在にはまだ気付いていないのに、そんなに大きな声を出したら気付かれるだろ!」
「ごちゃごちゃ煩いわねインテリ愚弟!」
「そっちが五月蝿いんだろ脳筋姉貴!」
せっかちな姉と慎重な弟が言い争っていた―――その時。
「……シッ」
ピっと両手を二人の眼前に突き出して止め、静かにするよう促すリーク。彼の足元にはシャワーズがおり、ピコピコと耳を動かして警戒していた。
唐突な行為に驚いて止まる双子と、ただならぬ様子のリークに声を静めモンスターボールを取り出すミツキとオールファン。
デコボコ山道に静寂が訪れた事で、なにやら音が響いてくるのが聞こえる……まるで大量のバネが跳ねているような音だ。
―ビヨンビヨン、ブーブー、ビヨンビヨン、ブーブー
坂道を下るようにこちらへやってきたのは、大量のバネブー達の群れであった。
しかもただの通りすがりでないことを物語るように、全てのバネブー達がこちらに敵意を向けていた。
「馬鹿な……これだけのバネブーの群れ、ここしばらく見たことも無いぞ」
長年ホウエン地方の生態系を調査してきたリークは、このバネブーの津波を見て愕然としていた。
落ち着きのあるオールファンですら驚愕する中、トウコとトウヤだけは確信を持った目でバネブー……正確にはその先の、煙突山の頂上に続く道を睨む。
「「Nか!」」
Nはポケモンと言葉を交わす特殊能力がある。現地の野生ポケモンに協力を得ることなど容易い事だ。
その大量の視線の大半がトウコとトウヤを睨んでいる為、Nが自分達の存在に気付き、その妨害に彼らに頼んだのだろう。
バネブー達は一斉に跳び上がり、集団で津波の如くトウコとトウヤに押し寄せていく。しかし―――。
「ジャローダ、『リフレクター』!」
即座にモンスターボールを放り、中から出てきたジャローダが瞬時に全員を包む障壁を展開。
半円を描く障壁はバネブーの津波を押し留めるも、前面に張り付いたバネブー達が少しずつ障壁の中へと侵入していく。
「出ておいでエンブオー!」
遅れてトウコがモンスターボールを放り、鼻から火を噴出すエンブオーが出現。
それを見たトウヤが振り向くとトウコは無言で頷き、トウヤは了承したように頷き返す。
「ジャローダ、『リフレクター』解除!」
パっと消えていく障壁。防壁が無くなったことで一気に雪崩込んでいくバネブー達。
それを見て「何やっていんのさ!」と叫ぶオールファンだったが、ミツキとリークは落ち着いていた。
対するトウコは―申し訳無さそうにバネブー達に手を合わせ、言う。
「手加減して上げてねエンブオー……『ねっぷう』!」
ジャローダが隣に避難し、エンブオーはスウっと鼻から息を吸い、高温の鼻息が暴風のようにバネブー達へ放たれる。
その風量は前線のバネブーを押し留める程で、しかし熱風は些細な隙間ですら通りってバネブー全体に行き届かす。
やがてバネブー達の半数以上が熱風に直撃したからか、「痛いよー熱いよー」と言っているように残りのバネブー達を踏み台に撤退。
その残りのバネブー達は「よくもやったなー!」と再び襲い掛かる。半数以下に減ったとはいえ、結構な数には違い無い。
「まだ来るよ!」
「バネブー達の勇気と仲間愛に完敗。乾杯の洒落だけど」
「んなこと言っている場合じゃないだろ!どうするんだ2人とも!」
すっかり取り囲まれてしまったミツキ・オールファン・リークの3人。
―――3人?
オールファンとリークが顔を見合わせて気付く―――トウコとトウヤが居ないことに。
「あ、トウトウなら頂上に向かったけど」
「「あいつらぁぁぁぁ!」」
いくら会いたい少年が頂上に居るかもしれないというのに、自分達を置いていくとは何事か。
そんな怒りに駆られた2人はバトルする気になったらしく、オールファンはボールからバクオングを出し、リークは傍らに寄り添っていたシャワーズを前に出す。
仕方ないとばかりにミツキもモンスターボールからギャラドスを出し、バネブー達を威嚇する。
しかしミツキは「仕方ないなぁ」と肩を竦めるだけで、男2人のように怒りを露にしていない。
行方不明の兄を探す自分と共感して仲間になったとはいえ、あの双子と旅していけば嫌でも理解できたからだ。
2人は性格も性質も正反対。そんな2人が合わせれば非常に頼もしい事。なんだかんだで仲が良い事。
そして、度々遭遇するNという少年と、その少年を心から愛する双子との間柄。あの3人はまるで―――。
―――
噴煙上がる煙突山の頂上にて。
「―――来たね。2人とも」
空に上がる噴煙を追うようにして見上げる黒いポケモン……こくいんポケモン・ゼクロムを背にして立つ少年が居た。
その少年は表情を隠すようにして帽子の唾を下へ下げるが、視線は間違いなく目の前の2人―トウコとトウヤを見すえている。
居るのは2人だけではない。ゼクロムに対抗する為のポケモン―トルネロスとボルトロスが彼女らの背後に漂っていた。
「今日こそ捕まってもらうわよ、N」
せんぷうポケモン・トルネロスを背後に、ニヤリと笑うトウコ。
「今度こそ一緒に来てもらうよ、N」
らいげきポケモン・ボルトロスを背後に、鋭い目を見せるトウヤ。
そんな2匹のプレッシャーと2人の覚悟を感じたか、灰の暗雲を見上げていたゼクロムがゆっくりと振り向く。
Nは宥めるようにゼクロムを撫で、困ったような笑顔を浮かべて2人を見た。
「ごめん。
「「そう言って誤魔化すのも今日までよ(だ)!」」
2人は拳をピッタリと並列させて突き出し、それを合図にトルネロスとボルトロスが飛ぶ。
両手を掲げてゼクロムに襲い掛かろうとし―――急降下してきた、ほうじょうポケモン・ランドロスの拳骨が両者の脳天に叩き付けられた。
地面に撃墜することは無いが、急な拳骨で2匹はフラフラだ。対するランドロスはゼクロムに並び、2匹を睨みつけている。
睨むランドロス。唸るゼクロム。やる気のある2匹の友達を見て、Nはやれやれと首を振った。
「2人ともやる気みたいだし、久々にやろうか……ポケモンバトル」
「「もちろん!」」
バックパッカーズのトウヤとトウコは2匹の伝説のポケモンをボールに戻し、新たなボールからジャローダとエンブオーを出す。
Nはゼクロムとランドロスに下がるよう伝えてから、どこからか野生のバクーダとオコリザルがやってきた。
「私達が勝ったら今日1日、私とデートしてもらうからね」
トウコが顔を恋心でほんのりと赤く染めて。
「僕達が勝ったら今日1日、僕とチェスの相手をしてもらうよ」
トウヤが挑戦者のように鋭い笑みを浮かべて。
「僕が勝ったら……今日は見逃してもらう」
そんな2人の好意を受け取りきれないNが、申し訳無さそうに笑みを浮かべる。
それぞれが約束を交わしたのを合図に―――ダブルバトルの幕が上がった。
―――
―まるで、鬼ごっこをして遊んでいる子供みたい。
バネブー達を退かしたミツキは、空へ飛んでいく黒いポケモンを見つけて思った。
それと同時に思う。
「ああ、また逃がしちゃったのね」
2人の旅はまだまだ続きそうだ。
―完―
その後、リークとオールファンに怒られたトウトウであった。
●トウコ
イッシュ地方出身のバックパッカー♀。腕白な性格。おっちょこちょい。
トウヤの双子の姉。思いついたら即行動。辛党。技能派。姉弟でタッグを組めば最強。
現在は弟と共にNという少年を探して世界中を旅している。Nに恋心を抱いている。
『もろはのずつき』や『ソーラービーム』など超高火力の技を好む。攻撃型。
●トウヤ
イッシュ地方出身のバックパッカー♂。慎重な性格。とても几帳面。
トウコの双子の弟。石橋を叩いて渡る。甘党。知能派。姉弟揃えばどんな事件も解決。
現在は姉と共にNという少年を探して世界中を旅している。Nは親友だと信じている。
『やどりぎのタネ』や『しんぴのまもり』などサポート系の技を好む。防御型。
●N
かつてイッシュ地方を騒がせたプラズマ団の王子。よく解らない性格。謎が多い。
ポケモンを友達として接し、ポケモンと会話する能力を活かし様々な知識を吸収している。
現在は親友らから逃げつつ「ポケモンと人との関係」を学ぶ為に世界各地を旅している。
技にこだわりはなく、基本的に戦闘はポケモン任せ。どちらかというと守り派。
トウトウを双子にしたのは作者の趣味です(滅)だってほら、似通った名前とか見た目とか(爆)
そして双子の性格が反対なのも作者の趣味です。そっくりもいいですが、見た目も性格も反対な方が萌えるからです(殴)
そして作者はNが大好きです。ピュアでイノセントなN様萌え(ぇ)
3人の出会いやら切っ掛けやら書いていないのは読者様の妄想に任せようという(ry
そんなわけでグチャグチャな作者の妄想が入った「バックパッカーズのトウコとトウカ」でした。
お粗末。
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その41「きのみ屋さんと群れバトル」
なので殴り書きでもいい!と言わんばかりに短くなりました。ごめんなさい(汗)
何がいけないんだろうねぇ……。
最近のポケモンが群れを率いるようになったのは知っている。
元々からポケモンは単体でも生きていけるほどに賢いが、小作りの事もあってか何匹かがグループになることも。
研究会の発表によるよと群れを作るポケモンはある程度決まっているらしく、ジグザグマやポチエナが代表的だとか。
ジグザグマといえば好奇心旺盛な性格故にジグザグと歩き回り、その際に何かしら拾ってくる習性だろう。
どこで捨てられるかは知らないが役立つ道具が殆どで、ホウエン地方では「旅のトレーナーのオトモに1匹」と言われているほどに便利な特性である。
そしてジグザグマの特性「ものひろい」の原動力にもなっているのが、性質と嗅覚、そして食い気である。
特にポケモンとは珍しい食べ物だと解ると食べたくて食べたくて仕方ないようなので……。
「いい加減諦めろー!この木の実だけはあげられないんだってー!」
『(`・ω・´ )(だが断る)』
チイラの実とヤタピの実を抱えて走りながら叫ぶけど、僕の後ろを追いかけてくるジグザグマ達はドヤ顔しながら走るのを止めない。
しかも明らかに木の実を狙っていると言わんばかりに、僕の横と後ろを取り囲むように走っている。お前らポチエナみたいなチームワークしてんじゃないよ!
そのチームワークの良さは、肩の上で『マジカルリーフ』を発射しているローちゃんを惑わすほど。数の暴力って怖い。
さらに厄介なことに、ゴクリン十数匹の中に「あくび」を連発する奴がおりまして。
うちの畑のナゾノクサ達に迷惑をかけないようにと全体攻撃を使わずコツコツ追い払っていたガーさんやヤーやんを眠らせてしまったわけです。
ゴーさんもナゾノクサ達がいるからと『ほえる』を使おうかどうか悩んだ挙句『あくび』でグースカピー。バクオングの『ほえる』って強烈だから被害が大きいんだよね。
クケちゃんは面倒くさがって木上で寝ているし、アーさんはダイトさんを守るようにするので精いっぱい、イーくんは小さいジグザグマと遊んでいる。
ミノマダムことミノちゃんはというと、囲まれた挙句『ようかいえき』の一斉掃射を受けてミノを剥がされて気絶。
あーもう、群れバトルって本当に面倒くさい!力で訴えれば早いだろうけど、うちは平和主義者なんで!
んでもって、暴力を振ってこないと解ったのかゴクリンの群れも僕とローちゃんに襲い掛かる始末。平和主義者って辛い!
まったく!少しはササハラさん宅のクロ(グラエナ♂)を見習いなさい!食い気が張っているのはうちの
そんなに木の実の香りに惑わされているってんなら、もっと良い香りをご馳走してやんよ!
「ローちゃん『あまいかおり』で誘導して!」
早いとここうすればよかったんだ、こうすれば!逃げているのに精いっぱいで思いつかなかったんだよチキショー!
ローちゃんは僕の肩から飛び降り、走ってくるジグザグマ達を避けながら裏庭の入り口へと足を運び、赤と青のバラを振り上げる。
その両手のバラから漂うのは甘くて良い香り。甘ったるくないのがポイント。
木の実の匂いよりも濃厚な香りがジグザグマとゴクリン達の鼻をくすぐり、クンカクンカと嗅ぎながらローちゃんに向かっていく。
集団でフラフラとローちゃんから放つ匂いに誘われていき、ローちゃんは「こっちですよ~」と両手の花を振って裏庭の外へと誘導する。
そうして外へ向かっていった今がチャンス!耕した畑に駆けつけ、さっさと木の実を植えよう!
耕して柔らかくなった土を踏みしめ、せっせと木の実を等間隔に埋めていく。匂いを嗅ぎつけられないよう深く、そして綺麗に。
ちなみにポケモン達の大半は眠ったままです。ローちゃんが誘導しているし、しばらく放っておいてあげよう。
お、ローちゃんがトテチテと戻ってきた。ちょうど全部埋め終えたのでナイスタイミングだ。
そして『あまいかおり』が無くなって我に返ったのか、ジグザグマとゴクリン達の群れまでやってきてしもうた。しぶとい奴らめ。
ジグザグマがジーっと僕を見上げてきたので「何もないよー」と手を振ってアピール。するとヒクヒク鼻を鳴らして探索を……。
「(▽へ▽♯ )(いい加減に出てけ)」
―そこには、ザワザワと騒ぐジグザグマとゴクリンの群れに殺気を向けているザンさん。
―そして砂埃だけを残し、あれだけの数のジグザグマとゴクリンが姿を消したのだった。
ザンさんマジパネェッス。
―――
時刻は夕方。
「はぁ~……」
裏庭のテーブルに上半身を預けてグッタリ。そんな僕の肩をローちゃんが踏む。マッサージのつもりなんだろう。優しいなぁ。
疲れた……マッジで疲れた。
群れ騒動が終わったと思って肩の力を抜こうとしたら、既に営業時間だったもん。
しかも追撃と言わんばかりにお客さんが多かったし……まぁだからといってサボれなかったんですがね。
うちの店からジグザグマとゴクリンの群れを連れて出たロゼリアを見て関心を持ったお客さんが大半だった。宣伝効果ってやつかな?
とにかく無事に商品も売れたし、木の実は植えたし、ポケモン達は起きたし、全ては元通り。
ザンさんにたっぷりお礼の木の実を渡したし、後は明日に備えて……おっと、ラジオニュースの時間だ。
お気に入りのラジオのチャンネルを合わせて……っと。
『……本日の午後2時頃、ホウエン地方カイナシティ付近でヤミカラスの群れが目撃されました。専門家によりますと夜にはキンセツシティを渡ると予想されており……』
―なにこれ、フラグですか?
ORASでヤミカラスが復活してくれたのは嬉しいんですが……群れ限定で夢特性が捕まえられないというね(汗)
またまた嵐の予感。どうなるハヤシ!?(ヤミカラスがくるとは言っていない)
とりあえず現状、ダラダラするのをやめないと(汗)宣言しておきながら怠けていてすみません(汗)
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その42「きのみやさんと一夜」
―アーさん は 「いくらなんでも……」と言わんばかりの目でこちらを見ている。
「構わん、ぶちまけろ!」
―ハヤシ は 無視して叫んだ!
なんて茶番は置いとくとして、アーさんは空から有りっ丈の『まきびし』と『ステルスロック』をバラ撒く。
緑一色だった地面が瞬く間に『どくびし』の紫と『まきびし』の鉛色に染まっていき、畑の周りは尖った岩で覆われる。
畑には光の粘土という道具を持たせたヤーやんの『リフレクター』と『ひかりのかべ』を張っているから大丈夫。
「これだけ撒けばヤミカラスの群れが来ようとも大丈夫でしょう!」
だからローちゃん、アーさんみたいに「いくらなんでも……」と言わんばかりに頭の上でポンポン叩かないで。
やりすぎかもしれないが、ヤミカラスと聞けばこれぐらいのことはしないと気が済まないのよ。
実は僕、一部を除く鳥ポケモンが苦手だったりする。
昔っから目つきの鋭い鳥ポケモン、特にドンカラスとネイティオには嫌な思い出しかない。
ドンカラスは僕のトラウマベスト5に選ばれるほどだ。ちなみにベスト1はネイティオの目。
あれは、僕がこの店と畑を受け継いで間もない頃……せっかく綺麗にした庭をドンカラスとヤミカラスの群れに荒らされた。
それはもうグッチャグッチャに。数はそうでもなかったが、ドンカラスのリーダーシップの良さで徹底的に。
その時はたまたまシダケタウンに来ていたユウキ君に追い払ってもらったからよかったが、あのままなら再起不能になったかも……。
それからというものの、僕はヤミカラスとドンカラスは特に嫌いになった。
なのでやるなら徹底的に。『ふみん』の特性を持つポケモンが居ない以上、ふんだんに罠を設置してやるのだ。
今夜中に群れが来るかは解らないが、今は大事な木の実を植えているし、これだけしても仕方ないよね。
「ふっふっふ、痛い目に見るがいいわヤミカラスども……!」
決して怨恨にあらず。人の木の実を奪おうとしたら罰が当たるってことを教えてやるまでですよ……!
ローちゃん達が隅っこでガクブルしているけど、気にしない。ふっふっふ……!
―――
その日の夜。海を渡ってホウエン地方へ来たヤミカラス達は夜空を静かに飛んでいる。
ドンカラスというリーダーが存在しないからか、9匹のヤミカラス達は外敵に見つからないようにしているのだ。
それに比較的穏やかなヤミカラスだからか、時々夜空に浮かぶ満月を見上げてほっこりとしている。
ふと地上を見下ろしていたヤミカラスが何かを見つけたらしく、傍を飛んでいる子供のヤミカラスに向けて一鳴き。
なになに?と近づいてくると(どうやら母らしい)ヤミカラスは子ヤミカラスに下を見るよう促す。
人間からすれば町を除けば夜空以上に真っ暗な大地が広がっているが、夜目の効くヤミカラスは細かいところまで見ることができる。
見下ろす先にはシダゲタウンがあり、その一部が紫と鉛色の斑模様に染まっているのがヤミカラス親子の目に止まる。
斑模様が何なのかと首を傾げる子ヤミカラスに対し母ヤミカラスはガァガァと注意する。
―いいこと?あそこは危ないから入っちゃダメよ?
こんな感じに鳴いている母ヤミカラスだが、ヤミカラスは半分が好奇心と悪戯心で出来た鳥ポケモン。
子ヤミカラスは気になって仕方なくなったから降下しようかと思ったが、あるものを見て止める。
―斑模様の大地に人影が入り込み、痛がって暴れ出したかと思えばパタリと倒れたではないか。
ゾゾ~っとする子ヤミカラスを「ほら?」と言わんばかりにニヤリと笑う母ヤミカラス。
子ヤミカラスは首を高速で上下に揺らし、母ヤミカラスの言っていた事が正しかったことを理解する。
母ヤミカラスはあの斑模様が『どくびし』と『まきびし』であると瞬時に理解し、そこに入ろうとする人影に気づいたからこそ、子ヤミカラスにわざわざ見せたのだ。
賢いヤミカラスは、今宵も我が子に賢い知恵を教える事に成功。
ヤミカラスの群れはシダケタウンに寄る事なく、煙突山方面に飛んでいくのだった。
なお、その際にシダケタウンに叫びが響き渡ったが、運悪く熟睡していて誰も気づかなかったという。
―――
昨日、ヤミカラスに恨みはないと言ったよね?ごめんなさいアレは嘘です。
ヤミカラスそのものを勝手に逆恨みしていました。アカン癖だと解っているんだけどなぁ……。
ご近所のダブルス(ドードリオ♂)の声で目覚めて裏庭にやってきた僕が見たものは……。
黒いランニングシャツにスパッツという格好をした褐色の女の子が倒れ、そんな彼女の横で泣いているゴニョニョでした。
「まぁま」と連呼して気絶している女の子を起こそうとするゴニョニョ。
微かに意識があるらしく、ピクピクと痙攣させて無理に動こうとする女の子。
そして「だから言ったのに……」と言わんばかりに僕を見るポケモン達。
「……ごめんなさい」
ヤミカラスに一泡吹かせてやろうとばかり考えていて、知らずにやってきた泥棒の事を全然考えていませんでした。
というかまだ意識があるんだった!早く起こしてやらないと!
近づいたら女の子がこっちを見上げて何か言いたそうだったので、ゆっくりと上半身を起こす。
「―――――そ」
「そ?」
「想像力が……足りなかったよ……」
そう言って彼女は、ガクリ、と意識を手放した。
想像力……こんなに『まきびし』と『どくびし』を撒くとは思わなかったから?
とりあえず、ポケモンセンターに運ぼうっと。
不憫な登場の仕方だなぁって私でも思います(ぇ)
ちなみに時期でいうとポケモンorasが始まる前ぐらいかな?
来週から色々と動き出そうと思います。もう少し文章を長くかけるようにしたいなぁ。
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ポケライフ「元したっぱ達の集い・その6」
日曜中に本編を更新できるよう執筆中であります。夜?眠いじゃん……(ぉぃ)
5/31:誤字修正
シンオウ地方キッサキシティの外れに位置する居酒屋「
元雪山救助隊の男性が開いたこの店は、時にはニューラ救助隊の拠点としても活用される。
古き良き暖炉とブランデーを中心とした酒で暖を取りにくるお客が多く、繁盛している。
―――
居酒屋「白雪」の喫煙席に4人の男女が座っている。
元々静かに過ごす客が多い中、この席だけは特に静かで、気まずい沈黙を保っていた。
その沈黙から脱したのは、ため息のように煙草の煙を吐く大男であった。
「……それってさ、マジで?」
元ロケット団残党したっぱ、山男のサダユキが重苦しい声で発する。
「冗談であったならどれだけいいことか……」
元ギンガ団したっぱ、大人のお姉さんのサチが深い溜息を零す。
「いや~、俺達と似たような境遇になったっていうのは解ったけどさ~」
アクア団のしたっぱ、船員のタカシがポリポリと頭を掻く。
「なんつうか、あれっすよね……」
元プラズマ団したっぱ、クラウン(今は私服)のジェイスが汗を垂らす。
『転勤先に敵対したトレーナーが居るって、滅茶苦茶気まずい……』
「まぁ……だからこそ俺達を呼んだわけだな」
「俺達みたいな元したっぱを呼んで相談したいっていうのは、そういうことなのか~」
「いやぁ……俺達、組織を潰したトレーナーと良く会っているっすからね……」
「そうなのよ~!だからさ、なんでもいいからアドバイスとか頂戴!」
「必死だなぁ……けど俺の場合、趣味の山登りでたまに会う程度だぜ?ヒビキっていう男の子なんだが、ロッククライミング中にバッタリ会ってな」
「サダハルさんって山歩きでっすよね?ロッククライミングなんかしていました?」
「いや男の子の方が崖を登っていたんだよ。山道を歩いていると高い確率で、オーダイルと一緒に断崖絶壁を平然と登っている様子を見かける」
「どんだけ~(汗)」
「ポケスロンの練習だとよ。そういうタカシこそ、海でよく会うっていうじゃねぇか。ユウキ、だっけか」
「そうなんだよな~。あの子、海に関するバイト沢山受けていてな。この間はマリンスポーツの助手をしていたなぁ」
「……ん?もしかしてさ、この間タカシさんと一緒の船に乗っていたガイドさん。あの少年がそうだったりするっすか?」
「お~、そうそ~。あいつの仕事の範囲って広くてさ、観光船や定期船のガイドや船員もたま~に……つうかなんで解んのよ?」
「いや、流氷ウォッチングでもバッタリあってさ。そん時はトドゼルガに乗ってガイドしてたっす」
「地方を越えて海の仕事をするとか、そいつも筋金入りだな(ドン引き)」
「……でさ、2人ともよく会うらしいけど……気まずいとか思った事、ないの?」
「「ない」」
「いや最初はあったけどな。元したっぱだって気づかれた後も、あいつは平然としていたぜ?」
「サダに同じく~」
「あ~、俺も同じっすわ。……つうか、そいつが忙しすぎてそこまで回らないみたいだけどよ」
「確かジョインアベニューっていう施設のオーナーやっているんだっけな」
「いや店舗の並びとか集客率とか半端ねーっすよ。ライモンシティの観光客増加の半分はあそこで賄っているといっても過言じゃねぇっすわ。もう一つはポケウッド」
「元2代目プラズマ団したっぱから聞いたけど、そのオーナーって凄い手腕なんだって?」
「ええ、そうっすね。トレーナーとしても強かったのに業界にも通じる頭脳もあるとか反則っすわマジで」
「そういうんならユウキ君もすげーぞ~。アクア団をけちょんけちょんにしたばかりか、サメハダーの群れだって平然と返り討ちにするんだぜぇ?」
「あめぇな。ヒビキなんか素手で複数のしたっぱをコテンパンにしたぜ?」
「え!?マジで!?」
「マジでマジで。なんか格闘術習っているらしくてさ、あいき?っちゅう技で大の大男をポイポイ投げるのさ」
「あ、けど最近のトレーナーって、一流であるほど護身術は基本的に習うものだっていう風にも聞いたぜ~?」
「ガキ如きが組織を潰すはずねーって言えない時代……いつもそんな感じっすね(苦笑)」
「……ふっ」
「どうしたよサチ、陰りを帯びた顔で溜息ついて。ていうか『甘いわね』って言っているような目だな」
「甘いわよあんたら……私の転勤先にいるのは……
「「「な、なんだってー!?」」」
「コ、コウキっつうと、あれか?」
「飲み会でトラウマの話題を繰り出すと、元ギンガ団したっぱ10人中9人が真っ先に挙げるという、あのトラウマメーカー・コウキの事?」
「『冷徹トレーナー』、『真っ直ぐな処刑人』、『ピュアハート・クリーチャー』、『「よろしい。ならば
「そのコウキよぉ~!私がお菓子職人なのは知っているでしょ!?移転先に居るとは思わなかったわぁ~!わぁ~ん!」
「……言っておいてなんだけどよ、そんなに恐ろしいのか?コウキってガキは」
「う~んと、悪い子じゃないのは確かなのよね」
「悪の組織に敵対した時点で悪い子ではないよな~(苦笑)」
「真っ直ぐな子で、悪者は決して容赦しないのよ。ポケモンで下っ端にダイレクトアタックさせるぐらいに」
「ちょ、俺達したっぱですらタブーな事を平然とすんのかよ!?」
「ちなみに私、ビークインの『こうげきしれい』を直撃したトラウマガガガガ……」
「お、おちつけ~、お前さんのライフは既にゼロだぞ~!終わっているぞ~!」
「……ふぅ。そんなわけで、コウキ君は油断も隙も、容赦も情けも無い男の子なのよ」
「ひぇ~、怖い子だなぁ~」
「けどよ、悪い子じゃないのは確かなんだし、『あの時はごめんね』程度に誤っておけば許してもらえるんじゃねぇのか?」
「実は私もそう思いたいんだけど……今度いざ会うと思うとトラウマが蘇りそうで……気まずいのよねぇ」
「まぁ、確かに気まずいよなぁ~。最初だけで済むといいけど」
「……はぁ」
「どうしたよジェイス、さっきから静かに黄昏れてやがんな」
「……俺さ、普段はライモンシティのボクシングジムのバイトしてんだけどさ」
「お、おう……?」
「そこにヒュウってトレーナーが良く通ってんだよ」
「げ、ヒュウってあのツンツン頭のトレーナーか?」
「この間、元プラズマ団したっぱの友達とイッシュ地方で飲み会に言ったら、いきなり喧嘩腰で挑まれたことがあったなぁ~」
「あら、そう?こっちも元プラズマ団したっぱのリリスちゃんと飲みに行った時にバッタリ会ったことあったけど、特になかったわねぇ」
「おめ~知らねぇな?したっぱが改心したって理解してくれるまで何度かドつかれたんだぞぉ?どんだけプラズマ団恨んでいるっていう話だよ~」
「まぁ今じゃ理解してくれたからいいけどな……そいつがどうしたよ?」
「……あいつの妹のチョロネコ奪ったの、実は俺なんだ」
「「「き、気まず~い!!」」」
「何!?ヒュウの奴が仇みたいに言っていたプラズマ団ってお前だったの!?」
「なんでんなことしちまったし!?」
「いや……あん時は良いカモネギだって思ってつい……反省はしている」
「しているのならさっさと謝っちゃいなさい!今の彼ならゲンコツ10発程度で許してくれるはずよ!」
「……この間フラッと聞いちまったんだよ、ボクシング習ってどうすんだって。そしたらヒュウの奴……」
『1発ぶちかましたい奴がいるんですよ』
「……って言ってたんだ。目がマジだったし、日に日にパンチ力が増してよ……」
「「「生きろよ」」」
「殺すな!殺されそうな思いはするだろうけどっ!」
したっぱ時代の悪行は悔い改めている。しかし相手次第では気後れしてしまうこともシバシバある。
「元したっぱどもの集い」―――それは、足を洗い真っ当な暮らしを始めた、元したっぱ達が集う飲み会サークルである(全国各地受付中)。
―完―
飲み会の場所:「キッサキシティの居酒屋」
飲み会の切欠:「相談」
飲み会の話題:「転勤先に敵対していたトレーナーが居る状況」
そろそろ飲み会のネタが切れてきました(汗)
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その43「きのみやさんとヒガナ」
後、個人的に計算に弱いヒガナさんは萌える(ぉぃ)
5/31:誤字修正。やはり一気に書き上げようとするとミスが多いですねぇ(汗
衝撃的な朝を迎えて少し経ち、時刻は昼。
「いあぁ、むぇんもむむぁいむぇ(いやぁ、めんもくないねぇ)」
「食べながら喋るなら、まず頬いっぱいに溜めているソレを飲み込んでからにしてね」
ムガムガモガモガ言いながら喋っても解りませんから。
小さな木の実の山に手を伸ばし、次々に口に放り込んでいく褐色肌の少女とゴニョニョ……凄い構図だ。
喉に詰まることなく、しかし時々木の実ジュースを飲みながら休むことなく。余程お腹が空いていたんだなぁ……ホロリ。
今朝方に裏庭で倒れていた少女の名前はヒガナちゃん。ゴニョニョの名前はシガナ。
ホウエン地方各地を旅して回っているが、その生活はほぼ野性的なもので、宿泊施設とか外食とかしたことないんだと。
食料も現地調達が基本で、時には罪悪感を持ちつつも人の畑に盗みを働くこともあったらしい。
そして運悪く、『どくびし』『まきびし』『ステルスロック』がこれでもかと撒かれた畑に侵入した、と。
「んぐ……っ。いやアレには参ったなぁ。罠は覚悟の上だったけど、あの時は切羽詰まっていてね。暗くて見え辛かったし、あんなに罠が張っていたとは思わなかったよ」
「そりゃそうでしょうね」
安心してくださいヒガナちゃん、あなたの常識は間違っていません。想像力豊かな人間だって中々思いつかないよ、あんな裏庭。
おかげでヒガナちゃんをシダケタウンのポケセンに運んで毒抜きしてもらった後、ジョーイさんにカンカンに怒られたし。
ヒガナちゃんはヒガナちゃんで不法侵入に関して凄く怒られたけど。反省はしているので良しとしよう。
「にょっぷ」
「おなかいっぱいになったか?シガナ」
「にょい!」
「そっかそっか!よかったなぁ」
満腹になってご満悦なシガナを見るヒガナちゃんの顔はお母さんそのもの。
そもそも窃盗をしてまで木の実畑に侵入したのは、自分よりも空腹なシガナの為だったという。
その親心に感心したから、こうして木の実をお裾分けしてしまったわけである。
「ヒガナちゃんもお腹いっぱいになれたかな?」
「うん!久しぶりに満腹になったよ~、ご馳走様!」
拝むように両手を合わせ満点の笑み。八重歯と明るい笑顔が合わさり眩しいよ。
だがしかし……働かざる者食うべからず、がウチのモットーである。
「じゃあ、まずはトラップのお掃除から手伝ってもらおうかな」
「はいは~い」
裏庭の『まきびし』と『どくびし』を箒で寄せ集めているゴーさんを指さし、ヒガナちゃんはシガナを連れて裏庭へ向かう。
あんな目に合ったとはいえ泥棒しようとしていたのは事実なので、今日1日ヒガナちゃんにお店のお手伝いをお願いすることにした。
ヒガナちゃんも悪い事をしたという自覚はあるし、ご馳走して貰った以上はお礼をしなきゃ、と快く受け入れてくれたし。
「……大丈夫。まだ時間はあるから、これぐらい」
「何か言ったー?」
「なんでもないよー……って、あいだだだっ!」
あ、そこまだ『まきびし』が残っていたか。念入りに箒で掃いたと思ったんだけどなー。
シガナちゃんは幼いみたいだし、向こうでイーくんとダイトさんと遊んでいてね。
―――
ポケモン達の助力(ヒガナちゃんはドラゴン使いらしく、強そうなドラゴンポケモンばかりだ)もあってお掃除完了。
例の木の実が植えられた畑も無事だし、軽く畑を整理したら次はお店の準備だ。ヒガナちゃんには品並べをお願いしよう。
そうして開店し、お客さんが混み合って来た頃。
「ハヤシさん、50円と100円と210円を合わせるといくらだっけ?」
「違うよお姉ちゃん、このウブの実キャンディーの瓶は250円だよ!」
「あと、50円の木の実は3個あるんだけど……」
「あーっと……50円が3個で……えっと……?」
「はいお嬢ちゃん達、合計500円ね。まいどあり」
「ありがとうお兄ちゃん!お姉ちゃんガンバレ!」
「う、うん!バイト頑張るよ!」
笑顔が強張っているよヒガナちゃん。それにしても双子ちゃんに励まされるって……。
ヒガナちゃんはアレだ。想像力はあるけど
とにかく計算問題が苦手。掛け算どころか足し算も暗算では出来ないようだ。紙と鉛筆があれば出来るというが……正直怪しい。
まぁお金とか計算とか程遠い、それこそ文明の利器を利用しない程に野生じみた生活を送っているから仕方ない……か?
とりあえず計算は苦手だが、品並べや接客は上手なので良しとしよう。頑張る子は十分偉い!
「……解ったぁ!全部で500円だ!」
「それ今言ったから」
その「やった!私やったよ!」的な笑顔が眩しすぎるよヒガナちゃん……。
足元のシガナちゃんも拍手を送り、それをヒガナが持ち上げ、嬉しそうに抱き着く。
なんだろう、目から涙が止まらないや……よっぽど機械や計算とは程遠い生活を送っていたんだろうね……。
生暖かい目で見ていたら、ヒガナちゃんがピクリと動き、鋭い目を店の外に向けていた。
な、なにそのシリアスな雰囲気……ん?なんか外が騒がしいような。
「オウ、邪魔するゼ!」
―うわ、凄い大男が現れた!
上半身裸のプロレスラーみたいな大男は大声でそう言うと、恐れ慌てる他のお客さんを大きな腕で払いのけてズカズカと上がり込む。
余りにも大きいので天井と頭がスレスレだ。この店小さいから……ってそんな事考えている場合じゃないか。
「い、いらっしゃいま、せ?何かお探しで?」
「オウホウ!オレっちみてぇな奴でもお客さんってカ?大した奴だゼ!」
そんな楽しそうに言われても、僕から見たら威圧しているようにしか見えないんですが……。
するとヒガナちゃんが前傾姿勢で立ちふさがった。なんていうか、威嚇しているっぽい。
「ハヤシさん、いくらここがお店でも、こいつはお客さんじゃないよ。なんてったって、アクア団だもんね」
「あ、アクア団?」
「そのトーリよ!つうわけでな、オメーにウラミはネェんだが……コッチにも都合があるんでな!」
そういえばこの大男の胸元にソレっぽいマークが……なに、この人も残党か何か?
すると大男がギロリと店内を見渡し、腕を振りかぶり……ちょ、なに?まさか!?
―ガシャンッ!
「この店と庭を、ブッツブさせてもらうゼ!」
ギャーッ!ミナモデパートの屋上で買ったテーブルがぁぁぁ!安売りの割には丈夫で気に入っていたのにぃ!
太い腕に叩きつけられ跳ね返ったのをキッカケに悲鳴が上がり、お客さんが入口へ逃げ出していく。大男は追いかけなかった。
「ナ、ナニヲスルダー!いけゴーさん!」
「グオォーン!」
仕方ない、ゴーさんに任せ……何ぃ!?ゴーさんの怪力を受け止めただとぉ!?
それどころか大男はそのままゴーさんを持ち上げ……店の外へ投げ出した!?
「フッハァァァ!パワーが足りねぇぜ!」
余裕綽々でガッツポーズする大男。あんた、人間の皮を被ったゴーリキーですか……?
ていうかヒガナさん、妙なステップをしながらモンスターボールを構えないで……って投げたーっ!?
「ハヤシさんゴメンね!チルタリス『コットンガード』!」
―モッフン!
「ふごっ!?」
「オオウッ!?」
目、目の前、というか店の中が真っ白に……フカフカ。
大男の叫びも聞こえたから、もしかして店いっぱいに広がった綿で外に押し返されたのかも。
その証拠に直に綿が縮んでいき……あ、ヒガナちゃんもモフモフ天国にやられたのか、顔が火照っている。大事にシガナを抱えているけど。
「ハヤシさん、直に裏庭に行きなよ!きっと手下が荒らしている頃だと思う!」
「ちょ、それヤバいよ!」
そういえばあの大男、店と庭を、って言っていたよね!?ヤバイすぐに向かわないと!
ヒガナちゃんは速攻で店を出て大男と対峙したので、僕は裏庭へダッシュ!ごめんゴーさん、後回しね!
肩にローちゃんを乗せ、急いで庭へ!
まったくもう、レアな木の実をもらえてラッキーと思ったらコレだよ!
そんなわけでウシオさん登場。次回、軽くバトルします。
ウシオさんはきっとゴーリキー相手でもタイマン張れるぐらい強いと思う。
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その44「きのみやさんとアクア団」
―第三者視点
シダケタウンに、突如としてアクア団が現れた。
当初は大男を筆頭に複数もやってきて驚いたが、どういうわけか狙いは「大きな庭のきのみ屋さん」のみ。
そこそこ有名になったとはいえ、なんの変哲もない木の実店を狙う理由は解らない。しかし住民の誰もが近づけずにいた。
助けないのではない。アクア団が邪魔しているわけでもない。だがハヤシと馴染の深いミチルを含め、人々は店の前で呆然と見ているしかなかった。
その視線の先にあるのは、腕を振り回すパワフルなマリルリと、綿毛でガードしつつ舞うように避けるチルタリスとの激戦……ではなかった。
「フゥゥゥ……ハァァァッ!」
2mを超える大男―ウシオの拳が振り下ろされるが、褐色肌の少女―ヒガナは小刻みなステップに合わせて紙一重で避ける。
ヒガナは地面を容易く貫いた剛腕に手を絡ませたかと思えば、木登りのようにスルスルとウシオの肩まで登り上がっていく。
その速度たるや早業の域に達してはいるが、思考より先に行動する事の多いウシオは即座に対応し、地面から引っこ抜いた腕を振り回す。
「想像力が足りないよ!」
細身に似合わぬ強い握力と腕力を用いてしがみついたヒガナを振り払うことはできなかった。
それでもウシオはバクオングのように吠えながら、今度はヒガナを直接ひっぺがそうと反対側の腕を伸ばす。
しかし先にヒガナが動き出し、しがみついたままの腕を交差させて体を捻り、ウシオの後頭部を美脚で蹴りつける!
「ゴッ!?」
手応えならぬ足応えあり。ヒガナは動きを止めたウシオを見て口端を吊り上げる。
そのままウシオはフラリと倒れ込もうとして……しかと大地に足を乗せて踏み止まり、ニヤリと白い歯を見せて笑う。
「ウソッ!?」
「ウィィィ……ハァァァッ!」
驚愕するヒガナ。吠えるウシオ。その剛腕は腕力だけでしがみついていたヒガナを簡単に引っぺがし、遠くへ放り投げた。
遠くで見守っていた集団の方へ飛んできたので何人かが慌てて受け止めようとするが、彼女は空中で身を縮めて回転し、ザングースのように四足で着地。
ペルシアンのような身軽な着地を見たウシオは襲うことなく、ヒュウっと口笛を慣らす。
「ホッホウ!細ぇクセにやるじゃねぇカ!ケンカ好きなオレっちにはウレシイぜ!」
「そりゃどうも」
立ち上がるも前屈姿勢を取り、今にでも襲い掛かりそうなステップを刻むヒガナ。
彼女もまた軽口を叩くが、別段痛くなさそうに後頭部を抑えるウシオを見て、彼との戦闘力の差は絶望的だと悟る。
例えるなら、金髪でマッチョな「俺は悪魔だ」と言いそうな大男と対峙しているような心境だ。
さらにもう1つマズイ状況がある。
ヒガナはチラリとウシオから視線を逸らし、マリルリ相手に苦戦を強いられている己のチルタリスを見た。
『コットンガード』で綿毛を増毛させて防御力を強化したにも関わらず、マリルリは圧倒的なパワーで攻め立てている。
「ハッハァ!ガードは良いが、『はらだいこ』でパワーアップしたオレっちのマリルリにゃ敵わないゼ!やっちまえ!」
ウシオがそう言ったのを合図に、マリルリはチルタリスに向けて腹から飛びかかり、ボカスカと『じゃれつく』。
身体を覆う綿で衝撃を和らげる暇もなく、マリルリの剛腕でボカスカと殴られたチルタリスはそのまま地に伏せてしまう。
ヒガナは舌打ちしてチルタリスをボールに戻し、慰めるようにしてボールを撫でてから懐に戻し、次のボールを投擲する。
ボールからマリルリの前に出現したのは、カロス地方で発見されたドラゴンポケモン・ヌメルゴンだった。
ウシオは意外そうに首を傾げた後、何を思ったかニィっと笑い出す。
「……ハッハァン?おめぇ、もしかしてドラゴン使いカ?こいつぁ相性が良いゼ!」
「こっちは最悪だけどね」
ウシオの指摘を認めざるを得ない。ヒガナの手持ちは非戦闘員のシガナを除けばドラゴンポケモンしかいないからだ。
苦手とはいえ、育成に手抜きを感じさせない程の強さをこのマリルリは有していた。流石は幹部級というべきか。
さらに『はらだいこ』で減った体力をオボンの実で回復するという有名なコンボまで持っており、チルタリスの打点が低かったこともあり尚も健在。
とはいえ、ヒガナもチルタリスも馬鹿ではない。暗算は苦手だが。
「さぁて、とっちめてやるカ……ってヌオッ!?」
ヌメルゴンを前に不敵な笑みを浮かべるウシオだが、マリルリの変化にようやく気付いた。
―マリルリの体に真っ白な綿が纏わり付いて、身動きが取れずにいたのだ。
「な、なんだコリャ?フワフワがくっ付いてやがル!」
「ずっと避けながら『フェザーダンス』をしていたんだよ」
―『わたほうし』ではないのであしからず。
「ヌメルゴン、『ヘドロばくだん』!」
オタオタしているマリルリを指さしてヒガナが叫ぶと、ヌメルゴンの口からヘドロの塊がベッと吐きだされる。
それはマリルリを直撃し、体中に付いた綿ごとヘドロが着弾して爆発する。ちなみにお店にも集団にも向けていないのでご安心を。
ヘドロまみれになって気絶したマリルリをネットボールに戻すウシオ。
ドラゴンポケモンの弱点の1つであるフェアリータイプを崩せたのは大きい。
そう考えていたヒガナの希望を打ち砕くように、ウシオは凶悪な笑みを浮かべ、次のネットボールを放った。
「トドゼルガ!『ふぶき』ダ!」
(トドゼルガっ!?)
ネットボールより出現したトドゼルガは牙を生やした口から『ふぶき』を放ち、ヌメルゴンとヒガナに冷風が襲い掛かる。
特殊防御力が高かったので何とか踏ん張っているが、ブルブルと震えているので連続して受け止めるのは危険だろう。
「言ったロ?相性が良いってヨ」
「……そうみたいだね」
ニヤリと歯を見せて笑うウシオに対し、ヒガナは強がってみせた。
氷とフェアリー。両者はドラゴンタイプにとっての天敵であり、ヒガナを窮地に追い込むには十分だった。
「さぁ!第2ラウンドの始まりダ!」
「調子に乗ると痛い目見るよ!」
それでもウシオとヒガナは、再びぶつかり合う!
―拳と蹴りで!
(いやだからポケモンバトルに集中しろよ!)
心の中で突っ込む人々だったが、ストリートファイトのような熱い格闘戦にも夢中になってしまう彼らも彼らであった。
―――
一方、裏庭はどうなっているかといえば。
「ああもうゴーさんグラエナ相手に怯えているんじゃ、あだだだ噛まないで痛い痛い!」
「いいぞグラエナ五匹衆!そのままバクオングを抑え込め!」
「ポチエナも、そのままトレーナーを押さえておくんだよ!」
5匹のグラエナに吠えられてビビるゴーさんと、ポチエナ1匹に足を噛まれるハヤシ。ローちゃんはポチエナを追い払おうと必死だ。
したっぱ2人はバクオングと畑の主を押さえつける係として命令を下している。
「くっそ、この見えない壁かってぇ!とっととネンドールを倒しちまえ!」
「ベトベトン!『どくどく』だよぉ!」
「……ダメだ、モモンの実で回復しちまう!」
大半のアクア団したっぱは畑を荒そうと動いているが、『リフレクター』と『ひかりのかべ』の二重層で手が出せない。
ならばとベトベトンやベトベターで取り囲んで毒で攻めるが、ネンドールは自分の処だけ壁を解除し、モモンの実を食べている。
「押せ押せ!数はコッチが勝って、あいだっ!?」
「ええいもう邪魔なシザリガーとサンドパンだな!」
「サメハダー持っている奴はシザリガーにぶつけてやれ!」
「誰も進化してねぇよ!それより『こうそく』スピン係!しっかり罠を払っとけよ!」
水辺ではシザリガーが、畑にはサンドパンが出現して、それぞれが得意な戦法でアクア団を挟み撃ちしていく。
押しているとはいえ多勢に無勢。半数が傷薬で回復、半数がポケモン達に指示を下すと役割分担で迎え撃つ。
ちなみに『ステルスロック』や『まきびし』はヒトデマンの『こうそくスピン』で払っているので安心だ。
「(▽▲▽# )(うちの旦那の畑に何すんのよ!)」
―ビビビビビ!
「(`■´# )(うるさいて寝れんわい!)」
―ザシュザシュッ!
「ひぃぃぃなんだこのドクケイルとザングース、めちゃくちゃTUEEEE!」
「だ、誰か助け、ぎゃーっ!」
ドクケイルの『サイケこうせん』とザングースの『きりさく』の連打がアクア団に襲い掛かる!
とはいえ畑に被害が出ては困るので(住処的に)、確固撃破に留まっているが。それでも被害は徐々に拡大しつつある。
この2匹のおかげで大人数のアクア団が徐々に減りつつある。感謝、感謝。
ちなみにエアームドことアーさんは、背中にナエトル、足元にリーフィアとカットロトムを隠して守ろうとしている。アーさんマジおとん。
大きな庭とはいえ、アクア団がざっと10人以上いるので、ポケモンも人数に比例して増えるので大乱闘。
畑の小さなポケモン達は逃げて、ハヤシに関連するポケモン達は自主的に戦ってくれるのが救いか。
さらにネンドールは任意で壁を張ったり解除できる為、畑のポケモン達は木の実を食べて自主的に回復までしてくれる。ハヤシ涙目。
「ウ、ウシオ様ぁ~!早く来て、ギャバーッ!」
ドクケイル の サイケこうせん!こうか は ばつぐんだ!
ウシオとヒガナを格闘キャラに仕立てたい作者の妄想でした(笑)
したっぱの数は不明です。1人見かけたら30人いると思ってください(どこぞのボロボロ団の如く)
畑と店はどうなるのか。次回を待て!(待たせ過ぎ?ごめんなさい)
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その44「きのみやさんと連続遭遇」
見落としがない事を祈りつつ、投稿しました。(←見落としが多いタイプ)
前回のあらすじ:
ヒガナ「竜巻旋風●!」
ウシオ「●ルティメット・●トミック・●スター!」
7/4:誤字修正。報告ありがとうございました。
シダケタウンの木の実専門店「大きな庭のきのみ屋さん」で起こった大騒動。
それなりの数のアクア団が裏庭に押し寄せ、店前で大男VS褐色少女の格闘戦が始まってしばらくが経った。
「グエェェ、ギブ、ギブ!」
「じゃあ、さっさと部下達に撤退するよう命令するんだね」
己の首を締め付けんと挟む細い足にバシバシと大きな手が叩くが、ヒガナはお構いなし。酸欠で力が弱まっているのだろうか。
そんなウシオのギブアップ宣言を無視するように足に力を籠め、ウシオの頭を両の拳でグリグリするヒガナは意地の悪い笑みを浮かべていた。
「そ、そいつぁお断リ……グェっ!?」
「ほらほら、てーったい!てーったい!」
日頃ストレスでも溜まっているのだろうか、嬉々としてウシオの首を絞めるヒガナはとても良い顔をしていた。
隣で『10まんボルト』で麻痺したトドゼルガに圧し掛かっているヌメルゴンも、良い顔をしながらヌメヌメしている。
(((え、えげつない女の子……)))
―今、シダケタウンの人々の心が1つとなった瞬間であった。
「チ、チキショウ!わーったよ、言えばいいんダロ、言えば!」
「解ってくれたようだね」
鍛え抜かれた鋼の身体も首絞め攻撃には敵わず、ウシオはついに降参を認める。
ニコリと無邪気に歯を見せて笑ったヒガナは絞めていた足を緩め、どうぞ、と言わんばかりにウシオに撤退を促す。
「や、ヤロウども!撤退「ウシオ様ぁー!」ダ、ど、どうしたテメェら!?」
裏庭に居るであろう部下達にも届くように大きな声で告げようとしたら、その部下全員が泣いて来たでゴザル。
「「「助けてくださいー!」」」
「フシャァァァッ!」
大勢の部下達の背後では、恐ろしい形相をして追いかける老ザンクースが居るではないか。
そして部下全員には擦り傷だらけで、しかも海賊チックな服装はビリビリに裂かれていた(女性は無事)。
ちなみに、そのザングースの背後では、1匹のポチエナがキャンキャン泣きながらドクケイルに追いかけられていた。どうしてこうなった。
「ここのザングース滅茶苦茶強いですー!」
「ていうかココの庭は色々とメンドウくさいです!」
「もう帰りましょうよぉ!」
「ていうか俺達帰ります!ウシオ様も早く逃げてくださいね!」
どうやら彼らにウシオを助けるという選択肢は無いらしく、すれ違い様にそう告げてからスタコラサッサと逃げ出していく。
裏庭から追い出したザングースは止まって「二度と来るな!」と吠え、踵を返して帰っていく。ドクケイルは尚もポチエナを追いかけるが。
そんな部下達の置いてけぼりを食らったウシオは目を点にして硬直し、ヒガナは気まずそうな顔を浮かべてからウシオから飛び降りる。
綺麗に着地して立ち上がり、クルリと身を翻したヒガナはウシオに言う。
「なんか……ごめんなさい」
ビシっと直立してからの斜め45度の、綺麗なお辞儀であった。
「チキショォォォ覚えてヤガレェェェ!」
麻痺して倒れたトドゼルガをネットボールに戻し、止めどなく溢れる塩水を太い腕で拭ってからダッシュ。
ドスドスと足音を立てながら人混みを掻き分けて走っていく大男の後ろ姿は、どこか哀愁が漂っていた。
「二度と来るなバカタレー!」
何時の間にか裏庭からやって来たハヤシは臀部を痛そうに摩りながらアクア団に向けて叫ぶ。
ハヤシの怒りっぷりを見て相当ご立腹みたいだと思ったヒガナだが、そのハヤシがコチラへ顔を向けてビクリとする。
「ありがとうヒガナちゃん!君が追い払ってくれたおかげで庭を荒らされずに済んだよ!」
てっきり怒り顔を向けられると思ったら笑顔を向けられたでゴザル。二度目?気にしないで。
大事な裏庭を守りきれた事が嬉しいようで、ハヤシはヒガナの両手を取ってブンブンと縦に振って喜ぶ。
傍から見ていた人混みもヒガナの健闘を称えて拍手喝采。これにはヒガナも照れくさそうだった。
「……はい、報告は以上です。連絡を終わります」
その拍手の嵐の中、1人だけ隠れるようにして通信機で通話する者が居る事を知らず。
―――
アイダダ、ポチエナに噛まれたお尻がまだ痛い……。
いや、せっかくの畑を無茶苦茶に荒らされなかっただけでも良しとしよう!
大勢のポケモンが一斉に暴れたものだから庭は少し荒れちゃったけど、これぐらいは直せる範疇だ。
これもザンさんとクケちゃん(あの後、なんかスッキリした様子で帰宅した)、そしてヒガナちゃんのおかげだよ。
けど大活躍(多分)してくれたヒガナちゃんにあげられる物と言ったら……。
「いいの?こんなに木の実もらっちゃって」
「いいのいいの。遠慮なく持っていきなさい」
―袋いっぱいに詰め込んだ木の実ぐらいかな。
アクア団が引き払って、街の皆が解散し、店内を掃除してからしばらく経った頃。
夕焼けに照らされたヒガナちゃんが、オボンやモモンといった生でも食べられる木の実をタップリ詰め込んだ袋を背負う。
袋に飛びかかろうとするシガナちゃんの頭を撫でて、ヒガナちゃんは困ったように笑う。
「いくらアクア団の大男を抑えたからって、お詫びのバイトまで免除してくれるなんて……なんか悪いなぁ」
やっぱり忍び込んで盗もうとした事に罪悪感を持っていたみたい。それを償おうという姿勢は良い事だよ。
だけどしたっぱ軍団だけでも苦戦したのに、あの大男まで乱入していたら裏庭は無事では済まなかっただろう。もしもの事を考えるとゾっとする。
だからこそお礼がしたい。明日の売り物にする予定だった新鮮な木の実ぐらいしか渡せる物が無いし、追い払ってくれた時点で罪を償ってくれたようなものだし。
「いやいや、僕の大事な庭とポケモン達が助かったんだ。足りないぐらいだよ」
「あ、じゃあ木の実パンをいくつか頂戴。乾パンがいいなぁ」
「君って遠慮がないね」
神経が太いなぁ、この子。将来、我を通し過ぎてデッカいトラブルを起こしそうだ。
木の実を練り込んで乾燥させたパンを幾つか詰めた袋をホクホク顔で受け取り、シガナちゃんは一層嬉しそうに飛び跳ねる。
「じゃあ、私は行くね。食べ物ありがとう!」
そう言って、沢山の荷物+シガナちゃんを抱えているはずなのに、軽快な足取りで走っていくヒガナちゃん。
急いでいる旅だとは聞いていたけど、足の速い子だなぁ。ていうか力持ちなんだね。頭にクケちゃんを乗せている僕が言うのも難だけど。
「気を付けていくんだよ~」
もう声が届かないぐらいに遠くへ行っちゃったけど、おじさん心で見送る。
ローちゃん達裏庭の番人らも手を振ってお見送り。ザンさんはいつもの場所で寝ちゃいました。
さてと、見送った後は、足跡だらけの裏庭を直して……。
「あ、居た居た!完全に出遅れちゃったわね~」
……ん?カメラを持った人とマイクを持ったお姉さんがやってきた。
「あなた、この店の店主さんよね?私達テレビ局の者なんだけど、アクア団に襲われたって聞いて飛んでやって来たの!よかったらインタビューさせてもらっていいかな?」
「はぁ……」
え?これってもしかして終わるまで帰しませんよ的な流れ?
マイクを握るお姉さんの目はキラキラと輝いており、断ると言う選択肢が浮かばなくなる。
この様子からして夜まで掛かりそうだ……夕飯までに終わってくれる事を祈ろう。
「じゃあまずは……」
あ、コチラの意見は言わせてくれませんか、そうですか。
せめてポケモン達を裏庭に送っておこっと。しばらくかかりそうだから、好きにしていてねー。
だけどクケちゃん、テメーはダメだ。頭の上に乗っからないでよ、もう。
―――
次の日の午前中。昨日のインタビュアーの質問攻めに疲れて寝坊しちゃった。
二度寝してスッキリしたので、まず足跡だらけの裏庭を整備しよう。サンちゃんをボールから出し……。
「……」
何時の間にか、裏庭に無表情の女性1人と、その部下らしい2人の男女がやってきていました。
リーダー格らしい女の子はビシっとしたスーツ姿を着込んでいるけど、どことなく気怠そうな感じの無表情で台無し。OLさんかな?
ゴーストみたいにパッと出て来た(僕が気付かなかっただけかも)ので少し驚いたが、どうにか表情に出さずに質問してみる。
「あの、失礼ですがどちら様で?」
「……ホムラの代理」
「ホムラ?……もしかして、ミナモ支店のホムラさんの事?」
「……そう」
動くのは視線ぐらいで顔の筋肉がちっとも動いておりませんよこの子。なんか怖い。
けどホムラさんの知り合いなら大丈夫かな。後ろの2人組も良く見たら、この間ホムラさんが連れて来た部下さんだった。
なんかこの間みたくポケモン達が警戒しているみたいだけど……きっと能面少女が怖いからだな、うん。
「ところで、どのようなご用件で?」
「……アクア団にアタックされたと聞いて、見に行くよう言われた」
「耳が早いですねぇ」
「……今朝のニュースで見た」
え?昨日インタビューしたばかりなのに、もう放送されていたの?
そういえばお姉さんことマリさんが、テレビ見てみてねって言っていたけど……うちの情報媒介はラジオだけでした。残念!
けど今朝ニュースで見たって言っても、幾らなんでも対応が早すぎるような気が……?
「カガリ様、次のスケジュールへ移行する時間です」
「……ん。解った」
後ろの部下さんが一言。どうやらお忙しいようだ。
頷いた能面少女(カガリさん、というらしい)は懐からメモとペンを出し、何かを書き始める。
「……預けた木の実の栽培は順調?」
「え?……ああ、ヤタピとチイラの実ですか?流石に気が早いですよ。発芽ですらしていないんですから」
「……そう」
視線はメモに集中しつつ受け答えする中、カガリさんはビリっとメモ用紙をちぎって僕に手渡す。
無言の圧力に少しビビりつつ、ちぎったメモ用紙を受け取る。そこにはホムラさんとカガリさんの個人番号が書いてある。
メモ用紙を見ていたら急に風が吹いてきた。何事かと思ったら、何時の間にかカガリさん達がオオスバメを繰り出していた。
「……何かあったら連絡して。……じゃ」
相変わらずの無表情でカガリさんがそう告げると、羽ばたくオオスバメの足に掴まってフライハイ。
僕に向けてお辞儀した部下2人も遅れてオオスバメの足に掴まり、同じくフライハイ。羽ばたきの風が気持ちいいです。
―嵐みたいな人達だったなぁ……。
『……次のニュースです。いよいよ、ホウエンチャンピオン杯が開催されます。チャンピオン・ダイゴへの挑戦を得るべく、大勢のトレーナーが各地のジムに挑むことでしょう』
次回、物語的には割と飛ばします。具体的に言えばヤタピとチイラが育つぐらい。
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その45「きのみ屋さんと夏」
やっぱり考えすぎは良くないんだなぁと思いました(苦笑)
暑い日差しが降り注ぐ日が続く中、ようやくヤタピの実とチイラの実を注文希望数まで回収できました。
いや~、ここのところ暑いのなんの。草が育つのに必要とはいえ、過度な日光と温度は枯らす原因にもなりかねないっす。
さて、ホエルコ如雨露で新しく植えた木の実に水を上げた後、僕はもう一仕事始めよう。
ネンドールのヤーやんが壁を張っているのを他所にホースを取り出し、蛇口に繋いで水を通らせる。
向ける先は―――暑さに参っているうちの草ポケモン+ナゾノクサ軍団。
「ほら、たっぷり水をあげるから元気出しなさいな」
ホースの口を潰して拡散シャワ~じゃ~。生き返る~と言っているかのよに幸せそうな顔が可愛らしい。
ロゼリアのローちゃん、リーフィアのイーくん、ミノマダムのミノさん、マスキッパのキッパさん、それと半野良ポケモンのスーちゃん。
水を浴びたら、グッタリ、から一転して、ニヘラ、と表情を変えていく。ちなみにロトムことロトやんは暑さは平気みたいだ。
ナエトルのダイトさんは、エアームドことアーさんからバシャバシャと水を掛けられて気持ちよさそう。お父さんも大変だ。
「ほらほら、君もね~」
バクオングのゴーさんも参っているようなので水浴び。サンドパンことサンちゃんは水が苦手だからパス。
僕も暑いし、後でシャワーを浴びるか水辺で水浴びしよっと。
暑いといえば、最近はポケモンバトルが熱い。ついにチャンピオン杯が近づいてきたもんね。
ホウエン地方の新たなチャンピオンを決めようと開かれるチャンピオン杯。
そこに出場しようと、トレーナー達は一新したホウエン地方の各ジムに挑むのだ。
最近ではポケモンコンテストも一新したらしく、コンテストも熱いんだそうだ。ルチアっていうアイドルが特に。
そんなこんなでトレーナーの誰も彼もが熱い暑いと連呼しているわけです。
ちなみにうちはマイペースに過ごしています。トレーナーでもあるけど勝利やバトルには拘らないんで~。
さて、水浴びを終えてポケモン達も満足そうだし、今度は僕も汗を流そうかな……。
「ひょひょ、失礼いたしますぞ」
おや、この妙な笑い方は……。
「ホムラさんじゃないですか。お早いお付きですね」
「グッモーニン!良い日差しなので、早い目に目覚めてしまいまして」
無表情の男女の部下を背後に添えた、ふくよかなお腹を揺らす糸目の男・ホムラさんである。
こんな暑い日差しで汗1つも垂らさずにケロリとしているのが凄い。そういえば炎ポケモンを持っているって聞いたなぁ。
「さっそくビジネストークですが、例の木の実は……」
「あ、ヤタピとチイラですね。保存している分を出してきますので、少々お待ちを」
さて、木陰で休んでいる処を申し訳ないが、ゴーさんのパワーが必要なので起こそう。
寝ぼけているけど仕事はキッチリするゴーさんが沢山の箱を物置から出し、僕もそれを出してホムラさん達の前に出す。
「ご注文されていた個数、無事に実りましたよ。ちょっと色を付けておきました」
頑張って育ったから、ダンボール箱が数個必要になるぐらいに実っちゃったんだよね。
余った分は貰っちゃって良いって聞いたけど、それにしたって多いので余剰分も追加。
流石に予想外の量を目の当たりにしたのか、ホムラさんが口笛を鳴らして驚いたように目を開く。う、結構鋭い。
「ほっほぉ……随分と増えましたなぁ」
「張り切っちゃいました」
あっはっは、と軽く笑う。
何時の間にか部下の2人が木の実を数え終えたらしく、ホムラさんに耳打ちする。
「はい、確認が取れましたぞ。では約束の報酬を」
「毎度あり~」
商売は商売なので、遠慮なくお金を貰う……あ、色を付けた分だけ金額が増えてる。キッチリしているなぁ。
「取引成立ですな。今後とも御贔屓にお願いしますぞ」
「こちらこそ」
久々の大きな稼ぎにホクホクしていると、ホムラさんが僕の手を握って握手。
別にお金稼ぎ目当てではないが、こういった大きなお店のお得意さんが出来るのはコチラとしても嬉しい限り。ホムラさん良い人だし。
「もう1つ頼みがあるのですが……オボンクッキーを1缶売って頂けませんかな?」
おお、オボンクッキーが一番多く詰められた缶入りを頼むなんて、よっぽど気に行ったのかな?
せっかくのお得意さんだし、開店前だけどオボンクッキーを準備するとしよう。焼きたてが美味しいんだよね。
……にしても、やっぱりポケモンには嫌われているのかな?遊び好きなイーくんが威嚇しっぱなしだよ。
―――
「それでは、シーユーアゲイン、ですぞ~」
「お気をつけて~」
今度は陸路で移動してきたらしく、帰りは車でご帰宅。妙に赤が目立つ車だったなぁ。
とりあえず見送って、もうすぐ開店時間だと思い出したから準備を進めておこう。
さてさて、暑い時期でも木の実屋さんは頑張りますよ~。
まるで大異変なんか起こりませんよってぐらい平和です。
いっそ原作みたいな事件は未然に防がれたってことにしようかな(ぇ)
こんな感じのきのみ屋さんのスローライフな日々をお楽しみに(笑)
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その46「きのみ屋さんとユウキ」
こっちの方があれだね、書きやすさが違いますね(笑)
描き始めたのは、心機一転、ポケモンASを最初からやり始めました。
草ポケモン縛りで!タイプ縛りって育てるポケモンが決めやすくていいですね。
うちの主人公にラランテス与えたいなぁ…。
最近は妙な出来事が続いている。
暑い日が続くと思えば土砂降りになったり、ポケモンで悪さする人が増えたり、この地方では見慣れないポケモンが増えたり、時間の流れが急に早く感じたり……ゴメン、最後の嘘。
ニュースでは異常気象だとかマグマ団アクア団復活かとか言われているけど、今期のホウエンチャンプ杯に注目が集まっているから雲隠れしがち。
そう、最近のホウエン地方は活気づいてきている。多くの他地方トレーナーがホウエン地方を訪れるから観光業が盛んになっているみたいだし。
それだけチャンピオンへの挑戦権が欲しく、そして様々なトレーナーとぶつかり合いたいっていう欲求があるんだろう。
こういったチャンピオンリーグは他地方でも定期的に開催されており、しかし日付はバラバラだからトレーナーはその度に地方を訪れることになる。
そして開催する地方は収入的な潤いを得るのだ。僕のお店も連日トレーナーのお客さんで賑わい、木の実だけで十分儲かっている。
まぁ、それだけ忙しくなるってことだけどね……不安定な天気の性で木の実栽培も手こずっているし…。
しかし雨にも日照にも負けてられっか!草ポケモン達の助力を得て、ヤタピの実やチイラの実の栽培も順調です。
『あまごい』や『にほんばれ』を持つポケモン欲しいなぁ……天候を変える技って意外と取得が大変なんだよ……。
さて、今日は強烈な太陽が降り注ぎ、昨日の土砂降りで濡れた地面から湯気が出てくる日。
多くのお客さんを捌ききり、ようやく落ち着きを取り戻してきた頃、その人はやってきた。
――大勢のギャラリーを引き寄せて。
「久しぶりだねユウキ君。悪いけど今日の来店はご遠慮願えます?」
「酷いじゃないですかハヤシさん」
だって元とはいえチャンピオンになった事のある人を見ようと大勢人が集まってきているんだもん。
白いニットキャップがトレードマークのユウキ君。昔はトレーナーとしてウチの店によく立ち寄ってくれたものだ。
今ではポケモンダイバーを名乗り、海に関するバイトをしながら様々な地方の海を巡りながらポケモンをゲットしているという。
なんでも伝説のポケモン・カイオーガに出会ってからだそうだが……僕は見たことないから未だに半信半疑だ。夢を持つのはいいけど。
でも彼の一番の有名処といえば「一度とはいえチャンピオンの座を勝ち取ったトレーナー」という事だろう。
直ぐに返還したとはいえ、ホウエン地方チャンピオンになった事実は変わらない。
ユウキというトレーナーはホウエン地方の若者、そしてチャンピオン杯を目指すトレーナーに目がつきやすいのだ。
見つかり次第、こうして色々な人に囲まれる。この店みたいな小さい店舗じゃ収まりきらないぐらいに。
「で、何か買ってくのかい?」
群がるお客さんに静かにするようお願いしてから、僕はレジ前に立つユウキ君に問いかける。
最近売られるようになったヤタピとチイラの実目当てだろうか?人気あり過ぎて在庫殆ど無いけど。
「オボンクッキーを一缶分。それと今日は、ちょっとした宣言をしておこうと思いまして」
「もう少ししたら焼き立てが出来るから待っていて。ところで宣言って?」
丁度いい。乾燥したオボンの実をクッキーの生地に練り込んでいた処だった。
レジから遠くないので、調理場に戻ってから彼の言う『宣言』とやらを聞く……聞き耳を立てるギャラリーと一緒に。
「ありがとうございます。宣言ってのは……原点回帰。一からポケモンを育てホウエンリーグ制覇を目指します」
「……一から全部のジムを回って、ホウエンリーグに出るつもり?」
「そうです」
「わお」
唐突で大胆な宣言ですね、周りがザワめいているよ。ユウキ君は笑顔だけど……あの顔はマジだ。本気と書いてマジな笑顔だ。
ユウキ君が今まで育ててきたポケモンで挑めばいいのに……と思うだろうが、ポケモントレーナーの目的や意図など、それこそ人それぞれだろう。
しかし解らないのは、海の求道者とも言えるユウキ君が、どうしてまたホウレンリーグ制覇を目指すのだろうか?
「それは随分と大胆な目標だね?なんでまたチャンピオンの座を目指すの?」
クッキー生地を均等な大きさに並べ、店舗用大型オーブンに投入。ヒートロトムじゃ小さいからね。
そもそもユウキ君は過去にバッジをコンプリートしているから、ホウエンリーグにそのまま出場できるってのに。
「んー……夢の再確認、ですかね?」
「再確認?」
「僕が何を目指しているのかハッキリさせたいんです」
「何を目指すか?」
「大海に流れるままのメノクラゲのように、ただ海に関するバイトを続けるだけじゃダメだって思うようになりまして」
深刻そうな表情を浮かべるユウキ君の言葉に、そうだったんだ、と思う。
ユウキ君の名が知れ渡っているのは、様々な海に赴き、そこでバイトをしている事にも起因している。
僕もミナモシティやカイナシティに買い物に出かける時によく見かける。最後に見たのは客船の案内員のバイトだったかな?
色々なバイトをして満足しているのかなーと思っていたが、物足りないって感じていたんだね。
「なので、まずは水ポケモンだけを育て、どこまで戦えるかを試します」
「まぁセオリーではあるかな?」
海といえば水タイプだし。育てやすくて弱点も少ないから、水ポケモンだけで旅をするっていうトレーナーは多い。
「もし水ポケモンだけでホウエンリーグを制覇したら?」
現チャンピオンのダイゴさんは未だに強い。鋼タイプに偏っているにも関わらず、他地方のチャンピオンに引けを取らない。
最近のニュースじゃキーストーンを所有するようになったから、むしろ更に強くなっていると思う。
ユウキ君なら確実とは言えないが、ダイゴさんへの挑戦権を得られる確率は高い。彼を水ポケモンで超えた場合、何を目指すのだろうか?
――水ポケモンをマスターする?全ての海を制覇する?もしかしたら自分だけの船をもって船長になるとか言い出すかも。
海の求道者と噂されているユウキ君が、ホウエンリーグを制覇した暁に何をするのだろうか?ワクワクしながら待っていると――。
「カイオーガを捕まえる旅に出ます」
「……はぁぁぁぁぁぁ!?」
マジだ!この子の眼差しも表情も、そして体中から放たれるオーラみたいなのも、本気と書いてマジだ!
僕だけじゃなくてお客さん全員が驚いて叫んでいるよ……宣言しといた本人はキョトンと首を傾げているけど。
「……笑わないんですね?」
「そりゃマジな顔した元チャンピオンが言うんだからね!」
笑われると思ったんだろうけど、君って結構なトレーナーだからね!
そりゃあ伝説のポケモン狙っていますなんて言ったら、出来そうで怖いよ!
ORASの主人公、大胆発言。ゲームじゃ当たり前にしてるけど(苦笑)
私的ポケモン界設定では何年かに一度、地方毎のリーグ的なものを開催します。
ちなみにホウエンリーグ=ホウエンチャンピオン杯と同じと考えてください。
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その47「きのみ屋さんと2人の変化」
ちなみにORAS女の子主人公ハルカはグラードンを捕まえる予定なし。
―ざわ……ざわ……
「ユウキ君はやく帰ってくんない?」
「最後まで聞いてくださいよー」
だってさー、お客さんが騒めいていて、とてもお店を続ける雰囲気になれないもん。
幼い頃なら誰もが一度は見て、しかしいつしか忘れ去られるというお約束の夢「伝説級ポケモンゲット」。
実は今の技術力を考えれば、決して幻想や子供の夢とは言い切れない。
何せライコウやレジスチルといった伝説に近いポケモンを所持するトレーナーが増えてきたのだから。どこで捕まえるのだろう。
それにしたってカイオーガはレベル高すぎでしょう。海を創造したポケモンですぜ?
目の前の少年はマジな目をしているし、ガチでやりそうだからある意味で怖い……。
「じゃあ希望に応えるとして……なしてカイオーガをゲットしようなんて思ったん?」
「忘れられないんですよ」
「忘れられない?」
「昔カイオーガに出会ったことがあるってことは話しましたよね?」
「あ~……ホウエン事変が起こった頃だっけ?」
確かあの時の大雨もカイオーガが原因で、それを鎮めてくれたのがユウキ君なんだっけか。
ダイゴさんもそんなこと話してたし、嘘ではないんだろう。さすユウである。
「水に深く潜る度に、あの姿が脳裏に浮かぶんですよ。
浮力に身を任せて海面を見上げると、そこに溶け込むようにしてカイオーガの蒼い姿が重なって、『ああ、海ってカイオーガみたいに美しいんだ』……と思うんです。
だから、僕は海が、そして水ポケモンが好きになったんだと思います。変な話ですよね。
けどもっと知りたい。全て知れる程僕は浮かれてはいないけど、出来る限り見てみたい。海の、水ポケモンの全てを。ダメならその一端を。それでもダメなら目の前で見れる景色だけでも」
まるで夢遊病者みたいでちょっと怖い……。
なんというか、淡々と、そして真剣に語るユウキ君を見ていると……怖くとも美しくとも思えてくる。
まるで夢を見ている子供のようにキラキラしていて、しかし幻覚を見るかのような危険で暗い色にも見える。
直接ユウキ君の顔を見ていないはずの野次馬ですら、ユウキ君に何かを感じたのか、少し距離を置き始めたし。
――ていうかユウキ君の目って、こんなに蒼かったっけ?
――バタンッ!
「こんにちわぁ~!パインの実ジュースくだぁ~い!」
おや、入って早々にジュースを頼むのは何処の何方……ありゃ?
「は、ハルカ?」
「ハルカちゃんじゃん。久しぶり~」
ずぶ濡れで髪の毛グッショグショだけど、息切れしてテーブルに手をついている女の子はハルカちゃんだった。
あーあ、タンクトップやらスパッツやらが肌に張り付いちゃっているよ……それを見たからって、ユウキ君赤くなっちゃって、初心よのぉ。
「それにしても随分と濡れているね。どしたの?」
「キンセツから、走って、きた、けど……さっきまで、スゴい、大雨で……!」
「マジで?」
息切れしながらも話してくれたハルカちゃんにパインの実ジュース入りのコップを手渡し、外へ出てみる。
うわほんとだ、分厚い雲がすぐそこまで来ている!店のお客さんも僕に倣って次々と外を確認、すぐに自宅へと戻っていく。
「こりゃイカン!ゴーさん洗濯物取り込むの手伝って!」
ハルカちゃんにタオルを手渡したのを確認してからゴーさんにお願いする。
バクオングだからといって大声を出すことなく、しかし慌てて裏庭に走っていく。
「よかったらユウキ君も手伝って!」
「は、はい!」
せっかくだ、知り合いなんだしユウキ君にも手伝ってもらおう!元チャンピオン?知らんな!
今日こそは大丈夫だろうと作業着沢山洗濯したのにぃ!
(……気のせいだったよね?)
隣でワタワタと洗濯物を取り込んでくれるユウキ君をチラリと見て、先ほどのは勘違いだと気づく。
人間の目が急に蒼く見えるとか、どこの厨二病だって話だよね~。AHAHA!
「……はぁ」
バクオングことゴーさんから貰ったタオルで髪の毛を拭き終えたハルカは、溜息を零した。
苛立ちと怠惰を込めた溜息。それを吐き終えると、空に浮かぶ暗雲――正確には近づきつつある大雨――を睨みつける。
「雨なんて……キライ」
雨雲を見つめるハルカの眼は、灼熱に染まった鉄のように朱く染まっていた。
――まるでグラードンのように。
同時刻……嵐吹き荒れるおくりび山の様子を見に来た四天王・フヨウが、ある異変に気付く。
おくりび山の頂に置かれている2つの宝玉「あいいろのたま」と「べにいろのたま」。
それらが突如として強い輝きを放ち、その形状と外観を大きく変化させたという。
―あいいろのたまには「α」、べにいろのたまには「Ω」というマークが。
それっぽいフラグを立ててみました。完全オリジナル設定。
ちなみにハルカちゃんは過去にユウキ勲とは別にグラードンを抑えたとう経験が。
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その48「きのみ屋さんと見知らぬポケモン達」
「あちゃー、こりゃ酷い」
「(´・ω・`;)(ほんとうだねー)」
朝の強い日差しで目覚め裏庭を見に来た僕ことハヤシは、目の前の光景を見てぼやく。
いつもなら腕白リーフィアのイー君が飛び出てはしゃぎだすけど、今回ばかりは困ったように裏庭を眺めているだけだ。
空は気持ちいまでの快晴だけど、芝生はずぶ濡れ、畑の土は泥濘となり、木々や湖には木の葉や飛んできたゴミで装飾されてしまっている。
悩ましい景色にボリボリと頭を掻いていたら、いつの間にか足元にナゾノクサ達とスーちゃんが摺り寄ってきた。おーよしよし、怖かったねー。
水に弱いヤーやんとサンちゃん以外の手持ちポケモン達は、裏庭に散らばるゴミを片付けようとする。
昨夜は凄い嵐だったなぁ。猛烈な風が吹き、バケツをひっくり返したような豪雨がシダケタウンを襲った。
ハルカちゃんが教えてくれなかったら洗濯物が濡れるどころの話じゃなかったよ……急いで裏庭の物を片付けてよかったぁ。
ちなみにユウキ君は、これ以上酷くなる前にと、ハルカちゃんと一緒にペリッパーに乗って帰っていった。
さてさて、ナゾノクサ達を宥め終えたし、次は畑をどうするかだなぁ。
ビチャビチャと水音を立てながら芝生を歩き(足元をローちゃんが嫌そうに歩いてる)、畑に近づく……うわ泥濘が酷い。
それでも木の実は生きているんだから、その生命力につくづく驚く。流石はポケモンの胃袋を支える植物です。
今日は快晴な上に日差しも強いし、少し乾いてから片付けようか……?
「ん?」
ふと畑の周りを歩いて見ていたら、足元の泥濘に変な物が生えているのを発見。
ローちゃんが不思議そうに見ているソレは……どうみてもキノコです本当にありがとうございます。
しかも2本。畑の泥濘からぴょっこりと生えている小さなキノコは可愛らしいが、どうして生えたのやら。
「……」
僕もローちゃんも気になるので引き抜こうと身を屈ませ、手を伸ばす。
すると不思議なことに、2本キノコは互いの距離を維持したままなのに、伸ばした僕の手からヌヌヌっと逃げ出したのだ。
手を伸ばしては離れ、手を伸ばしては離れてを繰り返し……キノコは僕の手と回り込んだローちゃんに挟み込まれる!
「そりゃっ」
両腕を伸ばし、2本のキノコをガッチリとキャッチ!キノコゲットだぜ!
そう思ってキノコを泥濘から引き上げようとすると、両手に結構な重さを感じ、大きな何かがキノコごと出てきた。
泥濘が垂れて見えたのは、オレンジ色の身体に鋭い爪、そして大きな目を持った―――!
「パラスじゃん」
宙ぶらりんでワチャワチャと慌てる、きのこポケモンのパラスであった。
「(・ω・;)(離してあげなよ)」
足元のローちゃんがそんな風に言っているように見上げている……感じがする。
―――
裏庭に生息する半野良ポケモン達用に用意した、大皿に盛り付けたポケモンフーズ。
その大皿に寄って集るナゾノクサ達(とスーちゃん)に紛れてモソモソとポケモンフーズを食べるパラスをじっと見る。
先ほど僕が捕まえたことで観念したのか、今は逃げる素振りも見せず大人しくしている。大人しい性格だろうか。
最初は手持ちポケモン達と一緒に食べるか聞いてみたが、パラスはスルーしてナゾノクサ達の方に。ちょっと寂しい。
「やっぱり昨日の大嵐が原因なのかねぇ?」
朝ごはんのオボンブレッドを頬張りながら呟く。お行儀が悪い?すみません。
ラジオでも大嵐の影響で小型のポケモン達が飛ばされ、各地に落っこちているとか言っているし、十中八九それだろうね。
それにしたってだ、ニュース番組内で専門家も話していたけど、あの嵐は流石に異常だよねぇ。
そもそも最近の天候は本当に変だ。急に晴れたり雨になったりってのは解るけど、その差が極端すぎる!
全くもう、どうしてこんなに荒れているのやら。あれだ、カイオーガとグラードンがまた復活でもしたんじゃないのか?
「いやだなぁ、あんな大荒れの日々がまた来ると思うと」
「キリキリ」
「お、君もそう思う?」
「キリキリ?」
いつの間にかテーブルの上に上がってきたらしい、小さなポケモンが首を傾げている。
ピンクと緑色が合わさっていて、中々に可愛らしいポケモンだなぁ。
「……?」
なんか違和感を覚えたので、堂々とオボンブレッドを食べ始めたポケモンをよく見てみる。
ピンク色と緑色の混じった、虫ポケモンにも草ポケモンにも見える小さなポケモン。
「うん。全然知らないポケモンだね」
自身の小さな身体ほどもあるオボンブレッドを平らげ、満足そうに腹を擦る見知らぬポケモン。
するとピョイ~ンという効果音が似合う跳躍でテーブルから降り、呆然としている僕を含めた手持ちポケモン達を気にせず歩き出す。
そしてナゾノクサ達が群がる大皿へ……あれ?
スーちゃんことスボミーとパラスは解る。
チュリネとボクレーは知識としては知っているが、裏庭に生息していた覚えはない。
そしてそこに混ざるは見知らぬポケモン……体格的に似通っているからか、仲良しな印象を持つ。
うん、ナチュラルに混ざっているけど、増えているね―――知らないポケモンが。
―もしゃもしゃ
隣で咀嚼する音がするのでもしやと思ってテーブルに視線を戻すと……
皿の上で食べかけのオボンブレッドを食べる、葉っぱを纏ったビードルみたいなポケモンが。
「……みりゅ?」
食べちゃダメだった?と言っているように首を傾げる、つぶらな瞳が可愛らしいポケモン。
「……遠慮せずお食べ」
つぶらな瞳に許して朝ごはんを譲ってあげようクルミル君。
もしゃもしゃと嬉しそうに食べているクルミル君を他所に、僕の手持ちポケモンを見る。
「どうしよ」
「「「「「(´д`;)(知らんがな)」」」」」
個性も性格もバラバラな僕の手持ちポケモン達の心が1つに。
―ちなみにナエトルのダイトさんは普通にチビ草ポケモン達に混ざっていた。おこちゃまめ。
―続く―
●裏庭にやってきたポケモン一覧
・パラス
・カリキリ
・チュリネ
・ボクレー
・クルミル
アローラ地方のポケモンがどうしてホウエン地方に来たかって?
これも全部異常気象の性なんだ!(強引すぎる設定)
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その49「きのみ屋さんと草ポケモン達」
そして異常気象以上に便利な言葉を考え付いた(ぇ)
「もしかしたら、この子達はマボロシ島からやってきたのかもしれないね」
「まぼろしま?」
「マボロシ島」
オダマキ博士に「見知らぬ草ポケモンが乱入なう」とライブキャスターで連絡したら即参上した件。いや、たまたま近所をフィールドワークしてたんだけどさ。
ワキャワキャとナゾノクサ達(+スボミー♀ことスーちゃん)と混じって遊んでいるのは、パラス・チュリネ・ボクレー・クルミル・そして全く知らん草ポケモンの計5匹。
ご飯を食べたばかりだから元気いっぱいだ。因みにイーくんとアーさん以外の手持ちポケモン達はその様子を眺めている。知らないポケモンが居るから様子見してんのかな?
「マボロシ島は其の名の通り幻の島でね、『そらをとぶ』で探しても滅多に見つからないんだ。ハルカやユウキ君といった見つけた事のあるトレーナーの話によると、珍しいポケモンもチラホラいたようなんだ」
「というと、この間の嵐が原因で?」
「ニュースでも言ってたけど、その通りだ。私もその調査を兼ねてフィールドワークをしていたんだけど……ここまで密集しているとは思わなかったよ」
珍しそうに草ポケモン達を見るオダマキ博士。うん、ホウエン地方では見かけないであろうポケモン達が種類豊富に取り揃えてありますからね、仕方ないね。
するとオダマキ博士は「しかもだ」と言って草ポケモン達に近寄り、虫みたいなポケモンを素早くキャッチ。「キャー」と言っているようにはしゃいでいるが、オダマキ博士は気にせず、そのポケモンを僕に見せつける。
「このポケモンは特に珍しいよ。何せアローラ地方のポケモン『カリキリ』なんだから」
わちゃわちゃと暴れる草ポケモン(カリキリというらしい)を抱きかかえてオダマキ博士は言う―――What?
「アローラ地方?」
「最近話題にも出てるアローラ地方」
君も聞いたことはあるだろう?とオダマキ博士は言う。
アローラ地方と言ったら最近ニュースの話題にも出てくる新しい地方で、最近になって交流が盛んになったという。
独特の文化と生態系があると地方で、その地方に住むナッシーは首が滅茶苦茶伸びるという。写真でも見たが……あれは良いものだ。ポッ。
最近ではポケモンリーグ協会が関わったとかなんとか……まぁバトルは程々な僕にはどうでもいい話か。マサラダ食ってみてぇ~。
「しかしどうしてアローラ地方のポケモンがこんな所に……そもそもイッシュ地方とカロス地方のポケモン達がマボロシ島に生息する理由が……もしや噂に聞くウルトラホールの影響か……?」
そんなアローラ地方への想いを寄せていたら、オダマキ博士はカリキリを抱きかかえたままブツブツと脳内会議中。うるとらほーるってなんぞ?
野性派とも言われている(ハルカちゃんも野性的だったような)オダマキ博士だが、やっぱり科学者なんだなぁと思いつつその様子を眺める。
しかしマボロシ島かぁ……クルミルやボクレーと言ったポケモンがどうしてそんな島に住んでいるのやら。確かに台風で吹き飛ばされたで片づけて良い話じゃないけどさ。
船とか飛行機の荷物に紛れ込んだ「密入国」ならまだ解るけど、ニュースによるとシダケタウン以外でも他地方のポケモンを見たっていうし……どんだけ侵入されてんねん。
アローラ地方のポケモンも混ざっているのか、それともこのカリキリだけなのか……そこはオダマキ博士や
そしたらいつの間にかカリキリがオダマキ博士の腕から抜き出しており、はーやれやれ、と言っているように僕の太ももの上へぴょい~んっと跳び乗った。
そのまま椅子に座る僕を椅子代わりにカリキリが休憩を取る……なんつうかさ、君って本当に野生のポケモン?随分と人馴れしているようなんですが。
「……うりうり」
試しにカリキリの頭をグリグリと撫でたら心地よさそうに目を細めている。やだコノコ可愛い。
するとポンポンと跳びながらチュリネがやってきて、カリキリに鳴き声を上げてきた。「一緒にあそぼ」とでも言っているのだろうか?
対してカリキリは「今はいい」と言っているように鎌っぽい小さな葉っぱを振ると、チュリネは興味を失ってクルミルの上に乗っかり出した……あ、パラスも乗っかった。どこの積むパズルゲーだよ。クルミル苦しそ……うでもなく平気だった。強い子だ。
「……欲しいな」
ぽつりと呟くと、いつの間にかテーブルの上に居たローちゃんも同意しているように首を縦に振った。じゅるり。
バトルは苦手とはいえ、僕もポケモントレーナー。ポケモンは家族というより、危険ながらも頼れる仕事仲間っていう印象です。持ちつ持たれつな関係を築くのが僕流のポケモンライフ。
なので、珍しいポケモンや可愛らしいポケモンには興味を持ち、欲しくなっちゃうものです。無理やりにはゲットしないけど……あのカリキリは超珍しいってこともあって物欲が沸いちゃう。
チラリと横目を向ければオダマキ博士はブツブツ独り言なう。仮にゲットしても文句は言わなさそう。いやゲットしたら生態調査に協力してとか言って認めてくれるかも。
「えー、皆さん。1つお願いがあります」
ガサガサとオリジナルブレンド(各種きのみをポケモンフーズに織り交ぜたモノ)の袋を鳴らしながら言う―――10秒以内で僕の手持ちポケモン達が集結。流石。
ガーさん、アーさん、サンちゃん、キッパさん、ゴーさん、イーくん、ミノちゃん、そしてクケちゃん……は僕の頭の上。重いんだけど気にせず。
ヤーやんは相変わらず畑を周回し、ダイトさんはナゾノクサ達に入り混じって遊んでます。木陰で眠るザンさんに近づかないのはお約束。ロトやん?ビビって家から出てきません。
「各自包囲網を敷け!あの子らが裏庭から出ていかないように!」
各自「ラジャー」と言っているように敬礼し、さりげなく移動して出入り口を塞ぐポジションに付く。
ふふふ、何も知らずに遊ぶお子ちゃま草ポケモン共よ……逃げ道を塞がれた以上、お前らはじっくりと籠絡されるしかないのだ……。
―具体的には食い物と環境で!
―続く―
勢いで書いたら、ハーメルン内で20分で書けちゃった。楽チーン(粗削り+誤字多発必須)
そして便利な言葉「ウルトラホール」!ゲーム未プレイだから詳しくは知らんけどな(ぇ)
次回、草ポケモンスカウト大作戦!
●最後にどうでもいい話。
「EverOasis」というゲームが来月発売されるんですが、この作品みたいで私好み(笑)
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