ゴッド・ストラトス (狼ルプス)
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プロローグ

「うぅん…ここは、どこだ?」

 

目を覚ますと誰も使わなくなった倉庫のような場所に手と足を縛られた状態でいた。たしか…姉の応援に無理矢理ドイツまで来させられてそこでホテルに泊まって会場に行こうと思ったら、

 

「お前織斑一夏か?」

 

男がそう聞いてきた。

 

「…ああ、織斑一夏だ…」

 

「そうか、予定通りだ」

 

「なんでこんなことをしたんだ?」

 

「織斑千冬を不戦敗にするためだとよ」

誘拐目的を聞くと男はテレビをつけ、モンド・グロッソの生中継を見はじめた。そこには決勝戦にでる姉の姿があった。期待はしていなかったからやっぱりかと思っただけだった。

 

「おい、織斑千冬が決勝に出てるぞ⁉︎」

 

「クソ!予定と違うじゃねえか⁉︎仕方ない、証拠隠滅のためにお前はここで死んでもらうぞ」

 

俺は姉が好きじゃない、出来ると勝手な理想を押し付けてくる姉。姉は俺のことを全く理解してくれなかった。男は銃を俺の頭に向けて構えてくる。

 

「なんだこい…」

 

もう死ぬのかと諦めた瞬間突如謎の穴が出現し、そこから、見た事のない化け物がが出てきて、誘拐犯の男を叩き潰し、その場から血が溢れていた。

 

 

「ヒィッ!な、なんだこの化けも」

 

もう一人の誘拐犯も銃を乱射するも、そのまま捕食してしまった。そして化け物は一夏に標的を変えゆっくりと迫る。

 

 

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!⁉︎」

 

一夏の目の前に来ると、一夏を掴み、胸のあたりに押し付けると、腕がめり込んでしまい。めり込んだ腕に激痛が走ったので見てみると、左腕が押しつぶされた。意識が朦朧とする中、一夏の左腕が異形の腕のようなものになっていた。

 

一夏は「ごめん弾、数馬、蘭」 と友人の名を呟き、激痛で気を失ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇〜???

 

「おいサクヤ!大至急こっちに合流してくれ!」

 

 

とある場所で大きな武器を担いだ男が一人の子供が倒れているのを発見し、無線らしきもので同行していた仲間を呼ぶ

 

「おい坊主!だいじょっ⁉︎な、なんだ…こりぁ」

 

大きなチェーンソーのような武器を持った男性は少年の安否を確認するが…左腕に目が行った。

 

 

「リンドウ、何があったの?」

 

「サクヤ、こいつの左腕…」

 

「左腕?…っ⁉︎こ、これは一体」

 

「ああ、アラガミ化してやがる。一体どうなってんだ?この状態だとアラガミ化が進行してるようには見えねぇが」

 

少年の左腕は人の腕とは異質な腕をしており二人は動揺を隠せなかった。

 

「とにかく、この子を一旦アナグラに運びましょう。ひどい怪我よ」

 

少年は血まみれで傷もあちらこちらにできていた。サクヤと呼ばれた女性はそう言い、周囲にあった布で少年の左腕を包み。周りに敵が居ないか警戒するようにあたりを見回した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「怪我はひどいが、左腕のアラガミ化以外問題は無いみたいだね」

 

 

メガネをかけた目の細い男がそう言った。

 

「そうか…なぜ、あの場所にいたのか…色々疑問があるが…」

 

白い服を着た男がそう呟き、興味深そうに眠っている少年を見ていた。

 

「まぁ、目を覚ました時に聞けばいいさ」

 

メガネをかけた男性は答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅん……」

 

重い瞼をゆっくり開け意識を戻す一夏、視線だけを動かすとどうやらベットに寝かされていることに気づき、状況を整理する。一夏の体には手当てされたのか包帯が巻かれており点滴もうたれていた。一夏は激痛に耐えながらゆっくり身体を起こす。

 

「(ここは、病院か?おれ、生きてる?確か…誘拐されて…誘拐犯に殺されそうになって…)っ⁉︎な、なんだ…この左腕⁉︎」

 

左腕を動かしたらそれは自分の腕ではなく異形の腕に変わっていた。不思議と違和感はなく前の腕と同じ感覚で動かせた。

 

 

 

「(あの化け物のせいか?でも…あれは一体)」

 

 

 

「おっ?目を覚ましたみたいだな」

 

化け物について考えていると声がした方へ視線を向けると、ダークブラウンの服を着た男がいた。

 

「…えっと、あな、たは?」

 

「俺は雨宮リンドウ、倒れてるお前さんを見つけたもんだ。お前さんは?」

 

 

「えっと、織斑一夏って言います」

 

「イチカか、いい名前じゃねぇか」

 

自己紹介するとリンドウは一夏の頭を撫でてきてた。一夏は突然とのことにただ撫でられるだけだったが、悪い気はしなかった。

 

「あら?リンドウ、例の子の目が覚めたの?」

 

黒髪で短髪の女性が入ってきた。

 

「私の名前は橘サクヤよよろしくね」

 

「こいつの名前はイチカって言うらしいぞ」

 

一夏が名乗る前にリンドウがサクヤと呼ばれた女性に教えた。

 

「よろしくね、イチカ君」

 

言ってサクヤも一夏の頭を撫で始める。

 

「よろしく、お願いします」

 

彼は過去に誰かに撫でられた経験がないため、どうしたらいいか分からず視線を泳がせていた。

 

「そうだ、シックザール支部長が呼んでいたわよ」

 

「そうか、わかった。またなイチカ、終わったらまた顔出すぜ」

 

また頭を撫でてから退室した。

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ、調子はどうだい?」

 

リンドウとすれ違いになったのか、目の細いれく茶色い服を着た男性が入ってきた。

 

「大丈夫です」

 

「そうかい。どうやら自我もはっきりしているようだ。おっと、僕は名前は、ペイラー・榊って言うんだ」

 

 

「よろしくお願いします(胡散臭そうな人だな)」

 

内心で一夏は呟く、雰囲気からしてそう思わずにはいられなかった。

 

「うん。そうだ、君が寝ている間に血やDNAのサンプルを採取させてもらったよ。」

 

 

「はい⁉︎」

 

と驚くことしかできなかった。勝手に自分の身体を調べられたら驚くしかなくつい大声を上げた。

 

「腕のアラガミ化が、腕まででアラガミの進行が止まっているなんて、実に興味深いサンプルだよ」

 

「アラガミ?」

 

「っとそうだった。君がなんであの場所にいたか教えてくれないかね?普通ならあの場所に民間人がいるのはおかしいんだ」

 

知らない言葉が出てきて一夏は首を傾げるが、自身の事情を説明する。

 

自分の家族のこと、学校でいじめられていたこと、仲のいい友達のこと、誘拐されたこと、誘拐された時に黒い穴から、化け物が現れて襲われたこと、気づいたらこの場所にいたこと、腕が、こんなことになったこと、そしたら、サクヤさんが抱きしめて後頭部を優しく撫でながら

 

「辛かったでしょう。でも、大丈夫よ。ここにはあなたを虐める人なんていないから、安心して」

 

「あ……ううっ…っ」

 

嬉しくなって一夏は泣いてしまった。こんなに優しくしてくれる人は束以外いなかった。

 

「それにしても異世界からの来訪者か、ISという物も実に興味深いが、アラガミ化の進行が進んでいないのもそれが原因か…」

 

サカキが何か呟いていたがようだが、今の一夏には聞き取れる余裕はなかった。落ち着き、泣き止んだのを見てサクヤは一夏から離れる。

 

「イチカ君、あなたはこれからどうするの?」

 

「正直…よくわからないです。ここがどんな場所かも知らないですし」

 

「そうね。まずはこの世界について簡単に教えるわ」

 

この世界は突如出現した怪物、アラガミによって崩壊した。そしてその怪物を倒せる唯一アラガミに対抗しうる力をもった神機使い、通称ゴッドイーター。そしてサクヤと先ほどのリンドウもゴッドイーターとして活動しているとのこと、ゴッドイーターはやたら大きな腕輪をしているのが目印らしい。

 

「そ、そんな事が…文明は俺といた世界に似てるけど…全然違う…。じゃあ…あの時俺を襲った怪物は…」

 

 

「ええ、アラガミで間違い無いわ。あなたの左腕のアラガミ化がいい証拠よ」

 

一夏はアラガミ化した腕を見つめる。異形と化した左腕はもはや人間の面影は残っていない。唯一幸いなのは自身の腕としてしっかり機能することだろう。

 

そしてその様子をサカキが悪い笑みで見つめており、何か閃いたのか二人に声をかける。

 

「そうだ。イチカ君、君の保護者をこのお姉さんにして貰おうか、サクヤ君も構わないだろ?」

 

と言われたので当然のように一夏は驚く。

 

 

「え⁉︎そんな、急に言われても…」

 

「私は構わないわよ?昔弟か妹が欲しいなんて思っていた頃もあったから…イチカはどうしたい?」

 

サクヤはサカキの提案に賛成の意思だった。一夏はしばらく迷っていたが…

 

 

「えっと…これからよろしくお願いします。サクヤ…姉さん」

 

 

ぎこちない返事だが、一夏はそういった。サクヤは姉さんと呼ばれて嬉しかったのか…再び一夏を抱き締めるのだった。




一夏のアラガミ化した左腕の見た目はデビルメイクライ4のネロの腕を白にした感じで光っている箇所は変わりません。


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適合試験

2071年極東、とある廃教会。白い異形の怪物が集団で巨大なトラのような生物を補食している。そこに別のトラのような生物が近づき、飛び掛かる。

 

異形の生物正体は『アラガミ』、大型のアラガミが小型のアラガミの補食する行動が行われていた。

アラガミも弱肉強食、自然の摂理に則りトラのような生物は白い異形の怪物を補食する。

 

それを物影に隠れて眺める3つの人影があった。3人共身の丈を超える大きさの武器と赤い腕輪を付けていた。

 

暫く眺めていると、食事に気を取られ油断していると判断したのか一斉に飛び出した。

 

 

 

『ガアァァァァァァ!!!』

 

三人に気づき大型のアラガミが吠えた。

 

 

 

 

 

大型のアラガミは倒れ、絶命していた。それを赤いチェーンソーのような武器を持った男、リンドウが武器を構えると武器から顎が生えてきた。

 そしてそのまま死体を喰わせた。

 

「…おっと、レアモノだな」

 

「戦果は上々…ってところかしら?」

 

周囲を警戒しながらサクヤがリンドウに話かける。

 

「またサカキのおっさんがはしゃぎそうだ」

 

「あとは人手が増えてくれると助かるんだけど。さ、帰りましょ!おなかすいちゃった」

 

そう言うと3人共帰還ポイントまで歩き出す。

 

「あ、今日の配給って何だったかしら?」

 

「あー…この間の食糧会議で言ってたなぁ…確か…新種のトウモロコシだ」

 

「えー、またあのでかいトウモロコシ?あれ食べにくいんだよね…」

 

「このこ時世だ、食えるだけでありがたいと思えよ。それこそイチカに頼めば美味しくしてくれるんじゃねぇか?」

 

「そうね。頼んでみるわ」

 

先程まで命掛けの戦いをしてきたとは思えない雰囲気の会話をしていた。歩みを止め、サクヤはフードを被った褐色の肌をした少年に話しかける。

 

「あ、そうだ!ねぇソーマ、何かと交換しない?」

 

ソーマと呼ばれた、先程まで会話に参加しなかった少年が口開く。

 

「…断る」

 

「えー、ソーマだってイチカの作る料理好きでしょ?」

 

「……フンっ」

 

 

「おーい何してんだ?置いてくぞー!」

 

少し離れた場所からリンドウが帰るように促す。この命掛けの戦いがゴッドイーターの日常なのだ。

 

 

「そう言えば今日だったかしら、イチカが適合試験受けるの?」

 

「あーそうだったか?確か噂の新型だったか?」

 

「ええ、イチカなら問題なく適合試験は乗り越えられそうだけど、それにしても早いわね…もう三年は経つのかしら?」

 

「そうだな、当初は一人でなんでも抱え込んでたが…」

 

「仕方ないわよ、イチカは誰かに甘える事自体出来なかった環境で育ったみたいだし…」

 

「今じゃだいぶ違うからな、二年前はサクヤ姉、サクヤ姉って懐いてたな」

 

「うふふ、彼の姉として出来る事しただけよ。最近は恥ずかしくなって少なくはなってるけど」

 

「あー、あいつも年頃の男だしな、そういう時期だろ…なぁ、ソーマ?」

 

「……」

 

「無視かよ…(こいつもこいつなりでイチカのことは気にかけていたからな…)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようこそ、人類最後の砦フェンリルへ。君には今からゴッドイーターになるための適合試験を受けてもらう。少し、肩の力を抜くといい、その方が良い結果が出やすい」

 

 

そしてその適合試験の当日。イチカは広い部屋の中にいた。

 

広い部屋のちょうど真ん中には剣のようなものがあり、さらにその頭上には何やら焼印を入れるような機械があった。

 

「準備ができたなら中心に向かうといい」

 

「(いよいよか、リンドウさんは洗礼としてとんでもない痛みを味合うって言われたけど…)」

 

織斑一夏改め、橘イチカはこの世界に来て三年は経つ。この世界に来て色々と教えてもらいこれまでの間は食堂の手伝いや施設での手伝いに明け暮れていた。その際ペイラー・榊から同意の上本格的な身体検査なども受け、今のイチカの体は左腕のアラガミ化の影響でゴッドイーターと変わらない体質らしく偏食因子の投与も必要ないとのこと。

 

 

「すー、ふぅー……」

 

イチカは深呼吸をして神機が置かれている台に手をおき、神機を握った。すると

 

ガッシャン!

 

「っ……!」

 

勢いよく降りてきた台座はまるでプレスをかけるように降下してきた。右腕がグニャグニャ奇妙な音を立てながら体の中に何かが入るような感覚がした

 

「…………あれ?」

 

全然痛くない?リンドウさん、サクヤ姉からもすっごく痛いと聞いてだけど…全く痛みもないし、感じるのは体の中に何かが入り込む感覚だけだった。

 

「(もしかして…アラガミ化が原因か?)」

 

数十秒してガコンと音を立てアームみたいなのが外れ神機を持つと腕輪に変なのが接続した

 

「おめでとう。適合試験は成功だ。改めて歓迎しよう。君は極東支部初の"新型"神機使いとなった」

 

ヨハネスの賛辞の声を聞きながらイチカは自身の手にある神機を持つ。これがイチカの神機であり、これから共に戦う相棒である。

 

「(これが俺の神機…見た目の割に重くないんだな)」

 

「この後は榊博士の検査を受けるように。また気分が悪いなどの体調不良を感じるならすぐに伝えるように」

 

ヨハネスからこのあとのことを聞きイチカは部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

極東支部エントランス内に来たイチカは先ほど支部長から待っていろと言われたが、エントランスのどこで待っていればいいのか聞いていないため、とりあえず黄色いニット帽を被った少年の隣が空いているのでそこに座る。

 

「ねぇ…ガム食べる?」

 

「え?あ、うん」

 

不意に声をかけられる。返事をするとポケットを漁っている。

 

「あ、切れてた。今食べてるのが最後だったみたい。ごめんごめん。」

 

「大丈夫…」

 

会話が途切れると少年は退屈なのか足をブラブラさせている。

 

「あんたも適合者なの?感じからして同い年か少し年上っぽいけど、一瞬とはいえ俺の方が先輩ってことで!よろしく!」

 

「あはは、よろしく」

 

「あ、自己紹介がまだだったね。俺は『藤木コウタ』って言うんだ。あんたは?」

 

「橘イチカ、アナグラ内に姉がいるから名前でよんでくれ」

 

「わかった。よろしくなイチカ、俺のこともコウタって呼んでくれ」

 

「ああ。よろしくなコウタ」

 

共に自己紹介をして拳をぶつけ合う2人。イチカ内心仲良くなれそうと思い、そしてその2人に近寄る女性が1人。

 

イチカからして見覚えのある人物。白いスーツに身を包んだ女性がヒールの音を響かせて近づいてくる。

 

「立て」

 

「はい!」

 

「え?」

 

「立てと言っている!立たんか!」

 

「は、はいっ!」 

 

有無を言わせない強い口調で命令する。イチカは最初の一言で立ち上がるが、あまりの迫力にコウタは勢いよく立ち上がる。

 

「これから予定が詰まっている。簡潔に済ますぞ。」

 

ツバキはこれからの予定を伝えに来たようだ。

 

「私の名前は雨宮ツバキ。お前たちの教練担当者だ。この後の予定はメディカルチェックを済ませた後、基礎体力の強化、各種兵装等の扱いのカリキュラムをこなしてもらう。今までは守られる側だったかもしれんが、これからは守る側だ。つまらないことで死にたくなければ、私の命令にはすべて『YES』で答えろ。いいな?」

 

「は、はい!」 

 

イチカはこの三年でツバキの事も知っているが、改めてゴッドイーターとなってわかった事だが、まるで独裁者のような物言いに思わずイチカも怯んでしまった。

 

「藤木コウタ!わかったら返事をしろ!」

 

「はい!」

 

勢いよく返事をするコウタ。

 

「早速メディカルチェックについてだ。まずはイチカ、お前だ」

 

「はい!」

 

ツバキがこちらに目を向け指示を伝える。イチカの今の苗字は橘なのでややこしくなるため名前で呼ぶツバキ。

 

「ペイラー・サカキ博士の部屋に一五〇〇までに行くように。まだ時間があるうちに、この施設を見回っておけ。今日からお前たちが世話になる、フェンリル極東支部、通称『アナグラ』だ。メンバーに挨拶のひとつでもしておくように」

 

「わかりました。コウタ、また後で」

 

「おう!」

 

イチカはコウタと分かれてエントランス内を見て回る。コウタと別れたイチカはカウンターの女性に話しかけられた。

 

「はじめまして。新しい神機使いの方ですね?私はミッション発注の管理をする、竹田ヒバリと申します。」

 

「はじめまして、橘イチカです」

 

丁寧な口調で話終えた後にお辞儀をしてきた。こちらも自己紹介しお辞儀で返す。

 

「ふふっ、あなたの事はサクヤさんとリンドウさんから聞いています」

 

「二人からですか?」

 

「はい、あなたはまだ新人研修を終えていないので出撃を許可できません。メディカルチェックを終えてから来てくださいね!」

 

「わかりました。これからよろしくお願いします」

 

ヒバリと挨拶を済ませたイチカはアナグラを見回りに行った。

 

「(お二人の言った通り素直そうな方でしたね。それにしても…あの左手は一体…)」

 

エントランス内を見渡していると銀髪の少女に話しかけられた。

 

「あ、イチカ!適合試験お疲れ様…気分はどう?」

 

「リッカさん!はい、今のところ問題はないです」

 

銀髪の少女の名前は楠リッカ、アナグラに勤める女整備士だ。イチカも手伝いをした事もあり交流も何度かある。

彼女は主にゴッドイーターたちが使う神器の整備を担当している。その所為かいつも頬にオイルが擦れたような跡が付いている。

 

「そっか。これから神機整備に関しては最善を尽くすよ。君が現場で困らないようにね」

 

「わかりました」

 

「要望があればいつでも言ってね。あ…サカキ博士のとこでメディカルチェックか…今度暇なときにでまたメシでも食おうよ。じゃあね」

 

「はい、また」

 

リッカと分かれたイチカはエレベータに乗るが、約束の時間には若干早いがラボラトリに行くことにした。ラボラトリで降りるとピンク色の髪をした女性がいた。こちらに気づいて話しかけて来た。

 

「あ…はじめまして…あ!もしかして新人の方ですか⁈わ、私、台場カノンって言います!」

 

 

「た、橘イチカです。よろしくお願いします」

 

「そう言えば2人新しい方が来るって言ってたっけ…じゃあ、今からメディカルチェックですね!廊下のつきあたり、サカキ博士のラボですよ。博士ってちょっと変わってますけどとても優しいい方なんです。大丈夫ですよ!」

 

「は、はい」

 

なにやらテンション高めで話続けている。その後、カノンがこの区画を簡単にラボラトリ内を案内し、最後に病室に案内された。

 

「最後にここが病室です。病室もいくつかあるんですが、ここが一番小さいですが利用しやすい病室なんです。怪我したときはまずここに来るといいですよ」

 

「わかりました。ここまでありがとうございました、台場先輩」

 

お礼を言い先輩と呼ばれ嬉しそうにするカノン、彼女は「それじゃあ」と言い残しエレベーターに乗った。

 

 

 

「(榊博士か…確かにいい人だけど、やっぱちょっと苦手だな)」

 

少し早めに榊博士の研究室に入るとそこにはヨハネスとペイラーの2人がいた。

 

 

 

「ふむ…予想より726秒も早い。さすがだねイチカ君。知っていると思うが、私はアラガミ技術開発の統括責任者だ。改めてよろしく頼むよ」

 

そう言いながらもキーボードを操作する手は止まらない。流石技術者…下手したら束さんといい勝負かもしれない。

 

 

「さて、と…見ての通り、まだ準備中なんだ。ヨハン、先に君の用件を済ませたらどうだい?」

 

 

話を振られるもヨハネスは呆れたような様子でペイラーに叱責する。

 

「サカキ博士…そろそろ公私のけじめを覚えていただきたい。」

 

 先程の呆れた様子もなく、凛々しい表情で此方に顔を向ける。

 

「適合テストではご苦労だった。君は既に知っているだろうが、この地域のフェンリル支部を統括している。改めて適合おめでとう。君には期待しているよ」

 

「彼も元技術屋なんだよ。ヨハンも『新型』のメディカルチェックに興味あるんだよね?」

 

「あなたがいるから、技術屋を廃業することにしたんだ…自覚したまえ。」

 

「ホントに廃業しちゃったのかい?」

 

「ふっ…さて、ここからが本題だ。我々フェンリルの目標を改めて説明しよう。君の直接の任務は、ここ極東一帯のアラガミの撃退と素材の回収だが、それらは全てここ前線基地の維持と、来るべき『エイジス計画』を成就するための資源となる」

 

「これはっ!!!」

 

「(な、なんだ?)」 

 

 

突然ペイラーが声をあげたため、イチカは思わずペイラーに視線を移してしまった。

 

「エイジス計画とは...簡単に言うと、この極東支部沖合い、旧日本海溝付近に、アラガミの脅威から完全に守られた『楽園』を作るという計画だ」

 

 

 

 

 

「ほほぅ」

 

「この計画が完遂されれば、少なくとも人類は、当面の間絶滅の危機を遠ざけることができるはず…」

 

「すごい!これが新型か!それにしてもこの数値は…」

 

「あの、榊博士、失礼を承知の上でいいますが…支部長の話し声が聞こえないです」

 

「彼の言う通りだペイラー…説明の邪魔だ…」

 

 流石のイチカも呆れて指摘するが、ヨハネスからは怒気が込められている。三度も説明の邪魔をされ怒りを感じた。

 

「ああゴメンゴメン、予想以上の数値を叩き出したからね。ついはしゃいでしまったよ」

 

軽い謝罪で済ませたペイラーだった。イチカは内心「やっぱりこの人苦手だ」と呟くしかなかった。

 

「ともあれ、人類の未来のためだ。尽力してくれ。じゃあ、私は失礼するよ。ペイラー、あとはよろしく。終わったらデータを送っておいてくれ。」

 

そう言ってと部屋からヨハネスは出ていった。ペイラーは片手を挙げて返事をする。

 

 

 

「よし準備完了だ。そこのベッドに横になって。少しすると眠くなると思うが、心配しなくていいよ。次に目が覚めるときは自分の部屋だ。戦士のつかの間の休息という奴だね。予定では10800秒だ。ゆっくりおやすみ」

 

 

「おやす…なさ(……意識、が…)

 

 

そして次第に眠気が襲ってきてそのままイチカは眠ってしまった。

 




今作の一夏のプロフィール

ISの世界からゴッドイーターの世界に

名前:織斑一夏から今作は橘イチカ

神機:第二世代型?バイティングエッジの予定…アサルト・シールド

家族:橘サクヤ
ゴッドイーターの世界に来て榊の提案で、橘サクヤの弟になった。本人のサクヤは大歓迎だった。

ソーマからは似た匂いがすると言われ話す程度には仲は良く、ここに来た当初は冷たかったが、イチカの事を気にかけてくれた。


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初陣

《シミュレーション終了》

 

 

訓練室内にイチカの担当教官であるツバキの声が響く。

 

「ふぅ…」

 

一つ溜め息を吐き、額の汗を拭うイチカ。そう、今のはシミュレーションであり、実戦ではなく訓練だった。

 

「バイティングエッジ…だったか?これ一番しっくりくるかも…」

 

 

自身の神機に目をやる。神機には近接武器として二刀流型の神機、バイティングエッジ、遠距離武器としてブラスト、防御壁としてタワーシールドが装備されている。

 

「薙刃形態の扱いは今後課題として、タワーシールドは防御力は高いけど、やっぱり少し時間がかかる。シールドはバランスはいいけやっぱりバックラーが扱いやすい。ブラストは威力はすごいけど、銃はアサルトとスナイパーってところか…」

 

シミュレーションでイチカはさまざまな装備を試しながら訓練をしていた。

 

 

 

今はバイティングエッジだが先日は短剣、長剣、先々日は鎌といったあらゆる武器を試している。前の世界で剣道をやっていたイチカは剣タイプをメインに使っており、今回使ったバイティングエッジが扱いやすかったのだ。

 

 

《では次の訓練に入る。シミュレーション開始!!》

 

再びシミュレーションが始まる。シミュレーションに集中するイチカは擬似アラガミを討伐していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「凄まじいな」

 

シミュレーションを見ながら感心するようにツバキは呟く。

 

 

 

 

 

従来のゴッドイーターは、剣型と銃型、それぞれの特性を持って戦ってきた。しかし、新型は剣型と銃型の変型移行、更に剣型にのみ許された 捕食形態(プレデターフォーム)も可能で捕食する事でのバースト状態やコア回収に加え、銃型でのバレット枯渇を軽減、そして特殊バレット。

 

「(新型とはこれ程の性能を…そもそもあの装備は扱う者はほぼいないと言うのに…これほど使いこなすとはな…)」

 

バイティングエッジは扱いが難しい事でツバキの知る限り使いこなせるゴッドイーターはいなかった。しかしイチカは先のシミュレーションでも見事に使いこなしており擬似アラガミを難なく討伐していた。

 

「(ゴッドイーターになる以前からアラガミ化していたのもあるが…奴自身の能力だろう)」

 

ツバキはイチカの左腕の事はリンドウから聞いており、イチカの事情も知っている。一息ついてから思慮にふける。

 

「(新型は一人部隊で多様な役割を果たす事ができる。だが)」

 

もう一度、訓練に励むイチカに目を向ける。

 

「(これも新型の特性とでもいうのか?訓練の一つも受けていなかった人間の動きじゃないぞ)」

 

ツバキの言う通り、イチカの動きは常軌を逸している。まるで動きがわかっているがごとく攻撃をかわし、斬りつけ、距離を取りながら変型、撃つ。必要に応じ盾で受け流し、そして斬り、薙刃形態で挟まれた状況を一振りで複数倒し、倒れたものから捕食する。

 

シミュレーションとはいえアラガミを狩り尽くす。その動きは第一部隊のソーマ・シックザールと肩を並べるほどの動きだった。

 

「(とても新人とは思えない)」

 

冷静に動きを観察している間に、訓練は終了した。イチカが一息つき、ツバキのいる部屋へ目を向ける。

 

「ふぅ、ツバキさん…今日は以上ですか?」

 

「あぁ、本日の訓練を終了する。2時間後に榊博士の定期検査を受けろ。それが終われば本日の予定は全て終了となる。後はゆっくり休め。以上だ」

 

「はい、ありがとうございました」

 

一礼し去っていくイチカを見送り、緊張していたのか溜息がもれる。イチカの実力は元ゴッドイーターであったツバキには良く理解できる。

 

「(これならば、予定より早く実戦に出しても問題はなかろう)」

 

そう思い、ツバキはその場を後にした。

 

 

 

 

今日の訓練を終えたイチカはエレベータに乗ったがまだ時間があるのでとりあえず新人区画で降り、自販機で飲み物を買い設置されたいすにこしかける。

 

「ふぅ、今日もハードな訓練だった。後でリッカさんに神機の組み合わせの申請をしておかないと」

 

 

 

 

すると帽子を被り、黄緑のジャケットを羽織った少年が通ってきた。

 

「ちっ、今回もしけた報酬だぜ……ん?」

 

報酬の内容が気に入らなかったのか、ブツブツと文句を言っている。こちらに気づいたのか帽子の少年が話しかけてきた。

 

「何だお前?初めて見る顔だな…ああ、そう言えば前に新型の新入りが入ったて言ってたな。まっ、お前もせいぜい死なない程度にがんばれよ。命あっての物種だからな」

 

「は、はい…頑張ります。えっと…」

 

「小川シュンだ。お前は?」

 

「橘イチカです。よろしくお願いします。小川先輩」

 

「先輩…随分礼儀正しい後輩じゃねぇか!先輩として色々アドバイスしてやるよ!」

 

「えっと…すみません、今回は遠慮させてもらいます。訓練を終えたばかりで…」

 

「そうか?まっ、聞きたいことがあったらいつでも聞いてくれ。後、割の良い任務があったらいつでも声をかけてくれよ?新型らしいし…報酬もかなり良さそうだしな!」

 

「は、はい。その時は…よろしくお願いします」

 

シュンは上機嫌にエレベーターにのり新人区を後にする。イチカはジュースを飲み終え、自室のターミナルから神機の組み合わせを整理した。組み合わせはバイティングエッジ、バックラー、アサルトで運用することにした。その後はシャワーで汗を流し、部屋で待機していたら、リッカから連絡が来ていた。どうやらバイティングエッジについてだった。バイティングは扱いが難しいとのことで扱う者は彼女が知る限りいないと知る。

 

 

 

榊博士の定期検査を終わらせ、次の日になるとエントランスに向かう。ツバキから今日から早速実戦に向か事になり、ヒバリに聞いてみると、上官と一緒に行くことになっているため準備をして待機するようにとのことだった。

 

 少し待っていると、見たことのある顔が目に入る。こちらに気付いたのか近づいてくる。

 

「あ、リンドウさん。支部長が見かけたら顔を見せに来いと言ってましたよ?」

 

「オーケー、見かけなかったことにしといてくれ」

 

 

 

「(仕事でもあんな感じなのか、まぁ…リンドウさんらしいや)」

 

 

三年くらい彼を見ていたのでリンドウの事は理解しているイチカ、そうしているうちにリンドウがこっちに来た。

 

「ようイチカ、無事にゴッドイーターになれたみたいだな。一応説明するが、俺は第一部隊隊長で形式上お前の上官にあたる。まあ面倒くさい話は省略するし、いつも通り接してくれると助かる。とりあえず、とっとと背中を預けられるぐらいに育ってくれ。な?」

 

「わかりました」

 

「あ、イチカ。もしかしてこれから実戦任務?」

 

「サクヤ姉」

 

気がつくとサクヤが話しかけてきた。

 

「あー、今厳しい規律を叩き込んでるんだから…向こうに行ってなさいサクヤ君」

 

「(これが厳しい規律?)」

 

 

「了解です上官殿。イチカ、リンドウがいるから大丈夫だろうけど気をつけなさいね」

 

「わかった。ありがとうサクヤ姉」

 

仕事場でもこんな感じだと知って一夏もほんの少し緊張が解ける。落ちついているとサクヤが手を振り、去っていった。

 

「うし、さっそくお前には実戦に出てもらうんだが、気づいているだろうが今回の任務には俺も同行する」

 

 

一度視線をはずして時間を確認する。

 

 

「…っと、時間だ。出発するぞ」

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-贖罪の街-

 

 

「……(改めて見るとかつての日本の風景の面影も、なくなってるんだな)」

 

荒廃した建物、その間に吹く風が砂を運ぶ。アラガミによって崩壊した都市群、かつての栄光は既にない。イチカはターミナルにあった画像や話に聞いただけで実感は余りなく、こうして目の当たりにしたことで複雑な感情が込み上がってくる。

 

 

「ここも随分荒れちまったなぁ……」

 

「……」

 

リンドウは一服しながらあたりのかつては栄えた街だった光景を見渡す。

 

「お前さんもこの場所、前の世界でも見覚えあるのか?」

 

「はい、世界は違えど俺の知っている日本には変わりありませから」

 

「実際アナグラ外に出るのは初めてだったか?三年前見つけた時はお前さん意識がなかったな」

 

「はい、けど…リンドウさんが俺を見つけくれたおかげで今の俺があります。俺の左腕はこれですし、下手したら人体実験なんてされてた可能性もありましたし」

 

イチカ左手の手袋を外しリンドウと言う。イチカの左腕はアラガミ化しており余り周りには見せてもいいものではない。

 

「そうかい、まぁ、なんにせよ、早く成長してオッサンを楽させてくれ」

 

「リンドウさん、オッサンていう年齢でしたか?確か26でしたよね?」

 

「15のお前に比べたら充分オッサンなの」

 

「ははっ、そうかもですね」

 

そう言って笑うリンドウ、イチカも自然と笑みを返す。

 

待機ポイントから様子を見ながら会話すると、タバコを吸い終わったリンドウがこちらを見る。

 

「よしイチカ、これより実地演習を始める。命令は3つ」

 

イチカは気を引き締め、リンドウは命令の内容を説明する。

 

「死ぬな、死にそうになったら逃げろ。そんで隠れろ、運がよければ不意をついて…ぶっ殺せ!」

 

拳を握りながら親指を立てる。

 

「あの、それ4つじゃ…」

 

「あ?おお、確かに4つか?ま、とにかく生き延びろ。それさえ守ればあとは万事どうにでもなる」

 

「了解です。簡単に言えば今回の任務は生きて帰ること…ですよね?」

 

「その通りだ、生きて帰るまでが任務だ。倒したからって気は抜くんじゃねぇぞ?それにお前さん、その装備バイティングエッジか?随分珍しい装備を使うんだな」

 

「リッカさんとツバキさんにも言われました。この装備扱う人がいないらしいですね」

 

「俺の知る限りじゃ扱う奴はお前さんが初めてだ。とっ…話はここまでにして、始めるか」

 

 そう言ってリンドウは待機ポイントから飛び降りる。それに続いてイチカも続くように飛び降りた。

 

リンドウの先導の下、イチカは実地演習の戦場へと向かった。

 

「今回俺はサポートだ。お前がヤバくなったら手を出すが…それまでは自分でできるだけ戦え。いいな?」

 

「了解」

 

表情を引き締め、リンドウと共に荒廃した街を歩いていくイチカ

 

「(もうここは戦場なんだ。気は抜けない)」

 

 知らず、神機を握る手の力も強くなる。そうして、息を殺して街を歩く事数分

 

「…………」

 

立ち止まり、リンドウが手をあげ止まるよう指示する。壁に背を預けるリンドウ、それに続いてイチカも同じようにする。

 

「……いたな」

 

「……はい」

 

2人の視線の先にはアラガミ、オウガテイルが。こちらには気づいていないが、視線をあちこちに動かしている。

 

「イチカ、まずはお前が奇襲を仕掛けろ。何かあったら俺がフォローしてやる」

 

「わかりました」

 

二つ返事で返し、先行するイチカ

 

「(いい目だ。初陣とは思えない面構えだ。いや、以前アラガミに殺されかけたのもあるだろうな)」

 

そう、イチカはこの世界来る前にアラガミに襲われ殺されかけられたことがあり、死の淵を乗り越えたことがある。そのせいかアラガミを見ても冷静に見据えることが出来るのだろう。

 

 

「ふぅ……っ!」

 

イチカはオウガテイルとの間合いを詰め、バイティングエッジの二振りのブレードによる奇襲の一撃を与える

 

「(まず一体!)」

 

刃はオウガテイルの背中にくい込み、イチカの奇襲に気づくことなく倒れ込む。倒したオウガテイルから一度距離を取り間合いを取る。

 

『グァァァッ!!』

 

他のオウガテイルもイチカに気づき、雄叫びを上げ、尻尾を立てる。

 

すると、オウガテイルの尻尾から無数の針が飛び、イチカは難なく回避する。

 

「遅い!」

 

避けるだけではなくそのまま銃形態へと変形させる。新型神機使いの最大の特徴である、可変機能。

 

アサルトタイプを構え、オラクル細胞を用いて銃口から弾丸を発射する。弾丸はそのままオウガテイルに突き刺さり、怯みを与えた。

 

「そこだ!」

 

すかさず薙刃形態に変形させ、一気に踏み込みオウガテイルの口目掛けて突きを放ち、刃はオウガテイルの口へと入り、イチカは両手で柄を持ってから。

 

「これで、終わりだ!」

 

そのまま、力任せに刃を押し込みオウガテイルの身体を貫いた。貫かれたオウガテイルはピクピクしばらく動いていたが、しばらくして全く動かなくなり、致命的なまでのダメージを与えた事によりアラガミは、地面へと力なく倒れ込んだ。

 

 

「おいイチカ、ちゃんとコアを抜き取るの忘れんなよ」

 

「あ…はい」

 

イチカは思い出したかのように頷き、一度薙刃状態から二刀流に戻し、神機を捕喰形態へと変形させ、オウガテイルの死体を捕喰させた。

 

「よし、今日のミッションはこれで終了だ。帰投する、だが油断するな、アナグラに帰るまではミッションだからな」

 

「了解です」

 

「それにしてもお前さん凄いな。初陣とは思えない動きだったぞ?」

 

「訓練通りにやっただけです。ただリンドウに言われるまでコアの回収を忘れていたのが今回の反省点ですけど…」

 

「まっ、最初はそんなもんさ…後は慣れだ慣れ」

 

早く背中を預けられるようになってもらいたい……そう思いつつ、リンドウはポケットに入ったタバコを口に含み、吸い始めた。

 

 

 

 

「っ…(なんだ?)」

 

帰投ポイントまで向かう際、突如左腕に違和感を感じたイチカは立ち止まり、手袋を外すと左腕が発光していた。

 

「(なんだ…この反応、こんなの今まで一度もなかったのに)」

 

すぐに反応は収まりそれ以降は何もなかった。

 

 

「おーい何してんだ?置いてくぞー!」

 

「あっ、待ってください!」

 

イチカはすぐさまリンドウの後を追う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

この時、ボロボロの布に身を包んだ白い少女がイチカを見つめていた。

 




今作イチカの見た目

左腕のアラガミ化の影響で瞳の色が感じ金色になっており、髪型は若干長い。

衣装は英雄伝説のリィン・シュバルツァーと同じ


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サクヤと任務

極東支部に戻った後、ヒバリから報告と一緒に榊博士のラボで新人向けの講義があると聞いたので、リンドウと別れてラボに向かう。ラボに着いたらもうコウタが来ていた。

 

 

「来たね」

 

どうやらイチカが来るのを待っていたようだ。イチカが座るとペイラーが咳払いをして講義が始まる。

 

「さて、いきなりだけど...君はアラガミってどんな存在だと思う?」

 

 

「未だ謎の多い怪物…ですか?」

 

イチカは首をかしげながら答える。

 

 

「ほぉ、面白いことを言うね。確かにアラガミは時に常識の範囲をこえてくる。人類の天敵、絶対の捕食者、世界を破壊するもの、まぁ、こんな所かな?これらは認識としては間違っていない。むしろ、目の前にある事象を素直に捉えられていると言えるだろうね。じゃあ、なぜ、どうやってアラガミは現れたのか?って考えたことあるかい?」

 

 ペイラーは室内を彷徨きながら講義を続ける。

 

「君たちも知っての通りアラガミはある日突然現れて爆発的に増殖した。そう、まるで進化の過程をすっ飛ばしたようにね」

 

「ふぁぁぁ…」

 

 講義がつまらないのだろうかコウタはあくびをしてこちらに話しかける。

 

「なあなあ…この講義必要?アラガミの存在意義なんて知る意味あんのかな?」

 

「知っておいて損はないと思うけど…」

 

「そう言うもんか?」

 

「イチカ君の言う通り、知っておいて損はないよ?」

 

「うげっ!!!」

 

「(いつの間に)」 

 

一端離れたはずのペイラーがいつの間にかコウタの横に立っており、コウタの頭を小突きながら講義を再開する。

 

「アラガミには脳がない、心臓も、脊髄すらありはしない。私たち人間は頭や胸を吹き飛ばせば死んじゃうけど、アラガミはそんなことでは倒れない。アラガミは考え、捕食を行う一個の単細胞生物、『オラクル細胞』の集まり...そう、アラガミは群体であってそれ自体が数万、数十万の生物の集まりなのさ。そしてその強固でしなやかな細胞結合は既存の通常兵器では全く破壊できないんだ。じゃあ君たちは、アラガミとどう戦えばいいんだろうね?」

 

「えーと、それは…神機でとにかく斬ったり撃ったり…」

 

 突然振られたため、つまりながらもコウタが答える。

 

「そう、結論から言えば同じオラクル細胞が埋め込まれた生体武器『神機』を使って、アラガミのオラクル細胞結合を断ち切るしかない。だがそれによって霧散した細胞群もやがては再集合して、新たな個体を形成するだろう。彼らの行動を司る指令細胞群…コアを摘出するのが最善だけど、これがなかなか困難な作業なんだ。神機をもってしても、我々には決定打がない。いつの間にか人々は、この絶対の存在をここ極東地域に伝わる八百万の神に喩えてアラガミと呼ぶようになったのさ。さて、今日の講義はここまでとしよう。アラガミについては、ターミナルにあるノルンのデータベースを参照しておくこと。いいね?」

 

「わかりました」

 

講義が終わって、部屋に戻ろうと思いエレベータに向かう。

 

「イチカ!」

 

コウタに呼び止められた。

 

「この後時間ある?暇ならちょっと早いけど晩飯に行こうぜ!」

 

「ああ、いいぜ」

 

 どうやら夕飯に誘われているようだ。コウタに言われるままついていく

 

 

「あいつが例の新型か?」

 

「あの子が?と言うか、結構イケメンじゃん…私好みかも」

 

「噂じゃ訓練成績も最高記録を叩き出したとか?」

 

「どうせ自分は新型だから偉いとか思ってんだろ!」

 

 もの珍しいのかイチカに注目が自然と集まる。中には妬んでいる者も少なからずいた。

 

 

「なんか視線が…」

 

「仕方ないと思うぜ?イチカは新型だから嫌でも注目されるよ」

 

「そう言う、ものなのか?」

 

「そう言うもんだよ」

 

会話に夢中になっていると、食堂に着いていた。とりあえず食券を買い、できたものを受け取り席に着く。

 

「ウマいんけど…やっぱちょっと高いよなぁ…まだ訓練しかしてない俺にはちょっと辛いな」

 

「このご時世、食べる事が出来るだけでも感謝しないと」

 

「そうだよな、なあ、実戦にでるってどんな感じだった?やっぱり怖いとかってあった?」

 

「もちろんあったよ。けど頼りになる上官が一緒だったから訓練通りに行けたよ。後は戦場に出ると雰囲気も全然違ったな」

 

「へぇー、やっぱ実戦に出たやつの言ってることは説得力あるなぁ…なんか不安になってきた」

 

「大丈夫、コウタも訓練通りにやれば上手くいくはずさ」

 

「そうだな、サンキューなイチカ!」

 

 

コウタは実戦の空気というか雰囲気が気になるようだ。下手をすると死ぬかもしれない仕事なのだ。当然と言えば当然。

 

「そうだ、イチカってバガラリー知ってるか?」

 

「バガラリー?いや、知らない」

 

「マジか!?」

 

「あ、ああ」

 

 

目をを見開き驚くコウタ、そんなに驚く事なのだろうか

 

「バガラリーっていえば、過去に大人気だったアニメじゃねえか。ホントに知らないの!?」

 

「うん(この様子だと日本で放送されてたアニメか?有名なら俺の世界でも知ってたはずだし…文明は同じだけど、やっぱりない物がこっちにはあるって事か?年代もあるかもしれないけど…)」

 

イチカの世界にはISが存在しており、こちらには全てを喰らい尽くす怪物、アラガミの存在、年代もあるが同じ文明の世界とは変わりなく、こう言った違いもあると改めて感心を持つイチカ。

 

 

「ガクッ……まあいいや、知らないなら教えてやるよ。俺の部屋で一緒に観ないか?」

 

「そうだな……せっかくだし見てみるか」

 

「ホントか!後で俺の部屋に来てくれ、絶対に面白いから!」

 

そう言って、コウタは先に食事を済ませ、自分の部屋へ戻っていった。イチカも食事を終えてコウタの部屋に行きバガラリーを一緒に見るのだった。

 

 

翌日、通信端末にエントランスに来るようにとリンドウから連絡があり、指示に従い、エントランスまで行くことにした。

 

「(呼び出した本人がいない……まっ、リンドウさんだからな)」

 

呼び出したリンドウの姿が見当たらないが、イチカも慣れているので出撃ゲート前のソファで座って待つことにした。

 

「あら、あなた…噂の新型の新人さん?」

 

すると銀髪に眼帯をつけた細身の女性が隣に来た。

 

「隣、いいかしら?」

 

「はい、どうぞ…」

 

 

許可を得て隣に座ると、話しかけてきた。

 

「ジーナ・ディキンソンよ、よろしく」

 

「橘イチカです」

 

「あら、もしかしてサクヤさんの弟さん?そう言えば貴方、リンドウさんと出たんだってね?運がいいわね。」

 

「運がいい、とは?」

 

なんのことかよくわからず、首をかしげる。

 

「ここでは、リンドウさん程生き延びるのがうまい人はいないわ。多分、くっついてれば死ぬことはないでしょ…」

 

「確かに、いてくれるだけでも…不思議と安心感はあります」

 

「そうね、まだ来分からない事が沢山あるでしょう?何かあったらいつでも聞きに来なさい」

 

「わかりました。その時はよろしくお願いします、ジーナ先輩」

 

「先輩いらないわ。それじゃあまたね、可愛い新人さん…」

 

 

ジーナは離れていき、そうしているとリンドウがエントランスに来た。こちらに気づいて話しかけてきた。

 

「お、もう来てたのか?どうだ、少しはこの仕事に慣れたか?」

 

「リンドウさん、呼び出した本人が遅れてくるのはどうかと思いますけど……」

 

「わりぃな、こっちも色々忙しくてよ」

 

「まぁ、別に今回だけじゃないですからね、リンドウさんのこれは…」

 

「ははは!すまんな。今日はゴッドイーターになった祝いに飯にでも…と言いたいところだが…ま、例によってお仕事の話だ」

 

 そう言うとリンドウはイチカを連れて受付に向かいながら任務の説明を始める。

 

「今度の任務では、サクヤと同行してもらう」

 

「サクヤ姉と?」

 

「ああ、姉弟での初の任務だ。準備ができたら、ヒバリのところで俺が発注したミッションを受けてくれ。いいな?」

 

「了解。サクヤ姉と任務か…」

 

「まっ、お前さん達なら問題はないだろうが、サクヤのこと、よろしく頼むぜ」

 

「わかった。って言うかそれ新人の俺に言います?」

 

「いーんだよ、一応お前さんには期待してるからな。んじゃ、お仕事頑張れよ」

 

 

説明が終わるとリンドウは離れていき、イチカはヒバリにミッションの発注をしてもらおうと思ったが、黒髪に赤いジャケットを着た男性がヒバリと話を続けている。

 

「今日も無事帰ってこれたよヒバリちゃん!だからデートしない?」

 

「(ナンパか?)」

 

「タツミさん、他の人の迷惑になりますのでこの話は終わりです。お待たせしました、ミッションの受注ですよね?」

 

 こちらに気づいたヒバリが無理矢理話を終わらせてこちらに話しかける。そこまで言われてようやくタツミと呼ばれた人がこちらに気がついた。

 

「おっと、もしや新型の新人か!ちょっと先輩らしところも見せとくか!俺は大森タツミ、よろしくな!」

 

「橘イチカです、よろしくお願いします。大森先輩」

 

「よろしくなイチカ!後名前で構わないぜ?もう知ってると思うけど、ミッションを受けるときは、このカウンターで申請するんだ。無事にミッションを達成した後は清算されて、口座に報酬が振り込まれる。ま、ほどほどに頑張れよ!これからよろしくな!」

 

「はい!よろしくお願いします、タツミさん!」

 

「リンドウさんからの依頼で、サクヤさんとの合同ミッションが追加されています!姉弟初めての一緒の任務になりますね!」 

 

「はい、足を引っ張らないようにしないと」

 

 

ミッションを受注するとそのまま現地に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嘆きの平原、巨大な竜巻を中心に、地面が大きくえぐり取られている平原についた。

 

竜巻の影響か、周囲一帯は分厚い雲が広がっており雨も降っている。少し離れた所にビルの残骸が残っており、旧時代ではビル街だったのだとわかる。待機ポイントにはすでにサクヤがいて、こちらに気づいて話かけてきた。

 

「来たわね……うふふ。いよいよ記念すべき姉弟一緒の任務ね」

 

「あはは、足を引っ張らないよう精一杯努めるよ」

 

「頼りにしてるわよ。それに、本当にバイティングエッジを扱うのね、あなた」

 

「うん、実戦でも感じたけど、やっぱこっちが一番扱いやすかったから…」

 

サクヤはイチカが少し力んでいると感じ、頭を撫で始め、おどけた雰囲気を出して落ち着かせる。

 

「もしかして緊張してる?肩の力抜かないと、いざと言うとき体が動かないわよ」

 

「ご、ごめん、もしかして顔に出てた?」

 

「顔に出てなくてもわかるわよ。あなたのお姉ちゃんなんだから…」

 

「ありがとう……後、頭撫でるのやめてくれないか?流石に恥ずかしい…」

 

「うふふ、ごめんなさいね」

 

 

『グオオオオォォォ……』

 

 突如付近にアラガミの咆哮が響く。

 

「っ!この咆哮…」

 

「さっそくブリーフィングを始めるわよ」

 

 そう言うとするとサクヤのおどけた雰囲気が消えて、真剣な表情になり作戦内容を伝える。

 

「今回の任務は君が前線で陽動、私が後方からバックアップします。遠距離型の神機使いとペアを組む場合、これが基本戦術だからよく覚えておいて。くれぐれも先行しすぎないように。後方支援の射程内で行動すること。OK?」

 

「了解!」

 

「うん!素直でよろしい。さあ、始めるわよ」

 

  

そう言って二人は待機ポイントから飛び降りた。平原の中心は竜巻と共に大きく反り立っている。

そのため、左右どちらかから迂回しなければならなず、ターゲットとなっている2体のコクーンメイデンを探すため、サクヤとイチカは左から迂回する。

目標を見つけ、コクーンメイデンがこちらに気づいて、オラクル弾を一度真上に飛ばし、一度停止した後、こちらに向かって飛んでくる。二人は射程外に身を隠しサクヤは対象の説明を始める。

 

 

「あれが今回のターゲット、コクーンメイデンよ。実物を見るのは初めてよね?コクーンメイデンは移動しないけど、こちらを正確に狙う射撃攻撃をしてくるわ。そして接近すると、体内にある針を伸ばして攻撃してくから気をつけて」

 

 

「了解、サクヤ姉」

 

「わたしは後方で援護するから、イチカは臨機応変に戦ってね?」

 

「了解…」

 

イチカはバイティングエッジを二刀流状態から薙刃状態へ変形させ、その瞬間にイチカはコクーンメイデンへと向かっていった。

 

 

「(ホント、リンドウの言った通りいい目をしてるわ……)」

 

イチカの行動に迷いはなく、初めて戦うアラガミだというのに……これにはサクヤも感心せざる得ない。

 

「ーっ!」

 

 コクーンメイデンの頭部が開かれ、発射口から光弾が放たれる。それをステップして回避、すかさずもう一度地を蹴って間合いを詰める。柄を強く握り直し、そのまま切り裂こうとしようと構えた時。

 

 

「っ!(何か来る…)」

 

嫌な予感がし、イチカはコクーンメイデンの左横に回り込む。瞬間、今度は腹部が開き中から無数の針が一斉に飛び出した。

 

「(こんな感じに飛び出してくるのか……下手したら今ので串刺しにされてた)」

 

まともに受けていたらと思うとイチカはゾッとする。イチカは左腕のアラガミ化の原因で他のゴッドイーターと違い、ほぼゴッドイーターと同じ状態からゴッドイーターになったため、あらゆる感覚、身体能力も通常より強化されているのだ。

 

「はぁ!」

 

 

イチカは構え、相手の頭部に突きを叩き込む。切っ先が深く入り込み、即座に引き抜くと舞い散る鮮血、悲鳴を上げながらコクーンメイデンの動きが止まった。

 

「そこっ!!」

 

その隙を逃さず、サクヤは砲身を構え射撃を開始した。銃口から放たれたのは、属性を持つ弾丸。更に、間髪入れずにもう一発放ち、コクーンメイデンの身体に穴を開けていく。

 

 

 

「決める!」

 

イチカは二刀流に変形させ、コクーンメイデンを何度も斬りつける。あまりに早い剣撃にコクーンメイデンは針すら出す余裕もなく、血を辺りに撒き散らしながら絶命した。

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……終わった。後はコアの回収」

 

絶命したのを確認し、神機を 捕食形態(プレデターフォーム)に変形させ、コクーンメイデンの死体を喰らう。

 

「……コアの採取完了、終わったよサクヤ姉」

 

「お疲れ様イチカ、ホントに新人とは思えないくらいいい動きだったわよ。リンドウが誉めることだけはあるわ」

 

「いや、俺はまだまだだよ…」

 

「それでも充分凄いわよ…」

 

そう言って笑みを見せるサクヤ。

 

「さてと、これでこのミッションはおしまいよ、帰ってさっぱりしたいわね」

 

「確かに、雨も降ってるし、びしょびしょ。サクヤ姉は大丈夫かよ?」

 

「ええ、ゴッドイーターだから耐性はあるけど、それなりの不快感はあるわ」

 

「じゃあ、せめてこれ着て…」

 

イチカはサクヤにコートを羽織らせる。サクヤは突然の事にキョトンとする。

 

「いくらゴッドイーターだからって風邪は引くかもしれないだろ?ただでさえサクヤ姉その服装だから…」

 

「…ありがとねイチカ、遠慮なく使わせてもらうわ。そう言うところもリンドウも見習ってほしいわね」

 

 

そう言うと二人は会話をしながら帰還ポイントまで歩き出した。



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イチカとソーマ

「……」

 

 

サクヤと任務を終えたイチカは自室で音楽を聴きながら休んでいた。

 

「(あの時本当に壊れなくてよかったよ。俺が次元を超えた証でもあるからな)」

 

イチカは耳にイヤホンをつけておりその先にはイチカの世界で使っていたスマホがある。しかしただのスマホではない。

 

「(壊れたら直しようがないからな…榊博士もお手上げらしいし)」

 

イチカの持つ端末は前の世界、織斑一夏だった時にISの生みの親である篠ノ之束から誕生日プレゼントでもらった物だ。

機能は通常より優れており、このスマホにはISに搭載されている拡張領域機能がある。スマホはある永久機関で一生稼働できるシステムにしたからバッテリーの心配は無い。イチカの前の世界での唯一の所持品である。ある程度の物は拡張領域にしまってあり、写真、アルバムには前の世界で過した記録やアナグラで過ごした記録もある。曲も沢山入っている。

 

すると支給された端末から着信音が鳴る。

 

 

「(リンドウさんから…)」

 

内容は『俺の部屋に来るように リンドウ』とだけ書かれていた。読み終わると、そのままリンドウの部屋に向かう。部屋に着くとリンドウとサクヤがいた。

 

 

 

 

 

「サクヤ姉、いたんだ…」

 

「やっほー、イチカ」

 

「おう、来たか。俺の部屋に来るのは初めて……じゃないな。どうだ調子は?」

 

「うん、悪くはないと思います」

 

「そうか、だが体調管理も立派な仕事だからな。メシは食ってしっかり寝とけよ」

 

「わかってます」

 

おそらく気を使ったのだろう。するとサクヤが口を開く。

 

「改めて、お疲れさま!さっきのミッション、初めてにしてはなかなかいい連携で動き易かったわ!姉弟の絆ってやつかしら?」

 

「そう、かな?上手く動けてよかった」

 

もサクヤは連携がよかったと誉めていた。

 

 

「何かあったら助けてあげるわ。イチカが一人前の神機使いになるまで、しっかりサポートするからね!」

 

「……うん、ありがとうサクヤ姉、リンドウさんも、迷惑かける事もあるかもしれないけど…よろしくお願いします」

 

何かあったら助ける…サクヤにいわれるとイチカは安心感を覚える。前の世界では姉の織斑千冬はイチカを助けには来てくれなかった。

リンドウからまた仕事について話され、そのままイチカは次のミッションの内容を聞いてエントランスに向かう。

極東支部は激戦区とされる地…連戦は当たり前で一日に複数の任務に出るのもよくある。

 

 

 

エレベータを降りると金髪の青年と前に会ったシュンが話している。そのまま横を通ろうとすると、話しかけられた。

 

「おっ、よう後輩!元気か!」

 

「ほう…噂してるそばから現れたか、新型さんよ。それも特殊能力ってヤツか?見た目はただのガキだが…ま、せいぜい頑張って稼ぎな」

 

「は、はぁ…」

 

「そうそう、逃げ回るのはネズミの美徳ってな…男の価値は撃破数と報酬だぜ!覚えとけよ!あ!そういえばお前んとこの隊長みたいだな。これは、失敬失敬!」

 

「……人の価値観はそれぞれだと思います。別にお二人の価値観に何も言うつもりはありません。それと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の尊敬してる人の事を馬鹿にするんじゃねぇよ

 

 

 

 

 

「「っ⁉︎」」

 

 

腹の底から響いてきたような低い声を出し、普段のイチカから想像できないような殺意を2人に向ける。

 

その瞬間、二人は心臓を掴まれたような感覚を覚え、本能的なのか、危険を察知した。それはあまりにも人に向けてもいい殺意ではなかった。近くにいた神機使い達もイチカの殺気に萎縮してしまっている。

 

イチカはそのまま受付に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…くそっ!あいつら、人のことガキ扱いしやがって…」

 

「コウタ?どうしたんだこんな所で…」

 

「イチカか。あそこにいた2人、絶対新人イジメするタイプだぜ!あーあ…あんなのと一緒にミッションに行きたくないなぁ。お前もなんか言われたりされたか?」

 

どうやらコウタもあの2人になにか言われたようだった。

 

 

「いや、特に何も」

 

イチカはさっきの事は話さず、リンドウに言われたミッションを受注するため、オペレーターのヒバリのもとに向かう。

 

しかしそこにはタツミがいた。このままでは申請ができないのでそのままヒバリにミッションの申請をするため話しかけるが

 

「だぁー!今ヒバリちゃんとイイ所なんだから邪魔するな!」

 

「す、すみません。あの、ミッションを受注したいんですけど…」

 

なんとかミッションの受注が出来そのまま出撃ゲートにむかう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今回の任務先の鉄塔の森に着くと、赤いベストを全開にして、全身に刺繍をいれた派手な男が近づいてくる。

 

「ああ、君が例の新人君かい?噂は聞いてるよ。僕はエリック、エリック・デア=フォーゲルヴァイデ。君も精々僕を見習って、人類のため華麗に戦ってくれたまえよ?」

 

「橘イチカです。よろしくお願いします。エリック先輩」

 

手を差し伸べてきたエリックと、握手を交わす。

 

「堅苦しい呼び方はしなくていいよ、僕と君はは人類の為に戦うゴッドイーターなのだから」

 

「は、はい…」

 

エリックの言葉に、曖昧な返事しか返せないイチカ。悪い人ではないのはわかるが少々とっつきにくい印象だった。

 

 

挨拶をしていると後ろのフードを被った青年が何やら構えている。すると

 

「お前ら!上だ!」

 

「ん?」

 

青年が叫がエリックはその場から動かず上を見た。

 

「エリックさん!!」

 

するとオウガテイルが飛びかかり、イチカはエリックを突き飛ばした。

 

「うわぁッ!!」

 

オウガテイルがイチカに馬乗りになる。今にもイチカを食い殺そうと牙を剥け、イチカはなんとか神機で防御しながら抵抗する。

 

 

 

 

 

 

 

 

するとイチカの左腕が光り始め…

 

 

「くっ!邪魔……だぁ!!」

 

イチカは左の拳でオウガテイルを殴り飛ばした。そのオウガテイルはその威力に宙を舞い、フードを被った青年とエリックは驚愕する。

 

イチカはすぐに立ち上がり、神機を二刀流から薙刃状態に切り替え、そのまま落下して来るオウガテイルに向けて突き立て、落下して来るオウガテイルは串刺しになり、そのまま絶命する。

 

「はぁ……はぁ、危なかった」

 

イチカは生きていることを確認し、オウガテイルを切り離し、捕食しコアを抜き取る。

 

 

 

「エリックさん、大丈夫でしたか?」

 

 

「あ、ああ」

 

 

エリックの無事を確認するイチカ、突然の事で驚きが倍増したのか、エリックは頷きながらなんとか言葉を発した。

 

「チッ…油断するからそうなる。コイツが居なかったらお前は今頃アラガミの餌だぞ?」

 

「う……」

 

「ソーマ…」

 

「久しぶりだな。それとようこそ…このクソッタレな職場へ…」

 

「久しぶりソーマ…その…」

 

突然ソーマが神機を突きつけられ

 

 

「お前はどんな覚悟を持ってここに来た?」

 

 

「……大事なものを守るために」

 

「ふっ……そうか、時間だ。行くぞルーキー…」

 

突如オウガテイル、サイゴード、コクーンメイルが襲って来た。それにかなりの数だ

 

「早速来やがったか……」

 

 神機を構えるとソーマはアラガミの群れに突っ込み、次々とアラガミを斬り伏せて行く。

 

リンドウやサクヤからもソーマの実力はトップクラスと説明されているイチカは、アラガミの攻撃をバスターブレードとは思わせない身のこなしで避け、一撃でアラガミを沈める

 

「……すごい」

 

ソーマの実力を目の当たりにしたイチカは魅了されていた。

 

「イチカ君、さっきすまなかったね。キミが居なければ本当に危なかったが、さっきみたいな無茶はもうしないでくれ」

 

「…すみません」

 

「謝罪はいいさ。後でその左腕について聞きたいが、今は僕達も人類のため、華麗に戦うよ」

 

「は、はい!(左腕……手袋が破れてる⁉︎)」

 

手袋が先程殴った反動で破れてしまい、左手があらわになってしまっている。

 

イチカは銃形態に変形させ、エリックはブラストでソーマの援護をしつつ自分に近づくアラガミをイチカは変形を活かし、エリックをカバーしながら、エリックはブラストの強力な火力で吹き飛ばしていく

 

「(ここの人達はみんな凄い…やっぱり経験の差ってやつか)」

 

次々とこちらに向かって来るアラガミ斬ったり、撃ったり倒していく。その際捕食攻撃を行いバースト状態となる。

 

「(力が溢れて来る…これがバースト状態か!)」

 

身体能力を上げ、コクーンメイデンを斬り倒す。倒し終わるとバースト状態も解除された。

 

 

 

「(それに…さっきオウガテイルを殴った時の左腕…)」

 

先程オウガテイルを殴り飛ばした際、信じられない力が溢れ出た。普通のゴッドイーターでもさっきのようには出来ない。

 

 

「(試してみるか…)」

 

イチカは一体のオウガテイルに向かって一直線に駆け抜ける。一気に間合いを詰め、イチカの存在に気づき彼へと振り向くオウガテイルが尻尾を振るが…

 

「捕まえた……オラァ!!」

 

左腕で尻尾を掴みそのままオウガテイルを持ち上げ地面に何度も叩きつける。何度も叩きつけられたその顔面を砕きながらイチカはオウガテイルを投げ飛ばした。

 

 

「終わりだ…」

 

銃を構え…オウガテイルを撃ち抜いた。大きなダメージを受け、さらにはオラクルによる弾丸でオウガテイルは絶命。

 

 

 

 

「ソーマ!エリックさん!」

 

すかさずイチカは二人にオラクルを受け渡す。

 

「余計な事を…」

 

「これがリンクバーストというやつか!」

 

 想定よりかなりの数ではあったが所詮は小型アラガミ。二人がいることもあってあまり苦戦せず片付けれた。

 

 

《アラガミを撃破!迅速な対応お疲れ様です》

 

オペレーターのヒバリからこの場にいるアラガミを掃討した連絡がはいる。

 

「なかなかいい動きだったねイチカ君。左腕について聞きたい事があったが…今はやめておくとするよ。色々…事情もありそうだしね」

 

「すみません、エリックさん」

 

「安心したまえ、君の左腕については口外しないと約束しよう」

 

「ありがとうございます」

 

「お礼を言いたいのはこっちさ、キミが居なければ僕はアラガミに食われていた。本当にありがとう」

 

「………いえ」

 

お礼を言われたイチカにソーマから視線が向けられた。

 

 

 

「少しは役に立つようだな」

 

「おお?ソーマが他の人を褒めるなんて珍しいね?そう言えばイチカ君はソーマのことを呼び捨てにしているけど…知り合いなのかい?」

 

「ふん…」

 

「はい、そんな所です…」

 

 

ソーマは舌打ちをして背を向け俺はコアを回収し、帰りのヘリが来る地点まで歩き出した。

 

 

「…おい」

 

「は、はい!」

 

突然話しかけられたので、つい挙動不審反応をとってしまうイチカ、普段ソーマから話しかけられることは滅多になかったのでつい身構えてしまう。

 

「おまえの、さっきの動き………良かったんじゃないか?」

 

「……え」

 

ソーマが発した意外な言葉に、物珍しげに目を向ける。幸いエリックは離れた場所にいるのでそれを聞くことはなかった。

 

「……せいぜい死んでくれるな、“イチカ”」

 

「………ありがとう、ソーマ」

 

「……ふん、それと…左腕はどうだ?」

 

ソーマはイチカの左腕に目を向ける。イチカの事情を知っているのは第一部隊のメンバーと榊、支部長のヨハネスだ。つい先程エリックにはアラガミ化した左腕がバレたが…内密にしてくれると約束された。

 

「いや、これといってなんともないけど…すごく調子がいい。アラガミが簡単に振り回せる事ができた…」

 

イチカは近くにあったアラガミの破片を拾う。この破片はオウガテイルがオウガテイルの尻尾から無数の針による攻撃から出てきた物だ。

 

 

それを観察しながら腕を見てると突然アラガミ化した左腕が光だし、その針は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

腕の中へ吸収されていった。

 

「なっ⁉︎」

 

「ええっ⁉︎ちょっ!!」

 

突然の事にソーマでさえ驚きを隠せず、イチカは動揺しながらも自信の腕を見つめる。

 

 

「な、なんだったんだ今の?オウガテイルの針が…」

 

「お前……なんともないのか?」

 

「え…あ、ああ…大丈夫…だと思う」

 

 

イチカはとりあえず予備の手袋を身につけて、先程の現象の事を榊に報告するとにし、帰りのヘリが来る地点まで歩き出した。

 

 




今作ソーマの性格はイチカに対しては多少軟化しています。


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変化の始まり

任務を終えたイチカはアナグラに戻ると、榊の研究室に向かった。榊に先程の任務で起きた左腕の現象について話すとすぐに身体検査をされた。

 

「うむ…結果を言えば異常は見当たらないね」

 

「異常がない?そんなはず…」

 

イチカの体は至って正常だった。オウガテイルの欠片を左腕が吸収し、何かしら異常があると覚悟はしていたか…

 

「……君の左腕はオウガテイルの欠片を取り込んだ。それは間違いないんだね?」

 

「はい…ソーマも見ているので間違いはありません。ただ…意図していたわけじゃないのでまだよくわかっていないです」

 

「ふむ、実に興味深いが、これだけではまだ仮説を立てるのも難しそうだね、今後何か起きたらまた知らせてくれたまえ…」

 

「わかりました。ありがとうございました榊博士」

 

 

 

部屋から退室し自室に戻為に新人区画に向けてエレベータ乗ろうとする。

 

 

 

……を手に入れろ……もっと…

 

 

「っ、な…なんだ」

 

 

突然頭に声が響き、頭を抑えるイチカ。しかし新人区画につくとすぐに収まり、頭を横に振り自室に向かう。前のベンチにコウタが座っており、イチカに気付くと話しかけてきた。

 

 

「お疲れイチカ、今日は二つ任務を受けたんだって?」

 

「ああ、先輩二人と一緒だったからそんなに手こずらなかったかな…ただ気を抜いていたせいか殺られかけたけど」

 

「マジか⁉︎大丈夫だったのかよ?」

 

「なんとか全員生き残れたよ。本当に戦場で気を抜くとあの世に一直線だ。コウタも気をつけろよ?」

 

「わかった…気をつけるよ、ありがとうなイチカ。あ、そうだ…リンドウさんが探してたみたいだから、顔出しといた方がいいよ!」

 

「リンドウさんが?わかった、ありがとうコウタ」

 

コウタは思い出したようにリンドウが探していた事を伝えた。さっそく行ってみるとリンドウが部屋に入れてくれた。

 

「おう、お疲れさん」

 

「お疲れ様です。リンドウさん、要件は?」

 

「ああ、今回の任務についてだ。ソーマとはじめての任務はどうだった?」

 

「…正直、想像以上でした」

 

そう言うとソーマについて話してくれた。

 

「お前さんも知ってるように、ソーマはこの極東支部でも、トップクラスの実力を持つ神機使いだ。厳しい言動でよく誤解されるんだが…まあ、何にしてもやっぱりガキだな。ただ…」

 

 そこで一度区切る頃にはどこか優しい表情になっていた。

 

「俺はアイツほど優しい奴はそういないと思ってる」

 

「そうですね。ソーマは…根はすごい優しいやつです。でも…何処か何かに怖がっているように見えました」

 

「…アイツは目の前で誰かが死ぬことを一番恐れている。だからずっと…他人を遠ざけて、仲間の輪から外れてる。それでも、近寄ってくる奴はいる。今回一緒に同行したエリックがそうだ。もちろんイチカ…お前さんもな」

 

「……」

 

イチカはあの時ソーマの言っている事を思い出す。『せいぜい死んでくれるな』彼はイチカにそう言ってくれた。イチカはソーマはただ不器用で本当は優しい人なのははじめて会った時からもわかっていた。

 

 

 「エリックは純粋に強いソーマに憧れてる。ただ、フェンリルの傘下にある企業の社長息子で、まあ所謂ボンボンだ。甘ったれたところもあったが…妹の為に戦場に出られるすごい奴だ」

 

「妹の為に…」

 

「そういうわけで…ゴッドイーターとしてずっと死なないことを命令しとくとするかな!ここだけの話、以前からお前のことは気にかけていたからな…あいつ」

 

 

「そうなんですか?全然知らなかった」

 

「自分と似た何かを感じたんだろうな…それで、今後あいつとは上手くやれそうか?」

 

「そこは心配ないと思います。さっきの任務、ソーマはあの時、褒めてくれたんです」

 

「へぇ〜…あのソーマがか?」

 

「はい、『せいぜい死んでくれるな』って言われたので…ソーマの信頼に応えないと」

 

「(あのソーマが…こりぁいい意味で変化が起きてるな)」

 

話が終わったと思いイチカは帰ろうとするとリンドウに止められた。

 

「ああ待て、最後に…お前の同期、大事にしろよ。アイツは本当にいいヤツだぞ。このご時世にあんなにまっすぐな育ったもんだ。親御さんの教育の賜物なのかね…気の合う仲間は、本当にかけがえのない宝だ。大事にしろよ?」

 

「言われなくてもです。コウタは…この世界でできた友達ですから…」

 

この世界は身近にいる人間が簡単に死んでいく、そんな残酷な世界だ。楽しい時間を過ごせる友人、気の許せる仲間が明日にはいなくなるかもしれないのだ。そんな仲間を失わないように、自分も大事な物を守れるよう強くならないといけない。

 

「コウタもお前も、技術はまだまだ未熟だが…まあ、しばらく生き延びてりゃいい線行きそうだ。期待してるから…とにかく死ぬなよ。いいな?」

 

「了解です。上官殿」

 

「やめてくれ、お前にそれ言われるとなんかむず痒いんだよな…」

 

リンドウの死ぬなという発言に頷いて、イチカ部屋から出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イチカ!」

 

「わかってる!」

 

数日が経ちイチカはソーマと二人で任務に出ており、今回イチカの近接装備はバスターにしており、ソーマに教わりながらアラガミを討伐していた。

 

今回は今までとは違い、小型アラガミではなく中型アラガミの討伐を行なっている。

 

 

ソーマは迫ってきた中型アラガミ、グボログボロに対して神機を持ち替え反転、斬りつけた反動で後ろに飛び上がり、捕食形態に切り替えそのまま

 

 

「くたばれ!!」

 

喰い千切り、コアをもぎ取った。

 

 

「イチカ!」

 

 

 

「大丈夫!!」

 

そう声をかけたソーマの目に入ったのは、動けないグボログボロの真正面にバースト状態のイチカの姿。

 

自身のオラクル細胞を活性化させ、刀身に禍々しい黒色のオーラを込める。バスタータイプの剣のみ可能な技、チャージクラッシュ。発動までに時間が掛かるが、威力は凄まじい。

 

 

しかしイチカのチャージクラッシュのオーラが…黒色のオーラから赤と橙色が混じったオーラへと変化した。

 

 

 

「これで……終わりだぁ!!」

 

 

グボログボロに向け、そのまま勢いよく振り下ろす。威力の凄まじい一撃をまともに受け……グボログボロは、一刀両断され、血と肉片を辺りに撒き散らしながら絶命した。

 

 

周りをソーマに警戒してもらいながら、イチカはコアを捕食しながらヒバリの声に耳を傾ける。

 

 

(アラガミ、全滅しました。お疲れ様です!そのまま帰投して下さい》

 

「了解です。ソーマ、今回のバスターの扱い…どうだった?」

 

「まぁ、いいんじゃないか?それより…最後の一撃はなんだ?チャージクラッシュの威力をはるかに超えていただろ?」

 

 

「ああ…最近どうもバースト状態で攻撃すると通常攻撃の威力が段違いにアップするんだ。俗に言う必殺技みたいな感じで…、ソーマとエリックさんの任務の後から単独で小型を討伐した時に気付いたんだ」

 

「……そうか、それで…他の装備は試したのか?」

 

「近接タイプは殆ど変化あり、多分だけど…左腕がオウガテイルの欠片を吸収した事に原因があるんじゃないのかって推測してる」

 

イチカはグボログボロの欠片を手袋外した状態で左手で拾う。すると左腕が光出しグボログボロの欠片を取り込んでしまった。

 

「うおっ⁉︎」

 

すると光が激しさを増し、光の紐が多数一瞬現れ腕が動いてしまったがすぐに引っ込んだ。

 

「……な、なんだ…今の」

 

「おい…平気なのか?」

 

「ああ、大丈夫……多分」

 

 

左腕を動かしながら問題がない事を確認し、改めて周りを警戒し、問題なしと判断しソーマに顔を向け、神機を肩にかつぐ。

 

「とりあえず、帰ろうか?」

 

「あぁ」

 

 

帰りの車を走らせるイチカの隣で、車外の景色を眺めていた。もう街とは呼べない瓦礫の散乱した場所をただ通り抜ける。ゴッドイーターは基本車の運転は訓練期間に教わりイチカも運転は可能だ。

 

 

「……おい」

 

「ん?どしたの?」

 

「おまえ、俺と2人で楽しいか?」

 

「え?全然嫌じゃないけど?それにソーマと一緒の任務だとアラガミの追加で良い経験ができるし、不測の事態ってやつも経験できたからな」

 

 

「………」

 

ソーマが溜息をつくとイチカ笑い出す。

 

「それにもう俺達マブダチだろ?アナグラにいる時と違って結構喋ってくれるじゃん。リンドウさんから俺がアナグラにいる頃から気にかけてくれたんだって?」

 

「ちっ、余計な事を……俺にあんまりひっついてると、その内死神の呪いに殺されるぞ」

 

 

「死神の呪い?よくわからないけど……ソーマさ、もしかして照れてる?」

 

「っ、そ、そんなわけねえだろうが!!ぶっ飛ばすぞテメェ!!」

 

「(照れてる…それに嘘つくの下手だな)ッて!!危ないから今はやめてくれ!!事故るからぁ!!」

 

 

ソーマはイチカに殴りかかろうとしており、危うくイチカは事故るところだった。

 

それっきりソーマは喋ってはくれず…無言の状態がアナグラまで続いた。

 

 



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同期

 

 

……を手に入れろ……もっと……を

 

 

「……くそっ、またか」

 

頭に声が響き、頭を抑えるイチカ。痛みはないが頭の中から声が響くためどうしても不快感を感じ苛立ってしまう。

 

「(何を手に入れろって言うんだ?断片的でわからない…これが毎日となると流石にしんどいな)」

 

ここ最近イチカはこの声を聞く…一日一回あるかないかだが、ただこれが何を意味しているのかは未だ謎である。

 

 

「(体に異常は感じない、それにこの左腕は…未だ謎が多い)」

 

イチカの左腕はこの世界に来た当初に調べてもらっていたが、イチカの持つアラガミの細胞は未知の細胞と言われ、現状では断定は不可能と言われた。

 

 

「イチカ」

 

「ツバキさん……もしかして任務ですか?」

 

 声を掛けられたのでそちらに振り向く、教官である雨宮ツバキに視線を向ける。彼女はリンドウの姉であるが……飄々とした軽い雰囲気のリンドウとは違い、常に威圧的で厳しい性格をしている。

イチカは初めて会った当初は千冬と重ねてしまっていた時期もあったが…彼女は千冬の悪い部分を取り除いた感じの人だと感じ、今では尊敬もしている。

 

しかし彼女を苦手としている者は多く、同期であるコウタも彼女が苦手らしい。

 

「そうだ。今日は鎮魂の廃寺でコウタと共にコンゴウ討伐に行ってもらう。ここまでお前はソーマと一緒に中型アラガミ、グボログボロと戦ったのだな?」

 

「はい」

 

「ならば今回はお前がコウタを引っ張っていけ、中型種との経験がある者が指揮を執るのは当然だ。だが油断するなよ?」

 

「了解」

 

「うむ、ならば良い。ミッションの受注はヒバリから依頼しろ」

 

「わかりました」

 

 

そう告げて、イチカから離れていくツバキ。イチカは受付に向かいオペレーターのヒバリに声を掛けた。

 

「ヒバリさん、コンゴウ討伐のミッションを発注をお願いしたいんですが…」

 

「はい、コウタさんと行くミッションですね?受注完了しました」

 

「ありがとうございます」

 

 

受注をすませエントランスに行くと既ににコウタが来ていた。

 

 

「コウタ」

 

「おっす!もしかして今回はお前と一緒の任務か?お互いここまで無事で何よりだね!命あってのこの商売だからねぇ。俺に何かあると、母さんも妹も路頭に迷っちゃうから、気を付けないとな…」

 

「……」 

 

深刻な顔つきになる。自分にもしものことがあったら家族がどうなるか理解しているからだろう。それだけ家族が大切であり、それ故に心配になるのだろう。コウタは真っ直ぐなやつだ。

 

 

「(少し…羨ましいな)」

 

イチカはそんなコウタが少し羨ましかった。

 

「あ!そうだ!サクヤさんって知ってる…よね?もしかして仲いい?あの人ってなんかいいよね、美人だし、感じもいいし、強いしさ。戦うお姉さんって感じでさ…たまんないよなぁ!?」

 

「コウタ、その人……俺の姉」

 

「姉?言われてみればお前の苗字って橘……マジでか⁉︎」

 

「マジだよ、血の繋がりはないけど…」

 

「……そっか」

 

コウタはイチカの様子を見て察したのか追求することはなかった。

 

「よおおし!今回の任務、勝ってサクヤさんに一緒にいいところ見せてやろうぜ!」

 

「ああ、頼りにしてるぞコウタ」

 

拳をぶつけ合いそのまま2人で神機を受け取り、作戦地域に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鎮魂の廃寺……ここもアラガミにより壊滅的な被害を受け、今では入り組んだ地形に冷たい風と雪が降り注ぐ廃墟となっている。今は夜のため視界が限定される中、作戦地域にいたオウガテイルを討伐し、2人は現場にいる筈のコンゴウを探すために探索を開始した。

 

「へっくし!……さみぃな」

 

「当たり前だ。慣れてないのもあるし、いくら耐性があるからってそんな格好してたらな…」 

 

 

サクヤほどではないが半袖にへそ出し、そんな軽装な格好では寒いのも当然だ。

 

「?イチカ、どうし」

 

「静かに」

 

イチカは壁に背を預けある場所へと視線を向ける。視線の先は御堂の中、そこにコンゴウが捕食活動をしていた。

 

「……あれが、コンゴウか」

 

「ああ…(猿?ゴリラ?みたいな見た目だな…)」

 

実物を見るのは初めてのコウタは若干の緊張を走らせ、イチカは動物の猿やゴリラを連想させた。

 

コンゴウは二人に気づいた様子はないが、下手に近づけば気づかれる可能性が高い。

 

「………コウタ、まずは銃撃で奇襲してダメージを与えよう。俺は接近しながら銃撃してその後は俺が前衛で戦う、コウタは後方で援護射撃をしてくれる?」

 

「おぅ、わかった」

 

「俺が飛び出したら合図だ。同時に行くぞ」

 

 

互いに頷き合い、そして。

 

 

 

 

 

「行くぞ!!」

 

 

二人は同時に飛び出し、コンゴウの背中に銃撃を浴びせる。

 

 

『ガェァッ!!』

 

 

背中に衝撃を受け、コンゴウがようやくイチカ達に気づく。イチカは銃から剣形態に神機を変形、地を蹴って踏み込み上段から二振の剣から斬撃を繰り出した。

 

刃がコンゴウの頭部に食い込む、だが、コンゴウは攻撃を受けながらも太い腕でを殴り飛ばそうと振るったが、イチカは即座にコンゴウから刃を抜き攻撃を回避する。

 

 

「コウタ、援護!!」

 

「了解!!」

 

イチカはコンゴウから離れ、イチカの指示に応えるようにコウタの神機の銃がコンゴウに火を噴き、全身に雷属性の弾丸が降り注ぎ、悲鳴が辺りに響き渡った。

 

 

その隙にイチカが接近しバイティングエッジを振るう。

 

「ふっ!!」

 

コンゴウに右足で大きく踏み込み、剣を振るう、その斬撃はコンゴウの皮膚結合を崩壊させる

 

 

《アラガミの結合崩壊を確認!》

 

 

「当たれぇ!!」

 

 攻撃は止まらずコウタは神機の機関銃を連射し、体制を崩した。イチカはこの隙に捕食しバースト状態となる。

 

 

 

「神機解放!」

 

 

『ギィィヤァァァッ!!』

 

「はぁぁぁ!」

 

イチカは刀身にオラクルエネルギーを纏わせ舞うように斬撃を繰り出す。 

 

ある程度切り刻み、イチカは飛び上がるとさらにコウタからの射撃で連射。コンゴウは残る力で衝撃波を放とうとするが、時間が掛かるため、隙ができる。

 

「これで!!」

 

飛び上がっていたイチカはバイティングエッジを構え、刀身に蒼いオラクルエネルギーを纏わせ、斬り下ろし攻撃を繰りだす。

 

この斬撃の威力が決定打となりコンゴウは倒れた。

 

《対象アラガミの討伐を確認。お疲れ様です!》

 

 

「ふぅ……」

 

コンゴウが絶命した連絡を受け、イチカは神機を捕喰形態に変形させ喰らいつく。

 

 

「コアの捕喰完了、終わったよコウタ」

 

「お疲れ!俺達スゲー息ぴったりだったじゃん!て言うかさっきの攻撃凄かったな!あれなんだったの!新型特有の能力ってやつか?」

 

「えっと…ごめん、俺にもよくわからないんだ」

 

イチカはそう言うことしかできず曖昧な返答となった。

 

「そうなの?まぁいいや、取り敢えずお疲れ!帰ろうぜ!」

 

「ああ」

 

 

こうしてコンゴウの討伐任務は終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アナグラに帰投したとイチカとコウタはヒバリに報告を済ませ、ペイラーの講義に参加するように伝えられそのまま研究室に向かい、席につきペイラーによる講義が始まる。

 

「君たちはアーコロジーと言う言葉を知っているかい?アーコロジーとは、『それ単体で生産、消費活動が自己完結している建物』を指す言葉でね」

 

モニターの映像が切り替わり、極東支部が写し出されている。

 

「実はアナグラを中心としたフェンリル支部は、一種のアーコロジーだと言えるんだ。これって極端な話、ある支部を除いた全てのフェンリル組織が滅んでも、残った支部は単独で生産、消費活動を行い、今まで通り生き残ることが可能ってことなんだよ」

 

 

「………」

 

「(眠そうだな、コウタ)」

 

眠そうに目を細めているコウタ。再びモニターが切り替わり、アナグラ内の施設の説明用の画像が写し出される。

 

「アナグラは地下に向かって食糧や神機、各種物資の生産プラントがあり、外周部には対アラガミ装甲壁や、君たち優秀な神機使いをはじめとした、強固な防衛能力もある。それがフェンリルの支部であり、人類を守るために最適化されたアーコロジーなんだよ」

 

 

「ふぁ〜」

 

コウタが眠気と戦いながら抑えめに欠伸をする。

 

「ただ、そこにも問題はあって、それは収納可能な人口に限りがある事なんだ」

 

収納可能な人口に限りがあると聞いた途端コウタが真剣な目付きになる。しかしペイラーの説明を聞いているうち不安そうな表情になる。

 

「君たちも知っている通り、この極東支部の周囲には広大な外部居住区が形成されている。しかし彼ら全てを収容するだけの規模は、まだこの支部にもない。外周部に対アラガミ装甲壁を張り巡らせることが、今できる最大限の対処策なんだ」

 

「…本当にそれで大丈夫なのかな?現にアラガミは頻繁に外部居住区に出現してる筈じゃ…」

 

「だからそのためにゴッドイーターの防衛班も配備されている…いやすまない…コウタ君のご家族は外部居住区にいるんだったね…軽率な物言いを許してくれ…」

 

 

「(そうか…コウタの家族は外部居住区に)」

 

イチカもアナグラで過ごして何度かアラガミの襲撃があった。対アラガミ装甲壁は決して万能ではない。装甲が突破されれば、防衛班がいても外部居住区に住んでいる家族が危険にさらされるのだ。実際それで亡くなられている住民もいるため、不安になるのは当然の事だ。ペイラーはその事を失念していたのだ。

 

「いえ…俺はただ…」

 

「……」

 

「本当はアナグラを地下に向けて拡大して内部居住区を増やす計画もあったんだけどね…」

 

「でもその計画をより安全で完璧にしたのがエイジス計画なんだよね!」

 

 コウタが先ほどとは違い、弾んだ口調になる。エイジス計画に大きな期待を持っている事は容易に想像できる。

 

「そうだね。現状、極東支部の地下プラントの多くの資源リソースはエイジス建設に割り当てられている。その話はまた今度にしようか」

 

 ここで講義が終了した。少し遅くなったが2人で昼食に向かう。食堂についた後も、コンゴウ戦の時の事が忘れられないのか、色々話してくる。

 

 

 

 

 

 

「いや、あの時の俺とイチカの連携!息ピッタリだったよな?ってか最強コンビだろ!こりゃあ家帰ってノゾミに自慢できるぜ。地球の平和は俺が守る!ってさぁ!」

 

 ノゾミとは先ほど言っていたコウタの家族の事だろう。

 

「……家族の事、大事にしてるんだな」

 

「あったり前だろ!」

 

「そうか…… 俺は、お前が羨ましいよ

 

「ん?なんて?」

 

「なんでもない…気にするな」

 

何処か寂しげ…悲しそうな雰囲気にコウタは不思議そうな顔でイチカに視線を向ける。

 

「そうか?じゃあ今から何か食いに行こうぜ!!」

 

「そうだな。おれも少しお腹がすいたな…」

 

「よっしゃ、そうと決まれば善は急げだ!!」

 

「ははっ…元気だな」

 

元気の有り余ってるコウタに苦笑を浮かべつつ、後に続く。その後も家族の事やコウタが好きなアニメバガラリーの話をした。イチカはコウタのマシンガントークに全くついていけなかった。



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仲間達

 

やぁやぁ諸君、私はISの生みの親で、てぇんさぁい科学者の篠ノ之束さんだよ!世間じゃ天災なんて言われてるけどね。

 

三年前…いっくんが亡くなった…当時モンドグロッソが行われていた時、いっくんを監視カメラをハッキングして見て見守っていたんだけど

 

「いっくんが攫われちゃった…助けにいかなきゃ!」

 

私が行かなくちゃ…ちーちゃんは助けに行かない可能性がある…待っててねいっくん、今行くから!!

 

そう思いながら、私がプレゼントしたスマホの発信機を頼りに、ニンジン型のロケットに乗り込んだ。しかし現場で見たのは余りに残酷な光景だった。

 

 

現場には… 肉塊と化し、噛みちぎられた誘拐犯らしき死体と、いっくんの左腕と大量の血痕が発見された。あれは人間…ましてや普通の動物やISができる芸当じゃなかった。生まれて初めて、吐きそうになった。

 

「束…お前、何故ここに?」

 

「ちーちゃん?」

 

束は既に現場にいた織斑一夏の実姉である千冬を見つけたので、涙を流しながら迫る。

 

「ちーちゃんのバカ!!なんで…なんで、いっくんのことを助けにいかなかったのさ!!いっくんはただ…ちゃんと自分を見てほしかてだけなのに!」

 

しかし千冬から帰ってきたのは

 

「…束、お前の言う通りだった。すまない…」

 

と言う言葉だった。

 

「……いっくんは…私が必ず、探しだす。いっくんを見捨てたちーちゃんなんか知らない、絶交だ!!」

 

 

そう吐き捨てて、ニンジン型ロケットに乗り今いる拠点に帰った。

 

事件から一週間が経ちいっくんは死亡扱いとされた。束さんは信じない!だって遺体すら発見されてないのに死亡と断定するなんて…確かにあの出血量じゃ生きてる可能性は限りなく低いかもしれない…私はいっくんの死体、骨を見るまでは信じないから、直接現場を見たが不自然な点がいくつもあった。

 

いっくんの血痕が途中から途切れていたこと…いっくんにプレゼントしたスマホには発信機があり、その反応が突然として消えたこと、其処が一番気になっていた。仮に動けたとしてもあの出血量じゃ血痕の痕が続いているからだ。プレゼントしたスマホは簡単に壊れる代物じゃない…ましてや兵器レベルな物を使わない限り壊れないほどの頑丈さ。誘拐犯らしき死体は何かに潰され噛みちぎられていたこと…現場周辺には肉食動物は生息はしていない…

 

「いっくん待っててね。時間はかかるかもしれないけど…絶対に探し出してみせるから」

 

「束様…私も力になります。ですから一人でなんでも抱え込まないでください…」

 

「ありがとうクーちゃん…」

 

「束様、よろしければ…織斑一夏様の事を教えてくれませんか?」

 

「もちろんだよ!いっくんはね…」

 

ここから束のマシンガントークが始まり、クーちゃんことクロエは最後まで束の話をしっかり聞いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハックシュッ!!な、なんだ?」

 

「汚ねぇな……なんだってんだ?」

 

「ごめんソーマ…なんか俺のこと噂されてたような…」

 

「知るか…そんなの」

 

アナグラの食堂ではイチカとソーマが食事をしていたが突然のくしゃみにイチカは間に合わず口を抑えることがでなかった。

 

 

「ソーマは今日一人で任務だったよな?」

 

「ああ。だが今のお前には関係ない事だ」

 

「…無茶はしないでくれよ?ソーマって放っておくと一人で死にに行きそうだから」

 

「チッ…ウルセェ…変なところであいつに影響を受けてやがって…」

 

「そうか?」

 

「ああ……後、いくら非番だからって気は抜くんじゃねぇ、神機の一つや二つ強化はしておけ……」

 

「神機の強化……わかった。ありがとうソーマ」

 

「ふんっ……」

 

ソーマは無愛想であるが少しずつ柔らかい印象になった。イチカへの対応にみんな驚いたような表情を見せる。

 

 

 

 

食事を終えたイチカ、今日はゴッドイーターとなって初めての非番だ。暇なのでエントランスに向かうと、エントランスには共用のテレビを見ているサクヤがいた。

 

『次のニュースです。本日未明、外部居住区生活者を中心とした団体による、フェンリルに対する抗議集会が、世界各地の支部前にて行われました。フェンリルに対して、主に食料供給の増加と防衛の強化、雇用枠の増大を訴えたもので、参加者は2時間ほどデモ行進をしたのち大きな混乱もなく解散したも模様です』

 

イチカ降りてくるとちょうど目についたのでサクヤが声をかける。

 

「あ!イチカ、どうしたのこんなところで、今日は確か非番だったでしょ?」

 

「いや、なんか暇だったからここにきたんだ」

 

「そう?けど休める内にしっかり休んでね」

 

「わかってる。サクヤ姉はこれから任務?」

 

「ええ、リンドウと一緒よ。けどまだ来てないし。それより、聞いたわよ?期待以上に活躍してるそうじゃない。でも、あまり頑張り過ぎないでね…神機使いは…すごい人ほど…早死にするから」

 

「サクヤ姉…」 

 

サクヤはどこか不安そうな表情になる。するとサクヤのすぐ後ろからリンドウの声が聞こえてきた。

 

「ってことは、俺はまだまだってことか…」

 

「リンドウさん」

 

「相変わらず重役出勤ね」

 

「ま、重役だからな…さーて、今日も楽しいお仕事だ。今回も俺が陽動でサクヤがバックアップだ」

 

ここでリンドウの端末からコール音がなる。端末の画面を見るとリンドウの表情が一瞬険しくなった。

 

「…他に何かある?」

 

その空気を感じ取ったのか不安そうな口調になっていた。

 

「ん?まあ、死ぬなってことで。」

 

対するリンドウはいつもの通りのおどけた雰囲気に変わっていた。

 

「いつも通りの命令承りました。上官殿。」

 

サクヤもそれにつられたのかおどけた口調になっていた。

 

「イチカ、ソーマとはどうだ?最近上手くやってるらしいが…」 

 

「はい、ソーマと一緒の任務だといい経験ができました。流石に理想的にはいきませんが」

 

「ぶっちゃけ、アラガミとの戦闘は習うより慣れろだ。ノルンや座学で学んだ事が無駄とは言わないが、その通りに動く事なんてごく稀だ。参考や判断基準程度にするのがいいだろう。あとは...」

 

 

「死なない程度に頑張る…とかかしら?」

 

「そうそれ!まあ生きてりゃあ倒せないやつも倒せる。今は死なないようにすることだけ考えろ。いいな?」

 

「分かりました。そうだ、最近はバスターのコツなんかも教えてくれたんですよ」

 

「へぇー…」

 

「うそ……あのソーマが?」

 

「サクヤ姉…もしかして疑ってる?」

 

「あ、いやそうじゃなくて…ちょっと驚いて」

 

物珍しげそうにする二人、二人からすれば驚くのも仕方がない事だ。ソーマは人と関わりを持つことはなく、ましてや相手に物を教えるなどあり得なかったからだ。

 

その後二人は出撃ゲートに向かっていった。

 

 

「そう言えば神機ってどう強化するんだろう…リッカさんに聞いてみるか…」

 

そう言ってイチカは整備室にいるリッカのもとに向かった。

 

「リッカさん」

 

「あ、イチカ、どうしたの?」

 

 

「神機の強化をしたいんですけど…どうしたらいいんですか?神機を持ってからした事がなくて…」

 

「それなら強化も製作もターミナルで申請しておいてくれれば調整込みでやっておくよ」

 

そこまで言うとリッカは作業を中断して整備室内のターミナルを起動する。ターミナル内の装備関係の申請のやり方を説明する。

 

「今回はそのまま強化するよ。どれにする?」

 

そういうとイチカはカタログを一通り見た。

 

「じゃあ…今使っている装備全てお願いします。」

 

「オッケー。後はやっておくから明日には使えるようになっているはずだよ。あと、もう別に敬語じゃなくてもいいよ。付き合いも長いし、仕事も手伝ってもらってたから」

 

「わかったよリッカ…」

 

「あはは…切り替え早いね。そういう所はリンドウさん譲りだね。それじゃあ作業に入ろうかな」

 

 そう言うとリッカは気合いをいれて作業に取りかかった。イチカは作業の邪魔になりそうなので静かに整備室を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日…今日の任務はサクヤ、ソーマ、コウタと一緒にコンゴウ討伐に向かう。

待機ポイントで任務の確認や神機の状態等の任務開始直前の最終チェックが行なっており、そこに神機を携えたリンドウが現れる。

 

「あー本日も仕事日和だ。全員無事生きて帰ってくるように、以上!」

 

「え?それだけ?」

 

「いちいちツッコんでると、持たないわよ?」

 

「くだらん…」

 

「(いつも通り…だな)」

 

「1人を除いて、心が1つになってるようで何よりだ」

 

「え……え?」 

 

全員がイチカを見る。居たたまれなくなりイチカは落ち込んだような表情になった。

 

「あ…あの、えっと…その」

 

「ハハッ…冗談だ。そんなに真に受けるな」

 

「冗談だったんですか⁉︎」

 

こういうところはリンドウの発言を間に受けてしまい内心でホッとするイチカ

 

「悪い悪い。さて、第一部隊では初の4人での任務だが…まあ、いつも通り、死ぬなってことで」

 

「4人?リンドウさんは来ないんスか?」

 

「悪いな、俺はお忍びのデートに誘われてるんでな。今から働くのはお前らだけ……っと、早く来ないとすねて帰っちまうとさ…ったくせっかちなやつだ」

 

そう言ってリンドウは端末をしまい、命令の再確認をする。

 

「俺はそろそろ行く。命令はいつも通り、死ぬな、必ず生きて戻れ、だ」

 

「自分で出した命令だ…精々アンタも守るんだな…」

 

「リンドウもあんまり遅くならないよいに…ね」

 

「リンドウさん…お気をつけて」

 

「おう…お前さん達もな」

 

サクヤとイチカの心配そうな声と、ソーマの遠回しな死ぬなという言葉を聞いて、リンドウは背を向けて歩き始めた。

 

「ささぁ、行きましょ!」

 

サクヤの号令を合図に4人は待機ポイントから飛び降りた。

 

 

《リンドウさん、お忍びデートって、羨ましいなぁ。俺にも紹介してくれって頼んでみようかなぁ》

 

《ほらコウタ君、任務に集中する!》

 

待機ポイントから飛び降りたはいいが目標との接触できなかったため、散開して索敵する。

 

「こちらイチカ、ソーマ…そっちはどう?」

 

《小型のアラガミを見つけた。対処する》

 

「了解…散策を続ける」

 

イチカが西の広場についたところで、ビルに空いた穴からコンゴウが出てきた。

 

「ターゲットと接触!交戦を開始します」

 

《了解!こっちは小型種と接触したわ。倒したらすぐに向かうわ》

 

《こちらも同様だ》

 

《オッケー!こっちも小型を倒したらすぐ行くよ》

 

 

「この場にいるのは現状一人……ちょうどいい」

 

イチカはバイティングエッジを薙刃状態にし、左手の手袋を外し袖をまくる。

 

「試させてもらうぞ…」

 

イチカの左腕のアラガミ化を知っているのはコウタを除いた第一部隊と一部の人、今回の任務はコウタも一緒だが今は散開している状態…絶好の機会なのだ。

 

コンゴウは既にこちらに向かっている。イチカはすれ違い様に斬り、さらに振り向いてアラガミ化した左腕で張り手を喰らわせると、コンゴウは勢いよく吹っ飛んだ。

 

「マジか……あんなあっさりと」

 

あまりの力に左腕を見つめるイチカだがすると吹っ飛んだコンゴウは体勢を立て直し、腹が一瞬膨れて、明後日の方向に向かって構えた。すると足元から風が吹いてきた。

 

「風…?」

 

 そう考えると一度その場から離れる。イチカのいた場所で、空気が爆発した。

 

「(なるほど…コウタとの一緒のミッションじゃ見られなかったが、コンゴウは空気の流れを操れるのか…けど避けられない攻撃じゃない)」

 

コンゴウの空気を使った攻撃には予備動作があることも先の攻撃で把握しているので避けること事態は難しくないと判断した。

 

 

コンゴウが殴りかかって来るので、これも軽く回避し、コマの様に回り近づいてきたので、上に跳んで背中を斬る。振り返るとコンゴウの背後におりイチカは左腕でコンゴウの尻尾を掴み

 

「おりゃあああッッ!!!!」

 

コンゴウを力任せに持ち上げ、左右に叩きつけながら背中、顔面に傷を作り結合崩壊をさせ、最後は振り回してコンゴウを投げ飛ばすが、その反動でコンゴウの尻尾がちぎれ、投げ飛ばされたコンゴウ建物に激突する。

 

「尻尾が…」

 

すると左腕は光だしコンゴウの尻尾を吸収した。しかしまだコンゴウは生きている。

 

最後の悪あがきなのか顔面に傷を作りながらも腹を膨らませて空気砲を射つ準備をしている。

 

 

パァン!!細い弾丸がコンゴウに命中し貫いた。その余波でコンゴウは体制を崩した

 

「おまたせイチカ!」

 

「サクヤ姉!」

 

サクヤによる狙撃だった。サクヤはジェスチャーで左腕を指し、左腕を隠すよう伝え、イチカはすぐに袖を直し手袋をはめなおす。

 

「いけ!」

 

サクヤの一撃でコンゴウが怒りで活性化する。コウタも合流し、近づきながら射撃、イチカも銃に変形させコウタの援護をする。

 

「動くなよ!」

 

コウタがコンゴウの足元にホールドトラップを設置し、コンゴウは動けなくなり、サクヤ、イチカ、コウタも攻撃を緩めない。

 

「くたばれぇ!」

 

 ソーマが建物の屋上から一気に飛び降り、捕食形態でコンゴウを喰い千切りコアをもぎ取った。

 

 

《目標のオラクル反応の消失を確認。ミッション終了です!お疲れ様でした!》

 

通信でヒバリの喜びの声を聞き、今回の任務も無事に終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エントランスに戻ると既にリンドウが戻っており、共用のソファーで寛いでいた。

 

「先に帰ってたのね。お疲れ様」

 

「ああ、どうにか早めに切り上げられた。そっちはどうだった?」

 

「ご命令に従って、いつも通りだ」

 

「そうね、命令通り全員無事よ。任務の方も特に問題は無かったわ」

 

「いやーリンドウさんにも俺達4人の見事な連携を見せたかったよ!」

 

 

「…お前そんなに役に立ってたか?」

 

「な!?」

 

「ぐふっ…」

 

「おい⁉︎笑ってんじゃねぇよイチカ!」

 

 

ソーマからツッコミが入り、さらにはイチカにも笑われ、コウタはガックリ項垂れる。

 

「おおそうか。それならこっちももう少しデートの回数を増やしても良さそうだな」

 

「まず俺に女の子紹介するのが先じゃないッスかね?」

 

コウタが出会いを求めてリンドウに言い寄る。

 

「…お前の手には負えないと思うぞ?」

 

 何やら含みのある言い方をしたリンドウ。その後、突然館内放送が入った。

 

『業務連絡。本日、第七部隊がウロヴォロスのコアの剥離に成功。技術部員は第五開発室に集合してください。繰り返します、ウロヴォロスのコアの剥離に成功。技術部員は第五開発室に集合してください』

 

 この放送を聞いて、リッカを始めとした技術班のスタッフが召集される。

 

「ウロヴォロス!!どこのチームが仕止めたんだ?」

 

「しかもコア剥離成功かよ…ボーナスすげえんだろうな」

 

「おい、おごってもらおうぜ」

 

「やめなさいよ…みっともない…」

 

 支部内がざわめいている中、リンドウは特に興味が無さそうだった。

 

 

「ウロヴォロス…ってなに?強いの?」

 

 コウタの疑問の通り、そもそもウロヴォロスを知らないイチカとコウタ、コウタはソーマに聞いてみた。

 

「ターミナルを調べりゃ分かる。自分で調べろ」

 

返ってきた返事は自分で調べろと、ソーマは遠回しに『調べることで身に付く力もある』と促しているようにも感じた。

 

「そうね…私達4人じゃ、まだ無理じゃないかな…」

 

「マジで!?このメンツでも?」

 

「1人2人は死人が出るだろ」

 

「……」

 

 イチカはこの1人2人に自分が含まれていると感じ取った。実際この4人の実力を考えるとイチカかコウタだろう。イチカは力はあるとはいえまだ経験豊富とは言えない。

 

「ま、生き延びてればその内倒せるさ…今は死なない事だけを考えろ」

 

「その台詞、いい加減聞き飽きたぜ」

 

 お決まりの台詞を言うリンドウに対して、ソーマはウンザリしたような口調で答えた。

 

「…ああ、特にお前には何度でも言っとくわ。ほっとくと1人で死にに行っちまうようなヤツにはな」

 

「チッ……」 

 

「さて、俺は次のデートに備えて精のつくものでも食ってくるかな」

 

「リンドウさん、よかったらお酒に合う物作りましょうか?」

 

「おっ、そりぁいい!楽しみにしてるぜ」

 

そう言うとリンドウはエントランスから出ていった。しかし何も知らないコウタはメンバーからの重い空気に何も言えなかった。



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ロシアからの新型

 

「……」

 

贖罪の街には一人神機を携えたソーマがいた。周囲にアラガミが居ないか確認しつつ進んでいるので、構えを解かないまま移動している。

 

「ん…?」

 

 

教会の入り口付近に来ると、人が教会に入っていくように見えた。

 

「人影…か?」

 

 周囲を警戒しながら教会に入っていく。中心まできて辺りを見回すが人影は見当たらない。

 

「気のせいか…」

 

 教会に入れば侵入ルートは限定されるので構えを解いて通信を入れる。

 

「こちらソーマ。特務目標との接触はなし…索敵を続ける」

 

 そして白い影がソーマの後ろ姿を見つめていることに気づかずに教会を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで…ラスト!!」

 

 

現在イチカは中型アラガミ、コンゴウとグボログボロの討伐に出ており、その任務にはリンドウ、サクヤも同行していた。イチカはコンゴウ、リンドウがグボログボロ…サクヤが後方支援だ。

 

バースト中のイチカは倒れているコンゴウにステップで迫り二振り剣を強く叩きつけ斬撃を繰り出し、この一撃によりコンゴウは絶命した。

 

 

 

 

「コア回収、終わったかー?」

 

「はい、こっちも終わりました!」

 

「よし、そんじゃ帰るか!」

 

「2人とも、お疲れ様」

 

任務は問題無く終了し、コアの回収も終了したところだ。

 

任務を行う際、現地への移動方法は様々だ。近くであれば専用の車両で移動、遠方に赴く際にはヘリなどで移動する。

 

 

「前にチラッと話には聞いていたが、お前さんのあの攻撃は凄いな」

 

「ええ、確かバースト状態でないと使えない力なのよね?」

 

「うん、通常の状態じゃ全く使えないよ。キッカケは初めてソーマと任務に出た後のことだけど…」

 

「榊博士には聞いたけど…あなたの左腕がアラガミの欠片を吸収したって…ほんとに大丈夫なの?」

 

「うん、全然大丈夫。むしろ逆に調子がいいくらい」

 

イチカがバースト状態であの力を使えるようになったのはオウガテイルの欠片を吸収した事が原因だと推測している。

 

「そうか、だがちょっとでも違和感があれば博士にすぐに診てもらえ…いいな?」

 

「わかってます」

 

「よろしい。それより、イチカのその能力に名前はないのか?」

 

「名前?考えた事、なかったですね」

 

「折角だしこの際決めちゃいましょ!」

 

「おっ、そりぁいい」

 

三人は能力の名前を考えはじめる……するとリンドウが何か閃いたのか笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バーストアーツ……ってのはどうだ?」

 

「バーストアーツ?」

 

「へぇ、リンドウにしてはいいアイディアじゃない」

 

「俺にしてはって失礼な…まぁ単純にバースト状態でしか使えない技術って意味で、バーストアーツだ。どうだイチカ?」

 

 

「バーストアーツ…うん、しっくりきます!」

 

「おっ、気に入ってくれたみたいだな。おじさん嬉しいぜ」

 

「じゃあイチカのあの能力はバーストアーツで決定ね!」

 

イチカの能力はバーストアーツで決まり、三人はアナグラに向けて車を走らせた。

 

 

 

 

 

「おっと、忘れるところだった。イチカ、アナグラに戻って報告が済んだら後で俺の部屋に来てくれ」 

 

 

「?はい。わかりました」

 

そう言われ、アナグラに戻った三人は報告を済ませ、イチカは先に部屋に戻ったリンドウの元に向かう。

 

特に呼び出される理由もないはず。色々考えたが、結局分からないままリンドウの部屋に着いた。

 

「おっ来たか…ちょっと頼み事があってな…」

 

「頼み事…ですか?」

 

「ああ…明日、新しい神機使いが配属されることになる。お前と同じ新型の適合者だ」

 

「……はい?」

 

新型が新しく配属になる。それがリンドウの言う頼み事にどう繋がるのかイマイチ理解できないイチカは首を傾げる。

 

「根拠は特に無いんだが…支部長は何か目的があってこの極東支部に新型神機使いを集めてる気がするんだよな…」

 

「支部長の目的…ですか?」

 

「ああ。そこで頼みと言うか相談なんだが…もし支部長がそのことに関して何か言ってたら、俺にも教えてくれないか?」

 

「構いませんけど…本人に直接聞くのはダメなんですか?」

 

「まぁそうなんだが…どうもあの人は苦手でなぁ…」

 

「へぇ…リンドウさんにも苦手な人がいたんだ」

 

「お前の中の俺はどんな人物になってるんだ?」

 

「頼れる兄貴?ですかね」

 

「なんでそこで疑問系なのかねお前は…」

 

「あはは…」

 

子どもっぽい理由に苦笑いをしつつ、リンドウの頼み事を引き受ける。

 

「ああ。別に強制する気は無いし、気が向いたらで構わない。機密事項ならむしろ言わなくていい。ちゃんと礼もするから、な?よろしく頼む」

 

「わかりました。その言葉忘れないでくださいよ?」

 

 

そして、イチカはリンドウの部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、召集がかかるよりも前にエントランスに行くと、いかにも落ち込んでますと言わんばかりのオーラを出しているカノンがいた。

 

「あの…台場先輩、どうしたんですか?」

 

「あ…イチカさん。実は重包囲からの撤退戦を、ソーマさんに助けてもらったんです。それで、クッキー焼いて、お礼に行ったんですが…『そんな暇があるなら、訓練しろ』って追い返されちゃいました…」

 

 

「(…ソーマって確か甘い物苦手だったけ)」

 

イチカはまだカノンと任務に出た事がないので知らないが…カノンは戦闘中、豹変することもあり、すごく誤射するのだ。その誤射率は全支部でもNo.1を記録保持者だ。

 

「ソーマの言い方はともかく、確かに訓練が先だと思うのですが…」

 

「そ…そうですよね…」

 

 思ったことを素直に言ってしまい、更にカノンを落ち込ませてしまった。それを見てイチカは慌ててフォーローをいれる。

 

「でも、時間があるときでよければ訓練のお手伝いとかしますよ?そんなに落ち込まないでください先輩!」

 

「いいんですか!?誤射のこともあって、誰も訓練に付き合ってくれないので、すごく助かります。ありがとうございます!」

 

 

そう言うとカノンは余程嬉しいのか、いい笑顔で礼を言った。

 

「(そんなに誤射が凄いのか?まだ一緒の任務に出た事がないからわからないが…)」

 

後にイチカは彼女の恐ろしさを知ることになるのは…まだ知らなかった。

 

 

 

 

1人で共用ソファーで待っているとソーマが現れた。珍しくソーマから話しかけてきた。

 

「…おいイチカ、お前任務中に誰か…人の気配を感じたことないか?」

 

「…人の気配?いや、ないとおも……」

 

イチカは一つの心当たりを思い出した…

 

「まさか、あるのか?」

 

「いや、単に偶然かわからないけど…俺の初陣に時…帰投する際に左腕が何かに反応する様に光った事があるんだ…ソーマのその人の気配と関係しているかどうかはわからないけど」

 

 

「そうか…わかった。邪魔したな」

 

「あ、ああ」

 

 釈然としないまま会話が終わった。終わった後にソファーに座るとヘッドホンで音楽を聞き始めた。

 

次に現れたのは意外にもコウタだった。イチカを見つけると、テンション高めに話しかけてくる。

 

「なぁなぁ!ウロヴォロスって知ってる?」

 

「いや、まだ知らない」

 

「平原の覇者!超大型アラガミ!山のように巨大な体と、無数の触手と眼を持つ怪物!詳しいだろ?こないだのコア剥離で気になってさ『ノルン』で調べたんだぜ!」

 

コウタがどや顔になって自慢げに話す。そうしていると、放送で第一部隊に召集がかかり、サクヤとリンドウも集まった。。そこから5分程経った時、下階から話し声が聞こえてきた。

 

 

「聞いた?新型がまた配属されるって」

 

「あ、それ初耳だよ。ここにきて新型ラッシュだね。」

 

「ロシア支部から支部長が連れてきたらしいよ…あ、噂をすれば…」

 

 出撃ゲートが開いてツバキが現れた。もう一人、赤いキャスケットにウェーブのかかった銀髪の美少女が後ろに続いて入ってきた。右腕には赤い腕輪を付けている。彼女が噂の新型神機使いだろう。

 

「紹介するぞ。今日からお前たちの仲間になる、新型の適合者だ。」

 

「はじめまして。アリサ・イリーニチナ・アミエーラと申します。本日一二○○付けでロシア支部からこちらの支部に配属になりました。よろしくお願いします」

 

 

 

「女の子ならいつでも大歓迎だよ!」

 

そんな美少女を前にしてコウタが黙っているわけもなく、そんな事を口走ると…

 

 

「よくそんな浮わついた考えで…ここまで生き長らえてきましたね…」

 

「…へ?」

 

「(あの雰囲気……前の世界の女を思い出すな)」

 

 案の定、アリサは汚物でも見るような目でコウタを見て、辛辣な言葉をかける。コウタも呆気に取られて空返事を返した。イチカは前の世界の女性を思い出す。

 

「彼女は実戦経験は少ないが、演習で抜群の成績を残している。追い抜かれぬよう精進するんだな」

 

「り、了解です」

 

「アリサは以後、リンドウと共に行動するように。いいな?」

 

「了解しました」

 

「それと…イチカ」

 

「はい」

 

 

「お前はこちらではアリサよりも先輩の新型だ、しっかりと面倒を見てやるんだぞ?」

 

「…了解」

 

ツバキはイチカにしか聞こえない声量で個人的な指示を出し、イチカも了承する。

 

 

「リンドウ、資料等の引き継ぎをするので私と来るように。その他のものは持ち場に戻れ。以上だ」

 

 ここでリンドウとツバキが一緒にエレベーターに入っていった。イチカ達はそれを見届けると、コウタが話しているアリサの方を見る。

 

「あ、アリサちゃん…だったよね?ロシアから来たって言ってたけど、あそこってすげぇ寒いって本当になの?あ!でも最近、異常気象で温度が高くなってきたったとか言ってたっけ…」

 

 なんとか仲良くなろうとしているのだろう、対してアリサはつまらなさそうに毛先を弄っている。そんな中、アリサがため息をつきながらコウタの話を遮った。

 

「そんなことより、この支部の新型神機使いは…あなたですか?」

 

アリサはソーマを見て質問する。

 

「違う」

 

ソーマの返答に若干表情が変化する。次にいかにも嫌そうな顔をしてコウタの方に向く。

 

「まさか…あなたなんですか?」

 

「違うわ。この支部初の新型は彼よ、血は繋がってはいないけど、私の弟よ」

 

サクヤはイチカの肩に手を置く。

 

「……あなたが、この極東支部唯一の新型ですね?」

 

「ああ……橘イチカだ。よろしく」

 

 自己紹介をしつつ、握手するために右手を差し出すイチカ、しかしその握手をアリサは交わすことはなかった。

 

「……まあ、そこの人よりは真面目そうでよかったですけど、足は引っ張らないでくださいよ?」

 

コウタに向かって暴言を吐きつつ、アリサはその場から離れる。

 

「(……俺、あの子苦手かも)」

 

コウタを馬鹿にされたことにイラッとしたものの、イチカはどうしても前の世界のことを思い出してしまい、アリサを苦手な人物と認識してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し時間を遡り、リンドウとツバキがエレベーターに乗った直後、2人がアリサについて話している。

 

「期待の新人ですねぇ…レア物の新型が二つも揃ってる支部なんてここくらいじゃないですか?」

 

「ああ、そうだな。だが本部の意向で、今後は新型の適合者発掘が優先されていくらしい。ただ…彼女の場合、適合はしているものの、若干精神が不安定なようでな…定期的に主治医によるメンタルケアのプログラムを組まれているようだ…まあとにかく注意を払ってやってくれ」

 

「了解です姉上」

 

「リンドウ、二度とここで姉上と呼ぶな。いいな?」

 

リンドウはばつが悪そうに頭を掻いた。

 

「それからイチカの様子はどうだ?何か変化はあったか?」

 

「いえ、特にはありませんね。ただイチカにしかない何かが開花し始めているのは確かですぜ。アラガミ化した左腕でとはいえ、アラガミをぶん投げたり殴り飛ばすなんざ並のゴッドイーターの域を超えてますよ…おそらく、それを除いても今の世代にはイチカは当てはまらないかもですね」

 

「…そうか、今後何があったら榊博士に報告するように、いいな?」

 

「了解です姉うっ⁉︎」

 

リンドウは姉上と言う前にツバキにより鉄拳が下されてしまった。



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新型同士の任務

旧市街地エリア。

 

 

今回は、ここでシユウというアラガミ2体の討伐任務だ。シユウというアラガミは珍しい人型であり、背中に巨大な両腕羽を生やした素早いアラガミだ。

 今回装備は近接はロングブレード、銃はスナイパーだ。スナイパーに関してはサクヤからアドバイス、指南をしてもらっているイチカはバッチリ使えるのだ。

 

イチカは初めてシユウと戦う、若干の緊張を持ち、神機のチェックをしながらイチカはアリサと共にリンドウの到着を待った。

 

「……」

 

「……なんだよ?さっきからじっと見て…」

 

先程からじっとイチカを見ているアリサはなにか気になる様子だった。

 

「いえ、話によれば…あなたは扱いの難しいバイティングエッジを扱うと聞いていたのですが…」

 

「…ああ、確かにメインはバイティングエッジだが、時折装備を変えながら戦ってる。まぁ、基本剣系は全て使える…」

 

「そうですか…精々足を引っ張らないでくださいね」

 

「……はぁ」

 

「なんです?その返事は?不愉快ですよ」

 

「いや、別に(結構慢心気味だが…大丈夫かこの子?)」

 

イチカはアリサに不安を持ちながら最終チェックを済ませ、イチカは空を見上げる。リンドウのアドバイスで緊張した時は空を見上げ動物に似た雲を探せと言われ、イチカはリンドウのアドバイス通り探す。

 

「(ニンジン…野菜型の雲か、ニンジン、か……束さん元気かな)」

 

動物ではなくニンジン似の雲を見つけたイチカはこの世界にいない篠ノ之束を思い浮かべる。

 

 

「よぉ、待たせたな」

 

少し遅れて神機を肩に担いだリンドウ現れた。相変わらずの軽い調子に、ほんの少しだけ緊張が解れる。

 

「今日は新型2人との共同任務か……まあ、足を引っ張らないようにするから安心してくれ」

 

「リンドウさん……」

 

自分達より遥かに強く経験も多いリンドウが、足を引っ張るわけがない。

 

これは彼なりの冗談で、まだまだ一人前ではない自分達をリラックスさせる為の言葉だとわかり、つい苦笑する。

だが、彼の冗談を聞いたアリサは暴言に近い言葉を彼に向かって放った。

 

「…旧型は、旧型なりの仕事をしていただければいいと思います」

 

「っ……おま」

 

あまりにも失礼であり、また傲慢さに溢れたものだ。おもわず注意しようと思ったイチカだったが。

 

「ははっ、まあ気楽にやらせてもらうさ」

 

リンドウはまったく気にした様子もなく笑い、何気なくアリサの肩に手を置き。

 

「キャア!!」

 

瞬間、アリサは本気の悲鳴を上げリンドウから飛び退いた。

 

「…?」

 

「………あーあ、随分と嫌われたもんだな」

 

 

「あ…す…すみません、何でもありません、大丈夫です」

 

その反応にさすがに驚くリンドウだが、すぐさまいつもの調子に戻り呟きを漏らす。

 

 

「フッ…冗談だ。んー…そうだなあ…よしアリサ、混乱しちまったときはな、空を見るんだ。そんで動物に似た雲を見つけてみろ。落ち着くぞ。それまでここを動くな。これは命令だ。その後でこっちに合流してくれ。いいな」

 

「な、なんで私がそんなこと…」

 

「いいから探せ。な?」

 

何故か逆らえない空気を出して命令するアリサも渋々命令に従う。

 

「よし、先に行くぞ」

 

「……はい」

 

リンドウはイチカを連れて旧市街地に向けて歩を進める。

 

 

「あいつのことなんだがな…どうも色々訳ありらしい」

 

 

「ワケあり、ですか?」

 

そんな中、リンドウはぽつりと口を開いた。

 

「ああ、さっき言ったように成績は優秀なんだが、姉上によると精神が不安定らしくてな……まあ、こんな時代だからまともな人間の方が少ないもんさ」

 

 

「…………」

 

「お前、さっき俺の為に怒ろうとしただろ? 気持ちは嬉しいが……ちょっとは大目に見てやってくれ。それに同じ新型のよしみだ、あの子の力になってやれ、いいな?」

 

 リンドウはイチカの肩に手を置く。

 

「…………努力します」

 

「えらい間が空いたな?それに、正直今のあいつの事苦手だろ?おそらくお前さんのいた前の世界の事も含めてな…」

 

「ははっ、リンドウさんにはお見通しですね」

 

「まっ、辛い過去はそう簡単に忘れられないもんだ……」

 

「けど、比べてしまうと、俺の世界の方がまだマシな方ですよ」

 

「……かもな」

 

リンドウはイチカの世界の事情、理不尽な扱いをされ、実姉には見捨てられた事も知っている。話に聞いただけで流石に理解は難しかったが、イチカの持っていた所持品を見て信じざる得なかった。この世界のご時世では到底作ることのできない代物だった。

 

 

「うっし、じゃあ行くか!」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

イチカはビルの残骸の間を走り抜け、住宅地跡のような場所に出る。そこには小さな広場のような場所になっており、さらにその先も道が続いているが途中で道が無くなっている。

 

「いた……」 

 

 

曲がった先でシユウが捕食活動をしていた。イチカは神機を銃に変形させ、シユウに気づかれないよう気配を殺し狙いを定める。狙いは頭だ。アラガミも人間と同じで頭を失えば絶命する生き物だ。中にはしばらく体のみを動かせる個体も稀にいると言う。

 

 

「(ここだ!)」

 

パァン!!と細い弾丸がシユウに命中し貫いた。その一発でシユウは頭に当たりダメージは大きそうだが絶命するとまではいかなかった。

 

「くそっ!流石に一発じゃ無理か!」

 

 

一度距離を取ろうと離れるが、シユウは余裕を見せつけるように、挑発的に手招きをしている。挑発している隙に、剣に変形させ一旦下がる。当然シユウがイチカを追走してくる。

 

 

広場に戻り、シユウを迎え撃つ。シユウが建物の影から飛び出してくるタイミングに合わせてイチカも飛び出して足を斬りつける。

 

「(硬い…!)」

 

シユウの下半身は硬い外殻に覆われており、破壊力のある攻撃でないと通りにくいとターミナルで調べたがここまで通りにくいとは思っていなかった。

 

 

シユウは素早く姿勢を落としながら、上段から下段へ半円を描くような手刀を放つ。それをバックステップで回避し、インパルスエッジを放ちシユウの右側の翼手に命中する。その衝撃にシユウは一瞬怯み、間に少し距離が開く。

 

「喰らえ!」

 

イチカはプレデタースタイル、【ゼクスホルン】を使い、シユウを捕食し即座に距離を取りバースト状態となる。

 

体制を立て直したシユウがオラクル弾を両方の翼手から打ち出してくる。それを横に躱す。

 

「(っ、追尾するのか!)」 

  

しかし、オラクル弾は少し軌道を変えて追尾してくる。それを反射的にステップで跳び、さらに距離を取る。シユウはまだ攻撃が当たると考えているのかオラクル弾を射っている。

 

 

「(キリがない、このまま撃ってくるなら…近づくまでだ!)」

 

イチカはこのままでは埒があかないとシユウに接近する。しかしシユウは両翼手を合わせて大きなオラクル弾を放ってきた。大きなオラクル弾は先のものより高い追尾性能を持っており、イチカはそこから飛び上がりイチカは気づく

 

「(成る程…垂直方向の追尾はないのか。これが分かればなんとかなりそうだ!)」

 

シユウのオラクル弾はオラクル弾は水平方向への追尾性能はあるが、垂直方向への追尾能力は無いらしい。その証拠にシユウの放ったオラクル弾はイチカの下を通り過ぎた。

 

しかし、オラクル弾は地面に着弾すると爆発して上にいたイチカは爆風で吹き飛ばした。

 

爆風で飛ばされ、シユウに近づく。イチカは冷静に体勢を直しながら銃に変形させ、頭を下にした状態でシユウに狙いを定め、シユウに弾丸を射つ。シユウに背に着弾しても大したダメージにならず、発射の衝撃で少し上へ跳ぶ。

 

後ろを取る。そのまま着地し、振り向きながらシユウにバースト状態でエネルギー出力を引き上げたインパルスエッジを与え、この攻撃でシユウの足と胴体にヒビが入る。

 

これを好機と捉え、イチカは斬り込みなが近づき、もう一度斬り、その後に斬りながら離脱した。

 

するとシユウがオラクル弾を放つ構えをとると、両翼を地面に叩きつけた。

 

「がっ!」

 

 突如地面から衝撃が入る。どうやらシユウの翼手はオラクル弾だけでなく、衝撃を放つことができるようだ。その衝撃でイチカはダメージを受けシユウは接近し打撃を与えてくる。

 

「くっ!」

 

イチカはなんとかバックラーで防御を取りそのまま勢いよく建物の壁に叩き付けられた。

 

「ぐぅ…」

 

衝撃で視界がぼやけ上手く立てないイチカ、そこへシユウが飛び上がり翼手を広げて近づいてくる。動けないイチカに左右の掌を合わせて叩きつけようとし、なんとか見える視力でイチカは左腕を行使しようとした時…

 

 

ズガガガ!!

 

と銃声が響きシユウの横から銃弾が飛んできた。シユウは体勢を崩し、弾丸が飛んできた先を見ると、おそらく動物の形をした雲を見つけ終わり、ガトリング砲を構えたアリサがいた。

 

「動けないなら邪魔です!消えてください!」

 

「(辛辣…けど一応助けてもらったから文句は言えない…)」

 

一応は助けてはくれたようだ。アリサはガトリング砲を射ちながら少しずつ近づき、射ち尽くす頃に剣形態に戻して斬り込む。イチカも体勢を立て直し、銃形態で援護する。

 

シユウはステップで一旦後ろに下がりながらアリサが体勢を立て直す前に滑空して突進してくる。それをスライディングの要領で下を潜り、すれ違うタイミングで先とは反対の翼手を斬る。

 

シユウが起き上がる時に一瞬止まり、さらにアリサも離れている。この隙にイチカは胴体に撃ち込む。

 

 

「何やってるんですか⁉︎今のは頭を撃ち抜けたはずです!!」

 

「(マニュアル通りにいくかっての!!)」

 

 

剣形態に変形して横凪ぎに斬りかかる。それとは反対方向からアリサも斬りかかる。それを振り払うようにシユウは回転して攻撃する。二人はそれぞれが離れる方向に飛んで避ける。

 

 アリサが先に斬つけシユウの胴体に傷がつく。

 

「(…強い、けどまだ動きに無駄があるな)」

 

アリサの動きを見て、その動きはアラガミの動きを研究し尽くし、洗練されていた動きだった。演習で抜群の成績を残してきたと言うのも頷けるが、実戦経験は少ないとツバキは言っていた。

 

ただイチカから見てアリサはどこか慢心していると感じ取っている。

 

すると怒りで活性化したシユウが地面を両翼手で叩きつけ、衝撃で周囲の地面が揺れる。アリサは大きめに後ろに下がり、イチカは衝撃のない隙間を利用し接近し、叩きつけてから立ち上がるまでの隙に、捕食形態で捕食する。

 

そしてアリサは回避後に即座に反撃に出る。

 

 

 

シユウはカウンターを狙い、手刀を振り下ろす。アリサは脇の下に潜り込み、上へ斬撃を放つ。シユウの右翼が結合崩壊を起こした。

 

 

「(このまま…)」

 

 

……を手に入れろ……もっと……を

 

 

 

 

 

 

 

「(ッ⁉︎こんな時に!)ガハッ!!」

 

頭に響いた声に気を取られシユウの足の爪で腹から胸にかけて切り傷ができ、そのまま蹴り飛ばされて倒れた。

 

「もう戦えないなら後退してください!邪魔です!!」

 

 アリサの声が聞こえるがそれどころではなかった。自分の胸元から血が出ていた。

 

「(いてぇ…ここまでダメージを受けるのはゴッドイーターになってはじめてだな…)」

 

イチカはここまでダメージを受けたのははじめてで、死にかけた時よりはましだが改めて生きていると実感する。

 

「(言われっぱなしも癪だしな。少し、スイッチ入れるか……)」

 

イチカはシユウを睨み付ける。その表情はいつもと違い殺意に満ちた表情だった。

 

 

「(っ⁉︎な、なに…この心臓が鷲掴みにされた感覚…)」

 

 アリサもイチカの殺気に気がついて思わず動きが止まってしまった。その殺気はシユウでさえ畏縮するほどだった。

 

しかしシユウが見逃すはずもなく。残った翼手で隙のあるアリサを切り裂こうと、翼手を振り下ろす。

 

「(っ!しまっ…!!)」

 

 アリサはイチカの殺気に気が逸れてシユウの動きを見逃した。自分の死を悟り、思わず眼を瞑る。しかし一向に痛みは襲ってこない。眼を開けるとイチカが左腕で一本でシユウの頭を掴んでいたからだ。

 

そこからイチカはその場でシユウを地面に何度も何度も叩きつけついには原型すらわからないほど顔面は崩壊し、シユウはイチカに投げ飛ばされて壁に激突した。

 

「なっ⁉︎」

 

 アリサは信じられないものを見たような気分だった。通常兵器の効かないアラガミが人間の手によって投げ飛ばされた。

 

そんな事を考えているとシユウが立ち上がり、滑空して突っ込むが、なんとか滑空している。アリサは回避するがイチカはその場から動かずその様子にアリサは驚愕する。

 

「何をしているんですか⁉︎死にたいんですか!!」

 

 

 

「………」

 

イチカはアリサの言葉を無視し、ゼロスタンスの構えをとり、刀身にエネルギーを纏わせた神機を上段に構え

 

 

「斬」

 

 

 

迫ってきたシユウに縦一閃の斬撃をくらわせる。

 

まともに食らったシユウはこの斬撃で真っ二つ切り裂かれ、左右に分かれてイチカの間を通り過ぎる。もちろんイチカはコアを避けて切り裂いたのだ。倒した直後…イチカのバースト状態は解除された。

 

その光景にアリサはただ驚愕することしかできなかった。通常のゴッドイーター、ましてや新型にはない能力を使いシユウを一刀両断されたことにただ見ることしかできなかった。

 

 

イチカはコアを捕食してこちら側の作戦は終了した。

 

 

「よお、そっちも終わったみたいだな」

 

「お疲れ様です。こっちもコアの回収、終わりました。それとリンドウさん…俺たちの様子を見てましたよね?」

 

「ははっ、まぁな…」

 

二手に分かれたリンドウが合流し、イチカが怪我をしているのに気づき、少し驚きながらも、見せるように言う。この反応だと来たのはイチカが左腕でシユウを叩きつけていたところだと推測する。

 

「いつもは擦り傷が殆どのお前さんがここまで怪我するなんて珍しいな?見た感じそこまで酷くはないが、ルミコ先生に観てもらえ、いいな?」

 

「わかりました」

 

傷を観て貰っている中、アリサが先に待機ポイントに向かって歩き出す。

 

「アリサ!お前助けてもらってるんだ。何か言うことがあるだろ?」

 

「それは彼が勝手にやったことです。それに、私はそんなこと頼んでませんし、私一人でどうにかできました」

 

「流石にそんな言い方は無いんじゃないか?」

 

「リンドウさん…いいです、俺も彼女には一度助けられた身です」

 

しかし、アリサはさらに挑発的な発言をする。

 

「私はあなたを助けたつもりもありませんし、元々他人をアテにはしていませんし、一人でも戦えるように訓練もしているので問題ありません」

 

 何やらアリサはムキになって言い返し、再び待機ポイントに向かって歩き出す。するとアリサは止まりこちらを振り向く。

 

「……一応、お礼は言っておきます。ですが、次は負けませんから」

 

アリサは振り向きイチカに一言言い捨てそれだけを言うと、さっさと先に進むアリサ。

 

 

「素直じゃねぇなあいつも、これなら仲良くなれそうじゃねえの?」

 

「不安しかありませんよ……」

 

イチカはアリサの姿が見えなくなり、それを確認し真っ二つされたシユウの死骸に近づき、手袋を外し、付近に落ちていたシユウの下半身の欠片を手に取ると、光を放ちシユウの欠片は吸収された。

 

「おお…そんな感じで取り込むんだな…」

 

「はい…リンドウさんは、はじめて見るんでしたっけ?」

 

「まぁな」

 

その様子を興味深そうに見たリンドウはタバコを取り出し吸い始め、二人もアリサの後を追うように待機ポイントに向かった。




一応手袋をした状態でも物理では力は発揮できます。


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悩み

 

 

帰投し、イチカは怪我の手当てをしたのち、ペイラーによる講義のため、ラボラトリに向かった。そこには既にアリサ、コウタも来ていた。イチカが席に着くと講義が始まる。

 

しかし、コウタは講義が始まると任務の疲れが出たのかすぐに寝てしまった。

 

「前にも言った通り、アラガミを構成しているオラクル細胞は何でも食べる。動物や植物のような生物に限らず、鉱物やプラスチックのような合成樹脂...挙句には、通常の生物には危険な核廃棄物だって食べてしまう。建造物や大地だって…ほら、この通りだ」

 

 ここでモニターにビルや地面に大きな穴が空いた画像が映し出される。その画像のビルは穴だらけに食い荒らされ、不気味な造形になっていたり、地面は巨大な穴が多数空いているため、所々崖のようになっていたり、地面が陥没して底が見えなくなっている。

 

「結果、食べ残しである従来の環境は減少の一途を辿っている。この辺りには、春に桜を、秋には紅葉を見に行くなんて習慣もあったんけど...今となっては望むべくもないね」

 

「(懐かしいな…)」

 

 春の話で桜が映り、秋では紅い紅葉が映っている。アリサは綺麗だと思う反面、イチカは懐かしそうにする。この世界はそれすら失われており、滅多に見ることは出来ない。

 

 

 

今は講義中であるためその画像はすぐにアラガミの特性を纏めたスライドに切り替えられた。ついでにペイラーはコウタを横目に見る。

 

「その一方で、アラガミは食べたものの性質を取り込む事がある。最近では光合成を行うアラガミすら発見されているんだよ。窒素79%、酸素21%…世界中の植物が20年前の3割弱まで減ってしまった今でも、地球の大気は保たれている。これがアラガミの『光合成』のお陰だとは実に皮肉な話だと思わないかね?」

 

 話ながらコウタに少しずつ近づき、コウタの横まで来ると頭をグーで軽く小突く。

 

 

「…ぅぅ~ん…かぁちゃん…もう食べれないよ…」

 

「あはは…一体夢の中で何食べているんだか…」

 

「…ホント、自覚が足りない人ですね」

 

 目付きを鋭くしてアリサなりのコウタへの評価を下す。どうやらアリサのコウタへの評価は右肩下がりのようだ。

 

「君たち、ノヴァの終末捕食って言葉...聞いたことあるかい?」

 

「…終末捕食?」

 

 次はアリサの前までペイラーが歩きイチカは聞いたことの無い言葉に疑問を持つ。気のせいかコウタがピクリと動いたのような気がした。

 

「ええ、アラガミ同士が喰い合いを続けた先に…地球全体を飲み込むほどに成長した存在、『ノヴァ』が引き起すとされる『人類の終末』…ですか。」

 

 やはり少し前から起きていたのだろう、ゆっくりと顔を上げてペイラーを見る。

 

「その通り、誰が言い始めたのかも知らない。単なる風説に過ぎないとも言われているけどね。」

 

「エイジス計画が完成すれば、それからも守れるんだろ?」

 

 やはりコウタはエイジス計画によって、どんなアラガミからの攻撃も防ぐことができると考えているようだ。

 

「(そんな簡単にいくだろうか?それになんだ…この胸騒ぎは)」

 

 

 そんなことを考えているとペイラーか講義を続けたので話に集中する。

 

「…犬という動物を知っているかな?」

 

「…え?」

 

「もう大分数は少なくなってしまったが、今も稀に外部居住区などで見かける事があるはずだ。犬は賢く...言葉こそ話せないが、我々人間とコミュニケーションをとることができる。犬のような性質を引き継いだアラガミがいれば、あるいは共生できるのかもしれないね。」

 

「共生?」

 

 アリサの表情が険しくなる。

 

「コミュニケーションという観点で見れば、もちろん犬に限った話ではない。昔はサーカスと呼ばれる見世物小屋で猛獣を繰る、猛獣使いすらいたのだからね」

 

「アラガミと仲良くなんて…できるわけ無いじゃない…」

 

 アリサは視線を誰もいない方に反らしながら呟いた。

 

「(アラガミと共存か…なら、人の形をしたアラガミもいるってことなのか?)」

 

イチカは不意にアリサの方にむくとその表情には年不相応な憎しみが現れており、声にははっきりとした拒絶の意志が込められていた。

 

「(こんな時代だからまともな人間の方が少ない……か)」

 

イチカはリンドウの言葉を思い出す。

  

 

榊の講義を終えて、エントランスへ向かう。

 

 

 

 

「お兄ちゃん!!」

 

「やぁエリナ、今日もちゃんと戻ってきただろう?」

 

「うん!」

 

エントランスには任務を終えたばかりのエリックに、リボンを付けた帽子を被った金糸の髪の少女がいた。

 

「エリックさん、こんにちは」

 

「イチカ君じゃないか!どうしたんだい?」

 

「えっと…」

 

「そうだ、この機会だから紹介するよ、この子はボクの妹のエリナだ」

 

「え…妹?」

 

「……お兄ちゃん、この人は?」

 

「前に話した新型のゴッドイーターさ、あの時僕は彼に命を助けられたんだ」

 

「そうだったんだ。お兄さんありがとう。わたしエリナ、よろしくね」

 

「うん、よろしくねエリナちゃん」

 

「うん!」

 

しばらく三人で会話をして、少ししてエリックの父親が現れ、エリナは連れて帰られた。どうやら内緒でアナグラきていたようだ。その後イチカはエリックに頭を下げてから自室に戻り、部屋着に着替えてベッドへと倒れ込んだ。

 

 

 

「ふぅ…疲れた…」

 

今回の任務は初めての新型同士の任務、しかし連携が取れたかと言えばイチカはNOと答えるだろう。

 

「(この先大丈夫だろうか?)」

 

色々と不安要素も抱えているが実力は確かだった。しかし他者の手を借りないところは流石に危なっかしく見えた。

 

不安を抱きながらイチカは読書を始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「下がるんだ!!」

 

 

「なんで私があなたの指示なんかを……」

 

アリサが反論しようと言葉を並べている時だった。目の前から飛んできた火球が彼女のすぐ右を通過していった。火球は奥へと飛んでいき、鉄柱にぶつかり、爆発を起こす。

 

新型同士の任務から数日、イチカ達がいる戦場は煉獄の地下街、マグマが沸き起こった元地下鉄だ。そして、そこで相手をしているアラガミは以前倒したシユウだ。

 

 

「ったく、どうしてお前らはこういう時は仲良くできないのかね?」

 

「イチカはアリサに嫌われてるのかしら?」

 

「二人とも見てないで戦ってくださいよ⁉︎」

 

「まぁまぁ、アリサは援護するが…今のお前さんなら一人でも十分倒せるだろ?」

 

「ええっ⁉︎」

 

「心配すんな、危なくなったら手は出すさ…な?」

 

「全くもうリンドウったら…大丈夫よイチカ、あなたなら出来るわ!」

 

「サクヤ姉まで⁉︎」

 

 

シユウの攻撃を避けては接近し、シユウを捕食しバースト状態となるイチカ。その最中、リンドウ、サクヤは傍観者として見ているだけだった。一人で倒せることを否定しないイチカもイチカだが。

 

 

イチカは頭を切り替え、標的であるシユウに向き直る。

 

 

シユウは翼手を前にかざし、巨大なエネルギー弾を生成している。ここは地下鉄跡なので、鉄柱がいくつか崩れれば全体も崩れるだろう。この状況下でシユウは強烈な一撃を放とうとしていた。

 

「させませんっ!!!」

 

「あっ…おい!」

 

 

イチカの横を風きり音を立てて、アリサが疾駆していった。彼女は凄まじい勢いでシユウに接近する。

そして、彼女は地面を一蹴りし、宙に身を躍らせた。空中で身体を一ひねりし、足をスラッと上に伸ばし、シユウと顔を向き合わせるような状態になる。その状態から、彼女はシユウの顔を一薙ぎする。

 

『グガァァァアアアァア!!』

 

「クッ……!!」

 

「無茶しちゃダメよ!!!」

 

シユウの顔は硬い装甲のような物で覆われており、アリサの斬撃をもろともしないようだった。彼女の浮遊が終了し、着地した時にはすでにサクヤが撃つ準備をしていた。彼女の白いスナイパーの銃口から撃ちだされたバレットはシユウの巨大な翼手の掌に命中し、結合崩壊を引き起こした。これにより、シユウはエネルギー弾を諦め、突進してきた。

 

「狙いは俺か…」

 

イチカは装備しているバイティングエッジを薙刃にし、イチカは迫ったシユウを飛び越え

 

「ゼァ…!!」

 

 

 

神機にエネルギーを纏わせ、威力を高めた一撃をシユウに与えた。シユウの装甲は貫通されそのまま地面に深く刃は刺さり込み絶命する。

 

「おー、こりゃまたすげー威力だな。シユウの装甲が呆気なく…」

 

「ふふっ終わったわね」

 

「こちらリンドウだ。任務完了、帰還する」

 

「……」

 

 

「ふぅ……」

 

イチカはシユウのコアを摘出する。

 

 

「次は必ず勝ちますから…」

 

「………」

 

アリサは一言イチカに言うと一人で帰投を始める。

 

「随分と仲良くなったんじゃねぇのかイチカ?」

 

「何処がですか?毎度一緒の任務に出ると何故か競うようなこと言いますし…正直どうでもいいですよ」

 

「あの反応を見るからに、イチカが全勝だったのかしら?」

 

「さぁ、競ってるつもりはないからわからないよ。俺はただ死なないよう任務をこなしてるだけだし」

 

イチカの最近の悩みはアリサと任務に出る時は何故か競い合うよう発言を言われることだ。神機を肩に担ぎ…リンドウとサクヤもアリサの後を追いアナグラに向けて帰投する。

 

 

 

 



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感情

 

 

それから数週間後任務を終えたイチカが帰ってくると、タツミが不機嫌そうにソファでコーヒーを飲んでいた。

 

 

「た、タツミさん?…何かあったんですか?」

 

「…あんたか」

 

タツミは如何にも機嫌がわるいですと言わんばかりの声色でイチカに返事をした。

 

 

「防衛任務の時でちょっとな…まあ、新入りのお嬢さんが優秀なのは分かった…でもよ…防衛任務は市民の安全が最優先なんだぜ?避難民をビビらすなって話だよ、パニクったら収集つかないだろ。掃討戦とは作戦の自由度が違うってことをご理解いただけないかねぇ」

 

「確かにパニックになったら避難させにくいですからね…更に被害も大きくなりかねませんし…」

 

「だろ!なのにあのお嬢さん避難中の民間人の目の前に発砲したんだぜ!流れ弾が避難民に当たる危険なんかお構いなしにだぞ!」

 

 

「(溝が深まる一方だ…前には小川先輩にも八つ当たりもいいような事も言われたし、とりあえず報告が済んだら榊博士の講義だな)」

 

「お前の方はどうだ?任務の時の嬢さんは?」

 

「俺はなんというか…いっつも競うような発言を言われているんですよね。別に俺は競ってるつもりはないんですが…そのせいで危ない場面が何度もありましたよ…」

 

「お前もお前で大変だな…そう言えば、お前の活躍はこっちでも耳にしてるぜ!もちろんいい意味でな。けどあまり無茶はするなよな?神機使いはすごいやつほど早死にするからな…」

 

「はは、サクヤ姉と同じ事言われましたね。けど、ありがとうございます、タツミさん」

 

「いいってことよ!」

 

報告をすませたイチカはラボに着くと、先に出ていったアリサは勿論、コウタもいたが、既に完全に寝ていた。

 

席に着くと、そんなことお構いなしと言わんばかりにペイラーは講義を始める

 

 

「アラガミ…オラクル細胞は発見された時、まだアメーバ状のものだった。それからミミズ状のアラガミが発見され、半年後には獣型のアラガミが発見された。」

 

 講義に合わせてスライドが変わっていく。微生物の様な画像が映り、次に細長い微生物にも見える画像、最後に映し出されたスライドはオウガテイルの画像だった。

 

「そして1年経つ頃には、1つの大陸がアラガミによって滅ぼされたんだ。彼らが食べたものの形質を取り込み、進化するとしても、異常なスピードだと思わないかね?」

 

 確かにその通りだった。例外はあるが、通常生物の進化には膨大な時間が必要になる。それをたった1年で人類を滅ぼしかねない強大な存在になり、多様な進化を遂げたのだ。普通に考えるとあり得ない事だった。

 ちらりとコウタの方を見てペイラーは講義を続ける。

 

「…そう、正確には彼らは進化などしていないんだ。事実、オラクル細胞の遺伝子配列は変化していない…そう、一つとしてね」

 

「は?」

 

「そんなはずはありませんよ!現にやつらは形態変化してるじゃないですか?」

 

どういう事か理解が追い付いていないイチカだが、アリサは即座に反論した。

 

「彼ら…アラガミもね、今の君と同じなんだよ。食べたものの形質を取り込むと言うのは、知識を得る、ということ。そう、ただ知識を得て賢くなっているだけなんだ」

 

「(もしかして…俺の左腕は知識ではなく、力を手に入れている事になるのか?)」

 

今の話でイチカの左腕が何故触れるとアラガミの欠片を取り込むのか少しだけ分かった気がした。コウタの横に移動して空虚を見つめてながらも講義を続ける。

 

「どういう骨格をしていれば、早く動くことができるのか?空を飛ぶためにはどうすればいいのか?それこそスポンジが水を吸い込むように情報を取り込んで、わずか20年の間に、彼らは非常に高度な形態を得るまでに至ったんだ」

 

「うぅ~ん…」

 

 ベイラーは一度講義を止めて、落ち着いたのかコウタの頭をグーで軽く殴り、講義を再開する。

 

「アラガミがコウタ君位勉強嫌いだったらよかったんだがね」

 

 ペイラーはイチカとアリサの方を見て講義を再開する。

 

「そう、彼らの勉強熱心さには舌を巻かされるばかりでね。なんと、ミサイルを発射するアラガミが目撃された噂まである。これが確かなら、彼らは人間の作った道具さえも取り込んだという事になる。実に興味深いと思わない?」

 

 そして再び少し上を見上げて、空虚を見つめてある可能性を語り始める。

 

「それほどまでに複雑な情報を取り込めるのなら、まるで人間という姿をしたアラガミが現れるのも遠い日じゃないのかもしれないね。」

 

「…人間という、アラガミ…?」

 

「(あっ、前に思ってたこと…)」 

 

 

ペイラーの意味深な発言を最後に講義は終了した。コウタを起こして、イチカとアリサは任務に向かう準備をする。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ…防衛任務の時に民間人の近くで発砲したって聞いたが、本当なのか?」

 

「その話ですか…極東支部の防衛班にはウンザリさせられますね。特に防衛班長さん…戦術より人々の気持ち…ですか?そんなことでアラガミを撃退できるとでも?話になりませんよ…それに、同じ第一部隊のソーマ…でしたか?あんな自分が選ばれた存在みたいな言い方に、見下すような態度…」

 

「……おい、流石に」

 

「コウタといい、本当にいい加減ですよ。ここの神機使い達は…」

 

プツン……と何かがイチカの中で切れた音がした。中に溜まった感情が一気に湧き上がる感覚に陥る

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いい加減にしろよ」

 

「はい?」

 

「聞こえなかったのか?いい加減にしろって言ったんだ。それに…お前には失望した」

 

「なっ⁉︎」

 

イチカの声色は低く本気で言っているのだとアリサでも分かった。

 

「小川先輩、カレルさんもジーナさんも、癖の強い人達だけど、アラガミと戦うことへの決意はお前より比べられない程はるかに強い!タツミさんやブレンダンさん、台場先輩だってあんたの言う通りアラガミをすぐに倒したい。そうじゃないと被害はもっと大きくなる。けど、タツミさん達は防衛班……目の前に襲われそうな人がいたら、アラガミを倒すよりも先に人を助けるのが最優先事項とされている。リンドウさん、サクヤ姉も、常に仲間のことを考えて動いている」

 

今のイチカは怒りを抑えられるような状態ではなかった。

 

 

「ソーマはキツい言い方もするけど…ほんとうは優しくて、俺達と比べ物にならない物を負っているんだ!それにコウタは誰よりも真っ直ぐな奴で家族の為に命をかける事ができるすげー奴なんだよ!!俺なんかよりもずっとな!憎しみに駆られてアラガミを殺そうとしているお前とは違う!大切な物奪われたのはお前だけじゃないんだぞ!!お前だってそれは分かるはずだろ!!」

 

今のイチカはただ感情が体を動かしていた。アリサはあまりのイチカの変化に怯える事しか出来なかった。

 

 

「あまり調子に乗ってんじゃねぇよ、この大馬鹿野郎が!!」

 

 

アリサを一人にし、イチカは出撃ゲートに向かう。少し遅れてリンドウ、アリサもエレベーターから降り、アリサは二人を無視し、ゲートの中に入っていく。

 

 

「どうにもアリサに嫌われているらしいな」

 

「そうですか…」

 

「その様子じゃ、お前さんもアリサとも上手くやってなさそうだな…」

 

「はい…」

 

「ああ、その…なんだ…ありがとな」

 

「はい?」

 

「お前、アリサを怒鳴ってただろ?あんな感情をぶちまけてるお前を見たのは、はじめてだ」

 

「リンドウさん…まさか、見てたんですか?」

 

「まぁ、あれだけ大きな声を出されちゃな…それと何人か他のやつも見てるぜ」

 

 

「……穴があったら入りたいです」

 

「アナグラだけにか?」

 

「殴りますよ…?」

 

「ジョーダンだジョーダン!!だから左拳を構えないでくれないか、な?」

 

イチカは左拳を構えたので流石のリンドウも慌てながら謝罪する。イチカの左腕の威力は加減を間違えば人は簡単に殺せると理解しているからだ。

 

「……機会があったら、アリサに謝ろうと思います。少しいいすぎましたし、まぁ…どのみち今は無理でしょうが」

 

「そうだな…っていうか、アリサのこと名前で呼んだの初めてじゃないか?」

 

「はじめて?」

 

「自覚なかったのか?基本お前さん、アリサ対してあんた、とか、なぁ、お前、としか言ってなかったからな」

 

「…そう、でしたか。後ここでタバコ吸うのやめてください」

 

 タバコを吸おうとしたリンドウに注意しつつ、取り上げる。

 

「一服くらいいいじゃねえか」

 

「喫煙スペースか任務先で吸ってくださいよ。まったく…」

 

「任務先ならいいのかよ」

 

 

その後のイチカはソーマと任務に出て、少し八つ当たり気味にアラガミを討伐していった。

 

その様子に口には出さなかったがソーマは少しだけ心配したのだった。



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ヴァジュラ

 

イチカがアリサを怒鳴って3日が経った。イチカはあれ以来アリサに謝ろうとするもアリサはイチカを避けてしまい謝れない状況が続いていた。リンドウ、サクヤからも『メールで言えばいいのに』と指摘されるも、イチカは『口で伝えたほうがいい』との事らしい。

 

そして今回の任務はサクヤ、ソーマ、イチカ、コウタ、任務の討伐対象は獅子たるアラガミ……ヴァジュラだ。彼奴から放たれる雷撃はベテランの神機使いでさえ、気を抜けば一瞬にして命を奪われるほどだ。イチカはここまで大型種と戦ったのはサリエルのみで今回ヴァジュラははじめて相手にする。

 

 

 

 

「さて、時間ね。皆、準備はいいかしら?」

 

「こっちは準備OK」

 

「こっちもOKっす、サクヤさんっ!!」

 

「……問題ない」

 

任務先である贖罪の街で全員の準備が整い、作戦開始時間となった。四人は高台から飛び降り、死地へと足を踏み込む。

策敵のために二手に分かれて行動することになった。イチカはソーマと行動し、贖罪の街は地面が乾燥しており、歩くだけでもかなりの砂埃が立ちこめる。イチカとソーマは近くの小型アラガミを、出来るだけ迅速に倒していった。

 

「フン、やるようになったな…イチカ」

 

「ソーマや先輩方のおかげさ」

 

「そうか……ところで、こいつらは取り込まなくていいのか?」

 

「ああ、既に一度取り込んだ種類のアラガミは二度はしないみたいなんだ。今回の任務、ヴァジュラの欠片を取り込めたらいいなって思ってる」

 

「そうか……」

 

 

『グオオオオォォォ!!』

 

二人が軽口を叩いているその時だった。全く反対の方向から雄たけびが聞こえてきた。今までの小型アラガミと違い、もっと……凄まじい迫力を伴った声だった。そして、そちらはサクヤとコウタのいる方向だった。

 

「この咆哮」

 

「急ぐぞ!」

 

「ああ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐわぁぁあああ!!!!!」

 

「コウタくん!!クッ……なんとか二人が来るまでもちこたえなくちゃ……」

 

 二人と対峙しているアラガミ、ヴァジュラはマントをひるがえし、そのマントを輝かせていた。雷撃を放とうとしている。

 前足による攻撃でコウタが吹き飛んだというのに、雷撃はその倍の威力はあるものだった。

 

 

「なんとしてでもっ!! ハァッ!!」

 

 サクヤは神機の引き金を引いた。発砲音と共に十発の弾丸が発射され、ヴァジュラを襲う。しかし、ヴァジュラはすんでのところで上に飛び上がり、銃弾を避けた。銃弾はヴァジュラが元いた場所に着弾し、凄まじい爆発と砂埃を巻き上げた。

 

『ゴァァアアアア!!!』

 

「まずい……避けて……サクヤさん」

 

 後ろからコウタの必死な声が聞こえてくる。その声が届いたのか彼女は既に回避体勢にはいっていた。高く飛び上がったヴァジュラは空中で一回転し、マントを大きく光らせた後、計六本の雷撃を放った。その速度たるや凄まじく、まさに光速そのものだった。

  

『ガァァアアアアア!!!』

 

「フッ!!」

 

 彼女は大きく後ろに跳びすさり、ヴァジュラの雷撃を一本二本と回避していくも、跳んだ先にちょうど雷撃が落ちてきてしまった。状況反射で思わず目を瞑ってしまう。その時、彼女の耳にはガァンという轟音が届いた。

 

目を開ければ、そこには雷撃をバスターブレードで弾き返しているソーマがいた。次いでイチカはヴァジュラの真上から捕食形態で捕食攻撃をしたのち2人の前に降り立った。

 

「サクヤ姉、コウタ、大丈夫か!!」

 

「ええ、なんとか無事よ。有難う」

 

「イチカ、ソーマ……サンキュな……」

 

 

「ふんっ…」

 

コウタと剣呑な眼差しのサクヤを一瞥するとヴァジュラへ向き直ると同時に神機を構えた。

 

 

『グルァァァァッ!!』

 

 雄叫びを上げ、イチカ達に迫り巨大な右前脚を振り上げるヴァジュラ。それを彼は素早く右に跳躍、着地と同時に大きく踏み込み斬撃を与える。

 剣の一撃はヴァジュラの左前脚に命中、それなりに深く斬ったのだが、ヴァジュラは気にした様子もなく今度は雷球を撃ち出してきた。

 

「く!」

 

 素早く装甲を展開して防御、なんとか衝撃を殺し踏みとどまるかができたイチカ。

 

「いけっ!!」

 

「そこよっ!!」

 

 回復したコウタは左、サクヤは右に回り込み同時に銃撃の雨をヴァジュラに浴びせていく。その隙にソーマは正面からヴァジュラに接近し。

 

「……ふっ!」

 

ソーマは跳躍して、ヴァジュラの顔面にイーブルワンを容赦なく叩きつけた。鈍い音と共に、切り裂かれ抉られ鮮血が舞うヴァジュラの頭部。

 

『グギィィアァァッ!!』

 

ソーマの一撃が堪えたのか、ヴァジュラの口から聞くに耐えない断末魔が絞り出された。

 

「はぁぁっ!」

 

イチカはもう一度ヴァジュラに向かって踏み込む。

 

『グルル……!』

 

 

イチカの接近を見て身体を少し屈めるヴァジュラ。

 

「(っ!何かして来る)」

 

嫌な予感がし、足を止め後ろに跳躍するイチカ。瞬間、ヴァジュラの周りに凄まじい電撃が駆け巡った。

 

「(踏みとどまったまま電撃を放つのか。だが動きながらそれが出来るわけじゃなさそうだな…)」

 

もし接近したらあの電撃をまともに浴びる羽目になっていた。イチカは神機を補喰形態へ変形している間に、ヴァジュラはコウタとサクヤに標的を変えており、その隙に接近し左後脚を補喰し、バースト状態となりオラクル細胞が活性化しすかさず銃形態へ移行。

 

「コウタ、サクヤ姉!!受け取れ!!」

 

 

ヴァジュラから離れながら、銃を2人に向け放つ。無論通常の銃撃ではない、アラガミバレッドを2人に向けて発射したのだ。

 

「よっしゃ!!」

 

「いくわよ………!」

 

 新型にしか出来ないリンクバーストで2人も同じくバースト化、その前にイチカはヴァジュラから距離を取り銃を構え、2人も銃口を標的に向け。

 

「くらいなさい!!」

 

「いっけぇぇぇっ!!」

 

「くらいやがれ!!」

 

3人まったくの同時に、アラガミバレッド――大雷弾を撃ち放った。

 

『グギャッ!?』

 

 巨大な雷の塊はヴァジュラの尻尾と前脚を粉砕、巨体が倒れ込み僅かに地面を揺らす。

 

「合わせろソーマ!!」

 

「ああ!」

 

 声を掛け、イチカは薙刃に変化させてソーマと同時に力一杯駆け出す。

 

「はぁぁぁぁっ!!!」

 

「くたばれ………!」

 

 そのまま、飛び上がったソーマの剣はヴァジュラの胴体を。イチカ正面から、薙刃は白と黒の混じったオラクルエネルギーを纏わせ、強烈な刺突を顔面にくらわせた。

 

『ガ……グゥ…ッ』

 

ヴァジュラの頭に深く刺さった刃、ヴァジュラは何度か痙攣を起こし、動かなくなった。

 

「ふぅ……」

 

絶命したのを確認すると、イチカはズブリと神機をヴァジュラから抜き取る。

 

「……討伐、完了」

 

力を抜くために、大きく息を吐き出した。

 

「やったぜ!!」

 

「ふん……」

 

 コウタ達も、いつも通りだったりと……高ぶった緊張を解していく。コアを採取し、イチカ達は警戒心を抱きつつもその場から離れる。

 

「やったなイチカ、俺たちヴァジュラを倒したよ!!」

 

「ああ、コウタもお疲れ様」

 

「おう!」

 

 

イチカとコウタは拳をぶつけ合う。コウタははじめて大型アラガミを倒せたことに気分が高揚していた。

 

「ソーマ」

 

「……フッ」

 

ソーマもイチカと手をぶつけ合う。その表情は何処か嬉しそうに見え、その様子にサクヤも驚いた。

 

 

「ソーマ、あなた……本当に物腰が柔らかくなったわね」

 

ソーマの変化に驚きの表情を見せつつ、サクヤは嬉しそうにそう口にした。

 

「……ウルセェ」

 

 そう言ってそっぽを向くソーマ、だが……褐色の肌が僅かに赤く染まっている事を見逃さなかった

 

「なんだよソーマ、照れて「ああ゛?」なんでもありません」

 

ソーマのガチトーンにコウタは萎縮してしまう。これ以上何か言えば命がないと本能で察したのだ。

 

 

「さて、俺は…」

 

イチカはソーマ達のいたヴァジュラの反対側に行き左手の手袋を外し、ヴァジュラのマントの部位を一つ力任せにちぎる。左腕は光だしそれを吸収すると、左腕はしばらく電流が発生していた。

 

「今までと反応が違うな……今度検証が必要か」

 

電流が収まり、イチカは手袋をはめ、その後サクヤ、ソーマ、イチカ、コウタの4人は、安全確保の為教会付近を捜索しながら進んでいた。すると、教会の影から二人の人物が現れた

 

 

 

 

 

 

「…なに?」

 

「お前ら?」

 

「あれ?リンドウさん、なんでここに⁉︎」

 

「な、何で二人が?」

 

「貴方たちこそ、何故ここに…?」

 

イチカ達も目の前に居る人達を見て驚いた。そこにいたのは別ミッションに行っているはずのリンドウとアリサだったのだ。



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蒼穹の月

 

 

イチカ達と合流する数分前…リンドウとアリサは旧市街地を進みながら目標のアラガミを探していた。

 

 

「これは、いよいよキナ臭くなってきたな」

 

 

『ガアアァ…』

 

 

どこからかアラガミの鳴き声が聞こえる。

 

「…っ!!」

 

その鳴き声を聞いた瞬間、いくつもの光景のイメージが一瞬アリサの脳裏を過る。

 

「どうかしたか?」

 

アリサの動きが突然止まったので、不審に思いリンドウが声をかける。

 

「い、いえ…問題ありません。側面、後方共にクリアです」

 

 なんとか答えるが、リンドウは結局不信感を拭えないまま任務を再開する。

 

「そうか…進むぞ」

 

 

そう言って、周囲を警戒しながら周囲を捜索していく。

 

 

 

 

 

 

 

◇現在

 

 

教会付近を捜索していた。すると、サクヤ、ソーマ、イチカ、コウタの姿があった。

 

 

「…なに?」

 

「お前ら?」

 

「あれ?リンドウさん、なんでここに⁉︎」

 

「な、何で二人が?」

 

「貴方たちこそ、何故ここに…?」

 

「どうして同一区画に2つのチームが…どう言うこと?」

 

 

本来ならば1つの作戦区画に2つ以上のチームは配備されないのが原則となっている。

作戦領域の指令や指示、命令の混乱を防ぐためである。救助の要請などはしていないため、同一区画に2チームが配備されることは無いはずだった。これだけで事態の異常性が伺える。

 

「考えるのは後だ。先に俺達の任務を終わらせてさっさと帰るぞ。俺とアリサで中を確認する。お前たちは外の警戒。いいな」

 

 しかし、リンドウは今考えるのを一旦中断させる。任務を終わらせてからであればいくらでも考える時間がある。そのため、任務を終わらせる事を優先した。

 

リンドウの指示に従い、サクヤのチームは教会の入口を固めて、リンドウのチームは教会内部の捜索を開始した。

 

 

「なぁソーマ、こんな事今まであったことってあるのか?」

 

「いや……少なくとも俺はこんな経験はねえよ」

 

「そうか…(なんだ、この妙な胸騒ぎは…それに腕が疼くこの感覚は…)」

 

 先程から、胸騒ぎが頭から離れない。そんなイチカの様子を見て、ソーマは声をかける。

 

「おい、どうした?」

 

「いや、なんか左腕が…」

 

イチカは袖だけをまくると…左腕が点滅するように光っていた。

 

 

「お前、その光り方は…」

 

「あの時と…まさか」

 

何か気づきかけた瞬間。

 

『グオォォォンッ!!』

 

教会の中から、獣の雄叫びが響き渡った。

 

「今のは……!?」

 

「まさか…!」 

 

 

教会の中に向かおうとする4人、しかし……。

 

「うわぁっ!?」

 

 悲鳴を上げるコウタ、周りには見たことがないアラガミが次々とイチカ達の前に現れる。

 

身体はヴァジュラとまったく同じ、だが身体の色は白と水色。顔は女神像のような彫刻めいたもので、おもわず後退ってしまうほどに不気味な容姿だ。

 

「こいつは……何だ!?」

 

「ヴァジュラ……?いや、こんなタイプ、データベースにはなかったはず……」

 

 

 

 

困惑する一同、更に。

 

 

「いやぁぁぁぁっ、やめてぇぇぇぇっ!!!」

 

「っ、なんだ⁉︎」

 

今度は講堂からアリサの悲鳴と瓦礫が崩れるような音が聞こえ、イチカとサクヤは中へと入る。

 

「なっ!?」

 

 

 驚愕の声を上げるイチカとサクヤ。何故ならアリサの目の前の通路が瓦礫によって完全に塞がっており中からは、戦いの音が聞こえているからだ

 何故こうなったかは知らない、だが……退路を防いだのは間違いなくアリサだ。

 

 

「あなた!!…いったい何を!!」

 

 2人が駆けつけた頃には、出入口が塞がれていた。結果、未知の新種と一緒にリンドウを閉じ込めたのだ。サクヤの困惑してアリサを問い詰める様な反応は当然のものだった。

 

 

「違う…違うの…パパ…ママ…私、そんなつもりじゃ…」

 

「(様子がおかしい?まさか…精神に何か異常が⁉︎)」

 

「くっ!」

 

 サクヤは神機を構え、瓦礫に向かって撃ち込むが、貫通力に優れたスナイパーでは、瓦礫の山を破壊する威力はない。これでは瓦礫を取り除いて救助に向かう事もできない。

 

 

「サクヤ姉、下がって!」

 

イチカは左腕を出しサクヤは何をするのか理解し、少し離れ瓦礫を飛ばそうと殴るが…

 

「うわっ!」

 

「くっ!!」

 

更に瓦礫の破壊が起こったので、瓦礫が崩れて危うく3人が巻き込まれるところだった。しかも周りはその威力で建物には亀裂が入っていた。

 

「くそっ!俺がやったら衝撃でこの建物ごと崩れる可能性が高い!!これじゃあリンドウさんも巻き込みかねない。そうだ、ソーマ!!」

 

「悪いが無理だ…新種に囲まれてやがる…!」

 

 

リンドウが対峙している新種が教会の外にも現れていた。入口を囲む様に4体がこちらを向いている。

 

「うぁ!」

 

 新種がコウタに体当たりをして、教会に押し込む。侵入してきた新種がサクヤとイチカの方を向いている。

 

 

「チィッ!」

 

 イチカとサクヤが動いたのは、ほぼ同時だった。サクヤはヴァジュラもどきの顔面に銃撃を三度当て、怯んだ隙にイチカが渾身の左ストレートを繰り出す。

 

「早くしろ!完全に包囲されるぞ!」

 

 ソーマが入口を陣取っていた新種を切り裂き、退路を開く準備をする。

 

「サクヤ!!アリサを連れてアナグラに戻れ!これは命令だ!!」

 

「でもっ!」

 

 リンドウから自分を置いて生きて帰れと命令されるが、サクヤは納得できないように食い下がる。

 

「聞こえないのか!アリサを連れて早くアナグラに戻れ!サクヤ!全員を統率!ソーマ退路を開け!」

 

 リンドウが怒鳴りながら命令を出す。余程余裕が無いのだろう。

 

「パパ…ママ…そんな…つもりじゃ…」

 

「おい!しっかりしろ!」

 

「リンドウも…早く!!」

 

イチカが戻ってきて、アリサを背負ったのを確認し、するとサクヤがリンドウに早く戻るように促す。

 

「わりぃな、こいつがなかなか帰してくれなくてな。ちょっと帰るのが遅くなる。配給ビール、とっといてくれよ」

 

「ダメよ!私も残って戦うわ!」

 

「サクヤ…これは命令だ!!!」

 

「いやあぁぁぁ!!!」

 

「行こう!サクヤさん!このままじゃ全員共倒れだよ!!」

 

コウタがサクヤの腕を掴み、撤退しようとするがサクヤが暴れてその場に残ろうとしている。

 

「嫌よ!リンドウゥゥゥ!!」

 

駄々をこねる様に我が儘を言う。コウタは力づくでサクヤを連れ出し、イチカもアリサを背負いそれに続こうと動く。

 

 

「イチカ!!」

 

「っ!リンドウさん!!」

 

すると先程より大きい声でイチカを呼びとめる。

 

「ビールに合うつまみ、作っててくれねぇか?それと……もし俺に何かあったら…サクヤ達の事を頼むぞ!!」

 

「っ……わかりました。最高にビールに合う料理、作って待ってますから!!必ず…帰ってきてください…リンドウさん!!」

 

イチカは一筋の涙を流す。

 

リンドウにはイチカは何度も救われた。それは瀕死だったイチカを見つけてくれた時もそうだが精神もあった。この世界に来て自分自身が混乱していた時、いつもいつも変わらない笑顔を見せて頭を撫でてくれてサクヤとは違った安心感をあたえてくれた。心の底から信頼できる人物であると同時に、イチカにとっては…

 

 

 

 

 

父親の様にも思っていた。そう思わせるくらい、イチカにとってリンドウは大きな存在になっていた。

 

 

「ああ、楽しみにしてるぞ!!」

 

イチカはリンドウを信じ…その場から撤退を始める、アリサを背中におぶり、コウタと一緒にサクヤを引っ張る。それを確認したソーマは、携帯していたスタングレネードを投げつける。閃光が走り、ヴァジュラもどき達は苦しげな声を上げ怯んだ。

 

 

 

 

その隙に、イチカ達は一気に離脱。振り返る事なく走り続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行ったか…」

 

 

 

イチカ達が待機ポイントから撤退した直後、周囲から戦闘音が聞こえなくなったので、リンドウはうまく逃げ延びたと判断した。倒した新種の亡骸の横で座り込み、壁に凭れながらたばこを吹かしている。教会の出入口は塞がれているので、救助が来るまで待っていなければならない。

 

 

 

 

 

 

しかし、そこに黒い顔のヴァジュラが教会に侵入してきた。

 

 

「はぁ…ちょっとくらい休憩させてくれよ…体が持たないぜ…」

 

 

 

リンドウはたばこを吸い、煙を吐く。吐き終わると残ったたばこを投げ捨てて立ち上がって神機を担ぎ、黒く邪悪な顔のヴァジュラに向かって歩いていった。

 



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行方

 

 

第一部隊がリンドウを残し、命からがら帰還すると、即座に救出部隊の編成が始まった。現場状況の把握と伝達のため、第一部隊もこの救助部隊に編成されている。

 

そのため、第一部隊のメンバーは補給を受けた後、再度出撃することになっている。しかし、アリサは未だに目を覚まさないため、イチカが病室に運んだ後準備に参加した。

 

 

リンドウの救助のため、救助部隊を引き連れて再び贖罪の街に戻ってきた。

救助部隊が活動できるように、作戦領域内にアラガミがいないことを確認しに行く。先のヴァジュラ似の新種は見当たらないがシユウ、コンゴウ、グボログボロ、小型アラガミの群れを発見した。

 

「死ね…」 

 

すると、ソーマは全力攻撃で、シユウの頭に神機を降り下ろして、一瞬のうちに真っ二つにしてしまった。

 

「邪魔するなよ!!」

 

イチカはイチカでコンゴウを左腕の拳でコンゴウの顔面を殴り飛ばし、小型アラガミをバイティングエッジで斬り裂き、コンゴウをコアごと捕食し、グボログボロも2人により倒されてしまい、この場にいたアラガミはイチカとソーマの手により残滅された。

その光景をただ援護するままなく、唖然として見ることができなかったコウタはなんとか我にかえり捜索を再開する

 

リンドウが閉じ込められ教会につき、瓦礫を撤去する。

 

 

「リンドウさん!!」

 

 

そこにはリンドウのものと思われる帯状に広がった血の痕があった。他には戦闘の際に落としたと思われるライター、捨てられたタバコが一つあり、後は戦闘の余波で荒れている以外は何もなかった。

 

 

「あのバカ…自分の命令も守れないのか…クソッ…!」

 

「……リンドウ」

 

「だ、大丈夫だよ…リンドウさんの事だし、ビールの配給日に帰ってくるって…」

 

「そう、だな…」

 

 

サクヤは今にも泣き出しそうな状態で、何も言えないイチカは教会で見つけたライターを手にし、無事を祈ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

エントランスでは第二部隊とツバキが何やら騒いでいた。

 

 

 

「教官!俺たちもリンドウさんの捜索に向かわせて下さい!」

 

 ブレンダンが第二部隊をリンドウの捜索に加えるよう交渉している。

 

「何度も言わせるな。正規の捜索隊が動いている。報告を待て」

 

 この手の話は散々してきたのだろう。ツバキのウンザリしたような口調に若干の苛立ちが込められている。

 

「しかし!人数が増えれば捜索範囲が拡大出来ます!」

 

 しかし、ここで引き下がる訳にはかないと、捜索に加わった際のメリットを提示する。

 

「くどい…」

 

次第にツバキの声色に込められた苛立ちが更に強くなる。

 

「リンドウさんには何度も危ない所を助けてもらったんです!だから今度は私たちが…」

 

「くどいと言っている!!」

 

 だが、その意思を足蹴にするようなツバキの怒鳴り声がエントランスに響く。あまりの迫力に3人は思わず萎縮する。

 

「…ツバキさん、支部長がお呼びです…」

 

ヒバリも自分が怒鳴られた訳でもないのに、怯えながら要件を伝える。

 

「わかった。しばらく頼む」

 

「…了解しました」

 

 ツバキはいつもの凛とした口調に戻して、支部長室に向かった。

 

「「「……」」」

 

「おいテメェら…あいつの目の前で何人死んだか…教えてやろうか?」

 

「あ…」

 

 カノンは何か気付いた様に小さく声をあげた。ツバキは数少ない生きてゴッドイータ退役した神機使いなのだ。当然、現役時代には多くの仲間の死を見てきた。

 

 

「ましてや血を分けた弟だ。飛び出したいのはあいつの方だろうに...」

 

 ツバキは役員区画に着いた。が、支部長室には行かずに自室前に向かって歩いていた。ヒバリのフォローのお陰でツバキは一人になり、周囲に人が居ないことを気配で察知する。

 

  

 

 

 

「っ……!」

 

 弟助けにも行けない自分に苛立ち、情けなくなり思わずガンっ!!と音を立てながら壁を殴る。自分の無力さを再び思い知ったのだった。

 統率者としての立場や責任もあり、飛び出したくても飛び出せなかった。

 

 

 

 

数時間後、救助任務を終えた第一部隊はエントランスに着くと、サクヤはフラフラとした足取りで自室に向かい、ソーマはツバキを交えて、状況の報告をしに支部長室に向かった。

 

 

イチカとコウタだけがエントランスに残っていた。

 

 

「…ごめんイチカ…俺も先に戻るよ…」

 

「ああ、お疲れ様……」

 

 そしてコウタも部屋に戻って行った。取り合えずヒバリに報告しようと下階に降りる。そこには、リンドウの帰還を待っていた者達がいた。

 

「イチカ…どうだった?」

 

 捜索隊が戻って来ない事から察しはついていたが、もしかしたらと言う淡い希望を持ってタツミは聞いてみた。しかし、イチカは顔を横に振った。

 

「そうか…未だ信じられん…」

 

「いつだって…リンドウさんみたいな、優しくて強い人が倒れていくんですね…あの…捜索任務、もし無理じゃなかったら同行させてくれませんか?」

 

 

「台場先輩…」

 

タツミ達は先程ツバキに捜索は正規の部隊に任せろと念を押されたが、それでも諦めきれないでいる。なので、捜索任務に選抜されるであろう人物に声をかけ、連れていって貰う事にしたのだ。

 

「私、こんなですけど…リンドウさんに助けられたままで、何も恩返しできてないんです。まだ、ひとつも…」

 

「俺も力になる…いつでも声をかけてくれ」

 

「俺もだ…」

 

「タツミさん、ブレンダンさん……わかりました。その時は声をかけます」

 

 

そう言ってヒバリに任務終了の報告をする。カウンターのすぐ横にはリッカもいる。リッカもリンドウが、帰ってくると信じてここに来ていた。

 

「その様子じゃ…見つからなかったみたいだね…」

 

「…うん、見つかったのは、リンドウさんが持ってたライターだけだった」

 

「…そっか、こんな時に言うのも何だけど…捜索隊には…あんまり期待しない方がいいよ。あの人達の主な任務は…神機の捜索だから…」

 

「そうですか…あ、ヒバリさん、アリサって…どうなったかわかりますか?」

 

「アリサさんは…まだ面会謝絶らしいです…面会できるようになったら、ご連絡しますね…」

 

「わかりました。お願いします…」

 

 任務中に様子がおかしくなったアリサが気になるので聞いてみたのたが、面会すら出来ないとの事だった。

 

「あっ、最後に…1つ頼み事をしたいんですけど、大丈夫ですか?」

 

「はい。何でしょうか?」

 

「アリサと面会出来るようになっても、サクヤ姉には伝えないで下さい。今のサクヤ姉、何をするかわかりませんから」

 

「…わかりました。イチカさんも、無理はなさらないでくださいね」 

 

「はい」

 

今のサクヤは下手をすればアリサに危害を加える可能性があった。その為面会ができても落ち着くまでは合わせないように念を押した。今のイチカはあの状態のサクヤは見ていられず、どう言葉をかければいいのかわからなかった。

 

「大丈夫でしょうか…イチカさん」

 

「わからない。気丈に振る舞ってるように見えるけど…イチカだってリンドウさんの存在は大きいはずだよ。時々リンドウさんと似たことを言う事もあった程だし」

 

「そうですね。笑ってるところなんてとくに…」

 

「イチカ…」

 

ヒバリとリッカは気丈に振る舞ってるように見えるイチカの後ろ姿を心配そうに見つめていた。

 

 

 

 

 

 

面会謝絶と言われたが、アリサの容態が気にかかるので、どんな様子かだけでも教えてもらおうと、イチカは病室の前まで来た。

 

 

「(精神に異常があるとは聞いていたけど…あれは予想以上だ…)」

 

 

すると、耳を澄ませるまでもなく話声や叫び声が聞こえる。

 

「見ないで…もうほっといてよ…!来ないで!!」

 

 

 

 

やはりアリサの声だった。普段の強気な雰囲気を思わせる声ではなく、大声をあげ、叫んでいる。

 

「私なんか…私なんかぁ!!」

 

「鎮静剤を!クッションは交換しておけ!」

 

 ツバキも一緒にいるようだ。自分の弟をほぼ直接的に行方不明にした張本人にも関わらず、こうして面倒を見ているのだ。

 

「あぁ…ゴメンナサイ、ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ…」

 

 アリサは錯乱し、ひたすら謝り続けている。任務中の時よりも酷くなっているように感じる。

 

「パパ…ママ…私違う!違うの!!」

 

「私だ…ツバキだ...わかるか?アリサ」

 

 ツバキの口調は子供を諭す様にゆっくりと、刺の無いように気を付けながら語りかけている。

 

「そんな!そんなつもりじゃなかったの!!違うの!!私じゃない!!私のせいじゃない!!!」

 

「くっ!!」

 

 アリサが暴れているのだろうか、ツバキが小さくうめき声をあげる。

 

「ほっといてよ!!私のなんか!!ほっといてよくれれば良かったのに!!!!」

 

 

 

「………」

 

イチカは無意識に病室の扉を開けようとスイッチに手を伸ばす。

 

「あぁ、君か」

 

「!?」

 

 突然イチカに対して声をかける人物が現れた。面会謝絶の張り紙も張られていたこともあり、かなり焦ってスイッチから手を引いてしまった。

 

「今は会わない方が良いだろうな。薬が切れるとあの調子だ。日を改めた方がいいぞ」

 

「あなたは?」

 

「私は大車ダイゴだ。アリサの主治医をしている」

 

「…始めまして、橘イチカです(この人…医者か?なんか臭いな)」

 

 

イチカには大車が医者には見えなかった。ヨレヨレでシワくちゃのシャツを着てボサボサの長髪に黄色いバンダナを巻いている。そして無造作に髭を生やし、清潔感もまるで感じない雰囲気だった。

 

「(喫煙所でもないのに堂々と廊下でタバコ吸ってるし…)」

 

イチカは目の前の男が医者と言われても説得力がなく、医者かどうかも疑わしかった。

 

「イヤアァァァ…」

 

 鎮静剤を打たれたのだろうか。アリサの悲鳴が聞こえてきて、そのあとは静かになった。

 

「彼女だって今の様子は見られたくないだろうからな」

 

「わかりました…出直してきます」

 

 

そう言ってイチカは自室に戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…」

 

イチカは自室のベットに腰掛け、見つけたライターを見つめる。

 

 

 

 

「リンドウさん…」

 

 

イチカはここに来た当初を思い出す。イチカは家事が得意で、料理を振る舞ったことがある。材料も限られている為考えて使わなければいけなかったが…あの時リンドウが言ってくれた言葉は覚えている。

 

 

 

 

 

『あの……リンドウさん、これ…作ってみたんですけど…』

 

『ん?そりぁなんだ?』

 

『その、リンドウさん、お酒をよく飲んでるから…その、お酒に合う物を作ってみました』

 

『俺にか?』

 

『はい…』

 

リンドウはイチカの作った料理を一口食べる。何度か噛み飲み込みビールを一口飲む。

 

 

『……えっと』

 

『こりぁ美味いな!ビールと相性バッチリだ!』

 

『ほ、本当ですか?』

 

『ああ!これ…全部食っていいんだろ?』

 

リンドウはイチカの作ったつまみ料理を全て完食させた。

 

『ありがとなイチカ、美味かったぜ』

 

リンドウはイチカの頭を撫でる。イチカは頬を赤くし嬉しそうな表情で笑っていた。

 

『お前さんでよければ…また作ってくれねぇか?』

 

『!…もちろんです、リンドウさん!』

 

 

 

 

 

 

 

 

「リンドウさん……俺、信じてますから」

 

イチカはライターに火をつけ、少しの間火を見つめ、今自分がすべき事をやり遂げると心に誓った。



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感応現象

 

「(コウタには……俺の過去のこと、話すべきかもな)」

 

リンドウが行方不明になって数日、未だ発見された報告もな毎日が過ぎていた。イチカはそんな中、自分の過去をコウタに打ち明けようと考えていた。

 

 

「コウタ…」

 

「ん?どうしたんだイチカ?」

 

「任務に行かないか?その…お前には話しておきたいことがある」

 

「?ここじゃダメなのか?」

 

「ああ…ここじゃダメだ」

 

「……わかった。なんかワケありっぽいな…すぐ準備するから先行ってて」

 

「わかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リンドウの捜索中でも神機使いのやることは変わらない。イチカとコウタはツーマンセルでアラガミの討伐に出てる。

 

 

「コウタ、受け取れ!!」

 

「サンキュー!!」

 

イチカはリンクバーストを行いコウタの神機のアサルトがグボログボロに火を噴く。その隙に接近しイチカはバイティングエッジで刀身にオラクルエネルギーを纏わせ舞うように斬撃を繰り出す。

 

斬り刻まれたコンゴウにさらに追撃でコウタが連射。

 

コンゴウも残る力で衝撃波を放つが放たれるまで時間が掛かるため、容易に回避される。

 

「はぁっ!!」

 

イチカはコンゴウにステップで迫り二振りの剣を強く叩きつけ斬撃を繰り出し、この一撃によりコンゴウは絶命した。

 

 

 

 

 

『アラガミのオラクル反応消失、ミッション終了、お疲れ様です』

 

インカム越しにヒバリの声を聞きながらイチカとコウタ討伐を終えた。

 

「お疲れイチカ」

 

「コウタもお疲れ。やっぱりコウタの援護は適切だからやりやすいよ」

 

コウタに労いの言葉をかける。コウタとのツーマンセルの連携は日に日に良くなっていた。

 

「そうかな?あんまり自分では分かんねーや」

 

「的確な射撃ができるのはコウタの実力さ。自信は持っていいと思うぞ」

 

「へへ、ありがとな!お前にそう言われるとなんか嬉しいぜ」

 

コアを抜き取り、帰投する準備をす中、コウタは声をかける。

 

 

 

「なぁ、イチカ…ずっと前から気になってたんだけど、聞いてもいいか?」

 

「うん?」

 

「お前のその左腕ってどうなってるんだ?前にもコンゴウを殴り飛ばしてだよな?」

 

「……今から話すことにも関係する。コウタ…お前は別世界の存在って信じるか?」

 

「え?急になんだよ?」

 

「それが普通の反応だよな、俺は…この世界とは違う別の世界から来た人間なんだよ…アラガミの存在しない世界のな」

 

「え…ちょ、ちょっとまて…どういうことだよ?」

 

 

「全部話す…それと証拠もあるから…最後まで聞いてくれ」

 

 

自分がこの世界に来た経緯をイチカは話し始めた。

 

三年前、織斑一夏として生きていた世界のこと、自分の世界ではある大会の最中誘拐され、姉に見捨てられ、突如何もない所からアラガミが現れ殺されかけたこと、意識がない中この世界に来てリンドウとサクヤにより救助され、橘サクヤの弟として生きていくとを決断し、アナグラに住み始めたこと、そして…

 

 

 

 

「俺のこの左腕は…アラガミ化してるんだ」

 

「は⁉︎アラガミ化してるって…」

 

イチカは左手の手袋を外し、袖をまくる。その腕は人間の腕ではなく…異形と化した腕だった。

 

「………」

 

「正直…この腕に関しては謎が多くてな、榊博士曰く未知のアラガミの細胞らしくて……」

 

コウタは愕然とすることしかできず、ただイチカの話を聞くことしかできなかった。

 

「……第一部隊のみんなは、知ってるのか?」

 

「アリサを除いてな…後は一部の人は知ってる。支部長や榊博士、ツバキさん、リッカ、ルミコ先生も」

 

「……イチカ、どうして話してくれなかったんだよ?」

 

「ごめん…………」

 

一言謝り押し黙るイチカに、コウタはキッと顔を上げイチカの両肩を強く掴んだ。

 

「俺達親友だろ!?困ってたら遠慮なく話せよな!!」

 

「コウタ……」

 

「そりゃあ…そんな事、簡単に信じることも、打ち明けていい内容じゃないのはわかるけどさ、例え別世界の人間だろうが一部がアラガミ化してるだろうとイチカはイチカだろ?だったら、そんな事気にしなくて、遠慮なんか考えないで頼れ!!」

 

 

「……」

 

 真っ直ぐな…真摯な瞳、嘘などまったくない純粋な言葉。それは当たり前だ、コウタにとってイチカは親友なのだから。コウタにとってはどんな事があっても、イチカと親友であり……仲間なのだから。 

 

 

「ありがとう……コウタ」

 

「それでいいんだよ。ならさ…そっちの世界の事もっと教えてくれよ!!悲しい内容だったけど、面白いものもあるんだろ?束さんの事とか!」

 

「もちろん!ただ話したくないこともあるからそれだけは理解してくれよ」

 

「わかってるよ!」

 

コウタには一応持ってきていたスマホ貸し、イチカの世界にあったものやアニメの事を話すとコウタはすぐに興味を持った。

 

会話を弾ませながら車でアナグラに帰投し、改めてリンドウの捜索に気を引き締める2人だった。

 

 

 

 

帰投後、ヒバリに任務終了の報告し、問題ない事を確認するとコウタは自室に戻っていった。

 

「ヒバリさん、アリサに面会はまだできないんですか?」

 

「えっと…先生がいる時なら面会可能になったみたいですね…まだ回復の兆しが見えないらしいですが…」

 

「わかりました。ありがとうございます、ヒバリさん」

 

そう言ってイチカは病室に向かった。

 

 

 

 

病室に行くと大車がいたので今回は入室でき、アリサが病衣に身を包み、ベッドで眠っていた。

 

「すぅ…すぅ…」

 

「(顔色も…あまり良くなさそうだな)」

 

お世辞とも顔色がいいとは言えなかった。

 

 

「効果の高い鎮静薬が届いたのでね、当分意識は戻らないはずだ」

 

「そうですか(俺…お前にまだ謝ってないんだ。だから…元気になってくれよな)」

 

イチカは思わずアリサの手を握る。

 

「⁉︎」

 

突如として、頭の中に見たことがない映像がノイズ混じりで浮かび上がってきた。その映像は浮かんでは消えていく。

 

「………」

 

 映像が消え、気が付くと医務室に戻っていた。

 

「(なんだ…今の…)」

 

あまりにもリアル過ぎる映像だった、するとアリサの瞼がピクリと動いた。

 

「あれ…ここは…私…どうして…」

 

アリサがボンヤリしながらも目を覚ましてイチカを見る。

 

「え…」

 

「い、意識が回復しただと⁉︎…まさか…し、失礼する!」

 

「え、あの…」

 

大車はあからさまに動揺して病室を出ていく。普通なら意識が回復したら状態を確認するのが優先のはずなのに何故退室するのか疑問を抱くと、ボンヤリとした口調でアリサが話しかけてきた。

 

「今…あな…た…の…あなたは……いっ…た」

 

 そこまで言うとアリサは再び眠ってしまった。

 

「(今のは…一体)」

 

 知らないイメージを脳内に直接刷り込まれた様な感覚になり、まるで実際に体験したようだった。先の感覚に疑問を持ちながら無意識にアリサに触れた自分の手を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

「はい。ええまさか意識を取り戻すとは…」

 

大車は廊下に出て、誰かに電話を入れる。余程予想外だったのだろう。動揺して早口になる。

 

「詳しくは分かりませんが…ええ例の…新型同士の感応現象が起きたのではないかと…はい、どうしましょう…隔離しますか?」

 

大車と連絡先の相手には余程都合が悪いらしい。

 

「そうですか…では暫くはこのまま…はい、では私はこれで」

 

 

 

その言葉を最後に大車は通話を切った。

 

「(聞こえてるんだよ…アイツ、一体何を企んでいる。連絡相手は誰だ?)」

 

イチカは耳を澄ませ、大車の会話をバッチリ聞き取れていた。イチカの聴覚は並のゴッドイーターを凌駕する聴力だ。壁越しなら意識を集中すればある程度の距離も聞き取れるが、連絡相手の声の主までは聞き取ることができなかった。

 

 

「(感応現象…か)」

 

 

新型同士の感応現象の言葉が気になり考察するも、聞いたこともなかった。大車は戻ってくる様子はなく、気配が遠ざかっていく、医務室に戻ってくる気はない様子だった。

 

「(あいつは……一体アリサに何をしているんだ……)」

 

 あの会話でイチカはこのアナグラ内で不穏な動きがあると感じ取れた。今の状況では証拠もない為迂闊に動くわけにもいかなかった。

 

 

「(目を離さないようにしないとな……)また来るよ」

 

先程よりも幾分か顔色が良くなったアリサの頭を無意識に優しく撫で、一言言うと、イチカは医務室を後にする。

 

 



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過去の記憶

 

リンドウが行方不明となり一週間が過ぎた。今日も第一部隊でリンドウの捜索を行う。そのブリーフィングのため、アリサ以外の第一部隊のメンバーは出撃ゲート前に集まっていた。

 

しばらく待っているとツバキが来た。第一部隊が集まっているのを確認すると今回の任務のブリーフィングが始まる。

 

「本日の任務を当該地域のアラガミ一掃に変更する。なお検査中だったアリサだが、戦闘に参加できる状態ではないため、入院することになった。しばらくは前線を離れる事になるだろう」

 

アリサは錯乱してから約1週間、ほとんど面会謝絶だった為仕方ないとしか言えない。

 

「最後に…本日をもって神機、及びその適合者であるリンドウは消息不明、除隊として扱われる事となった。以上だ」

 

「え……」

 

イチカは耳を疑った。本日をもって除隊扱い。組織側はこれ以上は探す意思を見せないと言うことだ。

 

「そんな…まだ腕輪も神機も見つかってないんですよ⁉︎」

 

リンドウが行方不明になり、早すぎる捜索の打ち切りの決定についてサクヤは納得できないのだ。

 

「上層部の決定だ。それに、腕輪のビーコン、生体信号共に消失した事が確認された。未確認アラガミの活動が活発化している状況で生きているかも分からない人間を探す余裕は無い」

 

しかし帰ってきた答えは無慈悲だった。ツバキはヒールの音を響かせてエントランスを出た。ソーマもその事を了承したと言った雰囲気を出し、無言のままエレベーターに乗り込んだ。しかしイチカだけはいつもと違う雰囲気なのを感じ取れた。

 

イチカはこの決定を受け入れられないでいる一方で、サクヤが取り乱した様子でイチカとコウタに迫る。

 

「ねぇ!!こんなに早く捜索が打ち切られるなんておかしいわ!!襲われた敵も場所も明らかなのに…なんで!!あなたもそう思うでしょ、イチカ!!」

 

「………」

 

 いつもので頼れるお姉さんと言った雰囲気は欠片も感じられなく、ただ叫んでいる。イチカの顔を見てサクヤはハッとした表情になる。

 

「あ…ごめん…当たっても仕方ないよね…少し頭を冷やしてくる…任務までには戻ってくるから…」

 

サクヤは目尻に涙を浮かべ、涙声になってエレベーターに向かって去って行った。

 

 

「サクヤ姉……」

 

 

「サクヤさん…相当参ってるみたいだね…」

 

「…ああ…」

 

 イチカは三年だが2人の関係を近くで見ていたから知っている。サクヤにとってリンドウは幼馴染なだけではなく、特別な感情を抱いていたから。あの様子を見れば精神的な動揺はかなり大きいことは明白だ。

 

「お前も含めて、皆よくやったと思うよ。あの時のアリサ…急にどうしたんだよ…」

 

「リンドウさんから…アリサには精神に異常があるって聞いたんだ。詳しいことは聞いていないけどな…」

 

 その事を聞いて、アリサが錯乱した原因とも言えるものを思い出した。アリサの過去に深く関わっているので、イチカは黙っておく事にした。

 

「そうだったのか…あ、アリサの事なんだけど…同じ新型ってこともあるし、イチカが傍に居た方がいいと思う」

 

「…なんで俺なんだ?」

 

「今までアリサがイチカ以外と話してるところ見たこと無いし…一緒の任務の時なんてどこか生き生きしてたっていうか、多少心を開いてると思うんだ」

 

 極東支部の面々と言い合いや口喧嘩、反発はしていたがイチカに対してはなぜか積極的な面もあった。イチカはその事については悩みの種だったのでそうは思ってはいなかった。

 

「俺、サクヤさんの様子見てくるよ!正直…今のお前も相当辛いだろ?」

 

「…ごめんコウタ、サクヤ姉を頼む」

 

「ああ、任せとけ!」

 

 そう言ってコウタはエレベーターに向かって走って行った。

 

「(時間が余ったな………榊博士に、感応現象の事について聞いてみるか)」

 

 

その後重い足取りで、イチカは余った時間で榊のいるラボに向かうことにした。

 

 

 

 

 

任務まで時間が余り、ソーマはベテラン区画のエレベーターホールで缶ジュースを飲んでいた。するとどこからか話し声が聞こえてきた。

 

「おい…聞いたか?リンドウさんのこと…」

 

「ああ…またソーマのチームから殉職者か、しかもよくつるんでるあの新型がいたのにかかわらずにだぞ?…今度はリンドウさんとか…洒落になんねえぞ…」

 

「おいバカ…!聞こえるぞ…!」

 

 どうやらソーマがいる事に気づいて言っているようだ。

 

「…クソッ…!」

 

 気がつかないうちに缶を握る手に力が入る。今のソーマには自責や後悔といった感情が渦巻いている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼します」

 

「やあ、待ってたよ。君から尋ねてくるなんて珍しいね?」

  

 イチカは榊に苦手意識がある為、用事がある時以外は出入りしない、榊の研究室にや来た理由、それは……。

 

「それで、私に訊きたい事があるようだけど……一体何だい?」

 

「その、この間医務室で、アリサの手を握った時に、色々な光景が次々と頭の中に浮かび上がったんです。そうしたら、昏睡状態だったアリサが目を醒まして……これがなんなのか知ってるのかと思って」

 

あえて感応現象と言う言葉はイチカは伏せた。今このアナグラに不信感を抱いているイチカは榊にも警戒はしていた

 

 

イチカの言葉に、サカキの表情が変わる。普段は含みのある笑みを浮かべているが、今は研究者としての真剣な表情を見せている。

 

「ほぅ……それは興味深い話だね、もう少し詳しく教えてくれないかい?具体的に何を見たのかを教えてくれるとありがたいが…」

 

「……すみません、映像が流れるスピードが早くて詳しいことまでは…」

 

「そうか……それは残念だ、イチカ君に起こった現象、それは感応現象と言われるものだよ。まだこの現象は実例が少ないからノルンにも記述されはいないんだけどね」

 

「そうでしたか、通りで調べてもなかったわけだ」

 

「それじゃあ早速感応現象について説明しよう!」

 

 どこか楽しそうにそう言って、榊は説明を始めた。

 

「感応現象とは、新型の神機使い同士の間に起こる現象で、互いの記憶や感情を共感し合う事ができるという不可思議なものでね、先程も言ったように前例は極めて少ないんだ」

 

「あの時俺はアリサの手を握ったら感応現象が発生しましたけど、触れるだけで発動してしまうものなんですか?」

 

「はっきり言ってしまうとだね、感応現象が発生する条件などはまったくわからないんだ」

 

「えっ?」

 

「新型の神機使い自体が少ないというのもあるけど、現段階じゃ情報や研究材料が少なすぎて難航しているらしい」

 

「…………」

 

「恐らく今回発言したのは、君の感応力が高い事にもあるのかもしれないね」

 

「感応力?」

 

「君はもともと感応力が異常に高くてね。はじめてメディカルチェックの結果を見た時は私も滾ったものさ。最近じゃ…バースト状態でしか使えない能力を使えるんだとか?」

 

「何処でそれを?」

 

「リンドウ君からさ…」

 

「…そうでしたか」

 

イチカは面倒になると思いバーストアーツについては榊には話さなかった。今回は感応現象について聞きにきただけなので、榊でもこれ以上の事はわからないようだ。いくら優秀な技術者でもわからないものはある。今回は仕方ないと言える。

 

「榊博士、今回はありがとうございます」

 

「お役に立てなくてすまないね」

 

「気にしないでください。また何かわかったら報告します」

 

「よろしく頼むよ。機会があれば是非ともバーストアーツについて聞かせてくれたまえ」

 

「機会があれば…ですけどね」

 

そう言いながら立ち上がる。

 

「任務の後、アリサ君のお見舞いにはいくのかい?」

 

「はい、リンドウさんにも力になってやれと言われてますが……自分の意思で…アリサの力になりたいと思っています」

 

「そうか」

 

「失礼しました」

 

 

頭を下げ、研究室を後にするイチカ、そのまま任務の時間となり、出撃し、いつも通りアラガミを討伐した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

任務後、すぐに病室に向かい、入口には、面会謝絶の札は掛けられていない、一応ノックしてから中に入る。中には誰もおらず、アリサだけが前と同じようにベッドで眠っていた。

 

「…………」

 

 

 

「…………」

 

 ベッドの近くに椅子を持っていき、眠っているアリサを見つめる。

 

「(……感応現象、あの時…アリサも自分の何かを見ていたのだとするなら…)」

 

 おもわず、ジッと自分の手を見る。もう一度触れれば、感応現象が起こるかもしれない。しかしそれは自分の正体を明かす事と同じだと悟る。アリサも自身の何かを見ていたなら…イチカの過去…織斑一夏として生きていた時、左腕の事を見ていたかもしれない。

 

 

「(迷ってられない…)」

 

覚悟を決めアリサの手を触れた瞬間。また、頭の中に不思議な光景、が……。

 

 

 

 

 

 

『もういいかい?』

 

 

初めに聞こえたのは、そんな声。

 

 

『まあだだよ』

 

 

 次に聞こえたのは、そんな声。

 

 

『もういいかい?』

 

 

『まあだだよ』

 

 

かくれんぼをしているのだろう。隠れているのは幼き頃のアリサ、そして彼女を探しているのは、彼女の両親。

 

感応現象によってアリサの記憶を見ているからか、イチカの中に彼女の記憶が流れ込んでくる。幼いアリサは廃墟の中に置き去りにされたタンスの中に隠れていた。

 

それを探しに来た両親、次第に楽しくなってアリサは隙間から自分を探す両親を覗き込む。

 

『もういいかい?』

 

『もういいよ』

 

 

 

両親がアリサの隠れているタンスのすぐ傍までやってきた。

 

 

――しかし

 

 

飛び散る鮮血、悲鳴もなくアリサの両親であったモノが肉片と化していく。

 

食べているのは漆黒の身体を持つヴァジュラのようなアラガミ。

 

『パパ…⁉︎ママ……⁉︎やめて、食べないで……!』

 

 必死に懇願するアリサの声も、意味を成さない。一瞬で全てを奪われ、その時の光景はアリサに決して消えない深い傷を残した。

 

『いやぁぁぁぁぁっ!!やめてぇぇぇえええ…!!』

 

 

その後、景色が白く染まり、暫くすると別の風景が見えてきた。極東支部の訓練室と同じ風景のようだったが、間取や傷の着き方が違った。恐らく別の支部だろう。

 そして目の前には見たことのある紅い神機が横たわっていた。アリサが使っている神機だ。ここまで来れば今まで見てきたのがアリサの過去だと確信できる。そんな事を考えていると、とこかで聞いた事がある声が響く。

 

『幼い君は、さぞかし己の無力さを呪っただろう』

 

 両親を殺された時の事を思い出した。強い恨みと憎しみを胸に宿して神機を握る。

 

『ぐっ!!!あぐ…くぅ…!』

 

適合試験で受けた形容しがたい痛みを受け、アリサは呻く。

 

『その苦しみに打ち勝てば、親の仇を討つための力を得る事が出来るのだ!!そうだ!戦え!打ち勝て!』

 

 

 

 

 

 

 

 

『こいつらが、君達の敵であるアラガミだよ』

 

 ある病室内に、アリサと1人の男が居る。アリサの目の前には、様々なアラガミが映し出されているモニターが。

 

『アラ…ガミ……』

 

「そう、こわーいこわーいアラガミだ。そしてこれが君のパパとママを食べちゃった、アラガミだよ」

 

 そう言って、男はモニターの映像を変える。しかし、そこに映し出されていたのはリンドウの姿だった。

 

 『でも、君はもう戦えるだろう?簡単な事さ、こいつに向かって引き金を引けばいいだけだ』

 

『引き金を、引く……』

 

『そうだよ。こう唱えて引き金を引けばいい。アジン、ドゥヴァ、トゥリー!』

 

『……アジン…ドゥヴァ…トゥリー……』

 

『そうさ、そうすれば君は強い子になれる』

 

『アジン…ドゥヴァ…トゥリー……』

 

 譫言のように、謎の言葉を繰り返すアリサ。しかしその謎の言葉を最後に景色が、霞んでいく。感応現象が終わるのか、自然とそう理解している自分が居た。

 

 

 

 

 

「…………」

 

 気が付いたら、元の医務室に戻っていた。

 

「……今の、は……」

 

「アリサ……」

 

 目を醒ましたアリサと、視線が合った。

 

「あの記憶は……あなたの……」

 

「………」

 

「あなたの記憶が頭の中に流れ込んできて……もしかして、あなたの方にも?」

 

「……うん。君の両親が……殺された時の記憶を」

 

「…………」

 

 辛そうに顔を俯かせるアリサ。

 

「君も、俺の……記憶を見たのか?」

 

イチカは意を決してアリサに問う。

 

 

 

 

 

 

「………織斑……一夏」

 

 躊躇いを含んだ口調で、アリサは答える。

 

織斑一夏と答えたアリサ、すなわち、アリサが見たのは織斑一夏として生きた世界の時のものを見たのだろう。

 

 

「そう…か」

 

「あなたの…本名、なんですよね?」

 

「悪いが織斑の苗字は捨てたものだ…今は橘イチカだ」

 

「ごめんなさい、けど…あなたが…別の世界の人間だったなんて、それに…その左腕…」

「信じられないのも…無理はないと思う。常識の範疇を越える出来事だしな。けど、俺がアリサの記憶を見たのが証拠になるだろ?」

 

「……あの日のこと、ずっと忘れてた筈だった…パパとママを困らせてやろうって、かくれんぼのつもりで、近くの建物の中に隠れてたんです。もういいかい?まあだだよ…って…そしたら突然、悲鳴や叫び声が聞こえてきて…」

 

イチカは何も言わず、ひたすらアリサの話を聞きに徹していた。

 

「早く出ていけば良かったのに…私、怖くて動けなくて…パパとママが私を探しに来たけど…唸り声が聞こえて、目の前で…パパとママが!」

 

 目の前で両親をアラガミに喰われれば、動けないのは無理はない。イチカもアラガミに襲われた際は縛られた状態とは言え、恐怖で動くことすらもできなかった。

 

この状況で出ていけばアリサ自身が喰われかねなかった。

 

「私がもっと早く気がついて逃げていれば…2人も…私のせいで…!」

 

 

「アリサのせいじゃない…俺も同じ立場だったら、きっと動けていないと思う」

 

「だから、私が新型神機使いの候補者だって聞かされた時は、これでパパとママの仇を討てる、て思ったんです。そう…2人を殺した『あの』アラガミを…!」

 

 そこまで言うと、アリサの脳内でリンドウと黒い顔のアラガミが交錯する。相当強力な暗示なのか、未だにリンドウを仇のアラガミだと思ってしまっているようだ。錯乱し始め、泣きながら頭を抱えてガタガタと震え始めた。

 

「……!」

 

イチカは立ち上がり、リンドウとサクヤ、束がイチカしてくれたように、アリサの頭を優しく撫でながら抱きしめた。

 

「…ごめんなさい…自分でも分からないの…」

 

「(リンドウさん、サクヤ姉、束さんもこの気持ちで、俺にこうやってたのかな…)」

 

アリサを抱きしめ、落ち着くまで暫く待った。5分ほどして落ち着いたのかアリサの方から離れていった。

 

「ありがとう。この前もこうして手を握ってくれてたのって、あなただったんですね。温かい気持ちが流れ込んで来るの、分かったから」

 

「……落ち着いたか?」

 

「はい」

 

「よかった」

 

「その、あなたがよければなんですが…左腕、見せてもらうことは可能ですか?あ、もちろん…断ってくれても構いません」

 

アリサはイチカの左腕に視線がいく、感応現象見たとは言えあまり実感はない様子だった。

 

「……わかった」

 

イチカは自分とアリサ以外の気配がないのを確認すると…手袋を外し、袖をまくる。

 

「………」

 

「これが今の俺の左腕だ……気持ち悪いだ「綺麗…」え」

 

突然アリサがイチカのアラガミ化した左腕を手に取る。イチカがアリサの発言に驚いたのも無理はない。

 

しかしずっと見つめられるのも恥ずかしいので声をかける。

 

「あ、あの……アリサ?」

 

「あっ……ご、ごめんなさい!綺麗な色だったので…つい」

 

気が付けばアリサは顔を赤くして下を見ていた。

 

「ははっ、その反応…はじめてされたよ。今までは驚かれたりされたのが殆どなのに、綺麗か…この腕も偶にはこういう事にも役に立つんだな…」

 

「……」

 

――はじめて見た。

 

イチカの表情はとても穏やかだった。いつもアリサに向ける表情はどこか嫌そうで、面倒臭そうな雰囲気だった。

同時に今みたいな、もっと知らないイチカを見たいと思う自分が居る。何故そう思うのか、アリサには分からなかった。

 

「それじゃあ、そろそろ俺は行くよ。一応言っておくけど、俺のことに関しては第一部隊と一部の人以外には秘密にしてくれないか?勿論、アリサの記憶も絶対に話したりしない」

 

「は、はい。それはもちろん!」

 

 「ありがとう」

 

そう言ってイチカは立ち上がり扉に向かう。

 

「(あ………や…)」

 

 それを見て、アリサは彼がここから居なくなると急に自覚ができて。

 

「ま、待って!」

 

気が付いたら、彼を大声で呼び止めてしまっていた。その声にイチカは肩をビクッとさせ振り向く。

 

「ど、どうしたんだ?」

 

「え、あ、そ…その…」

 

アリサはひたすら顔を赤くさせてアタフタさせていた。

 

「………」

 

イチカは今のアリサを見て数年前の自分の姿を重ねていた。

 

寂しい…その気持ちがイチカには伝わっていた。クスリと笑みを浮かべつつもう一度椅子に座り込んだ。

 

 

「な、何がおかしかったんですか?」

 

「いや、なんでもない(俺が熱を出した時も…束さんはそばにいてくれたっけ)」

 

イチカは自分が病気になっていた当時を思い出し、イチカはアリサの手を握る。

 

「え、あ…あの」

 

「この後は緊急時以外は何もないから…寝付くまでそばにいるよ」

 

「……いいん…ですか?」

 

「ああ」

 

二つ返事で、アリサの左手を握るイチカ。アリサも自然とイチカの握っていた手に力が入る。

 

「(………暖かい)」

 

手の温もりに、アリサの表情も自然と優しげなものに変わる。

 

 

「……ありがとうございます、橘さん……」

 

「苗字だと被るからイチカでいいよ、アリサ」

 

「イチ、カ……」

 

程なくして、アリサから寝息が聞こえ始めた。

 

「おやすみ……アリサ」

 

 

イチカは後になり気付き罪悪感を持ちながらも、安心したような寝顔を見せるアリサを優しく見つめていたのだった。

 



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遺されたメッセージ

 

リンドウが行方不明となり二週間が経とうとしていた。

 

支部長への報告を終えたツバキはエレベーターに向かっていた。隣にはサクヤがツバキの横に立つとずっと考えていた事を話始める。

 

「私…やっぱり捜索の打ち切りだなんて…納得できません」

 

「またその話か…上層部の決定だ。覆る事はない」

 

 

「腕輪どころか、神機だって見つかってないのに…神機使いが任務中に行方不明になった場合、神機が回収されるまで捜索されるのが通例じゃないてすか!」

 

 一方的に捲し立てるサクヤに対して、ツバキはどこか冷静だった。

 

「…もうあいつが姿を消してから2週間経とうとしている。生存の確率は限りなく0に近い。ましてや深手を負っていては…」

 

 ゴッドイーターでも補給も無し、偏食因子もなしに外で戦い続ける事は事実上不可能。

現場からはリンドウの血痕が見つかっている。生きていても手負いなのは間違いない。そんな状況で助けを呼ばないと言うのが何を意味するのかは多くの人は察しがついていた。

 

「でも…でも…ツバキさん…」

 

「……」

 

 未だに食い下がるサクヤに無言でツバキは返す。ここでエレベーターが来たのでツバキが乗り込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う…うぅ…リンドウゥ…」

 

 

ツバキはエレベーターの隅で、一人静かに涙を流していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、雨宮リンドウは…正式にK.I .A認定された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リンドウの捜索の打ち切りが決まり、いつものアラガミを倒す日常が戻ってきた。アラガミ討伐任務に行く為のブリーフィングをしている。

 

 

「よし。以上でブリーフィングを終わる。準備が出来次第始めてくれ。それとサクヤ、お前は少し残れ」

 

 ツバキはいつも通りの調子で任務内容を伝える。最後にサクヤだけ残るように伝え、イチカを下がらせる。今この場にはツバキとサクヤしか居ない。

 

「…何か?」

 

「サクヤ…お前は暫く休暇を取れ。イチカからの頼みでもあるが、これは上官命令だ」

 

「そんな…私は!」

 

「サクヤ…最近鏡を見たか?」

 

「は?」

 

ポカンと表情でサクヤは返事をするが、ツバキは気にした様子もなく話を続ける。

 

「…ほとんど寝てないんだろう?イチカも、心配していたぞ」

 

 ツバキの言う通り、サクヤの目の下にはうっすらとだが隈が出来ていた。

 

「お前がアイツを想う気持ちは、姉として嬉しく想う。だが、上官としては別だ。コンディションの整えられない者は死を呼び込む…分かるな?」

 

「…はい…軽率でした」

 

 

本調子を出せない者は戦場で周りの人間の足を引っ張る、尚更調子の悪い人間を出撃させる訳にはいかなかった。

 

「最後に忠告だ。お前はもう少し周りを頼ることを覚えろ…いいな?」

 

「…善処します…」

 

 

サクヤは返事をするものそれは必ずしも行うとは限らない返事だった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

イチカたちが任務に向かって数時間、サクヤは何もする気力もなく、自室のベッドに座り込んでいた。正直休めと言われても、体を動かしでもしてないと余計な事ばかり考えて余計気が滅入ってしまう。

 

そうしているとリンドウがひょっこりと帰ってくるのではないかと思え、リンドウの事を思い出す。

 

 

『おーいサクヤ、いるか?』

 

 

突然扉が開いてリンドウが部屋に入ってくる。

 

 

『り、リンドウさん!』

 

『おっ、イチカもいたのか』

 

 

『もう、さんざん言ってるけど…せめてノックぐらいしてから入ってきてよ!イチカだってビックリしてるじゃない!』

 

リンドウがノック無しに入ってくる事は日常茶飯事だった。当時はイチカがこの世界に来てまだ半年がたった頃で、イチカは突然の事にまだ慣れておらず、リンドウはその事に対して軽い謝罪をする。

 

『あーわりぃわりぃ』

 

『今回も、ビール目的ですよね?』

 

『まぁな、というかイチカ…お前、背が伸びたんじゃないのか?』 

 

『そう…ですか?自覚はありませんけど…』

 

そう言うとリンドウはイチカの頭を軽く撫で、ドカッと音が聞こえる程勢い良くソファに座り、その間にサクヤは冷蔵庫に向かって歩いて行った。

 

 

『まったくもう、いっつもすぐ飲んじゃうから…』

 

 サクヤは愚痴りながら冷蔵庫を開けてビールを取り出す。対してリンドウはケラケラと笑いながら返事をする。

 

『いいじゃんか、お前飲まないんだし。何なら新種のジャイアントトウモロコシと交換するか?』

 

『いやよー!』

 

『あははっ』

 

 

 

 

 

 

そのやりとりをイチカは楽しそうに見ていた。

 

 

過去のやり取りを思い出し、そんな現実を忘れたくて、冷蔵庫にあるビールを手に取る。すると、ビールの底から何が落ちた。

 

「何…これ?(何で配給ビールの底にこんなものが?)」

 

 サクヤの知る限り、部屋に来てビールに興味を示す人間はリンドウしか居ない。

 

 

ーー配給ビール、とっておいてくれよ

 

 

「まさか…」

 

これはリンドウからのメッセージではないかと思い、直ぐにターミナルで閲覧する。

 

「(リンドウの腕輪認証がかかってる…?)」

 

 しかし、ロックがかかっているため、閲覧出来なかった。直接の手掛かりが封じられたとなると、その鍵であるリンドウの腕輪が必要になる。

 今となってはその腕輪を探す事さえ難しくなっている。こうなると自分で調べていくしかない。

 

「(そもそも…あの日はイレギュラーが不自然なまでに多かった…指令情報の食い違い…アリサの様子もおかしくって…)」

 

 リンドウの事件の時、同一区画に複数のチームが配備されていた上、アリサが何故か錯乱し、大量の新種と遭遇。いくらなんでも出来すぎていて、違和感が残る。当時の事を調べようと、サクヤはミッションの履歴を調べる。

 

「え…」

 

 しかし、調べていくうちに思いがけない事実にたどり着く。

 

「(あの日のミッション履歴が消されている?)」

 

 都合良く履歴が残っていない。こうなるリンドウがフェンリル側に消されたと言う可能性が浮上してくる。

  

「(どう言うことなの?リンドウ…)」

 

  

「サクヤ姉」

 

特に気がねなく部屋のドアを開き、イチカが入室したのだが……

 

「っ⁉︎」

 

 

「ど、どうしたんだ?そんな身構えて…」

 

 

「な、なんだイチカか…任務はどうしたの?」

 

「……もう終わらせたよ。サクヤ姉…少し話がある」

 

イチカはサクヤの反応を気にしていたがすぐに用件を話す。今のサクヤならアリサの事を話しても問題ないと判断していた。

 

 

「……そう。アリサが…教えてくれてありがとう」

 

「信じるのか…今の話」

 

イチカは感応現象の事をアリサの過去を伏せながらサクヤに話した。

 

「ええ。感応現象……触れるだけ気持ちが通じ合うなんて、新型同士の能力なのかしらね……その様子だと、あなたの正体もバレてるみたいだし」

 

「ああ、前の名前を言われたからな…それに、この左腕の事を綺麗だって言われたから…」

 

「そう…それに、さっきあなたが部屋に入って来た時…リンドウが重なったわ。ノックせずに入ってくるところなんてソックリ…」

 

「そうか?意識してたわけじゃないから分からないけど…」

 

「貴方も所々でリンドウの影響を受けてるからね。とりあえず、しばらくはアリサのそばにいてあげて?アリサも貴方には心を開いてるみたいだし」

 

「ああ…わかってる」

 

「それと、ごめんね…あなたにも心配かけてしまって」

 

「気にしなくてもいいよ。サクヤ姉がリンドウさんの事をどう思ってるかは…俺も近くで見てたからわかるよ……」

 

「そっか…」

 

「今は、ゆっくり休んでくれ…サクヤ姉」

 

イチカはそう言うとサクヤの部屋を退室し、アリサのお見舞いに向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だいぶ…落ち着きは取り戻してはいるのかな…」

 

 

イチカはツバキにサクヤを休ませてほしいと頼み、頼むよりもツバキもそのつもりだったらしく、そのまま実行した。

 

サクヤの部屋を後にしたイチカは医務室に向かいイチカは病室に入る。

 

 

「あっ……イチカ!」

 

「…元気そう、だな」

 

 

中に入ると、どこか嬉しそうな顔をしたアリサが、声を弾ませてイチカに視線を向ける。

 

 

「具合はどうだ?見た感じ調子は良さそうに見えるけど」

 

「はい。今日は朝から調子がいいんです」

 

「そうか」

 

「えっと…今日はどんな事を聞かせてくれるんですか?」

 

「そうだな…」

 

ここ最近の快方具合に一安心する。その後は2人はイチカが過ごした世界の事にについての話をした。

趣味や特技、本やアニメやゲーム、IS、イチカのスマホにある写真のアルバムなどを見せ会話に花を咲かせた。

なるべくトラウマを刺激しないように、アラガミについての話や過去の話を避けた。

 

「束さん…でしたか?綺麗な人ですね」

 

「ああ、俺にとってははじめて織斑一夏として見てくれた女性なんだ。よく寂しい時なんてそばにいてくれたな…まぁ、会うたび抱きついて来てたけど」

 

「ふふっ、見た目の割にとても元気なんですね」

 

「ああ、元気すぎるくらいさ。その明るい元気が俺を救ってくれたんだ」

 

「………」

 

アリサは感応現象の際イチカの記憶は見ている。イチカの世界はこの世界…過去にすら存在しないパワードスーツ、ISにより大きく変わった。女尊男卑の思想が深まり、男性の地位は下がり平等世界からかけばなれた。そのISの1回目の大会でイチカの元姉である千冬は有名人となり、いやでも注目された。

 

そのせいでイチカは不当な扱いを受け、いじめられていた。数少ない友人もいたがイチカは巻き込ませない為あえて距離を取っていた。

その行動は友達を守る為だとアリサはすぐに理解できた。姉はイチカの事を理解せず、出来ると勝手な理想を押し付け、イチカのことを全く理解してくれなかった。

 

「(あんなの……姉でも家族でもない)」

 

アリサが心底思った事だ。そして2回目の大会でイチカは誘拐され、姉は助けには来ず決勝に出ており、イチカは殺されそうになるところアラガミに襲われ、重傷を負ったままこの世界に来て、リンドウとサクヤにより救助された。その後に感応現象が終わり、気が付いたアリサの手を握っていたイチカがいた。

 

「アリサ、お前に言いたかったことがあるんだ」

 

「な、なんですか?」

 

アリサはイチカの真剣な表情に身構える。何を言われるのか緊張しながらアリサはイチカを見る。

 

「ごめん」

 

「………え」

 

「俺、前にお前のこと強く怒鳴っただろ?かなり遅くなったけど、ごめん…」

 

「あ、謝らないでください!元を辿れば全面的に私が悪かったんです!」

 

「けど、あの時のアリサ、俺のこと怖がってたろ?避けられてたし…」

 

「謝るのこっちですよ!…極東のみんなの事、理解もせずに勝手な事を言って…あなたを怒らせた、ごめんなさい!」

 

「アリサ……」

 

そうやって互いに謝罪をしていると、不意に病室の扉が開いた。ルミコが戻ってきたのかと思い、そちらを向くと意外にもサクヤが入ってきた。サクヤが入って来たのをみると、イチカは動揺する。

 

 

「サ、サクヤさん…」

 

大切な人を奪った張本人に会いに来るなど、報復意外に思い付かなかった。それ故に、アリサの表情が一気に怯えたものになる

 

「サクヤ姉…」

 

 アリサの言葉を遮り、彼女を隠す様に前に出てサクヤを見据える。

 

「大丈夫。アリサを責めに来た訳じゃないわ」

 

「……」 

 

サクヤは穏やかな口調で答えた。イチカはサクヤが手を上げないと信じてアリサと話せるように少し下がった。

 

 

「ありがとう」

 

サクヤはアリサと向き合い話を始める。

 

「話を聞かせてほしいのよ、そう…あの日あの瞬間…あなたに起こった事を、本当はあなたのした事にに納得出来ない、でも、だからこそ…そこにある違和感がなんなのか知りたいの。辛いお願いをしているのは、承知の上よ…お願い、貴女に何があったのか…教えて欲しいの」

 

 真剣な目でサクヤがまっすぐアリサを見る。対してアリサはと目線をイチカに送る。

 

「大丈夫、傍にいるから。話せる所まで…話してほしい」

 

 そう言われて、怯えながらもサクヤを見る。

 

「私が…定期的にメンタルケアを受けている事は…ご存知ですか?」

 

「ええ、ツバキさんとリンドウから聞いてるわ。詳しい事は聞いてないけどね」

 

「私がアラガミに両親を殺されて数年間、私は精神不安定な状態で病院生活をしていました」

 

 意を決してアリサはメンタルケアを受けている原因となった両親の死を語り始める。聞いている2人は話を遮ることなく、聞き役に徹している。

 

「そんな生活が数年続いて、ある日フェンリルから私が新型の適合候補者の連絡が入って、それで、それまでの病院から無理矢理フェンリル所属の病院に移送されたんです」

 

 

「そうだったの……」

 

 

「いえ、新しい先生は良くしてくれたし、これで両親の仇も討てるって思ったから…それからは症状を薬で抑えながら敵のこと…戦い方のことを、勉強しました」

 

そうまでしないとて戦えない状態だったようだ。それでも戦場に出たのは余程アラガミが憎かったのだろう。この世界ではこれが普通なのかもしれないとイチカは改めてこの世界の残酷さを思い知る。

 

「フェンリルにいた新しい先生はとっても優しかったんです。この極東支部にも一緒に赴任してきてくれて…」

 

「その先生は、今もアナグラにいるってことね?」

 

「…はい、皆さんも知ってる大車先生ですよ?」

 

「……………」

 

大車、その名を聞くと反応してしまう。あの時、イチカが聞いた大車の会話が、否が応でも思い出された。

 

「…そう、ごめんなさい、続けて?」

 

「極東支部に仇のアラガミが出るって聞いて、赴任して……。それで、ようやく仇を見つけたと思ったのに……あの瞬間、何故か仇のアラガミがリンドウさんになってて……!」

 

アリサの声が震え出す。話しているだけでも汗だくだ。

 

「……気が付いたらっ……リンドウさんに神機を向けてて……ぁあああぁぁあ!」

 

 

そこまで話すとアリサは頭を抱えて震えだした。

 

「無理をさせてごめんね。ありがとうアリサ。イチカ、後…頼んでもいいかしら?」

 

「うん」

 

そう言うとサクヤは部屋を出ていった。

 

 

 

「アリサ……」

 

そう言ってイチカが優しく背中を撫でアリサは落ち着く

 

「大丈夫、大丈夫だ。よく話せた」

 

「イチカ…私、どうしたら」

 

「………」

 

イチカは何も言わず、ベッドの方に腰を移してしっかりと抱きしめた。かつてイチカにしてくれた人達のように…優しく頭を撫でる。

 

「あ…ううっ…」

 

アリサはイチカ胸で泣いた。気を使いイチカは体制までも変えた。しばらくの間泣き続け、アリサの意識はそのまま途切れた……

 

   

 

 

 

 

「イチカ、アリサ、飲み物持って来たのだけど……って、あらあら」

 

「さ、サクヤ姉、これは…その」

 

 

 

サクヤが病室を出て五分くらい経ち、サクヤが自販機で買った飲み物を手に戻って来た。イチカの膝の上で、アリサが寝ているからである。イチカの胴に手を回し、しっかり抱きしめており、イチカは身動きが出来なかった。

 

「うふふっ、随分信頼されてるみたいね」

 

「笑ってないでどうにかしてくれよ。動こうにも動けない…」

 

「その状態で起こすこ事なんてできると思う?こんなにいい寝顔で寝てるんですもの…」

 

「うう、それは…」

 

今のアリサを見てイチカは今起こすのはとても申し訳なく感じた。

 

 

「はい、これ…イチカの分」

 

 

「ありがとう」

 

「私は戻ってるわね。これ、アリサが起きたらあげておいて」

 

「って…サクヤ姉、俺…まさかこのまま?」

 

「ツバキさんに休みを取ってほしいって頼み込んでたんでしょ?起きるまでアリサの側にいてあげなさい、いいわね?」

 

「……わかったよ」

 

「素直でよろしい」

 

と言って棚の上にジュースを置いていく。その背を見送り、イチカはアリサが起きるまで側にいる事にした。



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守る力

 

リンドウの捜索が打ち切られて1週間、打ちきり当時は生きていると信じていた者達もリンドウが死んだと受け入れ始めていた。

 

現在、エントランスには缶ジュースを片手に出撃ゲート前で佇んでいるイチカとコウタがいた。するとコウタが話しかけてきた。

 

「もう…一週間経つんだな」

 

「ああ…」

 

「他の神機使い達も受け入れ始めてるけど…正直…今でも信じられないよ」

 

「俺は…諦めたつもりはない」

 

「え?」

 

「リンドウさんは生きてる。分からないけど…そんな感じがするんだ」

 

イチカはポケットからリンドウのライターを取り出す。イチカの顔はまだ諦めてはいなかった。

 

「そう…だな、よし!俺も俺にしかできない事をしないとな!」

 

「ああ」

 

そんな会話をしているとエレベーターの扉が開いてアリサが出てきた。

 

「アリサ!」

 

アリサはイチカの声を聞いて一瞬嬉しそうな顔をしたが、コウタが横に居る事に気が付くと、俯いて視線を合わせないようにした。他人の視線が酷く恐ろしく感じてまともに目を合わせる事が出来ない。そのままイチカとコウタの前まで着て、報告すべき事を報告する。

 

 

「……本日付で原隊復帰となりました。……またこれからよろしくお願いします」

 

 

「実戦にはいつ復帰なの?」

 

「…いえ…まだ…です…」

 

「…そっか…」

 

 

 会話が途切れて沈んだ空気の中、突如大きな声で話し声が聞こえてきた。

 

「おい聞いたか?この間入ってきた新型の女…やっと復帰したらしいぜ」

 

「ああ、リンドウさんを新種のヴァジュラと一緒に閉じ込めて見殺しにした奴だろ」

 

「ところが、あんなに威張り散らしてたくせに、精神不安定で結局戦えなくなったんだとよ」

 

「あっははは!!なんだ!口ばっかりじゃねえか!」

 

 アリサに聞こえるように心無い罵声を飛ばしてくる。アリサ自身こうなって当然だと思っていたが、実際に目の前で言われるとかなり辛い。正直今すぐにでも逃げ出したかった。

 

「あなたも…笑えばいいじゃないですか…」

 

 泣きそうな顔になってコウタに自分を笑えと言ってきた。いっそのこと笑われってくれれば気も楽になれる。そう思っての発言だった。

 

「俺たちは笑ったりしないよ。な?イチカって、あれ?あいつどこ行った?」

 

振り向くとイチカの姿はなくコウタは周りを探す。

 

 

すると

 

 

「ウハハハハハハハ!!!!アハハハハハハハハハハハ!!!な、なんでだ?わ、笑いたくもないのに笑ってアハハハハハハハハハ!!!アハハハハハハハハハ!!」

 

「アハハハハハハハハハ!!!ふぅっ、ふっ…お腹が痛いアハハハハハハハハハ!!こ、このやアハハハハハハ!!」

 

先程アリサを罵声していた2人が突如と笑い出し周りの神機使い達もおかしい人にしか見えなかった。

 

「笑いのツボです。あなた方は笑いたいんでしょ?だったら笑い地獄でも味わっててください」

 

親指を立てていたイチカが2人に何かしたのは明らかだった。それを言いイチカはコウタとアリサのところに戻る。

 

 

「お、お前いつの間に…てか、あの2人に何したんだ?」

 

「ん?笑いのツボを押しただけ」

 

「わ、笑いのツボ?」

 

「ああ…前にマッサージも出来るって話した事はあるよな?それである本を読んでたら出来る様になった」

 

「へ、へぇー」

 

「試してみるか?」

 

「え、遠慮しとく…」

 

コウタは顔を引きつらせながらイチカの事を少し引いていた。

 

「そ、それで、あいつら大丈夫なのかよ?」

 

「まぁ1時間くらいはあのままだろうな…耐性があるやつなら数分で治る。喉は潰れてるかもしれないけど…」

 

「えげつねぇな…」

 

 

依然アリサは暗いままで、口を閉じている。

 

「あーえっと…それより、リンドウさんがやられた新種のヴァジュラ!」

 

 コウタがその場の空気に耐えきれなくなって話を振るが、その話題はアリサにとって、その後どうなったか知りたい話題であると同時に触れられたくない話題だった。

 

「!」

 

「お、おい!!」

 

 アリサは顔を上げるも、どこか複雑な感情が見え隠れしている表情になり、コウタなりに場の雰囲気を変えようとしていたのかもしれないが、アリサにとってはトラウマを呼び起こしかねない事だ。

 

イチカは止めようとするが虚しく、コウタは何か焦りながら話を続ける。

 

「ここ最近欧州でも目撃報告があったみたいだね。ここに来て新種との遭遇例が増えているのは何かの兆しなのかもしれないねー!なんて…」

 

 狼狽えながら話を続けているが、どこか空回りしているように感じる。その空気を感じ取ったのか、唐突にイチカの方を見て、肩を叩いた後両手を合わせ…

 

「スマン、後は頼んだ…」

 

「は⁉︎ちょっ!!おいコウタ!!」

 

この気まずい空気のままイチカにこの場は任せ逃げるように去っていったコウタ。

 

呆然としてるとアリサが話しかけてきた。

 

 

「あの…お願いがあるんです…」

 

「え?な、なんだ?」 

 

どこか言いにくそうにアリサが言葉を一旦区切る。

 

「あの…その…私に、もう一度ちゃんと、戦い方を教えてくれませんか?今度こそ本当に…自分の意思で、大切な人を守りたいんです!」

 

 

アリサの言葉に、イチカはキョトンとした。戦い方を教えてほしい、アリサはイチカにそう言った。

 

「(えっと……アリサも充分強いはずじゃ、教わる理由がない気が…いや、そういえば薬で症状を抑えてたって言ってたな…)」

 

今までアリサは薬で症状を抑えていたのを思い出し、今の状態のアリサは薬を頼っている様子はなかった。

 

「……その、なんで俺なんだ?俺はまだ誰かに教えられるほどの経験はまだないが…」

 

イチカはアリサにそう告げる。しかし、アリサは首を横に振って言葉を返した。

 

「新型の戦い方なら、イチカが適任だと思ったんです。もう、あんな事がないように強くなりたい。イチカのように、大事なものを守れる強さが欲しいんです!!」

 

「…………」

 

 アリサの瞳が、イチカを真っ直ぐ見つめる。その瞳を見れば、イチカでも本気だと理解できた。

 

「……わかった。俺でいいなら協力する。ただそれはツバキさんに許可をもらってからだ」

 

「!ありがとうございます!!」

 

 地面についてしまうのではないかと思えるくらい、頭を下げるアリサ。イチカはツバキに許可をもらった後、アリサと共に受付のヒバリの元へと向かいミッションの受注をし、任務に向かった。

 

 

 

 

 

 

イチカとアリサが向かったのは平原エリア、雨が2人の身体を濡らしていた。

 

 

ここでシユウの討伐ミッションを受けたのだ。

 

「…………」

 

「……大丈夫か?」

 

 アリサの神機を持つ手が震えている事に気づき、イチカは優しく声を掛ける。

 

「い、いえ……大丈夫です」

 

「無理はするな、ほら」

 

「あっ……」

 

 イチカの右手が、アリサの手を優しく包み込んだ。恥ずかしさから顔をほのかに赤く染めるアリサだが、不思議と少しだけ震えが止まり緊張がほぐれてくれた。

 

「あ……ありがとうございます」

 

「気にするな、落ち着いて…ゆっくり深呼吸をするんだ」

 

アリサは言われた通りに深呼吸する。そうしていると、少しずつ呼吸が整ってきて、大分落ち着きを取り戻し始めた。

 

 

「やっぱり、強い…ですね」

 

「ん?」

 

 アリサが何を言いたいのか分からずに聞き返す。

 

「この状況で他人を気遣える、そんな事が出来るあなたは、やっぱり強い心の持ち主なんですね」

 

 

「…前の世界じゃ色々と精神も鍛えられたからな…それに一度アラガミに殺されかけて死の淵を彷徨ってるから余計にな…」

 

「あ……」

 

アリサは感応現象で見ていたのでイチカがどんな人生を送ってきたかは知っている。

 

 

「よし!今からアリサのリハリビ、特訓を始める。今回俺が前線で陽動、アリサが後方からバックアップを頼む。ただしできる範囲で今回は動いてくれ、いいな?」

 

 

「は、はい!」

 

先の雰囲気からガラッと変わり表情も気を引き締めた顔となっていた。

 

「任務にあたって命令は3つ、死ぬな、死にそうになったら逃げろ、そして隠れろ、運がよければ不意をついて…ぶっ殺せ!」

 

「その命令は…」

 

「ああ、リンドウさんが最初に出した命令だ。でもこれじゃあ4つだな、ははっ」

 

 

「……(リンドウさん…)」 

 

今のイチカの笑みが…リンドウの姿と重なった気がした。

 

「今回の任務では生き残る事だ。決して無茶はするな、いいな?」

 

「は、はい!」

 

 

「よし、それじゃ、行こうか!」

 

 

 

 

 

 

待機ポイントから飛び降りてシユウに向かって走り出し、アリサもそれに続く。それに気が付いたシユウがいきなり滑空して距離を詰めてきた。

 

「チィ!」

 

「キャア!」

 

 突っ込んでくるシユウをそれぞれ横に跳んで回避する。イチカは綺麗に受け身を取ってすぐに迎撃に向かう。だが、アリサは受け身を取れずに倒れ込む。

 シユウは受け身を取れなかったアリサに狙いをつける様に姿勢を落として構える。

 

「(い、いや…来ないで!)」

 

 アラガミを前にして恐怖で動けなくなる。

 

 

「させるかよ!」

 

イチカがすぐさまシユウとの間に入り、翼を斬り刻む。シユウはイチカに蹴りを放つがイチカは攻撃を避け薙刃に変え突きを放つもシユウにガードされイチカは空いた左腕でシユウを殴り飛ばし、吹き飛ばす。シユウとアリサの距離を離し、その間にアリサはシユウから離れる。

 

シユウも体制を立て直し、まっすぐ向かってくる。

 

「は、ぁ…(恐い……恐い恐い恐い……!)」

 

トラウマが頭にフラッシュバックし、口を押さえていないと叫んでしまいそうだ。

 

「(う、動け、ない……!)」

 

アラガミに対する恐怖心が、アリサから戦意を奪い動きを縛る。

 

 

「アリサ!!」

 

「っ!」

 

 初めて聞いたイチカの声に、アリサはビクッと身体を震わせながらも、我に返る。見ると、眼前には既にシユウの両腕羽が迫り。アリサに当たる前に、装甲を展開したイチカが防いだ。

 

「きゃあ!?」

 

 後ろに後退しながら、アリサの腰に手を回し抱きかかえ跳躍し、着地してアリサを降ろし、すぐさまシユウに接近する。

 

間髪入れずにシユウの掌から衝撃が放たれる。

 

「喰らうかよ!」

 

イチカは装甲を展開させながらシユウにダイブし胴体に衝撃を与え一瞬怯む、その間宙にいるイチカはプレデターフォーム『レイヴン』を使い捕食しバースト状態となる。

 

「(え、援護しないと!)」

 

アリサは銃形態で援護しようとするが、リンドウを撃とうとした事が頭を過り撃てないでいた。

 

シユウがイチカにオラクル弾を放つ。それを後方に下がりながら躱しつつ銃に変形させたイチカはアサルトタイプのオラクル弾をシユウの翼を狙い放つがシユウ自身も翼からのオラクル弾を放ち相殺し爆発がおこる。

 

 

その隙に、シユウはアリサに目をつけ、アリサに向かって滑空していく。

 

 

「あ……いやっ!!」

 

 迫り来るシユウを目の前に悲鳴を上げる。

 

「(こ、殺される!!)」

 

もうお仕舞いだと思い、アリサ思わず目を瞑る。

 

 

「オラァッ!!」

 

 爆煙の中からイチカが現れ、その瞬間シユウの背中に乗り移り、イチカのアラガミ化した左腕により地面に叩きつけられた

 

 

「痺れろ!!」

 

 イチカは左腕から電撃を発生させシユウに食らわせる。喰らったシユウは麻痺を起こし動くことが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

「(今回はここまでか……)」

 

アリサの状態を見たイチカはそのままシユウの背中に乗った状態でオラクルエネルギーを纏わせた神機を動けないシユウに突き刺し、シユウは活動を完全に停止した。

 

「終わったよ、アリサ」

 

イチカはコアを回収し、倒したことをアリサに伝えると、安心したのかその場に座り込んでしまった。

 

「すいません…結局何も出来ませんでした」

 

「病み上がりだからな、気にしなくてもいい。アリサは大丈夫か?」

 

「は、はい……」

 

まだアリサは恐怖を拭いきれない様子だ。それを見たイチカはアリサに歩み寄る。

 

「………そんなに焦らなくても大丈夫だ」

 

「あ……」

 

 

「ゆっくりやっていけばいい。焦ると結果を得られるわけじゃないしな、今回は生き残る事ができた。それだけでも充分だ」

 

「………はい」

 

 帽子越しに、イチカの右手がアリサの頭を撫でる。優しい手つきに、アリサは目を細め力を抜いた。

 

 

「…今日は、ありがとうございました…次は、サポート出来るようにします」

 

「ああ、でも…あまり無理はするなよ?アリサのペースでやっていけばいい、必要なら力になる」

 

「…ありがとうございます」

 

「よし、それじゃあ帰るか、立てるか?」

 

撫でていた手を離し一歩離れ、手を差し出すし、アリサは素直にその手を取り、立たせてもらうが再び地面に座り込んでしまう。

 

「アリサ?」

 

「す、すみません。足に力が上手く入らなくて…」

 

「あー、なるほどな」

 

どうやら恐怖感から解放されて力がうまく入らなかったようだ。イチカはアリサの気持ちを察しあえて何も言わなかった。

 

「ほら」

 

「え?」

 

イチカはもう一度アリサに手を差し伸べる。

 

「うまく立てないんだろ?」

 

「あ、はい。ありがとござ………きゃっ!?」

 

差し伸べられた手を握った瞬間、そのまま引っ張られその勢いで、アリサを抱え神機はアリサの両手に抱えられるように握られていた。

 

「よし、帰るか」

 

「か、かか、帰るかじゃないですよ!なな、何でこの抱え方なんですか!?」

 

いわゆるお姫様抱っこをされている状態だ。顔を真っ赤にするアリサをよそにイチカはいつも通りの顔だ。

 

「?何でって、こっちの方が運びやすいから」

 

「いや、そうじゃなくて……なんでよりによってお姫様抱っこなんですか……

 

「ん?なんて?」

 

「な、なんでもありません!」

 

アリサは、顔を赤くしてイチカから表情が見られないように顔を俯かせる。

 

そのままイチカは待機ポイントに向かって移動する。アリサはそれまでの間、イチカの胸あたりの服をキュッと握り、イチカから伝わる温もりを感じるのだった。

 




今回イチカが使った左腕の力はデビルメイクライのデビルブレイカー・オーバーチュアを元にしています


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