ヘタレガンナーと戦闘狂ヒロイン達 (黒霧春也)
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1話、ことの始まり

 8月上旬の暑い日。ウルフカットの少年が、いつも通りリビングでテレビを見ているとピンポンピンポンとチャイムが連続で鳴らされる音が聞こえる。

 

「またアイツか……」

 

 何回もチャイムが鳴らされため息を吐く少年は、嫌な気持ちになりなから家のドアを開ける。

 

「なん……」

「ふゔやじゃーん!」

「ちょ、おいぃ!?」

 

 ドアを開けた瞬間に赤髪ポニーテールの少女……ウルフカットの少年こと月白風矢の幼馴染である水山雫が、家の門を強引に開けて風矢の足元に抱きつきワンワンと泣き始めた。

 

「うぅ、もう受験勉強は嫌!」

「それを俺に言うか……」

「言うわ!」

 

 高校受験シーズン真っ盛りで勉強が嫌になるのはわかるのか、風矢も渋い表情を浮かべる。

 

(まあ、俺も勉強は得意じゃないからな)

 

 自分の足元でワンワン泣いている雫に面倒くさがりながら、風矢は彼女に現実を突きつける。

 

「ただな、受験をしないと高校に入学できないぞ」

「そんなの知っているわ!」

 

 現実を突きつけなんとかしようとする風矢だったが、雫は風矢の言葉を耳にして泣きながらある書類を取り出す。

 

「じゃあどうするんだよ?」

「これを見てよ!」

「え?」

 

『ボーダー隊員募集! ボーダーは君たちの入隊と活躍を待っている!』

 

 安い謳い文句が書かれた書類。内容はボーダー入隊のチラシだった。

 

「ボーダーに入ればボーダー推薦があるから受験しなくて済むのよ!」

「お前な……」

「それに正隊員になればお給料も出るの! こんなのやるしかないわ」

 

 さあやろう、と言っている雫に冷たい視線を浴びせ否定しようとしたが……。

 

「それに風矢のお母さんには話が通っているし書類も出しておいたわよ」

「はあぁ!?」

(待て待て!?)

 

 なんかいきなりの発言に驚いた風矢は、玄関で笑みを浮かべている雫の頭を引っ叩く。

 

「いたっ!? いきなり引っ叩かないでよ!」

「お前何やらかしているんだよ!?」

「一人で入るのは心細いからいいじゃないの!」

 

 もう一度引っ叩こうとした風矢の手を雫はなんとか抑え、そのまま数分後。

 

「……どうしてこうなるんだ」

「し、知らないわよ」

「いやお前のせいだろ!」

 

 ゼェゼェと息を吐く風矢と玄関でへたり込む雫。醜い2人の争いはあっけない結末で終わった。

 

 ーー

 

 1週間後、送られてきた書類を持ちボーダーの試験会場に到着した2人は当てられた席に座る。

 

「絶対に合格するわ」

(アイツ気合いが入りすぎないか?)

 

 ブツブツと呟いている雫をよそに黙って周りを見る風矢。試験会場には100を超える受験者がおり、みんな緊張しているのか表情が固い。

 

『では、試験開始します』

 

 風矢達が席についた後、席に置いてある試験用紙を裏返しマークシート型の答案用紙を見る。

 

(これはなかなか)

 

 マークシートだから楽かと思った風矢だったが、内容が難しいので頭を抱える。

 

 ーー

 

 ボーダー入隊の筆記試験、体力試験、面接が終わりさらに2週間後。合格確認をするためにボーダーの試験会場に向かう2人。

 

「私、絶対に合格しているわ!」

「その自信はどこから出てきているんだ?」

 

 数々の問題行動を起こしてきた雫と後処理を任されてきた風矢。狂犬美少女と苦労人イケメンの繋がりは深く、特に風矢の方は自分の胃に穴が開きそうだと思っている。

 

(落ちてくれよ)

 

 このままボーダーでも雫の面倒を見ないといけなくなる。そんなのは避けたいと思い祈る風矢だったが……。

 

「あぁ! 私も風矢も合格しているわ!」

「へ?」

「やったわ!」

 

 受験場に到着した瞬間、雫が合格している事を口にした。風矢は雫の言葉を耳にして口を大きく開けて固まる。

 

「ちょ!?」

「何驚いているのよ!」

(終わった……)

 

 テンションが上がっているのかジャンプしている雫と落ち込んで俯いている風矢。

 

「これからどうしよう」

 

 さらに面倒ごとが増えると思い風矢はため息を吐きながら建物内に入っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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2話・ボーダー入隊

・原作開始の2年3ヶ月前スタートになります


 9月上旬、正式入隊の日。

 

 合格者達はC級隊員専用のトリガーを渡され、現在はトリオン体と呼ばれる生身とは違う体になっている。

 

「俺がボーダー隊員か……」

「なんでそんな凹んでいるの?」

「そりゃそうだろ」

 

 新人達が集まる空間で凹んでいるウルフカットの少年と、隣でニコニコ笑っているポニーテールの少女。2人の温度差がひどく周りの人達は若干引いていた。

 

(もうやるしかないか)

 

 無駄に考えても意味がない、そう思った風矢は俯くのをやめて前を見ると壇上には赤い服を着た正隊員達と本部の偉い人が立っていた。

 

「これより新人入隊式を始める」

 

 会場のアナウンスから聞こえる声を聞いた新人C級隊員達は、急いで隊列を作り壇上にいる偉い人達の方を見る。

 

「待たせてすまない、ボーダー本部長の忍田だ! 君たちの入学を歓迎する」

 

 本部長である忍田さんの声を聞いた新人隊員達。彼ら彼女達の顔がこわばり緊張している中、雫だけ笑顔で笑っていた。

 

(おいぃ!?)

 

 また問題行動を起こすんじゃないのかとヒヤヒヤする風矢。だが彼の予想とは裏腹に忍田本部長の話は進んでいく。

 

「先程も説明があっただろうが、君たちは本日をもってC級隊員……つまりは訓練生になる」

(なるほど……)

「訓練生は防衛任務では出られないが、訓練を繰り返し正隊員になり三門市……いや、人類をの未来は君たちにかかっている!」

 

 壇上の上で淡々しつつも熱く語る忍田本部長に感化されたのか、やる気になる隊員達。

 

「君たちと戦える日を待っている!」

 

 以上だと敬礼する忍田本部長に向かって敬礼を返す新人達。彼らの顔は誰も彼もやる気に満ちており、忍田本部長の演説で指揮が高まっていた。

 

「では、この先は嵐山隊に一任する」

 

 忍田本部長が壇上から去り、赤色のジャージをきた男性4人が中央に立つ。

 

「早速だが入隊おめでとう! 俺の名前は嵐山准、今回の入隊式を任された者だ。早速で悪いが正隊員……B級隊員に上がるための説明をする」

 

 嵐山さんの説明でB級隊員に上がる方法……大体の人は1000ポイントから始まり、そのポイントを4000まで貯めると昇格する。

 

(ポイント制なんだな)

 

 自分の手の甲を見ると1000ポイントと表示されていた。周りでは誇らしげに手を挙げる人物がおり2200や1900などが書かれていた。

 

「ねぇねぇ、風矢! 私のポイントは3000だよ」

「おい……今は嵐山隊が説明しているから静かにしろ」

「えー」

 

 隣で3000ポイントのやつがいる。この時点で雫との差を感じた風矢は劣等感に駆られるが、嵐山隊の説明が続いたいるので耳を傾ける。

 

「ポイントを貯めるには訓練をクリアしたりランク戦をすれば良い」

(なかなか理解が難しい)

「まあ、言葉で聞いても難しいと思うし訓練を体験してもらおう」

 

 嵐山が仲間の隊員達に指示を出し、佐鳥とスナイパー志望の人達は別の会場に向かい。風矢と雫は嵐山が時枝、柿崎を連れて新人達とある場所に向かう。

 

「ここが訓練場所だ」

 

 案内された場所は小さな体育館みたいな部屋が複数ある場所。その場所で嵐山が指示を出すと体育館の中に大きな目玉がある化け物が現れた。

 

「コイツはバムスター、テレビとかでよく見る馴染み深い奴だ。コイツは装甲は硬いが動きは遅く倒しやすい相手だ」

 

 ネイバーが作られるところを見た新人達が驚いているが、嵐山は冷静に言葉を発した。

 

「これから5分測るからコイツを倒してくれ。早ければ早いほどポイントが高くもらえるぞ」

(マジか!)

 

 ポイントと聞いて目を輝かせる隊員達がチラホラ。もちろん風矢の隣にいる雫も目を輝かせている。

 

「コイツの弱点である目を狙うと倒しやすいから、その事を頭に入れて倒してくれ」 

(いきなり戦うのかよ)

 

 順番で最初になった風矢は、トリガーの使い方を思い出しながら訓練室の中に入る。

 

「やるしかない!」

 

 C級隊員のトリガーは一つしかなく、風矢が手にしているのは突撃銃型のトリガー。セットされている弾丸はアステロイドと呼ばれる通常弾で、説明によれば特殊な効果はないけど威力がやや高い弾丸。

 

(うわぁ、前から見ると大きいな)

 

 訓練用に装甲が厚くされているバムスターは、3〜4メートルくらいの大きさがり威圧感もある。

 

『3号室、訓練始め!』

「!!」

 

 訓練が始まったと同時にバムスターが風矢に向かって突進を仕掛ける。風矢は相手動きを見て大きくバックステップを踏む。

 

「なんかめっちゃ飛んでない?」

 

 生身と違いトリオン体では身体能力も大きく向上しており、現実では飛べない高さまでジャンプした。

 

(よし!)

 

 着地した風矢はバムスターに向けて銃口を向け、セットされている弾丸であるアステロイドを弱点に向けてぶっ放す。

 

《ギギギ》

 

 バムスターは風矢の弾丸を受けて致命的なダメージを負うが、まだ動けるみたいで首を振る。

 

「悪いが終わらせる」

 

 無駄に動くバムスターに対して風矢は的確に射撃を決め。ついにズドンと倒れてバムスターは粒子になり消えていく。

 

『訓練終了、タイム46秒』

 

 平均がどれくらいかわからないが最初では悪くないはず。風矢は訓練室から出てため息を吐いていると嵐山に声をかけられる。

 

「君、最初で1分を切るなんてやるね」

「あ、えぇ、ありがとうございます」

 

 嵐山の言葉に驚きながら頷く風矢をよそに、隣の2号室からとんでもない結果がでた。

 

『訓練終了、タイム9.5秒』

(はぁぁ!?)

 

 9.5秒、1分でも早いと言われている記録の中でケタが違う速さ。風矢と嵐山は桁違いの速さを出した訓練室の方を見ると、ポニーテールを揺らしながら雫が出てきた。

 

「満点ゲット!」

(マジかよ)

 

 雫が持っているトリガーは、孤月で接近しないと攻撃が当たらないアタッカータイプなのに9.5秒の記録が出せるのは一種の才能である。

 

「これはすごい記録がでたな」

 

 嵐山が冷や汗を流し、少し離れた場所で引率している時枝や柿崎も同じ表情を浮かべている。風矢は正隊員3人の表情を見た風矢はため息を吐く。

 

(本当に正隊員になりそうだな)

 

 半分どうでも良くなってきた風矢は、笑いながら離れていく。

 

 ーー

 

 初めての訓練が終わり、風矢の手の甲には1015ポイントと書かれていた。今回の満点は20ポイントなので悪くない成績だ。

 

「まあ、行きますか」

(ここだよな)

 

 嵐山隊との訓練が終わり風矢はC級ランク戦の会場にいた。

 

「えっと……」

 

 風矢はランク戦会場のブースの中に入り、中にあるタッチパネルを見る。

 

(部屋番号と使っているトリガー、後はポイントが書かれているのか)

 

 タッチパネルの使い方はさっき聞いたので手頃な相手を探す。すると1538ポイントスコーピオンと書かれた相手を見つけたので対戦申請を送る。

 

「よし!」

 

 相手も対戦を受諾したので風矢の体は仮想戦闘マップに飛ばされる。

 

『対戦エリア、市街地A』

 

「マジで転移した!」

 

 仮想フィールドを見るのが初めてな風矢は周りを見たり近くを飛び回っていた。すると後ろからスコーピオンを構えた少年が現れ風矢に攻撃を仕掛けた。

 

「くらえ!」

「うぉ!?」

 

 相手の攻撃をなんとか回避した風矢は自分のトリガーである突撃銃を起動。相手は隙を与えないように攻撃を仕掛けてくるが、風矢は攻撃を避けながら相手に弾丸を浴びせる。

 

「ちょ!?」

『トリオン供給期間破損、ベイルアウト』

 

 距離的にはスコーピオン持ちのアタッカーの方が有利だったが、風矢の逃げの姿勢の方が勝った。

 

「な、なんとか勝った」

 

 風矢もへたり込みながら転移されて元のブースに戻ってくる。

 

 アステロイド〈突撃銃〉、1015→1060

 スコーピオン、1538→1493

 

 



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3話、若村麓郎

 10月上旬、風矢と雫がボーダーに入隊して1ヶ月。C級ランク戦会場では、赤髪ポニーテールの召喚が黒髪ウルフカットの少年の足に泣きながら抱きついていた。

 

「ふゔやじゃーん! まだまげだ!」

「ちょ!? ここで抱きつくのはやめてくれ!」

 

 周りの訓練生達は冷めた視線を2人に送り、風矢は吐きそうになりながら雫を剥がそうとする。だが雫が風矢の足にしっかり抱きついているのでなかなか離れられない。

 

「いいから離れろ!」

「なら、私の話を聞いて!」

「……わかった」

 

 ここで駄々をこねられると面倒だと判断した風矢は、雫の要件を飲み頷く。

 

(またか)

 

 涙を浮かべる雫と共にロビーのソファに座る風矢。まずは雫が泣いている理由を聞き始める。

 

「で、なんで泣いていたんだ?」

「それは……私がカモにされているからよ!」

「は?」

 

 雫が、自分はカモにされていると言い手の甲のポイントを表示させた。そのポイントは2151と書かれており入隊時の3000ポイントを大きく下回っている。

 

「アタッカーは勝てるけどシューターやガンナーは射程があるから勝てない!」

「あー」

 

 C級ランク戦の都合上、正隊員が持っているシールドと呼ばれる半透明の盾が持てず。孤月持ちの雫は、射程があるシューターやガンナーにはめ殺されるみたいだ。

 

(まあ、そのおかげで俺はポイントを稼げたけどな)

 

 この1ヶ月で3124ポイントまで稼いだ風矢をよそにワンワンと泣く雫。ここまできたら流石に可哀想だと思い、風矢は一つアドバイスをする。

 

「お前な、正直に突撃するから負けるんだよ」

「え? それじゃあどうすればいいの?」

「……遮蔽物を壁にしたり不意打ちとかしたら?」

「あぁ! なるほど!」

 

 風矢のアドバイスはありきたりの物だったが、雫には目が鱗みたいで笑顔を浮かべながらランク戦ブースに走っていった。

 

「アイツも元気になったし行きますか」

 

 今日もポイントを稼ぎますか、と気合を入れた風矢は108号室に入る。するといきなり対戦申請が送られてきた。

 

「えっと2860ポイントか」

 

 トリガーは風矢と同じアステロイド〈突撃銃〉で、早速OKボタンを押し仮想フィールドに立つ。

 

『C級ランク戦開始!』

 

 開始の合図と同時に、相手のメガネをかけた少年がアステロイドをぶっ放してきた。

 

(いきなりか!)

 

 風矢は路地裏に入り相手の弾丸をやり過ごす。だが相手は追撃を仕掛ける為に風矢を追いかけてきた。

 

「このままじゃやられるな」

 

 直撃ではないがジリジリと削られるトリオン体を見た風矢は、勝負をかける為に屋根に登る。

 

「逃げてばかりじゃ勝てないぜ!」

 

 相手の少年は余裕そうに追いかけてきた瞬間、風矢は相手が着地したと同時に引き金を引く。

 

「なに!? ぐっ!」

 

 思わぬ反撃を食らったメガネの少年は思わず屋根から飛び降りる。その隙を見た風矢は相手を追いかけトドメを指す。

 

 108号室、アステロイド〈突撃銃〉、3124→3154

 205号室、アステロイド〈突撃銃〉、2850→2820

 

 ーー

 

 あれから風矢はメガネの少年と模擬戦を繰り返し4勝1敗という結果で終わり、一旦飲み物を買いに行くためにブースにから出る。すると205号室のメガネの少年も出てきて声をかけてくる。

 

「お前、名前はなんでいうんだ?」

「月白風矢だ」

「月白風矢か……オレの名前は若村麓郎だ」

 

 メガネの少年、若村麓郎はクールな見た目をしているが熱くなりやすいタイプみたいだ。風矢は同じガンナーの若村と話しながら買ってきたジュースを飲む。

 

「まさか逃げ腰なのは罠だったのか」

「まあ、あの戦法の方が点が取りやすいからな」

 

 ソファーに座りながら2人で仲良くジュースを飲む中、C級ランク戦会場の方から女性が喧嘩する声が聞こえる。

 

「「おい、まさか……」」

 

 その声に聞き覚えがあったのか、風矢と若村は思わず呟き同時に立ち上がる。

 

(嫌な予感が)

 

 2人同時に嫌な予感を感じ、喧嘩している場所の方を見る。すると赤髪ポニーテールの少女と、黒髪ロングヘアの目つきの鋭い少女が何かを言い合っていた。

 

「あんた! その火力がムカつくのよ!」

「私にポイントを取られてイラついている可哀想な人の言い分なんて聞きたくないわ」

「何ですって!」

「なに? タコさんウインナー(笑)」

「!! 殺す!」

「「待て待て!?」」

 

 取っ組みあっている少女達を見た風矢と若村は、叫びながら2人を止めるために中に入る。

 

「ちょ! 放してよ!」

「いいから落ち着け」

「葉子、何があったんだよ」

「邪魔するな麓郎!」

 

 雫に向かって殴りかかりそうな少女、香取葉子。彼女は雫にポイントを取られた事に苛立っているか彼女を睨みつけていた。

 

「何よ! 私に勝てない雑魚のくせに」

「はぁ!? アンタのトリガーの性能がおかしいだけで負けてないわ!」

「ん? トリガーの性能がおかしいだと?」

 

 香取の言葉を聞いた若村が疑問符を浮かべたので、隣でガルガルと威嚇している雫の代わりに風矢が説明を始めた。

 

「あーその件だが、雫のトリオン量が多いだけなんだよ」

「それってどれくらい多いんだ?」

「俺のトリオンが6でコイツのトリオンは12だ」

「「12!?」」

 

 風矢のトリオン量は若村や香取と同じ6だが、雫のトリオン量は12でボーダーの中でもトップクラスの数値だ。

 

「じゃあアタシのスコーピオンが簡単に折れた理由は……」

「そう、コイツのトリオンのせいだ」

「どうよ私のトリオンは!」

「!?」

「「……」」

 

 表示が死んでいる男性陣をよそに、煽った雫と煽られた香取は互いにチラ見付け合う。

 

「上等よ! 今度こそアンタをボコボコにしてやるわ!」

「やれるもんならやってみなさい!」

 

 少女2人が睨みつけ合いながらブースに入り、残った風矢と若村は互いに顔を見合わせる。

 

「苦労しているんだな……」

「互いにな……」

 

 互いにため息を吐き、少女2人が入っていったブースを見る。

 

 ーー

 

 少女2人がランク戦でぶつかっている中、風矢と若村はソファーに座りガンナータイプの話していた。

 

「そういやー、銃のタイプ変えれるらしいぞ」

「そうなん?」

「あぁ、正隊員で変えている人がいたぞ」

 

 若村の言葉を聞いた風矢は少し考えた後、何個か思い描いている事を口にする。

 

「なるほど……それなら片手でも使えるアサルトライフルがいいな」

「それならP90型はどうだ?」

「確かにありだな」

 

 スマホで銃の形を調べた2人は、開発室に向かい今使っているアサルトライフルの形をP90型に変更。使い勝手を試すために互いにC級ランク戦を始めた。

 

(若村は他の人と戦っているのか)

 

 既に戦い始めた若村をよそに、風矢は3000くらいの相手に申請を送り相手も受諾。対戦フィールドの市街地Aに移動した。

 

「さてと行きますか!」

 

 相手がスコーピオンを構えて突撃を仕掛けてきたので、突撃銃を構えて下がりながら反撃をする風矢。

 

「チイィ!」

 

 思わず舌打ちをした風矢だったが、その隙を突かれてスコーピオンの斬撃を食らいベイルアウトした。

 

 108号室、××〇〇〇

 209号室、〇〇×××

 

 最初の2戦は負け越したが、なんとか持ち直して最後は勝つことに成功した。その結果、ポイントが手に入るが若村と戦った後と対して変わってない。

 

 アステロイド〈突撃銃〉3263

 

 ただ今日だけでも100ポイント以上稼げた風矢は、ホクホク顔になりながらブースから出て行く。

 

 

 



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4話、B級昇格

 突撃銃の形を変えてからさらに半月後、ついに……。

 

「やっと4000ポイント貯まった」

 

 風矢の手の甲には4015と書かれた数字。最初のオリエンテーションで言われていたB級昇格に必要なポイント。

 

「確か開発室に報告すればいいんだよな」

 

 最初の説明では細かな事は言われておらず、自力で調べた結果。開発室に報告すればいいと出たので、風矢は目的地に向かう。

 

(確か正隊員になれば他のトリガーも使えるんだよな)

 

 支給されたカタログには他のトリガー情報も載っており、面白そうなトリガーも見つけた。

 

「さて、どうしようか」

 

 ブツブツ考えていると目的地である開発室に到着。風矢は開発室のドアを開けて部屋の中に入る。

 

「すみませんー」

「ん? なんだ?」

「え、いや、そのー」

「ハッキリ言葉にせんか!」

 

 開発室に入ると目にクマを作った肥満男性と目があった。風矢は少しビビりながら言葉を口にする。

 

「実は4000ポイント貯まったのでB級昇格したいです」

「おお、そうか!」

 

 B級に昇格すると聞いた肥満男性こと鬼怒田開発室長は、風矢の肩を叩きながら話してきた。

 

「お前さん、B級になるのはいいがトリガー構成はどうするんだ?」

「それは決めてます」

 

 風矢は考えていたトリガー構成を鬼怒田に伝えた。鬼怒田は風矢のトリガー構成を聞いて少し驚いたが、早速B級のトリガーを用意してチップをセットした。

 

〈メイン〉

・アステロイド〈突撃銃〉

・カメレオン〈試作〉

・シールド

・フリー

〈サブ〉

・メテオラ

・サイレンサー

・シールド

・バックワーム

 

 ガンナートリガーはそこまで火力が出せない。風矢はその弱点を考え、隠密向きのトリガー構成を選んだ。

 

「まるで暗殺者みたいだな」

「ええ、そうですね」

 

 技術班の人にトリガー構成をして貰った風矢は、正隊員用のトリガーを受け取り頭を下げてから開発室を出る。

 

 ーー

 

 係の人からボーダー専用のスマホや防衛任務参加などを聞いた後。今までの白いC級の制服ではなく、B級の青いジャージを着た風矢はランク戦会場には向かわずに訓練室に向かった。

 

「すみませんー、訓練したいのですが大丈夫ですか?」

「あ、はい! 大丈夫ですよ!」

 

 係の人に声をかけた風矢は、相手の言葉を聞き訓練室の中に入る。

 

(試し打ちだ)

 

 訓練室に入り相手のトリオン兵。蠍みたいな見た目に鋭いブレードを持つ戦闘型のトリオン兵であるモールモットが現れた。

 

《ギギィ!》

 

 何もない殺風景な部屋の中、高速で近づいてくるモールモット。

 

「悪いが見えているんだよ!」

(メテオラ!)

 

 風矢は目の前に薄緑色のキューブを出し教えて貰った通り分割する。3×3×3の27分割されたメテオラは、高速接近してきたモールモットに直撃。爆発を起こしモールモットのブレードを破壊する。

 

「よし!」

 

 バックステップを踏みながらアステロイドの射撃でモールモットを沈める風矢。

 

(どんどん行きますか)

 

 最初が上手くいった事に調子づいた風矢。しかしこの後、モールモットが2匹出てきたりしてフルボッコにされることになるとは彼も夢にも思ってなかった。

 

 ーー

 

 一通り訓練を終えた昼休憩。

 

「あの人め……」

 

 風矢は機材を操作していた人の恨みつらみを口にしながら、食堂のメニューを見始めた。

 

〈食堂メニュー〉

・Aセット、ラーメン、半チャーハン、餃子

・Bセット、ハンバーグプレート

・Cセット、ナスカレーセット

 

 最後のナスカレーはツッコミどころがあるが、そんな事はつゆしらす。Bセットを選んだ風矢は食券を購入して食堂のおばちゃんに渡す。

 

「はい、どうぞ」

「ありがとうございます」

 

 ハンバーグセットを受け取りカウンター席に座りトリガーを解除する。

 

「さてと、いただきます!」

 

 メインであるハンバーグを箸で切り口に含む。味はかなり良くボーダーの食堂はレベルが高い様だ。

 

(しっかし、俺もボーダーに馴染んだな)

 

 最初は雫に巻き込まれて強引に入らされたボーダーだったが、若村や香取ど出会って楽しんだりしている。

 

「悪くないかもな」

 

 コーンスープを飲みながら今までの事を考えながら残りの料理を食べる。

 

 ーー

 

 昼休憩を終わらせC級ランク戦会場に足を踏み入れる。

 

「おっ、やっときたか」

「またせた」

 

 風矢が来た時には若村がロビーで待っており、その隣には優しそうな雰囲気をしたふさふさ髪の少年がいた。

 

「ろっくんが言っていたガンナーでいいんだよね」

「そうだな」

 

 ふさふさ髪の少年はC級の制服を着ており、若村と仲が良さそうに話していた。

 

「はじめまして、おれの名前は三浦雄太……ろっくんとは友達だよ」

「どうも、俺の名前は月白風矢です」

「あ、同級生だから敬語はいらないよ」

「わかった」

 

 フワフワとしている三浦と苦労人の風矢。2人の相性は悪くなくソファーに座りながら会話を進めた。

 

「へぇ、おれ達と同期なのにB級に昇格したんだ」

「まあな……たた、俺も1ヶ月半で慣れるとは思ったなかったけどね」

「確か風矢は水山に巻き込まれた形でボーダーに入隊したんだよな」

「巻き込まれたと言うよりも強制的にな」

「なんか苦労しているんだね」

 

 三浦の言葉に渋い顔を浮かべて頷く風矢。彼の表情は優れていないが、ふとある事が気になったので若村に質問する。

 

「そういえば、雫と香取は?」

「アイツらは、いつも通りの事をしているぞ」

「またか……」

「おれは元気でいいと思うよ」

 

 若村が指差した場所はランク戦のブース。出会って半月、互いに仲が悪い2人は顔を合わせるたびに喧嘩を起こしている。

 

「他の相手と戦えばB級に上がれそうなのにな」

「少なくとも今の雫にはその言葉は届かない」

「ヨーコちゃんには微妙かな」

 

 既にB級下位の実力を持つ女性陣2人を思い浮かべる男性陣3人。そのうち三浦以外の2人はため息を吐く。

 

((また落ち着かせるのに時間がかかる))

 

 風矢と若村は同じことを考えており、これから起こる癇癪にどう対応するか考え始める。

 

 ーー

 

 雫と香取、互いにライバル同士の2人は今日だけでも50戦以上していた。

 

「このトリオンお化けめ!」

 

 香取が使うのはスピードタイプのアタッカーが使う軽量ブレードであるスコーピオン。耐久力が低いが自由度は高く、体のどこからでも出せる奇襲系タイプ。

 

「何よ、タコさんウインナー!」

「誰がタコさんウインナーよ!」

「アンタに決まっているでしょ!!」

 

 スコーピオンの刃を万能ブレードである孤月で叩き割る雫。2人の戦いは6対4で雫が勝ち越しているが、香取の腕も上がっており互いに高め合っている。

 

 水山、孤月3752

 香取、スコーピオン、3614

 

 ポイントも少しずつだが水山の方が増えているが、今の場合はポイント関係なしに戦っている2人。

 

「アンタね! あの幼馴染に迷惑をかけていると思わないの?」

「はぁ? アンタよりもマシ!」

「アタシは麓郎や雄太には迷惑かけてないわ!」

「じゃあなんで彼らの顔が死んでいるのよ!」

「そんなの知らないわ」

 

 スコーピオンの斬撃でちびちび相手のトリオン体を削るが、相手も負けておらず孤月の一撃で相手のトリガーを破壊する。

 

((もう、ムカつく!))

 

 装備的にどちらが有利とは言えないが、トリオンでは雫の方が上であり香取のスコーピオンが簡単に折られる。

 

(このまま斬り合うのはアタシが不利ね)

(まともに斬り合えば私が勝てる)

 

 孤月は耐久力もあり折れにくいためトリオンパフォーマンスもいい。だが逆にスコーピオンは何回も作り直しているので、孤月よりもトリオンのコストがかかる。

 

「このまま押し切るわ!」

 

 孤月を構えて連続攻撃を仕掛ける雫に対し、持ち前の機動力で攻撃を回避する香取。

 

「そう簡単に押し切らせないわ!」

「そうじゃないと面白くない!」

 

 互いに武器を光らせ、彼女達の戦いは続いていく。



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5話・サイドエフェクト

 10月下旬、風矢がB級に昇格して1週間後。雫もB級に上がり目標であったボーダー推薦を受け取った。

 

「やったぁ! これで受験勉強せずに済む!」

(ボーダーの試験が入試みたいなもんだろ)

 

 周りのクラスメイト達が必死に受験勉強をしている中、クラス内でそんな事を大声で口にした雫は担当教師に怒鳴られていた。

 

「水山さん! 貴女、周りの人の迷惑を考えなさいと何回言ったかしら?」

「えぇ〜、なんで?」

 

 不満げな表情を浮かべる雫を見た担当教師の女性は、メガネをキランと光らせて言葉を続けた。

 

「とにかく! 周りの事も考えなさい!」

「わかりました! では私はボーダーに行ってきますね!」

「え?」

「迷惑なら出て行けばいいんでしょ」

 

 お疲れ様でしたー、と言って出て行く雫を見たクラスメイト達は彼女に向かって悪態をつく。

 

「なんであのバカがボーダー推薦をもらっているのよ」

「めっちゃムカつくわね」

「劣等生のくせに調子乗らないでよ」

 

 悪態をついているのは女子生徒が多く、彼女達は目立たない様に陰口を言っている様だ。

 

(まあ、こうなるか)

 

 静かに授業を受けていた風矢は、ため息を吐きながらこの状況を見る。

 

 ーー

 

 授業が終わりボーダー本部に到着しボーダーのスマホに電源をつける。すると新着があるみたいでチャットルームを開く。

 

「えっと」

 

 グループチャットの画面を見ると諏訪が風矢にメンションしており、内容はガンナーの話をしないかと言う事。

 

(悪くないか)

 

 年上の諏訪に対して丁寧口調で参加する事を伝え、場所はラウンジみたいで風矢は向かい始める。

 

 ーー

 

 風矢と諏訪の出会いは防衛任務で、初めて防衛任務をする事になった風矢と組んだのが諏訪隊だった。彼らは緊張する風矢にアドバイスを送ったりした。

 

(意外と面白い人だな)

 

 そう思いながら風矢がラウンジに到着すると何人かのガンナー又は銃を使うオールラウンダー達が集まっていた。

 

「おっ、やっときたね」

「はい! こんにちは犬飼先輩」

「あらら、緊張しているのかい?」

 

 風矢に声をかけてきたのは雰囲気的に裏がありそうな犬飼澄晴。彼は風矢を見つけて一番に声をかけてきた。

 

「B級上がり立てで試作のカメレオンを使っているガンナーと聞いたよ」

「まあ、カメレオンもデメリットはありますが強いので使ってます」

「確かに透明になるのは有利かもね」

 

 トリオンの消費が大きくガンナーには向いてないけどね、と付け足す犬飼先輩に頷く風矢。彼は内心で気になるところを見つけながら犬飼に違う話題を振る。

 

「あのー、麓郎の方はどうですか?」

「あー、麓郎ね。悪くはないけど……」

 

 半月前、犬飼に弟子入りした若村はガンナーの腕を上げて三浦と共にB級昇格した。だが犬飼は若村の弱点や引っかかる点をあげた。

 

「若村は腕は悪くないんだけど堅実さが強いね」

「堅実さですか? それって悪い事ではなさそうですが……」

「うーん、悪くはないんだけどね」

 

 あくまでおれの意見だけど、と付け足す犬飼に風矢は心当たりがあるのか頷く。

 

(弾トリガーはブレードよりも威力が低いから、犬飼先輩はそこに引っ掛かっているのかな?)

 

 シールドの性能も上がっており、話に聞くガンナートリガー大流行の時期とは別みたいだ。

 

「まあ、これからもガンナーの練習はするから風矢もきてよ」

「あ、はい。ありがとうございます!」

「じゃあ、おれは他のところに行くねー」

 

 バイバイと手を振る犬飼を見た風矢は、少し不気味だと思いながら自販機で飲み物を買い移動した。

 

 ーー

 

 一方その頃……B級に上がった雫はC級ランク戦ブースのソファーに座っていた。

 

「私は……」

(なんなのよ!)

 

 さっきまで訓練室でモールモットを斬り殺していた雫だったが、中学校で言われた言葉が頭から離れなかった。

 

「なんでみんなは私に敵意を向けるのよ」

 

 雫は昔から他人の感情が刺さる体質で、敵意や侮蔑が不快な感情ほど嫌な刺さり方をした。

 

(確かサイドエフェクトと呼ばれる存在だったわよね)

 

 正式入隊前に個室に呼ばれた雫、はボーダー職員からサイドエフェクトの説明をされた。その中で感情受信体質と診断され、ボーダーでも同じサイドエフェクトを持つ人がいるのを耳にした。

 

「あー、もう!」

 

 サイドエフェクトの事とか意味がわからない。そう思った雫は立ち上がりトリガーを起動、自身の体をトリオン体に換装する。

 

(誰でもいい)

 

 むしゃくしゃした雫は、ブースに入りモニターにある黒い画面を押し、B級以上……つまりは4000ポイント以上の隊員達が画面に映る。

 

「叩き潰しているわ!」

 

 普段顔を出さない負の感情を表に出す雫。彼女のストッパーになるのは、幼馴染で理解もある風矢のみ。彼がいないと彼女は暴走を始める。

 

「さあ、私の糧になりなさい」

(ぶっ潰す)

 

 まずは孤月4534ポイントに申請を送り、相手も受託したのでかなしわの体が転移させる。

 

 ーー

 

 場面は戻り風矢サイド。

 

「諏訪さんのショットガンは威力重視なのですね」

「あぁ、そうだ! ただ、射程がないのが辛いところではあるぜ」

「確かにそこが厳しいよね」

「それはありますね」

 

 風矢の周りには諏訪隊のガンナーである諏訪隊長と堤隊員、隣には影浦隊の北添隊員。この3人に囲まれて苦笑いを浮かべている風矢だったが、入口の方からある人物がバタバタと走ってきた。

 

「あれ? 雄太?」

「どうしたんだろう」

 

 周りのガンナー達が不思議そうにしている中、犬飼先輩と一緒にいた若村が三浦に声をかける。

 

「そんなに慌ててどうしたんだ?」

「はぁはぁ、風矢君はどこにいる?」

「風矢なら諏訪さんの達のところにいるぞ」

「あ、ありがとう! ろっくん!!」

 

 若村から風矢の居場所を聞いた三浦は、一直線に走ってきた。

 

「雄太、どうしたんだ?」

「風矢君! 悪いけど来てくれない!?」

「ちょ!?」

「皆さんすみません、風矢君を連れて行きます!」

「そ、それはいいが……」

(ちょ、諏訪さん!?)

 

 よくわからないが嫌な予感を感じる風矢をよそに、三浦は彼を連れてラウンジから出て行く。

 

「何があったんだ?」

「でも、嫌な予感を感じるしゾエさん行ってくる」

「オレも行きます」

「わかった!」

 

 いつもはホンワリしている三浦の焦りようを見た北添と若村は、諏訪さんに許可をもらいラウンジから離れる。

 

「まさかな……」

 

 諏訪は一つの可能性が頭に浮かび、アタリだとマズイと思いながら今の空気を変えるために進行を進めた。

 

 

 



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6話・お好み焼き〈かげうら〉

 あの状況でも三浦が風矢を無理矢理連れ出した理由、それは……。

 

「まさか!」

 

 C級ランク戦のブース。そこでは黒髪でギザギザした歯が特徴のスコーピオン使いに、ボロボロになりながらも血走った目で苛烈な攻撃を仕掛けている雫の姿だった。

 

「おれが来た時にはB級のアタッカー達がボロボロになって沈んでいたんだよ」

「……」

「それでおれも戦ったんだけど全く歯が立たなかったんだ」

「そりゃそうだろうな」

(ああなったアイツはそう簡単には止まらない)

 

 何がきっかけかはわからないがバーサクモードに入った雫は、自分の感情だけを見る様になり周りの事なんてシャットアウトする。

 

「今はマスタークラスの影浦先輩に止めてもらっているけどいつまで持つか」

「……難しいな」

 

 見た感じはマスタークラスの影浦が優勢だが、雫も負けておらず孤月とスコーピオンの変則攻撃で反撃している。

 

(アイツ、マスタークラスとやりあえるのか)

 

 試合は24対6で影浦が圧倒しているが、徐々に雫が反撃おり試合時間が長くなっている。

 

「雄太! 何があったんだ?」

「ゾエさんも気になる」

 

 2人の後を追ってきた北添と若村に、風矢と同じ説明を繰り返す三浦。そして三浦の説明を聞いた2人は驚いた様にモニターを見る。

 

「そういえば水山は風矢以外は心を開いてないな」

「確かにヨーコちゃんにも開いてない気がする」

「確かにそう見えるね」

 

 モニターを見ながらガンナー2人と三浦は会話している中、さっきから物事を考え事で話さない風矢。

 

(また誰かに強い敵意を向けられたんだな)

 

 雫が暴走する理由を知っている風矢は、どうやって止めようかと考えていると若村に声をかけられる。

 

「なあ風矢、水山はなんでああなったんだ?」

「それは……多分、誰かがアイツに強い負の感情をぶつけたんだろう」

「負の感情?」

「アイツ、小さい頃から相手の悪意に敏感でな……ロクに友達も出来ず周りから見捨てられていたんだよ」

「それってもしかして、悪意が肌に刺さる感覚がある?」

「!? なんで知っているのですか?」

「やっぱり」

 

 風矢の言葉を聞いたゾエさんは心当たりがあるのか、ウンウンと頷きつづきの言葉を口にする。

 

「多分それ、感情受信体質と呼ばれるサイドエフェクトだよ」

「「「サイドエフェクト?」」」

「そう! まぁ、特に有名なのは未来予知をもつS級隊員の迅さんだね」

(未来予知とかチートだろ!?)

 

 サイドエフェクトの言葉を初めて聞いた風矢達は北添の説明を耳にする。

 

(サイドエフェクトか)

 

 優秀なトリオン能力者が稀に発現する特殊能力。その力は空を飛んだり火を吐くわけでない人間の延長線の能力だが、持っている物的にしんどいのもあるらしい。

 

「多分だけど、水山ちゃんはウチの隊長であるカゲと同じ感情受信体質を持っているんじゃないかな?」

「感情受信体質?」

「うーん、説明するのは難しいんだけどね」

 

 とりあえず相手の感情が肌に刺さる感覚がある体質。と説明する北添に疑問符を浮かべながら頷く風矢。

 

(そんな辛いサイドエフェクトを持っていたのか)

 

 何回倒されても立ち上がり影浦に襲い掛かる雫に、周りのC級隊員達は固まったり震えていた。

 

「おい、アイツ怖くないか?」

「なんなんだよアイツ」

「ひいぃ、怖いわ……」

「あんなの狂犬よ!」

(まずい!)

 

 今の状況はまずいと思った風矢は、どうするか考えるが対策が思い浮かばない。

 

「あ、終わったぞ」

「へ?」

 

 対策を考えたいると同時に試合が終わったみたいで、周りを睨みつけている影浦と雫がいた。

 

(部屋は隣同士だったのか)

 

 周りの隊員達は2人の鋭い視線を受けてジリジリと後退する。その中で風矢は周りをかき分けて前に向かう。

 

「お前ら、オレ達はみせもんじゃねー!!」

「さっさと散りなさい!」

「「「ひいぃ!?」」」

 

 バタバタと離れていく隊員達をよそに風矢の姿を見つけた雫は、さっきとは全く違う笑顔を浮かべて彼に抱きついた。

 

「ああ、ふゔやさーん」

「おまっ!」

「じあわぜー」

 

 思いっきり抱きついている雫を見た風矢は呆れながら影浦の方を見る。

 

「影浦先輩、雫の面倒を見ていただきありがとうございます」

「オレは面倒を見たつもりはないぞ」

「いえ、影浦先輩がいなければもっとひどい事になってましたよ」

「そうか? ってお前、オレが怖くないのか?」

「怖くないと言えば嘘になりますが、コイツの暴走をよく見ているので大丈夫ですよ」

「なるほどな!」

 

 カカカと笑う影浦と苦笑いを浮かべる風矢。その姿を見た北添は2人は相性がいいかと思う。

 

(あの2人、上手く行きそうだね)

 

 かつて8回ものタイマンを影浦と繰り返し、友情を確かめ合った肉体派のボーダー隊員である北添。そこまでしないと友情が芽生えなかった自分とは違い、あっさりと影浦の懐に入る風矢を見て羨ましく思う。

 

「あのー結局どうなるのですか?」

「うーん、その辺はゾエさんも知らない」

 

 これから起こる問題に対して北添は考えないようにし、近くにいる若村と三浦は疑問符を浮かべる。

 

 ーー

 

 お好み焼き〈かげうら〉は三門市では有名なお好み焼き店で、他の町からも観光客が来る名店。その中のひと席、お好み焼き屋かげうらの次男坊である影浦雅人が自分が呼んだ仲間と共にお好み焼きを食べていた。

 

「カゲ、これいけるんじゃねのか?」

「おい待て仁礼!」

「待たねーよ」

 

 影浦隊の仁礼光が笑顔を浮かべながら鉄板の上にあるアツアツのお好み焼きを口にした。

 

「あつっ!? ハムハム」

「仁礼さん、大丈夫ですか?」

「おう、こんなのへーき」

 

 風矢が仁礼の事を心配していると袖を強く引っ張られる。

 

「ねぇ風矢……今は私だけを見てよ」

「ちょ!? おまっ」

「あらら、完璧にハイライトがないね」

「そうですか?」

「うーん、カゲとは違うタイプだねー」

「おいこらゾエ!」

 

 影浦隊は、隊長でアタッカーの影浦、ガンナーの北添、そしてオペレーターの仁礼。この3人がチームとしてB級ランク戦に参加している。

 

(確かB級ランク戦に参加しているチームは20チームだよな)

 

 確か諏訪隊が14位で影浦隊が7位、入隊式にお世話になった嵐山隊は10位。

 

「しっかしカゲもこの2人を気に入ったんだね」

「……そんなんじゃねーよ」

「気に入ってなかったらお店に呼ばないでしょ」

「おい仁礼」

「あ、これいただき!」

(面白いな)

 

 この和気藹々した空気を感じながら焼かれたお好み焼きを食べる風矢と雫。彼らの顔にはさっきとは別で笑顔が浮かんでいた。

 

「うまっ!」

「うめーだろ、こら!」

「は、はい!」

「おいしいー!」

 

 さっきのハイライトオフから復帰した雫に安心する風矢。彼らは思う存分、影浦家のお好み焼きを食べて満足した。

 

 

 

 

 



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7話・初めての防衛任務と金髪お嬢様

 お好み焼き〈かげうら〉でお好み焼きを存分に食べた5人は、食休みとしてバニラアイスを食べながら駄弁っていた。

 

「そういやー、雫と風矢はどこで出会ったんだ?」

「あ、それ! ゾエさんも気になる」

「それはー、えへへ」

「ちょ! よだれを垂らすな!?」

「なんか、2人を見ると兄妹みたいだよなー」

 

 ニヤニヤしている仁礼の発言を聞いた雫は、さっきとは同じく幸せそうな顔をしていた。

 

「風矢と兄妹かー、それもいいかもしれないわ」

「あー、そういうパターンね」

「微笑ましいね」

「まあ、後輩の面倒を見るのは先輩の役目だしな」

「お、カゲもついに先輩の貫禄が出てきたね」

 

 先輩の貫禄と耳にした影浦はまたキレそうになるが、風矢と雫の反応を見て言葉を詰まらせる。

 

(この人たちは暖かいな)

 

 影浦隊の3人を見ながら風矢はそんな事を思う。

 

「さてと、改めて聞くけど風矢と雫の関係は?」

「互いに愛を確かめ合った存在よ!」

「……狂犬女と苦労人男」

「なんか2人のテンションが違いすぎないか?」

「月白は振り回されそうな性格してるなー」

「ゾエさんから見てもそう見えるんですね」

 

 キラキラと目を輝かせている雫と目が死んでいる風矢。2人の関係性をこれ以上聞くのはヤボだと思った影浦隊の3人は話を変える。

 

「しかしまあ、今日は楽しかったぜ」

「へ?」

「お前との斬り合いだ」

(話を逸らしてくれて良かった)

 

 このままトリップしそうな雫が現実に引き戻され、彼女は真顔になりながら影浦に言葉を返す。

 

「あー、あの時は無意識に攻撃してましたね」

「そうなんだ……」

「ゾエさん、びっくり」

 

 流石にマスタークラス相手では分が悪い雫だったが、彼女のポテンシャルは影浦に負けてないみたいだ。その事で雑談しながら夜が深まっていく。

 

 ーー

 

 11月の上旬。10月終わりの中間テストの結果、風矢はいつも通り平均点あたりを彷徨い雫は全教科赤点をとった。そのため、雫と赤点を取った生徒は補習が確定になり、他の生徒達は1週間後に控える校外学習の話をしていた。

 

「では、2人から6人班を作ってください」

 

 6限目の授業で校外学習の班決めを行い、風矢は雫と組む事になった。理由は互いに目のたんこぶで特に雫が暴走すれば周りに被害が出るので、スケープゴート兼止める役で風矢が選ばれた。

 

(こうなるのはわかっていたけどな)

 

 校外学習先は千葉県のネズミーランドで、校外学習というよりも遊びの側面が強い。

 

「班が決まったので後は適当に時間を潰してください」

 

 後少しで6限目が終了するので担任教師の女性は、面倒そうに生徒達に指示を出す。そしてチャイムが鳴り、帰りのホームルームも手早く終わった。

 

「風矢いくわよ!」

「お前、補習だろ!」

「あ、そうだった……。

 

 補習の事を忘れていたのか雫は勢いよく立ち上がり、風矢の発言で机に沈んだ。

 

「うう、早く行きたいよー」

「なら補習を頑張るんだな」

「あー、待ってよー!」

 

 ふゔやさーん、と泣きついてくる雫の頭を撫でながらため息を吐く風矢。2人の関係はかなり深く結びついているようだ。

 

「アイツら、またおんなじ事をしているよ」

「やーねぇー、空気を読めないのかしら?」

「毎回毎回鬱陶しい」

(マズイ!)

 

 北添から感情受信体質のサイドエフェクトの事を聞いた風矢は、既に攻撃的になりそうな雫を教室から連れ出す。

 

「今日は強引だね」

「……お前、苦しくなかったのか?」

「うーん、あんなのはいつもだから慣れたわ」

(コイツ……)

 

 顔は笑顔を浮かべているが風矢の目には無理しているように見えた。そのため風矢は雫の補習が終わるまで学校で時間潰しする事を決める。

 

 ーー

 

 午前0時。補習や夜ご飯などを済ませた2人はトリガーを起動。前の部隊と交代し防衛任務に着く。

 

「さてといくか」

「そうね!」

 

 前の部隊と交代した2人は中央オペレーターの指示を受け、受け持つ南地区に移動した。

 

「よし到着した」

 

 2人が到着した南地区は住宅街。ネイバーの影響で建物の多くが破壊されて瓦礫になっていた。

 

「前も見たけど荒れているわね」

「まあ、警戒区域だしそんなもんだろ」

 

 現場に到着した風矢と雫はメイン武装を換装しネイバーの襲撃を備える。すると早速……。

 

『ゲート発生! 誘導誤差は0.52! ネイバー、現れます』

「「了解!」」

 

 オペレーターの声を聞いた2人は、マップに映し出された場所に急行し敵を見る。

 

「おいおい、モールモットが5匹とバンダーが2匹かよ」

「面倒な相手が増えているわね」

 

 小型で戦闘型のトリオン兵のモールモットと大型で捕獲兼砲撃型のバンダーが合計で7匹。正直B級上がりたての正隊員には厳しい数だか……。

 

「とりあえず私が突っ込むし援護頼むわね」

「お前な……まあ、了解」

 

 孤月を鞘から引き抜き突っ込む雫。その後ろからP90を構え援護を始める風矢。

 

「さあ来なさいサソリモドキ!」

「ちょ!? 後ろに砲撃型のバンダーがいるぞ!」

「あ……」

 

 雫がモールモットに斬りかかろうとした時、バンダーの目から薄白い光線が発射される。

 

「そんなの見えているわ」

 

 雫はバンダーの砲撃に対してモールモットを盾にし始めた。

 

「こうすれば楽に倒せるわ」

「いや、楽ではないと思うぞ……」

 

 サブのグラスホッパーを使い辺りを縦横無尽に飛び回っている雫をよそに、風矢はバンダーに向かってアステロイドの射撃を放つ。

 

「まあ、俺は俺の仕事をしますか!」

 

 メインのアステロイドのサブのメテオラでバンダー2匹を沈めた風矢。その近くでモールモットと遊んでいる雫の2人は、互いに屋根の上に登って相手を見る。

 

「最初は強く感じたモールモットも今では弱く感じるわ」

「お前な、その発言でモールモットさん達が怒っているぞ」

「3匹くらい怒っても大丈夫でしょ」

 

 カラカラと笑う雫を見て呆れる風矢は、突撃銃をモールモットに構えて引き金を引く。

 

「とりあえず終わらせるぞ!」

「了解したわ!」

 

 前衛でモールモットに突っ込みブレードを掻い潜り弱点の目にスコーピオンを刺す雫。中衛で安定した射撃を繰り返し倒していく風矢。2人の連携は悪くなく既にB級下位の中では頭一つ抜けている状態になっていた。

 

ーー

 

 8時間の防衛任務が終わり次の部隊と交代した2人はボーダー本部にある仮眠室で眠っていた。

 

「ふあぁ……」

 

 昼過ぎ、目が覚めた風矢は仮眠室から出てボーダー本部の廊下を適当に歩いていた。

 

(ボーダーの廊下は迷いやすいな)

 

 適当に歩いているとランク戦ブースに到着したので、知り合いがいないか周りを見始めた。

 

「誰も……」

「ちょっと、そこの目つきの死んでいる人?」

「いないなー」

「聞いているの?」

 

 半分現実逃避している風矢の目の前に、金髪ロングヘアでいかにもお嬢様という相手が現れた。

 

「いい加減、無視しないでくれるかしら?」

「無視はしてないぞ」

「ならなんでアタクシの言葉を聞かなかったのよ」

「そんなの現実逃避していただけだ」

「真顔で返されると悲しいわね」

 

 なんか心にきたのか自身の胸を押さえている金髪ロングヘアの少女。

 

(また面倒な奴が現れたな)

 

 雫や香取などの問題性がある少女達を見てきた風矢の直感では、同じタイプだと感じた。

 

(さっさと逃げるか)

「あの、用事があるので帰りますね」

 

 このまま巻き込まれるのは嫌だと思って風矢は、足早にランク戦ブースから離れようとしたが、金髪少女に腕を掴まれる。

 

「お待ちなさい! またワタクシの話は終わってないわよ」

「いや帰らせてくださいよ」

「ならアタクシにランク戦で勝つ事ね」

「……はぁ」

(コイツも人の話を聞かないタイプか)

 

 予想が当たりため息を吐く風矢と、トリガーを換装しB級ソロ隊員の青いジャージ姿なった金髪の少女。

 

「さあ始めるわよ!」

 

 彼女に促される形でランク戦を始める事になる風矢は、これから始まる面倒な事を思い浮かべる。

 

 

 



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8話・城山美鈴

注・今回はサイレンサーの独自解釈があるので、苦手な方はご注意ください


 風矢が相手する事になった金髪少女こと城山美鈴は、メイントリガーはスコーピオンを使用しているアタッカータイプみたいだ。

 

 月白風矢、105号室、アステロイド〈突撃銃〉、4610

 城山美鈴、106号室、スコーピオン、4628

 

 風矢と城山のポイントはほぼ五分で強さ的には同じくらいと推測できる。

 

「やるしかないか」

 

 106号室から10本勝負の対戦申請が送られてきたので風矢は受諾。自身の体はいつも通り戦闘フィールドに移動される。

 

『B級ソロランク戦、対戦フィールド市街地A』

 

 2人が転移された場所は見慣れた市街地Aで、開始の合図と同時に動き出す。

 

「さっさと終わらせるわ!」

「簡単に終わらせるかよ」

 

 スコーピオンを構えて愚直に突撃してくる城山に対し、風矢はバックステップを踏みながら突撃銃で射撃を始める。

 

「そんなの効かないわ!」

「!?」

《ガガガ》

 

 城山はサブのシールドを起動して風矢の射撃を防御。素早く接近し風矢の体をスコーピオンで斬り裂く。

 

「ぐっ!」

『トリオン体活動限界、ベイルアウト』

 

 最初の一本は城山が取り、彼女は2本目以降も自分が楽勝だと思っていた。

 

『2本目、開始!』

 

 2本目開始の合図と同時にさっきも同じく突進を仕掛ける城山。それを見た風矢はかかった、と思いあるトリガーを発動する。

 

(かかったな)

「メテオラ!」

「また同じ手なの?」

 

 1本目と同じく弾丸をシールドで防ごうとする城山だったが、風矢が使ったのは炸裂弾であるメテオラだ。このトリガーは広範囲に爆発を起こす弾トリガーで、トリオン調節で爆発の規模の調整ができる。

 

(このメテオラは倒すのが目的じゃないけどな)

 

 27分割されたメテオラの煙幕で相手が見えなくなり、風矢は好機だと思いカメレオンを起動し自身の姿を透明化させる。

 

「どこいったのよ!」

(そんな簡単に見つかるかよ)

 

 煙幕が晴れて周りをキョロキョロ見る城山の後に移動した風矢は、カメレオンを解くと同時にアステロイド〈突撃銃〉+サブのサイレンサーを起動。サイレンサーはトリオン体やトリガーから発せられる音をなくすトリガーで、無音状態で放たれた弾丸が城山のトリオン体に直撃する。

 

「ちょ!? 卑怯ですわ!」

『トリオン体活動限界、ベイルアウト』

 

 不意打ちに反応できなかった城山は、風矢の射撃をモロにくらいベイルアウトした。

 

「俺の罠にかかったな」

 

 ベイルアウトして空を飛んでいく城山を見ながら、内心で笑う風矢は次の戦いに備え始める。

 

 ーー

 

 月白風矢、105号室、×〇〇〇〇〇〇〇×〇

 城山美鈴、106号室、〇×××××××〇×

 トータル8対2で勝者、月白風矢

 

 月白、アステロイド〈突撃銃〉、4610←4725

 城山、スコーピオン、4628←4513

 

 今回の戦いで試作トリガーであるカメレオンの強さが遺憾無く発揮され、ランク戦を見ていた隊員達は自分も使い始めたいと思い始めた。

 

(カメレオンか)

 

 その中で総合ランク9位の黒髪短髪で背が低い青年は、カメレオンの有用性と相性を見て自分の部隊を作る時に使えると確信した。

 

ーー

 

 試合が終わりヘナヘナ状態でブースから出てきた城山と微妙な表情を浮かべる風矢。

 

「あなた! 姿を消すトリガーは卑怯よ!!」

「卑怯と言われても……文句なら作った開発室に言ってくれ」

 

 キャンキャンと吠えている城山を見て頭を抱える風矢だったが、背後から寒気を感じたので思わず振り向く。

 

「ふ、う、や、さ、ん、何をやっているの?」

「雫、間が怖いんだが……」

「貴方、そんな事よりもワタクシの話を聞きなさい!」

「そんな事、ですって?」

 

 風矢の肩を軽く叩いたハイライトオフ状態の雫。彼女は風矢から今回の騒動の事と、今でもキャンキャン吠えている城山。だいぶおかしな空間になっており、雫が何か思いついたのが城山の方に近づく。

 

「そういえば前に貴女と戦ったわね?」

「へ?」

「私とランク戦をしてくれない? まあ、貴女には勝ち目はないけど」

「何ですって! その言葉、そっくりお返ししますわ!」

(城山って、数日前の雫暴走事件でボコボコにされたアタッカーなのでは?)

 

 また馬鹿が増えたと思った風矢は、少女2人がランク戦ブースに入っていくのを遠い目で見る。

 

 ーー

 

『B級ソロランク戦、フィールド市街地A』

 

 雫のメイントリガーは孤月、4853ポイントで暴走事件で数値が上がっている。対する城山のメイントリガーはスコーピオン、4513ポイントで風矢に負けて数値が減った。

 

(私の風矢にデレデレしないで!)

(この小娘なんてさっさと倒してやるわ!)

 

 ボーダー内でトップクラスのトリオン12を持つ雫。優秀な数値であるトリオン8を持つ城山。2人は平均よりもトリオンが高いのに、なぜシューターやガンナートリガーを持たないのか……。その意味は後々判明する。

 

「貴女に勝ったらあの消えるガンナーを借りるわね」

「!? 風矢に何をする気なの!」

「そんなの骨の髄まで私に屈服させるためですわ」

(まあ、ボコボコにしてプライドを折るだけよ)

 

 さっきは煮湯を飲まされた城山は風矢へのリベンジに燃えているが、雫の方は違うみたいだ。

 

(コイツ、風矢を屈服させると言った?)

 

 さっきから鬱陶し感情の刺さり具合を感じてイライラしているのに、さらに煽ってきたので雫のボルテージは上がっていた。

 

『B級ソロランク戦、開始!』

 

 2人はメインのブレードを起動し、互いに武器をぶつけ合った。

 

「この程度かしら?」

「そうだといいわね!」

「なっ!」

 

 ブレードの鍔迫り合いは雫が使う耐久性の高い孤月が有利で、切れ味はあるが耐久性が低いスコーピオンにヒビが入る。

 

「ぐっ!」

(鍔迫り合いは不利ね)

 

 鍔迫り合いが不利だと感じた城山は、左足にスコーピオンを生やして雫を蹴りつける。

 

「まさかこの程度?」

「へ?」

 

 城山の足スコーピオンに対して雫は集中シールドを起動。トリオンの関係上、性能が高い雫の集中シールドは城山の足スコーピオンを問題なく防ぐ。

 

「またワタクシを馬鹿にして!」

「そうやってどこでもお嬢様扱いされると思っているの?」

「きいぃ! アタクシは本物のお嬢様なの!」

 

 城山の実家は大企業を何個も運営しており、何不自由なく生活してきた彼女に向かって雫が一言。

 

「プライドの高いお嬢様には躾が必要ね」

 

 この言葉の後、先程とは動きがまるで違う雫が城山をコテンパンにして地面に沈めた。

 

 ーー

 

 雫対城山の戦いは30本で終わりを迎えた。

 

「風矢ー、全部勝ったよ!」

「なんか凄いな……」

 

 周りの隊員達は雫の容赦なさに引いており、何人かこちらをチラチラ見てブツブツ言っている。

 

「とりあえず他の場所に行くか?」

「そうね」

 

 また目立った事が不快と思いながら2人はラウンジを出るために歩みを進めた瞬間、ブースの方から女性の大声が聞こえる。

 

「待ちなさいー!」

 

 ドタバタとブースから走ってくる音。風矢と雫は互いに顔を見合わせてため息を吐く。

 

「面倒そうな奴ね」

「……お前が言うか?」

 

 風矢のツッコミに雫は苦笑いを浮かべ、改めて2人はこのままブースから出て行こうとしたが金髪少女に捕まる。

 

「で? なんの様だ?」

「はぁはぁ……貴方達、ワタクシとチームを組みなさい!」

「「はぁ??」」

「何でそんな驚いでいるのかしら?」

「貴女みたいな地雷と組むわけないじゃない!」

(それをお前が言うの?)

 

 雫の地雷発言に顔を真っ赤にする城山、ブーメランが返ってきたので回避する風矢。

 

「良いですか? アタクシ達がチームを組めばA級も夢ではないですわよ!」

「別に私はボーダー推薦が狙いだっただけでA級にはあまり興味がない」

「それにA級は防衛任務以外にも上から指令があるから休みが少ないらしいぞ」

「貴方達、A級よ! その意味をわかってらっしゃる!?」

「「そんな事知るか!」」

 

 なおも勧誘を仕掛けてくる城山に対して冷たい視線をぶつける風矢と雫は、面倒だと思い適当に話を切り上げた。

 



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9話、ショッピングモール(日常回)

 次の日の日曜日。久しぶりの休みだと思い風矢は自宅でのんびりしているとボーダー用のスマホに着信が入った。

 

「うん?」

 

 いつも連絡をとっている雫は個人のスマホにかかってくるので除外。他の誰かだと思い通知を見る。

 

(若村かカゲさんあたりかな?)

 

 最近関わりがあるのはガンナーの繋がりと影浦隊の3人た。

 

「あー、若村の方か」

(内容は、香取達と買い物に行くから付き合ってくれ)

 

 明らかに荷物持ちにされる気配がバンバンしているが、友達が犠牲になっているのは居た堪れない。そのため〈OK〉と返信し、若村から集合場所も時間が送られてくる。

 

「10時ってギリギリじゃん!」

 

 今の時刻は9時15分。パジャマの風矢が身支度を整えるのに15分、家から目的地のショッピングモールまで30分弱。

 

(ただ、香取を待たせるのは面倒そうだな)

 

 癇癪持ちの香取を待たせるのは、不機嫌にして面倒になる。そう若村から聞いた風矢は急いで準備して家から出る。

 

 ーー

 

 9時58分。目的地であるショッピングモール前に到着した風矢は息を切らしながら周りを見る。

 

(アイツらはどこだ?)

 

 キョロキョロと周りを見ていると後ろから肩を軽く叩かれる。

 

「来てくれたか……」

「まあな……」

 

 後ろにいたのは表情が死んでいる若村だった。彼は少し離れた場所で屋台カーのクレープをベンチに座りながら食べている香取達の方を死んだ目で見ていた。

 

(まあ、そうだよな)

 

 女性陣3人の顔を見ながら風矢はため息を吐く。

 

「今回のメンバーは男子が俺と麓郎……女性は雫、香取、染井さんでいいんだよな」

「あぁ、ちなみに雄太は家の用事で来ない」

「つまりは俺達2人で対応しないといけないのか」

「華さんは落ち着いているかともかくヨーコと水山が問題だよな」

 

 ハァ……と2人してため息を吐く風矢と若村。そこにクレープを食べ終えたのか女性3人が男性陣の方に移動してきた。……その後ろにいるある人物の視線も含めて。

 

「クレープを食べ終わったし行くわよ!」

「それはいいが、あの視線が気にならないのか?」

「「視線??」」

「……わたしは無視してました」

「なら風矢、オレ達これからどうなるんだ?」

「俺をここに呼んだお前が言う!?」

 

 この後、話し合いで女性がもう1人追加され風矢と若村の負担がさらに増えた。

 

 ーー

 

 女性陣4人(追加で城山)と男性陣2人。周りから見れば華やかしいと思えるが実際は……。

 

「この3人の中で一番強いのはアタシよね!」

「いや、私よ!」

「あらあら、ワタクシを忘れないでよくて?」

「わたしはオペレータだから関係ない」

 

 女性陣は何故か誰が強いかの言い合いをしており、明ら女子力ゼロの話題を繰り返している。男性陣の方は、キャアキャアうるさい女性陣に頭を抱えながら周りを見る。

 

「アイツらライバル同士になっているんだな」

「それがいい意味でも悪い意味でもあると思うぜ」

「まあ、それでも雫が楽しそうにしてよかった」

「確かお前らは幼馴染だったよな」

「そうだ」

 

 若村は風矢の雫の関係が気になったが、これ以上話すと女性陣に絡まれそうだったから話を変えた。

 

「しっかしまあ、お前も苦労しているな」

「それはお互い様だろ。まあ、犬飼先輩に弟子入りしたお前も大変そうだけどな」

「射撃は上手くなっているから悪くはねーぜ」

「そうか?」

「あぁ、それに犬飼先輩はコミュ力も高い視野も広いから勉強にもなる」

 

 犬飼先輩の事を話し始めた若村の目に光が灯ったので、風矢は内心で喜ぶ。

 

(悪くはないか)

 

 若村とガンナーの事で話していると女性陣が向かいたかった服屋に到着。その中で誰が一番可愛くなるかで勝負し、男性陣を大いに困らせるのはまた別のお話。

 

 ーー

 

 女性陣の対決をなんとか穏便に済ませた風矢と若村は、フードコートの椅子に座って天井を見上げていた。

 

「「つ、疲れた……」」

 

 6人席の左端の2席に座っている風矢と若村は互いに顔を合わせる。

 

「やっぱり女性陣の買い物は長いな」

「ああ、しかもアイツらめっちゃ買っているぞ」

 

 自分達の席の近くには大量の荷物が置いてあり、2人では到底待ちきれない量。そのため半分は女性陣に持ってもらっているが、重労働なのは変わりない。

 

(帰って寝たい)

(恨むぞ雄太)

 

 このまま午後の買い物が続くとなると負担が大きくなるのでどうにか減らそうと考え始まる。だが特にいい案が浮かばず唸っていると手元のアラームが鳴った。

 

「女性陣はまだ帰ってこないし先に食べるか?」

「まあ、それがいいだろーな」

 

 2人が頼んだ醤油ラーメンを食べていると、お腹を空かせた女性陣がズルいと言い不機嫌になった。

 

(またか)

 

 女性陣の機嫌をとるために午後も彼女達に振り回される事が確定した風矢と若村だった。



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10話・香取隊VS江橋隊(オリ部隊)

 設定が原作開始2年前なのでオリ部隊を追加しました。


 約1ヶ月後の11月の下旬。期末テストも終わり雫が赤点なしだったので風矢は驚きながら彼女とボーダー本部に向かう。

 

「しっかし、雫が全教科の赤点を回避したのはびっくりしたな」

「私だって頑張ればこれくらいできるのよ!」

「その頑張りをもう少し早く出して欲しかった……」

 

 雫の保護者扱いされている風矢は呆れながら頷く

 

(まあ、今のベースがいいのかもな)

 

 あんまり焦っても空回りするのは目に見えており、風矢は自分も今の生活に慣れてきたと思い始める。

 

 ーー

 

 C級ランク戦ブース、いつも通り個人ランク戦に参加しようとした2人だったがモニターに映った文字に驚く。

 

「香取隊VS江橋隊?」

 

 モニターに映っているのは最近部隊申請した香取隊が、B級12位の江橋隊にボコボコにされている姿だった。

 

「香取達が手も足も出ないのか」

「しかも相手はかなり遊んでいるわよ」

「……だよな」

 

 江橋隊のスナイパーが香取の足を打ち抜き機動力を封じ、援護に向かう若村と三浦だったが前衛に止められる。

 

(一方的すぎるだろ)

 

 B級上がりたてのチームがB級中位のチームにボコボコにされる。字幕だけ見れば当たり前かもしれないが、どうもおかしい。

 

「なんで香取達は江橋隊と戦っているんだ?」

(B級ランク戦はどうしたんだ?)

 

 現在チームで行うB級ランク戦が行われており、上位2チームになるとA級昇格試験が受けられる。そのためチームを組みA級を目指す人も多い。

 

「あ、決着がついたわ」

「結果は香取隊の惨敗か」

 

 一方的な戦いだったと2人は思い、ブースから出てくる香取達を見つける。

 

「なんなのよアイツら……」

 

 相手の女子アタッカーに手も足も出なかった香取は、ショックで俯いていた。そこに相手のチームである江橋隊の4人が現れた。

 

「おいおい、この程度でA級を目指しているかよ」

「まあ、この実力から無理だと思うわ」

 

 最初に煽ってきたのは、江橋隊隊長の江橋一。彼は長身で威圧感があり、少し怖い雰囲気がある。江橋の隣にいるのは茶髪サイドテールの少女、雪川静乃。彼女は身長は低めだが目つきが香取以上に鋭く愛想がない様に見える。

 

「あのーすみません。これ以上騒がしくなると問題になるかもしれないですよ」

「はあ? アッチの小娘が突っかかってきたから反撃しただけだろ」

「それで問題になるならボーダーの規律問題ね」

(いやお前らが言うのか……)

 

 前者の2人にビビりながら言葉を発したのは、江橋隊のオールラウンダーである黒髪で小柄な少年羽山圭一。彼は15歳でオールラウンダーと呼ばれ、アタッカートリガーとガンナー用トリガーのポイントがそれぞれ6000ポイントを超えている腕利きだ。

 

「ちっ、こんな雑魚を相手してもロクにポイントが貰えやしない」

「!? なんだと!」

「ろっくん!」

「あらあら、まだやるつもりなの?」

 

 流石に止めないとまずいと思い、風矢と雫は動こうとしたがある人物が先に動いた。

 

「オッホッホ! 貴方達、何をやっているのかしら?」

「……なんだコイツ?」

(まあ、そうなるよな)

(またあの高笑い)

 

 いきなりの乱入者である金髪ロングヘアの少女。お金持ち令嬢の城山美鈴が香取隊と江橋隊の間に入った。

 

「ねぇ風矢、なんか嫌な予感がする……」

「俺も同じ事を思った」

(アイツ、絶対ロクでもない事をやるだろ)

 

 2人は頭を抱えそうになっていると香取が立ち上がり城山に睨みつける。

 

「美鈴! アイツらはアタシの相手よ、邪魔しないで!」

「確かにそうかもしれませんが、このまま事が大きくなると上層部に伝わりますわよ」

「!? で、でも!」

「大丈夫、仇はワタクシ達がとりますわ!」

((え?))

 

 城山が仇を取ると言った瞬間、彼女は風矢と雫の方を見た。

 

(アイツ、まさか!?)

 

 ワタクシ達、つまり彼女は1人で戦う話ではなく仲間と共に勝負する。そして城山との関係が深いのは……。

 

「ふん、その勝負をしてオレ達になんの得があるんだ?」

「じゃあ、ワタクシ達に勝ったら1人1000ポイントを差し上げますわ」

「1000ポイント!? 隊長、やりましょう!」

「そうだな、祝いにもちょうどいい」

「なんか話が進んでないですか?」

 

 戸惑っている羽山をよそに話を進める江橋と雪川。そして、彼らを見て何故か口元がにやけている城山。

 

(これでやっとワタクシの目的が進むわ)

 

 内心で微笑んでいる城山をよそに江橋は一言。

 

「なら1週間後の17時に勝負でいいな?」

「ええ、もちろん。あ、こちらが勝ったらポイントと……後は彼女達に頭を下げてもらいますわよ!」

「あら? まさかあたし達に勝てると思っているの?」

「それはどうかしら?」

 

 彼女の高笑いがウザくなってきたのか江橋達の3人は離れていく。

 

「ふん、あんな奴がいるなんて思わなかったですわ」

(ワタクシには痛くもない出費ですわ)

 

 フン、不機嫌そうに顔を開けた後、城山は改めて風矢と雫の方に向く。

 

「では、風矢、雫、よろしくお願いしますわ」

「「……」」

「え? ここはおう! とかないのですか?」

「あるわけないだろ、このバカ女!!」

「いきなり意味不明すぎるわよ!?」

「ちょ、ええぇ!?」

 

 いつもはヤレヤレ系で諦めている風矢だったが、今回の事ばかりは怒りが抑えられず雫と共にブチ切れる。

 

「雫、コイツにキツイお仕置きをしてこい!」

「ガッテンしょうち!」

「え、あ? きゃあぁぁぁ!?」

 

 風矢の指示で雫は城山の耳を思いっきり引っ張りランク戦ブースから出て行く。

 

(さてと、コッチも片付けないとな)

 

 今でも半泣き状態の香取、俯いて沈んでいる若村と三浦を見ながら風矢は頷く。

 

 ーー

 

 風矢と香取隊の4人はランク戦ブースから離れて休憩所のソファーに座った。

 

「で、何があったんだ?」

「それは……」

 

 若村が話しにくそうにモゴモゴしていると、香取オペレーターの染井がいつもは崩れない表情を崩しながら口を開く。

 

「あの人達、特にわたしと雪川は因縁があるのよ」

「因縁?」

「雪川はかなりの実力主義で弱い者には生きる価値がないと考えているのよ」

「それって……」

「わたしは模試とかで彼女とトップ争いをしていたの……でも2年前の大規模進行で家族を失った」

「それてアタシ達はボーダーのトップを目指す事にしたのよ」

 

 家族を失ったのは染井だけで他の3人は生きている。だから逆に香取達が染井の辛い気持ちがわからくて悩む時が多い。

 

(重い話になってきた)

 

 普通に喧嘩した場合なら上層部に報告すればいい。だけど今回の場合はそれでは解決にはならない。風矢はその事を考えながら染井の言葉を耳にする。

 

「それで雪川は……」

「勉強で争っていた奴がいきなりボーダーに入ったからか?」

「わたしはそう思っているわ」

(そうなるとかなり面倒だな)

 

 香取達は風矢達の一期前にボーダーに入隊しており、同じ時期に雪川も入隊している。

 

「雪川のやつ、アタシが華を邪魔している異分子と扱いやがって!」

「まあ、才能マンの雪川からすればオレ達は邪魔なんだろうな」

「でも納得できないよね」

(そりゃそうだろうな)

 

 風矢自身、特に目立った才能がないタイプの凡人で、才能マンからの上から目線の発言にはよくムカつく。

 

「やり返したいけどアタシ達じゃあ勝てなかった!」

「手も足も出ずにボロ負け……」

「オレ達はこんなところで……」

「みんな、ごめん」

 

 新星香取隊の4人は、ボロボロにされた状態でさっきと同じく俯いた。

 

(よくも……)

 

 友人をコケにされて黙っているわけにはいかないので風矢はこれからの行動を考え始める。

 



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11話・オペレーター餅坂由奈

 次の日。防衛任務が終わった風矢と雫は城山と合流する。

 

「よくきたわね!」

 

 バンっと、カッコつけている城山だが、昨日のお仕置きの影響でお尻を押さえていた。

 

「またお仕置きされたいの?」

「ひいぃ!? そ、そうではないわ!」

(あー、力関係ができたな)

 

 細かい事は知らないが雫から厳しいお仕置きをしたと耳にしているので、風矢自身はこれ以上は追撃しないようにする。

 

「で、だ! チームを組むのにはオペレーターがいるがどうするんだ?」

「その件ならアテあるわ!」

「貴女、本当に自由人ね」

 

 雫のお仕置きにビビりながらも体勢を崩さない城山は、ボーダー用のスマホを使い連絡を取った。

 

(誰を呼ぶんだよ)

(美鈴にオペレーターの知り合いがいたのね)

 

 2人とも似たような意見を思い浮かべ、連絡が終わったのか耳からスマホを離した城山は風矢と雫の方を見た。

 

「じゃあ行くわよ!」

「どこによ?」

「ついてきたらわかるわ」

(いや、会話が繋がってない)

 

 場所説明がないまま風矢と雫をある場所……それはフリーのオペレーターが集まる中央オペレーター室。

 

「失礼するわ!」

「まあ、予想はしていたわ」

(だろうなー)

 

 問題児が増えた感覚があるのか、風矢は胃の痛みを抑えながら中央オペレーター室に入る。

 

 ーー

 

 中央オペレーター室にある個室に案内された風矢達は、出されたお茶を飲みながら口を開く。

 

「ったく、オペレーターなんてどう見つけたんだよ」

「廊下で迷っている子を見つけて案内したら懐かれたわ」

「美鈴、アンタ……案内ができるのね」

「雫! ワタクシの事をなんて思っているのかしら?」

「常識を知らない箱入り娘」

「そこまでストレートに言わないでくださいまし!」

(漫画の貴族令嬢みたいでもあるな)

 

 何個か思いついたのか、貴族ネタで城山を弄ろうとした風矢だったが部屋のドアが開きある人物が中に入ってくる。

 

「こんにちはー、そこのポンコツ女に呼ばれて来たオペレーターの餅坂由奈ですー。よろしくお願いします」

「よ、よろしくお願いします」

「う、うん。よろしく」

 

 個室に入ってきたのは黒髪ボブヘアの小柄な少女である餅坂。彼女は城山を見てため息を吐きながら一礼し、風矢達も軽い自己紹介をする。

 

「えっと、ヘタレガンナーの月白君とバーサクアタッカーの水山さんでいいんですよねー」

「「よくない!?」」

「あら、ワタクシがピッタリの名前をつけたのに不満なのかしら?」

「「後で覚えておけよ(おきなさい)」」

「ちょっ、目が怖いですわ!?」

 

 ここで城山へのお仕置きが確定したが、今は一旦置いておいて餅坂の方を見る。

 

「それで餅坂さんは俺達のオペレーターをしてくれるんだよな」

「……不本意ながら」

「大丈夫……私達も似た気持ちよ」

(なんか雫が成長してないか?)

 

 他人に興味を持たなかった雫がロリっ子とは言え、相手を労わる言葉が言えるようになった。それだけでも大きな成長だと思いながら風矢は泣きそうになる。

 

「さて皆さま、隊長であるワタクシの言葉に耳を傾けなさい」

「「「は?」」」

「だからワタクシが隊長……」

「アンタに隊長をやらせるつもりはないわよ!」

「自分も反対します!」

「ワタクシの扱いがあまりにもひどくないですか!?」

「お前な、自分の心に手を当てて考えろ」

 

 心に手を当てる、と疑問符を浮かべた城山は自身の豊満な胸に手を当てた。

 

「うーん、大きな胸しかないですわよ?」

「「……」」

「お、落ち着け」

(やばい!?)

 

 城山の発言で場の空気が凍り最悪な雰囲気になっている。風矢はなんとかしようと無理矢理話題を変えた。

 

「ま、まぁ、今は江橋隊をどうするかだろ」

「江橋隊ですか……このバカから聞きましたが本当にやり合うみたいですね」

「当たり前ですわ!」

「私も友人をコケにされて許せない!」

「まあ、俺も2人と同じ気持ちではある」

 

 相手はB級中位のチーム、普通に考えれば勝ち目は薄いが……。

 

「勢いだけで勝てる相手ではないですよ」

「それは大丈夫……私には風矢がいるわ!」

「ちょ、おま!? また俺に全任せかよ」

「雫、ワタクシ達も入れてくださいまし!」

「貴女達は半人前だから無理よ」

 

 カカカと笑っている雫と不機嫌そうな城山。どんな表情を浮かべたらいいのかわかってない餅坂。かなり濃いメンツを仕切ることになったのが苦労人の風矢。

 

(もうどうにでもなれ!)

 

 風矢は胃薬を飲み、半分ヤケになりながら女性陣を見る。

 

 ーー

〈月白隊のトリガーセットとパタメーター〉

 

・月白風矢、(つきしろ、ふうや)

・年齢15歳、(誕生日は5月2日)

・性別は男性

・身長は168センチ

・ポジションはガンナー、(GU)

《トリガーセット》

〈メイン〉

・アステロイド〈突撃銃〉

・カメレオン〈試作〉

・シールド

・フリー

〈サブ〉

・メテオラ

・サイレンサー

・シールド

・バックワーム

《パラメータ》

・トリオン、6

・攻撃、5

・防御・援護、5

・機動、6

・技術、6

・射程、4

・指揮、6

・特殊戦術5

・トータル、43

《ポイント》

・アステロイド〈突撃銃〉、4836

ーー

・水山雫、(みずやましずく)

・年齢15歳(誕生日は7月25日)

・性別は女性

・身長は161センチ

・ポジションはアタッカー、(AT)

・サイドエフェクト、感情受信体質

《トリガーセット》

〈メイン〉

・孤月

・旋空

・シールド

・フリー

〈サブ〉

・スコーピオン

・グラスホッパー

・シールド

・バックワーム

《パラメータ》

・トリオン、12

・攻撃、8

・防御・援護、5

・機動、7

・技術、6

・射程、2

・指揮、3

・特殊戦術、2

・トータル、45

《ポイント》

・孤月、5314

ーー

・城山美鈴、(しろやまみすず)

・年齢は15歳、(誕生日は10月1日)

・性別は女性

・身長は163センチ

・ポジションはアタッカー、(AT)

《トリガーセット》

〈メイン〉

・スコーピオン

・グラスホッパー

・シールド

・フリー

〈サブ〉

・スコーピオン

・グラスホッパー

・シールド

・バックワーム

《パラメータ》

・トリオン、8

・攻撃、7

・防御・援護、4

・機動、8

・技術、6

・射程、1

・指揮、3

・特殊戦術、3

・トータル、40

《ポイント》

・スコーピオン、4621

ーー

・餅坂由奈、(もちさかゆな)

・年齢は15歳、(誕生日は11月3日)

・性別は女性

・身長は146センチ

・ポジションはオペレーター(OP)

ーー

《パラメータ》

・トリオン、7

・機器操作、7

・情報分析、6

・並列処理、9

・戦術、7

・指揮、6

・トータル、35

 

 

 

 

 

 



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12話・隊服と訓練

 チーム申請や諸々の手続きが終わり晴れて月白隊が結成されたさらに次の日。早速、エンジニアが作ってくれた隊服に着替える。

 

「なんかー、その……少し派手すぎないか?」

「私はいいと思うわ!」

「そう! ワタクシみたいに輝いている隊服ですわ!」

「ま、まぁ……なんとも言えないですね」

「ちょ!?」

(反対意見があるのは俺だけかよ!)

 

 風矢のトリオン体の隊服は、上はワインレッド色のジャケットに白いTシャツ。下はダークグレーの長ズボンに黒色のブーツ、手袋はなく素手。

 

(もう仕方ないか)

 

 風矢の後ろではオペレーターの服に換装した餅坂。色の配色は風矢の隊服と変わらないが長ズボンではなくボトムをショートパンツ+スパッツ変更した女性陣2人。

 

「隊服も出来たし行くわよ!」

「お前な……影浦隊に話を通したのは俺だぞ」

「そうですわ! あのにっくり奴らを叩き潰しますわ!」

「あのー、やる気だけでか回らないでくださいね」

「「大丈夫よ!」」

「それならいいですが……」

「多分、コイツらに何を言っても聞かないと思うぞ」

 

 やる気だけは一丁前の女性陣2人は風矢と餅坂を連れて、部隊用に用意された隊室から出て行く。

 

 ーー

 

 影浦隊の隊室に着いた月白隊の4人は、部屋のチャイムを鳴らす。

 

「ここが影浦隊の隊室ですかー」

「まあ、俺達の隊室から五分で着いたけどな」

「それは言わないお約束よ」

 

 チャイムが鳴り終わり中からバタバタと聞こえ、少しした後にドアが開く。

 

「やっときたか」

「……仁礼、中は大丈夫なのか?」

「もちのろんだぜ!」

 

 ニコニコ笑っている仁礼だが、ほっぺたが腫れたいるので何かあったのかと思い始める月白隊の4人。

 

「で、では! お邪魔しますわ!」

 

 このまま部屋の前にいても仕方ないと思ったのか、城山が覚悟を決めて部屋の中に入る。風矢達も仁礼の案内で影浦隊の隊室内に入る。

 

「おう、よく来たな」

「ゾエさん、待っていたよ」

 

 部屋にある椅子に座ってコチラを見ていたのは、マスタークラスのスコーピオン使いである影浦雅人。7000ポイントを超えているヘビーガンナーの北添尋。

 

(俺達の師匠になる存在だな)

 

 アタッカーの雫と城山は影浦。ガンナーの風矢は北添。オペレーターの餅坂は仁礼。ポジションごとに別れたので互いの修行を始めていく。

 

 ーー

 

 まずはガンナーである風矢は北添から簡単なアドバイスを貰う。

 

「確かパワータイプのゾエさんとは違いテクニックで点を取るのが風矢君のやり方だよね」

「俺のトリオンでは相手のシールドを破るのは難しいですからね」

「まあ、それならそれでやり方はあるよ」

 

 トリオン9で火力も高い北添とトリオンが6で火力が並の風矢。見た感じ相性はそこまで良さそうではないが、北添の指導はわかりやすかった。

 

「まずは赤いピンがあるから狙ってみてくれる?」

「わかりました」

 

 訓練フィールドの中に出てきた赤いボーリングピンに向かって、突撃銃を構え射撃を始める風矢。

 

「P90型の弾数は200発だからそのまま撃ち切って」

「は、はい!」

『ガガガガッ』

 

 銃の形で段数や弾の威力が変わる。その事は前のガンナー会合で聞いているので、風矢はその事を頭に入れながら引き金を引く。

 

「どうですか?」

「射撃の腕は悪くないけど実戦経験が足りてないと思うよ」

「実戦経験ですか?」

「そう! じゃあ、風矢君の腕も見れたし本番に行こう!」

 

 そう言い、北添が自分のトリガーである軽機関砲を起動して風矢の方を向けた。

 

「え?」

「いくよー」

『ドドドドッ!』

 

 流石にまずいと思った風矢はシールドを使い北添の射撃を防き、自身を手持ちの突撃銃で反撃。

 

「ちょ!? やばっ!」

 

 トリオンの差と武器の火力差で、風矢のシールドは粉々に割られ自身のトリオン体に北添の弾丸が刺さる。

 

『トリオン体活動限界』

 

 仮想戦闘モードなのでベイルアウトしないが、風矢の心にはダメージを与えた。

 

(俺も雫みたいなトリオンがあれば)

 

 月白隊で一番トリオンが低い風矢は、自分の事を凡人と思いながらもどこか期待していたと考え始める。

 

「考えるのもいいけど戦わないの?」

「!?」

(ここで考えても意味がないか)

 

 頭の北添とは違い少し威圧的な言い方を耳にした風矢は、己を叱咤して立ち上がる。

 

「北添先輩! 俺は負けませんよ!」

「その勢いだよ!」

 

 真正面から撃ち合うのは不利と経験した風矢は、自分がいつもやっていた戦い方で北添の攻略を始めた。

 

 ーー

 

 風矢が北添と修行をしている頃、他の訓練室では雫&城山VS影浦が勢いよく斬り合っていた。

 

「おいおい、どうした! お前らの力はそんなもんかよ!」

「ぐっ!?」

「うぐっ!」

 

 影浦がスコーピオンを鞭のようにしならせ、雫と城山のトリオン体に傷を負わせていく。

 

「これが影浦先輩のマンティス」

「スコーピオンを鞭のようにしならせるとか反則ですわ!」

「お前ら! 口を動かすよりも手を動かせ!」

 

 2人がかりでもマスタークラスの影浦には勝てない。その事を痛感した2人は、心が折れそうになるが……。

 

「風矢が頑張っているのにお前らが諦めるのか?」

 

 この言葉を耳にした少女2人、特に雫はボロボロになりながらも立ち上がり影浦を睨みつける。

 

「その目だよ! 面白くなってきたぜ!」

「風矢は私の大事な人よ!」

「ワタクシも彼を取り逃したくないですわ!」

 

 この場所に風矢が入れは呆れながら突っ込んでいたと思うが、今はいないのでみんなスルーして戦いを続ける。

 

(スコーピオンと孤月の差は……)

 

 雫は自分の優れたトリオンを使い右手の孤月で影浦のマンティスを叩き斬り、サブのスコーピオンで反撃を仕掛けている。影浦は雫の動きに対処しながらある言葉を口にする。

 

「お前、トリオンが豊富なのに弾トリガーを使わないのか?」

「弾トリガーは私は合わないんですよ!」

「ちなみにワタクシもですわ」

「あー、お前ら……」

 

 影浦は彼女達と斬り合うと同時に一つ確信する事があった。

 

(トリオンはあるが、使う頭がないんだな)

 

 何かを察した影浦は、なんとも言えない雰囲気になりながら体を回転させマンティスを全体に伸ばす。

 

「ぐうぅ!」

「きゃぁぁ!」

『『トリオン体活動限界』』

 

 全身を切り裂かれた雫と城山は、自分のトリオン体が治った事を確認してまた立ち上がった。

 

「「もう一本、お願いします!!」」

「あぁ、何回でもこい!」

 

 影浦は獰猛な笑みを浮かべ、覚悟を決めた雫と城山に襲いかかった。

 



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13話・VS江橋隊

 12月の上旬。月白隊が江橋隊との対決の日。風矢達は影浦隊の3人に見送られ、目的地であるランク戦会場に到着する。

 

「よく来たな雑魚ども!」

「まあ、B級上がりたてのチームにアタシ達が負けるわがないわ」

「お、お手柔らかにお願いします」

「……アイツら? 弱そうね」

 

 この間のB級ランク戦で11位に上がった江橋隊の4人は、嘲笑いながら月白隊のメンツを見ていた。

 

(対して変わらん雑魚だろ)

 

 オリエンテーションの訓練で1分切りをしている月白隊の2人は、まだ入隊から3ヶ月しか経っておらず。そんな奴らに負ける道理はないと考え、江橋隊の人達は風矢達に見下した視線を送っていた。

 

「……では、お願いします」

「ふん!」

 

 前と違いあまり言葉を話さない月白隊の4人を見て、イジるのは面白くないと感じた江橋達は足早に離れていく。

 

「見てろよ」

 

 風矢はブースの中に入っていく江橋隊や周りにいる隊員達を見ながら、雫達に指示を出す。

 

「いくぞ!」

「「「了解!」」」

 

 いつもと違い真剣モードの月白隊は駆け足で用意されたブースに入っていく。

 

(おやおやー、何か面白い事になってますねー)

 

 何か面白い展開だと思った茶髪の少女は、数日前にスカウト入隊したばかりの新人。そして彼女は初めて見るチームでのランク戦である事を思いつきボーダーを大きく変えていく貢献者になる。(この時はそうなるとは思ってもいなかった)

 

 ーー〈月白隊VS江橋隊〉

 

《ランク戦、フィールド市街地A》

 

 ついに運命を分けるランク戦が始まった。

 

「よし! 作戦開始だ!」

『『『了解!!』』』

 

 試合が始まったと同時に月白隊は全員バックワームを起動する。

 

(これでどう動くか)

 

 風矢はトリオン体の標準装備であるレーダーの精度を上げ、江橋隊の動きを見る。

 

「見た感じ合流しそうだな」

 

 赤い矢印が南側に向かっており場所的には風矢が近い。そのため、まず家の中に隠れて相手の動きを見る。

 

『コチラ雫! 西で美鈴と合流した!』

『了解、じゃあ動いてくれるか?』

『わかりましたわー!』

 

 西側でバックワームを解除してレーダーに映った雫と城山。その2人に向かって赤い矢印2つが彼女達の方に向かって行った。

 

『風矢さん、スナイパーの位置は把握しました!』

「よし、俺も動きますか」

 

 コチラには雫のサイドエフェクトがあり、彼女に敵意を向けると相手のいる方向がわかる。風矢はそのサイドエフェクトを利用し、敵スナイパーの江橋を見つける作戦を立てた。

 

〈西南側〉

 

 住宅街な並ぶエリア、雫と城山は敵スナイパーがいる場所に向かって走る。

 

「このまま行くわよ!」

「わかっていますわ!」

 

 ギャアギャアと喧嘩しながら走る雫と城山だったが、南側から弾丸が飛んできたので2人がシールドを起動する。

 

「2人だけ?」

「もう1人は逃げたんだと思いますよ」

「あり得るわね」

  

 現れたのはメインで孤月を起動し、サブでハウンドのトリオンキューブ浮かせている羽山。その隣ではスコーピオンを起動し片刃のブレードを手に持つ雪川。

 

『作戦通り釣れましたわ』

『そうね……後はコイツらを風矢の方に行かせないだけよ』

『わかっているわよ!』

『2人とも油断しないでくださいね!』

『『了解』』

 

 餅坂の声を聞いた雫と城山は格上相手を見ながら自身の武器を換装する。

 

「へぇ、アタシ達と戦う気なのね?」

「あのー、ボロ負けするのがわかっていて戦うのですか?」

「負けると分かっている戦いは例外以下はしないわ」

「ワタクシ達を馬鹿にしないでちょうだい!」

「そう? ならアタシ達の手で叩き潰してあげる」

 

 メイン、サブ、両方でスコーピオンを起動し襲いかかってくる雪川に対し、相手をするのは城山だった。

 

「あなたの相手はワタクシですわ!」

「ちいぃ!」

 

 城山は雪川の斬撃を自身が起動したスコーピオンで防き、返す刀で反撃する。

 

「コイツ、B級下位の動きじゃない!」

「影浦先輩に散々揉まれたからこの程度じゃ驚かないわ!」

「なっ!?」

 

 前までB級下位レベルと思っていた相手のレベルアップに驚く雪川。その隣では弾トリガーで射程を持つ羽山を相手に雫が孤月で斬りかかっていた。

 

「アステロイド!」

「シールド!」

《キィキンキィンー》

 

 若きオールラウンダーである羽山のトリオン数値は6で、彼のトリオンでは雫のシールドを割るのはかなり難しい。

 

(弾でシールドを広げて孤月で割るしかない!)

(相手は孤月でシールドを割りにくるわね)

 

 互いにメインが孤月なので白兵戦になり、ポイントが高い羽山の方が有利に見える……だが実際は。

 

「なっ、ログと全然違う!?」

「そりゃそうよ!」

(影浦先輩とやり合ったから強くなるわよ)

 

 前までの動きとは全く違う雫の練度に驚く羽山は、距離を取るためにバックステップを踏む。

 

(隊長、早く援護をください!)

 

 羽山と雪川の2人は格下相手に大苦戦。そのためスナイパーである江橋の援護が欲しいが……。

 

《ドーン!》

「「へ?」」

 

 突然、自分達の隊長がいるビルから誰かがベイルアウトする音が聞こえた。

 

『2人とも! 風矢さんが江橋さんを仕留めました』

『よし! 後はコイツらを蹴散らすだけね!』

『油断せずに行きますわよ!』

 

 月白隊の2人は隊長である風矢が相手の隊長を撃破。その餅坂の言葉を聞き、彼女達の闘志が燃え上がる。

 

(風矢にいいところを見せるんだ!)

 

 手ぶらでは帰れない。2人は互いに目を合わせた後、目の前にいる獲物に向かって食らいつき始めた。

 

 ーー

 

 時は少し戻り。レーダーに姿が映らなくなるマントであるバックワームを着た風矢は、住宅街をコソコソ移動し江橋がいるビルの一階に来ていた。

 

『このビルの上に江橋さんがいるんだよな』

『はい、そうです!』

『じゃあ中のマップを頼む』

 

 オペレーターからのデータを受け取った風矢は足音を立てないように階段を登った。

 

(確か5階だよな)

 

 階段に罠があるかもしれない、と風矢は警戒しながら前を進む。そして……。

 

(いた!)

 

 半分開いているドアを覗き込むと江橋が膝立ちでスナイパートリガーのイーグレットを構え、雫達の方角を見ていた。

 

『これより攻撃に入る』

『コチラもサポートしますね!』

 

 少しずつドアを開けた後、風矢はメインにアステロイドを起動し突撃銃を換装。サブはバックワームを起動しているが。

 

(行くぞ!)

 

 バックワームを解除しサイレンサーを起動し、音を鳴らさずに射撃を始める。

 

「!? な、なんだ!」

《トリオン体活動限界、ベイルアウト》

(……へ?)

 

 風矢が放った弾丸は無警戒状態の江橋のトリオン体に直撃。彼の体は弾丸の雨で破壊され光となって戦闘地域から離れていった。

 

『風矢さん……』

『あ、あぁ、なにこれ』

 

 北添や犬飼などの腕利きガンナーに教えを頼み鍛えてもらった風矢だったが……今回の場合、相手が油断していたのもあってアッサリ倒してしまった。

 

『と、とりあえず雫達の援護に向かう!』

『わ、わかりました!』

 

 風矢は改めてバックワームを起動し、アタッカー達が集まる西南に向かって走り出す。

 

 

 

 

 



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14話・VS江橋隊2

 風矢が西南に向かって移動している中、江橋隊の2人は隊長がアッサリやられた事で焦りが見えた。

 

「な、え?」

「江橋隊長がベイルアウト?」

 

 雪川も羽山も正隊員。隊長が先にベイルアウトする事はランク戦でもあったが、それは部隊のレベルが同じか相手の方が上の場合だ。

 

(流石におかしい気がする)

 

 新人潰しをしようとしたら、その新人のレベルが詐欺だった。この時点で釣られたと感じた羽山は体を震わせる。

 

「今よ!」

「チイィ、厄介すぎる!」

 

 雫の孤月が羽山の肩に擦り体からトリオンの黒い煙が漏れる。羽山は雫の動きが前よりも上がっていると思い、下がりながら弾トリガーのアステロイドで牽制する。

 

『雫さん! あんまり踏み込まないでください!』

『わかっているわよ!』

 

 雫がもつサイドエフェクトの効果で相手の不意打ちは通じにくいが……。

 

「ぐぅ!」

「……まだ僕の方が腕は上のようだね」

 

 単純な剣比べでは羽山に軍配が上り、少しずつ押される雫。

 

(まあ、アタシの仕事はコイツを止める事)

 

 相手の斬撃で雫のトリオン体に小さい傷が増えるが、雫の狙いは羽山を止める事で深くは踏み込んでない。羽山は雫は深く踏み込んでくると思ってカウンター狙いでいたがちっとも勝負を仕掛けてこないので拍子抜けをしていた。

 

「何が狙いかわからないけど!」

『警戒!』

「は?」

 

 オペレーターの阿笠が警戒のアラートを鳴らす。羽山は阿笠の言葉を聞き警戒心を上げるが、次の瞬間には自分のトリオン体に無数の穴が開いた。

 

「一体なにが?」

 

 音もなく弾丸トリガーが飛んできた。その事がおかしいと思い、弾丸が飛んできた方を見ると突撃銃を構えた風矢が立っていた。

 

(やられたね)

 

 風矢はバックワームを使い羽山の近くまで移動して、サブをサイレンサーに切り替えて無音でメインのアステロイドを発砲。そのやり方に気づかずシールドが間に合わなかった羽山のトリオン体にはヒビが入る。

 

「ここまでか」

《トリオン体、活動限界! ベイルアウト》

 

 羽山のトリオン体が光り、次の瞬間には空を飛び市街地Aから離れていった。

 

 ーー

 

 羽山を連携で倒した風矢と雫は合流した。

 

「もう少し早くきてほしかったわ」

「お前な……」

「まあ、いいけどね」

 

 雫は満面の笑みを浮かべているが、風矢は油断せず周りを見る。

 

『オペレーター、城山はどこだ?』

『城山さんは雪山さんと共に北の方に行きました!』

『マジか!?』

『とりあえず援護に向かいましょう!』

(分断したのか)

 

 江橋隊の2人が連携していたら雫達の勝ち目はさらに薄かったので分断したのは正解ではある。だが距離的には少し遠いので風矢は雫を先に向かわせようとしたが北の方でベイルアウトの光が見えた。

 

『! 城山さんがベイルアウトしました!』

『……やっぱりか!』

 

 城山がベイルアウトした事で月白隊は1人減ったが、まだ2人残っているので有利に見えるが……。

 

『左腕しか持って行けませんでしたわ』

『いや、それだけでも十分だ』

『後は私達に任せな』

 

 雫が腰に装着されている鞘から孤月を引き抜き、北から接近してくる雪川を見る。

 

「さて動くぞ!」

「了解」

 

 住宅街の屋根を伝って接近してくる雪川を見た2人は戦闘態勢に入る。

 

 ーー

 

 雪川がまず目をつけたのはガンナーである風矢だった。

 

「まずは邪魔な貴方からよ!」

 

 シールドを起動して風矢が放つアステロイドの弾丸を防ぎながら接近する雪川だったが雫が邪魔で自分の動きができない。

 

『迎撃は頼むぞ』

『わかっているわよ』

 

 相手の動きを制限するようにアステロイドを発泡する風矢と孤月とスコーピオンの二刀流で攻める雫。この2人の連携は形になっており雪川をイラつかせる。

 

「どうしてB級上がりたての雑魚にアタシが苦戦するのよ!」

「そんなの知るかよ」

(まあ、2人がかりなのが大きいと思うけどな)

 

 ボーダーのトリガーはメインとサブで一つずつしか使えないので数を相手するのは難しい。それを知っている風矢は冷静に戦局を見ながら戦いを進める。

 

「このまま追い込むぞ」

「了解!」

 

 片腕を取られた雪川は足スコーピオンなどの体術で応戦してきたが、その動きは影浦も使っていたので雫は孤月とシールドを使って防ぐ。

 

「!? シールドが硬いわね!」

 

 雪川は自分の攻撃が集中してない普通のシールドで防がれた事に驚き大きくバックステップを踏む。

 

「そこよ! 旋空孤月!」

「! しまった!」

 

 雫はオプショントリガーの旋空を起動して孤月の射程を伸ばして雪川のトリオン体を真っ二つに切り裂く。

 

「こ、ここまでなの……」

『トリオン体活動限界、ベイルアウト』

 

 トリオン体が真っ二つに切り裂かれた事で雪川はベイルアウト。月白隊VS江橋隊の勝負は月白隊の勝利に終わった。

 

 ーー

 

 ランク戦の決着がつき悔しそうな表情で香取達に頭を下げる江橋達を見ながら城山は高笑いをキメていた。

 

「オッホホ! これがワタクシ達の実力ですわ!」

「1人だけベイルアウトした事を忘れたの?」

「そ、それは……!」

(コイツら)

 

 風矢はため息を吐きながら雫と城山の言い合いを観察していると江橋達が頭を上げてコチラを睨みつけてきた。

 

「今回は負けたが次は勝つ!」

「それまで首を洗って待ってなさい」

 

 三下のような捨て台詞を吐いてそそくさ離れていく江橋隊の面子を見ながら風矢達はスッキリした表情を浮かべる。

 

「まあ、今回はなんとか勝てたな」

「でも次はわからないわね」

「まあな」

 

 今回は風矢達の情報が少なかったのと江橋隊が油断してログをあんまり見なかった事で勝てた試合。そのため次に戦う時は勝てるかどうかは怪しい。

 

(そんな事は今考えても仕方ないか)

 

 香取達とワイワイ騒いでいる城山と餅坂を見た風矢と雫は混ざるために近づいていく。

 

「ねぇ風矢、ボーダーに入ってどう?」

「うん? いきなりどうした?」

「いいから答えてよ」

 

 雫の質問に困り顔を浮かべる風矢だったが、少し魔を置いてから口を開く。

 

「まあ、楽しいぞ」

「!? それは良かったわ」

 

 中学校では友達が少ない風矢と雫だがボーダーに入って仲のいい友達が増えていった。その事を思った風矢は心の中で喜ぶ。

 

(ボーダーに入ってよかったな)

 

 風矢は雫に手を引っ張られながら前に進んでいく。それはまるで上への道が見えているようだった。

 



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15話・新しい道

 月白隊VS江橋隊の対決から約1週間後。

 

「なんかおかしい気がする」

「何か?」

「あ、風矢。ポン酢をとっていただけるかしら?」

「うん……って、そうじゃない!?」

 

 12月中旬も終わりが差し掛かり終業式間近の日曜日。いきなり泊まりで出かけた家族に疑問符を浮かべながらも自宅で惰眠を貪っていた風矢。だがその睡眠も長くは続かず、鍋パーティセットを持った雫達に家凸されて今の状況が成り立っていた。

 

「では、そのカニ貰いますわ!」

「あぁ!? そのカニは自分が取ろうとしていたのに!」

「ならこっちはいただくわね」

「ちょ!? 自分のカニがー」

「……カニはまだまだあるぞ」

(なんで俺が鍋奉行をしているんだ?)

 

 せっかくの休みの日に鍋奉行をする風矢。しかも目の前には城山が持ってきた1杯1万円を超えるカニが調理されてテーブルに置かれている。

 

「おお! 流石は風矢さんです!」

「風矢ー、こっちにもカニをお願い!」

「ちょ!? そのカニはワタクシが狙ってましたのよ!」

「お前ら喧嘩するな」

 

 ドタバタとうるさい雫と城山を他所に風矢はため息を吐きながら自分もカニを食べる。

 

(……美味しいな)

 

 数ヶ月前は雫しか友人と呼べる存在はいなかったが、ボーダーに入り城山や餅坂。他にも香取隊や影浦隊のメンツなど人が集まったと思う。

 

「ボーダーに入隊してよかったな」

「うん? 何か言った?」

「いや、なんでもない」

 

 カニを特殊なフォークで食べながら笑い始める。

 

 ーー

 

 シメの雑炊を食べて満足した4人は後片付けをした後、ソファーに座って気を抜く。

 

「しかしまぁ、俺達がチームを組むとはな」

「そうね……まあ、私は風矢さえいればどうでもいい」

「貴女はブレないですわね」

「でも雫さんらしいです」

 

 今も風矢の膝を枕にして横になっている雫を見る城山と餅坂。彼女達は雫ののんびりした姿を見て一言。

 

「羨ましいですわ」

「いいなー」

「ここは私の席だから無理よ!」

「ちょ!? 俺の膝だぞ!」

「「「そんなの知らない!」

「コイツら……」

 

 周りから見れば美少女ハーレムに見えるが実際は残念感が強い。そう思った風矢はため息を吐きながら話題を変える。

 

「そういえば、チームの目標はどうするんだ?」

「そんなのA級昇格に決まってますわ!」

「確かにここまできたら目指すのはいいかもしれないわね」

「A級ですか……悪くないですね!」

「なんかアッサリ決まったな」

 

 もう少し考えてもいいのでは、と思った風矢だったが彼女達の性格を考えてアッサリの方がいいなと考える。

 

(まあ、仕方ないか)

 

 言い方は悪いが、自分も含めて馬鹿の集まり。そんな奴らが考えてもロクな事にはならないのは身をもって知っている。

 

「それなら、A級を目指しますか」

「「「おぉ!!」」」

 

 風矢の一言でまとまった彼女達。彼らは新しい道に向かって歩き始める。

 

 

 



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